過保護な人達 (まさ(GPB))
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過保護な人達

暖かくなる前に。
バレンタイン?舞衣ちゃんの誕生日?
……すまない!(三段階迅移
※若干のキャラ崩壊があります。


「寒くて死んじゃいそう……」

 

 きっかけは(つばくろ)結芽(ゆめ)が発したその一言だった。

 同じく部屋にいた親衛隊の獅童(しどう)真希(まき)此花(このはな)寿々花(すずか)皐月(さつき)夜見(よみ)の三人はこの言葉を聞いて動きを止めた。

「……あれ? おねーさん達、どうしたの?」

 結芽は止まった三人を不思議そうに見る。

 しかし三人が止まっていたのは一瞬。次の瞬間には、結芽の周りに迅移(じんい)を使用したかのような速度で目の前に立っていた。

「大丈夫か結芽!? 今すぐ暖房を点けるから待っていろ!」

「服も暖かい方がいいですわね! マフラーもありますわよ!」

「紅茶もどうぞ」

「えぇっ!? ちょ、ちょっと何~!?」

 突然の勢いに、流石の彼女も驚く。

 真希は部屋を暖かくし、寿々花は結芽にコートとマフラーを着させ、夜見は淹れたての温かい――いや、もはや熱いと言ってもいい紅茶を差し出す。

 ――そう言えば、前にもこんな事あったっけ……。

 結芽は以前にも似たような状況になった時の事を思い出していた。

 

 × × ×

 

 それもある日、結芽が漏らした一言からだった。

「退屈で死にそう……」

 いつものように任務がなく、暇を持て余していた彼女がポツリと零す。

 それを偶然通りがかった真希が聞いていた。

「すまない結芽!」

「うわぁ!?」

 いきなり声をかけられた事もそうだが、普段見せるクールな言動が欠片もない彼女に、結芽は驚きを隠せない。

「僕や寿々花、夜見はこれから任務がある。相手が出来ない代わりとして、ボクの部下を使ってくれ!」

「……真希おねーさん、結構酷いこと言ってるって自覚ある?」

 退屈している時の遊び相手として他の刀使(とじ)に襲いかかる結芽が言えた事ではないが、流石の彼女も真希がこんな事を言うとは思ってもいなかった。

「しかし退屈で死にそうなんだろう!? だったら――」

「確かにそう言ったけど、それで死んだりしないからっ!」

 そう言った結芽は、真希から逃げるように走り出す。

「結芽!」

「私、用事あったの忘れてたから!」

 バレバレな嘘なのは結芽自身にも分かっていたが、いつもと様子が違う真希から逃れる為に必死だった。

 ――これから任務だから追って来ないのも分かってるもんね! 

「それにしても、真希おねーさん急にどうしたんだろう……?」

 いつも退屈などと言えば、報告書の手伝いよりも掃除の提案なんかをされてしまう。

 それが今回は一切なく、それどころか自分の部下を遊び相手として使っていいかの様な言い方であった。

「……まぁいっか」

 深く考えても仕方ないとばかりに、結芽は今から何をしようかと考え始めていた。

 

 × × ×

 

 ――あの時は真希おねーさんだけだったし、廊下だから逃げられたけど……。

 今は親衛隊の全員が同じ部屋。しかも結芽は囲まれている。

 いや、それどころか――

「……って何これぇ!?」

 過去にあった真希との事を思い出していた僅かな間に、結芽を取り囲んでいた三人が、いつの間にか左右と後ろで引っ付いていた。

「どうしたんだ結芽?」

「どうした? じゃないよ!」

 結芽の右側でいつもの様なイケメンスマイルを見せる真希。

「これで暖かいですわよね?」

「暖かいって言うかちょっと暑いんですけど!」

 反対に左側で聞く寿々花。

「紅茶もどうぞ」

「夜見おねーさんさっきと同じ事しか言ってないよ!?」

 背後からもはや抱き着いていると言ってもいい夜見。

 普通なら誰かが引っ付いてきた段階で気付くはずだが、結芽は過去の思い出に気を取られすぎていた。

「暑いし動けないんですけどー!」

 幾ら身動(みじろ)ぎしても三人が退()く気配がない。

「結芽が寒くて死にそうだと言うからだぞ?」

「そうですわ。こうして皆で暖めているというのに……」

「ストレートよりも甘いミルクティーの方が良かったでしょうか……」

「なんで私が悪いみたいな言い方なの!? って言うか、さっきから夜見おねーさん紅茶の話しかしてなくないっ!?」

 退かないどころかマイペースな三人であった。

 

「……ねぇ、ホントに暑いから暖房止めてよー……マフラーとかも脱ぎたいし……」

 しばらく三人に引っ付かれていた結芽は汗が出るまでになっていた。

「……た、確かにもうそろそろ良さそうだ……」

「そ、そうですわね……」

「今なら紅茶もいい具合に冷めているのではないでしょうか」

「……」

 結芽はもう何も言う気が起きない。

 三人が離れたところで、着せられていたマフラーと上着を脱ぐ。

 ――うぅ、汗で気持ち悪い……。

 一度、自室に戻って着替えようと立ち上がった瞬間だった。

「結芽!」

 バン! と勢いよく部屋の扉が開かれる。

「相楽学長!?」

 現れた人物に驚くのは寿々花だ。

 結芽と寿々花の母校である綾小路(あやのこうじ)武芸(ぶげい)学舎(がくしゃ)の学長、相楽(そうらく)結月(ゆづき)その人であった。

「大丈夫か結芽! あぁこんなに汗をかいて……!」

 親衛隊の三人に消耗させられた結芽は、自身の額の汗を拭う結月にされるがままである。

「これで結芽が風邪を引いたらどうする……」

 その姿は真希と同様に、いつも学長として見せているクールな彼女ではない。

「……なんで学長がここにいるの?」

 渋々、といった様子で結芽が尋ねる。

「ん? ああ、紫に用があったんだが、途中で結芽が大変な事になっている予感がしてな」

 さも当然であるかの如く答える結月。

 ――何その変な能力……。

「便利な能力ですわね」

「ああ、ボク達も会得したいな」

「そうですね」

「おねーさん達も何言ってるのっ!?」

 親衛隊の三人がそんな妙な能力を手に入れては、何かある毎にこんな過保護な扱いを受けてしまうだろう。

「私はそんなに子供じゃないの! 子供扱いしないで!」

「結芽!」

 汗を拭く結月の手から逃れ、部屋を飛び出す。後ろから呼ぶ声がするが気にしない。

「紫様に言いつけちゃうんだからー!」

 

 ――折神(おりがみ)(ゆかり)の執務室――

 

「……結芽が大変な目にあっているな」

 




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