ある雪深い村の話 (みあ)
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うさぎさぎ そのいち

長らく離れてたのでリハビリ


 気付いたら毛玉に囲まれていた。 

 白くてふわふわの毛玉。 

 ここは洞窟の中のようだ。 

 入り口から差し込む柔らかい光は月であろうか? 

 月明かりに照らされた毛玉には長い耳が生えている。 

 自分の記憶と照らし合わせてみると、どうやらウサギの子供のよう。 

 右手をそっと上げてみる。 

 目の前のウサギたちと同じように真っ白な毛に包まれた右手。 

 きっと、今の私もこのウサギたちと同じ姿になっているのだろう。 

 親の姿は見えない。 

 私はおそらくは兄弟たちと思われる毛玉に包まれながら微睡みの中で朝を待つことに決めた。 

 

 私は多分、人間だったことがあるのだと思う。 

 それが前世というものだったかは定かではない。 

 ひょっとすると、ただの夢だったのかも。 

 でも、そうでなくてはこの知識量は説明が付かない。 

 夢うつつにそんなことを考えていたら周りの毛玉が動き出した。 

 暖かな布団を剥ぎ取られるような切なさ。 

 途端に襲い掛かってくる朝の冷気。 

 洞窟の出口へと向かう毛玉たちを慣れない四本足で追い掛けた。 

 

 洞窟を抜けるとそこは雪国だった。 

 見渡す限りの銀世界。 

 どうやら雪山の中腹にある洞窟らしい。 

 山の麓には湖や森、緑の草原が広がっている。 

 雄大な景色に見惚れていると、周りの毛玉たちが再び洞窟の中に戻っていく。 

 慌てふためいて転がるように、というか転がる姿は実に愛らしい。 

 そこで彼らに続こうと一歩進めたことは限りない幸運だったのだろう。 

 その一瞬後に背後に金属を打ち合わせるような音が響いた。 

 一足飛びに洞窟に――実際には岩穴と呼ぶのが相応しかったようだが――飛び込んで振り向いた。 

 そこにいたのは青い表皮に包まれた巨大なトカゲ。 

 二本足で跳ね回り、哀れ逃げ遅れた毛玉のひとつを咥え込んで去っていった。 

 あんな生き物は知らない。 

 少なくとも私の知識にはない。 

 どうやら一匹だけだったようで、早々に気配が無くなったのを確認するとまた毛玉たちが出口へと歩き出す。 

 あのトカゲのように、私達も腹ごしらえをしなければ生きていけないのだ。 

 空腹に鳴くお腹を抱えながら、私もその後に続いた。 

 

 雪の間から顔を見せる緑色の葉っぱを食べては岩陰に身を潜める。 

 夜になれば巣穴へと帰り、再び寄り集まって朝を待つ繰り返し。 

 その間に何度か会話を試みたのだが、結局の所通じなかったのは不幸中の幸いだったのかもしれない。 

 毛玉は日に日に数が減っていき、ついには私一人だけ、もとい一匹だけになってしまったのだった。 

 一匹だけになっても私の生活は変わらない。 

 朝になると活動し、草を食べては隠れ、夜になったら寝るだけだ。 

 一体どれだけそのサイクルを繰り返したことだろう。 

 朝日とともに目覚めた私はその日の食事を求めて雪山を彷徨う。 

 雪の間から青々と伸びた草を口にしていると、目の前にいつぞやのトカゲが現れた。 

 咆哮を上げながら飛び掛ってくるトカゲを力を込めてぶん殴る。 

 雪山を転がるようにして崖下へと消えていくトカゲを見て思う。 

 

 ……これ、ウサギじゃないや。 

 明らかに私の知識の中にあるウサギとは一線を画する生物。 

 それが白兎獣ウルクススという生き物だと知るのはもっと未来の話だった。



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にゃんにゃん そのいち

視点変わります


 俺の仕事はハンターだ。 

 村に現れる獣を倒し、その亡骸から採取される資源を持って帰るのが使命。 

 村の者は皆、俺に単独でのハンターは危険だと口々に言う。 

 だが、アオアシラだってイャンクックだって俺の敵ではなかった。 

 このハンマーの前には巨大な獣たちも無残に屍を晒すのみ。 

 俺の獲物はこんな奴らじゃない。 

 最終目標は雷狼竜ジンオウガ。 

 俺の爺さんがその昔倒したという竜だ。 

 

 

 森の中、ぽっかりと開いた草原で闇夜に放電が舞い踊る。

 真っ青な毛並みはまさに蒼い閃光となって襲い掛かってきた。

 だが遅い。

 俺の身体は既にそこにはない。

 半身を捻りながら僅かに避け、振り向き様にハンマーを叩き付ける。

 余韻に震えながら全身の毛が逆立つような感覚を覚え、全力でその場を離れた。

 半回転して起き上がった俺の目の前で奴は放電を始めた。

 これまでに何度もしてやられた超帯電状態に移行するのだろう。

 あの状態になったジンオウガは今までの比ではない。

 速度も耐久力も一段どころか二段階は上がるといってもいい。

 だが……それを倒してこそハンターの誉れ!

 

 ガアアァァァァァァァ!

 

 怒りの咆哮が闇夜を貫く。

 猛れ! 吼えろ! そう来なければ面白くない!

 ちっぽけな身体ひとつで巨大な獣に立ち向かう俺を村人は笑った。

 ハンマーに振り回されても俺はハンターであることを選ぶ。

 例えここで朽ち果てようともな!

 

 幾度かのぶつかり合いに俺も回復薬を飲む暇も無い。

 そして奴もまた、力尽き果てる時が来たようだ。

 脚を引き摺りながら逃げ出そうとする奴を追い掛けようとした時、森の茂みが揺れた。

 ジンオウガが逃げる方角。

 その真正面に人の姿が見えた。

 

 くそっ! 気付かなかった!

 俺がジンオウガを倒すのが速いか、ジンオウガが逃げ出すのが速いか……いや、違う。

 今するべきことはそんなことじゃない。

 ハンマーを捨て、身軽になった俺は人影に向かって全速力で走った。

 

 弓を背中に背負った女。

 知らない顔だが装備を見るに初心者ハンターだろう。

 輸送クエストの途中で運悪く出会ってしまったというところか。

 近付くに従って女の表情が見えるようになった。

 その顔は恐怖でひきつっている。

 無理もない、ジンオウガはなりたてのハンターが出会うことなどまずない本物の怪物だ。

 脚を引き摺りながらも突進するジンオウガ!

 その正面でへたりこんだ女を、俺は全速力で蹴り飛ばした。

 その刹那、俺の身体にとんでもない衝撃が走った。

 ジンオウガの全速力の突進である。

 脚を引き摺りこそすれ、その巨体による体当たりは今までの攻撃全てを凌駕するほどの一撃。

 

 ガハァッ!

 

 肺の中の空気が強制的に身体から絞り出された。

 受け身を取る隙などありはしない。

 大木に叩き付けられたまま無様に転がるしかなかった。

 あまりの衝撃に息が出来ない。

 痙攣する俺を振り返ることなく、ジンオウガは森の奥深くへと消えていった。

 

「大丈夫?」

 

 しばらくして、女ハンターが覗き込んできた。

 涙を流した跡が見える。

 今回のことは、周りを見ていなかった自分の責任だ。

 だがそれでも、怒りがこみ上げてくるのは抑えようがない。

 

「ふざけるニャ! お前が邪魔しニャきゃ今頃勝利の雄叫びを挙げてたはずニャ!」

 

「ううっ……本当にごめんなさい」

 

 女の泣き顔は苦手だ。

 自分がハンターになったのは泣き顔を増やすためではない。

 笑顔を増やすためだ。

 ジンオウガ憎しで何もかもを見返らなかったのは俺の間違いだったようだ。

 

「仕方ないニャ……償いとして手伝ってもらうニャ」

 

「え?」

 

 この女を一人前のハンターとして育て上げて、もう一度ジンオウガに挑むとしよう。

 森の奥を見据えながら、俺はそう誓った。

 

「ちょ、ちょっと待って! 私の意思は?」

 

「知らないニャ。明日からビシビシ行くニャ!」

 

 それが生涯を共にすることになる、女ハンターとの出会いだった。



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うさぎさぎ そのに

うーさうさ


 今日は山の麓に行ってみることにした。

 いい加減、雪とトカゲだけでは気が滅入るというものだ。

 いつも食べている雪の間に生える草をいくつか摘んで束にした。

 ちょっとしたお弁当といったところか。

 たまにはピクニックに行くのもいい気分転換になるだろう。

 このウサギのようでウサギでない身体。

 お腹が亀の甲羅のようにスベスベとして硬い。

 幼い頃に見た兄弟達の中にはボディスライダーのようにお腹を下にして滑る者も居た。

 今日はそれを試すとしよう。

 

「キュゥゥゥゥクルルゥゥゥゥゥ!」

 

 圧倒的なまでのこのスピード!

 個人的にはイヤッホォォォォォー!と叫んだつもりだったが、やはり人の言葉を話すのは無理なようだ。

 しかし、この爽快感は今までの何よりも素晴らしかった。

 少し身体を傾けただけで曲がることも止まることも自由自在!

 雪が小さな丘を作っているのが前方に見えた。

 前方に体重を乗せて全速力で跳躍!

 

「キュゥゥゥゥクルルルゥゥゥゥゥ!」

 

 空中で身体を捻って三回転、そして着地!

 痺れにも似た衝撃が足の裏から耳の先まで伝わっていく。

 ……気持ちいい。

 今のは良かった、もう一回!

 と振り向いた私が見たのは数十メートルはあろうかという断崖絶壁。

 帰る時、これ登るのイヤだな。

 せめて何かしら成果を持って帰りたい。

 

「キュルル?」

 

 麓に広がっていた緑は湿原地帯だった。

 雪山には見掛けなかった虫の姿も見える。

 しかし、あれだな。

 比較対象が無いのがダメだな。

 何かこの虫、明らかに大きいんだが。

 ここから見えるのは一匹だけだが、大きさが半端ない。

 あの雪山にいたトカゲの頭くらいの大きさだぞ?

 私の前世の記憶にはそんな大きな羽虫は居ない。

 見た目的には蚊にも見えるがあまりにも巨大すぎる。

 あんなのに血を吸われた日にはどうなることやら。

 しかし、巨大羽虫はこちらに来ることはなく湿原の向こうへと消えていった。

 これ……ひょっとしたら私の身体、ミニサイズなんじゃ?

 巨大羽虫の大きさを三センチとするなら私はせいぜい二十センチといったところだろうか。

 それはそれで省エネかな。

 独りだと変なことばかり思い付いて困るな。

 

 足元がぬかるんで歩きにくい。

 真っ白な毛も膝下はもう泥だらけだった。

 どこかに水場は無いものか。

 しばし足を止め、耳を澄ます。

 ちょろちょろと水の流れる音が聞こえた。

 

「クルルゥ」

 

 そういえば水を飲んだことなかったな。

 草の水分だけで足りているのか、雪を口にしたことすらなかった。

 もっとも、空腹に耐えかねて雪を食べた兄弟たちは皆死んでいったわけだが。

 低体温症なるものだと私の記憶が告げていたのだが、兄弟たちに伝える術はなかったので仕方がない。

 それはさておき、湿地を歩き回った私の前に小さな泉が現れた。

 小さいとはいっても私が三匹くらいは優に寝そべれそうなほどの大きさ。

 さっきの巨大羽虫のせいで目測が出来ないので正確にメートルで表していいものか。

 澄んだ水面を覗き込む。

 

「キュアッ!?」

 

 あ……私か。

 鋭い牙が並んだ怪物がこっち見てるから何かと思った。

 これ……私か。マジか。

 やっぱりウサギじゃないや。

 改めて私の知る世界では無いことを再確認することとなった。



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うさぎさぎ そのさん

うーさうさー


 おさかなさんだー!

 泉を覗き込んでいると魚が泳いでいるのが見えた。

 魚……食べられるかな?

 私に生えているのは牙だった。

 それも肉食獣の、肉を噛み千切るための鋭い牙。

 もしかして、草以外の物も食べられるのでは?

 じっと手を見る。

 鋭く……はないがそれなりに尖った爪。

 トカゲを殴り倒すだけのお仕事に使うことはなかったが、ひょっとしたらも考えられる。

 

「キュラァッ!」

 

 幼少時に野生児と呼ばれ、今は野生のウサギもどきである私に不可能は無い!

 数瞬後には私の前にピチピチと跳ねる魚の姿があった。

 早速調理――する手段が無いな。

 生でかぶり付くしかないのか。

 仕方ない、少しずつ噛み砕くのも気が引けるし一気に!

 

 ボシュッ!

 

 ……ぼしゅ?

 あれ、変だな……?

 私、今お魚さん食べたよね?

 口の中で必死に跳ねようとする魚のエラ蓋あたりに牙を突き立てた記憶があるんだ。

 魚が動きを止めた瞬間、消えた……?

 水面を覗くと、私の顔は惨憺たる有り様だった。

 魚の鱗や血が飛び散り、白い毛や顔を真っ赤に染めている。

 水で顔を洗ってみたらキズひとつないことから、おそらくは魚自体が破裂したものと思われる。

 なんじゃそらー!?

 おい、この世界怖いぞ。何で魚が爆発するんだ?

 風船か何かか? この世界の魚はどうなってるんだ?

 念のため、もう一匹捕まえてみよう。

 さっきと同じような姿をした魚がまたピチピチと跳ねている。

 ちょっと触ってみても破裂する感じはしない。

 いや、やっぱり念のため、爪を刺してみよう。

 まずは身の部分、ピチピチと跳ねるのは変わらない。

 思い切って頭を落としてみる。

 

 パァンッ!

 

「キュアッ!?」

 

 怖……マジ怖っ!

 さっきより派手に爆発したんですけど!

 細切れ状態になった魚の身がポチャポチャと音を立てて泉の中に落ちていく。

 何これ!? 本当に魚なの!?

 期待させておいて食べさせてさえくれない魚のおかげで腹の虫がくぅと鳴いた。

 その時、遠くで何か巨大な音が響いてきた。

 例えるなら雪の塊が山の上から落ちてきたような音。

 低く鈍い音はそれっきり、響いてくることはなかった。

 

「キュルル?」

 

 数少ない茂みに身を隠しながら近付いた私の目の前にそれは居た。

 大きな長い棒のような物を背中に背負った15歳くらいの少年。

 その傍らでちょこちょこと動く二本脚の猫だ。

 この世界、人間居たんだ。

 直立歩行するウサギもどきが居るんだ、直立歩行する猫が居ても大した問題ではない。

 でも、可愛いなアレ。

 

「ハカセ、依頼はアプトノスのもも肉でいいんだっけ?」

 

「そうニャ、でも依頼分には足りてるニャ。それ以上は自然の糧にするニャ」

 

 うぉぉぉぉ! 喋ってる! 喋ってるよ、猫!

 ウサギもどきは喋れないのにズルいだろお前!

 

「自然の糧?」

 

「他の動物やご主人とボクのご飯にするニャ!」

 

「あっ、そう。そういうことね」

 

 いいなぁ……私も喋れたらなぁ……。

 うちひしがれる私の前で少年は何やら荷物から取り出し始めた。

 あ、肉を焼いてるのか。

 くるくると器用に回しながら肉が炎に炙られていく。

 その周りでは先ほどハカセと呼ばれた猫が踊っていた。

 

「それ、踊らなきゃいけないの?」

 

「本能ニャ」

 

 じっくりと焼き色を付ける少年と踊る猫。

 実におかしな光景だ。

 よくよく観察すると、少年たちの向こう側に巨大な生き物の死体が転がっていた。

 さっきの話と総合すると、あれがアプトノスという生き物なのだろう。

 少し前に聞いた音はアレが倒れる音だったようだ。

 

「なあハカセ、何でもも肉だけなんだ? あの大きさならどこの肉でもいいんじゃないか?」

 

「アプトノスは寒さの厳しい所にも住んでるニャ。そのせいで皮下脂肪の厚さがハンパニャいニャ。腹の身を切り出そうとすれば解体ナイフがベッチャベチャにニャるニャ」

 

「へぇー」

 

 へぇー……そうなんだ。

 凄いな、あの猫。博士と呼ばれるだけの理由はあるな。

 

「もも肉はあれだけの体重を支えてるニャ。上手くサシが入ってて脂っこくニャい極上の筋肉ニャのニャ」

 

「おっし、焼けたぞ!」

 

 上手に焼けました!と叫びながらガッツポーズをする一人と一匹。

 何かの儀式を思わせる肉焼き。

 その手には香ばしい匂いと見事な焼き色を付けてこんがりと焼けた肉。

 ……食べたい。絶対、あれ美味しいって!

 もう一度、腹の虫がくぅと鳴いた。

 

「クルルゥゥゥゥゥ」

 

 低く呻くと、茂みの向こうの少年たちも動きを見せた。

 ヤバい、気付かれた!

 

「敵襲か!?」

 

「ご主人、それランスじゃニャくて肉ニャ……」

 

 こんがり肉を片手にファイティングポーズを取る少年たちの前に私は一歩進み出た。

 そして、土下座した。

 強奪する気など全くない、一口……ただの一口でいいんです! 食べさせてください!

 

「え、何? これ、どうしたらいいんだ、ハカセ?」

 

「ボクにも知らニャいことくらいあるニャ」

 

 狼狽える少年と、意外に冷静な猫の前で私は私はただただひれ伏していた。



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にゃんにゃん そのに

にゃんこサイド


「タマ! アオアシラくらい一人で倒すニャ!」

 

「タマじゃなくてミタマ! 私の名前はミタマだって言ってるでしょ!」

 

「一人前になるまではタマでいいニャ!」

 

 ピーピー泣いてるだけの女かと思ったら意外に気が強くて困る。

 もっとも、ハンターとして生きていこうなんて考える人間が気が弱いはずもない。

 正直、俺はコイツを舐めていた。

 早々にハンターに見切りを付けて逃げるとでも思ってたんだが。

 

「タマはどうしてハンターにニャりたいニャ?」

 

「……別に。若い女が一人で生きていこうと思ったら身体を売るか、ハンターになるかの選択肢しか無かっただけよ」

 

 明らかに嘘だろう。

 人間関係に疎い俺でも分かる。

 俺の問いかけに答える彼女の視線は空中を泳いでいた。

 何か訳有りのようだが突っ込んだところでやぶ蛇になりかねない。

 

「まあいいニャ。目標はあるニャ?」

 

「あんたに『ご主人様』と呼ばせてやること!」

 

「……頑張れニャ」

 

 やっぱり女は面倒くさいな。

 アイルーも人もそう変わりはしない。

 

 

「まずは距離を取るニャ。接近戦はオレがするニャ」

 

「あんたってアイルーっぽくないよね」

 

「よく言われるニャ」

 

 皆一緒のままでは発展などない。

 ましてや俺はジンオウガに挑もうとするレベルのバカだ。

 当然ただのアイルーのままでは居られない。

 アイルーの枠を逸脱するのは仕方がない。

 

「アイルーはオトリでいいニャ。本命はタマの弓ニャ」

 

「それでいいの?」

 

「オレに当てるくらいの覚悟で行くニャ」

 

 初めての連携で相手に遠慮していたら何も出来やしない。何も為せやしない。

 自らが中心になって動くくらいの気概は持たねばハンターなんてやっていられない。

 

「あ……ごめん」

 

 実戦で連携を試さねばとジャギィを練習相手に選んだ矢先、後頭部に軽い衝撃を感じた。

 俺は冷静にジャギィにトドメを刺した後、自分の後頭部に突き立った矢を引き抜いた。

 まずは的当てから始めた方が良さそうだ。

 その前にやるべきことも出来たが。

 

「オレに当てろとは言ってニャいニャ」

 

「当てるつもりでって……ごめん、ホントごめん」

 

 申し訳なさそうな顔をするタマ。

 人間もアイルーも美醜はよく分からないがおそらくは美人に属するのだろう。

 人間の男どもの妙な視線が集まってるのを感じる時がある。

 

「まず、長髪は結ぶか切るか選ぶニャ。矢を抜く時に引っ掛かって死にたいニャら自由ニャ」

 

 タマは言われるがままに髪を結い上げ始める。

 多分、コイツはまともにハンター教育を受けていない。

 弓が使えるからハンターやってみましたレベルだ。

 元は軍人か、もしくは軍人に連なる家の娘か。

 軍人であっても見習いレベルだが。

 

「ビンの扱いは心得てるニャ?」

 

 ハンター用の弓には毒薬を取り付けることが出来る。

 睡眠毒や麻痺毒、あらゆる効果を与えて相手に合わせて戦術を変えられるのが弓の強みだ。

 

「え、要るの?」

 

「やれやれニャ……」

 

 まずは基本からだな。

 色々と教えることがありそうだ。

 

「弓の基本は距離を空けつつの円運動ニャ」

 

 演習場を借り切っての基本訓練。

 俺もどんな武器が自分に合うのかを試行錯誤した経験がある。

 弓を扱うには不器用すぎたが立ち回りくらいは教示出来るはずだ。

 

「相手の動きを予想しつつ動くニャ。常に射程範囲に入れニャがら一定の距離を保つニャ」

 

 尻尾を持つ相手ならギリギリ尻尾の届かない位置。

 体当たりが武器の相手なら避けられるギリギリの距離。

 

「まずは相手の情報を手に入れるニャ。どんな攻撃をしてくるか、攻撃の前兆行動や癖を徹底的に分析して行動に落とし込むニャ」

 

 先輩のハンターに聞いてもいい、実際に観察に行くのもいい。

 いきなり出会って初見で倒せるのはよほど熟練のハンターか、よほどのバカのみ。

 大抵は逃げるのが先決だ。

 

「どんニャ毒が効くのか、どんニャ攻撃が有効ニャのかは実際に戦うまでは分からニャいニャ」

 

「それじゃあ、依頼はどうするの?」

 

「一度の失敗で消えるようニャ依頼はほとんどニャいニャ。緊急依頼はお前みたいニャ初心者には来るはずもニャいニャ」

 

「私だって、その……多分やれば出来るよ!」

 

「無理ニャ」

 

 俺の言葉にタマはむくれる。

 まだまだ子どもだ。

 背も低ければ、胸もほとんど膨れていない。

 だからこそ育て甲斐がある。

 これから成長期に入ればハンターとして伸びていくだけ。

 爺さんも昔言っていた。

 最強のハンターを育て上げてこそ最高のハンターだと。

 

「的を中心に置きつつ、走りながら当てるニャ」

 

 的を見ていた俺の頭が前にカクンッと傾げた。

 後頭部にはいつぞや感じた痛み。

 そして、既に逃走の姿勢に入ったタマを見る。

 逃げの判断は実に的確になったものだ。

 

「……体力テストに切り替えるニャ」

 

 俺は愛用のハンマーを構えつつ、後を追う。

 

「ご、ごめんなさーい!」

 

「追い付かれたら後頭部にハンマーニャ」

 

「それ死ぬやつ!」

 

「大丈夫、峰打ちニャ」

 

「ハンマーに峰なんか無いし!」

 

 突っ込みを入れながら走る様子を見るにまだまだ余裕はありそうだ。

 ジンオウガを倒すまでには何年掛かるか分からない。

 でも、これはこれで楽しくなってきたのもまた事実。

 結局この日は耐久レースで終わったのだった。



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うさぎさぎ そのよん

うーさっさ


 美 味 す ぎ る!

 こんがり肉量産機と化している少年を尻目に、久しぶりの焼き肉を味わう私。

 相棒の猫ちゃんの方はたまに塩や香辛料を振り掛けては私の食欲をそそってくる。

 結局、残っていたアプトノスのもも肉はほとんど私が食べてしまった。

 指に着いた脂すら愛おしい。

 ごちそうさまでした!

 

「おそまつさまニャ」

 

「もう、いいのか? 俺、一生分くらい肉焼いたぞ?」

 

 本当に美味しかった!

 思わず少年を抱き寄せて頬擦りをする。

 

「うわ、や、止めろ! 俺は美味くないぞ!」

 

「感謝してるだけニャ。安心するニャ」

 

 慌てる少年と、それをなだめる猫。

 感謝の念は絶えない。

 

 

「落ち着いたところで話をするニャ」

 

 こうなったのは簡単だ。

 なんと、この猫ちゃんは私の言葉を理解してくれたのだ!

 人間とは話が通じないのは不便この上ないが、猫ちゃんだけでも初めての会話が通じる相手。

 この出会いはきっと幸運だったのだろう。

 

「で、コイツは何てモンスターなんだ? こんな友好的なモンスターは初めて見たぞ?」

 

「白兎獣ウルクススニャ」

 

「ウルクススニャ?」

 

「ウルクスス、ニャ。ニャはいらニャいニャ」

 

 ウルクスス……どうやらそれが私の種族名らしい。

 もちろん人間が勝手に付けた名前なので種族的には何か他の呼び方があるかもしれない。

 でも、同族とは何故か言葉が通じなかったので分からない。

 

「ウルクススは基本的に人間に害を与えることはニャいニャ。だから依頼に載ることも滅多にニャいニャ」

 

「じゃあ、元々友好的なのか?」

 

「それも違うニャ。人間と友好的ニャのはボクたちアイルーくらいニャ」

 

 この猫ちゃんはアイルーという種族のようだ。

 私はいきなりこの世界に放り出された。

 だから何も知らない。

 見える物、聞こえる物、全てが新鮮だ。

 

「ウルクススが住むのは人が居ない雪山や氷原、基本的に人と出会うことがニャいだけニャ。ボクも本物は初めて見たニャ」

 

 この少年はハンターと呼ばれる職業なのだそうだ。

 ハンターとは、モンスターを狩って肉や皮を採り生計を立てたり、ギルドと呼ばれる上位組織による依頼で動いたりするそうだ。

 アイルーはその手助けをする種族なのだそう。

 

「俺の名前はテオだ、よろしくな」

 

「ボクはハカセと呼ばれてるニャ。本名は違うニャ」

 

「え、マジで!?」

 

「……何でご主人が驚くニャ?」

 

 私の個体名は無い。

 誰も呼ぶ者が居なかったのだから仕方がない。

 それよりも何かお礼をしなくては。

 何か無いか、そういえばさっきの魚。

 

「それはハレツアロワニャとバクレツアロワニャニャ」

 

「一応言っとくとアロワナ、な」

 

 絶命すると爆発する性質があるのだとか。

 物騒な魚である。

 そうだ、食べるといえばお弁当があった!

 腹の硬い皮膚と毛の間に挟んでおいたんだった。

 それを取り出すとハカセの眼の色が変わった。

 

「ニャニャ! 雪山草ニャ!」

 

「何かあるの?」

 

「ギルドが特別に引き取ってくれるニャ!」

 

 どうやら人間の世界ではそれなりに貴重な物らしい。

 お返しにはちょうど良かったようで安心した。

 

「薬草も混じってるニャ。こっちの丸い葉っぱが薬草で真っ直ぐなのが雪山草ニャ。ケガをしたら薬草を潰して塗るといいニャ」

 

「薬草も調合で回復薬になるんだ。俺は調合苦手だけどな」

 

 テオが取り出した小さなビンには緑色の液体が詰まっている。

 これが回復薬なのだそうだ。

 飲んでも塗ってもケガが治るとは、今までで一番ファンタジーな気がする。

 

「そうニャ! 肉焼きセットも持ってくニャ」

 

「さっき予備を手に入れたから一つ余ってんだ。売っても二束三文だしな」

 

 え、いいの?

 これがあったら肉や魚も焼いて食べられる。

 テオの話ではたいして価値があるものでもないらしいが、私にとっては何よりも嬉しい申し出だった。

 

「俺たち以外のハンターに会ったら逃げろよ? 友好的でないハンターの方が多いからさ」

 

「ライガって名乗るアイルーに気を付けるニャ。いつもハンマー振り回してる乱暴者ニャ」

 

「ここらには俺たちと師匠とその相棒のアイルー……そのライガって奴くらいしか居ないけどな」

 

 覚えておこう。

 テオとハカセ以外の人間は危険と。

 基本的には近付かないようにしよう。

 

「縁があったらまたな!」

 

「バイバイニャ!」

 

 テオとハカセに手を振って雪山に戻ることにした。

 これから色々と楽しいことが起こりそうだ。

その前に、どうやってこの崖を登ろうか?

遥か高い頂を見上げながら、少しだけ後悔していた。



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にゃんにゃん そのさん

にゃんサイド


「ほら眠ったニャ! この隙に爆弾を仕掛けるニャ!」

 

「落ち着いて……落ち着いて……大タル爆弾をありったけ」

 

 タマはゆっくりと離れると爆弾に向けて矢を放った。

 途端に巻き起こる大爆発!

 煙が消えると同時に衝撃で起き上がっていたイャンクックがそのままゆっくりと倒れていく。

 

「やった! イャンクックをひとりで倒せた!」

 

「さっさと解体するニャ。ギルドの回収部隊が待ってるニャ」

 

 ハンターが依頼のあったモンスターを解体出来る時間はわずかしかない。

 元々ギルドも依頼を受けてモンスターを回収するから、あまりにも使える部位が少なければ儲けにならない。

 だからハンターにはそれほど旨味が無いのが現実だ。

 もっとも、ギルドが引き取ってくれるからこそ現金収入になることを考えればわずかでも解体時間をくれるのは温情といってもいい。

 もしもハンター自身がモンスターに倒されることになれば回収部隊はモンスターではなくハンターを回収することになる。

 依頼が失敗することになるが、命あっての物種だ。

 回収部隊には頭が上がらない。

 

「せっかくイャンクックを倒せたのに……」

 

「イャンクックは下級の壁ニャ。まだまだこれからニャ」

 

 それでもひとりでイャンクックを倒せるまでに成長したことが嬉しい。

 回収部隊のガーグァ車に便乗させてもらいながら弟子の成長を喜んだ。

 絶対に表には出さないが。

 

 

「そういえば、あんたって何て呼べばいいの?」

 

「ライガニャ」

 

「ライガニャ?」

 

「ニャを入れるニャ。ライガ、ニャ」

 

 俺は雷の牙、ライガだ。

 ジンオウガを倒すと決めた時に俺の名は決まった。

 何かこう名乗ると爺さんが微妙な顔をするが。

 

「ライガ、ね。オッケー! これからもよろしくね、ライガ!」

 

「ジンオウガを倒すまでニャ。それ以降は知らニャいニャ」

 

 連携しての戦闘をこなし、イャンクックが前よりも容易に倒せるようになった頃に緊急依頼が入った。

 時期が悪く、この依頼を受けたのは俺とタマのみ。

 しかも、相手はジンオウガだった。

 

「怖いニャら隠れてるニャ」

 

「ふん、そっちこそ」

 

 俺たちは準備万端とは行かなかったが再度ジンオウガと対戦することとなった。

 

 

 闇夜の草むらを巨大な脚の持ち主がゆっくりと踏み締める。

 草むらには雷光虫が飛び交い、辺りは完全な静寂に包まれていた。

 それもそのはず。

 このジンオウガはこの森に置ける最強の王者。

 音を立てればたちまち餌食になるかもしれない。

 そんな恐怖がこの森を包み込んでいた。

 だが、それも今この時まで!

 

 ガァァァァ!

 

 雷狼竜が咆哮を挙げた。

 それをもたらしたのは左の眼球を貫いた一本の矢。

 痛みにのたうつジンオウガに向かって木の上から飛び降りる。

 

「ニャおぅ!」

 

 ガツンッと衝撃が腕の先から全身へと伝わっていく。

 確かに手応えはあった。

 死角となった左側からの全力のジャンプ打ち!

 一撃とは行かないまでも痛撃を与えることには成功したはずだ。

 ふらつきながらもジンオウガは一回転、尻尾で周辺を払った。

 しかし、俺はもうそこには居ない。

 いぶかしむ奴を再び放たれた矢が襲う。

 

 グガァッ!

 

 痛かろう痛かろう。

 俺がタマに求めたのは全力を込めた一撃。

 フェイントは全て俺が請け負い、スタミナを全部弓へと込めてもらう。

 これが作戦の全てだった。

 そこからは完全に消耗戦である。

 

「ニャッ!」

 

 元々、俺一人でも苦戦しながら瀕死に追い込んだ相手だ。

 二人なら当然のことながら楽勝といっても良かった。

 逃げようと後ろを向けば矢がいくつも突き刺さり、こちらを向いても残った右目を貫こうといくつも飛んで来る。

 もちろん、俺も無傷とはいかない。

 ジンオウガの爪や尻尾を幾度となく食らった。矢も食らった。

 後頭部に集中してるあたり、わざとなんじゃないかと思わなくもない

 終わった後でまたいつもの笑顔でごめんごめんと謝るのだろう。

 随分と長い時間を過ごしたものだ。

 

 倒れたジンオウガの上に飛び乗って勝鬨を挙げながらも、俺の心はもうここには無かった。

 

 

「なーに、黄昏てんの?」

 

「ふん、こんニャもんかと思ってただけニャ」

 

 ジンオウガに勝ったという高揚感はあんまり無かった。

 久しぶりの大型モンスター退治にお祭り騒ぎで浮かれる街の連中を見ても何の感慨もありはしない。

 でも、タマの笑顔を見てると心が浮き上がるのを感じた。

 

「その……あんたさえ良ければ、私と組まない?」

 

 その誘いをどれほど焦がれたことか。

 ジンオウガを倒すという俺に着いてくる者など居なかった。

 圧倒的な孤独の中で生きてきた俺が初めて見た光だった。

 

「お前さえ良ければ、ライガを、この雷の牙を存分に使うといいニャ……『ご主人』」

 

「え、今なんって言ったの?」

 

「何でもニャいニャ! 気のせいニャ!」

 

 いたずらっ子の笑みを浮かべるタマに早まったかと少々後悔する。

 それでも、この選択はきっと間違いではないと思う。

 

「ねぇねぇ、さっき何て言ったの? ねぇ、ぶち太郎?」

 

「ニャ!? オレの本名、誰に聞いたニャ!?」

 

「あんたの爺さん」

 

 何でコイツに教えたんだ、爺さぁぁぁぁぁん!

 俺は早々に故郷を後にすると決めたのだった。



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うさぎさぎ そのご

 テオとハカセと別れた後は穏やかな日々だった。

 食生活の充実は実に素晴らしい。

 ちなみにあの青いトカゲは不味かった。

 肉食獣はあんまり美味しくないという前世の記憶はあるが、ファンタジー世界にも通用するようだ。

 

「キュルル……」

 

 満足感に思わず声が出る。

 見よ! この素晴らしい景色を!

 見よ! この乱立する雪だるまを!

 周りは常に雪まみれ、そして私は雪に特化したモンスター。

 そうだ、雪だるまを作ろうと思うのは当然のことだ!

 出来た小さな雪だるまに猫耳を乗せる。

 うん、君はハカセだ。

 この世界に来て初めて出会った言葉が通じる友人。

 私の胸くらいの背の雪だるまはテオだ。

 こんがり肉を片手にガッツポーズする姿が思い浮かぶ。

 あれは美味しかったな……。

 今度会うことがあったら肉を焼くコツを教えてもらおう。

 なかなかにタイミングが難しい。

 少しでも早ければ生焼け肉、遅ければコゲ肉だ。

 食えなくもないんだが時々むせるのは何なのか。

 草食動物しか美味しく食べられないからたまに出くわすデカいイノシシくらいでしか練習も出来ない。

 雪玉をぶつけて弱ったところを滑走して体当たり、引っ掻いてみたり蹴ってみたり。

 私の武器が一体何なのかよく分からないからやるだけやっているんだが、やはり色々と難しい。

 肉を手に入れるのも解体の腕が必要となるし。

 雪だるまもまた日々の練習の一環なのだ、多分。

 

「チェェェストォォォーーニャ!」

 

 突然、目の前の雪テオだるまを粉砕しながら何かが飛び出してきた。

 ハンマーを振り回す、直立歩行の猫!

 

「くっ、不意打ちのはずニャ!?」

 

「キュルアッ!?」

 

 雪だるまに隠れつつ、距離を空ける。

 あのハンマーに殴られるのは痛そうだ。

 

「逃げたニャ!?」

 

 ここまで離れたら大丈夫だろう。

 雪だるまの林を抜けて雪に同化すれば見抜けはしまい。

 ふと顔を上げた私の鼻先を何かが掠めた。

 

「キュッ?」

 

 思わず声が出てしまう。

 

「そこニャ!」

 

 すかさずアイルーに見つかってしまった。

 さっき飛んできたのは一筋の矢。

 雪だるまの林の外から撃ち込んできたのだろう。

 私の目には雪だるまが邪魔で見えない。

 まんまと罠に誘い込まれてしまったようだ。

 雪だるまを作ったのは私自身だけどな!

 

「キュルル……」

 

 距離を詰めようとジリジリと近付いてくるアイルー。

 距離を空けようと逃げれば矢の雨が降ることだろう。

 仕方がない。

 

「バカにしやがって……ニャ!」

 

 手のひらを上に向け、指をクイクイと動かす。

 簡単な挑発だがあっさりと乗ってきた。

 飛び込んでくるアイルーを迎えるのは雪!

 新雪のパウダースノーを舞い上がらせて煙幕替わりに。

 

「また逃げたニャ!?」

 

 いや、違う。

 私は全く動かず目の前に居る。

 雪だるまと同化した私を見抜けなかったのがお前の敗因だ。

 柔らかく丸めた雪玉をアイルーの上から被せた。

 

「ニャ!? ニャんニャんニャ!」

 

 そしてそのまま転がしてさらに大きな雪玉に仕上げる。

 きちんと頭を出しておかなければ窒息してしまう。

 完成! アイルー雪だるま!

 矢を撃っていたのは仲間だろうから放っておいてもそのうち助けが来るだろう。

 矢の放たれたのは山の下から。

 ならば簡単なこと、上に逃げればいいだけである。

 

「こら逃げるニャ! まだ負けてニャいニャ!」

 

 上に逃げた……振りをして隠れて見守る。

 もしものことがあったらさすがに寝覚めが悪い。

 アイルーはさんざん喚きまくり、ぜぇぜぇと呼吸が怪しくなった頃に、人影が姿を現した。

 

「ぷーくすくすー……自信満々で出て行って負けてやんのー」

 

 人影は女のようだ。

 アイルー雪だるまをツンツンと触っては煽りまくっている。

 

「う、うるさいニャ! お前がちゃんと援護しニャいのがいけニャいニャ!」

 

「えー……ひとりでやるから手を出すなって言ったのは誰でしたっけー」

 

 もう見ていなくても安心だろう。

 こっそりとその場を離れる。

 女ハンターが一瞬、こちらに向かってウィンクしてきたような気がした。

 あれがライガと師匠だろうか?

 テオが言っていたハンター達。

 面倒くさいなぁ……それだけが私の感想だった。




にゃんサイドは過去、うさうさは現在となっております


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