蛇との出会い (葛城瑠璃)
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迷い

あたりに響く断末魔。周りに散らばる肉片。

その中心にはドレスを血色に染めた肌が真っ白な美しい女性。

彼女は「スノウホワイト」もとい白雪姫である。

今しがた殺戮を終え、心の落ち着きを取り戻している最中である。

 

(これは主のため。)

 

(仕方のない犠牲。)

 

(私の正義のため。)

 

(私は正常だ。)

 

心の落ち着くまでずっと繰り返す。

己が感じる「命を奪う重み」から目を背けるために。

長い静寂を終え、スノウは血が飛び散るこの場から離れていった。

 

 

 

************************

「そろそろ、カナ?」

 

「ソロソロ、じゃナイ?」

 

「タノしみだね。」

 

「たの、シミだナ。」

 

「「アノ子の心がクダけルノは近イ。」」

 

「クヒヒヒヒヒヒヒヒヒ。」

 

「アハハハハハハハハハ。」

************************

 

スノウは湿っぽい洞窟の中仮眠を取ろうとしていた。

幾度もなく命を奪い続けた剣を、離れた場所において。

 

ギシン「寝てイルのデスか?」

 

アンキ「寝てイますネ。」

 

ギシン「起こしマスか?」

 

アンキ「起こしてみたらイイんじゃない?」

 

(うるさい。静かにしろ。)

 

喋り続ける人形にそう思う。

が、口に出すことができない。

ナイトメアとの連戦。精神の歪み。

それが積み重なり、身も心も疲弊しきっていた。

興味をなくしたのか、いつの間にか人形はいなくなっていた。

洞窟に響くのは、水が滴る音のみ。

外では木々が揺れる音のみが聞こえる。

何もない。

この時だけがスノウを癒す、唯一の時間。

このひと時をスノウは手放したくないと何度思っただろう。

だがこの世界は残酷であり、無慈悲である。

木々を踏み倒し、こちらに近づいてくる足音。

己の癒しの時間に土足で踏み込む何かにスノウは怒りを覚えた。

剣を持ち、洞窟の前で迎撃態勢をとる。

だんだん近づいてくる足音。

スノウも音の鳴るほうへ近づきそして対面する。

人間に作られた意志も魂もない抜け殻のような存在

“ゴーレム”

 

スノウは少しだけだが安心感を得られた。

 

(魂がないなら、命を持つものとは言えない。)

 

そしてスノウはゴーレムを破壊する。

一体、また一体と着実に数を減らしていく。

 

ギシン「スノウ強―イ!」

 

アンキ「強―イ!」

 

ギシンとアンキが草むらから声援なのか煽りなのかわからない言葉を棒読みで叫んでいる。

だがスノウには届かない。

我を忘れたわけではない。

ただ壊すことに集中していた。

一秒でも早く癒しの時を得たいがために。

そして残り三体となった時スノウは違和感を覚えた。

ギシン達以外の声が聞こえてきた。

今にも死にそうな、か細い声。

聞き取りにくいが、スノウには確かに聞こえた。

 

「イタイ・・・」と。

 

背中に悪寒が走る。

攻撃をやめ、ゴーレムの残骸に目を向ける。

その瞬間スノウは膝から崩れ落ちた。

魂のないと思っていたゴーレムが涙を流しているのだ。

 

そして周りから

 

「イタイ」

 

「クルシイ」

 

「タスケテ」

 

と、悲痛な声が聞こえてくる。

 

それはスノウのギリギリ保っていた精神を崩壊させるには十分なものだった。

 

「イヤ、イヤ、いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

 

スノウは喉が裂けんばかりの悲鳴を上げた。

 

(私は、私は、私は!)

 

スノウはどうにかして精神を保とうとする。

だが、ゴーレムたちの悲痛な声は呪詛のように頭の中で永遠と聞こえ続ける。

どんなに違うことを考えようとも。

どんなに忘れようと思っても。

主のためだとと思っても。

自身の正義のためだと思っても。

声は彼女の精神から離れることはなかった。

 

ピキッ!

 

何かに亀裂が走る音。

音は幾度となく聞こえ続ける。

 

ピキピキ・・・ピキッ!

 

そして。

 

ボキン・・・

 

折れた。

 

「あは、アハハ・・・。」

 

「命を奪う重み」の重圧に潰されたスノウは。

 

「あっハハハハっははははっハハハハハっはははは!」

 

心が折れてしまった。

 

ギシン「オレちゃっタ!アハハハハハ!」

 

アンキ「オレタ!キヒヒヒヒヒヒヒ!」

 

ギシンとアンキも歓喜に満ちた笑い声をあげる。

だが、スノウは笑うことをやめ、人形に近寄る。

そして笑みを浮かべ、人形たちを己の剣で粉々にした。

 

「あ~あ、壊れちゃった。でも面白いなぁ。」

 

その光景に残っているゴーレムたちは恐怖を覚える。

スノウとは戦うことはせず逃げようとする、が。

 

「ど~こ~い~く~の~?」

 

逃げ道にスノウが立ちふさがり、ゴーレムたちの足を切断する。

 

「ねぇ、イタイ?イタイよねぇ~!」

 

「タス、ケ、テ・・・。」

 

ゴーレムが助けてと懇願しても悲痛な叫びを上げてもスノウは止まることはない。

 

「アハハハハハハハハハハハハハハ!」

 

それでいて、最大限に苦痛を味合わせ、ゴーレムの悲鳴を楽しんでいた。

まるで、好きな音楽を聴いているときのように。

うっとりとした表情で楽しんでいた。

その姿はまるで相手を嬲ることを快楽とする殺人鬼。

そんな姿を見て壊れた人形たちは笑う。

 

ギシン「どんなナイトメアになるカナ?」

 

アンキ「醜いナイトメアニなるカナ?」

 

ギシン「楽しミだネ!」

 

アンキ「トテモ、楽しみダネ!」

 

ギシン「クヒヒひひひヒヒヒヒ」

 

アンキ「アハハハははははハハ」

 

壊れた人形たちは待つ時間がもったいないほど楽しんでいた。

美しいものが壊れ行く姿を。

醜いものが美しいものを壊すその瞬間を。

今か今かと笑いながら待っている。

 

 



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