恋は喫茶店から始まる (ネム狼)
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本編 第一部 「一目惚れから始まる恋」
初恋は突然やってくる


初めまして。
今作は処女作になります。
脱字や誤字等が出てしまう時があったり、
文章とかもおかしくなる点が出てしまうことがあると思いますが
宜しくお願い致します。
では、本編の方お楽しみ下さい。


――季節は春。

 

 

 窓に春特有の暖かい日差しが差し込み、目が覚める。目覚まし時計を見て今何時か時間を見る。

 

「...5時30分か」

 

 今日は土曜日。世間から見れば休日である。だが僕達にとっては営業日である。

 

 目を擦り、大きく背伸びをする。とりあえず朝食を済ませて制服に着替えよう。

 

――開店まであと1時間30分。まだ時間はある。

 

▼▼▼▼

 

 とりあえず倉庫に行ってコーヒー豆の入った袋を運びにいくかな。

 

「ぐぬぬ...重い...」

 

 いつも思うけどこの袋本当に重いな。何キロあるんだよ。袋を運び終わって体を起こした時、後ろから一人の女性に声を掛けられた。

 

「おはよう、葵」

 

「ああ、おはよう姉さん」

 

 今声を掛けられたのは僕の姉、楠木澪。

 

 花咲川女子学園に在学している高校2年生だ。姉は将来はパティシエを目指している。まだ見習いだけどね。

 

「あれ、姉さん仕込みもう終わったの?」

 

「お母さんがあとはやるから朝御飯を済ませてきてって言われてね」

 

「へぇ、普段は最後まで一緒にやってるのに母さんにしては珍しいね」

 

 

 姉さんは仕込みを最後まで一緒にやることは多いけど、あとはやるってことは新作を出すということになる。たまに姉さんも一緒にやってる時もある。

 

 最初は3日間試作で出してお客さんの評判がよければメニューに入れるけど、時期によっては期間限定で出す時もある。

 

 

「葵はこれからどうするの?」

 

「僕はとりあえず厨房の仕込みに行ってくるよ。姉さんは?」

 

「あたしはこれから朝御飯にするよ。葵、今日も頑張ろ!」

 

「うん。お互い頑張ろうね」

 

 

 僕と姉さんはお互いにグーサインをし合った。さあ、厨房に行こう。父さんと母さんも仕込みをやっているはず。

 

――開店まであと1時間。もうすぐだ。

 

▼▼▼▼

 

 厨房に着くと、コーヒー豆を煮る音やタルトに苺を乗せている姿が見えた。

 

「おはよう父さん、母さん」

 

「「おはよう、葵」」

 

 今仕込みをしている二人は僕の両親だ。楠木滋、僕の父親で現役バリスタでもある。そして今開店しようとしている店主だ。結構紳士的で、その性格故か女性客にすごい人気があるみたい。一時期父さん目当てで女性客が溢れて店が大繁盛した時期もあった。

 

 もう一人は楠木真衣、僕の母親でパティシエの資格を持っている。結婚する前に3年間フランスに留学して資格を得たらしい。そして姉の師匠でもある。

 

 因みに姉は中学2年の時に母さんに憧れてパティシエを目指すようになったみたい。僕も父さんと母さんの仕事している所を見てブレンドコーヒーやお菓子作りをやるようになったけどね。姉さんと同じくまだ見習いだけど。

 

 そして僕は楠木葵、趣味は料理やお菓子作り、ブレンドコーヒーで、高校は羽丘学園で高校1年生、まだ入学したばかりだけど......。

 

 因みに羽丘は元は羽丘女子学園で、どうやら少子化の影響により、理事長が男女共学にしようって決めて、それで羽丘学園になったらしい。

 

「そういえば母さん。今日は新作か何か出すの?」

 

「ええそうよ。今回は苺とチョコを組み合わせた苺チョコタルトをだしてみようと思ったの。今流行りのSNS映えをやってみようと思ってね」

 

「ああ、SNS映えか...。今流行ってるよね。確かにそれなら客も増えるかも。さすが母さんだよ」

 

「ありがと。葵も頑張ってね」

 

 あれ、父さんコーヒーの仕込みやってるのはいいけど、

何でチョコが置いてあるんだ?しかもブラックチョコレートやミルクチョコレートが置いてある。

 

「父さん何でチョコが...」

「実はな...ネットで見たんだが、コーヒーとチョコは意外と合うみたいなんだ。ブラックはチョコの苦みとコーヒーのコクが相性ピッタリで、ミルクの方は甘い方を選んだんだ。基本的に何でも合うが、コロンビア産のマイルドなコーヒーがおすすめみたいでな。これなら客を増やせる、多分!」

 

 父さんはキメ顔で言った。なんだろう、どっかの紳士ヅラした探偵に見えたのは気のせいかな?なんか無性にウザいと感じてしまった。

 

「てか父さんも母さんもさ...あまり言いたくはないけど、バレンタインの時期にやればよかったんじゃないかな?」

「そこは問題ない。とりあえず試作で出してみるだけだ」

「まあ、期間限定で出してみるから試しにやってみるだけよ」

 

 えぇ...それでいいのかよ...この二人、どっかズレてる所があるからなぁ。

 

「あ、そうだ。所で仕込みの方は手伝わなくて大丈夫?」

「大丈夫だ、問題ない」

「とくに問題ないわ。葵は看板とか出したり、開店の準備やっちゃって」

「わかった、了解したよ」

 

 仕込みは大丈夫みたいだ。さて、開店の準備をするか。

 

――20分経過

 

 さあ、もう少しだ。姉さんも来て母さんと厨房で料理とデザートの準備をしてる。父さんも新作の準備できたみたい。「よし、これでいけるな」とか思ってそうだ。

 

 だから父さん、出来映えがいいからってドヤ顔はやめてくれ。そして母さん、新作できたからと言ってほっこりするなよ。

 ほら姉さん顔引きつらせてるよ。大丈夫かな?

 

 父さんはコーヒーの出来映えがいいと必ずドヤ顔をする癖がある。あと、母さんも料理やデザートの出来映えがいいと顔をほっこりさせてしまう。さすがに客の前ではやらないけど、たまにやってしまうらしく、隠そうとはしてるけど、隠しきれてない。

 

 それを見た客は真衣さん癒されますとか滋さん可愛いすぎるとかそんな声をSNSで聞く。閉店してる時とかになると必ずやってしまうみたい。

 

 二人共、この癖がないと完璧なんだけど...。どこでこんな癖が付いたんだろうか。ほんと、うちの両親は怖いよ......。

 うちのバリスタとパティシエはもはや変人としか言い様がないよ。

 

 

――40分経過、午前7時。よし、時間だな。

 

 さあ、喫茶カーネーション、開店の時間だ。

 

 

 

▼▼▼▼

 

「いらっしゃいませ。お客様」

「苺のチョコタルトとブルーマウンテンお願いします」

「ブルーマウンテンと苺のチョコタルトですね。畏まりました。少々お待ち下さい」

 

 午前9時、この時間帯になると5〜10人くらい客が来る。

といってもほとんどが女性客で、男性客は大体2、3人は来る。喫茶店は大抵朝が忙しい。

 

 因みに接客は僕がメインでやって、姉さんは手が空いたら接客をやっていく形になっている。

 

 この喫茶店はデザートのケーキとかは持ち帰りで買うこともできる。隠れ家スポットにもなってて、たまに芸能人の人や俳優さんがお忍びで来るときもある。

 

 喫茶カーネーションの名前の由来は、父さんが母さんにプロポーズする時に指輪と一緒に白いカーネーションを送ったらしく、3月に結婚したという。

 

 

――花言葉は「純粋な愛」

 

 

 母さんはその花言葉を気に入って、喫茶店の名前にカーネーションを付けたらしい。

 

 それにしても、新作の評判はいいみたいだけど、新作のコーヒーはあまり注文してないみたい。ああやばい、父さんの顔が少しずつ青ざめてるよ。父さんは新作の注文が少ないとこうやって青ざめることがある。

 

 

――バリスタ故か相当コーヒーへの愛情が深いんだな。

 

 

「すいませーん」

「はいお客様。ご注文はお決まりになりましたか?」

「新作の苺のチョコタルトとチョコのミルクコーヒーをお願いします」

「苺のチョコタルトとチョコのミルクコーヒーですね。畏まりました、少々お待ち下さい」

 

 注文したメニューを復唱して厨房に向かう。

 

「チョコのミルクコーヒーと苺のチョコタルトお願いしまーす」

 

 注文された品をそれぞれ言った時、突然父さんから急にオーラを感じた。なんか相当やる気に満ちてるんだけど、誰かこの紳士どうにかしてよ。

 

 母さんは「まあまあ、あなたったら」って微笑んでるよ。ほら、周りの客も和んじゃってるよ。

 

 なんか親が子を見るような目になってるし、コーヒーに砂糖いっぱいいれようとしてる客いるんだけど...。

 

 そして姉さん、「あ、やばい口から砂糖が...」みたいな表情にならないで!

 

 こうなっちゃったらまともなのは僕しかいない。姉さんも常識人だけど、この雰囲気になったら姉さんですらも止められない。なにせ、姉さんは彼氏を募集しているからだ。残念美人、いや残姉のくせに。そう、うちの姉さんは、

 

 

 

 

 

――愛に飢えているんだ。

 

 

 

 

 

 そんなこんなでコーヒーとタルトは完成。なんとか注文した客のところに置くことができた。

 

「いつもすみません。うちの両親が」

「いいえ、いいえ。全然大丈夫ですよ。私もこの雰囲気にはすっかり慣れましたから」

「なんか、本当にすいません。お約束になっちゃいましたが...」

「むしろこのお約束あってこその喫茶店ですよ」

「ありがとうございます。それを言っていただけるだけでも助かります」

 

 この雰囲気がお約束になったのなんて開店してから二週間後なんだけどね。

 

 

 

 

 午後1時、店内は大体落ち着いてきた。新作のタルトのSNS映えは見事に成功したみたい。

 

 昼食を済ませた後にまた手伝いを始めていく。姉さんはまた母さんと厨房の方に、父さんは新作のコーヒーを注文してくれたことにすごいご満悦な表情だった。どうやらさっきは相当キテたみたいだな。

 

 

 本当に大丈夫か?うちの家族?

 このなかでまともなのは僕だけか......!?

 

 

 その時、カランカランと音がドアからして、5人の女の子が来店してきた。見た所、高校生くらいかな?

「いらっしゃいませ、お客様。どうぞ、こちらの席にお掛け下さい」

 

 僕は来店した5人の女性客を席に誘導する。

 

「メニューがお決まりになりましたら、声をお掛け下さい」

 

「わかりましたー!」とピンク髪の女の子が言った。あの子達、楽しそうに話してるけど、仲がいいんだな。もしかして幼なじみとかかな?

 

 

 

――そして僕は知る由もなかった。

 

 

――まさか、僕の人生で初めて一目惚れという名の初恋が起こるなんて......

 

 

 

▼▼▼

 

 私は今とある喫茶店に向かっている。ひまりちゃんがスマホを見て、「ねえ、ねえこの喫茶店行ってみない?」って急に言って私とひまりちゃん、蘭ちゃん、モカちゃん、巴ちゃんを誘って行くことにした。

 

 蘭ちゃんも「たまにはつぐみの所以外もいいかな」って言って、「蘭がそんなこと言うなんて」ってモカちゃん達も驚いたみたい。

確かに蘭ちゃんがこんなことを言うのは珍しい。

 

 私は羽沢つぐみって言います。Afterglowっていうバンドでキーボードをやっています。私の家は羽沢珈琲店っていうお店で、商店街では有名な喫茶店です。

 

 あとは、黒髪で赤のメッシュをした女の子は美竹蘭ちゃんで、銀髪でマイペース、けどすごい友達想いの女の子が青葉モカちゃん、ピンク色の髪をしていてAfterglowで一応リーダーをやっている今風な女の子が上原ひまりちゃん、そして赤髪で私達にとってはお姉ちゃんみたいな女の子が宇田川巴ちゃんです。

 

 みんなのことを紹介していたら目的の喫茶店に着いたみたい。でも意外と近かったみたい。

 

 家から歩いて15分くらいしてようやく着いた。

 

「喫茶カーネーション、ここでいいの?ひまりちゃん」

「うん、ここみたいなんだけど、何か口コミで流行ってたんだよね。隠れ家スポットな喫茶店?って書いてあったんだけど...」

 

 見た目はレトロな感じで、今風な雰囲気を漂わせるような喫茶店だ。ここが隠れ家スポット?けど、入ってみないとわからないよね。とりあえず入ってみよう。

 

 私はドアを開けて入ることにした。中に入ると、背の高い茶髪の男性の人が笑顔で近づいてきた。接客の人かな?

 

「いらっしゃいませ。お客様」

 

 接客の人にテーブルまで誘導されて、「どうぞ、こちらの席にお掛け下さい」と言われ、私達は席に座った。

メニューの一覧表も置いてある。

 

「メニューがお決まりになりましたら、声をお掛け下さい」

「わかりましたー!」

 

 ひまりちゃんは元気な声でそう言った。カウンターの方にいる男性の人はコーヒーを作っている。なんだろう、紳士的な人だ。

 

「蘭ー、何にするか決まったー?」

「ちょっと待ってモカ、まだ決まってない」

「よし、アタシはキリマンジャロとチーズケーキにしようかな」

「じゃああたしは苺のチョコタルトでいいかな、蘭と、モカはどうする?」

 

 ひまりちゃんと巴ちゃんは決まったみたい。どれにしよう...すごく迷う。

 

「あたしはビターチョコケーキでいいかな」

「あたしはーたまごサンドにしようかなー」

 

 蘭ちゃんとモカちゃんは決まった。あとは私だけだ。

 

「つぐー大丈夫ー?」

「う、うん。大丈夫だよ。」

「つぐみ?なかなか決まらないんだね」

「結構メニューがあって迷ちゃってね...」

 

 どうしよう。みんなを待たせちゃってるな。

うん、決めた。これにしよう。

 

「じゃあ、フルーツケーキでいいかな。声掛けてくるね」

 

 私は接客をしている男性の人に声を掛けた。

 

「すいませーん」

「はい、お決まりになりましたか?」

 

 私達決めたメニューを接客の人に全て伝え、「畏まりました。少々お待ち下さい」と微笑んで、厨房の方に向かっていった。

 

「つぐー、どうしたのー?」

「あれー、つぐもしかしてあの接客の人に惚れちゃった?」

「えっ!?そそそそ、そんなことないよ!?」

「いや、つぐみ。顔が赤いよ」

「つぐ、否定しても赤くなってたら説得力ないぞ」

 

 あれ、気づいたら顔が赤くなってる!?えっ、なんで?

どうしたんだろう私、熱はないと思うんだけど...

 

「もしかしてこれは...」

「アレですなー」

「つぐ、とうとうお前にも春が来たんだな」

「つぐみ、とりあえずおめでとう」

「えっ、ちょっと待ってみんな!?えっ、違うよこれはそんなんじゃないよー」

 

 あぁ、駄目だ勘違いされてる。けど、あの笑顔とてもカッコよかったなぁ。そうか、やっぱりこれって...。

 

 

 一目惚れしちゃったんだな、私......。

 

 

――私もまさかあの人に一目惚れしたなんて思わなかった。

  これが、初恋なんだなって。

 

 

 その日、私の人生はこの初恋によって変わってしまった。

 

 

 

▼▼▼▼

 

 なんだろう、さっきから視線を感じる。さっき注文を聞いたあのショートヘアの茶髪の女の子からすごい見られてる。しかも顔が赤くなってる。どうしたんだ一体...。

 

 さっきから聞こえてるけど、話が盛り上がってる。なんの話かわからないけどな。

 

「葵ー、ケーキとタルトとコーヒー出来上がったから持ってってくれる?」

「わかったよ、姉さん、母さん」

 

 とりあえずメニューを持っていくか。なんか視線を感じて持って行き辛いな。とにかく、行こう。

 

「お待たせしました、お客様。キリマンジャロとチーズケーキ、苺のチョコタルト、ビターチョコケーキ、たまごサンド、フルーツケーキになります。以上でよろしいでしょうか?」

「は、はい!大丈夫です!」

「お客様、いかがなされましたか?」

「い、いいえ!とくに何でもないです!」

「そ、そうですか。何かありましたらお掛け下さい」

 

 大丈夫かな?この子。顔赤いけど...。

 

 しばらくして他の人の接客が終わったとき、さっきの茶髪の女の子に声を掛けられた。

 

「あ、あの」

「はい、何でしょう?」

「さっきのケーキ美味しかったです!」

「そうですか。ありがとうございます。実はあのフルーツケーキ僕の手作りなんです。その言葉を言って頂けて本当に嬉しいです」

「えっ、そうなんですか!?」

「はい、もしよろしかったらまた来店して下さい」

「ありがとうございます!また来ますね!」

 

 そう言って少女は笑顔で笑った。

 

――!?なんだ、今の感覚...。なんかときめいたような気が...もしかして...。

 

 

 そうか。

 

――僕はこの子に一目惚れしたのか...

 

 

 

 その日、僕の前に天使が舞い降りた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――これは、喫茶店で働く普通の少年と、普通だけど頑張り屋の少女が互いに一目惚れをしたことから始まる喫茶店とガールズバンドの様々な日常を描いた恋の物語である。

 

 

 




とりあえず1話終わりです。
アフグロメンバーのキャラこんな感じで大丈夫かな?
一応他のキャラはその内出していく予定です
今回は読んでいただき、本当にありがとうございました。
作者は文章力が皆無ですので、読みにくいところや描写とかがおかしかったらごめんなさい。
作者は執筆に結構時間がかかりますので、更新いつになるかは作者もわかりません。
とりあえず出来次第、更新していく予定です。
では次の回でお会いしましょう。
感想お待ちしております


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元恋のキューピッド(バケモノ)と登校、時々儚くも、二人は偶然の再会を果たす

お待たせしました。
投稿してから3時間くらい経ちましたが、勢いで作りました。
どっかおかしい所とかあるかもしれませんが、本編どうぞ。


 月曜日、世間にとっては地獄の始まりであり、社会人にとっては悪夢の始まりと言われている。それは我々学生も同じだ。

 

(あの茶髪の女の子、可愛かったなぁ。まるで天使みたいだったな)

 

 あれ、いつもはこんなこと考えないのにおかしいな。いや、無理もないか。決して僕はおかしくはない。まともだ。

 僕はあの日恋をしてしまった。むしろ、恋をしたからこそ人生が変わってしまったのか。

 まあ、今日から学校だ。できれば姉さんとは一緒に行きたくないな。

 姉さんは愛に飢えている。こうなった原因は姉さん自身が原因なんだけど...。

 その理由は、姉さんが中等部にいた頃、そうパティシエを目指すようになってまもない頃だ。姉さんの元に突然恋愛相談を持ち掛けられたのだ。

 その結果なんということでしょう。カップルが何組か出来上がってしまったではありませんか。

 姉さんはそんなことから花咲川のキューピッドと呼ばれるようになった。

 

――しかし、突然悪夢は訪れた。

 

 姉さんはしばらくしてから少女漫画や恋愛小説を読むようになり、結果愛に飢えていくようになってしまった。要するにコイバナに敏感になってしまったのだ。そのせいで姉さんは恋愛相談を持ち掛けられることはなくなった。姉さんが恋に敏感になってしつこく聞こうとしたのが原因だ。

 

 本人曰く、調子に乗りすぎた。だが、私は謝らない。なんて言って、どこぞの所長みたいに不貞腐れてしまったのだ。その結果、僕の姉は残念美人にして残姉となってしまった。さらに姉さんは花咲川の恋愛のやべーやつ、通称"愛に飢えた狂犬(バケモノ)"と呼ばれるようになった。

 

 まあ、"あんな姉"でも一応パティシエを目指してはいるけどね。今ではお菓子作りは上手いけど、客からは警戒されて厨房担当になってしまった。喫茶店でもバケモノ扱いされてる。

 呼び名は"厨房に潜む恋の料理人(愛に飢えたパティシエ)"だ。

 

 こんなこと言ってる内に時間が過ぎてしまった。今日は

朝御飯は母さんが作ってるかな。うちは御飯とかはローテーションで作っている。ということは夕飯は父さんか。

 

「おはよう、母さん。あれ、父さんは?」

「おはよう、葵。滋さんなら開店準備に行ったわ」

 

 あ、そうか父さんもう朝食済ませたのか。相変わらず

早いな。店長だから仕方ないか。

 

「あれ、そういえばバケモノ(姉さん)は?」

 

 あ、間違えたバケモノじゃなかった。姉さんだった。

 

「あ、葵ー、後ろー」

「へ?どうしたの母さん?後ろに誰かいるの?」

「あ〜お〜い〜、誰がバケモノだって〜」

「え?姉さんなんで後ろに...」

 

 あれ、まさか心読まれてた?姉さん今度は愛に飢えたエスパーに...。

 

「誰が愛に飢えたエスパーよ!愛に飢えてるけどさ!」

「ギャァァァァァァァァ!」

 

 

 その後、一軒の喫茶店で少年の悲鳴が聞こえたそうな......。

 

 

▼▼▼▼

 

 

「姉さん悪かったよ。バケモノ呼ばわりしてごめんって」

「フンだ。どうせ私は彼氏なんかできませんよー。もう愛に飢えながらパティシエ目指してやりますよーだ!」

 

 ああ、だめだこりゃ。姉さんはこうなったら僕に対して1日中こんな状態になる。

 むしろ愛に飢えた狂犬(バケモノ)って呼ばれたのが原因だと思う。僕も悪いけど...。

 

 しばらくして僕達は別れ道に着く。

 

「じゃあ、姉さん僕はこっちだからまた後でね」

「うん、わかった。葵、学校頑張ってね!」

 

 えっ、姉さんがこんなこと言うのは滅多に無いのに...。

明日はメロンやスイカが隕石みたく降ってくるのかな?

 

「葵、まさかだけど隕石が降るとかなんて

思ってないよね?」

「えっ、そんなこと思ってないよ。多分、姉さんの勘違いだよ」

「ふ〜ん。本当にそうかな?ま、いいやとにかく頑張りなさいよ!」

「姉さんもだよ!また恋愛事でやらかさないでよ!」

 

 

▼▼▼▼

 

 

 歩いてからしばらく経つ。あと少しで羽丘に着くな。

 

「それにしても姉さんもだけど、父さんや母さんもやっぱりおかしいよな」

 

 父さんは元々は気が弱い性格だった。けど父さんも姉さんと同じように探偵物やミステリー小説を読みすぎてしまったらしい。その結果あんな紳士的な性格になってしまった。喫茶店でも同じように呼び名がある。

 その名は、カフェイン中毒の探偵紳士(ただの綺麗なお父さん)と呼ばれている。そう、その名の通り特徴が紳士的でカフェイン中毒くらいしかないのだ。

 もう一人、母さんも呼び名がある。

 呼び名は厨房に舞い降りた大天使(喫茶店の黒幕)だ。

 そう、母さんには誰にも逆らえないんだ。あの人は怒らせると本当に怖いからね。やっぱり母親には逆らえないんだな。

 ていうかうちの家族本当にまともな人いないなぁ、呼び名だけでもおかしいとしか言い様がないよ。

 

 

 そんなこんなで、ようやく羽丘に到着。遠いよ。歩いただけなのに疲れた。月曜だからかな?やっぱり週明けは嫌いだ。

 

「おはようございます」

「おはよう」

 

 正門の前で挨拶運動をしている先生に挨拶する。この先生、見た目からしても体育担当かな?なんか厳ついというか暑苦しいというか...。むしろ恐いよ。

 

 僕のクラスは高等部1-Bだ。言っておくけど、背が高いせいか大学生?って言われたことが何度かある。これでも高校1年なんだけどさ。間違えられるって、なんでさ...。

 

「おはよう葵」

「あ、おはようございます。瀬田先輩」

「今日も君は儚いね」

「すいません、ちょっと何言ってるかわかりません」

 

 この人は瀬田薫先輩。高等部2-Aに所属している。

「儚い」が口癖で、シェイクスピアは言っているとかなんかをよく言っている。いろいろと謎な人だが、わかっていることとしては演劇部に所属している、女性ファンが多い、ファンの人のことを「子猫ちゃん」と呼んでいる、ハロー、ハッピーワールド!というバンドに所属していることくらいしかわからない。

 そう、この人はいろいろと謎だらけなんだ。本当にわからないし全く隙を見せない人だ。

 実はこの人、一回だけうちの喫茶店に来たことがある。その時に何の因果か父さんと気が合ってしまったらしい。

さすがにドヤ顔とかはしないけど、でもたまに無性に腹が立つときがある。

 

「ところで瀬田先輩、一体どうしたんですか?」

「何、単に君を見掛けたから挨拶しておこうと思っただけさ」

「ああ、そうですか」

「あと、葵君」

「今度はなんですか?」

「滋さんによろしく伝えておいてくれ」

「ああ、はいわかりました」

「じゃあ、また会おう葵君」

 

 そう言って瀬田先輩は去っていった。ああ、ああ、廊下にいる女子達が何人か黄色い声援を瀬田先輩に浴びせちゃったよ。あの人は宝◯目指せるんじゃないかな?

 あれ、待って気絶してる人いるけど、大丈夫なの!?

瀬田先輩、むしろあなたが儚いよ...。

 

 

▼▼▼▼

 

 

 

 ようやく教室に着いたよ。僕の席は後ろ端の窓際になっている。この席結構気に入ってるんだよね。

 

――だけど僕は全く知らなかった。

 

「ふぅ、やっと生徒会の朝の仕事終わったよぉ」

「あ、つぐみお疲れ様」

「あ、つぐーおつかれー」

「つぐ、お疲れ様!」

「おぉ、つぐ、やっと終わったのか。朝から大変だったな」

 

(ん?あれ...、なんかどっかで聞いた声がするな。気のせいかな?)

 

 んーどっかで聞いたけど、思い出せないな。

 

「みんなごめんね、一緒に行けなくて」

「しょうがねぇよ、つぐは生徒会だからな」

「つぐは毎日、つぐってるからねー」

「大丈夫だよ、つぐ!」

「大丈夫だよ、つぐみが頑張ってるのはあたし達はわかるから」

「えへへ、みんなありがと!」

 

(5人組、それにあの女の子の笑顔...)

 

 

 もう少しで思い出せるんだけど、どこで見掛けた?

 

 

「はぁ、朝から疲れちゃったよ...」

「じゃ、そろそろHRだからあたしは戻るね」

「じゃーねー蘭、またお昼休みねー」

 

 

 そう言って赤メッシュの女の子は自分のクラスに戻っていった。

 

 

「アタシ達も席戻るか!」

「うん!」

 

 そして僕はようやく思い出す。

 

(あっ、思い出した!一昨日来た客か!)

 

 

 思い出した途端に話掛けられる。

 

 

「あっ、あなたは!?」

 

 

――隣の席がまさか一目惚れした女の子だったなんて...




薫のクラスはオリジナル設定となっております。
公式でわかっていないクラスとかはオリジナル設定になります。
澪をイジりすぎましたが、大体楠木家はこんな感じです。
ここから更新が遅くなると思うので読者の皆さん、申し訳ないです。


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普通のバリスタ見習いと夕焼け少女達との再会、普通の少年少女は同じ思いを抱く

ちょっと日を空けてしまいましたが投稿完了です。
また今回も長くなります。
視点変更が結構あって読みにくいと思いますがよろしくお願いします。
本編どうぞ。

注意!
今回は念のためブラックコーヒーと砂糖をおすすめします。

2月15日16時30分 微妙に訂正しました。



(...どうしよう。授業に集中できない)

 

 私、羽沢つぐみは今1時間目の現代文の授業を受けています。一昨日の接客の人が隣の席だったなんて...。全く気づかなかった。あの後話掛けちゃったけど、一昨日のことを思い出しちゃって恥ずかしくなっちゃった。

 この人も顔が赤くなっちゃって話をするどころじゃなくなってしまった。もう気になって気になって全然集中できないよ。

 

 

――でも...。

 

 

(あの真剣な横顔...。綺麗でカッコいいなぁ...。しかも私と髪の色が同じ、まるで運命を感じ......。ん?いやいや、私は何を言っているの!?)

 

 隣の席が私が一目惚れした男の子だなんて。こんなことってあるのかな?。でも、なんだろう、なんかまるで...。

 

(漫画のヒロインになったみたいだよ。ヒロインの気持ちがなんとなくわかったような気がする)

 

 なんかさっきから巴ちゃんやひまりちゃん、モカちゃんから視線を感じるんだけど、気のせいかな?それに顔も赤くなってきてるような...。

 

(う〜、頭が回らないよ〜。それに隣の男の子からも見られてるような気がする)

 

あれ、そういえば私、この人の名前知らないんだ!後で聞いてみようかなぁ。

 

(こんな時って、どうしたらいいの!?こんな気持ち初めてだからわかんないよー)

 

 

▼▼▼▼

 

 

(やばい、隣の子が気になりすぎて集中できない)

 

 駄目だ、もう気になりすぎて先生の話が全く頭に入って来ない。さっきこの子に話掛けられたけど、一昨日のことを思い出しちゃって恥ずかしくなってしまった。もう話をするどころじゃなかった。

 本当に僕はどうしてしまったのか。けどまさか隣の席の人が一昨日の客。しかも僕が一目惚れした女の子って...。こんなことあるのか?

 

(なんかこの子の横顔って、よく見ると可愛いな。しかも僕と髪の色同じなんだ。これってなんだろう。何て言えばいいんだ?)

 

 んー。こんなことは初めてだからわからないなぁ。こう言えばいいのかな?

 

(運命を感じる?いや、これ思ってても本人に言えないよ!てか僕は何を言っているんだ!?)

 

 本当に僕おかしいよ!こんな感じじゃないのに!でもなんだろう...。

 

(姉さんから恋愛小説を借りて読んだけど、主人公の気持ちがわかるような気がする。むしろ、恋をする主人公になった感じだな)

 

 違う、そうじゃない。なんでそうなるんだよ。だから僕はこんなことを思う人じゃない!至って普通だよ!

 

(なんかさっきからこの子に見られてる気がするし、一昨日の女の子達?からも見られてるような気がする。てか一昨日の女の子達も同じクラスだったんだな。何だ?この偶然は)

 

 それに僕はこの子の名前を知らない。後で聞いてみるか?

 

(駄目だ。もうどうしたらいいかわからない。こんな経験は全くないからどうすればいいかわからないよ)

 

 

 

 

 

 

 

(でも......)

 

 

 

(こんな恋愛も初めてだけど、たまにはこんなことも悪くないかも)

 

 

 

――とまあ、二人して考えることが同じ。こんな偶然は普通なら有り得ない。これは神様が決めたことなのか。それとも単なる偶然なのか。それは二人が知るまでわからないことである。

 

 

 

 

 

▼▼▼▼

 

 

 時刻は昼休み。この時間になると生徒達は様々な場所で昼食にしたり、部活に入部していれば打ち合わせをする者もいたり、昼休みを使って勉強をする、さらに昼寝をする等、この時間は生徒達にとってとても貴重な時間でもある。

 

 

(やっと昼休みか。ホント朝は大変だったな)

 

 

 今日半日だけでも色々あったな。薫さんに会ったり、隣の席の人が一昨日の女の子だったり...。こんなこと今までなかったけど。

 

 

「あ、あの!」

「何ですか、...って!?あなたは一昨日の!?」

 

 あれ?このピンク髪の女の子は......一昨日の人か!?

どうしたんだ一体。僕に何の用だろう?

 

「一昨日は...その...ありがとうございました!タルト美味しかったです!」

「ああ、ありがとうございます。じゃなくて!どうしたんですか、急に?」

「美味しかったので、その...お礼と言っては何ですが、お昼一緒にどうですか?一昨日一緒に来た友達も一緒ですので...」

           

 お礼っていうか...そんな大したことじゃないんだけど。どうするか......。友達も一緒って言ってたからもしかしたらあの子も居るかもしれない。

 

 どうする。ここは昼御飯を一緒に食べるか、それとも今回は断るか...。でもここで断れば一緒になる機会はなくなるかもしれない。

 

 

――よし、決めた。

 

 

「わかりました。じゃあ、ご一緒させて頂きます。今弁当持ってきますので」

 

「了解です!じゃあ私、廊下で待ってますね!」

 

 

 僕はピンク髪の女の子に案内されるがままについて行った。全く、本当に今日は......。

 

 

 

――騒がしい一日だよ。

 

 

 

 

▼▼▼▼

 

 

 

「みんな、お待たせー」

「あ、やっと来た」

「ひーちゃん、遅いよー」

「ひまり、随分遅かったなあ」

 

 屋上に着いたけど、僕の前に居るのは一昨日の女の子だった。よく見たら確かにそうだ。

 

「ごめんごめん、待たせちゃったね」

「ほらつぐー、王子様が来たよー」

「えっ!?な、何を言っているのモカちゃん!?」

 

 やっぱり居た。けどいざ本人を前にすると緊張するし、何かドキドキする。落ち着け、落ち着くんだ!

 

 

「...二人共、何をそんなに緊張しているの?」

「「えっ!?き、緊張なんて......」」

「いやーお二人は新婚夫婦みたいですなー」

「モカちゃん!からかわないでよー!」

「とりあえず、みんなお昼にしようぜ」

「そうだね!お昼だお昼だー!」

 

 

 そうだ、お昼にするんだった。ここで止まってちゃ時間がなくなってしまう。

 

「じゃあ、食べながらになっちゃうけど自己紹介するね。僕は楠木葵、一昨日来た通り喫茶カーネーションで手伝いをしています。よろしくお願いします。葵でいいよ」

 

 うん、まあこんな感じかな。けど本当に緊張するなあ。こんなに可愛らしい子達を前にしたら何て言えばいいのかわからなくなる。

 

 

「私は美竹蘭。まあよろしく」

「青葉モカでーす。モカちゃんって呼んでいーよー」

「上原ひまりでーす。よろしくね!」

「アタシは宇田川巴、よろしくな」

 

 美竹さん達は自己紹介をした。あとは茶髪の子だけだ。

みんな"つぐ"って呼んでるけど渾名かな?

 

「つぐみ、大丈夫?」

「ほらー、つぐだけだよー」

「つぐ、頑張って!」

「大丈夫!つぐみならいける!」

 

 

 大丈夫かな?なんか緊張してるような...。いや僕も緊張してるから人のことは言えないな。

 

「は、羽沢つぐみです!よよよ、よろしくお願いしまひゅっ!?」

 

 あ、噛んだ。

 

「ごごご、ごめんなさい!今噛んじゃったよね!?」

「つぐみ、そんなに緊張しなくても...」

「しょうがないよー蘭。つぐはこの人に惚れ...もがっ!?」

「モ、モカ!それ以上はダメ!」

「モカ!駄目だ!それを言ったらつぐと葵が恥ずかしさのあまり倒れちまう!」

 

 え?何を言ってるんだろう。何か言いかけたけど、上原さんが青葉さんの口を塞いだから何を言おうとしたのかがわからない。これは聞かない方がいいかも。

 

「つ、つぐ。とりあえず落ち着こう。」

「う、うん。わかったよ巴ちゃん」

 

 目の前の女の子は落ち着かせるために深呼吸をした。どうやら相当焦ってたみたい。僕もまだ緊張しぱなっしだ。

あ、落ち着いたみたい。

 

「あ、改めて自己紹介するね。私は羽沢つぐみです。楠木君と同じように私も家が喫茶店で、羽沢珈琲店っていうお店だから、是非来て下さい。よ、よろしくお願いします」

 

「は、はい。こちらこそよろしくお願いします」

 

 あ、あれ?何だこれ?何かお見合いみたいになってるけど、気のせい?

 

「アツアツですなー」

「なんかお見合いみたいだね...」

「なあ、蘭。ブラックコーヒーないか?」

「奇遇だね巴。あたしもブラックコーヒーが欲しいよ。てか砂糖が口から出そうなんだけど、気のせい?」

 

 なんかもうみんなおかしくなっちゃった。僕も羽沢さんも相当緊張してたのかもしれない。けど同じ気持ちだったって思うと、なんとなくだけど心地良い気がした。

 

 

 

▼▼▼▼

 

 

 そして放課後、さっきの5、6時間目の授業は朝よりは集中できなかったということはなかった。むしろ頭の中がスッキリして集中できるくらいだった。

 

 

――そして僕は今、羽沢さん達と帰っています。

 

 

 

 どうやら美竹さん達は"Afterglow"っていうバンドを結成しているみたい。しかも5人は幼なじみで、幼稚園の頃から一緒だったらしい。幼なじみでしかもバンドを結成している。僕からしたら5人の絆は強いんだなって伝わってくる。

 

 

 というか僕はこんな可愛い女の子達と帰ってていいのか?なんか後ろから刺されるかも...。しかもこんな状態で姉さんと会ったら色々聞かれそうだよ。

 

 

 と、そんなことを思っている内に......。

 

 

 

――楠木家の"自称"花咲川のやべーやつ(恋のキューピッド)と会ってしまった。

 

 

「あれ、葵じゃん!女の子と一緒に帰ってるなんて...」 

「!?だ、誰ですか?」

 

 美竹さんは誰なのか聞く。僕の姉さんです。てかみんな本当に逃げて!マジで逃げて!!なんか上原さんと羽沢さんが怯えてるよ。美竹さん、そんなに睨まなくても...。宇田川さん、臨戦態勢に入らないで!そして青葉さん、こんなところで立ちながら寝ようとしないで!

 

 

 

 ああ、ヤバイ。なんか聞かれるよ。もう逃げられない。

 

 

 

「もしや...。これは恋の予感!」

 

 

 駄目だ。もう手遅れだ。もうお仕舞いだ...。

 

 

 そんな時、僕達の前に救世主が現れた。

 

 

「澪ー!またあなたは!!」

「あ、ヤバイ。この声ってもしかして...」

 

 

 そう、この声は...。

 

 

――紛れもなくあの人だ。

 

 

「もう、このバカ!」

「痛っ!待って深雪!?ハリセンで叩かないで。痛い、痛いから!」

 

 そう、深雪さんだ。

 平沢深雪(ひらさわみゆき)、今ハリセンで姉さんを叩いてる人で、姉さんの親友でもあり、姉さんのストッパーであのやべー頃の黒歴史を知っている人でもある。

 

「澪、あんたまた聞こうとしてたよね!?こんなことしたら今度こそ彼氏できなくなっちゃうのわかってるの!?」

「ごめんなさい、もうやらないから!(一生やらないとは言っていない)」

「全く、ホントにこのバケモノは...。ごめんなさい、あなた達。澪に何か聞かれたりされなかった?」

 

 深雪さんは美竹さん達に聞く。大丈夫だよ、深雪さん。聞かれる前だったからセーフだと思うよ。

 

「あ、はい。大丈夫です。」

「同じく大丈夫です」

「私も」

「アタシもです」

「大丈夫でーす」

 

 よかった大丈夫みたい。てか青葉さんいつ起きたの!?

 

「最初から起きてたよー。さっきは単に目を瞑ってただけー」

 

 えっ、待って心読んでるんだけど。ここにもエスパーいるの!?

 

「モカちゃんはエスパーじゃないよー。あーくんがわかりやすかっただけだよー」

 

「あーくん!?いつからそんな呼び名に!?ていうか顔に出てたの?」

 

「そのとーりー。アタ◯クチャ◯スなんて言わないよー」

 

「あ、言わないんだね。てか姉さん!深雪さんに迷惑かけるなって朝言ったよね!?」

「いやーごめん。こんな雰囲気出してたら聞かなきゃっていう使命感が出ちゃってさー」

「みーおー?」

「待って深雪ごめん、叩こうとしないで。反省してるから、許して」

 

 姉さん、絶対反省してないよね!?反省する気が全く伝わって来ないんだけど!?

 

「ごめんなさい、深雪さん。うちの残姉が本当に申し訳ないです」

「いいの、いいの。大丈夫だよ葵君。こんなのいつものことだからさ」

 

 

 まずい、さっきから羽沢さん達が置いてきぼりに...。

 

「...ねぇ、葵?この人は誰?」

「ああ、紹介が遅れたね。そこで倒れてる"これ"が僕の姉で、目の前にいるのが姉さんの親友の」

「平沢深雪、よろしくね」

「「「「「えっー!?嘘だー!!」」」」」

 

 あれ、みんな驚いてる。青葉さんまでこんなに驚くとはね...。まあ、しょうがないか。初対面だから仕方ないか。

 

「ていうか姉さん、何を聞こうとしてたの?」

「いやー葵が女の子と一緒に帰ってたからもしやとは思ってたんだけどね」

「いや、姉さんの期待しているようなことはないよ。全くないからね!」

「えー、嘘だー。ぜーったい嘘だー!」

「葵、ごめん。私はもう諦めたよ。澪はもう止められないかも」

「えっ!?深雪さん諦めるの早いですよ!?」

 

 

「...なにこれ?」

「すまねぇ蘭、アタシにもわからない」

「あたしももうわからないよー」

「モカちゃんついていけないよー」

「ごめん、私もついていけない」

 

 

 羽沢さん達、本当にごめんなさい。姉さんはこうなったら止めようがないんです。

 ていうか姉さんに僕が羽沢さんに一目惚れしたこと気づかれてそうなんだけど気のせいかな?




学校回はこれで終了です。
次から日常回を中心にやっていきます。
原作ストーリーはどっかしらのタイミングでやりますので、もうしばらくお待ち下さい。
ここまで思いつきながら勢いで書いてたので更新はしばらくお待ち下さい。
バレンタイン回はこのあと執筆開始致します。出来次第更新しますので、少々お待ちを。


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儚い貴公子の案内、二匹の迷える子羊は喫茶店という名の教会に辿り着く

はい、4話投稿!
今回は葵は出番少しですが、澪達が中心的に出てきます
儚い人と道に迷うことに定評のあるあの二人が出てきます
では、どうぞ。

注意!
今回はマジでつまらないかもしれません。
つまらなかったらブラウザバック推奨です。


「千聖ちゃん。薫さんが言ってた喫茶店ってどこかな?」

「どこかはわからないけど、薫と合流して行く予定だから案内はしてもらうことにしてるわ」

 

 私、松原花音はある人ととある場所に向かっています。そのある人とは中等部の頃からの友達で、白鷺千聖ちゃんという人です。

 

「でも千聖ちゃん。今思ったんだけど...」

「どうしたの、花音?」

「私達...。また道に迷ってない...かな?」

「あ、あれ?おかしいわね?道はここで合っているはずなん...だけど...」

 

 そう、薫さんと合流するはずなんだけど...。

 

 

――道に迷ってしまってどこにいるのかわかりません...。

 

 

 昨日千聖ちゃんが薫さんから「行きつけの喫茶店があるからぜひ花音を誘って来てほしい」って言って今日千聖ちゃんと行くことになって、そして薫さんからも案内すると言われて合流することになっています。千聖ちゃんはどうやら今日は仕事はオフだったので休日の土曜日、今日行くことになりました。

 

 普段私は道に迷ってしまうことが多く、千聖ちゃんと一緒にいれば迷うことはありません。でも今日は珍しく千聖ちゃんも道に迷ってしまったみたいです。

 

「あれ?千聖ちゃん、スマホ鳴ってるよ」

「あら、もしかして薫からかしら?」

 

 そう言って千聖ちゃんは電話に出た。

 

「もしもし?」

「もしもし?ああ、千聖かい?おはよう。今どこにいるんだい?」

「おはよう薫。今なんだけど...羽丘学園の近くなの」

 

 どうやら電話の相手は薫さんみたいだ。薫さんに今いる場所を言ってるけど...。どうしたのかな?

 

「ええ、わかったわ。ここで待てばいいのね?」

「ああ。そこで待ってくれればいいよ。私が道を案内するから」

「ありがと薫。じゃあ待ってるわね。また後でね」

「ああ、また後で会おう。我が愛しのちーt」

 

 ブチッ!

 あっ、切っちゃった。

 

「ち、千聖ちゃん?」

「なーにー?花音?」

「か、顔が恐いよ...」

「ん?何のことかしら...。とりあえずかおちゃんは後でお仕置きが必要ね。フフフフフ」

 

 か、かおちゃん?もしかして...薫さん、千聖ちゃんを怒らせちゃったのかな?

 

 

 

 

――おわかりいただけただろうか

 

 

 

――そう、この儚い貴公子は気づいていなかった。幼なじみをかつての名前で呼ぼうとしたことで触れてはならない線。所謂、逆鱗という名の線に触れてしまったことを...。

 

 

「あ、薫さんだ」

「やあ、待たせたね千聖、花音」

 

 待って薫さん!今は逃げた方が...。でももう遅かった。合流した瞬間に千聖ちゃんはすでに薫さんの後ろに立っていたのだから。

 

「かーおーちゃん?」

「ん?どうしたんだい?千聖」

「あなた...。さっき私のことを何て呼ぼうとしたかしらぁ?」

「え!?な、何のことだい?千聖...」

 

 ふえぇー。千聖ちゃん...。笑顔が恐いよ...。

 そして、千聖ちゃんは笑顔で薫さんに言った。

 

 

「フフフフフ。貴方にはお仕置きが必要ねぇ。かーおーちゃん?」

「ま、待ってくれちーちゃん!?許してくれ!さっきは...その...。久しぶりに昔の名前を呼びたくなっただけで......っ!?」

「言語道断よ?言い訳なんて聞きたくないわぁ?」

 

 

 

 

――カクゴシテネ?カーオーチャーン?

 

 

 

 私は薫さんに申し訳ないと思いながら手を合わせて合掌した。薫さん。御愁傷様です。

 

 

 

 その後、二匹の迷える子羊は貴公子と合流するが、学園の正門にて儚い叫びが聞こえたということが貴公子のファンの間で噂された。

 

 

▼▼▼▼

 

 

 いろいろとあったけど、ようやく目的地の喫茶店についたわ。どうやら薫も用があったみたいで案内ついでに行くことにしていたみたい。

 

「ところで薫?」

「どうしたんだい?千聖」

「あとどれくらいになるかしら?」

「もう少しで着くさ」

 

 それにしてもだいぶ歩いたわね...。彩ちゃんも誘えばよかったかしら?彩ちゃんもオフだけれど、今日は用事があるようで来れないと言ってたし、日菜ちゃん達も同じく用事があると言っていた。

 そう思っている間にようやくたどり着いた。

 

「ここがそうなのね?」

「凄い綺麗だね」

「そうさ。私も最初来たときはびっくりしたさ」

 

 私達はドアを開けて入ることにした。あら?ドアから音がしたわね。今風の喫茶店かしら?

 

「いらっしゃいませー」

「いらっしゃいませ、あら花音、千聖!それに薫も!」

「あ、あれ?澪ちゃんに深雪ちゃん!?」

「あら、ここで働いてたのね。初めて知ったわ」

 

 まさか澪と深雪が働いていたなんて...。確か澪は喫茶店で手伝いをしているとは聞いたことがあるわね。深雪はバイトかしら?

 

「やあ、薫くん。いらっしゃい」

「滋さん、二週間ぶりです」

「そちらのお二人は澪と深雪君のお友達かい?」

「初めまして。白鷺千聖です」

「ま、松原花音です!」

 

 私達は紳士的な人に挨拶をした。もしかして店長?

 

「初めましてお二人共。私は澪の父親でこの店の店長の楠木滋です。以後お見知りおきを。滋でいいよ、お嬢さん方」

 

 

 そう言って滋さんはお辞儀をした。咄嗟だったので戸惑いながらも私と花音もお辞儀を返した。

 

「そういえば滋さん。葵はどうしたんだい?」

「葵なら今買い出しに行っててね。デザートの材料が何個か不足してしまったんだ。もう少しすれば戻ってくるよ」

「そうでしたか。ではお茶にしながら待ちますよ」

 

 葵って人は澪の弟さんかしら?それにしても...。

 

「ねえ澪。葵って人は一体...」

「葵?葵は私の弟よ」

「え!?澪って弟さんいたの!?」

「あれ、言ってなかったっけ?」

「いいえ、今初めて知ったわ」

「まあまあ千聖、少し落ち着きなさい」

「深雪...」

「このまま話てたら、花音が置いてきぼりだよ」

「ふ...ふえぇ......」

「か、花音!?」

「ほーら、言わんこっちゃない」

 

 その後、花音は会話についていけず、混乱してしまったみたいで、本当に大変だったわ。薫はこれには凄く焦ってしまったみたいで、元に戻るまで1時間かかってしまった。

 

 

 

▼▼▼▼

 

 

 

「あの...松原先輩。大丈夫ですか?」

「う、うん。大丈夫...だよ。楠木君」

「父さん、何があったの?」

「ああ、ちょっとした事故でな。松原さんが会話についていけなくて混乱してしまったものでな」

「そ、それは大変だったね」

 

 

 僕が買い出しから帰ってきたらどうやら事故があったみたい。それにしても...。

 と、そんなことを思っていると厨房から母さんがやって来た。

 

「お待たせしました。チーズケーキと紅茶二品、キリマンジャロになります」

「ありがとうございます。そしてごきげんよう、真衣さん」

「あ、初めまして白鷺千聖です」

「初めまして。楠木真衣です。真衣でいいですよ。あなたは...女優さんの白鷺さんね?」

「は、はい!私のことを知っているんですか?」

「ええ、有名よ。あ、ここに来たことは言わないから大丈夫よ」

「ありがとうございます!」

 

 

 なんか白鷺先輩と母さん、気が合いそうだな。あ、松原先輩がもう大丈夫みたいだ。

 

「あ、あの!私、松原花音です。初めまして!」

「あらあら、もう大丈夫みたいね。私は楠木真衣。よろしくね」

「は、はい!こちらこそ」

 

 

 

 それにしても珍しい。今日は客が少ないな。

 

 

「父さん。珍しいね今日は客少ないんだね」

「そうか?言われてみると確かに」

「父さん、少ないからと言って落ちこまないでよ?」

「ん!?な、何のことだい?」

 

 

――やっぱり父さん、顔青ざめてるような気がする。

 

 

「そういえば姉さん、白鷺先輩と松原先輩とは知り合いなんだね」

「まあね。中等部の頃からだけどね」

「え?それってまさか...あの黒歴史の時代じゃ...」

「葵君!?待って、思い出させないで!」

「ん?どうしたんですか?白鷺先輩?」

「葵君、ごめんね。千聖ちゃん、澪ちゃんのアレに相当参っちゃってね」

「あっ(察し)そ、そうでしたか!なんかすいません、うちの姉が」

 

 

 ほんと姉さんは、学校生活どうなってるんだろう?なんか心配になってきた。

 

「そうだ、薫君。この前の小説はどうだった?」

「はい。とても良かったですよ。まさに...」

 

 

「「儚いね」」

 

 

 やかましいわい!なんで二人でハモるんだよ!

 

 

「父さん?瀬田先輩に毒されてない?大丈夫?」

「いや、そんなことはないさ。ま、待て!?真衣さん、待ってくれ!?」

「滋さーん?後でオハナシがありますので、閉店したら聞きますねー?」

「嘘!?た、助けてくれ!?葵!澪!」

「「ごめん、(お)父さん。無理」」

 

 

 はい、御愁傷様です。

 

 

 

 

 

 

 

 

――そしてまた喫茶店にて儚い叫びが聞こえたそうな。

 

 

 




ごめん、今回つまんなくてマジでごめん。
千聖は怒らせるとガチで恐い。あれはマジギレです。
薫さんにはお仕置きが必要でした。
というわけで今回は薫、千聖、花音の3人をここで出しました。薫はすでに2話で出ましたが、今回から少しずつ出していきます。
なんか今回はおもしろくなくて申し訳ないです。
次はもう少し捻っていきますので。
では次にお会いしましょう。


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心はぴょんぴょんしても兎は取り扱ってません。兎は非売品です

タイトル名長くてすまない。
兎のほうのおたえとこっちのおたえは全くもって別人です
というわけで5話更新
今回はおたえが単独で来店(襲来)します
ごちうさネタがいくつか出てきます
ではどうぞ


 僕は今ヤバい状況に立たされている。

 そう、うちの喫茶店に...喫茶店に...。

 

「ウサギって売ってませんか?」

 

 

 

――変な女の子が来店してきたのです。

 

 

▼▼▼▼

 

 

 時刻は午前9時、今日は祝日。つまり"昭和の日"である。早くも4月は終わりを迎え、5月に入ろうとしている。やっぱり時が進むのは早いものだ。そういえば、美竹さん達は連休をどう過ごすのかな?

 

 あの後、自己紹介してしばらく日が経ってからAfterglowのみんなと連絡先を交換した。けど、羽沢さんとは連絡とかはしていない。ていうか恥ずかしくて何を話せばいいのかに迷ってしまう。

 

「父さん」

「どうした葵?」

「祝日ってやっぱり客少ないんだね」

「まあな。世間からしたら休みだったり仕事があったりするからな」

「そうなんだ。あれ、姉さんは?」

 

 そういえば姉さんが珍しくいない。深雪さんは今日はバイトは休みにしている。

 

「ああ、澪ならパティシエの方で研究したいことがあると言って深雪君の所に行ってるよ」

「ああ、それでいないんだ」

 

 厨房から母さんが出てきて僕に話し掛けた。

 

「葵。連休はどうするか決めてる?」

「連休?母さん何かあるの?」

「特に決めてはないけど...あ、ところで葵。あのあと羽沢さんとはどうなの?」

「ん?ちょっと待ってなんで母さんが羽沢さんのこと知ってるの?」

 

 あれ?おかしいな。羽沢さんのことは言ってないのになあ。因みに僕が羽沢さんに一目惚れしてたことは姉さんに帰ってきてから速攻で看破されました。どうやら一目惚れしたその日から知ってたらしい。

 

「実は私ね商店街の羽沢珈琲店に行ってきてね、そこで話が弾んじゃったのよ。確か娘さんは羽沢つぐみちゃんだったかしら?」

「待ってよ母さん!そんなことは早めに言ってよ!」

「ごめんね葵?サプライズしようと思って黙ってたわ。テヘペロ」

 

 うーわ、きっつ!

 

「おーい葵?実の母である真衣さんになーにうわ、きつ!なんて思ってるんだ?」

 

 だからなんで心読めるんだよ!こんなの絶対おかしいよ!

 

「葵?そんなこと思ってたの?もしそうならつぐみちゃんに葵が一目惚れしてるって言うわよ?」

「待って!やめて!それだけはやめて!そんなことされたら生きていけないし羽沢さんになんて思われるかわからないからやめて!」

「本当に思ってなーい?」

「思ってない!思ってません、母上様!命に代えてもそれだけはお許しを!」

 

 マジでそれやられたら生きていけないよ...。ホント恐いようちの黒幕は。

 そんなやり取りをしていたらドアから音がした。客だな。

 

「いらっしゃいませ!」

「すみません!ここにウサギって売ってませんか?」

 

 ......え?なんて言ったの?この人?

 

 

▼▼▼▼

 

 

――そして現在に至る。

 

 

 ねえ、一言言わせてもらっていい?

 

 

――なんだ...この客?(震え声)

 

「お、お客様?なにかご注文ございますか?」

「じゃあ、ウサギで」

「申し訳ございませんお客様。当店ではウサギは取り扱っておりませんので、ドリンクやデザート、料理しかございませんので、申し訳ございません」

 

 言っておくけど、ウサギはうちの店では取り扱ってないし、非売品だよ!

 

「あれ?おかしいなぁ?」

「いかがなさいましたか?」

「このお店だとコーヒーを注文したらウサギをもふもふできるって聞いたんだけど...」

 

 どこの情報だよそれ!てかうちにアンゴラウサギはいないし頭にも乗せてないからな!ていうかそれ口コミにもないよね?ね!?

 

「んー、じゃあコロンビアで」

「畏まりました。少々お待ち下さい」

 

 それにしてもなぁ...やけにウサギに拘ってるなあ。黒髪に緑の瞳。なんかどっかで見たような気がする。どこで見たんだ?姉さんに聞けばわかるかな?

 

「お待たせしました。コロンビアになります」

「ありがとうございます。ところでお兄さん」

「はい、何でしょうか?」

「お兄さんって...大学生?」

 

 そうだ、僕は身長故に大学生と勘違いされることがある。まあ、もう慣れたけどね。

 

「いえ、高校1年ですよ」

「あ、じゃあ私と同じ学年ですね」

 

 え、そうなのか。この子てっきり高校2年、姉さんの知り合いかと思ったけど。違うのか。

 

「それでどこの高校ですか?」

「えっと、羽丘ですが...」

「羽丘...ということはAfterglowと同じ学年ですね!」

 

 待て、今何て言ったんだ?この子Afterglowのことを知っているのか?ファンかそれともバンドをやっている、どっちだ?

 

「もしかしてファンですか?」

「いいえ、私はギタリストですよ」

「え!?そうなんですか!?」

 

 ギタリストっていうことは美竹さんや瀬田先輩と同じってことだ。でもどのバンドなんだ?

 

「バンド名はなんですか?」

「バンド名はウサギパーティーだよ!」

「え?ウ、ウサギ?パーティー?」

「あ、間違えた。違った、冗談です。Poppin'Partyです!」

 

 Poppin'Party...。姉さん知ってるかな?

 

「略してポピパですか?」

「よく知ってますね!ファンになります?」

「いや、まだ聴いたことがないのでファンとは名乗れませんよ」

 

 後で姉さんに聞いてみよう。多分知ってるはずだ。

 

「もしよかったら聴きにきて下さい。私達circleっていうライブハウスで活動してますので」

「お誘い頂きありがとうございます。機会がありましたら聴きに行きますよ」

「あ、名前まだでしたね。私は花園たえです。おたえでもいいですよ」

「僕は楠木葵です。じゃあおたえさんでいいですか?」

「全然いいですよ!せっかくですから敬語止めにしませんか?」

「いいんですか?まだ会ったばかりですけど」

「むしろ敬語抜きのほうが気楽に話せて断然マシですよ。それじゃあよろしく」

「こちらこそよろしくお願いしま...違った。うん、よろしくね」

 

 そう言って、おたえさんは会計を済ませて店を出た。

 

「滋さん、見ましたか?」

「ああ、見ましたよ真衣さん。浮気現場を」

「待って二人共!?何で!?どうしたらそうなるの!?やめてよ!羽沢さんには絶対に言わないでよ!」

 

 こんなこと美竹さん達に見られたら宇田川さんと美竹さんに殺されるし、青葉さんや上原さんにも見捨てられちゃう。それに...

 

 

 

――羽沢さんには一番知られたくない!

 

 

 

▼▼▼▼

 

 

――そして夜...

 

 

 

 疲れた。なんかまた変な客が来たな。瀬田先輩といいおたえさんといいなんか僕の周りって変な人が現れる時あるけど、僕って不幸体質かな?

 

 まあ、それはいいとして。どうするか...。勇気を出して羽沢さんに電話してみるか。でも、何を話せばいいんだろう?好きになったとはいえ、中々進歩がない。このまま自然消滅したらもう生きていけない気がする。

 

 そんなことを考えていたら電話が来た。誰からだろう?

 

 僕は画面を見た時に心臓が止まるくらいの衝撃を受けた。

 

 

 

――は、羽沢さん!?どうしたのかな?

 

 そう思いつつも僕は勇気を振り絞って電話に出た。頑張ろう!今度こそ話をしなきゃ!

 

 

「も、もしもし?」

「もしもし...?い、今大丈夫かな?」

「だ、大...丈...夫だよ?」

 

 あー、駄目だ駄目だ!緊張するし、心臓がバクバク鳴ってるんだけどー!?

 

「どう...したの?」

「あの...急にごめんね!私達さ、名前で呼ばない?」

「え?名前ってことは、その...下の名前でってこと?」

「う、うん!そうなる...かな」

 

 名前で...か。もう会ってからはや1ヵ月になるから、いつまでも苗字なのもあれ...かな。でもいいのか?

 

「羽沢さん?でもいいの?名前呼びで」

「うん、私はむしろ呼んで...欲しい...かな」

 

――か、可愛い...!

 

「わ、わかったよ。よろしくはざ...いや、つぐみちゃん!」

「こ、こちらこそ、不束者ですが、よろしくお願いします!葵君!」

 

 待って、それお見合いとかの挨拶だよ。つぐみちゃん...。

 

「あ、あとね!」

「どうしたの?なにかあるの?」

「あ、あの!も、もしよかったらなんだけど...その...」

 

 何だ...何を言うんだ?次の言葉が気になる。

 けど、その次の言葉は僕にとってとても大事なもので連休を充実ものにする、そんな言葉だった。

 

「今度の連休なんだけど...Afterglowのみんなでどこか遊びに行かない?」

 

 

――僕の人生に青春の1ページが描かれようとする瞬間だった。

 

 

 




おたえいかがでしたか?
次は連休、アフグロと葵がメインになります。
なお、オリジナルストーリーになります。
では、さらばです。


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夕焼け少女達との連休、波乱の幕開け

連休回です。
大体3、4話くらいになりますが、よろしくです。
では本編どうぞ。


「ここで待ち合わせでいいのかな?」

 

 僕はこの連休はAfterglowのみんなと2泊3日の温泉旅行へ行くことになった。なんでも、つぐみちゃんが商店街のくじ引きで偶然1等賞を当ててしまい、結果温泉旅行に行くことになった。父さん達からは「楽しんできていい。店は大丈夫だから」と言われ、母さんと姉さんからは「土産話とつぐみちゃんとの進展楽しみにしてる!」って言われてしまった。うん、絶対に言いたくない。聞かれても答えたくない。

 

 連休の前に美竹...蘭ちゃん達からも下の名前で呼ぶように言われた。「つぐみだけずるい」って言ってた。なんか可愛かった。モカちゃん曰く「勇気を出したつぐはつぐってるー」なんて言ってた。"つぐってる"って何だろう?(哲学)

 

「おはよう、葵」

 

 あ、来たみたい。それと僕の私服は上は青のデニムコートにグレーのパーカー、下は黒のジーパンを着ている。あとは赤のメガネを掛けている。といっても伊達メガネだけどね。

 

「おはよう、蘭ちゃん」

 

 蘭ちゃんの私服は上は黒のライダースジャケットに中にグレーの縦のタートルネック、下はダメージの短パンにタイツを履いている。腰元にベルトを斜めに掛けている。まさに蘭ちゃんにしか似合わないくらいのファッションだ。蘭ちゃんってセンスあるのかな?

 

「ふっふっふー、モカちゃん参上!」

 

 モカちゃんは黒のフードが付いたグレーのパーカーで中に首元に赤の縁が付いた白いTシャツ、下は黒の短パン。何だろう、まさに「これぞモカちゃんだー」ってそんな感じがする。

 

「おはよう、モカちゃん」

「おはよー、あーくん。今日も"おいってる"ねー」

「えっ!?おいってるって何?」

「かっこいいねーとか頑張ってるねーとかまあ、つぐってると同じかな」

「あ、そうなんだ」

 

 おいってるって...なんかつぐみちゃんのつぐってると同じだな。ちょっと嬉しいと思ってしまった。

 

「葵くーん、お待たせー!」

「ひまりちゃん、おはよう!」

 

 ひまりちゃんは長袖のブラウスにコルセット付のスカートにニーソックスの私服だ。似合ってはいるけど...なんというか...目のやり場に困る。どことは言わないけど意外とでかいんだね。とりあえず目を逸らそう。

 

「あーおーい?」

「えっ?ど、どう...したの蘭ちゃん?」

「今ひまりのどこを見てた?」

「へっ!?な、何のこと?」

「見てたんでしょ?つぐみに言うよ?」

「み、見てないよ!?あとつぐみちゃんには言わないで!」

 

 あ、やっちゃった。

 

「ふーん。見てたんだ。あたしは胸とか言ってないんだけどね」

「あ」

「あ、葵くん!?恥ずかしいよ...それは...私一応気にしてるんだよ?」

「ご、ごめん!ごめんなさい!ひまりちゃん!あと、蘭ちゃん!つぐみちゃんには言わないで!」

「正直でよろしい」

 

 蘭ちゃんには敵わないよ...。怒らせないようにしよう。

 

「よ、葵!待たせたな!」

「あ、おはよう巴ちゃん」

 

 巴ちゃんは黒のジャケットにYシャツ、青のジーンズだ。まさに姉御!って感じだ。「アタシにまかせろ!」っていうこの人はお姉ちゃんが相応しいっていうくらいにカッコよかった。そういえば巴ちゃん妹さんがいるみたい。名前は確か「宇田川あこ」ちゃんだったかな?

 

「待たせたてごめんな葵」

「そんなことないよ巴ちゃん。なんかカッコいいね」

「ありがとな!」

 

 あとはつぐみちゃんだけだ。どんな私服なんだろう。

 

「お、お待たせ葵君」

「おはよう、つぐみ...ちゃん」

 

 つぐみちゃんは上に白のドレープジャケットに中に長袖のワンピースを着ていた。なんだろう、凄く似合っててこれを着こなせるのはつぐみちゃんしかいない!っていうくらいに似合っていた。

 

 

 

――またしても僕の前に天使が舞い降りた。

 

 

 

「あ、葵...君?」

「...へっ!?な、何?」

「大...丈...夫?葵君」

「だ、大丈夫だよ!うん、凄く似合ってる!」

「ふぇっ!?」

 

 あ、ヤバい口が滑った。

 

「「......」」

 

 お互い顔を赤くして黙ってしまった。

 

「おーおー、ノルマ達成ー。ごちそうさまです」

「うん、尊い。尊いよ二人共!」

「あ、駄目、あたしもう倒れるかも」

「アタシも駄目だ、この空気耐えられない」

 

 なかなか蘭ちゃんと巴ちゃんは慣れないみたいだ。モカちゃんとひまりちゃんはもう慣れたみたい。ていうかこの空気に慣れるとか恐いんだけど...。

 

「「あ、あの!」」

 

 あーやばい、言葉に詰まった。誰か助けて!どうしたらいいの!?

 

「あ、葵君からどうぞ...」

「つ、つぐみちゃんからどうぞ...」

 

 なにをしゃべればいいかな?あ、そうだ!

 

「さっきも言ったけど似合ってるし可愛いよ、、つぐみちゃん」

 

 僕はつぐみちゃんに笑顔でそう言った。

 

「っ!」

 

 あれ?なんかヤバかったかな?なんかつぐみちゃん真っ赤になって頭から煙が出てるような...

 

「つ、つぐみちゃん!?」

 

顔を真っ赤にし、目を回してつぐみちゃんは倒れてしまった。

 

「つぐーだいじょーぶー?」

「つぐー!?」

「つぐ、おい!死ぬなー!」

「ねえ、葵?」

 

 まずい怒らせたかな?

 

「な、何?」

「...さすがに言い過ぎだよ。それは褒めすぎて殺したとしか言い様がないよ」

「う、嘘!?」

 

 やっぱり言い過ぎたか。今度から言葉を選ぶかな。

 

「でも...」

「ん?」

「つぐみには効果抜群だよ」

 

 蘭ちゃんは微笑んでそう言った。え!?でもこれやりすぎたんじゃ...。

 

「大丈夫。つぐみはそのうち起きるから。それまで待とう」

 

 えーそれでいいの?蘭ちゃん。

 

 

 

▼▼▼▼

 

 

 しばらくしてようやくつぐみちゃんは起きた。でも...

 

「んっ......」

「あ、つぐみちゃんおはよう」

「お、おはよう...ってぇ!?」

「ぐはっ!?」

 

 つぐみちゃんが起きて頭を上げたら今度は僕とつぐみちゃんの頭がぶつかってしまった。

 

「「うー、痛いー」」

「起きたのに何ぶつけてんの」

「あーあー、一難去ってもまた一難」

「ぶっちゃけ有り得ないよ!」

「まあそれが有り得るかもn」

「いや有り得ないから」

 

 何そのコンボは!?さすが幼なじみだよ。

 

「いてて...大丈夫?つぐみちゃん」

「だ、大丈夫だよ葵君」

 

 待って、顔が近いんだけど!?気づいて、気づいて!つぐみちゃん!?

 

「二人共顔が近いよ!」

 

ナイスひまりちゃん!

 

「わー!?」

「え、えー!?」

 

 てかだめだ。しばらくつぐみちゃんの顔見れないかも。

 

「とりあえず電車乗ろうよ」

「おおーそうだった!忘れてた」

「いや忘れちゃ駄目でしょ!?」

「いそがなくてわー」

 

 そうだ、早くしなきゃ。

 

「つぐみちゃん立てる?手貸すよ」

「あ、ありがと葵君」

 

 つぐみちゃんは僕の手を握って立ち上がった。待ってこれよく考えたら恥ずかしいよ!?考えないでやっちゃった!

 

「じゃ、じゃあ張りきっていくよ!えい、えい、おー!」

「「「「......」」」」

 

 ん?これはどうしたらいいの?あ、蘭ちゃんが何か言ってる。何だろう?

 

(葵、ここはスルーして)

 

 待って!脳内に語りかけないで!

 

「みんなースルーしないでよー!」

「ま、"いつも通り"に...ね。葵そういうことで」

 

 いや、どういうこと!?ひまりちゃんずっとスルーされてるの!?なんか可哀想だな...

 

「ひまりちゃん」

「何、葵君?」

「まぁ...その...ドンマイ」

「葵君...ありがとー!君だけだよーこんなこと言ってくれるのはー!」

 

 待って抱きつかないで!当たってる!当たってるから!

 

「葵?言うよつぐみに」

「蘭ちゃん!マジでやめて!」

 

 もう恐いよ蘭ちゃん!

 

 

 

▼▼▼▼

 

 

 ようやく僕たちは電車に乗った。向かいに蘭ちゃん達、僕の隣は......。

 

 

 

――まさかのつぐみちゃんです!

 

 

 何!?何これ狙ったの!?狙ったの、ねぇ!露骨すぎないこれ!?てかモカちゃんとひまりちゃんは何ニヤニヤしてんの!?蘭ちゃんと巴ちゃんは何で笑い堪えてんの!

 

「な、何かごめんね葵君」

「え?何のこと?」

「隣でごめんね?」

 

 いいえ、むしろ嬉しいです!ハイ!

 

「謝ることないよつぐみちゃん」

「そうかな?」

「うん、まあいいんじゃないかな」

 

 電車が出てからしばらく経つ。なんか右の肩に乗ってるけど何だろう?右に視線を向けると...。

 

 

――つぐみちゃんの頭が乗っかっていた。しかも寝てる。

 

 

 んぅぅ!?な、なんでこうなってるの!?あまり動けないや。つぐみちゃんが気持ちよく寝てるから起こすわけにもいかないし...てかモカちゃんはニヤケてるし蘭ちゃんはまた笑いを堪えている。巴ちゃんに至っては腹を抱えて笑いを堪えてるしさ...。そんでひまりちゃん、やめてその目。見守っていますよみたいな目やめて!

 

 あ、なんか僕も眠くなってきた。もう駄目だ寝よう。

 

 そう、蘭ちゃん達からみたら僕とつぐみちゃんは寄り添って寝ていた。しかもつぐみちゃんの左手は僕の右手の上に乗っていた。なんで気づかなかった、てか何で言わなかった。

 

 駅に着いた時にモカちゃんに写真を見せられた。その写真はさっき僕とつぐみちゃんが寄り添って寝ていたところを撮られていたのだ。またしても僕達は顔も耳も真っ赤になってしまって気まづくなった。モカちゃんは「無音スクショだよー、残念ながら写真はみんなやつぐとあーくんにも送ったからー」なんて言われた。

 

 

 

――なんで消さなかった青葉ァ!てかその写真撮ってくれてありがとうございます!モカ神様ァ!

 

 これはまだ波乱の幕開けである。どんな旅になるのかはまだわからない。

 

 

 




終わりー!
地の文、私服の方は下手なのは許して!
原作ストーリーは近いうちにやる予定です。
では次お楽しみに。
感想、お待ちしております。


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旅には大抵不幸な事故、主に恋愛的なハプニングは付き物である

連休回2話目です
ここから葵とつぐみに事故がいくつか起きます
関係は進展するかは想像にお任せします
ではどうぞ


 その後、ようやく目的地の駅に着いた。まさかモカちゃんに撮られていたなんて思わなかったけど、さっきつぐみちゃんにも送ったって言ってたな。なんというか...。

 

 

――つぐみちゃん、どんな気持ちだったのだろう。どんな寝顔だったのか。

 

 

 

 そんなことを気にしてしまう自分がいる。なかなかこんな経験はないからとてもいい経験をした。あとでモカちゃんにはお礼を言っておこう。

 

 

「結構掛かったね。つぐみちゃん、疲れてない?」

「大丈夫、なんともないよ!」

 

 よし、何ともないみたいだ。つぐみちゃん無理してないかな?でもこういうときもつぐってる?っていうのかな。うん、心に留めておこう。つぐみちゃんは...。

 

「つぐってるね」

「...ふぇっ!?」

 

 ん?あれーおかしいな?僕なんか言ったかな?

 

「葵あんた...」

「あーあ、やっちまいましたなー」

「葵君また君は...」

「お前ホントにすげぇよ」

 

 あ、やばい。まさか...

 

 

――口に出したのか!?

 

 

「つつつ、つぐみちゃん!?だ、大丈夫!?」

「だだだだ、大丈夫だよ!?」

 

 大丈夫じゃない!てかこれ僕が悪いじゃん!

 

「ごめんね!ホントにごめんね!」

「悪くない!これは葵君は悪くないよ!"つぐってる"よ!ワタシハツグッテルヨ」

 

 ああ、駄目だ。つぐみちゃんが壊れた。

 

 

▼▼▼▼

 

 

 つぐみちゃんが復活するまで15分くらいかかったけど、なんとか旅館に着いた。

 

「いらっしゃいませ。遠路はるばるご苦労様です」

 

 旅館に入った時、女将さんが挨拶をしてくれた。中は古風ある旅館になっている。前に家族で旅館に行って以来だけと、ホントに久しぶりに来たな。

 

「羽沢でチケットで予約を入れたのですが...」

 

 つぐみちゃんがチケットで予約していたことを伝えたら、女将さんが受付にあるリストから名前があるかを確認した。つぐみちゃんの名義で予約入れたんだ。

 

「羽沢様ですね、かしこまりました少々お待ち下さい」

 

 それにしてもチケットの予約か...。番組でも結構見るけど、正直これどうやって受付してるのかすごく気になってたけど、こんな感じなんだな。

 

「お待たせしました。羽沢様で6名様ですね。お部屋の方へご案内致しますので」

 

 僕達は女将さんの案内の下、部屋へ向かうことになった。

 

「では6人部屋になりますのでどうぞごゆっくり」

「はい!ありがとうございます」

 

 ん?今なんて言った?6人...部屋?

 

 ちょっと待て!それってさ...男1人で女5人つまり...

 

 

――男1人って僕じゃん!

 

 

 ヤバイよヤバイよ!どうしよう。みんなこのことに気づいてないかな?ホントに大丈夫かなこの旅。

 

「一旦荷物おいて準備しようか」

「そーだねー、あ、あーくんは部屋出てねー」

「あ、そうだな。葵絶対覗くなよー」

「葵君!ホントのホントだよ!」

 

 はい!肝に命じています!

 

(葵、覗いたらつぐみを泣かせたっていうことにするから、その後に死刑だよ?それとファ◯チキ下さい)

(は、はい!了解であります!)

 

 だからなんで脳内に語りかけるの!?恐いよ蘭ちゃん!

 

 

▼▼▼▼

 

 ...どうしよう。

 

 6人部屋ってことは葵君と一緒の部屋ってことだよね。みんな気づいてるかな?多分気づいてるよね。さっき葵君の顔を一瞬見たけど、気まづそうな表情だった。やっぱりそんな表情するよね。

 

「つぐみ、これはチャンスだよ」

「な、何かな?蘭ちゃん」

「つぐ、ここで葵君との距離を縮めないと!」

 

 え!ここでなの!?恥ずかしいよ~。私が葵君に一目惚れしていたのはお店に最初に来て帰っていたときに蘭ちゃん達にバレました。私って分かりやすいのかな?

 

「ここで距離縮めるって...。だ、大丈夫かな?」

「問題ナッシングだよつぐー。だいじょーぶ!つぐならできる!」

 

 モカちゃん!親指立てられても困るよ!

 

「つぐ、まあ頑張れ。ソイヤのつもりで頑張れ」

 

 巴ちゃん。無理矢理ソイヤで押し通したよね!?巴ちゃんにとってソイヤって何!?

 

 うん、なんかいいや。もうどうにでもなれだよ。とりあえず...

 

 

――つぐっていこう!(がんばろう)

 

 

▼▼▼▼

 

 その後、つぐみちゃん達も準備が終わり僕も準備ができた。これからどうなるのか僕もわからない。せめて事故は起きないように祈ろう。

 

「とりあえずお昼にしない?」

「そうだね。まずどこで済ませるかだね」

「ちょうどいいかな。これ僕が握ってきたおにぎりなんだけど、よかったら食べて」

 

 実は今日張り切って早めに起きておにぎりを握ってきてしまった。約12個、昨日も楽しみにしすぎて眠れなかったからね。つぐみちゃんに誘われたからかな?

 

「お、サンキューな」

「葵くん、ナイスでーす。やりますなあ」

「さっすが!これなら未来の旦那さんになれるよ!」

「グハッ!」

 

 ま、待ってひまりちゃん。遠回しに言ってるけど、つぐみちゃんも同じ反応してるからバレバレだよね!?未来の旦那って...今言うのはやめて!

 

「葵。ポイント高いよ」

「すごいよ!葵君!」

「あ、ありがと」

 

 つぐみちゃんに言われただけまだマシかな。我ながらいい出来かな。でもこれ全部塩なんだよね。張り切りすぎて具を忘れちゃったよ。

 

 お昼を食べ終えて僕達は観光をすることにした。そこで最初は温泉街に行くことにした。

 

 うん、とても古風ある街だ。母さんが見たら感動しそうだな。母さんあれでも以外と和風に関しては詳しいんだ。母さんなら女将は似合うと思うかな。写真撮るかな。いい風景だし、母さんにも見せてあげたい。

 

 僕はあまりにも風景が良すぎたので、写真に撮ることにした。

 

「葵君。写真撮ったの?」

「今撮ったんだ。母さんが古風なものが好きでね」

「そ、そうなんだ。真衣さん好きなんだ」

 

 おい待て、なんでつぐみちゃん知ってるんだよ。まさか母さんと会ったのか?

 

「あれ、つぐみちゃん母さん知ってたんだ」

「お母さんから聞いてね。まだあまり知らないんだ。お店で見掛けて綺麗な人だなっていうくらいだから」

「あ、そうなんだ。じゃあまだ会ってないってことだね」

 

 よかった。母さんとつぐみちゃんが会ってたら僕が一目惚れしてたことを知られていたのかもしれない。そうなったら話にくくなる。

 

「葵!よかったら撮ろうか?」

「えっ、いいの巴ちゃん?」

「いいぜ!ただし...」

「つぐみと一緒にね」

「ら、蘭ちゃん!?唐突に来ないでよ!」

「幼なじみあるところに私だから」

 

 恐い!恐いって蘭ちゃん!それもうホラーだよ!

 

「あーくん」

「何?モカちゃん?」

「一緒じゃないと...わかってるね?」

「え?なんのこと?」

「つぐに言うよ?あのこと?」

「わ、わかりました!撮ります!一緒に撮りますから!」

「それでよいのだよー」

 

 もう無理、モカちゃんも恐い!のほほんとしてるけど、裏がありそうで恐い!

 

「葵君!もちろん一緒にだよ!絶対だよ!」

「は、はい!もちろんであります!上原様ァ!」

 

 もうダメ、ひまりちゃんも恐い。可愛いけどホントに今は恐いです。

 

 そして僕は恐怖に怯えながらつぐみちゃんと撮ることになった。撮れたを写真見たら...。

 

「さすが新婚夫婦ですなー」

「写真からも尊さが出てるよ!」

「こ、これはさすがだな...」

「あんた達って実は兄妹だったの?」

 

 え!?つぐみちゃんが妹!?それはそれでアリかも...。てかつぐみちゃんまた顔赤くなってるし!大丈夫!?気絶しないよね!

 

「ま、まあそうなるのかな...」

「えっ!?」

 

 つぐみちゃん何を言ってるの!?あなたは!?

 

 なんかもうわかんないや。事故どころかハプニングでしかないよ。ホント先のことは何が起こるかわかんないや。

 

 

 

▼▼▼▼

 

 

 そして観光してしばらく経って、旅館に戻り夕飯も済ませて温泉に入った。なかなかにいい温泉だった。これからが問題なんだよなあ。何が問題かって?

 

 

――寝てるときに何が起こるのかっていうのが問題なんだけどね。

 

 

 何が起こるかわからないからなあ。寝てる間に何も起こらなきゃいいんだけど大丈夫かな?

 

「じゃあ、そろそろ寝るか」

「枕投げしないのー?」

「他の人に迷惑になっちゃうからやめとこうよ」

「しょうがないかー、では別の機会にしようかー」

 

 モカちゃんよっぽど枕投げしたかったんだね。中学の時やってたなあ。修学旅行のあるあるの一つだからねあれは。

 

「もう寝ようかな僕は」

「葵が寝るならあたし達も寝るかな」

「というわけでおやすみ!」

 

 そして僕達の連休初日は終わった。でも僕は知らなかった。起きた時にあんな事故が起こっていたことを...




とりあえず終わりです。
今回はまだまだ序の口です。
次から終わりまでが本番なのです。
葵とつぐみにはまだまだ事故が待っています。
事故といってもシリアスではありません。
では次にお会いしましょう。


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目が覚めた瞬間の深夜の開幕事故、そしてさらなる事故。少年は少女の想いをを知る

タイトル名がおかしいのは許して下さい。
というわけで連休回3話。
初っぱなから出オチ事故です。
本編どうぞ。



 連休2日目、旅は2日目を迎える。夕焼け少女達はまだ眠りについている。しかしここに例外は1人いる。その例外とは...。

 

 ......待って。これは一体どうなってんの?なんでここにさ...。

 

 

――つぐみちゃんが隣にいるの!?

 

 

 おかしい!おかしいよ!どうしてこうなった!?なんでつぐみちゃんがいるのさ。もしかして寝惚けてこっち来ちゃったのかな?それにしても寝顔が可愛いな。これからどうしようかな。一旦寝たふりをするかそれとも起こすか。もしこれが蘭ちゃん達にバレたらこの旅事態が気まづいことになる。

 

 でも正直言うとこの状態を堪能したいという自分がいる。ここは一旦...。

 

 

――起こそう!この状態を見られるわけにはいかない!特にモカちゃんには見られたくない!

 

 

「つ、つぐみちゃーん。お、起きてー」

「ん、んにゅぅ...」

 

 駄目だ起きない。てか唸り声が可愛い。なんでつぐみちゃんこんなに可愛いの?天使なの?大天使ツグミエルなのかこの子は...。

 

「んむぅ...」

「っ!?」

 

 待って。この子抱きついて来たんだけど!?抱き枕にされるの僕!?抱き心地そんなに良くないよ僕!...じゃなくてっ!

 

 

――頼むから起きてよー!

 

 

▼▼▼▼

 

 

 なんだろう。私なんで布団抱き締めてるのかな?布団にしてはなんか硬いような......硬い?あれ硬い?布団はこんなに硬くないよね?ちょっと確かめてみるかな?

 

 私は確かめるために起きることにした。しかしそれはあまりにも予想外でこんなことってあるの!?っていうくらいに衝撃的だった。そう、私が抱き締めていたものとは...。

 

 

――葵君だった。なんで!?

 

 

「あ、葵...君?」

「つ...つぐみ...ちゃん?」

 

 え?葵君起きてたの!?う、嘘...。どうしよう...どうしたらいいの!?私葵君に抱きついてたの!?

 

「つぐみちゃん一回落ち着こう」

「う、うん...」

「まず、どうしてつぐみちゃんここにいるの?」

「そ、それは...ね。私が途中で起きてトイレに行っててね、それで戻って布団に戻ろうとした時に間違えて葵君の布団に入っちゃったの」

「ああ...それでなんだ」

 

 や、やばい。葵君の心臓の音が聞こえる。ドキドキしてる...。そうだよね、この状況は恥ずかしいし蘭ちゃん達にバレるとまずいよね。私もなんかバレるまで一緒に寝ていたいって思っちゃう自分がいる。葵君はどう思ってるかな?

 

「ね、ねえ葵君」

「な、なに?」

「これ...どうしようかな?」

「うん、どうしようこれ」

 

 ホントにどうするべきかな?正直言うとまだ一緒にいたいけど、もし蘭ちゃん達にバレたら何を言われるか...。いやもういいかな。うん、もうこのまま寝てしまおう。

 

「葵君このまま朝まで寝ようよ」

「ん?ナニヲイッテルノカナキミハ?」

「このままさ、朝まで寝ててもいいかな?」

 

 ああああ、私は何を言っているの?とうとう壊れたの私!?もうどうにでもなれだよ。

 

「いやでも、さすがにヤバくない?」

「葵君は私とこのまま寝るの...いや?」

 

 もうこうなったら上目遣いと涙目で葵君を陥落させよう。理性が崩れない程度にやれば大丈夫だよね?

 

 

――※そもそもアウトです。この時点で大丈夫ではありません。

 

「うぅ~。わかったよつぐみちゃん、僕の負け。朝までいいよ」

「ありがと葵君!」

 

 はあ。私なにやってるのかな?これもう私じゃないよ。呪われてるのかな私?

 

「つぐみちゃん枕ないよね?もしよかったら腕に頭乗せていいよ」

「あ、ありがと」

 

 私は葵君の腕に頭を乗せた。所謂腕枕。まさか付き合ってもないのにこんなことになるなんて...私も葵君もおかしくなったかな。うん、もう寝よう。

 

「おやすみ葵君」

「おやすみつぐみちゃん」

 

 私達はまた寝ることにした。あの後朝になって案の定蘭ちゃん達にバレてしまったけど、私と葵君は怒られるどころか「どこまでいったの?」なんてからかわれてしまった。

 

 

▼▼▼▼

 

 

 はあ、どうしてああなったのかな?結局バレて誤解を解くのに相当かかってしまった。なんかもう気まづいしあんなに積極的なつぐみちゃんは初めて見た。僕ももう少し積極的にならないと...。

 

「これからどうする?」

「お、あそこに足湯あるみたいだな。行ってみようぜ!」

「足湯...前から興味あったんだよね」

 

 足湯!?なんか嫌な予感がする。僕にはもう全部トラップがあって怖くなってきたんだけど!?

 

「あれー、あーくんどうしたのかなー?」

「葵君、なんか怯えてるけどどうしたの?」

「へっ!?な、なんのことかな!?」

 

 あ、これなんか言われそうかも。

 

「もしかしてあーくん。あれかな?女の子が足を入れた足湯には入れないのかな?」

「あ、葵君。無理しなくていいんだよ?」

「だ、大丈夫だよ?」

 

 ああ、バレたよ。そうだよ。さすがに女の子が足を入れた足湯は入りにくいよ。

 

「あ、葵君。もしかして嫌なの?」

「つ、つぐみちゃんどうしたの?」

 

 僕が焦っていると、つぐみちゃんは僕に近づいて耳元で囁いてきた。

 

入らないと夜話していたことみんなに言うよ?

 

 え?待ってつぐみちゃんも敵なの?全員敵かよ!?救いはないんですか!?

 

「う、うん。わかった入るよ!」

「じゃあ入ろうか。ごめんね葵君。あんなことしちゃって」

「い、いやいいよ。き、気にしてないからさ...」

 

 本当は気になる。つぐみちゃん急にどうしたんだろう?あんなに積極的になるなんて...何かあったのか?

 

 

▼▼▼▼

 

 

 やっぱりおかしい。つぐみちゃんがあれだけ僕に対して積極的になるなんて...。考えてもわからない。どうなってるんだ一体。

 

 今僕達は温泉に入っている。今日はいろいろありすぎて疲れてしまった。ここまで疲れるなんて思わなかった。つぐみちゃんが僕に対してあんなにくるなんて...。

 

「つぐみあんた今日はどうしたの?」

 

 隣の女湯から蘭ちゃんの声が聞こえた。なんか気になるな。あまり盗み聞きをするのはよくないけど、気になってしまう。ごめん、みんな!

 

「な、なんかね。葵君のこと考えてたらもっとアピールしようかなって思ってね」

 

 アピール?何をだ?何をアピールしていたんだ?

 

「ふーん。つぐにしては積極的だったね」

「つぐーもしかして焦ってない?」

「焦ってはないよ。ただ、葵君の想いを知りたかったからかな」

 

 僕の想い?僕はつぐみちゃんが好きだけど...。それがどうしたのかな?

 

「今日は充分過ぎるくらいにつぐってたな!」

「そうだよ。つぐみにしては収穫はあったと思う」

「今なら言えるよ。私は葵君が好きなんだって言える」

 

 ......は?

 

 う、嘘...だろ...。つぐみちゃんが僕のことを好き?いつからだ?まだ会って1ヵ月しか経ってないよね?嬉しいけど、まさかつぐみちゃんが僕のことを好きだなんて思わなかった。

 

 今の気持ちを一言で表すなら衝撃的かな。つぐみちゃんは今日はすごくつぐってるって言える。どうりで積極的になってたわけだ。これは僕も負けてられないな。頑張らないと。でも感心した。

 

 

――つぐみちゃんが僕のことを好きだってわかったのが嬉しかった。君に一目惚れしたのが本当に運命だと感じた。

 

 

▼▼▼▼

 

 

 そして夜、みんなはもう寝ている。僕はお茶を買いに自動販売機まで来た。今は落ち着いているけど、心の中はまだ落ち着かない。今つぐみちゃんと会ったらどんな顔したらいいかな。

 

「あ、葵君!?」

「あれ、つぐみちゃん!?」

 

 噂をすれば来たよ。どんな話しようかな。

 

「ど、どうしたのつぐみちゃん!?眠れなかった...とか?」

「そ...そうかな。ちょっと眠れなかったかな」

 

 どうしよう...気まづい。好きだとわかった状態で好きな人と会話する。それだけなのに話にくい。どうしたらいいんだ?

 

「ね、ねえ!葵君」

「な、なに!?どうしたの?」

 

 その時、つぐみちゃんが口に出した言葉は予想できないものだった。

 

「その...また一緒に寝てもいい...かな?」

 

 そう、本当に予想できないんだ。僕の心は明日まで持つかな?不安しかない夜だった。

 

 

 

 




やり過ぎた。
取り返しのつかないことをやってしまった。
何度も言いますが、まだ付き合っていません。
次で連休回終わりです。
次も添い寝パートだけとなります。
感想お待ちしております。


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二人きりの布団、少年と少女の想い

更新遅くなってごめんなさい
タイトル名がダサいのは許してね!
今回は葵視点とつぐみ視点でお送りします
では本編です


 まさかまた一緒に寝るなんて思わなかった。てかどうしてこうなった!

 

「葵君まだ起きてる?」

「お...起きてるよ」

 

 つぐみちゃん顔近いって!今度は腕に抱きついてるし...なんか当たってるし...。つぐみちゃんに腕に抱きついていい?って言われたから断れなかった。明日までどうしようかなこれ...正直言うと耐えられる自信がないよ。それとつぐみちゃんと僕は布団の中で顔は出していない。これモカちゃんだと絶対に録音してそうだよね。やりかねない...。

 

「ね、ねえ葵君」

「な、何...?」

「今回の旅行どうだった?」

 

 今回の旅行か...。なんていうか色々あったよな。主につぐみちゃんに関しては色々ありすぎた。つぐみちゃんの想いを知ったり、積極的に攻めて来たり...。ホントに旅行なのか?っていうくらいに色々あった。まさかつぐみちゃんが僕のことを好きだったなんて思わなかった。

 

 けど僕がつぐみちゃんのことを好きだってことはまだ知らないはず。今ここで言ってしまえばどれだけ楽になるか...。会って1ヵ月で付き合う、そんなの漫画とかでよくあることだ。けど僕はそれで結ばれるっていうのはちょっとあれかなって思ってしまう。つぐみちゃんには申し訳ないけれど、僕にはまだそんな勇気がない。ここで告白をして関係が崩れてしまったら僕は生きていけるか?

 

「葵君?どうしたの?」

「ん?ああごめん。考え事してたよ。旅行のことだよね。まあ楽しかったよ。色々あったけどね...」

「よかった。葵君を誘ってよかったよ」

「ありがとう。誘ってくれて」

 

 つぐみちゃんの想いを知ってしまった以上、もう戻れない。今はこの関係を保っていたい。もっとつぐみちゃんのことを知って、それから結論を出していこう。これからのことを姉さんに相談してみようかな?姉さんは恋愛相談を何十回も受けてきたからあれでも相談事には慣れている。

 

「ねえ葵君」

「何?」

「さっきの温泉入ってる時のことなんだけど...」

「?」

「私の声って聞こえてた?」

 

 え?いきなり何!?ていうかごめんつぐみちゃん!盗み聞きしてました。盗み聞きして好きな人の想いを知るって...ラノベじゃあるまいし。これが現実に起きるっていうのはおかしいとしか思えない。自分で言うのもなんだけど...。

 

「何のこと...?」

「あれ、聞いてなかったの?」

「僕は先に出てたからわからないよ」

「そ、そう...」

 

 危なかった。ごめんつぐみちゃんまた嘘ついちゃったね。でもバレたらホントに生きていける自信がない。つぐみちゃんってたまにとんでもないこと聞くから怖いな。将来この子の尻に敷かれそうだな...。そうならないようにしないと。

 

「そういえばつぐみちゃんは残りの連休はどうするの?」

「私?残りは宿題とか終わらせないといけないかな。あと、お店の手伝いもあるからね」

「僕と同じだね。店の手伝いもあるから帰ってから忙しくなるよね」

「言われてみれば一緒だ。なんか私達って似た者同士だね」

「っ!?」

 

 またなんか言ってきたよこの子!好きな人から似た者同士って言われるとは思わなかった...。なんか嬉しいなこれって。いい土産話ができたかなこれは...。土産話って言うのはおかしいけど父さん達に相談してみようかな...。

 

 

▼▼▼▼

 

 

 なんで私あんなこと言っちゃったのかな?昨日の夜葵君のところに間違えて寝ちゃって寝心地いいからもう一回寝たいなんて言えないよ!葵君の腕抱き心地いいなあ。葵君起きてるかな...。

 

「葵君まだ起きてる?」

「お...起きてるよ」

 

 起きてんだ。無理もないよね、私があんなこと言っちゃったから眠れないよね。なに話そうかな...。旅行のこと聞いてみようかな?うん聞いてみよう。緊張するなぁ...。

 

「ね、ねえ葵君」

「な、何...?」

「今回の旅行どうだった?」

 

 どうだったかな?今回の旅行...。私なりにすっごく頑張ったと思うし、むしろやり過ぎたくらいに頑張ってしまった。蘭ちゃん達にからかわれちゃったことはあったけど、それでもこの旅行は楽しかった。あのくじ引きを受けてよかったなって思ってる。

 

 あれ...葵君どうしちゃったのかな?もしかして寝ちゃったかな?でも少し眠そうにしてる。私も無理矢理すぎたかな?葵君無理してないかな?

 

「葵君?どうしたの?」

「ん?ああごめん。考え事してたよ。旅行のことだよね。まあ楽しかったよ。色々あったけどね...」

 

 確かに色々あったね。主に私達のことでね...。

 

「よかった。葵君を誘ってよかったよ」

「ありがとう。誘ってくれて」

 

 誘ってよかった。ありがとうって言ってくれただけでも嬉しい。私も勇気を出して電話してよかった。葵君に名前で呼び合おうって言ってからここまで頑張った。会ってまだ1ヵ月しか経ってないけどね。

 

 そういえばさっき私は温泉であんなこと言っちゃったけど、葵君に聞こえてないかな?蘭ちゃん達だけだったからよかったけど、他の人がいたら穴に入りたいくらいに恥ずかしい思いをしてしまう。一回聞いてみよう。

 

「ねえ葵君」

「何?」

「さっきの温泉入ってる時のことなんだけど...」

「?」

「私の声って聞こえてた?」

 

 うわあ聞いちゃったよ!聞いちゃったよ私!もし聞こえてたらホントに生きていけない。葵君のことが好きだなんてここで言っちゃうと私達ってどうなるのかな?関係が崩れる?それとも付き合う?どうなるかわからないなあ。でも私には告白する勇気がない。

 

 葵君のことをもっと知りたい。もっと知ってそれからどうするかを考えよう。蘭ちゃん達にも相談してみようかな?私一人じゃ難しいと思う。それにしても...。

 

――葵君聞こえてたかな?

 

「何のこと...?」

「あれ、聞いてなかったの?」

「僕は先に出てたからわからないよ」

「そ、そう...」

 

 よかった。聞こえてなかった。先に出てたんだ。なんとかなった...かな?

 

「そういえばつぐみちゃんは残りの連休はどうするの?」

 

 あ、そうか明日含めたら3日残ってるんだ。あと宿題もあるんだったっけ?

 

「私?残りは宿題とか終わらせないといけないかな。あと、お店の手伝いもあるからね」

「僕と同じだね。店の手伝いもあるから帰ってから忙しくなるよね」

 

 そうだ。葵君の家は喫茶店だった。忙しいんだな。それに宿題も終わってない。蘭ちゃん達は終わってるのかな?

でも私と葵君はお店の手伝いもある。これだけあるとなんか一緒ていうのが嬉しいな。

「言われてみれば一緒だ。なんか私達って似た者同士だね」

「っ!?」

 

 あ、赤くなってる。私も自分で言っただけなのになんか顔が熱い。恥ずかしいななんか...。ホントに旅行に行ってる間の私はやりすぎたっていうくらいに積極的だった。葵君は私のことどう思ってるのかな?

 

 

――もう寝ようかな。

 

 

 私は葵君の腕に力を入れた。離れたくない。今日だけでも一緒に寝ていたい。

 

「おやすみ葵君。もう寝るね」

「うん、おやすみ。つぐみちゃん」

 

 私達は眠りについた。そして朝起きてからはまたしても蘭ちゃんたちに質問攻めを受けた。そうだよね。あんなことをしたんだから...。

 

 

――告白するのはまだ待とう。私はまだこの関係でいたい。葵君のことをもっと知りたい。休み明けからまた頑張ろう!

 




これにて連休回は終了です
次の更新ですが大幅に遅れるということを伝えておきます
では次にお会いしましょう
感想と評価お待ちしております


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星型の髪の少女の来店、その星は次の青春の招待状となる

本編更新遅くなってごめんなさい
ポピパ来店です
今回は香澄の星が次の伏線となります
ではどうぞ


――星は一つに集まることで輝きを増していく。

 

 しかし星は時に流星の如く降ってくるときがある。そう、五つの星が喫茶店に降ってくることをまだ誰も知らない。

 

 喫茶店は今日も平和である。瀬田先輩が滋さん目当てで来店することは少なくはない。最近は蘭ちゃん達が来店することが多い。特にひまりちゃんが来ることが多く、ここのメニューを相当気に入ったみたいだ。

 

 それを知った蘭ちゃんは「このままだと太るよ?」と釘を刺したらしく、それもあってひまりちゃんの来店は少なくなっている。それとつぐみちゃんとはあの旅行以来関係は上手くいっている。いってはいるけど、話をする時に気まずくなる時がある。

 

 つぐみちゃんの想いを知ったことで僕はこれからどうしようかを考え始めるようになった。帰ってから姉さんにも全部話して相談しようとした。しかし姉さんが暴走しちゃって相談どころではなくなってしまったため、相談は未だにやっていない。

 

 まあそれは置いといて......。

 

 

――今日は誰が来店するのかな?

 

 

 ドアが開く音がした。あれ?おたえさんだ。でも後ろに何人かいる。なんだあれは?猫耳か?

 

「い、いらっしゃいませ...」

 

 僕は若干緊張しながらもおたえさん達の接客をした。なんか嫌な予感がするなあ...。

 

「久しぶり葵!」

「ひ、久しぶりおたえさん」

 

 1週間ぶりだっけ?まあいいか。

 

「ここがおたえの言ってたお店なんだね!なんかキラキラしてるなあ!」

「香澄、喫茶店だから騒ぐなよ~」

「へぇ、なかなかいい雰囲気だね」

「あのバーのマスターさんなんかカッコいい...」

 

 なんかまた父さんに惚れた人が増えたような気がする。あの落ち着いた子がそうなのかな?そう思っていたら厨房から姉さんがやって来た。

 

「あれ?君達はポピパの子達かな?」

「あ、澪先輩!」

「香澄ちゃんじゃん!会えるなんて偶然だね」

「姉さん知ってるの?」

 

 姉さんどんだけガールズバンドに詳しいんだ?本当姉さんって知り合いが多いんだな。

 

「この子達は私の後輩なんだ」

「えっ、そうなの!?」

「その通りです!あ、私は戸山香澄です」

「あ、はい。よろしく」

 

 それから他の人達も自己紹介をした。金髪のツインテールの人が市ヶ谷有咲さん、黒髪のショートヘアーの人が牛込りみさん、あとはポニーテールの姉御肌を感じさせる人が山吹沙綾さんだ。みんなタメで下の名前で呼んでいいと言った。いやいいのかよ、そんなに気を許して。会って間もないのに...。

 

 僕はみんなにメニューを聞いた。香澄さんはショートケーキ、有咲さんはチーズタルト、沙綾さんはチーズケーキとブラックコーヒー、りみさんはチョコケーキとミルクティー、おたえさんはチーズタルトとブルーマウンテンを注文した。

 

「ねえ葵君」

「どうしたの、おたえさん?」

「ウサギをもh」

「言わせないよ。ウサギはいないし、あっても非売品だからね!」

 

 またやるのかよこのネタ。おたえさんのウサギ好きは尋常じゃないな...。

 

「葵...君...」

「どうしたの、りみさん?」

「あのマスターさんって葵君のお父さんなの?」

「そうだよ。うちの店の店主かな」

「初めましてお嬢さん。私は楠木滋、滋でいいよ」

「はわぁ~」

 

 あ、りみさんがショートした。父さん、そこで笑顔にならなくてもよかったんじゃない?なんか父さんってジゴロなところあるよなあ。

 

 そんなことを思っていたら注文したメーカーができた。相変わらず多いけどこれも仕事だ。まあこれは他の店でも言える接客あるあるかな?

 

「お待たせしました。注文されたメニューになります。どうぞごゆっくり」

「おお~、美味しそう!」

「そのケーキやタルトは全部私とお母さんが作ったからね。召し上がれ」

「そうなんですか?確か澪先輩ってパティシエ目指してましたよね?」

 

 沙綾さんは姉さんにパティシエを目指していることを聞いた。姉さんと母さんの作ったメニューはほとんど常連からも評判がいい。もちろん、父さんのコーヒーも評判はいい。

 

「有咲~、このお店ケーキも美味しいし、お店も雰囲気いいよ!なんかワクワクする!」

「そんなものか?確かにここって古風で今風な感じするけどなあ。いつ開店したんだ?」

「よくぞ聞いてくれました!」

「どわあ!な、なんなんだこの人!?」

 

 今度は母さんが急にやって来た。おい、厨房どうするんだよ......。

 

「この開店のきっかけはね...」

「やっべ!?私厨房に逃げるね!葵あとよろしく!」

「ちょっ、姉さん!?」

 

 逃げたよあのバケモノ。ホント親の恋には弱いんだな。その後、母さんと父さんによる開店のきっかけの語りが始まった。まあ常連の人は慣れてるからいいとして、ポピパのみんなは顔を赤くして聞いていた。有咲さんとりみさん、沙綾さんは顔を赤くしてるけど、香澄さんとおたえさんは真っ赤になってショートしてしまった。ああこの話慣れるのに半年はかかるからなあ。仕方ないね!

 

 

▼▼▼▼

 

 今日の営業は終了し、夕飯も風呂も済ませた。今は夜で僕は小説を読んでいた。呼んでいる小説はミステリーものだ。僕はこう見えてミステリー系が好きだけど、たまに恋愛系を読む時はある。読んでいた時、机に置いた携帯がプルルと鳴った。誰からだろう?

 

 スマホの画面を見たらつぐみちゃんからだった。あれ?なにかあったのかな?僕は電話に出てつぐみちゃんの話を聞いた。

 

「もしもし、こんばんは。どうしたのつぐみちゃん?」

「こ、こんばんは葵君!今大丈夫かな?」

「うん、いいよ。話は聞くよ、何かあったの?」

 

 つぐみちゃんの話なら何だって聞くよ。なんて言えない!なんだ?なんの話だ?僕は唾を飲み込んでつぐみちゃんの次の言葉を待った。

 

「今度の土曜日なんだけど、天体観測に行かない?」

「え?天体観測に......。なんでまた?」

 

 天体観測か。初めてになるけどどんな感じかな?なんか気になる。

 

「実はね、香澄ちゃんが天体観測ツアーのポスターを見て、私と蘭ちゃんを誘ったんだ。あと、こころちゃんと日菜先輩も来るんだけど、葵君も誘おうかなって思っね...」

「そうなんだ。その日菜先輩とこころちゃん?ってどんな人なの?」

「あれ、知らないかな?先輩の氷川日菜先輩と、弦巻家のお嬢様のこころちゃんだよ」

 

 氷川日菜先輩、聞いたことあるな。あの"天才"の氷川先輩か。あとはこころちゃん、あの弦巻家のお嬢様って言われてる人だったよな...。会うのは初めてだな。

 

「そういえば会うのは初めてだよね。もし行くなら夜寒いから暖かくした方がいいよ」

「ありがとうねつぐみちゃん。もちろん行くよ。つぐみちゃんの誘いは断れないからね!」

 

 今度は天体観測か。どんな一日になるか楽しみだな。

 

 

――戸山香澄の来店は天体観測への知らせなのか。それとも羽沢つぐみからのただの誘いなのか。

 

 

――青春の1ページ、正確には少年と少女の恋路が描かれようとしている。

 

 

 




次は天体観測となります
葵とつぐみの恋路をお楽しみに
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やべーやつとの出会い、星の探索はるんっと来る?

1週間ぶりの更新です
遅くなってごめんなさい
天体観測回になりますが、2話でお送りします。


 僕は朝早くに準備をし、昨日つぐみちゃんに言われた通り毛布を持っていくことにした。とりあえず今日はリュックに色々と入れたから大丈夫だと思うんだけど......。

 

 出る時にまた姉さんと母さんにからかわれたし、父さんに至っては「羽沢君と青春を楽しんでいくといい」と言われてしまった。今日は深雪さんもいるから大丈夫だけど、なんか複雑だな。

 

「葵君おはよう!」

「おはようつぐみちゃん」

 

 つぐみちゃんと最初に会えるなんて、いい一日になりそうだな。こんなことを思うなんて僕は本当につぐみちゃんのことが好きなんだなと実感してしまう。

 

「葵おはよう」

「葵君おっはよー!」

「おはよう蘭ちゃん、香澄さん」

「葵君、呼び捨てでいいんだよ?」

「でも会ったばかりだから呼び捨てにはできないよ」

 

 なんかこのままさん付けしてるとその内蘭ちゃんにも突っ込まれそうだな。呼べるようにしないと。

 

「これからバスに乗るんだよね?」

「そうだよ。ここからだと2時間かかるみたいだから長くなるかな」

「まあ遠いからしょうがないけどね」

「私も夜まで待てないよ!いざというときのためにギター持ってきたからね!」

「えっ、なんでギターを?」

 

 ギター持ってくるなんて......。香澄さんって変わった人だなと思ってしまった。これには蘭ちゃんとつぐみちゃんも引いてしまってるみたい。僕も若干引いたけど......。

 

 

▼▼▼▼

 

 

 蘭ちゃんと香澄ちゃんは隣の席で寝ているみたい。でも私はとんでもない状況に立たされている。何故かというと......。

 

 

――葵君の頭が私の肩に乗っているんです!しかも寝てます!

 

 

 どうしよう、どうしたらいいの私!?葵君が寝てるのはまだしも、まさか肩に乗るなんて思わなかったよ!葵君気持ちよさそうに寝てるから起こせないし......。

 

 あれ?この前もこんなことあったような気がするなあ。私は葵君を起こさないようにすスマホの中からモカちゃんから送られた写真を見た。その写真は旅行に行くときに私と葵君が寄り添って寝ている写真だ。

 

 まさか旅行で起きていたことがまた起きるなんて......。

 私と葵君何回一緒に寝てるのかな?自分でもこんなに都合のいいことって起きるのって思ってしまう。

 

 もしここで寝ちゃったら蘭ちゃんはまだしも、今度は香澄ちゃんに見られて色んな人達にバレてしまう。それだけは避けたい。葵君には申し訳ないけど、ここは起こそう!私と葵君のために!

 

「葵君起きて~」

「......」

 

 全然起きないよ~。葵君本当に起きて!バレたら私達ヤバいから!

 

「ん......んぅ」

「葵君?」

 

 やっと起きた!私の肩から葵君の頭が離れていく。名残惜しいけど仕方ない。

 

「う......ん、あれ?つぐみちゃんなんかあった?」

「ううん!なんでもないよ!」

「そ、そう。ごめんね寝ちゃってたね」

「大丈夫だよ。蘭ちゃんと香澄ちゃんは寝てるみたいだから起きてるのは私と葵君だけだよ」

「あれ、そうなんだ」

 

 他の人達は寝ていて私達は起きている。なにか話すことないかな?なにを話そう......。そうだ、あれがあった!

 

 私はバッグからあるものを出した。今回のために買った星座図鑑を葵君と一緒に見ようかな。

 

「葵君。星座図鑑買ったんだけど、もしよかったら一緒に読まない?」

「うんいいよ、一緒に読もう。天体観測のために買うなんてつぐみちゃんらしいね」

「私らしいってどういう意味?」

「なんだろう......。つぐみちゃんってしっかりしてるから"ツグってる"ってことかな?ごめん、自分で言っといてよくわからないや」

「ふふ、変な葵君」

 

 聞いていて変な感じがして私と葵君は笑った。なんだろうこの感じ......。好きな人と笑い合っていると心がぽかぽかと暖まってくる、こんなにも幸せに感じてしまうのはどうしてかな?

 

 葵君のことを好きでいても恋愛は初めてだからよくわからない。この想いは葵君と一緒に知りたいし、きっとわかると思う。葵君はどう思っているかな?私の感じているこの想いわかってくれるかな?

 

 

▼▼▼▼

 

 

 バスに揺られながらも僕達は目的地の山に着いた。自然に溢れ、天気は快晴。風が気持ちいいな。

 

「うわあ、緑がいっぱい!空気が美味しい!」

 

 香澄さん元気だなあ。確かに空気が美味しい。まるで風が泣いているみたいだ。美味い、美味すぎるって聞こえる。

 

「葵、今風が泣いている。美味い、美味すぎる!って思ったよね?」

「なんでわかったの?」

「顔に出てたよ。葵ってわかりやすいね」

「えっ、そんなにわかりやすい?」

 

 これは気をつけた方がいいな。蘭ちゃんって大抵脳内に語りかけて来るから気をつけないと......。

 

「今日はいっぱい星が見えそうだね!」

「そうだね。雲がそんなにないし、空は綺麗だからどんな星が見えるか楽しみだね」

 

 香澄さんもつぐみちゃんも楽しそうに話している。特に香澄さんは楽しみにしてたんだな。確か星の鼓動を感じてキラキラドキドキだったかな?それでギターを始めたんだっけ?だめだ、バンドのことは詳しくないからわからないや。

 

「みんな、ツアーの人達先に行っちゃったよ。早く行かないと......」

 

 あっ、置いてかれた!置いてかれたら洒落にならないし、何が起こるかわからない。とりあえずツアーの人達と一緒にいたほうがいいな。

 

 それから数時間が経った。ペンションは部屋が綺麗、夕食は山菜を使った料理でとても美味しかった。今度店のメニューにも山菜使ってみようかな?

 

 それにしても僕達......。

 

 

――なんで外にいるのかな?

 

 

 どうやらこれは香澄さんが「天体観測前に散歩しようよ!」って言ったからで、しかもギターまで持ってきている。なんでギターを持ってきたんだ?

 

「香澄さん。なんで散歩なのにギター持ってきたの?」

「えへへ、なんとなく!」

「なんとなくなんだ......。」

 

 つぐみちゃんと蘭ちゃん若干引いてるな。まあこれは誰でも同じ反応すると思う。僕も同じだけど......。

 

「夜の森散歩したらテンション上がるよ!弾きたくなっちゃうよ!」

「いや弾かないよ。さすがにギタリストでも弾かないよ思うよ」

 

 うん。これには蘭ちゃんに同意する。

 

「弾きたくなっちゃうよ!星とセッションしたくなっちゃうよ!」

 

 星とセッションって、この人は何を言っているんだ?

 

「ねえ蘭ちゃん、つぐ、葵君。歌おう!」

「香澄ちゃんやめようよ」

「香澄騒がしいって!ギターしまいなよ」

 

 そうだよ(便乗)。さすがにしまった方がいいって!香澄さんってホントに変わってるなあ。

 

「あら、香澄と蘭じゃない!」

 

 その時、向こうから声がした。誰だろう?二人いるみたいだ。

 

 

――これが僕と日菜先輩とこころさんの出会いとなる。"花咲川の異空間"と"天文部のやべーやつ"との出会いだ。

 

「ギターの音が聞こえたと思ったら、偶然ね!」

「こころちゃん!?......と日菜先輩!?」

 

 この人達がつぐみちゃんの言ってたこころさんと氷川先輩か。確か氷川先輩は同じ高校と聞いたけど......。

 

「あ、つぐちゃんだー。香澄ちゃんと蘭ちゃんも。なんでここにいるの?あと、この人は誰なの?」

「初めまして。僕は楠木葵です。葵でいいですよ」

「あたしは弦巻のこころ。こころでいいわよ~!」

「私は氷川日菜。日菜って呼んでね!しかし楠木君かー。君ってるんっ♪と来るねえ!」

「る、るんっ!?」

 

 なんなんだこの人!?いきなり会ってるんって来るって。なんだるんって?ピンと来た!とかのことかな?

 

「るんってなんですか?」

「るんはるんだよ!わからないかなあ?」

 

 ちょっとなにいってるかわかんない。駄目だ、やめよう。頭がおかしくなりそうだ。

 

「は、話を戻しますね。私達星を見に来たんです。天体観測のツアーで」

「あたし達は星を探しに来たんだ―。ねえ、こころちゃん!」

「そうなのよ!人が住めるような星を探すの!それであたしと日菜がその星の王様になるのよ!」

 

 星の王様?なんでその結論に至ったんだろう......。なんか気になるなあ。

 

「人が住めそうな星......?王様......?」

「なんかヤバそう」

 

 わかるよ蘭ちゃん。確かにこれはヤバそうだよ。

 

「わあ~、楽しそう!私も星探したい!」

「香澄さんでも僕達は......」

「いいわよ葵!私達と一緒に星を探しましょう!」

「香澄ちゃん達も探そうよ!天体観測ついでにきっと見つかるって」

 

 見つかるかな?見つけられたら奇跡だけど......。

 

「そんな簡単に見つからないと思いますよ......」

「ま、まあまあ蘭ちゃん」

 

 まあそう簡単には見つからないよね。でもなんだろう、見つかるかもしれないと思っている自分がいる。なんで思っているんだろう?

 

「見つかるんですか?その星は......」

「星があまり出てないのよね......。でも大丈夫!きっと見つかるわ!」

「あたし達、山の上にあるこころちゃんの別荘に泊まる予定だからさ、香澄ちゃん達も来なよ!」

「いいんですか?来ても......」

 

 別荘があるなんて、弦巻さんすごいなあ。さすがお嬢様だ。

 

「いいわよ!一緒に星を見るのだから、歓迎するわ!」

「行きたいです!こころん、お邪魔するね!」

 

 

▼▼▼▼

 

 

 みんなでこころちゃんの別荘に向かっている道中、私は日菜先輩に話し掛けられた。なんだろう?

 

「ねえつぐちゃん」

「なんですか日菜先輩?」

「つぐちゃんって葵君のこと好きでしょ?」

 

 えっ?なんでバレてるの!?話してもいないのに日菜先輩わかるなんて、なに!?怖いんだけど!?

 

「えっ!?な、なんのことですか!?」

「あれ~、そんなに焦ってるってことは好きなんだなね!」

「いえいえ、全くもって違います!」

 

 隠そう!これは隠さないと!もし日菜先輩にバレたら大変なことになる!

 

「顔を赤くして否定してるってことは好きって言ってるのと同じだよ」

「うぅ~......」

 

 顔赤くなってたんだ。恥ずかしいよ~。葵君に見られてないかなあ?

 

「好きってことなんだね。大丈夫、葵君には言わないよ」

「ありがとうございます。でもどうしてわかったんですか?」

「つぐちゃん、葵君の隣にいる時"恋する乙女"のような顔してたよ?」

「えっ、そうなんですか!?」

 

 うわあ、顔に出てたよ!私のバカ!

 

「あたし的にはすごくるんっ!て来たけど、邪魔はしないよ。なにかあったら相談に乗るよ!」

「あ、ありがとうございます」

「それにしてもつぐちゃんが恋か~。いいなあ、なんか羨ましいよ!」

「日菜先輩もきっと素敵な人と出会えますよ!」

「そうかなあ?るんってくる人ときっと出会えるよね!」

 

 まさか日菜先輩に見抜かれるなんて思わなかった。でも邪魔はしないって言ってたから大丈夫みたいだ。今日は葵君とどんな夜になるかな?どんな星が見れるのかな?私の心はこれから起こることにワクワクしていて、楽しみな気持ちでいた。




まず前半終了です。
こころのキャラ安定してなかったかも。
次の後半で葵とつぐみの関係ちょっと進展?するかもしれません。多分!
感想と評価お待ちしてます。


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星が起こした奇跡と流れ星、羽沢つぐみの願い事

後半です
終盤はちょっといい雰囲気になります
あと今回は少し長めです
では本編どうぞ


 しばらくして弦巻さんの別荘に到着した。別荘というより、これはコテージだな。結構歩いたけど、相当距離あったんだな。

 

「ふぁ......。んんぅ、眠くなってきた......」

「香澄さん、今寝ちゃうと星見れないよ」

 

 香澄さん大丈夫かな?なんか寝ちゃいそうだなあ。

 

「香澄が天体観測ツアー行こうって言い出したのに......」

「香澄ちゃん、もう少しすれば流星群見られるから頑張って!」

「うぅ......頑張りま......す......」

 

 流星群が見られるんだ。どんな感じなんだろう?というか僕も少し眠い。起きていられるかなあ?

 

「うぅ、眠い......」

「私も、もう......」

 

 つぐみちゃんも眠いんだ。大丈夫かな僕達?天体観測まで起きていられるか心配だ。

 

「つぐみ、せっかく来たのに星見ないでいいの?」

「それは嫌だけど、でも......。ううん、頑張らなきゃ......。蘭ちゃんは平気なの?」

「あたしは普段から夜遅くまで起きてるから」

 

 すごいな蘭ちゃん。夜遅くってことは夜行性なんだ。僕も店の準備とかがあるから早く寝てるけど......。

 

「あたしも!夜の方が頭がスーっとして、活動しやすいんだよね」

「蘭ちゃんも日菜先輩もすごいですね。ここまで起きていられるのは羨ましいですよ」

 

 やっぱり二人共すごいや。起きていられるのが羨ましいというより不思議だ。うぅ......頑張ろう。

 

 それから僕達は睡魔に耐えていこうとしていたが、香澄さんがギターもとい"ランダムスター"を弾いたことでつぐみちゃんやこころさん、そして僕も目が覚めてしまった。音楽で目が覚めるなんて不思議だなと思ってしまった。いや、香澄さんがすごいのか......。

 

 目が覚めてからは香澄さんとこころさんが歌おうとしたり、香澄さんが星の鼓動の話をしたり、色々な話をした。

 

「香澄さんすごいねその話。これを言うのもなんだけど、ロマンチックだね」

「とっても素敵な話だと思うわ!みんなで星の鼓動を聞きましょう!」

 

 星の鼓動か。実際に聞くとどんなものなのか気になるな。

 

「あの音は私の始まりの音......。私はあの音を聞いて何かが始まる気がしたんだ」

「何かが始まる......か」

 

 僕とつぐみちゃんの初恋は出会って一目惚れだけど、あの日から僕の恋は始まったんだなと思ってしまう。これからどうなるかはわからないけど、僕の恋が実るといいな。

って何を言ってるんだ僕は!?

 

 話を聞いていて蘭ちゃんも似たようなものを感じたらしい。「身体の奥底からじわじわと熱いものを感じた」と言っていた。星の鼓動みたいなものって色んな人が感じるんだと思う。それがどんなものかはわからない。

 

 僕にもなんとなくわかる。バリスタを目指しているけど、父さんの仕事を見ていてやってみたいって感じた。この憧れはきっと香澄さんの言っているキラキラしてると同じかもしれない。

 

 あと1時間と時間が迫ってきたけど、また眠くなってしまった。こころさんからの提案で目が覚めるような話をしたけど、僕も自分のことや店のことも話した。こころさんや日菜先輩も「今度お店に来るからね」と言われた。

 

▼▼▼▼

 

 話をしてから1時間経ったけど、僕はだいぶ目が覚めてさっきよりは起きていられる。でも......。

 

「起きませんね......。」

 

 香澄さんとこころさんはダウンしちゃったみたいだ。つぐみちゃんは頑張ってたけど、途中で寝てしまった。というかつぐみちゃん近いんだけど......。

 

「そろそろ時間来てますよね?二人共起こさないとな」

「そうだね。ほら香澄起きて。つぐみも」

「こころさん、起きてくださーい」

「......」

 

 なかなか起きない。もう時間も迫っているのに、これじゃ見られない。つぐみちゃんと見ようって決めたからな。ここで起こさないと!

 

「あたし窓見てくるね!」

「あっ、はい」

 

 僕と蘭ちゃんが起こしている中、日菜先輩は外の様子を見に行った。そういえば空はどうなっているんだろう?気になるなあ。

 

「さ~て、夜空はどんな風に笑っているかなあ?どれどれ......」

 

 夜空が笑ってるってどんな意味かな?日菜先輩も香澄さんと同じく変わってるなあ。

 

「わぁ~.、すっごーい!みてみて、星がキラキラだよ!」

「えっ、ホントですか!?」

「ホントだよ!香澄ちゃん、つぐ、こころちゃん起きてー!」

 

 どんな感じだろう。すごく気になる!

 

「う~ん......。もう食べられ......」

 

 香澄さん寝言言ってるよ......。これは見ないと絶対後悔する!心がうずうずしてる。こんな気持ちになるのは初めてだ!

 

「あっ、流れ星!」

「えっ、流れ星?」

 

 流れ星だって!?そんなにすごいのか!?

 

 ごめんつぐみちゃん!僕は早く見たいという気持ちが勝り、窓の外に向かった。

 

「すごい。こんなに綺麗だなんて......」

「あ......星だ!」

「つぐみちゃん起きたんだ。今の見た!?」

「うん!見たよ。綺麗だね!来てよかったよ!」

「そうだね!僕も来てよかった」

 

 どうして僕はこんなに興奮しているんだ?人生で初めて流れ星を見れたからなのか?いや、僕はつぐみちゃんと一緒に見ることができた、そして......。

 

 

――好きな人と見たという気持ちが一緒で嬉しいのかもしれない。

 

 

 こんな気持ちになったのは僕の人生で一番嬉しいのかな。そう思ってしまうと感動してしまう。今でも涙が出そうだ。今は涙を堪えないと......。

 

「どしたのみんな、そんなに騒いで......?窓の外に何が......」

「香澄さん見て!流れ星だよ!」

「っ!わあ......すごい!」

「せっかくだし、外で見ようよ!」

 

 この流れ星を色んな人に見せたい!父さん達にも見せたい!僕はこの流れ星をスマホの動画で撮ることにした。

 

「葵君なにしてるの?」

「この流れ星を撮ってるんだ。父さんや母さん、姉さんにも見せたくなってね」

「葵君らしいね」

「そうかな?」

「そうだよ。私にはそんなことできないよ。それをできる葵君はすごいよ!」

 

 つぐみちゃんにこんなこと言われるなんて照れるな。照れてるのは隠さないと......。この流れ星は今回のツアーで一番の土産話になるかもしれない。でもどうしてだろう......。

 

 

――どうして泣きそうになっているんだ?

 

 

▼▼▼▼

 

 葵君どうしたんだろう?どうして泣きそうになっているんだろう?私は葵君が何故泣きそうになっているのかを聞くことにした。

 

「葵君どうして涙が出てるの?」

「えっ、涙?あ、ホントだ」

「今気づいたんだ......」

「撮ってることに集中してて気づかなかったみたい。どうして泣いているのかは僕にもわからないよ」

「わからないんだ!?」

 

 葵君がわかっていなくても私にはなんとなくだけどわかる。葵君は感動しているのかもしれない。スマホに撮ってまで興奮していたんだ。それを澪さんやお母さん、お父さん、そして他の人にも見せてあげたい。葵君はきっとそう思っているに違いない。

 

 葵君はきっとこう思っている。他の人にも楽しんでほしいって!この流れ星を見せてどう思っているのかを聞きたいって。

 

 私は葵君の知らないことを知ったとき、まるで目が覚めたとか、心がドキッとしたりとか、もういろんな想いで頭がいっぱいだった。好きな人の知らないことを知るってこんなにすごいんだなって実感した。

 

 

――今は葵君とこの流れ星をずっと見ていたい。今の私はそんな気持ちになっていた。

 

 

▼▼▼▼

 

 つぐみちゃんと星を見ながらみんなで色んな話をした。日菜先輩曰く、今見ている星は何年、何百年、何千年も前の星らしい。この輝きを見ているのは奇跡、つまり僕達はその奇跡を目の前にしている。こんな輝きはどこにでもあると思ったら、日菜先輩の話を聞いた途端に今でも驚くくらいの衝撃を受けている。本当に人生って素晴らしいなって思ってしまった。

 

 星から見たら「私達は未来人だね!」とか「星の鼓動を見た日の輝きをもう一度見ているかもしれない!」って言って香澄さんはすごく興奮していた。香澄さんにとって星ってなんだろう?これはやっぱり日菜先輩のるんってきたと同じでわからないな。いずれわかる時がくるのかもしれない。

 

 香澄さんが突然ランダムスターを弾こうとしたけど、さすがにそれは止めた。興奮しているのはすごくわかるけど、それはやめよう香澄さん。それはライブで聞かせてあげようって、僕は思った。きっとファンの人ならわかってくれると思うから......。

 

▼▼▼▼

 

 流れ星を見終わったあと、僕達はコテージまで車で送ってもらうことになった。弦巻家ってやっぱりすごいな。ここから歩くってなると結構距離はあるし。送ってもらうことになってよかった。

 

 みんなは眠ってしまったけど、それどころか香澄さんは元気になってしまった。それどころか「星の話しようよー!」と元気になったり、ランダムスターを弾こうとしたけど、僕の必死の説得でなんとか止めてくれた。香澄さん、ごめんね。

 

 そして僕はというと、コテージに着いてしばらくしてから眠れなくなってしまい、窓の外にいた。持ってきた毛布を肩に掛けながら星を見ていた。

 

「はあ、寒い。なんで僕星を見ているのかな?」

 

 こればっかりは自分でもよくわからない。あの流れ星をつぐみちゃんともう一度見たい、この興奮をみんなにもわかってもらいたい。さっきはそんな気持ちでいっぱいだった。まさかつぐみちゃんに泣いてるところを見られるなんて思わなかった。

 

「あれ、葵君?」

「つぐみちゃん。今起きたの?」

「うん。眠れなくなってね」

「僕も同じ」

 

 つぐみちゃんは僕の座っているベンチに座った。もちろん隣に座っている。

 

「寒いよね?毛布貸してあげるよ」

「待って!ここはさ......。一緒に使わない?」

「えっ、大丈夫なの?」

「一緒に使った方がお互い暖かくなると思うんだけど、いいかな?」

「わかった。じゃあそうしようか」

 

 僕はつぐみちゃんと一緒に毛布を使うことにした。なんか緊張する。互いの肩と肩が触れあっていて、二人きりでこの空気。まるで付き合っているのではないかと勘違いされるくらいの空気、実際は付き合っていないが、「カップルみたいだ」って言われてもおかしくない。

 

「なんか恥ずかしいねこれ」

「そ、そう......だね......」

 

 なにを話したらいいかな。つぐみちゃん顔赤くなってる。どうしよう、可愛いと感じてしまう。

 

「つぐみちゃん寒くない?」

「ちょっと寒いかな。でも大丈夫だよ」

「心配だよ。風邪ひくかもしれないよ?」

「じゃあさ......」

 

 

――また腕に抱きついていいかな?

 

 

▼▼▼▼

 

 

 私は葵君と毛布を一緒に使っているけど、さすがにちょっと寒かった。私は暖まろうと思い、葵君の腕に抱きつくことにした。自分でもなんでやったのかはよくわからない。しかも2回目だ。

 

 こうやって抱きつくのは旅行で布団の中で一緒に寝て以来だ。私が葵君の腕に抱きついているのは寒いからとかではなく、人肌が恋しかったのかもしれない。

 

「ねえつぐみちゃん」

「なに?」

「今日はどうだった?」

「私は楽しかったよ!葵君と一緒に流れ星を見れてよかったよ」

「僕も同じだよ。ツアーに来てよかったって思ってる」

 

 今日は葵君を誘って本当によかったって思ってる。私は葵君のことが好きで、さっきも意外な一面を知ったことでもっと好きになった。

 

「まだ星が綺麗だね」

「そうだね。さっき程じゃないけど、キラキラ光ってるね」

「ここまで綺麗だなんて思わなかったよ。山だからかな?」

「山だからっていうのもあるけど、さっきの流れ星が他の星を輝くように見せてくれたのかもしれないね。ってなにを言ってるんだろ僕」

「ふふっ、葵君おかしいよ」

「やっぱりおかしかったよね。僕もそう思ってた」

 

 葵君はたまに辺なことを言うときがある。そんな葵君も私は好きだと思ってしまう。彼の色んなところを知りたい、知ってもっと好きになりたい、自分でもおかしくなってしまうくらいに私は葵君に惚れていた。もう重症どころじゃないな......。あはは。

 

 私は葵君の人肌をもっと感じたいがために、葵君の肩に頭を乗せた。今度は自分からだ。私はこんなことを思った。

 

 

――このまま時が止まってしまえばいいのに。

 

 

 

「どうしたのつぐみちゃん?」

「なんでもないよ。くっつきたくなっただけだよ」

「そ、そう......」

 

 

 実は私はさっき流れ星が出ている間に願い事をした。本来は七夕でやることだけど、私は願い事をしたくなったからやった。私はこのように願った。

 

 

――葵君に私の想いが、届きますように。そして二人で幸せになれますように。と......。

 

 

 この天体観測の中で見えた星は、二人の未来を空から見守っているのかもしれない。まだ二人の物語は始まったばかりであり、これからどうなるかは誰にもわからない。

 

 

 少女の想いはすでに少年に届いている。あとは少年の想いを届けるだけだ。いつ届くかはまだわからない。少年は想いを届けるために、少女は恋を叶えるために行動し、青春をする。

 

 

 二人の出会いは奇跡なんかではない。奇跡でなければなにか......。

 

 

――二人の出会いは"運命"だったのかもしれない。

 

 

 




最後まで読んで下さってありがとうございます
今回は原作沿いになってたのでつまらないかなと思いましたがいかがでしたか?
最後のクッソ激寒な語りは入れてみただけです。
感想と評価お待ちしてます。


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陽だまりと猫の来店、風紀委員とパティシエの関係

本編久しぶりに更新です。
今回はすごくつまらないかもしれないです。


「楠木君、猫はいないの?」

「湊先輩、何度も言いますがうちの店に猫はいませんよ」

「友希那、もう諦めようよ。猫はいないんだからさ」

「いいえ、諦めないわ」

 

 また変な客が出てきてしまった。それもおたえさんと匹敵するほどの人である。といって学校の先輩なんだけどね。

 

 湊先輩と今井先輩はつい最近うちの店に来たばかりだ。なんで湊先輩が猫を探しているのかというと......。

 

 

――この人は無類の猫好きなんだ。

 

 

 何故僕がそのことを知っているのか。それは一昨日に遡る。

 

 

▼▼▼▼

 

「つぐみちゃんは生徒会だし、蘭ちゃん達は練習か。みんな忙しいんだな。って僕も店のことあるから人のこと言えないか」

 

 僕はつぐみちゃん達と一緒に帰ろうかと誘ったが、つぐみちゃんは「ごめんね。生徒会で忙しくて帰れそうにないんだ。また今度にしない?」と断られてしまった。残念だけどまた今度にするかと僕は諦めることにした。

 

 つぐみちゃんから断られた時は、頭から水を浴びせられて冷たくなった、そのくらいにショックだった。仕方ないんだ。つぐみちゃんは生徒会で忙しい、そう言われたら何も言えない。

 

 蘭ちゃん達も「今日は練習があるけど、途中までならいいよ」と言われて蘭ちゃん達と帰ることになった。その後、ライブハウス前に着いてから別れ、一人で帰ることになった。

 

 公園を通りかかったところで見覚えのある人がしゃがんでいるのが見えた。その見覚えのある人こそ僕の先輩でもあり、かの有名なガールズバンド「Roselia」のボーカル、湊友希那先輩だ。

 

 僕は何をしているのか気になり、湊先輩に気づかれないように覗くことにした。何をしているんだろう?僕は気になって覗いて見ることにした。

 

 

――なんと、湊先輩は猫と戯れていたのだ。

 

 

 意外だ、あのクールな湊先輩が猫好きなんて......。しかも癒されてる。可愛い。

 

「誰かいるの!?」

 

 あ、気づかれた。これは名乗り出るしかないかな。本当に忘れられないくらいの衝撃だったし、湊先輩の印象が変わりそうだな。

 

「ど、どうも湊先輩」

「あなたは、楠木君?どうしてここに......」

 

 言えない!気になって見てましたなんて言えないよ!ここは誤魔化すかしかない!

 

「帰ってた途中なんですよ!偶々公園を通りかかったものでして......」

「本当にそうかしら?怪しいようにしか見えないわ」

「ほ、本当ですよ!」

 

 僕が大声を出した瞬間に、一匹の猫が頭を出した。あ、終わった、バレたなこれは。

 

「楠木君、見たわね?」

「ミテマセンヨ?」

「カタコトということは見たのね」

「み、見ました。ごめんなさい湊先輩、足を踏まないで下さい!痛いです!」

 

 素直に言った瞬間、湊先輩に足を踏まれてしまった。相当お怒りのようだ。まあ僕も猫好きだから気持ちはわかる。知られたくない人に知られるとなにがあるかわからないからな。

 

「まあいいわ。楠木君、このことは他言無用にしなさい。わかったわね?」

「わかりました、湊先輩。黙っておきますので、もう足を踏まないで下さい」 

 

 湊先輩怒らせると怖いな。昔の姉さんを思い出してしまった。思い出した瞬間に背筋が凍りそうになった。トラウマだからあまり思い出したくなかったんだけどなあ。

 

「ところで楠木君」

「なんでしょう?」

「あなた猫は好き?」

「え、ええ。好きですよ」

 

 湊先輩に猫が好きだと答えた瞬間、湊先輩の目が輝いた。あ、なんかヤバいスイッチ押したかもしれない。嫌な予感がする、気のせいではなさそうだ。

 

「そう、なら話が早いわ」

「え?話が早いってどういうことですか?」

「今から猫について語ることにするから、聞きなさい」

 

 湊先輩は猫について約2時間に渡って語り、僕から見た湊先輩の印象は変わってしまったのだ。猫好きの歌姫にしか見えなくなった。本当に残念だよ、湊先輩。

 

 

▼▼▼▼

 

 

 以上が湊先輩が猫好きだと知った理由だ。あんなにクールな人だったのに、猫が出てくると人が変わる。もう僕は湊先輩が同じ歳の女の子にしか見えなくなってしまっている。どうしてこうなったんだ。

 

「楠木君、猫は本当にいないのね?」

「何度も言いますがいませんよ。それにうちは猫カフェではなく、ただの喫茶店です」

「言ったじゃん友希那。葵、なんかごめんね。後でよく言っておくから」

 

 それとなんで湊先輩がさっきからこんな状態かというと、喫茶カーネーションは猫カフェなのでは?という変な噂が流れたのだ。湊先輩はその噂に騙され、結果今の状況ができたのだ。

 

「葵、なんか大変だね」

「姉さん他人事のように言わないでよ」

「あんたのところの先輩でしょ?私は羽丘は管轄外だから無理だよ」

「えぇ......」

 

 姉さん逃げたな。つまり花咲川の客は姉さんが、羽丘の客は僕がなんとかしろってことか!?なんとも酷いなうちの姉は!

 

 ドアの鈴の音が鳴った。また新しい客かな?

 

「いらっしゃいませー」

「あら、紗夜じゃない」

「ここにいらしてたんですね湊さん。あら、楠木さんじゃないですか」

「あなたは氷川さんね。あと私は澪でいいわよ。弟も同じ名字だから二人いると反応しちゃうしさ」

「では改めて澪さん。学校では問題は起こしていませんね?」

 

 あれ?姉さんまたなんかやらかしたのかな?それに氷川さんっていう人は姉さんと面識あるのか?

 

 ん、待てよ。氷川っていうと......。なんか聞き覚えがある。この前の天体観測の時に日菜先輩と会ったよな、日菜先輩の名字は氷川、姉がいるって言ってた。

 

 ということは姉なのかあの人は!?それに顔も似ている。日菜先輩とは双子ってことか!

 

「あら、あなたお名前は?」

「僕ですか?僕は楠木葵です。葵でいいですよ。そこの澪姉さんの弟です。よろしくお願いします」

「こちらこそよろしくお願いします。私は氷川紗夜、紗夜でいいですよ。そうですか、あなたが日菜の言ってた方ですね」

 

 やっぱりそうだ。日菜先輩の言ってた通りだ。今日菜って名前が出たから姉なのかもしれない。

 

「はい、そうです。なにかありましたか?」

「いいえ、ただどういった方なのか気になったので、それと日菜は私の双子の妹ですので、お間違えのないように」

「は、はあ......」

 

 なんだろう。紗夜先輩からは委員長みたいなオーラを感じる。それに姉さんとも面識があるみたいだから何かあるのかもしれない。

 

 

▼▼▼▼

 

 

 まさか紗夜がここに来るなんてね。予想していなかった。紗夜とは深雪と同じく中等部の頃からの知り合いで、私の黒歴史を知っている。私は紗夜からはあまりいい目で見られてはいない。

 

 きっとあの黒歴史が原因で悪い印象しかないのかもしれない。それは私がやったことだから仕方ないけど、紗夜はいつまで私のことをそんな目で見ているんだろう?私の言えることではないけど、過去を引きずりすぎだと思う。

 

「姉さん、紗夜先輩となにかあったの?」

「まあ色々とあるのよ」

「葵さん、知らなくてもいいことですよ?」

「紗夜!そんなに冷たく当たらなくても......」

 

 空気が一変した。今は私達しかいないからいいけど、他の客がいたら迷惑がかかってしまう。さすがにここで騒ぎを起こしたくない。私はもう中等部のあの黒歴史と同じようなことはやらないって決めたんだ。

 

「どうした?なにかあったのかい?」

「お父さん、別になんでもないよ。特に何もないから」

「そうか。あまり騒ぎを起こさないでくれよ。もしここで事を大きくするなら......」

 

 

――身内でも客でも許さないよ? 

 

 

 お父さんはそう言ってカウンターの方に戻った。危なかった。今のお父さんは相当怖い。お母さんよりも一番怒らせてはいけない人だからね。特に営業中に事を大きくしたら空気が凍るくらいに雰囲気が変わる。

 

 過去にそういう客がいたけど、その人はお父さんにコテンパンにされ、店を出禁にされたらしい。それほどまでにお父さんはこの店に思い入れがあるんだ。

 

「だ、大丈夫なの?」

「皆さん、すいません。空気を壊してしまって。あまり騒ぎを大きくしないようにお願いします。父さんも今日は珍しく機嫌が悪いみたいなので......」

 

 葵はそう言って紗夜達に謝った。なんか情けないな、葵のこんな姿を見せてしまったのが姉として情けない。

 

「こちらこそ、すみません」

「いいよ紗夜。これは私が悪いからさ」

「ですが澪さん!」

 

 銀髪の女の子、もとい湊さんが紗夜の肩に手を置いた。

 

「湊さん!」

「澪さんだったかしら?紗夜のことは謝るわ」

 

 湊さんは頭を下げて謝罪をした。

 

「そ、そんな湊さん。これは私の問題だからさ、頭を上げてよ!」

「ね、ねえ。今日は帰らない?友希那も紗夜もさ一旦帰ろ!」

 

 その後、湊さん達は帰っていった。なんでかな?今日の私はおかしい。一人の客に頭を下げさせるなんて、パティシエとしても、店員としても失格だ。 

 

 せめて紗夜には誤解解かないとなあ。これ以上過去のことで争いたくないからね。

 




つまらない回でしたが、読んで下さってありがとうございました。
今回は紗夜と澪の関係についての説明みたいなものです。
さらに伏線も張りましたので。
感想と評価お待ちしてます。


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廃人と魔王の来店とバリスタ見習いのコイバナ

連続投稿です。
今回はあこと燐子、さらにリサが来店です


「いらっしゃいませ、今井先輩でしたか。こんにちは」

「おはよう葵。先日はごめんね」

 

 今月から6月、梅雨の時期に入ってきた。あの気まずい空気から2日が経過して今井先輩が来店してきた。なんでも今日はRoseliaの他のメンバーも来るらしい。どんな人なんだろう。

 

 ドアが開いた。もしかして今井先輩の言ってた人が来たのかな?

 

「いらっしゃいませ」

「こ、ここが古風な古の......えーとなんだろう?」

「居城だよ、あこちゃん」

「そう!古の居城だよ!」

 

 な、なんだ!?また変な人が来たのか!?

 

「来たね二人共」

「今井先輩、この方達は?」

「自己紹介が遅れました。私は白金燐子で、この子が宇田川あこちゃんです」

 

 この背の低い女の子があこちゃんか。ということは巴ちゃんの妹さんだ。さっきなんか言ってたけど、あれはなんだったんだろう?

 

「宇田川あこです!」

「僕は楠木葵、葵でいいですよ。君が巴ちゃんの妹さんなんだね」

「おねーちゃんを知ってるんですか?」

「知ってるもなにも、知り合いだからね」

 

 そうだ、巴ちゃん達が来店してもう3ヶ月経つ。早いな、もう来月には七夕が始まろうとしている。時間が経つのってこんなにも早いんだな。

 

「席は今井先輩と一緒でよろしいですか?」

「はい、よろしくお願いします」

 

 僕はあこちゃんと白金さんを今井先輩の席に案内し、メニューを聞いて準備をした。父さん、なんか新作を出すって言ったけど、なにを出すんだ?店も梅雨の時期だから色んなサービスをやるようだ。

 

 僕は三人の注文したメニューを置いて立ち去ろうとしたとき、あこちゃんに話かけられた。

 

「あの、葵さん」

「なにあこちゃん?」

「葵さんって好きな人いるんですか?」

 

 え?なんて言ったのこの子?好きな人?まさかあこちゃんも知ってるのか!?

 

「な、何のことかなあこちゃん?」

「えっ、いないんですか?」

 

 やばい。あこちゃんに知られると何か嫌な予感がする。ここはなんとか誤魔化さなきゃ!

 

「あ、知ってるよアタシ☆」

 

 しまった!今井先輩がいたんだ、知らないよな!?知ってるはずがないよな!?

 

「リサ姉知ってるの?」

「知ってるよ。モカから聞いたんだよねー」

「葵さん。好きな人がいるってすごい......ですね」

 

 モカちゃんか原因は!?なんでだ?確かモカちゃんはコンビニでバイトしてるって聞いたけど、今井先輩に聞いてみるか。

 

「今井先輩、モカちゃんから聞いたってどういうことですか?」

「アタシねモカとバイト先が一緒でさ、バイト中に聞いたんだ。応援してるよ♪」

 

 嫌な予感は的中した。やっぱりか!モカちゃんなんてことをしてくれたんだ。ちょっと今井先輩には言わないようにしてもらわないとな。

 

「今井先輩このことは言わないでくださいよ」

「わかってる、言わないよ。言ったらマズイよね」

「なんかあこ気になってくるよ!葵くんの好きな人って誰かな?」

「あこちゃん、元気だね。......私も恋してみたいな」

 

 今井先輩なんか言いそうな気がする。なんか信用できない。

 

「結局、葵くんの好きな人って誰なの?」

「あこちゃん、まだ聞くんだ。葵君、なんかごめんね?」

「大丈夫ですよ白金さん!あこちゃん誰にも言わないって約束できる?」

「うん、するよ!堕天使あこ姫の名に誓って、えっと何だっけ?」

「誓約......」

「そう!誓約を結ぼうではないか!」

 

 あこちゃんって中二病患ってるのかな?まあいいか。あこちゃんが楽しそうならいいかな。あと、白金さんあこちゃんのフォローお疲れ様です。

 

「あ、葵君。言い忘れてたけど、私先輩だからね?」

「え、そうだったんですか!?じゃあ白金先輩でいいですか?なんか、すいません!」

「いいよ。私が言い忘れてたから」

 

 白金さん、いや白金先輩いい人だな。見た目からしたらお嬢様っていう感じがするけど、白金先輩からはなにかオーラを感じる。なんのオーラだこれは?

 

「話が逸れたね。あこちゃん耳元で言うね。僕の好きな人はね......」

 

 僕はあこちゃんの耳元で好きな人の名前を囁いた。耳元から離れるとあこちゃんの顔はみるみる赤くなっていった。

 

「あ、葵くん。すごいね」

「そういうこと。本当に本人にも言わないでね!」

「うん、言わない!絶対に言わないよ!」

「じゃあさ、葵とその人の出会いとか聞いていい?」

 

 それから僕は今井先輩から色んなことを聞かれた。僕とつぐみちゃんの出会いや旅行のこと、天体観測のことも話した。さすがに一緒に寝たことと抱きついてきたことは話さなかったけどね。

 

 その話は周りの常連さんの耳にも入ってしまっていた。さすがに父さんも「葵の恋愛を応援してあげてくれ」と言ってしまい、僕は恥ずかしい思いをしてしまった。常連さんからも頑張れよ坊主とか若いっていいわねー、とか散々なことを言われた。

 

「今井先輩、このことは湊先輩や紗夜先輩にも言わないで下さいよ」

「えーダメなの?」

「ダメですよ!湊先輩なんて言うかわからないし、紗夜先輩からもどんな目で見られるかわかりませんから!あと、あこちゃんも巴ちゃんには言わないでね!」

「うん、わかった!」

 

 応援してもらえたのは嬉しいけど、なんか複雑。むしろ常連さんの耳に入ったのが一番ショックだよ。

 

「皆さん、これは他言無用でよろしくね?」

 

 はーい!と常連さんは息ピッタリに返事をした。なんで息ピッタリなのさあ。怖いようちの店。

 

「葵君。ここっていつもこんな雰囲気なの?」

「そうですよ。まあいいところですからね。僕はこういう雰囲気好きですよ」

 

 そうなんだ。白金先輩はそのように納得した。話をしていると父さんが近づいてきた。

 

「君が今井君だね。先日はお恥ずかしいところをお見せしてしまったね。すまない」

「そんな!?私達だって雰囲気を悪くしてしまってすみませんでした!」

「そんなことはないよ。私もついカリカリして八つ当たりをしてしまったようなものだ。今後とも葵のことをよろしくね」

 

 今井先輩は顔を赤くしながらお辞儀をした。これじゃあ父さんが今井先輩を口説いてるように見える。気のせいか?

 

「かっこいい!なんか探偵みたい!」

「探偵?嬉しいねそれは。私はよく紳士と言われているが、探偵にみたいというのは初めて言われたね。ありがとう、宇田川君でいいかな?」

「なんで名前知ってるんですか?」

「話が全部聞こえるからだよ。カウンターから近いからね。私はカウンターにいるからなにかあれば呼びにくるといい。話し相手にもなるよ」

 

 父さんはあこちゃんと話し終わった後、カウンターに戻った。今井先輩はまだ顔を赤くし、あこちゃんは喜び、白金先輩は固まっていた。なんだこの雰囲気は?

 

 

▼▼▼▼

 

 

 もう梅雨の時期か。僕もなにか梅雨限定のメニューを作ってみようかな?店のこともそうだけど、気になるのは姉さんと紗夜先輩の関係についてだ。あの二人、過去になにかあったのかな?

 

 多分、姉さんは教えてくれないと思う。それなら深雪さんに聞いてみるしかないかもな。なにがあったかは僕はわからない。あの時、紗夜先輩は姉さんのことを睨んでいた。

 

 とりあえずこの件は後回しにしよう。僕は今はつぐみちゃんにいつ告白するかを考えようかな。

 

 今井先輩達にコイバナをしてしまったけど、なんであんなことを話したんだろう。自分でも饒舌になるくらいに話したのかもしれない。やっぱり僕はつぐみちゃんが好きなんだなって改めて思った。

 

 今日はもう寝よう。明日はどんな客がくるのかな?楽しみだ。

 




これでロゼリアは全員出ました。
彩、イヴ、麻弥、はぐみ、美咲等についてはどっかしらで出していく予定です。
感想と評価お待ちしてます。


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氷川紗夜と楠木澪、梅雨の中での和解

今回は紗夜と澪との話になります
ちょっと長めです
今回もつまらないかもです


 私には最近、悩んでいることがある。その悩みは関係についてだ。私は楠木さん、いや澪さんが姉であることを知ったのはつい最近だ。

 

 姉は他にも宇田川さんの姉の巴さんもいる。しかし、平沢さんからは「相談とかは澪が最適だと思うよ」と言われた。確かに澪さんはいくつも相談を受けてきたことは聞いたことはある。

 

 澪さんが本当はいい人であることはわかっているのに、私には澪さんの過去の一件でどうしてもいい人として見ることができない。

 

 恋愛相談を受けて、澪さんは色々なことをした。私は遠くからしか見ていなかったから詳しいことは知らず、噂程度でしかわからなかった。詳しいことは平沢さんから聞いたが、やっぱり澪さんをいい人として見るのは難しい。

 

 高校2年になった今でも澪さんは相談を持ち掛けられることがある。恋愛相談以外で受けることが多い。

 

 あの時は澪さんに対して言い過ぎてしまったかもしれない。これからあのお店に行くから謝りに行こう。少しでもいいから、澪さんと仲良くなりたい。私の心にはそんな想いが芽生えていた。

 

 話が逸れてしまった。私の悩みは関係についてだが、それは......。

 

 

――私の妹、日菜との関係についてだ。

 

 

 私と日菜は双子の姉妹だ。しかし、姉妹とはいえど違いがいくつかある。それは、"才能だ"。

 

 日菜は私と違い、天才なところがある。姉が妹に劣っている、それは私にとってとても大きな障害だった。その障害によって私と日菜は仲違いをしてしまうことがあった。仲違いというよりは私が日菜を一方的に拒絶することが多かった。

 

 でも今は違う。今は日菜と色んな話をすることが多くなった。ギターのセッションもやるようになった。一緒に出掛けるようになった。それだけでも関係は良好と見えるだろう。

 

 私は本当に日菜とちゃんと姉妹らしくできているかということが悩みの焦点だった。

 

「おねーちゃーん!」

 

 ドアがバンと音がして開いた。日菜が私の部屋に入ってきたのだ。ノックをしてと何度も言ってるのに......。

 

「日菜、ドアを開ける時はノックをしてと言ってるじゃない」

「ごめんごめん。おねーちゃん何してるか気になってね」

「これからある喫茶店に行くのよ」

「喫茶店?つぐちゃんのところに行くの?」

 

 違う、羽沢さんのところではない。澪さんのところ、確か喫茶カーネーションと言ったかしら?

 

「違うわ。羽沢さんのところではなく、葵さんのところよ」

「葵さん?もしかして葵君のこと?」

「日菜、葵さんのことを知ってるの?」

「知ってるよ。この前、天体観測の時に会ったんだ」

 

 一度会ったことがあるなんて......。私の知らないところで会っていたのね。でも、日菜は澪さんに会ったことはないはずだ。

 

「そう」

「そうだよそうだよ~。ねえ、おねーちゃん。その喫茶店一緒に行ってもいい?」

「別にいいわよ。ただし、静かにしていなさい。いいわね?」

「はーい!なんかるんっと来るなあ!」

 

 るんと来るって、日菜のこの言葉は普通の人にはわからない。でも私にはなんとなくだけどわかる。姉妹だからかしら?

 

 私と日菜は澪さんの喫茶店に向かうことにした。澪さんにはちゃんと謝ろう。あと、マスターさんにも謝ろう。澪さんは許してくれるだろうか?私はそれが心配だ。

 

 

▼▼▼▼

 

 

「はあ」

「どうしたの姉さん?ため息吐いて」

「なんか今日は気分が優れないなあと思ってね。ほら、今日雨じゃん?」

「確かに雨だね。梅雨だからしょうがないよ。それに、客は少ないみたいだし」

 

 そう、梅雨の時期だから客は少ない時がある。特にこの時期客が少ないというのが多いんだ。お父さんは仕方ないって諦めてるから普通にしている。お母さんも少し落ち込んでるように見える。

 

「お母さんはどうしたの?そんなに落ち込んで」

「最近新作のメニューが思い付かないのよ。ねえ澪、葵。なにかアイディアはないかしら?」

「母さんごめん。そんなすぐに言われても思い付かないよ」

「お母さん私もごめん、梅雨の時期だからなにかないかなって考えたけど、無理だった。ごめんね、力になれなくて」

 

 なんかパティシエ見習いとして申し訳ないなあ。力になれない自分が悔しい。こんな時に、深雪がいたらどんな意見を出すんだろう。もう少し修行が必要だ。

 

 そんなことを考えていた時、ドアから音がした。

 

「いらっしゃいませ、日菜先輩じゃないですか!」

「やっほー葵君、来ちゃった!」

 

 この子の顔、なんか誰かに似てる。誰だったかなあ?

 

「日菜、そんなに走らないの。お店では静かにと言ったはずよ?」

「あれ、紗夜じゃん。どうしたの?」

「あ、澪さん。ごきげんよう」

 

 紗夜、ごきげんようって紗夜らしくないよ。この日菜って子、紗夜と顔似てるな。

 

「ねえ紗夜」

「なんですか?」

「そこの髪短い女の子って紗夜の妹さん?」

「ええ、そうですよ。よくわかりましたね」

「顔似てたから双子かなって思ったんだ」

 

 葵はこの女の子のことを日菜先輩と言った。ということは私と同じ学年だ。元気一杯だなこの子、紗夜と性格が大違いだ。

 

「今日はお客さんが少ないんですね」

「まあ梅雨の時期だからね。あと、梅雨のキャンペーンやってるからね」

「宣伝お疲れ様です。ではゆっくりさせていただきますね。あと、マスターさん。先日はお騒がせしてしまって申し訳ありませんでした」

 

 紗夜はカウンターの近くに来てお父さんに頭を下げて謝った。まだ引きずってたんだ。あれは私が悪いんだけどなあ。なんか情けないな、私。

 

「いいよ。私も強く当たってしまって申し訳なかったね」

「いえ、私も申し訳ありませんでした」

 

 お父さんも紗夜に謝った。あれは単にお父さんの機嫌が悪かっただけなんじゃないかな?なんか微笑ましいと感じるのは気のせいかな?

 

「あ、そうだ。席案内しますね」

 

 葵は二人を席に案内してメニューを聞いた。

 

「私はコーヒーと抹茶のケーキをお願いします」

「あたしはおねーちゃんと同じにするよ!」

「かしこまりました、少々お待ちください」

 

 葵は紗夜達にメニューを聞いてお父さん達のところに向かった。今は私と紗夜と妹さんだけになった。なんか気まずい。

 

「そうだ、自己紹介してなかった!あたしは氷川日菜。おねーちゃんの双子の妹だよ、よろしくね!」

 

 妹さん、もとい日菜は手を差し出してきた。握手ってことだよね?私も自己紹介しよう。

 

「じゃあ自己紹介するね。私は楠木澪。あそこにいる葵の弟だよ、よろしくね。あと、花咲川女子学園の2年生やってます」

「へー、花女なんだ。あたしは羽丘なんだ。同じく2年生やってまーす!」

 

 私と日菜はお互い握手をした。この子元気だなあ。なんか私振り回されそうだよ。

 

「そうだ、澪さんお話があるのですがよろしいでしょうか?」

「いいよ。今はお客さん少ないからね。話ならいくらでも聞くよ」

「ありがとうございます。まず、一言言いますね。すみませんでした」

「え?」

 

 紗夜は突然謝ってきた。え、どうしたの急に?突然のことだったから私は焦ってしまった。そりゃそうだ、いきなり謝られたら誰だって焦るに決まってる。私、紗夜になにかしたかな?

 

「どうしたの紗夜。私、あなたになにかした?」

「いいえ、なにかしたというわけではありません。私は澪さんのことを勘違いしていたのです」

 

 勘違いしていた?何のことだろう。もしかして私の黒歴史と関係あるのかな?そんなことを考えていたら葵が注文したメニューをテーブルに置いた。そして、私の所にもコーヒーが置かれた。お父さんからだ。

 

「お父さん、ありがとう!」

「どういたしまして。澪、ゆっくりと話をするといいよ」

 

 お父さんは優しく私に言った。落ち着いてきた。さっきの焦った気持ちはなくなってきた。

 

「いいお父様ですね」

「ありがとう紗夜。紗夜からそんなこと言われるなんて思わなかったよ」

「どういう意味ですかそれは?」

「そのままの意味だよ。予想していなかったってこと」

 

 そう、そのままの意味だ。あの紗夜からこんな言葉が来るなんて予想していなかったんだ。本当のことだ。

 

「話戻すね。紗夜、いきなりどうしたの?」

 

 紗夜は何故勘違いをしていたかの理由を言った。なんでも、私の黒歴史での出来事を客観的に見て、あ、こいつ悪い奴だなって認識していたみたいだ。この黒歴史のことは前から知っているらしく、詳しいことは深雪から聞いたらしい。紗夜は私が相談を何個か聞いていることも知っていたみたいだ。

 

 いい人とわかっていてもそれを受け入れたくないという自分がいたと言っていた。これを言われるのは私の自業自得だ。私があんなことをやったからこんな結果になったんだ。今でも恋愛相談を受けてるけど、今は私が干渉するってことはしていない。遠くから見てその人の幸せを見る、それだけしかしていない。

 

 そのことを紗夜に言ったら......。

 

「澪さん、それはストーカーですよ!」

「あはははは、澪ちゃんおもしろーい!」

「紗夜ひどーい!葵聞いてよー」

「姉さんの自業自得でしょ」

 

 こんなに明るい話をしたのは久しぶりだ。もう何年ぶりだろう。家族や友人以外で笑い合ったのは。紗夜や日菜とは友達になれるかもしれない。私は勇気を出して紗夜に言った。

 

「ねえ紗夜」

「何ですか、澪さん」

「こんなことを言うのもおかしいけど......。もしよかったら、私と友達にならない?」

「ふふっ、決まってるじゃないですか」

「えっ?」

 

 あ、ダメかなこれは。そりゃそうだ。私が紗夜と友達になる資格なんてないよね。

 

「いいに決まってるじゃないですか」

「さ~よ~!」

 

 私は感極まって紗夜に抱き付いた。よかった、友達になれてよかった。こんな私でも友達になってくれるなんて、紗夜、本当にありがとうね。

 

 それからは日菜とも友達になり、紗夜から姉妹らしくしているかという相談も受けた。この相談も私の経験も混ぜて色んな話もした。どうやらあっさりと解決できたみたいだ。よかったね紗夜、日菜。あなた達はいい姉妹だよ。




澪と紗夜の展開、強引気味になってしまいましたが、申し訳ないです
今作のさよひなはとても仲がいいです
感想と評価おお待ちしてます


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苦労人の愚痴と弟や妹が欲しいという気持ち

本編の更新遅くなって申し訳ないです
ハローでハッピーな苦労人と彩りのあの人が来店です
そして深雪の本性が明かされます


「聞いて下さいよぉ、澪さん、深雪さん」

「聞いてるよ、奥沢さん」

「美咲なにかあったの?」

 

 また新しいお客さんが来たようだ。そのお客さんは花咲川の生徒で姉さんと深雪さんの後輩らしい。しかも松原先輩と瀬田先輩が所属しているバンド、ハロハピのDJ担当だという。

 

 その人の名前は奥沢美咲さん。僕と同じ学年で、うちの店に通うようになり、常連になった人だ。

 

「またこころがですね、とんでもないこと思い付いたんですよ」

「何を思い付いたの?」

 

 一応うちの店は客の愚痴とかは別に聞いても構わないということになっているけど、その際は店が落ち着いていている状態で父さんから聞いていいかを一言聞かなくてはならない。

 

 父さん達も落ち着いていれば愚痴を聞くこともある。母さんや姉さん、深雪さんの場合は厨房の方もあるので聞けないことが多い。愚痴を聞いてるということ自体が珍しいんだけどね。

 

 あれ、また客が来たな。松原先輩と白鷺先輩、あともう一人は誰だろう?テレビで見たことある人のような気がするけど......。

 

「いらっしゃいませ。あっ、花音と千聖じゃん!それに彩も来てるんだ。久しぶりだね」

「澪ちゃん、久しぶりだね!」

「深雪さん、あの人は?」

「あれ聞いたことない?Pastel*Palettesのボーカルでアイドルの丸山彩だよ」

 

 丸山彩......。思い出した!髪下ろしてたからわからなかったな。姉さんの知り合いってことは相談を持ち掛けたのかな?

 

「花音さんと白鷺先輩と彩先輩、おはようございます」

「おはよう美咲ちゃん。なんかお疲れのようだね」

「そうなんですよ。なんか疲れちゃってこっちに来ちゃいました」

 

 奥沢さん、相当疲れてるな。瀬田先輩からハロハピのことはたまに聞くけど、特にこころさんの奇想天外な発想はヤバいらしい。花咲川の異空間という異名は伊達じゃないようだ。

 

「花音と千聖と彩はメニューどうする?」

 

 松原先輩と白鷺先輩、丸山先輩は紅茶にとショートケーキにしたようだ。三人共同じメニューだなんて、同じメニューにした人を見たのは久しぶりだ。

 

「君は澪ちゃんの弟さんかな?私は丸山彩、よろしくね!」

「初めまして、楠木葵です。葵でいいですよ。姉がお世話になってます」

 

 僕と丸山先輩は互いに自己紹介をした。丸山先輩って目の前で見ると綺麗だな。テレビだとツインテールだけど、普段は髪を下ろしてるのか。道理で気づかなかったわけだ。

 

「美咲ちゃん、なにか話してたの?」

「まだ話の途中でしたよ。今こころの考えたこととかを話そうとしてたんですよ」

「こころちゃんの考えてたこと?ああ、あのことだよね?」

 

 松原先輩は半笑い気味に言った。何だろう?なにかあったのかな?それにこころさんの考えたことってなんだ?

 

「あのこと?弦巻さんまた何か思い付いたの?」

 

 こころさん何を思い付いたんだ?奥沢さんの表情が真っ青になってる。相当やばいんだろうな。

 

「その思い付いたものがですね、サーカスをやりながらライブをするって言うんですよ!」

「サーカスをやりながらライブ?」

 

 サーカスにライブって......。想像できないな。聞いててすごいけど、ヤバいとしか言い様がないな。というかこころさんの発想が斜め上すぎる。

 

「す、すごいね」

「さすがこころちゃんだわ」

 

 白鷺先輩と丸山先輩も唖然としていた。そりゃそうだ、聞いててよくこんなこと思い付くなって思う。奥沢さんや松原先輩はついて行けてるのが本当に凄いよな。僕にはできないことだ。

 

「美咲、お疲れ様。今日はゆっくりしてていいから」

「うぅ......。深雪さーん!」

「よしよし」

「深雪ちゃん、お姉ちゃんみたいだね」

「そ、そうね。あの深雪がお姉さんなんて想像つかないわ」

 

 奥沢さんは涙目になり、深雪さんに抱き付き、深雪さんは奥沢さんの頭を撫でて慰めた。これには松原先輩と白鷺先輩も驚いているようだ。確か深雪さんって一人っ子だったっけ?深雪さんが姉っていうのは想像できないな。

 

「千聖、想像つかないってどういう意味?」

「そのままの意味よ。深雪のこういう所は見たことないから仕方ないじゃない」

「それを言われたら何も言い返せないなぁ」

「千聖の言う通りだよ。深雪は一人っ子でしょ?」

「そうだけど......。私だって妹や弟は欲しいわよ!可愛いじゃん!」

 

 深雪さんは間違いなくシスコンになりそうだな。そういえば白鷺先輩達は弟や妹はいるのかな?

 

「白鷺先輩達は弟さんや妹さんとかっているんですか?」

 

 聞いたところ松原先輩は弟さんが、奥沢さんと白鷺先輩、丸山先輩には妹さんがいるようだ。これを聞いた深雪さんはというと......。

 

「羨ましいなぁみんな。私にも弟か妹がいればなぁ」

 

 半泣きになって羨ましがっていた。深雪さん、まともかと思ったらここまで重症だったなんて。現実ってやだなぁ。

 

「じゃあ聞くけど、深雪は弟か妹どっちが欲しいの?」

「私はどっちかというと妹が欲しいかな」

「妹ねぇ。深雪らしい答えだね」

「らしいって何よ、らしいって。澪もひどいなあ」

 

 深雪さんは妹が欲しんだな。親御さんはまだ若いんだっけ?深雪さん、まあ御愁傷様です。

 

 

▼▼▼▼

 

 

 あの後、深雪さんは突然奥沢さんに「私の妹にならない?」と言ったが、奥沢さんはあっさりと断ったようだ。これには白鷺先輩達はドン引きし、姉さんからは「あんた本当に私の知ってる深雪なの?」とボロクソに言われたようだ。

 

 一人っ子の深雪さんの気持ちはわからなくもない。僕は弟や妹が欲しいっていう欲は湧かないけど、もしそうなったとしたらどんな気持ちになるんだろう?

 

 

――一人っ子の気持ちはなかなかわからないな。

 

 

 もしつぐみちゃんが妹だと思うとどんな生活になるのだろう?そうなると僕は羽沢珈琲店で働いていたのかもしれない。そう考えると姉さんの弟ではなくなる。なんか複雑な気持ちになるな。なんでかな?

 

 まあ深雪さんに妹さんができるのを祈ろうか。どんな結果になるかはわからないけど......。

 

 




深雪の本性は追加設定のようなものです
彩の影薄かったかもです
彩推しのみなさんごめんなさい
感想と評価お待ちしてます


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想い人のいる珈琲店へ来店、初めての来店で緊張するのは当たり前?

毎回更新遅くなってごめんなさい
今日は喫茶店の日、ということで葵が羽沢珈琲店に来店です
本編どうぞ


 今日はお店は休み。今僕が向かっている所は商店街だ。

 

 色んなお店がある。沙綾さんがいるやまぶきベーカリー、北沢さんがいる北沢精肉店。北沢さんは最近お店に来てくれたらしく、ハロハピでベースを担当しているらしい。そして、ポピパの香澄さんとは幼馴染とのこと。

 

「あ、あお君!おはよう!」

「おはよう、北沢さん」

 

 北沢さんが僕に声を掛けた。相変わらずいい笑顔だ。北沢精肉店は肉を買うときによく行くけど、中でもおすすめはコロッケだ。ここのコロッケは食べると何故か笑顔になってしまう、まるで笑顔になる魔法が掛かったコロッケだな。

 

「あお君、コロッケ肉買ってく?」

「今はいいかな。帰りに買ってくよ。肉やコロッケ、いつもありがとね」

「いやいや、それほどでも~」

 

 北沢さんは頭の後ろに手を置いて笑った。ありがとうって言っただけなのになんで照れてるんだろう?

 

「それじゃ、また後で。またね!」

「またねー、バイバーイ!」

 

 北沢さんと別れて僕は歩き始めた。今日商店街に来た理由はあるお店に向かおうとしているからだ。そのお店は......。

 

 

――羽沢珈琲店。つぐみちゃんがいるお店だ。

 

 

 僕は最近になって気づいたんだ。そういえば羽沢珈琲店に行ってなかったと。なんで行かなかったんだって。好きな人がいる喫茶店なのに、行かないと後悔してしまう。もっと早く気づけばよかったな。

 

「おー、あーくんじゃないですかー」

「あれ、葵じゃん。珍しいね」

 

 モカちゃんと沙綾さんだ。そうか、やまぶきベーカリーの近くを歩いてたのか。考え事をしてて気づかなかった。

 

「おはよう、沙綾さん、モカちゃん」

「葵、さん付けしなくてもいいんだよ」

「でも、呼び捨てにはできないよ」

 

 呼び捨てにはできないな。特に女の子を呼び捨てで呼ぶのは抵抗がある。どうしてもそうなってしまうか仕方ない。

 

「あーくんが商店街に来るとは、なにかありそうだねー」

「あるって、まああるっちゃああるけど......」

「つぐに用がある。そんな感じかなー?」

 

 なんでバレてるの!?つぐみちゃんに用はあるけど、一言も言ってないぞ。何故だ!?

 

「顔に出てるんだよー、あーくんって分かりやすいねー」

「サラっと心読まないでよ!」

 

 だからなんで心読むんだよ!モカちゃん実はエスパーなんじゃないのか?そう思うと恐ろしいと感じる。

 

「へぇ、つぐに用があるんだ。青春してるねぇ」

「ちょっと沙綾さん!?何を言ってるのかな!?」

「だって、青春してるじゃん。つぐのこと好きなんでしょ?」

「ちょっと待って、何で沙綾さん知ってるの?」

「......何となくかな?」

 

 沙綾さんは目を逸らして言った。なんとなくって、僕がつぐみちゃんと一緒にいるところ見たことないよね?どういうことなの?まさか......。

 

「もしかしてバレてるの?」

「もちのろーん!元からバレてるよー」

 

 嘘だろ?なんでだよ、バレてないって思ったのに......。

 

「ま、まあ葵。元気出して、ファイトだよ!」

「ファイトだよ!じゃないよ!僕はバレてることにショックだよ!」

「あーくん、あんまり大きい声出してるとつぐにバレるよー」

 

 ヤバい、声出しすぎたかも!こんなことつぐみちゃんにバレたら恥ずかしくなる。ていうか、穴があったら入りたいよ......。

 

「じゃああたし達はおさらばするねー」

「またね、葵。頑張ってね!」

「ま、またね。僕なりに頑張るよ」

 

 はあ、なんかもう疲れちゃった。まだ来たばかりなのに、なんでこんなに疲れたんだろう。そもそもバレてないって思ってたのになあ。表情には気をつけた方がいいな。

 

 そしてようやく着いた。ドアの前なのに緊張する。頑張れ、頑張るんだ!緊張してどうする!ここで詰まったらなにも始まらない。さあ、ドアを開けるんだ!

 

 僕は唾を飲み込み、ドアを開けた。よ、よーし。ドアは開けれた。さあ、入るぞ!

 

「いらっしゃいませ!って葵君!?」

「や、やあつぐみちゃん」

「ど、どうしたの!?ここに来て......」

 

 つぐみちゃんは驚きながら聞いた。顔が赤くなってる。多分、僕も顔赤いだろうな。僕達は今どんな雰囲気なんだろう?初々しい雰囲気を出しているのかもしれないな。

 

「つぐみちゃんのところの喫茶店に行ってなかったから、行ってみようかなって思ってね」

「そうなんだ。あれ、お店はどうしたの?」

「今日はお休みだよ。だからここに来たんだ」

 

 何故だろう、話してるだけなのに緊張する。しかもドキドキしてる。そう、今この中は僕とつぐみちゃん、二人だけなんだ。つまり、二人きりだ。

 

「あ、そうだ。注文なににする?」

「ブラックコーヒーとショートケーキにするよ」

「じゃ、じゃあ今持ってくるから、ちょっと待っててね!」

「そんなに慌てなくてもいいよ、いつでも待ってるからさ」

 

 僕は微笑んで言った。つぐみちゃんは注文したメニューの準備をしに厨房へ向かった。

 

 ......ああもう!何やってるの!何を言ってるの僕は!なんで微笑んで言っちゃったんだよ!絶対キザだって思われてるよ。

 

 なんで僕はつぐみちゃんの前になると緊張してしまうんだ?これじゃあ関係は進展しないし、自然消滅してしまうかもしれない。恋とは恐ろしいものだなと、僕は心の中でそう感じた。

 

 

 

▼▼▼▼

 

 

 ああもう葵君のバカ!あんな表情されたらキュンとしちゃうよ!なんで葵君はあんなにカッコいいの!?

 

 私はドキドキしてしまった胸を手で抑えた。しかし、抑えようにもこのドキドキは全く止まらなかった。しかもコーヒー入れてるのに、溢れちゃったよ!なにをやってるの、私!

 

 テーブルの方を見ると、葵君は本を読んでいた。なんだろう、何の本を読んでるんだろう?気になるし、私も読んでみたいなあ。私の心はドキドキと知りたいという想いがブレンドされていた。

 

 とりあえず落ち着こう。あと、コーヒー入れ直さないと......。焦ってるなあ、私。

 

 コーヒーを入れ直し、ショートケーキをトレーに置いて葵君のところに向かう。緊張する、葵君のところに行くだけなのに、緊張しちゃう!

 

「お、お待たせしました。ブラックコーヒーとショートケーキになりましゅっ!」

「だ、大丈夫、つぐみちゃん!?」

 

 噛んだ、噛んじゃったよ!もう、私のバカァ!

 

「大丈夫、大丈夫だよ!」

「お、落ち着こう!落ち着こうよ!」

 

 大丈夫、私は落ち着いてるよ。ははは、あはははは!

 

 

――もう、笑うしかないや。

 

 

 私、壊れてるかもしれない。頭から煙も出してるかもしれない。

 

 あはは、情けないなぁ。

 

 

▼▼▼▼

 

 

 つぐみちゃん、本当に大丈夫かな?なんか笑ってたけど......。

 

「つぐみちゃん、落ち着いた?」

「うん。もう大丈夫だよ」

「よかった。噛んだだけなのに、あんなに焦るなんてねぇ」

「笑わないでよ、もう!」

 

 つぐみちゃんは頬を膨らませて怒った。可愛いなつぐみちゃん。ちょっと笑ったのはまずかったかな、謝っとこう。

 

「ごめん、ごめん。謝るから許してよ」

「まあ、許す」

 

 ヤバい、機嫌悪くしたかも。失敗したかな?笑っちゃったのはまずかったかな。僕の心は不安だらけになってしまった。

 

「その代わり、一つだけ言うこと聞いてもらっていい?」

「う、うん!何でも聞くよ!」

「じゃあ、今度のお休み空いてる?」

「今度の?えーと......」

 

 僕は手帳を開き、予定を確認した。大丈夫だ、空いてる。なんだろう、何かあるのかな?

 

「空いてるよ。大丈夫」

「その日、さ。わ、私と。ふ、二人で......お出掛けしない?」

 

 つぐみちゃんは緊張しながら聞いた。は?何て言ったの?何を言ったんだこの子は!?

 

「い、いいけど。それってもしかして......」

「デ、デート......だね」

 

 つぐみちゃんは顔を赤くして言った。なんだろう、顔が熱い。つぐみちゃんから誘ってくるなんて、思わなかった。

 

「そうだ、話が変わるんだけど葵君、本読んでたの?」

「読んでたよ。気になるの?」

「ミステリー系を読んでたんだ。父さんに薦められてね」

 

 それから僕とつぐみちゃんは色んな話をした。どんなストーリーだったのかや最近あったこと、新メニューの話でアイディアを出し合ったりと、気づいたら緊張は解れていた。

 

「それじゃあ、また学校でね。今度のお休みのデート楽しみにしてるね!」

「私も楽しみにしてるよ。また来てね!」

「もちろんだよ!何度でも来るよ!」

 

 僕は羽沢珈琲店を出て、商店街を出た。はあ、なんであんなこと言ったんだろう。今日の僕はどこかおかしいのかもしれない。帰ったら頭冷やそうかな......。

 

 

▼▼▼▼

 

 お店を閉め、夜になった。夜ご飯もお風呂も済ませたところだ。

 

 今日は葵君が来るなんて予想してなかったなあ。でも、おかげで葵君と色んな話が出来たし、デートの約束も出来た。

 

 あの時は思い切って約束しちゃったけど、予定が空いてて本当に良かった。私はクッションを抱きながらベッドに横になった。

 

 少しは葵君といい感じになれたかな?進展はあったかな?不安だけど、今日は頑張ったかもしれない。葵君、どうしてるかな?電話で話をしよう。

 

 私は起き上がり、葵君に電話を掛けた。出るかな?ちょっと話をするだけなんだから、別に恋しいなんて思ってない。

 

「もしもし?どうしたの、つぐみちゃん?」

「あ、葵君。こ、こんばんは!」

「こんばんは。ふふっ、つぐみちゃん大丈夫?」

 

 葵君が笑った。改めて思うけど、葵君の声って安心するなあ。私、葵君の声好きかも......。

 

「大丈夫だよ。安心して」

「それならよかった。じゃあ心配ないね」

 

 嬉しい、葵君はちょっとしたことでも私のことを心配してくれる。そんな優しい葵君が私は好き。

 

「そうだ、もう一つ約束し忘れたことがあるんだけどいいかな?」

「約束し忘れたこと?いいけど......」

「来月の七夕なんだけど、一緒に短冊に願い事書かない?」

「いいよ。一緒に書こう。蘭ちゃん達も誘う?」

 

 そうだ、七夕がある。いつもは蘭ちゃん達とお願いをしていたけど、今年は葵君も誘おう。好きな人と一緒にお願いをしてみたい、私の憧れの一つでもある。

 

「もちろん、蘭ちゃん達も誘うよ」

「わかった。じゃあ七夕もだね。デートと七夕、楽しみだね」

「私も楽しみだよ。もう楽しみで眠そうにないよ」

 

 なにそれ?と葵君は笑いながら言った。本当なんだからしょうがないよ。私は葵君と色んな思い出を作っていきたいから、だから誘ったんだ。ねえ、葵君。葵君はどう思ってるの?

 

 聞きたい、葵君がどう思ってるかを。知りたい、葵君の想いを。でも、聞けないな。私には緊張してしまうし、言葉に詰まって聞けないかもしれない。今はやめておこう。また、知りたくなったら葵君に会って直接聞けばいいんだ。

 

「それじゃあ、もう遅いから切るね。おやすみ、つぐみちゃん」

「おやすみ、葵君。またね!」

「じゃあね!」

 

 葵君は電話を切った。画面を見たら30分も話をしていた。短いようで長いような、あっという間な時間だった。でも、私にとってはとても充実した時間だ。

 

 今度の七夕とデートは頑張ろう。葵君にいいところを見せないと!

 

 




羽沢珈琲店来店回終了です
七夕回とデート回はそのうちやる予定です
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深夜の通話デート、少年と少女の甘いかもしれないお話

連続投稿です
息抜き程度に書いた話なので、短いです
今回は深夜の通話という名のデートです
リアルでも深夜通話、からの寝落ちってあるあるですよね



 お店を閉店して金曜日の夜、僕はこの前父さんから借りたミステリー小説を読み終えた。やっと読み終わった。今日の夜に読み終えようって決めてたから、ようやくだよ。

 

「明日が休みでよかった」

 

 明日と明後日はお店は珍しく休みのようだ。なんでも、臨時休業にしたらしく、七夕が近いので、七夕キャンペーンに備えての材料を揃えるとのことで休みにしたそうだ。

 

「暇だな。つぐみちゃん、起きてるかな?」

 

 そう、明日はつぐみちゃんと初のデートなんだ。まさかつぐみちゃんから誘ってくるなんて思ってもなかった。僕は明日が楽しみで本当に眠れなかった。

 

 電話してみようかな?でも、時間が遅いしなあ。迷惑だと思われるよな?

 

 そんなことを思っていたらスマホから電話が来た。誰だ?こんな時間に。僕は画面を見て誰から電話が来ているのかを見た。

 

「え、嘘!?つぐみちゃん、なんで!?」

 

 なんでだ!?つぐみちゃんから電話が来るなんて!これはあれか?眠れないから遅くまで通話しましょうっていえことなのか!?

 

 と、とりあえず電話に出よう。僕は電話に出ることにした。

 

「も、もしもし?」

「もしもし?あ、よかった!まだ起きてたんだね!」

「まだ起きてるよ。つぐみちゃん、本当に眠れなかったんだね」

「うん。明日が楽しみでね......」

 

 楽しみで眠れないつぐみちゃん、可愛いなあ。想像しただけでも和んでしまう。

 

「そうなんだ。それでどうしたの?」

「なんかお話でもしない?」

「いいけど?何を話そうか?」

「なんでもいいよ。なんかさ、これって......」

 

 

――話してるだけだけど、デートみたいだよね!

 

 

「そ、そうだね!」

 

 やばい、とんでもないことを聞いてしまった。通話でデートって聞いたことがない。確かデートには色んな種類があったっけ?普通のとか、家とか。なんかそのくらいしか聞いたことがないな。

 

「じゃあさ、七夕のことでお話しない?」

「いいよ。つぐみちゃんの話ならなんでも聞くよ!」

 

 七夕か。どんな願い事にしようかな。まだ何も考えてないや。一人前のバリスタになるっていう願いがあるけど、今年は願い事が変わりそうな気がする。つぐみちゃんと出会ったからだな。

 

「葵君はさ、願い事決まった?」

「全然、まだなにも決まってないよ」

「え、そうなの!?」

「そうなんだ。今までは一人前のバリスタになれますようにって願ってたんだ」

 

 そう、僕の願いは一人前のバリスタになれますように、と願っていた。けれど、今年は変わるかもしれないんだ。

 

「今年はどうするの?」

「どうしようかな。決まってはいないけど、変わるかもしれないんだよね」

「いいの?葵君はバリスタになるんだよね?」

「うん、なるよ。それは何度も願ってた事だからね。最近は父さんにも認めてもらえるようになってきたんだ」

 

 僕はここで働いている間にバリスタとしての修行もやっている。怠ったことは一度もない。それに、姉さんも母さんに認めてもらえたんだ。

 

「すごいね葵君!」

「そんなことないよ。実はね、姉さんも母さんに認めてもらったんだ」

「澪さんもなんだ!」

「あ、話を戻すね。願い事のことなんだけど、まだ教えないよ」

「やっぱり教えてくれないよね」

「もちろんだよ。僕が聞いてもつぐみちゃんは教えてくれないんでしょ?」

 

 つぐみちゃん、君のおかげで僕は変われたんだよ。君のおかげで僕は恋というものを知った。君のおかげで色んな人と出会えた。本当に僕は君を好きになってよかったって心から思ってるよ。

 

「もちろん教えないよ!」

「だよね。じゃあそろそろ寝ようか。眠くなって来たよ」

「そうだね。じゃあ葵君、また明日ね」

「うん、また明日。じゃあね」

「じゃあね」

 

 僕は電話を切った。さあ、明日は気合いを入れよう!つぐみちゃんにいいところを見せなきゃ!

 

 

▼▼▼▼

 

 

 どうしよう。明日が楽しみで眠れないよ。葵君が恋しい。葵君の声をもっと聞いていたいよ。

 

 はあ、私ってもう重症だな。ここまで葵君のことを好きになるなんて思わなかった。でも、私が恋に憧れていたのは事実だ。

 

 うん、決めた!葵君と電話で話そう。寝てるかもしれないけど、ダメ元でかけてみようかな。

 

 私は葵君に電話をかけた。お願い、出て!葵君が起きていますように!

 

「もしもし?」

 

 あ、起きてた!よかった、まだ話せる!

 

「もしもし?あ、よかった!まだ起きてたんだね!」

「まだ起きてるよ。つぐみちゃん、本当に眠れなかったんだね」

 

 そうだよ!私、本当に眠れないんだよ!楽しみで楽しみで仕方がないよ!

 

「うん。明日が楽しみでね......」

「そうなんだ。それでどうしたの?」

 

 そうだ!葵君とお話をするんだった。忘れてた。

 

「なんかお話でもしない?」

「いいけど?何を話そうか?」

 

 どうしよう。なにも決めてなかった。話題が思いつかない。ああ、もう!なんでもいいや!

 

「なんでもいいよ。なんかさ、これって......。話してるだけだけど、デートみたいだよね!」

 

 ああああああ!私は何を言ってるの!?なんでこんなこと言っちゃったの!?また勢いに任せちゃったよお!私のバカァ!

 

「そ、そうだね!」

 

 絶対葵君引いてるよ!ドン引きだよ!明日のデート葵君と会ったらどんな顔をすればいいの!?わからないよ!

 

 そうだ、一つだけ思い付いた!七夕のことを話そうかな。

 

「じゃあさ、七夕のことでお話しない?」

「いいよ。つぐみちゃんの話ならなんでも聞くよ!」

 

 なんでも聞くって、葵君優しいなあ。こんな私にまで優しくしてくれるなんて、もっと好きになっちゃうよ。

 

「葵君はさ、願い事決まった?」

「全然、まだなにも決まってないよ」

 

 私は驚いてしまった。決まってないんだ。てっきり決まってるかと思ってたなあ。

 

「え、そうなの!?」

「そうなんだ。今までは一人前のバリスタになれますようにって願ってたんだ」

 

 そういえば葵君はバリスタを目指しているんだった。まだ見習いで、澪さんはパティシエを目指しているんだったよね。姉弟揃って忙しいんだな。

 

 私は葵君が今年の願い事をどうするのかを聞くことにした。

 

「今年はどうするの?」

「どうしようかな。決まってはいないけど、変わるかもしれないんだよね」

 

 

――変わるってどういうこと?

 

 

「いいの?葵君はバリスタになるんだよね?」

「うん、なるよ。それは何度も願ってた事だからね。最近は父さんにも認めてもらえるようになってきたんだ」

 

 凄い!葵君は滋さんに認めてもらえたんだ。私の知らないところで葵君は成長していた。私も負けてられないなあ。

 

 それからは色々な話をした。どうやら葵君だけでなく、澪さんも真衣さんに認めてれていたようだ。葵君も澪さんも凄い。私なんて、頑張っても努力が報われない時がある。

 

 認めてもらえるのはたまにあるくらいだ。バンド面は蘭ちゃん達が認めてくれてるからまだいい。でも、私の中ではもっと頑張らなきゃっていう気持ちが強く出てしまう。

 

 私はそんな葵君を羨ましく思った。

 

 そして、葵君は言った。願い事はまだ教えないと。葵君が教えないなら私も教えないよ。葵君はだよね、と言った。

 

 そろそろ寝るねと葵君は言った。そして、私はじゃあねと言って電話を切った。

 

 明日は私にとっても、葵君にとってもすごく大事な日だ。いい一日にしよう!頑張れ、私!

 

 

 




つぐみのキャラ崩壊はお許しを
次ははデート回になります
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好きな人との初デート、電車の中の人混みはヤバい

都会の電車は人混み嫌ですよねぇ
本編どうぞぉ!


 今日はつぐみちゃんとのデートだ。この日をどれだけ待ったか。今回は気合いを入れて私服は上は開襟シャツ、中はTシャツ、下はジーパンにした。髪もワックスを掛け、

赤渕の伊達眼鏡も掛けた。

 

 少しでもつぐみちゃんをリードしてあげよう。せっかくのデートなんだ、つぐみちゃんを楽しいって思わせてあげなきゃ!

 

「おお、葵気合い入ってるねえ」

「姉さんいつからいたの!?」

「葵が鏡で見てるところからかな」

「それって今じゃん!」

 

 あ、これ絶対姉さんに聞かれるな。聞かれると色々面倒だから誤魔化さないと。

 

「その服装さてはデートだね」

「な、なんのことかな......?」

「惚けても無駄だよ。つぐみちゃんとデートでしょ?」

 

 やっぱり気づいてた。そりゃそうだ、恋愛関係で隠し事なんて姉さんには無駄なんだ。僕はこのまま隠しててもしょうがないので姉さんに話すことにした。

 

「デートに七夕で一緒に願い事かあ、つぐみちゃんやるねえ!」

「僕もこれにはビックリだよ」

「それに引き替え、葵はヘタレすぎだよ」

 

 僕は正論を言われて何も言い返せなかった。悪かったねヘタレで!

 

 でも今日は少しでもつぐみちゃんに良いところ見せないと!姉さんにヘタレなんて言われないようにしよう。このままだと蘭ちゃんや巴ちゃんにも言われかねない。

 

「そろそろ時間だから出るね」

「いってらっしゃい。葵、頑張って来なさい!」

「ありがと!じゃ、いってきまーす」

 

 さあ、今日は頑張っていこう!僕の心はどんな1日になるかという想いでいっぱいだった。

 

 

▼▼▼▼

 

 

 やばい、遅くなっちゃうかもしれない。早く起きれたのはいいけど、私服をどれにするかで2時間掛かっちゃった。葵君は先に待ってるのかな?そうだとしたら凄く申し訳ない。

 

 私は今日のために私服をいくつか選び、自分でこれだ!と、思った私服を選んだ。上はカーディガン、中はTシャツ、下はロングスカートにした。赤渕の眼鏡も掛けたし、私としては充分気合いを入れたつもりだ。

 

「いってきまーす」

 

 いってらっしゃい、お母さんが言った。出掛ける前に「葵君とお楽しみにね」なんて言われたけど、そんなことを言われたら恥ずかしくなってしまう。けど、誘ったのは私だ。今回は私が頑張らないと!

 

 私は家から出て駅まで向かった。事前に待ち合わせの場所を駅にしたから向かっているんだ。もう葵君は着いてるかな?

 

 しばらくして駅に着き、私は葵君を探すことにした。一応像の方で待ち合わせって言ったけど、どこにいるんだろう。今時間は8時45分、電話をして場所を聞いてみようか、又はひたすら探すか。

 

 まずは電話して場所を聞いてみようかな。私は葵君に電話をすることにした。

 

 

▼▼▼▼

 

 

 あれ、電話だ。誰からだろう?画面を見たらつぐみちゃんだった。何かあったのかな?

 

「もしもし?どうしたの?」 

「もしもし?今どこにいるの?」

 

 もしかして道に迷ったのか?大丈夫かな?

 

「今像の近くだけど......。何かあった?」

「像の近く......よかった!私もそこにいるんだけど......」

 

 近くにいるのか!?とりあえず探してみよう。僕はつぐみちゃんに探すから待ってて、と言って電話を切った。早く探そう。

 

 僕は周囲を見てつぐみちゃんがどこにいるかを見渡すことにした。駄目だ、この辺にはいない。今度は後ろを見渡すか。後ろを見渡して数秒、手を振っている姿が見えた。あれは......つぐみちゃんだ!やっと見つけた!

 

 僕はつぐみちゃんの元に走った。本当に申し訳ないことをしたな。待たせちゃって退屈かもしれないな。

 

「つぐみちゃんごめんね!遅くなっちゃって......」

「いいよ。私も今来たところだったから」

「そうなんだ」

「そ、そう......だよ」

 

 なんか焦ってるな。まあいいか。今日はいいところを見せようと思ったけど、失敗したな。次は気を付けないと。

 

「今日のつぐみちゃん、なんか可愛いね」

「そ、そう?」

「そうだよ。僕も一瞬見惚れちゃったよ」

 

 そう、本当に見惚れたんだ。つぐみちゃん、気合いが入ってるな。それに、眼鏡も掛けてるし。まあ、僕は伊達眼鏡をかけてきたけど

 

「そ、そう......なんだ」

「そうだよ。僕はそれくらいにつぐみちゃんが可愛いって思ったんだ」

「それを言うなら葵君だってカッコいいよ!髪にワックスも掛けてるし、眼鏡だってお揃いだし......」

「っ!?」

 

 つぐみちゃんは照れながら僕の私服を褒め、さらにお揃いだと言った。まさかカウンターされるなんて、けど私服を褒めたんだから良いところは見せられたよね?

 

 さて、そろそろ行かないと。僕はつぐみちゃんに手を差し伸べた。

 

「じゃあ行こうか!」

「うん!今日はよろしくね!」

「こちらこそよろしく!」

 

 カッコいいところを見せようって言ったけど、よく考えたら僕は何をやってるんだろう......。普段はこんなことしないのに、恥ずかしくなってしまう。

 

 

▼▼▼▼

 

 

 電車に乗ったのはいいけど、休日でも電車の中は人が多かった。私と葵君は人混みに紛れながら一緒にいる。もちろん、離れてはいないから大丈夫だ。大丈夫だけど......。

 

 

――なんで私は葵君とくっついてるの!?

 

 

 今の私の状態は私が扉の前にいて、葵君は私の前にいる。まるで壁ドンみたいな状態になっている。初めての壁ドンがこんな形でされるなんて思わなかったよ!

 

「大丈夫?つぐみちゃん」

「だ、大丈夫だよ!」

 

 いや、大丈夫じゃないです!ていうか顔近いよ!私と葵君の距離は吐息がかかるくらいに近かった。しかも葵君の片足の膝が私の股に当たってるんだけど!?ああもう、変な感じがするよぉ!私の頭は混乱寸前だった。

 

「本当に大丈夫?顔赤いけど......。熱はないよね?」

「大丈夫だから!そ、それに熱はないからね!本当だよ!」

「そう。ならよかった。つぐみちゃんにもしものことがあったら大変だからね」

 

 葵君がそういった瞬間に電車が揺れた。へ、待って!?今どうなってるの私!?なんかぶつかったような気がするけど......。

 

 なんだろうこれ?匂いがする。もしかして私......葵君の胸の中にいるの!?胸の中だけど、いい匂いがする。......じゃなくて!なんでこんなことになってるの!?

 

「つぐみちゃん、怪我はない?」

「大丈夫だよ。葵君は疲れてない?」

「僕は疲れてないよ」

 

 葵君は微笑んで言った。なんか私気を遣われてのかな?そんな気がするけど、気のせいだよね?私は離れないように葵君の服を掴んだ。

 

「つ、つぐみちゃん!?どうしたの?」

「こ、これはね!離れないようにするためだから、決して疚しいことじゃないから!」

「そ、そう......」

 

 そうだ。これは疚しいことじゃない。葵君からいい匂いがしたからもっと嗅ぎたいから掴んだ訳じゃないからね!

 

 

▼▼▼▼

 

 

 人混みに紛れたのは仕方ないけど、なんで僕はつぐみちゃんとくっついちゃったのかな?しかもつぐみちゃんを追い詰めたような状態になってるし、膝に至っては変な所に当たってるし、つぐみちゃんの表情は色っぽいし、なんでこうなるの!?

 

 はあ、今日のデート大丈夫なのか本気で心配になってきた。とりあえず、為せば成る......よね?

 

 僕はつぐみちゃんが心配になり、大丈夫か声を掛けた。

 

「つぐみちゃん、大丈夫?」

「だ、大丈夫だよ!」

 

 よかった。僕は心の中で安堵した。つぐみちゃんが大丈夫なら安心だ。因みに僕がつぐみちゃんをこの状態にしたのは、人混みに紛れさせないのと、痴漢から守るためだ。つぐみちゃんは僕が守らないと!

 

 それにしてもつぐみちゃん、顔が近いよ。これじゃあキスしちゃうかもしれないな。ファーストキスが電車の中でってなると複雑な気持ちになるな。ていうか待って、つぐみちゃん顔赤くなってるけど!?

 

「本当に大丈夫?顔赤いけど......。熱はないよね?」

「大丈夫だから!そ、それに熱はないからね!本当だよ!」

「そう。ならよかった。つぐみちゃんにもしものことがあったら大変だからね」

 

 その時、電車が揺れた。言った側から大変なことになったんだけど!これが俗に言うフラグ回収ってやつか。

 

 なんか胸の辺りにドンって音がしたな。それに、へその辺りに柔らかい物が当たってるような気がする。下を見ると、つぐみちゃんがいた。

 

 なんでここにいるの!?ってそんなことより怪我とか大丈夫かな?そっちが心配だ!

 

「つぐみちゃん、怪我はない?」

「大丈夫だよ。葵君は疲れてない?」

「僕は疲れてないよ」

 

 いや、急なことがありすぎて少し疲れてます。こんなラッキー......じゃなかった、こんな事故が起こるなんて全く予想してなかった。僕の頭の中はパニック状態になっていた。

 

 そんな時、つぐみちゃんが僕の服を掴んだ。どうしたんだろう、もしかして怖くなったのかな?

 

「つ、つぐみちゃん!?どうしたの?」

「こ、これはね!離れないようにするためだから、決して疚しいことじゃないから!」

「そ、そう......」

 

 疚しいことってなに!?なにをするつもりなの君は!?つぐみちゃんってたまにヤバいこと言うよね。なんだろう、なんか先が思いやられるな。

 

 

――こうして始まった僕とつぐみちゃんの初デート、これから先どうなるのだろう。初っぱなからこんな状態で大丈夫なのかな?

 

 




というわけで前半終わりです
今回は2、3話くらいでまとめていきたいと思います
感想と評価お待ちしてます


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少年と少女はお互いに似合う服をプレゼントする

令和初の更新になります
デート回中盤です


 満員電車に押し潰されながらつぐみちゃんを守り、なんとか目的の駅に降りることができた。つぐみちゃんはまだ僕の袖を掴んでいた。しかも手が震えてる。相当怖かったんだな。

 

「大丈夫?つぐみちゃん」

「だ、大丈夫だよ」

 

 いや、手が震えてる時点で大丈夫じゃない。僕はつぐみちゃんを休ませるために公園のベンチに座ることにした。こんな時、どうしたらいいんだろう?どうすればつぐみちゃんを安心させられるかな?

 

「ねえ、葵君」

「な、なに?」

「さっきはありがとね」

「なんのこと?僕、なにかした?」

 

 お礼を言うなんてつぐみちゃんどうしたんだろう。確かに僕は痴漢や人混みから守るためのことはした。もしかしてそれを気づかれたのか?

 

 僕の顔に冷や汗が滴る。しかも心臓も少しながら鳴っている。それはお礼を言われたから鳴っているのか、それとも二人きりであることにドキドキしているからか、今の僕には鳴っている理由がわからなかった。

 

「したよ。さっき私のこと守ってくれたんでしょ?」

「そ、そうかな?」

「葵君、惚けても無駄だよ。私には葵君のやってたことわかってるからね!」

 

 隠しても無駄みたいだ。つぐみちゃんは凄いな。僕が守ろうとしていたことをわかっていたなんて。この子に隠し事をしても意味ないと僕は思った。うん、正直に言うか。

 

「本当だよ。確かに僕はつぐみちゃんを守るためにやったよ」

「やっぱりね」

「やっぱりって......。なんでわかったの?」

「葵君、さっき電車の中で私のこと心配そうに見てたでしょ?」

 

 そこまで見られてたのか!?気づかなかった。なんかカッコ悪いな。

 

「まあ、心配だったよ。大丈夫かなって心配だった」

「そんなに顔赤くしなくてもいいよ。さっきの葵君......」

 

 

――充分カッコよかったよ!

 

 

 つぐみちゃんは笑顔で言った。けど、その笑顔は僕には眩し過ぎた。こんなこと言われるなんて思わなかった。

 

「あ、葵君!?どうしたの!?」

「え?」

「なんで、泣いてるの?」

「泣い......てる?僕が?」

 

 あれ、なんでだろう?目が霞んでるような。もしかして涙が出てるのか?いや、そんなことない。そんなことないはずだ!

 

「ち、違うよ。これはゴミが目に入っただけだよ」

「え、そうなの?大丈夫?」

「大丈夫だよ。大したことないから、つぐみちゃんは心配しなくていいよ」

 

 僕はポケットからハンカチを出して涙を拭くふりをした。そう、僕の行っていることは嘘だ。本当は少しだけ泣いていた。けど、ここでつぐみちゃんを不安にしたくないし、カッコ悪いところを見せたくない。だから、敢えて嘘をついたんだ。ごめんね、つぐみちゃん。

 

「つぐみちゃん、もう大丈夫?」

「私は大丈夫だよ。葵君は平気なの?」

「もう平気だよ!とりあえず、どこか出掛ける?」

「そうだね。じゃあ、デパートに行かない?服とか見ていこうよ!」

「いいね!じゃあ行こうか」

 

 僕とつぐみちゃんはベンチから立ち上がり、デパートに向かうことにした。その時、つぐみちゃんから手を繋ごうと言われ、僕は了承して手を繋ぐことにした。今更だけど、大丈夫かな?僕達付き合ってないのに手を繋ぐなんて......。

 

 

▼▼▼▼

 

 

 私と葵君は二人で服を見ることにした。これから夏だから何か流行りのファッションってないかな?ファッションとかならひまりちゃんがすごく詳しいけど、私と葵君で探してもなかなか見つからなかった。

 

「ファッションって難しいね」

「そうだね。バリスタ一筋で生きてきたけど、情けないや。なんかごめんね」

「そんな、葵君が謝ることないよ!私も詳しくなくてごめんね」

 

 二人して謝ってしまった。葵君は若干顔が赤くなっていた。私も顔が熱い。なんでだろう?

 

 ここまでファッションに詳しくなかったのはまずかったかもしれない。もう少しファッションについて調べればよかったかな。

 

「いいよ、そんなに謝らなくても」

「でも......」

「じゃあさ、お互いに選ばない?好きなようにするとかなら大丈夫だと思うけど......」

 

 葵君は好きなようにしたらどうか、と提案をしてくれた。そうか、その手があったか!好きなようにする、それなら私にだって選べるかもしれない!

 

「わかった、その提案にするよ。ありがとう葵君!」

「そんなお礼を言われる程でもないよ。でも、どういたしまして」

 

 葵君は微笑んで言った。眼鏡を掛けているせいか、私から見た葵君はとてもカッコよかった。葵君って眼鏡似合うんだな。

 

「どうかした、つぐみちゃん?」

「な、なんでもないよ!なんでもない!」

「そう?なんか顔赤いけど、熱はないよね?」

 

 葵君は熱を測ろうとしたのか、私の額に手を置いた。待ってよ葵君!人前、人前だよ!そんなことされたら余計熱くなっちゃうよ!

 

「熱はないか、よかった」

「あ、葵君......。ここ、人前......」

「え、人前?」

 

 私は葵君にわかるように人前でやってるよと言った。その瞬間、葵君の顔は赤くなった。葵君、私を恥ずかしがらせたお返しだよ!

 

「ご、ごめん!つぐみちゃんごめんね!」

「葵君、やってくれてるのは嬉しいけど、もう少し場所選ぼうね」

「わかった!次は気を付けるから!」

 

 ふふっ、葵君可愛いなあ。眼鏡がズレてるよ。私は葵君に近づいてズレてる眼鏡を直してあげた。葵君ってこんなに焦る時があるんだ。私はまた一つ、葵君の一面を知ることができた。

 

「つ、つぐみちゃん?」

「眼鏡、ズレてたよ」

「え、嘘!?」

「今直してあげたから大丈夫だよ」

「あ、ありがと」

 

 どういたしまして、私は口を微笑ませて言った。葵君は顔を赤くし、目を逸らしながら「ありがとう」と言った。なんかいいな、こういう雰囲気。私達は付き合ってはいないけど、付き合っている感じに見える。

 

 よくわからないけれど、私にはそう感じてしまうんだ。葵君はどう思ってるのかな?葵君の想いがすごく気になる。そうだ、今は服を選ばないといけない。せっかくのデートなんだ、時間を大切にしないと!

 

 

▼▼▼▼

 

 

 最終的に服は僕はつぐみちゃんに白いワンピースを、つぐみちゃんは僕に黒い半袖のジャケットを選んでくれた。お互いに満足できたからよかったからいいかな。

 

 僕はつぐみちゃんにアクセサリーショップに行こうと誘った。その時、つぐみちゃんは喜んでくれた。どうやらつぐみちゃんも何か探そうとしているみたいだった。何を探してるんだろう?

 

「つぐみちゃん、何を探してるの?」

「それは秘密だよ!」

「ああ、秘密なんだ。じゃあ、楽しみにしてるよ」

「そうそう、楽しみにしててね!」

 

 秘密なら仕方ない。僕は何度か思っていた。つぐみちゃんには向日葵が似合ってるんじゃないかと。そう、何故僕がアクセサリーショップに誘ったのかというと、つぐみちゃんに向日葵の髪飾りをプレゼントするためだ。

 

「えーと、どこにあるかな......」

「なに探してるの?」

「へ?ひ、秘密だよ!」

「秘密なんだ。なんか残念だなあ」

 

 つぐみちゃんは残念そうに言った。ごめんねつぐみちゃん。今はバレる訳にはいかないんだ。とにかく探さなきゃ!

 

 向日葵の髪飾りを探して数分が経ち、ようやく見つけた。僕はすぐに会計を済ませ、つぐみちゃんと合流することにした。

 

「葵君、何を買ったの?」

「それは後のお楽しみだよ。そういうつぐみちゃんは何を買ったの?」

「私も秘密だよ。楽しみにしててね!」

 

 つぐみちゃんも秘密か。やっぱり教えてくれないか。まあお楽しみって言ったんだ。待とうかな。さあ、次はどこに行こうかな?

 

 

 




今日で平成が終わり、令和を迎えました
これからもよろしくお願いします
感想と評価お待ちしてます


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掛け替えのない思い出とさらに深まる二人の関係

デート後半です
今回でデート回終了になります
深まるとありますが、付き合ったりはしません


 もうお昼の時間だ。どこでお昼にしようかな?私は葵君にどこでお昼にするかを聞くことにした。

 

「葵君、どっかでお昼にしない?」

「あれ、もうそんな時間なんだ。早いね」

「そうだね。私はどこでもいいよ」

 

 どこでもいいよ、とつぐみちゃんは言った。どうしよう、どこにしよう......。喫茶店は何度も行ってるから、たまには違うところにしようかな。

 

「じゃあつぐみちゃん、行きながら決めない?」

「行きながら?」

「そう。行きながらその場で選ぶってのはどうかなって」

「じゃあ、それにしようかな。あ、そうだ葵君」

 

 どうしたんだろう?つぐみちゃんなにか言いたそうだ。表情から察して重要なことみたいだ。なにを話すんだ?

 

「なに?」

「私のことなんだけど......。"つぐ"って呼んでくれる?」

「そんな、呼び捨てでは呼べないよ」

「駄目......かな?」

 

 つぐみちゃんは涙目になり、上目遣いで僕を見つめた。身長差があるせいか、可愛く見えてしまう。ホントにズルいよ、つぐみちゃん。

 

「じゃ、じゃあ呼ぶよ?」

「うん、いいよ」

 

 緊張してる。まあ、僕も緊張してるんだけどね。つぐみちゃんのことを呼び捨て、しかも渾名で呼ぶ、相当ハードルが高いことを要求されたんだ。緊張するに決まってる。

 

 僕はつぐみちゃんのことを呼び捨て、かつ渾名で呼んだ。

 

「つ、つぐ......」

「葵君......」

 

 駄目だ、耳が赤くなってくる。これは慣れるしかないな。またつぐみちゃんって呼んだら泣きそうになるかもしれないから、ここは頑張ろう!

 

「いいよ、葵君。合格!」

「いいの?今ので?」

「今のはしょうがないよ。私が無理なこと頼んじゃったんだから。ごめんね」

「い、いいよ!つぐみちゃんは悪くないって!......あ」

 

 ヤバい!ちゃん付けで呼んじゃった!だ、大丈夫かな?いや、大丈夫じゃないに決まってる!

 

「つぐだよ」

「ご、ごめん!つぐ!」

 

 多分、僕はつぐに色々させられそうだな。まあ、頑張ろう。それしかないや。

 

 

▼▼▼▼

 

 

 私やっちゃった!とうとうやっちゃったよ!

 

 葵君に渾名で呼ぶように言ったけど、こんなに恥ずかしいことだなんて思わなかった!葵君には無理をさせちゃったかな?

 

「ね、ねえ葵君」

「どうしたのつぐ?」

「ご、ごめん!なんでもない!」

「?」

 

 話しかけられない!恥ずかしくて顔を合わせられないよ!やらかしたなあ、私。

 

 私の心臓はドキドキしていた。葵君につぐって呼ばれるのが嬉しいこと、つぐって無理に呼ばせちゃったという罪悪感に私は押し潰されそうだった。はあ、なんでこんなことしちゃったのかな?

 

「つぐ、あそこにしない?」

「ど、どこにしたの?」

「えっと、パスタ系のところかな。つぐは大丈夫?」

「だ、大丈夫!問題ナッシングだよ!」

 

 何を言ってるの!?問題大有りだよ!私の心はナッシングじゃないよ!ああもう、私のバカァ!

 

 それから私と葵君はお昼を済ませて色々な話をした。話をしていた間に葵君からとんでもないことを言われてしまった。

 

「つぐはさ、誰か好きな人っているの?」

「え!?」

「ごめんねつぐ。ちょっと気になっただけだからさ。無理に言わなくてもいいよ」

 

 葵君が好きだよ、なんて言えないよ!というか葵君は私のことどう思ってるんだろう?そんなことを言われても私だって気になっちゃうよ!

 

「じゃあ聞くけど、葵君は好きな人いるの?」

「え、僕?」

「そうだよ。葵君だけ聞くのはズルいよ。私だって気になってるんだからね!」

 

 葵君は顔を赤らめて目を逸らした。私とんでもないこと聞いたなあ。葵君って誰が好きなんだろう。気になって聞いたけど、どうなんだろう?

 

 この時、私は願った。どうか、好きな人がいませんように、と。ああ、私はなんて罪な女なんだ。なんて私は......。

 

 

――醜い女なんだろうか。

 

 

「つぐ、つぐー」

「は、はい!?」

「どうしたの?大丈夫?」

 

 葵君に心配を掛けてしまった。危ない、今考えていることがバレてたら気まずいことになってた。結局、私は葵君の好きな人を知ることはできなかった。葵君も同じだった。お互いに秘密だと言ったからだ。

 

 今はいいや。今はこの時間を大切にしないと。せっかくのデートなんだから......。私と葵君が二人きりでいられる時間なんだから、こんなこと考えちゃいけないよね。しっかりしなきゃ!

 

 

▼▼▼▼

 

 

「つぐ、次はどこ行く?」

 

 よし、慣れてきた。つぐって呼ぶの最初は戸惑ったけど、こんな早く慣れるなんて思わなかったな。

 

 それにしても、さっきのつぐは様子が変だった。心配だけど、気を遣わない方がいいのかな?駄目だ、どうすればいいかわからない。今は気を紛らわせるしかないな。

 

「私はどこでもいいよ。葵君はどこか行きたいところある?」

「僕は行きたいところは一個だけあるかな。コーヒー豆とかが売ってたから見ていこうと思うんだけど、つぐは大丈夫?」

「全然大丈夫だよ。葵君とならどこへでもついて行くよ」

 

 この子はなんていい子なんだろう。僕は何度も思う。この子を......つぐのことを好きになってよかったと。つぐは僕のことをどう思ってるんだろう?好きな人は秘密って言われたから知ることはできないけど、いつか告白をしたいなと僕は思った。

 

 僕とつぐはコーヒー豆専門のコーナーに入り、コーヒー豆を見てはつぐと一緒に話し合った。お互い喫茶店で手伝いをしているからこそできることだ。どうやらつぐはブラックコーヒーが苦手みたいだ。今度コーヒーを入れる時は気を付けようかな。僕はつぐの意外な一面を知ることができた。

 

 こうやって好きな人を知ることができるのは嬉しいことだ。知っていく度に好きになっていく。それはとても心地よく、心が幸福に満たされる、そんな感じがして僕には眩しくて、手に収まりきらないくらいの物だった。

 

 時間はあっという間に過ぎ、僕とつぐは電車に揺られながら今日のことについて話し合い、七夕の時はどうしようかとかも話し合った。そして電車を降り、駅を出た。

 

 そして帰り道、公園の前に着いた。

 

「ちょっと公園に寄っていかない?」

「いいよ。寄っていこう」

 

 僕とつぐは公園に入り、ベンチに座った。どうやらこの公園はつぐが子供の頃に蘭ちゃん達と遊んだ公園らしい。思い出のある公園に着くなんて、なにかの偶然かもしれないな。

 

 僕はつぐの横顔を見た。その横顔は夕日を背景にしたら輝くかもしれない、そんな感じがして綺麗に見えた。

 

「ねえ、つぐ」

「なに?」

「つぐに渡したいものがあるんだけど、いいかな?」

「渡したいもの?」

 

 つぐは首を傾げて言った。渡したいものとは、さっき探していた向日葵の髪飾りだ。僕はカバンから包みを出してつぐに差し出した。

 

「これを受け取ってほしいんだ」

「私に?いいの、受け取って?」

「いいよ。僕はつぐに受け取ってほしいから」

 

 つぐは呆然としていた。そりゃそうだ、急に渡されたら誰でもこんな反応するに決まってる。つぐは今どういう気持ちなんだろう。

 

 

▼▼▼▼

 

 

 私は頭の中が真っ白になった。

 

 急に葵君に包みを渡されたからだ。受け取った包みは軽い。何が入ってるんだろう。私は気になって葵君に聞いた。

 

「今開けていい?」

「いいよ」

 

 葵君は微笑んで言った。包みを開けて取り出して見た時、入っていたのは向日葵の髪飾りだった。なんで髪飾りなんだろう?それに、どうして向日葵なの?

 

「その髪飾りはさっきのアクセサリーショップで探したものなんだ」

「葵君が探してた物ってこれ?」

「そうだよ。僕はつぐを見て何度か思ったんだ。つぐには向日葵が似合ってるんじゃないかって。それで探したんだ」

 

 ......ズルいよ。葵君。今そんなこと言われたら渡せなくなるじゃん。いや、今ここで渡そう。私だって探してたんだ。葵君に似合うものを。

 

「私も葵君に渡すものがあるんだ」

「つぐもなの?」

「うん。これ、受け取ってもらえると嬉しいな」

 

 私は葵君にある包みを渡した。私も同じだよ葵君。私もアクセサリーショップで探してたんだ。

 

 葵君は開けていいか、と聞いた。私はいいよ、と答え、葵君は包みを開けた。私が買ったものは葵君とは違う。

 

「これは、チョーカー?」

「迷って選んで、それにしたんだ。葵君なら似合うかもしれないって思ったんだけど......」

 

 その時、私は葵君に抱き締められた。え!?ち、ちょっと待って!なんで急にこうなるの!?

 

「ありがとう、つぐ」

「あ、葵君?」

 

 葵君、泣いてるの?なんで泣いてるんだろう?

 

「僕は嬉しいんだ。こんなことって今までなかったから」

「葵君......」

 

 葵君は抱き締めていた手を離した。私は名残惜しそうに感じた。それは一瞬であったけれど、私にとっては長く、時が止まったかのような感じだった。

 

「ねえつぐ。お互いにアクセサリー付け合わない?」

「え!?いいの?」

「僕は全然いいよ。今ならできるかもしれないから」

 

 葵君は涙を拭いて私にチョーカーを差し出した。私は差し出されたチョーカーを受け取り、葵君の首元に付けた。うん、似合ってる。選んでよかったなって私は思った。

 

「つぐ、じっとしててね」

「う、うん......!」

 

 私は目を瞑ってじっとした。葵君は私の髪を触り、髪飾りを付けた。くすぐったいけれど、とても気持ちがよかった。どっちなんだろう、私にはわからないくらいに気持ちがよかった。

 

「いいよ、目を開けても」

「いい?」

 

 いいよ、葵君に言われ、私は目を開けた。その時私に映った葵君の表情は微笑んでいて、少し泣きそうになっていた。葵君、泣きすぎだよ。

 

「つぐ、すごく似合ってるよ」

「ホント?」

「ホントだよ。もうそれしか言えないよ」

 

 そんなに似合うなんて、私はどんな姿をしているんだろう。そこまで言われるとどのくらい似合っているのか自分でも気になってしまう。

 

「ねえ、葵君。一緒に写真撮らない?」

 

 葵君は恥ずかしながらもいいよ、と答えた。こんな時にまで恥ずかしがるなんて、葵君は可愛いな。私の好きな人は可愛い一面もあるんだなと私は思った。

 

 

▼▼▼▼

 

 

 まさかつぐと一緒に写真を撮るなんて思わなかったな。一緒に撮るのは連休の時の旅行以来だ。今の僕とつぐはお互いに付け合ったアクセサリーを付けてる状態。そんな中で撮るというのはとてもハードルが高いものだ。

 

「じゃあ撮るよ?」

「い、いいよ」

 

 つぐは僕の腕に絡まり、頭を肩に乗せている。そして僕は自分の頭をつぐの頭に乗せている、そんな姿勢だった。これを頼んだのは、言うまでもない、つぐだった。ていうか僕達、付き合ってないよね!?

 

 パシャリ、と音がした。これはつぐのスマホで撮った写真だ。撮った写真は送信され、僕のスマホの中に収まった。

 

「葵君、固まりすぎだよ」

「つぐだって緊張して震えてたじゃん!」

「そうだね」

 

 つぐは笑っていた。僕も釣られて笑った。充実した一日にすることはできたかな?僕はつぐにいいところを見せられたかな?

 

 僕とつぐはまた明日、と言って商店街で別れた。来週は七夕だった。デートの次は七夕か。もう七月なんだな。僕とつぐが出会ってから三ヶ月、本当にあっという間だな。

 

 

 

――七夕の日はつぐにもっといいところを見せないと!

 

 

 




今回から葵はつぐみのことをつぐと呼びます
この回のあと、七夕回に入ります


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七夕の前の日常、それぞれの想い

三週間ぶりの更新です
リアルが多忙で遅くなりました
ホントにごめんなさい
七夕回前半になります


 七月四日、七夕まであと三日。つぐとデートをしてから早くも三日が経った。

 

 この三ヶ月で色んな人が店に来店した。最近では、フィンランドのハーフで元モデルの若宮イヴさんと機材にとても詳しく、元ストリートミュージシャンだった大和麻耶先輩、この二人が常連になった。二人に聞いたところ、二人は本物のアイドルであり、あのPastel*Palettesに所属しているらしい。

 

 明明後日が七夕ということで店では笹や短冊の準備をしたりで忙しかった。当然ながら僕や姉さん、深雪さんも手伝った。

 

 姉さんはどうやら紗夜先輩と日菜先輩を誘ったらしく、二人とも喜んで約束をしてくれたようだ。僕はというと、デート前日につぐと約束をしたので、来る予定になっている。もちろん、蘭ちゃん達も来る予定だ。

 

 つぐとの仲は前よりも進展している。どのくらいかはわからないけど、天体観測の時よりはいいかなと思っている。デートの時にもらったチョーカーはずっと付けている。付けていたら姉さんに見られ、根掘り葉掘り聞かれてしまった。

 

 姉さんに結果を話したらやればできるじゃん、この調子で頑張れと応援された。姉さん、相当楽しんでるな。

 

 学校に着き、靴を履き替えて教室を目指して歩いていく。教室に入ると、つぐが笑顔で僕に挨拶をした。

 

「おはよう、葵君!」

「おはよう、つぐ」

 

 つぐ、と呼んだ瞬間、ちょうど近くにいた蘭ちゃん達が目を丸くして固まってしまった。あのモカちゃんでさえも固まってしまったようだ。

 

「あれ、どうしたの?」

「ど、どうしたじゃねえよ!葵、今つぐになんて言った!?」

「おはよう、つぐって言ったけど、何かおかしかった?」

「おかしいよ!葵君とつぐ、どこまで進んだの!?」

 

 ひまりちゃんは驚きながら聞いた。いや、どこまで進んだって言われてもなあ。つぐの方から呼んでくれって言われたからなんて言えばいいんだろう......。

 

「どこまで進んだっていうか、葵君と二人で出掛けただけかな」

「ふ、二人で!?」

「お、おー。やりますなあ、つぐー」

 

 つぐが言った途端、蘭ちゃんは驚き、モカちゃんは言葉に詰まりながらもつぐを褒め称えた。

 

「そういえばつぐ、髪飾りはどうしたの?」

「家に置いて来たかな。学校で付けるのは噂されるから、学校以外の時には付けるようにするよ」

「わかった。つぐの自由にしていいから」

「ありがと、葵君」

 

 つぐは笑顔で言った。なんかいいな、こういう会話。僕とつぐは付き合っていないけど、付き合っているように思えてしまう。

 

 

▼▼▼▼

 

 

 七月五日、祝日。私は蘭ちゃん達から葵君とのデートのことについて聞かれた。葵君が付けていたチョーカーや私が今付けている向日葵の髪飾りのことも聞かれた。

 

 もちろん、前日にあった夜に話した電話のことも話した。これを聞いたみんなは一斉にコーヒーを注文したようだ。

 

「ねえ、つぐ。いつになったら葵君に告白するの?」

「え?こ、告白!?」

「そうだぞつぐ。ここまで来たらコクった方がいいんじゃないのか?」

 

 ひまりちゃんと巴ちゃんはいつ告白するのかを聞かれ、私は飲んでいたコーヒーを吹き掛けてしまった。

 

「こ、告白かあ......」

「つぐみ、何か悩んでるの?」

「悩みならモカちゃん達が聞きますぞー」

 

 私は葵君の想いがまだわからない。それが原因でどうしたらいいのか私は迷っている。

 

 あの時、私は葵君に好きな人はいるかを聞いた。葵君はいないって言ったけど、あの時の葵君は目を逸らしていた。もしかして葵君、何か隠してるのかな?多分だけど、葵君は何か隠してるかもしれない。どうしよう、葵君が私のことをどう想ってるのかわからなくなってきた。

 

 葵君にもう一度聞こうかな?いや、もう一度聞いても話を逸らされるかもしれない。じゃあ時間を待つ?でも、時間を待つってなるといつ告白するんだってまた言われるかもしれない。

 

「つぐみ、つぐみ!」

「っ!?ど、どうしたの蘭ちゃん?」

「どうしたのじゃないよ。ボーっとしてたけど、何かあったの?」

 

 気づかない内に考えに耽ってたいたみたいだ。私は考えていたことが看破されないように誤魔化した。

 

「何でもないよ!何でもないから!」

「......本当に?」

「蘭、あまりピリピリするなって」

「ピリピリしてないよ。あたしはつぐみが心配なだけだよ」

 

 蘭ちゃんは私のことを心配してくれてたようだ。でも、確かにピリピリしてるような感じがしてたから、少し怖かった。巴ちゃん、フォローしてくれてありがとうね。私は心の中で気づかれないように巴ちゃんにお礼を言った。

 

「つぐー、何か隠してる?」

「な、何も隠してはいないよ?」

「疑問形って......。つぐからなんかラブコメのオーラを感じるのは私だけかな?」

 

 モカちゃんは疑った。というかひまりちゃん、ラブコメのオーラって、そんなオーラ出してたかな?

 

「もしかしてつぐみ、葵のこと考えてた?」

「か、考えてないよ!」

「つぐー、顔に出てるぞー」

 

 やっぱりバレちゃったか。私って隠すのは下手だな。ここは打ち明けるしかないか。私は蘭ちゃん達に葵君のことについて相談することにした。

 

「葵の想いかあ......」

「なんかわからなくなってきたんだ。葵君が私のことどう思ってるのかなって」

「つぐ大丈夫だよ。あーくんはつぐのこと好きだと思うよ」

「そうかな?」

 

 そうだよつぐ!とひまりちゃんは便乗気味に言った。そうだと願いたいけど、自信がないよ。でも、私は相談して正解だったのかもしれない。さっきまでモヤモヤしていたけど、今はスッキリしてる。

 

「今度の七夕、誘われたんだろ?」

「うん、みんなもどうかな?」

「もちろん行くよ。つぐみと葵の進展は最後まで見届けたいからね」

「ら、蘭ちゃん!」

 

 蘭ちゃんに最後まで見届けたいと言われ、私は顔が熱くなったような気がした。その様子を見たみんなは笑った。うん、やっぱり"いつも通り"だ。

 

 ここで焦ってたらダメだよね。葵君に見られたら彼に申し訳ない。葵君に顔向け出来ない。

 

 私は決めた、もう少し待ってみよう。きっと葵君のことがわかるかもしれない。今度の七夕はどんなお願いをしようかな。あと、向日葵の髪飾りも付けないとね。

 

 

▼▼▼▼

 

 

 七月七日、七夕当日。朝はいつも通り、でも夕方から忙しい。昨日は学校があったから疲れが溜まっているかもしれない。今日はつぐが来るんだ、良いところを見せないと!

 

「葵、今日は気合い入ってるね」

「まあね。つぐが来るから頑張らなきゃって思ってね」

「そう。頑張り過ぎて倒れないようにしなさいよ」

「そこは気をつけるよ。倒れたら元も子もないからさ」

 

 僕もそうだけど、姉さんも妙に気合いが入っている。もしかして、紗夜先輩と日菜先輩が来るから嬉しいのかな?

 

 変なことを聞くのはまずいかもしれない。下手をしたら余計な体力を使うかもだからここは黙っていた方が身のためだ。

 

「そろそろ行こうか」

「だね。深雪も準備できたみたいだしね」

 

 僕と姉さんは仕込みのために厨房へ向かった。その時、向かう前に姉さんに話掛けられた。

 

「葵!」

「な、何!?」

「今日はつぐみちゃんに良いところを見せられるように頑張りなよ!」

 

 姉さんは微笑んで僕にエールを送った。姉さん、ありがとう。僕、つぐに良いところを見せられるように頑張るよ。

 

「姉さん、ありがとう。頑張るよ」

「私はあんたの恋を応援してるんだから、つぐみちゃんと結婚できるようにしなさいよ」

「結婚だなんて、気が早いよ姉さん」

 

 結婚か......。そこまで考えてなかったな。僕にはまだ早い、これからどうなるかわからないんだ。あまり考えたくないけど、僕とつぐが付き合えない可能性だってあるかもしれない。だから、そうならないように少しでもつぐに良いところを見せないと!

 

 朝と昼は普段通りでそこまで忙しくはなかった。けど、忙しくなるのは夕方からだ。常連の人の中には父さんや母さん目当てで来店する人も少なくはない。その中には瀬田先輩とりみさんが来たり、休日ということで白鷺先輩や松原先輩、奥沢さんも来店していた。

 

 瀬田先輩と松原先輩、奥沢さんの三人は今日の七夕は弦巻さんのところでやると言った。ということはハロハピのみんなでやるみたいだな。りみさんはというと、香澄さん達と七夕をやるそうだ。聞いたところ、有咲の家には蔵があるらしい。そして質屋「流星堂」をやっていることも聞いた。

 

 そして昼にはロゼリアの人達も来た。もちろん、日菜先輩もいる。僕が接客を担当した瞬間、今井先輩に話し掛けられた。

 

「やっほー、葵!」

「いらっしゃいませ今井先輩。今日はどうしたんですか?」

「今日はね、七夕をここでやろうと思ったんだ。友希那が昨日の練習終わりに突然決めちゃってね」

「そうなんですか。珍しいですね」

 

 湊先輩が誘ったのか。それにしても周りが賑やかになってきてるな。確か夕方につぐ達が来るからまだ時間はあるはず。

 

 今井先輩から視線を感じる。僕の予想だとチョーカーのことを聞かれるかもしれない。これは正直に言うしかないかもしれないな。

 

 そして僕は案の定今井先輩からチョーカーのことを聞かれた。僕は顔を赤くしつつ答えた。つぐとのデートのことは伏せて答えたけど、大丈夫かな?

 

「そっかそっかー、葵もやるね!」

「な、何がですか!?」

「プレゼントされるなんてねー、この幸せ者!」

「ホントよ。さすが楠木君ね」

「っ!?唐突になんですか湊先輩!?」

 

 今井先輩にからかわれた瞬間、湊先輩がひょっこりと顔を出した。心臓に悪いよ!

 

「いきなりどうしたんですか?」

「ちょっと猫の気持ちになっただけだから気にしないで」

「気にするよ友希那!さすがにそれはおかしいって!」

 

 そうですよ!僕は湊先輩にツッコミを入れた。なんだろう、湊先輩に会うのは久しぶりなのにこの人ってこんな人だったっけ?って思ってしまう。

 

 

▼▼▼▼

 

 

 私は今蘭ちゃん達と葵君のところに向かっている。約束の時間は夕方だからもう着く頃だ。葵君や澪さん達は忙しいかもしれない。一緒にいる時間が作れるか心配だ。

 

 少し寒い。最近は外が暗くなると風が冷たくなってくる。上着を着た方がよかったかもしれない。でも私は少し期待している。葵君が上着を掛けてくれんじゃないのか、二人きりになれるんじゃないのかということを期待していた。

 

「そろそろ着く頃だね」

「そだねー」

「つぐは何をお願いするの?」

「それは秘密かな」

 

 私は一応決まっている。でもそのお願いは蘭ちゃん達には秘密だ。Afterglowとしてのお願いは決まっているけどね。

 

「そういえば巴、あこはどうしたの?」

「あこは先にカーネーションの方に向かったよ。確か湊先輩達と一緒だったかな」

「え?湊先輩来てるの?」

 

 湊先輩が来ている、そう聞いた瞬間に蘭ちゃんは唖然とした。蘭ちゃん、相当驚いてるみたい。ということは紗夜さんも来てるのかな?だとしたら日菜先輩も来てるかもしれない。

 

「リサさんも来てるかもだねー」

「だね!急ごうよみんな!」

「そうだな。ひまり、そんなに急がなくても着くから少し落ち着けよ」

「私はこれでも落ち着いてるよー!」

 

 ひまりちゃん、楽しみにしてるみたい。まあ、私も楽しみなんだけどね。早く葵君に会いたいな。私は葵君に早く会いたいと思い、早足気味にカーネーションへ向かった。

 

 

▼▼▼▼

 

 

 頬に冷たい風が当たる、冷たいということはもう夕方になるのか。早くつぐに会いたい、つぐと話をしたい。僕は楽しみでウズウズしていた。

 

「葵さん、そんなにウズウズしてどうしたんですか?」

「あ、紗夜先輩。何でもないですよ?」

「何故疑問形になるんですか......」

 

 危ない、つぐに会いたいってことがバレるところだった。姉さんには秘密にしてくれって釘を刺してあるからバレることはないと思うんだけど......。

 

 父さんからは早く上がっていいと言われた。姉さんと深雪さんも同じだ。姉さんと紗夜先輩、仲良くなれてるかな?

 

「姉さん、迷惑かけてませんか?」

「大丈夫ですよ。澪さんにはよくしてもらってますからとくに何もありませんよ」

「そうですか、ならよかった」

「では葵さん、また後ほど。日菜が待ってますので」

 

 そう言って紗夜先輩は姉さん達の元へ戻っていった。ここにいるのは僕一人だけだ。冷えるだろうから上着を着てるけど、つぐは大丈夫かな?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




今回は短めです
後半へ続きます


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七夕に願うは恋情、二人の想いは願いと共に

七夕回後半になります
今回は長いので、ご注意下さい


 七月七日、七夕当日。朝はいつも通り、でも夕方から忙しい。昨日は学校があったから疲れが溜まっているかもしれない。今日はつぐが来るんだ、良いところを見せないと!

 

「葵、今日は気合い入ってるね」

「まあね。つぐが来るから頑張らなきゃって思ってね」

「そう。頑張り過ぎて倒れないようにしなさいよ」

「そこは気をつけるよ。倒れたら元も子もないからさ」

 

 僕もそうだけど、姉さんも妙に気合いが入っている。もしかして、紗夜先輩と日菜先輩が来るから嬉しいのかな?

 

 変なことを聞くのはまずいかもしれない。下手をしたら余計な体力を使うかもだからここは黙っていた方が身のためだ。

 

「そろそろ行こうか」

「だね。深雪も準備できたみたいだしね」

 

 僕と姉さんは仕込みのために厨房へ向かった。その時、向かう前に姉さんに話掛けられた。

 

「葵!」

「な、何!?」

「今日はつぐみちゃんに良いところを見せられるように頑張りなよ!」

 

 姉さんは微笑んで僕にエールを送った。姉さん、ありがとう。僕、つぐに良いところを見せられるように頑張るよ。

 

「姉さん、ありがとう。頑張るよ」

「私はあんたの恋を応援してるんだから、つぐみちゃんと結婚できるようにしなさいよ」

「結婚だなんて、気が早いよ姉さん」

 

 結婚か......。そこまで考えてなかったな。僕にはまだ早い、これからどうなるかわからないんだ。あまり考えたくないけど、僕とつぐが付き合えない可能性だってあるかもしれない。だから、そうならないように少しでもつぐに良いところを見せないと!

 

 朝と昼は普段通りでそこまで忙しくはなかった。けど、忙しくなるのは夕方からだ。常連の人の中には父さんや母さん目当てで来店する人も少なくはない。その中には瀬田先輩とりみさんが来たり、休日ということで白鷺先輩や松原先輩、奥沢さんも来店していた。

 

 瀬田先輩と松原先輩、奥沢さんの三人は今日の七夕は弦巻さんのところでやると言った。ということはハロハピのみんなでやるみたいだな。りみさんはというと、香澄さん達と七夕をやるそうだ。りみさんに聞いたところ、有咲さんの家には蔵があるらしく、そこで質屋「流星堂」を経営しているとのことだ。

 

 そして昼にはロゼリアの人達も来た。もちろん、日菜先輩もいる。僕が接客を担当した瞬間、今井先輩に話し掛けられた。

 

「やっほー、葵!」

「いらっしゃいませ今井先輩。今日はどうしたんですか?」

「今日はね、七夕をここでやろうと思ったんだ。友希那が昨日の練習終わりに突然決めちゃってね」

「そうなんですか。珍しいですね」

 

 湊先輩が誘ったのか。それにしても周りが賑やかになってきてるな。確か夕方につぐ達が来るからまだ時間はあるはず。

 

 今井先輩から視線を感じる。僕の予想だとチョーカーのことを聞かれるかもしれない。これは正直に言うしかないかもしれないな。

 

 そして僕は案の定今井先輩からチョーカーのことを聞かれた。僕は顔を赤くしつつ答えた。つぐとのデートのことは伏せて答えたけど、大丈夫かな?

 

「そっかそっかー、葵もやるね!」

「な、何がですか!?」

「プレゼントされるなんてねー、この幸せ者!」

「ホントよ。さすが楠木君ね」

「っ!?唐突になんですか湊先輩!?」

 

 今井先輩にからかわれた瞬間、湊先輩がひょっこりと顔を出した。心臓に悪いよ!

 

「いきなりどうしたんですか?」

「ちょっと猫の気持ちになっただけだから気にしないで」

「気にするよ友希那!さすがにそれはおかしいって!」

 

 そうですよ!僕は湊先輩にツッコミを入れた。なんだろう、湊先輩に会うのは久しぶりなのにこの人ってこんな人だったっけ?って思ってしまう。

 

 

▼▼▼▼

 

 

 私は今蘭ちゃん達と葵君のところに向かっている。約束の時間は夕方だからもう着く頃だ。葵君や澪さん達は忙しいかもしれない。一緒にいる時間が作れるか心配だ。

 

 少し寒い。最近は外が暗くなると風が冷たくなってくる。上着を着た方がよかったかもしれない。でも私は少し期待している。葵君が上着を掛けてくれんじゃないのか、二人きりになれるんじゃないのかということを期待していた。

 

「そろそろ着く頃だね」

「そだねー」

「つぐは何をお願いするの?」

「それは秘密かな」

 

 私は一応決まっている。でもそのお願いは蘭ちゃん達には秘密だ。Afterglowとしてのお願いは決まっているけどね。

 

「そういえば巴、あこはどうしたの?」

「あこは先にカーネーションの方に向かったよ。確か湊先輩達と一緒だったかな」

「え?湊先輩来てるの?」

 

 湊先輩が来ている、そう聞いた瞬間に蘭ちゃんは唖然とした。蘭ちゃん、相当驚いてるみたい。ということは紗夜さんも来てるのかな?だとしたら日菜先輩も来てるかもしれない。

 

「リサさんも来てるかもだねー」

「だね!急ごうよみんな!」

「そうだな。ひまり、そんなに急がなくても着くから少し落ち着けよ」

「私はこれでも落ち着いてるよー!」

 

 ひまりちゃん、楽しみにしてるみたい。まあ、私も楽しみなんだけどね。早く葵君に会いたいな。私は葵君に早く会いたいと思い、早足気味にカーネーションへ向かった。

 

 

▼▼▼▼

 

 

 頬に冷たい風が当たる、冷たいということはもう夕方になるのか。早くつぐに会いたい、つぐと話をしたい。僕は楽しみでウズウズしていた。

 

「葵さん、そんなにウズウズしてどうしたんですか?」

「あ、紗夜先輩。何でもないですよ?」

「何故疑問形になるんですか......」

 

 危ない、つぐに会いたいってことがバレるところだった。姉さんには秘密にしてくれって釘を刺してあるからバレることはないと思うんだけど......。

 

 父さんからは早く上がっていいと言われた。姉さんと深雪さんも同じだ。姉さんと紗夜先輩、仲良くなれてるかな?

 

「姉さん、迷惑かけてませんか?」

「大丈夫ですよ。澪さんにはよくしてもらってますからとくに何もありませんよ」

「そうですか、ならよかった」

「では葵さん、また後ほど。日菜が待ってますので」

 

 そう言って紗夜先輩は姉さん達の元へ戻っていった。ここにいるのは僕一人だけだ。冷えるだろうから上着を着てるけど、つぐは大丈夫かな?

 

 待ってからしばらくしたらつぐ達の姿が見えた。どうしよう、やっと会えるってなった途端にドキドキしてきた。しかも緊張までしてきた。ここは深呼吸して落ち着かせた方がいいか!?

 

「こんばんは葵君!」

「こ、こんばんはつぐ」

 

 駄目だ。挨拶しただけなのにさらにドキドキしてしまう。なんでこんなにドキドキするんだ!?ていうか蘭ちゃん笑ってるし!そんなに笑わなくてもいいじゃん!

 

「蘭ちゃん、そんなに笑わなくても......」

「葵がガタガタ震えてるから、笑うしかないよ」

「あーくん、つぐの前になるとそうなっちゃうから仕方ないよねー」

 

 モカちゃんにまで言われた。好きな人の前になるとこうなるのはしょうがない。口に出して認めたらつぐのことが好きだってことがバレてしまう。

 

 僕は深呼吸をして心を落ち着かせることにした。けど、落ち着かせてもドキドキは止まらなかった。いいところを見せるって決めたんだから頑張らないと!

 

 僕はつぐ達に短冊を渡し、筆はみんなで使うようにと言って願い事を書くことにした。願い事はすでに決まっている。でも、それは秘密にしている。何故なら、願い事は二つあるからだ。

 

 表と裏の願い事、表は「みんなが幸せでありますように」だけど、裏はまだ秘密だ。

 

 みんなが願い事を書いた短冊を笹に飾っていく。願い事を聞くのはさすがにまずいかもしれない。聞くのは罰当たりだし、その人の願い事が叶わないってなっちゃうとやばい。

 

「寒くなってきたね」

「そう......だね」

 

 つぐが隣に来た。蘭ちゃん達はどうしたんだろう。周りを見ると巴ちゃんはあこちゃんと白金先輩といる。蘭ちゃんはモカちゃん達と一緒みたいだ。みんな別々に過ごしてる、ということは今は僕とつぐは二人きりか。

 

 

――ん?待てよ。二人きり?

 

 

「葵君どうしたの?」

「な、何でもないよ!」

 

 二人きりって気づいた瞬間にドキッとした。つぐと顔を合わせられない。どうしたらいいんだ!?

 

 

▼▼▼▼

 

 

 葵君どうしたんだろう。何かあったのかな?蘭ちゃん達は向こうに行っちゃったし、蘭ちゃんには頑張りなよ、なんて言われたし、私大丈夫かな?

 

 葵君の顔を見ると顔が赤くなっていた。何かあったのかもしれない、もう一度聞いてみよう。

 

「葵君、私の顔を見て思ってることを言って!」

「え!?わ、わかった」

 

 葵君は私の顔を見て思っていることを言った。今の私達の状況、葵君がどんな状態なのかを全て私に打ち明けた。

 

 それを聞いた私は徐々に顔が熱くなっていった。もしかして葵君は私達が二人きりになったことに気づいて顔が赤くなったのかもしれない。

 

「なんかごめんね」

「つぐは悪くないよ。意識した僕が悪いから、だからつぐは悪くない」

「で、でも!」

 

 私が言おうとした瞬間、葵君の手が私の頭に置かれた。急にどうしたんだろう、なんで葵君はこんなことをしたんだろう。私は葵君に頭を置かれて気持ちよくなってしまった。こんなことされたら恥ずかしくなるし甘えたくなってしまう。

 

 でも、私達は会って三ヶ月しか経ってない、甘えるのはまだ早い。いや、旅行の時に一緒に寝たり、天体観測の時にあんなことをしたんだ。こんなことを言うのは今更か。

 

「葵君恥ずかしくなるからもういいよ」

「ご、ごめんつぐ!」

 

 葵君は私の頭から手を離した。名残惜しい、もう一度撫でて欲しい、そう葵君に言いたいけど、こんなことを言えるのは付き合ってからだ。

 

 私は空を見上げた。星は綺麗に私達を照らすかのように輝いていた。空を見上げていたら一番星が輝いていた。

 

「あ、一番星!」

「え、どこ?」

「ほら、あそこだよ」

 

 私は一番星がある方向を指刺した。葵君が見上げた瞬間、私と葵君の手が触れ合った。

 

「あ......」

「ご、ごめん!」

 

 顔が熱くなって来た。うわあ、やっちゃったよ!偶然とはいえやってしまった。葵君、ごめんね。私は心の中で葵君に謝った。でも、葵君の手柔らかかったな。

 

 

▼▼▼▼

 

 

 どうしよう、つぐとくっついちゃった。なんかヤバいことしたな。つぐ、困ってるかもしれない。

 

「つぐ、ごめんね。嫌だったよね?」

「そんなことないよ!むしろ嬉しかったから

「なにか言った?」

「な、なんでもない!」

 

 怪しい。怪しいけど聞かない方がいいかな。それにしても一番星をすぐ見つけるなんて、凄いなつぐは。

 

「つぐって一番星見つけるの得意なの?」

「うん得意だよ。蘭ちゃん達にも言われてるんだ」

「へぇ、凄いね」

 

 そんなことないよ、つぐは照れながら言った。照れてるつぐ、可愛いな。僕は微笑みながらつぐを見守った。

 

「つぐ、寒くない?」

「少し寒いかな」

「そっか、じゃあこれ着てていいよ」

 

 僕は上着を脱いでつぐの肩に掛けた。暖まってくれればいいんだけど......。

 

 僕は後悔していた。もっと早く気づいていればよかった。なんで早く気づけなかったか、と。つぐに寒い想いをさせたのはまずかったな。

 

「つぐ寒くなくなった?」

「うん、暖かくなってきた。ありがとう葵君」

 

 どういたしまして、僕は照れながら言った。駄目だ、つぐが笑顔でお礼を言ってきたから照れてしまった。照れてるの隠せてるかな?

 

 それはさておき、つぐの願い事が気になる。願い事を聞くのはまずいけど、どうしても気になってしまう。ここまで気になるなら聞こうかな。

 

「ねえつぐ」

「何?」

「つぐの願い事ってなんなの?」

「私の願い事?それは秘密だよ」

 

 やっぱりそうか、案の定秘密か。つぐに聞かれても秘密にしよう。だって、僕の願い事は......。

 

 

――つぐと付き合えますように、なんだから。

 

 

▼▼▼▼

 

 私の願い事はみんなには秘密にしている。もちろん、葵君にも秘密だ。

 

 これは誰にも知られてはいけない私だけが抱える想い。例え届かなくてもいい、でも届いてほしい、私が葵君に好きだという想いと共に願っている事だ。

 

 そう、私の願い事は......。

 

 

――葵君と付き合えますように、そして幸せでありますように。

 

 

 これが私の願い事だ。私は考えていた。いつ葵君に告白するか、葵君を好きでいていいのか、と。どうしてこんなことを考えてしまうのかは自分でもわからなかった。

 

「つぐ、なんか悩みでもあるの?」

「え、悩みはないよ。どうしたの?」

「その......なんだろう。つぐが悩んでるように見えたからかな」

 

 葵君は私のことよく見てるんだな。私は君のそんな優しいところが好きだ。最初は一目惚れから始まったけど、葵君のことを知ってどんどん好きになっていった。

 

「ねえ葵君。目瞑ってくれる?」

「え?いいけど......」

 

 葵君は目を瞑った。これは私なりのお礼だ。七夕とはいえこんなことをしていいのかと自分でも疑問に思う。でも、これでいいんだ。これが私なりの......。

 

 

――私なりの精一杯の伝え方なんだ!

 

 

▼▼▼▼

 

 

 目を瞑った瞬間、頬に冷たい感触がした。これはなんだ?もしかしてつぐ......。

 

「つぐ......」

「じゃ、じゃあ葵君私帰るね。上着ありがと!」

 

 そう言ってつぐは僕に上着を返して帰っていった。

 

 ズルいよつぐ。そんなことをされたらさらに好きになってしまうじゃないか。君はホントにズルい人だ。

 

 僕はつぐが僕のことを好きだと知っている。でも、つぐはどうなんだろう?僕のこと好きなのかな?そこはわからないけど、いつかこの想いを伝えよう。

 

 つぐは僕の頬にキスをした。これは忘れたくないけど、今は頭の隅に置いておこう。思い出してしまったら気まずくなるしつぐに顔向け出来なくなってしまう。

 

 明日からつぐと話出来るかな?むしろそれが心配だな。

 

 

――二人の願い事は"付き合いたい"ということは偶然にも同じだった。この事を知るのはさらに先の話である。

 

 

 

 




一昨日キスの日だったので、混ぜてみました
付き合うのは近いかもしれませんがまだまだ先です


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風の噂と想いを伝えるタイミング、それはいつですか?

想いを伝えるタイミングは決めるべきなのか、それは自分次第である



 ああ、暑いな。つぐとの七夕から早くも二週間が経つ。この時期になると制服は夏服に変わる。母さんと姉さんの提案でうちの喫茶店でシェイクを始めることになった。味はイチゴ、抹茶、チョコレート、約三種類だ。まだ種類は増やす予定とのことだった。

 

 その結果、このシェイクは三日にして大人気となってしまった。特にチョコレートはりみさんとひまりちゃんからは大好評だった。僕もまあ新作を出したが、新作を出したという情報をつぐが聞いて味見をしたいと真っ先に乗り出したのだ。というかつぐ、その情報誰から聞いたの?

 

 因みに新作とは抹茶のショートケーキだ。新作といっても姉さんに手伝ってもらったが、味見をしたつぐの反応は意外な反応だった。

 

「葵君、このケーキメニューに載せてみない?凄く美味しいよ!」

「あ、ありがとつぐ」

 

 こんな反応だった。メニューに載せてみないか?とまで言われるとは......。僕も味見をしたが、我ながら美味しいと感じた。今度メニューに載せてみよう、あとは客の反応次第だ。姉さんからも「才能あるじゃん!」とまで言われてしまった。

 

 

――僕はバリスタを目指してるのにどこへ向かおうとしているんだろう......。

 

 

 そんなこんなで土曜日となり、来週で夏休みに入ろうとしていたのだ。つぐから好評だった抹茶のショートケーキはメニューに載せることになった。もちろん、シェイクの種類も増え、抹茶とレモン、バナナが追加された。

 

「それにしてもシェイクの種類、多くないですか?」

「そうですか?まだ六種類ですよ?」

 

 まだってことは増えるんですね、大和先輩は頬を引きつらせて言った。大和先輩はどうやら仕事がオフらしく若宮さんと一緒に来店したそうだ。しかし、大和先輩達だけではなく......。

 

 ふふふ、儚い。そう言いながら座っているのは我が喫茶店の常連さんにして先輩である瀬田先輩だった。この人必ず最初に来店するからなぁ。

 

「アオイさん!この抹茶のケーキ美味しいです!まさに......」

「ブシドー!」

 

 な、なんだ!?どっから聞こえたんだこの声は!?というかこの声あの人しかいないよな?

 

「日菜先輩、なんでいるんですか!?それと紗夜先輩も!」

「だって休みだし、暇なんだもーん!」

「それととは失礼ですね葵さん。私は日菜が行きたいと言ったのでついて来ただけですよ?」

 

 えぇ......。ほら紗夜先輩、貴女がそんなこと言うから姉さんが引いてるよ。シスコンにも程があるよ、と姉さんは紗夜先輩に言った。なお、紗夜先輩はこれをスルーした模様。なんかうちの喫茶店ってこんなに賑やかだったっけ?

 

「ところでアオイさん。ツグミさんのことなのですが......」

「つぐがどうかしたの?」

「アオイさんとツグミさんがお付き合いしているのは本当なのですか?」

 

 はい?今何を言ったんだろう、僕の聞き間違いだったかな?僕とつぐが付き合ってる?いや、それはまだなんだけどなぁ。多分だけど、僕がつぐのこと好きだっていうのはバレてないと思うんだけど、どっからそんな情報が漏れたんだ?

 

「いや、それは気のせいだと思うよ?」

「そうですか?誰かが言ってたような気がするのですが、噂でしょうか?」

「そう、噂!ただの噂だよ、若宮さんの空耳だと思うよ」

 

 ふう、これで大丈夫だろう。若宮さんも噂でしたかって言ったんだ。そろそろつぐに想いを伝えた方がいいかもしれないな。夏休みに入ってからにしようかな?夏休みの予定、確認しとかないとな。

 

 

▼▼▼▼

 

 

「ていうことがあったんだ」

「そ、そうなんだ......」

 

 イヴちゃん、そんなことを言ってたんだ。私と葵君の知らない間に噂になっているなんて、これは近いうちイヴちゃんにも聞かれるかもしれない。

 

 お互いの喫茶店の営業が終わり、私と葵君は電話で話すことにした。私と葵君は確かに前より関係は進展してきたなと感じた。それが噂が流れるくらいになってたのは想定していなかった。むしろ、噂をされていなかったことが不思議だ。

 

「つぐは若宮さんからその噂って聞いてない?」

「聞いてないよ、私達が知らない間にそんな噂が流れてたんだね」

「あまり気にしない方がいいよ、僕も気にしないようにするからさ」

 

 気にしないようにする、葵君はそう言ってるけど私は気にしちゃうなぁ。

 

 

――そういえば来週から夏休みに入るんだったっけ?

 

 

 皆とはどういう予定にしようかとかはまだ決まってはいないけど、ライブハウスでは合同でやるサマーライブがある。葵君はまだライブを一度も見ていなかったなと私は気づいた。それならチャンスかもしれない、今度のサマーライブで葵君にいいところを見せられるんじゃないかと私は思った。

 

 まだチケットは渡してないから今度学校で渡そうかな......。

 

「ねえ葵君、ライブって観に行ったことないよね?」

「言われてみれば観たことないな、店の手伝いで忙しかったからね。一度は見たいって思ってるよ」

「そうなんだ......。よかった

「つぐ、何か言った?」

「な、何でもないよ!」

 

 私は焦りながら言った。聞こえてないよね?多分だけど聞こえてないはずだ、そうであってほしい。

 

「じゃあそろそろ切るね、おやすみ葵君」

「おやすみつぐ、また明日」

 

 私と葵君はお互いに電話を切り、今日の通話を終えた。そうだ、学校で渡すと言ってもチケットまだできてないんだった。はあ、何を舞い上がってたんだろう私は......。

 

 チケットは出来上がったら一番に葵君に渡そう。あと、夏休みどうするかはみんなで話し合おう。葵君とも話をしておかないといけない。

 

 

▼▼▼▼

 

 

 つぐに言われて僕は気づいた。ライブを一度も観ていないということだ。大抵僕は店の手伝いをやることが多い、そのため他のイベントとかはあまり行くことがないんだ。

 

 僕は一度は見たいと思っている。つぐがどんな気持ちで、どんな表情をして演奏をしているのか、僕はそれが知りたいと思った。きっと楽しそうに演奏をしているに違いない。

 

 僕はまだつぐのことをよくわかっていないのかもしれない。バンドをやっているのならその姿も一度は目に焼き付けるべきだと、僕はそう感じた。

 

 さて、夏休みはどうしようかな?好きな人ができてからの夏休みは初めてだ。つぐといい夏休みになることを祈ろうか。いや、祈るんじゃないな。祈るんじゃなくて......。

 

 

――どういう夏休みにするのかは自分で描いていくべきなんだ。

 

 

 それもあるけど、店の方の手伝いも怠っては駄目だ。上手く両立できるようにしないと!

 

 そろそろ眠くなってきた、今日はもう寝よう。夏休みをどうするかについてはつぐもそうだけど、蘭ちゃんとも話をしないといけないな。まずはそこからだ。

 

 

 




次から夏休みへと入っていきます


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決戦兵器とタピオカ、赤メッシュと青薔薇の煽り

ガルパカフェに出たアレをネタにしました
さらに今流行りの物も出ます
そして更新遅れてごめんね!


 八月、夏休み。羽丘では夏休みに入るが、中には部活があったり、合宿があったりで夏休みであっても休みではない所がある。特に部活に入ってる人なんて社畜同然だ。

 

 暑くなってきたことでうちでは抹茶や最近始めたかき氷が売れている。特に夏に入ってから始めたタピオカが一番売れている。どうやら世間でも流行っているそうだ。

 

 タピオカは僕も飲んでみたが、甘すぎてあまり飲めなかった。姉さんに聞いたところ角砂糖20個分の甘さらしい。母さんは飲めたそうだが、父さんは途中でダウンしてしまった。コーヒー好きの人とは相性が悪かったのかもしれない。

 

「あぁ、タピオカって怖いなぁ。胸焼けしそう」

「葵、何独り言言ってるの?」

「つい口に出ちゃったんだよ蘭ちゃん。タピオカがトラウマになってね」

 

 蘭ちゃんにわかるはずがない。あんな甘さの暴力、僕からしたら恐ろしいとしか言い様がないよ。

 

 そして新作はもうひとつある。姉さんが発案したらしく、グリーンスムージーをベースにゴーヤ、人参、セロリ、グリーンピースをミックスしたという恐ろしい物を作ってしまったという。野菜嫌いに対する兵器、通称「対ロゼリア決戦兵器」だ。

 

 姉さんが湊先輩達が野菜嫌いという情報を得たらしく、それを切っ掛けに試作として出したそうだ。何だろう、紗夜先輩に恨みでもあるのかな?

 

「それにしても澪さんまた新しいメニュー作ったけど何あれ?」

「対ロゼリア決戦兵器だって。見た目からしたらヤバいけど......」

 

 あれは人が作っていいものじゃない。姉さんの黒歴史になりそうだけど大丈夫かな?というか紗夜先輩来てるけど、案の定姉さんを睨んでる。その目付きは狼のようだ。

 

「澪さんこれはどういうことですか?」

「なに紗夜?なんかあった?」

「なんかあった?じゃないです!なんですかこれは!」

 

 紗夜先輩は両手で机を強く叩いて姉さんに言った。これには父さんも驚いたようでマグカップを落としそうになったが、見事にキャッチして落とすことはなかった。父さんも驚くなんて、どうしたんだろう。

 

「澪さんなんかやったの?」

「さあ?多分新作のことで怒ってるのかも。ちょっと行って来るね」

 

 僕は蘭ちゃんの所から離れて紗夜先輩の元に行って何があったのかを聞くことにした。その内容は新作の件で怒っていた。姉さん、その決戦兵器はヤバいロゼリアの人には効くみたいだよ。

 

「ねえ葵。このメニューどう思う?野菜ジュースだと思えばどうってことないと思うんだけど......」

「どうって言われても......」

「葵さん。今すぐ止めましょう。これを表に出してしまったら大騒ぎになってしまいます。日菜もるんって来ないって言ってましたから」

 

 日菜先輩もそんなこと言ってたのか。じゃあ止めた方がいいな。出したらこの店閉店になりかねないよ。全く、姉さんには世話が焼けるよ。

 

「姉さん、止めよう。今すぐ止めよう、紗夜先輩もこう言ってるんだ」

「やっぱり駄目かぁ、じゃあお蔵入りだね」

 

 姉さんはそう言って野菜ジュースらしき物を厨房にしまうことにした。よかった、これでこの店は救われた。あんなものを出してしまったら終わってたよ。

 

 そして僕は紗夜先輩から首に付けてるチョーカーのことを聞かれ、チョーカーのことを誤魔化そうとしたが蘭ちゃんに説明されてしまった。この赤メッシュ、なんてことを......。

 

「そういうことでしたか。葵さん、応援してますよ」

「ありがとうございます。このことはつぐには言わないで下さいね!」

 

 わかりました日菜には言わないでおきます、紗夜先輩はごちそうさまでしたと言って会計を済ませて店を出た。それ以前に日菜先輩絶対知ってるだろうな。うん、嫌な予感しかしないな。

 

「なんか余計なことしちゃったね」

「いいよ、その内バレることだから」

「というかあの野菜ジュースみたいなの、湊先輩だったらどんな反応するのかな?」

「湊先輩なら一発で気絶するのかもね。あれは飲むものじゃないわ、て言うかも」

 

 あの人ならそうかもね、と蘭ちゃんは言った。今井先輩達でも言いかねないな。でもあれは野菜ジュースとして出すのもアリかもしれないな。また出したら紗夜先輩に言われるかもだからやめておくか。

 

 

――うん、あれはお蔵入りが正解だな。

 

 

 しばらくして姉さんが 戻ってこないと思って厨房を見たら姉さんが気絶していたそうだ。どうやらあのジュースを処理しようと飲んだら気絶した、とのことだ。あれは危険すぎるな。

 

 

▼▼▼▼

 

 

 夏休みに入り、あたしは今日も喫茶店に行く。普段はつぐみの所でのんびりするけど、たまには葵の所でもいいかなと思ってしまう。

 

 それにしても葵はいつになったらつぐみと付き合うのだろう。いつまでもあんな雰囲気を見せられたらあたしの胃がもたない。全く、あんなものを見せられてるあたしの気持ちを考えてほしい。巴も「アタシはもう駄目だ、後は頼む」なんて言ってダウンしてる。

 

 

――まあ、あれは危険すぎるよね。

 

 

 喫茶店に入ってやっと休めると思ったその時、湊先輩の姿が目に入った。あの人優雅にコーヒー飲んでるけど、明らかに角砂糖入れてるよね?20個入れてるとしたらそれはタピオカのレベルだ。

 

 あたしもひまりに誘われてタピオカを飲んでみたけど、なんか甘すぎたとしか言い様がなかった。流行ってるみたいだけど、あれってどこがいいんだろう?あたしにはわからないや。

 

「あら美竹さん、ごきげんよう」

「こんにちは湊先輩。ごきげんようなんて似合わないですよ」

「言ってみたかっただけよ、私もたまにはこのように振る舞いたい時もあるのよ」

 

 言ってみたかっただけって、似合わないなぁ。コーヒーが苦手な人には言われたくないよ。つぐはブラックは駄目だけど、ひまりはコーヒーは飲める。あれは最初見たときは意外だなって思った。゙あのひまり゙が飲めるなんて、明日は雨だなって思った。

 

 澪さんは昨日気絶してから寝込んだらしく、今日は休みだ。そのせいか緊急で深雪さんがシフトに入ったそうだ。「自分の作ったメニューで気絶するなんて情けない」と愚痴ってたようだ。

 

「湊先輩、本当にコーヒー飲めないんですね」

「なんのことかしら?私がいつコーヒーを飲めないなんて思ったのか、聞きたいわね」

「私は見ましたよ?入った瞬間に湊先輩がコーヒーに角砂糖を入れていたところを!」

「っ!?」

 

 あ、動揺した。これは図星だな。これであたしは湊先輩に勝った。

 

「美竹さんこそ熱い物は駄目だったはずよ。私は知ってるわ、美竹さんが猫舌であることをね!」

「な、なんのことですか?あたしは猫舌じゃないですよ?」

「じゃあどうしてそんなに動揺してるのかしら?怪しいとしか思えないのだけれど......」

 

 バレるはずがない!湊先輩にあたしが猫舌であることはバレてないはず!そもそもあの時ファミレスに居たときに湊先輩はいなかったはず!

 

「じゃあ聞きますよ。その時湊先輩はどこに居たんですか?」

「その日は確かファミレスにいたわね。予定の打ち合わせをしていた時だったから......。もしかして美竹さん」

 

 

――貴女、ファミレスに居たわね?

 

 

 湊先輩はドヤ顔で言った。

 

 うん、終わったね。負けを認めるしかないね。これは詰んだとしか言い様がない。

 

「えぇ、ファミレスに居ましたよ。それがどうしたんですか!負けを認めますよ!」

「ふふ、甘かったわね美竹さん。私に勝てると思うなんてまだまだね」

 

 あたしは湊先輩に負けてしまった。だけど、負ける訳にはいかない。ここで負けたとしても今度はライブで勝ってやる!というか思ったけど、この競い合いはなんだろう?自分でもバカみたいだなあって思ってしまう。




後半が意味不明の回になりましたが、私にはこれが限界です


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バナナに恨みを込めてシェイク、混沌とした喫茶店

バナナの日なので、息抜きに書きました


 今日は八月七日、バナナの日だ。

 

 前回姉さんが決戦兵器を作ったが、紗夜先輩によって世に放たれることはなくなった。しかし、今度は母さんがやらかした。

 

 バナナシェイクを試作で出したのだ。しかし、問題はその時の表情だ。なんでも、恨みを込めてたと気絶から復帰した姉さんが言ってたようだ。

 

「アオ君、真衣さん何かあったの?」

「僕に言われてもわからないよ。というかつぐ、いつからいたの?」

「え?開店前からいたけど、駄目だった?」

 

 いてくれるのは嬉しいけど、もしかして姉さんの仕業か?姉さんには感謝しないといけないな。そしてつぐが僕のことをアオ君と呼んでいるが、これはつい最近のことだ。

 

 まさかつぐが僕のことを渾名で呼ぶなんて誰が予想したか。いや、僕も予想出来なかったけどね。

 

「真衣さん、顔怖いんだけど……」

「何のことかしら?私は至って普通ですよ?」

 

 

――いや、普通じゃないからね!?

 

 

 どうしよう、今日は休みだからいいけど、こんな顔お客さんには見せられないよ。あ、姉さんがなんか言ってる。何だろう?

 

「葵、ここは私が何とかするからつぐみちゃんと出掛けて来ていいよ」

「いいの?姉さん一人で何とかなる?」

「その時は深雪呼ぶから問題なし!」

 

 うわぁ、この人こんなことのために深雪さん呼ぶんだ。深雪さん、うちの恋愛脳(バケモノ)がごめんなさい。そして御愁傷様です。

 

 僕はつぐを連れて出掛けることにした。姉さん、本当にごめん!あとは頼んだよ!

 

 

▼▼▼▼

 

 

 よし、葵は出掛けたね。あとは深雪を呼ぶだけ、深雪とお父さんで止める、ホントに大丈夫かな?こんな所に葵とつぐみちゃんがいては二人の恋路を邪魔してるも同然だ。

 

 二人はお互い渾名で呼び合っている、ということは距離は近い。そんな状態でここにいては駄目だ。私は祈っている、二人が結ばれるって信じてる。

 

「もしもし深雪?頼みたいことあるんだけどいいかな?」

「何?また起きたの?真衣さんバナナの日嫌いだったっけ?」

 

 そう、お母さんはバナナの日が嫌いなのだ。それは何故かというと……。

 

 

――胸が小さいからだ。

 

 

 色々とヤバイ理由だが、お母さんはそれが原因でバナナの日を嫌っていた。最近ではタピオカチャレンジなるものが流行っているが、そのチャレンジがお母さんのバナナの日嫌いを悪化させた。

 

 要するに、巨乳に恨みがあるというわけだ。だがお父さんはあまり気にしていないようだ。

 

 しばらくして深雪が店に入ってきた。深雪、本当にごめんね。私は心の中で深雪に謝った。

 

「休みの中本当に済まない深雪君」

「いえいえ大丈夫ですよ滋さん。澪から報酬があるって聞きましたから!」

 

 そう、今回お母さんを止めるということには報酬がある。その報酬は美咲ちゃんの盗撮写真だ。

 

 盗撮写真の内容はテニスをしている所や授業を受けている姿、その他諸々だ。こんなこと紗夜にバレたらおしまいだけど、それに関しては弦巻さんが協力してくれたから問題ない。証拠は隠滅してあるから大丈夫だ。

 

「ありがとね澪。奥沢さんが妹になってくれないのなら写真だけでも充分よ!」

「深雪、あんた美咲ちゃんのこと好きすぎるでしょ?さすがに引くんだけど……」

 

 なんだろう、深雪を呼んだのはまずかったかもしれない。下手したら深雪が暴走するかもしれないし、はぁこなことなら美咲ちゃんを盗撮しなきゃよかった。美咲ちゃん、ごめんね。

 

 お父さんはなんかバリツやろうとしてるし、それってシャーロックホームズだよね?いつまで紳士と思い込んでるの?いい年した大人が何をやってるのやら……。

 

 とまあこんな混沌とした状況、お母さんはニコニコした顔で半ギレ状態、深雪は暴走寸前、お父さんはバリツしようとしてる。私はどうしたらいいんだろう。

 

 

――はぁ、もう滅茶苦茶だよ……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 




意味不明な回になってしまった
投げやりですが、私にはここまでしか書けません
次は葵とつぐみメインですのでお楽しみに


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アツアツ未満なお二人さん、夏の雷にご用心

予定通り葵とつぐみメインです
夏の雷は怖いです



 夏休みに入って早くも九日経つ。今日は八月九日、この時期になるとお盆休みに入る。でもうちの喫茶店はお盆休みに入っても営業はする。理由は父さん曰く、休みは欲しいがお客さん達がこんな暑い中でも来てくれてるんだ。そうなると休む訳にはいかないよ、とのことだ。

 

 そして僕はというと、今日も休みだ。昨日母さんが情けないところを見せてしまったということで休んでいいよと言われた。巻き添えを喰らった深雪さんも休みを頂いたそうだ。

 

 今日ニュースを見たところ、天気は晴れ後曇りと言っていた。大丈夫だろうか。夏は雷が多いと聞いているけれど心配だ。蘭ちゃんからつぐは雷が苦手だって言ってたっけ……。

 

「つぐに何かあったらまずいよな、僕が側にいてあげないといけない」

「私に何かあったらって?」

「何かあったらって、まぁ色々だよ。……へ?」

 

 僕は違和感に気づき後ろを振り向く。すると目の前にはつぐがいた。ちょ、今の聞こえてたのか!?ここは誤魔化さなきゃ!

 

「つ、つぐ!?」

「おはようアオ君!待たせちゃったかな」

「お、おはようつぐ。今来たところだから大丈夫だよ」

 

 つぐが僕のことを見ている。よく見ると可愛いな、とか言いそうになるけどそんなこと言ったら恥ずかしくなってしまう。

 

 なんて言ったらいいんだろう。何を言えばいい?天気のことで考えてたんだよって言うか、それとも……。

 

 

――ああもう、どうにでもなれ!

 

 

「そういえばさっき何か言ってなかった?私に何かあったらとか言ってたけど……」

「な、何のことかな?」

「惚けても無駄だよ。全部聞いてたからね」

「……いつから聞いてたの?」

「最初からだよ。実はずっとアオ君の後ろにいたんだ!」

 

 えぇ……。そんな怖いこと笑顔で言わないでよ。てか後ろって、つぐそれストーカーだよ。さすがにそれは引くよ。

 

 まぁ実を言えばつぐとは待ち合わせをしたわけではない。僕が公園のベンチで座っていただけなんだ。それをつぐが後ろでずっとスタンバってた、そんなことだと思うな。

 

「ところでつぐ、何で僕の後ろにいたの?」

「アオ君がベンチに座ってたからかな。驚かせようと思ってね」

 

 

――やっぱりな。つぐのことだからこうだと思ってたよ。

 

 

▼▼▼▼

 

 

 私はアオ君の後ろで驚かせた?みたいなことをして二人で散歩をすることにした。そういえばアオ君、なんで私に渾名で呼んでほしいって言ったんだろう。

 

「ねえアオ君」

「どうしたのつぐ?」

「気になってたんだけど、アオ君ってなんで渾名で呼んでほしかったの?」

 

 この前アオ君と電話をしていた時、今度から渾名で呼んでほしいと言われた。理由は教えてはくれなかったけど、今なら教えてくれるかもしれない。どんな理由なのかと私は気になってアオ君に聞いた。

 

 聞いた途端アオ君が人差し指で頬を掻いた。これはもしかして照れてる?そんな感じに見えるけど、こうなると恥ずかしいっていうくらいの理由かもしれない。

 

「それって……言わないといけないよね?」

「言わないと駄目……かな。何でなのか気になるし、余程のことじゃなきゃ言わなくてもいいし……」

「いや言うよ。えっと理由はね、僕も渾名で呼ばれたかったんだ」

 

 渾名で呼ばれたかった、それがアオ君が渾名で呼んでほしかった理由だった。アオ君にしては珍しい、でもなんでかな?もう少し聞いてみよう。

 

「呼ばれたかった?何でそう思ったの?」

「つぐが羨ましかったからだよ」

「羨ましい?」

「つぐは自分から渾名で呼んでくれって言ったよね?僕は恥ずかしいからその勇気は出せなかったんだ。それで僕も呼んでもらいたいなって思ってね」

 

 アオ君はそう言って恥ずかしがっているのを隠そうとして私から目を逸らした。アオ君って前々から思ってたけど、可愛いところもあるんだな。渾名で呼ばれること、それは私も恥ずかしかった。

 

 私は自分からつぐって呼んでほしいと言った。アオ君勇気を出して自分から言った。よく考えるとそんな恥ずかしいことを言えたのはある意味凄いなと思う。

 

「アオ君、屈んでもらっていい?」

「いいけどどうしたの?」

「アオ君よく頑張ったね」

 

 私はアオ君の頭を撫でた。身長差があるから屈んでもらわないと撫でられない。恥ずかしがってまでやったんだ、そんなアオ君にはご褒美をあげないと……。

 

「つ、つぐ!?なんでこんなこと……。どうしたの急に?」

「アオ君がここまでやったんだからさ、その……私なりのプレゼントかな?」

「それを言うならつぐだって!つぐだって渾名で呼んでほしいって言ったじゃん」

 

 

――ずるいよ、そんなことするなんて。

 

 

 アオ君は照れながら言った。アオ君、私はそんなアオ君が好きだよ。なんて、こんなこと口には出せないな。もし出したらアオ君はどんな反応をするのだろう。気になるけど、それは付き合ってからにしようかな。

 

 

▼▼▼▼

 

 

 散歩をしてから四時間。この時間の間に商店街のやまぶきベーカリーに寄ってパンを買おうとしたが、中にはモカちゃんがいた。モカちゃんからは「アツアツですなー」とからかわれ、山吹さんからも「今日天気悪いから雷に気をつけてね」と言われた。

 

 ここまで噂になってるなんて、早くつぐに告白した方がいいのかな?つぐは僕のことが好き、それは五月の時にわかった。じゃあつぐは気づいているのか、それが問題だ。

 

 僕とつぐは昼食を済ませ、公園に入りベンチに座った。この公園はさっき僕がいたところだ。ということは戻って来たのか。僕はつぐの様子を伺う、少し疲れてるみたいだ。大丈夫かな?

 

「つぐ疲れてない?足とか大丈夫?」

「だ、大丈夫だよ。私は平気だから……」

「嘘は駄目だよつぐ。本当は疲れてるでしょ?」

「……はい。疲れてます」

 

 やっぱりな。つぐは無理をすることが多いから心配な部分がいっぱいある。頑張り屋なのはいいけど放っておけない、それはつぐの良いところであり、悪いところでもある。それは僕がフォローしていかないと駄目だ。

 

 それにしても天気が悪いな。雷が鳴るかもしれない、つぐを早く家に帰してあげないとまずいな。

 

 その時、ゴロゴロと雷の音がした。悪い予感が的中した。こんな早く鳴るなんて、タイミングが早すぎる。

 

「きゃあ!」

「つぐ!?」

 

 つぐが僕の袖を掴んで怯えている。蘭ちゃんの言ってたことは本当だったんだ。どうしよう、こうなってくると雨も降るかもしれない。降る前に帰してあげないと!

 

「アオ君……」

「つぐどうしたの?」

「今日は一緒にいていいかな?」

「一緒に?どうしてそんな……」

「今日は帰りたくない、アオ君と一緒にいたいから。こんな理由だけど駄目かな?」

 

 つぐがこんなことを言うなんて……。そうなるとつぐのお母さん達に連絡をしないといけない。でも着替えとかはどうする?……いや、今はこんなこと考えてる場合じゃない。

 

 それにつぐは雷に怯えてるせいか涙目になってる。そんな状態で言われたら断れない。狙ってやってるのか、それとも無意識なのかどっちなのやら。

 

「わかった。今日だけだよ?」

「ありがとアオ君。ごめんね無理を言っちゃって」

「いいよ。つぐが困ってるのなら放ってはおけないよ。行こうか」

 

 僕はつぐの手を掴んで家まで走ることにした。強引に掴んでしまったけど、つぐがどこにも行かないようにするためだ。つぐ、ごめんね……。

 

 

 




一日遅れですが、昨日で執筆活動半年を迎えました
自分でもここまで続くなんて思ってませんでしたが、これからも頑張っていきますので、今後ともよろしくお願いします!


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気まずい空気、少女の告白は雷に遮られる

雷が鳴ってる時は家に籠りましょう


 僕は雨が降りしきる中、つぐの手を掴んで走って家へと帰った。つぐが風邪を引かないように全力で走った。

 

 途中でくしゃみが出ちゃったけど、僕は風邪を引いていないと自分に言い聞かせるように急いだ。裏口から家に入り、すぐに姉さんを呼んでタオルを用意するように言った。

 

「おかえり葵……ってつぐみちゃん!?どうしたの二人とも!?」

「ごめん姉さん、途中で雨降っちゃって濡れたんだ。あとタオル用意して!つぐが濡れちゃったから!」

「わかった。その様子だと訳アリみたいだね」

 

 姉さんはすぐに洗面所に向かってタオルを取りに行った。僕はつぐに靴を脱ぐように言って自分の部屋に案内した。

 

「お、お邪魔します……」

「入ってつぐ、さっきは強引に手掴んでごめんね。痛かったよね?」

「大丈夫だよ。アオ君が離さなかったからそれでいいよ。あの時のアオ君カッコよかったから

 

 ん?何を言ったんだつぐは?まぁいいか。怪我はなかったから大丈夫だな。とりあえず毛布肩に掛けてあげようかな。

 

「お待たせー持ってきたよ葵……」

「ありがと姉さん」

「あ、お邪魔だったね。ごゆっくり二人とも!」

「ちょ、姉さん待って!」

 

 姉さんはすぐにドアを閉めて出ていった。どうしよう、つぐが黙っちゃった。ああもう気まずくなっちゃったじゃん。

 

 つぐが寒がってる、早く髪拭いてあげなきゃ!風邪を引いたら僕の責任だ。あと毛布も掛けないといけない。

 

 僕は姉さんから渡されたタオルでつぐの髪を拭く。そうだ、毛布を掛ける前にシャワーを貸してあげないとまずいよな?

 

「アオ君、髪拭いてくれてありがと」

「いいよお礼なんて。つぐ寒いでしょ?シャワー浴びて来たら?」

「いいの?」

「全然いいよ、僕は待ってるから。つぐ、何か飲みたい物ある?」

 

 ホットミルクが飲みたいかな、とつぐは言った。僕はつぐを浴室に案内するために部屋を出る。浴室に案内した後、つぐはシャワーを浴びるために浴室に入り、僕は暖かい飲み物を入れて待つことにした。

 

 

▼▼▼▼

 

 

 アオ君に髪を拭いてもらうなんて全く予想してなかった。気持ち良かったけど髪を拭くの慣れてるのかな?私はまだアオ君のことよくわかってないんだ。そんなことを思うと悔しいと感じてしまう。

 

 アオ君は私の想いに気づいてるかな?もうこのまま告白してしまおうかと迷ってしまう。それが出来たらどれだけ楽になれるのか、私は何でこんなに焦ってるんだろう。もう少し落ち着かないと駄目だな。

 

 私はシャワーを浴び終えて浴室から出た。体は暖まっても寒気はする、早く拭かないとまずいかな。ここで風邪を引くとアオ君に移っちゃう、それだけは気を付けないと。私はそう思いながらアオ君の部屋へ戻った。

 

「お待たせアオ君」

「おかえりつぐ、ホットミルク入れといたから暖かい内に飲んで」

「ありがと。アオ君ってお家だと雰囲気違うんだね」

 

 そうかな?とアオ君は言った。あれ?そういえば私、男の子の家に上がるのって初めてだよね?それも好きな人の家、これって運命かな?そんなことを思うと恥ずかしくなる。

 

 今のアオ君は濡れていたせいか着替えていたみたいで、さっきとは服装が違っていた。今の服装はTシャツにジーパンだった。ジーパンは別みたいだ。髪は拭いた後はあるけど若干濡れていた。なんかカッコよく見える。

 

「アオ君、カッコいいね」

「つ、つぐどうしたの?」

「あれ、私口に出してた!?」

「うん、口に出てた。気づかなかった?」

 

 全然気づかなかった。やっちゃった、やっちゃったよ私!確かにアオ君の言う通りだ。私無意識に口に出してたんだ。

 

 アオ君は顔を赤くしながら目を逸らしていた。もしかして嫌われちゃったかな?嫌われてたらどうしよう……。

 

「……つぐも可愛いよ」

「アオ君!」

「ごめん!何か言った方がいいかなって思ったというか、何て言ったらいいかわかんなかったから……」

 

 さらに気まずくなっちゃった。今は二人きり、ここでアオ君に告白してしまおうかなんて思っちゃうけど、どうしたらいいかな?

 

 

▼▼▼▼

 

 

 この空気、どうしたらいいんだろう。何とかしないといけない、つぐと話をしないといけない、そんなことを思っているけど話題が全く思い付かない。外を見ても未だに雨は降っている、雷は少し収まって来たけどまた鳴るかもしれない。

 

 姉さん達にはつぐが泊まることは言ってある。言った瞬間に皆からグッド、頑張ってこい!なんて言われたけど、さすがにこの状況だと難しいと思う。

 

「あ、あの!」

 

 僕とつぐの声が重なった。これは先につぐに譲った方がいいな。

 

「アオ君お先にどうぞ」

「いや、つぐが先でいいよ」

「わ、わかった。アオ君伝えたいことがあるんだけどいいかな?」

 

 伝えたいこと?何を言うんだ?告白じゃないよな……?

 

わ、私ね……。アオ君のことが……

 

 その時、雷が鳴った。つぐは悲鳴をあげて直ぐ様僕の腕に抱き着いた。ちょっと待って、なんか当たったんだけど!?何なのこれ!?

 

 つぐは腕を絡めて僕を離さないように抱き着いていた。相当怖いんだ、ここは僕か側にいてあげないといけない。

 

「大丈夫つぐ?」

「大丈夫だよ。ごめんね急に抱き着いて」

「いいよ、つぐが怖がってるんだ。しょうがないよ、あと何か言わなかった?」

「さっきのこと?ああ、何でもない!何でもないから!」

「そう……」

 

 僕はそれしか言えなかった。何かを言おうとしていたのは確かだ。でもその言葉は聞こえなかった。

 

 

――これは聞かない方がよさそうだよな。

 

 

 僕はそう感じ、つぐがさっき言おうとしていたことを聞かないことにした。今は側にいてあげよう。聞いたとしても話を逸らされるに違いない。

 

 

▼▼▼▼

 

 

 夕飯をご馳走してもらい、夜になった。雷は収まり、雨は止んでいた。今はアオ君と一緒に寝ている。私が側にいたいと、離れたくないと無理を言って入れてもらったからだ。

 

 私はさっきアオ君に告白しようとした。私は何であんなことを言おうとしたのか。アオ君を取られたくなかったから?早く彼女になりたかったから?

 

 焦りすぎたのかもしれない。少しずつアオ君のことを知ってからがいいんだ。アオ君と会ってから四ヶ月になる。

 

「アオ君起きてる?」

「……」

「寝てる……よね」

 

 アオ君はすやすやと寝ていた。さっきのこともあったから疲れてるのかもしれない。アオ君は私のこと好きなのかな?こんなことを思うなんて、私って重い女だな。

 

 アオ君への告白はまた今度にしよう。早とちりして上手くいかないで別れよう、なんてなったら水の泡だ。そうなったらおしまいだ。

 

 だから私はアオ君のことをもう少し知ってから告白しようと思う。その方がお互いのためになる。

 

 だから――

 

 

――アオ君、待っててね!

 

 

 

 

 




つぐみの告白は不発に終わりました
告白はいずれまたやることになります


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花火大会の告白、想いは伝わるのか

つぐみの告白がキャンセルされるのなら葵もキャンセルされる


 あの時つぐは何を言おうとしてたんだろう。僕はつぐを泊めた日からつぐが言おうとしていたことが頭から離れなかった。

 

 今日は花火大会だ。僕は勇気を出してつぐを誘った。アオ君と一緒に見たいとつぐは言ってくれたけど、その時の蘭ちゃん達はニヤリとしていた。僕がつぐのことを好きなのはバレているからニヤリとしたんだ。楽しんでいることが目に見えている。

 

 僕はこの花火大会でつぐに告白しようと思っている。僕は相当焦っていた。つぐが僕のことを好きなのは知っている。けれど、このままでいいのかって最近思うようになった。

 

 このまま付き合わないで終わるのか、想いを伝えずに時間は過ぎていくのか、そんなことはしたくない。僕はつぐに一目惚れしたんだ。その時から僕の初恋は始まったんだ。

 

「今日で関係を変えよう、もう嫌なんだ……。告白出来ないまま終わるなんて、僕はそんなの嫌だ」

 

 今日の花火大会で僕とつぐの関係が変わる、それはまだわからないことだ。告白が出来たらつぐは何て言うのだろう。僕はその先が怖かった。

 

 ふう、僕は息を吐いて高鳴る心臓を落ち着かせた。もし告白が出来なければ僕とつぐの関係は一方通行のままになる。だから勇気を出してつぐに想いを伝えよう。

 

 

▼▼▼▼

 

 

 私は駅前でアオ君が来るのを待っていた。あの時私は……アオ君に好きって言おうとしていた。もしあそこで私とアオ君が付き合えていたら恋人になっていたのかもしれない。

 

 でも告白出来なければまた機会を窺うしかない。私が先か、アオ君が先か、どっちが先に想いを伝えるのか、それはわからない。

 

 今日の花火大会は私とアオ君の二人で行くことになっている。他の皆は用事があるとのことで行けなかった。きっと私とアオ君を二人きりにしようって考えているのかれない。私の予想だけど……。

 

 今日は気合いを入れて浴衣を着ることにしたけど、アオ君何て言うかな?不安しかないけど、似合ってるって言ってくれることを祈ろう。

 

「つぐ……つぐ!」

「は、はい!……ってアオ君!?」

「遅くなってごめんね。浴衣どれにしようかで遅くなっちゃってね、連絡入れて無かったよね?」

「大丈夫、私も今来たところだから」

「そうなんだ。でも遅れてごめんね」

 

 アオ君は片目を瞑り、手を合わせて謝った。本当は早くに来ちゃったけど、ここはアオ君に合わせよう。それにしてもアオ君、黒の浴衣にしたんだ。似合ってるし、カッコよく見える。

 

「そういえばアオ君、浴衣似合ってるね」

「あ、ありがと……。その、つぐも似合ってるよ」

 

 私とアオ君は互いに着ている浴衣のことを褒め合い、二人して顔を赤くしてしまった。男の子に言われるなんて初めてだからどうしたらいいかわからないよ。

 

 いつまでもここにいたら時間が無くなっちゃう。私はアオ君と電車に乗り、花火大会の会場へと向かった。電車に乗るのは五月の旅行以来だ。あの時のことを思い出す。あの時はアオ君の肩に頭を乗せて寝ちゃってたんだっけ?

 

 思い出すと恥ずかしくなる。アオ君、どんな反応してたんだろ……。気になるけど聞かない方がいいかもしれない。聞いたらアオ君が悶えるかもしれない。

 

「やっと着いたね」

「そうだね、どのくらい歩いたかわからないや」

 

 花火大会の会場にはいくつものの屋台があった。射的や金魚すくい、綿菓子、焼き蕎麦等の屋台で、花火大会というよりは夏祭りそのものだ。花火までは時間あるけど、どこから回ろうかな?

 

 私はウズウズしていた。アオ君と初めての夏祭り、もとい花火大会。どこから回ろうか、どんな事が起こるのか、私は楽しみで仕方なかった。

 

「楽しそうだねつぐ、何かあったの?」

「ううん、何でもない!ど、どこから行こうか!?」

「あはは、落ち着いてつぐ。つぐの好きなようにしていいよ」

 

 私は落ち着くために深呼吸をした。少しはしゃぎ過ぎたかもしれない。アオ君、嫌そうにしてるかな?なんかまずいことしたなぁ。

 

 私とアオ君は最初に綿菓子の屋台に向かった。綿菓子を食べていた時に頬っぺたに綿がついたけど、アオ君にハンカチで拭いてもらった。その時のアオ君は微笑んで私を見つめた。恥ずかしい、そんな表情で見られたら余計に恥ずかしくなるよ。アオ君ってキザな所あるなぁ、ズルいよその顔は……。

 

 

▼▼▼▼

 

 

 そろそろ花火が上がる時間になる。僕とつぐは屋台を回った後、二人で花火がよく見える場所に向かった。この場所ならよく見える。

 

 周りは静かで、ここには僕とつぐしかいない。つまり二人きりだ。告白するにはうってつけの場所だ。今回を逃したらおしまいだ。

 

「座ろっかつぐ」

「うん……」

 

 僕とつぐはベンチに座り花火が打ち上がるのを待つことにした。少し気まずい、僕は固まってしまった。どうしよう、一瞬のことなのに頭が真っ白になっちゃった!固まっただけなのに、どうしてこんなことになるんだ!?

 

 つぐに好きだって伝えたい、けれどそれができない。僕にとっては人生初の告白だ。バリスタ一筋に生きてきた僕が恋愛を経験して告白するってなってるのに、どうして僕は告白できないのだろう。

 

 しばらく固まっていると花火が打ち上がる音がした。つぐは驚きつつも綺麗な表情で花火を見ていた。僕はつぐの横顔に見惚れ、告白することさえも忘れていた。

 

「綺麗だねアオ君!」

「そうだね……」

 

 僕はそれしか言えなかった。こんな自分を殴りたい。僕は情けないと、つぐに好きと言えなかったことを……告白することがこんなに難しいことなのかと痛感した。

 

 あっという間に花火大会は終わった。僕とつぐは電車に乗り、自分達の家へと帰路を進めた。その時の僕達はずっと無言のままだった。

 

 

▼▼▼▼

 

 

 私とアオ君はずっと静かなままだった。こんな雰囲気になったのはきっと私のせいかもしれない。アオ君のことを気にせず自分だけ花火が打ち上がる瞬間を楽しんでいた。

 

 せっかくアオ君との距離を更に縮められると思っていたのに……初めての夏祭りを不意にする、そんなことをするなんて、私はなんて罪な女なんだろう。

 

 私の中ではもう我慢出来なかった。アオ君ともっと一緒にいたい、アオ君と付き合いたい。そんな想いが私の心を支配した。いつまでもこんな一方通行な関係は嫌だ。気付いていた時にはアオ君の浴衣の袖を掴んでいた。

 

「……どうしたのつぐ?何かあった?」

「アオ君、今日泊まっていいかな?」

「え?どうしたの急に……どうしてそんなことを……」

 

 そんなの決まってる、アオ君と一緒にいたいからだ。ここまで不意になるのならいっそのこと泊まろう。泊まってでもアオ君と一緒にいよう。

 

「一緒にいたいから、じゃ駄目かな?」

「つぐ……。そんな事言われたら断れないよ」

 

 こうして私はアオ君の家に泊まることになった。これで二回目だ。アオ君と私は無言のまま喫茶カーネーションへと向かった。

 

 澪さん達にも私が泊まることを伝えたようだ。どうやら連絡したみたいですぐに納得してくれた。ここまで強引にやるなんて、私何してるんだろう。けど、ここまでやらないと一緒にいられない。

 

 そして私はあることを決めた。この日でアオ君に告白すると。あの時はタイミングが悪かったけれど、今ならやれるかもしれない。

 

 私の中で覚悟は出来た、と自分でも気づかないくらいに私の心は昂っていた。それが何故かはわからない。

 

 




次で二人の関係は変わります


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一目惚れから始まった恋、二人を結ぶ架け橋

急展開になりますが今回で二人付き合い始めます
そして第一部最終話です


 つぐが僕の家に泊まることになった。理由はもう少し一緒にいたい、とのことだった。それは僕も同じだ。さっき告白出来なかったけれど、つぐが泊まっている間ならチャンスだ。まさかチャンスが二度もあるなんて想定外だった。

 

 そう、この日なら……告白出来るかもしれない。けどタイミングを伺おう。今度は逃さないようにしよう。つぐが突然泊まることになったから姉さんの服を貸すことになった。

 

 夕飯も済ませ、僕とつぐは部屋で残りの時間を過ごすことにした。今は想いを伝える時じゃない。今日の月は満月だった。何の偶然なんだろう、今日が満月だなんて、まるで僕達を見守っているみたいだ。

 

「ごめんねアオ君、ここまでしてくれて」

「いいよ。実はね、僕もつぐと一緒にいたかったんだ」

「そう……なの……?」

 

 つぐは唖然とした。そりゃそうだ、一緒にいたかったなんて言ったら誰だってこうなる。もし同じ事を言われたら僕だってそうする。

 

 とりあえずどうしようか。お風呂は夕飯前に済ませちゃったし、後は時間になるまで過ごすだけだ。それまでに想いを伝える。僕に出来るだろうか……。

 

 

――いや、出来るかどうかじゃない。やるしかないんだ!

 

 

 ここで逃げたら駄目だ。逃げたらつぐに告白出来なくなる。だから、やるしかない。無理でもいい、砕けてもいいからちゃんと好きだって言わないと駄目だ。

 

「そういえばアオ君、チョーカーまだ付けてたんだね」

「ああこれ?つぐに貰ったんだからさ、付けない訳にはいかないよ。でも寝てる時とかは外してるけどね」

「そうだよね、じゃないと首絞まっちゃうよね」

 

 こんな何気ない会話でも、楽しく感じた。つぐと一緒にいられる、それだけでも僕の心は満たされた。十分過ぎるくらいに、安心させてくれるかのように満たされた。

 

 

▼▼▼▼

 

 

 私はアオ君が淹れてくれたコーヒーを飲んだ。凄い、言えることはそれだけだった。滋さんに認められたって前に聞いたけど、さすがはバリスタを目指してるだけある。アオ君はどんな想いで淹れてくれたんだろう、せっかくだから聞いてみようかな。

 

「アオ君はどんな想いでコーヒーを淹れたの?」

「どうやって淹れたかって?それは……何だろう、色んな人に味わってほしいからかな」

「味わってほしい?」

「最初はね凄く緊張したんだ。僕の淹れたコーヒーは美味しいって言ってもらえるか心配だったんだ。昔は不味いって言われてたけど、今は美味しいって言ってくれてる。僕はそれだけ言ってくれれば嬉しいし、バリスタを目指してよかったなって思ってるよ」

 

 私はアオ君の修行の話を聞いた。バリスタを目指すようになった切っ掛けやどんなことを学んだのかとか、色んな話を聞いた。話を聞いているだけでもアオ君が本気だってことが伝わってくる。認められないとコーヒーは出していなかった、とアオ君は言った。

 

 私はアオ君に一目惚れをした。けど話を聞いて、アオ君のことを知って、もっと好きになった。アオ君は私のことをどう思ってるんだろう。これを聞くのは告白する時がいいかもしれない。今聞いてもいいけど、まだ心の準備が出来てない。

 

「ねえつぐ」

「な、なに?」

「つぐは好きな人っている?」

 

 それは直球な質問だった。まさかアオ君からそんなことを聞かれるなんて思っていなかった。全く予想してなかった。どうしよう、ここでいるよって言うか、いないって言うか、どっちを言えばいいんだろう。

 

 もしここでいると言えば、アオ君は落胆するかもしれない。いないと言えばホッとするかもしれない。私はどっちを言えばいいの?どう答えたらいいの?私はアオ君の質問に答えることにした。

 

 

――もう後戻りは出来ない。それなら答えるしかない、ここでアオ君に告白しよう!

 

「好きな人はいるよ。目の前に……」

「目の前?それって僕のこと?」

「……うん」

 

 私は頷きながら言った。とうとう言っちゃった!目の前にいるなんて言ったら分かりやすいに決まってる。現にアオ君は唖然としている。告白ってこれでよかったのかな?私の想像していた物と違うけど、付き合えるならこれでいいのかもしれない。

 

 後はアオ君がどう答えるかだ。返事次第によっては上手くいくかもしれない。どうなるかはわからないけど、まずは返事を待とう。

 

「つぐ、それは本当なの?」

「本当じゃなきゃ言わないよ。アオ君、返事を聞かせて」

 

 私はアオ君を誘うかのように言った。いつもの私じゃないみたいだ。自分で言うのも何だけど、色気を出しているような、そんな感じで聞こうとしているような気がする。こうしないと返事が聞けないと感じてやったんだ。

 

 早く聞かせて、早く私と付き合って。心の中でそんな言葉が出てくる。口に出してはいけない、出してしまったらアオ君に申し訳ない。私はアオ君の声が早く聞きたいと、早く答えが聞きたいとウズウズしていた。

 

 

▼▼▼▼

 

 

 僕は無言になっていた。つぐに好きな人はいるかと聞いた途端に目の前にいると言われた。目の前、それは僕のことだった。

 

 つぐ本人から告白染みたことを言われ、どう答えたらいいのか、どうすればいいのか迷っていた。さっき告白は出来なかったけど、今がチャンスなのかもしれない。けど、こんなあっさりした告白でいいのか?もう少し雰囲気ってものがあるんじゃないのか?

 

 考えている間につぐが近づいて来た。やけに色気が出ているのは気のせいだろうか。そんなことを思っていた時、つぐが耳元で囁いた。

 

「アオ君は私のこと好き?」

「つぐ、どうしたの!?」

「返事を聞かせて。アオ君の返事が聞きたいの」

 

 返事が聞きたい、つぐは耳元で囁くように言った。こんなことをしてまで返事を聞きたいなんて、何がつぐをそうさせるんだ?僕は考える間もなく、つぐに自分の想いを打ち明けた。

 

「好きです。つぐのことが好きです」

「ありがとアオ君、私もアオ君のこと好きだよ」

 

 何だろう、つぐに好きだって言った瞬間に心のモヤモヤが晴れたような気がする。やっと言えたっていうのかな?何かわからないな。

 

 つぐは僕の言葉を聞いて耳元から離れた。つぐの顔を見ると泣きそうな表情になっていた。まぁ僕も泣きそうになってるけど、ここで泣いたら駄目だよね。

 

「アオ君、私ね初めて会った時一目惚れしたんだ」

「それを言うなら僕もだよ。僕もつぐに一目惚れしたよ」

「そ、そうなの!?何で私なんかに……」

「それはね、つぐの笑顔に惚れたからだよ」

「私の笑顔に?」

 

 あの時店を出るときに見せた笑顔、僕の恋はそれをきっかけに始まった。始まったというよりときめいた、これが正しいかな。もしつぐと出会ってなければこの恋は始まっていなかったかもしれない。

 

 つぐに一目惚れをした理由を言うと、つぐは顔を赤くして僕に抱き着いて胸に顔を埋めた。抱き締めたくなるけど我慢しよう。今度はつぐにも理由を聞かないといけない。

 

「あの時の笑顔は僕にとっては眩しかったよ。つぐの笑顔を見てときめいて、それで好きになったんだ」

「……そ、そうなんだ。実は私も同じなんだ。私もアオ君の笑顔に一目惚れしちゃったんだ」

「つぐも同じなんだ。何か僕達似てるね」

 

 つぐの顔を見ると顔を赤くして目を逸らしていた。可愛い、こんなつぐを見れるなんて役得だ。つぐのことを好きになってよかったな。

 

「つぐ……」

「アオ君……」

 

 僕とつぐは互いに見つめ合い、引き寄せられるかのように唇を重ねようとした。でも、寸前の所で止まった。何故かというと、キスが恥ずかしいと感じたからだ。そのため、今は見つめ合うことしかできなかった。

 

「恥ずかしいね。付き合い始めたのに、キスもできないなんて、どうかしてるよね」

「それを言うなら僕だって同じだよ。初めてのことだから恥ずかしいに決まってるよ」

「キスはまた今度にしようよ。今日は一緒に寝よう」

「そ、そう……だね……」

 

 僕とつぐはベッドに入り、一緒に寝ることにした。つぐは一緒に寝ることに全く抵抗しなかった。なんか慣れてる感じがして凄いなと思った。つぐって強いんだな。

 

 

▼▼▼▼

 

 

 私とアオ君はようやく付き合えた。アオ君が私のことを好きだと知った時は凄く嬉しかった。お互いに一目惚れから始まって、同じクラスでしかも隣の席、こんな偶然は初めて経験した。まるで漫画のヒロインになったかのようだった。

 

 今はアオ君に抱き着いて一緒に寝ている。いつもは腕に抱き着いていたけど今は違う。今度は互いに真っ正面に向き合っている。向き合っているだけなのに、恥ずかしいと感じる。近くで見たアオ君はカッコよかった。好きになってしまうくらいにだ。

 

「アオ君、好きになってくれてありがとう。これからもよろしくね」

 

 私は寝ている彼に聞こえないように小さな声で言って首筋にキスをした。唇に出来なくてもこれぐらいならいいよね。私はこれでも恥ずかしい、キスだけなのにこの行動自体がとても恥ずかしい。

 

 明日から私達は恋人としての一日を迎える。蘭ちゃん達が知ったらどんな顔をするんだろう、反応が楽しみだ。

 




今回をもって第一部終了です
次から第二部となります


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本編 第二部「普通カップルの微糖並みの恋」
夏が明け、二人の恋物語は始まる


第二部、一話目になります


 八月は終わり、九月になる。そう、秋になろうとしているんだ。時間ってこんなに早く過ぎるものだったっけ?

 

 というのは置いておこう。夏休みの花火大会の時、僕の告白は未遂だった。けれど、つぐが泊まりたいと言い、寝る前に僕とつぐは告白した。互いに一目惚れだったのは驚いたけど、付き合うことが出来て本当によかった。

 

 Afterglowの皆からもおめでとうと言われ、この噂は瞬く間に店や他のバンドにも伝わった。噂はひまりちゃんが口を滑らせたのが切っ掛けで、その後に今井先輩、香澄さん、丸山先輩、そして弦巻さんへと伝わった。

 

 他の人からも祝福された。つぐも顔を赤くしてたし、僕も恥ずかしかった。まぁいい思い出になったんだ、それでよしとするか。

 

「いらっしゃいませー」

「おはよ、アオ君!」

「つぐ!来てくれたんだね」

「葵、あたしもいるんだけど……」

 

 ごめん、と僕は蘭ちゃんに謝った。付き合い始めたのはいいけど、あまり惚けすぎないようにしよう。蘭ちゃんと巴ちゃんから砂糖を吐くこっちの身になってくれって言われたんだった。危うく置き去りにしそうになった。

 

 今日は祝日、けれど客は珍しく少ない。ここまで少ないと嫌な予感がする、そう感じるのは僕だけかな?いや、父さんの手が微妙に震えてるから父さんも同じか。

 

「というか、瀬田先輩いたんですね」

「やぁ葵ごきげんよう、そしておめでとう」

「瀬田先輩、お祝いありがとうございます。ですが、何回も言われると僕もつぐも恥ずか死ぬので、控えて下さい」

 

 僕は笑顔で瀬田先輩に自重するように言った。ていうか瀬田先輩、いつの間にいたんだ?あまり気にしない方がいいかもしれない。気にしたら負けだよね。

 

 

▼▼▼▼

 

 

 アオ君のエプロン姿はカッコいいなぁ。私がアオ君と付き合い始めてからちょっと経つ。アオ君が視界に入ると、目で追ってしまう。私はそれほどまでにアオ君のことを好きになっていた。

 

「つぐみ……つぐみ!」

「な、何!?」

「葵のこと、見すぎだよ」

「だ、だって……。アオ君がカッコいいから、つい見ちゃうんだよ」

 

 そう言うと、蘭ちゃんは引いてしまった。私っておかしいかな?まぁ一言言うと、アオ君がカッコいいのが悪い!

 

 そんなことを思っていると、アオ君がやって来た。注文したメニューが出来たみたいだ。私と蘭ちゃんはコーヒーにしたけど、何でも今回はアオ君が淹れたらしい。アオ君が滋さんに認められてから初めてコーヒーを淹れたという、どんな感じなんだろう。

 

「葵、まだ見習いなんでしょ?」

「まだ見習いだよ。父さんに認められただけだけど、今回は僕が淹れるって父さんに言ったからね」

 

 蘭ちゃんはそう聞くと、滋さんの方を見た。滋さんの淹れるコーヒーはとても絶品で、瀬田先輩も滋さんのコーヒーのためにお店に来ている。今ではカーネーションの常連になってる。

 

 私はアオ君の淹れたコーヒーを飲んだ。喉に染みる。これは何だろう、ブラックじゃない……。何の豆を使ったのかな?

 

「アオ君、これって何の豆?」

「これはグアテマラを使ったんだ。味はどうかな?」

「いいね。葵、今ならバリスタになれるんじゃない?」

「ありがと蘭ちゃん。まだ早いよ、もう少し修行しないといけないから、僕はまだまだだよ」

 

 アオ君はまだまだとは言ってるけど、私からしたらバリスタになってもいいと思う。アオ君ならバリスタになれる。私は何があっても彼を応援する。私はアオ君を信じてるから……。

 

「つぐ、味どうだった?」

「味?うん、美味しかったよ。凄くね」

「あ、ありがと……。つぐに言われると照れるな」

 

 アオ君照れるのはいいけど、それを言われると私も照れちゃうよ。何でかはわからないけど……。

 

 その後、私と蘭ちゃんは十一時までカーネーションでゆっくりすることにした。アオ君は休憩の時に私と話をしたりした。澪さんはどうやら深雪さんと買い物に行ってる、とアオ君は言った。

 

「じゃあつぐ、また明日ね、後で電話するから」

「後でね。アオ君、コーヒーありがとう!」

「……どういたしまして」

 

 アオ君は目を逸らしながら言った。お店を出る時、一瞬だったけど、アオ君の顔が赤かった。アオ君って照れ屋さんかな?

 

 

▼▼▼▼

 

 

 今日は蘭ちゃんに弄られたな。まぁつぐに会えたからいいか。それにしても瀬田先輩、いつからいたんだろ。影が薄いせいかいたことにさえ気づかなかったよ。

 

 さて、つぐに電話しようかな。つぐ、今どうしてるかな。付き合ってからの僕はつぐのことを考えることが多くなった。恋人だから仕方ないか。恋愛も大事だけど、バリスタのことも大事だ。両立出来るようにしないと!

 

 僕はつぐに電話をすることにした。出てくれるといいんだけど……。

 

「もしもし?」

「もしもし?あぁ、つぐ。今電話大丈夫?」

「いいよ。私も暇だったからさ、それに……アオ君の声が聞きたかったから……」

 

 そんなことを言うなんて、つぐってたまに予想外なことを言うなぁ。まぁ、僕もつぐの声聞きたかったから人の事は言えないか。

 

 つぐと話す内容は新メニューについての相談だ。僕は新メニューでケーキを作ることがある。大抵は母さんと姉さんが作ることが多いけど、今回は僕が作ると母さん達に言ったんだ。

 

「つぐ、それは僕も同じだよ」

「そ、そうなんだ!それで、話あるんだよね?」

「うん。実は新メニューのことで相談があってね……」

 

 僕はつぐに事の内容を話した。僕の提案は秋に流行るような物、例えば栗を使ったタルトがいいかなと考えていたが、つぐに聞いてみたところ、つぐからはモンブランにしてみない?と言われた。

 

 

▼▼▼▼

 

 

 私はアオ君から話を聞いた。アオ君は前にフルーツケーキを作ってたかな?あの時は凄く美味しかったし、あの味は今でも好きだ。そこで私はモンブランを作ってみないかと提案をした。

 

「モンブラン?どうしてまた……」

「シンプルに思い付いただけかな。実はね、私もアオ君とその新メニュー一緒に作ってみたいんだ。何だろ、初めての共同作業かな。あはは……」

「つ、つぐ!?何を言ってるの!?共同作業って、それは卑怯だよ!」

 

 

――あ、あれ?私何を言ったの?共同……作業……?

 

 私は自分の言った言葉を思い出し、顔が赤くなっていくのを感じた。何を言ってるの私!アオ君と付き合ってちょっとしか経ってないのに、まるでケーキ入刀?みたいなことを言って、これアオ君笑ってるよね?

 

 でも、アオ君は笑っていなかった。あれ、何で黙ってるの?何か言ってよ!

 

「ア、アオ君?」

「ごめんごめん。ちょっと固まってただけだよ?つぐの言ったことにはびっくりしたけど、動揺してないからね!?」

「説得力ないよ!」

 

 こうして付き合ってから初めての通話は不完全燃焼のまま終わった。私はアオ君と新メニュー を作りたい、これは本気だ。アオ君も納得してくれたし、一緒に作ってみたいって言ってくれたんだ。一緒にやる以上、私も本気で頑張らないといけない。

 

 その新メニューを作るのは明後日とアオ君は言った。最初は試作で出して、好評ならメニューに入れる。カーネーションはそういうスタイルだった。そうなると、責任重大だ。わからないことがあったら澪さんや真衣さんに聞こう。

 

「アオ君と一緒に何かをするのは初めてなんだ。だから、足を引っ張らないようにしよう」

 

 大丈夫、私なら出来る。ネガティブになったらアオ君が悲しむ。そうなったらおしまいだ。アオ君に凄いって言われたい、頼りになるって言われたい。

 

 

――アオ君の彼女なんだから、いいところ見せなきゃ!

 

 




次は葵とつぐみ、初めての共同作業となります


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初めての共同作業、新作は秋の定番

凄く久しぶりの更新


 つぐと初めての共同作業、電話でそう決めたけど、"初めての共同作業"っていう辺りで夫婦みたいに聞こえる。こんなことはつぐには言えないな。もし言ったりしたらしばらく口を聞いてくれなくなりそうだ。

 

 それにしても今日は見知った顔が何人かいる。RoseliaとAfterglowのメンバー、更に日菜先輩もいる。というか何でこんなにいるんだ?何か嫌な予感がする。

 

「ねえモカちゃん、これは一体何の集まりかな?」

「ふっふっふー。あーくん、これはねぇ新作を作ると聞いて集まったのだよー」

 

 ん?新作?もしかしてモンブランのことかな?これは僕とつぐしか知らない筈なんだけど……。僕は不審に思い、ひまりちゃんに聞くことにした。

 

 聞いたところ、つぐがうっかり言ってしまったそうだ。モカちゃんにニヤケている所を見られ、どうしたのかを聞き、電話のことを話したのだ。その後、日菜先輩の耳に入り、紗夜先輩から湊先輩、今井先輩の耳にまで入ったという。

 

 

――つぐ、何故そんなことを……。

 

 

「あっれー?葵、つぐみと二人きりになれるチャンスだったのにって思ってない?」

「そそそそんなこと思ってませんよ!?」

「すみません葵さん。台無しにしてしまって……」

「まぁまぁ葵君、チャンスはまだまだあるんだから。頑張ろうよ!」

 

 日菜先輩からの激励があったけど、決してつぐと二人きりになれるチャンスだったのにとは思っていない。それで何かあったら責任取れないし、つぐとの関係拗れちゃうよ。それだけはあってはならない。

 

 

▼▼▼▼

 

 

 私がアオ君と共同でメニューを作ることを言ったことで、蘭ちゃん達は今頃アオ君の元に行ってる。はぁ、ニヤケてただけだったのに、言わないと気を付けてたのに、結局言っちゃった。あんなに詰め寄られたら言うしかない。

 

 

――後でアオ君に謝っておこう。

 

 

 作業するんだからエプロンは必要だ。接客をやってる時の服も持ってきた。アオ君に似合ってるとか言われそうだな。実際似合ってるって言われたい自分がいる。こんな所、澪さんに見られたら色々聞かれる。

 

 私はカーネーションの裏口に着き、チャイムボタンを押した。ドアが開いた。迎えに来たのは澪さんだった。アオ君は準備をしてるかもしれない。早くアオ君に会いたい。

 

「おはようございます澪さん」

「おはよつぐみちゃん。葵は厨房にいるから準備しちゃってね。葵、張り切ってるみたいだよ」

「そうですか……。アオ君、楽しみにしてたんですね」

 

 アオ君は今回は真衣さんや澪さんの手は借りないとのことだ。澪さん曰く、つぐと一緒にやらないと意味がない。それは嬉しいけど、なんか恥ずかしい。

 

 接客の時の服装に着替え、エプロンをつける。髪型よし、顔よし。アオ君と付き合ってからの私はニヤケることが多くなっている。これだけは本当に気を付けよう。接客の時とかでニヤケたらしばらく籠りたい気分になる。

 

 厨房に入ろうとした時、何か視線を感じた。あれ、気のせいかな?一瞬モカちゃんがいたような……。私はバレないように顔をちょっとだけ出して覗いた。あ、本当にいる。友希那先輩に蘭ちゃん、しかも日菜先輩までいる。もしかしてRoseliaとAfterglow勢揃いで日菜先輩なのかな?

 

「お、おはようアオ君。あれは何かあったの……?」

「おはようつぐ。あれはまぁアレだよ。伝言ゲームがあったんだよ」

 

 アオ君に聞くと、モカちゃんからリサ先輩、そして日菜先輩、紗夜さん、という流れで伝わっていったそうだ。私のニヤケからここまで流れるなんて、なんかとんでもないことになったなぁ。

 

 

――こうなったら仕方ない、やるしかないんだ。

 

 

「とりあえずやろう。皆をビックリさせるくらいなモンブランを作ろう。よろしくねつぐ」

「アオ君頑張ろう!不束者だけどよろしくね」

「待ってつぐ。不束者って、使う場所間違えてる!」

「あっ!?」

 

 間違えた!不束者ってこれじゃあ結婚してるみたいじゃん。私とアオ君は"まだ"結婚はしないから!ってこれじゃあ結婚前提みたいになってるし!

 

 でも結婚したら私は澪さんの義妹でアオ君の妻……あ、いいかも……。

 

 

▼▼▼▼

 

 

 つぐが張り切ってる。いや、張り切り過ぎてる。たまーにトリップしたり、たまーに戻ったり、それの繰り返しだ。そんな状態になりつつも作業は進んでいる。つぐの中で何があったんだろ。

 

 これは話し掛けない方がいいかな。いや、いつ怪我するかわからない。ここは話し掛けて落ち着かせた方がいい。

 

「つぐ、つーぐ!」

「ひ、ひゃい!?アオ君、どうしたの?」

「大丈夫?トリップしたり戻ったりを繰り返してるけど、いいことでもあった?」

「な、何でもないよ!?何でもないから!?」

 

 怪しいけど、聞かない方がいい。聞いたら生きて帰れないぞ、みたいな警告が僕の心に響いた。うん、これは見なかったことにしよう。その方がお互いのためになる。

 

 作業に戻り、ようやく完成した。あとは評価を聞くだけだ。試作だけど、評価次第によってはメニューに出せる。

 

「何か今日の僕達、夫婦みたいだね」

「そうかな?そうだったら嬉しいかも」

「まぁまだ結婚は早いけどね。僕は何を言ってるんだろ」

 

 評価は美味しかった、という意見が多かった。つぐは蘭ちゃんに質問攻めされ、僕は紗夜先輩や日菜先輩、今井先輩から質問攻めを喰らった。

 

 今井先輩からはやるねー色男と言われ、日菜先輩からは結婚はいつするの?と聞かれる。紗夜先輩に至っては良いものを見させていただきましたと言われた。

 

「葵さん、羽沢さんを幸せにしてあげて下さいね。あと、イチャイチャしてるところ、目の保養になりました」

「え!?イチャイチャしてませんよ!?紗夜先輩急にどうしたんですか!?」

「葵さんと羽沢さんのラブラブが尊過ぎたので……。というのは置いといて、モンブラン、美味しかったですよ」

 

 混沌としてるけど、つぐの表情はとても幸せそうだった。一緒に作ってよかったな。今日のことは忘れないようにしよう。僕は今回作ったモンブランはレシピにするつもりだ。僕とつぐの初めて作った物なんだ。

 

 このレシピは思い出にもなる。僕はモンブランを写真に納めた。名前はまだ決めてない。でも、今思い付いた。名前はーー

 

 

ーーSweet Souvenir(幸せの思い出)




モンブラン作りが申し訳程度になったような気がする
そして紗夜のキャラ崩壊がヤバイ方向に
最後のメニュー名はスイートスーヴニルと読みます
英語とフランス語を組み合わせました


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秋の宴にてバリスタは天使に魅了される

葵、ようやくライブに行く模様


 つぐからある一枚の紙を貰った。長方形でいかにもバンドですよ、と訴えかけるような雰囲気を醸し出した紙、もといチケットだ。というかつぐ、今仕事中なんだけど……。

 

「アオ君、明日来れそう?」

「予定は空けておくよ。何度も来れなくてごめんねつぐ」

「いいよ、私はずっと待ってたから」

 

 つぐは微笑みながら言った。つぐを待たせたんだ、明日が楽しみだ。やっとつぐのもう一つの姿が見られるんだ。僕は目を細め、口元を緩ませた。

 

 数秒して目を開けると、父さんがコーヒーを入れすぎてマグカップが溢れたり、姉さんが僕を見てニヤッとしていたり、母さんがあらあら、と見守るかのような顔をしていたり、深雪さんが僕とつぐに対してグッドラックと言ってくるという地獄絵図が展開していた。

 

 恥ずかしい、僕とつぐは気まずくなり、互いに距離を置くことにした。つぐからはまた明日ね、と言われた。早く仕事に戻らないとだ。まず父さん落ち着かせなきゃ!

 

「父さん、コーヒー淹れすぎだよ!」

「すまない、葵と羽沢君の雰囲気が良かったあまりに余所見してた」

「それ僕が悪いことになってない!?」

 

 なんかあんまりだ。悪いのは父さんなのに僕とつぐが風評被害を受けている。他の人達もほっこりしてるし、紗夜先輩と日菜先輩も見てるし、余計気まずいよ。

 

 

▼▼▼▼

 

 

 練習が捗る。私は明日のライブに備えて練習をしていた。アオ君に私の姿を見せられる、それだけなのに凄く気分がいい。何だろう、まるで羽ばたいているような、身体が軽いような感じがする。

 

「つぐ、張り切ってますなー」

「何かつぐからオーラ感じるよ」

「アハハ、これはアタシ達も負けてられないな!」

「つぐみ、ツグりすぎだよ……」

 

 何か皆から引かれてるような……。そして蘭ちゃんがギャグを言ったような気がする。今の私は何でもやれそうだ。でも、無理はしないようにしよう。皆も負けてられないのか、ギターやベース、ドラムの勢いが増してきていた。

 

 これって愛の力かな?自分で言うのも何だけど、私は恋する乙女だ。アオ君にキスしてもらえればもっと気合いが入るけど、キスは恥ずかしいから今のままで充分かな。

 

 そして一曲弾き終えた。その後の私は少し固まってしまった。巴ちゃんに声を掛けられ、私は正気を取り戻した。あ、あれ?今私どうなってたんだろ?

 

「つぐみ、凄く楽しそうだったよ」

「葵君を想う愛、パワー感じたよ!」

 

 蘭ちゃんとひまりちゃんが言った。確かにアオ君ラブだけど、やり過ぎたかな?さっきの私、楽しそうだったかな?あまり覚えてないや。

 

「ていうことがあったんだ」

「そ、そうなんだ。つぐって凄いね……」

 

 練習を終え、夜アオ君と電話をして今日の練習のことを話した。アオ君からも凄いって言われるのは嬉しいな。私はまたニヤッとした。いや、ニヤニヤどころかニヘラァっとしてしまった。私、どんどんおかしくなってるような気がする。

 

 もしアオ君がここにいたら撫でられてたかもしれない。ちょっと話変えようかな。アレがどうなったかも聞いてないし、私とアオ君にとって大切な物だからね。名前は確かスーヴニルだったかな。最初はスイートスーヴニルだったけど、長いからスーヴニルにしたんだ。

 

「そういえばスーヴニルってどうなったの?」

「スーヴニルは評判良いからメニューに載せたよ。おかげで売り上げは伸びたかな。つぐのおかげだよ。ありがと」

「そんな私のおかげなんて、あれはアオ君と一緒に作ったんだし、これはあれじゃないかな?私とアオ君で上手くやれたからこそ出来たことだよ……」

「そうかな?まぁ、つぐのおかげってことに変わりないよ。ホントにありがとね」

 

 アハハ、私は苦笑いしながら時計を見た。もう寝る時間だ。そろそろ寝なきゃ、私はアオ君にバイバイ、と別れてスマホを切った。

 

 

▼▼▼▼

 

 

 カーネーションの仕事を早めに切り上げ、僕はcircleへと向かった。まだ午前だけど、混む前に行かないといけない。Afterglowは人気があるから行列が出来る可能性がある。早めに行けば前で見れるかもしれない。

 

「着いた……。凄いな、結構並んでたのか」

 

 まぁ早めに来たのは正解だ。僕は行列の中に入り、受付まで待った。待つこと約30分、途中で香澄さんと会った。ポピパの皆もいる、皆も見に来たんだな。

 

 香澄さん達と話をして時間を潰すことにした。おたえさんからはさん付けはやめていいよ、と言われた。彼女曰く、おばあちゃんみたいな呼び方だねと言われた。多分気にしてたんだろうな。僕は改めてちゃん付けで呼ぶことにした。

 

「おたえちゃん、何かごめんね」

「私は気にしてないよ。葵が呼びやすいようにしたらいいからさ」

「おたえ、半泣きしてたんじゃないの?」

「してないよ沙綾、私が半泣きするわけないでしょ」

 

 おたえちゃんが半泣きって想像出来ないな。circleで受付を終えた後、香澄ちゃんから両手を握られ、キラキラドキドキしようね、と言われた。香澄ちゃん、これからドキドキするんよ。僕はつぐがキラキラしてるところは楽しみだから。

 

 ようやく会場に入れた。立ち続けるのは辛いけどつぐのためだ。何分か経ち、辺りが急に暗くなった。これから始まるのか?ステージの方を向くと照明が点いた。蘭ちゃんが歌い始める。周りは熱気に包まれた。これがライブか……僕は雰囲気に着いていくのに必死だよ。

 

「つぐ……君は何て綺麗なんだ……眩しいよ、その笑顔」

 

 今のつぐは輝いていた。香澄ちゃんの言う通りだ。ライブをやってる時のつぐはどんな気持ち何だろう、どうして僕はもっと早く観に行かなかったのか、後悔の気持ちが出てきているけれど、今は楽しめばいいんだ。

 

 

――つぐ、今の君は最高にカッコいいよ。

 

 

▼▼▼▼

 

 

 笑顔に、楽しく、私は全力でライブを楽しむ。このライブは私にとって大事なライブだ。アオ君が見てくれている、それは私を更に高揚させる力となる。

 

 今の私はどんな顔をしているんだろう。笑っているっていうのはわかる、きっと笑顔なんだろう。それでアオ君に楽しそうだって伝わってるならいい。巴ちゃんもひまりちゃんも、モカちゃんも蘭ちゃんも……皆楽しんでる。

 

 

――アオ君、見ててね。

 

 

 弾こう、とにかく弾くんだ!これまでの練習は今日のためにある!さぁ、愛のパワーを発揮しよう!私は更に想いを込める。この想い、アオ君に届いて!

 

 曲が終わり、歓声に包まれる。汗が滴る、短いようであっという間な時間だった。弾いている間、一つ一つの音に私は想いを……魂を込めた。これが私何だってアオ君に見てもらいたい為に込めたんだ。

 

 会場に目を遣ると、アオ君の姿が見えた。茶髪で背が高いから分かりやすい。アオ君から見て私はどんな姿をしているんだろう。私から見たアオ君は穏やかに私を見てくれている。今度感想聞こうかな。

 

 ライブは……時間は更に進んだ。この瞬間を、このライブを記憶に刻むんだ。アオ君にとっては初めて弾いている時の私を見たんだ。だから、私はアオ君に好きになってもらいたい。もっと私を見てもらいたい。

 

 

――私の恋物語は始まったばかり……。アオ君と付き合ってからの恋物語を描くんだ!

 

 

 

 

 




少年はこの少女の姿に何を思うか


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バリスタ見習いは恋人を褒めて褒めまくる

感想は聞かないと満足出来ない


 Afterglowのライブから3日経った。僕は接客をしながらあの時のことを思い出す。ライブの時のつぐは笑顔だった。出会った時と同じか、またはそれ以上の笑顔だったか、比べ物にならないくらいに輝いていた。つぐの笑顔を思い出していると、モチベーションが上がってくる。

 

 僕とつぐが出会ってからもう5ヵ月か。時間ってこんなに早かったかな、こんなこと考えてもしょうがないか。今日はつぐが来るんだ。暗いままになってたらつぐに心配を掛けちゃう。

 

「いらっしゃいませ」

「おはようアオ君!」

「おはようございます葵さん」

「おっはよー葵君!」

 

 つぐと紗夜先輩と日菜先輩が来店した。そういえば紗夜先輩、つぐと一緒に来ること多いな。日菜先輩はまだわかるけど、つぐと一緒ってなると何かあったのかもしれない。

 

 僕は三人に笑顔でいらっしゃいませ、と言った。すると、つぐは笑顔で返した。何だろう、心がくすぐったいな。気のせいでは無さそうだ。

 

「ほら二人共、イチャついてない!葵も止まってないで接客しなさい」

「ごめん姉さん!さ、三名様こちらの席になります!」

「ふふっ、楽しそうで何よりね。澪さん、こんにちは。コーヒーでお願いします」

「こんにちは紗夜。コーヒーね、少し待っててね」

 

 紗夜先輩に続き、日菜先輩とつぐもコーヒーを頼んだ。姉さんは三人の注文を聞き、父さんに注文されたメニューを伝えに行った。僕はつぐに落ち着いたら戻るね、と言った。つぐは待ってるね、と言った。

 

 

――つぐ、少しだけ待っててね。

 

 

▼▼▼▼

 

 

 アオ君の仕事が落ち着くのはそんなに掛からなかった。掛かったのは15分くらいだった。紗夜先輩と日菜先輩は澪さんと話をしていた。私は待っている間、ずっとアオ君を目で追っていた。

 

 アオ君の姿を追う度に心臓がドキドキする。彼と付き合い始めてまだそんなに経ってない。経ってないけど、それでもドキドキしてしまう。理由はわからない。

 

「羽沢さん、嬉しそうですね」

「へ!?な、何のことですか!?」

「さっきから葵君のことジロジロ見てるのバレバレだよ?」

「何のことですか!?アオ君のことなんて見てませんよ!?」

 

 私は必死に誤魔化した。でも、日菜先輩にはほぼバレていた。紗夜先輩は私を見守るように見つめた。顔に出てる時点でバレてるも同然だよね……。

 

 私はアオ君を見つめていたこと、もとい目で追っていたことを認めた。待っている間、アオ君が気になっていたんだからやったことだ。多分アオ君にはバレてない筈だ。私は二人に見つめていたことを言わないで下さい、と釘を刺した。

 

 紗夜先輩も日菜先輩も笑っていた。二人して笑顔が似ているのがなんかズルい。さすが双子だなぁ。そう思っていると、アオ君がこちらに向かってきた。あ、もう時間か。

 

「お待たせつぐ。ごめんね待たせちゃって」

「いいよアオ君。全然大丈夫だから」

「ならよかった。僕もつぐに話したいことがあったからさ……」

 

 私とアオ君の間に甘いような感じの何かが漂ってきた。何だろうこの甘い感じ、暖かいような、心地いいような、嬉しいような、わからないけど、いいや。今はアオ君と話そう。

 

 紗夜先輩と日菜先輩は席を外すと言い、滋さんのいるカウンターの方の席に座った。澪さんも落ち着いたらしく、二人と話をするね、と言った。あれ、よく考えたら私とアオ君、二人きりだよね?

 

 私は緊張しつつ、アオ君と話をすることにした。ああもう、噛みそう、噛みそうだよ!

 

「あの!」

 

 

――私とアオ君、二人の言葉が重なった。あれ、デジャヴかな?

 

 

「つぐからどうぞ……」

「私は後ででいいよ。アオ君からどうぞ!」

「ありがと。話なんだけど、ライブの感想のことなんだ」

「感想?ライブの?」

「つぐにまだ言ってなかったからさ、つぐには電話じゃなくて直接伝えたいんだ」

 

 感想か……。アオ君から感想言われるのはなんか緊張する。私を褒めてほしい、私のことをもっと知ってほしい、心の奥底からそんな想いが溢れようとしていた。聞かせてアオ君、アオ君がライブで感じたことを聞かせて。私はアオ君の顔を見つめながら、心の中でアオ君に伝えるかのように言った。

 

 

▼▼▼▼

 

 

 つぐに何て言おうかな。かっこよかったよ、それとも眩しかったとか?どうしよう、つぐ僕のこと見てるよ。そんな顔で見られたらどう言おうかわからなくなるじゃん!

 

 つぐは顎を両手に置きながら期待しているかのように見ていた。まるで餌を求めるリスみたいだ。可愛いけど、今は感想を言わないといけない。

 

「えっと……今から言うよ」

「いいよアオ君、どんな感想でも受け止めるよ」

「じゃあ言うね」

 

 深呼吸をし、緊張を解す。僕はつぐの瞳を真っ直ぐに見つめて言った。さぁ言おう、つぐに僕の感じたことを!僕があのライブでつぐのことをどう思ったのか、どんな印象だったか!

 

「まず一言、綺麗だった」

「綺麗だった……?」

「うん綺麗だった。凄く楽しそうにしてたし、笑顔が眩しかったし、かっこよかった!何て言うか、可愛かったかな」

 

 僕はつぐにライブで感じたこと、つぐがどんな表情で弾いていたか、色々なことを言った。とにかくつぐを褒めちぎった。僕が言う度につぐの顔が赤くなる。周りを気にしないくらいに僕はつぐを褒めちぎった。

 

 自分の彼女を褒めるのは照れるな。でも何だろう、つぐの顔から湯気みたいな物が出てるような気がする。気のせいかな?

 

「アオ君、もう充分!充分だから!これ以上言われたら恥ずかしくなるから!」

「あ……。ごめん、言い過ぎた!」

「羽沢さん、顔真っ赤になってますね。葵さん、周りがほっこりしてるの気づいてませんか?」

 

 紗夜先輩に言われ、周りを見渡す。うわぁ、これはやり過ぎたな。つぐを褒めてる間に客増えてるし、しかも途中で瀬田先輩や香澄ちゃんや有咲ちゃんまで来てるし……。香澄ちゃん、そのキラキラドキドキした表情で僕を見ないでくれ……。

 

 

▼▼▼▼

 

 

 頭がぐわんぐわんしてくる。アオ君に褒められまくったせいだ。やりすぎだよアオ君。あの後、アオ君は周りの人から拍手の波を浴びた。その結果、アオ君は自分の部屋に逃げてしまった。まぁあれは自業自得としか言い様がない。私を褒めまくった結果だ。

 

「でも、嬉しいな。アオ君、私のことちゃんと見てくれてるんだ」

 

 見てくれてるって思うとニヤケが止まらない。こんな顔、アオ君には見せられないな。彼に電話するのはやめよう。まだ悶えてるかもしれないし……アオ君、澪さんにからかわれてるんだろうな。

 

 私はこの思い出を忘れない。アオ君に言われたこと、綺麗だったっていう言葉を忘れない。今度は、私がアオ君を褒めちぎろう。

 

「綺麗だったか……。アオ君、ありがとう」

 

 私は自分の部屋で独り言のように彼にありがとう、と言った。明日彼になんて言おうかな?いつも通りおはようって言って、昨日はありがとうね!何て言おうかな。それを言ったら恥ずかしくなるけど、それでも言おう。アオ君に褒められたのは事実なんだから!

 

 次の日、おはようと言って昨日はありがとうと言ったらアオ君は私を抱き締め、もうやめてと言われた。恥ずかしくなるからやめてくれ、と悲痛な叫びのように言われた。

 

 

――あれ、これって追い討ちかな?

 

 

 

 




褒めすぎにはご注意を


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天使の看病、バリスタに癒しを

たまにはゆっくりするのも大事


 アオ君の様子がおかしい。笑顔で接客をしているけど、それは作り笑いで、本当は無理をしているんじゃないのか、私はコーヒー飲みながら思った。もしかして、働きすぎなのかな?

 

「羽沢さん、どうかしたの?」

「何でもありませんよ!?友希那先輩、私はアオ君のことは見てませんからね!?」

「つぐみ、本音出てるよ」

 

 また本音が出ちゃった!確かにアオ君を見てたけど、どうしても見ちゃうんだよ!アオ君が悪いよ。うう、顔が暑くなってきたよ。私は両手で顔を隠した。隠している間も、私はアオ君をチラッと見た。

 

 その間、蘭ちゃんと友希那先輩は優雅にコーヒーを飲んでいた。はぁ、私って分かりやすいのかな?アオ君と付き合ってから、彼のことを目で追うことが多くなっている。一目惚れしたのが原因かもしれない。今更こんなこと言っても手遅れだよね。

 

 その後、私はカーネーションに居続けた。途中で蘭ちゃんと友希那先輩は帰っちゃったけど、私は夕方までいるとにした。アオ君のことが放っておけなかった。だから私は閉店までいることにした。

 

「ありがとうございました……あー終わったー!」

「アオ君、お疲れ様」

「ありがとつぐ、まだいたんだね」

「まだいたって……。その……アオ君が心配だったから」

 

 私はアオ君の顔を見ながら言った。営業が終わった途端にアオ君はぐったりとした。やっぱり無理をしてる、私はアオ君に近づき、彼の熱を測ろうと額を触った。

 

「アオ君、ちょっとごめんね」

「えっ、どうしたのつぐ!?」

「……やっぱり。アオ君、熱あるよね?」

 

 私はアオ君に問い詰めた。彼は誤魔化すこともなく、素直に熱があることを言った。私はアオ君の頬を両手で触り、彼を大丈夫だよ、と慰めた。彼は私にごめんね、と謝った。謝ることじゃないんだけどなぁ。

 

「葵、明日から熱が治るまで休んでいなさい」

「父さん!?でも、接客は大丈夫なの?」

「澪と深雪君がいるから大丈夫、葵は熱が治るまで仕事は駄目だ」

 

 滋さんにここまで言われたら休むしかない、葵君はわかったよ、と頷いた。明日、看病しようかな。私はそう決心し、アオ君にお大事に、と言いながら喫茶店を出た。

 

 

▼▼▼▼

 

 

 次の日、僕はカーネーションの仕事を休んだ。父さんだけでなく、母さんや姉さんにも休むように言われた。ここまで言われたら休むしかない。隠せていたつもりでいても、つぐにはバレる。無理し過ぎたかな。

 

「はぁ、つぐにバレるなんて……。僕って情けないな」

「そんなことないよ、アオ君は頑張ってるよ」

「そうかな……ってつぐ!?何でここに来たの!?」

「えへへ、来ちゃった。ごめんね、アオ君」

 

 つぐはウィンクをしながら両手を合わせて謝った。何だろ、こんなことされたら可愛いから許すってなるんだけど……。来てくれるのは嬉しい。僕はつぐにお礼を言いながら頭を撫でた。

 

 つぐは目を細めながら気持ち良さそうにした。リスみたいだ。何か癒されるし、熱が治りそうな感じがする。実際は下がってない。けど、明日から仕事頑張ろうっていう気持ちになるな。

 

 それはさておき、つぐがここに来たということは、看病しに来たとみていいのかな。まずは理由を聞いてからだ。

 

「つぐ、どうしてここに来たの?」

「アオ君が心配だったんだ。体調は大丈夫かなって思ってね」

「そうだったんだ。あまり近いと風邪移るかもしれないから、気を付けた方がいいよ」

「ありがとアオ君、心配してくれてるんだね」

「そ、そりゃあね。つぐは僕の……彼女だし……心配するのは当たり前だよ」

 

 僕は顔を赤くしながら言った。それを聞いたせいか、つぐの顔が赤くなったのが見えた。これ看病する前だよね?僕達は何をしているんだ?

 

 つぐは顔を赤くしながら僕にお粥を作るから寝てていいよ、と言った。とりあえず寝てよう。このまま起きていると、気まずくなるし、余計熱が長引く。僕はつぐに言われた通り布団に入り、横になることにした。

 

 

ーー今はつぐに甘えよう。何も出来ないのなら甘えるしかない。

 

 

▼▼▼▼

 

 

 アオ君、あれは反則だよ。私はアオ君に言われたことを思い出しながら思った。いきなりあんなこと言われたら何も言えないよ。ああもう、顔が熱いよ!

 

「彼女だし、心配するのは当たり前……か。嬉しいけど、あれはズルいよ」

 

 完成したお粥をお盆に載せながら、アオ君の部屋に向かう。どうしてるかな?風邪とか大丈夫かな?苦しそうにしてないかな?私の頭の中は彼のことで一杯になった。それと同時に、私の顔は更に熱くなった。

 

 部屋のドアを三回ノックし、どうぞ、とアオ君の声がした。よーし、頑張ろう!気まずくならないように、後、アオ君の風邪が治りますように!私はお盆を片手に持ちながら、ドアを開けた。

 

「アオ君、食べれそう?」

「食欲は大丈夫かな。ごめんね、作ってもらって」

「そこはありがとうでしょ。アオ君、食べさせてあげるからじっとしててね」

 

 あれ?食べさせてあげるってことはあれだよね?あーん、だよね?私とアオ君は付き合ってからあーんをやったことは無い。ということは初めてやるってことだよね?

 

 あ、待って。意識したらまた顔が熱くなってきた。これじゃあどっちが熱あるのかわからないじゃん!私はスプーンでお粥を掬い、息を吹き掛けてアオ君の口に近づけた。手が震える、溢さないようにしないと!

 

「アオ君、あ、あーん……」

「つぐ、大丈夫?手震えてるけど……」

「早く口に入れて!溢しそうで怖いから……」

「は、はい!あーん……」

 

 私はアオ君に口に入れるように促した。彼は返事をし、お粥を口に入れた。よかったぁ。これ、食べ終わるまでやるんだよね?私、大丈夫かな?心臓持つかな?

 

 

▼▼▼▼

 

 

 つぐに看病をしてもらってから数時間が経った。僕は熱を測ることにした。つぐが目を逸らしてる、何かあったのかな?

 

「つぐ、どうしたの?」

「な、何でもないよ!」

「そう……。本当に何もない?」

「うん、何もないから。本当に何もないから!」

 

 大丈夫なら問題ないか。体温計が鳴ったのを確認し、体温計に表示されている温度に目をやる。体温は……36.6℃か。大分下がってきたな。

 

「下がってきたね。大丈夫そう?」

「うん、後は寝てれば治るかな。明日にはまた仕事に出られそうだよ」

「よかった。これでまたアオ君のコーヒーが飲めるよ」

「言ってくれたらいつでも淹れてあげるよ。つぐ、今日はありがとね」

 

 僕はつぐにお礼を言った。つぐはどういたしまして、と言った。そして、また明日ね、と言って僕達は別れた。今度何かお礼をしないといけないな。とっておきのコーヒーを淹れてあげようかな。

 

 それにしても、つぐ何かあったのかな?何もない、なんて言ってたけど、怪しい。聞かない方がいいかもしれない。聞いたら、何か言われそうだし、やめておくか。

 

 

▼▼▼▼

 

 

 私は歩きながら、さっきのことを振り返った。アオ君に何もない、何て言ったけど、本当はある。それも彼には言えないことだ。

 

「アオ君が体温測るだけなのに、首元や鎖骨が……綺麗だなんて……言えないよ」

 

 アオ君、もしかして誘ってるのかな?体調を崩してなかったら、襲ってたかもしれない。普段の私ならやらないのに、アオ君が相手だと襲っちゃうかもしれない。私、何を言ってるんだろ。

 

 今日は疲れてるかもしれない。帰ったらゆっくり休もう。アオ君といるだけなのに、顔は熱くなるし、ニヤケそうになるし、ああもう!全部アオ君のせいだよ!

 

 でも、可愛かったからいいか。今度、私が体調崩したら、アオ君に看病してもらおうかな。私はそんなことを思いながら、帰路に着いた。

 

 

 

 

 

 




天使によるバリスタのための看病であった


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十五の夜、バリスタと天使の月見

二人のバリスタは月に何を思う


 10月15日、今日はお月見、お月見といっても十五夜だ。カーネーションでも一日限定でメニューに月見団子を入れている。作っているのは母さんと姉さんのパティシエ組だ。父さんはいつも通りコーヒーを淹れて、僕と深雪さんは接客をやっている。

 

「葵、つぐみちゃんとは上手くいってる?」

「まぁ……何とか……やってます」

「何とかねぇ……ねぇ葵、あんたとつぐみちゃん、もしかしてーー」

 

 

ーーキスとかしてないの?

 

 

 深雪さんの一言がグサッと刺さった。確かに僕とつぐはキスをしていない。ファーストキスも捧げていないくらいにだ。普通なら告白して、そこでキスっていうのが決まりだ。僕とつぐは恥ずかしくてキスすら出来なかった。

 

「その顔だとやってないみたいだね」

「ええ、やってませんよ!恥ずかしくて出来なかったんですよ!」

「まぁそのうちする時が来るさ。葵、その時まで青春を謳歌しなさい」

 

 父さんがコーヒーカップを拭きながら言った。青春を謳歌って言われてもなぁ……。つぐとキスって言われても無理だ。やるんだったら雰囲気を作らないといけない。そうなると、つぐをデートに誘わないといけない。

 

 今はキス出来る自信がない。ヘタレって言われても仕方ない。恋愛は初めてなんだ。初めてっていうのを言い訳に使うのは情けない。とりあえず、キスのことは置いといておこう。

 

「つぐのことは置いといて、仕事に戻ろうよ」

「葵、結果楽しみにしてるからね!」

「僕なりに頑張ります。いつになるかは分かりませんが……」

 

 そう、いつになるかは分からない。まずは雰囲気作りからだ。付き合ったというのはスタート、次はキス、その次は……やめとこう、今言うべきじゃないな。こういうことはつぐと話をしないと駄目だ。

 

 

▼▼▼▼

 

 

 私は客のいない羽沢珈琲店で蘭ちゃんと話をした。話といっても、内容は私とアオ君のことだ。普段はひまりちゃんやモカちゃんから聞かれるけど、今回は違った。今回は紗夜さんと日菜先輩から質問を受けた。

 

「つぐみさん、葵さんとはどこまで……行きましたか?」

「さぁつぐちゃん、話してもらうよー。葵君とどこまで行ったのかなぁ?」

「紗夜さん、日菜先輩、落ち着いて下さい!話しますから!あと、顔が近いです!」

 

 紗夜さんと日菜先輩が顔を近づけて質問をした。髪の毛からいい匂いがする……こんなこと言ってる場合じゃない!今はこの場を何とかしないといけない。私は二人に落ち着くように言った。

 

 今日はお月見なんだ。昨日アオ君とお月見の約束をしたことも話した。日菜先輩がニヤニヤと私を見つめている。この状況を楽しんでるような感じがする。

 

「なるほど……。つぐみさん、葵さんとお月見に行くんですよね?」

「はい。付き合って初めてのお月見ですので、誘おうかなって思ったんです」

「つぐちゃん、青春してるねー」

 

 日菜先輩がニヤニヤしながら言った。言われてみると私は少し変わったのかもしれない。恋という青春ならしている。でも、それは本当なのか。自分では気づいていないのかもしれない。

 

 気づいていないのなら他の人に聞いてみよう。聞けば分かるかもしれない。私はそう思いながら日菜先輩の顔をじっと見た。隣に座っている紗夜さんは冷や汗をかきながら日菜先輩を見ていた。

 

「つぐちゃんは青春してるよ。つぐちゃんが葵君のこと話してる時、楽しそうにしてるの見たんだ」

「え、いつからですか!?」

「んーとね、つぐちゃんがAfterglowの皆と話してた時に見ちゃったんだ。あ、おねーちゃんも見てたからね!」

「ちょ、日菜!?」

 

 紗夜さんが慌てて日菜先輩を止めようとした。日菜先輩の話してることってアオ君と付き合い始めた頃だよね?あれ、それって先月じゃん!

 

 全然気づかなかった……。紗夜さんと日菜先輩がいることに気づかなかったなんて、恥ずかしいよ。顔が熱くなってきた、アオ君のことを話してたのが見られてたなんて、どう説明したらいいんだろ。いや、説明するにしても無理だよね。

 

 

▼▼▼▼

 

 

 今日は混むことはなかった。今日は早めに仕事を切り上げる、と父さんは言った。理由は、限定メニューの売り切れ、とのこと。4時辺りから人が来なくなってきたからなぁ。父さん、落ち込んでたけど大丈夫かな?

 

「じゃあ、行って来るね」

「行ってらっしゃい。つぐみちゃんを喜ばせてあげなよ」

 

 僕はわかったよ、と言って家を出た。つぐとは夕方、羽沢珈琲店で待ち合わせをしようって約束をしているんだ。待ってるかもしれない、急がないとマズイな。

 

 つぐとお月見をするのは初めてだ。会ってまだ6ヶ月、まさか一緒にお月見をするなんて思わなかったな。どんなお月見になるかな、そう思いながら僕はつぐの元へと向かった。

 

 走ること30分経過、羽沢珈琲店に到着した。約束の時間にはちょっと遅れちゃったな。つぐ、怒ってないかな?僕は息を整えながら歩いた。店の入り口前に立ち、深呼吸する。よし、入ろう!

 

「……だーれだ?」

「えっと……つぐ……だよね?」

「ふふっ、正解。待ってたよアオ君」

「遅くなってごめんね」

 

 つぐに後ろから抱き締められてる。何かが背中に当たってる。僕は気にしないようにし、つぐに遅くなったことを謝った。つぐは優しい声で大丈夫、怒ってないよ、と言った。よかった、怒ってないな。でも、遅れたのはヤバいよな。

 

「つぐ、力強くない?」

「そうかな?気のせいだよ」 

「気のせいって……まあいいか」

 

 追及してもしょうがない。そう思っていると、つぐが手を離した。背中に当たった感触が残ってる。全く、大胆なことをするな。何をしてくるか予想が出来ないよ。

 

 

▼▼▼▼

 

 

 私はアオ君を家に上げた。よく考えるとアオ君を家に上げるのは初めてだ。いや、正確には男の子を上げるのは初めて。うわぁ、意識したら顔が熱くなってきちゃった。アオ君に見られないようにしなきゃ。

 

「つぐ、大丈夫?顔赤いけど……」

「へ!?何のことかな!?多分、部屋が暑いんだよ!あー暑い、暑いなー」

「隠せてないよつぐ。僕には分かるからね?」

 

 駄目でした。アオ君は私を抱き寄せながら言った。もう、アオ君の馬鹿。私は小さい声で言った。こんなことをするなんてズルいよ。とりあえず、窓を開けようかな。

 

 アオ君に窓を開けることを言うと、彼は私を離した。恋しい、こうなったらお月見をしながら抱き締めてもらおう。そう思いながら私は外を眺めた。

 

「ここから見る月、私好きなんだ」

「好き、か。確かに綺麗だね」

「でしょ!アオ君と見るの楽しみにしてたんだ。ねぇアオ君」

「な、何?」

「もう一度さ……抱き締めてくれない?アオ君の近くでお月見をしたいんだ」

 

 私がそう言うと、アオ君は無言で私を抱き締めた。暖かい、それに気持ちいい。私は目を瞑り、アオ君に寄り添った。ここで見る月は綺麗だ。今日はアオ君とお月見出来てよかったな。

 

 

ーーアオ君、ありがとう。

 

 




そのお月見は思い出に刻まれる


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天使の施し、おまじないに熱を込めて

地獄は訪れる


 最近お客が多い。接客は姉さんや深雪さんがいるからまだいい。でも、今回は違う。姉さんは接客だけでなく、料理も掛け持ちしている。そのため、今日は母さんと厨房担当だ。父さんはカウンターから離れられないし、接客は僕と深雪さんしかいないし……。

 

「どうしよう、これじゃあ追いつかない」

「アオ君、大丈夫?」

「つぐ……。大丈夫、これくらい平気だよ。つぐは気にしなくていいよ」

 

 僕は作り笑いをして言った。つぐに手伝わせる訳にはいかない。人手が足りない以上、閉店まで持ち堪えるしかない。姉さんも顔に出してはいないけど、疲れが出てる。父さんも冷静に見えるけど、無理をしてるし、母さんや深雪さんに至っては作り笑いをしてその場を凌いでる。

 

 雰囲気は賑やかで明るいけど、僕達店員はピリピリとしている。ここで誰かがバテたら一巻の終わりだ。だから乗り越えよう。乗り越えれば仕事は終わり、その後ガッツリ休めばいいんだ。

 

「アオ君、耳貸してくれる?」

「え?何で……」

「いいから早く」

 

 つぐに言われ、僕は耳を貸した。くすぐったい、つぐの息が掛かる。急にどうしたんだろう、つぐは何を考えてるんだろう。つぐの髪からいい匂いがするけど、堪能してる場合じゃない。

 

アオ君、私にお仕事手伝わせてくれる?

「つぐ、それはさすがに……」

お願い、アオ君の辛い所は見たくないの。それに、皆暗そうにしてるよ

「それはそうだけど、いいのつぐ?」

私はアオ君の力になりたいの。駄目だって言っても私は下がらないよ

 

 つぐは離れ、僕を上目遣いで見つめた。どうする?ここでつぐに手伝ってもらうか?迷ってる暇は無い。後で辛い想いをするのなら手伝ってもらった方がマシだ。

 

「わかった。つぐ、更衣室に案内するから付いてきて。父さん、話があるんだけどいい?」

「葵、どうしたんだい?羽沢君、来てたんだね」

「こんにちは滋さん。すみません、アオ君に手伝いたいって言っちゃったんですけど、大丈夫ですか?」

「全然構わないよ。猫の手が欲しかった所だったから、ちょうどよかったよ。葵、羽沢君のサポート頼めるかい?」

 

 任せて、僕は父さんに頷きながら言った。今回は僕がサポートしないといけない。店は違うけど、喫茶店としてなら同じだ。仕事仲間として……恋人として良いところを見せないと!

 

 

▼▼▼▼

 

 

 アオ君にYシャツとエプロンを渡され、私は更衣室で着替え始めた。Yシャツは女性用、サイズは……大丈夫だ。下はジーンズを履いてるから問題なし。着替え終わり、髪を縛る。よし、準備完了!

 

「アオ君、着替え終わったよ」

「はーい」

「待たせちゃったかな?」

「大丈夫だよ。つぐ、ぶっつけ本番になるけど、分からないことがあったら僕に聞いて。うちはメニューがいっぱいあるけど、お客さんに頼まれた物をメモして母さんや父さんに報告すればいいから」

「うん、わかった!」

 

 アオ君からいくつか説明を受けた。大体のことは羽沢珈琲店でやってるから慣れてる。アオ君からは接客だけでいいよと言われた。接客だけしか力になれないけど、皆の力になれるのならそれでもいい。

 

 私とアオ君はカフェテリア前まで向かった。このドアを開ければカフェテリアに入る。私とアオ君との共同作業は二回目になる。一緒に新作を作った頃を思い出す。まだ1ヶ月しか経ってないのに、ここで思い出すなんて……。

 

 

――もしかして、緊張してる?

 

 

「つぐ、固くなりすぎだよ」

「……失敗するかもしれないって、思ったんだ」

 

 前回の時とは違う。前回は料理だったけど、今回は接客だ。接客は何回もやってたから慣れてるけど、カーネーションでやるのは初めてだ。私は何処かで失敗するんじゃないのか、焦ってアオ君に迷惑を掛けちゃうんじゃないのか。私は彼に自分の想いを吐露した。

 

「つぐ、まだ不安?」

「うん。不安だし、怖いよ」

「つぐ、おまじないを掛けるから、目を瞑って」

「え?わ、わかった」

 

 おまじない?何をするんだろう。もしかして……キス……かな?私は不安になりながら、彼の言う通り目を瞑った。

 

 包まれてる。頬や額、唇には触れるような感触は無い。キスじゃない、これは――

 

 

――抱き締められてるんだ。

 

 

「アオ君、これがおまじない?」

「ごめんねつぐ、今の僕にはこれが精一杯なんだ。キスだと思ってたよね」

「思ってたかな。でも、キスじゃなくても嬉しいよ。ありがとアオ君」

 

 私は彼にお礼を言いながら頬に唇を重ねた。アオ君がおまじないを掛けたのなら、私もおまじないを掛けよう。これでおあいこだ。アオ君の顔を見ると、頬が赤くなっていた。

 

 ありがとう、アオ君は私に恥ずかしがりながら言った。さっきの不安は無くなっていた。これなら集中出来る。私は彼に頑張ろね、と言った。

 

 

――始めよう、二回目の共同作業を!

 

 

▼▼▼▼

 

 

 カフェテリアに入ってから接客は順調に進んだ。つぐが来た時、姉さんや深雪さんはありがとう天使、と半泣き気味で感謝をした。そのおかげか、周りのピリピリとした空気は無くなっていた。

 

 さすが看板娘だ。注文を受けた際もお待ち下さいね、と眩しい笑顔で言ったり、さっきの僕達とは大違いだ。ここまで見せられたら情けないな。

 

「葵、負けてる場合じゃないよ。私達もつぐみちゃんには負けてられないよ」

「姉さん……。そうだね、僕達も頑張らないとだね」

「その通り、さぁもう一頑張りだよ!」

 

 姉さんは僕を鼓舞するように言った。そうだ、もう少しだ。この壁を乗り越えれば終わりなんだ。明日は休み、今はこの地獄を乗り切ることに集中しないと駄目だ。

 

 この仕事は3時間ほど続いた。地獄ではあったけど、売上は最高だった。つぐが来てくれなかったらおしまいだった。今日はつぐに感謝しないと。

 

「今日はありがとうつぐ」

「そんな大したことしてないよ。私はアオ君の力になりたかっただけだから……」

「それでもだよ。つぐがいなかったら、どうなってたか。だから、本当にありがとう!」

 

 僕はつぐを抱き締めてお礼を言った。つぐには精一杯の感謝を伝えよう。本当はキスしたいけど、ここでやるような雰囲気じゃないし、今の僕にはそこまでの勇気がない。

 

 そう思っていると、何か熱いものが伝わっていた。何だろう、嫌な予感がする。そう思いながら離すと、つぐが顔を真っ赤にして気絶していた。

 

「つ、つぐ!?」

 

 ヤバい、やりすぎたかもしれない。つぐが真っ赤になるなんて相当だ。僕は彼女にごめんねつぐ、と謝った。幸い、熱はなかったようだ。多分、僕がつぐを強く抱き締めたのが原因かもしれない。

 

 

 




熱を込めすぎないように


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迷ったら向かうべし、休憩には紅葉を添えて

行かなきゃ分からないのだよ


 10月中旬、この時期は紅葉狩りシーズンだ。紅葉を見て楽しみ、景色を見たり、食事をしたり、話をしたり等、花見みたいなイベントだ。

 

「この風景を見ると、秋だって感じするね」

「秋と言ってもさ、もう10月でしょ?」

「言ってみたかっただけだよ」

 

 姉さんに突っ込まれたけど、言われてみればそうか。ここまでくると、時間って早いんだなと実感する。僕は床の清掃をしながら思った。そういえば今日は深雪さんいないな、どうしたんだろ……。

 

 僕は深雪さんがいないことが気になり、姉さんに聞いてみることにした。姉さんによると、深雪さんは今日は家の用事で休むとのことだった。凄く大事な事らしい、と姉さんは言った。

 

「深雪のお母さんがね、産休に入ったんだ」

「え!?産休に……。深雪さん、妹欲しいなって言ってたよね?」

「確かに言ってたね。まだ性別は分かってないからどうなるんだろ」

「決まったらおめでとうって言わないとだね」

「だね。さてと、今日も頑張ろっか!」

 

 姉さん、気合入ってるな。深雪さんは来れる時は来るようだ。もしあの時みたいに忙しくなったらつぐに手伝いを頼むことになるかもしれない。

 

 でも、つぐはカーネーションの店員じゃない。あの時はつぐがいたからよかった。忙しくなっても、僕達でやろう。つぐに頼ってばかりじゃ駄目だ。

 

 開店してから2時間後、奥沢さんと松原先輩が来店した。僕は奥沢さんに深雪さんのことを伝えた。奥沢さんは最初は驚き、その後涙を流した。奥沢さんは深雪さんに妹のように可愛がられてたんだ。可愛がられてなかったらこうはならない。

 

 僕とつぐが結婚して、子供が産まれたらどんな生活になるんだろう。楽しみだけど、結婚はまだ早い。つぐと結婚を考えるのは置いておこう。今は仕事に専念だ。

 

 

▼▼▼▼

 

 

 アオ君、今どうしてるかなぁ。私はいつもカーネーションに来ている。でも、今日はどうしようか迷っていた。この前みたいに忙しいかもしれない。カーネーションは羽沢珈琲店と違って人が多い時がある。こっちとは比べ物にならない。

 

「やっぱり迷う。アオ君、大丈夫かな?」

 

 心配だ、外から様子見て落ち着いてたらい入ろう。忙しかったらやめようかな。もし誰かに見られて、アオ君のファンですかとか言われたらどうしよう。

 

 アオ君の彼女ですってはっきり言うのは恥ずかしいし、その時は何て言おうかな……。

 

「つぐ、さっきから唸ってるけど、どうしたの?」

「ああひまりちゃん。実はね、カーネーションに行こうか迷ってるんだ」

「葵君の所に?普通に行けばいいんじゃない?」

「そうなんだけど、アオ君この前忙しかったじゃん?」

 

 私はこの前アオ君の仕事を手伝ったことを話した。あの時の店の雰囲気はピリピリしてた。滋さんは冷静だったし、真衣さんや澪さん、深雪さんも結構焦ってた。特にアオ君は顔色が悪いくらいだった。

 

 もし私があの場にいなかったらどうなってたんだろう。私はアオ君の力になれたかな?いや、今はこんなこと考えてる場合じゃない。

 

「そうだったんだ……このことを知ってるのはつぐだけなの?」

「うん、他のバンドの人はいなかったから私だけかな」

「なるほど……。とりあえず行ってみようよ?行って、大丈夫なら入ればいいし、厳しかったらまた今度にすればいいし、様子見なきゃ分からないよ!」

「そうだね、ありがとうひまりちゃん!」

 

 私はひまりちゃんに言われ、一緒にカーネーションに向かうことにした。歩いてる途中、ひまりちゃんから葵君とは何かやったの、と聞かれた。あの時やったのはおまじないを掛け合うくらいだった。私はひまりちゃんにおまじないを掛け合った事を言った。

 

「つぐ大胆ー!」

「そ、そうかな?」

「そうだよ!頬っぺたにキスって大胆過ぎるよ!葵君はつぐを抱き締めるって、いやぁいい事聞いちゃったなー!」

 

 何だろ、話しただけなのに恥ずかしくなってきちゃった。言われてみれば大胆だ。抱き締められるのはまだいいけど、正直言うとキスの方がよかった。これはアオ君には言わないようにしよう。

 

 その後、私とひまりちゃんはカーネーションに着いた。外から中の様子を見ると、そんなに混んではいなかった。落ち着いてる、いつもの雰囲気だ。ひまりちゃんから行こう行こう、と手を引っ張られ、そのまま店に来店した。

 

 その日はアオ君と話をした。深雪さんのお母さんが産休に入ったことやこの前の手伝いの話もした。ひまりちゃんの言う通りだ。迷っているのならまず行ってみる。もし行ってなかったら後悔してたかもしれない。今日は来てよかった。

 

 

ーありがとう、ひまりちゃん。

 

 

▼▼▼▼

 

 

 次の日、僕はつぐを紅葉狩りに誘った。せっかくの紅葉狩りのシーズンなんだ、ここで行かなきゃいつ行く。僕とつぐは手を繋ぎながら紅葉を眺めた。

 

「紅葉、綺麗だね」

「そうだね。つぐも綺麗だよ」

「へっ!?も、もうアオ君ったら……恥ずかしいよ」

 

 つぐが綺麗なのは事実だ、僕はつぐの顔を見ながら思った。こういう雰囲気、何か良いな。つぐと一緒にいると落ち着く。こんな時間が長く続いたらいいのにな……。

 

「ねえアオ君」

「何?」

「今日は仕事大丈夫なの?」

「仕事の方は大丈夫、父さんからつぐを紅葉狩りに誘ってあげなさいって言われてね。つぐとの時間を大切にしてあげなさいって言われちゃったよ」

「そうなんだ。滋さんにはお礼言わなきゃだね」

 

 本当にそうだ、父さんにはお礼を言わないといけない。本当は忙しいのかもしれない。でも、僕やつぐのためにここまでしてくれた。本当に良い父親だよ。

 

 少し休憩するか。僕はつぐにベンチに座ろうと言った。つぐはブラックコーヒー駄目だったんだっけ?一応僕のオリジナルのブレンドコーヒーを持ってきたけど、大丈夫かな?僕は不安に思いながらつぐにコーヒーを入れた水筒を渡した。

 

「つぐ、これよかったら飲んで」

「ありがとう。中身は何なの?」

「中身は僕がブレンドしたコーヒーだよ。ブラック、駄目だったよね?」

「うん、ブラックは苦手でね。珈琲店の娘なのにおかしいよね」

「おかしくないよ。僕もブラックは前は飲めなかったんだ」

「そうなの!?」

 

 つぐは驚きながら言った。そう、僕は中学の頃はブラックが飲めなかった。それまでは微糖のコーヒーしか飲めなかったんだ。中学2年辺りでブラックを飲み始め、それから2年経って飲めるようになった。

 

 僕が話し終えると、つぐは笑い始めた。僕にとってはいい思い出だけど、今となっては笑い話だ。これじゃあつぐに釣られて笑っちゃうな。

 

「アオ君、どうしたの?」

「ごめん、僕もつぐに釣られて笑っちゃった」

 

 やっぱり僕とつぐは似てるところがある。こんなことを言うのはアレだけど、何か運命的だ。

 

 つぐはこの後仕事があると言い、羽沢珈琲店に戻った。僕も一緒に行くよ、とつぐに付いて行くことにした。もう少しつぐの側にいたいな。最近、羽沢珈琲店には行ってなかったから、こうやって行ける時には行かなきゃ。

 

 なお、羽沢珈琲店を出た時、つぐのお母さんからつぐをよろしくねと言われた。何かプレッシャー感じるな……。

 

 

 

 

 




バリスタでも苦手なコーヒーはある


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秋雨の冷気、天使はバリスタを想う

心配ばかりでは集中できない


 10月は下旬を迎えた。ハロウィンは来週にある。この時期は雨と台風がやってくる。冬でもないのに、季節外れの寒さが訪れる。雨宿りや身体を暖める等、それらを目的に客は増えていく。内としては、売り上げが増えるからいいけど、お客さんが風邪を引かないか心配になる。

 

「凄い雨だ。ホントこの時期は雨が多いですね」

「そうですね。こんなに雨が降っていては帰りが大変ですね」

「紗夜、雨で何か作詞は出来ないかしら?」

 

 今日はRoseliaの皆が来ていた。湊先輩と紗夜先輩が話し合い、今井先輩と白金先輩、あこちゃんも曲の作詞のことで考えていた。真剣な表情をしている、普段とは違う表情をしていた。

 

「皆さん、コーヒーですよ」

「ありがとうございます羽沢さん」

 

 今日はRoseliaの人達が来ていた。湊先輩と紗夜先輩が話し合い、今井先輩と白金先輩、あこちゃんも曲のことで考えていた。皆、真剣だ。いつもとは違う表情で臨んでいる。

 

「皆さん、コーヒーが入りましたので、暖まって下さい」

「ありがとうございます羽沢さん」

 

 つぐが紗夜先輩達にコーヒーを差し出した。つぐは今日も手伝いに来てくれた。羽沢珈琲店が忙しい時は来れないけど、来れる時は手伝いに来ると彼女は言った。この手伝いは深雪さんのシフトを埋めるためだけに手伝ってもらっている。

 

 僕はつぐに手伝いは頼んでいない。これは彼女の意思だ。つぐが力になりたいと言って来てくれている。これは期間限定、深雪さんが復帰したらつぐの手伝いは終わりだ。この時期でもいいから、僕もつぐを支えないと。

 

 

▼▼▼▼

 

 

 アオ君の手伝いを始めたのは紅葉狩りから二日後だった。深雪さんが来れない日は私が行く、羽沢珈琲店が忙しい時は自分の方を優先する。アオ君とはそう話し合い、約束をした。

 

 今日は雨のせいか、お客さんは少なかった。来ているのは紗夜さん……Roseliaの人達だけだ。作詞のことで話し合っている、邪魔にならないように気を付けよう。

 

「つぐ、寒くない?」

「私は大丈夫、アオ君は?」

「僕は少し寒いかな。秋って暖かい季節なのに、雨が多いのがちょっとね……」

 

 この時期は秋雨だ。このまま雨が長く降ると、アオ君がまた風邪を引きそうだ。私は心配になり、アオ君の顔に視線を向けた。辛そうな表情はしていない、いつも通り明るい表情だ。

 

 とりあえず、様子を見よう。アオ君が体調を崩さないように見ていよう。私はそう思いながら、他のお客さんの注文を聞いた。

 

 注文を聞き、カウンターに向かう。向かう合間に私はアオ君に視線を向けた。彼は両手を合わせて息を吐いていた。少し寒いって言ってたけど、大丈夫かな?あんなことをしていたら無理をしているのはバレバレだよ。

 

「羽沢君、そんなに葵が心配かい?」

「滋さん……。はい、アオ君が心配です」

「葵は風邪を引いて以来、羽沢君に辛い想いをさせないようにしているんだ。しかし、あれでは分かりやすい」

「アオ君のこと、分かるんですね」

「もちろん分かるよ。師匠でもあるし、親でもあるんだ。親が子のことを分かっていないと駄目だろ?」

 

 滋さんは微笑みながら言った。アオ君のことを語っていた時の滋さんは穏やかな目をしていた。滋さんは凄い。私よりもアオ君のことを分かっている。

 

 もっとアオ君のことを知ろう、会って半年しか経っていないんだ。私は半年で彼のことを知ったような顔をしていた。滋さんにここまで言われたら、まだまだだな私はって思い知らされたも同然だ。

 

 私は深呼吸をした。アオ君のことは心配だ。でも、彼は私に心配させないように頑張っているんだ。そんな姿を見せられたら、私も頑張らないといけない。切り替えよう、それで仕事が終わったらアオ君と話をしよう。そう思いながら、私は仕事に戻った。

 

 

▼▼▼▼

 

 

 仕事を終え、僕はつぐを家まで送った。つぐから寒くないだったり、本当に大丈夫だったりと何度も聞かれた。あの時のつぐ、何があったんだろう。僕はまたつぐに辛い想いをさせたのかな?それとも……仕事中に何か酷いことを言ったのかな?

 

「酷いこと、言ってないよね?何もないよね?」

 

 こんなことを思っていたら、つぐにまた迷惑を掛けちゃう。そんなことをした覚えはないのに、深く考えちゃうとそう思ってしまう。ネガティブになっていると、また聞かれちゃうな。

 

 考え込んでいると、スマホから振動が聞こえた。画面を確認すると、つぐからだった。怒られるのか、僕は唾を飲み込み、電話に出た。

 

「もしもし……」

「よかった繋がった。アオ君、起きてる?」

「うん、起きてるよ。何かな……」

 

 駄目だ、不安になる。彼女に何もしてないのに、何でこんなことを思うんだ。過呼吸が起きそうだ。僕はつぐに聞こえないように、深呼吸をした。聞こえないようにするって、やり辛いな。

 

「アオ君、無理してないよね?」

「してないよ。つぐ、どうしたの?何かおかしいよ」

「さっき滋さんが言ってたよ。私に心配掛けないようにしてたって」

「父さんが!?何で言っちゃうんかなぁ」

「やっぱり!アオ君、また無理してる!」

 

 僕はつぐに必死に謝った。何度も謝っていると、彼女は許してくれた。僕はつぐに風邪を引いて以来、心配を掛けないようにしようと理由を言った。

 

「アオ君、私ね心配したんだよ。大丈夫かな、無理をしてないかなって仕事に集中できないくらいに心配だったんだよ」

「本当にごめん。まさかバレるなんて思ってなかったから……」

「ねえアオ君。辛かったら私に言っていいんだよ?辛かったら休んでもいいし、その時は私が……私が……」

「つぐ?」

 

 

ーーい、癒してあげるから!

 

 

 そう言った途端、電話が切れた。癒してあげるって、そんなことを言われたら更に好きになってしまう。本当につぐは、優しい人だ。多分、今頃恥ずかしがっているんだろうな。

 

「ありがとう、つぐ」

 

 

▼▼▼▼

 

 

「ああもう私のバカ!何であんなこと言っちゃうの私!」

 

 癒してあげる、私は彼にそう言った。本当に恥ずかしかった。心配だよって言っておいてこれだ。私は顔を真っ赤にしながらクッションに顔を埋め、悶えた。

 

 これじゃあどっちが無理をしているか分かんないよ。私も人のこと言えないな。こんな悶えてる姿、アオ君に見せられない。もし見られたら、何て言われるんだろう。

 

「こんなこと考えるなんておかしいよ。はぁ、今日は寝よう」

 

 私は布団に入ることにした。そういえば、来週ってハロウィンだよね?ハロウィンってなると、仮装とか用意しないといけないよね?

 

 今はいいや。それは今度考えよう。今は、この恥ずかしさを抑えたい。抑えないと、またおかしくなる。アオ君のことを考えるのはやめよう。私は彼のことを考えないように目を瞑った。

 

 

ーー結局、私は眠れなかった。原因は私の爆弾発言だった。

 

 




それは癒しどころか自爆である


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仮装の準備、前夜祭の目標

それは準備という名の前哨戦


 秋雨は止み、喫茶店や商店街はハロウィン一色となった。そう、あと2日でハロウィンを迎えるんだ。この時期になれば仮装をして来店することが多くなる。主に親子連れのお客さんが多い。

 

 トリックオアトリートと言われたらお菓子を差し出す、それが当たり前だ。お菓子が無かったら、どんな悪戯が起こるか、あまり思い出したくない。

 

「仮装、どうしようかな……」

「仮装は狼でいいんじゃない?」

 

 仮装のことで悩んでいると、姉さんが他人事のように言った。今は客はそんなに来ていない。そのため、シャルロッテは珍しく落ち着いている。こんなに落ち着くのは久々だ。

 

 仮装は狼でいいのか、他にもあるんじゃないのか、僕は顎を両手に当てながら考えた。つぐは何て言うんだろう、カッコイイって言うか、それとも普通に似合ってるよって言うか……不安しかない。

 

「葵、何で落ち込んでるの?」

「……つぐに仮装見せたら、何て言うかで不安なんだ」

「え?そんなことで?葵、あんたがそんなんじゃ、つぐみちゃんが落ち込んじゃうわよ?」

「落ち込むって……」

 

 こんな姿を見せたら、つぐにまた心配を掛けてしまう。そんな訳にはいかない。そんなことになったら、仮装どころじゃない。

 

 ここで落ち込んでどうする。僕がこんなでどうする。つぐと付き合って初めてのハロウィンなんだ。初めてのハロウィンを最悪な形で迎えたら駄目だ。いい思い出にならないし、つぐにも申し訳ない。

 

 僕に出来ることは、ハロウィンに向けて準備をすることだ。仮装は僕がつぐに良いって言ってもらえるような仮装を選ぼう。

 

「落ち込んでちゃ駄目だよね……」

「葵、何かあれば私を頼ってもいいんだよ?」

「ありがと姉さん。でも、今回はいいかな。今回は僕で何とかしないと駄目だから」

「そっか。じゃあさ、ハロウィンのこと聞かせてよ。つぐみちゃんとあんたの話、聞きたいからさ」

「姉さんはホントに恋愛好きだね」

「もちろん、恋愛は私にとって必要な物だから」

 

 つぐとの土産話なら全然いいか。そうなれば、つぐをエスコートしないと駄目だ。それに、僕とつぐは付き合ってから色々やっていないことがあるんだ。キスだってしていない。だから、今回のハロウィンでつぐとの距離を縮めよう。

 

 

▼▼▼▼

 

 

 私はあることに悩んでいた。悩みといっても、大したものじゃない。大したものではないけど、ある行事においてはとても重要なことだ。

 

「これでいいかな……」

「似合ってるよつぐみ。自信持ちなよ」

「これ私に似合うかなぁ……」

 

 ハロウィンに備え、私は蘭ちゃんとひまりちゃんと買い物をしていた。モカちゃんはバイト、巴ちゃんは商店街のハロウィンの準備の手伝いで忙しくため、買い物には行けなかった。

 

 買い物をしているまではいいけど、ひまりちゃんが仮装のことで話をし始めた。二人の仮装ではなく、私の仮装をどうするかで話は進み、結果、私は二人の着せ替え人形にされている。

 

「つぐ、これなら葵君を堕とせるよ!」

「ひまりちゃん、これ露出多くない?」

「ハロウィンに猫の仮装は湊先輩で充分だよ」

「えぇ駄目?似合うと思うんだけどなぁ」

 

 猫の仮装なんてされたら友希那先輩に何かされそうで怖い。そうなったらリサ先輩が真っ先に止めるだろうけど……。

 

 蘭ちゃんとひまりちゃんは色んな衣装を持ってきた。ナースだったり、シスターだったり、ウェディングドレスだったりを着せられた。待って、ウェディングドレスは早いんじゃないかな?

 

「これならどうかな?蘭どう?」

「いいんじゃない?つぐみにピッタリだと思う」

 

 ひまりちゃんが選んだ衣装は赤ずきんだった。私は鏡に映っている姿を見て思った。自分でも似合っていると思ってしまう。それも怖いくらいに。

 

「つぐ、どう?」

「うん、これにする。ありがとう蘭ちゃん、ひまりちゃん」

「つぐみ、葵を喜ばせられるといいね」

「ファイトだよつぐ!」

 

 ひまりちゃんが眩しい笑顔で言った。ここまでされたら期待に応えるしかない。アオ君を喜ばせたい、私のハロウィンの目標は決まった。あとは、当日を待つだけだ。

 

 あと、お菓子も作らないといけない。アオ君もお菓子を作るのかな?もしそうだったら、アオ君のためにお菓子を作ろう。

 

 

ーーアオ君、喜んでくれるといいな。

 

 

▼▼▼▼

 

 

 ハロウィン前日の夜、僕はつぐと電話でハロウィンはどうするかを話し合った。仮装は互いにお楽しみと言い合ったり、ハロウィンの後はどうしようか等、予定を立てたりもした。予定といっても、時間は僅かしかないけど……。

 

「それでつぐ、明日は何時にこっちに来る?」

「明日はお昼の3時くらいにしようかな。朝はお店で忙しいから」

「それは僕も同じ。ハロウィンになるとお菓子とか用意しないといけないからね」

 

 お菓子は渡せるようにしないといけない。その為、明日は僕や父さんだけでなく、姉さんと母さんも忙しくなる。深雪さんも明日は大丈夫と言ってたから、大丈夫だ。

 

 でも、何が起こるか分からない。なるべくアクシデントが起こらないように気を付けよう。

 

「時間は……11時か。早いな」

「そうだね。時間ってあっという間だね」

「じゃあつぐ、大変だと思うけど、頑張ってね」

「うん。ねえアオ君」

「つぐ?どうしたの?」

 

 

ーーつぐの声が若干暗いように聞こえた。僕、何もしてないよね?何か迷惑とか掛けてないよね?

 

 

「私のこと名前で……呼び捨てで呼んで。おやすみって言ってくれる?」

「へ?急にどうしたの?」

「どうもしないけど、お願い」

 

 呼び捨てでって珍しい。前はちゃん付けで名前で呼んでたけど、今はあだ名呼ぶことが多い。今から呼び捨てで呼ぶって勇気がいる。早く呼ばないと、寝れないよね。

 

「じゃあ呼ぶね」

「うん」

 

 僕は彼女に想いを込めてその名前を呼んだ。

 

 

ーーつぐみ、おやすみ。

 

 

「これでいい?」

「う、うん!ありがと葵君!じゃあおやすみ!」

 

 つぐはそう言って通話を切った。恥ずかしい、まさかつぐに久しぶりに名前で呼ばれるなんて思わなかった。不意打ちなんてずるいだろ。

 

 

▼▼▼▼

 

 

 どうしよう、眠れなくなっちゃった。アオ君につぐみって名前で呼ばれた。それも初めて呼び捨てで呼ばれた。

 

 あの時、私は彼を久しぶりに葵君って呼んだ。呼ばれたから呼び返そう、なんて無意識にやってしまった。アオ君、どんな顔してるかな……。

 

「アオ君の仮装、楽しみ。どんな仮装なんだろ」

 

 明日が楽しみだ。早く明日にならないかな。会うのはお昼だ。それまで頑張ろう。アオ君と会うのは私にとってご褒美のような物なんだ。仮装と、お菓子は忘れないようにしよう。

 

 

ーー待っててねアオ君。私、アオ君を喜ばせるから!それで、似合ってるよって言わせるから!

 

 

 

 




準備は整った。後は行動あるのみだ


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お似合いの仮装、反則級のプレゼント

それは不意打ちでもある


 つぐに良いって言ってもらえる仮装にする、僕は一昨日そう言った。姉さんや深雪さんに見てもらい、何度も何度も試着をした。その結果、ハロウィンで着る仮装が決まったのは当日になった。

 

「これで大丈夫?つぐに笑われたりしないよね?」

「大丈夫だと思うよ。つぐみちゃんが葵を笑うことはないよ」

「葵、つぐみちゃんを信じて。つぐみちゃんなら、似合ってるよって言うわ」

 

 姉さんと深雪さんが微笑みながら言った。ここまで言われたらつぐを信じるしかない。でも、本当にこの仮装で大丈夫なのか。正直不安しかない。

 

 僕が着ている衣装は吸血鬼の仮装だ。姉さんや深雪さん、母さんはシスターで統一、父さんは執事だ。吸血鬼やシスター、ここまではいいけど、一人だけ執事って凄い。父さん曰く、この方が仕事に身が入るという。

 

「葵、間違ってつぐみちゃんの血、吸わないようにね」

「吸わないよ!つぐを襲う勇気ないからね!?」

「ないって……あんた、ホントヘタレね」

 

 反論できない。つぐを襲うなんて、僕には出来ない。襲ったら、嫌がられるかもしれないし、二人きりになった時、気まずくなって雰囲気台無しになるかもだし……。

 

 襲う云々は置いておこう。今は、ハロウィンが大事だ。つぐの仮装がどんなものなのかは分からないけど、仕事をしながら楽しみに待とう。

 

 開店前、僕達は父さんに呼ばれた。打ち合わせをしようと言われたのだ。いつも通りで、焦らず、そして笑顔で接するように、と父さんは言った。接客は僕と深雪さん、お菓子は姉さんと母さん、そしてカウンター対応は父さんだ。

 

 それぞれ、決められた仕事をこなす。とにかく、ハロウィンはトリックオアトリートときたら、お菓子を出すのが鉄則だ。知ってる人、ガールズバンドの人から言われても、ちゃんとお菓子は出さないと駄目だ。

 

「よし……頑張ろう!」

「葵、つぐみちゃんが来ても、驚かないようにね。良いところ、見せてやりなよ」

「ありがと姉さん。つぐの恋人として、頑張らなきゃだよね」

「あんたの反応が楽しみだよ」

 

 姉さんは張り切りながら言った。つぐがどんな仮装で来たとしても、驚いちゃ駄目だ。そうなったら、手が止まりそうだ。見たいけれど、仕事に集中しよう。もし、つぐから似合ってるか聞かれたら、どう言おうかな。そこはちゃんと考えた方がいいな。

 

 

▼▼▼▼

 

 

 赤ずきんの仮装をしながら、私は接客に勤しんだ。羽沢珈琲店はハロウィンでも、変わらず客は多く来た。普段は落ち着いているけれど、今回は少し多い。蘭ちゃんからは、カーネーションの方は結構客が来ていると連絡が来た。

 

 アオ君も仕事を手伝いたい。アオ君からは今回は大丈夫、と言われた。アオ君、大丈夫かな?あの時みたいに無理してないよね?今日は大事な日なのに、彼のことを考えると不安に感じてしまう。

 

「ありがとうございましたー。ふぅ……これで落ち着いた……」

 

 時間を見ると、午後の2時を回っていた。仕事をしていると、時間はあっという間だ。私はお母さんとお父さんから、お店は大丈夫だから、アオ君の所に行ってきなさいと言われた。

 

 私は支度をして荷物を持ち、家を出た。仮装はそのままに、私は早足でカーネーションに向かった。アオ君、どんな反応するかな。似合ってるって、可愛いって言ってくれるかな?

 

「会うだけなのに、緊張する。アオ君、待っててね」

 

 お店は混んでるかもしれない。蘭ちゃんが結構来てるってなると、アオ君は今忙しいんだ。話せるかどうかは分からないけど……話せたら……ちょっとでもいいから、話がしたいな。

 

 私は途中まで早足で歩いた。彼に会いたいという想いが強くなったのか、私は走ることにした。ここで足を挫いたりしたら台無しになる。走るのはいいけど、怪我はしないようにしよう。

 

「着いた。ふぅ……はぁ……よし!行こう!」

 

 扉を開け、お店に入る。中は蘭ちゃんの言う通り、混んでいた。私が手伝っている時より人は多かった。深雪さんはメニューの注文を聞き、アオ君は接客をしている。澪さんや真衣さん、滋さんもいつも以上に忙しかった。皆、笑顔で仕事に勤しんでいる。

 

「お、お邪魔します!」

「いらっしゃいませ……つぐ!?」

「こ、こんにちはアオ君……」

 

 私は片手を少し上げ、彼に挨拶をした。アオ君は衝撃の表情をしていた。彼の仮装は、吸血鬼だ。アオ君にしては意外だ。言葉にするまでもない、凄く似合ってる。

 

 蘭ちゃんのいる席に案内され、私は椅子に座った。蘭ちゃんだけでなく、モカちゃんとひまりちゃん、巴ちゃんもお店に来ていた。

 

 私、どんな顔をしてるんだろ。赤くなってるかな、ニヤケてるかな。顔が熱くなって、どんな表情をしているか分からなくなってきた。

 

つぐ、今はごめんね。後で、話するから待ってもらえる?

分かった。待ってるね

ありがと。後、仮装似合ってるよ

 

 耳元で似合ってると囁かれた。反則だ、直接言ったのはまだいいけど、囁くのは反則だ。彼に囁かれたせいか、顔が更に熱くなった。アオ君、後で仕返ししないといけないね。

 

「つぐーアツアツですなー」

「つぐ、葵君になんて言われたの?」

「えっと……その……似合ってるって……

「ごめん、聞こえなかった。もう一度言ってくれるか?」

 

 どうしよう、これ言った方がいいかな?皆、早く言いなよみたいな感じになってるし、言わなきゃ駄目だよね。……。私は意を決し、囁かれたことを言った。

 

「葵、大胆だね」

「あーくん、やるねぇ」

「葵君……ヤバいね……」

「つぐよかったな!」

 

 言ってくれたのは嬉しいけど、皆がいる中で言うのは恥ずかしいよ。ああもう、余計顔が熱くなってきた。私は皆に見られないように、両手で顔を覆った。

 

 

ーーアオ君、後でお話しようね?

 

 

▼▼▼▼

 

 

 つぐが来てから、1時間が経過した。いつもより客は多かったけど、ようやく落ち着いた。今日のために作ったお菓子は完売し、売り上げも良好だ。

 

「ありがとうございました!……やっと終わったぁ!」

「皆、お疲れ様」

 

 ようやく終わった。長いようで短い、あっという間な時間だった。店に残っているのは、つぐだけだ。Afterglowの皆はさっきまでいたのに、どうしたんだろう……。

 

「アオ君、お疲れ様」

「ありがとつぐ、待たせちゃってごめんね」

「いいよ別に。仮装してるアオ君が見れたから、許してあげる」

「許すって……そういえば、Afterglowの皆はどうしたの?」

「皆はいたら邪魔だから、お楽しみにねって言って帰っちゃったよ」

 

 帰ったってそんな……。二人きりになれたのは嬉しいけど、そこまで気を遣われるとお礼を言わなきゃいけないな。

 

 さて、これからどうするか。約束の時間になったのはいいけど、この後の予定を立ててないから、どうするか何も決まってない。つぐと話合って決めるか。

 

「ねえアオ君」

「何?」

「これから……アオ君の家に上がっていいかな?」

「いいけど、どうしたの?」

「えっと……その……アオ君に渡したい物があるんだ」

 

 突然のことで焦り、僕は姉さん達に視線を投げた。姉さんと深雪さんはニヤリとしながら、地獄に逝ってこいと語り掛け、父さんと母さんは親指を立てて頑張れとエールを送られた。

 

 

ーーここまで来たらやるしかないか。

 

 

「……うん、分かった。じゃあ行こうか」

「ありがとうアオ君」

 

 

ーーお礼を言いたいのは僕の方だよ……。

 

 

 




前哨戦は終わった、本当の地獄はこれからだ


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バリスタと天使、初めての口付け

それは地獄か、天国か


 つぐを仮装のまま家に上げ、部屋に案内する。つぐが僕の家に上がるのは何回目だろう、夏祭りの後が初めてだから、大体2、3回くらいか。つぐを家に上げても、緊張は収まらなかった。

 

 部屋に入れ、彼女は纏っていた赤いローブを外した。つぐが赤ずきんの仮装で来るなんて思わなかった。似合っているし、可愛いからいいか。もし、僕が狼の仮装をしていたら襲っていたかもしれない。

 

 僕につぐを襲うなんて出来ない。何かあったら、つぐの親御さんに殺されるかもしれない。姉さんから言われたヘタレって言葉を撤回させたい。ヘタレなのは、事実だから撤回なんて無理だけど……。

 

「お邪魔しまーす……」

「つぐ、大丈夫?身体震えてるけど、何かあった?」

「な、何もないよ!なんでもないから!」

 

 彼女は焦りながら言った。本当に大丈夫なのか?家に上がってから、ソワソワしてるように見えるけど、気のせいかな?家に上げるのが少ないせいか、久しぶりに家に来たせいか、何が原因でこうなってるんだろう。

 

「ちょっとコーヒー淹れてくるね。ゆっくりしてていいよ」

「ありがとアオ君、待ってるね」

 

 そう言い、僕は部屋を出た。これから二人きりになるけど、上手くいくかな?こんなことで緊張するなんて、情けないな。不安しかないよ。

 

 つぐからトリックオアトリートって言われたらどうしようか。ハロウィン用に作ったお菓子はまだ残ってたっ筈だ。手作りのお菓子じゃないのは凄く申し訳ない。でも、ないよりはマシだ。念のため、用意しておくか。

 

 そう考えながら、僕は2人分のコーヒーを淹れ、マグカップをトレーに乗せて部屋に戻った。つぐ、喜んでくれるかな?何か言われたらどうしよう、言われたら謝るしかないよね……。

 

 

▼▼▼▼

 

 

 今日、私はアオ君の家に上がった。目的は2つある。一つは、アオ君にハロウィンの為に作ったクッキーをあげる。それで、アオ君を喜ばせたい。アオ君に美味しいって言ってほしい。

 

 二つは、アオ君に私の初めてを……ファーストキスをあげる。私とアオ君は付き合って2ヶ月になるけど、未だにキスをしていない。ていうか、私キスできるかな?

 

「お待たせつぐ、遅くなってごめんね」

「そんなに待ってないよ。コーヒーありがと、アオ君」

 

 彼は微笑みながら、コーヒーをテーブルに置いた。アオ君、忙しかったのに表情が明るい。疲れてないのかな?

 

「ねえアオ君、疲れたりしてない?」

「……若干疲れてるかな」

「今度は正直なんだ」

「隠してもつぐにバレるからね。隠すよりは正直に言うのがいいかなって」

「なんかごめんね。仕事の後に無理を言っちゃって」

「いいよ別に。つぐのためなら、僕は平気だから」

 

 彼はそう言いながらコーヒーを一気に飲み、私を抱き締めた。それは嬉しいけど、無理をしてほしくない。私がアオ君にしてあげられるのは、癒してあげることだ。

 

 私は彼の頭を撫で、背中を摩った。アオ君、大丈夫だよ。少しでもいいから、寝てもいいんだよ。私は、アオ君に倒れてほしくない。だから、ここで休ませてあげよう。

 

「つぐ、何を……」

「アオ君、私の膝に頭を乗せて」

「えっ!?それはさすがに……」

「いいから!早く乗せる!」

「はい!」

 

 私は圧を掛けながら言った、ちょっとやり過ぎたかもしれないけど、こうでもしないと乗せてくれない。彼は横になり、私の膝に頭を乗せた。タイツを履いているせいか、太ももがチクチクする。髪が当たってるんだ。

 

「アオ君、眠くなってきた?」

「うん、横になったせいかな……眠くなってきた」

「よかった。アオ君、寝てもいいよ」

「ごめんねつぐ、少し休むね」

 

 彼の頭を撫で、私は耳元で囁いた。アオ君には少しだけ寝てもらおう。少しでもいいから休んでほしい。今日は遅くなるかもしれない。もし、遅くなったらお母さんに連絡しよう。また、アオ君のところに泊まろうかな。

 

 

ーーあとアオ君、そこはごめんねじゃなくて、ありがとうだよ。

 

 

▼▼▼▼

 

 

 つぐに膝枕をされてから2時間が経過した。僕はあの後、1時間半寝ていた。目を覚ました時には、つぐも寝ていた。釣られて寝ちゃったのかもしれない。

 

「ごめんねアオ君、私まで寝ちゃって」

「いいよそんな……。まぁ、僕としては良い物見れたからいいけど」

「良い物?もしかして……見たの?」

「うん。つぐの寝顔、見ちゃった」

「と、撮ってないよね!?」

「寝てたんだから撮れる訳ないでしょ?」

 

 確かに、と彼女は言った。撮ってなくてもいつでも見れるんだから問題ない。もし、撮ったら怒られるし、口聞いてくれなくなるからそれはやめよう。そうなったら、身が持たない。

 

 僕は身体を起こし、伸びをした。危ない、またつぐとぶつかりそうになった。つぐとぶつかったのは、5月の旅行の時だったか。あの頃が懐かしいな。

 

「ふぅ……よく寝た。つぐ、時間潰しちゃってごめんね」

「また謝る。私は平気だけど、そこはありがとうじゃない?」

「いやでも、寝ちゃったから謝んなきゃでしょ?」

「疲れてた人がそれ言うの?」

 

 彼女は顔を近づけながら言った。圧が強い、つぐは普段可愛いのに、圧を掛けられると怖く感じる。やっぱり、ありがとうって言った方がいいのかな?言わないと、ループしちゃうよね……。

 

「あ、ありがとう……」

「どういたしまして!」

 

 笑顔が眩しい、この笑顔が見れるなら言って正解だな。外はもう夕方だし、つぐを家に上げてから何もやってない。つぐには申し訳ないことをしたな。

 

 その後、彼女は家に連絡し、僕の家に泊まることを言った。待って、泊まるの?聞いてないんだけど……。

 

 

▼▼▼▼

 

 

 突然泊まるなんて言うのは図々しいのは分かってる。今日を逃したら、いつ出来るか分からなくなる。だから、今日やらないと駄目だ。

 

 夕飯を一緒にし、お風呂まで戴いた。アオ君には迷惑を掛けちゃったな。キスをするっていう雰囲気を作るためだけにここまでするなんてーー

 

 

ーー私はなんて自分勝手なんだ……。

 

 

「つぐ、どうかした?」

「何でもない、ごめんね服まで借りちゃって」

「いいよ。でも、泊まるのは突然でビックリしちゃったけど」

「それは……」

「僕も寝ちゃって時間潰しちゃったんだから、おあいこだよ」

 

 アオ君にそんなことを言われたら反論できない。悪いのは私なのに、なんでアオ君はそんなことを言うんだろう。君は本当にズルい人だよ。

 

 そろそろアレを渡そう。今日はハロウィンなんだから、お菓子を渡さないと何も始まらない。私はカバンから袋に入れたクッキーを出し、彼に差し出した。

 

「つぐ、これは……」

「今日ハロウィンでしょ?だから、お礼も兼ねてアオ君にあげたいんだ」

「つぐ……ありがとう」

「あと、トリックオアトリート!お菓子をあげないと……」

 

 

ーー悪戯しちゃうぞ。

 

 

 私は彼に近づき、耳元で囁いた。恥ずかしい、まさかこんなことを言う日が来るなんて思わなかった。アオ君、どんな顔してるんだろ。気になるけど、赤くなってること言わない方がいいかな……。

 

「つぐ、今お菓子渡すから離れてもらっていい?」

「嫌だった?」

「嫌じゃないけど、渡せないじゃん?」

「分かった、貰ったらまたするね」

「またするんだ」

 

 そう言いながら、彼は袋を私に差し出した。袋に入っていたのは、クッキーだった。私と同じだ。渡すお菓子が同じなのは偶然かな?

 

「渡す前につぐに言っておくね。このクッキーは、さっきの……ハロウィンのお菓子の残りなんだ」

「残り?手作りじゃないの?」

「うん、それは姉さんや母さんが作ったんだ。ごめんね、手作りじゃなくて」

 

 彼は私に謝り、頭を下げた。あんなに忙しかったんだ。作る時間がなかったのかもしれない。手作りじゃないのは残念だけど、アオ君はよく頑張った。今にも泣きそうになってる。今、私がアオ君にしてあげられることは……アオ君を赦してあげることだ。

 

「アオ君、頭を上げて」

「つぐ、本当にごめんね」

「もういいよそんなことは。忙しかったんでしょ?」

「それは事実だけど……」

「また今度でもいいよ。それに、アオ君の手作りはいつでも貰えるんだし、私は平気だよ」

「つぐ……」

 

 手作りじゃなくてもいい。別に貰えなくてもいいんだ。私は、君に色んなものを貰ってる。ハロウィンのお菓子なんて、来年を待てばいい。今年が駄目でも、また次があるんだ。

 

 私は彼に近づき、唇を重ねた。雰囲気はアレだけど、忙しかったアオ君にご褒美をあげよう。これは、私なりのささやかな贈り物だ。

 

「ん……。つぐ、いきなり何するの!?」

「アオ君に私のファーストキス(初めて)をあげたんだよ」

「は、初めて!?言い方、他にもあるでしょ!」

「あっちの方じゃないけど、唇の方ね」

「あっちってどういう意味!?」

 

 アオ君、焦ってる。これで泣かなくなったかな。さっきの悪戯はこのキスだ。雰囲気作りが難しいなら、無理矢理作ればいい。やり方が強引だったけど、これでアオ君に私の初めてをあげれた。これでいい、これでいいんだ。

 

 

▼▼▼▼

 

 

 つぐが突然キスをした時はビックリした。まさか、つぐの方からするなんて……。こういうのは、男の僕からやるべきなのに、彼女にさせてしまった。このままいくと、また謝っちゃう。今日の僕は、謝ってばっかりだ。

 

「つぐ、今度は僕からするね」

「いつでもいいよ」

 

 目を瞑り、彼女に唇を近づける。緊張する。キスするだけなのに、こんなに緊張するのか。つぐと付き合ってからキスをするのはこれが初めてだ。

 

 心臓が高鳴る。今から彼女にキスをするってことを考えると、どんな反応をするんだろうと考えてしまう。僕は少し目を開け、彼女の顔を見た。綺麗なまつ毛だ。

 

「アオ君、緊張してる?」

「してないよ!」

「本当に?じゃあなんで手が震えてるのかな?」

「こ、これは……」

 

 見抜かれてる。こういう時のつぐは鋭くなるのか。指摘されたのは悔しいけど、つぐの新しい一面を知れた。そう思うと、緊張が止まった。よし、今度こそやれる。

 

「つぐ、気を取り直してもう一度やるね」

「うん。じゃあもう一度」

「つぐみ、これからもよろしくね」

「こちらこそ。葵君、好きだよ」

 

 僕とつぐは互いに見つめ合いながら名前を呼び合った。目を瞑り、唇を重ねる。その口付けは濃厚ではないけど、緩く穏やかな口付けだった。僕とつぐは、本当の意味で結ばれたんだ。

 

 今日のハロウィンは僕とつぐにとって、特別な日になった。この思い出は忘れないようにしよう。このキスは次への第一歩だ。明日で11月になる、明日が楽しみだ。

 

 

 




二人はようやく初めてを捧げ合った


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冬の始まりと恋しい理由

冬に入れば雰囲気は変わるが、寒くなれば必要な物が出てくる


 つぐとのファーストから2日が経過した。付き合ったのは8月なのに、気付いたら11月だ。季節は秋から冬に変わる、本当にあっという間だよ。

 

「まだ11月なのに寒い。天気は……曇りか」

 

 朝の準備をしながら、僕は外を眺めた。冬に入れば客は少なくなる。寒いから外に出たくない、布団に籠ってやると言ってる人が出てくる。そうなっては店の売り上げが下がってしまう。そろそろ暖房付けないと駄目だな。こんなに寒いなら、つぐに寄り添って暖まっていたい。

 

 暖まっていたいというのはいいけど、僕もつぐも互いに店の手伝いで忙しい。休憩時間とかで寄り添っている所を誰かに見られて仕事どころじゃなくなる。やるなら二人きりの方がいいか……。

 

「葵、手止まってるよ」

「ごめん姉さん、今戻るよ」

「羽沢君のことを考えるのはいいが、手を止めるのはどうかと思うぞ」

「何でここでつぐが出てくるの!?」

「つぐみちゃんどうしてるかなーって顔に出てたわよ?」

「……今日も営業あるから頑張ろうかー!」

 

 父さんと母さんに揶揄われた。僕は考えていることがバレないように話を逸らした。営業前にやられるなんて最悪だ。後でつぐと会ったら気まずくなるな。もし会ったらどうしようか。いや、考えるのはやめよう。

 

 

ーー普通にしてれば大丈夫だよね……。

 

 

▼▼▼▼

 

 

「はぁ……」

「溜め息なんか吐いてどうしたの?」

「なんでこんなに寒いんだろうって思ってね」

「アオ君って寒がりなの?」

「寒がりじゃないけどなんて言うんだろ……。人肌が恋しい……みたいな?」

 

 みたいな?って、そんな言い方をされたら分からない。アオ君は寒がりじゃないよと言った。人肌が恋しいみたいと言ったけど、どういう意味なんだろう。私は彼に何があったのかを聞くことにした。

 

 アオ君は何でもないと答えた。何もないならいいけど、彼は目を逸らした。そこで目を逸らされたら余計気になるよ。

 

「本当に何もないの?」

「本当だよ!本当に何でもないよ!」

「答えないなら別れるよ?そうなってもいいの?」

「それは……嫌だ」

 

 私が脅しをかけた瞬間、彼の表情が青ざめた。これは言い過ぎたかな。アオ君泣きそうになってるし、落ち込んじゃってる。私は焦りながら嘘だよと言い、彼を慰めた。

 

「ごめんねアオ君、言い過ぎちゃった」

「つぐ、そんなこと言われたら僕引きこもっちゃうよ、首吊っちゃうよ」

「それは……ご、ごめんなさい!」

 

 虚無になりながら彼は言った。首吊るは洒落にならないからそれだけは止めてほしい。何だろ、こんなこと思うと悲しくなってきた。

 

 アオ君が虚無から立ち直るのに20分掛かった。休憩時間が終わるのにちょうどいい時間だった。アオ君、このまま仕事に戻って平気かな?今度お詫びに何かしてあげようかな。

 

 客席から彼を見守ったが、平静を保ちながら接客をしていた。表情は未だに青ざめてる。後で謝ろう、私はそう思いながらコーヒーを飲んだ。

 

 

▼▼▼▼

 

 

 次の日、僕はつぐと会うために羽沢珈琲店に向かった。彼女から別れると言われたが、嘘だよと言われた。あれは嘘でも真に受けるし心臓に悪い。もし本当だったら僕はどうしたらいいんだ。まぁ、嘘だから大丈夫か。

 

 あの後、つぐは僕にお詫びに言うことを聞くと言われた。さっき、僕が虚無になったのが原因か。いきなりそんなことを言われても何をしたらいいか、何を言えばいいのか……。

 

「つぐ、いいんだよ?僕は怒ってないし、もう立ち直ってるし」

「それじゃあ駄目なの。こうしないと自分が許せないの」

 

 つぐにこんなことを言わせた僕にも原因がある。この前、つぐとくっついて暖まりたいなんて考えてなければこうはならなかった。あそこで言えばよかったな。

 

 つぐが言ったお詫びってどんなもの何だろう。ここで聞いていいのか、聞かない方がいいか僕は迷った。つぐの方を向くと、彼女は頬を赤らめていた。これは聞かない方がいいな。

 

「分かった。つぐ、何でもないっていうのは嘘なんだ」

「やっぱり。それで、アオ君は何を考えてたのかな?」

「最近寒くなったじゃん?それでね、どうしたら暖かくなるかなって考えたんだ」

「確かに寒くなったよね。暖かくなる方法って何?」

 

 彼女が僕の方を向いて質問をした。つぐに寄り添えば暖かくなる、これを本人に言うのか。恥ずかしいけど、言うしかない。ここで言わなかったら、本当に別れることになる。そうなったら、僕の人生はおしまいだ。

 

「暖かくなる方法はこれだよ」

「へ?」

 

 僕は彼女の手を取り、両手で包んだ。二人きりだったら抱き締めたいけど、店の中でやったら二人共終わる。抱き締めてるところを蘭ちゃんか知り合いの人に見られたりすれば穴に入りたいくらいに恥を掻く。

 

「アオ君、これが暖かくなる方法?」

「……今はこんなところかな。本当は……ね、つぐに寄り添いたかったからなんだ。そうすれば、暖かくなるかなって思ったんだ」

「最初から言ってよ。言ってくれたら私はアオ君の願いを叶えられたんだよ?全く、心配して損した」

「ごめんねつぐ」

 

 僕は彼女に涙目で謝った。別れそうになるくらいなことをしたんだ。これは僕がお詫びに何かしてあげるべきだ。これじゃあ僕はつぐの恋人失格だな。情けない、自分が許せないよ。

 

 落ち込んでいると、彼女はある提案をした。互いにお詫びに何かしてあげようと言った。互いにか、つぐが納得するならそれでいいか。

 

「それで、何をするの?」

「えっとね、アオ君目瞑ってもらえる?」

「え?何かするの?」

「いいから早く瞑る!」

 

 何をするんだ、これから何が起こるんだ?僕は不安に感じながら、彼女に言われて目を瞑った。悪いことにならなきゃいいけど……。

 

 そう思っていると、唇に何かが重なった。これは何だ?暖かいし柔らかい、もしかして……つぐか!?

 

「……ふぅ。これでよし!」

「お詫びって……キスなの?」

「そうだよ!さぁアオ君も早く!」

「分かったから、目瞑ってくれる?」

 

 僕は彼女に目を瞑るように言った。つぐ、何か楽しそうだな。ここでディープキスは駄目だから、普通のキスでいいか。雰囲気はアレだけど、手短に済ませるか。

 

 彼女の両肩を掴み、唇を近づける。恥ずかしい。あの時は出来たのに、今回は場所のせいかやり辛い。雰囲気作りは大事だな。そう思いながら、唇を重ねた。短いようで長いような、どう表現したらいいか分からない間だった。

 

 

ーー一瞬で暖まるなんて、キスって凄いな。

 

 

▼▼▼▼

 

 

 二人きりのキスの後、彼は店を出た。私は彼に重ねられた唇をなぞった。アオ君の唇の感触が残ってる。

 

「暖まったのは私の方だよ……。キスってこんなに凄い物なんだ……」

 

 私は独り言のように呟いた。さっきのことを思い出すと、顔が熱くなる。あそこで深くやってたらどうなってたのかな。これはあまり考えない方がいいかな。

 

 今日は眠れそうだ。でも、今日のことは私と彼の二人だけの秘密だ。そう思うと、共有してるみたいで嬉しくなる。

 

 次の日、私とアオ君は校門前で会った。互いに挨拶をしたのはいいけど、顔が赤くなって気まずくなった。それはまた別の話だ。

 

 

 

 

 

 

 

 




互いに暖かくなったのならそれで解決だ


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試験に備えての勉強、幼馴染の責め

幼馴染の責めはヤバい


 11月も中旬を迎えた。中旬になれば秋特有の楽しみがやってくる。しかし、楽しみには裏がある。学生にはとても重要な物、期末試験がある。期末試験といっても、1週間前は試験勉強だ。

 

 試験勉強になれば部活は休みになり、時間を全て勉強に使うことになる。赤点を取れば追試になるし、そうなってしまうと部やバイト先等、色々な所に迷惑を掛けてしまう。

 

 そうならないように僕達学生は勉強して赤点を避けなければならない。1年ならまだいいが、受験生で赤点なんか取ったら進路に響く。つぐの前で恥ずかしいところは見せられない。

 

「試験ダルいよー勉強やだよー」

「ひまり、気持ちは分かるけど赤点取るよ?」

「それはヤダ!」

 

 今回の試験は難しい所が多い。範囲が広いというのもある。5教科はまだしも、実技の教科も入っている。苦手な部分は教えてもらうとかしてカバーしよう。香澄ちゃんもひまりちゃんみたいに涙目で同じことを言ってたな。

 

 中間の時は大丈夫だったけど、期末は重要だ。そうなると、今回は勉強会が必要か。とりあえず、相談するか。

 

「ねぇ皆、勉強会やらない?」

「勉強会?」

「皆で分からないところを教え合えば、やる気は上がるし、赤点も取らずに済むと思うんだ」

「それは名案だねー。私は賛成だよー」

 

 僕が相談しようか考えていた時、彼女はすぐ切り出した。僕が迷っている間に言うなんて、さすがつぐだ。行動力が早い。

 

「分かった。僕も賛成」

「よかったねひまり、赤点取らずに済むね」

「私に言うの!?」

「ひまりは勉強苦手なんだから、アタシ達でサポートしなきゃ!」

 

 巴ちゃんが笑顔で言った。これなら大丈夫か。しばらく店の手伝いは出来なくなるけど、出来ない分は頑張ろう。人手が足りなかったら手伝えばいいかな。

 

 

ーー何も起きなきゃいいけど……。

 

 

▼▼▼▼

 

 

 次の日、私はカーネーションに向かった。勉強会はアオ君の所でやろうということで決まった。勉強会をするだけなのに、私は気合を入れてしまった。理由は、勉強会に付き物で定番のアレだ。

 

「ちょっと気合入れ過ぎたかな……」

 

 アオ君には言えない。勉強をサボってイチャイチャしたいなんて言えない。そんなシチュエーションに憧れているなんて……漫画の読みすぎだ。

 

 やめよう、今日は勉強をするために来たんだ。そんなことをして赤点でも取ったら、アオ君に合わせる顔がない。付き合ってるとはいえ、ラインを超えたりなんかしたら勉強会どころじゃなくなる。

 

 カーネーションにに着き、私はチャイムを押した。皆来てるかな?皆がいられるのは午前中だけ、午後は用事があるとのことで皆いなくなる。あれ?そうなると私とアオ君、二人きりになるってことだよね?

 

 

ーーということは……あのシチュエーションが出来る……!?

 

 

「つぐ、おはよう」

「……そんなことないよね

「ないって、何がないの?」

「お、おはよう!なんでもないよ!」

 

 私は投げやりに話を逸らした。聞かれてないよね?聞かれたりしたらどうしよう。二人きりになるのはいいけど、気まずくなるようなことはやめよう。期待したら、色んな意味でヤバくなる。

 

 

ーーもし、叶うのならしてみたい。アオ君なら分かってくれるよね?

 

 

▼▼▼▼

 

 

 つぐが家に上がった。付き合ってから初めての勉強会だ。勉強会をするだけなのに、何で緊張するんだ?何かが起きることを期待しているから?彼女にいい所を見せれるチャンスだから?どっちなんだ……。

 

 まぁいいか。気にしない方がいい、僕はそう思いながらつぐを部屋に入れた。蘭ちゃん達はまだ来ていない。それまではコーヒーを淹れて準備するか。

 

「つぐどうしたんだろう……何かあったのかな」

 

 家に入る前、彼女は俯きながら何かを呟いていた。その何かとは何なのか、聞くべきか、聞かない方がいいか。迷うけど、触れない方がいいか。触れちゃうと、気まずくなるかもだし、せっかくの勉強会が台無しになる。

 

 2人分のコーヒーを淹れて、僕は部屋に戻ることにした。時間は8時、そろそろ皆が来る頃だ。午前中しかいられないから、あまり時間は無駄に出来ない。切り替えよう、ここからは真面目にやらなきゃ駄目だ。

 

「お待たせつぐ、熱いから気を付けてね」

「ありがと。ねえアオ君」

「何?」

「私達、午後も勉強やるよね?」

「午後もやるね。他の皆は午後は用事が入ってるって言ってたし、そうなれば僕とつぐだけになるね」

「それってさアレだよね?」

 

 

ーー二人きりだよね?

 

 

 この子、躊躇なく言っちゃったよ。言わないようにしてたのに、言われたら意識しちゃうな。つぐは躊躇なく言ったせいか、顔を赤くしていた。そうなるなら言わなきゃいいのに……。

 

「確かに二人きりだけどさ、聞かれたらヤバいよ?」

「ごめんね。よく考えたら私とアオ君だけって思うといいなってなったから……」

「いいなって、よく言えるね」

「と、とりあえずアレやらない?」

「アレって何を?」

「お、おまじない……」

 

 先月忙しかった時にやったアレか。あの時は急でやったけど、それを今やるのか。前は抱き締めた、じゃあ今回はどうする?また抱きしめるか、それともキスか。彼女に決めてもらうか。

 

 僕は彼女におまじないは何をされたいかを聞いた。聞いたところ、まさかの同時だった。抱き合ってからのキス、ハードルが高くないか?

 

「本当にそれでいいの?」

「うん、それにする。ていうかしたい!」

「時間ないからやるね。手早く終わらせるよ」

 

 震えた手で僕は彼女を抱き締めた。互いに目を瞑り、唇を近づける。これだけのことなのに、心臓の高鳴る速度が増していく。あまりやっていなかったせいだ。つぐとキスをしたのはつい最近、回数は少ない。

 

 唇が重なる寸前で音がした。待って、ここで鳴るの!?タイミング悪くない!?

 

「この音って……」

「来たね。アオ君、近いよ」

「ごめん!つぐ、おまじないは後にする?」

「後ででいいよ。私は平気だから」

「迎えに行ってくるね」

 

 僕は部屋を後にし、玄関に向かった。蘭ちゃんに文句を言おうかと思ったが、止めておこう。文句を言えば揶揄われる未来しかないし、自爆じゃんって言われる。

 

 

▼▼▼▼

 

 

 他の皆が家に上がり、勉強会が始まった。モカちゃんが部屋に入った時、何かを聞かれた。あー君と何かあったの、と。それにひまりちゃんが反応してアオ君も巻き込まれた。アオ君、ごめんなさい。

 

「つぐー本当に何もないの?」

「本当だよ、本当に何もないよ?」

「嘘だーじゃあなんで顔を赤くしてるのかな?」

「そ、それは……」

「二人共、その辺にしときなよ」

「アタシ達は勉強のために来てんだし、時間ないだろ?」

 

 蘭ちゃんと巴ちゃんが止めてくれた。よかった、これで聞かれなくなる。これで集中できる。

 

 

ーーしかし、安心したのは間違いだった。

 

 

「ありがと蘭ちゃん、巴ちゃん」

「"今日"は聞かないけど……」

「今度聞かせてもらうからなー?」

「ちょ、蘭ちゃん!?」

「待って巴ちゃん、それは勘弁して!?」

「葵、お前も同じだからなー?」

 

 二人は圧を掛けるかのように笑顔で言った。ああやばい、試験が終わったら落ち着けるのに、地獄が待ってる。一難去ってもまた一難だなんて、酷いよ皆……。

 

 そして時間は過ぎ、午前の勉強会は終わった。これからどうなるんだろう。あんなことがあったんだ、気まずくなるに決まってる。これじゃあおまじない出来ないよ。

 

「じゃあまた今度ね」

「うん、またね。葵、つぐみを襲うんじゃないよ?」

「襲わないよ!蘭ちゃんは何を言ってるの!?」

「あー君絶対ケダモノになるでしょー?」

「つぐとよろしくしてナニするんでしょ!私分かってるからね!」

 

 ひまりちゃん言い方!女の子がしていい言い方じゃない!あとモカちゃん、アオ君はケダモノじゃないよ!私の彼氏だよ!

 

「じゃあ帰るか。葵、つぐのこと頼んだぞ!」

「任せて、つぐのことはちゃんとサポートするから」

「勉強会だからっておかしなことするなよ?やるとしてもやり過ぎない程度に……」

「巴ちゃん、もうやめて。それ以上言われたら私が死んじゃう」

 

 巴ちゃんがトドメを刺した。皆がここまで言ってくるなんて思わなかった。でも、言われてみれば私とアオ君は何かを捧げてない。いや、止めよう。ここで言ったらヤバくなる。私はそんな何かに気を付けながら、勉強に戻った。

 

 




その何かは超えてはいけないラインでもある


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続かない学び、憧れのシチュエーション

集中出来ないのなら自然な流れで逝け


 モカちゃんとひまりちゃんから質問攻めをされ、蘭ちゃんと巴ちゃんから死体蹴りからの試験後の爆弾まで置かれ、私とアオ君は色んな意味でやられた。おまじないは出来ていない、これじゃあやり辛いよ。

 

「アオ君、集中出来てる?」

「何とか、つぐはどう?」

「私は微妙、皆あんなに盛り上がるなんて……」

「楽しそうだったよね。女の子って恋愛には敏感なんだね」

 

 そう言い、彼は溜め息を吐いた。集中出来てるって言ってるけど、明らかに出来てない。さっきまで勉強は続いていた。けど、今は続いてない。さっきの攻めが効いてるんだ。その攻めは私も効いている。

 

 私は心を落ち着かせようと、マグカップをを口に付た。コーヒーは冷めているけど、落ち着かせるにはちょうどよかった。どうしようかな、ひまりちゃんはナニするんでしょって言ったけど、私にそんな勇気はない。今のアオ君は放心状態、勉強は続かない、状況は最悪だ。

 

「つぐ、一旦休憩しない?」

「そうだね。続けてもアレだし休もうか」

 

 彼の言う通りだ。まずは休んで、どうするか考えよう。そうすれば気持ちを切り替えられる。勉強も大事だけど、この状況では駄目だ。頭を冷やそう。

 

「隣、座っていい?」

「いいよ。僕もつぐの隣にいたかったからちょうどよかった」

「さっきのことなんだけど、本当に聞かれるんだよね?」

「あの様子じゃ逃がしてはくれないよね。こんなことになるなんて思わなかった」

 

 それは私も同じだ。もし午後まで皆がいたら私とアオ君は死んでいた。用事が入っててよかった。今日は助かったけど、問題は試験が終わった後だ。そこを乗り越えないと私達に明日は無い。

 

 隣に座ったのはいいけど、何をしようかな。このまま甘えたら長くなって勉強どころじゃなくなるし、おまじないの続きをしたらどうなるか分からない。アオ君と話をして時間を潰せば大丈夫かな。

 

 

▼▼▼▼

 

 

 彼女は僕に話をしようと言った。何を話そう、話をしようにも話題が必要だ。つぐと二人きりで話をすることは何回かあったけど、勉強会の休憩で話をするのは初めてだ。何か話すことないかな……。

 

「アオ君、今日はいい天気だね」

「そ、そうだね……」

 

 

ーーいい天気ではあるけど、これはツッコまない方がいいのかな?うん、ツッコまない方がいいな。

 

 

 話題は全く思いつかなかった。それどころか、どんどん気まずくなってきてる。この場合ってどうしたらいいんだろう、どうすればこの状況を打開できるかな?普段はつぐと話せてるのに、何でこうなるんだ。

 

 

 どうすればいいかを考えていると、ひまりちゃんに言われた言葉を思い出した。よろしくしてナニするんでしょ、ひまりちゃんは僕とつぐにヤバい発言をした。ナニするっていうのはどういう意味なんだろう……。気になるけど、聞いてはいけないような気がする。

 

 モカちゃんに至ってはケダモノになるんでしょなんて言ってたか。ナニするとケダモノになる、この二つのワードだけで何か嫌な予感がする。僕は本当に知らない。

 

「アオ君、さっきひまりちゃんが言ってたこと覚えてる?」

「さ、さっき?ナンテイッテタカナ―」

(とぼ)けないで、覚えてるでしょ?」

「はい、覚えてます」

 

 つぐ、怖いから笑顔にならないで。何で僕の彼女こんなに怖いの?何で怖くなる時あるの?

 

「ひまりちゃん、ナニするんでしょって言ってたけどどういう意味かな?アオ君知ってる?」

「分からないよ。バリスタ一筋で生きた僕に分かると思う?」

「……そうだよね。アオ君には分からないか」

 

 僕には分からない。本当に分からない。つぐと違って漫画を読んだりとかしなかった。こういう時って姉さんに聞いた方がいいのか?いや、聞くより実践か?

 

 

ーーていうか余計気まずくなってる気がするんだけど、気のせいかな?

 

 

▼▼▼▼

 

 

 アオ君、凄く焦ってる。ナニをするという意味を私は知っている。彼が知らないのなら私が教えてあげよう。さっきまでの私は勉強会の定番という物に躊躇していた。ひまりちゃんとモカちゃんにあんなことを言われたんだ。

 

 私はアオ君にナニの意味をわざと聞いた。彼は分からないと答えた。あの時のアオ君は顔を赤くしていた。もっと彼を恥ずかしくさせたい、そう思った私は実行に移すことにした。

 

「ねえアオ君、今から……その……"ナニ"……しない?」

「つぐ、急にどうしたの!?」

「私ね漫画で読んだことあるんだ。勉強会で二人きりになったら定番のアレがあるって」

 

 私は彼を押し倒し、ナニを実行に移すことにした。今は勉強会なんてどうでもいい。今はアオ君を襲いたい、私の頭の中は彼を辱めることでいっぱいだった。ここまで来たら一気にヤろう。

 

 私は彼の身体に伸し掛かり、両手首を掴んだ。抵抗なんてさせない、ここでやらなければいつやるんだ。

 

「待ってつぐ!これはマズいって!」

「アオ君は何も分かってない。こんなことも知らないなんて……私が理解さ(わから)せてあげるよ」

「つぐ怖いんだけど!?どうしたの!?何があったの!?」

 

 私は彼に襲うように唇を奪った。ディープキスをし、首筋や二の腕にキスマークを付ける。まずは快楽に堕とそう。堕とせばアオ君はどんな顔をするんだろう。私は彼がどんな顔をするのかを想像しながら彼を襲い続けた。

 

 

▼▼▼▼

 

 

 つぐに襲われてナニをされてから2時間が経過した。時間は夕方の4時、あんなことをされるなんて思わなかった。まさか彼女からやられるなんて……どうしてこうなった。

 

「ごめんねアオ君、やり過ぎちゃったよね?」

「ホントだよ。つぐ、何があったか教えてくれるよね?」

 

 彼女は僕を襲った理由を説明した。勉強会で二人きりになってイチャつきたい、そう説明した。言ってくれればいいのに、あれはやり過ぎだ。

 

 彼女は僕に何度も謝った。謝ることでもないのに、ここまで言われたら許さないなんて言えない。言うつもりはないけど……。

 

「いいよつぐ、でもさ……一言言ってくれたら嬉しいかな」

「アオ君……」

「何というか……あの時のつぐ、怖かったけど……意外だなって思えたしさ」

 

 さっきのつぐは本当に怖かった。でも、彼女にもあんな一面があるんだなって思えたし、つぐのことを知れたって考えるとこういうことも悪くないなと思う自分がいる。

 

 とりあえずキスマークは隠そう。首はチョーカーで若干隠せるけど、二の腕はバレるかもしれない。姉さんに見られたらおしまいだな。

 

「キスマークはマズかったよね?」

「それは僕も同じだよ。つぐのお腹にキスマーク付けちゃったんだしおあいこだよ」

「言わないでよ、思い出したら恥ずかしくなってきちゃったよ。アオ君の馬鹿」

 

 今日は刺激の強い勉強会だった。ナニを知れたのはいいけど、蘭ちゃんにどう説明しようかな。誤魔化せるかどうか心配だ。

 

 試験の結果は良好だった。赤点回避は出来たけど、皆からはナニのことで1週間揶揄われてしまった。

 

 

 

 

 




彼がケダモノにならないのなら私がケダモノになろう


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少女の決意、寒がりなバリスタ

本格的な冬が始まろうとしている


 ナニの悲劇と期末試験から一週間が過ぎ、本格的な冬が始まった。12月が始まったのだ。この時期になると色々な行事が行われる。行事によっては店が混む時がある。特にクリスマスがヤバい、クリスマスは僕にとって地獄かつ忙しい一日だ。

 

 地獄だけど今年は違う。今年はつぐと付き合って初めてのクリスマスだ。地獄のような一日なのか、癒しの一日になるのか……不安しかないけど、楽しみだ。

 

「寒い……もう12月になるって、早すぎない?」

「言われてみればそうだね。雪が降らないように祈らないと」

「いや雪は降るでしょ」

「雪降ったら雪掻きでしょ?私は面倒だからやりたくないよ。葵だって嫌でしょ?」

 

 姉さんの言う通り、僕だって雪掻きはやりたくない。面倒なのは凄く分かるけど、やらないと客が店に来なくなる。それを考えると、面倒でもやらなきゃいけない。店と客の為にと思えば楽になるんじゃないのか……。

 

 羽沢珈琲店も雪掻きの方はどうなってるんだろ?近くにはやまぶきベーカリーや北沢精肉店がある。商店街は商店街で協力してやっているかもしれない。それなら心配しなくてもいいか。

 

「そろそろ準備しようか。ああ寒い寒い」

「そうだね、深雪さんが中の清掃終わったかもだし入ろうか」

 

 こんなに寒いと外に出たくないな。中は暖房付いてるから大丈夫か。今日は客が少ないかもしれない。落ち着いてた方が僕としては楽にやれる。このまま混まないように祈るか。

 

 

ーーしかし、僕の祈りは通じず、午後は普通に混みました。解せぬ……。

 

 

▼▼▼▼

 

 

 午後になり、店は落ち着き始めた。アオ君、大丈夫かな?最近のアオ君は何かおかしい。手を繋ごうとしたら冷たいから繋がない方がいいよって言われるし、寒いなぁって結構言うし、寒がりなのかな?

 

「つぐみ、どうしたの?」

「蘭ちゃん!?」

「どうせアレでしょ?葵のこと考えてたんでしょ?」

「何で分かるの!?」

「葵のことになったらボーっとするでしょ?顔に出てたよ」

 

 ボーっとしてるって自覚ないなぁ。私ってそんなに分かりやすいかな?こんな顔、アオ君には見せられない。いや、見られたら穴に入りたいくらいに見られたくない。

 

 顔に出てたということはさておき、これからどうしよう。彼に何か出来ることはないかを思いながら、私は席に座り机に項垂れた。今いるのは私と蘭ちゃんだけだ。偶にはこうしてもいいよね……。

 

「蘭ちゃん、どうしたらいいかな?」

「どうしたらって何を……」

「アオ君って寒がりかなって思って、何かしてあげられることはないかなって」

「それをあたしに聞くの?」

 

 蘭ちゃんは呆れながら言った。聞いても意味ないかな?こんなことを蘭ちゃんに聞いても自分で考えなよって言われるのがオチかもしれない。いつも皆に相談していたけど、今回は自分で考えるべきかもしれない。

 

 彼と付き合う前にプレゼントした物はチョーカーだ。私は彼にいつも貰ってばかりだ。貰ってばかりじゃ駄目だ、今度は私がアオ君に贈り物をしよう。

 

「蘭ちゃん、私決めたよ」

「決めたって……葵にしてあげられること?」

「うん。アオ君にマフラーとか手袋をプレゼントしようって決めたの」

「そっか、何かあったら相談してね」

「ありがとう蘭ちゃん」

 

 私は決意した。今年のクリスマスプレゼントはマフラーと手袋にしよう。編み物はやったことはないけど、リサ先輩なら教えてもらえるかもしれない。

 

 上手くいかないかもしれない、失敗しちゃうかもしれない。でも、決めたからには諦めたくない。アオ君への手作りのプレゼントは初めてだ。上手く出来るように頑張ろう。このことはアオ君にバレないようにしよう。

 

「蘭ちゃん、このことは……」

「もちろん葵には黙っておくよ。モカにも釘は刺しておくから」

「モカちゃん、サラッと言いそうだよね」

「まぁモカだからね」

 

 モカちゃんだったら絶対に言いそうだ。バレたら計画は台無しになる。このサプライズはアオ君の為なんだ。最高のプレゼントにしよう。それで、アオ君を喜ばせよう。

 

 

▼▼▼▼

 

 

 ベッドに横になり、僕はつぐに電話を掛けた。寝てるかな?もし寝てたら学校で話すか。僕は彼女と今月の予定について話し合うことにしていた。秋は店のことで忙しくて、デートも出来なかった。つぐはどう思ってるんだろう。そう考えると不安に感じるな。

 

「アオ君?どうしたの?」

「つぐ、今って大丈夫?」

「いいよ、私もアオ君に電話しようかなって思ってたところだから」

「そうなんだ。つぐ、今月って……クリスマス空いてる?」

「クリスマス!?ちょ、ちょっと待ってね!」

 

 急に慌てるなんて何かあったのか、ちょっと急過ぎたかな?そうだったら、電話するべきじゃなかったか。しばらく待っていると、スマホ越しから彼女の声がした。

 

「お、お待たせ」

「大丈夫?何か息切れしてるように聞こえるけど……」

「大丈夫!大丈夫だから!えっと、予定だよね?」

「うん。25日なんだけど、その日って空いてるかな?」

「25日は空いてるよ。何かあるの?」

 

 25日は彼女とデートをしようと決めていた。空いてるって言った、後はデートしようと言うだけだ。それだけのことなのに、何故か緊張してしまう。ここで緊張するなんて情けない。僕は深呼吸をし、落ち着け自分と言い聞かせた。

 

「何かっていうか、その……一緒に出掛けようかなって……」

「出掛けようって、それってデートってことでいいの?」

「そ、そうだね。デートだね」

「……分かった。予定空けとくね、ありがとうアオ君」

「どういたしまして?」

「ふふ、何で疑問形になるの。おかしなアオ君」

 

 笑われた。こんなことで笑われるなんて僕はどれだけヘタレなんだ。付き合っているのにはっきりと言えない、デートしようってカッコよくキメたかったのに、思っていたものと違うし……。上手くいったからいいけど、しっかり言えればよかった。

 

 僕は彼女と予定のことを話し終え、スマホを切った。あとはクリスマスに備えるだけだ。

 

「つぐって何か欲しい物あったかな?はぁ、クリスマスプレゼントどれにしようかな」

 

 期限は三週間。それまでにクリスマスプレゼントを用意しないといけない。時間はあるんだ、焦っちゃ駄目だ。つぐに最高のプレゼントをあげたい。思い出に残る一日にしたい。決めなきゃいけないものは色々ある。

 

 

ーー今年一番の思い出にしよう。それで、つぐにありがとうって言おう。

 

 

 

 




二人のクリスマスは上手くいくのか


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幕間という名のデザート
チョコレートに恋と感謝という名の隠し味を入れて


お待たせしました。
FGOやってて執筆遅くなりました。ごめんなさい。
3日過ぎのバレンタイン回ですが、無事完成です。
今回も一応ブラックコーヒー砂糖マシマシをおすすめします
因みに葵とつぐみはまだ付き合ってません。
お互いに下の名前で呼び合っています。


 みなさん。今日は男性にとっても女性にとっても運命の日でもあるバレンタインデーです。でもバレンタインを渡す際には様々な意味があるそうです。

 

 

 ――そう、私羽沢つぐみは...。

 

 

 ――今からチョコレートを作ります。葵君のために!

 

 

 私達は今羽沢珈琲店に居ます。今日は2月13日、バレンタインデーの前日です。AfterglowとRoselia、Pastel*Palettesの皆さんが来ています。

 どうやらイヴちゃんは葵君達に渡すために彩さん達を誘い、紗夜さんは澪さんに渡したいらしく、友希那先輩達を呼んだみたいです。呼んだのはいいんだけど...。

 

「美竹さん。あなたチョコレートは作れるのかしら?」

「友希那さんこそチョコレート、作れるんですか?」

「ゆ、友希那ぁ、落ち着こう、一旦落ち着こうよ!ね?」

「蘭!?挑発に乗っちゃ駄目だって!今日は楽しく作るんでしょ!?」

 

 はい。今蘭ちゃんと友希那さんが睨み合ってて一触即発状態なんです。リサ先輩とひまりちゃんが必死に止めようとしてるんだけど...。どうしてこうなったの!?

 

「こうなったら上手く作れるか勝負するしかないわね」

「いいですよ!やってやろうじゃないですか!!」

「ごめんねひまり。もう止めようがないや。友希那、とりあえずサポートするね」

「こちらこそごめんなさい、うちの蘭が挑発に乗っちゃって。蘭、あたしも一緒に作るからさ、頑張ろうよ!」

 

 なんか自然と勝負する流れになってるんだけど!?

 

「いいえ、リサの助けはいらないわ。私が自分でやらないと意味がないわ」

「ええー、友希那って上手く作れたっけー?本当は私の助けが必要なんじゃなーい?」

「・・・・・・」

「沈黙ってことは認めてるってことだよ、友希那」

「しょうがないわね。今回だけよ。リサ、よろしく頼むわ」

「了解ー!私リサ姉に任せなさい!!」

 

 友希那さんとリサ先輩が作ろうとしてるよ...。

 

「ひまり、ごめん今回は手伝ってもらっていい?」

「いいよー、蘭!私は全然バッチこいだよ!」

 

 あーあ、蘭ちゃんとひまりちゃんもやるんだ...。

 

「それじゃあ、みなさん!頑張って作りましょー!えい、えい、おー!」

「おー!」とリサ先輩。

「お、おー?」とあまりノリ気じゃない蘭ちゃんと友希那さん。

 

「っ!や、やった。やったよ!やっとやってくれたよー!!」

 

 よかったねーひまりちゃん。感極まっちゃってるよ。よっぽど嬉しかったんだね。

 

 

 ▼▼▼▼

 

 

「じゃあ、紗夜さん、日菜先輩。今日はよろしくお願いします」

「紗夜さん、日菜先輩よろしくでーす。」

「こちらこそよろしくお願いします、つぐみさん」

「よろしくねー、つぐみちゃん!」

 

  紗夜さんと日菜先輩、モカちゃんと作ることになり、他のみんなは巴ちゃんとあこちゃん、燐子さんが一緒になっている。一方の蘭ちゃんとひまりちゃん、友希那さんとリサ先輩は一緒に作っている。よく見ると蘭ちゃんと友希那さんも楽しそうに作っている。勝負のこと忘れてそう。イヴちゃんは彩さんと作るそうです。

 

 

「さあみなさん、今日は頑張りましょう!レッツブシドー!」

「イヴちゃん、すごい気合い入ってるわね...」

「そうだね...。よし!私達も頑張ろう!」

「ですね!私達で最高のチョコを作りましょう!」

 

 イヴちゃん、その気合いこっちにも伝わってくるよ。気合いの入り様が凄いけど、彩さん大丈夫かな?

 

 ▼▼▼▼

 

 

 ――その頃、喫茶カーネーションでは...

 

 

 今日はバレンタイン前日。明日バレンタインのキャンペーンがあるので、その準備をするため今日は店は臨時休業で休みとなっている。姉さんと母さんは明日の準備をしたり、バレンタインということでチョコレートを渡すために何個か作っているとのこと。

 父さんはというと、バレンタインの時期ということで期間限定のコーヒーを研究しているみたい。春に試作で出したチョココーヒーや苺チョコタルトも今回出していくという。試作出はなく期間限定に決まったようだけどね。

 

「うーん。どんな形にしようかな?」

 

 そして僕は今チョコレートを作るためにどんな形にするか迷っている。バレンタインは本来、女性が男性に渡すというものである。でも最近は男性から女性に渡す、所謂"逆チョコ"が流行っている。

 そう、僕が何故バレンタインにチョコを作っているのか。本命ということではないけど、感謝の気持ちを込めてという意味で作ることにしたんだ。

 

 

 ――そう、僕はつぐみちゃんのために作っているんだ。

 

 

「姉さん。チョコレートの形ってどれがいいかな?」

「えっ、形?まあ、大抵はハート型だけど...。葵、まさかつぐみちゃんのために作っているの!?」

「えっ!?いやいやそんなことはないけど...」

 

 あっ、ヤバい姉さんに聞くのは不味かったかもしれない。

 

 「あらあら葵。あなたも青春してるわね。まるで昔の滋さんみたいだわ」

「待って母さん、ここで父さんの話したらまた姉さんが...」

「お母さん、もうお父さんの昔話はやめて!また聞いたら本当にあたし死ぬかもだから!?」

 

 言ってなかったけど、姉さんは両親のリア充話は相当苦手みたいで、聞いただけでも砂糖を吐くくらいに気絶してしまうんだ。彼氏は募集しても出来ないし、深雪さんや千聖さんからも黒歴史のことで弱み握られてるし、あの人達相当苦労してるんだな。

 

「話を戻すけど、どれにするか迷っててさ。母さんは父さんに作ってて、姉さんは誰に渡すの?」

「あたしはまあ深雪もだけど、千聖と花音、あと紗夜と日菜にも渡すんだ。まあ、男子の友達はいないから無理だけどね」

「姉さん。それ自分で言ってて大丈夫?」

 

 あれ、姉さんなんか腹抑えたけど、いまの相当効いたかも。

 

「葵も言うの!?やめてよ!気にしたくなかったのに実の弟に言われたらおしまいだって思ってたんだよ!」

 

 ああ、姉さん。気にしてたんだ。あんな黒歴史作っといて気にしてるなんて...。

 

「まあまあ、二人共。その辺にして葵の悩みを解決しましょ」

 

 そう言って僕達の小さな争い?は幕を閉じた。

 

 

 ▼▼▼▼

 

 

 姉さんと母さんに相談したけど、結局解決しなかった。こうなったら蘭ちゃんに相談するかな?うん、ダメ元で聞いてみるか。

 僕はダメ元で蘭ちゃんに連絡することにした。

 

 1コール目。

 まだ出てこない。

 

 2コール目。

「もしもし?」

 

 あっ出た。

「もしもし?今電話大丈夫?」

「うん、大丈夫だよ。どうしたの?葵からかけるなんて珍しいね」

「実は相談があるんだけど...」

 

 僕は蘭ちゃんにつぐみちゃんにチョコを作っていることを言って、どんな形がいいのかを相談した。

 

「形って言われてもねぇ...。つぐみの好きな形かぁ...」

「うん。どれにするかで迷っててね。あ、このことはつぐみちゃんには内緒にしてね」

「うん、わかった。それならハート型とかでもいいんじゃないかな?サプライズ的な意味でさ」

「え?ハート型?」

「そう。つぐみにハート型で渡せば効果あると思うよ...って!友希那さん!?待ってなにするんですか!?」

 

 ん?どうしたんだろう?湊先輩がいるなんて...。何かやってるのかな?

 

「もしもし葵?」

「あーはい、もしもし。何でしょうか?湊先輩」

「それなら猫の形がいいと思うわ」

「へ?ね、猫ですか!?」

「ええ。にゃー...違った。猫なら効果抜群だと思うわ」

「それはつまり、あれですか?単に湊先輩が言いたかっただけなのでは...」

「そうよ。言ってみたかっただけよ」

 

 湊先輩...。相変わらずポンコツ感が抜けてない。Roseliaのみんなって大丈夫かな?

 

「ところで、何をしていたんですか?」

「何をって?美竹さんと勝負をしていたわ」

「え?勝負ですか?」

「ええ、勝負を...。ちょ!?美竹さん!?まだ葵と話は終わってな!?」

 

 プツン。

 あ、切れちゃった。

 

 まぁ、ここはハート型でいこうかな。猫だと囓った時に凄い罪悪感が出て食べるのが気まづくなるからね。

 

 

 ――湊先輩、ごめんなさい。猫の型はさすがにやめておきます。

 

 

 

 ▼▼▼▼

 

 ――そして2月14日。運命の日がやってきた。

 

「いらっしゃいませー」

「はい、チョコタルトとチョコケーキですね!かしこまりました」

「チョココーヒーですね。かしこまりました」

 

 この日、喫茶カーネーションではバレンタインシーズンにより、いつもより混雑していた。

 今回ばかりは接客も足りないため、僕だけでなく深雪さんも来てくれた。因みに深雪さんはここでアルバイトをしている。つぐみちゃんいつ来てくれるかな?

 

「いらっしゃいませ、て瀬田先輩、松原先輩に白鷺先輩じゃないですか!」

「やあ、葵。ごきげんよう」

「「楠木君。こんにちは」」

 

 瀬田先輩達が来るなんて、どうしたのかな?

 

「席はカウンター席でよろしいですか?」

「ああ、カウンター席でいいよ。葵、君にしては気が利くね」

「ありがと楠木君」

「楠木君、今日は滋さんにチョコを渡しにね」

 

 そうか、それでか。瀬田先輩達は父さんのファンでもあって、それでチョコを渡しに来たのか。

 普通なら店が忙しくて渡せないけど、うちは直接渡してもいいようにしている。そこはまあ、店のサービスとしてそうしているんだ。

 

「滋さん、義理ですがどうぞ」

「滋さん、私からも、儚いプレゼントだ。受け取ってくれたまえ」

「し、滋さん!私からも...」

 

 そして瀬田先輩達は父さんにチョコを渡した。

 

「おお、ありがとう3人共。ホワイトデーを期待してくれたまえ。これは私からのプレゼントだ」

 

 父さんは3人にミルクコーヒーを出した。あ、因みに最初に注文したから特に問題はないよ。それといい忘れてたけど、父さんは大抵下の名前で呼ぶように頼んでる。

 

「ありがとう、滋さん」

「ありがとうございます!滋さん」

「あ、ありがとうございます...。し、滋さん!」

 

 その後は、ポピパやパスパレ、ロゼリア、ハロハピの人達も来てチョコを渡してくれたんだ。まあ、店が落ち着いてからだったんだけどね。ほとんどは溶けないように冷蔵庫に入れておいた。そう、この時のために冷蔵庫を2台くらい置いてあるんだ。うちの厨房結構広いから、置くことには困ってない。

 

 中には若宮さんに至っては僕達家族全員分にチョコを渡してくれた。どうやらフィンランドではバレンタインは友達の日であり、性別関係なく渡しているみたい。フィンランドってすごいな。あとは、バンドの子達は一組でチョコを作ったみたいで、他は個人で渡すっていう形にしたみたい。何故か常連の黒服さんからももらった。ありがとうございます。

 そして後から蘭ちゃん達も来てくれた。

 

「ようこそ!蘭ちゃん!」

「葵、お疲れ様。はいこれ、私達からのプレゼントだよ」

 

 蘭ちゃん達から渡されたのは箱の入ったチョコケーキだった。

 

「みんなで作ったから家族で食べて」

「ありがとう。ホワイトデー楽しみにしててね」

「うん。楽しみにしてるよ」

 

 そう言って蘭ちゃんは後ろに下がった。

 

つぐみ、出番だよ。後は頑張って

「えっ!?ら、蘭ちゃん!?」

 

 つぐみちゃん、どうしたんだろう?なんか蘭ちゃんが耳元で何か言ったみたい。なんか耳が赤い。

 

「蘭、つぐに何を言ったんだ?」

「まあ、おまじないみたいなものだよ」

「おまじない?」

「そ、つぐみが葵にアレを渡せるようにね」

 

 ん?つぐみちゃん、どうしたんだろう?それにしても気のせいかな?なんかつぐみちゃん顔赤くなってるような...。

 

「つぐみちゃん、大丈夫、顔赤いけど...。」

「えっ!?だ、大丈夫だよ!葵君も顔赤くなってるけど、それに耳も赤い」

 

 え?僕も?あれ、なんか顔が熱い!ああ、やばい、みんなの前でこんな雰囲気になるなんて...。

 

 弦巻さん、やめて「これはハッピーね!」なんて言わないで!瀬田先輩、「ああ、儚い」って言いながら恍惚な表情にならないで!若宮さんなんて「これは、まさにブシドー夫婦ですね!」なんて言ってるよ。有咲ちゃんやリサ先輩、香澄ちゃんも沸騰するくらいに顔赤くしてるし、りみちゃんなんて「アカン、めっちゃ恥ずいわ~」なんて言ってる。

 

 さらにたえちゃんなんて「オッちゃんにも見せたかった」なんて言ってる。連れてきても心はぴょんぴょんしないよ!日菜先輩に至っては「んんwwwこれはるんってしますぞwww」なんて言ってるし、日菜先輩そんな人でしたっけ?あこちゃんも「こ、これが!古に伝わりし伝説のお見合いなのか」だったり、燐子さんは顔を赤くして立ちながら気絶してるし......。

 

 何?みんなどうしちゃったの?なんでこんな雰囲気になっちゃったの?ねぇ、誰か教えてよ!教えてよ、バ◯ニィ!!

 

「おおー。どんどんと夫婦感が増してきてますな―。いやー、尊い尊い。ごちそうさまです。お腹がいっぱいになりましたー」

「あたし、見てて恥ずかしくなってきちゃったんだけど!?もう二人共結婚しちゃってよー!」

「滋さん、砂糖マシマシのコーヒーをお願いします。アタシもう耐えられないです」

「真衣さん、あたしもめっちゃ苦いチョコケーキお願いします。あとコーヒーもお願いです。もう無理です。ホントに逃げたいです」

 

 あれ、何かバンドの子達の目が凄いことに...。えっ!?またなの!?また子を見るような親の目線になってるの!?姉さんに至っては息を荒げながら女性がしてはいけない顔になってるし、深雪さんも諦めて僕とつぐみちゃんを見てニヤニヤしてるし。

 父さんと母さんもニヤニヤしないでよ!もう恥ずかしくてチョコ渡すどころじゃないよ!!

 

 

 ていうか待って。これってさ...。よく考えたらみんなの前で渡すの!?やばい、やばいよ!これ公開処刑じゃん!つぐみちゃん、勇気あるなぁ。てか凄く恥ずかしくなってきた!ああもう、こうなったら......。

 

 

 

 ――ヤケクソだ!!

 

 

「あああ、葵君!」

「は、はい!何でしょう!」

 

 まずい、緊張してきた。つぐみちゃんの顔を見てると緊張していることが伝わって来る。

 

 頑張れ僕!頑張れつぐみちゃん!

 

「「あ、あの!」」

 

 やばい、被っちゃった!

 

「あ、葵君からどうぞ...」

「いやいや、つ、つぐみちゃんからでいいよ?」

「じゃ、じゃあ言うね!」

 

 うん、聞こう。つぐみちゃんの返事を。

 

「こ、これどうぞ!受け取って下さい!」

 

 それは金のリボンで結ばれてラッピングされた赤い箱だった。

 

「これを僕に?」

「うん、これ私からの気持ちです。ハッピーバレンタイン!」

 

 つぐみちゃん。君は本当に凄いよ。こんなに勇気を出して頑張ったんだね。よし、僕も...。

 

 

――勇気を出して、つぐみちゃんに渡そう。

 

 

「ねぇ、つぐみちゃん。」

「は、はい!?何でしょう!?」

 

 みんなが見守る中、僕はつぐみちゃんにある物を出した。

 

「僕からも渡したい物があるんだけど...。これ、逆チョコってやつだけど...。感謝の気持ちってことで、受け取って下さい。」

 

 つぐみちゃんに渡したのは、赤いリボンでラッピングした茶色の箱だ。

 

「えっ!?あ、葵君?」

「その...。いつもありがとう。つぐみちゃんといて毎日が楽しいんだ。これはその僕なりの気持ちなんだ。ハッピーバレンタイン!つぐみちゃん!」

 

 渡して気持ちを伝えた瞬間、つぐみちゃんの目から涙が出た。あれ!?もしかして泣かしちゃった!?

 

「つ、つぐみちゃん!?どうしたの!?なんかまずかった?」

「グス...ううん、違うの」

「え?」

「嬉しいの。まさか、葵君からももらえるなんて思ってなくて。つい...ヒク...涙が出ちゃって」

 

 つぐみちゃん、嬉しかったんだ。僕も嬉しくなってしまい、気づいたらつぐみちゃんを抱き締めてしまった。みんなが見ていることも忘れて。

 

「あ、葵君!?」

「ありがとう、つぐみちゃん。そんなこと言われたら僕も嬉しくなっちゃうよ」

「葵君...」

「なんかごめんね。急に抱き締めちゃって」

「いいよ、そんなこと。ねぇ、葵君」

「何?」

「目、瞑ってくれる?」

「えっ?わかった」

 

 僕はつぐみちゃんに言われて目を瞑った。

 

 

 

――その時、何か頬に唇のような感触が伝わった。

 

 

 え?何されたんだ?つぐみちゃん何を......。まさか!?もしかして...。

 

「つぐみちゃん、まさか」

「うん!ほっぺにキスしちゃった!」

 

 

 う、嘘ー!?僕は顔も耳も真っ赤になってしまった。つぐみちゃん、それはやりすぎだよ!

 

「ハッピーバレンタイン、葵君!来月のホワイトデー期待してるよ!」

 

 その時、店中に言葉にならないくらいの衝撃が走り、つぐみちゃん以外のバンドの子達全員が砂糖を吐いてしまったという。

 後に喫茶カーネーションでは事件として語られてしまった。その事件の名は......。

 

 

 

 

 

――甘過ぎたつぐりまくりのバレンタイン事件である。

 

 




やり過ぎた。書きたいこといっぱいできて詰め込みすぎた。つぐみ可愛く書けたかなぁ?
チョコ作りの本格的な描写はさすがに書けないからカットすることにしました。ごめんなさい!
とまあ、さておき。投稿遅れてしまいましたが、読んで下さってありがとうございました!
後半投げやりになっちゃったのは許して!


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パティシエ見習いから見た翠色の双子姉妹

更新遅くなってすみません
今回はひな祭りに因んでさよひな回です
氷川姉妹がメインです
1時間30分の突貫工事で作りましたが、どうぞ


 喫茶カーネーション、今日はひな祭りということでうちの店でもひな祭りキャンペーンをやっている。でも客はあまり来てないみたい。私はそれでもいいけどね。家族で過ごしたいっていう人もいるし。今日は珍しくお父さんは落ち込んではいない。「しょうがない」って思ってるのかな。

 

 私は今は葵と接客をやっていて、深雪は今回はお母さんと厨房でひな祭り限定のメニューを作っている。今日は誰が来るかな?

 

「いらっしゃいませー、って紗夜、日菜!?」

「こんにちは澪さん」

「澪ちゃーん、来ちゃった!」

 

 へえ、今日は姉妹揃ってなんだ。どうしたのかな?今日は。紗夜はそんなに落ち込んでなさそう。あれ以来、二人共溝はできてないから本当によかった。私は別に大したことはしていないからね。単に困っている人を放っておけなかっただけだから、乗り掛かった船ってことで相談に乗っただけだから...。

 

「やっほー葵君!制服似合ってるね!」

「ありがとうございます日菜先輩。お二人共席までご案内しますよ」

「ありがとうございます」

「紗夜、あれから日菜とは大丈夫?」

「大丈夫ですよ澪さん。澪さんこそ問題は起こしてませんよね?」

「何もやってないよ。まあ相談とかを持ちかけられることは多いかな」

 

 私は元はバケモノ呼ばわりされていたけど、今は落ち着いてきている。といっても、相談を持ち掛けられるのは多いけどね。私は困っている人を放っておけないから。できることがあれば助けてあげたい。助言だけでもいいから、背中を押してその人達が幸せそうなら私はそれでいい。

 

「ご注文はいかがなさいますか?」

「じゃああたしは桃のショートケーキにしようかな。なんかるんっと来た!」

「私も同じものでお願いします」

「かしこまりました。少々お待ち下さい」

 

 さすが姉妹。頼んだメニューも同じだなんて。まさしくるんっと来たね。やっぱり双子は伊達じゃない。

 

「何故ショートケーキに桃を......」

「それはね、私が発案したものなんだ。ひな祭りは桃の節句があるから、それに因んでやるとおもしろそうかなって思ってやってみたんだ」

「なるほど、さすがはパティシエ見習いですね」

「いやーそれほどでも」

 

 面と向かって言われたら照れるな。葵なんか笑ってるし。つぐみちゃんにあることないこと吹き込んでやろうかと思ったけどさすがにやめとくかな。また深雪に半殺しにされかねない。

 

「いらっしゃいませー、ってつぐみちゃんじゃん!」

「ど、どうも葵君......。あ、紗夜さんと日菜先輩もいらしてたんですね!」

「こんにちは、つぐみさん」

「やっほー、つぐみちゃん!」

 

 あらあら、ヒロインのお出ましだね。来た瞬間にラブコメオーラが漂ってるよ。まあお父さん達のよりはマシだからいいか。

 

「つぐみちゃん、席は紗夜先輩のところで大丈夫?」

「大丈夫だよ。ありがと葵君!」

 

 そうだった。つぐみちゃんは確か紗夜とは結構仲がいいんだったっけ?羽沢珈琲店でお菓子作りの教室をやって以来かな確か......。

 

「私は桃のフルーツケーキお願いします」

「かしこまりました。つぐみちゃん待っててね」

 

 うわあ決めたよこの弟。いつの間にキザになったのこの子?まあフルーツケーキはつぐみちゃんにとってすごい思い入れがあるからなあ。あの出会い以来二人はいい感じになっている。でもあれで付き合ってないなんてねえ。二人共ヘタレなのがキズなんだけど......。

 

「お待たせしました。桃のショートケーキお二つになります。召し上がれ」

「おおー来たね!じゃあいただきます!」

「いただきます」

 

 どうかな?今回のケーキ、失敗してなきゃいいんだけど...。どうしても気になって接客に集中できない。なんとか頑張らなきゃ!

 

「お、美味しい!るんって来るよ!澪ちゃん!」

「澪さん。素晴らしいですよ」

「ありがとう!二人共!」

 

 よかった~。成功した。どうなるかと思ったけどホントによかったよ。

 

「お待たせ。つぐみちゃん、桃のフルーツケーキになります。召し上がれ」

「ありがとう葵君。いただきます」

 

 さああとは葵だよ。頑張りな!

 

「っ!美味しいよ!葵君!」

「あ、ありがとつぐみちゃん!」

 

 照れちゃってるし!二人共可愛いなあ。早く付き合ってよもう!

 

 

▼▼▼▼

 

「おねーちゃん!」

「どうしたの日菜?」

 

 日菜と一緒に喫茶店に出掛けたなんてもう何ヵ月ぶりかしら......。日菜との仲はあれから前より良好だ。それも澪さんのおかげだ。私が日菜との関係で落ち込んでいた時、澪さんは相談に乗ってくれた。あのおかげで今の私と日菜がいる。本当に澪さんには感謝してもしきれない。

 

「ねえ日菜」

「なに、おねーちゃん?」

「前のひな祭りのこと覚えてる?」

「覚えてるよ!忘れられるはずがないよ!」

 

 昔中学の時、私は親と喧嘩をしてしまった。その日はひな祭りで私は昔ひな祭りは嫌いだった。理由は私がひな祭りの日の時に親と喧嘩をして台無しにしてしまったからだ。でもあの時出ていってしまった私を日菜は必死に探してくれた。

 

 それもボロボロになるまで探していた。まだ私と日菜はこの時はそんなに関係に溝は出来ていなかった。あの時の日菜を思い出すと、私はこの子を泣かせたんだなと今思い出しても後悔している。だからせめて......。

 

 

――ギターや他のことで差が開いてしまっても、日菜を泣かせるようなことだけはしてはいけない。

 

 

 私はそれだけはしてはいけない。昔は日菜の才能に嫉妬して折れそうになっていた。今はギター、音楽を通して色々な経験をした。今でも私はギターをやって良かったと思っている。

 

「あの頃は本当にありがとう」

「ここはどういたしましてでいいのかな?」

「なんでもいいわ。ねえ日菜」

「なに、おねーちゃん?」

「今度またあの喫茶店に行きましょ。あとギターでセッションもしてみたいのだけど...。いいかしら」

 

 なにを言っているのかしら私は。でも久しぶりに日菜とセッションをしたいと思ったのはなんでかしら?

 

「いいよおねーちゃん!セッションやろうよ!あたしも負けないからね!」

「言ったわね?私も負けないから、やる時は覚悟しなさい!」

 

 この一日を、久しぶりに日菜と過ごした日を忘れないようにしなきゃ。




なんかつまんないかなと思いましたがいかがでしたか?
ひな祭りは申し訳程度でしたが、さよひな成分はマシマシにしました
感想と評価お待ちしております
ではまた会いましょう


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ホワイトデーに告げる想いとマフィンに愛を込めて

1日遅れのホワイトデーです
作者はホワイトデーに返すチョコはありません(血涙)
今回は最大級の爆弾を投下します
では本編どうぞ


注意!
今回はお読みの際、ブラックコーヒーが絶対必須です
砂糖を吐かないようにお気をつけ下さい





 ホワイトデーは世の男性にとってとても大変な一日である。何故かと言うと、バレンタインで何個もらったかによってお返しのチョコが増えてしまうことがあるからだ。

 

 特に僕と父さんはチョコをもらうことが多いからとても大変だ。父さんの場合は常連さんからもらったらコーヒーで返すことにしており、常連さんからも「コーヒーだけでも充分ですよ」と言われてるからコーヒーで返している。

 

 けど僕は去年はつぐみちゃんをはじめ、ガールズバンドの人達がいる。約25人分返さないといけないから、頑張らないと!

 

「葵ー手伝おうか?」

「大丈夫だよ、姉さん。今回はマフィンで返しておくからさ」

「ふーん。じゃあつぐみちゃんは本命なんだねぇ」

「っ!?」

 

 姉さんなんで知ってるの!?なんでつぐみちゃんに渡すチョコが本命なの知ってるの!?あ、好きなのバレてるから知ってるか。

 

「その顔はそういうことなんだね~」

「そ、そういうことだよ......」

 

 姉さんにも手伝おうか迷ってたけど、マフィンなら大丈夫だ。何回も作ってたから慣れてるから、姉さんは見ててもらうだけでいいかな。

 

「まあ私は見てるよ。葵マフィン作るのは慣れてるだろうけど、アドバイスはさせてね。放っておけないから」

「わかった。なんかあったらアドバイスよろしくね」

「はいよ~」

 

 さあ、頑張ろう!つぐみちゃんのために最高のマフィンを作ってあげなきゃ!

 

 

▼▼▼▼ 

 

 ホワイトデー前日の夜、私はバレンタインのことを振り返っていた。あの時葵君にチョコレートを渡した時に葵君からもチョコレートをもらったことや頬にキスをしたこと等、一日で色んなことをやってしまったのだ。

 

 葵君のことは好きだけど、自分でもあれはやりすぎたなって思ってしまう。うう、思い出しただけで恥ずかしくなってくる。

 

 蘭ちゃんからも「ホワイトデー頑張りなよ」なんて言われたけど、なにを頑張ればいいの!?もしかして告白を頑張るの!?さすがに難しいよそれは......。

 

「はあ、告白は無理だよ。私にはできないって」

 

 一番気になるのは葵君がどんなものを作っているのかが気になっている。でも頬にキスはみんなの前でやっちゃったから本当にあれはヤバかった。せめて今度は二人きりでやろう。そうしよう。

 

「よし、明日はホワイトデーだ!葵君も忙しいと思うけど、私も頑張ろう!」

 

 

――よーし、明日は張り切ってつぐっていこう!(がんばろう!)

 

 

▼▼▼▼

 

 

 ホワイトデー当日。店もホワイトデーキャンペーンをやるから朝は忙しかった。いつもより多いし、ロゼリアやハロハピ、ポピパ、パスパレ、そしてアフグロのみんなも来ていた。そう、全員だ。

 

「いらっしゃいませー」

「こちらの席へお座り下さい!」

 

 今回は接客は僕と姉さんでは人が足りないため、深雪さんにも手伝ってもらうことにした。今回ばかりは途中でバテるんじゃないのかっていうくらいに大変だった。

 

 瀬田先輩やりみさん、白鷺先輩は常連として父さんからコーヒーがホワイトデーのお返しということを知っていた。なんでも、他の常連さんから聞いたみたいだ。僕は香澄さん達が来たらすぐにマフィンをお返しで渡していくことにしている。

 

 つぐみちゃんは最後に渡すって決めてる。つぐみちゃんには待たせてしまうけど、仕方ない。

 

 言い忘れていたが、うちの店の客が入れる数は50人くらいは入れる。普通の喫茶店とは違うみたいだが、何故かは僕もわからない。

 

「いらっしゃいませ、ってつぐみちゃん!」

「お疲れ様葵君!」

 

 つぐみちゃん!来てしまった。うわあ恥ずかしいよ、緊張するよ!でも、頑張らないと!

 

「葵、今日は上がっていいよ」

「姉さんいいの?」

「落ち着いてきたから大丈夫だよってお父さんが言ってたから。つぐみちゃんとごゆっくり!」

「そんな姉さん。そこまで言わないでよ......」

「頑張りなさい葵!想いを伝えるのよ!」

 

 ありがとう姉さん!よし、ここからが正念場だ!

 

 

▼▼▼▼

 

 

 葵、頑張ってきなさい!つぐみちゃんを喜ばせないと姉としても恥ずかしいからね!

 

「澪さん。葵さんとつぐみさんの場を作りましたね」

「お、紗夜わかっちゃった?」

「ええ、わかりますよ。あなたならやるだろうと思ってました」

 

 やっぱ紗夜はわかってたか。まあわかるよねそりゃ。私は敢えて作ったからね。今度こそあの二人をくっつけないといけないからね!

 

「さすが澪ちゃんだよね!」

「え、そうかな?」

「そうだよ!葵君とつぐちゃんくっつけるためにやるなんてさあ、るんってくるよ!」

「ありがと日菜。そうだ紗夜、日菜」

 

 そうだ、私も二人にお返ししないとね。二人を和解させたりとかもしたけど、私も感謝を込めて作ったからね。

 

「何でしょう?」

「何、澪ちゃん?」

「バレンタインのお返しなんだけど、受け取ってくれる?」

 

 私が二人に渡したお返しは、チョコのカップケーキだ。あんまりまともな物は作れなかったけど、私なりの精一杯の気持ちだ。

 

「あ、ありがとうございます......」

「ありがとう、澪ちゃん!」

「どういたしまして。な~に紗夜、その顔は?」

「いえ、澪さんがお返しだなんて珍しいと思ったので......」

「そうだよね~、あの澪ちゃんがね~」

 

 珍しいって、二人は私をどんな目で見てるのさぁ?紗夜はまだしも日菜にまで言われるのはショックだよ!

 

「では私からも一つ」

「ん?どうしたの紗夜?」

「いつも私や日菜のことでありがとうございます。今後ともよろしくお願いします」

「え、そんなそこまでされたらどう言ったらいいかわからないよ!?」

「澪ちゃん、その顔るんって来るよ~!」

 

 紗夜ってズルいなあ。こんなこと言われたら私でも焦っちゃうよ。これからも二人が幸せでありますようにって祈るかな!

 

 

▼▼▼▼

 

 

 ふふっ、何か恋の予感がしてくるな。もしや葵と羽沢君かな?

 

「滋さん、どうしたんですか?」

 

 牛込君が尋ねてきた。ん?コーヒーが口に合わなかったのかな?いや、心配そうに私を見ているな。

 

「いや、何でもないよ牛込君。なにかが起こりそうな感じがしたものでね」

「なにかがですか?」

「そう、何か儚いようで結ばれそうな予感がしたのさ」

 

 そうだ。これはあくまで予想だが、葵と羽沢君はきっと結ばれるかもしれない。葵、頑張るんだよ。

 

「何か儚い予感がするな」

「どういうことなの薫?」

「つまり......そういうことさ」

「どういうことなのよ......?」

 

 白鷺君、私には何となくだがわかるよ。薫君が言うそういうことが何なのかは謎であるがね。でも正直に言うと......。

 

 

――全くもってわからないけどね!

 

 

▼▼▼▼

 

 

 疲れて来たな。さっき上がったばかりだけど、今日はつぐみちゃんにお返しと一緒に気持ちを伝えないと!仕事が終わると同時につぐみちゃんに声を掛けて今は僕の部屋で"二人きり"になっている。

 

「ごめんねつぐみちゃん。急に呼んじゃって」

「大丈夫だよ。私は呼んでもらって嬉しいから......」

 

 嬉しいってそんなこと言われたらこっちまで嬉しくなっちゃうよ!つぐみちゃんは天然で言ってるのかな?

 

「あっ、ごめん!なんか変なこと言っちゃったね」

「そ、そんなことないよ!僕も、その......」

 

 二人して顔を赤くしてしまった。余計気まずくなっちゃったよ!ああ、耳まで赤くなってきてるし、どう伝えたらいいんだ!?

 

 30分経ち、ようやく落ち着いた。よ、よし!マフィン渡してそれから......。こ、告白しよう!

 

「つ、つぐみちゃん!」

「な、なに?」

「まずは、先月のお返しだけど、これ受け取ってくれる?」

「マフィンなんだ!ありがとう葵君!」

 

 よし喜んでくれた!あとは想いを伝えるだけだ。つぐみちゃん、待たせてごめんね。僕の想いを届けるから!

 

「あと、言いたいことがあるんだ」

「言いたいこと?」

「うん。言いたいことはね......」

 

 

――伝えたよう、この想いを!

 

 

「初めて会った時から好きでした。僕と付き合って下さい!」

 

 

▼▼▼▼

 

 

 それは突然のことだった。葵君が私のことを好きだと言った。やっと聞けた。私と葵君がお互い好きだということに気づいて半年経ってやっと返事を聞けた。私の心はドキドキして落ち着かなくなっていた。

 

 

――でも、それどころか嬉しくて涙が出てしまった。

 

 

「つ、つぐみちゃんどうしたの!?なんかマズかった!?」

「違う、違うの。嬉しいの私」

「えっ、嬉しい?」

「うん。やっと返事が聞けたから。本当に嬉しくて泣いちゃったよ」

 

 私は待ったんだ。葵君の想いを知ったのが夏祭りの時で、それから私と葵君はお互い好きだということに気づいた。でも返事は待とうって二人で決めて、今葵君が言ったということは、私も言わなきゃいけないんだ。

 

「ねえ葵君」

「なにつぐみちゃん?」

「私ね、葵君のことが好き。私でよければ付き合って下さい!」

「もちろんだよ。こちらこそよろしくね」

 

 私と葵君は互いに抱き合った。やっと好きだと言えた。やっと葵君と恋人同士になれた!こんなに嬉しいことは私の人生の中で一番だ。

 

「つぐみちゃんキスしない?」

「うん、いいよ」

 

 私と葵君は初めてのキスをした。もう私の心は死んでしまうんじゃないかっていうくらいに高揚していた。そのキスはとても甘い味がした。

 

 

▼▼▼▼

 

 

 人生で初めてのキスだった。つぐみちゃんを好きになって、色んな青春をして、そして恋人になった。僕の心はドキドキしぱなっしで心臓が破裂してしまいそうだった。キスの味は甘く、破裂しそうな心臓を収まる、不思議な感じだった。

 

「つぐみちゃん、幸せにするからよろしくね」

「うん、こちらこそよろしくね。私も葵君を幸せにするから」

 

 どんな困難が来ても二人で乗り越えていこう。そして......。

 

 

――これからも幸せでありますように。

 

 

 

 




最後まで読んで下さってありがとうございます
結ばれましたが、あくまで幕間の話ですので
本編とは全くもって関係ありません
本編では付き合うのに相当時間がかかりますので、
ご期待下さい
感想と評価お待ちしてます


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四月の一日は嘘になる

エイプリルフールということで更新しました
今回は久しぶりにつぐみが出ます

注意!
今回はキャラ崩壊してるキャラが何人かいます!


 四月一日もといエイプリルフール。今日はなんでも嘘をついていい日だ。しかし、嘘をついていいといっても、洒落にならない時もある。

 

「今日をもって喫茶カーネーションを閉店します!」

 

 それは突然のことだった。周りの常連さんもお客さんも豆鉄砲を食らったかのような表情をした。父さん今はなんて言ったの!?嘘だよね、ねぇ!?

 

「ね、ねぇお父さん。嘘だよねそれ?」

「滋さん。なんてことを言うの!?」

「......と言ったな」

 

 

――あれは嘘だ。

 

 

 び、びっくりした。本当だったら洒落にならない。というかこれをつぐみちゃんが知ったらどうなっていたか。

 

「あ、葵君。一応嘘だよね?」

「つぐみちゃんいたの!?」

「い、いたよ!ひどいなあ葵君」

 

 つぐみちゃんは口元を膨らませて怒った。可愛い、じゃなくて!つぐみちゃんを怒らせてしまった、どうしよう。

 

「葵、羽沢君とデートして来なさい」

「と、父さん!?」

「マ、マスターさん!?」

 

 父さん、それは嬉しいけど、周りのお客さんからヒューヒューとか言われてるんだけど!?恥ずかしいよ......。

 

「葵、土産話よろしくね!」

「お幸せにね、二人とも」

「つぐみちゃん、行こうか」

「う、うん!」

 

 こうして僕とつぐみちゃんはデートへ行くことになった。でも僕達は知らなかった。このあと色々な嘘が待ち受けていることを......。

 

 

▼▼▼▼

 

 葵君とデートに行くことになるなんて思わなかった。どこに行こう、なにをしよう、私の頭の中は混乱してしまっていた。しかも葵君、私の指を絡めて手を繋いでる。これって確かこ、恋人繋ぎだよね!?

 

「つぐみちゃん、どこ行く?」

「そ、そうだね。どこに行こうか!」

「急遽だったから計画立ててなくてごめんね」

「いいよそんな!私こそごめんね、さっき怒はっちゃって」

「つぐみちゃんは悪くないよ!気づかなかった僕が悪いよ!」

 

 こんな言い合いを十分近くもやっていた。なにやってるんだろう私。葵君と付き合い始めて一ヶ月経つけど、甘えるようにはなってもキスは告白以来していない。

 

 私と葵君の関係って上手くいってるかな?葵君はどう思ってるんだろう......。付き合ってるのにこんなこと考えるなんて、私って思い込みが激しいのかな?

 

「あれ、葵君とつぐちゃんじゃん!」

「紗夜先輩と日菜先輩!おはようございます」

「ごきげんよう。葵さん、つぐみさん」

 

 紗夜さんと日菜先輩だ。二人で出掛けてるなんて、相変わらず仲がいいな。

 

「どうしたんですか今日は?」

「今日はね、おねーちゃんとデートなんだ!」

「デ、デートですか!?」

「そうです。それとご報告があります」

「報告?」

 

 なんだろう報告って?二人ともなにかあったのかな?

 

「今日をもって」

「私とおねーちゃんは......」

 

 

――結婚します!

 

 

 はい?今なにを言ったの?嘘......だよね?紗夜さんと日菜先輩が結婚するって、女の子同士で!?

 

「紗夜先輩、日菜先輩。それはマジですか?」

「はい、本気と書いてマジです」

「マジだよー!」

「で、でも子供はどうするんですか!?」

「そこは問題ありません。とある細胞で同性同士でも子供ができると聞いたので」

 

 どうしよう、本気に聞こえてきて頭が痛くなってきた。

 

「というのは冗談ですがね」

「え?冗談なんですか?」

「そうだよ。ごめんね、騙すようなことしちゃって」

「そ、そんな大丈夫ですよ!」

 

 もしかして、エイプリルフールだからかな?薄々気づいてはいたけど、まさか紗夜さんがやるなんて思わなかった。

 

「面白そうでしたので、日菜とやってみようと思いました」

「おねーちゃんるんっと来るよ!本当に結婚しちゃう?」

「し、しないわよ!日菜と結婚なんて、そこまでしないわ」

 

 えっ、そこまでは?じゃあ、どこまでするんですか!?紗夜さんも日菜先輩もその嘘は本当になりかねないから怖いなあ。

 

 

▼▼▼▼

 

 それからは色々な人に会った。友希那先輩とリサ先輩が前世は猫だったとか言ったり、イヴちゃんが私の本当の名前は大和イヴですとか言ったりとヤバい嘘を聞いた。

 

 さらにあこちゃんと燐子先輩が結婚しましたとか巴ちゃんとひまりちゃんが付き合うことになりましただったり千聖先輩がパスパレを解散しましたとか、マジで洒落にならないものが混じっていた。

 

 モカちゃんに至っては、神様になって世界を作ったとか、蘭ちゃんは魔法少女になったとか、香澄ちゃんとはぐみちゃんが本物の探偵になったよとか、りみさんは前世チョココロネやで!と関西弁で言ってきたとかもあった。

 

 もはやデートどころか、色んな人に会ってエイプリルフールネタを突きつけられたとしか言い様のない一日になってしまった。

 

「つ、疲れたね葵君」

「そ、そうだね」

 

 はあ、気づいたらもう昼だ。何人に会ったんだ?もう全員だろうか......。正直今日はつぐみちゃんと二人きりでいたい気分だ。

 

「ね、ねえ葵君!」

「なに?」

「もしよかったらなんだけど......」

 

 

――今日私の家に泊まらない?

 

 

 つぐみちゃん本気なのか?顔から見るに本気だ。泊まって行くといっても一旦帰って着替え持ってきた方がいいよな?

 

「ごめん、一回家に電話するね!」

「うん、わかった」

 

 それから僕は父さんに電話をして泊まることを言った。そしたらあっさりとOKを出してくれた。つぐみちゃんにも一旦帰って着替えを持っていくと言ったが、僕の家についてきてくれた。この子ホントいい子だな。天使か?

 

 

▼▼▼▼

 

 

 時間はあっさり流れ、寝る時間になった。葵君と一緒に寝てるけど、いつも通り私は葵君の腕に抱き着いている。やっぱり葵君の腕って抱き心地いいな。

 

「つぐみちゃん、僕の腕に抱き着くの好きだね」

「あ、嫌だったかな?」

「全然。むしろ嬉しいよ」

「よかった。ずっとこうしていようかな」

「それなら僕はつぐみちゃんを抱き枕にしようかな」

 

 葵君にそんなことを言われたら、私達は愛し合ってるんだなっていう想いに心が満たされてしまう。このまま葵君とずっと寝ていようかな?

 

「つぐみちゃん、キスしたい?」

「キ、キス!?」

 

 葵君は私の唇を人差し指でなぞってきた。うう、こんなことされたらしたくなっちゃうよ!葵君焦らさないでよぉ......。

 

「どう、したくなった?」

「したい、キスしたいよ!」

「じゃあ、おいで?」

 

 私は葵君の胸元に抱き着いてキスをせがんだ。葵君の顔、近くで見ても綺麗だなあ。早くキスしたいよ。

 

「つぐみちゃん」

「葵君」

 

 私と葵君の顔が近づいていく。ああ、もう幸せになりそうだ......。このまま私と葵君は......。

 

 

▼▼▼▼

 

「うわあ!」

 

 私はベッドから盛大に落ちてしまった。あ、あれ?私葵君とキスしようとしてたんじゃなかったっけ?それに葵君がいない。もしかしてこれって......。

 

 

――夢オチだったの!?

 

 

 はあ。悲しい、なんか悲しいよ。期待してたのになんで夢オチなのかなあ?葵君のところに行こうかな。気まずいだろうけど、今日は葵君が恋しいよ。

 

 私は葵君に会いに行くためにお店に行くことにした。幸いなことに私の方はお店が休みだから行くことができた。葵君どうしてるかな?

 

「いらっしゃいませ!あ、つぐみちゃん。おはよう!」

「お、おはよう!あ、葵君」

「大丈夫?顔赤いけど、熱とかない?」

 

 葵君は心配したのか、私の額を触った。うわ、葵君の手冷たい!でも、ひんやりとして気持ちいいな。ずっと触っていてほしいくらいだ。

 

「よかった、熱はないみたいだ」

 

 しかも今度は私の頭に手を置いて優しく微笑んだ。こんなことされたらキュンとしちゃう。葵君ってこんなにかっこよかったっけ?

 

「あ、ごめんね!なんか妹ができたみたいだったから......その、本当にごめん!」

「い、いいよ!私はむしろ......嬉しかったから

「なんか言った?」

「なんでもないよ!なんでもないから!」

 

 その日は一日中私と葵君は顔を合わせにくかった。顔を合わせるとお互い顔を赤くしてしまう、そんなことが何回もあった。

 




夢の中では付き合っていますが、現実は付き合っていません。
エイプリルフールよりも重要なこと、新元号発表されましたね。
アルファベットがRになったらおしまいだって思うのは私だけじゃないはず。
感想と評価お待ちしてます。


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誕生日の贈り物、バリスタと天使のお揃い

凄い今更な誕生日回ですが、気にせず


 もうすぐでつぐの誕生日だ。つぐと付き合って初めての誕生日。僕はつぐにバレないように準備を進めていた。つぐは楽しみにしているんだ。だから、喜ばせてあげないと!

 

「といってもなぁ……誕生日プレゼントどうしようかなぁ」

「どしたの葵?そんな悩んでますよーみたいな顔して」

「あぁ姉さん。今つぐの誕生日プレゼントに迷っててさ、どうしようか考えてるんだ」

 

 考えても考えてもなかなか決まらない。これはあれか?本人に聞いてみるか?サプライズを重視するか、欲しい物を聞いてその通りにするか、僕はどっちを選べばいいんだ?

 

 僕が悩んでいると、姉さんに顔を上げて、と言われた。どうしたんだ?姉さんから何か言われるかもしれない。僕は顔を上げ、姉さんの顔を見た。

 

「葵、悩んでるようだけど、私から提案するね。無理にサプライズじゃなくてもいいんだよ。もし無理そうならつぐみちゃんに聞くのも手の一つだからね?」

「それは大丈夫なの?つぐに何か言われたらって思うと怖くて聞けないよ」

「葵、貴方はつぐみちゃんの彼氏なんでしょ?彼氏がそんなんでどうするの?そんなんだと私は悲しいよ」

 

 確かにそうだ。姉さんの言う通り、僕がこんな状態でどうするんだ。つぐに聞くのも手の一つだと姉さんは言った。それならつぐに聞こう。それでつぐの欲しい物をプレゼントするんだ。

 

 僕は姉さんにありがとう、と言い、つぐに電話をすることにした。目の前で姉さんがニヤニヤしている。相変わらず愛に飢えてるな。父さんと母さんの恋愛は駄目で他人の恋は大好物、僕からしたら不気味だけど、それも姉さんの個性だからいいか。

 

「葵ー?今不気味とか思ってなかった?」

「お、思ってないよ!?」

「ホントにー?怪しいなぁ……。まぁいいや、つぐみちゃんに聞いたら行動あるのみだよ!あと、土産話よろしくね!」

 

 土産話って、それは姉さんからしたらとても重要なことだろう。だったら姉さんを悶えさせるくらいな話を聞かせてやろうじゃないか。

 

 

▼▼▼▼

 

 

 はぁ、と私はため息を吐いた。気になる、アオ君からのプレゼントが気になる。周りからわかるように、私はソワソワしていた。自分でもわかるくらいにだ。

 

「つぐみ、ソワソワしすぎ」

「だ、だって……」

「ため息吐いてると幸せ逃げちゃいますよー」

 

 蘭ちゃんからソワソワしすぎと言われ、モカちゃんからは幸せが逃げるよと言われる。私は充分幸せだよ!ただ私は気になるだけであって、不安だという訳ではない。

 

 ひまりちゃんと巴ちゃんがほっこりした表情で私を見ている。この二人、気づいていないと思うけど、バカップルな雰囲気醸し出してるからね。私も人のこと言えないか。

 

 ポケットからスマホの着信音が聞こえた。これはアオ君からだ。私はスマホを取り出し、アオ君の電話に出た。何だろ、何かあったのかな?私はアオ君の話を聞くことにした。

 

「もしもし、アオ君どうしたの?」

「葵くんから電話……モカ、ラブな波動感じない?」

「ラブな波動感じますよーひーちゃん」

 

 ひまりちゃんとモカちゃんが何か言ってるけど、気にしないでおこう。というかラブな波動って何だろう?私とアオ君は付き合ってから5ヵ月経つけど、そこまでバカップルな雰囲気は出していない。二人でその雰囲気は出さないようにしようって決めてるから……。

 

 アオ君からの話は誕生日プレゼントは何がいいか、ということだった。何がいいかって言われてもすでに決まっている。私が欲しいプレゼントは"お揃い"だ。

 

「じゃあチョーカーで言いかな……。え、どうしてかって?アオ君とお揃いがいいからだよ。駄目かな……いいの?ありがとうアオ君!」

 

 通話を終え、スマホの画面を胸に当てる。恥ずかしかった、普段は自分の部屋で電話することが多いけど、幼馴染みの前で電話をするのは初めてだ。そのせいか、いつもより恥ずかしい。

 

 視線を感じる。巴ちゃんの視線だ。あのつぐが恥ずかしそうにしてるなんて、と言いそうな表情だ。"あの蘭ちゃん"もニヤリとしている。皆してそんな目で私を見るなんて、これじゃあ余計恥ずかしくなるよ!

 

 

▼▼▼▼

 

 

 1月7日、つぐの誕生日当日。お揃いがいいということに決まり、お揃いのチョーカーということは、デートの時にプレゼントされたチョーカーのことだ。昨日買っておいたからプレゼントの方は大丈夫だ。

 

 あとは去年の秋、つぐと一緒に作ったモンブランも用意しようかな。レシピはある、今回は自分で作ろう。姉さんの手は借りない。母さんや父さんからも応援されたんだ。カッコ悪い所は見せられない。

 

 なお、昨日の電話のことを姉さんに話した所、悶えたそうだ。いい、いいよ葵!とか言ったり、頂戴、そういうのもっと頂戴!等と言っていた。相変わらずうちの姉はバケモノ(やべーやつ)だ。

 

「つぐが来るのは昼、とりあえず午前中に準備を終わらせないと……」

「終わらせるって何を?」

「何をってそりゃ準備を……。へ?つぐ?何でここにいるの?」

「えへへ、楽しみ過ぎて待ちきれなかった。早過ぎたかな?」

 

 楽しみ過ぎて待ちきれなかったって、抱き締めていいかな?いや、今やったら歯止めが効かなくなる。抑えよう、今は抑えるんだ。

 

 全然大丈夫だよ、とつぐに言った。安心したのか、つぐは作ってる所見てていいか、と聞いてきた。作ってる所を見るって、集中出来るか心配だけど、多分大丈夫だと思う。まぁ今回はいいか。

 

「見てっていいよ。全然大丈夫だから」

「ありがとう。アオ君がデザート作ってるところ見たかったんだ」

 

 

――見たかったって、集中出来なくなりそうだな。

 

 

▼▼▼▼

 

 

 それから1時間掛かり、準備は終わった。アオ君が作った物はモンブランだった。それも私と一緒に作ったモンブランだ。あの時のことを思い出す。私とアオ君の初めての共同作業、思い出すだけなのにニヤケてしまう。

 

「つぐどうしたの?何かあった?」

「へ!?何でもない!何でもないよ!決して思い出したからニヤケちゃったとかじゃないよ!あ……」

 

 ああもう!何をやってるの私!今日は私の誕生日でしょ!何でこんな顔アオ君に見せちゃってるの!?アオ君に変に思われたかもしれない。

 

「ま、まぁつぐが幸せそうならいいよ。僕は変に思ってないからさ」

「ほ、ホントに?本当に変に思ってない?気持ち悪くない?」

「そんなことない。むしろ可愛かったよ」

 

 もう、アオ君の馬鹿。そんなこと言われたら余計ニヤケちゃうじゃん。私の恋人はこんなことを普通に言ってしまう。多分恥ずかしがってるだろうけど、そんなことばっかり言ったら二人共目を合わせられなくなるよ。

 

「そうだ、先に渡しておくね。つぐ、誕生日おめでとう」

「あ、ああありがとう。今渡すってタイミング悪いよ」

 

 ごめんごめん、アオ君は両手を合わせて謝った。しかも片目瞑ってだ。アオ君ってこんな人だったっけ?

 

 私は渡された誕生日を開けた。アオ君と同じチョーカーだ。私はアオ君にチョーカーを着けてもらうように頼んだ。ライブの衣装の時も着けてるけど、プライベートの時に着けるのは初めてだ。

 

「うん、似合ってる」

「何かあれだね。お互いに束縛してるみたいだね」

「束縛か。つぐに束縛されるなら悪くないかな」

「アオ君、それ言ったら変に聞こえちゃうよ」

 

 けど事実だ。私があの時アオ君にチョーカーをプレゼントしたのは、単に彼なら似合っているというだけだった。でも、今だと意味が変わってくる。今だとお互いに束縛して浮気させないようにするという意味に捉えられる。

 

 それでもいい、私はアオ君と別れたくない。ずっと一緒にいたいから、彼を離したくないから、だから私はチョーカーを選んだ。彼とお揃いにしてしまえばお互いに離せなくなるのだから……。

 

 

――アオ君、ずっと一緒だよ。

 

 

 




最後不穏な終わりになりましたが、続きません


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バリスタの過去と後悔、祖父に感謝を

今回はバンドリ要素が無いかもしれません
敬老の日ということで書いた回なので、つまらないかもです


 9月中旬、父さんと母さんは出掛ける所があると言った。そのため、カーネーションは臨時休業という形で休みとなった。僕は何処に出掛けるかを父さんに聞くことにした。

 

「葵、私と真衣さんは墓参りに行くんだ」

「墓参り?誰の墓参りなの?」

「私の父と母だ。葵や澪からすれば祖父と祖母、と言ったところか」

 

 父さんは真剣な表情で言った。営業の時とは違う表情だった。しかもその日は祝日、敬老の日だった。お爺ちゃんは僕や姉さんが産まれる時にはいなかった。正確には亡くなったが正しい。

 

 休みの日はどうしようか……。姉さんは紗夜先輩と日菜先輩と喫茶店巡りの約束がある、僕は何も予定は無い。そうなると、羽沢珈琲店……つぐの所に行こうかな。

 

 次の日、僕は羽沢珈琲店に行くことにした。父さんと母さんは朝の5時に出掛けた。目的地が遠いということで早めに出掛けたのか。

 

「アオ君、今日はどうするの?」

「今日は1日ここに居るかな。姉さんは紗夜先輩と日菜先輩、3人で喫茶店巡りでいないし、父さんと母さんは出掛ける所があるって言っていないから、一人で留守番するのもアレだから……」

「それで私の所に来たってことなんだよね?」

 

 そういうところかな、僕は息を吐きながら言った。一人でいるよりはつぐと一緒にいた方がマシだ。だから、今日は羽沢珈琲店にいよう。その方が寂しい想いをしないで済む。

 

「出掛ける所があるって言ったけど、何処に出掛けたの?」

「墓参りだって。僕と姉さんのお爺ちゃんとお婆ちゃんかな」

 

 お爺ちゃんってどんな人なんだろう……。父さんと母さんが話すって言ったけど、凄く気になる。よく考えたら父さんと母さんの過去も話すってことだよね?姉さん、親の恋愛話は苦手だけど……大丈夫かな……?

 

 

▼▼▼▼

 

 

 葵と澪には1日休んでもらうことにした。祖父、楠源次。私の父であり、私とは違って凄く真面目な人。私と真衣さんが結婚した6か月後に病で亡くなってしまった。それも今日、敬老の日に亡くなった。

 

 母の楠佑美は父が亡くなったショックにより、寝込んでしまった。行きたい所があると言って川に身を投げようともした。あの世に……父の元に逝こうとした。私と真衣さんで世話をしていたが、数日後に自殺をし、亡くなった。包丁を自分の胸に刺して自殺をしたのだ。

 

「滋さん、大丈夫?辛そうな顔ですけど……」

「私は大丈夫だよ。辛そうにはしていないし、おかしい所はないよ」

「隠せていませんよ。滋さん、ポーカーフェイスをしてもお見通しですよ」

 

 隠せなかったか。真衣さんの前で隠し事は通じない、この人は私のことをちゃんと分かっている。私が彼女にプロポーズする前からお見通しと言われている、もう何度目だろうか、数え切れない回数で言われたな。

 

 私と真衣さんが向かっている目的地は田舎だ。私の出身は田舎で、都会に引っ越したのは父が喫茶店を開くと同時だった。

 

「真衣さん、私は……」

「滋さん、昔のことですよ?後悔しても過去には戻れないんですから、前を進みましょう」

「そうだね」

 

 父が亡くなったあの日、私は後悔している事がある。その後悔は今でも引き摺っている。澪や葵が産まれるよりも前、カーネーションを開店するよりも前、父を看取るあの日、言えなかった言葉がある。

 

 車を運転すること2時間弱、真衣さんと交代しながら目的地へと車を走らせた。真衣さんと昔の話をしたり、新作はどうしようかと話し合ったりしながら時間を潰した。家に着いたら葵と澪に話そう。2人が知らない私達の過去を……。

 

 道中の花屋で花を買い、父と母の墓に向かった。もう何年ぶりだろう、店の事で忙しかったせいか、10年くらい行ってなかったかもしれない。三回忌にも行ってなかったな。行ってなかったというより、行けなかったのだ。

 

「くっ……」

「滋さん!?」

「大丈夫、立ち眩みをしただけだ。真衣さん、私は大丈夫だから……」

 

 息を整え、父と母の墓まで歩を進めた。挨拶をし、花は真衣さんに持ってもらい、私は墓の掃除を始めた。打ち水で墓を清め、花をお供えする。そして線香をあげ、真衣さんと合掌をした。

 

「源次さん、佑美さん、お久しぶりです」

 

 真衣さんは挨拶をした。しかし、私は出来なかった。病院に急いで行ったあの時、父は亡くなっていた。立ち会えなかった後悔、最後に感謝を言えなかった後悔、様々な想いが私を支配した。

 

「滋さん、ここで言わないと……」

「真衣さん、私は……」

「しっかりして下さい。何のために来たんですか?」

 

 真衣さんは真剣な表情で言った。そうだ、ここで言わないと駄目だ。じゃないとまた辛い思いをしてしまう。私は深呼吸をし、息を整えた。

 

「お父さん、お母さん、久しぶり。今まで墓参りに行けなくてごめんね」

「……それだけですか?」

「それだけって何がだい?」

「もう一つ言わなきゃいけない言葉があるでしょう?感謝の言葉ですよ」

「感謝か……。ありがとう、これからも見守っていて下さい」

 

 私は涙を堪えながら言った。真衣さんにここまで言わせてしまうなんて、情けない夫だ。これじゃあバリスタ失格だ。こんな姿は葵と澪には見せられない。子は親の背中を見て育つ、この姿を見せたら親として、バリスタとして失格だ。

 

 

▼▼▼▼

 

 

 羽沢珈琲店を出て、僕はつぐと別れた。父さんと母さんは夜に帰ってくるって連絡があった。姉さんから喫茶店巡りの話聞こうかな?今は夕方だし、父さん達が帰ってくるまで時間はある。とりあえず、夕飯済ませたら姉さんと話しようかな。

 

 その後、僕と姉さんは夕飯を済ませ、つぐの事や喫茶店巡りの事を話し合った。姉さんは紗夜先輩と日菜先輩との喫茶店巡りは楽しかったと言った。今度は深雪さんを誘って4人で行きたいと言ったようだ。

 

「ただいま葵、澪」

「おかえり父さん、母さん。1日お疲れ様」

「墓参り大丈夫だった?」

「ええ、大丈夫よ。心配は無用よ」

 

 母さんは微笑みながら言った。帰ってきたってことは、お爺ちゃんとお婆ちゃんのことを話すってことだよね……。僕と姉さんが産まれた時には亡くなってるとしか聞いてなかったけど、ようやく聞けるのか。どんな人なんだろう。

 

「二人共、遅くまで待たせて済まなかったね」

 

 父さんは僕と姉さんに頭を下げて謝った。謝らなくてもいいのに、謝られたらこっちこそ申し訳ない気持ちになる。

 

 そして父さんと母さんはお爺ちゃんとお婆ちゃんの事を話した。父さんが昔は田舎出身だったこと、お爺ちゃんは有名なバリスタだったこと、お婆ちゃんは和菓子屋の娘だったことを話した。

 

「私はね、父に憧れてバリスタになったんだ」

「そうなの!?」

「ああ、カーネーションを開店するって父に話したら、最初は反対されたんだ。お前には出来ないってね……」

「お婆ちゃんはどうだったの?」

「母は賛成だったよ。父……お父さんと違ってお母さんは滋ならやれるよって言われたさ」

 

 その時の父さんの表情は過去を振り替えりながら、優しい表情をしながら話していた。母さんは隣で見守っていた。源次さん……お爺ちゃんは父さんよりも厳しい人だった。無口で、頑固な人だった。

 

「お爺ちゃんとお婆ちゃんってどうやって結婚したの?」

「澪、大丈夫なの?貴女、親の恋愛話は苦手だったわよね?」

「知りたいの。お爺ちゃんとお婆ちゃんはどうやって知り合ったのか、誰からプロポーズしたのか、知っておきたいの」

「澪……。分かった。お母さんの和菓子屋で二人が出会って、二人はそこで一目惚れをしたんだ。それで、2か月で付き合って、1年後にお母さんからプロポーズをした。こんな所だ」

 

 あっさりしてる。しかも一目惚れって僕とつぐの事みたいに聞こえる。あの時、父さんと母さんの顔凄く優しい顔してたっけ……。

 

 父さんは後悔していた事が一つあった。母さんと結婚し、バリスタの修行をしていた時にお爺ちゃんが危篤状態に陥ったことを聞いた。父さんは急いで病院に向かった。電車で乗り換えをし、タクシーで病院まで向かい、走りながら病院に向かった。でも、着いた頃にはお爺ちゃんは亡くなった。

 

「あの時の事は今でも忘れられない。お父さんの側にいてあげられなかったことは今も後悔している。お母さんは寝込んでしまったんだ。自殺もしようとした。私と真衣さんで何度も止めたが、それも出来なかった」

「そうだったんだね……」

「ああ、それに……お父さんに言えなかったこともあるんだ。側にいてあげられなくてごめんなさいって言えなかったんだ」

 

 お爺ちゃんとお婆ちゃんが亡くなった後も父さんは何年も引き摺っていた。二人が亡くなった次の年にカーネーションは開店した。

 

 父さんから聞いた話はこれが全部だった。父さんは凄く辛そうにしていた。母さんがいないと駄目なくらいに辛そうだった。姉さんも話を聞いていた途中で泣いてしまった。聞かせてくれてありがとう、姉さんは父さんに言った。

 

 敬老の日、お爺ちゃんやお婆ちゃんに感謝を伝えたり、敬ったり色々ある。けど、お爺ちゃんは敬老の日に亡くなった。それは父さんにとって非情な現実だった。

 

 墓参りに行く時になったら僕も行こう。それで、ありがとうって言おう。バリスタをやってる時のお爺ちゃんはどんな想いでコーヒーを淹れていたんだろう。それを知っているのは父さんだけだ。

 

 

ーーいつも来てくれてありがとう、いつも淹れてくれてありがとう、そんな想いなのかもしれない。

 

 

 

 

 

 

 




その想いは客人を暖めてくれるのかもしれない


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