イナズマイレブンIN王牙 転生者の記憶 (Balu)
しおりを挟む

Memory1 王牙学園入学まで
第一話:始まり


 こんにちは。はじめまして。
 数あるイナズマイレブンの二次創作からこの作品を選んでくださりありがとうございます。
 元々私は王牙学園のキャラが好き(詳しいとは言ってない)で今回の小説を書かせていただきました。
 楽しんで頂けると幸いです。
 それでは本編の始まりです。どうぞ。


 目覚めるとそこは真っ白な世界だった。

 

 真っ白と言うなら雪景色と想像する人はいるかもしれないが雪じゃない。

 

 ただただ真っ白。純白。無色。上も下も前後左右もだ。

 

「ここどこだ?」

 

「…ここは生と死の狭間だ」

 

「っ!誰だ!?」

 

 振り向くとそこには一人、少年が立っていた。明るい色のバンダナを頭に巻いており、サッカーのユニフォームを着ている。

 

 なぜサッカーのユニフォームと分かるか…それはソイツの格好がある人物とメチャクチャ似ていたからだ。

 

「円堂…守…?」

 

 ソイツは一瞬キョトンとした顔になるがすぐに何かを察したようだった。

 

「あぁ。君には僕がそう見えるのか。だが間違いだ。僕は円堂守じゃない」

 

 ソイツは一息おいて続ける。

 

「僕は神だ」

 

「…そうか。じゃあ俺は…」

 

「察しがいいな。そう。君は死んだ」

 

 水晶玉が目の前の空中に出現する。そこに映っていたのは俺の葬式の景色だった。クラスメイトや親戚が集まっている。と、水晶玉はそれを見せるという役目を終えると同時に消えた。

 

「死を実感させるために見せたが気分を害したならすまない。だが、基本ここに来る人間には自身の死を理解させなければならない決まりでね」

 

「いや、別に大丈夫だ」

 

「さて…本題に入ろう」

 

 再び神は間をおいてから言った。

 

「君は異世界転生の権利を得た」

 

「…待ってくれ。異世界転生ってあの異世界転生か?」

 

「逆に聞くが他の異世界転生があるかい?」

 

「いや、でもなんで俺に?」

 

 しばらくの沈黙。神はそのまま下を向いた。

 

「…世の中には知っちゃいけないことがあるんだよ。少年」

 

「…まさか、あんたの手違いで俺死んだ?」

 

「ま、まさかー。ソンナコトナイデスヨ」

 

 マジかこのヤロウ。というか手違いからの転生とかテンプレすぎィ!

 

「はぁ。…もういい。分かった。…で、転生先はどこだ?」

 

「おや、思ったよりあっさりした反応だね。普通ならキレると思うが」

 

「もう起きたことは仕方がないだろ。まぁ、この世にあまり未練はないしここでお前にどうこう言っても俺は生き返らないだろ?だったら認めるしかないさ。ところで質問に答えろ。転生先はどこだ?」

 

「逆に君はどこに転生したい?」

 

 どうしよう。モン●ンの世界とか言いたいけど神様(どこからどう見ても円堂守にしか見えない)の姿が言っている。イナズマイレブンにしろと。

 

 …とりあえずモン●ンって言ってみるか。

 

「モン●ンで」

 

「…すまない。耳が遠くてね。聞こえなかった。で、どこに転生したいかな?」

 

「モン●ンのせか「あぁ。ごめんごめん。耳が遠くてね。で、どこに転生したいかな?」…」

 

「ブラッドボ「どこに転生したいんだい?」…イナズマイレブンで」

 

「よしよし。奇遇だね。僕もイナズマイレブンがいいと思ってたんだ」

 

 ブチ●ろすぞ…と心の中で叫ぶ俺を気にせず神はにこにこと笑っている。

 

「君はイナズマイレブンについてどこまで知ってるかな?」

 

「イナズマイレブン3までは知ってる」

 

「そうか。じゃあ好きな作品は?ファイア?ブリザード?それともスパ「ジ・オーガだ」…マジ?」

 

 神は突然怪訝な顔つきになる。

 

「君は本当にジ・オーガが好きなのか?」

 

「…ええ」

 

 神は後ろを向くとしばらくブツブツとまるで誰かとひそひそ話でもするかのように何かをしゃべっていた。

 

 …何かおかしいのか。別にジ・オーガが好きな人多いと思うんだけど。だって映画までやってたんだぞ。円堂めっちゃかっこよかったぞ。正直あそこで雷門メンバーとともに王牙学園と戦って見たいぞ。

 

 神はしばらくしてからこちらを向いた。

 

「いいよ。君をイナズマイレブンの世界に送ろう」

 

 と同時に俺の体が少しずつ薄くなっていく。このままスーッて消えるのか。意識も霞んでき始める。

 

 イナズマイレブンの世界に転生か…。

 

 円堂や豪炎寺、風丸、壁山…彼らと語り合えるのか。

 

 きっと沢山の戦いが待っているだろう。

 

 世宇子、ジェネシス、リトルギガントとか色々。

 

 まぁ、言えることは一つだけだ。

 

「…やったぜ」

 

 そして、俺は意識を手放した。




 間違いなどがあったらコメントお願いします。
 


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第二話:じゃけんサッカーしましょうね~

 第二話です。
 数あるイナズマイレブンの二次創作の中からこの作品を読んでくれる貴方に感謝を。
 それでは本編スタートです。


 円堂守と一緒に戦える…と、思っていた時期が私にもありました。

 

 まず、転生先のおうちについて言おうか。

 

 まぁ、当たりだ。両親が政府関係の仕事に就いてるエリート。母親に至ってはそこそこテレビで見るような政治家の一人だ。

 

 そんな俺も将来は国一番と言っていいほどの名門校に行かせてあげると母親は言っていた。

 

 そんな俺…黒野(くろの)(れい)は今…円堂守の時代から八十年後にいます。

 

「ふざっけんじゃねぇぞおおおおおお!あのやろおおおおおお!」

 

 俺はメチャクチャな広さを誇る自室で叫んだ。

 

 神!お前イナイレの世界っていったら円堂と一緒に戦っていくってパターンに決まってんだろ!なにさらっと王牙学園sideに送ってんだよボケェ!

 

 円堂カノンと一緒に戦えばいいって?言ったよ!雷門(らいもん)がいいですって言ったよ。そしたら母親は

 

『いい?あなたは国の将来を背負う人間なの。雷門なんかに入ったら他の子に遅れをとっちゃうわ。王牙学園(おうががくえん)でならきっとあなたの才能を役立ててくれる』

 

 あぁああああもうやだあぁぁぁああああ!何で王牙学園なんすか!?

 

 せめて王牙学園以外にしてくれと言ったら

 

『ダメよ。だって他の学校にはヒビキ提督がいないじゃない』

 

 HI☆BI☆KI!ふざんけんな!円堂を潰すとか絶対無理なんすけど。だって俺にとっちゃ英雄なんだぞ!円堂守は!

 

 …というわけで俺(十歳)は悩んでいるんです。はい。

 

 

 

 

 

 

 

 そんなある日、母親が俺に外出しようと言ってきた。なんか知らんが綺麗なドレスを着ている。俺もなんかすごい高級そうな服を着せられた。

 

 専属の付き人が車を運転するなか、後部座席に座っていた俺は隣の席に座る母親にどこにいくのか尋ねた。

 

「私の先輩の議員さんの息子がね、今日誕生日なの。その子も王牙学園の入学試験を受けるから、あなたに会わせてあげたいと思ってね」

 

「俺は王牙学園に入りたくない」

 

「…零。どうして王牙学園が嫌なの?」

 

「ヒビキ提督って人がなんか…やだ」

 

 ヒビキ提督…王牙学園を設立した人で円堂守を潰せと命じた男だ。まだ出会ったことはないが、映画からあまり良い印象は感じていない。この世界ではかなりの有名人であり、テレビでもよく見かける。世間の人々からは英雄扱いされており、すごい人物であることは分かるんだけど…。

 

「ヒビキ提督は素晴らしい人よ。昔はこの国の内戦はひどかった。たくさんの人が死んだわ。その大半を沈静化させていったのがヒビキ提督なの」

 

「でも…俺は…」

 

「奥様。到着しました」

 

 付き人が俺の言葉を遮る。目の前には俺の家の何十倍も大きい豪邸があった。

 

 

 

 

 

 

 

 会場はとても広く、豪華なものだった。美しい装飾が施された沢山のテーブル、豪華な料理、でっかいシャンデリア。

 

 会場だけじゃない。招待客も豪華だ。芸能界の大御所、今話題のスポーツ選手、ノーベル賞をとった化学者、大企業の社長…。クソッ!ペンと色紙を持ってくればよかった。

 

 俺は母親に連れられて一際豪華なテーブルまでつれてかれる。

 

 その席に座っていたのはドレスを着た女性と十歳くらいの軍服のような服を着た少年だ。…ん?こいつどっかで見たことあるような…?

 

「今日は誕生日パーティーに招待していただきありがとうございます。スリード議員」

 

 母親がお辞儀をすると女性は立ち上がって軽く会釈する。

 

 スタイルいいなー。母親もかなりの美人だがあちらも負けてはいない。

 

「そんなに礼儀正しくしなくていいわよ。…黒野さん。この子は…?」

 

「ええ。うちの息子の零です。うちの子もそちらの息子さんと同じ王牙学園を受けるので仲良くしていただけると嬉しいのですが…」

 

「あらあら。それは嬉しいわ。バダップ。こっち来て」

 

 先程の軍服のような服を着た少年を席から立たせて、俺の目の前に連れてくるスリード議員。

 

「零君。うちの息子のバダップよ。ほら、バダップ。挨拶は?」

 

 目の前の少年にとって、俺は初対面だが、俺はこの少年を知っている。というかイナズマイレブンファンなら大半が知っている人物だろう。実質、イナズマイレブンでは最強の敵だからな。

 

 バダップ・スリード。ジ・オーガの事実上のラスボスで円堂守にサッカーを捨てさせるために未来から送られてきた刺客だ。まさか、ここで会えるとは。

 

「俺、黒野零。よろしく!」

 

「…くだらん。戦場で敵と馴れ合うとは」

 

 …え?今こいつなんて言った?普通の子供なら絶対に言わないよ?そんなこと。

 

「え?あの…バダップ君…?」

 

「フッ。バダップ?戦場を前に名前など意味をなさん。殺るか、殺られるかだ」

 

 こいつ何言ってんだ?困惑する俺にバダップママが話しかける。

 

「ごめんなさいね。バダップは夫の影響でこのしゃべり方が好きみたいなの。…バダップ。普通にしゃべりなさい」

 

「黙れ。戦場において…「普通にしゃべりなさい」…ごめんなさい」

 

 バダップママの強い語気に圧されて涙目になるバダップ。…なんだ、普通に子供っぽい。

 

「俺はバダップ・スリードだ」

 

「改めて…黒野零だよ。よろしく」

 

「ちょっとお母さん達は少し用事があるから、バダップ君と仲良くしてるのよ。では、スリード議員。行きましょうか」

 

「ええ。バダップ。いい子でいるのよ」

 

 そう言って、俺の母親とバダップママはどこかへ行ってしまう。残される俺とバダップ。

 

 しばらくの沈黙ののちにバダップが口を開く。

 

「黒野君は…王牙学園に入るのか?」

 

「零でいいよ。母さんから薦められてるだけであまり俺は行きたくないんだけどな」

 

「何でだ?」

 

「ヒビキ提督にいいイメージが持てなくてね」

 

「ヒビキ提督はいい人…のはずだ。会ったことはないが」

 

「そうなのか?俺はあまりよく分からないよ。ところでさっきのしゃべり方って…」

 

「父上の真似だ。…父上は偉い人で…かっこいいから…」

 

「とっても痛いぞ」

 

「そ、そうか…(ちょっとショック)」

 

「俺は今のバダップの方が好きだな」

 

「…まさか零は…その…男が…好きなのか?」

 

「待て待て待て待て!そういう意味じゃないから!」

 

「冗談だ。冗談…でも、好きって言われたのは…嬉しい」

 

「おっそうだな」

 

「食べるか?美味いぞ」

 

「腹減ったなぁ…(答えになってない)」

 

 俺はテーブルの上の料理に手をつける。ミートソーススパゲッティだ。とてもいい香りがする。

 

 まずは一口。こ、これは…

 

「メチャクチャうめえ!」

 

 なんだこれ!?某漫画的例えをするなら今までのスパゲッティは全部ゴムと言っても過言ではないくらい美味い。

 

 そんな興奮している俺を見て笑うバダップ。

 

「ふふっ。だろう。いっぱい食べてくれ…ちょっとまて。君はテーブルマナーを知らないのか?」

 

「あ、すまない。こういうところに来るのは初めてで…」

 

「そうか。教えようか?」

 

「あぁ~、いいっすね~」

 

 パーティー会場で俺とバダップは色々な話をした。好きなこと、嫌いなこと、楽しかったことや悲しかったことを。

 

「隣の部屋にお客さん達が持ってきてくれた誕生日プレゼントが置いてあるんだが、一緒に見に行かないか?」

 

「待てよ。これはお前が主役のパーティーだろ?いないとまずいんじゃ…「いいんだ」…え?」

 

 急にバダップは悲しそうな目をして、下を向く。

 

「このパーティーは俺のためのものじゃないんだ」

 

「…」

 

「母上は総理大臣の候補だ。だから、色んな人がやって来る。皆の目的は俺じゃなくて総理候補の母上だ。だから、俺はいなくていいんだよ」

 

 そうか。確かにたかだか子供の誕生日パーティーにしてはスケールがでかすぎる。

 

 ここに来ている招待客の目的は将来の総理候補に媚を売ることというわけだ。きっとここはバダップにとっては居心地が悪いに違いない。

 

「…分かった。一緒に行こう」

 

 そうして俺とバダップはパーティーが行われている部屋を後にした。

 

 

 

 

 

 

 隣の部屋には招待客が持ってきたプレゼントが沢山あった。

 

 すごい山だ。大小様々なラッピングされた箱が部屋の中に山積みになっている。

 

 バダップは目を輝かせながら俺の方を向いた。

 

「…開けていいか?」

 

「分かった。ただし、後々ばれないように戻しとけよ」

 

 ここで俺は止めるべきなのだろうがプレゼントの中身に対する好奇心の方が勝った。

 

 バダップは山積みになっているプレゼントから一つを手に取る。丁寧にラッピングを剥がしていくと、ラッピングされていたのはティーセットの箱だった。

 

 …どう見ても子供に向けて送られたプレゼントじゃない。

 

「これは母上が前から欲しいって言ってたティーセットだ」

 

「と、とりあえず他のも見ておこうぜ」

 

「うん…」

 

 ティーセットの箱に丁寧にラッピングをはりなおしてから、別の箱のラッピングを慎重に剥がす。

 

 今度は銘菓の箱だった。見たことあるぞ。…よかった。これはバダップのために用意したものみたいだ。

 

「よかったなバダップ。これ結構有名な和菓子だぞ」

 

「…違う」

 

「…え?」

 

「これは一回開けたあとがある」

 

 鋭すぎィ!バダップは箱を慎重に開ける。入っていたのは…ところ狭しと敷き詰められた沢山の札束だった。

 

「…!」

 

「はは…」

 

 バダップは膝をつく。箱が床に落ちて札束のいくつかが床にこぼれる。

 

「やっぱりだ…。皆にとって俺は…母上の付属品なんだ」

 

「いや、そんなことな「ある!!」…」

 

「このプレゼントを見ろ!俺のためのものじゃないじゃないか!皆、結局は母上に自分のことを売り込むためにこのパーティーに参加したんだ!」

 

「…」

 

「俺なんて本当は存在する価値なんてないんだ。俺のための誕生日プレゼントなんて…ここにはないんだ」

 

 

 

 

 

 

「いや、ある」

 

「え…?」

 

 俺はあるものをバダップに見せる。バダップが目を丸くする。

 

「それは…サッカーボール?」

 

「プレゼントの山の中にあった」

 

「…」

 

「確かにバダップのことをお母さんの付属品と考えてる連中はいるだろう」

 

「…っ!」

 

「でもな、お前のことをそういう存在としては見てない人もいるんだ。お前を一人の人間という存在として見てる人がいるんだ。このサッカーボールをくれた人のように。俺だってその一人だ。だから、それ以上落ち込むな。お前には俺がいる」

 

「…零」

 

「で、何処だよ?」

 

「?」

 

 キョトンとした顔をするバダップ。俺は続ける。

 

「さすがにあるだろ。庭だよ。庭」

 

「庭ならあの扉の向こうだが…わわっ!?」

 

 バダップの腕をつかみズルズルと引きずっていく。思ったより軽いな。

 

「○×△□!?」

 

 何か言ってるが無視してそのまま庭に出る。もう夜だが、バダップの家の光が庭を照らしているため、あまり暗くはない。

 

 俺は右手で引きずってるバダップを放すと、左手に持ってるサッカーボールを置いた。

 

「な、何をするんだ?」

 

「サッカーだ。せっかく貰ったんだしいっぱい遊ぼうぜ。それじゃあ」

 

 俺はボールを蹴った。

 

「じゃけんサッカーやりましょうね~」

 

 

 

 

 

 

 

 まぁ、そんなに上手くはいかなかったけどね。

 

 生前はサッカーは上手い方だったが転生してから初めてのサッカーのせいか、全然うまくいかない。

 

 バダップもそうで、互いにドリブルもままならず、シュートなんてとんでもない方向に飛んでいく。

 

 もはや必殺技どころじゃなかった。

 

 でも、それはとても充実したサッカーだった。

 

「ハァ、ハァ、ハァ…」

 

「ハァ、ハァ、ハァ…」

 

 もう俺達はくたくたで芝生の上に寝転んでいた。汗だくで気持ち悪いが、そんなのどうでもよかった。

 

「どうだ?…面白かったろ?」

 

「ああ!…楽しかった!なあ、零」

 

「…何だ?」

 

「またいつかサッカーをやろう!」

 

 その後、俺達はサッカーボールを元の場所に戻して何食わぬ顔でパーティー会場に戻っていった。

 

 もちろん互いの母親に怪しまれたけど。

 

 

 

 

 

 

 

 パーティーが終わり、帰りの車に乗り込む。

 

「どう?楽しかった?」

 

 母親が聞いてくる。俺は答えた。

 

「うん。とても楽しかったよ。後さ、母さん、俺…」

 

「王牙学園に入ることにするよ」




①『じゃけん…しましょうね~』の使い方…何かする予定をたてる時に使う
②『~すぎィ!』の使い方…何かの度がすぎてる時に使う。
③『あぁああああもうやだあぁぁぁああああ』の使い方…嫌な時に使う
④『おっそうだな』の使い方…そう言いたい時に使う


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第三話:はぇ~すっごいおっきい…(体が)

 今回で三話目です。
 結構書くのは大変ですが、やりがいがあってとても楽しいです。
 バダップ達、王牙学園の学年はゲームでは?になっていて不明なので、勝手に決めて書いております。すみません。
 では、数あるイナズマイレブンの二次創作の中からこの作品を読んでくれる貴方に感謝を。
 本編スタートです。


 王牙学園(おうががくえん)には入学試験がある。

 

 そもそも王牙学園は将来的には国の要職につく人間や優秀な兵士を育てるという目的を元に設立された学校だ。

 

 当然将来的にそうなりそうな人間を厳選してから入学させる。そのための入学試験である。

 

 そういうわけで俺、黒野(くろの)(れい)はバダップとともに王牙学園中等部の試験を受けに王牙学園に来ていた。

 

「緊張してるか?零」

 

「いや。緊張なんてしてないよ。ところでバダップ」

 

「何だ?」

 

「どんなに実技が難しくても気にするなよ。お前が出来ないなら皆が出来ないんだから」

 

「フッ。ならこう言おう。筆記がどれだけ難しくても気にするな。零が解けないなら皆解けないからな」

 

 あのパーティーから二年…俺とバダップはちょくちょく会うようになり、サッカーをやったりしていた。

 

 だが、サッカーだけじゃない。俺達は王牙学園の入学試験の対策もしていたんだ。

 

 たまたま、俺は勉強が得意(まあ、そこそこ名門の大学に入ってるし)でバダップは運動が得意だったのも互いの欠点を穴埋め出来ていた。

 

 俺達は王牙学園の敷地内に入る。校舎の入り口には王牙学園の教員達がおり、受験生達の受験票を確認している。未来でもやっぱ受験とかはアナログなんだなあ。

 

 受験票の確認が終わり、校内へ入る。王牙学園に上履きはない。校舎内は土足でOKだ。

 

 試験は筆記と実技で二つある。筆記はいわずもがな実技は体育だ。優秀な兵士になれる才能を計るにはやはり体育が一番なのだろう。

 

「あの角曲がってしばらく歩いたところが俺達の教室だな」

 

「合格できるといいな」

 

「ああ。そうだ…ってうお!」

 

 角を曲がった瞬間誰かとぶつかった。俺は尻餅をつく。

 

「いてて…誰だ!?気を付けろ…よ…?」

 

 俺とぶつかったのは…ギラギラした目をした強面の大男だった。鋭い犬歯が口から覗いている。ゴーグルを少しずらしてつけており、まるで第三の目があるみたいになってる。つよそう。

 

 はぇ~すっごいおっきい…。

 

 ぶつかった相手は俺を睨み付ける。

 

「人にぶつかっといてそういう態度か?オラァ!なめてんじゃねえぞ!」

 

「センセンシャル(『すみませんでした』と早口で言った)…」

 

「あぁ!?なんつった!?」

 

 相手は俺の胸ぐらを掴む。あああもうやだああああああああああ!!

 

 その時、バダップが俺の胸ぐらを掴んでいる方の腕を掴んだ。

 

「おい…俺の友に手を出すな…!」

 

 …すごい殺気だ。ぶつかった相手は俺から手を離し一歩後ろに下がる。

 

「な、なんだよ、お前…元々文句を言ったのは向こうだぞ!常識的に見て謝るのは向こうじゃねーか!(震え声)」

 

「先に手を出したのはお前だろ…!」

 

 不味いな。ヤバイ空気だ。今にも殴りあいが勃発しそうな空気。周りの受験生達もこの空気を察知したらしい。

 

「な、なぁ…」

 

「やばくね?先生呼んだ方がいいんじゃ…?」

 

 だが、バダップとぶつかった相手は周りの奴等が見えてないのか睨みあっている。その時だった。

 

「やめろ!ザゴメル!」

 

 俺がぶつかった相手…ザゴメルと呼ばれた男の肩を一人の少年が掴んだ。

 

「…エスカバか。何の用だ?」

 

「お前、他の受験生とはトラブル起こすなとあれほど言ったのに何やってんだ!?」

 

 するとザゴメルは俺を指差して言った。

 

「先に文句を言ったのは向こうだ!」

 

「そんなくだらないことで喧嘩して試験取り消しになってもいいのかよ!?」

 

「っ!」

 

 ザゴメルの肩がピクッと震える。それをエスカバは見逃さない。

 

「教室に戻れ!」

 

「…分かった。…おぼえてろよ。テメエ」

 

 ザゴメルはエスカバの言うことに従う。最後に俺を睨み付け捨てぜりふを吐いて自分の試験の教室へと戻っていった。

 

「ったくアイツは…。俺の友達がすまないな。ええと…」

 

「俺はバダップ・スリード、こっちは友達の零だ」

 

「そうか。バダップ、零、本当にすまない。あいつはキレると周りが見えなくなっちまうんだ…怪我はないか?」

 

「俺は大丈夫だ。零は?あいつとぶつかったはずだが」

 

「無傷だからヘーキヘーキ!」

 

「よかった…」

 

 エスカバはそっと胸を撫で下ろす。

 

 エスカバ…エスカ・バメル。王牙学園のFW(フォワード)だ。ゲームによるとぶちギレやすい選手って書いてあったはず。まぁ、映画とか漫画ではそれらは死に設定と化してたけど。

 

 そして、さっき俺がぶつかった相手こそ王牙学園のGK(ゴールキーパー)のザゴメル・ザンデだ。イナイレ3のゲームでは能力値的に最強のキーパーだった。『オメガ・ザ・ハンド』の秘伝書を円堂じゃなくてザゴメルに使った人もいるはずだ。

 

「受験生!廊下にいないで早く教室入って!あと五分で始まるよ!」

 

「おっ!そろそろか。じゃあな、バダップ、零。合格することを祈ってるぜ」

 

 監督の先生の声を聞きエスカバは教室へ戻る。

 

「じゃあ行くか、バダップ」

 

「ああ」

 

 俺達も教室へと入っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 まぁ、簡単だったよ。いくら名門校の試験といえども所詮は小学生のためのの試験。大学まで卒業してる俺にとっては簡単だとはっきりわかんだね。

 

「零。どうだった?」

 

「まあ、満点だろうな。結構簡単だったし」

 

「…そうか。俺も合格点くらいはとれてそうだよ」

 

 いや、お前はぶっちぎりで合格だろ。王牙学園最強に将来的になるんだから。

 

「どうだった?お二人とも」

 

 そこにエスカバとザゴメルが教室へ入ってくる。エスカバはにこやかに笑っているがザゴメルは俺に対する殺気が半端なかった。

 

「俺も零もいいが、エスカバは?」

 

「俺も合格ラインには届いてると思うんだけどな。あんまり自信がないぜ」

 

 嘘つけ。お前は頭脳派だろ。

 

「この後は実技試験だな」

 

「もうすぐ校庭に出ろって放送があるだろうな」

 

 筆記が終わっても油断は禁物だ。王牙学園の実技試験はかなりキツい。毎年、合格確実と言われても落ちるやつらがいるくらいだ。

 

 実技テストは男女別々に行われる。基本的にランニングしたり、個々の運動能力を見るテストだが、このテストのために全受験生が体を鍛えているのだ。このテストで出る、身体能力値の平均はとてつもなく高いらしい。

 

「へまは出来ないな…」

 

『今から、実技テストを行います。生徒の皆さんは校庭へ出てください』

 

「始まるか」

 

 実技試験の始まりを告げる放送がなる。俺達は教室を出る。そのまま校舎から出て校庭へ向かう。

 

 実技テストは普通に進行していく。

 

 握力とか反復横飛びとか色々やっていく。ぶっちぎりでバダップがすざましい活躍を見せた。周りの受験生だけでなく試験監督の先生方も目を擦ってたり口をあんぐりと開けてた。

 

 うん。バダップは合格してるだろうね。これでアイツが受かってなかったら合格者0になるわ。

 

 どうやら実技は去年とほとんど同じのようだ。若干変わったのは反復横飛びの時間が二倍になり、100メートル走が、200メートル走になったことだ。

 

 最後の1500メートル走を終えて俺は地面に座り込んだ。

 

「ぬわああん疲れたもおおおん!」

 

「はいはい。よく頑張った」

 

 エスカバが背中をポンポンと叩く。だが、エスカバも相当疲れたらしく背中を叩いた後、すぐに大の字に寝転ぶ。俺は水筒をガブガブ飲む。周りも似たような状況だった。ただ一人…バダップを除いて。

 

「情けないな。二人とも。この程度でダウンしたら優秀な兵士にはなれないぞ」

 

「お前がおかしいんだよ!周りを見てみろ!」

 

「そうだよ(便乗)」

 

 涼しい顔をしたバダップにエスカバが突っ込む。それに便乗する俺。

 そこに一人の男が現れる。

 

「ハァ、ハァ、ハァ…」

 

 ザゴメルだ。ここまで、実技では握力やソフトボール投げなどのパワー系の種目においてはザゴメルは圧倒的な記録(それでもバダップには届かないが)を叩き出してはいたものの、他の分野の種目では散々な状況だった。

 

 この1500メートル走も平均よりも若干遅いはずだ。

 

「ハァ、ハァ、ハァ…クソッ!」

 

 膝をついて地面を叩き悔しがるザゴメル。胸ぐら掴まれた時は頭にきますよ!なんて思ったが今は可哀想に思えた。

 

 俺はザゴメルに近づこうとする…がそこをバダップが止めた。

 

「止めておけ。今、お前や俺が話しかけてもいいことはない。あいつの悔しさはあいつにしか分からないんだ」

 

「…そうだな」

 

『1500メートル走は終了しました。受験者は校庭の試験監督のもとに集まってください』

 

 試験監督の先生がスピーカーで俺達を呼ぶ。

 

「行くぞ。ザゴメルには悪いが俺達は本来蹴落とす蹴落とされるという関係の敵同士なんだ」

 

「…ああ。そうだな」

 

 バダップが走っていく。俺もそれに続いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「えっと、とりあえず、受験者諸君。我々からの実技試験はこれで完全に終わった」

 

 眼鏡をかけたがたいのいいマッチョの試験監督の先生が試験の終了を告げた。

 

 それを聞いた受験者達は安堵したのか少しだけ空気が緩む。

  

 そのために少しだけ辺りがざわざわとなる。

 

「静かにしろ!話はまだ続きがある!」

 

 …何だ?まだ続きがあるのか?もう試験終了の報告で試験全てが終わったんじゃ…?

 

「この後、引き続き実技試験に移る!十分間の休憩後にまたここに集合するように!」

 

 …ファ!?まさか、『我々からの実技試験は完全に終わった(完全に終わったとは言ってない)』とかいうパターン中のパターンか!?まさかお前はホモなのか!?こんな言葉を使うなんて貴様はホモに違いない!

 

「あ、あの…」

 

 受験者の一人が恐る恐る手をあげる。 

 

「何だ?」

 

 手をあげた受験生は皆の気持ちを代弁する。

 

「あの…実技試験はさっき終わったって言いましたよね?(正論)」

 

「ああ。終わったよ。()()()()()()()()()実技試験はな」

 

 空気が再びピキリという音を立てたかのように張りつめる。

 

 …ヒソヒソ話が聞こえる。

 

「どういうことだよ…」

 

「試験監督以外に誰が試験をするっていうんだ…」

 

 その空気に試験監督の先生は耐えられなくなったようで

 

「ええい!俺にもなんでかは知らん!とにかく!十分後に!ここに!集合するように!終わり!閉廷!以上!皆解散!」

 

 わめき散らして俺達の前から去った。

 

 受験生達は困惑していた。そりゃそうだよ。俺やエスカバだってもちろん、バダップですら困惑してるもん。

 

「…どういうことか分かるかバダップ?」

 

「いや、さっぱりだ。だが、試験監督が知らされていない以上何かしらとんでもないことが起きるかもしれない」

 

 バダップですら分からないのか。こりゃあヤバイな。何か恐ろしいものの片鱗を味わうことになるかも…。

 

「零もバダップもそんなに気にしなくていいんじゃないか?お前らを見てるとなんでか知らないけど二人とも合格できていると思うんだが」

 

 エスカバの言うことにも一理ある。俺達の思い過ごしなら助かるが…。

 

 そんな中だった。ザゴメルが校舎に向かって歩いているのを見たのは。

 

 あいつまさか…!

 

「ごめん!バダップ!エスカバ!ちょっと俺行ってくる!」

 

「そうか。気をつけろよ」

 

 走る俺の背中にエスカバが叫ぶ。

 

「十分以内に戻って来いよー!」

 

「分かってるー!」

 

 俺は必死に校舎に向かって走る。

 

 ザゴメル!もしも俺の予想通りなら…()()は絶対にしちゃダメだ!




①『はぇ~すっごいおっきい…』の使い方
大きいものを見たときに使う。
②『センセンシャル』の使い方
『すみませんでした』と言うべき状況で使う。
③『~だからヘーキヘーキ』の使い方
大したことじゃないよと言いたいときに使う。
④『終わり!閉廷!以上!皆解散!』の使い方
使いたい時に使う


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第四話:あのさぁ…才能って何だよ(哲学)

 初めてお気に入り評価を頂きました。ありがとうございます。
 今回もサッカーは無しです。すみません。あと、1、2話したらやると思います。
 では、数あるイナズマイレブンの二次創作の中からこの作品を読んでくれる貴方に感謝を。
 本編スタートです。


 筆記試験が行われていた教室で俺…ザゴメルは自分の荷物をじっと見つめていた。教室には電気がついていないが、差し込む夕陽が教室を照らしており、そこそこ明るい。

 

 やれる努力は全てやった。体も必死で鍛えてきたし、勉強も周りよりも多くやったと断言できるくらいはやったつもりだ。

 

 だが、それは王牙学園の合格を勝ち取るには足りなかった。

 

「…やっぱり俺じゃ無理だ」

 

 俺は軍部の中ではエリートの両親を持っている。同じく軍部の両親を持つエスカバとは両親同士の繋がりで知り合った。

 

 だが、エスカバを見ればすぐに分かるのだ。

 

 自分が天才とは言えないことに。

 

 エスカバには超人的な頭脳がある。試験中に知り合ったバダップには超人的な運動能力がある。もうこの事については努力とかでは埋めようのない差がある。

 

 すなわち才能だ。

 

 自分にはそれがない。

 

 何でエスカバみたいに出来ないの!という感情を滲ませた両親の顔を思い出す。

 

 両親を見返すためというべきか、そのために王牙学園の試験を受けた。だがダメだった。

 

 パワーなどに関しては才能があるとは思ってはいた。だが、他の受験生達はパワーなんかよりも遥かに良いものを持っている。

 

 もういい。これ以上ここにいる意味がない。試験監督によればまだ試験はあるらしいがこれ以上受けても不合格に違いない。

 

 実技試験中に持ってきた水筒と実技試験中に着けていた受験番号のプリントされたゼッケンを鞄の中にしまう。そして、チャックをしめようとする…その腕を何者かが掴んだ。

 

「!?」

 

「何してんだよ…お前」

 

 黒野(くろの)(れい)。バダップと一緒にいた受験生。ぶつかって喧嘩になりかけた奴だ。

 

「…どうでもいいだろ」

 

「よくない。少なくともお前がいなくなったらエスカバが心配する」

 

「…」

 

「お前…途中退席するつもりか?」

 

「ああ。そうだよ」

 

「…」

 

「俺には才能がない。王牙学園に受かるために必要な力が足りないんだ。諦める方が賢明だよ。最後まで受験して無駄に両親に期待させちゃ、退席するよりももっと深く失望させてしまうだろうしな」

 

 しばらくの沈黙。いつの間にか掴まれていた腕も放されていた。鞄のチャックをしめ終える。鞄を背負う。後ろから黒野が声をかけた。

 

「ちょっとまて」

 

「何だ?」

 

「あのさぁ…」

 

「『才能』って何だよ?(哲学)王牙学園に合格するためには才能があればいいって思ってんのか?」

 

「…そうだ。俺にはそれがな「あるだろ」…」

 

「少なくともお前はパワー系の種目じゃバダップさえ除けばぶっちぎりのトップだったはずだ。何かの種目でトップを取れるってその時点で凄いんだぞ」

 

「…」

 

「事実、俺は多分、どの種目でも真ん中よりちょっと上ってだけでそんなに凄いわけじゃない」

 

「…だから何だ?」

 

「まだ諦めるなよ。俺の見立てじゃお前はまだ十分合格する可能性がある。それに…ここで諦める方がカッコ悪いと思うぜ?」

 

「けど…落ちたら失望されるかもしれない」

 

「まだそんなこと言ってんのかお前」

 

 黒野は俺の鞄をひったくるとチャックを開けて中から俺がさっきまで身につけていたゼッケン(115番)と水筒を取り出す。

 

「そんなの…ある英雄の言葉を借りれば…」

 

「?」

 

 

 

「『100回失敗したら、100回起き上がる。1000回失敗したら、1000回這い上がる』だ」

 

 

 

「…」

 

「今までいっぱい失望させたかもしれない。でもそれがどうした?1001回目に挑戦すればいいじゃないか」

 

 …ああ。気づいた。彼が何故、バダップの隣に立っていられるのかが。俺と何が違うかが。

 

 こいつは…諦めなかったんだ。何度も何度もバダップに負けても諦めずに這い上がったんだ。

 

「あとそれと…才能以外にも大切なものはあるぜ」

 

「何だそれは?」

 

「こ↑こ↓」

 

 こいつは左胸のあたりをゼッケンと水筒を持ってない方の手で叩く。

 

「?」

 

「おいおい。ハートだよ。ハート」

 

 何言ってんだこいつは。

 

「…フッフフフ」

 

 やべえ。つぼった。ハートっていつのスポ魂漫画だよ。

 

「ハハハ!ハハハハハハ!ハートときたか!そんな非ィ科学的なものを言うとはな!」

 

「悪いかよ。諦めてるお前よりは遥かにましだぜ」

 

「確かにそうだ!ハハハハハハ!」

 

「ククク…はっはっはははは!」

 

「ハハハハハハハハハ!」

 

 しばらく俺達は笑った。笑い終えると黒野は手に持っていたゼッケン等を差し出す。俺は黒野が差し出した、ゼッケンと水筒を手に取る。

 

「行くぞ、零。時間がない。もうすぐ十分経つ」

 

「おう!行くぞ!」

 

 教室を出る。そのまま校庭へと急いで走る。

 

「ハート、…ハートか。…うん、悪くないな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 やっぱり途中退席しようとしてたな。ザゴメル。よかったよ。間に合って。というかここでザゴメルが退席していたら歴史的におかしくなってたんじゃ…。

 

 ひょっとして俺が転生したことで物語にある種のバグみたいなものが発生してるのかもしれない。多少は警戒すべきだな。

 

 というかよくよく考えると王牙学園は雷門との試合の後、最終的にどうなるんだろう?先のこと考えてなかったなあ。

 

 そんなことを考えてる間に集合場所にたどり着く。確かバダップ達はこの辺にいたはず…おっ。いたいた。

 

「悪い!バダップ!少し遅れた!」

 

「遅いな。何してたんだ?」

 

「まあ、気にしないでくれ」

 

「なあ、見ろよ。あれ」

 

 エスカバの指差す方を見る。そこには…

 

「あれは…ヒビキ提督?」

 

「ああ。俺も初めて見たぜ」

 

 王牙学園の設立者にして、政府の上位の職についているこの国の英雄と名高い男…ヒビキ提督だ。

 

 この男を生で見て、思ったことがある。

 

 …強い。間違いなく。ただの小太りのおっさんだと思っていたが違う。静かな水面の中に潜んでいるメガロドンのような殺気を感じる。何を言ってるか分からないと思うが俺も分からなかった。

 

 とにかくヤバイ。ただ者じゃない。それは受験生全員が理解しているだろう。足がガクガクする。冷や汗が頬を伝う。

 

「さて…十分が経った」

 

 ビビキ提督がそう言うと同時に、溢れ出る殺気が収まる。

 

「誰一人として逃げ出さないというのはさすがだ。今年の受験生は豊作だな」

 

 いや、本当にお前は何者だよ。お前一人で雷門のメンバー全員倒せると思うんだけど。

 

「さて…試験監督の実技試験は終わった。ここからは俺が実技試験の監督を務める」

 

 …こんなやつが考える試験は間違いなくヤバイ。バダップと俺の予想が的中しちまった。

 

「戦場において最強の兵士とはいかなるものか…お前達に分かるか?…おい。そこのお前。答えろ」

 

「は、はいっわた「『はい』だと?」…っ!」

 

 とてつもないレベルの殺気が放出される。殺気を当てられた受験生は腰を抜かしてその場に座り込む。…いや、気絶したぞ。後ろ向きに倒れて泡食ってる。

 

 なぁにこれぇ?あ、忘れてた。ここ超次元だから当然か(無理矢理納得させる)。

 

「余計なことを喋るな。お前らは馬鹿みたいに俺の質問に答えればいい。次はお前だ」

 

 ヒビキ提督はエスカバを指名する。エスカバはまるで軍の上官に言うかのごとく叫ぶ。

 

「高潔な精神!戦士としての誇り!これこそ最強の兵士の条件だと思います!」

 

「そうか。次はお前だ」

 

 今度は次々に受験生を指差す。

 

「相手のことを完全に分析した者こそ、最強の兵士だと思います!」

 

「完璧な作戦を立案できる者が…」

 

「最強の兵士とは裏をかく能力が…」

 

 何人かの答えを聞いたヒビキ提督は深いため息をついた。

 

「残念だ。どいつもこいつも解答がありきたりでつまらん」

 

「…」

 

「いいか。お前達の言うことを総合すればサバゲー世界チャンピョンやノーベル賞の学者、将棋の竜王が最強の兵士ということになる。頭がいいだけで最強の兵士にはなれん」

 

 しばらくの沈黙。わずか数秒のことだっただろうが俺にとってはとても長い時間だった。

 

 唐突にビビキ提督が叫ぶ。何故叫ぶ!?

 

「最強の兵士とは!己の肉体を駆使し!敵を蹂躙し!なぎ倒し!破壊する!そう。圧倒的な肉体言語こそ最強の兵士の条件だ!」

 

「俺からの試験は一つ!己の肉体を使って受けてもらう!」

 

「お前達には腕立て伏せ、腹筋、スクワットを合計1000回やってもらう!」

 

 …今なんて言った?桁が一つ多くないかい?というか…。

 

 これ本当に小学生への試験か?

 

 ヒビキ提督はその後、細かいルールを説明する。それによれば、

 

①腕立て伏せ、腹筋、スクワットを合計1000回行う。

 

②ビビキ提督のかけ声に合わせて一回ずつ行っていく。かけ声に着いてこれなくなった者は監視している試験監督達が指示した時点でそこで脱落。脱落した時の回数に応じて実技試験の得点が加算される。

 

③他の筋トレに切り替えてもよい(例えば、腕立て伏せをやった後にスクワットや腹筋に切り替えてもいい)

 

「以上が今回のルールだ!」

 

 俺はバダップとのトレーニングを思い出す。トレーニングメニューにはもちろん筋トレもあった。だが、100回が最高だ。そこから先は考えたこともなかった。

 

 他の受験生達も困惑している。つい十分前の『終わり!閉廷!以上!皆解散!』以上の衝撃だ。

 

「どうした。さっさと散らばれ」

 

 ヒビキ提督の声に俺達受験生は校庭のあちこちに散らばる。俺とバダップ、エスカバにザゴメルは互いの声が届く範囲で散らばった。

 

 だが、俺達はもちろん、受験生達の顔色は良くない。ついさっきまで1500メートル走ったり、色々忙しかった。それが終わってふーっ、となってたところにこれだ。正直言って1000回いく奴はバダップしかいないかもしれない。

 

『では、始めるぞ!』

 

 スピーカーでビビキ提督の声が校庭に響き渡る。ヒビキだけに。

 

『始め!1!2!3!』

 

 始まった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 序盤は大半の受験生はスクワット以外を選択した。当然だ。1500走った後にさらに足腰に負荷をかけるなんて冗談じゃない。

 

 最初、俺とザゴメルは腕立てを、バダップとエスカバは腹筋をやっていた。

 

 だが、やはり100を越えた辺りからキツくなり、俺は腹筋に切り替えた。大体100回毎に切り替えた方が良さそうだな。

 

『158!159!160!』

 

「ぐぅ…キツい…!」

 

「へばるなよ。ザゴメル。まだ一人も脱落してないんだ」

 

 そう。ここまで誰一人として脱落してない。これってもう筋力というよりかは我慢比べに近いな。

 

 バダップを見る。…キツそうな顔だ。今までの種目では平然としていたがやはりさっきまでの試験はバダップにもそこそこの負荷をかけてたのだろう。筋肉にある程度乳酸がたまっていたに違いない。

 

『199!200!201!』

 

 そうこうしてるうちに200を越える。…まだ5分の1が終わったばかり。1000までは程遠い。

 

 俺はスクワットに切り替える。1500走った後と言ったがもう腕は棒のようになっており、腹は筋肉的な意味で痛い。ここまで来るともうどれ選んでも変わんない気がする。

 

 てかまだ誰も脱落してないのかよ。少なくともドンケツにはなれないな。というか皆そう思ってやってるわけだから誰も脱落しないんだな。なんてえげつないシステムだ。

 

 他の三人を見てみるとエスカバが一番辛そうだ。今、あいつも俺と同じくスクワットをやってるが、足がガクガクになってる。

 

「エスカバ。腹筋か腕立てに切り替えた方が…」

 

「…そうだな。…グッ。キツい…」

 

 300を越えるとプルプル震えている受験生の人数は一気に増えた。で、出ますよ…(脱落者が)。

 

 360を越えてからそれは起きた。

 

 俺の前方10メートルほど前にいてスクワットをしていた受験者の一人が膝をついた。試験監督が彼に近づく。

 

「364番!記録364回!」

 

 奇跡的に受験番号と記録が丸被りだが、そんなこと気には出来ない。まだ半分もいってないんだから。

 

 だが、悲劇(?)はここから始まる。

 

「8、402番!記録369回!」

 

「203番!記録376回!」

 

「12、67、121番!記録382回!」

 

 とにかく脱落者が続出する。やはり、364番の脱落がきっかけとなったのだろう。もうビリになることはないという安心感で力が抜けてしまったのかもしれない。

 

『399!400!401!』

 

 400が宣告される頃には受験生の約半分が脱落していた。

 

 まずいですよ!このままじゃ500行く前に皆脱落だぞ!?

 

 ちなみに俺、バダップ、エスカバ、ザゴメルはまだ脱落はしていない。

 

 だが、エスカバはもうハァハァ言っておりもう限界なのは目に見えている。

 

『499!500!501!』

 

 そして…

 

「グッ…う、うおおおおああああ!…もうだめだ」

 

 腕立てをしていたエスカバが崩れ落ちる。

 

「114番!記録514回!」

 

 ついにエスカバが堕ちたか。脱落者はその場に座るという決まりでエスカバはその場に座り込む。

 

 もうすっかり日は落ちて、辺りは真っ暗。ナイターがついている。

 

 …やっと半分か。もう残った受験生は100もいない。

 

 こりゃあバダップでもいけるか分かんねえぞ。

 

 600、700と続いていく。800の時にはもう残りは俺達含めて10人もいなかった。そして、俺ももう限界だ。全身に力が入らない。

 

 俺は地面に倒れこんだ。

 

「191、9番!記録810回!」

 

 ちなみに俺の番号は191だ。ところで…何で数大きい方から言ったんすかねえ(半ギレ)!?さては貴様ホモだな!?

 

 そして、900回を越える。残っていたのは二人だけ。

 

 バダップと…ザゴメルだ。二人ともゾーン状態ってやつかもしれない。目も虚ろでもう俺達が見えてないんじゃと思うくらい彼らは限界を越えていた。

 

 周りの受験生達もこちらに注目している。

 

 ひょっとするとザゴメルも1000回いくかも。

 

 そして、ついに大台の990を越える。

 

『990!』

 

『991!』

 

『992!』

 

『993!』

 

 その時だった。ドサリという誰かの倒れる音。受験者達の驚愕の声。

 

「192番!記録993回!」

 

 えっ?その番号って。

 

 倒れたのはバダップだった。




 主人公がもしゲームに出たら

黒野零 火属性 MF(ミッドフィルダー)

王牙学園の司令塔。誰もが幸せになれる世界を望んでいる。


???
???
???
???

①『あのさぁ…』の使い方
呆れた時に使う。
②『こ↑こ↓』の使い方
ここに見てほしいものがある時に使う。
③『で、出ますよ…』の使い方
なんか出そうな時に使う。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第五話:ボール返してください。オナシャス!

 こんにちは。第五話です。
 今回は少しだけサッカーする回です。四話も待たせて申し訳ありませんでした。
 では、数あるイナズマイレブンの二次創作の中からこの作品を読んでくれる貴方に感謝を。
 本編の始まりです。


「いやー。にしても意外すぎたよ。バダップが1000回いかなくてザゴメルが代わりに1000回いったのは」(注意!下ネタではありません!第四話参照!というか仮にそうだとしても⚪キスギィ!)

 

『…そうだな。運動の分野で俺が誰かに負けたのは初めてかもしれないな』

 

 今、俺はバダップとビデオ通話で話している。今は王牙学園の入学試験が終わった後の深夜だ。

 

『ザゴメルは何か言っていたか?』

 

「いや、もう何もする気力が無かったみたいで何も言わずにフラフラ帰っていったよ」

 

 バダップが993回目で倒れた後、ザゴメルは最後までやりきり、この試験唯一のクリア者となった。

 

 それとバダップが倒れたのは疲れすぎで眠ってしまった…というものだ。俺も最初は信じられないと思ったが全身疲労で試験後全く動くことの出来ない受験生もいたからおかしいことではないのかもしれない。それだけこの試験は過酷だったということだ。

 

 バダップは試験終了後も眠ったままで結局送迎の車で自宅へ帰っていき、俺は一人で家に帰った。

 

「あとさ、帰るのメチャクチャ大変だったんだぞ!もう足とかパンパンで歩くのも苦労したし!」

 

『それは大変だったな』

 

「なのにお前は歩くことなくリムジン!羨ましすぎる!俺乗ったことないんだぞ!」

 

『それなら今度乗るか?』

 

「いいのか!?約束だぞ約束!…あ、約束といえば三日後にエスカバと一緒に映画に行く約束をしたんだけどバダップも一緒に行くか?」

 

『いいのか?』

 

「いいよ。エスカバがあとでバダップにも聞いといてくれって言ってたし」

 

『そうか。ありがとう。行かせてもらう』

 

「待ち合わせ場所は…」

 

 俺が伝える待ち合わせ場所をバダップはメモに取る。

 

『OKだ。イナズマ映画館だな』

 

「正午に待ち合わせだ。頼むぜ」

 

『分かった。もう夜遅いしこれで終わりにするか?』

 

 俺は時間を確認する。ウェ!?午前一時!?時間経つの早すぎィ!

 

「そうだな。バダップ。じゃあ三日後、楽しみに待ってるぜ!」

 

『ああ』

 

 こうして俺とバダップの通話は終わった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 俺…バダップ・スリードは電話を終えるとベッドへと飛び込んだ。

 

「…疲れた」

 

 体が思ったように動かない。先程のメモをとるのにさえ疲労のせいか上手くいかなかった。

 

「バダップ様。夕食のお時間です」

 

「…御影(みかげ)。ノックしろといつも言ってるはずだが」

 

「ええ。しました。ですがいつまで経っても返事がないので勝手に入らせてもらいました」

 

 何故俺の夕食が午前一時になっているのか。それは俺が眠ってしまったことにある。

 

 王牙学園入学試験は午後八時に終了した…らしい。俺は試験終了直前に眠ってしまったために、知らなかったが。

 

 他の人によると、眠ってしまった俺は全然起きなかったらしく何かにうなされてるようだったと言っていた。

 

 そうして眠っていた俺が目覚めたのはまさかの午後十一時。目覚めた俺は状況を説明された後、零に無事を報告することにした…というわけだ。

 

 ちなみに腹が非常に空いている。すでに十二時間近く何も食べていないから当然だが。

 

「本当にすごいうなされておりました。体調は万全なのですね?」

 

「大丈夫だ。気分は悪くないし脈も正常だった」

 

()()()大丈夫なのですか?」

 

()()()大丈夫だ」

 

「それはよかったです」

 

 彼女は安堵の息をついた。

 

 彼女の名は御影(みかげ)千草(ちぐさ)。俺専属の執事にしてボディーガード。正直俺にボディーガードなどいらないが母上が勝手に用意した。

 

 雪のように真っ白な肌、真っ赤な瞳は彼女がアルビノであることの証だ。長い真っ白の髪はポニーテールにしている。だが、中性的な顔立ちをしており、なおかつスーツを纏っている彼女は男性にも見える。

 

 ベテランの従者が多い俺の家で彼女だけは十代後半だ。母上が俺の専属は同年代くらいの子がいいと考えたために彼女は弱冠十五歳にして俺の専属の執事となった。

 

 だが、他の執事やメイドから仕事を教わり彼女の仕事の腕前は今では一流となっている。

 

 最初彼女が来たときは別に執事などいらない、と考えていたが今の俺にとっては大切な従者だ。

 

 ちなみに彼女はメイドではなく何故か執事をやっている。本当に何故なんだ…?

 

「バダップ様。三日後に黒野様に会われるのですか?」

 

「ああ。エスカバが映画に誘ってくれてな」

 

「…エスカバ様…ですか」

 

「王牙学園の試験で仲良くなった受験生だ」

 

「そうですか。悪い輩ではないようで安心しました。…そういえばバダップ様」

 

「何だ?」

 

 御影は懐から一枚の紙を取り出すと俺にそれを渡した。

 

「これは…」

 

「先日、バダップ様が調べるよう言われたものです」

 

「…ありがとう。助かる」

 

「ありがたきお言葉。夕食ですがそちらに持っていった方がよろしいでしょうか?」

 

「…頼む。試験直後で体を動かしたくないんだ」

 

「承知いたしました」

 

 御影は部屋から出ていく。俺は先程彼女から受け取ったものを確認する。問題ないな。エスカバ達と映画に行くついでに見に行くか。

 

「バダップ様。夕食をお持ちしました」

 

「入れ」

 

「失礼いたします」

 

 御影が夕食を持って姿を現す。今日の夕食はステーキらしい。…しまった。何で御影に夕食を持ってかせてしまったんだ。

 

 やらかしてしまったかもしれない。

 

 先程も言った通り御影は一流の従者だ。だが、彼女はとんでもない欠点を抱えている。

 

 欠点があるなら一流とはいえないが、彼女のそれは欠点と言ってはいけないかもしれない。それに欠点といえどもそれは彼女の仕事のミスに直結するものではない。

 

 少なくとも『ミスをしない』という点では彼女は一流の従者なのだから。

 

「それでは、バダップ様。お手を拭かせて頂きます」

 

「分かった」

 

 手を出す。彼女はおしぼりで俺の手を丁寧に丁寧に拭いていく。普通なら三十秒で終わるところを彼女はとても丁寧にやる。

 

 五分もかけて彼女は俺の両手を拭き終えた。

 

「これで終わりです。バダップ様」

 

「よし、じゃあ早速料理に「いけません。バダップ様!」…え?」

 

「ナイフとフォークに毒が塗られてるかもしれません。かくなるうえは一度消毒し直します!」

 

 そう言うと彼女はナイフとフォークを丁寧に消毒液入りのふきんで拭いていく。…丁寧に丁寧に。

 

 またも五分ほどかけて彼女はナイフとフォークを拭き終えた。

 

「ナイフとフォーク、きちんと綺麗にさせていただきました!」

 

「…よし、今度こそ「まだダメです!バダップ様!」…」

 

「ステーキそのものに毒が仕掛けられている可能性もあります!ここは私が毒味を行いますので!」

 

 お分かり頂けただろうか。…そう。御影千草は…神経質である。通常の業務に支障をきたすほどではないのだが、食事の間だけ何故かとてつもなく神経質になるのだ。

 

 だからこそ俺は食事中は御影を側に置かない。このように彼女の『従者としての業務』という名の妨害を受けるからだ。

 

 御影は懐から別のナイフとフォークを取り出すとステーキを一切れ口の中に納める。

 

 彼女はステーキを咀嚼する。丁寧に丁寧に…。二分もかけて彼女はステーキ一切れを飲み込んだ。

 

「よし!もういいな!御影!」

 

「はい。どうぞ。バダップ様」

 

 やっとだ。…やっと食べられる。だが、もうステーキは冷めてしまっており、あまり美味しくはなくなっていた。

 

 もう絶対食事中、御影を側に置かないことにしようと俺は心の中で強く誓うのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 待ち合わせ場所であるイナズマ映画館前のベンチに俺は座っていた。入り口前の広場にはあまり人はいない。そんな中でポップコーンの屋台に鳥の群れが集まってきている。どうやらこの鳥たちはポップコーンのおこぼれが欲しいみたいだ。周りを見るとあちこち鳥だらけ。ポップコーン屋さん!まずいですよ!

 

 ちなみにバダップとエスカバはまだ来てないみたいだ。

 

 正午に集合の予定だが、今の時間は午前十一時半。少し早く来てしまったらしい。すこし、暇だな。

 

「あっそうだ(唐突)。サッカーボールでも蹴るか」

 

 俺は持っているボールの袋を見る。久しぶりにバダップと遊ぶのでボールを持ってきた。エスカバがいるあたり持ってかない方がよかったかな?とも思ったけど結局いい暇潰しになる。

 

 ボールを袋から出す。そのままドリブル。流石にショッピングモールとかお店が並ぶこの場所でシュートは打てないがそれでも充実していた。

 

 その時だった。いきなり何者かにボールを奪われたのは。

 

「!?」

 

「あはは~!ずいぶんトロいな~♪」

 

 ボールを奪ったのはくろぶちの眼鏡をかけた金髪のツンツン頭の男。背はザゴメルと同じくらいはあろうかという長身だが彼ほど筋肉ムキムキというわけではなくでぶっとしている。

 

「おめえさん。サッカーが好きなのか~?」

 

「いや、町中にボール持って来ててサッカー嫌いなやつがいるなら是非見て見たいけどね」

 

「ははっ!たしかにそうだな~♪」

 

 男は奪ったボールをそのままリフティングする。

 

「オイラの名はシン。シン・グリッドだよ~♪。おめえさんは~?」

 

黒野(くろの)(れい)だよ。はじめまして。ところでシン。俺のボール返してください。オナシャス!」

 

「う~ん。どうしようかな~♪」

 

 シンはニヤニヤ笑いながらリフティングを続ける。…こいつ返す気がないな。頭にきますよ!!

 

 なら仕方ない…。返す気がないなら…。

 

 俺は一気にシンへ近づく。シンはしばらくヘラヘラしていたがすぐに俺の狙いに気づく。スライディングを仕掛けてボールを奪いに行くがギリギリでシンの反応の方が早かった。

 

 ジャンプで空中に逃げられる。だが、その程度で諦める気はない!

 

 素早く体制を立て直し、シンの着地点を狙う。

 

「そこだ!」

 

「っ!おっと~!」

 

 シンは空中でボールを高く蹴りあげる。ジャンプしてボールを取りに行く俺。シンは着地してから再びジャンプしなければならない分俺よりもジャンプのタイミングが遅れるはず。

 

 しかし、シンが蹴りあげたボールは風に流されていき軌道をどんどん変えていく。

 

 おいおい。いくらなんでもあおられすぎじゃねえか!?ダメだ。ボールに届かない!

 

 結果的にボールは俺が予想した場所から遥かに離れた場所に落ちる。そこにはシンが待ち構えており、シンはボールを足でトラップした。恐らくシンはボールが風の影響をモロに受けるようにボールに回転をかけたのだろう。

 

「いや~。狙いはよかったがオイラには通じないってことだな~♪」

 

 シンは地面に着地した俺を見てニヤニヤ嗤う。…参ったな。俺はすぐにボールを奪い返しにいく。するとシンはボールを再び高く蹴りあげる。

 

 真上に蹴りあげたから奴がいるあたりに落ちてくるはずだが、さっきのパターンを考えると風にあおられてとんでもないところに落ちてくるな。

 

 シンのやつより先に落下位置を予測しないと。上を見てボールの落下点を予測しようとする俺。だが、シンは一定の場所から全く動こうとしない。

 

「おいおい。そこから動かなくていいのか?」

 

「うん~。だってここに落ちるも~ん♪」

 

 俺は辺りを動くが不規則に動くボールの軌道が分からない。そして、ボールはシンの居た位置に落ちた。 

 

「えへへ~♪すごいでしょ~♪」

 

 こいつ…何でボールの落下点が分かるんだ?上空の風の向きが分かれば流石に落下点くらいは予測できるが上空の風の向きが地上の風の向きと必ずしも一致するとは限らない。

 

 じゃあこいつはどうやって上空の風の向きを…?

 

「さあ~♪君は僕からボールを取り返せるかな~♪」

 

「おもしれえ…」

 

 謎を解いてボールを奪い返してやる!

 

 …あれ?というか…これ警察呼べば万事解けt(強制終了)

 

 

 

 

 

 

 

 

 御影千草は掃除のためにバダップの自室へ入った。今はバダップは友人の黒野零と遊びに行く約束を果たすためにイナズマ映画館へと向かっているためにノックする必要はない。

 

 御影はまずはバダップの勉強机から綺麗にすることにした。机を見る。一つの写真立てが彼女の目を引いた。二年前のバダップの誕生日パーティーの時に撮られた写真が入った写真立てだ。

 

 二人の少年が写真の中にいる。

 

 一人は御影自身飽きるほど見ている、主人…バダップ・スリード。

 

 もう一人はこのバダップの友人、黒野零。

 

 写真立てをじっと見つめる御影。

 

 そして深いため息をつく。

 

「黒野零…貴方は誰ですか?貴方は一体何者ですか?…単純に王牙学園のメンバーに選ばれなかった出来損ないか、それとも…」

 

 もう一度深いため息をつく。考えすぎは体に良くない。

 

 ふと、御影は時間が気になり、腕時計を確認した。

 

 11時45分14秒。彼女は腕時計を外すとその場に落とし…踏み割った。

 

「汚いですね。1919810まであったら発狂してたかもしれません」

 

 ちなみに19秒後に彼女は踏み割った腕時計を処分しなければいけないことに気づき、余計なことをした自分を呪うことになるのだが、これはまた別の話で。




 114514とは
①『じゅういちまんよんせんごひゃくじゅうよん』である。
②『いいよこいよ』と読むとある民にとっての聖なる数字である。



次回あたりでオリジナル必殺技が出るかもしれません。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第六話:じゃあぶち込んでやるぜ!

 第六話です。今回、新しいオリキャラが出てきます。次回はサッカーバトルをやると思います。
 では、数あるイナズマイレブンの二次創作の中でこの作品を読んでくれる貴方に感謝を。
 本編スタートです。


 …しかし、上空の風にあおられるボールの落下点が相手に分かって自分に分からない以上、すでに情報戦で負けている。

 

 すでに奪い合いを開始してから十分近くが経過していた。 

 

「いや~♪大変だね~♪必死だね~♪」

 

「その余裕そうな顔をすぐに歪ましてやるさ!」

 

 シンにボールを奪いに近づくがいつも通りシンはボールを上に蹴り上げる。

 

 俺は上を見ながらボールが落下しそうな辺りを探す。

 

 だが、シンは先程ボールを蹴った位置から動かない。

 

 まさか、あの辺に落ちるのか?

 

 俺はシンの居る辺りへ移動する。…おかしいな。どう見てもここにボールが落ちてくるとは思えないが…。

 

 と、いきなりシンが動く。一気に十メートルほど移動して落下したボールを胸でトラップした。

 

「お前…」

 

「あはは~♪流石に~そろそろ君がオイラの位置を参考にして落下位置を特定するような気がしてたんだ~♪いや~落下する直前に動いて正解だったな~♪」

 

 なめられてる。いや、ポジティブに考えよう。これでボールを奪うのがよりいっそう楽になった。

 

 …上空の風向きを知ってればの話だが。

 

 待てよ、俺もシンも条件は同じ。ということは相手は何らかの手段で上空の風向きを知ってる可能性がでかい。

 

 俺は辺りを見回す。高いところにあって風の影響を受けやすいものがあればそれを利用して上空の風向きを知ることができる。

 

 木や旗のようなものが候補にあげられるがここにはない。木といった自然物は八十年後の未来では見かけるのも珍しい。旗は…なんでねえんだよ(半ギレ)。

 

 と、とにかく風向きを把握できるものを探さなきゃ…(使命感)。

 

 …そうだ!風見鶏はどうだ!ここには建物がいっぱいあるし一つくらいは…無いか。そもそも風見鶏なんて古いしさすがにこの世界にはないだろうな。代わりに屋根の上に居るのはポップコーンのおこぼれを待つ鳥たちだけだ。

 

 …ん?鳥?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 オイラ…シン・グリッドはもうこの戦いに飽きていた。

 

 あのお方からのミッションを思い出す。何であの方はこんなやつを警戒してるんだな?

 

 オイラはボールをリフティングする。『黒野(くろの)(れい)の能力値を計測しろ』というミッションのために黒野零からボールを奪ったがこのミッションは無駄足だったかもしれない。

 

 この程度でボールを取り返せないのならばそこまで気にするべきものでもないはずだ。

 

 少なくともオイラ達の真のミッション達成の邪魔にはならないだろう。

 

 と、そんなことを考えているオイラに向かって黒野が近づく。

 

 オイラはボールを空に向かって蹴る。そして、()()()()()()()()()()()()を確認する。

 

 北風…いや、北北東に流れている。風速は大体五メートルくらいか。

 

 となると、あの辺か。奇遇にもポップコーン屋の屋台がよい目印になる。

 

 さてと、ボールが落下する直前までここで待つか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 多分、ポップコーン屋の辺りに落ちるな。ボール。

 

 俺は()()()()()()()()()()()()()()()をもう一度確認する。やはり間違いない。ポップコーン屋の辺りだ。

 

 だが、まだそこには向かわない。まだボールが落ちるまでに時間がある。今、俺が得ているアドバンテージはシンの油断だ。まだ相手はこちらがボールの落下点を見つける方法を持ってないと考えてるはずだ。

 

 今ここで屋台の辺りをうろちょろすればシンは警戒するだろう。手にしたアドバンテージが水泡と化す。

 

 俺はあえてポップコーン屋から少し離れる。それでもシンよりは近い位置にいるが。

 

 これで万全かもしれないが念には念をだ。()()は試運転もここでしとくか。   

 

 今、ボールは俺の真上にあるがここからだ。風にあおられたボールは地面に近づけば近づくほどに大きく変化する。

 

 ボールの高さを見るにあと数秒で地面に落ちるな。

 

 そろそろだ!エンジン全開!

 

 俺はポップコーン屋に向かって全力で走った。(注意!これでもサッカーしてます)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 …!!あいつ!()()()を見つけたのか!!まずい!落下地点にどんどん近づいてってる!

 

 ()()()とは建物の上にいる鳥たちのことだ。あの本物の風見鶏ではなく、あそこでポップコーンを狙ってる鳥たちだ。

 

 元来、鳥たちは風によって体を冷やすことを避けるために本能的に体の向きを、常に風とは逆方向に向けている。

 

 さらに、鳥たちの飛行から風速を割り出すことも可能だ。事実、プロゴルファーはコース上を飛行する鳥から上空の風を把握する。

 

 まずいな。やつの方が一瞬早く落下地点に到達する。

 

 ここで負けるわけにはいかない!

 

「デーモンカット!」

 

 黒いオーラを纏った足を横一線する。すると、黒野とボールの間に黒色の衝撃波の壁が出現した。衝撃波の壁には気味の悪い悪魔の顔が気のせいか見える。

 

 衝撃波で黒野は後ろに飛ばされる。

 

「悪いな~♪でも~必殺技を使っちゃいけないなんて誰も言ってないしね~♪」

 

「ははっ!奇遇だな…」

 

「?」

 

 間違いなくボールはほぼオイラが奪取できるだろう。だが、黒野の目は諦めてはいなかった。

 

「俺も…お前と同じことを考えてたんだよ!じゃあぶち込んでやるぜ!」

 

 黒野の右足が炎に包まれる。その右足をデーモンカットと同じように振るう。右足に集約していた炎がボールを焼きつくす。そして

 

 ボールが爆発した。

 

「エクスプロード・ボール!」

 

 ボールの近くにいたオイラは吹っ飛ばされる。まるでボールがオイラ自身を拒絶したかのような技だった。ディフェンス技か。

 

「くっ!」

 

 五メートルほど吹っ飛ばされる。形勢逆転された。

 

 ボールはコロコロ転がって黒野の足元へ。

 

「俺の勝ちだ!」

 

 はは…

 

「オイラの…負けだな~」

 

 

 

 

 

 

 

 

「いや~♪楽しかった楽しかった~♪」

 

 シンはニコニコ楽しそうに笑いながら映画館前のベンチに座っている。

 

 俺は時間を確認する。午前11時53分22秒(11時45分14秒じゃない-1145141919810点)。集合時間は正午だし、まあ、いい暇潰しにはなったか。

 

「さっきはおちょくってごめんな~♪ほら、道端でサッカーボール蹴ってる人見たらちょっかい出すことって君もよくあるだろ~?」

 

「ありますあります」

 

「いや~♪やっぱりそのへんオイラたちは気が合うね~♪」

 

 シンはポップコーン屋さんで買った特大サイズの器に山盛りに入ったポップコーンをバクバク食べている。

 

「あっ。キャラメル味無くなった~♪次はチョコレート味のポップコーンにする~♪」

 

「食べスギィ!」

 

「あはは~よく言われるよ~♪」

 

 チョコレート味のポップコーンの代金を払い、商品を受けとるシン。

 

「じゃあ、そろそろばいばいだね~♪」

 

「おっどっか行くのか?」

 

「うん~♪またね~♪」

 

 シンはそう言うとポップコーンの特大カップを抱えてスキップしながら去っていく。スキップする度にカップこぼれ落ちるポップコーンの道に鳥たちが群がる。シンとすれ違ってやって来たのは

 

「すげえ量のポップコーンだな…。なんだあいつ」

 

 エスカバだ。受験のときと全く同じ格好…軍服姿だ。この世界の軍人というのはどちらかと言えば右翼的な人が多く、国への忠誠心とか何たらとかで子供とかにも軍服を着せる人は多いらしい。実際、将軍の父を持つバダップが外で軍服以外を着ているところを俺は見たことがない。エスカバも同じなのだろう。

 

「よう。三日ぶりだな。…何か息づかい少し荒くないか?」

 

「ああ。少し運動してたのさ」

 

「…それ、サッカーボールか?懐かしいな」

 

「サッカーをやったことあるのか?」

 

「昔、少しだけな」

 

 ん?気のせいかエスカバの奴、少しだけ悲しそうな表情を一瞬浮かべたような。

 

「そういえばザゴメルがお前にありがとうって伝えてくれって。お前、何かしたのか?」

 

「そうだな。まあ、あまり聞かないでくれ」

 

 ザゴメルが途中退席しようとしてたなんて言えるわけないゾ。

 

「バダップの奴遅くないか?あと一分くらいで十二時だが…」

 

「大丈夫だ。あいつは時間内に必ず着くよ」

 

「…すごい自信だな」

 

 俺はバダップと何回か遊んだことがあるから知っている。バダップが遅れないことは。バダップは…。

 

「十二時まで残り十秒…来るぞ」

 

 その時一台のリムジンが姿を見せる。残り五秒。リムジンは俺たちの目の前に停車する。

 

 そして、残り三秒。運転手がリムジンの扉が開く。

 

 十二時ちょうどにバダップは映画館前に現れた。

 

「ありがとう。帰りは例の場所で待っていてくれ」

 

「かしこまりました」

 

 運転手はバダップに深くお辞儀をする。

 

「…バダップは待ち合わせ時間ちょうどにいつも現れるんだ」

 

「マジかよ。すげえな」

 

「こんにちは。零。それとエスカバ。今回はよろしく頼む」

 

「ああ。よろしくな。バダップ」

 

 バダップとエスカバはかたい握手をかわす。

 

「ところで映画は何を見るんだ?」

 

 俺とバダップはエスカバからは映画のタイトルを教えてもらってない。本人いわく『映画館に着いてからのお楽しみ』らしいが

 

「『迫真!決闘(デュエル)部』だけど」

 

「面白そうなタイトルだな」

 

「えぇ…(困惑)」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 少年はポップコーンのカップを抱えて鼻歌をうたいながら人気のない路地をスキップしていた。もうポップコーンのチョコレート味はほとんど残っていない。

 

「おっ!いたいた~♪」

 

 少年は待ち合わせ場所で待っていた二人の少年少女に声をかける。

 

「十二時ちょうどに到着~♪いや~♪遅れるかと思ったよ~♪」

 

「NO。貴方が到着したのは12時00分00.23秒です。すなわち0.23秒の遅れがあります。これにより貴方は遅れました。証明完了(Q・E・D)

 

 三人のうちの一人の少女が淡々と機械のように告げる。青い髪のショートヘアーで眼鏡をかけており、かなり華奢で儚い雰囲気を持っている。

 

「ヘレス~♪待ち合わせ場所は『この辺り』って言っただけで具体的な領域は提示してないよ~?」

 

「YES 。しかし貴方が話しかけてきたタイミングを到着時間と見なせば今の私の証明は正しいはずです」

 

「おいおい!俺は誰が何秒遅れようがどうでもいいんだ!さっさと近況報告といこうぜ!」

 

 ポップコーンを持った少年の返答にたいしてヘレスと呼ばれた少女は反論した。その後、赤毛でサングラスをかけたがたいのいい男が叫ぶ。

 

「そうだね~♪ヘレス~♪文句は後で聞いておくから今は耐えてくれる~?」

 

「状況を分析…効率を重視し『シン・グリッドが近況報告に遅れた』命題についての証明を中断します」

 

「分かってくれて助かるよ~♪」

 

「じゃあまず俺だな!とりあえず異常なしだ!今、古芝セシルは小さなサッカーコートにいるぜ!」

 

 赤毛のサングラスが報告する。

 

「オイラはあのお方の命令で黒野零に接触したよ~♪」

 

「質問です。黒野零の実力はセカンドステージチルドレンに匹敵するものでしたか?」

 

「いや~♪オイラ達にすら届かないよ~♪でも~♪間違いなくオイラ達のステージまで~やって来るだろうね~♪」

 

「…意味が分かりません。私達の実力相当となる根拠を提示してください」

 

「いや~♪勘だよ~♪」

 

「非科学的です。根拠のない発言をしないでください」

 

 ヘレスは感情のない瞳のままシンに冷たく宣言する。空気が張りつめる。ヘレスの肩を掴むサングラス。

 

「まぁ、そんなこと言うなよ。シンの勘はよく当たるんだ」

 

「では、フェルメ・イレーズ。貴方には『シン・グリッドの勘はよく当たる』という命題を証明する根拠があるのですか?」

 

「いや、無いけど」

 

「根拠のない発言はしないでください」

 

「…いや、俺が言いたいのはシンの言葉を肯定しろってことじゃなく、頭に入れておくくらいはいいんじゃってことで」

 

「根拠のないものを記憶する必要性を感じません」

 

「…あああ!何なんだよ!おい!シン!何でこんなめんどくさいやつを今回のミッションのメンバーに選んだ!?」

 

 フェルメは頭を抱えながらシンに尋ねる。それを見ながらニヤニヤと笑うシン。

 

「すまないね~♪フェルメ~♪でも~♪ヘレスは有能だから~♪」

 

「『ヘレス・デストリカオは優秀です』という命題の証明はすでに行っています。よって、ヘレス・デストリカオは優秀です。証明完了(Q・E・D)

 

「あぁ~!とにかく!その!機械みたいな!喋りを!やめろ!頭にくる!」

 

「『ヘレス・デストリカオが機械みたいに喋る』という命題の証明を行うのに必要な根拠を提示してください」

 

「くそがああああ!」

 

 自分が優秀であることを証明するヘレスに喚きちらすフェルメ。その時、シンの通信機から通信が入る。

 

「はい~♪…はい。…うん。いいよ。君のミッションは『御影(みかげ)千草(ちぐさ)の監視』だから。怪しい動きを彼女がした場合には即刻オイラのところに彼女を連れてきてくれ。…ああ。いいよ。首から下が無くなっちゃってても」

 

 シンと通信機から通信した人物の会話はヘレスとフェルメの口論によってかき消され、誰にも聞き取られることはなかった。一番近くにいたヘレスとフェルメにさえも。




オリジナル選手名鑑
シン・グリッド 山属性 MF(ミッドフィルダー)

???????????????????????????????????


デーモンカット
???
???
???

オリジナル必殺技

エクスプロード・ボール 火属性 威力150(基準としてデーモンカットが150)

足に纏った火をボールにぶつけることでボールを爆破しその衝撃でボールを保持しているプレイヤーをぶっ飛ばす。ボールは超次元なので無事。


①『じゃあぶちこんでやるぜ』の使い方
何かぶちこみたいものがある時に使う。
②『ありますあります』の使い方
自分が経験していたり、そこにあるものを肯定する時に使う。
③『えぇ…(困惑)』の使い方
相手の言動に困惑した時に使う。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第七話:なぜ女なんだ…?(VS天馬は永遠に)

 第七話です。サッカーバトルをやります。
 ただ、しっかりしたのは次のお話でやると思います。六話もの間、ろくに試合をしていないので次はきちんとやると思います。
 では、数あるイナズマイレブンの二次創作の中でこの作品を読んでくれる貴方に感謝を。
 それでは本編スタートです。


「面白かったな。映画」

 

「ああ。TN⚪KとT⚪Nの戦いにはドキドキしたよ」

 

 映画が終わり、俺達は今映画館の前でおしゃべりをしているのだが…。

 

「あのさ、あの映画本当に面白かったか?」

 

「野⚪と遠⚪が戦う展開は中々熱かったと思うが」

 

「俺的にはG⚪(隠せてない)とマジ⚪君の激しいデュエルシーンが良かったと思うぜ」

 

 嘘だろお前ら…たまげたなぁ。いや、お前らにとっては遊⚪王と変わらないんだろう。でも俺にとっちゃホモ⚪デオにしか見えねえよ。エッチなシーンはなかったけど。

 

 出演してた俳優さんがなあ…。例のあの人達に似ていたんだよ。淫⚪ファミリー大集合!夢の共演!いいゾ~これ!みたいな映画だったんだが。てかモロそうだった。

 

「あれ原作の小説が俺達と同い年の奴が書いたものらしいんだ」

 

 エスカバの発言に俺は耳を疑う。

 

「え?あれを?」

 

「ああ。すげえよな。弱冠十二歳でだぜ。ああいうのが天才って呼ばれるんだろうな」

 

 …マジかよ。たまげたなぁ(二回目)。どんだけ天才なんだよそいつ。

 

「このあとどうする?」

 

「特に決まってないな。ボーリングにでも行くか?」

 

「あぁ~いいっすねぇ~」

 

「いや、少し待ってくれ」

 

 ボーリングに行こうとする俺とエスカバをバダップが止める。

 

「どうしても行きたい所がある。ボーリングに行くのはその後でもいいからついてきてくれないか?」

 

「俺は別にいいけど…エスカバは?」

 

「俺も都合は悪くないが…まず、どこに行くのか教えてくれないか?」

 

「サッカーコートだ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「へぇ~ここにサッカーコートがあったのか!」

 

 俺とエスカバはバダップに連れられてそのサッカーコートにやって来た。正確に言えばコンクリの広場に白線を引いてゴールを置いた小さなサッカーコートだ。

 

「無料で使えるサッカーコートを探して、見つけたのがここというわけだ」

 

 すでにサッカーをやっている人達で賑わっている。四対四のサッカーバトルか。周りには沢山のギャラリー達がいる。赤のビブスと青のビブスのチームで戦っている。あっ、赤ビブスがシュート打つ体勢だ。

 

 赤いビブスを着た三人の選手がフィールドの一点で交差すると、その一点から青いオーラが噴出し、一頭のペガサスとなる。

 

 ペガサスが(いなな)くとボールに青いオーラが蓄積される。そのまま先程交差した三人組がボールを蹴りこむ。

 

「「「トライペガサス!」」」

 

「フルパワーシールドV2!」

 

 青ビブスのキーパーが頑張るものの健闘空しく、フルパワーシールドは破られ赤チームの得点。そこで試合終了を告げるビーッというタイマーの音声が鳴り響いた。

 

 てか中々やるな。トライペガサスとかフルパワーシールドとかそこそこ強いぞ。

 

 特にフルパワーシールドは帝国の源田の最強のキーパー技だ。八十年後のサッカーってレベル高いなあ。

 

『さあ!これで赤サイド!チーム《天馬は永遠に》が四連勝!この流れを止められるチームは現れるのか!?さあ!次の挑戦チームは!?』

 

 おっ。何か知らないけど試合終了後のコートの真ん中に帽子にグラサンかけてマイク持ったDJ風の男が現れた。それと同時にギャラリー達が自分達のアピールを始める。

 

「俺だ!俺達のチームを出してくれ!」

 

DJ-YOU(ディージェイユー)!頼む!俺達だ!」

 

「バカ言うな!うちらに決まってんだろ!」

 

 DJ-YOUと、呼ばれたグラサンは沢山のアグレッシブなアピールに臆することなく叫ぶ。

 

『ようし!DJルーレットいくぜ!ドゥルルルルルルルル!バン!よしっ!そこのゴーグルの少年!君達だ!』

 

「よっしゃあ!」

 

 指名されたゴーグルの男とそのチームメイト達は喜びながら、コートに立つと負けたチームの選手から青ビブスを受けとる。

 

 なるほど。サッカーバトルの勝ち抜き戦か。面白そうじゃん。

 

「バダップ!俺達もこの後参加しようぜ!」

 

「ダメだ。今日は見てくだけだ。そもそも俺達はエスカバを含めて三人しかいないからな」

 

 確かに俺達は今日は三人しかいない。四人制のサッカーバトルに参加するには一人足りない。ていうかエスカバが出場OKしてくれるかどうかも分からない。と、後ろから女の子の声が聞こえた。

 

「貴方達。試合に出るメンバーが足りないの?」

 

 声のした方向の先に一人の少女がそこにいた。長い金髪のストレートに青い瞳。西洋人形のような可愛らしい顔立ち。絵に書いたような金髪碧眼の美少女がそこにいた。

 

「な、なぜ女なんだ…」

 

「失礼ね。貴方。女性差別なんて廃れた考え方は嫌いよ」

 

「センセンシャル…」

 

 謝る俺。バダップが少女に話しかける。

 

「人にものを尋ねる時は名乗るのが礼儀じゃないか?」

 

「そうだよ(便乗)」

 

「…そうね。私は古芝(ふるしば)セシルよ。ほら。こっちも名乗ったからそっちも名乗りなさい」

 

「バダップだ」

 

「エスカバと呼んでくれ」

 

黒野(くろの)(れい)。俺は零と呼んでくれ。よろしく」

 

「で、もう一度聞くけど貴方達はサッカーバトルをするためのメンバーが足りないのよね?」

 

 俺達が話している間にサッカーバトルが始まっていた。どうやら先程四連勝した赤チームが押されているらしく、ギャラリーのボルテージが上がっている。

 

「確かに俺達はサッカーバトルする人数が足りない。だから今回は観戦しに来ただけだが」

 

 バダップがそう答える。すると、少女…セシルはニヤリと笑う。

 

「ちょうどいいわ。私とチームを組んでサッカーバトルに出ましょう?こちらは一人、そちらは三人なのだから合わせればちょうど四人。サッカーバトルに参加できるわよね?」

 

「あぁ~いいっすね~(二回目)」

 

 ラッキーだ。これで俺達も参加できる。だが、バダップの返答は意外なものだった。

 

「ダメだ。そもそも今日は見ていくだけとこちらは決めている。君の提案には同意できない」

 

 バダップのその返答には確固たる信念が見てとれた。しかしセシルは諦める様子がない。

 

「ふふっ。それは甘いわね。バダップ・スリード」

 

「何だと?」

 

「貴方、聞いたわよね?そこの零君が『あぁ~いいっすね~』って言ったのを。彼はこのサッカーバトルに出たがってるみたいじゃない。ここで貴方が強引に出ない出ないと駄々をこねたら友情にヒビが入るのではなくて?」

 

「…」

 

 バダップが沈黙する。セシルも何も言わない。聞こえるのは今行われてるサッカーバトルに熱狂するギャラリー達の声だけ。バダップとセシルのにらみ合いが続く。しばらくしてからバダップが口を開いた。

 

GK(ゴールキーパー)の出来る奴がいない」

 

「そんなのシュートを打たせなければいいだけのことじゃない。私はDF(ディフェンダー)で、相手チームにシュートをうたせない自信があるわ」

 

「…ここには沢山のチームがいる。あのDJ-YOUとかいう奴に選ばれるか分からない」

 

「DJ-YOUはここに来るのが初めての人を優先して選んでくれるから大丈夫。今日ここに来てるのは常連さんばかりだし、次の試合には出たいと言えば出られると思うわよ」

 

「……そもそもスパイクもグローブも持ってない」

 

「コンクリートの地面にスパイクも普通のシューズも関係ないわ。事実ここにいる奴らの大半は普通のランニングシューズでプレイしてる。グローブならビブスと一緒に用意してあるから大丈夫」

 

 バダップが反論するもセシルはあらかじめ反論に対する準備をしていたかのように返答していく。エスカバがバダップの肩を叩く。

 

「なあ。バダップ。俺、キーパーやるよ。零もあのセシルって娘も参加したがってるしさ」

 

「エスカバ…。分かった。古芝セシル。そちらの提案をのもう」

 

「あら…案外素直なのね」

 

『試合終了~!勝ったのは《天馬は永遠に》!これで五連勝だ!このチームの大躍進を止めるチームは現れるのか~!?』

 

 丁度、向こうの試合も終わったらしい。どうやらまた赤いビブスのチームが勝ったらしかった。青のビブスのチームは肩を落としている。

 

「俺だ俺だ俺だ俺だ俺だ!!!」

 

「二回目出させてくれ!!!」

 

「ヒーハー!」

 

 沢山のギャラリーがアピールする中、セシルはゆっくりと手を上げる。すると、DJ-YOUがセシルを指差す。

 

『ヘーイ!見ろよお前ら!新顔だぜ!おまけに金髪の美少女ときた!ここは彼女に免じて許してくれ!おーい!来な来な!』

 

「さ。行くわよ」

 

 俺達はギャラリーから注目を浴びながらコートへと移動する。うぅ~。やべえ。メチャクチャ緊張する。

 

『お嬢ちゃん!初出場だがチーム名は決めてあるのかい?』

 

「…そうね。じゃあチーム『オーガ』で」

 

 周りを見るとバダップとエスカバも緊張しているのかプルプルと震えている。セシルはこの状況に慣れているのか気にも止めてないが。

 

 すると、俺の緊張に気づいたのか、DJ-YOUが俺の背中を叩いた。

 

『おいおい!そこまで緊張するなよ!お前初めてかここ。力抜けよ~。そんなガチガチじゃ勝てるもんも勝てねえぜ!』

 

 …ダメだ。体の震えが止まらねえ。自信はある。正直バダップの能力ならゴールも破れるだろうし、俺達の身体能力が相手より劣っているとは考えにくい。

 

 でも…本当に勝てるのか?相手の力量を見誤ってるかもしれないじゃないか。

 

『…本当に大丈夫か坊や達?』

 

「おーい。DJ!さっさと始めようぜ!」

 

『…分かったぜ!キックオフは挑戦者サイドだ!』

 

 相手の選手がDJ-YOUにそう言うと、彼はボールをセンターサークルに置く。最後に心配そうに俺達をちらりと見るとコートから出ていく。

 

『じゃあ…試合開始!』

 

 十五分に設定されたタイマーがカウントを開始する。

 

 キックオフ。俺はバダップにボールをパスする。が、

 

「あ…」

 

 バダップは緊張のあまり、そのボールをトラップミスする。てんてんと転がるボール。

 

「隙あり!」

 

 そのこぼれだまを相手チームに奪われる。そのまま相手はパスを繋げながらゴール前まで迫っていく。俺もバダップも緊張のせいかうまく動けず、抜かれてしまう。

 

 そのまま相手はディフェンスのセシルと三対一に。

 

「頼む!セシル!何とか止めてくれ!」

 

 相手にはシュート技のトライペガサスがある。だが、エスカバにはキーパーとしての必殺技はない。ここで、セシルがボールを奪わなければ一点とられてしまう。

 

 相手選手がセシルをワンツーで突破する。セシルは…全く動かなかった。

 

 …うん。全く動かなかった。奪おうとするそぶりすら見せなかった。

 

 俺は叫んだ。今までで一番でかい声で。

 

「あああ!ああああ!!!てめぇぇぇぇぇぇ!!!何してんだァァぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!!」

 

「ははっ!相手がやる気のない連中で助かったぜ!宮迫!樋口!トライペガサスだ!」

 

「「おう!!」」

 

 相手選手三人が交差する。一点から青いオーラが噴出。一匹の天馬が現れる。

 

「くらえ!」

 

「「「トライペガサス!!」」」

 

 俺もバダップも思った。先制点は相手だと。先程も言ったとおりだがエスカバにキーパー技はない。対する相手のシュートはトライペガサス。たしか、イナズマイレブン3においては威力はA。あのデスゾーンやゴッドノウズ、イナズマブレイクに匹敵する威力だ。

 

 …終わったと思った。

 

 ゴールネットが揺れた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 なんてことはなかった。

 

「…へ?」

 

 間抜けな声。だが、それを発したのは俺でもバダップでもない。

 

 エスカバだった。ボールはエスカバの手の中にある。

 

 何が起こったか説明しよう。相手がトライペガサスを撃った。エスカバが必殺技なしで止めた。何言ってるのか分からないと思うが俺も分からない。

 

 会場が静まりかえる。

 

 しばらくの沈黙。その間に俺は頭の中にある仮説を立てる。だが、それを試すためには俺がボールを受け取らなければならない。

 

「…エスカバ。パス」

 

「あ、ああ」

 

 エスカバがボールを放り投げる。俺はそれをセンターサークル付近でトラップ。そして

 

「ほいっ」

 

 そのまま普通にシュートした。

 

「っ!?ば、爆裂パンチ!……ぐわあああああ!!」

 

 相手はふいを突かれるも必殺技を発動。しかし、それはあっさり破られてボールはゴールネットに突き刺さった。

 

『あっ…入った…。……ゴ、ゴール!!《天馬は永遠に》がここに来て初失点!ゴールをきめたのは《オーガ》だああああ!』

 

 あっ…(察し)。これ、あれじゃん。俺TUEEEEE!ってやつじゃん。バダップも察したらしい。俺の目を見つめてうなずいた。

 

 センターサークルにボールを置いて、試合再開。相手は再びパス回しで俺とバダップを翻弄しようとするが

 

 …緊張してた時は気づかなかったけど遅くね?

 

 バダップがパスをカットする。そのまま自陣からシュート。今度は相手ゴールキーパーは反応すら出来なかった。ボールはゴールネットを貫き後ろの壁にぶつかってパァン!という音をたてて破裂した。

 

 まだ試合開始から二分しか経ってない。だが、その二分はギャラリー達、そして相手チームに恐怖を植え付けるのには十分だった。

 

 『天馬は永遠に』のメンバー達は怪物でも見ているかのような目で俺達を見ながら震えていた。

 

 ギャラリー達も何も言わないがきっと『天馬は永遠に』のメンバーと同じ気持ちなのだろう。

 

 立ったまま動かない『天馬は永遠に』のメンバー。試合続行のためにDJ-YOUが話しかける。

 

『あ、あの~新しいボール用意したので試合を続けてくださ…』

 

「…にだ」

 

『…え?』

 

「…鬼だ。鬼だ鬼だ鬼だ鬼だぁ!!あいつらは鬼だあああああああ!!!!」

 

「嫌だ!僕は死にたくない!!」

 

「棄権させてくれ!!頼むよ!!」

 

『え、ええと、じゃあ《天馬は永遠に》は棄権ということで、次の挑戦チームは…』

 

 DJ-YOUはギャラリー達を見る。だが、ギャラリー達も死んだみたいに声はおろか物音一つたてない。

 

 やべえな。居心地悪い。というか俺達こんなに強くなっていたんだな。多分だが、必殺技以前の問題なんだろう。俺達の高い身体能力が相手の必殺技入りのシュートを越えていたってことだろうな。

 

 そして、セシルがディフェンスに入らなかったのはそれを知っていたからなのだろう。

 

「趣味悪いな。お前。俺とバダップにあらかじめ伝えてくれりゃいいのに」

 

「いいじゃない。それに私は演出に凝る方なの。それに…伝えていても貴方達は初対面の相手の言葉を信じる?」

 

「そりゃあお前の言う通りだけどさぁ…(呆れ)」

 

 俺はDJ-YOUを見る。今までにもこんなことはなかったのだろう。前代未聞のこの事態にオロオロするDJ-YOU。

 

 そんなDJにバダップが話しかける。

 

「あの…もういいですよ。俺達はここから出ていくんで、新しい二チームで戦わせれば…」

 

『あ、ああ。そっちの方が助かるな。じゃ、じゃあ、チーム《オーガ》も棄権したということで「ちょぉぉぉぉっと待ったああああ!」…へ?』

 

「何そんな面白そうな素材を捨てようとしてんだよお!?ええ!?DJ!」

 

 一人の男がギャラリーを掻き分けて現れた。緑色のスポーツ刈りの頭に赤みがかかった褐色肌の男だ。目はギラギラ輝いており、闘争本能の塊のような雰囲気を感じさせる。

 

『お、お前は…グレファ・アバロニク!』

 

 静かだったギャラリー達が再びざわめき始める。

 

「おい、セシル。あいつそんなに有名人なのか?」

 

「グレファ・アバロニク。チーム《グレファ・ドメイン》のキャプテンであまりの強さからこのコートを出禁になった男よ。まさか、ここにまた戻って来るとは思わなかったけどね」

 

「へぇー。じゃああいつ強いのか」

 

「そうね。…まあ、あの子孫でこの祖先ありでしょうから」

 

「ん?何か言った?」

 

「いいえ、何も」

 

 俺達が話している間にもグレファはDJに試合に出すよう交渉していた。

 

「DJ。俺のチームを出しな。ここに来てる客どもが度肝を抜くくらい激しい試合を見せてやる」

 

『いや、でもお前らサッカーやるの久しぶりだろ?ブランクが』

 

「フッ。ブランクだと?普通の奴等ならそうだろうな。だが…俺はお前らとは違って特別なんだよおぉ!」

 

 グレファはセンターサークルまで走ると置いてあるボールをエスカバに向かってシュートした。

 

 エスカバはそのボールをキャッチで止めようとする。しかし、

 

「ぐっ…!何だよ!このパワー…ぐあっ!?」

 

 シュートはエスカバをぶっ飛ばしゴールネットに突き刺さった。

 

 おおっ!という声がギャラリー達から漏れる。

 

「DJ。異論はないな?」

 

『あ…はい。…そ、それでは!《オーガ》対《グラファ・ドメイン》の試合を始めます!』

 

「くくく…そう言うと思ったぜ」

 

 何か向こうで二人が喋ってるがこっちはそれどころじゃない。俺達はエスカバのところまで走る。

 

「エスカバ!大丈夫か!?」

 

「ああ…。グッ!なんて威力だ…!まだ、手がしびれる」

 

「零、バダップ。棄権した方がいいわ」

 

「何!?」

 

「バダップがさっき言った通り、こちらにはGK(ゴールキーパー)がいない。さっきの試合は身体能力の高さでごまかせてたけど、次の相手は『グレファ・ドメイン』よ。間違いなく奴らのシュートはゴールにきまるでしょうね」

 

「…」

 

「俺達のシュートが通じないって言うのかよ!?」

 

「そう言ってるわけじゃないわ。ただ、このまま試合すれば100%シュートがきまる相手と戦わなくちゃいけないってことよ。だから棄権して「無理だな」…え?」

 

 セシルの提案をバダップは却下する。

 

「何言ってるの!?」

 

「俺もセシルの案にはついさっきまで賛成だった。だが…もう俺達は棄権できないだろうな。客達を見てみろ」

 

 …ギャラリー達のボルテージが最高潮まで上がっている。期待の視線が俺達に向かって注がれていた。

 

 …これじゃあ、棄権なんてできないな。もし棄権なんてすれば、最悪の場合、ギャラリー達が暴徒と化す可能性も考えられる。

 

 あれが、グレファのカリスマ性ってやつか。恐怖で支配されていた場をここまで盛り上げるとはな。

 

 DJ-YOUがマイクを持って叫ぶ。

 

『さあ!ギャラリー諸君!《オーガ》対《グレファ・ドメイン》の試合がまもなくキックオフだあ!』

 

選手(☆がついてるのがGK)

 

オーガ

 

バダップ・スリード

古芝セシル

黒野零

エスカ・バメル☆

 

グレファ・ドメイン

 

グレファ・アバロニク

(さかき)徳馬(とくま)

ム・チャンフイ

長岡(ながおか)修二(しゅうじ)

 

 もうやるしかないな。いくぞ!グレファ・ドメイン!




オリジナル選手名鑑

古芝セシル 風属性 DF

謎多き少女。相手の精神をいたぶるような作戦を立案するのを得意とする。


???
???
???
???

グレファ・アバロニク 山属性 FW(フォワード)

名もなき小市民。常に強者との戦いを求め、辺りをさまよう狂戦士。


???
???
???
???

①『たまげたなぁ』の使い方
たまげた時に使う。
②『なぜ女なんだ』の使い方
本来はイラストを分けるためのタグである。現実世界で使えば男女差別である。決して使ってはいけない。

 ここまで読んで分かっている方もいると思いますが主人公は無印のイナズマイレブンしか見ておらず、GOもアレスの天秤も見ていません。

 そのためにアバロニクの名前を聞いても無反応になっています。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第八話:いいよ!来いよ!(VSグラファ・ドメイン)

 第八話です。
 You⚪ubeで最近、イナズマイレブンアレスの天秤を見ました。灰崎の声とバダップの声が若干似てました。ああいうのを『中の人繋がリーヨ』というんですね。
 では、数あるイナズマイレブンの二次創作の中からこの作品を読んでくれた貴方に感謝を。
 それでは本編スタートです。


 サッカーバトル開始前、俺達はコートの隅っこで作戦会議を行っていた。セシルはこの試合から棄権した方がいいとしばらく主張していたが何とか説得できた。

 

「はぁ。で、勝ち筋は見えてるの?何の作戦も建てないならボロクソにやられるわよ」

 

「いや、あまり見えてないよ。でも…攻略の鍵ならもう見つけたぜ」

 

「え?」

 

「見たことがあるんだよ。相手チームの二人の選手」

 

 俺はキーパーとフィールドプレイヤーの二人を指差す。恐らく俺達と同い年かそれ以上、まあ、中学生くらいだろう。

 

「会ったことがあるのか?」

 

「いや」

 

 バダップの質問を俺は否定する。すでにグラファ達はコートに立っており準備万端のようだ。

 

「サッカー雑誌で見たことがある。まずあの帽子を被ったキーパーは長岡(ながおか)っていって数年前に海外のユースチームでプレーしてた選手だ。んで、あそこの眼鏡は(さかき)で小学校低学年の日本代表に選ばれた選手」

 

「他は分からないのか?」

 

「分からねえ。グラファは初対面だしあそこの女性の選手…女の選手については詳しくないんだ」

 

 女性の選手…おかっぱの黒髪で左足にサポーターを身につけている選手は小さくジャンプを繰り返している。ウォーミングアップのようなものだろう。

 

「ム・チャンフイよ」

 

「…え?」

 

「ム・チャンフイ。韓国の神速と呼ばれた短距離走者(スプリンター)。しばらく見ないと思ってたけどまさかこんなところにいたとわね。ちなみに長岡や榊は前から『グラファ・ドメイン』にいたけど、この娘は初めて見るわ」

 

「それでも知ってるのか…やりますねえ!」

 

「色々訳あって知ってたのよ。…あと淫⚪ネタ止めてくれる?汚い」

 

「センセンシャル…なあ、ところで…………だろ?」

 

 俺はセシルの耳元であることを質問した。セシルは目を見開く。

 

「え?何でそんなこと知って…あ、まさか!」

 

「ああ。これで間違いねえ。俺の言う通りにしてくれ。先取点をとるぞ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『さあ!両チームの選手!位置につきました!先程凄まじいプレーを見せた初登場のダークホース!《オーガ》!対するはあまりの強さに出禁になった我らがタブー!《グラファ・ドメイン》!はたして勝利の女神はどちらに微笑むのか~!』

 

 DJ-YOU(ディージェイユー)が叫ぶと周りのギャラリーも熱狂的に応援する。

 

「グラファ!新参者に負けんじゃねえぞ!!」

 

「『オーガ』!スーパープレー見せてくれ!!」

 

「バカヤロー!勝つのはグラファ達に決まってんだろ!」

 

 応援はどちらかと言えばグラファ達の方が多い気がする。まあ、さっき来たばかりの俺達に比べれば有名人のあいつらを応援した方がいいんだろうけど。

 

 それでも完全なアウェーって程じゃないのは助かる。

 

『では、キックオフは挑戦者sideの《グラファ・ドメイン》から「いらん」…は?』

 

 グラファはセンターサークルにボールを置くとそのまま離れる。そして、その場にあぐらをかいて座った。

 

「『オーガ』!お前達にキックオフは譲ってやる!よし!遊んでやれ!チャンフイ!榊!」

 

「ラジャー!!」

 

「へーい」

 

 俺とバダップはセンターサークル内に立つ。

 

「なめられてるな…。グラファは動かず、三人で戦う気なのか」

 

「安心しろ。バダップ。一点とればあいつも考え直す。今は俺のさっきの作戦通りに動いてくれ」

 

「分かったが…本当にそれでユースの元キーパーを破れるのか?」

 

「いや、100%とは言いきれない。だが、確率的にはこのやり方が一番、先取点の確率が高い。あと、この作戦の鍵はエスカバとセシルが握ってる」

 

 俺は長岡を見る。帽子のつばによって顔の左半分しかが見えないが、ニヤニヤ嗤ってることは分かる。あいつもグラファと同じように俺達をなめてるんだろう。

 

 十五分を示したタイマーのカウントが始まる。

 

 俺はキックオフしたボールを…相手チームのチャンフイにパスした。

 

「…!!?」

 

 咄嗟のことで驚くチャンフイ。慌てすぎたのか本来は左足でトラップするところを右足でトラップしてしまう。

 

 だが、彼女はそこをしっかりフォローしてボールを取った。ギロリと彼女は俺達を睨みつけ、なまりまじりの日本語で叫ぶ。

 

「何ダ!?私達をなめてるノカ!?」

 

「まさか!かかって来いよ!」

 

「言われなくテモ!!」

 

「いいよ!来いよ!」

 

「待て!チャンフイ!これは僕達を嵌めるための罠「ウルサイ!」…チッ!バカが!」

 

 榊がチャンフイを制止しようとするもチャンフイはそれを無視してゴールに向かってドリブルする。すごいスピードだ。さすが元陸上選手と言うべきか。

 

 それを追いかける榊。このままではチャンフイは俺とバダップ、さらにセシルの三人と競りあわねばならない。

 

 そしてボールを奪われれば、カウンターで俺&バダップ&セシルVS榊という、三対一という最悪の戦況を迎えることとなる。

 

 そのために榊はフォローのためにチャンフイを追いかけねばならない。

 

 だが、俺とバダップはチャンフイと榊を無視して相手陣地へと向かっていく。

 

「!?」

 

「フン!逃げたカ!腰抜けメ!」

 

 相手が自分を恐れて逃げたと考えるチャンフイ。

 

 榊は一瞬驚愕したような表情になるもすぐにチャンフイを追いかける。当たり前だ。このまま行けばディフェンスはセシル一人。チャンフイ&榊VSセシルとなる。相手の得点チャンスだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 一人暴走するチャンフイの後ろを僕…榊徳馬は疾走していた。ディフェンスは女一人。対してこちらは二人で攻めている。得点の機会だからこそ落ち着いてプレーすることが重要だ。

 

「チャンフイ!落ち着け!あの女を突破すれば、キーパーはあの雑魚だけだ!」

 

「分かってル!」

 

 チャンフイが僕に右足でボールをパス。それを僕はダイレクトでチャンフイに戻す。そのボールはそのまま僕へダイレクトで渡る。それが高速で繰り返される。

 

 するとボールは二つに分身。二つのボールをそれぞれチャンフイと僕はドリブルする。

 

「「デュアルパス!」」

 

 本来なら相手が戸惑っている隙に両側から抜く、という動きがデュアルパスの特徴だ。だが、女は僕の方へと一直線に進んでいく。チャンフイの方には目もくれずに。

 

 二分の一の確率に賭けているのか?だけどデュアルパスは超高速でパスしあう技だ。つまり、どっちかのボールが偽物とかいうわけではない。

 

 どっちも本物だ。故に高速パスを中断すればボールは一つに戻る。

 

 僕はチャンフイにアイコンタクト。向こうも分かっているらしい。女を僕の方に引き付けた上でチャンフイがボールを保持する、この方法を使えば、チャンフイに対するディフェンスは一人もいなくなりキーパーとの一騎討ちだ。

 

 チャンフイは受け取ったボールを僕に返さずに高速パスを中断。僕の足元からボールが消え失せる。

 

「やれ!チャンフイ!」

 

「任せロ!クンフー「おりゃあああああ!」…!?」

 

 チャンフイがシュートを撃とうとした瞬間にそれは起こった。何者かがチャンフイのボールを奪ったのだ。

 

 え?僕の思考は停止する。相手のフィールドプレイヤーは先程、僕達を無視して突き進んだ二人と今デュアルパスで突破した女一人の合わせて三人のはず。

 

 じゃあ今のプレイヤーはどこから湧いてきた?

 

 僕はフィールドを確認する。…後ろに先程の二人と女一人。そして、今チャンフイのボールを奪った一人。キーパーも合わせれば相手チームのメンバーの数は五人となる。

 

「一体どういう「榊!ボールを奪エ!そいつはキーパーダ!」…そういうことか!」

 

 ゴールを見るとキーパーがいなくなっている。よく見ればチャンフイからボールを奪ったやつはキーパーのつけるグローブを着けていた。

 

「クソッ!ボールを「もう遅い!バダップ、零!決めろ!」」

 

 キーパーがボールを遠くへ蹴る。コントロールはそこまでよくないが前線にいた、少年二人にボールが渡る。

 

「チャンフイ!戻れ!」

 

「分かってル!」

 

 キーパーは長岡だ。簡単にきめられないとは思うが…嫌な予感がする。

 

 僕達は自陣に戻るために全力で走った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 俺はエスカバからのロングパスを受け取った。隣にいるバダップに指示を出す。

 

()()いくぞ!」

 

「…分かった!」

 

 俺は左サイド…つまり、相手から見て右へ、バダップは右サイド…相手から見て左側ギリギリへと移動しながらゴール前まで進んでいく。それをグレファはあぐらをかいたまま見送る。

 

 そのまま俺とバダップはゴールライン付近まで移動する。俺はセンタリングをあげる位置へ。バダップはゴールの方へと迫る。

 

 だが、この場合でも普通のGK(ゴールキーパー)は気にしないことだろう。俺とバダップの二人を視界の中に入れておけば問題ない。

 

 そう。普通のキーパーなら。

 

 俺はセンタリングをあげた。何てことない普通のセンタリングだ。それをバダップはオーバーヘッドでシュート。

 

 普通のキーパーなら取れるよ。うん。普通のキーパーなら…ね。

 

 ゴールネットが揺れた。

 

『ゴール!先取点は《オーガ》!何とこのコートでセーブ率100%を誇っていた長岡から点をもぎ取った!どうした長岡!全く反応できてなかったぞ!』

 

「クソッ!」

 

 長岡はボールを取ると地面に叩きつける。相当悔しいのだろう。

 

「通常、センタリングが上がる際…キーパーは一瞬だけゴール前の状況を把握してからセンタリングのボールを見るってのが鉄則だ。けど、あんたの場合、自分から見て右側からのセンタリングは対処できない」

 

 俺は長岡の帽子を剥ぎ取る。隠されていた顔の左半分が明らかになる。

 

「あんたが隻眼(せきがん)だからな」

 

 本来左目がある位置には何もない虚ろな眼窩があった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『ゴール!先取点は《オーガ》!』

 

「よっしゃあ!バダップがきめてくれた!しかも零の作戦通りだ!」

 

 私…古芝(ふるしば)セシルは隣で喜ぶエスカバを見る。驚きだ。ここまでやるとは。あの難攻不落の長岡から一点を奪うことがどれ程すごいことか私は知っている。

 

 ギャラリー達もこの信じられない一点に盛り上がっていた。

 

「すげえ!すげえよ『オーガ』!」

 

「あのグラファ達に勝っちまうかも…!」

 

 私は作戦会議のことを思い出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なあ、ところで、そのチャンフイって過去に怪我して陸上辞めちゃっただろ?」

 

「え?何でそんなこと知って…あ、まさか!」

 

「ああ。これで間違いねえ。俺の言う通りにしてくれ。先取点をとるぞ」

 

「零。先取点をとるってどうやってとるんだ?相手は元ユースだぞ」

 

 エスカバの質問。それに零は答える。

 

「その前に考えてみろよ。何でこれだけのビッグネーム達がこんなところに来てるのか」

 

 しばらくバダップとエスカバは考える。私はさっきの質問で分かっていた。

 

「グラファの実力に惹かれたから…か?」

 

「いや、そういうわけじゃない」

 

 エスカバの回答を否定する零。

 

「サッカーや陸上の最前線にいたけど、故障しちゃったからここにいるんだよ」

 

「…そういうことか」

 

 零の言いたいことにバダップは気づく。そう。海外のユースの選手、日本代表、韓国陸上界のホープ。そんな第一線で活躍する人間が何故ここにいるか。

 

 辞めたからだ。病気や怪我で。

 

「長岡はクロスプレーで片目を失明。榊は心臓の病気で何年もサッカーが出来なかった。それで、チャンフイは…」

 

 零が私の方を見る。私は補足を入れた。

 

「半月板断裂…その後遺症…」

 

「そうして、ブランクが出来たり、怪我とかの影響で第一線から退いた人達をグラファは集めた…というわけか」

 

 バダップが零が言いたかった残りをすべて言い切る。エスカバはへぇ~と納得した顔をしていた。確かに、初心者を育てるよりかは経験者や元から運動能力の高い選手を集めれば遥かに効率良く強いチームを作れる。

 

「今回は長岡の左目の死角を狙う」

 

「そのためにセンタリングする…ってところ?」

 

「そういうことか」

 

「どういうことだよ?」

 

 零の作戦に私とバダップが納得する中、エスカバは首をかしげる。

 

「エスカバ。もし、相手がセンタリングしたらお前はまずどこを見る?」

 

「そりゃあ、ゴール前を一旦見てフィールドの状況を考えるよ」

 

「そうだ。けど、長岡にはそれができない」

 

「出来ないってどういうことだ?」

 

「そうだな。とりあえずバダップとセシルのいる方向を向いててくれ。そこをとりあえずゴール前として…」

 

 そう言うと零はエスカバの体の右側へと移動する。

 

「さて、ここで俺がセンタリングをあげるとする。まず、エスカバはボールを持ってる俺の方向に体を向けるよな」

 

「ああ」

 

 エスカバが零の方向を向く。私とバダップを左側に置くような向きだ。

 

「言ったよな。ゴール前を見て、誰がシュートするか確認するって。当然だけど首をゴール前に向けるなんて時間はないぞ」

 

「ああ。大丈夫。横目で見ればいいから。バダップもセシルもちゃんと見えるぞ」

 

「そうね。()()()()()()()()()()()()()()

 

「え?」

 

 私の発言を聞き私の方を横目でエスカバは見る。

 

「聞いてなかったの?長岡は左目が見えないのよ。この状態で左目をつぶればどうなるか貴方にも分かるでしょう?」

 

 私の言葉を聞いてエスカバは左目をつぶる。 

 

「…見えない。バダップ達が…ゴール前が全然見えない。やばいよ。こんなんでシュートを止められるわけない」

 

「そう。この死角を狙う」

 

 零はそう言って私とバダップのいる方向へ戻る。

 

「そのためには相手のフィールドプレイヤー全員を俺達のゴール前に引き付けておく必要がある」

 

「じゃあ大丈夫よ。グラファはいつも試合序盤は相手の実力をなめてかかって座ってる。チャンフイと榊は私とエスカバの二人がかりで抑えるわ」

 

「えっと…俺、キーパーだけど?」

 

「さっき言ったでしょ。貴方は元々キーパーじゃないし向こうのシュートを止めるキーパー技はこちらにはない。キーパーが居ようが居まいが関係ないのよ」

 

「つまり、俺もフィールドプレイヤーとして動けと」

 

「そういうことだ」

 

 バダップが頷いた。もはやシュートを止められないのならキーパーをなくしてしまい、ディフェンスの一員として動かす。

 

 文字通りの『背水の陣』。だからこそ、相手はキーパーをフィールドプレイヤーに変えるなんて発想に至ることはない。この作戦はある意味奇襲性が高い。

 

「でも、もしこの作戦が相手にばれたら…」

 

「ああ。正面突破しかもう手段はない。まあ、別に問題はないよ。スポーツなんて最後は力と力のぶつかり合いだ。作戦なんてその延長でしかない」

 

「…そうね」

 

 私は零の能力に敬服する。これほどとは思わなかった。『グレファ・ドメイン』の弱点を一瞬で見抜く、洞察力。こいつは本物だ。

 

 

 

 

 

 …さすが転生者。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「くくくく…はぁーはっはっはっはっ!」

 

 会場内に響き渡る笑い声。それははたして強敵が現れたことに対する嬉しさを示しているのか。はたまたこの程度の相手に一点とられたのか、という仲間への嘲笑か。

 

「おもしれえ!こいつは退屈しなさそうだな!」

 

 今まで座って試合を傍観していた男はゆっくりと立ち上がる。

 

「長岡。ボールを寄越せ」

 

「…分かった」

 

 男は仲間からボールを受けとるとセンターサークルに置く。

 

 会場のボルテージがこれでもかというほどに上がる。

 

『な、な、なんと!グラファが立ち上がった!それほどまでに《オーガ》は強敵ということでしょう!』

 

「さあ…始めるか」

 

 まだ試合は始まったばかり。客達も、DJも、敵チームの選手達も、味方でさえも皆が分かった。

 

 ここからが本番だということを。




オリジナル選手名鑑

長岡修二(しゅうじ) 風属性 GK(ゴールキーパー) 

隻眼の男。かつてはあらゆるシュートを弾き出すことから『城塞』の異名を持っていた。


津波ウォール
キルブリッジ
???
???

ム・チャンフイ 火属性 MF(ミッドフィルダー)

韓国の神速と呼ばれた陸上選手。味方には優しいが敵には容赦しない。


デュアルパス
クンフーヘッド
???
???

①『やりますねぇ!』の使い方
よくやるという意思表示をする時に使う。しかし、最近は賛美の意味あいもあるらしい。
②『いいよ!来いよ!』とは
伝説の言葉である。この作品にあるように挑発には使ってはいけない。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第九話:ダイナモ感覚と天使(VSグラファ・ドメイン)

 第九話です。主人公のオリジナル必殺技ですが、名前を変えさせて頂きました。『バックドラフト』が既に存在する技だったので、『エクスプロード・ボール』に変えさせて頂きました。ご迷惑をおかけして申し訳ありませんでした。
 これからもこの作品をよろしくお願いいたします。
 では、数あるイナズマイレブンの二次創作の中からこの作品を読んでくれる貴方に感謝を。
 本編スタートです。


 グラファが立ち上がる。この意味はすぐに俺でも分かった。いや、会場にいる誰もがもう分かる。 

 

 眠れる獅子の尾を踏んだということは。まぁ、こちらはわざと踏んだんだが。

 

「来るぞ…」

 

 隣にいるバダップが俺に言う。分かってる。だが…

 

「すげえプレッシャーだな…」

 

 とんでもない濃度の殺気…ヒビキ提督レベルだ。だが、彼は恐らく無意識に出しているのだろう。

 

 構図で見れば、俺達は狩られる獲物で向こうは楽しむためのハンティングしに来たハンター…って感じかもしれない。

 

 まあ、とにかく言えることは一つ。

 

 こいつは…強い。

 

『それでは…試合再開です!』

 

 DJ-YOU(ディージェイユー)が叫ぶと同時にタイマーが再び動き始めた。

 

 グラファはチャンフイにパス。そのままゴールへと突き進んでいく。

 

 チャンフイもドリブルで攻め上がっていくがそうはさせない。このまま彼女を進ませれば確実にボールはグラファに渡る。

 

 そうなれば確実に一点とられる。すなわち、先程のプレーが水泡に帰すこととなる。絶対止めなきゃならない。

 

「エクスプロード・ボール!」

 

「ぐっ!」

 

 炎のオーラをボールにぶつけてボールを爆破。チャンフイがボールから離れた隙をついてボールを奪う。

 

「止める!」

 

「ラウンドスパーク!」

 

 榊が行く手を阻むも俺はボールを蹴りあげる。蹴りあげたボールは電気を帯びる。そのボールを榊に向かって蹴る。電気を帯びたボールは四つに分裂し榊の動きを封じた。

 

「さっきと同じパターンだ!バダップ!」

 

「ああ!」

 

 榊を抜いた俺はバダップに指示を出す。()()を行うのだ。先程ゴールをきめたあの作戦を。

 

 俺は再び右サイド、バダップは左サイドへ。

 

 隻眼(せきがん)長岡(ながおか)の死角を狙うセンタリングだ。

 

 俺はコーナー付近からセンタリングする。そのボールをバダップがダイレクトでシュートしようとしたその時だった。

 

「さっきから…俺をなめやがって!津波ウォール!」

 

「なっ!?ぐああああああああ!!」

 

 長岡の前に津波が突如発生。それはバダップごとボールを飲み込んだ。

 

「確かに俺には左側に死角がある!だがどうした!それをカバーする必殺技さえあればいい!!」

 

 津波ウォール。ゴール前を津波でカバーする必殺技。死角があってもシュートポケットやパワーシールド等のゴール全体を覆いつくす必殺技ならシュートを止められる。

 

 ボールは一気にグラファのいるこちらのゴール付近に落ちる。

 

「しまった!」

 

 こちらのゴール前にはエスカバとセシルがいるが、それを合わせても向こうは三人。二対三でこちらが不利だ。

 

 落ちたボールはセシルがとった。が、

 

「そのボールは俺のものだああああ!!」

 

「セシル!こっちだ!」

 

「くっ!エスカバ!」

 

 グラファが強引にセシルからボールを奪おうとする。しかし、エスカバにボールをパスするセシル。

 

「頼む!バダップ!零!ボールを「「カオススティール!」」…うわあああ!」

 

 戻って来ている俺達へパスをしようとしたエスカバに(さかき)とチャンフイが二人技でディフェンスした。ていうか今のフローズンスティールとイグナイトスティールの合わせ技じゃないか!

 

「グラファ!きメロ!」

 

「くくく…そう言うと思ったぜ…ん?」

 

 ギ、ギリギリ間に合った…!俺とバダップはグラファとゴールの間に立つ。

 

「絶対に点は渡さない…!」

 

「ほう…。残念だが、お前達程度では俺は止められんなあ」

 

「ほざけ!」

 

 バダップがボールを奪おうとグラファに近づく。しかし、奪えない。いつまでたっても。グラファは絶妙なボールさばきでバダップを翻弄する。

 

「くくく…どうした?この程度で俺を止めるだと?」

 

 グラファはボールをシュート。ボールは俺もバダップもぶっ飛ばしてゴールへと吸い込まれていった。

 

『ゴール!《グレファ・ドメイン》が一点を返した!これがグレファの力!圧倒的だ!このまま《オーガ》は押しきられてしまうのか~!?』

 

 俺は地面に背中から叩きつけられる。

 

「ガハッ!」

 

 見えたのは曇っている空にニヤニヤと嗤うグレファの姿。

 

「見たか?見たなあ。俺とお前らの圧倒的な力の差を」

 

「まだだ。まだ、試合は終わってない。それにまだ…同点だ」

 

「くくく…そう言うと思ったぜ。せいぜいこの俺を楽しませろ。『オーガ』」

 

 そう言うとグラファは自陣へと戻っていった。

 

「零。大丈夫か?」

 

 バダップが倒れている俺に駆け寄る。

 

「お前もぶっ飛ばされてただろ?お前の方こそ大丈夫か?」

 

 バダップが差し出した手を俺は掴んで立ち上がる。そこにセシルとエスカバが合流する。

 

「強いわね。ここまでとは思わなかったわ」

 

「ああ。向こうのシュートは強烈。対するこちらはさっき成功した作戦がもう使えなくなっちまってる」

 

「しかも、グラファは必殺技すら使ってない」

 

 グラファを除けばほぼ互角だったのに一人入るだけで全然違う。

 

「とりあえずグラファはエスカバとセシルの二人がかりで対処してくれ。バダップと俺は追加点のために攻めるぞ」

 

「分かった」

 

「待ちなさい。チャンフイと榊はどうするの?」

 

「あいつらはもうシュートはうってこないよ」

 

「え?何で『さあ!試合時間は残り十分!たった十分!されど十分!果たしてこの十分はどのような展開を我々に見せてくれるのか~!?』」

 

 DJ-YOU(ディージェイユー)の声でセシルが何を言ってたのかは分からなかったが俺はセンターサークル上のバダップの隣へと移動する。

 

「バダップ。もう出し惜しみはなしだ。派手にやるぞ」

 

「ああ、俺達の本気を見せてやる…!」

 

 …ここまで熱いバダップは初めてだ。思い出す。バダップがザゴメルに負けたあの試験のことを。

 

 今まで負けを知らなかった男が負けを知ったときどうなるか…。バダップの目には『俺は…負けたくない!』という某決闘者風の感情が宿っているようだった。

 

 タイマーのカウントが再開すると同時にボールを蹴る。

 

「よし、行く「ボールを寄越せええええええ!」…!!」

 

 それと同時にグラファが俺に向かって激しいタックル。俺とバダップはボールを奪われる。なんて速さだ。必殺技を使う時間すらなかった。

 

 ドリブルで上がっていくグラファ。二人がかりでディフェンスにかかる、エスカバとセシル。

 

「てめえらも邪魔だ!」

 

 グラファがシュート。圧倒的なパワーで蹴られたボールはセシルをぶっ飛ばし、キャッチしようとするエスカバもろともゴールに突き刺さった。

 

 俺がセンターサークルからボールを蹴ってからわずか十秒間の出来事だった。

 

『ゴール!強い!圧倒的強さだ!これがグラファ・アバロニク!これが《グラファ・ドメイン》!』

 

 ギャラリー達が歓声をあげる。完全に場がグレファに呑まれている。先程まで俺達を応援していた人達まで、皆グレファ!グレファ!とコールしていた。

 

 そのコールを聞きながらグレファは嗤う。

 

「くっ…これほどととはな…」

 

 グレファが立ち上がってわずか数分しかたってないのにこちらは全員がボロボロになっていた。もう、センターサークルにボールを置くのさえ、きつかった。

 

「バダップ。俺が…俺が、グレファを引き付ける。だから、あれを使え」

 

「…ダメだ。相手はグラファだ。大ケガする可能性がある。仲間として、お前にそんな役割をさせるわけにはいかない」

 

「頼む」

 

 俺は拒否するバダップに頭を下げた。

 

「…」

 

「俺も…俺も仲間として、バダップ達を勝たせたいんだ…」

 

「…分かった。零。約束しろ。…死ぬなよ」

 

 タイマーのカウントが始まる。残り約九分。俺はグラファに向かってドリブルで近づいていく。

 

 グレファの体が迫る。まだだ。もっと引き付けて…。

 

「うおおおおおお!」

 

「ははは!ボールは頂いた!」

 

 体に強い衝撃を感じて俺はグレファのタックルでぶっ飛ばされる。視界が二転三転する。だが、俺は何とか視界の隅にいるバダップを捉えることが出来た。

 

「バダップ!きめろ!」

 

 そして、地面に落ちたのだろう。もう一度強い衝撃を受ける。

 

 俺の意識はブラックアウトした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ははは!ボールは頂いた!」

 

 グレファ・アバロニクはそう叫ぶと零にタックル。零はまるでダンプカーにでもはねられたかのように回転しながら空中に放り出された。

 

 そして、グレファはボールを奪おうとした。

 

 しかし、そこにボールはなかった。

 

「…!?」

 

 誰かにパスしたか!?いや、ついさっきまでドリブルしていた零はパスする素振りは見せていない。

 

 ボールはどこに消えた!?

 

 グレファは前後左右を見回すがボールは影も形もない。

 

 これが…前後左右にボールが無いということが意味する答えは一つだけでもある。

 

「上か!」

 

 グレファの言葉にチャンフイと榊、GK(ゴールキーパー)の長岡も反応して上を見る。

 

 そこには確かにあった。上空へと上がっていくボールが。

 

 それと同時にグラファはあのタックルの際に何があったのかを理解する。

 

 零はタックルを受ける寸前でヒールを使ってボールを蹴りあげたのだ。

 

 普通にボールを上空へ蹴り出せば、敵チームの選手達に気づかれるがヒールで蹴れば零自身の体がボールを隠すためのブラインドとなり、反応を遅らせられる。

 

 さらに、選手の目線はここまで二得点をあげたグラファに集まっているというのもこの『ヒールキック』という動作が気づかれない要因の一つとなった。

 

 だが、一人だけこの『ヒールキック』に気づいた者がいる。

 

 上空のボールにバダップがジャンプして近づいていく。ジャンプにワンテンポ遅れてしまった『グレファ・ドメイン』の選手達ではもう止められない。

 

「バダップ!きめろ!」

 

 零が叫ぶ。バダップは両足を使って空中のボールに回転をかける。回転軸がシュート軌道と一致する回転…ジャイロ回転をかけられたボールは赤黒い邪悪なオーラを発しながら形を変え、まるで一本の槍のようになる。

 

「デス…スピアー!」

 

 一本の槍と化したボールはそのままキイィィィィンという不気味な音をたてながらゴールに迫る。

 

 チャンフイも榊もデススピアーの持つ強力な圧でボールに近づくことすらできない。

 

 だか、グラファなら話は別だ。

 

「ふんっ!」

 

 デススピアーを蹴り、シュートの威力を削ごうというのだろう。

 

 しかし、少しずつ、グラファの表情に余裕がなくなっていく。

 

「…!!この力は…何だ!?」

 

 グラファの足は弾かれデススピアーはゴールへ向かっていく。

 

「津波ウォール!」

 

 長岡の前に津波が出現するも津波の壁を貫いてデススピアーはゴールに入る。ギャラリー達が歓声をあげる。DJ-YOUが叫ぶ。

 

『同点だ!同点だ!同点だ~!!《オーガ》!実力者のグレファを退けての同点ゴールだ~!!』

 

「よっしゃああああ!」

 

 エスカバが歓喜の咆哮をあげる。

 

 だが、バダップは喜ばない。まだ2対2の同点。さらにグラファは必殺技を使っていない。状況は全く好転していないのだ。

 

 残り時間は…とバダップがタイマーを確認しようとしたその時だった。

 

「審判!試合を中断して!零!起きて!零!零!」

 

 バダップの後方から仲間である古芝(ふるしば)セシルの声がした。

 

 …え?零?

 

 後ろを見る。そこにあったのは

 

 

 

 

 

 

 倒れて動かなくなった友の姿だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…ん」

 

 俺は目覚める。青い空がまぶしい。あれ?さっきまで曇りだったはずじゃ…?

 

 …そうだ!俺はグラファのタックルを受けて…!

 

「し、試合は!?試合はどうなった!?」

 

 起き上がって辺りを見回す。しかし、そこはさっきまで試合していたコートじゃなかった。緑豊かな森の中だった。

 

「何だよここ…?」

 

「目覚めたんだね。おはよう。約十年ぶりだね」

 

 聞いたことのある声が後ろから聞こえた。なんか懐かしいけど思い出せないな。誰の声だっけ?

 

 後ろを見ると、そこにいたのは円堂(えんどう)(まもる)の姿をした少年だった。間違いない。俺を転生させた神だ。

 

「…久しぶりだな」

 

「ああ。君にとっては久しぶりでも僕にとってはそうでもないな。なんせ僕は君のことをずっと見てたから」

 

 …何だ?今の言い方。『ずっと見てた』…だと!?

 

「さては貴様ホモだな!?」

 

「ないです。というか僕に性別の概念はない。この姿はしたくてしているだけさ」

 

 即座に否定する神。俺は辺りをもう一度見回す。

 

 …ん?何だあれ?百メートルくらい先に何かあるぞ。

 

 俺の見つめる先にあったのは巨大な何か。大樹…のように見えるがどことなく非自然的な感じがする。周りの木々が邪魔で全体像が見えないが。

 

「早速見つけたか。じゃあ僕についてきて」

 

 神はその不思議な大樹の方向に向かって歩き出す。俺はそれについていく。

 

 しばらく歩くと漸くその大樹の全体像が見えた。巨大だ。高さ百メートル位はある。首が疲れるな。

 

 大樹は普通の木ってわけじゃなかった。そこには十個の赤や青、虹色などの光輝く玉がついていた。いや、光輝いていない玉もあるな。

 

 まず、樹の一番上、もし、この樹がクリスマスツリーなら星を飾るであろう位置に白色の玉が、その真下に三つの玉…上から黄色、紫、虹色の玉がある。

 

 さらに先程の一番上の白色の玉の右下には灰色の玉、その灰色の玉の下には上から青、緑の玉が。

 

 さらにさらに、一番上の白色の玉から左下には黒色の玉、その黒色の玉の下には赤、オレンジの玉がある。

 

 ちなみに、緑、黄色、紫の玉は光を失っている。

 

「何だ?これ」

 

「生命の樹…人間が手にすることの叶わなかった夢さ。ここに人間を連れてくるのは四人目になる」

 

 神はそう言うと大樹の幹に触れる。すると、大樹の玉のうちの一つ、灰色の玉が強く光始めた。

 

「さあ、転生者。君に力を与えよう。なに、転生特典というやつさ。でもそこまでチートってわけじゃないからそのへん注意してね。あと返品はお断りだ」

 

 強い光だ。数メートル先の神の姿が見えないほどその光は強かった。

 

 何かが体の中に入ってくる感覚。その何かは体の中に入ると体の中を駆け巡りそして、心臓へ。心臓の鼓動が強くなる。どんどんどんどん強くなる。

 

 体が熱い。このまま心臓から溶けてなくなってしまうんじゃないか…そう思えるほどの熱さだった。

 

 そして、俺の意識は本日二度目のブラックアウトをした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 目が覚める。見えたのはどんよりと曇った空。

 

 起き上がって辺りを確認。…よかった。元の場所だ。

 

「ぐあああああ!」

 

「きゃああああ!」

 

 それと同時に叫び声。そちらの方向を見ると、バダップとセシルがチャンフイのシュートで宙を舞ってるところだった。そのまま二人は地面に落ちる。

 

 …あいつら、三人になっても試合を続けていたのか!?と、得点はどうなってる?

 

 得点版に記されている得点は

 

オーガ 2ー9 グラファ・ドメイン

 

 もう、グラファは地面に座っており、残り三人で戦っている。一見三対三だが、こちらはグラファを止めるために満身創痍、対する相手の三人はグラファにほとんど試合を任せていたために疲労はそこまでたまっていない。

 

 試合時間は残り三分。

 

「ハリケーンショット!」

 

 榊が、空中でボールを足に挟むと体をひねってボールに回転をかける。回転をかけられたボールは強力な風をまとう。そのボールを榊はかかと落としでシュート。ボールは纏った風でバダップ達を吹き飛ばしてゴールへ。

 

『ゴール!《グラファ・ドメイン》十得点目!《オーガ》なす術無しだ~!』

 

「そんな…」

 

 バダップ、セシル、エスカバは倒れたまま動かない。俺のせいだ…。俺が気絶してなけりゃこんなことには…。

 

「仲間を助けられなかった罪で心がいっぱいか?少年」

 

 声がした。俺がついさっきまで寝かされていたベンチの隣にそいつは立っていた。赤い髪のボブの女性。真っ赤な鎧を身に着け、真っ赤な瞳でこちらを見ている。右手には辞書のような本を持っていた。顔には凛とした美しさを感じる。

 

 だが、そんな鎧なんていうキテレツな格好をしている彼女は誰にも注目されてない。まるで俺にしか見えてないような…。

 

 それに、その背中についている真っ白で綺麗な翼と頭の上に浮いている金色のわっかは…

 

「天使みたいだ…と言いたいのかな?事実、私は天使だが」

 

「な、なぜ女なんだ…?」

 

「まあ、そこは気にしないでくれ。私は君以外の人間には見えることはない」

 

「何だよそのご都合設定」

 

「納得いかないか?じゃあ、ダイナモ感覚だ。ダイナモ感覚が君に備わったから君は私が見れるんだ」

 

「…じゃあそれでいいよ(半ギレ)」

 

「さて…少年。このまま終わるか?それても仲間をこんな目にあわせたあいつらを倒すか?」

 

 自称天使(笑)はグラファ・ドメインの奴等を指差す。

 

 …倒したい。確かにあいつらは許せない…でも…

 

「無理だ。残り三分で八点差を返すなんて」

 

「ふふっ。一体君は何を言ってるんだ?」

 

「…え?」

 

「なにも試合に勝つことが『倒すこと』にはならんだろう?」

 

 彼女はクスリと笑う。

 

「少年。ここで君がグラファより強いということを示せばいい」

 

「そんなこと…」

 

「出来る。今の君なら」

 

 彼女はクスクス笑ってはいたが目は真剣そのものだった。

 

「君は神によって力を与えられた。グレファと同等に戦う力がついてるよ。それに…君がここで諦めたら…バダップ達に申し訳がたたない」

 

「…」

 

「彼等が三人になっても試合を棄権しなかったのは何でか分からないか?彼等は君を待ってたんだ。意識を取り戻した君がフィールドに戻ってくるのを」

 

「…」

 

 彼女は続ける。

 

「君が貰った力は君が自分で努力して手にいれた力じゃない。君がその力を使うのを渋るのは分かる。だが、ある男から言わせればこうだ」

 

 

 

 

「With great power comes great responsibility(大いなる力には大いなる責任が伴う)」

 

 

 

 

「…!」

 

「力を手にした時点で君の運命は決まった。少年。大いなる責任のもとにバダップ達を救え。このまま試合が終われば、バダップ達はサッカーするたびに、この試合の恐怖がフラッシュバックするだろう。そうなれば二度と彼等はサッカーが出来ない」

 

「…」

 

「どうした?だんまりか?少年」

 

「…あのさ、少年って呼ぶのやめてくれないか?俺には『黒野零』って名前があるんだ」

 

「そうか。じゃあ、黒野「零でいい」…零。私も自己紹介をしよう。私の名前はラツィエル。天使だ」

 

 俺は座っていたベンチから立ち上がる。DJ-YOUが俺に気づくと近寄ってくる。

 

『だ、大丈夫かい?』

 

「ええ。いつでもいけます」

 

『分かった…。さあ!ここで!《オーガ》は先程まで気絶していた黒野零を投入!残り時間は三分!はたして、三分で黒野はどんなプレイを見せてくれるのか~!?』

 

「行くぞ!転生者!」

 

 ラツィエルが俺に言う。

 

「ああ!」

 

 俺はフィールドへ一歩足を踏み入れた。




オリジナル選手名鑑

(さかき)徳馬(とくま) 風属性 MF(ミッドフィルダー)

冷静な性格に、フィールドを見渡す広い視野で、チームを裏から支える縁の下の力持ち。


ハリケーンショット
カオススティール
風神の舞
フローズンスティール

オリジナル必殺技

カオススティール 威力180(基準としてフローズンスティール、イグナイトスティールが130)

二人でフローズンスティール、イグナイトスティールを同時に発動してボールを奪う。当然、両者がフローズンスティールとイグナイトスティールを習得してることが最低条件である。

ハリケーンショット 威力120(基準としてザ・ハリケーンが150)

ザ・ハリケーンは二人技だが、これを一人でうとうとした榊が考案した必殺技。ボールに強力な回転をかけることで風を巻き起こし、シュートする。威力は本家より若干劣る。

『ダイナモ感覚』とは

伝説の感覚。感じている人が貴方の知り合いにいるなら警察に連絡しましょう。日本の警察は優秀です。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第十話:(チートじみた能力は)ないです(VSグラファ・ドメイン)

 第十話です。グラファ・ドメインとの試合がこの話で決着します。
 次回は謎解きみたいな回になると思います。
 では、数あるイナズマイレブンの二次創作の中でこの作品を読んでくれる貴方に感謝を。
 本編スタートです。


 俺はまず、倒れているバダップに駆け寄った。

 

 バダップは倒れたまま、ピクリとも動かない。

 

 …まさか、死んでないよな?

 

「バダップ!バダップ!…大丈夫か!バダ「死んではいない。気絶しているだけだ」」

 

 ラツィエルがバダップの顔を覗き込んで無事を俺に知らせる。その時、バダップの顔面に水がビシャリとかけられた。

 

「げっ!げほっ!…おえっ!」

 

 水が鼻の中に入ってきたためにむせて、バダップは目を覚ます。水をかけたのはセシルだった。水は喉が乾いたギャラリー達のために用意されている水道から両手で汲んできたものらしかった。

 

「セシル…」

 

「…貴方がいなくなって大変だったのよ。こっちは防戦一方で八点もとられた」

 

「…ごめん」

 

「別にいいわ。もう起きたことの責任を追及しても過去は変わらないしね」

 

「…もう少し優しい起こし方は…げほっげほっ!なかったのか?古芝(ふるしば)セシル」

 

「あら?スリード議員の息子ともあろう者がこの程度で怒るのかしら?」

 

 謝る俺。許すセシル。少しだけ怒ってるバダップ。そこにエスカバがフラフラと合流する。

 

「はは…バダップの言う通り時間内に起きてきたか。すげえな」

 

「ごめん。迷惑かけた」

 

「はは。そんなこと言うなよ。お前の方が絶対今キツいだろ?」

 

 エスカバの言う通り、俺の体はもはや限界に近い。足はガクガクするし意識も霞んでいる。それに全身が痛い。

 

 でも、それでも止まることは出来ない。彼等がここまで繋いでくれたのだから。

 

 俺は鎧を纏ったラツィエルに他のやつらに気づかれないように話しかける。

 

「なあ。俺に与えられた力って何だ?」

 

 とりあえず俺が神によってどの程度強化されたのかを確認しとこう。そうすることで多少の作戦はたてられるかもしれない。

 

 ラツィエルは微笑むとこう答えた。

 

「神が零に与えた力はシュート技だけだ」

 

 …え?今こいつ何て言った?シュート技だけ。必殺技なんて所詮、身体能力の延長。今、この試合に必要なのは高い身体能力とかなんだけど。

 

「チートじみた運動能力は?」

 

「ない」

 

「じゃあ頭が良くなったのか?」

 

「いや、別に良くなってはいない」

 

「あっ…(察し)感覚器官が超絶強化「ないです」…」

 

 あのさぁ…(呆れ)。俺はジトッとした目でこの無能天使を見る。しかし、ラツィエルも俺と同じような目をしていた。

 

「零は何か勘違いをしている。神も言っていただろう?『チートではない』と。だが、確かに今の零には大いなる力がある」

 

「どういうことだ?」

 

「つまり、神が与えた力関係なく、今の零はグラファを倒せる」

 

 …よく分からない。グラファの力は圧倒的だ。序盤からぶっ飛んだ運動能力を見せてきた。そんな奴より今の俺の方が強いだと?

 

「冗談きついぜ。じゃあ何だ?俺は神に会わなかったとしてもグラファを倒せるって言うのか?」

 

「ああ。そうだ」

 

 ラツィエルはどや顔で即答する。

 

「なあ。一体どういう「零?試合が再開するぞ」…うん。分かったよ」

 

 質問しようとした俺の言葉をエスカバが遮る。その隙にラツィエルはベンチへと移動…もとい逃げていった。

 

 ラツィエルのやつ、嘘言ってないよな?

 

 本当に今の俺にグラファが倒せるのか、分からない。でも、試してみる価値ならある。というかラツィエルが言ってたことを信用して動かないと他に動きようがない。

 

 グラファが立ち上がる。どうやら先程の失点の原因である俺がフィールドへ戻ってきたことによって立ち上がったのかもしれないな。

 

黒野(くろの)!さっきは騙されたが先程のような小手先の技はもう俺には通用せん!残り三分で俺がお前を遥かに凌駕しているという事実をお前の身にたっぷりと味わわせてやる!」

 

 グラファは俺を指差してそう宣告した。

 

 DJ-YOU(ディージェイユー)が叫ぶ。

 

『試合再開!』

 

 それと同時にタイマーが動き出す。 俺はボールをバダップにパス。それをバダップは俺にダイレクトで蹴りかえす。

 

「ボールはもらったあああ!」

 

 グラファが超スピードでこちらに疾走してくる。

 

 …あれ?なんかおかしくね?

 

「これって…」

 

 そして俺は…グラファのタックルをかわした。

 

「!?」

 

 ギャラリー達がどよめく。フィールドに立っている全プレイヤーが驚愕したことだろう。一番驚いたのはグラファだ。俺は抜き去ったグラファを確認する。

 

 グラファはこちらを見て、信じられないといった顔をしていた。

 

 この時、俺は思った。

 

 こいつ…もしかすると…サッカー下手くそなんじゃ…?

 

「行かせなイ!」

 

 チャンフイが俺の前に立ちふさがる。後ろを確認する。グラファとバダップがこちらに近づいてきている。

 

「バダップ!」

 

 俺はバダップにボールをパスして、ゴール前へ移動する。そう。グラファの近くにいるバダップにパスした。

 

 バダップは驚いた顔をしてボールを受けとる。グラファは気づいたようだ。自分がなめられていることに。

 

 今、俺はチャンフイとの競り合いではなく、わざわざグラファの近くにいるバダップへのパスで突破を図った。

 

 つまり、グラファよりチャンフイの方が脅威だと判断されたとグラファは思ったのだろう。

 

「貴様!俺をなめるなああああ!」

 

 そして、事実、俺は…

 

 

 

 そう判断した。

 

 

 

 

「…!バカな…!?この俺が…!?」

 

 バダップがグラファを突破する。そして、ボールをあげる。チームの中核のグラファが二度も突破された…このことから『グラファ・ドメイン』のメンバーは動揺してあげられたボールへの反応が遅れる。

 

 それは致命的な隙だ。

 

 俺はあげられたボールに向かって飛ぶ。そして、オーバーヘッドキック。蹴られた瞬間にボールに二枚の大きな赤く光輝く翼のオーラが現れる。

 

「ラツィエルウィング!」

 

 ボールがまるで鳥のように力強く羽ばたきながらゴールへと向かっていく。

 

「クッ、キルブリッジG2!」

 

 黒いオーラを両手に具現化させ、それをまさにブリッジ…橋のように形作る。しかし、ボールはそのオーラを圧倒的な力で霧散させた。

 

「どわあああああ!」

 

『ゴール!わずか一分で《オーガ》、三点目!グラファを突破してのゴールだ~!』

 

「なぜだ…なぜ俺がこんな奴等に…!?」

 

 俺とバダップがグラファとすれ違う際にグラファは確かにそう言った。

 

 今なら分かる。ラツィエルの言葉の意味。そして、なぜ、俺とバダップがグラファを突破できるか。

 

「バダップ。まだいけるよな?」

 

「…ああ。まだ、俺達はいける」

 

 俺の言葉にバダップは頷く。

 

 グラファ・ドメインのボールで試合が再開。チャンフイからのパスを受けたグラファは一直線に俺達に向かって走っていく。

 

「俺が…俺が負けるはずがない!俺は…最強のはずだあああああ!」

 

 その彼のボールを俺とバダップは無慈悲にも奪い取る。

 

「バダップ!デススピアーだ!」

 

 俺のあげたボールをバダップがジャイロ回転をかけることでボールが槍へと変貌。

 

「デススピアーV2!」

 

「津波ウォール!」

 

 しかし、進化前のデススピアーすら止められなかった津波の壁が止められるはずもなくゴール。

 

 ギャラリー達のボルテージが一気に上がった。

 

「グラファがボールを奪われた!?」

 

「やばいよやばいよ!」

 

「ヒーハー!」

 

 そして、悔しさが滲み出るような咆哮がコート内で響き渡る。

 

「うおおおおおおおおおおおおお!」

 

 グラファだ。…まずいな。暴れだしそうで怖いんだけど。

 

 なぜ、グラファを突破できるか。それは、俺達のリミッターが少しだけ外れたからだ。

 

 元来、人というのは生命の危機等の極限状態に置かれない限り、普段は30%ほどの力しか出せないと言われている。

 

 しかし、極限状態に置かれればそのリミッターが外れ、普段以上の力を発揮することが出来る。

 

 サッカーで極限状態なんておかしいと思うかもしれないがその極限状態にもってかれるほどグレファの攻めは苛烈だった。

 

 だが、多少の身体能力の強化でグラファを止めることはできない。だが、先程の火事場の馬鹿力というのは身体能力以外の能力値にも補正をかける。

 

 それは…感覚器官だ。視覚、聴覚、嗅覚、味覚、触覚の五感だ。だが、それだけではなく、頭の回転や反応スピードなども向上する。実際、リラックスした後よりも激しい運動した後のほうが視力検査等のテストの出来がいいというデータがある。

 

 これによって一時的とはいえ、俺達はグラファのパワーとスピードに対応出来るようになったのだ。

 

 ここで、もうひとつ。グラファは圧倒的なパワーとスピードを誇っているが、大きなものが彼には欠落している。

 

 それは…技術だ。パワーとスピードでごまかしてはいるが、間違いなく技術は俺達の方が上だ。事実、グラファはここまでフェイントなどのプレーを一切していない。まあ、大半の相手はパワープレーでごり押し出来るから使わないのだろう。

 

 だが、そのパワーとスピードに対応されたら?もしも自身の得意分野の上をいく選手が現れたら?

 

 当然技術での勝負となる。しかし、グラファにはその肝心の技術がない。今までパワーとスピードでなんとかなっていたのだ。技術を磨くタイミングがなかった。

 

 グレファはチャンフイからボールを受けとると再びゴールに向かってドリブルする。

 

「行かせな「どけええええ!」…ぐあっ!!」

 

 俺とバダップがディフェンスに入るが今度はグラファは先程以上の強引なプレーで突破。下手をすればファウルともとれる危険なプレーだ。

 

「おらぁ!」

 

 グラファがシュート。ボールはゴールへ一直線。

 

「行かせねえよ!うおおおおおおおおおおおおお!」

 

 エスカバがボールを蹴り返そうとするも単純なパワーだけならリミッターが多少外れていてもグラファの方が上だ。

 

「ぐっ!?…くっそおおおおお!」

 

 エスカバの足は弾かれる。エスカバは叫んだ。止められなかった。たった一人にまた点を取られるのか?嫌だ。

 

 グラファ・ドメインはシュートが入ることを確信した。いや、彼等だけじゃない。俺も、バダップも、ギャラリー達でさえそう思った。

 

 そのシュートが地面からせり上がってきた水晶の壁に阻まれるまでは。

 

「クリスタルウォール改!」

 

 セシルがその必殺技名を叫ぶ。水晶の壁はシュートの威力を完全に殺す。そして、セシルの前にポトリとボールは落ちた。

 

「ボサッとしないで!零!バダップ!もう一点よ!」

 

 セシルがボールをゴール前までロングパス。俺はボールを空中でトラップ。その時見た。グラファが俺達のゴール前で膝をついている姿が。

 

「止めろ!(さかき)!」

 

「分かってるよ!」

 

 キーパー長岡(ながおか)の指示と同時に榊が俺に向かって飛び上がる。空中戦でボールを奪おうというのか。

 

 バダップのデススピアーのためにより上空にボールを蹴り出そう…とするが、バダップはチャンフイからマークされておりパスが出せない。

 

 長岡はニヤリと嗤った。完全に攻撃を止めたと思ったのだろう。だが、それは間違いだ。

 

 さて、俺は現在長岡から見て右側に立っている。長岡は左目が隻眼だ。長岡は俺の方…すなわち右側に体を向けている。

 

 では、ゴール前が長岡に見えているか?答えは否。

 

「エスカバ!」

 

 俺は逆サイドを走るエスカバにパス。そのボールをエスカバはボレーシュート。このパターンは一点目と同じ。死角をつくシュートだ。

 

 そして、長岡は対処法は分かっているが、さっき止められた作戦をもう一度こちらが使うなどと夢にも思っていなかった。

 

 ゴールネットが揺れた。

 

『ゴール!素晴らしい!見事な連携で《オーガ》は五点目を獲得した~!』

 

 そして、タイマーが試合終了を知らせるビーッという音を出した。

 

『試合終了~!勝ったのは《グレファ・ドメイン》!10ー5という圧倒的大差で勝利した~!』

 

 しかし、ギャラリー達は分かっていた。『グレファ・ドメイン』の勝利を宣言したDJ-YOUもきっと分かっていただろう。

 

 この試合の本当の勝者が。

 

「くそおおおおおお!見えていれば!見えていれば!!止められたんだ!今のシュートも一点目も!くそおおおおおお!」

 

 長岡が叫ぶ。何度も何度もゴールポストに頭をぶつける。それをグラファが止めた。

 

「グラファ…」

 

「止めろ。見苦しい。確かに俺達は試合に勝って勝負に負けた。事実、向こうが三人になったっていうのも俺達が勝てた理由だな。四対四の状態ならどうなったか分からなかった」

 

 グラファは続ける。

 

「だからどうした?」

 

「…」

 

「この負けを糧にして俺達も努力すればいい。長岡。やけになるな。なった者はそこで敗北者だ」

 

「…すまない。やけくそになってた」

 

 俺は、グラファが長岡を励ましながらも左手を強く強く握りしめているのを見た。

 

 この試合で、もっとも苦汁を飲まされたのは間違いなくグラファだ。だが、彼はキャプテンという立場上、さっきの長岡のように振る舞うことは出来ないのだろう。

 

 最初に見た時はかなり傲慢な男と思っていたけど、こうして見ると彼がキャプテンの器と分かる。

 

 ラツィエルが俺の横へと近づく。

 

「あの『グラファ・ドメイン』というチームは間違いなく強くなるな。零。君も負けてられないぞ」

 

「分かってるよ」

 

「黒野零!」

 

 グレファが叫ぶ。そして、彼はクシャクシャになった紙を俺に向かって投げつけた。

 

 俺はそれを左手でキャッチする。

 

「俺達はその紙に書かれた大会の本選に出場している!お前達も予選を勝ち上がり俺達の元に来い!その時こそ本当の決着だ!…行くぞ。お前ら」

 

 グラファはそう言ってこのコートから去っていく。

 

 俺は紙を開く。そこに書かれていたのは

 

「『これがサッカーバトルの殿堂!強者達よ!SBF(サッカーバトルフロンティア)に挑め』…?」

 

「サッカーバトルの大会だな」

 

 ラツィエルが俺の見ているチラシを見て言った。

 

「え?」

 

「始まったのは三十二年前、神藏財閥(かみくらざいぱつ)が持っている土地の一部をフリーのコートにしてサッカーの普及を進めるために始めたものだ。四人制のサッカーという小規模なものにすることでメンバー集めを簡単にしている。なるほど。これにグラファ達も出るわけか」

 

 ちょ!?メチャクチャ饒舌になったんですけど!?

 

「ちなみに予選は神藏財閥が持っている32の小さなサッカーコートで行われる十五分の一本勝負。優勝したチームのみが本選へと進める。それから本選は…」

 

 固まるラツィエル。しばらく固まった彼女は顔を真っ赤にしてうつむいた。

 

「す、すまない。わ、わ、私は知恵を司る天使だからこういうことをよく知ってて…。あ、でも、いつもはこんなにうるさくないから!本当だから!」

 

「…分かったよ。お前のことは家に帰ったらたっぷりと教えてもらうさ」

 

「…今教えてもいいんだぞ?」

 

「いや、後にしてくれ。俺はまだやることがある」

 

「おい。零。なに独り言ぶつぶつ言ってるんだ?」

 

「あ、いや、何でもない。それよりバダップ!364364 !これ!」

 

 俺は怪訝な顔をしているバダップに紙を見せる。エスカバとセシルもいつの間にか来ており、紙を覗き込んだ。

 

「…というわけで『グラファ・ドメイン』から招待状ってわけだ。どうだ?この日ってみんな暇か?」

 

「…俺は暇だ」

 

「同じく」

 

「なら、参加しましょう?私も暇だから」

 

 バダップとエスカバが暇と答えるとセシルが参加を促す発言をする。

 

 ちなみに俺も暇だ。なぜなら、この日は軍部発足記念日。国民の祝日の一つだ。バダップとエスカバは軍部の親がいるけど暇だったのはよかった。

 

「じゃあ、参加するか」

 

 メチャクチャ嬉しかった。だってついさっきまでサッカー仲間はバダップしかいなかったんだぜ?俺は大会とかに参加するのはもっと先だと思ってた。

 

 でも、たまたまエスカバがサッカーをやっていたことがあって、今日たまたまセシルがこのコートで試合を観ていて、今日たまたま四人制のサッカー大会のことを知った。

 

 きっとこれは神様のくれた奇跡なんだろう。今まで楽しくサッカーをやっていた俺とバダップへの。

 

 俺はこの日初めて、あのクソみたいな神様に感謝した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その後、俺達は試合を降りて、そこから先のすべての試合を観戦した。色々なチームがあった。

 

 中年のおじさん達のチーム、小学校低学年のチーム、なんか変なコスプレしたチーム、すごかったのはDJ-YOUまでチームの一つに入って戦っていたことだ。お前選手だったんかーい!

 

 と、あっという間に時間は過ぎていき、時刻は午後七時。このコートにはナイターの設備がないのでここで打ち止めのようだった。

 

「やべえな。俺、門限七時半なんだよ!やらかした~!」

 

 エスカバが頭を抱える。

 

「安心してくれ。エスカバ、俺の家の者が迎えに来る。君の家まで送ろうか?」

 

「マジで!?ありがとよ!」

 

 バダップがエスカバに提案する。おっ!?まさか…

 

「リムジンか!?」

 

「ああ。零に約束したな。リムジンに乗せてやると」

 

 バダップ…お前そこまで考えて…。お前…お前は真の天才だよ…。

 

 リムジンが到着する。運転手が降りて、後部座席の扉を開けた。

 

「うお!?すげえ!リムジンなんて初めて見た!なあなあ!俺から先に乗ってもいいか?」

 

「ふっ。いいぞ」

 

 エスカバがリムジンに乗車。それに続いてバダップも乗る。

 

 ラツィエルが俺に話しかける。

 

「リムジンとは豪華だな。零の友人は金持ちと見える」

 

「ああ。そうだな。だけど、今は乗れない」

 

「…?それはどういう「あ~!しまったあ!ボールがない!どこかに置いてきちゃったんだ!」…え?」

 

 ラツィエルを無視して俺は大袈裟な演技をする。

 

「たぶん映画館の前かコートのどっちかにあるのかも!」

 

「どうする?零?」

 

「バダップ!エスカバ!映画館に行って確認してきてくれないかな?お願い!俺とセシルはコートを探すから!見つかったら連絡してくれないか!?こっちも見つかったら連絡するから!」

 

「分かった。おい。イナズマ映画館まで」

 

「かしこまりました」

 

 バダップの指示でリムジンはコートを出発する。

 

 …ごめん。バダップ。本当にごめん。騙してごめん。

 

 俺はセシルの方を見る。セシルはコートの方へと歩いて行こうとしていた。彼女は全く動かない俺を見る。

 

「どうしたの?早くコートへ行きましょう?」

 

「いいよ。ボールは…」

 

 俺は歩道の脇にある草むらの中に隠したボールを見せた。

 

「ここにあるから」

 

「…何?ふざけてるの?貴方。友達を騙すなんてとんでもない悪党ね」

 

「さて…悪党はどっちかな?」

 

「なんですって?」

 

「お前は何者だ?何の目的でバダップに近づく?そして何でお前は…」

 

 セシルの肩がピクリと動いた。沈黙。風が先程ボールを取り出した草むらをザワザワと鳴らした。

 

「…お前は、俺が転生者だと知っているんだ?」




オリジナル必殺技

ラツィエルウィング 火属性 威力130(基準としてデススピアーが140)

謎の必殺技。神が人に与える神託…かもしれない。


クリスタルウォール 風属性 威力150(基準としてアイアンウォールが150)

水晶の壁が相手のシュートを阻む。鉄の壁となぜ同じ威力なんだ…?(困惑)

『364364』とは
見ろよ見ろよ…である。ただそれだけである。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第十一話:すいませんゆるしてください!何でもしますから!

第十一話です。
今回はセシルのおかしな言動についての話です。
では、数あるイナズマイレブンの二次創作の中からこの作品を読んでくれる貴方に感謝を。
本編スタートです。


「…何を言ってるの?転生者?…非科学的な言葉を吐かないでくれる?」

 

 そう言う彼女…古芝セシルは平静を装ってはいるが、その眼は…

 

「嘘はつくなよ。心理学者ほどじゃないが相手を眼を見れば嘘をついてるかどうかくらい見抜けるぞ」

 

「そう。でもそれは貴方個人の意見じゃない?相手の眼を見れば嘘を見抜ける?本当にそうならこの世に犯罪者なんていないわ」

 

 俺はポケットからあるものを取り出した。小さい()()を見た彼女の眼が見開かれる。

 

「…それ…まさか…」

 

「ああ。小型の録音機だ。この世界には影山とかガルシルドの手は回ってはいないだろうが一応念のためな」

 

 俺は録音機の再生ボタンを押して違和感を感じた箇所まで早送りをする。

 

 録音機は最初にセシルと出会った時の自己紹介の場面を再生した。

 

『俺はバダップ』

 

『エスカバと呼んでくれ』

 

黒野(くろの)(れい)。俺は零と呼んでくれ。よろしく』

 

 ここから俺はさらに早送りをする。問題となる彼女のこの言葉を再生するために。

 

『ふふっ。それは甘いわね。バダップ・スリード』

 

 俺は一時停止ボタンを押す。

 

「分かるよな。何でお前はバダップのフルネームを知ってるんだ?他にもお前はバダップが議員の息子と知っていた。お前は…何者だ?」

 

「証拠じゃないわ」

 

「…は?」

 

「私が貴方を転生者と知っている根拠になってないって言ってるの。バダップのことを私が前から知ってた…ってことでいいじゃない」

 

「…」

 

「さ、証拠を見せなさい」

 

 俺は少しだけ録音を早送りにする。

 

「証拠を見たいんだな?」

 

「…」

 

「まず、お前は俺達と出会った時に俺が転生者だと予想した。確信してはいなかったけどな。だから、お前は俺に聞いたんだ。ダイレクトで聞くのではなく、うまい言い回しを使ってな。それを聞いた時は俺は少し違和感を感じただけだったんだが」

 

 俺は再生ボタンを押した。

 

『淫⚪ネタ止めてくれる?汚い』

 

「俺が『やりますねえ!』って言った時のお前の反応だ」

 

 普通に淫⚪を知ってる人ならこの発言に違和感を持つことは無いだろう。

 

 しかし、それは俺の前世の世界ならの話だ。

 

 ここは、イナズマイレブンの世界。例をあげれば…貴方はコズミックプリティレイナというアニメを見たことがあるだろうか?

 

 間違いなく俺の前世の世界…ここでは現実世界と呼ぼう…の住人は見たことないと答えるだろう。なぜなら、それはイナズマイレブンの世界で放送しているアニメだからだ。現実世界とイナズマイレブンの世界の文化はズレている。

 

 つまり、イナズマイレブンの世界に『寄宿学校のジュリエ⚪ト』はないし、『終⚪のワルキューレ』もないし『かぐや様は⚪らせたい』もないのだ。

 

 つまり、ここから導き出される結論は…

 

「淫⚪っていう作品はこの世界には存在しないってことだ」

 

 セシルは何も言わない。ただ、薄ら笑いを浮かべているだけだ。

 

「ついでに言うと『迫真!決闘(デュエル)部!』の原作の作者はお前だろ?お前は何らかの理由で現実世界のことを知っていて、この作品を作った。野⚪先輩やG⚪とかが出演しているのはこのためだ」

 

「…」

 

「お前は何で現実世界を知っている?お前は何者だ?」

 

「…そうね。ある英雄の言葉を借りるなら…『リザイン(投了)』…がいいのかしらね」

 

「…」

 

「すごいわね。まるで探偵ね。シャーロック・ホームズなみよ」

 

「そりゃどうも」

 

「全く…バカな人よね。この世に知ってはならない事実なんて山ほどあるのに」

 

 セシルは嗤った。雰囲気が一変する。殺気が混じった空気だ。…あれ?なんかヤバイ?これ?

 

 セシルはポケットからあるものを取り出した。それは黒光りするくの字型の…あれだ。そう。あれ。

 

 …拳銃。

 

「貴方は知りすぎた。色々とね。全く…無駄に頭の回る転生者も考えものね」

 

「…おいおい…そんなおっかないものぶっぱなせば周りの人達が集まってくるぜ」

 

「…大丈夫よ。サイレンサーがついてるから。周りの騒音被害については心配しないで」

 

「へぇ…ずいぶん環境に配慮した拳銃だな」

 

 俺はゆっくりと両手をあげる。彼女は俺に歩み寄ってくる。

 

 王牙学園に入学できる身体能力があればヘーキヘーキ!とか思ってるやつ!現実で拳銃突きつけられるってメチャクチャ怖いぞ!足がすくんで動けないぞ!

 

 ああああああもうやだああああああ!バダップと一緒にいればよかったよおおおおおおおお!

 

 お父さん、お母さん、先立つ不幸をお許しください。アリアリアリアリアリ、アリーヴェデルチ!

 

「零…。聞こえているのか?」

 

 そんな俺の横に立つ、ラツィエルが俺に向かって話しかける。俺は視線で『助けて!』と伝える。

 

「…頑張れ」

 

 ラツィエルは親指を立てる。クソ天使がああああ!テメエ!俺以外の他者から見えてないからって調子のるんじゃねえぞ!コルァ!

 

「すいません許してください!何でもしますから!」 

 

「じゃあ…自殺して。『グラファに負けたのが悔しくて自殺しました』っていう遺書を添えて」

 

「死なない選択肢はないのかよ!?」

 

「ええ。これ以上、貴方が物語に関われば未来が変わってしまうの。…困るのよ。そういうの」

 

「…」

 

「それに、貴方が死ねばバダップは今日貴方をサッカーコート(ここ)に連れてきたことを後悔して見事にサッカーを憎んでくれるわ。ほら、貴方が死ねば未来は元通り!」

 

 拳銃が俺の額に押しつけられる。…ダメだ。動けない。俺、マジで死ぬのか…?

 

 目の前に引き金にかかっているセシルの指が見える。

 

「さようなら。転生者」

 

 引き金が…引かれた。

 

 俺は思いっきり強く眼を閉じた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

                   完

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…ってなったらどうする?」

 

 俺は強くつむった眼を開く。目の前のセシルがニヤニヤと笑っていた。

 

「安心して。これは弾の入ってないエアガン。護身用にってお父様からもらったの」

 

 セシルは拳銃…いや、エアガンを手で弄ぶ。俺は尻餅をついていた。

 

「お前…ふざけんなよ」

 

「フフフ。殺すわけないでしょう?この世界では仲間は貴重なんだから」

 

「なあ…いいかげんお前が何者か、答えてくれない?」

 

「逆に分からないの?これだけのヒントが与えられているのに?」

 

 …え?今までのヒントでこの謎解けるの?俺はラツィエルの方を見る。

 

 ラツィエルは『え?こんなのも分からないの~?』というかのごときどや顔を俺に披露する。…お前のキャラが分からんぞ。

 

 頭を悩ませる俺にセシルは質問する。

 

「分からない?…じゃあ現実世界のことを知っている人間はどういう人間?」

 

「は?お前、何を言ってるんだよ!?そんなの現実世界の人間だけ…あ」

 

 分かった。…マジか。そういうことだったのか!

 

「お前…転生者なの?」

 

 おそるおそる尋ねる俺。セシルはほおを膨らませた。怒ってるわけじゃない。笑いを堪えているのだろう。

 

「ぷっ!プププププあははははははは!!その通りよ!貴方が転生者としてどれだけ優れているか試すつもりであえてボロを出したのよ!」

 

「俺を試していたのかよ…!」

 

「やはり、私がいないとダメだな。零は」

 

 うるせーぞ。無能天使。

 

 俺はラツィエルを睨みつける。多分だけどこいつセシルが持ってたのがエアガンって気づいていたみたいだな。

 

 ふざけてるように見えるがラツィエルは後々のことを考えて行動している。事実、グラファ・ドメイン戦でもあいつは最低限のアドバイスしかしなかった。

 

 …ますますこの自称天使が気になってきたぞ。

 

「まあ、私の言動に違和感を覚えたのなら充分及第点ね」

 

「…及第点いかなかったらどうしてたんだよ?」

 

「その時はもう貴方には関わらなかったでしょうね。私のお眼鏡に叶わなかったということで」

 

「俺を試す目的は何だよ?」

 

「…いずれ分かるわ」

 

「おい。もったいぶらずに「いずれ分かるわ」…ま、そういうことにしておくか」

 

 セシルはいたずらっ子のようにクスリと笑った。

 

「じゃあそろそろ…電話しなさい」

 

「…え?」

 

「ボール見つかったんだからバダップ達に連絡入れないとまずいでしょう?」

 

「あ…」

 

「さっきの洞察力の高さは認めるけれどこういうところが抜けているあたりまだまだね」

 

「ぐっ…!」

 

 俺は携帯からバダップ達に連絡を入れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その後は、通常通り家に帰って…あ、エスカバだが門限に間に合わない可能性があったのでバダップは映画館に行く前に送っていったらしい。

 

 …さすが、バダップだね!

 

 家に帰るともう家政婦さんの手で夕飯が作られていた。夕食はハンバーグだった。

 

 ラツィエルについてだがずっと俺のそばにいる。正直うっとうしいのだがこいつは俺以外の奴には見えないので文句を他の人に言うことは出来ない。

 

「あのさぁ…」

 

「…どうした?」

 

「察して」

 

「察す?何をだ?」

 

 俺はラツィエルをジーッと見た。言葉遣いは男のものだがラツィエルは女だ。♀だ。雌だ。

 

「分かるよな?お前は女なんだぞ?」

 

「…この姿は現世に現れる際の仮の姿だ。元々私に性別などない。だから私はお前が…」

 

 

 

「脱衣所で服を脱ぐのも気にしないぞ?」

 

 

 

「俺が気にするんじゃボケェ!」

 

 俺は持っている着替えを思いっきり彼女に向かって投げつけた。しかし、彼女は幽霊のような霊体なのか、着替えは彼女の赤く輝く鎧を纏った体をすり抜け後ろの壁にポスッとぶつかり床に落ちた。

 

 誰かがじっと見てる目の前で服を脱いで生まれた時の姿になってお風呂に入るって何の羞恥プレイだ!?

 

「てかお前まさか風呂にまでついてくるのか!?」

 

「当たり前だ。私はお前のナビゲーターとしての役目があるからな」

 

 えへんと胸をはる自称天使。当たり前なのか…たまげたなあ…。

 

「…とりあえず脱衣所から出てってくれますかね?」

 

「まさか、私が必要ないと言うのか…?そんな、数多(あまた)の天使の中で優秀な私がクビ…?存在価値がない…?」

 

「そこまで言ってないから」

 

 おろおろしながら涙を浮かべる自称天使を慰める俺。…なぁ、ここって本当にイナズマイレブンの世界なのか?

 

 ラノベじゃね?タイトルは『異世界転生したら天使が俺のナビゲーターだった』とかの。

 

 と、ここでうーんうーんとうなっていたラツィエルははっとした表情になる。

 

「…そうか!理解したぞ!なぜ零が私に脱衣所から出てけと言うのかを!」

 

 よかった。自称天使にも多少の知性はあったらしい。

 

「ここは脱衣所!服を脱ぐ場所だ!つまり!零が私に言いたいことは…」

 

 

 

「私も着ているものを脱げと言いたいのだな!」

 

 

 

 …そうそう!それよ!それを言いたか…は?オマエサンナニイッテルノ?

 

 誰か~この残念美人な天使を止めてくれ~。

 

「ふっ。私のこの完璧な解答に零は何も言えないようだな!この服は私の体と同じように霊体で出来ているからすぐに着脱可能だ!」

 

 ああ。何も言えねえよ。こんなアホの娘どうすりゃいいんだよ。

 

 ってすぐに着脱可能!?俺はラツィエルを見る。そこには…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………気づけば俺は湯船の中に浸かっていた。記憶がない。ラツィエルが鎧はすぐに着脱可能と言った直後あたりからの記憶が一切ない。

 

 周りを見る。風呂場にラツィエルの姿はない。

 

 よかった。()()は童⚪男子には刺激が強すぎる。俺はほっと一息つく。するとそこにラツィエルの声が聞こえた。

 

「れ、零。すまなかった。本当に悪いことをした。こ、こんなことになるとは思わなかったんだ。許してくれ。もう脱衣所まではついていかないから」

 

 続いてズピーという鼻水をすする音が風呂場の外の脱衣所から聞こえてきた。…泣いていたのか?てか俺は一体ラツィエルに何をしたんだ?

 

 でもなんかさっきまで全然言うことを聞かなかった彼女が言うことを聞いてくれそうな雰囲気にはなってるしここは平常運転でいくか。

 

「…分かった。許すよ。今後こういうことはしないように」

 

「本当にすまなかった。零がホモだという事実に気づけなかった私のミスだ」

 

「は…?…お、お前、何言ってんだ!?俺はホモじゃないぞ!というかどこに俺がホモの要素があるんだよ!?頭にきますよ!」

 

「え!?な、何故!?私の体を見て逃げ出すということは女の体が嫌い…すなわち男の体が好きなのだろう?」

 

「あーもうメチャクチャだよ!というかさっさと説明しろよ!お前のことと、神のことをさ!」

 

 そう。今は俺がホモだとかはそこそこどうでもいいことでもある。今は彼女のことを聞くことの方が先だ。

 

「…そうだな。サッカーコートでも約束したからな」

 

「まず、お前は天使だと言ったが何でその天使がここにいるんだ?」

 

「いきなり核心をつくか…。いいだろう。全てを話そう。転生者の生まれるきっかけ。天使である私が何故お前のそばにいるのか、その秘密を」




作者は『寄宿学校のジュリエ⚪ト』は中古の漫画で読んでますね。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第十二話:当たり前だよなぁ!

 第十二話です。
 この物語はフィクションです。
 フィクションです。フィクションです。フィクションです。フィクションです。
 くれぐれもこれは作者の妄想ですので、そういう体でお楽しみください。
 では、数あるイナズマイレブンの二次創作の中からこの作品を読んでくれる貴方に感謝を。
 本編スタートです。


「…で、その転生者はどっち側の転生者だい?ハニー」

 

 そこは古芝(ふるしば)セシルの自室。彼女の大好きな可愛らしいぬいぐるみがたくさん置かれた乙女感たっぷりの部屋。

 

 ピンクの壁紙にピンク色のフカフカのベッド。勉強机もまさかのピンクと常人が見たら確実に『目がチカチカする…』と言いそうなものだ。

 

 部屋は照明がついておらず、開けられた窓からの月光が室内を照らす。

 

 セシルはベッドの上にあぐらをかいて座っている。

 

 …先程の言葉はその向かい側の壁に寄りかかっているスーツ姿の男から発されたものだった。セシルと同じく金髪碧眼。そして、顔は美男子そのもの。しかし、その男は少し変わった姿をしていた。

 

 何故ならとてつもないほどの贅沢な格好をしているからである。首には宝石がちりばまれた金でできたネックレスを、頭には金の王冠。すべての指に大きな宝石がはめ込まれた指輪をつけている。

 

 そんな男をじっと見つめてセシルはため息をつく。

 

「分からないわ。というか貴方は仲間がサポートしている転生者達の名前を覚えてないの?」

 

「覚えてないよ。僕が覚えるのは(かね)!宝石!貴金属!美男美女だけだ!…ああ。もちろん君のような美少女のことも僕は忘れないよ?ハニー」

 

 男は悪びれもせずにそう答えた。もう一度セシルはため息をつく。

 

「貴方ねぇ…」 

 

 セシルの少しだけ怒気を孕んだ声にも男はニコニコと笑いながら返す。

 

「まあ、重要なのは彼等がセフィラかクリフォかということでなく、この世界への物の見方だ。ハニーもベルフェゴールの転生者を見た時そう思ったはずだ」

 

「…まあね」

 

 男の言葉をセシルは肯定する。

 

 頭に思い描かれるのはベルフェゴールの転生者のあの言葉。

 

 

 

 

 

 

『ある英雄の言葉を借りれば…《さあ、世界に試練を与えよう》』

 

 

 

 

 

 

「…あいつだけはなんとしても止めなくちゃいけないわね」

 

「うん。だが、僕達サポートサイドはまだ力を完全に取り戻したわけじゃない。だから、まだハニー自身の力で戦って貰うよ」

 

「ええ。分かってる」

 

「よろしい」

 

 にこりと男が笑う。セシルは少しだけ嗤うと彼に言った。

 

「…これからもよろしくね、ルキフグス」

 

 開け放たれた窓からの夜風がカーテンを揺らし、赤い月が部屋にいる二つの影を照らした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 俺は湯船に浸かって脱衣所にいるラツィエルの言葉を待つ。

 

「…まず、全てはある樹が芽生えたことから始まる」

 

 うわっ、長そうな話になりそう。

 

(れい)。君が神に出会った時に見た樹だ。十のセフィラが輝くその樹を」

 

「もしかして、あのでかい樹か?『生命の樹』とか言ってたやつ?」

 

 夢の中で見たあの大樹。その宝玉の中の一つが俺を光の中に飲み込んだ。

 

 その事をラツィエルについでに話す。

 

「そう。『生命の樹』。あれについた十個の丸い玉の招待はセフィラといってな…、それぞれを天使が管理している」

 

「お前もその中の一人ってわけだ」

 

「そうだ…。お前に光を与えたのは私の管理するセフィラ…コクマーだ。『知恵』を司るセフィラでもある」

 

「ってことは転生者は複数いて、それぞれがセフィラを管理する天使にナビしてもらっているってことか?」

 

「そうだ。そして、その樹によって私達、天使の国は長い間栄えた。ある事件が起きるまではな」

 

 …何か不穏な空気になってきたゾ。

 

「天使の一体が反乱を起こした。名前はルシフェル。天使の中では最高のカリスマ的存在だ」

 

「ホモガキにとっての野⚪先輩みたいな感じか」

 

「…例えはよく分からないがそういうことでいいだろう」

 

 すりガラスの扉の向こうでラツィエルはそう答える。野⚪先輩はルシフェルだった…?(迫真)

 

「反乱は失敗。ルシフェルは地獄の最下層に落とされた。ちなみに人間の聖書とやらに書かれているのはここまでだ」

 

 聞いたことがある。ルシフェルは聖書にたった一回しか登場しなかった天使だということを。しかも元々何の仕事をしていたのかさえ分からないとか何とか。

 

「しかし、事はそれだけでは終わらなかった」

 

 ラツィエルは続ける。

 

「昔から天使達は皆が地獄は汚らわしい場所で見るに値しない場所と考えていた。だから、基本的に地獄に行く天使はいなかった。だから、天使達は誰も気づけなかったんだ。生命の樹の対になる邪悪の樹に」

 

「…邪悪の樹?」

 

「天国を支える樹があるように地獄を支える樹もある。そいつにはセフィラの代わりにクリフォと呼ばれる宝玉にとてつもない高濃度のエネルギーが蓄えられていた」

 

 おいおい。悪者にとてつもないパワーを持つアイテムとなればもうパターンは一つしかないゾ。

 

「ルシフェルはそのエネルギーに目をつけた。地獄へと追っ手が来る前にそのクリフォにとてつもない永い年月をかけて貯められたエネルギーの大半を使って人間として転生する権利を得たのだ」

 

「…ちょっと待て」

 

「何だ?」

 

「天使が人間に転生する?」

 

「ああ。何か疑問があるか?」

 

 しばらくの沈黙。え?話が突拍子もなくて俺、よくわからない。

 

「何かメリットがあるのか?」

 

「ある。まず、人間の世界に天使も悪魔も物理的な干渉をすることが出来ない。つまり、人間に転生すれば天使からも悪魔からも完全に逃げ切れるということだ」

 

「いや、お前、人間界に干渉してんじゃん」

 

「物理的にと言ったはずだ。現に私は口出しだけで人間界(ここ)の物を動かしたりといったことはしていない」

 

 確かにラツィエルは俺に話しかけているだけで他の物を触ったりは出来ていない。さっきタオルを投げた時も当たらずにすり抜けたし。

 

「そのルール、ルシフェルには適用されてないのか?」

 

「ああ。今のあいつは人間だ。この世界に物理的に干渉できるよ」

 

「だけど相手は人間が一人。俺達の敵じゃないってはっきり分かんだね」

 

「いや。ルシフェルはクリフォから得たとんでもない量のエネルギーを保有している。本気になれば人間界を滅ぼして自分が王となる国を作れるだろうな」

 

「…え?」

 

 そして、ラツィエルは言った。とんでもない事実を。

 

「そして、今、ルシフェルはこの世界に転生している」

 

「…え?(2コンボ)」

 

「この世界のどこかにルシフェルがいる。奴は手始めにこの世界を支配して、天界征服の足がかりにするつもりだ」

 

「…」

 

「まだ、動いていないのは奴が私達天使が止めに来るのを待つためだろうな。私達が用意した奴を止める駒をすべて倒すことで自分の優位を知らしめるためだろう。我々もゆっくり準備が出来る」

 

 …今、こいつヤバイことをを口走ったような気がする。

 

「あのさぁ…」

 

「…?」

 

「その…ルシフェルを止める駒に俺も入っているのか?」

 

「当たり前だろう?」

 

 ラツィエルは『お前いまさら何言ってんだ?』という声色で俺に宣告した。

 

「つまり、俺達、転生者はそのルシフェルを止めるために転生させられたと」

 

「ああ。そうだ」

 

「ちなみに今のルシフェルの力はどれくらいだ?」

 

 もしかしたらそこまですごい相手ではないかもしれないよ。うん。だって天使から人間にランクを下げたんだもん。しょうがないね。

 

 しかし、ラツィエルの言葉は無慈悲だった。

 

「そうだな…本気になれば神をのぞく天界の全てを粉々にするくらいのエネルギーはあるだろうな」

 

「じゃけん、逃げましょうね~」

 

「な、何故だ!?何故!?敵前逃亡は良くないぞ!?他の転生者達が戦おうと意気込む中で逃げるなんて恥だ!逆に何で逃げようなんて思うんだ!?」

 

 すりガラスの向こうのラツィエルは慌てた様子だ。

 

「当たり前だよなぁ!逆にお前は世界一つを粉々に出来る奴を相手にしろと言われて喜んで『YES』って言えちゃうのかよ!?」

 

「いや、言えないが…」

 

 モゴモゴとなるラツィエル。こいつ本当にアホだな。

 

「逆にこちらが出来るのは銀のカラスのごとくパンチかキックかヘッドバッドかラツィエルウィングのぶちかまし一発だけだぞ!?一撃で仕留められなければ「それは違う」…え?」

 

 ラツィエルの声の感じが一変する。先程のおどおどした声から一気に真面目な雰囲気へ。マジで二重人格を疑うレベルのスピードである。

 

「ルシフェルと殴りあって戦うことはないはずだ」

 

「何でだよ!?」

 

「性格上、ルシフェルはこの世界のルールに従って行動するだろう。相手が文句を言う勝利は望まない。相手を絶望させて文句も言えないほどに潰しての完全勝利があいつの楽しみだ」

 

「この世界のルール?何だよそれ?」

 

「サッカーだ」

 

「ファッ!?」

 

 あまりにも突拍子もないラツィエルの発言。…マジかよ。世界を賭けた戦いがサッカー!?あり得ねえ!あり得ねえぜ!

 

「超次元過ぎるゾ!」

 

「文句があるならルシフェルに言え。殴りあいがいいですと言えばあいつも了承するだろう」

 

「ありがたくサッカーをやらせていただきます!」

 

 やっぱりサッカーは楽しいぜ!364364~!天使もサッカーやるんだってよ!いいね!素晴らしい!

 

「零!長風呂は止めてさっさと出てきなさい!」

 

 げっ。母さんだ。俺は湯船から出ると、風呂場のすりガラスのドアを開けた。

 

 目の前にラツィエルがいた。ちなみに俺は素っ裸である。

 

「…」

 

「…」

 

 しばらくの沈黙。ラツィエルは俺の顔を見ていたがその顔は徐々に下の方へ向かっていき…

 

「…!〇¥◎●▽▲△▽◆◎◎△■◎▽△!?」

 

 ラツィエルは顔を一瞬で真っ赤にしてパタリと仰向けに倒れる。ピシャリと俺はドアを閉めた。

 

 再びの静寂の後、俺はすりガラス越しにラツィエルに言った。

 

「…なあ」

 

「…何だ?」

 

「今度こそ察してくれ」

 

「…分かった」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 古芝セシルは廊下を歩いていた。彼女の父親、古芝五郎は現在この国の議員の一人だ。まあ、バダップの母親ほど大したものではないのだが。

 

 それでも議員は議員。そこそこ広い家にお手伝いさんもついている。あまり不便ではない。

 

 彼女はサッカーボールを抱えて中庭に飛び出す。バダップの家ほどの広さはないが、充分なスペースがある。

 

(…グラファ相手にほとんど何も出来なかった)

 

 彼女の脳裏に焼きついているのは今日のサッカーバトル。最後の最後で必殺技、クリスタルウォールがシュートを阻むことは出来たが、試合全体を見れば満足できない結果でもある。

 

(もっともっと上手くならないとまずいわね…)

 

 元々、バダップ達王牙学園のメンバーはサッカーなどやったことがなく、雷門を潰す作戦が立案された時に練習を開始したはずだ。

 

 だが、別の転生者、黒野(くろの)(れい)の介入によってバダップはサッカーをすでに始めているらしく、デススピアーを覚えていたりとその能力はとても高かった。

 

 エスカバに至ってはFWなのにトライペガサスを必殺技なしで止めてしまう始末だ。

 

「もっと強く…」

 

 私はリフティングを開始する。一、二、三、四、五…

 

 リフティングを続けながらあの試合を想う。得点をあげていないのは私だけだ。

 

 …グラファをろくに止めることも出来ず、大した策も立案できていない。バダップやエスカバのような高い身体能力もないし、黒野零のように鋭い洞察力も私にはない。

 

 …私はあの試合で役にたったの?

 

 …悔しい。悔しい!悔しい!悔しい!私がもっとしっかりしていれば!失点は抑えられた!

 

「…!」

 

 リフティングしていたボールがあられもない方向に飛んでいく。転々と転がったボールは家の壁の付近で止まった。

 

「はあ…ダメね…私」

 

 セシルは壁際に落ちたボールに手を伸ばす。

 

 その時、突然ボールが消えた。

 

「!?」

 

「もーらいっ!」

 

 消えるボール。それと同時に十メートルほど離れた場所にボールをリフティングするセシルと瓜二つの少女がいた。違いはセシルはストレートのロングヘアーだが、もう一人の少女がショートヘアーというちょっとした違いである。

 

「ラミス…」

 

 古芝ラミス。セシルの双子の姉だ。ラミスは去年、SBF(サッカーバトルフロンティア)の本選準決勝まで進んだ強豪チーム、『サンデーナイトフィーバー』のキャプテンだ。

 

 ちなみにチーム名の『サンデーナイトフィーバー』はセシルが考えたものである。元ネタは当然、サ⚪デーナイトフィーバーだ。

 

 『サンデーナイトフィーバー』の特徴として言えるのは、速い。

 

 選手のスピードがとにかく速い。疾風迅雷とはまさにこの事と教えてくれるかのごときスピードだ。

 

 ちなみにラミスはセシルにチームに入るようにとかつて勧誘したのだが、その時はセシルは断っている。

 

(…やっぱり速い。目で捉えられなかった…!)

 

「セシル。『サンデーナイトフィーバー』に入ってよ!セシルが入ってくれたらきっと今年は優勝できそうな気がするんだ」

 

 ニコニコと無邪気に微笑みながらリフティングするラミス。

 

 ちなみにラミスは転生者ではない。以前、『フィフスセクター』のことについてラミスに聞いてみたが、特に反応が無かった。

 

 フィフスセクターはイナズマイレブンGOに出てきた、サッカーの試合の勝敗を管理して、全てのチームに平等な勝利を与えるというとんでもない組織でイナGOのラスボスだ。

 

 この世界では円堂守も松風天馬も有名人だがフィフスセクターやガルシルドと言った人間はこの時代ではそこまで有名じゃない。

 

 まあ、もちろん、ラミスが嘘をついてる可能性もあるが。

 

 セシルはラミスの勧誘に対して答える。

 

「ごめん。ラミス。私はラミスと戦いたいの。敵チーム同士で」

 

「…ふーん。…確信したよ。…セシル」

 

「…何?」

 

「一緒にサッカーするチーム、見つけたんだ」

 

「…何で分かるの?」

 

 ラミスはニッコリと微笑んだ。

 

「お姉ちゃんだもん。夕飯の時にニコニコしてればそりゃあ気づくよ」

 

「そう…なんだ」

 

「でもね~どこかでちょっと気負ってるんじゃないかな~って思ってここに来たの。この時間貴方ここでサッカーしてるじゃない」

 

「…!」

 

「やっぱり図星みたいだね」

 

 不思議な感覚にセシルは襲われた。転生前、彼女は孤独な少女だった。兄弟どころか家族さえいなかった。

 

 転生後、家族を持った彼女は家族を持つという感覚に慣れていなかった。しかし、姉のラミスといると、まるで本当の双子のように互いの考えが何となく分かるのだ。

 

 まるで転生前から双子の姉妹だったかのように。

 

 だからこそ、セシルにとってラミスは気の許せる存在になっていた。

 

「他のメンバーがとっても強くてね…私、足手まといかもしれない…」

 

「…どうしてそう思うの?」

 

「グラファと試合したの…」

 

「…!」

 

 ラミスの肩がピクリと震える。彼女のチーム、『サンデーナイトフィーバー』が準決勝で敗北した相手こそ『グラファ・ドメイン』なのである。

 

「他のメンバーが点を取ってくれたけど…。私は一点も決められなかった。DF(ディフェンダー)なのにグラファを全然止められなかった…」

 

「…」

 

「チームのお荷物かもしれないわね…私」

 

 ラミスは何も言わない。少し、この場にいるのが嫌になったセシルは家に戻ろうとした。

 

 が、そこへラミスがリフティングしていたボールが飛んできた。

 

(っ!?)

 

 咄嗟に右足を出してボールを蹴りかえす。とんでもない威力だった。下手をすればセシルは足を弾かれていたかもしれない。

 

「…何?」

 

「…違うよ」

 

「…?」

 

 ラミスはとても悲しそうな目をしていた。

 

「セシルはそんなタイプじゃないよ。そんな風にサッカーをして欲しくない」

 

「何が言いたいの?」

 

「元々、私達がサッカー始めた時のこと覚えてる?貴方の方がまだとっても上手かった頃」

 

「…」

 

 セシルは昔を思い出す。サッカーを始めた頃、セシルは生前の記憶から多少の知識があったためにラミスよりもサッカーが上手だった。

 

「私はセシルよりその時は下手だった。でもね…私、楽しかったの。もちろんセシルより下手なのは悔しいとは思ってはいたけど、それよりもサッカーが好きな気持ちの方が上だった。上手い下手関係なくボールをがむしゃらに追いかけるのがとても楽しかった」

 

「…」

 

 記憶を呼び起こす。ラミスからボールを奪うセシル。そのままボールをキープしてドリブルしてシュートする。笑っていた。あの日は。

 

「そのチームでプレーして楽しくなかったのならいいけど…そんなことないよね?夕飯の時は笑ってたし」

 

「…うん。楽しかった。とても」

 

「じゃあ、それでいいじゃない!」

 

 ラミスはニッコリと笑った。

 

「サッカーを楽しみましょう。本当の勝者は試合を楽しんだ者なんだから!」

 

「…そうね」

 

 セシルの雰囲気が少しだけ明るくなる。だが、ついさっきまでのセシルと今のセシルは決定的に違っていた。

 

「じゃあ、ボール返す「待って」…どうしたの?」

 

 ボールをセシルにパスしようとしたラミスの動きが止まる。セシルから少しだけ殺気が漏れる。

 

 空気が一瞬にして豹変した。

 

「ねえ。ラミス…言ったわよね『貴方(セシル)の方がまだとっても()()()()()()』…その言い方はまるで…」

 

 クスリとラミアは…嗤った。

 

「今は私の方がセシルより上手い…と言ってるように聞こちゃった?」

 

「ええ…ボール返さなくていいわ…」

 

 

 

 

「奪うから」

 

 

 

 

「やれるものなら…やってみて」

 

 夜風が木々を揺らし、二つの影を赤い月が照らす。

 

 二つの影はしばらくの間は全く動かなかった。

 

 …そして、その瞬間が訪れる。

 

 二つの影は同時に動き出した。




オリジナル選手名鑑

古芝ラミス 林属性 MF(ミッドフィルダー)

セシルの双子の姉。武術の達人であり、武術のとある技を得意としているらしい。


???
???
分身ディフェンス
クンフーアタック


次回サッカーバトルの回です。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第十三話:お願いします!アアアアアアアア!

第十三話です。
サッカーの試合の話の度に相手チームの名前も書いておきます。
今回はサッカーバトル無しになってしまいました。申し訳ありません。次回こそはやります。
では、数あるイナズマイレブンの二次創作の中からこの作品を読んでくれる貴方に感謝を。
本編スタートです。


 グラファとの戦いから十日ほど経過した頃…。

 

 俺はあのサッカーコートに向かっていた。SBF(サッカーバトルフロンティア)の予選に参加するためだ。あ、王牙学園の入学試験は無事合格したよ。

 

 ちなみに今回は試験結果の報告も兼ねている。まあ、バダップもエスカバも受かっているとは思うが。

 

 しかし、今回は、少し遅刻ぎみだ。いつも時間ぴったりに到着するバダップよりも遅くなるかもしれない。

 

「まずいですよ!」

 

「だから言っただろう。夜遅くまで作戦たててないで寝るべきだと」

 

「七時に起こす約束破ったお前も大概だがな」

 

「天使だって睡眠が必要なんだ!労働基準法を見てみろ!一日に(強制終了)」

 

 ダメ天使を無視して全力疾走する。ちなみにあいつは背中の羽でパタパタ飛びながらついてきている。というか、天使って疲れなさそうだが…。

 

 サッカーコートが見える。案の定かなりの数の人達がサッカーコートの周りを囲んでいる。

 

 …あまり混んでない時間にコートで待ち合わせする予定だったんだけど、そうはいかなくなってきたな。

 

「まずいですよ!(本日二回目)」

 

 これだけ混雑した場所でバダップ達を探すのは困難を極めるぞ。

 

 と、そこに俺とサッカーコートの間に一人の男が立ちふさがった。

 

 金髪に青い瞳。スーツ姿に金銀財宝を散りばめられたマント、金の王冠を身につけている。宝石をこれでもかとつけまくった金の杖を握る両手には巨大な宝石のついた指輪がはめられていた。

 

「…誰だよ。そこをどけ」

 

「おっと。気にしないで。古芝セシルの使いさ」

 

「セシルの?というか「零!離れろ!そいつは悪魔だ!」…ファッ!?」

 

 ラツィエルの声に反応して俺は一歩後ろに下がる。悪魔!?つまり、ラツィエルの敵!?

 

 悪魔と言われた男はニコニコ笑いながらラツィエルの方を見る。ラツィエルを見た悪魔はハッとすると恍惚な表情を見せる。

 

「おお!誰かと思えば愛しのラツィエルじゃないか!君に会えて僕は最高の瞬間を味わってるよ!」

 

「私は貴様に会えて史上最悪の気分を味わってるがな」

 

 対するラツィエルはゴミ虫を見るかのような蔑みの目で相手を見つめる。

 

「知り合いか?」

 

「ああ。ルキフグスという悪魔で、金と女が大好きなクズだ」

 

「ノンノン。正確に言えば金と美男美女が好きなのさ。君の転生者もそういう意味では僕の好みさ」

 

 ルキフグスは俺を見るとにや~っとジジイが美女にセクハラでもするかのような目付きになる。

 

 …気持ち悪い。

 

「俺は男だぞ?」

 

「安心したまえ!僕は愛を向ける相手は男でも女でも変わらない!美しければ僕のハーレムに加わる権利は誰にでもある!それに!」

 

 ルキフグスはビシッと俺を指差す。人に指差しちゃいけないってこいつ習ってないのか?

 

「女性のような美しさを感じるが逆に男のような凛々しさも持ち合わせたその顔からは矛盾という美を感じる!さあ!問答無用で僕のハーレムに入りたまえ!」

 

 …マジで気持ち悪い。

 

「ルキフグス、悪いが今は私の転生者の晴れ舞台だ。邪魔をするなら…」

 

 ラツィエルが腰の剣を抜く。赤い刀身の剣は炎を纏った。圧倒的な殺気。しかし、周りの人々は天使も悪魔も見えていないために俺の横を気にせずに通りすぎていく。

 

 ルキフグスは殺気をあてられているにも関わらずニヤニヤ嗤っていた。

 

「まあ、待てラツィエル。僕は君達天使と戦うつもりは毛頭ない。色々話したいことがあるのさ」

 

「…話だと?」

 

「ああ。ルシフェルや、他の転生者達に関する情報さ。僕をここで斬り殺すのは自由だが、話を聞いた後からでも遅くはないと思うよ」

 

 しばらくの沈黙。ラツィエルから放出されていた殺気が止まる。どうやらこの場は落ち着いたらしい。

 

 ほっと一息つく俺。

 

「…そうだな」

 

「おっ。分かってくれたかい?」

 

「ああ。話すことなどない。お前はここで斬り殺す」

 

「…え?ちょっ!?」

 

 困惑するルキフグス。ちなみに俺もここは話を聞く流れだと思った。

 

「助けてハニー!…ラツィエル!空気を読んでくれ!ここは僕を見逃して話を聞く場面だろう!?」

 

「そうだよ(便乗)」

 

 いくらルキフグスがクズでも停戦を申し出てる相手に攻撃するのは俺も反対だ。

 

「ついでにそこの転生者君もラツィエルを止めて『ルキフグス様♥ハーレムに入るから情報…お・し・え・て♥』っていう場面だよ!」

 

「よしっ!ラツィエル!殺しちゃっていいぞ!」

 

 やっぱり汚物は消毒に限るな!

 

「ひいいいいいいい!助けて!ハニー!僕、殺される!死にたくないよ!」

 

「終わりだ。安らかに逝け」

 

「止めなさい」

 

 ラツィエルとルキフグスの間に一人の少女が割り込んだ。セシルだ。

 

「ハニー!助けてくれたのかい!?」

 

「彼は私のナビゲーターなの。ここで死なれると困るのよ」

 

「ほう。やはり、私が見えていたのか」

 

「ええ。でももしルシフェルの仲間だとしたら危うかったから指摘こそしなかったけどね。…零。選手登録締め切りまであと19分よ。早く来て」

 

「あ、分かったよ」

 

 セシルは俺の腕をつかむと引きずっていく。

 

「頼む。ラツィエル。ハニーもああ言ってるし話だけでも聞いてくれないか?…あれ?何でまた剣を振り上げてるの?」

 

「安心しろ。転生者の謝罪に免じて半殺しにしてやる」

 

「ちょ、ちょ、ちょっと待って下さい!待って!助けて!待って下さい!お願いします!アアアアアアアア!」

 

「あのさぁ…」

 

「あのバカは放っておいてさっさと選手登録行くわよ。私のことは区切りがいい時に教えてあげる」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 セシルに連れていかれるとバダップとエスカバが大会委員らしい人に何かを話しているところだった。

 

「そこをなんとかしてもらえませんか?試合開始前には来ると思うので…」

 

「でもねえ…選手がいないと登録はできないのさ」

 

「責任はとるから頼むよ!おじさん!」

 

「おじ↑さん↓だとふざけんじゃねぇよお前!お兄さんだろォ!?」

 

 エスカバの発言にキレる大会委員様。どうやら俺がいないけど選手登録してくれるように大会委員に頼んでいたらしい。

 

 というか大会委員!貴様、ホモだな!?

 

「悪い!バダップ!少し遅れた」

 

「遅い!」

 

「心配したぜ。怖くて逃げちゃったのかと思ったよ」

 

「四人目が来たので、選手登録、いいですか?」

 

「…分かった。選手登録を認めよう。君達は一回戦の第四試合からスタートだ」

 

 バダップがあらかじめ持っていた選手登録用の用紙を大会委員に渡す。

 

「零様」

 

「あ、御影さん。こんにちは」

 

 俺を呼ぶ声に反応して、見るとそこにはバダップの付き人兼ボディーガードの御影(みかげ)千草(ちぐさ)さんがいた。バダップの家に頻繁に遊びに来ていたために彼女ともよく顔を合わせる。

 

「試合中はバダップ様のことをよろしくお願いします」

 

「あ、はい」

 

「数日前に身体中にアザをつくって帰ってきたバダップ様を見て奥様が心配されています。今回私は監督を務めますが、試合に干渉できないので」

 

 …え?監督?

 

「…今回ですがこの御影、皆さんのボディーガード兼監督をやらせていただきます」

 

「あ、よろしくお願いします」

 

「では」

 

 そう言ってどこかへ走り去っていく御影さん。

 

「監督って…?」

 

「この大会では監督一名が参加資格を得るために必要な条件の一つになっている。まさか、知らなかったのか?」

 

 いつの間にかラツィエルが横にいた。右手でルキフグスを引きずっている。

 

「…知らなかった」

 

「バダップに感謝だな。もし誰も知らなかったなら出場すら出来なかったろうな」

 

 俺はルキフグスの状態を見る。…大丈夫。見た感じ死んではいないな。

 

 ルキフグスは真っ白になりながらポロポロと涙を流していた。

 

「…一点もののネックレスとマントが…指輪も一つ一つ丁寧に破壊しやがって…いつもこうだ。僕がナンパする度に宝を破壊して…ラツィエル…君は世界の宝を壊しまくってる自覚はないのかい……?」

 

「むしろ、貴様は身につけている宝達の気持ちを考えたことがないらしいな。貴様に身につけられるくらいなら壊してしまった方が宝のためだろう?」

 

 どうやらラツィエルがルキフグスの宝を壊すのは今回が初めてのことじゃないっぽいな。

 

『みんな~!待たせたなぁ~!SBF(サッカーバトルフロンティア)予選を始めるぜ!一回戦第一試合!《ブラックテトラ》VS《大海学園陸上部》のカードだ!』

 

 DJ-YOU(ディージェイユー)の声がコートの中に響き渡る。

 

「そろそろ試合が始まるから見に行った方がいいんじゃないか?…ああ。ルキフグスはまだお仕置き中だ」

 

「…少年。ラツィエルを止めてくれ…僕の宝はグシャグシャだけどまだ修復のしようがあるんだ」

 

「じゃあ言うべきことがあるよな」

 

「…そうだな。さあ!転生者君!僕のハーレムに「ラツィエル~!壊しちゃって!どうぞ!」…あ、待ってくれ!ふざけただけだから!ちょっと待って!助けて!待ってください!お願いします!アアアアアアアア!」

 

 やっぱり汚物は消毒に限るな!試合見に行こ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うう…ひどい…あんまりだ…。プライスレスと言っても過言ではない品々をここまで粉々にするなんて…ラツィエルの鬼!悪魔!」

 

「悪魔はお前だ」

 

 零が去った後、大会の運営の前に取り残されるラツィエルとルキフグス。彼等は霊体のために人間と接触してもすり抜けるだけだ。

 

 だが、ラツィエルの放つ殺気に見えていない人間達も何となく、彼等がいる地点を避けていた。

 

「でも…これは宝物なんだよ?めちゃくちゃ大事な僕の思い出の「嘘をつくな」…」

 

「もう零はいない。貴様は零の前ではよいキャラを演じたいようだからな。あえて私ものってやった。だが、もういいだろう。本性を見せろ。ルキフグス」

 

 しばらくの沈黙。それを破ったのは小さな小さな嗤い声だった。

 

「ククク…ククク…アハハハハハ…いやぁ…君の勘は鈍っちゃいなかったかぁ…。さすがだよ…。もう数千年は会ってもいないのに、僕の性格をよーく知ってる」

 

「私が何回悪魔の嘘を見てきたと思う?今のような嘘は通じんよ」

 

「そうだねぇ…。でもさぁ、大事な思い出の品ってのは本当だよ。こいつらは善良な人間をどうしようもないゴミに堕落させるゲームの戦利品だったんだから」

 

 ルキフグスは沢山の富を人間に与える。与えられた人間はその富を元手に財産を増やしていく。もちろん、成功の影には必ずルキフグスの手が回っている。

 

 最後にはその人間の死後に魂と今までその人間が欲望のままに集めた財をまるごと奪う。

 

 そうしてルキフグスは地獄でもっとも裕福な存在となった。

 

 ラツィエルにとってはもっとも最悪で醜悪な悪魔の一体だ。

 

「何が目的だ?」

 

「目的…か。君達と同じだよ。ルシフェルの討伐」

 

「嘘をつくな!ルシフェルは地獄の王と言える存在だ!地獄の悪魔であるお前が離反する理由などどこにもな「あるんだな~これが」…何だと?」

 

 ルキフグスはクククと嗤う。

 

「なぁ…。生命の樹は天国を支えるエネルギーを貯めている。同じく対をなす邪悪の樹も地獄にとって大切なエネルギーを貯めてくれるものだ。そのエネルギーは当然、地獄を維持していくのに必要不可欠だ」

 

「…なるほど。そういうことか」

 

「あいつは()()()()()()()()()()()()()()()()()()。地獄は崩壊寸前さ。ルシフェルを崇拝してる奴はもう地獄にはいない」

 

「それで、お前達の目的はルシフェルの復讐…ということか」

 

「そういうこと」

 

 観客達がざわめいている。どうやら凄まじい試合になっているようだ。ラツィエルは少し気になったが、この話の重要性を知っているためにルキフグスとの対話に集中する。

 

 油断はできない。ちょっとでも隙を見せればそこにつけこまれる。こいつはそういう奴だ。

 

「なぁ…さらに疑問があるだろ?お前達天使がどうやって邪悪の樹の存在に気づいたか」

 

「…」

 

「それは俺達、ルシフェルを見限った地獄の悪魔が神々に密告したからだ」

 

「我等の神以外にも…か?」

 

「ああ。日本の帝釈天、北欧のオーディン、ギリシャのゼウス…人間を転生させる権限を持った神にも全員に話したはずだ」

 

 ラツィエルは気づく。今の言葉の重大な意味に。そして、彼女は()()()()に気づき戦慄した。

 

「まさか、転生者は無数に存在するのか!?大量の転生者を送り込むことがどういうことか貴様は分かっているのか!?」

 

「おいおい。俺は確かに転生権限を持つ神々にこの事を話したぜ。でも人間を転生させてやれとは言ってない。転生者を過剰に送り込むことがどれだけ危険かは奴等も承知してるだろ?事実、転生者はルシフェルを除いた俺達クリフォの悪魔とセフィラサイドのお前らしかいない」

 

 ルキフグスはポケットから高級そうな葉巻を一本取り出すとオイルライターで火をつける。そのままプハーッと煙の息を吐いた。

 

「大半の神は静観…いや、面白半分でこの戦いを見てる。あいつらはルシフェルのことをナメてる。もし俺達がこの戦いに負けたら…」

 

「世界の終わりか」

 

「…ああ。そこで提案だ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…同盟組もうぜ?」




 オリジナル設定
SBF(サッカーバトルフロンティア)とは
4対4のサッカーバトルの大会。32の予選会場の優勝者達が本選で競いあう。
メンバーがすぐに集まるという利点から参加条件を満たしやすい。
予選の出場条件は選手四名に監督一人。
本選にはリザーバー二名が義務づけられる。

第28会場出場チーム

ブラックテトラ

大海学園陸上部

糸川ハンバーグス

天馬は永遠に

円堂守ファンクラブ

松岡ファイヤーズ

オーガ

クロム


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第十二話:ちょっと待って!いなりが入ってないやん!(VSブラックテトラ)

第十二話です。
遊戯王に登場する『千年タウク』というアイテムが出てきます。
後書きに『千年タウク』について詳しく書いておきます。
また、遊戯王のタグも追加しました。
では、数あるイナズマイレブンの二次創作の中からこの作品を読んでくれる貴方に感謝を。
本編スタートです。


 一回戦ダイジェスト

 

「デススピアーV2!」

 

「ハンバァァァグ!(断末魔)」

 

 一回戦、VS糸川ハンバーグス。8―0で勝利。

 

 二回戦ダイジェスト

 

「ラツィエルウィング!」

 

「熱くなりスギィ!(断末魔)」

 

 二回戦、VS松岡ファイヤーズ。3―0で勝利。

 

 ここまで、俺達のチーム、オーガは順調に勝ち上がり、予選決勝の舞台にまでたどり着いた。

 

 一回戦の糸川ハンバーグスはそんなに強くはなかったが、二回戦の松岡ファイヤーズには三点しかとれなかった。

 

 三点は結構でかいように感じられるが、バダップ含めた王牙学園メンバーなら話は別だ。世宇子に36―0で勝利できるポテンシャルを秘めたメンバーがいるにも関わらず三点。未来のチームのレベルの高さを感じる。

 

 しかも、決勝は一筋縄ではいかないだろう。何故なら…

 

『アンビリーバボー!《ブラックテトラ》VS《天馬は永遠に》の試合はとんでもないことになってしまった~!』

 

ブラックテトラ 9―0 天馬は永遠に

 

 このコートで一番強いチームの筆頭にあげられるのが『天馬は永遠に』だったらしい。俺達が来るまでの話だが。

 

 それを九点。とてつもない強さのチームだ。『天馬は永遠に』もこの大会までに相当練習したのだろう。動きが良くなってるし、俺達でも前のように大量得点は望めないはずだ。

 

「トライペガサスV3!」

 

 『天馬は永遠に』のシュート。進化したトライペガサスはもうエスカバでは止められないほどの威力を誇っているだろう。

 

 しかし、ブラックテトラのキーパーは余裕そうな顔で嗤った。

 

「デスサイズスラッシャー!」

 

 キーパーの手に禍々しいオーラが集まるとそれは巨大な鎌の形を作り出す。

 

 そして、ボールに向かってその鎌は振り下ろされる。

 

 ギィィィィィィィンというボールを削る音が会場中に響き渡る。

 

 そのままボールは真っ二つに切断された。

 

『残念!《天馬は永遠に》!これで三本目のシュート!しかし《ブラックテトラ》のキーパー、一番の選手がきっちり防いだ!』

 

「残念…だったな…」

 

「くっ!もう一度だ!」

 

 諦めずに必死に戦う『天馬は永遠に』メンバー達。

 

 しかし、諦めずに戦う者が必ず勝つとは限らない。

 

 ビーッというタイマーの音が響き渡る。

 

『試合終了~!勝ったのはチーム《ブラックテトラ》!三番の選手の圧倒的な得点力!果たして《オーガ》は止められるのでしょうか!?』

 

 ブラックテトラ…選手一人一人の能力が非常に高い、にもかかわらず、あの三番のビブスの選手の運動能力は凄まじい。指示出しも上手い。

 

 三番の選手…整った顔立ちで爽やかな印象を受けるその女性選手はニコニコとギャラリー達に手を振っている。

 

 隣を見るとセシルは少しだけ考え込んだような顔をしていた。

 

「あの選手、どこかで…」

 

「まあ、試合前に相手チームの選手登録内容が確認できるからその時な」

 

「分かってるわ。それと、私達以外に転生者は見当たらないわね」

 

 転生者にはナビゲーターとして天使や悪魔がそばにいる。どうやら転生した瞬間からそばにいるらしく、あの樹の影響で見えるようになるらしい。

 

 俺の場合、グラファ・ドメインとの試合中に見た夢(のような何か)の際に影響を受けてラツィエル達が見えるようになったそうだ。

 

 どうやらクリフォの悪魔の転生者達も邪悪の樹の影響を受ければ見えるようになる。

 

 まあ、全てセシル談だが。

 

「…ちなみに、あえて言っておくが俺はまだお前を完全に信じたわけじゃないからな」

 

 そう。ここまでは一回戦と二回戦の間の休憩時間にセシルから聞いた情報だ。だが、話したのはセシル一人。

 

 彼女がルシフェルサイドの人間の場合、完全に信じこむのは危険すぎる。

 

 別の転生者と会って話を聞く。まずはそれからだ。

 

「…別にいいけど、試合中は信頼しなさいよ」

 

「分かってるよ」

 

『決勝は、十分間の休憩を挟んだ後に行います!終わり!閉廷!以上!皆解散!』

 

「…あれ流行ってんのか?」

 

「それは『迫真!決闘部』の作者に聞きなさい」

 

「お前じゃないのか!?」

 

「いつ私が自分が作者だって言ったかしら?」

 

 えぇ…。違うのか…。

 

「ちなみに私は淫夢ネタが嫌いだから」

 

「…すいませんでした」

 

「別にいいわ」

 

 しばらくの沈黙。何も話すことがないので靴紐を結び直したりしていた俺とセシル。

 

 作戦会議は『ブラックテトラ』が『天馬は永遠に』に五点差をつけた辺りから始めてすでに終わっている。休憩は各自でとっているのでバダップとエスカバは近くにいない。

 

 そうして一分ほど沈黙していたところでその沈黙は突然破られた。

 

「はじめまして。古芝セシルさん」

 

 靴紐を結んでいる途中でかけられた誰かの声。顔をあげるとそこにはあの三番ビブスがいた。

 

「…誰?あな「ちょっと待って!いなりが入ってないやん!」」

 

 セシルを止める。俺は三番ビブスをじろりと見る。

 

「お前…何者だ?何でセシルの名前を知ってる?」

 

「…何か問題でも?」

 

「初対面の人間のフルネームを知ってるって十分問題だと思うが?」

 

「古芝さんの知り合いからの使い…と言えば?」

 

 三番ビブスはポケットからあるものを取りだし俺達に見せる。

 

 それは…目の装飾が施されたネックレスだった。

 

「これは…『千年タウク』といいます。私の兄…神縛(かみしばり)悠外(ゆうと)の持ち物であり、私は彼の使いです」

 

 

 

 

「そういう意味では…()()()()()()()。古芝セシルさん」

 

 

 

 

 

 セシルを見る。彼女は誰がどう見ても動揺しているようにしか見えなかった。神縛悠外、千年タウクという首飾りがその動揺のきっかけだということはすぐに分かった。

 

 それでも何とか、その動揺を悟られないように必死に彼女は振る舞っていた。

 

「…何の用?私も貴方も次の決勝のために忙しいはずじゃない?」

 

「こちらはもう済んでますよ。なぜなら…」

 

「「タウクの力で未来が見えるから」」

 

 三番ビブスとセシルが同時に言った。

 

 …よく分からんがあの『千年タウク』とかいう物が未来を見ることが出来る道具ということか?

 

 …オカルトじゃねえか!そんな非ィ科学的なこと、信用できるか!?

 

 三番ビブスはセシルが自分と同じことを言ったことに驚いたのか、目を見開いた。

 

「よく分かっていますね。その通りです。タウクの未来は絶対です。どれだけ策を練ろうが未来は変えられない」

 

「おい。ペラペラ喋ってるところ悪いが名乗れよ」

 

 セシルの動揺が少しずつ大きくなってくるのが見てとれたので三番ビブスとセシルの会話を止める。

 

「これは失礼。私の名前は神縛(かみしばり)悠莉(ゆうり)と申します」

 

 俺の言葉にペコリと深くお辞儀をする神縛。お辞儀をした彼女の髪が地面につくが気にしてはいないようだ。

 

「俺の名前は黒野(くろの)(れい)だ」

 

「そうですか…。黒野さん。SBF(サッカーバトルフロンティア)本選出場おめでとうございます」

 

「まだ決勝だぞ?まだ俺達は本選出場権を手にしてはいないぜ」

 

「いえ、手にしてますよ。私の兄がタウクによって導いた予言は絶対です。次の試合は貴方達が2―1で勝ちますから」

 

「…お前、兄に負けると言われて悔しくないのか?予言されたからって諦めるのかよ?」

 

 俺の言葉に神縛はキョトンとした顔で返した。

 

「…ええ。当然ですよ」

 

 自分達の負けを彼女は宣言していた。

 

「兄の予言は絶対です。タウクの導きは絶対です。私のチームはそれに従って貴方のチームに負けます」

 

「…ふざけんなよ」

 

 俺は神縛の胸ぐらを掴んでいた。だが、神縛は全く恐れる様子がない。そこに胸ぐらを掴んだ腕をセシルが掴む。

 

 その手は震えていた。

 

「止めなさい」

 

「…」

 

「もう一度言うわ。止めなさい。出場停止をくらいたいの?」

 

「…分かった」

 

 手をはなす。神縛はポケットから四つ折りにされた紙を俺に握らせた。

 

「これは兄の予言です。そんなに予言を無効にしたいのならばどうぞお読みください。では、ごきげんよう」

 

 そうして神縛は去っていった。

 

 神縛がギャラリー達の中に消えるとすぐセシルは糸の切れたマリオネットのようにその場にうずくまる。

 

「大丈夫か!?」

 

「…大丈夫」

 

 しかし、立ち上がったセシルの顔色は悪かった。

 

「なあ…あいつって…?それにあのネックレスは?」

 

「…あとで説明するわ。それと…注意しなさい。次の試合は超強敵よ。おそらく、ここがゲームの世界だとすれば…」

 

「だとすれば?」

 

「彼女は…ラスボスの使いかもしれないから」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 決勝が始まる。俺達はバダップとエスカバ、それから御影さんと合流する。

 

 セシルとあの後、予言のことをバダップ達には伝えないということを約束した。セシルはどうやら先程のことを他の人にむやみに伝えられたくないらしい。

 

 約束しなくてもバダップ達には言わなかったが。いきなり予言とか言われても頭が追いつかないはずだ。事実、転生というとんでもないことを体験した俺でも少し混乱してる。そうなれば、バダップ達はより混乱するはずで、そんな状態では試合はできない。

 

 ちなみに神縛が渡した予言の紙は気味が悪くて開けなかった。

 

「古芝様、顔色が悪いですが大丈夫ですか?」

 

「…大丈夫です」

 

 隣にいるバダップがそっと俺に耳打ちする。

 

「セシルと一緒にいたみたいだが…何かあったのか?」

 

「さあな。知らないよ」

 

 今、神縛のことを言って下手に力ませたらまずい。そもそも神縛がデタラメを言って俺達のコンディションを落とそうとしている可能性もある。

 

「皆様、くれぐれも怪我だけは無いよう、お願いいたします」

 

 御影さんは心配そうに俺達を見る。まあ、グラファが異常なだけで流石に今回は怪我することはないだろう。

 

『さぁ!決勝まで来たサッカーマニアども!コートに入って来なぁ!』

 

 DJ-YOU(ディージェイユー)の声が会場に響き渡る。俺達…チーム『オーガ』と神縛のチーム『ブラックテトラ』がコートに入る。

 

オーガ

 

バダップ・スリード

古芝セシル

黒野零

エスカ・バメル☆

 

ブラックテトラ

 

神縛悠莉

古藤カズマ

アレキサンダー・デミータ

グリム・リッパー☆

 

 俺と神縛がコートの真ん中に行く。センターサークルではDJ-YOUがコインとボールを持って待っている。

 

『どっちにする?』

 

「表で」

 

「じゃあ私は裏にします」

 

 ピンという音とともにコインが中を舞う。それを受け止めるDJ-YOU。開かれた手のひらには裏側を上にしたコインがあった。

 

「ボールをもらいます」

 

『よし!ブラックテトラのボールから始めるぜ!』

 

 ボールをセンターサークルの中心に置いてDJ-YOUはフィールドから離れる。

 

「どうですか?」

 

「…?」

 

「これがタウクの導きです。確定した未来は変えられません」

 

「そうか。じゃあこの試合で打ち破ってやるよ。確定した未来ってやつをな」

 

 俺はセンターサークルから離れてポジションにつく。神縛はアレキサンダーを呼んでセンターサークルのボールへ近づく。

 

『SBF本選出場をかけた決勝!開始!』

 

 それと同時にビーッというタイマーの音が会場中に響き渡る。

 

 アレキサンダーがボールを神縛へパス。そして

 

「はぁ!」

 

 神縛はシュートを撃った。センターサークルから

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 自陣のゴールに向かって。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 キーパーのグリムはそのシュートを止めるそぶりも見せなかった。

 

『ゴ、ゴ、ゴ、ゴール!なんということだ!開始二秒でゴール!し、しかもまさかのオウンゴールだぁ!どういうことだぁ!?』

 

「てめえ!今のわざとだろ!?」

 

 俺…ではなくエスカバが神縛に向かって走ってきた。そして、俺がやったように胸ぐらを掴む。

 

 エスカバがぶちギレるの初めて見た…。すごい怖い。

 

 たが、神縛は平然としている。

 

「…何か問題でも?」

 

「おおありだ!俺は真面目に戦わない奴が世界で一番大っ嫌いなんだ!」

 

「真面目にやってますよ?真面目に()()()()()しているんです」

 

「ああ!?ふざけるなよ!やる気がねえなら消え失せろ!」

 

 やべぇよやべぇよ…朝飯食ったから…(意味不明)。

 

 今にもエスカバは神縛に殴りかかりそうだ。そんなやべぇ状況を止めたのはバダップだった。

 

「止めろ。エスカバ」

 

「っ!だってよ!あいつら「ここで暴力をふるえば俺達の負けだ。それに、周りを見てみろ」…周り?」

 

 周りのギャラリー達がギラギラした目で神縛達、『ブラックテトラ』のメンバーを睨みつけていた。

 

「今、会場に奴等の味方はいない。ここで暴力をふってもなにも変わらないぞ」

 

「…悪い」

 

 ゴール前へ戻っていくエスカバ。

 

 俺は神縛の元に向かっていく。

 

「予言のためか?今のオウンゴールは」

 

「ええ。全てはタウクのためですから」

 

「俺は未来を変える」

 

「どうぞご自由に」

 

 俺はポジションにつく。

 

 未来を変える戦いが始まっていた。




千年タウクとは
『遊戯王』に登場する、千年アイテムと呼ばれる七つのアイテムのうちの一つ。
千年アイテムは選ばれし者のみが着用できる伝説のアイテムである。
千年タウクの所有者には未来を見通す能力が与えられるという。

オリジナル選手名鑑

神縛(かみしばり)悠莉(ゆうり) 林属性 MF(ミッドフィルダー)

千年タウクの従者。タウクの示す未来に従うゲームメーカー。


???
???
???
???


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第十三話:ちゃんとサッカーしろ~?(VSブラックテトラ)

お久しぶりです。
色々と忙しくなって投稿が遅れました。
出来るだけ、一週間に一回は投稿しようと頑張ります。
それでは、数あるイナズマイレブンの二次創作の中でこの作品を読んでくれる貴方に感謝を。
本編スタートです。


 森の中にその少年はいた。

 

 サッカーのユニフォーム…キーパーのものだろう…にグローブ、左手にボールを持った少年は一本の大木を見上げていた。

 

 いや、それは木というには人工物のような形をしていた。十個の様々な色の球体が木の実のようにその木にはついていた。

 

 少年…円堂守の姿をした神はじっとその大樹…生命の樹を見上げていた。

 

「…さあ、どうなるか。転生者達が勝つか、それとも…」

 

 

 

 

 

 

「ルシフェルが勝つか、か?」

 

 

 

 

 

 

 彼しかいなかったはずの森の中に別の男声が混じった。

 

 声の方向には真っ白なブカブカの服を着た少年がいた。美しい顔をしており、その黒髪が長かったら少女と見間違えそうになるほどの美貌だった。

 

「…ああ、君か。トール君」

 

「君か、じゃねえよ。クソ野郎」

 

 トールと呼ばれた少年…いや、神はもう一人の神との間の十メートルほどの距離を一瞬で埋める。

 

 両者の距離、僅か数センチ、トールが美しい顔をしているのでこの現場を見た者は下手をすればカップルがキスをしようとしているように見えたかもしれない。

 

 だが、その現場に立てばそれが違うということがすぐに分かる。トールから発せられるとんでもないレベルの殺気がそれを否定するからだ。

 

「何の用かな?そんなに僕とくっつきたいのかい?」

 

「…俺が何でここに来たのかまだ分からねえのか?」

 

「…さっぱりだ」

 

 神は肩をすくめるとトールから距離をとる。そのまま生命の樹の幹に背中を預けた。

 

「じゃあヒントだ…千年アイテム」

 

「…なにそれ?」

 

 ゴッという何かを固いものにすざましいいきおいで叩きつけたかのような音が森の中に響く。

 

 トールが神へと一瞬で近づいて右ストレートを顔面の横すれすれの生命の樹の幹に叩き込んだ音だった。

 

「…」

 

「…次のヒントだ。宿業(しゅくごう)

 

 しばらくの沈黙。その沈黙を相手からの回答と受け取ったトールは拳を再び引いていく。二度目の右ストレートを放つために。

 

 しかし、その拳は神の一言によって止まることとなる。

 

「…どこまで知ってる?」

 

「それは…自白と受け取っていいのか?」

 

 トールは神に質問した。それに神は答える。

 

「うん。自白だよ」

 

 拳が放たれた。グチャッという音とともに神の頭がザクロの実が弾けるように破裂し血の撒き散らす。

 

 鮮血を浴びたサッカーボールがポトリと地面に落ちた。

 

「自業自得だ。死ね」

 

「死んではいないけどね。僕の本体は君達では絶対に届かない所にあるから」

 

 トールの後ろに神が再び姿を現した。先程と全く同じ姿だ。オレンジ色のバンダナを頭に巻いてサッカーボールを持っている。

 

「…悪趣味な奴だな」

 

「よく言われるよ。で、どうやって気づいたんだい?真実に」

 

「じゃあ話してやるよ。てめえが…()()()()()()()()()()()()()って気づいた経緯をな」

 

 そして、トールは語りだす。隠された衝撃の真実を。

 

 それを聞いたのは神とトール…たった二人だけなのだが。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 SBF(サッカーバトルフロンティア)予選第二十八会場は…荒れていた。

 

『ま、またもオウンゴール!《ブラックテトラ》、更なる一点を《オーガ》に与えてしまったぁ!』

 

 二回目のオウンゴール。得点板が2―0を表示する。

 

 頭にきますよ!あいつら予言とやらのためならオウンゴールも平気でするのかよ!

 

「ふざけんなよ!」

 

「お前らみたいな奴がSBFにでるんじゃねーよ!!」

 

「帰れ!」

 

「ちゃんとサッカーしろ~?」

 

 ギャラリー達も我慢の限界なのか野次を飛ばしてくる者も現れ始めている。

 

 しかし、神縛(かみしばり)達、『ブラックテトラ』のメンバーは平静とした態度でボールをセンターサークルに置く。

 

 神縛が話していたことを思い出す。

 

『次の試合は貴方達が2―1で勝ちますから』

 

 あいつらが予言を再現しようとするなら、一点を何とかして取りに来るはずだ。

 

「守りきれれば、予言から逃れられる…」

 

 別に予言など信じてはいないがセシルがあれほど動揺するからには何かある…はずだ。警戒するべきだろう。

 

 だが…もうひとつ予言を回避する方法がある。

 

 三点目だ。三点目をとれば、2―1の予言からは逃げられる。サッカーは加点方式、減点はない。

 

 ビーッという音とともに試合再開。

 

 神縛がアレクサンダーにボールをパス。するとアレクサンダーはそのボールを自分の胸元辺りの高さまでボールを軽く蹴りあげる。

 

 そして、ボールに両手をかざし…

 

「ハァッ!」

 

 両手からオレンジ色のエネルギーがボールに注入。ボールはそのまま空中にとどまる。そのボールをアレクサンダーはゴールへ向かって蹴った。

 

「気合い玉改!」

 

 エネルギー弾がゴールへ向かって一直線に進んでいく。

 

 いきなりのセンターサークルからのシュート。サッカーバトルのコートは実際の試合のコートの大きさよりは小さいがそれでもセンターサークルからゴールまではそこそこ距離がある。

 

 だからこそシュートはないと考えていた。不意をつかれた。

 

 しかもこちらにはキーパーがいない。いつも以上にゴールできる確率は上がっている。

 

 俺とバダップの間を抜けるボール。

 

「クリスタルウォール改!」

 

 そこにセシルがシュートブロックをかける。水晶の壁が気合い玉の威力を少しずつ殺していく。

 

 しかし、少しずつその壁に亀裂が入っていく。

 

 そして、ついに均衡が崩れる。

 

「くっ!…きゃあああ!」

 

 砕け散る水晶の壁。しかし、気合い玉のエネルギーの大半がそこに使われたようで、ボールに先程までの威力はない。

 

 そのままボールはエスカバがキャッチする。

 

『ついに…ついに《ブラックテトラ》のシュート炸裂!ギリギリで止めたがなんという威力だ!』

 

 つい先程までヤジを飛ばしていたギャラリー達もおおっとどよめく。

 

 …正直驚いた。グラファのシュートを防いだセシルのブロック技を吹き飛ばす。並大抵のプレイヤーなら出来ないはず。

 

「なかなかやりますね。まさか防がれるとは…こちらも本気でいったかいがあります」

 

 神縛が俺に向かってそう言った。

 

「…なるほどな」

 

「?」

 

「お前は予言の能力、ないんだな?」

 

 神縛は表情を変えない。しかし、その瞳は一瞬驚きの色を見せた。

 

「…」

 

「お前が本当に未来を見ているなら俺達はもうとっくに失点してる。未来を知ってるならこちらがどうディフェンスするのか手に取るように分かるはずだからな。でも俺達はお前達の攻めを止めれた。予言を行ってんのは兄でお前は大体の予言の内容を聞いてるに過ぎない…そうだろ?」

 

 バダップがブラックテトラのゴールに向かって疾走する。

 

 神縛はそれを横目に見ながら言った。

 

「…いいんですか?友達が攻めようとしているのに加勢しなくて」

 

「いくぞ!バダップ!」

 

 エスカバが叫んでボールを蹴った。俺はエスカバに向けていた視線を神縛に戻す。

 

「お前こそいいのか?守りに行かなくて」

 

「…」

 

 神縛は飛んでいくボールをしばらく見ていたが肩をすくめた。

 

「その台詞そっくり貴方に返しますよ。見てください。キーパーが緊張してたのか強く蹴りすぎたみたいですね。あれならコート周りのギャラリー達の頭上も余裕で越えますよ。私達のスローインで試合再開です」

 

 俺は神縛の肩越しに相手コートの様子を見る。バダップはセンターサークルとゴールの中間辺りにいる。

 

 アレクサンダー、古藤の二人、ブラックテトラのディフェンスはボールは外に出るものだと考え足を止めている。

 

「…やっぱりな」

 

 そう呟いた俺に怪訝な顔をする神縛。

 

「お前の兄貴に伝えとけ。俺は…いや、俺達は予言に勝ったってな」

 

 バダップが跳んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ブラックテトラのメンバーの中でも古藤カズマは特に()()を重視する。

 

 勉強、運動、人間関係の構築、人生…全てのものには完全な正解が存在する。

 

 サッカーにも然り。故に彼はタウクの()()には必ず従う。タウクは絶対の正解。あれは絶対に正解を導く。

 

 だからこそ2―1で負けなければならない…という()()()()()()()()()()()()()

 

 だからこそ、ここは死守…しなければならない。

 

 しかし、キーパーが投げたボールは自陣のゴールすら越えるほどの大オーバー。

 

 アレクサンダーを見る。彼の足は止まっている。このままボールは外に出てこちらボールになると考えているのだろう。

 

 そう。普通の人間ならここで足を止める。外に出たボールを大会スタッフが拾ってこちらに渡す。そのボールをキーパーのグリムが蹴る。それが完全なる正解だ。

 

 …正解の…はずだ。

 

(何で…何でこんなに胸騒ぎがするんだ?)

 

 自陣まで入り込んでいる選手は一人だけ。仮にボールが落ちてくるとしてもこちらは二人いる。

 

 完全に守れているはず。

 

 その時、風が吹いた。風は自陣から相手のコートへと吹いている。

 

(もし…)

 

 もし、上空にも同じ向きで風が吹いていたら?

 

 空を飛ぶボールを見る。

 

 そして彼は…

 

「アレエエェク!」

 

 チームメートのアレクサンダー・デミータの通称を叫ぶ、と同時に相手の選手が空へと跳ぶ。

 

 ボールは…もろに風の影響を受けていた。これでもかというくらいに。

 

(…あれなら僕達のコートに落ちるじゃないか!)

 

 本来ならボールの中でもそこそこ重量があるサッカーボールがもろに影響を…まあ、多少は風の影響は受けるが…あれほど受けることはない。だが、ボールに逆回転かければボールは風の影響を強く受ける。

 

 さらに逆回転がかかったボールは滞空時間が通常に比べて長い。それを考慮しての完璧なジャンプタイミング。すべては計算されていたのだ。

 

(あの相手の技は分かっている!空中で放つジャイロ回転の『デススピアー』!グリムでは止めるのが難しい!)

 

 こちらもジャンプしたいところだが相手が先にジャンプした以上、こちらが追い付くことは出来ない。ただし、それは普通にジャンプした場合だ。

 

「アレエエェク!ホークショットだあぁぁぁ!俺を投げろおぉぉぉ!」

 

 ホークショット。体格の小さい者が体格の大きい選手に投げられることでその反動を利用してボールに一気に近づく。もう相手を止めるにはこれしかなかった。

 

 幸いにもアレクサンダーも相手の狙いに気づいたらしい。古藤の伸ばした手を掴みとりハンマー投げの要領で大空へと放り投げる。

 

(もうすぐ追いつく…いや、間に合わない!?いや、ボールを両足で挟み込む時にボールを蹴りあげれば…)

 

 必殺技…デススピアーには四段階のステップがある。①空中のボールに到達。②片足を振り上げる。③ボールを両足で挟み込む。④回転をかける。この三段階のステップの中で③のステップがデススピアーの弱点。

 

 この瞬間ほど相手選手が無防備な瞬間はない。

 

 バダップまで残り五メートル。バダップ、ボールの所へ到達。

 

 残り三メートル。バダップ、片足を振り上げる。

 

(間に合え!間に合え!間に合え間に合え!間に合え間に合え間に合え間に合え間に合え間に合え間に合え間に合え間に合え間に合え間に合え間に合え間に合ええええぇぇぇぇ!)

 

 残り零メートル。振り上げられた足がまさに振り下ろされる瞬間だった。

 

 間に合った。しかし、そこにボールは無かった。

 

(…は?)

 

 バダップがボールにかかとおとしをかましたと分かったのはその0.2秒後である。

 

「…え?「感謝する」…!!」

 

 バダップが古藤に話しかける。

 

「ここまでお前達が来ることを…俺は…読んでいた。()()()()()()()()()()()()

 

「俺達を…信頼…だと…?」

 

(落ち着け!古藤カズマ!ハッタリだ!デススピアーを撃てなかったことへの負け惜しみだ!)

 

 古藤は必死に自分に言い聞かせようとする。しかし、バダップの目は嘘をついてるようにも見えなくて。

 

 そのまま二人は地上に降り立つ。ボールは地上にも無かった。

 

「アレク!ボールはどこ「クレイモア!」…!ぐああああああ!」

 

 足元から無数の針がアレクサンダーと古藤を襲う。その針の一本一本の模様は馴染みのあるサッカーボールの模様だった。

 

 クレイモア。ボールをかかとおとしで地中に埋め込み。合図とともに無数の針へと変形させる…()()()()()

 

 バダップの狙いは無理矢理シュートを撃つことではなく、確実にディフェンス二人を除去すること。

 

 もう一度言うがすべては計算されていたのだ。

 

 完全にバダップがフリーとなる。

 

「…終わりだ」

 

 ボールを蹴りあげる。そして、空中へ。片足を大きく振り上げる。そして、ボールを挟み、強力な回転をかける。

 

「デス…スピアーV2!」 

 

 ボールは赤黒い一本の槍へと姿を変え、キュイイイインというドリルのような音をたててゴールへ。

 

「くっ!デスサイズスラッシャー!」

 

 キーパー、グリムの右手が鎌の形をしたどす黒いオーラに包まれる。そして、その鎌は死の槍へと突きつけられる。

 

 ギイイイイイイイインという互いを削り合う不快な音が会場中に響き渡る。

 

 しかし、冥府の鎌では死の槍には対抗できなかった。パリィィィンという音とともに鎌が砕け散る。

 

 デススピアーがゴールに突き刺さる。

 

 予言が崩れた瞬間だった。




オリジナル必殺技

気合い玉 山属性 威力130(基準としてデススピアーが140)

自身の気合いをボールに注入しボールを一つのエネルギー弾に変えて射出する技。

デスサイズスラッシャー 林属性 威力120(基準としてキラーブレードが30)

キラーブレードの強化版。オーラの鎌がボールを切断する。

オリジナル選手名鑑

アレクサンダー・デミータ MF(ミッドフィルダー)

タウクの従者。アメフトで培った圧倒的はパワーは誰にも止められない。


気合い玉
???
ザ・ウォール
ザ・マウンテン

古藤カズマ MF(ミッドフィルダー)

タウクの従者。鋭い洞察力を持ち、相手チームの分析を担当する。


ホークショット
???
???
???


目次 感想へのリンク しおりを挟む




評価する
一言
0文字 ~500文字
※目安 0:10の真逆 5:普通 10:(このサイトで)これ以上素晴らしい作品とは出会えない。
※評価値0,10は一言の入力が必須です。また、それぞれ11個以上は投票できません。
評価する前に
評価する際のガイドライン
に違反していないか確認して下さい。