副作用に副作用があるのはおかしいだろ!! (おびにゃんは俺の嫁)
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質問も募集中です
話が進むごとに更新していきます


主人公:佐藤 夏樹

 

男子校の高校三年生 7月30日生まれ

家族構成:妹 父(故) 母(故)

身長:179㎝ 血液型:A型

星座:ペンギン座

 

特徴:自分に厳しく、他人には甘いわけではないが優しい。自己評価が低いため他人からの好意に気づかない。

副作用(サイドエフェクト)のおかげで頭が良い。そのため、唯我の通う学校に特待生として入学したので学費はゼロで済んでいる。ちなみに、親の遺産は妹の高校と大学の軍資金として残している。

 

好きなもの:妹、甘いお菓子、味の濃い食べ物、貯金

 

ポジション:PAR

トリオン:13(39) 攻撃:12 防御・援護:11 機動:7

技術:13 射程:6 指揮:9 特殊戦術:5

合計:76(102)

 

副作用:脳機能活発化

(本来、人が使用していない脳機能を使用できる。だが、酷使しすぎると頭痛、吐き気、手足のしびれなどが起きる。ある程度は糖分を補給することでカバーできる。)

10%~通常時、周りと変わりはない

20%~長時間の使用で軽い頭痛

30%~長時間の使用で軽い頭痛に倦怠感

40%~長時間の使用で頭痛と倦怠感、そしてその後約1時間使用率の低下

50%~頭痛、吐き気、めまい、使用後の記憶の乱れ

60%〜頭痛、吐き気、めまい、手足のしびれ

70%以降はまだちゃんと使用したことはないが、幼少期サイドエフェクト発現時に、誤って80%使用したときには、三日間気絶し高熱を出した。

トリオン体時はある程度軽減されるが、解除すると症状に襲われる。糖分を摂取することである程度症状を緩和できる。

 

メイントリガー   サブトリガー

 スコーピオン    レイガスト

 バイパー      スラスター

 グラスホッパー   メテオラ

 シールド      テレポーター

 タンク       バッグワーム

 

タンク(夏樹の大量のトリオンの3分の2を通常時は貯め、貯めたトリオンは戦闘体生成の時間を短縮、さらに戦闘時使用することも可能。)

夏樹のトリガーはトリガーチップを2つ増やしていて、さらに、タンクのトリオンを貯めておく部品が組み込まれているので、普通のトリガーよりも大きくなっている。

 

天才バカ なつき

サイドエフェクトのおかげで頭がいい。しかしたまに1周回ってバカなことをいう。

長時間の戦闘、激しい戦闘の後は著しく知能が低下し、反比例がわからなくなる。

加古さんの炒飯を食べることが出来る。頭はいいが、舌はバカ。

 

 

妹:佐藤 冬華

 

三門市立第3中学校3年 3月10日生まれ

身長:156㎝ 血液型:AB型

星座:ミツバチ座

 

特徴:普通校の中で、品行方正、眉目秀麗で聖女的存在。今までは兄に頼りっきりだが、いつかは兄に頼られるようになりたいと思っている。

 

好きなもの:兄、ゲーム、辛い物、担々麺

 

ポジション:オペレーター

トリオン:2 機器操作:9 情報分析:9

並列処理:6 戦術:7 指揮:5

合計:36

 

努力天才 とうか

兄へのあこがれと感謝から努力に努力を重ね、完璧美少女になった。モテる、とにかくモテる。しかしタイプが兄のような人なので、まだお眼鏡にかなった男子はいない。苦手なものは虫。日々の努力のCカップ

 

 

西峰 優佳

 

星輪女学院高校2年 8月4日生まれ

身長165㎝ 血液型:B型

星座:ペンギン座

 

特徴:面倒見が良く、姉御肌、野性味あふれている体育系、だけど生活面および勉強面がダメダメだが、戦闘センスは抜群。

化け物レベルの感の良さ。剣道有段者で剣道部主将

 

好きなもの:ゲーム、漫画、スポーツ全般

 

ポジション:AR

トリオン:8 攻撃:8 防御・援護:6

機動:7 技術:6 射程:3

指揮:3 特殊戦術:7

合計:48

 

副作用:経験共有

(弟と互いに経験したことを共有できる。 ちなみに経験は睡眠時に共有される)

 

トリガー構成

メイントリガー   サブトリガー

 弧月        ハウンド

 旋空        グラスホッパー

 シールド      シールド

 FREE        バッグワーム

 

G(がっかり)美人 ゆうか

顔良し、性格良し、運動神経良し、しかしそれらを覆す程に勉強と私生活がダメ。サイドエフェクトで弟と経験が共有されているはずなのに何故か家事が出来ない。実は野性味溢れるDカップ

 

 

西峰 勇人

 

三門市立第三中学校3年 8/3生まれ

身長:167㎝ 血液型:A型

星座:ペンギン座

 

特徴:姉の特にダメな部分を見て育った所為か、勉強も私生活もそこそこ優秀で、料理の腕は一流。性格はお人好しすぎるほどにお人好しで頼まれたら基本断れない。

 

好きなもの:スポーツ全般、料理

 

ポジション:AR

トリオン:8 攻撃:6 防御・援護:6

機動:7 技術:7 射程:5

指揮:3 特殊戦術:6

合計:48

 

副作用:経験共有

(姉と互いに経験したことを共有できる。ちなみに経験は睡眠時に共有される)

 

トリガー構成

メイントリガー   サブトリガー

 弧月        ハウンド

 旋空        グラスホッパー

 シールド      シールド

 FREE        バッグワーム

 

お人好しofお人好し ゆうと

姉を見て育ったせいなのか、家事メンに育ち、料理の腕はレイジさん級の美味しさ。お人好しで頼まれたら断れない性格で、前に太刀川さんのレポートを手伝う姿が確認されている。

 

 




誤字を直そうと思ったら変になってしまったので一時的に非公開にしました。すいません
誤字報告ありがとうございます。


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第1話

初めまして。
処女作です。ハーメルン難しい!


 

今でもたまに思い出す。

 

そして何度も何度も考えてしまう。あの時の自分が下した選択は正しかったのだろうかと。

 

迅さんや冬華に

 

「仕方なかった」

 

「兄さんは悪くないです」

 

と慰められても、自分なら、自分の持つサイドエフェクトなら、何かもっと良い結果を生み出す選択をできたのではないかと思ってしまう。

 

どうしようもなかったと自分でも理解していながらも、何かあるとふと考えてしまう。

 

それはあの日から4年たっても続いていた。

 

 

 

 

「…いてるの?ちょっと佐藤君、聞いてるの?」

 

オペレーターの俺を呼ぶ声によって、俺は現実へと意識を引き戻される。

 

あぁそうだった、今は警戒任務中だった。どうやらまたあの事を考えてしまっていたみたいだ。もう4年か…

 

「聞いてますよ。で、なんの話でしたっけ?」

 

「聞いてないじゃない!トリオン兵の反応がないからいいけど、今は任務中でしょ」

 

「すいません沢村さん、少し考え事をしてました」

 

声の主であるオペレーターの沢村響子さん。彼女にも4年前の現ボーダー設立した直後の時、かなりお世話になった。

 

当時まだ中学生だった俺は、大規模侵攻で親父と母さんを亡くして精神的に参っていた。まだ子供で、右も左もわからなかった俺と妹に、生活面のことを色々と教えてくれた。

それに現ボーダー設立当初は同じ隊だったしな。解散して沢村さんはオペレーターになって、今では本部長補佐になった。

俺も隊が解散した後、ボスに誘われて本部から玉狛支部に転属したが、今でもありがたいことに、今日みたいに時間が合えば、こうして警戒任務の時はオペレーターを引き受けてくれている。

 

別に他の通信室のオペレーターさんでもいいんだけど、旧ボーダー時代からいた古参だからなのかわからないが、年上の人にも敬語で話されたりして、少し気まずい時もあるんだよな…

 

 

俺はそんなに凄い人じゃないし。サイドエフェクトがあるだけで、ただの男子高校生だ。

このサイドエフェクトだって、周りが思っているような都合のいいものじゃない。確かに、頭が良くなってるし、そのおかげで特待生だけど…

燃費は悪いし、分かりたくないことも分かってしまう。

 

あの子、俺に気があるのかも!?

 

なんて勘違いもこのサイドエフェクトにはありえないのだ。

 

まぁ通ってるの男子校だから、まずそんな出会い存在しないけど…

 

 

「ならいいけど…前みたいに無茶して倒れたりしないでね?最近、また任務の数を増やしてるって忍田本部長が言ってたよ」

 

「大丈夫ですよ、無茶はしてませんから。最近の任務が増えてるのも学校が自由登校になったし、妹ももうすぐ高校生になるんで今のうちに少しでもお金を貯めておこうと思っただけですしね」

 

俺は振り込まれる給料で貯金残高が増えるのを見て安心したいのだ。

 

「ならいいんだけど…でも体調には気をつけなさいね」

 

「はい、ありがとうございます。いつも気にかけてもらってるみたいですし」

 

「それぐらい気にしないでいいのよ」

 

「そうですか、なら今度お礼に忍田さんとの仲を発展させるのを手伝いますよ」

 

いい加減、想いを伝えたらいいだろうに。

 

「もう!からかわないで!ん?どうやら門が発生したみたいね。

そこからすぐの所にバムスター3体、モールモッド20体、バンダー5体が現れたみたい。大丈夫そう?応援を呼ぼうか?」

 

どうやら飯の種が現れたようだ。A級の固定給があるとはいえ、追加収入はどれだけあっても困らない。

 

「いえ、応援は大丈夫です」

 

その後、その時のトリオン兵以外は特に何もなく、無事に警戒任務は終わった。任務が終わって本部に戻った俺は、お昼を食べに食堂行くことにした。

 

何を食べようかと迷っていると、後ろから声がかかった。

 

「夏樹じゃないか。今から昼飯か?だったら一緒に食べないか?」

 

「哲次か。ああ、そうだな。お前も任務終わりか?」

 

声をかけてきたのは荒船哲次だった。隊員3人全員がスナイパーで構成されているB級荒船隊の隊長で、現在はある目標のために狙撃手(スナイパー)に転向したが、元はマスタークラスの攻撃手(アタッカー)という実力者だ。

 

「いや、学校が防衛任務で休みだから、せっかくだしパーフェクトオールラウンダーのメソッドの理論化を少しでも進めようかなと思ってな。そうだ!この後暇なら相談に乗ってくれよ。あとランク戦もしようぜ」

 

「別にいいけど、4時までな。4時からは俺も用事があるから。覚悟しとけよ?ポイント根こそぎ奪ってやるから」

 

「ありがとな。じゃあ頼むわ。お礼になんかデザートおごるよ」

 

それはありがたい。ちょうどそろそろ頭が糖分を欲していたところだった。

 

「そうか?じゃあ板チョコを頼む。さて何を食おうか」

 

「俺はカツ丼にしようかな」

 

「このあとのランク戦に向けたゲン担ぎか?どんなに担いだって俺には勝てねーよ」

 

「うるせー、俺の計画の礎にしてやるから覚悟しとけよ~。その貯まったポイント奪い取ってやるよ!」

 

「期待してるよ。さて俺は生姜焼き定食にしようかな」

 

ここの定食はご飯大盛りに出来るからな。

 

「じゃあ俺が貰ってくるから、先に席を確保しといてくれ」

 

「わかった。ご飯は大盛りで頼む」

 

「りょーかい。そっちも良い席を頼んだ」

 

ちょうどよく4人掛けのテーブルが空いていたのでそこに座って待っていると、生姜焼き定食とカツ丼、そして板チョコを持った哲次が来た。どうやらちゃんとご飯は大盛にしてくれたみたいだ。ご飯が日本昔話盛りされてる。

 

「お待たせ。はい、これ板チョコな」

 

「ありがと。早速いただくとするか」

 

俺は割り箸を2本取って、1本を哲次に渡す。

 

「「いただきます」」

 

「やっぱり此処の生姜焼きは味が濃くてうまいな」

 

「あいかわらず味の濃いもんが好きなのか。舌がバカになるぞ」

 

哲治が呆れた目でこちらを見てくる。

 

「うるせー。おまえだってソースのかかってないお好み焼きなんて美味しいと思わないだろ?要はどんなに良いもん使った食いもんでも味がなきゃ美味しくないんだよ」

 

「確かにそうだが、お前のそれは異常だって言ってるんだよ。どこにカレーやハヤシライスとかなんにでも醤油をかける奴が居るんだよ」

 

「やってみ?絶対うまいから!絶対ハマるって!」

 

そんなことを話しながら昼飯を食べ終わり、話はパーフェクトオールラウンダーの話になった。

 

「で、調子はどうなのよ?」

 

「順調とは言えないけど、まぁ少しずつ進んではいるよ」

 

「でも実際どうなんだろうな。確かにパーフェクトオールラウンダーのメソッドが確立すれば、パーフェクトオールラウンダーが増えるだろうけど、戦闘で選択肢が増えるのも良いことばかりじゃないだろ?技術はあっても、それを活かせる判断力とか戦術、トリガーセットの組み合わせも考えないと…」

 

経験も無しに、出来ることが増えても混乱しちゃうからな

 

「それも理論化しようとは思ってるんだけど、なにぶんまだ自分もパーフェクトオールラウンダーになっていないからな…なってみないと分かんないんだよな~」

 

「まぁそっか。それにアタッカーやシューターに集中した方が活躍できる奴も居るだろ。木虎や米屋みたいにトリオン量の問題がある奴も居るだろ」

 

木虎や米屋はトリオンが多いとは言えない、むしろ少ない方なのだ。それでも木虎はガンナーで苦戦していた時にスコーピオンを使い始め、アタッカー寄りになることでトリオンが少なくてもA級で通用するまでになっている。米屋も低コストの槍弧月を使うなど工夫をして、今ではA級の三輪隊の点取り屋的存在だ。

 

「才能が~」とか言ってるC級もいるらしいけど、才能なんてのは結局、努力なしにはありえないからな。

 

「そうだよな~、問題はそこなんだよな~」

 

「まぁ、全てのポジションをやってみるのは悪いことじゃないだろ。自分では知らない才能があるかもしれないだろうし」

 

「そうだな、それに各ポジションでも、この理論が使えるようにすればいいか」

 

「ああ、頑張れよ。俺もレイジさんも応援してるよ。言ってくれれば、出来る限り俺らも協力するから」

 

「ああ、ありがとな。じゃあ早速ランク戦しようぜ」

 

「いいよ、じゃあいこうぜ」

 

俺らはトレーを返した後、食堂を後にしてランク戦ブースに来た。

 

「じゃあ俺は310番に入るから」

 

「俺は337番に入るから」

 

お互いに部屋に入って通信をつなげる。まずは10本でいいだろうか…

 

「とりあえず10本勝負でいいか?」

 

「ああ、そうだな。じゃあ始めるか」

 

さて、哲次はスナイパーに転向したが腕が落ちていないか、楽しみだ。そう思っていると、いよいよ始まるみたいで住宅の屋根の上に転送された。

 

 

〔 対戦ステージ 「市街地A」 個人ランク戦 10本勝負開始 〕

 

 

とりあえず周りを見るが、当然開始直後に近くに居るはずもない。レーダーを見るも、哲次はバッグワームを身につけているようで表示されていない。哲次は今はスナイパーでもあるので、屋根から降りて射線を切って狙撃を警戒する。

 

とりあえず警戒しつつ、狙撃ポイントになりそうな所をしらみつぶしに探すことにしよう。1つ目はハズレだったので、2つ目に移動しようとした時に、視界の端に閃光が見えた。

 

「シールド」

 

とっさにレイガストとシールドで防ぐ。シールドは破られたがレイガストで防げたようだ。今の狙撃で位置が分かった。 

そこから哲次が通るであろうルートをサイドエフェクトで20%まで使用率を上げた頭で読む。そのルートに向かってグラスホッパーを使いつつ、向かう。その際に一細工しておく。

 

哲次も俺が来ると分かっていたのか、屋根の上から狙撃してくる。どうやら迎え撃つつもりらしい、狙撃をかわしながら近づくと哲次は弧月を抜いた。

 

「バイパー、スラスターON」

 

俺はバイパーを牽制に撃ちながらレイガストをシールドモードからブレードモードに切り替え、スラスターで勢いをつけながら哲次に切りかかる。

 

「ぐっ」

 

哲次はバイパーをかわして、弧月でレイガストを迎え撃つ。その時、哲次を後ろからバイパーが襲った。

 

「なっ!?シールド!」

 

哲次はぎりぎりのところで気づいて、シールドを展開するが間に合わず、片方の腕が吹き飛ばされる。そして片腕を失った哲次にできた隙を見逃さずにレイガストで首を飛ばす。

 

「まずは1本目だ」

 

 

〔 荒船 緊急脱出  1-0 佐藤リード 〕

 

 




いかがでしたか。
感想、批評、アドバイス、等等募集してます。

誤字報告ありがとうございます

誤字がなくならない。Orz
報告本当にありがとうございます!


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第2話

 

 

〔 10本勝負終了 勝者 佐藤夏樹 〕

 

 

8-2

佐藤 ○○○○×○○×○○

荒船 ××××○××○××

 

 

ランク戦が終わり、とりあえず部屋を出てロビーで改善点とかを話すことになった。

 

最初の1本でサイドエフェクトを使ったため軽い頭痛がする。哲次から貰った板チョコを食べるとするか。

 

「クソ!2本しか取れなかったか」

 

「いや~、まさか2本も取られるとは思わなかったよ」

 

「イヤミで言ってないのがムカつくな」

 

「でもスナイパーとアタッカーの組み合わせがうまくいってるじゃん」

 

油断していたわけではないが、取られた2本のうちの1本が後ろからの狙撃で、もう1本が割かし近い位置から足を撃たれて、そこから急襲されるとは思わなかった。

 

「そりゃそうだろ、俺だってスナイパーになってからスナイパー一筋でやってるわけじゃないからな。それにしても1本目の最後、後ろから来たバイパーいつの間に撃ってたんだよ?突進してきた時に撃ってたバイパーは躱したと思ってたんだけど」

 

「あれか?あれは近づく時に何度か屋根から降りてただろ?そん時に、後々哲次が居そうな所に弾道を設定してたんだよ。射程重視に設定してたから、そんなに期待してなかったけどうまくハマったみたいだな」

 

「マジかよ!?バケモンじみた予測だな、確か夏樹のサイドエフェクトって脳の使用率を上げれるんだろ?それってSF映画みたいに超能力的なものが使えんのか?未来予知的な奴とか」

 

未来予知は迅さんだろ、あの人はヤバい、風刃との相性が良すぎる。本部には隠してるみたいだけど、まぁそれもなにか考えがあるか、未来でも視えてるんだろ。

 

「いやいやそんなSFじみた能力じゃないよ。使用率を上げれるといっても、できることといえば反応速度を上げたり、記憶力を良くしたりするだけだよ。まぁ条件が良ければ予知ではないけど、ある程度正確な予測はできるけどね」

 

「しかし2本しか取れないとは、相変わらずの化け物じみた強さだな」

 

「そうでもないよ、サイドエフェクトを使ったのは最初の1本目だけだしな」

 

「となると経験の差ってやつか、さすが最古参なだけあるな」

 

「まあね。さすがにまだ負けないよ」

 

「今に見とけよ。そのうち抜かしてやるよ」

 

「期待しないで待ってるよ」

 

「言っとけ、さぁもう1本やろうぜ。まだ時間大丈夫だろ?」

 

まだ約束の4時には時間がある。それに2本も取られるとは思わず、実は悔しいのだ。

 

「ああ、じゃあ続きをするか!」

 

結局そのあと個人ランク戦をして、見事に10-0で勝つことができた。

 

「いや~完勝、完勝。気分が良いわ!」

 

「クッソ!見事に負けたわ。完全に策に嵌っちまった。てか、なんでこんなにポイント持ってかれてんだよ」

 

「あ~、俺あんまりブースで戦わないからな。なんかスマン」

 

いつも本部に来る時は、だいたい誰かに呼ばれたりするので、その人の隊室のトレーニングルームで戦うことが多く、あまりランク戦ブースを使わないから俺のポイントはあまり高くないのだ。これは悪いことをした。

 

「まあいいさ。今度、緑川あたりからたんまり搾り取るからよ」

 

緑川よスマン、今度なんか奢ってやることにしよう。

 

しかしこのあとどうしようか。まだ3時半、約束の4時まで、まだ時間はあるが、これ以上哲次からポイントを貰うのも悪い。さてどうしたものかと考えていると

 

「あれ?佐藤先輩と荒船先輩じゃないすか」

 

と声がした。振り向くとそこには弾バカこと出水公平と、槍バカこと米屋陽介が居た。どうやら学校が終わって、ランク戦をしに来たようだ。

 

「おう、バカコンビじゃないか、これからランク戦か?」

 

「「いやだな~!?こいつはバカかもしれないっすけど、俺はバカじゃないですよ~」」

 

「「ん?」」

 

「おい!槍バカ、俺はバカじゃねぇ!むしろバカはお前だろ、こないだのテスト赤点だったこと知ってんだぞ」

 

「なんでそれを知ってんだよ!頼むから秀次には言うなよ?」

 

「陽介、赤点を取るのは仕方ないにしても、太刀川さんみたいにはなるなよ」

 

あの人はマジでヤバい。高3の俺にレポートをやらせようとしてんだから。でも結局忍田さんと風間さんにバレて、かなり叱られたみたいだけど。そういえば太刀川さん単位大丈夫なのだろうか?

 

「大丈夫ですって、心配ありませんよ」

 

「米屋には悪いが説得力がないどころか、不安さえ感じるんだが」

 

「そんな~、ひどいっすよ、荒船先輩」

 

「だったら勉強もちゃんとしろよ。っとそろそろ俺はいくわ。じゃあなまた今度な」

 

そう言うと哲次はランク戦ブースから去って行った。

 

「それにしても荒船先輩はともかく、めずらしいですね、佐藤先輩がランク戦に来てるの。せっかくなんで俺と戦いませんか?」

 

「あ、俺も俺も」

 

まだ時間までは余裕があるし、もう少しだけ戦っていくか

 

「いいぞー、でもこの後用事があるから5回ずつでいいか?」

 

「はい。出水、俺からでいいか?」

 

「いいぞ、お前の負けっぷりを見ててやるよ」

 

「うるせー、今日こそは白星を挙げてやるからよく見とけよ」

 

「じゃあ俺は302に入るから」

 

「わかりました。じゃあ俺は305に入ります」

 

 

〔 個人ランク戦 5本勝負 開始 〕

 

 

転送されるとそこは広めの道路だった。レーダーを確認すると斜め右上に赤い点があり、真ん中に進んで来ている。どうやら米屋はこちらに向かって来ているようだ。あまり策を用意せずこちらに向かって来るあたりなんというか、米屋らしさが出ているな。

 

こちらに向かって来てるならとりあえず待ち受けることにしよう。少しすると道路わきの建物の上から米屋が飛び出してきて槍を振り下ろしてくる。もちろん警戒してているわけで、落ち着いて幻踊のことも考えてレイガストで対処する。そして着地の瞬間を狙ってスコーピオンを振るう。

 

「おっと」

 

しかし、米屋はレイガストに払われた槍を地面に突き立てて着地のタイミングをずらす。

 

「少しはやるようになったじゃないか」

 

前に戦った時だったならば今のでとれていただろう、どうやら米屋も槍弧月の扱いがうまくなっているようだ。

 

米屋の成長に感心しつつも、振り下ろしたスコーピオンを燕返しの要領で追撃をかける。見事に追撃のスコーピオンが、かわそうとした米屋の左足を足首から先を切り落とした。これで機動力を削ぐことが出来た。

 

だが米屋もすぐさま右足重心に切り替えて、槍で素早い突きを繰り出してくる。いったん距離をとり、そこからスラスターを起動し、シールドチャージする。

 

「スラスターON!」

 

そしてレイガストを変形させて槍弧月を絡めとる。槍を獲られて、隙ができたところにスコーピオンでトリオン体の弱点である供給機関をつらぬく。

 

 

〔 米屋 緊急脱出  1-0 佐藤リード 〕

 

〔 2本目 開始 〕

 

 

1本目は待ち受ける形になったが、2本目はこっちから行くとしよう。俺はバッグワームを起動し、レーダーに表示されている米屋の反応の方に向かう。レーダーをみるに米屋はその場から動いていない、どうやらさっきとは違ってその場で警戒しているのだろう。

 

「見つけた」

 

屋根の上で周りを警戒している米屋を見つけた。米屋の視界に入らない様に気を付けながら近づいていく。そして数十mまで距離を詰めたらバッグワームを解除すると同時にテレポーターで米屋の背後に跳ぶ、そしてスコーピオンで切りかかった。

 

「っ!?」

 

そしてそのまま、突如後ろに現れた俺に驚いている米屋を容赦なく真っ二つにする。

 

 

〔 米屋 緊急脱出  2-0 佐藤リード 〕

 

 

 

〔 5本勝負終了 勝者 佐藤夏樹 〕

 

 

5-0 

佐藤 ○○○○○

米屋 ×××××

 

 

「いや~、まだまだ敵わないわ~。少しは勝てると思ったのに」

 

「確かに全勝したけど肝を冷やすとこも何度かあったぞ。前に戦った時より槍の扱いもより一段と磨きがかかっていたしな」

 

実際に、何度か幻踊の動きを見誤ってやられそうになるところがあった。

 

「そうすか。それならいいんですけど、でもさすがに2本目のアレはひどいっすよ~。レーダーに反応が現れたと思ったら、いつの間にか体が真っ二つになってるんでっすから」

 

「そうか、さすがにやりすぎたかなスマン」

 

「じゃあ次はおれの番ですね」

 

出水かぁ、出水も米屋と同じくらい成長しているのだろう、楽しみだ。油断しないようにさないとな。

 

「そうだな。じゃあ俺はさっきと同じ部屋だから」

 

「わかりました。俺は208に入りますね」

 

「頑張れよ~、俺の仇をとってくれー」

 

「おうよ期待しとけ」

 

 

〔 個人ランク戦 5本勝負 開始 〕

 

 

転送されて、バッグワームを起動してとりあえずレーダーにもなにも反応がないところをみるに奇襲を警戒してのことか出水もバッグワームを起動しているのだろう。

 

「よし」

 

とりあえず近くにあった少し高めのマンションに登って索敵をするとにしよう。索敵をしていると住宅の路地を周りに気を付けながら歩いている出水を見つけた。

 

「バイパー+メテオラ トマホーク」

 

そこで、バッグワームを解除してバイパーとメテオラを合成してトマホークを作り、出水と出水の周囲に落ちるように弾道を設定して撃つ。その時に出水に逃げられないよう、外側から内側に時間差をほんの少しつけるように設定する。出水もレーダーに突如出現した反応に驚きつつも攻撃を警戒し始めた。そして、出水は迫り来る攻撃に気づき、迎撃と回避が間に合わないと判断して、シールドで守ろうとする。

 

そしてトマホークが着弾し、土煙が上がる。その土煙の奥から無数の弾丸が飛び出して来る。その弾は正確にさっきまで俺の居た所をめがけて飛んで行っている。どうやら仕留めることはできなかったようだ。

 

「バイパー」

 

マンションから降りた俺は土煙の上がる方に向かいつつ、土煙の上がる場所に嫌がらせ目的のバイパーをまんべんなく撃っておく。

 

「ハウンド!」

 

土煙がはれた直後に出水がこちらの姿を確認したみたいで、ハウンドを撃ってきた。ハウンドをレイガストで防ぎつつ、出水の姿を見ると右手と右足が吹き飛んでいた。

 

「バイパー!」

 

あと一押しできまるとわかり、俺はバイパーを鳥籠のような弾道で撃つ。出水はその鳥籠弾道を防ぎ、反撃をしようとハウンドを構えた時、上からのバイパーに撃ち抜かれて

 

「ハウンド、っ!しまった」

 

トリオン体活動限界になり緊急脱出した。

 

 

〔出水 緊急脱出  1-0 佐藤リード〕

 

 

この調子でバンバンいこう!

 

 

〔 5本勝負終了 勝者 佐藤夏樹 〕

4-1 

佐藤 ○○○×○

出水 ×××○×

 

「っしゃー、1本獲ったぜー!!」

 

「マジか!すげーじゃねーか、おい」

 

「いや~まさか撃ち合いになって、合成弾の撃ち合いで負けるとは思わなかった。

出水、お前合成スピード上がったな」

 

「ホントですか。ありがとうございます」

 

もうすぐ4時になるか、そろそろ待ち合わせ場所のラウンジにいくとするか。

 

「おっと、そろそろ行かないと。じゃあなまた今度~、おつかれー」

 

「「お疲れさまで~す」」

 

ランク戦ブースで2人と別れてラウンジに向かうことにした。ラウンジについて、相手が来るのを待っていると

 

「お待たせしました。佐藤先輩」

 

どうやら来たようだ。

 




戦闘描写難しい!!


誤字報告ありがとうございます


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第3話

おまたせしました。


ラウンジで待っていると、

 

「お待たせしました。佐藤先輩」

 

声の主は、色の薄い髪にボブカットヘアーが特徴の美人、那須玲。俺の弟子だ。

彼女は「体が弱い人をトリオン体で元気にできるか?」という研究に協力する形で、2年ほど前にボーダーに入隊。

入隊直後、本部内で道に迷っていた彼女を俺が案内して以来、何かと縁があり、今では師弟の関係というわけだ。

 

「すいません、待たせてしまいましたか?」

 

ちなみに、俺は彼女に嫌われているようだ。

たまに顔を赤くするほどに怒っている時がある。

まぁ、那須に限らず他の女性の人たちも同じように顔を赤くすることがあるけど・・・

男子校6年間純粋培養の俺だ。

何かしらデリカシーにかけることを自分でも気づかぬうちにしてしまっているのだろう。

妹の冬華からも「兄さんは鈍すぎます!」とお叱りを受けることがあることからも、まず間違いないだろう。

なんてったってサイドエフェクトまで使って考えたんだ。

今思えば、自分でもバカなことをしたと思う。

 

「いや、大丈夫だよ。さっき来たところだから」

「そうですか。なら、よかったです」

「いいよ、いいよ、気にしないで。それよりさっそく始めようか」

「はい。じゃあ隊室の方に行きますか」

「おうそうだな。そういえば、今日は志岐は大丈夫か?」「大丈夫ですよ。今日はみんな、それぞれ予定があるみたいで、今は誰もいないはずですから」

 

志岐とは、那須隊のオペレーター、志岐小夜子のことで、引きこもるほどに異性が、特に年上の男性が苦手なのだ。

一度だけ那須隊の隊室で遭遇してしまった時、彼女が青ざめ震えてしまったので、それ以降遭遇しないようにお互い気を使っているのだ。

 

「そっか。それより体の調子はどうだ?無理してないか?こないだ桐絵が学校で那須が生身だったって心配してたぞ。あまり無理はするなよ」

「大丈夫ですよ、心配してくれてありがとうございます。・・・あの小南ちゃんとは仲がいいんですか?名前で呼び合っているみたいですし」

 

なんだ?あれか!「あなたなんかが小南ちゃんを名前呼びなんて烏滸がましい!!」的なやつか?

なんだろう?那須から覇気が出ている気がする。答えをはぐらかすことを許さないようなそんな覇気が・・・

まぁいいか、別に隠すことでもないし。

 

「普通に昔からの腐れ縁?幼馴染?的なやつだよ。特にこれといった特別な関係ではないから安心していいよ」

「そうですか……」(てっきり小南ちゃんに先を越されたのかと思った。ちょっと安心)

「そうだよ。さぁそろそろ始めようか。今日はどうする?」

 

彼女は最初はバイパーの扱い方とかを教えていたが、そのうち隊の指揮についてだったり、身のこなしだったりを教えるようになっていた。

そして今ではバイパーも複雑な弾道もリアルタイムで設定できるようになっている。

 

「今日は、バイパーのコントロールでお願いします。熊ちゃんとの連携でもっとコントロールがあればできることもあると思うので」

「わかった。じゃあ、いつものやつでいいか?」

「はい。お願いします」

「じゃあパソコン借りるぞ」

「はい、どうぞ。小夜子ちゃんも大丈夫って言ってましたし。それにしても、フフッ」

「ん?どうかしたか?」

「いえ、いつもこのやり取りをやってるなって思って、先輩って律儀というか真面目ですね」

「そうか?そんなことないと思うぞ?俺はそんなに真面目じゃないって。そんなことより訓練はじめるぞ。前回の反省点を覚えてるか?」

「はい。常に足を止めないで、先を予測し続ける。ですよね?」

「そう。その点を特にイメージしてやってみてな」

「はい!よろしくお願いします」

「じゃあ前回と同じレベルからはじめようか」

 

今回の訓練で使うのは宇佐美と俺で作ったシューター用トレーニングプログラムだ。これは背景は何も設定されてない寂しいものだが、

四方八方から銃座がランダムに出現し、そこから弾が発射される。

それを避けるか、防ぐか、撃ち落とすかして銃座を全て破壊したらクリアになる。

最初の内は銃座も場所は変わらず、弾も遅い。しかしレベルが上がるにつれて、銃座は常に動き、弾も速くなる。

レベルは1~100まであるが、90代からもはや理不尽としか言えない難しさになってしまっている。

俺も40%まで副作用を使ってなんとか全クリできたが、さすがにやりすぎたか。

あ、でも迅さんは風刃を使ってたけど全クリ普通にしてたな。

さすが、未来予知のサイドエフェクトだ。

おっとそろそろ始めないとな。

 

「じゃあレベル52から始めるよ~。5つ刻みで休憩を挟むけど、体調とか悪くなったらすぐに言ってくれよ」

「わかりました」

「よし!始めるぞ!」

 

 

〔 シューター用トレーニングプログラム レベル52 〕

〔 3 2 1 スタート 〕

 

 

このプログラムは、やってこそ感じられる壁が何個かある。

1つ目は、レベル10あたり。だいたい動きながらうまく的に当てれるかどうかだ。

C級とB級隊員の間くらいに位置している壁だ。

2つ目は、25レベルあたり。周りを見ながら動けるかだ。

B級隊員でもポイント5000あたりの位置だろう。

3つ目は、50レベルあたり。こないだ那須も超えた8000ポイント、所謂マスタークラスだ。

このあたりになると、1発1発を正確に狙いをつけて当てていかないと厳しい。

 

「バイパー、っく!」

 

どうやら那須は60レベルあたりで苦戦しているようだ。

さっきから被弾する数が増えてきている。

どうやら撃ってくる弾の対処に戸惑っているようだ。

 

「那須、一旦休憩にしよう」

「わかりました」

 

 

〔 トレーニング 一時停止します 〕

 

 

トレーニングルームから那須が出てきた。

出てきた那須に、待ち合わせの前に買っておいたスポドリを渡す。

 

「お疲れ様。とりあえずほら、飲みなよ」

「ありがとうございます。いただきます」

「どう自分でやっててなんか思ったことある?」

「はい、どうしても来るとわかっていても、回避や迎撃が間に合わないときがあって、対処しきれなくなってしまうんです」

「そうだね。まぁ実戦じゃここまでの弾幕になることもほぼないけど、かといってただ弾幕だけというわけでもないからね。

対処できるに越したことはない。それにこのトレーニングは周りの状況を把握する特訓でもあるからね。

よく跳んでくる弾の弾道を見てみるといい。いくつかの弾は動きを制限するための弾で、体の近くを通るだけのものもあるから見極めて避けるもの、撃ち落とすものを判断してみるといいよ」

「なるほど、わかりました」

「よし、じゃあもうちょい休んでから、再開するか」

「はい!」

 

その後も、何セットかしたがまだうまく見極められていないようだった。

 

「じゃあ最後に俺が見本を見せるよ」

「はい!お願いします」

「うん。じゃあ操作お願いね」

「わかりました。頑張ってください!」

「おう」

 

トレーニングルームに入って、トリガーを起動して、レイガストをシールドモードで構える。

 

「じゃあ、始めてくれ」

「わかりました。いきます」

 

 

〔 シューター用トレーニングプログラム レベル65  〕

 

〔 3 2 1 スタート 〕

 

 

トレーニングが開始されると四方八方に銃座が出現し、弾を撃ってくる。

その弾をレイガストで防ぐものは防ぎ、残りをバイパーで撃ち落としていく。

次第にそれだけじゃ対処できなくなっていく。そこでバイパーの弾道を1つ1つの弾に設定するのをやめて、幾つかの弾道に纏める。

1つの弾道で複数の弾と銃座を撃ち抜いていく。

 

 

〔 残り銃座 10 〕

 

 

最後は少し、派手にいこう

 

「バイパー!」

 

弾道を自分を中心に内側から外側に広がるように回転させていくように設定されているバイパーを撃つ、竜巻のよう広がるバイパーで、銃座から放たれた弾と銃座を撃ち抜いていく。

 

 

〔 残り銃座 0 〕

 

〔 シューター用トレーニングプログラム レベル65  クリア〕

 

 

トレーニングをクリアしてトレーニングルームから出る。

 

「ふぅー、まぁこんな感じかな」

「お疲れ様です。最後の弾道すごく綺麗でした。あんなに精密に弾道を設定出来るなんて流石ですね」

「あれは、リアルタイムで設定したわけではないよ。予めパターンを登録しておいたものだから、やろうと思えば那須でもできるよ」

「ホントですか!なら今度ぜひ教えてください」

「おう、で何か気づいたことはある?」

「はい、1つ1つのバイパーに弾道設定をしてないってことですか?」

「そう、さっきまで那須は1つ1つに弾道を設定してたでしょ?でもそれじゃ次第にきつくなる。だから一度に複数の弾の設定をするとか、最後のみたいによくありそうな状況に合わせてあらかじめ弾道設定をセットしておくとかな」

「なるほど、早速やってみます」

「弾道設定をセットするときとか、困ったら言ってくれ。いつでも手伝うからさ」

「はい!ありがとうございます」

「いいのいいの、一応師匠なわけだしね。ってそろそろ7時半か・・・今日はもう終わりにするか?」

「そうですね。今日はありがとうございました」

「今日はもう俺は帰るけどどうする?もう夜遅いし送っていこうか?」

「いいんですか!?」

「迷惑じゃなきゃな」

「じゃあぜひ!お願いします!!」

「お、おう。じゃあ行くとするか」

 

なんだろう?この押しの強さ、まさか師弟の立場ゆえに強制させてしまっているのではないか!?

 

「いやなら、無理しないでもいいんだぞ」

「いえ!決して嫌なわけじゃないです!!」

「そ、そうか・・・それならいいんだけど」

「はい!じゃあいきましょう」

 

そう言うと那須は俺の手を引っ張って、隊室を出ていった。

心なしか那須の顔が赤い気がする。

 

「那須大丈夫か?顔が赤いけど、体調が悪いのか?なら医務室に連れてくけど?」

「っ!大丈夫です!」

「そうか、ならいいんだけど」

 

そう言うと那須は俺の手を離した。やはり俺なんかと手をつなぐのは恥ずかしかったんだろう。

 

「さぁ帰りましょう。佐藤先輩」

「あぁそうだな」

 

那須隊の部屋を出て、那須の家がある方向に出る連絡口へ向かう。

 

「そういえばこの前、くまちゃんが今度剣の稽古をつけてほしいって」

「おう、いいぞ。いつがいいかは連絡くれって伝えといてくれ」

 

だったり

 

「こないだ茜ちゃんが指ぬきグローブのコレクションを見せてくれて」

「なに?日浦、コレクションするぐらい指ぬきグローブ持ってるのか?それにそんなに指ぬきグローブって種類あるのか?」

 

とか

 

「そういえば冬華ちゃん元気ですか?」

「ああ、あいかわらず元気だよ。ありがとな、冬華と仲良くしてもらってるみたいで」

「いえそんな、一緒にいて楽しいですし、可愛いし」

 

だったり話しているうちに、那須の家の前あたりまで来た。

 

「今日はありがとうございました」

「いいよ〜弟子なんだし、なんだったらもっと頼ってくれて構わないよ」

「ありがとうございます。じゃあ、その…今後ともよろしくお願いします」

「うん、よろしく」

「あの!なっ、名前で呼んでもいいですか?私も名前で呼んでもらって構わないので!」

 

なんだ?でもこの前、冬華に「なるべく女子の頼みは聞くこと!!」と言われたし、それぐらい別にいいか。桐絵のことも名前呼びだし、きっと2人の通うお嬢様学校でブームなのだろう。

 

「?わかったよ、玲」

「ありがとうございます。夏樹先輩!じゃあまた今度」

「おう、じゃあな那sじゃなかった、玲」

 

玲が家に入っていったのを見て俺も帰路につく。

 

~ Side 那須 玲 ~

やってしまった。

ついに夏樹先輩と、名前で呼び合ってしまった。

学校で小南ちゃんが名前で呼び合っていることを聞いてしまい、負けるわけにはいかないと思ってつい言ってしまった。

夏樹先輩に自分の想いがバレていないだろうか?まぁ大丈夫だろう。

夏樹先輩はとても人からの好意に鈍いし、どれだけあなたのことを想う女性がいると思っているのやら。

そう、私、那須玲は夏樹先輩のことが好きなのだ。

初めての警戒任務でのことや、今までのことで気が付いたら好きになっていたのだ。

しかし、先輩のことが好きな子は多いのだ。私、小南ちゃん、綾辻ちゃん、三上ちゃん、国近さん、加古さん、黒江ちゃん、ほかにもいるかもしれない。

でもこの名前呼びは小南ちゃん以外から一歩リードだろう。

うれしい、早速このことをくまちゃんたちに自慢しないと。

 




誤字報告ありがとうございます。
何故だか「ー。」になってしまう


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第4話

遅くなってすいません。


玲を家に送った後、妹は今日は塾に行っていて夕食の心配はないので、カップ麺でも買って帰ることにしよう。

自宅に帰ってお湯を沸かしカップ麺を作る、その間に風呂炊きのスイッチを押しておく。

カップ麺が出来たので、それを食べながらテレビを見る。

食べ終わってしばらくすると、冬華が帰ってきた。

 

「ただいま帰りました」

「おう、冬華おかえりー」

「ん?また兄さんはカップ麺を食べて、そんなことだと体調崩しますよ」

「ごめんごめん、でも安いしうまいしお湯注ぐだけだし。楽だからさ」

「もう、またそんなことを言って、それなら私が作りますよ」

「いや悪いよそんな。受験生だろ、気にしないで勉強してていいからさ」

「わかりました。でもカップ麺ばかり食べないでくださいね。いいですね。わかりましたか?」

「ハイ、ワカリマシタ」

「むっ、ほんとにわかっていますか?」

「大丈夫だって、心配すんな」

「ならいいんですが。でも兄さんが倒れると悲しむ人がいることも覚えていてくださいね。約束ですよ」

「おう、冬華には心配かけないから安心しろよ」

「私だけではないのですが……」

「ん?なんか言ったか?」

「いえ何にも。ただ相変わらず鈍感ですね。まったく兄さんは」

「え?なんで俺怒られてるの?」

「もう!それが分からないから鈍感と言っているんです!」

 

なんだろう、何か怒られることをしたっけか?思い出せ!思い出すんだ俺、さもなくばまた正座させられる。

そうなると兄の威厳がなきものになってしまう。

待てよ、妹は健康に悪いからカップ麺を食うなと言いたいのだ。それにうなずいてもまだ納得しないどころか、鈍感と言うということはまさかあのカップ麺秘蔵コレクションがバレてしまったのか!!

 

「フッフッフ、妹よ、兄さんはついにわかってしまったぞ!」

「え!本当ですか兄さん!?」

「ああ、そうともわかったとも冬華よ、お前は兄さんがカップ麺を隠し持っていることに気が付いているんだな!」

「はぁ!?全然違います。それと隠し持っているカップ麺とは何のことですか?」

「なに!?やっぱ今のなし、忘れて忘れて」

「いや、忘れませんよ兄さん、とりあえず正座で。いろいろ話してもらいましょうか」

「へ?ちょ待って、待ってください冬華様」

「ダメです。まったく兄さんは人の気持ちが理解できないのかしら」

「やめてくれ、もう一晩中正座は勘弁してくれ」

「ダ・メ・で・す」

 

こうして佐藤家の夜は更けていく。

翌朝、美味そうな香りで目が覚めた。

布団の温もりから離れて、起き上がり、部屋を出る。

 

「おはよー」

「おはよう、兄さん。もう朝ご飯が出来るのでとりあえず顔を洗ってきてください」

「おう、わかった」

 

そう言うと洗面台に行って顔を洗う、水を浴びて意識が覚醒していく。

居間に戻るともうすでに朝食が用意されていた。

 

「いつもすまないね」

「兄さん、ジジ臭いですよ。さあそれよりも食べましょう」

「そうだな」

「「いただきます」」

 

うちは基本朝はパン派だ。

今日のメニューは食パン、目玉焼き、サラダ、コーヒーだ。

相変わらず冬華は料理がうまいな!しかし、少し味が薄い。

 

「冬華悪いんだけど、醤油とドレッシング、あと砂糖を取ってくれ」

「駄目です!もう味はついてます。それ以上かける必要はありません!」

「ならせめて、コーヒーの砂糖だけでも!」

「わかりました。なら私が入れますよ。兄さんは入れすぎますから」

「そんなことはないぞ」

「なら、私が入れても問題ありませんね?兄さん」

「お、おう、そうだな」

「はい、どうぞ」

「に、苦い…なぁもう少し砂糖を追「駄目です!もう充分甘いですよ」加を…そうですよね。ゴメンナサイ」

「まったくもう、そんなんだと体がおかしくなりますよ」

「ありがとう、気をつけるよ。さぁ食べよう!」

「そうですね」

「そういえば、学校はどうだ?」

「はい、楽しいですよ。周りとも仲良くできてますし」

「そうか。それは良かった」

「兄さんはどうなんですか?」

「俺か?どうって言われてもな〜、そんなに面白い話なんてないぞ。相変わらずむさ苦しいよ」

 

特待生として入れてもらっているので文句は言えないが、 中高一貫の男子校で男しかいないのだ。いわば青春をドブに捨てたといえる。

 

「そうですか。ならボーダーの方はどうですか?」

「特に面白いことはないぞ。至って普段と変わらないよ」

「そうですか。あの!兄さんもう私も高校生になりますし、私もボーダーに入ってもいいですか?」

「んー、そうかもう高校生だもんな。ちょい考えさせてくれ」

「わかりました」

 

自分としては、冬華にボーダーには入って欲しくない。

しかし冬華ももう高校生になるのだし、そろそろいいのかもな。

 

「今日は夜から防衛任務でしたっけ?兄さん」

「そう。午前中は西峰姉弟の家庭教師で、夜から防衛任務だから、冬華は西峰姉弟の家に泊めてもらってくれ」

「わかりました」

 

西峰姉弟は親同士が親友の関係にあり、西峰の両親は、両親を失って途方に暮れていた俺と冬華を助けてくれた恩人だ。

西峰は旧家の出で、今住んでるマンションも西峰姉弟の両親が経営しているところだ。

日頃のお世話になっていることもあり、姉弟の家庭教師を頼まれた時は喜んで引き受けた。

今、西峰姉弟の両親は海外出張でいないため、姉弟2人で暮らしている。

 

「よし、食べたら行くとするか」

「そうですね」

「「ごちそうさま」」

「よいしょと、さぁ片付けるか」

「手伝いますよ」

「あぁ、ありがとう」

 

朝食の後片付けをして、家の掃除を終えて、俺と冬華は各々準備をして西峰姉弟の家に向かった。

姉弟の家に着いてインターホンを押す。

足音が聞こえ、カチャリと鍵が開く音がしてドアが開く。

 

「おはようございます夏樹先輩。あと冬華もおはよう」

「おっはよーなっくん、ふゆちゃん」

「おう、おはよ」

「おはよう2人とも」

「さぁどうぞ入ってください」

 

俺のことをなっくん呼びしているのが、姉の西峰優佳。

お嬢様学校の高校2年

そしてもう1人が弟の西峰勇人。

冬華と同じ、普通校の中学3年。

この2人はいわゆる幼馴染というやつで、小さいころからよく4人で遊んでいた仲で、もはや兄弟のような関係だ。

ちなみに2人はボーダーのB級隊員で、たまに一緒に3人で防衛任務をすることがある。

 

「さぁ2人とも、今日は何して遊ぶ?」

「おい姉貴!今日は家庭教師に来てもらってんだろ、やるとしてもあとにしろよ」

「えー、いいじゃん別に勉強なんてさー。ねっ、そうでしょ?なっくん」

「ねっ、てお前な~。この家庭教師だって優佳の成績が悪くなったことが原因だろ」

「わかったよ。やります!やればいいんでしょ!」

「そうそう、やればいい。じゃあ始めよっか」

「そうですね。兄さん」

「じゃあ居間の方で待っててください。今準備しますんで。ほら!姉貴いくぞ」

「はーい」

 

居間に行って準備して待っていると勇人が勉強道具と人数分のお茶を持ってきた。

 

「お待たせです。いつもすいません自分も見てもらちゃって。姉貴ももう来ると思います」

「大丈夫だよ。お茶ありがとう」

「お待たせ〜、さぁ始めよー」

「そうだな。どこからやる?」

「じゃあ数学で!」

「わかった。冬華と勇人は優佳の後見るから、それまでは自由にやっててくれ」

「自分は先に課題とかしとくんで、姉貴をお願いします」

「じゃあ私と一緒にしよう?勇人くん」

「うん、了解。俺もわからないとこがあるから教えてくれると助かるよ」

 

4人で勉強をしてるうちに時刻は、12時半になっていた。

 

「疲れた!お腹減った〜」

「そうだな。なんか食べに行くか?」

「そうですね。兄さん」

「どこかに食べに行きます?」

「私、あそこがいい!お好み焼き屋」

「あぁ、かげうらのことか?」

 

カゲのとこか、そういえば最近行ってないな。

 

「そう!そこそこ」

「私もそこがいいです」

「俺もそこで」

「よし!じゃあ出発だ〜」

 

優佳と勇人の家を出て、かげうらに向かう。

かげうらに着いて店に入ると

 

「おう、夏樹じゃねーか」

「ようカゲ。4人空いてるか?」

「4人?あぁ妹と西峰姉弟か、空いてるぜこっちだ」

「どうも、いつも兄さんがお世話になってます」

「どうも~カゲ先輩」

「こんにちは、影浦先輩」

「おう。で、お好み焼きでいいよな?」

「ああ、頼む」

 

このワイルドな見た目のやつは、俺の友人の影浦雅人。

B級2位の影浦隊の隊長で、この店の次男坊だ。

 

「ほい、お待たせ!お好み焼き4人分な。自分たちで焼くか?」

「ありがとよ。そうさせてもらうよ」

「おう。わかった」

「私!私が焼く!」

「待て、姉貴が焼いたらもれなく全部焦げるだろ!!」

「え~、そんなことはないよ!」

「やめとけよ優佳、俺も勇人に賛成だな」

「兄さんたちに私も賛成です」

「ひどいよ!2人まで」

 

ひどいと言われようが、こればかりは譲れない。

優佳は普通に料理をするだけなのにダークマターを作ってしまう程に壊滅的に料理ができない。

いや料理だけではない、他の勉強や生活面も驚くほどに出来ない。

その分、弟の勇人は姉の優佳を反面教師にしたのか、勉強も料理もこなせる家事メンになっていた。

 

「とにかく姉貴の分は俺が焼くから、頼むから姉貴は見ててくれ。先輩と冬華はどうします?俺が焼きましょうか?」

「私はいいよ。流石にたくさん焼くのは大変でしょ。兄さん、兄さんの分も私が焼きますよ」

「そうか、じゃあ頼むわ」

「私は納得してない!断固抗議するぞー!」

「ハイハイ、せめて調味料のさしすせそを言えてからな」

「簡単じゃん!「さ」は砂糖、「し」は醤油、「す」はお酢、「せ」は背脂、「そ」はソイソースでしょう!さぁお好み焼きを焼かせろー!」

「ハァ〜、姉貴色々間違ってるぞ。それにソイソースは醤油だ!」

「そうだぞ優佳、「し」が塩、「せ」が醤油、「そ」がソースだ!ソイは余計だったな!HAHAHA!!」

「兄さんも違います。「そ」は味噌です」

「なに!?そうなのか!恥ずかしっ!」

「アハハハ!!なっくんもだめじゃん」

「とりあえず、2人の分は俺と冬華が焼くからじっとしといてくれ」

 

仕方ない、待つとしよう。

しかしなぜ「そ」だけ味噌なんだよ!なぜ最後だけ後ろの文字にしてんだよ。

だんだん香ばしい香りがしてきた。

空腹感がその香りに刺激されてさらに空腹になる。

 

「さぁ焼けたぞ!」

「待ってました〜」

「鰹節が踊ってますね」

「さてじゃあいただきますか」

「「「「いただきます」」」」

 

うまい!口に入れた瞬間広がる鰹節の香り、コクのあるソースの味、ジューシーな豚バラ、そしてそれらの土台たるキャベツの丁度いい食感、全てがいい感じに噛み合っている。

ヤバイ箸が止まらない!

気づけば、俺ら4人は話すことも忘れて食べていたようだ。

 

「相変わらず美味いな」

「だね〜」

「満足ですね」

「そうだね」

「「「「ごちそうさま」」」」

「カゲ、会計頼むわ」

「おーう、まいど。オイ夏樹、今度ランク戦しようぜ」

「ごちそうさん。じゃあなカゲ、また今度な」

「ごちそうさまでした」

「じゃあねーカゲ先輩、また今度!ランク戦で〜」

「ごちそうさまでした、影浦先輩」

「おう、お前ら。またな」

 

食べ終わり、かげうらを出る。

 

「は~食った食った。そろそろ俺はボーダーに行くから、冬華をよろしく頼むな2人共」

「アイアイサーっす!なっくん」

「了解です。先輩」

「兄さん、頑張ってくださいね」

「おう、行ってくるよ」

 

3人と別れて、玉狛支部に向かう。

 




誤字報告ありがとうございます。
新キャラは設定に足しときました。


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第5話

遅くなってしまって申し訳ないです



玉狛支部着いて自分の部屋に荷物を置いてまとめ買いしておいたお菓子と飲みもんを持って、居間に行く。

 

「お疲れ様でーす」

「お!夏樹先輩!先輩もやります?トランプ」

「あら、夏樹来たのね。あなたもやりなさいよ」

「じゃあそうさせてもらうよ。次から参加ってことで」

「了解です。小南先輩の番ですよ。自分のを引いてください。ちなみに右がババです」

「そんな~騙されないわよ。左がババなんでしょ」

 

どうやら今はババ抜きをしているみたいだ。桐絵と京介の一騎打ちのようだ。

あっ、桐絵がババを引いた。

 

「小南先輩、ババが右ですね?」

「ど、どうかしらねぇ…」

「目泳いでんぞー、桐絵」

「うっ、こうしてやる!さぁ引きなさい、どっちがババだがもうわからないわ!」

 

そう言うと桐絵は2枚の手札を隠してシャッフルした。どうやら自分でもわからなくする作戦らしい。

いや、結局は運じゃん。桐絵はこのことに気づいていないのか、自信満々みたいだ。

 

「さあ!引きなさいとりまる」

「はい、では引かせてもらいます」

 

京介が1枚引いた。おっ、揃った。京介の勝ちみたいだ。

 

「あがりですね。小南先輩」

「どーしてまた負けるのよ」

「相変わらず弱いな、桐絵」

「うっさい!あんたも加わりなさい。そしたら負けないんだから」

「あれ?そういえば陽太郎と迅さんとレイジさんは?」

「レイジさんは防衛任務、陽太郎は雷神丸に乗って散歩よ。迅は知らないわ。それよりトランプよ!負けないんだから」

「次は大富豪でもどうですか?小南先輩ももう負け飽きましたよね?」

「負け飽きたってなによ。まだ本気出してないんだから!いいわ、次はコテンパに負かしてやるんだから!宇佐美カードを配って」

「わかったわよ。こなみ」

 

そう言うと宇佐美はカードをシャッフルして4人分に分けていく

 

「ルールはどうすんの?」

「自分はなんでも大丈夫です。先輩たちで決めてください」

「革命、記号縛り、8ぎり、7渡し、スぺ3、11バック、有りの階段なしでいいんじゃないかな」

「私もそれでいいわよ」

「じゃあそれでいこう。順番はどうする?」

「さっきドベだった小南先輩から時計回りでいいんじゃないですか」

「だね」

「じゃ始めるか。ほれ桐絵、1枚目出して」

「わかったわよ。はい、クローバーの5」

 

こうして4人の血で血を洗う戦いが始まる。

 

「夏樹、あんたどーして革命を起こすのよ!せっかく勝てるとこだったのに」

「革命のことくらい考えとけよ。大貧民」

「そうですよ大貧民先輩」

「そーゆー鳥丸くんも貧民だけどね」

「そうですね。でも「大」ではないですよ「大」では」

「こっち見ながら言うんじゃないわよとりまる。もう1回よ!次こそは夏樹、あんたを都落ちさせてやるんだから覚悟しとくのね」

「じゃあ早くシャッフルしてくれよ大貧民さん」

「むきー!絶対都落ちさせてやるんだから」

「おう、楽しみにしてるよ」

 

その後も何度か大富豪をしたが、結果は変わらず。京介と宇佐美が何度か入れ替わるだけで、俺も桐絵も変わらず大富豪と大貧民だった。

 

「そろそろ終わりにするか」

「そうですね。俺もそろそろバイトに行かないといけないんで」

「あっ、そうだ。宇佐美に相談があるんだけど。この後いいか?」

「いいですよ。何の相談ですか?」

「新しいトリガーを考えたんだよ」

「ほほ~う、それは気になりますね。ぜひともお聞きしたい」

「ちょっと、私はまだ納得いってないんだけど、再戦よ!私が勝つまで!」

「後でランク戦でも、なんでも相手になってやるから」

「ホント!?じゃあ仕方ないわね」

「小南先輩、顔がにやけてますよ」

「う、うるさい!そんなことないわよ」

「それじゃあ俺はこれで失礼します。お疲れさまでした」

「おう、京介おつかれー」

「鳥丸くんおつかれさまー」

「ちょっ、待ちなさい!とりまる!」

「嘘ですよ小南先輩」

「なんだ~嘘なのね。ならいいわ、お疲れとりまる」

(嘘じゃあないんだけどね…相変わらず騙されやすいね小南)

 

京介が帰った後、俺ら3人は地下のトレーニングルームに移動した。

 

「で、夏樹先輩。新しいトリガーの考えとはなんです?」

「おう、それはなスモークなんだ。一応カメレオン対策にも使えるのではと考えているんだよね」

「なるほど、それで元風間隊の私に声をかけたわけですね。しかし何故…」

「そうよ、なんでカメレオンにスモークなのよ?夏樹。視界を封じようってわけ?」

 

俺の考えているトリガーのスモークは確かに視界を封じることを目的にしてはいる。

しかし、さらにオペレーターとの連携で戦略の幅を広げることを可能にする。

 

「まぁとりあえず試作があるから桐絵に相手を頼みたいんだけどいい?」

「いいわよ相手になってやろうじゃない!」

「うん。じゃあ先にルームに入っていてくれ。宇佐美悪いんだけどオペレーター頼んでいいか?」

「いいですよー」

「じゃあ説明するからよく聞いてくれよ」

 

宇佐美にスモークの説明をして、ルームに入る。

仮想戦闘モードを起動してトリガーを起動する。

 

「さぁ見せてもらおうかしらその新しいトリガーを」

「そうだな。まぁ見てろよ。宇佐美始めてくれ」

〔わかりました。じゃあよーい、始め!〕

「スモーク!」

 

宇佐美の開始の合図とともにスモークをあたり一面にばら撒く、それと同時にバッグワームを起動する。

どうやら桐絵もバッグワームを起動しているのかレーダーに反応がない。

 

『宇佐美、じゃあ早速頼む』

『了解です。支援開始』

 

宇佐美に通信で連絡して、視覚支援を起動してもらう。

このスモークは目くらましの役目でもあるが、スモークを撒いたところの中でスモークが存在しない場所、つまりは敵や障害物を探知できるようにする。

それによりオペレータに支援をしてもらうことで障害物の位置、敵の場所、敵の動きを正確につかむことが出来るのだ。

宇佐美の支援で桐絵の場所が強調されて視界に表示される。

何をしているかも、まる分かりだ。

どうやら桐絵は動かずに警戒しているようだ。

音をたてないように背後に忍び寄り、スコーピオンで桐絵のトリオン供給機関を貫く。

 

「なっ!?いつの間に」

〔小南ダウン〕

「成功だな、どうだった宇佐美?」

「どうゆうことか説明しなさいよ!」

「わかった、わかったから、とりあえずルームから出ようぜ」

 

トレーニングルームから出る。

 

「どうでした?うまく支援できてましたか夏樹先輩」

「良かったよ。特にこれといった問題はなかったよ。で、どう思う?風間隊相手に通じそうかな?」

「どうですかねー、風間さんのとこにはきくっちーがいますからね」

「聴覚強化か~、厄介だねやっぱり」

「ちょっと待ちなさいよ!説明しなさいよ夏樹!何をしたのか」

「わかった。説明するから落ち着け。このスモークは……」

 

桐絵に今回のからくりを説明する。

 

「なるほどね。それで私の位置が分かってたってわけね」

「ご理解いただけたようで。で、どう思う?」

「う~ん、そうね~、やっぱり一番効果的な対策はスモークがまかれた瞬間にスモークの外に出ることね」

「そうだよな~、まぁでも元から個人での運用は考えてないから、スナイパーとかで出てくるところに仕掛けることもできるでしょ」

「スモークから出るも出ないのも対策を講じれるってわけですね」

「そゆこと。まぁ奇襲で使うこともできるしな。弱点らしい弱点といえばチームでの連携がないと、特にオペレーターの支援が前提ってことぐらいか」

「後、サイドエフェクト持ちには通じにくいんじゃない?迅とか」

「後、きくっちーもだね。きくっちーの強化聴覚は隊で共有できるから厄介ですね」

「ああ、そうだな。後、カゲもだな」

 

今、名前の挙がった3人には通じないだろうな。

迅さんは未来予知が、菊地原には強化聴覚が、カゲには感情受信体質がある。

攻撃は当てられるだろうが、まず倒せはしないだろうな。

 

「でも牽制にはなるんじゃない?よく夏樹のやってる、意識を割かせることにはなるんだし」

「菊地原対策に音を出すのはどうだ?」

「ん~どうでしょうね。きくっちー聞き分ける力も高いんで、意味がないと思いますよ」

「だよな~、それに容量の問題もある。これ以上機能は増やせないよな」

「まぁそれはゆりさんやクローニンたちに相談すればいいじゃない」

「そうだな。今はこんなところで一応完成かな」

 

あの2人は県外に遠征に行っていて、今はいないが戻ってから相談すればいいだろう。

 

「新トリガーの話はもういいのね。なら戦いましょう!」

「えー、メンドクサイ」

「なんでよ!いいじゃない。さっ、行くわよ」

「ちょっ、わかった。わかったから手を引っ張るな!ったく少しだけだからな」

「やったー!さぁやるわよ」

「悪いんだけど宇佐美、設定のほう頼むわ」

「ほいほーい。了解でーす」

「今日こそ夏樹、あんたに勝つんだから」

「はいはい、無理無理。なんだったら何か賭けてもいい」

「いいわ!やってやろうじゃない。買った方の言うことに何でも従うでどう?」

「いいぜ、乗った。先に入ってるぜ~」

 

まぁ飯でもおごってもらうとするか。

 

~ Side 小南 桐絵 ~

夏樹は強い、今のままじゃ勝つことは難しい。

だから何か策をとらないといけないわね。

そうだ!あれがあるじゃない!

今なら、夏樹が先にルームにいる今なら!

 

「栞、お願いがあるんだけど、実は……」

「フムフムなるほど、それなら出来るよ」

「オッケー、じゃあお願いするわ」

「わかった。ちょい待ち……っとこれでよし!はい、こなみ頑張ってね」

「ええ行ってくるわ。夏樹に勝ってみせる」

 

この策ならいける!

 

 

~ Side 佐藤 夏樹 ~

ルームに入って待っていると桐絵が入ってきた。

 

「遅かったな」

「ええ悪かったわね。始めましょう」

「そうだな。5本勝負でいいか?」

「ええ、いいわ。それでいきましょう」

「あぁ、じゃあ宇佐美始めてくれ」

〔了解でーす。じゃあいきますよ〕

 

〔 模擬戦 開始 〕

 

「メテオラ!」

 

開始の合図とともに桐絵がメテオラで撃ち、牽制して近づいてくる。

メテオラをバイパーで撃ち落とし、右手にスコーピオンを、左手にレイガストを構えて、桐絵を待ち受ける。

桐絵がコネクターにより強靭な戦斧のような状態になっている双月を振り下ろしてくる。

双月を振り下ろしてくる桐絵の腕をスコーピオンを引っ込めて、背負い投げる。

投げる際にスコーピオンを、桐絵の腕をつかんでる手の掌からスコーピオンを生やして、桐絵の腕の伝達系を斬る。

 

「っぐ、メテオラ!」

 

投げられた桐絵もやられるだけじゃなく、メテオラを撃ってくる。

 

「スラスターON」

 

メテオラをレイガストのスラスターを起動して、桐絵の方に押し出す。

これで決まった。

 

〔 小南 ダウン 1-0 〕

〔 2本目 開始 〕

 

桐絵は今度はメテオラを撃たずに、双月もコネクターを使わずに斬りかかってくる。

どうやらスピード重視で攻めるようだ。

速い、両手ともスコーピオンならまだしも、さすがにレイガストは重いな。

段々動きについていけなくなってきた。

 

「くっ!」

「そこよ!メテオラ」

 

その時、桐絵がメテオラを距離をとりつつ撃ってきた。

とっさにレイガストで防ぐが、さすがに爆風で体勢が崩されてしまった。

 

「しまった」

「そこよ!」

 

その隙を見逃すはずもなく、桐絵は双月をコネクターでつないで戦斧の形にして横に一薙ぎする。

さすがにスコーピオンでは双月を防げず、体もろとも両断された。

 

〔 佐藤 ダウン 1-1 〕

〔 3本目 開始 〕

 

3戦目、今度はこっちから行かせてもらおう。

 

「バイパー」

 

桐絵に向かいながらバイパーを桐絵を囲むような弾道に設定して撃つ。

しかし、桐絵もバイパーの鳥籠の一部をコネクターでつなげた双月で薙ぎ払い、鳥籠から脱出する。

脱出した桐絵にスコーピオンで斬りかかる。

桐絵も戦斧状態の双月で応戦する。

スコーピオンの硬さでは守りに入ったらスコーピオンを割られてしまうから、攻撃を途切れさせないようにする。

少しづつだが桐絵にダメージを与えていく。

このままじゃじり貧だとわかっている桐絵は双月のコネクターを解除して対応する。

桐絵がコネクターを解除して一撃の重さが軽くなったのでレイガストでも十分に対応できるようになって、余裕ができるようになった。

 

「テレポーター」

 

桐絵が双月で俺を挟みこむように斬りかかってくるのを、桐絵の後ろにテレポーターで跳ぶことで避ける。

目線で俺の跳ぶ先を読んだ桐絵が振り向きざまに斬りかかってくる。

それをレイガストで受け流し、目線を桐絵の右後ろに送る。

 

「テレポーター」

 

目線と言葉に反応した桐絵の隙をついてテレポターではなく、グラスホッパーで桐絵の左側に跳ぶ。

 

「釣りか!」

「グラスホッパー」

 

跳んだ先にグラスホッパーを設置して桐絵に向かって突進する。

ブラフに引っ掛かり反応が遅れてしまった桐絵をスコーピオンで仕留める。

 

〔 小南 ダウン 2-1 〕

〔 4本目 開始 〕

始まった瞬間、桐絵が仕掛けてきた。

 

「スモーク!」

 

さっきのスモークを桐絵が使ってきた。

予想はしていたが厄介だ。

案の定レーダーからも桐絵の反応は消えている。

気配を探ろうとしたその時、突然体が揺らいだ。

斜めに袈裟切りされていた。

どうやらスモークを出すと同時に跳びあがって仕掛けてきたようだ。

 

〔 佐藤 ダウン 2-2 〕

〔 5本目 ラスト1戦 開始〕

 

「スモーク」

 

桐絵が再度、スモークを出してきた。

しかしそう何度もやられるわけにはいかない。

 

「バイパー」

 

そこでバイパーをこないだ玲との修行で使った弾道で放つ。

これでどこに桐絵がいても当てることが出来るだろう。

すると、ドドドッとシールドにバイパーが当たる音がして、それと同時にレーダーの反応が現れた。

 

「バイパー+メテオラ トマホーク!」

 

そこにめがけて、バイパーとメテオラをトマホークに合成してして撃つ。

「これで仕留めた」と思った時、スモークの先から双月が飛んできて胴体を斜めに切り裂いていく。

 

「何っ!」

 

スモークが晴れると、そこには右腕をトマホークに破壊されながらも、何かを投げた後の桐絵がいた。

どうやら俺のところに双月を投げていたらしい。

 

〔 佐藤 ダウン 2-3〕

〔 模擬線終了 勝者 小南 〕

 

「やったー!」

「だー、悔しー。最後のは見事にやられたな」

 

桐絵と2人でルームから出る。

 

「お疲れ様~、2人ともすごかったね」

「おい宇佐美、お前桐絵の味方したな。ずるいぞ」

「勝てばいいのよ勝てば。それにしても最後は焦ったわよ。まさかトマホークを撃ってくるなんて」

「まぁそれはあのままじゃ埒が明かなかったからな。一か八かでレーダーの反応を囲うように撃っただけだよ。結局仕留めきれなかったしな」

「それでもよ。その前のバイパーだって竜巻みたいで避けようがなかったわよ。さすが那須さんの師匠ね」

「まぁ玲にも言ったけど最後の竜巻みたいな弾道はあらかじめ設定してたやつだからやろうと思えばだれでもできるぞ」

「ん?ちょっと待ちなさい夏樹、あんたいつの間に那須さんのこと名前呼びになってるのよ!」

「いや普通にこの前、「名前で呼び合いませんか」って頼まれたからだけど何かまずかったか?」

「ま、まずくはないわよ!ただ気になっただけよ」(なんだびっくりした~。てっきり付き合い始めたのかと思って焦っちゃったじゃない)

「どうするのこなみ?追い付かれちゃったんじゃない。このままじゃ追い越されちゃうかもよ」

「えぇ!?どうすれば…」

「おいどうした。さっきから2人でこそこそと何話してるんだ?」

「な、何でもないわよ!」

「そうか。そういえば何を命令するんだ?」

「そうだったわね。そうね…」(考えるのよあたし。これはチャンスよ!よーく考えないと…そうだ!)

「言っておくけど無理なものは無理だからな。俺にできることで頼むぞ」

「わかってるわよそれぐらい。そうね今度ちょっと付き合いなさい」

「おういいぞ。いつだ?」

「そうねー、今度の日曜にしましょう。その日なら夏樹も空いてるでしょ」

「いいけど、なんで俺が空いてるってわかるんだ?」

「そ、それは…」(言えない…冬華ちゃんからこっそりと夏樹の予定を聞いてるなんて)

「それは?」

「まぁいいじゃないですか夏樹先輩。それよりどうでした?自分でスモーク喰らってみて」

「ん~、どうだろうね。対応できないわけじゃないけどそれでも隙が生まれてしまうな。そっちはどうだった?」

「そうね、やっぱりトリオンの消費が多いわね。あとオペレーターの支援が重要ね」(栞ありがとう!助かったわ)

「宇佐美はどうだった?」

「そうですねオペレーターとして言わせてもらうとやっぱり専用のソフトがあった方がいいですね」

「そうだな。作ってみるとするか」

「出来たら見せてくださいよ」

「おう、その時は頼むわ。そろそろ夕食の準備をしないとな」

 

腕時計を見ると時刻は6時を過ぎていた。

今日は深夜に防衛任務を入れているが、俺が食事当番の日だ。

 

「そうですね。私は学校の課題でもやってきます。こなみも一緒にしようよ」

「そうね。あたしの部屋でやりましょう」

「そうだね。じゃあ行こうか。夏樹先輩、夕食は何にするんですか?」

「まぁ冷蔵庫の中身を見て考えるわ。今日誰が食べるんだっけ」

「あたしたちと陽太郎、迅、レイジさん、ボスの7人でしょ」

「そうだったな。ありがと」

 

俺たちは地下のトレーニングルームから出て、俺はキッチンに行き、小南たちは自室に行った。

キッチンに行き、米を研いで炊飯器にセットする。

キャベツを千切りにして水にさらしてしゃっきとさせたら水気をきる。

すると居間の扉が開き、雷神丸に乗った陽太郎とぼんち揚を片手に持った迅さんが現れた。

どうやら散歩から帰ってきたようだ。

 

「おぉなつきか、ただいま、帰ったぞ」

「陽太郎おかえり。迅さんに雷神丸も」

「よっ夏樹、夕飯の準備か?」

「ええそうですよ」

「今日は何作るんだ?」

「そうですね~豚の生姜焼きにしようかと」

「あ、そうそう今日はボスは遅くなるらしいから外で食べてくるって」

「わかりました」

 

となると6人分だな。

豚ロースと生姜などの食材を人数分冷蔵庫から取り出す

肉の筋を切り、火を通し、火が通ったら一旦フライパンから肉をどかして、生姜や醤油などを加えてたれを作る。

そこに肉を戻して強火でたれを絡める。

鍋に残っていた袈裟の残りであろう味噌汁を温めなおす。

皿に生姜焼きと水気を切っておいた千切りのキャベツを盛りつける。

ちょうど盛り付け終わるくらいに玄関から「ただいまー」と声が聞こえる。

どうやらレイジさんが帰ってきたようだ。

 

「おかえりっすレイジさん。ちょうど夕食が出来るところです。陽太郎、桐絵たちを呼んできてくれ。桐絵の部屋にいると思うから」

「うむ、わかった」

 

そう言うと陽太郎は雷神丸に乗って居間から出ていった。

 

「何か手伝うか?」

「ありがとうございますレイジさん。じゃあ味噌汁をお椀によそってもらっていいですか」

「わかった。迅お前も手伝え」

「りょーかい」

 

男3人で夕食を準備していると、桐江たちが来た。

 

「いい匂いがすると思ったら生姜焼きね。おいしそうじゃない」

「お腹空きましたよ~」

「うむ、おいしそうだな」

「3人とも手は洗ったのか?」

「レイジよ、ぬかりはないぞ」

「ならいい。じゃあいただくとするか」

「「「「「「いただきます」」」」」」

 

色々なことを話しながら夕食を食べ進めていく。

 

「「「「「「ごちそうさま」」」」」」

 

食べ終わった食器を分担してシンクに運ぶ。

皿洗いを終えて自室に戻る。

受験勉強をしていると、気が付くともう11時になろうとしていた。

そろそろ防衛任務の時間だ。

勉強道具をかたずけて、自室を出る。

玉狛支部を出て、三輪隊との合流地点に向かう

今日の防衛任務は、昨日、三輪隊の米屋と小寺がたまたま出れなくなってしまったのでヘルプとして参加してほしいと一昨日、月見さんから連絡があったのだ。

合流地点に着くとそこには三輪と奈良坂がいた。

 

「よう三輪、奈良坂。こんばんわ」

「こんばんわ夏樹先輩。今日は陽介たちがすいません」

「いいよ、これくらい問題ないよ」

「よろしくお願いします。夏樹先輩」

『よろしくね佐藤君』

「ええお願いします蓮さん。奈良坂もよろしくな」

 

三輪は姉を近界民に殺されたことから近界民排斥主義で親近界民派の玉狛支部の面々とはあまり仲がいいとは言えない。

しかし俺が本部にいたころの数少ない年下だったので色々と相談に乗ったりと仲良くしていたので、俺とは仲は悪くない。

 

『そういえば佐藤君は大学どうするの?』

「大学ですか。一応、国立と私立どっちかの給費生を狙うつもりです」

『給費生ですか、さすがですね夏樹先輩』

「奈良坂でも取ろうと思えば取れると思うぞ。頭いいんだしな」

「でも奨学金的なものならいつか返さないといけないんじゃなかったでしたっけ?」

『三輪君の言うように返さなくちゃいけないものもあるけど返す必要のないのもあるのよ』

「蓮さんの言う通りだよ。学費がタダになるだけじゃなく、いくらか貰えもするらしい。まぁその分競争率が高いんだけどね」

『なるほど、まぁ夏樹先輩なら大丈夫じゃないですか』

「まぁ油断はできないよ。けど幸い、こないだの定期テストからうちは自由登校になってるから勉強時間もあるしな」

「その勉強への態度を陽介に見習わせたいですよ…こないだだって赤点ギリギリだったんですから」

『このままじゃ太刀川君みたいになっちゃうわよ』

 

色々なことを話しながらも警戒を続ける。

こうして夜は更けていく。

 




そろそろ原作に入らないと…

誤字報告ありがとうございます


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第6話

遅くなってしまい申し訳ありません。
リアルの方が忙しかったもので


俺は三輪隊との防衛任務を終えて、玉狛支部に帰ってきた。

自室に戻って仮眠をとり、起きたら時刻は11時になろうとしていた。

少し勉強をして居間に行くと、迅さんがテレビを見ていた。

他の人達は学校や仕事に行ってるのだろう。

 

「夏樹、起きたのか。丁度よかった今から昼飯を食いに行こうと思ってたんだけど一緒に行くか?」

「そうですね。そうさせてもらいます。味自慢ですか?」

「おう、他がいいならそれでもいいけど」

「いえ、俺もつけ麺を食べたいと思ってたところでしたから」

「じゃあ行くとするか」

「そうですね。財布取ってくるんでちょい待っててください」

「いいよ。今日は奢るよ」

「ほんとっすか。じゃあゴチになります」

 

迅さんと二人でよく行く支部に近いラーメン店に向かった。

店に入って注文を頼む。

 

「俺はラーメン大盛で。夏樹はどうする?」

「じゃあ俺はつけ麺の特盛でお願いします」

「あと餃子二人前」

「あいよー」

「すいません迅さん奢ってもらっちゃって」

「いいって別に。気にすんなよ」

 

この店は確かに味よし量よしで学生サービスも充実しているが、昼飯代が浮くのはありがたいことだ。

迅さんと話しているとラーメンとつけ麺が来た。

 

「「いただきます」」

「で、何か頼み事ですか?」

「あれ?わかる?」

「まぁなんとなくですけどね」

「じゃあ単刀直入に頼むけど、俺の暗躍を手伝ってほしいんだ」

「ふむ、でも珍しいですね。いつもなら暗躍に巻き込むのに、手伝いを求めるなんて」

「いや、いつも巻き込んでるわけじゃないんだけどね。まぁでも確かに今回は万全を期して未来に臨みたいところだし、それに今回暗躍でもしかしたら夏樹自身に迷惑がかかるかもしれないからな」

「俺としては俺自身に迷惑がかかろうがかまわないですよ。まぁ巻き込むんじゃなくて相談してくれるほうがありがたいかなと」

「あはは~、気を付けるよ」

「お願いしますよ。でその暗躍とやらはいつなんです」

「わからない。もしかしたら暗躍の必要もないかもしれない。なんたって未来は無数に広がってるからね。でも近い未来に、こっちとあっち両方の世界を大きく動かす何かが始まる。その時は頼む」

「わかりました。何かあったら言ってください。力になるんで」

「ありがとな。まぁ始まるといってもいつかは正確にはわからないんだけどね。ただ、少しではあるけどもう動き始めてる」

「なるほど、一応頭に入れえときますよ。それはさておき食べませんか?麺伸びてますよ」

 

どうやら結構な時間俺らは話していたらしく、迅さんが頼んだラーメンは麺が伸びてしまっていた。

俺はつけ麺にしといて良かった、まぁスープは少し温くなってしまったけど。

 

「しまった。忘れてた」

 

そう迅さんが言うと俺らは食べることに意識を向けた。

しばらくして食べ終えて店を出る。

 

「そういえば、少しではあるけど動き始めてるって言ってましたけど。誰か重要人物になる人の未来でも視えたんですか?」

「ん~さすが、鋭いね。実は防衛任務中にね」

「防衛任務中って隊員の誰かですか?」

「いいや。その時はボーダーの人間じゃなかったよ」

「過去形ってことはまさかボーダーに入隊させたんですか?」

「まぁね。ボーダーに入りたいって言ってたから」

 

大丈夫なのだろうか?

今時、警戒区域内に入ってくるような奴は不良かバカなマスコミぐらいだろ。

まさか許可も無しに一時帰宅しようとする人もいるまい。

 

「大丈夫なんですか?それ」

「不良とかじゃないよ。警戒区域に入ったのも「ボーダーに入れてくれ」って偉い人に直談判しようとしてのことらしいしね」

「直談判って、試験落ちたんですか?そいつ」

「あぁなんでもトリオン不足だったらしい。それでも諦められなかったみたいで」

「トリオン不足って…大丈夫なんですか?」

 

迅さんが入隊させたってことは大丈夫なのだろうけど、試験に落とされるレベルのトリオン不足って下手したらC級で腐って終わりだろう

 

「大丈夫だと思うよ。俺のサイドエフェクトがそう言ってる」

「そうすか。ならいいですけど」

 

まぁ迅さんがそう言ったなら多分何かのキーマンなのだろう

 

「いずれ彼にも稽古つけてやってよ」

「まぁいいですけど」

「あ!そうそう、冬華ちゃんだけどボーダーに入った方がいいかもしれない」

「どうしてです?」

「いやな、たぶんこれから三門市は大きく揺れ動く、市民だろうが隊員だろうが危険になる時があるかもしれない。その時は少しでも力があった方が安心だろ」

「なるほど、まぁもう冬華も高校生ですしね」

 

冬華からも今朝に相談されたしな、今がタイミングなのかもしれないな。

そんなことを話しながら歩いていると、玉狛支部に戻ってきた。

 

「夏樹はこの後どうするんだ?」

「勉強をして4時くらいには帰ろうかと思ってます」

「そうかー頑張れ若人よ。おれは散歩にでも行くとするか」

「そうですか。それじゃ昼飯ゴチになりました」

「お~う。じゃーな~」

 

そう言うと迅さんはぼんち揚を片手にして歩いて行った。

いつの間にぼんち揚取り出したんだよあの人。

その後、自室に戻って勉強とスモークの支援プログラムの作成をしていたら、気が付けばもう4時過ぎになっていた。

帰り支度をして玉狛支部を出る。

途中スーパーで買い物を済ませて、家に帰ってきた。

 

「ただいまー」

 

返事はない、まだ冬華は学校から帰ってきていないみたいだ。

買って来た物をしまい、夕飯の下準備をする。

今日はスーパーで鮭が安かったので、鮭のバターホイル焼きにするつもりだ。

鮭と他の具材の下味をつけてホイルにセットしておく。

後は冬華が帰ってきたら火を通せば完成だ。

他にも米を炊飯ジャーにセットして、味噌汁も作っておく。

 

「これでよし」

 

後は冬華が帰ってくるのを待つだけだ。

お風呂を沸かして、その間に筋トレをすることにした。

お風呂が沸くころに、玄関のドアが開く音が聞こえて

 

「ただいま帰りました」

 

と声が聞こえた。

どうやら冬華が帰ってきたようだ。

 

「おかえり。学校お疲れさん」

「兄さんも防衛任務お疲れ様です」

「もうすぐで晩御飯できるから、少し待っててくれ」

「いえ、兄さんは休んでてください。兄さんのことです。後は火を通すぐらいなのでしょう?だったらそれぐらい私がやりますよ。兄さんは休んでてください」

「そうか、悪いな。じゃあちょっと風呂に入ってくるよ」

「はい。どうぞ」

 

冬華に晩御飯の用意を任せて、寝間着を持って風呂に向かう。

シャワーを浴びて、筋トレでかいた汗を洗い流す。

身体を洗い、湯船に浸かる。

 

「あぁ~」

 

と思わず声が出てしまう。

疲れた体にお湯が染み渡る。

体の力がどんどん抜けていくみたいだ。

 

「兄さーん、そろそろ晩御飯が出来るので、お風呂から上がってきてください」

 

冬華の声がキッチンから聞こえる。

湯船から上がり、シャワーを再度浴びて、風呂から出て身体を拭いて着替える。

ダイニングに向かうともう用意が出来たみたいで、冬華が座って待っていた。

「悪い、待たせた」

「いえ、気にしないでください」

「ああ、ありがとう」

「「いただきます」」

「そうだ、この後少し話いいか?」

「ええ、大丈夫ですよ兄さん」

「頼むな。それはそうと美味いか?このホイル焼き」

「はい、とってもおいしいですよ。さすが兄さんですね。レシピあとで教えてくださいね」

「そうか美味いか。それは良かった。レシピは後で紙にでも書いておくよ」

 

夕飯を食べ終わり、冬華がお茶を入れてきてくれた。

さてボーダーについて話すとするか。

 

「どうぞ兄さん、お茶です」

「あぁありがとう」

「それで話って何ですか?もしかして私のボーダー入隊についてですか?」

「あぁそうだよ。考えたんだけどもう冬華も高校生になるのだし、いつまでも過保護なわけにもいかないからね。入隊したいのであればしてもいいよ」

「本当ですか!?ありがとうございます兄さん」

「でも、勉強は疎かにするなよ」

 

ないとは思うが、冬華が太刀川さんや米屋みたいな戦闘バカになって欲しくはないからな。

 

「はい気を付けます」

「ならいいよ。次の入隊日は1月だったはずだから、どうする?仮入隊するかい?」

「そうですね。お願いします」

「じゃあ今度一緒に玉狛支部に顔を見せに行くか。今度の火曜日に学校が終わったら連絡してくれ、迎えに行くから」

 

確か火曜日ならボスもいるはず。

 

「わかりました。これから頑張ります!」

「おう、がんばれよ。わからないことがあったら大体は教えられると思うから、聞いてくれよ」

「はい!その時はお願いしますね兄さん」

「任せとけ。さてと俺は勉強して寝るよ。おやすみ~」

「おやすみなさい兄さん」

 

冬華と別れて自室に行った俺は勉強をして11時くらいにベットに入って眠りについた。

 

~ Side 佐藤 冬華 ~

 

学校を終えて家に帰る。

 

「ただいま帰りました」

「おかえり。学校お疲れさん」

 

兄さんがリビングから出てきた

少し汗をかいているところをみると、運動でもしていたのだろうか。

 

「兄さんも防衛任務お疲れ様です」

「もうすぐで晩御飯できるから、少し待っててくれ」

 

運動をしていたということは料理はだいたい終わっているのだろう。

 

「いえ、兄さんは休んでてください。兄さんのことです。後は火を通すぐらいなのでしょう?だったらそれぐらい私がやりますよ。兄さんは休んでてください」

「そうか、悪いな。じゃあちょっと風呂に入ってくるよ」

「はい。どうぞ」

 

自室でカバンを置き、部屋着に着替えて、キッチンに向かう。

残りの夕飯の準備を終えて、兄さんに声をかける。

 

「兄さーん、そろそろ晩御飯が出来るので、お風呂から上がってきてください」

 

夕飯を食べ終わり、食器を二人で洗ってかたずけた後、私はお茶を入れて、リビングに持っていく。

兄さんにお茶を入れて、兄さんの対面に座る

 

「どうぞ兄さん、お茶です」

「あぁ、ありがとう」

「それで話って何ですか?もしかして…

 

話が終わり、兄さんは自室に戻っていった。

話はやはり私のボーダー入隊についてだった。

私は前々からボーダーに入りたいと願ってきた。

その入隊したいという心の中には色々な気持ちが混在している。

それらの気持ち全ての原点はあの時だろう。

私は四年前のネイバーの侵攻を思い出す。

 

四年前のあの侵攻の時、私は何が何だかわからなかった。

突然現れた化け物にお母さんは私を庇って殺されて、命からがら非難した先には兄さんが武器を持って化け物相手に戦っていた。

兄さんに聞くとお父さんも別の場所で戦っているらしかった。

化け物がいなくなった後、兄さんと一緒にお父さんに会いにいった。

しかし、お父さんが戦っていた場所の近くの避難所にもお父さんはいなかった。

私を避難所に残して兄さんはお父さんを探しに外に行った。

しばらくして兄さんが顔を真っ青にして戻ってきた。

その顔を見た私は幼いながらに何があったのか察した。

その後聞いた話だとお父さんは逃げ遅れた小さな子供を庇って化け物に殺されてしまったらしい。

私と兄さんは二人っきりになってしまったらしい。

化け物たちはボーダーという組織がやっつけたらしい。

両親と兄さんはそのボーダーにお母さんは研究員として、お父さんと兄さんは戦闘員として所属していたと、両親のお葬式の時にボーダーの偉い人たちがやってきて教えてくれた。

両親のお葬式で私は涙が出なかった。

両親が死んでしまったとまだ理解できなかったのだろう。

お葬式が終わり、兄さんと二人、家に帰ってきたところで私は両親がもういないことを理解して涙が止まらなくなった。

その後、兄さんは何かにとりつかれたかのようにボーダーで働いていた。

兄さんは笑うことも少なくなり、常に忙しそうだった。

私に何一つ不自由を感じさせないためだったのかもしれない、もしくは私に対しての罪悪感なのかもしれない。

私は怖かった。

兄さんまでもがネイバーという化け物に殺されてしまうのではないかと、このまま私は天涯孤独になってしまうのではないかと。

次第に私は西峰さんに預けられることが多くなっていき、一緒に過ごすことが少なくなっていった。

仕方のないことだとわかっていたが、昔からお兄ちゃん子の私は寂しかった。

ある時、私はその寂しさに耐えられなくなったのか、兄さんに会おうと警戒区域に踏み込んでしまった。

遠くから聞こえた戦闘音に私は怖くなって動けなくなってしまった。

動けなくなっていたところに女の人がやってきて、私を本部にいる兄さんのもとに連れて行ってくれた。

女の人は兄さんと同じ隊の沢村さんという人だった。

それ以降、兄さんと私が一緒に過ごす時間は増えていった。

何やら兄さんに沢村さんたちが注意してくれたみたいで、兄さんが謝ってきた。

私は兄さんに無理させてしまったことを申し訳なく思ったが、それ以上に嬉しかったのを覚えている。

兄さんに無理をさせまいと、私はボーダーに入りたいとお願いした。

兄さんは「無理しなくていいんだよ。寂しい思いさせてごめんな」と優しく頭をなでてくれた。

その時、久しぶりにネイバーが来る前の兄さんの雰囲気を感じて、嬉しくなってそのままボーダー入隊の気持ちを引っ込めてしまった。

しかし兄さんに少しでも無理をさせまいと必死に勉強や家事などを練習を始めた。

そこにはボーダーで働きつつも他のこともしっかりとこなしていた兄さんへの憧れもあったのだろうと思う。

兄さんが高校に入る前くらいから、大規模侵攻以降あまり笑わなくなってしまった兄さんがよく笑うようになってきて、私は嬉しさとともにボーダーへの興味が生まれた。

再びボーダーに入りたいとお願いしたら、「冬華まで働く必要はないんだよ」と言われてしまった。

兄さんは、高校は私立のお坊ちゃん校に特待生として入学した。

私はそれが誇らしくもあり、申し訳なくも思った。

だからより一層、心配をかけまいと色々な事に必死に取り組んだ。

そして私は中学に入って、勉強の甲斐もあって成績トップを取ることが出来た。

それを機に再び兄さんにボーダー入隊をお願いした。

今度は私の気持ちもしっかりと説明した。

そして兄さんが折れ、高校生になるあたりからという条件はあるが入隊をついに認めてもらった。

いよいよ入隊が近づいてきた。

そうだ!このことを優佳さん達にも知らせよう。

早速SNSで優佳さんや勇人くんに知らせた。

メッセージを送ってしばらくしたら、スマホに通知が来た。

SNSを開くと送り主は優佳さんでも勇人くんでもなく、小南さんだった。

 

『久しぶりね冬華ちゃん。実は相談があって…今度夏樹とデートに行くことになったの!どうやったら夏樹の気を引けるかな?』

 

なん…ですって!?兄さんがデート?あの鈍感な兄さんが!?

とりあえず小南さんに事情を聴いてみる。

 

『詳しい状況を教えてください』

 

小南さんから詳しい事情を聴く、おそらく兄さんはデートだとさえ気づいていないだろう。

まったく鈍感すぎです!

兄さんは顔も決して悪くないし、成績優秀、運動神経もよく、優しくて、細かいところにまで気が利く、まさに優良物件だ。

そんなわけで兄さんのことが好きな女性は多い。

しかし兄さんはなぜかそれに全く気付かない。

だからこうして裏で私が兄さんと兄さんのことが好きな女性たちをサポートしているのだ。

 

『わかりました。兄さんには私が色々と言っておきます。デート頑張ってくださいね』

『ホント!ありがと冬華ちゃん』

『いえ、いいですよ。あとそうだ私ボーダーに入ることになりました』

『ついに入るのね。楽しみに待ってるわ』

『色々と教えてくださいね』

 

そのあとも色々と話しながら夜が更けていった。

 




誤字報告ありがとうございます。
次はなるべく早く投稿できるよう頑張ります。


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第7話

また遅れてしまった。
お待たせしました


火曜日になり、学校を終えた俺は冬華との待ち合わせ場所の警戒区域近くの公園に来ていた。

しばらくすると、冬華が来た。

 

「兄さん、お待たせしました」

「来たか、じゃあ行くとするか」

 

冬華と玉狛支部に着いた。

中に入って、ボスの部屋に向かう。

ボスには昨日の時点で話はしてある。

 

「とりあえず今日のところは、顔合わせとボーダーについての説明くらいだから、まぁ肩の力抜いてな」

 

そう言って、俺は冬華と一緒にボスの部屋に入る。

 

「「失礼します」」

「おう、待ってたぜ」

「どうも林道支部長、お待たせしました」

「いいよ気にすんな、そんなに待ってないからよ。それより久しぶりだな冬華ちゃん」

「はい、お久しぶりです。いつも兄さんがお世話になってます」

「いやいやこちらこそ、いつも夏樹には世話になってるよ」

「ちょっと二人ともやめてくださいよ恥ずかしい」

 

せめて本人のいないところで話してほしい、いやいないとこでも話さないでほしいけど…

 

「まっそうゆう話は置いといて、夏樹から話は聞いてるよ。支部長としてボーダー玉狛支部への参加を歓迎する」

「はい!よろしくお願いします!」

「よし、じゃあこれが入隊用の書類と仮入隊申し込み書だ。まっポジションやらなにやらは後で決めるといい」

「わかりました。ありがとうございます」

「それじゃ俺は本部の方に用事があるから、これで失礼させてもらうよ。じゃあ夏樹、後を頼むわ。書類は書いたら持ってきてくれ。んじゃお疲れ~」

「了解です。お疲れ様です」

「お、お疲れ様です」

 

支部長室を出た俺と冬華は居間に来て、冬華にポジションやトリガーやランク戦などのボーダーについて説明していた。

 

「まぁこんな感じでボーダーの説明は大体出来たかな。冬華何かわからないことあったか?」

「いえ、取りあえずは大丈夫です」

「そうか、じゃあそろそろトリオンを測ってみるとするか」

「そうですね」

「間に合った!」

 

ドアを勢いよく開いて現れたのは、我らが玉狛支部紅一点の戦闘員である、小南桐絵譲だった。

 

「もう少し落ち着きを持てないのか桐絵」

「急いできたんだから仕方ないじゃない。元はといえばあんたが悪いんじゃない。今日は私遅くなるのに冬華ちゃんのくる時間を放課後直後にするからよ」

「それ俺悪く無くねぇだろ、おい!」

「うるさいわね!まぁいいわ、それより冬華ちゃん、ついにボーダーに入るのね。歓迎するわ!」

「ありがとうございます」

「それじゃ私がボーダーのことを教えてあげるわ」

「もう俺が説明したから大丈夫だよ。それに桐絵、お前説明できるのかよ」

「で、できるに決まってるじゃない!まぁ説明してたなら仕方ないわね。それで冬華ちゃんはどのポジションにするか決めたの?」

「そうですね。スナイパーにしようかなと思っています」

「へ~スナイパーね、いいじゃない!」

「うん、いいと思うよ。それじゃトリオン測ってみるか」

 

俺はトリオンを測る機械を起動して、冬華に渡して測定を始める。

 

「さてさて、冬華ちゃんのトリオンはどれくらいなのかしら?」

「俺と同じく父さん譲りならトリオンは多いと思うよ」

「そうなんですか?」

「そうだよ。おっ測定ができたみたいだ。どれどれ~、これは…」

「どうしたのよ夏樹?」

 

測定器に表示されていた数値は正隊員に必要なトリオン量を大きく下回る数値だった。

 

「兄さん、これは…」

「ああ、冬華は母さん譲りだったみたいだったな。母さんはトリオンが少ない方だったんだ。だから研究員をしてたんだ」

「そうだったのね。だから榛名さん体の動かし方上手かったのに研究員だったのね」

「そうだったんですか。じゃあ…」

「そうだね。このトリオンじゃ戦闘員は厳しいだろうな」

「そうね、でもオペレーターなんてどうかしら?」

「オペレーターか?」

「ええ、そうよ。あたしは向いてると思うけど?」

「確かにいいかもな。どうする冬華?戦闘員で行きたいなら何とかしてみるけど」

「わかりました。オペレーターで行こうと思います」

「わかった。じゃあ少しだけだけどオペレーターについて教えられることは教えるよ。詳しくは宇佐美に聞いてくれ」

「わかりました。お願いします兄さん」

「おう、任せとけ!」

「でもどうするのよ?玉狛にはあたしたちだけだし、あんたも迅も個人じゃない」

「確かにな、となると、本部の通信オペレーターかな」

「入る直前に転属ってことですか兄さん?」

「まぁ転属っていうより本部に入隊ってところかな」

「そうね、残念だけどうちにいてもやることがあまりないしね」

「冬華、本部で西峰姉弟たちと部隊組んでみたら?」

「そうですね。それはいいかもしれませんね。早速連絡してみます」

「じゃあ入隊の書類も本部所属に直しておくよ」

「そうですね。お願いします兄さん」

 

 

地下室の機材があるところに移動して、冬華にオペレーターについての基礎的なこと教えてあげていると宇佐美が来た。

 

「お疲れー、おっ冬華ちゃん!冬華ちゃんがいるってことは…ついにボーダーに入るんだね~所属は?ポジションは?眼鏡かける?眼鏡人口増やそうぜ!」

「はい、私本部でオペレーターをしようと思います」

「そうなんだ。宇佐美お願いなんだけど、冬華にオペレーターのことについて詳しく教えてやってくれないか」

「了解でーす。じゃあ冬華ちゃん早速いろいろ説明するね」

「夏樹、ちょっといい?」

「ああ、いいけどどうした?」

「この間の勝負であたしが勝ったじゃない」

「そーだっけか?」

「あんたね~!まさか忘れたなんていうつもりじゃないでしょうね!」

「冗談冗談、忘れてないよ。そう怒るなよ。なんか一つ言うこと聞くだろ」

「お、怒ってないわよ。まぁ忘れてないならいいわ。今度の日曜、買い物に付き合ってちょうだい!」

「それくらいなら別にいいぜ」

「ホント!じゃあ日曜の9時に弓手町駅に集合でいいかしら?」

「あいよ9時ね、了解」

「遅れたら承知しないんだからね」

「大丈夫大丈夫~」

「私がちゃんと兄さんを送り届けますので安心してください」

「そうね、冬華ちゃんがいるなら安心ね」

「待て、なぜ俺が信用されん。納得がいかんぞ!」

「まぁいいじゃない。それより遅れないでよね。わかったわね?」

「あいよ」

 

そのあと、冬華のオペレーターの機械操作を教えて、最後に桐江と俺の個人戦をすることになって、そのオペレーターを宇佐美と一緒に担当してもらった。

 

「うん、取りあえずはこんな感じかな。どう冬華ちゃん?」

「大体理解できました。栞さんありがとうございました」

「いいよ~わかんないことがあったらいつでも聞いてね」

「はい、お願いします栞さん」

「サンキューな宇佐美、助かった」

「いえいえ、私も冬華ちゃんが入ってきてくれてうれしいですから」

「もう遅くなるな。冬華、今日は帰ろうか。夕飯はお祝いに寿寿苑で焼肉にしようぜ」

「そうですね」

「二人もどうする?今日は奢るよ」

「本当ですか!じゃあごちそうになります」

「あたしも行くわ」

「あんまり高いもんは頼まないでくれよ」

 

俺たちは寿寿苑で焼肉を食べて家に帰ってきた。

 

「いや~美味かったな」

「そうですね、また行きたいですね」

「そうだな。まぁ部隊組んでランク戦に出るようになれば、隊で行くこともあるだろうからな」

「じゃあその時も奢ってくださいね?」

「それ俺関係なくない?」

「奢ってくださいね?」

「ハ、ハイ」

「じゃあ私お風呂に入ってきますね」

「おう」

 

冬華がお風呂から出た後、俺もお風呂に入って、お風呂から出ると冬華が居間で待っていた。

なんだろう、冬華の後ろから凄いオーラが出てる気がする…

 

「ど、どうした?冬華なんか怖いぞ」

「兄さん、話があるのでそこに座ってください」

「お、おう、わかった。それで話ってなんだ?」

「兄さん、まさかとは思いますが、桐絵さんとの買物をただの荷物持ちと勘違いしてませんか?」

 

え?ただの荷物持ちじゃないのか?

もしや財布になって来いということだろうか。

まさか桐絵が俺をデートに誘うわけあるまい。

桐絵は俺のことは親戚くらいに思っているだろうからな。

まぁそれは俺もなんだけどな…

 

「安心しろ。何度、冬華から説教を受けたと思っている。これくらいなら朝飯前に理解できるぞ」

「そうですか…ならいいんですけど…」

 

(本当に大丈夫だろうか?まぁ前日にも一応確かめることにしよう)

 

「ああ兄さんを信じなさい!」

「ホントですね信じますからね兄さん。じゃあおやすみなさい」

 

 

~ デート当日 ~

 

俺はジャージパンツにパーカーを着て出かける用意をしていた。

財布もよし。

取りあえずこれくらいあれば足りるだろう。

さすがに財布役とはいっても、桐絵も俺んちの事情は知ってるから無茶な注文はしないだろう。

少し早いがそろそろ行くとしよう。

待ち合わせ場所の近くに本屋もあったし早くついても大丈夫だろう。

 

「それじゃあ冬華、俺行ってくるよ」

「はいいってらっしゃ、って少し待ってください!」

「なんだ、どうかしたか?」

「まったく「どうかしたか」じゃあないですよ。何ですか?そのユニ○ロ統一の服装は!?靴下までユニ○ロじゃないですか!」

「待て、靴下はユ○クロじゃない、しま○らだ」

「し○むらでもユニ○ロでもどっちでもいいです!私が言いたいのはそのおしゃれのおの字も感じられない服装で桐絵さんのとこに行こうとしてることです!」

「全国のユ○クロユーザーに謝れ!」

「私が怒っているのは兄さんの服装選びのセンスの無さにです!なんでもユニ○ロを着ればいいとでも思っているんですか兄さんは!」

「別に悪くないだろ。安さ、着心地の良さ、他にも色々優れてるじゃないか」

「わかりました。もういいです。でもとりあえずその服では行かせられません!私が服を選ぶのでそれに着替えてください」

「え~、いいじゃんこれで」

「良くありません!さあ脱いでください!」

「わ、わかった!わかったから、着替えるから落ち着け冬華」

 

俺は冬華の勢いに押されて着替えることになった。

ユ○クロ別にかっこ悪くないだろ。

まぁ仕方ない冬華の言う通り着替えるとするか…はっ、まずい部屋のクローゼットにはうちの男子校ネットワークの力で集めた俺のお宝が隠してあった!

冬華に見つかるわけにはいかない!

しかしどうすれば…仕方ないこうなったら副作用を使って考えるか。

誤魔化すか…ダメだ!冬華に怪しまれてしまう…そうだ!俺がその場で冬華の視線を誘導して隠し場所に目を向けさせなければイケる!

そうとなれば作戦開始だ!!

 

「まったく兄さんは顔は悪くないのに所々抜けてるというかなんというか…これじゃあ優佳さんのことを「がっかり美人」なんて言えないですよ」

「ゴメンナサイ…」

「もういいです。それより早く選びますよ」

「お、おうそうだな…」

「さてと、どうしましょうか…」

 

冬華がクローゼットを開けて服を漁り始めた。

よし、いま冬華が漁ってるのは俺のお宝から距離がある。

作戦通りにいけばうまくいくはず。

取りあえず冬華にお宝から距離のある服を選ばせよう

 

「冬華それなんていいんじゃないか?」

「この長袖Tシャツですか?」

「そう、それそれ」

「どれどれ?って何ですかこの千発百中って文字は!?」

 

しまった!出水から貰った千発百中Tシャツだった!

こっちからだと見えなかったから間違えてしまった

 

「ごめん、間違えた」

「もう、しっかりしてください!」

「ごめん、じゃあそれは?」

「これですか?どれどれ?」

 

~ 5分後 ~

 

「及第点ではありますがこれでいいでしょう」

「これで及第点なのかぁ…」

「何故兄さんはユニ○ロやし○むらくらいしかないんですか!今度は他のところで買ってください」

「はい、お手数おかけしました…」

「これで服は良しとして、いいですか兄さん、細かいところへの気遣いとレディーファーストを心掛けてくださいいいですね?」

「りょーかいりょーかい。何度も聞いてるから大丈夫だよ」

「そうですか。なら行ってらっしゃい兄さん」

「おう、行ってくるよ」

 

結局俺は冬華コーディネートの黒スキニーとニットセーター、チェスターコートという服装で桐絵との約束に向かうことになった

お宝は無事だろうか…心配だ、多分大丈夫だと思うがそれでも不安だぁ

隠し場所変えておくんだった。

まぁ見つかったら仕方ないか。

その時は腹を決めることにするか。

おっと早く弓手町駅に向かわないと、遅刻なんてしたら大目玉をくらってしまう。

 




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第8話

WT最新話読みましたか?
小南めっちゃ可愛かったです。あと千佳ちゃん白米好きすぎ。



弓手町駅に着いて、桐絵が来るのを待つ。

 

「待たせたわね」

 

『いいですか兄さん、女の人が兄さんより遅く来て「お待たせ」と言ってきたら「全然待ってないよ」などというようにして下さい。いいですね?』

俺の頭に冬華の声が聞こえる。

 

「いや、そんなに待ってないぞ。俺も今さっき来たばかりだからな」

「そ、そう…ならよかった」

(冬華ちゃんね。さすがにしっかりしてるわね。それにしても今日の夏樹はなんかおしゃれね)

 

何だろう…すごい観察されてる感じがする。

しかしそれにしても、何だろう…桐絵の奴、いつもより可愛い気がする。

そうか、服か!確かにいつも制服かトリオン体しかあまり見ないから、おしゃれに見えるのか。

しかしこんなに可愛い奴だったか?

何だろう、顔が熱い気がする…

 

「その服いいな。似合ってるんじゃないか」

「そ、そう。ありがと…」

「じゃ、じゃあ行くとしようぜ。最初はどこに行きたいんだ?」

「そ、そうね!行きましょう。こっちよ」

 

桐絵と俺は三門市の中でも大きい方のショッピングモールに向かうことにした。

 

「まずは服を買おうと思うんだけど、一緒に見てもらってもいいかしら?」

「構わないけど、あんま期待すんなよ。冬華曰く俺はファッションセンスがないらしい」

「いいのよ。ていうか夏樹だからいいんじゃない

「ん?なんか言ったか?」

「何でもないわよ!それより此処に入りましょ」

「おーう」

 

俺達は女子高生層に人気そうな洋服店に入って、服を見始めた。

 

「で、何をお求めなんだい?」

「そうね~、いくつか冬服を見繕おうと思ってるわ」

「そうか。なんかあったら言ってくれ。と言っても期待はするなよ。俺はセンスにないらしいからな」

「ええ、とりあえず見て回りましょ」 

「了解」

 

いろんなお店を見て回り、いくつかの服を買って最初に来ていたお店に戻ってきた。

 

「どうした桐絵?ここはさっき来ただろ」

「良いなと思った服があったのよ。他のお店を見て回ったけどがやっぱりその服がよかったから買おうと思って」

「そうなのか」

「ただ色で迷ってるのよね。そうだ!夏樹、あたしが試着するからあんたが選んでよ」

「かまわないけど、俺なんかでいいのか?」

「あんただからいいのよ」

「そ、そうか?(俺だからってどうゆう…)」

「と、とにかく!試着するからほらこっち、試着室に行くわよ」

「分かったから。あんま引っ張んなって。って此処…(なんで試着室が下着コーナーの近くなんだよ!)」

「そこで待ってて、今着替えてくるから」

「おう、分かった」

 

気まずい…

客観的に見たら俺下着コーナーの前に立ち止まってる変態じゃないかよぉ。

周りから視線を感じる。

気まずい…気まずすぎる

 

「お客様、どうかなさいましたか?」

 

やっぱり声かけられた。

いやまぁ当然だよな…

 

「いや、今連れが試着中でして…」

「まぁ!カノジョさんですか?」

 

どうしよう…

なんて答えるべきか

ただの友達だと怪しい気がするし、知り合いでもないしな。

カノジョって言おうもんなら桐絵怒んだろうなぁ。

仕方ない適当にはぐらかしておくか

 

「まぁそんな感じです。カノジョではないですけどね。それに彼女に自分なんかじゃ釣り合い取れてないと思いますよ」

「そうですか。失礼しました。でもファイトです!あなたも十分素敵ですよ」

「そうですか。ありがとうございます」

 

参った、多分店員さんは告白前くらいに思ってしまったのだろう。

応援されてしまった。

そろそろ桐絵も着替え終わるだろ。

 

「お待たせ。どうかしら?」

「おう、どれどれ…」

 

出てきた桐絵は白のニットワンピースを着ていた。

何だろうこの胸のときめき…

桐絵ってこんなに綺麗な奴だったのか

その白のニットワンピースはすらりと引き締まっていながらも出るところは出ている桐絵の体つきを浮かび上がらせていた。

そしてその肩から覗く鎖骨にドキッとしてしまう。

 

「な、何よなんとか言いなさいよ。どう似合ってる?」

「あ、ああ似合ってるぞ。なんというかいつも見ないからか白ってのは新鮮だな。うまく言えないがそのぉなんか良いな」

「そ、そう…それならよかったわ」

「ええ、よくお似合いですよお客様(何よ!この二人見せつけてくれちゃって!カレシにフラれた私への当てつけなの!?)」

「そうですか。ありがとうございます」

「桐絵、で白と他に迷ってる色も着てみろよ」

「いいわ。これにする」

「えっ、いいのか?別に着てみたってかまわないぞ」

「いいのよこれで。もう片方はよく着る赤系の色だったから。そ、それにあんたがこっちが似合うって言うし。すいません店員さんこれ買いでお願いします」

「かしこまりました」

「夏樹外で待ってていいわよ、今着替えてお金払ってくるから」

「おう、分かった。じゃあ外で待ってるよ」

 

外で待っていると桐絵が戻ってきた。

ダメだ、さっきの試着を見てしまった後から、桐絵のことを意識してしまう。

意識しない様にすればするほど、さっきの姿を思い出してしまう。

 

「お待たせ」

「おう、荷物持つよ。次どこに行くんだ?」

「あ、ありがと。ねぇそろそろお腹空かない?お昼食べに行きましょ」

「そうだな。どこで食べる?」

「そうねぇ、フードコートで何か食べましょ」

「そうだな」

 

フードコートで昼飯を済ませて、買い物を再開した。

 

「次はどこに行くんだ?」

「こっちよ」

「こっちって、桐絵そっちは男物の服屋しかなくないか?」

「いいのよ。せっかくだから夏樹の服も選んだあげるわ」

「おぉそうか、なら頼むわ。俺はセンスないらしいからな」

「任せなさい!さっ、行きましょう」

 

桐絵に引っ張られて何軒か男物の服を扱うお店を回って、今は男女の若い層に人気のお店に来ていた。

俺は着せ替え人形の如く試着を繰り返した。いつも選ぶ時は試着なんてしてないからだろうか、なんか疲れてきた…

桐絵はまだ納得いくものがないみたいだが、俺は割ともう今まで着たやつも良いと思っている。

まぁ、今日は賭けに負けたのだから大人しく着せ替え人形に徹することにしよう。

 

「ねぇ、これなんてどうかしら?」

「ん?あぁ、良いんじゃないか」

「他人事みたいに言うわね」

「いや、まぁそんなに服装に気を使ってこなかったから、良いか悪いかくらいしかわからん」

「そうなのね」

「まぁけど、これ結構良いな。気に入ったよ」

「そう?なら良かったわ」

「ああ、ありがとな桐絵、これ買わせてもらうよ。先に店を出て待っていてくれ」

「分かったわ」

 

俺は会計を済ませてお店を出る。

 

「おまたせー」

「遅かったじゃない。なんかあったの?」

「ちょっとね」

「?まぁいいわ。次はゲームセンターに行きましょ」

「おーう了解」

 

というわけで桐絵とショピングモールの最上階にあるゲームセンターに来ていた。

四方八方から電子音がうるさいくらいに聞こえてくる。

 

「何するんだ?」

「夏樹、これどんなゲーム?面白いならやってみたいんだけど」

「ん?これか?これはゾンビを倒してくシューティングゲームだよ」

 

桐絵が指したのはボックス型の筐体に入って遊ぶガンシューティングゲームだった。

確かこのゲームは振動やエアーが出たりでホラー寄りだった気がするが、まぁいいか。

それも面白そうだし。

 

「結構面白いらしいよ」

「へー、じゃあやってみましょう」

 

早速筐体に入ってコインを入れる。

簡単にストーリが説明され、操作方法が表示される。

さぁプレイ開始だ!

 

「夏樹、あんた騙したわね!まったく面白くないじゃない!」

「それは序盤で桐絵がゾンビにビビッてやられたからだろ」

「う、うるさい!ビビッてなんてないわよ。少しびっくりしただけよ」

「またまた~、焦って弾切れなのにリロードせずに撃とうとしてたくせに」

「そんなことないわよ!まぁいいわ、他に行きましょ」

「はいはい。次は何したいんだ?」

「そうね少し見て回ってから決めましょう」

「了解」

 

その後、桐絵と2人でエアーホッケーや配管工兄弟達のレースゲームなんかで対戦したりした。

 

「普段あまりこういうとこには来ないけど案外楽しいわね」

「そうだな。どうする?もう遅くなるし帰るか?」

「そうね。でもこのまま負けっぱなしで終わるのも癪ね。何か…あれがいいんじゃないかしら。そうねアレを最後にしましょう」

「あれってあのダンスゲームか?」

「そうよ。夏樹って音楽苦手じゃない。だからあれなら勝てるわ!」

「いいけど。あんま無理すんなよ」

「大丈夫よ。あんたこそ負けた時に本気じゃなかったなんて言うんじゃないわよ!」

 

そんなわけで俺達はダンスゲームをすることになった。

俺は音感が全くと言っていいほどない。

リズムに乗ることが出来ず、どうも機械みたいに固い動きらしい。

学校の体育でもダンスの授業があったが、全くできなかった…

 

「曲はどうすんだ?」

「そうね…それでいいんじゃない」

「うげぇ…テンポ早いやつじゃん。まぁいいか。じゃあ先行行っていいか?」

「いいわよ。せいぜい頑張んなさい」

 

そんなわけで、ゲームの台の上に立ってスタートボタンを押す。

 

 

ゲーム画面に曲が終わって俺のスコアが表示されている。

ゲームに設定されているノルマをぎりぎりクリアしているくらいのスコアだった。

 

「あんたにしては頑張ってんじゃない。でも勝ちはあたしが貰ったわ!」

「おう、頑張れよ」

 

そう言うと桐絵はゲームの台に登って曲をスタートさせて踊り始めた。

確かにうまいな。

しかし、たまに見えるうなじにドキッとしてしまう。

だめだ、何故か今日は桐絵のことを変に意識してしまっている。

普段よく一緒に居るのに気が付かなかったが、桐絵ってこんなに可愛い奴だったか?

ふと踊っている桐絵を見る…って危ない!あいつが体勢を崩して転びそうになっている。

俺はとっさに桐絵に駆け寄って転びそうなところをギリギリで支える。

 

「大丈夫か!?」

「う、うん…」

「そうか、それならよかった」

「…あ、ありがと」

「いや、かまわないよ。それより立てるか?」

「うん、痛ぅっ!」

「って大丈夫か?ちょっと診せてみろ」

 

桐絵の足を靴を脱がせて足を診る。

足首の部分が少し腫れていた。

どうやら体勢を崩したに足首を捻ったようだ。

 

「どうだ?痛むか?」

「ええ少しだけだけど」

「そうか、じゃあほれ」

 

おれは桐絵に背を向けてしゃがむ。

 

「ちょっそこまでしなくても大丈夫よ」

「そう言うな、あんま無理しない方がいい」

「そ、そう、ならお願いするわ」

「ああ。よいしょっと」

「大丈夫?その…お、重くない?」

「ああ、大丈夫だよ。むしろ軽いくらいだから」

 

桐絵を背負ってゲームセンターを後にする。

背中に服越しに冬華と同じ柔らかい感触が伝わる。

あぁ桐絵もA級3位だけど普通の女の子だもんな…

なんとなく気まずい空気が流れて、会話のないまま桐絵の家に歩いていく。

しばらく歩いて桐絵の家に着く、どうやら家族は全員居ないみたいだ。

桐絵んちの応急道具を借りて、桐絵の足の手当てをする。

 

「これでよしっと」

「…あ、ありがと。あとごめん怪我なんてしちゃって」

「なんで謝んだよ。気にすんなって、軽めの怪我そうだし良かったじゃないか」

「そうだけど…迷惑かけちゃったし、今日だって…その…迷惑だったよね?」

「迷惑だなんて思ってないから安心しろ。俺も楽しかったよ」

「ホント!?」

「おう、後ありがとな俺の服まで選んでくれて」

「そんなぁあたしが勝手に選んだだけじゃない、お礼なんて…」

「そんなことないよ。いい機会だったよ。その…これやるよ」

 

そう言って俺は買い物袋の中からおしゃれにラッピングされたものを桐絵に渡した。

これは俺の服を会計に持っていく前にそのお店にあったものだ。

 

「あ、ありがと。開けていい?」

「お、おう」

「ブレスレットね!うれしい!でもなんで?」

「今日のお礼だよ。き、今日は俺も楽しかったから…それのお礼だよ」

 

耳の裏まで熱くなるのを感じる。

 

「ありがと!大事に使うわね」

「お、おう。じゃあ俺は帰るわ。一応軽そうだけど病院行っとけよ。お、女の子なんだから怪我はまずいだろ」

「そうね。ありがと…」

「じゃ、じゃあな。また今度」

 

そう言うと俺は桐絵の家を飛び出た。

顔が熱い。

きっと顔中赤くなっているのだろう。

しかし、我ながら恥ずかしいことをした。

冬華に指導されたようにやったが、これで良かったのだろうか?

それにしても今日は何と言えばいいか、桐絵を凄い意識していた気がする…

まぁいいや、俺も家に帰ることにするか。

 

~ Side 小南 桐絵 ~

 

夏樹が帰って行った。

 

最初、待ち合わせで夏樹を見てからなんか変に意識しちゃった。

あいつに気づかれてないかしら…

けど夏樹もたまに顔を赤くしてたけど、あたしのこと意識してくれたのかな?意識してくれてたら良いなぁ。

 

それにしてもあいつの背中、がっしりしていて大きかったなぁ。

あとなんか落ち着く匂いだったな…ってあたしは変態かっ!

でも背負われていてなんか安心できた。

 

あたしは夏樹が最後に渡してくれたブレスレットを見る。

単純な飾りだけだが、そこも夏樹らしさが出ている気がする。

まさかプレゼントなんてされるとは思ってもいなかった。

冬華ちゃんの入れ知恵だろう。

でも凄くうれしい、喜びが溢れてきそうなくらいだ。

大事に使おう。

あいつの前で付けたら何か言ってくれるかなぁ…

 




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誤字報告ありがとうございます


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第9話

「おせーぞ夏樹!」

「悪い、待たせちまったか?」

「いや時間通りだ」

「ならよかった。もうみんな揃ったのか?」

「ああ、夏樹で最後だ」

「そうか、なら行こうぜ」

 

十二月に入って寒くなり始めた頃、学生にとっては冬休み前最後の試練たる期末試験が迫ってくるの時期

俺は前日の深夜に一緒に防衛任務をしていたカゲ、ゾエ、鋼、哲次と図書館に勉強しに来ていた。

 

「しっかし当真のやつが羨ましいぜ。遠征で試験受けなくて済むんだろ」

「うーんどうだろうね。トーマくんも国近ちゃんもそれで喜んでいたけど、多分追試験になるんじゃないかな」

「だろうな。あいつら大丈夫なのか?このままじゃ太刀川さんでさえ行けた大学に行く前に、もう一年高校生する羽目になるぞ」

「夏樹、それはさすがに大丈夫じゃないか。ボーダー推薦もあるし」

「鋼、でもあれって単位を最低限とれていないとだめじゃなかったか?俺の方の六頴館は確かそうだったぞ」

「荒船くんの言う通りだよ。ゾエさん心配だよー」

「だいじょーぶだろ。あいつらもそこまでバカじゃねーだろ」

「そう言うカゲは大丈夫なのかよ。お前もあんま頭いい方じゃねーだろ」

「うるせー!俺もそこまでバカじゃねーよ」

「そういえば夏樹お前大学ボーダー推薦使わないらしいな」

「ああ、俺は給費生の試験で私立か国立のどっちかに入ろうと思ってるよ。みんなはどうするんだ?」

「ゾエさんとカゲはボーダー推薦だよ。鋼くんや荒船くんもそうだよね」

「ああ、俺も荒船もそうだよ」

「まぁそれが楽だしな」

「おっあそこが空いてるじゃん」

「そうだな。そこにしよう」

 

俺らはちょうど空いていた窓際の席で勉強を始めた。

 

「夏樹んとこすげぇ先に進んでんな。さすがだな」

「鋼くん、ここどうやるの?」

「あぁそこはこの公式を当てはめるんだ。そしたら解けるはずだ」

「なるほど、ありがと鋼くん。ってカゲ寝るなよ」

「んあ?あぁわりぃ寝てた」

「寝るなよ。カゲお前大丈夫なのか?テスト近いんだぞ」

「大丈夫だよそれくらい。なんてことはねぇ」

「大丈夫かなぁ。ゾエさん心配だよ~」

「それより、鋼この古文の課題持ってるか?持ってるなら移させてくれ」

「カゲ、たまには自分でやれよ」

「んだよ。いいじゃねーかよ」

 

たまに迷惑にならない程度の小声でしゃべりながら各々の課題や分からない所を教えあって解いていく。

しばらくして俺らは一度図書館を出て昼飯を食べに行くことにした。

幸いこの図書館は市役所の隣にあり、近くには商店街が広がっている。

 

「何食いに行く?」

「俺は何でも構わないぜ」

「ゾエさんも何でもいいけど、しいて言えば量のあるものがいいな」

「あそこの定食屋なんてどうだ?」

「定食屋ってケーキ屋が近くにある所か?」

「そうだ。前田食堂って所なんだけど、夏樹知ってるのか?」

「ああ、前に冬華と行ったことがあるよ。安くてうまっかったよ。俺も前田食堂に賛成」

「そうだな。あそこ結構量がある所だったしな」

「荒船くんも行ったことあるの?」

「ああ、前に穂刈と映画を見た帰りに行ってみたんだ。夏樹の言うように安くてうまい。それに大盛にもできなかったっけか」

「学生は大盛無料だったはずだ」

「いいねそこ。そこにしようよ。カゲもそこでいい?」

「ああ、構わねーぜ」

「そうと決まれば行くとするか」

 

俺らは前田食堂に行って、俺は唐揚げ定食、鋼はカツ丼定食、哲次は生姜焼き定食、カゲは焼肉定食、ゾエはカツカレー大盛とミニうどんをそれぞれ頼んで席に着いた。

 

「なぁ本部から連絡が来てたんだけど、お前らのとこにも行ってるか?」

「え?連絡?ちょっと待ってくれ、今確認する」

 

ボーダーから支給されてる携帯端末を開くと緊急連絡が来ていた。

カゲの端末にも連絡が来ているみたいだ。

 

ボーダー本部からA級隊員及びB級各隊の隊長各位へ

本日10時過ぎ頃、梅見屋橋2丁目付近にてゲートが発生。

トリオン兵が複数体侵攻、幸い付近にいた正隊員により対処され、被害は少なかった。

しかし誘導装置の効かないゲートが確認された。

現在、開発室のエンジニアが総力を挙げて、原因を究明中。

各隊員は念のため警戒されたし

 

どうやら誘導装置の効かないゲートが発生したらしい。

俺と哲次、カゲに来てることから、箝口令が敷かれているらしい。

まぁここにいる面子なら教えても大丈夫だろう。

俺はゾエと鋼にも端末の連絡を見せた。

 

「おいおい、大変じゃないか」

「しかし、どうしてだ?誘導装置があったはずだろ」

「知らねぇよ。エンジニアが調べてんだろ」

「おい、ニュース見てみろよ。ちょうど報道されてるぞ」

 

鋼の言う通り、食堂にあるテレビを見ると、三門市のローカルニュースがやっていた。

そこにはボーダーから同じような内容が放送され、市民に対するインタビューでは割と批判的なコメントをされていた。

 

「キビシー」

「まぁ仕方ないだろ。ボーダー本部で誘導装置が完成して以降、大規模な侵攻で警戒区域から何体か出てきちまうことはあっても、突然町中にゲートが開くことなんてなかったんだからな」

「だな。しかしなんでだ?誘導装置の故障か?」

「それはないだろ。流石にメンテナンスをしてるだろうからな。夏樹どう思うよ?お前結構な古参だろ。あっち側に行ったこともあるだろ」

「どうだろうな。あんま分からないけど、あり得るとしたらネイバーの新技術とかだろ。それかトリガーとか」

「へ~トリガーってそんなこともできんのか」

「生姜焼き定食の方ー」

「あ、俺だわ」

 

その後、各々の昼食を食べて店を出る。

 

「うまかったな~」

「うん、量も多くてゾエさん満足だよ」

「ふぁー、飯食ったら眠くなってきた。おい夏樹この後も勉強すんのかよ?もう終わりでよくねぇか」

「カゲが一番勉強しないとまずいだろ」

「うるせー鋼。お前とはそんな差ないだろ!」

「まぁそう言うなよカゲ。もうちょい勉強したら遊ぼうぜ」

 

俺らはそんなことを話しながら図書館に戻ろうとしていた。

図書館に着いて中に入ろうとしたその時

 

『緊急警報、緊急警報 門が市街地に発生します』

『市民の皆様は直ちに避難してください。繰り返します。市民の皆様は直ちに避難してください』

 

「ってマジかよ!」

「さっき話した誘導できないゲートってやつか」

「ケッ!丁度いいじゃねーか。いい眠気覚ましだ」

「ゾエお前は市役所のシェルターに行け。そこで避難してきた市民の保護と周囲の安全の確保を」

「はいよ~ゾエさん了解」

「俺達はどうする?」

「鋼はさっきの前田食堂の方に行ってネイバーを倒してくれ。哲次は反対側を頼む。でも二人は市民を救助してシェルターまでの誘導を優先してくれ」

「わかった。夏樹はどうするんだ?」

「俺は図書館や市役所の向こう側に行く。カゲお前はとりあえずネイバーを倒しまくってくれ」

「おう、任せとけ」

「「「「「トリガー起動!!」」」」」

 

俺達はそれぞれのところに向かい、ネイバーを倒して市民をシェルターに誘導する。

しかし何故、警戒区域の外にゲートが開いたんだ。

 

「た、助けてくれー!」

「今行く!」

 

そこに行くとビルが崩れていて道が通れなくなっていて、モールモッドが迫っていた。

 

「ヤバい!バイパー!」

 

バイパーでモールモッドの弱点を正確に打ち抜いて動きを止めさせる。

市民の人たちを保護したがかなりの人数がいて、一人じゃ厳しいか

 

『カゲ今こっちに来れないか?かなりの数の市民がいて、手助けが欲しい』

『わかった。今そっちに行く』

『夏樹、こっちはあらかた片付いた。そっちは大丈夫か?』

『こっちもだ。どうする夏樹?俺か荒船がそっちに向かおうか?』

『頼む。鋼はゾエに合流してくれ。哲次は狙撃で援護できるか?』

『『了解』』

 

その後、五人で市民の避難とネイバーの討伐を終えた。

しばらくしてレスキュー隊と救急車が来て、レスキュー隊の人たちと一緒に家屋に閉じ込められた人の救助活動を行って、落ち着くころにはもう日が暮れそうになっていた。

俺達は本部に向かい報告書を書いて提出した。

 

「五人ともご苦労だった。君達のおかげで幸い死者は出ずに済んだ。もし君達がいなかったら大変なことになっていたよ。今日はもう帰っても大丈夫だ」

「分かりました本部長。それでは失礼します」

「あっそうだ。夏樹くんすまないが君は残ってくれ」

「分かりました」

「じゃあな夏樹。お疲れ」

「おう、じゃあな」

 

そう言うと4人は本部長室から出て帰っていった。

 

「で、用件は何ですか?」

「ああ、実は夏樹達が対処してくれたところ以外にも5か所で同じことが起こったんだ。幸いどれも近くに正隊員がいて死傷者は少なく済んだ」

「合わせて6件もですか。原因は何かわかったんですか」

「いや、まだだ。今、鬼怒田さんら開発室が総出で原因究明に取り組んでいる。しかし現在、A級上位3部隊が遠征に行っていて不在なため、不測の事態に対応できる人員が不足している。そこで夏樹には今日の深夜か、明日の昼に待機要員として居てもらえないだろうか?もちろん特別手当もだそう」

「分かりました。じゃあ明日の昼は妹の冬華の学校で面談があるので、今日のこの後の深夜でお願いします」

「分かった。ありがとうよろしく頼む。あと鬼怒田さんが力を借りたいと言っていたので、待機中の間は開発室に行ってくれ」

「了解です。それじゃあ失礼します」

 

本部長室から出た俺はラウンジに行って、冬華に連絡を取ることにした。

 

佐藤 夏樹【冬華、すまないボーダーの方で急用が出来てしまったので今日は帰れない。明日の面談は大丈夫だから安心してくれ。今晩は西宮姉弟の家に泊めてもらってくれ。話は通しておくから。それじゃすまないがよろしく頼む】

 

佐藤 冬華【了解です。兄さんも気を付けてくださいね。あと優佳さんには私が伝えておくので大丈夫です。それじゃあ頑張ってください】

 

よし、これで冬華とも連絡を取ることが出来た。夕飯を食べて開発室に向かうとするか

食堂に来て、食券を買おうとしていると後ろから声がかかった。

 

「夏樹先輩じゃん。お疲れーっす」

「お疲れさまです。夏樹先輩」

「おお、米屋に奈良坂か。お疲れさん、防衛任務終わりか?」

「はい、ちょうど終わったところです」

「そうか」

「そういえば聞きましたよ。イレギュラーゲートに先輩遭遇したらしいすね」

「え?ああ誘導できないやつのことか。それなら昼頃にカゲ達といた時にな。詳しくは席に着いたら話すよ」

「そうですね」

 

俺達は料理を受け取って空いているテーブル席に座って夕飯を食べ始めた。

 

「で、詳しく教えてくださいよ先輩」

「陽介落ち着け。すいません騒がしくして。でも俺も気になります。何があったんですか?」

「ああ、実はな…」

 

俺は米屋と奈良坂に今日のイレギュラーゲートのごたごたについて教えた。

 

「…って訳なんだ。ってか秀次から聞かなかったのか?秀次や古寺、蓮さんはどうした?」

「三輪は本部長のところに、章平たちは本部長のところに行ってる三輪の代わりに報告書を作ってます」

「秀次が忍田さんのところにか?何かあったのか?」

「いや、それがっすよ。防衛任務中にバムスターが警戒区域から出そうになったんですよ。それで俺と秀次が現場に急行したら、バムスターはボロボロになってて、誰がそれをやったのか分からないんですよ。だから本部長に報告が来てないか聞きに行ってるんですよ。先輩なんか知りません?」

「そうなのか。バムスターをボロボロってどんなだ?」

「木っ端みじんでした。俺たちの隊が一番早くバムスターの元に着いたんですが、そこにいたのは不良の学生だけで、事情を聴いてもはっきりとしない感じでした」

「これってイレギュラーゲートとなんか関係あるんじゃないですか?」

「なるほど、わかった。この後鬼怒田さんの所に行くから、その時にちょっと聞いてみるよ」

「お願いします」

「先輩この後ランク戦しましょうよ。深夜まで時間ありますし」

「陽介、お前は少しは勉強しろ。もうすぐテストだぞ」

「ダイジョブダイジョブ」

「はぁー」

「大変だな奈良坂も。まぁなんかあったら助けるよ」

「ありがとうございます。その時はお願いします」

「おう、じゃあ俺はこれで行くわ。お疲れー」

「「お疲れ様です」」

 

米屋たちと別れた俺は開発室に向かった。

 

「失礼しまーす」

 

開発室に入るとそこには戦場が広がっていた。

 

「おい!さっき回したデータの解析どうなってる!?」

「それならまだですよ!まだ現場から回収したトリオン兵のデータ分析が終わってないですよ!」

「そんなもんは後だと言っただろ!さっき回したデータを先に解析しないか!」

「寺島さん、お疲れ様です。大変そうですね。手伝いましょうか?」

「夏樹君か。待ってたよ。鬼怒田さん!夏樹君が来ましたよ!」

「そうかわかった。おい佐藤!こっちに来てくれ」

「分かりました」

「すまんな、騒がしくて。見ての通り今日のイレギュラーゲート以降このざまだ」

「なるほど、で自分を呼んだわけとは何でしょうか?」

「ああ、今日のイレギュラーゲート発生は計6件。そのデータを見て何か気づくことはないか?お前のとこのエンジニアにも頼んではいるんだが、あいつは県外に遠征中だ」

「あぁクローニンのことですね」

「そうだ。そこで、佐藤お前ならクローニンほどではないが知識もあるだろう。だから解析の手伝いをしてくれ。こっちだ」

「分かりました」

「この後、ここで会議がある。それまでに資料に目を通しておいておけ」

「了解です」

 

渡された資料に目を通す。

しばらくすると、鬼怒田さんと寺島さんを始めとするチーフエンジニアが来て会議が始まった。

 

「まず原因は何だ?誘導装置は?」

「誘導装置はイレギュラーゲート発生時も通常に作動していました。現在も以上なく動いています」

「だったら何故ゲートが誘導されない!」

「それはまだ分かりません。ネイバー側の我々の知らない技術としか…」

「なんとかして対策を練らないと…」

「トリオン障壁で防ぐのはどうです?」

「でもそれじゃあ一時的なものだろう」

「でもそれぐらいしか…」

「夏樹君どう思う?」

「そうですね、どうも不自然に思います」

「不自然?佐藤どうゆうことだ」

「ええ、6件のうちのほとんどのイレギュラーゲートが市街地に発生しているのにそれにしては被害が少ない。確かに死傷者も出ていますが警戒区域外で突然ゲートが開いた割には被害が少なすぎる気がするんですよね」

「少ないってそれは近くにボーダー隊員がいたからだろ」

「そうです。そこなんです。A級B級の正隊員はだいたい130人くらい、三門市はそれなりに広いし人口もいる。そんな中で全部のイレギュラーゲートの近くにはボーダー隊員がいたってあまりに偶然が過ぎると思いませんか?」

「確かに妙だな。しかしそこに何の関係性が…」

「なるほどそうか!周りからトリオンを集めてゲートを開くような仕組みのナニカがあれば、イレギュラーゲートの説明がつく。でかしたぞ佐藤!」

「鬼怒田さんでもその何かを見つけない限りはどうしようもありませんよ」

「そうだな~どうしたものか…しかしそんなもの一体いつこっち側に送り込んだというんだ」

「あの~」

「なんだ雷蔵?何かわかったか」

「多分トリオン兵に忍び込ませていたのではないでしょうか。隊員に倒された後、こっそりトリオン兵から放出されているのでは?」

「なるほど分かった。じゃあ…」

 

これ以上は会議で結論は出ず、明日の幹部による会議でここまで話し合ったことを報告する事になった。

結局、忍田さんに頼まれた待機要員の仕事は何度かゲートが開いたらしいが問題なく対処され、俺の出番はなかったらしい。

朝になって、任務が終わって家に帰った俺はシャワーを浴びて、少し仮眠をとることにした。




感想、アドバイス等お待ちしています。
誤字報告ありがとうございます。


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第10話

大変お待たせしました。
気付いたら年号代わってた。
そしてついに原作に突入です。


目を覚ますと、8時すぎになっていた。

今日は冬華の面談がある。

いつもは冬華1人に任せていたが、今回は受験を控えているので保護者同伴する必要があった。

だがいつも保護者になってもらっている優佳たちの両親が今海外に行っていて、いないので俺が出ることになった。

面談は放課後直ぐにあるのでそれまでどうしようか…

取りあえずシャワーでも浴びるか。

 

「ふぁぁー、ねみぃ」

 

少し熱いくらいのお湯を頭から浴びる。

体の芯から暖かくなっていくのが分かる。

どうやら寝ている間に少し身体が冷えてしまったようだ。

徐々に体を覆っていたまどろみが晴れていき、頭が澄み渡り、頭の中の歯車が動き始める感じがする。

昨日のことを思い出す。

 

結局、昨日の時点では原因は分からなかった。

上層部は次にイレギュラーゲートが発生したら、本部に貯蔵されているトリオンでトリオン障壁を展開して、ゲートを強制封鎖することを決めた。

しかし鬼怒田さんが言うには強制封鎖も出来て2日間だけらしい。

開発室が引き続きフル回転で原因を調べているようだ。

今は通常時の任務に就く5部隊に加えて、各支部にもう1部隊ずつ待機する部隊を配備して、イレギュラーゲート発生時に現場に急行出来るようにすることになった。

そんな訳でA級とB級の部隊総出で防衛任務にあたることになった。

因みに流石に深夜に中学生を防衛任務に就かせるわけにいかず、中学生のいる部隊を優先的に午前と午後のシフトに割り当てている。

俺は一応1人で1部隊扱いだが、B級の中で腕に少し不安の残る隊員達と混成部隊を組んで深夜のシフトに組み込まれている。

 

シャワーを終えて、テレビでバラエティーじみたニュース番組を見ながらコーヒーを淹れる。普通のニュースを見たい…

コーヒーにミルクと砂糖を沢山入れて甘くする。

これで俺のスペシャルコーヒーの完成だ。

いつもは冬華に止められてしまうが今はその冬華がいない。鬼の居ぬ間に洗濯ならぬ冬華の居ぬ間に糖分補給というわけだ。

出来たそれを一口飲むと、コーヒーの苦みを消し去るかのような甘みが口いっぱいに広がって全身が幸福感に満たされる。

いつも思うがコーヒーをブラックで飲むやつはどうかしてる。。

苦みより甘みの方が絶ッ対うまい。

苦みをうまく感じるのは舌の細胞が死んでるのだと俺は思う。

久しぶりのスペシャルコーヒーを飲み終えて、俺はノートパソコンを起動する。

完成間近になったスモークのオペレーター用の支援プログラムの最終調整をする。

 

調整がひと段落する頃には、11時半になっていた。

腹の虫がしきりに鳴きだした。

そういえば朝から何も食っていなかったな。

何か作るのも面倒だし、外に食べに行こう。

そのあとどこかで面談まで時間をつぶすことにしよう。

そう決めた俺は着替えて比較的学校の近くにある繁華街に向かった。

 

ファミレスで昼飯を食べて、本屋とかをブラブラ歩いていたら、突然ポケットの中のケータイが鳴った。

ボーダーからのようだ。

通信に出ると、沢村さんの声が聞こえる。

 

『佐藤君、今どこにいるの!?大変よ!三門市立第三中学でイレギュラーデートが発生したわ。今すぐ向かえる?タイミングの悪いことにそこに通っている隊員はみんな今学校にはいないみたいで、あなたが一番近くにいるみたいなの』

「っ!分かりました了解です。今すぐ向かいます」

『お願いね。警戒区域からも嵐山隊が向かうわ』

 

急がないと冬華が!冬華が危ない!

もう家族を失うのは…何もできないで家族を亡くすのはこりごりだ!

 

トリガーを起動して走り出す。

町の各所から警報が聞こえてきて、その警報が自分を焦らせる。

ダメだ!このまま行ったら間に合わない!

そう思ってグラスホッパーとテレポーターを併用してスピードを上げ、その速さにサイドエフェクトで強引に目を追いつかせる。

通信で本部のオペレーターから状況を聞く。

ゲートから来たのはモールモッド三体らしい。

学校に着くと、校舎の南館の壁に

モールモッドが張り付き中に入ろうとするのをC級の服を着て眼鏡をかけたやつが防いでいた。

そしてその眼鏡くんの後ろの階段にに複数の生徒がいて、上に登ろうとしていた。

だがC級にはやはり厳しいのだろう。少しずつ押され始めている。

それをサイドエフェクトで強化した脳で一瞬で把握した俺は、壁に張り付いて中に入ろうとしているモールモッドに向かってグラスホッパーとスラスターを使って勢いをつけてレイガストで壁から中庭に叩き落とす。

モールモッドを追って落ちる時、階段を上って一体のモールモッドが、さらには廊下の奥からもう一体のモールモッドが眼鏡くんのところに迫っているのが横目で見えた。

 

「おい眼鏡くん!後ろからくるぞ!」

 

まだ逃げ遅れた生徒もいた。

警告は一応できたと思うが、急がないとな。

あの腕じゃモールモッド2体相手は厳しいだろう。

そう思って下に落としたモールモッドを追って地面に着地しようと、そこにモールモッドが攻撃してくる。

それを空中で身体を捻って躱す。

そして衝撃を緩和するようにしゃがんで着地する。

そこに横から振るわれるモールモッドの爪を1歩下がって躱す。

そしてスコーピオンを起動して、レイガストでまた振るわれてきた爪を逸らして、スコーピオンでモールモッドを弱点の目から尻尾にかけて真っ二つにする。

モールモッドを倒した俺は急いで眼鏡くんのいた階へ飛び込む。

その時窓ガラスを割ったが気にしても仕方ない。

だが飛び込んだその階には眼鏡くんはおろかモールモッド2体も居なくなっていた。

壁についた傷を見ると、どうやら上の階に上ったようだ。

急いで後を追って踊り場の壁を使って三角飛びのようにして上の階へ上る。

上るとそこには一体のモールモッドが縦にかなり深く斬られて動きを止めていた。

急いでその奥に行くと教室と廊下の間の壁が崩れて、教室が廊下から丸見えになっていた。

その教室の中は椅子や机が散乱していて、プリントやら教科書やらの紙が散らばっていた。さらには壁や天井に戦った後であろう傷が無数についていた。

そしてその荒れ果てた教室の真ん中には、何本かの爪の付いたアームが切り落とされ、弱点の目をバッサリと斬られたモールモッドがこちらに尻を向けて動かなくなっている。

 

その荒れ果てた教室とモールモッドの残骸に驚いていると、そのモールモッドの残骸の奥から、中学生にしては小さめの白髪の子を抱えながら眼鏡くんが出てきた。

眼鏡くんは中学の制服に戻っている。

 

「いや~危なかったな。オサム」

「あ、あぁそうだな…」

「遅れてすまない、A級の佐藤だ。怪我はないか?」

「うん、だいじょぶだよ」

「そうか、君は大丈夫か?」

「はい、助けてもらってありがとうございます。C級の三雲です。ほかの隊員を待っていたら間に合わないと思ったので自分の判断でやりました」

「いや、それは構わないよ。遅れてきた俺が責めることはできんよ。それに君がいなかったら犠牲者が出ていたかもしれなかった。俺の妹もこの学校に通ってるんだ。本当にありがとう」

 

三雲君たちと下に降りると、ちょうど嵐山隊が現着した。

嵐山さんたちが先生たちに負傷者の確認をした後、こちらに来た。

 

「夏樹!すまない遅れた。だが、大丈夫だったようだな」

「いえ、俺も少し遅れてしまったんです。でもそれまでこの三雲君が持ちこたえてくれていたんで助かりましたよ」

 

嵐山さんに状況を説明して、三雲君と嵐山さんが話始めた。

その間に、時枝と一緒に校舎の中に現場調査に向かった。

 

「でもよかったですね。死傷者が出なくて」

「そうだな。冬華に何もなくてほっとしてるよ」

「彼どうなるでしょうね?やっぱり厳罰処分ですかね」

「まぁそうだろうな。一応報告書で厳罰を避けれるように擁護はするけど、厳しいだろうな」

「そうですよね。でも惜しいですね。モールモッド3体相手に学校の生徒を守りながら耐えて、しかもそのうち2体を倒したんですからね」

「そうだな…しかもあの残骸や戦闘の痕を観るにB級以上の実力はあるだろうな」

 

時枝と現場調査を終えて外に出ると木虎と三雲君が助けていた白髪の小さい奴が言い合いをしていた。

どうやら三雲君の処分についてでもめているようだ。

どうやら木虎は隊務規定違反をしたくせにヒーロー扱いされている三雲君に対抗心をメラメラと燃やしているのだろうのだろう。

まぁ木虎は結構な負けず嫌いだからなぁ

 

「さっきの男の人よりも遅れてきたのに何でそんなに偉そうなの?」

「…!?……誰?あなた」

「オサムに助けられた人間だよ。あぁあとさっきの男の人にもだけど」

「さっきの男の人じゃなくて佐藤だよ。佐藤夏樹よろしくな。えぇーっと…」

「おれは空閑遊真、背は低いけど15歳だよ。なぁ日本だと誰かを助けるのにも許可がいるのか?」

「いや、いらないよ」

「そうよ。確かに佐藤先輩の言う通り、誰かを助けるのは個人の自由だけど、トリガーを使うならボーダーの許可が必要よ。当然でしょ。トリガーはボーダーのものなんだから」

「なに言ってんだ?トリガーは元々近界民のものだろ」

「「…!?」」

「あ…あなたボーダーの活動を否定する気!?」

「…ていうか、おまえオサムが褒められるのが気にくわないだけだろ」

「なっ…何を言ってるの!?私はただ組織の規律の話をしてただけで…」

「ふーん、おまえつまんないウソつくね」

「……!?」

 

そろそろ止めるたほうがいいかと思っていたら、回収班を要請した時枝が来た。

 

「はいはい、そこまで。現場調査も終わったし回収班も呼んだから撤収するよ。佐藤先輩も大丈夫ですか?」

 

相変わらず空気を読むのがうまいな。

さすがデキるキノコとっきーだな。

 

「おう、大丈夫だ。それと木虎、お前の言いたいこともわからなくはないが、それを決めるのは俺達じゃなくて上の人だ。まぁ報告書には三雲の処罰が重くならんように書いとくよ。冬華を助けてくれたしな」

「そうだな。夏樹と充の言うとおりだな。一応うちの隊からも報告書には三雲君の処罰が軽くなるようにしておくよ。夏樹と同じく君には妹たちを守ってもらった恩があるからね。とりあえず三雲君は今日中に本部に出頭してくれ」

「分かりました」

「じゃあ失礼するよ。三雲君本当にありがとう…!」

「そんな…こちらこそ…」

「それじゃ俺たちはこれで。夏樹はどうするんだ?」

「俺は冬華に会ってきます。そのあと報告しに本部に行きますよ」

「そうか、じゃお疲れ様」

「お疲れ様です」

 

嵐山さんたちが去っていくと生徒たちの人ごみの中から冬華か出てきた。

 

「兄さん!」

「冬華!良かった無事で!」

「突然ゲートが開いて、あの時みたいな悲劇が起きるんじゃないかって怖かったです…」

 

よく見ると冬華の手足が震えている。

それもそうだよな。

だって冬華は、四年前に母さんがモールモッドに殺されるのを見てしまっているんだから。

あの時の冬華の真っ青な顔は、今も脳裏に焼き付いている。

でも本当に無事でよかった…

 

冬華と別れた俺は嵐山隊の後を追って本部へと向かった。

本部基地内に入って、嵐山隊の隊室にお邪魔する。

 

「お邪魔しまーす」

「佐藤先輩?」

「よっ、綾辻」

「おぉ夏樹か、どうしたんだ?」

「いや、一回報告書書くだけで玉狛に戻るのもめんどくさいんで、ここで一緒に書かせてもらってもいいですか?」

「ああ、それなら構わないぞ。俺たちも今から始めようとしてたんだ」

「今お茶いれて来ますね」

「おう、時枝ありがとう。そうだ、くる途中にコンビニでお菓子を買ってきたから、これみんなで食べてくれ」

「わざわざありがとな」

「ありがとうございます。させていただきます佐藤先輩。早速持ってきますね」

 

そう言ってお茶を入れに行こうとする時枝にコンビニの袋に入ったグミとクッキー、ポテチを渡す。

 

「何買ってきたんですか?」

「グミとポテチと後クッキーだよ」

「そんなに買って来てくれたのか。気を使わせてすまないな」

 

話しながら報告書を書く準備をしていると、時枝がお茶とさっき渡したお菓子をお皿に盛って、持ってきた。

 

「じゃあ始めるか」

 

と嵐山さんの掛け声で作業に取り掛かり始めた。

ある程度作業が進んでひと段落すると、お菓子をつまみつつ、談笑が始まった。

 

「そういえば佐鳥と木虎はどうしたんです?」

「佐鳥先輩は今日は学校の方で外せない用事があるらしく、休みです」

「そうか。どうりで静かだと思ったよ」

「藍ちゃんは、さっきのC級の子に本部基地まで同行するつもりらしくて、そのまま学校の近くに残りました」

「そういえば、佐藤先輩は今日のイレギュラーゲート以外に、昨日もイレギュラーゲートに遭遇したんですよね?」

「ああ、ビックリしたよ」

 

嵐山さん達に昨日のことを詳しく話す。

 

「でもよかったですね。佐藤先輩たちがその場にいて。いなかったらと思うとゾッとしますよ」

「そうだな。まぁ運が良かったよ」

「でもどうするんでしょうか?このままイレギュラーゲートが開き続けるのを許すわけにも行かないですよね?」

「そうだな。時枝の言う通り、今開発室総出で原因を調べているよ。流石にイレギュラーゲートがイレギュラーじゃなくなる事態にはならないと思うよ。鬼怒田さんたちもバカじゃないしね」

「そういえば、沢村さんから聞いたんだが、ゲートを強制封鎖することになったらしい」

「あぁ昨日鬼怒田さんも言ってましたよ。でも基地の貯蓄トリオンは2日しか持たないらしいです。まぁその二日間はイレギュラーゲートは開かないと思いますよ」

 

その後少し雑談をして、書き終わった報告書を忍田さんに渡して、家に帰ってきた。

結局冬華の面談は延期になってしまった。まぁ当たり前だわな。でも午後の授業をしてるあたりはさすが三門市だなぁと思うけど。

家に帰ってダラダラとソファで寝転びながら、テレビで地方局でやってる昔のアニメの再放送を見ていたら、突然臨時ニュースに切り替わった。

テレビの画面の中では、地方局アナウンサーの女性がイレギュラーゲートの発生を報道していた。

どうやら冬華の通う中学校近くの商店街、今日俺が昼飯を食べたファミレスのあるところでイレギュラーゲートが発生したらしい。

侵攻してきたトリオン兵によって、家屋にかなりの被害が出たらしい。

ニュースから流れてくる情報を聞いていると、ボーダーから支給されている携帯端末に連絡が入った。

着信の名前には林藤支部長と表示されていた。

 

「はい、佐藤です」

『夏樹、俺だ』

「ボスですか。もしかして今ニュースでやってるイレギュラーゲート関係ですか?」

『おうニュースで知ってるなら説明は大丈夫だな。でも詳細を後で端末に送っとくから確認しといてくれ』

「了解です」

『それでなんだが、この後城戸さん達上の連中で会議があるからそこに参加してくれないか』

「構いませんけど、なんでですか?」

『イレギュラーゲートの対策について話し合うから夏樹にいてもらえばなんか気づくことがあるかもしれない。それにその話し合いの前に、今日の第三中でのイレギュラーゲートでトリガーを無断使用しちゃったC級の処分を決めるんだが、当事者の夏樹がいた方がいいだろうから、来て欲しいんだ。会議は夜からだから、時間になったら迎えに行くよ。家でいいか?』

「はい、家にお願いします」

『わかった。ついでに冬華ちゃんも友達の家に泊めてもらうんなら送るから。そんじゃ頼むわ』

 

電話を切ると端末にさっきニュースで報道されていたイレギュラーゲートについての現場の状況を纏めたであろう報告書が送られてきていた。

内容を読むと、新型のトリオン兵が上空から町を爆撃していたらしい。

木虎がトリオン兵の上に登って倒そうとしたところ、突然トリオン兵が硬くなり、そのまま町に突っ込もうとしたらしい。

幸いにもトリオン兵は突然進路を変えて川に落ちたので最悪の事態にはならなかった。

さらに現場に三雲君がいて、救助活動をしていたらしい。

その救助活動でまたしてもトリガーを無断使用したらしい。

仕方ないとはいえ、一日に二回も隊務規定違反をしてしまうとは不幸というか、何というか…

それと報告書とは別に、今日の二件のイレギュラーゲートの発生でゲートの強制封鎖が決まったことの通知も送られていた。

優佳に冬華を泊めてもらえるように頼んで、この後の会議でどうやって三雲君を庇うかを考えていると、家のドアが開く音がして、ただいま帰りましたと冬華の声がした。

 

「お帰り、大変だったな。今日は」

「そうですね…四年前を思い出しそうです。大丈夫でしょうか…」

「ああ、安心しろ。冬華と冬華の周りは俺が必ず守ってみせる。もうあの時みたいな思いはさせない。絶対にな。だから、安心しろよ」

 

そう言って、俺は冬華の頭を撫でてやる。今日のことはだいぶ怖かったらしい、手がかすかに震えている。

 

「そうですね。なら安心です。でも兄さんも心配ですから、無茶しないでくださいね」

「おう、気をつけるよ。まっ、無理はするかもしれないけどな」

「もう!どうなっても知りませんよ!」

「ゴメンゴメン、気をつけるよ」

「フフッ冗談です。それより、ご飯急いで作りますね」

「ああ、悪いんだけど俺この後ボーダーの方に行かないといけないんだ。だから今日も西峰姉弟に泊めてもらってくれ」

「あれ?優佳姉さんも防衛任務があるんじゃなかったでしたっけ?」

「それが今日のイレギュラーゲートで本部がゲートを封鎖してくれるからその間だけは通常時に戻ることになったんだ。だから優佳も今日の任務はなしになったんだ」

「そうだったんですね。分かりました。でも兄さんも任務はなくなるんじゃ…」

「俺は通常任務ってのもあるんだけど、この後の会議に出てくれって林藤さんに頼まれちゃってね」

「なるほどそうだったんですね。頑張ってくださいね」

 

冬華とキッチンに行き夕飯の支度をする。

まぁ支度といっても、下準備はやっておいたので時間はそこまでかからずに夕飯ができた。

2人で席に着いて夕飯を食べ始める。

話してるうちに話題は今日のイレギュラーゲートについての話になった。

 

「そういえば冬華は三雲くんのことを知ってたか?」

「ええ、まぁ話に聞く程度で、知り合いではないですが、いじめられてる子を助けたりしてるらしいです」

「へー、いいやつなんだな」

「あの兄さん、三雲くんはどうなってしまうのでしょうか?確かボーダーはC級でトリガーを無断で使ってはいけないんですよね?」

「そうだね。最悪除隊もあり得るだろうね」

 

城戸さんは規則に厳しいからなぁ

それこそ、「ボーダーにルールを守れない奴は必要ない」とか言いそうなんだよな〜

 

「なんとかなりませんか?」

「うーん、この後の会議で話してはみるけど、正直擁護しようにも、上の人を説得するだけの話のネタがないんだよね」

 

会議に呼ばれているとはいっても、出来て三雲くんの功績を報告することぐらいだしなぁ

それじゃあ、ルールうんぬんに対しての反論にはならない。

優秀だろうが規則は規則だと一蹴されてしまうのがオチだろう。

 

「そうなんですか…学校のみんなも私も三雲くんにすごい感謝しているんです。命を助けてもらいましたし」

「わかった。なんとか除隊処分にならないように頑張ってみるよ」

 

そういえば、三雲くんが助けたクガって子はなんだったんだろうか?

あの時、三雲くんに肩を貸されていたのに怪我をしていなかった。

それにあの教室の荒れ様と比べると身なりが綺麗すぎた気がする。

トリオン体になっていた三雲くんの方が制服に土埃が付いていたのにだ。

それこそトリオン体になっていたのが空閑だったという方が納得できる。

 

「なあ、三雲くんが助けたクガって子を知ってるか?」

「あぁ、空閑遊真くんですね。彼は昨日転入してきたんですよ。でも転入早々学校を辞めるって言ったらしいです」

「なんだソイツは、とんでもない奴だな。なんで転入してすぐ学校を辞めようとすんだよ」

「なんでも空閑くんが指輪をしてたみたいで、それを外せと担任に言われたら、親の形見で外せないって言って外さないといけないなら、学校は諦めますと言ったんですって」

「へ〜でも結局指輪は外したんだろ。まだ今日学校にいたってことはさ」

「それが学年主任の先生が認めたらしいんですよ。まぁ認めたと言っても突然体調を崩した先生が席を外して話自体がうやむやになったらしいんですけどね」

 

ブラック校則だとネットに書かれたくなかったのか?でも中学でアクセサリー禁止は普通だと思うけどな。

 

「あっ、そういえばネイバーが来る直前くらいにクラスの子が聞いたらしいんですけど、何でも三門市に来る前は紛争地帯を渡り歩いていて、サッカーも知らずに育ったらしいんです。サッカーを知らないところなんてあるんでしょうか?」

「サッカーを知らない?したくてもできない国はあっても知らないなんてことないと思うけどなぁ。それに紛争地帯って物騒だね。他には何か無いかい?」

「う~ん、あぁそういえば同じクラスの不良をやっつけたとかなんとか」

「不良?」

「はい、昨日同じクラスにいた不良たちに連れられて警戒区域の方に歩いていく姿を見た子がいるんですけど、今日空閑くんには怪我一つなくて、不良の一人は足を怪我してたらしいんですよ」

「そうなんだ。一応わかってると思うけど、警戒区域には近づくなよ。冬華の周りにも注意しとけよ」

 

紛争地帯ってのはどうにも引っかかるな…

それに空閑って名前、どこかで聞いた気がするんだよなぁ…

聞いたとしたら親父かお袋からだけど、ボーダー関係者か?

まぁ後でボスに聞いてみるか…

その後、夕食を片付けている間に冬華には泊まる準備をしてもらう。

しばらくして林藤支部長が迎えに来てくれたので、冬華を西峰姉弟の家に送ってもらった後、ボスと本部に向かう。

 

「報告書は読んだか?」

「ええ、しかし一日に二度も違反されると庇うのは難しいですね」

「さすがのお前でも厳しいか?」

「さすがのって言われても俺はただの高校生ですよ」

「ハハハ、ただの高校生とは言えないだろ。まぁ無理なら仕方ないか…」

「まぁなんとか頑張ってみますよ。三雲君には冬華を守ってくれた恩もありますしね」

「そうか、がんばってくれ。迅のやつも少し遅れるが来るから何とかなんだろ」

「そういえば三雲くんについて気になってることがあるんですよ」

「なんだ?」

「空閑って名前聞いたことあります?三雲くんが助けた子なんですけど、なんか頭に引っかかるんですよ」

「俺の知ってる空閑は空閑有吾さんだ。旧ボーダーの創設メンバーだ。

お前の親父さんとお袋さんとは仲が良かったな」

 

思い出した!確か親父とお袋が話してた。ボーダーの人で、ネイバーフッドに行ったって聞いた。

じゃあまさか彼は…

頭の中で歯車が噛み合う音がして、目の前の霧が晴れて一つの推測が浮かび上がった。

 

「でも有吾さんはだいぶ前にネイバーフッドに行ったから、夏樹は会ったことはないはずだ。その三雲くんの助けた子も名字が同じだけだろう」

「それが、色々とその空閑って子怪しいんですよね。実は…」

 

ボスにその空閑遊真のことと俺の推測を話す。

俺の推測は、空閑遊真は空閑有吾の息子であり、何らかの理由で有吾さんを亡くした為にあっち側からこっち側に来た。

そして昨日の三輪隊が遭遇したバムスター爆散事件の犯人は空閑遊真であり、更にはその攻撃威力から視るにブラックトリガーを持っている可能性が高いということ。

この推測をボスに話す。

 

「まっ、所詮はただの推測なんで話半分に聞いてください」

「いやいや夏樹の推測となればかなり真実味があるだろ。まぁ本人に会ってみないと何とも言えないか…取りあえずこの後三雲君と話してみるか」

「そうですね。けどもしこの推測が当たっていたらどうなりますかね?」

「どうなるって…そりゃ忍田は歓迎するだろうな、ただ城戸さんはどうだろうな…もしほんとにその空閑遊真が黒トリガー使用者だとしたら最悪強奪するかもな」

「やっぱ、そうですよねー」

「まっ、そうなりゃその時は頼りにしてんぞ夏樹」

「ええ、自分にできることであれば頑張りますよ」

「でもその前にイレギュラーゲートを解決しないとな」

「そうですね」

「とはいっても2日後まではゲートは開かねぇだろうから肩の力抜こうぜ」

「はぁー。ボスはいつも力抜きすぎですよ」

 

ボスと俺の乗る車は本部の駐車場に繋がる連絡通路に入っていった。

 




誤字報告ありがとうございます。
だいぶ更新してなかったのに、今回も報告ありがとうございます。


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第11話

本部に着いて、会議室に入る。

そこには奥に長い、所謂口の字の会議机があり、お誕生日席の議長席に城戸司令が座り、その奥に直属部隊の秀次が控え、そして左側には奥から開発室長の鬼怒田さん、メディア対策室長の根付さん、外務・営業部長の唐沢さん達がすでに座っていて、右側の席はまだ誰も座っていない。

そしてボスが右側の一番奥に腰掛け、俺はボスの後ろに控える。

城戸さんの後ろの秀次と目が合い、目礼してきたので軽く返礼する。

 

(お、重い…空気が重い…)

 

空気に耐えられなくなりそうで秀次に話しかけようと思っていると自動ドアの駆動音がかすかに聞こえて、ドアが開く。

忍田さんと三雲君が入ってきた。

忍田さんが三雲君に座るように言って、ボスの一つ飛ばした隣に座る。

三雲君と目が合った。

かなり冷や汗を掻いている。

どうやらかなり緊張しているみたいだ。

まぁこんなとこにC級が来ることもないから仕方ないか。

それにボスみたいに気の抜けた感じで、緊張もクソもないような態度でも困るけど…

全員そろったこともあり、会議が城戸さんの声で始まる。

 

「では、みな揃ったことだ、始めようか」

 

まずは忍田さんが今回のイレギュラーゲートの事の顛末を報告する。

俺と嵐山さんの報告に、商店街での木虎の報告も加えられている。

嵐山さんはともかく、木虎が三雲君のことを認めるような報告をするとは驚きだな。

会議が進むにつれて意見が2つに割れてきた。

忍田さん、ボス、俺の三人は三雲君の処罰に反対派だ。

一方、鬼怒田さんと根付さんは断固として処罰すべきとしていて、城戸さんもおそらくそっちよりだろう。

唐沢さんはどっちでもなく、状況を静観している。

 

「佐藤君、君は現場にいたんだろう。君から見て三雲君の活躍はどう思うかね?」

 

唐沢さんが話を振ってきた。

みんなの視線が俺に集まる。

俺は少し間を開けてからしゃべりだす。

 

「そうですね。自分は忍田さんと同じく処罰には反対ですね」

 

おっと、目の前の化かしあいコンビの目線がきつくなる。

 

「それはなぜかね?君のことだしっかりとした理由があるんだろう」

 

唐沢さんは何故か俺の評価が高い。

そんなに期待されても困るんですけどね…

 

「ええ、一応あります」

「ほ~う、それはどのようなものなのかね?」

「今回の2件の違反の原因はイレギュラーゲートにあります。確かに三雲君が隊務規定を違反したのは事実で、それは処罰の対象ですがそれは我々ボーダー内での事情、外から見れば三雲君はゲートの誘導さえできなくなっている我々ボーダーに代わって自分たちを守ってくれた恩人です。特に一件目の中学校は三雲君がいなければ確実に死者が出たでしょう」

「それが何だというんだね」

「なるほどな…」

 

おっ、唐沢さんは俺が言いたいことが分かったようだな。どうやら城戸さんも理解したみたいだ。

 

「そこに隊務規定違反で彼を除隊にしたなんてことになれば、ボーダーは町を守れなくなっただけじゃなく、自分たちを守ってくれた彼をも辞めさせるのかと、ボーダーのイメージが下がるかもしれません。それに三雲君の通う第三中で三雲君がボーダーを自分たちを助けたせいでクビになったと知れたら悪い噂が立つでしょう。学校ってのは噂が広まりやすいですから、下手すれば他校にも広まってしまう。そうなれば新入隊員減るでしょう。だったら三雲君を認めて、それこそボーダーのイメージアップに利用した方が得だと俺は思います。ただでさえイレギュラーゲートのせいで町の人たちは不満がたまっていますから」

「確かに一理あるが…しかし…」

 

こういう時はデメリットだけじゃなくてメリットを提示する。

根付さんはこれで考え直すかな…

その後は確かに根付さんは考え直しているのか黙っているが、鬼怒田さんと城戸さんはいまだ処罰派から変わっていない。

結局、会議が膠着状態になったので一時休憩になった。

俺は会議室を出て、自販機で飲み物を買おうとすると後ろから

 

「何にするんだい?せっかくだから奢るよ」

「これは唐沢さん、じゃあせっかくなんでありがとうございます。これいいですか?」

「ああ、構わないよ」

 

そういうと唐沢さんは俺が頼んだ乳酸菌たっぷりの牛のおしっこソーダと、コーヒーを買う。

 

「はい、これ」

「いただきます」

「しかしさっきの君の考えはなかなかに的確だね」

「そうすか。ならよかったんですけど」

「まぁ城戸司令と鬼怒田開発室長は納得してないみたいだけどね」

「まぁあの考えは根付さん狙いで考えたものですから他の二人まで説得しようとは思ってませんよ。城戸さんに至っては説得させれる考えが思いつかなかったですよ」

「まぁそうだろうね。城戸司令はルールに厳格な人だからね。それに城戸司令の考えの、規則を守れないやつはいらないって考えも理解できるんだろう」

「そうですね。確かに理解はできます。一度規則を覆すと、後に続いて規則を破るバカも出てきますから」

「なかなか辛辣だね。でもよくわかってるね。まぁ、納得はしてないんだろう」

「ええ。そりゃ城戸さんの考えは理解できます。でも彼は規則を守る事よりも人命を守る事を優先した。そんなヒーローは貴重だと思います」

「ヒーローねぇ…なるほど確かにその通りだ。君の意見は聞いていて楽しいよ。それで本当の理由はなんだい?ヒーローな三雲くんを救いたいってだけじゃないんだろう?」

「あら?わかっちゃいますか。まぁ冬華を助けてくれたからって事じゃダメですか?」

「わかったよ。じゃあそういうことにしておくよ」

「助かります。まだ確証を得られていなかったので」

「そろそろ戻ろうか」

「そうですね。飲み物ありがとうございます」

 

俺と唐沢さんは会議室にみたいに戻った。

会議を再開しようとした時、ドアが開いて沢村さんと迅さんが入ってきた。

 

「迅悠一、お召しにより参上しました」

「御苦労」

 

迅さんと沢村さんが座ったところで城戸さんがイレギュラーゲートの対策会議を始めようとする。

そこに忍田さんが三雲くんの処分が決まっていないと、待ったをかけた。

 

「結論など決まっとろうが!クビだよクビ」

「他のC級にマネをされても困りますからね、「市民にボーダーは軽い」と思わせるわけにはいきませんが、しかし佐藤くんの言うことも一理ある…中学校の信頼が無くなってしまうかもしれませんしねぇ」

「だが、1日に2度も重大な隊務規定違反をしたのだ。そもそもC級にトリガーを持たせとるのはルールを守れん奴を炙り出すためだ。バカが見つかったから処分する。それだけの話だ」

 

どうやら根付さんはこっち側になりつつあるな…でもまだ鬼怒田さんは断固反対かぁ

どうしたものか…

 

「私は処分には反対だ。三雲くんは市民の命を救っている」

「ネイバーを倒したのは木虎だろう?」

「その木虎が三雲くんの救助活動を高く評価しています。三門第三中学校に発生したネイバーの3体の内2体は彼が倒している」

「ふむ、確かにそうですねぇ。佐藤くんはその場にいたんですよね。どう思いますか?」

 

根付さんから話が振られた。どうやら味方してくれるらしい。

 

「報告書にも書きましたが、三雲くんはC級のトリガーつまりレイガスト一つで校舎の中に入ってきたモールモッド三体から逃げ遅れた多くの生徒たちを守りながら見事撃退して見せました。彼の倒したモールモッドの残骸を見ましたが腕は確かかと思います。緊急時にこれだけの働きを出来る人間は貴重です。それに今回の件の元凶はイレギュラーゲートです。彼が行動を起こさなければ多くの死傷者が出ていました。もし彼が規則を守り、助けられた命を見捨ていたのなら、そっちの方がボーダーに相応しくないと思います」

「佐藤くんの言う通り。彼を処分するよりも、B級に昇格させてその能力を発揮してもらう方が私は有意義だと思う」

「なるほど、確かに一理ある…が」

 

ここで状況を静観していた城戸さんが口を開いた。

 

「ボーダーのルールを守れない人間は私の組織には必要ない」

 

城戸さんは三雲くんに次似たようなことが起きたらどうするかと質問をした。

三雲くんは馬鹿正直に、もちろん助けると答えた。

それが反省していないととられてしまい、話はイレギュラーゲートの対策へと変わった。

 

「今、何らかのトリオン兵かトリガーかが周りからトリオンを集めてゲートを開いているという推測の元に原因を調べておる。もちろん開発室総出でな。ただ確かにバムスターに何かが潜んでいた痕跡は発見できたのだが、ゲートを開くものを発見できておらんのだ」

「それでは困りますよ鬼怒田開発室長。そろそろマスコミを抑えるのももう限界ですよ!」

「それはわかっとる。だがそのトリオン兵を見つけないと対策が出来んのだ。今はトリオン障壁でゲートを強制封鎖しとるが…それも後46時間しか持たん。それまでにその未知のトリオン兵を残骸でもいいから見つけねばならん」

「で、お前が呼ばれたわけだ。やれるか?迅」

 

なるほど、だから迅さんが呼ばれた訳か。

迅さんは既に何か視えているようで、お任せくださいとニコリと笑った。そして三雲くんの肩に手を置き

 

「その代わりと言っちゃなんですけど、彼の処分は俺に任せてもらえませんか?」

 

その発言に会議室の人たちは大小の違いはあれど驚いていた。

だが三雲くんがイレギュラーゲートの原因に関わっているのか…

俺の脳裏に三雲くんの隣にいた白髪で身長の低い彼浮かぶ。

迅さんの言葉で、俺の推測が確信に変わった。

 

結局三雲くんの処遇は、迅のいつもの「俺のサイドエフェクトが(ry」の一言で決まった。

…トンビに油揚げ掻っ攫われた気分だな。まぁこっちの有利な側に転がってくれそうだからいいんだけど。

 

「三雲くん、この後少しいいかな?」

 

会議室から出て来た三雲くんに声をかける。

戸惑いながらも三雲くんは了承した。

三雲くんと鬼怒田さん達と話し終えた迅を連れて、最近まったく使われていない玉狛第一の隊室に向かう。

 

「ボスから話は聞いてますよね?」

「ああ、電話で聞いたよ。でもこの三雲くんがね〜」

「な、なんでしょうか?」

「ああごめんね。着いたら話すよ。話すことって言うより、聞きたいことなんだけどね。まぁ悪い事にはならないと思うから安心していいよ」

「はぁ、そうですか…」

「あ!そうだ。三雲くん、改めてありがとう!妹を助けてくれて」

「い、いえそんな、僕はただ自分がするべきことをしようとしただけで…」

「 それでも君のしたことで救われた人はたくさんいる。俺もその一人だよ。だから、ありがとうな」

「は、はい!」

 

そんなこんなで本部内の玉狛第一の隊室に着いた。

部屋の中のほとんど物は初めから備え付けられているもので、誰かの私物があるわけではないが、密談にはうってつけだろう。

すでにボスが一人がけのソファに座って待っていた。

迅さんと三雲くんはそれぞれソファに腰掛ける。

俺は給湯室に行って、人数分のコーヒーを入れて砂糖とミルクと一緒に持っていく。

コーヒーをそれぞれに渡して、話し始める。

 

「さて、時間も遅いし早速本題に入るか。それでいいよな?夏樹、迅

「構わないっすよ」

 

迅さんも頷いて肯定する。

 

「じゃあ早速って夏樹が聞いた方がいいか。考え着いたの夏樹だしな。って事で夏樹よろしく〜」

 

そう言ってボスはソファに腰掛け直した。

 

「じゃあ三雲くん、率直に聞くけど、空閑遊真。この名前の子について色々と知ってるよね?」

「…っ!?」

 

質問を聞いた瞬間、三雲くんはわかりやすいほどに動揺して冷や汗をかき始めた。

顔芸はまだできない様だな。

三雲くんの返答を待たずに、俺は自分の推測を話し始める。

 

「空閑遊真。彼は向こう側から来た。そうじゃないかな?そしてその彼を君は匿っている。違うかい?」

「……」

「あー、そうだ。言っておきたいんだけど、何も俺や夏樹それにボスもその空閑遊真って子がネイバーだとしても、とりあえずは何かするつもりは無いから安心していいよ。勿論三雲くんにも処罰を与えることはないから」

「そうなんですか…?」

「何故って思ってるだろうから説明すると、今ボーダーには三つの派閥が有る。まぁ派閥と言ってもそれぞれネイバーに対する姿勢が異なる程度のもので、 決定的に対立しているわけではないんだけどね。まず一つ目が城戸司令率いる城戸派。この派閥は簡単に言えば、ネイバー絶対に許さないぞ主義。この派閥がボーダー内で最大の派閥。空閑くんがネイバーだと知れたら、確実に排除しようとしてくるだろうね。そして二つ目。忍田本部長率いる忍田派。この派閥は街の平和が第一だよね主義で本部隊員の3分の1がこの派閥。嵐山さんとかがそうだね。

そして三つ目が」

「我ら玉狛支部派だ!俺ら玉狛はネイバーにもいいヤツいるから仲良くしようぜ主義。空閑くんがネイバーでも即襲ったりしないよ。だから安心していいよー」

「迅さんに説明をとられちゃったけど、だいたいそうゆう事だから空閑くんのことを話して大丈夫だよ。まぁ玉狛支部派になら、だけどね」

「そうなんですね…」

「まっ、そんなすぐ結論は出ねーか。じゃあ、三雲くん明日にでもその彼に我々のことを聞いてみてくれ」

「わかりました」

「おっと、そうだ。後彼に最上宗一って名前を知っているかも聞いてみてくれ」

「最上宗一さんですね。わかりました聞いてみます」

『その必要はない』

 

突然、機械的な音声が聞こえ、三雲くんの制服のポケットから黒い小さな豆の様な物体が出てきた。どうやら今の声はこの豆粒から出たみたいでだ。

 

『突然失礼した。オサムのことが気になり話を聞かせてもらっていた。そしたら私が出てきた方が話が進みやすいだろうからこうして出て来させて貰った。私はレプリカ、ユーゴに作られた自律型多目的トリオン兵。ユーマのお目付役だ」

「こいつは驚いた。自律トリオン兵じゃねーか」

「ボスはこれが何か知ってるんですか?」

「ああ。まぁ知ってるって言ってもそこまで詳しくは知らない、話に聞いた程度だがな。しかしさすが空閑さんだな」

「それでレプリカ先生。レプリカ先生が出てきたって事は、我々を信用して貰ったって事でいいのかな?」

『一先ずはそう取って貰って構わない』

「じゃあレプリカ先生、早速なんだけど向こうで空閑さんに何があったか聞かせてくれないか?」

『承知した』

 

レプリカ先生から空閑有吾さんに何があったのか、そして遊真くんについてザックリと教えて貰った。

 

『簡単にではあるが、事情は今話した通りだ。詳しくは直接会った時に話そう』

「なるほどな…空閑さんにそんなことが…」

「ボスこれからどうしますか?」

「あぁそうだな。とりあえずこのことを俺は忍田に話しておく。迅と夏樹は、遊真くんに会ってくれ。それでいいか?レプリカ先生」

『ああ、私は構わない』

「俺も了解です」

「迅さんに同じく、自分も了解です。三雲くん、紹介頼めるかな?」

「わかりました」

 

明日遊真くんに会うことになって、話し合いは終わった。

レプリカ先生曰く、明日会う時にはイレギュラーゲートの原因を教えられるらしい。

俺は三雲くんと連絡先を交換して、待機任務に行くため待機場所の鈴鳴支部に向かった。




感想、アドバイス等お待ちしています
誤字報告ありがとうございます


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第12話

今回はちょい短めです。
感想、アドバイス、批評お待ちしてます。


酷い目に遭った…

 

待機任務は鈴鳴第1と合同だった。

ゲートを強制封鎖しているので任務は万が一に備えて支部で待機しておくというものだった。

 

「おっ来たか」

「佐藤先輩!お疲れ様です!」

「よろしくね佐藤くん」

「おう、よろしくな。鋼、太一、今。来間先輩もよろしくお願いします」

「うん。今日はよろしく夏樹くん」

 

任務が始まって最初はみんな警戒していたが、しばらくしてみんな気が緩んできたのかリラックスし始めた。

 

「あー、暇っすね」

「そう言うなよ。太一」

「でもゲートを強制封鎖してるから俺たちいなくても大丈夫なんじゃないですか?」

「それでもだよ。万が一があるかもしれないからね」

「でも〜、暇すぎません?」

「確かに、することがないな」

「そうね。何かに没頭するわけにもいかないものね」

「そうっすよね。鋼さんも今先輩そう思いますよね!」

「支部内でなら何かしててもいいんじゃないっすか?ずっと肩肘張っとくわけにもいかないでしょうし。どうですか?来間先輩」

「そうだね。夏樹くんの言うことも確かだし、何かしていようか」

「やったー!」

「じゃあ勉強でもしようかしら。佐藤くんもどう?」

「ん〜そうだな。そうさせてもらうよ」

「おっ、じゃあ俺もそうしよう。夏樹、わかんないところ教えてくれ」

「おう、いいぜ。でまず何からやる?」

「えー!先輩達真面目すぎませんか!?こんな時なのに勉強するんですか?」

「太一、お前成績大丈夫なのか?」

「そうよ。あんたたまには勉強しなさいよ。高校からは留年もあるんだから」

「わからないところがあったら教えてあげるからさ。一緒に頑張ろう。ね?」

 

と、勉強に取り組み始めたはいいものの…

 

「太一、この問題間違ってるよ」

「えっ!めっちゃ丁寧に計算したっすけど…」

「どれどれ〜。ちょっと見せてみなさい」

 

と今が太一のノートを覗き込む。

 

「そうね…特に計算は間違ってないみたいだけど…ちょっと佐藤くんも見てくれない?」

 

今に渡されたノートを見る。

特に計算は間違ってないなぁ。

 

「太一、問題を見せてくれ」

 

太一から渡された問題プリントを見ると、問題の式をノートに写し間違えていた。

 

「はぁー。太一、問題をノートに写す時に式のプラスマイナスが逆になってるぞ」

「えっ?ほんとっすか!」

 

と、計算云々の前の段階で躓いていたり、間違った部分を消そうとして合ってた部分も消したりと中々太一の勉強が進まない。

それでも、勉強を終わらせた今と鋼と俺が来間先輩に加わって、4人体制で教えてなんとか太一も勉強を終えた。

 

「終わったー!」

「終わったね…」

「疲れた~」

「いや〜、自分の勉強より太一に教える方が疲れた気がするよ」

「確かにな」

「そうね。常に凡ミスしないように見てたものね」

「みんなお疲れさま」

「来間先輩もお疲れ様です」

「いや〜、勉強したらお腹が減ってきたなー。先輩達もお腹減りません?」

「そういえばそうだな」

「確かにお腹空いたね。カップ麺でも食べようか。佐藤くんもどう?」

「そうですね。お願いします」

「私はやめておくわ」

「じゃあ4人っすね。今持ってきます」

 

と太一がカップ麺を4つ持ってきて、お湯を入れれるようにそれぞれをセットする。

ここまで太一がやらかすことはなく、俺たちも安心していた。

しかしここで事件が起こった。

 

「お湯持ってきます」

 

と言った太一がやかんを持ってきた。

そしてそのやかんの中身ををカップ麺に注ぐ。

そこで俺は違和感に気づいた。

やかんから出ているお湯に湯気がたっていないのだ。

 

「太一、それ沸かしたか?」

「あっ!!忘れてました!ど、どうしましょう?水入れちゃいました」

 

案の定太一はお湯を沸かし忘れて、水のままカップ麺に注いだのだ。

 

「そういえば、水を入れてもレンジでチンすれば大丈夫だって聞いたことが…」

「ほんとっすか!ならチンしてきます!」

 

鋼の話を聞いた太一は給湯室に走っていく。

あれ?でも確かカップ麺の容器って…

 

「カップ麺の容器チンして大丈夫だっけ?」

「…っ!?太一!ちょっと待ちなさい!」

 

と俺と同じことを思った来間先輩の言葉に今がいち早く反応して、太一を止めた。

確か、カップ麺の容器をチンすると火事になるかもしれないだっけか…

危なかったぁ。危うくぼや騒ぎになるとこだった…

今が今度はちゃんと沸かしたであろう、注ぎ口から湯気が出ているやかんを持って戻ってきた。

 

「大丈夫だったかー」

「ええ、ギリギリね。まったく!太一たら」

「まぁまぁ、ボヤにならなくて良かったよ」

 

しかしなんだろう…

まだ厄災が起こりそうな気がする…

嫌な予感を感じつつ、まだお湯もましてや水も注いでないカップ麺に今の持って来たお湯を入れて出来るのを待っていると、給湯室から太一が小走りでカップ麺の入ったお椀を持って来た。

 

「いや〜お騒がせしましたー。でもカップ麺ってチンしてもちゃんと出来るんですね。初めて知りました!」

「そう。そりゃ良かった」

「早速食べましょっうぉあっと!」

「っ!?」

 

その時だった太一が足をもつれさせて、思いっきりすっ転んだ。

その拍子に太一が両手で持っていたお椀をバスケのチェストパスのように勢いよく飛ばした。

お椀は一直線に俺のおでこにクリーンヒットした。

 

「ぶべら!!」

 

情けない声を出して後ろに倒れた。

しかしそれで終わるはずもなく、勢いを失った熱々カップ麺入りのお椀が、仰向けに倒れた俺の顔面に中身をぶち撒けるように落ちて来た。

 

「熱っつ!!」

 

トリオン体なので熱さは軽減されるが、ビックリした勢いで叫びながら跳ね起きた。

 

「だ、大丈夫!?」

「す、すいませんっす!何か拭くものを…あ!あった!」

「太一!一旦落ち着きなさ…」

 

今が焦る太一を止めようとしたが時すでに遅く、太一が机の上にある布巾を取ろうと手を伸ばす。

この時、太一を除く4人全員が迅さんと同じように未来を視ていた。

 

「あっ!」

 

太一はツルッという音が聞こえそうなほど綺麗にぶち撒けられたカップ麺のスープに足を滑らせた。

倒れそうになった太一は身体を支えようと手を床に伸ばす。

だが太一が手をついたのは机の上のさっきのやっとの思いで終わらせた宿題のプリントだった。

プリントは太一の手もろともお湯を注いだカップ麺へと滑っていった。

4人の視ていた未来はそっくりそのまま現実になった。

部屋にはカップ麺のジャンキーな匂いが充満し、床の一部にはカップ麺の中身が広がり、太一のプリントは茶色く濡れていた。

 

「なにこれ…」

 

誰かの呟きが虚しく部屋に響いた。

 

まったく太一の奴は何というか…

とんでもない星の元に生まれて来たんだな。

まぁ幸いみんなトリオン体だったから、被害は太一のプリントだけだったから良かった?のかな…

ま、いっか。

それより、そろそろ三雲くんとの約束があるんだったか。

イレギュラーゲートの原因が分かるといいんだが…

 

三雲くんとの合流場所に向かっていると、後ろから

 

「ぼんち揚食う?」

 

と迅さんがぼんち揚の袋を差し出しながら声を掛けてきた。

 

「いただきます」

 

そう言って俺は迅さんの持つぼんち揚の袋に手を伸ばした。

結局カップ麺を食えなかったから少しお腹が空いていたからちょうど良かった。

 

「いつも食ってますけど、飽きないんですか?それ」

「う〜ん、飽きたことはないかな。夏樹の甘いもん好きと同じようなもんだよ」

「いや、なんか違う気がしますけど、まぁいいです。それより今はイレギュラーゲートですよ」

「ま〜、大丈夫だと思うよ。あっ!そうだ。ちょい寄り道していい?」

「なんですか?寄り道って。なんか視えてるんですか?」

「ま〜ねぇ」

 

そう言う迅さんの後について行くと、学ラン姿の秀次と米屋がいた。

なるほどね…

すでに城戸さん達もマークしてる訳か。

流石未来予知だな。

迅さん昨日の会議で秀次を視たのか。

迅さんと秀次達が話して、迅さんが一枚の紙を渡すと2人は帰って行った。

 

「2人に何を渡したんですか?」

「ん?命令書だよ。昨日の内に忍田さんに作って貰っといたんだ。今日の午後から大仕事があるからね。おっ、いたいた。メガネくんお待たせ」

「あ、おはようございます」

 

三雲くんと合流した俺たちはレプリカ先生と空閑遊真くんに会いに、警戒区域内に入った。

しばらく警戒区域を歩いて行くと、クレーターのように地面が凹んでいる戦闘跡に第3中の制服を着た白髪の子が瓦礫をめくっていた。

 

『ユーマ、昨日話した彼らが来たようだ』

「やあ、空閑くん。昨日ぶりだね」

「おう、オサムと…」

「佐藤夏樹だよ。で、こっちが迅悠一」

「そうそう佐藤先輩だ」

「俺は迅悠一。よろしく!」

「あんたが迅さんか、俺は空閑遊真。背は低いけど15歳だよ」

「空閑遊真…空閑ね。お前が空閑有吾さんの息子で、向こう側の世界から来たってことでいいか?」

「そうだよ。でもなんでわかったの?」

「お前の正体に最初に気づいたのは俺じゃなくて夏樹だよ」

「へー、佐藤先輩ってアタマいいんだね」

「おう、夏樹は凄いぞ!」

「いやいや、俺の頭が良いのはサイドエフェクトのせいですよ。サイドエフェクトで言ったら迅さんの方が凄いじゃないですか」

「そうなのか?」

「 ああ、俺のサイドエフェクトは脳の使用率を操作できるってだけ。でも迅さんのは未来予知。目の前の人の少し先の未来が見える。でしたよね?迅さん」

「未来が…!?」

「そう。それで昨日夏樹とメガネくんに会った時に、ここに来ればイレギュラーゲートの原因が分かるって未来が見えたんだ。まっ、昨日レプリカ先生と話せたからってのもあるんだけどね」

「でレプリカ先生、昨日話した原因見つかったか?」

「見つけたよ、ついさっき。犯人はこいつだった」

 

空閑はそう言うとル◯バくらいの大きさのトリオン兵の残骸を渡してきた。

 

「なんだこいつは…!?トリオン兵…!?」

「見たことないトリオン兵だな」

『詳しくは私が説明しよう』

 

にゅーっと空閑から炊飯器のような黒い物体が出てきた。

音声から察するにレプリカ先生だろう。

 

『子機で昨日会ったが、改めて初めまして、サトウ、ジン、私はレプリカ。これが本体だ」

「ああ、改めてこちらこそよろしく。それでこのトリオン兵はなんなんだ?」

『これは隠密偵察用の小型トリオン兵「ラッド」』

 

レプリカ先生からラッドについての話を聞く。

どうやら俺の推測は大体当たっていたようだ。

しかし地中に潜んでいたのか…

 

『ラッドは攻撃力を持たない所謂雑魚だが、その数は膨大だ。今探知できるだけでも数千体が街に潜伏している』

「数千…!」

「全部倒そうと思ったら何十日もかかりそうだな」

「いや、大丈夫だよ。こっからはボーダーでなんとかするよ。ありがとうな、めちゃくちゃ助かったよ」

「夏樹はラッドを持って鬼怒田さんのとこに行ってくれ。俺は他のとこに行くから」

「了解です」

 

俺は迅さんとボーダー本部に向かった。

 

「鬼怒田さんはいますか?」

 

本部に着いて迅さんと別れた俺は開発室に来た。

 

「佐藤か、どうしたんだ?ってそれはまさか!?」

「はい、イレギュラーゲートの原因です。取り急ぎこれをレーダーに映るようにしてください。2時間以内でお願いします」

 

そう言って鬼怒田さんにラッドを渡す。

 

「わかった2時間だな。お前も来い!解析を手伝ってもらうぞ!」

「了解です」

 

鬼怒田さん達を手伝ってラッドをレーダーに映るようにした後、緊急放送が三門市中にながれた。

その後すぐにC級隊員を含めた全隊員に召集がかかり、迅さんの指揮でラッドの一斉駆除作戦が昼夜を徹して行われた。

俺は開発室の手伝いで現場には出なかったが、無事終了したらしい。

これで三雲くんもクビにはならずに済むだろう。

 

ラッドの解析作業もひと段落したので、家に帰ることにして、俺は本部の出口に向かった。

 




いつも誤字報告ありがとうございます。


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第13話

お待たせしました。
今回は三人称で書いてみました。
アドバイスをお願いします。



イレギュラーゲートが解決して数日後、夏樹は冬華と玉狛支部に来ていた。

イレギュラーゲート騒ぎも落ち着き、夏樹に余裕が生まれたので冬華のオペレーターの練習を再開しようということになったのだ。

 

「宇佐美、今日はよろしくな」

「よろしくお願いします。宇佐美先輩」

「うん。よろしくね?冬華ちゃん」

「じゃあ早速始めて貰っていいか?」

「そうですね。じゃ行こっか」

 

三人はオペレーターの設備がある地下に降りて行った。

 

「それで前はどこまで教えたっけか?」

「この前は各ポジションの特徴について教えて貰いました」

「あ?そうだったね。それじゃあ今日はトリガーについてだね」

「お願いします!」

 

宇佐美と夏樹は、トリガーホルダーを開けて実際のトリガーを見せたり、仮想戦闘モードで夏樹がトリオン兵相手にトリガーを使って見せること等を交えながら説明していく。

教え始めて少し経った時、地下に携帯の着信音が鳴り響いた。

 

「悪りぃ電話だ。気にせず続けててくれ。ちょっと上で話してくるから。宇佐美頼んだ」

「りょーかいです」

「悪いな」

 

そう言って夏樹は地上に上がるエレベーターに乗っていった。

 

「さぁ続けようか。シューター用トリガーについて話すね」

「は、はい!」

 

2人と別れた夏樹は着信相手を確認する。

 

「三雲くん…?」

 

携帯には三雲修と表示されていた。

地上上がったエレベーターから出た夏樹は電話に出た。

 

「もしもし三雲くんか?どうしたんだ?午後の予定にはまだ早いけど何かあったのか?」

『佐藤先輩、それが大変なことに…』

 

夏樹は三雲から電話越しでも分かるくらいの焦った声で事情を聞く。

三雲の話は今日空閑は午後に林道支部長に会う事になっていた。

その前に三雲は空閑に会ってほしい子が居て、その子についての相談をしていたところに三輪隊が襲来、空閑と戦闘になってしまったのだ。

幸い、この未来を予知していた迅が途中で介入することでその場は収まったのだが、空閑がネイバーであることと、黒トリガー持ちであることが対策を練る前に城戸さん達にバレてしまったのだ。

なので今から迅と三雲は本部に行くことになり、夏樹にも来て欲しいとのことだった。

話を聞いた夏樹は三雲に迅に変わって貰うよう頼んだ。

 

『おう、どうした?夏樹』

「いや、どうしたじゃないですよ迅さん。未来見えてたんなら教えてくださいよ」

『ほら、予知を教えてもいい結果になるとは限らないだろ』

「そうですけど…まぁ今はこの話はやめておきます。それより俺も今から向かいますけど、どうするんですか?まさか未来予知しといてここは任せたなんて言わないですよね?」

『それは大丈夫だ。タイミング見て仕掛けるからその時は援護射撃を頼むな』

「了解です。でもどうするんですか?空閑くん本人を認めて貰ったとしても、黒トリガーは見逃してくれますかねぇ」

『まぁその時はその時だよ』

「一応言っておきますけど、そうなったら俺も手伝うんで1人で暗躍しないでくださいね」

『わかったよ。そん時はよろしくな。じゃあ本部で合流な』

「わかりました。今から向かいます」

 

電話を切った夏樹は冬華と宇佐美に少し抜けることを言いに地下に降りた。

 

「おっ、帰ってきた。電話大丈夫でした?間に合いましたか?」

「ああ、悪いな突然抜けちって。それで俺が電話に出てる間にどこまで進んだ?」

「ちょうどアタッカー用の3つを教えて貰ったところです」

「そうか。宇佐美悪いんだけど、このまま教えといて貰っていいか?」

「大丈夫ですけど、どうかしたんですか?」

「ちょい野暮用ができちゃってさ。今から本部に行くことになったんだ。そう言う訳で冬華を頼んだ、宇佐美」

 

そう言うと夏樹は地上に上がっていった。

 

「何かあったのでしょうか?」

「う?ん、何だろうね?まぁ佐藤先輩なら大丈夫だと思うから。安心して大丈夫だよ。さっ続けようか」

「そうですね。引き続きお願いします!」

「はーい。それじゃあアタッカー用トリガーの説明は終わったから次はシューター用だね」

 

冬華達2人と別れた夏樹は本部で迅と三雲から合流して、会議に参加していた。

三雲と迅が先の三輪隊との経緯を説明した。

会議はその黒トリガーにどう対処するべきか城戸派の黒トリガー強奪に忍田本部長が反対していた。

 

「強奪の必要はありません」

「どうゆうことだ!迅!三雲が手懐けているからと言って、安心は出来んだろう」

「いえそうではなく、黒トリガー持ちの名前は空閑遊真。空閑有吾さんの息子さんです」

 

迅が仕掛けた。

その名前を聞き、城戸司令は衝撃を受けていた。

 

「空閑…だと…!?」

「クガ…?何者ですかな、そのクガとやらは?」

「我々にもご説明願いたいですねぇ」

 

鬼怒田室長や根付室長は現ボーダーから所属した為、空閑有吾を知らないので驚く以前に疑問を抱いていた。

そこに忍田本部長が空閑有吾について説明する。

 

「空閑有吾…有吾さんは…4年半前にボーダーの存在が公になる以前から活動していた、いわば旧ボーダーの創設に関わった人間。ボーダー最初期のメンバーの1人だ。私と林道にとっては先輩にあたり、城戸さんと佐藤くんの両親にとっては同輩にあたる」

「そういうことなので空閑有吾さんの息子である以上争う必要はないのではないでしょうか?」

「…まだ空閑の子と確認できた訳ではない。名を騙ってる可能性もある」

「それは後で調べればわかります。

それとも何か名を騙ってるという証拠があるんですか?」

「…!?」

(なるほど悪魔の証明か…これで本人でないと証拠がない限りは無闇に動けなくなったわけか)

「ではこれ以上部隊を繰り出す必要はないな。城戸司令もいいですね?」

「ああ、いいだろう」

「それでは迅、夏樹くん、三雲くんつなぎをよろしく頼むぞ」

「了解です」

「…はい!」

「そのつもりです。忍田さん」

「では解散とする。進展があれば報告するように」

 

城戸司令の締めの言葉で会議は終わり夏樹ら三人や忍田本部長に林道支部長が退出して、会議室に残ったのは城戸派の面子だけになった。

先程から不機嫌そうな顔をしていた鬼怒田室長が口を開いた。

 

「…このままで良いのですかな?城戸司令。空閑云々は置いとくとしても…」

「そうですねぇこのまま玉狛と黒トリガーが手を結べば、ボーダー内のバランスが…」

「わかっている。空閑の息子かどうかは別問題として……黒トリガーは必ず我々が手に入れる」

 

城戸司令の言葉で派閥の舵はとられた。

城戸派は黒トリガー強奪の作戦を計画し始めた。

 

「いや~、ナイス援護射撃だったよ夏樹。助かった」

「いえ、たまたま思いついただけですよ。それより、城戸さんたちはやっぱり…」

「…!?空閑はもう大丈夫なんじゃないんですか?」

「う?ん、どうかな」

「えっ…」

 

空閑の安全が確保されたと思っていた三雲は夏樹と迅の会話を聞いて再び不安に襲われた。

 

「この前にボーダーに派閥があるって話しただろ」

「はい」

「それぞれの派閥には考え方があって、その考え方が玉狛と城戸さんのとこで正反対なんだよ。だからあんまし仲がよろしくないわけ」

「なるほど…」

「まぁ城戸さん派は一番規模が大きいから玉狛が何かやっても、王者の余裕で見逃してもらえてたんだけど…」

「もし遊真がうちと手を組んだらそのパワーバランスが完全にひっくり返る」

 

不安になった三雲に2人は詳しくその訳を説明する。

 

「…!?空閑1人でそこまで…!?」

「そう、黒トリガーってのはそれぐらい強力なもんなんだよ。三雲くんも見たんじゃないかな?三輪隊に余裕で勝った空閑くんを」

「つまり城戸さん派的にはパワーバランスがひっくり返るのは避けたいだろうから、どうにかして黒トリガーを横取りしようとするだろうな」

「まっ、落ち着きなよ。俺らもなんとか動いてみるからさ。とりあえず空閑くんに会った方がいいね。午後の約束もあるしさ」

「ボスは先に戻ってるって言ってたよ」

 

3人は本部から空閑と合流するために歩き出した。

 

「おっ来た来た。オサムと迅さん…と佐藤先輩?」

「よう空閑くん、此間ぶりだな」

「なんで先輩がここに?」

「俺が呼んだんだ。会議に夏樹が居てもらった方が良さそうだったからな」

「ふ?ん、そうなんだ。それでオサム、偉い人にしかられた?」

「いや…まぁ叱られたけど…」

 

三雲と空閑が話している傍ら、夏樹は空閑と一緒にいた少女と目が合った。

 

「…!?君は…」

「あっ、雨取千佳です。あの…修くんが遊真くんに会わせたいって…」

「あ?大体のことは聞いてるよ」

「それで修くんはどうなっちゃうんですか?やっぱりクビとかになっちゃうんですか…」

「いやいや、そんなことはないから安心しなよ」

 

夏樹が雨取と話している間に空閑に三雲が事情を説明し終えたのか、迅に相談していた。

 

「これからどうすればいいですか?迅さん、夏樹先輩」

「うーん、そうだな」

「一番シンプルなのがいいんじゃないですか。シンプルイズベストって言いますし。まぁ迅さんに任せますが」

「そうだな、夏樹の言うようにシンプルなやり方が一番だな」

「シンプルな…」

「やり方…」

 

夏樹と迅の言葉に三雲と空閑は首を傾げた。

 

「うん、遊真お前ボーダーに入んない?」

 

2人の疑問に答えるように、前を歩いていた迅が立ち止まって振り返り、

空閑に提案を持ちかけた。

 

「…!?」

「俺が…!?」

 

驚く空閑に迅は玉狛支部について説明した。

説明を聞いた空閑は三雲と雨取が一緒に来るならと支部に行くことになった。

しばらく歩いて川の真ん中に建っている建物に着いた。

 

「さあ着いた。ここが我らが玉狛支部だ」

「川の真ん中に建物が…!」

「元々ここは川のなんかを調査する建物だったんだけど、使われなくなったところを買い取って基地として建て替えたらしいよ」

「いいだろ。隊員は出払ってるぽいけど…」

「一応宇佐美と冬華がいると思います」

「そっか。ただいま」

 

迅が扉を開けるとカピバライダーが基地内を巡回していた。

 

「ただいま、陽太郎。宇佐美達はどこ行ったんだ?」

「…しんいりか…」

「「新入りか」じゃなくて」

「おぶっ」

「で、宇佐美達はどこ?」

「佐藤先輩おかえりー。用事は済んだんですか?」

 

夏樹が陽太郎に宇佐美と冬華の居所を聞いているところに、上の階の奥から宇佐美の声がした。

上の階から荷物を抱えた宇佐美が顔を覗かせた。

 

「え?何?もしかしてお客さん!?やばい、お菓子ないかも!待って待って!ちょっと待って!」

 

そう言うと宇佐美は奥に小走りで消えていった。

 

「まぁとりあえず三雲くん達はこっちに来てくれ」

 

夏樹はそう言って三雲達を客間に通した。

3人に座って貰っていると宇佐美が冬華を連れて戻ってきた。

手には小南のものであろうどら焼きを持って。

 

「いや~、どら焼きしか無かったけど…でもこのどら焼きいいやつだから食べて食べて」

 

と宇佐美が三雲達3人にどら焼きをすすめる。

 

「なんで佐藤さんがここに…?」

「あぁ、そっか三雲くんは冬華と同中だったな。冬華は俺の妹なんだ。今度ボーダーにオペレーターで入隊するから、今日はその予習ってわけなんだ」

「そうだったんですか…」

「よろしくね。三雲くん」

「オサム、佐藤先輩の妹と知り合いなのか?」

「空閑はこっち来たばかりだったな、同じ学校の同級生だ」

「そうなのか。じゃあよろしくな。さと、佐藤…なんか同じ名前が2人で紛らわしいな」

「まっそうだな。じゃあ俺は夏樹でいいよ。三雲くん達もそれでいいから」

「私も冬華で大丈夫です」

「お、そうか。じゃあよろしくなフユカ」

 

そんなやりとりをしている横で空閑のどら焼きを密かに盗み出そうとするカピバライダー。

それに気づいた空閑と目が合い、お互い目を煌めかせた。

 

「あっ、陽太郎!あんたはもう自分の食べたじゃん!」

「あまいなしおりちゃん、ひとつでまんぞくするおれではない」

 

そう言ってニヤリと笑う陽太郎の頭にチョップが振り下ろされた。

 

「おぶっ」

「わるいなちびすけ。おれはこのどらやきというやつに興味がある」

「ぶぐぐ…おれのどらやき…」

 

こうしてカピバライダーの夢は潰えたと思われた。

しかしそこに陽太郎にとってまさに天からの救いとも言える提案が雨取からなされた。

 

「よかったら…わたしのあげるよ」

 

この言葉を聞いた陽太郎は顔を輝かせどら焼きを頬張った。

そしていつものカピバライダーによるプロポーズ?が行われた。

ちなみに冬華もすでにそのプロポーズを受けており、本人は苦笑いしただけだったが、その場にいた兄である夏樹と、林道ゆりを巡って陽太郎とライバルである木崎は鬼の形相をしていた。

 

閑話休題

 

そんな玉狛支部でよく見られるようなゆるい雰囲気をに唖然としていた三雲に夏樹と宇佐美が声をかけた。

 

「ここの雰囲気に驚いているみたいだね。三雲くん」

「そうですね…なんていうかここは本部と雰囲気がかなり違いますね」

「そう?」

「まぁうちは人数も少ないからね。緩くもなるさ」

「でもはっきり言って強いよ」

「!」

「うちの防衛隊員は迅さんと佐藤先輩の2人以外に3人しかいないけど、みんなA級レベルのできる人だよ。玉狛支部は少数精鋭の実力派集団なのだ!」

「宇佐美、少数精鋭とか実力派集団だとかは自分で言うのは違くね」

「まぁいいじゃないですか?キミもウチに入る?メガネ人口増やそうぜ」

 

三雲くんをボーダーメガネ人間協会に協会の名誉会長が直々に勧誘していると、雨取が夏樹と宇佐美に質問を投げかけた。

 

「あの…夏樹先輩と宇佐美さんも向こうの世界に行ったことあるんですか?」

「うん、あるよ。佐藤先輩もありましたよね」

「ああ、かなり前でけどね」

 

さらに雨取は2人に質問する。

 

「じゃあ…その向こう側の世界に行く人ってどういうふうに決めてるんですか?」

「それはねー、A級隊員の中から選抜試験で選ぶんだよね」

「ちなみに選抜試験でさらにA級の中から、黒トリガー相手に善戦できる実力を持ってる隊員が選ばれるんだ」

「大体は部隊単位で選ばれるから、アタシもくっついて行けたんだけど」

「A級隊員…ってやっぱりすごいんですよね…」

「400人のC級、100人のB級のさらに上だからね。そりゃツワモノ揃いだよ」

 

説明を終えたところにタイミングを見計らってか、迅が入ってきた。

 

「よう3人とも、親御さんに連絡して今日は玉狛に泊まってけ、ここなら本部の人達も追ってこないし、空き部屋もたくさんある。冬華ちゃんも泊まって行きなよ」

「迅さん、ボスは?」

「もう部屋にいるよ」

「わかりました。じゃあ先に行ってます」

 

そう言うと夏樹は部屋を出て行った。

 

「それじゃ宇佐美面倒見てやって」

「ラジャー」

「遊真、メガネくん来てくれ。ウチのボスが会いたいって」

 

夏樹に続いて迅達も部屋を出て行った。

 

「失礼します。2人を連れてきました」

「おっ、来たな。お前が空閑さんの息子か。はじめまして」

「どうも」

 

遊真と林道支部長が邂逅した。

 

「お前のことはここにいる3人から聞いてる。玉狛はお前を捕まえる気はないよ。ただひとつだけ教えてくれ。お前、親父さんの知り合いに会いに来たんだろ?その相手の名前はわかるか?」

「サトウ ハルキ、モガミ ソウイチ。親父が言ってた知り合いの名前は…サトウ ハルキとモガミソウイチだよ」

「そうか…やっぱり春樹さんと最上さんか…2人はボーダー創設メンバーで、お前の親父さんのライバルだった。最上さんは迅の師匠だった人だ」

 

そう林道支部長が言うと、迅は帯刀していた風刃をそっと机の上に置いた。

 

「この迅の黒トリガーが最上さんだ。最上さんは5年前に黒トリガーを残して死んだ」

 

その言葉を聞いた空閑は風刃へと手を伸ばした。

 

「…そうか…このトリガーが…」

「ああ、そうだ。もう1人の春樹さんは言わなくても分かると思うが、夏樹の父親だ。4年前の大規模侵攻で亡くなった。それでだ。もし2人が生きていたらきっと本部からお前のことを庇っただろう。俺は新人の頃に空閑さんにお世話になった恩がある。その恩を返したい。お前がウチに入れば俺も大っぴらにお前を庇える。本部とも正面切ってやりあえる。…どうだ?玉狛支部に入んないか?」

 

結果から言うと空閑はボーダーに入ることになった。

最初は林道支部長の誘いを断った空閑だったが、その後屋上で夏樹と迅に自らの過去を話している時に、同じくレプリカから同じく空閑の過去を聞いた三雲から、雨取と自分が遠征部隊に選ばれる手伝いをして欲しいと頼まれた。

2人を手伝うという新たな目的を得た空閑は入隊することになった。

三雲達3人がそれぞれ、入隊届と玉狛支部への転属届を出して、支部長室から出ていった。

そこに迅が話をきりだした。

 

「さてと、どうしますかね?」

「夏樹どう思う?」

 

そう林道支部長は夏樹に今後起こりうることを聞いた。

 

「ボスと迅さんと考えてることと同じですよ。城戸さん達は確実に攻めてくると思いますよ。このまま勢力図が代わるのを見過ごすとは思えないですし…」

「やっぱそうあよなぁ…どうしたもんか」

「でもとりあえずはまだ大丈夫でしょ」

「そうですね。来るとしても遠征部隊が帰ってきてからでしょうからね」

「だな。それじゃあなんかいい案があったら教えてくれ。俺に出来ることがあったら教えてくれ」

「「了解です!」」

 

話し合いを終えて夏樹と迅は支部長室を後にした。

 

その後、夕食にみんなで迅の頼んだピザを食べて、みんなが寝静まった丑三つ時。

夏樹は目が覚めてしまい、気晴らしに支部の屋上に来た。

夏樹がしばらく夜空を眺めていると、誰かが階段を上ってくる足音が夏樹の耳に入ってきた。

 

「誰かと思ったら、ナツキ先輩じゃん。寝ないのか?」

 

ドアを開けて屋上に来たのは空閑だった。

 

「誰かと思えば、ナツキ先輩じゃん。こんな時間に何してるの?」

「寝れなかったから、外の空気を吸いに来ただけだよ。遊真こそこんな時間まで起きていたのか?そんなに警戒しなくても今日のところは襲われることはないと思うぞ」

「イヤイヤ、そうじゃないよ。おれはトリオン体に成ってから寝る必要がないんだ」

「そうなのか、まぁだとしても目を瞑って横になるくらいはしたほうがいいと思うぞ。精神は疲れるだろうからな」

「フム、やってみるよ。あっそういえばナツキ先輩も迅さんと同じくサイドエフェクト持ってるんでしょ」

「まぁな。迅さんから聞いたのか?」

「うん。それでどんなのなんだ?」

「脳の使用率を操作できるってのが俺のサイドエフェクトだよ」

「使用率?どう言う事だ?」

 

夏樹の言ったことがよく分からなかったのか空閑は頭を傾げて、頭上にハテナマークを浮かべていた。

 

「ハハハ、難しかったかな。簡単に説明すると人間の脳ってのは全部が全部いつもフル稼働ってわけじゃなくて普段は使われていない部分もあるんだ。俺のサイドエフェクトはその使ってない部分を使ったり、逆に使ってる部分を使わなくすることもできるんだ。まぁどちらにしても使うと副作用があるから不便ではあるんだけどな」

「なるほど、分からん」

 

空閑はさらに首を傾げさせ、頭上のハテナマークを増やした。

 

「まっ、頭を良くできるもんだと思ってくれればいいよ」

「そうか。もう一つ質問していい?」

「ん?別に構わないよ」

「ナツキ先輩は親をネイバーに殺されたんでしょ。ネイバーのこと憎んでいるか?重くなる弾の人みたいに」

「重くなる弾って、あぁ秀次のことか。しかし直球な質問だね。う~んそうだねぇ、まぁ率直に言えば憎んではないよ」

「そうなのか」

「まぁね。そりゃ親父たちを亡くした直後は途轍もないショックだったけどな、けど俺の場合は冬華がいたからな。それにボーダーの仲間たちのお陰ってのも大きいけどな。あいつらといた時は楽しいことで悲しさを忘れられたもんだ」

 

そう言いながら夏樹は何かを思い出すように虚空を見つめた。

夏樹はボーダー本部が出来てからの部隊を組んでのランク戦や、新トリガーの構想を一緒に練ったり、技術の教え合ったりした頃を思い出していた。

空閑を置き去りにして物思いに耽っていることに気づき、咳払いをして話を戻す。

 

「おっほん、まぁそれに俺は向こう側に何度も行ったこともあるし、向こうにいる奴ら全員が悪じゃないってのも知ってるからな」

「そうなのか」

「それに幸い考えることならサイドエフェクトのおかげでいくらでもできたからな。考えても考えても俺は復讐するよりも、もう二度とこんなことが起きない様にしようという考えに纏まったからな」

「そうなんだ。ありがと」

「おう、なんかあったらまた聞いてくれよ」

「うん。じゃあおやすみナツキ先輩」

「おう、と言ってももう朝になりそうだけどな」

 

そう言うと夏樹は少し白んできた空を見ながら、ドアを開けて屋上から中に戻ろうとする空閑にもう一言付け加えた。

 

「そうだ、迅さんも言ってたけど、こっから先はきっと楽しいことが起こると思うよ。そん時は全力で楽しめよ」

「そうだね。そうさせてもらうよ」

 

そう笑みを浮かべて空閑は屋上から中に戻っていった。

 

「もう朝か…さてとどうしたものかなぁー」

 

夏樹はそう呟いてコーヒーを口にして考えに沈んでいった。

 




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第14話

おまたせしました。
最新話凄かったですね!
情報量多スギィ!
帯島ちゃん可愛スギィ!


「失礼します」

 

そう言って夏樹は嵐山隊の隊室にお邪魔する

 

「来たか夏樹。忍田本部長から話は聞いたよ。とりあえず入ってくれ!」

 

夏樹を爽やかな笑顔でそう言いながら嵐山は自身の隊室に迎え入れた。

 

「はいお願いします。それでこれ、ドーナツです。皆さんで食べてください」

 

夏樹は嵐山にクリスピードーナツの箱を渡す。

 

「別に構わなくていいんだぞ」

「いや、今回はそういうわけには行きませんよ。玉狛(うち)のゴタゴタに巻き込むわけですから。まぁ俺の気持ち的なとこもあるんで、受け取ってくださいよ」

「わかった。充、お茶を頼んでいいか。後これも」

 

夏樹からドーナツを受け取った嵐山は時枝にドーナツを渡し、お茶を入れるように頼んだ。

 

「了解です」

「私も手伝います」

「おう、頼んだ。夏樹はそこに座ってくれ」

「はい」

 

嵐山に促され夏樹は椅子に座る。

座った夏樹は正面のソファに座っていた綾辻と目があった。

 

「報告書を書いた時以来ですね」

「そうだな綾辻。すまんな、生徒会に入隊式と忙しい時に」

「大丈夫ですよ!慣れてますから」

 

そう言って綾辻は胸を張る。

思わず綾辻の胸に目が行ってしまう夏樹。

だが普段教師含めて若い女性のいない男子校に通っている夏樹にはこう言った女子の光景を見る事が無いので、胸に目が行っても、光景を脳裏に焼き付けても仕方ないことなのである。

だが、日頃の冬華の調きょ…教育で綾辻に悟られることなく、こっそりとこの光景を頭の中に保存している夏樹。

ドヤ顔気味で胸を張っている事に気付き顔を赤くしている綾辻、表面上は真顔だが顔を赤くした綾辻にグッと来ている夏樹、2人の間に妙な沈黙が流れていた。

 

「お茶淹れてきました。どうぞ」

「先輩もどうぞ」

 

妙な沈黙がお茶を淹れて来た時枝と木虎によって破られた。

 

「2人ともありがとう。座ってくれ。賢は狙撃手(スナイパー)の訓練で遅れると連絡があった。という訳で夏樹、忍田本部長から話は聞いてるけど改めて事情を聞かせてくれるか?」

「分かりました。まずは…」

 

嵐山隊の全員が座ったのを見て嵐山が夏樹に事情を聞く。

夏樹は嵐山達に空閑のことや、城戸さん派が黒トリガー強奪に動くであろうことを説明した。

 

「なるほど…」

「そうだったんですね…」

 

話を聞いた嵐山隊の面々は自分達が思わぬところで救われていたことに驚きつつも納得の声を漏らす。

 

「今話した通り、自分は遊真を、空閑をボーダーに入れてやりたいんです。なのでどうか協力をお願いします!」

 

その反応を見た夏樹は椅子から立ち上がり、真剣に訴えかけるような眼で嵐山達を見て、体を畳むように深々と頭を下げた。

 

「!?あ、頭をあげてくれ。俺たちも協力させてもらうよ。話を聞く限り俺たちは空閑くんに借りもあるみたいだからな!」

「ありがとうございます!」

「みんなもそれでいいか?」

『はい!』

「よろしくお願いします」

「ああ。それで俺たちは何をすればいいんだ?」

「一応迅さんと自分で太刀川さん達と戦うんですけど、そこに忍田さん派として参戦してもらえればありがたいです」

「なるほどわかった。それでいつぐらいになりそうだ?」

「恐らくですが、太刀川さん達遠征部隊が帰ってくる、3日後の夜かと思います」

「3日後の夜か…」

「微妙ですね。確か防衛任務がありましたよね?」

「そうだな。だがちょうど終わる頃だろう。午後から夜までのはずだったよな」

「はい」

「なら終わり次第そっちに急ごう。夏樹それでいいか?」

「はい、大丈夫です。それじゃあ詳しい作戦を話しますね」

「ああ、頼む」

 

夏樹は嵐山達に迅と考えて決めたトリオン切れ狙いのプランAと、太刀川達がプランAに気づいた時用のプランBを説明する。

 

「そうか…迅が風刃を…」

「はい」

「わかった。俺たちは夏樹に加勢すればいいんだな?」

「はい。それで1つ渡しておきたいものがありまして。綾辻、これを」

 

夏樹は胸ポケットからUSBを取り出して、綾辻に渡す。

 

「あの、先輩これはいったい何ですか?」

「それには俺が新しい作ったトリガーのオペレーター用のソフトウェアだ。太刀川さん達と戦う時に使おうと思ってるから渡しておこうと思って」

「新しいトリガーですか…」

「どんなやつなんだ?」

「名前はスモークでいこうと思ってる」

「スモーク…発煙弾ってことですか?」

「とっきーの言う通り煙を出すけど、そっれだけじゃないんだな?」

「他に何かあるんですか?」

「そうだなぁ、まぁ説明するより早いか!嵐山さんトレーニングルーム使っていいですか?」

「おう、構わないぞ!俺も気になるしな!」

「じゃあとっきー、トリガー借りていい?俺が使うよりとっきーがスモーク使った方が効果がわかりやすいだろうから」

「わかりました。どうぞ」

 

時枝が夏樹にトリガーを渡す。

夏樹は嵐山と木虎に先にトレーニングルームに入ってもらい、綾辻と時枝にスモークの説明をする。

そして時枝のトリガーのメテオラの代わりに突撃銃の片方の枠にスモークをセットした。

時枝がトレーニングルームに入り、各々がトリガーを起動する。

 

『じゃあ早速始めても大丈夫ですか?』

「私は大丈夫です」

「ああ、俺もいつでも大丈夫だ」

『とっきーもいいか?スモークはさっきの説明通りにやってみてくれ』

「わかりました」

『それじゃ始めますね』

 

夏樹のアナウンスが消え、機械的な音声でカウントダウンが始まる。

トレーニングルームは何もない無機質な状態から市街地の一部が再現される。

街の中、嵐山と木虎、時枝がそれぞれの銃を構えて、少し距離を置いて向かい合う。

カウントダウンがゼロになった瞬間に時枝が動いた。

 

(スモーク!)

 

メテオラの大弾を白くしたものが時枝の突撃銃(アサルトライフル)から放たれ、嵐山と木虎の2人と時枝のちょうど真ん中あたりに着弾した。

そして着弾したスモークは大気と反応するのを防ぐ役割を持つカバー部分が割れ、弾体部分が大気と反応して辺り一帯に白い煙をまき散らす。

スモークは設定された通りの濃さと範囲を持って、嵐山たちの視界を奪った。

 

「木虎、警戒!」

「了解!」

 

警戒した木虎の元にアステロイド飛んでくる。

 

「くっ…シールド!」

 

たまらず木虎は手持ちのハンドガンで撃ってきた方向に撃ち返すが、シールドにさえ当たっている気配がない。

嵐山も木虎を援護するために広範囲にアステロイドをばら撒くが、こっちも手応えは無い。

だが相変わらずほぼ全ての弾丸が木虎に命中しており、ついにはシールドが割られ、木虎の戦闘体が破壊された。

嵐山は今さっきアステロイドが飛んできた方向にメテオラを撃つ。

しかしやはり反応はなく、思いもしない方向から撃たれて、嵐山もあえなく戦闘体を撃破された。

 

『嵐山、木虎、両名ダウン 模擬戦終了』

 

模擬戦を終えた三人がトレーニングルームから出る。

 

「とっきーどうだった?うまく作動してた?」

「はい、大丈夫でしたよ。うまく作動してました。さすがですね」

「そうか、なら良かった。綾辻もありがとな、わかんないところとか無かったか?」

「大丈夫でした。とても使いやすかったですよ」

「そうか、そっちも良かった」

「あの…そろそろ説明してもらってもいいですか」

「ああ、そうだな」

「一体どうなっていたんだ?充は俺たちの位置をわかってたみたいだったじゃないか」

「それはですね…」

 

夏樹は嵐山と木虎にもスモークの仕組みを説明した。

 

「なるほど、そういう事だったんですね」

「道理で充の射撃が正確だったわけか…」

「やっぱり風間隊対策ですか?」

「まぁ、俺が当たるとしたら風間さんたちか秀次たちあたりでしょうからね」

「なるほどな。ところで…これ何時本部に持ってくんだ?」

「一応はこの件の後ぐらいに鬼怒田さんに渡そうとは思ってますよ」

「そうか、それは楽しみだな。ぜひ使わせてもらうよ」

 

その後も何度か綾辻のソフトへ慣れる為の練習と、嵐山達との連携のために何度か模擬戦をこなした。

 

ひしがた

 

「それじゃあ自分たちはお先に失礼します」

「お疲れ様です」

「おつかれっす」

「おう、おつかれ。そんじゃよろしくな」

 

忍田本部長に報告に行く夏樹と嵐山を残して、途中から参加した佐鳥を含めた4人は帰っていった。

残った夏樹と嵐山の2人は忍田本部長の元へ行こうと隊室を出て廊下を歩く。

すでに外は暗くなっている時間だからか、隊員の姿はなく、廊下には2人の足音が響いていた。

 

「それにしても、驚いたよ。夏樹が今回のことに参加するなんてさ。俺はてっきり迅のやつに任せると思ったよ」

「そうですか?」

「ああ、前のお前なら迅に協力はしただろうけど、ここまでは動かなかったと思うぞ。変わったな」

「そんな変わりましたか?」

「変わったさ。四年前のお前はこういったものに関わる余裕が無かったぞ」

「まぁ確かにそうですね。あの時は親父達の代わりに冬華に不自由なくさせなきゃ、ってガキなりに必死でしたから」

「そうだな。あの時の夏樹は三輪とは別の意味で暗い奴だったな。そっからよくここまで変わったもんだな」

「それは皆さんのお陰っすよ。間違えそうになったとこを何度も助けてくれましたから」

「だからか?今回の空閑くんは…」

「そうですね。あいつはどっか俺に似てる気がするんですよ。だから俺は遊真にここで楽しい思いをして欲しいんです。俺もそれにだいぶ救われてましたから」

「そうか…」

「はい。なんで、改めてよろしくお願いします!」

「ああ!任せてくれ!」

 

夏樹は足を止め、嵐山に向かって改めて頭を下げた。

 

「しかし懐かしいな。もう四年前か…」

「…?何がですか?」

「俺たちの会見だよ。衝撃だったよ。お前の発言は」

「あ〜あれですか…忘れて貰えるとありがたいんですが…」

 

夏樹は気恥ずかしそうに指で頬をかき、目を外らす。

 

「そうそう忘れられないさ。まさか自分たちより年下の夏樹が記者相手にあそこまで口で追い詰めたんだから俺も柿崎もビックリしたよ」

「あれはあの記者の質問に怒りを抑えられなくて思わずやっちゃったんですよ」

「まぁそうだな。あれはお前が怒るのも仕方ないさ。でもまさか喋る予定のない夏樹が会見のメインニュースになるなんてな」

「今でもたまに街で声をかけられますよ…」

「それは仕方ないさ。根付さんが悪評を広めないようにしてくれたんだ。それくらいは我慢だな。あの時の根付さんの顔は凄かったよ」

「いやほんとに申し訳ないっす」

 

気がつけばさっきまで静まり返っていた廊下に2人の明るい会話が響いていた。




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第15話

遅れてしまい申し訳ないです。
体調崩したり、イベントをこなしたりで忙しく遅れてしまいました。


夏樹が嵐山達と会ってから3日後の12月18日、遠征から帰って来た太刀川らが黒トリガー強奪に動くであろう日。

すでに陽は沈み、辺りには闇がたちこめ、夜特有の静けさに包まれていた。

周りの家屋の明かりは消えており、人の気配を感じられない。

そんなゴーストタウンのような雰囲気漂う場所に夏樹と迅はいた。

 

「そろそろですかね?」

「ああ、もうすぐだ。嵐山達は?」

「ちょい待ってください。今確認します」

 

夏樹は綾辻にトリオン体の通信機能で連絡をする。

 

「…そうか、了解したよ。じゃあ伝えた作戦通りに…ああ、頼んだ」

「どうだ?」

「嵐山さん達はデカめのゲートが開いたらしくて、嵐山さんと木虎、時枝はそれの対処で遅れるそうです。でも佐鳥はこっちに向かってます。後、綾辻もこっちのサポートに入ります」

「そっか、そっちに進んだか…夏樹気合い入れていくぞ」

「了解!」

 

2人は目を合わせ、互いに気を引き締めた。

もうすぐ来るであろう激戦に備えて。

 

 

 

 

『「俺1人だったら」の話だけど』

 

迅さんと太刀川さん達の会話を通信越しに聞いていた俺は隠れていた場所から迅さんの隣へと跳んで、太刀川さん達と相見えるする。

 

「佐藤……!」

「夏樹先輩…!?」

「どうやら、いつも以上に本気のようだな…」

 

太刀川さん達はどうやら俺がいることに驚いているようだ。

まぁ確かに俺は、こういった事に関わらないから、もし俺もそっちにいたら驚いてるだろうけど。

 

『夏樹どうだった?』

 

迅さんが秘匿通信越しに嵐山さん達のことを聞いてくる。

 

『まだかかるそうです』

『じゃあ、あっちのプランだな』

『はい』

 

俺との秘匿通信を終えた迅さんは

太刀川さん達に向かっていつものように

 

「夏樹がいれば、はっきり言ってこっちが負けることはないよ。俺のサイドエフェクトがそう言ってる」

 

と、断言した。

俺も迅さんに続いて太刀川さん達に退くよう話す。

ここで退いてくれたら楽なんだけどな…

 

「なるほど、「未来視」のサイドエフェクトか、それに夏樹が出てくるとはな…随分と本気のようだな。ここまで本気なお前達は久しぶりに見る。……おもしろい、お前の予知を覆したくなった」

 

その一言で太刀川さんが左腰の鞘から孤月を抜いた.

そして迅さんも同じように風刃を抜く。

俺もレイガストをシールドモードで前に構える。

太刀川さんの後ろにいる人達ももそれぞれが戦闘態勢を取り、こちらの動きに目を凝らす。

俺はサイドエフェクトの使用率を20%まで上げて、太刀川さんらのありとあらゆる動きを予想していく。

最初に動いたのは風間隊の3人だった。

俺たちに向かって3人は駆け出してくる。

俺は後ろに跳んで下がり、風刃を構えて風間達を迎え撃つ迅さんの援護できるようにする。

 

「バイパー」

 

俺は、瞬時に前に立っている迅さんを避けて道路いっぱいに広がる弾道を組み、バイパーを撃つ。

出水の「でかっ!?」と言う声が聞こえ、太刀川さんの好戦的な笑みと、他の人達の驚愕の表情が目に入る。

 

太刀川さん、どれだけ戦闘狂なんだよ…

 

撃ったバイパーは、弾道通り飛んで行ったが太刀川さんらはシールドで防ぐなり、横の家屋の屋根に飛んで躱すなりして凌がれた。

だけどその隙に迅さんが、先頭でシールドを張っていた風間さんに向かって風刃を振るう。

風間さんは、迅さんの振るった風刃を右手のスコーピオンで受け流すようにして防ぐ。

そこに太刀川さんと風間隊の2人が加勢してが迅さんと4人で近接戦が展開される。

俺は、迅さん達の接近戦に出水らが横槍を入れさせないよう、バイパーを撃ちまくる。

今はタンクも解放している。

 

やってやる!!大盤振る舞いだ!

 

時折、太刀川さんの旋空孤月や出水の攻撃が俺に向かってくるがそれはレイガストで凌ぐ。

次の手を考えていると、背後に気配を感じる。

レイガストを背後へと振り、背後に振り向く。

 

「いや〜気づかれちまったかー流石っすね」

「ギリギリな」

 

俺はそう言うと同時に、身体を捻ってさっきまで向いていた方向からの狙撃を躱す。

 

「うおっ!それも躱すとかマジかよ!?」

「今度からは視線に気を付けることだな」

 

驚きつつも米屋は槍を構え直して俺に向かってくる。

斜め上から誰かが走ってくる音が聞こえ、米屋に向かってスコーピオンを投げ牽制して、距離を取り足音の方を向き、飛びかかってきた足音の主である秀治の孤月をレイガストで防ぐ。

弧月をはじかれた秀次は、俺の向こう側に居る米屋にアイコンタクトを交わす。

秀次と米屋の位置取りのうまい連携攻撃と、時折飛んでくる動きを阻害するような奈良坂と古寺の狙撃によって俺は迅さんの援護をする余裕がなくなった。

さらに、時折上から出水が撃ったバイパーが飛んでくる。

 

まずいな…このままじゃ押し込まれちまう

 

俺は、背後に回り込んでいる米屋に蹴りを加え、米屋を一旦遠ざける。

そして目の前の秀次に、スコーピオンの軽さを活かした連撃を叩き込み、防御に専念させる。

その隙に迅さんらが戦ってる方へ視線を向け、テレポーターで跳ぶ。

 

「なっ…!?」

 

跳んだ先で、いきなり現れた俺に驚いている歌川に、スコーピオンを生やした足で蹴りを加える。

驚きで一瞬反応が遅れた歌川の防御は、スコーピオンで切られるのは防いだが、歌川本人は家屋の塀へと吹き飛ばされた。

迅さんは、その間に菊地原を風間さんの方へバランスを崩させて、太刀川さんの弧月を弾く。

今ので出来た隙に乗じて、俺と迅さんは太刀川さんらから距離をとる。

 

『一旦距離を取りますか?』

『そうだな、作戦通りにそろそろ動くか。頼めるか』

『了解です。カバー頼んます』

 

迅さんとの秘匿通信を終えて、俺はサイドエフェクトの使用率をさらに30%にまで上げる。

 

炸裂弾(メテオラ)変化弾(バイパー) 変化炸裂弾(トマホーク)

 

30%まで上げた頭で、狙撃手に狙われないように素早く弾を合成、キューブを細かく分割してそれぞれ全員を鳥籠で囲う弾道を設定して放った。

放たれた弾丸を太刀川さんたちは、素早く防御から回避に意識を切り替えて躱していった。

その隙に俺と迅さんは、後ろの交差点を曲がり、太刀川さんたちからいったん距離をとった。

 

 

 

 

舞い上がった土煙を前に、太刀川たちは周囲を警戒をしながらも迅と夏樹への対抗策を話し合っていた。

まぁ話し合うと言っても、実際は通信を用いているので声は出ていないのだが。

 

「2人纏まってるとなかなか殺し切れないな」

「そうだな。それに迅はまだ風刃を一度も撃っていない。トリオンを温存する気だろう」

「佐藤先輩もヤバいんじゃないですか?あのキューブ見ました?デカすぎでしょあれ」

 

この場にいる全員が思っていることを出水が口にする。

夏樹は普段は「タンク」という自作のトリガーで、夏樹本来のトリオン量の3分の2を貯め、トリオン体構築用のトリオンを3分の1に制限することでトリオン体構築までの時間を短縮している。

また貯蓄されているトリオンはいつでも戦闘用に使用できるようになっている。

そして今、夏樹は「タンク」の制限を解いているため、夏樹本来のトリオン量を存分に使えるのだ。

さらにそれに加えて、今まで貯められていたトリオンを使うことも出来るので、トリオン切れが起こることは無いだろう。

 

なにこの化け物(トリオンモンスター)

 

もっとも夏樹のトリオン量は膨大なため、トリオン体の構築にとてつもなく時間がかかる。

その為夏樹は滅多に制限を解くことがないのだが、だが今回はその制限が解かれており、今回のことへの夏樹の本気度がうかがえる。

 

「ああ、おそらくあいつのトリガーの制限を解除しているんだろう」

「だとすると、まずいだろ。あいつのトリオンは化け物レベルだからな、持久戦に持ち込まれたらなおのこと面倒だな」

「こいつら無視して、黒トリガーを獲りに行ったらダメなんですか?うちの隊だけでも」

「ダメだ。玉狛には木崎たちもいる。ここで戦力を分散させるのは危険だ。それにそれがあいつらの狙いかもしれない」

「なるほど……了解」

「でもどうするんですか太刀川さん?このままじゃ埒が明かないっすよ」

「そうだなぁ…三輪、米屋と古寺はまだか?」

「もうすぐ合流します」

「そうか……風間さんと冬島さん、二人の隊で夏樹を頼めるか?その後、夏樹が片付き次第こっちに合流してくれ」

『なるほど、各個撃破しようって訳だな』

「頼めます?」

『ああ、俺は大丈夫だ。既にある程度ならワープも仕掛けられた。準備OKだ』

「風間さんもそれでいいですよね」

「ああ、構わない。それで行こう。行くぞ菊地原、歌川」

「「了解」」

 

風間隊の面々は、そう言うとレーダーからさっき反応が消えた方、バッグワームの使える夏樹の方へと走り出した。

そしてそのあとに続いて太刀川らもレーダーに反応を残している方、つまりは黒トリガーの迅の方へ向かいだした。

 

 




次はなるべく早くできるよう頑張ります。

感想、評価、アドバイスなどなどお待ちしています。
なんでも貰えたらモチベが上がるのでありがたいです!


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第16話

今回は少し短めです。
次で黒鳥争奪戦終われればいいなぁ


 

太刀川らと別れた風間隊は、さっきまでレーダーに反応があったところへ向かっていた。

 

『風間さん、夏樹を見つけたぜ。位置はそっから東に50くらい行ったとこの公園だ。そこ木からバッグワームがはみ出てるぜ』

「わかった。当真はそのまま警戒していろ」

『了解』

「……っ!?危ない!」

 

夏樹の場所に向かおうとした時だった。

菊地原が、何かに反応したように歌川を突き飛ばし、自分も後ろへ跳んだ。

間一髪のタイミングでさっきまで2人のいた位置にバイパーの雨が降り注いだ。

 

「助かった菊地原」

「位置がばれてい…っ!」

 

風間が話そうと口を開いた瞬間、再び風間達にバイパーが四方八方から襲いかかる。

 

「シールド」

 

3人はお互いカバーし合い、バイパーを防ぐ。

 

『なっ!?警戒!!』

 

レーダーを見た三上が、焦ったように風間達に警戒を促す。

レーダーには風間達のすぐそばに新たに反応が出て、風間達に猛スピードで近づいていた。

それも西側から。

 

「どうなってる…当真、バッグワームは?」

『それが今さっき消えちまった。どういうことだ?』

『…おそらくだが、あらかじめバッグワームを脱いで、木か何かに掛けておいたのだろう。本人は…』

 

ちなみにそれは夏樹のいない世界だったら、ランク戦で東が使った手と似たようなものだった。

 

『佐藤先輩の反応がまた消えました!』

「なに!?……っ!来るぞ!」

 

冬島の推測を聞いていた風間達の元に、またしても軌道を複雑に描きながら弾の雨が降ろうとしていた。

 

「ハァー、またですか…シー「止せ!避けろ菊地原!」…!?」

 

菊地原が、今度の攻撃もシールドで防ごうとした時、風間はハッと何かに気づき、菊地原に避けるよう叫び、自分も急いで後ろへ跳んだ。

 

「なっ!?変化炸裂弾(トマホーク)か!」

 

歌川が言ったように、跳んできた弾丸は複雑な軌道を描き、着弾した途端に爆発した。

そう、夏樹が撃ったのはバイパーではなく、メテオラとの合成弾、トマホークだった。

 

「くっ!」

 

着弾したトマホークの爆発は、シールドで防ごうとして反応の遅れた菊地原の、左足の足首から下を飲み込んだ。

 

「無事か?菊地原!」

 

風間の問いに、咳き込みながらも菊地原は右手を挙げて答えた。

だがその左足首から先は、今のトマホークで無くなっていた。

 

「三上、レーダーの反応はどうだ?」

『さっきまでの反応は消えて、今は反応ありません』

「そうか…」

「次弾来ます!」

 

 

 

 

「佐鳥、どうだ?当たったか?」

『ダメっすねー。今度のは躱されました』

「そうか…さすがは風間隊だな。なかなか思い通りにはいってくれないか…」

『でも少しずつですが、攻撃は与えられています』

「まぁそうだな。頼むから、とっとと撤退してくれー」

 

俺は、迅さんと別れた後、後を追って来た風間隊と冬島隊を相手にしていた。

ありとあらゆる手を使って。

 

ある時は、バッグワームをしたままバイパーで狙ったり…

 

またある時は、バッグワームを解除して近づくような動きを見せて、トマホークを撃ったり…

 

さらにバッグワームを解除して、トマホークではなく敢えてバイパーを撃ったり…

 

一人時間差射撃をしたり…

 

俺は佐鳥というスポッターの元、自分の姿を見せないまま風間さん達に攻撃を加えていた。

 

『それにしても、恐ろしいっすね〜。良かったーあっち側じゃなくて』

「そうか?」

『そうっすよ!ゾエさんのメテオラより、厄介ですよ。絶対』

「まぁ、戦闘はやられたら嫌な事をするのが基本だからいいんだよ」

『そんなこと言ってると、いつかやり返されますよ〜』

 

やり返せるなら、やり返してみろってもんだ!

バイパーの精密な弾道設定、バイパーとトマホークの違いを感じさせないような弾速調整、合成弾を素早い作成、そしてある程度のトリオン量、これらの条件に当てはまっているのはそういないだろう。

まぁ俺自身もサイドエフェクトのおかげで出来ているようなものなので、そう長くはできないだろう。

実際、サイドエフェクトを30%、合成弾を作る時に至っては40%まで上げているんだ。

 

「あぁ〜頭、いてぇ」

 

言ったそばからこれだ…

酷い頭痛と倦怠感だ。

トリオン体じゃなきゃ、倦怠感で座り込んでただろう。

俺は隊服のポケットからチョコバーを取り出して食べた。

チョコの甘い味が口に広がり、じんじんと頭に響いていた頭痛が少し薄らぐ。

 

『大丈夫ですか?』

 

綾辻が心配そうに聞いてくる。

 

「ああ、大丈夫だ。まだいけるよ」

 

佐鳥に風間さん達の様子を確認してもらうよう頼む。

 

「佐鳥どうだ?どんな状況になってる?」

 

そしたら、遠くの方からドンッという音が聞こえた。

隠れていたマンションの一室のベランダから、身を乗り出して外を見ると、遠くで本部基地へと飛んでいくように光が走っているのが見えた。

ベイルアウトだ。

おそらく迅さんが誰かを倒したのだろう。

 

緊急脱出(ベイルアウト)!?』

「綾辻、作戦変更だ。嵐山さんにも言ってくれ」

『了解です。事前の打ち合わせ通りでいいですか?』

「いや、嵐山さん達には冬島さんと当真を探してもらえるか?」

『わかりました』

「後、綾辻スモークのサポートも頼む。悪いな、色々任せて」

『いえ、これくらい大丈夫です!』

「そうか、助かるよ」

『夏樹先輩、俺は?』

「佐鳥は、風間さんたちをいつでも狙撃できるよう待機していてくれ」

 

さてと、こっちも仕掛けるとしよう。

そう決めた俺は、バッグワームを解除して、トマホークを撃つ。

そしてトマホークが着弾するタイミングで、風間さん達に向かって走り出し、数十メートルまで近づいて、菊地原の背後にテレポートする。

 

いくら耳がいいからといっても、爆撃の中、テレポートする前の遠くの足音は聞き取れないだろう。

 

「菊地原!!」

「…っ!」

(獲った!!)

 

俺のその考えは的中、菊地原は突然現れた俺に驚き、反応が遅れる。

それを好機とばかりに俺は、菊地原を袈裟切りにせんとばかりに斬りかかった。

 

 




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第17話

少し遅くなってしまい申し訳ありません。
アンケートにご協力してくださった方、ありがとうございました。


 菊地原は、俺の袈裟斬りを躱そうと身体を仰け反れせたが間に合わず、左肩からトリオン供給機関手前にかけてを大きくダメージを受けた。

 

チッ、供給機関には届かなかったか……

まぁでも、左腕の伝達系は切断した。

これで左は使えんだろ。

 

 俺は、追撃が来る前に菊地原を攻撃してる時から座標設定していたテレポーターで、菊地原とその後ろにいる風間さんと歌川の背後へと跳んだ。

だが風間さんは、俺が跳んだ先を予想したみたいでこっちを向いて、牽制目的の攻撃をしてきた。

 

「菊地原、戦えるか?」

 

 こちらを警戒しつつ菊地原の方へ視線をやる風間さんの問いに、菊地原は頷いて答え、スコーピオンを展開して右手に持って構える。

風間さんと歌川もスコーピオンを持ち、俺の目を見てテレポーターを警戒する。

 風間さん達三人の動きを注視していた俺の視界の端に、閃光が迸り遅れて弾丸が飛来した。

 

「レイガスト」

 

 俺は、左手にレイガストを展開する。

 そして狙撃を受け流せるように構え、飛んできた弾丸を弾いた。

 レイガストを構え直し、右手を手刀のように構えて、手刀の側面にスコーピオンを生やす。

 

「来るぞ!」

 

 俺は、こちらに向かってくる風間さんにシールドを構えて突撃する。

 風間さんの横薙ぎに振るわれたスコーピオンをレイガストでパリィする。

 そしてパリィで隙のできた風間さんの胴に向かって、スコーピオンで突きを繰りだす素振りをする。

 俺の突きを躱そうと、風間さんは左半身を後ろに引こうとする。

 

 かかった!! 

 

 そう思った俺は、左手のレイガストを形を変えずにブレードモードに切り替えてスラスターを起動する。

 

「スラスターON!」

「しまっ……!?」

 

 予測していなかった攻撃に回避が間に合わなかった風間さんの右脇腹に俺のレイガストが決まり、風間さんを後ろへと吹き飛ばした。

 

「「風間さん!」」

 

 すぐさま、俺に歌川と菊地原が斬りかかり、風間さんのカバーに入ってくる。

 

 2人の密度の高い連携を、シールドモードに戻したレイガストで、しのぐ。

 菊地原が下段蹴りを繰り出して、俺の足をとろうとする。

 そして取られまいと、上に飛んだ俺に、いつのまにか後ろに回り込んでいた歌川が、スコーピオンを振り上げながら、アステロイドをいくつかに分裂させ横方向に拡散させて放つ。

 

「アステロイド!」

「くっ! シールド」

 

 俺は、歌川が振り上げて来たスコーピオンをレイガストで弾き、多方向から無数に迫るアステロイドをシールドで防ぐ。

 

『先輩、右です!!』

「!?」

 

 綾辻の通信通りに右上から、風間さんが何もないところから突如現れて、スコーピオンを振り下ろして来た。

 俺は咄嗟に右手にスコーピオンを生やして、振り下ろされた風間さんのスコーピオンを受け止める。

 スコーピオンで風間さんの攻撃を防ぎ、レイガストで歌川を弾いたことで、空中で身動きが取れず、隙のできる。

 隙の出来た俺に、前後から菊地原と歌川が、俺に斬りかかってきた。

 

「スラスター」

 

 俺はスラスターを起動して、左側へ飛ぶ。

 風間さんら3人から離れた位置に着地したところに、予期していたかのようにピンポイントで、狙撃が飛んできた。

 

「シールド」

 

 前の狙撃とは別の場所から放たれた狙撃は、俺が展開したシールドによって防がれた。

 

 イーグレットじゃ俺のシールドは破れない。

 

 そう思いつつ、俺は佐鳥に当真がまだ今の場所にいるか確認するように通信をする。

 横にいた風間隊の姿が消えていった

 おそらくカメレオンを使ったのだろう。

 

 来た!! 

 

『綾辻、スモーク使うぞ!』

『了解です。……OKですいつでもいけます!』

 

 綾辻が用意出来たことを確認した俺は、スコーピオンを仕舞い、グラスホッパーを外して、代わりに入れてあったスモークを起動する。

 起動すると、手のひらに他のシューター用トリガーとは違った、白く輝く立方体が現れた。

 そしてその立方体は、弾けるように辺り一面に白い煙をまき散らした。

 

 

 ◆

 

 

 夏樹がスモークを使ったことで、風間隊を白い煙が覆った。

 

「……!? 三上、視覚支援だ」

 

 風間が、三上にいち早く視覚支援の指示を出す。

 すぐに三上の『視覚支援』の通信越しの声と共に、支援が起動した。

 だが視界を埋め尽くす白い煙は晴れなかった。

 

『風間さん』

 

 声で位置がバレないよう通信越しに歌川が、風間に指示を仰ぐ。

 

『おそらく夏樹の新トリガーだろう。菊地原、耳はどうだ?』

『大丈夫ですよ』

『わかった。なら……!?』

 

 風間が聴覚共有をしようと提案したその時だった。

 ドンッという音がして、菊地原が緊急脱出(ベイルアウト)した。

 

『歌川、急いで煙から出ろ!』

 

 風間は、歌川に煙から出るように指示しつつ、自身も急いで煙から出た。

 

「風間さん、どうしますか?」

「夏樹はおそらく煙の中でも俺たちの姿が見えているのだろう」

「カメレオンは?」

 

 歌川の問いに、風間ではなく緊急脱出(ベイルアウト)した菊地原が答えた。

 

『見えてると思いますよ。僕がやられた時はカメレオン使ってたんで』

「そうか……ならもうカメレオンは使わない方がいいな。当真、やつが出て来たとこを狙撃できるか?」

『ああ、できるぜ風間さん』

「わかった。歌川、俺たちも狙撃と同時に仕掛けるぞ。一応、テレポーターにも気をつけろ」

「了解です」

 

 風間と歌川は、煙の中から出てくるであろう夏樹を警戒する。

 

「来た!」

 

 煙から何かが飛び出た。

 

『余裕だぜ』

 

 当真が狙撃した。

 狙撃は見事に飛び出たところへと飛んで行った。

 それと同時に風間が、そして少し反応が遅れた歌川が、走り出した。

 

『なっ!?』

 

 狙撃は見事夏樹に命中したかに思われた。

 だが狙撃は、夏樹ではなく、スコーピオンに当たった。

 そう、飛び出して来たのは夏樹ではなく、スコーピオンだったのだ。

 スコーピオンは弾に当たって砕けて消えていった。

 そして風間達が警戒していた夏樹は、テレポーターで風間と歌川の隣へと跳んできた。

 跳んできた夏樹は風間に向かって一直線に駆け、スコーピオンを風間に振り下ろそうとする。

 

「風間さんっ!!」

 

 それに気づいた歌川が、風間と夏樹の間に入って、自らのスコーピオンを横して掲げることでガードしようとする。

 お互いのスコーピオンは、ぶつかり、砕けるかに思えた。

 だが夏樹の振り下ろされたスコーピオンは、歌川のスコーピオンを、避けるように変形しながら、通り過ぎたのだ。

 まるで米屋が使う幻妖孤月のように。

 そして夏樹のスコーピオンは、元のブレードの形に戻り、そのまま歌川の左足の膝下を斬り落とした。

 体勢を崩す歌川に、夏樹が新たに生成したレイガストでとどめを刺そうとした。

 そこに歌川を飛び越えて、風間がカバーに入った。

 風間は、息もつかせぬ連撃で夏樹を下がらせ、さらに追撃する。

 

「くっ……」

「アステロイド!」

 

 そこに歌川が、体勢を崩しながらもアステロイドを、夏樹の動きを阻害するように放つ。

 さらに当真による、狙撃の援護射撃が加わる。

 

「シールド」

 

 夏樹は、アステロイドと狙撃をシールドで防ごうとするが、シールドを張った瞬間、風間がシールドをスコーピオンで叩き割った。

 

「なっ!?」

 

 たまらず夏樹は、後ろへ大きく下がっていった。

 その時夏樹は、レイガストのブレードを仕舞い、視線を風間と歌川の奥の方へと向けながら下がった。

 

 テレポーターだ。

 

 そう思った風間、歌川、狙撃位置にいた当真の3人は、夏樹の視線と見ている時間を考えて、夏樹が跳んで来るであろう位置を予測して、警戒する。

 夏樹が消えた。

 

(((来る!!)))

 

 風間は、歌川の横を通って予想位置に近づき、両手にスコーピオンを持つ。

 歌川は、片足を失っている為、近接戦は厳しいと判断して、少し下がってアステロイドを出す。

 当真は、狙撃銃の照準を予測位置に合わせ、引き金に指をかけた。

 

「えっ?」

 

 ピシッという音と共に、歌川の身体に罅が入った。

 驚きのあまり声が漏れる。

 その声は、突如自分の後ろから攻撃を食らった歌川のものだった。

 

「な、何が……」

 

 夏樹は、風間達3人が予測した距離よりも、短い距離を跳んだのだった。

 そして跳んだ先にいた歌川を、背後からレイガストで供給機関を貫いた。

 

 〔 トリオン供給機関破損 緊急脱出(ベイルアウト) 〕

 

 歌川が、本部基地への軌道を描いて緊急脱出した。

 風間は、歌川の緊急脱出(ベイルアウト)の瞬間の閃光を利用して、夏樹に両手のスコーピオンで猛攻撃を仕掛けた。

 夏樹に反撃の隙を、主導権を渡さない、まさに攻撃は最大の防御と言わんばかりの風間の猛攻に、夏樹は防戦一方になる。

 そしてその夏樹に、横から当真による狙撃が加わった。

 夏樹は、狙撃の方へレイガストを向けて、狙撃を防ぐ。

 風間は、狙撃を防いだことで夏樹のレイガストの向きが自らから外れた瞬間、レイガストを掴み、下に引っ張る。

 そうすることで夏樹の重心がレイガストにつられてずれる。

 風間はさらに追い打ちとばかりに、足をかけて夏樹の体勢を崩した。

 

「……っ!?」

 

 夏樹は、咄嗟に腕にスコーピオンを生やす。

 風間は、一撃目で夏樹のスコーピオンを割り、二撃目でとどめを刺そうと、両手にスコーピオンを持ち、思いっきり振り下ろした。

 その時、風間の脳裏に嫌な予感が走ったが、風間はそれを無視してそのままスコーピオンを振り切った。

 

「何っ!?」

 

 振り下ろしたスコーピオンは、夏樹のスコーピオンとぶつかり、2つとも砕け散ったのだ。

 風間は、同じスコーピオン同士でぶつけたのにもかかわらず、自身の両手の2つのみが壊れ、夏樹の手に生えたスコーピオンは割れるどころか、罅さえも入っていないことに驚いた。

 その為、風間は一瞬動きが止まってしまった。

 

「スラスターON!」

「しまっ!」

 

 夏樹は、風間のその隙を見逃さず、レイガストをスラスターで飛ばして、風間の足を取った。

 風間は、バランスを崩して前に倒れこむ。

 

 倒れこむ風間に、夏樹が瞬時に手に生やしたスコーピオンを剣の形に変えて風間を斬った。

 

 〔 戦闘体活動限界 緊急脱出(ベイルアウト) 〕

 

 

 




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第18話

パソコンがぶっ壊れたり、ネットが使えなかったりで投稿が遅くなりました。すいません<(_ _)>


 

「あぁー、頭いてぇ…」

 

俺は、頭痛と空腹で目を覚ました。

時計を見ると、短針が真上を刺そうとしていた。

ダメだ…

どうにも昨日の風間さん達との戦闘の記憶が曖昧だ。

 

「あの後どうなったんだっけか…」

 

頭の中に広がった靄を払うようにして、昨日のことを順繰りに思い出す。

 

「えーっと、確か…」

 

 

風間さんを緊急脱出(ベイルアウト)させた俺は、当真の狙撃に警戒しながら、迅の方へ向かった。

風間隊との戦闘中に、三つの緊急脱出(ベイルアウト)の光が確認できた。

恐らく、迅さん側ももう終わることだろう。

 

「綾辻、嵐山さん達はどんな状況だ?」

『まだ冬島さん達を探しています。どうしますか?』

 

なら、まだ嵐山隊は今回の一件に、直接はかかわってないはず…

だったら計画を少し変えるか…

 

「嵐山さんにつないでくれるか?」

『了解です』

 

少しして、嵐山さんと通信がつながった。

 

『夏樹か?すごいじゃないか!風間隊を全員倒すなんて』

「それは風間さん達の知らないものを使ったからですよ。あと綾辻のおかげです。ありがとうな綾辻」

『どういたしましてです』

「今度なんかお礼するよ」

『夏樹先輩、俺は〜?』

「佐鳥は…なんかしたか?」

『ひ、酷いですよ〜。俺もいましたよ』

 

あ、そういえば、佐鳥もスポッターしてくれてたな…

忘れてた。

 

「ハハハ、冗談だよ。佐鳥もありがとな」

『それで夏樹、俺たちはどう動けばいい?』

「あーそれなんですけど、嵐山さん達は戦わなかったじゃないですか。

佐鳥と綾辻のサポートはありましたけど」

 

まぁ佐鳥のスポッターも、綾辻の情報支援も、風間さん達からはわからないだろうし

 

『ああ、そうだな』

「なんで、ここで戦闘があったことを、忍田さんに報告してください」

 

忍田さん派は中立に立ってもらうことにしよう。

 

『わかった。どう報告すれば良い?』

「あくまで、隊員同士で戦闘があったと、報告してもらえれば」

『了解だ』

 

俺は嵐山さんに、忍田さんへの伝言を頼んで、嵐山さん達と別れた。

そして俺は、ひとまず迅さんと合流することにした。

 

 

 

 

「一体、どういう事でしょうか!!」

 

激しい怒りを含んだ大きな声が、机を強く叩く音と共に、会議室に響き渡った。

怒声の主である忍田は、怒りの対象である城戸派一党に対して、まるで虎のような鋭さを持った眼光でにらみつけた。

 

「何がだね忍田君?」

 

忍田の「タイガー怒ってるよにらみ」によって鬼怒田、根付、唐沢の防御力が下がる中、平然と城戸司令が聞き返した。

 

「先ほど、防衛任務に出ていた嵐山隊から報告がありました。太刀川隊、風間隊、冬島隊、三輪隊が、玉狛支部の迅隊員、佐藤隊員と戦闘していたと。どういうつもりか説明していただけますか」

「………」

「何故、論議を差し置き強奪を強行したのですか!前の会議で空閑君の件は保留になったはずだ」

「………!」

「もう一度はっきりと言っておくが、私は(ブラック)トリガーの強奪には反対だ。ましてや相手は有吾さんの子…」

 

忍田の眼光がどんどん鋭くなっていく。

そして周りの防御力もどんどん下がっていく。

 

「まだ刺客を差し向けるつもりなら、今度は玉狛だけじゃなく、嵐山隊も…いや、この私も相手になるぞ!城戸派一党!!」

 

その一言と共に忍田の眼光がより一層鋭くなった。

背後に虎が視えそうなほどの威圧感に、城戸派一党は城戸を含め押されていた。

 

「失礼します」

 

会議室に漂う重い空気が、ガチャとドアを開けて入ってきた人物によって霧散した。

 

「どうも皆さんお揃いで。会議中にすいませんね」

「どうも…」

「…!」

「迅!?佐藤も!?」

 

会議室の面々に緊張が走る。

 

「きっさまらぁ~!!よくものうのうと顔を出せたな!」

「まあまあ鬼怒田さん血圧上がっちゃうよ」

「ちょっ迅さん、あんま煽らないでくださいよ!空気読んで!

 

そんなどこか緊張感のない二人のやり取りに、鬼怒田はさらに怒りを募らせる。

 

「何の用件だ迅、佐藤。宣戦布告でもしに来たか」

「違うよ城戸さん。俺たちは交渉しに来たんだ」

「交渉だと…!?裏切っておきながら…」

「いや…本部の精鋭を2人だけで撃破した。戦力はほぼ対等と言える今が、まさに交渉のタイミングでしょう」

 

夏樹と迅が話を切り出した。

 

「こちらの要求はひとつ。自分達の後輩、空閑遊真のボーダー入隊を認めて頂きたい」

「太刀川さんが言うには、本部が認めないと、入隊したことにならないらしいんだよね」

「なるほど…「模擬戦を除くボーダー隊員同士の戦闘を固く禁ずる」か」

「なっ!?規則を盾にとって、ネイバーを庇うつもりかね!?」

「貴様ら一体何をしようとしておるのだ!主導権を得るつもりか!」

「違いますよ。自分たちはそっちに勝とうとか、主導権がどうのとかは、考えてないですよ。ただ後輩の入隊を認めて欲しいだけです」

「そう。だから、ただでとは言わないよ。代わりにこっちは風刃を出す。うちの後輩の入隊と引き換えに本部に風刃を出すよ」

 

迅はそう言って、腰のホルダーの風刃を机の上に置いた。

 

「そっちにとっても悪くない取引だと思いますよ」

「………取引だと?そんなことせずとも私は、太刀川達との規定外戦闘を理由に、お前達のトリガーを取り上げることも出来るんだぞ」

「その場合は、太刀川さん達も没収ですよね?なら、それはそれで構わない。ですよね?迅さん」

「ああ、平和に正式入隊日を迎えられるんだ。どっちでもいい」

「没収するのはお前達だけだと言ったら?」

「城戸司令、いくらあなたでもそんな話を通させるわけにはいかない!!そんなことは本部長として見過ごせない。もしそうなれば、我々も加勢させてもらう」

「「城戸司令…」」

「さぁ、どうする?城戸さん」

「……」

「さっき夏樹も言ったけど、俺たちは、後輩を陰ながらカッコよく支援してるだけで、何も戦争しようってわけじゃない。ただ後輩達の戦いを大人に邪魔されたくないだけだ。ただひとつ付け加えるなら、うちの後輩達は城戸さんの「真の目的」のためにもいつか必ず役に立つよ。俺のサイドエフェクトがそう言ってる」

「……」

 

迅の話を聞いた城戸は、迷っているのか、頭に手を当て少し黙る。

 

「いいだろう。玉狛支部、空閑遊真のボーダー入隊を正式に認めよう。ただし風刃とは別に、もう一つ条件を認めてもらおう」

「条件…?」

 

城戸は、迅の言葉に頷き、迅の隣に立っている夏樹を指差した。

 

「佐藤、お前の本部への転属だ」

「…っ!?」

 

城戸の条件に周りが衝撃を受け、迅でさえ己の予知が外れたのか驚いている中、当の夏樹は平然と答えた。

 

「構いません。それで遊真を正式なボーダー隊員として認めてもらえるのなら」

「いいだろう。風刃と佐藤の本部への転属を持って、空閑遊真のボーダー入隊を正式に認める」

 

 

 

 

グゥー

 

昨日のことを思い出していると、大きなお腹の音によって、現実に引き戻された。

 

「お腹減った…」

 

相変わらず頭痛がひどいが、サイドエフェクトを使った後はいつものことだから置いておいて、とりあえず朝飯だな!

いや、もう昼か…

体を起こしてベットから出る。

ベット横のサイドテーブルに置いてあった私用のスマホを手に取って、部屋を出る。

未だに痛む頭を抑えながら、一階に降りるとそこにいたのは

 

「起きたか夏樹。随分と遅い目覚めだな」

「……」

 

雷神丸に跨った陽太郎…

いや、なんか違う

なんだろう…

いつもより雷神丸が小さいような…

いや、陽太郎が大きいのか…

いやいや、そんなすぐ身長なんて変わんねぇだろ!

…!?

まさか!!

俺は、サイドエフェクトの副作用で、長い間眠っていたのか!

 

「どうかしたか?」

 

ダメだ…

もう何がなんだか分からん!

とりあえず俺は、現状1つだけ確実なことを、天に向かって大声で叫んだ。

 

「陽太郎が大きくなっとる!!」

 

そう叫んだ俺は、顔面と後頭部に衝撃を感じ、再び意識を失った。

 

 

「…きろ。…つき、起き…」

「んん〜、陽太郎…ハッ!あれ俺は何を…」

 

俺は、誰かに揺すられて目を覚ました。

 

「起きたか」

「あれ?風間さん?」

 

俺を起こしたのは風間さんだった。

 

「あれ?…大きくなった陽太郎は?」

「何を言っているんだお前は」

「ん?そういえばなぜ風間さんがここに?ってか他の人たちはどこへ?」

「なんだ、まだLINEを見ていないのか?他の奴らは防衛任務や昼食、バイトにそれぞれ出かけたぞ」

 

俺はスマホを確認する。

 

迅さん : ボス達と味自慢に行ってくる。起きたら連絡してくれよ

 

あぁ、ラーメン食いに行ってるのか。

あれ?じゃあさっきの陽太郎は一体…

 

風間さん : 昨日のことでいくつか聞きたいことがある。明日の昼ごろに玉狛に行く。

 

おっ、これだな。

明日の昼ごろって、そっか今か。

 

「すいません、今見ました。それで聞きたい事ってなんですか?」

「それは、ーー

 

グゥー!!

 

風間さんの声を遮るような爆音が俺のお腹から響いた。

 

「す、すいません…昨日の夜から食ってなくて」

「はぁ〜、仕方ないどこかに食いに行くぞ。聞きたいことはそこで聞く」

「了解です。着替えてきますね」

 

着替えた俺は、風間と共に三門市内のファミレスに行った。

 

「それで、聞きたいことというのは何ですか?」

 

俺らの注文を聞いた店員が厨房の方へと去っていくの確認して、お冷やを飲んでいる風間に問いかけた。

 

「昨夜の戦闘で、お前が使ったやつについてだ」

「あー、スモークですか?」

「そうだ、あの煙幕だ。佐藤はあの煙幕の中でも俺たちのことがわかっていただろう?」

「はい、くっきり視えてましたよ」

「どうやって?」

「う〜ん、なんて説明しようか…」

 

俺は頭の中で言葉を組み立てていく

 

「分かりにくかったらすんません。鋳造でイメージしてください」

「鋳造…」

「えーと、まずスモークの煙が、鋳造で言うところの、溶液を流し込まれる型、土とかですね。それで、スモークの中にいる人や物が鋳造された物です」

「なるほど…お前は、その鋳造物たる俺たちの輪郭を見ていたわけだな」

「そういうことです。まぁスモーク自体が透けて見えるわけじゃないんで、外からの狙撃に弱かったりするんですがね」

 

まぁ逆にスモークの中に撃ち込むのは、強いと思うんだよなぁ壁越しでも位置わかるし。

 

「フッ、お前ならそれぐらいスモークの範囲に弾が入ってからでも躱せるだろ?」

「買い被りですよ。流石にサイドエフェクトを使わないと躱せませんよ。それにスモークは鋳型を作るので精一杯で、オペレーターの支援が無いと本当にただの煙幕ですし」

「じゃあ昨日も宇佐美に手伝ってもらっていたわけか」

「あぁいや、宇佐美じゃなくって、綾つ…っと、なんでもないです」

「嵐山達か」

「……さ、さぁ?どうだったかなぁ?」

「ハァー、別に今更どうこうしようとは思ってない」

「あ、そうっすか?それなら良かった」

「だが、嵐山達は何故出てこなかったんだ?」

「あぁそれは、最初は迅さんと分断された後に、俺と嵐山が合流して風間さん達を一網打尽にしようと思ってたんですが、思いの外風間さん達を俺だけで追い詰めれてたんで、冬島さんを探しに行ってもらってました」

「そうだったのか…」

「お待たせしました〜ミートソーススパゲティのお客様ー」

 

キリのいいところで店員さんが風間さんの頼んだパスタを持ってきた。

その後、俺が注文したパスタも来たので、俺たちは一旦昼飯を食べることになった。

 

「聞きたいことは満足しましたか?」

 

ナプキンで口を拭いている風間さんに、まだ聞きたいことはあるか聞いた。

 

「いや、まだある」

「え、まだあるんですか?」

「当たり前だ。スモークの後も色々使っていただろう」

「ほう。例えば?」

「最後のスコーピオンだ。あのスコーピオンの固さはなんだったんだ?」

「あー、あれは簡単に言えば、スコーピオンの密度を高めたんです」

「どういうことだ?」

「えーと、スコーピオンは、自由に伸ばし変形できる。でも刃の耐久力は、伸ばせば伸ばすほど低くなる。ここまではいいですか?」

「ああ、基本だな」

「伸ばすと耐久力が下がる。これって伸ばす分を、元のスコーピオンから引き伸ばしてるからなんですよ。同じトリオン量で大きいものを作ればそりゃ脆くなるってわけです」

「逆に俺みたいにトリオン量が多いと、大きくしても耐久力は余り下がりません」

 

以前試しに全身にスコーピオンを纏ったが、硬さはいつも使っている形と変わらなかった。

 

「つまりは密度なんですよ。スコーピオンを、トリオン量そのままで伸ばすからトリオンの密度が低くなる。そして密度が低いとスコーピオンが脆くなるってわけです」

「そうか、密度か…」

「そうです。密度が耐久力を決めているわけです。ならその密度を高めれば…」

「スコーピオンは固くなるわけだな」

「その通りです。ただまぁ、色々難しいんですよ。まず密度をイメージして硬くするのが難しい」

「硬くするイメージ?」

「ええ、スコーピオンで剣を出す時と同じような感じでイメージするんですけど、それがめんどくさい。最初は既にあるスコーピオンに、形を変えないようにトリオンを送り込むイメージだったんですが、これだと、送り込むトリオンの量を間違えると、スコーピオンが割れたり、弾け飛んだりしたんですよ」

 

風船が空気の入れすぎで破裂する感じだろう。酷い時なんかは、割れたところから、密度を高める為のトリオンが、刃となって自分に向かって来たりした。

ため息をつきながら、突き当たった問題点を風間さんに話す。

水を飲みながら聞いていた風間さんが、コツを聞いてくる。

 

「下手に密度とかをイメージするから失敗するんですよ。だから同じ形のスコーピオンを、常にイメージして重ね掛け続けるんですよ。そうすれば形が崩れることもないですし、密度も上がっていくんです」

「なるほど…だが、それだとトリオンの消費が激しくないか?常にスコーピオンを生み出しているようなものだろう」

 

風間さんが的確に問題点を指摘する。

そう、このやり方だとトリオンを使いすぎるのだ。だが、この問題は解決策があるのだ。

俺は、風間さんの問いに待っていましたと言わんばかりに、指パッチンして話だそうとする。

 

スカッ

 

やべっ、指が滑った。恥ずかしい…

 

「………」

 

風間さんの視線が痛い!

やめてくれぇ

そんな目で見ないでくれぇ

 

「指パッチン教えてやろうか?」

「いえ、結構です。ってか今のことはスルーでお願いします」

「だが…「忘れてください」…わかった」

「ごほんごほん。トリオンの問題ですね」

 

顔に熱を感じながら俺は話を戻す。

 

「確かに常にイメージし続けるのは燃費が悪すぎるんですよ。だから一瞬だけ、相手と斬りあう時だけ、もっと言えば相手の刀に当たるその瞬間だけ、イメージを重ねるんです。そうすると低燃費で硬くできます。まぁタイミングはシビアですけど」

「どれくらいシビアなんだ?」

「俺は、ぶつかる瞬間の0.3秒です。生駒旋空が0.2秒とかでしたっけか。こっちは0.3秒程度なんで、まだましですね」

「0.3秒…」

「まぁ数字だけ聞けば無理そうに聞こえますけど、風間さんでもできると思いますよ。それに0.3秒じゃなくてそれ以上でも出来ますから。それに成功した時は、孤月を折れましたから、覚えられれば便利ですよ」

「ふむ。佐藤この後暇か?」

「ええ、まぁ特に予定はないですけど」

「そうか。ならこれを教えてくれないか?」

「はい、いいですよ」

「そうか、ならよろしく頼む。お礼と言ってはなんだが、ここは俺が奢ろう。まだ頼みたいなら頼むといい」

「まじっすか!ありがとうございます!じゃあアイスでも…」

「ほどほどにな…」

 

そう言って俺の卓上の呼び出しボタンを押して、店員さんを呼び出した。

 

「ごちになります」

「ああ。じゃあ行くぞ。俺の隊室でいいか?」

「はい、そこで大丈夫です」

 

ファミレスを出た俺たちは、風間さんの隊室に向かった。

 

 




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第19話

 

風間さんにスコーピオンの硬化を教えた翌日、俺のボーダー用の端末に異動指示が来ていた。

異動先は開発室、肩書きは開発室直属の教導部隊らしい。

城戸さんの直属には置かない所から考えると、城戸派に加わると言うより、今回みたいな動きをさせないよう行動を制限するつもりなのだろう。

とりあえず、本部に行く前にボスのところに挨拶に行くことにした。

 

「失礼します」

「おう、入っていいぞ〜」

 

支部長室のドアをノックすると、中からどこか気の抜けたいつものボスの声で返事が来た。

ドアを開けて中に入ると、ボスが待っていた。

 

「よっ、おつかれさん」

「お疲れ様です。本部に異動になったんで、その挨拶にと」

「あぁ、迅や忍田から聞いてるよ。開発室直属らしいな。頑張れよ」

「はい、ありがとうございます」

「いつでも戻ってきてくれて構わないからな。城戸さんも悪巧みしなきゃそれぐらい許してんだろ。荷物もあのままでいいから」

「わかりました。それじゃ俺はこれで」

「おう、頑張れよ!」

「はい!じゃ失礼しました」

 

そう言って部屋から出ると、そこには迅さんが待っていた。

 

「よっ、ぼんち揚食う?」

「いただきます」

 

そう言って、迅さんが差し出したぼんち揚の袋からいくつかぼんち揚をもらい、その1つを口に入れる。

 

「…本当に良かったのか?」

「何がです?」

「本部への異動だよ。だって夏樹お前…」

「いいんですよ。俺はそれほどまでに遊真に共感?したんですよ。それに、そんなこと言ったら迅さんこそ、良かったんですか?風刃渡しちゃって。師匠の形見じゃないですか」

「最上さんは怒ったりしないよ。むしろそれで解決するなら喜ぶと思うよ」

 

確かに最上さんならそうだろうな…

 

「まぁそうですね。でもそれを言ったら、俺も父さんや母さんに「配属先をいちいち気にするな!」って言われちゃいますよ」

「あー、確かに榛名さんなら言いそうだな」

 

迅さんはなにかを思い出すように頷いた。

そういえば、迅さんって母さんに何度か怒られてたことがあったっけか…

 

「それに今回は、自分から暗躍を手伝ったんで、迅さんが責任を感じる必要はないですよ」

「そうか…悪いな」

「あっ!じゃあ悪気があるなら、桐絵の説得お願いしますね〜あいつ絶対めんどくさそうなんで」

 

桐絵のことだ、「勝ち逃げするつもりか!」とか言って面倒くさいことになりそうだからなぁ

 

「が、頑張ってみるよ…」

「じゃあそう言うことで」

 

そう言って迅さんと別れた俺は、配属先に行く前に自分の部屋の掃除をして、異動先の開発室へと向かった。

 

 

 

 

「失礼します」

 

開発室に着いた俺は、そう言って鬼怒田さんのところへ向かう。

 

「夏樹くん、室長ならデスクにいるから、そっちに行って」

「了解です。ありがとうございます雷蔵さん」

 

雷蔵さんに言われた通り、鬼怒田さんは自分のデスクで書類の山と格闘していた。

 

「鬼怒田さん、佐藤です」

「おお、佐藤来たか」

 

声をかけると鬼怒田さんは手を止めてこちらを向いた。

 

「こっちだ。隊室に案内する。説明はそれからだ。ついて来い」

 

そう言って鬼怒田さんは、デスクの書類の山とは分けられた分厚い書類の束を持って、歩き出した。

俺の隊室に向かうのかと思ったら開発室の出口には向かわず、こないだのラッド騒動の時には無かったドアに向かった。

 

「こんなドアありましたっけ?」

「昨日作っておいたのだ。お前の隊室に繋がっておる。そっちの方が楽だからな」

 

なるほど確かになにかと便利なのかもしれないなぁ。

いやでも壁ぶち抜くか?

基地はトリオンでできてるから簡単なのかもしれないけど…

 

隊室に入ると、中にはデスクと応接用だろうか、ソファと机が置かれていた。

 

「家具やらなんやらの配置は後でやってくれ。欲しいのがあったら、トリオンで作ってやるから」

「わかりました」

「じゃあ早速だが、色々説明せねばならん。そこに座ってくれ」

 

鬼怒田さんはそう言って自分もソファに腰を下ろした。

俺も鬼怒田さんの対面のソファに座った。

 

「それにしてもやってくれたな、風間隊と冬島隊相手に勝つとは」

「いや〜新しいモノで初見殺ししただけですよ〜」

「まぁいい。だが後でその新しいトリガーは見せてもらうぞ」

「ええ、大丈夫ですよ。後で持って行きます」

「うむ。じゃあ早速だが、お前が配属されるところについて話そう」

「開発室直属なんですよね?だとすると新トリガーの実戦試験とかやるんですか?」

「そうじゃ、それも含まれておる。だが他にもある」

 

そう言って鬼怒田さんは、書類の束から1つの冊子を取り出して、俺に渡した。

冊子はなにかの報告書のようで、グラフやら表やらで色々な数値を表していた。

 

「それは後で読んでおけ。まぁ内容は、戦闘員の質の低下についてだが」

「質…?ですがそれなら、新しいトリガーや戦術で向上していると思いますが…」

「上の方の一部を見ればな。だが隊を組んでいないB級個人隊員や、C級隊員の質は落ちておるのだ。その冊子にも書いてあるが実際に、各種訓練の結果、C級隊員のB級への昇格スピードなど落ちてきているものが増えておる」

「なるほど…」

 

確かに、木虎たちみたいな才ある新入隊員は最近見かけない…

 

「原因は色々あるが…単純に言えば我々が大きくなりすぎたことだ」

「そればかりは仕方のないことではないかと、人数が増える以上最低値が増えるのも必然ですから」

 

まぁ他にも、技術の進歩で種類が増えたトリガーから自分に合うものを見つけられなかったり、師匠を探せないとかも原因なんだろうなぁ…

 

「だが、仕方ないで済ますわけにもいかん。後進育成は太刀川やお前みたいな隊員が引退して、後方に回ってからでは遅いからな」

「まぁそうですね。それで俺にそれをやれと?」

「そうだ。お前には、行き詰まった隊員へのサポートや、B級に昇格したての隊員の防衛任務の引率、各種トリガーの効果的な運用方法の流布、その辺りをやってもらう。簡単に言えばお悩み相談室をやれと言うことだ」

「了解です」

「詳しくはこれに書いておる。後でしっかり読んでおけ」

 

鬼怒田さんはそう言って残りの書類を渡してきた。

 

「わかりました」

「それを読んで何かわからんことがあったら、わしのとこまで来い。わしはデスクにおる。それじゃあな」

「うす」

 

鬼怒田さんは開発室へと戻っていった。

俺はソファからデスクに移動して、渡された書類を読んでいく。

 

「ふぅ〜」

 

書類に一通り目を通した俺は凝り固まった体をほぐすように伸びをする。

書類によると、俺のお悩み相談室は明日各隊員の端末に告知され、来年から稼働するらしい。

お悩み相談は予約制で、普段俺が防衛任務に入っていた時間に相談室をする感じらしい。その為防衛任務は、基本免除、大規模侵攻や人手の足りない時のみ参加するらしい。

オペレーターは明日来るらしい。不安だ…俺が何かやらかして、玲みたいに怒らせたりしないだろうか…うん、ビジネスライクな関係を心がけよう。

そしてなんと言っても大事なのが給料だ!!なんと驚き、ざっと計算したら今以上に貰えるじゃないですか!これは少し自分にご褒美を買っても許されるはず!……多分…

 

書類をあらかた読み終えて、必要事項を書いていると、コンコンと扉を叩く音がして、作業を止める。

 

「ん?どうぞ〜」

 

ノックしてきた相手を部屋に迎える。入ってきたのは秀次だった。

 

「失礼します」

「随分と顔色が悪いな。まぁなんだ…とりあえずそこに座ってくれ」

 

目にひどい隈ができた秀次にソファに座るよう促し、俺も作業をやめ、秀次の正面に座る。

 

「その顔を見ると、思い悩んでるとこを月見さんあたりに行くよう言われたのかな?まぁとりあえず話してみなよ」

「はい……夏樹先輩は何故ネイバーを庇うんですか?奴らは倒すべき敵ですよ!」

「確かにな…だが遊真は別だ。あいつは確かにネイバーなのかもしれない。だが敵ではないことは確かだ。ネイバーにも敵じゃない奴はいる」

「だけど…ネイバーは俺の姉さんを…あんただって!…俺と同じように奴らに親を殺されてるのに憎くないんですか…?」

「憎しみはある」

「っなら!」

 

身を乗り出す秀次を手で制して、話を続ける。

 

「憎しみはある。でもそれはネイバーにだけじゃない、あの時の自分にもだ。何度あの時に戻れたらと思ったか…何度自分の無力さを嘆いたか…だが過去には戻れない…もう失ったものは帰らない」

「……」

「それに俺には冬華を、妹を父さんたちに変わって立派に育てなければならない。それがあの時弱かった俺の義務なんだ。ネイバー云々はそれに比べれば、どうだっていい」

「だけど、それはネイバーを庇う理由にはならない!ネイバーの味方をしていいわけがない!!」

「秀次、玉狛は別にネイバーの味方ってわけじゃない。ネイバーの中でも話のわかる奴、仲良くできる奴とは敵対しないってだけだ。こっちを攻めてくる敵には容赦はしないよ」

「……」

「それと、玉狛(俺ら)はなにもネイバー全員と仲良くできるなんてお花畑な考えは持っていない。ネイバーの厳しさを身をもって知っている。……ちょっと待っててくれ」

 

そう言って俺はソファから立ち上がり、デスクの横のバッグから手帳を取り出した。

 

「秀次、ボーダーの以前…旧ボーダーについてはどれくらい知ってる?」

「あまり…先輩がそこにいたことぐらいです…」

「そうか。じゃあ説明するけど、旧ボーダーは今のボーダーのような防衛機関と言うよりも近界との交流がメインだったんだ。今の玉狛のエンブレムあるだろ、あれは旧ボーダーのものと同じなんだ。上の3つの丸が近界(ネイバーフッド)のボーダーと同盟関係にあった3つの国を、下の大きな丸がこっちの世界を、その間のやつがボーダーを表しているんだ」

 

そして手帳から一枚の写真を取り出して、秀次の前に差し出す。

 

「これは…?」

「旧ボーダーのメンバーだよ。まぁそこに写ってるのは子供だけだけど」

 

写真は玉狛支部の建物の前で、まだ小学生だった俺や桐絵、中学生だった迅さん、他にも高校生だったゆりさんやレイジさんも写っている。

確か、母さんが大人も含めた全員の集合写真を撮った後、子供だけで撮ろうって言ったんだっけか…

 

「こんなにいたんですか…」

「ああ、この写真を撮った6年前くらいは全員で22人いた。だが今ボーダーに残っているのは9人だけだ」

「……ほかの人はやめたんですか…?」

「ああ一人はな…ほかの人たちは死んだよ。5年前くらいにさっき話した同盟国の一つが敵国と戦争になった。同盟関係だったから俺達もその戦争に参加したんだ。下手すればこっちの世界も巻き込まれてたかもしれなかったからな。それでその戦いで死んだ人もいた。(ブラック)トリガーになったやつもいた。4年前の大規模侵攻で死んだ人もいた…」

「なっ……」

「まぁそんなわけで、みんな厳しさをわかってる。その上で、今のスタンスをとってるんだ。秀次が目の敵にしてる迅さんだって旧ボーダーの仲間だけじゃない、母親だってネイバーに殺されてる」

「そうだったんですか……でも俺は認められません!姉さんを殺した奴らと仲良くするなんて…ネイバーは敵だ…」

「それでもいいさ。復讐を否定するつもりはないよ。俺だって目の前に両親の仇がいたらどうするかわからないからな。だが、復讐するにしてもむやみやたらに噛みつくのはよせよ。そんなんじゃ復讐相手にたどり着く前に燃え尽きちまうかもしれないからな」

「はい……」

「まっなんにせよ自分でよく考えてみるといいよ。何かあれば相談にのるからさ」

「そう…ですね…少し考えてみます」

「おう、でもその前に睡眠だな。鏡見てみろひでぇ隈だぜ」

「気を付けます。それじゃあ有難うございました」

 

秀次はそう言って出ていった。

写真を手帳にしまおうと手に取ると、写真に写る幼い自分と目が合った気がした。

 

もう大丈夫だ…

 

もう守られるだけじゃない…今度は俺が守るんだ!

 

 




オペ子どんなキャラにしよう…
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第20話

お待たせしてすいません。



 

 秀次が部屋を出て行った後、引き続き束になった書類を処理していた俺の元に、唐沢さんがやってきた。

 

「コーヒーとか出せなくてすいません。今この部屋、何もなくて」

「いやいや、構わないよ。こっちこそ仕事の途中にすまないね」

「いえ、大丈夫ですよ。それでどうしてここに?」

「まずは部隊長就任おめでとう。で、話はその部隊のことなんだけど……」

「はぁ……部隊のことですか……」

 

 唐沢さん、つまり営業部が関わることなんてあるのか? 

 

「そう。明日配属されることになってるオペレーターについてなんだ」

「オペレーターですか……何かあったんですか?」

「ああ実は、君の部隊に配属されるオペレーターの子なんだけど、大企業のご令嬢なんだ」

 

 大企業のご令嬢って……大丈夫なのかよぉ……唯我みたいなやつはごめんだぞ

 

「それ大丈夫なんですか?」

「ああ、それは大丈夫だよ。一回会ったけど真面目で優秀そうな子だったよ。彼みたいなことにはならないから安心して大丈夫だ」

「そうすか……」

「うん、三輪隊の月見さんと友人らしいんだけど、月見さんも問題ないって言ってたからさ」

「それならいいですけど……」

「で、彼女なんだけど最初は戦闘員として入隊しようとしたらしいんだけど、ご両親に止められて、我々の方にもくれぐれも頼むぞって念を押されていてね……スポンサーになる代わりに、彼女の配属先に条件をつけたんだ」

「条件……?」

「そう。まず戦闘員には配属しないこと」

 

 まぁそりゃそうだわな。俺だって、冬華がオペレーターになってくれてホッとしてるしな。

 

「後、配属先にも条件があって、夜間の活動が少ないところ、メディアに露出することがないところ、まぁ他にも色々あるんだけど、大きいので言えばこの2つかな」

「夜間の活動……メディア露出……それで開発室直属に?」

「そう。なんでもここは、お悩み相談室みたいなことと、新開発トリガーのテストが主な仕事で、防衛任務は基本ないだろう?」

「そうらしいですね。たしかにそれなら深夜に仕事は基本ないですけど……」

「あぁ、別に佐藤くんが深夜に防衛任務をする分には問題ないから安心していいよ」

「そうですか」

「メディアに露出することもないと言っていい。それに、普通の部隊に配属してそこで特別扱いをするより、部隊自体が特殊なとこに行ってもらった方が面倒が少なくて済む」

「まぁ……それなら納得ですけど……」

「そう言うわけで頼むよ」

「頼むって……俺に決定権はないですよ。それにその人に問題はないんですよね。なら大丈夫ですよ」

「そう言ってもらえると助かるよ。いや〜その子のお父さんが、俺の大学の部活のOBでね。個人的にもお世話になった人だから、断りづらかったんだ。それにスポンサーになってもらえば、こないだのイレギュラーゲートで手を引こうとしていた他の企業もスポンサーに残ってくれるかもしれないからね」

「それなら良かったです」

「うん。じゃあよろしくね。俺はこれで失礼するよ。まだ仕事が残ってるからね」

「はい。お疲れ様です」

 

 そう言って唐沢さんは出て行った。

 しかしお嬢様か……不安だ。不安しかねぇ……

 明日は身だしなみに気をつけないと……

 後、この部屋もどうにかしないと……いや、明日来るお嬢様と相談した方がいいかな。

 まぁ今日はとっとと必要なことだけ済ませて帰るか……

 最近家に帰れてないしなぁ

 

 俺は机の上にある書類の量を見て、とりあえず気分転換兼飲み物を買いに行くことにした。

 

「あっ、部屋にドリンクサーバーあったら便利じゃん」

 

 

 ──翌日──

 

 久方ぶりに感じる自宅で冬華の料理に舌鼓を打ち、ゆっくり休んで英気を養った俺は、件のオペレーターとの顔合わせのために、隊室でオペレーターを待っていた。

 

 コンコンコンコン

 

 急かす感じのない、耳ざわりのいいノックの音がした。

 どうやら来たようだ。

 

「どうぞ」

「失礼するわね」

「失礼します」

 

 2人の女性の声と共に隊室へと入ってきたのは、三輪隊のオペレーターである月見蓮さんと、新しいオペレーターの女性だった。

 その女性は、肩に少しかかったセミロングの、絹のような艶を持った黒髪に、陶器のようにするりとした肌、まさに立てば芍薬座れば牡丹歩く姿は百合の花と言う言葉を体現したかのような美人だった。そして着ている服も高級感漂う上品な白のワンピースで、それでいて鼻につくほどの高級感はなく、どことなく清楚なイメージを持たせる格好をしていた。

 

 どエライ美人キター!! 

 

 と、思わず心の中で叫んでしまった。

 危なかった。もう少しで声が出るとこだった……

 それにしても美人すぎだろ。男子校生活で美人のレベルがわからなくなってる俺でも、この人は他とは格が違うってわかる……

 

「紹介するわね。佐藤くん、あなたの隊の新しいオペレーターの相川葵よ。葵、彼が葵の隊の隊長の佐藤夏樹くんよ」

「佐藤夏樹です。よろしくお願いします」

「相川葵です。どうぞよろしくお願いします」

 

 そう言って、お互いにお辞儀をする。

 相川さんのお辞儀はまさに見本のように完璧で、その節々から、上品さが見て取れる。

 やっぱりお嬢様なんだなぁ

 

「と、とりあえず立ちっぱなしなのもなんなんで、どうぞそこに座ってください」

「ええ、ありがとうございます」

「佐藤くん、そんなに硬くならなくて大丈夫よ」

 

 月見さんはそう言って、相川さんの隣に座る。

 そう言われても……相川さんは年上だし、初対面しかも異性に、硬くなるなって無理なんだよなぁ……

 そう思いつつ、月見さんと相川さんの対面に座る。

 

「初対面である以上は仕方ないけど、2人とも少し砕けてもいいのよ。葵、あなたもいつも私と話すときみたいな感じで大丈夫よ」

「わかったわ蓮ちゃん。それじゃあ改めて、よろしくお願いしますね佐藤くん」

「さぁ、あなたもよ佐藤くん。葵がスポンサー企業の令嬢だからって、そんなにかしこまらなくてもいいのよ。ね? 葵」

「そうですよ。普通に接してくださいね」

 

 違うんだよなぁ……

 別にスポンサーのご令嬢だからとかじゃないんだよな。企業の御曹司とかなら、俺の学校にも沢山いる。

 美人すぎんだよ! 男子高校生ならみんなこうなると思う。

 まぁでも、確かに今後オペレーターをお願いする上で、このままって訳にはいかないよな……

 

「はい、わかりました」

 

 そう言って俺は、肩の力を少し抜いた。

 

「ええ、それでいいわ。さてと、じゃあ改めて自己紹介しましょうか」

「わかりました。相川さん、どうぞお先に」

「ええありがとう。それじゃあ改めて、相川葵です。趣味はピアノです。まだ拙い部分もあると思うけど精励確勤に頑張るわ。よろしくお願いしますね」

「はい、こちらこそよろしくお願いします。自分は佐藤夏樹、好きなものは甘い菓子です。自分も隊長を務めるのは初めてなので、何か迷惑をかけるかもしれませんが、どうぞよろしくお願いします」

 

 自己紹介をすると、相川さんから手が差し伸べられる。

 思わず、その白魚のような手に見惚れそうになるのをこらえ、握手を交わした。

 

「ふふっ、でもよかったわ優しそうで。

 怖い人だと思っていたから」

「?」

 

 初対面だよな……俺のこと知ってるのか? 

 首を傾げていると、月見さんが横から訳を話してくれた。

 

「葵は、佐藤くんのあの会見を見ていたのよ」

「あぁ〜そう言うことですか」

 

 

 ◆

 

 

 四年前 ボーダー広報イベント

 

「ボーダー本部基地完成から3ヶ月。この度新しく正隊員に加わった若者たちです」

 

 根付メディア対策室長がそう言って、夏樹、嵐山、柿崎の3人を紹介する。

 そして会見は順調に進み、夏樹たち3人への質問時間になった。集まった記者たちは、フラッシュを焚かれている3人に様々な質問を投げかける。中には「彼女はいるのか?」などもあった。それらを3人のうちだれか1人が答えていた。

 3人を応援していこうというムードが漂い始めた頃、ある1つの質問がその空気をぶち壊した。

 

「次に大規模な侵攻があったら、街の人と自分の家族、どちらを守りますか?」

 

 さっきまでの雰囲気は一変し、シャッターの雨も止んでいた。

 

「それはもちろん家族です。家族を守るためにボーダーに入ったので」

 

 嵐山がきっぱりと躊躇いなく答えた。

 

「自分も嵐山さんと同じで家族です」

 

 嵐山に続いて夏樹もそう答えた。

 2人の回答に記者たちはざわつく。そして質問をした記者が「街は守らないのか」と聞き返した。

 

「先の侵攻で親や兄弟をなくした方もいる。そうした言い方は良く無いんじゃないかな」

 

 そうさっきの記者とは違う記者が言った。どうやらボーダーに批判的な記者が揚げ足を取ろうとしたようだ。

 記者に嵐山が何かを喋ろうとしたが、それより早く夏樹が口を開いた。

 

「自分は先の侵攻で両親を失いました」

 

 夏樹は感情のこもっていない口調で淡々とただ事実だけを言うように喋った。

 記者たちと横にいた根付メディア対策室長に衝撃が走る。記者たちはさっきからあまり喋ることのなかった少年が喋ったことに、根付メディア対策室長は夏樹の境遇に。

 夏樹は一呼吸置いてまた喋り出した。

 

「残された家族は妹だけです。残った唯一の家族を守ろうとするのは悪なのでしょうか? 他人に任せるのではなく、自分で自分の大切な存在を守ろうとするのはいけないことだと、あなたはそう言いたいんですね」

「そ、そんな事は……」

「ボーダーを批判したいのであればすれば良い。でも残された家族に配慮していないような質問は違うと思います。そう言う質問は良くないんじゃないですか?」

「……っ! すいませんでした……」

「自分ではなく遺族の方々に謝るべきだと思いますが……まぁ自分が言えたことでもないので」

 

 会見場が静まり返る。

 そして冷静になったのか、夏樹は一瞬ハッとした後再びマイクを取って

 

「それに自分はなにも家族以外は守るつもりがないと言う訳じゃありません。家族の、妹の安全が確認できたのなら、街のために全力で戦えます。自分はこれで失礼します」

「さ、佐藤くん……」

 

 そう言うと、隣の嵐山の静止も聞かずに夏樹はマイクを机に置いて一礼して会場から出て行った。

 

「えっと……彼と同じように自分も家族が大丈夫だと確認できたら、戦場に引き返して戦います。家族を亡くされた方も、そうでない方も、ここにいる皆さんの家族もこの身がある限り全力で守ります。家族が無事なら何の心配もないので、最後まで思いっきり戦えると思います。その時にボーダーに仲間がいると心強いので、たくさんの人にボーダーを応援してもらえると嬉しいです。ご支援よろしくお願いします」

「ボーダーでは新しい人員を募集しております。それは戦闘員だけではなく、後方で支援するオペレーターやエンジニアなども募集しています。街を守りたいと言う思いでなくとも、全然構いません。ご協力のほどよろしくお願いします」

 

 そう根付室長が話して会見は終わった。

 

 

 ◆

 

 

 そんなわけで、俺はとんでもない黒歴史を作り上げ、初対面の人にはあの会見の人だ、と思われるようになってしまったのだ。

 でも怖いかぁ……まぁあの時は秀次と同じで余裕なかったからな

 

「なるほど。まぁ今は違うんで、安心してください」

「そうね。あの時とは雰囲気が違いますものね。こう……余裕があると言うか、落ち着いたと言うか」

「そうっすか。それは良かったです」

「2人共、自己紹介はもういい?」

「ええ、自分は大丈夫です」

「私も大丈夫よ」

「そう。じゃあさっそくだけど少し合わせてみましょうか」

「了解です」

「葵、いける?」

「ええ、頑張るわ!」

 

 そう言って、相川さんはガッツポーズをしてみせる。

 

 いや、かわいいかよ……

 

 

「みんな色々なものを置いてますよ。漫画、ゲーム機、将棋盤、チェス盤、ルームランナー」

「後、炬燵だったり、珍しいので言えばキッチンかしら」

「その2つは加古さんのとこですね。そういえば月見さんのとこは……」

「うちは普通よ。畳があるくらいかしら……」

「色々なものが置けるのね」

「相川さんは何か置きたいものとかあります?」

「炬燵をぜひ置いてみたいわ。私、炬燵に入ったことないのよ。あとキッチンもいいわね。その2つを置いた加古さんって方とは気が合いそうだわ」

 

 あー、確かに気が合いそうだわ

 加古さんセレブオーラあるもんなぁ〜

 

「いいんじゃないですか」

「そうだわ! 畳を敷いてそこに炬燵を置きましょ! どうかしら?」

 

 俺たちは、お互いどれくらいできるのかを知るために、仮想戦闘でトリオン兵相手に少し戦った。そして今は隊室をどうするか話し合っていた。

 

「いいんじゃないですか。自分も畳の部屋いいと思いますよ」

「そうよね!」

 

 コンコンコン

 

 話しているところに、少し強い感じのノックが聞こえた。ソファから立ち上がって、ドアを開けに行く。

 

「今開けます」

 

 そう言ってドアの横のスイッチを押して、ドアを開けた。

 

「なぁーつきぃー!!」

「んなっ!? ぶべらっ!」

「あらあら〜大丈夫?」

 

 ドアを開けた瞬間、顔面に拳が飛んできた。あまりにも咄嗟にのことで回避が間に合わず、頬にクリーンヒットした。

 

「夏樹! あんた玉狛から異動ってどう言うことよ!」

「桐絵? お前突然何すんだ! いてぇじゃねか!」

「何言ってんのよトリオン体でしょ。それよりも! なんで本部に行ったのよ! 説明しなさい!」

 

 俺を殴ってきたのは桐絵だった。どうやら迅さんは説得に失敗したらしい。

 

「わかった。わかったから落ち着け。説明するから」

「あたしが納得できるようによ!」

 

 んな無茶な……

 

「あら? 小南ちゃんじゃない! そっか、あなたもボーダーだったわね! 私もオペレーターになったのよ」

「あ、葵先輩!?」

 

 ん? 2人は知り合いなのか? 

 

「佐藤くん、葵と小南は先輩後輩の仲なのよ」

「あ〜そうなんですか」

 

 疑問に思っていると、横に来た月見さんが説明してくれた。

 

「そうなの〜小南ちゃんかわいいじゃない! あれ? でもその格好……」

「げっ!」

「葵、小南はオペレーターじゃなくて戦闘員よ」

「ちょっ! 月見さん」

「あら〜そうだったの」

「は、はい……」

 

 ん? あの桐絵が借りてきた猫のように大人しく……

 そうか、これが桐絵のいつもの感じなのか……

 

「ちょっと何笑ってるのよ!」

「いや〜あの桐絵が学校だとそんな感じなんだと思うと……笑いが……止まんない」

 

 俺は思わず声を上げて笑ってしまう。すると桐絵はみるみる顔を赤く羞恥の色に染めていく。なるほど、こっちには猫かぶりのこと知られたくなかったのか

 

「わ、笑うなー!!」

 

 桐絵はそう言って俺に掴みかかって揺さぶってくる。

 

「でも私もびっくりだわ。佐藤くん、小南ちゃんと仲がいいのね。付き合ってるの?」

「「違います」」

 

 俺と桐絵は声を揃えてそう言った。

 

「って、なにあんたが否定してんのよっ!」

「理不尽!!」

 

 桐絵はなにかが気に入らなかったようでスネを蹴ってきた。

 

「相川さん、こいつとは単なる……幼馴染……腐れ縁? みたいなもんですよ。まぁ言ってしまえばかわいい妹みたいなものです」

 

 まぁ冬華には負けるけど

 

「……っ!? か、かわいいってそんなぁ……でも妹みたいなって……」

 

 何故か桐絵は喜んだり悲しんだりしてるがまっいいか。

 

「そうだったのね。てっきり付き合っているんだと思ったわ。お似合いそうだもの〜」

「いやいや、俺なんかより桐絵にはふさわしい奴はたくさんいますよ」

「そうかしら? 私はいいカップルになると思うわよ」

「月見さん、ダメですってそんなこと言ったら。桐絵も俺なんか無いって思ってますって。なぁ桐絵?」

「どうなの小南ちゃん?」

 

 3人の視線が桐絵に向く。

 桐絵は口をもごもごしたかと思うと

 

「うがー!!」

 

 と叫びながら、顔を真っ赤に染めて出て行った。

 

 なんだったんだ? 桐絵のやつ

 

 




後何話か書いたら、大規模侵攻編に突入する予定です。

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第21話

リアルの用事が忙しくて遅くなってしまいました。すいません。



「バイパー」

 

 俺はジグザグな軌道を描いて飛んでくるバイパーを前に走ることで回避する。そして走った先にいた熊谷にスコーピオンで斬りかかる。それを熊谷は両手で持った弧月で防ぐ。

 防がれた俺は、持っていたスコーピオンを一旦消して、肘から伸ばしてエルボーのように熊谷を狙う。

 

「くっ!」

 

 熊谷はそれを何とか躱すが、俺はその際に出来た隙をついて熊谷の足をかけて体勢を崩させる。さらに追い打ちをかけようとスコーピオンを振りかざそうとしたが、近くまで来ていた玲が、熊谷を守るように、俺を前後左右から挟み込むようにバイパーを飛ばしてくる。

 

「シールド」

 

 俺は背中にシールドを張って、後ろへと下がる。シールドで防いだ後ろから以外のバイパーが俺を追うようにこちらに向かってくる。

 

「シールド」

 

 今度もシールドで防ごうと、飛んでくるバイパーが来る位置にシールドを張るが、玲のバイパーはシールドに当たる直前に二つに分かれて、片方はそのままシールドに向かって飛んできて、もう片方はシールドに当たる直前に軌道を曲げて足の方へと向かって来た。

 

「しまっ!」

 

 シールドが間に合わず右足にバイパーが当たる。膝から下がボロボロだ。

 それを好機と思ったのか、熊谷が弧月で猛攻撃を仕掛けてくる。

 熊谷の猛攻撃をレイガストで凌ぐが、熊谷はレイガストを叩き割るつもりだろう。このままじゃ俺のトリオンでも破られちまう。

 そう思った俺は、体で隠しながらスコーピオンを引っ込めて、バイパーを展開する。

 バイパーは体からはみ出てしまう。熊谷もそれに気づき、距離を取ろうと猛攻をやめた。

 俺はバイパーを消して、右足にスコーピオンを生やす。そして左足で地面を蹴って熊谷に近づく。

 こちらの狙いに気づいたのか、一瞬ハッとした顔をした熊谷は孤月を構え直して、俺の右足のスコーピオンに警戒する。

 

「スラスター」

「あっ!」

 

 スラスターを起動してレイガストを熊谷の孤月を持つ両手に投げる。それと同時に右足で、熊谷の首元を斧で木を切るように蹴る。

 熊谷は孤月で防ぐのを諦めて、蹴りを躱そうと上半身をギリギリ躱せるくらい後ろに退く。

 

「え?」

 

 俺の足が顎先をかすめ、蹴りが空振りに終わったと思い、次の攻撃を考えていた熊谷は首を切られていることに気づいて、思わず調子の外れた声が漏れた。

 俺の右足からはスコーピオンが蹴りをする前よりも長く伸びていた。

 

 

 〔 伝達系切断 熊谷ダウン 〕

 

 

 俺は仮想戦闘を終えてトレーニングルームを出る。

 

「ふぅー、お疲れさま」

「お疲れ様です」

「おつかれさまー」

「ありがとうございます」

「ふふふ、いいのよ。ほら那須ちゃんと熊谷ちゃんも」

「あ、ありがとうございます」

 

 トレーニングルームを出ると、待っていた葵さんからスポーツドリンクが渡される。

 トリオン体だから身体自体は疲れていないが、冷えたスポドリが体に染み渡る。

 

「じゃあ反省会しようか」

「「はい!」」

 

 俺たちはソファに座ってさっきの何回かの戦闘映像をモニターに流す。

 

「まずは玲からだな」

「はい、お願いします」

「うん、じゃあまず今回は何を意識して戦った?」

「はい、さっきのは私が援護をして先輩を崩して、熊ちゃんが仕留めるカタチで戦ってみました。なので崩すような弾道や援護するような弾道をイメージしてみました」

「そう。確かに足をやられたあのバイパーの弾道は良かったね。後、他にも──」

 

 玲の良かった点を挙げていく。前回の反省点をしっかりと生かしたようなとこが多かった。感心、感心。

 

「じゃあ逆に出来なかった点は?」

「はい、弾道の設定は良かったんですが、でも援護射撃自体が少なかった気がします」

「そうだね、確かに少なかったね。まぁアタッカーとの連携は難しいからね。でも例えば熊谷がいったん下がるとか、後これは練習次第だけど熊谷の動きに合わせた弾道をあらかじめ熊谷と相談して設定しておくとかな」

「なるほど、やってみます!」

「よし。じゃあ次は熊谷だな」

「はい、お願いします」

「うん、熊谷は今回どこを気をつけた?」

「先輩と戦っている時も常に冷静に周りを見ようとしました。後、なるべく積極的に攻めるようにしました」

「うん、前よりも攻撃の動きも前よりも研ぎ澄まされてたな。冷静にってのはもうちょいって感じだな」

「そうですか……」

「最後の猛攻は一対一や俺に味方がいたらいい判断だったけど、あの時は俺は1人で近接だけだったから、一旦引いて玲と連携して追い込んでいくほうが確実だったな」

 

 熊谷は守るのは得意な方だ。玲に近づかせないようにするってのがいい。

 

「確かに……」

「でも最後のやられたとこは惜しかったけど冷静に対処できてたんじゃないか」

「ありがとうございます!」

「うん。それじゃあ今の反省を生かしてもう一戦行こうか」

「「はい!」」

「じゃあ葵さん、お願いします」

「了解よ」

 

 

「それじゃあ、おつかれさん」

「お疲れ様〜」

「ありがとうございました」

「ありがとうございました。すいません昨日試験だったのに。忙しかったですよね……」

「前日とかじゃないなら平気だよ。試験のことを気にしなくて済む分こっちがありがたいくらいだ」

「えっ、昨日試験だったんですか!?」

「うん、風間さんたちが行ってる大学の給費生の試験だったんだ」

「どうだったの?」

「うーん、自信はまぁありますけど、自信あるって言ったら落ちそうじゃないですか。なんでノーコメントで」

「夏樹先輩なら大丈夫ですよ!」

「おう、ありがとな。あ、そうだ。冬華をよろしくな」

 

 クリスマスイブの今日、優佳の家でクリスマス女子会をするらしい。桐絵も確か来るって言ってたっけか。

 

「はい。それじゃあ今日はありがとうございました」

「おう。メリクリ〜」

「ありがとうございました」

「またね〜」

 

 玲たちは隊室を出て行った。

 

「じゃあ私も帰るわね。この後家の方で集まりがあるの」

「了解です。ありがとうございました、手伝ってもらって」

「いいのよこれくらい。でもこっちこそごめんなさいね」

「あ〜明日からのことですか。それなら別に心配しなくても大丈夫ですよ。親戚の集まりでしたっけ?」

「そうなのよ。集まりが京都であるの。お土産買ってくるわね」

「おっ、期待してます!」

「それじゃあおつかれさま」

「はい、お疲れ様でした。よいお年を」

「夏樹くんもよいお年を〜」

 

 そう言って葵さんも帰っていった。

 さて何しようかな……

 ランク戦……いや、勉強だな。センター対策でもするかな。でもその前に昼飯にしよっと。

 そう決めて財布を持って部屋を出て、食堂に向かう。

 

 食堂に着いて、何を食うか考えていると、後ろからトントンと肩を叩かれ、誰かと思って振り向くとほっぺにムニュと指で突かれた。

 

「あはは〜引っかかった〜」

 

 可愛らしいイタズラをしてきたのは国近だった。

 

「久しぶりだな国近」

「うん、遠征前ぶりだね〜」

「遠征おつかれさん」

「ありがと。これからお昼? そうなら一緒に食べよ〜」

「あぁいいぞ」

「何にする〜?」

「んー、やっぱラーメンかな」

「じゃわたしもそうしよっと。あっ! そうだ! 夏樹くん醤油頼んで。わたし味噌頼むから。交換っこしよ」

「あいよ。醤油ね」

 

 俺は券売機から醤油ラーメンの大盛りの券を買う。そして俺の後に味噌ラーメンを買った国近から券を受け取る。

 

「国近、先に席とっといてくれ。俺が受け取ってくるから」

「りょーかい」

 

 国近と何気ない会話を交わしながらラーメンを食べ始める。

 

「そういえば今日は防衛任務?」

「いや、違うよ。開発室直属になったから基本防衛任務に出ることはなくなったんだよ。今日は玲と熊谷を鍛えてた」

ふーん。そうなんだ……って玲!? 那須ちゃんのこと名前で呼んでるの!?」

「ん? あぁそうだけど……って国近さん?」

わたしも柚宇……

 

 国近がブツブツ言ってるけど、なんだ? なんかまずいこと言ったか? 

 

「なんだ? 国近どうした?」

「柚宇!!」

「へ?」

 

 びっくりして気の抜けた声が出てしまった。

 

「わたしも名前で! 柚宇って呼んで!」

 

 いつものおっとりゆるふわな雰囲気は何処へやら。国近にすごい気迫で迫られる。

 

「いや、何言ってんだ国ちk「柚宇」……ゆ、柚宇……」

「よろしい!」

 

 名前で呼ぶと、いつもの国近……柚宇に戻った。

 一体なんだったんだ? ……はっ! そうか、これが共学校の男女の距離感なのか! 

 だから玲や桐絵も名前呼びにこだわっていたのか……ん? 2人は星輪だから関係ないか……あっでも綾つ……遥にもこないだ名前でって頼まれたし、やっぱそうなのかな? まぁいいか……

 

「そういえばさぁ夏樹くんって女の子の弟子多くない?」

「そうか?」

「そうだよ。と言うか女の子しかいなくない? 弟子みんなの名前挙げてみてよ」

「玲、熊谷、双葉、虎太朗、後は西峰2人だな。女子が多いけど気になるほどか?」

「なるよ! それに4人とも綺麗系に可愛い系じゃん!」

 

 身を乗り出し気味に国近が言う。

 確かになぁ、まぁでも、俺からすれば柚宇も十分可愛いと思うけどなぁー」

 

「………っ!」

 

 柚宇の顔が真っ赤になる。ん? 俺、口に出してたのか……

 

「か、かわいいってホント!?」

「あ、ああ。まぁ俺に言われても嬉しくないだろうし、男子校生の言う事なんてあてにはならないけどな」

「そんなことないよ~すっごいうれしい」

 

 柚宇が顔を綻ばせる。そういうとこが俺的にはぐっとくるんだよな

 

「そうだ! このあと部屋行っていい?」

「別に構わないけど……」

「じゃあ早く食べて行こう。そっちの醤油もちょっとちょうだい」

「お、おう」

 

 ラーメンのどんぶりを柚宇の方に寄せる。

 

「ありがと」

 

 柚宇は横顔にかかった髪を耳にかけて、ラーメンをふぅふぅと少し冷まして口にする。

 俺はその仕草に思わずドキッとしてしまう。

 

「ふーやっぱ醤油もおいしいね。ん? どしたの~」

「い、いや何でもない」

「そう? じゃあ、はい。お礼」

 

 柚宇は自分の味噌ラーメンのどんぶりからレンゲでスープをすくって、こちらに差し出している。

 あ~んである。

 男子校6年間の俺には全く関係のないリア充たちの行為。

 それを俺にやれと……

 

「え? ちょっ……」

「いいから、いいから~」

 

 どうしたらいいんだ……というか、柚宇のやつは恥ずかしくないのか? 

 はっ! そうか!! これはアーンじゃないのか! 俺の思い違いか

 こういうことか

 

「じゃあ、ありがたく」

 

 そう言って俺は柚宇の手からレンゲをそっと受け取って、自分の手で口に運んだ。

 危ない、危ない、勘違いして恥ずかしい思いをするとこだった。

 うん。味噌もうまいな!! 

 

はぁー、そうじゃないんだけどなぁ〜

「ん? なんか言ったか?」

「いや〜なんでもないよ」

「そうか」

「それより早く食べて部屋に行こうよ!」

 

 柚宇が不満そうな顔で何かをつぶやいた気がしたが、気のせいか……

 

「あ、あぁそうだな」

 

 俺は醤油ラーメンのスープを飲み干しにかかった。

 

「お邪魔しまーす」

 

 昼飯を済ませた俺たちはさっき話していたように、俺の隊室に来ていた。

 

「ん? 二部屋?」

「あぁ、それは開発室に繋がってるんだよ。一応開発室直属だしな」

「そうなんだ。でもなんか普通だね」

 

 隊室に入ってすぐのところには、応接用のソファと机、壁に大きめのモニター、書類を纏めたファイルの収まった棚、そして他の隊室には無い開発室に繋がる扉。確かにここだけ見れば何の変哲もないわな。

 

「まぁここで相談室をするしな。変に物があっても邪魔になるだけだからな」

「まっ、そうだね。じゃ奥に行こう~」

 

 柚宇が奥に入っていった。

 

「ここも普通だ……」

「まぁ俺は公私は分ける主義だしな。それにまだ部屋を貰ったばかりだからな」

 

 応接セットがある部屋の奥は仕事スペースが広がっている部屋だ。俺と葵さんそれぞれのL字デスク、ベイルアウトマットが俺用の1つ、トリガーをイジる用の作業台が置いてある。

 

「ここは開発室って感じだね~。パソコンも良いやつそうだし」

 

 柚宇の言う通り、デスクの上のPC関連は開発室の備品で、他の隊のモノとは性能が格段に良いらしい。まぁ防衛任務以外にも試作トリガーのテストのオペレートをするわけだから当然と言えば当然なのだが。

 

「使ってみたけどめっちゃ良かったよ。これ動作にラグとか無いし」

「いいな~私も欲しいー」

「改造は鬼怒田さんの許可があればできたはずだぞ。確か冬島さんとか自費で改造してたはず……」

「へ~今度やってみようかな。ねぇその時は手伝ってね」

「別に構わないけど、冬島さんのがよっくねえか?」

 

 あの人なら俺のより高スペックに仕上げられるだろうし

 

「わたしは夏樹君にやってほしいの。ダメかな……?」

 

 柚宇が上目遣いで聞いてくる。断れないなこれは。

 

「あ、あぁ分かった。俺でよければ喜んで」

「うん。ありがと!」

「……っ!」

 

 柚宇の笑顔にドキッとして顔が熱い気がする。

 

「ん? どした~? 顔、赤いよ」

「い、いや何でもない」

「そう? ならいいんだけど。それより奥はどうなってんの?」

 

 柚宇は奥の部屋に続く方を指さす。奥は多分柚宇の期待した感じだろう。奥の部屋だけは公私の私の方だからな。

 

「入ってみなよ。すげーから」

「ほ~う気になるねー」

 

 柚宇の後に続いて部屋に入る。

 隊室の一番奥の部屋は大きく分けて二つに分かれている。キッチンと居間だ。加古さんのところと似た感じだ。キッチンはすでに葵さんが冷蔵庫、食器、レンジ等の料理道具を持ち込んでいる。因みに全部葵さんが自費で新しく買ったらしい。値段は怖くて聞けなかった。

 俺はドリンクバーを置こうとしたが、よく考えたら普通に飲み物を買い置きしておけばいいだけなのでやめた。

 

「お~コタツだ!」

「おっと、そこでストップ。その先は土足厳禁だ」

 

 炬燵に滑り込もうとした柚宇を止める。キッチン横の居間は加古隊と同じく炬燵がある。だが加古隊とは、というか他のほとんどの隊と違って床が畳なのだ。炬燵は夏になれば普通の机になるタイプのやつだ。

 

「畳かー、良いね!」

「おう。先に炬燵にでも入っててくれ。今菓子を持って来よう」

「うん。おねが~い」

 

 柚宇は靴を脱いで炬燵に向かっていった。俺はティファールに水を注ぎ、キッチンの戸棚からお徳用パックの小分けチョコの袋を出す。

 

「コーヒーでいいか? それともココアがいいか?」

「うーん、ココアで~」

「あいよ」

 

 来客用のコップと俺のコップを取り出し、それぞれにココアとコーヒーの粉末を入れる。

 カチッと音がしてティファールのお湯が沸く、お湯をコップに注いで混ぜる。できたそれを居間に持っていこうとすると、カウンター越しに柚宇がチョコと飲み物を受け取ってくれた。

 

「サンキュー」

「どういた~」

 

 俺も靴を脱いで居間に上がって、柚宇の正面から炬燵に入る。

 

「ふぅー」

 

 炬燵のぬくもりで思わず息が漏れる。炬燵はいい文明だなぁ

 

「いいねぇコタツ。うちにも置こうかな」

「やめとけよ。お前らの部屋に置いたら大変なことになる未来しか視えねぇ」

「あはは~、太刀川さんだからね~あり得る」

 

 いや、あの人もだけどお前もだからなと思ったが黙っておこう。きっと忍田さんか風間さん辺りが止めてくれるだろう……多分

 

「う~ん」

「どうかしたか?」

 

 チョコを食べながら、部屋を見ていた柚宇がなにやら不思議そうに唸っている。

 

「ゲームは?」

「ゲーム?」

 

 突拍子もなく聞かれ、思わず聞き返してしまった。

 

「うんゲーム。PS〇とか無いの?」

「無いよ」

「なんで?」

「なんでって、ここ(隊室)にはいらなくね?」

「え~いるよ! 一緒にゲームしよ~楽しいよ。そうだ! 今から買いに行こ。今ならクリスマスや年末のセールしてるし」

 

 うーん、買ってみても良いかな……こないだのイレギュラーゲートでボーナス出たし、給料上がるし、自分へのご褒美ってことでって俺はOLかっ! 

 

「わかった。葵さんがOKしたらな」

「葵さん?」

「うちのオペレーターだ。俺だけで決めちゃまずいからな」

 

 俺はスマホのメッセージアプリを開いて、葵さんにゲームを買っていいかメッセを送る。5分と立たずに既読がついて返事が来た。返事は別に構わないどころか買っておいてほしいそうだ。自分もやってみたいらしい

 

「OKだってさ」

「ホント! じゃあ買いに行こう~」

「そうだな。なにを買うかとかは柚宇に任せるよ」

「そう? じゃあ任せて任せて~おすすめ沢山あるから」

「ほどほどに頼むな」

「じゃ、早速行こっか」

「今からか?」

「うん。善は焦れだよ」

「はぁ~、「急げ」な。焦るくらいなら急がば回れした方がましだ」

「ハハハ、ワ、ワザトダヨ~」

「進学大丈夫かよ……」

「それはボーダー推薦があるから大丈夫!!」

 

 何だろう柚宇の未来にダンガーさんが見える。不安だ……

「気をつけろよ」

「うん、任せてよ~」

 

 不安だ……




後もう1話書いたら、原作に合流しようと思っています。

感想、評価、アドバイスどれも自分の励みになるので是非お願いします!


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第22話

大変お待たせしました!



 柚宇と徹ゲーをすることになったクリスマスから5日後の12月30日、特にすることが無かった俺は、新しく出来た自分の隊室でのんびりしていた。まぁのんびりと言いつつスモークの改良をしているわけだが、クリスマスにほぼ毎年のように再放送されているホームでアローンの少年が泥棒を撃退する洋画の録画を見ながらだから、充分のんびりと言えるだろう。

 

「雷蔵さん、これどうですか?」

 

 横でソシャゲーのクリスマスイベの周回をしている開発室チーフエンジニアの雷蔵さんに、ノートパソコンの画面を見せる。

 

 洋画ではちょうど泥棒たちが2階から投げられたペンキ缶が顔に直撃して倒れていた。毎年見てて思うがあの泥棒2人、トリオン体なんじゃねーのって思うほどに身体丈夫過ぎるだろ。

 

 雷蔵さんはスマホを置いて、パソコンの画面を見る。

 

「うん、いいんじゃない。でもここ、このコマンドを……」

 

 そう言って雷蔵さんは指さしたコマンドを消して、新たに少し変えたコマンドを入力した。

 

「っと、こうすればOKなはず」

 

「なるほど、ありがとうございます」

 

「ところでさぁ」

 

「はい?」

 

「これ何やってるの? スモークってもう完成してなかったっけ?」

 

「完成したのは試作用に作ったプロトタイプですよ。今は、鬼怒田さんに言われてスモークを一般隊員に使えるように通常トリガーにする作業っす」

 

「そゆことね。でも偉いね、こんな年末にまで作業って」

 

「もろブーメランですよそれ。さっきまで仕事してましたよね?」

 

「まぁね。他の人たちも来てるし、暇だったから」

 

「暇って……まぁいいか。俺も似たようなもんですから。それより聞きたいことがあるんですけどいいですか?」

 

「何?」

 

「スモークを銃型にもするんですけど、あれってどうやるんでしたっけ?」

 

「あーそれね。それならちょい貸してみ」

 

 雷蔵さんはパソコンに慣れた手つきでプログラムを書き込み始める。あっという間に文字列が積み重なっていき、数分して雷蔵さんは手を止めた。

 

「ふー、こんなもんかな」

 

「早っ! さすがチーフ」

 

「まぁメテオラで同じ感じのを作ったことあるからね。そういえば銃のモデルどうすんの? やっぱり普通に突撃銃(アサルト)?」

 

 嵐山さんたちのメテオラみたいな感じってことか

 

「そうしようかなぁとは思ってますけど……ゾエとかのグレランとかの方がいいですかね?」

 

「うん、そうだね。M79とかどう?」

 

「……それ趣味ですよね? いや、おれもいいと思いますけど……」

 

「なら俺がモデリングやらなんやらやっていい?」

 

「いいですけど仕事は大丈夫なんですか?」

 

「大丈夫大丈夫、今年の分はもう終わらせたから。この後の麻雀の合間にでもやるよ。夏樹君も来る? 冬島さんと東さん、諏訪と太刀川でやるけど……」

 

「今回は遠慮しときます。この後用事があるんで、また今度で」

 

「うん、わかった。じゃあそろそろ行くね。スモークの件は任せてね」

 

 そう言うと雷蔵さんは炬燵から出て、開発室に戻っていった。

 

 

 雷蔵たちボーダー年長組はまだ知らない……

 真木理佐と小佐野瑠衣(JKコンビ)に全員ぼろ負けすることを……

 

 

 雷蔵さんが部屋を出っていった後、俺は部屋の掃除をして約束した人物が来るのを待つ。

 午後2時になる2分前にドアがノックされた。

 

「開いてるんで、どうぞ入ってください」

 

「おう、邪魔するぜ、夏樹」

 

「お久しぶりです。弓場さん」

 

 入ってきたのはツーブロックリーゼントに鋭いメガネを掛けた、今にも不運と踊っちまいそうな弓場さんだった。

 

「悪りぃな、年末に呼んじまって」

 

「いや大丈夫ですよ。神田からも聞いてましたから」

 

「神田が?」

 

「こないだ大学の入試があったんですけど、ばったり会ったんですよ。その時に弓場さんが今度来ると思うって」

 

「そうか。試験だったのか。どうだった?」

 

「そうですね。自分も神田も悪くはないとは思います」

 

「そうか、そいつァいいことだ」

 

「そうっすね。それで、神田からは頼み事って聞いてますけど、どういったやつですか?」

 

「あぁそうだな、まずはおめぇーに紹介してぇやつがいる」

 

「はぁ…紹介ですか……」

 

「そうだ」

 

 弓場さんはメガネのズレを直して、すぅーっと大きく息を吸って

 

「帯島ぁ!」

 

 と名前を呼んだ……いや叫んだ。

 

「ッス!」

 

 開いていた入り口から、褐色肌で黒髪ショートのボーイッシュな女の子が入ってきた。

 

「君は……っとまずは自己紹介だね。自分は佐藤夏樹、神田と同い年の高3だ。よろしくな」

 

「は、はい…知ってます……自分は……」

 

 それだけ言うと女の子は、黙って俯いてしまった。もしかして俺、今なにかしちゃったか? 

 

「帯島ァ……ビビってんじゃねぇー! シャンとしろや!」

 

「は、はい!」

 

「だが、てめぇの気持ちはわからねぇでもねぇ。夏樹、こいつは帯島、俺の隊の万能手(オールラウンダー)だ」

 

「一応ランク戦で見てはいたんでそこは知ってますよ」

 

「そういやそうか」

 

「よろしくね帯島()()()

 

「え…は、はいっ!」

 

「流石だな」

 

「何がですか?」

 

「あの自分はよくその、お、男の人に間違われるので……」

 

「そうなのか? 俺からすれば女の子らしくてかわいいと思うけど……

 

 男子校には所謂男の娘もいるが、ああいうのも結局はガーリッシュな男だから、帯島ちゃんとは天と地ほどの差があるだろうに……

 

「なっ!?」

 

「言うじゃねぇーか」

 

「へ?」

 

 なんのことだ? 

 

「それで頼みってのは、実はコイツぁはお前に惚れてんだ。それでなんだが…「ゆ、弓場さん!」…なんだ? 帯島ぁ」

 

「弓場さん、少しいいですか……」

 

「なんだぁ?」

 

「ちょっとこっちに」

 

 帯島ちゃんは弓場さんを引っ張って外に出て行ってしまった。

 それにしても弓場さんもびっくりさせてくれるなぁ。惚れてるなんて、俺が誤解したらどうするつもりだったんだ。せめて憧れとか尊敬とかって言うべきだろうに……

 

 少しして二人は戻ってきた。何を話していたのかは聞こうと思ったけど、帯島ちゃんがなんか怖くて聞けなかった。まぁさっき俺が考えていたこととあんま変わんないだろう

 

「あー、夏樹ィさっきの惚れたってのはだな……あ、あれだ。おめぇーの腕に惚れたってことだ。変な勘違いすんなよ」

 

 やっぱりそうだったか……

 

「了解です。腕ってことは頼みって……」

 

「そうっす。自分を弟子にしてください!」

 

「俺からも頼む!」

 

 2人は直角に頭を下げた。めっちゃ体育会系だな、おい。

 

「ちょっ、頭をあげてくださいよ。そこまでしなくてもいいですから。俺でよければ師匠になりますよ」

 

 ……師匠になりますって自分で言うのなんか恥ずいな。

 

「ありがとうございます!」

 

「よろしく頼む」

 

「はい、俺も頑張って教えますよ。早速だけど今から大丈夫か?」

 

「はい! 大丈夫です」

 

「すまねぇが俺はこの後用事がある。帯島ァ気合入れていけよ!」

 

「ッス!」

 

「よし。夏樹、あとは頼んだ」

 

「了解です。それじゃ弓場さん、よいお年を」

 

「あぁ、オメェもな」

 

 弓場さんは部屋を去っていった。

 

「よし、早速始めようか!!」

 

「はい! お願いします!!」

 

「うーん、とりあえずまずは戦おうか。帯島ちゃんとは直接戦ったことないもんな」

 

「そうですね。わかりました」

 

 俺は帯島ちゃんと訓練室に入って、トレーニングルームの設定をしていく。

 

「とりあえず10本いこうか。俺はスコーピオンとレイガストとシールドだけ使うから、帯島ちゃんは孤月でも弾でも自由に戦っていいよ。まずはどのくらいできるのか知りたいから」

 

「わかりました」

 

 帯島ちゃんが孤月を抜いて戦闘態勢をとったのを確認して、俺はコンソールから模擬戦を十秒後に開始するように操作して、レイガストを構えて戦闘に頭を切り替える。

 

 最初はこっちから攻めて、守りを見てみるか

 

 

 〔 模擬戦 開始 〕

 

 

 機械的なアナウンスがかかったのとほぼ同時に俺は帯島ちゃんに向かって駆け出して、右手に持ったスコーピオンで帯島ちゃんにしかける。

 

 とりあえずは様子見程度の力で行こう。

 

 帯島ちゃんはスコーピオンを危なげなく孤月で防ぎながらも、俺が左手に持っているレイガストをしっかり警戒をしている。

 

 やっぱり守りは得意みたいだな。もう少し力を出そうか。

 

 俺は一旦帯島ちゃんから距離をとる。そして右手に持っていたスコーピオンを消して、レイガストをブレードモードへと変形させる。

 

「ちょいレベル上げるぞ」

 

「ッス!」

 

 帯島ちゃんは気合の入った返事をして、孤月を構え直した。

 

 俺はスラスターで勢いをつけたレイガストの重い攻撃と、体の色んな場所から生やすスコーピオンで、帯島ちゃんの防御を崩しにかかる。

 

「くっ……ハウンド!」

 

 最初はなんとか攻撃を躱したり逸らしていた帯島ちゃんも、次第に防御が崩れ始めてダメージを負い始める。帯島ちゃんは仕切りなおそうとハウンドで牽制しつつ距離を取る。

 

 俺は後ろではなく、敢えて前に出ることでハウンドの誘導半径から出る。

 

「アステロイド」

 

 ハウンドから逃れた俺に、帯島ちゃんはアステロイドで迎え撃つ。

 

「シールド」

 

 アステロイドをシールドで防ぎながら帯島ちゃんに追いつき、スラスターを吹かしてレイガストで回転しながら斬り込む。そしてその時背中にスコーピオンを生やしておく。

 

 帯島ちゃんは迫りくるレイガストを防ごうと弧月を振るう。帯島ちゃんは迫りくるレイガストをなんとか防ぐが、勢いを殺しきれず体勢を乱す。

 

「しまっ……!」

 

 体勢が崩れた帯島ちゃんに俺の背中から生えたスコーピオンの斬撃が入った。

 

 

 〔 トリオン供給機関破損 緊急脱出(ベイルアウト) 模擬戦 終了 〕

 

 

 戦闘が終わったことで帯島ちゃんのトリオン体が修復される。

 

「一旦お疲れ。やっぱりムービーで知ってたけど守りうまいね」

 

「ありがとうございます」

 

「じゃあもう一戦行こうか」

 

「ッス」

 

 俺は再度コンソールから模擬戦を開始させる。

 

 

 〔 模擬戦 開始 〕

 

 

 今度は帯島ちゃんの一挙手一投足に注意を払って、帯島ちゃんが動くのを待つ。

 

「ハウンド」

 

 帯島ちゃんが動いた。ハウンドを撃ちながら、孤月を右手に構えてこちらに向かってくる。

 

 俺はスコーピオンを一旦仕舞って、レイガストとシールドでハウンドを防ぐ。さらにレイガストで、帯島ちゃんの弧月を逸らすようにして防ぐ。そして弧月を振り切った帯島ちゃんに、再び出したスコーピオンで反撃する。

 

 帯島ちゃんは、スコーピオンの素早い連撃を、弧月で上手いこと捌いて斬り返してくる。

 

「アステロイド」

 

 帯島ちゃんはさっきみたいに俺に反撃されないように、今度はアステロイドやハウンドを使った多角的な攻撃を仕掛けてくる。

 

 俺はその攻撃を避けたりレイガストで防いだりで捌いて、隙を見てスコーピオンで反撃を加えて少しずつ帯島ちゃんにダメージを与えていく。それによって帯島ちゃんの顔に焦りが浮かんで、弧月を握る腕に余計な力が入っているのか鋭さが失われて、ハウンドやアステロイドの狙いも正確さが失われる。

 

「っ……」

 

 焦った帯島ちゃんはなんとか立て直そうと弧月を横に大きく振りかぶってくる。

 

「スラスター」

 

 俺はスラスターで後ろに下がり帯島ちゃんの斬撃を躱す。帯島ちゃんとの間に中途半端な距離が空いた。

 

 次の行動を迷ったのか、帯島ちゃんの動きが止まる。その隙に俺はスコーピオンを投げて、帯島ちゃんに駆け寄る。

 

「……っ!」

 

 目の前に迫るスコーピオンを驚きながらも、体を仰け反らせてなんとか躱した帯島ちゃんにレイガストで斬りかかる。さらに追い打ちにモールクローで帯島ちゃんの背後からも仕掛ける。

 

 帯島ちゃんはレイガストは避けれたが、後ろのスコーピオンに気づけずにそのまま供給機関を貫かれた。

 

 

 〔 トリオン供給機関破損 緊急脱出(ベイルアウト) 模擬戦 終了 〕

 

 

 模擬戦が終了したことで、帯島ちゃんのトリオン体が修復される。

 

「お疲れさん」

 

「はい」

 

「じゃあ少し休憩したら早速反省会しようか」

 

「ッス!」

 

 俺は帯島ちゃんとトレーニングルームから出て、先に帯島ちゃんにソファに座ってもらっておいてスポドリを冷蔵庫から出して、コップに注いで持っていく。

 

「はい。スポドリだけど大丈夫?」

 

「はい、大丈夫です」

 

 麦茶の入ったコップを帯島ちゃんに渡して、俺も帯島ちゃんの正面に座ってスポドリを口にする。

 

 目の前の帯島ちゃんも喉が乾いていたのか、ストローを口にしてスポドリを飲んでいる。その仕草が可愛らしくて、心が癒されていく気がする。

 

 帯島ちゃんに癒されたことだし

 

「よし、始めるか」

 

「ッス、お願いします」

 

 さっきの模擬線の記録をソファ横の備え付きのモニターに映して、反省会を始めた。

 

 

「提案なんだけどさ」

 

「はい」

 

「ハウンドをバイパーにしてみない?」

 

「バイパーですか?」

 

 帯島ちゃんは俺の意図が分からなかったのか「なぜ?」って顔をする。

 

「うん、帯島ちゃんは戦ってる時、変に焦ることもないし戦闘スタイルを見てもバイパーが使えるなら使った方がいいと思うよ」

 

「あの、でもバイパーって弾道を設定しないと、ですよね」

 

「うん、そうだよ」

 

「ならハウンドの方がいいんじゃ……」

 

「うーん、とりあえず説明するよりやってみせた方が分かりやすいか……良し! ちょっとトレーニングルーム行こうか」

 

「わかりました」

 

 俺たちは再びトレーニングルームに入った。

 

 トレーニングルームに入った俺はコンソールを操作して、あるソフトを起動する。するとスナイパーがよく練習で使う人形が出てきた。

 

「さて帯島ちゃん、あの人形は近づいてくる攻撃に対してシールドを張るようになってる」

 

 起動したのは俺と宇佐美合作の訓練用ソフトだ。玲や虎太朗がよく使うもので、簡単に言えばただ的の人形に弾を当てるだけ。ただし的は攻撃に反応してシールドを張ったり、動いて避けたり出来るってものだ。

 

 今の設定した難易度では的はただ弾に反応してシールドを張るだけで、動きはしない。でも難易度次第では的の人形自体が動くし、反撃してくるようになる。さらには一体だけじゃなくて同時に何体も出せるから、難易度はかなり自由が利く。

 

 因みに宇佐美との合作は色々あり、玲の訓練で使うシューター用のやつだったり、そういえばやしゃまるの一体もそういえば俺が作ったんだっけか……今思うと謎テンションで作ったもんだな。真っ赤なカラーリングに謎の一本の角(ブレードアンテナ)、普通のモールモッドの三倍の速さ、俺はあの時謎の電波でも受信していたのだろうか? 

 

 っと、そんなことより帯島ちゃんに説明しないと

 

「まずいつも帯島ちゃんがする様にハウンドを撃ってみよう」

 

 俺はコンソールをいじって、ハウンドがセットされた突撃銃(アサルトライフル)を出して、弓なりの軌道を描くように的とは違う方向に向けてハウンドを放つ。ハウンドは特に変わった軌道を描くこともなく、弓なりの軌道を描いて的へと飛んでいく。的はハウンドに反応してシールドを出して、ハウンドを防いだ。

 

「と、まぁこんな風にハウンド単体だと割と簡単に避けられる。今のは探知誘導だったけど、もしこれが視線誘導でも帯島ちゃんが戦うであろうB級上位陣の人たちは、帯島ちゃんの視線から弾道を予測して簡単に防ぐだろうね」

 

 ただハウンドを撃てば勝てるのは、C級、良くてもB級下位ぐらいまでだろう。

 

「まっ確かにハウンドと弧月での戦い方は帯島ちゃんに合ってる。帯島ちゃんがそうやって敵を抑えて、そこを弓場さんが仕留める。シンプルだけど強力だ。でもそれってなんで機能してたかわかる?」

 

「神田先輩が他の敵を抑えていたからです」

 

「そう、その通り」

 

 神田のやつはそういうのが結構うまかったからな。

 

「でも神田は受験で今いない。ならせっかくの機会だし帯島ちゃんも一人で点を獲る力を上げた方が良い。で、そこで出てくるのがバイパーな訳だ。とりあえず見ていてくれ」

 

 今度はコンソールをいじらず、自分のトリガーからバイパーのキューブを出す。バイパーの弾道をリアタイで設定するのではなく、あらかじめよく使うものとして設定してある弾道で、的に向けて撃つ。バイパーは的に向かって真っすぐ飛んでいき、的が弾に反応して張ったシールドに当たる直前にシールドを避けるように曲がって、的に命中した。

 

「こんな感じでシールドを躱せるわけだ」

 

「あの……今のは弾道をリアルタイムで設定したんですか?」

 

「いや、違うよ。あらかじめ設定していた弾道だよ。弓場さんとやってることは同じさ」

 

「そうだったんですか」

 

「俺と出水と玲がリアルタイムで弾道を設定することが多いからか誤解されてることが多いけど、射手(シューター)銃手(ガンナー)と変わらずあらかじめ弾道を設定しておくことが多いんだよ」

 

 なんだかんだで事前に設定してる弾道で済ませられることが多いからな

 

「じゃあ私は弓場さんがするような崩しをするということですか?」

 

「そうだね。まぁ崩しと言うより、相手の余裕を奪うイメージかな」

 

「余裕ですか?」

 

「うん。さっきも言ったけど今の帯島ちゃんのハウンドは、はっきり言えば大した脅威にはならない。こと上位陣においてはね。探知誘導は単純な軌道だし、視線誘導でも帯島ちゃんの目を見れば大体の弾道は分かるから、どっちも飛んでくる弾を見ないでも防げるだろうね。それじゃ相手の余裕を奪えはしない。でもバイパーなら設定次第で弾道を複雑に出来るし、より多角的に攻撃することだって出来る。相手もバイパーの弾道を防ぐまで気にしないといけなくなるだろう」

 

「なるほど……」

 

「それに今言ったことだけじゃない。例えばアステロイドに見せかけて実はバイパーでしたとか、その逆のバイパーかと思わせてアステロイドだったとかすれば、相手に考える時間が出来る」

 

「でも弾速とかでバレるんじゃ…」

 

「それはさっき教えた射程を短くして弾速を上げるようにすれば分からなくすることも出来る」

 

「なるほど……でも私にできますか?」

 

「最初の内はきついだろうね。でも状況に応じた弾道の選択や、弾の威力、弾速、射程の調節を、呼吸するかのように出来れば今より格段にパワーアップ出来るよ。そのための練習なら俺でよければいくらでも付き合うし。どう? やってみるか?」

 

「はい! やってみます!!」

 

 うん、良い返事だ。

 

「じゃあ早速トリガーセット変えてみようか」

 

「ッス!」

 

 




この次から原作に合流する予定です。

アンケートなんですが、やっぱり自分で考えて決めようと思うので消させてもらいました。ご協力してくださった方、申し訳ありません。

感想、評価、アドバイス、質問などどんどんお願いします!
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第23話

お待たせしました!!


短いですが、ついに大規模侵攻編に突入です!



カチッ

 

電気ケトルのお湯が沸いたことを知らせる音を聞いた夏樹は、ケトルを電源プレートから外して、あらかじめインスタントコーヒーの粉末を入れておいた2つのカップにお湯をのの字を描くように丁寧にお湯を注ぐ。そして出来たコーヒーとお茶請けの小分けのバウムクーヘンを持ってキッチンからリビングに行く。

 

余談だがバウムクーヘンとは職人が一本ずつ手作りした菓子のことを指し、日本でバームクーヘンと呼ばれる菓子とは別物と言ってよい。夏樹が今お茶請けに出したのは、オペレーターの相川の家に送られてきたものの中の余りを相川が持ち込んだ物。要は本場ドイツのガチもんのバウムクーヘンなのだが、バウムとバームの違いを知らず、さらには違いの分からない男(舌バカ)である夏樹は気にせずに、お茶請けに出すどころかそこらのスーパーでよく売っているような食べるのに飲み物が必須なお徳用バームクーヘン感覚で食べている…

 

食べってしまっている。後日真実を知って顔を真っ青になるとも知らずに…

 

 

閑話休題

 

 

「どうぞ、コーヒーです」

 

夏樹がキッチンから出て来て、テーブルの上にコーヒーを置く。

 

「ああ、サンキュー」

 

炬燵で温まっていた冬島は礼を言ってコーヒーを夏樹から受け取って一口、口にする。

 

「ふー、やっぱ夏樹が入れるとうまいな。舌バカなのに」

 

「一言余計ですよ」

 

夏樹も炬燵に入ってコーヒーを口にする。まぁその前にミルクと砂糖を大量に入れてだが…

 

「そういや妹ちゃんボーダーに入ったんだってな」

 

冬島は、夏樹のもはやコーヒーではなくコーヒー牛乳になっているソレに呆れながら、夏樹に関わりのある話題を上げる。

 

「ええ、オペレーターですよ。でもなんで知ってるんですか?」

 

「俺んとこのオペに聞いたんだよ」

 

「真木ですか」

 

「おう。なんでも「オペレーター界にも期待の新人が入って来た」って」

 

先日の入隊日で隊員たちの間で話題になっているのは、バムスターを0.4秒で倒した新人と本部の壁に穴を開けたトリオンモンスターの2人なのだがオペレーター達の間ではそれに加えて、機器操作、情報分析、並列処理を部隊オペレーター並みに出来る新人が入ってきたと話題になっていた。

 

「まぁ冬華は玉狛で、基本的なことは宇佐美に教わってますから」

 

「あーやっぱそうだったか。それと、隊をもう組んだんだってな」

 

「そりゃ入る前から組もうって話になってたみたいですからね」

 

「西峰ズか…お前は入らなくてよかったのか?」

 

「自分で言うのもアレですけど、俺が入っちゃダメでしょ」

 

昔、まだ夏樹が本部で沢村たちと部隊を組んでランク戦をしていた時トリオン量の多さからチーター扱いされたことがあり、色々あったのだがそれはまた別の話。

 

「それもそうだな。てっきり俺は夏樹も入るもんだと思ってたよ。お前シスコンだもんな」

 

「冬華は大事ですけど、俺はシスコンではないですよ。それに、もしシスコンだとしても隊を組むことはないですよ」

 

「どうしてだ?」

 

「そんなの、冬華の為にならないじゃないですか。あいつももうすぐ高校生になるわけですから、いつまでも過保護なわけにはいかないですよ」

 

などと、冬華の兄離れかのように夏樹は言うが、本当は冬華による長きにわたる説得で夏樹が妹離れをしただけである。

 

「それもそうか。ランク戦参戦は次のシーズンから?」

 

「ええ。二月から参加するらしいですよ。あぁそういえば、ちょうど今頃、初防衛任務ですね」

 

「お前付き添わなくて良かったのか?」

 

「いや〜付き添いたかったんですけど、この後1時から新トリガーの実戦テストがあるんで、東さんに頼みました」

 

「そうか。新トリガーってそれか?」

 

冬島は、夏樹の前に置いてあったスマホ大の大きさの物を指差した。

 

「そうですよ。まぁ中身も改蔵されたものや新開発が多いですけど…」

 

夏樹は冬島にそのトリガーを渡す。

 

デカイな…

 

手からはみ出す程の大きさとずっしりとした重さに、冬島は思わず声を漏らした。

 

「普通のトリガー3本分のコストらしいです」

 

「ほー、それはまたすごいなぁ。で、肝心の機能はどんなだ?」

 

冬島は手に持ったそれを見る。

 

「なんでも、鬼怒田さんがパーフェクトオールラウンダー用に考えた物らしいです。攻撃手、射手、狙撃手のポジションごとにトリガーセットを瞬時に切り替えることが出来るとか」

 

「なんだそりゃ」

 

「えーっと詳しく説明するとですね。3つのポジションごとに4つのチップのセットがあって、状況に応じてその場でチップを切り替えられる用になってるんです。もし狙撃してたところに近づかれても、セットを攻撃手用に切り替えれば、そのままスコーピオンとかレイガストを出して返り討ちに出来るわけです」

 

「なるほど、そいつはすげぇな。でもそれだと何個チップをセットしてんだ?いくらトリオンモンスターのお前といえど、各ポジションのトリガーをセットするのはきついんじゃないか?」

 

「そうですね。攻撃手用と射手用にそれぞれ4つ、狙撃手用に3つ、後シールドやバックワームとか7つで、18個ですね」

 

「多いな…」

 

「自分もそう思いますよ…まぁでもタンクがあるんで、大丈夫と言えば大丈夫なんですけどね」

 

「タンク?…あぁ自作のやつか」

 

「ええ、そうです」

 

「確か、トリオンを貯めてるんだったか?」

 

「はい。俺のトリオンが確か39くらいなんですけど、その中の3分の2を常に貯蓄に回しているんですよ。貯めたトリオンは、戦闘体を作る時に時間短縮したり、戦闘用のトリオンになったりしてるんですよ」

 

因みにタンクについて詳しいことを知った鬼怒田開発室長が、新たに改良作を作っている。

 

「便利なもんだな」

 

「まぁこれは俺の自信作ですから!」

 

「あっそうだ。お前が作ったスモークさぁ、あれってどうなったんだ?」

 

「あぁあれは今俺専用から一般用にするために改良中です」

 

「おっそうなの。じゃあさトラッパー用にも出来るように頼める?」

 

「いいですよ。やっぱり使うつもりですか…」

 

「そりゃそうだろ。あれがあれば、うまくいきゃ当真の狙撃を隠せるだろ」

 

「まぁ確かにそうですね。分かりましたやっておきます。ってそういえば冬島さん、仕事大丈夫なんですか?」

 

夏樹は少し呆れた目で冬島を見る。

 

「大丈夫!大丈夫!…どうせ徹夜することになるだろうから…

 

「いや、それ大丈夫じゃ………っ!?」

 

その時だった。

夏樹の言葉を遮るようにしてボーダー内にアナウンスが流れ、夏樹と冬島2人のボーダー用端末にもメッセージが届く。

 

 

〔 門発生 門発生 大規模な門の発生が確認されました 〕

 

 

「冬島さん!」

 

「ああ、ついに来たようだな」

 

2人は炬燵から出て、トリガーを起動する。

そしてリビングから隣の機器類が置いてある仕事用の部屋に行く。

 

「隊室まで戻ってたら時間が無いな…夏樹、PC借りていいか?」

 

「どうぞ。そっちが俺のです」

 

「おう、サンキュー」

 

冬島は、夏樹が使っている机に着いて、PCを起動する。

夏樹はタブレット端末を開いて、状況を確認する。

 

「出現したトリオン兵はどうやらいろんな方向に分散したみたいですね。そっちはどうですか?」

 

夏樹は、PCで罠の稼働状況を確認している冬島に問いかけた。

 

「ああ、問題なく稼働してるな。これなら隊員の現着まで持つだろ」

 

「そうですか。なら少し安心ですね」

 

夏樹は大きく息を吐き、張り詰めた気を少し緩める。

 

「まぁな。だが四年前のよりだいぶ規模がデカい。あんま気を緩めすぎんなよ。まぁこれはお前じゃなく当真の奴に言った方が良いかもしれないがな…」

 

「ははは、確かにあいつならこの状況でも寝てそうですね」

 

「だな」

 

2人でこの場にいない奴の話をしているとドアの開く音が聞こえ、誰かが入ってきた。

 

「ごめんなさい!待たせちゃったわね」

 

少し走ってきたのか息を切らし気味に謝って入ってきたのは相川だった。

 

「大丈夫ですよ葵さん。俺はまだ出撃じゃないんで」

 

「そう?なら良かったわ。私のせいで出るのが遅れたらどうしようかと思って少し焦っちゃったわ。あっ冬島さん、お疲れ様です!」

 

「お、おうお疲れさん。それじゃ夏樹、俺は自分の隊室に戻るわ。お互い頑張ろうや」

 

「はい、頑張りましょう!」

 

冬島は、相川と入れ替わるようにして部屋を後にした。決して女子が苦手だから逃げたわけでは無い……と思いたい……

 

 

 

 

 




感想、評価、アドバイス等々、是非お願いします!!


皆さんはWT最新話&最新21巻読みましたか?
自分はジャンプ+の電子書籍でもう読みました。(ステマ)
一言だけ「二宮さんはやはりかなりの天然」


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第24話

アニメ ワールドトリガー 新シーズン製作決定おめでとうございます!!
今からもう楽しみです。帯島ちゃんや弓場ちゃんや生駒さんの声優は誰ですかね?


「せりゃあ!!」

 

 優佳の威勢の良い声と共に弧月が振り下ろされモールモッドの弱点部分を破壊する。

 

「姉貴!」

 

「あいさぁ」

 

 優佳の後ろにいた勇人が、優佳に声をかける。それだけで勇人のすることが分かったのか、優佳は後ろに跳ぶ。跳んだ先には勇人が出したグラスホッパーがあり、それを着地と同時に踏んだ優佳が、倒したモールモッドの奥から迫るバムスターに向かって跳び上がり、弧月を斬り上げてバムスターを仕留める。

 

「よっ、と」

 

 優佳が弧月を鞘に戻しながらきれいに着地する。

 

「ハウンド」

 

 着地してすぐに今度はハウンドを出して、まだやって来るトリオン兵たちに向けて撃つ。そしてハウンドでトリオン兵たちの動きが止まった隙に鞘に収めた弧月に手を添えて

 

「旋空弧月」

 

 旋空によって間合いの伸びた居合斬りで、動きの止まったトリオン兵を斬る。それでも仕留めきれなかったトリオン兵たちが、優佳に向かっていくが、横の家の屋根に移動していた勇人のハウンドが、横合いから飛んできてトリオン兵たちを仕留めた。

 

『今倒したトリオン兵でとりあえず近くの敵は片付いたみたい』

 

 二人の元に冬華からの通信が入る。優佳と勇人は念のため周囲を一度見まわしてから弧月を鞘にしまって一息つく。

 

『わかった。ありがと、ふゆちゃん』

 

『とりあえずこれでひと段落だな』

 

『うん、そうだね』

 

『ふゆちゃん大丈夫? 緊張してない? ほらリラックスリラックス』

 

 冬華の声がいつもと違うのに気付いた優佳が、緊張をほぐすように冬華に言って深呼吸をして見せる。

 

『そうですね』

 

 冬華も優佳に倣いPCから手を放して大きく深呼吸をする。冬華の深呼吸が通信を通して二人に聞こえる。冬華の幼いころからのそういった真面目さを知る西峰姉弟は、きっとラジオ体操のように手を広げて深呼吸しているのだろうと想像して思わず笑みをこぼした。

 

 

 冬華がボーダーに入隊し、新たに部隊を組んだ三人は、部隊としては初めての防衛任務に出ていた。そして運悪くその防衛任務中に大規模侵攻が始まり、警戒区域外に行こうとする無数のトリオン兵たちの対処に追われていた。

 

『冬華、東さん達との合流ポイントまで後どのくらいかわかるか?』

 

『うん、もう少しみたい。もうすぐそこまで東隊も来てるから合流できそう』

 

 その時だった。東隊のいる方向から、何かが住宅を破壊しながら、ものすごい速さでこちらに迫ってくる音がした。

 

「勇人、警戒!」

 

「ああわかってる」

 

 2人は迫る何かに警戒して孤月を構える。

 

 横の家を突き抜け、そのまま向かいの家に突っ込んで行ったのは、東隊の奥寺だった。

 

「え!? 奥寺先輩!?」

 

「に、西峰か……」

 

 奥寺はダメージは負っていないが吹き飛ばされた衝撃で動けないようで、それを助けに勇人が近づく。

 

「奥寺先輩、大丈夫ですか?」

 

「あぁ……大丈夫だ」

 

 奥寺が勇人の手を借りて立ち上がる。

 すると、奥寺が吹き飛んで来た方向からドンッと大きな銃声が二回聞こえベイルアウトの軌道が空に走った。

 

 

 

 

「新型……そうか、そういうことか!」

 

 戦闘中の各部隊やレプリカからの情報を見ていた夏樹が呟く。

 

「どうかしましたか夏樹君?」

 

 横で同じく情報を見ていた相川が、不思議そうに呟いた夏樹の方を見る。

 

「戦力を分散させた敵の意図が読めなかったんですが、隊員を分散させたところにトリガー使い捕獲用の新型を出したってことは……」

 

「敵の狙いは正隊員ということですね。敵の分散に対応して私たちが分散したところを新型が捕獲するつもりのようですね」

 

「ええ、おそらくは。まぁ俺らボーダー隊員が新型に気を獲られてる間に、他のトリオン兵で街を襲うつもりかもしれませんが……」

 

(いや……待てよ。何か違和感がある。腑に落ちない……何かを間違えている気がする……)

 

 そう思った夏樹は、机の端に置いてあるチョコバーを口に入れて、目を閉じて副作用(サイドエフェクト)を使って頭をフル回転させて思考の海へと潜っていく。

 

「夏樹君?」

 

 横にいる相川が不思議そうに話しかけるが夏樹は、それに返事もすることなく自分の頭脳をフル回転させ、頭の中で自分の考えを整理していく。

 

(今回の敵の特徴は……)

 

(ボーダーの戦力は……)

 

(敵はこっちのことをどれだけ知っている……)

 

(俺が敵なら何を狙って、その狙いのためにどう動く……)

 

 頭の中で次々と自問自答していき、頭の中にぽっかりと開いた穴を埋めるように、違和感の正体というパズルをピースをはめて完成させていくようにして違和感の正体へと迫っていく。

 

(俺は何を無意識に気付いたんだ……)

 

(新型のことか? ……いや違うな。新型がどうのこうのは問題じゃない。極論ボーダーなら緊急脱出(ベイルアウト)で被害を出さずに済ませられる。何が俺の中に引っ掛かっているんだ……)

 

 夏樹は無意識の中にあるソレに、絡まった糸を解いていくように迫っていく。

 

(ん? 待てよ……敵はラッドを使っていたはず。確かラッドはゲートを開くように改造されたものだったが、元々は隠密偵察用のトリオン兵だ。ならイレギュラーゲートの時の偵察で、俺らに緊急脱出(ベイルアウト)があるのも知っているはず……だとしたら何故トリオン兵を分散させて新型を出した? まさか敵が見落とすとは思えないし……ダメだ、一旦落ち着こう)

 

 夏樹は思考を止めて、自分の世界から出る。副作用(サイドエフェクト)を使ったからか少し頭痛がした夏樹は、チョコバーへと手を伸ばす。

 

「あっ! 夏樹君、大丈夫ですか? 急に黙り込んでしまって心配しましたよ」

 

 夏樹の動きに気づいた相川が声をかける。相川の手にはカップの乗ったお盆があり紅茶のいい香りが漂っている。

 

「すいません、少し考え事を……」

 

「考え事ですか? ……なら、よろしかったら私にも教えてもらえますか? 一緒に話し合えば、分かることがあるかもしれませんわ」

 

 相川は紅茶の入ったカップを夏樹に渡し、椅子を回転させて身体を夏樹の方に向けて話を聞く姿勢をとる。

 

「そうですね。じゃあお願いします」

 

 夏樹は今考えていたことを話した。

 

「なるほど緊急脱出(ベイルアウト)……あっ! だとしたら避難誘導しているC級隊員を避難させた方が良いんじゃないかしら!? 新型がC級隊員のところまで行ってしまったら、緊急脱出(ベイルアウト)ついていないC級隊員じゃあ、ただ捕まるだけになってしまうわよね?」

 

「そうですね……はっ!! そうかC級だ。いやでも……あぁまさかあの時か!」

 

 相川のC級隊員を心配した考えを聞いた夏樹の頭の中に電撃が走り、ある一つの推測が浮かんだ。

 

「どうかしたのですか?」

 

「葵さん、今戦闘に出ている三雲君に通信を繋いで貰えますか? 少し聞きたいことがあって」

 

「わかったわ。少し待っていて」

 

 相川は自分のPCに向かい、機器を操作して夏樹と三雲の通信をつなげる。

 

『佐藤先輩、どうかしましたか? 僕に聞きたいことって?』

 

「突然で悪いが、こないだの三門第三中のイレギュラーゲートの時、お前トリオン兵に一度倒されたりしたか?」

 

『はい。あの時は僕がやられてしまったので、僕のトリガーを使って空閑がネイバーを倒しました』

 

「つまりお前はトリオン兵に戦闘体を破壊されたんだな?」

 

『はい、そうです』

 

『なぁ佐藤先輩、一体どうしたの?』

 

 三雲と一緒にいる空閑が不思議そうに聞いてくる。

 

「少し確認したくてな。ありがとな三雲、これで確信が持てた。気を付けてな。空閑も」

 

『はい! ありがとうございます』

 

『先輩も気を付けてね』

 

 三雲との通信が切れる。夏樹は次に忍田本部長に通信をつなぐ。

 

「忍田さん、佐藤です。敵の狙いが分かりました。狙いは避難誘導中のC級隊員です」

 

『佐藤、それはどういうことだ?』

 

「敵は、第三中でのイレギュラーゲートの時、ゲートを開けたラッドを通して、三雲君の戦闘体が破壊されるところを見た可能性が高いです。それによってC級隊員に緊急脱出(ベイルアウト)が無いと知り、正隊員が一か所ずつ対処している間にC級隊員を攫うのが狙いかと」

 

『なるほど、確かにその可能性は高いな。……よし、夏樹は基地東部に向かってくれ。そこで風間隊と合流して防衛にあたってくれ』

 

「了解です」

 

『頼むぞ!』

 

 忍田さんとの通信が切れる。

 

「じゃあ葵さん、俺は指令通り東部に向かいます。オペレートお願いします」

 

「ええ、任せて! 夏樹君も頑張ってね」

 

「はい、ありがとうございます。それじゃ行ってきます」

 

 夏樹は隊室を出て、外へと向かった。

 

 そこへ通信が入る。戦闘中の全部隊に、敵の狙いが恐らくC級隊員であることが伝えられ、新型に遭遇して捕獲されそうになった場合は無理せず緊急脱出(ベイルアウト)をすることを徹底することと、なるべく早く合流してC級隊員のカバーに向かうよう指令が、そして避難誘導中のC級隊員には、無理な戦闘はせず緊急時は避難を徹底するよう再度厳命がされた。

 

 

 

 

『なるほど敵の狙いはC級だったか』

 

「さっきのなつき先輩の質問はそういう事だったのか」

 

 レプリカと空閑はそれぞれ納得したように話す。

 

「僕のせいだ……いやそれより今は千佳たちだ! 千佳たちが危ない!」

 

 三雲はチームメイトの千佳に避難するように言ったことを後悔していた。

 

「どうするオサム? チカのとこに行くか」

 

 そしてその三雲の様子を見ていた空閑が千佳の元に行くかと提案する

 

『B級隊員には全員速やかに合流するよう指示が出ている。どうやら一か所ずつトリオン兵を排除していくつもりのようだ』

 

「一か所ずつ……!? じゃあその間他の場所……千佳たちはどうなるんだ?」

 

『トリオン兵の排除は避難の進んでいない地区を優先するとのことだ。避難がスムーズな千佳たちは後に回される可能性が高い』

 

「そんな……」

 

 ドンッ!! 

 

 三雲達の話を遮るように轟音がして、その音と共に近くの建物が崩れ、中から新型が姿を現した。

 

 

 

 

「目標沈黙!」

 

 新型が動きを止めたのを確認した嵐山が報告する。

 

 三雲たちの目の前に出現した新型は、空閑の(ブラック)トリガーによる強力な一撃と途中参戦した嵐山隊の嵐山と時枝の銃撃によって倒された。

 

「あれ? 空閑君そんな恰好だったっけ?」

 

「例の(ブラック)トリガーですよ先輩。というか、あなたそれ城戸司令から使用許可下りてるの?」

 

「下りてないけど、非常時なもんで」

 

 まだまだやって来るトリオン兵を前に話をしている自分の部下と空閑たちを尻目に見ながら、嵐山は本部に新型撃破の報告をしようと通信を試みる。

 

「本部! こちら嵐山隊! 新型を一体排除した! トリオン兵を減らしつつ次の目標へ向かう!」

 

『…………』

 

「……? 本部……?」

 

 報告をした嵐山に帰ってきたのは、次の指示でもよくやったの一言でもなくノイズだけだった。嵐山はそれを不審に思い、耳を澄ますと、ノイズ以外の言葉が聞こえてくる。

 

『……砲で……迎撃……近……』

 

 通信から断片的に不穏な言葉が聞こえ、嵐山たちは本部の方を見た。

 

「あれは……!」

 

「爆撃型トリオン兵……イルガー!」

 

 嵐山たちの目に映ったのは、三体の爆撃型トリオン兵イルガーが、本部基地の砲台に迎撃されながらも本部基地に向かって自爆モードで突っ込んでいく様子だった。

 

 本部に向かって飛ぶ三体のイルガーの内の一体が、本部基地の砲台で撃墜されたが、残りの二体が本部基地に直撃して、本部基地の一角を覆うほどの爆発が起きた。

 

「基地がやられた……!?」

 

「いや……」

 

 その光景を見ていた三雲が思わず呟くが、その呟きを爆発を喰らいながらも未だ無事な本部を見た嵐山は冷静に否定した。

 

「今度は4体も……!?」

 

 追い討ちをかけるようにさらに3体のイルガーが本部へと特攻していく。本部は先頭の1体に砲台の狙いを集中して撃墜する。

 

「1体は墜としたな」

 

『だが、まだ2体残っている』

 

 レプリカが言ったように先頭の1体は堕ちたが、後続の2体は依然本部へと特攻を続けていた。だが本部の砲台は砲撃を止めてしまっていた。もう間に合わないと嵐山たちは最悪の事態を覚悟した。

 

 

 

 その時だった。

 

 本部の屋上から光の柱が伸びて、縦列で本部へと特攻していくイルガー2体を貫いた。

 

 

 

「爆撃型2体撃破。葵さんデータの方はどうですか?」

 

 夏樹は膝射の姿勢から立ち上がった。手にはアイビスやイーグレットの様に実銃をモデルにしたようなものではない、ライトニングのようなSFチックで、ゴツゴツでメカメカなライフルが握られていた。

 

『大丈夫よ』

 

「そうですか。なら良かったです」

 

『いや〜すごかったね、それ。アイビス改って言ってたけどビームじゃん、ビームライフルじゃん』

 

「だな。それにしてもなんちゅう威力だ。爆撃型って装甲が硬いんだったろ」

 

 夏樹と同じくイルガーを落とそうと屋上に登ってきた太刀川とその隊のオペレーターである国近が、さっき夏樹が放ったライフルの威力に驚いている。

 

「それは自分も驚いてますよ」

 

 夏樹がイルガーを落としたのに使ったアイビス改。これはイレギュラーゲートの際に出現したイルガーなど、重装甲の大型トリオン兵に対処するために試作されたもので、入隊日に起きた防壁ぶち抜き事件の詳細を知った鬼怒田開発室長が、アイビスを更に高火力にしたものを思いつき、更にそこに「高火力?ならビームでしょ!」という、どこぞの徹夜続きの開発室チーフの発言によって、出来上がったものである。

 

『よくやった夏樹! お前はそこにいる慶と、新型の相手をしながら避難誘導をしているC級隊員たちの元に向かってくれ。夏樹が東側、慶が南だ、良いな。トリオン兵はそれぞれ風間隊とB級合同部隊が対処する』

 

 忍田本部長から次の指令が下った。

 

「佐藤了解」

 

「了解、了解。なぁ夏樹、どっちが多く新型を倒したか競おうぜ!」

 

「いいですけど、まじめにやってくださいね」

 

「わかってるって。それじゃ!」

 

 太刀川は南側に向かい、屋上から飛び降りていった。

 

「葵さん、東側の地図とトリオン兵の位置を視界に出してもらっていいですか」

 

『わかったわ』

 

 夏樹の視界の端に情報が表示される。

 

「とりあえず早めにC級隊員のとこに行った方が良さそうなんで、一直線に向かいますか」

 

『トリオン兵は?』

 

「まぁ見ててくださいよ」

 

 夏樹はそう言うと屋上から飛び出す。

 

「セットスイッチ!」

 

 

 〔 トリガーセット切り替え 射手(シューター)セット 〕

 

 

 落下中の夏樹の身体にトリガーを起動したときのような光が走る。

 

「グラスホッパー」

 

 ある程度の高さまで落ちた夏樹はグラスホッパーを出して、東側で避難の遅れているC級隊員の方向へ跳んだ。

 

「バイパー」

 

 そしてグラスホッパーを踏んだ直後にバイパーを出して、地上のトリオン兵たちに対して放っていく。そしてまたグラスホッパーを出して、それを踏んだ直後にバイパーを撃つ。これを繰り返していく。

 

「これである程度は削れると思います」

 

『そうね。でもトリオンは大丈夫なの?』

 

「タンクにはまだまだ余裕があるんで大丈夫ですよ。それこそさっきのビームを連発しても大丈夫なくらいには」

 

『そう。なら安心ね』

 

 夏樹はトリオン兵を倒しながら一直線にC級隊員の元へ向かっていく。その姿を上空からトリオン兵が見ていた。

 

 

 

 

 SF映画の宇宙船のような雰囲気のある空間。そこには会議室のように机と椅子があり、椅子には男女七名が腰掛けてそれぞれの目の前に浮かぶディスプレイを見ていた。ディスプレイには夏樹がイルガ―をビームで墜とした映像が流れている。

 

「今の攻撃は……まさか黒トリガーか……!?」

 

 この集団のリーダー格なのか、議長席に座っている側頭部から黒い角が生えている男が、夏樹の攻撃を見て驚きを露わにする。

 

「いえ、黒トリガーではありません。反応は通常トリガーのはずですが……この数値は……」

 

 映像に加えて墜とされたイルガーの計測機器の数値を見ていた、一番下座に座っている額から二本の黒い角を生やした女が、男の考えを否定する。

 

「「金の雄鶏」というわけか……作戦変更だ。ランバネイン、エネドラ、お前たちは予定通りに門で送り込む。玄界の兵を蹴散らしてラービットの仕事の援護だ。だが無理をする必要はない、あくまで戦力の分断が目的だ。危険な場合はミラのトリガーで回収する」

 

「あぁ?危険だと? オレが玄界のサルなんかに負けるわけねーだろ!」

 

 リーダー格の男の命令に対して納得がいかなかったのか、リーダー格の男から見て右側の上座に座る片目が黒く染まった男が、リーダー格の男に突っかかる。

 

「以前の偵察の時の奴は確かにトリオン量は多かったが、あそこまでの反応は出ていなかった。おそらく消耗を抑えるために、トリガーか何かで制限していたのだろう。なら今の奴は消耗するのが早いはずだ。奴が消耗したら仕掛ける。ヴィザ、トモエお前たち二人は、その時に他の玄界の兵たちの邪魔が入らない様に相手をしていろ。ヒュースは「金の雄鶏」を街の方へ誘いだせ。そうすれば奴は街を守るために、脱出装置を使って逃げることはしないはずだ」

 

 男の文句を無視して、リーダー格の男は作戦を伝える。

 

 作戦を聞いたこの集団の中で唯一角の生えていない老人と白の長い髪と他の人よりも長い黒い角を額に2本生やした女が頷く。

 

「もしかすればここで新しい神を拾えるかもしれない」

 

 そう言うと男は再びディスプレイに映る夏樹へと目を向けた。

 

 

 

 

 夏樹の元へ運命の分岐点が迫っていた。

 

 




アフトクラトル勢に一人新キャラがいますが、他作品キャラです。そのキャラを知らなくても大丈夫なようにはします。

大規模侵攻編が終わったら、夏樹の新しいトリガーのセットや、オペレーター相川葵と新キャラの設定などを書いて出そうと思っています。

誤字報告ありがとうございます!
感想、評価、アドバイス等々是非お願いします!



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第25話

あけましておめでとうございます!

今年もこの作品をよろしくお願いします!



『大変!あと少しで、まだ避難誘導中のC級隊員達のところにネイバーが到達しちゃうわ』

 

相川の通信を聞いた夏樹は、バイパーでトリオン兵を倒すのを止めて移動するスピードを上げた。

 

「確認しました!」

 

弾トリガーの閃光とバムスターの後ろ姿が、夏樹の視界に入った。

 

『良かった。まだ捕獲用だけみたいね。それならC級の子たちでもなんとかなるわね』

 

「いや、まずいですね…」

 

『どうして?』

 

間に合って良かったと安心していた相川は、夏樹の反応に疑問を抱く。

 

「本部がC級に戦うなって指示を出したのは、無理して戦って捕獲されるのを恐れてのことだけじゃないんです。C級が戦って倒せるとしたら大型、でもその大型の中に新型が潜んでいる可能性が高いわけで…」

 

『なるほどね。だから戦ってはいけないのね』

 

「ええ。なんで俺らが急がないとですね」

 

『そうね』

 

夏樹はグラスホッパーに加えてテレポーターも使って、C級の元に行く。

 

「セットスイッチ!」

 

 

〔 トリガーセット切り替え 攻撃手(アタッカー) セット 〕

 

 

C級の近くまで来た夏樹は、トリガーセットを攻撃手用に切り替えて、グラスホッパーとレイガストのスラスターでさらに加速しながらジグザグな軌道を描いて、C級の元へ迫るバムスターやバンダーの大型トリオン兵の頭を切り裂いていく。そしてそのままトリオン兵たちを超えて、C級隊員の元に着地する。

 

「やった!正隊員だ!」

 

「助かったのか俺達?」

 

「佐藤さんだ!これで安心だ」

 

夏樹の到着にその場にいたC級隊員たちが安堵の声を上げる。

 

「ん?お前は確か…この前相談しに来た…田村だったよな?避難状況は?」

 

夏樹は直ぐ近くに数日前に始まった相談室に来たC級隊員の田村を見つけて、トリオン兵に気を付けながら声をかける。

 

「は、はい!大体は終わりました。後は僕らC級だけです」

 

「そうか。ならお前らも急いで警戒区域から離れろ。本部の指示は聞いて…!?」

 

『夏樹くん!』

 

さっき夏樹が倒したバムスターの残骸から、夏樹とC級隊員たちの元に三体の新型トリオン兵、ラービットが飛び出してきた。

 

「色が違っ!」

 

三体のラービットの内、夏樹と田村に向かって飛んできた1体は他の2体と違い、色が白ではなくグレーになっていて、さらに肩に推進器の様なものが付いていた。

 

色の違うラービットは推進器を使って、勢いを増して二人に突っ込んできた。

 

「ひぃっ!…おぶっ!?」

 

「バイパー」

 

夏樹はラービットに驚いて腰を抜かしかけている田村を抱えて、迫りくるラービットを躱す。そしてこっちをおって追って飛んでいくラービットにバイパーを撃つ。

 

「田村、他のC級隊員達と避難しろ。あの新型はトリガー使いを捕獲する目的で作られてる。お前らじゃ捕まるだけだ。俺が相手をする」

 

新型を躱して家の屋根に着地した夏樹は、抱えていた田村を下ろして、自分のところに来なかった2体の新型に視線を向けた。

 

「うわぁ!なんだこいつっ!!」

 

「た、助けて!」

 

新型2体はそれぞれC級隊員を襲っていた。襲われたC級隊員は成すすべもなく新型の腕につかまれ腹部に捕獲されそうになっていた。

 

「田村!早く避難しろ。いいな!」

 

「は、はい!」

 

夏樹は、驚きの光景に腰を抜かしていた田村に避難するように再度言って、夏樹のバイパーを躱して一旦後ろに下がった色の違う新型に向かう。

 

「葵さん、新型の情報をお願いします」

 

『了解よ。』

 

夏樹の元にラービットとボーダー隊員の戦闘データが送られる。

 

『特に装甲が分厚いのは肩から腕の部分と、頭部から背中にかけての部分みたいね』

 

「そうですね。それにパワーもスピードも他のトリオン兵とは段違いですね」

 

色違いのラービットは、夏樹に向けて口を開いて目の部分から砲撃してきた。

 

「レイガスト」

 

夏樹は後ろのC級隊員たちや家屋に当たらないように、レイガストで砲撃を上へと逸らした。

 

「バイパー」

 

さらにバイパーを出して放つ。バイパーは真っ直ぐラービットに飛んで行く。

 

ラービットは腕を前に出してバイパーを防ごうとするが、バイパーはラービットの腕に当たる前に軌道を変えて、腕を避けてその奥のラービットの顔と腹部にヒットした。だがラービットは傷こそ入ったものの、急所のモノアイには当たらなかったようで倒すまでにはいかなかった。

 

「さすがにこれだけじゃ仕留められないか…なら今度は、バイパー!」

 

夏樹はさらにラービットに近づき、バイパーの射程を下げて威力と速度に上げて、再び撃った。

 

「なっ!?」

 

ラービットは迫ってくるバイパーに対して、さっきと同じように腕を前に出し、防御の姿勢を取る。

 

夏樹は狙い通りにラービットが動き、弾道通りバイパーが腕を避けてラービットの腹部を打ち砕く。そう思った。

 

だがラービットは腕を前に出した状態で肩の推進器を使い、前に、飛んでくるバイパーに向かって飛んだのだ。ラービットの腕にバイパーが当たるが、腕の装甲は厚くバイパーは効果が無かった。

 

「学習してるのか!?」

 

夏樹は驚きつつも、ラービットがバイパーを防いでいる間に、手にスコーピオンを持ってスコーピオンを硬化させながらラービットとの距離を詰める。

 

そしてそのままラービットの腕の下を潜り、通り抜けざまにラービットの右脚部をスコーピオンで断ち切った。

 

片方の脚を失ったラービットはバランスを崩したが、倒れる前に肩の推進器で空に飛び上がる。

 

(セットスイッチ)

 

 

 〔 トリガーセット切り替え 射手(シューター) セット 〕

 

 

「アステロイド」

 

夏樹は、射手用のセットに切り替えてアステロイドをいつもより大きく分割して、飛び上がったラービットに向けて放った。ラービットは腕を前に交差してアステロイドを防ごうとするが、バイパーよりも威力の高い、しかも大玉のアステロイドを防ぐことはできず、腕もろともラービットは粉砕された。

 

「葵さん、C級は!?」

 

色違いの新型を倒した夏樹は後2体の新型が逃げようとするC級隊員達を追っているのを見つけて、そこに急ぐ。

 

『4人捕まっちゃったみたい。でも諏訪さんを捕まえた新型を風間隊が倒した時、お腹から諏訪さんがキューブになって出てきたから、新型を倒せば捕まった子たちを取り返せるみたいだわ』

 

「了解です!」

 

夏樹はセットをアタッカーに切り替えながら近い方のラービットの上まで行き、上からC級隊員を襲おうとするラービットに向かってグラスホッパーを踏んで一直線に突進する。そして硬化したスコーピオンで、ラービットの頭蓋部分の鎧板のような装甲に滑り込ませるようにして、モノアイごとラービットの頭部を貫いた。

 

弱点を破壊されたラービットは機能を停止して倒れる。その上にいた夏樹は倒れていくラービットを足場にして再び上に跳び、もう1体のラービットの元に向かう。

 

「ひえっ!」

 

「いた!おい!逃げろ!!」

 

もう1体のラービットは同じようにC級隊員を襲っていて、今まさにC級隊員の1人を掴もうと右腕を伸ばしていた。C級隊員は腰を抜かして座り込んでしまっていた。

 

「スラスター」

 

夏樹は腰を抜かしたC級隊員の前に着地すると、スラスターで加速させたレイガストをラービットの腹部に振るった。装甲が厚い部分ではない腹部は夏樹の攻撃に耐えられず、ラービットは上下に真っ二つになった。

 

「ふー、なんとか手間取ることなく片付いたな。大丈夫か?立てるなら早くお前も避難しろ」

 

「は、はい。ありがとうございます」

 

「おう。さぁ行った行った」

 

夏樹は座り込んでいたC級隊員に手を貸して立たせると避難させると、さっき真っ二つにした新型の腹から零れ落ちたキューブを拾った。

 

「葵さん、このキューブが?」

 

『そうみたい。諏訪さんを捕まえた新型からも諏訪さんの代わりにそのキューブが出てきたみたいだわ』

 

「なるほど、じゃあこれが…」

 

『ええ、捕まったC級隊員の子たちね。もう1体の普通の新型にもう2個入ってると思うわ』

 

「了解です」

 

夏樹は頭を貫かれて動かなくなっているラービットの元に行き、ラービットの腹部の開閉する部分をスコーピオンを使ってこじ開けた。

 

「ありました。これで人数分確保しました」

 

『良かったわ。今のところは東部で警戒区域から出そうなトリオン兵はいないわ。少し休憩する?』

 

「そうですね。休憩がてら色の違う新型を報告しないと…葵さんお願いします」

 

『わかったわ。ーーはい。繋いだわよ』

 

「ありがとうございます。…本部、こちら佐藤。新新型3体と交戦、3体とも撃破しました。自分が到着するより前に捕らえられていたC級隊員のキューブも回収しました」

 

『忍田だ。夏樹よくやった。近くにいる諏訪隊を向かわせる。諏訪隊にキューブを渡して、夏樹は引き続きトリオン兵の撃破とC級隊員の保護にあたってくれ』

 

「了解です。それと、今戦った新型の内の1体が特殊な機体でした。色はグレー、両肩にジェットの様なものが付いていて空を飛べるようです。さらにモノアイから砲撃してきます。でも普通の個体よりはパワーは低いようです」

 

『わかった。各隊員に情報を共有しておく』

 

「お願いします。報告は以上です」

 

『引き続き頑張ってくれ!』

 

「了解!!」

 

本部との通信が切れた。

 

「ふぅ~、少し休憩しますね。その間に他がどうなってるか教えてもらっていいですか?」

 

そう言いながら夏樹はラービットの残骸に腰掛けて、ポッケからチョコバーを取り出す。

 

『わかったわ。じゃあ私も紅茶を頂こうかしら?』

 

「どうぞどうぞ」

 

夏樹はチョコバーを、相川は紅茶を口にして休憩しながら、現状を確認していく。

 

「大変そうなのは東部ですね。木虎と三雲じゃあ新型数体相手だと少し不安が残りますから。まぁレイジさん達が間に合ったら安心ですけど」

 

『そうね。あっ諏訪隊が来たみたいだわ』

 

「了解です」

 

夏樹は立ち上がって諏訪隊の堤と笹森の元に行った。

 

 

 

 

 

警戒区域各地

 

ボーダー隊員らに倒されたトリオン兵、その残骸から無数に解き放たれた(ゲート)を開く機能を搭載されたラッド。

 

ラッドたちは隊員の近くに潜み、その時を待っていた。(ゲート)を開けるという己の役目を果たす時を…

 

 

そして今、その役目を果たす時が来た。

 

 

風間隊、東と別役、三雲と玉狛第一、それぞれの近くに(ゲート)が近く開く。

 

風間隊の元には、片目が黒く染まった黒髪の黒い角を生やした男が。

 

「チッ、ガキばっかかよ。ハズレだな。あの野郎、何度も作戦変えた挙句、俺にガキの相手をさせやがって」

 

 

東と別役の元には、大柄で赤鬼のような男が。

 

「んー?二人だけか?拍子抜けだな。どうせならあのイルガ―を落とした奴と撃ち合いたかったものだ」

 

 

三雲と玉狛第一の元には、杖を持った角のない白髪の老人と角を生やした青年が。

 

「いやはや…子供を攫うのはいささか気が重いですな」

 

「これが我々の任務です。ヴィザ翁」

 

それぞれ姿を現した。

 

 

 

「戦闘開始です」

 

 

 




誤字報告ありがとうございます!!

感想、評価、アドバイス等々お待ちしています。是非、お願いします!


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第26話

お待たせしました!!

気がつけばこの作品を始めてからから一年経ちました。一年で大規模侵攻編を終わらせたかったです!


「二人だけか? 拍子抜けだな。どうせならあのイルガ―を落とした奴と撃ち合いたかったものだが……文句を言っても仕方がないか」

 

 基地南部の警戒区域外の高架下にいた東と別役の元にトリオン兵ラッドによるイレギュラー(ゲート)が開き、(ゲート)から赤髪の大男が姿を現した。

 

「ひ、人型近界民……!?」

 

 姿を現した人型近界民ランバネインに驚く別役

 

『距離をとるぞ太一。この間合いはまずい……下がって警戒区域に誘い込むぞ』

 

 東は冷静に、正面の近界民の男を警戒しながら次の行動を練っていく。

 

「……いや、数を見て侮るのは良くないな。コツコツと片付けていこう」

 

 ランバネインは両手の掌にトリオンのエネルギーを貯めて、二人に対して攻撃態勢をとった。

 

『来るぞ!』

 

 東と別役が攻撃に備える。

 

「「ハウンド!」」

 

 その時だった。ランバネインと東たちの上にある高架の左右から、ランバネインに向かってハウンドが降り注いだ。ランバネインはシールドを張ってそのハウンドを防ぐ。ハウンドを防いだランバネインの元に、二つの人影がランバネインの左右の背後から襲い掛かった。

 

「硬ッ!」

 

「東さん、俺らが時間を稼ぐんで一先ず逃げてください」

 

 ランバネインを襲ったのは西峰姉弟だった。

 西峰姉弟はランバネインと東達の間に立って、優佳がランバネインのシールドの硬さに驚きながら警戒している間に、勇人が東達に今のうちに撤退よう促す。

 

「殿だぁー!!」

 

 優佳が気合の入った声を上げる。ふざけているように見えてもその目は、ランバネインから離れることはなく、相手の動きを一つとて見逃すまいと警戒している。

 

「気を付けろ! こいつはもう攻撃態勢に入っている!」

 

 ランバネインは東の言葉通り、射手(シューター)のように両手を西峰姉弟にそれぞれ向けて、そこからビームを放った。

 

「勇人!」

 

「ああ! グラスホッパー」

 

 西峰姉弟はビームを躱すためにそれぞれ左右に飛んだ。そして優佳は弧月を構え自身の背後にハウンドを出して、勇人に声をかける。勇人は優佳が声がかかる前から何を姉が望んでいるかわかっていたのか、返事と共に宙に浮く自分と優佳の足元にグラスホッパーを出す。2人はグラスホッパーを踏んでランバネインへと一気に近づく。

 

「太一、走るぞ!」

 

「り、了解っす」

 

 西峰姉弟とランバネインが戦い始め、自分たちから西峰姉弟にランバネインの注意が移った隙に東は太一を率いて警戒区域に向かって後退し始めた。

 

『佐藤、俺と太一が撤退したら西峰達もそこから警戒区域まで退かせてくれ、奴を警戒区域に誘い込む』

 

 東が西峰姉弟のオペレーターをしている冬華に指示をする。

 

『了解です』

 

 冬華は西峰姉弟のサポートをしながら、二人が撤退する時に警戒区域までの最短ルートを調べる。

 

 西峰姉弟は二人で協力してランバネインを翻弄していた。優佳が攻めれば勇人がそのサポートをする。ランバネインの意識が優佳に集まれば、死角から勇人が弧月で斬りかかったりハウンドを撃つ。ランバネインが反撃しようとすれば、二人は狙いからうまくずれランバネインの攻撃を危なげなく躱していく。

 

 ランバネインは二人の連携の完成度に感心し、それとは別に二人の動きにまるで自分と戦ったことがあるかのような慣れがあることを感じていた。

 

「なかなかにやるようだな。だがこれならどうだ!」

 

 ランバネインは、二人に向かって手からビームを撃ちその隙に後ろに下がって距離を取ったうえで、マントの背中辺りを膨らませて、そこからさっきまでの掌から出すビームよりも細くてたくさんのビームを二人に向けて放った。

 

「ハウンド」

 

 2人はビームを危なげなく避け、勇人がハウンドを撃つ。そして優佳が弧月を下段に貯めるように構える。

 

「旋空弧月!」

 

 ランバネインは勇人のハウンドをマントとシールドで防ぎ、優佳の旋空弧月を身体をずらして躱す。優佳の旋空弧月はランバネインに躱されたが、優佳の狙いはランバネインではなくランバネインの頭上の高架だった。旋空弧月は狙い通り高架を斬り、斬られた高架は崩れて瓦礫となってランバネインに降り注いだ。

 

 ランバネインが瓦礫を躱したころには西峰姉弟は、ランバネインを警戒しながらもかなり遠いところまで移動していた。

 

「誘い込もうというつもりだな……いいだろう。乗ってやろうじゃないか!」

 

 ランバネインは二人のいる方向、警戒区域側へと歩き始めた。ランバネインと距離を取った西峰姉弟は、警戒しつつ後ろに下がっていく。

 

『人型はこっちに向かってくるみたい。このまま警戒区域まで引き込みましょう』

 

「だね。さっきみたいに誘導よろしく!」

 

『西峰、俺達全員狙撃位置に着いた。必要だったら援護できる。いつでも言ってくれ』

 

 荒船から通信が入る。どうやらいつでも援護できるようだ。他にもランバネインを討伐しようとB級各隊が集結し始めていた。

 

「狙撃はやめた方が良いと思うっすよ。シールドも硬かったっすから多分誘いっすね」

 

 優佳は戦った感触からランバネインを分析して、狙撃に反対する。

 

『そうだな西峰が言うように狙撃は警戒されてるだろうな。西峰と荒船はそのまま奴を警戒区域内に誘い込んでくれ。無茶はするなよ。ここで戦力ダウンすれば後がきつくなるからな』

 

『荒船了解』

 

「了解っす! でも大丈夫ですよ東さん。こんなの、なっくんに比べたら余裕っす!!」

 

『…………まぁとにかく油断はするなよ』

 

 優佳の言う事が何となく納得できてしまい返答に困る東なのであった。

 

 

 

 

 

 

 

「……ックション!! ……風邪ひいたかな?」

 

 噂されてるとはつゆ知らず。夏樹は倒したトリオン兵の残骸の上に座って二度目の休憩をとっていた。最初こそC級隊員にまでトリオン兵がせまったものの、風間隊に警戒区域の内側を任せて、警戒区域から出ようとするトリオン兵に絞って倒していたためスムーズに片付いて、余裕が出来ていた。

 

『大丈夫ですか? これが終わったら風邪薬飲みますか?』

 

 相川が心配して声をかける。

 

「いや~必要なのは風邪薬よりも頭痛薬ですかね……」

 

 夏樹はそんなことを言いながら何個目か数えるのもめんどくさいほど食べたチョコバーを頬張る。

 

「まぁどちらにしてもこの大規模侵攻を乗り切んないとですね。現在の各場所の状況を教えてもらってもいいですか?」

 

『わかりました。映像も送るわね』

 

「お願いします」

 

 夏樹の視界に今までの各所戦での戦闘の映像や、三門市の地図にトリオン兵の分布が記されたものなどが映し出され、相川が戦況を話し始めた。

 

「なるほど……今の主な戦場はB級合同と赤髪の近界民(ネイバー)、基地南西部のC級を守りながら二体の近界民(ネイバー)相手をしている玉狛支部組、風間さんと(ブラック)トリガー、嵐山隊と空閑、太刀川さん、天羽さん、迅さん、自分って感じですかね」

 

『そうね。私たちはこれからどうしましょう?』

 

「東側のトリオン兵を片付けて南か風間さんのところに援護に行った方が良さそうですね。近くのトリオン兵の反応を送ってください」

 

『わかったわ。ちょっと待ってね』

 

 少しして夏樹の視界に映る周辺の地図に、トリオン兵の位置が映し出される。夏樹は立ち上がりトリオン兵がいる方向へと向かった。

 

「あっ! そういえば新型討伐ランキングってどうなってます?」

 

 太刀川との賭けを思い出した夏樹は、移動しながら相川に聞いた。

 

『えーっと……これね。夏樹君が四体討伐で一位みたいね。夏樹君の後ろには三体で嵐山さんと風間さんがいるみたいだわ』

 

「そうですか。ありがとうございます」

 

 夏樹は話しながらもトリオン兵の元に近づき、戦闘を開始する。

 

『いいのよ。……あら?』

 

「どうしました?」

 

『それが……今本部の通信室から挙がった情報なんだけど、基地の西側にある固定砲台や基地への連絡通路との接続が途切れてしまっているみたい。故障かしら? 近くの監視カメラからの映像を見たところ異常はなかったそうなのだけど……あと玉狛や鈴鳴との通信も途切れがちになっているらしいわ』

 

「敵の攻撃ですかね? でもだとしたらC級を連れた南西側の人たちヤバいんじゃないですかね」

 

『そうなんだけど、通信が繋がりにくくなっているみたいなの。今玉狛のオペレーターに直接連絡しようとしているらしいわ』

 

「まぁでもあそこにはレイジさん達がいますからそこまで心配しないでも良さそうですけどね。自分たちはやれることをやりましょう」

 

 そう言いながら夏樹は最後の一体のトリオン兵にとどめを刺した。

 

『そうね。次のトリオン兵の場所を送るわね』

 

 

 

 

 

 

 

 

「オレは(ブラック)トリガーなんでな」

 

 エネドラがそう言うと風間の身体から無数のブレードが突き出て、風間にとどめを刺した。

 

 

 〔 トリオン供給機関破損 緊急脱出(ベイルアウト) 〕

 

 

 トリオン体を破壊された風間は、戦っていた廃ビルから緊急脱出(ベイルアウト)先の本部基地内の自身の隊室のマットへと軌跡を描いて瞬時に転送された。

 

「一瞬でもオレに勝てると思ったか? 雑魚チビが。来いよガキども遊んでやるぜ! チビの仇を討ってみろ!」

 

 エネドラは残った菊地原と歌川を挑発する。挑発された二人は、風間の仇を獲るために再びエネドラへと戦闘態勢をとった。

 

『退け二人とも』

 

 緊急脱出(ベイルアウト)した風間が、通信で冷静さを失いかけている二人に撤退するように指示を出す。

 

攻撃手(アタッカー)はそいつの液体化トリガーとは相性が悪い。ブレードは不利だ』

 

『液体化しても伝達脳と供給機関はどこかにあるはずです。どっちかを見つけて叩けば……』

 

『俺がやられた正体不明の攻撃もある。不用意に戦えば無駄死にだ』

 

『ムカつくんですよこいつ。このままじゃ引き下がれないでしょ』

 

『諏訪隊の笹森はおまえらより聞き分けがあったぞ』

 

『……!』

 

『好きにやりたいならそうしろ。おまえたちの仕事はそれで終わりだ』

 

 風間は、風間の指示に納得が行かず食い下がる二人に対して少し前に似たような状況になった時に引き下がって自分たちに後を任せた諏訪隊の笹森のことを引き合いに出すことで、二人を冷静にさせる。

 

『…………ちぇっ、わかりましたよ』

 

『戦闘を離脱します』

 

 笹森のことを言われて冷静さを取り戻した二人は不満を抱えながらもカメレオンで透明になりエネドラの前から姿を消した。

 

「……! あァ!? ……逃げる頭が残ってたとはガキのくせに冷静じゃねぇか。まぁ別に他の奴でも……? あれは……くっくっ……あそこなら面白そうじゃねぇか」

 

 風間隊の二人に逃げられたエネドラは、他のところに行こうと崩れそうな廃ビルから出ようと崩れた壁から外を見る。周囲を見渡すエネドラの視界にトリオン兵の集団に空中で大きなキューブを出して攻撃している奴が映る。エネドラはなにか考えてにやりと笑った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




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第27話


なんとか一週間以内で書けた…

短めですいません


 

 

「風間さんが緊急脱出(ベイルアウト)!?」

 

倒したトリオン兵の残骸の上に立っている夏樹が驚きの声を上げた。夏樹の足元には戦闘用のモールモッドや捕獲用のバムスターだけでなく、偵察用のラッドも残骸となって転がっており、夏樹は今までラッドに(ゲート)を開かせることなく戦闘を行っていた。そのおかげか、新型に手こずることもなく本部基地の南側のトリオン兵はそのほとんどが駆逐されている。基地南側のC級隊員も避難誘導を終えて自らも避難したころだろう。恐らく警戒区域内の建物への被害も含めれば南側が最も被害が少ないと言えるかもしれない。

 

『そのようだわ。黒トリガーの不可視の攻撃にやられてしまったみたいね』

 

「不可視ですか…?」

 

『ええ。…あ、通信が来たみたい。繋ぐわね』

 

夏樹の元に通信が繋がる。

 

『夏樹、俺だ』

 

「風間さん?どうしたんですか?」

 

通信の相手は今はなしていた風間だった。夏樹はトリオン兵の残骸から降りながら、風間の話に耳を傾ける。

 

『俺が黒トリガーにやられたのは知っているな。俺がやられた黒トリガーの見えない攻撃についてお前の考えを聞きたいと思ってな。それに…』

 

風間の通信を聞きながら周囲を見張っていた夏樹は、何となく自分の足元を見る。そして足元のアスファルトから黒いドロッとした液体が出てくるのを見つける。夏樹はさっきの戦闘で戦った色違いのラービットの攻撃と似たものを感じて、急いで上に跳び上がった。

 

 

ゴバッ!!

 

 

夏樹のいたところに黒い液体が、襲い掛かりブレードに変化して辺りを破壊した。間一髪攻撃をかわした夏樹はそのまま近くの家の屋根の上に乗り、次の攻撃に備えて周囲に気を配る。

 

『どうやら俺の心配は当たったようだな。そのまま聞け。奴は液体化する能力を持っている。近接戦で倒すのは難しい。俺を倒した未知の攻撃もある。まずは距離を取って中遠距離から弱点を探すんだ。三上、俺たちの戦闘記録を夏樹に送ってくれ』

 

風間の夏樹の元にエネドラが来るという心配が当たったようだ。風間は的確に夏樹にアドバイスを出し、三上に指示を送る。

 

『了解です。記録を送ります』

 

三上は風間の指示通り相川経由で夏樹の元に視覚などの各種情報を送る。夏樹は下げていた副作用(サイドエフェクト)の使用率を上げて警戒を怠らずに、情報を分析していく。

 

「てめえはイルガ―を落とした奴だったな。さっきの雑魚どもよりは楽しめそうだな!遊ぼうぜぇ!!」

 

夏樹を攻撃した黒いスライムが人型に変形しエネドラへと姿を変え、更に夏樹に向かってブレードを生やして攻撃を加える。

 

「セットスイッチ」

 

 

〔 トリガーセット切り替え 射手(シューター)セット 〕

 

 

夏樹はトリガーセットを射手用のモノに変更しながら、エネドラの攻撃を躱し距離を取る。

 

「アステロイド」

 

トリオン量の多さを活かした壁のような密度のアステロイドの銃撃をエネドラへ与える。

 

「流石のトリオン量だな。だが俺には効かねぇぜ」

 

エネドラは夏樹のアステロイドを避けることをしないでそのまま身体で受ける。身体がアステロイドでぐちゃぐちゃになる。だがそれでも倒れることはなく、それどころか攻撃をものともせずに元の身体に戻りつつある。

 

「…!?今の感触は…」

 

夏樹は今の銃撃で一か所感触が他とは違って硬いところがあったことに気づく。

 

『葵さんスタアメーカーで今の硬かった感触のところにマーキングをお願いします』

 

夏樹は即座にサブセットにあるスタアメーカーを起動して相川にマークを頼む。相川は頼まれた通りにマークし、夏樹の視界にマークされた場所が表示される。

 

『そこだ。恐らくそこだけ硬化させているんだろう。その中に奴の供給機関と伝達脳がある。そこに狙いを集中しろ』

 

「ええ、分かってますよっと。アステロイド」

 

夏樹は再びアステロイドをエネドラに向けて放つ。だが今度は面攻撃のような感じではなく、一点に火力を集中させた撃ち方でマークしてある弱点を狙う。

 

「ほーう、弱点に気づいたわけか…だがこれならどうだぁ」

 

『マークした部分を破壊したみたい。でも…』

 

『ええ、破壊する前に弱点を移動させられましたねこれは。でもそれなら磨り潰すまでですよ』

 

そう言うと夏樹は、今度は両手にそれぞれキューブを出してエネドラに撃つ。片方は最初と同じアステロイドで面攻撃を。そしてアステロイドでエネドラの動きが止まっているところに、もう片方のバイパーで竜巻のようにエネドラの周りを回りながらエネドラの身体を削り取っていく。

 

「甘ぇんだよ。オレは黒トリガーだぜ。多めにトリオン持った程度じゃオレには敵わねぇんだよ」

 

身体を削り取られて原型が分からなくなったところから即座に元に戻ったエネドラは、攻撃を受けている間に地下に張り巡らした自分の液体をブレードに硬化させて、辺り一面を針山地獄へと変える。

 

夏樹は針山に変わる瞬間に即座に上に跳び上がり安全な家屋の屋根の上に乗る。そしてバイパーを出してエネドラが身体を液体に変形させてこちらに向けて伸ばしてくるブレードを撃ち落としていく。だが撃ち落としたそばから再び液体に戻り、またそこから攻撃してくる。

 

『夏樹、このままだとキリがないぞ。何か作戦は思いついたか?』

 

『一応ありますよ。結構力技ですけど…葵さん、今から撃ちまくるんで硬化してるところに片っ端からスタアメーカーでマークをお願いします』

 

夏樹は相川に指示を出すとバイパーを今までよりも細かく分裂させて弾数を増やしてエネドラを包み込むように放つ。エネドラに当たったバイパーの内、硬い反応があった部分を相川が次々とマークしていく。夏樹の視界には数十の反応がマークされる。

 

「さっきからそればっかじゃねぇか。なんだ?もう限界か」

 

「いやいや、これからですよ。スモーク」

 

夏樹は白いキューブをエネドラに向かって放つ。スモークのキューブはエネドラの少し前で白煙になり辺りを煙で埋め尽くす。

 

「煙幕!?」

 

エネドラにいろいろな方向から弾が飛んでくる。

 

「おいおい、そんなんでオレを倒せるとでも思ってんのかぁ」

 

エネドラはフルパワーでブレードを伸ばして周囲の建物ごと煙幕を吹き飛ばす。だがそこに夏樹の姿は無い。

 

「いねぇ…上か!」

 

すぐに夏樹の場所に感づいたエネドラは上を見上げる。見上げた先にいた夏樹はエネドラに何かを向けていた。

 

「あれは…まさか!」

 

エネドラは夏樹の持っているものが何かわかり焦りを露わにする。夏樹が持っているのはイルガ―を消し飛ばしたアイビス改。それを真上からエネドラに向けて引き金を引く。アイビス改のビームがエネドラを丸々と飲み込んで地面に突き刺さった。

 

「セットスイッチ」

 

 

〔 トリガーセット切り替え 攻撃手(アタッカー)セット 〕

 

 

『葵さん、反応は?』

 

『全部今の攻撃に飲み込まれて消滅したみたい。被害も最小限におさえられたはずだわ』

 

スタアメーカーの反応がすべて消えたことを確認した夏樹は、セットを攻撃手用に戻し、近くの頭一つ飛び出た高さのビルの屋上に着地する。夏樹のアイビス改によって地面に穴が開いている。中から煙が上がっているが、地下に埋まった配管には当たらなかったのか、ただ穴が開いただけの様だ。

 

『換装が解けているはずだ。恐らくあの穴の中にいるはずだ。確認し次第捕虜としてとらえろ』

 

『了解です』

 

『まだだよ』

 

「っ!?」

 

夏樹は突然入った通信に驚きながらもビルを登ってきた黒い液体から伸びたブレードを間一髪で躱した。

 

「ちっ!避けやがったか。今のは完全に死角だったろーが」

 

夏樹を襲った黒い液体がエネドラへと変化した。

 

『倒したんじゃ…!?』

 

三上が予想外のことに驚く。

 

「なるほど弱点を地下に逃がしたわけですね」

 

『だろうな。気を付けろその距離だと俺を倒した攻撃が来るかもしれないぞ』

 

『了解です』

 

屋上の床から生えてくるブレードをレイガストで防いだり躱したりして、エネドラの攻撃を捌いていく。

 

「さぁもっとだ!もっと楽しもうぜぇ!!」

 

エネドラは身体からさらに周囲に液体を伸ばし、攻撃をより広く大きくしていく。さらに風間を倒した未知の攻撃ガスブレード。夏樹へと気体の見えざる刃を伸ばす。

 

「いや、次で終わりにさせてもらいますよ。スモーク」

 

夏樹は再びスモークを出して屋上を煙幕で埋める。すかさずそこに相川からの支援が入り、夏樹の白く染まった視界に重なるようにしてスモーク内の全ての輪郭が表示される。

 

『これは…』

 

「風間さんを倒した攻撃ですね。たぶん奴は液体だけじゃなく気体にもなれるってことみたいです」

 

夏樹の視界には輪郭がぼやけてしまっている部分があった。エネドラの気体でスモークの密度が薄くなったことで観測がうまくいかず、分析した輪郭がぼやけてしまっているのだ。

 

『でもそれが分かったとこで、倒す方法にはならないでしょ。煙幕だってあいつの気体であいつ自身が視えないんじゃ攻撃できないじゃん』

 

さっき夏樹へ通信で警告した菊地原は、夏樹にどうするのか聞く。

 

『まぁな。でも一つ思いついたのがある。菊地原、巻き込まれない様に下がっとけ。もう耳は十分だ。()()をやる』

 

『うわ~あれかよ。アレうるさいから嫌いなんだよ』

 

菊地原は嫌そうな声を出す。

 

『いいですよね風間さん?ここならそこまで被害は出ないですし、このまま無暗に戦っても奴に壊されるだけでしょうから』

 

『はぁ、まぁそうだな。なるべく周辺に被害を出すなよ』

 

風間は渋渋夏樹の提案に許可を出した。

 

「じゃあ行きますか。スモーク」

 

夏樹はさらにスモークを出して周囲を改めて煙で包み込んだ。そしてトリガーセットを射手用に切り替える。

 

()()()()

 

夏樹とエネドラのいるビルを中心に巨大な爆発が起こり、各地で戦闘中の隊員たちに聞こえるほどの轟音が鳴り響いた。

 

 

 




エネドラってこんな感じでいいんだっけ?


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第28話

この調子で投稿していきたいです。

少し短めです。


 

夏樹は自分を覆うように展開していた固定シールドを解いて、メテオラの爆発範囲外だったことで無事だった建物の屋根に着地した。

 

夏樹が行った攻撃。それは夏樹が持つ莫大なトリオン量によるメテオラの大爆発と固定シールドで自分を中心に周辺の全てを吹き飛ばす技。これはランク戦に夏樹が参加していた頃、夏樹が中遠距離用のトリガー構成の時や自分のチームが自分だけの乱戦になった時などによくやっていた攻撃。

 

今の爆発で夏樹とエネドラのいたビルは、完全に崩壊し跡形もなくなっている。周りの家々も崩壊してはいないものの、爆発の衝撃波でもともと割れていたガラスも粉々に粉砕され窓枠だけが残っている。中には塀や壁にひびが入っている家屋もある。これらの被害が夏樹のメテオラの威力の凄まじさを物語っていた。

 

『相変わらずすごい威力だな。恐らく奴も弱点を逃がす暇なくやられただろう』

 

夏樹は崩壊したビルに近づく。崩壊したことで巻き上がった砂ぼこりが晴れていくと、そこにはトリオン体の換装が解けたことで服装が変わったエネドラが砂ぼこりを吸い込んでしまったようでせき込んでいた。

 

(ブラック)トリガー撃破を確認しました」

 

夏樹が報告を入れる。

 

『佐藤、(ブラック)トリガー撃破よくやった。市街地への被害は褒められた物ではないが、責めても仕方がないな。撃破した(ブラック)トリガーは捕虜として扱う。捕縛してくれ。回収は風間隊の2人が行う。それから東たちの方で空間移動のトリガーを持った敵を確認した。そいつにも警戒してくれ。それが終わったら引き続き南方向の防衛を頼む』

 

忍田から通信が入り、すぐに風間隊の菊地原と歌川がやって来た。

 

「佐藤先輩、お待たせしました」

 

「相変わらずド派手ですね。耳壊れるかと思いましたよ」

 

耳をほじりながらため息交じりにそう言った菊地原は、後ろにまとめていた髪を解いて耳を髪で覆う。

 

「それは悪いことをした。それから警告サンキューな。助かったよ」

 

夏樹は菊地原に礼と詫びをする。菊地原と歌川は、夏樹とエネドラが戦っている近くで菊地原の副作用(サイドエフェクト)でサポートしていたのだ。

 

「そうゆうのいいんでなんか奢ってくださいよ」

 

「おい菊地原」

 

「いいよ。今度飯でもおごるよ。それより早くあいつを捕縛しよう。面倒だし弾で気絶させるか?」

 

そう言って夏樹は自身の背後にキューブを出す。もちろんキューブの大きさは調整できないのでいつもの大きなキューブだ。

 

「いや、それ気絶じゃすまないでしょ…」

 

「…先輩、自分がやります」

 

菊地原が夏樹にツッコミを入れ、歌川が掌にアステロイドを出した。エネドラは下を向いて何やらぶつくさ呟いている。やるなら今だろう。歌川が一歩前に出て、アステロイドを撃とうとした時だった。

 

「歌川!」

 

前に出た歌川の周囲に囲むように現れた小さめの(ゲート)に一早く反応した夏樹は、歌川の襟を掴んで後ろに引っ張った。歌川はそのまま後ろに引かれ黒い穴の囲いから出る。直後、歌川を囲んでいた無数の門から釘のような棘が伸びて、さっきまで歌川がいた場所に殺到した。そしてエネドラの近くに人が通れるほどの大きさの門が開き、中から2本の黒い角を頭に生やした女性が現れた。

 

「すいません。助かりました」

 

後ろから引っ張られたことで尻餅をついた歌川が、お礼を言いながら立ち上がる。歌川をカバーするように菊地原と一緒に歌川の前に立つ夏樹は、歌川の方を見ることなく当然現れた女性の近界民から目を離さずに警戒していた。

 

自らのことを警戒している夏樹達を無視して女性の近界民、ミラはエネドラに話しかけた。

 

「回収に来たわエネドラ。派手にやられたようね」

 

ミラはエネドラに手を差し出す。

 

「チッ……!おせえんだよ!」

 

悪態をつきながらエネドラは、黒トリガーを付けている手をミラへと差し出す。

 

「忍田さんの言っていた奴だ」

 

「このままだと逃げられます」

 

『無暗に近づくな。深追いはしなくていい』

 

逃がすまいと動こうとする菊地原と歌川を通信で風間が止めた。

 

エネドラはミラの手を掴み立ち上がろうとしている。エネドラに逃げられると誰もが、エネドラ本人までもがそう思った時だった。

 

「あら、ごめんなさいね」

 

ミラがそう言うと同時に、自らの手を掴んでいたエネドラの手を小さい門による攻撃で切断した。

 

「なっ……!?」

 

まさか腕を斬り落とされるとは思ってもいなかったのか、苦痛の声を上げる前にエネドラから驚きの声が漏れた。

 

「回収を命令されたのは黒トリガーだけなの」

 

斬り落とされた腕から大量の血が流れ出る。エネドラは額に冷や汗を流し、苦痛に顔を歪めながらミラを睨む。

 

「……っぐああああ!てめえ……どういう……ミラ……!!」

 

「はっきり言って、あなたはもう私たちの手に余るの。……気付いている?あなたのその目の色、トリガー角が脳まで根を張っている証拠よ。あなたの命はもうそう長くない。脳への影響が人格にまで現れている。暴言、独断、命令違反。あの彼は泳がせておくと言ったはずよ。忘れたのか覚えていたのか知らないけど。それになにより…泥の王(ボルボロス)を使ってトリオンが多い程度の通常トリガーに負けるなんて致命的ね」

 

ミラは切断したエネドラの手から黒トリガーを外し、エネドラの手を投げ捨てた。

 

泥の王(ボルボロス)はもっと相応しい使い手が引き継ぐわ。あなたの角から得たデータで適合者はすぐ見つかる。()()()()()()ね」

 

「ふざけんな……!泥の王(ボルボロス)はオレの…オレにしか……」

 

エネドラが言い切る前にミラは、エネドラに自身のトリガーの無数の棘でとどめの一撃を入れた。

 

「とても悲しいわ。昔は彼女と並んで聡明で優秀な子だったのに。さようならエネドラ」

 

ミラはそのまま門を閉じて姿を消した。

 

「………トモ…エ……!!」

 

残されたエネドラは誰かの名前を呟いて倒れ、事切れた。

 

「マジかよ…!」

 

「ど、どう…しましょうか…?」

 

『忍田だ、状況は見ていた。風間隊の2人で人型近界民を収容してくれ。救護班を送りたいところだが今はまだ戦闘中だ。だからと言ってそのまま放置するわけにもいかない。そいつの角は未知のトリガー技術だ。分析できれば次への備えにもなる。それとそいつの所持品を調べろ。今の女が黒トリガーだとしても、無制限の空間移動はできないはず、ワープ座標を決める発信機の様なものがあるはずだ。夏樹は急いで防衛に戻ってくれ。今の間にもトリオン兵の反応が警戒区域外に出そうになっている』

 

「了解です」

 

驚きの事態に呆然としていた三人の元に忍田から指示が送られ、その通りに動き始めた。意外にも三人の動揺の色は薄く、作業をスムーズにこなしていき、所持品を調べ終えた夏樹は風間隊の2人と別れ、警戒区域外へと侵攻するトリオン兵の所に向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

泥の王(ボルボロス)の回収完了しました」

 

エネドラを殺し泥の王(ボルボロス)を回収した後、自らが扱う黒トリガー窓の影(スピラスキア)で生み出した門から遠征艇へと戻ったミラは、この遠征の隊長であるであるハイレインに報告する。

 

「そうか」

 

それだけ言うとハイレインは、自身の目の前に浮かぶ半透明のディスプレイに目を向けた。ディスプレイには警戒区域を飛ぶ飛行トリオン兵バドからの各地の映像が表示されている。

 

「ヒュースとヴィザがそれぞれ戦闘を開始。金の雛鳥はこちらの作戦通り玄界の基地に直接向かっているようです。状況は第3ラインに移行しました」

 

「そうか。ヒュースとヴィザの相手は?」

 

「ヒュースの方は通常トリガー、トリオンも平均的なようです。ヴィザ翁の相手は瞬間出力の計測値などから黒トリガーの可能性が濃厚」

 

「わかった……雄鶏の方はどうだ?」

 

「そちらは防衛に戻ったようです。玄界の基地の南側のトリオン兵を討伐しているようです。すでに周辺のトリオン兵のほとんどが破壊されました。ラッドも見つかり次第、破壊されているので追加で兵を送り込むのは難しいかと。ですが雛鳥の方はヒュースによってマーカーがすでに設置済み。指示を頂ければ私のトリガーでいつでも送り込めます」

 

ミラから現在の戦況を聞いたハイレインは、少し考えてから次の指示を出す。

 

「ヴィザとヒュース達から金の雛鳥たちが十分離れたら、残りのラービット7体全て投入する。ラービットで雛鳥を護衛している兵たちが崩れたところに俺が行こう。長引かせることもない、そこですべてを片付けよう」

 

「雄鶏の方はいかがいたしますか?」

 

「そっちは当初の作戦通りトモエを向かわせろ。足止めさせて他に手を出させないようにな。ランバネインを倒した兵たちの元にもラービット以外のトリオン兵を残っているすべてを送れ。誰一人として雛鳥の元に来させるな」

 

「承知しました」

 

 

 

夏樹の元に新たな、そして強大な脅威が近づいてくる。

 

運命の分かれ道まであとどれくらいか……

 

 





時系列的にはヴィザ翁とヒュースが遊真と迅さんと戦い始めた辺りです。


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