殺伐とした別世界に、突如として変態なる国家が並行世界より来たる (ELDIAN)
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登場兵器解説(仮)

 随時更新していきます。また、情報が不明瞭な兵器(PL-01など)は一旦省かせていただきます。これはあくまでも中の人の考えが60%、資料40%で構成されています。おかしな点もありそうなのでご了承ください。

 

XF5U (アメリカ)

 どうです?いい形でしょう?余裕の揚力だ、飛行性能が違いますよ。

 と言うことで、1発目はXF5Uことフライングパンケーキです。この機体はおそらくかなり有名だと思います。(中の人の考え)

 

 まずこの戦闘機ですが、何と言っても特徴的なのはその見た目です。まさに『パンケーキ』です。しかも空を飛べます。もはや化け物です、はい。似たものにドイツの『アイザック AS-6』などがありますが、残念ながら今作品には登場しない予定です。本当に申し訳ない。

 さて、この一体何がしたいんだと思われる見た目ですが、これにもちゃんとした理由があります。

 突然ですが、みなさんは凧ってご存知ですよね?生き物じゃないです。あのふわっと飛ぶやつです。凧はちょっとした弱い風が吹くだけでも案外飛ぶと思うんですよ。それを応用したのがこの機体、XF5Uです。機体そのものを翼にしてしまえば揚力も発生しやすく、さらに失速もしにくい!そんな考えから生まれたわけです。

 そんなXF5Uは当時としては画期的です(多分)。なにせ、対空攻撃をするための物は一般的には対空砲やら艦載機などです。この時代に艦対空ミサイルなんて代物はありません(多分)。一応ドイツが『ルールシュタール X-4』なんて言う空対空ミサイルを開発していますが、それはドイツの話です。このXF5Uを開発したのはアメリカ。VT信管はあってもミサイルなんて試作すらされていません。空母はありますが、いちいち運用してたらコストがかかります。かと言って水上戦闘機に空戦をさせるわけにもいきません(零式水上観測機は除く)。ですがこの機体は違います。高揚力を発生させるこの独特な主翼(というか機体)により、なんと試作機であるV173はたった6メートルで離陸しています。それも、たった80馬力のエンジン2基で、です。最高時速も220キロとかなり速く、もしこの機体に1600馬力のエンジン2基を搭載した場合、どうなるかは考えなくてもわかりますよね?下手をすれば巡洋艦クラスでも運用が可能ということです(発艦できても着艦はどうするんだ・・・だって?勘のいいガキは嫌いだよ)。というか実際アメリカ軍はそれを考えていたそうです。マジで。

 ですが、空中戦でフライングなパンケーキが戦闘するなんていう夢の世界は実現しませんでした。

 まず、この機体の試作機製造を担当していたチャンス・ヴォート社は実戦投入中のコルセアなどの製造で、何処の馬の骨ともわからない結果がどうなるかすらわからない試作機に間を割く余裕なんてありません。そして、追い打ちをかけたのが・・・そうです。終戦です。

 これにより、実践をする機会はなくなりさらにアメリカ軍の軍事予算も削減されます。

 さらに問題だったのは『こ、こいつ・・・!ヤーボにならないじゃないか!』です。まだ艦載できて対地ができる短距離離陸機なら開発が続行されたかもしれませんが、機体正面にデカデカとある2つの巨大なプロペラが邪魔をして、ロケットを撃とうものなら大惨事待った無しです。速度の優位性も、この機体なら最高時速750キロでの飛行が可能とされていたそうですが、それも実用化されたジェットエンジンを使用すれば済むことなので速度の優位性も失われました。

 こうして、男のロマンの塊は開発中止という形で消滅しました。逸話としてその機体構造故に頑丈で、通常の方法ではスクラップ化するのが難しかったらしいです(笑)。



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元ネタ一覧(仮)(久々に更新)

随時更新していきます

 

 

 

 

 

 

 

デバーリャ2–A

 

 武装

 試製レールガン

 弾種

 ・徹甲榴弾(APHE)レールガン対応版

 

 ・20ミリ機関砲搭載のリモート砲塔1基

 

 元ネタ:PL–01 (ポーランド)

 ロマンの塊                             

____________________________________

DBA-71

 

 武装

 ・JDAM

 

 ・ナパーム弾

 

 ・クラスター爆弾

 

 ・無誘導爆弾

 

 ・バスタブ爆弾

 

 ・キッチン爆弾

 

 ・トイレ爆弾

 

 元ネタ:ブローム・ウント・フォス P.188-01 (ドイツ)

 W字翼はいいぞ                           

__________________________________  DM-T1

 

 武装

 ・ウェポンベイに対艦ミサイル4基orロケットポッド4基

 

 ・20ミリ連装機関砲を機首に1基

 

 元ネタ:CHARC Covert High-speed Attack and Reconnaissance Craftの頭文字(アメリカ)

 元がかっこいい                           

____________________________________ミサイル駆逐艦イブン・サイード級

 

 武装

 ・ミサイル6基を収納したセルを前部と後部にあわせて16基装備

 

 ・ステルス砲塔に格納式の無名のレールガンくん前部2門

 

 元ネタ:ズムウォルト級ミサイル駆逐艦

 イケメン                              

____________________________________ビガス・ルナ級原子力空母

 

 武装

 後々追記

 

 元ネタ:ジェネラル・R・フォード

 スーパーキャリアーって名前がかっこいい               

____________________________________

Dm-Depredador12.7

 

・口径:50口径(12.7x55)

 

・装弾数:20発(ドラムマガジンだと50発)

 

・レート:540発/分

 

・貫徹力:200メートル地点で2センチの鉄鋼版を貫通

 

・方式:ブルパップ

 まごうことなきエルディアン共和国陸軍の主力アサルトライフル

 

 元ネタ:ShAK-12(別称:ASh-12.7)

火力が変態                              

____________________________________炭酸ガスレーザー衛星

 

 元ネタ:ポリウス (ソ連)                     

____________________________________国家戦略防衛構想

 

 元ネタ:戦略防衛構想 (別称:スターウォーズ計画) (アメリカ)  

____________________________________デバーリャ旅団戦闘団

 

 元ネタ:ストライカー旅団戦闘団 (SBCT) (アメリカ)       

____________________________________エルナン・コルテス級超大型戦艦

 武装

 

 45口径51センチ連装砲3基6門

 弾種

 ・榴弾

 ・徹甲弾

 

 ・対空兵装諸々

 

 ()()は役目を終え記念艦となっている

 元ネタ:砲は日本の超大和型戦艦

     装甲配置はドイツのビスマルク

     船体はイギリスのネルソン級戦艦

     要するにキメラ

 男のロマン                             

____________________________________CF/A-5艦上攻撃機

 

 武装

 ・固定武装に20ミリバルカン

 

 ・ハードポイント6箇所に任意の装備を搭載可

 

 元ネタ:XF5U (アメリカ)

 知る人ぞ知るフライングパンケーキくん                

____________________________________

パーン・ジャンド・ラム

 

 元ネタ:パンジャンドラム (紅茶の足りない国大英帝国)

 ネタです(迫真)                          

____________________________________

マヌエル・アサーニャ級強襲揚陸艦

 

 武装

 後々追記

 

 元ネタ:ワスプ級強襲揚陸艦 (アメリカ)              

____________________________________「遠征戦闘車《EFV》 (水陸両用車)

 

 武装

 ・30ミリ機関砲

 

 元ネタ:遠征戦闘車《EFV》 (アメリカ)

画期的

____________________________________MDDV-1P

 

元ネタ:ハインケル レリヒェ

____________________________________

UBV-20

 

元ネタ:BV238

____________________________________



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混乱の淵に立てば ー別世界への転移編ー
第1話:Welcome to Different world 改稿その18


 先に注意して置くと、この作品はあくまでも学生である中の人が脳内に持ついらない知識を有効に(?)活用するため、もっと言えば自己満のため気ままに執筆される小説である。その点はどうか注意して見て貰いたい。

 

 

 

 

 ようこそ、紳士淑女諸君!私の名前は……中の人だ!君達は、一度『パラレルワールド』というものの存在を考えたことがあるだろうかい?簡単に言えば、『並行世界』のことだ。

 その世界は、もしかしたら、ナチス・ドイツがWWⅡに勝利した世界かもしれない。人間の寿命が平均で200歳かもしれない。恐竜がいなかった世界かもしれない。宇宙開発に、兵器開発にしのぎを削ったとも言える冷戦がなかった世界かもしれない。考えればきりがないが……まぁ簡潔にまとめるとすれば『If』だ。

 これは、そんなSF感満載のパラレルワールドというものを応用し強引にチート国家『エルディアン連邦』なる国家を北アメリカ全土に形成。それを中の人が乱用し異世界でロマン兵器片手に生き残ってもらおうという趣旨の小説である。そりゃ『ロマン兵器を真面目に運用する国家とか頭おかしいだるォッ!?舐めてんのかァッ!!今の時代は紅茶に決まってるだァッ!by紳士の国イギリス』という輩もいるだろうが、まぁそこは私の手には終えない範疇ということで、ご了承願おう。

 上で述べたことを見ても『別にいいよ。だって自分覚悟できてるし』という方は遠慮なく下へとスクロール。カオスへの扉を開いて貰いたい。

 ……そもそも、タイトルに堂々と『変態なる国家』と書いている時点でこの小説を見る人種は集約されそうなものだが。

 

 

         珍 兵 器 の ご 加 護 を 。

 

                             by.中の人

____________________________________

 これは今から、約50年後。歯止めの効かなくなった人口減少を逆手に取り、世界に先立ってAI技術の研究を行いその技術を他国に輸出、また同時にそれら技術の習得を望む各国大学生、また移民を受け入れ、同時に日本近海に眠る海底資源の開発を推し進めた『日本連邦(旧日本』や、かつてのソ連のような栄光を取り戻さんと日々日進月歩のシベリア開拓を行う『ルードシア連邦(旧ロシア連邦』などが散乱する世界。

 今以上に『先進国である事の価値』が高まった世界。その世界で、北アメリカに覇者として君臨する国家があった。財政難により破綻したアメリカ合衆国や、周辺国家などを吸収し形成された『エルディアン連邦』である。

 国家設立時は地球温暖化による影響で極度に小規模化した農作物生産量による食料自給率の少なさ、そして劣悪な治安に悩まされはしたものの、主食を小麦製品から東洋で生産されていた『サツマイモ』や『ゴーヤ』、『オクラ』、その他暑さに強い食品を導入・開発。さらに最新の機械工学を利用した新たな治安維持ロボットの開発により過去の栄光を取り戻す。

 同国は移民政策を実施したことにより一時期は最盛期の半分以下にまで減っていた北アメリカ全体の人口を大幅に引き上げることに成功。また世界に先駆けして水素発電施設を建設・実用化、国内すべての火力発電所にCCS(二酸化炭素貯留)を常備するなど、様々な政策・計画を打ち出す。宇宙分野でも驚異的な進化を見せ、すでに国営の宇宙旅行会社設立プロジェクトは動き出していた。

 ここまで言えば十分まともな国家……だが、この国家には一つの問題が存在する。それは、『軍が折角の技術を無駄遣いすること』である。

 第二次大戦末期のドイツ軍にも負けず劣らずの技術者たち率いる兵器・技術開発本部からは大量の粗大ゴミ……もといスクラップである珍兵器……例を挙げるとすれば時代錯誤も甚《はなは》だしいターボプロップエンジン搭載の英国産戦闘雷撃機『Wyvern S4』など、信じられないまでの骨董品からかつて量産されることなく開発・運用が終了した各国の試作兵器が量産・さらには正式採用にまで至り国中に配備が進んでしまう(理由は後ほど述べることになるであろう……)。

 使えそうなものは例えなんであろうと徹底的に使う。それが『珍兵器』であても、『アナログ兵器』であっても。彼らは、既に地球では希少となったこの土地を狙わんとする他国の攻撃に備え、日々の訓練を続ける。それを黙々とこなす兵士の心には、ただただ『祖国を、そして家族を守る』という思いのみが込められている。

 そして、それは……前代未聞の大試練は、突然やってきた。

 

 そう、____国家全体の別世界への転移である。

 

 

 2069年 3月6日 午後3時

 

 

 エルディアン連邦東部に位置する都市、ドライ市。五年前に国内で増え続ける移民受け入れ用都市として、移民受け入れ船とのアクセス等も考慮され沿岸部に存在したクレセントシティを再利用し設立された都市で、現状そのほとんどを移民が占めている。出来て間もないが、北西5キロ先に存在するハブ空港のロドヴィック空港があるため、交通の便が良く右肩上がりで人口は上がり続けていた。

 そして、いつもならその町に住む市民達が練り歩くメインストリートを、今日は黄金の甲冑を着た時代遅れな兵士たち、そしてその反対側にそびえ立つ市街地中心にそびえ立つ巨大なサッカースタジアムの根元では、バリケードを構築し応戦する警備隊が展開していた。

 

 「西部方面地方軍は!?すぐにでも援軍が必要だ!」

 

 警備隊長を務めるリンガル大尉は額に汗を浮き出させ、緊迫した表情で言う。腕にはバーソロミュー社製のPDR-Cが握られ、いつでも射撃できる体勢で土嚢《どのう》の背後に身を潜めている。

 事の発端は十数分前。目の前で対峙する中世風味の兵士たちが東部のから突然現れたかと思うと、市街地に侵入。民間警察何もかも御構い無しに破壊活動を開始した。あまりにも突然の奇襲で、さらに相手の使用する謎の攻撃。奴らに対する対応は遅れに遅れ気づけばこの有様だ。警備隊の半数との連絡は取れず、頼みの綱である西部方面地方軍司令部への連絡は、一向に取れそうにない。

 市街地から脱出、西部方面地方軍司令部のある基地へと向かった警備隊所属のヘリがこの報を知らせなければ、おそらく今日中には全滅するだろう。

 

 「現在連絡中ですが……一向に西部方面地方軍司令部への連絡が通じません!すでにできるだけのことはしました!」

 

 「くそっ……援軍到着の見込みは無し、か。……だが俺たちの背後には、守るべき人々がいる」

 

 リンガル大尉は後ろを振り向く。そこには、民営ホール内部でうずくまったススだらけの老人や子供、フライパンなどの簡素な武器や家に保管されてあったらしい骨董品のベネディクト社製M870を手に持ち最後の抵抗をせんとする者など、様々な人種・年齢・性別の人間がいる。

 

 「総員!!なんとしてもここを死守するぞ!」

 

 『『了解ッ!』』

 

 ブオォォォォォォォォォォォォォォッ...!

 

 そして、それに合わせるように奇妙な重低音が周囲一帯に鳴り響く。それを耳にした対峙する中世風味の男たちは、皆それぞれ盾や剣、練度を思わせるかのように統制がとれた動きで一斉に槍を構える。

 

 『『『ウォォォォォォォォォォォォォォォォォォォッッッッ!!!』』』

 

 そして、雄叫びと共に中世風味の兵士たちは突撃を開始。ここに、若きエルディアン連邦軍兵士、立ったの数百名と、総勢10万にも及の異世界のある国の軍との、大規模な戦闘が始まった。

 

 

_30分後、首都エルディアンDCの大統領府では

 

 

 「大統領!緊急事態です!」

 

 大統領執務室のドアを勢いよく、大統領補佐官のジョンソンが開ける。

 まるで『待っていたよ』と言いたげな表情の大統領ニッソンはメガネを磨きながら

 

 「そうか……大体想像はつくがね」

 

 と言う。

 彼は『ちょっと待ってくれ』と静かに言うと、先ほどから手元でうるさく鳴る電話を取り、ジェスチャーで『静かに』と伝える。

 

 「大統領のニッソンだ。どうしたのかね?……そうか……。わかった。ルードシア連邦大使館には『現在原因解明中』と伝えておいてくれ。……そうだ」

 

 ニッソンは電話を執務机に置くと、ジョンソンに顔を向けて

 

 「君が言いたいことは分かっている。各国との通信が途絶した状態に置かれ、各国から……だろう?」

 

 と言う。

 ジョンソンは『ご存知でしたか』と答えると、『ではこちらはそれとは別件のものです』と伝え軍務担当府から渡された数枚の資料を大統領に手渡しする。

 

 「……これは……またまたまずいことになったな……」

 

 ニッソンはメガネを手に取ると執務椅子から立ち再度資料に書かれている内容を確認する。

 

 「市街地が……国籍不明軍により包囲攻撃されているだと?」

 

 急造なのか、具体的な詳細が記入されていない紙をジョンソンに手渡し、さらなる説明を求める。

 

 「その市街地やらとはどこのことかね?」

 

 「これを送ってきた西部方面地方軍によると……ドライ市のようです。ほぼ同時とも言うべきタイミングで、ドライ市北東5キロに位置するハブ空港のロドヴィック空港から『ドライ市の市民が詰めかけてきて非常に困っている。どうにかしてくれ』との情報が入っていることから、これが事実である可能性は非常に高いかと」

 

 ドライ市が攻撃を受けたなら、もちろん市民たちは逃げようとするはず。その行き先としてロドヴィック空港が選ばれるのは……想像に難くない。

 ジョンソンは続ける。

 

 「現在西部方面地方軍は臨戦態勢に移行、ドライ市市民救出のための作戦を計画中です」

 

 「それは良かった。……一応聞いておくが、何か兵器の使用許可を要請してきたか?」

 

 心配そうな声でニッソンはジョンソンに尋ねる。

 以前東部でテロが起こった際、東部方面地方軍は何を思ったか基地内部から大量クラスター爆弾やナパーム弾を持ち出し、テロ組織に対し大量に使い周囲一帯を焼け野原にしてしまった。おそらくテロリストに対する過度の恐怖心がこの事故とも呼ぶことのできない悲惨な自体を生み出してしまったのだろうが……それはそうとしてもこれはいくらなんでもやりすぎた。

 さすがにこんな過ちを西部方面地方軍はしでかさないだろうが、一応聞いておいて損はないだろう。

 

 「はい、西部方面地方軍からは『すべての爆弾の〜〜ファミリー』の一つ、『すべての爆弾の兄』を使わせろとの使用許可要求が上がっております」

 

 「そうかそうか、『すべての爆だ』……ん?おい、ちょっと待て」

 

 一瞬納得しかけたが、少し待て。『すべての爆弾の兄』だと?あれは確か……。

 

 「それは……『MOAB』のことじゃないよな?」

 

 「……大統領のお考え通り、『MOAB』です」

 

 『MOAB』。Massive Ordnance Air Blast、直訳すれば大規模爆風爆弾兵器のことで、その名の通り大規模な爆発を引き起こし、爆風で周囲一帯を薙ぎ払う。

 以前存在した『アメリカ合衆国』が開発したトンデモ兵器で、その後継の愛称(?)『すべての爆弾の母』や『すべての爆弾の父』が開発されるまでは暫くの間世界最強の通常兵器という地位に立っていたそれは、結局開発した当のアメリカでもテロ組織に一度実戦投入した以外、少なくとも情報が公になっている範囲では使用されていない。

 そんなものを市街地付近で使用するなど、正気の沙汰じゃない。周囲1キロすべての障害物を瞬く間に破壊する以上、使用した瞬間ドライ市はその半分ほどが市街地から空き地に変貌するだろう。そうなれば残る市民も、警備隊も一瞬でお陀仏だ。

 

 「……流石にこれをポンポン使うほど西部方面地方軍もバカで無いことを祈るほかないな……。懸念材料は残るが、一応使用許可は出しておこう」

 

 「わかりました」

 

 「あぁ、それとだ。追加でロドヴィック空港へ治安維持と避難を円滑に行うためにも、軍を少々派遣するようにも伝えておいてくれ」

 

 ニッソンは内心、何が起こるかわからないなと今後の展開を想像するが、考えるだけ無駄だと割り切り執務に戻った。

 

 

 5分後

 

 

_西部方面地方軍基地司令部

 

 

 西部方面地方軍基地。

 ドライ市に最も近いとされるこの地方軍基地は、数年前にグレート・ソルト湖西に建設されたコーレシャン空軍基地を改装した場所で、主に陸空軍合同基地として、時には他国からの要人を乗せた専用機などの燃料補給中継地点として使われる。

 その基地の一角、司令部の内部に設けられた司令官室で、一人の男が淡々と執務をこなしていた。

 

 コンコン

 

 カタタタタタタタタタタタタタタタタと言う全く心地よく無いタイプ音のみが延々と鳴り響く司令官室。その部屋に、まるでタイプ音を妨害するかのように大きなドアをノックする音が響く。

 

 「入りたまえ」

 

 そのノック音に気づいた西部方面地方軍司令官のカルロスは執務を中断。ノックをする相手の入室を許可した。

 

 「失礼します!カルロス司令官!大統領府からの指令が届きました!」

 

 カルロスは『来たか』といった顔をして伝令兵に顔を向ける。

 

 「確認しておこう。内容は?」

 

 「『救出作戦実施及び敵軍攻撃への『MOAB』使用の許可を認める』です!」

 

 「やっぱりな……」

 

 カルロスは相槌を打ち続ける。が、さらに伝令兵は

 

 「また、『ロドヴィック空港へ少々の軍を派遣するように』、とのことです!」

 

 と伝えた。

 

 「ロドヴィック空港に軍を派遣、か……。目的は?」

 

 一応こちらにも、ロドヴィック空港にドライ市市民が詰め掛けている情報は入っている。とは言えこちらとしてはドライ市に進出した国籍不明軍を叩くことが先決。輸送部隊を派遣するかどうかで一旦保留になっていたところだった。

 

 「……えぇっと……はい。理由に関してですが……治安維持と円滑な避難行動を支援するため、だそうです」

 

 「ふぅむ……」

 

 確かに大統領府からの命令にも一理ある。我々は軍隊。戦争屋でありながら、同時に自国民を救う義務が課せられている。

 であるならば……。

 

 「わかった。至急治安維持部隊を編成し、ロドヴィック空港に派遣するとしよう。下がっていいぞ」

 

 「失礼しました!」

 

 それだけ言うと、伝令兵はテキパキとした動きで部屋から退出する。

 

 「さて、と……」

 

 椅子から立つと、執務机に置かれた電話を取る。

 

 「もしもし?司令官のカルロスだ」

 

 電話の話相手は司令室だ。

 

 『司令官、どうされましたか?』

 

 「先ほど執務を終えた。すぐにそちらに向かう。……それと、大統領府から連絡があった。ロドヴィック空港への治安維持部隊の派遣と例の作戦の準備を開始するように各要員に通達しておいてくれ」

 

 『了解』

 

 「それと……ハワイ方面地方軍からの連絡は?」

 

 カルロスは慎重な口調でハワイ方面地方軍の安否を確認する。

 

 『……未だ連絡は取れていません』

 

 「そうか……」

 

 しばらく気まずい雰囲気が続く。

 

 「今は目の前の敵に集中するとしよう。ハワイ方面地方軍の安否確認は……それからだ」

 

 『了解……』

 

 連絡を終え電話をそっと手元に置くと、席を立ち窓際へと歩み寄る。

 

 「……何が起こっているんだか」

 

 部屋からも見える滑走路や航空機格納庫。そのすぐ足元でせわしなく動き回る要員や航空機などを見終えると、カルロスは静かに部屋を退出した。

 

 

_ドライ市を包囲攻撃中の国籍不明軍へと視点を移す。

 

 

 「戦況は?」

 

 今回の攻勢部隊……通称『デルタニウス王国攻略軍』。その軍の参加者らは皆、ドライ市の西端にある中くらいのビルに陣を引き、暖を取り囲みながら話し合っていた。

 彼らは本国が『あのね、西に存在するエフヒ海に進出したいけどデルタニウス王国邪魔なんだ!だから君たち、滅ぼしてきて♡』という本国からの軽い考えで派遣された部隊、総数10万である。こんな軽い判断で滅ぼされることになるデルタニウス王国には、いくら蛮族とは言え同情の一つや二つ覚えてしまうものだ。

 それはともかくとして、本国はデルタニウス王国軍に対し宣戦を布告、屈辱的ではあるが本国の奥地までわざわざ敵軍を誘引、そこで一挙に敵の侵攻部隊のほぼ全てを叩く。その後はこの通り、敵本国へと逆上陸を果たしたわけだ。

 

 「もはや敵は死ぬ瀬戸際。すぐに終わることでしょうが……」

 

 その一人、ミニマムであり一司令官のギーラスは妙に落ち着かない態度で続ける。

 

 「今回は何か様子がおかしいと思うのです。見積もりではこの程度の辺境の土地、一瞬で片がつくと踏んで降りましたが……実際はその数倍の被害を被っております」

 

 ギーラスの発言を聞いたゲラーウスは、『そうだな……』とだけ呟く。

 現在この軍に所属する兵士らには軽度の防御力向上魔法が付与されている。これは数回限りしか作動しないが、作動時には弓程度のものであれば傷を最小限にとどめる効果がある。

 だが、敵はそれを物ともせず一回の攻撃で兵士を死に至らしめた。防御魔法どころか、甲冑すら無力化して、だ。

 彼としても、この敵の反撃反撃は予想外。

 敵がやっと実用化にこぎ着けた単装式ライフルをはるかに超える性能のライフルのようなものを使用していることも影響し、現状は敵の市街地からの脱出を阻止すべくこの街全域に軍を配置している。

 我々にもエアカバーとして竜種が使えれば文句はなかったのだが、竜種は基本的に食料を大量に消費する。そのため、ここで使おうにも運用するための肝心の食料がないのだ。これではただの宝の持ち腐れ。だが、やはり持ってきたほうが正解だったか、と少々歯噛みした。

 

 「ですが、朗報はあります。今回攻略中の巨大な街の規模に比べて、練度は高いようだが数は少ない。これは敵にもう大規模な動員を行えるほどの国力が残っていないも同然。敵の使用するあのライフルのようなもの……あれに関しての城は我々にとっても貴重な情報となる可能性が高い。現状敵が魔法を使っていない点は気になりますが、相手の持つライフルもどきを加味しても勝算は十分にあるかと。もちろん、敵のもしもを考え大規模魔法の効果範囲・威力を考慮した分散配置を行なっておりますので大丈夫かと思われます」

 

 「そうだな……それもそうか」

 

 彼らの脳裏に、デルタニウス王国軍魔道士の放つ大規模魔法が兵士たちを一瞬にして文字通り『消滅』させる姿が浮かぶと同時に、逆にそれを圧倒的人海戦術で蹂躙する様が上書きされる。

 

 「確かに、本土であれだけ痛めつけたのだ。一応本国に援軍をよこせないか打診しては見るが……まぁ様子見だな」

 

 彼らはその後も数分間、意見交換を交え伝えるべきことを伝えたと確認すると解散。それぞれが持ち場に戻るのだった。

 彼らはまだこの時、この後に起きる大惨事を思いもしなかった。

 

 

______

 

 エルディアン連邦

 言わずと知れたパラレルワールドの地球における変態国家。本作の主人国。

 過去に存在した、ありとあらゆる試作・ペーパープラン兵器などからアイデアを抽出し、時には変態兵器を作り時には元となった兵器そのものを現代仕様に改造して生み出してしまう。

 

 ドライ市のモデル:増え続ける移民用都市として、かつて存在したが、人口減少により打ち捨てられた状態で放置されたクレセントシティを再利用し五年前に建設された、いわゆる再利用都市。北東5キロ先にはハブ空港であるロドヴィック空港が、街のすぐ近くには小規模の港が存在する。

 

 西部方面地方軍基地のモデル:こちらも完全架空。主に西部に存在する架空敵やテロに対する対処を主な任務とするためグレート・ソルト湖付近に建設された。その規模は各方面軍基地の中では最大級。また、ハワイ方面地方軍基地とエルディアンDCとの橋渡し的役割も兼ね備えている。

 

 国籍不明軍:今の時代としては時代錯誤も甚だしい(こちらが言えることではないが)中世風味の甲冑を着込んだ兵士を主力にドライ市を包囲している。

 

 ハワイ方面地方軍基地

 歴史でおなじみのオアフ島に拠点を置く西部方面地方軍の支部的存在。東から迫る脅威をいち早く発見し、時にはそれ相応の『対処』を行う。

 なぜか現在音信不通。西部方面地方軍基地の内部では『核兵器が使用され、消滅したのでは?』などと言った噂が微小ながら流れている。

 

 バーソロミュー社製 PDR-C

 ネット調べるとここぞとばかりにエアガン版のPDR-Cばかり出てくる悲しいヤツ。PDWとしては珍しく既存の5.56x45mm NATO弾を使う。また、ブルパップ方式。個人的には見た目しゅきしゅき。

 

 ベネディクト社製 M870

 ……話すことがないほどの傑作ショットガンです、ハイ。この小説に登場させるべきかは悩みましたが(何故か……?傑作兵器だからだよ!)、現状でも恐ろしいまでの流通量やその信頼性等を鑑みて登場させました。

 

 ミニマム

 ??????

 

 魔法

 ??????

 

 ハートランドとかリームランドみたいな地政学って難しいね!!(学生なんだしそれが普通じゃ……?)



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第2話:キスカアイランド作戦第一段階 改稿しょの11

_西部方面地方軍基地司令部

 

 

 ドライ市が包囲攻撃されている頃、西部方面地方軍基地司令部では、急遽救出作戦に関する幹部を集めたブリーフィングが行われていた。

 

 「これより、ドライ市に取り残された市民を救出、および国籍不明軍に対する攻撃作戦……通称『キスカアイランド作戦』のブリーフィングを行います」

 

 『キスカアイランド作戦』の由来は、かつて存在した大日本帝国海軍により行われた『ケ号作戦』……通称、『キスカ島撤退作戦』から由来する。この作戦は撤退する側に一切被害がなかったとされることから『奇跡の作戦』とも称されることがあり、まさに今回の作戦はそれにふさわしいだろうということで司令部が勝手に名付けたのである。

 この作戦の総指揮を務める司令官ロドリゲスは、椅子に座った幹部らの前に立つと多数の地図が貼り付けられたホワイトボードを背に説明を開始する。

 

 「今作戦においては何よりも『一切被害を出すことなく、現状ドライ市に取り残された全ての市民・警備隊を救助・我が基地に収容する事』ができるかにかかっている。原因不明の通信障害のため一時はどうなることかと思ったが、あちら側からやってきたドライ市警備隊所属のヘリによると、状況は絶望的。長く見積もっても今の調子でいけば今日中には弾薬が尽き全滅することは確実だろう、とのことだ」

 

 ロドリゲスは『さらに、』と付け加えこう伝える。

 

 「敵軍は何の危害も加えない善良な市民を虐殺したとの情報も入っている。これが事実であれば敵は国際法もクソもないただのケダモノであって……慈悲は必要ない」

 

 ロドリゲスの言う一言一言に、怒りが込められているのがわかる。

 ブリーフィングを聞く立場の幹部らも怒りの形相でそれを淡々と聞いていた。

 ここにいる軍人のほとんどがドライ市出身。しかも、中には家族がそこに住んでいるという。おそらく彼らの脳内は、復讐心で満たされていることだろう。

 

 部屋が暗くなり、ホワイトボードに様々な写真が映し出される。

 

 「まず、作戦を大きく分けて二段階に分ける。まず第一段階。第一段階では敵の多数を掃討・撃滅し、敵の継戦能力を削ぐ」

 

 ホワイトボードに映し出された写真の一つ、大量の時代遅れな甲冑を着込んだ兵士たちがドライ市を包囲する様子を撮影したものが拡大される。これは先述の警備隊所属のヘリがドライ市上空を飛行した際に撮影したものだ。

 

 「貴様らの目で見てもわかるように……奴らは大群だ。そして、多少ばらけはあるが、おおよそ分ければ北部、東部、南部に密集している。この意味がわかるな?」

 

 数名が『ま、まさか』と言った声を漏らし、ロドリゲスはそれに賛同するように頷き、続ける。

 

 「大統領府直々に、『すべての爆弾の兄』……まぁ、『MOAB』だな。それの使用許可をいただいた。…………使用許可をもらわなくても使うつもりだったが……」

 

 幹部らの顔が青ざめる中、それに気づいていないように話を続ける。

 

 「先ほどの話を聞いてもわかるように、まずは援護のため『すべての爆弾の兄』を使用し敵の密集地点に落とす。……だが、爆薬量そのままでぶち込むと確実に警備隊も、救助対象の市民もお陀仏だ。そのため今回使用するのは爆薬量を半分にした特別製、それを計3発、CP-55戦術輸送機に搭載しそれぞれ北部密集群、東部密集群、南部密集群に対し投下する」

 

 その言葉を聞いた瞬間、場に居合わせた将校たちの顔が曇る。

 いくら爆薬量を削減したとはいえ、少し前までは『最強の通常兵器』とまで言われた代物、『MOAB』。そりゃもちろん、『MOAB』よりも凶悪な『すべての爆弾の母』や『すべての爆弾の父』を使うよりも断然マシだが……どうにも不安が拭えない。

 

 「なおこの作戦を行うにあたり、ドライ市警備隊への事前通達を行う。原因不明の電波障害により警備隊との交信が困難になっていたが……その問題はつい30分ほど前、基地内にある通信施設の1つを基地−ドライ市との間に設置することにより中継局を通した通信が可能になり、解決した」

 

 ロドリゲスは幹部らが話の内容を理解したことを確認すると、『そして第二段階』と続ける。

 

 「第二段階の実施予定は準備を要するため一日後、4月2日の夜20:00、夜間に救出部隊を派遣、残存警備隊及び市民を輸送トラックを用い基地《こちら》に搬送、それを確認後後方にて待機中の部隊を進軍させ、敵軍を攻撃する」

 

 スクリーンの映像が変わり、ドライ市を中心として撮影された衛星写真が表示される。

 

 「本基地からは市街地戦を想定した機甲部隊1大隊、機械化歩兵部隊2大隊、近接航空支援機10機その他航空部隊を派遣。この包囲陣外周及びその付近に展開、包囲網を形成する。またそれと同時進行で敵軍かく乱、および事情聴取のため敵軍司令官確保を目的とした別働隊、精鋭部隊の第三空中挺進団20名を投入、この湖に夜間降下を行う」

 

 ドライ市一帯、そして『LAKE EARL』と書かれた北東の大きな湖が赤円で囲まれる。

 

 「全部隊展開完了と市民・警備隊救出完了を確認次第、近接航空支援機A-10G-4による地上攻撃が開始される。各部隊はそれを確認次第行動を開始、し、ここで敵を……一手に叩く」

 

 ロドリゲスはそう告げた後、ある言葉を強調した。

 

 『妥協はするな。全力でやれ』

 

 「本作戦実施において付近の発電所は稼働を停止、同地域一帯は闇に包まれる。各員はナイトビジョンを装着、同士討ちには十分注意してくれ」

 

 「これでミーティングは終了だ。……質問は?」

 

 しばらく時間を置き、質問者が現れないか観察する。

 

 「いないな。よし、各員作戦行動を開始してくれ」

 

 

 _数十分後 ドライ市より東10キロ地点

 

 

 高度10000メートル。生身の人間ならば凍死する寒さの高度を、無塗装のP-51戦術輸送機2機がターボファンエンジン2基の轟音を空いっぱいに響かせながら飛行していた。

 彼らはキスカアイランド作戦の先鋒を務める部隊で、コックピットの真後ろにあるキャビンには、少し前まで『世界最強の通常兵器』と謳われた巨大な爆弾……『MOAB』が各機1発、計3発が積載されている。

 作戦指揮所からの命令があればすぐにでも眼下進行形でドライ市を包囲、そして、無差別な殺戮を行った国籍不明の軍へ合計3発の『MOAB』を投下できるよう、空中待機を行なっていた。

 

 『ウルフ1-1、こちら作戦指揮所。ドライ市警備隊より連絡が入った。『避難完了。いつでも攻撃可能』、以上』

 

 「ウルフ1-1了解」

 

 「ウルフ1-2及びウルフ1-3に連絡、『パッケージ』の投下用意だ。各機定位置まで飛行。目標地点上空に到達次第後部ハッチ解放、投下完了次第すぐに付近空域より離脱するぞ」

 

 「了解」

 

 P-51戦術輸送機の乗組員たちは淡々と、だがしかし敵軍に対する心に静かなる怒りを秘めて作業をこなす。

 

 __そして、その時は来た。

 

 「こちらウルフ1-1。目標地点上空に到達後部ハッチ解放、『パッケージ』投下用意」

 

 『こちらウルフ1-2。目標地点上空に到達後部ハッチ解放、『パッケージ』投下用意』

 

 『こちらウルフ1-2。目標地点上空に到達後部ハッチ解放、『パッケージ』投下用意』

 

 「……ウルフ1-1、『パッケージ』、投下」

 

 『ウルフ1-2、『パッケージ』投下』

 

 『ウルフ1-3、『パッケージ』投下』

 

 彼らの怒りを受けたかのように、3発の巨大な『MOAB』は巨大な音を立てながらズルズルとキャビンより落下、一直線に直下へと落下してゆく。それはとてもゆっくりに見える。だが、着実に高度を落とし、そして……。

 

 

 _直下、ドライ市

 

 

 「うッ!?」

 

 その瞬間、突如としてドライ市の北部、東部、南部にそれぞれ、1つの光が走る。地上でドライ市を攻略中だった兵士たちは進軍の歩みを止め、そしてそれと同時に、とてつもなく大きな爆風が、彼らを襲う。

 地上に乱立した家々は吹き飛ばされ、重たい甲冑を着た多くの兵士たちも、手にしていた武器もそれに乗せて赤子のように空を舞う。地面で発生した3つの巨大な爆煙__否。空いっぱいに広がる3つのキノコ雲の直下で発生した爆発は兵士たちを焼き殺し、また急激な気圧変化で彼ら兵士の肺は破裂、窒息死する。

 それでも何とか無事で、地上へと舞い戻った兵士達。彼らを次に襲った物……それは、自らが手にしていた武器だった。空より降り注ぐ無数の剣や槍、盾などは彼らを次々に殺傷してゆく。

 そして、地上に残ったもの。それは、運良く爆発を免れた兵士3万と、如何にかこうにか生き残った兵士2万、そして、大量の兵士と家々の残骸……その様は、一言で表すなら『地獄』だった。

 

______

 CP-55戦術輸送機の元:X-55

 エルディアン連邦で正式採用される戦術輸送機。本来であれば量産はされないと考えられていたが、次期戦術輸送機の最新の複合材を使用した胴体の制作に暗雲が立ち込めた事、またそれを開発していた大元のアルフレッド社が財政難により倒産してしまった事でその計画はお釈迦となったことにより急遽こちらが使用されることとなる。

 なお今回登場したのは、機体後部にローディングランプを搭載し完全な輸送機仕様として製造された機体である。そのほかにも空中給油機仕様や早期警戒機仕様も存在する。



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第3話:政府の悩み 改稿その8

_キスカアイランド作戦第一段階実施より約五時間後、エルディアン連邦 首都エルディアンDCでは 午後9:00

 

 以前はアメリカ合衆国の首都、ワシントンDCとして機能した地域。世界有数の経済大国として名を上げたそこには、新たに『エルディアンDC』という、国名をそのまま移植したような首都圏が構成されていた。

 ワシントンDCの保有していた地下鉄や学校と言った公共機関はそのまま流用していたが、同時に郊外には毎日のように快適な暮らしを求めて移住してくる移民受け入れのために建設された数多のマンションが乱立。

 首都全体の規模はすでに中国の首都北京を軽く超え、住民は3000万を超える勢いだった。

 そして、ここに住む住人たちは、今自分たちの身に起きていることを案じていた。政府から続々と寄せられる現在の国家状況よりも心配なもの。それがあったからだった。それは何かと言うと……。

 

 _テレビで放送中のとあるニュース番組

 

 

 「さて、次のニュースですが……」

 

 ニュースキャスターの顔が一瞬曇ったかと思うと、何事もなかったかのような表情で続ける。

 

 「私たちの見慣れた月が……『赤く発光する月』に豹変したとのことです」

 

 

 _同首都、ホワイトハウスこと大統領府では

 

 

 「皆様お揃いのようなので、これより第49回国家方針決定会議を行わせていただきます」

 

 毎年3回行われることが通例となっている国家方針決定会議。『国家の方針を決める会議』と言う名前の通り、基本的に国家全体の方針を決める。この会議が行われる際には各担当大臣のほとんど、もしくは代理が出席することになっている。

 今までいくつもの会議を打ち立ててきたこの会議で今回議題とされたもの。それは大きく分けて2つ。『他国との通信が取れないこと』と『突如として西部の町、ドライ市を奇襲、虐殺を行なった国籍不明軍について』だった。

 

 「まず各担当大臣、それぞれ調査結果をご報告ください」

 

 司会がそう言った直後、国土交通担当大臣のキリシマが手を上げる。

 10年前に移民政策を本格的に稼働させるに当たっていくつかの法改正等が行われた。その一つが彼のような、東洋人であろうがどこであろうが出生国を問わない、優秀な人材をと要すると言う政策だった。もちろん愛国心があるか、と言う点は問われるがその政策を打ち出してから、国内からは優秀な政治家などが多数輩出。国力増強急務だった時代には、非常に心強い味方となりそれを裏から支えた。

 

 「まずは国土交通担当府から。我が府が調査を実施した結果、国内の交通インフラは完全に麻痺。特に影響著しいのが航空機で、国際空港にて離陸準備、またはすでに離陸を終えた国際便も原因不明の衛星利用機器の不調を訴え、状況が確認できるまでは現状国内線の一部のみが飛行しているにとどまっています」

 

 キリシマは『さらに、』と付け加え重々しい口調で語りを続ける。

 

 「これは推測ですが……衛星は文字どおり『消滅』した可能性が高いです」

 

 キリシマからの言葉に大統領も、その場に居合わせた大臣も誰もが驚愕する。

 現代社会において衛星が生み出している恩恵というものは非常に大きい。GPS衛星しかり、気象衛星もしかり。どの衛星だって我々になんらかの恩恵を与えている。

 約100年前に誕生したと言ってもいい技術《えいせい》は各分野で応用・使用され、我々の生活を日々変えてきた。同時にそれは、衛星無しで現代社会は維持できないという意味にも置き換えることができる。現代社会は、衛星に依存しすぎたのだ。

 

 「キリシマ大臣が発表しているところ申し訳ないが……我々気象担当府もそう考えている」

 

 「……私もだ」

 

 次に重々しく口を開いた人物。それは気象担当大臣のジェイソンと経済担当大臣のフランクリンだった。

 彼らはキリシマの述べた『衛星の消滅』に関して、具体的な説明を開始する。

 

 「まず、気象担当府が確認している情報では、本来宇宙に展開している静止軌道上の衛星も、それ以外の全ての衛星とも交信ができない状況にあります。……もしこれが事実なら、我々人類が打ち上げ、稼働させていた総勢1500基近い衛星が全て消えたということになりますがね」

 

 ジェイソンは『絶望的な状況になる可能性は高い』と言いたげな表情で苦笑いする。

 

 「気象予報も一応できますが……その精度は気象衛星を利用したそれに大きく劣る。天気予報はほぼ機能しなくなると言っても過言ではないでしょう」

 

 大臣らの顔は、皆一同揃って絶望に打ちひしがれた顔でそれをただ聞き続ける。

 

 「続けて我々経済担当府が確認している情報ですが……この際はっきり言います。通信網は破綻寸前、金融機関も壊滅的な被害を受けており、テレビ通信も地上波はまだなんとかなりますが、BSなどは全て機能しない可能性が非常に高い。また衛星がなくなったことにより取引記録の記録が必要な銀行などは莫大な資金流失を予想し、すでにいくつかの銀行ではクレジットカードなどでの支払いを凍結しているはずです」

 

 フランクリンはすでに精神が再起不能な状態にまで陥っている大臣らを尻目に、さらに続ける。

 

 「長期的に見れば……国内にある有数の観光地は観光客の入手が困難になり、このまま放置すれば観光産業もそのうち大打撃を被ることは避けられません」

 

 フランクリンの発言に、大臣らはことごとくうなだれる。

 産業分野でも気象分野でもこれだけの問題が発生しているのだ。他の分野でもどれだけの被害が発生しているか……彼らは、今一度『衛星』の便利さを痛感する。

 

 「……皆様が絶望の淵に立っているところ申し訳ないが……こちらも問題を抱えている」

 

 資源エネルギー担当大臣のサントスは暗い顔で言う。

 

 「我々が現在陥っている問題……それはエネルギー問題です。現在各地域に点在する風力発電施設や波力発電施設は原因不明のエラーにより稼働を停止。……現在は如何にかこうにか原子力発電所や水素発電所、バイオ発電所に水力発電所等を利用しやりくりしていますが、このままでは電力不足に陥ることは確実……。安価かつ場所の選択肢が多いと言う理由から大量に製造した波力発電施設や風力発電所が、仇になりました」

 

 大臣たちは、もはや驚く気力すら残していない。彼らの現在の思考はただ、悪い報よりも良い報が聞きたい。その一心だった。

 

 「計画停電を行い電力消費量を抑制。その間になんとか対抗策を考察しますが……うまくいくかどうか」

 

 『うん、もういいよ』と言いたげな顔で大臣達はサントスの報告を聞き続ける。

 

 「やはり……環境問題の推進をするとして使用しなかった火力発電所……及び、『シェールガス』の使用を再開すべきかと」

 

 「うぅぅむ……」

 

 ニッソン大統領は、しばらく悩んだ後、こう答えた。

 

 「明日議会に相談してみる。おそらく条件付き……例えば使用期限を設ける、とかだろうが使用許可は降りるはずだ」

 

 大統領がそう言い終え、サントスが席に着席したことを確認すると次の大臣が立つ。

 

 「さて……今度は我々、環境担当府からの報告ですな」

 

 アラブ系民族のアサドはそう言うと、静かに席を立つ。

 嫌な予感しかしない。特に『環境担当』なら特にそうだ。大臣達は覚悟を決める。

 

 「良いニュース、悪いニュース。その2つがあるわけですが……先ずは良いニュースから」

 

 大臣達の心情は一転、希望に胸を膨らませるような目でアサドを見る。

 

 『なんと……今まで緩やかな増加傾向にあった酸素が……突如、大気組成率の4割を占めていることが判明しました!!』

 

 大臣達は、その思いがけなかった『良いニュース』に目を丸くする。

 酸素の増加。それすなわち、地球温暖化問題への本格的な解決の見通しがついたと言うこと。今まで努力して環境問題に取り組んで着た甲斐があったと言うものだ。

 だが彼らは気づいていない。大気組成率の『4』割を占めていると言う点に。

 

 「……そして悪いニュースですが……北部地域全域で……最高気温……27度を……確認……しました」

 

 『……は?』

 

 うん。何を言っているのかわからない。

 彼の言い分が正しいとすれば?『地球温暖化の解決に至っていない』では無いか。それどころか……北極の氷も、南極の氷も、アラスカの雪も、すべて海に溶け出してしまうことは明白だ。

 つまり……酸素濃度の問題は解決したが、代わりに気温が上がる……±ゼロということになる。いや、実質的に地球温暖化問題は解決すらしていないことになるのだ。

 

 「……いくらなんでも、冗談だろう?」

 

 「冗談ではありません!現に近海で漁をしていた漁師から『見慣れないカラフルな魚がたくさん獲れているんだけど……これ食べれる?』という通報が何件も寄せられているんですッ!」

 

 「は、はぁ……?それじゃ……」

 

 彼らの脳裏に、毎年行われる温暖化がこのまま進行した場合どうなるか、というシュミレート実験での考察結果が脳裏に浮かぶ。

 海面水位の上昇はもちろんのこと、熱帯地域にしか生息しない生物……詳しく言えば、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()の本土への上陸、パンデミックが起こる可能性が想定されていた。

 そして、同時にある土地の名前が彼らの脳内に偶然発生する。その土地の名前は……『南アメリカ大陸』。

 

 「が、外務担当大臣ッ!南アメリカ大陸は!?南アメリカ大陸からの連絡はどうなっているんですか!?」

 

 気象担当大臣のジェイムズが外務担当大臣のジェイムズに問いかける。

 ジェイムズは一瞬濁ったような表情を見せると、まるでなだめるかのような口調でこう答えた。

 

 「……南アメリカ大陸との連絡は……一切合切取ることができない状況にあります。もちろん、世界中にある大使館とも……ね」

 

 「そ……そんな……」

 

 「それに……この手の質問に関しては、国土交通担当大臣のキリシマ殿の方がよく把握しているはずだ」

 

 大臣らの視線が、大統領の視線がキリシマ一点に注がれる。

 

 「そ、そんな……我が担当府にはまだそんな情報は届いていないはずだ……!」

 

 キリシマは慌てた形相で周囲を見渡すと、一番近くにいた部下に至急以南地域の状態の調査報告書を南部地域の職員に提出せるように命じる。

 

 「ま、まぁこれでおそらくすぐに南部地域の情報が回ってくるはず……。はぁ……衛星が使えればなぁ」

 

 キリシマはそういうと、じっと黙秘を続ける軍務担当大臣のロバーツを見つめる。

 軍務担当大臣……いや、軍務担当府はその名の通り軍を司るが、同時に衛星の打ち上げや細かな軌道修正等も行う。特に最近は国営宇宙旅行プロジェクトが軌道に乗り始めたこともあり『予備衛星の打ち上げを検討しているだろう』と言った魂胆で彼はロバーツを見つめたのだった。

 

 「そろそろ自分の番だとは思っていたが……いいでしょう。まず皆様が一番心配している『衛星消滅問題』ですが……」

 

 ロバーツは呼吸を整え、続ける。

 

 「すでに試作段階に入った新型地球=月間往復旅行可能ロケットを用いれば、理論上アポロ11号を月まで運んだサターンVロケットの搭載可能重量を超える6万トンが月軌道までのルートであれば搭載可能、静止軌道上であれば8万トン、低軌道上であれば13万トンが搭載可能です。それ以外にも地球=静止軌道旅行可能ロケットなども使用できますが……そちらは未だ製造途中の段階なので、まだ発射できるとは言えません」

 

 ロバートは『そして』と続け、遂に本題の『衛星問題』について言及する。

 

 「我々軍務担当府としても衛星使用機器の復活は急務。なので国内のヴェンチャー企業に衛星の製作を依頼します。こうすれば我々としては衛星を迅速に宇宙に打ち上げることができ、なおかつ彼らからすれば貴重なノウハウを得ることができ、さらに貴重な技術者を『失業』と言う形で失うこともない」

 

 ヴェンチャー企業が宇宙空間に衛星を宇宙に打ち上げることは未だ叶っていない。そういう点から見れば彼らにとって見れば好都合。国にとっても好都合。まさにwinwinな関係だ。

 

 「依頼する内容としては主に一つの機能に限定した超小型衛星。昔と比べ稼働時間や安全性等も向上しているので、スペースデブリ化(宇宙のゴミ。だいたい10センチくらいの破片が宇宙船に当たっても致命的なダメージを与える)する可能性は抑えられているはずです。重量は通常100キロ〜100キロ以下。スペースが許すのであれば低軌道に投入する場合おおよそ……1400基が搭載可能です。もちろん、そんな数の量の衛星は搭載できないので実際はその半分から半分以下でしょうが」

 

 大臣たちは思わず目を白くする。たった1基。それも、再利用可能なロケットをたった1基使用するだけで理論上700基程度の衛星が打ち上げれるというのは、あまりにも衝撃的だ。これが宇宙開発技術の最先端を行く国なのか、と。

 もちろん国が打ち上げる衛星と比べると使える機能は限定されるだろうし、GPS関係に関しては本格的な衛星を打ち上げなければ難しいだろう。だが、これで十分だ。

 

 「超小型衛星打ち上げは製作期間的に1年以内にかと思われますが……その間、我々は盲目状態になる。そのため、またこちらも試作段階の宇宙偵察・爆撃機SR/BP-1を先んじて宇宙に打ち上げます」

 

 SR/BP-1。ロケットに搭載して、宇宙空間より敵国を偵察、また必要であれば爆撃を行えるという画期的(?)なコンセプトで作られた、所謂《いわゆる》『宇宙偵察機』だ。すでに試験飛行までを終えたこの機体には、宇宙空間からでも撮影できる偵察衛星に搭載される高精度カメラ1基を搭載し、搭乗員の2名分の食料が尽きるまでと言う時間的制約はあるものの、それさえ除けば軍事偵察衛星とほぼ遜色ない性能を発揮する。

 

 「こちらの機体を使用し、2週間後ロケットに搭載し静止軌道へと打ち上げ、周辺地域を撮影。我が国の現在の状態を、これにより徹底的に暴きます」

 

 軍務担当大臣は続けざまに『そして、』と付け加える。

 

 「もし我々が危機的状況に陥っていた場合、大統領の合意のもと国内全体に非常事態宣言を発令します」

 

 大臣たちは、もはや先程までの絶望にまみれた顔ではなく希望に満ち溢れた顔だった。衛星の復活。それすなわち現代社会を取り戻すと言うことに繋がる。

 

 「また、周辺地域に何か異常が発生した場合に備えて軍に即応部隊を臨時結成。有事の際にはこの部隊を出動させます」

 

 大臣らは完全に落ち着きを取り戻す。安堵の表情で内心『これなら何かあっても問題ないだろう』、と。

 

 「なんと言うか……仕事が早いな。軍務担当大臣」

 

 大統領のニッソンが、圧巻の表情で呟く。

 

 「これが……仕事ですから」

 

 軍務担当大臣は、清らかな笑顔でそう答えた。

 

 その後、外務大臣等の報告を聞き、財務担当大臣との予算割り当て等を話し合ったところで会議は終わった。

 

 「各大臣……くれぐれも、過労死しない程度での執務を頼むぞ」

 

 『『御意!』』

 

 エルディアン連邦その国は、大きなハンデを背負いながらも、正真正銘の化け物国家として、行動を開始した。

 ______

 SR/BP-1の元ネタ:X-20

 これ、実際にアメリカが作ろうとしたわけですが予定では偵察機としてだけではなく敵国に『核』爆弾を落とせる設計にもするつもりだったとか。

 今回予想以上に長くなりました……。元あった第3話の海戦パートが大体3000文字くらい……なので大体2倍ほど文字数が増えたことになりますね。……こんなのがあと55話近く待機しているわけですが()。



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新:第4話:キスカアイランド作戦第二段階? 改稿しょの14

 改稿がいつまで経ってもされてないと思ったら、カクヨムをチェックして見てください。基本そちらで執筆等行なっているので。

______

 

 

_激動の1日を超えた3月7日午前10時 西部方面地方軍基地 作戦指揮所《オペレーションコントロール》

 

 

 頭上で燦々と照りかがやく太陽が辺り一面を明るく照らし、堂々とそびえ立つ西部方面地方軍基地。

 以上なまでに広いそこでは今、来たるべき時……通称『キスカアイランド作戦』と呼称される大規模ドライ市市民・警備隊救出作戦実施の為、基地要員・作戦参加部隊らは各自の任務を遂行していた。

 

 『各部隊に通達。装備点検・補給完了次第出撃準備を開始せよ。出撃予定時刻は出撃後の部隊展開込みで本日午後18:00の予定』

 

 その基地の頭脳とも言える作戦指揮所《オペレーションコントロール》。『EFSA(Erdian Federal Space Agency、エルディアン連邦宇宙担当局)』のオペレーションコントロールセンターにも似たそこでは、一際目を引く正面に設置された巨大な数枚のスクリーン、また各々の席に備え付けられた複数の液晶画面などで現在の状況を確認、適切な情報処理・報告を行い、時折あちこちで要員たちの部隊行動などに対応する声が上がる。

 そんな作戦指揮所《オペレーションコントロール》の背後に設けられたスペースでは、今回の総指揮官ロドリゲスを筆頭に、十数名の各担当官が頭上から吊るされたライトに照らされ、ほんのり光る長方形の机に置かれた様々な資料を見ていた。

 

 「前哨戦として偵察機を飛ばすのはいいとして……問題は警備隊と救助対象《しみん》の状態だ。最悪救護部隊を派遣する必要も出てくる。ドライ市警備隊からの連絡は?」

 

 ロドリゲスは通信担当員に尋ねる。

 

 「現在我々が取れる手段は全て試していますが……未だ連絡は取れていません」

 

 「……確認しておくが、通信機器に異常はないんだな?」

 

 「はい。衛星利用通信機器以外は全て使用可能。中継局も特に異常なく稼働しています」

 

 「……まさか……」

 

 ロドリゲスの脳裏にある1つの可能性が浮かび上がる。

 それは……警備隊の全滅。『MOAB』で周辺の建築物も敵軍もろとも吹っ飛ばしてしまったのだ。敵軍にもし大した損害を与えていない場合……もちろんありえないのだが、最悪を想定するならば無駄な障害物がなくなったあの地域で立てこもる警備隊と市民は格好の的。包囲殲滅されてしまってもおかしくない。

 ロドリゲスは『『MOAB』の使用は止めるべきだったか……』と呟き歯噛みする。

 

 「作戦予定時刻をもう少し切り上げる必要性があるかもしれんな……。航空参謀、できる限り迅速に、偵察機《UAV》を離陸させ付近一帯の空撮を行うことはできるか?」

 

 航空参謀のウィルソンに尋ねる。

 彼はこの基地全体の航空部隊を指揮・管理しており、もちろんその管轄は偵察機……無人機全般にも及ぶ。

 

 「やれと言われれば行うことは可能です。……そうですね。2時間程時間があれば出撃させることが可能です」

 

 「2時間、か……作業効率を極端なまでに短縮しろとは言わない。だができるだけ迅速に、その作業を終わらせてくれるか?」

 

 「わかりました。整備士たちが『給料分以上の仕事やらせるならストライキ起こすぞ』と言って脅迫してきそうな気がしますが……なんとか説得してみます」

 

 「説得、頼んだぞ」

 

 「了解」

 

 

 _その頃、地図から消滅する規模の被害を被ったドライ市では

 

 

 「ふぅっ……ふぅっ……」

 

 ドライ市警備隊の警備隊長、リンガル大尉は、右手に通信機を携えて3名の仲間とともに辺りを警戒しながら散策していた。

 彼らの服はすでに汚れきっており、警備隊の証拠である青はどす黒い黒にまみれている。遠くから見れば銃を持った浮浪者が歩いているように見えることだろう。

 

 「こ、これは……」

 

 彼らの目に初めに入ったもの。それは……すでに『MOAB』投下から数時間以上経過したにもかかわらず、周囲に未だポツポツと残る小さな炎。そして、地面に転がる人体が焼け焦げたような異臭を放つ黄金の甲冑を着た国籍不明軍《みもとふめいしゃ》。ビルなどのがれきの合間から見えるこの町のシンボルだった白いタワーは、爆風に耐えきれなかったのか中央部分からポキリと折れ、先端部分は地面に横たわっている。

 ネットで見た紛争地帯の光景がこんな感じだったなぁ、と内心思う。そしてそれは、現実になった。それも……こんな形で。

 

 「周辺に敵は確認できるか?」

 

 「いえ……見渡す限り……残骸と、死体の山です」

 

 『それも……そうか』とリンガル大尉が呟くと、パッとしない表情で右手に持つ箱型の通信機を適当な瓦礫の上に置く。

 

 「各員周辺警戒を続けろ。俺は通信が可能かどうか試す」

 

 『了解《ラジャー》』

 

 「……さて、と」

 

 箱型の通信機のアンテナを立て、通信が可能かどうかを調べる。

 

 「……こちらドライ市警備隊。西部方面地方軍基地、応答願う」

 

 しばらく待つが、返事が返ってこない。

 

 「こちらドライ市警備隊隊長、リンガル大尉だ!西部方面地方軍基地、応答願うッ!」

 

 怒鳴るような声で応答を求める。……が、やはり返事は返ってこない。通信機の故障だろうか?彼はそう思い各部点検を行うが、特に異常は見当たらなかった。

 

 「ど、どういうことだ……?」

 

 まるで電波が何かに遮られているかのように、一切通信が行えない。

 それは即ち、あちら側が我々の安否確認をできなくなったという事。おそらく西部方面地方軍基地はこの異変をすぐにでも察知し、偵察機を派遣するだろう。その時もし我々が生きていることを知らせることができなければ……。

 もっとも、仮にそれを知らせることができたとしても救助までに弾薬が枯渇すれば勝算はないが。

 

 「通信が不可能……か。お前ら、一時撤収するぞ」

 

 周囲警戒を行う部下にそう声をかけると、部下の一人が漠然とした表情で

 

 「た、隊長……あれ……あれ……ッ!」

 

 とつぶやき、彼から見て真正面を指差す。

 彼の目線の先にあった物。それは……。

 

 

 _同地域同時刻、国籍不明軍後方陣地では

 

 

 彼らが拠点としていた後方陣地。本来なら作戦会議や意見交換等が行われるはずだったそこは……地獄と化していた。

 事の発端は数時間前。我々が攻略していた街の上で突如として、2つの火の玉が発生した。その次の瞬間、ある者は焼かれ、ある者はあまりにも巨大な爆炎で遠くの彼方まで吹き飛ばされた。そうして量産された大量の負傷兵達はここ、後方陣地まで運び込まれ魔導師たちによる決死な治療魔法付与作業が敢行されていた。

 周囲一帯で絶え間なく鳴り響く死の旋律《メロディ》。うなり声が上がる数だけ、兵士は死んでいく。

 その状況下で、ど真ん中に設置された巨大なテント内では作戦会議が行われている。

 

 「ゲラーウス殿……。我々の現在の状況……どう判断すべきか?」

 

 部隊を指揮する南部第5藩領主は、総司令官のゲラーウスにそう問う。

 もはや攻撃どころの騒ぎではない。あの街を攻撃していた包囲軍総数8万の内、半分近くはすでに死んだ。援軍を要請するにも何をするにも、今回の大量死が原因で、死体より漏れ出る魔法の元……魔素が全て消え去らない限り魔導電信も通信妨害により使えない。

 

 「現状我々にできるのは、この場を死守することのみ。現在死体より漏れ出る魔素が全て消滅次第本国に援軍派遣要請を打診するが……敵はこの好機を逃すはずはない。本日中に敵が反撃してくることを考慮するべきだな……。だが……」

 

 ゲラーウスは、心の中に残る一つの不安要素を拭えないでいた。

 

 「それよりも……()が自然発生する可能性がある。もしそうなれば……我々はおしまいだ」

 

 ゲラーウスの言う『奴』が何のことか、その場に居合わせた者は誰もわからなかった。彼らが唯一わかること……それは、『奴』が危険な存在である、と言うことだった。

 

 「では、現状戦闘可能な予備の重装兵2万を周囲一帯に展開、敵からの攻撃に即応できるよう各部隊には1騎ずつ騎兵もしくは巨蟲兵を配置いたします」

 

 東部第15藩領主からの提案に、魔道司令官のギーラスは『待った』をかけて反論する。

 

 「わ、私は即刻……即刻、この地域より撤退すべきだと考える!一瞬で数万を死に至らしめたあの爆発……あれは、私の記憶にある限り我々の住む大陸で見られるどの大規模魔法よりも強力だ!もしかすると……もしかすると……」

 

 「もしかすると……?」

 

 一同が固唾を呑んで、続きを言えと言わんばかりに無言の圧力をかける。

 

 「……これは……いや、この作戦自体、あちら側が全て仕組んだ可能性がある!」

 

 あまりにも、突拍子のない発言。その場に居合わせた誰もが呆れた顔になる。

 

 「いやいや、そんなわけはないだろう……?確かにあの大規模攻撃には目を貼るものがあった。だがあれだけの威力、明らかに1日にそうポンポン繰り出せるようなものであるわけではなかろう。おそらく我々の目が届かぬはるか遠方から、何日もかけて練った超巨大魔法陣を使用した大規模魔法に違いない。この国は、もともとその分野は得意だからな……。あれが科式(科学を応用した物全般)なら違うかもしれんが……。この国は魔式(魔法を応用した物全般)兵器を扱う国だったはずだ。すでに敵の先鋒部隊を本土で迎撃している。その際には大量の魔導師の死が確認されているのだぞ?おそらくあれは敵側が死力の果てに放った一撃……そう案ずる必要はあるまい」

 

 「だ、だがしかし……!」

 

 ギーラスの怯えようを見かねたゲラーウスは、あることを提案する。

 

 「ならギーラス殿。貴殿がそこまで警戒するなら……貴様の配下は後方に移動させれば良いではないか?もちろん、我々は貴様の分も甘い汁は吸わせてもらうがな」

 

 他の者も手柄欲しさに『そうだそうだ!』、と彼の発言を助長する。

 

 「ならば……ならば私はそうさせてもらう!!」

 

 「できれば部隊からは離れて欲しくないのだが……まぁいい。それは貴様の部隊、どうぞ御好きにしてくれ。……っと、そうか。魔導師部隊は置いて行け」

 

 「言われなくともわかっておる!……どうなっても知らぬぞ!」

 

 ギーラスは、その言葉を残すと一人早歩きでテントから出て行く。ゲラーウスは彼の後ろ姿をまじまじと見つめながら、

 

 「……孤立は、危機を呼ぶのだが……」

 

 と、呟いた。

 彼……魔導司令官のギーラスは、修行と題して我々が拠点を置いている大陸、『グラタニア大陸』に点在する様々な魔法文明国家を旅行したと語っていたことがある。そんな彼なら、あれほどの大規模魔法、たった1日でポンポン繰り出せるような代物ではないことはすぐにでも理解しそうだが……。

 いや、決めつけるのはいい判断ではないかもしれない。何せ現在の我々には、相手が使っている兵器が魔式か、科式かを見分ける手段は存在しない。その問題がある以上、あれが科式ではないという断言ができないのは動かぬ事実なのだから。

 

 「だがさて……どうしたものか」

 

 ゲラーウスは、思考を張り巡らせる。

 

 

 _約2時間後、西部方面地方軍基地 作戦指揮所《オペレーションコントロール》

 

 

 「…………」

 

 作戦指揮所《オペレーションコントロール》に居合わせたものたちは皆、無言で真正面に設置された巨大な液晶版を見つめていた。

 それ一面に表示されたもの。それは……灰色の砂嵐だった。

 

 「……偵察機《UAV》は……墜落した模様です」

 

 漠然とした顔でスクリーンを眺めていた通信員は慌てて我に帰り、現状を伝える。

 ロドリゲスは、脳内で一体何が起きたのか整理を試みる。

 偵察機《UAV》が離陸、ドライ市から東2キロ地点まで接近した。そこまでは良かったのだ。だが次の瞬間、偵察機《UAV》からの連絡が一切途絶えた。文字通り、一瞬で。何の前触れもないそれはまるで、電波妨害でもされているかのようだった。

 

 「敵は……ルードシア連邦か……?」

 

 「いや、軍事衛星は百歩譲っても他国と連絡が取れないことに関して説明がつかないぞ。それ以前に、ルードシア連邦に動きがあれば我々は察知しているはずだ。第一、あの国がわざわざ中世時代の甲冑で偽装して我々を攻撃する意図がつかめん」

 

 「だがそうなるとなぜ偵察機が落ちたか説明がつかないぞ?地対空ミサイルか地対空レーザーでも配備しているのか?」

 

 「もしかすると……高高度核爆発攻撃《EMP》じゃ……」

 

 「幾ら何でもそれはありえん……とは言えんな。ルードシア連邦は小型のEMP発生装置を開発していると聞く。それならよもや……」

 

 その場で、様々な憶測が飛び交う。それほどまでに、彼らからすれば不可解なことだった。

 今回投入したのは、偵察機《UAV》の中でも特にステルス性・電子防護能力に優れるNRL-10と言う機体。

 それが落ちたとなれば……相手をレーダーも何も持たないただの中世風の軍隊だと考察して構成した作戦そのものが基幹から崩れてしまう。

 

 「……司令官。これからどうされますか?」

 

 「そうだな……」

 

 ロドリゲスは悩む。もし偵察機《UAV》が落ちた要因が地対空ミサイルもしくは地対空レーザーであった場合、先にそれら地対空兵器を先に潰すのが先決だろう。逆にこれが電子攻撃その他諸々、我々からして未知の攻撃であった場合……少なくともデジタル兵器()使えない。

 現在想定されるありとあらゆる最悪を予測して行動しなければならないことは明白だった。

 

 「航空参謀。万が一の事態に備え、電子戦機の即応出撃準備を行ってくれ」

 

 「了解」

 

 「それと陸軍参謀、先遣隊として1個騎兵小隊をドライ市周辺に派遣、付近地形の情報収集を行ってくれ」

 

 「今なら救援部隊を派遣することが可能かもしれませんが……?」

 

 陸軍参謀が心配そうな表情で言う。

 

 「確かにそうかもしれんが……できる限り不要なリスクは踏みたくない。あくまでも安全策として夜間での救出作戦を実行する。……この動きを敵が察知した場合、ドライ市攻略を急ぐかもしれん」

 

 「……了解」

 

 「あとは各部隊に出撃予定時刻を早めるかもしれない云々を伝えておいてくれ」

 

 「承知しました」

 

 陸軍参謀は頷くと、『一足先に』と言いそそくさとその場から立ち去る。

 

 「衛星との通信途絶と言い、偵察機《UAV》の原因不明の墜落と言い、一体何が起こっているんだ……」

 

 ロドリゲスは『困った困った』と言いたげな表情で一言、そう呟くのだった。



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新:第5話:『奴』 改稿その6

 ここ最近、Wikipe○iaのドイツ製試作・計画兵器を見ることで少しモチベが上がった気が……する?あと局地戦闘機の閃電に惚れた。あの形状すき。

 レールガンは登場させようと思ったけど……現実的には結構厳しそうねぇ、現状。バレルが消耗品とか……。うーん、もう。

 あ”あ”あ”あ”あ”ッ”!(第二次大戦の試作兵器はいろんな意味で)たまんねぇぜっ!

______

 

 

_ドライ市から北東5キロ地点、旧アメリカ合衆国国道199号線

 

 

 人口減少による整備の不行き届き、また利用回数そのものの減少により使われなくなり数十年の月日が流れた旧アメリカ合衆国国道199号線。自然の恐ろしいまでの破壊力により、道路の脇にも、路上にも草木が中に生い茂り、砕け散ったアスファルトが所狭しと転がるそこを、2両のL-ATV……JLTV (統合軽戦術車両) 計画の車種として数十年前に採用、多々の重大な欠陥が発見されたものの技術陣の奮闘により無事採用、生産が始まり、今尚使用され続けるハンヴィーの正式な後継車両が、疾走していた。

 その車列の先頭を疾走する1号車。その中では、後ろで控える四人の無口な兵士をよそ目に運転席で会話をする兵士が居た。

 

 「ドライ市の状況、知ってるか……?」

 

 助手席に座る東アジア系の血を持つグエンは、タバコ片手に窓から外を眺めながらぼやく。

 

 「……あぁ」

 

 グエンから話を投げかけられたジョンはハンドルに手をかけたまま、濁った声で問いに答える。

 

 「……ひどいもんだよな」

 

 二人は共に独身。グエンの家族は祖国のベトナムに残り、ジョンは親類含め皆、メキシコ国境付近に住んでいたことも不幸となったか、地球温暖化の影響により南米より北上して来たシャーガス病に侵され、今は病院で病の床についているか……もうこの世には、いない。

 二人ともドライ市には身内が一人もいないのでまだマシだったが、それでも軍部から伝えられた『市民を老若男女問わず無差別に虐殺した』と言う点に関しては多少なりとも堪えるものがあった。

 

 「っと、そうだ……。お前、家族と連絡取れたか?」

 

 ジョンはグエンに、今思い出したかのような口調で尋ねる。

 

 「何度か試したが……無理だったな」

 

 「お前もか……」

 

 まるでわかりきっていたかのような口調で答えるジョン。グエンはなぜその質問をしたのか聞こう__とした時だった。

 

 「ん……?」

 

 ジョンは、谷間を間を飛行する黒い無数の何かを見つける。

 無数の何かはどうやらこちらに向かってきているようで、こちらとの相対距離はだんだんと縮み次第にそのシルエットをあらわにして行く。

 

 「どうした?」

 

 グエンは心配そうな口調で尋ねる。

 

 「いや……あれ……」

 

 ジョンはそう言い、前方上空を飛ぶ何か……まぁ『へんなの』とでも呼ぼうか。それを指差す。

 

 「えっと……あれは……」

 

 グエンはそのシルエットを見た瞬間、結論を導き出した。

 

 「『カラス』じゃねぇか?」

 

 「んんん……?そう言われてみれば……確かに」

 

 ジョンも、彼の答えに同意する。

 確かにそのシルエットは、カラスなのだから。

 ジョンは車内無線機を手に取り、『2号車、一旦止まれ』とだけ伝える。

 もちろん我々は観光のために来たわけではないが……何せ気になってしょうがない。

 

 「んー……でもこんな谷間をあんな大群で飛行するなんて……珍しいな」

 

 「地震とかあったら逃げるって聞くけどな。んでもここ最近は地震があったわけでもないし……なんでだろ?」

 

 グエンは疑問を隠せない表情でカラスの群れを眺める。

 

 「お前らはどう思う?」

 

 ジョンは背後に控える四人に尋ねる。

 __が、又しても無口。内心、こいつらが兵士……いや、人間なのか疑わしくなってきた。

 

 「あー……もういいよ」

 

 ジョンは諦めを混ぜた声で言うと、エンジンをかけ直す。

 

 「ドライ市に向かうぞ」

 

 

 _十数分後、ドライ市北東 レッドウッド・ハイウェイ

 

 

 交通規制がかけられたのか、一切車両の通行が見られないレッドウッドハイウェイ。既にドライ市まで数キロを切っている。

 この場所からも既にドライ市を見ることができ、パッと見ただけでも惨状は目にとれるものだった。

 街の各所からは煙が濛々と舞い上がり、第一段階で『MOAB』を使った影響か市街中央にそびえるシンボルだったはずの白いタワーは中心あたりからポッキリと折れており、それより先端は消えている。

 が、それに似合わないかのように辺り一面は静かで、不気味さが増す。

 

 「そろそろか……」

 

 ジョンは、その風景を見ながら警備隊・市民が絶滅してないことを願い、車内無線を手に取る。

 

 「2号車はレッドウッドハイウェイを降り次第北部予定地点に移動、到着次第偵察を開始してくれ」

 

 『了解』

 

 妙に雑音が多いのが気になるが、まぁ良い。

 

 「俺たちの目にしたものが……今後の行方を左右すると言ってもいい、か……」

 

 グエンはふとそう言った。

 

 「確かにそうかもしれんな……」

 

 バァァァンッ……パァァァンッ……

 

 と、そこで、突発的に銃声が2つ、辺り一面に響き渡る。

 

 「……生存者か……?」

 

 彼が、僅かな希望を持ち、それは即座に……踏み躙《にじ》られた。

 

 __ゥグァァァァァァァァァアアアアアアアアアッッッッ!!!!!!

 

 『ファッッ!?』

 

 車内にいる一同全員が驚愕の声をあげる。ジョンは状況確認のためL-ATVを適当な場所に止めると、咆哮の上がった方向__ドライ市を見る。

 

 「あ……あれはッ!!」

 

 ドライ市中心で、大きな翼をはためかせ滞空する大きな赤い物体……いや、巨大な、生物。目測でも40m近いサイズがあるであろう『それ』は長い首の先端についた口から炎のブレスを吐き出している。

 その姿は……どう見ても……。

 

 『『ドドドドドドドドドドラゴンッッ!?』』

 

 あまりにも、頭のおかしいソレ。我々が言える立場でないのは重々承知しているが……本当に、頭がおかしくなったんじゃないだろうか?

 神話上、ファンタジー上にしか存在しないはずのドラゴン。それも、とてつもなくデカい。

 それは半ば廃墟と化したビル群の開けた場所へと降り立つと、某日本の怪獣映画よろしく光線にも似た青く、そしてまっすぐと伸びた鋭い炎を辺り一面に撒き散らす。その光線(?)に触れたものはなんであれ一瞬で融解し、跡形も無くなる。

 

 「し、司令部に報告だッ!これは……まずいぞ!」

 

 彼の本能が、警報を鳴らす。あれは……まずい。早急に手を打たなければならない。偵察機《UAV》を撃墜したのも……あいつで間違い無いだろう。

 車内無線を手に取り、西部方面地方軍へ向けて無線を繋げようとする……が。

 

 「つ、繋がらないッ!?」

 

 ここぞとばかりに、通信機の発する大きなノイズ音が耳を歓迎する。

 ジョンは悲鳴にも似た声をあげるが、それで事態が収束に向かうはずはない。

 どう足掻いても、絶望。これでは司令部に連絡を入れるどころか、2号車に撤退を指示することもままならない。

 

 「一体どうする……どうする……!!」

 

 彼は必死に、思考をフル回転させる。

 

 

_一方その頃、国籍不明軍現根拠地では

 

 

 「な、なッ……!!」

 

 彼らもまた同様、『奴』からの攻撃を受けていないとは言え突如として現れた『アレ』に誰もが恐れおののいていた。__一人を除いて。

 

 「……」

 

 街の中心部で炎の光線をあちらこちらに吐き続ける『奴』。それを、彼は__ゲラーウスは、陣地のテントの隙間からじっと見つめていた。

 

 「……多量の魔力が放出される地点にのみ出現する、『奴』……」

 

 気づけばあの『奴』に最後に出会ってから、相当な月日が流れたものだ。

 数十年前にある辺境の地で行った原住民の”超”がつくほどの大虐殺……。それを行っている最中に、突如として現れた奴は原住民も、我が軍も、見境なく焼き殺した。それも、跡形も残らないほどの超高温で。

 彼は、そっと目を閉じ、こう呟いた。

 

 「破壊龍『バハムート』……」

 

______

シャーガス病

 現実では新型HIVと呼ばれたりする病気です。理由はその潜伏期間の長さ。短くて数週間、長くてなんと数十年間の潜伏期間を持ちます。

 クルーズ・トリパノソーマと呼ばれる原虫を媒介するサシガメ経由で感染し、初期の症状として発熱や頭痛、呼吸困難など。慢性期では心臓や消化器の筋肉にまで侵入し、心筋障害による突然死や心不全などを引き起こします。

 ここ1年前に中国でコレが見つかって、サシガメ1匹に8元(約130円)の賞金を賭けたとか。

 温暖化の影響でこう言うのもやっぱり北上してくるんでしょうね……きっと。

 

 これくらいビックリドッキリストーリーな方が面白い!(錯乱)



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新:第6話:古代兵器の出陣 くぅあいこうしょにょ10

 ダーダネルス海峡海戦を書きたいと言う衝動を抑えながら書いてます。ここ最近は案が結構浮かんできてるんで……。早くここも終わらせないと(使命感)

_____

 

 

_偵察部隊がレッドウッド・ハイウェイ上で驚嘆している頃、ドライ市では

 

 

 火の粉舞い散るドライ市。突如として現れた国籍不明軍の虐殺によりあたり一面人の死骸で埋め尽くされ、続けざまに行われたキスカアイランド作戦の第一段階で更に悲惨なことになっていたドライ市。道路に散乱するビル街からあちらこちらに散りばめられたガラス片や、廃棄された車両。そして……焼き焦げ腐敗臭を放たんとする国籍不明軍・ドライ市市民両方の、死体。

 ただでさえ凄惨さ極まるそこは、さらなる地獄と化していた。

 

 「た、隊長ッ!あの化け物……余計怒ってますよねッ!?」

 

 ビル街の瓦礫の合間を縫いながら走る四人の屈強な男たち。

 その一人、イノセンスは隣で汗水垂らして走るリンガル大尉に緊迫した表情で言う。

 

 「し、仕方ないッ……だろッ!あのままじゃどう考えても……死ぬしかなかったんだッ!」

 

 彼らは西部方面地方軍基地へ連絡を、と外へと出ていたはず。それなのになぜ彼らが走っているのかと言えば……。

 

 『ッグァァァァァァァァアアアアアアアアアアアッッッッ!!!』

 

 「ほ、ほら!また炎吐き出していますよ!俺はここで死にたくないですって!どうするんですか!?」

 

 イノセンスはそう言うと、とてつもなく大きな咆哮が聞こえた方向、彼らの背後を一瞬見る。

 彼らの背後には、ビルの合間からうっすらと見える半ば怒り狂いながらあちらこちらに炎を撒き散らす化け物……本来ならファンタジー世界でのみ登場するはずの生物、巨大なドラゴンが居た。

 

 「やっぱり銃を撃ったのがまずかったですって!他にも手段あったでしょうにッ!?」

 

 「そ、それもそうなんだが……いや、すまない。弁解のしようがないな」

 

 リンガル大尉は諦めかけた表情でそう呟く。

 彼らは数分前、外に出て通信を試みていた。通信がなぜだかわからないが不可能なことが判明し、いざ撤収しよう……とした時、奴が背後からビルの合間を縫って現れたのだ。我々は即座に物陰に隠れ、その場をやり過ごそうとしたものの、立ち去る気配は見せなかった。そこでやむなし、とPDR-Cを奴に向けて撃つと運がいいのか悪いのか見た目は頑丈そうな鱗を貫通。奴は突然の攻撃。それもダメージを与えたソレに激しく怒り、気づけばこの有様だ。

 

 「とにかく今は地下鉄に向かおう!あそこであれば奴の攻撃も防げる!それから拠点に帰るんだ!いいなッ!?」

 

 『りょ、了解ッ!』

 

 

 _今度は視点を戻し、国籍不明軍後方陣地

 

 

 「ゲラーウス殿ッ!これから一体どうなされるおつもりで!?」

 

 東部13藩領主は恐怖で真っ青に染まった顔で、ゲラーウスに尋ねる。

 彼らの居座るここも、彼らが見慣れた竜よりもはるかに巨大な、『龍』が放った炎の流れ弾により甚大な被害を被って居る。このままではただでさえ少ない兵士を消耗しかねない。そのためにもゲラーウスの判断は、急を要するものだった。

 

 「うぅむ……」

 

 だが、ゲラーウスはただ唸るばかりである。

 彼としては、内心ここから手を引き本国で再度装備を整え改めて攻略に臨みたい。現状の兵力ではこの地を攻略すること能わぬどころか……敵の放ったあの謎の超大規模攻撃により全員が瞬殺されることは間違いない。そろそろ魔導電信機が使えてもいい頃合いだと思うが……仮に援軍を要請できたとして、ここに到着するまでの数日間、この場所を死守できるのか。それすらも怪しい。

 だが撤退……その道もまた、不確定要素が大きすぎる。いくら母国の兵力が多いとは言え、ここに派遣した10万の兵もまた大軍。それの半分近くを失い、何の成果も得られずみすみす帰って『なんの成果も得られませんでした。ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい……ふぅ』といったところで結果は目に見えている……粛清だ。一族もろとも死へ一直線の、粛清の嵐が吹き荒れる。それだけは何としても避けたい。

 だが、一体どうすればいい?このままここを死守しようにも現状の兵力であれば弱体化したデルタニウス王国軍と言えど数で押しつぶせる。それ以前に悩みの種なのが奴……『破壊龍バハムート』だ。奴の鱗は現状持ち合わせているどの武器でも貫くことはできない。それに、竜兵隊も居ない。魔法で倒すこともできない。まさに無い無い尽くしだ。

 不幸中の幸いと言えば……『破壊龍バハムート』が付近一帯の魔素を吸収していること、敵もまた同様に破壊龍バハムートに下手に攻撃を……と思ったが、そう言えば確かついさっき妙な破裂音がしていたな……。敵が奴を攻撃した……?いや……そんなまさか。

 

 「……今はここでおとなしく待つほかあるまい。たとえ今動いたところであの『龍』に殲滅されるのは目に見えている」

 

 「で、ですが!!」

 

 諸藩王らからしても、ここで食い下がるわけにはいかない。

 美味い汁を吸うためだけに自藩に駐在するほぼ全ての軍を率いてきたとも言える彼らからすれば、ここで手駒を失うと言うのは何としても避けたい。それ以前に、まず自分たちの命が心配なのだ。

 

 「……だがここで撤退したとして……どうなるか。貴殿らでも十分想像の範疇にあるはず。違うか?」

 

 だが同時に、背後にそびえ立つ本国皇室直々の粛清(かんげい)を避けたいのもまた事実。

 八方塞がりである。

 

 コンコン__ガチャッ

 

 と、そこで場の雰囲気を乱すかのように金属製のドアがゆっくりと開かれる。

 そこに立って居たのは、箱型の物体__魔導電信機を両手で抱えた伝令兵だった。

 

 「しょ、諸藩王ら様方が会議をしているところ失礼いたしますッ!ゲラーウス殿に本国から直々の連絡ですッ!」

 

 「何?もう通信が復旧したのか?」

 

 ゲラーウスは半信半疑の状態で伝令兵に尋ねる。

 

 「そ、そのようで……とにかく至急とのことですッ!」

 

 「今は大事な会議中だというのに……なんと無礼な」

 

 誰かがそう言うが、相手からすれば我々の状況など把握できない。本国に通信を怠って居た時点で我々にそう言う道理はないだろう。

 伝令兵は部屋の中に転がって居た机を立て直しその上に魔導電信機を置く。

 

 「ど、どうぞ!」

 

 伝令兵はそう言うと、受話器をゲラーウスに手渡す。

 ゲラーウスはそれを手に取ると、真剣な眼差しで口を開いた。

 

 「デルタニウス王国攻略軍の……ゲラーウスだ。現在取り込み中なのだ。手短に終わらせてもらいたい」

 

 『……はぁ。やっと繋がったか。んーっと……これで何回目だっけな』

 

 受話器越しに聞こえた声。それは彼__ゲラーウスも、聞いたことがない声だった。

 私が高々一攻略軍の司令官だとは言え、相手は司令官であることに変わりはない。だが……この男はゲラーウスの知る誰よりも胡散臭(うさんくさ)い匂いがプンプンする。

 

 「し、失礼だが君は一体誰なのだね?私の知る通信員じゃないように聞こえるが……」

 

 ゲラーウスの質問に、受話器越しの相手は快い声で返答する。

 

 『あぁ?俺か?俺は帝国軍部監査機関の「ヴロミコ」って者さ。これから……よろしくな?』

 

 受話器越しのソイツは、ひどくいやらしい声でそう答えた。

 

 

 _数分後、次は再びドライ市へと視点を移す

 

 

 サッカースタジアムに避難していた数百名ちょっとの老若男女と警備隊員達。彼らもまた、突如としてサッカースタジアム外に出現した『ドラゴン』にど肝を抜いて居た。

 

 「ムライ、これ……まずくないか?」

 

 数少ない残存ドライ市警備隊の一人であり、現在はサッカースタジアム防衛のため北玄関口に配属されたゼレットは、エントランスから見える景色を横目に、心配げな口調で言う。

 

 「確かに……火の粉舞い散るドライ市、か……。まるで紛争地帯だな」

 

 ムライは目を細め、外を縦横無尽に飛び回るドラゴンを凝視する。

 数分ほど前、突如として現れたかと思えば、とてつもなくうるさい咆哮を吐き出したあの怪物《モンスター》。彼らとしても眼前に広がる、怪獣映画よろしく怪物が次々と町の家々を破壊する光景を絶対に信じたくはないが、これは確かな現実(ノンフィクション)

 二人は一同に、『ちょっくら通信してくる』という言葉を放ち数人の部下のみを引き連れ市街へと向かった警備長らの安否が心配であった。

 何せこの状況。敵がどこから現れるかもわからない市街地で、さらにあの怪物を+αされた状況なのだ。何が起こるか、検討もつかない。

 

 「どうする?最悪警備隊長も通信機と共にヴァルハラ超特急に乗り込んでるかもしれないぞ?」

 

 「だとしたら……。いや、そんなことを考えるのはやめよう……。きっと帰ってくる。そしたらもう一度酒でも飲んでさ……」

 

 ムライはしんみりとした声で、それだけ言う。

 

 「そうだな……。きっとあの隊長のことだ。生きてるに違いない」

 

 一体どこからその自信が出てくるのかはわからないが、それはともかくとして彼らは隊長の帰りを待つ…………必要もなかった。

 

 「はぁ……はぁ……。お前ら、随分と心配してくれんじゃん」

 

 入り口から『ヌッ!』と言う効果音がぴったりな動きで姿を現した数名の人物……いや、警備隊員服を着込んだ、彼ら。

 

 「た、隊長!?一体どうやってここに……ッ!?」

 

 ゼレットは驚愕の表情でリンガル大尉に尋ねる。

 

 「いやいや……大変だったよ。伝記にでもしようかな」

 

 リンガル大尉は服についた汚れを(はた)き、間髪入れずに真面目な表情で告げる。

 

 「それよりも、だ。ついさっき西部方面地方軍基地との連絡が取れた。……よな?」

 

 リンガル大尉は心配げな表情で背後に立つ部下の一人を見つめると、意を汲んだのか、ただ『はい』とだけ答える。

 

 「おぉ!やったじゃないですか!それで……援軍は?」

 

 まるで餌をねだる犬のような目でゼレットは尋ねる。

 

 「喜べ。A-10G-4を4機ほどよこしてくれるとのことだ」

 

 

 _西部方面地方軍基地

 

 

 しばらく通信が途絶えていたドライ市警備隊との通信が復旧した瞬間にあちら側から『ドラゴンによる大規模市街地攻撃を受けている』との一報を受けた西部方面地方軍基地。

 司令官らは半ばヤケクソになり『A-10G-4を1個小隊を投入しろ。あいつらもM1エイブラムスをスクラップに変える作業ばかり続けるのよりも実戦がいいだろ』との一言で援軍派遣を決定。以降滑走路上は大騒ぎとなり、航空要員達は大慌てでA-10G-4計4機の出撃準備を開始した。一分一秒の遅れは、ドライ市の消滅を記すかもしれないのだから。

 と、言うことで出撃命令が発令された第2飛行分隊。この分隊に所属するA-10かと言って、血気盛んなA-10乗り達も同様である、と言うわけにもいかなかった。

 

 「よっしゃお前らぁぁぁぁぁぁぁああっ!久々の実戦だぞぉぉぉぉおおっ!」

 

 『ゥウォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォオオッ!!!!』

 

 彼ら計4名、通称『オラクル(神託。神のお告げという意味)』と呼ばれるA-10パイロット達は屈強な筋肉の塊とも呼べる己の肉体の上にパイロットスーツを着込み、小隊長に続け歓喜の声を上げる。

 彼らが駆る『A-10』は陸軍から『対地の女神』などと呼ばれており、それに呼応するかのように様々な伝説を残している……らしい。

 例をあげれば『胴体着陸でパイロットが無事』だとか、『エンジンが片方吹っ飛んだにもかかわらず基地に帰還した』、『湾岸戦争では140機ほどが出撃し、被撃墜はたったの数機』などがある。

 機首に搭載されたGAU-8『アヴェンジャー』は、150年以上前に生まれた骨董品。だが、それから放たれる大質量攻撃は現在の第7世代主力戦車程度であれば難なく破壊できるほどの威力を持つ。

 また戦闘空域に数時間は滞空できる能力等も保持し、陸軍からは熱狂的なファンによる絶大な信頼を得ており、採用から100年以上が経った現在、2度目(GAU-8の生産が打ち切られていたため)の量産が続けられるM2ブローニング重機も顔負けの古代兵器と化していた。

 彼らは満足いくまで叫び散らすと、各々はそれぞれの愛機(破壊神)が駐機された格納庫(ハンガー)へと向かって行く。

 その一人、第2飛行分隊所属、計4名の中でも特に小柄な身長のアンドリューは誰よりも一足早くハンガーへと向かう。

 

 「あ、どうも。整備・兵装積載はどうなっていますか?」

 

 アンドリューからの質問に、すでに一連の作業を終えたのか、ブルー一色の作業着を着た整備担当の代表者が『いつでも問題無しです』と、述べる。

 もともとの性格は荒いアンドリューも、この時だけは彼ら整備員達に敬語で接す。整備員達の行う整備なしに、航空機は飛ぶことすらままならないのだから。

 

 「そうですか。では行って来ます」

 

 「そう言えば今回は久々の実戦……でしたね。しかも相手は得体も知れない相手……と言うよりも、ドラゴンだとか?」

 

 代表者は心配げな口調でアンドリューに尋ねる。

 

 「まぁそうですね……。ですが問題はないですよ。なにせ私が乗るのは空飛ぶ戦車(フライング・バスタブ)ですから。こいつはまさに私の聖剣エクスカリバー……。ドラゴンだろうがなんだろうが、確実にうち仕留めてやりますよ」

 

 「そしたら今度は基地でドラゴン肉を使ったBBQでもやりますか?」

 

 「いいですね、それ!帰ったら一緒にやりましょう!」

 

 「ですね!……っと、ついつい話してしまい申し訳無いです。戦闘用UAVも初実戦ということですし、我々としては内心不安な点もあることですが……戦果の報、期待しておきますよ!」

 

 代表者はそう言い、格納庫の隅に駐機されるMQ-9にも似た(実際設計を簡素化したものである)戦闘用UAVを見つめる。

 ……そう。これがA-10G-4最大の特徴の一つ。『戦闘用UAV』という安直なネーミングセンスの代物ソレだ。詳しくは下の方に書いてあるが、この存在を一言で表すならば『A-10の守護者』だ。

 

 「はい。それでは」

 

 最後に握手を交わし、互いに敬礼し合うと、アンドリューは整備員達の見送りを背に一般的な灰色迷彩が施されたA-10へと乗り込む。

 今回A-10の主翼下の計11箇所のハードポイントにはそれぞれ『クラスター爆弾x2』、『ナパーム爆弾x2』、『Mk.82(500ポンド爆弾)自由落下爆弾x4』。それと一般兵装であるECM(電子妨害装置)とAIM-132 ASRAAM2発が搭載されている。このような中途半端な装備にしたのはドラゴンの攻撃能力・防御能力が未知数なためである。

 操縦席内に乗り込み、キャノピーを閉じた後小さくこう呟く。

 

 「オッケー、ゴーグル」

 

 『——————声帯認証…完了。顔面スキャン…完了。航空兵番号109867、アンドリューと断定』

 

 幼女の声にも似た声でソレは、彼の耳元でそう語り掛ける。

 彼が呼びかけた…否。起動したそれの名は、通称『ゴーグル』。このA-10G-4改装プログラムの一つとして組み込まれた新機能の一つであり、自立型AIだ。

 某真っ白マシュマロロボットよろしく飛行中の退屈な時間は、『彼女(便宜上そう呼ばれている)』と会話することで、緊張感を発散させよう!』という才能ある若者(変態技術者)達の、粋な計らい(趣味)により実現した。

 

 

 『こんにちはパイロットさん!今日もよろしくね!』

 

 さっきとは打って変わってたたき出されるこの破壊力あるセリフ。あぁもうたまらねぇぜ!!

 実際彼女の存在は他軍でも認知されており、実際『あれ俺にもよこせ』だとか、『えっちだ』、『世界を彼女で埋め尽くそう。そして真の平和を……』だなんて声が各所から上がっている。

 

 「そ、そうだな…今日も頼んだぞ」

 

 『任せて任せて!それじゃ離陸準備、パパっと終わらせちゃうね!』

 

 彼女の陽気な声の元、機内の機器が起動を開始。機体後部にある2基の民生ターボファンエンジンが、そしてそのさらに後方に駐機してあった4機の戦闘用UAVのエンジンも唸りを上げ、それぞれがアヒルの親子よろしく微速で徐々にハンガーより外へと移動。後ろからの整備士たちの熱い声援と滑走路要員の誘導の元、ゆっくりと離陸地点まで移動する。

 滑走路上では作戦実施予定のキスカアイランド作戦第二段階に向け、今現在各部隊がそれぞれの作業を実施中であり、離陸地点に移動するまでに何度も旧式のハンヴィー等に乗って移動する整備兵その他諸々を見かける。もちろんその中には第二飛行分隊僚機の姿もあった。

 そんな中アンドリュー(とゴーグル)、それと4機の戦闘用UAVは着々と離陸ポイントへと向かう。

 

——

 

 離陸ポイントに到達し、第二飛行分隊は可動翼(フラップ、エルロン、ラダーetcの事)の点検を完了次第一番機から滑走路を滑走、離陸する。

 そして次は、アンドリューの番だ。

 

 「管制塔。こちらオラクル3。離陸許可を」

 

 『こちら管制塔。オラクル3、了解した—————』

 

 管制塔要員は一瞬喉を詰まらせると、ただ一言、『幸運を祈る』とだけ伝える。管制塔要員にも彼らの攻撃目標は伝えてある。

 ——曰く、ドラゴン。

 彼らとしても信じたくは無いが、司令部は何度聞き直してもただ『空飛ぶトカゲっていう名のドラゴン。あとついでに火を噴くらしいから気をつけてね』としか答えないのだ。それ以外は……全くもって未知数。もしかすると、彼らでもやられるかもしれない。そんな不安が、管制塔要員の脳裏には浮かんでいた。

 

 「……やって、やりますよ。なぁ?ゴーグル」

 

 『はい!ドラゴンだろうがなんだろうが関係はないです!パパッと30ミリをぶっ放してミンチに変換する。それだけの簡単なお仕事ですから!』

 

 さらっと物騒なことを言うのは日常茶飯事なので気にしないが……彼女の言うことは少なくとも嘘ではない。

 もしこれが仮にファンタジー世界だとしても、さすがに我らがGAU-8アヴェンジャーの放つ劣化ウラン弾とタングステン弾の破片が少し当たっただけで人体の一部が吹っ飛ぶほどの無慈悲な攻撃を防げるとは到底思えないのだから。

 

 「それじゃぁ……」

 

 アンドリューはスロットルレバーを強く握る。

 

 「行くか!」

 

 『はい!』

 

 力強くスロットルレバーを押し込む。後部の2機のエンジンが移動時とは比べ物にならないほどのエンジンを発し機体は徐々に加速。その後ろを戦闘用UAVは一糸乱れぬ動きで追従する。

 

 ここに、大殺戮(パーティー)の火蓋が切って落とされた。

 

 ______

 AIM-132 ASRAAM

 AIM-9サイドワインダーの後継ミサイルとして開発されていたイギリス開発の赤外線誘導空対空ミサイル。倉庫で設計図とともに眠っていたのを兵技開発本部が発見。それをそのまま流用し今現在試験的に一部方面地方軍基地に配備されている。

 

 A-10G-4

 不動の地位を築いた通称『A-10神(らしい』。

 30ミリガトリング砲であるGAU-8アヴェンジャーを機首に装備。7tを超えるペイロードを保持し、11箇所のハードポイントに各種武装を搭載可能(比較?として同時期に開発された旧ソ連の攻撃機、Su-25の最大搭載可能量は4400キロ。頭おかしい)。

 初飛行が1972年のこのおじいちゃんはエルディアン連邦設立20周年を迎えた2099年半ば、周辺各国の制空戦闘機の技術的・性能的進歩、そして機体そのものの設計の古さにより退役を迫られていた。各地の元A-10乗り達が別れを惜しみ、またあるもの達はそれに反発する。

 そんな中、天使(悪い意味で)よろしく舞い降りたのが定番、兵技開発本部であった(またお前か)。

 彼らはみんな大好きA-10が退役間近であることを知ると、おそらくは冗談半分で*『A-10が敵制空権内で活動できるようにすればいいんでしょ?』と思ったのか、数週間も経たずに改造案を軍部に提出。その案の内容は単刀直入で、『戦闘用UAVをお好みの数引き連れることが可能な空中空母にしたYO!』と言うものだった。

 そして結果が……これである(A-10G-4とその後ろを追従する4機の戦闘用UAVを横目に。

 

 スペック

 デフォルトで戦闘用UAVを引率できる点以外は外見上は同じ。一時期にはGAU-8をGAU-12や、レーザー兵器に換装する話が出ていたが大正義アヴェンジャーの威力に立ち向かうことは叶わなかった。

 エンジンは環境汚染対策のトレンド、電気・ジェット混合駆動の5000馬力級エンジン2基に換装……予定だったが、そちらは開発が間に合わず渋々低燃費の5000馬力級民生ターボファンエンジンに換装された。

 機器類も一新され、機内には自立型AIを搭載。パイロットの暇な時間を会話(サポート)?する。

 なおアヴェンジャーには兵技開発部の粋な計らいにより(?)専用弾薬として、30ミリ弾仕様のMinengeschoss(薄殻弾頭を使った榴弾。第二次大戦時ドイツが使用した弾薬で、これを使用したMk108 30ミリ機関砲はB-17を数発で粉砕した)が開発された。なぜ作ったかは諸説あるが、一番有力な説に『対歩兵用に作った。それに母国の兵器だし……構わないでしょ?後悔も反省もしていない。むしろ誇っていいだろう(当時はドイツ系の人物が所長だった』というものがある。普通そこは榴弾でいいだろ。

 

一部Wikipediaより引用。

 *この時の資料はなぜか焼却処分されてしまったため、詳細な彼らの動機は不明である。

 

 戦闘用UAV

 A-10神の守護者。武装は通常型”であれば”アルフォンス社製小型空対空ミサイル4基(ロッキードが現在制作中の小型地対地ミサイルの流用。主に空中待機・奇襲・偵察を仕掛ける軍用ドローンに使用。一応戦闘機相手にも使えないわけではない)、フレア十数発。それとは別に弾切れ時のみに作動する特攻攻撃機能付き。一般的には旧式のMQ-9の設計を簡素化・安価化した無人航空機を指す。

 完全A-10護衛用UAVと開発されたが、どうやら兵技開発本部はさらなる悪用を目論んでいるようで……?

 

 ゴーグル

 自立型AI。何を思ったのか兵技開発本部はA-10に彼女を搭載、搭載機に乗り込んだパイロットを一撃で即死(違う意味で)させる心理兵器(?????)である。

 通常は主に戦闘用UAVの操作を司るが、GSP衛星とのリンクが可能な状況で、なおかつ付近の地形情報を事前に読み込ませていれば彼女一人で離陸・飛行・攻撃・飛行・着陸のすべての行動を可能とする。

 愛称は『アイちゃん』、『神の落とし子』、『世界平和の使者』その他etc。

 

 アンサイ〇〇ペディア版のA-10の説明文を見て不覚にも笑ってしまった。



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第9話:未来のパンケーキは空を飛ぶ v0.0

_北部担当地方軍司令部管轄海軍司令部近くのとある大規模軍港出港から数十分後

 

 ビガス・ルナ級原子力空母を中心とする第二空母打撃群の司令官的存在であるビガス・ルナ級一番艦《ネームシップ》ビガス・ルナの艦長ミゲルは、ソナー員からの報告を聞いたあと口を開く。

 

 「よし、今回も敵潜水艦の存在は認められないな」

 

 「クラーケンも、ですね」

 

 副艦長が付け加える。

 

 「あぁ、そうだったな」

 

 第一回目の遠距離遠征で撃破したクラーケンはあの後残骸を拾って管内の調理員に調理させてクルー全員で食べてみたが、悪臭や噛み応えがひどく、クルーのほとんどは『こんなのイカじゃないわ!イカの形をした何かよ!』という苦情が殺到した。おそらくこれからあのクラーケンたちが乱獲されることはないだろう。

 

 「さて、副艦長くん。目的地の東部海岸まではあとどれくらいかね?」

 

 副艦長に尋ねる。

 

 「えぇと・・・東部海岸まであと十数キロ。それとこれはレーダーサイトの報告です。『現在敵艦隊の位置は300キロ程度の場所を航行中。進路変更を認めず』」

 

 「そうか。この調子なら敵超巨大船団が上陸するまでに余裕で到着するな」

 

 艦長がそう呟いた時、ブリッジで無線を聞いていた無線員が報告する。

 

 「先ほど北部担当地方軍司令部管か」

 

 「えぇい長い!短縮しろ!無駄に長いんだよ!」

 

 無線員に艦長が突っ込む。実際、長い。本当に何で司令部はここまで名前が長いのかわからない。管轄とかそう言うのどうでもいいから、とりあえず短縮していってくれ。それが艦長ミゲルの言えない本音である。もちろん今言ってしまったが。

 

 「は・・・はい。海軍司令部から報告!先ほど第11高速駆逐艦隊が軍港を出港。第二空母打撃群は東部海岸沖で待機、その後すぐに合流するとのことです!」

 

 ブリッジ内が「わぁぁぃ!やったぁ!」と言う声で賑やかになる。

 

 「第11高速駆逐艦隊・・・聞いたことがないな。副艦長、どこの艦隊だ?」

 

 副艦長にまた聞く。

 

 「艦長、私をロボットかなんかだと思ってません?」

 

 「いや、そんなことは・・・」

 

 「そうですか・・」

 

 副館長がため息をついたあと、艦隊管理表をブリッジの副艦長室から持ってきた。

 

 「んーとですねぇ・・・第11高速駆逐隊・・・ありました、これですッ!」

 

 副艦長がそう言うと艦隊管理表を投げつけて来た。

 

 「っておいおい!危ないな!」

 

 間一髪でキャッチしたが、下手をすれば頭に当たって流血していただろう。

 

 「ッチ・・・当たれば臨時に艦長になれたのに(ボソッ」

 

 「お前今絶対やばいこと言ったよな!?な!?」

 

 「いえいえ、なんでもないですよぉ!」

 

 「白々しいな!おい!・・・まぁいい、とりあえず例の艦隊の編成から確認するか」

 

 そう言って艦隊管理表を覗き込む。

 

 「なになに・・・」

 

 艦隊管理表に書いてある第11高速駆逐隊の編成には『旧型のマリーア・デ・ヴィロタ級イージス艦4隻で構成』と書いてある。

 

 「マリーア・デ・ヴィロタ級・・・か。確かセル数は合計50程度だよな?」

 

 「そうですね。それと主砲にパブロ・パウラ社の127ミリ単装砲を搭載、対潜装備の充実した船団護衛型のイージス艦ですね」

 

 「対艦ミサイルの搭載はなし・・・か。援軍なのはありがたいが少々武装が足りないな・・・」

 

 「相手はガレー船や帆船を基幹とした超巨大船団。おそらくその装備でも大丈夫と司令部が判断したのでは?」

 

 「そうか・・・そうだな・・・!そういうことにしておこう!」

 

 何かと不安が拭えないがひとまず安心はできるだろう。

 

 

_さらに数十分後

 

 

 「さて、目的の東部海岸に辿り着いたわけだが・・・」

 

 第11高速駆逐隊と合流した第二空母打撃群の展開する後ろには茶色をしたビーチもどきが広がっている。

 

 「状況はどうなっている?」

 

 無線要員に尋ねる。

 

 「レーダーサイトの報告では敵艦隊と我が艦隊との距離は180キロ、少し航行速度を速めたようです。それと現在、敵航空戦力と思しき戦力は確認されていません」

 

 「よし、わかった。念のためだ。偵察機を先に飛ばせ!それに空中哨戒機もだ!安全を確認した後で対艦攻撃機を飛ばす!それまでは絶対に航空隊を出撃させるな!」

 

 『了解!』

 

 「さて、俺たちは戦闘指揮センター(CDC)に移動するか」

 

 「そうですね」

 

 そう言うと、艦長&副艦長はブリッジから降りて行った。

 

 

_数十分後

 

 

 「敵海上戦力・・・無駄に多いな・・・」

 

 ミゲルが呟く。現在ミゲルたちは偵察機が撮影した解像度の高い敵艦隊の姿を捉えた写真の数々を見ていた。

 

 「それと未確認情報なのですが、偵察隊の報告で偵察のために低空を飛行したところ敵船から龍のような何かが飛来してきた、とのことです」

 

 そう言うと航空隊指揮官が竜のようなものが写った写真を机に置く。

 

 「竜か・・・ますますファンタジー世界だな・・・。速度をおおよそでいいから教えてくれ」

 

 航空隊指揮官に聞く。

 

 「300キロ程度だったそうです。おそらく速度面では我が軍の艦載機が凌駕していますが機動性及びロール性能では艦載機の性能を凌駕している可能性があります」

 

 「それは厄介だな・・・ちなみにどの船から出てきたんだ?」

 

 そう言って偵察隊の撮影した写真を見る。

 

 「そこまではわからないとのことです」

 

 「そうか・・・」

 

 ミゲルは少し間を置いて口を開く。

 

 「ならまずは脅威度の高い・・・なんだ?これは?」

 

 大量の砲が横に突き出た木造帆船を指差す。

 

 「戦列艦、ですね。元の世界ではすでに廃れた艦艇です。まさかこんな骨董品を拝める日が来るとは・・・」

 

 副艦長が言う。

 

 「・・・お前、この手の船が好きなのか?」

 

 ミゲルが副艦長に尋ねる。

 

 「えぇ、そりゃぁもちろん!拿捕して自家用船にしたいくらいには好きですよ!」

 

 「お、おう・・・」

 

 ミゲルはまさかうちの副艦長がこんな趣味を持っていたとは、と思う。

 

 「まぁいい。その戦列艦とやらと他に浮いてる巨大木造帆船数十隻が最重要攻撃目標だ!もうそろそろ航空隊も出撃したくてうずうずしてるだろ?とっとと出撃させてやれ!」

 

 『了解!』

 

 

_ビガス・ルナ級原子力空母所属CF/A-5艦上攻撃機第一飛行隊飛行隊長視点

 

 

 飛行隊の待機場所で待機していた第一飛行隊飛行隊長は館内に鳴り響く航空部隊出撃の合図を聞いて胸が熱くなっていた。異世界に来て初めての実戦。好奇心の塊の飛行隊長は気分が非常に高揚している。

 

 「やっとだ!野郎ども!やっと俺たちの出番だぞ!」

 

 『ウォォォッ!』

 

 部下たちも実践がしたくてうずうずしているようだ。ほっとくと暴発しかねないのが見てわかる。

 

 「とっとと異世界の軍とやらを拝みに行くぞ!」

 

 その言葉を合図に飛行隊長を含む第一飛行隊のいかついパイロットたちは艦内通路を使って一直線に飛行甲板へと向かう。もちろん愛機のフライング・パンケーキに乗るためだ。

 

_ビガス・ルナ、飛行甲板

 

 「お待たせ、愛機のフライングパンケーキちゃん。待たせてごめんよぉ!すぐ戦場に連れて言ってあげるから!」

 

 そう言って飛行甲板にズラッと並べてあるハードポイントにロケットポッドを合計6機搭載したCF/A-5艦上攻撃機の1機、コブラの描かれた自分の愛機に話しかける。飛行甲板で忙しなく動いているレンボーギャングたちの視線が痛いが気にする必要はない。なにせいつものことだ。

 

 「って言う冗談は置いておいて・・・」

 

 「やっぱりこの機体・・・パンケーキだな」

 

 CF/A-5艦上攻撃機は数年前に正式化された艦上攻撃機だ。対艦ミサイルはもちろんのこと、ロケット・ポッドやJDAMまで、ありとあらゆる兵装が扱える万能機だ。固定武装は20ミリバルカンを機首に1基。エンジンには推力7080kgfのターボファンジェットエンジンを二基。何よりも特徴的なのが機体形状で、その容姿は一言で言えば『パンケーキ』である。パンケーキよろしく円盤翼の恩恵により高速時の旋回性能は目まぐるしく、その旋回能力は最新鋭機にも引けを取らない。

 

 「さて、今日もよろしく頼むぞ」

 

 そう言ってコックピットへと乗り込む。

 

 「やっぱり視界が広いな」

 

 コックピットから周りを見渡す。涙滴型《バブル》キャノピーを採用した恩恵で周囲の状況確認のしやすさは前型の艦載攻撃機と比べて格段に上がった。これのパイロットの評価はかなり好評である。

 

 「ま、それはいいとして」

 

  エンジン始動ボタンを押す。

 

 「お、来たか」

 

 各機器の動作確認を終えるとすぐに機体前方に黄色の服を着て黄色のキャップをつけた航空機誘導員が現れる。誘導員の指示に従い超低速で垂直尾翼を使い移動。電磁カタパルトへと誘導される。

 

 「この辺だな」

 

 電磁カタパルトにたどり着くと機体後部に冷却パイプを内蔵したパッシブ・ジェット・ブラスト・デフレクターがエンジンの出す高温から甲板要員や機体を守るために出現する。それと並行して緑の服とキャップをつけたカタパルト要員が機体に接近、また白い服を着た安全要員による安全確認も進められる。それらが全て終わると

 

 「OK」

 

 とハンドサインで示される。

 

 「エンジン出力上げるか!」

 

 そう言いエンジンスロットルを最大まで引き上げる。甲板にエンジンの吐き出す轟音が響く中並行して各機器の確認及び水平尾翼・垂直尾翼、補助翼やフラップなどその他諸々の稼動確認を行う。

 

 「動作確認、終了!」

 

 同時に甲板要員からのゴーサインが出た。

 

 「発艦!」

 

 その瞬間、俺の乗るCF/A-5艦上攻撃機はカタパルトの射出の勢いで時速290キロあまりにまで加速する。

 

 「っふぅぃ!これがたまんねぇ!」

 

 カタパルトにより射出された機体は暫くの間全て機械制御で動かされるので、少し心に余裕ができる。 

 

 「さぁて、全機上がるまで待機するか・・・」

 

 

_数分後

 

 

 「さーて!役者は揃った!全機編隊を組んで飛行!先導する偵察機について行くぞ!」

 

 『応!』

 

 斯くして、第一次ダーダネルス海峡海戦の初手はエルディアン共和国海軍が取ることとなる。



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第10話:第一次ダーダネルス海峡海戦(1) v0.1

_エルディアン共和国北部、捕虜収容所の一室

 

 

 「うーむ・・・読めん」

 

 元魔導司令官ギーラスは今、本棚から取り出した1冊の本を机に広げて読んでいる。

 

 「確かに会話をしているときは難なく話せたんだが・・・言語になった途端、何も読めなくなってしまった」

 

 そう言って本を閉じる。

 

 「本当にこの国は・・・なんなんだ?それに、国名もどこかで・・・」

 

 ギーラスの脳内でこの国への疑問がまた、強くなった。

 

 

_その頃、エルディアン共和国東部海岸から170キロ地点では

 

 「い、いったいさっきの羽のついた物体はなんなんだ・・・?あんな轟音、聞いたこともないぞ!デルタニウス王国攻略軍の魔導電信報告にはあんな物体の存在は書かれていなかったはず・・・」

 

 今回の第二次デルタニウス王国攻略軍20万を乗せた総勢6000隻にも及ぶ多種多様大小様々な艦の付属したこの超巨大船団を指揮をとる200門級戦列艦コートリアスのブリッジから外を眺めていた司令官マクダネルは呟く。

 

 「わかりません・・・ですが、我が帝国軍の精鋭竜兵隊グリゴローツェラに驚いたようですね。一目散で海の果てに逃げて行きましたよ」

 

 司令補佐官は言う。

 

 「それはどうでもいい!問題はあの速度だ!」

 

 「へ?」

 

 マクダネルは偵察機を見ただけで早くもその脅威に気がついていた。

 

 「見ただろう!あの羽のついた物体は竜兵隊よりも速度が速かった!もしあの速度を生かされでもしたら我が軍は一瞬で蹴散らされてしまうんだぞ!」

 

 その言葉を聞いた司令補佐官は『なぁんだ、そんなことですか』と言う。

 

 「それは大丈夫ですよ。この艦隊には2万もの魔導師がいますからね。攻撃を喰らえば即座に魔導シールドを張ればいいじゃないですか」

 

 「そう言う問題ではない!あれはおそらく偵察竜兵と同じようなものだ!すぐに敵がやってくるぞ!」

 

 「そんなこと、あるわけないじゃないですかぁ。もしさっきのが偵察竜兵のようなものなら、今頃我々の艦隊規模を知ってど肝を抜かれていますよぉ!」

 

 司令補佐官が言う。

 

 「あぁ。もうお前はなんでこう勘が鈍いんだ!魔導師!」

 

 「はっ」

 

 すぐ近くにいた魔導師を呼ぶ。

 

 「全魔導師に連絡!空からの攻撃に注意するように伝えろ!」

 

 「了解しました!」

 

 「補佐官!お前はどっか適当な場所に行きやがれ!」

 

 「そんなぁ!」

 

 そう言いながらも補佐官はそばを離れ、子供のようなテンションで艦内へと入って行く。

 

 「ったく・・・。今回の補佐官はどうしてこうも無能なんだ!」

 

 

_超巨大船団から10キロ地点、大海原の上2000mを飛行する10機のパンケーキとそれらを先導する1機の偵察機の姿がある。

 

 

 「偵察機、もうそろそろか?」

 

 飛行隊長が偵察機のパイロットに尋ねる。

 

 『あぁ。もうすぐ敵艦隊を確認した地点に着く』

 

 偵察機のパイロットから無線で返事が返ってくる。

 

 「早くしてくれよ。じゃないとうちのいかついパイロットが暴発しちまう」

 

 『はっはっは・・・。冗談じゃない!こんな部隊に巻き込まれるのはごめんだ!』

 

 そう言って偵察機のパイロットは無線を切る。

 

 「まぁ確かに、うちのパイロットは優秀な代わりに取り扱いが難しいからなぁ・・・」

 

 誰もいないコックピットで呟く。言葉の通り第一飛行隊の腕はビガス・ルナの飛行隊の中でもトップクラスの腕だ。だがその分血の気が多いパイロットが多いのでたまに先走ったりする弱点もあるのだ。

 

 「まぁ暴発しないことを願うし・・・うん?」

 

 周りの機体の様子がおかしい。おいおい、これまずいんじゃないか・・・?そう思った瞬間だった。

 

 『もう待ちきれねぇ!先導なんて糞食らえだ!他に骨のある奴はついてこい!戦果は俺たちが独り占めするぞ!』

 

 『応!』

 

 二番機の無線からいかつい声が聞こえた瞬間、二番機はアフターバーナーを使用してマッハ1.8まで加速。他の機体もそれに続いていく。

 

 「おい待て、二番機!お前また懲戒処分受けてもいいのか!懲戒処分だぞ!」

 

 無線で二番機に呼びかける。

 

 『へっへ!そんなこと言いながら隊長、あんたもついてきてるじゃないっすか!』

 

 二番機のパイロットに言われる。速度計を見れば自分の乗るCF/A-5艦上攻撃機もマッハ1.8まで加速し二番機について行く形で飛行していた。

 

 「っは!くそっ・・・また俺の悪い癖が・・・ってそうじゃない!船団はどこだ・・・!」

 

 コックピットから周辺を見渡す。

 

 「船団船団・・・いた!全機!敵船団は2時の方向!バカみたいな数いるぞ!」

 

 無線で隊員たちに伝える。

 

 『ひゃっほぉぃ!いっちばん乗りぃ!』

 

 二番機がまた叫ぶ。

 

 「あぁもうこの際どうでもいい!全機散開!敵の時代遅れな船団を食い荒らしてやれ!」

 

 『了解!』

 

 飛行隊長の号令で第一飛行隊のパンケーキたちは右ロール旋回を行い2000m地点から降下を始める。

 

 

_超巨大船団を指揮する司令官マクダネル視点

 

 

 「お、おい!あれはなんだ!」

 

 環境から周辺を見渡していた観測員が叫ぶ。指をさす方向には空を円形状の物体が10個ほどが降下しているのが確認できる。

 

 「あ・・・あれはなんだ・・・!?」

 

 マクダネルが呟く。その間にも円形の形をした物体は降下を続ける。そして、かなりの量の兵員が乗った帆船アーギに近づいたと思った瞬間、円形の物体は何かを発射。それが船に当たった瞬間、何かに引火したのかアーギは一瞬にして爆発。轟沈する。

 

 「・・・っ!敵だ!敵だぞぉ!」

 

 船員が叫ぶ。

 

 「それはわかっている!魔導師!全魔導師に魔導バリアを展開させろ!それと竜兵隊はすぐに飛び立たせろ!奴等を迎撃するんだ!」

 

 マクダネルがそばにいた魔導師に命令する。

 

 「りょ、了解!」

 

 「次は絶対にあの攻撃をさせるな!総員対空戦闘用意!」

 

 コートリアスの船員たちに命令する。その命令を聞いた船員たちは船室から複数の弓を持ってくる。

 

 「絶対に攻撃させるな!絶対にだ!弓矢、発射ァッ!」

 

 号令とともに船員たちが弓を引き弓矢を発射する。だが距離、速度ともに圧倒的な円形飛翔物体には当たらない。

 

 「司令官!あんなのに当てるのは無理っすよ!」

 

 船員の一人が叫ぶ。

 

 「無理なら可能にしろ!」

 

 「そんな無茶苦茶な!」

 

 「ともかく弓を撃ち続けろ!」

 

 マクダネルはそう言うと船団の様子を確認する。

 

 「よし・・・各竜母艦からは続々と飛び立っているな!」

 

 ゴォォォン!

 

 「っ!またやられたか!」

 

 爆発音が聞こえた方向を見ると、おそらく船がいたであろう場所から爆風とともに多数の木片が周りに吹っ飛んでいるのが確認できた。

 

 「魔導シールドの展開はまだなのか!」

 

 円盤飛翔物体が放つ轟音が響く中魔導師に大声で聞く。

 

 「ま、まだ詠唱中ですっ!」

 

 「早くしろ!じゃないとこの船も奴らに沈められるぞ!死に物狂いでやれ!」

 

 「は、はいっ!」

 

_数秒後

 

 「各船に乗った魔導師から魔導シールド詠唱完了の報告!いつでも出せます!」

 

 「よしきた!全船は魔導シールドを展開!奴らの攻撃を防げ!」

 

 その掛け声とともに各船上方に魔導シールドが展開される。それと同時に円盤飛翔物体の放った物体が帆船ローリアスへと飛翔するが魔導シールドに着弾、信管が作動し爆発する。

 

 「帆船ローリアス・・・無傷です!」

 

 魔導師から報告が上がる。

 

 「よし!敵の攻撃は魔法じゃない!物理攻撃だ!この調子で防ぎきれ!」

 

 気づけば船団上空には数十機の竜兵隊と円盤飛翔物体が攻撃し合うカオス状態と化している。

 

 「竜兵隊・・・!頼むぞ!」

 

 マクダネルのその願いも届かず今円盤飛翔物体により一騎の竜兵が落とされた。

 

 

_第一飛行隊視点

 

 「おい!二番機!後ろにドラゴンがついてるぞ!」

 

 飛行隊長が二番機の後ろについたドラゴンを見つける。

 

 『っち!三番機、落としてくれ!」

 

 『あいよ!』

 

 その声とともに三番機の20ミリバルカンが火を噴く。バルカンから発射された20ミリ弾は正確に竜兵の1人を撃ち抜き爆発四散させ、その後も次々と発射される20ミリ弾には強固な鱗を持つ竜も耐えきれずすぐに落とされる。

 

 『敵ドラゴン撃墜!』

 

 「各機敵船団への攻撃を継続!少しでも数を減らすんだ!」

 

 無線向けてそう叫ぶと飛行隊長の乗るパンケーキは降下を開始。巨大な帆船を狙いに定める。

 

 「あばよ、時代遅れの帆船!」

 

 ロケット発射ボタンを力強く押し込み、ロケットポッドから多数のロケット弾が吐き出される。それを確認した飛行隊長は機首を上げる。

 

 「敵船・・・撃破ならず!?」

 

 確実にロケット弾は当たっていたはずだ。なのに沈んでいない。おそらくこれが例の・・・

 

 「全機!敵船は電磁バリアのようなものを展開中だ!敵航空戦力の殲滅をしろ!」

 

 『応!』

 

 第一飛行隊のパイロットは即座に攻撃目標をドラゴンに変更する。

 

 

_司令官マクダネル視点

 

 「くそっ!敵はもう気づいたか!」

 

 空を飛び立ったドラゴンを次々と落とす円盤飛行物体を見て呟く。そして、最悪の知らせが耳に入る。

 

 「し、司令官!」

 

 魔導師が叫ぶ。

 

 「なんだ!」

 

 「竜兵隊は・・・今飛び立っているので最後だそうです!」

 

 「な、なにっ!?」

 

 竜兵隊の喪失。それすなわち制空権の喪失を意味する。

 

 「せ、制空権がっ・・・!」

 

 その声とともに空を飛んでいた最後の竜兵が落ちる。

 

 「まずいまずいまずい!」

 

 竜兵隊。それも精鋭のグリゴローツェラの消滅。これは艦隊の士気にも大きく関わる。

 

 「全魔導師は死に物狂いで魔導シールドを維持!上陸まで嫌がなんでもこの船団を維持するぞ!」

 

 だがその声は観測員の声でかき消される。

 

 「し、司令官!船団前方に・・・城です!城が浮いてこちらに向かっています!」

 

 「城だと!?」

 

 慌てて手元にある双眼鏡で船団前方を見る。

 

 「ち、違う!あれは・・・船だ!」

 

 

_第二空母打撃群、ビガス・ルナのブリッジでは

 

 

 「お、やってるやってる」

 

 ミゲルが言う。

 

 「第一飛行隊の報告では先ほど敵航空戦力を駆逐したとのことです」

 

 副艦長が言う。

 

 「優秀優秀。さて、第一飛行隊には帰還させろ。今度は新型ミサイル駆逐艦の出番だ」

 

 「了解」

 

 副艦長が通信要員に声をかけ帰還させるように伝えさせる。

 

 「さぁて、どこの国かは知らんが・・・エルディアン共和国に喧嘩を売ったこと、後悔させてやるよ!」

 

 そして、第一次ダーダネルス海戦の本格的な戦闘が始まった。

 

 攻撃後の兵力

 第二次デルタニウス王国攻略軍

 ・竜兵隊全滅

 ・大中小全て含めて50隻ほどを喪失

 ・兵士約1200名を喪失

 

 エルディアン共和国海軍

 ・被害なし



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第11話:第一次ダーダネルス海峡海戦(2) v0.1

_エルディアン共和国東部海岸沖、緊急迎撃艦隊 東部海岸付近で停泊するビガス・ルナのブリッジ

 

 

 「艦長!全機収容完了しました!」

 

 現在敵超巨大船団へと向かった4隻のイブン・サイードと第11高速駆逐隊との距離が10キロになった頃副艦長が艦長に伝える。

 

 「よし!各艦に通達!単横陣で敵艦隊を攻撃!」

 

 『了解!』

 

 「艦長、よろしいのですか?単横陣は前時代的陣形ですが・・・それに第一、こんな近距離で戦う必要はないですよ!ミサイルを使えばいいだけの話じゃないですか!」

 

 副艦長が言う。

 

 「敵は超巨大船団だぞ!?しかも木造船だけで構成された船団だ!対艦ミサイルだと脅しにはなるが数が足りない!ミサイルが枯渇しちまう!それなら値段が安くつく主砲を使った方がまだマシだ!」

 

 「そ、それもそうですが・・・我々の乗る現代艦艇は砲撃戦を想定していませんよ!」

 

 「だったとしても、だ!相手が戦列艦であろうがファンタジーな船であろうがアウトレンジから攻撃すれば問題ない!そうだろ!?」

 

 「ま、まぁそうですね・・・」

 

 副艦長は何か言いたげな顔でこちらを見てくる。

 

 「ですが、敵は超巨大船団。侮ってはいけませんよ?」

 

 副艦長が忠告の意を込めて一言放つ。

 

 「わかってるって」

 

 

_同艦隊、イブン・サード級ミサイル駆逐艦一番艦《ネームシップ》イブン・サイードのブリッジ

 

 

 「艦長!ビガス・ルナから連絡!『単横陣を取り砲撃体制に移行した後各自好きなタイミングで砲撃を開始!』です!」

 

 「了解した!各員第1種戦闘配置!砲塔要員はステルス砲塔を起動させろ!すぐに砲撃戦を始めるんだ!遅れを取るなよ!」

 

 『了解!』

 

 ブリッジ内にクルーたちの声が響く。

 

 「操舵士!船首回頭右15度!」

 

 『了解!』

 

 操舵士の声がブリッジに響く。

 

 操舵士の号令とともに艦長らの乗るイブン・サイード・・・いや、旧式のマリーア・デ・ヴィロタ級4隻とイブン・サイード級4隻で構成された即製駆逐艦隊全体が一斉に舵を右に取る。ビガス・ルナの通達通り、促成駆逐艦隊は超巨大船団を左に捉える形で単横陣を取った。

 

 「第11高速駆逐隊から連絡!砲撃を始めるとのことです!」

 

 無線員がそう言った直後にマリーア・デ・ヴィロタ級4隻の127ミリ単装砲が一斉に火を噴く。

 

 「やはりレールガン装備のイブン・サイードより砲撃までの所要時間は短いな」

 

 艦長がそう言って双眼鏡を取り敵超巨大船団を見る。マリーア・デ・ヴィロタ級4隻の127ミリ単装砲が発射した4つの砲弾は10キロ先の敵艦隊まで一直線に飛翔。戦列艦の一隻に吸い込まれるように着弾する。・・・が、戦列艦は何事もなかったかのように航行を続ける。

 

 「やはり情報通り、敵艦隊は電磁バリアのようなものを有しているか・・・」

 

 艦長が呟く。

 

 『ステルス砲塔起動完了!』

 

 ブリッジに砲塔要員のステルス砲塔の起動完了が伝わる。

 

 「他のイブン・サイード級3隻も砲塔起動完了とのことです!」

 

 無線員が続けざまに報告する。

 

 「よし!次は俺たち新鋭艦隊の出番だ!全艦、レールガン発射準備!」

 

 艦長のその合図で艦内電力がイブン・サイード級の有する2基のステルス砲塔型レールガンに注がれる。

 

 『電力充填中!充填完了まで・・・3、2、1!充填完了しました!』

 

 砲塔要員が報告する。

 

 「他の艦も電力充填完了!」

 

 無線員も報告する。

 

 「よし!各艦レールガン斉射!」

 

 ゴォォォン!

 

 レールガン発射時に放つ独特の砲声が艦隊、そして敵巨大船団にまで響く。イブン・サイード級4隻が放った8発にも及ぶ砲口初速が音速の10倍にまで達する砲弾は一瞬で敵艦隊まで到達。着弾と同時に電磁バリアのようなものが現れたがそれを物ともせずに砲弾は貫通、敵戦列艦を轟沈させる。それどころか戦列艦を貫通しその後ろにいた多数の木造船を巻き込んで破壊し続け結果的に一度の砲撃で200隻近い木造船を沈めることに成功する。

 

 「やったぞ!敵超巨大船団の電磁バリアはレールガンなら貫通できる!この情報を得た以上この任務を成せるのは我々イブン・サイード級のみだ!各艦好きなタイミングで発射!できる限り敵艦隊を殲滅するぞ!」

 

 『了解!』

 

 各艦から無線で返事が届く。

 

 

_超巨大船団を指揮する司令官マクダネル視点

 

 

 「っ!?敵は我が艦隊よりも遠くから狙うことができるのかっ!?」

 

 双眼鏡で敵艦隊を観察していると、敵8隻のうちの4隻に置かれた巨大な1つの砲が一斉に発砲する。その砲の放った砲声は5ラージ(10キロ)も離れたこちらの艦隊まで響く。その数秒後こちらの艦隊まで到達した砲弾は先頭を航行していた30隻の戦列艦うちの1隻アエギスに着弾。爆煙が上がる。その爆煙を見たマクダネルは驚く。

 

 「て、敵艦は爆裂砲弾をすでに開発していると言うのかっ!?」

 

 爆裂砲弾は帝国ですらまだ開発できていない開発段階の砲弾で着弾と同時に爆発する砲弾である。このことはマクダネルが技術格差を感じるのに十分な材料だった。

 

 「戦列艦アエギスから連絡!敵の攻撃を防いだとのことです!」

 

 側に立つ魔導師が報告する。

 

 「それは良かった・・・なんとか一方的な戦いにならなさ」

 

 言いかけたところ魔導師が付け加える。

 

 「その結果、同船の魔導師は全滅。防御機能を損失しました」

 

 「っ!?」

 

 ゴォォォォン!

 

 船団にとてつもなく大きな砲声が響く。

 

 「こ、今度はなんな」

 

 言いかけた瞬間、戦列艦の一隻が爆散する。

 

 「な、なにっ!?魔導バリアを貫通された!?」

 

 圧倒的初速。それが成し得なければ魔導バリアを破壊するのは不可能なはず。そんな攻撃を敵が放つのは特大魔法でもない限り不可能なはずなのだ。それを敵艦隊は、やって見せた。その結果先陣にいた戦列艦マーギの魔導バリアは衝突に耐えきれず崩壊。維持をしていた魔導師はその崩壊の衝撃でミンチとなる。それでも速度を保った敵の砲弾は戦列艦マーギを貫通して後方を航行していた多数の木造船を薙ぎ払う。この攻撃は何としても防ぐ必要がある。でなければ攻撃を受け止める艦艇が全滅してしまう。それはすなわち船団の防御機能喪失へと繋がるのだ。

 

 「大砲の射程にはまだ入らないのか!」

 

 焦りが限界に達し行き場を失った怒りが射撃要員に向けられる。

 

 「まだ射程距離に入ってないんっすよ!あと4ラージ(8キロ)は近づかないと!」

 

 射撃要員がとっさに答える。

 

 「それだと船団が一方的にやられてしまう!すぐに砲撃するんだ!」

 

 「そりゃ無茶ですって!」

 

 ゴォォォォォン!

 

 また敵艦からあの攻撃が放たれた。それと同時にまたも魔導バリアを貫通した砲弾が戦列艦マーチスを切り裂き、戦列艦マーチスは一瞬にして轟沈する。

 

 「む、無理だ!一方的にやられちまう!」

 

 船員の一人が叫ぶ。

 

 「一体・・・一体、どうすればいいんだ!」

 

 

_緊急迎撃艦隊、イブン・サード級ミサイル駆逐艦一番艦《ネームシップ》イブン・サイードのブリッジ

 

 「敵電磁シールドもどきに対する攻撃、効果確認!」

 

 ブリッジ外から双眼鏡を覗いて敵への攻撃効果を確認している観測員が報告する。

 

 「よし!全艦射撃を続行!この調子で数を減らすぞ!」

 

 『了解!』

 

 ゴォォォン!

 

 同型艦が再度レールガンを放ち、また敵船団の戦列艦などを一瞬にして破壊。多大な損害を出すことに成功する。が、

 

 「三番艦マリア・バスコ再度電力充填を開始します!」

 

 通信要員が報告する。

 

 「やはり現在のレールガンでは連射能力に限界があるか・・・」

 

 艦長が呟く。現在エルディアン共和国軍の採用しているレールガンでは電力充填後最大で3発、通常は2発までの連射が可能だがそれ以降は電力が枯渇し再度電力充填が必要となる。そのため長期戦には不向きで、本来ならレールガンはその長大な射程を用いた遠距離戦を得意とする。それが今回近距離戦に投入されたことにより敵超巨大船団に隙を与える原因になってしまった。

 

 ゴォォォン!

 

 「二番艦ダニ・ペドロサも再度充填開始!」

 

 再度無線員からの報告がブリッジに響く。

 

 「無線要員!第11高速駆逐隊に援護射撃を要請!電力充填完了まで援護射撃を行わせろ!」

 

 「了解しました!」

 

 その通信を受け取った第11高速駆逐隊のマリーア・デ・ヴィロタ級4隻の127ミリ単装砲が火を吹き、再度敵艦隊めがけて飛翔。着弾する。その1発は偶然にも初めの攻撃で防御機能を失った戦列艦アエギスに着弾、それを轟沈させる。

 

 「ん?127ミリでも破壊できるのか?」

 

 その様子を偶然見た艦長が言う。

 

 「無線要員!」

 

 「はい!」

 

 「第11高速駆逐隊に同じ目標を集中攻撃するように指示しろ!」

 

 「は、はぁ・・・ですが意味がないのでは?」

 

 先ほどからずっと第11高速駆逐隊の攻撃が効いていないことを知っている無線要員は答える。

 

 「だとしても、だ!」

 

 「りょ、了解しました!」

 

 無線員が無線で第11高速駆逐隊に伝えた後、同部隊はすぐに攻撃目標を共有、すぐに一隻の戦列艦への集中攻撃を開始する。

 

 「おぉ!」

 

 第11高速駆逐隊の放った4発の127ミリ砲弾は少しのタイムラグを置いて戦列艦に着弾。1発目の砲弾が着弾したことにより戦列艦の魔導バリアは崩壊。さらに続けざまに飛翔した127ミリ砲弾は完全に戦列艦を破壊した。

 

 「どうやら敵の電磁シールドは127ミリ砲弾1発で無力化ができるようだな!無線要員!この情報を第11高速駆逐隊に伝えろ!」

 

 「了解しました!」

 

 「戦況は優勢・・・か」

 

 敵船との距離が5キロまで迫った現在の戦況は一方的で、目視で確認できるだけで既に敵超巨大船団は2000隻程度は沈んでいるようだ。

 

 「このまま何事もなければいいが・・・」

 

 

_超巨大船団を指揮する司令官マクダネル視点

 

 

 今彼は、決断に迫られていた。この船団の前に展開している2000隻以上の仲間の船を葬り去った正真正銘の化け物を相手に無謀な突撃を続けるか。それとも、撤退するか、と言うことに。

 

 「司令官!撤退すべきです!今撤退すれば、間に合います!」

 

 そばにいる魔導師が言う。

 

 「あぁ、そうだ!だが、今撤退したらどうなる!ここまでやってくるまでに死んだ仲間の命は!これだけ大規模な動員をして戦果が出せず一方的にやられました、なんて報告できるのか!?」

 

 魔導師に言い返す。

 

 「そ、そうですが・・・」

 

 その時、船内へと通じるドアから一人の男が出てきた。その男の顔は涙で滲んでいる。そして出てきた瞬間、彼はこう言った。

 

 「て、撤退だ!お、俺は死にたくない!」

 

 その者・・・いや、司令補佐官が目一杯の大声で叫んだ。

 

 「き、貴様!いったい何をいって」

 

 「黙れ黙れ黙れ!俺はこんなところで死にたくないんだ!魔導師!全艦に通告!撤退だ!」

 

 そう言われた魔導師はすぐに全艦に撤退命令を出す。

 

 「お、お前!そ、そんなことをしたら・・・!」

 

 バァァァァァン!

 

 その瞬間、旗艦の200門級戦列艦コートリアスで銃声が鳴り響いた。司令補佐官がはるか遠方で購入した護身用拳銃の放った凶弾は恐ろしいまでの命中精度でマクダネルの脳天に命中。彼を即死させた。

 

 「こ、こいつは死んだ!お、俺がこれからこの艦隊の指揮を執る!だ、誰も異存は、な、ないな!?」

 

 初めての人殺しをした司令補佐官は漏らしながら叫ぶ。

 

 「な、なら、いいんだっ!そ、それなら全艦!撤退だ!てった、撤退!」

 

 司令補佐官はそう言うと、声も言わなくなった司令官マクダネルを証拠隠滅のために海へと投げ落とす。

 

 『全艦、撤退!撤退だ!』

 

 同船に乗船していた魔導師が魔導電信で伝える。

 

 『て、撤退!?いったいなぜだ!?』

 

 疑問を持ったある一人の魔導師が

 

 『司令補佐官が司令官を殺りやがった!』

 

 『あ、あいつはバカか!?』

 

 魔導師が返信してくる。

 

 『バカかもしれない!だが今の司令補佐官に逆らったらまずい!とにかく撤退だ!』

 

 「まさか、こんなことになるなんてな・・・」

 

 魔導師が呟く。司令補佐官の命令通りこの超巨大船団は何の成果も得ることなく元来た道を帰るかのように反転、文字通り撤退した。

 

 

_同艦隊、イブン・サード級ミサイル駆逐艦一番艦《ネームシップ》イブン・サイードのブリッジ

 

 

 「か、艦長・・・!敵超巨大船団・・・反転しています!」

 

 観測員からの報告にブリッジ内がざわつく。

 

 「わ、我々は・・・勝った・・・のか?」

 

 艦長が呟く。

 

 「そ、そうです・・・!艦長!敵超巨大船団の艦艇全てが反転しています!我々は・・・勝ったんです!」

 

 その瞬間、ブリッジ内で歓声が起こった。それはどの艦も同様で、みな抱き合った。

 

 結局この第一次ダーダネルス海峡海戦はたった1人の裏切りにより、終結した。そして同時に、この情報は遅れて異世界全ての国に伝えられることになる。



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第12話:眠れる獅子の目覚め v0.0

_エルディアン共和国、首都エルディアン 大統領府

 

 「大統領っ!」

 

 大統領補佐官が勢い良く大統領室のドアを開ける。

 

 「い、一体なんだね!?」

 

 執務机に立ち並んでいた書類の山を崩した大統領が驚いた様子で言う。

 

 「海戦は・・・我々が、勝ちました!」

 

 大統領補佐官はそう言い電文を見せる。

 

 「おお!やったか!」

 

 「この海戦で敵海上戦力の3分の1を撃滅することに成功しましたよ!制海権は拮抗状態ですが・・・それはともかく!これで敵国の領土へ強襲上陸を行うことが可能になりました!」

 

 「3分の1・・・か。確か敵海上戦力は6000隻近いんだろ?何か不自然だぞ・・・?」

 

 敵にはまだ4000隻も残っていたのになぜ進軍を続行しなかったのかが疑問に残る。

 

 「ま、この際どうでもいいか!それで補佐官、上陸作戦要項はいつ頃行うんだ?」

 

 大統領補佐官に尋ねる。

 

 「えー・・・。まぁ、その辺りに詳しい軍務担当大臣に答えてもらいましょう」

 

 大統領補佐官が言うと、誰かがドアをノックする。

 

 「入れ」

 

 大統領室に入って来たのは軍務担当大臣だ。

 

 「なんだ、補佐官。君は根回しがうまいじゃないか」

 

 「そ、それほどでも・・・」

 

 補佐官がもじもじする。

 

 「あ、いやそう言うの価値ないから。女性だったら価値あるけど・・・うーん」

 

 「ひ、ひどいじゃないですか!」

 

 大統領補佐官が叫ぶ。

 

 「あ、あのー・・・」

 

 軍務担当大臣が小声で『話してもいいか』と言う意味を込めて言う。

 

 「あぁ、すまなかった。作戦要項の説明、頼んだぞ」

 

 「はい」

 

 軍務担当大臣がそう言うと、執務机の狭い空間に一枚の精巧な地図を広げる。

 

 「それでは、作戦要項をお伝えします」

 

 「お、おいちょっとまて!この地図はどうしたんだ?」

 

 そういって航空写真で作られたであろう地図を指差す。

 

 「あぁ、これですか?偵察機に高高度から撮影させました」

 

 軍務担当大臣が言う。

 

 「わ、わかった・・・続けてくれ」

 

 航続距離の問題をどうしたのか気になるが今はとりあえず軍務大臣の説明を聞くことにした。

 

 「まず航空写真で得た情報ですが。おそらく敵帝都の位置は、ここです」

 

 そう言い山奥から伸びた河沿いにある1つの街を指差す。

 

 「っておいおい!近過ぎだろ!」

 

 その帝都と思われる町との距離は海岸から直線距離で40キロ程度しか離れていない。

 

 「そして現在我々軍務担当府で検討している上陸地点はここです」

 

 そういってすぐそばに大河がある駆け抜ければすぐに守りに入ることのできる広いビーチを指差す。

 

 「此処か・・・。敵戦力はどうなんだ?」

 

 軍務担当大臣に尋ねる。

 

 「はい・・・。問題はそこなのです。大統領は先ほど海戦に勝利したとの報告がありましたよね?」

 

 大統領が頷く。

 

 「その敵艦隊にドラゴン・・・まさに神話のような世界ですね。それが編入されていたんです」

 

 「な、なにっ!?それは初耳だぞ!」

 

 そういって大統領補佐官を睨みつける。補佐官の顔は『ごめんちゃい』といった感じの半分ふざけたような顔だ。

 

 「ま・・・まぁいい。続けろ」

 

 「はい。それで、おおそらく敵は航空攻撃を恐れて欺瞞工作を行っている可能性があります」

 

 「ほう・・・なかなか厄介だな」

 

 「そこでなのですが・・・」

 

 軍務担当大臣が一枚の写真を服のポケットから取り出す。

 

 「この艦の再就役許可が欲しいのです」

 

 大統領はその写真を見て驚く。写っていたのは数年前建造された元世界全体で最後に建造された戦艦、エルナン・コルテス級超大型戦艦だった。

 

 「お、おい!こいつは確か・・・記念艦になっているはずだぞ!?」

 

 「えぇ。そうです。だとしても、我々軍務担当府としてはこの艦艇が使用したいのです」

 

 軍務担当大臣は一歩も引かない。

 

 「・・・つまり、何か理由があるんだな?」

 

 大統領が軍務担当大臣に言うと、軍務担当大臣は無言でもう一枚の航空写真を取り出す。

 

 「これは、昨日撮影した敵国の工業地帯・・・またこの工業地帯は海軍基地を併設している可能性があります」

 

 大統領がその航空写真を見る。

 

 「ほう・・・海岸沿い、か」

 

 大統領が呟く。

 

 「現在軍務担当府では強襲上陸作戦と敵工業地帯及び海軍基地への攻撃を考えています。今まで記念艦として眠っていた超大型戦艦・・・あの船が積んでいる45口径51センチ連装砲3門の咆哮、聞きたいでしょう?」

 

 「聞きたい聞きたい!」

 

 大統領がまるで子供のような声で答える。

 

 「さらにこれは完全な予定なのですが・・・エルナン・コルテス級二番艦レオノーラ・ワトリングの大規模近代化改修も企画しています。まだ構成段階ですが・・・。大規模近代化改修の実施も検討していただきたい」

 

 「うむ、わかった。それも検討しておこう」

 

 「さて、今回行う一連の作戦名、いかがなされますか?」

 

 軍務担当大臣が尋ねる。

 

 「そうだな・・・安直に『アイアン・ストーム』で」

 

 大統領が特に悩むことなく答える。

 

 「わかりました。『オペレーション アイアン・ストーム』は約1ヶ月後に決行、それでよろしいですか?」

 

 大統領が頷く。

 

 「わかりました。それでは私はこれで」

 

 軍務担当大臣が一礼すると、そそくさと執務室から退出した。

 

 

_ダーダネルス帝国 帝都ディオニス、西部方面司令部

 

 

 「な・・・なんだとっ!?第二次デルタニウス王国攻略軍はたった8隻の船に敗北・・・!?2000隻も沈められたのか!?」

 

 魔導師からの報告を受けた西部方面司令官ゲラウスの脳内は極度の混乱に陥っていた。第二次デルタニウス王国攻略軍は西部と東部の海軍を全て組み込み編成した超巨大船団だ。それが迎撃されるなど、あり得ない。

 

 「そ、そうだ!あの艦隊には精鋭竜兵隊グリゴローツェラが付いていったはずだ!」

 

 魔導師に西部方面海軍基地に魔導電信でグリゴローツェラがどうなったか聞かせる。

 

 「司令官・・・グリゴローツェラは敵の放った数個の円盤飛翔物体により壊滅させられました」

 

 魔導師が申し訳なさそうな声でゲラウスに返答内容を伝える。海軍基地から帰ってきたのは、希望ではなく、絶望だった。

 

 「そ、そんなぁっ!嘘だぁっ!」

 

 ゲラウスは、頭が痛くなる。今まである程度の被害はあっても常にこの大陸で無敵であったダーダネルス帝国。その国がたった1つの小さな国へと派遣した超巨大船団がたった8隻の船と数個の円盤飛翔物体により決して痛くない被害を受けるなんてこと、許されるはずがない。もしこれが属国に知り渡れば、きっと謀反への足がかりとなるだろう。

 

 「そ・・・そうだ!これは・・・現実じゃない!実際は第二次デルタニウス王国攻略軍は敵海上戦力と衝突・・・それを完膚なきまでに、撃滅したんだ!」

 

 ゲラウスは現実逃避を始めた。



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見ず知らずの隣人 ーダーダネルス帝国編ー
第14話:御機嫌よう、海岸警備隊さん! v0.0


_ダーダネルス海峡海戦から1ヶ月後、ダーダネルス帝国領、西端のロング・ビーチ

 

 

 ここ、ロング・ビーチはダーダネルス帝国にとって絶対に死守しなければならない場所だ。もしここを突破されるようなことがあれば帝都まで一瞬にして進軍できる。それゆえにここはありとあらゆる防御対策を施された施設が立ち並ぶ、完全な要塞だ。

 

 

 「よし・・・今日も敵は、確認できず」

 

 ここの常任警備兵の一人、エイナイは今日も望遠鏡片手に半分土に埋もれた掘っ建て小屋から海の向こうを眺めている。

 

 「全く・・・ここまで静かだと不気味だな」

 

 ダーダネルス海峡での海戦が敗北に終わったことはここ、ロング・ビーチへと一番最初に届けられた。その影響で現在ここロングビーチの兵力は従来の3倍。3万人が常時警戒に当たっている。その中には魔導師や竜兵隊、巨蟲騎兵も存在する。たとえ敵が強襲上陸をしようとしてきてもこれだけの数で対処できるだろう。少なくとも、我々の常識が()()する相手なら、だ。

 

 「ぅん・・・?なんだ?」

 

 エイナイは海の向こうに何かが見えた気がした。

 

 「うーん・・・」

 

 双眼鏡で水平線を見渡す。そこで、エイナイは違和感に気づく。

 

 「なんだ・・・?あれ・・・?」

 

 水平線からチラチラと、何かがたくさん顔を出す。

 

 「て・・・敵?」

 

 敵かもしれない。だがそれ以上に好奇心が勝ったエイナイはしばらくその物体を双眼鏡で見つめる。

 

 「け、煙・・・?」

 

 たくさんの物体の中に1つ、巨大な何かが煙をモウモウと出しながらやってきている。巨大な城のようなそれがだんだんと近づく中、それが持つ多数の大砲のようなものが露わになる。それを見た瞬間エイナイは察した。あれは敵だ、と。

 

 「って、敵だぁっ!」

 

 大声で叫ぶ。何としてもあれの報告を警備隊指揮官に報告しなければならない。何としても。そのために複雑に入り組んだ陣地の中を走る。

 

 「しっ、司令官っ!」

 

 司令官のいる掘っ建て小屋のドアを思いっきり開ける。

 

 「な、なんだっ!?」

 

 「私です!エイナイです!」

 

 「あ、あぁ・・・警備兵か。何か用かね?」

 

 司令官はエイナイに尋ねる。

 

 「のんきにしている場合じゃありません!敵です!敵がやってまいりました!

 

 「て、敵ぃ!?」

 

 司令官が驚く。

 

 「そうですっ!敵ですっ!」

 

 「ついに来やがったか!数は!?」

 

 「城のようなものが・・・たくさんです!」

 

 「城!?」

 

 司令官がまたも驚く。

 

 「まぁいい!総員戦闘準備!敵はやってくるぞ!」

 

 『了解!』

 

 うまく欺瞞工作をされた防御陣地に敵襲を知らせる鐘が響く。

 

 「何としても、奴らを迎撃するぞ!」

 

 

_同海岸沖、エルナン・コルテス級超大型戦艦のブリッジ

 

 

 この超大型戦艦の中央部にそびえる巨大な艦橋の最上部から海岸を眺める二人の人物がいる。

 

 「お、鐘のようなものが聞こえてきましたね」

 

 副艦長フェルナンデスが呟く。

 

 「敵もバカではない、と言うことか」

 

 歴戦の猛者、もとい西部海軍基地提督マルティニスは言う。

 

 「総員第1種戦闘配置!敵からの攻撃に備えろ!」

 

 『了解しました!』

 

 マルティネスの掛け声とともに船員達は慌しく動き出す。

 

 「にしても・・・やはり、1隻だけで攻略するのは心許ないですね」

 

 フェルナンデスの言ったことにマルティニスも共感できた。

 

 「確かに、本来ならその方がいい。だがこの艦、エルナン・コルテスの積んでいる主砲は45口径51センチ連装砲だ。もしこれをイージス艦の近くで撃ってみろ。衝撃波だけでイージス艦のレーダーその他諸々の最新の電子機器は故障する。それに後方に控えている上陸部隊が攻撃されるよりも装甲の分厚いこの艦1隻で突っ込めばなんとかなるだろ?」

 

 「ですが・・・」

 

 副艦長が何か言いかけた時、ブリッジにレーダー要員の声が響く。

 

 『レーダーに感あり!敵航空戦力です!』

 

 「やはり敵は防御陣地を構築している、か。まぁいい、対空戦闘用意!敵が何に乗っているかはわからんが撃ち落とせ!」

 

 

_ダーダネルス帝国西部海岸警備隊所属竜兵隊隊長視点

 

 

 「な、なんて大きさだっ!」

 

 防御陣地から飛び立った竜兵隊20騎は飛び立った瞬間に目視したその船に驚いていた。帝国の港町でも見たことがないその圧倒的な大きさ、そびえ立つ城のような艦橋、どデカイ主砲、そして、何よりも鉄でできた船が浮いていると言う事実は彼らを現実から引き離していた。

 

 「・・・いかんいかん!竜兵隊全騎突撃!奴らの甲板を燃やしてしまえ!」

 

 竜兵隊隊長の合図とともに竜兵隊は降下を開始する。

 

 「そんな距離から撃ったところでぇっ、当たるわけないだるぉっ!」

 

 降下と同時に敵巨大船が発砲を開始する。竜種の個体の中でもジルニトラと呼ばれるこの個体は300キロで飛翔が可能だ。これだけの速度を出したジルニトラを迎撃するのは困難で大抵落とされることはない。さらに体内で生成した火球を1秒に3発放つことができる。火球の着弾時の温度は1000℃にも達し、火炎耐性のついた魔法防具を使わない限り常人ではものの数秒でただの灰と化す。

 

 「くらえぇっ!」

 

 バゴーン!

 

 と言った瞬間、前方を飛翔していた戦友が突如として爆散した。

 

 「ッ!?何が起きたっ!?」

 

 竜兵隊隊長は状況が読めない中、次々と竜兵隊は落とされてゆく。

 

 「まっ・・・まさかっ!対空魔法かっ!?」

 

 敵船の攻撃を凝視する。敵船の円形の物体が放った攻撃は線を描き一直線に吸い込まれるように戦友へと向かい、戦友に近づいた瞬間爆散する。

 

 「っま、まずいっ!全騎退避っ!上昇だっ!上昇しろっ!」

 

 竜兵隊隊長通り、一糸乱れぬ動きで上昇を開始する。上昇が終わった頃には20騎もいた竜兵は8騎まで減っていた。

 

 「こ・・・この数ではどうにもならん!全騎撤退だ!無駄に数を減らすよりもまだいい!」

 

 

_エルナン・コルテス級超大型戦艦のブリッジ

 

 

 「敵航空戦力、離脱していきます!」

 

 液晶版を見ていたレーダー要員が報告する。

 

 「敵航空戦力の速度はやはり300キロ程度か?」

 

 艦長が聞く。

 

 「はい。旧式の対空砲とはいえ、300キロ程度の速度であれば近接信管を乱用することで程度は戦えますね」

 

 「敵航空戦力が少ないのは謎だが・・・まぁいい。主砲発射準備!」

 

 『了解!』

 

 「よろしいのですか?前部砲塔2門計4門でしか射撃できませんが・・・」

 

 副艦長が艦長に尋ねる。

 

 「まぁ大丈夫だろう。工業地帯に行くついでだしな」

 

 「世界最大最強の艦砲ですからね・・・。とはいえ、慢心は厳禁ですよ?」

 

 「知ってるって」

 

 『砲発射準備整いました!』

 

 ブリッジに砲塔要員の声が響く。

 

 「よし!対空戦闘中の船員は収容完了したか?」

 

 「はい、先ほど収容完了しました」

 

 「よし・・・主砲、発射ァッ!」

 

 ゴォォォォォォォォン!

 

 斯くして、オペレーション アイアン・ストームは始まった。



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第15話:オペレーション アイアン・ストーム(1) V0.0

_ダーダネルス帝国領、西端のロング・ビーチに展開する警備隊

 

 

「さ、さっきの轟音は何だっ!?」

 

 敵からの攻撃に備え忙しなく動いていた兵士がおびえた様子で言う。

 

 「さっきのはただのこけおどしに過ぎぬ!みな気にせ」

 

 司令官がそう言った瞬間だった。

 

ヒュゥゥゥルルルルルルルル・・・ドォォォォォォォォォォォォォォォォン!

 

 「うわぁぁぁぁっ!」

 

 何かの激しい爆音とともに爆風が森を襲う。木々は爆風でしなり、その辺りに散らばっていた雑用品や兵士達はそのあまりにも大きな爆風に抗えず、次々とあらぬ方向へ吹っ飛ばされる。

 

 「な、何があったんだっ!?」

 

 爆風がやってきた方向を見ると、空に向かってモウモウと黒い煙が上がっているのが確認できた。

 

 「あっちだ!」

 

 いち早く事態に気づいた兵士についていき、煙が上がる場所へと向かう。

 

 「こ・・・これは・・・一体・・・何があったんだッ!?」

 

 思わず声を漏らす。そこに広がっていたのは、地獄だった。人のものであろう血肉が辺りに散らばり、爆発が起こった原因であろう場所には巨大なクレーターができている。森はそのあまりの爆炎で燃え、これでは欺瞞工作をしていた陣地は全く意味を成さない。

 

 「ってそれどころじゃない!これは敵だ!早く配置に」

 

 ゴゴォォォォォォォォン!ゴゴォォォォォォォォン!

 

 またしても死の轟音が鳴り響く。

 

 「っ!また来るぞぉ!全員伏せろぉ!」

 

 司令官が叫ぶ。その命令を兵士達は聞き逃すことなく一斉に伏せる。それと同時に

 

ヒュゥゥゥルルルルルルルル・・・ドドドドォォォォォォォォォォォォォン!

 

 再度あの巨大な爆発が、今度は4つ周りに発生し、巨大な爆発とともに爆風も兵士達を襲う。

 

 「い、いったいどうなってんだぁっ!?」

 

 兵士の一人が叫ぶ。すると森の中から服がボロボロの兵士が現れた。

 

 「蟲舎と竜舎が、やられ・・・」

 

 その男はそう言いかけ倒れる。

 

 「・・・魔導師!魔導師はどこだ!?」

 

 辺りを見渡すが、魔導師はどこにもいない。

 

 「魔導師を呼べ!今すぐ帝都に知らさなければならない!」

 

 司令官は必死に魔導師を探し出すが、どこにもいない。

 

 「く、くそっ!魔導師がいない以上今すべきなのは敵上陸部隊の迎撃だ!総員持ち場につけ!すぐに敵はやってくるぞ!」

 

 『了解!』

 

 兵士たちは意外にも早く我に戻り、それぞれの仕事を再開する。

 

 「再度あの攻撃を防ぐ方法がない以上撤退も検討しなければ・・・」

 

 司令官はこれからのことを考える。何とか生き残るために。

 

 

_エルナン・コルテス級超大型戦艦のブリッジ

 

 

 「やはり敵が森に防御陣地を作っているので戦果確認が困難ですね・・・」

 

 副艦長が双眼鏡で着弾地点を見ながら言う。

 

 「せめて相手がもう少し戦果確認のしやすい場所に防御陣地を作ってくれると助かったんだが・・・。まぁいい。後1回砲撃をした後は上陸部隊に任せるか」

 

 「了解しました」

 

 『榴弾装填完了しました!』

 

 砲塔要員からの報告がブリッジに伝わる。

 

 「よし、第2射、撃ぇっ!」

 

 ゴゴォォォォォォォォン!ゴゴォォォォォォォォン!

 

 その掛け声と共に前部の第一第二砲塔の51センチ連装砲から巨大な爆炎と爆音と共に4発の巨大な榴弾が放たれる。

 

 「さて、次は目に見える戦果を頼むぞ・・・」

 

 

_ダーダネルス帝国領、西端のロング・ビーチに展開する警備隊

 

 

 「また来るぞぉぉぉっ!」

 

 誰かが叫ぶ。それと同時に戦闘準備に入っていた兵士は皆一斉に伏せる。

 

 ヒュゥゥゥルルルルルルルル・・・ドドドドォォォォォォォォォォォォォン!

 

 笛の音にも似た風切り音と共に、敵船の放った攻撃が着弾。一瞬で辺り一面に爆発が起こる。それに巻き込まれたものは一瞬で息絶え、物言わぬ死体となる。

 

 「く、くそぉっ!敵が上陸してきたら絶対・・・絶対に一矢報いてやる!」

 

 帝国兵は、そう誓うのだった。

 

 

_エルナン・コルテス級超大型戦艦のブリッジ

 

 「敵戦力の撃滅確認・・・ならず」

 

 副艦長が告げる。

 

 「結局確認はできないか・・・。これ以上の砲撃は無用だ。上陸部隊へ上陸可能と伝えろ!我が艦は次の目的地、北部敵工業地帯へと向かうぞ!艦、微速。船首回頭右15度!」

 

 『了解!』

 

 エルナン・コルテス級超大型戦艦は敵工業地帯へと単艦で向かうのだった。



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第16話:オペレーション アイアン・ストーム(2) V0.0

_エルナン・コルテス級超大型戦艦後方に展開する上陸部隊、指揮艦艇マヌエル・アサーニャ級強襲揚陸艦の艦隊作戦指揮センター

 

 

 「エルナン・コルテス級超大型戦艦から通信!『艦砲射撃終了、我敵工業地帯ニ向カウ』とのことです!」

 

 エルナン・コルテス級超大型戦艦からの報告をキャッチした無線要員の声が艦隊作戦指揮センターに響く。

 

 「よしきた!全艦上陸部隊を出せ!敵の援軍が到着する前に迅速に海岸を確保しろ!」

 

 『了解!』

 

 「我が艦からも上陸部隊満載のLCACとヘリボーン部隊を急いで出せ!遅れるな!」

 

 

_上陸部隊の1つ、第四海兵隊第1小隊視点

 

 「全員急げ!早く乗れ!出遅れるな!」

 

 ウェルドッグの上から海兵隊指揮官がうるさく言う。その声に呼応するかのごとくスピードで海兵隊達は既に出撃準備を終え4両の武装型ラッピード装甲車を積み込んだLCACへと乗り込む。

 

 「よし、全員乗ったな!海水注水後スターンゲートを開放しろ!」

 

 指揮官がデッキ科員に言う。

 

 「了解!海水注入開始します!」

 

 デッキ科員の合図と共にウェルドックに海水が注がれあっという間にウェルドックは海水でいっぱいになる。

 

 「海水注入終了!スターンゲート開放します!」

 

 デッキ科員の合図でスターンゲートがサイレンのけたましい音と共に開放、艦後方の本物の海が露わになる。

 

 「よし!LCAC部隊出撃!後続の遠征戦闘車《EFV》も出遅れるなよ!今回は時間が命だ!」

 

 指揮官の号令と共にLCACに搭載された2基のシュラウドに包まれた巨大な推進用プロペラが轟音を立てながら動き出す。

 

 『LCAC部隊出撃!』

 

 その合図で2機のLCACはウェルドックから放たれ海へと排出される。轟音を立てながら稼働する推進用プロペラ2基の方向舵はすぐに船体を海岸へと向け、俺たちの乗るLCACは最大速力でそこへ向かう。

 

 『目標地点到達まで2分』

 

 激しい波飛沫から乗員を守るために設けられた船室内に無機質な声のアナウンスが流れる。

 

 「なぁヒューゴ、聞いたか?今回の敵は中世の軍隊らしいぜ」

 

 隣に立つ同僚のモハヌドが話しかけてきた。

 

 「そうらしいな。一体全体俺たちの住んでいる国で何が起こってるのか俺たち海兵隊にはわからないが、これだけは言える」

 

 そう言って愛銃のDm-Depredador12.7を触る。

 

 「こいつが守ってくれるさ」

 

 『目標地点到達まで1分』

 

 船室内に無機質なアナウンス音が響く。

 

 「あぁ、それもそうだな」

 

 「・・・さて、そろそろ上陸だ。こんな話はしてないで戦闘に備えるぞ」

 

 「おう」

 

 『目標地点到達まで10、9、8、7、6、5、4、3、2、1』

 

 無機質なアナウンスのカウントダウン終了と共に、砂浜への上陸の際に出る大きな衝撃がLCACに伝わる。

 

 『上陸完了』

 

_ダーダネルス帝国領、西端のロング・ビーチに展開する警備隊

 

 

 「な、なんなんだあれは!?」

 

 防御陣地の隙間から敵の動向を探っていた兵士達は自分の目を疑った。自分たちの見てきた船とは形が全く違う、幾つもの船のようなもの。会場を浮いて航行しているように見えるそれの中央にはおそらく敵の兵器であろうものが積まれている。

 

 「あ、あんなものに俺たちは勝てるのか・・・?」

 

 隙間から敵情を見ていた兵士の一人の疑問が口からこぼれた。密集して兵を展開していたことが仇となり既にエルナン・コルテス級超巨大戦艦の艦砲射撃により2000名もの警備隊が失われている。しかも上陸部隊からの攻撃ではなく、ただの船に、だ。

 

 「お、おい!来るぞ!」

 

 観測員が告げる。再度兵士達が隙間を覗き込む。すると先ほどの船のようなものが海岸に向かって一切スピードを落とさず向かってきているのが見えた。

 

 「お、おい。あれ陸に乗り上げるんじゃないか?」

 

 兵士が言う。

 

 「そんなことして・・・大丈夫なのか?」

 

 そう言っている間にもその船のようなものは海岸へと近づく。そして・・・

 

 「あぁ!乗り上げやがった!」

 

 その船のようなものは海岸へと乗り上げる。おそらくかなり損傷を受けているだろう。

 

 「・・・ん?」

 

 何か様子が変だ。普通乗り上げたら慌てふためくはず。だが答えは一瞬で現れる。

 

 「!!」

 

 船の正面にあるいたのようなものが動き出した。

 

 「で、伝令兵!司令官に報告しろ!敵が上陸して来るぞ!」

 

 

_上陸部隊の一人、第四海兵隊第1小隊視点

 

 

 「よしきた!お前ら、絶対に離れ離れになるなよ!」

 

 小隊長が船室の外へと通じるドアを勢いよく開けて言う。

 

 「わかってますって。俺たちは子供じゃないんだから。」

 

 そう言って駆け足で外へと出る。

 

 「お、装甲車君の動きが今回早いな」

 

 分隊長がLCACの昇降ランプから現在進行形で降りているラッピード装甲車を見ながら言う。空には強襲揚陸艦から放たれた輸送ヘリや攻撃ヘリが飛び交い、地上には合計10機ものLCACから放たれた多数の兵士やラッピード装甲車が跋扈している。

 

 「さぁ、俺たちの任務は敵陣地の制圧だ!航空支援もある。行くぞ!」

 

 『応!』

 

 兵士達は小隊長に続きLCACから降りて海岸を疾走する。隊員の一人が適当なくぼみを見つけると無線から小隊は一旦そこで待機するように指示された。

 

 「・・・了解」

 

 「次はどうするんです?」

 

 隊員が小隊長に聞く。

 

 「俺たち第1小隊の任務はこのまままっすぐ言ったところにあるであろう敵陣地の制圧だ。忘れるな。敵は近接戦のプロフェッショナルだ。近接戦はせずに遠〜中距離から攻撃しろ」

 

 『了解!』

 

 防御陣地制圧が今、始まるのであった。



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第17話:森へ進軍・・・って、あれ?(1) v0.0

_ダーダネルス帝国領、西端のロング・ビーチに展開する警備隊

 

 

「よし・・・そのまま・・・そのまま・・・」

 

 兵士達は防御陣地の隙間から上陸してきた敵兵士達を見ている。

 

 「絶対に攻撃を察知されるなよ。じゃないとこの新型兵器・・・パーン・ジャンド・ラムがうまく使えないからな」

 

 指揮官が小声で言う。兵士達のすぐそばには直径1メートルほどの円形の物体・・・車輪を成すが二つ、中心にそれらをつなぐ1つの大きな円柱のものがついたものが転がっている。それの2つの車輪には数個の魔力推進で動く円形の筒がついており、魔力を込めれば自動で直線に進む構造になっているほか、円形物体の中央にある円柱の物体には爆裂魔法がし込められて降り、何かにぶつかれば即座に爆発する。本来なら陣地攻略用に作られたこの兵器・・・パーン・ジャンド・ラムは今、敵上陸部隊に牙を向こうとしている。

 

 「あと少しだ・・・あと少し・・・」

 

 敵兵士達はまだ我々の存在に気づいていないのか、少し駆け足であらぬ方向を警戒しながら森へと迫ってきている。

 

 「よし!今だ!」

 

 敵兵士との距離があと少しになったところで指揮官が号令をかける。それと同時に円形の筒に魔力が込められ、パーン・ジャンド・ラムはうまく欺瞞された防御陣地の出入り口から飛び出し、上陸部隊へとあらぬ方向へ突き進みながら突進していくのだった。

 

 

_上陸部隊の1つ、第四海兵隊第1小隊視点

 

 

 「っ!?」

 

 森まで駆け足で向かっていた第一小隊の隊員達は突如として森の中から飛び出し、荒ぶりながらこちらへ向かって来る車輪もどきにど肝を抜かれていた。

 

 「う、撃てッ!何かわからんがとりあえず撃てッ!」

 

 小隊長の合図と共に隊員達は射撃を開始する。

 

 「よしっ!やった!」

 

 射撃を開始してすぐに隊員の一人が放った12.7ミリ弾は車輪もどきに直撃し、粉々に粉砕した。

 

 「散開しろ!すぐに次がやって来るぞ!」

 

 その言葉通りに第一小隊の隊員達は海岸のいたるところに散らばる。

 

 「来たぞぉ!」

 

 今度は車輪もどきが森から10個以上も出てきた。

 

 「撃てぇ!近づけさせるなぁ!」

 

 隊員達は車輪もどきを弾幕で破壊し続ける。

 

 「おい!あれを撃て!」

 

 小隊長は荒ぶりながら武装型ラッピード装甲車に向かう車輪もどきをゆびさす。

 

 「む、無理です!装甲車に当たってしまいます!」

 

 そう言っている間にも装甲車に肉薄し続ける。肝心の装甲車はそれに気づいていないらしく、のんきに海岸を疾走しているようだ。

 

 「は、早くしろ!」

 

 そう言った瞬間だった。

 

 バゴーン!

 

 「くそっ!装甲車がやられた!」

 

 浜辺を荒ぶりながら疾走した車輪もどきは装甲の薄いラッピード装甲車に直撃。その薄い装甲を車輪もどきの放った爆発は余裕で切り裂き大きな火柱が上がる。どうやら弾薬に誘爆したのだろう。

 

 「各員あの車輪もどきを優先的に破壊しろ!このままだと装甲車が全滅するぞ!」

 

 『了解!』

 

 「それと通信兵!航空支援を要請!森を焼き払うように伝えろ!」

 

 「わかりました!」

 

 

_ダーダネルス帝国領、西端のロング・ビーチに展開する警備隊

 

 

 「よし!効いているぞ!」

 

 防御陣地の隙間から外を見ていた兵士が言う。それを聞いた兵士達はこのままいけば勝てそうだと感じる。

 

 「過信は禁物だ!攻撃を絶やすな!奴らは魔獣ではなく人間、何度も攻撃されたら疲れるはずだ!」

 

 「わかりました!」

 

 その言葉に応えるかのように、兵士達は兵器庫から続々とパーン・ジャンド・ラムを持ち出し、欺瞞された防御陣地から排出し続ける。このまま攻撃を続けることができれば勝てるかもしれない。

 

 「司令官!パーン・ジャンド・ラムがもうないです!」

 

 「な、なにッ!?」

 

 その希望は一瞬にして砕け散る。1.5ラージ(3キロ)もの広さのあるこのロング・ビーチを防衛するには数が足りなかったのだ。

 

 「全員今残っているパーン・ジャンド・ラムを使い切ったら第二防衛戦まで交代しろ!白兵戦に持ち込むぞ!」

 

 『了解!』

 

_第四海兵隊第1小隊視点

 

 

 「全員踏ん張るんだ!今死んだら元も子もないぞ!」

 

 浜辺は、一言で言えばカオスと化していた。森から続々と現れる車輪もどきを破壊する音と散発的に鳴り響く銃声が辺り一面を覆い、少し向こうでは車輪もどきにストーキングされる隊員達が多数確認できる。空にはヘリが飛び交い、さながら紛争地域のような光景だ。

 

 「・・・ん?」

 

 しばらく車輪もどきの迎撃をしていると、気づけば周りに車輪もどきはいなくなっていた。残っているのは上陸部隊と、車輪もどきの残骸である。

 

 「攻撃が止んだか・・・?」

 

 隊員の一人が呟く。

 

 「・・・よし!すぐに航空支援が来るぞ!航空支援終了と同時に前進を再開する!いいな?」

 

 小隊長が言う。

 

 「お、来た来た!全員伏せとけよ!」

 

 強襲揚陸艦の一隻から放たれた1機のA/RH−1が上を通過したと思った瞬間、森が爆発する。

 

 「よし、各員前進!後続部隊の安全を確保しろ!」

 

 隊員達は銃を構えながら前進する。

 

 「クリア!」

 

 「こっちもクリア!」

 

 森に入った瞬間に現れた欺瞞されていたのであろう敵防御陣地をクリアリングする。

 

 「・・・よし、後続部隊が到着したら森の奥部に進軍するぞ!通信兵!後続の到着はまだか!」

 

 「あと1分で到着とのことです!」

 

 通信兵がすぐに応える。

 

 「お前ら!わかったな?それまで待機するぞ!周囲の警戒も怠るな!」

 

 『了解!』

 

 

_1分後

 

 

 「よし!後続部隊が到着したな!」

 

 小隊長が海岸から続々とやって来る後続部隊を見ながら言う。

 

 「合流したらすぐに出発だ!それま」

 

 ヒュンッ!

 

 矢の風切り音が響いた直後、小隊長に大きな矢が刺さった。

 

 「っ!くそっ!衛生兵!衛生兵!衛生兵ッ!」

 

 隊員達は小隊長を物陰に隠したあとすぐに衛生兵を呼ぶ。

 

 「はい!今すぐ向かいますよ!」

 

 トレードマークの赤十字のマークをつけた衛生兵が後続部隊の中から現れる。

 

 「これは・・・なかなか大きいですね。今抜いたら色々まずいのでちゃんと医療設備の整った場所まで運びます!担架早く来い!」

 

 担架を担いだもう一人の衛生兵を呼ぶ。

 

 「それ、1、2、3・・・よしっ!」

 

 数十キロにも及ぶ武装をした小隊長を二人がかりで担架へと載せる。衛生兵が負傷した小隊長を運んでいくのを見送ったあと、小隊員の中から臨時の小隊長が選ばれた。

 

 「と・・・とりあえず周囲の警戒が先決だよな!?」

 

 階級が一番高いから、と言うだけで臨時小隊長に選ばれた兵士が言う。

 

 「とりあえず周囲の警戒を厳にして森の奥地まで前進するぞ!」

 

 『了解!』

 

 第一小隊は森深部への前進を続けるのだった。



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第18話:森へ進軍・・・って、あれ?(2) v0.0

_上陸部隊の1つ、第四海兵隊第1小隊視点

 

 

 小隊長が敵弓兵の攻撃により落伍したこの部隊は、先ほど到着した部隊とともにわずかな木漏れ日のみが差し込むジメジメした森の深部へと進んでいる。

 

 「静かだな・・・」

 

 奥の奥まで、木、木、木。敵兵が潜んでいる様子もない。そんな中を隊員達はゆっくりと叢を掻き分けながら、ラッピード装甲車は叢を押しつぶしながら進む。

 

 「各員警戒を怠るなよ!」

 

 臨時小隊長が言う。

 

 「あんた、それ何回言ってんのさ?」

 

 隊員の一人が言う。現に彼は森に入ってから数分しか経っていないのにもかかわらず10回以上は既に似たようなことを言っている。

 

 「いやいや。本当にどこから出て来るかわからないでしょ?」

 

 バサバサバサッ

 

 「ッ!」

 

 隊員達が鳥の羽音のした方向にある草むらへ銃を向ける。

 

 ガサガサッ

 

 「・・・今何か、音がしなかったか?」

 

 「奇遇だな。俺もそう思う」

 

 その時だった。

 

 「うぉぉぉぉぉぉぉぉっ!」

 

 先ほど物音がした草むらから敵兵が登場した。

 

 「敵だ!撃てッ!」

 

 バババッバババッ

 

 隊員達の持つDm-Depredador12.7が発射した12.7ミリ弾のバースト射撃で鎧を着た伏兵であろう兵士は即死する。

 

 「やっぱり伏兵がいるか・・・」

 

 隊員が呟く。

 

 ヒュンッ!・・・カンッ!

 

 敵兵の放った弓矢が装甲車の装甲に弾かれた音が響く。

 

 「こりゃ面倒だぞ!」

 

 隊員の一人が叫ぶ。

 

 ガサガサガサガサッ!

 

 「っ!」

 

 途端に上陸部隊の周りに1000名はいるであろう敵兵が現れる。

 

 「全兵、突撃ィッ!」

 

 敵指揮官のものと思しき声が森に響いた瞬間、敵兵達は無謀な突撃を開始する。あるものは盾を持ち、あるものは剣を片手に距離を詰めて来る。

 

 「各員射撃開始ッ!接近させるなッ!」

 

 『了解ッ!』

 

 隊員達が射撃を開始する。木漏れ日程度しか入り込んでいなかった森にはマズルフラッシュが連続して発生し、アサルトライフルとは思えない大きさの銃声が響く。そんな中を隊員達は冷静に銃のトリガーを引き発砲する。その数だけ敵兵達の数は減っていき、バタバタと喋らぬ骸が量産されていく。

 

 「リロードッ!カバー頼む!」

 

 隊員の一人がリロードに入る。それをカバーするように隊員達は展開、敵に隙を見せないようにする。が、

 

 「そこだぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」

 

 敵兵はうるさい叫び声とともに剣を目一杯振り、隊員に切りつける。

 

 「ッ!」

 

 いくら兵士達全員がボディーアーマーを着ているとはいえ、あくまで銃撃から身を守るためのものだ。切れ味が以上な剣の横からの切りつけられる衝撃に耐えることはできず一瞬で切り裂かれ、隊員は一瞬で絶命する。

 

 「まずいぞ!全員後退!包囲されるな!」

 

 敵兵達が恐れも知らず肉薄して来る。さすがに量が多い。ここは後退すべきだろう。ラッピード装甲車を盾にしながら徐々に後退を開始する。もちろんその間も射撃を絶やすことはない。

 

 「くそっ!弾切れだ!お前、弾持ってないか!?」

 

 「俺も今のマガジンで最後だ!」

 

 ついに弾薬を切らす者が現れる。

 

 「小隊長!数が多すぎます!」

 

 隊員の一人が射撃しながら言う。

 

 「そ、そうだな・・・」

 

 同じく銃で応戦している小隊長は考える。

 

 「よし!各員グレネードもとスタングレネードをプレゼントしてやれ!その間に俺たちは上陸地点まで撤退するぞ!」

 

 『了解!』

 

 「グレネードッ!」

 

 ピンを抜いた音とともにグレネードが投擲される。

 

 「こっちはスタングレネードッ!」

 

 バァァァァァン!

 

 森の中に手榴弾やスタングレネードの炸裂音、敵兵の叫びなどが入り混じる。

 

 「よし!各員後退後退後退!」

 

 その掛け声とともに第二小隊は後退を開始した。

 

 

_ダーダネルス帝国領、西端のロング・ビーチに展開する警備隊

 

 

 「司令官!やりましたね!敵軍を後退させることに成功しましたよ!」

 

 帝国兵が言う。

 

 「あぁ。確かに我々は勝った。今回はな。おそらく敵は次の手を講じて来る。それに第一、今回の迎撃で兵を消耗しすぎた」

 

 司令官は呟く。実際今回の迎撃で帝国軍は数百名もの兵士を失っており、これは防衛する側からすれば決して無視できないのだ。

 

 「帝都に連絡をしようにも魔導師がいない!それに仮に連絡できたとしても援軍到着まで数日はかかる!」

 

 「で、ですが・・・」

 

 「ですがもこうもないッ!・・・おそらく、次戦えば負けるだろうな。敵の使っていた鉄でできた武器。あんな物は帝国でも見たことがない。実際、我が軍の損失のほとんどがそれだ」

 

 司令官はため息をつくと再度語り出す。

 

 「まぁ、次も勝てたとしても援軍が来なければ負けるんだがな」

 

 司令官は、悩むのだった。

 



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第19話:我敵工業地域撃滅セリ(1) v0.0

_場所は変わってダーダネルス帝国海軍西部海軍基地

 

 

 港が綺麗に整備され、多数の戦列艦が係留された西部海軍基地。この支配の象徴とも言える煉瓦造りの倉庫が立ち並ぶ西部海軍基地の提督府で、提督は執務を淡々とこなしていた。

 

 「ふぅ・・・これで、よしと」

 

 提督はそう呟くと、椅子から立って背伸びをする。

 

 「提督ッ!提督ッ!」

 

 すると突如として提督執務室に伝令兵が走りこんで来た。

 

 「おや、なんだね?慌てた様子だが・・・」

 

 伝令兵は血相を変えて言う。

 

 「そ、それどころではありません!敵ですッ!敵がやってまいりました!」

 

 「敵?一体どこの敵かね?・・・と言うよりも、一旦落ち着きたまえ」

 

 提督は執務を一旦中断し冷静にするように伝える。

 

 「わ、わかりません!ですが」

 

 ゴゴォォォォォォォォン!ゴゴォォォォォォォォン!

 

 「な、なんだっ!?」

 

 伝令兵が喋るよりも先に、海軍基地と工場地帯に巨大な爆音が響く。なんだなんだと提督は提督執務室にある窓から外を除き原因を探る。

 

 「あ・・・あの巨大な船は・・・なんだッ!?」

 

 巨大でそびえ立つ塔のようなものがついた『それ』は西部海軍基地から5キロ沖合をゆっくりと航行していた。『それ』に備わっているのであろう巨大な筒4本からは何か巨大なものを発射したかのように見て取れる。

 

 「提督ッ!お逃げくださいッ!」

 

 「一体なんだと言うのかね!?」

 

 「なんでもいいんです!早く!」

 

 伝令兵は急かす。

 

 「それはならんッ!我がこれくらいで逃げたら艦隊そのものの士気に関わる!」

 

ヒュゥゥゥルルルルルルルル・・・ドォォォォォォォォォォォォォォォォン!

 

 笛のような音が鳴った後、突如として海軍基地のドックに巨大な爆炎が上がる。その爆風により窓に貼られたガラスはビリビリと音を立て、外にいた兵士や木箱などはその圧倒的な爆風によりあらぬ方向へと吹っ飛ばされる。

 

 「あ・・・あれはなんだッ!?」

 

 「だから・・・敵ですッ!」

 

 伝令兵は何度も繰り返す。

 

 「そ、そう言うことか!わかったぞ!出撃の鐘を鳴らせ!現在待機中の艦隊全てを持ってあのどでかい船を撃破しろ!俺はここからそれを見守るぞ!」

 

 提督はなぜかドヤ顔で言い放つ。

 

 「あんた話聞いてましたか!?ここに止まるのは危険なんです!早く逃げてください!」

 

 出撃の合図である鐘が甲高い音を放つ中伝令兵はまたも同じことを言う。

 

 「そうは言ってもだな・・・」

 

 ゴゴォォォォォォォォン!ゴゴォォォォォォォォン!

 

 「ッ!また来るか!」

 

 提督は呟く。

 

 「だから提督!本当に危ないんですよ!早く退避を!」

 

 提督は少し考えた様子を見せる。

 

 「あ、あぁ、そうだな。とりあえず逃げるか」

 

 「やっと決断していただけましたか!」

 

 その時だった。

 

ヒュゥゥゥルルルルルルルル・・・ドォォォォォォォォォォォォォォォォン!

 

 『それ』が放った攻撃の1発が運悪く提督府に直撃。提督府はレンガを撒き散らし、巨大な爆炎をあげて崩壊した。



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第20話:我敵工業地域撃滅セリ(2) v0.0

_エルナン・コルテス級超大型戦艦のブリッジ

 

 

 荒波によって船が大きく揺れる中、ブリッジでは相変わらず淡々と戦闘状況報告が送られていた。

 

 「敵司令部施設と思しき施設を撃破しました!」

 

 無線要員が言う。このブリッジからも煉瓦造りの施設が吹っ飛んだ瞬間は見てとれ、それはもうとても綺麗な花火だった。

 

 「よし、第一砲塔は引き続きドックを狙え!第二砲塔は港湾施設全体を吹っ飛ばしてやるんだ!」

 

 『了解!』

 

 「艦長、第三砲塔は使われないのですか?」

 

 副艦長が尋ねてくる。事実この船は敵工業地帯及び海軍基地を第三砲塔でも狙える位置にいる。

 

 「保険ってやつさ」

 

 ゴゴォォォォォォォォン!ゴゴォォォォォォォォン!

 

 エルナン・コルテス級超大型戦艦の45口径51センチ連装砲塔2基の砲身から爆炎、そして爆風とともに1トン以上にも及ぶ巨大な砲弾が放たれる。

 

 「敵、海上戦力が港湾内から出ようとしています!」

 

 レーダー要員が大声で言う。

 

 「よしよし。副砲塔の餌にしてやれ!」

 

 『了解しました!』

 

 艦長からの命令は迅速に副砲塔要員へと届けられる。副砲塔はそれに呼応したかのように動き出す。

 

 「数・・・多いですね」

 

 副艦長が呟く。現在敵港湾施設からは5隻ほどの巨大木造船が現れており、距離はそこまで近くはないが接近を許せばすぐに近くまでやってくるだろう。

 

 「大丈夫大丈夫、なんとかなるって」

 

 『副砲塔、敵船を捕捉しました!いつでも撃てますよ!』

 

 副砲塔要員から準備完了の声がブリッジに響く。

 

 「よし!副砲塔、撃ェッ!」

 

 バァァァァン!バァァァァン!バァァァァン!

 

 艦長の副砲塔発射の号令とともに15.5センチ三連装砲から3発の砲弾が放たれる。

 

 「さて、どうなるかな?」

 

 敵巨大木造船の様子を双眼鏡を覗いて観察する。

 

 

_敵戦列艦視点

 

 

 「急げ!急げ!これ以上好き放題やらせるな!」

 

 戦列艦4隻を率いている100門級戦列艦の船長エスクロスは船員達に何度も何度も同じことを言い続ける。

 

 「くそっ!くそっ!映えあるダーダネルス帝国海軍が・・・たった1隻などに・・・やられてたまるかぁ!」

 

 帝国こそ世界最強と考える船長エスクロスは呟く。事実、ダーダネルス帝国海軍は今まで『あの帝国』を除けば負けることはなかった。それがどうだ。今、眼前でたった一隻の船により海軍基地は壊滅的被害を受けている。これは帝国最強と信じてやまないエスクロスにとってあってはならない。

 

 「せ、船長ぅ!風が・・・風が少ないんですよぉ・・・!」

 

 船員の一人は肩で息をしながら言う。後続の戦列艦も、この船も全ての帆を全開にしているが一向に進んでいる気配がしない。それに外の海は波が高い。魔導師が風を無理やり起こしているからまだマシだが、魔導師がいなければおそらく港の中で立ち往生していただろう。

 

 「そんなことはない!我々帝国海軍が力を合わせれば風ですらも起こせるのだぞ!」

 

 「そんな無茶なぁ!」

 

 「・・・ん?」

 

 甲板から敵船を見ていると、突如として巨大な砲塔の一つがこちらに向いて動いて来たのが見える。

 

 「小癪なッ!魔導師!魔導シールドを展開しろ!あの攻撃を防ぐんだ!」

 

 この船にたった数人しか載っていない魔導師に怒鳴るような口調で言う。

 

 「数が少ないですって!幾ら何でも防げる自信はありませんよ!?」

 

 「それがどうした!お前の心はその程度か!」

 

 「ひぃっ!」

 

 エスクロスはそう言うと腰元にある剣を引き抜く。

 

 「わ、わかりましたよっ!」

 

 魔導師は詠唱を開始する。

 

 「え、詠唱完了!」

 

 魔導師が大声で言う。

 

 「よし!すぐに展開しろ!」

 

 展開直後に敵の巨大な砲は発砲する。

 

 「当たらぬと言うこと、教えてやるわぁ!」

 

 エスクロスはお得意の精神論でどうにかなるだろう、と脳みその中で思う。

 

 「き、来ますよっ!」

 

 それと同時に着弾、後ろを航行していた戦列艦の一隻が大きな火花をあげて爆散する。

 

 「くそっ!おい!魔導師!・・・おい?」

 

 魔導師がいた場所へ振り向く。だがそこには、魔導師の姿はなかった。敵の攻撃により一瞬で死滅したのだ。

 

 「ッ・・・!」

 

 エスクロスは内心このままではまずいと感じる。防御手段を失った以上、今度同じ攻撃をされたらすぐにやられるだろう。

 

 「ぜ、全艦砲撃を開始しろぉっ!」

 

 『え!?』

 

 船員たちがどよめく。まだ敵船との距離は1ラージ(2キロ)ほどあるのだ。この船に搭載している大砲を使ってもおそらく届かないだろう。

 

 「何をしているんだ!早くしろ!操舵員!転進だ!右に動かせ!」

 

 「は、はいっ!」

 

 操舵員はエスクロスの言う通り船の船首を右へと向ける。

 

 バァァァァン!バァァァァン!バァァァァン!

 

 またしても敵船の放つ死の咆哮が響く。

 

 「く、くそっ!どこでもいい!船を動かすんだ!」

 

 操舵員に怒鳴るような口調で言う。

 

 「そ、そんな!今動かしたら隊列が無茶苦茶になりますよ!」

 

 「そんなことはどうでもいい!早くしろ!」

 

 エスクロスはパニック状態で言う。

 

 「も、もうっ!どうなっても・・・知りませんよ!」

 

 船の舵を思いっきり右に切る。

 

 ガァァァァァァ・・・

 

 船の材木が軋み甲板に放置された雑用品などが右へと転がるほどの角度で戦列艦はゆっくりと、そして力強く旋回を始めた__瞬間だった。

 

 ガコォォォォォン!

 

 船に大きな振動と衝撃が伝わる。

 

 「な、何が起こったんだ!?」

 

 周りを見渡す。すると

 

 「そ、そんなバカな!」

 

 「だから言ったでしょう!」

 

 船の右舷に味方の戦列艦が突き刺さっていた。

 

 「くそっ!くそぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!」

 

 エスクロスの叫び声が鳴り響いた直後、敵船の放った攻撃はエスクロスの乗る戦列艦に吸い込まれるように直撃。2隻を巻き込んで爆散した。

 

 

_エルナン・コルテス級超大型戦艦のブリッジ

 

 

 「敵艦の撃破に成功!」

 

 無線要員からの報告が淡々と流れていく。

 

 「それで、港湾施設の状況は・・・っと」

 

 艦長はそう言うと、港湾視閲へと双眼鏡を構える。

 

 「よしよし・・・もうあそこは使い物にならないな。狙いを変えろ!奥の工業地帯を焼き払え!」

 

 『了解!』

 

 艦長の合図とともに、45口径51センチ砲の角度が調整、再度どでかい砲弾が巨大な爆炎とともに発射される。

 

 「にしても・・・反撃と呼べる反撃が一切ありませんね」

 

 隣に立つ副艦長が呟く。

 

 「それに越したことはないさ。敵の反撃と呼べる反撃をできたのはさっきの敵船くらいだからな」

 

 現状敵からの反撃と呼べる反撃は先ほど一瞬で壊滅した5隻の巨大木造船程度で、他は特に攻撃らしい攻撃をこの船は受けてはいない。

 

 「これだと、予定時刻よりも早く終わりそうですね」

 

 副館長はそう言うと、袖を捲し上げ腕時計を見る。

 

 「それもそうだな。帰ったら一杯やるか?」

 

 副艦長に聞くと、遠慮した口調で言う。

 

 「いやいや・・・あなたには構いませんから」

 

 「はっはっは!それもそうだな!」

 

 

_数分後

 

 

 結局、敵の反撃と呼べるものは1度きりで、その後は一切攻撃を受けることがなく一方的な勝負で終わった。

 

 「敵工業地帯も海軍基地も完全に破壊・・・少なくともこれで付近の海域の安全は確保したな」

 

 先ほどまで敵の工業地帯と海軍基地があったところからはただ、黒い煙だけが無数に上がっていた。

 

 「よし!帰投するぞ!」

 

 操舵員に告げる。

 

 「船首回頭、左15度。巡航速度維持しとけよ!」

 

 こうして、オペレーション アイアン・ストームの目標であった上陸作戦と、敵海軍基地及び工業地帯の撃滅は無事完結した。



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第21話:不穏な影v0.0

_ダーダネルス帝国西の森林のどこか

 

ザクッ、ザクッ

 

 「なぁ、まだつかないのか?」

 

 魔導師カイルが先導する誰かに聞く。周りを見渡せばダーダネルス帝国西海岸防衛部隊の魔導師全員が付いて来ているのが見てわかる。

 

 「まだだ。だが、すぐに着く」

 

 誰かはそれだけ言うと、すぐに前を向いて歩みを再開する。

 

 「ったく・・・早くしてくれよな・・・」

 

 魔導師たちは先導する男に、付いていく。どうしてこうなったのかといえば・・・。

 

 

_数十分前

 

 

 敵からの攻撃に備えて準備していると、突如としてどこからか自分を呼ぶ声が聞こえた。

 

 「こっちだ、こっちこっち!」

 

 森の木々の隙間に『誰か』がいるのが確認できる。その『誰か』は手招きで『こっちに来い』と言っているようだ。

 

 「おいおい、なんだ?今忙しいんだよ・・・」

 

 『誰か』に呆れた声で尋ねる。

 

 「いやいや、あのな?お前金欲しいか?」

 

 「えっ?いや、うん・・・その・・・」

 

 どう返事をすればいいのか悩む。

 

 「欲しい、欲しくない。どっちだ?」

 

 相手は応えるよう急かしてくる。

 

 「そりゃ欲しいけどさ・・・」

 

 そう応えると、『誰か』は「よしきた!付いて来い!」と言う。

 

 「ったく・・・なんなんだよ・・・」

 

 『誰か』に渋々付いていきしばらく歩いていると、そこには見慣れた顔ヅラが揃っていた。

 

 「お、お前も来たのか?」

 

 同僚の魔導師だ。周りを見渡すと、どうやらここには魔導師だけしかいないようだ。

 

 「なぁ、いったいこれは・・・なんの冗談だ?」

 

 「しらねぇよ。俺は『女が欲しいか?』って聞かれたから来ただけさ」

 

 魔導師カイルは驚愕する。

 

 「え?金くれるんじゃないのか?」

 

 「いやいや、違うってば。女だよ女」

 

 「つまり集められた理由はそれぞれってわけか・・・」

 

 すると

 

 「よし!全員揃ったな!付いて来い!」

 

 魔導師たちにどよめきが広がる。

 

 「攻撃部隊ほっといていいんですかい?」

 

 魔導師の一人が言う。

 

 「あ?そんなのかんけぇねぇよ。お前らは俺に付いて来い。それだけでいいんだ」

 

 「よくわからんな・・・」

 

 同僚の一人が言う。

 

 「ま、付いていけばなんとかなるんじゃないか?」

 

 「それもそうか」

 

 魔導師たちは何か違和感を感じたが、結局『誰か』に付いていくことにした。

 

 

 _『誰か』視点

 

 

 作戦は成功だ。敵国にダーダネルス帝国を攻撃、ダーダネルス帝国とその敵国両国の経済を疲弊させ私の母国が侵略・領土を獲得すると言う作戦はもうすぐ成功する。それで、それで島国生活は、おしまいだ。

 

 「にしても、思いの外うまく言ったな・・・」

 

 『誰か』はそう呟くのだった。



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敵地侵攻・・・しなきゃ・・・
第22話:戦線膠着 v1.0


_ダーダネルス帝国、帝都ディオニス

 

 

 絶対に安全が保障されている街、ディオニスに住む市民たちはいま混乱の淵に立っていた。

 

 「おい!さっきの音はなんなんだ!?」

 

 西野はるか向こうから聞こえた爆音に、市民たちは皆怯えている。

 

 「いや、わからねぇよ!とにかく何かが起きてるんだ!」

 

 「いったい私達は・・・どうなるのかしら・・・」

 

 家々の立ち並ぶ表街道へと出て来た市民たちは皆口々さっきの爆音について話し合っている。

 

 「・・・まぁ、俺たちの住むダーダネルス帝国は最強さ!きっと負けることはないさ!」

 

 ある一人の帝国びいきが言う。

 

 「そ・・・それもそうだな!きっとさっきの音は味方の音さ!」

 

 『はっはっは!』

 

 

_一方その頃、帝都ディオニ酢の中心にそびえる皇城では

 

 

 「な、なんなんだあの音はッ!?」

 

 はるか遠方から響いた爆音でせっかくの眠りを妨害された皇帝は、今回も怒りに満ちている。

 

 コンコン

 

 「入れッ!」

 

 皇帝は苛立ちを隠せない中、寝室の扉をノックした人物の入室を許可する。

 

 「こ、皇帝・・・」

 

 東部方面帝国軍司令官ゲラウスが入室したそこには、汗でびっしょりと服を濡らした皇帝の姿があった。

 

 「あぁ・・・君か。それで?要件はなんだね?」

 

 ゲラウスは何を言いに来たのか思い出す。

 

 「は、はいっ!緊急の用件でして・・・その・・・」

 

 ゲラウスの言葉が詰まる。

 

 「なんだね?教えてくれないかね?」

 

 「東部のロング・ビーチ防衛隊との魔導電信・・・応答が消えました」

 

 皇帝はその言葉を聞いた瞬間、目を見開く。少し間を開き、深呼吸を一回すると言う。

 

 「・・・冗談はいい加減にしてくれたまえ」

 

 「は?今なんと・・・」

 

 ゲラウスはその言葉を信じられないようで、聞き返す。

 

 「聞こえなかったのかね?・・・冗談は、やめたまえといったんだ」

 

 「いやいや・・・冗談ではないですよ・・・」

 

 ゲラウスは呆れた声で言う。

 

 「黙れ!東部ロング・ビーチの防衛隊は無事だ!そう、無事なんだ!」

 

 皇帝は半ばパニックになった状態で言う。

 

 「いえ、ですが・・・」

 

 「ですがもこうもない!防衛隊は無事なんだ!」

 

 すると皇帝は、何かに気づいたような顔をする。

 

 「・・・さては貴様、デルタニウス王国のスパイだな?」

 

 皇帝がこわばった顔で言う。

 

 「そんなこと・・・あるわけないじゃないですか!」

 

 ゲラウスはそのわけもわからない言い分に反論する。

 

 「そんなわけない!貴様は・・・貴様は・・・!」

 

 皇帝がすぐそばにある剣を取る。

 

 「こ、皇帝!?何をされるつもりですかッ!?」

 

 「見てわからんか・・・?」

 

 皇帝はのっしり、のっしり、と剣を構えて迫ってくる。

 

 「え、衛兵ッ!衛兵ッ!皇帝はご乱心ぞ!」

 

 ゲラウスは身の危機を察し、大声で衛兵を呼びながらドアへと向かう。

 

 「待て・・・!待てェッ!」

 

 皇帝も負けじと追ってくる。

 

 「ひぃぃぃぃぃぃっ!」

 

 その日から東部方面帝国軍司令官ゲラウスは登城することをやめたと言う。

 

 

_その頃、エルディアン共和国首都、エルディアンの大統領府では

 

 

各府の名だたる重鎮たちが座る中、軍務担当大臣は淡々と作戦報告をおこなっている。

 

 「結果的にオペレーション アイアン・ストームは微小の被害もありましたが無事完結しました」

 

 歓声が湧き上がる。

 

 「___ですが、上陸部隊と交戦した防衛部隊は現在ゲリラ戦を行なっており、現在は完全に戦線が膠着しました」

 

 一瞬で歓声が止む。

 

 「・・・それで?軍務担当大臣的にはどうなのだね?」

 

 大統領が言う。

 

 「はい・・・現在戦線膠着を打破するためにすでに準備を開始しています」

 

 軍務担当大臣はそう告げる。

 

 「いったいどんな内容なのか教えてくれたまえ」

 

 軍務担当大臣にそう言うと、彼は部下にプロジェクターを持って来させる。

 

 「それでは、今回の作戦・・・我々は『シュガール』と呼称している作戦の内容を伝えさせていただきます」

 

 「神の名を使う作戦・・・か」

 

 誰かがそう呟く。

 

 「それで、まず作戦には数段階を踏む必要があります」

 

 すると、プロジェクターに大統領も見たことがある航空写真が映し出される。

 

 「まず第一段階として、空砲用の迫撃砲弾薬を大量に持たせた特殊部隊員十数名に川を登ってもらいます」

 

 帝都らしきものまで一直線に行ける川がズームされる。

 

 「いやいや、ちょっと待て。空砲用弾薬だって?馬鹿げてるんじゃないか?」

 

 大臣の一人が異を唱える。

 

 「確かに、今の説明だけだと一見バカが考えたような作戦ですが・・・問題はここからです」

 

 大臣たちが唾を飲み、耳をすまして聞く体制を整える。

 

 「帝都付近に到着したら速やかに帝都付近にある森へと展開、第二段階に移行次第した日から夜間に空砲射撃を帝都に向けて行なってもらいます」

 

 『・・・は?』

 

 大臣たちの口が開いたままになる。

 

 「・・・君はいったい何を言っているんだね?実弾を使わずに敵帝都を攻撃するなど・・・阿呆じゃないか?」

 

 大統領が言う。

 

 「・・・これには理由がありましてね・・・」

 

 「ほう?面白い。どんな理由だ?」

 

 大統領は、至って真面目に問いかける。

 

 「夜間に空砲射撃をして敵を睡眠できないようにし、敵上層部の判断を鈍らせる・・・。運が良ければそれで敵国を降伏させれるかもしれません」

 

 『はっはっはっは!』

 

 大臣たちが一斉に笑い出す。

 

 「き、君はこんなことをと真面目に話して・・・あっはっは!いったいどうしたんだ・・・あっはっは!」

 

 大統領は腹を抱えて笑いながら言う。

 

 「ですが・・・」

 

 「ですが・・・?一体なんだね!」

 

 「すでに特殊部隊は出撃しています」

 

 『は?』

 

 一瞬の沈黙が辺りを包む。

 

 「・・・そ、そうか・・・。なんと言うか・・・すまなかったな。・・・続けてくれ」

 

 大統領が小さな声で言う。

 

 「・・・はい。それで、第二段階として周辺基地の大規模な爆撃を行います」

 

 「爆撃機は?爆撃機はどうするんだね?」

 

 現状、敵の海岸を奪取したが飛行場建設には至っていない。爆撃機を飛ばすなら本国から飛ばすしかないだろう。

 

 「それに関してはご心配ありません。どうぞこれをご覧ください。」

 

 その声とともにプロジェクターの画面が変わる。

 

 「・・・おい。君はまだこれを開発していたのか?」

 

 大統領が呆れた声で言う。プロジェクターには6発の水冷エンジンが特徴的な数年前に開発中止となったはずの超巨大飛行艇、UBV-20が映されていた。

 

 「・・・まぁ、この際それはどうでもいい。問題は基地の居場所だ。いったいどうやって見つけるんだ?」

 

 またも大統領が聞いてくる。

 

 「それは普通に情報収集衛星を使います。・・・まぁ、衛星の打ち上げには時間がかかるのでそれまで待たなければなりませんがね」

 

 軍務担当大臣が呟く。

 

 「そして、第三段階です。現状敵ゲリラのはびこる森林部を陸上戦力で渡るのは不可能に近いのでティルトローター部隊を乱用して敵帝都付近まで直接殴り込みます」

 

 大臣たちがざわつく。

 

 「いやいや・・・幾ら何でも無謀すぎじゃないか?制空権すら確保できていないぞ?」

 

 大統領が疑問を投げかける。

 

 「はい。ですので、爆撃隊を使います」

 

 軍務担当大臣は安直に言う。

 

 「あ・・・うん、そうだったな!はっはっは!」

 

 大統領はとぼけた顔で言う。

 

 「そして第四段階。敵市街地へ突入、おそらく皇帝の存在するここ、でっかい城を強襲します」

 

 敵帝都らしきもののど真ん中にそびえ立つ巨大な城がズームされた。

 

 「・・・でも、これで終わる保証はあるのか?亡命なんてされたらひとたまりもないぞ」

 

 「はい、その懸念はあります。ですがこれ以外方法はありません」

 

 「ふーん・・・」

 

 「最後は皇帝を人質にとってこの国の降伏を促します。・・・皇帝を殺さない、と言う条件付きで」

 

 すると財務担当大臣が手をあげる。

 

 「それを行うにあたる費用ですが・・・」

 

 「・・・まぁ、運が良ければこれで戦争は終結しますし、大丈夫では?」

 

 軍務担当大臣が呟く。

 

 「まぁ、以上が今回の作戦内容です」

 

 「・・・財政難にならないように管理しなきゃ・・・」

 

 財務担当大臣がなんども同じことをリピートする中、作戦報告会議は終了したのだった。



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第23話:亡国の王

_異世界転移から2ヶ月と少し、エルディアン共和国

 

 

 この日、エルディアン共和国にある10箇所のロケット発射場から続々と戦時簡易型情報収集衛星2基を搭載したH2-Mロケットが宇宙へと発射された。

 

 

_ロケット発射から1日後、首都エルディアンの大統領府

 

 

 コンコン

 

 「入れ」

 

 大統領はノックの音を聞いて執務を中断する。

 

 「執務中すみません」

 

 大統領補佐官は頭を下げる。

 

 「いやいや、いいさ。それで?今回の報告は何だね?」

 

 「あ、はい・・・昨日ロケット発射場10箇所から発射されたロケットは全て衛星軌道上まで展開を終えたとのことです」

 

 大統領補佐官が淡々と報告する。

 

 「おお!それはよかった!・・・それで?何かわかったことはあったのかい?」

 

 「・・・これをご覧ください」

 

 大統領補佐官はそう言うと、執務机の上にある書類諸々を押しのけて一枚の巨大な衛星写真を取り出す。

 

 「っておいおい!片付けるの大変なんだよ!」

 

 「・・・それどころではありません!」

 

 大統領補佐官が珍しく真剣な眼差しで言う。

 

 「お、おう・・・それで?いったい何がそれどころじゃないんだ?」

 

 大統領補佐官に尋ねる。

 

 「私たちが現在進行中の大陸は、これです」

 

 大統領補佐官は1つの大陸を指差す。

 

 「そして、これがエルディアン共和国・・・」

 

 指をスライドさせ、エルディアン共和国を指差す。

 

 「問題はここからです」

 

 すると大統領補佐官は、胸元のポケットから極太の赤い油性ペンを取り出した。

 

 「敵帝都付近には、巨大な軍事基地が確認できるだけでも10個近くあります」

 

 大統領補佐官は敵帝都らしきものの周りにある巨大な基地を油性ペンで1つずつ囲み、印をつける。

 

 「さらに、敵海軍基地及び工場地帯は確認しただけでも20箇所です」

 

 「え?」

 

 大統領補佐官は、沿岸部にある工場地帯のようなものなどを円で囲み続ける。

 

 「いや・・・おいおい、ちょっと待て。幾ら何でも数が多すぎじゃないか?」

 

 大統領は小声でそう呟く。事実基地だけでもかなりの量があると言うことは、それ相応の経済力がなければ不可能だ。

 

 「これは・・・予想以上に作戦が難航する可能性があります」

 

 「あぁ、そうだな・・・。これが、チート国家か・・・」

 

 大統領は悩むのだった。

 

 

_エルディアン共和国北部沖

 

 

 エルディアン共和国北部沖を1隻の巨大な木造船が航行している。その船にはかつてカイス王国と呼ばれた王国の王族と少しの配下の兵だけが乗っている。

 

 「王よ!落ち着いてください!」

 

 配下の兵が言う。

 

 「ならん!我はなんとしても・・・なんとしても民を帝国の魔の手から解放する必要があるのだ!」

 

 カイス王国の王レイエロの目は怒りに満ちている。突如としてカイス王国に宣戦布告をしてきたダーダネルス帝国により一瞬で敗退、わずか1週間でカイス王国はダーダネルス帝国の属領と化してしまった。配下の者たちが必死で王族を守り船に乗せなければ、おそらく王族は皆処刑されていただろう。

 

 「ダーダネルス帝国に勝利したと言う国・・・エルディアン共和国と呼ばれている国に何としても向かわなければならない!」

 

 そんな彼は2週間前、まだダーダネルス帝国の侵略されていないムベガンド王国の港町であのダーダネルス帝国が新興国エルディアン共和国に負けたと言う話を聞いた。なんとしても一矢報いたいレイエロはその国だけを頼りにはるか2000キロの船旅を続けている。

 

 「・・・ッ!」

 

 目のいい船員が南側から迫ってくる1つの巨大な何かを見つける。

 

 「お、王ッ!何かがこの船に向けてやってきておりますッ!」

 

 その巨大な何かは、レイエロたちの乗る船よりも速く一瞬で距離を詰めてくる。

 

 「くそっ・・・これまでか・・・」

 

 レイエロは諦めたかのような口調で呟く。

 

 『そこの船!とまりなさいッ!』

 

 目視できる距離まで詰めてきた巨大な何かは大きな声でそう言う。

 

 「な・・・なんて大きい船なんだ!しかも帆がないッ!」

 

 船員たちは呟く。目視できる距離まで詰めてきた巨大な何かは、船だった。それも少なくともこの付近では見たことがないような、巨大な青い船。形は洗練されており、船首には2つの巨大な棒をつけたはこのようなものがある。それは並走し、なんども警告を発する。

 

 「せ、船長ッ!船を止めろッ!」

 

 レイエロは大声で船長に告げる。

 

 「で・・・ですが!これが帝国の船だとは言い切れませんよッ!」

 

 確かに船長の言うことは正しい。これが帝国の船ではないと言う保証はどこにもないのだ。

 

 「それでもいい!いまはこの船に望みをかけろッ!」

 

 「・・・わかりまし・・・たッ!」

 

 船の帆が畳まれる。やがてレイハロたちの乗る船は完全に停止する。それに追従するかのように巨大な船も停止する。

 

 「なにか出てくるぞッ!」

 

 その巨大な船の中から、小さな船が2艇が出てきてこちらに向かってくる。

 

 「王よ・・・もしあれが敵の船だとしたら、我々に助かる道はありませんね」

 

 配下の兵が剣を構えて言う。

 

 「私は愚かにも国を捨てた身だ・・・今頃どうなろうと・・・な」

 

 王も覚悟を決めたような口調で言う。やがて巨大な船からでてきた2艇の小型な船はレイハロ達の乗る船に接岸、その船の乗員達が船の甲板まで登ってきた。

 

 「えーと・・・なんて言えばいいんでしょう?」

 

 青い服を纏った男達数名は言葉に悩んだ様子だ。それに気づいた王は先に口を開く。

 

 「我々はカイス王国の者です。カイス王国はここから遥か1000ラージ(2000キロ)も離れた場所にある国ですが・・・今やダーダネルス帝国により属領となってしまった。我々は、帝国を打倒したと言われているエルディアン共和国に用がありここまで参りまし」

 

 その声に何か見覚えがるのか、青い服を纏った男達の顔が変わる。

 

 「・・・そうですか。わかりました。あなた達の船を曳航して本国まで運びましょう」

 

 「おお!」

 

 斯くして王達は一旦、エルディアン共和国が預かることになった。



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第24話:救いを求める者、救いを求められる者 v0.0

_1日後、エルディアン共和国首都エルディアン 外務担当府

 

 

 続々と情報収集衛星から送られる情報を適切に処理するため、外務担当員は黙々と作業をしている。そこに1つの問題が舞い降りる。

 

プルルル・・・プルルル・・・

 

 オフィスの中に電話の着信音が響く。

 

 「おいお前!それ対応してくれ!」

 

 「わかりました!」

 

 猫の手も借りたい状況の外務担当員の一人は、新入りに電話を取るよう促す。

 

 「はい、外務担当府です」

 

 『沿岸警備局の者なのですが・・・』

 

 電話の通話当てはどうやら沿岸警備隊の関係者のようだ。

 

 「一体どうされましたか?」

 

 『いやですね・・・はるか向こうの未知の国の王様が漂流していたんですよ。この手の仕事は我々にはできないので外務担当員が車で待ってもらっているんですが・・・。今来ることはできませんか?』

 

 新人は通話内容を聞き驚愕する。

 

 「わかりました。すぐに送りますね」

 

 電話を終え受話器を置くと、外務担当長室へと全速力で向かう。

 

 「外務担当長!」

 

 外務担当長のいる部屋のドアを勢いよく開く。

 

 「お、何か進展でも?」

 

 きらびやかな装飾が施された部屋の中に座り猫を撫でる初老の見た目をした外務担当長はいたって普通の声で聞く。

 

 「沿岸警備隊から連絡ですッ!何処かの国の王様が漂流してたらしいですッ!」

 

 外務担当長の顔がだんだん驚きの顔に変わる。

 

 「でかしたぞ!新人!場所はどこだ!?」

 

 外務担当長は喜びに満ちた顔で聞いてくる。

 

 「沿岸警備局です!」

 

 「よし!すぐに外務担当員を派遣するぞ!」

 

 外務担当長は猫を放り投げ、出動ベルを鳴らす。

 

 「やっと俺たち外務担当員の仕事が舞い降りたんだ!急げ!すぐに行くぞ!」

 

 新人は出動するように促される。

 

 「・・・はいっ!わかりました!」

 

 スーツ姿に着替えた数人の外務担当員達は風のようなスピードで公用車に乗り込む。

 

 「急げ急げ!」

 

 外務担当長はドライバーに早くするように促す。

 

 「いやいや!速度超過はまずいですって!」

 

 その声を聞いた外務担当長は我に戻る。

 

 「そ・・・それもそうだな」

 

 

_数分後、沿岸警備局

 

 

 沿岸警備局についた外務担当局員は局員の誘導の元、王様のいる場所へと向かう。

 

 「ここです」

 

 局員はドアを開き、入るよう誘導する。

 

 「おお!救いの手だ!」

 

 部屋に入るとすぐに、一人の男がすがるように近寄ってくる。

 

 「ええと・・・あの・・・」

 

 外務担当員は言葉に詰まる。

 

 「おっと、すまなかった。我の名はレイハロ。カイス王国の王レイハロだ。・・・カイス王国はもうないがな」

 

 「私たちは外務担当員のものです。一体どのような用件でここまで来られたのでしょうか?」

 

 外務担当員は聞く。

 

 「安直に言おう。ダーダネルス帝国・・・かの帝国に鉄槌を食らわしてほしい」

 

 外務担当員達は想定外の用件に驚く。

 

 「えぇと・・・まずは席に座りませんか?」

 

 部屋の中に用意されている椅子に座らないか聞く。

 

 「おお、そうだな!」

 

 レイハロは椅子に座り、それに合わせるように外務担当長も座る。

 

 「それで・・・ダーダネルス帝国に鉄槌を下してほしいとのことですが・・・」

 

 「・・・やはり、難しいか?」

 

 「・・・いえ。現在進行形で行われています」

 

 「っ!?」

 

 レイハロ達はその言葉を予想していなかったのか、驚きを隠せない様子でいる。

 

 「と言っても、現在は戦線が膠着していますが・・・」

 

 「・・・いや、その言葉を聞けただけで十分だ」

 

 レイハロは満足したような口調で言う。

 

 「さて、聞きたいことがあるのだが・・・」

 

 レイハロは何か悩んだ様子で言う。

 

 「なんでしょうか?」

 

 「安定した生活ができる場所が欲しいのだ」

 

 「あぁ・・・」

 

 確かに、彼らはこの国にやって着たばかりの人間だ。住居が必要なのは目に見えている。

 

 「・・・わかりました。政府に住居の確保をするように伝えておきます」

 

 「助かる」

 

 この後もレイハロとの話は深夜まで延々と続いた。

 



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第25話:発令!オペレーション シュガール第一段階(1) v0.0

_場所は変わってダーダネルス帝国領、東端のロング・ビーチに上陸したエルディアン共和国海兵隊 数日前

 

 

 「おい、マルティン!司令官がお前のこと呼んでたぞ!」

 

 完全武装で敵ゲリラ部隊からの奇襲を防ぐため警備をしていたマルティンに、同僚の一人が声をかける。

 

 「よし、わかった。今すぐ向かうよ」

 

 「あ、警備は心配すんな!俺が代わりにやっとくから!」

 

 同僚が陽気に言う。

 

 「陽気に言うようなことかなぁ・・・まぁいいさ。わかった!頼むぜ!」

 

 海兵隊員の一人マルティンは重たい装備一式を同僚に渡すと、駆け足で司令部へと向かう。

 

 「にしても、付近の景色変わったなぁ・・・」

 

 エルディアン共和国軍が上陸してからと言うものの、沿岸部には続々と物資集積所やゲリラ部隊迎撃用の設備などが置かれている。

 

 「マルティン、入ります!」

 

 チョコレート迷彩ネットがテントの上にかかった仮司令部へと入る。

 

 「お、待っていたぞ」

 

 中に入ってすぐ、司令官が声をかける。

 

 「すぐに他に読んだ隊員も来る。それまでそこに突っ立っとけ」

 

 「は、はいッ」

 

 

_数分後

 

 

 テントの中には、屈強な肉体を持つ十数名の海兵隊と、一人の司令官だけが立っている。

 

 「よし、これからお前達にある作戦を行ってもらう」

 

 司令官はそう言うと、机の上に1枚の航空写真を広げる。

 

 「お前達にはこれから、食料や空砲用弾薬、迫撃砲を満載した小部隊河川舟艇《SURC》2艇に乗ってこの街・・・まぁ、帝都もどきだな。まで行ってもらう」

 

 司令官はそう言いながら河川を指でなぞる。

 

 「あぁ、もちろん敵の襲撃を想定していないわけじゃない。安心しろ。お前らにはここ最近開発されたMX-8を試験運用を兼ねて持って行ってもらうからな?」

 

 司令官はそう言うと、机の下から銃を一丁取り出す。

 

 「強化プラスチックで構成されたこの銃はお前らにうってつけだ。安全性もバッチリ!オプションでいろんなアタッチメントもつけられるぞ!」

 

 司令官はまるで人が変わったかのような口調で言い続ける。

 

 「あぁ・・・この人間工学に基づいたぼでぃ!たまんねぇぜ!」

 

 司令官の意味不明な行動を見せられている海兵隊員達の顔は困惑でみちる。

 

 「・・・おっと、すまなかった。ついつい取り乱しちまったな」

 

 司令官は赤面で言う。

 

 「とにかく、だ。お前達の任務はこの川を上って敵帝都のようなもの付近に展開、次の作戦指示があるまでそこで待機してもらう。わかったか?」

 

 司令官は少し間を置き、再度口を開く。

 

 「何か質問は?」

 

 するとすぐそばに座っていた海兵隊員の一人が手をあげる。

 

 「よし、なんだ?」

 

 海兵隊員は深呼吸をして口を開き、とんでも無いことを口にする。

 

 「俺たち海兵隊員にとって銃は命!たかだか強化プラスチックとか言うよくわからないものを使った全く重く無い銃なんかに命を預けれねぇ!せめてDm-Depredador12.7にしてくれ!」

 

 その言葉を聞いた瞬間、司令官の顔は蜂の巣を叩いた時の蜂のような顔になり、他の海兵隊員達の顔は真っ青になる。

 

 「き・・・貴様ァッ!お前はこの銃を侮辱するかァッ!」

 

 「その通りです!こんな銃、銃じゃありません!おもちゃです!」

 

 海兵隊員はさらに追い討ちをかける。

 

 「ア”ァ”ァ”ァ”ァ”ァ”ァ”ァ”ァ”ァ”ァ”ァ”ァ”ッ”!」

 

 司令官は発狂したような声を出し、腰にあるナイフを引き抜く。

 

 「お前、何言ってんだ!」

 

 海兵隊員の一人が迅速に動き、司令官を羽交い締めにする。

 

 「いやだって本音言っただけだし・・・」

 

 当の本人は全くワルビていない様子である。

 

 「そうだとしても幾ら何でもほどがあるだろ!」

 

 「いやだって・・・」

 

 「だってもこうもない!お前、俺がいないと今頃死んでるぞ!?」

 

 「いやだって・・・」

 

 「あぁぁぁっ!お前は『いやだって』しか言えないのか!」

 

 「いやだって・・・」

 

 「いや、しつこい。もういい。こいつ解放するぞ?」

 

 海兵隊員はそう言うと荒ぶりつつある司令官を掴む手の力を緩める。

 

 「あ、ごめんそれだけは許して」

 

 海兵隊員はやっと『いやだって』と言うのをやめる。

 

 「さて・・・司令官がこの様子じゃ、これ以上話を聞けそうにないな」

 

 先ほどまでずっと話を聞いていた海兵隊員の一人が言う。

 

 「一体どうしたものか・・・」

 

 海兵隊員達は悩む。

 

 「一回落ち着いてからまた作戦内容聞けばいいでしょ」

 

 「それもそうだな」

 

 司令官の発狂により、それが収まるまで一旦作戦実行は待たれることとなった。

 



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第26話:発令!オペレーション シュガール第一段階(2) v0.0

_数時間後

 

 

 「ふぅ・・・。なんと言うか・・・つい取り乱しちまったな」

 

 救護テントの中にあるベッドに寝ている状態の司令官はそう呟く。発狂した司令官を連れてきたときは衛生兵も困惑していた顔だったが、放置してしばらくすると治っていたそうだ。

 

 「とにかく、だ。作戦実施が遅れている。お前達にはすぐに敵帝都もどきへと向かってほしい」

 

 司令官は落ち着いた口調で言う。

 

 「すでに河口付近に小部隊河川舟艇《SURC》2艇が整備・物資積載を終えて置いてある。それに乗って早く行け!・・・それとお前、作戦実行中にしくじるなよ」

 

 司令官は自信を発狂させた海兵隊員を睨みつけながら言う。

 

 『了解!』

 

 屈強な肉体を持つ海兵隊員達は救護テントを出るとすぐに迷彩服へと着替えないとビジョンを装着、河口付近に繋留されているらしい小部隊河川舟艇《SURC》2艇へと向かう。

 

 

_数分後

 

 

 「お、来たな」

 

 マルティン達海兵隊員はサプレッサー付きのMX-8を手に持ちすでに用意された小部隊河川舟艇《SURC》の内の1隻へと乗り込み、最後の海兵隊員の到着を待っていた。

 

 「すまねぇすまねぇ。ちょっと遅れちった」

 

 その海兵隊員は言う。顔をよく見ると、司令官を発狂させた人物だと言うことがすぐにわかった。

 

 「・・・またお前か・・・」

 

 マルティンは彼に呆れた様子で言う。

 

 「ともかく行くぞ」

 

 海兵隊員の一人がエンジンを動かし、迷彩服を着た男達は周りが木々に囲まれた川を静かに上り始める。

 

 

_数分後

 

 

 「・・・なぁ、お前、なんて名前なんだ?」

 

 周囲を警戒しながら川を上る中、司令官を発狂させた海兵隊員に聞く。

 

 「俺の名前はラモスさ。以後よろしく」

 

 ラモスは小声で答える。

 

 「そうか・・・ラモス。絶対にこの作戦で足を引っ張るなよ」

 

 マルティン忠告の意を込めてラモスに告げておく。

 

 「わかってるって」

 

 わかってなさそうな声でラモスは答える。

 

 ガサガサッ・・・

 

 『!!』

 

 海兵隊員達はすぐさま銃口を物音のした方向へと向ける。

 

 「・・・船止めろ」

 

 海兵隊長の声でエンジンが停止する。

 

 「・・・動物か?」

 

 緑のフェイスペイントをした海兵隊員は呟く。

 

 「・・・なんだったのかはわからんが・・・すぐにここから離れるぞ。エンジン始動させろ」

 

 海兵隊長の一声で再び海兵隊員達の乗る2艇の小部隊河川舟艇《SURC》は進み出す。

 

 「・・・ふぅ。全く、神経使うぜ」

 

 ラモスは大声で言う。

 

 「お、おい馬鹿ッ!声大きいぞ!」

 

 マルティンはとっさに注意するがどうやらラモスには聞こえていない様子である。

 

 「とっとと敵部隊出てくりゃいいのになー」

 

 海兵隊員達は思った。こいつとともに作戦行動すれば絶対失敗する、と。

 

 「なんでこいつと一緒なんだかなぁ・・・」

 

 海兵隊員達はそう思いながらも、敵帝都らしきものへと向かい続けるのだった。



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第27話:発令!オペレーション シュガール第一段階(3)v0.0

_川を上り始めてから数時間後

 

 

 辺りが暗くなり、人気も何も感じられない川を海兵隊員達は未だに進んでいる。

 

 「それで?あとどれくらいで着くんだ?」

 

 海兵隊長は懐中電灯を口にくわえて地図を見ている海兵隊員の一人に聞く。

 

 「この調子だと・・・えーっと・・・待ってください」

 

 腕時計の時刻を確認したあと、再度口を開く。

 

 「あと2時間ほどですね」

 

 「そうか、わかった。ありがとうな」

 

 「いえいえ」

 

 海兵隊長らは周辺警戒に戻る。

 

 「そろそろ腹が減ってきたな・・・」

 

 ラモスは『空腹でたまらないです』と言いたげな顔で呟く。

 

 「それもそうか・・・よし、交代で飯を食え」

 

 海兵隊長はそう言うと、小部隊河川舟艇《SURC》に積まれている戦闘糧食を手に取り、ラモスとマルティンへと投げる。

 

 「どうも」

 

 ラモスは一言言うと、ほんのり輝く電灯の下で戦闘糧食のパックを開き中に入ったパンやにかぶりつく。

 

 「やっぱり味が薄いなぁ・・・」

 

 「仕方ないだろ。それに今は新しい戦闘糧食を製作する余裕なんてないし」

 

 同じく戦闘糧食を食べるマルティンは納得しているような口調で言う。

 

 「・・・っと、そうだ。水ある?」

 

 ラモスはよほど空腹だったのかパンを一瞬で食べ終わり、粉末ジュースの入ったパックを手に持ち聞く。

 

 「水そこらへんにあんじゃん」

 

 マルティンは辺りの川を見渡しながら言う。

 

 「いや・・・そうだけど・・・」

 

 「あーあ・・・仕方ないな・・・」

 

 マルティンは持参した水の入った水筒をラモスめがけて投げつける。

 

 「どうも」

 

 投げつけられた水筒をキャッチしたラモスは紙コップの中に粉末ジュースと水を入れて一気に飲みこむ。

 

 「いやー満腹満腹」

 

 ラモスは一言そう言うと、MX-8を構えて周辺警戒を再開する。

 

 「そう言うところはちゃんとするんだな、お前」

 

 フェイスペイントをした海兵隊員が一言ラモスの聞こえるところで呟く。

 

 「うるせぇよ」

 

 「さて、仕事だ仕事。集中しろよ」

 

 マルティンは気が緩んでいそうな隊員に言う。

 

 「わかってるって」

 

 

_1時間後

 

 

 「・・・おい。これちょっとまずくねぇか?」

 

 川の先に火が放つ明かりが見える中、川岸で停止した海兵隊員の一人が呟く。

 

 「あぁ、まずいな」

 

 「一体どうするんだ?」

 

 「突破するしかないだろ」

 

 目と鼻の先に敵兵がいる可能性があるので海兵隊員達は議論しているが、一向に方針が定まりそうにない。

 

 「バレて敵の帝都もどき付近に展開できなかったら作戦失敗しそうだぜ?」

 

 海兵隊長は『うーむ・・・』と言いながら悩む中、変化が起こる。

 

 バシャンッ・・・

 

 「お、おい!ラモス!何してるんだ!」

 

 ラモスがMX-8片手に小部隊河川舟艇《SURC》から降りたのだ。マルティンは小声で止めようとするがラモスに止まる気配はない。

 

 「いや何って・・・どちらにせよ突破するしかないんだったら敵を倒すしかないでしょ。それにほら、川も浅いし」

 

 ラモスはそう告げると、静かに明かりのある方向へと歩いていく。

 

「ったく・・・独断専行はダメだと思うんだがなぁ・・・。まぁいい、あいつについていくぞ!」

 

 ラモスの半ば独断専行により、海兵隊員達は明かりを放つ場所へと向かう。



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第28話:発令!オペレーション シュガール第一段階 (4)v0.0

 ダーダネルス帝国帝都まで通じる川で、数名の海兵隊員が川の中を歩きながらクリアリングを行なっている。

 

 『・・・クリア』

 

 無線越しに海兵隊員の無機質な声が聞こえる。

 

 「こっちもクリア・・・っと」

 

 マルティンも呼応するように周辺の安全確認を行う。

 

 「・・・よし、もうそろそろだな」

 

 マルティンは呟く。謎の光の発生源がもうすぐ確認できる距離まで近づいているからだ。

 

 『全員ナイトビジョンゴーグルを装着しろ』

 

 海兵隊長の命令が無線を通して周囲警戒をしながら進む海兵隊員達全員に伝わる。

 

 「・・・了解」

 

 マルティンは銃を構えた状態でヘルメットに取り付けられたナイトビジョンゴーグルを展開する。

 

 「・・・一面真緑だな」

 

 マルティンはへんなことを呟きながらクリアリングを続ける。

 

 『全員止まれ。敵を確認した』

 

 海兵隊長が静かに言う。それに呼応するように海兵隊員達も歩みを止める。

 

 『確認できるか?この先、だいたい100メートル先だ』 

 

 川の周辺に生い茂る草を手で払い、川の先を見る。

 

 「こちらマルティン、確認した。どうぞ」

 

 『敵兵は・・・だいたい十人くらいか。検問のようなものだと考えるのが妥当だな』

 

 海兵隊員達の目線の先には全木造の川岸に建てられた小屋と桟橋、小さな船が係留された桟橋の併設された施設が確認できる。小屋の中にはおそらく8名、桟橋の上には2名がいる。

 

 『どうする?敵は俺たちに気づいてないみたいだが・・・』

 

 海兵隊員の一人が海兵隊長に指示を仰ぐ。

 

 『どちらにせよ俺たちはここを通るしか道はない・・・全員、一旦岸に上がれ。陸上から攻めるぞ』

 

 『了解』

 

 海兵隊長の指示で海兵隊員達は川から上がり陸路で敵施設を取り囲むように展開する。

 

 「こちらマルティン、展開完了。いつでも動ける」

 

 無線で展開を終えたことを海兵隊長に伝える。

 

 『よし、間を詰めろ。確実に射撃できる距離になれば奴らを撃て。絶対に逃がすなよ』

 

 『・・・了解』

 

 海兵隊員達は見つからないよう中腰で、銃を構えた状態で徐々に小屋との距離を詰めていく。

 

 「隊長、そろそろ撃ちますか・・・?」

 

 マルティンと小屋との距離はすでに5メートルを切っている。

 

 『各員射撃位置についたか?』

 

 海兵隊長は隊員達に最終確認をする。

 

 『・・・よし、各員射撃開始。生きて返すな』

 

 パシュパシュシュシュシュッ・・・

 

 海兵隊長の射撃開始の合図とともに隊員達の持ったMX-8が火を噴く。サプレッサーをつけたことにより発生する独特な音が鳴り響き、それと同時に小屋に使われている木材やガラスの破損する音、人のうめき声がミックスされたものが辺りを包み込んでいく。

 

 『こちらラモス。桟橋の敵を全て排除した』

 

 ラモスはいち早く報告を行う。

 

 「あいつ・・・手際がいいな・・・」

 

 ホロサイトを覗き小屋へ向けて発砲する中呟く。

 

 「・・・制圧完了か?」

 

 ホロサイトを覗くのをやめ、小屋を凝視する。

 

 『小部隊河川舟艇《SURC》班はすぐにこっちまで来い。射撃していた隊員は小屋にいた敵の生存確認を行え。生きている奴がいたらすぐに息の根を止めろよ』

 

 『了解』

 

 海兵隊員達は銃を両手に持ち走りながら小屋へと駆け込む。

 

 「小屋の中は・・・ミンチよりもひでぇや」

 

 小屋の中には木くずや敵の血がいたるところに飛び散り、窓にはめ込まれていたガラスが散乱していた。

 

 「生存者は・・・いないな」

 

 一人ずつ脈の有無を確認しながら呟く。

 

 「こちらマルティン。小屋の中の敵は全て死んだ模様」

 

 『でかした!すぐに小部隊河川舟艇《SURC》へ乗り込め。新手が来る前にここを離れるぞ』

 

 「了解」

 

 マルティンは小屋から出ると、すぐそばにある桟橋に向かう。桟橋の端っこの部分には先に到着していたのか、小部隊河川舟艇《SURC》がすでに待機している。何人かの海兵隊員はすでに小部隊河川舟艇《SURC》へ乗り込んでおり、この調子だとすぐにここから出発するだろう。

 

 「マルティン、戻りました」

 

 マルティンは小部隊河川舟艇《SURC》に乗り込むと、中で待機していた海兵隊長に報告を行う。

 

 「・・・よし、もう他にはいないな?」

 

 海兵隊長は確認する。

 

 「ラモスがまだ来ていません!」

 

 「っくそ・・・あのバカ!」

 

 海兵隊長は周囲を見渡す。

 

 「来たか・・・」

 

 桟橋の上を走りながらラモスが 小部隊河川舟艇《SURC》へと向かってくる。

 

 「ま、また遅れちまった!すまねぇ!」

 

 海兵隊長はラモスの様子を見て呆れた顔で言う。

 

 「ったく・・・時間が命だ。頼むから遅れないでくれ」

 

 懇願にも似たような声で海兵隊長は言う。

 

 「わかってますって」

 

 ラモスは反省していないような声で言う。

 

 「本当にわかっているんだか・・・。とにかくエンジン動かせ!すぐにずらかるぞ!」

 

 小部隊河川舟艇《SURC》のエンジンが動き出す。

 

 「いけいけいけ!最大船速だ!」

 

 海兵隊長は小部隊河川舟艇《SURC》を操縦している海兵隊員を急かす。

 

 「ば、バレますって!」

 

 「今はとにかく離れることが重要なんだ!」

 

 「・・・話聞いてくださいよ!」

 

 小部隊河川舟艇《SURC》を操縦する海兵隊員は仕方ないなぁ、と言うような顔で船の速度を上げる。

 

 「よしよし・・・」

 

 

_1時間後

 

 

 「海兵隊長!敵帝都らしきもの、確認しました!」

 

 周辺がすっかり真っ暗になった中、海兵隊員が少し控えめな声で言う。

 

 「よし!そこらへんの川岸に着岸しろ!船の欺瞞工作を行ったのち森の中に展開するぞ!」

 

 『了解!』

 

 海兵隊隊員達の乗る2艇の小部隊河川舟艇《SURC》は壊れない程度の速度で川の岸へと乗り上げる。

 

 「よしよし!すぐに荷下ろしだ!迷彩ネットもきちんとかけておけよ!」

 

 海兵隊員達は迅速に行動し、作戦機材の荷下ろしを開始する。

 

 「間に合ってくれよ・・・」

 

 海兵隊長の願い通り何事もなく荷下ろしは終了。船の欺瞞工作も終了し彼らは上陸部隊司令部からの第二段階発令報告を待つこととなる。



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第29話:束の間の休息 v0.0

_時間は戻り異世界転移から2ヶ月と少し、エルディアン共和国東部方面地方軍管轄飛行場

 

 まだ日が昇ってそう時間が経っていない午前5時。この飛行場の滑走路上では、整備兵やパイロットなどがあっちに走りこっちに走りの状況でいる。なぜなら、本格的な敵本土攻撃作戦を敢行するために集められた超巨大な飛行艇が30機も駐機、その整備などに追われているからだ。

 

 「いやー・・・なんと言うか、圧巻だな」

 

 オペレーション シュガール第二段階の指揮を任された作戦指揮官ドミンゲスはその航空機の圧倒的な存在感に圧倒されて呟く。

 

 飛行場のハンガーにも収まりきらないほど大きな航空機の名前はUBV-20。全長50メートル、全幅67メートル、全高11メートルのこの正真正銘の化け物は2000馬力の16気筒水冷エンジンを並列に連結した合計で4000馬力を発揮する2重反転仕様のPP402エンジンをなんと6基も搭載し、試験機の段階でなんと最高時速650キロ超えを記録している。これだけの大馬力エンジンを6基も搭載しているのでその爆装量も化け物で、プロペラ機としては規格外の7トンも積むことができる。しかもこれが、飛行艇なのだから更に驚きだ。

 

 またこの機体はフロートとランディングギアの両方を所持しており、会場・地上どちらでも運用が可能である。そんな怪物が現在この飛行場に数十機もいると言うのだからさらに驚愕である。国内でも有数の大きさを誇る飛行場だからできた技だろう。

 

 「でもこれ・・・試作止まりだったんじゃ・・・」

 

 ドミンゲルの隣にいる今回の作戦補佐官ロメーロはそっと耳元で言う。

 

 「それがどうやら、軍務担当大臣が秘密裏に開発を続けていたらしいのさ。あの人の側近、下手すれば降格処分になるって騒いでたぞ?」

 

 ドミンゲルは呆れた声で言う。

 

 「・・・まぁ、結局こうやって使うことになったんだし、損はないか。さ、作戦指揮センターに戻るぞ」

 

 ドミンゲルはロメーロにそう告げると、一人作戦指揮センターへと歩いて行く。

 

 「あっ、ちょっと!待ってくださいよ!」

 

 ロメーロもドミンゲルについて行く形で作戦指揮センターへと向う。

 

 「作戦実行はいつでしたっけ・・・?」

 

 作戦指揮センターへと向かう途中、ロメーロはとぼけた顔で言う。

 

 「おいおい・・・まさか忘れたのか?」

 

 ドミンゲルは袖をまくしあげて腕時計の差す時間帯を見ると、再度口を開く。

 「今が5時だから・・・作戦実行は8時だな。だから後3時間ある」

 

 「後3時間・・・ちょっと飛行場内にある売店でスナックでも買ってから行きませんか?」

 

 ロメーロはドミンゲルにスナックを買わないかと誘う。

 

 「いやいや・・・そんな時間もう無いだろ。それにすぐ作戦内容の最終確認が始まる」

 

 答えを聞いたロメーロは残念そうな顔をする。

 

 「・・わかったよ。作戦の最終確認が終わったら行こう」

 

 ロメーロの顔は一転し、子供のような無邪気な顔へと変化する。

 

 「さ、着いたぞ」

 

 ドミンゲルは巨大な四角い迷彩柄の作戦指揮センターの正面入り口に着いたことを伝えると、警備兵にドアを開けるよう指示する。

 

 「ご苦労」

 

 警備兵にそれだけ伝えると、ドミンゲルとロメーロの態度は先ほどと打って変わりやれる系上司感を出して作戦指揮センターへと入り込む。

 

 「やっと来たか・・・」

 

 作戦指揮センターの中に入り込むと、すぐに爆撃部隊指揮官たちが現れる。

 

 「遅れてすまない。それじゃ、始めようか」

 

 ドミンゲルが一言言うと、爆撃部隊指揮官たちの真ん中に置かれた机に兵士が巨大な衛星写真を広げる。

 

 「この衛星写真を見てもわかるように、敵の工業施設及び帝都防衛基地のようなものを数十機のUBV-20を3班に分けて爆撃してもらう。まず敵西海岸に位置する最大規模の工場地帯を爆撃するのはUBV-20を15機連れたアヌビス部隊だ」

 

 ドミンゲルは衛星写真に移された西側にある巨大な工業地帯を円で囲む。

 

 「続いて南に位置する工業地帯だ。こっちは・・・まぁ、規模が最小だから5機編成のアペプ部隊が爆撃すればいいだろうな」

 

 ドミンゲルは円で工業地帯を囲む中呟く。

 

 「そして一番重要なのがスカラベ部隊だ。君たちには帝都周辺に点在する帝都防衛施設の破壊を頼む」

 

 スカラベ部隊の指揮官はそっと頷く。

 

 「尚、本作戦には勿論護衛戦闘機が各爆撃部隊を護衛する。損耗は絶対にするなよ」

 

 『了解!』

 

 「それでは解散!」

 

 ドミンゲルの解散の合図とともに各爆撃部隊の指揮官はそれぞれの持ち場に戻り部隊の最終チェックを行う。

 

 「さ、ロメーロ。スナック買いに行くか」

 

 「そうだな」

 

 作戦指揮センターの壁にかけられた時計は午前6時を示している。まだ時間的余裕はあるだろう。

 

_数分後

 

 「お前、何にする?」

 

 ドミンゲル一行は基地内に設けられた売店に着いたので何を買うか決める。

 

 「うーん・・・そうですね・・・」

 

 売店で作戦指揮官が二人仲良くスナックを買っているのを怪しげに見る基地要員たちの目が辛いが、スナックのためには致し方ないことだ。

 

 「じゃぁこのチリッペッパーポテイトゥで」

 

 ロメーロは買うスナックを決めると、売店員に代金を払い真っ赤の袋に梱包されたチリイペッパーポテトゥを受け取る。

 

 「お前凄いの選ぶな・・・」

 

 ドミンゲルは売店の横にあるベンチに座り喜んだ顔で世界最辛と名高いチリペッパーポティトゥを頬張るロメーロに呆気を取られる。

 

 「そうですかね?」

 

 あっという間にチリペッパーポティトゥを平らげたロメーロはあっさりと言う。

 

 「いや絶対お前口の構造人間じゃねぇよ・・・。あ、自分はこのソルトォカラァイィで」

 

 ドミンゲルは塩分1g配合のいたって普通なポテトチップスを買ってベンチへと座る。

 

 「やっぱり、王道が一番だよ、王道が」

 

 その言葉が気に食わなかったのか、ロメーロはドミンゲルの発言に反論する。

 

 「いやいや!キテレツフードが一番です!」

 

 「あのなぁ・・・キテレツフードを平気で食えるお前がおかしいんだよ」

 

 ドミンゲルはロメーロに向かって呆れた口調で言う。

 

 「・・・まぁ、それもそうですね」

 

 ロメーロはそう言うと、チリペッパーポティトゥの梱包袋をゴミ箱に投げ入れる。

 

 「さ・・・これから忙しくなるんですし、残りの時間は自由に行動しますか!」

 

 ロメーロは服を整えた後言う。

 

 「それもそうだな。それじゃ、また後で会おう」

 

 ドミンゲルはソルトォカラァイィを食べ終わりゴミ箱へ丸めて捨てる。

 

 「自分はコーヒー片手にインターネットでも見てるかなぁ・・・」

 

 ロメーロを見送った後、ドミンゲルはそう呟くのであった。



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第30話:第12回列強及び準列強間会談

_聖アレキアス帝国、国家間会談堂

 

 

 現在この会談堂には、三年に一回しか行われない列強及び準列強間会談へと出席するためにやってきた総勢30名もの首脳陣や外務機関連の名だたるトップが集まっている。

 

 

 「それではこれより、第12回列強及び準列強間会議を行いたいと思います」

 

 天井から吊り下げられた電球が彼らの体をほんのり照らす中、ひときわ目立つ服を着てヒュドラが二匹象られた国旗を背に玉座に座る司会でもありこの国の長、聖アレキアス帝国聖帝アーカイドは重々しい口調で告げる。

 

 「まずはここ最近の第五文明大陸の情勢についてです」

 

 聖帝がそう告げると、どこからともなく彼の配下が現れて各首脳陣らに質の良い紙が配布される。

 

 「ここ最近、あの土地では紛争が多発していると聞きます。あの地域はヴァルティーア帝国が管理すると聞いたのですが・・・一体どうなっているのですか?」

 

 聖帝は自分の疑問をヴァルティーア帝国から派遣された外交大使ド・ラグノフへと投げかける。

 

 「ダーダネルス帝国が最近暴走を繰り返しており、もはや我々にはどうしようもなくなっているのです。他国への侵略行為を中止するように求めても、彼らは口々に『蛮族蛮族蛮族蛮族お前ら蛮族な』とばかり言い、まともに取り合うことができないのです。今回来たのは、暴走し続けるダーダネルス帝国を列強・準列強共同で止めたい、と言う皇帝陛下の意向もあるのです」

 

 外交大使ド・ラグノフの答えを聞いた聖帝は、この問題をどう対処するかで悩む。

 

 「滅多にこの会議に参加しない貴国が参加した理由はこれですか・・・」

 

 聖帝はさらに悩む。別にダーダネルス帝国を止めると言うことはこの国の国力をもってすれば力づくであろうと何を使おうと簡単だ。だが問題は、他の国家がそれについてくるか、である。下手な行動に出てヘマをすれば、せっかく作ったこの列強及び準列強会談はすぐに分裂、国際協調の意味がなくなってしまう。

 

 「聖帝殿、発言許可をもらいとうございます」

 

 奥の席に座っている首脳の一人が手をあげる。聖帝の手前に行けば行くほど文明基準が高い証拠。おそらく準列強国だろう。

 

 「よろしい。一体どうしたのだね?」

 

 その大使は席を立ち一礼すると、口を開く。

 

 「先ほど話にも出て来た・・・ダーダネルス帝国からの侵略に怯えながら過ごす国・・・ムベガンド王国の者です」

 

 聖帝はそこで聞き覚えがある国だ、と感じる。確かムベガンド王国は島国であり、世界で唯一、リヴァイアサンと共存関係にある国だったはず。海の破壊者とも言われるリヴァイアサンと共存する方法。海洋国家のみならずどの国もその方法を渇望しており、また軍事的、戦術的な幅も広がる。さらにダーダネルス帝国との距離は目と鼻の先にあり、彼の言うことが本当ならいつ侵攻されてもおかしくないだろう。

 

 「我が国の商人のが言っていた話なのですが・・・どうやら、その国は新興国・・・確か、『エルディアン共和国』と言う国との海戦に負けたらしいのです」

 

 その場に出席していた首脳陣らが騒然となる。確かにダーダネルス帝国は『他の国は全部野蛮』と言う文字だけが脳みそにインプットされた国だ。あの国の技術力はこの場にいるどの国と比べても劣ってはいるが、決して侮れない国だ。そんな国が、たかだか一つの新興国家に海戦で負けたと言う話。とても信じられない。一斉に慌ただしくなった会談の場に、ムベガンド王国大使はさらに追い討ちをかける。

 

 「事実、我が王国近辺に現れるダーダネルス帝国海軍の船は殆ど減った___というより、ゼロとなっています」

 

 会談は何故かヒートアップする。

 

 「そんなわけないだろ!いい加減にしろ!」

 

 ある国の大使はあまりにも常識はずれな話に怒り狂い、ムベガンド王国大使へと殴りかかる。配下の兵が間一髪のところで抑えたのでどうにかなったが、このような行動をする大使が増える前に一刻も早く止めさせなければならない。・・・はぁ、どうしていつもこうなるんだ。

 

 「静粛に!静粛に!」

 

 聖帝は大使たちをなだめようとしたが、その願いも叶わず会談堂には怒号と悲鳴が鳴り響くカオスへと化して行く。

 

 「せ、聖帝陛下ッ!早く退避をしてくだされ!この後は我々がなんとかします!」

 

 配下の兵が汗水を垂らしながら言う。

 

 「そ、それもそうだな・・・よし、一旦中断だ。我は退散と行くか」

 

 聖帝は先ほどの威厳ある声とは裏腹に、余裕を持った声で言う。

 

 「ったく・・・これで、『洗脳』は何回目だ」

 

 聖帝はそう呟き、隠し通路からそそくさと退出したのだった。



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第31話:破壊の予兆 v0.0

_午前8時

 

 

 午前8時を迎えた頃、作戦指揮センターはそれまでとの暇な様子からは打って変わって慌ただしい様子へと変化した。

 

 「管制塔より報告!アヌビス部隊全機離陸完了!全機及び護衛機と合流後敵工業地帯及び海軍基地の爆撃へと向かうとのことです!」

 

 その中に併設された今回の作戦コントロールセンターも例外ではなく、次から次へと舞い降りる情報の処理に猫の手を借りたいほどの様子だ。

 

 「さて・・・作戦開始か。オペレーションコントロール、離陸状況はどうなっている?」

 

 ドミンゲルは作戦コントロールセンタに置かれた巨大な液晶版を見ながらコーヒー片手にオペレーションコントロールに尋ねる。

 

 「現在離陸を終え、爆撃目標へと向かっているのはアヌビス部隊です!現在アペプ部隊が離陸を開始。アペプ部隊離陸終了後に最後尾、スカラベ部隊が離陸します!」

 

 オペレーションコントロールはヘッドフォンを右手で抑えてハキハキと答える。

 

「爆撃部隊の離陸は順調か・・・護衛機はどうなっている?」

 

 「護衛機は現在40機が離陸を終え、上空にて滞空中です。残りは・・・40機が現在離陸待ちです」

 

 「よし、わかった。指揮に戻ってくれ」

 

 「了解しました」

 

 オペレーションコントロールはすぐに執務へと戻る。

 

 「さて・・・中世の軍、とはいえ敵には航空戦力がある。護衛機が仕事をしなければ損害機だらけになってしまうな・・・」

 

 軍部から渡された情報を見た限りでは海軍のフライングパンケーキに滅多打ちにされたそうだが、それはただ敵が油断していただけなのかもしれない。注意して作戦を行わなければならないだろう。

 

 「・・・ま、心配事ばかりしていたら物事は進まないか」

 

 ドミンゲルはコーヒーを全て飲み込みゴミ箱へと捨てると、気分を一新し本格的な作戦指揮を開始するのだった。

 

 

_スカラベ0-1視点

 

 

 今日は俺たち爆撃機乗りにとって今戦争初の実戦だ。以前例外で敵軍に爆撃をした輩が居たようだがことごとく失敗したらしい。そのため、俺たちに失敗は許されない。俺たちの任務は戦略爆撃・・・らしいが、俺たちスカラベ部隊はどうやら敵帝都防衛部隊の基地を爆撃するらしい。

 

 「管制塔、こちらスカラベ0-1。機器チェック完了、いつでもいける」

 

 機長は無線機を取ると、管制塔へ準備完了を報告する。

 

 『こちら管制塔。現在アペプ部隊が離陸中。それまで待たれたし』

 

 管制塔からはすぐに無機質な声が返ってくる。

 

 「・・・了解」

 

 機長は無線機を元ある位置へと置くと深いため息をつく。

 

 「機長、ため息なんてついたらダメですよ」

 

 隣の操縦席に座る副操縦士は言う。

 

 「だってなぁ・・・俺たち、この世界に来てまだ一回も爆撃してないんだぜ?誰だって爆撃したい衝動を抑えられないさ」

 

 「機長は・・・いつもそう言いますね。何か思い出でもあるんですか?」

 

 まだ機長と出会って日が浅い副機長は遠慮せず聞いてくる。

 

 「・・・まぁ、いろいろあったのさ。いろいろ」

 

 機長はそれだけ言うと、コップの中に淹れたてのコーヒーをそそぎいれ、一気に飲み込む。

 

 「さぁ、そろそろじゃないか?」

 

 機長はそう言うと、コックピットからあたりの空域を見渡しすでに離陸したであろうアペプ部隊を探す。

 

 「・・・お、居たぞ」

 

 機長はそう言うと、コックピット越しに人差し指でアペプ部隊の見えた方角を指差す。

 

 「いつ見ても・・・でかいですね」

 

 副操縦士は一言、その大きさに圧倒されて呟く。おそらくアペプ部隊との距離は2キロ以上はあるだろう。それでも感じる、圧倒的な大きさ。これは今ここにいる人間と、これから爆撃される側しか感じることはできないだろう。

 

 『スカラベ0-1、こちら管制塔。応答されたし』

 

 無線越しに無機質な管制塔要員の声が届く。それに気づいた機長は慌てて無線機を取り、すぐさま返答する。

 

 「こちらスカラベ0-1、どうぞ」

 

 機長は一言言うと、すぐに管制塔から指示が届く。

 

 『こちら管制塔。先ほどアペプ部隊の離陸が完了した。離陸を許可する』

 

 「こちらスカラベ0-1、了解。各機順次離陸を開始する」

 

 機長はそれだけ告げると、無線機を定位置に戻す。

 

 「よし、副操縦士!エンジン始動!滑走路に移動したらスロットル全開にして飛び立て!」

 

 「了解!」

 

 コックピット内が慌ただしくなる。

 

 「エンジン始動、確認!」

 

 機内にエンジン始動後の『ブォォォォン』と言うような音が響く。

 

 「滑走路まで動かすぞ!スロットス少し上げろ!」

 

 副操縦士は機長の言葉に従い、スロットルを少し上げ、それによりこの巨大な機体は少しずつ動き出す。それに呼応するかのように、他の機体もエンジンが始動、移動を開始する。

 

 「滑走路に移動中か・・・」

 

 誘導員の誘導の元、総勢10機にも及ぶUBV-20は滑走路へと向かう。

 

 

_数分後

 

 

 「ラダーよし!フラップ良し!補助翼よし!」

 

 機長たちは機体の最終点検を行う。

 

 「管制塔、こちらスカラベ0-1。離陸する」

 

 機長は無線機を手に取ると、一言そう告げた。

 

 『こちら管制塔。・・・幸運を』

 

 管制塔要員はそれだけ告げると、即座に無線を切る。

 

 「副操縦士!スロットル全開!離陸だ!」

 

 「了・・・解ッ!」

 

 副操縦士はスロットルを全開に上げ、それと同時にエンジンの放つ轟音も一層大きくなる。

 

 「加速・・・してるな!」

 

 速度計を機長は覗き込み、一言つぶやいた。

 

 「よし!フラップ展開!」

 

 機長は主翼に取り付けられたフラップを展開する。

 

 「速度、100・・・200・・・300!」

 

 急加速によるGが体にだんだんかかってくる中副操縦士は100キロ刻みに告げる。

 

 「機体上げろ!」

 

 コックピット内に『ぬぅぅぅぅぅぅっ!』と言うなんとも汚そうな声がエンジンの放つ轟音に負けじと響く。それと同時に機体がふわっ、と浮き上がる。

 

 「や、やっぱりこの機体舵おもぃぃぃぃぃぃぃぃっ!」

 

 機長は唸り声をあげながらも必死に操縦舵を引き続ける。

 

 「・・・よしっ!ランディングギア格納ッ!」

 

 機長の合図とともに、機体内部にランディングギアが格納され、空気抵抗が少なくなる。

 

 「・・・ふぅ。やっぱり4000メートル級の滑走路って、いいな」

 

 続々と僚機が飛行場から上る中、機長は敵帝都防衛施設のある方向へと機首を向けて呟くのだった。



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第32話:破壊の宴(1) v0.0

_離陸から数分後

 

 「機長、全機離陸完了。これより変態ごっこをするとのことです」

 

 副操縦士はコックピットから周りを見て編隊を組んでいるのを確認した後、さらっとまずいことを言う。

 

 「副操縦士・・・それは『へんたい』違いだ。・・・お前は小学生じゃないんだぞ?」

 

 機長はすぐに指摘し、訂正するように求めるが副操縦士は何も気づいて居ないらしい。

 

 「・・・はぁ。さて、そろそろ護衛機が編隊に追加される頃合いか?」

 

 機長は腕時計で時刻を確認した後、コックピットから周囲を見渡す。

 

 「おかしいな・・・そろそろ出て来てもいいと思うんだが・・・」

 

 目視で確認できる範囲をコックピットから見渡すが、護衛機と思われる機影はどこにもない。

 

 「管制塔・・・嘘ついたわけじゃないよな・・・」

 

 その時、突如として機内にUBV-20のものとは違う、レシプロエンジンの轟音が響く。

 

 「お、どうやら来たみた・・・は?」

 

 機長は轟音を聞居た後外を眺めた瞬間、自分の目を疑い腕からコーヒーの入っていたカップを落とす。確かに、先ほどの轟音を機内に響かせたのはまぎれもない護衛機だ。事実、コックピットの外にそれは飛んでいる。だが、問題はそこではない。明らかに形が機長の知る航空機ではないのだ。

 

 「なぁ・・・副操縦士」

 

 機長は力の抜けた声で、副操縦士を呼ぶ。

 

 「はいはい、なんでしょう?」

 

 機長の左に座る副操縦士は操縦舵を両手に握り、機体正面を向いた状態で言う。

 

 「ちょっと俺の頰・・・抓ってくれないか?」

 

 副操縦士は声をかけられた理由を知り、少し意外だな・・・Mなのか?と心の中で思う。

 

 「いいですけど・・・」

 

 副操縦士はそう言うと思いっきり機長の頰をつねる。それでも未だに、コックピットから見える正真正銘の変態兵器に気づかない。

 

 「あ・・・あれは・・・本物か・・・」

 

 機長は驚愕のあまり呟く。

 

 「・・・さっきから、一体どうしたんですか?顔色悪いですよ」

 

 副操縦士は何食わぬ顔で機長に尋ねる。

 

 「いや・・・ほら・・・」

 

 機長はゆっくりと右手で機体右を飛行する護衛戦闘機を指差す。

 

 「どうした・・・え」

 

 副操縦士はその機体形状を見て口が開きっぱなしになる。

 

 「き、機長・・・あれって・・・」

 

 副操縦士はその機体形状に見覚えがあるのか、ゆっくりと口を開く。

 

 『『変態機だ!』』

 

 機長・副機長は口を揃えて大声で言う。機体右側には、俗に言うテイルシッター式(立てた状態で地面に置かれるタイプの機体)のダクテッドファンの中心軸に胴体をぶっ刺した設計である変態機が飛んで居た。それも、1機や2機じゃない。護衛機全てが、変態機だ。

 

 「こ、こんな奴らが護衛機なのか・・・?」

 

 機長は何度も変態機を凝視する。タクテッドファンの外縁部に3発ほどミサイルのようなものがついているのでおそらく制空戦闘はできるのだろう。それでも、いくらなんでも不安すぎる。

 

 「き、機長。俺たちあんな変態機に命預けていいんですかね?」

 

 副操縦士へと振り向くと、汗水をだらだらと流し眼は完全に泣きかけのそれだ。

 

 「き、きっと安全性が高いんだろ・・・。きっと助かるさ」

 

 機長はそういったが、本人としては自信はない。あの変態機に乗るパイロットの腕に任せるしかないだろう。

 

 「せめてもう少しマシなやつが良かったなぁ・・・」

 

 機長はそれだけ呟くと、変態機に気を取られないよう操縦へと専念するのだった。

 

 

_ダーダネルス帝国 帝都ディオニス 西部方面司令部

 

 

 「・・・嘘だといってくれ」

 

 西部方面司令官ゲラウスは西部方面司令部の執務室で椅子にもたれかかり、伝令兵から受け取った紙を見ていた。

 

 「いくらなんでも、これは嘘だ」

 

 ゲラウスの持つ紙には、第一西部工業地帯及び海軍基地がたった1隻の軍艦により沈められたと言う報告が記してある。

 

 「確かに、デルタニウス王国攻略軍のほとんどは現状敗北しているが・・・。いくらなんでも、現実的じゃなさすぎる」

 

 敵軍が工業地帯に上陸して来たのなら、まだ話はわかる。だが、あそこには海軍基地がある。そう簡単に上陸できるような場所ではない。

 

 「本当・・・ここ最近はおかしなことばかり起こるな・・・」

 

 おそらくここ最近の長時間勤務の疲れが体に出ているのだろう。ゲラウスは紙を放り投げると、執務机に置いてあるコップの中に注がれた『こぉひぃ』と言うものを飲む。これを飲むと疲れが吹き飛ぶので、ここ最近は疲れた時にはいつも飲んでいる。

 

 「・・・ふぅ。一体・・・皇帝陛下の望みとは何なのだろうか」

 

 『こぉひぃ』の注がれたカップを右手に持ち、窓から外を眺めながら言う。朝だと言うのに外には数多もの人々が行き来しており、まるで帝国の繁栄を記しているかのようだ。

 

 「ここ最近は各方面でも苦戦していると聞くが・・・」

 

 各方面軍司令部の話によると、ここ最近の野蛮国家は次々と巨蟲兵や陸戦型竜兵隊を前線に投入していると言う。現状では2正面作戦もいいところなので、いい加減終わらせたいと各方面軍司令官は言っていた。

 

 「まぁ、この帝国は少なくともこの大陸では無敵・・・。そう簡単に負けることはないか」

 

 ゲラウスは『こぉひぃ』をグビッ、と一気に飲み込むと、本日の執務を開始した。

 

 

_離陸から2時間と少し、海峡を越えた頃のスカラベ0-1

 

 

 

 「さて・・・そろそろ海は越えた頃か」

 

 機長はコックピットから周辺を見渡して言う。

 

 「そうですね・・・もう一度敵帝都防御施設の位置を確認しますか?」

 

 副操縦士は機長に尋ねる。

 

 「そうだな。衛星写真を持って来てくれ」

 

 「了解」

 

 副操縦士は一旦操縦席から離れ、コックピット後部に巻かれた状態で放置されて居た衛星写真を持って来て操縦席の前に広げる。

 

 「爆撃目標はこの帝都もどきの周辺10カ所に展開する基地もどきだな。編隊を組んで敵基地爆撃を行えとの御達しだ。言う通りにするぞ」

 

 機長はそう言うとコックピットに備え付けられた無線を手に取る。

 

 「全機、このまま編隊を組んで敵帝都もどき上空を飛行しろ。奴らに俺たちのおもちゃを自慢してやるんだ」

 

 『りょ、了解』

 

 こうして、スカラベ部隊は帝都上空へと進路を取った。

 

 

_帝都付近を哨戒中の竜兵部隊

 

 

 「あー・・・だる」

 

 愛騎のパルカスにまたがり、高度1000メートルを飛翔するためもふもふの獣の毛皮が使われた防寒着を着ている竜兵トリトスは付近に誰も居ないことを口実に呟く。

 

 「だいたい帝国はこの帝国では最強なんだ・・・わざわざこんなことしなくてもいいのになぁ・・・」

 

 トリトスは指定の哨戒ルートを毎日決まった時間に通ると言う何とも暇な任務を毎日のようにこなしている。個人的には前線で蛮族たちを焼き滅ぼしたいのだが、どうにも上司はそれを許してくれない。

 

 「さて・・・今日も司令部に報こ・・・うん?」

 

 そこでトリトスは空に何か違和感を感じる。

 

 「あれ・・・なんだ?」

 

 自分が飛んでいる高度よりも、圧倒的に上を飛行し無数の白い線を引く巨大な何か。それが今、確認できるだけでも十数個は飛んでいる。

 

 「なんだなんだぁ?」

 

 トリトスは首から吊り下げた単眼橋を手に取り、空を飛んでいる何かに向けて覗く。

 

 「う、うん・・・?」

 

 それは、不可解な形をしたものだ。最初は神龍とか巨蟲の類かと思ったが、よく見れば翼が動いて居ない。一体どう言うことだろう。

 

 「・・・ま、いいか」

 

 一体何なのかわからないが、おそらく害はないだろう。トリトスは今日見たものを同僚に自慢するため、哨戒を少し切り上げて早めに基地へと向かうことにした。



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第33話:破壊の宴(2) v0.0

_帝都まで20キロ地点、スカラベ0-1

 

 

 「機長。あと数分で敵帝都もどき上空です」

 

 「よし、わかった」

 

 無線を手に取り、回線をオープンにする。

 

 「全機、降下を開始しろ。高度500メートル上空を飛んでビビらせてやれ」

 

 副操縦士はそれを聞いて、驚愕する。

 

 「き、機長!それはまずいのでは!?」

 

 「なーに・・・安心しろ。そのための護衛機だ」

 

 機長はコックピット越しに見える変態機を指差す。

 

 「で、ですが・・・。幾ら何でも高度が低すぎます!迎撃されたらこの機体じゃひとたまりもありませんよ!」

 

 「ま・・・何とかなるさ」

 

 機長は開き直った顔で呟くと、機体操縦へと専念する。

 

 「・・・はぁ」

 

 副操縦士は深くため息をつくと、こちらも操縦に専念するのだった。

 

 

_数分後、帝都ディオニスの中心にそびえ立つ皇城

 

 

 玉座の後ろに配置された巨大な楕円状の巨大な窓ガラスが印象的な皇帝の間では、一人の男が玉座に腰掛け悩み込んでいる。

 

 「・・・儂は、疲れた」

 

 一人の男–––ダーダネルス1世は付近に誰も居ないことを確認すると、一言呟く。

 

 「一体、どうなっているのだ・・・?」

 

 昔々、まだダーダネルス1世が子供だった頃。彼の住んで居た国は、非常に貧しかった。度々他国からの攻勢も受け次々と領土を失い、その度民たちは困窮に陥った。そんなことも御構い無しに王族たちは毎日豪華な暮らしを過ごし、少しでも反感を抱けば即刻絞首刑となる。そんな世界だった。

 

 「確かに・・・国を発展させることはできた。そうなのだ・・・」

 

 もちろんそんなことを民たちは放っておくわけもなく、一瞬で革命が起きた。その時ダーダネルス1世は先陣を切って戦い、民たちと同じ、『平和で、安心できる暮らし』のみを求め、革命最終期にはトップにまで上り詰めた。彼はその後、己の持つ政治手腕を思う存分発揮し、次々と画期的な政策を打ち出した。

 

 「だがそれも・・・変わってしまった」

 

 そこでとんでもないことが起きた。今まで散々侵略行為をして来た国々。それらを併合することを民たちは渇望しだしたのだ。結局民を止める術はなく、この国は果てしなき戦争の道へと突入した。戦争が終わればまた次の戦争。さらに資源が困窮すればまた次の戦争を。それだけが続いた。そして、その日は遂に来てしまった。

 

「かの帝国・・・『ヴァルティーア帝国』。あいつには、勝てなかったな」

 

 皇帝はそう言うと、そばの丸机の上に置かれた常用の薬を飲み込む。

 

 「未だかつて見たことのなかった新兵器・・・あれに対処するため、数万、数十万もの人間が、兵士が死んだ」

 

 ヴァルティーア帝国の傘下の国に手を出してしまったと言う、最悪のミス。いくら工業力があれど決して埋まらない、圧倒的な技術差。どれだけ倒そうが無尽蔵に放り込まれる大量の人的資源《へいし》たち。どれもこれも、苦戦した。一つの街を攻略するのに、何千、何万もの兵士を失ったことさえあった。あまりにも大きな国力差を目にした民たちは主戦論から一気に反戦論へと変わり、何とか最後の最後で決定的打撃を与え、休戦に持ち込むことができた。

 

 「そして次は・・・デルタニウス王国か」

 

 まだ休戦して間も無く、戦争の傷も癒えて居ない時だった。ハイエナのごとき動きで突如として帝国領に侵攻したデルタニウス王国軍は瞬く間に占領地を拡大し、占領地にいた民たちはことごとく蹂躙・奴隷化された。それに大激怒した民たち、そして兵士たちは怒涛の勢いでデルタニウス王国軍を帝国領から退けた。

 

 「だが・・・それでは終わらなかった、か・・・」

 

 今度は民たちは、デルタニウス王国領の占領を渇望した。当然世論に太刀打ちすることは叶わず、デルタニウス王国攻勢へと傾くことになった。

 

 「それがどうだ・・・」

 

 デルタニウス王国攻略軍は謎の攻撃によりたった1日で撃退された。工場で大量生産した武器・船舶を用いて上陸するはずだった第二次攻略軍も、たった数隻の敵船と戦いにすらならず敗退した。

 

 「一体・・・どうすればいいのだ・・・」

 

 勝利の蜜の味を知ってしまった国民を止めることはできるのだろうか。そう思った時だった。

 

 ゴォォォォォォォォン......

 

 「・・・?」

 

 皇帝の間に響く、謎の音。

 

 「な、何だ・・・?」

 

 皇帝は虚ろな顔で玉座の後ろを振り向き、音のする方向–––窓ガラスのある方向を見る。

 

 「・・・・・・?」

 

 皇帝は目を細め、音のありかを探る。

 

 「・・・な!?」

 

 皇帝は玉座から立って、窓ガラスにへばりつく。

 

 「あ・・・あれは・・・何だッ!?」

 

 皇帝の目には、今まで見たこともないサイズの神龍のよう–––だが翼をはためかせていない、何かが見えて居た。

 

 

_帝都、市街地

 

 今まで一度も攻撃を受けたことがなかった街、帝都ディオニスに住む民たちはただひたすら、混乱していた。

 

 「は、早くしろッ!すぐにここから逃げるんだッ!」

 

 心の奥底まで刻まれた隣国の刻んだ虐殺の爪痕。ただそれだけが、彼らの心を突き動かしていた。

 

 「キャァァァァァッ!」

 

 「邪魔だ邪魔だ!どけ!どくんだ!」

 

 ある者は我先にと自前の馬車に家具その他諸々を大急ぎで積み込み馬に全速力で引かせ、ある者はそれに危うく轢かれそうになる。さらには騒ぎに乗じて盗みを働く輩まで出現していた。

 

 「い、いったい何が起こっているんだ!?」

 

 巨大な何かが発する爆音が町全体を響く中、その轟音を聞きつけて真っ先に西部方面司令部から飛び出て来た西部方面司令官ゲラウスはこの状況を読めずにいた。

 

 「へ、兵士は!?いったい兵士はどうしたんだ!?」

 

 治安維持を任された無数の警備兵たち。それすらも見つからない。

 

 「ま・・・まさか!逃げたと言うのか!?」

 

 最悪の結末を予想したゲラウスは、上空を轟音を発しながら悠々と飛行する未確認飛行物体を睨みつける。

 

 「・・・絶対に、逃がさないからな!」

 

 ゲラウスはそう言うと、再び西部方面司令部へと駆け込んだのであった。



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第34話:破壊の宴(3) v0.0

_ダーダネルス帝国帝都ディオニス、総合司令部

 

 

 煉瓦造りのきらびやかな施設であるここ、総合司令部内部では突如としてやって来た来訪者の対応に追われ右往左往している。

 

 「おい魔導師!すぐに第二帝都防衛基地に連絡だ!竜兵隊を上げさせろ!」

 

 未確認飛行物体の発する巨大な爆音に負けじと総合司令官が大きな声で言う。

 

 「は、はい!今すぐ!」

 

 ここに勤務している魔導師のほとんどは現在状況確認で手一杯で、よもやブタック企業のような雰囲気で魔導師たちはこき使われている。

 

 「ったく・・・哨戒騎は何をして居たんだッ!?」

 

 総合司令官は小声で呟く。本来なら哨戒騎が何かを発見した際、すぐさまどの方面司令部でもいいので報告する必要がある。それなのにあんな化け物の帝都上空審判を許すと言うのは、普通に考えておかしい。

 

 「第二帝都防衛基地より連絡!現在待機中の竜兵隊を全て離陸させているとのことです!」

 

 第二帝都防衛基地からの魔導電信を受け取った魔導師はすぐさま総合司令官に報告する。

 

 「迎撃できなかったら俺が死ぬんだ!頼むから仕事してくれよ・・・。俺はこれが終わったら結婚するんだからな!」

 

 総合司令官は泣き顔でそう呟くと、執務室へと入っていった。

 

 

_帝都上空、スカラベ0-1

 

 

 「機長・・・奇襲した方が作戦的には良かったんじゃないですか?」

 

 副操縦士は呆れた顔で機長に聞く。

 

 「戦争の早期終結にはこれが一番だって」

 

 機長は澄んだ顔で言う。

 

 「はぁ・・・」

 

 副操縦士はため息をついた後、ふとレーダーを見る。

 

 「・・・あ、敵航空戦力出現しましたよ。どうするんですか?これ?」

 

 「ん・・・まぁ、護衛機が何とかしてくれるんじゃないか?」

 

 そう言うと機長はすぐそばを飛行する変態機をチラッと見る。

 

 「そうですか・・・」

 

 こうなった以上、護衛機に命をかけるしかないだろう。

 

 「落とされないことを願っておきますね・・・」

 

 副操縦士はそう呟くと、機内後方のウォーターサーバーに水を取りに行った。

 

 

_変態機を操るパイロットの一人

 

 

 「お、やっと敵航空機のお出ましか」

 

 敵帝都上空に差し掛かった時から常にレーダーを見て居たが、やっと迎撃に来たようだ。レーダーには数百近い機影が映されている。

 

 『全機散開、高度優位を保ち一撃離脱にて駆逐しろ。落とされるなよ』

 

 小隊長が無線越しに言う。

 

 「はいはい・・・わかってますって」

 

 パイロットはそう言うと、操縦桿を手前に引き上昇を開始した。

 

 「・・・にしても、よくこんなものを作れるな」

 

 上昇する合間、パイロットは呟く。パイロットの乗っている機体の名はMDDV-1P。元の世界において『滑走路を必要しない航空機を作ろう!』と言い出した空軍司令官が専属のメーカーに作らせた代物だ。3000馬力の液冷エンジン2基を2重反転にし、胴体中央に無理やりダクデッドファンをくっつけ、何と最高時速は1300キロにまで達する。さらに横幅が狭く、サイロでの運用も可能となっている。武装はダクデッドファンの3箇所のハードポイントに空対空・空対艦巳申を搭載可能だ。試作型と言うこともあり、20ミリバルカン砲の搭載は運悪く見送られ代わりにただの20ミリ機関砲が一基機首部分に配置されている。

 垂直離陸機なので、期待は地面に着陸する時どうしてもケツを地面に向けて着陸しなければならない。それはあまりにもハードルが高すぎるので、この機体には最新の着陸姿勢制御装置が積み込まれ平地であれば楽々着陸することが可能となっている。

 

 「さて、高度3千メートル・・・か」

 

 パイロットはチラッと高度計を見る。

 

 「そ」

 

 パイロットは機体を水平に戻した後、レーダーで敵との距離を確認する。

 

 「相手との距離は残り10キロ・・・か」

 

 パイロットは一応コックピットから周囲を見渡す。相手はドラゴンだと聞いているので、もし一気でも落とせば勇者になった気分になれるだろう。

 

 『全機空対空戦闘用意。撃ち漏らすなよ』

 

 小隊長から無線が入る。

 

 「さて、やりますか」

 

 パイロットはそう言うと、赤外線誘導ミサイル発射トリガーを握る。

 

 「よし来い!」

 

 目標との距離が2キロを切った時だった。

 

 『全機降下!いけいけいけ!』

 

 小隊長のけたましい叫び声とともに、小隊機たちは敵航空戦力の圧倒的な量に臆することなく続々と降下を開始する。

 

 「ぬぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!」

 

 パイロットも同様に、空中分解を避けてスロットルを絞り操縦桿を前に倒す。重力に引っ張られ徐々に機体が加速していくことをパイロットは嫌でも肌身で感じる。それと同時に、敵に対する赤外線誘導ミサイルのロックオンも開始する。

 

 「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!」

 

 しばらくして『ピー』というロック完了の合図が機内に響く。

 

 「ミサイル発射ァッ!」

 

 ミサイル発射トリガーを引く。機体から切り離されたミサイルに取り付けられたロケットが点火する。マッハ4まで瞬時に加速したミサイルは、勢いよく敵団体様ご一行の方向へと向かって行った。



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第35話:破壊の宴(4) v0.0

_帝都上空、竜兵隊

 

 

 帝都防衛基地から離陸し、編隊を組んだ精鋭竜兵隊120騎は最大速力で帝都上空を悠々と飛行する敵の迎撃に向かって居た。

 

 「お前ら!悠々と飛行している蛮族に鉄槌を下してやれ!」

 

 『オォォォ!』

 

 帝都上空を飛行する総勢120騎にも及ぶ竜兵隊の隊長は魔導電信機越しに言う。

 

 「全騎火球発射準備!いつでも撃てるようにしろ!」

 

 聞けば今回の敵は飛行しているという。護衛の竜兵隊がいる可能性を危惧した隊長の指示の元、竜兵達の乗るジルニトラが口を開き、その中に火球が生成される。

 

 「よし!全騎突撃体制を作れ!・・・ん?」

 

 隊長が先頭に突撃体系を整えた時だった。

 

 シュゴォォォォォォォォ...ドォォォォォンッ!

 

 「ッ!?何が起きた!?」

 

 隊長の目に白い尾をひく光の矢が入った瞬間、すぐそばを飛行して居た竜兵などが一斉に鮮血と肉塊を散らして爆散した。

 

 「ぜ、全騎散開!回避行動を取れ!早くしろ!」

 

 隊長は味方騎にとっさに回避行動をするよう指示する。

 

 ドォォォォォンッ!

 

 「ま、またかッ!」

 

 100騎全てが花びらのように一斉に回避行動を開始した矢先、又しても光の矢が味方騎を穿ち一瞬にして爆散し、次々と消えていく。

 

 「い、いったいどうなっているッ!?」

 

 降下する合間、上空を見渡す。だが空には、何も居ない。

 

 「どうする・・・どうする・・・」

 

 隊長は必死に考える。

 

 『ま、また来たぞぉぉぉぉッ!』

 

 魔導電信機越しに味方騎の悲鳴が伝わる。

 

 「あ、あれか!」

 

 降下する合間、必死に回避行動をとる味方騎を確認する。

 

 「よ、避けろぉぉぉぉぉッ!」

 

 上からやって来た光の矢を、急上昇により味方騎は見事に回避した___はずだった。

 

 「な、なにっ!?」

 

 避けたと思った矢先、光の矢は進路を変更し又しても味方騎へと向かう。避けたと思って居た味方騎はどうすることもできず又しても爆散する。

 

 「い、いったいどうなっている!?あ、あれじゃ神話の・・・!」

 

 そう言いかけた時だった。

 

 ゴォォォォォォォォン!

 

 巨大な風切り音とともに、不可思議な形をした何かが数十個散開した竜兵隊たちの間を通過した。

 

 「あ、あれか!全騎あれを追え!敵討ちだ!」

 

 隊長はとっさに言う。

 

 『了解!』

 

 隊長の指示を聞いた竜兵隊たちは仲間の仇を討つという復讐心に燃え、下へと真っ逆さまに落ちていく何かを追う。

 

 『た、隊長ッ!一向に追いつけそうにないです!』

 

 魔導電信機越しに部下が言う。事実、現在絶賛降下中の敵を数十騎にまで減った竜兵隊が追っているが、一向に距離が縮んでいる気配がない。と言うよりも、引き離されているようにも見える。

 

 「そ、速力でこちらを上回っていると言うのかッ!?」

 

 隊長は驚愕する。少なくとも第五文明大陸においてジルニトラ以上に速度のある竜種はあの帝国以外は存在しないからだ。

 

 「く、くそっ!好き放題にやられてたまる・・・ん?」

 

 ふと6本の白い線を引く未確認巨大飛行物体が複数目に入る。おそらくあれが本命だろう。そう思った隊長は反射的に魔導電信機を手に取る。

 

 「全騎目標変更!あのデカブツを落とせ!」

 

 『了解!』

 

 竜兵隊たちは追尾を諦め編隊を組み直すと、再度上昇しデカブツに向かっていく。

 

 「全騎火球発射準備!射程に入ったらすぐに放て!」

 

 『了解!』

 

 隊長は不吉な笑みを浮かべていた。

 

 

_帝都上空、スカラベ0-1

 

 

 「ききききき機長!まずいですよこれ!」

 

 レーダーを見て居た副操縦士は、こちらに敵航空戦力が向かって来ているのを見て戸惑う。

 

 「・・・まずいな」

 

 正直機長も、ここまで敵航空戦力多いとは思って居なかった。

 

 「どうすればいいかなぁ・・・」

 

 機長は考える。

 

 「とにかく速力あげて護衛機が来るまで逃げるぞ!」

 

 「りょ、了解・・・」

 

 副操縦士はスロットルを上げる。その合間機長は無線機を手にとった。

 

 「全機進路変更!遊覧飛行は終わりだ!スロットル上げて一直線に第一目標まで向かえ!」

 

 機長は焦った声で言う。

 

 『りょ、了解・・・!』

 

 「機首右に向けるぞ!」

 

 「わ、わかりました!」

 

 機長と副操縦士は同時に操縦桿を右に倒す。それに呼応するかのように機体はゆっくりと右に向く。

 

 「あ、そうそう。副操縦士くん」

 

 機長は何か思い出した様子だ。

 

 「い、一体なんですか!?」

 

 一番忙しい今口を開くということは、それほど重要なことなのだろう。

 

 「俺、この作戦が終わったら結婚するんだ」 

 

 「・・・は?今なんと?」

 

 「だからさ・・・結婚するんだ」

 

 副操縦士は内心『あぁこれダメなやつだ』と思った。

 

 「そ、そうですか・・・」

 

 その時だった。

 

 ビィィィッビィィィッビィィィッ!

 

 「っ!?熱源感知!?」

 

 コックピット内に熱源感知のアラームが大きな音を立てて鳴り続ける。副操縦士と機長は慌ててレーダーを見ると、そこには驚愕のものが写って居た。

 

 「き、機体正面・・・敵です!」

 

 コックピット内が静まる。機体正面には無数の敵航空戦力と、火球のみが写っていた。

 

 「・・・そうか。いい人生だったな」

 

 機長は諦めた声で言う。

 

 「い、いや!まだ間に合いますって!すぐに回避行動を!」

 

 副操縦士は操縦桿を力強く握る。操縦するために機体正面に顔を向けた時だった。

 

 ガコンッ!

 

 「ッ!」

 

 機内に大きな衝撃が加わる。

 

 「ひ、被害状況報告!」

 

 機長は我に戻ったのか、汗水を身体中から垂らして言う。

 

 「だ・・・第二エンジン及び第四エンジン被弾・・・。出火確認・・・」

 

 副操縦士は絶望した様子で言う。

 

 「・・・そうか」

 

 機長は諦めた声で言うと、静かに消火装置を起動させた。

 

 「・・・鎮火する可能性に賭けるしかないな」

 

 エンジンから出火したスカラベ0-1は、徐々に高度を下げていった。



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第36話:破壊の宴(5) v0.0

_帝都上空、竜兵奇襲部隊

 

 「やったぞぉ!」

 

 第一次迎撃部隊戦闘後に到着した奇襲部隊である第二次迎撃部隊60騎の発射した火球が敵未確認飛行物体に見事直撃、徐々に高度を落としているのを見て士気は最高潮に達して居た。

 

 「この調子で・・・」

 

 バゴォォォォォンッ!

 

 突如として竜兵隊たちが爆散する。

 

 「い、いったい何が起きたッ!?」

 

 バゴォォォォォンッ!

 

 又しても竜兵が爆音とともに爆散した。どこからともなくやって来る死の恐怖に、竜兵たちは汗水を流す。

 

 「て、敵はどこから攻撃しているんだ!?」

 

 竜兵隊たちの間に動揺が広がり、編隊が乱れ変態機動を取る竜兵が続出し始めた。

 

 「く、くそっ!全騎散開!敵を捜索しろ!」

 

 次々と竜兵たちが変態機動を取る中、第二次迎撃部隊の隊長は思考を張り巡らせる。

 

 「あのデカブツの攻撃じゃ・・・ないよな?」

 

 降下の最中にデカブツを凝視する。が、攻撃をしたような痕跡は見つからない。ならいったいどこから攻撃されているのか。

 

 「・・・ッ!?まさか上か!?」

 

 隊長は勢いよく顔を上に向けて凝視する。

 

 「ま・・・まさかな・・・」

 

 この第五文明大陸においてジルニトラよりも高く飛べる竜種はあの帝国以外存在しない。そう。絶対にそうなのだ。

 

 「・・・は!?」

 

 だが現実は違った。

 

 「ぜ、全騎降下!て、敵は上にいるぞ!」

 

 自分たちよりも遥か上に、それは居た。白い線を引く無数の何かが。隊長はとっさに魔導電信機を手に取り、味方騎たちに伝える。

 

 『そんなわけないだろ!俺たちはこの第五文明大陸においてあの帝国を除けば唯一高空を飛べるんだ!』

 

 魔導電信機越しに部下の怒鳴る声が伝わる。結局自分たちの優位性を信じて疑わない帝国最強信者たちは高空にとどまり、数少ないまともな竜兵たちのみが降下した。

 

 「せめて死なないでほしいが・・・」

 

 隊長の儚い願いは、無駄に終わる。遥か上を飛ぶ何かが降下、白い尾をひく光の矢を放ったかと思えば、次々と竜兵たちの居た場所に爆発が発生する。

 

 『う、うわぁぁぁぁぁぁ!』

 

 『お、おい!そっちに行ったぞ!』

 

 『む、無理だ!避けれうわぁぁぁぁぁぁぁ』

 

 魔導電信機越しに帝国最強信者たちの悲鳴怒号その他諸々が響く中、隊長は何もできずに居た。周りを見渡せばはじめ60騎も居た竜兵たちはわずか30騎にまで数を減らしている。これ以上の迎撃は、性能差を考えても遥かに困難なこととなるのは目に見える。隊長は魔導電信機を手に取ると、司令部に指示を求める。

 

 「司令部、こちら第二迎撃部隊。敵新型兵器の攻撃により被害甚大、指示を願う」

 

 しばらくして、司令部より返答が返って来る。

 

 『了解。第二迎撃部隊は各基地に帰投後編成を組み直し再度攻撃を続行せよ』

 

 「・・・は?今なんと・・・」

 

 隊長は何かの聞き間違いかと思い、司令部からの指示を聞き直す。

 

 『・・・繰り返す、各基地に帰投後編成を組み直し再度攻撃を続行。以上』

 

 司令部はそれだけ言うと、一方的に回線を切る。

 

 「く・・・くそッ!奴らはメンツのことばかり考えているのかッ!?」

 

 隊長は魔導電信機を放り投げ、すでにはるか遠方を飛行している未確認飛行物体を睨みつけると基地への帰路に着いた。

 

 

_帝都、市街地

 

 

 「な・・・なんだあれは・・・」

 

 宿の窓から突如として帝都上空で勃発した空中戦の一部始終を見ていたある国の技術士官は自分の目を疑った。見たことのない新兵器に次々と落とされていくダーダネルス帝国の主力竜ジルニトラたち。そしてあの巨大な飛行物体。そのどれもが、彼の脳裏に焼き付いて居た。

 

 「ま・・・まずい。このままでは母国は負けてしまう・・・」

 

 彼はそう言うと、手荷物をまとめてそそくさと宿から出て行った。

 

 

_帝都上空、スカラベ0-1

 

 

 「く、くそ・・・」

 

 スカラベ0-1は降下することによりなんとか火災の鎮火に成功していた。が、燃料その他諸々が大量に漏れ出しておりもはや本国に戻るための燃料はとうになくなって、残りのエンジンを駆使しなんとか飛んでいるに過ぎない。

 

 「機長・・・どうしますか?」

 

 「そうだな・・・」

 

 機長は必死に考える。

 

 「可動翼は生きているか?」

 

 副操縦士に尋ねる。

 

 「はい・・・なんとか」

 

 副操縦士はそう言うと、操縦桿を動かしてみせる。どうやらどうにか動かせる、程度だが生きているらしい。

 

 「よし、爆弾はそこらへんに放り込んどけ。機首を反転させて上陸地点に向かうぞ」

 

 「了解」

 

 数十発の爆弾を適当にその辺りにあった山に投棄し終えると、敵からの攻撃に怯えながらスカラベ0-1の乗るUBV-20はのそのそとした動きで帝都を迂回し、護衛機を伴わず単独で上陸地点へと向かった。

 

 

_数分後、スカラベ部隊

 

 

 隊長機であるスカラベ0-1が落伍したこの部隊では、急遽スカラベ0-2が指揮を執っていた。

 

 「目標地点まで残り数キロを切りました」

 

 副操縦士は第一目標の帝都防衛基地までの距離を伝える。

 

 「わかった」

 

 機長はそう言うと、静かに無線を手に取る。

 

 「全機投弾準備」

 

 『・・・了解』

 

 少しばかり静かな時間が続く。

 

 「・・・うるさいのが居なくなって、せいぜいした、と言えばいいんですかね」

 

 副操縦士が心配そうな口調で言う。

 

 「ま・・・それもそうだな」

 

 「・・・あの人たち、大丈夫なんでしょうかね」

 

 「さらっとあいつ、フラグ建ててたけど・・・ま、へし折ってくれるんじゃないか?」

 

 機長は彼らのことをあまり心配して居ないのか、さらっと言い切った。

 

 「・・・お、そろそろですよ」

 

 副操縦士が爆撃照準器を覗いて言う。

 

 「わかった」

 

 司令部からの連絡で翼下懸架と、主翼内の爆弾倉で合わせて80発の500キロ爆弾を、各機10発ずつ落とす手筈になっている。

 

 「爆撃進路よーし・・・投下!」

 

 副操縦士の掛け声とともに、スカラベ0-2〜1-0から10発ずつ500キロ爆弾が投下される。

 

 「さ、次の目標に向かうぞ」

 

 「了解」

 

 スカラベ0-2率いるスカラベ部隊とその護衛変態機たちは次なる獲物を求めて進路を北に取った。

 

 

_真下、第三帝都防衛基地

 

 

 最新の蟲舎などが多数立ち並ぶここ、第三帝都防衛基地では突然の来訪者に対する迎撃で慌ただしくなっていた。

 

 「・・・お?どっかに飛んでいくぞ」

 

 その合間、偶然はるか高空を飛行するいくつもの未確認飛行物体を発見した基地要員の一人はそれをまじまじと見つめていた。

 

「ま、あんな高さからじゃ何もできないだろうけど」

 

 基地要員はそう呟くと、丁寧に整備された草木の一つも生えて居ない土づくりの滑走路上で作業を始める。

 

 ジルニトラの弱点として滑走距離が長いと言うものがある。そのため平地でなければ運用するのが難しく、こうやってきちんと整備された竜用の滑走路が作られることは珍しい。そんな基地に転属した基地要員は高い誇りを持ち毎日出勤していた。

 

 「さて・・今日はっと・・・」

 

 だが終わりは、突然訪れた。

 

 ヒュゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥウ...

 

 「うん?」

 

 基地要員が謎の風切り音を耳にし、上を向いた直後だった。

 

 ドッ...

 

 「ん?」

 

 突如として上から降ってきた大きな黒い塊が基地要員の足元に現れる。

 

 「なんだこれ?」

 

 基地要員は興味津々でそれに近づいた___瞬間だった。

 

 ドッガァァァァァァァァァァァァンッ!

 

 基地要員の足元に落ちた黒い物体___500キロ爆弾は地面に接した数秒後、信管が作動し滑走路上で大爆発を起こし大きな黒煙と、砂塵を巻き上がらせた。そしてそれが1つだけではなく、連鎖的に、いくつもいくつも基地の中で発生する。ある爆弾は竜舎を、またある爆弾は多数の兵士が眠って居た最中の兵舎を、粉微塵のごとく吹っ飛ばした。

 

 爆発が収まった時、そこに残ったのは基地をかたどっていたレンガなどの構造物、そして、人や巨蟲、竜の鮮血や臓物、肉塊のみだった。

 

 この日、ダーーダネルス帝国は工業地帯のほとんどと帝都防衛施設を失い、継戦能力を大きく削がれる結果となってしまった。



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第37話:失態を犯す者には、鉄槌を v0.0

_エルディアン共和国、首都エルディアン 大統領府

 

 

 コンコン

 

 誰かが大統領執務室の扉をノックする。

 

 「はいりたまえ」

 

 「大統領、失礼します」

 

 「おお、大統領補佐官か。今回は何の報告だね?」

 

 大統領は執務を一旦中断すると、例のごとく大統領補佐官からの報告を聞くことにした。

 

 「はい、オペレーション シュガール第二段階についてです」

 

 大統領補佐官はそう言うと、右手に持つ紙を一枚めくる。

 

 「まず敵工業地帯及び帝都もどき防衛施設の爆撃部隊は敵航空戦力による攻撃で数機が損失しましたが、無事作戦を完遂。おそらく、生産力は壊滅的なものになったかと思われます」

 

 「わかった。第三段階部隊の現在の状況は?」

 

 大統領は険しい顔で尋ねる。

 

 「はい、現在第三段階が進行中、空挺部隊が現在敵帝都への空挺作戦を準備中。明日の明朝には実行できるかと」

 

 「そうか・・・他に報告はあるのかね?」

 

 「えぇと・・・ちょっと待ってください」

 

 大統領補佐官が再び紙をめくる。

 

 「あ、ありました。えぇと・・・今は亡きカイス王国の王、レイハロ氏が大統領との会談を求めています」

 

 大統領は珍しく目を見開く。

 

 「ほぉ、初めての異世界国家との会談・・・いいじゃないか。会談ごっこしようじゃないか」

 

 大統領はワクワクした様子で軽々と言う。

 

 「そんな遊びみたいな気分でされては困るんですが・・・とにかく、会談場所はここ大統領府、来週実施でよろしいですか?」

 

 「あぁ、大丈夫だぞ」

 

 「わかりました。それではこれで」

 

 大統領補佐官は一礼すると、静かに大統領執務室から出て行った。

 

 「想定外の事態が起きなければいいんだがなぁ・・・」

 

 大統領は静かにそう呟くと、執務に戻った。

 

 

_ダーダネルス帝国帝都ディオニス 皇城

 

 

 天気の雲行きがあやしい中皇城の最上階、皇帝の間では重々しい雰囲気で報告が行われている。

 

 「・・・それでいいわけは終わりか」

 

 ダーダネルス一世は怒りを込めた口調で言うと、玉座に立てかけていた刀を手に持ち重い腰をゆっくりとあげる。

 

 「こ、皇帝!?何をなさるおつもりですか!?」

 

 いつもとは違う様子に気づいた側近が止めようとして体にしがみつくが、皇帝はそれを振り払う。

 

 「貴様には、口封じをしてもらう必要がある」

 

 皇帝は鞘からまっすぐとして手入れの行き届いた剣を引き抜くと、首の横に剣先を突きつける。

 

 「せいぜい、楽に死ぬがよい」

 

 皇帝の放った言葉と同時に、今回の帝都襲撃事件(仮)の総責任者総合司令官は首から上が文字通り消滅し、死んだ。

 

 「こやつの処理は任せたぞ」

 

 首から吹き出た返り血を服全身に浴びた皇帝は剣を鞘に戻し再度玉座に立てかけると、寝室へと向かった。



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第38話:(物理的に)眠らぬ帝都 v0.0

_帝都襲撃事件(仮)が起きた日の夜

 

 

 「お前ら。準備はいいか?」

 

 周りが本格的に暗闇に包まれだした頃、帝都の南側の森で延々と待機して居た海兵隊員達は、やっと訪れた出番に興奮を抑えきれなくなって居た。

 

 「おう!」

 

 2つの突起から放たれる目のような2つの黄緑色の光___ナイトビジョンゴーグルをつけた彼らは皆一斉に呼応する。

 

 「よぉし!総員発射準備ィッ!」

 

 ある海兵隊員は手に空砲用弾薬を持ち、ある海兵隊員は迫撃砲の発射準備を整える。

 

 「・・・発射ァッ!」

 

 

_帝都ディオニス、皇城

 

 

 ポンッ!・・・ポンッ!

 

 突如として帝都中に響いた異質な音に、先ほどやっと眠りにつけた寝間着姿の皇帝は瞬時に目が覚める。

 

 「な、何が起こった!?」

 

 あまりにも突然の出来事だったので、寝室の外で警護をして居た兵士にとっさに状況説明を求める。

 

 「こ、皇帝・・・私達も何が何だか・・・」

 

 兵士たちもさっぱりな様子で、どうやら彼らがしたことではないのだろう、と皇帝は思う。

 

 ポンッ!・・・ポンッ!

 

 その矢先又しても先ほどと同じ異質な音が辺りに響く。

 

 「く、くそっ!伝令兵!」

 

 皇帝は思い出したかのようにそばで待機していた伝令兵を呼びつける。

 

 「はっ、ここに」

 

 伝令兵は敬礼をすると、無言で皇帝の前に立つ。

 

 「新総合司令官を呼べ!今すぐにだ!わかったか!?」

 

 伝令兵は「わかりました」とだけ言うと、石造りの松明が壁のいたるところに立てかけられた廊下の向こうへと走って行った。

 

 「一体何が起こっているのだ・・・」

 

 状況を理解できていない皇帝はただ、そう呟くことしかできなかったのだった。

 

 

_夜が明けた頃、帝都ディオニス

 

 

 結局伝令兵に新総合司令官を呼ばせに行った後も奇妙な音は延々と続き、皇帝はあの後一睡もすることができなかった。警備兵達に帝都の周辺を捜索させたが、まるで警備兵達の行動を手に取るがごとく知っているかのように音は止み全くの無駄足だった。

 

 「糞・・・帝国が・・・帝国が弄ばれてはならん!そう!ならんのだ!わかるか!?総合司令官!?」

 

 玉座に座った状態で皇帝は総合司令官に対して怒鳴る。

 

 「誠に申し訳ございません・・・ですが、私自身、こんなことになるとは予想だにしていなかったのです」

 

 「言い訳はいい!行動で示せ!」

 

 「は・・・はい」

 

 「・・・下がってよいぞ」

 

 皇帝が『あっちいけ』と言わんばかりに手を振る。

 

 「・・・ここ最近は、おかしなことばかりが続く・・・」

 

 皇帝はそう呟いた後、昨日してやられた敵による謎の攻撃の被害を各方面軍の司令官から聞くことにした。

 

 

_その頃、帝都南数キロ地点

 

 

 帝都南に延々と広がる大密林。その上を超低空で高速で飛行する総勢50機もの迷彩塗装を施されたティルトローター機が大爆音を放ちながら帝都に接近している。

 

 「よし!機器の最終チェックだ!」

 

 ティルトローター機のキャビンで待機している迷彩服で身を包んだ屈強な男達はそれぞれの持つ武器の最終チェックを行う。

 

 「姿勢制御装置・・・問題なし」

 

 ほんのりと光る赤いライトに身を包まれた屈強な男達の中で一人、痩せた風体の男が座って迷彩柄の荷物がたくさん積み込まれたある機材の点検を行なっている。

 

 「脚部・・・問題無し」

 

 痩せた風体の男__アロンソ隊員の点検している迷彩柄の機材の名前はウォーキング・ドッグ。数年前に実用化されたいわゆる『ロボット軍馬』で、姿勢制御装置を搭載してたとえ人に蹴られても瞬時に姿勢を戻すことができるため、主に不整地帯や山岳部での兵士追従型の物資輸送で用いられている。彼が点検しているのはその最新型で、主に燃費や積載能力が向上している。

 

 「おい!まだお前機械なんていじってんのかぁ!?」

 

 いきなり頭をガシッと掴まれ、被って居た帽子が足元に落ちる。振り向けばそこには、今回作戦行動をともにすることとなった第一陸戦部隊の一人、バスケスが通称『言うこと機関銃』を肩に担いで立っていた。

 

 「ちょっと・・・何するんですか・・・」

 

 足元に落ちた帽子を拾い上げて再度被ると、まるで対峙せんと言わんばかりの勢いで立つ。

 

 「いやいや・・・だってよ?機械だぜ?き・か・い。そんなのよりも人間の方が役に立つだろ?」

 

 一方バスケスは脳筋なのか、身体中に引っ付いた筋肉をアロンソに見せつける。

 

 「あなた・・・本当、筋肉バカですね」

 

 アロンソ隊員はそう言い放つと、バスケスによる怒涛の反撃には目もくれずウォーキング・ドッグの最終チェックを再開した。

 

 「ったく・・・これから実戦だって言うのに・・・」

 

 バスケスはアロンソ隊員を心配そうな目で見ると、『言うこと機関銃』を担いで後部ランプに移動した。



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第39話:歓迎されぬ訪問者達(1) v0.0

_帝都南部、1キロ地点 城壁

 

 

 主に巨蟲や森に住む魑魅魍魎の魔物達を帝都に入れないために作られたここ南部城壁。数メートル近い厚さと、数十メートルもある高さが売りのここで働く警備兵はいつも何も起こらないので決まって仕事をしない。

 

 「・・・はぁ」

 

 城壁の上から森を眺める一人の警備兵もそうだ。

 

 「お、どうしたのさ?」

 

 「いやね・・・なんと言うか暇」

 

 「そう言うことは言わない方がいいと思うがね?」

 

 同僚は向こうに立つ黒いローブを羽織った人物を指差す。

 

 「あー・・・あいつか」

 

 昨日起きた帝都襲撃事件(仮)で帝都防衛施設が全滅。敵の本格的侵攻に備えてこの南部城壁には数万人が動員・即時戦闘可能の状態になっている。黒いローブを羽織った男はスパイや不穏分子の駆除のために派遣された者で、帝国に対して何か一言でも都合の悪いことを言えば理粉塵にも瞬殺されてしまう。故に彼らは派遣された兵士からも、元いた警備兵達からも毛嫌いされた存在となっている。

 

 「せめて仕事してるよー感は出さないとな・・・」

 

 警備兵は長い槍を担ぐと、黒いローブを羽織った男の反対方向に向かうことにした。

 

 「にしてもさ、聞いたか?」

 

 「ん?」

 

 「これって噂なんだけどな・・・あの帝国さ?ここ最近やばいらしいんだよ」

 

 警備兵はピンときたかのような顔になる。

 

 「第五文明大陸統一・・・か?」

 

 ここ最近巷でも噂になっているヴァルティーア帝国による第五文明大陸統一計画。あくまでも噂なのでこれの出どころも信憑性もない。それでもあの帝国はダーダネルス帝国にとって点滴のような存在なので、一応国民達も警戒程度はしている。

 

 「そうだ。まぁ、あそこは島国みたいなもんだしきっと島国生活に飽きたんだろうなぁ・・・」

 

 「てことはここに増員されたのもそれが原因なのか?」

 

 「いや、ここに増員されたのは違う理由らしい」

 

 「違う理由・・・なんなんだろ・・・」

 

 警備兵は頭を抱えて悩む。

 

 パパパパパパパパパ...

 

 「・・・ん?」

 

 どこからともなく突然、奇妙な音が鳴り始める。

 

 「なんだなんだぁ?」

 

 警戒兵は目を凝らして辺りを見渡す。城壁の内側で待機している兵士たちもそれに気づいたようで、続々と壁の上に登って様子を見に来た。

 

 「一体なんだろうな?」

 

 同僚も目を凝らして辺りを見渡す。

 

 バババババババババ...

 

 「・・・あっちか!」

 

 徐々に音が大きくなるにつれて、南から音が出ていることが判明する。

 

 「うーん・・・ん?」

 

 警戒兵が目を凝らして南側の森を凝視すると、何か違和感を覚える。

 

 「あの木・・・浮いてる・・・」

 

 林の上に幾つかの緑色の物体が浮いている。一体なんだろう、とさらに目を凝らす。

 

 「・・・!?」

 

 徐々に近づくにつれて露わになるそのシルエット。それを見た警戒兵は、驚愕した。

 

 「ま、魔導師ィッ!帝都防衛部隊に報告ッ!敵、確認せりィッ!」

 

 警備兵の目には、低空ギリギリを常識外の速度で飛翔する何かが見えていた。なぜだかわからないが危機感を感じた警戒兵は魔導師に魔導電信で報告を行うように伝える。その時だった。

 

 ババババババババババババババババババッ!

 

 「うわぁっ!」

 

 城壁の上にいくつもの土埃と城壁を構成する石の欠けたものが飛散する。中にはそれに巻き込まれたのか、城壁の内側に血を撒き散らしながら落ちる者も発生した。

 

 「ふ、伏せろぉっ!」

 

 兵士の一人がとっさに叫ぶ。兵士たちはそれに呼応するかのように次々とうずくまる形で姿勢を低くした。

 

 ババババババババババババババババババババババババババババッ!

 

 その瞬間、頭上を何かが尋常ではない量通過する。

 

 「な、なんだったんだ...?」

 

 轟音がだんだん治っていくのを確認した兵士たちは顔を上げる。

 

 「・・・!おい、あれを見ろ!」

 

 兵士の一人が後ろを指差す。兵士たちは一斉に後ろを振り向く。

 

 「・・・ッ!」

 

 兵士たちの目には、土埃を舞い上げ轟音を響かせながら飛び去ったそれが一直線に帝都へと向かっていることのみが確認できた。



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第40話:歓迎されぬ訪問者達(2) v0.0

_帝都強襲部隊

 

 

 「よし、お前ら!目標地点到達まで後数分だ!全員気を引き締めろ!」

 

 『オォォォ!』

 

 ティルトローター機の搭載した2機のエンジンが発する轟音に負けない声で第一陸戦隊隊長は叫び、それに呼応するかのように隊員達が雄叫びをあげまくる。

 

 「う、うるさい・・・」

 

 あまりにもうるさいのでアロンソ隊員は両手を使って耳の穴を塞ぐ。

 

 「おいおいぃ!?お前そんなんで大丈夫かぁ!?」

 

 バスケス隊員はそんなアロンソ隊員を可哀想な子を見るような口調で煽る。

 

 「い、いやだって自分後方支援要員ですし・・・」

 

 「あぁ!?戦地に後方も前方も上も下も海も空も陸上も関係ねぇ!あるのは硝煙の匂いと怒号と銃声だけだ!」

 

 「い、いや関係ありますよっ!?」

 

 隊員達の雄叫びがなおもやまない中、機内放送が流れる。

 

 『ランディングポイント到達まで後30秒。ハッチにて待機を』

 

 「よぉし!お前ら!聞こえたな!?戦闘だ!血と硝煙の匂いを嗅ぎに行くぞ!」

 

 『うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!』

 

 隊員達はぞろぞろと狭い後部へと移動してくる。その荒波に飲まれてしまったアロンソ隊員も連れて行かれる形でハッチまで来てしまった。

 

 「う、うぎゃあああああ!離せ!離すんだあああああ!」

 

 男達の間に挟まれるような形でハッチまで来てしまったアロンソ隊員は、なんとか安全な後方に移動しようと屈強な男達を動かそうとするが、どれだけ動かそうとしても隊員達は一向に動かない。おそらく脳みそは『戦闘』で埋まっているのだろう。この戦闘狂め。

 

 『ランディングポイントに到達。ハッチ解放します』

 

 機体がいきなり減速したと思った瞬間、パイロットから戦闘の開始を告げられる。

 

 「い、い、いやだああああああ!」

 

 そして、地獄の門は開門を開始する。初めはうっすらと光が差し込む程度だった隙間は徐々に大きくなる。

 

 「よっしゃぁぁぁぁぁぁぁ!戦闘だぁぁぁぁぁぁ!」

 

 「いぇぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」

 

 そして、地獄の門は完全に開いた。

 

 「よし!総員突撃ィィィィィィィィィィッ!」

 

 「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉおっ!」

 

 ある者は『言うこと機関銃』に取り付けた銃剣を構えるような形で、ある者は普通に銃を構えて疾走を開始する。

 

 「や、やめろぉぉぉぉぉぉ!」

 

 男臭い肉塊という荒波に完全に飲まれてしまったアロンソは抵抗すらできず波に乗って移動するしかなくなってしまった。

 

 

_帝都ディオニス、皇城 空中の大庭園

 

 

 帝都の中で最も高い場所にある皇城の大庭園。そこに降り立った二つの何かをつけた緑色の巨大な機械竜。いったい何が出てくるんだ、と恐れおののきながら急遽駆けつけた警備兵達は対峙する。

 

 「い、一体なんなんだ・・・?」

 

 大庭園の平坦な場所に降り立った『それ』。帝国兵達も未だ見たことがない未知の何か。恐る恐る兵士たちが槍を構えて近づいていく。

 

 「お、おい・・・なんか聞こえないか・・・?」

 

 兵士の一人が聞き耳を立てて言う。兵士たちも続いて聞き耳をたてると、かすかに何かが聞こえるのがわかる。

 

 「お、おい!動いてるぞ!」

 

 兵士の一人が機械竜の後ろ部分であろう場所を指差す。

 

 「そ、総員槍構えッ!」

 

 兵士達は一斉に槍を構えて、少しずつ動いている後ろ部分にゆっくり近づいていく。

 

 「いぇぁぁぁぁぁ...」

 

 「や、やっぱりなんか聞こえるよな!?」

 

 兵士の一人が冷や汗をかきながら言う。

 

 「お、臆するな!ここは我らの土俵ぞ!量で蹴散らすのだ!」

 

 警備隊長が大声で言った___直後だった。

 

 「よし!総員突撃ィィィィィィィィィィッ!」

 

 「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!」

 

 「ひ、ひぃっ!?」

 

 後ろの部分が完全に開いたかと思うと、突如として中から奇声を発する何かが現れる。それも、一つや二つではなく、沢山現れる。

 

 「や、槍部隊突っ込めぇぇぇぇっ!」

 

 あまりにもインパクトが強かったのか、警備隊長は若干怯えた声で指示する。と同時に、警備隊長はあらぬ方向へと走って行った。いわゆる敵前逃亡である。

 

 「え、あ・・・くそっ!全員いくぞぉぉぉぉぉ!」

 

 斯くして奇声を発する謎の集団と皇城警備隊との熾烈な戦い(?)が始まった。



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第41話:歓迎されぬ訪問者達(3) v0.0

_帝都ディオニス 皇城、空中の大庭園

 

 

 「よし!総員突撃ィィィィィィィィィィッ!」

 

 「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!」

 

 第一陸戦隊隊長の号令とともにティルトローター機の後部ハッチから飛び出した屈強な迷彩柄の服を着た男たちは、飛び出した瞬間現れた槍を持った敵兵に驚愕しながらも一人一人確実に撃ち抜いている。

 

 「お前!そっち倒せ!」

 

 無理やり連れてこられたアロンソ隊員も例外ではなく、『言うこと機関銃』が装弾不良《ジャム○○さん》を引き起こさないのを脳内で必死に祈りながら『あぁもういい!やけくそだ!』と思いながら戦っている。

 

 「りょ、了解っ!」

 

 パパパパパパパパッ!

 

 アロンソ隊員は隊長からの命令を聞き逃すことなくホロサイトを覗き、ハッチ右側から迫ってくる槍兵に向けてトリガーを引く。伏せた状態でフルオート発射された多数の5.56mm弾は的確に鎧を着た槍兵たちに次々と命中。一瞬にして命を散らす。

 

 「右側クリア!」

 

 「左側クリア!」

 

 第一陸戦隊の隊員たちがティルトローター機から出てものの数秒で、終焉には飛散した血とここを警備していた兵士たち。そして硝煙の匂いと数え切れないほどの空薬莢、屈強な男と一人の痩せた男だけが残っていた。

 

 「よし!お前ら今度はこのどでかい城の制圧だ!行くぞ!」

 

 『うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!』

 

 ティルトローター機を空中に待機させ、隊員たちは迅速に行動を開始、石造りの狭い道路に沿って周囲の警戒を行いながら無駄にどでかい城の入り口へと向かって行った。

 

 

_皇城、皇帝の間

 

 

 「い、いったい何事ぞ!」

 

 皇帝の側近が慌てふためいた様子で皇帝の間に入ってきた警備兵に尋ねる。

 

 「て、敵です!敵が・・・機械竜に乗ってやってまいりました!」

 

 「なんだとぉっ!?」

 

 側近は冷や汗をかく。機械竜を実現している国は少なくとも知っている範囲では文明国、それも機械分野に特化した国のみだ。そんな国に襲われるなど、はっきり言ってたまったもんじゃない。

 

 「皇帝!早くお逃げくださ」

 

 パパパパパパパパッ!

 

 「ひぃっ!」

 

 突如として皇帝の間の中に響いた謎の連続音に側近は頭を抱えて伏せる。

 

 「こ、皇帝!早く!」

 

 「ならん!我が逃げたと属領に知れ渡ってみろ!それこそメンツは丸つぶれぞ!」

 

 側近は怒鳴るような口調で激しく言いつける。

 

 「ですが!」

 

 「言い訳はいらぬ!行動だ!行動で示せ!・・・もし貴様らが彼奴等の撃退に成功したならば、出世街道の道も開けるんだぞ・・・!」

 

 途端に警備兵の目が心配そうな目つきからキラキラとした希望に満ちた目に変わる。

 

 「わ、わかりました!精進して撃滅に努めます!」

 

 警備兵はそれだけ言って一礼すると、そそくさと退出した。

 

 「・・・あやつらも、単純だな・・・」

 

 側近はそう言うと、玉座に深々と座ったままの皇帝を触る。

 

 「これはぬいぐるみだと言うのに・・・」

 

 側近はそれだけ言うと、静かに皇帝の間を去って行った。



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第42話:歓迎されぬ訪問者達(4) v0.0

_皇城内、第一陸戦隊

 

 

 「クリア!」

 

 「クリア!」

 

 等間隔で並べられた松明だけが石造りの幅4メートルほどの廊下を照らす中、兵士たちはPDWを構え足音を立てないよう疾走りで行動している。

 

 「静かだな・・・」

 

 隊員の一人が銃を構えて言う。実際彼らの前方はほとんどが暗闇に包まれており、時折現れる曲がり角や個室のドア以外は何も見当たらない。

 

 「きっとこの国の奴らはモグラなんじゃないか?」

 

 隊員の一人が冗談で言う。

 

 「ありえるな。なにせここは異世界だ」

 

 隊員がそれに反応し、納得したような顔で言う。

 

 「静かにしろ!モグラに殺されたいのか!?」

 

 先ほどから会話を耳にしていたのか、バラクラバをつけた隊員が小声で言う。

 

 「りょ、了解・・・」

 

 話し合っていた二人の隊員は静かに頷くと、任務に集中する。

 

 シュゥゥゥゥゥゥゥゥ...

 

 「!」

 

 先頭を歩いていた隊長がハンドサインで止まるように指示する。

 

 「銃構え!」

 

 それを確認した隊員たちは中腰になり、PDWを構える。

 

 「な、なんだ・・・?」

 

 隊員の一人が冷や汗をかき小声で言う。

 

 「ッ!来るぞ!」

 

 隊長が大声で叫ぶ。耳をすませると、ロケットの発射音のようなものが近づいてくるのがわかった。

 

 「あ、あれはッ!」

 

 タバコをくわえていた隊員の口からタバコがポロリと落ちる。廊下の向こう側から迫っていたのは大量のボビン状の物体・・・今回の作戦会議で司令官から警戒するように伝えられた敵軍の対歩兵・装甲車兵器だった。そんなものがきらびやかな虹色の煙を放ち高速でこちらに向かってきている。

 

 「て、撃ェッ!撃てェッ!」

 

 『了解!』

 

 「いぇぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」

 

 ババババババババババババッ!

 

 先ほどまで明かりといえば松明の放つ少しの赤い光だった廊下に、隊員やトリガーハッピーの持つPDWから放たれた大量の射撃時に発生するフラッシュで瞬間的に明るくなる。まるで昼間かと思うような明るさが何度も続き、銃声が鳴り響くたびに迫り来るボビン状の対歩兵・装甲車兵器が爆散する。

 

 「よし、いいぞ!そのまま撃ち続けろ!」

 

 『了解!』

 

 兵士たちは射撃を継続し、迫り来るすべてのボビン状対歩兵・装甲車兵器を破壊し続けた。

 

 

 「敵対歩兵・装甲車兵器・・・残存数、ゼロ。殲滅完了しました」

 

 射撃を開始sてから数十秒は経過しただろうか。その頃にはボビン状の対歩兵・装甲車兵器は壊滅し、隊員とトリガーハッピー達の足元には大量の空薬莢が転がっている。

 

 「やったぞぉぉぉぉぉっ!」

 

 「この硝煙の匂い・・・だから戦争はやめらんねぇ!」

 

 兵士たちが口々に喋り合い、中にはハイタッチする者もいる。

 

 「浮かれるな!ここは敵地だぞ!」

 

 隊長は隊員たちに伝わる程度の声で言う。

 

 「えー・・・だって隊長!」

 

 「だってもクソもない!行くぞ!俺たちの目標はまだ達成していないんだからな!?」

 

 「・・・了解」

 

 隊員たちは気分を一新すると、銃を構えて前進を再開した。

 

 

_廊下の向こう、隠し扉

 

 

 「そ・・・そんな!あれが効かないなんて!」

 

 曲がり角に作られた隠し扉の小さな隙間。そこから戦闘の様子を見ていた皇城警備隊員は汗をどっぷりと書いた様子で呟く。

 

 「これだと・・・最悪例の『アレ』の使用許可を貰う必要があるな・・・」

 

 隣の隙間から双眼鏡で向こうの様子をじっと見ていた同僚は言う。

 

 「とにかく報告だ!すぐに塞げ!行くぞ!」

 

 「わ、わかりました!」

 

 警備隊員は隙間をすぐに塞ぐと、同僚とともに隠し通路を通って警備隊司令じょまで駆け足で向かった。



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第43話:歓迎されぬ訪問者達(5) v0.0

_皇城内、秘密裏に制作された警備隊司令所

 

 

 ガチャンッ!

 

 警備隊幹部たちが顔を合わせあって議論をしていると、突然秘密通路行きドアが勢いよく開き汗を大量に書いた二人の警備兵が現れる。

 

 「は、はぁっ・・・はぁっ・・・」

 

 「な、何事だね!?」

 

 警備隊幹部たちは目を見開き、ドアの前に立っている警備兵たちを見つめる。

 

 「て、敵はパン・ジャンド・ラムを全て撃破しましたッ!先ほど使い切ったのでもう在庫はありませんッ!」

 

 『なんだって!?』

 

 幹部たちは頭が混乱する。第一階層通路を密集隊形で通過中の敵を大量のパーン・ジャンド・ラムを使用し敵を撃滅する算段だったのだが、それが効かないどころか全て使用してしまったとなれば、第二第三階層に設置された罠で敵を止める他ない。

 

 「警戒度を最大に引きあげろ!何としても皇帝が脱出するまで足止めをするんだ!」

 

 幹部は魔導師にそう伝えると、警備隊司令所の中央にある机の上に敷かれた皇城内地図見る。

 

 「さて・・・次はいったいどうするか・・・」

 

 幹部たちは頭を抱えて悩む。

 

 「やはり『アレ』を使用するしかないのでは?」

 

 幹部の一人が提案する。

 

 「だがな・・・あれはやっとの事で使役したものだ。本当に危険な時でもなければ使用は許されんと思うぞ?」

 

 「ですが・・・」

 

 「まぁ、確かに言い分は分かる。だが『アレ』はそれほどまでに危険なんだ。現に、あれの維持だけで何人が失神したか・・・貴様も知っているはずだぞ?」

 

 幹部はため息をついて言う。

 

 「・・・やはり、現状この城に残された兵力だけで防衛するしかないんですか?」

 

 幹部は警備隊長に尋ねる。

 

 「ま・・・そうだろうな。敵の大規模攻勢だと言う噂も流れている。事実、市街地では目下戦闘中だしな」

 

 「援軍には期待できない・・・と?」

 

 「そうだ。市街地の敵部隊掃討が先だからな・・・援軍が来るのは早くても数時間後だろう」

 

 「それまで耐えれるんですかね・・・ここ」

 

 「頑張ればなんとかなるだろ!」

 

 警備隊長はすました顔で堂々と言い放つ。

 

 「そ、そうですか・・・」

 

 その後も、作戦修正は万が一の事態に備えて継続された。

 

_皇城、第二階層

 

 「ひ、広いな・・・」

 

 隊員たちは階段を登りきったあとすぐに現れた、異常なまでに広い空間に驚きを隠せないでいた。壁に配置された複数の巨大なステンドグラスからは淡い光が床に写され、なんとも幻想的な風景となっている。

 

 「これも罠かなんかの類ですかね?」

 

 「さぁな。とりあえず進むぞ!」

 

 『了解!』

 

 隊員たちは体調を先頭に配置した縦隊で警戒を止ませることなく部屋の奥へと進んでいく。

 

 「そういえばさ」

 

 隊員の一人が口を開く。

 

 「ん?」

 

 「俺さ、今度結婚するんだよね」

 

 「おー!それは良かったじゃないか!」

 

 隊員たちが銃を構えつつ結婚するらしい隊員を褒め称える。

 

 「いやーそれほどでも・・・」

 

 「じゃ、死なせないように何としても守らないとな!」

 

 「そうですね!」

 

 ふとそこで結婚するらしい隊員が何かに気づく。

 

 「おい、止まれ!」

 

 隊員たちはとっさに止まる。

 

 「な・・・なぁ。あそこ、動いてないか?」

 

 結婚するらしい隊員が右方向を指差す。そこには出入り口であろう場所と、そこにかけられたカーテンのようなものがある。

 

 「そ、そうか・・・?」

 

 隊員たちは凝視するが、カーテンは動きそうにない。

 

 「過度の緊張でちょっと疲れたんじゃないか?とりあえずこれでもかんで落ち着けよ」

 

 隊員の一人がポケットからそっとガムを取り出す。

 

 「いや・・・本当なんだって!」

 

 結婚するらしい隊員はそう言うと、手渡しされたガムを手に取り口の中で噛みだす。

 

 「・・・わかったよ。俺がついていくから様子を確認しに行こう」

 

 「あ、ありがとう・・・」

 

 隊列から離れた二人の隊員たちは忍び足で銃を構えて出口のような場所へと向かう。

 

 「・・・頼むから何もいないでくれよ・・・」

 

 結婚するらしい隊員は何度もそう呟きながら、ゆっくりと出口のような場所へと歩いていく。

 

 「・・・よし、行くぞ」

 

 二人の隊員は出口の縁で銃を構え、カーテンのようなものを手に掴む。

 

 「3、2、1・・・今だッ!」

 

 隊員は勢いよくカーテンのようなものを開くと、そっと中を確認するのだった。



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第43話:死への誘い v0.0

_皇城、第二階層

 

 

 バサッ!

 

 結婚するらしい隊員ともう一人の隊員は勢いよくカーテンのようなものを開くと、一斉に部屋の中へと入って行った。

 

 「・・・何も・・・いない・・・?」

 

 結婚するらしい隊員はフラッシュライト片手にハンドガンを構えて呟く。この部屋の奥行きはとても深く、そして暗い。ただただ一本道のジメジメした空間だけが広がっている。

 

 「・・・何もいないじゃないか」

 

 隊員は呆れた声で言うと、銃を構えるのをやめる。

 

 「あれ・・・おかしいなぁ・・・」

 

 結婚するらしい隊員は数回頭を掻くと、フラッシュライトであたりを照らす。

 

 「・・・ん?」

 

 何度か周りを照らした後、ふと何か違和感を感じた。

 

 「どうした?」

 

 「いや、これ・・・」

 

 結婚するらしい隊員は姿勢を低くすると、どこからか滴り落ちる液体によって床にできた水溜りのようなものを指差す。

 

 「それ・・・なんだ?」

 

 警戒した口調で隊員が結婚するらしい隊員に尋ねる。

 

 「えーと・・・ちょっと待ってください」

 

 結婚するらしい隊員はそう言うと、ゆっくりと人差し指を近づけて謎の液体に触れた。

 

 「う、うぇ・・・ドロドロする・・・」

 

 糸を引くそれは何度もなんども手にくっついて、なかなか離れない。

 

 「いったいどこから落ちてるんだ・・・?」

 

 フラッシュライトを手で動かし、ゆっくりと上へと上げていく。

 

 「う、うーん・・・?」

 

 結婚するらしい隊員がそう呟いた時だった。

 

 「ッ!」

 

 その瞬間、上方から突如として現れたマチェーテにより、結婚するらしい隊員は大動脈から血を高々と巻き上げ叫ぶ間も無く絶命した。

 

 「お、おいッ!?どうした!」

 

 一部始終をはっきり見ることのできなかった隊員は、すでに生き絶えた結婚するらしい隊員のそばへと向かう。

 

 「おい!おい!お前は結婚するんだろ・・・!?な!?」

 

 何度も、何度も隊員に問いかけるが、一切反応がない。気づけば足元には赤い水溜りが構成されており、彼が死んだと言うことを表すには十分な証拠となる。

 

 「く、くそっ!」

 

 結婚するらしい隊員をそっと地面へ置くと、PDWを構える。

 

 「いったいどんなやつなのかはわからんが・・・死ね!」

 

 バババババババババババッ!

 

 その瞬間、PDWの銃口から大量の弾丸がフラッシュとともに発射される。

 

 「くっ・・・」

 

 隊員はグリップを力強く掴み、なんとかしてフルオート発射の反動を抑えようとする。

 

 「あ、あいつを殺した罪は・・・でかいんだぞ!」

 

 マガジン内の弾丸を発射し終えると、トドメと言わんばかりに暗闇の向こうへグレネードを放り込み、数秒後に無事信管が作動、何かを巻き添いにしてこの通路を塞げるはず___だった。

 

 「な、なんだって!?不発!?」

 

 よりにもよって、このタイミングでグレネードが不発になる。

 

 ガッ...ガガッ......

 

 「き、来たなッ!」

 

 突如として暗闇の中に現れた二つの赤い光。それを見た隊員は、瞬時に敵だと理解する。ハンドガンを構えると、すぐにやってくるであろう敵を迎撃する体制に移る。その時だった。

 

 ヒュンッ!

 

 隊員は、突如として暗闇の中より飛来し体の横をかすめた投げナイフに心底恐怖する。

 

 「こ、後退しなきゃ・・・」

 

 隊員は怯えた声でボソボソと同じことを繰り返し言う。今まであれだけの銃弾を乱射されて無事な生物は見たことがない。それはこの世界に来てもそうだ。だがどうだ?目の前にいるのはそれだけの乱射を食らってもなお平気で投げナイフを投げてくる赤い目をした何かだ。

 

 「ハァ・・・ハァ・・・」

 

 荒い息を立てながらゆっくりと後ろへと移動する。

 

 「な、なんとしても死体だけは持って帰るからな!」

 

 すでに生き絶え、向こうで手を組んで安らかに眠っていそうな顔をした結婚するらしい兵士にそう告げると、隊員は大急ぎで第一陸戦隊が待機するカーテンの向こうへと飛び出して言った。



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第44話:未確認高速移動物体『MOGURA』、現る v0.0

_皇城、第二階層

 

 

 「おい、いったいどうしたんだよ・・・」

 

 突如としてカーテンもどきの向こうから大慌てで逃げて来た様子の隊員を、他の隊員達が宥めていた。顔は青ざめており、震えが止まらなくなっている。それほどえげつないことがあったのだろうか。

 

 「あ・・・あ・・・」

 

 「あ・・・?いったいどう言うことだ・・・?」

 

 震えが止まらない指で必死にカーテンもどきのかかった通路を指差し、意味のわからないことばかり言っている隊員に他の隊員達はますますわけがわからなくなっている。

 

 「まぁさ・・・一回落ち着けよ?な?」

 

 隊員はそう言うと、ガムをポケットから取り出す。

 

 「あ・・・ありがと・・・」

 

 「・・・全員後退!あのフラグを見事におっ立てたやつがいない以上、何かがいるはずだ!」

 

 『了解!』

 

 体調がそう指示すると、ガムを噛んでいる途中の隊員を他の隊員が担ぎ元来た階段近くまで戻る。

 

 「ま・・・ここでいいか」

 

 ガムを噛んでいる途中の隊員を壁にもたれさせると、各自がPDWや背に背負っていた『言うこと機関銃』を構えた。

 

 「なぁ・・・」

 

 バイポッドを立てて『言うこと機関銃』を伏せた状態で構える隊員に、中腰でPDWを構える隊員が声をかける。

 

 「なんだ?」

 

 「一体何が出てくるんだろうな?」

 

 「モグラじゃないか?知らないけど」

 

 「そ、そうか・・・」

 

 隊員は期待はずれの答えに苦笑いで前を向いた。

 

 キィィィィィッ...

 

 「ん・・・?」

 

 どこからともなく、石を爪を立てて削るような不快音が大きな部屋全体に響く。

 

 「なんだなんだ?」

 

 延々と続く不快音。聞いてみれば、だんだんと不快音の発生源が近づいているようにも思える。

 

 「いつでも撃てるようにしろ!来るぞ!」

 

 『了解!』

 

 兵士たちは気分を一新し、来るべき先頭に備える。

 

 「・・・」

 

 突如として、あの不快音が止む。

 

 「来ないのか・・・?」

 

 隊員の一人がそう言った瞬間だった。

 

 バサァァァァッ!

 

 『ッ!?』

 

 突如としてカーテンのようなものが勢いよくなびく。

 

 「な、なんだ!?」

 

 動揺が部隊の間に広がり、間違って銃を下ろしてしまった。

 

 ヒュンッ!___ゴッ!

 

 風をきる音と共に一本の投げナイフが石造りの壁に深々と突き刺さった。その衝撃波で近くにいた隊員数名はバラバラの方向へと吹き飛ばされてしまう。

 

 「て、敵はどこなんだッ!?」

 

 隊員達は目を凝らして周囲を見渡す。

 

 「て、敵発見ッ!」

 

 視力が抜群にいい隊員が敵を発見する。隊員が指をさす方向を隊員達が見ると、そこにはとんでもない光景が写っていた。

 

 「・・・なぁ」

 

 「・・・なんです?」

 

 「あれさ・・・どう見ても・・・モグラだよな?」

 

 隊員が目を見開いた状態でもう一人に聞く。

 

 「・・・そうですね」

 

 彼らの目には、高速で移動し、鉄製の薄いアーマープレートを着用。腰のベルトには大量のナイフを付けた茶色い毛むくじゃらの生命体が写っていた。その『何か』は二足歩行で移動し、筋肉が以上なまでに付いた脚部で地面を蹴るように軽やかに移動している。

 

 「一体なんだよあれ!意味わかんね!」

 

 隊員の一人が大声で言う。

 

 「まさか住人モグラ説が現実になるとは・・・異世界って・・・面白い!」

 

 隊員達は戦闘が始まらんとするタイミングで喋り出す。

 

 「ま・・・まぁいい!奴をこれより未確認高速移動物体『MOGURA』と呼称!射撃開始だ!1匹だけならまだどうにかなる!」

 

 『りょ、了解!』

 

 隊員達はPDWや『言うこと機関銃』のトリガーを引き、未確認高速移動物体『MOGURA』に向けて射撃を開始する。

 

 「あ、当たらないッ!」

 

 が、そのほとんどは未確認高速移動物体『MOGURA』によるバレリーナよろしくの華麗なステップにより瞬く間に回避。逆に、投げナイフを的確に外して戦意喪失を狙って来る。

 

 「おい!バスケス!『アレ』を持ってこい!」

 

 あまりにも当たらないことにイラついたのか、隊長は『アレ』をバスケス隊員に持って来させる。

 

 「い、いいんですかい!?」

 

 バスケス隊員は聞き間違いかと思い、もう一度隊長に確認する。

 

 「あぁ!いいんだ!第一、ここで任務を失敗するわけにもいかない!」

 

 「わっかりましたぁ!」

 

 バスケス隊員は容器に鼻歌を口ずさみ、壁に立てかけてあった黒くて大きく、細長い袋のチャックを開く。

 

 「さぁ___ショータイムだ!」

 

 黒くて大きく、細長い袋から取り出された物___12ゲージ弾32発の詰め込まれたドラムマガジンを取り付けたフルオート射撃が可能な軍用ショットガン、『TB&PP-5』を構える。

 

 「いぃぃぃぃぃやっほぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!」

 

 バスケス隊員は他の隊員が射撃をしているのにもかかわらず、無謀にもバレリーナよろしく華麗に銃弾を避けまくる未確認高速移動物体『MOGURA』の方向へ突撃していく。

 

 「やぁ、こんにちは!」

 

 バスケス隊員は尋常ではない速度で未確認高速移動物体『MOGURA』の近くまで到着すると、挨拶をした後トリガーに手を置く。

 

 「さようならぁ!」

 

 バスケス隊員のその声と共に毎分370発もの連射速度を実現したTB&PP-5から12ゲージ弾が次々と発射されていく。

 

_!!

 

 未確認高速移動物体『MOGURA』は先ほどとは違う攻撃だと本能で察知したのか、瞬時に回避する___が、運悪く脚部にペレットが数発着弾。姿勢を崩してしまう。

 

 「あらぁ・・・かわいそうにぃ・・・」

 

 バスケス隊員は姿勢を崩し運悪く地に落ちた小鳥を見るような、見下した目で未確認高速移動物体『MOGURA』を見下す。

 

 「今ぁ・・・楽にしてあげるからぁ・・・」

 

 バスケス隊員はあくまでもナイフの間合いに入らない程度の距離まで近づき、スラッグ弾100%のドラムマガジンに切り替える。

 

 「念には念を・・・ね?」

 

 バスケス隊員はそれだけ言うと、TB&PP-5のトリガーを引き、フルオートでスラッグ弾全てを未確認高速移動物体『MOGURA』の肉体に叩き込む。

 

 

_数秒後

 

 

 「死んじゃったぁ・・・」

 

 バスケス隊員がスラッグ弾全てを打ち込んだ頃には、未確認高速移動物体『MOGURA』の肉体はもはや元の原型を留めず、そこら中に血痕と茶色い毛、肉塊のみが転がっていた。バスケス隊員はそれを銃口で触り、まるでおもちゃがなくなってしまったような顔でいた。

 

 「なんと言うか・・・えげつないですね」

 

 その光景を遠巻きに見ることしかできなかった隊員達はただ、呆気にとられていた。

 

 「スラッグ弾を生物に向けて撃ち込むって・・・大型生物じゃあるまいし・・・」

 

 「・・・怖いですね」

 

 「うんうん」

 

 隊員達は口々に頷く。

 

 「・・・何か噂してなぁい?」

 

 バスケス隊員は未確認高速移動物体『MOGURA』の鮮血で顔中が汚れた顔で振り向く。

 

 『いやいやなんでもないです』

 

 「あ・・・そう」

 

 バスケス隊員はそう言うと、装備を片付けるためにこちらへと歩いて来る。

 

 「・・・さ、ある程度休息をとったらすぐに進軍を再開するぞ!」

 

 『了解』

 

 隊員達は重機の整備や食事をとるため、つかの間の休息を取るのだった。



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第45話:巨大化した『アレ』(1) v0.0

_皇城内、秘密裏に制作された警備隊司令所

 

 

 ガチャンッ!

 

 「ほ、報告ッ!」

 

 大急ぎできたのだろう。息を切らした様子の伝令兵は少し間を置いた後一礼して言う。

 

 「魔獣『ニャンミーダ』は敵奇襲部隊に対して戦闘を優位に進めました!」

 

 『おお!』

 

 警備隊幹部達はその報告を聞き、『やったな!』と言うような顔で歓声をあげる。

 

 「__がしかし、敵の新兵器により魔獣『ニャンミーダ』は一瞬にして・・・文字通り、消滅しました」

 

 『えぇ!?』

 

 先ほどまでの歓声は打って変わり、一瞬にして絶望に満ちた声になる。

 

 「ま、まさか魔獣まで倒せるとは・・・」

 

 ダーダネルス帝国領の最南端にある不毛の土地。その地下で暮らす魔獣『ニャンミーダ』はそれ一匹を使役するだけで一騎当千の実力があると言われている。それだけに帝国で使役できている数も少なく、ほとんどが現在戦争中の北部に派遣されている。今回倒された『ニャンミーダ』はその中でもトップクラスの実力の持ち主であり、それがやられたと言うのは信じられない。

 

 「そ、それは本当なのかね?」

 

 動揺した様子の幹部が伝令兵に聞く。

 

 「はい、敵兵は生存の有無を確認していましたので、おそらくそうかと思われます」

 

 「第二階層までも突破されるとは・・・」

 

 幹部達は頭を抱えて唸る。予定では『ニャンミーダ』を使い敵戦力を半分以下までにし、第三階層でトドメを刺すつもりだった。それすらも失敗した以上、普通の手段ではもう止めることはできそうにない。

 

 「・・・警備隊長。やはり、『アレ』を使いましょう」

 

 覚悟を決めたような様子で、幹部が警備隊長に言う。

 

 「・・・まさか、『アレ』を使う時が来るとは思いもしなかったが・・・。もういい。皇帝陛下のためだ」

 

 「・・・それほどまでに、『アレ』は危険ですからね・・・」

 

 幹部達が頷く。

 

 「『アレ』を第三階層に解き放て!何としても、奴ら蛮族を止めるのだ!」

 

 『わかりました!』

 

 警備隊長の鶴の一声により、ダーダネルス帝国で特一型最重要駆除対象生物『カツァリデース』が第三階層に解き放たれた。

 

 

_皇城、第二階層から第三階層までにいく階段

 

 「む、無駄に狭いな・・・」

 

 長さが短く、取り回しがいいはずのPDWでも取り回しがしにくいほどの狭い階段。その中を第一陸戦隊は慎重に通っていた。

 

 「しかもジメジメしてるしな・・・いったいなんなんだ?」

 

 階段を上る隊員達は口々に愚痴をこぼしていた。

 

 「そんなこと言うなって・・・すぐに任務は終わるさ」

 

 「それもそうですね・・・」

 

 隊員達がPDWのピカティニーレールにつけたフラッシュライトであたりをくまなく警戒する中、隊員の一人が言う。

 

 「お、ほらみろ。もう出口だぞ」

 

 隊員が指をさす。

 

 「やっとこの狭い空間も終わりですか・・・」

 

 隊員のつぶやきに、他の隊員達も共感するように頷く。

 

 「先頭の隊長に何もなければいいが・・・」

 

 階段を登りきった隊長を指差して隊員が言う。

 

 「でもほら、何も問題なさそうですし・・・大丈夫じゃないですか?」

 

 「それもそうか」

 

 隊員達は隊長の様子を見て、問題はないだろうと思い続々と階段を上る。

 

 「ふぅ〜、気持ち悪かったぁ!」

 

 ジメジメした階段を登りきった隊員が背伸びをして言う。

 

 「・・・にしても、ここ、なんか様子が変ですね」

 

 隊員の一人が言う。見渡してみれば、壁中にはツタのようなものが所狭しと生えており、全体的に水気も多い印象だ。さらに、暗い。

 

 「モグラか何かがまた出て来るんじゃないか?」

 

 「いやいや・・・あいつはもう勘弁ですって!」

 

 隊員がそう言った瞬間だった。

 

 カサカサ...

 

 「・・・にゅ?」

 

 「なぁ・・・何か音、しなかったか?」

 

 耳のいい隊員が言う。

 

 「そうですか?特に何も聞こえませ」

 

 と、言いかけた時、変化は起きた。

 

 「うわああああああああああああああああ!」

 

 『ッ!?』

 

 ジメジメとした部屋の中に響く悲鳴。それを聞いてしまった隊員達は即座に銃を構える。

 

 「お、おい!あれを見るんだ!」

 

 悲鳴をあげたのだろう、非常に怯えた様子の隊員が、天井を指差す。

 

 「・・・なッ!?あ、あれは・・・!」

 

 隊員達が続々と天井を見上げる中、一番にその存在に気づいた隊員が、目を見開く。

 

 「あんなの・・・聞いていないぞ!」

 

 彼の目には、誰でも一度は見たことがある、しかしとてつもなくでかい『アレ』が写っていた。



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第46話:巨大化した『アレ』(2) v0.0

_皇城、第三階層

 

 

 「ど、どうします!?あれ!?」

 

 隊員の一人が焦った口調で言う。

 

 「あ、あれ気持ち悪すぎねぇか!?」

 

 隊員達が見た物。あえてオブラートに包めば台所に巣喰い茶色の見た目をしたとても素早い雑食の大量に繁殖する生き物。ダイレクトに言えば、ゴキブリ。独自の進化を遂げたのか、そのサイズは既知のものと比べても数十倍・・・40センチくらいだ。しかも細部もそのまま巨大化し、もはやゴキブリを眼前で見ている気分になってしまう。それが数十匹、天井にくっついてカサカサと言う音を立てながら這い回っている。まさに地獄絵図だ。集合体恐怖症ならその気持ち悪さもあってイチコロだろう。

 

 「あれ・・・大丈夫なんですかね?」

 

 隊員が見てはならないものを見たような目で隊長に聞く。

 

 「さっきの叫び声でも気づいていないみたいだからな・・・下手に手を出すとまずい」

 

 隊長は動揺を隠せない声で静かに言う。

 

 「お前ら!フラッシュライトを消して物音を立てずに進むぞ!」

 

 「え!?イヤイヤ待ってください!他にも道あるでしょう!?」

 

 まるで嫌がるような声で隊員が言う。

 

 「だがもう時間がない!」

 

 隊長はそう言うと、腕につけた腕時計を指差す。

 

 「ですが!」

 

 「ですがもこうもない!こうしている間にも、陽動部隊を殲滅した敵の援軍がやってくるかもしれないんだぞ!?」

 

 その声で、隊員はやっと気づく。

 

 「・・・わかりました。とっととあそこを通過して、目標を確保しましょう」

 

 「わかってくれたか・・・。バスケス隊員!TB&PP-5を構えておけ!中腰で奴らの真下を通過するぞ!」

 

 『了解・・・』

 

 隊員達はあの不快害虫《G》に対する警戒を怠ることなく、中腰になる。

 

 「た、隊長・・・あなたが先頭行ってくださいよ・・・」

 

 「わかってるって」

 

 第一陸戦隊は隊長を先頭に、不快害虫の真下通過《G》を開始した。

 

 「う・・・うぇ・・・」

 

 隊員達は頭上の不快害虫《G》達が発するひしめき音をこらえながら、ゆっくりと下を通っていく。

 

 カサ・・・カサカサッ・・・

 

 「よし・・・もう直ぐだ・・・もう直ぐ・・・」

 

 不快害虫《G》嫌いの隊員がそう言った直後だった。

 

 キュッ__ドサッ!

 

 『ッ!』

 

 よりにもよって不快害虫《G》のひしめく真下で、隊員が盛大に音を立てて転ぶ。その音を察知した不快害虫《G》達は一斉に捕食活動を開始。次々と天井から舞い降り、隊員達を喰さんとこちらへと向かってくる。

 

 「全員応射ァッ!あの扉まで向かえェッ!」

 

 バババババババババババッ!

 

 隊長が出口があるであろう扉を指差し、隊員達は応射と並行してそこへと向かう。隊員達が銃のトリガーを引き、銃弾が発射されるたびに発生するフラッシュによって幻想的な空間と化していく。

 

 「こ、こいつら予想以上に速いぞ!」

 

 さすが巨大化した不快害虫《G》。速度も尋常ではないほど速く、銃弾をヒョヒョイと避ける。おそらく一般人なら一瞬で追いつかれるだろう。

 

 「おい!バスケス!ドラゴンブレス弾を使えッ!」

 

 「ほいほーい」

 

 隊長が言った『ドラゴンブレス弾』とは、内蔵したアルミやジルコニウム(人口ダイヤ)などの発火性粉末を着火して発砲する銃弾である。発射時に花火のように火が尾を引くことから主に娯楽用として用いられれる。今回はあくまでも威嚇用として持っきただけで、建物を燃焼させてしまう危険性もあるため実際に戦闘に使うつもりはなかったがこの際仕方ないだろう。

 

 「お前ら!バスケスの射線に入るなよ!」

 

 『りょ、了解ッ!』

 

 「ってお前何してんだ!?」

 

 隊員が射撃の合間に叫ぶ。ドラゴンブレス弾入りのドラムマガジンを装填したバスケス隊員はなんと、予備のTB&PP-5を左手に、先ほど使用したTB&PP-5を右手に持っている。

 

 「お、おい!早まるな!まだお前が死んじゃ」

 

 ババンッババンッババンッババンッババンッ!

 

 バスケス隊員は他の隊員の忠告を無視してまさかの合計2丁による同時射撃を敢行する。反動軽減装置を用い、驚愕の反動軽減率90%を達成したTB&PP-5でなければ不可能な技だ。

 TB&PP-5の銃口から放たれたドラゴンブレス弾は綺麗な尾を引き不快生物《G》に着弾、油分を置く含んでいるのだろうか。あっという間に引火して数匹が燃え尽きる。

 

 「よし!その調子で撃ち続けろ!」

 

 先に扉についた隊長は援護射撃を続ける。それに合わせて隊員達は応射を止ませることなく、たどり着いた者から扉の中へと次々に飛び込んでいく。

 

 「よし!これで最後だな!」

 

 ドゴンッ!___ドンッドンッ!

 

 不快害虫《G》との距離が数メートルほどしか空いていない最後の隊員が扉に入る。それを見た隊長は後続の隊員がいないことを確認すると、勢い良く木製のドアを閉める。減速が間に合わなかった不快害虫《G》たちは芋づる式に次々と扉や蔦のようなものが生えた石壁に大きな音を立てて衝突。石壁から少し石の粒が落ちる。

 

 「これじゃ長くは持ちそうにないな・・・仕方がない!前進だ!前進しろ!急げ!」

 

 苔の生えた石壁の様子を見た隊長はハンドサインを交えて言う。

 

 『了解!」

 

 隊員達はただただ不快害虫《G》から逃げるため、先の見えない真っ暗な一本道へとフラッシュライトを照らし進んで行った。



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第47話:警備隊指令所制圧 v0.0

_皇城、第三階層 秘密通路

 

 

 「急げ急げ!すぐに追いつかれるぞ!」

 

 隊員達は常に後ろに気を配りながら、大急ぎでドアから離れるべく石造りの廊下を移動していた。

 

 「その松明に沿って進め!行け行け行け!」

 

 隊員達は壁に立てかけられた松明をたどり、ただただどこにいくかもわからない道を突き進んでいく。

 

 

_隊員達の向かう先では

 

 

 「て、敵がこちらに向かってきていますよ!」

 

 火の灯った松明を片手に持った警備兵がじんわりと伝わる熱に汗をかいて言う。

 

 「今はとにかく奴らを欺くんだ!わかったな!?」

 

 もう一人の警備兵は慌てた様子で言う。

 

 「た、松明は消したほうがいいですかね!?」

 

 「あぁそうだ!消してやれ!」

 

 「わ、わかりました!」

 

 警備兵は壁に立てかけられた松明を次々と消していく。

 

 「その調子だ___よし!そこで曲がれ!」

 

 もう一人の警備兵の指示で、二人は曲がり角を右に曲がる。

 

 「に、にしても・・・まさかあいつらを倒すなんて!」

 

 「お前もそう思うか!?あ、あれじゃ神話の・・・!」

 

 警備兵達は秘密裏に作られた警備隊指令所の頑丈な木製のドアの前に立つと、勢いよくドアを開く。

 

 ガッ__チャァァァンッ!

 

 「で、伝令!敵部隊は現在この秘密通路を使用しこちらへ向かってきています!」

 

 『な、何ッ!?』

 

 中央に置かれた机。その周りに立っていた幹部達は驚愕の顔を隠せないでいる。

 

 「ドアの欺瞞工作は!?まさかしていなかったのか!?」

 

 「あ、あんな化け物相手に正常にいられるって言うんですか!?」

 

 警備兵は幹部の問いに怒りの意を込めて言い返す。

 

 「そ・・・それもそうだな・・・」

 

 「とにかく!敵がここに来る可能性あり!今すぐにここから退避すべきです!」

 

 「よし!お前ら聴いたな!?書類の処分はどうでもいい!すぐにここから退避する」

 

 ガチャンッ!

 

 警備隊長がそう言いかけた時、秘密通路に通じるドアが勢い良く開けられ、そこから続々と不思議な灰色がちりばめられた服をまとった兵士のようなものが入って来る。

 

 『__ッ!?』

 

 そこにいた警備兵達は、あまりにも早すぎる敵の到着に一瞬茫然とする。

 

 「お前ら!手をあげるんだ!早くしろ!」

 

 いきなり部屋の中に乱入してきた敵のようなものは手をあげるように指示する。その隙をついた警備兵の一人が壁に立てかけられた槍を手に取ろうとした__直後だった。

 

 バァァァンッ!

 

 部屋の中にあまりにも大きい謎の音が響く。それと同時に槍を手に取ろうとした警備兵の頭に小さな穴が開き、そこから脳漿と血液がドロドロと出だす。

 

 「ひ、ひぃっ!」

 

 そのすぐ近くにいた幹部はいきなり死んだ警備兵を目にし、一瞬で失神する。

 

 「よくわかったな!?お前らもこうなりたくなければ早く手を上げろ!抵抗は許さんぞ!」

 

 その場にいた兵士達は抵抗することを諦め、手に槍を持っていたものはそのまま地面に落とし、手を上にあげる。

 

 「よし・・・それでいい。いくら戦争中とはいえ、ある程度無駄なしは避けておきたいからな・・・」

 

 隊長格の男がそう言うと、ホッとため息をつく。

 

 「それで?ここの最上級司令官は誰だ?」

 

 隊長格の男は鉄の棒のようなものを右手に持って警備兵達に問いかける。

 

 「お、俺だ・・・」

 

 幹部の一人が警備隊長をかばうように手をあげる。

 

 「嘘は・・・良くないぞ?」

 

 真偽を確かめる目で、隊長格の男は静かに言う。

 

 「お、俺だ・・・俺がここの司令官だ!」

 

 警備隊長は少し悩み、手をゆっくりとあげる。

 

 「ほう・・・。では教えてもらおう。簡潔に聞く。『皇帝』はどこだ?」

 

 警備兵達は『やはり皇帝が目的か』と脳内で思う。

 

 「そ・・・それは・・・」

 

 警備隊長は言葉に詰まり、たらりと額から汗を垂らす。

 

 「あらぁ・・・教えてくれないのかい?」

 

 隊長格の男は残念そうな声で言うと、部下に鉄の棒のようなものを幹部に向けて構えさせる。

 

 「こいつ・・・死んじゃうよぉ?」

 

 隊長格の男はニタァ、とした顔で淡々と言う。

 

 「・・・ま、待て!せめて・・・部下だけは助けてくれ!それだけでも・・・それだけでも叶えさせてくれ!」

 

 警備隊長は必死にすがるような声で言う。

 

 「ほー・・・」

 

 隊長格の男は一瞬考えるような素振りを見せると、再度口を開く。

 

 「__わかった。それで手を打とう」

 

 「か・・・感謝する!」

 

 警備隊長はただただ、真実を話す。

 

 「そ・・・そこのドアを開けた先にある階段を登れば・・・すぐに皇帝の間だ・・・」

 

 「__ありがとうな」

 

 バァァァァンッ!

 

 隊長格の男が放ったその言葉が、警備隊長の知る限り、最後の記憶となった。

 

 「き、貴様ァッ!」

 

 幹部の一人が目を赤らめて叫ぶ。

 

 「__厄介ごとはごめんだからな」

 

 隊長格の男はそう言うと、部下に秘密通路に通じるドアを壊させる。

 

 「別に逃げるのは貴様らの勝手だが・・・。早くしたほうがいいぞ?」

 

 「な・・・なぜだ・・・?」

 

 幹部は緊張した声で隊長格の男に問いかける。

 

 「そろそろ・・・あいつらも餌を探し待ってこの通路を這い回っている頃合い・・・か。おい!お前ら!行くぞ!」

 

 隊長格の男はすぐ後ろに立っていた部下であろうもの達にそう言うと、迅速に彼らの前面にある皇帝の間へと通じるドアへと入って行く。

 

 「・・・まぁ、なんと言うか・・・頑張れよ」

 

 最後尾の者がそう言うと、ドアは勢い良く閉められる。

 

 「__ッ!おい!待て!」

 

 先ほどまで茫然としていた幹部や警備兵達は次々と我に戻る。

 

 「こ、このドア・・・動かないぞッ!」

 

 必死に敵の兵士たちが通っていったドアを開けようとする警備兵が、最悪の事態を告げる。

 

 「う、う、うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあああああああああ!」

 

 次々と幹部や警備兵達が混乱する中、警備隊指令所の秘密通路側から発生した一つの悲鳴が部屋全体に響く。それを耳にした幹部や警備兵らはその方向を見る。

 

 『___!』

 

 秘密通路側のドアから続々と入ってくる、茶色のソレ。侵入者を滅すために放ったそれが、今度は味方に牙を向いていた。実際、一人の警備兵が首から血を流し、それを貪り食うかのように大量の茶色い生物が群がっている。

 

 「全員!武器を持て!なんでもいい!持つんだ!奴らを殺せ!」

 

 幹部の一人が大声で言う。もう、逃げ場はない。奴らと戦うしか、生き残るすべはない。

 

 『了解・・・』

 

 「行くぞぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!」

 

 

 後日、この警備隊指令所から無残なまでの姿と化した彼らが見つかったのは、言うまでもない。



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第48話:忍ぶ者達 v0.0

_彼らが警備隊指令所で奴らと戦っている頃 皇帝の間へと続く階段では

 

 

 「あ、あれで・・・良かったんですか?」

 

 隊員が静かに隊長に聞く。

 

 「良くは・・・なかったかもな」

 

 「で、ではなぜ!?」

 

 隊員は納得できない口調で言う。

 

 「・・・強いて言うなら、戦争だからだ」

 

 隊長はそれだけ言うと、フラッシュライトが取り付けられたPDWを前に構えて階段を登っていく。

 

 「そう・・・ですか」

 

 隊員は納得のいかない顔をして階段を登る。

 

 

_数分後

 

 

 「ハァ・・・ハァ・・・」

 

 隊員達はあまりにも長い階段に息切れを起こし、一旦休憩していた。長いだけならまだいい。だが、何せ角度が急なのだ。明かりも壁に等間隔で開けられた小さな鉄格子がはめられた窓のみで、周辺警戒にも神経を使う。

 

 「お前ら!早くしろよ!」

 

 隊長のその声を聞いて、隊員が痺れを切らす。

 

 「__いったい何故パワードスーツを持ってこなかったんですかッ!?こうなることは想定していたでしょう!?」

 

 パワードスーツ。いわゆる外骨格型装置だ。これ一つを装着するだけでたった一人で100キロ近い荷物を運搬することが可能。さらに汎用性も高く、ここ最近着々と各部隊への配備が進んでいる。

 

 「し、司令部が・・・『予算の都合上配備は無理だから生身で頑張って♡』って言ったんだよ・・・」

 

 『はぁ!?』

 

 隊員達はその話を聞き、口々に呆れた声を漏らす。

 

 「そ・・・それにほら?聞いてるだろ?あれは小回りがまだ効かない・・・室内戦では不利なんだ。わかるだろ?」

 

 隊員達はそこで合点が行く。確かに、パワードスーツが高価なのは事実だ。その証拠に、生存性や輸送性能が高いことから基本的に兵站線を維持する部隊へ配備が優先。特殊部隊や通常部隊などの室内戦を行う可能性のある部隊にはまだ配備されていない。よくよく考えてみればその通りだ。

 

 「そ、そう言えばそうでしたね・・・」

 

 「だからよ・・・責めるのはよしてくれ・・・」

 

 隊長は階段の段に腰掛けて頭を抱える。

 

 「・・・それで?疲れは癒えたか?」

 

 隊長は我に戻ったかのような顔で隊員達に聞く。

 

 「あ・・・いや、まぁ・・・疲れは取れましたよ。はい!」

 

 隊員の一人が頭をポリポリと掻いて言う。それにしてもこの隊長・・・切り替えが早すぎる。

 

 「それは良かった。そいじゃ行くぞ」

 

 隊長はそう言うと、石壁に立てかけていたPDWを手に掴み上へ上へと登って行く。

 

 「あっ!ちょっと!待ってください!」

 

 隊員達もそれを見て壁に立てかけていたヘルメットをかぶり、PDWを構えて体調について行く。

 

 「お、ほらみろ。もう出口だゾ!」

 

 隊員達が追いついた瞬間、隊長は変な語尾をつけて上を指差す。確かにドアがあるのが確認できる。

 

 「隊長・・・なんか変な口々ついてますよ・・・」

 

 「そんなことないゾ?」

 

 「・・・もういいですって」

 

 隊員達は降参したよう中をすると、ゆっくりと階段を登ってドアノブを掴む。

 

 「・・・いいな?」

 

 隊長が額から汗を流す。

 

 「・・・いいですよ」

 

 隊員達は『いつでも射撃できますよ』と言いたげな顔で頷く。

 

 「よし__行くぞ!」

 

 _ドガァァンッ!

 

 隊長がドアを思いっきり開く__のではなく、思いっきりドアを足で蹴りつけ押し倒す。

 

 「行け行け行け!」

 

 隊長が先に突撃し、それに続くように隊員達もドアから飛び出て行く。

 

 「クリア!」

 

 「クリア!」

 

 隊員達が飛び出た部屋に、次々と隊員達の声が響く。

 

 「・・・よし!敵はいないな!?」

 

 隊長は隊員達に最終確認を行う。

 

 「・・・はい!確かに敵はいません!」

 

 隊長は『ふぅ』とため息をつくと、ゆっくりと銃を下ろす。

 

 「・・・なんと言うか、めっちゃ豪華絢爛ですね」

 

 隊員の一人が、そのあまりの豪華さに呟く。

 

 「あぁ・・・そうだな」

 

 隊長もそのあまりの壮大さに言葉を失う。壁には黄金をふんだんに使われた装飾があちらこちらにはめ込まれ、窓にはめられたステンドグラスから差し込む淡い様々な色の光が反射するその様子は、まるで世界遺産のようだ。

 

 「__って、そうじゃないそうじゃない!『目標』を探せ!」

 

 隊長は我に戻り、即座に隊員達に指示をする。

 

 「・・・その必要・・・なさそうですよ」

 

 隊員の一人が、ゆっくりと指を差す。その方向には、背後に置かれたステンドグラスから放たれる淡い光に包まれている玉座に佇む『誰か』がいる。逆光で良くわからないが・・・おそらく、『目標』だろう。

 

 「手を上げろ!」

 

 隊員達は手にPDWを構え、ゆっくりと『誰か』に近づいて行く。

 

 「おい!手を・・・上げろッ!」

 

 どれだけ手をあげるように指示しても、『誰か』は一切その動きを見せない。それどころか、動き一つない。

 

 「ま・・・まさかッ!」

 

 隊長は何かを悟った顔で、玉座に深々と座る『誰か』に近づき、そっと触れる。

 

 「に、人形だッ!」

 

 隊長は、驚愕した顔で叫ぶ。それを聞いた隊員達の顔は、動揺を隠せないでいる。

 

 「い、一体どうしてだ!?作戦は少なくとも的にはバレていないはず・・・!」

 

 ガチャンッ!

 

 隊長がそう言いかけた時、突如として正面のドアが開かれる。

 

 「こ、皇帝!早くお逃げ・・・を・・・!?」

 

 正面ドアから入ってきた男は、皇帝のようなものを鷲掴みにする誰かを見て、腰が抜けて床に倒れ伏す。

 

 「く__く__曲者ォォォォォォォォッ!」

 

 男はそれだけ叫ぶと、泡を吹いて床に倒れた。

 

 「ッチ!お前ら!すぐにここから」

 

 ヒュンッ!__ドガッ!

 

 「ぐ、ぐッ!?」

 

 隊長がそう言いかけた時、天井方面から高速で舞い降りた投げナイフは、隊長の胸に深々と刺さる。

 

 「な、なんだッ!?」

 

 突如として床に倒れふす隊長。それを見た隊員達が訳がわからないまま、周辺を見渡す。

 

 「・・・ッ!」

 

 隊員達が見た物。それは__。



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第49話:皇城脱出 v0.0

 『魔女だ!』

 

 隊員たちは一斉に叫ぶ。彼らの目には、よく架空の物語などで目にする『箒にまたがり黒いローブを羽織った黒いとんがり帽子をかぶった魔女』そのものが、部屋の上をホバリングしている。

 

 「全く・・・警備部隊は何をしてるの!?」

 

 魔女は大声でそう言うと、胸元から数本のナイフを取り出し、投擲の構えをする。

 

 「__ッ!避けろォッ!」

 

 隊員の叫びで一斉に回避機動を取る。その直後

 

 __ドッガァァァンッ!

 

 『ッ!?』

 

 隊員達の立っていた赤い絨毯に、突如として巨大な爆音、爆風とともに大きなクレーターが形成される。石をそこら中に撒き散らし形成されたクレーターは、明らかに人間業では無い。

 

 「な、なんて威力だ!バケモンか!?」

 

 隊員が悲痛の叫びを言い放つ。

 

 「各員応射!応射しろ!今後は俺が指揮を執る!」

 

 隊長の次に階級の高い隊員が、苦しむ隊長を尻目に部隊の指揮権を受け継ぐ。

 

 『了解ッ!』

 

 パパパパパッ!パンッ!パンッ!

 

 隊員達は空を飛ぶ魔女に向けて射撃を開始。ホバリング中の魔女に命中し続ける銃弾は、確実に魔女を仕留める。

 

 「やったか!?」

 

 はずだった。

 

 「あらぁ・・・?少し痒いわ?」

 

 発砲炎が晴れた時、現れたのは全くもって無傷の魔女だ。魔女は背中をぽりぽりと手で掻くと、空中に浮遊する銃弾を一つ右手でひょいと掴む。

 

 「お・返・しするわねぇ!」

 

 魔女は右手に少し力をこめたかと思うと、一瞬で銃弾を投擲する。

 

 「なッ!?」

 

 右手から投擲された銃弾は少し滞空したかと思うと、一瞬にして超加速する。

 

 「い、一体ど」

 

 _ヒュンッ!_ドガッ!

 

 「ッ!?」

 

 臨時隊長の鼻先を何かが通過したか。そう思った瞬間、背後に立っていた隊員が『ドサッ』と言う音を立てて倒れる。

 

 「だ、大丈夫か!?」

 

 隊員がそばに立ち寄り、脈を確認する。

 

 「だ・・・だめだ。死んでる・・・」

 

 見てみれば、頭のあたりから赤い水たまりが形成されている。その時だった。

 

 「ば、ば、化け物めぇぇぇぇぇぇぇッ!」

 

 すっかり影の薄くなった痩せた風体の男__アロンソ隊員が、手に何かを構える。

 

 「ッ!?お前!待て!それは!」

 

 隊員が静止するため近付く__が一足遅かった。

 

 __ポンッ!

 

 アロンソ隊員がスコープを覗き、トリガーを引いたかと思うとアロンソ隊員の持つ銃の銃口から30ミリ弾が放たれる。

 

 「し、し、死ねぇぇぇぇぇぇぇぇっ!」

 

 ___ガッァァァァァァンッ!

 

 今度は突如として、魔女のすぐ近くで巨大な爆煙が発生。その爆風により隊員達は床に思いっきり叩きつけられる。

 

 「ぐぅっ!」

 

 アロンソ隊員が使った銃の名前は『PPGL--30』。セミオートでポンと30ミリグレネード弾が発射できる銃だ。レーザーレンジファインダーを使用し、指定の距離に到達すると自動で爆発する機能を持つロマン兵器だ。

 今回アロンソ隊員が使ったのは使用可能弾種の中でも最狂と使用した隊員から言われる『燃料気化弾』だ。燃料気化弾は、燃料を気化させた後着火させることにより生じる強力な爆風で敵兵を殲滅すると言うなかなかやばいコンセプトで作られた燃料気化爆弾を超小型化し、少々威力を抑えた物だ。__それでも周囲1メートルの兵士を一瞬で圧死させる性能があるので、基本使うのは屋外だ。そんなものを屋内で使おうとした__というか使ったので、隊員が制止しようとするのも当然だ。

 

 キィィィィィン...

 

 「っ・・・」

 

 耳鳴りがする中、臨時隊長は頭を押さえてゆっくりと腰を上げる。

 

 「__はっ!味方は!?味方は!?」

 

 ホルスターに入ったハンドガンを力強く握りしめると、顔を動かし周囲を見渡す。

 

 「う、うわ・・・こりゃひどい・・・」

 

 隊員達のいた部屋の外壁はどれもこれも無茶苦茶にされ、ステンドグラスのほとんどは粉々に割れている。爆圧で壊れたのか、天井には大きな穴が空いておりそこからほのかに差し込む太陽光がなんとも幻想的だ。

 

 「ってそうじゃないそうじゃない!」

 

 臨時隊長は腰をゆっくりとあげると、周囲にいるであろう隊員を探す。

 

 「おーい!いるかー?」

 

 周囲に転がる瓦礫を時折押しのけ、隊員の安否を確認する。

 

 「じ、自分はなんとか・・・」

 

 隊員の一人が瓦礫の山から顔を出す。

 

 「おぉ!よかった!」

 

 臨時隊長は隊員の元へ駆け寄ると、手を差し出す。

 

 「よっと・・・」

 

 臨時隊長はゆっくりと隊員を持ち上げる。

 

 「・・・何が起きたんですか?」

 

 まだまだ爆風の影響が残っているのだろうか。隊員がボケーっとした顔で臨時隊長に尋ねる。

 

 「アロンソの馬鹿野郎が燃料気化弾を使ったんだよ・・・!」

 

 臨時隊長は舌打ちすると、上にぽっかりと空いた大穴を見つめる。

 

 「・・・回収部隊を呼べ!この作戦は失敗だ!」

 

 「りょ、了解!」

 

 隊員は地面に落ちていた無線機を拾うと、電源が点くか確認する。

 

 「電源は・・・点くな」

 

 隊員は無線を口元に近づけると、ボタンを押して司令部につなぐ。

 

 「こちら第一陸戦隊__こちら第一陸戦隊。司令部、応答願う」

 

 しばらく待つと、司令部から返答がやってくる。

 

 『こちら司令部、どうぞ』

 

 「こちら第一陸戦隊。作戦は失敗、繰り返す。作戦は失敗。敵が今回の作戦実施を察知していた可能性がある」

 

 『__ッ!?了解した。一番近くにいる陽動部隊回収機を向かわせる。場所はフレアで教えてくれ』

 

 「感謝する」

 

 隊員は無線を切ると、無線機を瓦礫に放り投げる。

 

 「隊長、他の隊員は見つかりました?」

 

 隊員はフレアを焚いて風通しの良さそうなところに放り投げると、臨時隊長のいる方向を向く。

 

 「まぁ・・・なんとか、だがな!」

 

 足の骨を折った隊員を担いだ臨時隊長が言う。見てみれば、背後には瓦礫から続々と這い出る隊員達がいる。その中にはなぜか無事なアロンソ隊員や筋肉バカのバスケス隊員も混じっている。彼らは不死身なのだろうか。

 

 「それはよかった___それで・・・『魔女』はどうでした?」

 

 隊員が臨時隊長に尋ねると、『そうだそうだ思い出した』と言った顔で臨時隊長が口を開く。

 

 「『魔女』は・・・まぁ、死んでいたよ。丸焦げでな」

 

 臨時隊長の顔が険しくなる。あの至近距離で燃料気化弾をまともに食らったのだ。死んでいて当然だろう。

 

 「そうですか」

 

 パラパラパラパラパラ・・・

 

 遠くからやってくるティルトローター機の放つ風切り音が部屋の中にこだまする。

 

 「結局、作戦は失敗ですか」

 

 「あぁ・・・そうだな」

 

 臨時隊長は早期講和を持ち込めたらどれだけ良かったか、と思う。

 

 「長期戦は・・・ごめんだな」

 

 屋根にぽっかりと空いた穴の上でホバリングするティルトローター機を見て呟く。

 

 「ま、頑張りましょうよ」

 

 「そうだな」

 

 数分後、第一陸戦隊の生存者その亡骸。その全ての回収を終えたティルトローター機は特に追っ手に出会うこともなく高速で皇城を去って行った。



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第50話:風前の灯火 v0.0

_第二次帝都襲撃事件から一夜が明けた頃、皇城に設けられた臨時会議場では

 

 

 第二次帝都襲撃事件の責任者への責任を問う緊急会議。そこに無理やり出席させられた__というより、連行された西部方面司令官は、周りを椅子に座った各省の役員が取り囲む中ただただ俯いている。

 

 「一体・・・どう言うことなのだ!」

 

 皇帝の配下が叫ぶ。その声を聞いた今回の責任者__西部方面司令官は、『ひぃぃっ!』と言う情けない声を漏らす。

 

 「哨戒中の竜兵は仕事をしなかった・・?おまけに帝都への侵入を許し、さらに皇帝をさらわれた・・・?これがどう言うことかわかるか!ん!?」

 

 皇帝の配下は一言一言を強調して言う。その場に居合わせた各省の役員たちもウンウン、と頷く。

 

 「戦争を誘導する象徴が消えたのだぞ!?国民に、『皇帝のためなら』という思考を刷り込まなければ、我が帝国は分裂する!わかるか!?それに属領も時期に反乱を起こす!どれだけ重大なことか__貴様はわかっているはずだ!」

 

 「・・・」

 

 西部方面司令官は、ただただ頷く。その返答に満足しなかったのか、皇帝の配下は舌打ちする。

 

 「あーもういい!お前は__死刑だッ!」

 

 『!?』

 

 その結論を予想していなかった誰もが、その言葉に驚愕する。

 

 「い、いや待つのだ!お主は現状をわかっておるのか!?」

 

 その一人、工業担当省の大臣が反論する。

 

 「あぁ、分かっているとも!」

 

 皇帝の配下はドヤ顔で叫ぶ。

 

 「__ならば!工場地帯のほとんどが壊滅した!それを承知して言っているのですな!?」

 

 「__ッ!?」

 

 おそらく知らなかったのだろう。皇帝の配下は驚愕した声を出す。

 

 「私も言いたい!」

 

 この時を待っていたのだろうか。軍事大臣も手をあげる。

 

 「現在、我々帝国は深刻な人材不足に陥っている!優秀であろうがなんであろうが、歴戦の猛者__それも司令官を遊び感覚で殺されてはたまったもんじゃない!」

 

 軍事大臣の発言に、各担当省の役員たちは深々と頷く。

 

 「だ、だが!」

 

 皇帝の配下はそれに納得しないのか、反論する。

 

 「臣民の!臣民の怒りをどこへ向かわせる!?今は、とにかく結束力だけは残さなければならない!なんとしても、だ!」

 

 「だとしても司令官を死刑に処すのか!貴様は!?投獄するんだ!投獄だ!」

 

 「そうだそうだ!」

 

 熱狂的な投獄派が何度も何度も『投獄!投獄!』と叫ぶ。それを聞いた死刑派も続々と投獄派へと変わり、会議の流れは死刑ではなく投獄へと傾く。

 

 「・・・わかった!わかったから!投獄だな!?」

 

 皇帝の配下は役員たちに落ち着くようにいうと、衛兵を呼ぶ。

 

 「衛兵ッ!こいつを投獄しろ!」

 

 「はっ!」

 

 衛兵が西部方面司令官のそばに立つと、『立て!』と言い、出口へと連行して行った。

 

 「・・・はぁ」

 

 皇帝の配下がそばにあった椅子に座る。

 頃合いを見計らって、役員の一人が口を開いた。

 

 「・・・それで、これからどうするのだ?」

 

 「やはり、降伏しか・・・」

 

 「それはならん!何としても勝つ必要がある!」

 

 役員の一人が確信したかのような声で言う。

 

 「で、ですが・・・」

 

 「うむ・・・もう、我々に継戦能力は皆無だ。現状は残された戦力だけで戦闘を継続しなければならない。・・・いつまで持つかは、わからぬが」

 

 「・・・勝ち目、なくはないのでは?」

 

 軍事大臣が思い出したような口調で言う。

 

 「ほう・・・聞かせてもらおう」

 

 役員たちは『もうどうにでもなれ』と言いたげな顔で軍事大臣に託す。

 

 「はい、まずですが相手はデルタニウス王国ですね?」

 

 「その通りだ」

 

 「でしたら、現状拮抗状態の北部軍はそのままにして、少数の属領警備隊を除いた全兵力を西部第3海軍基地に集結、本隊を10個部隊に分けてあらゆる方面よりデルタニウス王国に上陸させてはどうです?」

 

 「そうは言っても、だな・・・」

 

 役員たちが悩む姿を見せた、その時だった。

 

 _ガチャァンッ!

 

 臨時会議室のドアが勢いよく開かれ、中に汗だくの伝令兵が入ってくる。

 

 「で、で、伝令ッ!」

 

 「何事だッ!?」

 

 突如として部屋に入ってきた伝令兵に、役員たちは騒然となる。

 

 「あ、あの帝国・・・『ヴァルティーア帝国』が突如として現れ、第五文明国とともに北部軍を蹴散らし帝国属領内への侵攻を開始・・・しましたッ!」



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大陸の覇者の没落 ー辺境の地の帝国の来訪編ー
第51話:猛虎の進軍 v0.0


_ダーダネルス帝国北部、最北端属領の国境

 

 

 遅滞戦闘中の北部方面帝国軍と、突如として属領内に侵攻を開始したヴァルティーア帝国との間では、平原をまたいで熾烈な戦闘が行われている。

 

 「行けぇッ!行けぇッ!」

 

 『ウゥゥゥラァァァァァァァァァァァァッ!』

 

 ヴァルティーア帝国軍将校の突撃の号令で、薄い緑色のヘルメットをつけたヴァルティーア帝国兵たちは急造の塹壕から一斉に飛び出し対峙するダーダネルス帝国軍へと突っ走っていく。付近に散乱する味方兵士だったものの肉塊を踏み越え、ただただ突撃のみを敢行する。見てみれば、彼らの手にはドラムマガジン付きのサブマシンガンが握られている。

 

 「ま、魔導師ィッ!大規模魔法だ!それに魔導バリアも展開ッ!」

 

 3回目の大群衆による突撃を確認したダーダネルス帝国軍指揮官は、後方に展開する魔導師たちに魔法展開を要請する。

 

 「はぁ・・・はぁ・・・りょ、了解ッ!」

 

 疲労困憊の様子で、総勢2000名にも満たない魔導師たちは魔法の詠唱を開始する。

 

 「くっ!間に合わんか!」

 

 司令官は恐れをなさず突撃を続ける敵兵士たちに内心恐怖を覚える。すでに相手との距離は10リージ(50メートル)を切っており、このままではこの第五防衛ラインが突破されてしまうのは目に見える。そうなれば、残される最終ラインはるか後方にある城塞都市エリスのみだ。今日だけで数回にわたる戦闘をしてきた我々に、そこまで体力が持つ保証はない。

 

 「第一列銃兵隊!前へ!」

 

 指揮官は『やむなし』と言いたげな顔をすると、待機中だったマスケット銃を所持する総勢100名の第一列銃兵隊を前に出す。

 

 「構えェッ!」

 

 赤い服を身にまとった銃兵隊たちは、司令官の声とともに一斉にマスケット銃を敵兵に向けて構える。

 

 「___撃てェッ!」

 

 有効射程距離に敵が入った瞬間、司令官は銃兵隊たちに発砲の指示を出す。

 

 パァンッ!__パンッパンッパンッパンッ!

 

 銃兵隊の持つマスケット銃は発砲とともに大量の白い硝煙を排出。周囲をその硝煙が包み込む。

 

 「第二列、前へ!」

 

 過去に行われたダーダネルス=ヴァルティーア帝国戦争。その時の教訓として、銃兵隊は全員を一斉に使うのではなく、数部隊に分けて運用すると言うものが得られた。それを今、彼らは見習い、実行に移していた。

 

 「構えッ!」

 

 司令官は第一列銃兵隊を後方に退避させると、第二銃兵隊を前衛に移動さ、硝煙が晴れていない今のうちにマスケット銃を構えさせる。

 

 「よーし・・・いつでも撃てるように!」

 

 硝煙が風に乗り、視界が戻る__その時だった。

 

 パパパパパパパパッ!

 

 「ぬッ!?」

 

 敵の居る方向から、多数の光る矢がこちらに向かってやってくる。それはあっという間に距離を詰めると、マスケット銃を構えていた第二列銃兵隊を次々と撃ち抜いていく。

 

 「て、敵の装填速度は化け物かッ!?」

 

 第二列銃兵隊の兵たちが次々と倒れ伏していく中、司令官は驚愕の顔を隠せず、ただただ見ることしかできない。

 

 「ま、魔導師ッ!魔導シールド展開はまだかッ!?」

 

 「あ、あともう少しです!」

 

 魔導師は司令官からの問いに、汗水を大量に垂らして言う。

 

 「早く!早くするんだ!このままでは!」

 

 ドーン...ドーン...ドーン...

 

 「ッ!死の咆哮かッ!」

 

 死の咆哮。これが戦場に鳴り響いたあとやってくる風切り音を聞いた時、一瞬にして爆裂魔法があちこちに発生。大地を揺るがすほどの大爆発により大量の兵士たちを爆殺すると言われるものだ。今回も、この死の咆哮だけでどれだけの兵士が死んだか、想像したくもない。

 

 ヒュゥゥルルルルルルルルル...

 

 妙な風切り音が戦場にこだまする。

 

 「く、くるぞ!全員伏せろぉぉぉぉッ!」

 

 兵士たちが次々と地面に伏せる。

 

 _ドガァァァァンッ!ドガァァァァンッ!

 

 伏せたと同時に、辺り一面に次々と大爆発が発生。土砂や人間の一部が辺り一面に散らばる。

 

 『ウゥゥゥゥゥゥラァァァァァァァァァァァァァァッ!』

 

 敵兵の一部もこちらと同様に爆発に巻き込まれていたが、それを物ともせず奴らは雄叫びをあげて着々とこちらとの距離を詰めてくる。

 

 「ま、まずいッ!魔導師!早く魔導バリア・・・を・・・?」

 

 司令官が後ろを振り向く。そこに魔導師の姿はなく、残っていたのは彼らの四肢胴体であろうものと、羽織っていたローブ。そして、巨大なクレーターのみであった。

 

 「く、くそぉぉぉぉぉぉぉぉぉッ!」

 

 パァァァンッ!

 

 まるで帝国が滅亡へと走って居るのを象徴するかのように、司令官は敵の放った凶弾により命を散らした。

 大物量と新型兵器で攻めてきた敵軍に、北部方面はなすすべなく敗退。この日だけでダーダネルス帝国の属領と化していた数にして50もの属領の内、15以上の属領が独立を果たし、ヴァルティーア帝国軍は破竹の進軍を続けるのであった。



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第52話:第50回国家方針会議 v0.0

 中の人が投稿は一旦中断するって言ってます。……以前と違い、不定期投稿だそうですが。

______

 

_エルディアン共和国、首都エルディアン 大統領府

 

 

 「それではこれより、第50回国家方針会議を始めさせていただきます」

 

 司会が言う。

 大統領府の一角、会議室では数ヶ月ぶりの国家方針会議に出席すべく集まった各担当府の大臣らが、ずらっと顔を居合せていた。

 今回の議題は、ズバリ『戦争どうする?』である。

 

 「まず現在の戦況ですが……軍務担当大臣、説明をよろしくお願いします」

 

 「わかりました」

 

 軍務担当大臣は、深く腰掛けていた椅子から立つと司会に変わり立つ。

 

 「まず現状の戦況ですが、はっきり言えば『優勢』です」

 

 大臣らは、フゥ、と腕をなでおろす。たかだか中世レベルの武器しか持たない軍相手に劣勢だ、と言われるとなると少しばかり軍務担当大臣の頭を疑うところだった。

 

 「具体的には西部戦線……まぁ、海岸線ですが。そちらでは未だ少数の残存兵で構成された貧弱なゲリラが跋扈していますが、それに目をつむれば比較的良好です」

 

 ですが、と軍務担当大臣は続ける。

 

 「密林奥地への侵攻計画は現在のところ企画されていません……と言うより、棄却されました」

 

 何でだよ!?と言う声があちこちから上がる。

 

 「もちろん侵攻すべきなのは承知しています。ですが、当該地域には……」

 

 軍務担当大臣はそう言いかけると、部下に目配せをする。

 彼の部下は軍務担当大臣の目配せを確認すると、部屋から退出、しばらくして戻ってくると彼の手には数枚の写真が握られていた。

 

 「これら……まぁ、『存在X』とでも言いましょうか。それらが存在している可能性が指摘されたためです」

 

 彼の部下は手に握る数枚の写真を机に広げると、『どうぞご覧ください』と言い軍務担当大臣の立つ方向へ向かう。

 大臣らはなんだなんだと詰めかけ、それら数枚の写真を手に掴みじっくりと凝視する。

 

 「こ、これは一体?」

 

 彼らは漠然とした顔で軍務担当大臣に問いかける。

 

 「『存在X』……軍部では『未確認生物コード0-1』と名付けている……いわば『黒くテカテカして高速で移動する脂っこい台所の主婦の敵』、および『モグラ』です」

 

 彼らが手に持つ写真には、敵帝都にそびえる王城へと潜入した第一陸戦隊、彼らの撮影した生物が映し出されていた。

 

 「これら生物は、敵帝都に潜入、敵国国家元首確保という任務を受け出撃した第一陸戦隊が撮影したものです。『めっちゃはやかった!』、『きもちわるかった。もうおよめにいけない』等々、精神障害を負った隊員証言がありますが……それはまた、のちの機会に」

 

 彼らは思わず尻込みする。写真に映し出された『黒くテカテカして高速で移動する脂っこい台所の主婦の敵』……いや、もう『G』としか言いようがないそれら。写真の端に映し出された隊員のサイズから比較するに、40センチはあるであろうそれが、あの密林に大量に生息していたら……。

 

 「ぐ、軍務担当大臣。こ、この『存在X』とやらの性質は……?」

 

 「現状なんとも言えませんが……第一陸戦隊が出会った『それら』の性質は極めて凶暴であったとのことです」

 

 彼らの脳裏に、巨大な『G』により臓腑が撒き散らされ食いちぎられる多数の自国民《へいし》の姿が浮かび上がる。

 

 「現在『存在X』に対する対策を考案中ではありますが……これ以外にどのような生物が生息するのかわからない以上、むやみやたらに侵攻できないのが現状です」

 

 「そ、そうですか……」

 

 大臣らは、半ば納得したかのような顔で軍務担当大臣を見る。

 

 「って、待て」

 

 と、そこにすかさず財務担当大臣が声を上げる。

 

 「確かこの第一陸戦隊……国家元首確保のため帝都に向かったんだよな?……国家元首は確保できたのか?」

 

 軍務担当大臣は彼からの質問に少し唸りを上げ、答える。

 

 「その作戦は……失敗しました。どうやら敵は、国家元首の形をした人形を配置、本体はどこかに潜んでいるものと思われます」

 

 なんてこった!という声があちこちから上がる。

 

 「……つまりなんだ?こちらの作戦が漏洩していた、そう言いたいのか?」

 

 「そうとしか……」

 

 「……これじゃ、戦争の長期化もありえるのか……?」

 

 「……まぁ、この作戦はそのために実施されたものですから」

 

 軍務担当大臣は、「ですが、」と付け加える。

 

 「偵察衛星の情報では……どうやら、どこぞやの国家が『帝国』に対する侵攻を開始したとのことです。もしこれが事実……援軍でないのであれば、『帝国』は工業地帯を全て失った状態で二正面作戦を行うことになります」

 

 

_第50回国家方針会議を終えた後、廊下では

 

 

 「軍務担当大臣、ちょっといいかね」

 

 第50回国家方針会議を終え、各大臣が会議室から退出する中大統領は軍務担当大臣に声をかける。

 

 「はい、なんでしょうか?」

 

 大統領は周囲に聞き耳をたてる大臣がいないことを確認すると、軍務担当大臣の耳元で囁く。

 

 「『国家戦略防衛構想』……それと並行して、『ロンギヌス計画』を進行させることはできるか?」

 

 軍務担当大臣は、大統領の放った『ロンギヌス計画』という単語を聞き目を丸くする。

 

 「……大統領。あの計画は……あまりにも危険です。あれを使った際の被害は……通常の核兵器をはるかに超えます」

 

 「わかっている。だが……いつどこから攻撃を受けるかわからない以上、あの計画は現在の我が国にとって必要なものだ。わかるだろう?」

 

 「そ、それもそうですが……」

 

 軍務担当大臣は少し悩んだ様子を見せると、再度口を開く。

 

 「……わかりました。検討してみます」

 

 「頼んだ」

 

 大統領はそれだけ言うと、静かに会議室を退出していくのだった。



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第53話:追い詰められる帝国&ちょっとした告知 v0.0

 お知らせということですが、なにもまたまた投稿を休止するわけではないです。現在投稿済みの全話を第一話から順に改稿という名の大幅な加筆作業を行います。具体的には矛盾点や誤字等の修正、あとは詳しくかけていない部分(ダーダネルス帝国側の目線や他国の反応など)、新生物……ほとんど登場していない恐竜もどきや昆虫やらの追加です。兵器等も現代チート発揮のため入れ替わるかと思いますので(異世界リスペクトも忘れないよ!)、気になったら見てあげてください。(投稿は不定期ですが止まることはないでしょう(希望的観測)

 改稿済みの話には題名横に『改稿』と付けておくので、それを目印にしてください。

 不明な点等あれば遠慮なく作者にお伝えください。『知識の追いつく範囲で』修正を行います(ウィ○を見ながら)

______

 

 

_ダーダネルス帝国帝都ディオニス、総合司令部

 

 

 「北部方面帝国軍司令部から連絡ッ!ヴァルティーア帝国軍の『鉄の箱』、および『人海』により防衛戦は崩壊、現在各地に分散した残存兵力を集結させ遅滞戦闘を実施中とのことです!」

 

 「何!?もう防衛戦が崩壊したのか!」

 

 ダーダネルス帝国軍のすべての情報が集まる総司令部。ただでさえ先日の第一次、第二次帝都襲撃事件で防空体制の甘さなどが指摘され大騒ぎだったのだが、今回はより一層……蜂の巣を突いて蜂に襲われて喚き散らす子供のような状況になっていた。

 総合司令部のベルティは、先ほどから北房方面帝国軍より伝えられる数多の悲報に恐怖を抱きながら、

 

 「北部方面第五帝国軍は!?増援に向かったんじゃないのか!」

 

 「……北部方面帝国第五軍は、ヴァルティーア帝国軍の『鉄の箱』により……奇襲を受け、現在敗走中とのことです」

 

 総司令官ベルティは、何度も耳にする『鉄の箱』と言う単語に苛立ちを覚える。

 確か初めて『鉄の箱』と言う単語が出現したのは……デルタニウス王国攻略軍だっただろうか。

 あの時は、ただの冗談……偶然デルタニウス王国の魔道士が大規模魔法を使い偶然密集体系をとっていたため全滅、その言い訳だろう程度に思っていたが……。

 だが、先ほどから耳に入る報告はどうだ。デルタニウス王国だけでなくヴァルティーア帝国も『鉄の箱』を使い、北部方面帝国軍を幾度となく敗北に導いている。

 

 「な……何か対策はないのかッ!?」

 

 「ないかと思われます!」

 

 通信員からの即答に、彼は絶望する。

 

 「そんなわけがないだろう!……そうだ!海軍は!?海軍はどうなんだ!」

 

 あぁ、そうだった。確か北部方面帝国軍には試験配備も含めた最新鋭の装備を搭載した新型戦列艦が大量に配備されていたはずだ。いくら陸で負けるとはいえ……海戦では負けまい。いつの時代も、数を制した軍が勝つのだから。

 そう思ったベルティは、まるで希望を導き出したかのように尋ねる。

 

 「現在北部方面第二帝国海軍は母港を出港、現在陸上部隊援助のためそちらへと向かっているとのことです!」

 

 ベルティの脳内で、安堵と不安が湧き出る。さすがに海上部隊はやられていなかったか、という安心感と奇襲を受けないか、という不安だ。

 

 「そうか……北部方面第二帝国海軍はそのまま向かわせろ!あとは空軍だが……どうなっている?」

 

 「確認します。少しお待ちください……」

 

 

_其の頃、ダーダネルス帝国北西海域 第二帝国海軍はというと

 

 

 「艦長、我々第二帝国海軍はこのまま北上、沿岸部に展開する敵左翼から艦砲射撃を実施し陸上部隊の援助を行う……この手筈でよろしいですね?」

 

 戦列艦全てを指揮する司令官ヴェルティは、側近からの問いに陽気な声で答える。

 

 「勿論。陸軍は『相手は非常に強力で、今にも負けそうである!』など言っているそうだが……幾度となく訓練を行ったこの艦隊……新鋭艦が優先的に配備されているのだ。そうそう負けるはずがない」

 

 ヴェルティがそう豪語する理由は彼らの乗る船にあった。

 

 「それに見よ!この『ドレッドノート級戦列艦』を!」

 

 彼がそう言い、単縦陣で後ろからついてくるように航行する『ドレッドノート級戦列艦』と呼ぶ戦列艦を指差す。

 『ドレッドノート級戦列艦』。今までの戦列艦の、『大砲が当たらない?ならいっぱい砲を積んじゃえ!あ、ついでに船体も巨大にね』という思想を大きく切り捨てた本艦は、はじめ軍部から『なんだこれ。ただの大砲少なくしただけの弱っちい船じゃん』と呼ばれる羽目になるが、いざ試験航海をしてみれば従来の戦列艦の常識を打ち破るかの性能に、驚愕したという。それを見た時、ある軍の幹部は『大砲って多くないほうがいいんじゃないか?』と口から漏らしたそうだ。

 そもそも、なぜ大砲を多く積む必要があったかといえば『命中精度が低いから』である。それを克服するには『命中精度』を上げるか、『弾幕を張るか』。その二択であった。だが大砲を多く積めば多く積むほど、それに比例し船体のサイズも巨大化、重量も大きくなる。

 それに目をつけた技術者たちは、『大砲を多く積む』という設計は切り捨て、砲門は合計で30門にまで削減される事になる。これにより重量は大幅に削減。さらに魔力を込めることにより使用できる新型推進用魔石を採用することにより、従来の戦列艦では出すことの難しかった破格の25ノットを試験航海で発揮することに成功する。

 さらに、『命中精度』の問題に関してもここ最近急激に発展した魔導技術の恩恵により発射後にある程度弾道を制御することが可能となり、同時に先述の新型推進用魔石を組み込んだ特別性砲弾を使用することにより射程も従来の2キロから4キロへと伸びた。勿論魔道士の運用は必須、さらに魔力消費量も大きいがもともと魔導シールド運用のため以前から魔導士部隊は多数艦隊に組み込まれていたため、さしたる問題にはならなかった。

 砲弾もやっとの事で実用段階にこぎつけた爆裂砲弾で、攻撃力だけ見ても従来の戦列艦を大きく引き離しているのは明白だった。

 船体は従来の戦列艦のデザインをそのまま小型化したかのような見た目だが、全体的にスリムな形状になっている。

 

 「一体的がどんな戦列艦を保有していようと…我々の乗る『ドレッドノート級戦列艦』…略して『ド級戦列艦』に勝つことなどできないのだ!……だといいのだが」

 

 ヴェルティの脳裏に、デルタニウス第二次攻略軍が駆逐される姿が浮かぶ。

 

 「艦長、そういうことを言うのはおやめください。敗北主義者と決め付けられ我々が処刑されてしまいます」

 

 「それもそうなのだが……だが……しかし……」

 

 「艦長ッ!前方……2時の方向!」

 

 マストの上で見張りを続けていた見張り員が、悲鳴にも似た声で2時の方向を指さす。

 その報を聞き取った艦長は壁に立てかけられた単眼鏡を勢い良く手に取り、2時の方向を見る……必要もなく、それは目視できた。

 

 「な……!?あれは……ッ!」

 

 彼の眼には、水平線の先でもうもうと黒い煙を吐き出し海を突き進む、複数の艦艇が映っていたのだった。

 

 

______

 やっぱりジュ○○ックパークの主題歌はいいなって思う今日この頃。



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第54話:赤 v0.0

_第二帝国海軍

 

 

 「……敵船が……燃えているッ!」

 

 第二帝国海軍を指揮するヴェルティは、先ほどから目に入る光景に愕然とする。

 彼の目に入っているのは、数隻のヴァルティーア帝国海軍のものと思われる軍船。そして、それら数隻は例外なく、艦体中央部からモウモウと黒煙を吐き出している。初めは何かの冗談だと思ったが、何度見直してもそれは現実。加えて、消火は一向に進んでいるようには見えない。火事にしても消化が行われないのはおかしい。彼は直感で判断する。

 

 「総員に通達!直ちに戦闘配置だ!……幾ら何でも、戦闘をする前から燃えてるのはおかしい……。魔式大砲の射程圏内に入り次第敵艦に向けて撃ち放て!」

 

 『『了解!』』

 

 乗組員達はヴェルティの指示を耳にした瞬間から、訓練通りテキパキと自分のすべきことを行う。ある者は大砲の射撃用意を行い、またある者はその燃える船への監視を怠ることなく実施してゆく。

 

 「船長!各員戦闘準備完了、いつでもいけます!」

 

 「よろしい。新型推進用魔石の起動準備は?」

 

 「そろそろ終わることかと……」

 

 「わかった。新型推進用魔石の起動準備が完了次第、すぐに起動。最大船速であの燃えている船に向かえ。警戒は怠るなよ」

 

 「了解」

 

 

 _一方その頃、対峙する所属不明の艦隊

 

 

 「いよいよ海戦か……」

 

 ヴァルティーア帝国海軍第一艦隊所属、第一水雷戦隊の指揮をとる低身長が特徴的なドワーフ族のニコライ中佐は緊張した顔で、水平線の先に見える複数の戦列艦を見つめていた。

 

 「魔波反射装置の調子はどうだね?」

 

 「はい、ニコライ中佐。魔波反射装置はテスト通り順調に稼働、既に敵艦隊は主砲射程圏内に侵入しているので、いつでも任意のタイミングで魔波反射装置を駆使した精密射撃が可能です」

 

 「そうか……数年前の戦争では痛み分けに終わった我々海軍だが……どうやら敵国、神の乗る船が訪れていないようだな。艦の見た目的に……多少技術が進歩したようだが、神より授かった新技術を応用し、生まれ変わった我々には勝てない」

 

 彼は帆を目一杯に貼り、こちらへと接近してくるダーダネルス帝国海軍の戦列艦を哀れみの目で見つめる。

 2年前、我が国にも遂に神の乗る浮舟が到来、複数の恵みものを授けてくださった。その中には、我々からしてみれば未知の物体……『魔式蒸気機関』と呼ばれる『黒の魔石』を使用し、無風であっても船を動かすことができる機関や、『巡洋艦』と呼ばれる巨大な鉄でできた兵器。そしてその設計図や製造するための器機とそれを設計するための技術が、国内に存在した少数の造船関係・兵器関係の優秀な技術者に気付けばインプットされていた。

 どうやら神話は本当だったらしい。神より授かった物体は、どんなものであろうとそれに触れた瞬間、使用方法を習得する魔法が付与されていた。これによりわざわざその兵器の運用方法を一切学ぶ必要はなく、ローコストで乗員が養成できた。

 それでも造船費用自体はかかるので、現在我が海軍に配備されている『巡洋艦』は数が少ない。

 その日を境に軍は海軍や陸軍、そして新設の空軍を作り上げ、軍備を強化。広大な、資源が豊富にある土地。土地南下政策の元日々この日のため訓練を重ねてきた。そして今日、こうして唯一神種リベリア人により戦う機会は与えられたのだ。この機会を逃しはしない。

 

 「全艦に通達。巡航速度を維持し各自射撃を開始せよ、とな」

 

 「了解」

 

 ニコライ中佐は艦帽を手に取ると、頭に深く被り、艦尾で大きくたなびく赤一色、そして資本主義からの解放を表す鎖を断ち切る女神の描かれた国旗を見つめ、こう呟く。

 

 「同志ヨフタリ・シスーンの為に」




第2話の改稿とっとと終わらせなきゃ……


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第55話:名もなき北西海域での戦闘 v0.0

うーん……改稿ってここまで大変なのか?(頭真っ白)

改稿……つよすぐる。

後脳内で不思議と大量にストーリーの内容が湧き続けるのも絶対悪い。

______

 

 _ヴァルティーア帝国海軍第一艦隊所属、第一水雷戦隊

 

 

 「敵艦隊との距離6000!」

 

 「了解した。各艦艇、砲雷撃戦用意!」

 

 「了解!」

 

 とうとう戦闘が始まる。巡洋艦の狭い艦橋内で、乗組員達は統制が取れた動きで訓練通りの動きをこなす。

 今まで血汗滲む努力を続け手に入れたこの機会を何としても失いたくない。その一心で……そして、その時は来た。

 

 「各艦……砲撃、始めェッ!」

 

 

 _第二帝国海軍

 

 

 その時、海上に同時に複数の砲声が響いた。

 

 『『ッ……!?』』

 

 甲板上で作業を行なっていた誰もが手を止め、砲声の鳴った方向を見る。

 視線の先には、燃えて『いるはず』の船、そして、大砲と思われるものの先から放たれる白い煙だった。

 ありえない。敵艦は燃えていたはず……。だがどうだ、目に見えるのは攻撃をしたと思われる敵艦の姿。

 

 「……まさかッ!?」

 

 ヴェルティの脳裏に、悪い予感が過《よ》ぎる。もし、あれがデルタニウス王国軍の供与した艦だったとすれば……。

 ダーダネルス海峡海戦で、弱体化していたはずのデルタニウス王国軍は突如として息を吹き返し、伝説級の強さを誇る強力な軍艦を投入、短時間で2000隻近い軍船を沈められた。あの悪夢は、夢物語などと言うものではない明らかな『現実』だったのだ。

 そして、今対峙する『あれ』もそれと同類のものなら……。

 これが本当なら、陸軍が陸上戦で敗北するわけにも合点が行く。

 

 「全艦に通達ッ!今すぐにでも回避運動を取れ!」

 

 「え……あっ、はい!わかりました!」

 

 ヴェルティはすぐさま回避運動を取ると言う選択を取る。もっとも、焼け石に水かもしれないが……。

 

 「とっりかぁーじいっぱーい」

 

 それはともかく、彼の指示の元、操舵長は回避行動を開始させ、また他の艦もそれと同様に散開、回避行動を取る。

 と、その直後。海面に数本の水柱が大きな音を立てて発生、甲板に波しぶきがかかる。

 魔式爆裂大砲と比べると大して大きくはない水柱だが、命中精度・射程だけで言えば我々を遥かに凌駕することは素人目で見てもわかる。

 

 「ぜ、全艦損害……なし!」

 

 「そ、そうか……よかった。やはり射程はあちらが上なのか……デルタニウス王国海軍から供与された物か……?」

 

 彼は寿命が縮む思いで、敵軍を見つめる。

 

 「敵艦隊との距離は?」

 

 「えっと……約5000です」

 

 「魔式爆裂大砲の飛距離は約4キロ……あと1000……か。それまでどれほどで射程圏内に入れる?」

 

 「新型推進用魔石が出力過多で破損すると言う懸念はありますが……おそらくあと数十秒程度で」

 

 「……敵軍、何をして来るか想像がつかない。新型推進用魔石の出力を破損限界まで上げろ。最悪……白兵戦に持ち込むことも想定しろ」

 

 「よ、宜しいのですか?幾ら何でもこの艦は最新鋭……何もできずに失ったとなると上層部から何を問い詰められるか」

 

 「だとしても、だ。そもそも……この艦が敵艦を撃破できないとなれば、他の艦のどれを使っても勝てない。それに、ここで引けば陸上部隊が本当に壊滅してしまう」

 

 「わ、わかりました……。全艦にそう通達します」

 

 「頼んだぞ……」

 

 

 _ヴァルティーア帝国海軍第一艦隊所属、第一水雷戦隊

 

 

 「敵艦の増速を確認。最後の情報をもとに考慮すると後数分もかからずに射程圏内に入ることが予想されます」

 

 見張り員からの報告にニコライ中佐は一瞬驚きを見せるが、すぐに平常運転に戻り思いついたような顔でこう言う。

 

 「ほう……確か『鉄の魚』の有効射程は4キロだったな?」

 

 「はい。その通りです」

 

 側近からの返事にニコライ中佐は、酷く歪んだ笑みを見せる。

 

 「全艦砲撃を継続。それと並行して『鉄の魚』発射準備をせよと伝えろ。……まさか、人体実験よろしく実戦試験ができる機会を与えてくれるとはねぇ……」

 

 「了解しました。同志ヨフタリ・シスーンの為に」

 

 「同志ヨフタリ・シスーンの為に」

 

 

 _第二帝国海軍

 

 

 『『ぬぅぅぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉッ!』』

 

 未だ嘗《かつ》て体験したことがなかった脅威の30ノット。船体は不気味な悲鳴を上げ、甲板上で作業を行なっていた船員の誰もが自らの身に吹き付ける猛烈な風に吹き飛ばされそうになりながらも、必死に船体にしがみつきドレッドノート級戦列艦4隻は敵艦への接近を試みていた。

 

 「て、敵艦隊との距離4000ッ!」

 

 「よ、よぉし!全艦速度を落とせと伝えろぉッ!砲撃準備だぁッ!」

 

 「りょ、了解ッ!」

 

 ヴェルティは、ふと敵艦を見る。特に動きはないようだが……いや待て。

 

 「な、何をしているんだ……?」

 

 敵艦は、こちらに向けて何やら細く、そして長く巨大な『何か』を数本発射している。何かの新型兵器だろうか?

 

 「……あの長い棒、何か心当たりはあるか?」

 

 「いえ……あれは……なんなんでしょう?」

 

 側近もまた同様、敵の行う不可思議な行動に疑問を抱いていたが、いまいちピンとこない様子だった。

 

 「……まぁいい。砲撃をしてこないのは不可思議だが現状の我々から見れば好都合。全艦砲撃準備は整ったか?」

 

 「各艦よりすでに『砲撃準備完了』の報が届いております」

 

 「よし、全艦に通達。砲撃か」

 

 __ッドォォォォォォォォォォンッ!

 

 その時、突如として爆音が走った。艦は大きく揺れ、砲撃準備についていた乗組員たちは甲板に倒れこむ。加えて空より降り注ぐ大量の海水。

 ヴェルティは一瞬、何が起こったかわからなかったがすぐに理解する。

 

 「て、敵の攻撃ッ!?」

 

 彼の言うことは、正しかった。見渡してみれば後続の艦も次々と攻撃を受け、船体右舷より大きな水柱をあげている。

 

 「ば、バカなッ!敵は攻撃を__ッ!」

 

 艦の甲板の角度は急激に増し、船員たちは倒れ込んだかと思う矢先に海へと滑り落ちてゆく。ヴェルティも例外なく、甲板からずるずると、まるで悪魔のようにも見える渦を巻いた海面へと堕ちる。

 砲撃準備を整えていた魔式大砲は海へと大きな音を立てて落ち、小さな爆発を起こす。

 浸水が、早すぎる。被弾したかと思えば、気づけば海の中。ヴェルティは必死にもがき、海面へと舞い戻る。

 

 「ぶ、ぶはっ!ごほっ、ごほっ……!」

 

 一体何が起きているんだ。彼は脳内で状況を整理しようと、周囲を見渡す。

 

 「そ、そんなバカなッ!?」

 

 彼の目に入った物。

 積載していた魔石が誘爆したのか、大きな爆煙をモウモウと空に立ち上らせ急激に海中へと没してゆくドレッドノート級戦列艦……そして僚艦達。本来なら、貧弱な装備を持つ敵軍を屠るために建造されたドレッドノート級戦列艦。それが、今あっけなく沈んでいる。

 

 「くそっ……くそぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉッ……」

 

 ヴェルティは、その叫びを言い残し、静かに海へと没して行った。

 

 

 _ヴァルティーア帝国海軍第一艦隊所属、第一水雷戦隊

 

 

 「やったぞ!実験は成功だ!」

 

 『『うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉッ!!』』

 

 巡洋艦の艦橋は、もうお祭り騒ぎのような状況だった。

 夢にまで見た報復。それを今、彼らはついに果たしたのだ。さらに、今回の戦いで新兵器の戦闘データも得られた。

 まさに一石二鳥!彼らは、もう踊り狂わんとする勢いで狂喜していた。

 

 「っと……そうだ。『死体』の回収をしておけよ。()()()使()()()()()

 

 「了解。同志ヨフタリ・シスーンの為に」

 

 「同志ヨフタリ・シスーンの為に」

 

 ニコライ大佐は部下にそう伝えると、艦橋から先ほどまで敵艦の浮いていた場所を見る。

 海面には板切れや樽、そして人の死体や生きている人間が浮き、如何にかこうにか生きながらえた様子だった。

 

 「……哀れなものだな」

 

 「ですねぇ……」

 

 ニコライ中佐は気分を切り替えると、今後の方針を部下に伝える。

 

 「我々は敵軍の『死体』を確保次第南下。敵後方施設へ攻撃を行う。その後、援護射撃を終了次第予定通り弾薬燃料補給のため北上、母校へ帰港する。いいな?」

 

 『『『はい!』』』

 

 「よし。なら仕事に取りかかれ。同志ヨフタリ・シスーンの為に」

 

 『『『同志ヨフタリ・シスーンの為にッ!!!』』』

 

 こうして、名もなき北西海域での戦いはあっけなく終了。北部方面帝国軍は敵地上部隊支援隊の南下を許してしまうことになるのだった。

 

 

 ______

 明日、予定ですが『今頃外伝シリーズ(仮)』くんの第一回目を投稿しようかなと思います。

 第一回目は……自己満ですが気が向いたら見てあげてください。



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今更外伝シリーズ1:君に任せたのが間違いだったよ

 これは、第一次ダーダネルス海峡海戦終結直後、本国が平穏を取り戻した頃のある日の話だ。

 

 

 _エルディアン連邦首都 エルディアンDC 兵技開発本部

 

 

 エルディアン連邦軍が珍兵器・ロマン兵器を配備するすべての元凶と化している兵技開発本部。今まで世に数多くの珍兵器・ロマン兵器を送り出したここで、また1つのロマン兵器が産声を上げようとしていた。

 

 

 _兵技開発本部の1角 本部長室

 

 歴代の本部長のほとんどがドイツ系、もしくはイギリス系だったため、気付けば部屋中に世界中のありとあらゆる傑作《へんたい》兵器の模型が飾られた本部長室。

 いつもなら本部長室の外からは毎日本部員達のあーでもないこーでもないと言った議論する声が聞こえてくるものだが、今日は朝早いからかそのような会話は聞こえてこない。

 その部屋に、本部員がノック音を立てて入室する。

 

 「本部長。軍務担当大臣が面会を求めています」

 

 「ほう……あの軍務大臣が、か」

 

 兵技開発本部部長であるイギリス人のジョーンズは執務椅子からゆっくりと腰を上げる。

 

 「いったい何の用でここまで来たんだか……」

 

 「さぁ……?我々にはなんとも……」

 

 「まぁいい。軍務担当大臣を会議室にお連れしろ。自分も向かう」

 

 「承知しました」

 

 本部員は会釈をすると、本部長室から退室する。

 

 「まさかこの兵技開発本部を潰すとかそんな話じゃあるまい……」

 

 いや、ありえるなと内心思う。なにせ毎日毎日貴重な資源を浪費、使えるかどうかも分からない試作兵器を量産しているのだ。そのほとんどは兵技開発本部所有のスクラップヤードに放置されているが……処理のめどは立たずただただ試作兵器の山が積み上がって行くだけだ。

 それはともかく、ジョーンズは軍務担当大臣との面会に挑むべく本部長室を出て行った。

 

 

 _会議室

 

 

 「おはようございます、軍務担当大臣」

 

 一足早く会議室についていた軍務担当大臣は、椅子に腰掛け会議室に入室したジョーンズを出迎える。

 

 「やめたまえ、ジョーンズ君。堅苦しい挨拶は無しだ」

 

 「でしたらお言葉に甘えて__っと」

 

 ジョーンズはポスン、と椅子に座ると軍務大臣に早速質問を投げかける。

 

 「__それで、軍務担当大臣。本日はいかなるようでここへ?」

 

 「それなのだが……」

 

 軍務担当大臣はそう言うと、椅子に立てかけていたバックからある一つの写真、それと1枚の紙を取り出し机の上に置く。

 

 「単刀直入に言おう。これの()()()仕様の設計を行え」

 

 軍務大臣はそう言い、写真を__いや、写真に写った物を指差す。

 

 「こ……これは……」

 

 「あぁ、そうだ。()()()()()()()()()()()()()()()だ」

 

 ジョーンズは漠然とその写真を見る……のではなく、興奮する。

 まさか……まさかこんな機会を与えられるとは思わなかった。こんなロマン兵器を……魔改造できるなんて!

 

 「そ、その……大統領から……許可は?」

 

 興奮しているのを隠しきれていない様子で軍務大臣に尋ねる。

 

 「もちろん、許可はある」

 

 ジョーンズは、本格的に興奮する。日本で生まれたと言う『HENTAI』とは、まさにこう言う奴のことを言うのだろうか。

 軍務担当大臣は『こりゃダメだな』と言いたげな顔でジョーンズを見つめると、さっさとここから出て行こうと話を次に進める。

 

 「……一応こちらが絶対妥協できない要求仕様を掲示した紙を渡しておく。それをよく見て……魔改造のプランを立ててくれ」

 

 机の上に置かれた1枚の紙。それをジョーンズに差し出す。

 ジョーンズが熟読するソレには、確かに妥協できないであろう要求仕様が記入されている。内容はこうだ。

 

 次期0-1『強襲揚陸』戦艦 『魔』改造必須要項

 ・簡易的な弾薬・食料生産工場を有す

 ・主砲は55口径41cm3連装又は45口径51cm連装砲又は36cm電磁誘導連装砲2基艦前方搭載

 ・推進機関を原子力に変更、超長距離航行を可能とする

 ・上陸部隊及びLCACを搭載

 ・51cm砲搭載の場合、発射時の衝撃に耐えられる対衝撃波シールドの開発

 ・装甲板の厚さ最低全周300mm以上

 ・サイズは問わない

 

 そして、ジョーンズを一番ダメな頭にしてしまう内容があった。それは……

 

 『『国家予算が転覆しかけない程度でのコスト捻出を可能とする』』

 

 だ。

 

 「本来であれば二番艦レオノーラ・ワトリングを改修する予定だったが、改修時、新規建造時の費用を鑑みた結果、本艦は新規建造することが決定した。……くれぐれも、それを超えないように」

 

 軍務担当大臣はジョーンズに念を押す。

 

 「わ、わ、わわわわかってますよぉ……あ、あひゃひゃ」

 

 いや待て。これはまずい。どう考えてもまずい。絶対ダメな奴だ。嫌な予感しかしない。

 

 「ま、まぁその……頼んだぞ」

 

 「あひゃひゃひゃひゃ……」

 

 ダメだ。もうこれ完全に毒されている。

 

 「じゃ、じゃぁな……元気にしろよ!」

 

 軍務担当大臣はカバンを手に取ると、風のような勢いで会議室を退出する。

 会議室には、奇妙な笑い声を上げる本部長ジョーンズだけが、取り残されていた。

 

______

 元ネタ:アメリカ君がアイオワ級を強襲揚陸戦艦に改造するって言う壮大な計画を真似した奴です。実際に検討されていたとか?



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今更外伝シリーズ2:強襲揚陸地点一帯の簡易自然環境報告書

 

 強襲揚陸地点付近一帯の自然環境についての簡易報告書

 

                   編集者:ミスターグリーン・ラブ博士

             ??月??日

 

 目次

・付近環境

・付近に生息する生物に関して

・地層に関して

・今後の生息生物への対応

 

 

______付近環境

・付近一帯は鬱蒼とした森林で、主にブナ科が分布する。

・付近気温はおおよそ一定。

 

 

______付近に生息する生物に関して

・動物類全般

 非常に多くの種類が発見されており、生態系ピラミッドも我々の知るものよりも、巨大、かつ複雑化している可能性がある。現状人間に対する敵対心は肉食性動物以外は不明。

・陸上生物類                             ↩︎

 現状最も多くの種類が確認されている。古代生物を彷彿とさせるものや単に巨大化しただけのような生物も存在。不確定情報ではあるが『ヴェロキラプトル』のような恐竜姿の『何か』を見たと言う情報もある。

・海洋生物類                             ↩︎

 こちらは特に種それぞれの特徴の変化が顕著。遥か昔に存在したとされる『ウミサソリ』や『アンモナイト』、『ショニサウルス』、『プレシオサウルス』等に非常に姿が酷似した、謎の多い種が多数生息する。

・鳥類                                ↩︎

 種それぞれに一定の縄張りのようなものがあるのか、それぞれの地域で見られる鳥類は異なる。最も、そのほとんどは翼竜類に類似したものがほとんどで、この地域では鳥類全体の半分以上を占めると思われる。比較的我々の知る鳥類はどこでも見ることができ、また『リョコウバト』などと言った種に類似したものも多数確認されている。

・細菌・ウイルス類                          ↩︎

 一番の問題である細菌・ウイルス類に関しては未だ不明な点が多く、現状それら細菌・ウイルス類に感染したと言う事例は『まだ』確認されていない。これらに対する研究・場合によってはワクチン・血清・治療法等の開発・模索も検討すべきだろう。これら検体は次の物資補給船到着次第、この報告書を添えて本国に送還予定。

 

 

______地層に関して

 ボーリング調査もとい地層調査を行なった結果をここに記入する。

・地表から20mより上の地層は地球でも見られるような地層だが、下から突如としてイリジウムを多量に含んだ地層に切り替わる。

・地層の詳しい調査結果は後々報告するが、現状判明しているのは『イリジウム多産出地層より下からは、生物と呼べるものが一切出土していないこと、イリジウムを除けばほぼ同一の物質だけで構成されている』ことだけである。

 

 

______今後の生息生物への対応について

 付近に生息する生物の生態は要観察、およびDNA検査を推奨。また付近生物との接触は、隊員が未知の感染症へと感染することを防ぐため禁ずることとする。

 

______

な、なにかやってほしい外伝があったら言ってくれて……いいんだからねッ!////

……うん。気持ち悪い。



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第56話:苦渋の決断 v0.0

 まだ第4話改稿に至っていないわけですが……考えた結果、現存する4、5話は亡き者として抹消することに……ではなく、『旧:第4話〜〜』と言う感じで形だけは残そうと思います。

 この全く書かれていないヴァルティーア帝国側の視線もちゃんと書かないとなぁ……。

 あと皇帝、お前もだよ(無計画ゆえの失態)。

 ______

 

 _ダーダネルス帝国帝都ディオニス、総合司令部

 

 

 「北部方面第二帝国海軍……連絡、途絶しました」

 

 総合司令部内に、重々しい雰囲気が漂う。

 北部方面第二帝国海軍との連絡途絶。それすなわち、全滅であると言うことは、その場にいた誰もが気づいていた。……いや、そう思わざるを得なかったのだ。

 陸戦で敗退している現状、海軍に対し過度な期待を持ちすぎていたのかもしれない。そしてそれは、いとも簡単に打ち破られた。彼らをどうしようもない感覚が襲う。

 

 「……!北部方面帝国軍総司令部より連絡!」

 

 そして続けざまに上がる悲鳴にも似た通信員の声。その内容は、彼らからしてもあって欲しくなかったものだった。

 

 「げ、現在沿岸沿いに建設された各地の後方施設が攻撃を受けているとのこと!」

 

 「何ッ!?」

 

 「さ、さらに敵軍はそれに呼応するように大規模侵攻を再度開始ッ!連絡では『防衛戦線崩壊時間の問題。援軍よこせ』とのことですッ!」

 

 「な、なんてことだ……」

 

 海軍との連絡は途絶え、さらに敵の大規模侵攻作戦の再開。ある通信員は『まさに最悪のシチュエーションだなぁ……』などとぼやくが、それに関してはヴェルティも賛成だった。

 状況が、悪すぎる。敵の進行は我々の想定をはるかに超え、今から国内に存在する全軍を招集しようにも地域が広大。つい先日まで対デルタニウス王国戦に備えて南部に戦力を揃えたはいいものの、謎の攻撃によりそのほとんどは駐屯基地とともに消滅。さらに工業地帯も南部海軍基地も破壊されたことにより軍事力は大幅に低下した。どれだけ徴兵を迅速に行おうと、訓練時間その他諸々が終えた頃には北部戦線は崩壊していることだろう。

 

 「援軍を寄こそうにも数が足りない……現状我々にできることといえば……」

 

 ヴェルティはしばらく頭をフル回転させ、現状打破の方法を模索する。

 正面きっての密集隊形で攻撃……それはダメだ。戦力が足りない。撤退からの領地奥地への敵軍誘引、包囲殲滅……それもダメだ。『鉄の箱』に反撃されるのは目に見えている。

 ……あぁ、そうだ。あるじゃないか。()()()()()()()()

 

 「全てを捨て、殴り込むか……ここで潔く、滅びるか」

 

 気づけばヴェルティは席を立ち、総合司令部の出入り口のドアに手をかけていた。

 

 「し、司令官殿……?」

 

 その様子を通信員たちは心配な表情で見つめる。

 

 「私は……臨時宰相に上申してくる」

 

 通信員がその一言を聞いて、ため息を漏らす。

 

 「司令官……今は急を要する事態なんですよ?それを今放棄して呑気に上申しに行こうって言うんですか?」

 

 「あぁ。『急を要するから』行くんだ」

 

 ヴェルティ迫真の顔に、通信員は思わず後退《あとずさ》りする。

 

 「……一体、なにをするつもりなんです?」

 

 通信員は不安な表情でヴェルティに尋ねる。

 

 「……私は……潔く亡ぶ気はない。君達も……そうだろう?」

 

 「ま、まぁそれはそうですが……」

 

 「その秘策を……伝えるのさ」

 

 「……秘策、ですか」

 

 「だから、君たちには……そうだな。このまま業務に専念してもらいたい」

 

 「……信じていいんですね?その……秘訣」

 

 「あぁ……少なくとも君たちの命は保証する」

 

 ヴェルティの妙な言葉遣いに、通信員は違和感を覚えるが何事もないかのように続ける。

 

 「そうですか。……なにをしでかすつもりかは考えませんが、少なくともそれが我々に対し利益を生み出すことを信じます」

 

 通信員がそう呟いた時には、すでにヴェルティは部屋にいなかった。

 

 

 ______

 全く書かれていない細かい描写は数が頭の髪が全部抜け落ちるくらい多いので、改稿で付属する形で行います(例えば司令官の名前が入れ替わってたりとか)。……この国が滅んだら、一旦更新止めて改稿に専念するかな。

 ヴェルティ君が考案したある秘訣とは何なのか。それは次回までのお楽しみということで。

 新4話も随時更新していきます(案がまだ決まってないのは内緒)。



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第57話:究極の大博打 v0.0

_ダーダネルス帝国 帝都ディオニス 皇城 皇帝の間

 

 

 「……以上が、私が思いつく『最善の策』です」

 

 総合司令官のヴェルティは、手元に一際大きな鞄を置いて臨時宰相とその他臣下の者達の前で我々に残された選択肢を語った。

 臨時宰相のダルガは、本来なら皇帝が座っているはずの席から立つと、ヴェルティのすぐ足元まで迫り、口を開く。

 

 「……つまり、何だ?我々は親愛なる臣民も、領地も捨て、残存兵力全てを率い南下、もしくはデルタニウス王国への最後の一大上陸作戦を行う、という事なのだな?」

 

 「はっ……その通りであります」

 

 ダルガはしばらく無言で、ヴェルティを見つめながら考える。

 我々ダーダネルスーザ人に、『降伏』の文字はない。降伏して属領になるくらいなら、本土での徹底抗戦を行い、ダーダネルスーザ人全てが名誉の死をすることの方がはるかにマシだと、彼は……ダルガは、考えていた。

 だがどうだ。ヴェルティが繰り出した『最善の策』は、本土を捨て、尻尾巻いて他国に逃げ込もう、と言っているようなものである。

 

 「……どこが『最善の策』だ!!守るべき民も何もかも見捨て尻尾巻いて逃げるだとッ!?……そんなこと……そんなこと……ッ!」

 

 ダルガは叫ぶような大声で言う。

 もちろん彼自身としても、我々が立たされている立場については理解している。

 西部からは明らかに何かがおかしいデルタニウス王国がジワジワと攻め寄り、北部からはまるで猛獣のような勢いでここ、帝都へと迫るヴァルティーア帝国軍。工業地帯は壊滅し、補給も絶望的。こんな状況で相手から挟撃を受けるとは……まさに最悪のタイミングだ。

 

 「ですが我々に残されている手段は少ない。それもまた事実……。ならば、手駒の多い今のうちに『最善の策』を取るべきです」

 

 ヴェルティはダルガに劣らずの声で語りかける。

 彼の発言には確かに賛成だ。だが……だが、その『最善の策』は、ハイリスクハイリターンなんて代物ではない。大博打だ。これが失敗すれば……我々は帰るべき土地も、家族も失い、全滅するしかない。

 だが逆に、この土地に留まることができる時間も長くは続かないというのもまた事実。現状、ヴァルティーア帝国軍に対して少なくとも『戦術的』勝利を果たしたという報は上がっていない。どちらにせよ今の状態が続けば、敗北、どちらかの国に属領化されてしまうのは目に見えている。

 

 「……勝算は」

 

 ダルガは一言、聞こえぬほどの小さな声でそう呟く。

 

 「……今なんと?」

 

 ヴェルティは、目を点にして聞き直す。

 

 「だから勝算だッ!勝算はあるのかッ!」

 

 ヴェルティは『それはもちろん、勝算はあります』と自信満々に告げると、手元に置かれた鞄の蓋を開き、中から一際大きな地図を取り出す。

 それは……ダーダネルス帝国東部に位置する海域全てを記した精巧な地図だった。それも、軍事機密レベルの。

 

 「こ、これは……。お前。こんなものを持ち出していいと」

 

 「それでは私の持つ勝算を語らせてもらいましょう」

 

 ダルガの叱責は、すぐさま話を始めたヴェルティの声に阻まれてしまう。

 

 「まず大前提として……残存する海軍の4分の1には、今作戦においては囮役……つまりは、()()()()()()()()()()()

 

 「……は?」

 

 ダルガは……いや、周囲に立っていた側近達も、皆あまりの衝撃に言葉を失う。

 こいつは先ほど自分が言った言葉を理解していないんじゃないか?今我々の置かれた状況は最悪。そんな状況下で……残存する海軍の4分の1を、囮役として消費するだと?それではもはや……。

 

 「彼らは……消耗品ではない。あなたが仰りたいことは、これでしょう?」

 

 まさに核心を突くような発言。だが彼は、そのことをわかっていて尚、囮として海軍の4分の1を囮役として消耗しようとしている。私は……その理由が知りたい。いや、知らなければならない。

 

 「囮部隊が向かう先……それは、ここです」

 

 彼がそう言って指をさした海域。ダーダネルス帝国から見れば南西、デルタニウス王国から見れば東に位置するそこは……。

 

 「……エモラスの生息地……」

 

 エモラス。現生する海洋生物の中では最強の部類に入る海竜類。速力・サイズ・戦闘力全てにおいてトップクラスで、加えて使役するのはほぼ不可能に近い。

 以前からこの付近の海域ではエモラスによる商船の被害が絶えなかったと言う。まさか……まさか、こいつは……。

 

 「敵主力をこの海域に誘引、エモラスを持って甚大な被害を発生させる……。本来の目的はこれです」

 

 「……そうか。そう言う事なのだな」

 

 彼が持つ異常なまでの自信。その魂胆は……こう言うことだったか。

 確かに、怪物《エモラス》なら、敵艦隊になんらかの被害を与えること足り得る……いや、撃滅すら可能かもしれない。

 だが同時に、ダルガの中に2つの疑問が浮かび上がる。それは……相手と我々との『射程差』だ。確か以前第二次デルタニウス王国攻略軍派兵の際に、相手は我々よりも長大な射程・威力を有する大砲を搭載した戦列艦……と言うよりも、巨大な城を所持していることがわかった。もし今回もそれが使われてしまえば……。

 それに敵は、まるで我々の動きを察知しているかのように素早く展開。我々を見事邀撃せしめた。当時は『海竜騎でも使って察知したに違いない』と言う憶測なのか確信なのかよくわからないものが飛び交ったが、のちにデルタニウス王国に関する資料を解析した結果、あの国は海竜騎を所持していないことが確認されている。

 以降この件は『方法がわからんが、何らかの手段で我々の動きを察知していたに違いない』と言う結論に至り、要注意とされたと言う。

 

 「だが、敵と我々の船とでは性能が違いすぎる。この海域に誘引する前に……やられるのではないか?」

 

 「その点に関してはご安心を。囮部隊には、残存する魔道士の半分を投入予定です」

 

 彼が言いたいことは『魔道シールド使うから安心しろ』と言うことなのだろう。確かに、魔道シールドは鉄壁を誇る。だからこそ我々はそれを重宝し、数々の戦闘で役立てて来た。

 魔道シールドの強度は、魔道士の数に比例する。彼《ヴェルティ》が本当にそれを実行するなら……多少は相手の攻撃に、耐えられるかもしれない。

 

 「……おっと。ついつい長話をしてしまいましたな」

 

 ヴェルティは、我に戻ったかのような顔で言う。

 

 「私には……大事な職務、この帝国を延命すると言う……大事な職務がある」

 

 軍事機密レベルの精巧な地図を、丁寧に丸めカバンに押し込みながら言う。

 

 「いつまでこの帝国が持つか……。それは私にもわからない。なので、臨時宰相殿」

 

 ヴェルティは皇帝の間への通用口のドアノブに手をかけ、一言告げる。

 

 「できうる限り、迅速に、かつ、賢明な判断をお待ちしております」

 

 _ガチャンッ!

 

 彼はそう言い残し、大きな音を立てて皇帝の間より退出した。それを、ダルガはただ呆然とした表情で見つめるほかなかった。

 

 

______

 そろそろ改稿に本格的に注力しないと……←改稿がろくに進んでいない人

 すでに新4話、たった1話でもかなりの長編になりそうな匂い出してますがね!

 ちなみにエモラスの元ネタ……モササウルスです。



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今更外伝シリーズ3:レイハロの動向(1)

 今回は作中にて全く書かれていない(作者の単なるミス)レイハロの動向についてです。みなさんが喉から手が出るほど渇望するシーンの1つだと思いますが……はてさて。結果はどうなるやら。

*この話は現在改稿中のストーリーに沿って書いたものなので、現在半数以上残存する旧ストーリーとはかなりキャラの考え等が異なるかと思われます。はっきり言えば”別物”としてお読みください。

 

 あ、そうだそうだ……。新第6話は既に改稿済みなのでもぜひご覧ください!

______

 

 エルディアン連邦南部沖100キロにて半ば漂流状態に置かれていた亡国カイス王国の王レイハロとその一行。彼らはエルディアン連邦の第29領海警備隊所属の真っ赤で、かつ巨大な船に彼らの住む本土まで曳航されている。

 

 『『…………』』

 

 そして、曳航される側である旧カイス王国の王族・首脳らは、彼らの乗る王国一の巨船、セバスティーヤ号の最上甲板で、開いた口が閉じないままその巨大な船の後ろ姿を見つめている。

 王国であれば小型船数隻を用いてやっと曳航できるような、豪華絢爛(ごうかけんらん)且つ船速増進魔法を用い、かなりの速度で航行できる王国一の巨船、セバスティーヤ号をたった一隻……。それも帆らしいものが存在しない巨大な船で——恐らくは、内部になんらかの機関が……恐らくは魔式機関か、科式機関が存在するのだろう——軽々と曳航するエルディアン連邦の国力に、畏怖と興味。その両方が彼らの脳内に同時に脳内に湧き出ていた。

 

 (これだけ巨大な船……ダーダネルス帝国敗北の報は本当なのかもしれんな……)

 

 げっそりとやせ細った齢30のレイハロは、静かに、考えを膨らませる。

 ——と、ここで一旦話は置いておいて、余談としてカイス王国がどのような国だったかを話しておこう。

 カイス王国は、初代王カイス・スーザの名前を持つ王国。国教リベリア教に基づいて考えるのであれば全能神リベリアが生み出したとされる世界構成大15大陸の1つ、グラタニア大陸の海岸沿いに存在”した”。

 そこはなぜだか知らないが付近沿岸に魚礁が豊富にあり、恐らくは何か栄養のようなものがよく貯まるのだろうか。それを捕食するために小さな魚類が。それを捕食するために大きな魚類・海竜類が。それを捕食するために……といった具合で、グラタニア大陸東部近海に住まう魚類・海竜類が大抵揃っていた。

 大陸中部に存在することから航海中継地点としてもかなりの評判を博し、更に内陸国家に向けた魚類・海竜類の肉・成体等々の交易、またここでしか獲ることのできない高級・希少生物を買い求める商人らの一大貿易国家として数ヶ月まで栄えていた。

 

 ————そう。数ヶ月までは。

 

 だがその平穏も、やがて滅び去った。ダーダネルス帝国は、母国をたった数週間で奪い取った。きっと、今頃は……。

 

 「……王よ。顔色が優れませぬが……大丈夫でございますか?」

 

 そこでレイハロの思考を遮るように側近の一人、初老のコローナが心配げな表情で声掛けする。

 コローナは、レイハロの幼少期から側近の一人として仕える一人で、今や護衛の兵を除けば数える程しかいない懐かしの臣下の一人。彼とはレイハロからすれば”ある仕事”をした仲でもある。

 

 「いや、何……大丈夫……だ」

 

 「でしたらよろしいのですが……」

 

 彼らの助けがあればダーダネルス帝国から母国を解放できるかもしれない……いや、本当に、そうしてみせる。すでに後戻りはできない。今や、このグラタニア大陸の殆ど半分がダーダネルス帝国(革命分子)の手に落ちている。今や頼れるのはここか、あの帝国(・・・・)だけだ。

 レイハロは、覚悟を決めて本土到着(その時)を待つ。

 

 

 _数時間後

 

 

 場所は旧メキシコ領アカプルコ。かつて観光業が栄え、やがて蔓延した凶悪犯罪。そして、環境破壊による海面高度上昇等々により水没。完全に見る目も無くなったそこ。現在は夕日に照らされ美しい景色と、立ち並ぶ無数の廃墟化したビル・ホテル群の奇妙な組み合わせのみが存在する。

 ここは今現在、主にエルディアン連邦沿岸警備隊の人員等々が日々過ごす数個の宿舎と、小さな司令部。そして、エルディアン連邦沿岸警備アカプルコ方面隊のヘリポートが併設された基地として利用されている。

 既に使われていないとはいえ、そこはかつて観光地だった場所。沿岸警備隊に曳航され、基地の波止場へと誘導、接舷されついにエルディアン連邦本土の土を踏んだ彼ら。

 沿岸部にずらっと立ち並ぶビル・ホテル群は、廃墟であるとしてもレイハロ一行に与える衝撃は十分なものだった。

 

 「こ……こんなものを……彼らは作ってしまうのか……」

 

 グラタニア大陸にある数多の国々でも建設を成し得ないであろうそびえ立つ数々の巨大な建造物。

 大きな建造物として、見たことがあるといえば闘技場や王城程度。それに負けず劣らずの規模を誇る建造物が幾つも立ち並ぶことに、レイハロも、その配下も言葉を失う。

 

 「これは……是非ともこれら建造物……?の建築技術を学びたいですな……」

 

 コローナは、重々しい口調でレイハロに対しそう告げる。

 

 「あぁ……彼らの技術を使えば、きっと……」

 

 レイハロは、ほとんど確信を得たかのような表情でそう言った。

 

 「——おや、彼らがこちらに向かってきておりますな」

 

 コローナはレイハロにそう言うと、レイハロの後ろ……港湾施設の四角い箱のような建物から数名の青い服を着た者たちを指差す。

 彼らはまっすぐとこちらへと向かってくると、相手方の代表者らしき者——若干背が低く、白い肌をした——が、自己紹介する。

 

 「どうも、エルディアン連邦沿岸警備アカプルコ方面隊の基地長、ルーサです。レイハロさん、以後お見知り置きを」

 

 「こ、こちらこそよろしく頼む……」

 

 なんちゃら基地長のルーサという者はそういうと、そっと右手を前に差し出す。

 確かこの動作は——。

 

 (——”握手”、か)

 

 カイス王国にあった文化の一つ、”握手”。起源はよくわかっていないが、それは確かな挨拶、気持ちや喜びの共有と言った意味で存在し、それはやがてこのグラタニア大陸全国家共有の文化として根付いた……とされている。

 若干カイス王国の事が脳内にフラッシュバックするが、レイハロは何事もないように装ってそっとルーサと握手をする。

 それに続き、ルーサはカイス王国の者達とあらかた握手を終えたことを確認すると、今後の予定について話す。

 

 「さて、挨拶が終わったことですが……皆様方には本日はここでお泊まりいただき、明日、首都までお送りする手筈となっています。宿舎はすでにご用意させていただきましたので、本日はどうぞごゆっくりお休みください——————」

 

 「……質問、よろしいかな?」

 

 今後の予定を一通り聞き終えた後、コローナが代表としてルーサに、ある質問を投げかける。

 

 「はい、構いませんよ」

 

 コローナは質問の内容……背後にそびえる——王族・首脳部(彼ら)から見れば王国一の巨船、沿岸警備隊(彼ら)から見れば古き良き骨董品——セバスティーヤ号を指差す。

 

 「あれは……」

 

 コローナの考えを汲み取ったのか、ルーサは『心配しないでください』と言う。

 彼は自信満々でそう答えたが、見た感じでは特に作業らしい作業はされていない……ように見えたその直後、変化が訪れる。

 

 「——ん?」

 

 王族・首脳部の誰かが声を上げる。一体なんだとその声が上がった方向を見ると、そこには波止場に横付けされたセバスティーヤ号。

 青い服を着た者達が数人がかりでそれの舫綱(船を繫ぎ止めるためのロープ)を片付けると、そのすぐそばに頭と同じ程の大きさで、銀一色に塗られた——確実に、撒き餌ではない——『何か』を持った、他とは違う(オレンジ)色の服を身にまとう十数名が歩み寄る。そして、手に抱えていたそれらを突如、海へと放り投げた。

 

 「……あれは……何をしておられるのですか?」

 

 コローナは、疑問げな表情を浮かべてルーサに彼らの行動を尋ねる。

 

 「あぁ、あれですか。あれはですね——」

 

 ルーサが彼らの行動を説明をするよりも早く、目に見える形でそれの意味が示される。

 

 ギィィ…………

 

 「……ん?」

 

 今一瞬……セバスティーリャ号が、動いた?

 いや……そんなまさか。今は無風。波も穏やかと見える。だとしたら……さっきのは一体……。

 他の者達も気付いたのだろう。彼らの注意の対象が一斉にセバスティーヤ号に移される。

 彼らは呆気にとられた顔のルーサを御構い無しに、じっと、疑い深い目でセバスティーヤ号を見つめる。

 

 ギィィィィィ………………

 

 「う、う、う……」

 

 『『動いたッ!!??』』

 

 動いた。今も右側へと、ゆっくりとスライドするように動いている。

 

 「ル、ルーサ殿ッ!あれは……あれは一体どうなっているのですかッ!?」

 

 コローナは悲鳴にも似た声で、セバスティーヤ号が動き出している理由をルーサに問う。

 

 「まさか大型海棲生物じゃ……」

 

 「——大型海棲生物に関しては存じ上げませんが……。『SSAATD』による船舶移動中の様子ですね」

 

 「え、えすえすえーえーてぃーでぃー……?」

 

 聞き慣れない単語に、コローナ一同は困惑した表情をする。

 

 「簡単に言えば……船を移動させる機械——ですね」

 

 「は、はぁ……」

 

 コローナ一行は理解したのか、理解していないのかわからない声を漏らす。

 

 「皆様方の乗られた船はあのまま船舶係留所まで移送しますので、どうぞご心配なさらないでください」

 

 彼の言うことはつまり『船は保管しておくからその点に関して心配せず悠々と王都へと行ってね』と言うことなのだろう。

 ……それならお言葉に甘えさせてもらう他ない。

 

 「——さて、皆様。そろそろ宿舎まで移動しましょうか」

 

 「そ、そうだな……」

 

 彼らは色々疑問に思うことがあったが、それよりも今は彼らの体に重くのしかかる長旅。そして、このエルディアン連邦(魔境)での驚きの数々での疲労を回復すべく、ひとまず先に彼らにあてがわれたと言う宿舎に向かうことにした。

 

 ______

 うーん……話が100年後のブツなのにAI関連のことすっかり忘れてて禿げそう。あと今回半ば強引に終わっちゃってるけど許してほしいんです!ネタが思いつかなかった!なんでもしますから許して!(なんでもするとは言っていない)

 ……どうせだから3話に分けて(首都到着までとその後、大統領との会談〜〜までが範囲)投稿することにした!(ゲス顔)

 

 セバスティーリャ号

 こちらの世界(別世界)では明確な区分等はないが、地球で言えばガレオン船とされる種類。こちらの世界(別世界)において海に生息する大型肉食・凶暴性海棲生物との戦闘・もしくは、それらからの逃走を図るために大まかには『重武装・鈍足型』と、『軽武装・快速型』と言う区分に分けられる。

 彼らが乗って来たのはどちらかと言うと後者で、900トン(地球ではスペイン無敵艦隊の旗艦に相当)と言うかなりの排水量を誇り、外観はスペインのガレオン船に酷似。王族の権威・国家繁栄の象徴として豪華絢爛な装飾が施されている。

 

 SSAATD

 『Ship Shape Automatic Analysis and Transfer Device』。日本語に訳す所、『船舶形状自動解析・移動装置』。意味も、活用方法もすべてその名前に濃縮される。

 高出力のリチウムイオン電池を、人間の頭骨サイズに格納。機体後部に備え付けられたウォータージェット推進で移動し、移動方向変更にはトルクを用いる。

 利点は小型なこと・船体の微調整に仕えることだが、欠点として単体でも値段が高価なことが挙げられる。……これの制作には、一切合切兵義開発本部の手が加わっていないはずです(おそらくめいびーぷろばぶりー)。

 

???:1話しか投稿しないなんて言ってない。OK?

???:OK!

バァンッ!

???:グハァッ!

???:     N T W - 2 0 の 2 0 ミ リ 弾 は 正 義 

 

                            (STAVKA発表)



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別世界生物・各国・技術・etc総集編 随時更新(ホントだよ!)

 どうも、皆さん。えるでぃあんです。今話は、各国の具体的な詳細等やすでに登場した魔法等々の説明枠を随時更新する場所となります。

 つまり、解説だらけです、ハイ。あまり説明できていない(エルディアン連邦の国情やら・魔法やらに関して)を取り扱うので、本編は番外編という立ち位置で読んでいただけたら幸いです。

 また、全話改稿後にようやく反映されるような設定も存在するかもしれませんので、見るときは皆様の自己責任でお願いします。

 ……それでは、どうぞ。

 ______

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 1.エルディアン連邦

 我々とは異なる世界線に存在する国(と言う設定)。科学技術は100年先のもの(あまりにも不確定要素が多いため技術等は全て架空)。

 中露との軍拡競争の末に国力が疲弊。さらにそこへと追い討ちをかけた地球温暖化による世界規模での飢餓やハリケーン増加、南方からの疫病の流入により政府機能を失った旧アメリカ合衆国・その他北米諸国を吸収し出来上がる。

 よく『枢軸:資源チートF○ck you!』と言われるが、さすがにこの時期ともなると地下に眠る資源はかなりの量掘り出している。……最も、それでも資源チートがあるのは変わりないのだが。

・公用語:英語(副公用語:中国語、フランス語、etc)

・人口:約5億人(観光客除く)

・軍・その他治安維持部隊等々の兵員合計:100万人(予備役200万人)

・艦艇:681隻(有人・無人問わず)

・領土:現在の北アメリカ大陸(メキシコよりも上のアラスカやカナダ含む。スエズ運河はもちろん含まない)全て。ハワイは”????”。

 

 2.魔法に関して(現状公開できる情報のみ開示)

 別世界の超技術。原料となる魔素を”大量に”用いて使用できる。

 使用方法は単純で、詠唱により空気中の魔素を固定化し、それを炎・電気等々etcに変換することで使用可能。飛距離は魔素の含有量で大きく変わるが、下手に含有量を多くしてしまえば魔素の制御不可に陥り最悪自爆する。

 

 3.魔素について(上に同じく)

 別世界において窒素の次に空気中に含まれる物質。

 砂糖を多量に服用すれば人体に影響を及ぼすように、この魔素も多量に使用・もしくは存在すると悪影響を及ぼす。その例が作中での通信機・魔道電信機の通信障害。

 

 4.別世界における惑星とか諸々(==)

 エルディアン連邦はこの星の名を仮称として”サプライズ・プラネット”と呼称する。詳細は以下の通りである(中の人は物理があまり詳しくないので異常な点を見つけた場合、伝えてくださると幸いです)。

・地球の約3倍のサイズである事。

・にもかかわらず大気組成・気圧・重力共に全て地球とあまり変わりない事(魔素等未知の物質は考慮しないものとする)。

・地球において絶滅したはず・空想上の生物に酷似した生物が多数生息する事。

 

 5.ダーダネルス帝国(==)

 グラタニア大陸のほぼ全てを掌握する国家。

 昔はグラタニア大陸南西部に存在する小さな王政国家で、それがとある事情により崩壊。その後建設されたこの”ダーダネルス帝国”は、昔から豊富に存在した魔素を使用し魔式(魔法分野)技術を他国の追従を許さないほどに向上。それを用いて周辺各国を次々と吸収する。どうやらこれには理由があるようで……?

 

 6.ムベガンド王国(==)

 リヴァイアサンと唯一共存関係にある国。島国で、海産資源を主な収入源とし、かつてはグラタニア大陸東沿岸諸国家の船舶の中継地点としても栄えた(現在は……言うまでもない)。

 現在は”とある事”で悩んでいる。

 

 7.カイス王国(==)

 詳細は本編に記載済み。今後進展がある……かも?

 

 8.ヴァルティーア帝国(==)

 北方の眠れる獅子。突如としてダーダネルス帝国領土へと進行し、破竹の勢いで進軍中。

 

 9.エモラス(==)

 別世界において海の覇者たる存在を持つ生物。持ち前の速力と強力な大顎で大抵の生物は噛み砕き、捕食する。

 体重は平均40トン、全長は20メートル以上。

 

 10.世界構成大15大陸

 別世界を構成するとされる15の大陸の事。

 西に9大陸、中央に2大陸、東に4大陸存在する。

 

 11.リベリア教(==)

 別世界におけるキリスト教的立ち位置。別世界において広く普及する宗教だが、その分布する広さ故にそれぞれの国家・地域で信仰内容が異なる。

 そのため派閥争いのようなものも多く、中には戦争にまで発展するケースすらある。

 この”リベリア教”の総本山は====。

 

 12.聖アレキアス帝国(==)

 別世界における列強諸国の一つ。現状全くもって未知の国家。

 ______

 説明ができていない点・説明・補足が欲しい点等あればこちらにご記入ください↓

 カクヨム版:https://kakuyomu.jp/users/ELDIAN/news/1177354054890498510

 小説家になろう版:https://syosetu.com/userblogmanage/view/blogkey/2369161/

 アルファポリス版:https://www.alphapolis.co.jp/mypage/diary/view/77672

 ハーメルン版:https://syosetu.org/?mode=kappo_view&kid=219725&uid=266587



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今更外伝シリーズ3:レイハロの動向(2)

表現がこれ以上思い浮かばなかった!!

______

 

 

 _エルディアン連邦沿岸警備アカプルコ方面隊基地

 

 

 亡国の王レイハロとその一同は、この地に降り立つまでの長い長い長旅を共にしたセバスティーヤ号を後にし、今はこの国の兵士と思われるもの達から我々にあてがわれたと言う宿舎まで、暫くの間徒歩で歩いていた。

 

 「こちらが本日皆様にお泊まり頂く宿舎となっております」

 

 基地長ルーサの案内の元紹介されたその宿舎。カイス王国王族・首脳部(彼ら)がつい先ほど驚嘆していた建造物——観光目的で作られ、やがて沿岸警備隊が買収。改築し、今現在は隊員達の宿舎として使用される旧ホテル、それだった。

 今は基地に近い2つのホテルを使用しており、発電は太陽光等々の再生可能エネルギーで、水は海水の濾過等々で補っている。

 

 「根本で見れば……ますます大きく見えてくるな」

 

 遠くから見ても大きいと思っていた。そして今その建物のような何かの根元に来たわけだが、そこで見て感じたこと。それはやはり——大きい。その一言だった。

 

 「それでは入りましょうか」

 

 ルーサはそう言うと、ガラス張りのドアに手をかけて彼らに入るよう促す。

 一同はルーサに続き、巨大な建造物の様な何かの内部へと入る。

 入ってすぐ姿を現したのは、そこそこ広いエントランスだった。天井からは小さなシャンデリアの様なものがぶら下がり、壁から出た白く、細長い突起物から放たれる淡い光がさながら松明の様に周囲一帯を包み込んでいる。

 その空間にあるものといえば、壁にまとめられた白色のテーブルや椅子、そしてカウンター。最後に、入り口の反対側にドアのようなものが構えているのみだった。

 

 「こちらへどうぞ」

 

 ルーサは彼らについてくるよう促すと、反対側のドアの前へと立ち、横にある突起物に触れる

 

 『なっ!?』

 

 彼がその突起物に触れたと同時に、眼前の扉が自動でゆっくりと開く。

 想像を超えた光景に、一行は一瞬たじろぐ。

 が、一方のルーサと言えば平然な顔をするどころか一行の行動に首を傾げている。

 

 「……あぁ。すみません、これはエレベーターと言いましてですね——」

 

 ルーサは思い出したかのような口調でこの不可思議な何かを説明するが、彼らには曽のどれもが頭に入ってこない。脳内はただただ、衝撃で埋め尽くされていた。

 

 

——

 

 

 その後、一行は気づけば室内にいた。いや、正確にはこの建物に入ってからの記憶が残っていない、といったところだろうか。

 覚えていることといえば明日首都の”エルディアンD.C”と呼ばれる場所に連れて行かれることくらいで、それ以外の記憶は……思い出せそうにない。

 レイハロは室内に2つあるベットのうちの一つに腰掛けると、光を放つ物体が部屋の中をほんのり包む中、立ったままのコローナに尋ねる。

 

 「コローナ……はっきりと答えてくれ。……この国を……どう思う?」

 

 コローナは小さく頷くと、自分が思っていることをレイハロに語る。

 

 「私は今までカイス王国で何度も勤めていました。もちろん、他国へも赴きました。ですが……この国は、私が経験してきたどれにも当てはまらない……あまりにも、未知の国です。ですが、王も見たはずです。あの帆のない船を」

 

 「うむ……」

 

 コローナの答えに、レイハロは深く同意する。

 

 「あれがこの国にいくつも存在するのであれば——おそらく、グラタニア大陸に存在する全ての国々は、海の戦いで負けるでしょう。陸での戦いはわかりませんが……」

 

 コローナは深刻そうな表情で語る——が、同時にある考えも持っていた。

 

 「ですが、それは即ち同時にこの国を利用することができればあの帝国にも勝てるかもしれない、ということです。もはや我々に手段は残されていないんです……是非とも友好関係を築かなければなりません。民を救うためにも」

 

 コローナは特に最後の部分を強調する。

 

 「あぁ……」

 

 レイハロの脳裏に、本土へ残してしまった家族や民の顔が映し出される。

 

 「ですので……まずは寝ましょう。明日の交渉には万全の体制で挑まなければなりません」

 

 コローナは辺りを見渡す。そこには、長旅の疲れたのかベッドに深く潜り込み爆睡する一同の姿がある。

 

 「……それもそうだな」

 

 レイハロもそれに同意すると、服を着替えることも忘れベッドへと飛び込む。数ヶ月ぶりの安心な場所での休息は、異国の地であるということも忘れ彼らを深い眠りへと引きずり込むのだった。

 

 

——

 

 

_翌朝

 

 

 窓から室内へとほんのり日光が差し込む。鳥はさえずり、彼らは各々のペースでベッドから起き上がる。

 

 「……朝か……」

 

 その一人、レイハロはベッドから起き上がると、一つ背伸びをする。

 続いて窓際へと立ち寄ると、カーテンをそっと上げる。一面には、海。ここがかつて観光地だったとはいえ、その美しさは未だ衰えていなかった。

 

 「……今日は、この国の領主と出会う……か」

 

 何としても成功させなければならない。その気概を感じさせる表情で外を見つめる。

 

 コンコン

 

 「失礼します」

 

 と、そこに基地長のルーサがノックに続けて入室する。

 

 「皆様、これから朝食があります」

 

 『おぉ!』

 

 すでに目が覚めた者たちは丁度空腹だったんだ、と言いたげな口調の声を各々が上げる。

 

 「準備が出来次第お声をお掛けください。食堂までご案内いたします」

 

 それでは失礼しました、と一言付け加えルーサは部屋のドアを丁寧に閉める。

 

 「異国の地の朝食……是非食べて見たいものですな!」

 

 「いやいや……我々王族にそぐわぬ飯なのであれば……」

 

 各々が期待や不安を抱えながら、今から食べるという朝食について話し合う。

 

 

——

 

 

 「こ、これは……なんと……」

 

 結論から言えば、彼らが朝食について心配する必要は一切なかった。彼らはルーサの案内のもと食堂へと向かうと、そこには机の上にズラッと並べられた様々な料理が所狭しと並んでいたからだった。国際社会化していた昔と比べると、多少種類は少ないがその出来は劣る劣らずのものだ。

 

 「どうぞ席にお座りください」

 

 「あ、あぁ」

 

 一同は、用意された席に順に座っていく。

 

 「朝食後は皆様、我が国の正装(スーツ)に着替えていただきます。その後は政府が手配した交通手段で首都まで向かう予定となっております……。まぁ、今は気にせずどうぞお食べください」

 

 ルーサは今後の予定について述べる終わり、一同はそれぞれフォークやらスプーンやら、いろいろ手に持ち食事を始める。それをルーサはまじまじと見つめていた。

 そう言えば、なぜこんなどこにでもありそうな警備隊基地でこれだけの食事が用意されたのか。その疑問は、だいたい政府……もっと言うなら、大統領のせいだ。大統領がが”無礼は見せられないから”と大統領府直属のシェフや各種高級食材を送り込んだからだのだ。ちなみに、費用は大統領が自費でP☆O☆Nと出したそうだ。大統領さまさまである。

 

 その後、食事も問題なく進み一同は部屋へと戻った。そこで、予め用意されていた正装(スーツ)へと着替えるのだった。

 

 

——

 

 

_場所は変わり、沿岸警備アカプルコ方面隊基地付属ヘリポート

 

 

 「こ……これは……竜……?」

 

 一同は、もはや簡単なのか呆れなのかわからない表情・口調で”それ”を見つめる。彼らの視線の先には、2機のヘリ。それらは一様に、上のメインローターが大きな回転音とともに激しく回転し、地上に激しく風を吹き付けている。

 

 「もはや疑う余地はありませんね……。この国は……」

 

 「あ、あぁ……。何としても……交渉を成功させるぞ」

 

 レイハロは若干震えた声で、だが覚悟を決めた顔つきで頷く。

 

 「それではっ!皆様にはこちらのヘリに乗っていただいてっ!駅近くの空港までっ!送らさせていただきますっ!」

 

 一方のルーサは、爆音の中精一杯の声でこれに乗った後の予定を告げる。彼にとって、これは彼らに対する最後の仕事だ。

 

 「でっ、ではこちらへっ!」

 

 爆風と爆音が辺り一面に飛び交う中、一同はおもむろな足取りでヘリのキャビン向かうため、手を前に出し爆風を防ぐ形で歩く。

 これらヘリは、海路以外ろくな交通手段が存在しない(もしくは破棄され、ボロボロになった道路の使用に耐えない)ここアカプルコ方面隊基地から最寄りのリニア鉄道運行駅までを最短距離で向かうヘリだ。このヘリにレイハロ一行は乗り込み、いよいよ首都で待ち構える大統領との会談に挑むこととなる。

 

 『お元気でぇ〜〜!!!』

 

 そこに、爆音に負けない大きさで、手が空いていた暇な基地要員たちの別れの声が加わる。それにレイハロは小さく手を振ると、キャビンへと乗り込んだ。

 

 「ふ、ふぅ……吹き飛ばされるかと思った……」

 

 キャビン内は外とは裏腹に静かだ。さらに、温度調節も効いているようにも思える。

 

 『それでは、本機はこれより目的地へと向かいます。皆様、驚かれないようお願いします』

 

 機内にアナウンスが流れた、ローターはその回転をさらに増す。やがて機体は浮き上がる。

 

 「おぉぉぉぉっ!?」

 

 コローナなどは驚愕の顔で、ドアに備え付けられた窓にへばりつく。ヘリは上昇し続け、次第に地上の建物などを小さくしていく。それは人も同様であり、しばらくすれば、基地要員の姿はゴマ粒ほどのサイズとなった。

 

 彼らはこの後も、リニアやらに乗り幾度も驚愕することになる。が、それはまたいつ(・・)か……。

 

 

 ______

 今回からまた今作品は投稿を停止します。やっぱりプロットが不十分な状態で話進めたらこうなる、うん……。いや、まぁわかってたことなんですがね!(白々しい

 脳みそをリセットすることも兼ねてなぜか2つ目のリメイク版をまた投稿します(殺伐とした別世界に、変態なる国家が現れり リメイク版)。計画性は大事だな、とやっぱり思いました(涙目)。

 リメイク2作品目はようやく本格的な設定を書き込んだものになります。此の期に及んでようやくプロットの重要性に気づかされました……orz。



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