『鍵使い』が行くありふれた世界 (星紡 粋蓮)
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序章 別れ
プロローグ


さて、原作崩壊で低評価覚悟の「ありふれ」小説です。

え? 覚悟してるなら書くなって? ごもっとも……


「…い、聞い…るのか! す…げ…!」

「ん」

 

 忌々しい奴の声で目を覚ます。軽く目元を擦って隣の南雲(なぐも)ハジメの席を見ると、ハジメの他に白崎香織(しらさきかおり)八重樫雫(やえがししずく)坂上龍太郎(さかがみりゅうたろう)天之河光輝(あまのがわこうき)と、この学校一有名な四人組が集まっていた。ので、

 

「……おはよう。ハジメ、白崎さん、八重樫さん、坂上、天之河」

 

 とりあえず挨拶をすると、それぞれ返事を返す。

 

「あ、ああ。おはよう……じゃなくて、君も何学校に来て早々寝ているんだ!」

「悪いな。目覚めが悪かったんだよ」

「そうだとしても寝るのは良くない。それに南雲もだ。何時までも香織の優しさに甘えるのはどうかと思うよ。香織だって君に構ってばかりはいられないんだから」

 

 天之河がなんか俺とハジメに忠告してくる。それに対してハジメが笑ってやり過ごそうとすると、白崎さんが爆弾発言をした。

 

「? 光輝くん、なに言ってるの? 私は、南雲くんと話したいから話してるだけだよ?」

「え? ……ああ、ホント、香織は優しいよな」

 

 天之河の中では白崎さんの発言は気を遣った発言らしい。彼は正義感が強いが思い込みも激しく、自分の正しさを疑わない。それ故、なにを指摘しても無意味とかす。というか無意味となった。

 

「……ごめんなさいね? 二人共悪気はないのだけど……」

「八重樫さん。その“悪気がない”のが厄介なんだよ」

「……そうね。なんとかしたいのだけど……」

 

 そうこうしている内に始業のチャイムが鳴り教師が教室に入ってきた。教室の空気のおかしさには慣れてしまったのか何事もないように朝の連絡事項を伝える。そして、何時ものようにハジメが夢の世界に旅立ち、当然のように授業が開始された。

 そんなハジメを見て白崎さんが微笑み、八重樫さんはある意味大物ねと苦笑いし、男子達は舌打ちを、女子達は軽蔑の視線を向ける中、俺は溜め息を吐くのであった。

 

 

 ☆ ★ ☆ ★ ☆

 

 

 しばらく経ち、昼休みになると教室がざわつき始める。すると寝ていたハジメが目を覚ます。

 

「本日二度目のおはようだ、ハジメ」

「そうだね、夜空(よぞら)くん」

 

 ハジメはそう言って鞄から十秒でチャージできるアレを取り出して飲み干す。そして再び寝の体勢に入る。いや、入ろうとしたら白崎さんがやって来た。

 

「南雲くん。珍しいね、教室にいるの。お弁当? よかったら一緒にどうかな? あ、粋月(すいげつ)くんも」

 

 再び教室が不穏な空気になる中、俺は白崎さんの言葉から「俺はついでか」と少し落ち込んだ。チラッとハジメの方を見ると、ハジメは抵抗を試みた。

 

「あ~、誘ってくれてありがとう、白崎さん。でも、もう食べ終わったから天之河くん達と食べたらどうかな?」

 

 ハジメはそう言って吸い付くされたお昼を見せる。しかし、その程度の抵抗は意味をなさないと言わんばかりに追撃される。

 

「えっ! お昼それだけなの? ダメだよ、ちゃんと食べないと! 私のお弁当、分けてあげるね!」

 

 刻一刻と増していく圧力に、ハジメは冷や汗を流しているとそこに颯爽と救世主が現れる。

 

「香織。こっちで一緒に食べよう。南雲はまだ寝たりないみたいだしさ。せっかくの香織の美味しい手料理を寝ぼけたまま食べるなんて俺が許さないよ?」

 

 爽やかに笑いながら気障なセリフを吐く天之河に白崎さんはキョトンとする。その隙に、お弁当として持ってきたおにぎりの最後の1つを食べ終える。

 

「え? 何で、光輝くんの許しがいるの?」

 

 素で聞き返す白崎さんに八重樫さんが「ブフッ」と吹き出し、天之河は困ったように笑う。なんだかんだ、ハジメの席に学校一有名な四人組が集まっており、視線の圧力は弱まらない。

 おにぎりを食べ終えた俺は、この場から離れるために席をたつ。そして、天之河の足元に白銀に光り輝く円環と幾何学模様─魔法陣に気づく。そしてその異常事態には直ぐに周りの生徒達も気がついた。全員が金縛りにでもあったかのように魔法陣を注視する。

 その魔法陣は徐々に輝きを増していき、一気に教室全体を満たすほどの大きさに拡大した。

 未だ教室にいた愛子先生が咄嗟に「皆! 教室から出て!」と叫んだのと、魔法陣の輝きが爆発したようにカッと光ったのは同時だった。

 数秒か、数分か、光によって真っ白に塗りつぶされた教室が再び色を取り戻す頃、そこには既に誰もいなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 粋月夜空の机の残された手帳が風で捲られ、最後のページを開く。そこにはこう書かれていた。

 

──心の標に従って進み、狂った運命を変えなければならない。でなければ、光は敗北することになる。




雑にこの物語を解説すると、「ハジメパーティーを含むクラスメイトが全滅する未来」を覆すために夜空がキーブレードを持って転生してきた、と言った感じです。



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第1話 異世界トータス

「ありふれ」ってどうも序盤まで他の人と似通ってしまう気がする。


 左手で顔を庇い、閉じていた目をゆっくりと開く。そして、周囲を呆然と見渡すと、目に飛び込んできたのは巨大な壁画だった。

 縦横十メートルはありそうなその壁画には、後光を背負い長い金髪を靡かせうっすらと微笑む中性的な顔立ちの人物が描かれていた。背景には草原や湖、山々が描かれ、それらを包み込むかのように、その人物は両手を広げている。素晴らしいと思うと同時に、何故か寒気を感じる壁画だった。

 辺りを見てみると、どうやら大理石らしき物で作られた巨大な広間にいるらしいということが分かった。滑らかな白い石造りの建築物で、彫刻が彫られた巨大な柱に支えられ、天井はドーム状になっている。大聖堂という言葉が一番似合いそうな荘厳な雰囲気の広間だ。

 俺達はその最奥にある台座のような場所の上にいるようだ。周囲より位置が高い。周りには呆然と周囲を見渡すクラスメイト達がいた。おそらく、あの時、教室にいた生徒は全員この状況に巻き込まれたと思われる。

 そして、台座の周囲には白地に金の刺繍がされた法衣のようなものを纏った者達が三十人近くの人々が祈りを捧げるかのように跪いていた。

 その内の一人、法衣集団の中でも特に豪奢で煌びやかな衣装を纏い、高さ三十センチ位ありそうなこれまた細かい意匠の凝らされた烏帽子えぼしのような物を被っている七十代くらいの老人が進み出てきた。どうみても彼らの中で一番地位が高いと言わんばかりの豪華さだ。

 

「ようこそ、トータスへ。勇者様、そしてご同胞の皆様。歓迎致しますぞ。私は、聖教教会にて教皇の地位に就いておりますイシュタル・ランゴバルドと申す者。以後、宜しくお願い致しますぞ」

 

 そう言って、イシュタルと名乗った老人は、好々爺然とした微笑を見せた。同時に俺はイシュタルと聞いてしかめっ面になった。

 そして、イシュ……ランゴバルドはこんな場所では落ち着くこともできないだろうと、俺達をいくつもの長テーブルと椅子が置かれた広間へと案内した。道中、クラスメイトを天之河が落ち着かせ、愛子先生が涙目になっていたが……。

 案内されたこの大広間も例に漏れず煌びやかな作りで、素人目にも調度品や飾られた絵、壁紙が職人芸の粋を集めたものなのだろうとわかる。晩餐会などをする場所なのだろう。上座に近い方に愛子先生と天之河達四人組が座り、後はその取り巻き順に適当に座っていく。俺とハジメは最後方に座る。

 全員が着席すると、絶妙なタイミングでカートを押しながらメイドさん達が入ってきた。某聖地にいるようなエセメイドや外国にいるデップリしたおばさんメイドではない。正真正銘、男子の夢を具現化したような美女・美少女メイドであった。

 クラス男子の大半がメイドさん達を凝視しており、こんな状況でもこいつらの欲望は健在なのかと呆れる。ちなみに、それを見た女子達の視線は、氷河期もかくやという冷たさを宿していた。

 

 ちなみに俺は「どうも」とだけ言ってメイドから視線を外した。メイドがちょっと落ち込んでたけど。

 全員に飲み物が行き渡るのを確認するとランゴバルドが話し始めた。

 

「さて、あなた方においてはさぞ混乱していることでしょう。一から説明させて頂きますのでな、まずは私の話を最後までお聞き下され」

 

 そう言って始めたランゴバルドの話はよくあるファンタジーものではテンプレのものだった。

 要約すると、

 

 この世界はトータスと呼ばれており、大きく分けて三つの種族がいる。それが人間族、魔人族、亜人族であり、人間族は北一帯、魔人族は南一帯を支配しており、亜人族は東の巨大な樹海の中でひっそりと生きているとのこと。

 さらにこの内、人間族と魔人族が何百年も戦争を続けている。魔人族は、数は人間に及ばないものの個人の持つ力が大きいらしく、その力の差に人間族は数で対抗していたそうだ。戦力は拮抗し大規模な戦争はここ数十年起きていないらしいが、最近、魔人族が魔物の使役を始めたらしい。今まで本能のままに活動する彼等を使役できる者はほとんどおらず、できても、せいぜい一、二匹程度だという。その常識が覆された。

 これにより、人間族側の“数”というアドバンテージが崩れた。つまり、人間族は滅びの危機を迎えている。

 

「あなた方を召喚したのは“エヒト様”です。我々人間族が崇める守護神、聖教教会の唯一神にして、この世界を創られた至上の神。おそらく、エヒト様は悟られたのでしょう。このままでは人間族は滅ぶと。それを回避するためにあなた方を喚ばれた。この世界より上位の世界の人間であるあなた方は、この世界の人間よりも優れた力を有しているのです例外なく強力な力を持っています」

 

 そこで一度言葉を切ったランゴバルドは、「神託で伝えられた受け売りですがな」と表情を崩す。

 

「あなた方には是非その力を発揮し、“エヒト様”の御意志の下、魔人族を打倒し我ら人間族を救って頂きたい」

 

 ランゴバルドはどこか恍惚とした表情を浮かべている。おそらく神託を聞いた時のことでも思い出しているのだろう。

 ランゴバルドによれば人間族の九割以上が創世神エヒトを崇める聖教教会の信徒らしく、度々降りる神託を聞いた者は例外なく聖教教会の高位の地位につくらしい。

 俺が小さく「え~」と引いていると、愛子先生が突然立ち上がり猛然と抗議する。

 

「ふざけないで下さい! 結局、この子達に戦争させようってことでしょ! そんなの許しません! ええ、先生は絶対に許しませんよ! 私達を早く帰して下さい! きっと、ご家族も心配しているはずです! あなた達のしていることはただの誘拐ですよ!」

 

 ぷりぷりと怒る愛子先生。彼女は生徒のためにとあくせく走り回る姿はなんとも微笑ましく、そのいつでも一生懸命な姿と大抵空回ってしまう残念さのギャップに庇護欲を掻き立てられる生徒は少なくない。

 今回も理不尽な召喚理由に怒り、ウガーと立ち上がった。ほんわかした気持ちでランゴバルドに食ってかかる愛子先生を眺めていた生徒達だったが、次のランゴバルドの言葉に凍りついた。

 

「お気持ちはお察しします。しかし……あなた方の帰還は現状では不可能です」

 

 場に静寂が満ちる。重く冷たい空気が全身に押しかかっているようだ。誰もが何を言われたのか分からないという表情でランゴバルドを見やる。

 

「ふ、不可能って……ど、どういうことですか!? 喚べたのなら帰せるでしょう!?」

 

 愛子先生が叫ぶ。

 

「先ほど言ったように、あなた方を召喚したのはエヒト様です。我々人間に異世界に干渉するような魔法は使えませんのでな、あなた方が帰還できるかどうかもエヒト様の御意思次第ということですな」

「そ、そんな……」

 

 愛子先生が脱力したようにストンと椅子に腰を落とす。異空の回廊を使えば帰れなくはないが、もれなく他のクラスメイトが闇に呑まれるから駄目だ。周りの生徒達も口々に騒ぎ始めた。

 

「うそだろ? 帰れないってなんだよ!」

「いやよ! なんでもいいから帰してよ!」

「戦争なんて冗談じゃねぇ! ふざけんなよ!」

「なんで、なんで、なんで……」

「嘘だッ!」

 

 パニックになる生徒達。ってモノマネしたの誰だ!

 誰もが狼狽える中、ランゴバルドは特に口を挟むでもなく静かにその様子を眺めていた。俺はそんなランゴバルドを気づかれないように睨む。

 未だパニックが収まらない中、天之河が立ち上がりテーブルをバンッと叩く。その音にビクッとなり注目する生徒達。天之河は全員の注目が集まったのを確認するとおもむろに話し始めた。

 

「皆、ここでイシュタルさんに文句を言っても意味がない。彼にだってどうしようもないんだ。……俺は、俺は戦おうと思う。この世界の人達が滅亡の危機にあるのは事実なんだ。それを知って、放っておくなんて俺にはできない。それに、人間を救うために召喚されたのなら、救済さえ終われば帰してくれるかもしれない。……イシュタルさん? どうですか?」

 

 は?

 

「そうですな。エヒト様も救世主の願いを無下にはしますまい」

「俺達には大きな力があるんですよね? ここに来てから妙に力が漲っている感じがします」

「ええ、そうです。ざっと、この世界の者と比べると数倍から数十倍の力を持っていると考えていいでしょうな」

「うん、なら大丈夫。俺は戦う。人々を救い、皆が家に帰れるように。俺が世界も皆も救ってみせる!」

 

 ギュッと握り拳を作りそう宣言する光輝。無駄に歯がキラリと光る。……歯って光るものだっけ?

 同時に、天之河のカリスマは遺憾なく効果を発揮した。否、してしまった。絶望の表情だった生徒達が活気と冷静さを取り戻し始めたのだ。天之河を見る目はキラキラと輝いており、まさに希望を見つけたという表情だ。女子生徒の半数以上は熱っぽい視線を送っている。

 

「へっ、お前ならそう言うと思ったぜ。お前一人じゃ心配だからな。……俺もやるぜ?」

「龍太郎……」

 

 おい、

 

「今のところ、それしかないわよね。……気に食わないけど……私もやるわ」

「雫……」

 

 ちょっと、

 

「え、えっと、雫ちゃんがやるなら私も頑張るよ!」

「香織……」

 

 待て。いつものメンバーが天之河に賛同すると、当然の流れというようにクラスメイト達が賛同していく。

 

「ちょっと待て!」

 

 俺が立ち上がって待ったをかけると、全員が俺を見る。

 

「なんだい、粋月」

「……お前ら、戦うというなら命を奪い、奪われる覚悟はあるんだろうな」

 

 クラスメイトの何人かが顔を見合わせる。すると、まるで代表するかのように天之河が答える。

 

「当然あるさ」

「あっそ。なら天之河、お前は目の前の命を捨てられるのか」

「え? 何を言ってるんだい。命を救うために戦うんじゃないか」

「っ! ……はぁ。いつかお前の甘さが、悲劇を起こすよ」

 

 説得するのはやはり無理だったか呟きながら座る。結局、全員で戦争に参加することになってしまった。おそらく、クラスメイト達は本当の意味で戦争をするということがどういうことか理解してはいないだろう。崩れそうな精神を守るための一種の現実逃避とも言えるかもしれない。

 ランゴバルドが事情説明をする間、それとなく天之河を観察し、どの言葉に、どんな話に反応するのか確かめていた。正義感の強い天之河が人間族の悲劇を語られた時の反応は実に分かりやすかった。その後は、ことさら魔人族の冷酷非情さ、残酷さを強調するように話していた。おそらく、ランゴバルドは見抜いていたのだろう。この集団の中で誰が一番影響力を持っているのか。

 だからこそ、“種”を蒔いた。けどそれが発芽する頃にはもう手遅れかもしれない。そう思って俺は天井を見上げた。悲劇が起こる前に発芽してくれるようにと願いながら。

 

 

 ☆ ★ ☆ ★ ☆

 

 

 王宮にやって来た俺達は、国王達と自己紹介をした。途中、王子が白崎さんをチラチラ見ていたことから、彼女の魅力は異世界でも通用するらしい。

 その後、晩餐会で異世界料理を堪能することになった。見た目は地球のものと変わらなかったが、たまに桃色のソースや虹色に輝く飲み物が出てきて驚いたが、見た目に反して美味しかった。

 晩餐が終わり、解散になると、各自に一室ずつ与えられた部屋に案内された。天蓋付きベッドに愕然とした。

 

「チリシィ」

 

 ベッドに腰掛けて俺がその名を呼ぶと、俺の足元にハートが集まり、スコティッシュフォールドに似た生物が出現する。

 

「どうしたの、夜空?」

「また……戦争に参加することになったよ」

「うん。聞いてたよ」

「だから、君を抱いて寝てもいいかい」

「うん、いいよ」

「ありがとう」

 

 俺はチリシィの頭を撫でる。このチリシィは、神が作ったチリシィだ。あの世界のチリシィを模して作ったらしい。しかも、俺が闇の力を使ってもナイトメアにならないようにしてくれた。

 

「お休み、チリシィ」

「お休み、夜空」

 

 俺はチリシィを抱きしめて、眠りについた。




夜空はリクみたいに闇の力も使うので、ナイトメアにならない特別仕様のチリシィを用意。
アンチフォームやレイジフォームも使わせたいしね。


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第2話 ステータス

すでに感想で言ったように、夜空はKHxのキーブレード戦争の経験者です。だからこそ前回、戦うことを止めようとしました。
でも、この時って「天之河に任せとけば大丈夫」感が強いんで止められませんでした。

そして、夜空の天職やキーブレードは簡単に決められたのに、ステータスに四苦八苦しました。

ところで………ハジメたちは17(高校2年から3年)なのに、アフターで一年生の中ほどと書いてあって悩んだ結果、生徒全員16歳にしました。

2/18 感想で夜空の技能少なくねと言われたので、KHのアビリティのみ別ステータス(鍵の力)という形にしました。リフレクトガード(ほぼ完全カード)とか、ダブルフライト(空中ジャンプ)とか、ドッチロール(無敵前転)とか。


 雨が降る荒野で、キーブレード使い達が戦い続ける。すでに、主を無くしたキーブレードがいくつも突き刺さっている。

 ここは戦場、ならばいつまでも立ち尽くしている訳にはいかない。少しでも彼らの心が闇に染まる前に、俺が──

 

 

 ☆ ★ ☆ ★ ☆

 

 

「……なんでまた、あの頃の夢を」

「おはよう、夜空。よく眠れなかったの?」

 

 俺のことを心配してくれるチリシィの頭を撫でて、ベッドから起き上がる。

 

()()()に着替える?」

「いや、今着替えると面倒くさいことになると思うからいいよ」

「わかった。なら、僕も姿を消してるね」

 

 そう言ってチリシィはボフンと煙となって消えた。

 

「……行くか」

 

 俺は部屋を出ると、訓練場へ向かった。

 

 

 ★ ☆ ★ ☆ ★

 

 

 まず、集まった俺達に十二センチ×七センチ位の銀色のプレートが配られた。なにこれと疑問に思っていると、騎士団長のメルド・ロギンスが説明してくれた。

 ちなみに、対外的にも対内的にも“勇者様一行”を半端な者に預けるわけにはいかないということで騎士団長が付きっきりになるとのこと。

 メルド団長本人も、「むしろ面倒な雑事を副長に押し付ける理由ができて助かった!」と豪快に笑っていたから大丈夫なのだろう。副長さんは今頃泣いているんじゃないか。

 

「よし、全員に配り終わったな? このプレートは、ステータスプレートと呼ばれている。文字通り、自分の客観的なステータスを数値化して示してくれるものだ。最も信頼のある身分証明書でもある。これがあれば迷子になっても平気だからな、失くすなよ?」

 

 非常に気楽な喋り方をするメルド団長。彼は曰く、「これから戦友になろうってのにいつまでも他人行儀に話せるか!」とのこと。他の騎士団員達にも普通に接するように忠告していた。

 俺達もその方が気楽で良かった。遥か年上の人達から慇懃な態度を取られると居心地が悪い。

 

「プレートの一面に魔法陣が刻まれているだろう。そこに、一緒に渡した針で指に傷を作って魔法陣に血を一滴垂らしてくれ。それで所持者が登録される。“ステータスオープン”と言えば表に自分のステータスが表示されるはずだ。ああ、原理とか聞くなよ? そんなもん知らないからな。神代のアーティファクトの類だ」

「アーティファクト?」

 

 アーティファクトという聞き慣れない単語に天之河が質問をする。クラスメイトの何人かも頭に?を浮かべている。

 

「アーティファクトっていうのはな、現代じゃ再現できない強力な能力を持った魔法の道具のことだ。まだ神やその眷属達が地上にいた神代に創られたと言われている。そのステータスプレートもその一つでな、昔からこの世界に普及しているものとしては唯一のアーティファクトだ。普通は、アーティファクトと言えば国宝になるもんなんだが、これは一般市民にも流通している。身分証に便利だからな」

 

 ちなみに、このステータスプレートを作製するアーティファクトも存在し、教会の厳重な管理のもと必要に応じて毎年作製・配布されているらしい。

 ふーん、と頷き俺は左手の親指に針を軽く刺して魔法陣に擦りつける。すると、魔法陣が一瞬淡く輝き、スッと藤色へと変色していく。

 他のクラスメイトを見ると、ハジメが空色で、天之河が純白、坂上が深緑色で、白崎さんが白菫色、八重樫さんが瑠璃色だった。

 メルド団長がいうには、魔力には人それぞれに違う色を持っていて、所持者の魔力色に合わせて染まるとのこと。

 ふーん、思いつつステータスプレート見ると……

 

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粋月夜空 16歳 男 レベル:1

天職:キーブレード使い

筋力:70

体力:82

耐性:75

敏捷:80

魔力:100

耐魔:75

技能:鍵の力・回復魔法・全属性適性・闇属性耐性・剣術・高速魔力回復・気配探知・壁走り・言語理解

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 と表示されていた。天職がそれでいいのか。

 他のクラスメイト達がマジマジと自分のステータスに注目していると、メルド団長よるステータスの説明が始まった。

 

「全員見れたか? 説明するぞ? まず、最初に“レベル”があるだろう? それは各ステータスの上昇と共に上がる。上限は100でそれがその人間の限界を示す。つまりレベルは、その人間が到達できる領域の現在値を示していると思ってくれ。レベル100ということは、人間としての潜在能力を全て発揮した極地ということだからな。そんな奴はそうそういない」

 

 どうやらレベルが上がることでステータスが上がる訳ではないらしい。

 

「ステータスは日々の鍛錬で当然上昇するし、魔法や魔法具で上昇させることもできる。また、魔力の高い者は自然と他のステータスも高くなる。詳しいことはわかっていないが、魔力が身体のスペックを無意識に補助しているのではないかと考えられている。それと、後で、お前等用に装備を選んでもらうから楽しみにしておけ。なにせ救国の勇者御一行だからな。国の宝物庫大解放だぞ!」

 

 メルド団長の言葉から推測すると、地道に腕を磨かなければならないようだ。

 

「次に“天職”ってのがあるだろう? それは言うなれば“才能”だ。末尾にある“技能”と連動していて、その天職の領分においては無類の才能を発揮する。天職持ちは少ない。戦闘系天職と非戦系天職に分類されるんだが、戦闘系は千人に一人、ものによっちゃあ万人に一人の割合だ。非戦系も少ないと言えば少ないが……百人に一人はいるな。十人に一人という珍しくないものも結構ある。生産職は持っている奴が多いな」

 

 確か、俺達は上位世界とやらの人間だから、トータスの人達よりハイスペックなのだとランゴバルドが言っていたが、この世界の標準がわからない以上はなんとも言えないな。

 

「後は……各ステータスは見たままだ。大体レベル1の平均は10くらいだな。まぁ、お前達ならその数倍から数十倍は高いだろうがな! 全く羨ましい限りだ! あ、ステータスプレートの内容は報告してくれ。訓練内容の参考にしなきゃならんからな」

 

 この世界のレベル1の平均は10らしい。俺のステータスは魔力を除けば7,8倍か。

 するとハジメがアワアワしだした。

 

「ハジメ、どうした」

「こ、これ」

 

 そう言ってハジメは俺にステータスプレートを見せてくる。そこには、

 

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南雲ハジメ 16歳 男 レベル:1

天職:錬成師

筋力:10

体力:10

耐性:10

敏捷:10

魔力:10

耐魔:10

技能:錬成・言語理解

=================

 

 と、表示されていた。オール10。つまり平均値である。

 

「……きっと晩成型なんだよ、きっと」

「そう……だよね」

 

 ハジメは、小さく「大丈夫、きっと伸びる。きっと伸びる」と呟き始めた。

 ちなみに、天之河のステータスは……

 

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天之河光輝 16歳 男 レベル:1

天職:勇者

筋力:100

体力:100

耐性:100

敏捷:100

魔力:100

魔耐:100

技能:全属性適性・全属性耐性・物理耐性・複合魔法・剣術・剛力・縮地・先読・高速魔力回復・気配感知・魔力感知・限界突破・言語理解

=================

 

 といった感じであった。あれが勇者とか理解できない。

 

「ほお~、流石勇者様だな。レベル1で既に三桁か……技能も普通は二つ三つなんだがな……規格外な奴め! 頼もしい限りだ!」

「いや~、あはは……」

 

 メルド団長の称賛に照れたように頭を掻く天之河。始めに見せてもらったメルド団長のレベルは62。ステータスの平均は300前後だった。しかし、天之河はレベル1で既にそれの三分の一に迫っており、成長次第では、あっさり追い抜くだろう。

 ちなみに、技能=才能であり、先天的なものなので増えたりはしないらしい。一応が“派生技能”という形では増えるが、これはいわゆる“壁を越えた”結果、会得する後天的技能とのこと。

 天之河だけではなく他の生徒も、天之河に及ばないながら十分高いステータスだった。それにしても今のところハジメを除くと戦闘系天職しかいないのだが……あれ? 何人に一人でしたっけ? 

 報告の順番が回ってきたので、乾いた笑みを浮かべているハジメと一緒にメルド団長にプレートを見せる。

 今まで、規格外のステータスばかり確認してきたからか、メルド団長の表情はホクホクしている。が、俺のプレートを見て瞬時に真面目な表情になる。

 

「む……キーブレード使いとは聞いたことがないな」

「これを扱える人がそう呼ばれます」

 

 俺の右手から黒と白の光が螺旋状に走ると星空を連想させるような大きな鍵、キーブレードが出現する。すると周りがざわつく。

 

「これがキーブレード。資格がないと扱えないものです」

「その資格というのは」

「キーブレードに使い手として認められること、ただそれだけです」

 

 そう言ってキーブレードを消す。

 

「そしてこうやって、使わないときは消しておける」

「そうか、面白い武器だな。そして……」

 

 その団長の表情が「うん?」と笑顔のまま固まり、ついで「見間違いか?」というようにプレートをコツコツ叩いたり、光にかざしたりする。そして、ジッと凝視した後、もの凄く微妙そうな表情でプレートをハジメに返した。

 

「ああ、その、なんだ。錬成師というのは、まぁ、言ってみれば鍛治職のことだ。鍛冶するときに便利だとか……」

 

 歯切れ悪くハジメの天職を説明するメルド団長。

 その様子にハジメを目の敵かたきにしている男子達が食いつかないはずがない。鍛治職ということは明らかに非戦系天職だ。クラスメイト達全員が戦闘系天職を持ち、これから戦いが待っている状況では役立たずの可能性が大きい。

 現に檜山が、ニヤニヤとしながら声を張り上げた。

 

「おいおい、南雲。もしかしてお前、非戦系か? 鍛治職でどうやって戦うんだよ? メルドさん、その錬成師って珍しいんっすか?」

「……いや、鍛治職の十人に一人は持っている。国お抱えの職人は全員持っているな」

「おいおい、南雲~。お前、そんなんで戦えるわけ?」

 

 檜山が、実にウザイ感じでハジメと肩を組む。見渡せば、周りの生徒達──特に男子はニヤニヤと嗤っている。

 

「さぁ、やってみないと分からないかな」

「じゃあさ、ちょっとステータス見せてみろよ。天職がショボイ分ステータスは高いんだよなぁ~?」

 

 メルド団長の表情から内容を察しているだろうに、わざわざ執拗しつように聞く檜山。本当に嫌な性格をしている。取り巻きの三人もはやし立てる。強い者には媚び、弱い者には強く出る典型的な小物の行動だ。事実、香織や雫などは不快げに眉をひそめている。

 ハジメが投げやり気味にプレートを渡すと、その内容を見て檜山は爆笑する。そして、斎藤達取り巻きに投げ渡し内容を見た他の連中も爆笑なり嘲笑なりをしていく。

 

「ぶっはははっ~、なんだこれ! 完全に一般人じゃねぇか!」

「ぎゃははは~、むしろ平均が10なんだから、場合によっちゃその辺の子供より弱いかもな~」

「ヒァハハハ~、無理無理! 直ぐ死ぬってコイツ! 肉壁にもならねぇよ!」

 

 次々と笑い出す生徒に俺や白崎さんが憤然と動き出そうとするが、その前に愛子先生がウガーと怒りの声を上げた。

 

「こらー! 何を笑っているんですか! 仲間を笑うなんて先生許しませんよ! ええ、先生は絶対許しません! 早くプレートを南雲君に返しなさい!」

 

 精一杯怒りを表現する愛子先生に毒気を抜かれたのかプレートがハジメに返される。

 そして愛子先生はハジメに向き直ると励はげますように肩を叩いた。

 

「南雲君、気にすることはありませんよ! 先生だって非戦系? とかいう天職ですし、ステータスだってほとんど平均です。南雲君は一人じゃありませんからね!」

 

 そう言って「ほらっ」と愛子先生はハジメに桜色に染まった自分のステータスを見せた。

 

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畑山愛子 25歳 女 レベル:1

天職:作農師

筋力:5

体力:10

耐性:10

敏捷:5

魔力:100

魔耐:10

技能:土壌管理・土壌回復・範囲耕作・成長促進・品種改良・植物系鑑定・肥料生成・混在育成・自動収穫・発酵操作・範囲温度調整・農場結界・豊穣天雨・言語理解

=================

 

 それを見たハジメは死んだ魚のような目をして遠くを見だした。

「あれっ、どうしたんですか! 南雲君!」とハジメをガクガク揺さぶる愛子先生と「この世界の食料関係が一変するかもしれん!!」と教会に連絡を急がせるメルド団長。

 愛子先生……戦争において食料って重要なんですよ。

 ちょっと、一人じゃないかもと期待したが故にハジメのダメージは深い。

 

「あらあら、愛ちゃんったら止め刺しちゃったわね……」

「な、南雲くん! 大丈夫!?」

 

 反応がなくなったハジメを見て八重樫さんが苦笑いし、白崎さんが心配そうに駆け寄る。愛子先生は「あれぇ~?」と首を傾げている。相変わらず一生懸命だが空回る愛子先生にほっこりするクラスメイト達。

 が、そんな空気を読まずに天之河が話しかけてきた。

 

「粋月、ちょっといいか」

「ん、なんだ」

「さっきのキーブレードとやらを貸して欲しいんだ。きっと俺にも使える筈だ」

「それを決めるのは俺じゃなくてキーブレードだ」

 

 俺はキーブレードを呼び出すと、投げて天之河に渡す。

 

「振ってみろ。資格がなければそのキーブレードは持ち主、つまり俺の手元に戻る」

「わかった」

 

 天之河は俺の言葉に頷くと、キーブレードを振り下ろした。次の瞬間、

 

「なっ!」

 

 キーブレードは天之河の手元から消え、俺の手元に現れる。

 

「残念だったな」

「な! ま、待ってくれ、今のは─」

「お前はキーブレードに認められなかった。それだけだ」

 

 そう言って俺は、メルド団長に「すみません」と言ってから、訓練場を後にした。天之河は自分の右手を見つめるだけだった。




天之河は絶対キーブレードとかの選ばれた者しか扱えない武器を「主人公である自分も使える筈」と思ってそうなので、天之河にキーブレードを振らせました。夜空が投げて渡したのは、継承しないようにするためです。

ちなみに夜空の天職の初期案は“勇者”でした。ほら、最初の頃はソラがキーブレードの勇者って呼ばれてましたから。
でも、タイトルを『鍵使い』にしたので、天職もキーブレード使いにしました。

夜空のキーブレードの形状はスターシーカーとノーネームを混ぜて黒くした感じで、名前はナイトトゥライトです。


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第3話 イジメと子供の勇者

ヒロインアンケート……あと一週間もないけど、もうダブルヒロインにしてもいい気がしてきた。


あれから二週間ほどが経過し、ステータスはこんな感じになった。

 

=================

粋月夜空 16歳 男 レベル:8

天職:キーブレード使い

筋力:145

体力:170

耐性:150

敏捷:165

魔力:170

耐魔:150

技能:鍵の力・回復魔法・全属性適性・闇属性耐性・剣術・高速魔力回復・気配探知・壁走り・言語理解

=================

 

ちなみに“鍵の力”に触れてみたらプレートにこう表示された。

 

=================

【鍵の力】

魔力操作・想像構成・リフレクトガード[+リベンジアッパー]・ドッジロール・ダブルフライト・エアリカバリー・グライド・エアスライド・ソニックレイヴ・ザンテツケン・フラッシュライナー・ダークスプライサー・シャドウブレイカー・ストライクレイド・ラストアルカナム・スタイルチェンジ・キーブレード変形

=================

 

ルクシア様(俺を転生させた女神)の元で修行していた時に使っていたグロウアビリティやアタックコマンドとやらがほぼ全てあった。リフレクトガードから予想すると、リベンジ系や属性が付与されたコマンドは派生技能として出てくると思う。ところで、スタイルチェンジからなにも派生してないからなのか、スタイルチェンジができない。

しかも、この世界の魔法の使い方のせいで容易に使えない。

ここトータスおける魔法は、体内の魔力を詠唱により魔法陣に注ぎ込み、魔法陣に組み込まれた式通りの魔法が発動するというプロセスを経る。魔力を直接操作することはできず、どのような効果の魔法を使うかによって正しく魔法陣を構築しなければならないという面倒臭いモノだった。

しかも、効果の複雑さや規模に比例して魔法陣に書き込む式も多くなり、必然的に魔法陣自体も大きくなる。

例えば、火属性基本の“火球”を直進で放つだけでも、一般に直径十センチほどの魔法陣が必要になる。基本は、属性・威力・射程・範囲・魔力吸収(体内から魔力を吸い取る)の式が必要で、後は誘導性や持続時間等付加要素が付く度に式を加えていき魔法陣が大きくなるということらしい。

しかし、それが適性があると話が別になるらしく、体質によりある程度式を省略できる。例えば、火属性の適性があれば、式に属性を書き込む必要はなく、その分式を小さくできると言った具合だ。

この省略はイメージによって補完される。式を書き込む必要がない代わりに、詠唱時に火をイメージすることで魔法に火属性が付加されるのである。

そして俺は“鍵の力”の中にある“魔力操作”と“想像構成”のおかげで、キーブレードを介してなら魔法を無詠唱・魔法陣無しで使える。最も、俺が魔法を使うところを教会の連中に見られれば面倒臭いことになるだろう。

ちなみにハジメは適性もなかったが、それでも自分にできることを探して王立図書館に通いつめている。

そして俺は現在、チリシィを抱いた八重樫さんと共に、訓練場へ向かっている。

 

「助けて夜空ー」

「あのー、八重樫さん? そろそろチリシィを返してくれませんか」

「もうちょっと、もうちょっとだけ」

 

なんでこうなったかというと、俺がキーブレードの素振りしていたらちょうど八重樫さんがやって来て、ちょうど俺の動きを見ていたチリシィが八重樫さんに捕まってしまった。

 

「というか、八重樫さんって可愛いもの好きなんだ」

「はっ!」

 

俺の言葉に八重樫さんはビクッ、としてこちらを向く。

 

「女の子らしくていいと思うよ」

「そ、そう? ありがとう」

「ただほら、そろそろ訓練場だからさ」

 

八重樫さんは少し顔を赤くし、チリシィを降ろす。チリシィはふぅ、と息を吐く。

 

「ん、あれは……」

 

すると、ハジメが檜山達に連行されるかのように、人気のない所に向かって行くのを見つけた。

 

「……」

「どうしたの?」

「八重樫さん、白崎さんたちを呼んできて」

「え?」

 

俺は八重樫さんにそう言うと檜山達の方へ駆け出した。

 

 ☆ ★ ☆ ★ ☆

 

「ほら、なに寝てんだよ? 焦げるぞ~。ここに焼撃を望む――“火球”」

 

近藤によって転ばされたハジメに向かって中野が火属性魔法の“火球”を放つ。俺はキーブレードを呼びしつつ、檜山達を飛び越えてハジメの前に着地し、“火球”を防ぐ。

 

「なっ!」

「よ、夜空……くん」

「無事か。いや、無事じゃあないな」

 

そう言うと檜山達に向かってキーブレードを構える。

 

「邪魔すんなよ粋月」

「俺達は南雲の特訓に付き合っただけだぜ」

「……そうか。一方的に攻撃するのが特訓か。なら」

 

一旦キーブレードを下ろす。そして、切り上げるのと同時にキーブレードを鞭に変形させる。

 

「うっ」

「え……」

 

鞭となったキーブレードによって近藤は腹を打たれ、2回ほど転がる。それを見た檜山は茫然とする。

 

「ひっ! こ、ここに焼撃を望む――“火球”」

「こ、この! ここに風擊を望む――“風球”」

 

そんな近藤を見て中野と斎藤が魔法を放つ。

 

「へ? ぐあ!?」

「なん、うご!?」

 

しかし、リフレクトガードで跳ね返された魔法を喰らい、近藤と同じように転がる。

 

「な、なんなんだよ」

「なにって特訓だよ。お前たちのな!」

 

キーブレードを振り下ろすが、檜山はとっさに剣で防ぐ。なのでキーブレードを1度しまい、逆手で呼び出し、檜山の剣を弾き飛ばす。そしてキーブレードを順手に持ち変えて、再び振り下ろそうとすると後ろからキーブレードを掴まれた。振り返ると八重樫さんが少し悲しげに掴んでいた。

 

「もういいわ」

「……わかった。けど」

 

キーブレードを左手に呼び出し檜山に一撃を入れる。

 

「がっ!」

「こいつだけ無傷ってのは無しだ」

 

八重樫さんは何か言おうとするが、何も言わずハジメの方を見る。俺もハジメの方を見ると白崎さんが回復していた。それを見て俺達もハジメに駆け寄る。

 

「大丈夫か、ハジメ」

「あ、ありがとう。夜空くん、白崎さん。助かったよ」

 

ハジメは苦笑いしながらお礼を言う。すると白崎さんは泣きそうな顔で首を振る。

 

「いつもあんなことされてたの? それなら、私が……」

「いや、そんないつもってわけじゃないから! 大丈夫だから、ホント気にしないで!」

「君はもう少し、他人に頼った方がいいんじゃないかな」

「……なにこれ」

「……可愛い」

 

チリシィがハジメに意見を言うと、ハジメと白崎さんの二人はチリシィを見て固まる。あ、チリシィが白崎さんから少し距離を取った。そして八重樫さんはチリシィの言葉に「うんうん」と頷いてる。

そこに天之河が水を差してきた。……ていうかいたんだ。

 

「だが、南雲自身ももっと努力すべきだ。弱さを言い訳にしていては強くなれないだろう? 聞けば、訓練のないときは図書館で読書に耽っているそうじゃないか。俺なら少しでも強くなるために空いている時間も鍛練に充てるよ。南雲も、もう少し真面目になった方かいい。檜山達も、南雲の不真面目さをどうにかしようとしたのかもしれないだろ?」

 

己の正義感のみでハジメに忠告する天之河に、俺は無言でキーブレードを突きつける。

 

「な……」

「ハジメはさ、戦闘系じゃないんだよ。そんなハジメを、勇者のお前基準で語るなよ」

「だ、だが」

「お前に見えなければ全て不真面目か! お前だけが正しいと思うな!」

「っ!」

「お前は所詮、理想しか見ない子供だ」

 

俺はそう言い放つと、キーブレードを消して天之河の隣を抜けて訓練場に向かう。その時の天之河は、苦虫を噛み潰したような表情だった。

 

その晩、メルド団長から明日から【オルクス大迷宮】へ実戦訓練をしに行くからしっかり休めと伝えられた。

実戦訓練と聞いて、「未来の力はもう借りれないし、そもそも戦い方がなってない」という理由で、あの世界の未来の出来事を夢という形で体験させられた事を思い出した。アレよりは楽だろう。

ちなみにチリシィは八重樫さんに「今晩だけ」と連れてかれた。帰ってこないのだから、なんだかんだ受け入れているのだろう。

 

後で聞くと、離れようとしたら八重樫さんが悲しそうな顔をしたから、だそうだ。




※フラッシュライナー……青年ゼアノートの技。3Dでキーブレードがめっちゃ伸びて曲がるアレ。この技、光の玉をキーブレードで繋げてたのね。Wiki見るまで知らなかった。


天之河と戦わせようと思ったけど、体力200じゃすぐ終わるので止めた。檜山達はKHシリーズのチュートリアルと思って書いた。


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第4話 月下の誓い

最近、ユエ、雫、リリィと夜空の絡みが頭に浮かんで、ハーレムにしたくないのにハーレムにしたくなって心の中で転がりまくってる粋蓮です。





そんなことより「はよ出せ」と脳内を飛び回るデビルズウェーブを何とかしたい。お前の出番は王都襲撃時じゃ。


【オルクス大迷宮】

それは、全百階層からなると言われている大迷宮である。七大迷宮の一つで、階層が深くなるにつれ強力な魔物が出現する。

にもかかわらず、この迷宮は冒険者や傭兵、新兵の訓練に非常に人気がある。それは、階層により魔物の強さを測りやすいからということと、出現する魔物が地上の魔物に比べ遥かに良質の魔石を体内に抱えているからだ。

魔石とは、魔物を魔物たらしめる力の核をいう。強力な魔物ほど良質で大きな核を備えており、この魔石は魔法陣を作成する際の原料となる。魔法陣はただ描くだけでも発動するが、魔石を粉末にし、刻み込むなり染料として使うなりした場合と比較すると、その効果は三分の一程度にまで減退するらしい。

要するに魔石を使う方が魔力の通りがよく効率的ということだ。その他にも、日常生活用の魔法具などには魔石が原動力として使われる。魔石は軍関係だけでなく、日常生活にも必要な大変需要の高い品なのである。

ちなみに、良質な魔石を持つ魔物ほど強力な固有魔法を使う。固有魔法とは、詠唱や魔法陣を使えないため魔力はあっても多彩な魔法を使えない魔物が使う唯一の魔法である。一種類しか使えない代わりに詠唱も魔法陣もなしに放つことができる。これが魔物が油断ならない最大の理由なんだそうだ。……ハートレスとかと比べたら駄目だな、うん。

俺達は、メルド団長率いる騎士団員複数名と共に、【オルクス大迷宮】へ挑戦する冒険者達のための宿場町【ホルアド】に到着した。新兵訓練によく利用するようで王国直営の宿屋があり、そこに泊まることになった。

久しぶりに普通の部屋を見た気がするハジメはベッドにダイブし「ふぅ~」と気を緩めた。二人一部屋で俺とハジメが同じ部屋だ。

俺は、ある物の作成を始める。とはいっても、あと少しで完成するのだが。

 

「夜空くんは何をしてるの?」

「ん……ちょっとしたことだよ」

 

ハジメはベッド腰掛けると訪ねてきたのでそう答える。ちなみにチリシィはベッドをよじ登って寝始めた。お前、スピリットだよな。

その後、ハジメがウトウトとまどろみ始め、俺が作っていた物が完成したその時、扉をノックする音が響いた。

 

「どちら様?」

「白崎です。ちょっと、いいかな?」

 

なんですと? と、ハジメが硬直したので、俺が扉に向かう。そして、鍵を外して扉を開けると、そこには純白のネグリジェにカーディガンを羽織っただけの白崎さんと八重樫さんが立っていた。

 

「二人ともどうした」

「その、少し南雲くんと話たくて……迷惑だったかな?」

「私はその付き添いよ」

「わかった。中で聞こう」

 

立ち話もなんなので二人を部屋の中に招き入れていた。

 

「うん!」

「失礼するわね」

 

なんの警戒心もなく嬉しそうに部屋に入り、白崎さんは窓際に設置されたテーブルセットに座った。八重樫さんももうひとつの椅子に座る。

ハジメはお茶の準備をする。といっても、ただ水差しに入れたティーパックのようなものから抽出した水出しの紅茶モドキだが。それを四人分を用意して俺達に差し出す。そして、ベッドに座った。俺は紅茶モドキをテーブルにおいて窓付近に寄りかかる。

 

「ありがとう」

 

どこか嬉しそうに紅茶モドキを受け取り口を付ける白崎さん。月明かりに照らされる白崎さんに、ハジメは見蕩れる。そして白崎さんがカップを置く「カチャ」という音に我を取り戻し、気を落ち着かせるために自分の紅茶モドキを一気に飲み干し、むせた。

白崎さんがその様子を見てくすくすと笑う。ハジメは恥ずかしさを誤魔化すために、少々、早口で話を促した。

 

「それで、話したいって何かな。明日のこと?」

 

ハジメの質問に「うん」と頷き、白崎さんはさっきまでの笑顔が嘘のように思いつめた様な表情になった。

 

「明日の迷宮だけど……南雲くんには町で待っていて欲しいの。教官達やクラスの皆は私が必ず説得する。だから! お願い!」

 

話している内に興奮したのか身を乗り出して懇願する白崎さんを八重樫さんが落ち着かせる。

 

「えっと……確かに僕は足手まといとだは思うけど……流石にここまで来て待っているっていうのは認められないんじゃ……」

「違うの! 足手まといだとかそういうことじゃないの!」

 

白崎さんは、ハジメの誤解に慌てて弁明する。自分でも性急過ぎたと思ったのか、手を胸に当てて深呼吸する。少し、落ち着いたようで「いきなり、ゴメンね」と謝り静かに話し出した。

 

「あのね、なんだか凄く嫌な予感がするの。さっき少し眠ったんだけど……夢をみて……南雲くんが居たんだけど……声を掛けても全然気がついてくれなくて……走っても全然追いつけなくて……それで最後は……」

「あなたが消えるそうよ」

 

その先を口に出すことを恐れるように押し黙る白崎さんの続きを八重樫さんが言う。

 

「……そっか」

 

しばらく静寂が包む。

 

「だったら、これを作って正解だったかもな」

「え?」

 

俺はテーブルにおいてあった四つの星型のキーホルダーを持ち上げる。それは藤色、空色、青色、白色と、この場の人間の魔力の色に合わせた組み合わせだ。

 

「なにそれ」

「つながりのお守り、だ。昔やったゲームに出てくるとある木の実を模して作られるお守りを更に模した物を再現した物だ。何があるかわからない。だからこそ、つながりを大切にしよう」

 

ハジメ達は顔を見合せると、頷く。そしてハジメが空色のお守りを受け取ろうとすると、白崎さんがそれを奪う。

 

「し、白崎さん?」

「え? あ……」

 

どうやら無意識に奪い取ったらしい。俺はそんな彼女に苦笑いしつつ、ハジメに白色のお守りを渡す。

 

「この際だ。相手の色を持っとけ」

 

ちなみに、八重樫さんは普通に青色を受け取った。

 

「たとえ、進む道を失っても、つながりを辿れば、きっと戻って来られる。だから、つながりを絶さずにいこう」

 

俺の言葉に三人は頷く。

そしてハジメは、香織を安心させるよう、なるべく優しい声音を心掛けながら話しかけた。

 

「それに夢は夢だよ、白崎さん。今回はメルド団長率いるベテランの騎士団員がついているし、天之河君みたいな強い奴も沢山いる。むしろ、うちのクラス全員チートだし。敵が可哀想なくらいだよ。僕は弱いし、実際に弱いところを沢山見せているから、そんな夢を見たんじゃないかな?」

 

語りかけるハジメの言葉に耳を傾けながら、なお、白崎さんは、不安そうな表情でハジメを見つめる。

 

「それでも……それでも、不安だというのなら……」

「……なら?」

 

ハジメは若干恥ずかしそうに、しかし真っ直ぐに白崎さんと目を合わせた。

 

「守ってくれないかな?」

「え?」

 

自分の言っていることが男としては相当恥ずかしいという自覚があるのだろう。ハジメは羞恥で真っ赤になっている。

 

「白崎さんは“治癒師”だよね? 治癒系魔法に天性の才を示す天職。何があってもさ……たとえ、僕が大怪我することがあっても、白崎さんなら治せるよね。その力で守ってもらえるかな? それなら、絶対僕は大丈夫だよ」

 

しばらく、白崎さんは、ジーとハジメを見つめる。ここは目を逸らしたらいけない場面だと羞恥に身悶えそうになりながらハジメは必死に耐える。

しばらく見つめ合っていた白崎さんとハジメだが、沈黙は白崎さんの微笑と共に破られた。

 

「変わらないね。南雲くんは」

「?」

 

白崎さんの言葉に訝しそうな表情になるハジメ。その様子に白崎さんはくすくすと笑う。

 

「南雲くんは、私と会ったのは高校に入ってからだと思ってるよね? でもね、私は、中学二年の時から知ってたよ」

 

その意外な告白に、ハジメは目を丸くする。必死に記憶を探るが全く覚えていないのかう~んと唸る。そんなハジメに、白崎さんは再びくすりと笑みを浮かべた。

 

「私が一方的に知ってるだけだよ。……私が最初に見た南雲くんは土下座してたから私のことが見えていたわけないしね」

「ど、土下座!?」

「どんな状況だ、それ」

 

人目につくところで土下座って、何をどうしたらそんな状況になるのか。

思い出そうと一人、百面相するハジメに白崎さんが話を続ける。

 

「うん。不良っぽい人達に囲まれて土下座してた。唾吐きかけられても、飲み物かけられても……踏まれても止めなかったね。その内、不良っぽい人達、呆れて帰っちゃった」

「そ、それはまたお見苦しいところを……」

 

ハジメは乾いた笑みを浮かべる。

しかし、白崎さんは優しげな眼差しをしており、その表情には侮蔑も嘲笑もなかった。

 

「ううん。見苦しくなんてないよ。むしろ、私はあれを見て南雲くんのこと凄く強くて優しい人だって思ったもの」

「……は?」

「だって、南雲くん。小さな男の子とおばあさんのために頭を下げてたんだもの」

 

他人の為に土下座……か。確かに強いな。

 

「強い人が暴力で解決するのは簡単だよね。光輝くんとかよくトラブルに飛び込んでいって相手の人を倒してるし……でも、弱くても立ち向かえる人や他人のために頭を下げられる人はそんなにいないと思う。……実際、あの時、私は怖くて……自分は雫ちゃん達みたいに強くないからって言い訳して、誰か助けてあげてって思うばかりで何もしなかった」

「白崎さん……」

「だから、私の中で一番強い人は南雲くんなんだ。高校に入って南雲くんを見つけたときは嬉しかった。……南雲くんみたいになりたくて、もっと知りたくて色々話し掛けたりしてたんだよ。南雲くん直ぐに寝ちゃうけど……」

「あはは、ごめんなさい」

 

白崎さんが自分を構う理由が分かったハジメは、白崎さんの予想外の高評価に恥ずかしいやら照れくさいやらで苦笑いする。

 

「だからかな、不安になったのかも。迷宮でも南雲くんが何か無茶するんじゃないかって。不良に立ち向かった時みたいに……でも、うん」

 

白崎さんは決然とした眼差しでハジメを見つめた。

 

「私が南雲くんを守るよ」

 

ハジメはその決意を受け取る。真っ直ぐ見返し、そして頷いた。

 

「ありがとう」

 

それから直ぐハジメは苦笑いした。これでは役者が男女あべこべである。

 

「俺達、お邪魔?」

「そうかもね」

 

俺と八重樫さんはこの場の場違い感に襲われた。

それからしばらく雑談した後、二人は部屋に帰っていった。

 

「白崎さんにとって、お前は強い人間だとさ」

「ちょっと複雑だけどね」

「そうでもないさ。強さというものは、肉体に対してのみ使う言葉ではないんだから」

 

そこで一旦区切り、ハジメに向き直る。そして、

 

「ハジメ、お前は強い」

「はは、ありがとう」

 

その後、明日に備えて、俺達は眠りについた。

 

 

 

 

 

ハジメ達の部屋を出て自室に戻っていく香織達。その背中を月明かりの影に潜んでいた者が静かに見つめていた。その者の表情が醜く歪んでいたことも知る者は……その者を別の建物の屋根から見つめ、怪しげな笑みを浮かべる金色の瞳の男だけだった。




つながりのお守りの素材をどうやって調達したとかは聞いてはいけない。なんなら夜空一人でなら帰れるし。

何とか山を見つめる金色の瞳の男……はゼアノート達ではありません。オリキャラです。


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第5話 オルクス大迷宮

ヒロインアンケート結果発表

雫 6票
ユエ 4票
シア 3票
リリィ、優花、オリキャラ 1票
無効 2票

ゼアノート(女体)って来たときは戦慄したね。

そして結構「ユエはハジメが自然」というコメントがありましたが、この作品、運命狂ってるんで。

つまり何が言いたいのかって?
ヒロインは雫とユエと優花だよ!
ハジメ×ユエ絶対派の皆様、申し訳ありません。でも予想以上にユエに票が入ったので……(せいぜい1,2票だと思ってた)。
え? 優花? すみません、自分が漫画を見て入れたくなりました。優花“だけ”はアンケートと無関係です。


原作ハジメにドパン!されないよね(ガクブル)


翌朝、まだ日が昇って間もない頃に俺達は【オルクス大迷宮】の正面入口がある広場に集まっていた。

その入口は洞窟のような入口ではなく、博物館の入場ゲートのようなしっかりとした入口で、ハジメが少し期待外れみたいな表情をしている。まあ、入口付近の広場に露店とかあったらそう思いたくもなる。

その後、メルド団長の後に続いて迷宮の中へと入って行った。

 

 ☆ ★ ☆ ★ ☆

 

メルド団長の指示で天之河達がラットマンという灰色の毛をした二足歩行のネズミ型モンスターを相手する。

俺はというと、

 

「なあハジメ」

「何、夜空くん」

「暇なんだけど」

「まあ、しょうがないね」

 

つい先程、一人でラットマン3体を瞬殺してしまった為にメルド団長に下がらされた。しかたないのでハジメと会話して暇を潰している。

 

「今回は訓練だからいいが、魔石の回収も念頭に置いとけよ。明らかにオーバーキルだからな?」

 

前方を見ると、先程のラットマンが灰と化していた。確かにオーバーキルだな。

それから俺とハジメを除いたメンバーで交代をしながら戦闘を繰り返し、二十階層にたどり着いた。

 

「よし、お前達。ここから先は一種類の魔物だけでなく複数種類の魔物が混在したり連係を組んで襲ってくる。今までが楽勝だったからといってくれぐれも油断するなよ! 今日はこの二十階層で訓練終了だ! 気合を入れろ!」

 

ここまでハジメは騎士団員が弱らせた犬のような魔物を、錬成で地面に固定して倒したぐらいしかしていない。

 

「これじゃあ寄生型プレイヤーだよ……」

「俺は戦闘行為を禁止させられたがな」

「それはキーブレードが強いからでは?」

「それ言ったら天之河も無双できるだろ」

 

天之河が持つ純白に輝くバスタードソードは王国が管理しているアーティファクトの一つで、“聖剣”と呼ばれている。光属性の性質が付与されており、光源に入る敵を弱体化させると同時に自身の身体能力を自動で強化してくれる。武器が強いから無双できるならアイツもできる筈だができていない。というかアイツに魔法関連の技能要らんだろ。

 

「んなことより、さっきから白崎さんがチラチラお前を見てるぞ」

「え?」

 

俺の言葉に前方を見ると、ハジメと白崎さんの目が合う。恥ずかしかったのかハジメが目をそらすと白崎さんは拗ねたような表情になった。そんな彼女に八重樫さんがなにやら話しかけているが聞こえない。

ハジメはというと、何かを探してキョロキョロしていた。

 

「どうした」

「なんか、誰かから睨まれてるような気がして」

「そりゃお前、白崎さんと見つめ合ったりしたら睨まれるだろ、檜山辺りに」

「……はぁ~」

 

どこか納得したのか深々と溜息を吐く。白崎さんの言っていた嫌な予感、そして檜山の物と思われる視線。ふとした切っ掛けで牙を向くな、これは。

 

 ★ ☆ ★ ☆ ★

 

やがて、二十階層の一番奥の部屋に到着した。そこは鍾乳洞のようにツララ状の壁が飛び出していたり、溶けたりしたような複雑な地形をしていた。

すると、メルド団長が忠告を出した。

 

「擬態しているぞ! 周りをよ~く注意しておけ!」

 

その直後、前方でせり出していた壁が突如変色しながら起き上がる。それは、カメレオンみたいな能力を持ったゴリラ型の魔物だった。

 

「ロックマウントだ! 二本の腕に注意しろ! 豪腕だぞ!」

「(ステルススニークとかの方が厄介だよな、きっと)」

 

俺がかつて戦った目からレーザーを放ってくるカメレオン型のハートレスを思い出しているとロックマウントが咆哮を発した。それにより前衛は硬直してしまった。

ロックマウントはその隙に傍らにあった岩を後衛に向かって投げつけた。そしてその岩もまたロックマウントで、まるで女好きの怪盗のようなポーズになる。それを見て白崎さん達は「ヒィ!」と悲鳴を上げて迎撃しようとしていた魔法を中断してしまった。

俺はキーブレードを呼び出すと地面を蹴ってロックマウントを切り捨てる。すると中村がお礼を言ってきた。

 

「あ、ありがとう」

「気持ちはわかるから、次からは“来んな!”って感じ迎撃していいと思うよ」

「次からは気をつけるよ、スイスイ」

 

唐突な谷口のスイスイ呼びに、俺は視線だけを天井に向けた。

すると天之河がキレた。

 

「貴様……よくも香織達を……許さない!」

 

どうやら気持ち悪くて青褪めていたのを、死の恐怖と勘違いしているようだ。

 

「万翔羽ばたき、天へと至れ、“天翔閃”!」

「あっ、こら、馬鹿者!」

「あ~あ」

 

天之河がメルド団長を無視して振り下ろした聖剣から、光の斬擊が放たれた。その斬擊は、ロックマウントを両断し、奥の壁を破壊した。そして、「ふぅ~」と息を吐いてこっち、というより白崎さんの方へ振り返ったところをメルド団長から拳骨を貰った。

 

「へぶぅ!?」

「この馬鹿者が。気持ちはわかるがな、こんな狭いところで使う技じゃないだろうが! 崩落でもしたらどうするんだ!」

 

メルド団長の言葉に天之河は「うっ」と声を詰まらせ、バツが悪そうに謝罪した。白崎さん達はそんな天之河を苦笑いしながら慰める。

 

「……あれ、何かな? キラキラしてる……」

 

白崎さんが指差す方を見ると、青白く発光する鉱物が花咲くように壁から生えていた。

 

「ほぉ~、おれはグランツ鉱石だな。大きさも中々だ。珍しい」

 

なんでも、グランツ鉱石は求婚の際に選ばれる宝石のトップスリーに入るらしい。

 

「素敵……」

 

乙女な白崎さんはメルド団長の簡単な説明を聞いてうっとりとする。そして、チラリとハジメに視線を向けた。

 

「だったら俺らで回収しようぜ!」

 

そう言って唐突に檜山が動き出した。グランツ鉱石に向かってヒョイヒョイと壁を登っていく。それを見てメルド団長が慌てた。

 

「こら! 勝手なことをするな! 安全確認もまだなんだぞ!」

 

しかし、檜山は聞こえないふりをして、鉱石の場所に辿り着いてしまった。すると騎士団員の一人が青褪めて叫んだ。

 

「団長! トラップです!」

「ッ!?」

 

キーブレードを鞭に変形させて檜山に向かって振るう。そして檜山を叩き落とすが、タッチの差で檜山がグランツ鉱石に触れてしまった。その結果、魔法陣が部屋全体に現れ、輝く。

 

「ちっ」

「くっ、撤退だ! 早くこの部屋から出ろ!」

 

メルド団長の言葉に、クラスメイト達が部屋の外に向かうが……間に合わなかった。

部屋の中に光が満ち、視界を白く染める。と、同時に浮遊感が襲った。

次の瞬間、俺達は巨大な石造りの橋の上にいた。長さはざっと百メートルはあるか。

 

「お前達、直ぐに立ち上がって、あの階段の場所まで行け。急げ!」

 

メルド団長の号令に、転移時に尻餅をついていたクラスメイト達が立ち上がって、階段へと向かう。

しかし、橋の両サイドに現れた魔法陣に撤退を阻まれる。

そして階段側の一メートル程の大量の魔法陣からは骨格だけの剣士の魔物、通路側の十メートル近くの魔法陣からは体長十メートル程の四足で頭部に兜のような物を取り付けた魔物がそれぞれ出現した。

メルド団長は、その巨体な魔物を見て呟いた。

 

「まさか……ベヒモス……なのか……」

 

その呟きは、やけに明瞭に響いた。




そういえばハートレスにベヒーモスっていたよね。

やっぱりトータスの魔物よりハートレスのほうが(特定の武器じゃないと倒せないとか抜きで)強いと思うの。

※ステルススニーク……KH1のディープジャングルでクレイトンと共にソラに襲い掛かったカメレオンみたいなハートレス。時折ぼんやりと見えるとはいえ、透明になる上に目からレーザーを放ってくる。本作品には登場しない。


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第6話 夜空の力

祝 お気に入り100人突破!

今回、途中で三人称が入りますがお許し下さい。

最初は夜空もクラスメイトの方に行かず、天之河を(殴って)説得しに行かせるつもりでしたが、それだと二丁銃形態を出せませんので(訳:天之河は作者がキーブレード変形をさせたいが故に助かった)。


「まさか……ベヒモス……なのか……」

 

メルド団長の呟きが響いた。

するとベヒモスは大きく息を吸うと、凄まじい咆哮を上げた。

 

「グルァァァァァアアアアア!!」

「ッ!?」

 

その咆哮で正気に戻ったのか、メルド団長が矢継ぎ早に指示を飛ばす。

 

「アラン! 生徒達を率いてトラウムソルジャーを突破しろ! カイル、イヴァン、ベイルは全力で障壁を張れ! ヤツを食い止めるぞ! 光輝、お前達は早く階段へ向かえ!」

「待って下さい、メルドさん! 俺達もやります! あの恐竜みたいなヤツが一番ヤバイでしょう! 俺達も……」

「馬鹿野郎! あれが本当にベヒモスなら、今のお前達では無理だ! ヤツは六十五階層の魔物。かつて、”最強”と言わしめた冒険者をして歯が立たなかった化け物だ! さっさと行け! 私はお前達を死なせるわけにはいかないんだ!」

 

メルド団長の鬼気迫る表情に一瞬怯むも、「見捨ててなど行けない!」とメルド団長の思いを理解しない天之河。

どうにか撤退させようと、再度メルドが天之河に話そうとした瞬間、ベヒモスが咆哮を上げながら突進してきた。

 

「「「全ての敵意と悪意を拒絶する、神の子らに絶対の守りを、ここは聖域なりて、神敵を通さず、“聖絶”!!」」」

 

そうはさせるかと、ハイリヒ王国最高戦力が全力の多重障壁を張る。二メートル四方の最高級の紙に描かれた魔法陣と四節からなる詠唱、さらに三人同時発動。一回こっきり一分だけの防御であるが、何物にも破らせない絶対の守りが顕現する。純白に輝く半球状の障壁がベヒモスの突進を防ぐ。

衝突によって凄まじい衝撃波が発生し、ベヒモスの足元が粉砕される。橋全体が石造りにもかかわらず大きく揺れた。撤退中の生徒達から悲鳴が上がり、転倒する者が相次ぐ。

隊列など無視して我先にと階段を目指してがむしゃらに進んでいくクラスメイト達を俺は静かに見つめていた。

 

「出し惜しんでる場合じゃないか……」

「夜空くん?」

 

俺の呟きにハジメが首を傾げる。

すると、一人の女子生徒、園部優花が後ろから突き飛ばされ転倒してしまった。「うっ」と呻きながら顔を上げると、眼前で一体のトラウムソルジャーが剣を振りかぶっていた。

 

「あ」

 

そんな一言と同時に彼女の頭部目掛けて剣が振り下ろされた。

そのトラウムソルジャーを、槍に変形させたキーブレードで貫き、奈落へ放り捨てる。

そして呆然としながら為されるがままの彼女に、声をかけた。

 

「ボケッとするな園部。冷静に対処すれば行けるから」

 

俺の言葉に園部は目をぱちくりさせ、「うん! ありがとう!」と元気に返事をして駆け出した。

槍に変形しているキーブレードを通常形態に戻しながら周囲を見渡す。

誰も彼もがパニックになりながら滅茶苦茶に武器や魔法を振り回している。このままでは、いずれ死者が出る可能性が高いだろう。アランさんが必死に纏めようとしているが上手くいっていない。そうしている間にも魔法陣から続々と増援が送られてくる。

 

「何とかしないと……」

「ハジメ、お前は天之河を呼んで来い」

「え?」

「今必要なのは強力なリーダーだ」

「わかった」

 

そう言ってハジメは、天之河達のいるベヒモスの方へ向かって走った。

 

「さて、やるか」

 

俺はキーブレードを二丁銃へ変形させると、

 

凍りつけ(ブリザガ)!」

 

氷の弾丸を六発、トラウムソルジャーへと放った。

氷の弾丸は弧を描きトラウムソルジャーに着弾する。するとそのトラウムソルジャーは凍りついた。

それを見たアランさんがこちらを見てくる。

 

「今……魔法を……」

「その疑問は後で答えます。今はトラウムソルジャーを!」

「そ、そうだな」

 

そう言ってアランさんはトラウムソルジャーを切りつける。俺は氷の弾丸を放ちながら叫ぶ。

 

「聞け! 今、ハジメが天之河を呼びに行っている! 奴が来るまで持ちこたえろ! 落ち着いて対処すれば問題ない相手だぞ!」

「そうだ! きちんと連携をとれば倒せる相手だ!」

 

俺に続いてアランさんも叫ぶ。すると、冷静さを取り戻したのか、クラスメイト達は徐々に連携をとってトラウムソルジャーを撃破していく。

それを見て「まだか」とベヒモスの方を見ると、“聖絶”が破られたところだった。

 

「ちっ! アランさん、こっちは任せます!」

「わかった!」

 

最後に氷の弾丸を八発放ってベヒモスの方へ駆け出す。そして、キーブレードを通常形態に戻すと、ベヒモスの頭目掛けて、ブーメランのように投げつけた。

 

 

 ☆ ★ ☆ ★ ☆

 

 

「下がれぇーー!」

 

光輝が“すいません、先に撤退します”そう言おうとしてメルド団長を振り返った瞬間、その団長の悲鳴と同時に、遂に障壁が砕け散った。

暴風のように荒れ狂う衝撃波がハジメ達を襲う。咄嗟に、ハジメが前に出て錬成により石壁を作り出すがあっさり砕かれ吹き飛ばされる。多少は威力を殺せたようだが……舞い上がる埃がベヒモスの咆哮で吹き払われた。

そこには、倒れ伏し呻き声を上げる団長と騎士が三人。衝撃波の影響で身動きが取れないようだ。光輝達も倒れていたがすぐに起き上がる。メルド団長達の背後にいたことと、ハジメの石壁が功を奏したようだ。

 

「ぐっ……龍太郎、雫、時間を稼げるか?」

 

光輝が問う。それに苦しそうではあるが確かな足取りで前へ出る二人。団長たちが倒れている以上自分達がなんとかする他ない。

 

「やるしかねぇだろ!」

「……なんとかしてみるわ!」

 

二人がベヒモスに突貫しようとする。そこにベヒモスの頭に何がぶつかり、ベヒモスは目眩を起こした。

 

「え?」

「何やってるんだお前らは」

 

光輝が振り返るとキーブレードを肩に担いで走ってくる夜空の姿があった。

 

「夜空、お前……」

癒しよ(ケアル)!」

「え」

 

夜空はメルド団長達のもとを通りすぎると同時にキーブレードを掲げた。すると、メルド団長やその近くにいたハジメ達の傷が治る。

 

「早くクラスメイトの元へ行け!」

「だ、だが」

 

光輝が夜空に何か言おうとするが、ベヒモスが目眩から回復する。そして低い唸り声を上げ、夜空を射殺さんばかりに睨んでいる。と、思ったら、直後、スッと頭を掲げた。頭の角がキィ――という甲高い音を立てながら赤熱化していく。そして、遂に頭部の兜全体がマグマのように燃えたぎった。

 

「……」

 

が、無言で夜空がキーブレードから放ったブリザガにより、冷やされる。

 

「グ、グルァァアアッ!!」

 

冷やされた怒りからか、ベヒモスが突進を始める。そして、夜空達のかなり手前で跳躍し、頭部を下に向けて隕石のように落下した。

夜空は後ろに飛んで回避するが、光輝達は咄嗟に横っ飛びで回避するも、着弾時の衝撃波をモロに浴びて吹き飛ぶ。ゴロゴロと地面を転がりようやく止まった頃には、満身創痍の状態だった。

どうにか動けるようになったメルド団長が駆け寄る。夜空のケアルの範囲外だった他の騎士団員は、まだ香織による治療の最中だ。ベヒモスはめり込んだ頭を抜き出そうと踏ん張っていが、黒い球体(グラビガ)がベヒモスの頭を押さえつける。

 

「お前等、動けるか!」

 

メルド団長が叫ぶように尋ねるも返事は呻き声だ。先ほどの団長達と同じく衝撃波で体が麻痺しているのだろう。内臓へのダメージも相当のようだ。

メルド団長が香織を呼ぼうと振り返る。その視界に、駆け込んでくるハジメの姿を捉えた。

 

「メルドさん、僕に考えがあります」

 

ハジメの提案にメルドは逡巡するが、上手く立ち回ってベヒモスを圧倒している夜空を見て、ハジメに問う。

 

「……やれるんだな?」

「やります」

 

決然とした眼差しを真っ直ぐ向けてくるハジメに、メルド団長は「くっ」と笑みを浮かべる。

 

「まさか、お前さん達に命を預けることになるとはな。……必ず助けてやる。だから……頼んだぞ!」

「はい!」

 

メルド団長はそう言うと事情を他の騎士団員に説明し始める。ベヒモスは、先ほどからずっと夜空を狙っているように自分に歯向かう者を標的にする習性があるようだ。

 

「グルォォォ」

 

ベヒモスはというと、夜空のブリザガンをまともに受け、頭部の兜が完全に凍りついていた。ベヒモスは兜を赤熱化させて溶かそうとしているが、上手くできていない。

 

「夜空くん!」

 

ハジメは夜空に駆け寄ると、自分の作戦を伝える。

 

「わかった」

 

ハジメの作戦に夜空が頷くと同時に、ベヒモスがようやく赤熱化させ、夜空に向かって突撃する。どこか疲れて見える。

 

「落ちろ! 凍りつけ!」

 

再びグラビガによって頭部をめり込ませるベヒモスに、ハジメが飛びついた。兜は夜空のブリザガで冷やされており、赤熱化の影響は無かった。そしてハジメは空色の魔力を迸らせながら詠唱を行った。名称だけの詠唱。最も簡易で、唯一の魔法。

 

「“錬成”!」

 

石中に埋まっていた頭部を抜こうとしたベヒモスの動きが止まる。周囲の石を砕いて頭部を抜こうとしても、ハジメが錬成して直してしまうからだ。

ベヒモスは足を踏ん張り力づくで頭部を抜こうとするが、今度はその足元が錬成される。ずぶりと一メートル以上沈み込む。更にダメ押しと、ハジメは、その埋まった足元を錬成して固める。

ベヒモスのパワーは凄まじく、油断すると直ぐ周囲の石畳に亀裂が入り抜け出そうとするが、その度に錬成をし直して抜け出すことを許さない。ベヒモスは頭部を地面に埋めたままもがいている。中々に間抜けな格好だ。

しかも、頭部を夜空がキーブレードで叩いている。

 

 

 ★ ☆ ★ ☆ ★

 

 

「これで、どうだ!」

 

ベヒモスの頭にラストアルカナムを叩き込む。それでもなお、ベヒモスは抜け出そうとする。

 

「うーん、結構タフだな……」

 

後方を確認するとメルド団長達が白崎さん達と共に撤退していくところだった。

 

「ハジメ、後どのぐらい持つ」

「後5分は持つかな」

「了解っと、落ちろ!」

 

グラビガでベヒモスを更に沈める。ブリザガで凍らせてもいいが、下手するとハジメが錬成できなくなるかもしれない。

しかし、あの世界の魔法は使い勝手がいい。消費魔力は高くて30だし(ケアル系が100から200するけど)、高速魔力回復で十分に間に合うレベルだ。問題は、あの教会が黙ってないって事だな。このまま奈落に落ちようかな。

時折グラビガでベヒモスを押さえながらそんなことを考えていると、

 

「夜空くん!」

「お、準備できたか」

 

ベヒモスは相変わらずもがいているが、この分なら数秒は時間を稼げるだろう。その間に少しでも距離を取らなければならない。

そして、数十度目の亀裂が走ると同時にグラビガと錬成でベヒモスを拘束して、一気に駆け出した。

俺達が猛然と駆け出して約五秒後、地面が破裂するように粉砕されベヒモスが咆哮と共に起き上がる。その眼に、憤怒の色が宿っていると感じるのは勘違いではないだろう。鋭い眼光が己に無様を晒させた怨敵を探し……俺達を捉える。

再度、怒りの咆哮を上げるベヒモスは俺達を追いかけようと四肢に力を溜めた。

だが、次の瞬間、あらゆる属性の攻撃魔法が殺到した。

色とりどりの魔法がベヒモスを打ち据える。ダメージは無いようだが、しっかりと足止めになっている。

転ばないよう注意しながら頭を下げて全力で走るハジメ。そんなハジメの少し後ろを俺は走る。ベヒモスとの距離は既に三十メートルは広がった。

しかし、その直後、無数に飛び交う魔法の中で、一つの火球がクイッと軌道をハジメの方に向かって曲げた。

 

「な!?」

 

咄嗟に踏ん張り、止まろうと地を滑るハジメの眼前に、その火球は突き刺さった。着弾の衝撃波をモロに浴び、来た道を引き返すように俺の後ろまで吹き飛ぶ。

慌ててハジメに駆け寄るとベヒモスが赤熱化した頭部を盾のようにかざしながらこちらに向かって突進してくる。

 

「ちっ!」

 

フラつくハジメを左腕で抱えると、その場を飛び退いた。直後、怒りの全てを集束したような激烈な衝撃が橋全体を襲った。ベヒモスの攻撃で橋全体が震動する。着弾点を中心に物凄い勢いで亀裂が走る。メキメキと橋が悲鳴を上げる。そして橋が崩壊を始めた。

 

「グウァアアア!?」

 

悲鳴を上げながら崩壊し傾く石畳を爪で必死に引っ掻くベヒモス。しかし、引っ掛けた場所すら崩壊し、抵抗も虚しく奈落へと消えていった。ベヒモスの断末魔が木霊する。

俺はハジメを抱えたまま、崩壊していないところまで跳躍する。

 

(よし、届く)

 

そう思った瞬間、左肩に風球が当たり、その衝撃でハジメを手放してしまった。

 

「しまっ!」

「え……」

 

そして、ハジメは仰向けになりながら奈落へと落ちていった。それを見て俺は……怒りに飲まれた。

 

「闇よ!」

 

最後の風球の術者が誰かはわからない。だからこそ、“その術者に対するカウンター”として闇の魔力弾を放った。

それと同時に、奈落へと身を投げた。

 




ラストアルカナムに耐えるベヒモス。まあ、夜空くんまだレベル8だからね、仕方ないね。
というか、ちゃんと広さがあればベヒモス撃破まで行けたという。ベヒモスは橋の上で助かった(倒されない的な意味で)。

ちなみに夜空くんはKHに登場した魔法をほぼ全て使えます。3Dでお世話になった人も多いであろうバルーン系も使えますよ。

最後の闇の魔力弾はBbSでテラやゼアノートが放って、ブライグやエラクゥスに傷を付けたアレです。

次回、序章ラスト。クラスメイト達の話です。


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第7話 暗躍する者達

序章最終話。

最後の男に関する質問は受け付けません。


香織は夜空がハジメを抱えたまま跳んできたのに安堵した。その直後、風球によりハジメが夜空から離れ、奈落へ落ちていくのを見て、無意識に手を伸ばす。

 

「あ……」

 

そして、黒い魔力弾を放って奈落へ飛び込む夜空を見て、駆け出そうとするが、咄嗟に雫と光輝が羽交い締めにする。

 

「離して! 南雲くん達の所に行かないと! 約束したのに! 私がぁ、私が守るって! 離してぇ!」

 

香織は、細い体のどこにそんな力があるのかと疑問に思うほどの尋常ではない力で引き剥がそうとする。

 

「ぐあぁぁぁ!」

 

突然の檜山の叫びに、香織を除く生徒達が檜山を見る。そこには右目を押さえ、うずくまる檜山の姿があった。よく見ると、右目に当てている右手の隙間から黒い靄のようなものが見える。

誰もが香織に気を引かれていた為に気づかなかったが、夜空の放った黒い魔力弾が檜山の右目に直撃したのだ。

光輝はよくわからず、()()を気遣った言葉を香織にかける。

 

「香織! 君まで死ぬ気か! 南雲達はもう無理だ! 落ち着くんだ! このままじゃ、体が壊れてしまう!」

「無理って何!? 南雲くん達は死んでない! 行かないと、きっと助けを求めてる!」

 

だがそれは、錯乱する香織に言う言葉ではなかった。

 

「香織っ、ダメよ! つながりを信じて!」

 

つながり。あの夜、夜空が言った言葉を思い出して欲しくて雫は叫ぶ。

 

「つながり……」

 

香織はつながりという言葉で動きを止める。そして限界が来たのか、香織を意識を手放し、ぐったりとする。

 

「香織? 香織!?」

「落ち着きなさい! 意識を失っただけよ。それよりも今は脱出する方が先よ」

「……そうだな、早く出よう」

 

光輝は雫に香織を預けると、クラスメイト達に向けて声を張り上げる。

 

「皆! 今は生き残ることだけを考えるんだ! 撤退するぞ!」

 

その言葉に、クラスメイト達はノロノロと動き出す。右目をおさえる檜山は近藤が肩を貸して撤退する。雫はもう一度、石橋の方を見てから撤退した。

 

 

 ☆ ★ ☆ ★ ☆

 

 

その夜、一度宿屋で休むことになった一行だが、右目に包帯を巻いた檜山は一人、宿を出て町の一角にある目立たない場所で膝を抱えて座り込んでいた。顔を膝に埋め微動だにしない。もし、クラスメイトが彼のこの姿を見れば激しく落ち込んでいるように見えただろう。だが実際は……

 

「ヒ、ヒヒヒ。ア、アイツが悪いんだ。雑魚のくせに……ちょ、調子に乗るから……て、天罰だ。……俺は間違ってない……白崎のためだ……あんな雑魚に……もうかかわらなくていい……俺は間違ってない……ヒ、ヒヒ」

 

暗い笑みと濁った瞳で自己弁護しているだけだった。

あの時、軌道を逸れてまるで誘導されるようにハジメを襲った火球と夜空の左肩に当たった風球は、檜山が放ったものだったのだ。

階段への脱出とハジメの救出。それらを天秤にかけた時、ハジメを見つめる香織が視界に入った瞬間、檜山の中の悪魔が今なら殺しても気づかれないぞ? と囁いたのだ。

そして、檜山は悪魔に魂を売り渡した。

バレないように絶妙なタイミングを狙って誘導性を持たせた火球をハジメに着弾させた。だが、夜空によってハジメが助かりそうになり、焦って風球を放った結果、夜空の置き土産で右目を失う羽目になった。

その時、不意に背後から声を掛けられた。

 

「へぇ~、やっぱり君だったんだ。異世界最初の殺人がクラスメイトか……中々やるね?」

「ッ!? だ、誰だ!」

 

慌てて振り返る檜山。そこにいたのは見知ったクラスメイトの一人だった。

 

「お、お前、なんでここに……」

「そんなことはどうでもいいよ。それより……人殺しさん? 今どんな気持ち? 恋敵をどさくさに紛れて殺すのって? 思わぬ反撃で右目を失ったのってどんな気持ち?」

 

その人物はクスクスと笑いながら、まるで喜劇でも見たように楽しそうな表情を浮かべる。檜山自身がやったこととは言え、クラスメイトが二人死んだというのに、その人物はまるで堪えていない。ついさっきまで、他のクラスメイト達と同様に、ひどく疲れた表情でショックを受けていたはずなのに、そんな影は微塵もなかった。

 

「……それが、お前の本性なのか?」

 

呆然と呟く檜山。

それを、馬鹿にするような見下した態度で嘲笑う。

 

「本性? そんな大層なものじゃないよ。誰だって猫の一匹や二匹被っているのが普通だよ。そんなことよりさ……このこと、皆に言いふらしたらどうなるかな? 特に……あの子が聞いたら……」

「ッ!? そ、そんなこと……信じるわけ……証拠も……」

「ないって? でも、僕が話したら信じるんじゃないかな? あの窮地を招いた君の言葉には、既に力はないと思うけど?」

 

檜山は追い詰められる。まるで弱ったネズミを更に嬲るかのような言葉。まさか、こんな奴だったとは誰も想像できないだろう。二重人格と言われた方がまだ信じられる。目の前で嗜虐的な表情で自分を見下す人物に、全身が悪寒を感じ震える。

 

「ど、どうしろってんだ!?」

「うん? 心外だね。まるで僕が脅しているようじゃない? ふふ、別に直ぐにどうこうしろってわけじゃないよ。まぁ、取り敢えず、僕の手足となって従ってくれればいいよ」

「そ、そんなの……」

 

実質的な奴隷宣言みたいなものだ。流石に、躊躇する檜山。当然断りたいが、そうすれば容赦なくハジメと夜空を殺したのは檜山だと言いふらすだろう。

葛藤する檜山は、「いっそコイツも」とほの暗い思考に囚われ始める。しかし、その人物はそれも見越していたのか悪魔の誘惑をする。

 

「白崎香織、欲しくない?」

「ッ!? な、何を言って……」

 

暗い考えを一瞬で吹き飛ばされ、驚愕に目を見開いてその人物を凝視する檜山。そんな檜山の様子をニヤニヤと見下ろし、その人物は誘惑の言葉を続ける。

 

「僕に従うなら……いずれ彼女が手に入るよ。本当はこの手の話は南雲にしようと思っていたのだけど……君が殺しちゃうから。まぁ、彼より君の方が適任だとは思うし結果オーライかな?」

「……何が目的なんだ。お前は何がしたいんだ!」

 

あまりに訳の分からない状況に檜山が声を荒らげる。

 

「ふふ、君には関係のないことだよ。まぁ、欲しいモノがあるとだけ言っておくよ。……それで? 返答は?」

 

あくまで小バカにした態度を崩さないその人物に苛立ちを覚えるものの、それ以上に、あまりの変貌ぶりに恐怖を強く感じた檜山は、どちらにしろ自分に選択肢などないと諦めの表情で頷いた。

 

「……従う」

「アハハハハハ、それはよかった! 僕もクラスメイトを告発するのは心苦しかったからね! まぁ、仲良くやろうよ、人殺しさん? アハハハハハ」

 

その人物は楽しそうに笑う。そんな二人を、巨大なアリみたいな黒い魔物が取り囲む。

 

「な、なんだ」

「なんで町の中に魔物が」

 

二人は今、武器を持っていない。つまり、この場を切り抜ける手段を持っていないのだ。しかし、黒い魔物は二人を襲うことはなかった。

 

「面白い話をしていたな、人間」

 

楕円状に闇が広がると、そこから浅黒い肌で赤い髪をした金色の瞳の男性が現れた。

 

「ま、魔人族」

「そんなに警戒しないで貰いたい。俺はただ、お前達と取引をしに来たのだ」

「取引?」

「そうだ。お前達に俺の力を与えよう。その代わり、いずれこちら側に来て貰いたい」

 

男は「悪い話では無いだろう」と付け加える。檜山とクラスメイトは悪くないと判断し、その取引を受け入れた。

 

「ではまず、力を与えよう」

 

男は両の手を檜山達に向けるとそこから黒いオーラが放たれ、二人の体の中へと入る。

 

「ヒ、ヒヒ。力、力が溢れる!」

「アハ、ハハハ。体の中から力が湧いてくる!」

「ふ。ではまたいつか」

 

男は闇に包まれると、その姿を消した。いつの間にか、黒い魔物もまた、姿を消していた。

二人はしばらく与えられた力に感動していたが、やがてタイミングをずらして宿屋へと戻っていった。

 

 

 ☆ ★ ☆ ★ ☆

 

 

男は闇の中を歩いていた。

 

「俺の目的のため、勇者達を利用させてもらうぞ」

 

男はそう呟くと、闇に穴を開け、そこから出ていった。穴の先は、どこかの洞窟のようだった。

 




檜山の現状、なんかシグバールファンに怒られそうだな。

最初はサイクスみたいに異端の印でも刻んでやろうと思いましたが、なんか優しいような気がして右目を奪いました。


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第1章 出会い
第8話 奈落


ここからオリジナル要素が出てきます。

特に、魔物の肉に関しては独自設定が含まれます。


落下途中の壁の穴から滝の如く水が噴き出していたの確認し、ハジメも上手くその水に乗れたかもしれない。そう思って、体勢を整えて滝に着水した結果、吹き飛ばされ、別の滝に着水を繰り返し、最終的に壁からせり出ていた横穴からウォータースライダーの如く流されたのである。とてつもない奇跡だと思った。ある程度流されると川からあがる。

 

「ハジメは……いないか。チリシィ」

「着替えるの?」

「ああ」

「わかった」

 

チリシィがそう言うとボフンと煙と共に王冠マークが規則正しく並んでいるトランクケースが出現する。

俺は王国から支給された装備品を全て外し、トランクケースの中の服に着替える。この服はルクシア様が用意してくださった服で、闇を防ぐ機能があるとか。まあ、あの黒コート(狭間の者の衣)や鎧はちょっと嫌なので、普通の服にしてくれたことに感謝する。

 

「……なんでモバイルポータルやアイテムポーチ(修行で手に入れた物入り)も入ってるですかね」

 

しかもエリクサーが50個もある。確かに修行を始めて一年もしない頃は不安からエリクサーを落とすハートレスを狩りまくったけど、こんなにあったけ?

 

「夜空は結局エリクサーは集めるだけ集めて使わなかったからね」

「マジカー」

「片言になってるよ」

 

するとモバイルポータルに着信が入る。出てみるとゴスロリを着た銀髪の女性、ルクシア様だった。

 

『やっと着てくれた! つながりのお守りを作るために二回も異空の回廊を開いてるの知ってるんだよ!』

「うっ、すみません」

 

バレテーラ。

 

『まあいいや。とりあえず君が修行中に手に入れて残ってた回復アイテムとマニーは全部ポーチに入れといたよ。あ、マニーはその世界のお金に変わってる筈だから安心してね』

「わかりました」

『あ、そうそう言い忘れた。今回の任務、君のマスター承認試験だから。じゃあねー』

 

その言葉を最後に通信が切れる。とりあえずチリシィに聞きたい事ができた。

 

「チリシィ。マスター承認試験ってことは、俺にはマスター相応の実力があるってことだよね」

「そうなるね」

「で、檜山達をボコった時に八重樫さんがキーブレード掴んだよね」

「そうだね」

「……これ、継承してない」

「してるね」

 

ガクリと膝から崩れる。同い年の弟子とか……。とりあえず、さん付けはやめよう。

そういえば俺、闇の力を使ったよな。ステータスどうなってるんだろう。そう思ってステータスプレートを見てみると、

 

=================

粋月夜空 16歳 男 レベル:8

天職:キーブレード使い

筋力:200

体力:450

耐性:300

敏捷:450

魔力:500

耐魔:300

技能:鍵の力・闇の力・回復魔法・全属性適性・闇属性耐性・剣術・高速魔力回復・気配探知・壁走り・言語理解

=================

 

と、何故か筋力以外のステータスが倍以上に跳ね上がっている上、技能に闇の力が増えてた。鍵の力はというと、

 

=================

【鍵の力】

魔力操作・想像構成・リフレクトガード[+リベンジアッパー]・ドッジロール[+ダークロール]・ダブルフライト・エアリカバリー[+リベンジブラスト]・グライド・エアスライド・ソニックレイヴ・ザンテツケン・フラッシュライナー・ダークスプライサー・シャドウブレイカー・ストライクレイド・ラストアルカナム[+ソロアルカナム]・スタイルチェンジ[+ダークフォーム]・キーブレード変形・アクションフロー

=================

 

色々増えてた。てか"アクションフロー"はあって"シュートロック"はないのか……。

さて、これからハジメを探しつつ地上への道も探す事になるのだが、問題は食料が無いという事だ。

 

「魔物の肉……エリクサーでなんとかならんかな」

「どうだろう。ルクシア様に聞いてみたら」

「それもそうだな」

 

俺はモバイルポータルを取り出し、ルクシア様にかける。すると僅か数秒で繋がった。

 

『はーい、こちらルクシア。何の用かな』

「ルクシア様、この世界の魔物の肉ってエリクサーでなんとかなりますか」

『ああ、その事ね。ぶっちゃけるとね……夜空は普通に魔物の肉を食べれるよ』

「……ふぇ?」

 

ルクシア様はそう言うと、近くに置いてあった本を開く。表紙には「トータス」と書かれており、恐らくこの世界の事が書いてあるのだろう。

 

『そもそも、その世界で魔物の肉が猛毒と言われてるのは、変質した魔力のせいなわけ。で、この変質した魔力が人間の詠唱や魔法陣の代わりをしているの。故に、すでに魔力操作と想像構成を得ている夜空には何にも影響はないのよ』

「なるほど……」

『最も、魔物の肉を食べて魔力操作や想像構成を得られるかは賭けになるけど……まあ夜空には関係のない話だね』

「なるほど。……ありがとうございました」

『うむ。では気をつけて頑張りたまえ』

 

ブツッと通信が切れると、モバイルポータルをしまう。そして、通路の奥へと駆け出した。

ちなみに、王国からの支給品は全てあの場に置いてきた。

 

 

 ☆ ★ ☆ ★ ☆

 

 

後ろ足がやたらと大きいウサギや電気を纏ったニ尾狼を蹴散らしながら探索していると誰かの叫び声が聞こえた。

 

「今のは……ハジメか」

「この場には君と彼ぐらいしか人間はいないと思うよ」

「だよな」

 

急いで声のした方へ行くと二メートルはある白熊にハジメが襲われていた。しかも、ハジメの左腕は肘から先がなかった。

 

「あ、あ、ぐぅうう、れ、"錬成ぇ"!」

 

ハジメが背後の壁を錬成し、穴を開ける。そしてハジメは白熊の前足が届くという間一髪のところでゴロゴロと転がりながら穴の中へ入った。

 

「グゥルアアア!!」

「させるか!」

 

白熊が何かしようとした瞬間、俺は白熊と穴の間に潜り込み、白熊の攻撃を防ぐ。

 

「ぁあああ──! "錬成"! "錬成"! "錬成ぇ"!」

 

パニックになってるのか、ハジメは俺に気づかずに錬成を使って奥へと消えていく。

 

「チリシィ! お前はハジメの元に行け!」

「うん、わかった」

 

チリシィはハジメを追って穴の中へ入って行く。

 

「さあ、お前の相手は俺だ!」

 

そう叫びながら白熊に向かって行った。

 

 

 ★ ☆ ★ ☆ ★

 

 

数時間後、俺は一人で川の側でニ尾狼の肉を剥ぎ取っていた。

さっきの白熊は、どうやら爪に風の刃を纏っており、それを伸ばして攻撃できるようだ。俺から逃げてったけど。

ハジメはチリシィに任せたので、上への道を探していたのだが見つからず、一旦切り上げた。そしてどうやら、こういった川の側には魔物が来ないようだ。かれこれ一時間はここに居座っている。皮が剥ぎ取り難いんだよこいつ。

 

「っと、こんなもんか。調理器具が無いから丸焼きかな。いや、剥ぎ取った時点で“丸焼き”ではないけど」

 

トータスの魔法が使えないのでファイガで焼いた。若干焦げたが、気にせずかじりつく。

 

「……まじぃ」

 

とてつもなく不味かったが、他に食べ物がないので諦める。ある程度食べると、体に異変が起きた。

 

「グッ! ガァ!」

 

体全体に激痛が走る。感覚的には体を組み換えられてるような感覚だ。ルクシア様……普通には食べれませんでした。

約十分後、さっきまでの激痛が嘘だったかのように引いた。川で姿を確認すると、髪が肩甲骨辺りまで伸びて茶髪に、瞳が緑色になっていただけだった。

……いや待て。茶髪に緑目?

 

「転生前の姿じゃねぇーか!」

 

自分の姿へ突っ込みつつ、ニ尾狼の骨を地面に叩きつけた。




ダークフォーム……本作オリジナル。見た目はダークインパルスに、戦闘方法はスピードレイヴに似ている。フィニッシュはスタンインパクトのダーク版の"ダークインパクト"。


最初はハジメ君を助ける方向だったのだが、僕ハジメに違和感しか感じず、豹変(?)してもらうためにハジメの左腕は犠牲になりました。
なお、爪熊は左腕にファイガを受けて逃走したもよう。

最後の夜空に姿はKH3のリクをベースに作中の通りに変えた感じです。服装はKH3のソラがベース。そのうちイラスト描く。

夜空のポーチの中身↓
・ポーション×7
・エーテル×3
・ハイポーション×8
・ハイエーテル×4
・エリクサー×50
・843ルタ(元マニー)

次回はハジメ視点の予定。


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第9話 変わる意思、変わらぬ心

今回はハジメ視点。それ故に怖いのは原作コピー。

ところでめざめの園の説明が難しい。そもそもなんでソラもヴェンも左手にキーブレード持ってるのさ。


水滴が頬に当たり口の中に流れ込む感触に、意識が徐々に覚醒していくのを感じた。そのことを不思議に思いながらゆっくりと目を開く。

 

(……生きてる? ……助かったの?)

 

僕は疑問に思いながらグッと体を起こそうとして低い天井にガツッと額をぶつけた。

 

「あぐっ!?」

 

自分の作った穴は縦幅が五十センチ程度しかなかったことを今更ながらに思い出す。

 

「おもいっきり頭をぶつけたね、大丈夫?」

 

すると自分以外の声が頭上から聞こえ、そっち見るとチリシィがいた。

 

「……チリシィ」

「夜空ならあの熊の相手してるよ」

 

僕はその言葉に驚きつつも納得していた。夜空くんはあのベヒモスをほぼ一人で抑えていた。ちゃんとした足場ならベヒモスを倒せたんじゃないかと思うほどに。ならば、あの爪熊も脅威ではないだろう。

ふと、左腕を失った事を思い出した。その瞬間、無いはずの左腕に激痛を感じた。幻肢痛というやつだ。

そして、切断された断面の肉が盛り上がって傷が塞がっていることに気がついた。

 

「な、なんで? ……それに血もたくさん……」

 

右手で周りを探れば、ヌルヌルとした感触が返ってくる。まだ辺りに流した血が乾いていないのだろう。やはり、大量出血したことは夢ではなかったようだし、血が乾いていないことから、気を失って未だそれほど時間は経っていないようだ。

にもかかわらず傷が塞がっていることに、疑問を感じていると再び頬や口元にぴちょんと水滴が落ちてきた。それが口に入った瞬間、また少し体に活力が戻った気がした。

 

「……まさか……これが?」

「うん。それが君の口に入ったら傷が塞がったんだ」

 

ならば、と僕は幻肢痛と貧血による気怠さに耐えながら右手を水滴が流れる方へ突き出し、ふらつきながら錬成し奥へ奥へと進んで行く。

不思議なことに、岩の間からにじみ出るこの液体を飲むと魔力も回復するようで、いくら錬成しても魔力が尽きなかった。

やがて、流れる謎の液体がポタポタからチョロチョロと明らかに量を増やし始め、更に進んだところで、遂に水源にたどり着いた。

 

「こ……れは……」

 

そこにはバスケットボールぐらいの大きさの青白く発光する鉱石が存在していた。

その鉱石は、周りの石壁に同化するように埋まっており下方へ向けて水滴を滴らせている。神秘的で美しい石だ。アクアマリンの青をもっと濃くして発光させた感じが一番しっくりくる表現だろう。

僕は一瞬、幻肢痛も忘れて見蕩れてしまった。

そして縋り付くように、あるいは惹きつけられるように、その石に手を伸ばし直接口を付けた。

すると、体の内に感じていた鈍痛や靄がかかったようだった頭がクリアになり倦怠感も治まっていく。

やはり、僕が生き残れたのはこの石から流れる液体が原因らしい。治癒作用がある液体のようだ。幻肢痛は治まらないが、他の怪我や出血の弊害は、瞬く間に回復していく。

ようやく死の淵から生還したことを実感して、そのままズルズルと壁にもたれながらへたり込んだ。

チリシィはペロッと水滴を舐めるとこう言った。

 

「これ、エリクサーに近いね。もしかしたらこの世界の伝説級の物かもしれないよ」

 

エリクサーといえばよくRPGとかで出てくるアイテムの名前だ。でも確かに効力が似ている気がする。

僕は死の恐怖に震える体を抱え体育座りしながら膝に顔を埋めた。

敵意や悪意になら立ち向かえたかもしれない。助かったと喜んで、再び立ち上がれたかもしれない。

しかし、爪熊のあの目はダメだった。僕を餌としてしか見ていない捕食者の目。弱肉強食の頂点に立つ人間がまず向けられることのない目だ。その目に、そして実際に自分の腕を喰われたことに、僕の心は砕けてしまった。

 

(誰か……助けて……夜空くん……)

 

ここは奈落の底、僕の言葉は誰にも届かない……

 

 

 ☆ ★ ☆ ★ ☆

 

 

どれくらいそうしていただろうか。

僕は、横倒しになりギュッと手足を縮めて、まるで胎児のように丸まっていた。

僕達が落ちた日から既に四日が経っている。

その間、僕はほとんど動かず、滴り落ちるエリクサー(仮)のみを口にして生きながらえていた。

チリシィはこんな僕にずっと付き添ってくれている。

しかし、エリクサー(仮)は空腹感まで消してくれるわけではなかった。死なないだけで、僕は壮絶な飢餓感と幻肢痛に苦しんでいた。

 

(どうして僕がこんな目に? 夜空くんはどうしてるんだろう)

 

ここ数日何度も頭を巡る疑問。

痛みと空腹で碌に眠れていない頭はエリクサー(仮)を飲めば回復するものの、クリアになったがためにより鮮明に苦痛を感じさせる。

何度も何度も、意識を失うように眠りについては、飢餓感と痛みに目を覚まし、苦痛から逃れる為に再び飲んで、また苦痛の沼に身を沈める。

もう何度、そんな微睡まどろみと覚醒を繰り返したのか。

いつしか、エリクサー(仮)を飲むのを止めていた。無意識の内に、苦痛を終わらせるもっとも手っ取り早い方法を選択してしまったのだ。

 

(こんな苦痛がずっと続くなら……いっそ……)

 

そう内心呟きながら意識を闇へと落とす。夜空くんが作ってくれた白のつながりのお守りを握り締めて。

 

 

 ★ ☆ ★ ☆ ★

 

 

目を覚ますと、そこはさっきまでの洞穴ではなく、まるでステンドグラスのような円形の足場だった。

この茶髪の人は誰なのだろうか。なぜ夜空くんと同じキーブレードを持って、まるで眠っているかのように目を閉じているのだろうか。

そんな事を考えていると、唐突に呼ばれた。

 

「南雲くん!」

「え? うわ!」

 

振り返るのと同時に押し倒された。改めて見ると白崎さんだった。

 

「し、白崎さん!?」

「香織、南雲くんが困ってるわ」

「あ、そうだね雫ちゃん」

「八重樫さんまで!?」

 

八重樫さんに言われて僕の上から白崎さんがいなくなったので立ち上がる。

 

「人の心の中で何をやってるんだ」

「え?」

 

すると、足元のステンドグラスに描かれている人物と瓜二つな青年がスーと降り立った。でも、なんとなく彼が誰だかわかる。

 

「夜空くん!」

「よう」

 

それから、情報整理が始まった。

あの後の事、夜空くんが放った魔力弾の事、そして八重樫さんがキーブレードを継承した可能性がある事等々。

僕の左腕が爪熊に食べられた事を話した時の白崎さんは少し怖かった。後ろに般若らしきモノが見えたし。

 

「じゃあ、あの風球は檜山くんので間違いないわね。彼、急に叫んだと思ったら、右目に黒い靄みたいなのがあったから」

「そうなるな。だからって檜山を殺すなよ白崎」

「え、なんで私に言うの?」

「一番殺りそうなのが君だからだ」

 

白崎さんには悪いけど、夜空くんの言う通りである。

 

「おそらく檜山は天之河の前で謝罪するだろう。それが一番許される可能性が高いからな。だからこう言ってくれないか。“夜空の置き土産”って。わかるヤツにはわかるから」

「わかったわ」

「うん、任せて」

 

僕は夜空くん達を見て、なんだか弱気になっていた自分が情けなく思えてきた。

 

「強くならなくちゃ……」

「……南雲くん?」

 

思わず呟いてしまった言葉を、白崎さんに聞かれたらしい。だったらここで宣言しよう。変わるために、進むために。

 

「夜空くんや白崎さんは僕の事を強いって言ってくれたよね。でも、皆を見てて思ったんだ。心だけが強くても意味がないって。だから強くなる。強くなって夜空くんや白崎さん達と肩を並べられるように」

「……南雲くん」

「だから僕は……ううん、俺は変わる。皆と一緒に帰るために!」

 

白崎さん達は黙って俺を見つめる。暫くそのままだったが、突然夜空くんが笑った。

 

「どうやら、コイツの決意は本物らしい」

「だね」

「そうね」

 

どうやら、俺の決意を見定めていたらしい。

 

「そろそろ目覚めの時だな。鍵が導く心のままに」

 

俺達は夜空くんの言葉に?を浮かべた。

 

「要するに、心が命じた事は誰にも止められないって事だ」

 

夜空くんはそう言って右手を出した。

 

「必ず再会しよう」

「おう!」

「うん!」

「ええ!」

 

俺達はその上にそれぞれ右手を置いた。

そして、視界が光に包まれた。

 

 

 ☆ ★ ☆ ★ ☆

 

 

目を覚ますと、チリシィが覗き込んでいた。

 

「……なんだよ」

「……いい夢が見れたみたいだね」

「……ああ」

 

目を覚まして、まず行ったのはこの穴の整備だ。錬成を繰り返して広げ、エリクサー(仮)を貯める窪みも作った。ちょっとした隠れ家みたいな感じになった。

 

「……次は、腹ごしらえだな」

 

俺は穴を出て、獲物を探しに行った。チリシィにはこの穴に待っていてもらった。

 

 

 

 

とりあえず、錬成を駆使して二尾狼の群れ、計四匹を仕留め隠れ家に戻ってきた。雑にだが毛皮を剥がしているとチリシィがたずねてきた。

 

「ねえ、わかってたけど、本当に魔物の肉を食べるの?」

「ああ、それ以外に喰う物がないからな。このエリクサー(仮)で助かるか、魔物の肉の毒で死ぬか、飢餓で死ぬか。だったら生き残る可能性にかける!」

 

俺はそう言って肉に喰らいついた。

 

「あが、ぐぅう、まじぃなクソッ!」

 

悪態を吐きながらも、喰らい続ける。

硬い筋ばかりの肉を、血を滴らせながら噛み千切り必死に飲み込んでいく。久しぶりの食事だ。いきなり肉を放り込まれた胃が驚き、キリキリと痛みをもって抗議する。だが、そんなもの知ったことかと次から次へと飲み込んでいった。

俺の姿は現代の人間から見れば酷くおぞましい姿に映っただろう。

酷い匂いと味に涙目になりながらも、俺は飢餓感が癒されていく感覚に陶然とする。飯を食えるということがこんなに幸せなことだったとは思いもしなかった。夢中になって喰らい続ける。

どれくらいそうやって喰らっていたのか、腹が膨れ始めた頃、体に異変が起こり始めた。

 

「あ? ――ッ!? アガァ!!!」

「ハジメ!」

 

突如全身を激しい痛みが襲った。まるで体の内側から何かに侵食されているようなおぞましい感覚。その痛みは、時間が経てば経つほど激しくなる。

 

「ぐぅあああっ。な、何がっ――ぐぅううっ!」

 

耐え難い痛み。自分が侵食されていく感覚に、俺は地面をのたうち回る。幻肢痛など吹き飛ぶような遥かに激しい痛みだ。

俺は直ぐに貯めていたエリクサー(仮)を飲む。効果を発揮し痛みが引いていくが、しばらくすると再び激痛が襲う。

 

「ひぃぐがぁぁ!! 何で……なおらなぁ、あがぁぁ!」

 

俺の体が痛みに合わせて脈動を始めた。ドクンッ、ドクンッと体全体が脈打つ。至る所からミシッ、メキッという音さえ聞こえてきた。

しかし次の瞬間には、体内のエリクサー(仮)が効果をあらわし体の異常を修復していく。修復が終わると再び激痛。そして修復。

エリクサー(仮)の効果で気絶もできない。

俺は絶叫を上げ地面をのたうち回り、頭を何度も壁に打ち付けながら終わりの見えない地獄を味わい続けた。それでも、「死なない。死んでたまるか」と思い、ひたすら耐え続ける。チリシィも、心配そうに俺を見つめている。

やがて、脈動が収まり俺はぐったりと倒れ込んだ。

焦点の定まらない目で右手を見る。何度か握ったり開いたりしながら自分が生きていること、きちんと自分の意思で手が動くことを確かめるとゆっくり起き上がった。

 

「……俺は……死ななかった。……まだ、生きてる……」

 

疲れ果てた表情で笑う。

飢餓感がなくなり、壮絶な痛みに幻肢痛も吹き飛んだようで久しぶりに何の苦痛も感じない。それどころか妙に体が軽く、力が全身に漲っている気がする。

途方もない痛みに精神は疲れているもののベストコンディションといってもいいのではないだろうか。

腕や腹を見ると明らかに筋肉が発達している。

 

「俺の体どうなったんだ? なんか妙な感覚があるし……」

「はい、鏡」

 

チリシィが首にかけているサイフと思われる物から手鏡を取り出す。この際なので突っ込みはしない。

チリシィから手鏡を受け取り、見てみると髪は白くなり、瞳は赤くなっていた。

体の変化だけでなく体内にも違和感を覚えていた。温かいような冷たいような、どちらとも言える奇妙な感覚。意識を集中してみると腕に薄らと赤黒い線が浮かび上がった。

 

「うわぁ、き、気持ち悪いな。なんか魔物にでもなった気分だ。……洒落しゃれになんねぇな。そうだ、ステータスプレートは……」

 

すっかり存在を忘れていたステータスプレートを探してポケットを探る。どうやら失くしていなかったようだ。体の異常について何か分かるかもしれないと現在のステータスを確認する。

 

=================

南雲ハジメ 17歳 男 レベル:8

天職:錬成師

筋力:100

体力:300

耐性:100

敏捷:200

魔力:300

魔耐:300

技能:錬成・魔力操作・胃酸強化・纏雷・言語理解

=================

 

「……なんでやねん」

 

いつかのように驚愕のあまり思わず関西弁でツッコミを入れる。ステータスが軒並み急増しており、技能も三つ増えている。しかもレベルが未だ8にしかなっていない。レベルはその人の到達度を表していることから考えると、どうやら成長限界も上がったようだ。

 

「魔力操作?」

 

文字通りなら魔力が操作できるということだろうか。

俺は「もしや先程から感じている奇妙な感覚は魔力なのでは?」と推測し、先程と同じく集中し"魔力操作"とやらを試みる。

集中し始めると、赤黒い線が再び薄らと浮かび上がった。そして体全体に感じる感覚を右手に集束するイメージを思い描く。すると、ゆっくりとぎこちないながらも奇妙な感覚、もとい魔力が移動を始めた。

 

「おっ、おっ、おぉ~?」

 

なんとも言えない感覚につい声を上げながら試していると、集まってきた魔力がなんとそのまま右手にはめている手袋に描かれた錬成の魔法陣に宿り始めた。驚きながら錬成を試してみると、あっさり地面が盛り上がった。

 

「マジかよ。詠唱いらずってことか? 魔力の直接操作はできないのが原則。例外は魔物。……やっぱり魔物の肉食ったせいでその特性を手に入れちまったのか? ……あれ? 確か夜空くんは普通に魔法を……いいや、後で聞こう」

 

夜空くんの事は一旦置いといて、次に"纏雷"を試すことにする。

 

「えっと……どうやればいいんだ? "纏雷"ってことは電気だよな? あれか? 二尾狼の尻尾の……」

「イメージじゃない。夜空はそう言ってたよ」

 

チリシィにそう言われて、俺はバチバチと弾ける静電気をイメージする。すると右手の指先から紅い電気がバチッと弾けた。

 

「おお~、できたよ。……なるほど、魔物の固有魔法はイメージが大事ってことか。っていうか魔力光も赤……いや紅色に変わってやがる」

 

その後もバチバチと放電を繰り返す。しかし、二尾狼のように飛ばすことはできなかった。おそらく"纏雷"とあるように体の周囲に纏まとうか伝わらせる程度にしかできないのだろう。電流量や電圧量の調整は要練習だ。

最後の"胃酸強化"は文字通りだろう。魔物の肉を喰って、またあの激痛に襲われるのは勘弁だ。しかし、迷宮に食物があるとは思えない。飢餓感を取るか苦痛を取るか。その究極の選択を、もしかしたらこの技能が解決してくれるのではと期待する。

二尾狼から肉を剥ぎ取り"纏雷"で焼いていく。流石に飢餓感が癒された後で、わざわざ生食いする必要もない。強烈な悪臭がするが耐えてこんがりと焼く。

そして、意を決して喰らいついた。

しかし、十分たっても何事も起こらない。

次々と肉を焼いていき再び喰ってみる。しかし、特に痛みは襲って来なかった。胃酸強化の御蔭か、それとも耐性ができたのか。わからないが、これで飯を喰う度に地獄を味わわなくて済む。

しばらく新たな力の習熟に励むことにした。

 

 

 

 

 

 

一方その頃、夜空は

 

「ヤバい。魔物が逃げる」

 

魔物から避けられていた。




原作より早くかつ穏やか(?)な豹変をしたハジメ。なお、もうしばらく「くん」や「さん」はついたまま。違和感しかないぜ。

次回は再びクラスメイト達の話。


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第10話 偽りの謝罪

夜空が優秀なせいでハジメの評価が原作より酷いことになってしまった。


 あの日、迷宮で死闘と喪失を味わった日から五日が過ぎた。

 あの後、宿場町ホルアドで一泊し、早朝には高速馬車に乗って一行は王国へと戻った。とても、迷宮内で実戦訓練を続行できる雰囲気ではなかったし、勇者の同胞が死んだ以上、国王にも教会にも報告は必要だった。

 それに、厳しくはあるが、こんな所で折れてしまっては困るのだ。致命的な障害が発生する前に、勇者一行のケアが必要だという判断もあった。

 帰還を果たしハジメと夜空の死亡が伝えられた時、王国側の人間は誰も彼もが愕然とした。すると「“無能”が足を引っ張った」等と勝手な事を言い出す者が現れた。

 もちろん、公の場で発言したのではなく、物陰でこそこそと貴族同士の世間話という感じではあるが。まさに、死人に鞭打つ行為に、雫は憤激に駆られて何度も手が出そうになった。

 実際、正義感の強い光輝が真っ先に怒らなければ飛びかかっていてもおかしくなかった。光輝が激しく抗議したことで国王や教会も悪い印象を持たれてはマズイと判断したのか、ハジメを罵った人物達は処分を受けたようだが……

 逆に、光輝は無能にも心を砕く優しい勇者であると噂が広まり、結局、光輝の株が上がっただけで、ハジメは勇者の手を煩わせただけの無能であるという評価は覆らなかった。

 あの時、自分達を救ったのは紛れもなく、ベヒモスという化け物をたった二人で食い止め続けたハジメと夜空だというのに。そんな彼らを死に追いやったのはクラスメイトの誰かが放った魔法だというのに。

 クラスメイト達はあの時の話をしない。彼らを落とした魔法の主が誰なのかがわからないが、それを知ろうとすることは、クラスメイトを疑うことになるからだ。

 結果、ほとんどは現実逃避をするように、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()と思うようにしているようだ。死人に口なし。無闇に犯人探しをするより、ハジメのせいにしておけば誰もが悩まなくて済む。だが、一部に人間はあの生徒ではないかと疑っていた。

 あの時、夜空が放った魔力弾がその人物に当たった瞬間は誰も見ていない。しかし()()()()()()()()()()()()()()()()()からだ。

 メルド団長は、あの時の経緯を明らかにするため、生徒達に事情聴取をする必要があると考えていた。白黒はっきりさせた上で心理的ケアをした方が生徒達のためになると確信していたからだ。

 こういうことは有耶無耶にした方が、後で問題になるものなのである。なにより、メルド自身、はっきりさせたかった。“助ける”と言っておいて、ハジメと夜空を救えなかったことに心を痛めているのはメルド団長も同様だったからだ。

 しかし、メルド団長は行動すること叶わなかった。イシュタルが、生徒達への詮索を禁止したからだ。メルド団長は食い下がったが、国王にまで禁じられては堪えるしかなかった。

 そんなある日、雫は姿が変わった夜空や左腕を失ったハジメ、未だに目を覚まさない香織達と語り合うという不思議な夢を見た。いや、あれは本当に夢なのかと思いたくなるような内容だ。あの夢が本当ならば、()()も知っている筈だと。

 雫は、あの日から一度も目を覚ましていない香織の部屋の扉を叩いた。どうか、目を覚ましていますようにと願いながら。

 

「……だれ」

「ッ! 私よ、雫よ!」

「雫ちゃん!? 入って入って!」

 

 親友の声を聞き、雫が中に入ると、ベッドに上半身を起こした香織が出迎えた。

 

「……おはよう、雫ちゃん」

 

 笑顔で挨拶する親友に、目の端に涙を浮かべる雫。

 

「おはよう、香織。体はどう? 違和感はない?」

「うん、平気だよ。ちょっと怠いけど……寝てたからだろうし……」

「そうね、もう五日も眠っていたのだもの……怠くもなるわ」

 

 どれくらい眠っていたのかを伝える雫。香織はそれに反応する。

 

「五日? そんなに……どうして……私、確か迷宮に行って……それで……」

 

 徐々に焦点が合わなくなっていく目を見て、マズイと感じた雫が咄嗟に話を逸らそうとする。しかし、香織が記憶を取り戻す方が早かった。

 

「それで……あ…………………………雫ちゃん、南雲くんと粋月くん、生きてたよね!」

「ッ……それは」

 

 雫はあの出来事が本当にあった事なのだと確信した。

 

「……そうね。生きていたわね。必ず再会するって、約束したわね」

「うん。だから、粋月くんの伝言も伝えなきゃね」

 

 香織がそう言うと、入口から一人の女子生徒が入ってきた。

 

「粋月の……なんだって」

 

 それは、かなり無気力になった優花だった。

 

「園部さん……」

「ねえ、さっきの話。聞かせて」

 

 雫と香織はお互いに見合うとあの出来事の事を話した。

 

「これを夢だと、幻想だと思ってもいいわ」

「……ううん。私は信じるよ、二人の話」

「そう、ありがとう。でも、決して手を出さないで」

「うん、わかった」

 

 すると、光輝と龍太郎がやって来た。

 

「ここにいたのか、雫。それに園部さんも。それから、目が覚めたんだね、香織」

「光輝くんに龍太郎くん、おはよう」

「それで、何のようかしら」

「なんでも、檜山があの日の事を謝りたいんだとよ」

 

 龍太郎の言葉に香織達はアイコンタクトをとる。そして、光輝の案内で、檜山のもとへ向かった。

 

 

 ☆ ★ ☆ ★ ☆

 

 

 檜山はクラスメイトに囲まれてながら土下座をした。あの時、きちんと忠告を聞いていれば……と。

 

「あの魔法については何か知っているかい?」

「ああ……南雲達を落とした魔法については知らない。本当に知らないんだ」

 

 光輝が魔法について聞くと、檜山はそう答えた。すると、香織達は目を僅かに細めた。檜山から右目を奪ったあの攻撃は、檜山に対する夜空の反撃である事を知っている彼女達にとって、檜山の謝罪が薄っぺらな形だけの物と感じたからだ。

 

「そうか。よく話してくれた。皆もどうか檜山を許してやってくれないか」

 

 光輝の言葉にクラスメイト達は「天之河が言うなら……」といった感じで檜山を許そうとする。その瞬間、香織と雫が同時に呟いた。

 

「「“夜空の置き土産”」」

「え?」

 

 その呟きに光輝が反応する。他のクラスメイトも同じような反応だ。

 

「気にしないで。ちょっと粋月くんが最後に放ったアレは()()()()()()()()()()()だったのかしらって思っただけだから」

 

 雫は一部を強調しながらそう言った。クラスメイト達もその事を思い出したのかざわつき出す。やがて「檜山がやったんじゃないのか」と騒ぎ出した。

 

「し、知らねぇよ! いきなり黒い弾が飛んで来たんだ! お、俺はやってねぇ! 俺はやってねぇ!」

「皆、檜山もこう言ってるんだし、信じてやろう。な」

 

 檜山の必死な訴えと光輝の説得で、クラスメイトは渋々といった感じで納得した。

 クラスメイト達に疑心を植え付けて。




檜山がどっかの親善大使様みたいになりましたが気のせいです。そしてきっと天之河の信頼度も下がってる筈。

ちなみに、最初は優花が香織達の話を聞いて泣く予定でしたが、うーんとなったので没になりました。


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第11話 継承

大変遅くなりました!

言い訳をしますと、
アルテマウェポンを作るためにひたすら雪山下りをしたり、プリンを撥ね飛ばしたり、ようやく作ったアルテマウェポンでダークインフェルノやゼアノートをボコボコにしたり、銃の世界でひたすらボスをリスキルし続けたり、大奥を走ったり、大乱闘したり、他の作品を書いたりしてました。

その結果できたのがこの雑すぎる夜空とハジメの会議(?)回です。……ドウシテコウナッタ。


もうどのぐらい歩いたかわからなくなるほど歩いたが、未だに上への道が見つからず、下への道しか見つかっていない。

 

「これはもう、ハジメと合流して下に行くしかないか……」

 

視界の端に蹴りウサギが見えたのでそちらをみると、蹴りウサギは「キュイィィ」と鳴いて逃げていった。それを見て思わずため息をついてしまった。

 

「えーと、こっちか」

 

つながりを頼りに、ハジメの元へと向かった。

 

 ☆ ★ ☆ ★ ☆

 

しばらく歩いていると銃声と思われる音が木霊した。その方に行ってみると、白熊の亡骸を白髪の少年が見下ろしていた。どこか見覚えがあるし、俺以外の人間なんてアイツしかいないだろうってことで声をかける。

 

「よう、ハジメ。お前がやったのか」

「ん、ああ。こいつを倒さないと、本当の意味で進めないからな」

「……そうか」

 

無言が数秒続き、ハジメが聞いてきた。

 

「それで、どうだったんだ。探索したんだろう」

「そうだな。その報告も含め、どこかで落ち着いてしたいな」

「なら、俺が拠点にしてるところに行くか。チリシィもいるし」

「そうするか」

 

白熊の亡骸を持ったハジメと共に、ハジメの拠点へ向かう。そこは、かつてハジメがあの白熊から逃れるために作った穴だった。最も、中は広く、完全に隠れ家みたいになっていた。

 

「あ、お帰り。夜空も久しぶり」

「久しぶりだなチリシィ。ハジメのこと、ありがとな」

 

俺はチリシィに礼を言いながら頭を撫でる。するとチリシィは気持ち良さそうにする。

それから、白熊の肉を食べながらハジメに探索結果を伝えた。

 

「上への道がない上に、一定の距離で破壊できなくなった……か」

「ああ。しかも、暫くしたら勝手に修復される」

「となると……夜空くんの言う通り下に進むしかないな」

 

今のハジメから“くん”づけで呼ばれる違和感が凄いんだけど……。

 

「……」

「……なんだよ」

「いや、“くん”呼びに違和感があるなって。一回“くん”なしで呼んでみてくれ」

「? 夜空。……なんかこっちの方がしっくりするな」

「ああ、俺もそう思う」

 

二人で納得する。そして俺はふと思った事をハジメに尋ねた。

 

「なあハジメ」

「ん?」

「キーブレードを継承してみる気はあるか」

「え?」

 

俺の言葉にハジメはキョトンとする。

 

「お前はあの時、『強くなって夜空くんや白崎さん達と肩を並べられるように強くなる』って言っただろ。なら、武器は一つでも多い方がいい。それに、キーブレードなら俺が鍛えられる」

 

ハジメは少し無言で俺を見つめると、頷く。

 

「確かに、夜空の戦いからキーブレードが凄い物だとわかる。けどな……一つ気になる事があるんだ」

「それは?」

「……そんな凄い物を、お前は前から知っている。しかも、戦い方からすると、昔からキーブレードを扱っていたんだろうな。けど、平和な日本でキーブレードなんて使う事はない。つまり、何らかの形で戦場に行くことを知っていたから扱えるようにした。……なあ、お前は何者なんだ」

 

俺はハジメの考察に目を見開いた。たったそれだけで俺が“ただの人”じゃないと見破るとは。

 

「そうだな……いつかは話さないとな……」

 

一度深呼吸をしてから喋り出す。

 

「俺は一度死んだ人間だ」

「は?」

「そう言いたくなるのもわかる。けど、事実なんだ。俺は一度死んで、その後、とある女神に蘇生された。つまり、俺は“転生者”って事だ。そして、俺はその女神からとある使命を受けて転生した」

「その使命は」

「本来とは違う、“お前達の敗北”を覆すことだ。本来ならばお前達は多少の犠牲はあれど地球に帰れる筈だった。だが、どういうわけか全滅してしまった。俺はその“全滅”を防ぐ為に転生したんだ」

「……」

 

ハジメは無言で俺を見つめる。俺はそんなハジメから目を逸らさずに続ける。

 

「俺も“いつ”・“どこで”全滅するのかは知らない。転生先の世界の未来を知ることは許されてないんだ。けど、やるべき事は心に標として残されている。だから俺は、心に従って進む」

「……そうか」

 

ハジメは納得した表情で右手を差し出してくる。

 

「とりあえずはそれで納得してやるよ」

「ありがとう、ハジメ」

 

俺はハジメにお礼を言ってキーブレードを呼び出す。そして持ち手の方をハジメに向ける。

 

「キーブレードの継承はそこまで複雑じゃないんだ。キーブレードマスターっていう実力者とキーブレードを介して心が触れあえばいいんだ」

「なるほど、だから八重樫に継承したかも知れないって言ってたのか。……ん? それだと檜山とかキーブレードで攻撃した相手はどうなるんだ?」

「敵対者に継承するわけないだろ。継承できるのは心を許した相手だけだ」

「なるほど、確かにそうだな」

 

ハジメはそう言ってキーブレードを握る。そしてすぐに首をかしげた。

 

「これだけ?」

「これだけ」

「地味じゃね」

「確かに」

 

キーブレードを消して、説明をする。

 

「とりあえずこれでキーブレードの継承は終わった。後はキーブレード次第だ」

「どういうことだ」

「継承の儀式をしたからといってすぐに使えるようになるわけじゃないんだ。あの時も言ったが、キーブレードに使い手として認められることが必要なんだ。継承の儀式はキーブレードが見つけやすくするマーキングみたいなものと思ってくれていい」

「ふーん。つまりいつ使えるようになるか分からないと」

「そうなる」

 

ハジメは暫く右手を開いて閉じてを繰り返していたが、ニッと笑う。

 

「ま、それはその時のお楽しみって事で……行くか」

「……ああ」

 

俺達はハジメの隠れ家を出て、次の階層へと降りていった。

 

 

 

そんな俺達たちを背後から見つめる“影”に、俺達は気が付かなかった。




次回はちょっと飛んで五十階層目です。
「封印なんぞ無意味だ」回です。


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第12話 封印された少女

祝 UA20000人突破!

ついにユエちゃん登場!


あれから五十階層近くは進んだ。俺達に時間の感覚はもうないので、どれくらいの日数が過ぎたのかはわからない。

その間にも石化させてくるトカゲやタールの中に潜むサメ、毒の痰を吐き出す二メートルの虹カエルや麻痺の鱗粉を撒き散らす蛾等、強力な魔物に襲われた。

虹ガエルの毒をハジメがくらったときは直接神経を侵され、激痛をハジメにもたらした。奥歯に仕込んだエリクサー(仮)がなければ死んでいたと本人が語った。

そして、それら全てを喰らった。蛾を食べるのは流石に抵抗があったが、自身を強化するためだと割り切り意を決して喰った。カエルよりちょっと美味しかったのには驚いた。

 

また、地下迷宮なのに密林のような階層に出たこともあった。この階層の魔物は巨大なムカデと樹だ。

この密林を歩いていた時に、突然、巨大なムカデが木の上から降ってきたときは、流石に全身に鳥肌が立った。

しかも、このムカデ、体の節ごとに分離して襲ってきたのだ。一匹いれば三十匹はいると思えという黒い台所のGのような魔物だ。それを見て苦戦したポットセンティピードを思い出して、ムカデに八つ当たりをした。

ちなみに、樹の魔物はハジメ曰くRPGに出てくるトレントに酷似しているらしい。

そんなトレントモドキの最大の特徴はそんな些細な攻撃ではない。この魔物、ピンチなると頭部をわっさわっさと振り赤い果物を投げつけてくるのだ。これには全く攻撃力はなく、ハジメが試しに食べてみたところ、めちゃくちゃ美味かったらしい。俺も食べてみると、リンゴのような見た目のくせしてスイカに近い味だった。

それを知った俺達はそのトレントモドキを一匹残らず収穫した。

そんな感じで階層を突き進み、気がつけば五十層。未だ終わりが見える気配はない。ちなみに、現在の俺達のステータスはこうである。

 

 

=================

粋月夜空 16歳 男 レベル:51

天職:キーブレード使い

筋力:1010

体力:1260

耐性:1000

敏捷:1410

魔力:1500

耐魔:1000

技能:鍵の力・闇の力・回復魔法[+効果上昇]・全属性適性[+全属性効果上昇]・全属性耐性[+闇属性効果上昇]・剣術・高速魔力回復・気配探知・壁走り・胃酸強化・夜目・遠見・毒耐性・麻痺耐性・石化耐性・言語理解

=================

 

=================

【鍵の力】

魔力操作・想像構成・リフレクトガード[+リベンジアッパー]・ドッジロール[+ダークロール]・ダブルフライト[+エアドッジ]・エアリカバリー[+リベンジブラスト]・グライド・エアスライド・ソニックレイヴ・ザンテツケン・フラッシュライナー・ダークスプライサー・シャドウブレイカー・ストライクレイド[+ウインドレイド]・ラストアルカナム[+ソロアルカナム]・スタイルチェンジ[+ダークフォーム]・キーブレード変形・アクションフロー

=================

 

 

=================

南雲ハジメ 16歳 男 レベル:49

天職:錬成師

筋力:880

体力:970

耐性:860

敏捷:1040

魔力:760

魔耐:760

技能:錬成[+鉱物系鑑定][+精密錬成][+鉱物系探査][+鉱物分離][+鉱物融合][+複製錬成]・魔力操作・胃酸強化・纏雷・天歩[+空力][+縮地][+豪脚]・風爪・夜目・遠見・気配感知・魔力感知・気配遮断・毒耐性・麻痺耐性・石化耐性・言語理解

=================

 

 

俺はハジメと違って一部の魔物の固有魔法を取得できなかった。その代わりなのか闇属性耐性が全属性耐性になっていた。

 

そんな俺達は、この五十層で作った拠点にて鍛錬しながら少し足踏みをしていた。というのも、階下への階段は既に発見しているのだが、この五十層には明らかに異質な場所があったのだ。

それは、なんとも不気味な空間だった。

脇道の突き当りにある空けた場所には高さ三メートルの装飾された荘厳な両開きの扉が有り、その扉の脇には二対の一つ目巨人の彫刻が半分壁に埋め込まれるように鎮座していたのだ。

ハジメがその空間に足を踏み入れた瞬間全身に悪寒が走るのを感じたらしく、一旦引くことにした。もちろん装備を整えるためで避けるつもりは毛頭ない。ようやく現れた“変化”なのだ。調べないわけにはいかない。

 

俺達は期待と嫌な予感を両方同時に感じていた。あの扉を開けば確実になんらかの厄災と相対することになる。だが、しかし、同時に終わりの見えない迷宮攻略に新たな風が吹くような気もしていた。

 

「さながらパンドラの箱だな。……さて、どんな希望が入っているんだろうな?」

「こんな場所にあるんだ。財宝とかじゃないだろうな」

 

ハジメはそっとドンナー(ハジメが作った銃の名前)を額に押し当て目を閉じる。そしてハジメは、願いを口に出して宣誓する。

 

「俺は、生き延びてアイツらと共に故郷に帰る。日本に、家に……帰る。邪魔するものは……全て薙ぎ倒す!」

 

目を開けたハジメの口元にはいつも通りの笑みが浮かんでいた。

 

扉の部屋にやってきた俺達は油断なく歩みを進める。特に何事もなく扉の前にまでやって来た。近くで見れば益々、見事な装飾が施されているとわかる。そして、中央に二つの窪みのある魔法陣が描かれているのがわかった。

 

「? わかんねぇな。結構勉強したつもりだが……こんな式見たことねぇぞ」

「相当古いみたいだな。まあ、封印であるなら関係ないな」

「は?」

 

ハジメは俺の言うことに疑問を抱くが、俺がちょいちょいとハジメに退くように指示すると、大人しく従ってくれた。そして俺がキーブレードを構えると、扉に大きな鍵穴が出現する。それを見てハジメが目を見開いているが無視して鍵穴にキーブレードを向ける。するとキーブレードから鍵穴に向かって光が放たれ、ガチャリと鍵が開く音が響く。

その直後に異変が起きた。

 

――オォォオオオオオオ!!

 

突然、野太い雄叫びが部屋全体に響き渡った。

俺達はバックステップで扉から距離をとり、戦闘体勢に入る。

雄叫びが響く中、遂に声の正体が動き出した。

 

「まぁ、ベタと言えばベタだな」

「あからさまだったしな」

 

苦笑いしながら呟く俺達の前で、扉の両側に彫られていた二体の一つ目巨人が周囲の壁をバラバラと砕きつつ現れた。いつの間にか壁と同化していた灰色の肌は暗緑色に変色している。

一つ目巨人の容貌はまるっきりファンタジー常連のサイクロプスだ。手にはどこから出したのか四メートルはありそうな大剣を持っている。未だ埋まっている半身を強引に抜き出し無粋な侵入者を排除しようと俺達の方に視線を向けた。

その瞬間、ドパンッ! と凄まじい発砲音と共に二体のサイクロプスはその命を散らした。

右のサイクロプスはハジメに電磁加速されたタウル鉱石の弾丸に一つ目を撃たれ、左のサイクロプスは俺が投げた槍になったキーブレードに一つ目を貫かれた。

 

「悪いが、空気を読んで待っていてやれるほど出来た敵役じゃあないんだ」

「何より登場が遅い」

 

おそらく、この扉を守るガーディアンか何かだったのだろう。だが、俺達の敵ではなかった。

 

「さてと、肉は後で取るとして……」

 

ハジメは、チラリと扉を見て少し思案する。

 

「なあ、もしかしてこいつらの魔石をはめると開く仕組みだったんじゃあ……」

「かもしれないな」

 

俺達は警戒しながらそっと扉を開いた。

扉の奥は光一つなく真っ暗闇で、大きな空間が広がっているようだ。“夜目”と手前の部屋の明りに照らされて少しずつ全容がわかってくる。

中は、聖教教会の大神殿で見た大理石のように艶やかな石造りで出来ており、幾本もの太い柱が規則正しく奥へ向かって二列に並んでいた。そして部屋の中央付近に巨大な立方体の石が置かれており、部屋に差し込んだ光に反射して、つるりとした光沢を放っている。

その立方体を注視してみると、何か光るものが立方体の前面の中央辺りから生えているのに気がついた。

俺が近くで確認しようすると、ハジメが扉を大きく開け固定しようとする。いざと言う時、入った途端バタンと閉められたら困るからだそうだ。……また俺が開ければいいだけなんだけどな。

しかし、ハジメが扉を開けっ放しで固定する前に、それは動いた。

 

「……だれ?」

 

かすれた、弱々しい女の子の声だ。ビクリッとして俺達は慌てて部屋の中央を凝視する。すると、先程の“生えている何か”がユラユラと動き出した。差し込んだ光がその正体を暴く。

 

「人……なのか?」

「……女の子?」

 

“生えていた何か”は女の子だった。

上半身から下と両手を立方体の中に埋めたまま顔だけが出ており、長い金髪が垂れ下がっていた。そして、その髪の隙間から低高度の月を思わせる紅眼の瞳が覗のぞいている。年の頃は十二、三歳くらいだろう。随分やつれているし垂れ下がった髪でわかりづらいが、それでも美しい容姿をしていることがよくわかる。

流石に予想外だった俺達は硬直していた。やがて、ハジメはゆっくり深呼吸し決然とした表情で告げた。

 

「すみません。間違えました」

「ちょっと待て」

 

扉を閉めようとしたハジメを俺は慌てて止めた。

 

「なんだよ! こんな奈落の底の更に底で、明らかに封印されているような奴を解放するわけにはいかないだろ!」

「確かにそうだが事情ぐらい聞こう。それを聞いてからでも遅くないだろ」

「……責任はお前が持てよ」

「わかった」

 

ハジメがとりあえず俺の意見に賛同してくれたので、女の子に警戒しつつ歩み寄る。ハジメは少し離れているが。

 

「君がどうしてこんなところに封印されているのか、教えてくれないか」

「私、先祖返りの吸血鬼……すごい力持ってる……だから国の皆のために頑張った。でも……ある日……家臣の皆……お前はもう必要ないって……おじ様……これからは自分が王だって……私……それでもよかった……でも、私、すごい力あるから危険だって……殺せないから……封印するって……それで、ここに……」

 

俺の問いに枯れた喉で必死にポツリポツリと語る女の子。なんとまぁ波乱万丈な境遇か。しかし、ところどころ気になるワードがあるので、俺は続けて尋ねる。

 

「君は、どっかの国の王族だったのか?」

 

女の子は無言で頷いた。

 

「何故殺せないんだ?」

「……勝手に治る。怪我しても直ぐ治る。首落とされてもその内に治る」

「……そ、それは凄まじいな。……すごい力ってそれか?」

「これもだけど……魔力、直接操れる……陣もいらない」

 

それを聞いて納得した。

俺は元々できているが、普通はできない。ハジメも魔物を喰ってから、魔力操作が使えるようになったのだ。

それに例え魔力を直接操れても魔法陣は当然必要だ。

だが、この女の子のように魔法適性があれば反則的な力を発揮できるのだろう。何せ、周りがチンタラと詠唱やら魔法陣やら準備している間にバカスカ魔法を撃てるのだから、正直、勝負にならない。しかも、不死身。おそらく絶対的なものではないとだろうが、それでも勇者すら凌駕しそうなチートである。

 

「……たすけて……」

 

俺が一人で思索に耽り、そして納得しているのをジッと眺めながら、ポツリと女の子が懇願する。

 

「……」

 

俺はジッと女の子を見た。女の子もジッと俺を見つめる。それが暫く続いた。

 

「ハジメ、俺はこの子を助けようと思う」

「戦力にもなるし反対はしない。が、さっき言った通り責任はお前持ちな」

「はいはいっと」

 

軽く後ろに飛び、さっきの扉の時と同じようにキーブレードを立方体に向ける。すると再び光が放たれる。

 

「えっ」

 

女の子は俺の行動に呆然とする。立方体は光に包まれていき、光の粒子となって消えた。

立方体が消え去ると、一糸纏わぬ女の子は地面にペタリと女の子座りで座り込んだ。どうやら立ち上がる力がないらしい。

 

「チリシィ」

「なに」

 

突然現れたチリシィに女の子がビクッとする。

 

「チリシィ、確かロングコートがあったよな。それ出して」

「えーと、これだね」

 

チリシィはサイフからロングコートを引っ張り出す。その光景をハジメは見てない振りをした。

 

「ほれ、これ羽織れ。それと、これも飲め」

 

俺がロングコートとエリクサーを女の子に渡す。すると、震える声で小さく、しかしはっきりと女の子は告げる。

 

「……ありがとう」

「……どういたしまして」

 

その言葉に、俺は優しく微笑んだ。

そして、女の子はロングコートを羽織り、エリクサーを飲むと尋ねてきた。

 

「……名前、なに?」

「俺は夜空、粋月夜空だ。で、あっちが……」

「ハジメだ。南雲ハジメ。お前は?」

 

女の子は「夜空、ハジメ」と、さも大事なものを内に刻み込むように繰り返し呟いた。そして、問われた名前を答えようとして、思い直したように俺達にお願いをした。

 

「……名前、付けて」

「は? 付けるってなんだ。まさか忘れたとか?」

 

ハジメは疑問に思って尋ねるが、女の子はふるふると首を振る。

 

「もう、前の名前はいらない。……夜空とハジメの付けた名前がいい」

「……」

「わかってるからその目止めろ」

 

前の自分を捨てて新しい自分と価値観で生きたいのだろう。

女の子は期待するような目で、ハジメは「お前がつけろ」という目で俺を見てくる。仕方ないので、直感でつける事にした。

 

「“ユエ”なんてどうだ? 直感で考えたし、気に入らないなら別のを考えるが……」

「ユエ? ……ユエ……ユエ……」

「ああ、ユエって言うのはな、俺達の故郷で“月”を表すんだよ。多分、この部屋に入ったとき、お前のその金色の髪とか紅い眼が夜に浮かぶ月みたいに見えたんじゃないか」

 

「ま、俺もだがな」とハジメが付け足す。

思いのほかきちんとした理由があることに驚いたのか、女の子がパチパチと瞬きする。そして、相変わらず無表情ではあるが、どことなく嬉しそうに瞳を輝かせた。

 

「……んっ。今日からユエ。ありがとう」

「ああ、よろしく」

 

礼を言う女の子改めユエと握手する。

すると"気配感知"に、魔物の気配が引っ掛かった。場所はちょうど真上。

俺とハジメがその存在に気がついたのと、ソレが天井より降ってきたのはほぼ同時だった。

俺は咄嗟とっさに、手を繋いだままのユエを引き寄せ、"ダークロール"で影となってその場を離れる。ハジメも"縮地"でその場を離れた。

そして、直前までいた場所にズドンッと地響きを立てながらソレが姿を現した。

 

その魔物は体長五メートル程、四本の長い腕に巨大なハサミを持ち、八本の足をわしゃわしゃと動かしている。そして二本の尻尾の先端には鋭い針がついていた。

一番分かりやすいたとえをするならサソリだろう。二本の尻尾は毒持ちと考えた方が賢明だ。明らかに今までの魔物とは一線を画した強者の気配を感じる。

 

部屋に入った直後から"気配感知"ではなんの反応も捉えられなかった。だが、今は"気配感知"でしっかり捉えている。

ということは、少なくともこのサソリモドキは、ユエの封印を解いた後に出てきたということだ。つまり、ユエを逃がさないための最後の仕掛けなのだろう。だとすれば、ユエを置いていけば俺達だけなら逃げられる可能性があるということだ。

が、助けた以上、見捨てる訳にはいかない。

俺はユエを背中に背負い、キーブレードを構える。ハジメも俺の隣でドンナーを構える。

 

「なんだ、ハジメも戦うのか」

「流石に相棒が戦うのを、ただ見てる趣味はないんでな」

 

そんなハジメの言葉に笑みがこぼれる。

 

「しっかり掴まってろよ! ユエ!」

「……ん」

 

俺の言う通り、ユエはギュっと俺の背中にしがみつく。

ギチギチと音を立てながらにじり寄ってくるサソリモドキ。俺達は不敵な笑みを浮かべながら宣言した。

 

「「俺達の邪魔をするな!」」

 




※ポットセンティピード……KH1でジャスミンがすっぽりはまったハートレス。作者が一番イライラしたハートレスでもある。


チリシィのサイフは一種の宝物庫。

ちなみに夜空は覚えていないだけで、本来の物語を知っています。なので、直感という心に従って名付けました。


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第13話 封印部屋での攻防

サソリモドキ戦は文字数で言うと半分で、もう半分は漫画一巻のオマケから。
という訳で下手くそな戦闘回です。


物音一つない。圧倒的な静寂。光の一筋も差さない。塗り潰されたような暗闇。

時間の感覚など、とうの昔に消え去った。生きる気力も霧散した。抱いていた憎悪は暗闇に溶け込んでしまい、もはや、絶望という言葉の意味すら思い出せない。それでも、私は狂うことすらできない。昔は誇れた、でも、今はただ呪いとしか思えない自身の能力故に。

 

──ガチャリ

 

不意に、鍵が開くような音が聞こえた気がした。そんなはずはないのに。ここは奈落の底。信頼していた叔父と家臣が、私を封じ込めた場所。化け物たる私が、万が一にも這い出ないように。封印を施して。

 

(私は、どうしてまだ、生きているのだろう)

 

答えなど、わかりきった疑問。ただ、死ねないから生きている。それだけ。

わかっている。わかっているのに、ふとした時に考えてしまう。まるで、別の答えがあるのでは? と、ありもしない希望とも言えない何かに縋っているみたいに。

馬鹿らしい。絶望も希望も、もう私の中には存在しないのに。

 

──ドパンッ

 

「っ……ぁ?」

 

自虐的な内心に見切りをつけて、再び意識を闇の底に沈めようとした私の耳は、どうやら幻聴を捉えるようになったみたい。

けれど、一筋の光が差した。縦に割れた壁から、まるで暗闇を切り裂くように。

幻覚だ。そう思いたいのに、その光の中から現れた彼らがそうさせなかった。片腕に白髪の男の子と、茶髪の男の子。

目が合った。それなりに距離があったのに、何故かはっきりと見えた。彼らの瞳。

その瞬間、私の心臓が跳ねた。理由はない。あの裏切りの日から、凍てついていたはずの心臓が、ドクンッと存在を示し、まるで火をくべられた溶鉱炉のように熱を生んだ。

目が離せない。ただひたすら、私は光の中から現れた彼らを見つめ続け……

 

「すみません。間違えました」

「ちょっと待て」

 

白髪の男の子が扉を閉めようとして、茶髪の男の子がそれを止めた。

なにやら言い争っているが、これは、きっとあるはずのない奇跡だ。もう二度とは訪れない救い。

すると、彼らがこっちに歩み寄って来た。そして茶髪の男の子が何故封印されたのかを聞いてきた。

彼の瞳に捕らわれそうになりつつ、私は自分の事を話した。本当に、助けてもらいたいなら、適当な話をでっち上げた方がいいのだろう。だけど、何故か私は偽りたくなかった。自分のことを知って欲しかった。

彼らは、私を見捨てるだろうか? 化け物だと、そう罵るだろうか? 魔力さえあれば決して死なない不死の吸血鬼を、恐れるだろうか? 果たして彼らは……。

私は、その時の光景を、生涯、忘れないだろう。茶髪の男の子が持つ大きな鍵から放たれた、優しい光に私は問答無用で魅せられた。

遂に解放され、私が万感の想いを込めて礼を言おうとすると、彼は虚空へ呼び掛けた。

 

「チリシィ」

 

突然現れた生物に驚いていると、その生物が首にかけている物からロングコートが出てきて更に驚いた。そして、茶髪の男の子は、そのロングコートと黄色いボトルを渡して来た。

私はお礼を言ってからそのロングコートを羽織り、黄色いボトルの中身を飲むと、体力と魔力が回復した。

それから、茶髪の男の子──夜空に新しい名前をつけてもらった。白髪の男の子──ハジメが言うには、お月様を意味するらしい。

表情が固まっていて良かったと思う。でないと、私の顔は、これ以上にないくらいだらしないものになっていただろうから。

夜空と握手すると、急に引き寄せられた。直後、天井より降って来た魔物みて頭が冷えた。とんでもない魔物だ。

化け物な私を救ってくれた。名前を与えてくれた。微笑んでくれた。もう十分なのに、夜空は私を背にして大きな鍵を構える。その隣にハジメも立つ。

 

「「俺達の邪魔するな!」」

 

その時、私の頭にはふと、いつもの疑問が浮かび上がった。

 

(私は、どうしてまだ、生きているのだろう)

 

あぁ、わかった。今、わかった。答えを見つけた。

何百年という時を越えて、この奈落の底で出会うため。それこそが、死にながら生き続けた理由。

言葉にはしない。そうすれば、途端、陳俘に聞こえてしまいそうだから。

だから、心の中で、湧き上がる衝動のまま、叫ぼう。

この出会いは、運命なんだって。

 

 ☆ ★ ☆ ★ ☆

 

先手を打ったのはサソリモドキだった。尻尾の先端から紫の液体を勢い良く飛ばしてきた。俺達は横に跳んでかわす。着弾した紫の液体はジュワーと音を立てながら床を溶かした。どうやら溶解液のようだ。

それを横目で確認しつつ俺は"ファイガ"を放ち、ハジメはドンナーを発泡する。

"ファイガ"は四本の腕の一本に、弾丸は頭部に当たる。が、対して効いていないようだ。

サソリモドキはお返しと言わんばかりに、二本の尻尾の先端をそれぞれ俺とハジメに向ける。そして、先端が一瞬肥大化すると、凄まじい勢いで針が撃ち出された。回避は無理と判断して"リフレクトガード"の体勢に入ると、針が途中で破裂し散弾のように広範囲を襲う。俺は"リフレクトガード"で全て防ぐ。

直後、ハジメがサソリモドキに向かって手榴弾を投げつけた。その手榴弾が起爆すると、燃える黒い泥を撒き散らしサソリモドキへと付着した。たしか五十度でタール状になるフラム鉱石とかいう燃えやすい鉱石だったか。

サソリモドキはたまらず付着した炎を引き剥がそうと大暴れした。ので、

 

「落ちろ!」

 

"グラビガ"を喰らわせて動きを少し止める。が、先にタールが燃え尽きたようで、あまり意味がなかった。

 

「キシャァァァァア!」

 

絶叫を上げて、燃やしてきたハジメに突進するサソリモドキ。注意を引くためにキーブレードを鞭にして尻尾に巻きつけて思いっきり引く。

 

「キィ? キィィィ!?」

 

当然、サソリモドキは俺の方へ引き寄せられる。そしてターゲットをハジメから俺に変更したのか、俺に向かって四本の大バサミで攻撃してくる。そして、その全てを"ダークロール"でかわす。

するとサソリモドキが絶叫する。

 

「キィィィィィイイ!」

 

すると、周囲の地面が波打ち、轟音を響かせながら円錐状の刺が無数に飛び出してきた。

 

「ちっ、守りよ!」

 

咄嗟に″リフレガ″を使って守る。円錐の刺はまず″リフレガ″に当たって砕け、その後の衝撃破で残りも破壊された。

そして、"リフレガ"が終了するタイミングで散弾針と溶解液を飛ばしてくるが、それも″ダークロール″でかわす。

 

「俺ばっかりに集中してて良いのか? ユエ、目を閉じろ!」

「……ん」

 

サソリモドキのちょうど後ろから先ほどとは違う手榴弾が飛んでくるのを確認して、背中のユエに目を閉じるように指示する。次の瞬間、光が部屋を包んだ。ハジメが緑光石で作った閃光手榴弾だ。

 

「キィシャァァアア!」

 

突然の閃光でサソリモドキは動きを止めた。俺はそれを確認すると、居合いの構えをとった。そして、

 

「キィィィ!?」

 

"ザンテツケン"で四本の腕の内の一本を切り落とした。

 

「なあ、それ本当に鍵か?」

「その気になればビルすら両断できる鍵です」

 

ハジメがキーブレードに対してツッコミしていると、サソリモドキが閃光手榴弾のショックから回復した。そして、再び地面が波打つ。

 

「この攻撃はもう見切った!」

 

ハジメはそう言いつつ地面に手を置き錬成を行った。すると、周囲三メートル以内が波打つのを止め、代わりに石の壁が俺達を囲むように形成された。

ハジメが攻撃を防いでくれている間に、俺はユエに尋ねる。

 

「ユエ、これから激しく動く。望むならここで降りろ」

 

その返答は無言で俺の服を握り締めるという返答だった。俺は小さく「そうか……」と呟くと、石の壁を蹴って飛び上がる。

そして、サソリモドキに向かって"ソニックレイヴ"を放つ。繰り返し放たれる突進に、サソリモドキは攻撃を中断して俺の方を向き、溶解液を飛ばしてくる。

 

「遅い!」

 

最初の時止めは効かなかったが、″ダークスプライサー″で瞬間移動を繰り返しながら何度も切りつける。技が終了するのと同時に空中へ跳んで、サソリモドキの背中目掛けてある魔法を放つ。キーブレードの先端から巨大な魔法弾が放たれ、爆発した。雑魚掃除に持ってこいの魔法、"メガフレア"である。そして、その"メガフレア"を至近距離で喰らったせいか、背中にヒビが入っていた。その背中にハジメが着地する。

 

「よう、背中がお留守だぜ」

「キシュア!?」

 

突然背中に現れたハジメに驚愕するサソリモドキ。そんなサソリモドキを無視して、ヒビが入ってた外殻に、銃口を押し当て連続で発泡した。すでにダメージの限界だった外殻は、ゼロ距離射撃を受けて砕けた。

サソリモドキは自分が傷つく可能性も無視して二本の尻尾の尻尾で叩き落とそうとするが、その尻尾に大きなオレンジ色の風船が当たる。するとオレンジ色の風船は割れ、中から六つの風船が現れ、サソリモドキの尻尾に当たりに行く。サソリモドキはその風船によって怯んだ。

 

「やっぱり使い安いな、″バルーンガ″」

「ナイスだ夜空!」

 

サソリモドキの上で何かしていたハジメが撤退すると、ゴバッ! っとくぐもった爆発音が響いた。

やがて、サソリモドキはズズンッと地響きを立てながら倒れ込んだ。

俺がキーブレードを消しながら近づくと、ハジメはサソリモドキの口内に二、三発撃ち込んでから「よし」と頷いた。

 

「止めは確実に、だったか」

「ああ」

 

戦闘終了……と、思ったが入り口の方から人の気配を感じてそちらを向く。そこには、

 

「ほう。まさかこんなところに人間がいるとはな」

 

金色の瞳をした魔人族がいた。




次回、ついにハートレスとの戦闘。
ちょっと遅くなるかも……。


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第14話 心無き者

キーブレードに目覚めるシーンがKH1しか見つからなかったせいでハジメの覚醒シーンがショボい……。

あ、ついにKH3にクリティカルモード来たんでLv1・ボスはキングダムチェーンのみ・アトラクションフロー禁止で始めました。雑魚にめちゃくちゃやられました。


「ほう。まさかこんなところに人間がいるとはな」

「それはこっちの台詞だ魔人族」

「ふっ。お前達と同じ、この迷宮の攻略だよ。我ら魔人族を、そして友を、()()()()()()から解放するためにな!」

 

ハジメの言葉に若干苛立ちも含めながら魔人族は答える。今の発言からして、こいつは神と敵対してるのか!?

 

「それで、どうして俺達に声をかけた」

「簡単なことだ。新作の実験台になってもらおうとな」

 

魔人族は俺の質問にそう答えると、右手を天に掲げる。すると、天井に闇が円形に広がる。

 

「あれは、まさか闇の回廊か!」

「ほう、そういう名なのか。覚えておこう」

 

そう言って、魔人族は封印部屋から出ていく。それと同時に闇の回廊から何かがガシャン! と音を立てながら落下してきた。

それは全身が紫色を基調とした西洋甲冑の外見で、兜と胴、両手と両足がそれぞれ分離しており、浮遊している。胴には十字が付いたハートにイバラを×字に巻き付けたような紋章があった。

 

「ハートレス……しかもエンブレムだと!」

「おい夜空。ハートレスってなんだ」

「簡単にいうと心を奪う魔物だ! しかも、キーブレードじゃないと復活する!」

 

俺はハジメにそう伝えると、ユエを背中から下ろしてからキーブレードを構えてハートレス─ガードアーマーへと駆け出した。

 

 

 ☆ ★ ☆ ★ ☆

 

 

夜空がガードアーマーへ向かって行くのを、ハジメはただ見ていた。なんとなくわかるのだ。ガードアーマーに自身の攻撃が何一つ通用しないということが。

 

「……ハジメは行かないの?」

「行ったところで足手まといになるだけだ」

 

ユエの問いにハジメはそう答え、右手に拳を作る。共に戦うことができないのが悔しいのか、ハジメは悲しそうな表情になる。

 

「……悲しまないで」

「え?」

 

ハジメはそう言われてユエを見る。ユエの瞳はまるで青空のように青くなっていた。ユエは優しく微笑み言葉を続ける。

 

「悲しまないで。だってあなたは、世界で一番強い武器を持っているんだから」

「っ!?」

 

すると、ハジメの右手に光が集い、大きな鍵となった。

 

「これが、俺のキーブレード……」

「ハジメ……それ、どうしたの?」

「は?」

 

ハジメがバッ! とユエに振り返ると、ユエの瞳は元の紅に戻っていた。

 

「今のは……いや。行くぞ、ユエ!」

「……ん!」

 

ハジメとユエは頷き合うと、夜空に加勢するために駆け出した。

 

 

 ★ ☆ ★ ☆ ★

 

 

ガードアーマーのアッパーを防ぎつつ、距離をとる。どうも俺の知っているガードアーマーとは攻撃方法とかが違うんだよな。

 

「夜空!」

「ハジメ! ユエ!」

 

ハジメに呼ばれ振り向くとユエと共にハジメがやって来た。キーブレードを手に。

 

「キーブレード……手にしたのか」

「ああ。ちょっと、不思議なことがあったがな」

「そうか。それは、後で聞くとするか」

 

俺とハジメがキーブレードを構えると、ガードアーマーは両手で胴体を大砲のように持ち上げた。そして、その胴体から巨大な光弾が放たれた。俺がそれを"リフレクトガード"で跳ね返すと、ガードアーマーは崩れた。

 

「キーブレードの扱い方は後で教える。今はとりあえず振れ」

「おう!」

 

ハジメが頭を、俺が右手をそれぞれ数回叩くと、ガードアーマーが起き上がってしまう。それを見たユエが一言呟いた。

 

「"蒼天"」

 

すると、ガードアーマーの頭上に直径六、七メートルはありそうな青白い炎の球体が出来上がり、降下を始める。ガードアーマーは本能から危険と判断したのか、その青白い炎の球体を両手で抑え、その間に距離をとる。その瞬間、青白い閃光が辺りを満たした。

炎が消えると今にも壊れそうな程にボロボロのガードアーマーの両手があった。

 

「とりあえず腕だけは破壊しとくか」

 

そんな両手に"ウインドレイド"を放つ。ボロボロだったガードアーマーの両手はその攻撃によって止めを刺され、消滅した。

 

「よし、次!」

 

本体に向き直ると、本体と両足が分離しており、両足は衝撃波は放ちながらハジメを追いかけており、本体は高速回転しながら俺に向かってきた。

俺は"リフレクトガード"で防ぎ、更に"リベンジアッパー"で切り上げる。胴体が仰け反ったので、数回叩いて"シャドウブレイカー"を喰らわせる。

チラリとハジメの方を確認すると、"縮地"を上手く使って両足にヒットアンドアウェイでダメージを与えており、そろそろ消滅しそうだ。現に左足が消滅した。

 

「あっちは大丈夫そうだな。ユエ!」

「"緋槍"」

「燃え尽きろ!」

 

ユエの手元に現れた炎は渦を巻いて円錐状の槍の形をとり、一直線にガードアーマーの胴体目掛けて飛翔し、爆発する。そこに、俺のキーブレードから放たれた十六発の紫色の火球が追い討ちをかける。

 

「夜空! こっちは終わったぞ!」

「こっちも終わりだ」

 

ガードアーマーの周囲に幾つかの光の玉が出現し、次の瞬間には俺のキーブレードが光の玉を繋ぐように伸びてガードアーマーを何度も貫く。そして、一瞬にして元に戻る。

すると、ガードアーマーがガタガタと震えだした。ハジメとユエは身構えるが、ガードアーマーはガランと音を立てて地面に落下した。その胴体から現れたハートが天へと飛んでいき、消滅した。

 

「終わったか」

「……ん」

 

ハジメとユエがガードアーマーが消滅した事に安心している中、俺は考え込んでいた。

 

「……夜空、どうしたの」

「ん? ああ、さっき奴はどうやって作られたのかって考えてたんだ。

 

ハートレスに二種類あって、一つがピュアブラッド。こっちは全身がほぼ真っ黒な奴だ。

 

で、もう一つがエンブレム。さっきの奴の胴体にあった十字が付いたハートにイバラを×字に巻き付けたような紋章が付いた()()()()()()()()()()ハートレスだ。俺の知る限り、ハートレスを人工的に作る機械なんて、この世界では構築不可能の筈だ」

「そのハートレスってのは、何が元になってるんだ。魔物は自然災害扱いされているが……」

「ハートレス、心無き者。闇に堕ちし心から生まれた闇の魔物。奴らは本能的に心を求め、闇に堕ちた者の心を奪う。俺達を落とした檜山や、案外天之河も危ないんじゃないか」

 

俺の発言にハジメは苦笑いする。

 

「そう言えば、ハートレスはキーブレードじゃないと復活するって言ってたよな」

「ああ。正確には、キーブレードで倒さないと、解放した心がまたハートレスになってしまうんだ。だから、その場しのぎなら可能だ」

「そうか……」

 

すると、ユエが俺の上着をくいくいと引っ張った。その顔はいかにも不満ですと訴えていた。

 

「……ハジメ、とりあえずあのサソリモドキの死体を持って拠点に行こう」

「あん? なんで……ってそうか。何年も閉じ込められていた場所に長居したくないよな」

 

ハジメの言葉にユエは頷く。そして俺達はサソリモドキの死体を持って拠点へと向かった。

 




ガードアーマーとダークサイドで悩みました。でも後でダークサイドの登場が思い付いたので、ガードアーマーにしました。


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第15話 語り合い

前回、ユエの様子が変わった事を疑問に思う人がいなかった。つまりユエに“彼女”が入ったことに全員が気づいていたということか! すごいな!

あ、いまさらですが、アンケートの結果、ユエにキーブレードを継承しないことになりました。なんで忘れてたんだろうね。


俺達は協力してサソリモドキとサイクロプスの素材やら肉やらを拠点に持ち帰った。

 

その巨体と相まって物凄く苦労したのだが、ユエが見事な身体強化で怪力を発揮してくれたため、三人がかりで運び込むことができた。

 

そんな訳で現在、俺達は消耗品を補充しながらお互いのことを話し合っていた。

 

「そうすると、ユエって少なくとも三百歳以上なわけか?」

「……マナー違反」

 

ユエが非難を込めたジト目でハジメを見る。女性に年齢の話はどの世界でもタブーだ。

 

ハジメの話では、三百年前の大規模な戦争のおり吸血鬼族は滅んだとされているらしい。実際、ユエも長年、物音一つしない暗闇に居たため時間の感覚はほとんどないそうだが、それくらい経っていてもおかしくないと思える程には長い間封印されていたという。二十歳の時、封印されたというから三百歳ちょいということだ。

 

「ところで吸血鬼って、そんなに長生きできるのか?」

「……私が特別。"再生"で歳もとらない……」

 

聞けば十二歳の時、魔力の直接操作や"自動再生"の固有魔法に目覚めてから歳をとっていないらしい。普通の吸血鬼族も血を吸うことで他の種族より長く生きるらしいが、それでも二百年くらいが限度なのだそうだ。

 

ちなみに、人間族の平均寿命は七十歳、魔人族は百二十歳、亜人族は種族によるらしい。エルフの中には何百年も生きている者がいるとか。

 

ユエは先祖返りで力に目覚めてから僅か数年で当時最強の一角に数えられていたそうで、十七歳の時に吸血鬼族の王位に就いたという。

 

強力な魔法をほぼノータイムで撃てて、しかもほぼ不死身の肉体。行き着く先は“神”か“化け物”か、ということだろう。ユエは後者だったということだ。

 

欲に目が眩んだ叔父が、ユエを化け物として周囲に浸透させ、大義名分のもと殺そうとしたが、魔力がある限り再生し続ける"自動再生"により殺しきれず、やむを得ずあの地下に封印したのだという。

 

ユエ自身、当時は突然の裏切りにショックを受けて、碌に反撃もせず混乱したままなんらかの封印術を掛けられ、気がつけば、あの封印部屋にいたらしい。

 

その為、あのサソリモドキや封印の方法、どうやって奈落に連れられたのか分からないそうだ。もしかしたら帰る方法が! と期待したハジメはガックリと項垂れた。

 

「ん? ユエの"自動再生"って魔力がある限りなんだよな。なら、なんで抵抗しないユエを()()()()()()()()()()()攻撃しなかったんだ」

 

俺の疑問にユエはハッとする。ついでに言うなら、あのサソリモドキもユエの封印が解けてから出てきた。本当に殺したかったのならば、そんなの待つ必要は無いのだ。

 

「……叔父様は私を隠した? けど、何から……」

 

ユエはそう呟いた。そう言えばハジメに聞きたい事があった。

 

「ハジメ。お前がキーブレードを手にしたときに不思議な事があったって言ったよな。どんなのだ」

「ああ、確か……ユエの雰囲気が変わって、目の色も青空みたいな感じになってたな」

 

ハジメがそう言うとモバイルポータルから着信音が流れ、舌打ちしながら出る。

 

「なんの用ですかルクシア様」

『いやー、無断で体を借りた少女に謝罪したくてね』

「……もしかしてユエを器にしました?」

『うん、ちょっと』

 

その言葉にハジメとユエが驚いた。それを無視してモバイルポータルをユエに渡す。

 

『やあ、君がユエちゃんだね。私はルクシア。まあ、夜空の保護者とでも思ってくれたまえ』

 

あながち間違ってないから何も言えねぇ。

 

『さっきは勝手に君の体を借りてすまない。ちょっと彼の手助けをしたかったんだ』

「……ん」

『そうか、ありがとう。では謝罪ついでに忠告を。君の体は我々“神”にとって器に適している。別世界の神の私でさえ数秒は入れたのだ。その世界の神に狙われれば、完全に乗っ取られるぞ』

「ッ!」

 

ルクシア様の言葉にユエは固まった。おそらくさっきの疑問に対する回答を得たのだろう。

 

『夜空、もし君が彼女を守りたいのなら、彼女とのつながりを強くすることだ。頑張れよ、我が使徒よ』

 

その言葉を最後に通信は切れた。しばらく無言が続いたが、ユエが俺にモバイルポータルを返しながら口を開いた。

 

「……きっと叔父様は、私を神から隠したんだと思う。……あんまり覚えてないけど、父上達はやけに神を信仰してた」

「つまり、ユエの叔父さんは、ユエが神の器に適しているのを知ってしまい、ユエを反逆という形で封印したって感じか」

「だろうな。そして、あのサソリモドキはユエを器にしようとする神の使徒対策、またはあれを撃破できなければ守れないぞという警告か」

 

その後、魔法について語り合った。その際に俺が転生者であることをバラした。そして、現状についてユエに尋ねた。

 

「ところで……ユエはここがどの辺りか分かるか? 他に地上への脱出の道とか」

「……わからない。でも……」

 

ユエにもここが迷宮のどの辺なのかはわからないらしい。申し訳なさそうにしながら、何か知っていることがあるのか話を続ける。

 

「……この迷宮は反逆者の一人が作ったと言われてる」

「反逆者?」

 

聞き慣れない上に、なんとも不穏な響きに、ハジメは錬成作業を中断してユエに視線を転じる。俺と共にハジメの作業をジッと見ていたユエも合わせて視線を上げると、コクリと頷き続きを話し出した。

 

「反逆者……神代に神に挑んだ神の眷属のこと。……世界を滅ぼそうとしたと伝わってる」

 

説明に時間がかかりそうだ。ハジメとしては、まだまだ消耗品の補充に時間がかかるし、サソリモドキとの戦いで攻撃力不足を痛感したことから新兵器の開発に乗り出しているため、ちょうどいいと作業しながらじっくり聞く構えだ。

 

ユエ曰く、神代に、神に反逆し世界を滅ぼそうと画策した七人の眷属がいたそうだ。しかし、その目論見は破られ、彼等は世界の果てに逃走した。

 

その果てというのが、現在の七大迷宮といわれているらしい。この【オルクス大迷宮】もその一つで、奈落の底の最深部には反逆者の住まう場所があると言われているのだとか。

 

「……そこなら、地上への道があるかも……」

「なるほど。奈落の底からえっちらおっちら迷宮を上がってくるとは思えない。神代の魔法使いなら転移系の魔法で地上とのルートを作っていてもおかしくないってことか」

 

見えてきた可能性に、頬が緩むハジメ。再び、視線を手元に戻し作業に戻る。

 

すると、ユエが俺達に聞いてきた。

 

「……夜空とハジメは、どうしてここにいる?」

 

それは、聞かれて当然の質問だった。ここは奈落の底。正真正銘の魔境だ。魔物以外の生き物がいていい場所ではない。

 

ユエは他にも沢山聞きてきた。なぜ、魔力を直接操れるのか。なぜ、固有魔法らしき魔法を複数扱えるのか。なぜ、魔物の肉を食って平気なのか。ハジメの左腕はどうしたのか。そもそも俺とハジメは人間なのか。俺やハジメが使っている武器は一体なんなのか。

 

そんな質問に律儀に俺とハジメは答えていく。

 

俺達が仲間と共にこの世界に召喚されたことから始まり、ハジメが無能と呼ばれていたこと、ベヒモスとの戦いで檜山というクラスメイトに裏切られ奈落に落ちたこと、魔物を喰って変化したこと、爪熊との戦いと願い、エリクサー(仮)のこと、キーブレードのこと、ハジメが故郷の兵器にヒントを得て現代兵器モドキの開発を思いついたこと等を話していく。

すると、いつの間にかユエが、ハラハラと涙をこぼしてした。俺は手を伸ばし、流れ落ちるユエの涙を拭きながら尋ねる。

 

「いきなりどうしたんだ?」

「……ぐす……夜空……ハジメ……つらい……私もつらい……」

 

どうやら、俺達のために泣いているらしい。俺は少し驚くと、微笑みながらユエの頭を撫でる。

 

「気にするなよ。もう檜山には手を打ってあるし、ここから出て復讐しに行く意味はない。そんなことより、生き残る術を磨き、皆で故郷に帰る方法を探すこと、それに全力を注ぐだけだ」

 

俺一人でなら帰れるが、あの方法(異空の回廊)は他の皆が闇に堕ちる危険性がある(特に檜山や天之河)ため、ハジメには伝えていない。

スンスンと鼻を鳴らしながら、撫でられるのが気持ちいいのか猫のように目を細めていたユエが、故郷に帰るという言葉にピクリと反応する。

 

「……帰るの?」

「ああ、帰るさ。色々と変わったけど、それでも帰りたいからさ」

「……そう」

 

ユエは沈んだ表情で顔を俯かせる。そして、ポツリと呟いた。

 

「……私にはもう、帰る場所……ない……」

「なければ作ればいい」

「え?」

 

俺の言葉に驚愕をあらわにして目を見開くユエ。涙で潤んだ紅い瞳にマジマジと見つめられ、なんとなく落ち着かない気持ちになる。

 

「なければ作ればいい、見つければいい。ユエが居たい場所が、帰る場所になる。俺はそう思ってる」

 

しばらく呆然としていたユエだが、理解が追いついたのか、

 

「……じゃあ、夜空と一緒に行ってもいいの?」

 

と、おずおずと遠慮がちに尋ねてくる。しかし、その瞳には隠しようもない期待の色が宿っていた。

 

「ユエが心からそうしたいのなら、俺は止めない。俺の家族も俺が説得するさ」

 

キラキラと輝くユエの瞳に、きっぱりとそう告げる。すると、今までの無表情が嘘のように、ユエはふわりと花が咲いたように微笑んだ。思わず、見蕩れてしまった。

 

それから、ハジメの作業が終わるまで、俺の(前世)の話や修行中の話をしていた。その話を聞いて二人の目からハイライトが消えた気がしたが気のせいだろう。

 

そんな事をしていると、遂に対物ライフル─シュラーゲンを完成させた。これは、ハジメがドンナーの威力不足を補うために開発したものだ。

 

ハジメが作業を終えたので、俺達はサイクロプスやサソリモドキの肉を、チリシィが持つ調味料を使いながら調理して食事にすることにした。

 

「……って、ユエが食べるのはマズイか。ハジメが悶絶する痛みを味わせる訳にはいかないし……」

 

魔物の肉を食うのが日常になっていたから気づくのが遅くなったが、ユエにどうするか視線で尋ねる。ユエの回答は「食事はいらない」だった。

 

「まぁ、三百年も封印されて生きてるんだから食わなくても大丈夫だろうが……飢餓感とか感じたりしないのか?」

「感じる。……だから」

「ん?」

 

ハジメに聞かれたユエは、座っている俺の後ろに立つと、首筋に噛み付いた。すると、血を抜かれる感覚が襲ってきた。どうやら俺の血を飲んでいるみたいだ。しばらくしてユエが離れる。

 

「……美味」

「ああなるほど、吸血鬼は血が飲めれば特に食事は不要ってことか?」

「……食事でも栄養はとれる。……でも血の方が効率的」

 

吸血鬼は血さえあれば平気らしい。俺から吸血して満たされたようだ。

 

「ところで、さっき俺の血を飲んで美味とか言ってたけど、結構魔物の血肉を食べてきたから不味そうな印象だが?」

「……熟成の味……」

「さいですか……」

 

ユエ曰く、何種類もの野菜や肉をじっくりコトコト煮込んだスープのような濃厚で深い味わいらしい。

 

やけに恍惚としているのは気のせいではなかったようだ。飢餓感に苦しんでいる時に極上の料理を食べたようなものなのだろうから無理もない。

 

「……美味」

「……はいはい」

 

そう言って、俺は再びユエに噛み付かれた。その様子を見て、ハジメは若干冷や汗を流したらしい。

 




夜空が抱いた「魔力が尽きるまで」という疑問は自分が読んで思った疑問でもあります。

そしてルクシアによるネタばらし。なお、この事をエヒトは知らない。

ちなみに、夜空のモバイルポータルの着信音は「Link to All」です。



あ、クラスメイトVSベヒモス、勇者(笑)VSガハルドはありません。対して原作と変わらないし。


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幕間 悪夢再来

感想で書いてほしかったと言われたので頑張って書きました。なお、戦闘は全カットです。

今回からちょっと書き方を変えてみました。読みにくかったら言ってください。

……原文コピーに引っ掛からないかなぁ。


 夜空達がユエと出会い、サソリモドキやガードアーマーとの死闘を生き抜いた日。

 光輝達勇者一行は、再び【オルクス大迷宮】にやって来ていた。但し、訪れているのは光輝達勇者パーティーと、小悪党組、それに永山重吾という大柄な柔道部の男子生徒が率いる男女五人のパーティーだけだった。

 理由が簡単で、夜空とハジメの出来事が、多くの生徒達の心に深く重い影を落としてしまったのだ。“死”という恐怖を強く実感してしまい、まともに戦闘などできなくなったのだ。一種のトラウマというやつである。

 当然、聖教教会関係者はいい顔をしなかった。実戦を繰り返し、時が経てばまた戦えるだろうと、毎日のようにやんわり復帰を促してくる。

 しかし、それに猛然と愛子が抗議した。

 愛子は、当時、遠征には参加していなかった。作農師という特殊かつ激レアな天職のため、実戦訓練するよりも、教会側としては農地開拓の方に力を入れて欲しかったのである。愛子がいれば、糧食問題は解決してしまう可能性が限りなく高いからだ。

 そんな愛子は夜空とハジメの事を知るとショックのあまり寝込んでしまった。自分が安全圏でのんびりしている間に、生徒が死んでしまったと聞いて、全員を日本に連れ帰ることができなくなったということに、責任感の強い愛子は強いショックを受けたのだ。後に香織から夢の事を聞いて少し安心していた。

 だからこそ、戦えないという生徒をこれ以上戦場に送り出すことなど断じて許せなかった。

 愛子の天職は、この世界の食料関係を一変させる可能性がある激レアである。その愛子先生が、不退転の意志で生徒達への戦闘訓練の強制に抗議しているのだ。関係の悪化を避けたい教会側は、愛子の抗議を受け入れた。

 結果、自ら戦闘訓練を望んだ勇者パーティーと小悪党組、永山重吾のパーティーのみが訓練を継続することになった。そんな彼等は、再び訓練を兼ねて【オルクス大迷宮】に挑むことになったのだ。今回もメルド団長と数人の騎士団員が付き添っている。

 今日で迷宮攻略六日目。

 現在の階層は六十層だ。確認されている最高到達階数まで後五層である。

 しかし、光輝達は現在、立ち往生していた。正確には先へ行けないのではなく、何時かの悪夢を思い出して思わず立ち止まってしまったのだ。

 そう、彼等の目の前には何時かのものとは異なるが同じような断崖絶壁が広がっていたのである。次の階層へ行くには崖にかかった吊り橋を進まなければならない。それ自体は問題ないが、やはり思い出してしまうのだろう。特に、香織は、奈落へと続いているかのような崖下の闇をジッと見つめたまま動かなかった。

 

「香織……」

 

 雫の心配そうな呼び掛けに、強い眼差しで眼下を眺めていた香織はゆっくりと頭を振ると、雫に微笑んだ。

 

「大丈夫だよ、雫ちゃん」

「そう……けど無茶はしないでね?」

「わかってるよ、雫ちゃん」

 

 雫もまた親友に微笑んだ。香織の瞳は強い輝きを放っている。そこに不安は見て取れない。洞察力に優れ、人の機微に敏感な雫には、香織が本心で大丈夫だと言っているのだと分かった。

 

(約束したものね、必ず再会しようって)

 

 あの夢が、香織を、そして雫を前に進ませている。強くなると言った彼に、置いていかれないように。ただし、前より香織が暴走するようになり、雫の負担が増えたが。

 だが、そんな空気は読まないのが勇者クオリティー。光輝の目には、眼下を見つめる香織の姿が、夜空とハジメの死を思い出し嘆いているように映った。クラスメイトの死に、優しい香織は今も苦しんでいるのだと結論づけた。故に、思い込みというフィルターがかかり、微笑む香織の姿も無理しているようにしか見えない。

 そして、香織がハジメを特別に想っていて、しかも生存していることを知っているなどと露ほどにも思っていない光輝は、度々、香織にズレた慰めの言葉をかけるのだった。

 

「香織……君の優しいところ俺は好きだ。でも、クラスメイトの死に、何時までも囚われていちゃいけない! 前へ進むんだ。きっと、南雲もそれを望んでる」

「ちょっと、光輝……」

「雫は黙っていてくれ! 例え厳しくても、幼馴染である俺が言わないといけないんだ。……香織、大丈夫だ。俺が傍にいる。俺は死んだりしない。もう誰も死なせはしない。香織を悲しませたりしないと約束するよ」

「はぁ~、何時もの暴走ね……香織……」

「あはは、大丈夫だよ、雫ちゃん。……えっと、天之河くん。私は大丈夫だよ(だからこっちに来ないでくれないかな、かな)」

「そうか、わかってくれたか!」

(香織……)

 

 光輝の見当違い全開の言葉に、香織は目をピクピクさせながら苦笑いする。そんな香織の内心を知ってか、雫はどこか遠くを見ていた。

 おそらく、今の香織の気持ちを素直に話しても、光輝には伝わらないだろう。たとえそれが拒絶の言葉だろうと。

 光輝の中で夜空とハジメは既に死んだことになっている。故に、雫と香織の訓練への熱意や迷宮攻略の目的が夜空達に置いていかれないためのものとは考えない、知ろうともしない。自分の信じたことを疑わず貫き通す性分は、そんな香織達の気持ちも、現実逃避をしているか心を病んでしまっていると解釈する。香織が名前ではなく名字で自分を呼んだのさえ気づかない程に。

 長い付き合い故に、光輝の思考パターンを何となく分かってしまう香織は、だからこそ何も言わず合わせるのだった。内心はともかく。

 ちなみに、完全に口説いているようにしか思えないセリフだが、本人は至って真面目に下心なく語っている。あの日以前なら、雫や香織以外の女子生徒なら甘いマスクや雰囲気と相まって一発で落ちているだろう。

 

「香織ちゃん、私、応援しているから、出来ることがあったら言ってね」

「そうだよ~、鈴は何時でもカオリンの味方だからね!」

 

 光輝との会話を傍で聞いていて、会話に参加したのは中村恵里と谷口鈴だ。

 二人共、高校に入ってからではあるが香織達の親友と言っていい程仲の良い関係で、光輝率いる勇者パーティーにも加わっている実力者だ。

 中村恵里はメガネを掛け、ナチュラルボブにした黒髪の美人である。性格は温和で大人しく基本的に一歩引いて全体を見ているポジションだ。本が好きで、まさに典型的な図書委員といった感じの女の子である。実際、図書委員である。

 谷口鈴は、身長百四十二センチのちみっ子である。もっとも、その小さな体には、何処に隠しているのかと思うほど無尽蔵の元気が詰まっており、常に楽しげでチョロリンと垂れたおさげと共にぴょんぴょんと跳ねている。その姿は微笑ましく、クラスのマスコット的な存在だ。

 そんな二人も、ハジメが奈落に落ちた日の香織の取り乱し様に、その気持ちを悟り、香織の夢の話を信じている。

 

「うん、恵里ちゃん、鈴ちゃん、ありがとう」

 

 高校で出来た親友二人に、嬉しげに微笑む香織。

 

「うぅ~、カオリンは健気だねぇ~、南雲君め! 鈴のカオリンをこんなに悲しませて! 生きてなかったら鈴が殺っちゃうんだからね!」

「す、鈴? 生きてなかったら、その、こ、殺せないと思うよ?」

「細かいことはいいの! そうだ、死んでたらエリリンの降霊術でカオリンに侍せちゃえばいいんだよ!」

「す、鈴、デリカシーないよ! そ、それに粋月君と南雲君は生きてるんだから! それに、私、降霊術は……」

 

 鈴が暴走し恵里が諌める。それがデフォだ。

 何時も通りの光景を見せる姦しい二人に、楽しげな表情を見せる香織と雫。ちなみに、光輝達は少し離れているので聞こえていない。肝心な話やセリフに限って聞こえなくなる難聴スキルは、当然の如く光輝にも備わっている。

 

「恵里ちゃん、私は気にしてないから平気だよ?」

「鈴もそれくらいにしなさい。恵里が困ってるわよ?」

 

 香織と雫の苦笑い混じりの言葉に「むぅ~」と頬を膨らませる鈴。恵里は、香織が鈴の言葉を本気で気にしていない様子にホッとしながら、降霊術という言葉に顔を青褪めさせる。

 

「エリリン、やっぱり降霊術苦手? せっかくの天職なのに……」

「……うん、ごめんね。ちゃんと使えれば、もっと役に立てるのに……」

「恵里。誰にだって得手不得手はあるわ。魔法の適性だって高いんだから気にすることないわよ?」

「そうだよ、恵里ちゃん。天職って言っても、その分野の才能があるというだけで好き嫌いとは別なんだから。恵里ちゃんの魔法は的確で正確だから皆助かってるよ?」

「うん、でもやっぱり頑張って克服する。もっと、皆の役に立ちたいから」

 

 恵里が小さく拳を握って決意を表す。鈴はそんな様子に「その意気だよ、エリリン!」とぴょんぴょん飛び跳ね、香織と雫は友人の頑張りに頬を緩める。

 恵里の天職は、“降霊術師”である。

 闇系魔法は精神や意識に作用する系統の魔法で、実戦などでは基本的に対象にバッドステータスを与える魔法と認識されている。

 降霊術は、その闇系魔法の中でも超高難度魔法で、死者の残留思念に作用する魔法だ。聖教教会の司祭の中にも幾人かの使い手がおり、死者の残留思念を汲み取り遺族等に伝えるという何とも聖職者らしい使用方法がなされている。

 もっとも、この魔法の真髄は其処ではない。この魔法の本当の使い方は、遺体の残留思念を魔法で包み実体化の能力を与えて使役したり、遺体に憑依させて傀儡化するというものだ。つまり、生前の技能や実力を劣化してはいるが発揮できる死人、それを使役できるのである。また、生身の人間に憑依させることでその技術や能力をある程度トレースすることもできる。

 しかし、ある程度の受け答えは出来るものの、その見た目は青白い顔をした生気のない、まさに幽霊という感じであり、また死者を使役するということに倫理的な嫌悪感を覚えてしまうので、恵里はこの術の才能があってもまるで使えていなかった。

 そんな女子四人の姿を、正確には香織を、後方から暗い瞳で見つめる者がいた。

 檜山大介である。あの日以降、クラスメイトの大半から警戒され、距離を取られている。

 檜山に与える罰に関して様々な意見があったが、国がとった罰は謹慎だった。それも、僅か一週間。それを聞いて耳を疑ったクラスメイトは少なくなかった。

 だが、檜山にとって距離を取られるのは、例の人物からの命令をこなすのには良かった。とても恐ろしい命令で、戦慄する命令だった。強烈な忌避感を感じたが、一線を越えてしまった檜山は、もう止まることができなかった。

 しかし、クラスにごく自然と溶け込みながら裏では恐ろしい計画を練っているその人物に、檜山は畏怖と同時に歓喜の念も抱いていた。

 

(あいつは狂ってやがる。……だが、付いて行けば香織は俺の……)

 

 言うことを聞けば香織が手に入る、その言葉に暗い喜びを感じ思わず口元に笑みが浮かぶ檜山。

 

「な、なあ、大介? どうかしたのか?」

 

 檜山のおかしな様子に、近藤や中野、斎藤が怪訝そうな表情をしている。この三人は今でも檜山と()()()はつるんでいる。元々、類は友を呼ぶと言うように似た者同士の四人だったが、今では自分達もふとした切っ掛けで殺されるんじゃないかと、内心ビクビクしている。

 

「いや、何でもない。もう六十層を越えたんだと思うと嬉しくてな」

「あ、ああ、確かにな。あと五層で歴代最高だもんな」

「俺等、相当強くなってるよな。全く、居残り組は根性なさすぎだな」

「まぁ、そう言うなって。俺らみたいな方が特別なんだからよ」

 

 檜山の誤魔化しに、同調したフリをする三人。

 以前なら居残り組に強く出ただろうが、今は檜山のいない時は居残り組とよく話している。檜山といる方が落ち着かないレベルだ。

 そして、勇者一行は特に問題もなく、遂に歴代最高到達階層である六十五層にたどり着いた。

 

「気を引き締めろ! ここのマップは不完全だ。何が起こるかわからんからな!」

 

 付き添いのメルド団長の声が響く。光輝達は表情を引き締め未知の領域に足を踏み入れた。

 しばらく進んでいると、大きな広間に出た。何となく嫌な予感がする一同。

 その予感は的中した。広間に侵入すると同時に、部屋の中央に魔法陣が浮かび上がったのだ。赤黒い脈動する直径十メートル程の魔法陣。それは、とても見覚えのある魔法陣だった。

 

「ま、まさか……アイツなのか!?」

 

 光輝が額に冷や汗を浮かべながら叫ぶ。他のメンバーの表情にも緊張の色がはっきりと浮かんでいた。

 

「マジかよ、アイツは死んだんじゃなかったのかよ!」

 

 龍太郎も驚愕をあらわにして叫ぶ。それに応えたのは、険しい表情をしながらも冷静な声音のメルド団長だ。

 

「迷宮の魔物の発生原因は解明されていない。一度倒した魔物と何度も遭遇することも普通にある。気を引き締めろ! 退路の確保を忘れるな!」

 

 いざと言う時、確実に逃げられるように、まず退路の確保を優先する指示を出すメルド団長。それに部下が即座に従う。だが、光輝がそれに不満そうに言葉を返した。

 

「メルドさん。俺達はもうあの時の俺達じゃありません。何倍も強くなったんだ! もう負けはしない! 必ず勝ってみせます!」

「へっ、その通りだぜ。何時までも負けっぱなしは性に合わねぇ。ここらでリベンジマッチだ!」

 

 龍太郎も不敵な笑みを浮かべて呼応する。メルド団長はやれやれと肩を竦め、確かに今の光輝達の実力なら大丈夫だろうと、同じく不敵な笑みを浮かべた。

 そして、遂に魔法陣が爆発したように輝き、かつての悪夢が再び光輝達の前に現れた。

 

「グゥガァアアア!!!」

 

 咆哮を上げ、地を踏み鳴らす異形。ベヒモスが光輝達を壮絶な殺意を宿らせた眼光で睨む。

 全員に緊張が走る中、そんなものとは無縁の決然とした表情で真っ直ぐ睨み返す香織。

 香織は誰にも聞こえないくらいの、しかし、確かな意志の力を宿らせた声音で宣言した。

 

「もう誰も奪わせない。あなたを踏み越えて、私は彼と共に行く」

 

 今、過去を乗り越える戦いが始まった。

 

 

 ☆ ★ ☆ ★ ☆

 

 

 戦いの末、炎系上級攻撃魔法のトリガーが引かれた。

 

「「「「「“炎天”」」」」」

 

 術者五人による上級魔法。超高温の炎が球体となり、さながら太陽のように周囲一帯を焼き尽くす。ベヒモスの直上に創られた"炎天"は一瞬で直径八メートルに膨らみ、直後、ベヒモスへと落下した。

 絶大な熱量がベヒモスを襲う。あまりの威力の大きさに味方までダメージを負いそうになり、慌てて結界を張っていく。"炎天"は、ベヒモスに逃げる暇すら与えずに、その堅固な外殻を融解していった。

 

「グゥルァガァアアアア!!!!」

 

 ベヒモスの断末魔が広間に響き渡る。いつか聞いたあの絶叫だ。鼓膜が破れそうなほどのその叫びは少しずつ細くなり、やがて、その叫びすら燃やし尽くされたかのように消えていった。

 そして、後には黒ずんだ広間の壁と、ベヒモスの物と思しき僅かな残骸だけが残った。

 

「か、勝ったのか?」

「勝ったんだろ……」

「勝っちまったよ……」

「マジか?」

「マジで?」

 

 皆が皆、呆然とベヒモスがいた場所を眺め、ポツリポツリと勝利を確認するように呟く。同じく、呆然としていた光輝が、我を取り戻したのかスっと背筋を伸ばし聖剣を頭上へ真っ直ぐに掲げた。

 

「そうだ! 俺達の勝ちだ!」

 

 キラリと輝く聖剣を掲げながら勝鬨を上げる光輝。その声に漸く勝利を実感したのか、一斉に歓声が沸きあがった。男子連中は肩を叩き合い、女子達はお互いに抱き合って喜びを表にしている。メルド団長達も感慨深そうだ。

 そんな中、未だにベヒモスのいた場所を眺めている香織に雫が声を掛けた。

 

「香織? どうしたの?」

「雫ちゃん。……うん、ここまで来たんだなって思っただけ」

 

 苦笑いしながら雫に答える香織。かつての悪夢を倒すことができるくらい強くなったことに対し感慨に浸っていたらしい。

 

「そうね。私達は確実に強くなってるわ」

「うん……南雲くん達は……どれぐらい強くなってるかな」

「それは再会した時のお楽しみね。彼らに失望させないように、これからも頑張りましょう」

「えへへ、そうだね」

 

 約束の時まで、可能な限り強くなる。夜空達と共に歩むため、そして守るために。香織と雫は改めて決意を抱く。

 そんな二人の所へ光輝達も集まってきた。

 

「二人共、無事か? 香織、最高の治癒魔法だったよ。香織がいれば何も怖くないな!」

 

 爽やかな笑みを浮かべながら香織と雫を労う光輝。

 

「ええ、大丈夫よ。光輝は……まぁ、平気よね」

「そう。皆の役に立ててよかった」

 

 同じく微笑をもって返す二人。しかし、次ぐ光輝の言葉に少し心に影が差した。

 

「これで、南雲や粋月も浮かばれるな。自分を突き落とした魔物を自分が守ったクラスメイトが討伐したんだから」

「「……」」

 

 光輝は感慨にふけった表情で雫と香織の表情には気がついていない。どうやら、光輝の中で夜空とハジメを奈落に落としたのはベヒモス()()という事になっているらしい。確かに間違いではない。直接の原因はベヒモスの固有魔法による衝撃で橋が崩落したことだ。しかし、より正確には、撤退中の夜空とハジメに魔法が撃ち込まれてしまったことだ。

 今では、暗黙の了解としてその時の話はしないようになっているが、事実は変わらない。だが、光輝はその事実を忘れてしまったのか意識していないのかベヒモスさえ倒せば夜空とハジメは浮かばれると思っているようだ。基本、人の善意を無条件で信じる光輝にとって、過失というものは何時までも責めるものではないのだろう。まして、故意に為されたなどとは夢にも思わないだろう。

 香織は真実を知り、約束しているからこそ耐えられているだけで、気をつけていなければ手を出してしまうのは確実だ。だからこそ、なかった事にしている光輝の言葉に少し怒りを抱く。現に杖を握る手に力が入っている。下手すればそのまま殴りそうな程。

 雫は溜息を吐き、文句を言いたくなったが、光輝に悪気がないのは何時ものことだ。むしろ精一杯、夜空やハジメの事も香織のことも思っての発言である。故にタチが悪いのも理解している。それに、周りには喜びに沸くクラスメイトがいる。このタイミングで、あの時の話をするほど雫は空気が読めない女ではなかった。

 若干、微妙な空気が漂う中、クラス一の元気っ子が飛び込んできた。

 

「カッオリ~ン!」

 

 そんな奇怪な呼び声とともに鈴が香織にヒシッと抱きつく。

 

「ふわっ!?」

「えへへ、カオリン超愛してるよ~! カオリンが援護してくれなかったらペッシャンコになってるところだよ~」

「も、もう、鈴ちゃんったら。って何処触ってるの!」

「げへへ、ここがええのんか? ここがええんやっへぶぅ!?」

 

 鈴の言葉に照れていると、鈴が調子に乗り変態オヤジの如く香織の体をまさぐる。それに雫が手刀で対応。些か激しいツッコミが鈴の脳天に炸裂した。

 

「いい加減にしなさい。誰が鈴のものなのよ……香織は私のよ?」

「雫ちゃん!?」

「ふっ、そうはさせないよ~、カオリンとアレなことするのは鈴なんだよ!」

「鈴ちゃん!? 一体何する気なの!?」

 

 雫と鈴の香織を挟んでのジャレ合いに、香織が忙しそうにツッコミを入れる。いつしか微妙な空気は払拭されていた。

 これより先は完全に未知の領域。光輝達は過去の悪夢を振り払い先へと進むのだった。だが、光輝達は知らない。遥か底で、魔改造されたベヒモスを、たった三人で討伐する者達がいることを。

 



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第16話 チーム

「え、いいのか? 助かるわ」をお望みの方々、申し訳ありません。そのシーンはございません。


 俺達が準備を終えて迷宮攻略に動き出して、十階層ほどは順調よく降りることが出来た。ハジメの装備や技量が充実し、かつ熟練してきたからというのもあるが、ユエの魔法が凄まじい活躍を見せたというのも大きな要因だ。

 全属性の魔法をなんでもござれとノータイムで使用し的確に俺達を援護する。

 俺より魔法の威力が高い分、回復系や結界系の魔法はあまり得意ではないらしい。"自動再生"があるからか無意識に不要と判断しているのかもしれない。もっとも、俺には"ケアルガ"があるし、ハジメにはエリクサー(仮)があるため問題ない。

 そんなこんなで降り立ったのが、樹海のような階層だった。十メートルを超える木々が鬱蒼と茂っており、空気はどこか湿っぽい。しかし、以前通った熱帯林の階層と違ってそれほど暑くはないのが救いだろう。

 俺達が階下への階段を探して探索していると、突然、ズズンッという地響きが響き渡った。何事かと身構える俺達の前に現れたのは、巨大な爬虫類を思わせる魔物だ。見た目は完全にティラノサウルスである。

 但し、なぜか頭に一輪の可憐な花を生やしていたが……。

 鋭い牙と迸ほとばしる殺気が議論の余地なくこの魔物の強力さを示していたが、ついっと視線を上に向けると向日葵に似た花がふりふりと動く。かつてないシュールさだった。

 ティラノサウルスが咆哮を上げ俺達に向かって突進してくる。

 ハジメが慌てずドンナーを抜こうとするが、それより早くユエが魔法を放つ。

 

「"緋槍"」

 

 ユエが放った"緋槍"は、一直線にティラノの口内をあっさり貫通し、周囲の肉を容赦なく溶かして一瞬で絶命させた。地響きを立てながら横倒しになるティラノ。

 そして、頭の花がポトリと地面に落ちた。

 

「……」

「なるほど」

 

 ハジメが押し黙る中、俺はこの階層の魔物がどういったものなのか理解した。

 ところで、最近ユエ無双が激しい。最初は援護に徹していたのだが、何故か途中から我先にと先制攻撃を仕掛け魔物を瞬殺するのだ。

 そのせいで、俺達の出番がめっきり減ってしまった。ハジメなんか「足手まといだから即行で終わらせているのか」と呟くほどだ。

 ハジメが抜きかけのドンナーをホルスターに仕舞い直すと苦笑いしながらユエに話しかけた。

 

「あ~、ユエ? 張り切るのはいいんだけど……最近、俺達あまり動いてない気がするんだが……」

 

 ハジメがそう言うと、ユエは振り返って俺達を見ると、無表情ながらどこか得意げな顔をする。

 

「……私、役に立つ。……夜空のパートナーだから」

「ソーナノカー」

 

 どうやら、ただ俺達の援護だけしているのが我慢ならなかったらしい。……そんな目(ジト目)で俺を見つめないでくれよハジメ。

 確かに、ユエが魔力枯渇するまで魔法を使い戦闘中に倒れて、その事をひどく気にするので慰める意味でパートナーと言ったのだが……思いのほか深く心に残ったようだ。

 

「十分に役立ってるって。ユエは魔法が強力なんだから後衛を頼むよ。前衛は俺とハジメの役目だ」

「……夜空……ん」

 

 俺の言葉に若干シュンとするユエ。

 どうにも俺達、というか俺の役に立つことにこだわり過ぎなユエに苦笑いしながら、彼女の柔らかな髪を撫でる。それだけで、ユエはほっこりした表情になって機嫌が戻ってしまうのだから、何とも言えない。

 依存して欲しいわけではないので、所々で注意が必要だろう……と思いつつ、つい甘やかしてしまう。そんな自分に呆れる。

 すると、"気配感知"に続々と魔物が集まってくる気配が捉えられた。

 二十体ほどの魔物が取り囲むように俺達の方へ向かってくる。……あの時(キーブレード墓場)と比べたらましだ。

 

「ハジメ、ユエ。突破しよう」

「おう!」

「……ん」

 

 円状に包囲しようとする魔物に対し、俺達は、その内の一体目掛けて突撃する。

 そして、生い茂った木の枝を払い除け飛び出した先には、体長二メートル強の爬虫類、例えるならラプトル系の恐竜のような魔物がいた。

 頭からチューリップのような花をひらひらと咲かせて。

 

「……かわいい」

「……流行りなのか?」

「違うだろ」

 

 ユエが思わずほっこりしながら呟けば、ハジメはシリアスブレイカーな魔物にジト目を向け、有り得ない推測を呟き、俺はそんなハジメにつっこむ。

 ラプトルは、ティラノと同じく、「花なんて知らんわ!」というかのように殺気を撒き散らしながら低く唸っている。臨戦態勢だ。花はゆらゆら、ふりふりしているが……

 

「シャァァアア!!」

 

 ラプトルが、花に注目して立ち尽くす俺達に飛びかかる。その強靭な脚には二十センチメートルはありそうなカギ爪が付いており、ギラリと凶悪な光を放っていた。

 俺はその脚を避けつつ、頭のチューリップを切り落とす。

 花がポトリと落ちると、ラプトルは一瞬ビクンと痙攣し、着地を失敗してもんどり打ちながら地面を転がり、樹にぶつかって動きを止めた。シーンと静寂が辺りを包む。ユエとハジメもラプトルと地面に落ちたチューリップの花を交互に見やった。

 

「……死んだ?」

「いや、生きてるっぽいけど……」

 

 ハジメの見立て通り、ピクピクと痙攣した後、ラプトルはムクッと起き上がり辺りを見渡し始めた。そして、地面に落ちているチューリップを見つけるとノッシノッシと歩み寄り親の敵と言わんばかりに踏みつけ始めた。

 

「え~、何その反応、どういうこと?」

「……イタズラされた?」

「いや、操られてたんだろ」

「「ああ~」」

 

 ラプトルは一通り踏みつけて満足したのか、如何にも「ふぅ~、いい仕事したぜ!」と言わんばかりに天を仰ぎ「キュルルル~!」と鳴き声を上げた。そして、ふと気がついたように俺達の方へ顔を向けビクッとする。

 

「今気がついたのかよ。どんだけ夢中だったんだよ」

 

 ハジメがツッコミ、ユエが同情したような眼差しでラプトルを見る。ラプトルは暫く硬直したものの、直ぐに姿勢を低くし牙をむき出しにして唸り一気に飛びかかる。

 が、ハジメがスっとドンナーを掲げ大きく開けられたラプトルの口目掛け電磁加速されたタウル鉱石の弾丸を撃つ。

 それは一筋の閃光となって狙い違わずラプトルの口内を蹂躙し後頭部を粉砕して飛び出た弾丸は、背後の樹も貫通して樹海の奥へと消えていった。

 跳躍の勢いそのままにズザーと滑っていく絶命したラプトル。俺達は何とも言えない顔でラプトルの死体を見る。

 

「……操られて、撃たれて……哀れ」

「だな」

「ほら、行くぞ」

 

 包囲網がかなり狭まってきていたので移動しつつ、有利な場所を探っていく。

 ほどなくして直径五メートルはありそうな太い樹が無数に伸びている場所に出た。隣り合う樹の太い枝同士が絡み合っており、まるで空中回廊のようだ。

 俺は樹を駆け上がり、ハジメは"空力"で、ユエは風系統の魔法で頭上の太い枝に乗る。

 そして、五分もかからず眼下に次々とラプトルが現れ始めたが、全ての個体に色とりどりの花がついていた。

 

「なんでどいつもこいつも花つけてんだよ!」

「……ん、お花畑」

「こりゃ、この階層の魔物全てこれだな」

 

 思わずツッコミを入れてしまったハジメの声に反応して、ラプトル達が一斉に俺達の方を見た。そして、襲いかかろうと跳躍の姿勢を見せる。

 俺はキーブレードを二丁銃形態にし、"ブリザガ"を連発して足止めしている間に、ハジメが“焼夷手榴弾”を投げ落とす。それと同時に、その効果範囲外にいるものから優先してドンナーで狙い撃ちしていく。連続して発砲音が轟き、その度に紅い閃光がラプトルの頭部を一発の狂いもなく吹き飛ばしていく。ユエも同じく周囲の個体から"緋槍"を使って仕留めていく。

 きっかり三秒後、群れの中央で“焼夷手榴弾”が爆発し、摂氏三千度の燃え盛るタールが飛び散り周囲のラプトルを焼き尽くしていった。

 結局十秒もかからず殲滅に成功した。が、再び"気配感知"が全方位からおびただしい数の魔物が集まってくるの捉えた。

 

「大量の魔物が急速接近中だ」

「……逃げる?」

「いや。奴らを殲滅しつつ、司令塔を探す」

「確かに、このままだとこの階層全ての魔物を相手にすることになりそうだ」

 

 俺の案にハジメが賛同する。

 そして行動する為に枝から降りようとするとユエが上着を掴んで引き止めてきた。疑問に思ってユエの方を向くと、両手を伸ばしていた。

 

「夜空……だっこ……」

「……吸血しながら行くのか?」

 

 俺の推測に、ユエはコクンと頷く。確かに、ハジメの持つエリクサー(仮)ではユエの魔力回復が遅いし、俺のエーテルも数が少ない。不測の事態に備えて回復はさせておきたいが、自分達が必死に駆けずり回っている時にチューチューされるという構図に若干抵抗を感じる。背に腹は替えられないと分かってはいるが……

 最終的におんぶで妥協してもらい、ユエを背負い、俺達は本体探しに飛び出していった。

 そして現在……俺達は、三百近い魔物に追われていた。俺はユエを背負いながら時折後ろに向かって"メガフレア"を二丁銃形態で放っていた。爆発が十個起こり、魔物が消滅していく。

 

「これ、この階層の全ての魔物来てるんじゃないか」

「……夜空、ファイト……」

「お前ら、気楽すぎないか!」

 

 いくら消し飛ばしても、魔物は地響きを立てながら迫っている。さらには背の高い草むらに隠れながらラプトルが併走し四方八方から飛びかかってくる。それを迎撃しつつ、探索の結果一番怪しいと考えられた場所に向ってひたすら駆けるハジメを俺は追いかける。ユエも魔法を撃ち込み致命的な包囲をさせまいとする。そして、隙を見て俺から血を吸う。

 ハジメが睨んだのは樹海を抜けた先、今通っている草むらの向こう側にみえる迷宮の壁、その中央付近にある縦割れの洞窟らしき場所だ。

 ハジメによれば、この方向に逃走しようとした時だけやたら動きが激しくなるからだそうだ。まるで、その方向には行かせまいとするかのように。このまま当てもなく探し続けても魔物が増え続けるだけなのでイチかバチかその方向に突貫してみることにしたというわけである。

 

「ええい、草が鬱陶しい!」

「なら、空中から行くか」

「そうする!」

 

 草相手にキレるハジメにそう進言する。ハジメは"空力"で跳躍し、"縮地"で更に加速する。俺は"ダブルフライト"で高さを確保し、"グライド"で滑空する。

 

「それ、どういう原理だよ!」

「滑空しているだけだ」

「嘘だ!」

 

 そんな風に戯れながらもきっちり迎撃し、俺達は三百体以上の魔物を引き連れたまま縦割れに飛び込んだ。

 縦割れの洞窟は大の大人が二人並べば窮屈さを感じる狭さだ。ティラノは当然通れず、ラプトルでも一体ずつしか侵入できない。何とか俺達を引き裂こうと侵入してきたラプトルの一体がカギ爪を伸ばすが、その前にハジメのドンナーが火を噴き吹き飛ばした。そして、すかさず錬成し割れ目を塞ぐ。

 

「ふぅ~、これで取り敢えず大丈夫だろう」

「お疲れさん。そしてユエ、そろそろ降りない?」

「……むぅ……仕方ない」

 

 俺の言葉に渋々、ほんと~に渋々といった様子で俺の背から降りるユエ。

 

「さて、あいつらやたら必死だったからな、ここでビンゴだろ。油断するなよ?」

「ああ」

「ん」

 

 錬成で入口を閉じたため薄暗い洞窟を俺達は慎重に進む。

 しばらく道なりに進んでいると、やがて大きな広間に出た。広間の奥には更に縦割れの道が続いている。もしかすると階下への階段かもしれない。俺とハジメは辺りを探る。"気配感知"には何も反応はないがなんとなく嫌な予感がするので警戒は怠らない。気配感知を誤魔化す魔物など、この迷宮にはわんさかいる。

 そしてそれは、俺達が部屋の中央までやってきたときに起きた。

 全方位から緑色のピンポン玉のようなものが無数に飛んできたのだ。俺達は一瞬で背中合わせになり、飛来する緑の球を迎撃する。

 

「集まれ!」

 

 が、あまりにも数が多かったため、"マグネガ"で集める。それでもいくつかは俺達の周囲に着弾する。

 

「ユエ、おそらく本体の攻撃だ。どこにいるかわかるか?」

「……」

「ユエ?」

 

 ハジメはユエに本体の位置を把握できるか聞いてみる。ユエは"気配感知"など索敵系の技能は持っていないが、吸血鬼の鋭い五感は俺やハジメとは異なる観点で有用な索敵となることがあるのだ。

 しかし、ハジメの質問にユエは答えない。不思議に思って、今度は俺がユエの名を呼ぶ。だが、その返答は……

 

「……にげて……夜空! ハジメ!」

 

 いつの間にかユエの手が俺とハジメに向いていた。ユエの手に風が集束する。本能が激しく警鐘を鳴らし、ハジメはその場を全力で飛び退き、俺は"ドッジロール"使って転がる。次の瞬間、俺達のいた場所を強力な風の刃が通り過ぎ、背後の石壁を綺麗に両断する。

 

「ユエ!?」

 

 まさかの攻撃に思わず驚愕の声を上げるが、ユエの頭の上にあるものを見て事態を理解する。そう、ユエの頭の上にも花が咲いていたのだ。それも、ユエに合わせたのか? と疑いたくなるぐらいよく似合う真っ赤な薔薇が。

 

「くそっ、さっきの緑玉か!?」

「そう、へっくしゅ!」

 

 そうだろうな。そう答えようとしたらくしゃみが出た。その隙に飛んで来た風の刃を"リフレクトガード"で防ぐ。

 

「夜空……ハジメ……うぅ……」

「へっくしゅ! うぅ、″エスナ″」

 

 くしゃみが止まらないので"エスナ"を使うと、くしゃみが止まった。どうやらスニーズになっていたようだ。

 一方、ユエは無表情を崩し悲痛な表情をする。ラプトルの花を切り落とした時、ラプトルは花を憎々しげに踏みつけていた。あれはつまり、花をつけられ操られている時も意識はあるということだろう。体の自由だけを奪われるようだ。

 だが、それなら解放の仕方も既に知っている。ハジメはユエの花に照準し引き金を引こうとした。

 しかし、操っている者も、俺が切り落とした事、ハジメが撃ち落とした事やハジメの飛び道具を知っているようで、そう簡単にはいかなかった。

 ユエを操り、花を庇うような動きをし出したのだ。上下の運動を多用しており、外せばユエの顔面を吹き飛ばしてしまうだろう。ならばと、接近し切り落とそうとすると、突然ユエが片方の手を自分の頭に当てるという行動に出た。

 

「……やってくれるじゃねぇか……」

「……ああ……」

 

 つまり、俺達が接近すればユエ自身を自らの魔法の的にすると警告しているのだろう。

 ユエは確かに不死身に近い。しかし、上級以上の魔法を使い一瞬で塵にされて尚"再生"できるかと言われれば否定せざるを得ない。そして、ユエは、最上級ですらノータイムで放てるのだ。特攻など分の悪そうな賭けは避けたいところだ。

 俺達の逡巡を察したのか、それは奥の縦割れの暗がりから、人間の女と植物が融合したような魔物、エセアルラウネが現れた。

 見た目は人間の女なのだが、内面の醜さが溢れているかのように醜悪な顔をしており、無数のツルが触手のようにウネウネとうねっていて実に気味が悪い。その口元は何が楽しいのかニタニタと笑っている。

 ハジメがすかさずエセアルラウネに銃口を向ける。しかし、ハジメが発砲する前にユエが射線に入って妨害する。

 

「夜空……ハジメ……ごめんなさい……」

 

 悔しそうな表情で歯を食いしばっているユエ。自分が足でまといなっていることが耐え難いのだろう。今も必死に抵抗しているはずだ。口は動くようで、謝罪しながらも引き結ばれた口元からは血が滴り落ちている。鋭い犬歯が唇を傷つけているのだ。悔しいためか、呪縛を解くためか、あるいはその両方か。

 だが、俺にとって本体が出てくれば関係ない。

 

「終わりだ」

 

 "フラッシュライナー"でユエの頭の薔薇ごとエセアルラウネを貫くべく、光の玉を設置する。

 エセアルラウネは咄嗟にユエに自害させようとするが、それよりも早く貫かれた。

 ユエが目をパチクリとさせてそっと両手で頭の上を確認するが、すでに花はない。エセアルラウネはあり得ないと言いたげな表情で地面に倒れ伏した。

 

「ユエ、大丈夫か? 違和感とかないか?」

 

 エセアルラウネそっちのけでユエの安否を確認する。エセアルラウネが倒されたからか僅かに残っていた部分も塵となっていった。

 すると、ユエが抱きついてきた。

 

「……ありがとう」

「……お、おう。けど、なぜ抱きつく?」

「……ご褒美」

「そうか」

(いずれぇ……)

 

ハジメを不機嫌にしつつ、俺はユエの気が済むまで抱きつかれ続けた。

 




【夜空がスニーズにかかった経緯】
マグネガで集める→魔法が終了し、集まった球が落下する→ロックしてないマグネ系は基本的に頭上→全弾命中

そんなことよりフラッシュライナー便利過ぎない?


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第17話 最終関門

遅くなりました。

今回はヒュドラ戦です。けど、()()()なので対して苦戦してないです。





ところで最近、原作ハジメさんスゲーって思うんです。何故って? どうやったらここからハーレムに行けるんですか。ユエと夜空会わせてからだんだん「あれ、ハーレムになるのこれ」という考えが頭から離れません。


 エセアルラウネを倒した日から随分経った。

 そして現在、次の階層で俺達が最初にいた階層から百階目になるところまで来ていた。その一歩手前の階層で俺達は装備の確認と補充にあたっていた。

 俺達が最初にいた階層から八十階を超えた時点で、ここが地上で認識されている通常の【オルクス大迷宮】である可能性は消えた。奈落に落ちた時の感覚と、各階層を踏破してきた感覚からいえば、通常の迷宮の遥かに地下であるのは確実だ。

 今の俺達なら、そう簡単にやられはしないだろう。しかし、そのような実力とは関係なくあっさり致命傷を与えてくるのが迷宮の怖いところである。

 故に、出来る時に出来る限りの準備をしておく。ちなみに今の俺達のステータスはこうなっている。

 

=================

粋月夜空 16歳 男 レベル:76

天職:キーブレード使い

筋力:1740

体力:2160

耐性:1700

敏捷:2380

魔力:2410

耐魔:1700

技能:鍵の力・闇の力・回復魔法[+効果上昇]・全属性適性[+全属性効果上昇]・全属性耐性[+全属性効果上昇]・剣術・高速魔力回復・気配探知・壁走り・魔力操作・胃酸強化・夜目・遠見・毒耐性・麻痺耐性・石化耐性・念話・言語理解

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【鍵の力】

想像構成・リフレクトガード[+リベンジアッパー]・ドッジロール[+ダークロール]・ダブルフライト[+エアドッジ]・エアリカバリー[+リベンジブラスト]・グライド・エアスライド・ソニックレイヴ・ザンテツケン・フラッシュライナー・ダークスプライサー・シャドウブレイカー・ストライクレイド[+ウインドレイド]・ラストアルカナム[+ソロアルカナム]・スタイルチェンジ[+ダークフォーム]・キーブレード変形・アクションフロー

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南雲ハジメ 16歳 男 レベル:76

天職:錬成師

筋力:1980

体力:2090

耐性:2070

敏捷:2450

魔力:1780

魔耐:1780

技能:鍵の力・錬成[+鉱物系鑑定][+精密錬成][+鉱物系探査][+鉱物分離][+鉱物融合][+複製錬成]・魔力操作[+魔力放射][+魔力圧縮][+遠隔操作]・胃酸強化・纏雷・天歩[+空力][+縮地][+豪脚]・風爪・夜目・遠見・気配感知・魔力感知・熱源感知・気配遮断・毒耐性・麻痺耐性・石化耐性・金剛・威圧・念話・言語理解

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【鍵の力】

想像構成・リフレクトガード

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 ステータスは、初めての魔物を食べれば上昇し続けているが、固有魔法はそれほど増えなくなった。主級の魔物なら取得することもあるが、その階層の通常の魔物ではもう増えないようだ。魔物同士が食べ合っても相手の固有魔法を簒奪しないのと同様に、ステータスが上がって肉体の変質が進むごとに習得し難くなっているのかもしれない。

 暫くして、全ての準備を終えた俺達は、階下へと続く階段へと向かった。

 その階層は、無数の強大な柱に支えられた広大な空間だった。柱の一本一本が直径五メートルはあり、一つ一つに螺旋模様と木の蔓が巻きついたような彫刻が彫られている。柱の並びは規則正しく一定間隔で並んでいる。天井までは三十メートルはありそうだ。地面も荒れたところはなく平らで綺麗なものである。どこか荘厳さを感じさせる空間だった。

 俺達が、暫しその光景に見惚れつつ足を踏み入れる。すると、全ての柱が淡く輝き始めた。ハッと我を取り戻し警戒する。柱は俺達を起点に奥の方へ順次輝いていく。

 暫く警戒していたが特に何も起こらないので先へ進むことにした。感知系の技能をフル活用しながら歩みを進める。二百メートルも進んだ頃、前方に行き止まりを見つけた。いや、行き止まりではなく、それは巨大な扉だ。全長十メートルはある巨大な両開きの扉が有り、これまた美しい彫刻が彫られている。特に、七角形の頂点に描かれた何らかの文様が印象的だ。

 

「……これはまた凄いな」

「ああ。だからおそらく、あそこが」

「……反逆者の住処?」

 

 如何にもボス部屋といった感じだ。実際、感知系技能には反応がなくとも俺とハジメの本能が警鐘を鳴らしていた。この先はマズイと。それは、ユエも感じているのか、薄らと額に汗をかいている。

 

「ハッ、だったら最高じゃねぇか。ようやくゴールにたどり着いたってことだろ?」

 

 ハジメは本能を無視して不敵な笑みを浮かべる。たとえ何が待ち受けていようとやるしかないのだ。

 

「……んっ!」

 

 ユエも覚悟を決めた表情で扉を睨みつける。

 

「……行こう」

 

 そして、三人揃って扉の前に行こうと最後の柱の間を越えた。

 その瞬間、扉と俺達の間三十メートル程の空間に巨大な魔法陣が現れた。赤黒い光を放ち、脈打つようにドクンドクンと音を響かせる。

 その魔法陣には見覚えがあった。忘れようもない、あの日、俺達が奈落へと落ちた日に見た自分達を窮地に追い込んだトラップと同じものだ。だが、ベヒモスの魔法陣が直径十メートル位だったのに対して、眼前の魔法陣は三倍の大きさがある上に構築された式もより複雑で精密なものとなっている。

 

「おいおい、なんだこの大きさは? マジでラスボスかよ」

「……大丈夫……私達、負けない……」

 

 ハジメが流石に引きつった笑みを浮かべるが、ユエは決然とした表情でハジメを見つめる。

 ユエの言葉に「そうだな」と頷き、苦笑いを浮かべながらハジメも魔法陣を睨みつける。どうやらこの魔法陣から出てくる化物を倒さないと先へは進めないらしい。

 魔法陣はより一層輝くと遂に弾けるように光を放った。俺達は咄嗟に腕をかざし目を潰されないようにする。光が収まった時、そこに現れたのは……

 体長三十メートル、六つの頭と長い首、鋭い牙と赤黒い眼の化け物。例えるなら、神話の怪物ヒュドラだった。

 

「「「「「「クルゥァァアアン!!」」」」」」

 

 不思議な音色の絶叫をあげながら六対の眼光が俺達を射貫く。身の程知らずな侵入者に裁きを与えようというのか、常人ならそれだけで心臓を止めてしまうかもしれない壮絶な殺気が叩きつけられた。

 同時に赤い紋様が刻まれた頭がガパッと口を開き火炎放射を放った。それはもう炎の壁というに相応しい規模である。

 俺達は同時にその場を飛び退き反撃を開始する。ハジメのドンナーが火を吹き電磁加速された弾丸が超速で赤頭を狙い撃つ。弾丸は狙い違わず赤頭を吹き飛ばした。

 まずは一つとハジメが内心ガッツポーズを決めた時、白い文様の入った頭が「クルゥアン!」と叫び、吹き飛んだ赤頭を白い光が包み込んだ。すると、まるで逆再生でもしているかのように赤頭が元に戻った。白頭は回復魔法を使えるらしい。

 ハジメに少し遅れてユエの氷弾が緑の文様がある頭を吹き飛ばしたが、同じように白頭の叫びと共に回復してしまった。

 

『夜空! あの白頭を!』

『わかってる!』

 

 ハジメから"念話"が来る。俺は返事をしつつ"アクションフロー"で他の首を無視して白頭の元へ飛んでいく。青頭が放った氷の礫も、ついでで避ける結果となった。

 

「消し飛べ!」

 

 至近距離で"メガフレア"を喰らった白頭は吹き飛んでいた。

 

「おし!」

 

 空中で無防備となった俺に、緑頭が無数の風の刃を放って来るが、"エアスライド"で離脱する。

 

「ナイスだ夜空!」

 

 着地し、ハジメと共に追い討ちをかけようとすると、ユエの絶叫が響いた。

 

「いやぁああああ!!!」

「ユエ!? ハジメ、しばらく頼む!」

「おう!」

 

 ハジメにヒュドラの相手を任せると、ユエに"アクションフロー"で近付き抱える。そして"ダークロール"を使って柱の陰に隠れてから"エスナ"を使う。すると、虚ろだったユエの瞳に光が戻る。

 

「おい! ユエ! しっかりしろ!」

「……夜空?」

「ああ、夜空だ。大丈夫か? 一体何された?」

 

 パチパチと瞬きしながらユエは俺の存在を確認するように、その小さな手を伸ばし俺の顔に触れる。それで漸く俺が其処にいると実感したのか安堵の吐息を漏らし目の端に涙を溜め始めた。

 

「……よかった……見捨てられたと……また暗闇に一人で……」

「それはどういうことだ?」

 

 ユエの様子に困惑する。ユエ曰く、突然、強烈な不安感に襲われ気がつけば俺達に見捨てられて再び封印される光景が頭いっぱいに広がっていたという。そして、何も考えられなくなり恐怖に縛られて動けなくなったと。

 

「恐怖状態にしてくる奴がいるのか……なるほど、そう言うことか」

 

白が回復、赤が炎、青が氷、緑が風。おそらく頭の色と使ってくる能力は同じだ。と、なると黒頭か。黄色は土魔法辺りだろう。

 

「……夜空」

 

 敵の能力を考察している俺に、ユエは不安そうな瞳を向ける。よほど恐ろしい光景だったのだろう。俺達に見捨てられるというのは。

 現にユエは、俺の服の裾を掴んでいる。

 

「……私……」

 

 泣きそうな不安そうな表情で震えるユエ。何となくユエの見た悪夢から、今ユエが何を思っているのか感じ取った。そして、普段のユエの態度で俺に対する気持ちも察している。けれど、俺はまだその気持ちに答えられない。

 慰めの言葉でも掛けるべきなのだろうが、今は時間がない。それに生半可な言葉では、再度黒頭の餌食だろう。だから……

 

「……!?」

 

 俺はユエを抱き締めた。

 

「大丈夫、俺達はどんな時も一緒だ」

 

 俺はそう言ってからユエを放す。そして、ユエの手を引いて立ち上がらせた。

 ユエは未だ呆然と俺を見つめていたが、いつかのように無表情を崩しふんわりと綺麗な笑みを浮かべた。

 

「んっ!」

 

俺も微笑み返すと、ハジメに"念話"する。

 

『ハジメ、大丈夫か?』

『ああ。だが、さっきから黄頭が庇って攻撃が通らない!』

『わかった。黄色は土魔法辺りだと思ったんだがな』

『どうやら"金剛"のようだ。とりあえず、青頭は潰しておいた』

『了解』

 

 ハジメとの"念話"を終了する。

 

「行けるな」

「……ん!」

 

 いつもより断然やる気に溢れているユエ。静かな呟くような口調が崩れ覇気に溢れた応答だ。先程までの不安が根こそぎ吹き飛んだようである。

 俺達は一気に柱の陰を飛び出し、戦線に復帰する。

 

「"緋槍"! "砲皇"! "凍雨"!」

 

 有り得ない速度で魔法が構築され、炎の槍と螺旋に渦巻く真空刃を伴った竜巻と鋭い針のような氷の雨が一斉にヒュドラを襲う。黄頭が前に出ようとするが、別方向からハジメが狙っていると気がついたのかその場を動かず、代わりに咆哮を上げる。

 

「クルゥアン!」

 

 すると近くの柱が波打ち、変形して即席の盾となった。どうやらこの黄頭は規模が小さいながらもサソリモドキと同様の技が使えるらしい。

 ユエの魔法はその石壁に当たると先陣が壁を爆砕し、後続の魔法が二つの頭に直撃した。

 

「「グルゥウウウウ!!!」」

 

 悲鳴を上げのたうつ二つの頭。黄頭の後ろにいた黒頭と俺の目があった。

 次の瞬間、頭の中にあの戦争の光景が浮かぶ。ああ、確かにあの時は悲しかった、苦しかった。けどな……

 

「無駄だ!」

 

 闇の力を解放して、それを振り払う。そして黒頭に闇の力を纏った連撃を叩き込む。

 

「闇に沈め!」

 

 俺を中心に闇が広範囲に爆発する。すでに弱っていたのか、黒頭は塵となり、残りの三頭は頭部に付着した闇によって視界を奪われただろう。

 

「ハジメ!」

「おう!」

 

 ハジメがシュラーゲンを取り出す。そして、紅いスパークを起こすと、大砲でも撃ったかのような凄まじい炸裂音と共に赤い弾丸が放たれる。

 射出された弾丸は真っ直ぐ周囲の空気を焼きながら黄頭の頭に直撃した。

 本来なら黄頭もしっかり防御しただろうが、視界を奪われた状態では対応できなかったようだ。

 後に残ったのは、頭部が綺麗さっぱり消滅しドロッと融解したように白熱化する断面が見える頭と、周囲を四散させ、どこまで続いているかわからない深い穴の空いた壁だけだった。

 そして残りの二つの頭はさっきの炸裂音に反応はしているが、黄頭と同じく視界を奪われたままなのでうねうねしているだけだ。つまり、隙だらけという訳だ。

 

「"天灼"」

 

 ユエは黄金の魔力を乱舞させる。

 二つの頭の周囲に六つの放電する雷球が取り囲む様に空中を漂ったかと思うと、次の瞬間、それぞれの球体が結びつくように放電を互いに伸ばしてつながり、その中央に巨大な雷球を作り出す。

 そして、中央の雷球は弾けると六つの雷球で囲まれた範囲内に絶大な威力の雷撃を撒き散らした。天より降り注ぐ神の怒りの如く、轟音と閃光が広大な空間を満たす。

 そして、十秒以上続いた最上級魔法に為すすべもなく、二つの頭は断末魔の悲鳴を上げながら遂に消し炭となった。

 何時もの如くユエがペタリと座り込む。魔力枯渇で荒い息を吐きながら、無表情ではあるが満足気な光を瞳に宿し、俺に向けてサムズアップした。仕方ないので俺も頬を緩めながらサムズアップで返す。ハジメはというと、シュラーゲンを担ぎ直しヒュドラの僅かに残った胴体部分の残骸に背を向けユエの下へ行こうと歩みだした。

 その直後、

 

「ハジメ!」

 

 ユエの切羽詰まった声が響き渡る。何事かと見開かれたユエの視線を辿ると、音もなく七つ目の頭が胴体部分からせり上がり、ハジメを睥睨していた。思わず硬直するハジメ。

 だが、七つ目の銀色に輝く頭は、ハジメからスっと視線を逸らすとユエをその鋭い眼光で射抜き予備動作もなく極光を放った。先ほどのハジメのシュラーゲンもかくやという極光は瞬く間にユエに迫る。ユエは魔力枯渇で動けない。

 俺は銀頭がハジメから視線をユエに逸した瞬間、全身を悪寒に襲われ、すぐさまユエの前に立つ。

 

「うおぉぉぉ!」

 

 そして極光に向かってキーブレードを突き立てる。極光は放射線状に拡散し、後ろのユエは余波によって軽く吹き飛ばされた。

 極光が収まると、一気に力が抜ける。が、しっかりと地面を踏んで、キーブレードを構える。

 

「いっ!」

 

 今度は直径十センチ程の光弾を無数に撃ちだしてきた。まるでガトリングの掃射のような激しさだ。

 俺はユエを抱えると、ハジメと共にその場を離脱し柱の影に隠れる。柱を削るように光弾が次々と撃ち込まれていく。一分も持たないだろう。光弾の一つ一つに恐ろしい程のエネルギーが込められている。

 

「……どうする夜空」

「……俺が囮になる。その隙にユエ、お前は"蒼天"を頼む」

「でも!」

 

 ユエが不安な表情で俺を見つめる。柱はもうほとんど砕かれ、あと二、三十秒で崩壊するだろう。そして、ユエは頷いた。

 

「……わかった」

「ハジメ、ユエを頼む」

「任せろ!」

 

 ユエの力強い返事に笑みを浮かべると、俺はユエにハイエーテルを渡してから柱を飛び出す。

 柱から飛び出て、接近する俺を銀頭は睥睨し光弾を連射する。さっきみたいに集中して放たれたら辛いが、分散しているのなら、キーブレードで弾ける。俺はひたすら光弾をキーブレードで弾き、時に避けて走る。

 やがて、焦ったのか銀頭は再び極光を一つにして放ってくる。それを今度は"ドッジロール"で避ける。

 すると、突然強烈な爆発と衝撃が発生し、一瞬の静寂の後、天井が一気に崩壊を始めた。その範囲は直径十メートル、重さ数十トン。大質量が崩落し直下の銀頭を押し潰した。

 それをハジメが"錬成"で崩落した岩盤の上を駆け回りそのまま拘束具に変える。そして、その場を離脱しながら焼夷手榴弾などが入ったポーチごと溶鉱炉の中に放り込み、叫ぶ。

 

「今だユエ!」

「んっ! "蒼天"!」

 

 青白い太陽が即席の溶鉱炉の中に出現し、身動きの取れない銀頭を融解させていく。中に放り込まれた爆薬の類も連鎖して爆発し、防御力を突破して銀頭に少なくないダメージを与えていった。

 

「グゥルアアアア!!!」

 

 銀頭が断末魔の絶叫を上げる。何とか逃げ出そうと暴れ、光弾を乱れ撃ちにする。壁が撃ち崩されるが、ハジメが錬成で片っ端から修復していくので逃げ出せない。極光も撃ったばかりなので直ぐには撃てず銀頭は為す術なく高熱に融かされていった。

 感知系技能からヒュドラの反応が消える。今度こそヒュドラの死を確信した俺達はハイタッチをした。

 

「よし、これで先に……っ!」

 

 ハジメが扉の方を見て固まる。俺もそっちを見ると、奴がいた。

 

「やけに騒がしいと思ったらお前たちか」

 

 そう、封印部屋でガードアーマーを差し向けてきた魔人族の男が。



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第18話 闇より出でし悪夢

こういうオリジナル回で5000文字行けるようになりたいなぁ。

今回の魔改造ベヒモス、最初はダークハイドを元に考えていたのに、気づけばジンオウガみたいになってしまった。一応ダークハイドの攻撃を元にした行動は残ってるけども。


ところで……ユエのヒロイン力、高くない?


「またお前か」

 

 俺はキーブレードを構える。ハジメとユエも身構えている。魔人族の男はじっと俺のキーブレードを見つめている。

 

「……なるほど。どうやらその鍵は、相当なアーティファクトのようだな」

 

 魔人族の男は一人で勝手に納得している。

 そして、魔人族の男が指を鳴らすと、その背後に大きな闇の回廊が出現する。

 

「コイツは本来ならば、勇者に差し向けようとしたのだかね。勇者よりお前たちの方が厄介だと判断した」

 

 そう言って魔人族の男は闇に包まれて消える。

 魔人族の男と入れ替わるように闇の回廊から、“ソレ”が出てくる。ソレは全長十メートルはある四足の黒い魔物で、頭部には兜のような物を持ち、一対の角はドリルのようになっていおり、その手足には鋭い爪。赤く光る眼が俺達を睨み付ける。

 細部が異なるがソレはまさに……

 

「ウオォォォォオオオオン!!」

 

 ベヒモスであった。

 

「まさか……コイツはベヒモスか……」

「だろうな。言うならばダークベヒモスってところか」

 

 俺達が改めて身構えると、ダークベヒモスは身を低くして力を溜めると、きりもみ突進をしてきた。

 

「!? ユエ!」

「……ん!」

 

 ユエの名を呼ぶと、ユエは俺の背中に飛び乗る。そして俺達はダークベヒモスのきりもみ突進を横に飛んで回避する。

 ダークベヒモスは、きりもみ突進を終えると同時にこちらに向き直る。

 すると今度は角の間から雷の玉を二発ずつ、俺とハジメに放ってきた。

 その雷の玉を"リフレクトガード"で防ぐと、ダークベヒモスが引っ掻き攻撃をしてきたので後退する。

 

「なあ、夜空。アレを無視してあそこに入るってのは……無しだよな」

「ああ。そんなことをすれば確実に、アイツは破壊してでも追ってくるぞ」

「だよな。くっ!」

 

 ハジメと会話していると、ダークベヒモスが再びきりもみ突進してきたので俺達は左右に飛び退いて避ける。

 

「ユエ、俺の血を飲んで回復を」

「……わかった」

 

 ユエは返事をするとすぐに俺の血を飲む。

 

「ウオォォオオン!」

 

 すると、ダークベヒモスが遠吠えをして、赤黒い雷を纏う。そしてすぐに、ダークベヒモスの口から赤黒い雷のブレスがハジメに向かって放たれた。

 

「なっ、ガッ!」

 

 ハジメは咄嗟にシュラーゲンを盾にするが、ブレスはシュラーゲンごとハジメを貫ぬく。それと同時にダークベヒモスが纏っていた雷が無くなる。

 

「ハジメ!?」

「グッ、ガハッ」

 

 生きていることにホッとする。そして、ダークベヒモスを隙だらけなハジメから気を逸らそうとするが、ダークベヒモスは動けないハジメを無視して俺達の方を向いていた。

 あの雷ブレスが来るのかと思ったが、ダークベヒモスは引っ掻き攻撃を連続でしてきた。

 俺は"ダークロール"で避けてから、"ダークファイガ"を放つ。それと同時にユエも"緋槍"を放った。

 俺達の魔法は、攻撃直後のダークベヒモスに当たる。が、ダークベヒモスは気にせずに飛び掛かってくるので避ける。

 

「コイツに痛みはないのか!」

「……"風刃"」

 

 ユエの"風刃"はダークベヒモスの右肩に当たって大きな傷をつける。だがやはり、ダークベヒモスは傷なんてお構い無しに雷の玉を四発放つ。

 

「くそ!」

 

 俺は"ダークロール"で避けつつ、ハジメの元へ向かう。そして"ケアルガ"でハジメの傷を治す。

 

「面倒な敵だぞこりゃ」

「ああ。だが、アイツだって生き物だ。いずれ倒せるさ」

「だな」

「……ん」

 

 ハジメがキーブレードを呼び出し、俺と共に構えると、ダークベヒモスが再び雄叫びをあげて雷を纏う。そしてさっきと同じように雷ブレスを放った。おそらく、雷ブレスは雷を纏っているときじゃないと使えないのだろう。

 俺達は雷ブレスを左右に飛び退いて避けつつ、先程と同じように雷が無くなったダークベヒモスに接近する。

 

「雷よ!」

「……"雷槌"」

 

 俺の"サンダガ"に続くようにユエが"雷槌"を放つ。二度雷に打たれたダークベヒモスがこちらを睨む。

 

「おらよ!」

 

 ハジメがその頭を"縮地"を使ってキーブレードで殴り付ける。ダークベヒモスもさすがに効いたのか転がる。

 

「グオォォォォオオオオン!」

 

 ダークベヒモスは起き上がると再び雷を纏う。しかし、今度は全身の毛が逆立っており、角も赤熱化している。

 

「オォォオオ!」

 

 ダークベヒモスがもう一度雄叫びをあげると、地面の至るところが赤く光り出した。

 俺達が光っていない場所に移動すると、光っていた場所に赤黒い雷が降り注いだ。

 ダークベヒモスは雷が止むと、三度きりもみ突進をしてきた。俺は"ダークロール"でそれを避ける。

 

「弾けろ!」

 

 そしてすぐさま"ウォタガ"を放つが、ダークベヒモスが纏っている雷に防がれる。

 

「……"破断"」

 

 ユエが"ウォタガ"の水で"破断"を放つ。今度は雷に防がれる事なくダークベヒモスの左目に当たり、その目を潰す。

 

「グルァ!」

 

 反撃と言わんばかりに回転攻撃をしてくるが、俺はそれを後ろに飛んで避ける。

 その直後にハジメが"豪脚"でダークベヒモスを蹴り飛ばす。

 

「タフだなコイツ」

「それなりにダメージは入ってる筈なんだがな」

「……しつこい」

 

 俺達がそれぞれの感想を言っていると、ダークベヒモスが天井付近まで飛び上がる。そしてその巨体を回転させて巨大な雷の球体に変わる。

 

「ヤバい……」

 

 俺達が"ダークロール"と"縮地"で距離を取るとの、巨大な雷の球体が降ってくるのは同時だった。雷の球体が着弾すると、直径二十メートルほどの放電を起こし、さらに四十メートルほどの広範囲に雷が降り注いだ。

 俺達は放電からは逃れたが、落雷を受けてしまった。ユエも、落雷を受けた反動で俺から落ちてしまう。

 

「ガハッ!」

「グッ!」

「……ッ!」

 

 ダークベヒモスは、さっきの大技の反動か、纏っていた雷は消え、角の赤熱化も解除されていた。と、なると今がチャンスか。

 

「うおおぉ!」

 

 俺はダークベヒモスに"アクションフロー"で急接近して"ラストアルカナム"を叩き込む。ラッシュ攻撃を受けたダークベヒモスはバックステップに俺から距離を取る。

 そして再び雷を纏い、角を赤熱化させてから、左右の腕で引っ掻き攻撃をしてくる。俺がそれを"リフレクトガード"で防ぐと回転攻撃で俺を吹き飛ばす。

 

「くっ、凍りつけ!」

「"凍雨"!」

 

 地面に手をついて体勢を整えて着地して、すぐに"ブリザガ"を放つとユエが続いて"凍雨"を放つ。ダークベヒモスは身を低くして氷の雨に耐えるが、その体に無数の傷を作る。ハジメがキーブレードを消して、追撃とばかりにドンナーを発泡し、左肩に当たる。

 すると、ダークベヒモスは再び雷を纏い、そしてそのまま、きりもみ突進をしてくる。

 ハジメと目を合わせると、ユエを背中に背負い、居合いの構えをとる。そして、ハジメと共にダークベヒモスに切りかかる。

 

「これで……」

「終われぇ!」

 

 俺達はダークベヒモスと交差する。そして、着地と共にダークベヒモスに振り返る。

 ダークベヒモスはきりもみ突進した状態から、ズズン! と倒れた地面を二メートルほど滑る。ヒュドラ同様、感知系技能から反応が消える。それを確認すると、一気に力が抜けた。倒れたないようにキーブレードを地面に突き刺して体を支える。

 俺の背中から降りたユエが、心配そうに聞いてくる。

 

「……夜空、平気?」

「ん、ああ。大丈夫、ちょっと疲れただけだ」

 

 キーブレードを消してしっかりと立つ。そしてダークベヒモスを見つめる。

 

「これ、絶対アイツ等じゃ倒せないだろ。俺達ですらギリギリだぞ」

「だろうな。というか、あのきりもみ突進。絶対に"聖絶"突破してくるだろ」

「しかも雷攻撃は早くて広い。咄嗟の判断と機動力が必須だ」

「おまけに動きが早いから接近攻撃は難しい。かといって魔法で攻撃しようにも詠唱をさせてもらえないだろうな」

「……雷で魔法の威力も削ってくる。最低でも中級以上」

 

 それぞれダークベヒモスに対する感想を言っていき、天之河達では太刀打ちできないという結論になった。

 俺達はその場で少し休憩してから、反逆者の住処へと入った。

 




ダークベヒモスの技、一部解説

・きりもみ突進……体をドリルのように回転させて突っ込んでくる。速度はそこそこだが、纏雷中は聖絶をも突破する。

・爆雷放電……巨体な雷の球体となって落下し、広範囲に放電+落雷を発生させる。現時点でのハジメ達でも放電を喰らえば助からない。


オリジナル技能1 砲雷……纏雷の派生技能で、雷を放つためのもの。

オリジナル技能2 戦闘継続……戦闘時限定の痛覚無効。


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第19話 隠された真実

アニメのCMが公開されましたね。いやー楽しみです。

そして、キングダムハーツに付き物の“レポート”が今回から出ます。まあ、全部で何枚とかは決めてないですが。

ちなみに、魔人族の男の名前はなんとなく思い付いた名前なので意味は特にないです。


 入って最初に目に入ったのは太陽だった。もちろんここは地下迷宮であり本物じゃない。良く見ると、円錐状の物体が天井高く浮いており、その底面に煌々と輝く球体が浮いていた。その球体が放つ光から僅かに温かみを感じる上、蛍光灯のような無機質さを感じない。

 

「手分けして調べよう」

「だな。俺は一番広そうな一階を調べる。夜空とユエでこの上の階を頼む」

「わかった。行こう、ユエ」

「……ん」

 

 ハジメに一階の捜索を任せて二階へ向かう。

 二階を探索して気になったのが書斎と工房だ。この二つの部屋は封印がされており、キーブレードを使って開けても良かったが、行けるところ全てを探索し終えてからにすることにした。

 二階の部屋を探索し終えて三階へ向かう。その際、下から「風呂だあぁぁぁぁ!!」と、ハジメの叫び声が聞こえたが無視した。

 三階は一部屋だけみたいだ。奥の扉を開けると、そこには直径七、八メートルの今まで見たこともないほど精緻で繊細な魔法陣が部屋の中央の床に刻まれていた。いっそ一つの芸術といってもいいほど見事な幾何学模様である。

 しかし、それよりも注目すべきなのは、その魔法陣の向こう側、豪奢な椅子に座った人の骸だ。既に白骨化しており黒に金の刺繍が施された見事なローブを羽織っている。薄汚れた印象はなく、お化け屋敷などにあるそういうオブジェと言われれば納得してしまいそうだ。

 その骸は椅子にもたれかかりながら俯いている。その姿勢のまま朽ちて白骨化したのだろう。魔法陣しかないこの部屋で骸は何を思っていたのか。寝室やリビングではなく、この場所を選んで果てた意図はなんなのか……

 

「……怪しい……どうする?」

 

 ユエもこの骸に疑問を抱いたようだ。おそらく反逆者と言われる者達の一人なのだろうが、苦しんだ様子もなく座ったまま果てたその姿は、まるで誰かを待っているようである。

 

「とりあえず、ハジメと合流しよう。話は……それからだ」

「ん……」

 

 ユエが俺の言葉に頷くと、俺達はハジメのいる一階へ戻り、ハジメと情報交換をする。その結果、魔法陣から調べる事となった。

 

「これか」

「どうする。一人だけで入るか、皆で入るか」

「はっ! んなもん、俺達三人でに決まってるだろ」

「だよな」

 

 俺達は三人で、魔法陣へ向けて踏み出した。そして、俺達が魔法陣の中央に足を踏み込んだ瞬間、カッと純白の光が爆ぜ部屋を真っ白に染め上げる。

 直後、何かが頭の中に侵入し、まるで走馬灯のように奈落に落ちてからのことが駆け巡った。

 やがて光が収まり、目を開けた俺達の目の前には、黒衣の青年が立っていた。

 魔法陣が淡く輝き、部屋を神秘的な光で満たす。

 中央に立つ俺達の眼前に立つ青年は、よく見れば後ろの骸と同じローブを着ていた。

 

「試練を乗り越えよくたどり着いた。私の名はオスカー・オルクス。この迷宮を創った者だ。反逆者と言えばわかるかな?」

 

 話し始めた彼はオスカー・オルクスというらしい。【オルクス大迷宮】の創造者のようだ。そのことに俺達は僅かに驚く。

 

「ああ、質問は許して欲しい。これは唯の記録映像のようなものでね、生憎君の質問には答えられない。だが、この場所にたどり着いた者に世界の真実を知る者として、我々が何のために戦ったのか……メッセージを残したくてね。このような形を取らせてもらった。どうか聞いて欲しい。……我々は反逆者であって反逆者ではないということを」

 

 そうして始まった狂った神とその子孫達の戦いの物語。

 神代の少し後の時代、様々な種族や国が“信託”によって争い続けていたことを。

 その争いに終止符を討たんとする“解放者”のことを。

 そして、彼等の結末と無念を。

 長い話が終わり、オスカーは穏やかに微笑む。

 

「君が何者で何の目的でここにたどり着いたのかはわからない。君に神殺しを強要するつもりもない。ただ、知っておいて欲しかった。我々が何のために立ち上がったのか。……君に私の力を授ける。どのように使うも君の自由だ。だが、願わくば悪しき心を満たすためには振るわないで欲しい。話は以上だ。聞いてくれてありがとう。君のこれからが自由な意志の下にあらんことを」

 

 そう話を締めくくり、オスカーの記録映像はスっと消えた。同時に、脳裏に何かが侵入してくる。ズキズキと痛むが、それがとある魔法を刷り込んでいためと理解できたので大人しく耐えた。

 やがて、痛みも収まり魔法陣の光も収まる。

 

「……どうするの」

「俺達の目的はアイツ等と共に日本に帰ることだ。狂った神なんぞ知らんし、そんな奴の“駒”になるつもりもない」

「そもそも、その世界の問題はその世界が解決するべぎだ。ま、手助けぐらいはしてもいいけどな。ユエはどうする」

 

 この世界のことはこの世界の住人が何とかするべぎだ。しかし、ユエはこの世界の住人だ。故に、彼女が放っておけないというのなら、全力で神を討つ。

 そう思って尋ねたのだが、ユエは僅かな躊躇いもなくふるふると首を振った。

 

「私の居場所はここ……他は知らない」

 

 そう言って、俺に寄り添いその手を取る。ギュと握られた手が本心であることを如実に語る。

 

「……そうか」

 

 ユエと見つめ合っていると、ハジメが咳払いをする。

 

「あ~、二人ともいいか。……生成魔法っての覚えたみたいなんだが」

「同じく」

「……私も」

 

 生成魔法。神代魔法の一つで、魔法を鉱物に付加して、特殊な性質を持った鉱物を生成出来る魔法のようだ。

 もっとも、俺は使えないようだ。

 

「これならアーティファクト作れそうだ」

「ハジメ……楽しそうだな」

「……ん」

 

 ハジメは一人、どんなアーティファクトを作ろうか右手を顎に当ててぶつぶつ呟き出す。

 

「ん? なんだ、あれ」

「……宝箱?」

 

 オスカーの骸の隣に、いつの間にか宝箱と思われる箱があった。俺とユエはハジメを放置してその宝箱を開ける。中には赤い宝石の付いた指輪が三つ入っていた。

 

「……指輪?」

「このオルクス大迷宮を攻略した証か」

「……かもしれない」

 

 とりあえず貰っておこうと、宝箱から指輪を取り出す。その瞬間、テレレレ~とどっかで聞いたようなSEが流れる。そして宝箱は勝手に閉まると、ズズズッと地面に沈んでいった。

 

「……ユエ、一つ持っとけ」

「ん……」

 

 俺はそう言ってユエに指輪を渡す。

 それからまだ呟き続けているハジメの頭にチョップを繰り出す。

 

「なにすんだよ夜空」

「いつまでもぶつぶつしてんな。それと、ほれ」

 

 ハジメに指輪を投げ渡す。ハジメはパシッとキャッチする。

 

「なんだこれ」

「多分、攻略の証。人数分あったし間違いないと思う」

「そうか……」

 

 ハジメは指輪をポケットにしまうとオスカーの骸を見つめる。

 

「とりあえず、オスカーを弔うか。下に丁度いい場所があるんだ」

「そうだな、そうするか」

 

 俺達は、一階の何故かあった川の近くにオスカーの墓を作った。

 埋葬が終わると、二階の封印されていた場所へ向かった。攻略の証である指輪には十字に円が重った文様が刻まれており、それが書斎や工房にあった封印の文様と同じだったのだ。

 俺とユエは書斎、ハジメは工房を調べる事にした。

 一番の目的である地上への道を探らなければならない。俺達は書棚にかけられた封印を解き、めぼしいものを調べていく。すると、この住居の施設設計図らしきものを発見した。通常の青写真ほどしっかりしたものではないが、どこに何を作るのか、どのような構造にするのかということがメモのように綴られたものだ。

 

「これか。あったぞ、ユエ!」

「んっ」

 

 ユエが嬉しそうにする。設計図によれば、どうやら先ほどの三階にある魔法陣がそのまま地上に施した魔法陣と繋がっているらしい。この指輪を持っていないと起動しないようだ。

 更に設計図を調べていると、どうやら一定期間ごとに清掃をする自立型ゴーレムが工房の小部屋の一つにあったり、天上の球体が太陽光と同じ性質を持ち作物の育成が可能などということもわかった。人の気配がないのに清潔感があったのは清掃ゴーレムのおかげだったようだ。

 

「夜空……これ」

「うん?」

 

 俺が設計図をチェックしていると他の資料を探っていたユエが一冊の本を持ってきた。どうやらオスカーの手記のようだ。かつての仲間、特に中心の七人との何気ない日常について書いたもののようである。

 その内の一節に、他の六人の迷宮に関することが書かれていた。

 

「……つまり、あれか? 他の迷宮も攻略すると、創設者の神代魔法が手に入るということか?」

「……かも」

 

 手記によれば、オスカーと同様に六人の“解放者”達も迷宮の最深部で攻略者に神代魔法を教授する用意をしているようだ。生憎とどんな魔法かまでは書かれていなかったが……

 

「……帰る方法見つかるかも」

「だな。これで今後の指針ができた。地上に出たら七大迷宮攻略を目指そう」

「んっ」

 

 それから暫く探した。その結果見つかったのは、一枚の紙だ。それにはこう書かれていた。

 

 

 ──────

 

 なぜだフリード、なぜお前が奴に従う。

 共にあの迷宮を攻略した理由を忘れたのか。

 奴を討つのではなかったのか。

 

 奴は神と繋がっている。

 ということはフリードの豹変には神が絡んでいるのか。

 

 ならば、全ての神代魔法を得て神を討とう。

 全ては我ら魔人族の安寧のために。

 

 

 ルキフェル

 

 ──────

 

 

「……日記?」

「だろうな。おそらく、あの魔人族の男が書いた物だろう。どうしてそれがここにあるかはわからないけど」

 

 仮称として“ルキフェルレポート”と名付けたその紙をチリシィに預ける。

 ちなみに、正確な迷宮の場所を示すような資料は発見できなかった。現在、確認されている【グリューエン大砂漠の大火山】【ハルツィナ樹海】、目星をつけられている【ライセン大峡谷】【シュネー雪原の氷雪洞窟】辺りから調べていくしかないだろう。

 暫くしてハジメと合流するために工房へ向かう。ハジメは部屋の真ん中で、なにやら考え事をしていた。そんなハジメの様子を見て、ユエが首を傾げながら尋ねた。

 

「……どうしたの?」

 

 ハジメは暫く考え込んだ後、提案してきた。

 

「う~ん。なあ、夜空、ユエ。暫くここに留まらないか? さっさと地上に出たいのは俺も山々なんだが……せっかく学べるものも多いし、ここは拠点としては最高だ。他の迷宮攻略のことを考えても、ここで可能な限り準備しておきたい。どうだ?」

「俺は構わない。どのみち、ハジメにキーブレードを教えないといけないしな」

「私も構わない」

 

 ユエはハジメの提案を直ぐに了承した。その事にハジメが不思議に思ったのか首を傾げる。

 

「……夜空と一緒なら何処でもいい」

 

 そういう事らしい。

 俺達はここで可能な限りの鍛錬と装備の充実を図ることにした。



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第20話 月は夜空と共にありて

うーむ、今回3000も行かなかったなぁ。
でもまあ、旅立ちの前に書きたかった事は書けたし、良しとしよう。

そんなことより、KH3のDLCの情報が出て、その内容が楽しみで仕方ないです!


 あの日、この【オルクス大迷宮】に留まって、装備の充実化と鍛錬を決断した日から一ヶ月と少しが経とうとしていた。

 そんなある日、ヒュドラやダークベヒモスと戦った部屋に、ルクシア様の笑い声が木霊する。

 

『アハハハ! 君って本当に、変なところで真面目なんだから、もう! アハハ!』

「ルクシア様、笑いすぎです」

『ハハ、ごめんごめん。全く、恋愛ぐらい好きにすればいいのに』

「それは……そうなのですが……」

 

 ユエの気持ちに答えたい。けれど、使命を忘れてしまうのが怖い。そして、使命を言い訳に断りたくない。その全てが俺の本音。その事を相談した結果がこれだよ。

 

『そもそも、ハジメ君と行動を共にしていれば、使命もこなしている訳だから、何も問題ないでしょうに』

「……あ」

『気づいてなかったな、このうっかりめ。ほれ、さっさと彼女に告白してこい』

 

 そう言って通信が切れる。

 確かにそうだ。俺の使命はハジメ達の敗北を覆すこと。だったらハジメと共にいれば問題ない筈なのに、どうしてそれがわからなかったのだろう。

 俺はモバイルポータルをしまい、隠れ家へと戻った。

 

 

 

 隠れ家に戻って来ると、クリスタルのような透明のテーブルに料理が置かれており、ハジメとユエがソファーに座って待っていた。

 

「お、やっと戻って来たか」

「悪い。だけど、迷いはなくなったよ」

 

 俺はそう言ってユエの隣に座る。最初はハジメの隣だったのだが、八つ当たりと言わんばかりにハジメの射撃訓練が地獄になった。ハジメ曰く「某幻○郷の弾幕遊びの方がマシだ!」というぐらいには。

 まあ、そんなこんなで、俺はユエの隣に固定された。

 

「それじゃ、喰うか……」

「頑張れよ、ハジメ」

「ん。頑張って」

 

 ハジメは目の前にある、一見美味しそうな二つのステーキを前に、覚悟を決めた表情をする。俺とユエもまた、気遣うような眼差しを送る。俺達に見つめられながら、肉に噛りついたハジメは……

 

「ぐぅ、っ……がぁ」

 

 呻き声を上げ、体を強ばらせた。肉どころか、歯そのものを砕きそうなくらい強く噛みしめられた唇や、カタカタと震える手がハジメの異常を伝えてくる。それでもハジメは肉を噛り、神水(エリクサー(仮)の正式名称)を使って飲み込んでいく。

 

「っ、もう、一ヶ月も食い続けているってぇのに、未だこの痛みか……アイツ等は、どんだけ強かったんだ」

 

 そう、ハジメが食べていたのは、【オルクス大迷宮】最後の試練であるヒュドラの肉と、ルキフェルが差し向けてきたダークベヒモスの肉だ。

 あの日から、食事の度にあの二体の肉を食しているハジメだが、未だ体に痛みが走るようだ。

 ちなみに、俺は食べてない。そもそも、俺が魔物の肉を食べていたのは強くなる為でなく、他に食べる物がなかったからだ。

 

「……ん。あの二体は本当に別物。ヒュドラはきっと、オスカーだけじゃなくて、他の“解放者”達との合作だと思う」

「ダークベヒモスに関しては"纏雷"を与えて、さらにそれを伸ばしたんだろう。数のヒュドラと質のダークベヒモスって感じか」

「本来なら、この奈落の迷宮は、他の大迷宮の攻略を前提としているんじゃないか? 神代魔法の一つや二つ習得してなきゃ、攻略は至難だぞ」

 

 ハジメの言う通りだ。ハジメの作った兵器、神水、ユエ。俺はいてもいなくても変わらないだろうが、これらの一つでもかけてたら攻略は無理だった。

 

「言っておくが夜空、お前がいなかったらきっとユエもいないし、俺も壊れてた。お前と言う要があったから俺達は攻略できたんだ。いなくても変わらないとか思うなよ」

「そう言ってくれるなら、ありがたいな」

 

 俺は闇に傾きすぎた。だからだろうな、こんなに弱気になるのは。

 やがて、ヒュドラとダークベヒモスの肉を食べ終えたハジメと共に、流れ込んでくる地下水に紛れて落ちてきた魚や野菜を食べ始める。

 ちなみにこの野菜は食料庫にあった種を、畑で栽培したものだ。どうやら生長を促進させるアーティファクトが地中に埋められていたようで、僅か一週間で食べられるくらいに生長した。もっとも、そのアーティファクトの起動に膨大な魔力が必要で、俺では連続使用できなかった。

 

「魔物の肉ばっかり食べてたから、こういうのは新鮮だよな」

「ああ。ユエも料理の腕、あがってきてるんじゃないか」

「……チリシィのおかげ」

「ボクはただ教えただけだよ。料理が美味しいのは、ユエが頑張ったからだよ」

 

 そう、ユエはチリシィに料理を教えてもらっている。チリシィがなぜ料理を知っているのかというと、俺が料理しているのを見て学んだ。

 なお、そのチリシィは小さめの魚に噛りついている。……スピリットって食事したっけ? そういやこいつ、よく○リ○リ君にちょっと塩ふって食べてたな。

 ふとハジメを見ると、どこか遠くを見ていた。もしやと思い声をかける。

 

「ハジメ、白崎の事を考えてるのか」

「っ! な、なな、なんのことだ」

 

 思いっきり目が泳いでいる。図星のようで、食べ物を無心で食べ始める。

 

「……夜空。シラサキって誰?」

「ん。前に話したクラスメイトの一人だ。檜山はその白崎がハジメと仲良くしているのが気にくわなくて、俺達を落としたんだ」

「……その女の料理を食べたことある?」

「俺はないが、ハジメは逃亡に失敗した時とかに食べさせられてたな」

「……そう」

 

 興味を失ったのか、もしくは何かに納得したのか、ユエは食事に戻った。

 

 

 

 食事を終え、今はハジメが一人でお風呂に入っている。俺が入ると、もれなくユエも来るので仕方ないが。

 天井に浮かぶ人工の月明かりが優しく降り注ぐ中、俺とユエはテラスに置かれたふかふかのカウチに座っていた。

 

「なあ、ユエ。ちょっといいか」

「……ん」

 

 ユエは首を傾げながら俺を見つめる。けれど、俺はユエを見ずに正直を見続ける。

 

「俺さ……正直言うと、ユエの気持ちに答えたら、使命を忘れてしまうんじゃないかって不安になって、今まで答えられずにいた。使命を言い訳に断りたくもなかった。でも、ルクシア様に相談して気づかされたよ。ハジメと共にいる限り、使命は果たされるって。だからユエ」

 

 俺はそこで一旦区切り、ユエの方を向く。そして、ユエに微笑みながら俺の思いを伝える。

 

「俺は君が好きだ。だから、俺と付き合ってくれないか」

 

 ユエは俺の告白に目をパチクリとさせてから、俺に寄りかかって来る。

 

「……末長くお願いします」

「……ああ」

 

 俺は優しくユエを抱きしめた。それは、ハジメが来るまで続いた。




最初はパオプの実を食べさせ合うつもりでした。でも、そんなほいほい追加で持ち込む訳にも行かないので没になりました。


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第21話 旅立ち

原作からたまにある、ほとんど説明の回。

アンケート結果から、夜空は“守護者”に転職しました。にしても“勇者”の票が全体の5分の1もないって逆に凄くない。


 俺とユエが恋人になってから約一ヶ月、留まることを決めてから二ヶ月が経った。

 

「ハジメ、生成魔法で作った左腕はどうだ」

「ああ、問題ない。違和感なく動かせる。ユエのマッサージのおかげだ」

「……ん」

 

 ハジメの言葉にユエが胸を張る。俺はそんなユエの頭を撫でる。

 現在、ハジメの左腕には肩付近までピタリとはめ込むタイプの義手が取り付けられている。

 この義手はアーティファクトであり、魔力の直接操作で本物の腕と同じように動かすことができる。擬似的な神経機構も備わっており、魔力を通すことで触った感触もきちんと脳に伝わるように出来ているらしい。また、キーブレードを使わない場合は魔法陣が必要になるため、所々に魔法陣が刻まれている。

 さらに、この二ヶ月でハジメのステータスはかなり変わって、こうなっている。

 

=================

南雲ハジメ 16歳 男 レベル:???

天職:錬成師

筋力:11450

体力:13690

耐性:11170

敏捷:13950

魔力:15280

魔耐:15280

技能:鍵の力・錬成[+鉱物系鑑定][+精密錬成][+鉱物系探査][+鉱物分離][+鉱物融合][+複製錬成][+圧縮錬成]・魔力操作[+魔力放射][+魔力圧縮][+遠隔操作]・胃酸強化・纏雷[+砲雷]・天歩[+空力][+縮地][+豪脚][+瞬光]・風爪・夜目・遠見・気配感知[+特定感知]・魔力感知[+特定感知]・熱源感知[+特定感知]・気配遮断[+幻踏]・毒耐性・麻痺耐性・石化耐性・恐慌耐性・全属性耐性・先読・金剛・豪腕・威圧・念話・追跡・高速魔力回復・魔力変換[+体力][+治癒力]・限界突破・戦闘継続・生成魔法・言語理解

=================

 

=================

【鍵の力】

想像構成・ハイジャンプ・リフレクトガード[+ガードカウンター]・ドッジロール・ストライクレイド・サンダーダッシュ・キーブレード変形・ロックオン[+ライブラ]

=================

 

 ちなみに、俺のステータスはこうである。

 

=================

粋月夜空 16歳 男 レベル:82

天職:守護者

筋力:2650

体力:3000

耐性:2550

敏捷:2650

魔力:2750

耐魔:2550

技能:鍵の力・闇の力[+闇属性無効]・回復魔法[+効果上昇]・全属性適性[+全属性効果上昇]・全属性耐性[+全属性効果上昇]・剣術・高速魔力回復[+高速魔力回復Ⅱ]・気配探知・壁走り・魔力操作・胃酸強化・夜目・遠見・毒耐性・麻痺耐性・石化耐性・恐慌耐性・先読・念話・言語理解

=================

※高速魔力回復Ⅱ 魔力が尽きた場合、全回復まで魔法が使えなくなる代わりに回復速度が倍になる。

 

=================

【鍵の力】

想像構成・ハイジャンプ・リフレクトガード[+リベンジスラッシュ][+ラウンドガード]・ダークロール・ダブルフライト[+エアドッジ]・エアリカバリー[+リベンジブラスト]・グライド・エアスライド・ソニックレイヴ[+ダークスパイラル]・ザンテツケン・フラッシュライナー・ダークスプライサー[+ダークオーラ]・シャドウブレイカー・ストライクレイド[+ウインドレイド]・ラストアルカナム[+ソロアルカナム]・スタイルチェンジ[+ダークフォーム]・キーブレード変形・アクションフロー・シュートフロー[+ホーリーバースト]

=================

 

 レベルは100を成長限度とするその人物の成長度合いを示す。しかし、魔物の肉を食べ続けたハジメは、いつしかレベルが非表示になってしまった。おそらく、ステータスプレートがハジメの限度を計測できなくなったのだろう。

 俺に関しても色々と変わった。まず、天職が“守護者”になっていた。これ、光の守護者とかそういう意味じゃ無いよな。

 鍵の力に関しては、ダーク系が一気に増えた。その上、"リフレクトガード"から"ラウンドガード"が派生していた。あと、ガードカウンターも"リベンジスラッシュ"になった。そしてついでのように"ドッジロール"が消滅した。

 俺達はこの二ヶ月で、ハジメの義手以外にも新装備を手に入れた。その一つが“宝物庫”という便利道具。これはオルクスの攻略の証でもある指輪型アーティファクトで、指輪に取り付けられている一センチ程の紅い宝石の中に創られた空間に物を保管しておけるというものだ。要はチリシィのサイフと同じものだ。

 この“宝物庫”の容量の上限は、正確には分からないが相当なものだろう。なんせ、ハジメがあらゆる装備や道具、素材を片っ端から詰め込んでも、まだまだ余裕がありそうだからだ。そして、この指輪は、刻まれた魔法陣に魔力を流し込むだけで物の出し入れが可能だ。出す場合は半径一メートル以内の任意の場所に出すことができる。

 ハジメはこの機能をリロードに使う事にした。

 流石に、直接は無理だったようで、弾を空間に転送し、そのまま装填するという訓練をした。それがあの射撃訓練だ。まあ、銃の方も色々改造したらしいが割愛する。

 他にも、魔力駆動二輪“シュタイフ”と四輪“ブリーゼ”をハジメは製造した。

 これは文字通り、魔力を動力とする二輪と四輪で、ハジメの趣味で武装が満載である。

 また、ハジメはダークベヒモスに破壊されたシュラーゲンをアザンチウム鉱石という世界最高硬度の鉱物で造り直した。

 あと、新兵器として電磁加速式機関砲──メツェライやロケット&ミサイルランチャー──オルカン、そしてドンナーの対となるリボルバー式電磁加速銃──シュラークも開発した。

 他にも、ハジメは様々な装備・道具を開発した。しかし、装備の充実に反して、神水だけは遂に神結晶が蓄えた魔力を枯渇させたため、試験管型保管容器十二本分でラストになってしまった。枯渇した神結晶に、ハジメとユエが魔力を込めてみたのだが、神水は抽出できなかった。

 しかし、神結晶を捨てるには勿体無い。ということで、神結晶の膨大な魔力を内包するという特性を利用できないかと、ハジメに提案した。その結果、ハジメは神結晶の一部を錬成でネックレスやイヤリング、指輪などのアクセサリーに加工した。

 ユエは強力な魔法を行使できるが、詠唱が不要な分、込めようと思えばいくらでも魔力を込められるため、場合によっては直ぐに魔力枯渇に追い込まれる。しかし、電池のように外部に魔力をストックしておけば、強力な魔法でも連発出来るし、魔力枯渇で動けなくなるということもなくなる。

 そう思って、ハジメに“魔晶石シリーズ(命名ハジメ)”を作ってもらい、ユエに贈った。その際、ハジメから「もう爆発しちまえよ!」と言われた。

 それから十日後、遂に俺達は地上へ出る。

 三階の魔法陣を起動させながら、ハジメが俺とユエに告げる。

 

「夜空、ユエ……俺の武器や俺達の力は、地上では異端だ。聖教教会や各国が黙っているということはないだろう」

「ん……」

「だろうな」

「兵器類やアーティファクトを要求されたり、戦争参加を強制される可能性も極めて大きい」

「ん……」

「ああ」

「教会や国だけならまだしも、バックの神を自称する狂人共も敵対するかもしれん」

「ん……」

「そうだな」

「世界を敵にまわすかもしれないヤバイ旅だ。命がいくつあっても足りないぐらいな」

「今更すぎる」

「ん……今更」

 

 俺達の言葉に思わず苦笑いするハジメ。ハジメは一呼吸を置くと、望みと覚悟を言葉にする。

 

「俺達は最強だ。全部なぎ倒して、世界を越えよう」

 

 ハジメの言葉に、俺とユエは一度目を合わせる。そしてユエは、無表情を崩し花が咲くような、きっと世界一可憐な笑みをふわりと浮かべた。

 俺達は同時に返事をする。

 

「ああ!」

「んっ!」




ハジメのガードカウンターはKH2と同じもの。名前がリベンジ○○じゃなかった。

ちなみに、夜空は最初ダークバリアにしようと思ったのですが、リフレク型ガードだと突進系とかが通り抜けるため止めました。


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第2章 残念とウザいの二重奏
第22話 大峡谷の残念ウサギ


大変遅くなりました。いやね、クラスメイトサイドや断章としてルキフェルの過去でも書こうと思ったんですけど、クラスメイトサイドは「どこ変えよう」となって、断章は「短けぇ」と。

そして今回、ハジメが優しくなりすぎかなぁと思いますが、原作の流れは夜空が許さない気がするんで。



……あ、ペッタンコ発言どうしよう。


 魔法陣の光に満たされた視界、何も見えなくとも空気が変わったことは実感した。奈落の底の澱よどんだ空気とは明らかに異なる、どこか新鮮さを感じる空気に頬が緩む。

 やがて光が収まり目を開けた俺達の視界に写ったものは……洞窟だった。

 

「なんでやねん」

 

 魔法陣の向こうは地上だと無条件に信じていたのか、ハジメがツッコミを入れた。

 

「秘密の通路は隠すのが普通だろ」

「あ、ああ、そうか。確かにな。反逆者の住処への直通の道が隠されていないわけないか」

 

 俺の言葉にハジメは頭をカリカリと掻きながら気を取り直す。緑光石の輝きもなく、真っ暗な洞窟ではあるが、俺達は暗闇を問題としないので道なり進むことにした。

 途中、幾つか封印が施された扉やトラップがあったが、オルクスの指輪が反応して尽く勝手に解除されていった。一応警戒していたのだが、拍子抜けするほど何事もなく洞窟内を進み、遂に光を見つけた。外の光だ。俺とハジメはこの数ヶ月、ユエに至っては三百年間、求めてやまなかった光。

 ハジメとユエが同時に求めた光に向かって駆け出したので、俺も軽く息を吐いてからその後を追った。

 近づくにつれ徐々に大きくなる光。外から風も吹き込んでくる。奈落のような澱んだ空気ではない。ずっと清涼で新鮮な風だ。

 そして、待望の地上へ出た。

 地上の人間にとって、そこは地獄にして処刑場だ。断崖の下はほとんど魔法が使えず、にもかかわらず多数の強力にして凶悪な魔物が生息する。深さの平均は一・二キロメートル、幅は九百メートルから最大八キロメートル、西の【グリューエン大砂漠】から東の【ハルツィナ樹海】まで大陸を南北に分断するその大地の傷跡を、人々は【ライセン大峡谷】と呼ぶらしい。

 俺達は、その【ライセン大峡谷】の谷底にある洞窟の入口にいた。地の底とはいえ頭上の太陽は燦々さんさんと暖かな光を降り注ぎ、大地の匂いが混じった風が鼻腔をくすぐる。

 たとえどんな場所だろうと、確かにそこは地上だった。俺より先に出たハジメとユエは呆然と頭上の太陽を仰ぎ見ていたが、表情が次第に笑みを作る。

 

「戻って来たな」

「……ああ」

「……んっ」

 

 俺の言葉に二人は、ようやく実感が湧いたのか、太陽から視線を逸らすとお互い見つめ合い、そしてユエは思いっきり俺に抱きついてきた。

 

「よっしゃぁああーー!! 戻ってきたぞぉおおおおおっ!!」

「んっーー!!」

「おとと」

 

 ユエが抱きついてきた勢いのまま、俺はくるくると廻る。それからしばらくの間、人々が地獄と呼ぶ場所には似つかわしくない笑い声が響き渡っていた。途中、地面の出っ張りに躓つまずき転到するも、そんな失敗でさえ無性に可笑しく、三人して笑い合う。

 ようやく俺達の笑いが収まった頃には、すっかり……魔物に囲まれていた。

 

「はぁ~、全く無粋なヤツらだな。……確かここって魔法使えないんだっけ?」

 

 ドンナー&シュラークを抜きながらハジメが首を傾げる。座学に励んでいたハジメには、ここが【ライセン大峡谷】であり魔法が使えない場所であると理解していたようだ。

 

「……分解される。でも力づくでいく」

 

 【ライセン大峡谷】で魔法が使えない理由は、発動した魔法に込められた魔力が分解され散らされてしまうからである。もちろん、ユエの魔法も例外ではない。

 しかし、ユエは、かつての世界最強の一角として周知されていた吸血姫であり、内包魔力は相当なものである上、今は外付け魔力タンクである“魔晶石シリーズ”を所持している。

 つまり、大峡谷の特性を以てしても、瞬時には分解しきれないほどの大威力を以て魔法を放ち、一気に殲滅してしまえばいいというわけだ。

 

「力づくって……効率は?」

「……ん……十倍くらい」

 

 どうやら、初級魔法を放つのに上級レベルの魔力が必要らしい。射程も相当短くなるようだ。

 

「あ~、うん。それなら、俺達がやるからユエは身を守ることに専念してくれ」

「うっ……でも」

「いいからいいから。ここは魔法使いにとって鬼門だろ? 任せてくれ」

「ん……わかった」

 

 ユエが渋々といった様子で引き下がる。せっかく地上に出たのに、最初の戦いで戦力外とは納得し難いのだろう。少し矜持が傷ついたようだ。唇を尖らせて拗ねている。

 俺はそんなユエの様子に少しばかりグッときつつ、キーブレードを構えて魔物へ向かって駆け出した。

 そこから先は、もはや戦いではなく蹂躙だ。

 魔物達は、ただの一体すら逃げることも叶わず、まるでそうあることが当然の如く骸を晒していく。辺り一面が魔物の屍で埋め尽くされるのに五分もかからなかった。

 ドンナー&シュラークをホルスターにしまい、首を僅かに傾げながら周囲の死体の山を見ているハジメに俺は尋ねる。

 

「……どうした?」

「いや、あまりにあっけなかったんでな。……【ライセン大峡谷】の魔物といやぁ相当凶悪って話だったから、もしや別の場所かと思って」

「……夜空とハジメが化け物なだけ」

「それは酷くないか、ユエ。まぁ、奈落の魔物が強すぎたってことだろ」

「そうだな」

 

 そう言って肩を竦めたハジメは、もう興味がないという様に魔物の死体から目を逸らした。

 

「さて、この絶壁、登れるだろうが……どうする? 【ライセン大峡谷】と言えば、七大迷宮があると考えられている場所だ。せっかくだし、樹海側に向けて探索でもしながら進むか?」

「峡谷抜けて砂漠横断とか流石にキツいし、樹海側なら町もありそうだし、いいんじゃないか」

「……確かに」

 

 ハジメの提案に、俺とユエは賛同する。魔物の弱さから考えても、この峡谷自体が迷宮というわけではなさそうだ。ならば、別に迷宮への入口が存在する可能性はある。絶壁を超えることは可能だが、どちらにしろ【ライセン大峡谷】は探索の必要がある。

 ハジメが右手の中指にはまっている“宝物庫”から“シュタイフ”を取り出す隣で、俺はキーブレードを鳥のような形の乗り物に変形させる。それに颯爽と跨り、ユエの手を取って俺の後ろに乗せる。

 魔力の直接操作によって動かしているシュタイフは【ライセン大峡谷】では魔力効率が最悪に悪いので、あまり長時間は使えない。

 それに対してこっちは魔力ではなく、キーブレードの力で飛行するため問題ない。その事を知ったハジメに「なんかズリィ」と言われた。

 【ライセン大峡谷】は基本的に東西に真っ直ぐ伸びた断崖だ。そのため脇道などはほとんどなく道なりに進めば迷うことなく樹海に到着する。俺達は、迷う心配が無いので、迷宮への入口らしき場所がないか注意しつつ進んでいく。

 

「風が気持ちいいな、ユエ」

「……ん。すごく」

「ちっ!」

 

 風を切りながら、太陽の光と土の匂い混じりの空気を堪能する。その間も襲い来る魔物をハジメは舌打ちしつつ、一発も外すことなく蹴散らしていた。

 しばらく進むと、それほど遠くない場所で魔物の咆哮が聞こえてきた。もう三十秒もしない内に会敵するだろう。

 大きくカーブした崖を回り込むと、その向こう側に大型の魔物が見えた。かつて見たティラノモドキに似ているが頭が二つある。双頭のティラノサウルスモドキだ。

 だが、真に注目すべきは双頭ティラノではなく、その足元をぴょんぴょんと跳ね回りながら半泣きで逃げ惑うウサミミを生やした少女だろう。

 ハジメがシュタイフを止めて胡乱(うろん)な眼差しで今にも喰われそうなウサミミ少女を見やる。俺はそんなハジメの斜め右上空で止まる。

 

「……何あれ?」

「……兎人族?」

「なんでこんなとこに? 兎人族って谷底が住処なのか?」

「……聞いたことない」

「じゃあ、あれか? 犯罪者として落とされたとか? 処刑の方法としてあったよな?」

「……悪ウサギ?」

 

 俺達は首を傾げながら、逃げ惑うウサミミ少女を尻目に呑気にお喋りに興じる。あれか、これかと話し合い、最終的に一旦助けて事情を聞く事に決まった。

 そして行動を開始しようとしたら双頭ティラノに吹き飛ばされたのか、ウサミミ少女がゴロゴロと地面を転がり、その勢いを殺さず猛然とこちらへ向かって逃げ出した。

 それなりの距離があるのだが、ウサミミ少女の必死の叫びが峡谷に木霊する。

 

「みづけだぁ!! やっとみづけましだよぉ~~! だずげでぐだざ~い! ひぃいいい、死んじゃう! 死んじゃうよぉ! だずけてぇ~、おねがいじますぅ~!」

 

 滂沱の涙を流し顔をぐしゃぐしゃにして必死に駆けてくる。そのすぐ後ろには双頭ティラノが迫っていて今にもウサミミ少女に喰らいつこうとしていた。このままでは、俺達の下にたどり着く前にウサミミ少女は魔物の腹に収まることになるだろう。

 ハジメはウサミミ少女の言葉に首を再度傾げる。

 

「……“やっとみつけた”? 聞くことか増えたな」

 

 だが、一旦とはいえ助けると決めた以上は助ける。

 ハジメがドンナーを発泡するのと同時に、キーブレードライドの翼からレーザーを四つ放つ。弾丸とレーザーは双頭ティラノの頭部をそれぞれ貫通した。

 力を失った頭が地面に激突し、慣性の法則に従い地を滑る。

 その衝撃で、ウサミミ少女は再び吹き飛ぶ。狙いすましたようにハジメのもとへ。

 

「きゃぁああああーー! た、助けてくださ~い!」

 

 眼下のハジメに向かって手を伸ばすウサミミ少女。その格好はボロボロで女の子としては見えてはいけない場所が盛大に見えてしまっている。

 さすがに嫌だったのか、ハジメはシュタイフを後退させて華麗にウサミミ少女を避けた。

 

「えぇー!?」

 

 ウサミミ少女は驚愕の悲鳴を上げながらハジメの眼前の地面にベシャと音を立てながら落ちた。両手両足を広げうつ伏せのままピクピクと痙攣している。気は失っていないが痛みを堪えて動けないようだ。

 

「……なんて残念なウサギさん」

 

 ユエがウサミミ少女の醜態を見て、さらりと酷い感想を述べる。少しして痙攣していたウサミミ少女が跳ね起き、活き絶えた双頭ティラノを見る。

 

「あ、あのダイヘドアが一瞬で……」

 

 どうやらアレは“ダイヘドア”というらしい。

 呆然としたままダイヘドアの死骸を見つめ硬直しているウサミミ少女だが、キーブレードライドから降りたユエに蹴られて正気に戻る。

 

「先程は助けて頂きありがとうございました! 私は兎人族ハウリアの一人、シアといいます! 取り敢えず、私の家族も助けてください! ものすっごくお願いしますっ」

 

 そんな図太いシアと名乗ったウサミミ少女に、ハジメは溜息をつく。

 

「助ける助けないは話を聞いてからだ。いいな」

「はいですぅ!」

 

 そして彼女は、事情を話し出した。




夜空のキーブレードライドはテイルズオブシンフォニアのレアバードをイメージしてください。

書籍10巻、結構加筆されてましたな。ユエのところとか。
そして勇者が酷くなってた気もする。

それはそうと、ドラマCD。リリィが香織達を間接的に売ってて笑った。
それはそれとして、優花グッズくーださい。


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第23話 ハウリア

超お久しぶりです!
ようやくヨゾラ倒せました。

そして悲報なんですが、久しぶり過ぎて夜空のキャラや話の流れをド忘れしてしまいました。
申し訳ないのですが、本作は今回の投稿をもって未完とさせていただきます。

その代わりと言ってはなんですが、現在、本作のリメイク小説を筆記中です。夜空君も強化が入るのでお楽しみに。(KHの新作が出るまでには……)



 シア達、ハウリアと名乗る兎人族の一部族達は【ハルツィナ樹海】にて百数十人規模の集落を作りひっそりと暮らしていた。兎人族は、聴覚や隠密行動に優れているものの、他の亜人族に比べればスペックは低いらしく、突出したものがないので亜人族の中でも格下と見られる傾向が強いらしい。性格は総じて温厚で争いを嫌い、一つの集落全体を家族として扱う仲間同士の絆が深い種族だ。また、総じて容姿に優れており、エルフのような美しさとは異なった、可愛らしさがあるので、帝国などに捕まり奴隷にされたときは愛玩用として人気の商品となる。

 そんな兎人族の一つ、ハウリア族に、ある日異常な女の子が生まれた。兎人族は基本的に濃紺の髪をしているのだが、その子の髪は青みがかった白髪だったのだ。しかも、亜人族には無いはずの魔力まで有しており、直接魔力を操るすべと、とある固有魔法まで使えたのだ。

 当然、一族は大いに困惑した。兎人族として、いや、亜人族として有り得ない子が生まれたのだ。魔物と同様の力を持っているなど、普通なら迫害の対象となるだろう。しかし、彼女が生まれたのは亜人族一、家族の情が深い種族である兎人族だ。百数十人全員を一つの家族と称する種族なのだ。ハウリア族は女の子を見捨てるという選択肢を持たなかった。

 しかし、樹海深部に存在する亜人族の国【フェアベルゲン】に女の子の存在がばれれば間違いなく処刑される。魔物とはそれだけ忌み嫌われており、不倶戴天の敵なのである。

 故に、ハウリア族は女の子を隠し、十六年もの間ひっそりと育ててきた。だが、先日とうとう彼女の存在がばれてしまった。その為、ハウリア族はフェアベルゲンに捕まる前に一族ごと樹海を出たのだ。

 行く当てもない彼等は、一先ず北の山脈地帯を目指すことにした。山の幸があれば生きていけるかもしれないと考えたからだ。未開地ではあるが、帝国や奴隷商に捕まり奴隷に堕とされてしまうよりはマシだ。

 しかし、彼等の試みは、その帝国により潰えた。樹海を出て直ぐに運悪く帝国兵に見つかってしまったのだ。巡回中だったのか訓練だったのかは分からないが、一個中隊規模と出くわしたハウリア族は南に逃げるしかなかった。

 女子供を逃がすため男達が追っ手の妨害を試みるが、元々温厚で平和的な兎人族と魔法を使える訓練された帝国兵では比べるまでもない歴然とした戦力差があり、気がつけば半数以上が捕らわれてしまった。

 全滅を避けるために必死に逃げ続け、ライセン大峡谷にたどり着いた彼等は、苦肉の策として峡谷へと逃げ込んだ。流石に、魔法の使えない峡谷にまで帝国兵も追って来ないだろうという考えのもと、ほとぼりが冷めて彼等がいなくなるのを待とうとしたのである。魔物に襲われるのと帝国兵がいなくなるのとどちらが早いかという賭けだった。

 しかし、予測に反して帝国兵は一向に撤退しようとはしなかった。【ライセン大峡谷】には、東西それぞれの端に崖をそのまま削り出した階段が存在し、谷底へと下りる出入口がある。帝国の小隊は、大部分が帰還したものの、その出入口に一個小隊を陣取らせ、兎人族が魔物に襲われ出てくるのを待つことにしたのだ。

 そうこうしている内に、案の定、魔物が襲来した。もう無理だと帝国に投降しようとしたハウリア族だったが、峡谷から逃がすものかと魔物が回り込み、ハウリア族は峡谷の奥へと逃げるしかなかった。そうやって、追い立てられるように峡谷を逃げ惑い……

 

「……気がつけば、六十人以上いた家族も、今は四十人程しかいません。このままでは全滅です。どうか、どうかお願いです! 助けて下さい!」

 

 最初の残念な感じとは打って変わって悲痛な表情で懇願するシア。

 話を一通り聞いたハジメは、「へぇ」と納得したように頷いた。どうやら、シアは、俺やハジメ、ユエと同じ、この世界の例外というやつらしい。特に、ユエと同じ、先祖返りと言うやつなのかもしれない。

 話を聞き終えて、ハジメが出した回答は……

 

「集合、会議」

 

 俺達との話し合いだった。

 

「さて、どうする」

「問題は助けた後だな。さっきの話からすると、ハウリア族は戦う術がない。ということは、俺達がいなくなれば、また危険に晒される」

「……でも、樹海の案内にはちょうどいい」

「それなんだよなぁ……あ、ちょうどいい教育方法があった」

 

 どうやらハジメが良い案を思い付いたらしい。

 

「あー、じゃあハウリアはお前に一任していいか」

「おう」

 

 ハウリアはハジメに任せることにし、助けることになった。後に、俺はこの判断を後悔することになるとも知らずに。




前書きに書いた通り、本作は今回の投稿で未完とさせていただきます。

リメイク(?)は物語やカップリングが変わりますので、お楽しみに!


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