不幸学生 (ヤザヤザ)
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第1話

 初めて書いたので、誤字脱字や文章がおかしかったりすことなどあると思いますので、できれば指摘などしてくれると助かります。


 ホームルームが終わり、騒がしくなる教室。

 

 喧騒が嫌なのか、ささっと教室から出ようとする端麗(たんれい)な顔立ちをした黒髪の少年―横花昴(よこばなすばる)

 

(早く出なければ、ならない。あいつらから早く逃げなければ!)

 

 早歩きをして、急ぐ昴。

 

 引き戸のところまできたそのとき―

 

 何が頭上を通り越し、目の前に現れる。そこには、こげ茶色のボサボサの髪と同じ色をした瞳の少年がいた。その少年は昴の幼馴染の浅草(あさくさ)タケル。

 

 タケルは昴に、いつも迷惑かけている。

 

 例えば、レストランでいつのまにかいなくなり代金を払わされたり、やり忘れていた宿題を一緒にやらされ遅刻してしまったなどがあった。

 

「昴、学校が終わったからハンバーガー食べにいこう」

 

 落胆する昴。そんな彼の気持ちなど気づかず、タケルは言い続ける。

 

「頼むよ、昴。君だけが頼りなんだ」

「お前一人で行け。というか何故、俺が行かなければならない?」

「昴に奢ってもらうためだよ?」

「さらっと言うな。とにかく、俺は行かないからな」

 

 タケルを横切ってドアに手をかけようとする昴。

 

 その瞬間―

 

「すみませんって、昴さん! ちょうどよかった、ちょっとお願いがあるんです」

 

 ドアが勢いよく開き、整った顔立ちにストレートロングの紫檀色(したんいろ)の髪の少女が現れた。彼女は昴のもう一人の幼馴染、石鳥結菜(いしとりゆな)

 

 結菜もタケルと同じく、昴に迷惑をかけている。お金が足りなくてバスの運賃を払わされたり、横断歩道で信号を待ってるとき、結菜に脅かされ携帯を道路に落とし、その携帯が車に(ひか)れ壊されたりした。

 

「今度はお前か! 何だ、お願いとやらは?」

「ハンバーガー食べに行きましょう」

「お前もか! 俺は行かないぞ。そもそも、今日は用事があるし」

「用事といっても、どうせ欲しい本があるから本屋に行くとかだろ昴」

「違うぞ、タケル。本屋ではなくれっきとした用事だ」

「欲しいロボットのプラモがあるから、おもちゃ屋に行くとかですか?」

「うっ! 結菜、何故それを!」

 

 昴は吃驚(びっくり)する。

 

 昴はロボット好きである。本人は子供っぽい趣味と思いそのことを隠してるが長い付き合いのタケルたちには、見え見え。

 

「えっ? だって昴さんの部屋に、えーと確か、かか、カステラでしたっけ? カステラのプラモデルがあるじゃないですか」

 

「カステラじゃない、ガ○ダムだ。カステラのプラモとか何だそれ。そもそも、俺の部屋にあるアレは親父のでだ」

「じゃあ、何で昴の部屋に親父さんのプラモがあるんですか?」

「うっ! それは……家の事情だ! とにかく、俺はもう行く。その親父からプラモを買ってくれと頼まれてるからな」

 

 昴は嘘をついて誤魔化して結菜を横切って教室から出た。

 

 これ以上、付き合ってられないと昴は判断し、この学校の周辺にはおもちゃ屋とかがないため、ここから少し遠くにあるデパートのらんらんぽーとに向かう。

 

 そのとき、昴の両肩が掴まれる。

 

「それなら、私も一緒に行きます!」

「僕も特にやることないから行くよ」

「は? 何言ってるんだお前ら。来なくていい、というか来るな」

 

 昴は怒気を含んで言う。

 

 しかし、その怒気に気づかないタケルと結菜は喋り続ける。

 

「そんな固いこと言わないでさっさと行きましょうよ、昴さん」

「昴、プラモを買ったら、ハンバーガー食べに行こう」

「……わかったよ。ただし、邪魔だけはするなよ! あと、ハンバーガーは食べに行かないぞ」

「分かりました」

「チッ! 駄目だったか」

 

 二人に何言っても付いていくだろうと(さと)る昴。連れて行かないことを諦め、さっさと、らんらんぽーとと結菜?いうデパートに行くことにする。

 

「あ、いた。おーい、横花君!」

 

 突如、後ろから呼びかけられる。

 

 後ろを振り向く昴たち。そこには、オレンジ色の瞳にスポーツ刈りの赤毛―荻縄朝日(おぎなわあさひ)がいた。

 

 朝日は熱心に授業や部活にボランティア活動を取り組む昴のクラスの熱血学級員。

 

「何だ、荻縄。俺に何かようか?」

「今日の掃除当番が風邪で休みだから、次の掃除当番の横花君が掃除することになったことを伝えに来たんだ」

「は? 掃除当番だと⁉」

「そう、掃除当番。僕も手伝うから早く終わらせよう横花君!」

「どうするですか、昴さん?」

「昴、僕は手伝はないから」

 

 小声で昴に話す結菜とタケル。

 

(どうする⁉ どうせ売れ残ってるから…嫌、駄目だ! 売れ切れる可能性もある。どうすればいいんだ……)

 

 ちょっとだけ焦る昴。しかし、すぐに冷静になる。

 

「こうなったら、結菜、タケル……逃げるぞ‼」

「「了解」」

 

 昴たちは全速力で走り逃げ出した。

 

「っておい! 昴君! ああ、掃除が……」

 

 呼び止める声を無視して、昴はひたすら前を向いて走り続けた。

 

 

 

 

 

 



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第2話

 まだあまり自信がなく、文章がおかしいところもあると思いますが最後まで読んでくれると幸いです。
 


 

 朝日から逃げ、学校の近くのバス停までたどり着いた昴たち。周りには枯れた桜の花びらが散乱していた。

 

 激しく息切れをする昴。そんな昴をタケルと結菜は呆れた様子で見る。 

 

「昴、もう息切れかい? だらしないな」 

「それでも、男ですか? 昴さん」

「うる…さい…ぞ。この運動バカ共…」

 

 昴は異常すぎるほど体力がない。恥ずかしいことに、小学生と徒競走しても()()()になってしまうくらいない。

 

 それにひきかえ、結菜は普通の人より少しあり、タケルは昴と逆に異常なほどある。

 

「そういえば、荻縄は追いかけて来ないな」

「そうですね、荻縄さん追いかけて来ませんでしたね」

 

 後ろを振り返ってみるタケルと結菜。呼吸を整えた昴は言う。

 

(いち)(ばち)かで逃げてみたが、まさか追いかけて来ないなんてアイツらしくないな」

 

 荻縄朝日は異常なほどな熱心で正義感が強く、曲がったことが大嫌いな性格である。そんな彼が、急に掃除当番になってしまったとはいえ当番から逃げ出した昴を追いかけて来ない。

 

 昴は不思議に思うがその不審を心の奥底に押しこむ。

 

「まあ、追いかけてこないならそれに()したことはない」

「確かにそうだね。そんなことより、走ったら小腹が空いたからコンビニ行こう。昴、奢って」

「そうですね、確か近くにローゾンがあるから、そこに行きましょう。昴さん奢ってください」

「奢るか! というかお前ら、なんで俺が逃げたと思ってるんだ!」

 

 タケルと結菜は首を傾げて言った。

 

「「奢ってもらうため?」」

「違う! プラモを買いに行くためだ!」

「そんな……昴さんは酷いです。私達の小腹よりもプラモデルを優先するんですか! 人としておかしいです!」

「そうだ! 昴、君はどうかしてる!」

「俺が奢らないことを異様(いよう)扱いするお前らが、人としてどうかしてるぞ」

 

 呆れた昴は二人を無視して、ポケットからスマホを取り出しバスの時刻を調べる。その結果、バスがもうすぐで来ることがわかった。

 

(お、珍しい。いつもなら、数十分後や遅延するのに今日は時間通りかつもうすぐで着くなんて……)

 

「昴さん昴さん、聞こえてますか?」

 

 バスの時刻を調べてた昴に、結菜が話しかけてくる。また奢りの話かと昴は思い怒気を込めて答える。

 

「何だ? 奢りなら―」

「バスと荻縄さんがきましたよ」 

「……は?」

 

 昴は後ろを振り向く。そこにはバスとそのバスを追い越す朝日の走ってくる姿があった。

 

「横花君! 見つけたぞ!」

 

 朝日は怒鳴りつけた。

 

 朝日の表情はすごい剣幕で、激怒してることがわかる。

 そんな彼を見た、昴は青ざめた。

 

(ふ、不幸すぎる! バスと一緒に荻縄も来るなんて! というか、何故、荻縄はバスを追い越せてるんだ⁉)

 

「そういえば、荻縄さんってタケルさんと同じくらい運動神経がありましたよね?」

「違うよ。同じくらいじゃなくて、僕の方が上なんだ」

「マジか……って呑気(のんき)に話してる場合じゃない! 結菜、荻縄と何か話して時間稼ぎをしてこい」 

「え? 嫌です」

「なっ!? ……ならタケル! お前が―」

「は? 嫌だよ」

「そんな……もういい。自分で何とかする」 

 

 二人に拒否された昴。

 

 朝日が追いかけて来てることに恐怖を感じながらも、昴は必死に耐え考える。

 

(クソ、どうする⁉ 次のバス停まで逃げるか? いや、駄目だ絶対に捕まる。なら掃除を明日にしてもらうとかは? 不可能だ、今の荻縄には何言っても通じないだろう。せめて誰かが協力してくれれば……ん? 協力?)

 

 何か思いついた昴は顎に手を触れ、冷静に考える。

 

(協力………は! そうだ、思いついた‼ この状況を解決する方法が!)

 

「なあ、結菜。俺を助けてくれないのか?」

 

 昴は暗い表情で、結菜に言った。

 

 しかし、嫌な予感を感じたのか、結菜は睨みつけ警戒する。

 

「は? 助けませんよ。『それに自分で何とかする』って言ったじゃあないですか」

「ああ、確かに言った。だが、考えても思いつかないんだ。……頼む! 俺を助けてくれ! もし、助けたら今日奢るから!」

「奢る! 分かりました。何すればいいんですか?」

 

 警戒心が消え、キラキラと目を輝せる結菜。そんな結菜を見た昴は表情が明るくなる。

 

「ありがとう結菜。荻縄に『助けてください』と嘘泣きをしながら言い続ければいい」

「分かりました、任せてください。奢りの件、忘れないでくださいよ」

 

 結菜はすぐに走って朝日のところに行く。

 そして朝日の前に立ち塞がり、昴に指示されたとおりに行動する。

 

 その行動に朝日は困惑(こんわく)しだした。

 

 それを見た昴はニヤリと笑う。 

 

(馬鹿だな結菜。今日はもう会わないだろうに)

 

 結菜は馬鹿である。テストではいつも赤点、普通は気付ける嘘に騙されたり、物に釣られてしまう。

 

 昴はその馬鹿なところをつけ込んで結菜を騙した。

 

「結菜を騙すなんて、君は酷いヤツだな」 

 

 引いた表情でタケルが言った。

 

「普段から俺に迷惑かけてるんだからいいだろ。というか、気付いてたら教えてやればよかったんじゃないか?」

「騙されてる結菜が面白かったから、黙ることにしたんだ」

「お前のほうが酷いヤツじゃねえか!」

 

 昴が言った瞬間、バスが到着する。

 

 昴は後ろを振り向き、朝日と結菜を確認する。嘘泣きしている結菜を本気で泣いてると思い、慰めようとしている。

 

「ほら、結菜が時間稼ぎしているうちに乗ったら?」

「わかってる。急げ、今の内に乗って行くぞ」

「了解」

 

 タケルと昴はバスに乗る。

 

 バスの中は人は多かったが、入り口の近くにある少し段差がある席が二つ空いていた。

 

 タケルと昴はそこに座る。その瞬間、ドアが閉まりバスが動き走り始めた。

 

(よし、これで問題無し。あとはらんらんぽーとの近くのバス停まで待つだけだ。結菜、お前の犠牲は無駄ではなかったぞ。さて、もう俺を阻む者はいない。フフフハハハハ)

 

 心の中で昴は笑った。

 

 ☆ ☆ ☆

 

 タケルと昴がバスに乗って数分後、バスはデパートの近くのバス停にたどり着く。

 

 そしてバスのドアが開き、乗客達は一斉に降りる。

 

「やっと着いたね」

「ああ」

 

 タケルと昴は椅子から立ち上がり、バスの出口に向かった。

 

 その瞬間―

 

「動くな! このバスは俺が乗っ取った!」

 

 黒いパーカーにジーンズ、ちょっと太った体型をした中年ぐらいの男が言った。

 

 その男の手には包丁が握られており、それを運転手に向ける。

 

「おい、運転手。バスのドアを閉めろ!」

「は、はい!」

 

 その光景を見ていた昴は驚愕(きょうがく)していた。

 

(……はっ、まずい! ドアが閉められる) 

 

 ドアが閉められることを知った昴は急いで降りようとする。しかし、タケルが降りた瞬間にドアが閉まった。

 

「は?」

 

 昴は周りを見る。だが彼の他に誰もいない。つまり、昴はバスジャックされたバスに一人取り残された。

 

「……ふ、不幸すぎるぞおおおおお!」

 

 昴は絶叫した。

 

 

 




 この小説を読んでいただき、ありがとうございます。
 初めまして、ヤザヤザです。
 最近、コーヒーにハマり、百均でコーヒースプーンを買ってしまったんですが、家に大量にあってちょっとだけ、ショックをしてしまいました。
 そんなことより、一話から約一ヶ月間執筆がかかってしまい申し訳ありません。まだまだ力不足で時間がかかったり、文章がおかしかったりするかもしれません。
 それでも、最後まで読んでいただければ幸いです。
 


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第3話

長く時間待たせて、申し訳ありません。



 降りようとしたバスにハイジャックが起きてしまい、一人だけ降りられなかった昴。

 

 当然、昴は焦っていた。

 

(ヤバイ……マジでヤバイぞ!)

「おい、運転手! 速くバスを出せ!」

「は、はい!」

 

 バスジャックの男の言う通り、運転手はアクセルを踏んでバスを出す。

 

「もっとスピードを出せ! あと、そこのお前、こっちに来い!」

 

 バスジャックの男は、昴を呼ぶ。

 

 昴はビクッと震え、さらに焦りだす。

 

(クソおおおおおお! どうする! 大人しくバスジャックの男のところに行くか? いや駄目だ、人質にされて逃げれる可能性が低くなる。それなら、運転手と一緒にバスジャックの男を拘束すれば……無理だ、俺は力がないから足手まといになる。クソ、どうすれば……)

 

焦りながらも必死に、昴は解決方法を考える。

 

「おい、お前聞こえてんだろ! こっちに来やがれ!」 

 

バスジャックの男の怒声は強くなっていく。

 

昴は自分の頭を抱え込む。

 

(聞こえてるよ! ……ん、そうだ思いついた、思いついたいたぞ解決方法! だがこれは、あまりにも危険でうまくいく保証はない。どうするやるか?)

 

その解決方法を実行するか悩んでいると、バスジャックの男が近くの席を蹴り激怒する。

 

「聞こえてるだろ! 速くこっちに来いクソガキ!」

 

先にほどより、さらに強い怒声でバスジャックの男は脅すように言う。

 

昴は瞼を閉じる。

 

(もうやるしかないこの方法で!)

 

昴はその方法を実行することに決めた。

 

その方法はあまりにも危険で、失敗する可能性が高い。

 

それでも、昴はこの方法に賭けることにした。

 

生きるために。

 

大きく息を吸って、昴は瞼を開ける。

 

今の昴からはバスジャックに怯えていた恐怖が消え、剛毅(ごうき)な覚悟があった。

 

(行くぞ、俺!)

 

昴はバスジャックの男の方に振り向き、

 

「ううううううっ!? 頭が痛くて聞こえなーい! うああああああ!」

 

強い頭痛で苦しむ演技をした。

 

そんな昴の演技を見た、バスジャックの男は、

 

「ふざけてんじゃあねえぞ、クソガキ!」

 

昴の演技を簡単に見抜いた。

 

(ですよね! 無理ですよね! わかってました)

 

 昴の演技のせいか、強烈な怒りと殺気を出しながらバスジャックの男は、昴に近づいてくる。

 

「お前……、ふざけてんじゃねえぞ!」

 

(あ、終わった俺の人生。母さん、父さん今まで育ててくれてありがとう。神、俺が死んだ後は不幸体質を取り除き、今度は普通の人生を過ごさせろ)

 

最期を感じた昴は瞼を閉じて、心の中で遺言を言った。

 

そのとき――

突然、バスが急ブレーキをして止まる。

 

「「うおっ!?」」

 

大きく揺れるバスに、二人は驚く。

 

昴は咄嗟に近くの手すりに掴まるが、バスジャックの男は反応が遅れ、手に持っていた包丁を運転席の方に手放し後ろに倒れ、後頭部を強く打つ。

 

「ぐげっ!」

 

バスジャックの男は呻き声をあげた。

 

(……た、助かった!! 何故、急ブレーキをしたかわからないが、まあ助かったから理由なんてどうでもいいか)

 

昴は安堵(あんど)する。

 

「す、すみません! 猫が急に飛び出して止まって――」

 

運転手は運転席から出て、バスジャックの男に急ブレーキの理由を話そうとする。

 

その運転手に包丁が飛んでくる。

 

「運転手さん、危ない!」

 

昴は 運転手に危急(ききゅう)を知らせる。

 

「え? うおっ!」

 

飛んできた包丁に運転手は驚き、サッと避ける。

 

しかし――

 

「ぐわっ!?」

 

避けた先には段差がある席があり、運転手はその席に側頭部をぶつけ俯せに倒れた。

 

「運転手!? せっかくバスジャックの男が気絶したらしいのに!」

 

昴は運転手のところに行き、声をかけたり、揺すったりする。だか、起き上がらない。

 

(クソ、バスジャックの男が起き上がる前に脱出しなきゃいけないのに……ん、これは)

 

そのとき、昴の足元の近くに包丁が落ちてあった。

 

(一応拾っておくか。バスジャックの男が拾ったらヤバいし……)

 

念のため、昴は包丁を拾う。

 

そのとき、運転手が起き出した。

 

「いてて。何でこんなに痛いんだ? 確か俺はバスジャックにあって……」

 

意識を取り戻た運転手に、昴は喜悦(きえつ)する。

 

「あ、よかった無事でしたか。今のうちに脱出しましょう。バスジャックのお――」

 

「観念しろ、このバスジャック野郎!」

 

状況を説明する昴を、()()()()()()()()()()()()()()

 

「…………はあ?」

 

昴は混乱した。

 

いきなり、自分のことをバスジャック野郎と言って襟を掴んできたのだから。

 

(は? 今、何て言った? 俺のことをバスジャックって言ったのか。……はああああああ!? 俺がバスジャック!?)

 

運転手の言ったことを、やっと理解した昴は弁解する。

 

「な、何言ってるんですか! 違いますよ!」

「嘘つけ! 俺を騙せると思うなよ。証拠にお前の手には包丁があるじゃねえか!!」

「この包丁はバスジャックの男が、拾わせないようにしただけです!」

「そんな嘘で騙せると思ってんのか、馬鹿じゃねえの!」

 

昴の言っていることを全く信じない運転手。

 

そのとき、気を失っていたバスジャックの男が呻き声をあげ、起き上がり始める。

 

「いたたた、あれ俺は……」

(マ、マズイ!)

 

バスジャックの男が起き上がっていることに昴は気付く。

 

昴は焦りだし襟を掴んでる運転手の手を、引き剥がそうとする。

 

「離せ! ふざけてる場合じゃないんだぞ!」

「離すかよ! このまま、お前を拘束して警察に引き渡してやる!」

「離せ! このクソジジイ!」

 

自分のいってることを信じない運転手に、昴は激怒した。

 

(早くこの運転手をどうにかしないと、バスジャックが起き上がってしまい、今度こそ俺は終わる)

 

昴は抵抗しながら、対処法を考えようとしたとき、

 

「おい、てめえ! 何してやがる!」

「し、しまった!?」

 

バスジャックの男の方に昴は目を向ける。

 

バスジャックの男はすでに起き上がり、昴を睨みつけていた。

 

(今度こそ、終わったな、俺……)

 

バスジャックの男は昴たちのところに走ってくる。

 

昴は瞼を閉じ、死を覚悟した。

 

バスジャックの男は昴に抱きつき、言う。

 

「バスジャック! その包丁を離せえええ!」

「…………え? ええええええ!?」

 

昴は驚愕(きょうがく)する。

 

「は、はああああああ!? 何言ってるんだ! バスジャックはお前だろ!」

「違う! 俺はお前と違ってバスジャックなんて()()()()()()()()()()()()()!」

「は!? お前何言ってんの!」

 

バスジャックの男の発言と行動に、昴はする。

 

「助かったぜ! ()()()()()()()()()。ちょっとコイツを抑えていてくれ」

 

運転手は昴の襟を離し、自分の上着とシャツを脱ぐ。

 

その間に昴は包丁を離して両腕で、抱きついているバスジャックの男に全力で抵抗する。

 

だが、全くビクともしなかった。

 

「クソ、なんて力だ」

「お前、力弱すぎだろ」

 

バスジャックのは言った。

 

(く、俺は何で力が無いんだ…… そういえば、運転手は何してんだ?)

 

昴は運転手を見る。

 

運転手は自分のシャツを破って紐を作り始めた。

 

「おい、運転手、俺は本当にバスジャック犯じゃない。 コイツなんだぞ、コイツが本当のバスジャック犯なんだぞ!」

「何言ってるんだ、馬鹿かお前?」

 

運転手は呆れ果てる。

 

「本当だ、運転手! 俺はバスジャック犯じゃない! コイツがバスジャック犯だぞ」

「違うって言ってんだろ! 運転手さん、早く!」

「ああ、バスジャック犯。お前はもう終わりだ」

 

運転手は昴に近づいていく。

 

そんな運転手を見て、昴は競々(きょうきょう)する。

 

「や、止めろ、来るな……、ふ、不幸すぎる! 不幸すぎるぞおおおおおお!」

 

こうして、運転手とバスジャックの男によって昴は拘束された。

 

拘束されてる途中、昴は気づいた。

 

二人は頭をうったときに記憶を失っていたことに。運転手は、バスジャックの男が誰だったのか。バスジャックの男はバスジャックをしたことを。

 

 




どうも、ヤザヤザです。
ついに、四月も終わり令和ですね。
この四月、交通事故に遭いかけ自分も横花昴のように、不幸体質になってしまったのかと思いました(笑)
そんなことはさておき、不幸学生はいよいよ終わりに近づいてきました。
こんな小説を三話まで、読んでくれてありがとうございます。
四話も家庭の事情とかで執筆に時間を掛けてしまうと思いますが、引き続き不幸学生をよろしくお願いします。
それでは。


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第4話


4話です。今回から改行していこうと思います。


日が暮れかけ、周りが徐々に夕景で染まっていく建物と道路。

 

そこに一台のバスが走行していた。

 

そのバスの運転席の後ろにある段差の席に、横花昴は両手、両足、口を運転手のワイシャツで作った紐で縛られていた。

 

(無罪で捕まった人の気持ち、俺は理解したよ)

 

窓から見える景色を見て、昴は思った。

 

そして昴は拘束した張本人たちを見る。

 

昴を拘束した張本人たち――バスジャックの男と上半身裸の運転手は、昴を警察に引き渡すため交番を探していた。

 

「駄目だ。全く見つかんねえよ、運転手さん」

 

「もっとよく探せ。にしても包丁でバスジャックとか馬鹿なやつがいるもんだ」

 

「本当ですよ。馬鹿ですよね、アイツは」

 

手に持っている包丁を凝視して、バスジャックの男は言った。

 

(お前がな!)

 

昴はバスジャックの男を睨む。

 

「こんな包丁で、何故バスジャックなんてするんだろうな……、いずれは捕まるのに」

 

バスジャックの男は呟く。

 

(だから、お前がな!)

 

さらに怒気をこめて、昴は睨んだ。

 

「どうせストレスとかなんじゃねえの」

 

包丁を凝視するバスジャックの男に、運転手は言った。

 

「あの学生はストレスが発散できない結果、こんな馬鹿な行動してしまったんじゃねえの」

 

「そうなんですか……。俺はストレスを抱えてもこんなことはしないのに」

 

(確かにあの馬鹿たち(タケルと結菜)のせいでストレスは抱えているが、バスジャックをしたのはお前だぞ!)

 

さらに、昴は強くバスジャックの男を睨む。

 

「そうだな、お前はきっとそんなことを、ってうわっ!!」

 

運転手が言いかけたところで、急に車が飛び出す。

 

運転手は急ブレーキを踏み、 バスが大きく揺れ止まる。

 

「うおっ!」

 

その揺れでバスジャックの男は転びかけるが、咄嗟に手すりに掴まる。そのとき、手に持っていた包丁を手放してしまう。だが、バスジャックの男は気づいていない。

その包丁は昴の左手の方に向かってくる。

 

(う、うおおお!? ほ、包丁が!)

 

危険を感じ、昴は避けようとする。しかし、紐で縛られているため、避けようにも避けれない。

 

瞼を強く瞑り、歯を噛みしめ、昴は痛覚に備えた。

 

だが、左手からはちょっとの痛覚と金属の感触を感じるだけだった。

 

(……ん? ちょっとしか痛くないぞ)

 

瞼を開き、昴は左手の方を見る。そこには、椅子の手すりに刺さった包丁と()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

(あ、危なかった。もし、数センチズレてたら……考えないようにしよ。それより、これはチャンスだ。左手を解放し、包丁で他の紐を切れば――)

 

昴は左手に力を入れて、全力で上に上げる。

 

紐のきれみはビリビリと音を立て大きくなっていき、破れた。

 

すぐに昴はバスジャックの男たちを見る。

 

「急に出てくるなよ、プリ◯ス」

 

「何でプリ◯ス製の車の運転手は、よく事故を起こそうとするんですかね。運転手さん」

 

「知らん」

 

(よし、気づいていないぞ)

 

バスジャックの男と運転手が気づいていないことを確認すると、自由になった左手で包丁を掴み、右手を縛っている紐を切る。

 

そしてバスジャックの男たちが気づいていないかを確認する。気づいていないことが分かると、包丁を右手に持ち替えて、口と右足を拘束している紐を切った。

 

(や、やった! あとは左足の紐だけだ!)

 

もう一度、昴はバスジャックの男たちを確認する。

 

「あ」

 

「あ」

 

昴はバスジャックの男と目が合ってしまった。

 

「て、てめえ! 何してんだ!」

 

「やべっ!?」

 

バスジャックの男は昴に迫ってくる。

 

昴の心臓の鼓動が早くなり、まるでホラーゲームで暗いところで、急に出てきた幽霊のような恐怖を昴は感じた。

 

すぐに縛られた左足の紐を、昴は急いで切る。切り終えたところで、バスジャックの男に右手を掴まれた。

 

「このバスジャック野郎!」

 

昴の頭部をバスジャックの男は殴った。

 

呻き声を出し右手で持ってた包丁を昴は落とす。殴られたところを昴は反射的に片手で押さえる。その隙にバスジャックの男は昴を椅子から引きずり下ろす。

 

「ぐわっ!」

 

昴は床に叩きつけられた。

 

「こいつ、俺が包丁を手放したことに気づいたら、いつのまにかに!」

 

「ど、どうした!? 何があった」

 

驚きながら運転手はバスジャックの男に何があったか尋ねる。

 

「運転手さん、バスジャックの野郎がいつの間にかに拘束を解いていたんですよ」

 

「そうだったのか。ただの学生だと思ったら拘束を解ける技術を身につけていたとは」

 

(このバスジャックの男が、包丁を手放してくれたおかげなんだが)

 

「こいつは今のうちに気絶させた方が……、ん、この音はなんだ?」

 

怒気を出しまくっていたバスジャックの男は、耳をすませる。そして急に笑い出す。

 

「今度はどうした? 」

 

運転手は引きながらバスジャックの男に言った。

 

バスジャックは笑いながら、運転手の方を振り向く。

 

「運転手さん、耳をすませばわかりますよ」

 

バスジャックの男に言われて、運転手は耳をすませる。

 

「こここれは!?」

 

運転手は驚く。

 

(一体どうしたんだ?)

 

昴は疑問に思ったとき、バスジャックの男と運転手は昴を見て言う。

 

「バスジャック野郎。お前は終わりだ」

 

「少年院行きだぞ、バスジャック」

 

運転手とバスジャックの男が言ったとき、拡張された声とサイレンが聞こえた。

 

『警察だ。そこのバス、止まりなさい』

 

「なっ!? 警察だと」

 

瞼を大きく開き、昴は驚く。

 

警察が来た。

 

警察が果たして昴の言うことを信じるか、運転手たちの言うこと信じるかで昴の人生は決まるだろう。

 

昴は絶望していた。どうせ自分の不幸体質のせいで、警察は運転手たちを信じて捕まるのだと。

 

(お……終わった、終わったぞ。どうせ警察も俺の言うことなんて信用しないんだろ)

 

運転手はバスを止まらせドアを開ける。しばらくして、一人の警察が銃を構えて入ってきた。

 

警察は目で周りを確認した後、すぐにバスジャックの男の方にに行き、

 

「やはりいたか! 町田麦(まちだむぎ)、銀行強盗及びバスジャックの罪で逮捕する」

 

警察は包丁を奪って手錠を着けた。

 

「「「……は?」」」

 

バスジャックの男――町田麦と運転手と昴は首をかしげる。そして、麦は声を上げた。

 

「ちょちょちょっと待ってくださいよ! バスジャックは俺じゃなくてこいつですよ!」

 

バスジャックの男は倒れている昴に指を指す。

 

警察はチラッと昴を見るが、すぐにバスジャックの男に蔑むような目をして言う。

 

「何を言ってる。お前が◯◯銀行で包丁を出して『金出せ』と言った防犯カメラからの映像があるし、浅草という学生から『友達がバスジャック犯の人質にされたので、助けてやってください』と軽々しく通報してきた。まあ、助けた後はその友達に何か奢らせて来てと頼まれたが……。つまり、この学生は被害者だ!」

 

「そ、そんな……、俺がバスジャック犯だなんて」

 

麦は俯ける。

 

(……助かった! ってか、よく考えたらそうなるよな。 とりあえず浅草、お前にはう◯い棒買ってやるぞ)

 

難関な学校に受かった学生のように、昴は喜んだ。

 

「警察さん、ちょっとよろしいですか?」

 

運転席から出てきた運転手はうつむいて警察に話しかける。

 

「あ、運転手さんもう大丈夫です。それにしても、よくバスを止められましたね。ってきり、麦が怒鳴って『止めるな!』って脅されて走り続けるかと思いましたよ……何故上半身裸?」

 

警察は放心な表情をする。

 

(何か嫌な予感するから早く出よう)

 

昴は起き上がり、バスから出ようと出口に向かう。

 

そのとき、運転手は()()()()()()()()()()()

バスから追い出され警察は、尻から落ちる。

 

「痛って! な、何をするんですか、運転手さん!?」

 

急いで運転手は運転席に戻り、バスのドアを閉めてバスを走らせる。昴を乗せたまま。

 

急に走らせたバスは揺れ、麦と昴は転ぶ。

 

「「……え? ええええええ!?」」

 

昴と麦は驚愕した。

 

「う、運転手さん!? な、何やって――」

 

「うるせえ!」

 

麦の発言を運転手は怒鳴って遮る。

 

「お前はバスジャック犯なんかじゃねえ! 警察は勘違いしてる。だから、俺たち二人で真犯人を見つけるぞ!」

 

「う、運転手ざ…ん……」

嗚咽しながら麦は言った。

 

そんな麦を昴は眺めた。そして、出口の方を振り向き、

 

「ふ、不幸すぎるだろこれ!!」

 

昴は大声で叫んだ。

 

 





どうも、ヤザヤザです。

最近、とあるソシャゲでガチャが爆死しまくり気づいてたらやらなくなっていました。

爆死嫌ですよねー。

そんなことより、不幸学生第4話いかがでしたか?

4話から改行していきますが、1~3話も改行していくので、少々お待ち下さい。

さて、次回の不幸学生はバス脱出です。

お楽しみに。





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第5話


第5話です。



サイレンを鳴す無数のパトカーから、バスは逃げていた。

 

そのバスに、警察はスピーカーで『そこのバス、止まりなさい』と言い続ける。

 

バスの運転手は額に汗を流す。

 

「クソ! しつこい奴らだぜ」

 

運転手は舌打ちをして言った。

 

「やべえ、いつの間に無数のパトカーが……」

 

後ろの窓から麦は状況を見て焦っていた。

 

そしてまたしても降りれなかった昴は、

 

(さて、どうやってここから脱出しようか?)

 

この状況に焦ることなく落ち着いて、優先席に座って足を組んでどうするか考えていた。

 

(……駄目だ。いくら考えてもやはり、あの運転手を気絶させてバスを止めるくらいしか方法が思いつかない)

 

昴は運転手と麦を見る。

 

二人は今の状況に焦っていて、余裕が無さそうだった。

 

(よし、今ならできるぞ。俺の力が弱くても不意打ちならできる。今の運転手は焦って周りが見えてない。バスジャックの男……確か町田だっな、町田も運転手と同じ状況。だから成功する確率はおそらく高い)

 

席から立ち上がり運転手にゆっくりと近づき、運転手の近くまでくると昴は一度止まって様子を見る。

 

(……よし、気づいてない。今のうちにコイツの頭をハンドルに勢いよくぶつけてやる!)

 

昴は運転手に近づく。

 

そして運転手の頭に勢いよく押そうとする。

 

そのとき、昴の左肩を麦は強く掴む。

 

「お前、何しようとしてる?」

「ちちち、違うんですよ! 運転手さんの頭にゴミがついてて、それを取ってあげようとしただけです!」

昴はすぐに後ろを振り向き、麦に言い訳をする。

 

「そうか? 俺は押すように見ていたが……、まあいい。それより、お前も手伝え」

「え? 手伝えとは?」

「わかんねえのかよ? あの警察たちから逃げることをだ」

 

昴は呆然とした。

 

昴を拘束したくせして、麦の逃走に 幇助(ほうじょ)してくれと頼んできたのだから。

 

すぐに昴は理解して、麦に顔を(しか)めた。

 

「あなたは俺に何をしたか覚えていますか?」

「ああ、悪かったよ。だからこれでチャラな」

ポケットから、麦は黒い財布を取り出し昴に渡す。

 

「これって言われても―」

「いいから受け取れ!」

「はい!」

 

麦は昴に怒鳴って従わせる。

 

「こ、これは!?」

 

そのとき、運転手が言った。

 

「な、何が起きたんですか、運転手さん?」

「麦って言ったけ? こっちに来てくれ」

 

運転手の言われた通りに麦は運転手のところに行く。

 

「こ、これは!?」

 

麦は口を開け瞼を大きく開き驚いた。

 

「あ、あんなのどうすれば……」

 

麦を小さく呟く。

 

(何だ? 凄いリアクションして驚くなんて。まあいい、こっちは財布の中身を確認)

 

昴は先ほど貰った財布の中身を調べた。

 

「な!? 空っぽじゃないか! あの野郎、空っぽの財布を渡したのかよ」

「おい。クソガキ、ちょっとこっちに来い!」

「え! あ、はい」

 

昴は貰った財布をポケットにしまい、麦のところに行く。

 

(うわ、ヤバい。もの凄く怒ってる……)

 

炎のような危険な雰囲気を出してに怒っているようだった。

 

「前の光景を見てみろ」

「前の光景って……、あ、警察だ」

 

バスの数百メートル先に、大量の警察が待ち伏せしていた。

 

「あの大量の警察を何とかして来い」

「は!? ただの学生がそんなことできるわけないだろ!」

「うるせえ! 俺はこのままだと無実の罪で捕まってしまうだぞ!」

(いや、無実じゃないから。お前のやってることはただの逃走だからな。あと、お前のことなどどうでもいい)

「落ち着け! 麦。コイツを使っても役に立たない」

 

運転手は麦を落ち着かせる。

 

その光景を見て、昴はため息をついて手を顎に触れて考える。

 

(普通の奴ならこのままいけば、コイツらは捕まり自由が戻ってくるだろうが、俺の場合そうじゃないだろう。どうせ俺も共犯者として捕まる。ならここはなんとしてでも逃げてもらはなければ……やはり、賭けに出るしかないか。まあ、悪い方に行く未来しか見えないがやらないよりはマシだろ)

 

昴は深呼吸をして言う。

 

「運転手さん。もし、助かるかどうか不可能に等しい作戦があるなら、やりますか?」

「は? やるに決まってるだろ。お前バカか」

「そうだ! やるに決まってるだろ! バカか」

(バカってなんだよ。コイツら!)

 

バカ扱いに運転手と麦への怒りを堪えて、昴は言う。

 

「それなら作戦があります」

「「何だって!? こんなバカに作戦が思いつくなんて!」」

(もう殴っちゃていいかなコイツら!)

 

さらに強くなった怒りを堪えて喋り続ける。

 

「まずバスを180度回転し走る。つまり、逆走する形になります。そして、追いかけてくるパトカーに突っ込む。これで逃げられるどうかは……運次第です」

「自滅行為じゃねえか!」

 

麦は昴を殴った。

 

(痛! 殴ったな、親父にもぶたれたこないのに! ってそれより、コイツ。普段俺が前置きに『不可能に近い』って言ったのに!)

 

昴は蛇のように目を細めて麦を睨む。

 

そのとき、運転手が言う。

 

「いや、麦。このバカの作戦に賭けてみるしかない」

「そんな、こんなの自滅しに行くようなもんですよ」

「確かにそうだ。だが、やってみる価値はある。どっちみち、このままでは終わりだ」

「そ、そんな……。分かりました。運転手さんが言うならこのバカの言うことに従います」

 

麦は上官に敬礼する兵士のような表情になる。

 

(コイツら俺に助言貰っておきながら、まだ俺をバカ扱いか)

 

昴は舌打ちを必死に堪えた。

 

運転手は深呼吸して覚悟を決める。

 

「お前ら、何かに掴まれよ!」

 

運転手の呼びかけで、麦は手すりに掴まり、昴は近くの椅子に座って手すりを掴む。

 

「いくぞ!」

 

運転手は急ブレーキを踏みハンドルを右に回す。

 

バスは円を描くように回る。タイヤから耳に響く音を発てながら180度のところで運転手はブレーキを辞めてアクセルを踏む。

 

急に方向を変えて突っ込んで来たバスに、警察は驚いて反射的にブレーキを踏む。バスはパトカーにぶつかる。

 

「うおおおおおお!」

 

バスに強い衝撃がはしり、窓ガラスが割れドアに他のパトカーが当たってドアが外れる。それでも運転手はそのままアクセルを踏み続ける。

 

「どわっ!?」

 

バスの衝撃で足を踏み外し、麦は床に頭を強く打った。

 

(ざまあみろ)

 

昴は心の中で言った。

 

「うやあああ!」

 

運転手はハンドルを左右に回して、バスの正面にぶつかったパトカーを振りほどく。

 

「よし! 今のうちに」

 

大量のパトカーを振り切ってバスは走る。

 

★ ★ ★

 

「よっしゃあ! 振り切ったぞ。おい、麦! 俺やったぞ」

 

あの後バスはいろんな道を走った。そしてついに警察を振り切ることに成功した。

 

運転手は涙を流して喜び、後ろを振り向き麦に呼びかけた。

 

しかし、麦は何も反応しない。

 

「おい、麦? ……おい、しっかりしろ!」

 

起きない麦に運転手は運転しながら叫ぶ。

 

そんな麦から昴はおそるおそる離れていた。

 

(コイツがあのとき、頭を打ったとき、スカッとした。だが、冷静になって考えてみたら逆にヤバい状況かもしれない。もしかするとコイツは――)

 

「うっ……いてえな、ちくしょう。あれ、俺は確か……」

 

麦は意識を取り戻し起き上がる。

 

「麦、生きてたんだな! 心配したぜこんちくしょう」

 

運転手は麦を見て喜び泣きをする。

 

そんな運転手を麦は眺め、

 

「おい、運転手! 何であのとき、止めやがった!」

運転手に襲いかかった。

 

運転手は反射的に麦の両手を掴む。

 

「ど、どうしたんだ麦!」

「何で俺の名前をしっている。ていうか、包丁はどこやった!」

 

運転手をハンドルに押し倒し麦は問う。

 

ハンドルは運転手と一緒に左右に回り、バスを左右に走らせる。

 

「やはり、コイツは()()()()()()()()()!」

 

昴は言った。

 

急いで外れたドアに昴は急いで向かう。

 

そのとき、バスが横転した。

 

「「「うわわわわわわ!」」」

 

車内は激しく揺れ、昴と麦と運転手はいろんなとこを強打する。

 

横転したバスは滑り、大きな建物の近くにあるバス停に止まった。

 

そこで昴たちは意識を失った。

 

★ ★ ★

 

「うっ、身体中が痛い……」

 

バスが横転してしばらくして、昴は意識を取り戻し起き上がった。

 

バスの外からは騒がしい声が聞こえるのと眩しい光が差し込み、車内は少し明るい。

 

(何故外は騒がしいんだ? あ、バスが横転したからか)

昴は一番前の割れた窓に向かうが、何かを踏む。

 

白目向いてる麦だった。

 

「顔を踏んで行こう」

 

昴は麦の顔を踏んで進む。

 

運転席のところまでくると、呻き声が聞こえた。

 

昴はその声のほうを振り向く。声の主は運転手だった。

 

「うっ……、あれ? ここはどこだ? 確か猫が飛び出してバスジャックの男に事情を話そうとして……」

 

「……逃げよう」

 

記憶が戻った運転手を無視して、割れた窓ガラスを蹴って大きく広げ、昴は怪我をしないように出る。

 

周りには誰もおらず、横転したバスに巻き込まれた人はいなかった。

 

バスから出ると昴は大きくため息をついた。

 

「もう今日は帰ろ……。疲れたなってここは!?」

 

帰ろうとした昴は激しく驚く。

 

ここは昴の目的地であるショッピングセンター――らんらんぽーと。

 

「……せっかくだし、ガンプラ買って帰るか」

 

昴は正面にある入り口に向かう。徐々に嬉々とした様子で歩く。

 

(買ったら明日からゆっくりと組み立てよう)

 

「やはり、来たか。遅かったじゃないか、横花君」

「誰だ。今日はもう勘弁……お、お前は!?」

 

正面の入り口には荻縄朝日が立ちはだかっていた。

 

「朝日……、頼む。見逃してくれ」

「見逃す? ああ、掃除の件のこと。掃除は明日させるよ」

「そうか! ありが――」

「掃除はね!しかし、石鳥さんを嘘をついて見捨てたのは別だ!」

 

昴の言葉を遮って言った。

 

「確かに、俺は見捨てた。だが、仕方なかったんだ」

「何が仕方ないんですか、昴さん?」

 

昴の後ろから声がかけられる。

 

昴はおそるおそる後ろを振り向く。

 

そこには石鳥結菜がいた。

 

「私を騙した。その覚悟はできてますか?」

 

結菜は拳を握って近づく。

 

(前には荻縄、後ろには結菜だと!?)

 

荻縄も昴に近づく。

 

「横花君。僕は普段は暴力を好まない。しかし、君は殴られなければならない! 人を見捨てて自分の目的を果たす。僕はこれを許さない! あと、掃除もサボったことも許さない!」

 

「掃除と見捨てた件は別じゃないかったのかよ!」

 

昴は唾を飲み込む。

 

(このままでは、ゴリラ(結菜と荻縄)たちに殴られ病院送り。やるしかない! 俺はこの状況を乗りきってガンプラを手に入れる!)

 

 

 

 

 

 





どうもヤザヤザです。

この前、友人と遊びに行ったときにトイレに入ったらトイレットペーパーが無いという状況に遭遇して焦りました。

そんなことより、5話です。

ついに、バスから脱出してショッピングセンター。

次はいったいどうなるのか? 果たして、昴はプラモを買えるのか?

次回はなんと最終回!

それでは



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第6話


お待たせしました。最終回をごゆっくり。


日が沈み辺りは暗くなる中で、ショッピングセンター――らんらんぽーとは明るい。

 

そのらんらんぽーとの正面口には、バスが横転して何事だと思い駆け寄る来客が集まって騒がしくなる。

 

その来客たちに背を向け、昴は立ち尽くしている。

 

「なあ、荻縄、結菜。今日は本当に見逃してくれないか?」

「断る」

「寝言は寝て言ってください」

 

昴の願いを断って徐々に二人は近づく。

 

朝日はボクシングの構えをし、結菜は指をポキポキ鳴らす。

 

(ヤバいぞ。この状況をどう乗り切る昴? 交渉は不可能だし、正面突破は無理だ。何かないか解決策)

 

必死に昴は考える。

 

だが、焦りなどで解決策は思い浮かない。

 

「昴さん。私はあなたをボコボコにします! 理由はもちろん分かりますね? カステラのプラモのために私を騙し置いていった! 覚悟の準備をして下さい。近い内に訴えます。裁判も起こします。裁判所には強制的に連れて行きます。お金の用意もして下さい! それでワックに行きます。今から殴られるのを楽しみにしておいて下さい! いいですね!」

「カステラじゃなくてガン◯ムのプラモデルだ……財布? ……!?」

 

瞼を大きく開き、解決策が思いつく。

 

(その手があったぞ。だが、結菜だけならまだしも荻縄がいる。……駄目だ。もうこれしかない方法はない)

 

ポケットから昴は黒い物を取り出す。それはバスジャックの男――町田麦から貰った空の財布。昴は結菜に差し出す。

 

「悪かったな、結菜。この俺の全財産でワックに行ってくれ」

「え?」

 

目を丸くして結菜は驚く。

 

「え、え? 本当にいいんですか? しかも全財産だなんて……怪しい」

「そうか。ならもういい」

「あ! 貰います貰います」

 

(チョロいな)

 

昴は空の財布を結菜に渡す。

 

「待つんだ! 石鳥さん。これは罠だ! 横花君はまた君を騙そうとしているだ」

「何ですって!?」

 

犬の威嚇のように結菜は鋭い目付きで昴を睨む。

 

(やはりこうなったか。邪魔してくると思ったよ荻縄)

 

昴はもう一度結菜を騙そうとしている。だが、前回とは違って今回は荻縄がいる。タケルのように黙ってくれない。だから、昴は勝負に出た。結菜を騙すという勝負に。

 

悲しい表情で昴はため息を吐く。

 

「そうだよな。騙したやつのことなんて信用しないんだろうな。……あれ? そういえば、今日はハンバーガー半額だったけ」

「半額!? ……半額って何ですか?」

 

結菜のバカさに昴と朝日は呆れた。

 

「石鳥さん……半額っていうのはもとの値段が半分の値段になることだよ。そんなことより、これは横花君の嘘だ! きっと財布の中身は空だ」

「嘘!?」

 

顔を伏せて昴は拳を強く握る。

 

「荻縄、その嘘を証明できるのか? そんなことより、もう俺を殴ってくれ! 騙した罪を受けたいんだ!」

「昴さんのこの表情はほ、本物!?」

 

あたふたと慌て始める結菜を、昴はチラッと見る。

 

(あと、ちょっとだ。よし、もう一回結菜に攻撃だ)

 

昴は顔を上げ言う。

 

「結菜! もういいから俺を殴ってくれ!」

「石鳥さん、財布を開けるんだ!」

「えっと……、その……ああああああ!」

 

二人の発言で頭を抱える結菜は叫び出す。

 

そして――

 

「うやああああああ!」

 

朝日の股間を結菜は蹴った。

 

「ぐわっああああああ!!」

 

泣きわめながら股間を押さえて倒れこみ、朝日はあちこちに転がる。

 

「うわっ、痛そう……」

 

心配そうな視線を昴は向ける。

 

その視線に反応したのか、朝日の股間を蹴った結菜は続いて昴に目掛けて飛ぶ。

 

「え? ちょっと待て、結菜!?」

「うやああああああ!!」

 

叫びながら結菜は昴を殴った。

 

「ぐおっ!?」

 

昴は仰向けに倒れた。

 

「うやああああああ!」

 

狼の遠吠えのように結菜は叫び、走ってどこかへ去った。

 

昴と朝日は気絶する。

 

辺りはバスの横転で騒がしさだけが響く。

 

★ ★ ★

 

「うっ、……ここは? そうだ、らんらんぽーとだ。確か俺は結菜に殴られたんだったな。くそ、本当に殴られるとは」

 

昴は目が覚める。

 

起き上がって周りを見渡と、周りには何台もの赤色灯を光らせるパトカーと警察がいた。警察は来客を離れさせていた。来客はそのまま帰っていく者もいれば、らんらんぽーとに入っていく者もいる。

 

「どうやらわずかの間だけ、気絶していたらしい。にしても痛いな」

 

昴は殴られた頬を擦る。

 

「今の内に行くか」

 

らんらんぽーとの入り口に向かう。

 

そのとき、昴は何かに躓いた。

 

「何だ……って荻縄!?」

 

何かの正体は口から泡を吹いてる荻縄朝日だった。

 

「荻縄……すまない」

 

朝日を通りすぎ、昴はらんらんぽーとへ入った。

 

構内は広く大勢の来客がいた。

 

「エスカレーターは……あった」

 

キョロキョロと首を左右に振って昴はエスカレーターを見つける。

 

そのエスカレーターのところに行き乗った。

 

(確かプラモは三階だったな。ここまで本当に長い道のりだったな)

 

昴が今日のことを振り返っていると、声が聞こえた。昴の名字を言う声を。

 

咄嗟に昴は後ろをを振り向く。

 

後ろには股間を押さえ、口から泡を吐きながら走って探す朝日がいた。声の主は朝日だった。おそらく、躓いたときに目覚めたのだろう。

 

朝日と昴と目線が合う。

 

「横花ぐーん! 許ざん!」

 

(なんだあれキモい!? しかも、俺の名字以外何を言ってるか分からない。とりあえず、どこかに隠れなくては)

 

ゆっくり上るエスカレーターを他の来客の間を詫びながら走り抜ける。

 

二階に着くと首を左右に振って周囲を見渡す。

 

右側にはコーヒーのチェーン店――スターハックス、正面には大勢の来客が歩いてる通路、左側には女性用のランジェリー店。

 

(ど、どこに逃げる。って言ってもランジェリー店は無い。となると、チェーン店か正面の通路のどっちかだ)

 

「横花! 許ざん!」

 

朝日との距離を確かめるため、昴は下を覗く。

 

朝日はエスカレーターをかけ上がっていた。

 

(ま、まじでヤバい!? どうする? どうする……俺。……正面は駄目だ追い付かれる。となると、スターハックスだが……)

 

昴はスターハックスを見る。

 

店内は狭く丸見えだった。パソコンを使ってる客、自分好みに作ったコーヒーを飲みながら話す女子学生の客たち、身体を寄せ合うカップル客などの顔や行動などがはっきり見える。

 

(あそこに入っても簡単に見つかる。そうなると……、うっ、うわわわわわわ!! ランジェリー店には入りたくない。男一人がランジェリー店に入ったら心が死ぬ!)

 

「横花ぐーん、 逃がずが!」

 

朝日の怒鳴り声が近くで聞こえた。

 

(……入れば死ぬ、入らなきゃ死ぬ。クソ!)

 

 

 

朝日は二階に着いた。

 

首を左右に振って昴を探す。

 

「下着の店には絶対にいない。スタハのところにはいないようだ。そうなると、まっすぐに逃げたか!」

 

朝日は正面にある通路を走った。

 

(……あ、危なかった。あはは)

 

ほっとため息を昴は吐く。

 

周囲には色々な種類の女性用の下着が置いてあった。

 

昴は男のくせに女性用のランジェリーに入って隠れた。

 

当然、女性客からは冷たい視線を浴びた。

 

(早く出よう)

 

昴がランジェリー店から出ようとしたとき、女性店員が訪ねて来た。

 

「何か、お探しですか?」

「え!? あっ、いや、ちょっと彼女から……その……頼まれまして」

 

店員に声をかけられ昴は慌て咄嗟に嘘を言った。

 

「彼女に頼まれたのですか。それは凄い彼女さんですね」

「そ、そうなんです。あ、そういえば財布を忘れたんでした。そ、それでは」

 

昴は愛想笑いして出て行った。

 

「そうですか。またのご来場お待ちいたします。……二度と来るな」

 

店員は穏やかな笑顔をしていたが、昴がいなくなると軽蔑の眼差しを向けた。

 

 

 

「ああ、死にたい」

 

暗い表情をし顔をうつ伏せながら、ゾンビのように昴は歩く。

 

(そもそも何でらんらんぽーとに来たんだ? ……そうだ、ガンプラのためだったな)

 

今に倒れそうな状態で歩き、三階に行くエスカレーターに乗って、虚ろな表情で昴は上を向く。

 

(ああ、女性は悪魔だ。よくニュースで見る電車の女性専用車両。あれって、男性がほかの車両に乗車するよう、任意に協力を求めるものであって、法律で強制されているわけではない。なのに、男性が乗車すると白い目で見たり、注意したりする。それと同じようにランジェリー店に入った俺を白い目で見たり、遠回しで注意するのはおかしいだろ。いや、おかしくないか)

 

昴が燃え尽きているとプラモデル屋が見えてくる。

 

電車、車、戦闘機、黒いマスクと黒い服装と赤い光を出す剣をもったフィギュア、人型のロボットなどがたくさんガラスのケースの中に飾ってあった。

 

それを見た昴は涙を流す。

 

女性たちに傷つけられた心が少しずつ癒えていく。

 

「やっとだ。やっとたどり着いた。ぷ、プラモ屋に!」

 

エスカレーターを降りて涙を袖で拭う。

 

「早く行こう、早く買おう、そして早く帰よう。ガンプラはすぐそこだ」

 

戦争から帰ってきた夫を喜ぶ妻のように昴は喜んだ。

 

「女性の下着の店に入って心を傷つけられたくせに、嬉しそうだね昴。もしかしてドM?」

 

昴が三階に着くと、プラモ屋から少年が出て来た。

 

「誰だ。……な! た、タケル!」

 

プラモ屋から出て来たのは浅草タケルだった。

 

「さてバスジャックされたとき、警察を呼んだお礼を貰うとするか」

「お礼? 何のことだ」

 

怪訝(けげん)な表情でタケルを睨む。

 

「忘れたとは言わない。僕が呼んだ警察によって助かったんだろ。なら僕に恩返しをするのが道理じゃないか」

「ああそういうことか。タケル、お前が呼んだ警察は俺の首を絞めただけだった。だが、呼んでくれたことには感謝する。恩返しは明日にしてくれ」

「明日!?」

 

昴の言葉に驚き、タケルの体が怒りで震える。

 

「君がバスジャックに巻き込まれ、僕は二時間待った。ワックに行きたい気持ちを何とか抑えて、君を待ったんだ!」

「普通に自分で行けばよかったじゃないか」

「お金がなかったから、昴に奢ってもらおうとしたんだ」

「なら諦めよろ! 何で俺に奢らせようとしたんだ」

 

タケルはため息を吐いた。そしてポキポキと指を鳴らし始めて近づく。タケルからは殺気を感じた。

 

「明日は駄目だ。今からだ。それが嫌なら無理矢理連れて行く」

「お、落ち着けタケル。明日は絶対に――」

「無理だ。今から行く」

 

冷たく言ってタケルは遮った。

 

(どうやら切り抜けるしかないようだな。たが、タケルは結菜や荻縄と違い身体能力は異常。何やってもその身体能力のせいで失敗に終わる可能性が高い。なら!)

 

深呼吸をして昴は後ろに振り返り走った。前には先ほどのエスカレーター。

 

下りのエスカレーターに昴は乗り走る。

 

「逃がすか!」

 

タケルは高く飛び上がり昴の正面に立つ。

 

「昴、覚悟しろ!」

「そうくると思ったよ。タケル」

 

正面に立ち塞がるタケルに昴はタックルする。そして咄嗟に手すりを掴む。

 

「な! うわわわわわわ!」

 

ゴロゴロとエスカレーターから転がり落ちた。幸いにもエスカレーターには昴たち以外は誰も乗っていなかった。

 

すぐに走って昴は三階に戻る。

 

三階に戻ると大きく息を吸って吐いたりした。

 

「よし、今の内に!」

 

昴は大声で叫びプラモ店に走る。

 

「逃げられると思うな!」

 

背後からタケルの怒鳴り声が聞こえ、振り向くとそこにはタケルが飛んでいた。二階に転げ落ちたタケルは跳び跳ねて三階まで戻ってきたのだ。

 

空中で回転してタケルは昴の右側の腰を蹴る。

 

腰からは強烈な痛みとメリッと亀裂が入った音がした。

 

「ぐっわわわわわわ!」

 

左方に昴は飛ばされる。

 

「痛い……痛い!」

 

激しい痛みを感じる腰を押さえて昴はあちこちに転がる。

 

「これで終わりだな昴」

 

ゆっくりと歩いて昴に近づく。

 

「終わり? そうだな、終わりだな。ただし、お前がだが」

 

歯を噛みしめながらニヤリと笑って言った。

 

「何?」

 

そのとき、タケルの肩が掴まれる。

 

「ちょっと君、何してるんだい?」

「な!?」

 

後ろを振り向くと警備員がいた。タケルの肩を掴んでいたのは警備員だった。

 

「警備員さん、助けてください! カツアゲされてます」

「あ、昴!」

 

(身体能力で勝てないなら、身体能力を使わなければいい。これほどの騒ぎを起こせば警備員が注意してくる。そこで助けを求めればいい。そうすれば、助けてくれる)

 

「君、少し話があるからちょっと着いてきてもらおうか」

「……分かりました。着いていきって行くわけないだろ!」

 

肩を掴む手を払ってタケルは二階に飛び降りる。

 

「な、何だあの子は!? は、君大丈夫っていない!」

 

昴がいなくなっていたことに驚き、警備員は周囲を見渡す。しかし、昴の姿は無かった。

 

「一体どこに行ったんだ? とりあえず、あの少年を追いかけねば!」

 

エスカレーターで警備員は二階に降りて行った。

 

 

「ついにたどり着いた。いろんな不幸を切り抜け着いた。フ、フフフハハハ!」

 

昴は声を高く上げて笑った。警備員がタケルに夢中になっている間に昴はプラモ店に入って隠れていたのだ。

 

「お父さん。あの人何で笑ってるの?」

「優、見ちゃいけない」

 

父親が手で子供に目隠しして出て行った。

 

「……早く買って帰ろ」

 

こうして昴はガンプラを買うことができた。

 

★ ★ ★

 

照明柱で少し明るい歩道を、プラモが入ったビニール袋をぶら下げ昴は歩いていた。

 

(やっと家の近くまで来れた。今日も危なかった。だが、こうして買って帰ることができたからよしとするか)

 

荻縄から追いかけられ、バスジャックに遭い、結菜に殴られ、ランジェリー店に逃げ込み心を傷つけられ、タケルに蹴られるなどの不幸を乗り越えた。結果、なんとか買うことができて家の近くまでたどり着いた。

 

このような不幸が起きるのが昴の日常。だから、まだ()()()()()()()()()()

 

「昴!」

「昴さん!」

 

後ろからタケルと結菜の怒鳴り声が聞こえた。

 

すぐに後ろを振り返ると、タケルと結菜が物凄い勢いで走ってくる。

 

「な、お前ら!」

 

二人は跳び跳ねて昴の腹を蹴る。

 

後方に飛ばされプラモの入った袋を離してしまう。

 

「ぐおおお……、お、お前ら何するんだ?」

 

二人は近づき腹を押さえる昴の前に立つ。

 

「『何するんだ?』 じゃないですよ! あの財布、空っぽじゃないですか!」

「昴、何て酷いことをするんだ。あの後、大量の警備員に追われる羽目になったんだぞ」

「結菜の件は本当に申し訳ない。だが、タケル。お前のは自業自得だろ。たかがハンバーガーのために俺を蹴るなんて……。ん、あれ? プラモが無い!?」

 

プラモが無いことに気づき、慌てて昴は探す。そして、道路に落ちてあることに気がついた。

 

「くそ、あんなところに――」

 

取りに行こうと立ち上がったとき、サイレンを鳴らすパトカーがそのプラモの入った袋を轢く。

 

グシャグシャと破壊される騒音がした。

 

「……え?」

 

何が起きたのか理解できず呆然と眺めてると大量のサイレンを鳴らすパトカーが潰れたプラモの入った袋をさらに轢く。

 

タイヤの跡で汚くなり破れた袋、米粒くらいの大きさのプラモの欠片が散らばっていた。

 

「パトカーがパトカーを追いかけていましたけど、何かあったんですかね?」

「追いかけられてるパトカーに乗ってたのって確か、バスジャックした男だったな」

「バスジャック? あ、そういえば、荻縄さんと一緒にらんらんぽーとに行く途中、上半身の裸の男が警察を押し出したところを見ました。多分その上半身の裸の人ですよ」

 

ぼんやりと見える遠くに行ってしまったパトカーを眺めて言った。

 

「あ……あんまりだ。こんなのあんまり――っぐふ!?」

状況を理解した昴は泣き出した。

 

そんな昴の上から何が落ちてきた。昴はその何かの下敷きになった。

 

「昴君! もう許さない!」

 

何かの正体は激怒した朝日だった。

 

「あ、荻縄さん」

 

昴の首を掴み上下に振る朝日の手が止まり、結菜に振り向く。

 

「石鳥さん、何であのとき僕の股間を蹴ったんだ!」

 

朝日は言った。

 

結菜は惚けた顔をする。

 

「股間? 何の話ですか? 確かに私は何かを蹴りましたが股間は蹴ってませんよ」

「はあ!」

「荻縄、結菜の記憶力は異常なんだ。見逃してあげよう。ただし、昴は見逃さないが」

 

朝日の肩を優しく叩き、昴を睨みつける。

 

「そうだな。今日のでわかったよ。石鳥さんには勉強が足りないことに。そして今は昴君を」

 

コクコクと腕を組んで朝日は頷き、昴を睨む。

 

「は、そうでした! 昴さん、よくも私を騙しましたね」

 

ポキポキと指を鳴らし結菜は昴を睨む。

 

三人の鋭い視線に感じた昴は苦笑いをして、

 

「ふ、ふ、不幸すぎる!!」

 

叫んで三人に完膚なきまで叩きのめされた。

 





初めましての方は初めまして、そうではない方、こんにちは。どうも、焼き肉で間違えて生肉を食べてしまい腹を壊したヤザヤザです。

このたび不幸学生を読んでいただきありがとうございます。

初めて書いた作品を最後までかけてとても嬉しいです。最終回まで約6ヶ月間の時間がかかってしまいました。

書いてる途中は三人称じゃなくて『一人称にしておけばよかったな』、『あれ、ここどう書けばいいんだ?』、『面倒くさいな』と思っていました。

正直、失踪しようかなと考えてしまったこともありました。しかし、そんなとき支えてくれたのは達成したい気持ちと昴でした。

昴は不幸体質で異常な不幸体験を過ごしてます。その不幸に遭っても挫けず切り抜ける。なら、自分も切り抜けなければと思うようになり挫けず頑張っていきました。

これからもこのサイトや他のサイトで書いていきます。きっとまた挫けてしまったりすることもあると思います。そのときは、昴や書く目的を思い出していこうと思います。

それではまた次回の作品で。


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