Vが目覚める Fate/ Grand order (変人ちゃん)
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一話

核廃絶エンドが実機で見れて衝動書き


「私は死なん...いつか、決着をつけよう。いつの日か...また会おう!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(すまないイシュメール......俺はしくじった.......)

 

 

男は一人、11年の付き合いになる左腕を伸ばす。

 

 

(....思えば電子煙草(ファントムシガー)以外を吸うのも久々だな.....)

 

 

壊れかけの腕に葉巻を持たせながら、男は自らの最期を待つ

 

 

(足が動かん.....強心剤も今度ばかりは役に立たんなぁ.....

ソリッドはまだまだ青いと思っていたが.....俺も老いたな.....)

 

 

ボロボロの体を壁に預け、男は一人呟く

 

 

「.........長いことあんたの"影"をやってきたが.....俺は上手くやれたか?.....イシュメール....いや....」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ボス.........

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それは今からそう遠くない時代の話だ

裏の世界を歩む者には大きな衝撃を走らせ、その衝撃は表の世界を歩む人間にも少なからず知れ渡る事となる

 

大規模な爆破に終わった武装要塞国家(アウターヘブン)は、大衆には震災による倒壊として報道された

しかしそれで満足しない人間も一定数存在した

そういった人間の多くは取るに足らない説を唱え、やがてそれらは小さな都市伝説となっていった

しかし間違いなく、人々の日常を侵す"何か"が、この事件を皮切りに表の世界へ表出したのだ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

時は変わり

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「つまりこれで....英霊?...が召喚できるんですよね!」

 

燃え盛る街の中で、緊張感に欠けた様子の藤丸立香に苛立ちを覚えながら

呆れたようにオルガマリーは答える

 

「.....そうよ、いいから聖晶石を置きなさい!

いつまでも滞在してられないんだから....」

「あぁ!、まずいことになったぞぅ三人とも!

ここからそう遠く無い所に大きな反応があるみたいだ!」

「今はまだ近づいてきていないが、いつコッチに気付くか分からない!

召喚をするなら手早く頼むよ!」

 

余裕のない声で通信越しから唐突に会話に割り込んだロマ二に一同は驚くが

それ以上に状況が切迫している事を理解する

 

「っ!......先輩!」

「分かってるマシュ!」

 

マシュに背を押され、大盾(聖遺物)の上に聖晶石を配置する

やがて眩い光が輪の形を持って出現すると大きく回り始める

 

(まぶしい.....どんな人が呼ばれるんだろうか?.....)

 

光の輪は三つに分裂し更に大きく回転すると、やがて一つの柱のように収束し

目を開けていられない程の光を放つ

 

 

 

光が止むと

 

 

 

 

 

 

「おい坊主」

 

 

 

 

 

 

低く、通った声に、三人は目を開く

 

 

 

 

 

三人がまず目に入ったのは、男の右目だ

三本の紐で留められた眼帯で覆われた右目は、まず何よりもそこにいた三人の視線を引いた

左目と鼻辺りには傷跡が残っている

 

近代的なボディスーツを纏った、肩幅の広く、がっしりとした印象を受けるその体は、およそ多くの鍛錬によって出来上がったものだと容易に想像がつく

 

皺を刻んだ顔から覗かせる眼光は鋭く、しかし温かさをも持ち合わせていた

 

(...不思議な人ですね.....

鋭い目をしているのに、どことなく優しそうにも見えます)

(それに頭には.....角....?)

 

特に顔を注視していたマシュは真っ先に、男の頭から生えているように見える黒い角のようなモノに気が付いた

 

「....ああ、どうやら呑気に自己紹介をしてはいられないようだな.....来るぞ坊主」

「えっ?」

 

男はそう言うと腰元から銃を抜き、虚空へと銃撃を放った

 

 

 

 

 




しょーせつとかかいたことないんよね


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二話

ショッキングかもしれない


男はそう言うと腰元から銃を抜き、虚空へと銃撃を放った

 

「グッ....!」

 

 

.....いや、正確には"虚空であった"場所にである

放たれた弾丸を弾く音と共に、人を形どったモノが現れる

 

「まずいぞ三人とも!その反応はサーヴァントだ!」

「サーヴァント!?でもあの姿は.....?」

 

立香が困惑するのも無理はない

長い髪にスレンダーな体系は、かろうじてソレが人間であることを認識させるだろう

しかしそれだけだ

彼女を語るものはそれ以外に見当たらない

 

顔が、腕が、脚が

彼女を語るそれらは異様な影に覆い隠されていた

 

「ナゼ....ワタシガイルト....」

「隠れんぼは俺も得意でな、どうやらアンタとは気が合うらしい」

「ホザケェッ!」

 

女は鎖の付いた短剣を両手に持ち、素早く跳躍すると、常人を超えた速度で男に切りかかる

 

「盾の嬢ちゃんは坊主と軟弱そうなのを守ってやれ」

「っ....はい!」

「ちょっと!軟弱そうって何よ!」

 

眼前に迫る刃を、男は僅かに体を逸らして受け流す

右へ、左へ

いつの間にやら取り出したナイフを巧みに扱いながら、自らに迫る死を表情一つ変えずに流し続ける

 

(凄い.....!)

(あれっ.....でもなんで.....?)

 

藤丸は息を呑む

しかしあまり良くは無い現状に気づく

 

縦横無尽に、様々な角度から攻撃を仕掛けている女に比べ、男は実に対照的だ

彼は戦いが始まってから一度も攻撃を仕掛けていない

一言に表してしまえば防戦一方と言えるその様は、とても優勢な状況とは呼べない

 

「遅イッ!」

 

女はその動きをさらに加速させる

圧倒的な速度に付随して、その斬撃の重みは増して行く

手に持つナイフで斬撃を流す音は、次第に大きくなり

流し続ける男の表情も険しいように見える

 

 

やがて

 

「チッ....」

「モラッタァ!」

 

斬撃ではなく、フェイントを入れた蹴りに手元を掬われる

男は距離を取ろうと地面を蹴るが速さで相手には敵わない

自らに迫る刃を前に、男は咄嗟に左腕を出す

 

「あぁっ!?」

 

見ていた誰かが声を上げる

人間は本能的に、目の前に危険な物と認識する物が迫ると

手を前に出して自らを守ろうとする

しかし出さなくて良い局面で手を伸ばし、余計な怪我を負う事もある

 

(フフ....甘イ)

 

女は勝利への一手を確信し思わず口角を上げる

 

(マズハ.....ソノ腕カラ)

 

飛び上がった彼女の斬撃は、吸い込まれるように男の左腕へと向かって行く

藤丸達は思わず目を背けた

 

 

 

 

 

 

しかし

 

 

 

 

 

 

「ナッ....!」

(....えっ....?)

 

 

 

ガキンという金属音を聞き、思わず目を開ける

彼女の斬撃を受けボディアーマーの剥げた部分からは

 

 

 

 

赤い塗装がなされた機械仕掛けの腕が姿を覗かせていた

 

(コイツ......”義手”カ!?)

 

女が気づいたのと同時である

男はその左腕を、短剣を振りかざした腕へ伸ばす

 

(マズイッ!)

 

未だ地に足の着いていない彼女には、その腕を躱す手段に欠ける

そして男は余った右腕で彼女の顔をつかみ

 

「フンッ!」

(シマッ)

 

 

 

 

 

 

 

容赦なく地面へ叩きつけた

バシャリという音が聞こえると同時に、彼らは顔を背ける

しかし聞こえた音は容易に、彼らにショッキングな光景を想像させる

 

 

 

“中身”をぶちまけたのだろうか

 

「ウグッ.....!」

 

最悪の光景を想像し、思わず吐き気をこらえる

 

「.....すまん、手加減して組み伏せても、あの様子じゃ話はできんと思ったんだが......アンタらの目の前でやるべきじゃなかったな」

 

 

 

声がする

 

 

 

「だがようやっと、呑気に自己紹介ができそうだ」

 

 

 

声につられて、男の顔を見る

 

 

 

振り向き様に、血を被った顔と角のようなものが相まってか

藤丸はその姿に

 

 

 

 

「俺はスネーク......アヴェンジャーのサーヴァントだ」

 

 

 

 

“鬼”を幻視した

 

 

 

 




せんとーびょうしゃってむずかしいなぁ


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三話

Vくんに出番をあげられなかった


燃え盛る街を見下ろし、外套をたなびかせながら

黒い男は目を細めた

 

(あの女が退場か.....所詮我々は残滓、残り香のようなモノだ

真正面からでは純正の英霊には及ばないか)

(しかしあの男.....)

 

驚異的な眼を以って、事の顛末をその目に収めた男は

自らの組する相手に手を下したサーヴァントに思考を巡らす

 

「.....いや」

 

男は思考を外に追いやり、自らの役割を全うする

 

(アレがなんであろうとも、我々の敵以外の立ち位置にいる者ではない.....)

 

男はその姿をそのまま写したような黒い長弓を取り出し、矢を宛てがう

およそ常人が弓で狙う距離では無いだろう

 

(であるならば私の成す事は決まっている)

 

しかし男はそのような事などは微塵も懸念してはいなかった

男は一度、肺の中身を全て出すように息を吐き捨て

 

 

全霊を込め、番えた矢を引き絞り

 

 

 

 

「ハアッ!」

 

 

 

 

音は、越しただろうか

 

まともな人間ならば目の前で何が起きたか分からないだろう

そのような矢を放っておきながらしかし

 

 

 

 

 

 

「チィッ......今の出力では”この程度”が限度か.....」

 

男は舌打ちする

 

「.....まあいい、いずれ決着が着くだろう」

 

男はそう言い放つと、”命中する事の無い”矢に興味を失くしたように背を向け姿を消した

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「それで?アンタらはなんて

 

男は言葉を途切らせる

心臓が握られたような錯覚を感じながら振り返り

 

(マズイ.....!)

「...っあぁ!?」

 

遅かった

ソレがこの場所に着弾するのにおよそ一秒と少し

その時間を用いてこの現状を打開する手段を、この英霊は.....

いや.....マシュも、藤丸も、オルガマリーも

この場に居合わせた者には誰一人として持ち合わせていなかった

そもそも後者の二人はまだソレに気づいてすらいない

彼らはこの瞬間に詰んだのだ

 

 

 

 

 

しかし、一秒後に彼らは蒸発していたわけでは無かった

 

 

 

 

(.....なに?)

 

直前までソレから目を離さなかった彼は、飛来した物が激しい炎で燃え盛るのを目視した

炎によって大きく力を削がれたそれはしかし、まだ十分に後ろにいる生身の人間を溶かしうる火力を秘めている

 

「....ッ!」

 

マシュは目を見開き、英霊としてのスペックをフルに使い地を蹴る

盾を構え、全力を尽くし飛来物を受け切る

直後にソレは小さな爆発を起こす

 

「グッ.....」

 

襲い来る衝撃を、か細い足で耐え凌ぐ

 

「マシュっ!」

 

二人が駆け寄る

 

「ちょっと!今何があったの!?」

「説明も自己紹介も後だな

この場に居ればまたアレが飛んでくるかもしれん」

「それに.....また誰かさんの助けが入るとは限らんからなぁ!」

「「えっ?」」

 

困惑する二人を尻目に

スネークと名乗った男は、倒壊した建物の裏に向けて

その場所にいた人物へ声が聞こえるように声を上げた

 

「なぁ〜んだ、気づいてたのかよ」

「ああそれと、そんなに急がなくてもいいと思うぞ」

 

物陰から、フードを被った人物が現れる

 

「どうやら”アイツ”、どっかに行っちまったみたいだぜ?」

 

気さくな口調とは裏腹に、フードから覗かせる赤い瞳は

どこか違う場所を見ているかのような、聡明な雰囲気を纏っていた

 

 

 

 




本気の赤いアーチャーさんって、音速の6倍ぐらいの矢を飛ばしてるらしいですね


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四話

説明回


「俺はまあ、キャスターって呼んでくれ、それで?」

 

青いフードに青いローブ、いかにも魔術師といった格好の男は、自らの素性を口にして次はアンタらだと彼らの言葉を促した

 

現在彼らは霊脈地を離れ、襲撃を受けた場所から遠ざかるように足を進めている

 

「ええ、私たちは.....」

 

人類の営みを永久に存続させるために設立された組織

 

人理継続保障機関フィニス・カルデア

 

組織の名にある通り、未来における人類の存続を保障し続けるという目的をカルデアは遂行し続ける事が出来なくなった

 

2016年

何者かの歴史介入により、あり得るはずのない特異点事象を観測したカルデアは、これを人類史を脅かす要因と仮定し、速やかに除去するというプロジェクトを立ち上げた

 

「.....それで、そのプロジェクトの一環で集められたのが俺ってことですね?」

「事前説明とこの場所であなたと合流して、計二回は似たような説明をしたわよね?なんでまだ自信なさそうに確認してるのかしら?」

「ハイスイマセン所長」

「嬢ちゃんはなかなか俺のタイプだな、気の強い女は嫌いじゃないね」

「そッ、そうかしら?.....」

「マジですか兄貴.....」

 

所長相手にそんなことを言ってのけたキャスターに、尊敬半分呆れ半分のなんとも言えない感情を抱く藤丸

 

「それでまあ、そのプロジェクトの序盤も序盤、いざこの特異点を修正しようと動きだした矢先よ.....」

 

襲撃

特異点で実働部隊として動く48名のマスター候補と、所長といった重要人物達が集まるタイミングでカルデアの中央区画が爆発

十中八九人為的に、計画的に引き起こされた事態に大きな打撃を受けたカルデアは、マスター候補の中で唯一意識があり活動できる状態の藤丸立香をマスターとして任命

奇跡的に生き残ったカルデアの所長オルガマリー・アニムスフィアと、カルデアの研究によりデミ・サーヴァントとなったマシュ・キリエライトと共に“特異点F“の探索に乗り出した

 

「ああもう!こんなときレフがいてくれれば.....」

 

彼女の嘆きにスネークが意地の悪い笑みを浮かべた

 

「残念だったなキャスター、どうやら彼女にはもう男がいるようだぞ?」

「へぇ〜、そいつは残念だなぁ」

 

言葉と裏腹にニヤついた彼の表情は、微塵も残念そうには見えなかった

 

「ちょっと!?わ、私とレフはそんなんじゃ.....彼はカルデアの古株で、一番頼りになるってだけよ!.....そう、そうよ!」

「へぇ〜?そうかいそうかい」

 

どうやら彼女は、この意地の悪い男達に遊ばれてしまっているようだ

 

「そんなことはもういいの!次はアナタよアナタ」

「ん?ああ俺か.....」

 

所長で遊んでいた男は、彼女に促されて話し始める

 

「さっきも言った通り、スネークだ」

「ですがその.....本名.....ではないですよね?」

「うん、それに銃やその義手を見るに随分近代の英霊なようだぞ?

加えてアヴェンジャーという規格外のクラス.....もしかしたらイレギュラーなサーヴァントを呼んでしまったかもしれないね」

「あん?通信機か何かかね、随分と胡散臭い兄ちゃんの声が聞こえんだが?」

「酷くないかい!?」

 

スネークはキャスターの辛辣な言葉にショックを受けているロマンを放置して話を進める

 

「まあ確かに、スネークは俺のコードネームだが

正確にはパニッシュド"ヴェノム()"スネーク()、長ったらしいから、俺と肩を並べた連中は専らスネークと呼んでたな」

「毒蛇.....ですか」

 

(それに.....罰を受けた?(Punished))

 

「しかし参ったね、君は自らの事をあまり語りたくないのかもしれないが、せめてもう少しヒントをくれないかな?

僕らは蛇なんて英雄に心当たりが無い」

「別に語るつもりが無い訳じゃないんだがな.....俺についてきた連中や戦場にいた戦士たちは、俺の事を.....」

 

僅かに言葉を発すことを躊躇して、しかし男はその名を口にした

 

BIG BOSS(ビッグボス).....そう呼んでいたな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「それで?」

「.......何かね」

「随分と本気だったようだが?アーチャー。貴方が本気で弓を引くとは珍しい」

「.....それは皮肉か何かかね.....耳に痛いな」

 

アーチャー.....弓兵と呼ばれた男は参ったようにかぶりを振る

 

「白々しいな、あのサーヴァントと関係があるのだろう?」

「さてね、私は職務に忠実なだけだとも。それに弓を持たない弓兵なぞ居らんだろうに」

 

男は頭の中に黄金の甲冑を着た男を思い浮かべて苦笑する

勿論、自分の事は棚に上げてだが.....もしかしたら彼には自覚が無いのかもしれない

 

「.....まあ、貴方が本気になるならば詮索は余計か。好きなようにするといい」

「感謝する。ならば私は外の見張りにでも戻るとするよ。キャスターめが奴らをここまで手引きするだろうからな.....やれやれ、合流を許してしまった私の落ち度だ。失点は次で取り返すとするよ」

 

そう話し背を向ける彼は、義務を果たす以上にこの後の戦いを心待ちにしているように見えた

 

「戦いに赴く人間にしては、随分と楽しそうに見えるが」

「詮索はしないのでは?」

「.....はぁ」

 

少し子供のような彼の態度に、呆れたようにため息を零す

 

(らしくないな.....こうも滾るとは)

 

口角を上げる

汚染された身だからだろうか。普段の冷静な彼の思考は、随分と好戦的な考えに偏っていた

 

("伝説の傭兵".....あの男はおそらくそうだ。隻眼にアレ(CQC)の使い手など、恐らくは一人しかおるまい)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「BIG BOSSッ!?」」

 

 

ロマンと立香が声を上げる

対照的にマシュと所長は首をかしげる。キャスターに至ってはあまり興味がなさそうだ

 

「.....すいませんマスター、私達はその、BIG BOSSという人物を知りません」

「知らなくても無理はないとも、BIG BOSSという人物は教科書に載るような人物ではないだろうね

彼はほんの十数年前まで活躍していた人物だ。グリーンベレーなどのような特殊部隊に所属し数々の功績を挙げてきた彼は、後に二十世紀最強の兵士とまで噂される程の名声を集めた」

「中でも大きなモノは、CIAに所属していた時の任務で、彼はこの任務を達成してBIG BOSSの称号を受けたらしいね」

「CIA.....アメリカの諜報機関よね?」

 

オルガマリーが問う

 

「そうだね。彼はアメリカでその名声を広めた人物だ。こんな辺鄙なところにあるカルデアの中だけで育ったマシュや、魔術師であり、如何にも他国の情勢に疎そうな所長には耳慣れない名前かもしれないね」

「私の不勉強ですか.....申し訳ないです.....」

「馬鹿にしてるのかしら?今私馬鹿にされた?」

「お前もうちっと言葉選んだらどうだよ」

「え!?僕なんかマズイこといったかな!?」

 

ロマニ・アーキマンという人間は本質的に空気が読めない

 

 

 

「しかし.....なぜそんな人物がアヴェンジャー(報復者)

それに.....本人のまえで話すには大変失礼な事ですが.....現代の、しかも.....」

「一介の諜報員がなぜ英霊になる程の知名度を得ているか、だろう?」

 

マシュの問いをスネークが遮る

 

「.....はい」

「まあ端的に言えば、国に身を尽くしただけが俺の人生の全てって訳じゃないという事だ」

「ああ、その通り。むしろ彼は特殊部隊.....CIAから身を退いた後の方が有名なんだ。そこに彼が教科書に載らない理由があるんだが.....」

 

ロマンはそこまで言って曖昧に言葉を切る

彼はBIG BOSSという人物が決して善人である訳では無いという事を知っているからだ

 

負の側面があってこそ歴史であり人間だ。しかし一般的な環境で育った人間であるならば、BIG BOSSが行ってきた事の多くに不快感を示すだろう

そんな事を本人がいる前で自分の口から話す度胸が彼にはなかったし、なにより説明された彼らがもしスネークへの信頼を揺るがせれば、その事実は彼らの生死に関わるかもしれない

自らのサーヴァントとの絆はそれ程までに重要なのだ

 

だからこそ、ロマニ・アーキマンはその後の言葉を紡がなかった

 

「.....まあ、俺のしてきたことは、恐らく調べればいくらでも出てくるだろう。自分で探してくれ

俺が生きてた時代にだって、何度かメディアに取り上げられたこともある。.....まあ.....好意的な意見ではなかったと思うが」

 

ロマンの内心を知ってか知らずか、スネークは自らの事をそれ以上語ろうとはしなかった

実際のところはこの場での説明に時間を割きたくなかったというのと.....

 

(こいつは俺も調べ上げないとマズイな.....)

 

思わず苦笑する

 

"彼は彼が去った後のBIG BOSSを知らない"という事が主な理由だが

彼は自分を騙る為に必要な知識を有していない

その気になれば言い訳はいくらでもできるだろうが、怪しまれる事に変わりはないのだ

故に彼はこの場での素性の公開を先延ばしにした

 

 

 

 

「さて、それじゃ本題に入るとするかい?アンタら、俺の持ってる情報がほしいんだろ?」

 

キャスターがそう話すと、必然彼へ視線が集まる

 

「.....そういえばキャスターさんは、何故僕らを助けてくれたんですか?」

「そりゃお前、アンタらが他の連中よかよっぽどマシだったからだよ」

「ふむ.....カルデアとしてはこの街が何故こうなったのかは実に重要な情報だ。協力願えますか?」

「おうよ。とは言っても、俺も対した事は分からないんだがね」

 

そう言って彼は語り始めた

 

「大方予想はしてたんだろうが、この街では聖杯戦争が行われていた」

「やっぱり.....」

 

マシュが頷く。彼女たちは先程のサーヴァントに襲われた時から薄々とその事に気付いていた

 

聖杯戦争

七人のマスターと七人のサーヴァントが万能の願望器を求め、文字通り戦争を行う大儀式だ

 

「だがな、俺達の聖杯戦争はいつのまにか別のモノにすり替わっていた」

 

キャスターは大仰に首を振る

 

「経緯は俺にも分からねえ。街は一夜で火に覆われ、人間はいなくなり、残ったのはサーヴァントだけだった。」

 

その後も彼は語り続ける

セイバーが残ったサーヴァントを打ち倒していった事。その後彼らが泥に呑まれた事。サーヴァントが最後の一人にならなければこの聖杯戦争は終わらない事

 

「.....おい待て。それってつまり、お前をこの場で殺せば聖杯戦争は終わるって事か?」

「いやいやちょっと待ってよ!」

 

物騒な事を言い出すスネークを藤丸が制止する

 

「おう、確かに俺が死ねばこの聖杯戦争は終わるだろうな。まあこの戦争が終わること自体がアンタらの目的とイコールかどうかは保証しかねるがね?」

 

思わずマシュ達が息を呑むほど、一瞬にして空気が緊張する

この空気を作り出した張本人はしかし.....

 

「だろうな。それにさっきの黒い連中、そのセイバーってのに従ってるんだろう?で問答無用で襲い掛かってきてるって事は、ハナから俺達を消す気マンマンって訳だ

だったらこの場で友好そうな戦力を一人潰すのは得策じゃないって事か」

「.....なんだ。最初からそのつもりなんて無いんじゃないか.....心臓に悪いなぁ.....」

 

通信機の向こうで胸を撫で下ろした事が分かる程に安堵した様子が伝わって来る

 

「いやまあ、俺としてもアンタとは手合わせしてみたいトコなんだが.....槍がありゃあなぁ!」

 

ヤケクソ気味に声を荒げるキャスター

 

「槍.....キャスターなのに?」

「そういう事もあるんですよ、先輩」

 

ふっと湧き出た疑問にマシュが答える

 

「この人は槍の使い手ながら、魔術師としての側面も持つ、非常に高名な人物なのだと思います」

 

彼女の言葉に顔を頷かせ、キャスターが言葉を口にする

 

「ありがとよ嬢ちゃん。てな訳で、俺とアンタらは特段敵対する理由がある訳でも無い。お互い、陽気に手を組まないか?」

 

そう言ってキャスターは藤丸に手を差し出した




忙しさにかまけては筆の進まない日々、申し訳ないです


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五話

「そんじゃあ、目的の確認といこう」

 

カルデアと協力関係となったキャスターは、更なる情報の共有を図った

 

「あんたらが探してるのは間違いなく大聖杯だ」

「大聖杯.....?聞いたことないけど、それは?」

「この土地の本当の"心臓"だ。特異点があるとしたらそこ以外ありえない」

「だが、そう易々と辿り着かせてはくれないんだろう?」

 

言われなくとも分かっている、といった様子でスネークが言葉を投げる

 

「ああ、大聖杯にはセイバーのヤロウと、その信奉者のアーチャーが居座ってやがる」

「あれ?ランサーにアサシン、バーサーカーは?」

「前者の二人は俺が倒した。バーサーカーは.....奴はセイバーでも手を焼く化け物だ

近づかなけりゃ襲ってこねえから、あんたらが大聖杯に直行するなら、相手するのは必然的に二人だけになる」

「残っているのはセイバーとアーチャーね?どうなの、その二体は。勝算は?」

 

オルガマリーが問いかける

 

「アーチャーのヤロウはまあ、俺がいれば何とかなる.....と思ってたんだがなぁ.....」

 

キャスターが掌で顔を抑える

 

「アーチャーってのはさっき俺らを狙撃してきた奴だろう?正直真正面から戦いたくはないが」

「そうだ、あいつがああも本気になるとはね。

随分と多く奴と顔を合わせてきた気がするが、あんな姿は初めて見るかもしれねえな。

あんた、狙撃とかできないのか?」

 

あまり期待してない事が目に見えて分かる聞き方だったが、キャスターの予想とは少し違う返答が返ってきた

 

「俺はあまり得意じゃない.....が、あのアーチャーと張り合えそうな奴は知っている。

少しだけなら戦いの最中、力を借りる事ができるだろう」

「それは一体どのような.....」

「なるほどな」

 

言葉の意味を計りかねたのか、疑問を投げるマシュと違い、キャスターは納得したように首を頷かせた

 

「つまり、それがあんたの宝具ってことだろう? 大方、生前のあんたの愉快な友達を呼び出せるってトコか?」

「間違っちゃいないな。そう長い事呼び出してると燃費が悪いだろうが」

「そうか、ならアーチャーの方はあんたとあんたの友達に任せたぜ?」

「そうか? なら良いが.....」

 

まだ出会って間もない自分にあっさりと任せると言ったキャスターに、少しの疑問を混ぜて返答する

 

「俺は結構、あんたを高く買ってんだぜ? ライダーとの戦いは見事だったよ」

 

杖をグルリと回しながら、愉快そうに笑う

恐らく、この英霊はどんな時でも余裕を崩さない。戦いの最中でさえ笑みを作れるに違いない

そう感じさせる仕草だった

 

「それじゃあ後はセイバーだね? キャスター、セイバーについて何か情報は?」

 

ロマンの問い掛けに、杖を回していた手を止めた

 

「セイバーは.....正真正銘の化け物だ

"反転"しちゃいるが、他のサーヴァントをバサバサ倒してるのを見りゃあ、出力が落ちたようには全く見えないね」

「キャスターはその、セイバーの真名を知ってるの?」

 

藤丸に対し、キャスターは強く頷く

 

「奴の宝具を喰らえば誰だってその名前に辿り着くだろうよ

他のサーヴァントがアッサリやられたのは、その宝具が強力過ぎるせいだ」

「宝具.....どんな物なのかしら?」

 

頭をガリガリと掻きながら、キャスターが答える

 

「.....エクスカリバー。奴の宝具はそれだ」

「なっ.....!?」

 

驚嘆の声を上げる

当然だ。その名はあまりにも有名すぎる

 

エクスカリバー

恐らく現代において最も知名度の高い聖剣

ローマ皇帝を倒し、全ヨーロッパの王となったとまでの逸話を持つ王が、湖の乙女より授かったとされる伝説の剣

彼が王として即位する際に引き抜いた選定の剣と同一であるとも言われているし、その二つは別物という説もあるが、いずれにせよ最高レベルの宝具である事は疑いようもない

必然その剣を持つ人物は限られる

 

「アーサー王か.....」

「そう、それが奴の正体だ」

「なんてこった.....勝ち目はあるのかい?」

 

心底不安そうにロマンが問う

 

「厳しい。が、無いわけでもねえな

どうやらあの女、大事な大事な剣の鞘を何処かに落としてきたみたいだぜ?」

「え? いま女って言ったのかい君!?」

「どっ、どういう事です!?」

「鞘よりそっちかよ.....さあな、伝説と違ってただ普通に女だったってだけじゃねぇの?」

 

アーサー王の持つ剣は確かに強力な力を持っているが、エクスカリバーの最も強力な力を持っていたのはその鞘だ

持ってさえいれば全ての攻撃を防げる規格外な代物だが、それがなければ何とかなる。というのがキャスターの見解だ

 

「なるほどな、なら後は聖剣をなんとかすればいい訳だ」

「その通り。てな訳で嬢ちゃん、あんたの盾が頼りなんだが.....」

「っ.....!」

 

肩を少し跳ね上げてから、あからさまに彼女の表情が曇る

きっと語る事を恐れていたのだろう

彼女が重々しく口を開こうとするのを見兼ねて、彼女のマスターがその言葉を代弁した

 

「実はマシュは.....」

 

宝具が使えない

正確に言うならば、真名解放が行えない

デミ・サーヴァントの体で戦闘をし始めてすぐに気づいたのだと言う

その盾という特殊な宝具から、守ることに特化した物だと想像はつくが.....

 

「使えない.....って事は無いと思うんだがなぁ

お嬢ちゃんがサーヴァントとして戦えるんなら、もうその時点で宝具は使えるんだよ」

「しかし.....」

「理屈じゃ無いんだ。嬢ちゃんの性分には合わないだろうが

なんつーの、やる気? いや弾け具合か? とにかく大声をあげる練習をしていないだけだぞ?」

「そうなんですか!?

そーうーなーんーでーすーかー!?」

 

可憐な声とはいえ鼓膜を刺激する大声はうるさい

思わず彼らは手で耳を抑える

 

「いや、モノの例えだったんだが.....まあやる気があるのは結構だ

マスター、お嬢ちゃんの盾はセイバーとの戦いで必ず必要になる

ここいらでちょいと、マシュ嬢の特訓てのはどうだい?」

「俺は賛成だな。セイバーがどれ程かは分からんが、出来得る準備はするに越した事はない」

「.....そうだね。ドクターも所長も、それで大丈夫ですか?」

「うん、僕も彼らの意見に賛成だ」

「.....いや、この流れで私が意見を蹴れる訳ないじゃない.....」

 

満場一致

そうと決まるや否や、キャスターが所長のコートに手を伸ばした

 

「よっしゃ! ならさっさと始めようか!」

「よっしゃ! じゃないわよね!? 私のコートに何してるのよ!?」

「あん? 厄寄せのルーンを刻んでるんだがね、あんたならなんとなく分かるだろうに」

「なんで私のコート!?」

「さて、今からここに大量のエネミーが来るだろうから、嬢ちゃんが守ってやるんだな」

「ッ.....はい!」

「ちょっと!?」

 

もはやお家芸のようにパニックを引き起こす所長を全く労らずに話を進める

 

「嬢ちゃんなら何かあっても自分で身を守れるだろ?

どうだスネーク、あんたも特訓に付き合うかい?」

「.....いや、俺はいい。マシュなら必ずそれ(宝具)をモノにするだろうさ」

 

そう言ってスネークは背を向け、見晴らしの良い高所まで歩き始めた

 

「へえ、あんたも嬢ちゃんを高く買ってるんだな」

「当たり前だろう」

 

 

 

 

 

やる気や気合いで何とかなる代物なら、マシュ・キリエライトは必ず宝具をモノにするだろう

常に気を貼り続け、迫る矢をスネークよりも先に防ごうと

自分の身も顧みず躊躇なく足を踏み込む、他でもない彼女が宝具をモノに出来ない筈がない

だから彼は、自分が手を出そうとはしなかった

 

「..........」

 

空を見上げる

薄赤い空が見えるが、今が雷鳴鳴り響く雨空だろうと彼がする事は変わらない

手慣れた手つきで電子煙草を取り出す

彼が携行品の中で最も愛用して来た物だ

通常の煙草と違い、特殊な薬効植物を使用する事により時間感覚を狂わせるこの"ファントムシガー"

 

「..........」

 

紫煙を燻らせば、彼の意識は激しく流れる時間に溶けて行くように朧げになる

 

目を閉じて息を吐き出した

 

 

 

 




付けた方が良いタグとかありますでしょうか?


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閑話

無駄話です


「.....チッ」

 

月の光を映し出す夜の海を前に、男は舌を打つ

まだそう歳を数えてはいないだろうに、あらゆる苦悩に疲れ切った彼の顔つきは、実際の歳よりも彼を老けて見させるだろう

 

海の彼方を見据えるようにその場に立っているが、その実彼の目には海も、月も、その光さえも映ってはいない

 

弱り切った彼の背は月光に晒され、尚の事その姿を弱々しく見せる

激情に燃えていた彼の姿は、もうそこにはなかった

 

「カズ」

 

その背に声をかける事に、彼はどれくらいの時間を要しただろうか

 

「スネーク.....」

「痛むのか?」

「.....いや」

 

首を振る

サングラスの向こう側にある目が、彼の左腕の有った辺りを追った気がした

 

 

 

カズヒラ・ミラーはBIG BOSSに裏切られた

少なくとも本人はそう感じたようだった

 

ヴェノム・スネークの正体を知った日から、ミラーとBIG BOSSの決別は決定的となった

 

彼は言った

BIG BOSSは自分が討つと。ファントム(影武者)も、自分が大きくすると

 

失意の底に有った彼は、自らの信じた者に牙を剥いた。そうする事でしか自分を保てなかったのか

或いは、彼は報復というミームに取り憑かれ、振り払う事が出来なかったのかもしれない

 

「カズ.....いやミラー」

 

彼は、呼びなれた愛称をあえて使わなかった

 

「.....お前がここを去りたいなら、俺はお前を」

「いや、いい」

 

強い口調で、ミラーは彼の言葉を遮った

 

「あんたは俺が.....俺たちが追いかけた、理想のボスだ.....」

 

スネークは僅かに目を開いた

言葉とは裏腹に、そう言った彼の表情が、今にも泣き出しそうな程、頼りなく弱々しくて

寂寥に駆られたその様には、負の感情以外に何かを見受けられない

 

カツカツと音を立て、彼がスネークに歩み寄る

 

「あんたがそのままで居てくれれば俺も、ダイアモンド・ドッグズ達も....."あの女"も、あんたに手を貸すだろう」

「.....だがミラー」

「それと」

 

スネークの言葉を遮る

 

「あんたと俺は相棒だ、そうだろう?.....カズでいい」

 

そう言って彼はスネークとすれ違い、その場を去った

 

その背にスネークは.....

 

(俺は何も言わなかった)

 

分かっていた

あの時交わした言葉には何一つとして意味が無い事を

空虚で、中身なんてこれっぽちもない

言葉の形をしただけのただの音の塊に過ぎない

そんな事は俺も、奴も分かっていた

 

BIG BOSSを討つ

カズヒラ・ミラーはBIG BOSSとの決別を選んだ

それは即ち俺との決別をも意味する

俺は今やBIG BOSSの影であり、BIG BOSSそのものでもある

ミラーが復讐を選択した時から、俺と奴の関係はいずれ瓦解すると決定した

歩む道が交わることは二度と無い

 

 

俺が奴の隣にいる事を選べば

それも良かったかもしれない

奴と組んで今までの様に仕事をこなして、そうしていけば、いずれはBIG BOSSさえ越す力を持てたかもしれない

そうしてミラーの報復を叶える事も出来たかもしれない

 

だが俺はそうしなかった

 

もしそうしようとミラーに伝えられたなら

迷ったかもしれない。きっと答えを出すのに時間を要しただろう

だが答えは恐らく変わらない

 

俺はカズヒラ・ミラーを裏切った

 

だから、ミラーが俺の元から姿を消す事も分かっていた

その背を追おうとはしなかった

あの時俺が、擦れ違う奴に何も言わなかった時から、この別れは避けられないモノだった

 

だが.....

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

過去の記憶を辿り終え、彼は目を開いた

ブリリアントカットの石が輝く、左肩のエンブレムを指でなぞりながら、彼は空を見上げる

 

(なあカズ.....俺はどうしたらいい?)

 

周囲が火に包まれているからだろうか、夜空が薄っすらと赤い

 

(また力を貸してくれるか?.....相棒)

 

再び目を瞑り、電子煙草を口元に運ぶ

幸いキャスターの特訓とやらはまだ時間を要するらしい

もう一服するぐらいの時間はあるだろう

 

 



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六話

大きな魔力の奔流を肌で感じて、遠く離れていた意識を手元に戻す

視界を下に向けてみれば、どうやら特訓が終わったらしい

 

「さて、煙草休憩はここまでにするか」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

彼女たちの元まで足を進めるにつれ、身に受ける魔力は更に大きくなって行く

 

盾、という評価も、大盾、という評価ですらこの場では不十分だ

確固たる意思と覚悟を感じさせる、壮大な"壁"。彼女の揺るぎなき信念がありありと滲み出ている

 

まだ年端のいかない少女が背負うにはあまりに重い覚悟だろう

しかしその細足はまるで震えていない。マスターたる彼の盾であらんとする信念が、その背を支えていた

 

今ここに、藤丸立香のサーヴァント、マシュ・キリエライトの精神は"ほぼ"完成した

彼女は折れない。ならばその壁が破られることは無いだろう

 

 

 

 

 

「ッあ.....私.....できた.....んですか?」

「おめでとう。ほれ、水分補給は大事だぞ?」

 

いつの間にやら戻ってきたスネークが、缶のような物をマシュに投げ渡す

 

「爽やかでカフェイン豊富な清涼飲料水だ」

「ありがとうございま.....と言うかこれ何処から出したんです? 」

「そいつは俺の組織が開発に噛んでたんだ。携行品として持っていた。」

「CIAの事? 諜報機関が何してるのよ.....」

「いや、CIAの事じゃ.....まあそこら辺もここを抜けたら話そう」

「俺日本を出てからまだ炭酸飲料を一回も飲めてないんだよね。一本良い?」

「いいぞ」

 

同じように藤丸へ投げ渡す

 

「所長はいいんですか?」

「私は遠慮しておくわ。なんだか喉が乾かないの」

「.....そうか」

 

オルガマリーの返答にスネークが僅かに眉をひそめた

当然だ。本来ならば、燃え盛る街を散々走り回った上で喉が乾かないなんて事はまずあり得ない

にも関わらず彼女は.....

 

「おいスネーク、俺にも寄越せ」

「.....ほれ」

 

首を振る

キャスターに思考を邪魔された彼は、結局は彼女が魔術師だから、という結論をつけて自らを納得させた

 

 

 

 

 

 

「なんかこの飲み物、マウンテンって感じがしますね!」

「.....そうか?」

 

 

 

 

 

 

 

爽やかでカフェイン豊富な清涼飲料水で英気を養った一行は、今後の戦略について話し合う事となった

 

「まず、大聖杯の場所までの案内だったら俺がしてやれる。てかさっきアーチャーの矢が飛んできた方角だな」

「だが問題は.....」

「大聖杯の元まで近づけるかどうか.....」

 

険しい表情で藤丸が口を開く

無理も無い。向こうは長距離戦のプロフェッショナル

こちらの戦力では、キャスターの魔術を以ってしても中距離が限界

必然、まず接近する事が困難だ

 

「だがまあ、あいつの居場所はほぼ割れてんだ。何処から矢が飛んで来るか分かるってんなら、弾くなり止めるなり、或いは俺が溶かしちまうなり出来なくはないな」

「.....奴がアレ以上の矢を放てたらどうする?」

「.....厳しいね、こっちには俺や所長もいるし」

「いっその事、俺らだけで行っちまえば解決じゃね?」

「それも厳しいわね」

 

所長が指摘する

 

「カルデアの召喚システムの性質上、サーヴァントはマスターからの距離が近ければ近いほどその力を増す。逆に捉えれば、離れれば離れる程弱体化すると言っても良いわ。

単独行動持ちや、アサシンのようなサーヴァントなら、その限りでは無いんでしょうけど.....」

「それに君たちが別れてしまったら、藤丸くんと所長を守れなくなってしまう。なにも敵はアーチャーだけじゃないからね」

「.....それなら」

 

アサシンという言葉を聞いてか、マシュが自信の無さそうに話す

 

「奇襲.....ならばどうでしょうか? 敵の意表を突ければ.....」

 

その言葉を聞いて、多くの視線がスネークに集まる

CIA出身という経歴だけで、潜入や隠密のスキルを持っているだろうというイメージがあるのかもしれない

 

「.....出来なくは無い。が、あのアーチャー相手にと言われれば可能性は薄いな。

腐っても弓兵、自分の眼を売り物にして英雄になったような連中だぞ? 少なくとも奴の背後を突くのは無理だ。

加えて今の俺はアヴェンジャーだ。尚のこと潜入に向かん」

「.....じゃあ、"あんたの友達"ってのはどうなんだ? 手を貸してくれるって言ってたよな」

 

キャスターの問いを待っていたように、スネークは口を開いた

 

「.....ああ、一つ考えがある」

「だろうな、それで?」

 

キャスターの問いに、スネークは何かを模索した表情で答えた

 

「潜入はできん.....が、奇襲なら仕掛けられるかもしれんな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

───空が赤い

 

かつての惨状の再来、よもやオレがこの光景に対面するとは

 

「悪い冗談だろう」

 

我を忘れて泥に堕ちようとも、火に覆われた街は容易に自分の正体を突きつけた

 

胸に過ぎるは錆びついた理想と、涙に頬を濡らしながら、自分の手を握りしめていた彼の顔

だからと言って、この期に及んで正義を成そう、などとは思わない

泥に呑まれたこの身では、彼女に弓を引こうという気すら起こらなかった

 

「.....だから」

 

 

 

 

 

 

 

 

だからこれは、個人的な問題だ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

伝説の傭兵BIG BOSS。戦争というモノを商売として転がし、戦火を広げ、自らが世を去った今も残る一つのビジネスの基盤を作り上げた

 

戦争という概念が消えぬ限り、彼らは世に陰を落とし続ける

そしてまた彼らが消えぬ限り、戦争という催し物が無くなることは無い

そして彼らは、脳を失って今尚生き長らえている

 

オレが物心ついた時には、彼はもうこの世に居なかった

 

BIG BOSSは決して善人とは呼べない。しかしながら後の世には、彼を英雄と讃える人々がいる

それは、傭兵という身にありながら、それでも確かに平和の為の活動を行っていた

相反する行為を行っていたことから彼を狂人と称した人間もいたし、事実彼はまともな人間ではなかったのだろう

.....故にこそ

 

「問わねばならない」

 

その真意を、思想を、意志を

正義に焦がれた一人の人間として、彼の生き様には非常に興味がある

 

「来たか......そう簡単に潰れてくれるなよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

火に覆われた街の中、男は弓を引く

開戦の狼煙とばかりに、雨の如く熾烈な矢を放つ

黒く染まった身体のその瞳には、眼帯の男以外を映してはいなかった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




生きてます


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七話

緋色に染まった街の中、女は一人"静寂"に身を潜める

黒き装いを身に纏い、はるか遠くを眺めて

 

 

 

 

 

 

 

 

 

見開かれた眼にははただ一人、弓を放ち続ける男だけを正確に捉えている

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「本当に.....上手くいくのかしら?」

 

不安げな表情を浮かべながら所長が口を開く

 

「上手くいくもなにも、もう後戻りのできないところまで来ているわけだが」

 

スネークが応答する

彼女たちは先程話していた場を離れ、アーチャーに攻撃された地点(ポイント)まで近づいていた

 

「でも.....」

「確かに言いたいことはわかる。こんなモノは策とも言えない特攻にすぎん」

「だったら!」

「だが.....」

 

所長の言葉に被せるようにスネークが放つ

 

「俺たちは奴に対して決定的なアドバンテージがある

それは奴が俺の宝具を知らないということだ」

 

戦いにおいて手札を隠すというのは戦術の常套句だ

手を知られていないというのはそれだけで戦術的優位(タクティカルアドバンテージ)を得ることができる

例え戦いの舞台がテーブルゲームだろうと白兵戦であろうと変わることはない

 

「どの道アーチャーの狙撃を掻い潜らなきゃいけないのは変わらない。常に僕たちの位置が割れてると仮定したなら、おとなしく正面突破っていうのも仕方ない。頼もしいバックアップが背にいると思えばいいよ」

「ご心配なく。所長の身は私が守りますっ!」

「.....分かったわよ。しっかり私を守りなさいな」

 

いかにも渋々という仕草で自らを納得させる

 

「心配事をしてる余裕もそろそろなくなってきたぜ? 奴さんもう弓を構えやがった」

 

常人を遥かに凌駕したキャスターの双眸が、弓兵の挙動を捉える

 

「見えるんですか!?」

「おうとも。おぼろげにではあるが、魔力の動きで分かる

とはいえ向こうさんはもっと鮮明にこっちが見えてるんだろうがよ」

 

少々悔し気に吐き捨てる

自分の眼がアーチャーに劣っていることが気に入らないのだろう

 

「まさかもう仕掛けてくるのかい!? ここから三キロはあるぞ!?」

「もう少し近づかせてくれるんじゃないかと思っていたが.....オリンピックにでも出てたほうが幸せなんじゃないか?

.....さあどうする、あんたの命令に従うぞ? "マスター"」

 

問いを投げかけられる

 

「.....足を止めずに全力で走れ! 三人は俺と所長の防御を頼む!」

「「了解!」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

走り始めてからどれ程経っただろうか

彼らは前進をしながらもじわじわと追い詰められていた

 

「厳しいな.....」

 

藤丸が歯噛みする

火事場の馬鹿力と称すべきか、疲労で足が止まるということはない.....というより、足を止めれば蜂の巣である為動かし続けるほかない

幸いにして致命傷は避けられているが、体の隅々には小さな傷が刻まれていた

 

「スネーク! 例の宝具はまだなの!?」

「まだだ」

 

所長の投げた問いへ冷淡に言を返したスネークだが、その実彼も完璧に焦りを抑えることはできなかった

前に進み続けているが、近づくほどに攻撃の感覚は狭まる

文字通り矢の雨を走り抜けて来た彼らの背中には、合戦の後さながらの光景が広がっていた

 

(まだだ.....まだその時じゃない)

 

必死に自らに言い聞かせる

この土壇場で尚彼は何かを待っていた

次の瞬間には敗北を喫す恐れさえ、一行は呑み込み走る

 

近づく矢は燃やし、逸らし、払いのけて前進する

 

(重い.....!?)

 

雨、と形容したものの、その一粒一粒は紛れもなく殺傷力を持った死の(ひさめ)。この突貫において極めて重要な役割を持つ彼女は、その腕でマスターに届き得る全ての脅威を一身に受けねばならない

 

英霊の放つそれは只人のそれとはまず違う。増して地面までも抉り取らんとするその一矢は、少女の想像していた衝撃を優に超えてくる

 

「これがッ.....その技量で英雄の座にまで上り詰めた人物.....!」

「嬢ちゃん堪えなァ! 次にでかい掃射がくるぜ、そいつを超えりゃあ.....」

「ッ.....!」

 

近づくほどにアーチャーの姿が鮮明に見えていた彼には、おぼろげだったその射撃の様子を少しずつ捉えることがせきるようになっていた

 

(しかしまぁ、この間隔で飛んできてるからには当然かもしれねえが.....あの野郎、一体"何本同時"に矢を番えてやがる? 弓ってのは普通そうはならねえだろ.....)

 

そう、彼にはアーチャーの射撃をその目で見た

彼はその目で、赤い残光が数個同時にアーチャーの手元から放たれるのを目撃した

本来ならば弓とは二本も三本も同時に番えるようなものではない。いくら常軌を逸した技術の持ち主であろうともそのような芸当は有り得ない。もしそれを可能とするならば.....

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「これも凌ぐか」

 

だれに話すでもなく、弓兵はひとりごちた

 

攻撃を続けてから彼の腕は止まることなく、矢を番える手はその速さを増し続けている

 

「───赤原(せきげん)()け」

 

弓に三本の矢を宛てがい

 

「.....緋の猟犬!」

 

放つ

 

赤い残光は軌道を残して飛び去り、獲物の血を得るまで突き進む

実の所、彼は狙いをつけて敵に放つ必要がない

 

その宝具の名を、赤原猟犬(フルンディング)

 

かの竜殺しが振るったとされる魔剣を、アーチャーが自身で矢として魔改造した逸品。射手が健在である限り標的を追い続けるという性質を持ち、もはや矢ではなく一種の魔弾と化している

 

彼に矢を三本も番えたまま、速射を実現させているトリックはこれだ

彼程の技量をもって弓に矢を宛てがい引くという工程さえ踏めば、本来なら出鱈目な方向に飛ぶであろう矢も、構わず敵へと向かって行く

極めて強力な攻撃だが.....

 

「いや、これでは届かんな」

 

三本ずつ矢を構えていた手は、いつのまにか一本の剣を握っている

いや、剣と表現するには少々異質な形状をしていた

かろうじて柄らしきものは付いていたが、そこから先は螺旋を象った奇妙な刀身。切るというよりは殴るか抉るための形状をしていた

しかし

 

「我が骨子は.....」

 

彼はそれを弓に番える

 

「捻れ狂う」

 

引き絞られたそれは伸びて、まるで一本の矢のように形状を変えた

その動作だけで、周囲の大気を魔力が震わせる

 

(十五.....いや、二十秒程か。リスキーではあるが、おそらくその程度でこちらまではたどり着かない)

 

「さあ、果たして躱せるかな?」

 



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八話

「攻撃が止まった.....?」

 

最前を走っていたマシュは、真っ先に矢の雨が止んだのに気がついた

地を削る一矢がピタリと止まり、先程までとはうって変わった奇妙な静寂に包まれる

 

「....チャンスだ、今のうちに.....ッ!」

 

前へ、と声をかけようとした藤丸は息を詰まらせた

 

「.....奴の切り札だ、着弾したら俺らは負ける」

 

目視せずとも危機が迫っていると分かるほどの魔力の変化

しかしもう退路はない。後ろに逃げようとも、彼の射程から逃れることはできないだろう

 

「心配せずに走れ、問題ない」

「本気か? 嬢ちゃんの盾ならまだ.....」

「奴がアレを射つことはないとっとと走れ、今が距離を詰めるチャンスだぞ?」

 

平静を保ってスネークはそれだけを言うと、"ここには居ない誰か"へ呼びかけた

 

「捉えてるんだろう? 奴にはアレを射たせるな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふむ、向かってくるか。」

 

さりとて困ることはない、強いて言えば盾の少女に手を焼く恐れぐらいのモノだが、今盾を構えていないならば防御は間に合わんだろう

あまりに呆気ない

 

「失策だな.....さあ踊れ、運が良ければ一人ぐらいは.....」

 

いや、"呆気なさすぎる"

私は一度彼らに矢を放っている。であるならば威力は知っている筈だ

なぜ防ごうとしない?

或いは

 

「伏兵か....!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「どう言う事だ?」

 

藤丸が誰にともなく放った

アーチャーは確かに宝具を射った

ただし、"全く見当違いの方向にだが"

 

「.....大した射手だ。どうやら俺の仲間はしくじったらしい」

 

耳元に手を当てながら、スネークはそう話した

先程よりも表情は苦々しい

 

「だが、最低限は済ませてくれた

さあ行くぞ、恐らくもう奴は攻撃できない」

「.....分かった、後で何が起こったのかは教えてもらうよ」

「了解だ、マスター」

 

そう会話して、彼らはその場を後にした

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふむ.....見事な腕前だ」

 

その場所には男が立っていた

肩幅の広く長身な、武人然とした姿だった

 

その腕に負傷を負ってさえ居なければ、未だに弓を引き続けていただろう

 

「彼.....彼女か? まあどちらでも良い。アレの居た場所から私の所まで凡そ三キロ程か

驚いたよ、世界記録級だ」

 

そう言って男は右腕を持ち上げてみせた

肘から先は全く動いていない

 

「腕で済んだのは幸運だったよ

直前で気付かなければ頭蓋に穴があいていた」

「いやこちらこそ、俺の仲間に深傷を負わせてくれた

正直、あっさり退場してくれると思っていたが」

「それは結構、往生際が悪いのが取り柄でね」

 

弓兵はそう言い終わると、残る左手の上に剣を作り上げた

中華包丁程の大きさの短剣だ

弓兵に剣、とは少々不釣り合いなように思えるが

不思議と彼にはそれが似合っているようにも見えた

 

(ほう、こいつは厄介そうだ)

 

先程までは弓を射っていながら、近づかれれば迷いなく剣を取る

自慢の腕を潰したからといって油断は出来ないと、スネークは気を引き締めた

 

「ご自慢の二刀が形なしだな、え? アーチャーさんよ」

「さて何の事かねランサー

おっと。いや失礼、槍は失くしてきたんだったか?」

「ほざけよ、お前はここで終わりだ」

 

挑発混じりの会話をしながら、キャスターは杖を構える

 

「嬢ちゃんは坊主達を守ってやんな。今のコイツはどんな小細工をして来るか分からん」

「はい!」

 

二つどころか一つ返事で返すマシュを見て、キャスターは不敵な笑みを見せ頷いた

 

「上等だ! いい顔になったな」

「さて、雑談の時間はもう結構かね?

楽しい会話が終わるのを待っている時間は、残念ながら私には残されていない」

 

そう言ってアーチャーは剣を構える

 

「さあ、さっさと終わらせるとしよう」

 

 

 



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九話

「.....I am the bone of my sword 」

 

そう文言を唱えれば、アーチャーの周囲を魔力が覆う

剣を構えた彼は、地を強く踏みつけ後ろへ下がる

 

「宝具か」

 

その様子を見て特に焦る事もなく呟くと、スネークは駆け出して追う

 

「nauþiz!」

「グッ.....!?」

 

キャスターがその文字とともに杖を振るえば、すぐさまにそれはアーチャーを苦痛と共にその場に縛り付ける

 

三大騎士クラスはランクの上下はあれど、基本的に皆対魔力を持っており、アーチャーもそれは例外ではない

それがあるにも関わらず、キャスターの魔術は絶大な効果を発揮した

 

nauþiz(ナウシズ).....束縛を意味するルーンだが、キャスター程の術者が扱えば、一般人ならば容易く押し潰してしまうだろう

それは単にこのルーンが束縛を与えるだけのものではなく、激しい苦痛を伴わせるという事を意味している

並の英霊ではたちまち動けなくなる.....が

 

「Steel、 is my body.....and fire is my blood 」

 

その詠唱は止まらない

弓兵は苦痛に耐えながら言葉を紡ぐ

 

「追いついたぞ」

 

しかしそれでは間に合わない

目に見えて動きの鈍ったアーチャーに、スネークはあっさりと追いつく

 

手に構えるナイフを振るうが、弓兵はそれを容易く弾くとただただ後ろへ下がり続けた

続く攻撃を躱し、剣で受け、その度に距離を置こうとする

 

(間合いには絶対に入らず、反撃もしてこないか.....)

「I have created over a thousand blades.....」

 

ただ淡々と詠唱をして、自らは全く攻勢に出ない

そう言えば容易く倒せそうに感じるが、その防御は非常に堅い

加えて、スネーク自身が奇襲かカウンターを主とした戦いを得意としているため、少々攻め手に欠けていた

数度打ち合ってみて、このままでは崩せないだろうとスネークは直感していた

 

故に

 

「フンッ!」

「Yet, those hands will、ッ!?」

 

手元のナイフを投げつけると、全速力で懐に入り込む

 

「チィッ.....!」

 

たまらず弓兵は剣を振るうが

 

「捕まえた」

 

剣先をその腕で掴み上げる

普通ならば負傷を恐れて刃に触れたりなどはしないが、義手である彼には特段躊躇する理由がない

そのまま腕を掴もうと手を伸ばすが

 

「.....never hold anything」

 

少しの力も込めずに、アーチャーはあっさりと剣を手放した

 

アーチャーという英霊はその性質上、武器をいくらでも用意できるため

武装を使い捨てにすることに一切の躊躇いがない

この英霊の強みが大きく出た場面であった

 

.....が

 

「逃さん」

「!?」

 

バンッ、という"破裂音"と共に、先ほどまで剣を掴んでいた鉄の拳は

いつのまにか弓兵の眼前に迫っていた

不意の事に束縛のルーンも合わさり、その拳をモロに食らう

 

「ガァッ!?」

 

作り物の腕と侮るなかれ。その拳はもちろん金属製

助走をつけてぶつけられればハンマーなどの鈍器と大差無い

増して近接格闘のプロフェッショナルが放つ一撃だ

それだけで致命傷足りうる破壊力を持っている

それだけではなく.....

 

(今の破裂音.....拳を放つ前に辛うじて見えた炎.....)

 

「貴...様ッ、その腕に何を」

「秘密兵器だ」

 

そう言い放つと、倒れたアーチャーへ向けて銃を引き抜いた

 

「終わりだ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

勝機は決した

もう弓兵に勝ち筋は残されていない

 

それでも

 

「.....So as I pray」

「そうか」

 

冷たい発砲音と共に、短い戦いは幕を閉じた

 

 




ナウシズの設定はオリジナルです


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十話

「さあ、さっさと終わらせるとしよう」

 

.....実の所、この段階でほぼ詰んでいるも同然だった

弓兵がここまでの接敵を許して、片腕まで使いものにならないともなれば、戦況は絶望的

 

(そんな事は分かっている。)

 

だが、剣を構える

 

元よりアーチャーというクラスはレンジャーとしての側面を兼ね備えている。接近戦ができる者も少なくはない

 

「.....I am the bone of my sword 」

 

(片腕は使えない.....魔力も尽きかけで、展開できても五、六秒程か.....結構だ。)

 

元より退くなどと、そんな選択肢は残されていないのだから

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

故に、こうなる事も分かっていた

 

「終わりだ」

 

ふざけたザマだ。たった一撃で脳を揺らされ、起き上がる事もできずに地に沈められたというワケだ

 

こうも長ったらしい詠唱だ。唱え終わるまで待っているようなマヌケもいないだろうが.....

 

(私の敗北か.....)

 

うっすらとだが、銃口がこちらに向いているのが見える。生前何度も経験した事だ.....今度ばかりはどうしようもないが

 

「.....So as I pray」

 

無様なモノだ、ものの一分も稼げんとは

 

「そうか」

 

発砲音が聞こえた....痛みは無い、いや、どこを撃たれたのかも分からん。ただ意識がまだあるという事は、頭蓋に穴が空いたわけではないらしい

 

(止ま.....れ.....)

 

声が出ない.....ああ、これは、なるほどな.....

 

心臓を撃たれた、か

 

見事なものだ。動けなくなれば容赦なく急所を撃つ。実に手際が良い

 

顔の筋肉が動かなくなる。足先の感覚が無くなってゆくのを感じる。まだ意識が有るのは.....エーテルで編まれた仮初めの肉体故か

 

最悪の体験だ。何度味わおうとコレには慣れん.....だが

 

(その背は脳裏に刻んでおくぞ.....!)

 

 

 

薄れ行く意識の中で最後にオレは、奴と目が合った気がした

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「奴とはまた会う事になるかもしれんな」

 

消え行くアーチャーに一瞥すると、スネークはそう呟いた

 

「やめろやめろ! 口は災いのもとって奴だよ。それにその話、他人事とは思えんからな」

 

いかにも気色悪い、という身振りでキャスターが否定する。彼の言動や行動から察するに、過去に似たような事があったらしい

 

「いやぁ、みんなお疲れ様.....」

 

息も絶え絶え、といった様子で藤丸が吐き出す

 

「生きた心地がしなかったわよ、まったく.....」

「お疲れさまです、所長」

「助かるわね、マシュ.....」

 

足の震えているオルガマリーに肩を貸しながら、マシュは労いの言葉をかける

 

「肝心の戦闘はお二人に頼り切りでした.....申し訳ありません」

「いや、いい。俺たちだけじゃ坊主を守り切れなかっただろうしな」

「おうおう。ほぼ初陣みたいなもんだしな、良くやった方だろ」

「ああ、ありがとうマシュ」

 

皆が皆へ賛辞を投げかける。死地を潜り抜け、一行の結束はより強固なものとなった

 

「あー、すまない。大変なのは分かってるんだけど.....」

「おう、セイバーの事だろ」

 

そう、大きな関門は突破したが、未だ事態が終息したわけではない。一番の難敵がまだ残っている

 

「さて、どうする? あの女は最高に強いぞ。宝具もそうだが、英霊としてのスペックも、剣の腕も、どれもが一級品だ」

 

中世ヨーロッパにおける九偉人に数えられた一人、アーサー王である

 




UBWっていくらなんでも詠唱長くない?


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