ISvs Build 〜他が為の力〜 (セトリ)
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デストロイ・ザ・万丈龍我

私はこの世界を否定する。たとえ世界が壊れたとしても。
否定要素は私の手で作り、形成される。
世界は偽りの平和に満ちている。
誰かを蔑み、誰かを貶め、誰かを踏み躙り、誰かを殺す。
もし、強者が弱者と成り得たらば。もし、弱者が強者と成り得たら。
これ以上を望むものはない。悲しみは消え去るべきだ。
兵器は誰かを守る者に託されるべきなんだ。
力は特別な者にこそ、与えられる。だから、私は世界を破壊する。
形成せよ。我々は守護者たる英雄を喚び起こす。
「起動」
私は青い光を、救いの光と思えた。



俺は現場に急行していた。

東都の真昼間の中全速力でバイクを飛ばす。石動美空のネットワークに怪物の情報が入っていていたからだ。ネビュラガスは反応なし、明らかな異変だった。

 

「マスターがバイクを貸してくれるなんてな」

 

「今回だけだ。次はねぇってよ」

 

追記だが、俺は背中にむさっ苦しい男を連れている。野郎と二人でデートごっこは嫌だが、サイドカーなどは付いていないから仕方ない。せめて美少女だったら役得だったのに。

そんなことを考えていると悲鳴が聴こえ始める。町の人々が襲われている類のものだ。背中の掴む力が強くなったのを感じると同時に、クラッチを切り替えてスロットルを強く回す。

 

ーーーーーーー

 

Fー2地区にて、我々が生み出したスマッシュとは違う異形の怪人が突如現れた。ガーディアンも雑魚同然に木っ端微塵に蹂躙されていた。逐一ガーディアンを投入しているものの、兵器じみた分厚い装甲を突破する者は誰一人いなかった。ただし、ガーディアンだけなら。

 

【フルボトル】

 

小気味良い蒸気音を鳴らし、トリガーを引く。

 

【スチームアタック】

 

怪物に戦車の砲弾の如き蒸気銃弾を至近距離でぶちかます。蒸気で辺り一面が白く染まる。しかし、これだけで怪人をぶちのめすことは出来なかったと頭部センサーが生体反応を示す。

 

「おいおい、これで10発目だぞ」

 

不意打ち気味に放った5発の撹乱弾、3発放った誘導弾、威力を最大にした徹甲弾、そして今放った最大最強の銃弾を耐え凌いだ。耐久力ならばこの世界、仮面ライダーでさえも超えるものだ。怪人から放たれる仮面ライダー未満の殴打をいなして背筋に広がる悪寒を振り払う。

 

「幸い、本気を出していないのが救いか」

 

怪人は何かを探すように動いている。我々が攻撃を加えた時のみ反撃をしているからだ。確保しようと捕獲弾の攻撃を加えた瞬間、暴れ回り手がつけられない状態になっていた。どうやら、ガーディアンと同じくとあるルーチンで動くロボットだろう。寸分の狂いなく急所へと打ち込む冷徹な攻撃がそう感じさせる。

 

「ぶっ壊すにはあいつらの力が役に立つかな」

 

ガーディアンの残骸が山ほど転がっている中、聴覚センサーが聞き慣れたエンジン音を拾いあげる。

 

ーーーーーー

 

二人の怪人が戦っている様子を見て、二人の青年は驚いていた。

片や何度も戦闘を繰り広げ尚も実力の底を見せないコブラの装甲を被る怪人、ブラッドスターク。

そのスタークの攻撃をものともしない、全身黒の装甲を纏った女性型の怪人。青く光るバイザーが機械的に蠢く。スタークと変わらない程の体格ながらも、俊敏な動きで攻め立てている。

 

青年らの面倒を見てくれる人物から貸し受けたバイクから降りる青年達。クリーム色のコートを靡かせ颯爽と地面に着地したのは桐生戦兎(きりゅうせんと)。天才物理学者を自称する彼は、肩書きに寸分違わぬ発明品を創り出し日々を過ごしている、幼さ残る好奇心旺盛な青年。

遅れて力強く着地する、背に入った龍と違わぬ迫力を出す血気盛んな若者の名は万丈龍我(ばんじょうりゅうが)。かつて策略にはまり、とある物理学者を殺した罪を晴らす為に逃亡しながらも手掛かりを見つける為日々を生きている、元格闘家の闘争心MAXな青年。

 

「あれは? あのスタークが押されている?」

 

戦闘状況に違和感を抱いた戦兎達。戦いに参加するべく、戦兎は懐から発明品のベルトを取り出すがーーー「戦兎、お前じゃ役不足だ」と万丈に横取りされる。彼の目には既に闘気が溢れていた。

 

「あのね、この場合力不足じゃないの?」

 

戦兎はコートの中から現在持ち合わせている残りの持ち物二つ。人々を守る為に費やしてきた技術の結晶、フルボトルを万丈に放り投げる。

 

「バーカ、お前が出る幕じゃないってことだよ。この程度、俺の力で十分だ」

 

万丈は不敵な笑みを浮かべ、受け取ったフルボトルの一つを上下に振る。カシャカシャと中身の成分を混ぜ合わせ、蓋のラベルを真正面にセットする。龍の声が辺りに響く。リングのタイトルコールが鳴る時を待ちわびるように、自律型制御装置クローズドラゴンが万丈の前に飛翔する。

 

「つっしゃ! 行くぜ!」

 

ベルトを豪快に腰へ当てがい黄色の帯を展開し、準備を完了したボトルをクローズドラゴンに合体させる。【wake up!】正常に起動したクローズドラゴンは装填準備状態へ移行。万丈はそれをキャッチし、ベルトの装填部分へそのまま装着させる。

 

【クローズドラゴン!】

 

ベルトが起動準備の音を鳴らす。まさしく新たな戦士を喚び起こす電子的なリズムを掻き鳴らすと共に、万丈のテンションを最高潮へと引き上げていく。これからは彼の存在が世界の中で輝き始める事を止められないように、ベルトに備え付けられた赤色の棒を回す。

 

ベルトに内蔵された変身機構を司る歯車が駆動し、戦士の舞台を創り始める。万丈の手は止まることを知らず【Are you Ready?】と音声が鳴った時、ようやく手を離した。そして、身体を軽く解し、コンパクトなファイティングポーズを構え、覚悟を纏う一声を吐き出す。

 

「変身ッ!」

 

鎧が形成し終わり、万丈の身に蒸着される。世界にひとつだけの拳を武器に、必ず相手をKOする。戦いに於いては流星の如き、更にはその星でさえ噛み砕く蒼き龍の姿を象るその戦士の名はーー

 

【Wake up burning】

 

仮面ライダークローズ。(Get CROSSーZ DRGON)

 

しゃっ(Yeah)、行くぜ!」 若き龍は戦場へと駆け出す。

 

 

ーーーーーー

 

 

赤き蛇と黒き鋼は戦いを膠着状態に陥らせていた。赤き蛇が強力な一撃を放とうものなら、黒き鋼は超人的な耐久性能を発揮して耐え凌ぎ、黒き鋼が無慈悲な連撃を繰り出そうものなら、赤き蛇はのらりくらりと躱していく。そのやり取りを幾度も続けていく中、赤き蛇は独り言葉を漏らす。「これじゃあ、埒があかないねェ。そろそろ決定打をっと」

赤蛇の手持ちの武器、スチームトランスガンの一部に備えられたフルボトル装填部に、彼自身を模した紫のフルボトルを装填する。黒き鋼の攻撃を避けた一瞬に練り上げられた必殺のエネルギーは、脚部に溜まっていく。

 

【スチームブレイク コブラァ】

 

銃から蒸気を吹き出し、赤き蛇の姿を眩ませる。黒き鋼は蒼く眼光を光らせ、急に戦闘体勢を解く。その間断を狙い、赤き蛇は真正面から蛇の真似をするように地面を這いずり、どす黒く着色されたエネルギーをと共に黒き鋼の正中へ蹴り込む。

僅かに持ち上がった無防備な身体を同様のエネルギーを纏った拳で殴りつける。これで戦いが終わることを告げる。

 

筈だった。拳を掴む黒き鋼の二の腕が継戦を唱えるまでは。

 

「こりゃあおじさん参っちゃうねぇ。結構本気だったんだよ」

 

乱暴な膂力で拳を引き抜き、咄嗟にしゃがむ。好機と見た黒き鋼は追撃をしようとその浅葱色の蛇の象徴を殴り抜こうと拳を引き絞る。「なーんてな」。黒き鋼は拳を引き絞るまでしかできなかった。

 

赤き蛇の身体が死角となり本命が見えていなかった。彼のいつもの戦い方であり、ある意味で信頼していなければ成立しなかった、本命を囮とした本命の一撃を浴びせる。

 

【メガスラッシュ!】「ウらァァァっ!」

 

黒き鋼は目の前に迫り来る龍の奔流を全身に受けて、数m仰け反り、膝をつく。その様子から手ごたえを感じた蒼き龍は軽くガッツポーズを取る。

 

「喜ぶのは良いが、相手はまだ動くぞ」赤い蛇は忠告する。

「ったく、何となくいい当たりだったのによ。それにあんたが苦戦するなんて、相当な強敵だなぁ」蒼い龍は地面に埋もれた剣を引き抜き、黒き鋼に向けて赤き蛇に睨みを効かせる。

「あれは東都の敵、そしてファウストの敵でもある。ド派手にぶっ壊せ、相手は何らかの目的を持った侵略ロボットだからよぉ」鏡合わせに、自身の銃を黒き鋼に向けて赤い蛇は蒼い龍を嘲笑う。

「これはこれは。協力する気なんて無いからな」

「いいねぇその跳ねっ返り精神。どっかの蝙蝠よりかマシだな」

赤き蛇と蒼き龍が利害の一致を図ったところで、黒き鋼は何処からかアサルトライフルを取り出して引き金を引く。分/800発の雨あられが二人に襲いかかる。しかし、フルボトル由来の超硬度耐衝撃装甲を身に纏った二人は呑気に臨戦体勢を整える。

 

「そんなちゃちいもんじゃ、この俺を倒せないぜ」

「じゃあ、行ってこい。仮面ライダーくん」

 

赤き蛇は灰色のフルボトルを蒸気銃に装填。5.56mmを超える半径の銃弾を、横殴りの雨を遮る傘のように高速で発射する。蒼き龍は脇目を振らず、垂直に立てた剣を身体に寄せて走っていく。

黒き鋼は5m程の銃を再び虚空から取り出し、片手で狙いを定めにいく。蒼き龍は2017年現代における人間に向けるべきではない兵器とはいざ知らず、ベルトの赤いハンドルを回し始める。

 

「アンチマテリアルライフル? 皆殺しか、それともーー」

 

赤き蛇の呟きは、空気壁を突き破る銃撃と龍の息吹(ドラゴニックフィニッシュ)が激突する衝撃に掻き消される。

一瞬の閃光。蒼き龍が吼える。黒き鋼が啼く。

真っ白な世界を塗り替えていくのは、ただ一つの青年の声だった。

 

「万丈!」

 

黒き鋼が細かい電撃を放つ。それは新たな攻撃でもなく、ただ腹部に空いた穴をどうにか修復しようとする、最後の抵抗だった。

蒼き龍は超絶な技を放った、未だ燻る右脚を黒き鋼の青いバイザー目掛けて回転蹴りを放つ。それが試合を終了させるコングであった。

 

 

ーーーーーーーーーーーーー

 

 

ベルトも無く、成分入りフルボトルも全て手持ちにない俺は、遠くでブラッドスタークとクローズの共闘を見守っていた。

相手である黒い怪人。所々ぎこちない動きが機械と感じさせる。クローズが放ったビートクローザーの一撃を受けた怪人は、何事もなく瞬時に取り出した武器を手に、二人へ乱射している。

 

「なんだあの技術? ビルドの武器召喚のシステムと一緒だけど、装着速度が段違いに速い」

 

召喚された武器はクローズ達には歯が立たないものであり、無意味なもので脅威はない。ビルドシステムを知っているものが、そんなものを優先的に呼び出して攻撃するだろうか。知っていれば一般兵器では通用しないことを見越して、クローズ達の装甲を抜くことができる兵器を真っ先に使用する。

もし、それを知らないとしたらファウストとは関係はない第三の勢力の兵器である。しかし、力試し目的だとしてもビートクローザーの一撃を何故傷一つなく受けることができたのか。可能性としてはフルボトル以外の技術を用いた超兵器であり、防御性能を極限にまで高めた技術を用いて受け止めたが、装甲を貫通する攻撃性能を持てなかった。

 

あるいは、ビルドシステムのような超常的な兵器がなかったからそれで十分な攻撃性能だった。

 

ふと、周囲を見渡すとクローズが必殺を、黒い怪人が明らかに威力の強い大型銃を取り出し、撃つ所だった。

 

威力を最大限に活かした一撃。二人はそうやって決着をつけようとしている。それでもやっぱり二人の放つ威力は差ができている。あれではまるで全力を引き出すような、まるでそれが目的だというような。

 

「万丈!」

 

思わず叫ぶが、クローズの励起したボトルエネルギーが黒い怪人の腹部を貫通していく。駆け寄ろうとしたが、それはブラッドスタークの手で塞がれた。

 

「待て、近づくな」

 

クローズの止めの一撃を頭部に喰らった黒い怪人は、全身を青く光らせて爆発を起こした。それは、ただの爆発であって欲しかった。

 

「何ーー」

 

万丈の言葉は爆発した青い光に飲み込まれていった。恐らく怪人が創り出したであろう青い穴へ、行き先の分からない未知数の空間へ。

それが仮面ライダークローズ、万丈龍我をこの世界で見た最後だった。

 

 

 

 

 



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アラウンドニューワールド・仮面ライダー

前回までのあらすじ

万丈は居なくなった。
謎の青い光により、吸い込まれて消えた。消えたんだ。
俺は今何をすればいい?
あいつが吸い込まれた穴はまだ、ある。
だったらやることは一つ。あいつを救いだすことだ。
だから、どいてくれブラッドスターク。



今、誰もを助けたい、なまっちょろい声(戦兎の声)が聞こえた。俺は今何をしているんだ。変身して、いけ好かないスタークと共闘して、黒い怪人を必殺技でぶっ壊して

ーーーーーああ、思い出した。俺は今、変な穴から抜け出して上空に放り投げられていたんだった。って、俺は

 

「飛べるわけがないだろっ!?」

 

上空俯瞰視点の街が見える。ちょっと近代的な感じの、まさに現代の風景が映っている。なんか、あのモノレール見たことがあるような無いような、ってかそうしてる内に地面がーー

 

「見えたぁア?!」

 

微妙に知っている天井が俺を出迎えてくれた。

 

ーーーーーーーー

 

ここはどこと、微妙に情報が不足してイマイチ状況が飲み込めない。ジェットコースターに乗って急転直下して極度の恐怖に晒されて、気絶したような。古いテープが映像の工程を一つ飛ばした違和感。

ベッドの白いシーツを捲り、辺りを見回す。

レンガとセメントで作られた壁。一人用のベッド。上に出る螺旋階段と、寝室から続いている大きい部屋。どうにも知っている場所に近い雰囲気を感じながら、側の丸机に置かれていた俺の愛用ジャケットを羽織り、そっちへと向かうことにした。

大きい部屋にはあの地下研究所と同じく、小型のフルボトル浄化装置と高性能そうなパソコン、造るための工業用工具があった。

 

「夢? にしちゃ、現実味がありすぎるっていうか、どうにもねぇ」

 

とても頭がすっきりしている。微妙に強付いた身体を伸ばして、解していく。馴染んだ音が腹から搔き鳴らしていく。鼻が肉の焼けた匂いを嗅ぎつける。螺旋階段の方からだった。

 

階段の始めに置いてあった俺の靴を履き、出口にあった冷蔵庫の扉を開き外へ出てみると、そこにはただのリビングが広がっていた。

キッチンから見渡せる大きな窓から、青い空と日光が射し込んでくる。

 

「......喫茶店じゃないのかよ」

 

キッチンにあったカツを挟んだサンドイッチを喰いながら、隣の起き手紙を読んでみる。『おはよう万丈。今日からここが俺たちの拠点になる。俺は今外出中だから、お前に伝えたいことがあってこの手紙を書いた。まずはテレビを付けてニュースを見てくれ』

 

多分、戦兎が書いた手紙に従ってリビングにあるテレビを点ける。大体23インチの画面には天気予報が流れていた。

『午後からも晴天の予報ですが、にわか雨には気をつけてください。では、全国の気温を見てみましょうーーー』

女性アナウンサーに切り替わり、指さし棒で指されていく日本を象る地図に描かれた、仙台、広島、北海道、大阪、沖縄、そして東京の文字。俺が知っている東都、南都、北都の三つに分かれた独特な地図は無く、ひとつながりの島国が出来上がっていた。

情報が食い違って混乱しかかっている頭を回し、戦兎の置き手紙の先を読んでみる。

『驚いたか? 俺も驚いたさ。でも、ここはスカイウォールの惨劇が起きていない平和な世界だ。ある事を除いてな』

 

乾いて霞みかけた目を強く閉じて回復させながら、テレビのリモコンを適当に押していく。丁度昼時なのか、古めのドラマやバラエティが映る中、一つの特集のコーナーが放映されているバラエティを見つけた。そこには、『都市伝説! 怪人と仮面のヒーロー』と大っぴらに書かれたボードの前で討論するというコーナーらしく、辺りにいる進行役がボードに貼り付けられた写真をクローズアップしていた。

赤と青の混ざりあった鎧と仮面を身に纏い、素手で角張った怪人と闘っている1シーン。姿が変わり黄とライトグリーンを纏い、忍者らしい怪人を撃破する所の1シーン。

『最近、彼らが日夜問わず戦っている目撃情報が増えておりまして。私はアクション映画のワンシーンを撮っているのかと思いましたが、カメラが居ないそうで、これらの写真は皆様方のカメラによりなんとか収められました』

俺の記憶では脱獄犯だった俺を救った為に、指名手配犯として東都全域に報道されていた。どうやらビルドは世間一般には知られていないようだ。

『なんだか個性的なヒーローですねぇ。しかも、これらは同一の存在らしいと聞きましたが?』

片一方の聞き手役はあたかもらしい評価をし、コーナーを進めている。ガヤの声がうざったく聞こえてくる。

『ええ、これを見てください』

進行役が大型ディスプレイの方に指を差し示す。丁度良く流れ始めた映像は、どうやら夜中らしく暗闇に包まれている。その中で対峙する赤と青の仮面と俺が素手で倒したスマッシュと同じタイプの奴がいた。

スマッシュは攻撃を仕掛けていくが赤と青はいなし時折青の脚で重い一撃を放っている。放つ度に弱っていくスマッシュ、赤と青は隙をみて二つの光を放つアイテムを腰のベルトで入れ替える。

【ニンジャ】【コミック】

不思議な音(ボトル装填音)と共に瞬時に鎧を入れ替え黄色と紫になった仮面は手裏剣状の紫色のエネルギーを放ったり、空間に作った擬似の炎を実体化して燃やしたりと戦術が変則的に変わり、攻めていく手段も多種多様だった。

完全に弱りきったところでマフラーを怪人に巻きつけ多重に分身した仮面の同時キックが決まったところで映像が切れた。

『しかし、奇妙なヒーローですね。まるで人間兵器じゃないですか』

聞き手役の一言が胸にヤケた思いが募る。自分の中でそう認めてしまうことが歯痒い。でも、あいつは守る為にアレを使っている。なんだか悔しい。

『ええ、ISのような用途も考えられます。もしかしたらその後継機なのかもしれませんね。例えば装着に性別の制限がなくなるというような』

テレビの電源を消す。あれこれ考えるよりも先に、手紙の残り少ない続きを読むことにした。

『ま、それもすぐにわかる。万丈、お前も折角用意した潜入用セットとフルボトル活用しろよ』

by桐生戦兎と締められた手紙から視線を外し、リビングの机に置いてあった衣服と二つのフルボトル、ドラゴンフルボトルとロックフルボトルを確認した。

 

ーーーーーー

 

私の目の前には、先日のクラス代表決定戦についての報告書が積み上がっていた。若干の寝不足からかこめかみの辺りに鈍い痛みが走る。

 

「はあっ」

 

机の上の紙束が深い吐息で少し移動する。これに書かれているのは弟の戦いだ。評価は初心者ながらもよくやったとしたいところだった。その後の事故さえ無ければの話だが。

 

「思い出したくないな。あんな出鱈目な兵器があってたまるか」

 

ブラックコーヒーを一口含み、カフェインの苦味を反芻させる。

報告書を端へ移動させて、新たな書類を作業机のトレーから取り出す。それは『転入届』と書かれたものと、新しく採用する清掃員の履歴書だった。

 

「転校生『桐生戦兎』。履歴は普通。だがまさか成人した男性が転入するとはな、政府の極秘依頼ということか」

 

添付された写真には、どこか幼げな笑みを浮かべる男性の顔が映っている。どこか自信満々なのは気にしないでおこう。IS原理研究所からの出張ということで、直にISのデータ取りをしたいからという理由で編入となった。あの天才科学者と肩を並べていた樋口博士の推薦により、IS学園は編入を許可したそうだが。

 

「面白くなりそうだ」

 

壁に掛かっている時計の針をみると、そろそろ清掃員の面接する時間が迫って来ていた。清掃員の履歴書に書かれていた名前を確認して、鞄に仕舞い込む。

 

「『万丈龍我』か、今度こそ決まるといいが」

 

 胸の奥が熱くなっていく。これは恋でもなく、幾度となく感じた戦場での恐怖と緊張感が織り混ざった感覚に似ていた。

 

ーーーーー

 

「へっくしょい!」

 

ズピッと出た鼻水を啜りながら、移りゆく景色を眺める。横浜を出た後に出来上がったこれには、一度でも乗ってみたかった。

 

「しかし、故郷に居たとはな。あの壁によって阻まれてた影響で中々こっちには来れなかったから、何となく感慨じみて嬉しいような懐かしいような」

 

横浜湾の水平線の先に見えたバカでかい建物。あれがIS学園、俺が目指している場所だ。先程のアナウンスだと3駅ほどで周辺に辿り着くらしい。

 

「IS......」

 

衣類に入っていたスマートフォンには、インフィニットストラトスというものについてのデータが入っていた。略称はIS。細かいところまでは見ても分からなかったが、黒い怪人についての補足がそこには書かれていた。

ISにはバリアが張られており、それを突破するには高い攻撃力を持つ必要がある。そして突破したとしても絶対防御により中の人間を保護している。だから、ビートクローザーの必殺技(メガスラッシュ)を受けて平気な状態だった。更には黒い怪人は中身が機械だったから気絶することもなかったと。

普通に機械って呼んじゃってるけど、あいつ機械だったんだな。あ、そうか。じゃなきゃ必殺キックで中身貫通して電気なんて漏らさないよな。てか、ブラッドスタークあいつ機械って最初から呼んでたじゃねーか。

 

「.............」【次はIS学園連絡口です。左の扉が開きます】

 

ISについて深く考えるのはやめて、青いモノレールの座席から離れて左の扉付近に待機することにした。

 

ーーーーーー

 

西日が強い。どうやら今は2013年4月15日火曜日。俺たちの2017年とは、時間すらも異なっている。

訪問ゲートと呼ばれる場所で身元を確認された俺は、衣類に入っていた多分偽物の身分証を提示して、生体情報やパスワード(kamenraida-)を窓口の無人受付で入力し、係りの人の案内を待っていた。

レンガの敷き詰められた道は、遠く奥にある学園というものを指し示している。遠くからでも巨大さが感じられる恐らく校舎であろう建物が目を惹く。

 

「......今の俺は負ける気がしねぇ」

 

 一つ拳を打ち合わせる音を鳴らし、その奥からこちらに向かう人影を見つける。

 タイトなスーツを纏った、鬼のような女性だった。鬼というよりか雰囲気があのナイトローグに似ているような気がして、体の震えが止まらない。あれは強敵の匂いだ。

 

 近づいてくるにつれて、雰囲気の正体が分かった。それは目だ。あれは時折戦兎が見せる戦場の修羅場をくぐった戦士の目だ。鋭いまなざしの中に漂わせる可憐さ、凛とした姿は(まさ)しく騎士。彼女は俺を見ると大きく唇を振るわせていた。

 

「......遅れてすまない、貴様が『万丈龍我』か? 私はオリハタ チフユ、よろしく頼む」と、微妙に上からの目線の挨拶が行われた。

「あぁ、ああ、そうです。よろしくお願い致します。」

気づけばめったに使わない敬語になって、バカでかい校舎の中へ案内された。

 途中の会話が、男性が居ないですねとここはほぼ女性しかいないしか無かったところから自分はとても気圧されているのが実感できた。

 

 そして校舎内を少し歩き、応接室に案内される。

 扉は機械的に開き、遅れて入る。中はシンプルに観葉植物と白い長机、4つの青い幾何学模様が施された座椅子だった。ロングに切りそろえられた藍色の髪、気迫溢れる釣り目、仏頂面という言葉が似合いそうな女性が横で細い指を揃え、席を指さしていた。

「失礼します」

 座席に敷かれた青いクッションの上に腰を落ち着かせ、正面を向くとそこには自分の名前と顔写真、履歴が載っていた紙、通称履歴書なるものが机に置かれていた。事前に履歴書が送られているのには前情報があったから驚かなかったものの、学歴が自分の実際に通っていた高校まで書かれていた。戦兎さんよ、よく調べてあんな。

 

「年齢は23歳、格闘技を生業としていたらしいが何故ここを選んだ?」

 

 職歴としての総合格闘技人生。嫌な思い出があるが、ここは一つ脚色してみるのもいいかもしれない。ばれたらばれたでどうにかすればいい。

 

「彼女を養うためです」

 

 彼女との交際のためにもという理由。もう居なくなった彼女だけど、思い出せる記憶はいずれも鮮明なものだ。桜の下で約束したあの日。どこかの公園で笑いあったあの日。そして、彼女が居なくなったあの日。

 

「ほう、殊勝な事だ。だからこそ、今までの人生ともいえる格闘技を捨て、ここへ来たと」

 

 俺はオリハタ チフユの黒い瞳を見つめる。その眼には「大切にしろよ」というようにも感じ取れる優しき思いの籠った視線だった。

 

「ええ、俺はもう誰かを失望させるような男になりたくないんです。だから、ここで働かせてください」

 

 頭を下に向ける。嘘を話すには多少の真実を混ぜればいいと、以前戦兎に教わったことがある。死人に口なしというか、ここはおそらく別世界だ。それを確認することもできないから、言ったもん勝ちだ。

 

「貴様の覚悟の程は分かった」しかしだ、と言葉を区切り、鋭く低い声が発せられる。

「ここはほぼ女子校と言っていい場所だ、彼女が勘違いしてしまう恐れがあるんじゃないか?」

 

 頭に衝撃が走る。物理的にも、精神的にも。どうやら、バレる心配は杞憂だったようだ。

「ふふっ採用だ。貴様のような男に好かれて、彼女は幸せ者だな」

 額の赤い痣が残りそうな跡をさすりながら見たオリハタ チフユの破顔した優しい笑みは、どこか彼女の面影を残しているようで、自然とあの時のような胸の高鳴りを覚えていた。

 過去に取り残されていた幸せを、再び噛み締めるように。

 

 

 

 




後に、オリハタ チフユは語った。
あの男は弟に似ていると。


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