ランス再び (メケネコ)
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おまけ
もしランスが魔人になってしまったら


この作品は完全なギャグです
本編には何の影響もありません



 この世界には無数のIFで溢れている。

 そしてこれはそんなIFの世界の一つである。

 

 SS期420年―――

「いい具合だぞ、スラルちゃん」

「うぅ~…あう…ん…あーーーっ!!」

 ランスの下でスラルが本日何度目かの絶頂を迎える。

 その体は何度も何度もランスによって強制的に絶頂を与えられてた。

 ランスも魔王を犯しているという高揚感からか、その体力と精力が尽きる事が無い。

「ラン…ス」

 スラルが何かを求めるかのように手を伸ばす。

 ランスもそのスラルの求めているものを察し、その指と指を絡め合う。

(シーラもそうだったが、女はこういうのを好むなあ)

 今までそんな事は殆どした事が無いランスだが、こうして女から求められる事に新たな喜びを感じていた。

 そしてそのままランスはスラルの唇を奪う。

 ランスの舌がスラルの口内を蹂躙し、スラルは最早されるがままとなっている。

 普段であればそれで終わりのはずだった。

 だが、ここで何のイタズラか…いや、それこそ神のイタズラだったのかもしれない。

 魔王スラルはランスを心から欲していた。

 その意識が無意識にスラルを突き動かしてしまったのかもしれない。

「む?」

 ランスは口の中に僅かな血の味を感じる。

 もしかしたら自分で傷つけてしまったのかと思ったが、それはスラルがランスの頭を押さえ貪るようにランスと舌を絡め合った事で思考が中断される。

 ランスの唾液を嚥下するするスラルと同じ様に、ランスもスラルの唾液を自然に摂取する。

 ただここで違ったのは、ランスが嚥下したのはスラルの唾液では無かった事。

 それがスラルの血…即ち魔王の血であったという事だ。

 そしてランスは自分の意志とは無関係に魔人となってしまった。

 

 

 

「おい、どういう事だ!」

「そ、その…ご、ごめんなさい!」

 ランスがスラルをじろりと睨むと、スラルは本当にすまなそうに手を合わせる。

 本来魔王が魔人に対して謝る等ということはありえない。

 だが、それでもスラルはランスに対して謝罪をしなければならなかった。

「俺様を無理矢理魔人にする気は無いと言ってたではないか!」

「ほ、本当にごめんなさい! でも我にも何が起きているのかさっぱりで…」

 ランスの体からは間違いなく魔人の気配が感じられている。

 何よりも、かつて小川健太郎が魔人となった時には妙な装飾品が装着されていたが、その時と同じようにランスの服装もまた変わっていた。

 緑を基調とした服は黒に変わっており、その鎧も完全に黒に染まっている。

 その姿は本来の歴史である魔王ランスの姿に等しい。

「だったら何で俺様が魔人になっとるじゃー!」

「あ、でもその、ほら。凄い似合うしかっこいいぞ」

「やかましい! そんな事を言うスラルちゃんはおしおきじゃー!」

 ランスは一瞬で鎧と服を脱ぎ捨てると、そのまま再びスラルを押し倒す。

「え、ちょっと待ってランス! じゃなくて待ちなさい!」

「がはははは! 待てと言われて待つ俺様では無いのだ!」

 そのままランスの唇が被さり、スラルは何も言えなくなってしまう。

 そして再びランスのハイパー兵器が己の体に入ってくるのを感じる。

(どうして…ランスには我の命令がきかない? あ…でも…)

 己の絶対命令権がランスに通用していない事に疑問を抱きながらも、スラルはそのままランスの下で喘ぎ始める。

 そしてそれは魔人ランスの体力が尽きるまで続けられた。

 

 

 

「という訳で新たな魔人ランスだ」

「うむ、俺様がランス様だ」

 カミーラ、ケッセルリンク、メガラス、ガルティア、ケイブリスといった面子が集められ、魔人ランスが紹介される。

「…ランス、お前」

「そんな視線を向けるな。俺様はスラルちゃんに無理矢理魔人にされたのだ」

 ランスの言葉にケッセルリンクはスラルを見るが、スラルは申し訳なさそうに頷くだけだった。

 そしてそれに白い目を向けているのが魔人カミーラだった。

 ランスの意志を無視して魔人としたスラルに対しての抗議の視線であるのは、スラルにもよく分かっていた。

 こうして新たな魔人―――本来の歴史には存在しない魔人ランスが生まれた。

 

 

 

「いやあんたが魔人になるのはいいけど、何で私があんたの使徒になってるのよ!」

「がはははは! 使徒というのを作ってみたかったのだ! エンジェルナイトの使徒など珍しいではないか」

「そんな理由で私を使徒にするなー!」

 こうしてエンジェルナイトのレダはあっさりと魔人ランスの使徒となった。

 

 

 

 SS450年―――

「がはははは! とーーーー!」

「「「ぎゃーーーーーー!!!」」」

 魔人ランスの一撃が人間達をいともあっさりと吹き飛ばす。

「げはははは! お前ら人間程度がランス兄貴に勝てる訳が無いだろ!」

 そのランスの隣で高笑いをあげているのは、魔人ケイブリスだ。

 ケイブリスはランスに取り入り、その子分としてランスと共に行動していた。

(ううう…ランス兄貴は本当にいい魔人だ…俺様をまったく馬鹿にしないし…)

 今まで虐げられていたケイブリスは、自分に対して馬鹿にすることもこき使う事もしない上に、強い発言力を持つランスに感謝していた。

 おかげで最近はよく眠れるようになっていた。

 自分の愛しの魔人カミーラがランスと懇意なのは気になったが、おかげでカミーラとの接点が増えた事は素直に嬉しかった。

「がはははは! 可愛い女の子は全部俺様の物!」

 

 

 

 SS500年―――

「あ、死んだ」

「スラルちゃーーーん!!! と言ってもやっぱり俺様の剣の中にいるのだな」

「いやー、ランスのおかげで私も問題無く知識を広げられるわー」

 

 

 NC期―――

「私が新たな魔王ナイチサだ…我が下僕どもよ、我に従え…」

「男ではないか! 何で俺様が男に従わねばならんのだ!」

「えー…」

 ランスには魔王の絶対命令権は何故か効果が無かった。

 そしてナイチサもランスに干渉しようとも思わなかった。

 

「お前等は死ねーーーー!」

「ぎゃーーーーー!!」

「メイクドラーマ!!」

 ザクーッ!

 ザビエルとレッドアイは死んだ。

「まったく…何でこんな奴が魔人四天王なんだ」

「全くもってその通りです! ランス兄貴!」

 魔人ザビエルに虐げられていたケイブリスは、その相手がたったの一太刀で殺された事に恐怖を覚えると共に、ランスへ感謝する。

「いや、魔人同士の争いはご法度なのに何で問答無用で殺してるのよ…」

 ちなみに魔人筆頭であるランスには誰も文句は言えない。

 ある意味魔王ナイチサよりも恐れられている魔人である。

「ランス…ノスを殺しに行くぞ」

「面倒くさいからやだ」

 カミーラの誘いにもランスは面倒だという理由で応じない。

「ならば今こそどちらが上か決着をつけよう」

「がはははは! 今日もカミーラとセックスじゃー!」

 カミーラとは定期的に戦い、その勝利の証としてカミーラを何度も何度も味わう。

 もう何百年として繰り返されてきた事。

 これはカミーラがランスを誘っているだけという認識が魔軍にはあった。

「がはははは! やるぞ! ケッセルリンク!」

「…別にするのはいいのだが、私にも子育てというものがある。というか何故お前は魔人を妊娠させられるのか」

「本当そうよね。確か女性の魔人は子が出来ないはずなんだけどね」

 スラルが不思議そうに首を捻る。

 ゆりかごの中ではランスとケッセルリンクの子が、使徒であるシャロンとパレロアの手であやされている。

 次代を担うあらたな強者の登場に、魔軍はその明るい未来を夢見ていた。

 

「ランス。生意気にも我が元へ迫っている人間を殺せ。そして天志教を壊滅せよ」

「面倒くさいからやだ」

「…いや、魔王の命令だから従うのが筋だろう。捕えた女はお前の好きにしても良いぞ」

「なら行ってやろう」

(なんて偉そうな魔人なんだ)

 魔王ナイチサは自分の命令には従わない、だが強くてカリスマがあるランスに対して頭を抱える。

 

「がはははは! 貴様ら女の子は決して殺すなよ! Aランクの女は俺様の元へ連れてくるのだ!」

「「「ハッ!!! ランス様!!!」」」

 集められた魔物大将軍が一斉に跪く。

 そして戦いは始まるが、それは本来の歴史である3ヶ月から少し伸びる。

「がはははは! とーっ!」

 理由は単純、ランスが占領した国で何時ものように女性を抱くからだ。

 その歩みは遅いが、絶大な力を持つ魔人ランスには誰も敵わない。

 無敵結界など無くとも、人はランスに傷一つつける事が出来ない。

「貴様が藤原なんちゃらか! がはははは! 大人しく娘を差し出せば命だけは助けてやるぞ!」

「いや、普通にありえないから」

「それでいい訳? 助けてくれ、と言われれば私はその通りに策を考えるわよ」

「ここは史実通りに1対1ではないのか!?」

 ランスの合図で無数の魔物達が藤原石丸へと襲い掛かる。

 魔人ランスには1対1で戦うといった事は無かった。

 こうして数の暴力で藤原石丸はあっさりと討死する。

「死ねーーーー!!!」

「ぎゃーーーー!!!」

 そして第参階級悪魔月餅もあっさりとランスによって殺される。

「がはははは! 可愛い女の子は全て俺様のもの!」

 

 

「人類殺すべし、慈悲は無い」

「わーっ!」

 そして史実通りに魔王ナイチサは人類の半分を殺す。

「魔王死すべし、慈悲は無い」

「勇者強すぎだろ…」

 その結果、魔王ナイチサは寿命を大きく削られる一撃を受け、次なる後継者を探さねばならなくなった。

 そしてその頃のランスは、

「がはははは! いい具合だぞ、ジルちゃん!」

「ランス…だ、だめ…私もう…」

 歴史中で最悪の魔王と称された賢者ジルは、人々に裏切られ、四肢を切り落とされ犯される前にランスに見つかってしまっていた。

「うーむ、ジルちゃんは俺様との相性がいいな。どうだ、俺様の使徒になるか」

「だ、だめ…私は魔王と魔人を倒すんだ…それまで私は諦めない…」

「がはははは! 何時までそれが続くかな! ジルちゃんを調教して俺様のものにするのだ!」

 人間であったジルはこうしてランスによって救われ、またランスによって快楽のどん底に沈んでしまっていた。

 賢者ジルのアヘ顔ピースラレラレ石の存在はランスしかしらない。

「私の後継者を見つけたぞ…血の継承も済ませた…」

「何をやっとるんだ貴様はー!」

 ザクーーー!!!

「ギャーーーー―!!!」

 魔王でなくなったナイチサは斬り殺された。

 そして魔王となったジルは魔王の血の破壊衝動に負け、人類には暗黒の時代が訪れた―――訳でも無かった。

「よーし! ジルちゃんを魔王じゃ無くする方法を探すぞー」

「おー!」

「了解です! 兄貴!」

 ランスとケッセルリンクの娘と、ある程度強くなったケイブリスが手を上げる。

「嬢ちゃん! 嬢ちゃんにはまだ危険だぜ!」

「いいのよケイブリス! パーパは過保護すぎ! 私だってもう一人前のレディだよ!」

「嬢ちゃん…それで嬢ちゃんを危険にさらすと俺がランス兄貴にぶちのめされちゃんだけど…」

 ケイブリスはもふもふ癒し系魔人として、ランスとケッセルリンクの娘のお気に入りとなった。

 体だけは大きくなったが、それはケイブリスの想像とは違い、もふもふしたまま大きくなってしまった。

 それでもようやく魔人四天王の地位に上り詰めただけあり、その実力は折り紙つきだ。

 ただしランスの足元にも及ばない。

「それなんだけど…一応心当たりはあるわよ。あんまりおすすめしないけど」

 

 

「がはははは! これが黄金像か!」

 ランスはひまわり型の黄金像を片手に高笑いをあげている。

「やったー! パーパかっこいい!」

「流石ランス兄貴! そこに痺れる憧れるぅ!」

 こうしてランス達一行は黄金像をあつめた。

 が、突如としてその黄金像が奪われる。

「この黄金像は頂いていく! 人類再興のために!」

「誰じゃ貴様ーーー!」

 そしてその黄金像を使い、神と出会った冒険者はその望みを叶える。

 一人は全ての知識を、一人は絶世の美貌を、二人は魔人と魔王を倒す力を、最後の一人は呪われてコンクリ男として長く生き続ける。

「ランス、するぞ」

 魔王ジルの魔王の破壊衝動はランスが彼女を快楽の地獄へ叩き落す事によってぎりぎりのラインを保っていた。

 人類は魔王に脅えながらも―――それでも生き続けていた。

 ランスが魔王ジルに係っきりである事も多かったため、結果的に人口は増えた。

 

 そして魔王ジルの任期の終わりが近づき、ジルは延命のために神へと謁見を果たした。

「だって魔王やめたらランスと別れなきゃならないし…」

 だが何よりも違うのは、その自信に溢れた目だ。

「何をやっとるんじゃ貴様ー!」

「ランスか。見ての通りジルを封印した…それだけだ」

 こうして魔王ガイと魔人ランスの仁義なき戦いが繰り広げられ、それは50年続いた。

「えーと、私が魔人となるから人類を解放しろと言いに来たんだけど…」

「ああ、ワリイな。ガイの奴もランス兄貴もヒートアップしちまってな…」

 もふもふ魔人ケイブリスは、一人魔王城にやってきた女性、シルキィ・リトルレーズンと共に人を超えた戦いを見ている。

「がはははは! 死ねー!」

「お前が死ねー!」

 紆余曲折があり、結局はシルキィが魔人となる事で人は解放された…主にランスの魔の手から。

「納得いかーん!」

 

「なんだじーさん、お前そんな昔から生きとったのか」

「いや、ワシには魔人の知り合いはおらんが…」

 そして数百年が経過し聖魔教団が人類を統一、魔王と魔人と対抗するために闘神都市が建設される。

 それを脅威に感じた若い魔人達の言葉で、魔人からの先制攻撃が始まる。

「ランス様! ランス様は参加しないのですか?」

「なんで俺様があんな褒美も無い連中と戦わなければならんのだ。パイアールにでもやらせておけ」

「えー。ランスは僕に何でも振りすぎじゃないかなあ」

 後に魔人戦争と呼ばれる戦争にはランスは最後まで参加しなかった。

 ちなみにノスはランスに殺されているので、レキシントンは生き残った。

「扱いが酷くないか」

「男の扱いなんてそんなものだろ」

 

 戦争が終わった人間達は、色々な考えを胸に国を作り始める。

 最初にヘルマンが生まれ、そのヘルマンから独立する形でリーザスが生まれた。

「うーむ、俺様はセラクロラスによって過去に跳ばされてた訳か」

「え? 今更?」

 ここでランスは真実に気付いたらしい。

 ランスにとってこの世界の歴史はその程度の認識のようだった。

 

 GI850―――

 魔王の娘、ホーネットが誕生する。

「ランスの奴死なねーかな」

「いや、ガイ様それは無理ですよ」

 魔人バークスハムがガイの言葉を否定する。

(それにランス殿がいなくなれば、世界は闇に包まれますし…)

 未来を予知するとされる魔人バークスハム、彼には未来がある程度見えている…ようだ。

(ホーネット様は…苦労されるでしょうね)

 魔人ホーネットはガイからの厳しい指導を受けて、短期間で異常なほどの進歩を遂げた。

「あの…父様。確かに強くなったのですが、魔人筆頭のランス様に勝てる未来が微塵も見えないのですが…」

「バグには勝てない、いいね」

「ア、ハイ」

 

 そしてとうとう魔王ガイの任期が来て、異世界から来水美樹が呼ばれ、血の継承を受けてリトルプリンセスへと変わる。

「がはははは! 魔王でなくなったのならお前など相手にならぬわー!」

「やかましい! 次々に女魔人に手を出しおって! ホーネットは絶対に渡さんぞ!」

「ホーネットも俺様の女になるのだ! ラーンスアターック!」

「なんの! ラグナロク!」

 そして魔王城で繰り広げられる人外の戦い。

「ねえ日光さん。なんで魔王と魔人が戦ってるのかな?」

「魔王ガイと魔人ランスは不仲で有名でしたから…この隙に逃げましょう」

 魔王リトルプリンセスと、その恋人小川健太郎はやっぱり逃げ出すことになった。

 

 そして魔王を失った魔人は歴史通りにホーネット派とケイブリス派に分かれて戦争…なんてものは起きなかった。

「がはははは! お前ら美樹ちゃんを探すのだ!」

「了解だぜ! ランス兄貴!」

「別にいいけどよ、何でリトルプリンセスを探すんだよ」

 新たにランスの舎弟となった魔人レイが嫌な予感がしつつも聞く。

「そんなもの魔王とヤルためにきまっとるだろうが! スラルちゃんともやった! ジルちゃんともやった! ならば後は美樹ちゃんじゃー! 目指すは魔王コンプリート!」

 こうしてランスの魔王とヤル、という目的のため、魔軍全体でリトルプリンセスの捜索が始まる。

「あの…いいんですかホーネット様」

「…まあ悪意は全く持っていませんから。ランス様ならば美樹様に酷い真似はしないでしょう」

「あの…ランスに犯されるのは酷い真似だと思うんですけど」

 魔人ランスは人類は無意味に襲わない。

 むしろ人類を利用してリトルプリンセスの捜索すら行う。

 結果、彼女達の逃亡は1年であっさりと終わってしまった。

「何だとー! 魔王をやめるのはそんなに面倒だというのか!」

「…それが神が創った魔王というものだ」

 そして魔王美樹を抱くため、何とかしようと考えたランスは結局は美樹を魔王から開放する道を選んだ。

 全ての知識を知っているホ・ラガに聞いたが、それは到底不可能のように思えた。

「他の手段は無いのか他の手段は」

「私が知る限りは無い。それこそ神の手を借りねばならぬだろうな…」

 

 そして魔王リトルプリンセスは限界を迎え、魔王として完全覚醒しそうになる。

「がはははは! そろそろ俺様の出番だろう!」

 結局ランスが魔王となる事で事態は収拾する。

「…ランス様が魔王の血の正統の後継者ならば、美樹様を探す必要は無かったのでは?」

「いや、流石にランスが魔王となったらどうなるか分かりませんし…」

 ホーネットは疲れたため息をつく。

 父が探していた魔王の血の後継者は、父の直ぐ側に居たのだ。

「うおーーーーー! ランス兄貴バンザーイ!」

「魔王様バンザーイ!」

 

 そしてランスが魔王となりランスはその血に負ける…なんて事は無かった。

「いや、ランスも長く生きて異常なまでに精神図太くなってるし…」

 ランスの長い生における成長は、ついに魔王の血すらも押さえ込んでいた。

 長い生の中で得た、沢山のランスの子の前でランスは声高らかに宣言する。

「お前達! 俺様はもうこの世界から出て行くぞ!」

「えー…」

「うむ、この世界はもう冒険し尽くした感があるからな。そこで…ミラクル!」

「ふははははは! いいだろう魔王よ! 余が新たな世界に案内してやろう!」

 そしてランスは新たな世界を冒険する。

「あのー…ランス様。本当にいいのでしょうか」

「なんだシィル。奴隷の分際で魔王である俺様の命令に逆らうのか」

「いえその…他の世界の方に迷惑をかけるのでは無いかと…」

 魔王ゲンコーツ!

「いたっ! ひんひん…」

「がはははは! 今度は異世界の女達が俺様を待っているのだ! お前ら全員俺様について来い!」

 

 ―――???―――

「で、クゥ。お前の完全に想像外の事が起きたぞ」

「いや、確かにいずれは創造神の元に乗り込んでやろうと思ったが…想定外すぎるじゃろ」

 世界のバグは、どこの世界に行っても世界のバグであった。

 瞬く間に一つの国を制圧し、そこで好き勝手している。

「じゃあこれからどうする?」

「うむ、ここは魔法の言葉で終わらせる。駄目だこりゃ! 次いってみよー」

 

 終劇




これから登場予定の魔人達は意図的に出していません
ちょい役で出てきたパイアールとレイは勿論登場します
最後のオチは、イブニクル2ランス編をやればわかると思います。
大分歴史が省かれましたが、それは本編で出せればと思います

活動報告で書くか悩みましたが、一応ここで書いたほうがいいかなと
これからのパイアールの予定ですが、正直今でも悩んでるんですよね…
原因はパイアールがチート過ぎてやろうと思えば人類の全滅も余裕な事と、
やっぱり原作でも影響が非常に大きいPCの存在が…
本当に悩まし過ぎる存在です…パイアールは


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プロローグ
プロローグ


ある1級神のせいで世界がまた別の方向に進んでしまう話
マグナムはよ…


その神は自分を持て余していた。

自分が初めて真似ではない「感情」というものに振り回されていた。

『騙される方が悪いんですよー、っだ』

その言葉を思い出すだけで怒りがこみ上げて来る。

 

「クルックー・モフス…!」

 

今すぐにでも殺してやりたいが、自分の創造主がそれを許さない。

いや、それどころか今は神そのものが干渉することが出来ない。

 

「ランス…!!」

 

そしてそれ以上に許せないのがランスという男。

神に従順だったクルックーを変え、自分と同じ1級神すらも変えた男。

そして『魔王』というシステムを破壊した世界最後の『魔王』だった男。

 

「…やはり殺しておけばよかった」

 

何度でも殺す機会はあったはずなのに、たかが人間と思い結局は何もしなかった。

世界を統一したのは別にいい。

最強の魔人ケイブリスを倒したことも別にどうという事は無い。

魔王になった時は、これからの人類の悲劇を思うと胸が躍ったものだった。

魔王の血に負けて人類はおろか魔物にすらその牙を向けた時は大きく嗤ったものだ。

勝てないと分かっていても魔王を倒そうとする人類を見るのも楽しかったし、その度に魔王に蹂躙される人類を見るのも楽しかった。

だがそれは唐突に終わりを告げた。

自分の主が楽しんでいたシステムはその主の冒険によって終わってしまった。

 

「ハァ…」

 

もう言っても仕方が無いし過ぎた事はもうどうにもならない。

主が新しい『遊び』に夢中の間は、自分はもう何も出来ない。

何れはまた新しい世界が出来るかもしれないが、その時にはもうランスもモフスもこの世界にはいないだろう。

結局、自分はもうあの二人に対しては何も出来ないのだ。

(いや…でもまだ何かあるはず)

自分と同じ1級神―――クエルプランも手段はともかくあの男に会うためにあらゆる手を尽くしたのだ。

 

(何か…何かあるはず…!)

 

そして思いついた。

 

(あの神なら…何とかなるかもしれない)

 

 

 

 

「いるかしら。システム神」

 

「何の用でしょうか。女神ALICE」

 

システム神と呼ばれた神は魔法TVを見ながらポテトチップスを食べていた。

 

(相変わらずこの神は…)

 

光の神G.O.Dもそうだが、この神も妙に俗っぽいと思う。

以前光の神G.O.Dはランスに干渉したと聞いていたが、理由は何だったのだろうとふと思う。

もしかしたら何か有効な手段になるかもしれない―――そう思いつつ本来の用件に戻る事にする。

 

「ねえシステム神。私を別の世界にとばす事は出来るかしら」

 

その言葉にシステム神は眉をひそめる。

お前は一体何を言っているんだと言わんばかりの表情だ。

その表情に若干イラッとしながらも、ALICEは続ける。

 

「今のこの世界で無い所。別の世界に送れるかという事よ。記憶もそのままでね」

 

「…そういう事ですか」

 

その言葉でシステム神は全てを理解する。

女神ALICEが現状に不満を抱いている事はシステム神も知っている。

というよりも現状に不満があるのは女神ALICEだけだろう。

いや、本来であればそんな感情を抱けるはずが無いのだが。

 

「自分の好きな未来を作りたい、という事でしょうか?」

 

「あら、それが何か悪いかしら? 無数の世界の中で一つくらいそんな世界があっても構わないのではないかしら」

 

女神ALICEの言う事も別に間違ってはいないが、それが出来ると聞かれれば答えは一つしか無い。

 

「答えはNOです。あなたは1級神ですから、そのような事が出来るという保障はありません。何かしらの障害が発生する可能性が高いと思います」

 

システム神の言葉は女神ALICEが望んでいた言葉ではなかった。

だがそれでも女神ALICEは引き下がる訳にはいかなかった。

 

「別に構わないわ」

 

その言葉にシステム神は一瞬の迷いを見せた後、

 

「分かりました。ですが1回だけです。2回目は無理です。それ以上は…」

 

「分かってるわよ」

 

女神ALICEもそれは理解していた。

ルドラサウムがかつて望んだのは、あくまでも神による支配ではなく、現状のメインプレイヤーが苦しむさまを見ることだった。

自分が直接作る世界など望んではいない。

だが、自分がやるのは世界のバグを取除くことだ。

そう、ルドラサウムの世界が生み出し、放置して巨大に膨れ上がったバグを。

 

「ではいきますよ」

 

その言葉と同時に女神ALICEの意識は遠のいていった。

 

 

 

 

そして女神ALICEが目を覚ましたとき―――目の前にいたのは何故か豪華なローブを身に纏ったイカマンだった。

 

「…は?」

 

目の前のイカマンは肩(?)を震わせながら必死に土下座している。

 

「も、申し訳ありません、女神IKALIS様…」

 

「え?」

 

こいつ今何と言った?

私は女神ALICEであり断じて女神IKALISなどでは無い。

 

「このイーカラルー、必ずやIKALIS様の望むように致します」

 

(イーカラルーって何よ…?)

 

辺りを見渡すとそこは確かに自分が歴代の法王・ムーララルーと会っていた場所だ。

だが歴代法王は全て人間でありこんなイカマンでは無かったはず…

 

「ようやく戦争が始まる予定であります。イカンティ・カラーでも最早止められません。ですから何卒…」

 

(いや、イカンティ・カラーって誰よ!?)

 

確かに目障りな黒髪のカラーであるハンティ・カラーはいたが、イカンティ・カラーという妙な生物を自分は知らない。

 

「そ、そう。下がりなさい」

 

だからこそ女神ALICEはそう言う他無かった。

理解が完全に追いつかなかった。

 

「は、ははぁぁー」

 

イカマンの姿が土下座したまま消えていく。

そこで女神ALICEは初めて自分の姿を認識した。

その空間に写っていたのは、頭上にエンジェルナイトと同様の輪をいただき、背中に三対の翼と光輪を背負い、ローブを纏った―――イカマンだった。

 

「キャアアアアアアアア!!!」

 

女神ALICEは今までした事も無い悲鳴を上げる。

 

(な、何コレ何コレ!?)

 

自分の姿はその時代のメインプレイヤーと同じ様な姿になるはず…それなのに何故自分がイカマンの姿になっているのか理解出来なかった。

何かの間違いかと思い、自分の右手を動かすと、目の前のイカマンの触手が動く。

同様に左手を動かすとやはり目の前のイカマンの触手が動いた。

それを見て女神ALICEはついに意識を失った。

 

 

 

「―――CE、ALICE!」

 

声、懐かしい声が聞こえる。

ああ…そうだ、この声は自分の同僚の声。

お互いに睨み合いをした事も有り、あの男の事で争いを起こしそうにもなった声。

 

「ええ、大丈夫よ。クエルプラ…ン″!!!」

 

「そうですか。急に連絡が来ましたからどうしたのかと思いましたが…」

 

声は間違いなくクエルプランの声だ…ただし声だけ。

目の前にいるのは自分と同様に頭上に天使の輪をいただき、大量の書類を周りに浮かべている―――ピンク色のイカマンだった。

 

「…うーん」

 

「ALICE! ALICE!?」

 

それを認識した時、やはり女神ALICEは意識を失った。

 

 

 

 

 

 

「どういう事よ! システム神!」

 

女神ALICEが再び目を覚ました後、彼女は真っ先にシステム神の元を訪れていた。

 

「おや女神ALICE。どうしましたか?」

 

「どうしたもこうしたも無いわよ! 一体どういう事よ! しかも何でアンタはイカじゃないのよ!」

 

システム神は以前のまま、つまりは自分の知っているメインプレイヤーである『人間』を模した姿をしていた。

 

「待って下さい…今情報を把握しています…ああ、あなたは別の世界のALICEのようですね」

 

「言いたい事は山ほどあるけどまずは説明しなさい」

 

イカの姿のままだと今一迫力が無い、そんな事を思いつつシステム神をその口を開く。

 

「これはあなたの望んだ世界―――魔物が人類に勝利した世界です」

 

「いや魔物が勝利した世界なのになんでイカマンが法王やってんのよ」

 

「それですが…あなたが居た世界から5万年後の世界だからです」

 

「ご、ごまんねん!?」

 

流石の女神ALICEもこれには驚きの声を上げる。

まさか自分が5万年後の世界に飛ばされる…さらにはメインプレイヤーの交代まで起こっていたなど到底理解出来る話ではなかった。

 

「ルドラサウム様も人間というメインプレイヤーに飽きたんでしょうね。ですから次のメインプレイヤーにイカマンが選ばれただけです。ですのであなたもAL教ならぬIL教…IKALIS教の神という訳ですね」

 

その言葉に女神ALICEは呆然とする。

もしかつてのメインプレイヤーの姿だったら大きく口を開けていただろう。

 

「あ、それとランス君もいますよ」

 

「…は?」

 

ランスがいる?

5万年後の世界に?

 

「ホルスの冷凍睡眠って凄いですよねー。5万年後も機能しているんですから」

 

システム神が空間をいじると地上の世界の様子が見える。

 

「がーーっはっはっは!!」

 

見ると人間達に担がせた巨大な輿の上でランスが馬鹿笑いを上げていた。

 

「……どういうこと?」

 

「この世界は人類がモンスターなんですよ。これからメインプレイヤーに支配されていたモンスターがそれに反旗を翻した所ですね」

 

(人類がモンスター…)

 

自分はもう何回驚いたのだろう…最早回数を数える気にもならない。

 

「女神ALICE、あなたも自分の仕事に戻ればどうですか。私も私の仕事に戻ります。久々にランス君の冒険を見れて私も嬉しいですから」

 

「じゃああんたがその姿なのも…」

 

「私は主人公担当の神ですから」

 

そう言ってシステム神の姿が消えそうになって…

 

「ちょ、ちょっと待った! もう一回! もう一回戻してちょうだい!」

 

「2回目は無理だと言ったはずですよ」

 

「いや…でもこんな…」

 

(いくらなんでもこれは無いでしょ…)

 

別の世界と言ったがこんな世界は最初から想定すらしていない。

しかもこの世界でのランスはモンスターなので、自分の管轄外になってしまった。

そもそもこんな世界でランスを消滅させたとしてもまったく意味が無いのだ。

 

「仕方ありませんねえ。特別にもう一度やりましょう。ただし、次は本当にありません。そして2度目ですので、どんな影響が出るかは分かりません」

 

「それでも構わないわよ!」

 

「じゃあいきますよ」

 

その言葉と共に再び女神ALICEの意識は遠のいていった。

 




最初からみんな大好きイカENDです。

女神ALICEは結局最後までランスと絡むことが無かったのでこんな風に書いてみました。

女神ALICEがランスに執着した事でとんでも無いことになる話です。

基本的に気軽に楽しめる作品を目指してまいりますので、もし感想等があればよろしくお願いします


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プロローグ(真)

これが本当のプロローグです。
イカ? ランス10やったプレイヤーなら誰もがみるENDですよね


「んー…」

意識がはっきりすると同時に自分の周りを見渡すと、昔法王達と会っていた場所だと思い出す。

(イカマンじゃ無いわよね…)

自分の手を見れば、それは自分が一番見慣れた手だった。

(戻ってこれた)

システム神との賭けはどうやら成功したらしい。

「今は…LP7年4月20日か」

出来ればムーラテスト前に戻りたかったがそう上手くはいかなかったらしい。

「まあでも十分ね」

あと少しで魔人と人間の戦争が始まる。

今ランスとモフスを始末すれば何の問題も無く人類は魔物に蹂躙され、創造神が楽しめる世界が再び来る。

(そういえば…クエルプランはどうなっているのかしら?)

 

 

 

 

久しぶりにクエルプランの仕事場に向かう。

(こうしてクエルプランの所に行くのは何年ぶりかしらね…)

神からすれば一瞬の時間だが、妙に懐かしく思ってしまった。

あの場にクエルプランがいない、というのがそもそもの異常事態だったからだ。

「久しぶりね。堅物クエルプラン」

「何の用でしょうか。我侭ALICE」

自分の方すら見ず、相変わらず素っ気無い口調だが、その言葉にむしろ安心してしまう。

(いつものクエルプランね…もう二度とあんな事は無いようにしないとね)

最終的に魔王システムが破壊されたのは、クエルプランが絡んだからだ。

もちろんあんな事を起こさせるつもりはないが、それでも警戒くらいはしてもいいかもしれない。

そしてまずはあの男について尋ねてみる事にする。

「ところで…あなたはランスという人間を知ってるかしら」

クエルプランはこちらに顔も向けず、自分の目の前に1枚の紙を停止させる。

「ランス―――魂名、ぴ―563978 現在のメインプレイヤーの一人ですね。それがどうかしましたか」

「…いえ、何でもないわ」

知らないのであれば何も問題は無い。

このままあの男を始末してしまえば、かつてルドラサウム様が楽しんでいた世界が続いていく。

「本当にそれだけだから忘れていいわよ」

女神ALICEはそれだけ言うと姿を消す。

「…一体なんだったのでしょうか」

言われなくても忘れる準備は出来ている。

クエルプランは女神ALICEが聞いたことを忘れようとして、

「…おかしいですね。記憶にロックがかかっている?」

正確にはランスという名前が忘れることが出来ない。

しかもそれは昔から知っているような感覚。

「一体どうしたのでしょうか」

ランスというメインプレイヤーの紙から目を離す事が出来ない。

(何か…あったのでしょうか)

クエルプランは初めて自分の意思で、今迄止めていなかった作業を止めていた。

 

 

 

 

「次はモフス…」

自分どころか創造神すら欺いたあの法王は断じて許すことは出来ない。

魂ごと消滅させねば気が収まらなかった。

「来なさい、モフス」

 

 

 

「何の用でしょうか。女神ALICE」

法王の格好で来たクルックーに対し女神アリスは鋭い視線を向ける。

クルックーはいつもと違うアリスの視線を内心で?を浮かべながらも何時もの通りの無表情だった。

「ええ…そうねモフス。あなたにプレゼントをしようと思ってね」

そう、これはプレゼントだ。

消滅させる前に何度となく体を切り刻み、凌辱し、最後には完全なる無を与える。

人間に対して当然の事、所詮はメインプレイヤーなど神のオモチャにしか過ぎないのだから。

そうしていつものようにクルックーを殺そうとした時、急に自分の体が動かなくなった。

(え?)

人間を殺すのに指一本動かす必要はないはずなのに、それをする事が出来ない。

殺そうという意思はあってもそれを実行に移すことが出来ない。

「プレゼントとは何でしょうか」

何時もの抑制のない声がやたらに癇に障るが、それでも殺す事が出来ない。

(この感覚…まさかまさか)

以前に殺そうとしても体が動かなかった事を思い出す。

人間達が神異変と呼んでいたあの時期と同じ…地上に干渉出来なくなった時と同じ感覚。

(まさかルドラサウム様の命令が下った時のまま…!?)

それを自覚したとき女神アリスは愕然とする。

「…下がりなさい、モフス」

だからかろうじてその言葉を発するだけで精一杯だった。

「わかりました」

クルックーは内心首を傾げながら消えていく。

「システム神ーー!」

女神アリスの怒声が誰もいない空間を木霊した。

 

 

 

 

「どういうことよシステム神!」

ALICEは怒りを撒き散らしながら同じ1級神であるシステム神がいる空間に乗り込む。

「何でしょうか女神ALICE。それとおめでとうございます」

システム神はALICEの願いを叶えた時と同じように悠然とポテチを食べていた。

「どうもこうも無いわよ! なんであの時のままなのよ!」

(それと何がおめでとうございますよ!)

ALICEの言葉にシステム神はそんなことかと言いたげに首を傾げる。

「言ったはずです。同じ1級神に対してはどうなるか分からないと。

 そしてあなたの頼みを聞くのは一度だけだと」

「-!」

全て分かっている―――そう言いたげなシステム神に対してALICEは言葉に詰まる。

もう自分はお前の頼みを聞かないという言葉に歯噛みする。

あらゆる世界を無限に作り出すと言われるシステム神に対しては、いかに自分でも何も言えない。

何故ならシステム神とはそういう神だからだ。

「…そう」

だからこそALICEもそうとしか答えることが出来なかった。

システム神が出来ないというからには本当に出来ないと理解してしまったからだ。

「ええ。私はこれから忙しくなるんです。出て行っていただけますか」

その言葉に女神ALICEは何も言えずにその場を後にした

 

 

 

 

女神ALICEがその場を去った後、システム神は一人複雑な顔をしていた。

「まあ仕方ないですよね。出来ないものは出来ないんですから」

複雑な感情を抱きつつも、システム神は自分の仕事に戻った。

「これから忙しくなりますからね」

再びメインプレイヤー―――主人公の冒険が始まる。

システム神は自分の役目を果たすために動き始めた。

今度はどれくらい酷使されるのだろうかと思いつつ。

 

 

 

 

「誰でもいいから来なさい」

自分の空間に戻ったALICEは何も無い空間に声を出す。

それだけで全て伝わるからだ。

「何でしょうか、ALICE様」

人間界の悪魔を探し、排除する仕事をしているそのエンジェルナイトは1級神に呼び出された事もあってか、声には緊張を帯びていた。

「あんた名前は」

「レダ0774にございます」

「そう。あんたに仕事を与えようと思ってね」

そう言って空間に一人の人間の姿を映し出す。

緑を基調とした服を着て、黒い剣を腰に下げたただの人間。

「あっ…この人間は!」

レダ0774と名乗ったエンジェルナイトはその男に見覚えがあった。

以前、悪魔の監視の任務のために人間界を飛び回った時に、悪魔の反応があり排除しようとしたが一人の男によって阻まれた。

自分すらも一蹴したその人間は確かにこの顔だった。

忘れるはずもなかった。

「ランス…ですよね」

「…知ってんの?」

ALICEは少し意外そうに声を出す。

確かにメチャクチャな男だが、まさかエンジェルナイトがたかが一人の人間を知っている訳がないと思っていたからだ。

「こ、この男は私を…」

その呼ばれたエンジェルナイトの顔がどんどん紅潮していく。

(え、どういうこと?)

顔を見る限りそれは怒り―――だけでは無いように見えるからだ。

そしてその理由に思い当たる。

(ああ…犯されたのね)

ならば話は早いと思った。

このエンジェルナイトはランスに恨みを持っている。

自分は手を下せなくとも、エンジェルナイトを複数向かわせれば何の問題も無く排除できると。

「なら命令するわ。あなたはこの人間を―――」

始末しなさい―――その言葉を出すことが出来ない。

(まさか…これでも駄目なの!?)

自分が出来なければ他の奴にやらせればいい―――その目論見は脆くも崩れ去った。

干渉を禁じられていた時よりは緩いかもしれないが、それでも命を奪うという行為は実行する事が出来ない。

その事実が女神ALICEをさらに苛立たせた。

「ALICE様?」

目の前のエンジェルナイトが、言葉を発しない自分に対して不思議そうにする。

「し…し…」

始末して跡形も無く消滅させなさい―――その言葉がどうしても出てこない。

逆に自分の喉が焼けるような感覚を覚えるほどだ。

「守護をしろ、という事でしょうか」

そしてエンジェルナイトから出たのは自分の言いたいこととは全く逆の言葉だった。

(そんな訳ないじゃない!)

そう言いたいがやはり言葉が出てこない。

創造神の言葉はそこまで重い事だと今更ながらに実感させられる。

「わかりました」

そして自分の無言を目の前のエンジェルナイトはよりにもよって肯定と受け取ってしまった。

(こいつは何を言っているんだ)

エンジェルナイトになって日が浅い彼女は、神は悪魔の脅威から人間を救済していると思っていた。

だからこそ彼女は自分の仕事を熱心に行っていた。

ランス城付近を監視していたのは、フェリスのような下端を探していたのではなく、この付近に存在する悪魔、第1階級悪魔ネプラカスの動きを見張るためだったからだ。

(ネプラカスがあの人間に目をつけたのかもしれない。あの強さの人間なら納得出来る。悪魔は人間の魂を求めていると聞く)

だから彼女はそんな勘違いをしてしまったのだ。

そして自分にそれを防げ―――女神ALICEが自分にそう言っていると思ってしまった。

「では参ります」

レダ0074はそんな自分の勘違いからくる使命感に燃え、その場を飛び去って行った。

 

 

 

 

「あの人間…ランス」

自分を倒したあの人間の事を彼女は―――別に恨んでもいなかった。

確かに酷い事をされたが、気持ちよかったのは事実だからだ。

(うっ…)

あの時の事を思い出すと自然と顔が紅くなる。

それにまた続きを…と密かに思っていたのだ。

(いけないいけない…重要な任務よ)

相手は第1階級悪魔ネプラカス、自分よりも格上の相手だ。

それを相手にするのは今の自分には厳しいかもしれないが、第1級神ALICEの命令ならば絶対にこなさなければいけない。

女神ALICEの思いとは別に、彼女は早速あの時の人間―――ランスを探すために飛び立った。

 

 

 

 

「いや、違うでしょ!? そうじゃないでしょ!?」

女神ALICEがようやく声を出せた時にはエンジェルナイトはもうそこにはいなかった。

(誰が守れと言った!? 自分は殺せと言いたかったのに!)

だが今更もう遅い。

そのエンジェルナイトが人類に干渉している以上、そのエンジェルナイトに干渉することも出来なくなっていた。

(直接人類に関わっている存在には悪意を持って干渉することが出来ない…か)

システム神は随分と厄介な方向に自分を戻してくれたものだ。

クエルプランはランスの事を覚えていないからまだいいが、あの時と同じ状況になる可能性は捨てきれない。

あの時も、戦争自体には自分は干渉はしなかったためにあの結果になった。

それを止めるために戻ってきたというのにあの時よりも自分の状況は悪くなっている。

(どうすればいいのかしら…)

女神ALICEは初めて自分の状況を呪った。

 

 

 

 

あれから数日がたった。

女神アリスは自分がいる空間で頭を悩ませていた。

メインプレイヤーに対して行動を起こすことが出来ないというのがこんなにも腹立たしいとは思わなかった。

全ての法王は自分の駒であり替えのきく道具に過ぎなかったが、今はその道具に対してもロクな命令を下すことが出来ない。

バランスブレイカーの回収などといった通常の事に関しては問題ないが、命を奪う等といった人類に強い影響を及ぼす行為が禁じられているようだ。

だからと言って他の存在を使っても人類に対する悪意の干渉を行うことも出来ない。

八方塞がりとはこの事だった。

(悪意…悪意か)

しかし必ず何か方法はあるはずだ。

あの人間もとんでもない方法で魔王システムを破壊したのだ。

ならば神である自分が出来ないはずがない。

(そういえば…)

ランスが戦場に立ったのは第2次魔人戦争が始まって少したってからだ。

何故そんな事が起きたのか…それはホルスの冷凍睡眠装置に入ったからだ。

ならばその前は…

(セラクロラス!)

そうだ、あの男はべゼルアイと共にセラクロラスを探していた。

実際にセラクロラスに会っているはず…そしてセラクロラスは…

(もしかしたらいけるかも…)

女神ALICEはこれならいけると思った。

何故なら自分が施すのは善意なのだから。

 

 

 

女神ALICEは知らない。

自分のとった行動がこの世界に何をもたらすかを。

そしてその行動が自分の未来すら変えてしまう事も。

 




今回出てきたエンジェルナイトですが、
ランスクエスト・マグナムに出てきたAの方です。
名前は鬼畜王で出てきたエンジェルナイトの名前をそのまま使っています。
もう本編にエンジェルナイトのレダは出てきそうにないしね…
本作品のレダさんは見ての通りのポンコツです。
第2級神の分裂体もあんな感じですから仕方ないね

この作品は圧倒的な力を持つ女神ALICEが、色々な意味で自滅してしまう物語です。
主役は勿論ランス君です。


レダの件で抜けていたので直しました。
何故自分で考えて抜けていたのか今の僕には理解でない


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プロローグ(主人公)

ここからが本当のプロローグ
主人公のターン!


―――???―――

今日も何処かで人が死ぬ。

貧困、災害、魔物、そして同じ人の手によって人は殺される。

「くす、くすくす……あはは……はぁ…」

それは今まででずっと見てきた光景。

リーザスと呼ばれる地方、ヘルマンと呼ばれる地方、ゼスと呼ばれる地方、

自由都市と呼ばれる地方、JAPANと呼ばれる地方、何処も変わらない。

今までと変わらず行われる光景…メインプレイヤーが苦しむ光景。

それがルドラサウムの楽しみだ。

そのため、人類はドラゴンと違い弱く作られた存在だ。

しかしルドラサウムは何故かため息をついていた。

今までと同じく何度も繰り返された楽しみのはずなのに、何故か心が満たされなく感じていた。

何か重要な事を忘れているような、そんな感覚。

「……あの人間」

その人間を見るのは楽しみだった。

死にそうで中々死なない人間。

最後には必ず死ぬだろうと思っても、その人間はそれを回避してきた。

『もう……かも……。お前も……せよ』

そんな事をその人間に言われた気がする。

そしてその背中を見ていた気がする。

あれは何なのだろう? そしてその人間は一体何を言ったんだろう?

『魔………は、あな………ち……です。……助け………』

『楽し………か?』

そして誰かに何かを言われた気がする。

それを思い出そうとすると、それだけで何故か非常に楽しくなった。

何なのかが自分でも思い出せない、だがそれでも構わなかった。

今までとは何か違う感覚、でもそれは決して不快ではない。

創造神はその何かを楽しみながら、その男を見ていた。

 

 

 

 

 

LP7年4月21日

遺跡探索の少し前。

「見つけたわよ、人間」

その天使はいきなりランスの目の前に現れた。

「て、天使さんですか」

ランスの奴隷であるシィルが突然の天使の登場に目を丸くする。

「え、エンジェルナイト…」

ランス付きの忍者である見当かなみはその存在感に圧倒され、

「ランス君、またなんかしたの?」

力の聖女の子モンスター、ベゼルアイはランスがすでにやらかしたと決めつけ、

「なんでエンジェルナイトがこんな所に」

魔人サテラはその登場を不振に思い、

「ラ、ランス様…」

「お前は別にどうでもいい」

「ひ、酷いだす…」

ロッキーはランスに何時ものようにぞんざいに扱われる。

「グーーーーッドだ!!」

当のランスは目の前に現れた天使―――に対し何時ものように喜びの声を上げる。

「さすが俺様。俺様のようないい男にはやはりいい女がやってくるのだ」

「それは無いと思うわよ」

ベゼルアイの突っ込みも意に返さずにエンジェルナイトに近づいていく。

「おい、心の友!」

ランスの腰に下げられている魔剣カオスがランスを静止するべく声をかけるが、勿論ランスはその程度では止まらない。

そのエンジェルナイトに近づき―――そして気づいた。

「…お前、もしかして前に俺様の城に来たやつか?」

「そうよ」

「あーそうだ。フェリスを襲いに来て、俺様がおしおきした子ではないか」

ランスの言葉にその場の全員が納得した顔をする。

「ランス様…」

「ランスが襲わないわけないわよね…」

「うーん…天使とまでしてたんだ」

「ランス…お前という奴は」

当のエンジェルナイトは顔を真っ赤にして怒鳴る。

「そ、その事は言わないでよ!」

ランスはその彼女の怒りなど何処吹く風と言わんばかりに彼女に詰め寄る。

「うむ、俺様には分かるぞ。君は俺様とのセックスが忘れられなくて来たんだな」

「な、何言ってんだ!」

先程とは違う意味で頬が紅潮する。

「がはははは! 照れるな照れるな! どれ、俺様がめくるめく快楽を…」

「いい加減話を聞け!」

エンジェルナイトの怒声には流石にランスも驚く。

「私は別にお前とセックスしに来たんじゃない! お前を守るために来たんだ!」

「は?」

「ランス君を…守る?」

その言葉に疑問を持ったのはベゼルアイだった。

神は人を守るために存在するのではなく、どちらかというと人を苦しめてきたというのが彼女の感覚だ。

その神の部下であるエンジェルナイトが一人の人間を守るという事が信じられなかった。

「悪魔があんたを狙っているみたいだから、私が来たのよ」

「あん? 悪魔?」

(悪魔…フェリス達の種族だよな。だが狙われる覚えなどまったく無いぞ)

今までの事を思い返しても、フェリス以外の悪魔とは何の接点も思い出せない。

その辺の雑魚悪魔なら幾度と無く殺してるが…少なくともランスの記憶には無かった。

最も女性以外の記憶などランスはほとんど無いのだが。

「感謝しなさい。このエンジェルナイトがあんたを助けてやるんだから」

「よく分からんが美人が増えるのはいい事だ」

まあランスにとっては美人が増える、この事だけが重要だった。

それも極上の美人…

「ぐふふふふ…」

前はゆっくり楽しむ時間が無かったが今回は…と誰もが分かる笑みを浮かべる。

改めてみるとやはり人間からはかけ離れた美しさだ。

美しい金色の髪に、出たところは出てるとわかるスタイル。

そして背中から出ている羽もランスにとっては中々のポイントだった。

(背中の羽を使って色々試せるかもしれんな…)

「ところで名前は?」

「私はレダ0774よ。覚えておきなさい」

「なんか妙な名前だな…まあ単純にレダでいいか」

ランスの言葉にエンジェルナイト―――レダ0774は苦笑いを浮かべる。

(レダ…か)

自分は4級神レダを模して作られた個体だ。

力は当然4級神には遠く及ばないが、何れはそれに近づきたいと思っている。

「まあ何にせよ美人が増えるのはそれだけでグッドだ! がはは!」

 

 

 

 

LP7年5月3日

ヘルマン北北部、シベリア地方―――

巨大戦艦内部―――

シィルの日記

私達が巨大戦艦に入ってはや十日が過ぎました。

戦艦の中はとっても不思議な遺跡です。

外では見ないような材質の壁に何に使うか分からない機械ばかり。

その上、中はとっても広く、まだまだ果ては見えません。

ランス様は聖女の子モンスターである、セラクロラス様を探しに来たのですが、

この調子ではいつ見つかるか…

あっ、でもその代わり、天使のレダ様という方がランス様を守るといって私達とお友達になりました。

そして、この遺跡に暮らす種族である、ホルスの方、三人ともお友達になりました。

最初は言葉が通じなかったのですが、翻訳機なるもので言葉が通じるように。

すごいですね、魔法のようで魔法ではないそうです。

 

「おいシィル、何を書いてる」

「きゃっ! ランス様!?」

「あ~? なになに? 私達が巨大戦艦の中に入って……」

「きゃー! ランス様、やめ、やめて下さい~!」

ランスがシィルの日記を取り上げ、その内容を読んでいると、

「やめなさいよ。乙女のプライベートよ」

ランスの側にいた天使がその日記をランスから取り上げる。

「はい。シィル」

「あ、ありがとうございますレダ様」

「おいこら。これは俺様の奴隷だ。俺様の奴隷の日記は俺様のものだ」

「私はシィルの友達として乙女の秘密を守っただけよ」

「ぐぬぬ…口の減らん奴だ」

「あはは…いいんですレダ様。突然の事でびっくりしただけですから」

天使―――レダは「シィルはホントいい子ねぇ…」と言いながら軽くランスを睨む。

女神ALICEの命令を受けた―――と勝手に勘違いをしている天使はランスと共に遺跡の探索をしていた。

「でもレダ様…本当に強いですね」

「エンジェルナイトだもの。当然よ」

「ふん。俺様の方が強い」

シィルの言葉にランスは何時ものように『自分の方が強い』と胸を張る。

「いや、ちょっと前ならランスの方が強かったけど、今は私の方が強いわよ」

レダの言葉にランスは少し面白くない顔をしてる―――とシィルは思った。

(ランス様…レベルが下がるのも早いから…)

ランスという男はレベルが上がるのも早いが、怠けるときは全力で怠けるためすぐにレベルが下がってしまう。

かつてレダ0774ともう一体のエンジェルナイト―――コスモス0596を退けたときはもっとレベルが高かった。

それがランスの強さであり、同時に弱点でもある。

人類で誰よりも強くなる可能性がありながら、それを求めず女と宝(貝)を求めるのがランスという男なのだ。

「それよりも…モンスターが来てるわよ」

「フン! 俺様の経験値にしてくれるわ!」

男の子モンスターと呼ばれる存在がランス達に襲い掛かる。

相手はイカマンやミートボール、るろんた等といったあまり強くはないモンスター達だ。

「こんな雑魚共では経験値の足しにもならんわ! 死ねー!」

ランスが無造作に放ったとしか思えない一撃は、それだけでモンスターを仕留める。

生き残ったモンスターがランスに攻撃をしかけるが、

「甘いわね」

レダが手に持った盾でモンスターを弾き飛ばし、もう片方の手に持った剣でモンスターを仕留める。

(私…あまりやる事ないかな)

シィルの目から見てもやはり二人はモンスターを歯牙にもかけずに仕留めていく。

何しろ新しい仲間―――レダは凄いガードなのだから。

モンスターの攻撃も、そして魔法もその盾で防いでくれる。

シィルも冒険の中で色々な実力者を見てきたが、レダはその中でも群を抜いている。

(パットンさんとは違う意味で凄いです)

かつて一緒にゼスで戦い抜いたガードの男はその凄まじい体力と肉体にものをいわせて皆を庇っていたが、

彼女は盾や剣を用いて華麗に相手の攻撃を防ぐガードだ。

その上神魔法まで使える。

ランスもやはり冒険者として超一流で、そんな彼女とは見事に連携をとっていた。

彼女が防ぎ、ランスがその強烈な一撃を叩き込む。

それの繰り返しで十分すぎた。

「がはははは! 止めだ!」

最後のミートボールをランスが粉砕する。

負った傷はかすり傷程度でしかない。

「うーむ…本当に何のたしにもならん奴らだったな」

「この辺の魔物は弱い魔物が多いみたいですから…」

レベルが上がる必要経験値をまったく満たせないことにぼやくランスにシィルがフォローを入れる。

「俺様は天才だが、こうも雑魚ばかりではレベルが上がらんではないか」

ランスがレベルに拘るのは、やはり隣にいるエンジェルナイト、レダが原因である。

ぶっちゃけランスは彼女を襲いたかった。

(無理矢理やるのは何となくイカン気がする…)

あの時は無理矢理襲ったが、ランスもあの時とは違うのだ(ただし性的な意味で)

(あの子は確か俺様とのセックスを続けたそうだった…だから一発ヤれば後はいけるはず)

ランスという男はHのためならどんな事でもする。

それこそそのためには普段は面倒なレベル上げすらも厭わないのだ。

そんなランスの視線に気づかず、レダは周辺を警戒している。

(悪魔の気配は…無いか)

ネプラカスの領域は人間でいう所の自由都市という所にある悪魔回廊だが、それでも油断は出来ない。

悪魔も自分達同様に空間を移動することが出来るため、警戒は最大限にしなければいけないのだ。

「たーーっち!」

「ひゃん!」

ランスはそんな彼女を見て突如として胸をさわる。

「うーむ…やっぱり鎧の上からでは楽しくないな」

「だったら触るなー!」

レダは顔を真っ赤にしながらランスの手を逃れるためにその翼で宙に飛ぶ。

「がはははははは! 冗談だ!」

(ううう…絶対嘘だ)

やっぱりこの男はエロだ。

エロエロだ。

だから悪魔も目をつけているのだろう、と彼女は勝手に納得してしまっていた。

彼女は今でも自分の勘違いに気づけていないでいた。

「ランス様ーッ」

「この声は?」

「探しましただー! ランス様ー!」

ランスキーックが炸裂。

「ぶぎゃ!?」

「きゃあ、大丈夫ですか!? ロッキーさん!?」

「何やってんのよランス!」

「こいつの濃い顔見たら不愉快になった。憂さ晴らしだ。

 だいたいお前ガードのくせに役にたたんではないか。

 レダに勝てるところが一つも無いではないか」

「うう…ひどいだす…」

ランスの言葉にシィルがフォローを入れる

「でもロッキーさんがいないと食事が…」

「そ、そうよ。私よりも上手よ」

レダもロッキーの作った料理の味を思い出し、フォローに回る。

(そもそも私料理なんてしたこと無いし…)

「まったく、こっちはお前らを心配して探しに来てやったっていうのに。

 勝手に舞台からはなれるんじゃねぇよ。ヌヌヌ」

ロッキーと共に現れた人では無い奇妙な存在―――ホルス種のメガフォースがランスに文句を言う。

「ふん、いい気分だったから、シィルとレダと散歩がてら戦ってただけだ」

「三人だけで戦ってたの!? て驚きたいけど、あなた方なら納得よね。ヌヌヌ」

同じホルス種のメガワスが頷く。

ランスはホルスの格闘大会で優勝した事のあるメガフォースを軽く倒す実力を持ち、

レダはガードとしてだけでなく、そして神魔法使いとしても一流だ。

そして魔法使いのシィルが居れば、この辺のモンスター等相手にならないだろう。

「まあ皆で協力したほうがより楽になるでしょ。ヌヌヌ」

「そうですランス殿。ヌヌヌ」

ランスと出会ったホルス種の最後の一人、メガッスもメガワスに同意する。

「ふん。分かってるわ!」

(まあ俺様が最強なのだ。どんな奴が来ても問題は無い)

「サテラとベゼルアイは入らないからな」

紅い髪の魔人―――サテラは魔人では一番若いながらも魔人としての矜持は高い。

だから人間と一緒に戦う等ありえないと思っている。

「そもそもサテラ達はお前ら人間とは生物としての格が違うんだ。変な勘違いするんじゃないぞ

聖女の子モンスターのベゼルアイも同じだろう。違うか?」

「え? 私は別に一緒に戦っても構わないけど?」

ベゼルアイの言葉にサテラは無言で睨む。

「はいはい、参加しないでおくから、そう睨まないで。

 でも彼女は別みたいだけど」

ベゼルアイは空から降りてきたレダを見て笑う。

「そもそもなんでエンジェルナイトがランスを守ってるんだ」

サテラは不満気な表情を隠さずにレダを睨む。

「私は任務で来ているんだ。魔人に指図される筋合いは無い」

レダは使命感を隠さずに堂々と言い放つ。

雲の上の存在―――自分の元となった4級神よりも高位の存在である1級神直々の命令なのだ。

それだけ困難な任務だと思っているし、やる気もある。

自分の邪魔をすればただではおかない―――サテラにはそう言っている様に見えた。

サテラはそれが面白くないが、だからといって天使と戦う気も特に無かった。

「フン! なんでこんな奴が狙われるんだ!」

レダとサテラが若干剣呑な雰囲気になるが、

「落ち着いてください、サテラさん、レダさん」

シィルにそう言われればお互いそれ以上睨みあう気は無かった。

「それはともかく…間違いなくセラクロラスはいるんだろうな」

「ええ、それは間違いないわ。必ずセラクロラスはこの中にいる。

 同じ聖女の子モンスターとして保障するわよ」

「うむ、そうか」

「ようやく追いついたー! 酷いじゃない! なんで追いてくのよ!」

その時、ランスが偵察に出し―――30分で置いていった見当かなみが泣きそうになりながら走ってくる。

いや、むしろ少し泣いている。

本来であればもっと先にホルスの罠で合流するはずだが、この世界ではベゼルアイ達のすぐ後に合流していた。

いるはずの無い存在、エンジェルナイトのレダがランスの側に存在する事が、その歴史を崩していた。

「私はランス付きの忍者でしょー! なんで置いてくのよ!」

「ちゃんと待ったぞ。30分」

「たった30分じゃないのよ!」

「というかお前はレダが目印残していったのに、10日もかかったのか…」

「それだけ広いのよ! それに私一人でモンスターの群に勝てるわけ無いでしょ!」

「あーわかったわかった」

ランスがかなみのあたまを撫でるだけで、かなみは頬を緩ます。

実に「安い女」である。

「とにかく! セラクロラスを探すぞ!」

 

 

 

 

 

ホルスの冷凍睡眠装置の一室、

「あ、いたわ」

「何!? じゃああれがセラクロラスか!?」

ランスはべゼルアイの言葉に歓喜し、今見えている足の持ち主に元に走り―――そして愕然とする。

「すぴー。すぴー」

目の前に眠るのは少女、完全にランスの守備範囲内からかけ離れている少女がいたからだ。

「…本当にこれがセラクロラスなのか」

「ええ、間違いないわよ」

べゼルアイの言葉がさらにランスを愕然とさせる。

この目の前で寝てる少女が、明らかにハイパー兵器が入りそうにもない少女がセラクロラスだというのだ。

「そうだ! まだ子供なんだよな!?」

「残念だけど、セラクロラスは子供も大人もその姿よ」

「ぐっ…」

ランスは思わずその場に膝をついた。

「残念だったの。心の友」

腰に下げたランスの剣、カオスが慰めの声をだすが、それは明らかに笑いを含んでいた。

「やかましい!」

ランスはカオスを床に叩きつけ、げしげしと踏む。

「ランス様!」

「儂のせいじゃないじゃろ!」

ランスがやり場のない怒りをカオスにぶつけていると、セラクロラスが目を覚ます。

「んー…あれ、べーだ」

「久しぶりね、セラ。それとべーはやめなさい」

セラクロラスは寝ぼけ眼で周囲を見回し、

「あれ、ランスだ」

その言葉にランスはカオスを踏むのをやめると、

「あん? 俺様名乗ったか?」

 

 

 

 

少し前―――

「セラクロラス…セラクロラス…」

女神ALICEはセラクロラスに声をかける。

「んー…何?」

セラクロラスは大きな欠伸をしながら返事をする。

(セラクロラスなら…やれるはず)

女神ALICEは現在悪意を持ってメインプレイヤーに接することが出来ない。

どこからが悪意なのかはまだALICE自身にも把握が出来ていなかったが、

他の神への頼み事くらいならできる、という事も分かっていた。

勿論メインプレイヤーを害する頼みはする事ができないが…善意ならば話は別だ。

「もう少しでランスがそこに行くと思うんだけど…その時ランスを若返らせてほしいのよ。それもうんとね」

(やった! 言えた)

自分の予想通り、その言葉を言う事が出来た。

時のセラクロラス、その力は強力で、人間を若返らすなど容易いことだ。

そして寿命の短い人間を若返らせるのはセラクロラスにとっては善意なのだ。

結果は二の次、人は永遠の命を望む儚い存在…だからこそセラクロラスの存在は人の望みなのだ。

「んー…いいよー」

その言葉に女神ALICEはようやく心から笑みを浮かべる事が出来た。

「じゃあお願いね」

そしてセラクロラスとの交信をやめる。

「はぁ…上手くいったわね」

これが女神ALICEの計画、直接始末出来ないのであれば、やはり魔物達に殺させればいい。

しかしそのままならば、恐らくランスは死なない。

それどころか、あの天使の力でもっと楽に魔物に勝ててしまう。

正直、あの時もランスがケイブリスに勝つという結末が起きるとは思ってなかった。

ランスは死に、ケイブリスが魔王となり人類の暗黒の時代が始まると思っていた。

人類が纏まったのはランスという存在がいたからだ。

ならばそのランスが死ねば、いや死なないまでも無力化させる事が出来れば、とALICEは考えていた。

そしてその選択肢の一つが時のセラクロラスだった。

セラクロラスは人よりの神ゆえに、自分の頼みを善意として解釈してくれたのだ。

そしてランスが若返る―――それも自分で動くことも出来ぬ赤子程に若返れば、人類は纏まる事など出来ずに魔軍に蹂躙される。

そうすればルドラサウムの望む世界が続いていくのだ。

女神ALICEはようやく心から安堵する事が出来た。

 

 

 

 

 

「んー…じゃあランス、てやぷー」

そのその言葉と共に不思議な感覚がランスを襲う。

「な!?」

「セラ!?」

べゼルアイは突然ランスに力を使った事を驚く。

「ランス様!?」

「ランス!」

ランスには皆の声がやけに遠く感じた。

(な、なんだ!? 何が起きてる!?)

だがその力に抗う事が出来ない。

「ランス!!」

その時他の誰よりも力強い声でランスに飛びつく存在がいた。

「レダ!?」

ランスに飛びついたのはレダだった。

彼女はランスを守る、それを愚直に実行していた。

(これは…!?)

同じ神であるレダには何がおきてるか理解できた。

これはセラクロラスの力…だが何故急にランスにその力が振るわれたのかは理解出来なかった。

そして自分でもこの力は止められない。

レダがそんな自分に歯噛みをしているとき、

「ランス様!?」

突如としてランスと、そしてレダの、セラクロラスの姿が消える。

「え…ランス?」

「心の友!」

かなみとカオスの声がやけに大きく響く。

ほんの一瞬、だがその間に3人の姿が消えてしまった。

「ランス様!」

シィルの悲鳴に近い声が響き渡った。

 

 

 

 

 

―――???―――

「…どうしよう」

創造神ルドラサウムは初めてそんな声を出したのかもしれない。

『…さんを…助け…いね』

急にそんな声が聞こえた気がしたのだ。

その人間を見ていると、神の一人がその人間に対して何かをしようとしてた。

それは何故か悪い事の様に思った。

そして初めて―――ルドラサウムは現世に干渉してしまった。

今まではずっと3超神が作ってきた世界をただ見てきただけだった。

つまらなければ世界を崩壊させてきた。

その度に3超神は新しい世界を作ってきたが、初めて崩壊させるためでは無いことで干渉したのだ。

「…でも」

何故かそれは正しい事のように感じられた。

自分はあの人間を、……を助けることが出来たのだ。

「そうだ…どこいったんだろう」

少し力を籠めすぎたのかもしれない。

「…あれ?」

だがその存在を感じ取ることが何故か出来なかった。

今ここに、再び、そしてあの時よりも遥かに早く、異変は始まっていた。

 

 

 

 

 

(ルドラサウム様!?)

上手くいったと思った。

セラクロラスはランスを若返らせ、無力化したと思った。

ランスの力無しに人類は纏まる事が出来ずに、再び暗黒の時代が来ると思った。

しかしその自分の予想は、自分の遥か上の存在によって防がれた。

(まさか…ルドラサウム様も!?)

システム神は問題が起こるかもしれないとは言っていた。

だから、自分がメインプレイヤーへの干渉が難しくなっていたのがその問題だと思っていた。

想像もしていなかった。

自分の創造神にすらも影響を与えてしまう可能性を。

「うっ…」

自分の意識が遠のいていくのがわかる。

そして突如として光り輝く自分の間―――

(光の神…G.O.D?)

「やりすぎ」

そんな声が聞こえたと共に、女神ALICEは完全に意識を失った。

 

 

 

 

 

「んー…ここはどこだ。俺様は確か遺跡の中にいたはずだが…」

(そこでセラクロラスに会って…)

ランスが覚えているのはそこまでだ。

なんか光ったと思ったら、気づいたらここにいた。

確かにダンジョンにいたはずなのに、今の場所は

(森…か?)

「シィーーール!」

自分の奴隷の名前を呼ぶが、返事は無い。

それどころか、かなみ、ロッキー、ホルス達、サテラとシーザー、ベゼルアイの姿が見えない。

「うーん…」

居たのは自分に飛びついた気がする―――レダだけだった。

「起きたか、レダ」

「ここは…」

レダも周りを見回すが、何故か森にいる事に驚きを隠せなかった。

「ランス。一体どうなって…」

レダが言葉を続けられなかったのは、別の驚きがあったからだ。

「まったく…一体どうなっとるんだ」

若い。いや、ランスもまだ人間の基準でも若かった。

それなのに―――今のランスはさらに若くなっていた。

20に届くか届かないか、そんな年齢に若返っていたのだ。

(まさか…セラクロラスの力!?)

エンジェルナイトの自分にはセラクロラスの力は意味は無いが、

(レベルが下がってる…)

それでも影響があったようだ。

それも自分にとって最悪の形で。

「それよりも…」

ランスの声にいささかの警戒が含まれているのを、戦士であるレダは気づいた。

「囲まれてるわね」

「ふん。返り討ちだ」

そう言ってランスは腰のカオスに手を伸ばし―――その手がすかる。

「あ…」

そこでランスは思い出した。

セラクロラスと出会った時、カオスを地面に叩き付け、踏みつけたのだ。

(イカン、イカンぞ。俺様は最強だが、剣が無いのは…俺様ピンチか!?)

レダもランスの腰にカオスが無いのを確認し、ランスを守るように前に出る。

しかし感じられる気配は思ったよりも多い。

森の中のため、隠れるところはいくらでもある。

「動くな」

その声と共に矢がランス達の足元に突き刺さる。

そして取り囲んでいた者達が木から下りてくる。

それはランスも知っている種族、カラーと呼ばれる者達だった。




レダの設定は完全に独自のものです
某女神転生シリーズに完全に毒されてますね…
この作品のレダさんは4級神レダさんのコピーみたいなものです。
神視点でみると手っ取り早く天使を増やすならコピペが一番ですから。
カラーから天使を増やすとなると流石にエンジェルナイトの数が…と思いまして。

最後のランス君の姿に関しては、03辺りの姿だと思ってください。
そしてここから主人公のターンが始まります。

イブニクル2が出るまでに少しでも筆を進めたい…


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SS期
この場所は


イブニクル2発売までに間に合いませんでした…
許してください! 何でもはしませんから!


「何やっとるのホント」

光の神G.O.Dは、不満そうにしている女神ALICEに対して若干の疲れを滲ませた声を出す。

「別に何もやってないわよ。ただ世界をあるべき姿にしているだけよ」

何も悪びれる様子が無い女神ALICEに対して、光の神G.O.Dも少しイラッとするものを感じる。

「嘘つけーーー!! 思いっきりやっとるだろーーー! おかげでこっちまで巻き込まれたわーっ!」

(巻き込まれた?)

光の神G.O.Dの言葉に女神ALICEは引っ掛かりを覚える。

そもそも人類への干渉は本来であれば女神ALICEの管轄だからだ。

自分が魂管理局クエルプランの仕事に口出ししないように、他の神も自分のやる事に口を出してこないはずだった。

「そこ知らないって顔するなーーー!!!」

事はランスがセラクロラスと出会う前までに遡る。

 

 

 

 

「…セラクロラスにはああ言えたけど、大丈夫かしら」

聖女の子モンスターであるセラクロラスは若干人間よりだったので、女神ALICEは少し不安にかられた。

上手くいったとは思ったが、それでも何かが足りないと感じていた。

とはいえ、メインプレイヤーにこれ以上干渉することは難しい。

いざ戦争が始まれば、自分は静観を余儀なくされるだろう。

「保険は必要かしらね」

以前エンジェルナイトにランスの始末をさせようとしたが、それは失敗に終わってしまった。

自分の言葉を勝手に解釈したのは気に入らないが、よりにもよってそれは自分の命令になってしまっていた。

(私の命令扱いで、撤回も出来ないのよね…)

オリジナルである4級神レダに話してはみたが、やはり自分の命令として優先されてしまっている。

(本当やっかいよねぇ…)

今までは言葉でクエルプランを煙に巻いてきたが、今度は自分がその言葉で首を絞めてしまっている。

その事もあって、エンジェルナイトに迂闊に命令を下すことは出来ない。

(そうだ…)

そして考えが浮かんだ。

なにも直接人類に手を下す必要はない、やはり魔物によって蹂躙させればいいのだ。

しかしそのままでは認めたくないが、あの男は勝つだろう。

ならばあの時より、敵が増えればどうだろうか。

「誰か来なさい」

 

 

 

 

 

「コスモス0596、参りました」

やってきたエンジェルナイトに対して、女神ALICEは慎重に言葉を選ぶ。

迂闊な命令をすれば、それだけ自分の目的から遠ざかってしまう。

「AL教の本部の地下に封印されている場所があるわ。そこから魔血塊を見つけ出し、魔物に与えなさい」

(…出来た!)

少々際どかった気もするが、無事にその言葉を紡ぐことが出来た。

女神ALICEの考えは、人類の力を削ぐ事ではなく、敵の戦力を増やせばいいという事だった。

そして過去に人間に倒され魔血塊となった存在がいた。

AL教本部の封印された間には、ランスが倒した魔人―――魔人アベルトと魔人カイトの魔血塊があった。

魔人カイトはケイブリス派の魔人であり、魔人アベルトはかつては魔人カミーラの使徒であり、

そしてランスと敵対していた存在だ。

この2体の魔人が復活するなり、または乗っ取られても女神ALICEにとってはどっちでも良かった。

結局は人類の敵が増えるだけなので、結果は同じだからだ。

魔人カイトは魂が汚染されていたが、それくらいならこの世界のバランスブレイカーアイテムで何とかなる。

そしてAL教の地下にはそのアイテムも置いてあるはずだ。

「かしこまりました」

エンジェルナイト、コスモス0596は言葉短く任務を実行すべく飛び去った。

 

 

 

 

「…妙な命令よね」

コスモス0596は女神ALICEから直接命令を受けるのは初めてだった。

普段は同僚―――レダ0774と一緒に悪魔回廊付近を監視するのが仕事だった。

だが、そのレダ0774は自分同様女神ALICEから直接命令を受け、人間を守護する任務にあたっている。

それが誰かは知らないが、上手くやってくれればいいなあと思っていた。

「だけど…」

命令は明らかに魔人を復活させるような事だった。

別に人類がどうなろうが構わないのだが、こうしてあからさまに魔物に肩入れするというのは聞いたことが無かった。

(私が考えることじゃないか)

コスモス0596はあっさりとAL教の魔血塊がいる部屋にたどり着いた。

エンジェルナイトの自分には容易い事だった。

「えーと…これか」

一見厳重に封印されているが、その封印は自分にはまったく意味が無い。

右手一つで封印が解かれ、魔血塊を手にする。

「こっちの魔血塊が…うわ、凄い汚染されてる」

魂が穢れると、その魂はルドラサウムの元に還る事は出来ない。

しかし人間が汚染されるのは知っているが、魔人が汚染されるなど聞いた事も無かった。

「えーと…確かコレよね」

コスモス0596は女神ALICEに教えられたアイテムを手に取る。

霧吹きのような形をしたそのアイテムを魔血塊に対して吹きかけると、穢れていた魔血塊がどんどん綺麗になっていく。

「うわ…これ凄いアイテムよね…」

時々このような常軌を逸したアイテムが見つかる。

それはバランスブレイカーと呼ばれ、時にはこの世の理をも覆しかねないとも言われる。

「あ、無くなった。それにしてもこのアイテム何なんだろう…『QD』って印は何なのかしら?」

魔血塊の汚染が無くなったと思われた時、ちょうどそのアイテムの中身が空になる。

コスモス0596は魔血塊を綺麗に拭くと、

「これで任務の一つは終わりね」

満足げに頷き、二つの魔血塊とポーチにしまう。

後はそれを適当な魔物に与えればいいだけだ。

「さて…と」

コスモス0596がその場を立ち去ろうとしたとき、何かとてつもない気配を感じた。

エンジェルナイトである自分の背中が一瞬で冷え、思わず剣を抜く。

そこにあるのは厳重に―――それこそ魔血塊が封印されていた箱よりも強く封印されていた何かだった。

世界のバランスを崩しかねない人間が封印されているのを、彼女も知っていた。

が、その封印はとにかく別…もっと恐ろしい何かが封印されていると彼女は察した。

「これは…」

自分の体に鳥肌が立つのを嫌でも感じられる。

昔、自分はある人間に敗れ犯されたが、その時にも感じなかった恐怖。

そういえば自分の相方はまだ続きをして欲しそうだったなぁ…と少し現実逃避しつつも、それから目を離すことが出来ない。

ダメだ、と思いつつも自分の中の好奇心と恐怖が鬩ぎ会う中、彼女はソレに向かって歩いてしまう。

そして彼女はソレを覗き込むと同時に、その中の存在がこちらを振り向いた。

「!!??」

 

カチャン…

 

それが自分が剣を落とした音だと気づいたのは、自分がその場に座り込んでしまってからだった。

あまりの恐怖に足が震え、手は自然と口にもっていかれる。

ものすごい―――ブス。

「うっ…」

よく見れば『遺伝子をこの世に残してはいけないブス』と書かれている―――シルバレルが封印されているケースだった。

コスモスは慌てて剣を拾うと、一目散にその場を逃げ出した。

(聞こえない、私には何も聞こえない!)

ときおり聞こえる ドン! ドン! という何かを叩く音も、『出しなさいよ!』と聞こえる声も気のせいだ、と彼女は現実を逃避していた。

 

 

 

 

(とにかく、任務の一つは完了した…)

何かとてつもないものを見た気がするが、自分は何も見なかった、と自分に言い聞かせ彼女は手に入れた魔血塊を見る。

それを適当な魔物に与えればいい、との事なので彼女はその辺にある別々の魔物の巣それを投げ入れた。

「これで終わり、か」

1級神からの任務を終えたことに安堵して、彼女は報告にため、天界に戻った。

 

 

 

 

 

「何してんのお前!」

女神ALICEのした事は明らかに魔物への肩入れだった。

「あら、私は適度にメインプレイヤーに試練を与えているだけよ」

(だってあの男とモフスには死んでもらわないといけなしね)

「だからといって直接の介入はいかんでしょ!?」

ルドラサウムはあくまでも今の世界を見て楽しむのが好きなのだ。

世界のバランスは3超神が作ったが、その後は放置している。

プランナーだけが4つの黄金像の秘密を解き明かした者に干渉するくらいだ。

だが、女神ALICEは意図的に世界のバランスを崩す行為をいた。

そのため、光の神G.O.Dまで駆り出されたのだ。

「おかげで余計な仕事が出来たじゃろ!」

「それはご愁傷様ねえ」

女神ALICEは安堵した。

今回意図的に世界のバランスを崩すことに、彼女も些かの不安を抱いていた。

自分のしている行動は創造神の願いから外れるかもしれない、その事だけが不安だった。

しかしどうやらその不安も杞憂だったようだ。

やはりメインプレイヤーが苦しむのが希望なのだ。

(それならもっと上手くやれる…)

ある程度であれば見逃される、そう思ったが、

「お前少しの間干渉一切禁止な。これはあの方々の命令ね」

その言葉に女神ALICEの体が硬直する。

「…それどういう事」

「どうもこうも無いわーっ! お前のせいで我がバランス調整をやらされたわーっ!」

バランス調整、それはひとえにプランナーがバランスを好む事から来る。

3超神が今の世界を作ったが、プランナーはそのバランスを担当していた。

だからこそかつての魔王スラルが「魔王は殺せない」という願いをした時に、あえて勇者というシステムを作った。

そして今回の女神ALICEの行動は意図的にそのバランスを崩す行為―――不正行為をしたために、新たに人類に対して少し梃を入れろと光の神に命令がきたのだ。

それとこれ以上のバランスの崩壊を誘発させる行為の禁止、すなわち女神ALICEの干渉を禁じた。

(…やりすぎたと判断された訳ね)

女神ALICEは自分の性急さを少しだけ後悔した。

ランスとクルックーへの怒りが自分の判断を曇らせてしまった。

「で、どういう風にバランスをとったの?」

そこだけは自分も気になった。

3超神が自分にバランスをとらせるはずもなく、光の神にやらせるのは当然だとも理解していた。

「我も迷ったが…まあクエルプランに相談した」

「ふーん…」

クエルプランに相談するのはまあ納得はいった。

バランスブレイカーに使用の許可か、人類に新たな才能を開花させる、それくらいが妥当な範囲だと女神ALICEも考えていた。

今回光の神は後者をとったのだろう。

だから魂管理局として、全てのメインプレイヤーの情報を知っているクエルプランに話を聞きに行ったのだろう。

「そこでクエルプランに一人の人間の情報をもらってな」

「へえ」

クエルプランが適当な人間を選んだという事なのだろう。

「それを見た時我も少々悩んだが、まあクエルプランが選んだのならば大丈夫なんだろうと」

「あんたも知ってる奴なの?」

女神ALICEは驚きと共に、少し嫌な予感がした。

光の神G.O.Dが知っている、という事にものすごい不安を感じた。

「昔に我のプロマイドを踏み付けるというとんでもない事をした奴じゃが、まあその時バチは与えたしもういいだろうと…」

「ちょっと待って! もしかしてそいつって…ランスって奴じゃない?」

女神ALICEの感が警鐘を鳴らしている。

「うん? 知っとったのか?」

そしてその予感は見事に当たってしまった。

(あ、あの男…クエルプラン…まさか!?)

尚、実際にはクエルプランは光の神G.O.Dの相談を上の空で聞いていた。

事務的に手は動いていたが、ランスの事が記載されていたその用紙を時たま自分の前に移動させていた。

だからこそ、光の神はクエルプランが無言で『この人間がいい』と自分に言ったと勘違いしたのだ。

光の神もクエルプランが忙しい上に仕事熱心だと知っていたので、疑いもしなかったのだ。

まさか自分の相談をほとんど聞いていなかった事を。

「…で、何を与えたわけ?」

「普通に才能レベルを与えたわい。まあ長い人類の歴史の中でも剣戦闘レベル3の人間なんて一人しかおらんかったし。まあそれくらいなら問題ないと…」

「問題ありまくりじゃない!」

光の神の言葉を女神ALICEが遮る。

あの男がさらに強くなる? あの男は世界のバグだ。

だからこそバグは消去しなければならない。

なのに神がそのバグをさらに強くした?

「…いや、人間を技能レベル3にした事がそんなに問題?」

相手は所詮は人間、1級神どころか、魔王にも遠く及ばない存在でしかない。

そう、それは神からすれば何の問題も無い。

一人の凄まじい才能を持った人間が普通に存在するだけ。

どれだけ凄かろうと、魔王に勝つ事は出来ない矮小な存在。

「それは…」

女神ALICEは答えることが出来ない。

自分の事を話しても意味はない、それどころか強いお咎めを受けるかもしれない。

それでは自分がシステム神に頼み、ここに戻ってきた意味が無くなってしまう。

「まあとにかく我はバランスをとった。お前もこれ以上余計な仕事を増やさんでくれよ」

光の神はそう言って去って行った。

女神ALICEはまたしても自分の行動が自分の首を絞めてしまったことを悔やんだ。

(いや、でも…)

いくらランスが強くなろうとも、それは結局は人類が強くなったという事ではない。

それよりも、あの戦争に魔人が増える、それだけで人類は窮地に達する。

現が魔王に覚醒するのもよし、あの男が魔物に殺されるのもよし、モフスが殺されるのもよし、勇者が魔王を殺し新たな魔王が生まれるのもよし、ケイブリスが魔王になるのもよし、結局は人類が窮地な事は変わっていない。

所詮はランスは一人でしかないのだ。

(まあこれはこれで楽しい未来にはなるかしら?)

女神ALICEはまだ知らなった。

ランスという人間がどのような人間なのかを。

 

 

 

 

 

自分達を取り囲んでるのはカラーだと認識した時、ランスは安堵した。

何故なら自分はカラーの英雄だから。

「もう一度言う。動くな」

しかし目の前にいるカラーには強い警戒が感じられる。

「あん?」

そのカラーの態度にランスは違和感を感じた。

まるで自分の事など知らないような様子だ。

(うーむ…まだ俺様の事を知らないカラーがいたのか?)

確かに全てのカラーを認識しているわけではないが、カラーの重役の事は知っている。

目の前にいるカラーが指揮をしているようだが、

(イージスはおらんのか?)

一通り見渡してもやはりイージスの姿は見えない。

(だがしかし…グッドだ!)

その前にはまずは目の前のカラーの事がランスには重要だった。

切れ長の目も良いし、何よりもイージスに勝るとも劣らないスタイルだ。

「がははははは! 俺様の事を知らんのか?」

ランスは無警戒にそのカラーに近づき―――その首筋に剣を突き付けられた。

「あん?」

「最後の警告だ。動くな」

その態度にランスは流石に悟った。

目の前にいるカラー達は自分の事を知らないと。

(俺様の知らないカラーがいたのか…いや、これくらいの目立つカラーなら俺様のレーダーに引っ掻かるはずなのだが)

「あー、わかった」

「ランス!?」

「レダも落ち着け。まあなんとかなる」

取りあえずはパステルに文句の一つでも言ってやろうと思い、ランスはおとなしくつかまった。

「ルルリナ様に伝えろ。人間を捕えたと」

「はい。ケッセルリンク様」

(ルルリナ…ケッセルリンク?)

ランスはその名前に首を捻った。

やはり自分には聞き覚えのない名前だったからだ。

(まあ何とかなる)

ランスは持ち前の気楽さで大人しくカラーに連行されていった。

 

 

 

 

「それでケッセルリンク。この人間達は?」

「はい。突如として現れた人間達です」

カラーの集落に連れてこられたランスは、より一層違和感を強く覚えた。

自分が知っているカラーの集落、ペンシルカウとはまったく違うからだ。

「人間。あなたの目的は何ですか?」

「別に俺様は何もしてないぞ。というかここは何処だ?」

「人間。ルルリナ様の質問に答えろ」

ケッセルリンクと呼ばれたカラーがランスに剣を向ける。

だがそれでもランスの態度はまったく変わらない。

「というかパステルとリセットはどこだ」

「ここにはパステルという者もリセットという者もいませんが…」

ルルリナと呼ばれたカラーの答えにランスは首を傾げた。

(パステルとリセットがおらん? という事は別のカラーの集落なのか? いやでも別のカラーの集落など聞いたことないぞ)

そもそもカラーという種族は数が絶対的に少ない。

そして全てのカラーがペンシルカウで暮らしている、ランスはそう認識していた。

このようにカラーがいる集落など、ペンシルカウ以外にはありえないのだ。

「待ちなさいよ。私達は巨大戦艦遺跡にいたのよ。そもそもここは何処なのよ」

話が進まないと感じたレダが言葉を切り出す。

状況が分かっていないのは自分達も同じなのだ。

「…お前達は突如として我らの住まう森に現れた。光と共にな」

その言葉に答えたのはケッセルリンクと呼ばれたカラーだった。

(光…? まさかセラクロラスの力? だったらランスが若返ってるのはわかるけど。 

でもこんな所に転移している理由が分からない)

ランスは自分では自覚はないだろうが、若返っている。

それ自体はセラクロラスの力で間違いないだろうが、転移は違う。

(あの時もっと大きな力が働いていたはず…でも悪魔の介入があったとは思えないわね)

あの時悪魔の力は感じなかった。

いや、むしろ大いなる神の力を感じた。

「うーむ…まったくわからん」

「ふざけている…訳では無さそうだな」

ランスの言葉にケッセルリンクは以外にも納得した。

嘘は感じられないし、そもそも人間が光の中から現れる事が異常なのだ。

「ルルリナ様…」

「はい。とりあえず牢に入れておいて下さい」

「何だとー!」

ランスの怒鳴り声も虚しくランスとレダは牢に入れられた。

 

 

 

 

その夜―――

「うーむ…どういう事だ?」

ランスはこの状況に頭を捻っていた。

自分がカラーからこんな扱いをされるとは思っていなかった。

だが、相手はパステルの事もリセットの事も知らないと答えた。

「さっぱりわからん。どなっとるんだ」

「その事もあるけどさ。ちょっと言わなきゃいけない事あるんだけど」

「む、何だ」

「レベルが下がったから。あと翼が出せない」

「はあ?」

突然のレダの言葉にランスは驚く。

「どういう事だ」

「そのまんまの意味よ。今はレベル30くらいね。そして飛べなくなった」

実にシンプルな説明だが、それ故ランスも状況の理解が早い。

(むむむ…レダのレベルが下がったということは…いかんな)

現状が分からない今、レダのレベルが下がったのはまずいとランスも感じていた。

何しろ今のランスには武器が無いのだ。

流石のランスも剣が無ければ戦うのはキツイ。

その上レダのレベルが下がってしまったとなると無理は出来ない。

「で、飛べなくなったとは…」

「そのまんまよ。エンジェルナイトの翼が出せなくなった」

「むぅ…それでは空から偵察が出来ないではないか」

「そう、出来ないのよ」

「何とかならんのか」

レダは少々悩んだが、

「レベルが戻れば大丈夫だと思うわよ」

結局全てはレベルが下がったのが原因と結論付けた。

(実際それぐらいしか心当たり無いし…)

ランスもそれで納得したのか、それ以上は何も言わなかった。

だがそれ以上にランスは気づいてしまった。

(ということはレダは今俺様よりレベルが低い…ぐふふ)

ランスがレダを襲えなかったのはランスのレベルがレダより低かったからだ。

だが今は自分の方が上…ならばイケる! とランスは考えていた。

「それと…ランス。自覚無いかもしれないけど、アンタ若返ってるわよ」

「はあ?」

「そのまんま。どう見ても今のランスは20にいくかいかないかくらいの年齢よ」

「そんな事ある訳無いだろ」

ランスは即座に否定するが、レダの表情は真剣だ。

「それがセラクロラスの力なのよ。その力は人を若返らす事すら容易い。それが時のセラクロラスという存在なのよ」

それを聞いてランスは驚いたが納得もした。

過去に自分は一度死んだが、命のウェンリーナーに助けられたことがあった。

その事を考えれば別におかしな事は無いと結論付けた。

「まあ俺様は昔から天才だったから問題は無いが、結局ここは何処だ? カラーが俺様を知らんなどありえん事だぞ」

「私だってわからないわよ。こんな異常事態今までは無かったんだから」

「…まあ考えても分からんことを考える必要はないな。それよりこれ切れるだろ」

「まったく…まあ窮屈なのも嫌だしね」

レダは何も無い空間から自分の剣を取り出すと、その剣を操り自分とランスの縄を切る。

「で、ここからどうするの?」

「ぐふふ…男と女が同じ部屋に居るならそれはセックスに決まってるだろうが!」

ランスが凄まじい速さでレダを押し倒す。

「わー! アンタ何考えてんだ! そんな状況じゃないだろ! あ、コラ! 鎧を外すな!」

レベルが低下し、力ではランスに敵わないこともあってレダの抵抗は非常に弱弱しかった。

「お前実は俺様とシィルとかなみのセックスを覗き見してただろう」

「気付いてたのかー! アンタ絶対自分の才能の使い方間違えてるから!」

「まあお前は俺様と続きをしたそうだったからなー。俺様もあの時は1発しか出来なかったらもったいないと思っていたのだ。しかーし! 今はもう邪魔者は誰もおらん!」

「ひー!!」

ランスの本気の目を見て、レダは恐怖と共に以前の事を思い出す。

あの時の快楽、コスモス0596は最後までランスに反抗し続けたが、自分は続きをして欲しかった。

それを見透かしたのかどうかは知らないが、ランスの手は非常に優しいものだった。

「本音を言え。お前はあの時の続きをしたいのだろう?」

「あ…」

まるで自分の心の内を見透かしたようなランスの言葉に抵抗が止まってしまう。

自分は誇り高いエンジェルナイトなのだ。

それが人間のいい様にされてはならない…なのに自分の体は動かない。

「心配するな。俺様もあの時よりも大人になった」

一体何が大人になったのかはレダには分からなかったが、もう自分の意思で体を動かすことが出来ない。

「ランス…」

自分が思わず身を任せそうになったとき、

「モンスターよー!!」

カラーの悲鳴が辺りを木霊する。

「! ランス!」

レダがランスを押しのける。

「うがーーーーっ!!! モンスター共め! 俺様のお楽しみを邪魔しやがって!」

「言ってる場合じゃないでしょ! 行くわよ!」

レダは素早く鎧を身にまとうと、木で出来ている檻をあっさりと斬る。

「え? 人間?」

見張りをしていたカラーの一人を無視し、ランス達があっさりと牢から出ると、そこには確かにモンスターがいた。

「げっ!?」

「まずいわね…」

そのモンスターを見てランスとレダが声を上げる。

それは古代種という種族のモンスター、ナマリダマとオウゴンダマ、そしてイモムシDXがいたからだ。

イモムシDXはともかく、ナマリダマとオウゴンダマは上位のモンスターだ。

流石のランスも剣が無くてはそのモンスターと戦うことは出来ない。

そしてレベルが低下しているレダもそれらのモンスターと戦うのは少し厳しい。

ナマリダマがランス達を敵と認め襲い掛かってくる。

「クッ!」

レダがその攻撃を防ぐが、以前よりも力が入らないようで、大きく弾き飛ばされる。

畳み掛けるようにオウゴンダマが拳の形をとり、レダに襲い掛かる。

「ファイヤーレーザー!」

その時、炎の魔法がオウゴウンダマを直撃し、オウゴンダマは大きく吹き飛ぶ。

「なぜお前達が牢から出ているかは聞かないでおこう」

その人物は―――ランス達を捕らえた張本人、ケッセルリンクだった。

「使えるか?」

ケッセルリンクがランスに剣を渡す。

「フン、誰に言っている」

ランスはその剣を受け取ると、レダに詰め寄ろうとしたイモムシDXを一撃で斬り捨てる。

(お…)

その一撃に斬ったランス本人が驚く。

剣そのものは普通のショートソード―――ランスが普段使うには短いし、軽すぎる剣だ。

だがランスの一撃は吸い込まれるようにイモムシDXの急所を切り裂いたのだ。

(うーむ…流石俺様。こんな剣でも強いぞ)

何時もの調子を取り戻したランスは、

「よくもレダとのセックスを邪魔してくれたな! 貴様ら皆殺しだ!」

怒りのままにモンスターの群に突っ込んでいった。

 

 

 

 

時はSS419年

女神ALICEが望まぬ未来を変えるために起こした事は、確かに歴史を歪めていた。

ただし、それが女神ALICEが望んだ未来であるかは、まだ誰も分からなかった。




イブニクル2発売まで1話アップしたかったですが間に合いませんでした…
ゲームもやりたいし続きも書きたいジレンマ。

この作品においてはレダ以外のオリキャラはほぼ敵かモブです。
ですから今回出たカラーの女王も別に重要なキャラという訳ではありません。
でもランス世界はモブでも結構強いのがいるから問題無いね。

レダは元のレベルは66としています。
レベルの根拠はマグナムでのシナリオの適正レベルの少し上程度と考えたからです。
でも今は30…ランスに関わると必ず何か影響でるけど仕方ないね。
技能は 剣戦闘LV1 ガードLV2 神魔法LV1
これくらいがエンジェルナイトの標準的な強さと考えてます。
実際それくらいないとドラゴンの大群と戦えると思えないし…


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カラーの里で

イブニクル2…ホルスが凄い深く扱われたけどランス世界のホルスとはまた別なのかな…
やっぱメガラスもフォースとか使えるんだろうか…


モンスターの襲撃の少し前―――

 

「どう思いますか。ケッセルリンク」

カラーの女王の部屋、ケッセルリンクと女王は突如として現れた人間、ランス達の事について話し合っていた。

時はSS419年…人間とカラーの関係は―――特別悪いというものでは無かった。

共通の敵、モンスターがいるというのが一番大きいだろうが、協力し合う仲で無ければ特に争う会う間柄でもない。

「…少し悩んでいます」

普段通りであれば、森の外に放出して終わりだろう。

だが今回は少々特別…あのように現れた人間は初めてのことだった。

最初は魔人が現れたと思ったが、そうでも無いらしい。

しかし普通の人間かと言われれば少々疑問が残るのも事実。

それ故にケッセルリンクも悩んでいた。

抵抗する素振も見せずに大人しく牢に入ってはくれたが、あの男は長時間大人しくしているような人間でも無いと感じていた。

それに何より気になったのはあの態度…

(まるで我々カラーの事をよく知っているようだった)

馴れ馴れしいとまで感じたあの態度は、まるでカラーの知り合いがいるかのようだった。

それ故にケッセルリンクはランス達の扱いを決めかねていた。

「ムシの問題もありますし…」

女王の言葉にケッセルリンクは頭を切り替える。

今、カラーにとって問題になっているのは、突如として現れた人間でもモンスターでも無い。

この近くに出現したあるムシの方だった。

「集落を移す事もやむを得ないのかもしれません…」

ケッセルリンクも女王の気持ちが痛いほどよく分かる。

それほどまでにあのムシは脅威なのだ。

もしこの集落が襲撃されればそれだけで全滅する可能性もある―――それほどの強さなのだ。

「…最悪の場合はそうでしょう。ですがまだその最悪ではありません」

とはいえ、ケッセルリンクもこの状況の悪さを理解していた。

自分達だけではあのムシに対抗する事は出来ない。

それに集落を移せるだけの森もまだ見つかっていない。

「私が何とか…」

「ケッセルリンク様! モンスターです!」

その時カラーの一人が飛び込んでくる。

ケッセルリンクはその言葉と同時に立ち上がる。

「数は」

「そんなに多くは無いです! イモムシDXがほとんどですが、ナマリダマとオウゴンダマがいます!」

「何!」

「そんな…」

その情報にケッセルリンクは驚き、女王は悲観的な声をだす。

イモムシDXはともかく、ナマリダマとオウゴンダマはこの辺りに生息するモンスターでは無い。

そしてその強さはモンスターでも上位に位置する存在なのだ。

「私が行く。女王…もしもの時は頼みます」

「ケッセルリンク!」

女王の声を背後に、ケッセルリンクは飛び出していった。

 

 

 

 

そこでケッセルリンクが見た光景は、間違いなく牢に入っている筈の2人―――ランスとレダが魔物と戦っている所だった。

そしてレダがナマリダマに弾き飛ばされ、オウゴンダマがレダに襲い掛かろうとした時、

「ファイヤーレーザー!」

ケッセルリンクはそのオウゴンダマに対し魔法を放つ。

流石にオウゴンダマを倒す威力は無いが、それでも吹き飛ばすことに成功する。

「なぜお前達が牢から出ているかは聞かないでおこう」

そして自分が持っていた剣をランスに渡す。

「フン、誰に言っている」

ランスはその剣で、イモムシDXを一撃で斬り捨てる。

その結果にケッセルリンクは驚いていた。

(これほどとは…)

自分が渡した剣は普通のショートソードでしかないからだ。

それなのにこの男はただの一振りでイモムシDXを斬って捨てたのだ。

恐るべき剣の腕前だ。

「よくもレダとのセックスを邪魔してくれたな! 貴様ら皆殺しだ!」

そう言ってモンスターに突っ込んでいく。

「ケッセルリンク様!」

「アナウサか。あの人間の援護に回れ」

自分同様駆けつけたカラーに指示を出すと自分も魔物の群に突っ込んでいく。

「がはははははは!」

ランスはナマリダマの攻撃を受け流しその返す刃でナマリダマを斬るが、流石に一撃で倒すことは出来ていない。

「炎の矢」

そこにケッセルリンクが魔法を叩き込むと、ランスは畳み掛けるような鋭い一撃でナマリダマを切り裂いた。

「人間」

「あん?」

「力を貸してもらうぞ」

「俺様をあんな所に閉じ込めておいて何を言う」

二人は背中合わせになり、目の前にいるイモムシDXを切り裂き、そして焼き尽くす。

「回復の雨!」

レダは傷ついたカラーのために回復魔法をかけていた。

「ほう…ガードだけでなく神魔法すらも使うか」

「まあレダならあれくらいやるだろ」

ケッセルリンクが魔法で怯ませ、ランスが止めをさすという形でモンスターをどんどん減らしていく。

そして最後の1体に残ったのは、やはりオウゴンダマだった。

「最後、か」

ケッセルリンクもオウゴンダマの前には流石に警戒を強くする。

自分一人ではオウゴンダマに勝てないという事がわかっているからだ。

「誰だろうと俺様の前では雑魚にすぎん。貴様も剣のサビにしてくれるわ!」

ランスが一直線にオウゴンダマに突っ込む。

「無茶しないでよ!」

レダもランスを守るべく盾を構えて飛び出す。

ケッセルリンクは魔力を集中させ、攻撃に備える。

「がははははは!」

ランスは何時もの通りにバカ笑いを上げながらオウゴンダマに斬りかかる。

しかし相手も相手で、ランスの攻撃も中々致命傷にはならない。

(うーむ、やはりこの剣ではいかんな)

戦いの中でランスも気づいていたが、この剣では自分の本来の力が出せない。

ランスは自分の膂力を用いた剣術の使い手故に、ある程度長い剣を使っていた。

雑魚が相手ならば問題は無いが、流石に上級モンスターだと使っている武器がそのまま影響に出ていた。

(だがしかーし!)

ランスには必殺技ある。

これまで数多の敵を打ち破ってきた必殺技を放つため、ランスは集中する。

「ファイヤーレーザー!」

(ここだ!)

そしてケッセルリンクの魔法を喰らい吹き飛んだオウゴンダマに対してランスは構えを取る。

「がはははは! ランスアターーーック!」

何時ものように両足に力を込め、敵を一刀両断にしようとした時、ランスが感じたのは違和感だった。

(あれ? こんな感じだったか?)

その一撃はオウゴンダマを打ち砕いたが、ランスの顔には喜びは無かった。

今の自分の一撃への違和感が拭えなかったのだ。

(うーん…なんかおかしいぞ。俺様の必殺技はこんな感じだったか?)

剣が自分に合わなかったという事もあるが、それでもこんな感じではなかったはずだと。

「助かった。礼を言う」

が、その違和感は目の前の美しいカラーの前には直ぐに消え去った。

「がはははは! この程度の事など俺様には容易い事だ!」

(中々調子に乗りやすい人間のようだな。だが誰にも従わない強い意思も感じられる)

ケッセルリンクはそう思ったが、それを表に出すことは無い。

「ケッセルリンク様! 皆無事です!」

「そうか…!」

部下の報告にケッセルリンクは安堵する。

最悪の場合を覚悟していたが、この二人のおかげで何とか免れたようだ。

「はぁ…もう最悪。思うように体が動かないし」

レダは以前には感じられなかった疲労を感じ、地に膝をついている。

「ケッセルリンク!」

女王の声にケッセルリンクが跪く。

「大丈夫です。辛うじて死者はおりません」

「よかった…」

女王は皆が無事であったことに安堵する。

「人間の皆様…カラーの女王としてお礼を申し上げます」

「おう…」

普段のランスであればその言葉でセックスを迫ったであろうが、カラーの女王が人間に礼を言ったことに驚いたのだ。

(あれ? カラーってこんな感じだったか?)

ランスが思い出しているのは、パステル・カラーの事だった。

あのポンコツも女王だったが人間に対しては敵意が剥き出しだったからだ。

おかげでランスも禁欲モルルンの呪いをかけられ苦労したものだった。

それに比べれば、このカラーは人間に対して本当に感謝しているように見えたのだ。

「ところであなたのお名前は…」

「俺様はランスだ」

「私はレダよ」

「ではランス様、レダ様。今夜は皆も疲れていると思いますので、明日改めてお礼をさせて頂きたく思いますが宜しいでしょうか?」

(うーむ…やはりパステルとは全然違う)

あまりにも差がある二人の女王の態度に頭を捻りつつも、ランスはその言葉に頷いた。

確かにランスも少々疲れていたので、女王の言葉に素直に従うことにする。

「ではアナウサ。あなたは二人を客部屋に案内してください」

「わっかりましたー!」

アナウサと呼ばれたカラーはカラーに似つかわしくない声で返事をする。

「それじゃあランスさん! レダさん! 私、アナウサ・カラーが御案内させて頂きまーす!」

「う、うむ」

「…カラーってこんなんだったっけ?」

(カラーにしては随分うるさい奴だな)

そんな事を考えながらも、二人は疲労もあってか素直についていく。

「こちらがお客様のお部屋になりまーす。それではごゆっくりー」

「うむ」

「あー…疲れた」

レダは鎧を脱ぐと、さっそく用意されたベッドに倒れこむ。

ランスも同じ様にベッドに倒れると、

「おい、レダ」

「んー…何?」

「カラーってペンシルカウ以外にいるのか?」

「そこまでは知らない。私は悪魔を見張るのが仕事だったから。でも、他の場所にカラーの集落があるなんて聞いたこと無いけど」

「だよなー…」

ランスが知っているカラーと、今接触しているカラー像が一致しないのだ。

あのカラーの女王は間違いなく自分達に好意的だった。

カラー達は自分達に不審な目を向けていても、敵意や殺気を向けてはいなかった。

「しかしレダ…お前本当に弱くなったんだな」

「言わないでよ…まあ今の戦いでレベル上がったけどさ」

「そういやお前はレベル神が無くてもレベル上がるんだっけ」

「そうよ。レベル神が必要なのは人間だけよ」

「まあ俺様も十分戦ったからレベルも上がってるだろう。カモーン! ウィリス!」

ランスが何時ものようにレベル神を呼ぶが、かえって来たのは沈黙だった。

「あん?」

普通レベル神は呼べば出てくるのだが、今回はいくら待っても出てくる気配が無い。

「うーむ、ウィリスの奴サボりおって。これは次はオシオキだな」

「まあレベル屋もあるだろうし、そこで上げてもらったら?」

レダは既にベッドの中に入っている。

ランスはチャンスだとも思ったが、予定外の戦闘で少々疲れもある。

(ここは焦る必要は無いな。いや、むしろじっくりいくのもいいかもしれん)

楽しみは後にとっておくのも悪くないと思いつつ、ランスもベッドに横になった。

 

 

 

 

「ケッセルリンク…」

「はい。私も構わないと思います」

女王の間、そこで二人はこれからについて話し合ってきた。

「最近ナマリダマやオウゴンダマの数が増えてきました。そしてムシの動きもまだわかりません。

あの二人を味方に付けれればそれだけで十分な戦力となります」

今、カラーは危機に瀕していた。

およそ120年ほど前、魔物の動きが活発になった。

ケッセルリンクもルルリナもその時はまだ生まれていなかったが、カラーにはその時から魔人には手を出すなと言われていた。

人間はその住処をモンスターに追われ、徐々にその数を減らしていると聞いていた。

未だカラーの元には魔人が来たことは無いが、ここ2年程から集落に近づくモンスターの数が増えてきた。

その時はまだマグボールやリス等といったモンスターだったが、今日はナマリダマやオウゴンダマが迫ってきた。

そしてそれ以上に問題なのが、ムシと呼ばれる種族であった。

「ムシの事もありますし…少しでも戦力を整える必要が有ります」

そのムシはケッセルリンクでも手も足も出ない程の強さを持っていた。

今、カラーで一番の強さを持つ彼女が倒せないのならば、他の誰でも倒せはしない。

唯一の救いは、そのムシが積極的にカラーを襲わない事だけだが、この先どうなるかはわからない。

だからといって、この森を出ても他の森にたどり着けるとも限らない。

誰もが戦える訳ではないのだ。

「でもあの二人が手を貸してくれるでしょうか…」

「難しいかもしれませんが…話してみましょう」

もしかしたら断られるかもしれない…いや、普通の人間なら断るのが普通だろう。

あくまで彼らは人間であり、カラーを守る義務など無いのだ。

(いざとなればこの体を使ってでも…)

ケッセルリンクはランスの視線には当然気づいていた。

だがまああのくらいの年齢の人間ならば、女性をそういう目で見るのも別におかしくはないだろうとも思っていた。

自分の体でカラーの未来が開けるのならば…ケッセルリンクは決意を固めていた。

 

 

 

 

翌日、ランスとレダは女王に呼ばれていた。

「おはよう御座います。ランス様、レダ様」

「おう」

「おはよう」

ランスは偉そうに、レダはごく自然に挨拶を返す。

「ところで名前は何なんだ? 聞いてなかったな」

「それは失礼しました。私はルルリナ・カラーといいます。このカラーの里の女王をしております」

「ああ、それだ」

ランスは自分が気になった事を改めて聞く。

「ここはペンシルカウではないのか?」

「いえ…ここには特に名前はありませんが…それとペンシルカウという名にも聞き覚えはありません」

(ペンシルカウに聞き覚えが無い…でもここはどう見てもカラーの村だよな。近くに翔竜山もあったし)

昨日は気づかなかったが、木々の間から翔竜山が見えた。

どう考えてもここはペンシルカウがある場所のはずだった。

「ランス様はこことは違う場所のカラーの里を知っているのですか?」

ルルリナの問にランスは言葉を濁す。

「知っているというか何と言うか…俺様が知ってるカラーの村はペンシルカウだけだ」

「横から口を挟むが、ペンシルカウという名のカラーと里は存在していない」

「うーむ…さっぱりわからん。おいレダ、お前は何か知ってるか?」

ランスの問にレダも首を傾げる。

「私は管轄が違うから分からないとしか言えないわね」

「…ま、いいか」

「いいのか…」

ランスの言葉に思わずケッセルリンクが突っ込む。

「わからんものを考えてもわからんのだ」

「それはそれでどうなのよ…」

「もう一つ聞きたいが、ヘルマンはどっちの方向だ」

ケッセルリンクはその言葉に首を傾げる。

「ヘルマン、とは何だ?」

「はぁ?」

ヘルマンの事を本当に知らないという風に答えられ、今度はランスが首をかしげた。

ヘルマンはついこの間、カラーの大虐殺を行ったのだ。

その国を知らない、というのは流石のランスも見逃せない事だ。

「じゃあリーザスでもゼスでもいいが」

「…悪いがどちらも聞いたことが無いな」

(ヘルマンもリーザスもゼスも知らんだと? いや…ペンシルカウも知らないと言ってたから本当に知らんのか? でも女王も違うしな…)

改めて女王を見ても、威厳があるようでへっぽこだったパステルに比べて、彼女はどちらかといえばその母、モダン・カラー似の雰囲気だ。

(うーむ…やはり何かおかしいぞ。ここは一つ様子を見るか…)

「まあそれより俺様に何か用があるんだろ」

「あ、はい…それなのですが、しばらくここに留まり、力を貸して頂く事は出来ますでしょうか」

女王の言葉はこれまたランスにとっては意外な物だった。

(カラーならばてっきり追い出すのだと思っていたが…)

改めてここのカラーとランスの知っているカラーの違いに驚く。

「構わんぞ」

ランスの言葉に今度は女王とケッセルリンクが驚いた。

てっきり断られると思ったのが、ランスはあっさりと引き受けた。

「いや、いいのか?」

だからケッセルリンクは思わず聞き返した。

「別に構わんぞ。俺様も今迂闊に動くことは出来んしな。だったらここに居る方がいい」

(うむ…今は迂闊に動かんほうがいい気がする。というかウィリスもフェリスも何度呼び出しても出て来んし、カラー達も俺様が知ってるカラーとは違いすぎる。

それに翔竜山があるのにペンシルカウでは無い等どう考えてもおかしいぞ)

ランスはこの状況では動かないほうがいい事も理解していた。

シィル達の事も気になるが、それ以上に状況が不透明すぎた。

こういう時のランスのカンは大体あたるのだ。

呼び出せなくなったウィリスとフェリスの件といい、何かが起きているのを理解していた。

「それはそうとレベル屋はあるか?」

 

 

 

 

「はーい、こちらレベル屋カラー店でございまーす。レベル屋のメカクレ・カラーでーす」

(…なんかこいつも変わったカラーだな)

「やっほー、メカクレちゃん。相変わらず隠れて見えない顔がプリティーだね!」

「いえー」

ランスの案内役に指名されたアナウサがメカクレとハイタッチする。

「二人ともそこまでにしておけ。メカクレ、お前も自分の仕事をしろ」

「はーい」

「ごめんなさーい」

ケッセルリンクに注意され、二人は大人しくなる。

「それではレベルアップしまーす。うーら、めーた ぱーら ほーら ほら。らーん らん…」

(なんかウィリスの時と似てるな…)

「おめでとうございまーす。ケッセルリンク様とアナウサちゃんレベルアップでーす。ランスさんは…あれ?」

「なんだ、どうした」

「いや…これ何だろう?」

メカクレもカラーのレベル屋として色々な仲間達のレベルを上げてきた。

だがしかし、このような事は初めてだった。

 

『&'%k1? / ("#|6』

 

このような妙な経験値をみたことは無かった。

「ごめんなさーい。ランスさんはレベルアップ出来ませーん」

「はぁ?」

ランスは戦艦遺跡からずっと戦っていて、今までレベルアップをしていなかった。

しかも一度幸福きゃんきゃんを倒している。

それなのに自分のレベルが上がっていないのは普通にありえない事だった。 

「なんかバグってます。ですのでレベルが上げられませーん」

「何だとー!?」

ここでランスに新たな試練が降りかかる。

その試練とは…レベルが上がらないという人間にとって致命的な事だった。

 

 

 

 

 

 

一人の人間の前に1体のリスが跪く…いや、土下座していた。

そのリスは体を目の前の人間―――少女に心底恐れを抱いていた。

「…ケイブリス、我は言ったはずだ」

「ごごご、ごめんなさい。で、でも俺じゃ無理ですぅ…」

リス―――ケイブリスが目の前の少女に命じられたことは、魔血塊の捜索だった。

かつての魔王ククルククルとドラゴンの戦い、その魔王側の生き残りがケイブリスだった。

それ以外の魔人は全て死に絶え、新たな魔王アベルが登場し、そのアベルもすでに存在しない。

そして目の前の魔王―――スラルが現れ、ケイブリスは一番に忠誠を誓った。

その魔王からの使命をケイブリスは果たすことが出来なかった。

「その魔血塊を飲み込んだ新しい魔人が俺じゃ倒せないです…」

ケイブリスは自分でも認めるほど弱い。

魔王スラルが神との謁見を果たし、無敵結界の恩恵には肖っているが、同じ魔人同士では意味が無い。

「そう…」

スラルはケイブリスの報告に考え込んだ。

ケイブリスは一番の古参の魔人であり、他の魔人がどこで消えたかを有る程度は知ってはいたが、その魔血塊から新たな魔人が生まれていればケイブリスでは対抗出来ない。

「ならいいわ。その魔人にはメガラスを向かわせる。お前は引き続き他の魔血塊を探しなさい」

「は、はい…」

ケイブリスはその言葉を聞き、一目散にその場を立ち去った。

 

 

 

「ううう…いつもいつも俺様を好きに扱いやがって!」

ケイブリスは憤っていった。

今思えば魔王アベルもそうだった。

自分にドラゴンの追っ手から逃れされるための穴を掘らされたり、いいように使われていた。

スラルもそうだ。

確かに無敵結界はありがたいが、いいように使われるのは気に入らなかった。

「だがなぁ…」

今の自分の実力では本当に何も出来ない。

魔人最弱の称号は伊達ではないのだ。

「今はまだ耐えるんだ…焦る必要は無い…」

ケイブリスは焦らず、しかし確実に成長をする方法を取った。

ひたすら臆病に、しかし慎重に、これがケイブリスがかつての魔王から学んだ経験だった。

 

 

 

 

「はぁ…」

魔王スラルは人知れずため息をついていた。

未だに集まらない魔血塊に少々苛立ちを感じていた。

自分は魔王、この世界最強の存在だ。

さらには自分が神と謁見したときに得られた無敵結界、その効果はスラルを喜ばせた。

だが自分に従う魔人の数が絶対的に少ない。

ほとんどの魔人が先のドラゴンとの戦いで死に、残っているのは少ない。

ケイブリス以外にも魔血塊の捜索に出しているが、良い報告はあがってこない。

「カミーラもメガラスも強さはあるんだけどね…」

この二人は強いが扱いにくい。

カミーラは怠惰な面があるし、メガラスは無口で会話にならない。

ケイブリスは強さはともかく、自分に対しては恐怖が先にきてしまっている。

自分が魔人にしたのはまだ一人だけだ。

「早く我に相応しい魔人を探さなければ…」

そのためには散らばった魔血塊を初期化しなければならない。

だがそういい続けて419年…魔王スラルは結局1人しか魔人を作っていなかった。

その理由は魔王スラルしか知らない…今の所は。




イブニクル2やっててやっぱり遅れました

カラーですがかなり独自解釈です
カラーのクリスタルが人間に狙われ始めたのがNC期なのでそこまで険悪じゃなかったんじゃないかと
イブニクル世界のカラーは別の意味で強すぎるよ…ルド世界と違いすぎだろ

メガラス…お前魔血塊にすらなってなかったのかよ
やっぱフォースの力なのかねえ…


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ムシという存在

ランスはやはり主人公としては劇薬
迂闊に使ってはいけない(戒め)


「がははははは!」

カラーの森にいつものランスの馬鹿笑いが響く。

その下には倒れ伏したモンスターの死骸が積み重なっていた。

「ランス、こちらは問題ない」

「こっちもよ。雑魚ばかりね」

ケッセルリンクとレダも戦闘が終わったようで、ここに主な面子が終結していた。

ランスがカラーの森に留まって2週間、ランスはあっという間にカラー達から人望を集めていた。

単純にランスが強い事もあるが、やはりカラーの被害が圧倒的に減ったのが大きい。

「うむ、しかしあれからは雑魚共ばかりだな」

「この前のようにオウゴンダマ等が来ることが初めてだったのだがな…」

「今は雑魚モンスターが来てくれる方が有難いけどね…ランスのレベルの事もあるし」

レダは純粋にランスの心配をしていた。

ランスのレベルが上がらないのは純粋にその人間にとって痛手だ。

才能限界の可能性も考えたが、その可能性は無いとレベル屋のカラーも言っていた。

「やはり進展は無しか」

「まあレベルを上げる手段が見つかっただけでも十分よね」

「フン、俺様はレベルが上がらなくても十分に強いのだ」

しかしランスのレベルを上げる手段が見つかったのは大きかった。

「ランスー! 見つかったよー!」

「おっ、今日こそ見つかったか! ナイスだアナウサ!」

モンスターから戦利品を漁っていたアナウサが一つの宝箱を持ってくる。

これこそがランスのレベルを上げるためのアイテムだった。

 

 

 

―――少し前―――

 

「レベルが上がらない、ですか?」

「そうだ。ルルリナちゃんは何か知らんか?」

経験値がバグり、レベルを上げる事が出来ないランスは一先ず女王であるルルリナを訪ねていた。

ルルリナはこのカラーでも古株であり、女王という事もあって色々な知識を知っていたからだ。

「才能限界以外でレベルが上がらないという話は聞いたことが無いです」

「何かカラーのアイテムとかそういうものは無いのか?」

ランスも何も当てずっぽうに訪ねたわけではない。

カラーには色々な特殊なアイテムがあるのは、パステルの件を通じて知っていた。

それならば何かいいアイテムがあるかもしれないと感じた。

「それですが…もしかしたらこれならば大丈夫かもしれません」

ルルリナはそう言って奥の部屋から2つの宝箱を持ってくる。

「これは『超熟経験食パン』です」

「これか…」

このアイテムはランスも知っていた。

ランスが禁欲モルルンにかかっていたとき、リアが自分のレベルを上げるために買占めていたアイテムだ。

「しかしルルリナ様、今のランスには効果があるのでしょうか。メカクレの話ではそもそもの経験値の表示がおかしいようですので」

「わかっています。ですのでこちらも持ってきてみました」

ルルリナはもう一つの宝箱を開ける。

「これは…」

このアイテムもランスは知っていた。

JAPANにいた時に見たアイテムだったからだ。

「あー…あったわね、このアイテム」

レダもそれを見て納得する。

バランスブレイカーという程ではないが、それでも人間の市場に出回る事などめったに無い一品。

「これは『幸福ポックル』です。レベルを上げることが出来るアイテムですね」

「うむ、これは俺様も使った事があるな」

JAPANではランスもこれを使ってレベルを上げた事があった。

「これを使ってみていただけますか」

「ルルリナ様…」

ケッセルリンクは少し渋い顔をするが、

「いいのよケッセルリンク。カラーを救ってくれた人が困ってるんです。少しくらい恩返しをしないと」

「お、おう…」

ルルリナの言葉にランスは少し薄ら寒いものを背中に感じた。

どうしてもパステルと比較してしまうのはやむを得ない事だった。

「ではランス様。これを使ってみてください」

「うむ」

ランスは幸福ポックルを使用すると、手元にある幸福ポックルが消えていく。

「で、どうだ? 上がってるか?」

「はーい。今調べてみますねー」

その場に来ていたメカクレがランスを調べる。

「あーおめでとうございます。表示は相変わらずバグってますけど、ランスさんレベルが上がってますよー」

「おお!」

「よかったです」

「おめでとうございますーす。ランスさんはレベル45になりましたー」

「うむうむ」

ランスも満足げに頷く。

「が、一つでは到底足らんな…」

ランスの限界レベルは存在しないが、それは本人も知らない。

以前魔王ジルと闘ったとき、妙な空間で異常にレベルが上がったが、それでも限界には届かなかった。

「レベルを上げる方法が見つかっただけいいんじゃない?」

レダが気楽に言うが、ランス自身はそこまで楽観的にはなれなかった。

自分のレベルが上がりやすいというのは知っているので、幸福ポックルと経験値を比較した場合は、経験値でレベルが上がった方が早いと思っていた。

それに幸福ポックルが必ずしも見つかる訳では無いとも考えていた。

(うーむ…普段はレベルの事なんて考えてもいなかったが、いざ上がらないとなると面倒くさいな)

ランスが今まで数々の危機を乗り越えられてきたのは、やはりそのレベルがあってこそだ。

今現在のレベルでも人類の中でも相当に強いのだが、それでも過去を考えれば不足しているとも感じていた。

魔人ノス、闘神ユプシロン、魔人カミーラ、魔人ザビエル、アム、闘神MM、それらと闘った時よりは確実に弱い。

「まあレベルが上がると分かっただけでもよしとするか」

しかしそれ以外にもランスの異変は始まっていた。

 

 

 

―――その数日後の夜―――

 

ランスは一人剣を構えていた。

ランスは修行などほとんどしないが、かつて自分の必殺技を完成させるため3日間ほど考えたこともあった。

そんなランスが今一人剣を抜いているのは、先日にあった違和感をたしかめるためだった。

「ランスあたたたーっく!」

何時もと同じ感じで必殺技を放つ。

その威力はやはり絶大で、そのオーラで周囲の木々が悲鳴を上げるほどだ。

しかしランスはその一撃にどうにも拭えぬ違和感を感じていた。

「なんかおかしいぞ…俺様の必殺技なのに俺様の必殺技じゃない感じだ」

本人だからこそ感じる違和感がランスを不愉快にさせていた。

「それになーんか弱くなってる気がする…」

剣を振り下ろした時のインパクトがどうにも弱く感じるのだ。

まるで昔―――まだ必殺技が完成する前の、カスタムの事件の時のような感覚に近い。

あの時はまだ完成しておらず、普通に剣を振るっていた方が強いと感じていた。

まるで完成された必殺技が未完成の時のように戻ってしまったような感じだ。

「意外だな。お前がそのような鍛錬をするとは思わなかった」

「私は理由が分かるけどね」

そこにケッセルリンクとレダの二人がやってくる。

「なんだ、お前らか」

ランスは別にどうでもいいといった感じだったが、以外にも深刻な顔をしているのはレダだった。

「レダ。理由が分かるとはどういう事だ?」

ケッセルリンクには理由が分からない。

が、レダに分かるのは少しの間、遺跡でランスと冒険を共にした時間がある故に分かった。

「ランス…若返ってるってのはもう分かってるでしょ」

「別にただ若返っただけだろう」

ランスも最初に自分の姿を見た時は驚いていたが、ただそれだけだ。

今までのランスの経験から別に大したことではないと思っていた。

「その若返ったっていうのが原因なのよ」

エンジェルナイトであり、生粋の戦士であるレダには理解できた。

「今の意識に体がついていってないのよ」

「はぁ?」

ランスは本来であれば24歳だが、今の体は20にまだ届いているかいないかの肉体だ。

「ランスが自分の必殺技を完成させたのっていつぐらい?」

「俺様は天才だからすぐに完成させたわ」

「いやいや、そういう強がりはいいから…」

「うぐ…」

ランスは自分の過去を思い出すが、それはやはりカスタムの時だった。

あの時は無駄に力が入っていたりと、とうてい必殺技とは言えなかった。

それが必殺技として形になってきたのは恐らくリーザス解放戦くらいの時だろう。

「若返った肉体に意識がついていってないのよ。体の使い方は24歳の時なのに、肉体だけは若い。だからそこにズレが出来てるのよ」

「うむむ…」

そう言われればランスも納得できてしまう。

自分の必殺技が完成されてきたのは大体それくらいだったと思ったのだ。

「そういうものか…」

同じ戦士であるケッセルリンクも大体の想像はついた。

「しかし何故そうなった? 人が若返るという話は私も聞いたことがない」

ケッセルリンクも色々な話は見聞きしてはいるが、若返るという話は聞いたことがなかった。

「それが時の聖女の子モンスター、セラクロラスの力なのよ」

「…セラクロラス。聞いたことがないな」

「厄介な…」

ランスは別に若返りなど求めてはいなかった。

ただ、Hのためだけにセラクロラスを探していたにすぎない。

しかし今のランスの異変はそのセラクロラスのせいだというのだ。

「これは見つけ次第おしおきだな…でもなぁ…」

あの小さな体を見ると流石にそんな気力もおきない。

「まあ何にせよセラクロラスを探すのが一番はやいんじゃない? 見つかるかどうかは別として」

セラクロラスは見つけようと思って見つかる存在ではない。

それこそ偶然の力に頼るしかない程に。

「それしかないか…フン、まったく面倒な」

(だが取りあえずはその方向で動くか)

 

 

 

 

「はい! ランス!」

アナウサがランスの目の前で宝箱を開く。

「おお! これは…何だ?」

宝箱に入っていたのは、何故か今にも死にそうなほど衰弱している『幸福ポックル』だった。

「…アナウサ、お前は本当にこれが『幸福ポックル』だと思っているのか?」

ケッセルリンクも眉間に指を当てている。

「これ…どちらかというと『幸福ポックリ』って感じなんだけど…」

レダにもこれがどう見てもレベル上げるアイテムだとは思えなった。

「そのとーり! これこそがレベルを下げるアイテム『幸福ポックリ』です! いやー我ながらいい発見したわー」

「「この阿呆」」

「あいたー!」

ランスとケッセルリンクの同時突込みがアナウサに炸裂。

「何するんですか! レアアイテムですよレアアイテム!」

「やかましい! 誰がこんなアイテムを探せと言った!」

「アナウサ…私はお前のレンジャーとしての技術は高く評価してるが、お前のその妙なアイテムを取集する癖は何とかならないかと思う」

ランスは怒り、ケッセルリンクはアナウサの奇妙な趣味に苦言を言う。

「カワイイと思うんだけどなぁ…」

こうしてランスは何度かモンスターの襲撃を防ぎ、またたまには攻め込んだりもしているが、肝心の幸福ポックルは手に入らなかった。

「やっぱりレアアイテムとなると中々手に入らないものね」

レダは対して気にしていないが、ランスは中々手に入らない状況に少しイラついていた。

「やっぱダンジョンにいかなきゃならんのか…」

ランスは冒険が好きだ。

まだ見ぬ美女を求めて、自分の趣味である貝の発見のため色々なダンジョンを探索していた。

(しかしなぁ…)

今の状況を考えるとそれも少々難しいと感じていた。

まずはカラーだが、やはり戦える存在が少ない。

ケッセルリンクはランスと肩を並べる程の強さだが、主に魔法を担当することが多い。

今まではケッセルリンクがカラーの先頭にたっていたのは、彼女に剣の才能があったからだ。

しかし今の状況はケッセルリンクを上回る剣の才能を持つランスに、神魔法とガードの才能を持つレダが居ることにより、ケッセルリンクは剣よりも才能のある魔法を使っていることが多い。

アナウサはカラーらしく弓を使うが、カラーには珍しいレンジャーの才能を持つカラーだった。

だが、それ以上に目ぼしい力を持つカラーがいるかと聞かれればそう上手くはいかない。

ダンジョンに向かうとなれば、必然的にケッセルリンクとアナウサの力が必要になる。

今の状況で自分達がいなくなればカラーは魔物に蹂躙されてしまうだろう。

それにアイテムの問題もある。

ランスは旅に必要なアイテムは全てシィルに持たせていたため、ダンジョン用のアイテムを持っていない。

僅かな帰り木があるだけだが、それだけでは到底足りないのだ。

「すまないな。ランス」

ケッセルリンクもそれは痛いほど理解している。

本来であれば無関係の人間に突き合わせるのは彼女としても心苦しかった。

「んー…まあ気にするな。何とかなる」

取りあえずランスはこの事を考えるのをやめた。

考えても意味は無いし、いざとなればモンスターを皆殺しにしてでも、と物騒な事を考えていたからだ。

「大変です! ケッセルリンク様! ランスさん!」

その時、一人のカラーが息を切らせて走ってくる。

「どうした」

そのただ事ではない様子にケッセルリンクの声も固くなる。

「ムシです! ムシが里周辺をうろついてます!」

「何!」

「…ムシ?」

一方のランスは何をそんなに脅威に思っているのかが分からない。

「ムシがどうした?」

「そうか…ランスにはまだ説明してなかったな。我々カラーは今モンスターよりもムシの脅威にさらされている」

「はぁ?」

「説明するよりも見てもらう方がいい」

「いや、どんなムシなのよ…」

レダも知らないようで、少々不振がっている。

が、ケッセルリンクの表情は本気だ。

本気でそのムシを脅威に感じているのだ。

「まあ行ってみるか」

ランスは後にその言葉を少し後悔した。

 

 

 

 

 

 

「おい…」

「なんだ、ランス」

「本当にアレがムシか?」

「そうだ。誰が何と言おうとアレがムシだ」

「いや、アレをムシ扱いとかどれだけアバウトなのよ…」

ランス達が木の後ろからそのムシを見上げる。

「…小型のドラゴン? いや、でも羽はついてないわね」

「やたらとでかい三つ目トカゲに見えるが…」

「アレこそが私達カラーの一番の脅威…ティラノサウルスだ」

6~7Mほどもある巨大な体。

やたらと鋭い牙。

頑丈な足に太い尻尾。

確かにあんなのがいれば脅威以外の何物でもないだろう。

「でも確かにあんなのがいたら安心に暮らせないわね…」

「今まではどうしてたんだ?」

「これまでは積極的にカラーを襲ってはこなかった。だが、アレに引き寄せられるように別のムシも来ている」

ケッセルリンクの視線の先には、ティラノサウルスには及ばないが、やはり凶暴そうなムシが存在していた。

「あー…でもアレ相当に強いわね。下手したら魔人級かも…」

「マジか…」

レダの言葉に流石のランスも戦慄する。

エンジェルナイトのレダが言うのだから正しいのだろうと思ったからだ。

ティラノサウルス達はしばらくその辺を歩き回っていたが、その内カラーの村とは逆の方向に歩き去って行った。

その取り巻きもティラノサウルスについて行ったが、ただ一匹だけその場に留まっている存在がいた。

「あいつ一匹だけ残ったわね」

「まるで何かを探しているようだが…」

その1匹のムシは体をこちらに向ける。

「…構えろ。見つかってるぞ」

ランスはそのムシから感じられる殺気を確かに感じていた。

あのムシは間違いなく隠れている自分達に感づいていた。

「先制攻撃でいくぞ」

「戦うのか!?」

ケッセルリンクは流石に驚きの声を上げる。

「見つかった以上どのみち倒さなければカラーは全滅だ」

「むしろあの1匹だけでよかったわよ」

ランスとレダは既に臨戦態勢に入っている。

「…わかった」

だからケッセルリンクも覚悟を決めた。

カラーの村を、皆を守るためにはあのムシを倒すしかない。

「行くぞ!」

そしてランスは初めてのモンスターと戦う事となった。

もうLP時代には残っていないはずの存在。

あまりの強さ故に、モンスターにも敵としてみなされ、その討伐に魔人すらも駆り出された存在。

ムシ―――ヴェロキラプトルとの戦いが今始まる。

 

 

 

 

 

魔王スラルの城。

城、といっても大した城ではない。

大陸の中心部に存在するその城には、並みの存在は近づく事すら出来ない。

そう、並みの存在では。

(…相変わらずこの状況ってなんなのかしら)

魔王スラルはメインプレイヤーが生まれてから誕生した新しい魔王だ。

そのメインプレイヤーの創造に合わせて、男の子モンスター、女の子モンスターは作られた。

魔王はそのモンスターの王である―――が、

(なんで我はこんな奴等の王なんだろう)

魔王スラルは全く別の感情を抱いていた。

女の子モンスターはまだ自分と似ている姿だし、会話も成立するからいい。

いささか孤高の気質のバルキリーは若干とっつきにくいが、それ以外は問題は無い。

が、問題は男の子モンスター。

(…個人的に変なのしかいない気がする)

古代種と呼ばれる種族、丸いモノはともかくとして、他のは何とも言えなかった。

(あのお断りマンとかいうのは何なのかしら)

魔王である自分の命令も『お断りマン!』とか何とか訳の分からない事を言ってくるくせに、結局は従う。

だが、他のモンスターであるストーンガーディアンやリビングソード等は一切話が通じない。

(それに…あのハニーとかいう物体…)

あのやたらと馴れ馴れしいうえに、あいやーあいやー五月蝿い奴等は本当に滅びてしまえばいいのにと思う。

何故かコロッケが好きでメガネが好きだとか言うわけの分からない存在。

(でも…)

種族としては非常に強い。

まず魔法が効かない。

魔王である自分の本気の魔法でも傷一つつかなかった。

殴ると割れるが、それでも1体1体潰さなければいけないのは非常に面倒くさい。

それに普通に強いハニーも存在しているという事もある。

黄色のスーパーハニー、三体が合体した姿のトリプルハニーなど、普通に強いのも問題だ。

(だがそれ以上に問題なのは…)

思い出すのも忌々しいあの存在。

自分が魔物の王ならば、相手はハニーの王。

(ハニーキング…)

あの存在だけは全く意味が分からなかった。

一度本気で滅ぼしてやろうと思ったが、勝ち筋が全く見えない相手だった。

何回か叩き割ってやったことがあったが、次にはあっさりと復活されている。

スラルがハニーとの戦いで得られたのは、相手にするだけ無駄だという非常に疲れる結果だけだった。

(それにしても中々見つからないものね…)

魔王は魔人、魔物への絶対的な命令権がある。

しかしその魔人がどこにいるか、までは分からない。

おかげで魔血塊集めはまだ捗ってはいない。

「スラル様、七星様が来られております」

「そう、通して」

女の子モンスターの一体であるメイドさんの報告に頭を切り替える。

七星はあのカミーラの使徒だ。

怠惰で中々自分の呼び出しにも応じない主人に比べて、その使徒は実は良く出来た存在だと思う。

「スラル様。カミーラ様よりの預かり物です」

魔王の間に通された七星がスラルの望んでいた物を取り出す。

「あら…」

それは今スラルが探している物、魔血塊だった。

「カミーラが珍しいわね…もしかして『狩り』の対象になる存在がいたのかしら」

「はい。魔血塊を飲み込んだティラノラウルスが。カミーラ様も楽しんでおりました」

無論カミーラも無傷だったという訳ではない。

だが誇り高いカミーラはそんな傷を負った自分を見られるのが我慢ならなかった。

「わかったわ。ご苦労だったわね。下がりなさい」

「はっ…」

七星は一礼するとその場を立ち去る。

スラルは魔血塊を手に納めると、その魔血塊を初期化する。

「ふぅ…」

これでまだ1枠増えたが、自分の理想とする魔軍を作るにはまだ足りない。

「ガルティアもメガラスもまだ戻ってこないし…でも焦る必要は無いわね」

スラルはまだ知らない。

自分の願いがどんな結果を引き起こしているかを。

そしてその時間はどんどんと迫ってきている事を。




今回のムシに関しては、完全にイブニクルが元ネタです。
ただランス10にティラノサウルスが出てきたので問題ないと判断しました。
強さに関しては完全にイブニクルをイメージしてくれればいいです。
つまりはめちゃくちゃ強いです。

イブニクル2のランスルートが滅茶苦茶すぎて笑った。
あれだな、ランスはルド世界だと主人公だけど、他の世界だとラスボスなんだな。
やっぱり主人公としては破格すぎると思った


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ランス覚醒

戦闘シーンってやっぱり難しいです…



「いきなりラーンスアターック!」

 

ランスの渾身の必殺技がムシ―――ヴェロキラプトルに決まる。

 

「なにぃ!?」

 

が、その結果にランスは驚いた。

上級モンスターすらも一撃で倒すほどの威力があるランスの必殺技。

確かに今は上手く力の調整が出来ていないとはいえ、その一撃は協力無比だ。

だが、目の前のモンスターは吹き飛びはしたが、すぐに立ち上がる。

そしてランスに向かって飛びかかってくるのをレダが防ぐが、

 

「くぅっ!」

 

その意外すぎる程の力にレダは歯を食いしばり堪える。

(嘘でしょ! こいつ…まさか使徒並!?)

レベルが下がっているとはいえ、エンジェルナイトの自分を上回る力にレダも驚愕する。

 

「こんの…」

それでも持ち前の技能を使い、ヴェロキラプトルを吹き飛ばすが、敵はすぐに態勢を整え襲い掛かってくる。

 

「ファイヤーレーザー!」

 

ケッセルリンクの魔法が直撃し、流石にダメージを与えはしたがそれでも倒れる様子は無い。

 

「私の魔法でも少しのダメージにしかならないか…」

 

改めてこのムシの強さを思い知る。

強さは極めて単純、硬い、早い、鋭い、この3点が他のモンスターよりも遥かに勝っているというだけだ。

ヴェロキラプトルは今の一撃に腹を立てたのか、ケッセルリンクに向かってとびかかる。

ケッセルリンクはその爪を自前の剣で受け流そうとするが、

 

ベキッ

 

「!」

 

鈍い音を立てて、受け流そうとした剣が砕ける。

(まずい)

逆の爪が態勢を崩したケッセルリンクに襲い掛かろうとした時、レダが盾を構えたままヴェロキラプトルに突込み、その体を吹き飛ばす。

 

「助かった」

「礼は後。それよりも魔法に集中して」

 

ケッセルリンクはレダの言葉に頷く、魔法の詠唱を始める。

 

「うがーーーーっ!」

 

ランスはヴェロキラプトルに斬りかかるが、相手はそのランスの攻撃を素早い動きでかわしている。

(なんだこいつ…今までのモンスターとは比べものにならんぞ)

ランスもこれまで数々のモンスターを倒してきた。

バルキリー、サイクロナイト、ヒトラー、シルバーサメラ~イ、スーパーハニーといった上位種も倒し続けてきた。

が、このモンスターはそれを上回る強さだ。

(まるで使徒並だぞこいつ)

かつてランスが倒してきた魔人の使徒、いずれも強敵だった相手の事を思い出させる強さだ。

だがそれでもランスは退くわけにはいかない。

 

「そうだ! 全てのカラーとセックスするために俺様は死ねんのだ!」

「うわ~…」

「分かっていたがこの男は…」

 

ランスの最低な言葉と同時にランスの攻撃が激しくなる。

レダとケッセルリンクはその言葉に呆れるが、それでも戦いの手は止めない。

 

「炎の矢!」

 

ケッセルリンクの魔法が当たるが、

 

「この程度ではダメージにならないか…」

 

やはり下級の魔法ではほとんどダメージにはならない。

ならばファイヤーレーザーしかないのだが、

(詠唱の時間があるか…)

これが普段の敵であれば何も問題は無い。

レダが自分のために時間を作ってくれるからだ。

だがこの敵が相手ではどれほど時間を稼ぐことが出来るか…

 

「迷うな!」

「!」

 

ランスの鋭い叱責が飛ぶ。

 

「いいから自分の出来ることをやれ!」

自分の出来る事―――それは魔法を唱えることだ。

ケッセルリンクはすぐさま詠唱を始める。

 

「こんの…!」

 

レダも剣で対抗するが、今のレベルではやはりロクにダメージを与えることが出来ない。

(今の私ではやっぱりダメか…やっぱりランスとケッセルリンクに任せるしかない…!)

レダはそう覚悟すると、二人をガードする事に全力を尽くす。

一撃一撃が重く、それが連続で来る。

(でも…見えてきた)

相手の攻撃は確かに鋭いし威力もあるが、一番の攻撃はやはりその体全体をつかった飛び掛かりにある。

(そのタイミングに合わせてカウンターを入れればいい…!)

ランスもケッセルリンクもそれは分かっているようで、相手の攻撃の隙を伺っている。

 

「グッ!」

 

レダの盾が弾かれ、その肩部から胸にかけて爪が振り下ろされた。

 

「レダ!」

 

その衝撃でレダは吹き飛ばされ、ヴェロキラプトルは一気にレダに止めをさすべく飛び掛かりの態勢になる。

そして跳躍する。

((ここだ!!))

ランスとケッセルリンクはそこで溜めていた力を一気に発動する。

 

「ファイヤーレーザー!」

 

渾身の魔力を籠めたケッセルリンクの一撃が、カウンターになる形でヴェロキラプトルに直撃する。

ヴェロキラプトルは短い悲鳴をあげ、吹き飛ばされる。

 

「ラーンスあたたたーっく!!」

 

そこにランスの一撃が加わり、ヴェロキラプトルは動かなくなる。

 

「レダ!」

 

ランスはレダに駆け寄る。

 

「無事か!」

「…だいじょーぶよ。エンジェルナイトはこれくらいじゃ死なないわ」

 

見るとレダの傷はもう塞がり始めていた。

 

「フン、驚かせおって…」

 

ランスも言葉は悪いが安堵していた。

 

「無事で何よりだ…」

 

ケッセルリンクも疲労が大きかった。

それでもヴェロキラプトルを倒せた事を安堵し―――

 

「後ろだ!」

 

ランスの声に反応できたのは奇跡だったのだろう。

ケッセルリンクは熱を伴った鋭い痛みを胸部から腹部にかけて感じた。

 

「―――!!」

 

ランスが何か言っているような気がするが、聞き取れなかった。

彼女はそのまま意識を失った。

 

 

 

ヴェロキラプトルはその皮膚を焼かれ、血を流しながらもそれでも生きていた。

それほどの傷を負っていても、弱っている様子が無かった。

そしてその牙がケッセルリンクの頭部に向けて向けられたとき―――

 

「!」

 

ヴェロキラプトルが感じたのは圧倒的な殺気。

それは今までに感じた事の無い強大な殺意だ。

目の前の小さな存在が放つ圧倒的な殺気に、ヴェロキラプトルは確かに怯んだ。

 

「貴様ーーー!!!」

 

レダは初めて見るランスの怒りに驚いた。

確かに短気ですぐにシィルの頭を叩いていたが、そこには特別な感情は無かった。

そしてそれはモンスターと戦っているときも同じだ。

むしろどこか楽しんでいる雰囲気すらあった。

しかし今のランスは違う。

そこにあるのは純粋な怒りと殺意だ。

 

「フン!」

 

ランスの鋭い一撃が、ヴェロキラプトルの鱗を削る。

自分の女―――将来的に自分の女になる存在を傷つけられ、ランスは非常に怒っていた。

 

「よくも俺様の女を傷つけやがったな! 絶対に許さんぞ!」

 

そしてその怒りは、確実にランスの力を上げていた。

(うむ、見えるぞ!)

まるで相手がどのような攻撃をしてくるのかがはっきりと理解できる。

相手の攻撃の軌跡に合わせ、ランスは少しずつ攻撃を加えていく。

それは今までには無かった感覚―――これこそが剣戦闘レベル3の力。

ランスは今、己の高まった才能をどんどんと理解していった。

(そうだ、俺様は天才なのだ。このような雑魚等ものの数ではないわ!)

その動きはヴェロキラプトルの鋭い爪すらも受け流し、その鱗をその肉を削っていく。

 

「レダ! ケッセルリンクは!?」

「大丈夫! 生きてる!」

 

ケッセルリンクの傷を調べいてたレダは致命傷にはなっていないことを確認し、声を上げる。

 

「ならいい! 俺様はこのボケナスを片付ける!」

ヴェロキラプトルの眼を切り裂き、ケッセルリンクの魔法を受け、傷ついている片手を切り飛ばす。

 

「受けて死ね! 俺様の華麗な剣捌き!」

 

最早完全に戦いはランスのペースになっていた。

しかし相手の生命力は計り知れず、その闘志はまだ消えていない。

隙あらばランスの首筋を噛み切ろうとする意思を感じられる。

 

「だがしかーし! 最早貴様など相手にならんわ!」

 

ランスは焼け爛れた胸元に蹴りを入れる。

ヴェロキラプトルはそれだけで苦痛に喘ぎ、バランスを崩す。

 

「そこだー! ラーンスあたたたーーーーっク!」

 

それは何時もランスが使っているランスアタックよりも踏み込みは小さい。

が、それはランスがあえてやっている事。

その一撃がヴェロキラプトルを大きく切り裂く。

 

「くたばれーーーーー!!!」

 

そしてその勢いのまま、ランスは剣を振り上げる。

最初の一撃が決まった部分と寸分違わぬ位置に、再びランスの一撃が襲い、とうとうヴェロキラプトルの体が二つに分かれる。

 

「がははははは! ムシ程度が俺様に勝てるわけが無いだろう!」

 

ランスは何時ものように馬鹿笑いするが、

 

「あだだだだだだ!」

 

突如として体に強い痛みが走る。

(この体がバラバラになりそうな感覚…鬼畜アタックを初めて使った時に似てるぞ…)

あの時ほどの疲労感は無いが、痛みまでは誤魔化すことは出来ない。

 

「いや、俺様の事はいい。ケッセルリンク!」

 

ケッセルリンクは胸部から腹部にかけて切り裂かれていた。

普通に考えれば重傷…死んでいてもおかしくない傷だ。

 

「死ぬなよケッセルリンク! 俺様はまだお前とヤッてないんだぞ!」

「……フッ、それを聞いて喜ぶ女がいると思っているのか?」

 

ケッセルリンクの顔色は悪いが、それでも口元には笑みが浮かんでいた。

 

「まだ喋るな!」

 

レダはケッセルリンクに回復魔法をかけ続けている。

 

「あーでもそんだけ言えるなら十分そうね。カラーのくせに結構頑丈ね」

「フン。それだけ言えるならまだまだ持ちそうではないか」

「…いや、最初は死ぬかと思ったが…どうやらまだその時ではなかったらしい」

 

ランスは言葉はどうあれ、ケッセルリンクが無事な事に安堵する。

 

「ケッセルリンク様ー! ランスさーん!」

「このやかましい声は…アナウサか」

「こっちよこっちー!」

「遅いから心配しましたー! ってケッセルリンク様!?」

 

アナウサがケッセルリンクの傷を見て悲鳴を上げる。

 

「大丈夫だ。死にはしない」

「いや、一大事じゃないですか!」

「それよりも…ルルリナ様に伝えろ。緊急に対策を立てる必要があると」

「はっ、はい!」

 

ケッセルリンクの言葉にアナウサが一目散に走り去る。

 

「よし! これでとりあえずは安定! でも当分は安静にしなきゃだめだけどね」

「すまない、レダ」

「どれ、俺様が運ぶか」

 

ランスは問答無用でケッセルリンクを抱き上げる。

 

「…おい」

 

ケッセルリンクはランスを少し睨むが、ランスは意にも返さない。

 

「ふん。怪我人は黙っていればいいのだ。それにケッセルリンクにお姫様抱っこするなんてこの先あるかわからんからな」

「まったく…お前は本当に下心を隠そうとしないな」

「当たり前だ。お前みたいな美女に対して何も感じない奴は不能かホモだ」

 

ランスの言葉にケッセルリンクはため息をつく。

だが、決して悪い感じはしなかった。

ケッセルリンクとて、長い時の中で色々な人間を見てきたが、このような男は見た事も無かった。

「フッ…では当分は大人しくしていよう。だが私は怪我人だ。お前も気をつけて運んでくれ」

「がはははは! 俺様は美女には優しいのだ。それにお前は俺様の女だ。嫌でも大事にしてくれるわ!」

「やれやれ…お前のような男に目を付けられるとは私も男運が無いのかもしれないな」

「いやー…意外と仲良いな、この二人」

 

ランスとケッセルリンクの軽い言い合いに、レダは何となく和んだ。

(でも…ランスもあんな声を出すんだな。少し…羨ましい、のかな?)

 

 

 

 

 

「ケッセルリンクは大丈夫のようですね」

 

カラーの女王、ルルリナはケッセルリンクの容態に安堵していた。

 

「もしケッセルリンクに何かあったらカラーは…」

 

ケッセルリンクは今までカラーをモンスターから守ってくれていた存在だ。

そのケッセルリンクが死ねば、瞬く間にカラーがモンスターに蹂躙されてしまう。

それほどまでの存在なのだ。

 

「ケッセルリンクは大丈夫よ。でも今はそれ以上にあのムシをどうするかよ」

 

レダの声は非常に硬い。

 

「今回はあのムシを何とかできたけど、それはあいつが一匹だったからよ。もし複数で襲ってきたら終わりよ」

 

そう、今回襲ってきたのはあの一匹だったからこそ、ケッセルリンクの重傷という被害ですんだのだ。

もし複数で襲ってきたのであれば、ここに戻ってくる事は出来なかっただろう。

 

「ランス様…」

 

ルルリナの声にランスは考えていた。

(うーむ…確かに俺様強いが、あいつらが複数で襲ってきたらマズイぞ)

ランスも一流の戦士、相手の実力を正確に見抜いていた。

 

「あのムシは何時頃から現れたんだ」

「ランス様達が現れる少し前…今からですと3週間ほど前でしょうか」

「うーむ…」

 

(そういやあいつら…ミラクルの魔法で連れてかれた世界のモンスターと似てるな)

かつて、ミラクル・トーの魔法でランスは異世界に行ってみた事があった。

そこの世界の一つにあんな姿のモンスターがいたが…

(いや、違うか。こいつらはあんなに弱くなかったしな)

 

「あ、そういえばハガネダマやオウゴンダマを見かけるようになったのも3週間くらい前だ」

 

突如としてアナウサが声を上げる。

 

「は?」

「いやーあのムシの事で色々とゴタゴタしてたけど、そういえばまるい奴等が現れたのも3週間くらい前だったかなーって」

「という事は…まさか縄張り争い?」

 

縄張り争い、その言葉にカラー達は騒然となる。

 

「そんな…まさかこの場所でモンスターとモンスターの縄張り争いが…」

 

ルルリナは悲壮な声を出す。

両方のモンスターの強さは圧倒的…カラーが弓の名手といえども、両方のモンスターと戦って無事で済むはずがない。

いや、それどころか巻き込まれて蹂躙される可能性のほうが高い。

(こんな時あの方がいて下されば…)

ルルリナは今はいない偉大なカラーを思い出す。

黒い髪をした偉大なるカラー…彼女がいれば、この苦境も切り抜けられると。

 

「落ち着け。まだ決まった訳じゃないだろう。それにムシ共はこことは逆の方向に行ったぞ」

 

ランスの言葉に動揺は一旦は落ち着く。

 

「ですがランス様…」

「お前達もそう簡単に決め付けるな。偶然という事もある。それに」

「それに…?」

「がはははははは! ここには俺様が居る! だから何も問題は無い!」

 

ランスの何時ものバカ笑いにカラーの皆は呆気に取られ、レダは「またか…」とため息をつく。

 

「問題があるなら一つずつ片付ければいいのだ! まずはいなくなったムシ共より今いるまるい奴等だ!」

 

これがランスの平常、そして始まりだ。

この男は決して諦めない。

そこに美女がある限り。

 

 

 

 

 

「スラル様、ガルティア様が戻られました」

「そう、通して」

 

メイドさんの報告に、スラルは鷹揚に頷く。

魔王とは冷酷で有らねばならない―――スラルはそう思っていた。

自分では冷たい感じを出しているつもりだ、が実は周りはそうは思っていない。

(何故かスラル様って冷たい感じがするけど微妙にへっぽこっぽいんですよね…)

無論表立ってそんな事は言わないが、少なくとも恐怖までは皆も感じてはいなかった。

 

「あー疲れた…」

 

ガルティアは戻ってきて早々、どこからか取り出した肉にかぶりつく。

魔人ガルティア―――魔王スラルが作った今現在唯一の存在。

伝説のムシ使いであり、剣の腕も優れた魔人だ。

 

「ガルティア…食べる前に報告なさい」

「待った! もう一口…むぐむぐ」

 

ガルティアは残った肉を言葉通り一口で飲み込むと、

 

「あー…スラル様には悪いけど、あれは無理だね。俺の扱ってるムシとは違うよ」

「…そうか」

 

ガルティアの報告にスラルは特に落胆した様子も無く頷く。

元々は実験にすぎなかったが、スラルの研究者としての面が、どうしてもその結果を知りたかったのだ。

 

「仕方ないから殺ってきたけど…あれはもう相当だな。無敵結界が無かったら危なかったな」

「無理もないわね。昔の異変をも生き延びたといわれる存在…それを手駒に出来れば良かったんだけど」

 

スラルがガルティアに命じたのは、ムシ―――ティラノサウルスやヴェロキラプトル共を手懐ける事が出来るかという事だった。

ムシ使いLV3のガルティアならば出来るのではないかと思ったが…やはりそう上手くはいかないらしい。

 

「なら最初の予定通り…滅ぼすしかないわね」

 

あのムシ共は脅威だ。

今現在、男の子モンスター、女の子モンスターと色々と種類が増えていっているが、それでもあのムシの相手は流石に辛い。

それに無敵結界が無い頃、あのモンスターはそれ以上の猛威を振るっていた。

魔血塊を飲み込んでいた魔人があのムシの群に倒されたこともあるという。

この前もあのカミーラが魔血塊を飲んだティラノサウルスを狩ってはいたが、恐らくは無傷とはいかなかったのだろう。

魔王である自分の命令に従わないのであれば、滅ぼすしかない―――スラルはそう決めていた。

 

「それで…ムシ共はどこにいったのかしら」

「色々な方向に分かれたけど…一番近いのはカラーの住処あたりだな」

「カラー…か」

 

カラーとはメインプレイヤーである人間と似ているようで違う存在。

スラルもカラーについては知ってはいたが、大して気にも留めていなかった。

 

「ならば次はカラー…か」

 

魔王スラルは本日初めて笑みを浮かべた。

 

 

 

 

 

人は弱いからこそ纏まって生きてきた。

小さな纏まりはやがて村になり、その村が集まって町になり、それが集まって国となっていく。

そしてその中からは時にはずば抜けた才能を持つ人間が生まれる。

しかし人は愚かで、その才能の人間を妬み、恨み、互いに足を引っ張り合う。

いつの間にか人々は神という存在を奉り始めた。

人を癒す事の出来る力は、即ち神の力であると。

そう、それは確かに神の力。

神は神でも―――人の不幸を喜ぶ神の力。

 

「本当に人間って馬鹿よね」

 

女神ALICEの間。

この神の目的は、争いを引き起こし、メインプレイヤーを適度に苦しめ創造神を楽しませる事にある。

前のメインプレイヤーは肉体的にも精神的にも強すぎるせいで、創造神に飽きられてしまった。

だからこそ新たなメインプレイヤーは心も身体も弱く、寿命も短く、野蛮で利己的な精神を持つ生命として作られた史上最低のメインプレイヤーだ。

 

「どんな風に苦しめるのがいいかしらね」

 

人は神を奉り、自分を女神と崇めている。

無論、そのような下地はすでに整えられている。

そう、全ては神を楽しませるために。

女神ALICEは心底楽しそうな笑みを浮かべる。

強すぎて神等に頼らなかったドラゴンとは違い、この愚かなメインプレイヤーはどれくらい神を楽しませてくれるのか。

それがこれから楽しみでならない。

ムーラテストというものを行い、そこからトップとなり神と謁見出来るムーララルーを生み出す。

そしてそのムーララルーが自分と出会った時にどう思うのか、それも楽しみで仕方が無い。

「そう…全てはルドラサウム様のために…」

 

 

しかし女神ALICEは知らない。

既にこの世界に異変が始まっていることを。

そしてその異変を、その創造神こそが引き起こしてしまった事に。




しかしどう見ても恐竜なやつが何故種族がムシなんだろう…
まあアリスソフトだから仕方ないとしか言えませんね。

スラルは冷酷そうに振舞っても微妙にへっぽこらしい。
不完全な魔王であるランスよりも弱い疑惑…
でもアレだけの強さ持ってて魔王レベル2のランスが不完全なら、完全覚醒のランスってどれくらい強いんだろ?


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魔人

ランス10の設定資料集とか出ないかなぁ…
鬼畜王の時の様な分厚いやつ


ランスが勢いよくカラー達に啖呵を切ったその夜―――

 

「ぐふふふふ…」

 

ランスはレダの寝室へ忍び込んでいた。

目の前にはぐっすりと寝込んでいる薄着のレダがいた。

(そう…俺様はここまで待ったのだ)

最初にレダを襲おうと思った時、イケル! と思った時にはモンスターが襲撃してきた。

それからはランスは耐えた。

(あれからは本当に辛い日々だった…)

ランスもランスでカラーにいいところを見せようとさらに我慢を重ねた。

その結果、ある程度ランスはカラーの信頼を集めることに成功した。

だとすれば、今度こそレダをものにする時が来たと感じていた。

(しかし俺様も大人になったものだ…)

昔であれば即襲っていたであろう。

いや、実際この前襲おうとして邪魔が入ったが、その後は我慢の日々だったのだ。

 

「とーーーーう!」

 

ランスは一瞬で全裸になると、ベッドに眠るレダにのしかかった。

その衝撃に流石のレダも目が覚める。

 

「ん…ランス? ってわーーーーーーーっ! なんで全裸なのよ!」

「セックスするのに全裸じゃないほうがおかしいだろうが。いや、まあエロイ衣装も衣装でいいが」

「そういう問題じゃなくて!」

「がははははは! 男と女が裸ならやる事はただ一つ!」

「っていつの間に服を脱がせたのよ! やっぱりあんた自分の能力の使い方間違えてるから!」

 

いつの間にか服を剥ぎ取られたレダはそのままランスに押し倒される。

 

「やっぱり抵抗しないではないか」

「うう…それは」

 

レダは以前ランスに犯された過去がある。

が、その時にもっとして欲しいと思っていた。

女神ALICEにランスの守護を命じられたとき(誤解)、もしかしたら…と期待を抱いていたのも事実。

そしてランスと二人、ここに飛ばされた夜に襲われそうになったが、それも有耶無耶になってしまった。

だが、いつかこんな日が来る、と自分は密かに期待していたのかもしれない。

 

「ちょ、ちょっと待って…」

「む、なんだ。もう今更待てんぞ」

「いや、そうじゃなくて…その…せめて優しくして欲しいと…」

 

レダの言葉にランスはとうとう爆発する。

 

「がははははは! 最初は無理だ! だがその後は存分に優しくしてやるぞ!」

「いや、最初は無理って…」

「とーーーーーっ!」

「きゃあああああ!」

 

その日、レダの嬌声とランスの馬鹿笑いが夜通し聞こえたという。

 

 

 

 

「嘘吐き嘘吐き…何が最初は無理だ、よ…」

「がはははは! 思わずやりすぎてしまったわ!」

「うう…腰が痛い…」

 

ランスに腕枕される形のレダがため息をつくが、そこには同時に満足感が感じられた。

「俺様だけのせいじゃないだろ。お前が上になって…」

「わーわーわー!!! それ以上言わないでよ!」

 

レダは真っ赤になってランスの声を遮る。

 

「いやしかしエンジェルナイトも随分とエロいと思っただけだ」

「うー…」

 

ランスの胸に顔を埋めてレダは悶える。

レダは初めてを無理矢理ランスに奪われたが、今回は違う。

(堕天してたらどうしよう…でも、凄かった…)

以前の若干の消化不良の時とは違い、今回は互いに互いを求め合った結果だった。

(そして…)

自分の中に新しい力が漲っている事を感じる。

驚くべきことに、自分の才能限界が伸びている事を理解した。

(才能限界を伸ばす…確かにこれは由々しき事態よね)

もしかしたら女神ALICE様はこの事を危惧していたのかもしれない。

この力が悪魔に利用されてはならないと自分を派遣したのだと。

もちろんこれはレダの誤解であり、早とちりなのだがレダは一層決意を固める。

(そうだ、この力を悪魔に利用される訳にはいかない)

レダが勝手に決意を固めていると、

 

「ひゃあ!」

「うーむ、ナイスなオッパイだ」

「こらランス! もう終わりでしょう!?」

「何を勘違いしている。最初は無理だと言っただけだぞ」

「え…?」

「つまーり! ここからはお前の要望通り優しくしてやろう!」

 

ランスの言葉にレダは戦慄する。

 

「じゃあもしかして…」

「がはははは! 俺様の性欲がこれくらいで終わるわけがなかろう!」

「ちょ…ランス…やめ…ムグゥ!」

 

こうしてレダは今度はランスに優しくされた。

 

 

 

 

「うむ、素晴らしい朝だな」

「何が素晴らしい朝よ…こっちはもうへとへとよ…」

 

その朝、ランスは言葉通り素晴らしい朝を迎えていた(本人談)

今まで我慢に我慢を重ねていた結果であった。

(だが、あまり我慢しすぎるのは駄目だな)

我慢した分確かに気持ちよかったが、やはりストレスがたまる。

 

「ほら、起きろレダ」

「誰のせいだと思ってんのよ…」

 

レダも腰を押さえながら起き上る。

(なんでランスはこんなに元気なんだろう…)

エンジェルナイトである自分がこれほど疲れているのに、こいつは…と思う。

「うむ、今の俺様ならば何でも出来るような気がするぞ」

 

 

 

 

「ランスか」

「おお、ケッセルリンク。もう大丈夫なのか?」

「ああ。カラーの中でも私は丈夫だ。もう問題は無い」

 

ケッセルリンクの様子にランスも安堵する。

ランスにとってもあの光景はもう見たくないものだ。

 

「それと…今後の事はアナウサから聞いた。モンスターから処理するようだな」

「ああ。というか今の戦力ではムシ共がどうにもならんからな」

 

(そうだ。流石にあのムシ共は今の戦力では無理だ)

ランスがかつて率いていた無法者…あれだけの戦力と、カラーの戦力があれば問題は無いだろうが、無いものを考えても仕方がない。

 

「そうだな…しかし魔物の方も問題はあるがな。突如として増えたまるいものがな…」

 

カラーからの話では、突如としてまるいものが増えたらしいが、特に問題になるのがオウゴンダマとの事だ。

 

「まあオウゴンダマ程度ならば問題は無い。今の俺様ならば一撃だ」

 

これは別にランスも誇張して言っているのではない。

ランス自身、今の自分ならばオウゴンダマクラスですら一撃で斬れると感じていた。

 

「そこは疑わないが…しかし原因を突き止めねば我々カラーの存続に関わる」

 

何しろモンスターの数は膨大…少し減らした程度では焼け石に水だ。

 

「まずはアナウサを斥候に回している。ムシは遠ざかったようだが、代わりにモンスターが来ているようだからな」

 

ケッセルリンクも他の皆から報告は聞き、色々と指示を出していた。

一先ずムシは遠ざかったようだが、まるいものが代わりに出没しているようだ。

オウゴンダマ、ナマリダマ等はいないらしいが、代わりにマグボール等が見られているらしい。

飛行するモンスターならばカラーの弓の餌食なのだが…それでも油断は出来ない。

 

「それにしてもランス。お前は良かったのか?」

「ん? 何がだ」

「いや…人間のお前達をカラーの問題に巻き込んでしまった事にな」

「そんな事か」

 

ランスは何でも無いといった感じに答える。

 

「今は俺様も迂闊に動くことは出来んからな。ちょどいい」

 

何しろリーザス、ヘルマン、ゼスすらも誰も知らないと言っていたのだ。

ランスも少々気になって森の外に出てみたが、そこは見覚えの無い場所だった。

近くに町も何もなく、ランスと記憶が一致するのは翔竜山だけしかない。

さらには辺りをどうどうとうろつくモンスターの集団も存在している。

確かにダンジョン等にはモンスターは生息しているが、それにしても数が多すぎた。

普通ならば軍隊が出動するようなレベルでモンスターがうろつくなど、ランスの常識では考えられなかった。

以前ミラクルに異世界に連れてきてもらったが、どうやらその異世界とやらでもないらしい。

そして異常をきたした自分のレベル。

そんな状況で動く気にはなれなかった。

 

「それに俺様は自分の女を見捨てるような真似はせんからな」

 

ランスの言葉にケッセルリンクの顔が呆れ顔になる。

 

「まったく…お前は口を開けばそればかりだな」

「がははは! お前も当然俺様の女なのだからな!」

(俺様の女…か。こいつは本気で言ってるのだろうな…)

「そろそろケッセルリンクも俺様に惚れてきただろう」

「…人間というのはここまで前向きなのか?」

 

ケッセルリンクはあまりに自信満々のランスに苦笑いを浮かべる。

彼女は古株のカラーであり、それなりに人間の事は知っているが、このような人間は見たことが無かった。

(普通の人間にしては有り余る覇気に、決断力の高さ…確かに人の上に立つ人間で有ることは確かだな。だが一方で人を振り回すことに問題もある。だが今のような混乱時ではこの男のような存在が頼りにもなる…)

その実力は最早疑う余地はない。

何より、この男の戦術は確かにカラーを上手く指揮し、効率よくモンスターを排除しているのだ。

ケッセルリンクが改めてランスを評価していると、

 

「そういやケッセルリンクは人間嫌いって訳では無いんだな。まあ他のカラーもそうだが」

「確かにたまに人間とは衝突はするが…別に命のやり取りをしている訳では無い。人間もモンスターからの被害を抑えるのに忙しいだろうからな」

「カラーのクリスタルが狙われたりはせんのか?」

「クリスタルを? いや、そんな事は無いがな」

 

ランスはここでも首を傾げる。

ランスの認識では、カラーは人間に常にそのクリスタルを狙われていた。

カラーは処女を無くすと額のクリスタルが赤から青になり、そのクリスタルは凄まじい力となる。

ランスも知っているのは、ヘルマン革命の際ミネバがカラーのクリスタルを使用して自分の分身を作り出していた。

それに魔想志津香が使っていた武器も、クリスタルロッドというカラーのクリスタルを使用したものだった。

 

「…カラーが人間に襲われている、というのか?」

 

ランスの言葉にケッセルリンクの顔が険しくなる。

 

「勿論俺様が助けたが…まあ、俺様の知ってるカラーは人間に襲われていたな」

「お前がそのような嘘をいう理由が無いから事実なのだろう。しかし、今までそんな事は一度たりとも無かった」

「だから俺様も不思議だったのだ。俺様が知るカラーとはあまりにも違ったからな」

「…その事は他の皆には言わないでくれ。余計な混乱を招きたくない」

「別にこんな話誰にでもせんわ。お前なら何か知ってるかと思っただけだ」

 

ケッセルリンクの言葉にランスも同意する。

ランスが話したのも、ケッセルリンクならば何か知っているかもしれないと思ったからだ。

しかし実際には謎が深まるばかりだった…この世界のカラーは人間に狙われていないからだ。

(うーむ…しかしここは本当にどこだ? カラーもいるし俺様が知ってるモンスターもいれば、知らないモンスターもいる。翔竜山はあるのにリーザスもヘルマンもゼスも無い)

いくら考えても答えは出てこないが、ヒントはある。

(やはりセラクロラスを探すのが一番か…と、言ってもあいつがどこにいるかまるでわからんぞ)

ランスが出会ったのはヘルマンの巨大戦艦の内部だが、今もそこにいるかは分からない。

そこに向かおうにも、周囲にはモンスターがおりそこに行くのも一苦労だ。

流石にケッセルリンクもそこまではついては来てはくれないだろう。

ランスが割と真面目に思考していると、

 

「ケッセルリンク様! ランスさん! モンスターです! それも抜群に変なモンスターです!」

 

カラーの一人が何時ものように報告に来るが、その顔は何故か涙目だ。

 

「あうあうケッセルリンク様~」

 

そのカラーはケッセルリンクの胸に顔を埋めながら、ぷるぷる震えていた。

 

「おい、ケッセルリンクの胸は俺様のものだぞ」

「誰の胸がお前のものだ。それよりもどうしたのだ?」

「そそそ、そうです! 変なのが! もう本当に変なモンスターがぁ!」

「もっときちんと報告しろ。変なモンスターとは一体なんだ?」

「もう本当に変としか言えないんです!」

 

ランスとケッセルリンクは顔を見合わせる。

 

「…とにかく行ってみるか」

「うむ。レダを呼んでくるか」

 

 

 

 

 

「…アレか」

「…アレのようだな」

「…いや、アレしかないでしょ」

 

ランス、レダ、ケッセルリンクは報告があった場所に来たが、そこにいたのは確かに変なモンスターだった。

周囲にいるのはナマリダマとオウゴンダマが殆どだ。

が、問題なのはその中心にいるモンスターだ。

 

「…変というよりはただの変態ではないか」

「…同感だ」

「…いやまあ色々なモンスターいるけどさあ…アレは無いでしょ」

 

ランス、レダ、ケッセルリンクは顔を見合わせ、ゲンナリする。

そこにいたのは本当に変なモンスターだった。

 

「だが一つ分かったのは、アレは普通のモンスターでは無いという事だ」

「アレが普通なら大半のモンスターが普通だな」

「いやあれどう見ても魔人でしょ」

 

レダの言葉にランスとケッセルリンクはようやく現実を見つめる。

この二人はアレを直視したく無かったのだ。

 

「オウゴンダマの魔人よね」

 

魔人―――それは魔王の僕にして、人間にとっての絶対の敵。

ランスはこれまで何体もの魔人と戦ってきたが、いずれも強敵であった。

洗脳技能を持ち、剣と魔法に優れた魔人アイゼル、ガーディアンを作る技能に長けた魔人サテラ、ひたすらに硬くそして文句なしの強さを持つ魔人ノス、

変身技能を持っていたがそこを逆手に取って撃破した魔人ジーク、空を飛び氷の力に長けた魔人サイゼル、ドラゴンの魔人にして魔人四天王の一人である魔人カミーラ、

カミーラの使徒にして魔人ジークを乗っ取った魔人アベルト、JAPANを地獄に変えた炎の魔人ザビエル、格闘に長けた魔人カイト。

かつてランスが倒してきた魔人だが(覚えているとは言ってない)、目の前にいるのはより奇怪な魔人だった。

普通のオウゴンダマよりも小さい。

ただしそれはあくまでオウゴンダマの部分が小さいというだけだ。

何故かそのオウゴンダマには体が生えていた。

ランスにとっては何もありがたくない男の全裸―――それも筋肉ムキムキの。

かろうじてブーメランパンツを穿いてはいるが、だからどうしたといった感じだ。

やたらと色黒のその肉体は何故かオイルが塗られているようで、テカテカしているのもランス達をゲンナリさせていた。

しかもそのオウゴンダマは歩くたびに何故かポージングを決めていた。

それだけでもランスのテンションはダダ下がりだった。

 

「…そうか。まるいものが最近増えたのはあの魔人のせいか」

「ケッセルリンク…そういう言葉はあいつを直視しながら言いなさいよ」

 

ケッセルリンクは冷静に判断するが、あの妙な魔人を直接見ることは憚れるようで、レダに突込みを入れられている。

 

「いやーでも見事な筋肉ですよねー。あの大胸筋とか特に」

 

アナウサだけはあの奇妙なオウゴンダマを見てうんうんと頷いていた。

 

「野郎の裸なんか見ても嬉しくも何ともないぞ…」

「でもどうするの、ランス。相手は魔人よ」

 

そう、相手はあの魔人なのだ。

人間が魔人を相手にするためには、魔剣カオスか聖刀日光が必要不可欠…それが無ければ魔人の無敵結界に阻まれてしまう。

例えどれほどの才能が有ろうとも、無敵結界の前には全ての存在が無力なのだ。

 

「まさか魔人が居るとは思わなかった…ここは一旦退くしかないな」

「それしか無いだろうな」

「仕方ないわね」

 

ランス達がその場を立ち去ろうとした時、確かにその魔人オウゴンダマは自分達を見た気がした―――やっぱりポージングをしながら。

 

「む…」

「まさか…気づかれたのか?」

「どこで私達を判断してるのよ…」

「目とか口とか描いてないからわからないですよねー」

 

しかし確実にそのオウゴンダマはこちらに向かって歩いてくる―――1歩1歩ポージングをしながら。

そして―――跳躍する!

 

「来るぞ!」

 

こうしてランスのSS期にて初めての魔人との戦いが始まる。

 

 

 

 

 

 

 

―――天界―――

 

「はぁ…」

 

女神ALICEはため息をついていた。

無論疲労のため息ではなく、一仕事をやり終えたという満足げなため息。

アレからランスの行方は完全に分からなくなっていた。

同時にレダの行方も分からなくなったが、まあエンジェルナイト1体くらいなら問題無いだろう。

何だかんだ有り、ランスの才能が伸びてしまったりしたが、自分の目論見は成功したのだ。

これでモフスもモンスターに蹂躙され、殺されるだろう。

ルドラサウム様への謁見も適わない。

もしかしたら自分にランスの行方を捜すように法王特典を使うかもしれないが、それならそれで構わない。

 

「ようやく正しい歴史が作られるのね…」

 

そしてメインプレイヤーは創造神が飽きるまで蹂躙され続ける。

これこそが人間の正しい姿なのだ。

 

「女神ALICE」

 

そこに突如として、クエルプランが訪ねてくる。

 

「あら…あなたがここに来るなんて珍しいわね。クエルプラン」

 

女神ALICEは悠然とクエルプランを見るが…

(あら?)

クエルプランは女神ALICEの目から見ても怒っていた。

 

「光の神G.O.Dから聞きました。あなたですね…」

「…どうしたのよ」

 

クエルプランがこれほど感情を表にするのは非常に珍しいことだ。

かつてクエルプランとは睨み合いになったことはあったが、それでもこれほどでは無かったはずだ。

 

「あなたがメインプレイヤーに直接介入したと聞きました」

「ああ…その事ね」

 

(あなたのためでもあるんだけどね)

基本的に神がメインプレイヤーに直接介入する事はあまり好まれない。

レベル神あたりであれば問題は無いが、1級神が介入する事は本来はありえない事だ。

 

「メインプレイヤーの一人であるランスが見当たりません」

 

(…ん?)

今クエルプランは確かに『ランス』と言った。

この前はランスの事を魂番号で呼んでいたクエルプランがだ。

 

「この世界にいない可能性があります。あなたは何か知りませんか?」

「…いや、その件に関しては私は本当に知らないわよ」

 

嘘は言っていない。

自分は確かにランスを消そうとはしたが、それはセラクロラスを使って第三者に消させるという事だ。

この世界にいない事に関しては、自分の与り知らない事だ。

 

「それよりもクエルプラン。ランスって…」

「? ランスはランスですよね。それがどうしましたか?」

 

クエルプランは何でも無いように返す。

まるでそれが当然とでも言いそうな様子に、ALICEの方が困惑する。

(まさか…いや、確実に私以外の存在にも影響が出始めている…)

 

「とにかく、私はこれから探さねばなりません。あなたは決して余計な事はしないように」

「…ええ、分かったわ」

 

クエルプランはそれだけを言うと、自分の持ち場に戻る。

 

「クエルプランも記憶がある…? でもどうして…ルドラサウム様なら分かるけど…」

 

ランス達が消えたのは創造神の力だという事は女神ALICEも認識していた。

クエルプランはその光景を見ていなかったので、それが創造神の力だとは気づいていないようだった。

女神ALICEは今になって自分は重大なミスを犯したのかもしれないと思った。

(一体どうなってるのよ…)

しかし女神ALICEは今はどうする事も出来ない。

どうにかしようにも、今ランスはこの世界には存在しない。

言いようの無い不安が女神ALICEを少しずつ蝕み始めていた。




魔人の設定はかなり適当です
一応のオリ魔人ですが、よりにもよってマッスルです
後は梅太郎要素があれば完璧にハニーに嫌われる要素がMAX
もちろん誰も得しないので出しません


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魔人との戦い

予定より1日遅れてしまいました…
やっぱ戦闘シーンって難しいです



「カラー…か」

 

魔王スラルは実に久しぶりに己の城を出ていた。

彼女は非常に臆病かつ慎重な魔王だ。

神と出会った時に『魔王は殺せない』という事を願った。

魔王である以上、この世界に敵はいない―――という事はスラルは考えていない。

自分より強かったであろう、魔王ククルククル、魔王アベルは現実に敗れ去っている。

だからこそ自分は慎重であらねばならない、一分の隙も見せてはならないと思っている。

そしてその魔人にすら並び立つムシは排除しなければならないとも。

 

「大体知性の欠片も無いしね…」

 

スラルが気に入らないのは、力はあれど知性を感じられないところだ。

そして実際にムシの魔人もいたが、やはり我慢が出来る物ではなかった。

思ったのは『自分だけの魔人』を作りたい、という思いだった。

そのために大陸に散らばる魔血塊を回収させているのだが、その実はあまり捗っていない。

カミーラ、ケイブリス、メガラス、そして自分が作ったガルティアはまだいい。

怠惰だが気品もプライドもあるカミーラ、臆病で弱いが色々な過去を知っているケイブリス、世界最速のメガラス、この辺りは良い。

ガルティアも自分の意思で作った魔人だからそれも満足している。

が、それ以外が何となく気に入らないのだ。

(理想が高いのかしらね…)

でも魔王として生まれたからにはやはり満足のいく魔人を集めたい。

それこそが魔王スラルが魔血塊を回収する一番の理由。

だがその前にムシの始末を…と考えていたときだった。

(まさか…魔人に出会えるとはね)

自分がまだ把握していなかった魔人の内の一体。

オウゴンダマの魔人を発見したのは僥倖だった。

ただ、その魔人を見た時は思わずもどしそうになってしまったが、自分は魔王なのでそのような下品な真似はしない。

早々に始末をつけようと思ったが―――その前にカラーと魔人の争いが始まっていた。

(魔人に勝てる訳無いのにね)

人も亜人も何故勝てないと分かっているのに魔人に挑むのか、スラルにはよく分からなかった。

そしてスラルは運命の出会いを―――本来は出会うはずも無い出会いを体験する。

その男は世界のバグ、この世界の理を変えてしまう存在だとはこの時はまだ知るよしも無かった。

 

 

 

 

突如として飛び掛ってきた筋肉隆々の魔人。

その魔人の攻撃方法は―――何故かボディプレスだった。

 

「避けろ!」

 

ランスの声で全員がその場を散開する。

凄まじい轟音が響き、その魔人の攻撃力の高さに全員が呻く。

 

「ランス! そっちでオウゴンダマとナマリダマを処理して!」

 

レダが盾を構えて魔人の前に立つ。

 

「頼む! ランス!」

 

ケッセルリンクもレダを援護すべく、レダの横に立つ。

 

「チッ!」

 

ランスは舌打ちするが、確かに魔人に対する攻撃方法を今は持ち合わせていない。

だからこそその言葉通りに取り巻きのまるいものに対して斬りかかった。

今のランスであれば、まるいもの等に遅れを取ることは無い。

 

「ランスさん!」

 

アナウサはランスの援護をし、他のカラーも樹の上から弓を放ち、援護に回る。

空を飛ぶまるいものはカラーにとっては相手にしやすい存在ではあるが、ナマリダマやオウゴンダマは流石に辛い。

ランスもそれを理解しており、ナマリダマの一体を打ち砕いていた所だった。

しかし相手も魔人がいることも在ってか、普段よりも好戦的なようでその攻撃も激しい。

拳の形をとって殴りかかってくるオウゴンダマの攻撃を受け流し、ランスの一撃がきまるが流石に一撃で倒すことは出来ない。

カラーの弓も流石にオウゴンダマには効果が薄く、目くらましくらいにしかなっていない。

しかし今のランスにとってはその目くらましですら十分で、体制を崩したオウゴンダマに確実な一撃を加えていく。

カラーの援護もあり、ランスは確実にまるいものの数を減らしていた。

むしろ問題なのはやはり魔人である。

無敵結界―――その絶対的な防御力に、ケッセルリンクは戦慄していた。

自分の魔法が無敵結界の前には無力という事実が今目の前に存在していた。

だからこそすぐさまケッセルリンクはレダの援護に回った。

簡単な防御魔法ならばケッセルリンクも使うことが出来、魔法バリアによる援護をしている。

しかし魔人の一撃は強烈で、自分の魔法バリアもその一撃であっさりと割られてしまう。

(格闘タイプの魔人か…)

マッスルオウゴンダマは魔法等を使う様子は無く、その肉体だけで攻撃をしてくる。

その拳、足、又は体全体を使っての攻撃は一撃でも貰えばケッセルリンクはそれだけで戦闘不能になるだろう。

それをレダは自前の盾で防ぎ、負った傷は神魔法で癒している。

(まったく厄介ね…)

レダはエンジェルナイトなので無敵結界の影響こそ受けないが、だからといって魔人を相手に出来るほど強いという訳ではなかった。

生まれてからまだ日が浅く、現在レベルが低下しているとあっては流石に魔人には対抗出来ない。

しかも翼を生やせないため、相手を撹乱する事も難しいとなれば、相手の攻撃を絶えるしかない。

(せめてランスが来るまでは耐えないと…)

今のランスが加わってくれれば、勝てないまでも相手を撤退させる事が出来る。

レダはそう考え、完全に防御に徹していた。

「何なのよこいつは…!」

一つ一つの行動が非常に鬱陶しい。

何故こいつは1アクション毎にポージングを挟むのかがまったく分からない。

相手のハイキックをかわしたと思えば、何故かポージングを挟んで攻撃が飛んでくる。

時たま自分を挑発するような手振りをして、カラーから矢を放たれるがそれを無敵結界で受け止める…やっぱりポージングをつけて。

 

「!!」

 

目の前のマッスルオウゴンダマが跳んだかと思うと、矢を放っていたカラーが登っていた樹の幹を勢いよく蹴飛ばす。

 

「キャア!」

 

その衝撃で樹の上にいたカラーが樹から落とされ、マッスルオウゴンダマはそのままの反動でケッセルリンクに向かって、手を交差し―――フライングクロスチョップの形で跳んでくる。

 

「クッ!」

ケッセルリンクは横に跳んでその一撃を避ける。

(こいつは…!)

ケッセルリンクがいた場所は大きな穴があいており、その一撃の威力を嫌でも分からされる。

(しかし何故こいつは一々ポージングをする?)

マッスルオウゴンダマは動きも早ければその威力も絶大だ。

しかし、全ての行動後にポージングをするというのが非常に不可解だ。

だがそのおかげで体勢を立て直せるというのも事実だ。

(状況は何も変わらないがな…)

これで相手に攻撃が通じるというのであれば話は別だが、やはり攻撃が通じないというのが一番の問題だ。

相手の体勢を崩すことも出来ないし、相手の疲労を誘うことも出来ない。

だが、一番の問題は基礎能力のそもそもの違い。

自分はこうして息があがっているが、相手にはその様子が見られない。

幸いにもレダが相手についていけているというのが救いだ。

(ランス…頼む)

 

 

 

「だああああありゃ!」

 

ランスの一撃がオウゴンダマを打ち砕く。

以前よりも確かにランスの剣の腕は上がっている。

しかしランスは明らかに苛立っていた。

確実に相手は減っているだが、ランスが思っていた以上に減っていない。

理由はハッキリとランス自身理解していた。

(この剣では俺様の実力を発揮できんではないか!)

元々ランスは今手に持っているようなショートソードは使用しない。

冒険の時お金が無い時は使用していたが、ここ最近は魔剣カオスを使用していた。

魔剣カオスは大陸でも類を見ないほどの切れ味を持つ剣…言わばランスはここ最近剣に困ることが無かった。

だからこそ分かる、今自分が持っている剣の弱さに。

それでもランスが自分に合わない剣でこれほど戦えているのは、その技能レベルが圧倒的だからだ。

 

「ランスアタァァァァーック!!」

 

ランスの必殺技がオウゴンダマを真っ二つに叩き割る。

その衝撃にランスの持つ剣が悲鳴を上げる。

(クソ、持ってあと1、2回か!)

手持ちの武器がそろそろ限界なのを嫌でも理解させられる。

しかしモンスターの数はまだ多い。

が、オウゴンダマは確実にその数を減らしている。

ランスはケッセルリンク達の方を見るが、そちらはレダがなんとか防いでいるようだ。

だがしかし、無敵結界の壁に阻まれ有効な一撃は与えられていない。

防御だけで手一杯なのだ。

ランスは苛立ちを隠せないまま、ナマリダマに斬りかかった。

 

 

 

魔人の猛攻は途切れることなく続く。

しかしレダは魔人の攻撃を実に巧みに捌いていた。

(見切れる…!)

相手の攻撃を受けている内に、レダは気づいた。

この魔人はそこまでの強さを持つ魔人ではないと。

恐らくは魔人になって間もないのだろう。

そしてレダが相手の攻撃から感じた違和感。

それはこの魔人は格闘技能の使い手なのか、という疑問だ。

確かに相手の攻撃は素手ではあるが、その攻撃方法は格闘かと聞かれれば少し疑問に思う。

威力は高いが、それは魔人であればある意味当然の事だ。

相手のパンチやキックは今の自分でも十分に捌くことが出来る。

何よりも攻撃が大ぶりなせいで、避けることもある程度ならば容易い。

エンジェルナイトの中でもガードに長けた自分ならば、今のレベルでも十分に防ぐことが出来る。

が、時には非常にひやりとさせられる時もある。

(来る…!)

時たまこの魔人が行う奇妙な攻撃方法。

魔人が突如として自分達に背を向ける。

本来であればここは攻撃の機会―――エンジェルナイトの自分ならば十分に一撃を与えられる瞬間。

しかしここでレダは一歩後ろに下がる。

何故なら、その魔人は後ろ向きのまま跳び上がったかと思うと、そのまま宙で回転し自分を体全体で押しつぶすような攻撃をしてくるからだ。

このように一見無駄に見える動作の攻撃が、凄まじい威力を持っているのだ。

魔人はすぐに立ち上がると、己の肉体を誇示するかのようにポージングする。

(なんでこいつは自分で隙を作ってまでこんな事をする?)

戦いの中でこのような行為は自滅行為だ。

魔人は決して無敵の怪物という訳では無い。

だが、この魔人は最早本能レベルと言わんばかりに己の肉体を誇示するのだ。

一方のケッセルリンクは完全にレダのサポートにと回る。

魔法バリア、付与魔法と実に多才な技能で立ち回っていた。

ケッセルリンクはレダのように優れた防御技術を持っている訳では無いが、やはりその経験はカラーの中ではずば抜けている。

相手の攻撃のタイミングはレダ程ではないが、理解している。

拳による攻撃は自分でも回避出来るし、相手の大技もレダが引付けてくれている。

周りの妨害が入らないのは、ランスと仲間のカラー達が食い止めてくれているからだ。

 

「ふぅ…」

 

ケッセルリンクは気を引き締め、相手の出方を見る。

自分達の攻撃が通らない以上、相手の出方を見極める以外に方法は無い。

魔人は姿勢を低くすると、そこから一気に加速して突っ込んでくる。

その攻撃そのものは避けるのは単純―――問題はその後。

相手は樹に突っ込むかと思えば、その樹を蹴りその反動でこちらに両の足を揃えての蹴りをしてくる。

(随分と派手な攻撃をする奴だ)

本来オウゴンダマは球体であり、その球体が拳の形をとって殴ってくるという攻撃が多い。

しかしこの暑苦しい肉体の上にオウゴンダマが申し訳程度に乗っている物体は、あくまでもその肉体だけで攻撃をしてくる。

そしてやっぱり組み込んでくるポージング。

時にはわざと隙だらけのようにすら見せてくる。

 

「ケッセルリンク! 大丈夫!?」

「問題は無い」

 

ケッセルリンクは強がるが、その肉体の疲労までは誤魔化す事は出来ない。

一撃も貰う事が出来ないという緊張感から、彼女の体力の消耗は想像以上に激しい。

魔人はやはりポージングしながら、こちらを一瞥している―――ように見える。

目、鼻、口等のパーツが無いのでそこからは何の感情も窺うことは出来ない。

すると突然魔人は跳躍する。

その跳躍の先は―――

 

「きゃあ!」

 

一人のカラーが樹から叩き落される。

魔人は目の前にいるレダとケッセルリンクを無視し、樹の上から矢を放っていたカラーに狙いを変えたのだ。

本来カラーは樹から落ちたくらいでは怪我などしない、が今回は落ち方が悪すぎる。

 

「クッ!」

「ケッセルリンク!」

 

だからケッセルリンクは走る。

これはもう彼女の性分―――そう、見捨てるわけなどいかないのだ。

ケッセルリンクは落ちてくるカラーを受け止める。

 

「ケッセルリンク様!」

 

そしてケッセルリンクが助けたカラーの眼に映ったのは、樹の上から落ちてくる魔人。

 

「行け!」

 

ケッセルリンクは腕に抱いていたカラーを放ると、ケッセルリンクは腰につけた剣を抜くが、

 

「うぐっ!」

「ケッセルリンク様ー!!」

カラーの悲鳴が響き、魔人の大きな手がケッセルリンクの喉を掴む。

そのあまりに強すぎる力は、ケッセルリンクでも対抗することは出来ない。

 

「この!」

 

レダが飛び掛かるが、魔人はケッセルリンクをレダに向かって振り回す。

ケッセルリンクが魔人の盾になる形で振り回され、流石のレダも手が出せない。

そして魔人はケッセルリンクの喉を掴んだまま、勢いよく地面に叩きつけた。

 

「ッ!」

 

ケッセルリンクの脳内を火花が飛び散り、短く呻き声を上げる。

(ここまで…か)

 

「ケッセルリンク様!」

「ケッセルリンク!」

 

アナウサの声が、レダの声がボンヤリと聞こえる。

そして魔人の手がケッセルリンクの喉から離れ、霞がかかった視界にその巨大な魔人の体が映り―――そして魔人が吹き飛ぶのは同時だった。

彼女が見たのはあの時と同じ光景。

 

「貴様…!」

 

剣を片手に敵と対峙するその姿。

(ラン…ス)

 

「許さんぞ!」

 

ランスは剣を構え、魔人に斬りかかる。

 

「ケッセルリンク!」

 

その隙にレダがケッセルリンクをかかえ、ヒーリングをかける。

 

「レダさん! ケッセルリンク様は!?」

 

アナウサが目に涙を浮かべ、ケッセルリンクに寄り添う。

 

「…大丈夫! 頭を強く打っただけ! 致命傷じゃない!」

 

あれだけの力で喉を掴まれ、振り回され、叩きつけられても致命傷にはまだ遠い。

(でも何で?)

あれほどの腕力を誇る魔人ならば、ケッセルリンクの喉を掴んだ時に首の骨をへし折る事も可能だったはずだ。

そして地面に叩き付けた時も頭が砕けてもおかしくは無い。

だが、それでも彼女はまだ生きている。

(あの魔人…どういうつもり? いや、でもそんな事は後で考える!)

レダはケッセルリンクをカラーの一人に預けると、自分も剣と盾を構える。

 

「アナウサ!」

「はい!」

 

ケッセルリンクが無事なのを確認し、アナウサも弓を構える。

そこには凄まじい勢いで剣を魔人に叩きつけるランスの姿があった。

 

「凄い…」

 

アナウサも、他のカラーもランスの強さは知っているつもりだった。

だが、実は自分は本当のランスの強さを何も知ってはいなかったのだと思い知った。

なんとランスはレダとケッセルリンクが二人がかりで戦っていた魔人に対し、一人で渡り合っていた。

無敵結界があるので、ダメージは与えられない。

しかし無敵結界でも防げぬもの…その衝撃があの筋肉隆々のオウゴンダマを押していた。

 

 

ランスは怒りながらもその剣の腕は冷静だった。

(ぐぬぬ…やっぱり効かんぞ)

かつてランスは魔剣カオスを持っていないときに、魔人カミーラに手も足も出なかった過去がある。

(カミーラよりは弱いが…)

ランスがかつて戦った魔人…魔人四天王カミーラ、そして元四天王のノス、ザビエル等と比べれば確かに弱いだろう。

いや、それどころかつい最近に戦った魔人カイトにも及ばない

しかしそれでも魔人は人間を遥かに超える存在…決して気を抜ける相手ではない

そして何よりも無敵結界に阻まれ、ダメージを与えられないという現実がそこにはあった。

だが、ランスもただ闇雲に攻撃をしている訳ではなかった。

(こいつの戦い方、なーんか覚えがあるぞ)

過去にこのような強敵が存在していた、という事は無い。

むしろどうでもいい事の様で、本当に記憶の片隅にしかないのだ。

ランスの冒険者としての経験が知っている、という感じが近いのかもしれない。

しかしそうしたランスの思考は突如として中断させられる。

魔人が反撃に転じてきたのだ。

ランスの攻撃を強引に無視し、その体を捕まえるべく手を伸ばす。

その手を避けながら一撃を入れようとするが、それは無敵結界に阻まれる。

オウゴンダマは先ほどレダやケッセルリンクにそうしたように、樹を蹴りその反動でランスに向かって飛び掛る。

その攻撃をかわしながら、

(うーむ…何処だったか)

やはりこの攻撃パターンにランスは見覚えがあった。

この一見して無駄の多い…いや、確実に無駄とも言える行動、そしてこちらの攻撃を避ける素振すらない。

無敵結界のせいかと思ったが、それとは違うような気もしていた。

魔人がランスに背を向ける。

無論それは逃げるという行為ではなく、その場で空中に跳び、一回転しながらランスに蹴りを繰り出す。

ランスはその攻撃―――ローリングソバットを後方に跳ぶ事によって避ける。

しかしここからがランスの不幸だったとも言える。

本来であれば、そんな大技の隙を見逃すランスではない。

だからこそ、何時もの調子でランスは剣を構えてしまった。

ここ最近では当たり前になっていた行為―――魔剣カオスを手にしていた時の動きを。

 

「ランスアタァァァァーック!!…あ!?」

 

何時もと同じく力を込めた一撃をランスは放ってしまった。

その結果―――魔人はその衝撃に負けて吹き飛び、ランスの持っていた剣は根元から砕ける。

 

「あーーーーーー!!」

 

ランスが己のミスを悔やむ前にその魔人は襲い掛かってきた。

ランスアタックを放ち中腰になっていたランスの顔に魔人の膝が迫る。

その一撃にランスは吹き飛び、

 

「ランス!」

 

何とか立ち上がることが出来たケッセルリンクの悲鳴が上がり―――

 

「大丈夫! 当たってない!」

 

レダの言葉通り、吹き飛んだと思ったランスは受身をとるが、そのダメージは少なくないようだ

 

「え? あれ防いだの!?」

「剣の柄で防いだ!」

 

カラーの疑問にレダの声が響く。

しかし状況はより最悪の方に向かっている。

何しろランスは剣を失ってしまったのだ。

 

「一斉掃射!」

 

ケッセルリンクの指示にカラー達が一斉に矢を放つが、やはり無敵結界の前に阻まれる。

 

「あーもう! 無敵結界って本当に嫌になるわね! あんたのその筋肉は飾りかー!」

 

アナウサの怒りの声が森に響き―――魔人の動きが止まる。

 

「炎の矢!」

 

ケッセルリンクの魔法は魔人に当たるが、やはり魔人には傷一つつかない。

ただし、あくまでもその表面上は。

(…なんだ?)

ランスはその光景を怪訝な顔で見る。

ランスは無敵結界がどういうものかは、その身を持って知っていた。

今回もそうだが、かつてカミーラと対峙した時はランス以外にはガンジー達もいた。

そのガンジーのはなつ炎の矢もその無敵結界に阻まれ、カミーラの手前で霧散していた。

しかし今回は違う―――ケッセルリンクの炎の矢は間違いなく魔人に当たった。

 

「ランス!」

 

レダがランスを助け起こす。

先程の一撃を剣の柄で防ぎはしたが、その衝撃までは完全に防ぐことが出来なかったのだ。

カラー達の疲労は最早限界に近く、ランスもケッセルリンクもダメージを負った。

かろうじてレダだけはまだ大丈夫だが、全員を守りながら戦うことは出来ない。

 

「うぐぐ…もしかして俺様ピンチか」

 

魔人は悠々とこちらに近づき―――突如として自分達に背を向ける。

 

「ムシ!?」

 

魔人の背後に迫っていたのは、ムシであるヴェロキラプトルだった。

ムシはランス達を無視し、魔人であるオウゴンダマに襲い掛かる。

魔人も魔人で、襲い掛かる2体のヴェロキラプトルを相手どっている。

 

「今だ! 退くぞ!」

 

ランスの声に、全員がその場から逃げ出した。

 

 

 

―――カラーの里―――

 

「死者はいない…か」

 

何とか一人の犠牲者も出さずにその場から離れることは出来たが、結果はあまり良いとは言えない。

初めて戦った魔人という存在…その力に圧倒される結果に終わった。

(…この地を放棄しなければならないのか)

ケッセルリンクの表情は苦悶に満ちていた。

無敵結界の力の前には、自分達はおろかあのランスですら無力だったからだ。

そのランスも何かを考え込んでいるようで、珍しく一言も発しない。

 

「ケッセルリンク様…」

 

皆が不安そうにケッセルリンクを見る。

(そうだ、私がこのような事ではいけない。私には皆を守る…)

 

「がはははははは! やっぱりそうだ!」

 

突如としてランスの馬鹿笑い、何時もの笑いが周囲に響く。

 

「突然どうした?」

 

ケッセルリンクも突如として笑い始めたランスに戸惑いながらも聞く。

 

「フン、あの生意気なオウゴンダマを叩き割る手段が見つかっただけだ」

「何!?」

 

ランスの言葉に全員がランスの方を見る。

ある者は純粋な驚愕、ある者は諦めを持って、またある者は希望を持って。

 

「無敵結界を破る方法があるのか?」

「いいや、無敵結界自体は破れん。だが、あいつの無敵結界なら破れる!」

 

あまりに自身に満ち溢れたランスの声に、皆が驚く。

 

「そのためにはお前達…いや、カラー全体の協力が必要だがな」

 

 

 

 

 

「驚いたわね…」

 

魔王スラルはカラーと魔人の戦いを遠隔目玉にて全て見ていた。

カラーがどうなろうとスラルにはどうでも良かった。

自分は魔血塊を飲み込んだオウゴンダマを始末しに来ただけだったのだが、思わぬものを見てしまった。

魔人が戦うのを見るのは無論初めてではない…無敵結界が無かった頃は、魔人すらもあの強力なムシに倒される事もあった。

だが、無敵結界が出来てからはもう一方的な蹂躙にすぎなかった。

カミーラ等は狩の楽しみを味わうために、あえて無敵結界を発動させない事もあるらしいが、基本的には使用している。

しかし今回の戦いはカラー…そして人間が協力し、魔人と中々の戦いを繰り広げていたからだ。

 

「あのカラー…いいわね」

 

その中でもスラルの目に留まったのは、カラーにしては珍しいショートカットのカラー。

 

「ケッセルリンク…だったかしら」

 

魔人を前にしても決して退かないあの態度、そして危険を顧みずも仲間を助けようとするあの心。

魔王としてあの存在が欲しくなった。

これはガルティアを欲しいと思ったときと同じだ。

 

「そしてあの金髪の女…」

 

あの女は人間ではないとスラルは感じていた。

あの状況では理解出来ていたものがいるとは思えないが、彼女の剣は魔人の肉体は傷つけられなくともその無敵結界を無視していた。

あんな存在は自分も見た事が無い。

 

「…まさか神、か?」

 

自分の願いを叶えてくれた神ならば、当然無敵結界など無視する事が出来るだろう。

だとすれば彼女は神又はそれに仕える存在であってもおかしくはない。

 

「最後にあの人間…」

 

スラルが特に目を引いたのは人間の男だ。

ガルティアはムシを扱うだけでなく、剣の腕も一流だ。

が、スラルの見立てではあの人間は剣だけならばガルティアをも上回るだろうという予感があった。

最初は皆魔人の前に殺されるだろうと思った。

しかし結果は誰一人欠ける事無くその場を撤退して見せた。

あの時ムシが現れたのは偶然だが、時にはその偶然が働くことも彼女は理解していた。

そしてカラーの集落に戻った時のあの言葉…

魔人を倒す手段が見つかったという言葉はスラル自身が確かめてみたくなった。

もし無敵結界に欠陥があるのだとすれば、それを調べる必要も出て来る。

 

「でもその前に…」

 

スラルはあの男の強さを見たくなった。

彼の持つ剣が実力に見合っていないのはすぐにわかった。

 

「少し…助言くらいしてあげてもいいかもしれないわね」

 

そう、自分は教えてやるだけ。

見つかるかもしれないし、見つからないかもしれない。

それはあの人間次第

 

「久々に…楽しくなりそう」

 

スラルはそう言うとカラーの里に足を進める。

SS420年、魔王は再び動き始めた。




マッスルオウゴンダマ
どこにも需要は無いけどやっぱりアリスゲームなら筋肉ですよ筋肉!
でもやっぱり描写って難しい…


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剣を求めて

今回のネタはちょっとネタ被りがあります…
でもランスなら絶対こうするよね


「みんながんばれー」

「えっほ、えっほ」

 

カラー達は皆一心不乱に作業をしていた。

ある者は樹を切り、ある者はその樹を一枚の板に変え、またある者は蔓を使ってロープを作っている。

 

「でもランスさん…こんなの作らせて何するのかしら?」

「何でも魔人を倒すためみたいだけど…」

 

ランス達が魔人と戦って数日、あれからは幸い何も起きてはいなかった。

ムシ達は見つかっていないし、魔人も出現していない。

 

「ほら、急いで。ランスさん達が戻ってくるまでに作っておかないと」

「はーい」

 

カラー達は今ランスに頼まれある物を作成していた。

彼女達にはそれが何かは分からなかったが、魔人を倒すためには必要なものとの事だ。

 

「ううう…本当にこんな格好をする必要あるの?」

 

カラーの女王、ルルリナは顔を紅潮させ体をもじもじと震わせていた。

 

「ランスさんの事だから趣味って可能性もありますけど…でも必要ならやるしかないですよ」

「もう…本当にランスさんは…」

 

カラーは一丸となって、魔人に対抗すべく力を集結させていた。

 

 

 

「がははははは!」

「いやーん」

 

ランスの剣がベベターをあっさりと斬り捨てる。

 

「いやー流石ランスさん。カラーだけならこうも上手くは進みませんからね」

アナウサ・カラーがモンスターの死体を探る。

モンスターはたまには宝箱を持っている奴がいるので、こうした作業も必要なことだ。

 

「しかし…随分と奥まで来たものだ」

 

ケッセルリンクは周囲の空気に若干不快そうな顔をする。

カラーはこういった迷宮の空気を好まない。

それでもここにいるのは、ランスに頼まれたからだ。

 

「ランス。本当にここにお前の望む物があるのか?」

「ああ、間違いない」

 

ランスは自信たっぷりに頷く。

 

「その根拠は何処にあるのよ…」

レダは若干不審そうな顔をするが、ランスの自信はまったく揺るがない。

何故なら、ランスはこの迷宮に来たことがあったからだ。

 

『廃棄迷宮』

 

後年そう呼ばれる迷宮にランス達は来ていた。

 

「でもここ…悪魔系のモンスターも沢山いますねー」

 

この迷宮についてきた、メカクレ・カラーは興味深そうに倒れ付したベベターに触る。

 

「うむ…」

 

悪魔系のモンスターが多い、という言葉にランスは少し顔を曇らせる。

この迷宮はランスにとっても苦い記憶がある所だ。

ランスが契約していた悪魔、フェリス―――彼女が同僚の悪魔に犯され、精神を病んでしまった一件。

流石のランスも悪いことをしたと思っており、その記憶は今でも消えていない。

以前はカオスをサルベージするために来たが、今回の目的は別の物…今のランスの使用に耐えることが出来る剣を探すことだ。

 

「剣…かあ。でも今のランスの技術に耐える剣が本当にここにあるの?」

 

レダは若干懐疑的だ。

まだ年若いエンジェルナイトである彼女は、この迷宮がどんな迷宮なのかは知らなかった。

だが、ベベターやくずの悪魔がいるからには全力で排除をしていた。

 

「間違いない。俺様のカンが告げている。絶対ここにあるとな」

 

ランスは廃棄迷宮に来る少し前を思い出す。

それは魔人オウゴンダマから逃げた夜の事…

 

 

 

「うーむ…」

 

ランスは新しく受け取ったショートソードを手に唸っていた。

そこそこの切味を持ち、扱いやすい剣ではあるだろう。

しかし今のランスからすれば脆く感じる。

剣戦闘LV3、それは莫大な力を与えると同時に武器を選ばざるを得ない状況となっていた。

全力で振るえばそれだけで剣が磨耗し、壊れてしまう。

ランスにはあの魔人対する対抗策は浮かんでいたが、そのための一手がまだ足りない。

やはり最後に必要になるのは自分の力だ。

勿論あの魔人を倒す自信はあるが、それでも万全の体制を整えておきたかった。

 

「まあ俺様には奥の手があるがな」

 

ランスは不敵に笑う。

 

「だが、どうすればケッセルリンクとやれるか…」

「何か悩んでいるようね」

「あん?」

 

その声は突如として聞こえてきた。

(…気配がまったく感じられなかったな)

ランスも一流の冒険者、レンジャー程ではないが相手の気配を掴むのはお手の物だ。

そのランスに一切悟られる事無く、目の前にその少女は存在していた。

白髪灼眼、やや耳が尖った10代半ばの少女が目の前に居た。

 

「おお…」

 

その美少女はランスにとって勿論大当たりの美少女だ。

(ちょっと胸元が寂しい気もするが…まあこのくらいの年齢ならば普通か)

 

「我がお前の悩みを解消してやろうと…」

「がははははは!」

 

その少女の言葉を無視するようにランスは少女に近づく。

 

「うーむ、少々小柄だか中々ではないか! 95点!」

「…は?」

 

少女―――魔王スラルは驚いてた。

自分は確かに今は魔王としての気配は隠している。

それでも普通は突然人が現れれば驚くのが普通なのだが、この男は驚く素振も見せずに自分に近づいてきた。

 

「うむうむ。俺様に会いに来たのだろう」

「確かに我はお前に会いに来たがそれは…」

「流石俺様。レダといいケッセルリンクといい、俺様にはやはり美女を引き寄せる力があるのだ」

 

ランスはスラルの前に立ち、その小さな体を抱きしめる。

 

「うーむ、小柄だが俺様の手に納まるサイズも悪くない」

(え、ちょっと待て。もしかして我は今抱きしめられているのか?)

「おー肌もぷにぷにだ」

「え、あ、ちょっと…」

 

スラルは自分に対して遠慮無く触れてくる人間に困惑する。

(あれ、そういえばこうやって誰かに触られたことってあったっけ?)

今までの自分の過去を振返る…が、当然誰かに触られた記憶など存在しない。

彼女は生まれながらにしての魔王。

最初から全ての魔物は自分に傅き、人間は自分に恐怖する。

中には例外…ドラゴンやハニーはいるが、自分に触れる存在など皆無のはずだった。

目の前にいる人間以外は。

 

「どれどれ、こちらの方も…」

 

ランスの手がスラルのお尻を撫でた時、

 

「き、き、き、き…」

「あ、なんか昔こんな事があった気が…」

「きゃあああああああああ!!!」

 

魔王スラルは爆発した。

 

 

「はぁ、はぁ…」

(な、何なのコイツ!?)

 

まさか魔王に対してこんな事をしてくるとは…!

いや、それ以上に初対面の女性に対してこんな事をしてくるなんて。

(あ、大丈夫かしら…)

思わず力が漏れてしまったが、倒れている男が死んでいないのをみて安心する。

 

「あー良かった」

 

せっかく面白いモノを見れそうだというのに、それを自分が消してしまっては意味が無い。

 

「念のため周囲に気づかれないように結界張ってて良かったわ」

 

この人間との邂逅を知られないため、周りの音を遮断する結界を張っていたのが良かった。

まさか自分が魔力を爆発させる事になるとは考えていなかったが、正解だったようだ。

 

「でもこれ…どうしよう」

 

未だに気絶しているランスを見て、魔王はため息をついた。

 

 

「むにゃむにゃ…ぐふふ…シィルもレダも良いではないか…」

 

気絶していると思ったのに、呑気な寝言を言っているランスにスラルは少しイラついていた。

 

「こいつは…」

 

あまりにも腹が立ったので、その鼻を塞ぐ。

 

「むが…むが…むぐっ!? プハッ!」

 

息が上手く出来なくなったランスが飛び起きて咽る。

 

「貴様! 何をする!?」

「それこっちのセリフでしょ! 我にあ、あんな事をしておいて…」

「あんな事…?」

「分からないという顔をするな! お前は初対面の者の尻に手を出すのか!?」

 

(いや、まて落ち着け。我は魔王だ。この人間のペースに乗せられるなどあってはならぬこと)

スラルは一息入れると、当初の目的を思い出す。

(そうだ、我はこの人間にヒントを与えてやりに来たのだ)

 

「さて人間、先にも言ったが我はお前の悩みを解消してやるために来た」

「あん?」

 

突然の少女の言葉にランスは首を傾げた。

確かに只者ではないと思ったが、悩みを解消とは何を言っているのか分からなかったからだ。

 

「つまりはセックスさせてくれるという事か?」

「…は?」

 

ランスの言葉に今度はスラルが首を傾げる。

 

「いや、お前は自分に見合った剣を欲しがっていたのではないか?」

「は? 別に俺様はそんな事で悩みはしないぞ。俺様はどうすればケッセルリンクとヤれるか考えていただけだ」

 

その言葉にスラルは今度こそ言葉を失った。

(この男…自分の剣の事でなやんでいたのではなくて、女を抱く事を真剣に考えていたのか…)

それはスラルにとっては初めての衝撃だった。

知っている人間は大抵は愚かだった。

ガルティアの力に嫉妬し、裏切った人間。

命乞いのために己の妻子すら差し出す人間。

モンスターという存在がありながらも人間同士で争う事も珍しくない。

この男も愚かなのだろうが、その愚かのベクトルが常人とはかけ離れていた。

(あれだけの才能が有りながらも、求めるのは女だとは…)

スラルは軽くショックを受けていた。

確かに面白い人間だとは思ったが、ここまでアレな人間だとは思っていなかった。

 

「そうか! 君がケッセルリンクのかわりにヤらせてくれるという事だな!」

「なんでそうなる!?」

 

ランスのあまりの言葉に思わずスラルは威厳も投げ捨てて突っ込む。

 

「いやだってお前は俺様の悩みを解消してくれるのだろう」

「やっぱ無しで。我はお前に相応しい剣があるという助言をしに来たのだ」

「なんだ、つまらん」

 

ランスは本気でがっかりしたように肩を落とす。

これほどの美少女は中々お目にかかれるものではない。

レダのように自分のために美少女がやってきたのかと思ったが、そうでは無いらしい。

「いや、普通強い武器が手に入ると聞いたら喜ばないか?」

「別に…まあ今まで武器に困ったことは無いからな」

過去を思い出せばランスは武器に困ったことなどほとんど無かった。

リーザスでの行方不明の件では確かに自分の剣を担保に差出したりはしたが。

カスタムの時はリアからリーザス聖剣を借りたり、ヘルマンが攻めてきたときにはカオスがあった。

カオスが無い時も、適当に冒険をしていれば何だかんだ強い剣を持ってはいた。

 

「でも今は困ってるでしょ」

「まあそうかもしれんが、俺様なら何も問題は無い」

 

あまりにも自身に満ち溢れた言葉に、スラルは呆れるよりもむしろ感心してしまう。

こんな人間は当然の事ながら、今まで見たことも聞いたことも無かったからだ。

 

「それに君が助言してくれるのだろう?」

「…つまらんと切り捨てた割にはアテにするのね」

(中々図太い人間ね…)

 

だが不思議と不快な気持ちはわかなかった。

ここまで自分に正直だとむしろ安心してしまう。

少々…いやかなりの女好きのようだが、ガルティア同様に裏表の無い人間だと感じた。

 

「まあ我も寛大ゆえに助言はしてやろう。だが、そこから見つけられるかはお前次第だ」

「俺様に不可能は無い」

「ふふ…その言葉が何時まで続くか見物だな。お前の探す剣はココにある」

 

スラルが取り出したのは1枚の地図。

学者系の彼女はすぐにこの世界の地図を作り出した。

ケイブリスとメガラスの協力もあり、この地図は意外と早く作ることが出来た。

そしてスラルはこの地図を元に、4つの黄金像を探し出しプランナーに謁見を果たし『魔王は殺せない』という願いを叶えてもらった。

これこそがスラルの魔王としての第一歩であり原点。

その地図の一部が光り輝いている。

 

「ここは…うーむなんか覚えがあるな」

 

地図を見ていたランスは何かが記憶に引っかかっていた。

その光っている場所はゼス地方…ランスはゼスにおいての動乱の中心人物であり、それこそ色々な迷宮や施設を回った過去がある。

だが、不思議とこの場所には覚えがあった。

 

「確か…あ」

 

そこでランスは思い出した。

それはランスにとっても苦い記憶…珍しくランスが後悔した過去。

 

「廃棄迷宮だったか」

「廃棄迷宮?」

 

ランスの言葉にスラルが反応する。

スラルが知っているその迷宮は確かに特別な迷宮の一つだが、特に名称は無かった…というよりもスラルも特に名前には固執していない。

 

「廃棄迷宮…いいわね」

 

スラルはその名前に笑みを浮かべる。

確かにいい名前だ…あの迷宮の本質をしっかりと表している。

あの迷宮はこの世界のみならず、異世界から来たと思しき物も流れ着いている。

中には本当のゴミもあるが、中にはスラルすらも驚く物も存在している。

 

「知っているなら話は早いわね。そこに行けばあなたの望む物が手に入るかもしれない」

「うーむ…まあやる事も無いし行ってみるか」

 

あまり良い記憶は無いが、もしかしたら何かあるかもしれないという思いもある。

あの時はあくまでカオスの回収のために向かった事と、フェリスの事もありよく探索していなかった。

この際、色々と見てくるのもいいかもしれない。

ランスは無類の女好きであると同時に、大の冒険好きだ。

女を求めて、貝を求めてと色々なダンジョンを巡っていた。

(なんかここまで話すのに大分時間がかかったわね)

スラルはようやくここまで話が進んだとため息をつく。

たかが剣がありそうな場所を教えるだけなのに、えらい回り道をしてしまった。

 

「後はお前次第…我の期待を裏切ってくれない事を願うぞ。ランス」

「…俺はまだお前に名乗ってなかったはずだがな」

「我は何でも知っている。お前が魔人と戦っていることもな」

 

スラルはここで冷笑を浮かべる―――というのはあくまで本人の願望。

(なんか子供が無理して背伸びをしているような感じだな…)

本人は冷笑を浮かべているつもりでも、ランスの目から見ればそれは子供が得意げな顔をしているように見えた。

スラルはランスに背を向け、その場から立ちさって行く。

 

「で、お前の名前は?」

 

スラルはそこでランスの方を振り向き、

 

「お前が魔人を倒せば嫌でも我の名前を知ることになる。知りたければ魔人を倒して見せるのだな」

 

そしてスラルはやはり得意げな顔をしてその場を振り向き―――本人の体からすればやたら大きなマントの裾を踏みつけ、その場に顔面から倒れる。

 

「………」

「………」

 

その場に奇妙な沈黙が流れ、スラルは無言で立上り体についた土を払う。

 

「と、とにかくそういう事だ。人間の力とやらを我に見せてみろ」

「…お前、もしかしてドジっ子?」

「断じて違う。とにかく、我の期待を裏切るなよ」

 

そう言ってスラルは今度こそその場を立ち去っていった。

 

 

「とにかく、ここには俺が望むアイテムがあるのだ」

 

根拠の無い自信ではあるが、何故かこの男ならありえる…と思わせる何かがある。

 

「お前がそうまで言うのならば信じるが…」

 

ケッセルリンクもそこは疑っていないが、やはり皆が心配なようで眉間に皺をよせる。

自分達がいなければ、いざ魔人やムシの襲撃があった場合は対処が出来ないからだ。

 

「でもランスさんて剣が凄いだけじゃないんですねー」

 

メカクレがランスの腰をパンパン叩く。

 

「そういえばそうだな…随分と手馴れているな」

 

ケッセルリンクも意外そうに頷いた。

この迷宮に来るまでに少しの時間がかかっているが、そこまではずっとランスの指示で動いてきた。

サバイバル技術等、冒険に必要な技術はランスは全て備えていた。

マッピングこそアナウサ任せだが、それ以外の主導はランスによるものだ。

 

「俺から言わせれば普通なのだがな」

 

ランスは過去に冒険のイロハを全て叩き込まれていた。

過去に思うことは少しあるが、その技術はランスの体に染み付いていた。

そして何より長い歴史の中の唯一の冒険LV2の持ち主なのだ。

 

「そんな事はどうでもいい。こんな所はとっとと終わらせるに限る」

 

ランスはどんどんと足を進めていく。

何しろランスは過去に来たことがあり、大体の道筋は覚えている。

だからこそ、見覚えのある分かれ道にはすぐにたどり着く事が出来た。

 

「サルベージの者か。何を探しておる。我が名はクシイパン。物を探しているなら右へ行くがよい。心を探しているなら左へ行くがよい」

 

「よし、右へ行くぞ」

 

ランスは躊躇わずに右へ行く。

左の方はランスも思い出すのも憚られた。

 

「ランスさん、ここに来たことあるの?」

 

ランスの迷いのない行動に、アナウサが疑問をぶつける。

 

「そうね…結構分岐点あったけど、迷う事無くここまで来たものね」

 

レダも不思議に思うが、

 

「そんな事はどうでもいいだろ。とっとと探す物探して脱出するぞ」

 

ケッセルリンクやレダはランスの言葉に含むものを感じたが、何となくランスが不機嫌になっているような気がし言葉は発しない。

(この男もこんな表情をするのだな…)

カラーとして長く生きているケッセルリンクは何となくランスの表情が分かる。

常に自信に満ち溢れ、何事も楽しんでいると思っていたが、そこに見えたのは少しの後悔に見えた。

(…まあ触れまい)

気にはなるが、この男は恐らく教えてくれないだろう。

人には誰しも触れて欲しくない部分があるものだと納得する事にした。

 

「サルベージの者か。何を探しておる。我が名はクシイパン。エロを探しているなら右へ行くがよい。伝説を探しているなら左へ行くがよい」

「よし右だな」

「「「「おい!」」」」

 

ランスの行動に全員が突っ込みを入れる。

 

「ってもう後戻り出来ないじゃない!」

 

レダの怒声が響く。

 

「む…罠か!?」

「いや、引っかかるのランスさんだけですよ…」

「今までの時間って何だったんですかねー」

「お前という奴は…」

 

仲間の非難の嵐に流石のランスも居心地が悪くなる。

 

「がはははは! お前ら行くぞ!」

 

だからこそそれを誤魔化すように笑いながら進んでいく。

 

「はぁ…」

他の皆はため息をつきながらそれについていく。

しばらく道なりに進んでいくと、

 

「…わはははは…」

 

「あん?」

 

ランス達は足を止める。

聞こえるのは何故か笑い声だ。

 

「何でしょうかねー」

「誰かいるのかしら」

「悪魔なら叩き殺すだけだけど」

「警戒は必要だがな」

 

その場に隠れながらランス達はその笑い声の主を見る。

そこにいたのは獣と人が合わさったような悪魔だった。

悪魔が酒盛りをしていた。

 

「…なんだありゃ」

 

満月に近い夜…ランスには本来会うはずのない存在との邂逅が待っていた。

そしてそれこそがランスの、そしてそれに関わる存在の運命を確実に変える出会いでもあった。




今回のネタの一つはネタ被りがあります
ここに作者様に深くお詫び申し上げます


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悪魔との邂逅

やっぱランスには武器よりエロよ
エロのために全力をかけるのがランスです


「がはははは!」

「わはははは!」

薄暗い空間に二人の笑い声が響く。

(うう…どうしてこんな事に…)

エンジェルナイトのレダは、今の状況に生きた心地がしなかった。

ランスと獣の悪魔は互いに馬鹿笑いをしながら酒を酌み交わしていた。

「いやー人間も色々と苦労してるんだな!」

「ふん、俺様にとってはこの程度苦労になどならんわ」

獣の悪魔がランスの肩をバンバンと叩き、上機嫌に酒を飲んでいる。

取り巻きの女性悪魔はランスと獣の悪魔だけでなく、レダ達にも酒を注いでいる。

「どうぞー」

「あ、ありがと…」

レダは複雑な表情で酒を受け取る。

エンジェルナイトと悪魔は不倶戴天の敵であり、断じて酒を酌み交わすような相手ではない。

相手ではないが…

(ちょっと状況が悪すぎでしょ…)

エンジェルナイトのレダには嫌でも分かってしまう。

今ランスと酒を酌み交わしている悪魔は明らかに自分達よりも上…いや、恐らくはあのオウゴンダマの魔人どころか魔王すらも上回る存在。

そんな悪魔が何故か一介の人間と親しく酒を飲んでいる状況に混乱する。

「いやーでも人間もやっぱりエロが好きなんだなあ」

「男でエロい事が嫌いな奴などおらんだろ。いるとすれば不能かホモだ」

ランスと獣の悪魔は割と好き勝手な事を言いながら酒を飲む。

「大体エロに神も悪魔も人間も無いだろう」

「そうだそうだ! エロは世界の共通言語だ!」

(こいつらは…)

人間と悪魔がエロで意気投合するなど、天使の常識としては考えられない。

大体悪魔というのは、創造神の魂を掠め取り創造神に成り代わろうする連中だ。

ただ、その割には消極的であり目立たないように行動する。

レダとて何体もの悪魔を倒してきたし、第1階級魔神ネプラカスが管理する悪魔回廊を監視してきた。

悪魔は魂の輪廻を邪魔しする創造神の敵であり、人間を堕落させる存在…それがレダの認識だった。

(なのに…)

この獣の悪魔はひたすらランスとエロトークをしている。

人間を決して見下す事無く、どちらかというと非常に大らかな雰囲気だ。

「さて…」

ギラリ、と悪魔の眼が光る。

その眼を見てレダだけでなく、ケッセルリンク達カラーも身震いする。

それほどの恐ろしくも鋭い眼光…まさに獣と悪魔が融合した眼。

「お前は今までどんなエロい苦労をしてきた」

獣の悪魔の言葉にレダ達はずっこける。

「俺にはわかる。お前は絶対エロい事で苦労をしてきた男だ」

「…分かるのか」

「ああ…俺とて同じ…俺も今猛烈に悩んでいるのだ」

あんまりと言えばあんまりの言葉にレダは絶句する。

しかしランスはその言葉に共感を覚えたらしい。

「まあ俺様も色々な女とHしてきた…悪魔ともやったし天使ともやったし魔人ともやったし魔王ともやった」

「おお…」

ランスの言葉に獣の悪魔は感嘆の声をだす。

「だが…俺様の自信もある言葉で砕かれた…」

「お前ほどの人間の自信が砕けるだと…」

(いや、何でアンタもそんなに驚愕してるのよ…)

ランスの言葉は何時もに比べると非常に重い。

(そしてアンタもアンタで何でそんな事でシリアス気味になってるのよ…)

「俺様はデリカシーもムードも無いと」

((((あー…))))

この言葉にはレダとカラーの3人も内心頷く。

この男にそれを期待するのは些か難しいだろう。

「な、なんと…」

獣の悪魔は本気で驚愕し、慄いている。

「そんなに上手じゃないだの…」

「うぐ…」

「入れて、早く動かすだけというのはテクニックではないだの…」

「ぬぐぅ…」

「まあ色々といわれた」

「お前にそんな過去が」

(なんか何時の間にか友達っぽくなってるし…内容は最低なのに)

獣の悪魔は本気で悩み、女性型の悪魔も何故か頷いている。

(でもランスって…その…最初はアレだったけど今は凄いと思うんだけど…)

レダはランスとの逢瀬を思い出し一人頬を紅く染める。

「後は俺様のハイパー兵器がでかすぎるからもっと小さいほうが丁度いいとか言われたり…」

「ああ…それはどうしようもないな」

獣の悪魔がランスを慰めるように肩を叩く。

「まあ俺様も散々言われた…」

「分かる…分かるぞ…」

女性型悪魔が無言で獣の悪魔から目を逸らす。

どうやらそういう事らしい。

「さらに俺様には試練が降りかかったのだ」

「まだあるのか!?」

((((まだあるのか(んだ)…))))

獣の悪魔とレダ達の心の声が一致する。

「LV35以上の相手としかセックスできず、しばらくヤらないとホモになる上に、ヤった相手のレベルが1になる呪いをかけられた」

「な、なんという恐ろしい呪いだ…」

ランスの言葉に獣の悪魔は本気で冷や汗を流し、取り巻きの女性悪魔もざわざわと騒ぎ出す。

「それで…お前はどうしたのだ?」

「無論探した。俺様ほどになればLV35の女は沢山いたが、1発しか出来ないという事実が俺様に襲い掛かった…」

「なん…だと…」

1発しか出来ないという言葉に獣の悪魔は本日何度目かの戦慄を味わう。

条件が厳しい上に、しかも1発しか出来ない…それもしばらくするとホモになる…それは正に地獄の苦しみだ。

「お前…凄い苦労をしたのだな…」

「フン!」

が、ここでランスの雰囲気が一変する。

今までの重苦しい空気から、普段のランスの態度へと変わっていく。

「だがしかーし! その苦労をしたからこそ俺様は大人になった!」

(ランスさんが大人…?)

(どうみても大きな子供にしかみえませんねー)

(むしろ大人になってこうなのか…)

(大人の定義ってなんだっけ…)

「俺様も一人一人じっくりと女を可愛がるまでに成長したのだ!」

「「「おおーーーー!」」」

獣の悪魔と女性悪魔達が一斉に拍手をする。

ランスは腰に手を当てて何時ものバカ笑いを上げる。

「凄いなお前。普通ならホモになって終わってるぞ。ちなみに俺がホモになったら間違いなく自殺するな」

「俺様も自殺を考えた…だが俺様は最後まで諦めなかった。だから今の俺様があるのだ」

「で、それからはどんな性生活を?」

獣の悪魔が興味深げに聞いてくる。

「…聞きたいのか?」

「是非」

ランスはここで悩む―――素振りを見せる。

悪魔達に背を向けた形になるが、レダ達はランスのその悪い笑顔を見てしまった。

ランスは再び振り返ると、その顔は苦悶に溢れていた…もちろん外面だけ。

「俺様も話してやっても構わんが…しかし相手のいる事だからなぁ…」

「む…」

ランスの言葉に獣の悪魔は言葉に詰まる。

「確かに悪魔ならともかく、人間ならば嫌がるか…」

(あんたもそこで納得するのか…)

レダは今日何度目かの突込みを心の中で入れる。

「しかーし! 俺様も寛大だ。どーしても言うのならば構わんぞ」

「ほ、本当か!?」

「だがタダと言うのはな…俺様も自分の女の話をするのは少し躊躇うがな…」

「なんと…」

獣の悪魔はその大きな手で頭を抱える。

「ちょっと! ちょっとランス!」

「ん? なんだ」

レダとケッセルリンクは悩んでいる悪魔を前に、ランスに手招きする。

「どういうつもりよ。相手は悪魔よ」

「ランス…危険すぎるのではないか」

「そんな事分かっているわ」

三人は小声でヒソヒソと話す。

レダはここで悪魔を見るが、未だに悩んでいるようだ。

「悪魔と取引なんて危険よ。私はアンタを悪魔から守るために来ているのよ」

「それにお前に何かあっては今までの苦労が水の泡だ。カラーの未来も危うくなる」

「…そういやそんな事を言っていたな。だが大丈夫だ。ケッセルリンクもだ」

ランスはそういってニヤリと笑った後で、好色な笑みを浮かべる。

(そうだ。そう言えばレダは俺様を悪魔から守るという事で来たんだったな)

そこでランスは一つ閃く。

それは自分の目的を果たすとともに、自分の欲望を満たすまさに一石二鳥の閃き。

「レダ、ケッセルリンク。お前達は俺様の事が心配なのだろう?」

「私は任務なの任務。アンタが悪魔と契約したなんて事になったら、任務失敗どころの騒ぎじゃ無いのよ」

「…今はお前が頼りだと言わざるを得ないからな。それに…」

ケッセルリンクはあの時の事を思い出す。

自分がヴェロキラプトルに一撃を受けた時のランスの言葉と顔を。

(まあ私も女だ…という事なのかもしれないな)

「まあとにかく俺様に任せろ。多分お前達の協力が必要になると思うしな」

レダとケッセルリンクはお互いに顔を見合わせる。

ランスのいう協力、というのが何を意味するのか分からない…というのもあるが、何よりこの男の考えている事はある意味計り知れない。

もしかしたらとんでもない事に巻き込まれてしまうかもしれないという不安、そしてこの男がどうやって切り抜けるのかという期待。

それらが合わさり、どうしても複雑な思いにとらわれてしまう。

ランスは獣の悪魔の方を向くと、

「がはははは! どーした!?」

「うぐぐぐぐぐぐ…聞きたいが悪魔としてそれはどうなのかとも思うし…」

獣の悪魔は揺れていた。

ランスはまるで悪魔のような笑みを浮かべて獣の悪魔に耳打ちする。

「ちなみにあの4人の中だとどれがタイプだ?」

獣の悪魔はランスと共にいた4人を見る。

金色の髪をした、まさにこの世のものとは思えぬ美女…スタイルもかなりのものだ。

カラーには珍しいショートヘアで、これもまたスタイルも抜群…そして何よりもあの目が良い。

後はなんか非常に五月蠅そうなのと、目が前髪で隠れたよくわからないの。

「あの金髪と、ショートヘアのだな」

(ぐふふ…予想通りだ)

この獣の悪魔と酒を飲んでいたのは何れも結構なスタイルの持ち主の女性悪魔だ。

明らかな人外の姿をしたのもいるが、やはり人型に近いのがほとんどだ。

そしてランスは悪魔の囁きをさらに続ける。

「もし俺様があの二人との行為を見せてやるといったらどうする?」

「な、なんだと…!?」

それは正に悪魔の言葉…いや、自分達は正真正銘の悪魔だが、この男の言葉はその悪魔すらも魅了する恐ろしい言葉だった。

「何が望みだ…」

「話が早いな。俺様はここに剣を探しに来た。悪魔のお前なら何か用意できるだろう?」

「剣…か。それは俺ではなく弟の担当なのだが…」

獣の悪魔は葛藤する。

弟は数多の武器の収集を趣味としており、契約によってその武器を貸し出したりもしている。

だが契約に厳しく、守らなければ即切り殺すという苛烈な一面を持っている。

「…よし、頼んでみるか」

獣の悪魔は即悪魔界に戻って行った。

 

 

 

「ランス、アンタ何言ったの?」

「あーそれなんだがな」

ランスは神妙な顔をして皆を集める。

「もしかしたら今回の目的を果たせるかもしれんぞ」

「何…では剣が見つかるというのか?」

「本当ですか!?」

「いやーランスさんって転んでもタダでは起きませんねー」

「だがな…」

ランスはここで苦渋の表情をする―――勿論演技なのだが。

「レダとケッセルリンクがセックスしてるところを見たいんだと」

ランスの立てた計画、それは悪魔との取引を利用しレダとケッセルリンクとHをする事だった。

あの悪魔がレダとケッセルリンクを見ていたのはランスも理解できた。

そしてエロい事が大好きだというランスと似たような性格。

さらには最近エロい事で少し悩んでいたという状況。

何よりもエロい事に全てをかけているというランスという男との出会い。

その全てがランスにこの計画を立てさせたのだ。

「………本当か?」

ケッセルリンクの眼が鋭くランスを射抜く、

まだ短い付き合いだが、彼女はランスとはどのような人間なのかをある程度理解はしていた。

その本質はまだ見抜けないが、分かっているのは無類の女好きである事と―――そして自分を抱きたいという確固たる意志。

「ランスさん! それは駄目ですよ!」

「アナウサ…」

「だってケッセルリンク様は…」

アナウサの目には涙が溜まり、その顔は紅潮している。

ただしその吐息は非常に酒臭い。

「もう100年ものの処女なんですから!」

「……は?」

「見てわかりませんか!? ケッセルリンク様と言えばカラーの中でもキング・オブ・処女!」

「ちょっと待てアナウサ」

「カラーではレズは禁忌ですが、そのカラーすらも惑わすカラーの中のお姉さま! でもぶっちゃけ処女!」

「アナウサ、お前いいかげんに…」

「そのケッセルリンク様に悪魔を満足させるHが出来るわけないじゃないですか! だって処女ですよ処女!」

「アナウサちゃん凄い酔ってる…」

アナウサは言いたいことを言うと、その手に残っている酒を一気に飲み干す。

「ほら! ケッセルリンク様のクリスタルはこんなに赤い! まさに処女の純潔…あだっ!」

「お前いい加減にしろ」

ケッセルリンクがアナウサの頭を叩く。

「何するんですかケッセルリンク様!」

「それは私の言葉だ。お前こそ何を言っているんだ」

「私は事実をですね」

「事実だから良いという話ではないだろう」

「まあとにかくだ! ケッセルリンク、大丈夫か?」

ランスはすまなそうに言うが、やはり口元には笑みが浮かんでいる。

それを見てケッセルリンクはこの日一番のため息をつく。

「ランス。本当に必要なのか?」

ケッセルリンクの眼差しは力強い。

嘘ならば許さないという強い意志を感じられる。

だからこそランスも、

「奴が必要というなら必要なんだろう」

力強く答える。

まるで後ろめたい事など無いという態度に、ケッセルリンクは取りあえず納得はした。

もしここにランスとの付き合いが長いシィル、かなみ、マリア、志津香が居れば止められただろう。

だが今彼女たちは存在しない…よってランスを止める事の出来る人間は一人もいない。

「まあ私も別に後生大事に処女を守っている訳では無い。私の処女一つでカラーの未来が開けるなら安いものだろう」

ケッセルリンクは普段と変わらぬ様子で話す。

彼女にとっては処女等別に気にするものでも無いのだろう。

「ねぇランスさんランスさん」

メカクレがランスの袖を引っ張る。

「あん? なんだ?」

「あれ…嘘ですよねー」

メカクレが他の二人に聞こえないように耳打ちする。

「…そんな事は無いぞ」

「いや、分かりますよー。でも別にランスさんを責めるつもりはないですからー」

「どういうことだ?」

メカクレは優雅に酒を飲んでいるケッセルリンクを見る。

「ケッセルリンク様…昔から私達を守ってくれてたんですよー。だからそろそろ一人のカラーとして生きるのもいいんじゃないかと思いましてー」

「あん?」

「それにケッセルリンク様の子供とかも見てみたいですしねー。ランスさんとならきっと凄い強いカラーが生まれますよー」

「お前…どういうつもりだ?」

メカクレは真剣な表情でランスの目を覗き込む。

「ランスさん…カラーの事を変な意味で知っているから」

「どういう事だ?」

「ランスさんが知ってるカラーと、今のカラーが一致しない…ランスさんそう思ってるでしょ?」

「むぅ…」

ランスは言葉に詰まる。

それはランスが常々思ってきた事…すなわちカラーという種族が自分の記憶と一致しない事。

ランスの知っているカラーは人間に対しては容赦が無かった。

パステル・カラーには酷い目にあわされたり(自業自得なのだが)、そのカラーの呪いの強さを身をもって体験している。

何よりも人間に対して非常に排他的であり、殺意も存在する。

が、ここではそんな事は無い。

人間だからといって命を狙われる事も無ければ、呪いをかけられる事も無い。

「だからー、ランスさんもあんまり遠慮する必要は無いんですー。むしろもっとガツーンと」

「…お前、変なカラーだな」

「そうですかねー。まあ私もそろそろですから」

「あん? 何だそろそろって」

「それは内緒ですー。まあ何が言いたいかというと、ケッセルリンク様をお願いしますという事です」

「お前がお願いするのか…」

メカクレはそこで微笑む。

「私、こう見えても誰よりも年上なんですよー。ケッセルリンク様も知らないですけどねー」

「なんと…」

ランスはメカクレの言葉に大いに驚く。

てっきりケッセルリンクが一番年上だと思っていたのだ。

「でもこれ内緒にしてくださいね。変に気を使わせるのも嫌ですから」

「別にそんな事誰にも言わんわ」

 

 

(…本当に御願いしますね、ランスさん)

メカクレは自分の過去を思い出す。

自分はあの森で生まれたカラーではない。

こことは違う場所…そこで生まれたカラーであり、今の森にいるのは黒髪のカラーのおかげだ。

魔人に襲われ、自分の住んでいた村は壊滅した。

そこを黒髪のカラーが助けてくれ、今の村に流れ着いた。

あの黒髪のカラーは、世界に散らばっているカラーを探しているようだが、大丈夫なのかと心配になる。

それからは苦労の連続だった…ケッセルリンクが生まれるまでは。

ケッセルリンクがカラーの先頭に立つようになって、ようやくカラーは安心して暮らせるようになった。

だが、ケッセルリンクすら及ばぬムシが現れたと思ったら、今度はモンスターまでもが現れた。

もう駄目かもしれない…そう思った時に現れたのがこの男だ。

不思議な人間だった。

あのような経験値は見た事も無いが、それでもその強さは本物だ。

何よりムシだけではなく、魔人とも戦おうとしているその意思の力…それこそが自分が無くしてしまった希望だ。

(あとどれくらいかは分からないけど…きちんと見届けませんとねー)

自分にはもう時間があまりない…黒髪のカラーに助けてもらった時に言われたことだ。

だからこそ自分はこれからのカラーの行く末を見てみたいと思った。

(お願いです…もう少しもってくださいね)

 

 

 

「あ、戻ってきた」

アナウサの言葉通り獣の悪魔が戻ってくる。

が、その獣の悪魔は何故か頭部に巨大なタンコブを作って戻ってきた。

「あー…その…すまん。弟に断られた」

その言葉にランス一行の冷めた視線が獣の悪魔を射抜く。

「うっ…」

その視線に怯み獣の悪魔はランス達に背を向ける。

「何だ、お前のエロへの執念はその程度のものだったのか」

「グッ…」

「あーがっかりだな。どれだけの悪魔かと思ったが、この程度も出来んのか」

「ウググ…」

ランスの言葉に獣の悪魔は言葉に詰まる。

「その、な。違うのよ。弟が言うには『契約するなら自分でやれ』と真っ当な事いわれてな?」

「言い訳かっこ悪いぞー」

「それこそ代用品を用意できないあなたに問題があると思いますよー」

アナウサとメカクレの野次に獣の悪魔は小さくなる。

(うぐぐ…こうまで言われては流石の俺も引っ込みがつかない…ああでもやっぱり見てもみたいし…あ!)

そこで悪魔は思い出す。

それは自分がここで手に入れた一品…珍しい武具を集めるのが趣味の弟も『見つけた者が持つべきだ』と言わせた一品。

父にも見せたが、これこそ『神への一撃になるかもしれない』と言わせた品物。

兄からも『お前が見つけたからにはお前が管理しろ』と言われ、自分が所持していたもの。

(だが…なあ…)

流石にこれを出すのは抵抗がある…もしかしたらこれが父の切り札になるかもしれないからだ。

(いや、待てよ…)

そこで弟の事を思い出す。

(そうだ! 弟はそういえば気に入った奴にその武器を『そいつが死ぬまで』という期間で貸していたはずだ!)

獣の悪魔はうんうんと一人頷く。

(俺もそれに倣えばいいんだ。相手は人間、どうせ後80年もすれば死ぬだろうし、問題は無い!)

「いや、待て! あった! 俺にもお前に渡せる武器があった!」

「あん?」

突然自信を回復させ、腰に手を当てて笑い出す悪魔をランス達は奇妙な表情で見る。

「それをお前が死ぬまで貸してやってもいい! それでどうだ!?」

「…他に何かとんでもない条件はつけないでしょうね」

レダは完全に不審の目で悪魔を見る。

エンジェルナイトの彼女からすれば、悪魔の約束など宛にはならないものだ。

「大丈夫だ! 俺も約束は守る!」

「で、それはどんな武器なんだ」

ランスの言葉に今度は獣の悪魔が笑みを浮かべる。

「何とそれは剣だ! いやー偶然ってあるもんだなー。まさか俺の希望とお前の希望がぴったり合うとは!」

「じゃあ見せてみろ」

「ふっふっふ…しかと見てみろ!」

獣の悪魔が異空間から取り出したのは、一本の剣だった。

柄から刀身まで黒い剣…ランスが持つ魔剣カオスよりもより深い黒を纏った剣。

だが、その柄の部分には丸い何かが埋め込まれており、そこには『QD』と刻まれているのが特徴だった。

「どうだ! 何でもこれは異世界のドラゴンの剣…らしい」

「らしいとは何だらしいとは」

「いや…何というか全貌が不明でな…俺も剣を使わないからわからないんだよ…」

「そんなものを押し付ける気か…」

「だが切れ味は確かだぞ。弟のお墨付きだ。さっきも言ったが、この剣をお前が死ぬまで貸してやろう」

「いいだろう」

それに答えたのはランスではなく、ケッセルリンクだった。

「おいケッセルリンク」

「私は構わない。それでカラーの未来が開けるのであれば安いものだ」

ケッセルリンクの言葉にランスは神妙な表情を浮かべるが、その下にあるのはいつもの高笑い。

(ぐふふ…俺様の一石二鳥作戦、見事に成功したな。これもあの少女のおかげだな。今度会った時は俺様が口説いてやろう)

ランスは廃棄迷宮の情報をくれた少女に感謝する。

「じゃあ始めるか」

ランスの言葉にケッセルリンクは頷いた。




1話で済ますつもりが思いがけずに2話になってしまいました。
獣の悪魔は固有名詞こそ出してないけど丸分かりですよね
ただ一番下の弟よりもやっぱ真ん中のエロ担当こそがランスに相応しいと思いました

困った時の「QD」印ですが、本編をやった事は分かるかもしれませんが、彼女は色々な物を割りと適当にその辺の異世界にばら撒いています。
神だの魔王だのを相手するには人間だと不可能だと思いました
あまり頼りすぎるのもなんですので、「QD」印はこれで最後にします

次回はただのバカエロ話(露骨な描写は無いよ!)
だから話は実は進んでいないんだよなぁ…


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悪魔の望み

少し間が開いてしまいました
申し訳ありません

今回はほぼエロ話…内容的にセーフなのかアウトなのか…出来ればセウト辺りなら嬉しい




「悪魔の力とは便利な物だな」

ランスとケッセルリンクは、悪魔の力で別空間に移動させられていた。

ここには一つのベッドとクローゼットが用意されていた。

(前にリターンデーモンとかいう悪魔に飛ばされた場所に似てるな…)

過去に悪魔回廊を通るために悪魔の前でかなみを抱いたことを思い出す。

あの時は妙な雰囲気だと思ったが、ここはあの時ほど奇妙な場所ではない。

(ほぉ…)

ランスがクローゼットを見てみると、そこにはいかにもな衣装―――ランスが好みそうな衣装が多数入っていた。

中には過激な下着等もあり、ランスはそれをケッセルリンクに着せるところを想像し、いやらしい笑みを浮かべる。

「では早速するか」

ケッセルリンクは実にあっさりとそう言い放ち、服に手をかけた所で、

「ストーーーップ!」

ランスがケッセルリンクの手を止める。

「どうした?」

ケッセルリンクは意外そうな表情でランスを見る。

ランスが自分を抱きたいと思っているのは知っていた。

だからこそいきなり襲い掛かってくるかと思っていたが、以外にもその手は自分を止めていた。

「忘れたか? 奴はただお前が抱かれている所を見たいんじゃない。人間がどういうセックスをするのかが見たいんだぞ」

「…そうだったな」

「そうだぞ。それに奴は俺の『デリカシーもムードも無い』という言葉に反応していた。だからその辺を重点的に見せてやればいい」

「う、うむ…」

ランスに言われて、成る程と思うがそれを考えているとケッセルリンクは突如として鼓動が早くなるのを感じる。

やはり自分もカラーであり、女であると思い知らされる。

(ぐふふ…ようやくケッセルリンクとヤれるぞ。だがここで焦るのはいかんな)

ランスはランスでここからの事を考えていた。

(じっくりやって俺様に惚れさせるのだ。俺様もあれから大分テクを磨いたはずだ。うむ、大丈夫だ)

アギレタや鈴女にテクニックの事を言われ、そして禁欲モルルンにかかっていた時の事を思い出す。

そしてヘルマン革命の時、チルディを調教し、あの志津香すら普通にベッドに呼ぶことが出来るようになった。

その自分の集大成をもって、ケッセルリンクを抱く決意を固めていた。

「ランス…私には経験が全く無い。だからお前に全てまかせる」

「うむ、任せるがいい」

(こいつもかわいいところがあるではないか)

ランスはこれまでの過去を思い出し、慎重にキスをする。

「ん…」

ケッセルリンクも目を閉じランスのキスを受ける。

今までのランスならば、ここで馬鹿笑いを上げながら襲い掛かっていたところだが、必死に堪える。

一枚一枚服を脱がし、とうとうケッセルリンクの生の体に対面する。

(おお…)

以前にイージス・カラーに勝るとも劣らないと感じたが、もしかしたら彼女よりも胸が大きいかもしれない。

剣を振るうだけあって、イージスよりも筋肉質だが女性の柔らかさは失われていない。

「うーむ、ふかふかだ」

ランスはケッセルリンクの胸を揉みしだきながら至福の表情を浮かべる。

戦姫も大きいがそれに勝るとも劣らない感触を楽しむ。

「…人間というのはそんなに大きな胸が好きなのか?」

ケッセルリンクとて今まで人間を見た事はあったが、いずれもやはり自分の胸を見てきたのを思い出す。

中には自分を襲おうとしてきた人間もいたが、そういう人間はすぐに自分の手で大人しくさせてきた。

「別に俺様はそんなに気にしないがな。だが大きければ大きいなりのプレイが出来る」

「…人間とは複雑なのだな…んっ…」

ランスの指がその頂に触れ、ケッセルリンクは悩ましげな声を出す。

その頬は赤く紅潮し、体は僅かに震えているが、それでも抵抗はしない。

そしてランスの指がケッセルリンクの大切に所に触れた時、

「あ…ランス…」

不安そうな声を出したケッセルリンクに対し、ランスはキスをする事で言葉を塞ぐ。

「よし、いくぞ」

ランスはケッセルリンクをベッドへ押し倒す。

「あ…」

(…そうか。とうとう、か)

いずれは来るとは思っていたが、まさかこんなタイミングだとは考えてもいなかった。

そしてこのような男だとも考えてもいなかった。

「で、どうする? 手を絡めるか? それとも首に手を回した方がいいか?」

(確かシーラが手を絡めるのが好きだったな)

「…首で頼む」

「よし」

ランスはケッセルリンクの首に手を回し、ケッセルリンクもランスの首に手を回す。

「じゃあいくぞ」

「…ああ…んっ…」

その日、ケッセルリンクのクリスタルが青に染まった

 

 

 

「うわー…本当にランスさんとケッセルリンク様がHしてるよ…」

アナウサが手元にある映像を映す道具を見て顔を赤くする。

悪魔の力は本当にデタラメだと思うが、今はそのデタラメさが有難い。

獣の悪魔とその取り巻きは真剣にランスとケッセルリンクの情事を見ている。

「見てよメカクレちゃん。このケッセルリンク様の顔」

映像に映るケッセルリンクは顔を真っ赤に染め、目尻に涙を浮かべて必死にランスにしがみ付いてた。

そんな自分の顔を見せないように、力強くランスを抱き寄せて頬と頬を合わせる形になっていたが、ランスはそんなケッセルリンクの腕を外すとその手でケッセルリンクの顔が動かぬように固定する。

ケッセルリンクは羞恥心からか、目尻に浮かべた涙が頬を伝っていく。

ランスは意外にもそんなケッセルリンクの目尻を拭い、そのまま髪を撫でながら動きを激しくする。

「あ…もしかして…」

ケッセルリンクの喘ぎ声が大きくなり、その手がランスの腕を掴む。

ランスの動きが激しくなり、ケッセルリンクが必死にランスにしがみ付きとケッセルリンクが一層大きな声をあげる。

そして痙攣するかのように体を震わせると、ランスの腕を掴んでいた手が自然とベッドに落ち、荒い息を上げる。

「あのケッセルリンク様が絶頂してる…」

自分達を守り、導いてきたあのカラーのお姉さまと言われた方が。

いかなる時もクールで、先頭にたってモンスターと戦っていた方が。

つい先日出会った人間とまるで恋人のように肌を重ねている。

それだけでも何かいけない背徳感をアナウサは感じていた。

 

(…私とした時とは全然違う)

レダはと言うと、ランスとケッセルリンクの情事を見て複雑な思いをしていた。

自分とした時は、ランスが一方的に動いて自分は一方的に絶頂させられていた。

勿論気持ちは良かったが、ケッセルリンクの表情を見るとちょっと面白くなかった。

(私は初体験からしてアレだったのに…)

確かに自分達はランス達に襲い掛かった。

その結果人間達に破れ、ランスに犯されてしまった。

(理不尽というか何と言うか…いや、私も命を狙ったんだから仕方ないと言えば仕方ないけどね)

だがやっぱり女性として、ケッセルリンクとの扱いの差に少しモヤモヤしてしまう。

(でも…ケッセルリンクもあんな表情するんだ)

ここまで肩を並べて戦ってきた女性の嬌態に頬を赤くする。

直情的な自分とは違い、クールな女性だと思っていたがこうしてランスに組み伏せられている姿を見ると、やっぱり女性なんだなと思う。

(…ランスのバカ)

ちょっとケッセルリンクが羨ましかった。

 

(良かったですねーケッセルリンク様)

メカクレ・カラーはランスの下で喘いでいるケッセルリンクに涙していた。

今迄自分達を先頭に立って守り続けてきた偉大なカラーだ。

だがそれ故に己を犠牲をして来た面もある。

相手がランスなのもメカクレには良かった。

あの男はめちゃくちゃな人間だが、腕前は抜群でなおかつ人を束ねる器がある人間だ。

ケッセルリンクと力を合わせれば、間違いなくカラーの基盤を作ることが出来る。

(そうなれば…カラーが一纏めになれれば私みたいなカラーが生まれないためにも…)

自分は黒髪のカラーに助けられた運がいいだけのカラーだ。

魔人の脅威は身を持って自分が一番良く知っている。

黒髪のカラーのもとで人の世界も見たが、カラーよりはマシだとも言えた。

何より人は増えるペースが速いが、カラーは寿命が長い分どうしても人数は増えない。

だからこそ、黒髪のカラーやケッセルリンクのようなカラーの英雄が必要なのだ。

(この先のカラーの未来…ケッセルリンク様とランスさんに掛かっていますねー。だから…御願いします)

ランスには出来ればずっとカラーに寄り添って欲しいと思っている。

あのカリスマ、行動力、実力があれば必ず良い方向にもっていける。

(…でもランスさんって本当にHですねー)

そこの部分だけは、長い時を生きてるメカクレもどうしても赤面を抑え切れなかった。

 

「うーむ…」

獣の悪魔は真剣に人間とカラーのセックスを見ていた。

そこには勿論下心も多数あれど、やはり参考に出来る物があると真剣に見ていた。

「見てますか。あれがあなた様のちょっと足りない部分なんですよ」

女性悪魔の一人が発言すると、他の悪魔も頷く。

獣の悪魔は月に一度性欲が昂ぶり、女性型悪魔達と一日を過ごすが少し女性型悪魔から不満があるのも事実だった。

曰く「もう少しテクニックを」や「もっとデリカシーを」と言われることも少なくなかった。

中には「荒々しいのが素敵!」という意見もあるのだが、やはり男として女性に満足をして欲しいという思いもあった。

二人のセックスは特段何か変わった物がある訳ではないが、ショートのカラーは処女だというのに明らかに感じていた。

「なるほど、ああいうのもあるのか」

人間と悪魔は体型こそ違うが、少し似ている部分もある。

それ故、今の二人のセックスには獣の悪魔も何か感じる物もあった。

「あ、見てくださいよ。男の人が離れましたよ」

 

「うーむ、良かった良かった」

ランスは大満足でケッセルリンクから体を離す。

とうとうケッセルリンクを抱いたこと、そして絶頂に導いた事がランスには大満足だった。

かつてのランスは自分勝手な動きで、勝手に自分だけが満足していた。

しかしヘルマン革命の最中、女性を自分の手で善がらせる喜びもまた感じていた。

シィルが戻ってからは若干昔のように戻ってしまったと思ったが、やはり自分は大人になったと実感していた。

虚ろな目で荒い息を発しているケッセルリンクを見ると、再びハイパー兵器に力が入る。

(ここまで来たら焦ることは無いな)

まだまだ時間はあるのだから、たっぷりと楽しもうと決める。

(だとしたら色々なプレイをするのも有りだが…そういえば)

ランスは先程開けたクローゼットの事を思い出す。

そこには非常にランスが好む衣装が入っていた。

「おい、ケッセルリンク」

「…ん、ランス」

ケッセルリンクの顔をぺしぺしと軽く叩くと、ようやくケッセルリンクの目の焦点があう。

「私は…」

ケッセルリンクは先程の自分の状態を思い出し、顔をこれ以上無い位に紅潮させる。

まさか自分が男に必死になってしがみつく等考えてもいなかった。

さらに自分から足を絡めていた気もする。

「………み、見るな」

その顔を見られまいと、両手で顔を覆う。

「がはははは! しっかりと見せてもらったわ! いやーケッセルリンクにもああいう顔があるのだな!」

「言うな…」

何故か今迄平気だったはずのランスの顔を見ることが出来ない。

「が、ケッセルリンク。まだまだだぞ」

「何がだ…!?」

ランスが無理矢理ケッセルリンクの腕を取ると、自分に顔を向けさせる。

その目の前にあったのはそそり立つランスのハイパー兵器があった。

「お、お前! 何を…」

「俺様がたった1発で終わる訳が無いだろう。早速2回戦だ! が、その前にだな」

ランスは立上りクローゼットを開ける。

「まずはこれに着替えてもらおうか」

 

 

 

 

「うわ! ランスさんエロ! もうこれ以上ないくらいにエロ!」

「あの人間…只者じゃ無いわね」

アナウサと女性悪魔がいつの間にか意気投合したようで、一緒になって画面を見ていた。

画像では、ランスとケッセルリンクは風呂に移動していた。

当然のようにランスは全裸だが、ケッセルリンクは何故か面積の小さい水色の水着のような物を着せられていた。

しかもサイズが合っていないようで、その胸に水着が窮屈そうに収められていた。

「あれは態とね…これしか無かったとか言って合法的に着せてるのよ」

「そうですねー。エッチだとは思っていましたけど、まさかここまでとは驚きですねー」

「あなた様もこういった狡猾さが足りないんですよ」

獣の悪魔は女性悪魔に言われて少し小さくなっていた。

「あ、ランスさんがケッセルリンク様を洗ってる」

画像では椅子に座ったケッセルリンクをランスが洗っているところだった。

但し素手で。

『うはー、柔らか柔らか』

『ランス…あまり胸ばかり触るな。それに何故素手で洗う必要がある』

『お前の肌が傷つかないように俺の手で慎重に洗ってやっているのだ』

『お前という奴は…』

ランスからは見えないが、その光景を見ている者達には分かる。

ケッセルリンクは薄っすらと微笑んでいた。

「おお…ケッセルリンク様が完全に女の顔をしてる。ランスさんってやっぱり凄いわ」

「あんなクールな女がああいう顔をする…うーん、いいなぁ」

獣の悪魔もその表情を見てしみじみと頷く。

何か感じ入るモノがあったようで、アナウサと獣の悪魔はガッチリと握手をする。

『あ…ちょっと待ってくれ』

『あん? どうした』

ランスの手がその股間に伸びたとき、ケッセルリンクはランスの手を掴む。

『いや、その…先程のお前のが出てきそうでな…』

「「「「ブラボー!!」」」」

レダ以外の全員が興奮して声を出す。

(何言ってんだこいつら…)

レダだけはそれを冷ややかな目で見つつ―――それでも食い入るように画面を見つめていた。

それから十数分がたち、ケッセルリンクの体が泡に包まれていた。

『じゃあケッセルリンク。俺の事も洗ってもらおうか』

『ああ…だがスポンジは何処だ?』

ランスは結局最後までその手でケッセルリンクの体を洗っていた。

なのでケッセルリンクは体を洗う物を探すが、

『違うなケッセルリンク。恋人というのは互いの体を洗うのにそんな物は使わん。己の全身を使って洗うのだ』

『…そうなのか』

「うっわあの人間悪辣…性知識が無いのを良いことにとんでもない事言ってるわね…でもそれが良い」

「あの人間悪魔になったらいい階級いきそうよね」

「いやーでも何時の間にか恋人設定になってますねー。しかもケッセルリンク様も当然のように返してますし」

メカクレは今の状況を非常に喜ぶ。

このまま二人がくっついても良いとさえ思っていた。

「ケッセルリンク様も乙女だったんだねー…でもこのギャップがたまらない」

「静かにしなさい。動きがあるわ」

真剣に画面を見ているレダの声に、周りの声が自然と小さくなる。

ケッセルリンクが座っていた椅子にランスが座り、今度はケッセルリンクがランスの体をその手と体を使って洗っていた。

『身長はあまり変わらないと思っていたが…やはりお前の背中はでかいな』

『俺様はヘルマン人ほどでかくは無いぞ』

『ヘルマン人とは何かは分からないが、そういう事ではない。ただ、非常にお前が頼もしく見えているというだけだ』

『当たり前だ。俺様ほど頼りになる奴がそんな簡単にいる訳が無いだろう』

ケッセルリンクはその背中から腕をまわしてランスを軽く抱きしめる。

こうしていると確かに物理的には大きい背中ではないが、どこか安心出来る心地よさが存在した。

『それよりもケッセルリンク。そろそろ前を洗ってもらおうか』

ランスの言葉にケッセルリンクは赤面しながら前へとまわる。

当然ランスのハイパー兵器が目の前に来るが、ケッセルリンクは意を決してそれに手を伸ばし―――

『待て、ケッセルリンク』

意外にもランスに止められる。

「む…一体何を言い出すんだ。これからというときに…」

獣の悪魔はランスの言葉に首を傾げるが、女性型悪魔は分かったらしい。

「まあまあ待って下さい。この男の事だからきっと…」

「ええそうです」

続きを求め、獣の悪魔は食い入る様にその続きを待つと、

『俺様のハイパー兵器はその大きな胸で洗ってもらおうか』

『…胸で、だと?』

「「「「「キターーーーーー!!!!」」」」」

カラーと女性悪魔が喝采をあげる。

「いやー分かってるわこの人間は」

「うんうん、あの大きな胸を使わないのは女性への冒涜よね」

「な、何と…このようなプレイが…」

獣の悪魔は本気でショックを受けているようで、愕然と膝を突く。

『その大きな胸で挟むようにして洗うのだ』

『………わ、わかった』

ケッセルリンクは一瞬躊躇うが、それでもランスの言うとおり、恐る恐るそのハイパー兵器を胸に収めていく。

「なるほど…あの小さめの水着はこのための伏線だった訳ね…」

「どういう事?」

「あの小さめの水着がより圧迫感を生み出す…あの男はここまで計算してたのよ」

「…どうしてあの男はこういう事ばかり頭が回るのだろう」

悪魔達の考察に、レダは本気で頭を抱える。

そして二時間後…

 

 

 

「がはははは! どうだ! 満足しただろう!」

ランスは謎の空間からケッセルリンクを抱きかかえて出てきた。

ケッセルリンクはというと、アレからのランスの責めの結果、今は眠っていた。

レダを除く全員がランスを拍手で迎え、獣の悪魔にいたってはその大きな手でランスをハグしていた。

「ええい、男が俺様に引っ付くな!」

「わははは! いや、すまんな! だが素晴らしい物を見せてもらったぞ!」

獣の悪魔は十分に満足していた。

今迄人間に接する機会があまり無かったため、人間の性行為を見たことは無かったが実に堪能していた。

「ケッセルリンク様は…まだ寝てますねー」

「疲れたでしょうし寝かせておいてあげましょ」

メカクレとアナウサがランスからケッセルリンクを受け取り、悪魔が用意してくれていた敷物にケッセルリンクを寝かせる。

「ぐふふふ…今度はレダの番だな」

「はぁ!?」

ランスの言葉にレダは困惑する。

「忘れたのか? ケッセルリンクとお前の力を借りると言っただろう」

「そうだけど…」

レダの頭には先程のランスとケッセルリンクの情事が残っていた。

いや、あれほど強烈な光景等そう簡単に忘れられるはずがない。

それも短い期間とはいえ、共に戦ってきた仲間なのだ。

「という訳で頼むぞ」

「おう! 任せろ!」

獣の悪魔がサムズアップをしたかと思うと、周囲の風景が変わる。

そこは先程ランスとケッセルリンクが情事を行っていた部屋と全く同じ部屋だった。

ただ違うのは、先程の情事の跡が残っていない事だけだ。

「あああ…私何て事を…」

エンジェルナイトの自分がよりにもよって悪魔に人間との性行為を見られるなんて…!

(でも…)

この部屋に来たことで嫌でも先程の光景が頭をよぎる。

力強く動くランスの体、必死にランスにしがみ付くケッセルリンクの姿、そしてその体でランスの精を受け止めた時のあのケッセルリンクの顔。

(ちょっと…やっぱりほんのちょっと羨ましかったというか)

レダが指を合わせてモジモジしていると、

「おお、あったあった。これはレダに似合うと思ってたんだ」

ランスはいつの間にかクローゼットを漁り、一組の下着を取り出していた。

レダがそれを見て思い出すのは先程の風呂での光景。

態とサイズの合わない水着を着せ、ランスは明らかに楽しんでいた。

その後もその水着を着たまま風呂場でもしたし、そこから上がった後は再び互いに全裸になって行為をしていた。

「うう…着なきゃダメ?」

「これも俺様を守るためだぞ」

それを言われるとレダは弱い。

レダは思い切ってその下着を着るが―――

「…何コレ?」

備え付けてあった姿見に映る自分の格好にレダは絶句する。

一応下着をつけているのだが、これは果たして本当に下着の役割を果たしているのだろうか。

大事な部分が隠れていない、所謂性行為のための下着だ。

「ランス…」

「うーむ、やはり似合うな。俺様の目は正しかった」

レダの冷たい視線をランスはものともせずに自分の姿を堪能していた。

「いや、そうじゃなくて…なんで私はいきなりこんな恰好なのよ」

てっきりケッセルリンクと同じように…と思っていた。

だが、自分を待っていたのは最初からいきなり飛ばしていると思わざるを得ない下着。

「まあ落ち着け。俺様はマンネリ化を防ぎたいのだ」

「マンネリ化?」

ランスの言葉にレダは首を傾げる。

「ケッセルリンクの時と同じことをしても奴は喜ばないだろう。先程とは違う事をする必要がある」

「…そんなもの?」

エンジェルナイトである自分には今一パッとこないが、人間には違うのかもしれないとも思う。

「だからこそ…俺様が次にするのはお前の体を完全に俺様のものにすることだ!」

「…はあ?」

「大体お前、少しMの気質があるだろ」

「いや何言ってるのよ」

「忘れたとは言わさんぞ。お前が最初に俺様の城に来たときどうなったのかを」

最初にランスと出会った時の事を思い出し、レダは赤面する。

そうだ、あの時自分は同僚と一緒にランスに犯されていた。

その時は…二人でネットに包まれ、そこで犯された。

しかも自分はその時『もっとしたい』と言ってしまっていたような気がする。

「あ、あ、あ、あの時は…」

「ぐふふ…その時の事を思い出した時俺様は思った。お前を完全に俺様のモノにしてやろうと」

「いや、あのランス…」

「がはははは! もう言葉はいらん! とーーーーーっ!」

「きゃあああああ!」

レダは乱暴にランスに押し倒される。

「ちょっと、ランス…!」

自分の抗議にもランスはその手と口を止めない。

「わ、こら! 揉むな吸うな!」

「うるさい奴だな」

「むーーっ!!」

ランスは自分の口でレダの口を塞ぐ。

レダは目を白黒させ暴れようとするが、何故か力が入らない。

「さーてお楽しみタイムじゃー!」

「ちょ、ランス、待って…」

こうしてレダは無茶苦茶ランスに抱かれた。

 

 

 

先程同様2時間後―――

「がはははは!」

やはりランスは絶好調だった。

対してレダは完全に憔悴しきっており、ぐったりと体をランスに預けていた。

「わはははは! 人間、実に楽しましてもらったぞ!」

獣の悪魔も絶好調といった感じでランスの肩を叩く。

「人間ってエロに関しては悪魔よりも進んでいるのかもね」

女性悪魔達もうんうんと頷いている。

「分かってたけどランスさんって鬼畜! というかお尻まで…」

「御願いアナウサ、今は何も言わないで」

そう言うレダの顔にアナウサは言葉に詰る。

ケッセルリンクに対してのプレイとは一転し、レダはまさにランスに調教されていると言わんばかりの光景だった。

相手がランスなのでそこまで過激すぎるプレイという訳ではないが、ひたすらにランスに責められ続けた。

なまじケッセルリンクよりも体力があるせいで、2時間丸々ランスに抱かれていた。

(ねえねえアナウサちゃん。レダさんが途中からはノリノリだった事は言わない方がいいですよー)

(そうだねー。今はあんな調子だけど、後で思い出して爆発しそうだし)

何しろ先程のレダは最初こそ抵抗をしていたが、その内自分からランスを求めていた。

縄で軽く縛っていたときもあっさりと受け入れていたし、何よりネットでぐるぐる巻きにされていた時の乱れようは凄かった。

((まあ言わないであげるのが優しさよね))

カラーの二人は同時に頷いた

「いやー、満足満足。約束どおりこの剣をお前に貸してやろう!」

ランスは獣の悪魔から剣を受け取る。

その剣で2、3度素振りをするが、

「…悪くない」

ランス的には結構気に入ったらしい。

かつてランスが持っていた魔剣カオスに近い感覚で振るうことが出来る。

これならばランスの腕力を思う存分に発揮する事が可能だろう。

「あとお前が死ぬまで貸すだけだからな」

「別に俺が死んだ後ならどうなろうと構わん」

鞘が無いのは少し不便だが、カラーの誰かに作ってもらおうと勝手に決める。

「あ、ここにある物って持っていってもいいんですか?」

アナウサが悪魔達に聞くが、

「別に構わないぞ。ここにある物は別に悪魔の物って訳でも無いからな」

「わーい」

アナウサとメカクレの二人はその辺の物をごそごそと探っている。

「とにかく目的は果たしたな。後はあの魔人をぶっ殺すだけだな」

あの少女が言っていた通り、中々良さそうな剣は手に入った。

ならば後はあの筋肉モリモリマッチョマンの変態を叩き割るだけだ。

「おう、まあ頑張れよ」

「よし、じゃあ行くぞ」

「あっ待ってくださいよー」

ランスは未だに眠っているケッセルリンクを背負うと、この世界に来る前に持っていた帰り木を使用する。

するとランス達の姿が廃棄迷宮から消え去った。

 

 

 

ランス達の姿が消えた後―――

「良かったんですか? ボレロ・パタン様」

獣の悪魔―――ボレロ・パタンは別に気にしていないという感じで笑う。

「別に問題ないさ。どんなに長生きしても100年くらいで戻ってくるんだ」

「まあそうですね」

女性悪魔も大して気にしていないようで、ボレロ・パタンにしな垂れかかる。

「それよりも…そろそろ月に一度の」

「おう、あの人間は本当にいいものを見せてくれた…今度は楽しめそうだ」

だが彼は知らない。

ランスという人間がこれからどれだけ数奇な運命を辿るのかを。

そして貸した剣が戻ってくるのはもっと遠い時間だという事も。

 

 

 

「…ん?」

ケッセルリンクは自分の体が揺れているのを感じ、目を覚ました。

(確か私は…)

自分が何をしたのかを思い出し、自然とその顔が赤くなる。

意識がハッキリしてくると、自分は誰かに背負われている事を知る。

「ランス?」

「ん、起きたか」

「ああ…ここは? 廃棄迷宮では無いようだが…」

「もう用件は済んだからカラーの森に戻ってる途中だ」

「…そうか」

その言葉でランスは目的の物を手に入れたのだと安心する。

自分の痴態は決して無駄ではなかったのだと安堵する。

「まずは降ろしてくれ。自分で歩ける」

「そうか?」

ケッセルリンクはランスの背から降りるが、足に力が入らずに座り込んでしまう。

「無理するな」

ランスは再びケッセルリンクを背負う。

「むぅ…」

ケッセルリンクは不満気な声を出すが、力が入らないので大人しく背負われる。

「まあまあ無理は禁物ですよ、ケッセルリンク様」

アナウサとメカクレはニヤニヤと笑いながらケッセルリンクを見る。

「…まさか」

ケッセルリンクの顔が青くなると同時に、二人の笑いが最高潮に達する。

その態度で彼女は全てを理解する…つまりは自分の痴態は悪魔だけでなく、彼女達にも見られていたのだ。

「さ、最悪だ」

ケッセルリンクはランスの背中に顔を埋め、彼女達の視線から目を反らす。

「大丈夫ですよ。レダさんというお仲間がいますから」

「私に振らないで…お願い…」

ケッセルリンクがレダ方を見ると、彼女は憔悴仕切っていた。

それを見ただけで、彼女は自分と同じ目にあったと理解する。

「だがこれであのふざけた魔人を叩き割れるぞ」

「…そうだな。私をあんな目にあわせておいて、魔人を倒せない等あってはならないな」

「フン、誰に物を言っている。俺様に不可能は無い」

その日、ランスの馬鹿笑いが再び森を木霊した。

そして再び魔人との戦いが始まる…そしてそれが再びこの世界の命運を変えていく。

 

 

 

―――廃棄迷宮―――

スラルが本来ランスを導こうとした道。

そこには一本の剣が刺さっていた。

その剣こそがペルシオン、間違いなく伝説に名を残す剣である。

そこに一体の宝箱だんごがやってくると、ペルシオンを持っていた宝箱に入れ、その場から猛烈な勢いで消え去る。

こうして伝説の剣ペルシオンは、人目に触れる事無く数千年間宝箱だんごの中で眠り続けることになる。




この話を投稿するに至っての参考文献が超昂シリーズとかいう頭の悪い事実
最初は 超昂神騎レダ とか 超昂閃忍ケッセルリンク とか頭の悪い事を考えていました
おかげで書き直しで投稿が遅れてしまいました…まあ言い訳ですわな
そしてR-15とR-18の境界線が難しい…今回は本当にアウトなのかもしれないですし

話がかなり脇道それてしまいましたが、次こそ魔人戦
ところで話は変わるけど魔物スーツっていつ頃出来たんだろう…あれだけの技術を考えればやっぱりパイアール辺りなのかなあ…


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勇者という存在

次は魔人戦だと言ったがアレは嘘になってしましまいました。
書きたい部分を書いていたら予想以上の長さになってしまって…
次こそ本当に魔人戦です!




この世界には『勇者』と呼ばれる人間が存在する。

かつて魔王スラルはプランナーに『魔王は殺せない』という願いを叶えてもらった。

その結果、魔王の血を分け与えられている魔人もその恩恵を受ける事となった。

それこそが魔人の絶対的な優位性、無敵結界である。

プランナーという神はバランスを好む。

スラルの願いを叶えたことで、世界のバランスは圧倒的にモンスター側に傾いた。

だからプランナーは人類に対して『勇者』という存在を作った。

この世界に一人だけ存在し、条件次第では魔王すらも殺しうる可能性を秘めた存在。

だがSS期、勇者が活動したという歴史は無い。

 

 

 

ランス達が廃棄迷宮より帰還する少し前―――

 

勇者はSS期には存在していなかったという事は無い。

ただ、魔人に勝てる存在では無かったというだけだ。

 

「…で、あなたは何をしているんですか?」

 

勇者の従者―――4級神コーラス0024は今の勇者に対して呆れていた。

 

「静かにして下さい…気づかれます」

 

現在の勇者、アーズラは必死になって気配を隠していた。

今彼の視線の先には、

 

「うーん、気持ちいいー!」

「最近水浴び出来なかったら格別よね」

「まあまあ。もう完成間近だし。ケッセルリンク様達ももう少しで戻って来るわよ」

 

全裸で水浴びをしているカラーの姿があった。

ランスの指示であるモノを作っているカラー達は、ローテーションで水浴びに来ていた。

カラーは森で生活する種族なので、ランスの指示するモノを作ることもそう難しくは無かった。

だが、やはり汗はかくのでこうして水浴びは欠かさずしているのだ。

 

「カラーってやっぱり美人ばっかりだなあ…」

 

勇者は鼻の下を伸ばしてカラーの水浴びを食い入るように見ていた。

 

「……はぁ」

 

コーラス0024―――コーラは溜息をつく。

勇者という存在が作られ、自分はその勇者の従者という事で作られた神だ。

目的は創造神ルドラサウムを楽しませる事…なのだが、未だにその『勇者』の使命が果たされたことは無い。

(そもそも今の魔王が少々穏健的なんですよね)

コーラは文句を言いたいが、メインプレイヤーが作られてまだ400年と少し。

2000年以上続いた、最初の魔王ククルククルがいた時間に比べればまだまだ序の口だろう。

今のこの世界は、まだ不安定な実験的な要素が強い世界だ。

そして『勇者』というシステムが作られてまだ100年程度。

色々な『勇者』は存在はしていたが、その全てが神を満足させるほどの結果を残せていない。

(まあ今の現状なら仕方ないですが)

確かに魔人は各地で暴れてはいたが、何しろその暴れていた魔人を魔王が回収して回っているほどだ。

今の魔王は自分自身で動くことは少なく、配下の魔人にやらせてはいるがその配下の魔人すらも数えるほどしかいない。

どちらかと言えば学者気質であり、何かを知ろうとする欲求の方が強い魔王なのだ。

そんな状況では、むしろメインプレイヤー同士の争いの方が多いくらいだ。

メインプレイヤー同士の争いは神を楽しませてはいるが、『勇者』というシステムは全く機能していない。

何しろ『勇者』の力を解放する所まで、メインプレイヤーの数が減らないのだ。

『勇者』の力はメインプレイヤーの残りの魂によってその力を増す。とどのつまり魂が減らなければただの強い人間にしか過ぎない。

コーラも色々と考えてはいるのだが、その通りに勇者が動くとは限らないのだ。

自分も直接の介入は禁じられているため、計画を立ててもそれを実行するための手段が無い。

そして今まで『勇者』として認められた存在は、何れも人助けだの何だのと神の視点からすれば全く無駄な事をしているに過ぎない。

(とはいえ…少しは状況が動きそうですが)

新しく選ばれた新たな勇者アーズラは、今までの勇者と同じく普通の人間だ。

それが今カラーの森に来ているのは、ただ単純にカラーという種族を見てみたいという好奇心からだ。

しかしアーズラは知らないが、今カラーの森では大きな事件が起きていた。

一つが太古から生きる強力なムシという存在。

魔人にすら匹敵すると言われるその力は、普通の人間では太刀打ちする事は出来ない。

もう一つがこの周辺に現れた魔人。

今までの勇者は魔人と戦った事はあれど、やはり無敵結界の前には手も足も出ない。

勇者の持つ剣、エスクードソードが魔人を斬れるようになるためには、少なくとも現在のメインプレイヤーが30%は削れなくてはならない。

が、それだけの数を減らすのは、今の現状では流石に現実的ではない。

魔王が動けばあっと言う間に減るだろうが、その魔王が動かなければどうしようもない。

しかしだからこそ今の状況で勇者と魔人がぶつかるのは、コーラにとっては好ましかった。

(魔人と出会えば考えが変わるかもしれませんしね)

ここで心が折れてもそれはそれで面白いし、もしかしたら吹っ切れてとんでもない行動に出るかもしれない。

どっちに転んでもコーラには良かった。

(…そのはずだったんですが)

この勇者がやってる事と言えば、カラーの水浴びを覗く事。

 

「カラー…いいなぁ…」

 

真剣な顔でカラーの水浴びを覗いている勇者を見て、コーラは嘆息する。

今回の勇者も駄目かもしれないと。

その勇者が感動のあまり涙を流しているのを見ると、何故か神である自分が情けなく感じてきてしまった。

突然だが勇者という存在は普段は不幸である。

だからこれはその不幸な事だった。

勇者は感動のあまり涙を流していたが、突如として風が巻き起こり、布きれが自分の元に飛んでくる。

 

「ああ、ちょうどいいなぁ」

 

だから勇者はその布きれで自分の顔をふく。

その時たまたま勇者がいた場所にカエルが存在していたこと、勇者の足元に歪な形の雑草が生えてたこと、そのカエルがげこげこ鳴きながら割と大きな音をたてて水に飛び込んだこと、カラー達が一斉にその場所に振り向いたこと。

そして第一に、

 

「! もしかしてまたランスさん!?」

 

このカラーの村には既に一人の人間が住んでいたこと。

さらにその人間はスケベで、カラーの水浴びも覗いていたこと。

カラー達の視線の先には、明らかにランスでは無い一人の人間がいた。

 

「「「「あ」」」」

 

勇者とカラー達の視線が完全に合う。

 

「あ、こ、これは…」

 

勇者アーズラは突然の視線に完全にパニックになっていた。

自分に突き刺さるのはカラーの冷たい視線だが、そのうちの一人は青ざめている。

 

「あ、あなた何を手に持ってるの…?」

 

彼女が震える手で自分を指さすのは、先程飛んできた布きれだ。

 

「こ、これは突然飛んできたもので…お借りしてます」

 

アーズラは改めて自分の手元に飛んで布きれで顔から流れる冷や汗を拭く。

 

「わ、私のパンツで顔拭いてる…」

「え?」

 

良く見てみると、それは布きれではなく、下着であった。

 

「あ…」

「へ、変態よー!!!!」

「ち、違うんです!!」

 

返す返すも言うが、勇者とは普段は不幸である。

 

「どうしたの!?」

 

だからそれは本当に偶然の出来事。

水浴びをしていた彼女達はそろそろ交代の時間であったこと、その交代のためにやってきたカラー達の仕事が、モンスターに対する哨戒であったため武器を手にしていたこと。

そして何より、立ち上がろうとした勇者が足元の草に足を取られ、その場で転んだこと。

その際に手にしていたパンツがたまたま転んだ際に顔の部分に被さったこと。

更には少しぬかるんだ地面なので、そのパンツがちょうどいい形で自分の顔に嵌ってしまった事。

 

「ご、誤解なんです!」

 

その場にいるカラーは全員顔を青くしてその勇者―――彼女たちの視点から見れば、カラーの下着を顔に被っている男を見る。

 

「へ、変態だーーーー!!!!」

「ち、違います!」

「変態仮面よ! 変態仮面だわ!」

「射てーーーー!!!」

 

そして勇者にはカラーの弓が放たれ、勇者は実にあっさりと捕まった

 

 

 

「がはははは! 戻ったぞ」

「あー、ランスさん! ケッセルリンク様」

 

カラーの村にランス達は戻ってきた。

ちなみにケッセルリンクは既にランスの背中からは降りていた。

やはりカラー達の前では強がりたいらしい。

 

「どうだ? 進んどるか?」

「はい、大丈夫です」

 

カラーの集団の中から女王、ルルリナが進みでる。

 

「ランスさん、レダさん、ケッセルリンク、アナウサ、メカクレ、皆良く無事で」

「うむ、俺様ならば当然だな」

「目的の物は見つかりましたか?」

 

ルルリナの言葉にランスは腰に下げていた剣を掲げる。

 

「がはははは! 何も問題は無いわ!」

「「「「「おおーーーーーー!!!」」」」」

 

周りに集まってきたカラー達が一斉に拍手をする。

ランスが掲げた剣は、明らかにカラー達が使ってきた剣とは別物だと分かる。

魔法や呪術に長けたカラーだからこそわかる―――あの剣は普通の剣ではないと。

 

「そちらに何か変わったことは?」

 

ケッセルリンクの言葉にカラーの全員が暗い顔をする。

その様子にケッセルリンクの顔に焦りが出る。

 

「まさか…私達がいない間に何か…!」

「いえ、そうでは無いのですが…ムシと魔人には動きはありませんでしたが、変わりに人

間が…」

「人間?」

 

カラーの村に人間が迷い込むことはそう多くは無いが、特段珍しい事でもない。

時には悪意を持って襲い掛かる人間もいるにはいるが、そういった人間にはカラーの呪いがかけられる。

人間とは特に敵対している訳では無いので、大抵はそのまま村を出ていく。

ここ最近は近くに凶悪なムシが現れ始めたため、人間が迷い込むという事は無くなっていた。

あくまでランス達は例外だ。

 

「人間が迷い込んだのであれば、何時ものように処置をしていいのでは?」

 

ケッセルリンクの言葉に女王は非常に困った顔をする。

周りのカラー達もどうしていいか分からないといったような感じだ。

 

「ケ、ケッセルリンク様…」

 

一人のカラーがおずおずと手を上げる。

 

「どうした?」

「そ、その…今回現れた人間なんですが…」

「…歯切れが悪いな。その人間がどうしたというのだ?」

「ううう…」

 

突如としてそのカラーが涙を流し始める。

ケッセルリンクは突如として泣き始めたカラーに戸惑う。

(何があった…クリスタルの色は赤いから襲われたわけでは無い…いや、未遂に終わったのか)

 

「ケッセルリンク様…実はその人間は、水浴びを覗いたあげく、彼女のパンツで顔を拭き更にはそのパンツを顔に被るという事をしたんです」

「…は?」

 

一瞬ケッセルリンクは何を言っているのかが分からなかった。

 

「…つまりは変態が出たということか?」

 

ランスの言葉にその場に居たカラー達は首を一斉に縦に振る。

 

「に、人間って皆あんな事するんですか?」

「…まあ世の中には女の下着にしか興奮しない奴とかも居るが」

 

ランスの言葉にカラー達は一斉に身を抱き合う。

まさか下着にのみ興奮する特殊な性癖を持った人間が居るとは思ってもいなかったからだ。

 

「と、とにかく。まずは私がその人間を見てみよう」

「待ちなさいよケッセルリンク。私も行くわ」

「俺様も行くぞ。変態の中には意外と変な実力を持っている奴もいるからな」

 

ランスの言葉にケッセルリンクとレダは顔を合わせる。

 

「「なるほど」」

「何故俺様を見て納得する」

ランスが半眼になってケッセルリンクとレダを睨む。

 

「「冗談だ(よ)」」

 

ケッセルリンクがその変態の様子を見に行こうとした時、

 

「あ、それはそうとケッセルリンク…」

「何か?」

 

ルルリナがケッセルリンクを呼び止める。

見ればルルリナは妙に顔を赤く染め、もじもじとしていた。

 

「その…ケッセルリンク、いつの間に大人になったの?」

その言葉にケッセルリンクの動きが止まる。

カラーは処女を失えばその額のクリスタルが赤から青へと変わる。

ランス達と出かける前は確かに赤かったクリスタルが、今では透き通る青に変わっている。

しかもあのケッセルリンクが、だ。

 

「…その話はやめてくれないだろうか」

 

ケッセルリンクは顔を背けるが、ケッセルリンク側に立っていたアナウサ、メカクレ、レダにはその顔が見えている。

明らかな羞恥で頬が赤く染まっている。

(これ、あの時の事皆が知ったらケッセルリンク様羞恥で死にそうよね…)

(言わないであげるのが優しさですねー)

(私は何も言わないわよ)

三人が黙っていてあげるのがいいと判断したが、

 

「がはははは! ケッセルリンクは俺様の女になったのだ!」

 

空気を読む事をしないランスはケッセルリンクを抱き寄せる。

 

「「「キャーーーーー!!!」」」

 

それを見てカラー達が一斉に黄色い悲鳴を上げる。

 

「ラ、ランス!」

 

ケッセルリンクは抗議の声を上げようとするが、ランスの腕に抱かれていると何故かその声が止まってしまう、

 

「おめでとう! ケッセルリンク!」

 

女王はケッセルリンクのクリスタルの色が変わったのを喜び、

 

「あのケッセルリンク様が…」

 

ある者はショックを受け、

 

「やっぱり相手はランスさんしかありえないよね」

「いつも一緒にいたしね」

 

ある者は納得し、

 

「男の人って…どんな感じなんだろ」

「ケッセルリンク様に聞いてみたいけど、聞きにくいよね…」

 

ある者は興味津々と、反応は様々だ。

 

「と、とにかく! 私はその人間を見に行く!」

 

ケッセルリンクはランスの手から離れると、人間を捕らえてある牢に早足で向かっていく。

 

「待ってよ! ケッセルリンク」

 

レダもケッセルリンクを追っていく。

ランスもついて行こうとするが、

 

「ランスさん。言い付けの物は用意できましたが、それはどうすればいいですか?」

 

ルルリナの言葉に足を止める。

 

「もう出来たのか。オーケオーケ」

「ムシも魔人も今の所動きありません」

「そうか…なら予定通りに実行するか。が、その前に…」

 

 

 

「…何やってるんでしょうかねえホント」

 

コーラはカラー達からは見つからないようにアーズラの状況を把握していた。

神であるならばこの程度は造作もない事だ。

 

「まあ勇者なら自力で逃げ出せるでしょうけどね」

 

勇者とはそういう存在だ。

思わぬ幸運が発生しここから出れるかもしれないし、勇者特性から協力してくれるカラーが現れるかもしれない。

いずれにしてもここから出れる事には変わりはない。

 

「ん…?」

 

その勇者の牢に一人のカラーと、金髪の女が入って行ったが、金髪の女の方に何か違和感を感じた。

 

「まあどうでもいいですね」

 

だが一瞬で興味を失うと、その会話を盗み聞く。

 

 

勇者アーズラの前に、突如として二人の美女が現れた。

簀巻きにされて、放り投げられていたアーズラにはまさにその二人は天使に見えた。

(おお…)

一人はカラーには珍しい、ショートへアのカラー。

少しきつめの眼差しがとても印象的で、そして何よりもその服の上からでも分かる盛り上がり。

今まで見て来た女性の中でも一番大きいかもしれない。

そしてもう一人は金髪の美しい女性。

耳の形状からしてカラーでは無いのは分かるが、それでもまさに神々しいと言わざるを得ない容姿だ。

サラリと靡く美しい金髪に、鎧の上からでも分かる大きな胸。

まさに極上の美女と言っても過言ではない。

そしてその口から発せられたのは、

 

「こいつが報告にあった変態仮面か」

「下着を盗むだけでなく顔に被るとか…どうしようもない変態ね」

 

まさに氷雪吹雪…いや、スノーレーザー級の冷たい言葉だった。

 

「ま、待って下さい! 違うんです!」

 

あれは全て不幸な偶然なのだ。

 

「僕はただ皆さんの水浴びを…」

 

見ていただけなんです! この一言を言おうとして言葉に詰る。

(どっちにしろ最低な事には変わりないじゃないか!)

男の言葉に、二人の視線がスノーレーザー級からシベリア級に変わる。

 

「…ランスとは違う意味で女の敵だな」

「…ランスもランスであれだけど、下着そのものにはあまり興味ないものね」

 

二人の視線の冷たさにアーズラは顔を背けるが、二人の視線の鋭さは変わらない。

 

「どうするべきだと思う?」

「…ルルリナ様に頼んで呪いをかけてもらうか。そうだな…女性の下着を見ると嘔吐するような呪いがあったはずだ」

「ちょ、ちょっと待って下さい!」

 

女性の下着を見ると嘔吐する呪いという言葉は流石に聞き逃す事は出来ない。

何しろ彼は勇者…勇者とは意図せずして女性の下着が見えてしまう時があるのだ。

その度に嘔吐をしては、まともな生活を送る事も出来なくなる。

 

「そ、それだけは許してください!」

「女性の下着を顔に身につける変態に、許しを請う権利があると思う?」

「断じて許す事は出来ないな。命を取らないだけでも有りがたく思うのだな」

 

どこまでも冷たい声にアーズラは背筋が凍る。

このまま自分は、女性の下着を見るたびに嘔吐する、別の意味での変態に成り下がるのか…と覚悟した時だった。

 

「で、こいつがその変態仮面か」

 

その時救い主? が現れた。

そこにいたのは以外にも男…それもまだ若い。

どう見ても20歳にはいって無さそうに見えるが、何故このカラーの村にいるのだろうかと不思議に思った。

 

「ランスか。今女王に呪いをかけてもらおうと話し合っていた所だ」

「あんたも呪われたほうがいいような気はするけどね…」

「アホ、恐ろしい事を言うな。だが…」

 

ランスはそこで考える。

ランスにとって今の状況では男など必要無い。

リックやパットンといったランスにとって無害な男なら構わないが、今目の前にいるのはランスにとっては何となく気に食わない男だった。

それはランスが本能的に感じたものだったのかもしれない。

だからこそランスは思いついた。

(そうだ、こいつを時間稼ぎのコマにすればいい)

「おい、レダ。ケッセルリンク」

 

ランスはレダとケッセルリンクに耳打ちする。

 

「…成る程ね。ランスの計画の内のまだ埋まってなかった部分を埋めるのね」

「しかし大丈夫か? この変態があっさりと死ねば結局は意味が無いぞ」

 

(え? 死ぬって何?)

少し聞こえてきた声にアーズラは身を震わせる。

この男の耳打ちに、二人の女性からは冷ややかな冷気は少し消えてきているが、逆にもっと物騒な目に変わる。

(うう…この二人の目…養ウシ場のウシをでもみるかのように冷たい目だ…残酷な目だ…

「かわいそうだけどあしたの朝にはお肉屋さんの店先にならぶ運命だ」って感じの…)

 

「わかった」

(え? わかったって何が?)

ケッセルリンクの言葉にアーズラの体からは冷や汗が止まらなくなる。

 

「この変態仮面の命がカラーの未来を作るというのであれば、お前の案を受けよう。女王には私から話しておく」

「まあ意外といい案じゃないかな。見たところ結構強そうだし」

 

非常に物騒な言葉に少し下半身が緩みそうになる。

 

「よし、じゃあ準備をさせてくるか」

 

ランスはこの時本人にも意外な事だが、非常に真面目に魔人を倒そうと思っていた。

勿論それは崇高な目的ではなく、ケッセルリンクを完全に自分のモノにするためなのだが…

 

「そうだな。こんな変態よりも今はやる事があったな」

「そうね。まずはアイツをどうにかしないといけないわね」

 

物騒な言葉と共に三人は出て行くが、アーズラはより不安になる。

呪いをかけられるという言葉に震えたが、今はあの男が二人に耳打ちした言葉が気になる。

そしてそれを受け入れたあの二人の女性…

(い、一体何がおきているんだ?)

勇者アーズラ、本当なら特に名前も残さないまま歴史に埋もれるはずの勇者。

だが、本来ありえないはずの人間との出会いにより、勇者の運命もまた変わっていく。

 

 

 

SS420年―――

AL教団が設立されてから120年。

女神ALICEはようやく形になってきた事に喜びを覚えていた。

(これでようやく動かせるかしらね)

神は人に「神魔法」という技術を与えた。

人はそれを神の力とし、AL教団を作った。

だがそれは、この世界をより面白くしようとする神のイタズラにすぎない。

女神ALICEの意向によって、あらゆる意思決定がなされ、神による直接の運営がされる組織にすぎない。

「さて、どうすればこの世界を面白く出来るかしらね」

創造神はメインプレイヤーがもがき苦しむ事を望んでいる。

ならな自分がそのメインプレイヤーを使用して、この世界に新たな混乱を作り出すのだ。

「楽しくなりそうね」

女神ALICEは本当に楽しそうに笑う。

この本来の歴史とはかけ離れた歴史となってしまっているこの世界で。

 




まずは先に勇者を登場させるのを忘れていました…プロットに書いてあるのに
何のためのプロットだよと小一時間ほど問い詰めたい

思った以上に勇者のくだりが長くなってしまいました…
勇者が不幸なのはデフォです
さらに超幸運のランスと出会うことでさらに不幸になっていく

シリアスが続くのはどうしてもNC期以降になってしまう…
SS期は本当に動きが無いから書きやすいと言えば書きやすいですが、
やっぱりもっと何か動きがあってもいいよなあと思いましたが、
ぶっちゃけそこまで設定を考える必要もない気もしてます…


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魔人オウゴンダマ

まず最初に感想においてのコーラについてお詫びいたします
設定ミスとか一番やっちゃいけいない事です…申し訳ありません
ただ、話の大筋には影響が無いのでこのままいかせて頂きます
ご指摘、感謝致します




オウゴンダマとは、最初の魔王であるククルククルの出身の種族である。

魔王という制度が作られ、最初のメインプレイヤーの敵であった存在。

それが「丸いもの」という種族だ。

しかし魔王ククルククルはドラゴンとの戦いに敗れ、新たな魔王であるアベルが生まれた。

そのアベルの時代でも「丸いもの」は生き延びた。

そしてアベルがドラゴンの王、マギーホアとの戦いに敗れ、新たな時代の一つが作られた。

その新たな時代をルドラサウムは飽き、その全てが消滅した。

新たなメインプレイヤーとして人間が作られ、メインプレイヤーの敵として新たなモンスターが作られた。

それでも「丸いもの」は消滅していなかった。

一部のムシと共に生き延び、その数を普通に増やしていった。

そしてその内の一体である「オウゴンダマ」は常々思っていた。

『何故新しく生まれた奴には、何かが生えているのだろう』と。

その新しい存在をそのオウゴンダマは何故か羨ましく思った。

そんなある日、たまたまある物を見つけた。

それこそが「魔血塊」、魔王が魔人を作り出すために必要な物。

だからその「オウゴンダマ」は躊躇いなくその魔血塊を取り込んだ。

かつて魔人だった者と精神の鬩ぎ合いはあったが、「オウゴンダマ」その意外なほどの意思の強さでそれを抑え込んだ。

気が付いた時には、自分には新しく生まれた奴のようなものが生えていた。

自分は浮いているはずだが、その時その新しく生えた器官から何かを感じた。

それは『足の裏』という感覚。

そして自分が歩いてるという感覚だった。

自覚したのは喜びであった。

魔人オウゴンダマは思った…この素晴らしい『肉体』をもっと色々な者に見て欲しいと。

自分の元に集まってきた「丸いもの」は自分の『肉体』を褒め称えてくれている。

しかし彼は不満だった。

『この肉体を同じ肉体を持つ者に見てもらいたい』

この欲求が彼を支配し、彼が向かった先にはカラーという種族がいた。

彼女達に自分の肉体を見て欲しく、その肉体をアピールしたが、帰ってきたのは無数の矢と魔法だった。

その攻撃は無敵結界によって防がれるが、オウゴンダマは悲しんだ。

『何故皆は自分の肉体を褒めてくれないのだろう?』

そんな悲しみからオウゴンダマは荒れた。

そしてこの前は攻撃してきたカラーと、『人間』という種族に対し反撃をした。

中でもその『人間』は手強く、その剣から発せられる衝撃は無敵結界すらも無視して自分に襲い掛かった。

だがそれでも自分のこの肉体には誰も傷つけることが出来なかった。

『ああ、なんて自分の肉体は素晴らしいのだろう』

そんな自分を称え、彼は己の肉体を誇示した。

生憎と誰も分かってはくれないが、何れは誰もが分かってくれる…そう信じて。

だがそんな彼に帰ってきたのは意外な言葉だった。

 

「あーもう! 無敵結界って本当に嫌になるわね! あんたのその筋肉は飾りかー!」

 

その言葉は彼に凄まじい衝撃を与えた。

そうだ、今まで自分が無傷なのはこの素晴らしい肉体ではなく、無敵結界のおかげなのだと。

だからこそ彼は一瞬無敵結界を解いてしまった。

肉体に感じたのは僅かな熱。

だがしかし、その熱すらも今の自分の肉体にはこの程度の傷しか作ることは出来ないのだと。

改めて己の肉体を誇示しようとした時、邪魔が入る。

それはムシと呼ばれる知能は低いが、優れた体を持つ強敵。

だからこそ彼はそれを迎え撃った。

ムシを倒した時には既にカラーと人間はいなくなっていた。

でも大丈夫、きっと彼女達は自分の肉体を分かってくれる…そんな期待を持って、オウゴンダマは再び歩き始めた。

そしてどの程度歩いたであろう。

自分の目の前にあるのは―――四角いジャングルだった。

その上には一人の仮面を被った『人間』が居た。

それを見た時、オウゴンダマは自分の心が強く動くのを感じた。

アレには自分が心惹かれる何かがある、と。

そしてリングの外には無数のカラーがいるが、なんと自分に与えられているのは歓声だった。

その時彼にはとてつもない喜びが体を襲った。

 

「キャーーーー!」

「ナイスバルク!」

 

色々な声援を受け、自分はその四角いジャングルへと歩いていく。

今はまだその肉体を誇示する場所ではない…そう言い聞かせ、彼は四角いジャングルに上がる。

仮面をつけた人間は自分よりも細身ではあるが、中々見事な肉体と言ってもいいだろう。

その人間が自分の体をアピールするかのように、軽快なパフォーマンスを披露する。

するとカラーからの歓声が大きくなり、その人間はそれに応えるかのように肉体をさらにアピールする。

それに対抗心を燃やし、彼も己の肉体をアピールした。

己の肉体を余すことなく見て欲しい…!

その渾身のポーズにかえってきたのは来たのは―――歓声。

『ああ…やはり自分の肉体を分かってくれた…筋肉は世界共通の言葉なのだ!』

改めて魔人オウゴンダマは感じた。

 

 

 

―――魔人オウゴンダマが現れた次の日―――

 

「がはははは!」

ランスの何時もの笑いが響く。

今、ランスの目の前にある光景は、カラー達が一生懸命ある物を作っている姿だった。

 

「ランス…本当にこんなモノが役に立つのか?」

 

ケッセルリンクは怪訝な表情でランスに問う。

 

「大丈夫だ。奴の無敵結界はこれで無効化出来る」

 

あまりにも自信満々のランスの言葉に、ケッセルリンクはやっぱり少し不安になるが、この男がそう言うのであれば賭けてみるのもいいと思っていた。

 

「だがあの格闘技能はどうする? お前とレダしか対抗は出来ないぞ」

 

ケッセルリンクのもう一つの不安は、あのオウゴンダマの格闘技術にあった。

仮に無敵結界を何とかするにしても、あの技はカラーには脅威だ。

自分でも対抗するのは不可能…つまりはランスとレダに頼るしかない。

 

「あん? 格闘技術?」

ランスの不思議そうな顔を、ケッセルリンクは疑問に思った。

 

「いや、あの肉体を駆使した技の事が」

「ああ、そうか。何か噛合わないと思ったが、お前達にはあれが『格闘』技術に見えていたのか」

「…違うのか?」

 

今度はケッセルリンクが不思議そうな顔をする。

自分の目から見れば、アレはどう見ても『格闘』という技能にしか見ることが出来なかった。

 

「私もちょっと違和感を覚えているのよね」

 

レダもあのオウゴンダマが『格闘』という技能を有しているのを少し疑問に思っていた。

『格闘』の技能を有している同僚は存在したが、その同僚が使う技とは少し違っていた気がしてならない。

最初は技能レベルの差かと思ったが、それにしてはあの魔人の行動には『無駄』が多いのだ。

「ランス…分かってるんでしょ? いい加減教えてくれてもよくない?」

「まあ別にもったいぶる事では無いな。奴の技能は『格闘』じゃない。『プロレス』だ」

 

その言葉に違った反応が返ってくる。

 

「『プロレス』とは何だ?」

「あーそうか! 『プロレス』だ!」

 

ケッセルリンクは『プロレス』という言葉に疑問を、レダはその言葉に理解を示す。

 

「ケッセルリンクは知らんのか? プロレス男というモンスターがいるのだ」

「プロレス男…いや、聞いたことが無いな」

「あーいるわね。そんなモンスター」

 

ランスも冒険者としての活動は長い。

その中でも色々なモンスターを倒して来た経験があるが、あの魔人の攻撃方法とプロレス男の攻撃は非常に似ていた。

 

「私は見たことが無いが…どんなモンスターだ?」

 

ケッセルリンクが見た事が無いのは無理はない。

本来はまだ生まれていない男の子モンスターであり、その誕生はもっと先の話だからだ。

 

「俺様も説明するのは難しいが…まあとにかく妙なモンスターだ。人間と姿はほとんど変わらんが、行動がとにかく派手で、無駄が多い」

「…それは妙なモンスターだな。しかしそれと今作っているモノには関係があるのか?」

「あるから作ってるに決まってるだろうが。後はもう一つの仕込みが必要だがな」

 

ランスの立てた計画は、ケッセルリンクとしては『そう上手くいくのだろうか?』と疑問が残るものだった。

が、今の状況ではこの計画以外には道は無い…この森を離れて、新たな森を探すことが出来るかはケッセルリンクも疑問だったからだ。

 

「大丈夫だ。絶対に上手くいく」

「この自信ってどこから来るのかなぁ…」

 

レダは少々疑問に思うが、この男なら『何かしそう』という感じもあった。

何しろ自分達エンジェルナイトをも倒したのだ。

付き合って分かるが、この男は底知れぬ何かを持っているのもレダも感じていた。

女神ALICEはそれ故に、エンジェルナイトである自分をすらも動かしたのだとも思っていた(誤解)。

 

「だが色々足りないものがあるのは事実だがな…」

「…お前の力に耐えうる剣は見つからなかったからな」

 

結局はランスの今の技術に耐えられる剣は、カラーの村の中には存在しなかった。

それだけ今のランスの技術はずば抜けていた。

 

「それは解決しそうだ。ああ、そうだケッセルリンク、レダお前も付き合え。それとレンジャー技能を持ってる奴と、魔法を少しは使える奴はいるか?」

「急にどうした?」

「なーに、ちょっとした探索だ」

 

 

 

―――魔人との決戦の日―――

 

「うーむ、見事に完成したな」

「ああ、お前の指示にしたがって作ったがこれでいいか?」

 

ランスの目の前には見事なリングが出来上がっていた。

カーボンの木で作られた4つのポスト、丈夫で弾力のある蔦で作られたロープ。

そしてそのリングの周りに置いてある沢山の椅子。

 

「アナウサ、お前も準備は出来てるか?」

「はーい! 大丈夫ですケッセルリンク様」

 

アナウサが勢いよく応える。

 

「頼むぞ。ランスの言葉ではお前の力が頼りだ」

「任せてくださいよー。私ってこういう才能あったのかな…」

 

この作戦は、意外にもアナウサ・カラーが鍵であった。

 

「私の方も準備いいわよ。ケッセルリンク、いつでも大丈夫よ」

「分かった」

 

レダとケッセルリンクにはまた別の仕事がある。

この仕事は危険であるため、カラーの中でも一番の実力を持つケッセルリンクと、やはり力がずば抜けているレダが選ばれた。

 

「あー…無理はするなよ」

「…ああ、大丈夫だ」

 

ランスの意外な声にケッセルリンクは少し驚いた。

それは本当に自分を心配してくれている声…あの普段から自信に満ち溢れているランスがこんな声を出すのか、と思って少し嬉しかった。

 

「それと、だ」

 

ランスは改めてケッセルリンクに向き直る。

 

「改めて言うが、俺様の女になれ。ケッセルリンク」

「…お前は本当にそればかりだな」

 

ケッセルリンクにあるのは呆れの表情だが、ランスの顔は本気に見えた。

(いや、この男は最初から最後まで本気なのだろうな…)

この男は本気で自分を欲している、それは十分に理解出来た。

正直、こんな関係になるとは自分でも思っていなかった。

最初の出会いからこれまで、まさに今まで生きてきた中でも、1番の衝撃だった。

中でもあの廃棄迷宮での出来事…それが一番の衝撃。

 

「前にも言っただろう。ならば魔人を倒して見せろとな」

「俺様ならば魔人を倒すくらい容易い事だ。だとすれば既にお前は俺様の女になったと

いうことだな!」

 

ランスがいつもの笑い声をあげる。

(…本当にこいつの自信はどこからくるのやら)

が、今はそんな態度が有難い。

この男には人に夢を見させる力がある、改めてケッセルリンクはそう感じた。

ならば自分も今はこの男に賭けるのが一番だ。

 

「じゃあ行くわね」

「そうだな。そろそろ行くとしよう」

 

既に魔人が現れたという報告は受けている。

そして自分たちの目的の居場所も既に判明している。

ならば後は実行するのみ…レダとケッセルリンクは森に消えていった。

 

「あの…ランスさん…」

 

女王であるルルリナは恥ずかしそうに体を震わせていた。

 

「おおー…改めてみると似合っているではないか」

「ううう…あんまり嬉しくないです…」

 

ルルリナ・カラーは普段の服とは違う、もっと過激な服装に着替えていた。

その衣装こそ、まさにきゃんきゃんの衣装と言っても過言ではない。

無論ランスが作らせたモノだが、この服装もランスには必要なものだった。

(スレンダーだが中々いいではないか…)

 

「それよりも、きちんと出来たか?」

「それは大丈夫です。でも魔人に通用するでしょうか…」

 

ルルリナは不安そうにランスに尋ねる。

 

「大丈夫だ。俺様の作戦通りなら必ず通用する。俺様には実績があるからな」

 

そう、ランスは既に経験済みだ。

魔人にカラーの呪いは通用するのだ。

 

「ランスさーん!」

 

カラーの一人がランスの元へ走ってくる。

 

「魔人の姿が確認出来ました!」

「よーし。じゃあ始めるか。おい、変態仮面」

「変態仮面じゃ無いです…」

 

ランス達の側に居た変態仮面―――勇者アーズラは密かに涙を流した。

上半身裸で、下半身は妙なタイツのようなものを履かされ、そして顔にはそれこそ仮面がつけられていた。

何故かそれは蟹を模した仮面であった。

 

「お前の役割はそのリングで魔人と戦う事だ」

「いやその何でリングの上で魔人と戦う必要が…?」

 

ランスの立てた計画の不安要素の一つ、それがレダとケッセルリンクが戻って来るまでどうやって時間を稼ぐかだ。

生半可な事では魔人相手に時間を稼ぐことは不可能…かといって、ランスが時間を稼ぐのは本末転倒だ。

最初ランスはその辺の人間を捕まえてくこればいい程度に考えていたが、ちょうどいい壁役がカラーの森に現れた。

ランスにとっては男なぞほぼ消耗品であり、カラーの役に立つなら構わないという何時ものランス的な考え。

 

「なんだ? やっぱり呪いの方がいいか?」

「…戦いでお願いします」

 

勇者は綺麗に土下座をする。

もしケイブリスがそこに居れば、どちらの土下座が美しいかの土下座合戦が始まっていただろう。

 

「じゃあ上がれ。大丈夫だ、上手くやれば死なない」

「ううう…覗き一つで何でこんな事に…不幸だ…」

(しかもあの二人は何処かに行っちゃうし…)

 

せめてここにあのレダとケッセルリンクという女性が居れば、いい所を見せようと頑張れるのだろうが…

 

「ちなみに逃げた瞬間お前にはカラーの呪いがかかるからな」

「勘弁してください…」

 

ちなみに呪いとはその蟹の仮面。

カラーの呪いがかかっているその仮面は自分で脱ぐことが出来ない。

勿論勇者であればその呪いも何とか出来るのだが、今の彼はそんな事は知らない。

渋々とリングに上がると、周りのカラー達も皆備え付けてある椅子に座る。

ランスも一際豪華に作られた椅子にふんぞり返ると、一体の奇妙な魔人が近づいてくる。

それこそがこの前ランス達が戦った魔人オウゴンダマであった。

魔人オウゴンダマは、設置されたリングの前に動きを止める。

それは何かの葛藤を感じさせ、何かの喜びに震えているようでさえあった。

 

「よし、始めろ」

 

ランスの合図で、一部のカラーが音楽を流す。

それは非常に勇ましい音楽であり、戦意を高揚させるような激しい曲。

それに負けないように、椅子に座っているカラー達は立ち上がり、

 

「キャーーーー!」

「ナイスバルク!」

 

魔人に対して声援を送る。

 

「どうでしょうか…」

 

ルルリナは不安そうな顔をするが、ランスは余裕の表情だ。

 

「なーに大丈夫だ」

 

その言葉通り、魔人オウゴンダマは、悠々とリングに上がる。

それと同時に先にリングに上がっていた覆面勇者が自分の体をアピールする。

勿論これも事前に打ち合わせ済みだ。

そのパフォーマンスが終わると、今度は魔人オウゴンダマが己の肉体をアピールする。

実に奇妙な光景ではあるが、カラー達は打ち合わせ通り魔人にも声援を送る。

そして魔人のアピールが終わると、ランスはアナウサに合図を送る。

アナウサは小さく頷くと、魔法拡声器を手にして大きく息を吸う。

 

『さーて皆様やってまいりました! 今ここに謎の覆面レスラー、蟹ユーシャと魔人オウゴンダマの一戦が始まります!』

 

その声にカラー達は一斉に声を上げる。

勿論全てはランスの指示であり、言ってしまえばヤラセである。

 

『ここでレフリーのチェックが入ります…ああっと! 蟹ユーシャからは凶器が! これはいけません!』

 

リングの上には一人のカラーがボディチェックを行っている。

ここで蟹の覆面からは凶器が発見されるが、勿論全てがヤラセである。

 

『さーてこれでぶつかるのは己の肉体と肉体のみ! 何も無いまさにガチンコ対決! さぁ始まりだぁー!』

 

カァーーン!

 

鐘の音が鳴り響き、蟹ユーシャが魔人オウゴンダマに攻撃を仕掛ける。

それは逆水平チョップと呼ばれるもので、本来であれば魔人に対しては無敵結界で阻まれるはずの一撃。

 

『おーっと! オウゴンダマ避けない! その肉体で受け止めた―!』

「「「「「おおおおおーーーーーーー!!!!!」」」」」

 

大歓声が鳴り響き、辺りが歓声に包まれる。

 

「ランスさん!」

 

ルルリナ・カラーは少し興奮した様子でランスの名を呼ぶ。

ランスはそれを見てニヤリと笑って見せた。

 

「ククク…思った通りだ。この舞台を整えれば、必ず無敵結界を解くと思ったわ」

 

ランスの立てた作戦…それは『無敵結界が解除出来ないのであれば、相手に解除させればいい』というものだった。

かつてサテラから無敵結界は任意で解除が出来ると聞いて、ランスはこの計画をたてた。

相手がプロレスで来るのならば、それで迎え撃てばいい。

そうすれば相手は『無敵結界を解除せざるを得ない』からだ。

それがプロレスという技能の業なのだ。

 

「後はレダとケッセルリンクを待つだけだな」

 

ランスは既に己の作戦の勝利を確信していた。

 

 

 

「ククク…あはは…あーはっはっはっは!!」

 

その魔人と人間の戦いを見ている者が居る。

遠隔目玉でそれを見ているのは、魔王スラル。

魔王スラルは生まれて初めて腹を抱えて笑っていた。

 

「ま、まさかそんな手段があったなんて…」

 

無敵結界をどう解除するのか、スラルはランスがどのような方法を取るのか、研究者としても楽しみにしていた。

もし解除する方法があるとすれば、それを改善しなければいけないと思っていた。

だがまさか、こんな手段を取るなんて。

誰が考えるというのだ…『無敵結界を解除出来ないならば、相手に解除させればいい』とはスラルですら考えてもいなかった。

 

「やっぱりあの人間いいわね…」

 

あんな人間、今まで見た事も無い。

(あの人間…欲しいわね)

それはガルティアを魔人にして以来の欲求。

 

「でもまだ結界を解除させただけ。ここからどうするのかしらね?」

 

でもスラルはランスの勝利を微塵も疑ってはいなかった。

むしろここからどのようにランスが動くのか、それが楽しみだった。

 




ようやく魔人戦…の導入部です
でもやる事はプロレス(八百長)
馬鹿馬鹿しい手段だとは思いますが、ハウゼルもそんな感じだったし…
次でオウゴンダマとの決着がつきます


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魔人の最期

勇者は正に命がけだった。

『こいつと戦えば呪いをかけるのは許してやる』

そう言われて思わず頷いてしまった自分を殴りたくなる。

自分の目の前にいたのは、『魔人』と呼ばれる存在。

この世界の支配者である魔王から血を与えられた24体の魔人の一人。

頭はオウゴンダマなのにそれ以外はムキムキの褐色の筋肉をした異形の魔人。

 

「強い…」

 

こうして相手をしていると嫌でも相手の強さが分かる。

初めて魔人と戦うが、まさかこれほどの強さを持っているとは思ってもいなかった。

今まで自分が倒して来たモンスターとは、まさに次元が違う。

自分は愛用の剣を持っていないが、相手も魔人特有の『無敵結界』を使用していない。

が、愛用の剣があったとしてもこの魔人には勝てるかどうか分からなかった。

それ程までに、この魔人の肉体は強靭だった。

オウゴンダマが一直線に突っ込んでくるが、それに当たる勇者ではない。

問題はこの後…周囲の蔦で出来たロープの反動で、こちらに飛んでくるのだが、その後の動きが予想もつかなかった。

勇者の特性として、相手の技を見切り、その技が通用しないというものがあるが、この魔人にはそれが通用していない。

(相手の動きが…予想外すぎる…!)

両足を揃えたドロップキックの事もあれば、そのまま膝蹴りが飛んでくることもある。

それだけでなく、両の手を揃えてのクロスチョップ、果てには肩からの体当たりと、相手の動きが豊富なのだ。

『あーっと! 蟹ユーシャ、オウゴンダマの攻撃の前に避けるので精一杯か!?』

この試合の解説をしているアナウサ・カラーの声が響く。

 

「ぶーぶー!」

「もっと組み合えー!」

 

(ううう…味方がいない…)

カラー達は一向に組み合おうとしない自分にブーイングをする。

もちろんアーズラもその意図は何となくではあるが理解していた。

カラーがブーイングをすると、相手のオウゴンダマはそのカラー達に向けて自分の肉体をアピールしていた。

その度にカラーもオウゴンダマに声援を送るが、これは間違いなくあの椅子にふんぞり返っている男の指示だろう。

(時間稼ぎ…か)

男は自分に魔人を倒すという事を期待してはいない。

男の目的は、先程いなくなった二人が戻って来るまでの時間稼ぎだろう。

(でもせめてあの二人には居て欲しかった…)

あの見事なまでのスタイルを持った二人の女性。

自分が見惚れる程の美貌を持った、スタイルも素晴らしいあの女性達。

(あの二人が居ればもっと頑張れる気がするのに…)

勇者は心の中で涙しながら、目の前のオウゴンダマへと意識を集中させる。

少しでも気を抜けば、相手の大技が待っているだろう。

それは勇者として、冒険者としての自分の絶対的な感。

今までの攻撃は全て様子見に過ぎない。

『あーっと! オウゴンダマ姿勢を低くしています!』

実況の言葉通り、オウゴンダマがまるで四つん這いになるかのように、姿勢を低くする。

それは自分の力を溜めて、一気にこちらに飛び掛かる合図でもある。

(あれはまずい…)

もし捕まれば最後、相手の大技をくらい自分は倒されてしまうだろう。

(だが、勇者というのはピンチな時ほど光り輝く!)

アーズラは自分を鼓舞し、相手の出方を慎重に窺う。

そして獣のような速度で相手が動く。

『これは!』

実況の言葉が妙にスローに感じられる。

しかし勇者はこの状況でも非常に冷静に動いていた。

相手は一瞬消えたように見えたが、それは…

 

「上!」

 

アーズラは一瞬の判断で、相手の腕から逃れる。

そのまま相手は自分の頭を通り過ぎ―――

(しまった!)

ここで自分はとんでもない勘違いをした事に気づく。

ここがリングでなければ今の一撃は完全に避けていたはずだった。

だが、ここはそのリングの上―――自分を通り過ぎたオウゴンダマはそのまま反対側のロープの反動で、アーズラの背後を取る。

『これは! 蟹ユーシャ、オウゴンダマに背後を取られた!』

オウゴンダマの太い両腕がアーズラの腰に回され、

『あー! これは…アトミックドロップだー!』

オウゴンダマの膝にアーズラの尻が叩きつけられ、

 

「うわぁ…」

 

流石のカラーも今の一撃は引いたようで、歓声もあがらない。

 

「ラ、ランスさん、大丈夫なんですか?」

 

ルルリナが心配そうに声をだすが、ランスは何も問題は無いといわんばかりに手を振る。

 

「あー心配はする必要はないぞ。見ていろ」

 

アーズラは尻を押さえて悶絶しているが、オウゴンダマは不思議とそこから追撃をする事は無い。

それどころか、リングの中央で自分の筋肉をアピールし始めた。

 

「…アレは何でしょうか?」

「気にしなくていいぞ、アレはああいう奴らだ」

 

今思えばプロレス男はなんとむさ苦しい奴らだったのだろうかと思い返す。

あれを見ると何故か無性にパットンを思い出してしまう。

(あいつも暑苦しい奴だったな…色々な意味で)

ランスがパットンの事を思い出していると、リングの上に動きが出る。

アーズラが筋肉をアピールしているオウゴンダマに対して不意打ちを仕掛けた。

『これはー! き、汚い! 蟹ユーシャの拳がオウゴンダマのオウゴンダマにー!!』

その攻撃は綺麗にオウゴンダマの股間に当たり、オウゴンダマは股間を抑えて蹲る。

やはり魔人でもそこ攻撃されるのは痛いらしい。

 

「ぶーぶー!」

「汚いぞー!」

 

観客役のカラーがブーイングを入れるが、これも言ってしまえば『ヤラセ』に過ぎない。

プロレス男にも色々な種類が登場するが、前回あのオウゴンダマは己の肉体のみで攻撃を仕掛けてきた。

と、いう事は外人プロレス男のような凶器攻撃を使用することは無い。

言い換えれば正統派のレスラーだという事だ。

(打ち合わせ通りにしているはずなのに、どんどん自分が悪者になっていく…)

アーズラはこんな事はしたくなかったが、呪いにかけられるのはもっと嫌だった。

『おーっと! 立つ! オウゴンダマが立つ!』

アナウサの言葉通り、オウゴンダマは立ち上がると、その表情が一切見えない顔の当たる部分に怒りのマークが浮かんでるように見えた。

(あ、これヤバいかもしれない)

オウゴンダマが今まで以上のスピードでアーズラに迫り、彼もそれを避けるので精一杯になる。

 

「ランスさん…大丈夫でしょうか?」

「うーむ…」

 

突如として動きを激しくしたオウゴンダマに対し、ランスも少しまずいかもしれないと思う。

もし万が一、あのまま怒り狂って攻撃を続けるとすれば、計画が台無しになる可能性が高くなる。

 

「ランスさん…ランスさんが何とか出来ないのですか?」

「駄目だ。今俺様が動けば全てが台無しになる」

 

これだけの大舞台を整えたとしても、チャンスは一度しかない。

今ここで動けばそのチャンスをドブに捨ててしまうに等しい行為だ。

そう、今のランスには無敵結界を打ち砕く手段が存在しないのだ。

だからこそ確実に、そして一度で魔人を倒す必要が出てくる。

それ故にここまで面倒な手段を用意せざるを得ないのだ。

『捕まった! とうとう蟹ユーシャが捕まったー!』

リングの上では新たな動きがある。

ついにアーズラはオウゴンダマの手に捕まってしまっていた。

 

「クッ!」

 

アーズラは何とかその腕から逃れようとするが、やはり魔人の腕力は圧倒的であり、その腕はびくともしない。

(力が駄目ならば技で何とかするしかない…!)

しかしプロレス技能を持たないアーズラには、技能持ちの魔人にテクニックでも劣る。

オウゴンダマはあっさりとアーズラを持ち上げ、

『これは…ブレーンバスターだ!』

アーズラをリングに叩き付ける。

これにはたまらずアーズラも悶絶する。

 

「ところでランスさん…何でアナウサはああもスムーズに解説出来るんでしょうか? それに未知の言葉をさっきから発しているのですが…」

「俺様も知らん」

 

アナウサ・カラー、解説LV1 その技能は今まさに発揮されていた。

(しかしとうとう捕まったか…まあ予想はしていたが、少しは持ったか)

ランスも何時までも相手の攻撃から逃げられるとは思っていなかった。

ただ、ランスの予想に反してあの変態はよく耐えていた。

 

「ランスさん!」

 

その時、メカクレ・カラーが興奮した様子でランスに声をかける。

 

「合図です!」

「む、そうか!」

 

それは待ち望んでいたケッセルリンクとレダからの合図だ。

彼女達も己の役目を果たせたという事だ。

だとすれば、もう少しでランスの目的のモノが到着する。

 

「よし、2段階目に入るぞ」

「ハイ!」

 

ルルリナも表情を引き締める。

ここからは彼女の力も必要になる。

(ケッセルリンク…お願いしますよ)

 

 

 

―――合図が送られる少し前―――

 

「いたな」

「ええ」

 

ケッセルリンクとレダは目的のモノを見つけ出せた。

斥候に出ていたカラーの報告の場所と殆ど離れていなかったのは、彼女達にとって幸いだった。

移動する可能性もあったが、どうやら自分達は賭けに勝ったらしい。

 

「しかもいい具合に寝てるわね」

「ああ、思わぬ幸運だ」

 

ケッセルリンク達の視線の先にいるのは、今現在のカラーの敵であるはずの存在、即ちムシであった。

2体のヴェロキラプトルが眠っていた。

 

「じゃあ予定通りに」

「ああ」

 

レダとケッセルリンクは同時に球のような物をヴェロキラプトルに投げつける。

それは見事にヴェロキラプトルの顔に直撃し、その顔を白く染める。

ヴェロキラプトルは文字通りに飛び起き、自分の顔に何かをぶつけた存在を探す。

ケッセルリンクはその隙に、上空に向けてファイヤーレーザーを放つ。

これだけの魔法であれば、必ずランス達はこの合図に気づく。

ヴェロキラプトルがケッセルリンク達を見つけると、まさに怒りの雄叫びをあげ、走り出す。

 

「じゃあ行きましょうか」

「そうだな」

 

二人は軽やかに答えると、一斉に走り出す。

二人の身体能力はまさにずば抜けており、本気で逃げればヴェロキラプトルにも追いつかれる事は無い。

 

「しかしランスは本当に面白い事を考え付くな」

「そうね…悪辣とも言えるけど、効率的とも考えられるしね」

 

これも全てランスの計画だ。

勿論レダとケッセルリンクの案も織り交ぜた上での計画だが、今の所は上手くいっている。

後はこのヴェロキラプトルを案内するだけだ。

二人はランス達が待つ、リングに向かって走り出した。

 

 

 

リングの上では、アーズラとオウゴンダマが手四つの状態で睨みあって(?)いた。

ランスの予想以上に、アーズラは魔人相手に食い下がっていた。

それは『勇者』という、この世界にただ一人存在する事が許された人間の特性。

勇者は普段は不幸だが、いざとなると恐ろしく強運になるという特性。

確かにカラーに捕らわれたのは不幸だろう。

そのカラーに軽蔑の目で見られているのもまあ不幸だ。

結果、魔人を相手にさせられているのも不幸だ。

しかしその相手はまさに幸運―――プロレス技能を持つ魔人と戦えたのは勇者の強運だろう。

何故ならば、相手は自分の攻撃を食らってくれているからだ。

勇者は手四つを振りほどくと、魔人に対して強烈なキックをする。

もちろんその動作はバレバレであり、魔人ならば余裕で避けれるはずの攻撃だが、その魔人はあえてその攻撃を食らって見せる。

『蟹ユーシャ! 強烈な蹴りを見舞うが、オウゴンダマはあえてその肉体で受け止める! 凄まじい筋肉の鎧だー!』

アナウサ・カラーは敢えてオウゴンダマの筋肉を強調する。

全ては魔人の無敵結界を張らせないためだ。

 

「このまま上手くいってくれるといいのですが…」

「上手くいかなきゃどの道未来は無い。上手くいくのではなく上手くいかせるのだ」

 

ルルリナはランスの言葉に頷く。

その通りだ…今魔人をどうにかしなければ、この先ずっと魔人の脅威にさらされる事になる。

そして今相手は確かに無敵結界を解除している…ならば今しか無いかもしれない。

『あーーっ! これはー!』

実況役のアナウサの声が驚愕と共に響く。

オウゴンダマがアーズラをダブルアームスープレックスの形で掴むと、そのまま勢いよく回転を始める。

 

「「「「ゲェー!」」」」

 

そのままアーズラを上空に投げると、それを追ってオウゴンダマも上空に飛ぶ。

そしてそのままアーズラを掴むと、その腹に頭部を当て、回転しながらリングに叩きつけた。

『決まったー! オウゴンダマの大技が炸裂! あー! 蟹ユーシャ起き上がれない! そしてフォールにいったぁー!』

 

「ワン! ツー! スリー!」

 

カンカンカン!

 

レフリーを務めているカラーの声が響き、そして試合終了の鐘が鳴り響く。

 

「ランスさん…」

「まあ大丈夫だろ。見てみろ」

 

ルルリナは魔人がどういう動きをするのか不安がっているようだが、ランスには不安要素はまったく無かった。

魔人はリングの中央で勝利のポージングをしていた。

レフリー役のカラーがアーズラをリングの下に移動させる。

どうやら気絶しているだけのようだ。

そしてその時、

 

「ランス、いいぞ」

 

ケッセルリンクがレダより先に戻ってくる。

 

「そうか。全ては予定通りだな」

 

ケッセルリンクが戻ってきた事で、椅子に座っていたカラーが一斉に立ち上がり警戒態勢をとる。

このままランスの立てた予定通りであれば…

 

「来たぞ」

 

ケッセルリンクの言葉通りレダがこちらに、正確にはリングに向けて走ってくる。

そしてそれを追って、ヴェロキラプトルもやってくる。

レダがリングの上に上がると、それに続いてヴェロキラプトルがリングに上がる。

それを見て、

『乱入! 乱入です! 謎のペイントムシレスラーの乱入だぁー!』

アナウサが声を張り上げる。

レダはその隙にリングから降り、こちらに向かってくる。

「とりあえずここまでは上手く行ってるわね」

今現在、魔人とヴェロキラプトルは睨みあっていた。

これまでの情報収集で、魔人とムシが縄張り争いをしていたのは把握していた。

どちらかと言えば、ムシの方が魔人に手を出しているという感じだが。

以前、ランス達が魔人と戦っている最中にムシが乱入してきたが、ムシはランス達よりも魔人を襲う事を優先していた。

ランスが立てた作戦は、無敵結界を解除させた上でムシと戦わせる事だった。

『第二試合! 第二試合の開始です!』

 

カァーン!

 

アナウサの言葉に戦いのゴングがなる。

それを意識していた訳ではないだろうが、2体のヴェロキラプトルがオウゴンダマに襲い掛かる。

『あーっと! 傷が! オウゴンダマの体に傷がー!』

アナウサの言葉通り、あの魔人であるオウゴンダマが、小さいながらも体に傷を作っていた。

オウゴンダマは自身の技能故に、この四角いリングの上では己の肉体で全ての攻撃を受けねばならない。

それがプロレス技能を持つ者として、そして己の肉体を絶対とする魔人オウゴンダマの宿命とも言えた。

 

「やれー!」

「頑張れオウゴンダマー!」

 

それを見て、観客のカラーが一斉に声を張り上げる。

勿論これも全て仕込みであり、オウゴンダマをその気にさせるためだ。

そしてランスの予想通り、リングの上ではオウトンダマとヴェロキラプトルの戦いが始まっていた。

 

「…ランスの目論見通りだな」

 

ケッセルリンクは色々な意味で感心した声を出す。

今回ランスの立てた作戦は、魔人の無敵結界を発動させない上で、ムシと魔人をぶつけ合うという中々手間のかかった作戦だった。

本当に無敵結界を消せるのか、そしてムシと魔人をぶつけ合う事など本当に出来るのか…半信半疑だったが、結果は成功だろう。

リングの上では魔人が無敵結界を無しにムシと戦っている。

ムシもムシで魔人しか目に入っていない様で、こちらを襲ってくるような感じはしない。

 

「悪辣というか何と言うか…おいしい所だけを持っていこうっていう感じが凄いわね」

 

レダも若干呆れているが、内心では『これ以外の方法は無い』とは思っていた。

そもそも、魔人に無敵結界を解除させるという考えが自分にも無かった。

 

「それよりもお前らも用意をしろ」

 

レダとケッセルリンクからすれば、以外にもランスは目の前の戦いに集中をしていた。

それはランスが昔に数多くの魔人と戦ったときの経験。

魔人相手ではランスでも気を抜く事は出来ない。

ランスは相手が誰であろうと、奇襲・不意打ち・騙し討ち・何でも有りで戦ってきた。

それだけ魔人という存在は強い。

真正面から向かっていくという選択肢はほとんど無い。

そしてオウゴンダマは、ヴェロキラプトルの爪と牙に傷を負いながらも確実に相手にダメージを与えていく。

『オウゴンダマのDDTが決まったー! これはもう動けません!』

アナウサの言葉通り、オウゴンダマのDDTが炸裂し、1体のヴェロキラプトルが沈黙する。

そしてそのまま後ろから組みつくと、コーナーポストに飛び乗りそのまま己の肉体でヴェロキラプトルを押し潰す。

『決まったー! ムシ達はもう動けません! オウゴンダマ選手、見事に勝利を掴みました!』

アナウサの言葉にカラー達が一斉に拍手をし、歓声を上げる。

オウゴンダマは体中傷だらけで、肩で大きく息をしていた。

それだけムシ達と死闘を繰り広げたという事だ。

『ここで特別ゲストからの花束の贈呈です!』

リングに上がったバニーガールコスのルルリナはその手に花束を一つ持っていた。

彼女はオウゴンダマに近づくと、

 

「おめでとうございます!」

 

とびきりの笑顔で花束をオウゴンダマに渡す。

オウゴンダマはそれを受け取ると、やはりポージングをし、己の筋肉をアピールする。

「…そしてごめんなさい」

ルルリナは本当にすまなそうに声を出す。

心優しい彼女は、やはりこの作戦には少し後ろめたい物を感じていた。

しかし彼女はカラーの女王、皆を守るためにはこうするしかないのだ。

 

「軟体モルルン!」

 

通常であれば魔人はそう簡単にカラーの呪いにはかからない。

しかし、体が、そして精神が疲労状態であれば呪いにはかかってしまう。

そしてカラーの女王が使ったのは、以前アナウサが拾ってきた『幸福ポックリ』という呪いのアイテム。

疲労状態であったオウゴンダマは、急激に自分の筋肉が衰えていくのを感じる。

それでも地に膝をつくような無様な真似はしない。

 

「がはははは! 隙有りだー! ラーンスあたたたーっく!」

 

そんなオウゴンダマの目(?)に映ったのは、ポストから飛び上がるランスの姿。

無敵結界を張る暇も無く、オウゴンダマの頭部から胴体にかけて、ランスの剣がオウゴンダマの体を大きく切裂く。

ランスの攻撃はそれでは終わらず、着地した反動を利用し、さらなる一撃―――ランスアタックと変わらぬ一撃をオウゴンダマの胴に食らわせる。

剣戦闘LV3、そして今のランスの技術に耐えられる剣、それがランスアタックの連撃を可能にしていた。

 

「今だ! やれ!」

 

ケッセルリンクの合図と共に、観客のカラー達が一斉に弓を放ち、またある者は魔法を放つ。

ランスの一撃で大きな傷を負っていたオウゴンダマには、最早無敵結界を張るという事もままならなかった。

そして弓が、魔法が傷ついたオウゴンダマをさらに襲い、

 

「とどめだ。ファイヤーレーザー!」

 

最後の一撃にケッセルリンクの魔法がオウゴンダマの筋肉に大きな穴を開ける。

だが、それでもオウゴンダマは立っていた。

それは魔王の血を持つ魔人としての意地か、決して地を膝にはつかない。

しかし、確実にオウゴンダマからは力が失われていた。

『…皆色々言ってたけど、私はアンタの筋肉はいいと思う』

アナウサの言葉に、オウゴンダマはアナウサの方を見る。

彼女は静かにサムズアップをし、オウゴンダマはそれを見ると右手を天に突き上げる。

そして、その姿が煙のように消え、残っていたのは一つの丸い赤の塊。

 

「これは…」

「これは魔血魂だ。魔人は死ぬと魔血魂になる」

「では…」

「ああ。この魔人は死んだ」

 

ランスの言葉にカラー達は一斉に歓声をあげる。

とうとう、カラーは一つの障害を取除く事に成功したのだ。

 

「ぐふふふふ…」

 

ランスは魔血塊を手に笑う。

とうとう魔人を倒して見せた。

ケッセルリンクを完全に自分のものに出来るといういつものランスの好色な笑み。

ランスがケッセルリンクを見ると、以外にもケッセルリンクは微笑んだ。

(…こいつもこんな顔で笑うんだな)

初めてランスはケッセルリンクの笑顔を見た気がした。

 

 

 

 

「なるほど…こうなった訳ね」

 

スラルはランス達が魔人を倒した事を…非常に満足していた。

無敵結界が存在している今、魔人が倒される事など無いとスラルは思っていた。

しかしあのカラー達は…いや、あの男は見事にやって見せた。

あのオウゴンダマにしか通用しない手段だが、それでも魔人の一体を倒して見せた。

ほとんど賭けに近い方法だったが、不思議とスラルもあの男ならやると思ってしまっていた。

 

「これは決まりね」

 

スラルは久々に楽しいという感情を自覚する。

ついに自分に相応しい魔人を見つけたのだ。

あのショートのカラー、金髪の女性、そして黒い剣を持つ男。

「さて…楽しくなるわね」

スラルの顔には今までに無い笑みが浮かんでいた。




次回!
新たな魔人襲来!
ここからが本当の地獄だ…


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これからの事

本当に何の進展も無い話
でもそんな話もいいよね




魔王城

それは現魔王スラルが住まう、現大陸の中央に存在する城。

スラルは久々に自分の城に戻ってきていた。

理由はたった一つ。

「メガラスとガルティアを呼びなさい」

自分の忠実なる部下に仕事を与えるため。

 

しばらくして、魔人メガラス、魔人ガルティアの二人がスラルの前に現れる。

「おう、来たぜ」

些か魔王に対しては砕けた調子だが、スラルは別にそんな事で咎めたりはしない。

魔人ガルティアとはそういう男なのだ。

「よく来た。メガラス、ガルティア」

対してメガラスは何も言わずにただ頭を垂れるだけだ。

こちらから話さなければ殆ど話しかけてくる事は無い魔人だが、この男は世界最速の存在だ。

ホルスというこの世界の外から来た存在らしいが、今でも詳しい事は分かっていない。

分かっているのはこの男を魔人にしたのが、先代の魔王アベルという事だけ。

「で、何か用か?」

ガルティアは常に何かを食べているが、それはこの男がムシ使いという特別な存在だからだ。

それ故に、常に何かを食べていなければならないらしい。

少なくとも、スラルはガルティアが食事を我慢しているところを見た事が無かった。

「お前達にやってもらう事がある」

これは魔王としての言葉であり、魔王の力を行使したものだ。

『絶対命令権』、これがある限り魔人は魔王には絶対に逆らうことが出来ない。

「お前達はこれよりカラーの村へ行き、この者達を捕えよ」

スラルの魔法により、3人の姿が映し出される。

カラーには珍しい、ショートヘアのカラー、鮮やかな金色の髪をした美しい女性、最後に茶色い髪をした剣士風の男。

「決して殺してはならぬ。生かして我の元に連れてくるのだ」

「………」

「おうよ」

メガラスは沈黙で、ガルティアは軽い調子で応える。

「うむ、では行くがよい」

スラルの言葉に二人の魔人はその場を去る。

二人がその場を去った後、

「…ふむ」

スラルはこれからの事に思いを馳せる。

(あの三人が我の元に来る…か)

彼女は既にあの三人が自分の元に来ることを少しも疑ったりはしていない。

確かにあの魔人オウゴンダマは倒されたが、それは自身の能力を逆手に取られたからこその敗北だ。

しかしメガラスとガルティアは違う。

あの二人は無敵結界の解除などしないし、油断というものも一切無い。

「そういえば…」

突如スラルは思い出す。

先程はあの三人の事で頭が一杯だったが、あの男は魔血塊を回収していたはずだ。

それを取りに行く必要がある。

魔血塊を初期化出来るのは魔王だけだ。

「我とした事が…二度手間になってしまったな」

スラルは苦笑いを浮かべる。

ついでに二人に命令すれば良かったのが、つい言いそびれてしまった。

「まあいい…我ももう一度行くとしよう」

スラルの言葉にはどこまでも笑みが浮かんでいた。

 

 

 

「で、どうする? メガラス」

「………」

ガルティアはメガラスに問いかけるが、帰ってくるのは沈黙だけだ。

そのメガラスに特に気分を悪くする様子もなく、ガルティアは続ける。

「どっちを担当する?」

魔人は2人だが、ターゲットは3人。

どちらかが2人を相手にする必要が有るかもしれない。

「………男だ」

メガラスは非常に珍しく、ガルティアの問いに答える。

「へぇ…」

久々にメガラスの声を聞いたと思ったが、ガルティアは特に気にせずに言葉を続ける。

「じゃあ俺がカラーと女を担当するか」

「………」

ガルティアもこの割振りには納得していた。

メガラスには使徒はいないが、自分には3体の使徒がいる。

その使徒の内の1体は相手を捕獲するのに向いている。

ならば自分が多い方を担当するのは当然だと思った。

「じゃあ行くとするか」

「………」

ガルティアの言葉にメガラスは何も答えない。

しかし男達の胸にあるのは魔王の命令を遂行するという使命だけ。

こうして本来ではあり得ぬ歴史、メガラスとガルティアが魔王の命を受けて動き始めた。

 

 

 

「…気に入らないわね」

女神ALICEは自分の一室で少々機嫌を損ねていた。

それは人間とカラーが魔人を倒したという事実。

無敵結界を魔王が授かってからは初めての事。

「でもね…」

女神ALICEが頭を悩ませているのは、無敵結界を破ったのではなく、魔人側が解除して戦った結果敗れたという事実。

これならば魔人が敗れても全くおかしくは無い。

この世界は三超神が一度滅んでしまった世界から、新たなバランスをもってして作られた世界。

新たなメインプレイヤーはドラゴンと違い、弱く愚かだが繁殖力は強い生命体。

しかしその中から時には世界を変える力を持つ者が生まれる事がある。

女神ALICEは、それをバランスブレイカーとして回収する義務を作ろうと考えていた。

この世界は、創造神がメインプレイヤーが苦しむのを楽しむために作られた世界。

「人間が人間の手でその未来を摘む…まさに最高の皮肉ね」

そうだ、それを世界への貢献という形にしてしまおう。

そして人間自らの手で、この世界を地獄へと変えさせるのだ。

「でも今は無理かしらね」

AL教はまだ出来たばかりであり、その組織や制度もまだ普及していない。

というよりも彼女自身もまだ仕事が無い状態だ。

「でも…もっと時が経てば楽しいことになりそう」

女神ALICEはこの先のメインプレイヤーの未来を思い浮かべ、悠然と微笑んだ。

 

 

 

「それでは魔人撃破を祝って…」

「「「「かんぱーい!!!!」」」」

女王の合図に、皆が一斉に声を出す。

そこにあるのは紛れも無く喜び。

今は誰もがこの勝利に酔いしれていた。

「いやーでもランスさんもよくあんな作戦考え付いたよね」

「ホントホント。人間って皆あんなこと考え付くのかな?」

「あんな悪辣な手段を考え付くのはランスだけでしょ」

カラー達の会話にレダが答える。

実際あんな手段を考え付くのは、ランスくらいだと本気でレダは思っていた。

(でも確かに効果的ではあったわね)

本来であれば魔剣カオス、聖刀日光無しにして、人は魔人に勝つ事は出来ない。

他にも魔封印結界という手段はあるが、あれは条件が厳しすぎるため中々お目にかかる事は出来ないだろう。

ランスは今は大笑いしながら酒を飲んでいる。

「でもそれ以上に意外だったのはやっぱりケッセルリンク様よねー」

「うんうん。まさかケッセルリンク様のクリスタルが変わる日が来るなんて思わなかったよね」

「…まあそれはね」

カラーの会話にレダは言葉を濁す。

ケッセルリンクの初体験の全てを知っている身としては、その話はこれ以上は遠慮してもらいたい。

「フッフッフ、そんなに興味があるかね?」

ニヤニヤと笑いながらやって来たのは、アナウサ・カラーだった。

「アナウサちゃん! 今回はご苦労様!」

「まさかアナウサちゃんにあんな特技があったなんてねー」

「それに関しては私も驚いてるわ。でもさー、自分でも何を言ってるのかさっぱり分からなかったんだよねー」

アナウサは自分でも不思議そうに首を捻る。

あの時はすらすらと言葉が出てきたが、後になると自分が何を言っていたのかも覚えていない。

今でも「アトミックドロップ」だの、「ブレーンバスター」等の言葉の意味はさっぱりと分からなかった。

「それよりもアナウサちゃん。アナウサちゃんはケッセルリンク様の初体験の事やっぱり知ってるの?」

「どうなの? 実際の所」

目をキラキラと輝かせながら、興味津々といった感じのカラーにアナウサは不適に笑う。

「まあケッセルリンク様の名誉のために内容は伏せるけど…乙女ケッセルリンク様とだけは言っときましょうか」

「「「おおおーーー!!!」」」

何時の間にか声が一つ増え、そこには女王であるルルリナ・カラーがいた。

「あれ、ルルリナ様」

「それよりもアナウサ…実際ケッセルリンクってどうだったの? やっぱり泣いたりしてたの?」

「いや、あの…流石にルルリナ様でもね…ちょっと黙秘権を行使させていただきたいです、ハイ」

他のカラーよりも興味があるといった感じの女王の姿に、流石のアナウサも一歩退いてしまう。

「やっぱりね、そういうのは本人の同意なくしては言えないってのであって…あ、ほらケッセルリンク様いないし」

アナウサが周囲を見渡しても、ケッセルリンクの姿は見えない。

「あれ? さっきまでケッセルリンク様いたよね?」

「あ、よく見るとランスさんの姿も無い」

乾杯の時には確かにケッセルリンクはいたが、今はその姿が見えない。

そしてランスの姿も。

(…どっちが連れ出したのかしらね)

ケッセルリンクか、又はランスか。

(まあ今は二人だけにさせておいたほうがいいのかな)

レダには何となくケッセルリンクの気持ちが分かる気がする。

これほどの大仕事をやり遂げたのだ、誇らしい気持ちと共に、何か思うところもあるはずだ。

(私もそうだったし…)

かつて自分も悪魔を初めて倒した時には気分が高揚した物だ。

今でこそ大分慣れたつもりだが、その自分も今回は高揚した部分もある。

(まあ頑張りなさい…どっちもね)

レダは手に持った酒を飲みながら、二人の事を思った。

 

 

 

「…僕はやっぱり除者だった」

勇者アーズラはカラー達の祝いを見ながら黄昏ていた。

カラーの女王の名において放免はされたが、流石にカラーの宴には呼ばれなかった。

まあカラー達の出会いを考えれば当然なのだが、それでもアーズラは何か寂しいモノを感じずにはいられなかった。

「で、あなたは何時までも何をやってるんですか?」

「コーラ…放っておいてくれ…僕は今ほど自分が勇者である事に疑問を持った事はない…」

「はぁ…そうですか」

コーラはやっぱり心底呆れていた。

今回の事で勇者は少しは成長したかと思ったが、意外とそうでも無かったようだ。

(今回の勇者は少々煩悩が強すぎますね。でも異性にモテる力は一切作用してない。まだ調整段階なのでしょうかね)

「ああ…あんな不幸な事が起きなければ僕もあの中に入れたのに…」

「まあ勇者は普段は不幸ですから仕方ないですね」

よりにもよって、今の自分はカラーの中では変態仮面でしかない。

あの美しいカラーには是非自分と一緒に来てもらいたかった…あの金髪の女性もそうだ。

だがしかし、その場にいたのはあの茶色い髪をした男。

口が大きく、物凄い性格が悪そうな男。

「は! もしやあの二人はあの男に脅されているのかもしれない!」

「あなたは一体何を言ってるんですか」

とうとう頭の悪い発言をしだした勇者に、流石のコーラも突っ込みを入れざるを得ない。

「そうだ! あの男は二人の弱みを握ってあんなことやこんなことを…許せん!」

更にはもっと頭の悪い思い込みを発症してしまっている。

しかし根が単純なアーズラは何故かそれを真実だと信じ込んでしまっていた。

「おのれ…あの男許してはおけない!」

「…もう好きにして下さい」

突然走り出した勇者に、コーラは何度目かのため息をついた。

 

 

 

「は! いた!」

アーズラはひたすらにケッセルリンクを探して走った。

本来であれば皆と宴をしていると考えるはずだが、今のアーズラにはそんな考えは無かった。

良くも悪くも直情的…それがこの勇者だった。

だが、それは勇者の幸運か、最初にアーズラが変態仮面の汚名を受けた泉に、ケッセルリンクはいた。

「…いるのだろう。出て来い」

(は…まさか、僕に気づいてくれて…)

アーズラは鼓動が早くなるのを感じた。

彼女は自分を待ってくれていた…そんな都合のいい事を考えながら。

「ケ…」

「何だ、気づいてたのか」

その声は別の方向から聞こえた。

ケッセルリンクの声に応えたのは、自分を利用するだけ利用した男だった。

「森の中ならカラーならば気づくさ。それよりも何の用だ」

「まあお前に用があったのは事実だが…お前こそ何でここに来たんだ」

「…いや、僅かな時間だったが、私の今までの人生の中でも濃密過ぎる時間だと思っただけだ」

ケッセルリンクは初めてランス達と会った事を思い返していた。

今までの人間とは全く違った方法で現れた二人の男女。

最初は彼らを捕らえたが、その夜にはすぐにモンスターの襲撃が有り、二人のおかげで被害無く乗り切る事が出来た。

ランスはカラーの中であっという間に皆の信頼を掴んでいった。

その類稀な剣の腕、そしてその指揮能力、大胆過ぎるほどの決断力。

この男が現れてから、カラーは大きく変わったのだろう。

そしてムシ、魔人との戦い。

悪魔との邂逅…思い出しただけでも今までの長い生の中でも、これほどの事はもう起きないかもしれない、それほどの時間だった。

「そういや俺達がお前に捕らわれた場所がここだったな」

「そうだな」

ランスはごく自然にケッセルリンクの横に立つ。

「で、約束は覚えているか?」

「…魔人を倒せばお前の女になるという約束か」

(な、なんだってー!?)

二人の会話にアーズラは驚く。

まさかそんな約束が二人の間に交わされていたとは…何故自分は魔人を倒す事が出来なかったのか、今になってそれが恨めしかった。

「だが…魔人に止めを刺したのは私だと思ったがな」

「何だとー! 俺の素晴らしい作戦があったから上手くいったんだろうが!」

そういうケッセルリンクは薄く笑っていた。

「冗談だよ。…ランス、私は本当に感謝している。お前はカラーの危機を見事に解決してくれた」

「だから言っただろう。俺にかかれば容易い事だと」

ランスは自信たっぷりに言い放つ。

その様子にケッセルリンクは今度は苦笑いを浮かべた。

この男は1から10まで全て本気なのだろうと。

「それよりも…お前は何故そんなに私に拘る? お前の目に適うカラーは他にも沢山いると思うが」

「あん?」

カラーは全て美しい容姿をしている。

女王であるルルリナはケッセルリンクの目から見ても美しいし、アナウサもあんな感じではあるがやはり可愛らしい。

だが、ランスは意外にも自分にだけ「俺の女になれ」と声をかけていたようだ。

「俺にとってお前が一番いいと思ったからだ。それ以上の理由は無い」

その言葉にケッセルリンクは目を見開く。

「…お前も冗談が上手いな」

「冗談のつもりは無いぞ。俺はお前が欲しいと思った。だから声をかけてる。それだけだ」

「ランス…」

ケッセルリンクはランスの顔を覗き込むが、ランスの顔は本気そのものだ。

(え、何この展開)

草葉の陰から除いてアーズラは固まっていた。

自分はケッセルリンクを脅している(誤解)あの男を倒し、『自分について来て欲しい』と言うつもりだった。

しかし今目の前の光景は、どうみても告白シーンそのものである。

(いや、そんな事はある訳がない…あんな明らかにチンピラっぽい奴の女になんてなる訳無い)

「お前も物好きな奴だな。私みたいなカラーを選ぶとは」

ケッセルリンクは愉快そうに笑う。

(え、何その顔)

アーズラに嫌な予感が走る。

彼女の顔はまるで…

「物好きだろうが何だろうが俺は構わん」

ケッセルリンクはランスに顔を近づけ…

(だ、ダメだ! ケッセルリンクさん! あなたは騙されているんだ!)

アーズラが二人を止めるべく足を踏み出そうとしたとき、そこに丁度いい大きさの石があったのは偶然。

そしてアーズラが倒れた先に、体が動かなくなる毒草があったのも偶然。

ちょうど二人の姿が見えるような体勢になったのも全て偶然。

だからハッキリと見えてしまった…ランスとケッセルリンクがキスをしているところを。

(ああーーーーー!!)

それもただのキスではなく、互いに背中に手を回してのキス。

しかもそれだけでは終わらない。

ランスはケッセルリンクの服に手をかけ、彼女もそれに抵抗しない。

こうしてアーズラは新たな性癖に目覚めそうになっていた。

 

 

 

「ん…」

ケッセルリンクは自分にしては珍しいと思うくらに遅く目覚めた。

(…そうだ、魔人を倒して…)

隣を見ると、幸せそうな顔をして眠るランスがいた。

「まったく…」

こうして見ると、年相応の顔をしていると思う。

「起きろ、ランス」

「むが…」

ケッセルリンクの声にランスは目を覚ます。

ランスの目に映ったのは、昨日のままの全裸のケッセルリンクだった。

「ぐふふ…」

そのままランスはケッセルリンクに手を伸ばすと、その手はケッセルリンクに払われる。

「むっ…」

「そういうのは今は無しだ。もう朝だぞ」

「むぅ…」

ランスは唸るが、それ以上に満足感を感じていた。

とうとうケッセルリンクをベッドに誘うことに成功したからだ。

(普段はクールだが、ベッドの中ではカワイイからな…)

 

ゴンッ!

 

「あだっ! 何をする」

「何か不埒な事を考えていたからだ。それよりも早く起きろよ」

ケッセルリンクは笑いながらベッドから降りると、自分の服に着替える。

ランスもそれに倣い、普段の服に着替える。

ランスとケッセルリンクが部屋から出ると、そこにはレダが既に待っていた。

「ランス、ケッセルリンク。これから何か重要な会議があるそうよ」

「そうか…直ぐに行こう」

ケッセルリンクはそう答えると、ランスの手を引いて歩き出す。

「おい、なんだこの手は」

「こうしないとお前は面倒くさがって来なさそうだからな。せっかくだ、このまま付き合え」

「わかったわかった。俺は子供じゃないんだぞ…」

そう言いながら、ランスはケッセルリンクに手を引かれて行くのを、レダは呆れてみていた。

(何かあったのは丸分かりだけど…なんか姉と弟みたい)

 

 

 

「遅くなりました」

「いえ、待ってましたよケッセルリンク。それとランスさん」

「うむ、苦しゅうないぞ」

ランスはそこに用意されていた椅子に座ると、続いてレダとケッセルリンクも腰を下ろす。

「で、何の会議だ?」

「それなのですが…これからどうするべきかと思いまして」

カラーの問題点であったモンスターの脅威は去った。

ムシの方も、あれからはあまり動きが無い。

だからこそ、ここからどうするか、それがカラーの問題だった。

「どうするも何も…何かやる事があるのか?」

ランスが知るカラーは、ペンシルカウに閉じこもり外との接触を絶ってきた。

だからこのカラー達も同じなのかと思っていたが、

「いえ、此処だけではなく別のカラーの村を探せないかと思いまして」

「あん?」

「ランスは知らないかもしれないが…カラーには此処以外にも住んでいた場所があった、と言い伝えられている」

LP時代では黒髪のカラーである、ハンティ・カラーがカラーを纏め上げペンシルカウを立ち上げていた。

そして人間のカラー狩りを止めるべく、ヘルマンの評議会に名を連ねていた事もあった。

しかしこの時代ではまだ大規模なカラー狩りは行われてはいないため、カラーは色々な場所に別の集落を作っていた。

が、ここ100年の間にモンスターの動きが活発になり、カラーもまたその居場所を失ったとされている。

「ふーん…で、お前たちはどうしたいんだ?」

「私たちはこの地以外に住まう同胞を探したいと思います」

カラーの数はやはりまだ少ない。

今回はランス達の助けがあり、何とか切り抜けられたが、これから先はどうなるか分からない。

だからこそ、魔人の脅威を切り抜けた今、世界に散らばるとされているカラーの仲間を探したいのだ。

「それでランスさん…人間のあなたにこんな事を頼むのは筋違いかもしれませんが、私達に力を貸してくれませんか?」

「…まあ俺様は構わんが」

普段のランスであれば、条件をつけて女を差し出させるくらいの事はしただろうが、相手がカラーであること、そしてケッセルリンクが自分の女になっている事である程度満足していた。

そして現在はランスでも自由に外を周るのは難しい。

移動用のウシ車も無ければ、いざとなると頼る事が出来る国も存在していない。

そんな中ではカラーとは協力関係で無ければいけないと考えていた。

「ありがとうございます! ランスさんの力があれば100人力です!」

ルルリナはランスの手を取って喜び、カラー達も皆期待の目を持ってランスを見る。

それを見てランスは普段の調子を取り戻す!

「がはははは! 俺様に任せろ!」

何時ものようにバカ笑いをし、自信満々に胸を張る。

そんなランスにレダが小声で話しかける。

「ねぇねぇ、いいの? セラクロラスの事探さなくても」

「ついでにセラクロラスも探せばいいだろ。俺にはそれよりも大事な事があるのだ」

ランスの大事な事…それはカラーにハーレムを築く事だった。

人間相手ではハーレムプレイを何度も楽しんでいるが、実はカラーではした事が無い。

出来そうな事もあったが、その時は禁欲モルルンにかかっていたし、その後は色々有りカラーの里にもあまり寄れなかった。

(しかしここでは違う)

カラー達は皆ランスを尊敬してるし、何より一番信頼が厚いであろうケッセルリンクがランスの女である(ランス視点)。

ならばここであの時果たせなかった事を実践するのも悪くないと思った。

「がはははは! 行くぞお前ら!」

「「「「おーーーっ!!!」」」」

 

 

 

「で、アーズラ。あなたはこんな所で何をやってるんですか?」

コーラは未だに毒草の効果で痺れているアーズラに対し、呆れたように声をかける。

「コーラ、か…」

アーズラの目は悟りを開いているかのように澄んでいた。

「いや…なんか新たな境地に辿り着けそうで」

「…風麟病にでもかかりましたか?」

「そうかもしれない…」

勇者は何故か新たな性癖に目覚めつつあった。




勇者の扱いがアレですが、ランスと関わると勇者は扱いが悪くなります
強烈な主人公補正といえばそうですが、LP期でもランスにヒロイン取られてるしね
まあ運命の女の前には勇者の力なんて役にはたたないのでしょうね


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新たな脅威

魔人は実際問題強すぎるよね
オウゴンダマ君は魔人の中の癒し




ランスは珍しく少し考え込んでいた。

ここ以外のカラーを探す、その依頼を受けたのはいいが、自分が居た所とはあまりにも違う事に対し少し悩んでいた。

リーザス、ゼス、ヘルマン、コパ帝国からのバックアップは望めないし、自分の城も存在しない。

しかも周辺にはモンスターが当たり前のように歩き回るため、以前の冒険のように快適とはいかないからだ。

この前廃棄迷宮に向かった時も、往復だけでやはり時間がかかってしまった。

その状況で遠出等出来るかどうか、経験豊富なランスにも分からなかった。

 

「悩んでるわね」

 

レダが隣に座り、パンを差し出す。

 

「無理も無いと思うけどね」

「フン」

 

ランスはパンを受け取るとそれを一口食べる。

自分が今まで食べた味とは違うが、これはこれで味わいがあるものだった。

 

「でも…本当にこれからどうする?」

 

レダはこの訳の分からぬ世界に一緒に飛ばされてきた者同士であるため、この状況はランス同様分かっている。

何しろエンジェルナイトである自分の経験も役に立たないのだ。

おまけに自分の力は大分制限され、未だに翼を生やすことも出来ない。

レベルは少しずつ上がってはいるが、それでも以前よりは大分弱まっている。

ランスはそれに輪をかけて大変で、未だにランスの経験値がバグっているため、幸福ポックルでしかレベルが上がらない。

 

「セラクロラスを探すにしても、ちょっと大変だしね」

 

セラクロラスは会おうと思って会える存在ではない。

会おうと思うと逆に会えなくなる…それがセラクロラスという存在。

 

「別にどうもせん。俺は俺のやりたいようにやるだけだ」

 

ランスはそう答えるが、やはりランスも少し不安がある。

(やはりアイテムが無いのは不便だな)

一番感じているのは、自分が当たり前のように使っていたアイテムが無い事。

世色癌、竜角散等といった、当然のように出回っていたアイテムも存在しない。

それに何より、遠出をするのであればやはり魔法ハウスも持っておきたかった。

(全部シィルに持たせてたな…)

以前ヘルマンで戦っていた時はシィルが不在だったため、ビスケッタがランスのために色々なアイテムを用意してくれていたが、シィルが戻ったとなれば彼女にアイテムの管理は任せていたため、今はランスはアイテムを持っていない。

それどころか魔剣カオスすら無い状態だったため、今手に持っている黒い剣を手に入れるまでは武器にすら悩む有様だった。

 

「うむ、まずは目標が決まったな」

「で、どうするの?」

「まずは皆を集めるぞ。レダ、全員を呼んで来い」

「わかったわ」

 

ランスの言葉にレダは主な者を呼ぶべく立ち上がる。

レダが視界から消えた後、

 

「まったく…シィルやかなみ達はどこにいるんだ。ご主人様の手を煩わせおって」

 

この場にいないメンバーに向かって愚痴を言い始める。

だがそれは一瞬。

ランスは直ぐに気持ちを切り替え、自分の目的を達成するべく頭を回転させた。

 

 

 

「ランス、集まったぞ」

 

ケッセルリンクの言葉にランスは満足そうに頷く。

カラーがランスの言葉で動く…それは前には無かった光景なので、ランスもちょっと優越感に浸っていた。

何しろランスが知るカラーの女王はパステルなのだから。

ここに集まったのはカラーの全員ではなく、主な仕事が森の警戒では無い者達だ。

 

「うむ。まずは俺様の質問に答えてもらおう」

「ああ。私達が知る得る範囲であればな」

 

ケッセルリンクの言葉に集まったカラー全員が頷く。

ランスはその言葉に満足すると、

 

「まずは『魔法ハウス』というアイテムを知ってるか?」

 

ランスの言葉にカラー達一斉に首を振る。

ケッセルリンクの方を見るが、その彼女も黙って首を振るだけだ。

 

「悪いが聞いたことが無いな。一体どういうアイテムなのだ?」

「普段は掌サイズのミニチュアのようなものなのだがな。必要な時だけ大きく出来る携帯型の家だ」

 

その言葉にケッセルリンクは驚く。

そのような便利なアイテムなど、今まで生きてきた中で一度も聞いたことが無かった。

 

「流石にそのようなアイテムは知らないな…言葉からするとお前は持っていたようだが」

「まあ持ってはいたがな…残念ながら今は持っていない」

 

ランスの言葉にカラー達が少し残念そうな顔をしていた。

ケッセルリンクも興味があったようで、彼女も少々残念そうな顔をしていた。

 

「無いなら別に構わん。だがこれで方針が一つ固まったな」

「何?」

「まずはこっちの方だな」

 

ランスはカラー達が用意していた地図の一方を指す。

そこは先日ランス達が廃棄迷宮と呼ばれる所の近く…ランスが知る『ゼス』と呼ばれる地方だった。

 

「その方向には何かあるのか?」

「俺の知ってる限りでは魔法のアイテムとかが豊富だったからな…それにモンスターも強くなかったからな」

 

ランスの言葉にケッセルリンクは考え込む。

その方向はランスの言うとおり、それほど強いモンスターは存在していなかった。

それにランスが今持っている剣もまたその地方から見つけた物だ。

(そういえばアナウサも奇妙な壷を持ち帰ってきてたな)

アナウサ・カラーもその際にアイテムを探して来たらしいが、何故か奇妙な壷を持ち帰ってきていた。

『この壷に描かれたキャラって可愛くありません?』

その壷に描かれていたのは、やたらと可愛らしくデフォルメされた、一本角で悪魔の翼を持つ物体だった。

ケッセルリンクは何がいいのかよく分からなかったが、アナウサはそれが大いに気に入ったようだった。

たまに動いていたような気がするが、ケッセルリンクは気のせいという事にしていた。

 

「私としては異存は無いな。だが問題はどれだけ進めるかという事だな」

 

前回は廃棄迷宮という明確な目標があったが、今回はその目標が達成できるかは分からない。

少しずつカラーの領域を増やしていくしかないのだが、やはり現在は数が足りないとう問題がある。

 

「別にそこまで無理をするつもりは無いぞ。まずはその辺の偵察みたいなものだ。人間が住んでる地域が見つかればそれでも構わんだろ」

 

この世界のカラーの事情はランスから見れば変わっている。

ケッセルリンク達には、ランスが知っている人間への嫌悪感が感じられない。

以前の会話で、カラーのクリスタルが狙われていないことを知ったので、ランスも以前のヘルマンの時のようなカラーの森への侵攻も無いと予想していた

それに国というものが存在していないようなので、いざとなればランスとレダ、ケッセルリンクである程度蹴散らすことも可能だとも考えていた。

 

「ふむ…私はその辺は分からないからランスに任せようと思う。皆はどうだ?」

「異議なしでーす」

「ランスさんなら問題ないと思いますよー」

 

真っ先に賛成をしたのは、以前にランスと共に廃棄迷宮に向かった、アナウサ・カラーとメカクレ・カラーだった。

ケッセルリンクと、この二人が賛成をした事で、他の皆の意思も固まったようだった。

 

「ではランス、お前に任せる。必要な物があれば言ってくれ」

「うむ」

 

ランスは一先ずこの会議に満足した。

自分の要求が受け入れられた形になったからだ。

 

「じゃあそれに合わせて用意しましょうか」

 

レダの言葉に皆が頷き、その場は解散となった。

 

 

 

「うーむ…」

「どうしたの、ランス?」

「いや…結局前回と同じだな…」

「仕方ないだろう。現状ではこれが一番だ」

 

ケッセルリンクの言葉は間違っていないのだが、やはりランスとしては新たな出会いを求めていた。

ランスが旅をするのは新たな出会いを求めるためであり、貝の収集等の趣味も兼ねている。

が、一番の理由としてはランスが冒険が好きだからだ。

 

「うーむ…まあ仕方ないか」

「ぶーぶー、ノリが悪いぞランスさーん」

「それに私達の力が必要だと思いますよー」

 

以前に廃棄迷宮に出かけた面子、ランス・レダ・ケッセルリンク・アナウサ・メカクレの5人だ。

ランスも何だかんだ言っても能力に関しては文句は言わない。

 

「それよりも…ランス、どういった計画を立てている? 私はその辺の事はまったく分からないからお前に任せる」

「ランスさんに任せまーす」

「お任せしまーす」

 

ケッセルリンクといえども、以前に廃棄迷宮に向かったのが初めての探索だった。

なので以前もランスに全てを任せていたが、ランスの手際は非常に優秀だった。

ランスはシィル達がいる時はほとんど丸投げだが、やはり一流の冒険者なので非常に手際は良い。

冒険に必要な事は、意外にもランスは殆ど手抜かりは無い。

 

「まあそうだな…お前達は人里が何処にあるかわかるか?」

 

ランスの言葉に全員が首を横に振る。

カラー達は森を出る事は殆ど無い。

人間達も今はモンスターを相手にするのに忙しく、カラーの森へと足を運ぶ事も無い。

LP時代とは別の意味で、人間とカラーの交流は無かった。

 

「そうか…なら行動は一つだな」

 

ランスの言葉にカラー達は息を飲む。

その言葉にカラーの未来がかかっている…そう思うと少し緊張してきていた。

 

「適当」

「ええ…」

 

ランスの言葉に思わずアナウサは声を上げる。

まさかそんな言葉が出てくるとは思ってもいなかったからだ。

 

「ランス。何か意図があるのか?」

「というよりも目的が目的だ。こういう場合は適当に動くほうがいい」

 

ランスの今までの冒険は、キースギルドで依頼を貰うという事がほとんどだった。

目標がハッキリと示されていたが、今回はその目標が曖昧だ。

ならばその場合は適当に動いたほうがいいとランスは判断した。

 

「…そういうものか」

「まあ仕方ないんじゃない? 実際目星も何もついてない訳だし」

 

ケッセルリンクの疑問にレダが応える。

闇雲に探しても仕方が無いのだが、現状況ではランスの言うとおりに適当でもあまり変わらないだろう。

(私が以前のように飛び回れれば解決するんだけどね…)

残念ながら今は自分はその力は無いし、天界に戻る事も出来ないのだが。

 

「でも適当って言うけど…ランスさん、何か考えがあるの?」

「まずは情報を集める事だな。人間の町が見つかれば、そこでカラーの情報が掴めるかもしれん」

「あーなるほどー。私達カラーでは中々そんな事は出来ませんしねー」

 

ランスも冒険の時は色々な情報を収集している。

そのためにキースギルドにも所属していたし、情報は力だと理解もしている。

そして人の集まる所には情報も集まる。

カラーの情報も掴めるかもしれないと思っていた。

この時点ではそう思っていたのだが…

 

 

「…中々進めんな」

「そうねー」

 

ランス達の冒険はあまり進んではいなかった。

 

「ちょっとモンスターの動きが活発ですよね」

「そうだな…意外なほど数が多い」

 

廃棄迷宮に行った時には、これほどモンスターとは遭遇しなかったが、今回は意外なほど多くのモンスターと出会っている。

なので中々進む事が出来ないのにランスも少々イライラしていた。

ハッキリと言えば効率が悪すぎるのだ。

 

「今日もここまでですねー」

 

メカクレはマッピングをしているが、やはりその進行はあまり芳しくない。

 

「あの時の変態仮面から何か情報引き出してればよかったわね」

「「「うーん…」」」

 

レダの言葉にカラー達は嫌そうに首を捻る。

 

「下着を顔に被る変態はちょっと…」

「なんか近づくだけで妊娠させられそう…」

「何と言うか…得体の知れない物を感じさせられる奴だったが…やはり私も近づきたくは無いな」

 

どうやらあの勇者の評価は散々らしく、今からでもあの男に頼ろうという気は微塵も無いらしい

 

「とにかくもう寝ましょう。私が見張ってるから」

 

エンジェルナイトある彼女は多少眠らなくとも問題無い体力を持っている。

だからこうして真っ先に見張りを買って出てくれている。

 

「じゃあ任せたぞ」

「すまないな、レダ」

 

各々レダに礼を言い、それぞれのテントで眠りにつく。

(でもホントココは何処なんだろう…)

まさか異世界…等という事は無いだろうが、それでも彼女は少し不安になっていた。

天界に戻れない事もそうだが、自分が知っている悪魔もモンスターも存在する。

それなのに自分達が何処にいるのかさっぱりわからない。

(でもまあ何とかなってるから不思議よね)

レダはランスが眠っているテントを見る。

この男はとんでもない男だが、不思議と「この男なら何とかしてくれる」という感じがする。

悪魔を利用して自分たちとHをするようなとんでもない男だが、生まれ持った何かを持っているのだろう。

そしてランス自身も訳が分からない状況になっているのにも関わらず、何処までも前向きに物事をとらえている。

(あの精神力の強さは何処からくるのかしらね)

ある意味尊敬するほどの図太さだ。

カラーの尊敬を集め、中心人物であるケッセルリンクにも頼りにされている。

(一体どんな生まれをしたらあんな人間が出来るのかしらね)

レダは思考しながらも辺りを警戒するのは忘れない。

幸いにも、モンスターが動いている気配は無い。

仮に襲ってきたとしても、レダ一人で十分に対処が出来る程度の強さだ。

ぷりょやマグボール、強くてもイモムシDXくらいなので、問題は起きない。

しばらく時間がたつと、

 

「レダ、少しいいだろうか?」

「どうしたの、ケッセルリンク。交代無しでも私は大丈夫だけど」

「いや…少しお前と話したくてな」

 

レダはそういえば…と思い返す。

事務的な話はしているが、こうして面と向かって話した事はあまりなかったなぁと。

常にランスが中心にいたため、ランスを介して話すという事がほとんどだった。

 

「別にいいわよ」

「ああ、すまないな」

 

ケッセルリンクはレダの横に腰を下ろす。

 

「お前は…ランスとの付き合いは長いのか?」

「私? ううん全然。知り合ってまだ一月程度よ」

 

レダの言葉にケッセルリンクは意外そうに目を丸くする。

どうやらもっと長い付き合いだと思っていたようだ。

 

「そうなのか…少し意外だったな」

「まあ顔を合わせたのはもっと前なんだけどね」

 

レダにとってもそれはあまりいい思い出では無い。

まさかエンジェルナイトの自分が、人間に倒されるとは考えてもいなかった時期だ。

 

「ランスと二人で旅をしていたのか?」

「ううん、他にも沢山いたんだけどね…気づいたら私とランスだけだった。その後直ぐにあなた達に捕まったけど」

 

レダの言葉にケッセルリンクは苦笑いを浮かべる。

 

「まああの時はな…色々と立て込んでいたからな」

「分かるわー。私もその後の事を考えたら流石にね」

 

カラーに捕らわれはしたが、その夜にモンスターの襲撃があった。

そしてランスはあっという間にカラーからの人望を集めた。

凶悪なムシを相手にとり、更には魔人すらも退けた。

 

「とにかく色々あった。私が生きてきた中でも一番の濃厚な時間だ。まだランスと出会って少ししかたっていないというのにな」

「そうよね。私だって驚いてるくらい。あいつは一体何者なんだって思うし」

 

2人は顔を合わせて笑いあう。

ランスに振り回されてはいるが、それでもどこかを楽しんでいる自分がいるのに気づいたからだ。

 

「ところで…ケッセルリンク…ランスの事どう思ってるの?」

「…何?」

 

レダからの意外な質問に、ケッセルリンクは思わず固まる。

まさか彼女からそんな事を聞かれるとは完全に予想外だったからだ。

 

「何故そんな事を聞く?」

「いやまあ…やっぱあんな姿を見せられたこともあるし…それにさ、ランスを受け入れたんでしょ?」

 

ケッセルリンクの顔が目に見えて赤くなる。

『あんな姿』とは、悪魔との取引の時の自分の姿だろう。

その後、自分は確かに自分の意志でランスと夜を過ごした。

 

「まあ…面白い奴だな。一緒にいて退屈をまったく感じない。そして…あいつと居ると色々な夢を見れそうな気がしてな」

「へぇ…」

「なんだその顔は…」

 

レダはケッセルリンクの顔を見てにやにやと笑っている。

口ではそう言っているが、ケッセルリンクの気持ちは言葉の端から色々と理解できる。

エンジェルナイトの自分から見ても規格外の人間なのだ、カラーのケッセルリンクがランスの事を想っても不思議でも何でも無い。

 

「そういうレダはどうなのだ」

「私は…まあ人間の中では規格外…いや、ありえない人間だって思うわね。色々とね」

「…随分と曖昧な言い方をするな」

「ケッセルリンクだから話すけど、私はあいつを守るために来てるのよ」

 

レダの言葉にケッセルリンクは眉を顰める。

彼女の言葉だと、まるで仕事でランスと付き合っているという風に感じられた。

 

「でもまあ…今は一緒にいて楽しいかな? 滅茶苦茶な人間だとは思うけどね」

「それは同感だ」

 

2人は笑いあう。

 

「じゃあ私はもう一度休ませてもらおう。後は頼むが…いいか?」

「いいわよ。ゆっくり休みなさいよ」

「分かった。では有難く休ませてもらおう」

 

 

 

「ランスさーん。朝ですよー!」

「むぐぅ…もう時間か」

メカクレに起こされ、ランスが大きな欠伸をしながら起きる。

こと冒険時にはランスも寝坊をしたりはしない。

一瞬の気の緩みが命取りになるのをランスは良く理解していた。

まあこの中では1番遅く起きてはいるのだが。

 

「おはよう、ランス」

「ランスさんおはようございまーす!」

 

レダとアナウサも既に目を覚ましており、ランスに挨拶をする。

 

「うむ」

 

しかしケッセルリンクだけは何故か難しい顔をしていた。

 

「さっきからどうしたんですか? ケッセルリンク様」

「いや…妙な夢を見てな…不思議なことにその夢の内容を全て覚えていてな」

「夢…ですか? でも夢の内容を全部覚えてるなんて珍しいですよねー」

 

ケッセルリンクは不思議と今日見た夢の内容を忘れることが出来ない。

今までの長い生の中でも、このような奇妙な事は初めてだからだ。

それも内容が内容だけに、どうしても気になってしまった。

 

「夢だと? 一体どんな夢だ? エロい夢か?」

「そんな訳は無いだろう。私が見たのは黄色いトリの夢なのだからな」

「えー? 何ですかその夢」

 

ケッセルリンクの夢の内容にアナウサが不思議そうな声を出す。

黄色いトリとは一体何を言っているのか分からなかったからだ。

レダとメカクレも不思議そうな顔をしているが、ただ一人、ランスだけが少し驚いた顔をしていた。

 

「…何? 黄色いトリだと?」

「ああ…黄色いトリに言われたのだ。運命の男と電卓キューブへ向かえ。そこに新しい力が眠っている、とな」

 

その言葉にランスを除く全員が首を捻る。

だが、ランスだけはその意味を正確に理解していた。

 

「がはははは! そうか! お前もそうか!」

 

ランスは嬉しそうに笑う。

 

「急にどうした? 何かを知っているのか?」

「うむ、まあ俺様は知っている。…あ」

 

ランスはその黄色いトリの夢の意味を正確に理解していた。

この黄色いトリの夢の話を聞くのはもう何度目かになるだろうか。

そしてケッセルリンクがその対象になっただけだ、と思ったのだが、ここで一つ重大な事実に気づいた。

『電卓キューブ』

それが何処にあるのかが分からないという事だ。

シィル、かなみ、志津香の時はゼスに居た時にその迷宮が現れ、シーラ、チルディ、戦姫、ミラクルの時はヘルマンで現れた。

だが、ここでは一体どこに行けばその迷宮に行けるのか。

ランスもそれが分からなかった。

 

「ぐぬぬ…何処にあるかわからんぞ」

「えー…」

 

ランスの言葉にアナウサが不満気な声を出す。

彼女は好奇心が強いカラーであり、この冒険をかなり楽しんでいたからだ。

メカクレも声こそは出さないが、不満そうだ。

 

「まあまあ。今の状況じゃ難しいでしょ。ランスも準備するの手伝ってよ」

 

レダはテントを畳み、荷物を纏めている。

ランスは不満そうにしながらも、荷物を纏めようとして、

 

「ん? 何だ?」

「どうした? ランス…!?」

 

ランスを手伝おうと近づいてきたケッセルリンクと共に突如として消える。

 

「え?」

「はれ?」

「ランス!? ケッセルリンク!?」

 

そこにはレダとアナウサ、メカクレの3人だけが残っていた。

 

 

 

―――カラーの森入口―――

 

「ようやくついたな」

「………」

 

カラーの集落に向かう森の入口、そこに二人の魔人が立っていた。

魔人メガラス、ホルスの魔人であり、世界最速の魔人。

魔人ガルティア、人の魔人であり、後世には伝説のムシ使いとして語り継がれる魔人。

 

「で、どうする?」

「………」

 

ガルティアの問にメガラスは答えない。

メガラスは非常に無口な魔人であり、魔王の前であっても喋る事は稀だ。

が、そのメガラスが珍しくガルティアを睨んでいた。

 

「…いや、悪かったよ」

 

ガルティアはメガラスから顔を背ける。

本来であれば、もっと早くにこのカラーの森へ来られていたはずだったのだ。

遅くなった理由はただ一つ、ガルティアが自分に食べさせた料理にあった。

 

「あんなに美味いんだけどな…」

 

事の発端はガルティアが何の気なしにメガラスに勧めた料理のせい。

メガラスがそれを食べた結果、メガラスは少しの間動けなくなってしまった。

そのせいでここに到着するのにも大分時間が掛かってしまったのだ。

 

「………」

 

メガラスが無言で森を進んでいく。

 

「まずは仕事をこなすとするかね」

 

ガルティアもそれを追って森の中に足を踏み込む。

こうしてカラーに新たな危機が迫っていた。

新たな魔人、メガラス、ガルティアという2体の魔人が現れていた。

そしてそれとは別に、新たな脅威もまたカラーへと迫っていたのは、魔人すらも知らぬ事だった。

 




ただ一人ランス10に出番が無かったメガラスですが、どんな戦い方するんでしょうね
やっぱりフォースなのかなぁ…イブニクルの中だけかもしれないけど



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運命の女

今回はちょっと短めになってしまいました
だからと言って次は長いのかと言われるとそんな事は無い事実





「ランス、ここは…?」

「ここは…電卓キューブだな」

 

ランスとケッセルリンクは妙にデジタルチックな空間に居た。

ケッセルリンクには非常に奇妙な空間に映るが、ランスには既に見慣れた光景だった。

ここはランスの『運命の女』だけが辿り着く事が出来る迷宮。

そしてその女性の強力なアイテムが手に入る場所でもある。

 

『汝等、その腕を離す事無かれ…』

 

突如として謎の声が響く。

 

「この声は何だ?」

「これに従わんと進めないのだ」

 

ランスとケッセルリンクの腕はいつの間にか組まされている。

 

「しかしこれでは戦いに支障をきたすぞ」

「この迷宮はそういう所だ。とにかく進むぞ」

 

以前、電卓キューブでは無いが、志津香と共に似たような状況になった事を思い出す。

あの時は手を繋ぐだけだが、今回は腕を組まされているため、より戦いにくい。

 

「とにかく進むぞ」

「ああ」

 

ランスとケッセルリンクは腕を組みながら進むが、その歩みはやはり遅い。

勿論歩みが遅い事もあるが、やはり出てくるモンスターが非常に鬱陶しい。

ヘキサピラー等のモンスターしか出てこないが、ランスとしてもケッセルリンクを庇いながらだとその剣の腕を発揮できない。

ケッセルリンクも簡単な魔法しか使うことが出来ず、火爆破等の範囲魔法を使う事が出来ないので、どうしても殲滅力が落ちてしまう。

 

「ランス、大丈夫か」

「当然だ。俺がこの程度でやられると思っているのか」

 

ランスは飛んでくる飛び道具をその剣で叩き落す。

幸いにも魔法は飛んでこないため、幸いには目立ったダメージは無い。

だが、ランスはこの状況でもある事を楽しんでいた。

(ぐふふ…ケッセルリンクの胸が当たって気持ちがいいぞ)

意識せずともケッセルリンクの大きな胸がどうしてもランスの腕に当たる。

なまじ戦闘のために激しく動くため、より大きく胸が当たる。

 

「…ランス、お前はこんな状況でもよく興奮出来るな」

 

ケッセルリンクはランスを責めるように言うが、ランスは笑って見せる。

 

「がはははは! お前の胸が大きいから当たるだけだ! これは自然現象だ!」

 

ランスは逆にテンションが上がってきたようで、その剣の切味はどんどん鋭くなっていく。

その剣は正に閃光、ランスが剣を振るえばヘキサピラーが一瞬で真っ二つになる。

それに比例するようにランスの動きが激しくなり、より強くランスの腕にケッセルリンクの胸が当たる。

 

「ランス…その…少し動きが激しい。少し…胸が痛い…」

「む、そうか」

 

ケッセルリンクの赤くなっている顔に、ランスも興奮するが『胸が痛い』と言われれば自重するしかない。

(お楽しみタイムはまだまだ続けられるからな)

ランスにはケッセルリンクを自分の女にしたという自信がある。

だからこそ今は無理する必要はないと、自分を抑える。

 

「しかし…一体どこまで続く?」

 

結構進んだ気もするが、まだゴールには辿り着けない。

謎の空間がどこまでも続いていく感覚だ。

それ故に、ランスよりも体力の無いケッセルリンクは疲労が激しかった。

 

「まあもう少しだろ。前もそうだったからな」

 

ランスが目の前の謎の壁を一撃で粉砕する。

その後ろに隠れていたヘキサピラーをケッセルリンクが炎の矢で焼き、2人は進んでいく。

どれくらい進んだだろうか、ランス達の前には赤い扉が現れる。

 

「お、ゴールだな」

「ようやくか…」

 

余裕が見えるランスに比べ、ケッセルリンクはやはり疲労困憊といった感じだ。

ランスの足手纏いになった自覚はあるし、何よりランスには庇われながら進んでいた。

もし自分一人ならば、ヘキサピラーの攻撃で自分は倒れていただろう。

 

「すまないな、ランス」

「がはははは! 礼ならば体で返してくれればいい」

「まったく…」

 

ランスの言葉にケッセルリンクは苦笑する。

相変わらずの態度と言葉に逆に安心してしまう。

扉が自動的に空き、一つの宝箱が置いてある。

ランスの腕から解放されたケッセルリンクが宝箱を開けると、そこには手の甲に青いクリスタルが埋め込まれた赤い手袋が入っていた。

 

「これは…カラーのクリスタルか?」

 

ケッセルリンクは何かに導かれるかのようにその手袋をはめる。

それはまるで誂えた様にピッタリであり、まるでケッセルリンクのために作られたようだ。

 

「ルントシュテット…というのか」

 

不思議とその手袋の名前が頭の中に入ってくる。

自分の魔力を引き出す素晴らしい武器であり、同時に防具でもある。

これまでよりもより強い魔法を使う事が出来るだろう。

 

「凄いな…手袋をしているという気がまるでしない」

「良かったではないか」

「ああ。そうだな」

 

ケッセルリンクは宝物を抱くかのように、自分の手を撫でる。

これはランスと共に手に入れたものだと考えると、何故か鼓動が早くなる。

 

「ありがとう、ランス」

「別に礼を言われる事ではないだろ」

「それでもだ。お前と出会わなければ、これは手に入らなかった」

「ならその礼を少し返してもらおうか」

 

ランスはケッセルリンクを抱き寄せる。

 

「ランス…」

 

ケッセルリンクは最早抵抗もしない。

 

「んっ…」

 

ランスとケッセルリンクの唇が重なる。

(こうして唇を重ねるのは何度目だろうな…)

自分がこのような事をするなど、今まではまったく考えてこなかった。

しかし、今はこうして触れ合っている事に喜びを覚える。

(ようやくここまでこれたぞ)

ランスもこうしてケッセルリンクと触れ合えることに喜びを感じていた。

今までカラーとここまで触れ合った事は無かった気がする。

一応イージスとは恋人同士という設定で触れ合ってはいたが、それはイージスを騙していての事だ。

だがケッセルリンクは違う…こうして自然な形で触れ合えることに、ランスは充実感を感じていた。

 

「んむっ…」

 

ランスの舌が口に入って来て、一瞬驚くが、すぐに同じように舌を絡める。

 

「うわぁ…」

 

突如としてそんな声が聞こえてきた。

(…ん?)

ケッセルリンクが目を開けて横目に見えたのは、顔を赤くしてこちらを見ているアナウサの姿だった

 

「! アナウサ!?」

「どわっ!」

 

ケッセルリンクは慌ててランスを突き飛ばす。

何時の間にか自分たちは元の場所に戻ってきたようであった。

 

「いやー…何かナマで見るとすごいエッチに見えるわー」

「ケッセルリンク様って意外と大胆なんですねー」

「あんた達何処で何をしてたらあんな状況になるのよ…」

 

アナウサとメカクレは満足したかのように頷きあい、レダは少し顔を赤らめながらも半眼で二人を見る。

 

「別にこれくらい普通だろうが」

 

ランスは全く気にしていないが、ケッセルリンクはそうはいかない。

悪魔の時の見られていたのは知ってはいたが、それとは全く違う羞恥心が彼女を襲っていた。

 

「やっぱり画像越しと生だと迫力というか生々しさが違うよね」

「うんうん、顔を赤らめて目を瞑っているケッセルリンク様って何か凄いエロさを感じた」

「アナウサ、メカクレ、それ以上はやめろ」

 

((あ、ケッセルリンク様、結構本気で怒ってる))

ケッセルリンクの様子に二人はちょっとからかい過ぎたかと肩を震わせる。

 

「それで、ランス。これからどうする」

「…戻るぞ。これ以上進んでも何も見つからん気がするからな」

 

ランスは一先ず引き返す選択をする。

普段のランスであればそのまま進んだかもしれないが、今現在のアイテム等を考えれば無理は得策ではない。

ランスは無計画に冒険をしたりはしない。

だからこそ世界の色々な所に隠れ家のようなものを作っているし、これまでの冒険の成功率も高いのだ。

ただ、時たま規格外の事に巻き込まれるのが多いだけだ。

 

「そうか…確かにここまで人里が見つからないのは私も考えてもいなかったな」

「そうよね。私もちょっと見通しが甘かったかな」

 

ケッセルリンクとレダも同意する。

たまに人間が迷い込んだりして来た時もあったが、今思えばそれも1年に数回程度だったような気もした。

それも疲労が濃い人間が多かったとも思った。

レダもレダで、知っているのがLP期であるため、簡単に人里に辿り着けると思っていた。

しかし結果は人の子一人見つける事が出来ない。

一番納得がいかないのはランスだ。

前回の時もそうだったが、人間を一人も見る事が出来なかった。

この状況を一番打破したいのは実はランスであり、他の皆以上に焦っていた。

(やはりホルスの戦艦に行く方がいいのか? いや、無理か…)

ホルスの戦艦に行けたのは、近くに町が有り十分な休憩が出来る事と、やはり冒険に必須のアイテムが簡単に手に入るのが大きいと今になって自覚した。

今の状況に比べれば、自分が居た所は十分に恵まれていたと言える。

そしてランスが気になっていたのはやはり道だった。

ランスが冒険した場所は、獣道もあれど、その道筋は大体は整備されているものだ。

それはリーザス、ゼス、ヘルマン、自由都市とどれも変わらない。

しかし今の場所はその道すら整備されていない。

 

「本当にどうなってるのかしらね…」

「まったくわからん…」

 

LP時代を知っているランスとレダからすれば、今の現状を改めて信じられなかった。

 

「とにかく一旦戻るぞ。まったく…俺様ともあろう者がなんの成果も得られんとは…」

 

 

 

「お帰りなさい…随分と早かったですね」

 

カラーの女王であるルルリナは予想よりも早いランス達の帰還に驚いていた。

彼女の目から見たランスの顔は非常に不機嫌に見えた。

 

「何かありましたか?」

「いえ、特には…」

 

ルルリナの問いにケッセルリンクが応える。

その表情には苦いものが浮かんでいるため、進展は無かった事を察する。

 

「ランスさん…」

「モンスターの数が多すぎる。人里も無い。ロクに進む事が出来ん。以上だ」

 

ランスの顔を見れば、ランス自身が不満に思っていることは分かる。

 

「大変です! ルルリナ様! ケッセルリンク様!」

 

息を切らしたカラーの一人が勢いよく入ってくる。

 

「どうした」

「ハァ…ハァ…ムシが…!」

「おちついて話して。ムシがどうしましたか」

「ムシが…大量のムシの死体が…それと魔人と思われる存在が!」

 

その言葉に全員が驚く。

再びカラーにはムシの脅威…いや、それ以上の脅威が襲い掛かろうとしていた。

 

 

 

 

―――カラーの森―――

 

今ここには無数のムシの死体が転がっていた。

斬られた死体もあれば、爪で切り裂かれた死体もある。

「…まさかこんな所にもムシがいるとはな」

ガルティアは肩で大きく息をしながら声を出す。

帰ってくる声は無いが、そんなガルティアを気遣うように、彼の使徒が周囲をうろつく。

「大丈夫だ。怪我はねえよ」

ガルティアもそんな使徒を気遣い、笑って見せる。

(と、言っても危なかったけどな…無敵結界が無かったら逃げてただろうな)

無数のヴェロキラプトルに加え、プロトケラトプスまで存在していた。

LV3のムシ使い技能を持つガルティアをもってしても、これらのムシを排除するのは難しい。

メガラスもひたすらに硬いプロトケラトプスには苦しめられていた。

魔人は確かに無敵結界によりダメージを受けないが、だからといって相手に攻撃が通るとは限らない。

 

「………」

 

メガラスは何も喋らないが、それでも疑問は見て取れる。

彼自身は魔王アベル時代からの魔人であり、現存している魔人の中では古参の一人だ。

それ故にこのムシの事も知っているが、これほどまでに数が集まっているのは珍しい事だった。

天使によるドラゴンの粛清が起きるまでは珍しくも無かったが、新たな魔王が生まれてからは初めての事だ。

だとすれば、必ず大物が存在する。

メガラスはその点だけが気がかりだった。

 

「お」

 

ガルティアはこの場面を見ているカラーの一人を発見する。

カラーはそれを見て一目散に逃げ去る。

 

「タルゴ」

 

ガルティアは己の使徒に指示を出すと、その内の一体である使徒が木々を伝いながらカラーを追う。

 

「これで目的の奴らも来るかね」

 

今回の目的はカラーの殲滅ではなく、対象を捕獲する仕事だ。

いたずらに被害を出すのはガルティアの本意ではなかった。

魔王であるスラルが捕獲を望むのであれば、相当に強い存在であるのは確かだ。

ならばあのカラーの報告を聞けば、今回の捕獲対象が出てくるだろう。

後は魔人である自分達が捕獲すればおしまいだ。

 

「それまで休むか」

 

ガルティアはその辺の木の幹に腰を下ろす。

メガラスもガルティアの意見には同意のようで、木に背を預ける。

(やっぱり喋らないんだよなぁ…)

ガルティアもメガラスとも付き合いは長いと思うが、喋っているのを殆ど見た事が無い。

このまえの声も何十年ぶりに聞いたであろうか。

(そして魔王がなぁ…)

魔王スラルは魔血塊を回収はしているが、結局は今まで自分の意志で作った魔人は自分だけだ。

だからこそ今回の命令は、ガルティア自身も少し楽しみでもあった。

『捕えろ』という事は、今回の目的は魔人を作る事だろうとは容易に想像が出来た。

(さて…どんなものかね)

ガルティアは携帯用に持ってきた食料を食べ始める。

 

 

 

「これは…」

「うお」

「まさかこんな事がね…」

 

ランス、レダ、ケッセルリンクはその辺りに散らばるムシの死骸に顔を顰めていた。

以前ランス達もヴェロキラプトルを1体倒しているが、ここに散らばる死骸の数はそれを大きく上回る数だ。

さらには今まで見た事も無いようなムシの死骸も散らばっている。

 

「こんな事が出来るのは…」

「魔人しかいないわね」

「…うーむ」

 

ここに来ているのは最も戦力の高いこの三人だけだが、ある意味正解だったかもしれないとケッセルリンクは思った。

これほど凄惨な光景は中々無い…それに、これだけのムシを倒すなど、カラーの全戦力を持ってしても厳しいだろう。

 

「なーんかおかしいぞ」

「どうした、ランス」

 

ランスには今までの経験から何か嫌な予感を感じていた。

これまでの経験から、そして戦士としての感がランスに何かを働きかけていた。

そしてランスの嫌な予感は大抵は当たる。

 

「おー、見事に目的の奴らだけが来てくれたな」

 

突如と聞こえてくる、この凄惨な状況に似つかわしくない気楽そうな声。

ランス達がその方を見ると、そこには人型だが明らかに人ではない存在がいた。

腹に穴が開いている人間などこの世界には存在しない。

そしてその発せられる気配が明らかに異常だ。

 

「魔人、か」

「おう、そうだ。出来れば抵抗しないでくれれば俺としても助かるんだけどな」

 

その魔人はある意味親しげに声をかけてくる。

 

「魔人が一体何の用だ」

「簡単に言えば魔王の命令だな。お前達を捕えろってな。だよな、メガラス」

 

その言葉と共に何かが猛スピードで突っ込んでくる。

 

「何!?」

 

それに反応が出来たのは、ランスが周囲を警戒していたこと、そして剣戦闘技能LV3という規格外の技能のおかげ。

それによって、ランスは猛スピードで突っ込んでくる白い存在の一撃をその剣で防ぐが、その魔人の目的はランスを倒すことではない。

白い魔人はランスの襟首を掴むと、そのまま森の奥に消えていく。

目的は単純、ランスとこの二人を分断する事。

 

「ランス!?」

「まあそういう事だ。今からでも大人しく降参してくれないかね」

「そう言われて『はいそうですか』と言う奴がいると思う?」

 

レダの言葉にガルティアは笑う。

 

「そりゃそうだ。じゃあ俺の方も実力行使といかせてもらうとするかね」

 

魔人ガルティアは静かに腰の剣を抜いた。

 

 

 

「だぁーーーー! 男が俺様に触れるんじゃない!」

 

ランスは乱暴に自分を掴んでいる魔人を振り払おうとするが、その手はびくともしない。

白い魔人は、ガルティア達からある程度の距離を取るとランスをその手から離す。

 

「ぐぉっ!?」

 

ランスは背中を強く打ちつけるが、その代りに目の前の魔人の姿をハッキリと見る事が出来た。

それは真っ白い硬質化したような肌をしており、その顔には赤い目が光っている。

が、それ以上にランスにはその姿と非常に似た姿を知っていた。

 

「まさか…ホルスか!?」

「………」

 

ランスの言葉に魔人―――メガラスは何も答えない。

メガラスは無言で戦闘態勢を取る。

こうして新たな魔人との戦いが始まろうとしていた。




所謂負けイベント
この時代でガルティアとメガラスに勝てるとは思えないから仕方ないね
しかしメガラスだけは戦い方にオリ要素が入ると思います
ランス10にメガラスが出てくれれば問題は無かったのに…

運命の女システムに対する言訳
両手両足20本分もあると言ったな…
だがそれはあくまでLP期だけの事…
つまりその気になればSS期にも存在が可能だろうという事…

ランスは公式バグなので何の問題も無いと思います


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魔人メガラス

メガラスの戦い方は完全にオリ設定になります…
メガラスパッチ出してくれよ…アリスソフト様…
新しいメガラスのCGをみたいんじゃ~




(むぐぐ…こいつは強そうだぞ)

 ランスも一流の戦士、相手の実力を見抜く力はある程度は持っている。

 持っていても油断したりと色々な所でポカをするのもランスなのだが、目の前の相手はまったくもって油断出来るような相手とは思えなかった。

 今まで相対した魔人―――色々な魔人がいたが、目の前にいる魔人は今までランスが倒して来た魔人とはまったく異質なものに感じられた。

 これまでの相手は魔人のくせに感情的であったり、色々と隙をつける部分もあった。

 が、その魔人にはそんなものが全く感じられない。

 姿はランスが倒したメガフォースに似ているような気がするが、感じられる気配が全く違う。

 あのホルスの連中とは比べものにならないくらいに強い。

 

「………」

 

 メガラスもメガラスで、誰が相手でも油断はしないように慎重に相手を観察する。

 元々はメガラスは戦闘要員のホルスではなく、整備士の一人だった。

 他の技術者は戦艦の墜落の際に、全て死んでしまった。

 墜落から数百年後、その時の魔王アベルに襲撃されてもメガラスは果敢に立ち向かい続けた。

 そしてメガラスはアベルに気に入られ魔人となった。

 それから長い時間が経ち、メガラスはいつの間にかこう呼ばれるようになった。

『世界最速』の存在と。

 そんな魔人であるメガラスだが、目の前にいる人間を決して甘く見てはいない。

 最初に不意打ちの形で目の前の男に一撃を食らわせて気絶させる予定だったが、この男は驚異的な反射神経で自分の一撃をその剣で防いだ。

 初撃を防がれたメガラスは、その時の予定通りに女性二人をガルティアに任せ、自分はこの男を捕らえることにした。

 距離が大分離れたところでこの男を叩きつけようとしたが、男はその状況から受身を取って見せた。

 今のメインプレイヤー―――人間とも何度か戦った事はあるが、この人間がそれを遥かに上回る存在だと認めた。

 

(もしかして俺様ピンチか?)

 ランスはランスでこの状況に頭を悩ませていた。

 相手は恐らく魔人…ランスには現状で魔人の無敵結界を解除する方法が無い。

 今持っている剣は切味は素晴らしいが、魔人の無敵結界を斬れないのは先程理解した。

 魔人に叩きつけられたときに剣を振るったが、それは無敵結界に弾かれてしまった。

 無敵結界を破る手段は魔剣カオス、聖刀日光しか存在しない。

 ランスはその内の1本である魔剣カオスを持っていたが、今は色々とありその手には存在しない。

 他にも魔封印結界という手段はあるのだが、勿論ランスには使う事は出来ない。

 つまりは現状は自力で何とかしなければならないという事だ。

 

「ぐぐ…」

 

 ランスは呻くが、それでもメガラスからは視線は逸らさない。

 先程はかろうじて攻撃を防ぐ事が出来たが、ほとんど勘でかわした様なものだった。

 一番の手段は逃げる事なのだが、この魔人のスピードを考えれば逃げる事は難しいだろう。

 

「おい貴様! 一体俺様に何の用だ!」

 

 ならば残る手段はランスの何時もの口からの攻撃なのだが、

 

「………」

 

 メガラスは何も答えない。

 ただ無言で自分をその紅い眼で見ているだけだ。

 

「用があるなら何とか言ったらどうだ!」

「………」

 

(ダメか…)

 魔人はこちらと会話する気は無いらしく、どこまでも無言を貫いてくる。

 ランスが歯噛みしていると、突如としてメガラスが動く。

 

「グッ!」

 

 まるで鋼と鋼が打ち合うような音をして、メガラスの腕とランスの剣が交差する。

 まさに一瞬、ランスとてほぼ本能で相手の攻撃を防いだにすぎない。

 しばらく睨み合いが続くが、以外にも先に距離をとったのはメガラスだった。

(何だと?)

 ランスは魔人の動きに困惑する。

 今の状況で魔人が距離を取る理由が分からなかった。

 一方のメガラスも相手は一筋縄では行かないと感じていた。

 先程の一撃を防いだのもそうだが、今の一撃を防いだのも偶然ではない。

 この人間は自分の攻撃を防ぐ技量を持つ、確かな戦士だとメガラスは確信した。

 ならば…と、メガラスは再び攻撃をしかける。

 

「チッ!」

 

 ランスはメガラスの攻撃を今度はある程度の余裕を持って受け止める。

 メガラスは表情には全く出さないが、内心では驚く。

 まさかここまであっさりと攻撃を受け止められる等とは思ってもいなかったからだ。

 メガラスは今度は離れずに攻撃を仕掛けるが、ランスはそれを剣でいなし、時には攻撃が通じないと知りながらもその剣の衝撃で相手の攻撃を防ぐ。

 ランスの攻撃の鋭さは以前にも増しており、メガラスはその衝撃に驚きを見せる。

 強力なムシとの戦いでもこれほどの衝撃はめったに無い。

 それこそ大型のティラノサウルスくらいのものだ。

 それがこの小さな人間が繰り出している、それはメガラスの生の中でも衝撃だった。

 メガラスは攻撃方法を切り替える。

 メガラスの本来の攻撃方法である、自身のスピードを活かしたヒット&アウェイの方法へと移行した。

 

「うおっ!」

 

 目の前から突如として消え、そして攻撃を仕掛けてくるメガラスにランスは目を白黒させる。

 しかしそれでもランスはその一撃を受け流し、また避けていく。

(確かに早い、が…)

 ランスは徐々にメガラスの動きを見切っていく。

 メガラスのスピードは確かに早いが、動きそのものは単純だ。

 リック・アディスンのように手数が多い訳ではなく、動きが早いだけならば今のランスは十分に反応できている。

 ダメージこそは与える事は出来ないが、それでも防ぐだけならば今のランスならば難しくない。

 剣戦闘LV3、それは攻撃だけではなく防御にも表れていた。

 普段はランスは攻撃一辺倒であり、防御の事はあまり考えてはいないが、今では自然に体が動き相手の攻撃を捌く事が出来ている。

 魔人の攻撃を捌いている内に、ランスは相手の攻撃を完全に読めていた。

 相手はフェイントを織り交ぜて攻撃をしてくるが、ランスは全ての攻撃を捌き、時にはカウンターまで放ってみせる。

 無敵結界によりダメージを与える事は出来ないが、その衝撃により確実に魔人の動きを鈍らせていた。

(だが…このままではどうしようもないぞ)

 内心はランスは焦っていた。

 いくら相手の攻撃を防ぐ事は出来ても、相手を倒す事が出来なければ結局は体力の差で押し切られる。

 

「むぐぐ…」

 

 だがランスに出来るのは呻く事ぐらいだ。

 いくら素晴らしい技能があろうとも、神の定めたルールを破る事は出来ない。

 

 

 一方のメガラスもこのランスに対して完全に認識を改めていた。

 まさかここまで自分の動きについてこれるなど、考えてもいなかった。

 それどころか自分の動きを完全に見切られているようにも感じられる。

 人間と戦うのは初めてではないが、まさかここまで自分の動きについてこれるなど考えてもいなかった。

 だからこそ、メガラスは本気を出す決意をする。

 この人間は普通の人間ではない。

 勿論倒すだけならば簡単だ、このまま無敵結界を利用しての体力切れを狙えば良いだけだ。

 しかしそれでは時間が掛かるし、何より今回は一人ではなく、ガルティアとも一緒だ。

 それに、この人間がどれくらい自分と戦えるのか、そして何故魔王がこの男に興味を持ったのか、それを知りたくなった。

 

「むっ」

 

 メガラスはランスから一度離れる。

 ホルスにはこの世界には無い力がある。

 メガラスは魔人となり、この力に改めて磨きをかけた。

 これこそがAV期に魔王アベルからホルスの戦艦を守り続けてきた力。

 

「な、何だ!?」

 

 ランスは驚きの声をあげる。

 目の前にいる魔人から得体の知れない力が感じられる。

 そしてそれが目に見える力でランスの前に示される。

 メガラスの体が浮き上がり、肩から背中にかけて青い粒子のような物が舞う。

 その粒子はまるで翼のような形をとる。

 これこそがメガラスの本当の力。

『フォース』、それがホルスに備わる力であり、メガラスはそのフォースを使いAV時代に仲間を守り続けていた。

 本来は戦闘要員ではないメガラスが、魔人となる事で開花させた力。

 

「………行くぞ」

 

 メガラスは初めてランスに向けて言葉を放つ。

 それはメガラスなりの戦いの合図だったのかもしれない。

 

「ぬお!」

 

 それはまさに一瞬、先程とは比べ物にならない速さでメガラスはランスに迫る。

 ランスがそれを避ける事が出来たのは本当に偶然。

 たまたま地面の石に足を取られたという事が結果的にランスを救った。

 

 ズドンッ!

 

「な、何だと!?」

 

 まるで巨大なバリスタが木に打ち込まれたような音がして、ランスがその方向を見ると、巨大な木に穴が開いている。

 ランスはそれがメガラスの一撃である事を嫌でも理解する。

 すぐに立上り、本能的に剣を構える。

 

 ガキッ!!

 

 鈍い音がして、ランスの剣が、それを支える腕が悲鳴を上げる。

 それだけに留まらず、ランスの体がその衝撃に耐えられずに吹き飛ばされる。

 ランスが剣を構えた事によって、ランスはメガラスの体当たりではなく無敵結界に弾かれる形になったからだ。

 メガラスは上空から吹き飛ばされたランスを見る。

 メガラスの驚きは、今の一撃を勘とはいえ防いだ事、自分の一撃にその剣が耐えた事。

 そして何よりも、自分を睨みつけるその顔。

 

「………」

 

 思えば自分が魔王アベルから仲間を守るべく、一歩も退かなかった時もあのような顔をしていたのだろうかと思う。

 郷愁に浸るのも悪くはなかったが、今は相手を倒すほうが先決だ。

 メガラスがしているのは『本気の手加減』だ。

 決して誰であっても油断はしない、それがメガラスという魔人。

 メガラスのフォースがまるで翼の様にうごめくと、一気にトップスピードでランスに襲い掛かる。

 ランスは肉眼ではその動きについていく事は出来ないため、ほとんど勘で防ぐしかない。

(こいつは…)

 早いだけなら何とかなる…なるはずだと思いながら、やはり勘だけで剣を振るう。

 先程はどんなに早くても一直線故に動きを見切る事が出来たが、今回は違う。

 背中の粒子がまるで推進力になっているかのように、直前での動きの切替が可能になっているようだ。

 ほとんど粒子の残像を頼りに攻撃を防いでいるだけだ。

 勿論そんな事はあのリック・アディスンにも出来はしない。

 ランスは無意識に、そして確実に剣戦闘LV3技能をその身で理解して戦っているのだ。

 しかしそれも長くは続かない。

 体力だけでいえば、ランスもパットンには及ばない物の、かなりのものだ。

 だがこれだけの超スピードの前には、ランスの体力も徐々に削られていく。

(クソ! このままでは本気でヤバイぞ!)

 今ではもう肩で息をするまで体力が削られている。

 対するメガラスはまだ余裕という感じだ。

 

「………」

 

 メガラスは冷静にランスを観察する。

 剣の腕前は確実にガルティアをも大きく上回る。

 いくらガルティアでも、フォースを使った自分の動きに剣だけで対抗する事は出来ないだろう。

 しかしこの男はその腕と勘だけで自分の攻撃を防いでいる。

 手加減をしているとはいえ、全力で攻撃をしかけているはずなのにだ。

 だがこのまま行けば相手を無傷のまま捕らえる事が出来るとも確信していた。

 

 ランスは一撃だけの機会を探っていた。

 あのスピードは今の自分では完全に見切る事は出来ないと理解していた。

(…一撃をカウンターで決めるしかないな)

 無敵結界と言えども、相手は自分の剣で体勢を崩したりしている事は分かっていた。

 ならば、ランスアタックを上手く当てる事が出来れば、倒すのは無理だが行動不能に出来るかもしれない。

 本来であればそんな無謀な賭けはしないのだが、今の状況ではもうそれしか考え付かなかった。

 これ以上長引けば、ランスアタックを打つ気力と体力も削られてしまう。

 だからこそランスは一撃で決めるしか無いと考え、その動きを注視していた。

(あいつは俺の右側から攻撃を仕掛ける事が多いな)

 ランスは普段は片手で剣を振るい、必殺技の時は両手で剣を持つ。

 だからこそ相手は剣を持っていない右側から攻撃を仕掛ける事が多いのだろう。

(チャンスは一度だけだな)

 だが、ランスに不安は無い。

 これまでもっとヤバイ強敵と戦ってきた。

 だからこそ今回もやれるはず…ランスはそう信じて疑わない。

 ランスはメガラスの動きを注視する。

 相手の動きに合わせるのでは遅い…相手が動く前にはもう既にランスアタックを放つくらいの速さでなければダメだ。

 

「………」

「………」

 

 無言のにらみ合いが続いた時、先に動いたのはランスだった。

 それはまさに一瞬の出来事。

 

「ラーンスあたたたーーーっく!!!!」

「………!」

 

 ランスの必殺の一撃がメガラスの無敵結界に当たる…はずだった、ランスの予想では。

 しかしメガラスはその一瞬をフォースの力で避けようとする。

 が、完全に避けられた訳ではなく、その衝撃波までは防ぐ事は出来ない。

 ランスアタックとメガラスのフォースの一撃は互いに相殺し、二人は同時に吹き飛ぶ。

 

「ぐっ!」

 

 ランスは自分の攻撃が完全に当たらなかった事に歯噛みする。

 今の一撃は確かに魔人を吹き飛ばす事は出来たが、状況を打破する事は出来なかった。

 

「あっ、やば…」

 

 そして起き上がったときにランスが見たのは、今まで以上に粒子を纏った魔人の姿。

 

 メガラスは素直に相手の実力を認めていた。

 まさか『世界最速』と言われている自分の動きを予測して、あのような一撃を放つとは思ってもいなかった。

 もし無敵結界が無ければ今の一撃で気絶くらいはしたかもしれない。

 だが戦いには『もしも』は存在しない。

 互いに吹き飛びはしたが、メガラスはフォースの力で地面に倒れるという状況にはならない。

 それに比べて相手は後ろに吹き飛び、尻餅をついている。

 その一瞬の差がこの勝負の全てを決めたと言えるだろう。

 

「…行くぞ」

 

 メガラスの己の必殺技である「ハイスピード」の準備は既に整っている。

 この高速の一撃は今の相手の状態では防ぐ事は不可能だ。

 無論本気で殺すつもりは無いが、動けなくはさせてもらうつもりだ。

 

「…ハイスピード」

 

 メガラスが一瞬で勝負を決めようとしたとき、

 

 グガァァァァァァァァ!!!

 

 森に凄まじい咆哮が響く。

 メガラスは思わず「ハイスピード」の体勢を解除する。

 この声は過去に聞いた事があった。

 昔、ホルスを襲ったのは魔王だけではない。

 魔王以外にも強力な敵は存在していた。

 モンスターには時には変異種というものが生まれる。

 それは通常のモンスターよりも凶暴で、メガラスも危うく死に掛けた事もある存在。

 そしてその咆哮はガルティア達がいる方向から聞こえてきた。

 

「な、何だ?」

 

 ランスもその咆哮が聞こえてきた方を向く。

 まるでドラゴンのような咆哮だが、ドラゴンの姿は見えない。

 ランスが魔人の方を見ると、その魔人は既に意識をランスに向けておらず、その咆哮が聞こえた方に向いていた。

 

「あの方向は…いかん!」

 

 あの方向には確かケッセルリンク達が居た方向…向こうの方で何かがあったという事だ。

 ランスは目の前の魔人を無視し、その方向に向かって走る。

 何かもの凄い嫌な予感を感じる。

 そしてこのような時のランスの勘は当たってしまう事も多々あった。

(だが…どれだけ離れているかわからんぞ)

 ランスは魔人にここまで連れてこられたのであり、ここが何処なのか正確な位置は分からない。

 それでもランスは動かずにはいられなかった。

 

「あん?」

 

 しかしその歩みが急に宙を蹴る。

 ランスはメガラスに体を掴まれていた。

 

「貴様!」

「………動くな。振り落とされるぞ」

 

 それはランスが初めて聞く魔人の声。

 これはメガラスにとっても不測の事態だ。

 もしあの咆哮が、メガラスが思っている奴の声だとすれば、ガルティアはともかく目標の二人の命が危ない。

 魔王の命令は生かして相手を捕らえる事であり、ガルティア一人では手に余る可能性がある。

 それならばこの男の力も必要になるとメガラスは考えた。

 ランスはその魔人の思惑は分からないが、直ぐに移動できるのであれば今は構わなかった。

 そしてランスの目に飛び込んできたのはランスの想像以上の光景だった。




ちょっと短いですが魔人メガラス戦です
メガラスのイメージですが、ZOEシリーズのジェフティみたいな感じで

ちなみにランスはまともにやりあえば現状では完敗です
メガラスは全力で手加減している状態です


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魔人ガルティア

大分遅れました…言い訳かもしれませんがちょっと風邪で…
本当に申し訳ないです…




 魔人ガルティア―――それはLP期には魔人の古株として数えられている存在。

 冗談も言うし楽しく優しい人。

 普通にしてたら女の子にもてるタイプらしい(オーロラ談)。

 しかしそれは戦闘以外の時であり、ガルティアは正に戦闘態勢をとっていた。

 

「で、改めて言うけど、大人しく捕まるっていうのはダメか?」

「悪いがその気は無いな」

「同感ね」

 

 ガルティアは2人の答えに困ったように頬をかく。

 出来れば手荒な手段は取りたくなかったが、相手がそうもさせてくれそうにない。

 魔王スラルが望んでいる人材だという事はガルティアも理解している。

 だとすればその強さも折り紙付だろう。

 それでもスラルが自分とメガラスに任せたのは、自分ならばどうにかできるという確信があったからだ。

 

「じゃあ仕方ないな。少々手荒になっちまうが恨むなよ」

 

 ガルティアはそう言い放ち、剣を抜く。

 そしてその剣を構え―――レダが剣を振り、飛んで来た毒針を弾き飛ばす。

 

「剣、かと思えば随分な事をしてくれるわね」

「悪いな。これが一番いいと思ったからよ」

 

 ガルティアはムシ使いの魔人、当然相手を痺れさせる毒を持つムシもその体に飼っている。

 それで痺れさせれば一番早かったのだが、相手はあっさりとそれを見切って見せた。

 

「やっぱり実力行使しか無いかね」

「…やってみろ」

 

 ケッセルリンクも詠唱を始め、その詠唱が普段よりも早く終わっている事に気づく。

(この手袋のおかげか)

 

「ファイヤーレーザー!」

 

 ケッセルリンクの手から魔法が放たれるが、それはガルティアの前に霧散する。

 

「無敵結界…か」

「そういう事だ。今からでも諦めてくれてもいいんだぜ?」

「悪いけどそれは無いわね」

 

 レダは一気に距離を詰めると、その剣でガルティアに斬りかかる。

 エンジェルナイトである自分には無敵結界は意味をなさない―――はずだった。

 

 ガンッ!

 

「えっ?」

 

 レダの剣は無敵結界に弾かれる。

 ガルティアの反撃をその盾で防げたのは、レダのエンジェルナイトとしての才覚と言って良いだろう。

(まさか…エンジェルナイトとしての力を出せていない!? 確かにレベルは落ちてたし、羽も出せないけど…技能は使えるのに!)

 レダの思考を邪魔するかのように、ガルティアの剣がレダに襲い掛かる。

 

「へぇ…防ぐか」

「当たり前でしょ!」

 

 ガルティアも剣の腕には覚えがあり、その技は並みの存在では相手にならない。

 しかし目の前の女は実にあっさりと自分の剣を防いで見せた。

(こりゃあ長引くかもな)

 最初はもっと簡単にいくかと思ったが、流石に魔王が魔人を直接向かわせる訳だと納得する。

 だが、自分に無敵結界がある限り、負ける事は絶対にない。

 

「まあ早く決着をつけるとするかね」

「余裕のつもり? 上等じゃない!」

 

 ガルティアの言葉にレダはより一層攻撃を激しくする。

 しかしその全ての攻撃は無敵結界に阻まれる。

(私ではランス程の威力は出せないか…!)

 ランスであれば、無敵結界の上からでも魔人の体勢を崩す事は出来るが、自分の腕ではそこまでの一撃は出す事は出来ない。

 レダは攻撃よりも防御に重点を置いたタイプのエンジェルナイトだ。

 それでも普通の人間やモンスターに負ける事は無いが、やはり魔人が相手だと厳しいと感じていた。

 純粋な剣の腕ならばランスの方が上だろうが、相手が剣の中に織り交ぜてくるムシによる攻撃が厄介だ。

 そのせいでレダも防戦に回らざるを得なくなり、徐々に押されていく。

 

「レダ!」

 

 ケッセルリンクはレダを援護しようとするが、上空から何かの気配を感じ、横に飛ぶ。

 

 ドンッ!

 

 そこには猿のような手足を持つ、異様な人間がいた。

(いや、こんな人間は存在しない…使徒か!?)

 そしてケッセルリンクが感じ取るもう一つの気配。

 そこに居るのは上半身が人間で、下半身が蜘蛛の様な異形の存在。

(これも…使徒か!)

 蜘蛛の使徒が放つ糸をケッセルリンクは転がりながら避ける。

 

「クッ!」

 

 避けた先には猿のような手足を持つ使徒―――タルゴがケッセルリンクに襲い掛かる。

 その動きは、まるでケッセルリンクを捕らえるように両の手を広げる。

 ケッセルリンクは使徒の腕力に逆らわず、ショートソードでその動きをやり過ごす。

 

「炎の矢!」

 

 そして蜘蛛の使徒―――ラウネアに対して魔法を放つ。

 魔法は使徒に当たるが、使徒はその動きを全く緩めない。

(これでは威力が足りないか)

 流石にこの程度の魔法では使徒の動きを止める事は出来ない。

 ケッセルリンクの手に余る存在が2体も相手だが、ケッセルリンクは決してあきらめる様な事は無い。

(…今になってランスの力を改めて理解出来るか)

 ランスが現れる前は自分が矢面に立っていたが、ランスとレダと出会ってからは二人が前面に立っていた。

 それがどれ程有難い事だったか、思い知らされる。

(だがそれでも諦めるつもりはない…!)

 相手が魔人と言えどもケッセルリンクにはその戦いを諦めるつもりは無い。

(ランスは不可能だと思われた魔人を倒して見せた…!)

 あの男はこんな状況でも絶対に諦めないだろう。

 ならば自分も絶対に諦める事は無い。

(考えろ…ランスならこんな時はどうする…? あの時の魔人との戦いのときは…)

 ランスは相手の動きを観察し、最終的に相手の動きを完全に理解していた。

 ならば自分も相手の動きを観察する事から始めなければいけない。

(相手の目的は私達を捕まえる事だ)

 先程魔人は「大人しく捕まるっていうのはダメか?」と言っていた。

 先程の使徒の一撃も自分を殺すというよりも捕らえるという感じだった。

 その気になればその腕で自分を倒す事も容易いはずだ。

(ならば…)

 今の自分の持つ武器の力が分かってくる。

 魔法の高速詠唱、そしてもう一つの力がある。

 それをぶつければいくら使徒と言えども只ではすまないはずだ。

 だがそのためにはかなりの集中力を必要とする。

 使徒の攻撃を避けながらどこまで体力が持つか、それだけが不安だった。

 

 一方のレダも魔人の攻撃に押されていた。

 最初だけは優位に進めていたが、相手の剣の技能が上で、どんどん劣勢になっていった。

 それでもレダが耐えれているのは、魔人が殺すつもりで戦っていない事、そしてレダの盾の防御技能のおかげだ。

 エンジェルナイトの盾、そして盾防御LV2の力は絶大で、魔人の剣すらも防いでみせている。

 しかし、

 

「中々やるじゃねえか」

「ハッ、余裕のつもり?」

「余裕と言えば余裕だな。そっちの攻撃は通らないからな」

 

 ガルティアは余裕の表情を崩さない。

 魔人の言うとおり、今のレダでは無敵結界を破る事は出来ない。

 それに加え、魔人から繰り出されるのは剣だけではないく、ムシの攻撃もある。

 その内の一つである、毒針を食らってしまえば最後、それだけで勝負が決まってしまう。

 

「まだ諦めるつもりは無いか?」

「生憎ね!」

 

 毒針を剣で叩き落し、魔人の腹から繰り出されるムシの一撃を盾で防ぐ。

(…ランスは何やってるのよ!)

 ここにはいない自分の仲間に対して愚痴を零す。

 もしランスが居ればこの状況を打破できる手段を思いつく、そう考えてしまう。

 まだ短い時間しか一緒にいないが、その破天荒な人間性には何か惹かれるものがあり、ランスならば何とか出来るという期待を抱かせる。

(一瞬見えた白い奴も多分魔人…よりにもよって、魔人が2体も襲ってくるなんてね。しかも私達を捕えるために)

 魔人が何故自分達を捕えようとしているかは分からないが、それならばまだ何とかなるとも思う。

(何とかランスと合流しないと…)

 しかし、目の前の魔人はそれを許してはくれそうにないのが歯がゆい。

 全力の自分を大きく上回っているのを嫌でも感じられる。

(ケッセルリンクは…)

 ケッセルリンクの方を見ると、彼女は2体の異形の存在と戦っている途中だ。

(使徒ね…これは本格的にまずいわね)

 あれは間違いなく使徒だろう。

 幸いなことに、使徒の方もケッセルリンクを捕える事が目的のようだが、自分よりも体力が無いケッセルリンクがどこまで持つかわからない。

 助けに行きたいが、目の前の魔人がそれを許してくれない。

 

「隙有りだぜ!」

「!」

 

 ガルティアの剣が嫌でもレダの意識を向けさせる。

 レダは反射的にその一撃を防ぎ―――そして体勢を崩される。

(まずい!)

 そう思った時に、右足に鋭い痛みが走る。

 

「くっ!」

「これ以上の抵抗はやめてくれよ」

 

 鋭い痛みと共に、体の力が抜けていく。

(毒…か)

 しかしそれでもレダは止まらない。

 

「冗談!」

「おっ」

 

 レダは自分の体に流れる毒を神魔法を使って取り除く。

 ムシ使いの毒は普通の神魔法では直せないが、エンジェルナイトの自分ならばそれが出来る。

 

「へぇ…ムシの毒を消すか。成程な」

 

 ガルティアは素直に感心する。

 ムシの毒といえども万能ではないが、そう簡単に治せるものではない。

 だが、目の前の女はそれをあっさりと治してみせた。

(魔王が欲しがるのも納得できるな)

 自分の主が自分の意志で作った魔人は自分だけ―――その彼女が捕えるように命じたのも理解できる。

 

「毒が駄目なら別の手段があるさ」

「…まだある訳?」

 

 レダの顔が引きつる。

 今戦っている状況でも非常にキツイのだ。

 それなのに相手の引き出しはまだあると宣言している。

 

「まあムシ使いだからな」

 

 ガルティアの開いている腹部から、触手のようなモノが飛び出す。

 

「な…!」

 

 レダはその触手を防ぐのではなく、避ける。

 同時に放たれている毒針を剣で弾き、ガルティアの剣を盾で防いで弾き飛ばす。

 

「あんたね…!」

「これが俺の戦い方なんでね」

 

 

 

 

 一方のケッセルリンクは相手の攻撃を避けるので精いっぱいになってきていた。

 使徒達は高い知能があるようで、自分の体力が少ないと気付くや、こちらの体力を減らす事に作戦を切り替えたようだった。

 猿の使徒が木の上から襲い掛かり、蜘蛛の使徒はそれに合わせて糸を放ってくる。

 ケッセルリンクの詠唱はある程度終わってはいるが、相手を一撃で倒せなければ意味は無い。

 だが、そのためにはやはり自分を守ってくれる存在が必要だった。

(レダは…)

 レダは魔人の攻撃に押されている。

 自分よりも厳しい状態なのは分かっているが、それでも彼女の力が必要だった。

 しかしこの一撃が決まれば、今度は自分達が数の上で優位に立てる。

 だからこそケッセルリンクは徐々にレダの方に体を寄せていく。

 一方のレダもそれに気づいていた。

 ケッセルリンクから高い魔力の反応を感じられる。

 恐らくはファイヤーレーザーを上回る魔法だろうが、そのためにはやはり彼女をガードする必要がある。

(…賭けるしかないわね)

 このままではジリ貧で自分達は負けてしまう。

 ならば、この状況を変えるためには賭けに出る以外に方法は無かった。

 そのためには包囲されている自分の状況から、相手を一か所に纏める必要がある。

 だからこそケッセルリンクとレダは互いにアイコンタクトだけで動く。

 レダはガルティアの動きを警戒しながら、ケッセルリンクに近づいていく。

 ケッセルリンクも剣で使徒2体を牽制しながら、レダに近づく。

 そしてついにレダとケッセルリンクが背中合わせになる。

 

「無事か?」

「そっちこそ」

 

 ケッセルリンクはそこから一気に魔法の詠唱を始める。

 

「おっ」

 

 ガルティアもその魔力を感じ取る。

 魔法の才能は無いが、魔人ゆえに少しは感じ取れる。

(だったら唱える前に捕えるだけだ)

 ガルティアはラウネアとタルゴに合図をし、3体同時に襲い掛かる。

 

「やらせないわよ!」

 

 レダは己の技能を持ってその攻撃を防ぐ。

 あえてガルティアの攻撃はその体で受け、使徒2体の攻撃はその盾で弾き飛ばす。

 

「クッ!」

「あん?」

 

 ガルティアはレダが自分の攻撃をあえて受けた事に驚く。

 自分の攻撃を防ぐと思っていたのに、相手は自分の攻撃をあえて体で受け、使徒の攻撃を盾で防いだ。

 その結果、2体の使徒は自分の方向に吹き飛んで来る。

(そんな事が出来るのかよ!)

 ガルティアは純粋に驚く。

 まさかこのような器用な事が出来るとは思ってもいなかった。

 

「あ」

 

 ケッセルリンクは両の手に溜めた魔力を解放させる。

 これは今まで自分も使えなかった威力の魔法。

 ランスと共に入ったダンジョンの中で手に入れた、この武器の補助があって唱えられる魔法。

 そしてレダは見事に1か所に相手を集めてくれた。

 

「ゼットン!」

 

 凄まじい火力が魔人とその使徒を包む。

 魔人には効果は無いが、使徒には効果はある。

(うっ…)

 ケッセルリンクは体をふらつかせる。

 ゼットン級の魔法を通常よりも早い詠唱で唱えたのだ。

 その反動が今自分のからだに降りかかっている。

 

「ケッセルリンク!」

 

 だからレダの声に反応する事が出来なかった。

 炎の中からガルティアが飛び出してくる。

 

「グッ!」

「流石に驚いたな。あれだけの魔法にはな」

 

 ガルティアの腹から出ている糸がケッセルリンクの動きを止める。

 

「な…」

「ラウネアとタルゴもおかげで大怪我だぜ」

 

 ケッセルリンクがガルティアの腹を見ると、そこからは焼け焦げている猿の腕と、蜘蛛の足が見て取れる。

 魔人ガルティアは、ゼットンが放たれる一瞬先に使徒を自分の腹に回収した。

 しかしそれは完全ではなく、ラウネアとタルゴは流石に重傷を負った。

 今はガルティアの腹の中でムシに治療させている途中だ。

 

「でもこれで終わりだな」

 

 ガルティアはケッセルリンクに剣を突き付ける。

 それは殺すためではなく、目の前にいるレダの動きを封じるためだ。

 

「抵抗はしてくれるなよ」

「クッ…」

 

 魔人は自分達を捕えるために行動していたが、これ以上抵抗すればケッセルリンクは殺されるかもしれない。

 それを考えるとレダには動くことが出来なかった。

 

「助かるぜ。俺もこれ以上お前さんたちを傷つけたくないからな」

 

 ガルティアは心から安心したようにため息をつく。

(…こいつ、本当に私達を傷つけたく無かった訳ね。後はランスに賭けるしかないか)

 流石のレダもこの状況ではどうする事も出来なかった。

 

「…分かったわよ」

 

 レダは剣を収める。

 

「助かるね」

 

 ガルティアは安堵するが、その時ガルティアの中のムシがガルティアに何かを知らせる。

(あん?)

 センサームシがガルティアに何かを知らせている。

 ガルティアは周囲を見渡すが、特に何の姿も見えない。

 が、ガルティアは最大限に警戒をする。

 自分の中のムシの力は絶対…それこそ自分が人間の時から信頼している相棒だ。

 突如として周囲を見渡し始めたガルティアに、レダとケッセルリンクは不審なものを感じる。

 その行動は自分達を警戒しているのでなく、別の存在を警戒している

 その時、急に地響きが起こる。

 

「地震…いや、違うな」

 

 ガルティアは慌ててその場を飛び退く。

 彼が立っていた場所が盛り上がり、そこから巨大な咢が現れる。

 

「な…こいつは!」

「嘘でしょ…」

「マジかよ…」

 

 全員が驚きに息をのむ。

 地面から現れたのは巨大のティラノサウルス。

 ケッセルリンクとガルティアはティラノサウルスを見た事はあったが、巨大で尚且つ異形のティラノサウルスを見た事は無かった。

 普通のティラノサウルスよりもその肌が黒く、そして全身にはまるで血管のようなものが蠢いている。

 

「グガァァァァァァァ!」

 

 雄叫びと共にその巨大な足を地に踏み付ける。

 そして目の前にいる3人を獲物と定めたようで、口からは際限なく唾液を溢れ出す。

 巨大なティラノサウルスは3人に襲い掛かった。

 

 

 

 魔王スラルはその知識に優れた魔王である。

 そしてもっと知識を欲していた。

 珍しいアイテムの収集、新たな種族の発見など、その知識欲は非常に高い。

(うーん、何処かしらね)

 魔王スラルはカラーの森へと侵入していた。

 もちろん普通に侵入したのでは大騒ぎになるため、自分の姿がカラーに見えるように幻覚をかけている。

 ここに来たのはランスが倒した魔人オウゴンダマの魔血魂を回収するためだ。

 ここはカラーの宝物庫との事だが、残念ながら魔血魂はここには置いていないようだ。

 

「やっぱりランスが持ってるのね」

 

 あの男は魔血魂の事を知っていた。

 何処で知ったのか気になるがそれは一先ず置いておこうと思う。

 ランスを捕らえてから聞けばいい話だ。

 

「それにしても…これ、中々いいわね」

 

 スラルが手にしたのは、やたらと可愛らしくデフォルメされた、一本角で悪魔の翼を持つ物体が描かれた壷だった。

 

「せっかくだし貰っていきましょ」

 

 スラルは壷を手に持つと嬉しそうに頬ずりする。

 このような未知の物を収集するのもスラルの楽しみの一つだった。

 

「それにしても…まだ時間かかるのかしらね」

 

 あの二人ならば取り逃がす事は無いだろうが、意外と時間がかかっているとは思う。

(まあ時間がかかるのはあの二人相手に善戦してるということ…それはそれで良いわね)

 スラルが呑気にそんな事を考えていたとき、突如としてとてつもない雄叫びが響いてきた。

 

「え?」

 

 思わずスラルもその方を向いてしまう程の咆哮だった。

 宝物庫から出ると、カラー達が慌しく走り回っている。

 

「何が起きている? ガルティア、メガラス…」

 

 魔王はその雄叫びの方へ向かって足を進める。

 そしてそれは本来の歴史とは違った形での出会いが待っている事となる。




大怪獣ティラノサウルス登場
イメージとしてはモンスターハンターの極限状態イビルジョー辺りです
ルド大陸に大怪獣いるのかと思うかもしれませんが、その辺りは申し訳無いです…

ガルティアの戦い方を見るためにランス10をしましたが、いつもの癖で2枚抜きをしてしまった事実
一言言えば言い訳乙ですわ


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変わっていく歴史

本当戦闘シーンって難しいよね
自分の才能の無さを誤魔化してはいけない(戒め




この世界には『突然変異種』と呼ばれるモンスターが存在する。

強い能力を持つ反面、繁殖力が極めて低く、生涯に一度しか射精をする事が出来ない存在。

そして目の前にいるティラノサウルスはその『突然変異種』と呼ばれるモンスターだ。

通常のティラノサウルスを大きく上回る体躯、黒く染まった鱗、そして全身の筋肉を嫌でも浮かび上がらせる血管。

そして血走った目に口から際限無く垂れる唾液。

それがケッセルリンク、レダ、ガルティアを見下ろしていた。

 

「こいつは…」

 

レダは目の前にいる巨大なムシを呆然と見上げる。

これほど巨大な生物はドラゴン以外に見た事は無かった。

ティラノサウルスは地面を振るわせる程の雄叫びをあげると、ガルティアに向かって突っ込んでいく。

 

「おいおい!」

 

ガルティアはケッセルリンクを捕らえている事も有り、その一撃を避けるしかない。

無敵結界はダメージを防いではくれるが、衝撃までは防げないためケッセルリンクにも影響が出るのを懸念したからだ。

ティラノサウルスの一撃は木々を薙倒し、嫌でもその肉体の強さを思い知らされる。

 

「一旦離してくれないか。今はそれどころじゃないだろう」

「…まあ仕方ないな」

 

ケッセルリンクの言葉にガルティアは一瞬迷ったが、本人も相手を捕らえながらの戦いは難しいと判断し、触手を離す。

 

「…出来れば逃げてくれれば俺としては助かるんだがね」

「悪いがそれは出来ない。今逃げれば確実にカラーは襲われる」

「あー…」

 

ガルティアはその言葉に自分の過去を思い出す。

自分も仲間達を守るため、魔人や魔物と戦ってきた。

才能からその仲間に疎まれ、色々と有りはしたが、別に人やムシ使いが嫌いになった訳ではない。

 

「わかった。でも前には出るなよ。俺が出るからな」

 

ガルティアはそう言うとティラノサウルスの前に出る。

(こいつはでかいな…)

過去にはティラノサウルスと対峙した事はあったが、このような固体は今まで見た事も無かった。

一回りは大きい体に、鋭い爪、大木のような尾に巨大な顎、今までのティラノサウルスよりも相当に手強い事は簡単に予測できた。

(吸い込めれば楽なんだけどな…)

ガルティアの腹に吸い込めればそれだけで倒せるだろうが、それをすれば間違いなく目的の女性2人も巻き込まれる。

彼女達の捕獲が目的なのに、その二人を吸い込んではそれこそ本末転倒となってしまう。

下手をすればこの近くにあるであろうカラーの村を巻き込む可能性を考えると、流石に使う訳にはいかなかった。

だとすると己の持つ剣とムシの力で戦うだけと判断し、ティラノサウルスに斬りかかる。

 

ガンッ!

 

まるで岩にでも斬りかかったような音がして、ガルティアの剣が止まる。

 

「おいおい。マジかよ…」

 

ガルティアは剣の腕もさることながら、手にしている剣も中々の名刀だ。

しかし目の前のティラノサウルスの皮膚を僅かに斬っただけで、まともなダメージは与えられていない。

 

「うおっ!」

 

そしてガルティアの死角から襲い掛かったのは、その太く強靭な尻尾だった。

無敵結界があるためそれを避けなかったが、ガルティアはその一撃で簡単に吹き飛ばされた。

(俺を一撃でここまで吹き飛ばすだと?)

魔人であるガルティアは見た目よりも体重があるのだが、その自分を尻尾の一撃で吹き飛ばす等普通の事では無い。

ティラノサウルスはさらに雄叫びを上げながらケッセルリンクに向かっていく

(しかも早いか)

その巨体でありながらも動きは俊敏そのものだ。

 

「ファイヤーレーザー!」

 

ケッセルリンクの魔法の直撃に少し怯むが、そんな事はお構い無しにケッセルリンクに向かってくる。

そしてその巨大な口でケッセルリンクを噛み砕こうと顎を開き襲い掛かる。

ケッセルリンクはそれを避けるが、すぐさまティラノサウルスの腕がケッセルリンクを襲い、

 

ガキッ!

 

鈍い音を立ててレダの盾に防がれる。

明らかに質量が違いすぎる一撃を、レダはあっさりと防いで見せた。

 

「ケッセルリンク! どうなってるのよ!」

「今は休戦だ。こいつをどうにかしないとカラーは終わる」

 

レダはケッセルリンクを掴むと、先程まで戦っていたガルティアの側まで移動する。

 

「で、あいつは何なのよ」

「悪いが俺も知らないな。一つ分かるのは強いって事だけだな」

 

ティラノサウルスは値踏みするかのようにこちらを見る。

まるで誰から食おうかを選んでいるようだった。

 

「アンタ魔人でしょ。何とかできないの」

「魔人だって万能じゃないさ」

 

ガルティアの言葉にレダは内心でなるほどと頷く。

エンジェルナイトの自分でも万能には程遠いのだ。

 

「じゃあどうする?」

「何とかするだけさ!」

 

突っ込んでくるティラノサウルスに対し、ガルティアは注意を引くためにあえて突っ込む。

無敵結界では衝撃までは防げないため、ガルティアはあえて攻撃を回避するという方法をとる。

レダも同じ様に接近しその剣で切付けるが、やはりその鱗の前には歯が立たない。

ケッセルリンクが炎の矢を放つが、やはりその程度では足止めにすらならない。

この相手を倒すためには、やはり圧倒的な攻撃力が必要だ。

(そのためには…やはりランスの力が必要か)

ランスの剣ならばこの怪物が相手でも通用するだろうと思う。

だが、今ランスはこの場にはいないため、それ以外の方法で何とかしなければならないのだが、そのためにはやはり魔人に頼るしか無かった。

 

「これならどうよ!」

 

ガルティアは先程は使えなかった力を思う存分発揮する。

二人を捕らえるために、主に相手を動けなくさせるムシを使ってはいたが、今回は違う。

ガルティアの腕から放たれた弾がティラノサウルに当たると、何かが焼けたような臭いと共にティラノサウルスが苦しむ。

キャノンバグによる酸の一撃はティラノサウルスの鱗すらも溶かす。

そこに放たれるマインレイヤーバグが、露になった筋肉を爆発させる。

 

「これは…」

 

ケッセルリンクは改めて魔人という存在の力に戦慄する。

先程の自分達との戦いでは、この魔人は全く本気を出していなかったのだという現実。

しかし相手もまたそれに匹敵する化物であると言わざるを得ない。

爆発した箇所の血が止まり、すぐに肉が盛り上がり傷を塞ぐ。

溶けた鱗は戻らないようだが、その筋肉の強靭さは何も変わっていない。

 

「おいおい…冗談だろ?」

 

流石のガルティアも相手の再生力には目を丸くする。

確かにティラノサウルスはタフだが、この個体はそれに加えて高い再生能力を持っているようだ。

(こいつは…スラルが言ってた突然変異種ってヤツか)

それでもガルティアのやる事は変わらない。

自分は魔人、ましてや無敵結界まで持ってて敵わない等あってはならない。

ガルティアは再びキャノンバグを放つ。

酸はティラノサウルスの鱗を溶かし、今度は溶かした部分に剣を打ち込む。

 

「硬いな…」

 

鱗も固いが、筋肉も固い。

ガルティアの一撃でも断ち切ることは難しい。

だが今回は、

 

「ファイヤーレーザー!」

 

ケッセルリンクの魔法が溶けた鱗の部分に魔法を打ち込む。

肉が焼ける臭いがし、剥き出しの筋肉を焦がす。

ティラノサウルスがさらに雄叫びを上げ、三人に襲い掛かる。

振り回される尻尾の一撃をガルティアは避け、レダはなんとその盾で受け止める。

盾技能LV2、それはこれほどの巨体の放つ一撃すら受け止めて見せている。

(いけるか…?)

ケッセルリンクがそう思った時、ティラノサウルスの体がさらに隆起する。

 

「これは…」

 

レダもその変化には驚きを隠せない。

黒い鱗が赤く変わり、その代わりに浮き出た血管が黒く変わっていく。

 

「ここからが本気って訳ね」

「そのようだな」

 

ケッセルリンクは魔法の詠唱を始める。

ファイヤーレーザーですらあまりダメージを与えた様子は無かった。

ならばその上…先程使用した魔法『ゼットン』の詠唱を始める。

(あの魔法ならばこの巨体でも多大なダメージを与えられるはず)

だが、その考えはあっさりと打ち砕かれる。

 

「ガァァァァァ!!」

 

雄叫びと共に襲い掛かるティラノサウルスの動きは、先程の動きよりも遥かに早い。

(なっ…)

ケッセルリンクもその速さに一瞬反応が遅れる。

そのケッセルリンクを救ったのはガルティアだった。

ガルティアはケッセルリンクの前に立つと、無敵結界で相手の攻撃を防ぐが、それでもその衝撃でケッセルリンクを巻き込んで吹き飛ぶ。

 

「ケッセルリンク!」

 

レダは声を上げるが、その声に反応するかのように巨大な尻尾がレダを襲う。

その一撃を盾で防ぐが、流石に今度は吹き飛ばされる。

普段ならばその翼でバランスを取り、無様に地に尻餅をつく事などないが、今はその翼が出せないために無防備にさらされる。

(まず…!)

慌ててその場を飛びのこうとするが、一瞬遅いと理解する。

(喰われる…!?)

レダは一瞬死を覚悟するが、

 

「らーんすあたたたーーーーっく!!!」

 

その時今はもう聞きなれた声が聞こえる。

その一撃は、ガルティアの剣すら弾いた鱗と筋肉を易々と切り裂き、盛大に血を噴出させる。

 

「ランス!」

「真打登場だ!」

 

ランスは剣を構えると、ティラノサウルスと対峙する。

そのランスに少し遅れるように、先程ランスを連れ去った白い魔人の姿も現れる。

 

「メガラス! 遅いじゃねえか!」

「………」

 

メガラスは何も答えないが、目の前の存在を見て内心では驚いていた。

この存在は間違いなく強力な個体―――肉体の色こそ違うが、酷似した存在だ。

かつて自分が魔人では無かったころ、まだ人間と呼ばれる存在が居なかった頃、この世界がまるい物とドラゴンが争っていた時。

メガラスはこの個体と似たような存在と戦った事がある。

その時は自分は死にかけたが、それでも自分は生き延びた。

だが勝つ事は出来なかった記憶がある。

それからはこの個体を見た事は無かった。

非常に硬い存在だったが、この男はその鱗と筋肉をあっさりと斬りつけた。

 

「おー…斬りやがったか」

 

ガルティアも人間の男がこのティラノサウルスの体を斬った事を感心する。

自分でもあそこまで傷つける事は出来ないが、この男はあっさりとやってのけた。

明らかに自分よりも剣の腕前は上だ。

 

「レダ、ケッセルリンク。何だこいつは」

「私は知らない。分かってるのは凄い強いって事だけ」

「…アレがカラーの脅威の一つだ。ここまでカラーの村に近づかれた事は無かったがな」

 

ティラノサウルスの傷は深く、先程のように傷が塞がる事は無いが、それでもこの巨体のため致命傷には程遠い。

 

「で、こいつは何だ?」

 

ランスはガルティアに剣を向ける。

先程は一瞬しか見えなかったが、魔人である事は理解できる。

腹に穴が開いた人間など魔人以外にはありえないだろう。

 

「待て、ランス。今はこいつを倒すのが先決だ」

「そういう事だな。俺にとってもこいつは敵だからな」

「まあいい。足手纏いになるなよ」

 

ランスの言葉にガルティアは爆笑する。

 

「何がおかしい」

「いや、魔人に対してそんな事が言えるなんて大したもんだと思ってな」

「魔人ならせいぜい俺様の盾になる事だな」

 

ガルティアが爆笑しながらランスの横に立つ。

魔人である自分に対し、ここまで大きな態度を取れる人間など今まで見た事が無かった。

そしてティラノサウルスが再び雄叫びを上げながら突っ込んでくる。

その速度は先程よりも速い。

ランスはその牙を避け、その体に斬りつける。

硬い筋肉にも関わらず、ランスの剣はティラノサウルスの体をあっさりと斬り裂く。

 

「そこだな!」

 

ガルティアは斬り裂かれた傷口に向かってマインレイヤーバグの一撃を叩き込む。

裂かれた傷口にめり込んだ一撃は、その傷口をさらに抉るべく爆発する。

 

「ガァァァァァ!!」

 

ティラノサウルスが怯んだ所に、メガラスが先程ランスに斬られた別の傷口から攻撃をしかける。

メガラスといえども、ここまで強靭な鱗と筋肉をもつ存在には中々ダメージを与えられないが、こうして剥き出しの傷口ならば多大なダメージを与えられる。

ティラノサウルスが怒りから暴れ、その尻尾がメガラスを襲うが、その瞬間にはメガラスはもうその場にはいない。

 

「凄まじいな…」

 

ケッセルリンクは改めて魔人の恐るべき戦闘力に驚愕する。

ガルティアは先程は自分を庇いながら戦っていたが、今は完全に攻勢に転じていた。

ムシ使いと呼ばれる存在をケッセルリンクも聞いたことはあった。

(恐らくはそのムシ使いの魔人なのだろうな)

その体には一体どれほどの種類のムシがいるのか、ガルティアは酸、毒、爆発物等で攻撃をしていた。

ランスによって傷つけられた箇所を重点的に狙っているようで、流石のティラノサウルスも傷の治りが追いつかないようだ。

そしてもう一体の白い魔人はそのスピードが凄まじい。

宙を舞いながら戦う姿はケッセルリンクの目には捉える事が出来ない。

ティラノサウルスはその魔人の動きについていけず、暴れるもののその攻撃は全て空をきる。

改めてケッセルリンクは魔人という存在の異常さを認識する。

そしてその魔人の動きについていってるランスという存在。

ランスの一撃はまさに強力無比、魔人よりも大きなダメージを与えている。

(見とれている場合ではない…)

レダが自分を守ってくれているのであれば、後は自分が詠唱を完了させるだけ。

先程よりもより強い魔力を溜め込み、発動させるだけ。

 

「ランス! 離れろ!」

 

魔人は無敵結界があるので何も問題は無いが、ランスだけは別だ。

ランスはその言葉に敏感に従い、すぐさまティラノサウルスから離れる。

ケッセルリンクはそれを見届けると魔法を放つ。

 

「ゼットン!」

 

ケッセルリンクの魔法の炎がティラノサウルスを包む。

 

「ガァァァァァ!」

 

ティラノサウルスの怒号が木霊する。

この一撃は流石に致命傷になったはず…ケッセルリンクがそう思ったとき、

 

「ケッセルリンク様!」

 

聞こえたのはアナウサ・カラーの声。

そしてその声に反応するかのように、炎に包まれたティラノサウルスが動く。

そこからの事はケッセルリンクも覚えていない。

ただ分かった事は、ケッセルリンクがアナウサに向かって走っていった事。

ランスとレダが何かを言っていた事。

そして焼付くような痛みを受けた事だけだった。

 

 

魔王スラルはその光景を見た。

自分が望んでいた魔人の候補の一人が巨大なムシの尻尾で吹き飛ばされる光景を。

そして誰よりも早く動く、もう一人の魔人の候補の姿を。

 

「貴様ー!!」

 

それはまるで空気が震えるほどの怒り。

ガルティア、メガラス、レダも思わずランスの方を向いてしまうほどの存在感。

ランスの一撃は、ケッセルリンクを吹き飛ばしたティラノサウルスの尾を一撃で切断する。

ティラノサウルスは怒りの声を上げ、その爪を振るうがランスはその爪を受け流すと、返す刀でその腕を切り付ける。

血飛沫がランスを染め上げるが、ランスはお構い無しにその剣を振るう。

 

「ラーンスアターック!!」

 

そしてその必殺技がティラノサウルスの頭に炸裂するが、それでもティラノサウルスは止まらない。

そのままランスを噛み砕こうとその口を大きく開くが、その口の中にガルティアが突っ込んでいく。

 

「悪いがここまでだぜ、死んでくれや」

 

無敵結界の影響で、ティラノサウルスの顎が開かれたまま閉じなくなる。

ガルティアはそののど奥に剣を突き刺し、大量の酸と爆発物をその奥に突っ込む。

ティラノサウルスがガルティアを吐き出すが、同時に大量の血を吐き出し、またその内部から破裂するかのように血飛沫が舞う。

そこにメガラスが傷口を抉る様に飛び込む。

メガラスの一撃がとうとうティラノサウルスの胸を貫通する。

 

「こいつで終わりだ」

 

ランスは心の底から怒っていた。

だからこそ、この技を放たずにはいられなかった。

 

「鬼畜アターーーーック!!」

 

ランスの持つもう一つの必殺技、鬼畜アタック。

それはランスアタックを連打するという荒業。

最初はランスの体がもたず、経験値が減るという副作用すらあったランスの技。

剣戦闘LV3の今でもやはり体がバラバラになりそうな反動がくる。

 

「死ねーーーーー!」

 

止めの一撃がティラノサウルスの首を落とす。

 

「レダ!」

 

レダはケッセルリンクが吹き飛ばされてからずっとヒーリングをかけていた。

が、その顔は悲痛に満ちている。

 

「………」

 

レダは黙って首を振る。

 

「ケッセルリンク様! ごめんなさい! ケッセルリンク様!」

 

アナウサが泣きながらケッセルリンクに縋り付く。

ケッセルリンクは笑いながらアナウサの頭を撫でる。

 

「お前が…無事なら…それでいい…」

「でも…ケッセルリンク様ぁ…」

「おいケッセルリンク!」

「すまない…な…ランス…」

 

ケッセルリンクはランスに対しても笑みを浮かべる。

 

「お前! 俺様の女がこんな所で死ぬなど許さんぞ!」

「無理を言うな…ランス…頼みがある…」

「やかましい! そんな状態のお前の頼みなど聞けるか!」

「カラーを…皆を頼む…」

「お前がいないカラーに意味があるか! その頼みをするなら死ぬな!」

「ゴフッ…無理を…言うな…」

 

ランスの目に見てももう分かっている。

明らかにケッセルリンクへの一撃は致命傷だ。

これまでに何度も見てきた光景なのだ。

 

「ランス…私は…」

 

ケッセルリンクの目が閉じられる。

その命はまさに尽きようとしていた時、

 

「そうね。あなたは死なせるには惜しいわ」

 

その声が聞こえると共に、ガルティアとメガラスはその場に跪く。

 

「あん?」

 

ランスが声の聞こえた方を見ると、そこにはこの前に廃棄迷宮の事を教えてくれた少女がいた。

 

「あなたはこんな所で死んでいい存在ではない。だから生きなさい」

 

少女の手から血が流れ、それがケッセルリンクの口に入っていく。

すると土気色だったケッセルリンクの顔にどんどん生気が満ちていく。

 

「え…これは…」

 

レダは目の前の光景が信じられなかった。

確かにケッセルリンクは死の淵にあったのに、今感じられるのは凄まじい生命力だ。

だがこれは…

 

「まさか…魔人…」

「何だと!?」

 

ケッセルリンクはゆっくりと目を開いた。

いつの間にかその衣装すらも変わっている。

カラーが着ていた服から、胸元が大きく開いたビスチェに変わっている。

残っているのはランスと共に手に入れた手袋だけだ。

 

「わた…しは…」

「目覚めたよね。ケッセルリンク」

 

ケッセルリンクの目の前には一人の少女がいた。

そしてケッセルリンクは直ぐに理解した…この少女が自分を救ってくれた存在であり、自分の主だと。

 

「助けてくれた事を感謝します。我が主よ…」

 

ケッセルリンクもガルティアとメガラスのように跪く。

 

「…どーなっとるんだ?」

 

ランスは展開についていけず困惑するが、スラルはそれを見て薄く笑う。

 

「む、お前は…」

「あの時に言ったな。お前が魔人を倒せば嫌でも我の名前を知ることになると。今こそ我の名を教えよう。我は…」

「あの時のドジっ子ではないか」

「断じて違う。我は断じてそんな存在ではないからな?」

 

こうして本来の歴史とは違った形の歴史が一つ作られた。

本来であればその魔人は魔王を守るため、己の意思で女性から男性になるはずだった。

だが、それは一人の男と出会うことによって歪められた。

魔人ケッセルリンク…それは魔王に救われる形で魔人となってしまった。

ここから女神ALICEの新たな苦悩が始まることになる。

 




ちょっと大幅な書き直しが…本当はもっと早く投稿できるはずでしたが
書いてて思ったのが、ガルティアとメガラスがいて苦戦するか? という疑問
まああの二人でもドラゴンを相手すると苦しいかなという感じもしましたが…


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運命の出会い

魔王少女との出会い…
いや、でも偶然だけどある作者様との被りがね…
本当に偶然なんです!


「で、そのドジっ子が何でケッセルリンクを治せたんだ? おいケッセルリンク、どうなっとるんだ」

「ランス…私はどうやら魔人として生まれ変わったようだ」

 

ケッセルリンクは立ち上がると真っ直ぐにランスの目を見る。

ここはランスの目から逃れる所ではないと、どこまでも真っ直ぐに。

しかしランスの視線は自分の目を見ておらず、明らかに胸元へ注がれている。

 

「ハァ…ランス、私は真面目に話しているつもりなのだが」

「俺も真面目にお前の恰好を見てるぞ。何がどうなったらそんな衣装に変わるのだ」

 

ランスに指摘され、ケッセルリンクは改めて自分の姿を見るが…

 

「…なんだこれは」

「今まで気づかなかったのか…」

 

普段着ているカラーの服ではなく、胸元が大きく開いた黒いビスチェを着ており、下も何故か白いズボンを穿いている。

そして中々に豪華な上着を着ているが、その着こなしは胸を強調させているようにしか見えない。

以前の自分と同じなのは、ランスと共に手に入れたあの手袋をしている事くらいだろうか。

 

「だが魔人になっただと? この世界に魔人を作れるのは魔王だけだと聞いたぞ」

「いや、だからね…」

 

ランスとケッセルリンクの会話に謎の少女が割り込もうとするが、ランスは気にも留めずにケッセルリンクと話す。

 

「それに今の魔王は美樹ちゃんだろ。魔王なんてどこにもいないぞ」

「…いや、ランス。この少女がな」

「そうだ。我こそが魔王スラルだ」

 

スラルはケッセルリンクに振られて、ようやく自分が魔王だと名乗る。

勿論威厳を出すべく、魔王としての存在感をようやく放つ。

 

「はあ?」

 

ランスは疑いを隠すことなく、魔王と名乗った少女を見る。

ランスの目から見て、何処からどう見ても普通の少女にしか見えなかった。

かつてランスは二人の魔王と出会った事がある…その中でも一番印象に残っているのは、やはり魔王ジルだった。

今でもハッキリと魔王ジルの事は覚えている。

男はともかく、一度やった女性もたまに忘れる事もあるランスにとっても、それだけ魔王ジルは衝撃だった。

一度真正面から戦って勝利してはいるが、あまり会いたい相手ではなかった。

そしてもう一人が先程口に出した、現魔王リトルプリンセスこと来水美樹。

JAPANで出会った時は、一度覚醒しかけたが、ヒラミレモンと小川健太郎のおかげでその覚醒は食い止められた。

あの時の強力なプレッシャーはジル程ではないが、かなりのものだったと思っている。

しかし目の前にいる少女からは、確かに強い力が感じられるが、かつての魔王のような強力なプレッシャーが感じられなかった。

 

「…美樹ちゃんは魔王をやめれたのか?」

「美樹というのが誰かは知らないが、我こそは間違いなく魔王スラルだ」

 

ランスはさらに首を捻るが、そこでアナウサがランスの横腹をつつく。

 

「ランスさん、ランスさん」

「なんだアナウサ」

「彼女が魔王で間違いないと思うよ。現魔王の名前はスラルで合ってるし」

「…うーむ、どういう事だ?」

 

アナウサがそんな嘘を言うはずはないし、ケッセルリンクも現実に死にかけていたのに今は復活している。

確かJAPANの時も健太郎は死にかけていたらしいが、美樹によって魔王の血を与えられ、魔人として復活した時は元気だったと思い出す。

 

「じゃあ本当に魔王なのか…」

「いや、何故お前がこの状況で疑うのかそれが理解出来ない」

 

ランスとスラルがコントのようなやり取りをしている間に、レダは頭をフル回転させていた。

(そうだ…スラル…聞いた事がある…確か歴代魔王の一人にそんな名前が…でも何代目だったっけ)

レダ0774は割と最近になって創られたエンジェルナイトだ。

それ故にこの世界の歴史にもそれ程詳しくないし、何も自分だけが知らないという訳でも無かった。

エンジェルナイトにそんな事を考える必要は無かったし、この世界の歴史にもそれほど興味があった訳では無かった。

だが、ランスに敗れた時に少し人間というものに興味が湧き、この世界の歴史を少しだけ学んだ。

その時にあった歴史の中に、魔王スラルという名前があったような気がしたが、それほど興味も無かったために対して覚えてもいなかった。

 

「ガルティア、メガラス、まさかお前達が失敗するとはな…」

「いや、すまねぇ。言い訳はしねぇよ」

「………」

 

ガルティアは素直に謝り、メガラスはいつもの様に一言も喋らないが、それでも頭を上げない。

スラルは目的こそは果たせたが、それはあくまで結果であって過程では無かった。

本来であれば、スラルは己の意志でケッセルリンクに魔人になって欲しかった。

 

「それはそうと、まずは帰りましょうか」

「お待ちください、スラル様」

 

ケッセルリンクは意を決してスラルに話しかける。

魔人となった今、嫌でも彼女が自分の主である事を理解させられていた。

彼女の命令を拒むことは出来ない…それでもこれだけは言わなければならなかった。

 

「どうかカラーの村だけは…あの村だけは手出しをしないで下さい」

「ケッセルリンク様…」

 

ケッセルリンクは魔人になってもカラーの村の事を案じていた。

自分がいなくなれば、カラーの村は滅んでしまうかもしれない…それが彼女の一番の不安材料だった。

 

「分かった。お前の願いは聞き届けよう」

 

だが、スラルはそんな自分の言葉をあっさりと聞き入れた。

スラル自身、今回の事は自分の想定外の出来事であり、この結果は少々納得いってはいなかった。

ならばその願いくらいは叶えてもいいとさえ考えていた。

それでケッセルリンクが自分の魔人になるのであれば安いものだとも。

 

「ありがとうございます。スラル様」

 

ケッセルリンクは心から安堵する。

色々とあったが、これでカラーは魔物の脅威から逃れる事が出来ると思った。

自分は魔人になってしまったが、それでも女王やそれを補佐する皆が居ればカラーは滅ぶことは無い。

(そしてランスとレダも…この二人が居れば大丈夫だろう)

ケッセルリンクがそう思った時、

 

「じゃあガルティア、メガラス、ケッセルリンク。その二人を捕えなさい」

「おう」

「………」

「はっ」

「はっ?」

「えっ?」

 

スラルの言葉にランスとレダはあっさりと捕らわれる。

ランスはケッセルリンクに体を掴まれ、レダはガルティアの腹から出た糸に体を巻きつけられている。

 

「抵抗はしてくれるなよ。いくらお前でもこれだけの魔人には勝てないだろう」

「そっちも動いてくれるなよ。これ以上腹が減るのはごめんだからな」

「ってケッセルリンク! どういうつもりだ!」

 

ランスは怒鳴るが、思った以上に強いケッセルリンクの力に体が動かない。

魔人となった事で、彼女の身体能力はランスすらも上回るものになっていた。

(体にあたる胸は役得だが、動くことが出来んぞ…)

 

「さて帰りましょ」

 

その言葉にアナウサを除いた全ての存在がその場から消える。

 

「あ、忘れてた。これ私が貰ったから。それと掃除もね」

 

スラルはアナウサが持ち帰った壷を態々見せに戻ったようだ。

そして、スラルが腕を振るうと、それだけであの巨大なティラノサウルスの死体が消える。

今度こそ魔王の姿が消えた時、そこには呆然と立ち尽くしたアナウサが一人残されていた。

 

 

魔王城、それはこの世界最強である存在である魔王が住まう城。

魔王スラルは目の前に跪いているケッセルリンクの姿に一先ずは満足していた。

 

「スラル様…私の願いを聞いて頂きありがとうございます」

「気にする必要はない…それでお前が我に仕えるというのであれば安いものだ」

 

少し過程が変わってしまったが、目的の存在が自分の魔人になった事を考えればカラーに手を出さないなど楽なことだ。

魔王である自分ならば魔物に命令する事など容易い事だ。

 

「…それでランス達は」

「一室に案内してる。部屋からは出られないが、そこまで不自由は無いだろう」

 

人間に対しては破格の対応をさせている。

あの二人はケッセルリンク同様に自分の魔人候補…ならば粗末に扱うなどあってはならないだろう。

無理矢理相手を魔人にしてしまう事も出来たが、スラルが欲しいのは魔王として自分に仕えてくれるのではなく、自らの意志で自分に仕えてくれる存在だ。

ケッセルリンクはそれを聞いてあからさまに安堵している事にスラルは気づく。

 

「気になるか?」

「…はい。あの男はカラーにとっては恩人ですから」

 

ケッセルリンクの言葉にスラルは納得する。

あの男は魔人すらも倒して見せた男だ。

カラーにとってはまさに英雄と言っても良いだろうし、スラル自身もあの人間の強さを認めている。

 

「会いたければ会っても構わない」

「ありがとうございます」

 

スラルは動作で『下がっていい』と言っていた。

ケッセルリンクはその言葉に従い、その場を去る。

 

「…やっぱりいい逸材ね」

 

スラルは自分の目が確かだった事に満足していた。

ケッセルリンクは魔人となっても、その心根は全く変わっていない。

何よりスラルが気に入ったのは、ティラノサウルスと戦っていた時に、自分の身を顧みず仲間のカラーを救った事。

魔人となるとその力に溺れたり、破壊衝動にのまれる存在もいるが、彼女はほとんど変わっていないように見えた。

魔人になった以上、体質の変化もあるかもしれないが、彼女ならば問題は無いだろうと思っている。

 

「ケイブリスを呼びなさい」

 

 

 

「な、何でしょうか、魔王様…」

 

相変わらずケイブリスは下手に出て跪いている。

この魔人は最古の存在にも関わらず、今現在の魔人の中では最も弱い存在だ。

少々卑屈すぎるとも思ってはいるが、スラルもあえてそこまでは踏み込まない。

それに彼は真っ先に自分に忠誠を誓ってきた存在であり、自分に逆らうという考えも微塵も感じられない。

だからこそ、スラルはケイブリスに自分の宝物庫の管理を任せていた。

万が一にも魔王の宝を持ち出すという事は無いし、自分には完全に忠実な存在だからだ。

(ただもうちょっと堂々としてもいいと思うんだけどね…)

弱肉強食、強さが全てのモンスターの世界では無理は無いとは思うが、スラルは別にそんな事では区別はする気は無かった。

ケイブリスの知っていた事はスラルにとっても非常に興味深い話だったし、そのおかげで4つの黄金像を集める事が出来た。

 

「これを仕舞っておきなさい」

 

スラルが取り出したのは、一つの壷だった。

カラーの宝物庫から持ち出したが、何か特別な力を感じたが故に持ち出した。

 

「は、はい…」

 

ケイブリスはその壷を受け取ると、一目散に走り去っていく。

ケイブリスにとっては魔王は力の象徴であると同時に、恐怖の象徴でもあった。

それ故に真っ先に忠誠を誓い、なるべく安全な所で時間をかけてゆっくりと強くなっていく算段だった。

 

「はぁ…俺様もいつまでこんな小間使いみたいな事をしなけりゃならねぇんだ…」

 

この状況に不満は持ってはいるが、同時に安全な状況を整えてくれた事に感謝もしていた。

無敵結界、それはケイブリスが正に望んでいたもので、これでようやくケイブリスは安心して遠出が出来るようになった。

ただし同じ魔人相手には意味がないため、今でも立場は低いのだが。

こうして宝物庫の管理という仕事を真っ先に引き受けたのは、この仕事が最も安全だからだ。

魔王相手に盗みを働くような奴はいないし、ケイブリスにとってもこの仕事は自分のためになると考えていたからだ。

この世界にはいつの間にか『バランスブレイカー』と呼ばれる凄い力を持ったアイテムが存在するようになった。

それはケイブリスにとっても驚きであり、魔王が収集するのも理解出来る程だった。

中には自分の脅威になるであろうアイテムも存在するため、それらを覚えておくことはケイブリスにとっても悪い事ではなかった。

臆病ではあるが、それ故に自分の脅威を徹底的に遠ざけ、また知る必要があると考えていた。

 

「これは…ここでいいか」

 

魔王から預かった壷をケイブリスは棚に仕舞う。

見れば見るほど奇妙な壷だとは思ったが、あの魔王が持ち帰った物ならば必ず何か意味があるとケイブリスは考えている。

 

「しかし結構たまってきたなぁ…」

 

モンスターの中には金銀財宝を収集する奴も存在するが、魔王スラルもまた妙な収集癖があるものだとある意味感心してしまう。

宝物庫とは言うが、実際にはスラルが自分の気に入った物、気になった物を仕舞っておく倉庫のようなものだ。

そのアイテムをスラルは調べているらしいが、内容はケイブリスも知らなかった。

出来れば知りたかったが、魔王に聞く事は流石に出来なかった。

極稀に教えてくれる事もあったが、大抵は人間用だったりするので、ケイブリスも安堵していたものだった。

 

「これは拡張してもらわないと駄目だよな…」

 

ここが広くなると仕事が増えて自分の成長の時間も取られてしまうが、今はそれ以上に自分の身の安全を確保する方が大事だ。

もう少し時間がたてば、必ず自分は強くなる…そうすればもっと自分のための時間が取れるはずだと、ケイブリスは考えていた。

 

「今更焦る必要はねぇ…2000年以上待ったんだ、ならまだまだ待てる」

 

あのククルククルの時代に比べればこの時代はまさに天国だ。

自分の脅威となるのは今は同じ魔人しかいない…そして魔王に忠誠を誓えばある程度は安全も確保できる。

そしてケイブリスのもう一つの目的…

(カ、カ、カ、カミーラさん…)

魔王アベルに魔人にされたドラゴンの魔人…彼女こそがケイブリスの憧れだ。

強さもそうだが、やはりその美しさ…ケイブリスはいつか彼女に告白し、見初められたいという願望を持っていた。

そのためには今は全てが耐える時だと思い、ケイブリスは倉庫の整理を始めた。

 

 

魔王スラルはランスが持っていた剣を見ていた。

本来スラルが見つけた武器は、インテリジェンスソードであるペルシオンと呼ばれる剣だった。

しかしスラルの予想に反して、ランスは違う剣を手に入れていた

 

「…これは凄いわね」

 

ランスが持っていた黒い剣、それは魔王であるスラルですら驚愕させていた。

あのオウゴンダマの魔人、そしてティラノラウルスの変異種すらも斬って見せていたいたので、並みの剣では無いとは思っていたが、どうやらそれ以上の何かがこの剣にはあるらしい。

ペルシオンが稀代の名剣ならば、この剣は間違いなくバランスブレイカーに当たる剣だ。

何よりも異質なのは、その剣の柄に嵌められている丸い球だろう。

魔王だからこそ感じる事が出来る異質な何かがこの剣にはあった。

詳しく調べたいが、何故かこの剣には魔力が上手く伝わらない。

 

「何かを封じ込む…いや、取り込むといった方が近いか…」

 

何にせよこの剣にはまだ自分の知らない何かがある、と確信していた。

(私の想像とは違う手段でこの剣を手に入れた…魔人に無敵結界を張らせなかった事といい、あの男には我の想像以上の何かがあるのか…)

人間というのは弱く愚かな存在だが、その中にはまるで突然変異のように強い人間が生まれる。

自分が魔人にしたガルティアもそうだし、これまでにも中々の強さを持つ人間というのは存在はしていた。

あの男もガルティア同様の強さを持っているが、それでも何かが違う異質さを感じさせられていた。

 

「剣の事は後でも良いか…それよりも今はあの二人だな」

 

あの二人ならば優秀な魔人となる、スラルはそう確信していた。

特にメガラスにフォースを使わせたランス…この男は特に魔人に己の魔人にしたかった。

スラルはランスとレダを捕らえている部屋に向けて歩き出した。

 

 

 

「うーむ…なんか前にも同じ事を言った気がするが、どういう事だ?」

 

魔王に捕らわれた二人は、以外にも牢に入れられるのではなく、普通の部屋の一室に入れられていた。

武器や防具等のアイテムは取られてしまったが、鎖に繋がれる等という事は無く、逆に拍子抜けした位だ。

 

「魔王が美樹ちゃんじゃないとは…」

 

ランスにとって一番不可解なのは、魔王と名乗る少女の事だった。

確かに美樹は覚醒していないからか、魔王としての威厳は無かったし、その力はまさに制御不能といった感じだった。

しかしあの魔王は確かにジル程の恐ろしいプレッシャーは無いが、確かに魔王と言われれば納得できるほどの力を感じた。

何よりもあれほどの大怪我をおったケッセルリンクを助けたあの力…魔人となったと言われれば納得もいく。

一方のレダはこの状況に頭を悩ませていた。

(確か魔王スラルってリトルプリンセスよりも前の魔王だった…と、いうことはまさか私達は過去の世界に飛ばされた?)

だとしたらとんでもない事が起きている。

過去の世界に行くなど聞いた事も無かった。

確かに、時の聖女の子モンスターであるセラクロラス本人ならば出来るだろうが、他者と共に移動するなどという事が出来るのかは疑問だ。

そして気になったのは、セラクロラスとはまた違う力が働いたような気がした事だ。

もしここが過去ならば、自分が天界に帰れないのも納得がいってしまう。

自分はGI期に作られた天使であるため、過去には存在していないために戻る事が出来ないのだろう。

(…これって実は凄いまずいんじゃ)

レダが恐れたのは過去を変えてしまう時により、この先の未来を大幅に変えてしまう事だった。

もしそうなれば最後、その全てが消滅させられてしまうかもしれないからだ。

(それを防ぐためには何もしない事だけど…ランスが動かないなんて事はありえないわね)

珍しく考え事をしているランスを見て、レダもため息をつく。

悪魔すら利用して自分やケッセルリンクとHするような奴だ。

もしここが過去だと分かってもお構い無しに行動するだろう…すると消滅させられてしまう可能性も有る。

(いや、でもイレギュラーである私達が消される気配は無い…だとすると)

ここでレダは一つの可能性に思い当たる。

(女神ALICE様は未来を見通す力があると聞く…ならばこれこそがその未来なのでは?)

もちろんこれはレダの勘違いなのだが、今のレダにはそれしか考えが浮かばなかった。

(だとすれば女神ALICE様が、エンジェルナイトである自分を一介の人間を守るように指示したのも納得がいく)

これまた勘違いなのだが、1級神直々の指示となれば、何か大きな出来事なのだろうと勝手に納得していた。

ならば自分はランスを守っていくだけだと改めて意思を固めていたとき、

 

「ひゃん!」

 

誰かが自分の胸をぐにぐにと揉んでいた。

 

「いつまで無視しとるんだ」

「か、考え事をしてただけよ! というかいきなり胸を揉むな!」

 

レダは顔を真っ赤に染めてランスの腕を引き剥がす。

 

「というかあんたも考え事してたでしょ!」

「考えても分からん事を考える意味は無いだろ」

 

ランスはこれ以上考えるのをやめていた。

考えても答えは出ないし、それならばこの状況をどうにかする方が先決だと考えたからだ。

 

「あんたね…少しは真面目に今の状況を考えなさいよ。魔王に捕らわれてるのよ、魔王に」

 

レダもそう口にして改めて今の状況を思い知らされる。

相手は魔王、いくらランスが強いといっても絶対に勝てる訳が無い存在だ。

 

「って人が真面目な話してるのに何やってるのよあんたは!」

 

ランスは何時の間にか全裸になっており、そのハイパー兵器は既に天を向いていた。

 

「特に出来る事が無いからな。だったらSEX!」

「威張るな! どういう頭してるのよあんたは!」

「がはははは! 男と女がいてベッドが有るならばやる事は一つだ!」

「いや、その考えはおかしい」

 

ここでランスはある事を思い出す。

廃棄迷宮から帰った後、アナウサに言われた一言。

 

『レダさんって絶対ランスさんの事嫌いじゃないですよ。あの時ケッセルリンクさまにしたように迫れば絶対上手くいきますって』

 

ランスも今までの事を考え、アナウサの言う事を信じてみることにする。

だからこそ、いきなりキスをされた時レダはビクリと体を震わせ、抵抗が少なくなる。

(あの時はじっくりやったからこそいい結果になったからな…あの時のケッセルリンクのようにすればレダも俺様にメロメロになるはずだ)

ケッセルリンクには優しくしたが、その反動でレダには少々強引なプレイになってしまった。

だからこそその反省を活かし、レダも自分に惚れさせようと決意する。

 

「むぐっ…ランス…こんな状況でお前は何を…」

 

ベッドに押さえつけられたレダは、顔を赤くしてランスを見る。

こんな状況で何をやっているのか、他にやる事があるだろうとは思ったが、ランスにこうして押さえつけられるとどうしても抵抗が難しくなってしまう。

 

「動くな、レダ」

「うっ…」

 

ランスの表情は何故か真剣そのものだ。

その表情を見ると自然に抵抗が無くなってしまう。

(…普通にしてくれたらいいのに…って私は何を…)

以前から少し思っていた事が、『ランスが普通にしてくれれば…』という思いだった。

ランスはあっさりとレダの服を脱がすと、そのまま唇を重ねてくる。

 

「ん…」

 

レダはとうとう完全に力を抜く。

こんな状況にも関わらず、レダはランスを受け入れてしまう。

そして夜は更けていく…

 

 

 

「カミーラ様…」

 

魔王の城からそう離れていない所にカミーラの居城は存在した。

カミーラは自分用に作られた椅子に体を預け、自分の使徒である七星の報告を聞いていた。

七星が主であるカミーラに報告する時は、カミーラの興味を引くか、重大な出来事があった時だ。

 

「魔王スラル様が新たな魔人をお作りになられました」

 

七星の報告にカミーラが七星の方を見る。

もし興味が無ければカミーラは使徒の方を見もしないだろう。

反応があったという事は主も興味を持ったという事だろうと、七星は安堵する。

 

「あのスラルが…か」

 

魔人カミーラは魔王アベルに魔人にされた存在だ。

ただし無理矢理に、という言葉が頭につくが。

そしてそのカミーラを巡って魔王アベルとドラゴンの王、マギーホアとの間にラストウォーが勃発した。

元々カミーラは最後のドラゴンの雌として、無理矢理性行をさせられ、出産を強要されてきた。

多感な時期を争いの対象として翻弄されてきたカミーラの心は大きく歪み、心を閉ざし、強く、冷たい精神を育てていった。

その結果が今の魔人カミーラを形成した。

その後の大破壊の後に、新たな存在として『人間』と呼ばれるものが現れた。

そして新たな魔王が人間の中から生まれ、それはスラルと名乗った。

美しい少女である故、カミーラはスラルの事をあまり好ましく思っていなかった。

 

「はい。カラーの魔人のようです」

「カラー、か…」

 

カラーは全てが美しい女性であり、自分としては気に食わない存在だ。

だからといって滅ぼしてしまうほど気に留めている訳でもない、そんな存在。

 

「そして新たに二人の人間を捕えたと」

 

その報告にカミーラは七星に続きを促す。

七星は主が興味を覚えた事に嬉しく思いながら、

 

「その人間の一人は、メガラス様に『フォース』を使わせたとの事です」

「ほぅ…メガラスがな…」

 

メガラスはある意味自分と一番付き合いの長い魔人だ。

その実力はカミーラも知っており、自分は負けないだろうが勝つ事も難しいとさえ思っている存在。

メガラスが『フォース』を使ったという事は、本気を出したという事だ。

人間は愚かで、脆く、弱い存在…それこそ魔人が人間に本気を出す事など本来はあり得ぬことだ。

 

「いかがいたしましょうか、カミーラ様」

 

カミーラは少し考える。

この間、戯れにティラノサウルスの魔人と戦ったが、それなりに楽しめた。

狩りのためとはいえ、無敵結界を解除してまで楽しめた相手だった。

それからは若干退屈な日々だったが、こうして新たな変化が起きるというのもまた一興だと思った。

 

「七星…準備をしろ。その人間とやらを見に行く」

「はっ…」

 

七星は主の言葉に恭しく頭を垂れる。

己の主人が何かに興味を持つというのは珍しい事だが、それはカミーラの退屈を解消できる手段の一つでもあった。

七星の役目は主人を喜ばせる事…それはどんな事であろうと変わらない。

例えそれが新たな魔人の候補だったとしても、カミーラが全てなのだ。

こうして歴史の歯車は少しずつ噛合わなくなっていく。

新たな出会いが再び世界を少しずつ変えていく。

それがどんな未来かは、まだ誰も知る由もない。

 

 




何故か魔人達のシーンが筆が進む謎
オリ要素が強いからかなぁ…


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魔王城

(うーむ、グッドだ!)

 ランスはご満悦だった。

 必死になって快楽に耐えるレダの姿が非常に色っぽい。

(こんな所に閉じ込められてどうなる事かと思ったが、魔王も中々気が利いてるではないか)

 何しろこの部屋にはベッドも風呂もある。

 しかも囚われているのに監視も無いと来れば、こうしてSEXをするには絶好の空間だ。

 

「んん…」

 

 レダはベッドシーツを掴み、枕に顔を埋めて必死に快楽に耐えていた。

 普通にランスに抱かれている、それだけの事なのに何故かランスを引きはがすことが出来ず、素直に快楽を受け入れてしまっている。

 

「とーっ!」

「ああっ」

 

 ランスに精を出され、レダも共に絶頂する。

 こうして普通にされているだけで、レダは以前よりも強い快楽を覚えていた。

 

「がはははは! 随分素直になってきたではないか」

「うる…さい…」

 

 ランスのからかいにも、もう何時もの様に声を返す事も出来ない。

 汗で髪が体につき、ベッドのシーツも二人の体液でぐちゃぐちゃになってしまっている。

 しばらく肩で息をしていると、ランスのハイパー兵器が顔につきつけられる。

 

「綺麗にしろ。出来るな?」

「………」

 

(…私、何すればいいんだっけ)

 レダは快楽で染まった頭でそう考えつつ、ランスの言葉通りに顔を近づけた。

 

 

 

「さて、何て切り出そうかしらね」

 

 スラルは、ランス達を軟禁している部屋へと向かって歩いていた。

 あえてスラルはあの部屋にランス達を閉じ込めていた。

 見張りは置いているが、部屋の中までは監視させていない。

 もちろん逃げる事など出来ないが、破格の待遇をしているつもりだ。

(ケッセルリンクの時は仕方なく魔人になってしまったけど…あの二人には自分の意思で魔人になってもらいたい)

 無理矢理魔人にしては、これからの事に支障が出るかもしれないし、自分としてもあまりしたくはなかった。

 これからも魔王として君臨していくためには、やはり信頼でき、自分を支えてくれるような人材が欲しかった。

 その点ケッセルリンクは文句無しの人材だった。

 何より気に入ったのは、自分の身を省みず仲間のために身を挺した所だ。

 強さだけではなく、その心もスラルは気に入った。

 だからこそ、今回は無理にでも魔人になって貰ったのだ。

 金色の髪をした女もスラルは気に入っていた。

 何より気になったのは、あの女の使う術…モンスターの使う癒しの術よりも圧倒的に上のあの力。

 さらには魔人の攻撃すら防ぐ圧倒的な防御力。

 高い水準の技能を持っているので、非常に強い魔人が生まれるだろう。

 だが一番気になっているのは勿論あの男…ランスだ。

 高い剣の腕は勿論の事、何よりも魔人の無敵結界を貼らせない為の策略、そして自分の予想を超える行動力。

 若干不安要素もあるが、それでも一番楽しみな人間でもあった。

 だからこそ自分でも歩みが弾むのを抑え切れない。

 

「スラル様!」

 

 ランス達を軟禁している部屋には、2体の魔物隊長をつけていた。

 己の実力で魔物隊長の座を勝ち取った魔物であり、スラルもその実力を認めていた。

 

「変わりはないか?」

「ハッ! 人間達に動きはありません!」

「そうか」

 

 この部屋には少し仕掛けを施してあり、ドアが2重に存在している。

 一つはアイテムによる解錠、もう一つが魔力による解錠だ。

 人間を閉じ込めるには少々やりすぎかと思ったが、あの男は何をしでかすか分からないため、最大限の警戒はしておいてもいいと思った。

(さて…今は何をしてるのかしらね? この状況に絶望しているか…それとも我に歯向かう事を考えているか…)

 どちらにしてもスラルには構わなかった。

 魔人になるという事は、永遠の命を得られるという事…人間ならばそれを受け入れないわけがない。

 人間というのは愚かで、欲深く、鼻先に餌をぶら下げれば喰らいつくような奴だ。

 今までにスラルもそんな人間を沢山見てきた。

 あの男は欲が深そうで、恐らくは自分の提案に乗ってくるだろうとも考えていた。

(あの男はそれでいい…欲望こそがあの男の強さであり魅力でもある。そのような魔人がいても問題はない)

 

 ガチャ…

 

 スラルが微笑みながら二つ目のドアを開けたとき、そこにあったのはスラルも予想もしてすらいなかった光景だった。

 

「うむぅ…ランス…」

「がはははは! かわいいぞレダ!」

 

 後ろからランスに抱き上げられ、上下に揺すられるレダの姿だった。

 

 バタン

 

(…えーと、今ちょっとあり得ない光景を見たような)

 スラルは若干混乱しながらも息を落ち着かせる。

(そうだな、勘違いだな。まさか魔王に囚われていているのに、呑気にセックスしてるなんて普通では考えられぬな)

 もう一度深呼吸して、スラルは改めて目の前の扉を開く。

 

 カチャ…

 

 何故か扉をそーっと開けた気がするが、自分は魔王なのであってそのような事を気にしてはいないと自分に言い聞かせる。

 そしてスラルの目に飛び込んだのは、

 

「ランスゥ…」

「中々素直になってきたではないか」

 

 今度は正面から抱き合い、ガッツリと唇を合わせている二人の姿だった。

 

 バタン

 

「………」

 

 スラルはその場を振り返ると、最初の扉を開く。

 

「スラル様? いかがしましたか?」

 

 直ぐに出てきた魔王に対して不思議そうな顔をする。

 スラルはそれに対して、顔を俯かせて歩いていく。

 そんな自分の主に対し、二人の魔物隊長は顔を見合わせていた。

 

 

「………いや、あいつは何をやっているんだ」

 

 自室に戻ったスラルは自分のベッドに座り、頭を抱えていた。

 確かにランスと初めて出会った時、あの時はケッセルリンクとどうすればセックスを出来るかを考えていた男だ。

(だがそれでもまさかこんな所で始めるとは…)

 しかもガッツリ繋がっている所を見てしまった。

(ううう…)

 人間がああいう行為をする事は知ってはいたが、こんなにじっくり見るのは初めてだった。

 今スラルが見ている光景は、ランスとレダが肌を重ねている所だった。

 咄嗟に遠隔目玉を二人の部屋に放ってしまった。

 そして今、二人の情事を覗き見てしまっている所だ。

(うわ…あんな事までするんだ…まさか口でだなんて…)

 それを見ると、どうしても自分の体温が上がっているのを自覚してしまう。

 二人を魔人に勧誘するために自らが向かったのに、まさかこの状況でセックスを始めるなど想像すらしていなかった。

(そういえばケッセルリンクもクリスタルが青かった…)

 それを考えると自然と顔が赤くなる。

 今思えば、彼女はしきりにランスの事を気にしていた…ならば二人は男女の仲になっているだと嫌でも感じさせられた。

(ケッセルリンクも彼女みたいにしてるのかしら)

 見ればランスはレダに覆いかぶさり、レダもランスの首に手を回し、腰に足を絡めている。

(…何時までヤッてるのよ)

 結局スラルは2時間、ずっと二人のセックスを覗き見るはめになった。

 

 

「ふーっ…いい運動をしたな」

「はぁ…はぁ…」

 

 互いの体液に塗れたベッドの上で、レダはランスの胸を枕にして大きく息をしていた。

(…凄かった)

 あの時、廃棄迷宮でした時とは全然違う感覚。

 初めての時のように無理矢理やられていた訳では無く、互いに求めあってしまった。

 以前には感じられなかった感覚に、エンジェルナイトである自分が我を忘れてランスを求めた。

 体全体でランスを感じ、そこにあったのはとてつもない充実感と高揚だった。

 ランスの大きな手、唇、体、それらの全てが愛おしかった。

 

「ランス…」

 

 レダの方から自然に唇を重ねる。

(うーむ、レダも俺様のものになったな…オーケオーケ、これも俺様が大人になったからだな)

 ケッセルリンクに続いて、レダも完全に自分の女にしたとランスは満足げにレダの肩を抱く。

 レダもランスの胸に顔を埋めると、そのうちに寝息を立て始めた。

 

「しかし…本当にどうなっとるんだ」

 

 セックスに満足したランスは、今日何度目かの疑問の声を出す。

 ここ最近で3体の魔人と立て続けに出会っている。

 リーザスの時もゼスの時もそれぞれ3体の魔人と出会ったが、今回出会った魔人はランスも見た事も無い魔人だった。

 やはり何よりも謎なのが魔王の存在。

 ここが違う世界ならば別の魔王が居てもいいが、ランスも知っているモンスターもいるし、何より無敵結界を持つ魔人もいる。

 

「…まあ考えても仕方ないな。後はなるようにしかならんか」

 

 ランスは考えるのをやめ、自分も目を瞑る。

(今まで何とかなってきたんだ。今回も何とかなる)

 ランスはそれを信じて疑わない。

 自分ならば必ずこの状況を打破する事が出来ると確信し、ランスは眠りについた。

 

 

 

 ―――翌朝―――

 

「ううう…私は何て事を…」

「今更何を言っておるんだ」

 

 レダは顔を赤くして頭を抱えていた。

 昨夜は勢いにまかせてとんでもない事をしてしまった。

 性質が悪い事に、エンジェルナイトである自分はそれを全て覚えてしまっている。

 

「がはははは! 随分と素直で可愛かったぞ」

「お願いだからもう言わないでよぉ…私もどうかしてたのよ…」

 

 ランスは笑いながらレダの肩を抱くが、レダは小さくなるだけだ。

(まだ唇に昨日の感触が残ってる…)

 キスだけでなく、とんでもないものを口に含んでしまった。

 ランスの唾液もそのとんでもないものも全て飲んでしまった。

 

「お前も俺様に惚れただけの事だろう。何を悩んどるんだ」

「…ランスのそういう前向きすぎる所は本当にすごいと思う」

 

 レダは少しの間頭を抱えていたが、徐に立ち上がると自分の顔をパンッ!と両の手で叩く。

 

「よし、切り替えよう」

「…ミラクルみたいな事するな」

 

 かつてミラクル・トーも同じ様な切り替え方をし、それで頭を切り替えるのはまったく一緒だった。

 ミラクルよりも体力があるため、下半身がしっかりしているのは違うが。

 

「それよりもランス。本当にどうするの?」

「だからなるようにしかならんだろ。ここから逃げるのは難しいだろ」

 

 かつてランスはゼスでの戦いで、魔人カミーラ率いる魔軍に捕らわれたことがある。

 その時はガンジーらの助けで何とか命拾いしたが、今回は完全に魔軍の真っ只中だ。

 この状況では流石に逃げるのは難しい。

 殺されない所を見れば、相手は何か自分に用件があるのは分かるが、一体魔王が自分に何の用なのかという疑問がわく。

 

「まあそうよね…」

 

 レダもランスの行っている事は分かる。

 人間が魔王に捕らわれれば最後、無残に殺されるのがこれまでの歴史だった。

 特に酷かったのは魔王ジルの時代…LP時でも魔王といえばジルという認識があるのも、その残虐性からきたものだ。

 

「待てば必ずチャンスは来る」

 

 あまりにも自信たっぷりに言うランスに、レダは逆に感心する。

 思えば、エンジェルナイトである自分達がランスを襲撃した時もこの男には戸惑いはあれど、恐れはまったく無かった。

 

「ある意味感心するわね…どれだけ神経図太いのよ」

「それは褒めてるのか?」

「もちろんよ。ランスみたいな人間は多分世界でも一人だけよ」

 

 

 

 その夜、カミーラは実に久しぶりに魔王の城を歩いてた。

 いや、自分の意思でここに来たのはもしかしたら初めてかもしれなかった。

 カミーラの歩く姿に、その場にいる全ての魔物兵、そして城の掃除を行っているメイドさんが跪く。

 

「カ、カ、カ、カミーラさん…ど、どうしてここに!?」

「…ケイブリスか」

 

 魔人ケイブリスは普段は魔王城で暮らしている。

 魔王の命令が無い限り、ケイブリスはここを離れようとはしない。

 ここが一番安全な場所であり、少しずつ力をつけていくには最高の環境だからだ。

 そしてケイブリスは密かに憧れている女性がいた…尤も、他の者からすればバレバレなのだが。

 

「ちょうどいい…スラルが捕らえた人間はどこだ」

「は、はい! 案内させて頂きます!」

 

 カミーラに声をかけられ、舞い上がったケイブリスは嬉々としてカミーラの案内役を買って出る。

 カミーラは一瞬迷ったが、案内させるだけならば誰でも構わないと思い直し、

 

「いいだろう…」

「ハイ! こちらになります!」

 

 ケイブリスに案内され、カミーラはランス達が軟禁されている部屋の前にやってくる。

 

「カミーラ様! ケイブリス様!」

 

 スラルに見張りを任されていた魔物隊長が一斉に跪く。

 

「ここにスラルが連れて来た人間がいるのか」

「ハッ…その通りです」

 

 カミーラは改めて人間を捕らえている部屋を見る。

 この部屋は明らかに牢ではない…だとすると、スラルが人間達を捕らえた理由は一つしか思い浮かばなかった。

(…そういう事か)

 ガルティアの時と同じく、スラルはその人間を魔人へと勧誘するつもりだろう。

 

「通せ」

「し、しかしスラル様が…」

「このカミーラが通せと言った」

「うっ…」

 

 カミーラの言葉が魔物隊長に凄まじい圧力をかける。

 その場にいるケイブリスも思わず縮こまる程の圧力だった。

 それでも魔物隊長が動かないを見ると、カミーラが魔物隊長の一人の頭を掴む。

 

「このカミーラの言葉が聞けぬのか?」

 

 ギリギリと音を立てる魔物隊長を目にして、ケイブリスが慌ててもう一人の魔物隊長に指示を出す。

 

「おい! いいから開けろ! このままだと死ぬぞ!」

「は、はい! お待ち下さいカミーラ様! 今開けます!」

 

 魔物隊長が鍵を取り出し、扉の一つを開けるのを見てケイブリスは安堵する。

 勿論魔物隊長のためというのではない。

(このままだと俺様まで責任を取らされちまう…それだけはゴメンだぜ)

 愛する女性の願いを叶えるという事もあるが、もしここで魔物隊長がカミーラに殺されれば、ここに彼女を案内した自分も責任を取らされるだろう。

 スラルは自分には厳しいが、カミーラには若干甘いところもあるため、カミーラならば見逃されるという打算も働いた結果だ。

 魔物隊長はもう一つの扉の鍵を開けると、カミーラの前に再び跪く。

 

「か、鍵をお開けしました!」

「そうか」

 

 カミーラはそれを聞くと部屋に入っていく。

 ケイブリスはそれを見ると、一目散に駆け出す。

(こいつはもしかしたらヤバイ事になるかもしれない…スラルに報告しないとカ、カ、カ、カミーラさんが…)

 カミーラが恐ろしい性格をしているのをケイブリスもよく知っている。

 もし、カミーラがスラルが連れて来た人間を殺したとなれば、スラルもカミーラに厳しい罰を下すかもしれない。

 それを防ぐためにはやはり魔王に報告をする必要がある。

 魔王の命令は魔人にとっては絶対であり、カミーラといえども逆らう事は出来ない。

 それを防ぐため、ケイブリスは魔王の元に走っていった。

 

 

 

 ガチャ…

 

 突如として開かれた扉に、ランスとレダの視線が集まる。

 入ってきたのは、ランスが予想もしない人物だった。

 

「な…カ、カミーラ!?」

 

 ランスは過去に魔人カミーラと戦った事がある。

 その時は辛うじてランスが勝利したが、もしあの時謎の光が無ければ自分達は負けていただろう。

 だがそれ以上に、今のカミーラはゼスの永久地下牢に閉じ込められており、ランスも5回程カミーラを犯していた。

 だからこの場にカミーラがいるはずは無いし、何よりカミーラは自分に強い殺意を覚えているだろう。

 

「…人間か」

 

 カミーラの目に入ったのは、人間で言えば20前後の男と、金髪の美しい女だった。

(…これがスラルの魔人候補の人間という訳か)

 

「何でお前がここに!」

 

 ランスの言葉にカミーラは目を細める。

 この男は自分を知っている…そんな気がした。

 しかし自分はこんな人間など知らない…というよりも人間程度に興味は無い。

 戯れに人間の里を焼き尽くした事もあったが、その際の生き残りかもしれない、その程度の認識だった。

 

 一方のランスはこの状況を理解する事が出来なかった。

 何しろ、ここに来てから初めて出会った知り合い(?)がまさかカミーラだとは夢にも思わなかったからだ。

 しかも相手は自分が敵対し、挙句の果てには何度か犯した相手となれば、その復讐に来たと思うのも無理は無い事だ。

 

「…人間如きがこのカミーラの名を呼ぶか」

 

 カミーラは薄く笑う。

 まさか自分が初対面の人間から『カミーラ』と呼ばれる等考えてもいなかった。

 もしかしたら初めての事かもしれない。

 

「うおっ!」

 

 ランスはカミーラの発するプレッシャーに驚く。

 ゼスでの時以上の気迫を感じられる。

 ランスがゼスで出会った時、そして捕らわれていた時にランスが感じたのは、どこか怠惰な印象だった。

 確かに自分に対して怒りを向けてはいたが、それでもこれほど鋭い目をしてはいなかった。

(…まるで別人だぞ)

 ランスは知る由も無いが、これこそがあの時代にケイブリスと衝突する前のカミーラの気質だ。

 その圧倒的な存在感がよりランスを困惑させた。

 

「…面白い」

 

 カミーラは素早くランスの首を掴むと、ランスを引きずるように連れて行く。

 

「うお!」

「ランス!」

 

 レダはランスを助けようとするが、カミーラの一撃を喰らい吹き飛ばされる。

 強く頭を打ったのか、そのまま起き上がる事が出来ないようだ。

 

「レダ! ぐえっ」

「カ、カミーラ様! 何を!」

 

 捕らえていた人間を引きずって出て来たカミーラに、魔物隊長が声を出す。

 流石にこの行為は見逃す事は出来ないが、相手は恐らく現魔人最強の存在、とても止める事など出来ない。

 だから二人の魔物隊長はそれを黙ってみている以外に無かった。

 

 

 

「どわあっ!」

 

 ランスはカミーラに放り投げられる。

 

「何をする!」

 

 ランスの言葉にカミーラは何も答えない。

 その場を見渡すと、そこには篝火が無数にあり、空からは月明かりが煌々とカミーラを照らしている。

 それだけならば非常に美しい光景だが、カミーラに浮かんでいるのは酷薄な笑みだ。

 

「…貴様はこのカミーラに無礼をはたらいた…だからこの場で殺す」

「なんだと!」

 

 ランスはいきなり理不尽な事を言ってきたカミーラを見るが、その目は何処までも冷たい。

 しかしランスが知っているカミーラと違うのは、何処かその声に熱が篭っている事だ。

 

「抵抗する事を許す…私を楽しませろ」

 

 その言葉と共にカミーラの爪がランスを襲う。

 その動きはかつてのランスが知っていたカミーラの動きよりも早い。

 

「どわっ!」

 

 ランスは慌ててその一撃を避けるが、その際にマントがカミーラの爪に引き裂かれる。

 

「少しは楽しめそうだ」

 

 今の一撃を避けた事をカミーラは逆に喜ぶ。

 大抵の敵は今の自分の一撃をかわせずに引き裂かれて終わる。

 ランスは次々に繰り出されるカミーラの攻撃を必死に避ける。

 剣が無い今、相手の攻撃を避ける以外に方法は無かった。

 カミーラもそう簡単に終わらせるつもりは無く、まるでいたぶる様にランスを追い詰めていく。

 これはカミーラにとっては「狩り」だ。

 

「ぐっ!」

 

 カミーラの爪がランスの顔を掠め、血が流れる。

(せめて剣があれば…)

 あの剣があれば、少しは対抗出来るが、今はその剣が無いために無様に逃げ回るほか無い。

 

「あっ…」

 

 ついにランスは足が縺れて倒れる。

 カミーラはそれを見て笑みを浮かべる。

 

「そろそろ殺すか…」

 

 自分は魔王から『この人間を殺してはならない』という命令は受けていない。

 ランスが逃げ回る姿を見るのは中々楽しかったが、そろそろ飽きてきた。

 カミーラがその爪をランスの胸に突き立てようとしたとき、そのカミーラとランスの間に1本の剣が降ってくる。

 

「…!」

 

 カミーラはその場を飛びのき、ランスはその剣を手に取る。

 一瞬遅れてカミーラがランスにその爪を振るうが、なんとランスの持つ剣はカミーラの爪を受け止める。

 

「私の爪に耐えるか…」

「そう簡単に俺様を殺せると思うなよ!」

 

 ランスは力任せにカミーラの爪を弾き飛ばす。

 その意外な程強い力に、カミーラは一瞬驚きの表情を浮かべる。

 が、すぐさまその顔に笑みが浮かべられる。

 

「そうか、ならばせいぜい私を楽しませろ」

 

 カミーラは久々に心からの笑みを浮かべた。




この時の魔王城って何処にあったんでしょうね
SS期は情報が少ない分好きに考察できますが、ちょっとは情報欲しいなーと思ったり


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魔人カミーラ

「はぁ…それにしてもこの剣は何なのかしらね…」

 

 スラルはランスが持っていた剣を改めて調べていた。

 流石にあんな場面を見た後では、ランス達の勧誘など出来なかった。

 今思い出しても顔が赤面するのを抑える事が出来ない。

 だからこそ今はそれを忘れるかのように、ランスが持っていた剣を調べていた。

 昨日から調べていても、この剣がどんなものなものかが全く分からなかった。

 物凄い切味を持つ剣という事しか未だに分からない。

 

「やはりまだまだ世界には我の知らない事が沢山有るな…だからこそ退屈はしないが」

 

 スラルは魔王となり、プランナーに会ってもまだその知識を貪欲に求めていた。

 その中にはこの世の理を覆しかねないアイテムも多々存在している。

 魔人の無敵結界を破るアイテムこそ存在していないが、魔人にすら効果がありそうなアイテムも存在している。

 だからこそそのようなアイテムは排除しなければならない。

 自分の脅威となるものは徹底的に取除く、これがスラルのスタイルだ。

 

「でもこれは…」

 

 これはランスが持っていた剣だが、これをランスに返していいかどうかは迷ってしまう。

 もしランスが魔人となれば、当然無敵結界は意味をなさなくなるが、この剣は少々強力すぎる。

 あの男の性格からすれば他の魔人ともぶつかる事もあるだろうし、その場合にはこの剣が猛威を振るうだろう。

 

「代わりの剣を用意したほうがいいか…だがあの剣の腕を考えればおしい…」

 

 ランスという男の剣の腕は、それほどまでにずば抜けている。

 恐らくはあの男ほどの剣の腕前を持つ存在はこの先出会えるかどうかはわからない。

 中途半端な剣では、あの男の剣の腕を逆に殺してしまいかねない。

 スラルが頭を捻っていたとき、唐突にランスの剣が震える。

 

「え?」

 

 そして次の瞬間には剣はスラルの目の前から消える。

 

「な…これは…」

 

 スラルが呆然としていた時、ケイブリスが魔王の間に飛び込んでくる。

 

「ス、スラル様! 大変です! スラル様が捕らえた人間共が…」

「どうしたケイブリス。きちんと報告をしなさい」

 

 ケイブリスは息を整えると、

 

「カ、カ、カ、カミーラさんが…スラル様が捕らえた人間を連れ出しました!」

「はぁ!?」

 

 スラルは驚きの声を上げるが、同時に心の中で舌打ちする。

(あのカミーラが人間に興味を覚えるとは思わなかった…命令をしなかった我のミスか)

 カミーラは基本的に魔王にすら興味を抱かないため、まさか自分が連れてきた人間に関わるなど考えてもいなかった。

 

「で、何処にいる?」

「…あ!」

 

 ケイブリスも魔王に報告する事で頭が一杯だったため、カミーラ達が何処に行ったのかは分からなかった。

 

「…まあいい。我が探す」

「ご、ごめんなさい」

 

 

 

 

 ランスの剣とカミーラの爪が交差し、ギチギチと音を立てる。

 意外な程強いランスの力に、流石のカミーラも感嘆の声を出す。

 

「…成程な。スラルが興味を持つだけの事はあるか」

「何を言っとるか!」

 

 ランスは剣を巧みに使い、カミーラの爪を弾くと、無防備になったその腹部に剣を叩き込む。

 が、勿論無敵結界に阻まれるが、それが逆にカミーラに驚きを与える。

 無敵結界は衝撃までは防いではくれない。

 巨大な体躯を持つドラゴンならばともかく、こんな小さな人間が魔人にこれほどの衝撃を与えるとは驚きだった。

 それにその剣は早く、鋭い。

 

「楽しませてくれるな…」

「フン、余裕を言うのも今の内だ」

 

 カミーラの言葉にランスは威勢よく啖呵を切るが内心は、

(ヤバイぞ。やっぱりこいつは強いぞ…)

 以前ランスがカミーラに勝てたのは、カオスの存在があり「ランスアタック」が直撃したからだ。

 カオスは魔人に対しては非常に強力であり、その一撃は今でもカミーラの傷口として残る程だ。

 この剣も強力だが、魔人の無敵結界の前にはやはり無力だ。

 

「ならばこれならばどうだ?」

「何!?」

 

 そう言うとカミーラが宙に浮く。

(あ、ヤバ…)

 ランスはこの光景を知っている。

 ゼスのマジノラインの決戦の時、カミーラは空中からのブレス攻撃をしてきた。

 その時はランスと言えどもどうしようもなく、逃げ回る他無かった。

 しかもあの時に存在した、シィルやセル等のヒーラーもいないし、パットンやロッキーといったガードもいない。

 

「グッ!」

 

 凄まじい威力のブレスがランスにぶつけられる。

(マジか! あの時よりも威力が上だぞ!?)

 ランスは知らない事だが、あの時のカミーラはケイブリスとの衝突も有り、その牙を失っていた状態だ。

 今の状態のカミーラはランスが倒した時のカミーラよりも強い。

 そして何よりも今のカミーラには、後の時のような諦めや弱さが存在しない。

 使徒であるアベルトが言っていた『凛として、鋼のように強く、鞭のようにしなやかで、どんな事にも負けない。それでいて艶やかな女性』が全て当てはまる存在だ。

 カミーラもこのランスとの戦いを楽しんでいた。

(まさかここまで人間が楽しませてくれるとはな…)

 相手はかつての世界の支配者であるドラゴンでも、そのドラゴンと覇権を争っていたまるいものでも無い。

 ドラゴンが滅んだ後に生まれた弱く愚かな存在。

 しかしその弱く愚かな人間が自分の攻撃をふせぎ、あまつさえ反撃すらしてきた。

 今も自分のブレスすらも避けて見せている。

 カミーラが何よりも気にいったのはその目だ。

 その目には諦めは存在していない、それどころかいつ自分に噛み付こうかを伺っている目だ。

 だからカミーラはその目を恐怖と脅えに変えたくなった。

 そして無様に自分に命乞いをさせよう…その後で惨たらしく殺してやろうと思っていた。

 だからこそカミーラはその攻撃が単調になっている事に気づいていなかった。

 ランスはその瞬間を待っていたといってもいい。

 これまでの体力の消耗、そしてつい最近に鬼畜アタックを放ったときの反動がまだ体に残っている。

 勝負はまさに一瞬、ランスはその瞬間に全てを賭けていた。

 ランスは手に持った剣に力を貯める。

 そして単調になって来たカミーラのブレス攻撃にタイミングを合わせる。

 

「ラーンスあたたたーーーーっく!!!」

「!?」

 

 それはカミーラすら予測もしていなかった攻撃。

 自分の破壊力のあるブレスに攻撃を合わせてくるなど、想像すらしていなかった。

 その一撃はカミーラのブレスを押し返し、それどころかその衝撃波は宙に浮いているカミーラすらも巻き込む。

 これこそがランスの目的、せめて空中からは引き摺り下ろしたかった。

 

 ドンッ!

 

 カミーラは地に叩きつけられる。

 無敵結界がある故に、勿論ダメージは無いが、それはカミーラに精神的に衝撃を与えた。

(私のブレスを打ち返しただと…?)

 それでもカミーラは直ぐに起き上がり―――目の前に迫ってくるランスの姿を見る。

 それはカミーラにとっても反射的な行動と言っても良かっただろう。

 無敵結界ではなく、己の爪でランスの一撃を受け止める。

 

「…貴様!」

「ぐぬぬ…!」

 

 今度はカミーラの方が体勢が悪いため、ランスの一撃がカミーラを吹き飛ばす。

 カミーラは己の翼を振るい、再び宙に舞う。

 

「クソ!」

 

 ランスが悪態をつくが、カミーラは宙で己の腕を見ていた。

 思わず無敵結界を使わずに己の腕で受け止めていた。

 そして自分の腕から流れる一筋の血。

 あの男の剣が自分の腕を傷つけていた。

 別に自分が血を流すのは初めてではなかった…魔人相手に血を流した事もあるし、無敵結界をあえて使わずにムシとも戦った事もあった。

 しかしまさかこの弱くて愚かな人間に傷をつけられる等、考えてもいなかった。

 

「ククク…」

「あん?」

 

 突如として笑い始めたカミーラに、ランスは違和感を覚える。

 ランスの記憶の中のカミーラは、あのような笑いをするような相手ではなかった。

 冷笑はあれど、あのように楽しそうに笑う事など無いと思っていた。

 

「どこまでもこのカミーラに無礼をはたらいてくれるな…人間風情が」

「うお!」

 

 そして今度は凄まじい怒りを見せる。

(なんだこいつは…こんな感情の起伏が激しい奴だったか?)

 どこまでも冷淡であり、そしてどこか無気力と認識していたため、このような怒りを見るのは初めてだった。

 だがその顔にあるのは怒りだけではなく、どこか喜びも感じられるものだった。

 

「人間…貴様の名はなんという。名乗る事を許す」

「だったらいい加減覚えておけ! 俺様はランス様だ!」

「ランス…か。光栄に思え…このカミーラに直々に殺される事にな」

 

 カミーラがその爪でランスを襲う。

 その速度は先程のスピードよりも速いが、ランスはその一撃を防ぐ。

 

「防げるか…」

「当たり前だ!」

 

 しかし今度の一撃はランスでも防ぐので手一杯になってしまっている。

 スピード、何より攻撃力が段違いだ。

 先程ランスがカミーラを吹き飛ばせたのは、カミーラの油断と体勢が悪い状態でランスの剣を受け止めたせいだ。

 しかし今のカミーラは本気でランスの命を狙っている。

 そうしてランスとカミーラの鍔迫り合い続いている時、ランスの体勢が崩れる。

(あ、やば…)

 やはり魔人と人間では体力が大きく異なる。

 

「終わりだ」

 

 カミーラの爪がランスの首筋に迫った時―――

 

「ファイヤーレーザー!」

 

 何者かの魔法がカミーラに直撃し、カミーラですらも吹き飛ばされる。

 

「無事か、ランス」

 

 ランスの横にケッセルリンクが立つ。

 

「おお、ケッセルリンク!」

「レダから話は聞いた。どうやら間に合ったようだな」

 

 ケッセルリンクがレダとランスに会いに行ったときに魔物隊長から話を聞き、部屋に通されたがそこに居たのは気を失ったレダだった。

 そしてレダから話を聞き、ランスを探しに来た結果、まさかランスが魔人と戦っているとは思ってもみなかった。

 

「………貴様がスラルが作った新たな魔人か」

 

 カミーラはゆっくりと立ち上がる。

 直撃を受けた手は焼けているが、それほどの傷は受けていないようだ。

 それを見てケッセルリンクは苦い顔をする。

 魔人となった自分の魔力は相当上がっているはずだが、目の前の魔人にはそれほどのダメージを与えた様子は無い。

(これがドラゴンの魔人、カミーラか)

 その力は魔人最強と聞いてはいたが、まさか自分の魔法が直撃してほとんどダメージが無いとは思ってもいなかった。

 今の自分は体質が変わってしまい、昼には力が出ないどころか体が痛くなるほどだが、夜の間は昔よりも遥かに力を出す事が出来る。

(そのはずなのだがな)

 目の前の魔人は悠々と歩きながらこちらに向かってくる。

 カミーラは自分に魔法を当てた魔人を見る。

 一目で分かるほどの美女だ。

(気に入らんな…)

 カミーラは自分以外の美女が好きではない。

 七星に色目を使った人間を惨たらしく殺した事もある。

 そして何よりも気に入らないのは、その女が人間の男を守った事だった。

 魔人になる前からの知り合いとの事だが、それでもまさか人間を守る等とは魔人の立場からすれば考えられない事だ。

 

「…貴様も死ぬか?」

「悪いがこんな所で死ぬつもりは無いな」

 

 カミーラの爪をケッセルリンクの剣が防ぐ。

(剣も使うか…カラーがな…)

 剣を使うカラーとはカミーラも聞いた事が無かったが、目の前の魔人はその剣で自分の爪を防ぐ。

 そこにランスの一撃が襲うが、それは無敵結界に阻まれる。

 だが衝撃だけは逃がすことが出来ず、カミーラですらもよろける。

 そこにケッセルリンクの剣がカミーラを襲うが、それはカミーラの翼に弾かれる。

 そしてしばらくはそんな攻防が続いていく。

 ランスがカミーラの体勢を崩し、ケッセルリンクが魔法で攻撃する。

 カミーラの攻撃をケッセルリンクが魔法バリアで防ぎ、その爪はランスが弾く。

(ふむ…)

 カミーラは再び宙へ飛ぶ。

 流石に宙にいてはランスの剣は届かないため、ケッセルリンクの魔法しかない。

 だが、ファイヤーレーザーが直撃してもあまりダメージにはなっていない所を見ると、カミーラの魔法防御力はかなりのものなのだろう。

 一方のカミーラは、空中から一方的にブレス攻撃が可能である。

 だがカミーラはランス達を見下ろしたまま、攻撃をする気配は無い。

 

「…飽いた。この場は見逃そう」

 

 一方的にそう言うと、カミーラは夜の闇に消えていく。

 ランス達はしばらくの間警戒していたが、どうやら本当にカミーラはこの場から消えたらしい。

 それを確認すると、ランスはその場に腰を下ろす。

 

「無事か? ランス」

「…疲れた」

 

 ランスの傷は当然ケッセルリンクよりも多い。

 体には火傷と切り傷が無数にあり、そのマントは既に消失してしまっている。

 ケッセルリンクは魔人故にほとんど傷が無い…というよりも並外れた再生能力で、カミーラに負わされた傷ももう治りつつある。

 

「お前は全然傷ついてないな」

「そのようだな。どうやら魔人となった事で再生能力が増したらしいな」

 

 ケッセルリンクはランスを引き起こし、その体を支える。

 

「前はお前に支えられ、背負われたのだがな…今は立場が逆になったな」

 

 ケッセルリンクは笑いながらそう言うが、ランスにはそれが少し面白くなかった。

 今までランスは女性を守り支える側であり、物理的に支えられた事などほとんどなかったはずだ。

 

「魔人なって俺様より偉くなったつもりか。魔人になろうがお前は俺様の女だ!」

「ランス?…ムグッ」

 

 ランスはケッセルリンクの後頭部を掴むと、その唇を無理矢理奪う。

 ケッセルリンクも驚きつつも、抵抗はしない。

 それどころか、ケッセルリンクの方もランスの首に手を回すと、ランスのキスに応える。

 ランスとケッセルリンクの唇が離れ、二人の間に僅かな糸を作る。

 

「…お前は私が魔人になっても何も変わらないな」

「何故変わる必要がある。お前が俺様の女だという事実は何も変わらんだろう」

 

 ランスの言葉にケッセルリンクは目を丸くし、そして微笑む。

 その微笑みはカラーの時代の時と全く変わらない。

 だが、そこでケッセルリンクはランスの体の変化に気づく。

 

「ランス…前も言ったと思うがお前という奴は…」

「そんなエロい恰好をしているお前が悪い」

 

 ケッセルリンクは自分の格好を改め見るが、やはり自分の衣装は胸を強調していると言わざるを得ない。

 何故こんな恰好なのだろうかと疑問には思うが、この衣装が自分に似合っていると思うのも事実だ。

 ランスはケッセルリンクの胸に手を伸ばすが、ケッセルリンクにはそれを拒む様子は無い。

 そして今まさにその手が触れようとした時、

 

「…何をやっているのだ、お前達は」

「! ス、スラル様!」

 

 魔王の呆れ声にケッセルリンクは慌てて跪く。

 

「ぐえっ」

 

 ケッセルリンクに支えられていたランスはその動きに巻き込まれ、地面に倒れる。

 

「ああ、すまないランス」

「いきなり何をする」

 

 再びケッセルリンクはランスを助け起こすと、目の前にいる自分の主を改めて見る。

 目の前にいる魔王はどこか呆れた目をしており、そしてため息をつく。

 

「はぁ…で、カミーラは?」

「もう去りました」

 

 もういないカミーラにスラルは内心舌打ちをする。

(この場で会えれば直ぐに命令できたのに…)

 魔王の絶対命令権も、命令を下せる状況でなければ意味は無い。

(一度カミーラに会いに行かないと駄目だな)

 来い、と言って来る相手ではないため、やはり自分からカミーラに会う必要があるとスラルは考える。

 カミーラの実力は評価しているが、その行動は気まぐれすぎる。

 今回もケッセルリンクがいなければランスは死んでいたかもしれない。

 スラルはランスを見るが、その手には先程スラルが調べていた剣が握られていた。

(主の危機に剣が動いたか? いや、それともこの男が剣を呼んだか…いずれにしても、この剣を手元に置くのは難しいか)

 

「とにかく休むがいい。人間、お前には新たな部屋を用意させよう」

 

 スラルはそう言うとマントを翻して去っていく―――前に、マントの裾を踏みつけ前に倒れる。

 

「ス、スラル様!?」

「…前にも同じ光景を見たぞ」

 

 スラルは立ち上がり、体についた埃を振るうと、何事も無かったかのように歩いていく。

 

「やっぱりドジっ子だろ」

「違うぞ、我は断じてドジっ子などではない」

 

 鼻を赤くしているため説得力がまるで無いが、あまりの気迫にランスもそれ以上何も言う事が出来ない。

 ケッセルリンクもどう反応していいか迷っているようだった。

 こうして魔人カミーラとの最初の出会いは終わった。

 

 

 

「カミーラ様!?」

 

 先にカミーラの城に戻っていた七星が、衣装の一部が明らかに燃えた痕跡がある主の姿に驚きの声を上げる。

 そして驚くべき事に、その右手には一筋の血が流れている。

 魔人には無敵結界があるため、基本的に傷を負う事は無い…あるとすれば、自分の意志で無敵結界を解除するか、又は魔人同士の争い以外には無い。

 

「ご無事ですか! カミーラ様!」

「…大事無い」

 

 カミーラは何時ものように気だるげに椅子へと座るが、その視線は自分の右手に向けられている。

(傷の直りが遅い、か。まるでドラゴンである私への殺意だな…)

 普段であれば直ぐに塞がる傷だ。

 特に深い傷ではないが、とにかく傷が治るのが遅い。

(ランス、と言ったな…あの男の剣の腕はガルティアよりも上か…そしてこの傷…)

 

「ククク…」

「カ、カミーラ様」

 

 七星は主を見て驚く。

 カミーラた浮かべているのはいつもの冷笑ではなく、楽しげな笑みだ。

 何か非常に楽しい物を見つけたような笑みは、七星が使徒になってから初めてかもしれない。

 

「あの男…スラルにくれてやるには惜しいな…」

 

 カミーラは何処までも楽しげな笑みを浮かべていた。

 

 

 

 

 ―――カラーの村―――

 

 カラーの村には暗雲が立ち込めていた。

 理由は勿論ランスとレダが魔王に捕われた事、そしてまさかのケッセルリンクが魔人になってしまった事。

 この報告をしたアナウサは今でも寝込んでしまっている。

 ケッセルリンクが魔人となってしまったのは自分のせいだと、己を責めている。

 カラーの女王、ルルリナは勿論アナウサのせいでは無いと分かっている。

 魔王が直々に動いたからには、いかにランスやケッセルリンクでもどうしようもないのは理解していた。

 しかし、中心人物とも言えるあの二人が一度にいなくなってしまったのは、カラーにとっては途轍もない痛手だ。

 ただ、モンスターが全くカラーの村に寄り付かなくなった事だけが救いだった。

 

「ルルリナ様…どうしましょう…」

 

 皆が不安を抱えているのは分かる。

 何しろ皆の精神的支えであったケッセルリンクがいなくなり、さらには絶対的な強さを持っていたランスとレダがいなくなってしまった。

 その全てが一夜にして無くなってしまった…カラー達が絶望するのも無理らしからぬ事だった。

 

「今はこの村を守る以外に道はありません…」

 

 女王の口も非常に重い。

 ケッセルリンクを一番頼っていたのは、彼女自身だと自覚もしている。

(もうカラーは…)

 口には出さないが、皆の顔がそう思ってしまっている。

 もう未来は無いのではないか…そんな絶望感が支配してしまっている時だった。

 

「あー、ようやく見つけた」

 

 その時突如として何も無い空間から、人…いや、カラーが現れる。

 額の赤いクリスタルは間違いなくカラーだが、その髪の色は黒い。

 

「あ、あなた様は!」

「んー…あ、ここにたどり着けたんだ!」

 

 メカクレ・カラーが黒髪のカラーの手をとる。

 黒髪のカラーも嬉しそうにニシシと笑う。

 

「メカクレ…知っているのですか?」

「ハイ! この方こそハンティ・カラー様…幼い時に私を救ってくれた方です!」

「別に大した事はしてないよ。それよりもここにもカラーの村があったんだ」

 

 ハンティ・カラーの顔にあるのは間違いなく喜びだ。

 

「いやー、中々こっちには来れなくてね…」

 

 ここならばカラーの皆がいると思ってはいたが、ドラゴンの住まう山が近くにあったため、ハンティもここに近寄るのは躊躇われた。

 それよりも散らばっているカラーを探すほうが忙しかった。

 

「それよりもどうしたの? 皆顔が暗いけど」

 

 それはカラーにとっての新たな希望。

 伝説の黒髪のカラーが現れた事だった。




SS期とNC期では恐らくカミーラが魔人最強だと思うんですけどね…
GL期になるとガイとかいう頭おかしいくらい強いのが生まれるけど


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運命の言葉

「カミーラ、何か言う事はあるか?」

「………」

 

魔王スラルの問いに魔人カミーラは何も答えない。

元々カミーラはあまり協力的な魔人ではないが、だからと言って邪魔をする事も無かった。

スラルとしても、まさかカミーラが人間に興味を持つとは思っていなかったため、命令をしなかった事でまさかランスの命を狙うとは予想外だった。

 

「まあいい。今後我が捕えた人間に『手を出す事は許さん』、いいな」

「…御意に」

 

魔王の言葉にカミーラは素直に頷く。

魔人は魔王の命令には逆らう事が出来ない。

例えそれが死であっても、魔人は魔王の命令には絶対服従だ。

 

「言いたい事はそれだけだ」

 

スラルはそれだけど言うと姿を消す。

カミーラはしばらくの間、スラルが消えた空間を見ていたが、その内面白くなさそうにため息をつく。

 

「カミーラ様…」

「構わん…予想はしていた」

 

七星の気を使うような声をカミーラは手で押さえる。

魔王の命令はカミーラにとっても想定内だ。

最初からあの男を殺そうと思えば殺すことも出来たが、あの男の戦いぶりを見て気が変わった。

 

「それに『手を出すな』と言われただけだ…会いに行くなと言われた訳では無い」

「カミーラ様…それは」

 

七星は主の言葉の意味を察する。

それは七星にとっても「まさか」という思いだった。

自分の主が、人間を気にする等考えてもいなかった。

しかし現実にカミーラには楽しげな笑みが浮かんでいる…今までは相手を『狩る』ために笑っていた事はあったが、会いに行くという事で笑った事など無かった。

 

「ククク…スラルはあの人間が余程気に入ったと見える…」

 

カミーラの笑いがどこまでも木霊していた。

 

 

 

「と、いう訳で俺がつく事になったからよろしくな」

「何がよろしくなだ。誰だ貴様」

 

魔王であるスラルに新たに用意された部屋には、お目付け役として魔人ガルティアが派遣されていた。

ランスは不満顔を隠さずにガルティアを睨む。

 

「落ち着きなさいよ、ランス。流石にもう一度カミーラが来ても困るでしょ…それにしてもこれって何なのよ」

 

レダはベッドの上からガルティアを半眼で睨む。

別にガルティアに対して敵意がある訳では無い。

自分達に宛がわれた部屋だというのに、今のこの状況に対して呆れていた。

 

「あんた…これ全部食べるわけ?」

「おう。美味そうだろ」

 

そこには山のような…まさしく言葉通りに山積みにされている食料があった。

ガルティアはそこから味わうように食べていく。

 

「まるでカロリアみたいに食うな。お前ムシ使いかなんかか」

 

それはランスにとっては何気ない言葉だったかもしれない。

最早ムシ使いは彼女しか存在していない、それを分かったの上の言葉だったが、

 

「おう、俺はムシ使いだがそれがどうかしたか?」

「何?」

 

ランスはもう何度目か忘れたが、その言葉に非常に困惑する。

ランスの認識ではカロリアが最後のムシ使いであり、他のムシ使いはゼスによって滅ぼされたはずだった。

だが目の前の魔人はそのムシ使いだと言う。

(うーむ…まあ魔人は長生きしてる奴も多いからな。ムシ使いの魔人がいてもおかしくはないか)

だからその程度の認識でしかなかった。

悲しいほどに男には興味が無いのがランスという男だった。

 

「それよりもお前も災難だったな。よりによってカミーラに目をつけられるとはなー」

「俺様にかかれば余裕だ余裕」

「そうか。まぁカミーラは滅茶苦茶強いからな。そのカミーラに狙われて生き残っているだけでも大したもんだ」

 

ガルティは本心からランスに感心していた。

カミーラの強さはガルティアも十分すぎる程理解している。

人間だった時にカミーラとぶつかった事もあるが、無敵結界が無いにも関わらず手も足も出なかった。

魔人になってからはカミーラは自分に殆ど興味を失ったようだが、それでもその強さは変わらない。

何しろティラノサウルスの魔人すらも簡単に倒してしまうほどだ。

 

「どうだ? お前達も食うか?」

「ふん、貰ってやる」

「あ、私も」

 

ガルティアが差し出してきた食事をランスとレダも受け取る。

 

「うーむ…今一舌にあわんな」

「まあそうかもね」

 

ランスの苦言をレダは十分に理解している。

(時代が違うからね…確かにあの時に比べればちょっと大味かも)

何しろここはランスが住まう時代のずっと前の時代だ。

食材も違うし、調理技術も違うため、GI、LP期に生きているランスには舌に合わないという事もあるだろう。

が、その言葉がガルティアの琴線に触れたらしい。

 

「あん? まずいのってのか?」

 

ガルティアの目がギラリと光る。

彼にとっては食事は神聖なものであり、作ってくれた者達への感謝は絶対に忘れない。

 

「まずくはないが…なーんか合わないな」

 

カラーの村でも食事には少々苦労したが、それは魔王城に来てもあまり変わらないようだった。

(うーむ…俺様の城での食事に慣れすぎたか…)

ランスも普段は冒険に出ている事が多かったため、食事にそこまでの文句は言わない。

冒険の中で美味い食事に出会える事など無いと、自分を育ててくれた女戦士に教わったし、実際シィルと出会うまでは食事にはあまり気を使っていなかった。

シィルは料理技能こそ持ってはいないが、ランスの好みを知り尽くしているためにランスの舌に合う。

そしてアタゴの店ではツケで食事をしているため、食事には困った事は無かった。

 

「合わない? お前普段からどんなもん食ってたんだ?」

「ラーメンとかへんでろぱとか…まあ沢山だな」

「ラーメン? へんでろぱ? なんだそりゃ」

 

聞いた事の無い料理名にガルティアは首を傾げる。

この時代にはまだ女の子モンスターのらーめんはいないし、へんでろぱといった料理もまだ確立されていない。

実際にガルティアが今食べている料理も、焼いたもの、揚げたもの、スープ類が殆どだ。

 

「…ん? これは」

 

ランスは山積みになった料理の中から、一つの料理を見つけ出す。

いや、料理というよりも、その料理の器と言ってもいい。

 

「おお! これはまさかヒラダイラ貝! まさかこんな所にあるとは!」

「あーそれも美味いよな」

 

ランスの趣味には貝殻の収集が有り、その手入れはランス自らが行っているほどだ。

そして今のランスの手の中にあるのは、ランスも図鑑でしか見た事の無い貝だ。

ランスは慎重に閉じている貝を剥がすと、そこには名前の通りの平べったい中身が芳醇な香りを立てている。

 

「うーむ…これは美味いな。コリコリとした食感がたまらんな」

「おう、それはいい食感してるよな。でも中々見つからないんだよな」

「がはははは! まさかこんな所でこんなお宝に巡り合えるとは!」

 

既にランスは上機嫌になっており、中身をおいしく食べると、その殻を大事に仕舞う。

そして皿に置いてある唐揚げに手を伸ばすと、

 

「おっ、これはこかとりすだな。うむ、この唐揚げは美味いな」

「これも美味いよなー。中々手に入らないけどな」

 

こかとりすはLP時代にも残っている高級食材だ。

それはランスの好物であるへんでろぱの材料であるが、それ以外にもその肉を使った料理はランスの好みだ。

 

「あ、本当だ。これ美味しい」

 

レダもこかとりすの唐揚げには舌鼓を打つ。

柔らかくてジューシーな味わいはやはり下界に来ないと味わえない。

ランスと共に行動してからはシィルやロッキーの手料理を食べて来たが、やはり冒険の際の料理であった。

カラーの食事も美味しかったが、この料理もかなりのものだ。

 

「こかとりすも美味いんだけどなー…もうちょい味の幅が欲しいよな」

 

こかとりすは体が大きいため肉が沢山取れるが、やはりガルティアにかかればそれは一食分にも満たない。

それにモンスターの中でも中々の強さのため、普通のモンスターでは手も足も出ない。

それ故に肉はこの時代では貴重であり、中々新しい料理が作られない現実もあった。

(こかとりすを食ってたら余計にへんでろぱが食いたくなったぞ…まったく、シィル達は何処におるんだ)

 

「で、ところで『へんでろぱ』ってどんな料理だ?」

「へんでろぱはへんでろぱだろ」

「いや、答えになってないから」

 

(…そういやへんでろぱの材料がこかとりすって事以外俺様も知らんな)

ランスは自分では料理をしないため、へんでろぱがどのような料理なのか説明できなかった。

 

「俺も食べた事ねーな…食いたくなってきたが今は無理だしな…」

 

流石のカミーラも魔王の命令には逆らう事は出来ないだろうが、それでも魔王の目的を果たすまでは魔王城からは離れられない。

世界の食を食べる事が趣味のガルティアには残念だが、それ以上に魔王の―――スラルの願いを叶えてやりたかった。

本来ならばすぐにスラルもここに来たいだろうが、新たな魔人であるケッセルリンクの願いを叶えるのに遁走している。

 

「まあもう少しの辛抱か」

「あん? 何がだ?」

「何でもないさ。その内分かるだろうしな」

 

その後も三人は食事を続けた。

ランスが魔王城に来てから初めての食事は、魔人と共に過ごすという意外な結果に終わった。

 

 

 

「夜は私が来る事になった。よろしく頼む…というのも今更だな」

「本当にねー。ケッセルリンクが魔人になったっていうのに、この男は全く変わってないし」

 

夜にはケッセルリンクがお目付け役として派遣されてくる。

ケッセルリンクはレダと顔を合わせ笑いあう。

(私はエンジェルナイトなのに、こうして魔人と笑いあってるなんて変な話よね)

ランスと出会ってから自分の環境は劇的に変わっている。

人間と共に冒険し、カラーと共に魔人と戦い、そして魔人と共に食事を取り、そして魔人と共に笑いあっている。

 

「それよりもケッセルリンク…魔人になって変わった事無いの?」

「大変わりさ。日光がまったくダメになってしまった…」

 

ケッセルリンクの体質は完全に変化しており、もう昼間では以前のように戦う事が出来ない。

その代わり夜の間は以前よりも遥かに強い力を扱う事が出来ている。

以前はランスにはとても敵わなかったが、今は自分はランスを越えていると確信していた。

 

「ふーん…大変だな」

「そうだな、割と大変だ。だが命があるだけでも私としてはありがたいがな」

 

ケッセルリンクは死にかけている所を魔王によって救われたため、魔王に対しては特に恨みを持っている訳ではない。

体質が変わっただけで、他の何が変わった訳ではない、ケッセルリンクにとってはその程度の認識だった。

 

「魔人になったって事は使徒も作るのか」

「使徒、か。特に考えた事は無かったな…」

 

ケッセルリンクはそこで薄く笑ってみせる。

魔人になれば自分の使徒を作る事が出来るため、使徒になるという事は魔人同様永遠の命を授かる事となる。

 

「ランス、お前はどうだ? 私の使徒になるか?」

「アホか。何で俺が自分の女の使徒にならなければならんのだ」

「そう言うと思ったさ」

 

ランスの言葉にケッセルリンクとレダは笑う。

実にランスらしい言葉だとむしろ感心してしまうほどだ。

(だが…果たしてこれからどうなるのかがな…)

魔王スラルからは既にランス達の処遇は聞かされていた。

ランスとレダの二人が、魔王スラルの魔人候補と聞いた時は正直複雑な気分ではあった。

だが同時にランスとレダとこれからも長い付き合いが続く、という事は正直魅力的でもあった。

 

「しかしランス…お前はあのドラゴンの魔人を知っているのか?」

「ああ…カミーラの事か。確かに俺様が倒してゼスで封印されてたはずなんだがな…何故かここにいるし、そもそもカミーラがあんな性格になってるのも訳が分からんぞ」

 

ランスが一番分からないのはやはりあの性格の変化だ。

昨日のカミーラの態度はランスの知っているカミーラでは無いように思えた。

あの時のカミーラの目は、今思い出してもランスですらも怯むほどだ。

だからこそ余計にランスは混乱してしまう。

やっと知ってる奴が居たと思ったら、そいつは自分の事を知らずに、あまつさえ性格もほとんど別人とくればランスとしても頭を捻らざるをえない。

ここでのカラーとの出会い、そして違ってしまっている魔王、知っているはずなのにまるで別人のような魔人。

ランスとしてもこの状況を整理するので手一杯になってしまっていた。

(まあ考えても無駄だな。後は流れにまかせるしかないな)

だからランスはもうこれ以上は考えるのをやめる。

取りあえずはこの状況をどう打破するか、それに頭を巡らせる。

やはりこの状況…魔王に捕らわれた状態というのはまずい。

 

「ケッセルリンク。俺達をここから逃がす事は出来んのか」

「…魔人である私に凄い頼み事をするな。逃がしてはやりたいが…今の状況では無理だ。お前達を逃がさないように命令を受けている」

「そうか」

 

ランスも流石にそこまでは期待していない。

魔人は魔王の命令には絶対服従、それはランスも知っているため、いくらケッセルリンクでも難しいとは思っていた。

幸いにも武器はあるし、レダも自分の武器と防具をいつでも用意できるためその点は問題は無いが、この大きいであろう城から安全に逃げられる保証は無かった。

今はまだ博打に出る状況ではないとランスも分かっている。

だから何とか外に出る手段をランスは探っていた。

 

「すまないな。ランス、レダ」

「別にいいわよ。流石に魔王の命令には逆らえないでしょうしね」

「ふん、俺様ならば楽勝だ」

 

ランスは横になっていた体を起こすと、椅子に座っているケッセルリンクの元へ歩く。

そのままケッセルリンクを抱き上げ、さらには近くにいたレダも一緒に抱き上げる。

そしてそのまま二人をベッドに押し倒す。

 

「がはははは! このまま朝までお楽しみだ!」

「いや、ランスは本当にぶれないわね…」

「お前は少し危機感を持った方がいいと思うぞ」

 

レダとケッセルリンクは少し呆れた顔をしているが、特に逃げるような素振りは見せない。

ランスは手早く二人の服を脱がすと、いつもの早業で自分も裸になる。

 

「相変わらずこういう時は素早いな」

「才能の無駄遣いって言うのよ」

「お前らうるさいぞ。こういう時は素直に抱かれればいいのだ」

 

ランスは二人に覆いかぶさるとその胸に手を伸ばす。

 

「がははははー柔らかー」

「まったく…」

「はいはい」

 

 

 

―――翌朝―――

 

「…頭が痛いな」

 

翌朝目が覚めたケッセルリンクは少し痛む頭を抱えていた。

 

「大丈夫?」

 

レダが心配そうに声をかけるが、ケッセルリンクは大丈夫という風に手を振る。

確かに少し辛いが、少しずつ慣れていってるような気がしていた。

既に着替えは済ませており、体も洗い終えている。

 

「ああ…少し痛むだけだ。まだ自分の体に慣れていないだけだ」

「ふーん、大変だな」

「まったく大変だ。その大変な私を躊躇無く朝まで突き合わせのをやめてくれれば、楽になるかもしれないがな」

 

そう言うケッセルリンクの表情は柔らかい。

彼女も決して本気で言っている訳では無く、軽口のようなものだ。

 

「俺様だけのせいでは無いだろ。お前だって俺様から離れなかったではないか」

「そういうデリカシーの無い言葉は慎んだ方がいいと思うわよ。まあ今更言っても仕方ないと思うけど」

「確かに今更だな」

 

2人は笑いあう。

(女ってのは時々訳の分からん事で分かりあうな)

ランスと付き合いの長い女達にもそんな事があったような気がした。

 

「ところで俺達はいつまでここに居ればいいのだ」

 

ランスの不満はやはり自由に動けない事であった。

カミーラとの出会いから三日ほど立つが、その間は本当に出来る事が無かった。

外に出る事が出来ない為、やる事といえばガルティアと食事をするが、レダとケッセルリンクとセックスをする以外に無かった。

確かにセックスは楽しいが、このまま閉じ込められるのはランスとしても面白くなかった。

 

「すまないが私にも答える事は出来ないな」

「魔人であるケッセルリンクにも分からないの?」

 

レダは不満そうな顔をするが、それをケッセルリンクに言ってもしょうがないと思い直し、ため息をつく。

この状況に不満を抱いているのはレダも一緒だった。

 

ガチャ…

 

その時だった、何の前触れも無く扉が開かれる。

ガルティアかと思ってランスがその視線を向けた先には、魔王スラルが居た。

 

「ご苦労、ケッセルリンク」

「スラル様」

 

ケッセルリンクがスラルに跪く。

(魔王か…)

ランスは何度見ても『魔王』という存在と目の前の少女が合致しない。

 

「君が魔王か」

「そうだ。こうして話すのはあの時以来となるな。まずはお前の力を褒めよう。よくぞ魔人を倒せた」

 

それはスラルの心からの賛辞。

スラルは神により無敵結界を授かった。

それを得てからは魔人はまさに無敵の存在となった…それに対抗できるのは同じ無敵結界を持つ魔人だけだ。

それにより絶対的な階級社会が完成し、魔王であるスラルはまさにその頂点にいると言っていい。

そして魔人はその魔王の下の階級であり、間違っても人間が勝てる存在ではないはずだった。

しかし目の前の人間はその理を見事に崩して見せた。

確かにあのオウゴンダマの魔人は無敵結界を使ってはいなかったが、使えないように策を巡らせたのは間違いなくこの人間の力だ。

 

「俺様にかかれば余裕だ余裕」

 

ランスの言葉にスラルは笑う。

(それくらいの気概がある方がいい)

それでこそ自分の魔人に相応しいと思う。

 

「ランス、レダ、お前達に話がある」

 

その言葉にケッセルリンクが体を震わせる。

魔王スラルの目的はケッセルリンクも知っている…彼女が望むのは自分に望んだ事と同じ事だからだ。

 

「魔王が俺様に何の用だ」

「いや、どうしてランスはそう偉そうなのよ」

 

明らかに魔王に対する態度ではないし、レダもランスの言葉に思わず突っ込み入れる。

 

「ランス!」

 

ケッセルリンクが咎める様な声を出すが、スラルは笑みを浮かべるだけだ。

 

「話というのは他でもない。お前達…魔人となり我に仕える気は無いか?」

 

それはランスの運命を変える大きな一言。

ここから全ての歴史が始まったといってもいい。

その言葉は魔王の運命すら変えてしまう一言だった。

 

 

 

―――カラーの森―――

 

「そう…そんな事が」

 

ハンティ・カラーは女王であるルルリナからここまでの顛末を全て聞いていた。

カラーの里を襲った数々の困難、そしてその困難を乗り越えてきた存在の事、最後にはその存在が魔王に捕らわれた事。

だからこそハンティも苦虫を噛み潰した顔をする。

それほどの存在が居れば、恐らくはこの里は安泰だっただろう。

しかし魔人となってしまっては、新たな脅威が増えてしまった事になる。

この森はカラーにとっても割りと理想的な立地にある。

ドラゴン達はカラーには興味が無いだろうし、モンスターもいたずらにドラゴンを刺激したくは無い筈だ。

 

「はい…私達はこれからどうすればいいか…」

 

カラー達は皆暗い表情を浮かべているが、ハンティはそんな暗さを吹き飛ばすように笑う。

 

「大丈夫さ。今はもうモンスターもこの森にはいないみたいだしね。他のカラーも何れは合流できるようになるさ」

 

ハンティの言葉に皆が顔を上げる。

 

「ハンティ様…今何と…」

「他のカラー達と合流できるのもそう遠い日じゃ無いって事さ」

「本当ですか!?」

「ああ。もうここの場所はわかったからね。移動出来る環境を整えれば大丈夫」

 

ハンティ・カラーには瞬間移動がある。

自分以外の存在と一緒に瞬間移動をするのは危険だが、こうして連絡を取り合うだけならば何も問題は無い。

それにモンスターの動きもここ最近は大人しくなってきたため、大規模な移動も難しくないだろう。

 

「早速向こうと話をつけるさ。ま、期待して待ってなよ」

 

そう言うと早速ハンティの姿が消える。

その消えたハンティに向かって、カラー達は祈りと感謝をささげる。

こうしてカラーの命運は後の伝説のカラー、ハンティ・カラーによって守られていく。

カラーと人間が本当の意味で衝突してしまうその日まで。

 




感想欄で色々なご指摘、有難う御座います
後書きという形ですが、ここに感謝致します


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まさかの勧誘

「お前達…魔人となり我に仕える気は無いか?」

 

魔王の口から語られたのは衝撃の言葉だった。

魔人…それは魔王の血の一部を分け与えられ、魔王に従う部下であり、魔物達の上に立つ将でもある。

それは同時にこの世界の支配層の上に立つという事だ。

この世界に24体までが存在可能で有り、その内の一人として魔王が直々に声をかけている。

スラルの予想ではランスならば是が非でも飛びつく話だと思っていた。

人間というのはそういうもの、という認識がスラルには存在していた。

ガルティアの時もそうだった…才能が有るが故に同族から嫉妬され、疎まれ、そしてついには魔人となった。

人間は愚かで、醜く、時には足を引っ張り合い、最後には自分の利益のために仲間すら裏切る存在。

スラルの前に現れる人間は、全て『魔人になりたい』という欲望を隠さない人間が、恐怖で全てを諦めているような奴ばかりだった。

だが、目の前にいるこの男が今まで出会ってきた人間像とはまったく一致しなかった。

魔王を前にしても大胆不敵ともいえる度胸、魔人をも嵌め殺す程の悪知恵、そしてカミーラと戦い生き残る程の強さ。

全てにおいてこれまでの人間とはまったく違うタイプの存在だ。

そしてもう一人の人間であるレダ…彼女もまた素晴らしい逸材だ。

何よりもその盾を使っての防御技能…魔人の攻撃すら防ぐその力はまさに『盾』だ。

傷を癒す魔法の力も素晴らしいと思っている。

全てにおいて高レベルな存在であり、魔人相手にも勇敢に向かっていくその姿がスラルも気に入った。

 

「嫌だ」

「まあ…私も無理ね」

 

だからこそスラルはランス達が発した言葉が信じられなかった。

あまりにも驚いたせいで、スラルは目を見開き、口も大きく開けてしまっている。

そしてランスの言葉にはケッセルリンクも驚いていた。

まさかランスが魔人になるという誘いを断るとは思ってもいなかった。

あっさりとその申し出を受けると思っていたが、口から出てきたのはまさかの拒絶の言葉だった。

 

「………理由を聞かせてもらおうか」

 

驚きから回復したスラルがランス達に尋ねる。

スラルからすればまさかの回答であり、どうしてもその答えを聞きたかった。

人間が魔王の誘いを断るなど普通はありえない事だ。

 

「魔人は魔王には絶対服従なんだろ。俺はそんなのは嫌だぞ」

 

ランスの回答を聞き、スラルは再び目を丸くする。

魔王であるスラルからすればまさかの回答であり、到底納得出来るものでは無かった。

確かに魔人は魔王の命令には絶対服従ではあるが、それ以外の恩恵は非常に大きいものだ。

圧倒的な力、無敵結界、そして永遠の命…それらを考えれば誰もNO等とは言わない、それがスラルの認識だった。

 

「…そんな事でか?」

「俺には大事な事だ。俺は誰の命令も聞く気は無いぞ」

 

それはランスにとっては大事な事。

ランスは今まで誰の命令も受けずに、一冒険者としてやってきた。

サテラにも使徒として誘われたが、その時も断っていた。

ランスは誰の下につくつもりもないし、自分のやる事の妨げになるのは全てその手で打ち砕いてきていた。

だから魔人というものにそこまで興味も無かった。

 

「…本当にそれだけなのか? お前はそれだけのために魔人の力を拒むというのか?」

「それだけとはなんだそれだけとは」

「…レダ、お前はどうなのだ」

「私はランスとは別の意味で断るわ。ランスと同じで魔人になる気はないわ」

 

レダが魔人にならない理由は単純、元々エンジェルナイトであるレダには魔人という立場には興味が無かった。

それに、自分の任務はランスを守る事なのだから。

 

「…そう、か」

 

スラルはそれだけ言うと、ランス達に背を向ける。

そしてそのまま部屋を出て行ったあとで、ケッセルリンクがランス達を見る。

その顔にあるのは困惑と驚愕だった。

 

「ランス…何故だ?」

 

ケッセルリンクもまさかランスが魔人になるのを断るとは思ってもいなかった。

確かに自分勝手で、Hのためならば悪魔すらも利用する、自分の欲望に正直な人間だと思っていた。

しかしスラルの言葉には迷う事無く拒絶の言葉を発した。

 

「お前も変な事を聞くな。何で俺が魔王の下僕にならなきゃならんのだ」

 

それを聞いてケッセルリンクは驚きよりも先に笑いが込み上げてきた。

それは人間の誇りだの、魔王への抵抗などというものではなく、単純に誰かの下僕になりたくないという絶対的な意志からくるものだからだ。

 

「そうか…ははは。それがお前という人間なのだな」

 

ランスという人間が少し分かっていた気になっていたが、実はまだまだ知らない事があった事にケッセルリンクは笑い声をあげる。

この男にとっては強さや権力など全く意味が無いものなのだ。

全ては自分のやりたい事をするために動いているのだ。

 

「そんなにおかしいか?」

「いや…私もまだお前という男を知らなかったと思っただけだ」

 

ケッセルリンクは立ち上がると、スラルの後を追って部屋を出る。

 

「俺は何かおかしな事を言ったか?」

「うーん…魔王や魔人からしたら衝撃的だったんじゃないの?」

 

少しだがレダはスラルとケッセルリンクの気持ちが分かるような気がした。

初めての出会いからここまでの付き合いで、ランスが魔人だろうが天使だろうが態度は一貫して変わっていない事は分かる。

ランスにとっては、ケッセルリンクだろうが自分だろうが魔王だろうが等しく同じなのだろう。

同じ女としか見ていないのだ。

だから平気で自分達を抱こうとしているのだ。

 

「でもさ、これからどうする? もしかしたら殺されるかもしれないわよ」

「いきなり殺されるなんて事は無いだろ。それに一回の勧誘で諦めるようなタイプでも無いだろ」

 

もしこれがジルのような魔王であれば、ランスもそれを受け入れたかもしれない。

ジルならば断われば問答無用で自分を魔人にしているだろう。

しかしあの魔王はジルとはタイプが全然違うように感じられた。

そもそも相手は魔王であり、本気であれば有無も言わさず魔人にされているだろう。

それをしないという事は、魔王と交渉のする余地があるという事だ。

 

「まあ何とかなるだろう」

 

ランスの顔はいつもと変わらない。

その顔には不敵な笑みが浮かんでいた。

 

 

 

魔王の間―――そこでスラルは腕を組んで難しい顔をしていた。

普段から魔王に付き従ている者たちも、このようなスラルを見るのは初めてで困惑していた。

魔王はこの世界の支配者であり、悩みなど存在しないものだと思っているからだ。

 

「スラル様」

「ケッセルリンクか…」

 

今は日中だが、ケッセルリンクは少し痛む体に鞭を打ち、スラルの前に跪いていた。

ケッセルリンクにはスラルの悩みを十分に理解しているつもりだ。

魔王であるスラルは、今まで全ての事を上手く収めてきたのだろう。

今回のランスの勧誘もあっさりと終わると思っていたに違いない。

しかしまさかの拒否に、スラルはどうしていいか分からなくなっているのだろうと。

 

「まさか…断られるとは思っていなかった」

「私もです。しかし今思えばランスならば納得も出来るかと」

 

自分よりランスの事を知っているケッセルリンクがそう言うのであれば、今回の拒否はありえない事では無かったのだろう。

魔王の力は絶対であり、その気にあればランスとレダの意志を無視して魔人にする事は可能だ。

(しかし、な…)

スラルがそれをしない理由は、自分に仕えるのであれば、自分の意志で仕えて欲しいと考えているからだ。

強制的に魔人にしては反発もするだろうし、絶対命令権で命令しても、それでは態々自分が目をかけている意味が無くなってしまう。

 

「ケッセルリンク…何か奴が望んでいるものは分かるか? 若しくは悩み等はあるのか?」

「そうですね…」

 

スラルの言葉にケッセルリンクは考える。

ランスが望んでいるのはまあ女だろうが…それならば魔人になる事を拒みはしないだろう。

悩みと言われても、あのランスが悩むと言えばそれこそ女の事くらい…そうケッセルリンクが思った時、ある事を思い出す。

 

「ランスはレベルが上がらない事に苛立ちを感じていました」

「何? レベルがか?」

 

この世界に存在する者には等しくレベルが存在する。

その全ての存在には才能限界というものがあり、それを超えてレベルを上げる事は出来ない。

それは魔王である自分とて例外ではないのだ。

神の定めたルールであり、それを覆す事は出来ない―――あくまでも通常の手段ではだ。

この世界にはバランスブレイカーと呼ばれるアイテムがあるが、スラルもまたそれらの回収を行っている。

その中には才能限界を上げるアイテムも存在している…ただしそれは完全に人間用だが。

 

「レベル…か」

 

レベルが上がらない事に苛立ちを感じていたという事は、既に限界レベルを迎えているのだろう。

だとすればそこに突破口があるかもしれない。

スラルは早速自分の宝物庫に向かって歩き出す。

これまで集めたアイテムの中には、レベルに関係したものも多数あるはずだった。

 

「ス、スラル様!」

 

宝物庫でアイテムの整理をしているケイブリスが慌てて跪く。

 

「ケイブリス。禁断才能はどこにある?」

「き、禁断才能ですか?」

 

禁断才能、それは才能限界を上げてしまうまさに禁断のアイテムだ。

神の摂理に反したアイテムであり、しかも人間にしか効果が無いという魔物泣かせのアイテムだ。

いずれは処分しようと思っていたが、自分の収集癖が役に立ってくれたようだ。

 

「こ、これです」

「うむ、ご苦労」

 

スラルはアイテムを受け取ると、そのまま宝物庫を出ていく。

ケイブリスは突然の魔王の訪問にため息をついてへたり込む。

 

「あー…ビビった」

 

今回ケイブリスがここにいたのは、まさにレベルアイテムを探していたからだ。

今でも彼は自分の目標であるククルククルを超える事を諦めていない。

そのためにはどんな手を使っても成し遂げるという強い決意を秘めている。

だからこそここの整理を担当するのは好都合だったが、残念ながら魔人である自分に効果のアイテムは存在しなかった。

 

「やっぱり地道に行くしかないよな」

 

こうしてケイブリスは決意を新たに秘める。

全ては魔物の王となるために。

 

 

 

 

「ランス、貴様には悩みがあるようだな」

「なんだいきなり」

 

自信満々の表情で部屋に入ってきたスラルに、ランスは眉を顰める。

 

「貴様は才能限界に達しているらしいな」

「…はぁ?」

「フッ…言わずとも分かる。人の才能限界は低い…己のレベルに悩むの当然の事だ。ましてやお前のような強さを持つならば当然の事だ」

 

スラルの言葉にランスは首を傾げる。

ランスからすれば突如として訳の分からに事を言われているのだ。

 

「だがな…これを見よ」

 

スラルが取り出したのは、ランスも以前にも見た事のあるアイテムだ。

ランスが何処かの城で冒険をしていた時、ハイレベル神からもらった事があった。

 

「これは禁断才能…使った者の才能の限界を上げる禁断のアイテムだ」

「そーだな」

「どうだ? これが欲しくは無いか? これがあればお前の才能はさらに伸びるぞ」

 

スラルとしては、何としてもランス自ら『魔人になりたい』と言って貰いたかった。

そのためにはランスの悩みも解消すれば譲歩を引き出せると考えた。

このアイテムもその交渉材料としてはうってつけの物のはずだった

 

「いや、いらん。というか俺にはそのアイテムは効果無いんだよな」

「は?」

 

ランスから返ってきた言葉は、これまたスラルにとっては予想外の言葉。

(効果が無い、だと?)

 

「そうなの?」

「理由は知らんがな。今まで才能限界とやらにぶつかった事は無いしな」

「へー…」

 

レダもランスが強い事は知っているが、才能限界にぶつかった事が無いとは思ってもいなかった。

エンジェルナイトである自分を退けるのだから、相当な才能の持ち主だとは思っていたが、自分の予想よりも遥かに優れた才能を持っているらしい。

 

「…ではお前がレベルで悩んでいるというのは」

「なんか知らんが経験値表示がおかしいんだと。だからどれくらい経験値が貯まっているかもわからん」

「そうか…」

 

ランスの言う事が正しければ、魔王であるスラルでもどうしようもなかった。

魔物には人間のようにレベル屋でレベルを上げる、という事が存在しない。

経験値が貯まれば勝手にレベルアップし、それ以上レベルが上がらなければそれが才能限界だ。

ランスの場合は、今はその経験値がそもそも機能していないため、レベルが上がらないのだ。

 

「ではレベルは上がらないのか?」

「幸福ポックルなら上がるがな。だがまだ1個しか見つかっておらん」

 

幸福ポックル、勿論スラルも知っているアイテムだ。

問答無用でレベルを一つ上げるという、使い方によってはバランスブレイカーになりかねないアイテムだ。

問題なのはそれが完全に人間用だという事…流石に魔王や魔人といった存在には効果が無いようだ。

だからこそ魔王であるスラルには無用の長物、だからといって放置するには躊躇われるため、直ぐに処分をしてしまっている。

(少し取っておけば良かったか…)

今になっては仕方の無い事だが、スラルは少しだけ後悔していた。

 

「そうか…出直すとしよう」

 

スラルは少し肩を落として部屋から出て行く。

その様子を見て、

 

「ねえランス。本当に魔人になる気は無いの?」

「無いな」

「気を悪くしないで聞いてね。人間ってやっぱり目先の欲望に弱いでしょ? ランス煩悩まみれだし、かなり自分勝手だけどどうして嫌なの?」

「つまらんだろ」

「つまらん?」

 

ランスの言葉にレダは目を丸くする。

まさかこの男からこんな言葉が出てくるとは思ってもいなかった。

 

「誰かの下僕になるなどゴメンだし、魔人になってもそれが面白いとは思わんからな」

「面白くない…の?」

「魔人なんて偉いのが当たり前だろ。人間の俺様だからいいのだ」

「いや…そこまでいくとある意味感心ね」

 

人間が魔人を倒すから凄いのであり、魔人が魔人を倒してもそれは当たり前。

ランスとしてはそれはつまらない事なのだ。

だから魔人として生きる事に興味が無いのだろう。

(でもだから面白いのかもしれないわね)

この男は稀代の馬鹿か、大英雄のどちらかだろう。

 

「そんな理由で拒否されている魔王もかわいそうよね…でもさ、無理矢理魔人にされたらどうするの?」

 

魔王が本気になれば人間では到底太刀打ちできない。

あの魔王だからランスはまだ人間でいられるだけで、他の魔王ならば躊躇無く魔人にされていたであろう。

 

「その時はその時に考える。もし魔人にされたら、今度は魔人をやめる方法を探すだけだ」

「考え方が凄い斜め上ね…」

 

でも、それもランスらしいとレダは思う。

この男は転んでもただでは起きない人間だろう。

もしかしたら本当に魔人をやめる方法を見つけるかもしれない、そう思わせるものがある。

 

「その時は付き合ってあげるわよ」

「当然だ。黙って俺に付いてこればいいのだ」

 

 

 

―――カミーラの城―――

 

「カミーラ様」

「七星か…あの男が魔人になったか」

 

カミーラは気だるげに七星に問う。

人間である以上、魔王の誘いには直ぐに飛びつくだろうとカミーラは考えてた。

自分にとっては魔人になる事などどうでもいい事だが、人間にとっては全く違う。

永遠の命、それは人間にとっては麻薬のような強い刺激である。

 

「いえ…それが、あの男はスラル様の誘いを断ったようです」

「…何?」

 

カミーラの目に熱が篭る。

七星はそんな主の目に喜びを覚えながら言葉を続ける。

 

「理由は分かりませんが、分かっているのは魔人になる事を拒否したという事だけです」

「そうか…」

 

カミーラは心の中で舌打ちをする。

もし魔人になれば、今度こそ自分が狩ってやろうと考えていた。

あれほどの獲物をカミーラは見逃すつもりは無かったが、まさか魔人となる事を拒否する等それこそ考えてもいない。

だからこそ、カミーラは知りたくなった。

自分は望まずして魔人となり、その結果全てが一度終わらされた。

しかしあの男は魔人となる事を望まれたが、それを拒否している。

 

「カミーラ様?」

「行くぞ」

 

カミーラは短くそう言うと、既に歩き始めている。

 

「しかしスラル様が…」

「スラルには手を出すなと言われただけだ…私はあの人間に話を聞くだけだ」

 

 

 

スラルは王座にて頭を悩ませていた。

勿論悩みの種はあの人間、ランスの事だ。

まさかの魔人拒否、そしてレベルの事での懐柔も失敗に終わってしまった。

(無理矢理…は最後の手段だな)

最終的には強引に魔人にする事も考えているが、今後の事を考えればやはり自分の意思で魔人になってもらいたい。

そのための手段を考えてはいるが、いい手段が思い浮かばなかった。

(魔王の力もこういう時は意味が無いな…力だけでは心は手に入らぬという事か)

若干自嘲するような笑みを浮かべるが、直ぐに頭を切り替える。

(他にあの男が欲しそうなのは…やはり女か)

それが一番スラルにとっては頭が痛い問題だ。

何しろ魔人になる事すら拒む男に、どのような女を宛がうか…いい考えが思い浮かばなかった。

カミーラは論外としても、他の女性はケッセルリンクしかいないし、既にランスとケッセルリンクは親しい間柄のようだ。

後の女性は…自分しかいない。

(いやいや…我はありえんだろう)

自分は魔王、いくら魔人として欲しくてもそこまではするつもりは無い。

(だとすると…)

スラルが思考の海に沈んでいたとき、ペタペタという足音と共にケイブリスが走ってくる。

 

「スラル様ー!」

「どうしたケイブリス。今度は何が起きた」

「た、大変です! カ、カ、カ、カミーラさんがまたあの人間の所に!」

「何だと?」

 

スラルはあの時カミーラに釘をさしたはずだが、再びカミーラがランスの元に現れたようだ。

手を出してはならないと命令をしたが、それならば何故カミーラが現れたのかスラルにも見当も付かなかった。

 

「わかった。我が行こう」

「お、お願いします」

 

 

 

 

「しかし暇だな…」

「まあ仕方ないわね」

 

ランス達はまだ一室に軟禁されている。

いい加減ランスの忍耐も限界に近づいてきていた。

そんな時、再び扉が開かれる。

 

「ん…また魔王ちゃんか…ってカミーラ!?」

 

そこに入ってきたのはスラルではなく、カミーラだった。

よりにもよって、ガルティアが居ない時に来てしまったようだ。

ランスとレダは一斉に武器を構える。

そのランスとレダを一瞥すると、優雅に備え付けの椅子に座る。

 

「…警戒する必要は無い。お前達に危害を加える気は無い」

 

その言葉に二人は未だに警戒心をとかないが、確かにカミーラからはやる気が全く感じられない。

ランスも何処か気だるげなカミーラを見て剣を収める。

 

「…で、何の用だ」

「ちょ、ランス!?」

 

剣を収めたランスを見てレダは驚く。

以前の出会いからすればレダのように警戒するのが正しいのだが、ランスは堂々とカミーラの側の椅子に座る。

 

「ランス…お前は何故スラルの誘いを断ったのだ…」

「お前もそれを聞くのか」

 

ランスはカミーラを前にしてため息をつく。

流石に何回も聞かれるとは思っても見なかった。

 

「魔王の下僕になるのが嫌だからだ。それと魔人になって偉くなってもつまらん」

 

ピクリとカミーラの端正な眉が動く。

 

「つまらん…だと?」

「魔人だから偉いのであって、俺様が偉い訳では無いだろう」

「…それだけか?」

「当然だ。それ以外に何がある」

 

カミーラはその言葉に不意を突かれたように口を閉ざす。

この男の強さは不本意ながらカミーラも認めており、スラルが魔人に欲しがるのも納得はいった。

だがまさか魔人にならない理由がそのような事だとは思ってもいなかった。

ましてや相手はカミーラが見下してきた人間なのだ。

 

「そして魔王の下僕になるのが嫌、か…」

「お前が一番そういうのを嫌うと思ったがな」

「………」

 

ランスの言葉にカミーラは何も答えない。

カミーラとて好きで魔人になった訳では無い。

そもそも好きでドラゴンの王冠と言われていた訳でも無い。

生まれながらにしてドラゴンの繁殖道具として扱われ、アベルに攫われ魔人となってからはドラゴンからも興味を失われた。

それから今に至る―――

 

「…ランスよ」

「なんだ」

「貴様…私の使徒になる気はないか」

 




幸福ポックルがモンスターに効果が無いというのは独自解釈です
もし効果があれば魔人のレベルがインフレ起こしそうですし


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ランスの答え

「ランス…私の使徒になれ」

「…はぁ?」

 

 それは非常に…いや、ランスからすれば考えられない一言。

 まさかのカミーラからの使徒の勧誘だった。

 そしてそれはランスを困惑させると同時に、言葉を放ったカミーラをも困惑させていた。

(私は何を言っている…)

 最初はスラルへの反発みたいなものだった。

 この男を殺そうとし、その結果自分は手傷を負った。

 ケッセルリンクの邪魔が入ったとはいえ、結果的にカミーラはランスを見逃した形になった。

 その後のスラルからの『手を出すな』という命令から、ランスが魔人となった後で殺そうと思った。

 だが、この男は魔王の誘いを魔人となるのをつまらないという理由で拒否をしたのだ。

 

「…お前、頭でも打ったのか?」

「………そうかもしれぬな」

 

 カミーラは自嘲的に、そして何処か楽しそうに笑う。

 だが、決して不快ではなかった。

 むしろこのような『人間』が存在しているのかという新鮮な驚きだ。

 

「まあいい…今は答えは聞かぬ」

 

 カミーラは椅子から立ち上がると、そのまま部屋を出ていく。

 

「…何だったんだ?」

「ランス…あの魔人の事知ってるの?」

 

 レダはランスとカミーラの関係を知らないため、ランスが女性を警戒しているというのが意外だった。

 過去に何かあったのは簡単に推察出来るが、それでも聞きたくなる。

 

「昔俺様が倒した魔人なんだが…しかしどうなっとるんだ。あいつはゼスで封印されてたはずなんだがな」

「ランスが過去に倒した…か」

 

 レダはその言葉で完全に確信する。

 やはりこの世界は過去の世界…セラクロラスによって飛ばされてしまった世界なのだと。

(でもこれは…どうすればいいんだろうか)

 ランスに話した方がいいかと思ったが、やはり話す事は躊躇われる。

 世界の歴史が変わる…これがどういう結果をもたらすか、1エンジェルナイトに過ぎない自分には分からない。

 もしこれが原因で世界の歴史が変わるというのであれば、自分よりも上…それこそ2級神や1級神が動く事案だ。

 いや、もしかしたらもう未来は完全に変わってしまっているのかもしれない…その不安が拭いきれない。

 

「あいつは俺を恨んでいるはずなんだがな」

 

 これまでランスがした事を考えれば恨まれていて当然であり、カミーラも自分に鋭い視線を向けていた。

 そんなカミーラがランスを使徒に誘う等考えられない事だった。

 

「そうか…不思議だな」

 

 レダは結局ランスに今の状況を話す事をやめた。

 自分の上の存在が動かないのであれば、自分の判断で話すのはやめた方がいいと思ったからだ。

 ランスが自分で気づくのならば構わないが、自分からは言うまいと決めた。

 

 

 

「カミーラ…?」

 

 スラルはランス達を捕えている部屋から出てくるカミーラの姿を見る。

 そのカミーラの顔には今までにない表情が浮かんで見えた。

(あのカミーラが…機嫌が良い?)

 普段は割と自堕落で、たまに狩りに出かける程度しかなく、常に詰まらなそうな顔をしていたカミーラがだ。

(一体何が?)

 スラルが部屋に入ると、そこには何時もと変わらないランスとレダの姿があった。

 

「…今カミーラが来ていただろう。何かあったのか」

「ん? ああ。何か使徒にならんかと言われた」

「何?」

 

 その言葉にスラルは目を丸くする。

 自分が魔人に勧誘したのを断られた事よりも驚いているかもしれない。

 

「あのカミーラが…か」

 

 同じドラゴンである七星を使徒としたのは納得いくが、まさか普段から見下している人間を使徒に誘うとは思っても見なかった。

 

「…受けたのか?」

「受ける訳ないだろ」

 

 スラルの予想通り、ランスは使徒になるのを拒否したようだ。

 しかしその割にはカミーラは何処か上機嫌に見えた。

 あのプライドが非常に高く、我儘なドラゴンの魔人がだ。

 

「そう…か」

 

 スラルはそうとだけ言うと、部屋を出る。

 

「…何だったんだ?」

「さあ…カミーラがここに来たから様子を見に来たんじゃない?」

 

 

 

(あのカミーラが…)

 魔王の間に戻ったスラルは再び思考の海に沈む。

 カミーラが自分に対して良い感情を持っていない事は知っているが、魔王には逆らう事が出来ない為にその命令には従ってはいる。

 ドラゴンとしての本能かどうかは分からないが、時たま『狩り』に出かける事もある。

 そして何よりも人間に対しては徹底的に見下している…元が強いドラゴンという種族であるため、それは納得がいった。

 だがそのカミーラが人間を使徒に誘う等、考えられない事だった。

 

「あの男にはカミーラの考えを変えさせる何かがあるという事か…?」

 

 確かに強さに関してはこれまで見た人間の中では1、2を争う。

 カミーラが狩りたくなるのは理解できる。

 しかしそのカミーラが何故あの男を、という疑問は残る。

(我に対する嫌がらせ…いや、違うな。例え使徒であろうとも我が血を与えれば魔人となる)

 魔王の血は絶対であり、血を与えれば何者であろうとも魔人となる。

 それなのにカミーラは己の使徒へと誘った…という事は、カミーラは己の意志であの男を使徒として欲しがったという事。

 

「…一体何者なのだ、あの男は」

 

 剣の強さだけではない、魔王や魔人…自分よりも圧倒的に強い存在に対しても、あの男はその在り方を変えない。

 色々な意味でどこまでも真っ直ぐで…そして危険な魅力を持つ男だ。

 自分も魔人の誘いを断られたというのに、どうやってあの男の心を得られるかという事に心を注いでいる。

 あの男が魔人となる事で、どのような変化が起きるのかが楽しみで仕方がない。

 

「さて…次はどのように話すか…」

 

 一体どうすればあの男を手に入れられるか…スラルの頭はそれでいっぱいだった。

 

 

 

 ―――カミーラの城―――

 

 己の城に戻ってから、自分の主が何か考え込んでいるのを七星は見ていた。

 自分が使徒となってから、あのように何処か楽しげな自分の主を見るのは初めてだった。

 表情には表れないが、七星ならばカミーラが纏っている空気でそれが分かる。

 カミーラはランスに傷つけられた己の右腕を見る。

 そこには既に傷跡は残っていないが、確かにあの時あの人間の一撃は自分を傷つけた。

 本来であればそれだけで殺してやるべきだと思ったが…しかし今はその気が何故か湧かなかった。

『魔王の下僕になるのが嫌だからだ。それと魔人になって偉くなってもつまらん』

 その言葉が頭から離れない。

 

「七星…」

「はっ…」

「お前は…私の僕となり幸せか?」

「勿論です。私はカミーラ様の使徒としてこれからも仕えさせて頂きます」

 

 七星の言葉にカミーラは笑みを浮かべる。

 この男は自分に対して嘘をつける男ではない…まさに本心から出た言葉だ。

 

「あの男は私の使徒への誘いを断った…」

「…!」

 

 まさか自分の主の誘い…それも使徒への誘いを断る存在がいるとは思ってもいなかった。

(しかしカミーラ様はそれを楽しんでおられる…)

 七星の知ってるカミーラならば、その誘いを断った時点で殺していてもおかしくはないが、今のカミーラは断わられた事を楽しんでいるようだった。

 使徒である七星にとってはカミーラの楽しみが何よりの楽しみだ。

 だから七星も自然と笑みを浮かべていた。

 

「楽しそうだな…七星」

「いえ…カミーラ様の誘いを断る男がいるとは思いませんでしたので…それで如何いたしましょうか」

 

 カミーラが自分に話を振ったという事は、それは自分にも動けという事に他ならない。

 そしてカミーラは無理矢理その男を使徒とする事を望んでいない、という事は理解できた。

 

「………特に考えてはいないな。私の誘いを断った存在は初めてだからな」

「しかしそれではスラル様が…」

「スラルとて今は何も思い浮かばぬだろう…奴とて己の意のままに動かぬ存在は初めてだろうからな」

 

(後はあの男がスラルを取るか、このカミーラを取るか、か)

 カミーラの好みのタイプではないが、かといって醜いわけではない。

 むしろその剣技はカミーラも見事な物と認めたほどだ。

 そしてあのメガラスにフォースを使わせる程の実力…使徒とするには十分な理由だ。

 が、そこでカミーラは少し頭を捻る。

 

「さて、どうしたものか…」

 

 いくらあの男がスラルの申し出を拒否したとしても、それは自分も同じだ。

 力ずくでとも考えはしたが、それをしてしまうとカミーラの支配から逃れるために、魔人へと変わる可能性が高い。

 何よりもあの男には、眼前に跪かせながら使徒にして欲しいと望む所を見てみたかった。

 そのためには己の力を見せ付ける必要がある。

 が、直接力を見せるのは流石に厳しい…何よりも魔王の命令は絶対、ランスに己の力をぶつける機会は残念ながら無い。

 

「思いもしなかったな…」

「カミーラ様?」

 

 カミーラは自嘲するように唇を歪める。

 

「まさか私が人間の事で悩む日が来るとはな…だがそれも悪くは無い…」

 

 どこか楽しそうに笑うカミーラに対し、七星は頭を捻る。

 己の主のためならばどんな事でもする覚悟が七星にはある。

(その人間…どのような人間か一度見極める必要があるか)

 

「カミーラ様…私もその人間と話がしたく思います」

「………いいだろう。許す」

「はっ」

 

 

 

 魔王の間…日が沈んでから、ケッセルリンクは魔王スラルに呼ばれていた。

 夜以外だとどうしても体が上手く動かないケッセルリンクには有りがたかった。

 

「何でしょうか。スラル様」

「うむ…あの男だが、残念ながらレベルの件では無理だった」

「そうですか…」

 

 ケッセルリンクはやはり…という思いと、ランスのレベルの問題が解決しなかった事で複雑な思いを抱えていた。

 この世界の強さの基準はやはりレベルであり、それが上がらないという事は誰にとってももどかしいものだ。

 

「他に何か無いものか…あの男を魔人にするための材料は…」

「それは…」

 

 自分の主が悩んでいるが、ケッセルリンクには到底思いつく事が出来ない。

 改めてあの男というのが、自分の想像以上の思考を持った人間だと思い知らされていた。

 勿論その部分は自分にとっては好ましい事だが、その好ましい部分こそが魔王の僕たる魔人になる事を拒んでいる。

 自分の主とランス…ケッセルリンクもその間で揺れていた。

 

「ランスは女以外に対しては、執着心があまり無いようなので…」

「うむ…永遠の命、権力、財宝…それら全てがあの男にとっては興味の無い事か」

「女のためならば魔人とでも戦う男なのですが」

 

 そのためならば如何なる手段をも取る男なのだが、それ以外の事に関しては本当にさっぱりだ。

 ある意味分かりやすい性格かもしれないが、実際にはまるであの男の事が分からない。

(だがそこも魅力的だと思うが)

 何時の間にかランスの事を考えている自分に気づき、思わず赤面する。

 

「ケッセルリンク。お前からも話して貰う事は出来ないか?」

「話はしてみますが、恐らくは意味は無いでしょう」

「お前でもか?」

「ええ…まだ短い付き合いですが、あの男はそういった面では首を振らないでしょう。あの男の矜持といいますか…」

 

 スラルはため息をつくが、その顔には明るさが濃い。

(それでこそ我が勧誘する価値が有るというものだ。魔王としてではなく、スラルとしてあの男を部下に欲しいものだ)

 

「一先ずは話してみてくれ。それとなくな」

「はっ…」

 

 

 ケッセルリンクは魔王の間から下がるが、どうしたものかと頭を捻る。

(ランスならばやはり女を…というのが一番良いのだろうが、女を宛がった所で首を振るとも思えないな…)

 ランスは確かに女が好きだし、セックスも好きだろうが、どちらかと言えば自分の力で女性を口説く事の方が重点を置いている気がした。

 自分の時もそうだった…初めての時はあんな感じだったが、あの魔人オウゴンダマを実際に倒して見せた。

(それからは寧ろ自分の方が…いや、考えるな)

 オウゴンダマを倒した後の自分の事を考えて、慌てて首を振る。

 

「地道に説得を続けるのが一番か…」

 

 ケッセルリンクがランス達が居る部屋の前に来た時、そこからランスとレダ以外の気配を感じる。

(…妙だな。この時間は私の担当だったはずだが)

 

 

 

 ケッセルリンクがランス達の部屋に来る少し前、この部屋には一人の人間…いや、使徒が訪れていた。

 

「はじめまして。ランス殿、レダ殿。私はカミーラ様の使徒、七星でございます」

 

 七星と名乗ったカミーラの使徒は、人間であるランスにも丁寧に頭を下げる。

 これがただの人間ならば七星もこんな態度は取らない…相手は自分の主が使徒に欲しがる存在故に、七星もそれに倣った態度を取る。

 七星は改めてランスを見る。

(なるほど…カミーラ様が使徒として欲しがるのも納得がいく)

 自分がこの部屋に入ったとき、ランスは自分を鋭く見据えた。

 その手が剣の柄に触れていた所を見ると、この男はここから脱出する事も視野に入れているのを理解する。

 勿論自分がそう簡単にやられるとは思わないが、相手は自分の主にすら手傷を負わせる程の手練れだ。

 こうして相対していても、まるで抜き身の剣を突きつけられている気分だ。

 一方のランスはというと、

(こいつ…何処かで見た事あるような気がするぞ)

 そんな事を考えていた。

 男に関してはとことん覚えていないため、目の前の存在がカミーラの使徒である事も忘れていた。

 正確には七星と一緒にいたもう一人の使徒の影響が強すぎるのだが。

 

「男が何の用だ」

 

 ランスの声はどこまでも冷淡だ。

 まるで自分には興味が無いという感じの態度にも、七星は苦笑いを浮かべるだけだ。

(男には興味が無い…という感じですか)

 

「いえ、何故カミーラ様…そしてスラル様の誘いを断られたのか気になりまして」

 

 それは七星も興味がある事だった。

 あのプラチナドラゴンといわれるカミーラに声をかけられた時、七星は歓喜に包まれすぐにカミーラの使徒となった。

 それからカミーラに仕えて来たが、自分の主は非常に気難しい存在だ。

 しかしそれでも誇り高く、やる時はやられるお方だとも思っている。

 そんなカミーラに使徒に誘われながら、何故この人間はその誘いを断ったのか…どうしても知りたかった。

 

「…何でお前等は同じ事を聞くんだ。いい加減に腹が立ってきたな」

「それは申し訳ありません。カミーラ様は理由を話してくれないもので」

「だから詰まらんからだ。魔人などにも興味は無い」

「詰まらない…ですか」

 

 ランスから帰ってきた答えはやはり七星にも理解できないものだった。

 人間の事は七星も知っているが、人間も魔人になりたがるのが普通だ。

 欲望に弱い人間ならば猶更…だが、目の前の人間はそれに興味が無いというのだ。

 

「…魔人に興味が無いとは意外でした」

「俺は魔王の下僕になる気は無いし、魔人の下僕にもなる気は無い」

「成程…そうですか」

 

 七星は、カミーラがランスに興味を持ったのを理解できた。

 普通の人間とは違う考え方を持っており、魔人の地位にも使徒にも興味が無い。

(カミーラ様は…この人間を跪かせたいという事か。そして己の意志で使徒にさせる…その気でいらっしゃる。ならば少しつついてみるか)

 

「しかし使徒となればカミーラ様の寵愛を授かる事が出来ますよ」

「…む」

 

(効果が有り、ですか…)

 ランスがカミーラとセックスした時は、何れもカミーラが動けない時にしただけだ。

 だとするとカミーラと普通にやれる、というのはランスにとっても魅力的だった。

 

「うーむ…」

 

 しかし、とも思う。

 カミーラは結構独占欲が強そうだし、何よりあの時ゼスでの動乱の時には人間に対しては苛烈な態度だった。

 100人強姦の時もそうだし、躊躇なく人間を殺していた事を考えると、やはり割に合わない。

 

「いや、やっぱりないな。俺様は一人の女に縛られる男ではない」

「そうですか…」

 

 使徒の自分からすればカミーラの寵愛は何よりのものだが、目の前の人間にはあまり効果が無かったようだ。

(ですが彼の人となりは大分わかりましたね)

 この男は誰かに縛られるのを嫌う人間だ…あくまで自由が好きであり、魔人や使徒という立場に縛られるのが嫌なのだ。

 だがそれは同時に、カミーラの使徒として迎え入れるのも難しい事を表していた。

 

「わかりました。では私はこれで…」

 

 七星は優雅に一礼すると、そのまま部屋を出ていく。

 

「人気ねーランス」

「男なんぞにモテても嬉しくもなんともないわ」

 

 

 

(ふむ…これはどうしましょうか)

 話してみて改めてあの男の事が分かった。

(カミーラ様が使徒に迎え入れようとしたのも納得はいきますが…少々危険な男かもしれません)

 あの男は自分の主と同じく、誰かに支配され、束縛されるのを嫌うタイプだ。

 そして自分の主は支配を良しとする性格ゆえに、あの男を完膚なきまでに支配をしたいのだろう。

(ですがそのためには…スラル様が問題ですか)

 カミーラが力でランスを手に入れないのは、主である魔王の存在が大きい。

 あの男ならばカミーラの支配を逃れるために、魔人になる事は十分に考えられる…だからカミーラも力づくという手段を取らないのだろう。

 七星は色々と手を考えながら、自分の主が待つ城に戻っていった。

 

 

 

「そうか…あの男、カミーラの使徒か」

 

 七星と入れ替わりに部屋に入ってきたケッセルリンクに、レダはこれまでの経緯を話す。

 

「そしてカミーラはランスを使徒に誘っているのか…」

 

 魔人カミーラとはあの時以来顔を合わせていないが、一体何があってカミーラがランスを使徒へと勧誘しているのか分からない。

 ランスがそれを断っている事に一先ず安堵するが、それでもまだ安心は出来ない。

 

「改めて言おう。ランス、魔人になる気は無いのか?」

「無いな」

「…即答か」

 

 ケッセルリンクの問にもランスは即拒否の回答を出す。

 ここまで言ってダメならば、ランスは本当に魔人に興味が無いのだと思い知らされる。

 しかしケッセルリンクも、スラルのためには何とかしてやりたいとも思う。

 命を助けられたのもそうだが、あの魔王は…いや、魔王となってしまった少女には頼れる存在が必要だ。

 自分とランスならばそれが出来る、という思いもある。

 

「その…お前が魔人となれば…私を好きにしても構わないのだぞ」

「何を言っている。魔人だろうが魔人じゃ無かろうがお前は俺の女だ」

 

 その言葉にケッセルリンクは複雑な表情を浮かべる。

 ランスにとって自分は魔人ケッセルリンクではなく、どこまでもケッセルリンクとして見てくれているという事。

 そして自分という存在をもってしても、ランスの考えを変える事は出来ないという事。

 

「お前は意外と頑固なのだな…しかし、スラル様にしろ、カミーラにしろ無理矢理迫ってきたらどうするつもりだ?」

「その時はその時だ。魔人にしろ使徒にしろやめる方法くらいはあるだろ」

「…お前なら出来そうなのがな」

 

 ランスの言葉にケッセルリンクは苦笑いを浮かべる。

 確かにこの男ならやりかねない、というのは短い付き合いだが嫌というほど理解させられている。

 そしてそれだけの強さ、実行力、運を兼ね備えた男だ。

 

「お前は本当に不思議な奴だ…欲望にまみれているかと思えば、魔人という力には興味が無いのだからな」

「与えられたものなど俺様には意味の無い物だ。魔人が好き勝手してもそんなの当たり前だろ。人間の俺様だから意味があるのだ」

 

 それはランスの矜持とも言えるのだろう。

 その言葉を聞いてケッセルリンクはため息をつく。

 カラーだった時はそういった所も魅力の一つだったが、その魅力が主の願いを拒んでいるのかと思うと複雑な気持ちだ。

 カミーラに対しても同じ理由で拒んでいる事が救いと言えば救いだ。

 

「それよりも俺は今非常に苛立っている」

「何がだ?」

「ここに閉じ込められてる事に決まってるだろうが! 何時まで閉じ込めるつもりだ!」

 

 ランスの言葉にケッセルリンクはすまなそうな表情を浮かべるも、

 

「だったら魔人になればいい。魔人になれば自由になるぞ」

「そういう事ではないわー! 俺様は冒険に出たいのだ!」

 

 ランスの絶対的な趣味…いや、生きがいはやはり冒険だ。

 村を出てからランスはずっと冒険を続けてきた…世界にはどうにもできないことがあるが、それすらも打破できる、その達成が何よりも気持ちがいい。

 それは今になっても変わらない。

 確かに人間とは一人しか会っていないし、魔人やムシとも戦ったが、それでも何処か冒険へ行きたいという気持ちは微塵も変わらない。

 魔王城に軟禁され3日だが、やはり何処にも行けないというのはランスにとっては多大なストレスだ。

 

「だからこれしか出来る事は無い!」

 

 だからランスはそのストレスを性欲という形で発散しようと、ケッセルリンクを抱き上げる。

 そしてレダも一緒にベッドに押し倒すと、まさに早業といった感じで全裸になる。

 

「…お前はそれしかないのか」

「まあランスはずっとそうだったけどさぁ…」

 

 ケッセルリンクもレダも呆れるが、やはり抵抗らしい抵抗は無い。

 

「がはははは! こういった時はセックスに限る! それにケッセルリンクも期待しているではないか」

「あ、本当だ。昨日とは違う下着着てる」

「…これはただの身嗜みだ」

 

 顔を赤くするケッセルリンクにランスは辛抱出来ないという風に押し倒す。

 こうして魔王城での夜は更けていく。




今回は話が本当に進まなかったですね…
次こそ話を進めていきます


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翔竜山へ

「で、何故俺様はこんな所にいるんだ」

「…私に聞かれても」

 

 そこはまさに世界の頂上へと至る道。

 無数の強力な魔物、かつてはこの世界の頂点であり、メインプレイヤー達が住まう山。

 翔竜山、そう呼ばれる山へとランスとレダは登っていた。

 その道は昔ランスが登ったような生易しい道ではなく、さらに過酷な道成りだった。

 後世にてある程度整備された道は無く、そくにあるのは獣道のみという有様。

 

「逃げようにも逃げられんな…」

「まあそうよね」

 

 ランス達の頭上には、魔人カミーラがランス達を見下ろしていた。

 その目はランス達を見ているのかは分からないが、流石に上空に魔人がいては逃げるのは難しいとランスは思った。

 さらに言えば何処へ逃げればいいのかもわからない為、せっかく外へと来たのに逃げれない状況に苛立ちを隠せなかった。

 

「レダ、まだ翼は出せんのか」

「うーん…まだ無理ね。エンジェルナイトとしての力が出せないから…防御技能と神魔法は問題無いんだけど」

 

 レダはここに来てから、未だにエンジェルナイトとしての力を取り戻せてはいない。

 本来であれば空を飛ぶ事など簡単なのだが、その力を出せないのは本人としてももどかしかった。

 そのせいで魔人の無敵結界に攻撃を阻まれるという現実がある。

 もっとも一人では流石に魔人を倒す事は出来ないが。

 

「しかしカミーラ…どういうつもりだ」

 

 ランスはここに来る前の事を思い出す。

 

 

 

「ランス…貴様、暇のようだな」

「なんだいきなり」

 

 カミーラが部屋を訪ねるなりいきなり言い放つ。

 相変わらずカミーラからは真意を伺う事は出来ないが、その顔にはランスが知っている嫌悪、諦めは見えない。

 ランスも既にこのカミーラは、自分の知っているカミーラとは違うと理解していた。

 

「ならば…私と来い。退屈凌ぎをさせてやろう…そこの女も来る事を許そう」

「何だと?」

「…一体どういうつもりよ」

 

 ランスとレダはカミーラの言葉に警戒する。

 ここは魔王の城であり、魔人とはいえカミーラがランス達を外に出すとは考えられなかった。

(罠か?)

 以前ランスはカミーラに命を狙われており、罠である事を警戒する。

(…いや、違うか。こいつはそういった面倒くさい事をしそうにないしな)

 

「…まあいいだろう。確かに暇だからな」

「いいの? ランス」

 

 レダは今でも警戒しているが、ランスは問題無いという風に手を振る。

 

「こいつはそんなまどろっこしい事はせんだろ。殺すならとっくに殺してる」

 

 その言葉にカミーラは笑みさえ浮かべる。

 それは冷たい笑みではなく、ごく自然な笑みにランスには映った。

 

「では行くぞ」

 

 ランスとレダはカミーラについて歩く。

 ランス達は初めて外に出れたが、そこは魔王の城だけあり、やはり非常に警戒は厳しい。

 そこらに魔物隊長が歩き周り、中にはランスも知る魔物、バルキリー等の姿も見える。

 その魔物達がランス達を見て何も驚いたりしない所を見ると、カミーラがランス達を連れ出すのは既に知られているのだろうとレダは察する。

(ランスは気楽すぎるのよね。シィル達が苦労しているのが分かるわ…私がしっかりしないとね)

 レダは外に出るまでの道筋を全て記憶するように見渡す。

 エンジェルナイトの自分の記憶力ならば、外までの道筋を覚えるなど容易い。

(…でも流石に脱出は難しいか。ただの魔物なら私とランスなら切り抜けられる…でも魔人が相手だとそれは難しい)

 現在はガルティアとケッセルリンクがランス達を警護しているが、実際には見張りも兼ねているのは分かっている。

 最近はカミーラも来るようになった事から、ガルティアが来る頻度は減ってはいるが…その意図はレダには分からない。

 

「乗れ」

「おっ、うし車だ」

 

 そこにあるのはランスも持っているうし車だった。

 何処につれていかれるかは分からないが、移動手段があるのは有難かった。

 

「カミーラ様」

 

 うし車からの側で待機していた七星がカミーラの前に跪く。

 カミーラは優雅にうし車に乗ると、ランス達もそれに続く。

 流石に魔人用に作られただけあり、その中はランスが知っているうし車よりもずっと広い。

 

「行け」

「はっ」

 

 うし車の操縦者であるうし使いが一声すると、うし達は走り始める。

 その中でランスは奇妙な違和感を感じていた。

(そういや何で使徒がこいつだけしかいないんだ)

 ランスはこの状況になり、ようやく七星の事を思い出していた。

 この使徒もかつてランスが倒したはずなのだが、現にこうしてランス達を見張っている。

 そして何よりのランスの違和感は、ランスにとっても許しがたい男であるアベルトがいない事だった。

(でもあいつは何時の間にか魔人になっとったな…それにこの状況で一度も顔を見せないのはおかしいぞ)

 ランスには嬉しくない事だが、アベルトはランスには興味深々あり、最後はランスの女達を使徒にと誘っていたほどだ。

 

「おいカミーラ」

「…何だ」

「お前の使徒はこいつだけなのか」

「そうだ」

 

 カミーラは短くもランスの問いに答える。

 が、それがランスを逆に混乱させる。

(…アベルトの奴がいないだと? どういう事だ?)

 

「…貴様は何か知っているのか」

「いや…別に」

 

 カミーラの探るような言葉にランスは言葉を濁す。

 ランスもカミーラの気質を知っているため、迂闊な言葉は控える。

 実際にはランスもこの状況を理解できないため、言葉にしても仕方が無かった。

 それ以上の言葉は発せず、ランスはそのまま眠りについた。

 

 

 

 以上が翔竜山に来るまでに起った顛末だった。

 カミーラの意図は不明だが、久々の冒険にランスのテンションは上がっていた。

 

「がはははは!」

 

 魔物を蹴散らし、時には宝箱を開けて一喜一憂したりとランスは非常に満足していた。

 

「テンション高いわねー。いい事だけど」

 

 レダも久々のランスの心からの馬鹿笑いに苦笑を浮かべている。

(あ、レベル上がった)

 今の状況はレダとしても有難かった。

 難しい事を考えなくてもすむし、何より下がった自分のレベルを上げるにはもってこいだ。

 それにやはり体を動かすのはやはり自分の性に合っていると思った。

 

「相変わらずランスのレベルは上がらないのよね」

「嫌な事を思い出させるな。あれから幸福ポックルも見つからんし…JAPANの時は結構簡単に見つかったんだがな」

 

 ランスは未だにレベル神も呼び出せないため、今現在はどれほど自分のレベルが変化したのか分からない状態だ。

 魔人を撃退したり、廃棄迷宮での冒険でも大分経験値を稼いだはずだが、最後にレベル屋で見てもらった時も結局は変化なしだった。

 レベルが下がらないのはともかく、やはり上がらないのはランスとしても辛いものがある。

 ランスの特徴の一つに上がりやすいレベルがある。

 だからこそその強さを実感しやすいのだが、今はそれが感じられないために焦燥感を感じていた。

 

「経験値パンを食べてもあんまり効果無さそうだしね」

「どうなっとるんだ全く…」

 

 最初は気楽に考えていても、やはり現実は非常だ。

 だがそれでも技能レベルはランスを裏切らず、この辺のモンスターでもランスの相手にはならない。

 ランス達は大して立ち止まる事もなく、順調に登っていた―――ここまでは。

 

「ムッ…」

 

 そこでランスは空を見上げる。

 照りつける太陽を一気に覆い隠す巨大な存在、ドラゴンがランスの頭上を飛んでいた。

 そしてランス達の前に下りてくる。

 そのドラゴンは緑色の鱗を持つ、グリーンドラゴンである。

 

「ランス。大丈夫なの?」

「問題無い。俺様がこんなトカゲに負けるわけが無いだろう」

 

 グリーンドラゴンは鋭くランス達を一瞥すると、すぐに雄たけびを上げながらランスにその爪を振るう。

 かつて魔王ククルククルやその配下の魔人達と戦ってきた存在、その一撃はまさに強力無比だが、

 

「甘い!」

 

 レダは盾を用いてグリーンドラゴンの攻撃を弾く。

 防御に優れるエンジェルナイトのレダの前では、ドラゴンの一撃でも防ぎ切れる程の力がある。

 ランスはその隙にグリーンドラゴンの鱗を切裂く。

 

「グガァァァァ!」

 

 まるで人間に傷つけられた事が信じられないように、グリーンドラゴンは声を上げる。

(やはりこの剣はいいな。やる気のない時のカオスよりも断然強いぞ)

 本気であれば、カオスはあの魔人ノスの鱗すら切れるのだが、カオス本人のやる気次第の部分もある。

 しかしこの剣はそのカオスをある意味超えている。

 魔人の体を切り裂き、巨大なムシの体を切り裂き、そしてドラゴンの鱗をも切り裂く。

 

「何よりも煩くないのがいいな」

 

 カオスはとにかく喧しいため、ランスもたまに辟易する事がある。

 この剣は当然ながら喋らないため、ランスも純粋に剣として振るうことが出来る。

 

「受けて死ね! 俺様の華麗な剣捌き!」

 

 ランスの剣がグリーンドラゴンの体を易々と傷つけ、追い詰める所をカミーラはじっと見ていた。

(ドラゴン相手にこうまで立ち回るか)

 グリーンドラゴンは確かにドラゴンの中では弱いが、それでもただの人間が勝てるような相手ではない。

 かつて魔王と戦い、そして倒したとされるドラゴンが、弱く愚かな人間によって倒されるなど考えてもいなかった。

 無論、人間とて強い存在がいる事はガルティアが証明していたが、まさかこの期間にそんな存在を二人も見るとは思わなかった。

 強いのはランスだけではなく、レダという名の人間も強い。

 ドラゴンの攻撃を盾で防ぐだけでなく、時には剣で傷つける。

 その防御力はまさに鉄壁であり、ドラゴンの攻撃はロクにランスに届いていない。

 ドラゴンの一撃は確かに強力だが、その傷もレダの魔法で癒されいる。

(スラルが魔人として欲しがる訳だ)

 未だにスラルは魔人をガルティアとケッセルリンクしか作っていないが、この二人を魔人にしようとするのは納得がいった。

 だからこそあの二人、特にランスがスラルの魔人になる事は気に入らない。

 元々カミーラは人間、それも美しい少女であるスラルが自分の上に立つ事が気に入らなかった。

 自分を無理矢理魔人にしたアベルも気に入らなかったが、それ以上にスラルが気に入らない。

 それもあって最初はランスを殺そうとも思ったが、会ってみて考えが変わった。

 自分でも驚いているくらいだ。

(ランス…か。私に傷をつけただけでなく、あのような言葉を発するとはな)

 返す返すも無礼な人間だが、何故かそれで殺す気にならなかったのは初めての事だ。

 カミーラが薄く笑みを浮かべていると、目の前の戦いには変化が訪れる。

 

「がはははは! どうしたトカゲ!」

 

 グリーンドラゴンの体は傷だらけであり、まさに満身創痍と言っても良かった。

 対するランスとレダにはほとんど傷らしい傷は見当たらない。

 グリーンドラゴンはブレスを吐くべく準備をするが、ランスとレダはそれを許さずに猛攻を加える。

 

「とどめだ! ラーンスアタターック!!」

 

 ランスの必殺の一撃がグリーンドラゴンの急所を切り裂く。

 グリーンドラゴンは断末魔の雄叫びを上げながら倒れ伏した。

 カミーラはそれを見届け、地に足を下ろすと別の方向からランス達を見ていた七星が横に並ぶ。

 

「強いですね」

「このカミーラに手傷を負わせたのも納得出来たか?」

「はい」

 

 七星はカミーラが気に入った理由の一つが理解できた。

 この男は強い…それこそ、使徒である自分をも上回るかもしれないと感じていた。

 下級のグリーンドラゴンとはいえ、相手はドラゴンでありその力は人間よりも遥かに上回る。

 

「スラル様が魔人として欲するのも理解できます」

 

 魔王スラルが無闇に魔人を作らないのは、魔人を厳選しているからだろうと思っている。

 だから未だに自らの意思で作った魔人が一人しかいない。

 後は散らばった魔血魂から復活したり、又は新たな魔人として生まれるかでしか存在していない。

 それらの魔人は全てがスラルに消されている訳ではないが、魔王はその血を初期化している事が多い。

 

「しかし如何致しますか。あの人間は魔人にも使徒にもなる気は無いようですが」

 

 七星の言葉に意外にもカミーラは笑っている。

 自分の意にそぐわぬ者をその圧倒的な力で排除して来た自分の主がだ。

 

「だからこそあの男にこのカミーラの力を見せ付ける…あの男が自らの意思で私の使徒へとなるようにな」

「カミーラ様…」

 

 七星はこのドラゴンの住まう山に来るのは気が進まなかった、と言うよりも主が再びこの地に足を運ぶ等とは考えてもいなかった。

 それだけカミーラはこの山を忌み嫌っている。

(あの男はそのカミーラ様の意思をも動かすというのですか…)

 七星はランスの方向を見ると、ランス達は何か宝箱を見つけていたようだった。

 

「…いつ見ても面妖ですね」

 

 何時の間にかモンスター…ドラゴンも含む存在が、倒されたときに宝箱を落とすようになった。

 そしてこの世界に凄まじい力を持つアイテムも存在するようになった。

 カミーラはそれらに興味は無い様だが、魔王スラルは興味があるらしく色々なアイテムをケイブリスやメガラスに回収させている。

 中には危険なアイテムもあるようで、それらを魔王自らが処分しているようだ。

 

「おっ…なんだこれは」

「なんだろうね、これ」

 

 ランス達が宝箱を開けたとき、そこに入っていたのは白色のドラゴンの像というべき物だった。

 それを見たカミーラと七星の動きが一瞬止まる。

 

「…カミーラ様」

「…まさか、な」

 

 カミーラの記憶に間違いが無ければ、今ランス達が手にしたアイテムは『ドラゴンの加護』と呼ばれる凄まじいアイテムだ。

 ランスはその価値が分からないようだが、同じドラゴン族であるカミーラと七星にはそれが分かる。

 

「如何なさいますか?」

「…放っておけ。奴が手に入れたのであればそれはそれで構わぬ。むしろスラルの方が欲しがるだろう」

「ハッ…」

 

 七星はその言葉だけで主が何を言いたいか理解した。

 

「ランス殿」

「何だ」

「そのアイテムは非常に貴重な物です。ですのであなたがお持ちになられた方がよろしいかと…」

「言われんでも俺が見つけたなら俺の物だ」

 

 今は存在しないが、ランスは自分の城にこれまでの冒険で手に入れた貴重なアイテムを収集している。

 だからランスにもこのアイテムが高価な物であるとは理解していた。

 

「がはははは! ドラゴンが落としたアイテムならばさぞやいいアイテムなんだろう!」

 

 ランスの言葉に七星は苦笑いを浮かべる。

(実際には貴重という言葉ではすまないと思うのですが)

 

「でもさ…一体カミーラの目的は何なの? まさか本当に退屈しのぎなんて事は無いでしょ」

 

 レダの言葉は何処までも厳しい。

 ランスは久々の冒険に少しは満足しているようだが、カミーラの真意が掴む事が出来ない。

 

「ええ…カミーラ様の目的は別にあります」

 

 七星が見据えるカミーラの視線の先には、その頂が映っている。

 勿論七星はその目的を知っている。

 本来であればそのような事は止めて欲しいのだが、主の願いを叶えるのが使徒の役目だ。

 

「七星…」

「申し訳ありません、カミーラ様」

 

 カミーラの声に七星は跪く。

 

「ランス。お前の腕、見事と言っておこう。そしてその運もな」

「…お前、悪いもんでも食ったか?」

 

 まさかカミーラが素直に人間の事を褒めるなど、過去のカミーラとの事を考えれば有り得ない事だ。

(どうなっとるんだ…まさか本当に別世界とか言うんじゃないだろうな)

 過去にミラクルの力で別の世界に行ったり、ジルを追いかけて亜空間に行ったりはしたが、まったく同じ容姿をした奴が自分の事を知らなかったり、一度殺した奴が生きていたりと訳が分からない。

 

「次は私だ」

「あん?」

 

 カミーラはゆっくりと歩き出す。

 ランス達もカミーラの後についていくが、不思議な事にあれ以降ドラゴンが襲ってくる気配は無い。

 

「で、何処に向かっとるんだ」

「直ぐに分かる」

 

 ランスの問にもカミーラは短く返すだけだ。

 翔竜山の中枢辺りにつくと、カミーラがその歩みを止める。

 すると地の底から響くような声が聞こえてくる。

 

「何用ダ…カミーラヨ…」

「うおっ!」

「これは…!」

「クッ…」

 

 その声は圧倒的なプレッシャーを持ってランス達に圧し掛かる。

 

「貴様に会いに来た…と言えばどうする」

「ほう…貴様がカ…ドラゴンの牙を腑抜けにした忌まわしきドラゴンがカ!」

 

 その怒声と共に地が揺れ、それが姿を現す。

 

「久しぶりだな。ノス」

 

 それは非常に巨大なドラゴンだった。

 小さな山くらいはありそうな巨体に、黒光りする鱗…その姿が、普段は男の事など覚えていないランスの頭を刺激する。

 

「化物ジジイか!?」

 

 ランスはリーザス城で戦ったある魔人の事を思い出す。

 あの時は魔王ジルの事で頭がいっぱいになっていたが、その前に戦ったドラゴンの魔人がいた。

 その戦いではランスも含め、全員が満身創痍になる戦いだった。

 その時の魔人が今、目の前に存在していた。

 

「カミーラ…魔人となっタ程度で勝てると思うカ」

「貴様を殺すくらいは簡単だ」

 

 こうして2体のドラゴンの戦いが始まった。

 

 

 

 ―――天界―――

 

 新たなメインプレイヤーが生まれてから400年程度。

 魂管理局クエルプランは普段と同じように仕事をしていた。

 ドラゴンに変わり、新たなメインプレイヤーとなった人間という存在は遥かに劣り、そしてドラゴンとは比較にならない速さで増えて、そして消える。

 それと同じく作られた男の子モンスター、女の子モンスターもまた人間と同じように増えて、そして消えていく。

 1級神クエルプランはそのすべてを把握している。

 だからこそ、この異質な存在に気付いた。

 

「一体何なのでしょうか…この魂は」

 

 その存在は急に現れた。

 普通の人間のように生まれるのではなく、突如として出現した。

 それもエンジェルナイトと一緒に。

 

「ALICEの役目ではあるのですが」

 

 メインプレイヤーの事は、人類管理局ALLICEの役割ではあるが、突如として現れた魂に関しては自分の領分でもある。

 

「ですが…情報がありません」

 

 その魂から全ての情報が分かるのだが、登録されていない魂に関してはそれも分からない。

 一緒にいるエンジェルナイトは、4級神であるレダを元に作られているというのは分かるが、それは自分の領分では無い。

 

「困りましたね」

 

 これまでの400年と少し、特に問題らしい問題は無かったが、ここに来て初めて問題に直面している。

 無論、大した問題ではない。

 それこそエンジェルナイトを派遣すれば済む話なのだが…今は魔王と魔人と共にいるのが気になる。

 あの我儘ALICEならば面白そうだと放置しそうだ。

 

「それでも一度ALICEには話してみましょうか…気は進みませんが」




カミーラの調べるべくランス6を起動
まさかのセーブデータ無し
やり直すのに時間がかかったと言い訳…
再び投稿が戻るようにがんばります


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カミーラとノス

「やるではないカ! カミーラ!」

「消えろ…ノス!」

 

 ランスの前では魔人カミーラと地竜ノスとの激戦が繰り広げられていた。

 

「結界は使わぬカ…!」

「必要ない」

 

 カミーラは無敵結界を使わずにノスと戦っていた。

 それによりカミーラの体にもノスの一撃が届いている。

 カミーラのブレスがノスの体にあたるが、その異常なまでに硬い体にはそこまでダメージを与えているようには見えない。

 それはノスも同じであり、ノスのブレスをカミーラはあっさりと回避してみせる。

 

「…なんでカミーラがあの化物ジジイと戦っとるんだ」

 

 ランス達は岩場の陰に隠れ、このドラゴンの戦いを見ていた。

 いきなり始まった人外の戦いには流石のランスも困惑していた。

 ましてや相手はあのノスとカミーラ…ランスが過去に戦った魔人の中でも極めつけの強敵だった。

 

「恐らくはあなたに力を見せつけるためかと」

「うーん…それがなんであのドラゴンと戦う事に繋がるの?」

 

 七星の言葉にレダが疑問を投げかける。

 カミーラがランスを使徒へと誘っているのは知っているが、それが何故あのドラゴンと戦う事になるのかが理解できない。

 

「ランス殿…あなたはカミーラ様の事を知っているようですが、その過去は知っていますか?」

「知らんな。特に興味も無かったしな」

「そうですか…」

 

 七星は少し悩むが、カミーラの事を話す事に決める。

 主のプライドの事もあるが、何よりも主の望みを叶えるのが使徒である自分の役目だと考えた。

 

「カミーラ様は過去にドラゴンの王冠と言われていました」

「ドラゴンの王冠? なんだそりゃ」

「言葉通りです。カミーラ様はドラゴンの女性…ドラゴンを生む事が出来る唯一の存在として、ドラゴンの間で激しい奪い合いが起こってきました」

「ふーん…まあ一番強い奴がいい女を手に入れるのは当然の事だ」

「まだ幼かったカミーラ様には苦痛だったようです…ある日、魔王アベルがカミーラ様をドラゴンの王から奪い、自らの魔人としました。その結果、魔王アベルとドラゴンの王マギーホアの間で戦いが起こり…魔王アベルは破れ、ドラゴンが世界の頂点に立ちました」

「なんだと?」

 

 七星の言葉にランスは驚く。

 あのカミーラが、という感想と、ドラゴンを生む事が出来るという唯一の存在というのが驚きだった。

(そういやドラゴンは何度か見た事はあるが、女のドラゴンは見た事がなかったな…ドラゴン女はモンスターだしな)

 

「その結果魔王アベルは破れましたが…ドラゴンを産めなくなったカミーラ様は既にドラゴンの王冠ではありませんでした。その結果、ドラゴン達は争う理由を無くしました」

「なんだそりゃ」

 

 ランスからすれば意味が分からない話だ。

 子供を産めなくなったから争う理由を無くすなど、人間のランスからすれば馬鹿げた話だ。

 

「ですが全てのドラゴンが争いを忘れた訳では有りません…地竜ノス、彼はドラゴンから闘争本能を奪い去ったカミーラ様を嫌っております。そしてカミーラ様もそんなノスを疎ましく思っています」

「ふーん…まあ何となく分かるな」

 

 こうしてノスの姿を見ている内に、あのリーザス城の時の事を思い出す。

 あの魔人は確かに自分達との戦いを楽しんでいる節があった。

 あの戦闘狂ともいえるノスにとっては、闘争本能を消し去ってしまったカミーラは許せない存在なのだろう。

 

「つまり奴らは仲が悪いという事か」

「端的に言えばその通りです。ですが、カミーラ様には無敵結界が有りますし、ドラゴンそのものが今の世の中に干渉をしないという事から、ノスからカミーラ様に接触する事はありませんでしたが…」

「そんなカミーラが何のために地竜と戦うのよ。しかも無敵結界も使用しないで」

 

 カミーラが今は無敵結界を使用していないのは、カミーラの戦い方を見ていれば分かる。

 本来は避ける必要が無いノスの攻撃を、態々回避しているというのがその証拠だ。

 

「それは私にも分かりませんが…恐らくはランス殿と出会われたからではないでしょうか」

「はぁ? 別に俺は何もしとらんぞ」

 

 七星の言葉にランスはこれまでの事を思い出すが、特に何かをしたり言った記憶は無い。

 命を狙われたから抵抗し、何故魔人となるのを拒んだのかを聞かれたくらいだ。

 

「カミーラ様の御心は私にも分かりません。ですが、カミーラ様はランス殿に自分の力を見せたいのではないかと」

「うーん…魔人の考える事は良く分からないわね」

「あいつは特に難解な奴だと思うがな」

 

 ランスはそう言いつつも、カミーラの戦いを見る。

 かつてランスが戦った存在が、今目の前で戦っているのを見るのは非常に不思議な光景だ。

(まああのカミーラが見てろと言うのならば見てやるか…思えばカミーラとはロクに話も出来んかったからな)

 ゼスでの戦いの後には何度か犯したが、カミーラは特に反応する事は無かった。

(今思うと非常にもったいなかったな…)

 あの時はただ自分が楽しんだだけであり、Hに対して考え方を少し改めた今となっては惜しいとも考えている。

(そうだな。あの時のカミーラは人間を完全に見下していたが…今の状況はチャンスかもしれん。せっかく別の世界に来たんだ。カミーラも俺様にメロメロにさせるのもいいかもしれん)

 ランスは決意を新たにすると、二人の人外の戦いを集中して見始めた。

 

「効かぬナ! カミーラ! プラチナドラゴンといえどもその程度カ!」

「ほざくなよ、ノス!」

 

 カミーラの破壊力のあるブレスがノスの体に当たるが、ノスはびくともしない。

 その巨体と異常に硬い鱗はカミーラのブレスすらも有効打にはならない。

 カミーラは魔法も織り交ぜてノスに攻撃をしかけるが、それでもノスの体はまったく揺るがない。

 

「うーむ、中々勝負がつきそうにないな」

「そうね。無敵結界が無しにも関わらず、ややカミーラが有利だろうけど…それでもあの地竜に決定打を与えられていない」

 

 ランスもレダも一流の戦士であり、この2体のドラゴンの戦いが長引くだろうと予想を立てる。

 攻撃を当てる事が出来ないノスと、ダメージを与えてもその硬さと再生力で決定打を与えられないカミーラ、対照的ではあるがその戦いはやはり凄まじい。

 カミーラもその破壊力がある爪でノスを切り裂くが、その程度ではノスは怯みもしない。

 ノスの巨大な爪も、機動力のあるカミーラにはかすりもしない。

 

「ドラゴンと魔人の戦い…凄いわね」

 

 レダが二人の戦いを見ながら呟く。

 エンジェルナイトとはいえ、流石にこの戦いには戦慄を覚えていた。

 高威力のブレス同士がぶつかり合い、レーザー級の魔法が無数に飛び交っている。

 両方に共通するのは、お互いに傷がほとんど無い事だ。

 ノスはその耐久力と防御力で、カミーラはその高い機動力で。

 

「長くなりそうだな」

 

 人間であるランスは魔人と比較すると当然ながら全てが劣っているため、魔人に対しては速攻で勝負をかける必要があったが、魔人とドラゴンの戦いは長引くようだ。

 その再生力の高さから、どうしても長期戦にならざるを得ないのだろう。

 

「ランス、どっちが勝つと思う?」

「知らん。カミーラが無敵結界を使えば勝つだろ。何で使わないかは分からんがな」

 

 この戦いが成り立っているのは、カミーラが魔人としての特性を使っていないからにすぎない。

 もしカミーラが無敵結界を使って戦っていれば、カミーラが絶対に勝利する。

 しかし、何故かカミーラは無敵結界を使わずにノスと戦っているのは、ランスとしても不可解だった。

 そして何よりも、

 

「随分と楽しそうだな。カミーラ」

「…そう? 無表情に見えるけど」

 

 何時もと同じ様な無表情にレダには見える。

 だがランスには何処となく違うほうに感じられる。

 ゼスでの戦いの時は、怒りと共に襲い掛かってきていた。

 ここでカミーラと戦ったときは、カミーラは確かに笑っていたが、それはどちらかと言えば嗜虐的な笑みに見えた。

 だがこの戦いでは、カミーラは何処か楽しんでいるようにランスには見えた。

 

「ランス殿にはそう見えますか」

「何となくな」

 

 長年カミーラに仕えている七星には、今のカミーラは何処か気負いすぎているように見える。

 無敵結界を使わずにドラゴン…しかもノスとの戦いとなると、主でも危ういのではないかと危惧している。

(ですが…)

 カミーラは淡々とノスに攻撃を仕掛けているが、確かに今までとは違うようにも見える。

 それは狩ではなく、純粋に強敵を倒すというドラゴンの本能と言うべきか…カミーラの顔に生気が宿っているように見えてきた。

(これもランス殿の影響でしょうか…)

 七星はランスとカミーラの間で、どの様な会話が交わされたかは知らない。

 しかしそれから自分の主が楽しそうに過ごしているのも事実だ。

 そして自らこの忌まわしき山に来て、主を敵視し続けているノスに戦いを挑む。

 これまでの自分の主からすれば考えられない事だ。

 

「ククク…カミーラヨ、貴様が最初かラその気概ヲ見せていれバ、ドラゴンは堕落しなかっタだろウ!」

「ドラゴンなど私には関係の無い事だ。貴様が気に入らないから殺す、それだけだ」

 

 カミーラの爪がノスの顔面に突き刺さるが、それでもノスは笑う。

 笑いながらもその口奥には赤い輝きがともり、その口からブレスが吹き荒れる。

 カミーラはその一撃を宙に飛ぶ事で避け、自分もブレスをノスに浴びせる。

 

「無駄ダ! 貴様が攻撃すれバ攻撃する程我ガ体ハ硬くなっていク!」

「ならばその体ごと打ち砕くのみだ」

 

 傷ついたノスの体から新たな肉が隆起し、そこを新たな鱗が覆う。

 地竜ノス、その強さはドラゴンの中でも指折りの硬さと、凄まじい再生能力だ。

 カミーラの一撃も重くノスの体を傷つけてはいるが、その防御力は傷つくたびに上がっていく。

 

「少し旗色が悪くなってきたな」

 

 長時間の戦いの結果、カミーラとノスの戦いに変化が出てくる。

 手数が多いのはカミーラだが、そのカミーラがどんどんと押され始めてきていた。

 カミーラ自身、恐らくはその理由には気づいていないだろうが、魔人や使徒といった強者と常に戦い続けてきたランスには分かる。

 

「どういう事? ランス」

 

 エンジェルナイトであるレダにはその理由は分からない。

 絶対的な強者として作られているため、ランスほど見極める事は出来ていないのだ。

 

「ランス殿…どういう事ですか。カミーラ様が押しているように見えますが」

「フン、だからお前達はダメなのだ。よく見てみろ。カミーラの動きが明らかに鈍ってきているだろ」

 

 レダと七星はランスの言うとおり、カミーラの動きを注視する。

 そして少しだが気づく…ランスの言うとおり、カミーラの動きが少しずつ鈍くなってきている。

 

「ランス! どういう事!?」

「ランス殿?」

 

 2人の問いにランスは鼻を鳴らす。

 

「飛ばしすぎだ。カミーラに比べて化物ジジイは殆ど動いてないだろ」

 

 地を這うノスに対し、宙を舞うカミーラはその何倍もの体力を消耗している。

 それがだんだんと地力の差として現れてきたのだ。

 

「ククク…カミーラよ。貴様ノ、いや、今の魔人ノ欠点だナ」

「何だと…」

「貴様ハ無敵結界に頼りすぎてイル。だからソレに頼らヌ戦いガ出来ぬのダ」

「貴様…!」

 

 ノスの言葉にカミーラが激昂し、ノスに向かって爪を振るう。

 その一撃は確かにノスの頭を貫き、血を噴出させるがノスはそれに構わずに口からブレスを吐きだす。

 カミーラはその一撃を避けるが、完全には避けきれずに、その髪の一部が燃える。

 

「無敵結界を使エ! そうでなけれバ楽しめヌ!」

「よくもそこまでこのカミーラを愚弄してくれる!」

「ククククク! 吠えルか、カミーラ! いカにプラチナドラゴンとイエどモ、貴様に負けルこのノスでは無イ!」

 

 ノスの放つブレスがカミーラを襲い、カミーラも同じくブレスで対抗するが、疲労からかカミーラのブレスがノスのブレスに打ち負ける。

 カミーラは翼を使いノスのブレスを防ぐが、それにより視界を塞がれると、その死角からノスの腕が振るわれる。

 その巨大な腕はカミーラの体を吹き飛ばすだけでなく、カミーラを地に叩き付ける程の威力がある。

 

「やっぱりな」

「ランス? 説明くらいしてくれない」

 

 ランスは納得しているようだが、レダは今一良く分かってはいない。

 

「ああ…カミーラの奴、今まで追い込まれたり、長時間戦った事無かっただろ」

「…その通りです」

 

 ランスの言葉に七星は頷く。

 確かに自分の主がここまで傷つけられる事など無かった。

 その圧倒的な力で、全ての存在を捩じ伏せてきたきたのだ。

 

「だからだな。こういう風になった時、どうするのかっていう考えが無いんだ」

「!」

 

 これはランスが今まで魔人と戦って来た経験からくるものだ。

 魔人は人間を遥かに上回り、ランスとて真正面から魔人と戦おう等とは微塵も思っていない。

 正面から堂々と戦うのはバカのやる事だとさえ考えている。

 勿論、時には正面から戦うしかない状況もあるのだが、基本的にランスはその狡賢さで相手を倒してきた。

 不意打ち、騙し討ち、ランスにとってはそれは全て勝つための手段であり、方法を選ばない事が殆どだ。

 だからこそ、これまでに何体もの魔人を倒し、退けてきたのだ。

 

「哀れだナ、カミーラ。無敵結界が貴様ヲここまで弱クした。貴様ハ所詮、弱者を嬲り者ニしてきタだけニ過ぎヌ」

 

 ノスがカミーラに向かってその巨大な体で迫る。

 カミーラは立ち上がると、鋭くノスを睨む。

 

「ダガこのノスは違ウ! 腑抜けタ奴ラとは違イ、今でモ闘争ヲ忘れてハおらヌ! 無敵結界ヲ使わズにこのノスを倒スだト!? 思い上がるナ!」

「ノス…今すぐその口を閉じろ」

「ククク…今かラでも遅くハ無イ。無敵結界ヲ使うガイイ。貴様にハソレがお似合いダ!」

「…死ね!」

 

 ノスの挑発にカミーラは怒りの表情で突っ込むが、それはその巨大な腕に阻まれ、今度はそのブレスがまともにカミーラを直撃する。

 

「そろそろだな」

 

 ランスは腰に下げていた剣を抜く。

 

「ランス殿! カミーラ様はまだ…」

「勝ち目のない戦いをするのはバカのやる事だ。それにこんな所でカミーラが死ぬのは勿体無いからな」

「そこまで行くと逆に尊敬するわね…」

 

 レダも盾と剣を構えると、何時でも飛び出せるように構えを取る。

 迂闊にノスの前に出る事はしない…今ここでノスを倒す必要性は全くないからだ。

 

「カミーラよ…そノ貴様の生ヲ、同じドラゴンであルこのノスが終わらせテやろウ…」

「…もう勝ったつもりか、ノス」

 

 カミーラも決して地に倒れずにノスを睨むが、ダメージは明らかにカミーラの方が大きい。

 ノスも当然多くの傷を作り体中から血を流してはいるが、その戦意は微塵も揺るがない。

 

「諦めヨ。所詮は貴様ハ王冠でしかナイ。いかニ魔人トなろうとモ、その弱サは隠せヌ」

「…」

 

 ノスの言葉にカミーラは何も言い返す事が出来ない。

 その言葉はあまりにも事実でしか無かった。

 長い間を闘争に明け暮れていたノスとでは、実戦経験の差が如実に出てしまう。

 だがそれでもカミーラはこの戦いを諦めていない。

 

「諦めろ、だと。悪いが私は諦めるつもりは無い」

「それだけノ力が前にモあればナ…」

 

 無論、当時のカミーラが魔王アベルに対抗できるはずも無いが、それでも今のカミーラを見るとノスも複雑な気分となる。

 もしカミーラが今でもドラゴンの王冠ならば、あの時のような事はおきなかったもしれない…今でも覚えているのは、空を埋め尽くすエンジェルナイトの群れ。

 それにより、殆どのドラゴンが死んでしまった。

 雌もいないため、ドラゴンがこれ以上増える事は無い。

 ドラゴンの王も、既にこの世界への興味を失っており、四大聖竜、八大精霊竜も今の世界へ干渉していない。

 ノスのように、今でも闘争本能を失わぬドラゴンの方が珍しいと言える。

 

「さらバだ、カミーラ」

 

 ノスの口奥が赤く光り、まさにそこからブレスが放たれようとした時、

 

「ランスアタタターーーック!!」

 

 突如として放たれた一撃にその目を大きく切り裂かれる。

 

「グォォォォッ!?」

 

 ノスがその一撃を受けて大きくよろめく。

 

「貴様…人間ガこのノスニ!」

「フン、隙だらけなのが悪い! もう一度俺様がころーす!」

 

 ノスの体がランスの剣を受け、大きく傷つけられる。

 

「人間ガ!」

 

 怒りの声を上げながらノスがその爪をランスに向ける。

 ランスはその一撃を避けながらノスの体を斬りつける。

 血飛沫を撒き散らしながらも、ノスはその動きを決して止めない。

 その腕がランスに当たる前に、レダがノスの腕からランスを守る。

 

「ムゥ…防ぐカ!」

 

 ノスは自分の腕が小さき人間に防がれた事に驚く。

 

「がはははは! くたばれ化物ジジイ!」

 

 再びランスの強烈な一撃がノスの顔を切り裂く。

 ノスは自分の体が人間に斬られた事に、そして自分の体すら切り裂く武器がある事に驚く。

 ランスの嵐のような連撃がノスを襲うが、それでもノスは全く怯まない。

 

「ククク、人間モ楽しませテくれル!」

 

 笑いながらランスとレダに攻撃を仕掛ける。

 ランスはその剣で攻撃を受け流し、レダはその盾で攻撃を防ぐが、先程倒したグリーンドラゴンとはまさに力が違いすぎる。

 

「ちょっと、ランス! まずいわよ!」

 

 レダもノスの一撃を受け、このままでは持たない事を気づく。

 ランスの一撃も確かにノスへのダメージとなっているが、その耐久力と再生力の前では微々たるものでしかなかった。

(うーむ…やはりこいつは強いぞ。こうなったら…)

 このままではやはりノスを倒す事は不可能だと感じたランスは、カミーラの方を見る。

 カミーラの元には使徒の七星がカミーラを担いでいた所だった。

 

「カミーラ様!」

「七星、貴様…」

「お叱りは後で…今は退きましょう」

 

 七星は有無を言わさず、下に向かって駆け出す。

 ランスはそれを見ると、

 

「ラーンスアターーーーック!」

 

 その一撃はノスを狙った物ではなく、その大地をあえて狙った一撃。

 

「ムゥ!」

 

 ノスの前の現れたのは、岩と土の壁だ。

 人間がこれほどの力を持つのに驚きつつも、全てを焼き尽くそうとブレスの構えに入るが、

 

「浄化!」

「グゥ!」

 

 その岩の壁の向こうから、ノスの残った眼前に光が突き刺さる。

 本来は霊体に放たれる神魔法であり、ドラゴンのノスには効果はないが、その光はノスの目を眩ますことに成功する。

 ランスの一撃で目の一部を損傷していたため、思わずノスは目を瞑ってしまった。

 そしてその目を開いた時には、既にカミーラ達の姿は無かった。

 

「逃げタ、カ。カミーラの使徒カ? どちラにしロ、人ノ身でやるでハないカ」

 

 ノスはその口に笑みを浮かべる。

 あのカミーラが自分に挑んできたのは正直嬉しい誤算だ。

 さらにはあの二人…地竜の自分の体を傷つけ、ドラゴンの攻撃をも防いで見せたあの防御力。

 

「人モ楽しませテくれル…」

 

 ノスは不適に笑うと、自分の住処へと消えていった。

 

 

 

 ―――天界―――

 

「ALICE、いますか?」

「あら、クエルプラン。何の用かしら」

 

 女神ALICEは予期せぬクエルプランの訪問に少し驚いていた。

 まだ手探り状態の自分に比べ、魂管理局としてクエルプランは忙しいはずだ。

 

「何かしら。まさかあなたが此処に来るなんてね」

「ええ、これは人類管理局であるあなたの意見も聞く必要があると判断しました」

「ふーん…で、何なの」

「私の管轄に無い魂が存在しています」

「んー?」

 

 女神ALICEはクエルプランの言葉に首を傾げる。

 この世界の魂の量は大よそに決まっており、全ては創造主ルドラサウムに帰結する。

 そしてその膨大な魂を管理するのが、魂管理局クエルプランの役目だ。

 

「それってどういう事?」

「魂番号が不明のため、何の情報も有りません。ただ、人間という事は分かっています」

「…どういう事?」

「言葉通りです。完全なイレギュラーと言うべき存在です」

 

 クエルプランの言葉にALICEは何でも無いと言わんばかりに首を振る。

 

「なら直ぐに消し去ってしまえばいいじゃない」

「と、いう事は、一緒にいるレダタイプのエンジェルナイトは、あなたの指示では無いという事ですね」

「エンジェルナイト? 知らないわよ」

 

 今現在の人類の状況において、エンジェルナイトを派遣する理由はまったく見当たらない。

 悪魔が地上にて少し動きはじめてはいるが、人類に対しては動いていないはずだ。

 

「そうですか。一応あなたに報告する必要があると思いましたから」

「あなたがそんなに気にするなんてね…」

 

 もしここでALICEが動いていれば、結果はALICEの望みどおりになったかもしれない。

 しかし、今現在においてALICEの考えは違う。

 

「でも魂に関してはあなたの管轄でもあるのではないかしら?」

 

 女神ALICEも、自分の創造主同様に、新たなメインプレイヤーに夢中と言っても過言ではなかった。

 ドラゴンと違い、弱く、愚かで、自分の欲のためには仲間すらも裏切る。

 その結果、人類からは新たな魔人が生まれるという結果にすらなった。

 それがALICEには愉快でたまらなかった。

 

「そうですね。ではこの件は私が処理をするという事でいいですか?」

「ええ、構わないわ」

「そうですか」

 

 それだけを言うと、クエルプランはALICEの前から消える。

 クエルプランが消えた後、ALICEは下界を覗き見る。

 そこには魔物に襲われる人間、人間同士で争いを始める光景が映っている。

 

「もっと争いなさい…創造主はあなた方の苦痛を望んでいるのだから」

 

 女神ALICEは一人酷薄な笑みを浮かべていた。




ノスとカミーラの戦いですが、色々と考えましたが、結局ノスが優位という事になりました。
ランス10でのカミーラの図鑑や、ケイブリスとカミーラの対決シーンから考えた結果こうなってしまいました。
実際問題ノスって03で勝つのは不可能だろ…と思うんですけどね。
だってノスはあの時点ではフルスペックでしょうし。
ちなみに無敵結界があればカミーラが負ける事はありません。


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スラルとカミーラ

 ―――魔王城―――

 

 ランス達が翔竜山に向かってから少し後、

 

「スラル様! カカカ、カミーラさんが人間達を連れて何処かへ行きました!」

 

 ケイブリスが急ぎ主である魔王スラルに報告する。

 ケイブリスはスラルが激怒するかと思い、気が気ではない。

 しかし意外にもスラルは特に感情を見せる事は無い。

 

「ス、スラル様?」

「分かっている」

「ヘ…?」

 

 ケイブリスは思わず間の抜けた声を出す。

 あの人間を魔人にしようとしているのをケイブリスも知っている…さらにはあのカミーラも使徒として誘っているらしい事も知っている。

 魔王の命令は絶対…それがケイブリスが長い生の中で知りえた教訓だ。

 だからこそあの人間も直ぐに魔人へとなるものだと思っていたが、予想に反してあの人間は魔人と使徒の誘いを断ったと聞いている。

(あのカカカ、カミーラさんの使徒への誘いを断るなんて…)

 実際羨ましいと思っていたのだが…まさかの拒否には全ての魔物達も驚いている。

 

「あのカミーラが自分から動いた…それはそれで興味深い事だ」

 

 スラルがカミーラと出会ってからおよそ400年。

 カミーラから最初に感じたのは、無気力、そして達観だった。

 その後、七星が使徒となり多少は変わったようだった…が、それでも基本的には怠惰な所はあるが。

 カミーラがどのような存在であったかは、以前にウラガノというドラゴンからは聞いてはいた。

 無理もないとは思ったが、スラルとしても特にカミーラに何かを言う気は無かった。

 

「ケイブリス…お前はカミーラのあのような行動を見た事があるか?」

 

 突然話を振られ、ケイブリスは一瞬思案するが、

 

「な、無いです…」

 

 ケイブリスはスラルよりもカミーラとの付き合いは長いが、確かに自発的に動くカミーラというのはあまり見た事は無かった。

 

「お前が知らないのだ…ならば初めてなのだろう。あの男…カミーラをも動かしたのだ。興味深いではないか」

「は、はぁ…」

 

 スラルは興味深げに笑うが、ケイブリスは内心では非常に焦っていた。

(あ、あの人間がカ、カ、カ、カミーラさんを動かしただとぉ…)

 確かに自分ではあのカミーラを動かす事など出来ないが、あの突然現れた弱っちい人間がカミーラの使徒に誘われるというだけでも、ケイブリスには許せなかった。

(でもまだ俺様弱いし…)

 しかし今のケイブリスではどうする事も出来ない。

 魔人最弱どころか、そこらの魔物にすら及ばないという自覚はケイブリスにもある。

 自分が見下されている事を知り、それでもケイブリスは耐えている。

 全ては自分が強くなるために。

 

 

 

 

 

「ふう…ここまでくればもう大丈夫だろ」

 

 翔竜山の麓まで逃げてきたランス達は、ようやく休憩を取る事が出来た。

 途中でドラゴンが襲ってくるかとも警戒したが、どうやらその心配は杞憂だったようだ。

 

「カミーラ様…」

 

 七星はカミーラを下ろすと、カミーラは七星の首に手をかける。

 

「七星…勝手な事を」

「お許しくださいカミーラ様」

 

 戦いの途中で邪魔が入る…それも自分の使徒が邪魔をする等、カミーラには到底許せる事では無かった。

 いかに自分が不利だったとしても、だ。

 

「ランス…貴様もだ」

「俺は別にお前の使徒でも何でも無いぞ。どんな事をしようが俺の勝手だ」

 

 ランスの言葉にカミーラも口を閉ざし、七星の首から手を離す。

 七星は少し咳き込むが、自分の主が無事な事に安堵していた。

 魔人の再生力をもってしても、同種族であるドラゴンからの傷は治りが遅いようで、カミーラも気怠そうに座る。

 

「だいたいカミーラ。お前が無敵結界を解かなければ問題は無かっただろうが」

「…それこそお前に言われる筋合いは無いな」

「フン、だったら俺様にも文句を言うな。だいたいあのままだったらお前は負けてただろうが」

「…」

 

 ランスの言葉にカミーラは答えない。

 勿論カミーラも分かってはいる…真っ向勝負では無敵結界無しではノスにはまだ及ばないと。

 

「私は寝る…話しかけるな」

 

 カミーラはそのままうし車に乗り込むと眠りについたようだ。

 七星はそんなカミーラを見て、安堵したようにため息をつく。

 

「流石に肝が冷えましたね…ランス殿、レダ殿、あなたのおかげです」

「元々カミーラが無敵結界を使えば問題は無かったでしょ」

 

 レダは不可解そうに首を傾げる。

 自分達が魔人オウゴンダマを倒した時は、相手の能力を利用して無敵結界を張らせないという手段を用いた。

 だが、カミーラが無敵結界を解除して、あのドラゴンと戦いを繰り広げる理由がどうしてもわからなかった。

 

「私もカミーラ様のお考えが全て分かる訳ではありません…ですが、私が分かるのはランス殿に己の戦う姿を見せたかったのが一番の理由かと」

「意味が分からんな。それがどうして無敵結界を解除する理由に繋がる」

「カミーラ様とランス殿にどのような会話があったのか、私にはわかりません。しかしカミーラ様はランス殿と一戦交えてから、そしてあなたと話してから興味を持たれたようですから」

 

 七星の言葉にランスはこれまでの事を思い出す。

(特に何かあった覚えは無いな…しいて言えばカミーラが別人のようだと思ったくらいだな)

 あの気だるげなカミーラと、ノスに向かって啖呵をきったカミーラが今でも同じ存在だとは思えない程だ。

 

「やはり何も思い浮かばんな。しいて言えば、カミーラが大人しく魔王の下僕になってるのかがわからんと言ったくらいか」

「…なるほど」

 

 ランスの言葉に七星は納得いったといわんばかりに頷く。

(魔人になる事を拒み、カミーラ様の使徒になる事も拒む…その上、カミーラ様が大人しく魔人をしているという事を直接言ったからですか…)

 本来であれば、あのカミーラに意見するなど許される事ではない。

 しかしランスという男、カミーラに対して臆する事無く思った事を言う存在だ。

(カミーラ様が己の力をもってして跪かせたいはずだ…)

 カミーラの過去は、一方的に雄のドラゴンに子を産むことを強要されてきたという歪んだ過去だ。

 新たな存在である人類が生まれてから、ようやくカミーラは己の好きに振舞えるようになった。

 しかしそれは、魔王の命令には絶対という支配下に置かれている事でもある。

 ランスは誰の命令も聞くつもりはは無い。

 例えそれが、魔人であっても魔王であっても変わらない。

 

「魔人の考えてる事はやはりよく分からんな」

「そうね…なんでこんな男を皆気に入るんでしょうね」

「なんだと?」

「言葉通りよ」

 

 レダはニヤリと笑ってランスを見る。

 自分も、カラーも、ケッセルリンクも、魔王も、カミーラも皆ランスが気になっている。

 だからこそ1級神である女神ALICEも気にかけているのかとも思う。

 

「まったく、俺様を何だと思ってるんだ」

「少なくとも私は凄いと思ってるわよ。本当に人間なの? という感じで」

「…それは褒めてるのか」

「人間に対する評価としては最大限だと思うけど」

 

 

 

 

 翌朝、ランス達はようやく魔王城に戻って来ることが出来た。

 そこには既にカミーラを迎えに来た魔物達が整列しており、皆一斉にカミーラに対して首を垂れる。

 魔物達が頭を上げた時、カミーラの姿を見て皆が顔を見合わせる。

 カミーラにはまだ傷跡が多数残っていたからだ。

 

(おい…カミーラ様に何があったんだ?)

(いや、わからん…無敵の魔人様に限り傷つけられる等ありえん事だが…)

 

 魔物達が小声で話しているのをカミーラは無視し、悠然と城の中に入っていく。

 七星もそれに続いて歩いていく。

 

「大変だったな」

「うむ、色々な意味でな」

 

 ランスとレダを迎えに来たガルティアがランス達を労う。

 ガルティアもカミーラの取っ付き難さは知っており、それに振り回されているランス達を本気で心配していた。

(スラルのお気に入りだしな)

 しかし見た所、カミーラも特に気にしている様子では無かったため、ガルティアも安心した。

 

「ところで何か飯はあるか。非常食だけではやはり物足りん」

「おお、そういう事ならあたらしい料理…こかとりす丼があるぞ。中々いけるぞ」

「うむ、デザートもあるんだろうな」

「中々甘いフルーツが手に入ったぞ。それを絞ってジュースにするのも絶品だぜ」

 

 2人は食事の話をしながら、ランスに至っては我が物顔で魔王城に入っていく。

 魔物達の鋭い視線などまるで感じていないような様子に、レダは逆に感心してしまう。

(なんかいつの間にか仲良くなってるし)

 ランス達は何時もの部屋に戻されると、ガルティアが用意していた食事にかぶりつく。

 

「しかし何処に行ってたんだ? カミーラと一緒に出かけるなんて、俺からすれば信じられないんだがな」

「ドラゴンの山だ、ドラゴンの。まったく、カミーラに付き合わされて大変な目にあったぞ」

「そうか…しっかしカミーラがまさか人間を使徒に誘うなんてな。人間を見下してる所があるからなぁ」

「私からすれば、魔人なのに人間とこうして食事とってるあんたも相当だと思うけど…」

 

 ガルティアは魔人ではあるが、人間に対して悪意を持っていない。

 だからこそこうして平気で人間と食事をとる事が出来る。

 

「で、カミーラの使徒になるのか? 俺としてはお前が魔人になってくれたほうが面白そうなんだけどな」

「だから俺は魔人にも使徒にもなる気は無いぞ。まったく…俺様が優秀すぎるのも困った物だな」

 

 ランスは暢気に笑う。

 

「でも不思議よね…まさか魔王と魔人でランスの取り合いになるなんてね。本人にはその気は全く無いみたいだけど」

「当然だ。俺様が誰か一人の女に縛られる訳が無いだろう」

 

 当然の事ながらランスは本気でそう思っている。

 自分が誰か一人の女のモノになるなど、世界の損失であると。

 

「じゃあケッセルリンクはどうなんだ? 前からの知り合いなんだろ?」

「ケッセルリンクは俺の女だ。何で俺が自分の女の使徒にならなきゃならんのだ」

「ふーん…じゃあ本当に魔人にも使徒にもなる気は無いんだな」

「全く無いな」

 

 ランスがあっさりと言い切った事に、逆にガルティアは興味を抱く。

 

「アンタは人間でしょ? なんで魔人になったの?」

「最初は俺も魔物と戦ってたんだけどな…まあ色々あってスラルに直接魔人へと誘われてって感じだな」

「ふーん。つまりは人類の裏切り者か」

 

 ガルティアはランスの言葉に苦笑いを浮かべる。

 あまり気にはしていないが、確かに人類からすれば裏切り者に他ならない。

 

「本当に色々あったのさ…で、ランスはどの辺の生まれなんだ? お前くらい強いと色々と大変だったろ」

 

 ガルティアもその強さ故に妬まれ、同じ人類から裏切られてしまった過去を持つ。

 だからこそ、自分と同じ様に凄まじい強さを持つ人間であるランスが気になった。

 

「分からん。気づいたらカラーの村にいたからな。未だに人間とは会っとらん」

 

 ちなみにランスの頭からは、勇者アーズラの事は綺麗さっぱり抜け落ちている。

 男などランスにとってはその程度の扱いでしかない。

 

「はあ? 人間に会ってない? どういう事だ?」

「そのまんまだ。気づいたらカラーの村にいて、ムシや魔人と戦った。そしたらここに連れてこられただけだ」

「大分説明が抜け落ちれるけど、大凡は合ってるわね…」

 

 レダはランスのあんまりな説明にため息をつく。

 しかし確かにランスから見ればそうとしか説明がつかないだろう。

 ガルティアもランスの言葉には若干困惑しているように見える。

 少し頭を捻っていたガルティアだが、腹の虫と共にその考えを投げ捨てたようで、

 

「そうか。お前も大変だったんだな。ほら、これも食えよ」

「うむ、食ってやろう」

「あ、私も」

 

 ランスとレダはガルティアが差し出した料理…こかとりすの唐揚げを口にする。

 すると、ランスに非常に懐かしい、そしてもう味わいたくないあの感触が思い出される。

 

「あばば!!」

「ぴぎっ!!」

 

 ランスとレダは短い悲鳴をあげるとその場に倒れる。

(こ、これは…まるで香ちゃんの団子…)

 ランスは今ここにいない自分の妹分の事を思い出すと、意識を手放した。

 一方のレダも、

(エ、エンジェルナイトの私がこうも簡単に…い、一体何が…)

 自分に何が起きたのか分からず、ランスと同じ様に意識を失った。

 

 

「あれ? ランス、レダ?」

 

 料理を口にした途端、動かなくなった二人をガルティアは怪訝な表情で見る。

 2人とも僅かに痙攣しているため、生きているのは分かる。

 

「どーしたんだ?」

 

 ガルティアは今も自由が無く、そしてカミーラの無茶に付き合ってきた二人のために、とっておきのご馳走をプレゼントしたつもりだった。

 それがこの一品…まさに至高の味とも言える、魔王スラルの作った一品。

 これを食せばまさに宇宙を見る事が出来るという、ガルティアにとっては何より大切な一品。

 魔王故に、自ら食事を作る事は無いスラルが、自分のために作ってくれたこの料理こそが世界一の料理だとガルティアは信じている。

 

「…そうか。あまりの美味さに倒れたのか。まあ無理は無いよな。これほどの絶品は世界を探しても何処にも存在しないからな」

 

 ガルティアは一人頷きながら、スラルが作ってくれた一品…こかとりすの唐揚げを大事そうに頬張る。

 咀嚼する度に意識が揺さぶられ、まさにこの世の真理にたどり着けそうな程の刺激を与えてくれる。

 

「うめぇ…やっぱりこれこそが一番だな」

 

 ガルティアはその後もスラルの作った料理を心行くまで味わっていた。

 ランス達が目覚める事が出来たのは結局翌朝だった。

 

 

 

 

「カミーラ…お前がここに来るのは何百年ぶりだろうな」

 

 魔王スラルの前にはカミーラが跪いていた。

 魔人にって魔王は絶対であり、命じられれば例え死であっても実行しなければならない。

 幸い、魔王スラルがそのような命令を下すような存在で無い事をカミーラも知っている。

 知ってはいるが、やはりこうして命令されるというのは気に入らないと感じていた。

(…少し前はこのような事など考えもしなかったのだがな)

 今でもランスの言葉が頭から離れない。

 

『お前が一番そういうのを嫌うと思ったがな』

 

 魔王アベルが死んだ後も、自分はドラゴンにとっての子を産むための存在として見られていた。

 魔人となって、ドラゴンを産む事が出来なくなると、ドラゴン達は一斉に自分から興味を失い、争う事をやめてしまった。

 ノスが例外過ぎるのだ。

 

「特に覚えてはいない…」

 

 カミーラはあくまで冷静にスラルの問に答える。

 実際にカミーラにとってスラルはただの『魔王』という存在に過ぎない。

 美しい少女である事が生理的に気に入らない、その程度の感情しか抱いていない。

 

「覚えていない、か。まあそれはどうでもいい。我はお前に聞いてみたい事がある。何故お前は…いや、お前ほどの者があの人間に拘る? 相手はお前が常日頃見下している人間だ」

 

 スラルの問にもカミーラは表情一つ変えない。

(絶対的な命令ではない、か)

 もしスラルが自分に『命令』をしていたのであれば、自分はこうして何かを考えるという事も出来ずに答えているだろう。

 しかしこうして思考を巡らせる事が出来るという事は、スラルは命令をしていないという事だ。

 

「あの男が気になった…それだけ」

 

 だから正直に話した事は自分でも意外だった。

 カミーラは確かにランスの事が気になっている。

 

「…そうか。お前がな」

 

 スラルはそれだけで納得したようだった。

(ここまで、か)

 同時にカミーラにある種の諦めが宿る。

 魔王といいドラゴンの王といい、自分の上に立つ物はいつもそうだ。

 カミーラの意思を無視し、勝手に物事を決めていく。

 

「ならばそれでいい。お前はお前でランスを使徒に誘えばいい。結果、お前の使徒になろうが我は構わぬ」

 

 だが、スラルから放たれたのは意外すぎる言葉であった。

 思わずカミーラはスラルの方を見るが、肝心の魔王は普段のように余裕の表情を崩す事は無い。

 その表情からは魔王の意図を推し量る事は出来ない。

 

「ただし危害を加える事だけは引き続き禁じる…それを守れば良い」

「分かった…」

 

 カミーラは短くそう言うと、何時もの様に優雅にその場を立ち去っていく。

 カミーラが立ち去ってどれ程時間がたったか、スラルは一人ため息をついた。

 

「これで良かったのだろうな…」

 

 スラルはこれまでのカミーラとの出来事を思い出す。

 今思い出しても、カミーラとは事務的な会話以外を交わした事はほとんど無かったと思う。

 それこそ、時たま魔人を狩り、魔血魂を手に入れる事はあっても、それでも実際には使徒である七星から渡される。

 そんなカミーラがスラルが知る限りは初めて己の意思で動いた…それも本人が忌み嫌うドラゴンの元へ。

 

「ランス…か。カミーラすらも動かすか…」

 

 自分にカミーラを動かす事が出来るだろうかとスラルは自嘲する。

 魔王であるからこそあのカミーラに命令をする事は出来るが、果たして自らの意思で自分のために動いてくれるだろうかと思う。

 

「どこまでも不思議な奴だ。だがそれだけの奴なのだろうな」

 

 やはり自分の人を見る目は確かだと思う。

(後はランスが魔人になれば…)

 カミーラの使徒になるのも構わないともいいとは思うが、やはり魔人になって欲しいと思う。

 そして出来れば自らの意思で魔人となり、ランスの心が欲しいものだとも。

 

「そのためにはどうするか…」

 

 スラルはランスを手に入れるため、再び思考の渦に沈む。

 全ては自分がよりこの世界を楽しむために。

 

 

 

 

 カミーラは自分の居城に戻ると、何時ものように王座へと座る。

 

「カミーラ様。スラル様は何と」

 

 先に戻っていた七星が恭しくカミーラに尋ねる。

 魔王が自分の主に何を言ったのか、やはりその使徒としては気になる物だ。

 

「スラルは私がランスを使徒にするのは構わぬと言った…」

「それは」

 

 七星としてもその答えは意外なものであった。

 もうランスには構うな…くらいの事は言われるのでは無いかと思っていたくらいだ。

 

「スラル様の意図は一体…」

「あの魔王が何を考えているかなど構わぬ。ランスが私の使徒になればそれで良い」

 

 魔王の態度に若干引っかかるものはあるが、とにかく魔王の許可は出た。

 後はどうすればあの男が使徒になる事を選ぶのかだ。

 何しろあの男は永遠の命にも価値を見出していない様子だ。

 だからと言って悟っているわけでも無い。

 スラルが作り出した新たな魔人…ケッセルリンクの様子から見ても、欲望に忠実な男なのだろうとは思う。

 

「七星。スラルが作った新たな魔人…ケッセルリンクをここに呼べ」

「はっ」

 

 カミーラは今の状況を楽しんでいる自分に気づく。

 思えば、力以外で何かを手に入れようとは考えた事も無かった。

 それをあの小さな人間がそうさせているというのだから、カミーラ自身も驚いている。

 だが、あの過去の無力感よりもずっと心地よい。

 

「ふっ…魔人となった時はこんな事になるとは考えてもいなかったな。だがこれもいいだろう」

 

 カミーラはどこまでも笑っていた。




大分遅れました…GWでも休みとは限らないから…
ホント早く進めたいけどどんどん時間が取れなくなってしまいます


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恐ろしい敵

「カミーラ様。ケッセルリンク様をお連れしました」

「そうか」

 

 七星の声にカミーラは改めてケッセルリンクを見る。

 最初に出会ったのはランスを殺そうとしていた時…その時に自分に魔法を当てたのがこのケッセルリンクだ。

(ふむ…やはり普通のカラーとは少し違うか)

 カミーラは値踏みをする様にケッセルリンクを上から下まで見る。

 スラルが自ら魔人とした存在…ただし、その経緯は死にかけている所をスラルが救う形で魔人になったと聞きている。

 カラー出身だけあって、非常に美しい姿をしている。

 大きく開いた胸元だけが、若干カラーらしくないという所だろうか。

 

「警戒する必要は無い。お前をどうこうするつもりは無い。無論あの男もな」

 

 ケッセルリンクの態度は警戒心に満ち溢れている。

 こうして相対しているだけでも、魔人カミーラの強さが嫌というほど分かってしまうからだ。

 今の自分ではどうやっても勝つ事は出来ない…それだけの力の差を感じさせられている。

 ケッセルリンクは魔王スラルから『ランスを害するのを禁じている』とは聞いてはいたが、それでもこの魔人の存在感は圧倒的だ。

 今の自分とはまさにレベルが違う。

 

「…何の用だ」

 

 自分では冷静に答えたつもりだが、やはり相手への警戒からか声が固くなってしまっている。

 

「あの男…ランスの事を知りたいだけだ。お前が一番知っていると聞いている」

 

 カミーラの問にケッセルリンクは驚く。

 使徒へと誘っているのは聞いてはいたが、まさか自分にランスの事を聞いて来るなど思ってもいなかった。

 

「私が話すと思うか? ランスを殺そうとしたお前に」

「話すだろうな。スラルからも『話しても構わない』と言われているのだろう」

 

 カミーラの言葉にケッセルリンクは無言になる。

 確かにカミーラの言うとおり、スラルからはランスの事をカミーラに話しても良いと言われていた。

 ケッセルリンクは、スラルは意図的にカミーラと競う会う形でランスを取り合っていると感じていた。

 そしてスラルはそれを楽しんでいるとも。

 

「…分かった。何が聞きたい」

「最初からだ…お前があの男と出会ってからのな」

 

 ケッセルリンクは頷くと、これまでのランスとの事を話し始めた。

 

 

 

「以上がランスの今までの事だ。最も、それ以前の事は知らないがな」

「そうか…」

 

 カミーラが聞いたランスの事は、カミーラにとっても中々に興味深い事であった。

 カラーとの出会いと、モンスターとの戦い。

 悪魔という存在がこの世界にいるのは知っているが、その悪魔から剣を受け取った事。

 そして魔人に無敵結界を使わせずに倒した事。

 ケッセルリンクは今現在知りえている事を話した。

 無論、自分とランスの間にあった事だけは伏せてだが。

 

「それを聞いてお前はどうするつもりだ」

 

 ケッセルリンクの言葉は何処までも固い。

 この気まぐれとも言える行動を取るドラゴンの魔人が何をするか、ケッセルリンクには皆目検討もつかない。

 ドラゴンの山に行ったとは聞いているが、一体何故そんな事があったのかも気になる。

 

「単にランスの事が知りたかっただけだ…それ以外の他意は無い」

 

 カミーラは僅かに唇を持ち上げ笑っている。

 ケッセルリンクの目から見ても、それは一番最初に見せた冷笑ではなく、楽しげな笑みである事は分かる。

 

「しかし…お前はランスを己の使徒としないのか?」

「!」

 

 そして唐突に飛んでくるカミーラの言葉にケッセルリンクは言葉に詰る。

 彼女とてランスを使徒にする事は考えなかった訳ではない。

 しかし、自分を救ってくれたスラルの事を考えると、どうしてもそれを言い出す事は出来なかった。

 それにランスが自分の使徒となる事など、あまり想像出来なかったという事もある。

 

「まあいい…聞きたい事はそれだけだ」

 

 カミーラはそうと言うと、既にケッセルリンクから興味を失ったようだった。

 

「…わかった」

 

 ケッセルリンクもそうとしか言えずに、カミーラの前から立ち去る他無かった。

 

 

「ランスを使徒に、か」

 

 魔人になって日が浅いケッセルリンクではあるが、使徒という存在について考えなかった訳では無かった。

 魔王スラルからも使徒の話を聞き、作ってみてはどうかと勧められはしたが、自分が一番最初に思い浮かんだのがランスだった。

 しかしランスはそのスラルが魔人に勧誘している相手…自分の命を救ってくれた方が求める人材故に、ランスを使徒とするのは諦めていた。

 それにランスが自分の下につくなど考えられなかったし、何よりもランスが魔人となれば自分と対等になる、と考えていた。

 だが今は、最初にランスを殺そうとしていたカミーラが、ランスを使徒にしようとしている。

 

「私はどうするべきか…」

 

 勿論自分ではあのカミーラを止める事は出来ないし、肝心の魔王自体がカミーラに好きにして良いと言っている。

 心情的にはスラルの味方をしたいのだが、同時にランスの味方もしてやりたい。

 だが流石にランスを逃がす事は出来ないし、カミーラを止める事も出来ない。

 

「だが…ランスならばどんな選択をしたとしても後悔も何も無いのだろうな」

 

 それを思うとケッセルリンクは笑みを浮かべる。

(そうだ。例えどのような答えが出るにしても、私は受け入れるだけだ)

 それが例えランスとの別れが来るとしても、それは仕方の無い事だ。

 

「願わくは一緒に居れる事を願うがな」

 

 

 

 ランス達が気絶した翌朝、

 

「うーむ、酷い目にあったぞ」

「私、まだ口の中が痛い」

 

 翌朝、目覚めたランスとレダは口直しのフルーツを口にしていた。

 程よく甘く、酸味がきいており目覚めには丁度良かった。

 

「一体あれは何だったのかしら…口に入れただけで気絶するなんて初めてよ」

「この世界にもあんな物を作れる奴がいるんだな」

 

 ランスは今ここに居ない香姫の団子に匹敵するモノがある事に戦慄していた。

 しかも彼女の団子のように、七色のタレがかかっていなかった分タチが悪い。

 

「まったく…誰が作ったのだ、あんなもの」

「そうよね、あれも才能の一つよね。私は欲しくないけど」

 

 ランスとレダが一息ついていた時、

 

 ド──────ン!!

 

 突然の揺れと共に衝撃が走る。

 

「む、何だ?」

「凄い揺れたけど…地震じゃ無いわね」

 

 レダには何か魔術的な要素を感じ取る事が出来た。

 

「でも…凄い強い魔力を感じたわ。それこそ魔人級の力よ」

「うーむ…」

 

 ランスはためしに扉に手をかけるが、実にあっさりと扉は開いた。

 

「おっ、開いたぞ」

「何かあったみたいね」

 

 本来であればこの扉は中からは開ける事は出来ない。

 どうやら特殊なロックがかけられているらしく、エンジェルナイトのレダの力を持ってしても開ける事は出来なかった。

 ランスの剣ならば壊せるかもしれないが、見張りの存在や、ここを訪ねてくる魔人達のせいで実行に移す気にはなれなかった。

 2人は少しだけ開けた扉から外の様子を見る。

 本来はここには魔物隊長クラスのモンスターが立っていたはずだが、今はそのモンスターも存在しない。

 どうやら先の衝撃で別の場所に移動したようだ。

 一度ランスは扉を閉めると、

 

「レダ、この前の道は覚えとるか」

「勿論よ。私が忘れる訳ないでしょ」

「ならいい。この混乱に紛れて逃げるぞ」

「大丈夫なの? 逃げてる所を見られればアウトよ」

「こんな機会はめったにこないぞ。だったら動ける時に動くのは当然だ」

「まあそうね」

 

 確かにランスの言う通り、魔王の城から脱出するチャンスなどそうある事では無いだろう

 ならばこの状況を上手く利用するのが一番良いと判断する。

 

「幸い武器だけはあるからな。今しかないぞ」

 

 ランスの武器は、ランスが望めば手元に戻ってくるため、取り上げるだけ無駄と判断されたようで取り上げられていない。

 レダは自分の武器防具はいつでも用意できる。

 エンジェルナイトとしての力は弱っていても、どうやらこの力だけは失われていないようだ。

 

「じゃあランス…」

「うむ…行くぞ!」

 

 ランスが勢いよく扉を開けようとしたとき、突如として外から扉が開けられる。

 ランスは勢い余って、その扉を開けた人物の胸元に顔を埋める形になる。

 

「おお…この感触は」

 

 ランスはその素晴らしい感触を堪能する。

 その胸元に顔を埋めながら、その胸を堪能する。

 そんなランスを横目に、レダは青い顔をしていた。

 何故なら、ランスが顔を埋めている相手がカミーラだったからだ。

 

「…何をやっている、ランス」

「ん…? おわ! カミーラ!」

 

 ランスは慌てて離れるが、カミーラには特に怒りの表情は見られなかった。

 レダはその様子に安堵し、ランスはいきなり出鼻を挫かれた事に眉を顰める。

 カミーラはランスとレダの姿を一瞥し、笑みを浮かべる。

 

「逃げようとしていたか。だが惜しいな…」

「むぐぐ…」

 

 流石のランスも今のカミーラから逃げられるとは思っていない。

 実力差もさることながら、やはりカミーラが無気力でない事が一番大きい。

 

「それよりも付き合え。何か面白い事があったようだ」

 

 カミーラはランスの腕を掴むと、無理矢理引きずっていく。

 

「いだだだだ! 分かった! ついて行くから離せ!」

 

 カミーラは素直にランスの腕を離し、悠然と歩く。

(やっぱり違和感が凄いな…これがあのカミーラだとは)

 以前ならば体に触れただけでもこちらを殺しそうな視線だったが、今のカミーラには以前と違い凄い余裕がある。

 どうしても以前のカミーラのイメージが強いランスとしては、そんなカミーラに戸惑いを覚えはするが、同時に喜びもある。

(しかしこの状況はいいぞ…胸を触っても特に怒ってはいなかったからな。上手くいけばヤレるかもしれんぞ)

 そう思うと俄然やる気が出てくる。

 ランスは新たに決意を秘めて、カミーラの後についていく。

 

 ド──────ン!!

 

「うお!」

「こ、これは…!」

 

 先程よりも音が大きくなり、同時に妙な声も聞こえてくる。

 それにも関わらず、カミーラは全く動じずに歩いていく。

 そしてカミーラが扉を開けたとき──―カミーラの体は炎に包まれた

 

 

 

 カミーラがランスの元を訪れる前…

 

「あー…最近は暇になってきたな。まあその分強くなる時間が出来るのはいい事だけどよ」

 

 宝物庫でケイブリスは一人鍛錬を続けていた。

 何しろケイブリスは最弱なので、レベルを上げるためにはやはり地道な訓練しか無いのである。

 魔王スラルのおかげで無敵結界が出来たのはいいのだが、それでも外で武者修行等を行う気概がケイブリスには無かった。

 これはかつての魔王アベル、そして現魔王であるスラルから学んだ事…臆病な事は悪い事ではない。

 いや、生きていく上では臆病で、そして慎重であってこそ正しいのだと。

 

「最近スラルはここに来なくなったな…まあいいんだけどよ」

 

 やはり魔王は恐ろしい存在だ…万が一にでも敵に回す事などありえない。

 だからこそ真っ先に服従を誓い、魔王の無茶ぶりにも耐えてきているのだ。

 そしてこの宝物庫の管理こそが一番楽であり、安全だと考えていたのだが…生憎と話はそう上手くはいかなかった。

 何しろ自分は魔人最古参…知りたくもない知識もあったし、何よりも魔血魂の在処をある程度知っていたのが仇となった。

 そのせいで自分はこの大陸を走りまわされ…大半が回収された時には既に250年ほど経過していた。

 

「まったく…俺じゃなくてメガラスを頼れよな」

 

 同じ魔人であるメガラスならばもっと手早く回収が出来たはずだ。

 それなのに何故か自分が駆り出される…中には魔血魂を飲み込み、新たな魔人として生まれた奴もいたので、その時は命からがら逃げだして魔王に報告するという事も多々あった。

 しかしそのおかげでカミーラと話す事もあったから、それはそれで嬉しかった。

 

「カ、カ、カ、カミーラさん…」

 

 魔人カミーラはケイブリスにとってはまさに憧れの存在だ。

 あの美しい姿を一目見てからケイブリスはカミーラに夢中だった。

 生憎と、自分はカミーラには見下されているが、いずれは強くなってカミーラを手に入れたいという欲望を抱くようになった。

 が、しかし…

 

「それにしてもスラルが見つけてきた人間…カ、カ、カ、カミーラさんに使徒に誘われるだとぉ…畜生!」

 

 ケイブリスは力任せにその辺に置いてあった壷を蹴る。

 それだけでは飽き足らず、その壷に目がけて何度も拳を入れるが、その壷はびくともしない。

 

「あ…やば…」

 

 そこでケイブリスはこの壷はスラルが持ってきたものだという事を思い出す。

 

「こ、壊れてないかな…」

 

 怒りで我を忘れて思わず魔王の宝物に手を出してしまったが、幸いにも傷は一つもない。

 ケイブリスは安堵のため息をつきながら、その壷を丁寧に磨く。

 万が一にも自分のやった事が露見してはならない…気まぐれで魔王に殺されては、今までの自分の努力は水の泡だ。

 

「ふぅ…焦ったぜ。万が一もないようにしないとな」

 

 ケイブリスは何度も傷が無いかを確認し、手にした布巾で壷を磨いていく。

 

「まーおー…」

「うん? 何だ?」

 

 突如として聞こえてきた間延びした声にケイブリスは首を傾げる。

 周囲を見渡すが、ここには自分以外には誰もいない。

 

「誰もいないよな…?」

 

 ケイブリスは再び壷を磨く作業に戻るが、

 

「まーおー」

「いや気のせいじゃねーぞ!?」

 

 確かに声は聞こえてくる。

 しかし周囲には誰もいないという状況が、ケイブリスを混乱させていた。

 

「ま、まさか…」

 

 ケイブリスは恐る恐る声の聞こえて来たところ…自分が今磨いている壷を見る。

 いつの間にか壷がカタカタ震え、ケイブリスの小さな手には押さえる事が出来ない。

 そして先程聞こえてきた妙な声は、間違いなくこの壷から鳴り響いている。

 

「や、やばい!」

 

 ケイブリスは何とかしようと、必死に壷にしがみつくが、それはケイブリスの小さな体を嘲笑うかのように大きく震えていく。

 そして、ポンッ! という気の抜けた音と共に、その壷から妙な生き物(?)が飛び出す。

 全身ピンクの体に、大きな黒いマントを身につけ、その手には巨大な白い鎌が握られている。

 そして額には白い角が生えており、まるで獣のような耳がついている。

 

「…ヘッ、驚かせやがる」

 

 ケイブリスはその存在を見て安堵する。

 最初は驚いたが、今改めて見ると何の威厳も迫力も感じられない。

 まるで点のような黒い目は、どこか愛嬌すらも感じさせられる。

 何よりも、その体の大きさが小さい。

 今のケイブリスとほとんど変わらぬ大きさだ。

 

「おいお前! ここをどこだと思ってやがる! ここは魔王の宝物庫だぜ! 死にてぇのか!」

 

 自分より強いものには媚び、弱い奴には散々威張り散らすのがケイブリスである。

 最も、今の現状ではケイブリスより弱い奴など、そうはいないのだが。

 目の前のピンクの物体はキョロキョロと辺りを見渡すと、

 

「まーおー!」

「うおっ!」

 

 突如として辺りに響くような大声を出したかと思うと、その体がどんどん膨れ上がっていく。

 その体はすでにケイブリスの大きさを軽く超え、ケイブリスが普段見上げているカミーラの体よりもどんどん大きくなっていく。

 

「あ、あの…」

 

 ケイブリスの言葉を無視するように、ピンクの物体の体はまだまだ膨れ上がり、とうとう宝物庫に頭をつくまで大きくなるが、それでも膨れ上がるのは止まらない。

 宝物庫の壁を壊し、縦にも横に大きくなったときには、既にその大きさはドラゴンにも匹敵する大きさになっていた。

 

「まお?」

 

 ピンクの物体──―大まおーは首を傾げてケイブリスを見る。

 ケイブリスは冷や汗をかきながら、昔と同じ様に…即ち土下座体勢に入る。

 

「あの…話し合いましょ?」

 

 大まおーの返答は口から吐き出される炎だった。

 

 

 

ド──────ン!!

 

「な、なんだぁ?」

 

 魔王城に轟音が鳴り響いたとき、魔人ガルティアは何時もの様に食事中だった。

 スラルからは、もうランス達を監視する必要は無いと言われていたので、今はこうして一人で食事の時間を満喫していた。

 そこで聞こえたのが凄まじい轟音…まるで何かが爆発したような音にガルティアは眉を顰めた。

 今日は生憎と、スラルはメガラスと共に魔王城の外へ出ていた。

 だからこそ自分が魔王城を任されていたのだが…

 

「どうしたってんだ」

 

 流石のガルティアも食事を止め食堂から出ると、慌しく魔物隊長が走り回っていた。

 

「おう、どうしたんだ?」

「ガ、ガルティア様! 分かりません! 突如として宝物庫から轟音が…」

「宝物庫?」

 

 宝物庫は魔王スラルの宝が眠っている場所であり、そこはケイブリスが任されていた場所だ。

 これまでケイブリスは何も問題を起こした事は無いし、スラルも危険なアイテムはそれ相応の場所で処分をしていたはずだった。

 

「しゃあねえな。俺が行くか!」

「た、助かります! ガルティア様!」

 

 魔物隊長は跪くと、すぐさま行動を開始し、パニックになっている魔物達をまとめていく。

 ガルティアはそんな様子を尻目に、宝物庫に向かって走り出す。

 そして宝物庫に向かう廊下の角に差し掛かったとき、突如として真っ黒い塊がガルティアの方に飛んでくる。

 

「おわっ!」

 

 ガルティアは慌てて黒い塊を受け止めると、その黒い塊は息も荒くしてガルティアを見る。

 

「ガ、ガルティア…さん」

「…ケイブリスか? どうした?」

「あ、あくま、が…」

「あくま?」

 

 ケイブリスはそれだけを言うと気を失う。

 

「お、おいケイブリス!?」

 

 ガルティアはケイブリスを揺するが、ケイブリスはピクリとも動かない。

 無敵結界があるので、傷は無いのだが衝撃は防げないため、それで気を失ったようだ。

 

「なんだってんだ?」

 

 ガルティアが首を捻ったとき、自分の中のセンサー虫が急激に危険を知らせる。

 これはあの時の、ティラノサウルスの非ではないくらいの危機感をガルティアに感じさせる。

 すると、この広い魔王城に、

 

 ドスン! ドスン!

 

 という大きな足音が聞こえてくる。

 

「デカントか何かか?」

 

 ガルティアが改めてその角を曲がると、そこにはピンクの悪魔が居た。

 ガルティアも思わず見上げるほどに大きな体、そしてそれに反比例するかの様な可愛らしい顔。

 

「まお?」

「お、おう」

 

 ガルティアは思わず返事をするが、返ってきたのはやはり炎だった。

 

「あっち! って無敵結界があるのにか!?」

 

 それは確かな熱さとしてガルティアに襲い掛かる。

 魔人には無敵結界があり、本来であればダメージを負う事などありえないはず。

 しかし目の前の妙な存在は間違いなく自分の無敵結界を貫通とまではいかないが、それで防ぎ切れぬ熱さを感じさせてきた。

 

「ってあぶねぇ!」

 

 その手に握られている鎌が勢いよく振り下ろされると、その鎌はあっさりと壁を切り裂き、地面に突き刺さる、

 

「おいおい…洒落にならねぇぞ!」

 

 ガルティアはケイブリスを片手に勢いよく走り出す。

 この狭い空間では相手の攻撃を避ける事が難しい。

 相手の攻撃が完全に防げる保障が無い以上、ここでの戦闘はガルティアにとっては不利過ぎた。

 その巨体故に動作が鈍いかと思い後ろを見るが、

 

「嘘だろ」

 

 相手はその辺の壁を吹き飛ばしながらガルティアを追ってくる。

 運悪く遭遇した魔物達はその巨体によって潰されるか、炎に焼かれて消滅する。

(あそこで無いと戦えないな)

 ガルティアはある場所を目掛けて走り出す。

 そしてどれくらい走っただろうか、一際大きな扉…デカントクラスの魔物ですら潜り抜けられる大きな扉を開けると、ケイブリスを使徒に運ばせ敵と相対する。

 そこはかつてカミーラがランスを殺そうとした場所であった。

 生憎と曇ってはいたが、魔人であるガルティアには関係は無い。

 

「さて、と」

 

 ガルティアはハワイアンソードを引き抜くと、目の前の敵を睨む。

 まるで緊張感の無い顔をしているが、その力は非常に強大なのが嫌でも分かる。

 

「始めるか」

「まーおー!」

 

 ガルティアの声に応えるように大まおーが声を上げると、両者は一斉に動き始めた。

 




ちょっとペースが遅くなってきた上に、話が進まないので早く話を進めるべく頑張ります
大まおーの元ネタはまあ問題なくわかりますよね
ちなみに非常に強いです


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恐るべきまおー

 ガルティアは襲い掛かってくるピンクの悪魔の攻撃を避ける。

 本来であれば避ける必要の無い攻撃だが、この敵の攻撃には無敵結界があまり意味をなさない。

 ダメージこそ少ないが、これが蓄積すればどうなるのかが分からない。

「こいつは一筋縄じゃあいかないな」

 ガルティアは流れる血を医療ムシで治しながら歯噛みする。

 ドラゴン並みの体躯をしながら、その動作そのものは俊敏だ。

 手にした大鎌は無敵結界があっても、その威力だけで魔人であるガルティアを吹き飛ばす程の威力がある。

 その上、口から放たれる炎はガルティアの体に小さな火傷をいくつも作るほどの威力だ。

 無敵結界があってもこれなのだ、もし無敵結界が無ければ今頃自分は消し炭になっていてもおかしくない。

「スラルに感謝だな!」

 ガルティアの剣がピンクの悪魔──―大まおーの体に突き刺さるが、意外な程の弾力にその剣が弾かれる。

 ならば自身のムシで攻撃をしかけるが、その巨体故に相手を足止めするタイプのムシは意味が無い。

 毒攻撃も試してみたが、相手の動きが鈍っていない事から、効果があるかどうかは怪しいものだ。

 マインレイヤーバグを打ち込むが、やはり大したダメージにはならないようで、足止めする事も出来ない。

 大まおーの大鎌がガルティアの無敵結界に当たり、ガルティアは大きく吹飛ばされる。

「っと! こいつは厳しいな…」

 自身の体から流れる血を感じ、ガルティアは唇を歪める。

 確かに無敵結界は作動しているが、目の前の存在はその無敵結界をある程度貫通してダメージを与えてくる。

 そして何よりも単純に相手が自分よりも強い。

「ヤバイな…スラルが戻るまで俺が持つかどうか…」

 未だに目覚めないケイブリスから、ラウネアとタルゴを離すわけにもいかない。

 そのために使徒を使えないのがガルティアに辛い状況を作っていた。

 何しろ自分だけでは攻撃力が足りないのだ。

(魔人である俺の攻撃が届かないとなると…やっぱりスラルかカミーラしかいないよな)

 単純に考えるならば逃げるのが一番なのだが、それはやはりガルティアの性に合わない。

「問題なのはカミーラがここに来ているか、だな」

 スラルはメガラスを伴って何処かへ行ってしまったため、何時戻ってくるかはわからないため、スラルを期待するのは厳しい。

 最近のカミーラはよくこの魔王城に来ているが、それでも今日来ているかどうかは分からない。

 だが、今現在でこの相手と戦えるのは間違いなくカミーラだけだ。

 吸い込む事も考えてはみたが、今ここでその力を使えば間違いなくこの魔王城そのものが巻き込まれる。

「まーおー!」

 大まおーの左手から黒いビーム…デビルビームが放たれ、ガルティアをさらに吹飛ばす。

 ガルティアは直ぐに体勢を整えるが、目の前には大まおーの足が迫ってきていた。

 無敵結界がある故に直接は踏まれないが、それでも無敵結界ごと体が地面にめり込む。

「ぐ…お…」

 ガルティアはハワイアンソードを盾にして、必死に堪えるが、それでも質量の差は歴然としており、どんどんと地面に体がめり込んでいく。

(こいつは…マズイか)

 ガルティアがどうしようか思案していた時、突如として大まおーの足がガルティアから離される。

 その隙を見逃さず、ガルティアは地面から抜け出すが、目の前にはラウネアとタルゴが大まおーに向かって攻撃を仕掛けていた。

「ラウネア! タルゴ!」

 しかし二人の攻撃も大まおーにはあまり効果が無い様で、目に見えた傷は全く見えない。

「まーおー!」

 大まおーの放つデビルビームが二人に直撃し、無敵結界の無い使徒はそれに耐え切れずに吹飛ばされる。

 それを確認した大まおーがさらに口から火を吐くべく息を吸い込んだとき、大まおーの頭に大きな穴が開く。

「…っと、流石に疲れるな」

 ガルティアの切り札、レーザーバグの一撃が大まおーの頭に大きな穴を開けた。

 普通のムシ使いでは一度使えば一日は動けなくなる程の威力であり、ムシ使いとして卓越した技量を持つガルティアですらもその疲労は隠せない。

 その代わりに威力は段違いであり、その一撃はかつては魔人にすら大きなダメージを与えたほどだ。

「ラウネア、タルゴ! 大丈夫か!?」

 ガルティアは倒れている使徒に向かって走り出す。

 幸いにも二人とも無事のようだが、使徒である二人にこれほどのダメージを与えたとなると、相手の強さに改めて冷や汗が出る。

 ガルティアは二人を自分の腹の中に戻し、ケイブリスの方を見たとき、目の前に迫ったのは大鎌の刃だった。

 その思いもしない一撃は、無敵結界の上からガルティアを吹飛ばす。

 完全に油断をしていた所での一撃であり、その威力は無敵結界の上からガルティアの脳を揺らす。

「おいおい…」

 ガルティアが起き上がったときに見たのは、先程と変わらぬ大まおーの姿だった。

 レーザーバグが放った傷跡も既に塞がっている。

 大まおーの炎と魔法が雨のように降り注ぎ、流石のガルティアも防戦一方になってしまう。

 何とかその炎の嵐を抜けようと、懸命に体を動かし、その炎の一撃を避けるがその炎はちょうど誰かが扉を開けた所に直撃する。

「あ…」

 誰かが扉を開け、巻き込まれて死んだ…と、ガルティアは思ったが、その炎が収まった後に立っていた人物を見て驚く。

 そこに立っていたのは、ガルティアが望んでいた人物…魔人カミーラだった。

 

 

 

 

「危ない! ランス!」

 レダはランスに飛びつくのと、炎がランス達が立っていた場所を通過するのは殆ど同時だった。

 その威力はまるでドラゴンのブレスであり、流石のランスも冷や汗をたらす。

「カ、カミーラ!?」

 そして真正面からその炎を浴びせられたカミーラだが…当然の如くカミーラは立っていた。

 無敵結界がその炎を防いだのだが、

「ケホッ」

 カミーラは自分の中に溜まった熱気を吐き出す。

 確かにカミーラにはダメージは無い…が、当然の如く激怒していた。

 自分の顔をなぞると、そこには黒い煤が自分の顔についていた上に、自分の髪の毛の一部が焼け焦げ、衣装も少し焼けていた。

 カミーラは自分にいきなり無礼を働いたであろう存在を見る。

 そこにはピンク色の巨大な物体が自分を見ていた。

「カミーラ…」

「ガルティアか…アレは一体なんだ」

 カミーラはガルティアの方を見ると、僅かに眉を顰める。

 見ればガルティアの体には火傷が複数有り、見れば頭部からも血を流した跡がある。

 無敵結界がある故に魔人はダメージを受けない…勿論自分の意思で無敵結界を切れば話は別だが、ガルティアならばそのような事はしないだろう。

 カミーラは一部焼けた自分の髪の毛を見る。

「ほぅ…無敵結界を貫通したか」

 ダメージこそ無いが、その炎は確実にカミーラに届いていた。

 その事実にカミーラは獰猛な笑みを浮かべる。

 ガルティアはその笑みを見て、大まおーとの戦いとはまた別の意味で冷や汗をかく。

 カミーラとは結構長い付き合いとなるが、あのカミーラがこのような笑みを浮かべるとは思ってもいなかった。

「ククク…楽しめそうだな。このカミーラに傷をつけた事、後悔させてやろう」

 カミーラは真っ向から大まおーに向かって突っ込んでいく。

 大まおーの口から放たれる炎を華麗に避けながら、その爪を振るう。

 カミーラの爪が相手を引き裂いた──―そう思ったが、意外な程の弾力を持ってカミーラの爪が弾かれる。

 そしてお返しとばかりに放たれる魔法がカミーラに直撃する。

 流石のカミーラも魔法を避ける事は出来ずに、その威力に負けて吹き飛ばされるが、その翼をもって地面に叩きつけられるという事は無い。

 追撃に振るわれる鎌を上空に飛んで避けると、今度はブレスで大まおーを攻撃する。

 そのブレスは大まおーに直撃する間に、魔法バリアによって弾かれる。

「おいおい…カミーラのブレスを防ぐのかよ」

 ガルティアは改めて目の前の存在に驚愕する。

 カミーラのブレス攻撃を防ぐ等、並みの魔物には出来ない…つまり相手は魔人級の魔力を持っている上に、無敵結界をある程度貫通する事が出来る存在なのだ。

「おい、なんだありゃ?」

「ああ、ランスか。いや、俺も何なのか分からないんだよな」

 いつの間にか横に立っていたランスにガルティアは答える。

 本当にガルティアには何がなんだか分からないのだから、そう答える以外に無い。

「ただ言えるのは、魔人に対してダメージを与えられるって事だな」

 ガルティアは立ち上がると、剣を構える。

 カミーラは怒るかもしれないが、やはりやられっ放しというのはガルティアも不満ではあるし、何よりもこれ以上スラルの城を傷つけられるのは我慢ならなかった。

 それに自分の使徒を傷つけられた事も許せない。

 だからガルティアも剣を片手に大まおーに向かって突っ込んでいく。

「うーん…あいつ、どこかで見た事あるような」

「いや、あんな奇妙な物体、普通一度見たら忘れられないんじゃない?」

 ランスとレダはこの人外の戦いを観戦していた。

 どうやらカミーラは割りと本気で戦っているようだし、ガルティアもそのムシ使いとしての力を使って全力で戦っている。

 流石にこの戦いの中で乱入する気にはなれなかった。

 ガルティアの剣とムシの力で大まおーのバリアを剥した所に、カミーラのブレスが直撃する。

 カミーラの全力のブレスに、大まおーの体が黒焦げになり丸い目が×印に変わり倒れる。

「終わったか?」

「そうみたいね」

 大まおーが倒れたのを見て、ランスとレダも近づく。

 カミーラは少しは気が晴れたのか、先程の不機嫌さも少しは収まったようだった。

「フン…もう少し楽しめると思ったが」

 カミーラは倒れた大まおーに背を向ける。

 ガルティアも安心したように地面に座り、ため息をつく。

「カミーラ! 後ろだ!」

 ランスの声に反応してカミーラは宙に飛ぶ。

 先程カミーラが立っていた場所に、大まおーの大鎌が突き刺さっていた。

 ランスとレダは見た…大まおーの体が光り輝いたかと思うと、何事も無かったかのように立ち上がったのだ。

 流石のカミーラもその様子には眉を顰める。

 確かにカミーラのブレスは大まおーを黒焦げにし、一度は倒したはずだった。

 しかしその体には先程の傷は一切存在しない。

「まーおー!」

 大まおーはランスとレダも敵と認識したのか、二人に向かってデビルビームを放つ。

「ランス!」

 レダは盾を用いて大まおーの魔法を防ぐ。

 エンジェルナイトが使用する、防御力・魔法防御力に優れた盾に加え、盾防御LV2を持つレダの技量は魔法すらも防いでみせる。

 それもその体がのけ反る事も無い…まさに神の盾だ。

 カミーラはその隙にブレスを放つが、大まおーのバリアによって防がれる。

「まーおー!」

 大まおーの両手に黒い光りが放たれ、その暗黒がカミーラを包むと、カミーラもその威力に耐えられずに地面に叩きつけられる。

 チョウアンコク級の魔法の前では、流石のカミーラも耐える事は出来なかった。

「おいカミーラ!」

「…問題は無い」

 カミーラはすぐさま起き上がると、目の前の敵を睨む。

(こわ…)

 その眼光には思わずランスも怯んでしまう。

 このような目は、ランスと戦った時にも見せた事は無かった。

 そしてカミーラは再び大まおーに襲い掛かる。

 続いてガルティアも大まおーに向かっていくが、やはり何度攻撃して倒しても、大まおーの体が光り輝くとすぐに起き上がってしまう。

 何度も復活する大まおーに、流石のカミーラも苛立ちを隠せなくなる。

「まーおー!!」

 大まおーが一際大きく声を上げると、その手に強力な魔力が溜まっていく。

 それは先程のカミーラに向けられたアンコクよりも巨大な魔力だ。

 そしてその魔力が巨大な力と共に爆発する。

 死爆…それも圧倒的広範囲の闇魔法の前には、流石のレダもランスを庇う事は出来なかった。

 が、ランスを助けたのは意外な人物…カミーラだった。

 カミーラはランスを自分の翼で覆い、相手の死爆を受ける。

「カ、カミーラ!?」

 流石のランスもカミーラの行動には驚きを隠せない。

 まさかあの魔人カミーラがランスを助けるなど、ランスには考えられない事だった。

「お、おぉ!?」

 カミーラはランスを離すと、そのまま大まおーに向かって再び向かっていく。

 ランスは流石に驚いたが、直ぐに自分を剣を抜く。

 生意気にも、自分に攻撃を仕掛けてきたふざけた生き物を許せないのはランスも一緒だった。

「俺様に向かっていい度胸だ!」

 ランスも大まおーに向かって一直線に突っ込んでいく。

「ランス! 無茶は厳禁よ!」

 レダも直ぐにランスの横につく。

 これほどの力を持つ敵が相手ならば、ランスをガードしなければ人間であるランスはあっさりと死んでしまう。

 だからといって、引けといわれて引くような男ではないため、自分がランスを守らなければならない。

(それに…もしかしたらコイツは悪魔かもしれない)

 気の抜けるようなデザインだが、先程の威力の魔法、そして何よりも魔人に対して無敵結界を多少なりとも貫通している事からしても、只者ではない。

「まーおー!」

 大まおーの炎がランスを襲うが、既にランスはその場にはいない。

「がはははは! とー!!」

 ランスが剣を大きく振りかぶり、その巨体に向かって剣を振るう。

 カミーラのブレスにも耐える大まおーは、その一撃を自身の鎌で受け止める。

「むむ…」

 ランスの剣はドラゴンの鱗すらも切り裂くほどの切味だが、どうやら相手の武器はそれを上回る硬度を持っているようで、流石のランスでもこれ以上は剣が進まない。

「消し飛びなさい!」

 レダの一撃…悪魔祓いの一撃が大まおーの体に突き刺さる。

 しかしその感触は、かつて悪魔を消し去った時に比べれば非常に小さい。

(この感覚…悪魔なのは間違いないけど、私の知ってる悪魔じゃない…もしかしてかなりの階級の悪魔?)

 下級悪魔ならば一撃で消滅させられる一撃にも大まおーは平気な顔をしている。

 アンコクがレダを襲うが、レダはその一撃を盾で防ぐ。

 その隙にガルティア、カミーラの攻撃が大まおーを襲い、大まおーは再び目を×印にして倒れる。

 が、再び体が光り輝くと、何事も無かった様に起き上がり、カミーラとガルティアにデビルビームを放つ。

 ルドラサウム大陸において、魔法は必中という理不尽さを持つ。

 ガルティアは魔法を防御する事が出来るムシの盾を展開し、カミーラは己の魔力でデビルビームを防ぐ。

「おいおい! 一体どうやったら死ぬんだ!?」

「知るか! 死なないなら死ぬまで殺すだけだ!」

 ガルティアは魔人すらも上回る再生力に驚愕し、ランスは死ぬまで殺すと己の剣を振るう。

 大まおーはカミーラのブレスやガルティアの一撃、レダの対悪魔の攻撃は体で受けても、ランスの剣の一撃だけは絶対に受けようとしない。

 意外と俊敏な動きでランスの一撃を避け、時には鎌で攻撃を払う。

「世界樹の葉だ!」

 その時、ケイブリスの声が辺りに響く。

「そいつは魔王のアイテムを沢山取り込んでるぞ! 普通に倒せば何度でも復活する!」

 ケイブリスの声に反応し、カミーラがケイブリスを掴む。

「カ、カ、カ、カミーラさん!?」

 突然の事にケイブリスの鼓動が跳ね上がる。

 カミーラに掴まれたのは初めてだし、これほど間近で彼女を見るのも生まれて初めてだった。

「話せ、ケイブリス」

「え、え、え、えーと…ス、スラル様が言うには…本当に何回倒されても復活するみたいで…その、処分をするって言ってました」

「無効にする手はあるのか?」

「な、な、な、何でも『物品禁止』という魔法とか、『絶対差し押さえの札』とかのアイテムがあればいいって」

 ケイブリスの言葉にカミーラは眉を顰める。

 何れの言葉もカミーラも知らない。

 つまりは現状を打開する手段は存在しないという事だ。

 カミーラはケイブリスを乱暴に離すと、そのまま大まおーの体を切り裂くが、相手はその程度では倒れない。

 ブレスの一撃ならば倒せるが、復活されるのでは意味は無い。

「くたばれ!」

 しかしその一撃が初めてランスの剣が大まおーを傷つける隙を作る。

「まお!?」

 すると今までに無い声を出し、大まおーが苦しむ。

 ランスが傷つけた所から、ピンクの煙が立ち上がる。

 そしてその煙がランスの剣に吸い込まれるように消えていく。

「…おい、あいつ少し小さくなってないか?」

「…確かに小さくなってるわね」

 ごく僅かにだが、確かに大まおーの体が小さくなっていた。

(ランスの剣…あの悪魔から貰った剣だけど、一体どんな剣なのかしら)

 レダもその場に居たが、ランスの持っている剣は非常に謎が多い。

 ランスは気にしていないようだが、エンジェルナイトであるレダには非常に気になってしまう。

 何しろ相手はあの三魔子、ボレロ・パタンだったからだ。

(いや、今はそんな事を考えている暇は無いわね)

 何しろ相手は、カミーラとガルティアの二人の魔人に加え、人類でも突出した力を持つランスとエンジェルナイトを相手にして立ち回っているのだ。

 大まおーの手に魔力が集まり、レダはランスを守るべく盾を構えて前に出る。

 だからだろうか、魔法が来ると思い込みからか、大まおーの蹴りを避ける事が出来なかった。

「グッ!」

 その一撃に思わず息が詰まる。

 レダが起き上った時は、既に大まおーの魔法がランスに向かって放たれていた。

 ランスも非常に焦った顔をしている。

 大まおーの魔法の威力は強大で、人間のランスならば一度でも食らえば大ダメージとなってしまう。

「ランス!」

 この位置ではカミーラもランスを庇う事は出来ない。

 大まおーの放つデビルビームはランスに当たる前に、突如として何かに弾かれるようにその軌道を変える。

「…こうまで騒がしいと、寝ていられないな」

「ケッセルリンク!」

 ケッセルリンクの魔法バリアが、大まおーの攻撃を逸らしたようだ。

 今日は太陽が出ていないため、ケッセルリンクも少しは余裕があるようだ。

「ランス。こいつは一体何だ」

「生意気にも俺様に喧嘩を売ってきたバカだ。なんか復活するらしいが、俺様ならば奴を殺せる」

「そうか。ならばとっとと排除しよう。私も昼間に動くのはキツイ」

 ランスは再び真っ直ぐに大まおーに向かっていく。

 大まおーはランスに向かって鎌を振るうが、その一撃はカミーラによって止められる。

「がはははは! 死ねー!」

 ランスの一撃が大まおーに深々と突き刺さる。

 突き刺した部分からは再びピンクの煙があがり、

「まーおー!」

 大まおーが苦しげな(?)声を上げると共に、その体がどんどんしぼんでいく。

 最初はドラゴンほどの大きさを持っていたが、今はサイクロナイト程の大きさしかない。

 それに比例するようにその魔力も小さくなっていく。

 まるで最後の足掻きのように、大まおーの体が赤く光り始める。

「自爆する気か!?」

「ランス!」

 ケッセルリンクとレダの声が重なり、ランスが大まおーから剣を引き抜き、

「ラーンスアタ────ック!」

 必殺の一撃で大まおーを両断し、それと同時に大まおーが爆発するのは同時だった。

「「ランス!!」」

 その熱量はランスでも絶えられない…レダとケッセルリンクが悲鳴を上げるが、炎の中にカミーラが飛び込んだかと思うと、ランスを掴んで炎から出てくる。

「アチチ!」

 ランスは服についた炎を払うが、あの熱量にも関わらず怪我らしい怪我は殆ど無い。

「ランス! 大丈夫!?」

「無事か! ランス!」

 ケッセルリンクとレダがランスに駆け寄るのを見て、カミーラが笑う。

「問題は無い…この男が持っているアイテムを忘れたか」

「あっ!」

 カミーラの言葉にレダは思い当たる。

 確かにランスはあの時に『ドラゴンの加護』というアイテムを手に入れていた。

 その力はまさにバランスブレイカーで有り、大まおーの爆発にもある程度耐える事が出来たのだ。

 それでもカミーラの一瞬の判断が無ければ、ランスは燃え尽きていただろう。

「まったく…一体何がどうなってたんだ?」

 ガルティアが周りの惨状を見回しながら呻く。

 大まおーが暴れた被害は相当な物で、大まおーが通過した廊下は崩壊、又は炎によって焼け爛れている。

 この広場の被害も相当であり、あちこちにクレーターが複数できている。

 そして何よりも被害が大きかったのは、騒動の元である魔王の宝物庫だろう。

「ケイブリス。一体何が起きたんだ?」

 ケイブリスは、あの大まおーの強さ、そして不死身の理由を知っていた。

 つまりはあの悪魔は宝物庫から生まれた事になる。

「そ、それは…」

 ケイブリスは冷や汗をかきながらガルティアから視線をそらす。

 その場にいる全員がケイブリスに疑問の目を向けていた。

「………何コレ?」

 ここで呆然とした声が響く。

 全員がその方向を見ると、スラルが呆然と立ち尽くしていた。

 




少し遅れました
大まおーが強いのは第2部でアームズが強いのと同じ理由です
実際この世界のバランスブレイカーって強すぎますし


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戦いの後

「こんな所に魔人がね…」

 メガラスから『新たな魔人が見つかった』と報告を受けたとき、スラルは当然の如くその魔人が自分の元に来る物だと思っていた。

 ほとんど知能の無い魔人ならばともかく、今回見つかったのはハニーの魔人だという。

「それもハニーがこんな所にね…」

 正直、スラルはハニーに対してはあまりいい感情を持っていない。

 モンスターであるとは思うが、不思議と自分の命令が一切通らない。

 一切の魔法が通用せず、ハニーフラッシュという絶対に回避できない攻撃を繰り出してくる。

 その強さもまた千差万別、中でも強力なハニーはそれこそ現在の最上級モンスターにも匹敵する。

 そしてその王であるハニーキング…出来れば思い出したくも無い。

 魔王の魔力すらきかず、何度倒しても復活する様はまさに悪夢そのものだった。

 一応は相手の方から退いた形