GOD EATER ―深紅の復讐者― (片桐 奏斗)
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新たな神喰いの序章


GE2が発売され、メインキャラのストーリー進行度が88までいったので、記念に二次創作をしてました。(キュウビ感応種、強かった……。初見的な意味で)
その内容が意外に良いんじゃないかと自分で思っちゃったので、晒し上げと言わんばかりに公開する事にしました。




 

「……チッ、こっちにはいないか」

 

 贖罪(しょくざい)の街――。

 この世界に突然と現れたアラガミによって食料や住居、家族などが奪われた者達が静かに身を寄せ合った場所。

 今は姿一つ見つける事は出来ないが、昔は人が多くいて賑やかだったのだろう。しかし、今となっては荒廃してしまい栄えていた様子は見る影もない。

 

 その街の一角で俺こと『鳴神(なるかみ) ハヤト』は愚痴る。

 右腕には男にしては細めな腕に似合わない程、大きく真っ赤な腕輪が付けれれていた。そして、右手には身の丈の大きさのある凶器――『神機(じんき)』が握り締められている。

 灰色の刀身を持ち、全体的に小さく、先端が少し丸みを帯びているナイフのような剣に、もう少し根元の方へ視線を送ると、銃口のような物が柄の方にはあった。

 『神機』を扱う人間にはおおよそ三種類の形式がある。

 一つ目は銃形態(ガンフォーム)のみを使う遠距離タイプ。

 遠距離を専門し、遠くからの奇襲や味方のフォローを生業とするスナイパー。連射を行い怒涛の如く銃撃を行う近~中距離がモットーなアサルト。そして、一撃に威力を集め、一気に爆破させる言わば一発逆転を狙う爆発力メインなブラスト。これらが『神機』の銃形態となる。

 二つ目は剣形態(ブレードフォーム)のみを使う近距離タイプ。

 素早い動きで敵を翻弄して、隙を作り出すアタッカー、ショート。長い刀身を華麗に扱いヒットアンドアウェイ戦法を得意とするロング。隙を見て全力で剣を振るい、重い一撃に全てを賭けるバスター。が、ブレードの種類だ。ちなみに剣形態(ブレードフォーム)に関してのみシールドを展開する事が出来る。

 

 そして、最後の三つ目は――。

 

『ハヤト、そっちに行ったぞ。挟み込むぞ』

「……了解です」

 

 突如入った無線により、俺ら『ゴッドイーター』の敵であるアラガミがこちらに向かって来る事を理解した俺は、一も二もなくもう一人の『ゴッドイーター』が偵察に向かった場所へと急ぐ。

 

「力を理解した新型の力、舐めるなよ。荒ぶる神々よ」

 

 剣形態(ブレードフォーム)にしていた『神機』を銃形態(ガンフォーム)に変更する。

 これが新型神機使いのみが許された機能『神機変形(フォームチェンジ)』。銃と剣を戦況に応じて使い分け、アラガミを殲滅する能力だ。

 目前に現れた鳥人間のようなアラガミ――『シユウ』に向かって、神機に貯めていたオラクルを全部、銃弾として発射させる。元々、もう一人の『ゴッドイーター』に弱らせられていたのだろう。全弾打ち切ったと同時に、奴は怯んだ。

 

(今だっ!)

 

 その隙にシユウの背中を取り、シユウの背中を蹴り上空へ飛翔する。

 

「これが、新しい未来を作る鍵だっ!!」

 

 武器単体の威力に、重力による効果が追加され、喰らったアラガミにすれば大ダメージになっただろう。

 俺の攻撃を受けたシユウは、苦しい断末魔を挙げ、絶命した。

 

 

 ◇

 

 

 

「良くやったな。新入り」

 

 俺がシユウを倒し、コアを捕食している最中に現れた人がいた。

 彼こそがここまでシユウを追い詰めてくれて、尚且つ、俺と今回のミッションを共にした第一部隊の隊長、『雨宮(あまみや)リンドウ』さんだ。

 極東支部最古参のゴッドイーターで、名実共にあり、極東支部でも人気の高い人物。そして、俺の憧れのゴッドイーターでもある。

 

「いえ、リンドウ隊長が弱らせてくれたお陰ですよ」

「謙遜するなって。最後の攻撃、あれは二~三年経ったゴッドイーターですら実行出来る奴は少ないからよ」

 

 幾ら怯んでいるとはいえ、反撃を喰らわないようにとゴッドイーター諸君は、ビクビクしながら戦っているからな。と付け加えるように言い放つリンドウさん。

 それもそうだ。

 俺達、ゴッドイーターはアラガミに対抗しうる手段――『神機』は持っていようとも人間だ。アラガミの一撃を受けたら、それだけで絶命してしまう可能性もある。無闇矢鱈(むやみやたら)と突っ込む猪武者(いのししむしゃ)はまずいないだろう。

 

「……そうですか」

「あぁ、そうだ。それとそうだな。俺の事は、気軽にリンドウと呼べ」

「はいっ?」

 

 いきなり話題の方向性を変えられた俺は、リンドウさんの言葉に驚愕する。

 

「いや、だってよ。こんな俺が隊長って呼ばれるのはなんかむず痒くてな」

 

 やっぱりリンドウさんは変わった人だな。

 最初に彼と会ってミッションに同行させて貰った際に言われた命令は何だったっけな。

 ……あぁ、そうだ。「命令は三つ。死ぬな。死にそうになったら逃げろ。そんで隠れろ。運が良ければ隙を突いてぶっ殺せ」だったかな。

 

「……わかりましたよ。これでサクヤさんとかにドヤされてもリンドウさんのせいにしますからね」

 

 後に聞いた話だが、この時の俺は年相応な笑顔をしていたらしい。

 たった一つの要因があるだけで、人は脆く死んでしまうこんな残酷な世界。早くこんな世界が終わるように俺はこの世から一匹残らずアラガミを殺し尽くしてやる。

 それが俺の目の前で死んでいった一人の青年――エリックと、兄が死んだ事を認められなくて泣きじゃくった一人の少女エリナを見て独自で決意した事だ。

 

 

 こんなクソッタレな世界に終止符を打つために、俺は今日も戦うよ。

 ――己の誇りと命を賭けて。

 

 




ちなみに自分が扱う武器の種類は、この主人公と同じ組み合わせです。


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第1話 新人は新型神機使い

 

「なぁ、ハヤト!! 今日、極東支部に新人が来るって知ってるか!?」

「そうなのか? 別に新人だろうがベテランだろうが、人手が増えるなら良いんだけど」

「個人的な興味は沸かないのか? お前は」

 

 俺の前にしゃしゃり出て、はしゃいでいるのは『藤木(ふじき)コウタ』。

 ほぼ同時期に神機使いとして適合した言わば同期みたいなものだけども、俺の方が一週間は早かったとだけ言っておこう。

 ちなみにここは極東支部――通称『アナグラ』だ。

 ミッションを受注する事が出来るエントランスに俺達は今いるが、その他には新人区、ベテラン区、役員区画、ラボラトリなどの構成となっており、エレベーターで移動が可能だ。

 

 ――まぁ、それはさておき、本当に誰が来ようが知ったこっちゃないんだよな。俺としては戦力が増えてくれればそれだけで。

 俺の目標であるアラガミを殺すまでの手順がより一層、簡単になるだけの事。

 

「聞いて驚くなよ! なんとまたまた新型なんだって!!」

「……ふーん。それじゃあ、戦力にはなりそうだね」

 

 新型っていうだけで、使い物になるかならないかはわからないけれどもね。旧型が悪いってわけじゃないし、経験と機能では、経験の方が圧倒的に戦力になる場合があるからな。

 第一部隊で言うのであれば、隊長であるリンドウさんは前に言ったから今回は放置するとして、『(たちばな) サクヤ』さんは旧型のスナイパー使いで、遠くからレーザーを撃つと共に、ピンチに陥った味方に回復弾を頻繁に撃ってくれるので助かっている。次に『ソーマ・シックザール』さん。彼もまた旧型ではあるが、バスターの使い手で、リンドウさんと同じくらいの実力を持っている。まぁ、彼には悪い噂が付き纏っているが、俺には関係のない事だ。

 この通り、旧型でも経験があるゴッドイーター達は強く戦力になる。

 ん? 同じ旧型のコウタ?

 

(え、そんな奴いたっけ? ってのは、冗談だけど)

 

 あいつはまだ俺と同じで圧倒的な経験不足が否めないね。

 もっと先輩達と一緒にミッションへ赴き、努力を怠らなければきっと彼らのような高みに追い付けるだろうさ。

 

 

 

「……よし、第一部隊は全員集まったな」

 

 教官である『雨宮(あまみや) ツバキ』さんが第一部隊の面々を見渡して言った。

 苗字の時点で予想が付くと思うが、この人はリンドウさんの実の姉でもある。裏では鬼教官という称号まで欲しいままにしてる教官だ。

 

 その教官の前で第一部隊の面々が整列をしているわけだが、エントランスの出撃ゲート前で行う事は決してないと思うんですよね。

 今から出撃する第二部隊や第三部隊がいたらどうするんだと言う話だよ。まぁ、彼らは防衛班に当てられているから出撃はないに越した事はないんだがな。

 

「今から新しい仲間を紹介する」

 

 ツバキ教官の後ろにいる面影は一人。それもぶっちゃけ美少女だった。

 肩下ぐらいで切り揃えられている白銀の髪と、大きく開かれた青色の瞳。ヘソ出しの服――ちなみにファスナーは全部締める事なく三分の一しか締めていない。もう既に腹の辺りまではチラッと見えてしまっているのだが、この様子だと着けてなさそうだけど、本当に戦えるのかな。邪魔になると思うんだけど。最も俺にはないから苦労とかしてるにしても理解出来ないけど。神機を用いて戦いを行う上で動きやすい格好って事でなのか知らないが、彼女が着ているスカートも裾が短い。それをカバーするためのタイツやブーツと考えるべきかな。

 まぁ、何にせよ。きちんと戦ってくれるのならどうでも良い。

 

「本日付けでこちらに配属になりました、アリサ・イリニーチナ・アミエーラと申します」

「…………」

「女の子ならいつでも大歓迎だよ」

 

 俺らが何にも喋らなかったにも関わらず空気を読まないで定評があるコウタがチャラ男のような発言をハイテンションな身振り手振りと合わせて放っていた。

 だが……。

 

「……よくそんな浮ついた考えで、今まで生き残れてきましたね」

 

 心底侮辱しているような冷たい視線をコウタへ向ける。

 超美少女とも言える女の子から冷ややかな視線を受けたコウタは、思わず顔を顔が引き攣っていた。

 

「彼女は実戦こそ少ないが、演習では優秀な成績を残している。追い抜かれないように気を引き締めるんだな」

「……了解です」

 

 すっかり意気消沈した様子のコウタが、ツバキさんからの厳しい言葉にガックリと肩を落としながら返事をする。

 

「……実戦で優秀でなければ例外なく死ぬがな」

 

 体勢を崩しながら小さく呟く。

 少なくとも俺は数週間しかゴッドイーター生活を送っていないが、浮かれた奴、演習では優秀だったという奴、何人も死んだのを見たり聞いたりした。

 

「何か言ったか? ハヤト」

「いえ、何でもありませんよ。教官殿」

 

 聞かせるつもりは更々なかったのだが、思ってた以上に声が大きかったようだ。

 隣にいたコウタならともかくとして、距離がある新しいメンバーやツバキさんのところまで声が届くとは思わなかった。

 俺の小さな言葉すらも聞き逃さなかったアミエーラは、本音の混じった呟きを聞き、顔を顰めていた。演習で優秀な成績を残しているが故に慢心が全くないというわけではなく、少なからずあるのだろう。そのプライドを侮辱しているような言葉を聞き多少なりとイラついた感じかな。

 

「アリサ、お前は暫くリンドウの下に付け。そして、ハヤト」

「はい」

「お前はこちらではアリサよりも先輩の新型だ。それに、新人の中では一番の実績も残している。しっかりと面倒を見てやるんだ、いいな?」

 

 了解です。と短く言葉を返しつつ、こくんと頷く。

 

「よろしい。では、リンドウ、書類の引き継ぎがあるから、私と一緒に来い。早速だが、アリサにはリンドウとハヤトが行くミッションに同行してもらうぞ?」

「……了解しました」

「よし。じゃあ、新入り。わりぃがミッションの受注をしておいてくれ。俺もこっちの事が終わったらすぐ戻る。戻るまでここで待機しててくれ」

 

 そう言って、リンドウさんとツバキさんはこの場から去っていく。

 続いて用事がなくなったサクヤさん、ソーマさんは自室へ移動するためのエレベーターの乗り、戻っていった。

 二人のように自室へ戻る事を選ばなかったコウタは、先程の失敗など気にも止めていないのか早速アリサに話し掛けていた。ゴッドイーターとして仕事上の会話ではなくて、個人的なプライベートな会話なら成功するとでも思っているのだろうか。このコウタ(バカ)は……。

 次からこいつの事を俺は愛すべき馬鹿と言おうかな。

 

「……すみません。ちょっと良いですか?」

「ん?」

 

 そんな事もいざ知らず、アリサは自身に話し掛けてくるコウタを華麗に無視し、俺に声を掛けてきた。

 新型同士で仲良くしろ。と暗に伝えてきたツバキさんの指示を律儀に守っているのかな。

 

「別に良いけど。どうした?」

「……あなたが、この極東支部で唯一の新型ですね?」

「まぁ、現在(いま)のところはそうなるな。鳴神ハヤトだ。ハヤトで良いよ」

「ええ、よろしくお願いしますね。ハヤトさん。私の事もアリサで良いです」

「よろしく、アリサ」

 

 アリサに向かって手を差し出すと、素直に握手に応じてくれた。

 外見や言動の端々にトゲがあるけども、思っていた以上に悪い奴ではなさそうだな。言うなれば薔薇の花にソックリだ。

 綺麗な花だと思って手に取ってみたら、気付かなかったトゲにグサッと刺されるけど、遠目に見ているだけや扱いをしっかりとしていればそのトゲの被害は受ける事がないってね。

 

「……あなたはやっぱり頼りになりそうですね。少なくともあの人よりは」

 

 ナンパ師並みに声を掛けてきたコウタを指差しながら言う。

 気にも掛けていないと俺的には思っていたのだが、やっぱり視界には入っていたんだな。良かったなコウタ、完全に脈がないってわけじゃなさそうだぜ。

 

「取り敢えず、身支度を済ませて十分後にここへ集合な。俺は新しい神機を受け取ってくっから」

「了解です」

 

 アリサの返事をきちんと聞いてから、俺は極東支部を誇る神機のサポートを行ってくれる整備士のところへ向かう。

 ……この時間は神機の保管所にいそうだな。

 

 

 

 





感想、誤字脱字等ありましたら是非、くださいませ。

真剣に見てくださってると作者は喜びます故に……。


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第2話 アナグラでの日常

※今更遅いですが、この作品は一部、GE2要素がありますのでご了承ください。

間違っても、ネタバレ等ではありませんので大丈夫だと思いますが。


ちなみに私はGE2、2キャラ目を作成中であります。難易度は5の途中~♪


 

「よっ、リッカ」

「あ、ハヤト君。ちょうど良かった。君の新しい神機が出来たよ」

 

 一応、支部の人間に神機整備班に所属する整備士『(くすのき) リッカ』の居場所を聞いたのだが、俺の予想通りの場所にいたな。

 彼女の父も神機の整備班で働いていて、その技術力は正式に継承されている。この極東支部がきちんとゴッドイーターとしての責務を果たせているのも(ひとえ)に裏方の人物が皆頑張ってくれているからだな。

 ちなみに彼女は五年前からここフェンリルに所属しているらしい。

 リッカ自身の年齢は一八歳で、五年前と言えば、一三歳となるわけなのだが、俺もさすがにこれは嘘だと思い、第一部隊の人達に確認を取ってみた事がある。そしたら、ものの見事に肯定されてしまい驚愕した覚えがある。

 

 そんな幼い頃から整備班のクルーとして努力してきたリッカが端末をピッピッとリズミカルに操作すると、一つのボックスがこちらに向かってきた。

 このボックスみたいなやつこそが神機を収納するケースだ。もしも、アラガミが襲撃してきた際には、人類の希望である神機だけは安全な場所へ保管するためにこのような大規模な仕掛けが作られている。

 

「これが君の新しい神機だよ」

 

 リッカが見せてくれたボックスの中に収納されている俺の神機――。

 今まで使っていた愛用の『ナイフ』は、紅色に染まっている『発熱ナイフ』へ代わり、機関銃のようなフォルムをしていた『50型機関砲』は、少し改良された『55型機関砲』へ。

 

「一番変わったのはこの盾かな」

「盾?」

「そう」

 

 外見的にはそこまで変わっていないような気がするんだけどな。

 言ってしまえば刀身の色が変わった意外は殆ど変わっていないような気さえする。姿形が変われば強くなるなんて単純な代物でない事は理解しているんだけども、目に見える変化じゃないと実感が湧かないな。

 

「この盾は『回避バックラー改』って言ってね。回避力に重点を置いた戦闘を行う人にぴったりなんだよ。ハヤト君の神機なんだけど、装甲だけが全然傷付いてなくて、盾で防御するより回避を優先して行っているのなら、こっちの方が良いんじゃないかって思って勝手に変えちゃった」

 

 てへっと言わんばかりに謝罪するリッカ。

 そんな彼女を見ても、俺は苛立つ事はなかった。彼女は怒られる事を承知で、神機を扱う人の戦闘スタイルや能力を考えた上、気を使って変更してくれた彼女を誰が怒れるかっつーの。 

「サンキューな。既にリンドウさんとアリサでミッションに行く事が決定してるから、試しで使ってみるよ」

「うん。使い勝手が悪かったら言ってね。迅速に変更してみせるから」

「おう、そんときは頼むぜ」

 

 神機のチェックを終えた俺は保管所から姿を消し、ロビーへと戻る。

 リンドウさんの用事と、アリサの準備が完璧に終わっていれば良いなと思いながら。

 

 ◇

 

 

 ロビーに着いた俺を迎え入れてくれたのは、リンドウさんでも、アリサでもなかった。

 

「あ、こんにちわ。ハヤトさん」

「おっ、ハヤト君じゃないか」

 

 防衛班に属している『台場(だいば)カノン』さんと『大森(おおもり)タツミ』さんだった。

 カノンさんはとにかくとして、タツミさんはリンドウさんと同じようにベテランの一人だ。リンドウさんが第一部隊……言わば討伐部隊の隊長だとすると、タツミさんはフェンリル極東支部の付近を彷徨(ほうこう)するアラガミの討伐又は撃退を主にしている防衛班の隊長だ。

 極東支部の内分けは、討伐部隊としてエース級のゴッドイーターを集めている第一部隊。それ以外の隊は基本的に防衛班や偵察班で、至る場所に振り分けているお陰で平穏な日々を送れているらしい。

 防衛班はアラガミの出現を報告された後、エース達が不在の場合は遠方へ討伐に行ったりするが、民間人に被害が及ばないように付近のアラガミから討伐していくのが主な仕事だ。

 偵察班は定期的に偵察に赴き、アラガミを発見した際には観察を行ったり、時には少しだけ戦い癖などを見抜くのが仕事だ。防衛班の人数が少ない場合は、そちらに回る場合もある。

 

 ちなみに彼らと一緒にミッションに行った事は数回ある。

 経験こそが何よりも大事を考えている俺にとって、部屋で腐っている時間は少なければ少ない程良いと思っているので、フラフラと色んな人をミッションに出回っているからだ。

 防衛班の皆とは友達と言ってもいい程、仲良くなった。

 特に同じ系統の武器を扱うタツミさんや、最初はそこまで仲良くなかったというか一方的に嫌われていた少年『小川(おがわ)シュン』とも仲良くなった。

 ――勿論、タツミさんと一緒にいる少女。カノンさんと仲良くないわけではない。が、やっぱり異性よりは同性と話す方が落ち着く。

 

「あ、カノンさんにタツミさん。こんにちは。お二人でデートですか?」

「で、で、デートだなんて……。わ、私なんかとタツミさんは合いません!」

「そ、そうだぜ。第一、俺はヒバリちゃん一途だって」

 

 俺の一言により、慌てて撤回をし出したカノンさんに、いつもの光景の一部と化しているようにタツミさんはヒバリさん一筋だと発言した。

 タツミさんがヒバリさんをナンパしている光景は良く目に入る。

 ここ最近では誰よりも任務に行っている数が多いと自負している俺は、何度もヒバリさんと話す事がある。その半分ぐらいは常にタツミさんが近くにいた気がするしな。

 

「タツミさーん。そんな事より、仕事してください。このままだと後輩のハヤト君に抜かれますよ」

 

 今のヒバリさんは完全にとは言わないけど、オフモードだな。

 現在進行形では、まだ仕事がないって感じだな。いつもはタツミさんの事なんかに反応しない上に、俺の事を君付けで呼んだりしないからすぐにわかった。

 

「ひっでぇ。今の一言、結構グサッと来たよ。ヒバリちゃん」

「……って事は、タツミも危機感を感じてるって事よね。この新型君に」

 

 人通りの多いロビーの一角で騒いでいたからだろうか、第三部隊と呼ばれる『偵察班』に所属している『ジーナ・ディキンソン』さんが会話に参加した。

 ジーナさんとはあまり関わりがないのだが、物静かな女性だと思っている。が、同じ班のシュンから聞いた話によると、出世や名声といったものに興味がないらしい。今時珍しい女性(ひと)なんだなと思って話を聞いていると、アラガミを撃ち抜く事を生き甲斐としているらしい。

 その件で深く突っ込んだらしいシュンが聞いた話には、アラガミとの戦いを「生と死の交流」と呼ぶなど独特な価値観を持っている。

 そして、ミッションの際には自身を軽んじる無茶な行動を取ったりするとシュンから聞いた。

 

「だってよ。ミッション達成数も多いし、ここ最近の極東支部で一番頑張っているのハヤトなんじゃないかな。って思ってるからな。俺だって、危機感ぐらい湧くさ」

「……まぁ、そうだろうね。だから、シュンも『カレル』を連れて偵察に行ったんだろうし」

「え、またあいつら偵察に行ったの?」

「ええ、あなたがヒバリにお熱な間にね」

 

 ジーナさんから止めの一撃を受けたタツミさんは、カノンさんの腕を持ち、ヒバリさんの下へと向かっていった。

 カノンさんの「ちょ、ちょっと、タツミさん!?」という困惑した声や、ヒバリさんに必至にミッションはないかと訴えるタツミさんの姿を上の休憩所のような場所から見届ける。

 

「……ありがとうね」

「へっ?」

 

 接点が殆どない女性からいきなりお礼を言われる意味がわからないと言わんばかりに、呆けた返事をしているとジーナさんが再び口を開く。

 

「あなたが来てから、皆、笑顔の頻度が多くなってきた。後、ミッションに行く回数も増えて実力も付いてきたわ。だから……」

「それは、皆さんが頑張ったからですよ。俺は特に何も」

「それでも良いのよ。私なりのお礼を言いたかっただけだから」

「……そうですか」

 

 思っていたよりも取っ付き難い人じゃなさそうだな。

 もしかして、シュンの言っていた話も全部嘘なんじゃないかなと思えるぐらい真人間な気がしてきた。

 

「えぇ、そうよ。そのお陰で、私もアラガミとの命の駆け引きを楽しむ回数が増えたのだから」

 

 ……うん。俺は何も聞かなかった。

 そして、前言撤回させてもらう。偵察班に真人間はきっと一人もいないだろう。先程、彼女が言った『カレル』という人も、絶対に一癖や二癖があるゴッドイーターに決まっている。

 何かさ、思っていた以上に極東支部のゴッドイーター達は皆、独特な特徴があり過ぎる気がする。

 

 そんな心暖かるような事を考えながら、アリサとリンドウさんがロビーへ来るのを待つ。

 防衛班や偵察班の皆と一緒に、祭りの如く騒ぐのも悪くないな。大騒ぎが大好きなコウタやシュンに話してみようかなとか思っちゃったけど、これって今から戦場に向かう人間の思う事じゃないな。なんて思いながら。

 

 





感想、誤字脱字などなど、ありましたらよろしくお願いします!


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第3話 初任務と緊張感

 

 

 ――旧市街地エリアの安全が保障されている地帯。

 

「……さて、今回のミッションはシユウの討伐だ」

 

(シユウか……。前に戦ったばかりだし、挙動の全ては完璧に頭に入っているからいけっかな)

 

 どうにもシユウのフォルムが嫌いなんだよな。

 背中に巨大な両腕羽を生やしていて、まさに鳥人間。みたいな感じの外見がさ。

 その逞しい羽を最大限に使用する滑空攻撃や、掌にある穴からエネルギー弾を放ってきたりな。滑空攻撃は予備動作があるから飛び越えたりくぐり抜けたり出来そうだけどさ、エネルギー弾の場合は予備動作が地面に掌を叩きつけて、周囲に衝撃波のようなものを起こす攻撃と似ていて紛らわしいんだよな。

 後は、遠近共に隙がほとんどないから面倒って感じかな。

 

「今日は新型二人との共同任務だな……。まぁ、足を引っ張らないようにするからよろしくな」

 

 リンドウさんが足を引っ張るなんて、滅多にないでしょ。

 前にも言った気がするけど、新しい能力よりも古くから培った経験の方が重宝されるのだから。

 ましてやその発言を行ったリンドウさんにも問題がある。彼は最古参のゴッドイーターとも呼べる人だぞ。冗談混じりに一人前ではない俺らをリラックスさせるためかな。

 

「――旧型は、旧型なりの仕事をしてただければ良いと思います」

「はぁ……」

 

 そんな言葉の意図を掴み取ろうとしなかったアリサは、リンドウさんに暴言とも取れるキツイ言葉をあげていた。

 

「ははっ、まあ気楽にやらせてもらうさ」

「きゃあ!!」

 

 リンドウさんはまったく気にもしない様子で笑い、何気なくアリサの肩に手を置いた瞬間。

 アリサは割とガチな悲鳴をあげ、リンドウから飛び退いた。

 

「……あーあ、随分と嫌われたもんだな」

「セクハラで訴えますよ。サクヤさんに」

 

 手にしている新たな神機を強く握り締めながら声を掛ける。

 こんなのんびりとした時間を過ごしている間に、シユウは……。と俺の内心は焦っていた。

 

「は、ハヤト、それはやめてくれ。俺が殺されちまう」

「冗談ですよ」

 

 微笑を浮かべながらそう答える。

 

「……すみません。もう、大丈夫です」

「緊張してるみたいだな……。そうだ、アリサ。そういう時は空を見ろ。そして、動物に似た雲を探すんだ、そうすれば落ち着くぞ。それを見つけたら俺達と合流しろ、それまでは動くなよ?」

「ちょ、なんで私がそんな事を――」

「いいから探せ、これは命令だぞ」

 

 一方的に指示を出したリンドウさんは、俺の肩を抱き、連行するかの如く旧市街地の方へと歩を進める。

 不意にアリサが気になり、視線を送ってみると、必死になって空を見上げていた。

 そこは律儀にリンドウさんの指示には従い、動物の雲を探すんだな。俺らと合流した時にどの動物を紹介してくれるのか楽しみだ。

 

「……あの子な、ちょっとワケありらしい」

 

 二人で市街地を歩いていると、リンドウがふと口を開き呟いた。

 

「えっ?」

「さっき姉上が言ったように、演習の成績は優秀なんだが精神が不安定ならしいんだ。……まぁこのご時世、コウタみたいな真っ直ぐなこの方が珍しいんだがな」

 

 意識だけは索敵に持っていきながらも、リンドウさんの話を真剣に耳に入れる。

 

「主治医によるメンタルケアが組まれてるぐらいだ。……だから、さっきみたいな暴言とかも許してやってくれや」

「あれは少なくともリンドウさんに対する暴言でしたけどね」

 

 俺、一応新型というジャンルに属しますし。銃なんて滅多に使わないっスけど。と、笑みを浮かべながら告げると、リンドウさんは痛いところを突かれたなと頭を掻いていた。

 そんな和やかな会話を行っていると、不意にシユウの鳴き声が聞こえた。

 一気に戦闘体勢に切り替え、神機を更に強く握り締める。

 

「……ホント、今回はリンドウさん気楽にやりますか。新しい神機のお試しもしたいですし」

「それも良いな。今回はアリサのサポートに入るとしますか」

 

 一見ふざけた会話を行っているようにも見えるが、きちんとシユウの鳴き声が聞こえた場所までは向かっており、索敵範囲には常に捉えていた。

 物陰に隠れ、突撃する瞬間を伺っていた俺達のところへアリサがやって来た。

 

「やっと見つけました」

「おう、アリサか。何の動物を見つけた?」

「ほら、あれですよ。ザイゴードです!」

 

 そう言いながら遥か高い空を指すアリサ。

 だが、その先にあったのはただの丸い雲だ。まぁ、あいつらを後ろから見たらあんな感じかも知れないけどさ、その場合でも管はあっただろ管みたいなやつ!

 正直、中々見つからなかったから適当に見繕ったろ。

 

「ま、まぁ、それでいい。手短に作戦を説明するぞ」

 

 俺が先頭に立ち、物陰から敵を視界に捉え続ける。

 そんな警戒態勢をバリバリ取っているが、リンドウさんの会話にはきちんと参加する。と言っても、さっき話した試し斬りを俺は行うだけだがな。

 

「――まず、最初に基本的なフォーメーションを説明する。フォワードは俺とハヤト。サポートにアリサが入ってくれ」

 

 了解です。と二人揃って返事を行う。

 その返事に伴い、アリサは新型特有の神機変形を行い銃形態へと移行していた。俺とは真反対の銃メインの新型か。これは戦いが楽になりそうだな。本当に戦力として見込めるのならば、だけどな。

 

「んで、作戦だが……」

「作戦なんていらないですよ。とにかく隙を突いてぶっ殺せで行きましょ」

 

 真剣そのものな声音でリンドウさんの代わりに作戦の内容を発言する。

 そんないい加減な作戦を告げる俺に、アリサは驚愕の面持ちを見せ、絶句した。

 

「あ、あなた、良くそんな適当な思考で……」

「まぁ、見てろって。行って良いぞ。最初から神機の試し斬りはさせるつもりだったしな」

 

 隊長の突撃オッケー指示が貰えたと同時に、気付かれないように全速力でシユウの下へと向かい、完璧に気付かれていない事を確認した後、背後から奇襲とばかりに『捕喰形態(プレデターフォーム)』での捕食を行う。

 直前に動かれたため、羽の欠片しか捕食出来なかったし、挙句の果てに背後に忍び寄った俺は気付かれた。

 

「ま、最初からこうするつもりだったし……良いけど、ねっ!!」

 

 シユウの羽の欠片という身体の一部を喰らった俺は、その力を取り込み『神機解放(バーストモード)』を発動させる。

 榊博士によると、この神機解放によってゴッドイーターの能力が一時的に向上し、消費する体力が少なくて済むらしい。

 簡単に説明すると攻撃は最大の防御。という無茶な作戦を実行させる時に使えるな。時間短縮にも使えそうだ。

 

「神機……解放っ!!」

 

 俺の神機から黒いオーラのようなものが発せられ、紅の刀身に黒いオーラが纏うだけで、結構禍々しい雰囲気がした。……が、そんな禍々しさが俺にはピッタリだ。

 復讐を生き甲斐とし、『神を喰らう者(ゴッドイーター)』になった俺にはさ。

 

 

 



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第4話 恐怖の差

 

 次元が違う――。

 

 逸早くシユウの下へと突撃し、現在進行形で戦いを行っているハヤトを影から見ているアリサは強く唇を噛み締めながら思った。

 自分と同じ新型でありながらも、資料通りなら来て間もない新人のゴッドイーターだ。なのに、こんなにも実力に差があるなんて思いもしなかった。

 

「……あいつはな」

 

 そんな一方的な戦場を真剣な眼差しで見つめていたリンドウが独り言のように呟いた。

 

「新人の中では一番成長している。現に先輩に当たる俺やサクヤ、ソーマですら実力を認めている。だがな、圧倒的に怖いんだ」

「怖い?」

 

 成長幅が。という事なのだろうか、それとも、自身が抜かれてしまうという危機感にだろうかとアリサは疑問に思う。

 だが、リンドウの口から出た言葉はどれも違った。

 

「あいつは復讐に駆られ過ぎてるんだ。俺も聞いた話なんだけどさ、あいつの家族、アラガミに食われちまったみたいなんだ。それも目の前で」

「えっ……」

 

 自分の奥底に眠る記憶と少なからず類似点があり、アリサは更に驚いた。

 

「だからこそ、頼む。……俺らと一緒にあいつが危ない橋を渡りそうになったら止めてくれ」

 

 まだ幼い自分に頭を下げるリンドウの姿にすらも、驚いたアリサは慌てながらもリンドウの申し出を素直に受け入れた。

 自分と似た過去を持ちながら、復讐という形ではあるが、一生懸命に前へ進もうとする彼の事をもっと知りたいと思ったからなのか。本人ですらもわからないままに承認していた。

 

「さてと、そろそろ俺達も行きますか」

「はいっ!!」

 

 今はまだ、実力に差があり過ぎて勝てないし、後ろ姿を捉えるのもやっとだけど。多大な時間を経てでも、あなたの域にたどり着いて見せますから。と、シユウと戦っている最中のハヤトを視界に入れながら、アリサは決心した。

 

 ――絶対に負けない、と。

 

 ◇

 

「ガオオオオオオオオッ!!」

 

 アリサとリンドウさんが戦闘に参加して、数分が経っただろうか。

 シユウがけたたましい鳴き声をあげ、独特の雰囲気があいつの周囲に漂っていた。

 これはアラガミが活性化した時のサインだ。今回は活性化の際に攻撃を行っていなかったので、良くわかりやすかった。前回の時は、鳴き声をあげていた時、隙が出来たと全力で切りに行って、活性化のサインを見逃していて、手痛いダメージを受けたのは内緒だ。

 

「活性化だ! 気を付けろよ。アリサ、ハヤト!!」

「わかってます!」

 

 前回の失敗を糧に、ショートブレードの短い攻撃範囲ギリギリの線を保持(キープ)しながら切り続ける。

 俺とリンドウさんがシユウを囲むようにして、距離を取りつつ戦っていると、シユウは両腕羽を捻るような挙動(モーション)を取った。

 

「リンドウさんっ!」

「あぁ、わかってる。アリサ、接近して攻撃が終わり次第、捕食だ!」

「りょ、了解です!」

 

 ハイテンポな戦いに新兵のアリサは付いて来るので精一杯なのか、返事が遅れていた。

 俺とリンドウさんの予想は正しく、シユウの両腕羽による回転攻撃を受けないラインで捕食態勢を取る。

 

「今だっ!」

「喰らいやがれ!」

「神機、解放します!!」

 

 各々が捕食態勢を取り、神機解放に移行する。

 基本態勢となったシユウに合わせて、俺らは全員距離を取る。

 剣形態で固定されているリンドウさんは、シユウの隙を伺い。望んでいた事だが、誰よりも戦闘時間が長かった故に疲れが少し出てしまっていた俺は、ポーチの中から『レーション』を取り出し、口の中へ放り込む。

 『レーション』というのは、ゴッドイーターの中で有名なスタミナを回復する道具だ。疲労が完全になくなるわけじゃないが、ほんの少し疲れを和らげてくれる薬。俺はその薬をポーチの中に十個入れている。

 薬中ってわけじゃないからな。ただショートブレードで手数重視な戦法を取ると、どうにも疲れが出てしまうっていうね。これは防衛班の隊長であるタツミさんに聞いてみればわかる。うん、同感してくれるはず。

 

「受け取ってください! 行きますっ!!」

 

 シユウの一部を喰らった後のアリサは、俺とリンドウさんに向かって銃弾を撃ち込んだ。

 その銃弾を受けた俺らは体が今まで以上に軽くなるのがわかった。

 ――これって、確か……『神機連結解放(リンクバースト)』だったか。

 アラガミを喰らい得たアラガミバレットを味方へ撃つ事によって、そのゴッドイーターは一時的にバースト状態になり、更に既にバースト化していたならば、ワンランクレベルの高いバースト状態になる。

 俺らは同時にシユウを喰らって、既にバースト化していた。その上、アリサから受け取ったアラガミバレットのお陰でここまで強くなってるのが実感出来るのか。

 

「よし、一気に決めるぞ」

 

 リンドウさんの指示を受けた俺らは、一気に攻勢に出る。

 ロングブレードを使う二人がお互いの邪魔にならない範囲で敵を切り続け、シユウをダウンさせる。

 

「ハヤトっ!!」

「決めてくださいっ!」

 

 シユウがダウンする寸前に、ドッシリと構えていた建築物の壁を強く蹴り、高く飛び上がる。上空にいる俺に止めの一発と言わんばかりにアリサからアラガミバレットが飛来する。それが直撃した俺は今までに類を見ないぐらい奥底から力が漏れ出して来るのが実感出来た。

 この力なら、決められる――。

 

「これで、終わりだーーっ!」

 

 上空にいる間に神機を捕食形態にし、落下と共にシユウのコアを喰らう。

 それにより、シユウは断末魔をあげ、死んで逝く。前回と違いコアを抜き取られた事が死因なので、声はほとんど出ていないに等しかった。

 

 

「ミッション終了っと。お二人さん、怪我はないか」

「モチ」

「ありません」

 

 むしろ、最後の一撃の寸前に得たアラガミバレットのせいで、ピンピンして元気なくらいだ。怪我なんて一つもないんじゃないか。

 

「さ、帰投ヘリを呼ぶぞ」

 

 俺の新たな神機のお試しと、アリサの極東支部での生活は完全な白星に始まった。

 帰投ヘリが来るまでの間、新しい神機の機能を色々試してみた。やはり、今までの神機より回避距離が上がっている気がする。それにステップもやり易い。この神機、気に入った。リッカに報告を行わないとな。

 

 







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第5話 乱入と災いの種


皆様、明けましておめでとうございます。

学生の方はもう学校が始まったでしょうか?
自分のところは今日から学校でしたが、やっぱり久しぶりの学校はきつかったです。まぁ、残り2ヶ月ぐらいで卒業なので引き締め直したいと思います!

――そんな雑談はさておき、第5話をどうぞ!!



 

 

「ヒバリさ~ん。討伐ミッションある?」

「ええ、ありますよ」

 

 初の新型との共同ミッションを終えた後日。

 ロビーで事務作業に没頭するヒバリさん……『竹田(たけだ)ヒバリ』。彼女は極東支部の誇るオペレーターで、主にミッションの発注管理や報酬の支払処理を担当している。神機使いの適合候補者リストに名があるが、現在のところは適合する神機が見つかっていないらしくオペレーター業務を真剣に行っている。

 

 彼女曰く「私も皆さんと一緒に戦いたいですけど、今の私は皆さんを精一杯サポートする事に全力を出していきたいと思います」と発言していたらしい。

 彼女もまた、現在の自分が持てる力を発揮出来る場所で頑張っているんだ。俺ら本場の人間も、アラガミ討伐に全力で取り組むべきってな。

 

「コンゴウ一体とオウガテイル四体のミッションがありますね」

「んじゃあ、それで」

 

 ちょうどコンゴウの素材を使って面白い事をしようと考えていただけに助かるよ。

 

「では、受注しておきますね」

「あー、例の如く内密に頼むな」

「……またですか? そろそろ休まないとダメですよ。昨日だって、アリサさん、リンドウさんと一緒に行ったミッション以降に一人でミッションに行ってましたし」

 

 俺に対して溜め息混じりで小言を言い放つヒバリさん。

 別に実力に見合わない程、難しいミッションに単独で挑み続けているわけじゃないんだから勘弁してくれ。

 

「これが終わったら、ちょっとは休む事にすっからさ」

「本当ですよ?」

「あぁ、本当だ」

 

 言い切った後、すぐさま用意に掛かってくれた。

 そういうゴッドイーターの意思を優先してくれるヒバリさん、マジ良いオペレーターっす。

 

「気を付けてくださいね。それと、約束破ったらオウガテイルの針千本ですからね」

「それは気を付ける事にするよ」

 

 あいつらの飛ばしてくる針は意外と痛いんだよな。

 外見からして、そこまで強そうじゃないのに、一撃の攻撃が地味に痛いからな。そんなのを千本も受けたくないし、絶対に生きて帰って来て、きちんと休むようにしよう。

 

 

 

 

「……そう思って来ただけなんだけどな」

 

 目の前に倒れ、命果てているオウガテイル四体の亡骸とコンゴウの死骸がある。これらのコアは俺の神機が美味しく全て喰らっちまった後だ。

 ミッションの全貌で言えば、これだけで終わりなんだけども。

 

「なんかいるよな」

 

 神機開放状態の俺は、何かしらの気配を感じ取っていた。

 禍々しいナニカが獲物をじっと見つめているような、そんな不快な視線を向けられている気がしてならない。

 

『ハヤトさん、お疲れ様でした。帰投ヘリを呼んでいますので、すぐに戻って来てください』

「あぁ、わかった。……なぁ、ヒバリ」

『はい?』

 

 俺も気が動転していたのだろう。歳上であろうヒバリさんの事を呼び捨てで呼んでいた事に気付けなかった。基本的に歳上の人間には、名前の後ろに「さん」を付ける事が標準なのだが、今回は付けられなかった。目上の方には付けないといけないと考える余裕すらなかった。

 

「……このミッション、おかしい点とかないよな」

『ちょっと待ってくださいね』

 

 その後、数分待っていると、無線から再び連絡が来た。

 

『いえ、特におかしな点はありませんが、どうしました?』

「ナニカいる。目標であるアラガミ以外に、ナニカいる気がしてならないんだ。見られてるって感じ」

『わ、わかりました。皆さんにも注意を促しておきましょう。ハヤトさんはすぐに戻って来てくださいね』

「了解だ」

 

 無線を切った後、俺は視線を感じた場所へと急行した。勿論、警戒心は全開にしたまま索敵を開始する。

 帰投ヘリがここまで来るのに時間が掛かる上に、ヘリが到着するポイントまで距離があるので、そこに向かいつつも索敵を行うという表向きの目的を持っている。

 

(ま、今から行う索敵を色々と理由を付けて、正当化させたかっただけなんだけどね)

 

 極東支部の人達は心配症な人が多くて困る。そこまで、俺が自分を過信し、敵の群れに突っ込む奴にでも見えているのかよ。ってぐらいに過保護だ。自分の目の届く場所へ気に入ってる人を残しておきたいという意図が丸見えだ。

 俺のどの辺りが気に入られているのか全く見当も付かないんだけどな。

 

「……この人間ではない気配。奴の可能性も考えた方が良いか」

 

 俺から全てを奪っていった奴――。

 優先的に俺が残虐してやりたいと思っている悪しきアラガミを目にして、俺は自我を保って戦いに望めるのか。という自虐めいた問いを必至に押し留め、歩みを進める。やっと復讐の機会が訪れたかも知れないのだ。戦うしかないだろ……。

 俺の手に自然と力が入る。

 ……俺から、夢や希望、平穏。そして、家族すらも奪っていった憎きアラガミ。

 

「『プリティヴィ・マータ』」

 

 獣の体を持ち、頭部には女神像の顔を持っているアラガミ。

 『ヴァジュラ』と呼ばれる獣のアラガミがいるのだが、そのアラガミと身体はまったく同じと言っても過言ではないのだが、何より身体の色は白と水色。

 

(あいつの事は絶対に忘れられない。――忘れるわけにはいかない)

 

 あの不気味な女神像のような顔を持つ、俺の復讐の目標(ターゲット)なのだから。

 

 

 

 




次回予告

 突如、ハヤトの前に姿を現した『プリティヴィ・マータ』。やつの姿を捉えた瞬間、ハヤトの温厚な顔付きが一変した。瞳は鋭利な刃物のように鋭く、そして冷たくなった。……何故、ハヤトはここまでしてやつに復讐心を燃やしているのだろうか。

 次回! ハヤトの過去


 次回の更新日は、1月21日(仮)を予定しています。


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第6話 鳴神ハヤト

 

 

 ――俺の両親はゴッドイーターだった。

 

 

 

 幼い頃からそのゴッドイーターとしての話を幾度として聞いていた俺は、そんな恐ろしい存在と対面して戦う事が出来、何でもこなせる両親をヒーローだと感激していた覚えがある。

 

「……お母さん?」 

「大丈夫よ。ごめんね。寂しい思いをさせちゃって」

「だけど、安心しろよ。俺らはお土産話でも持って、絶対に帰ってくるさ」

 

 そう言って、両親共にゴッドイーターとしての職務を全うするために家を出た。

 ヒーローの後ろ姿を見届けた俺だったが、直後には両親が留守の間、代理で俺の世話を頼んだの大人の人と一緒に遊ぶ俺がいた。

 その人の事は今でも覚えている。

 

「ハヤトくん? 今日は何して遊ぼっか」

 

 彼女もまた、両親と同じく被害者だから。

 母親がゴッドイーターとなる前からの知り合いで、時々、こういった緊急事態で呼び出しを受けた際や両親共にミッションへ行かなければいけない日には彼女が代理で来る事が多かった。

 今日も……以前と同じく平和な日々が続くのだと、俺は思っていた。

 

 

 

 

 両親が家を出てから数十分後。

 外が急に騒がしくなり、同時に獣の唸り声が聞こえるようになった。

 

『キャーーッ!! あ、アラガミ……』

『逃げろーー! ゴッドイーターが来るまで逃げるんだ』

『……隠れてなさいっ! あなた達の大きさなら隠れ切れるから!!』

『でも、おかあさんが……』

『良いから。絶対に出るんじゃないよ』

 

 小さな集落に住んでいた俺達にとっては、外の騒ぎがダイレクトに耳に入ってきた。

 アラガミが外壁を突破して、この集落に現れた。騒ぎから察した世話役の女性は、当時、ロクに動けなかった俺を背負って、家から飛び出た。

 

 ……だけど、残虐なアラガミの猛攻には力無き人間はどうしようもない。

 

 

「ハヤト……くん。あなただけでも、無事で……いて」

 

 

 その女性は残りの体力を全て使い、幼い俺を住居と住居の間に出来た隙間に放り投げる。

 アラガミの視界からは完全に消えており、尚且つ、気付かれる事がないであろう場所だった事は覚えている。……血の臭いも、古臭い住居の壁や色も、目の前で死に逝く魂も、全て覚えている。

 

 

 ――後の事は覚えていない。

 何が起こったのか俺ですらわからない。理解したくない。

 

 

 けれども、たった二つだけわかった事がある。

 世話役だった女性と俺を襲ったアラガミが、獣の咆哮をあげ、不気味な女神像のような顔をしている……つまり、『プリティヴィ・マータ』だという事。

 そして、任務で家を発った筈の両親がその女性の付近で血溜りを作りながら死んでいた事。その両親を殺したのは十中八九、プリティヴィ・マータである事は間違いないだろう。

 

 

 奇しくも、世話役の女性のたった一つの行動によって俺は助かった。

 当時、痛みを堪える事が出来ずに泣いてしまっていれば、俺らは揃って殺されていただろう。そう考えれば、俺も努力した事にはなるのだが、あの幼い俺に少しでも力があれば、後の展開が変化していたかも知れない。

 

 

 

 ――だからこそ、俺は強さを求めた。

 

 

 アラガミをぶっ殺す事が出来、同時に復讐を完遂する事も出来るゴッドイーターになりたいと。

 

 

 

 

 ――だからこそ、俺はゴッドイーターになってからもアラガミを狩り続けた。

 

 憎き両親の敵を、世話してくれた女性の敵を討つために。

 何より力無き自分が許せなかったから……。

 

 

 もう、誰も傷付けさせない。傷付けさせたくない。

 そんな仲間想いで強いゴッドイーターになりたいと……。俺はそう願った。

 

 

 





今回は過去話がメインで、ちょうど区切りよくしたかったので短いです。ごめんなさい。


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第7話 復讐対象《プリティヴィ・マータ》

 

 

 今やお馴染みとなった旧市街地エリアにて、俺は忌々しい視線を感じた先へと向かっていた。

 

「……この辺りから、だったよな」

 

 手にしている神機がとても重く感じる。

 普段の生活だとあっという間に過ぎ去る一秒が、途轍もなく長く。風一つの変化に対して敏感に感じ取ってしまう。

 

「何も、いねぇよな」

『――ヒバリです。帰投ヘリ、間もなく到着します。合流ポイントへ向かってください』

「りょうか……」

 

 了解。と返事する前に、密かに感じ取っていた違和感の正体が判明した。

 高みから見下ろすように姿を現している憎きアラガミ……『プリティヴィ・マータ』だ。

 奴は俺だけでなく通信先にまで聞こえるように、通信している最中に猛々しい鳴き声をあげる。

 アラガミは基本的に獲物を見つければ、一も二もなく獲物に食い付く。それがゴッドイーターだろうが、あいつらからすれば人間は絶好の餌だ。

 

『ハヤトさんっ!?』

「あー、悪い。完全に認識されちゃってるから、ヘリに向かうのは無理っぽい」

 

 戦闘で邪魔になる無線を切る前に伝えておくべき事だけ、伝えておく事にする。

 

「俺の前にいるのは第二種接触禁忌種の『プリティヴィ・マータ』。――以上。通信切ります」

『ハヤトさん!! ちょ、ちょっと……』

 

 通信先で煩く騒ぐヒバリさんを完全に無視して、無線を一方的に切る。

 俺がスイッチを入れるまで絶対に反応しないようにも設定をした。

 

「さぁ、とっとと地獄に墜ちてもらおうか。クソ猫」

 

 比較的、軽さを重視してもらっている神機を片手で持ち、刃先をマータへ向ける。

 俺のその小さな行動を敵対行動と取ったのか、奴は自身が乗っていた高台から飛び降りる。俺目掛けて……。

 

「チィッ」

 

 マータの爪を全開に開いた飛び付き攻撃を左へサイドステップを行い回避した後、隙があり過ぎる胴体へ切り掛かる。

 だが、刃は通らず、硬い鎧によって跳ね返される。

 神機が跳ね返された事により出来てしまった隙を狙い、その場で氷を操ってみせ、俺へと氷柱を飛ばす。

 

「……こんにゃろ」

 

 それらの攻撃を華麗に避け、次の攻撃パターンを考えていると不意に真上から氷柱が落ちてきた。

 

「なっ!?」

 

 あまりに予想外な攻撃にびっくりしながらも、上から降り注ぐ氷柱を盾でガードする。だが、いつまでも降り止まない氷柱に対して、俺は嫌な予感を感じた。

 

(あんまり考えたくない事なんだけどさ……。マータが何匹も、この場所へ集まっているなんて事ねぇよな)

 

「……でも、それしか考えられないんだよな」

 

 俺が現在進行形で戦っているマータは視界の中心に捉えていたし、どうあっても視界の外から攻撃なんて不可能だ。設置型の攻撃を仕掛けたならともかくとしてだが、アラガミにそこまでの知能はないはず。

 となると、最終的に行き着く結論は、マータが何匹もいる。いや、現在は二匹と言った方が良いだろうが。これからも増え続ける可能性すらある。

 

「それでも、戦うしかねぇよな!!」

 

 荒廃し続け、天井すらも吹き抜けてしまったビルの壁を強く蹴り、マータの頭上まで跳ぶ。そして、頭上から脳天目掛けて神機で貫く。

 気色悪い女神像が崩壊し、怯むマータ。だが、攻撃の手は終わらない。

 

「喰らっとけ!」

 

 着地と同時に捕喰形態(プレデターフォーム)を取り、マータを喰らい尽くす。

 目前のアラガミから大量のオラクル細胞を喰らった俺の神機は能力を発揮し、並びに俺の能力すらも開花させる。

 

「神機……解放っ!!」

 

 神機解放(バーストモード)へ移行した瞬間。

 俺の視界は鮮明になり、気分よりも遅く時が過ぎ去るのを感じた。マータの行動は先程と比べると一段と遅くなっており、こいつと比べると俺の行動速度は倍ぐらいだ。

 そんな事も知らずにマータは立派な腕を俺へと向けて振り下ろすが、その場に俺は既にいない。

 

「おっせぇよ」

 

 苦戦していたはずのヴァジュラの禁忌種との戦いが楽に感じられる。

 今の今まで俺を苦しめていたマータの存在が、俺を一段と強くしたのかも知れない。

 

「……取り敢えず、死んどけ」

 

 ショートブレードによる連続攻撃をマータへ叩き込んだ後、ダウンしたマータに精一杯の力を注ぎ込んだ一撃を振り下ろす。

 思わず断末魔を上げながら堕ち逝くマータに向かい俺は――。

 

「黙れ」

 

 再び捕喰形態を取り、マータのコアを喰らう。

 耳障りな断末魔なんて聞きたくねぇんだよ。特にお前ら(マータ)のは、な。虫唾が走る。

 

「……さてと、もう一体は……逃げたか」

 

 全ての感覚が平常の倍以上となっている俺は、周囲のアラガミの場所すらも特定出来る。

 おそらくアラガミを喰らい、アラガミと同じ『オラクル細胞』で出来ている神機を解放する事で発動出来るのは、俺だけかな。

 そして、今まで出来なかったのに、今回で急に発現した理由は、この神機が喰らったオラクル細胞の分だけ力が出たって感じか。或いは、母さんらを殺したアラガミと同じ種類の奴らを目にした事により復讐を成し遂げる為の力を発揮したかのどちらかだ。

 

「まぁ、何にせよ。疲れたな」

 

 ふと、手にしている神機に目を落とす。

 目立った外傷は特にない。が、氷柱の連続攻撃を受け続けた際に傷付いたのであろう盾に細かい割れ傷……(ひび)が入っていた。

 

「……マジかよ。ま、リッカも耐久性には欠けるかもって言ってたし、当然か」

 

 マータのあの氷柱攻撃も認めるのも癪だけど、結構重かったし。

 奇襲と言わんばかりに攻撃を受けなければ、ガードする事もないし、リッカに怒られる事もなかったんだろうな。どちらにせよ、ヒバリさんとツバキさんには説教を受ける事が確定しているけどな。

 

「あ、そうだ。ヒバリさん」

 

 無線の電源をオンにし、ヒバリさんと連絡を取り合う事にする。

 

『……ァ……ャトさん。ハヤトさん、応答してくださいっ!』

「はい。ハヤトですけど」

『良かった。やっと繋がりました』

『おい、ハヤト。無事なんだろうな』

 

 電源を入れた瞬間にヒバリさんの声が鮮明に聞こえた。もしかして俺が電源を切った後もずっと声を上げていたのだろうか。

 それに、なんでそこにいるのさ。リンドウさん。

 

「えぇ、無事ですけど。……ちょっと神機は壊れちゃいましたね」

『……初めて禁忌種相手にそれなら上出来だ』

「えっと……。リンドウさんがいるって事で嫌な感じがするんですけど、その場に他の人がいたりなんて事……」

『帰って来てから覚悟するんだな。ハヤト』

 

 俺の問い掛けに対して答えが返ってきたのだが、その声はリンドウさんの声ではなく、姉の声だった。

 ……しかも、結構お怒りの様子で、声にドスが効いていた。

 

「つ、ツバキさん……」

 

 咄嗟に言い訳を考えて、どうにかして許して貰えないかなと思い話そうとしたのだが、訴えるように必至な言葉とは裏腹に耳元には「ツー……ツー……」と無機質な機械音が鳴る。

 ついさっき自分もした行為だが、実際に行われるとちょっとあれだな。

 

「ちょっと、ツバキさんっ!?」

 

 帰りたくなくなる気持ちを必死に押さえ付けて、迎えのヘリの場所まで歩みを進める。

 

 




次回から更新速度が更に遅くなります。
ゲームを振り返りながらやりつつも、話に矛盾が発生しないように考えて書くのしんどいですね……。(今更っ!!




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第8話 不安の種

 

 

「おっ、やっと来たな。ハヤト!」

 

 

 序盤はツバキさんによる説教だけに済んでいたのだが、その全貌がリンドウさんとアリサ以外の第一部隊に知れ渡り、サクヤさんにも叱られた。

 ソーマは俺と同じような日常を送っているくせにお叱りを受ける事がないのに、俺は何故か怒られる。今までは敬意を持って「さん」付けで呼んでいたけれども、二人に怒られている俺と類似している生活を送っているもう一人の問題児には何一つとして言われていない。それがとても腹立たしくて、呼び捨てで呼ぶようにした。

 子供っぽい。と言われればそれだけだが、行動が制限される俺の身にもなって欲しい。

 

 そんな風に生活を改めるように注意を受けた後日。

 新人教育の名実を得ているリンドウさんと新人のアリサを除いた第一部隊はエントランスロビーに集まっていた。

 

「あれ、リンドウさんとアリサは?」

「二人は別メニューよ」

「そう。んで、残るオレらでヴァジュラってやつの討伐だ」

 

 ヴァジュラか――。

 言っちゃいけないかも知れないけれども、そいつの禁忌種との戦いを先日行ったばかりだからな。むしろ、圧倒してしまう可能性すらあるな。

 

「まぁ、オレらなら楽勝っしょ! な、ハヤト!」

「あ、あぁ、そうだな」

「こら、慢心するのはダメよ」

「……そういう奴から死んでいくからな。この糞ったれな世界では」

 

 ムードメーカーではあるが、基本的に楽観的な思考回路を持つコウタ。彼の発言には周りの人を元気付ける力がある。自然と明るくなる。天性のムードメーカーとは彼の事を言うのだろう。そんな彼の言葉を聞いて、サクヤさんは昨日の俺にやった注意のように厳しい言葉を発し、ソーマも俺達を仲間と認識してるのだろう先輩らしい台詞を言っていた。

 

 だが、何故だろう。

 今回のミッションはコウタが言うように楽勝な気がしてならない。サクヤさんやソーマも先輩として調子に乗る後輩を叱っているように見えるが、本心では少し気楽と感じているはず。

 彼女達が俺一人でヴァジュラの禁忌種であるプリティヴィ・マータと戦い喰い殺したのは認知しており、実力があるとわかっている。

 コウタがまだ新人の枠組みに入る奴だったとしても、熟練者は三人いる。

 決して慢心ではない。けれども、安心感はある。

 俺が例え敵の攻撃に直撃しても、サクヤさんのフォローやソーマが庇ってくれると信じてるから。だからこそ、俺は安心だと思える。

 

 

 

(なのにだ……。どうして、こんなにも胸騒ぎがする) 

 

 

 

 俺の疲れは説教に始まり半日を休息に当てた事により完全になくなっている。

 心配の種は俺自身ではなくて、他の人にあるのか?

 他に心配な奴は第一部隊には誰一人としていない。むしろ、何日間も連続でミッションに行き、ある程度の疲れを残していたのは俺ぐらいなんじゃないだろうか。そんなにも、昨日はミッションに出掛ける人は少なかった。

 第一部隊に所属していてミッションに行った人なんて、俺と、数時間前にアナグラを出発していたリンドウさんぐらいしかいない。

 ――昨日。俺と同じように一人で何処かへ行くリンドウさんの姿を見かけたんだよな。おそらくそれが何だったのか俺にはわかる。俺らにはなくて、リンドウさんにはあるもの。彼は『第一部隊』であり『隊長』である以上、何らかの仕事を与えられているのだろう。それも、かなり上の人の命令で。

 

 

(もしかして、俺はそれが引っ掛かってるのか?)

 

 

 リンドウさんの疲れはほとんど残っていないはずなんだ。帰りが遅かった俺よりも早くにアナグラへと帰還し、充分に休息を行っているはずだ。

 

「……大丈夫、だよな」

 

 不意に呟いた言葉は誰の耳にも届かず、俺の心を揺さぶっただけに終わり虚空へと消えた。

 

 

 

(もう、俺は何も失いたくない。俺の手の届く範囲では誰も死なせないんだ)

 

 

 

 一抹の不安を抱えたまま俺らは出撃する。

 任務自体は簡単で、達成することが確定しているような勝ち戦に出向くために。

 行きのヘリの中で俺らは短く雑な会議ではあったが作戦を練っていた。いくら俺らが強かろうと慢心は死を呼ぶ。万全の状態で挑めるようにな。

 作戦会議を行ったとはいえ、俺らが決めたのは立ち回りに関してだけだ。残りは第一部隊の全員の脳裏に刻み込まれているであろう作戦パターンの最終確認だけだ。普段から素っ気ないソーマも『エリック』を目前で失ったあの惨劇を繰り返したくはないのだろう第一部隊の隊員を守りながら作戦を遂行するために作戦と号令パターンはすべて覚えてくれた。

 

 

「……実際のところ、あれだよな。不謹慎かも知れないけど、リンドウさんよりハヤトの方が隊長っぽいよな」

「こら、コウタ。リンドウはリンドウなりに頑張ってるでしょ。まぁ、指示とか作戦を立てる最中の姿を見ればその意見は尤もだけど」

 

 リンドウさんと初任務へ行く時に言われた言葉は今でも心に残ってる。

 あの人は新人と一緒に行った場合、同じことを言うからな。「命令は三つだ。死ぬな、死にそうになったら逃げろ、そんで隠れろ。運が良ければ不意を突いてぶっ殺せ」ってな。最初に言われた時は唖然としていたが、今だったら三つって数字はどこからきたんですか四つじゃないですか。とツッコミを入れられる気がする。

 

「……こいつはリンドウを含め多くの連中が認めてるからな。直に隊長に成れるだろ」

「あ、そこは俺も認めてるとは言わないんだな。ソーマ」

 

 気になった点を指摘するとソーマは柄にもねぇこと言っちまったな。と俯いて会話に参加する気を失っていた。

 俺は第一部隊の人達を始め、色々な人から認められているのか。それは普通に嬉しいかな。実績を認められ、実力を褒められるのは素直に嬉しい。

 

「……さて、と」

 

 嬉しいけども、いつまでも嬉しさに囚われていてはいけない。

 

「そろそろ行きますか。虎狩りに」

 

 

 リンドウさんとアリサを除く第一部隊のメンバーは各々の神機を手に取り、目的地へ足を踏み出す準備をする。

 サクヤさんとコウタの遠距離専門の神機使いは『オラクル』を回復するアイテムの個数を確認したりしていた。最悪、錠剤が切れても俺が持って来た奴を渡すだけなんだけどね。

 

 

 

 ――出来れば、俺の杞憂であってくれますように。と願いを込め、俺らは今、任務の達成すべく大地に足をつける。

 

 



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第9話 自己犠牲

残り2~4話ぐらいで終わります。

エイプリルフールだから嘘か~ってことではないですよ?
ただ今日から社会人ですので、物語を書く余裕が出来てから再会することにします。

せめて、キリ良く終わらせたいのでご了承ください!


 

 ――オレは例の新人を見たとき、替えの利く神機使いだと思っていた。

 

 いくら新型といっても、所詮あいつらは人間。人間には限度がある。無制限にアラガミを殺し尽くせるわけではない。

 オレが少し特殊なだけで、あいつらには無理をして欲しくない。あいつらが無理をしなければいけない理由はオレが片っ端から殺し尽くしていくから無理はするな。そう思ったことも何度かある。

 ……例の新型が来てからオレはそう思うことが頻繁にあった。

 

 オレに合わせることが出来る新入り、先走ったり色々と文句を言いたい場面は多々あるが、こいつとならどんなアラガミも喰い殺せる、とこの時までは思っていた。

 

 

 

「ソーマ! 今だっ!!」

 

 自身に向かって振りかざされた鋭い爪を回避しつつ、捕食して手に入れた『アラガミバレット』をオレに向けて射出するハヤト。

 『アラガミバレット』は『アラガミ』の『オラクル』を込めた弾のことで、捕食した『アラガミ』の特徴を色濃く継いでいる。そんな『アラガミバレット』は新型しか使えない。それを旧型に渡したとすればどうなるか。

 答えは渡された旧型の神機も『神機解放』されることとなる。

 その性質を戦略に組み込み、味方の援護をしつつも味方を活かす戦い方を好んで行うハヤトは、オレが極東支部で最も頼りにしている神機使いでもある。

 

 そんな相棒《パートナー》に力を受け渡され、託されたのなら、絶対にやってやるしかない。

 ハヤトの声に応えるように敵《ヴァジュラ》に突っ込む。

 独断専行も甚だしいところだが、新人が無理をしてアラガミを喰いまくってるんだ。年長者はそれ以上にやってやらねぇと。絶対に口には出さないがな。

 

「……危ないことをするわね。ソーマ」

 

 オレの突撃に合わせるように左右から射撃を行うサクヤとコウタ。

 

「ソーマ。迷わずぶちかましてやれー!」

「……ふん」

 

 幾度にも渡る銃撃に苛立ったのだろうヴァジュラは大きな雄叫びをあげ、外敵を一掃しようと攻撃を行うオレらに向けて電気の球体を無数に作り上げる。

 しかし、その電球はオレらに届くことはなかった。正確に言えば作り上げることすら出来なかった。

 

「はぁぁぁーーっ!!」

 

 側面に忍び寄り、全身全霊の力を持って神機をヴァジュラの体に刺した神機使いがいたからだ。

 そいつは真っ黒の髪をたなびかせながら、風のように現れ……疾風の如く敵を切り裂く。

 縦横無尽に戦場を奔る姿から、文字通り疾風のようだ。

 

「ソーマっ!!」

 

 本日二度目の合図。

 ハヤトによってそれが齎される前にオレは既に行動を開始していた。

 あいつならこうするだろうなと考えた結果だ。奴は人を頼りにしていても、保険を掛けて自身も行動する。

 仲間に託したなら、自分はその攻撃を手助けする。そんな考え方の奴だ。

 

「わかっている」

 

 ハヤトがヴァジュラの動きを止めている間。その反対側でオレはトドメの一撃を喰らわせるため、身の丈を遥かに凌ぐデカさの神機……『バスターブレード』を担ぎ上げ、力を一点に集中させる。

 魂の篭った一撃を脳内で想像し、放つ直前にハヤトに向かって視線を送る。

 

 

 ――直後。

 

 

 動きを押さえているハヤトを気遣うことなく一気に振り下ろす。

 力が凝縮された刃はザクザクッとヴァジュラの肉を削ぎ、物言わぬ『オラクル』の塊と化した。

 ハヤトはオレが送った指示通りに上手く回避したようだった。ちゃっかりと避ける前に捕食を行うことでより回避成功率を上げているところが少し憎らしいな。

 

 

 

 

「……ナイスっ。ソーマ」

「特に問題はなかったな」

 

 オレを称えるコウタの言葉とハヤトの言葉を耳にしたとき、オレは異変に気付いた。

 

「何……?」

 

 オレの視線に入ったのは――。

 

「どうして、同一区画に二つのチームが……!?」

 

 紛れもなく第一部隊の隊長であるリンドウと新しく来た新型だったからだ。

 同一区画に神機使いのチームが派遣されることは有り得ない。任務の妨げになるやもしれないと考えた人達によって回避されるはずだ。

 

 

 なら、何故――。

 

 

 

 ◇

 

 

 

 ソーマやサクヤの頭の中で疑問が堂々巡りしている間。

 ただ一人……ハヤトだけはこの事態の異常さと嫌な静けさを感じ取っていた。

 

 

 

 

(なにかがおかしい……)

 

 

 

 ハヤトの胸中にあるのは、怪しさ一色だ。

 任務に出発する前に感じた嵐の静けさ、不安要素はこれを意味していたのではないか。その思いがハヤトを縛っていた。

 

 

「とりあえず、さっさと終わらせて帰るぞ。俺達は中を調べるから、お前らは外を見張っておいてくれ」

「あ、俺も行きます。こんな事態じゃあ、チームなんて関係ないでしょ? これならちょうど三人ずつで分かれますし」

 

 彼がそう言ったのは単にこのメンバーで予想外な事態が発生するのであれば、おそらくこっちのメンバーに被害が来るだろうと直感で思ったからだ。

 向こうのメンバーを考えても百戦錬磨なソーマに、遠距離専門で尚且つ援護が得意なサクヤ。不安要素としてはコウタだが、コウタも新人にしては中々に動ける。

 ならば、強者に当て嵌るが連続して依頼に出ているリンドウと誰よりも新人なアリサの方がやばいんじゃないかと直感的に思ってしまったのだ。

 

「あぁ、そうだな。それじゃあ行こうぜ」

 

 ハヤト達が教会の中を調べに入った直後。

 教会の内部から獣の咆哮が響き渡った――。

 急いでハヤト達を救援しようとソーマ、サクヤ、コウタの三名は教会内へ進行しようとしたが、そんな彼らを逃がさないと言わんばかりに彼らを取り囲むように白いヴァジュラ――『プリティヴィ・マータ』が大量に姿を現した。

 

「こいつは……っ!」

「ハヤト君が戦ったアラガミね。でも、一度にこれだけの数……」

 

 

 困惑する一同。……だが、更に彼らを追い込む要素が発生した。

 

 

「いやぁぁぁぁっ、やめてぇぇぇっ!!」

「おいっ、ハヤト!! お前、何を……」

 

 教会の中からアリサの悲鳴と瓦礫の崩れる音。そして、隊長の焦った声が聞こえた。

 何が起こっているのか一刻も早く確認を取りたかった第一部隊の面々は、自分達を取り囲むアラガミのことは放置し、教会内へ足を踏み入れる。

 そんな彼らを待ち構えていたのは……。

 

 

 大量の瓦礫によって教会へと入る道が閉ざされており、その道の前で崩れ落ちるように座り込んだアリサと神機を力強く握り締めながらも何も出来ない自分を悔いているリンドウの姿。

 

 

「アリサ、あなた一体何を……!?」

「……サクヤ。それは後で俺の口から話すが、単刀直入に言うと、ハヤトが異変にいち早く気付いて俺を逃がしてくれた」

 

 リンドウの口より紡がれた「逃がす」という言葉に違和感を感じたサクヤ。

 ――だが、考えを纏める時間すら神様はくれない。

 

「うわぁっ!?」

 

 皆が一斉に入っては危険だと考えたコウタが入口を守っていたが、数の暴力を受けて教会の入口へコウタごと侵入してきた。

 

「……っ」

 

 偶々近くにいたソーマとサクヤの両名が『プリティヴィ・マータ』の侵入を一次は防ぐが、それも長続きはしない。

 ざっと見ただけでも外に数十体はいた。それらを巻きながら撤退しなければいけないのだ。

 

 

「リンドウさん。部隊の皆を連れてアナグラに戻ってください」

「だが、それだとハヤト…お前が……」

「良いから、とっとと部下を引き連れてアナグラに戻れっつってんだよ。馬鹿隊長が!!」

 

 いきなり言葉使いが豹変したハヤトに軽く驚いたリンドウだったが、続いて発せられた言葉を耳にした直後。後ろ髪引かれる思いではあったが撤退することを決めた。

 意気消沈しているアリサをリンドウが担ぎ、ソーマとサクヤとコウタが道を開く。

 最初の勢いに乗った表情を今も浮かべている者は誰一人としていない。

 

 コウタは自分達なら何でも出来ると少しながら慢心した結果、親友を残して自分達だけ安全な場所へ戻ることに、ソーマやサクヤは自分達より小さい子供に殿を任せることが歯痒くて、自分の無力さを内心嘆いていた。リンドウは自分の身代わりとして閉じ込められたのだと、絶体絶命の危機に陥っているのだと思うと悔しくて、二人と同じように嘆いた。

 

 

 ――いつの間にか皆の中心にいた人物が無事であるようにと願いながら、彼らはアナグラへ帰還する。

 

 

 



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第10話 行方不明

 

 

 同時刻――。

 

 

「……そろそろ行ったよな」

 

 正確には何体倒したのか数えていないが、途中から数えるのをやめたぐらいに『復讐の対象』を喰い尽くした後、俺は壁にもたれ掛かっていた。

 ここら一帯に『プリティヴィ・マータ』はもういないだろう。

 それだけの量のアラガミを喰い殺せたのは戦果として上々だろうが、代価として神機が故障してしまった。盾と銃の間の部分から黒い煙みたいなのが上がっており、一目で故障だと気付いた。

 

「神機がなくなると何になるんだったかな……」

 

 アラガミ化でもするんだったかな。

 自ら復讐の対象であるアラガミの仲間入りをするのは、正直に言って嫌だな。

 

「もっとヒバリさんとか女性陣と話しておくべきだったかな。悔いが残らないぐらいにさ」

 

 タツミさんみたいに積極的に話し掛けたりするべきだったかなぁ。

 昔からいる防衛班や偵察班の皆とは仲良くなれたと実感出来たけど、第一部隊の面子とは完全に仲良くなれたとは言えないんだよな。特に来たばかりのアリサとはまだ距離が離れたままだし。もう少し積極的に交流を測るべきだったのかも知れないな。

 

 過去のことを悔いていると、自身に近付いてくるナニカの足音が耳に入ってくる。

 聞くからに巨体な足音だろうから十中八九、アラガミだろう。

 そいつは現在では一つしかない教会内部への入口に飛び移り、俺の前に姿を現した。

 

「ギャオォォォッ!!」

 

 獣の雄叫び。

 それを聞いた後の俺の反応は素早かった。見るからに限界を超えているであろう神機を力強く握り締め、自身の敵を睨み付けるように視界に捉える。

 教会への本来の入口は瓦礫で塞がれているので、唯一脱出出来るとすればその獣が通せんぼしている窓のみ。そこからの脱出しか可能性は見込めないだろう。

 

 

(俺はこのまま死ぬ、のか……)

 

 

 自身に迫りゆく“死”。

 それを直に感じてしまった俺は、亡霊のように立ち上がる。どうせ死ぬにしても、このヴァジュラもどきには殺されたくない。俺の復讐したい相手とほとんど変わらないヴァジュラ系(こいつら)には。

 

 

(……死ねるわけがない。俺はまだやり残したことが大量にあるんだ)

 

 

 ――生き残るためにはどうすればいいか?

 

 

 そんなの簡単だ。

 目前に迫る“死”を殺し尽くせと言っている本能に従う。

 

 

「……死ね」

 

 

 自らに訪れた二度目の絶体絶命のピンチ。それが逆に俺に力を与えた。

 復讐のターゲットだけではない。アラガミ自体を根絶やしにするために、目前に迫る“敵意”を向けるアラガミを全て喰らい尽くせと。

 

 飛び掛かってくる黒いヴァジュラを盾でガードした直後、あまりの威力と故障間際だったのがいけなかったのだろう盾がバラバラに砕かれ、辺り一帯に散らばる。

 それでも俺は動揺せずに攻撃直後のヴァジュラもどきに攻撃を仕掛け続ける。たった一撃だけではない。何度も何度も、ヴァジュラもどきが倒れそうになるまでするつもりだった。

 俺の剣戟はヴァジュラもどきの肉を削ぐまでにしか至らなかった。

 今だに鋭利な刀身を持っていたなら一撃一撃が重く鋭かったであろうが、使用し続けて数十体ものアラガミを既に狩っているのだ。切れ味が落ちていても仕方がない。

 

「はぁぁーーっ!!」

 

 切断出来ないのであれば、突貫すればいい。と脳内で浮かんだ作戦に従順に、神機で突く体勢に移行し、ヴァジュラもどきが反応出来ない速度で突いたと安心した瞬間。事件は起こった。

 

「えっ?」

 

 右腕が生暖かい感触に包まれている。

 普段なら有り得ない感触に動揺した一瞬をアラガミは逃さない。

 俺が右腕を視界に入れた瞬間。ヴァジュラもどきは口に含んだ餌を噛み切るために歯を突き立てる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――俺の右腕と胴体を切断するために。 

 

 

 

 ◇

 

 

 

 

「がぁぁぁぁーーっ!!」

 

 自身を蝕む激痛という名の感情が、俺を苦しめる。そして、神機ごと食われてしまったことで、俺はもう抗うことすら出来ないのだと知らしめられている。そう考えると更に俺は苦しんだ。

 

 ――右腕が、神機がない。

 

 目の前に迫るアラガミを殺す手段が何もない。

 俺は死を待つしか出来ない餌なのだという現状が、何よりも辛い。

 

(せっかく、こいつらに抗う力を手に入れたっていうのに……)

 

 一歩一歩と慎重に、餌へと近付くヴァジュラもどき。

 

(なのに、力を得たばかりの俺から、また力を根刮ぎ奪っていきやがるのか。こいつらは……)

 

 口を大きく開いて、俺を食らおうとしたその時――。

 

 

「ギィ、グッ、グィィアァァァァ………」

 

 耳をつんざくような悲鳴が教会に響き渡る。

 それと同時に左腕がさっきと似たような生暖かい感触に包まれたが、俺は確かに握り締めた。アラガミに対抗出来る唯一の武器を。

 咄嗟に上体を逸らし、左腕だけを口の中へ突っ込み即座に神機を探し出し体内からアラガミに突き立てるなんて作戦、よく考えたと自分を褒めたい気分だ。 

 

(……俺から力を削ぐ? 冗談じゃない)

 

 体内に突き刺さる原因を吐き出したヴァジュラもどきの行動によって、俺の左腕と神機は無事だが、腕輪のない左腕で神機を掴んでいることが原因で、アラガミの偏食因子が俺の左腕を蝕む。

 偏食因子に対抗出来るのは偏食因子と判断し作り上げた神機の性質が、今は人間の俺を苦しめるなんてな。

 ……アラガミ化なんて勝手にすればいい。

 俺は自身に迫る“死”を全て払い除け、復讐を完遂するだけのことだ。

 

(俺には目標がある)

 

 怒ったように俺へ突出してくるヴァジュラもどきを跳ぶことで回避し、垂直に剣を構え、急降下する。

 

 

 

(お前らアラガミを全部、駆逐してやる)

 

 

 ヴァジュラもどきに決定的なダメージを与えることには成功したが、あいつはダメージがピークに達している事態に気付き、嵐のように消え去った。

 それを見届けた後――。

 緊張の糸が切れたように俺の体も地面に伏せる。

 

(……逃げた、のか)

 

 まぁ、いい。よくわからないアラガミを撤退に追い込んだだけでも結果としてはいい感じだ。

 

(少し寝ようかな)

 

 緊張の糸が切れてしまったが故に、意識が段々と遠くなっていく俺。

 あわよくば救護班のメンバーが俺を助けに来てくれると嬉しいなと思いながら、俺は意識を失った。

 

 

 

 ――ミッション名『蒼穹の月』にて、第一部隊所属『鳴神ハヤト』は忽然と姿を消した。

 戦闘を行ったであろう場所では、見るも無惨な光景が繰り広がっており、生きていると保証出来るものは何一つ残されていない。

 その光景を目の当たりにしたリンドウ、サクヤ、ソーマの三名は、バラバラに砕かれた神機の一部、夥しい量の血が付着している地面を視界に入れてしまい心底悔しそうな表情を浮かべた。

 

 

 

 

 



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第11話 残された者たち

 

 

 

 

 『鳴神ハヤト』が姿を消し、現場の状況からして戦死したと判断されてから数週間後――。

 

「…………」

 

 アナグラ内部はまるで毎日が葬式と言わんばかりに暗かった。何よりも神機使い一人一人が漂わせる雰囲気が暗く、それが顕著に出ているのが現場に復帰したばかりのアリサとコウタだ。二人は新人で、その現場にいたからこそ責任を負っていた。

 

「……てめぇ、いつまで被害者面してやがんだよ!」

 

 その光景を数日も見ていたシュンがアリサに向かって歩きながら、怒声を浴びせる。

 いち早く異変を察知したタツミとブレンダンによって、暴力的な接触は回避されたが、今にもシュンはアリサに殴りかかりそうな雰囲気を漂わせていた。

 

「悲劇のお姫様面してんじゃねぇよ。いつもの高飛車な態度はどうしたよ」

「あっ……」

「お前が……お前のせいで、ハヤトが……」

 

 何度か喧嘩になったことがあったが、シュンにとってハヤトは友人だった。

 最初は新型だっていうのを知って、シュンは彼の才能に嫉妬し何度も突っかかったが、彼は何も文句は言わずただシュンに合わせるように喧嘩を行っていただけ。本当の暴力には至らなかった。だからこそ、彼らを取り巻く人間は笑い合っていた。シュンもハヤトも楽しそうに笑い合っていたのだ。

 なのに……あのやり取りはもう出来ない。

 

 自分からその楽しさを奪ったのは、新型で偉そうに振舞っていた新入り。そいつのせいで全てが無茶苦茶にされた。それがシュンの胸中をグチャグチャにした。

 

「シュンっ! 今、それを言っても意味がない。泣き言言ってもハヤトは戻って来ないんだよ」

「わかってる……。わかってるけどよ」

 

 タツミの一言を受けても尚、シュンは現場にいた人間に対して非難の言葉を抑えきれない。

 その場にいるタツミやブレンダン、カノンやジーナにカレンとヒバリも同じだ。けれども、タツミは防衛班のリーダーとして泣き言を言っている場合じゃないと自分を律し、ブレンダンやカレンも寂しさと悔しさを胸に留まらせ、カノンやジーナにヒバリは目尻に涙を溜めながらも今出来ることを頑張ろうとしている。

 

 

「……くっそーーーっ!!」

 

 

 何よりも虚しいのは、自身が何も出来なかったこと。

 許可が降りなくて、直ぐに助けに行くことが不可能だったことに対して、シュンは嘆いた。これがハヤトだったならば、命令に背いてまでも助けに行ったのだろうなと思えば思うほど、それが鋭い刃と化して無力な自分に突き刺さる。

 

 

 

 シュンの言葉を一人、遠く離れた場所で聞いていた青年はぐっと拳を握り締め、研究所へと向かった。

 

「榊のおっさん。ハヤトが生きている可能性は?」

「正直に言って五十パーセントぐらいだね。神機の一部分が見つかっただけじゃ本当に戦死とは思えない。これでもし腕輪と神機が見つかってしまえば、七十パーセントに跳ね上がるけど」

「十分だ」

 

 自分の無力さを嘆くのは、あの時に済ましたと言わんばかりに堂々と研究所を出たソーマの胸中にある思いは一つだけ。

 

 

 

 

 

 

 ――ハヤトは絶対に生きている。

 

 

 

 

 人一倍努力家で、誰よりも成長速度が早く、たった数週間でオレらと同等の力を手にしたあいつなら絶対に生きていると考えたソーマは、早くあいつを見つけてやろうと今日もまた、アナグラを飛び出していった。

 

 

 

 同時刻――。

 ソーマと同じく動き出したひと組がいた。

 

「……サクヤ。俺の話を聞いてくれ。おそらくハヤトがいなくなったあのミッションでの狙いは俺を殺すことだ」

「えっ……? なんでリンドウを」

「……それはまだ言えない。けど、遠からず俺も動き出す。だから、お前は俺を信頼して欲しい。俺の身に何が起きても動揺せずに皆を纏めてくれ」

「わかったわ。まだ、何が起きてるのかきちんと把握は出来てないけど」

 

 誰の目にも届かないぐらい遠いエリアにて、これからの予定を話すリンドウとサクヤの二名。

 ハヤトは戦死したと言われているのに、死んだと言わない二人も内心では絶対に生きていると考えており、過去のことを悔やんでも仕方ないと未来を見通すことにしたのだ。

 

 

 彼らが動き出す時こそが、勝負の刻――。

 

 

 

 彼らの前に現れたアラガミがいたが、見事な連携によってロクな抵抗も出来ずに食い殺されたのは余談である。

 

 

 

 

 

 



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第12話 始動

 

「うぐっ!?」

 

 急に右腕に走った激痛によって、目が覚め、叩き起された気分に陥った俺。

 

「……くっそ。超いてぇ」

 

 腕輪ごと食われたのだ、当然だろう。俺は今、半ばアラガミ化している最中なのだろう。ヴァジュラもどきに食われたはずの右腕がある時点でそんな気はしていた。だが、しかし、それは最早人間の代物ではなかった。全体的に赤黒く変色している腕のようなナニカだ。

 左腕も腕輪がない状態で神機に触れてしまったのだ。アラガミ化するのも時間の問題だろう。

 現に腕輪なしで触ってしまった部分から少しずつ変色が始まっており、今では肘から腕の部分までアラガミのような腕へと変貌してしまっている。アラガミの偏食因子によって人体が蝕まれているのだろう。

 

 

 痛みに悶絶している俺が目に入ったのか、人間とは思えないが小さな少女が俺の右腕に手を被せるように添えると、右腕の痛みがすぅっと消えていった。

 少女が手を退けると、右腕には青い宝石のような物が埋め込まれており、痛みは完璧になくなった。

 

「……キミってさ、アラガミ?」

「……?」

 

 極当然な質問を行っただけなのだが、疑問を感じたのか。それとも言葉自体が理解出来ないのか少女は首を傾げていた。

 

「……はぁ」

 

 溜め息を小さくついた後、俺は自分を指差した後、名前を告げる。

 

「ハヤトだ。鳴神ハヤト」

「ハヤト……? ハヤトっ!」

 

 少し理解出来なかったのか不思議に思う声を上げたが、直後、それが俺の名前だと理解した少女はぱっと満開の花を印象付けるような笑みで、俺の名前を呼ぶ。

 

「そうだ。キミの名前は?」

「ナマエ……?」

 

 どうやらこの調子じゃあ、名前がないみたいだな。

 それだと呼ぶのに苦労しそうだから、何か名前を付けてあげようか。

 

「そうだなぁ」

 

 目の前にいる小さな少女を見てから、俺は名前を告げる。

 

「……シオ。今日からキミの名前はシオだ」

「シオ?」

 

 俺が少女を指差しながら告げた名前を繰り返すように、自分を指差しながら名前を発した。

 

「あぁ、シオだ」

「シオ……。シオ!!」

 

 この時から俺は子供を持ったみたいで嬉しくて、生活を送る上で必要な言葉だけは教えることにした。

 それが後に偶然を引き起こすキッカケとなるとは思いもしなかった。

 

 

 

 ◇

 

 

 数日後――。

 

 

 

 

「……はぁ、そろそろ覚悟を決めないといけないかな」

 

 

 

 

 

 シオはいつの間にか姿を消し、隠れ家にいるのも俺一人だった。

 しかも、シオが俺に授けてくれた青いコア。あれから数日間もの間で、光が失われつつあった。その光が消えようとしている現在、俺は必死に食い物となる『アラガミ』を探していた。

 今の俺に、人である意識なんて殆ど残っていないだろう。アラガミとしての本能に従っているだけに過ぎないのだから。

 

 

 

 

 

「食い殺したりねェ」

 

 

 

 

 手当たり次第に向かってくるアラガミを全て食い殺してはいるが、癒えない。腹は減っていく一方だ。

 そんな風に食料が不足している現状に苛々していると、目の前に見たこともないアラガミがいることに気付いた。

 

 

 

 

「白い、アラガミ……」

 

 

 脳裏に似たようなアラガミ『プリティヴィ・マータ』の姿がチラつくが関係ない。あいつはあいつ、こいつはこいつだ。

 

 

(ぜったいに、くいころす)

 

 

 食事に必至な『白いアラガミ』に向かって、俺は全力で振りかぶった一撃を振り下ろす。

 

 

 

 ◇

 

 

 

 圧倒的な戦闘能力の差で勝ち誇ったのは、ハヤトだった。

 彼は持ち前の戦闘センスを最大限に引き出し、右腕と一心同体とも言える神機モドキのお陰で無傷の完勝を得ていた。

 

 

 そして、今はバリバリっという音を立てながら、ハヤトは『白いアラガミ』を食っていた。彼が食事を行っている際、青いコアは輝きを取り戻しつつあった。

 

 

 

(……白いアラガミを倒せば、俺は生き長らえることが出来る?)

 

 

 

 そう結論付けたハヤトは、一刻も早くこの『白いアラガミ』を食い尽くそうと考え、自身の腕と神機が合体したような刃物を持ちながら屋根上を走り続ける。

 これが後に語り継がれることとなる『深紅の捕食者《プレデター》』の始まりだった。

 

 

 




第一部、完!!

GE2DLCである『漆黒の追跡者』に合わせた終わり方をしたかったので、こんな形で一旦終わらさせていただきます。

この後の流れは二通りあります。
原作であるGEのシナリオ通り、主人公交代しつつ進めるか。或いは主人公視点での話――『漆黒の追跡者』のアレンジVerを進めるか。

研修期間中は絶対に書けませんし、終わっても当分は書けないと思いますので、その間に感想などで意見をくだされば助かります。

ご協力、よろしくお願いします!!


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