愛と苦痛の花束を (黒っぽい猫)
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第一話

どうも、黒っぽい猫です

スランプからの脱却を目指し、リハビリの一環として新作の投稿とさせていただきます

それでは、どうぞ


僕──八代慧は、絶賛大ピンチを迎えている。

 

周りからはひそひそ話が聞こえる。それも四方にいるのは女子、女子、女子、女子だ。場違いな程の男女比、その中にぽつんと一人立たされているのだ、針のむしろもいい所ではないか。

 

挙句の果てに僕は女性恐怖症というこの場にいるのが罪な程の体質を持っている。

 

恐怖、と言うより嫌悪、と言うべきだろうか。女性が近くにいると吐き気、寒気、恐怖などの感情が湧いてくる。

 

接触された日にはその場で卒倒することすらあった。

 

僕のような人間がIS学園、などという女子校の代名詞のような学校に通うことになったのか。それは数時間前に溯る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

──数時間前──

 

いつもの様に、午前二時に起きた僕は料理をしていた。それは、僕の保護者的な人に夜食を届ける為だ。

 

生活リズムは午後六時寝の午前二時起きなので別にそこは問題ではない。学校に通っていない僕に早寝早起きなど関係ないのだから。

 

ただ、作ったおにぎりと玉子焼き、漬け物などを届けに行った時から、僕の人生は90度ほど歪んでしまった。

 

「お夜食を持ってきたよ?」

 

『はいはーい!どうぞー!!』

 

ドアから快活な返事が聞こえるので相変わらず元気だな、と思いながら部屋に入る。

 

「散らかってるのによくこんな部屋で研究に集中できるよね、束」

 

「入ってきて早々お小言いわないでよ〜!おはようけー君」

 

「あ、うん。おはよう。はい、おにぎりと玉子焼きと漬け物。デザートにミカンも置いとくからね。お茶は水筒の中に入ってるから注いで飲んで」

 

「ありがとー!いただきまーす!!」

 

一区切り着いた所だったのか、珍しく素直にこちらを向いて食べ始める。

 

「珍しいね?区切りついたの?」

 

「ぜーんぜん!ただ、今日からしばらくはけー君の手料理が食べられないから悲しいなーと思って、折角だから出来たてを食べよう!と思った束さんなのだよ」

 

「ふーん、よくわか………ん?僕が何?」

 

相変わらずよくわからない人だな、と納得しかけた時にとんでもないこと言ってる気がしたので聞いてみた。

 

「けー君は今日からISを操れる二人目の男としてIS学園に通ってもらいます!!」

 

「………は?」

 

「ほらー、この際私とかちーちゃん以外の女の子と会話した方がいいと思うし、女性恐怖症もいい加減なんとかしないとけー君の復讐に差し障りが──いふぁいいふぁいへーふんひっふぁふぁらふぁいで!!」

 

「束………その話、ちゃーーんと僕が納得するように話してね?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それから聞いたところによると、女性にしか操れないはずのISを織斑一夏、という男が動かした。で、放っておくと女尊男卑社会でいい思いをしている人間達が何をしでかすかわからないのであらゆる組織、国家にも属さないIS学園で彼を保護──という名目で監禁する事にした。

 

そして、彼は束の親友の弟だからどうにかして守りたい。でも天災とすら呼ばれ世界中から嫌われている──指名手配すらされている──束本人が行くと問題になるから彼と同じ様にISを動かせる男性である僕が行って守って欲しいと。

 

束からのお願いなら、当日まで伏せておくなんて事しなくても了承したのに……と納得いかない部分もあったけどそれはそれ、どちらにせよ恩人からの頼みは断らない事にしている僕は始発でIS学園に向かった。

 

束には黙っていたことの制裁として頭を拳でグリグリした。バカになっちゃうーとか言ってたけど容赦はしなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして、今に至るという訳だ。教室に入ったはいいものの、周りからものすごく見られている。外に出たのもかれこれ10年ぶり?位だし知り合い以外の女性の顔を見るのも7年ぶりくらいだ。正直、今すぐにでも帰りたい……。

 

因みに今はHRで、自己紹介が行われている。

 

「織斑一夏です……よろしくお願いします」

 

あ、件の織斑一夏が挨拶をしている。かなり素っ気ないな。

 

「えーっと……それだけですか?」

 

のんびりとした雰囲気を漂わせた人が困惑している。あの人は担任の……山田先生…かな?

 

「はい、以上です」

 

バコッ、と恐ろしい音と共に織斑一夏の頭に出席簿がめり込んだ……。

 

「貴様は挨拶もまともにできんのか!」

 

「げぇ、関羽?!」

 

いや、それはない。

 

「誰が三国志の英雄か。織斑、お前舐めているのか?」

 

ていうか、誰かと思えば千冬さんじゃん……それなら今の僕が取るべき方策は一つ。

 

「織斑先生、発言よろしいですか?」

 

「許可する。ついでに名乗ってくれると助かる」

 

「はい……八代慧と申します。一年間よろしくお願いします。特技は裁縫、料理です。趣味は音楽鑑賞と読書、苦手なものは女性です」

 

最後の自己紹介に教室全体がざわついている。何ら不思議なことは無い。わざわざここに来て女性嫌いなど全校生徒を敵に回したようなものだ。

 

でもまぁこう言っておけば不要な接触を図る女子もいないだろう。

 

「……それと先生、とてつもなく気分が悪く吐きそうなので今日は寮の部屋で休ませて貰えませんか……?そろそろ限界です………」

 

それを聞くと呆れ半分、同情半分の視線を千冬さんから向けられる。

 

「………わかった、許可する。ただし明日の朝食後からSHRの間で職員室に来るように。話があるからな」

 

「はい、失礼します」

 

許可は貰った、あとは急ぐだけだ。少し駆け足で教室棟から抜け出す。

 

「………早く自分の部屋に入って横にならないと…本当にマズイ…」

 

先程までは、電車に乗る時のために飲んでおいた精神安定剤でなんとか持っていたが既に効果の限界が見え始めている。薬を飲んだのは午前四時で今は十一時。効果が切れるのも当然だ。

 

「薬は確か束が送っておいてくれたはずだから部屋に行けばあるか……」

 

そこまで考えたところで、とうとう僕の体に限界が訪れた。近くの木にもたれるような形で座り込む。

 

「はっ………はっ……………少し……ここに」

 

「ねぇ、貴方」

 

「ひぁっ?!!」

 

薬の効果が無ければ、最早敵にしか見えない。いきなり後ろから声をかけられ、咄嗟に護身用のナイフを振った。

 

「おっとと……危ないなぁ…君、二人目?」

 

その声の主は、そのナイフをヒラリと躱し、より接近してくる。

 

「近寄らない方がいい……です………」

 

恐怖と嫌悪を捩じ伏せながら喉から声を絞り出し、立ち上がろうとするが上手くいかず転んでしまう。と、その人は手を差し出してきた。思わず身体がビクリと跳ねる。

 

「…貴方が女性恐怖症ということは聞いている。でもね、私は貴方の敵じゃない。貴方を傷つける敵じゃないわ」

 

「…………」

 

「今は、信用しなくて構わない。でも肩は貸すわよ。今の君の状況じゃ、とても寮まで持たないでしょ」

 

信用出来ないと思ったなら、いつでも後ろから私を刺せばいい。そう付け足したその人は、無理矢理僕の右手を背中に回して立ち上がった。

 

「貴方、見た感じより重いのね」

 

「………そうですかね……先輩。申し訳ないですが寮までお願いします」

 

「わかった。おねーさんに任せなさい」

 

そう言って笑ったその人の笑顔には、不思議と恐怖も嫌悪も感じなかった。そして吐き気もまた、どこかに行ってしまっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ここが慧君と私の部屋よ」

 

「そうですか。ええっと………」

 

「ああ、まだ名乗ってなかったわね。私は未熟ながらここの生徒会長をやってる更識 楯無よ。よろしくね、八代 慧君」

 

「はい。こちらこそよろしくお願いします、更識会長………いや、待って下さい。今僕と会長の部屋って言いました?」

 

「うん、言った」

 

「………どうして異性で相部屋なんですか?そこは普通二人ぼっちの男子で相部屋なんじゃ…」

 

「それについては後で話すから、先に薬を飲みなさい。慧君のスーツケースは送られてきているからその中でしょ?」

 

僕をベッドに座らせた会長が『健康第一』と書かれた扇子をこちらに向けてくる。いや、その扇子どうなってんの。

 

「……はい。わかりました」

 

私はお水と軽く食べるもの準備するから、そう言い残して会長はキッチンに向かっていった。

 

確かに、薬の服用前には軽く何か食べるべきなのでお言葉に甘えよう。それに普段ならもっと早く昼食を取るようにしているので空腹なのも確かだ。

 

「薬はこれかな」

 

スーツケースの中からガムのようなボトルが四つほど出てきた。フタを開けると全て同じものだった。

 

「それに入ってるの?はいお水」

 

「ありがとうございます、会長」

 

「その会長って言うの、かたっくるしいからやめない?普通に名前で呼んでよ」

 

「では、楯無先輩で」

 

薬を嚥下した後、先輩が出してくれた簡単なおかずとご飯を食べながら他愛もない話をする。薬のせいもあるのだろうが、この人といることに不快感を感じない。

 

「そういえば、先輩は授業大丈夫なんですか?」

 

「ええ、別に一日休んだ程度で響く程馬鹿じゃないもの」

 

「そうですか……それと、いくつか質問してもいいですか?」

 

「どうぞ。私が答えられる範囲でなら」

 

「どうして先輩と相部屋なのか、それと僕の女性恐怖症を知っているのは本来ならたば──僕の保護者と、織斑先生だけの筈です。何故先輩が知っているのですか?」

 

純粋に、疑問だった。束はともかく千冬さんから会長職とはいえ生徒にそんな情報が流されるとは思えない。

 

だが、束の知り合いなら僕とも面識があるはずだがそれもない。

 

「それはね……君の保護者に頼まれたのよ」

 

「へ?束が?なんでまた……」

 

「私も驚いたわよ。窓をノックされてカーテンを開けたら窓にへばりついてる篠ノ之博士を見たんだから。軽くホラー体験だったわよ……その時に全部聞いたのよ。貴方を此処に送り込もうとしてる事とか、貴方のその体質のこととか。

 

それと私相手なら、その症状は軽い……もしくは無いだろうって事も」

 

「先輩相手ならって……どういう事ですか?」

 

「それは…………」

 

言い淀んで目を逸らす先輩。口止めでもされているのだろうか?

 

「いえ、そちらに関して今回は詮索しませんよ。それで、先輩は束に僕の事を頼まれた、と」

 

「まあ、端的に言えばそうね」

 

……そうであるなら、少し警戒すべきだろうか。

 

「慧君が考えている事はわかるけど私は報酬を提示されて君と接しているわけじゃないわ。私が篠ノ之博士の依頼を受けたのはもっと個人的な理由よ。慧君を放ってはおけなかっただけ」

 

そんなことを言ってから、何故か頬を赤くした先輩。コホン、と咳払いして真剣な顔付きで僕と目を合わせてきた。

 

「とにかく!私は頼まれてはいるけど、此処に居るのは私自身の意思よ。それは信じて欲しい」

 

澄んだ、綺麗な目だとふと思った。でも、僕もそんなに簡単に人を信じられる人生は送れていない。

 

「………信じるのは、難しいです」

 

その目がとても悲しげに揺れた。普段の僕ならここで終わっていたのだろう。だが不思議と続きの言葉が口をついて出た。

 

「でも……先輩の事は、信じてみたいです」

 

今は無理でも、いつかは信じられるようになりたい。この人は僕の人生の中で初めてそう思わせてくれた人だ。

 

「………ありがとう、慧君」

 

「改めて、これからよろしくお願いします。楯無先輩」

 

どちらともなく、握手を交わした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

彼が疲れのせいか眠ってから、数時間が経った。その間彼は一度も目を覚ましていない。

 

私はそんな彼の寝顔を見つめていた。その頬にそっと手を当てながら呟く。

 

「………また会えたわね……慧」

 

私と彼──更識楯無と慧には面識がある。それはたった一ヶ月、夏休みの間のことではあったけど、私はその時のことを一度も忘れたことは無い。

 

彼は、私が初めて恋をした人。もちろん当時七歳の私はそんなこと考えていなかったが、歳を重ねるにつれて会いたいという思いが積み重なっていたのは間違いない。

 

でも私がそう思いを募らせていた間に、彼の人生は大きくねじ曲げられてしまっていた。

 

両親の離婚、母親の虐待──そして彼自身が売買されていた。

 

それを博士から聞いた時、私は泣き崩れてしまった。私がそんな事に現を抜かしている間に彼は酷い傷を負っていたのだと、そう突き付けられたのだ。

 

『……お願い、けー君を助けてあげて』

 

『束さんには、環境を整えるのが限界だった。けー君の心の傷は、全く癒えていない』

 

その時の博士の雰囲気は普段テレビ画面で見たり、周りから聞いていたものとは別人のように、真剣そのものだった。

 

だから、私は彼女の想いに応えたかった。そして私自身も──慧の為に、出来ることをしようと決めた。

 

「慧………貴方が私を覚えていなくても、私が貴方を覚えてる。あの時私は慧に助けて貰ったの。だから今度は、私が助ける。私が、慧の事を護るから」

 

眠っている彼の手をそっと握り、私は自分自身に改めてそう誓った。




さすがに、少し短いですかね…導入なのでご容赦下さると幸いです


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第二話

黒っぽい猫です!まさか一話にして三件の感想、二件の評価を頂けるとは思っていなかったのでとても嬉しかったです!

また、二件の文章訂正を頂きまして、そちらも重ねてお礼致します、有難うございました!

そんなこんなで第二話、どうぞ!


「…………」

 

状況を整理しよう。僕は昼食を取った後、休息の意味も兼ねてベッドに入ったはずだ。そしてその時には楯無先輩は食べた食器の片付けをしていたはずだ。

 

「それが、どうして僕が寝ているベッドに先輩が寝ているという事態になったんだ?」

 

もうこの際この人が僕の嫌悪の対象(女性)だという事とか、そういうのは度外視してもこの状況がおかしいことは分かる。

 

というより、まず動けない。

 

僕の腕には先輩が抱きついており、横を見れば先輩の寝顔が目の前にある。体内時計によると今は午前五時。

 

流石に起こすには忍びない。だが僕は目も完全に覚めたし寝起きのシャワーも日課なので出来れば離して欲しいのである。

 

ゆっくりと先輩の手を僕の腕から離していく。

 

「んぅ………けぃ……いっちゃゃだぁ……」

 

僕の名前を呼んでいるのだろうか?口を動かしながら何か言っている先輩を見ていると微笑ましくなってくる。

 

「シャワーを浴びるだけだし、部屋からは出ないですよ」

 

眠っているのに、そう伝えると満足そうな顔になる。それを見て胸の底から温かさが溢れてきて戸惑う。昨日初めて会ったはずなのに、どうして僕はこんな気持ちになるのだろうか。

 

完全に先輩の手を外した僕は首を振って思考を中断し、音を立てないよう制服の予備を持って浴室に向かうのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

シャワーを浴びた後、朝食を作っていると先輩が起きてきた。

 

「くぁ………慧君、何してるの?」

 

「あ、おはようございます先輩。冷蔵庫の中身使わせて貰ってます。今朝食を作ってますので少し待ってて下さい」

 

「ん………ふわぁ…お水……」

 

寝起きがよくないのか、欠伸している先輩にカップに注いだ水を渡す。

 

「ありがと………テーブルに座ってるね…」

 

「はい」

 

どの部屋も基本的に最低限生活できる設備は整っていて、特にキッチン周りは綺麗にされている。先輩の性格が出ているのだろうか。

 

まだ眠そうにしている先輩を眺めながら作っている味噌汁の味を確認する。

 

「うん……こんなもんかな」

 

グリルの鮭もいい感じに焼けている。後はほうれん草のおひたしに鰹節と軽く醤油をかけたら朝食の完成だ。

 

お盆に乗せて二回に分けて運ぶ。並んでいく料理を見て少し驚いた顔をしている先輩が印象的だ。

 

「凄い……手際いいね…」

 

「束は自分で料理したがらないので僕が作るようにしてたんです。栄養食だけじゃ味気ないですしね。まあ、食べてみて下さい。お口に合うといいんですけど」

 

「食べてみるね……いただきます」

 

味噌汁を少し飲んだ先輩が目を丸くしている。

 

「美味しい………!こんなに美味しいお味噌汁初めてよ……!」

 

「喜んでもらえたみたいで何よりですよ」

 

先輩がおひたしにも箸を伸ばしはじめた所で、僕も食べることにした。

 

うん。いつも通り。

 

「そういえば、朝は一緒に登校する?」

 

「今朝は織斑先生に呼ばれているので先に行きます」

 

「そっか……」

 

先輩が少ししょんぼりしているように見えるのは考えすぎかな?

 

「そういえば、先輩は会長としての仕事があるんですよね?」

 

「ええ、まあ一応これでも生徒会長だし」

 

「そうですよね。先輩に校内を案内して頂けたらと思ったんですが……」

 

「へ?」

 

「その、正直一人で居る時に探索とかは無理だと思うんです、体質的に。でも、校内のこと知らないと不便じゃないですか」

 

「うーん………あ、じゃあ慧君も生徒会に入ればいいよ!授業終わったら迎えに行くからさ」

 

「何がいいのかはわかりませんが、わかりました。放課後は教室で待ってますね」

 

「あ、ご飯作ってくれたお礼に食器は洗っておくから職員室に向かっていいよ」

 

「え、でも昨日も任せてしまいましたし……」

 

「私がいいって言ってるんだから良いの」

 

「……わかりました。先に行きますね」

 

「素直なのはおねーさん好きよ♪」

 

この人の事は、信用したいと思うが、何処と無く掴み所がないのは不思議だ。それでも不快感は無いのだけれど。

 

取り敢えず、後を先輩に任せて、僕は先に部屋を出た。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「失礼します。一年の八代で…………す……」

 

職員室について、扉を開けるまではよかった。ただ僕は忘れていた。ここがほぼ女子校であることを。

 

当然、教師も大多数が女性なわけで。薬を飲んで、朝早い時間に部屋を出るなど極力女性と顔を合わせないように立ち回っていだけに、この不意打ちには反応できなかった。

 

「えーと……八代君…?」

 

「……ゴメンなさい」

 

「えぇ?!なんで謝るんですか?!何か悪いことしちゃったんですか?」

 

声をかけてきた先生に反射的に謝ってしまう。それに対して過剰に反応したその先生はオロオロしながら近づいてくる──ッ?!

 

「──近寄るなッ!!!」

 

「はぃぃっ!!」

 

自分を害する人じゃないのはわかっている…つもりだったが、不意に近寄られてしまったことで過剰にこちらも反応を返してしまう。

 

「朝から何をしている、バカ者が」

 

べチン!という音と共に後頭部に衝撃が走り、目の前に火花が散った。

 

「………織斑先生…ですか?」

 

「正解だ。朝っぱらから問題を起こしてくれるなよ、八代。それと山田先生、話した筈ですがこの男は女性恐怖症ですから注意して下さい。頭でどんなに危険じゃないとわかっていても反射的に構えてしまうんです」

 

「そ、そうでした………ゴメンなさい、八代君」

 

「いえ………僕の方こそ…すみません……自制心が甘すぎるせいでこんな」

 

「ち、違いますよ!八代君は悪くないですっ!ってあぁ、強く言ってしまってごめんなさい……」

 

「謝りあってどうする……それより八代、私についてこい。話がある」

 

「わかりました。山田先生、失礼します」

 

「はい、また教室で」

 

柔らかく微笑んだ山田先生を後ろに、千冬さんの後についていく。

 

「それで………話とは?」

 

「まあ待て。ここでする話でもないからな……この部屋だ」

 

そのプレートには『寮監室』と書いてある。

 

「私は教師だけでなく寮監もやっているんだよ」

 

「そういえば、そんな事を話してましたね」

 

時々千冬さんは束の隠れ家にお忍びで会いに来ていた。僕の症状が出ない数少ない女性の一人だ。

 

「まあ適当に腰掛けてくれ。ああそれと、ここは盗聴の心配もないからいつも通りで構わないぞ」

 

「わかりました、改めてお久しぶりです千冬さん。急に来てしまってすみません」

 

「いや、お前の転入についてはかなり前から束に頼まれていたが………その顔だと聞いてなかったんだな」

 

「言われたのは昨日の午前三時です」

 

「…………」

 

こめかみに手を当てて少し瞑目したあと切り替えるように目を開いた。その目の奥には同情が色濃く滲んでいる。

 

「まあ、束への制裁は後で話すとして、だ。話があるのはお前の専用機に関してだ……黄、赤、青の使用は認めるが黒の無断使用は許可しない………いいな?」

 

「……わかっています。あれは正真正銘の殺人武器ですから」

 

「それならいい。念を押しておくが、あれの使用条件は私が許可を下すこと。お前の独断による使用は認められん。その場合は営倉に容赦なく叩き込む。覚悟しておけ」

 

「はい……それだけですか?」

 

「ここからは業務連絡だ。本格的な授業は今日から行うからそのつもりで居ろ。教科書はリストと一緒に机の上に置いてあるから確認しておけ」

 

「わかりました。それじゃあ失礼します」

 

「ああ、そうだ。更識とはどうだ?上手くやっていけそうか?束から同室にするなら更識以外ありえないと言われ、本人の強い意向もあって認めたが……大丈夫か?」

 

「あの人の事は………信じてみたいと思いました」

 

この感情に名前をつけるのは難しい、だから曖昧な表現でお茶を濁したが千冬さんは笑っていた。

 

「そうか……行っていいぞ、慧」

 

「はい、失礼しました織斑先生」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一コマ50分のカリキュラムを三回こなした後の休み時間。僕は織斑一夏とコンタクトを取ってみることにした。否が応でも唯一無二の男同士なのだからあちらも拒んだりはしないはずだ。

 

「随分とお疲れみたいだね織斑」

 

「あぁ……昨日の女嫌いの………ええっと…」

 

「八代だよ、八代 慧。好きなように呼んでくれていいよ」

 

「わかった、じゃあ慧って呼ぶから俺の事も一夏で頼む。名字で呼ばれると千冬姉と被るからな」

 

「ん、了解。それにしても随分とへばってるね、一夏。まだISの方も普通過程の方も基本しかやってないのに」

 

「なぁ……慧も覚えたのか?あの電話帳みたいな量のテキスト」

 

「いや、あれは四年前に既に覚えてた内容だから特に」

 

「え?いや、あれ配られたのここの合格が決まってからなんじゃ……」

 

「僕にも色々あるのさ。それに関してはまた別の機会に話すよ」

 

「ふうん……「ちょっとよろしくて?」そういえば慧は昼飯誰と食べるか決まってるのか?」

 

「いいや、特には決まってないけど」

 

「じゃあ一緒に食べようぜ!昨日はもう肩身狭くてさ。飯が美味いのはいいけど視線を向けられてて」

 

「なるほど……いいよ。食べに行こう」

 

「んじゃ決まりだ「貴方達!!わたくしの事を馬鹿にしてますの?!」……なんだよ、俺達に話しかけてたのか?」

 

一度目は意識的に無視していたが、どうやらそうは問屋が卸さないらしい。というか、一夏はそもそも気づいてなかったらしい。天然なのかな?

 

「わたくしに話しかけられているのに無視するとは何事ですか!礼儀も弁えていませんのね!」

 

腰に手を当てて怒る少女。威圧的な態度を取られるのは苦手なので無意識のうちに距離を取り一夏の後ろに下がる。

 

一夏も面倒くさそうな顔をしながらもちゃんと答えることにしたらしい。

 

「悪いな。俺、君が誰か知らないし」

 

その言葉に若干青筋を浮かべながらその生徒は捲したてる。

 

「わたくしを知らない?!このセシリア・オルコットを?イギリスの代表候補生にして、入試首席のこのわたくしを?!」

 

ポカンと口を開いている一夏。恐らく代表候補生について知らないのだろう…これ以上波風立てられても困るからこっそり耳打ちして教えよう。

 

「代表候補生っていうのは、IS適正とその操縦技術のみで選抜されたエリートの事だよ」

 

「その通り!!エリートなのですわ!ってちょっとお待ちなさい!今IS適正と技術のみとおっしゃいましたわね!!」

 

「…っ!」

 

話しかけられるとは思っていなかったのでビクリと体が跳ねる。全身の毛穴が粟立ち、寒気が背筋を撫でる。

 

「それは…………その……言葉のあやと言いますか悪い意味で言ったのではなくて………」

 

「ど、どうしましたの?」

 

セシリア・オルコットが手を伸ばして──その手にはよく見慣れた血まみれのペンチが握られて

 

「ぁ……ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい僕が悪かったです痛いのはやめてくださいそれ以外ならできる限り謝罪致しますので許して下さい」

 

蹲って目を瞑ることしかできなかった。だが瞼の裏にも今も近づいてきているオンナの姿が見えて──

 

「い、いえですから──」

 

「何をしている。授業を──ッ!オルコット!八代から距離を取れっ!!」

 

「ぅぁぁああああ!!」

 

閉まっておいた予備のナイフを近くにいるオンナに突き立て……る直前で千冬さんに止められそのまま抱きとめられた。

 

「落ち着け、八代………ここにはお前を傷つける人間はいない」

 

その温もりが、労るような優しい声が、いつの間にか惹き込まれていた狂気の中から引き上げてくれる。

 

「織斑………先生……?ぁ……薬を………多分効果が切れかけて──」

 

「おい織斑、八代のカバンに水があるだろう。渡してやれ」

 

「は、はいっ!」

 

「どうだ。少しは落ち着いたか?」

 

「すみません………また…ご迷惑を………」

 

「仕方あるまい。どうしてこうなったのかは聞かないでおくが……やはりお前の話は一度クラスに周知しておくべきだった」

 

僕を離した千冬さんに支えられながら一夏の席を借りて腰を下ろす。

 

「慧、水持ってきたぞ」

 

「ありがとう一夏……それと驚かせてごめん」

 

「気にすんなよ、困った時はなんとやらだろ」

 

「うん」

 

薬を嚥下して少しすると落ち着いてくる。

 

「八代も落ち着いた所で、皆聞いてほしい。八代は嘗て母親やそれに類する女性達に酷い虐待を六歳の頃から四年間受け続けていた。

 

皆が先程見た行動もそれに起因する防衛本能の様なものだ。八代自身がお前達を嫌っているのではなく、本能的に一部を除く女性という存在そのものに攻撃するようになっている。

 

それを知った上でコイツとは接してやって欲しい。以上だ」

 

体はフラつくが、なんとか自席まで戻り座る。

 

「八代君………大丈夫…ですか?」

 

千冬さんから代わって教卓に立った山田先生から聞かれる。

 

「はい。安定剤に合わせて吐き気の方を収める薬も飲んだので、万全とまではいきませんが授業を受けるくらいなら問題ありません」

 

その後は、特に何事も問題なく授業が進み昼休みになった。

 

「あー……ごめん一夏。一回部屋に戻ってシャワー浴びてくる。飯も部屋で食べるから………」

 

「ん、わかった。食堂だと落ち着けないもんな」

 

言外の意味を上手く拾ってくれたことに感謝しつつ教室を出た。

 

「夜ご飯はそっちで食べるよ」

 

「おう」

 

それじゃ、と一夏と別れ部屋へと急いだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「あっ」」

 

昼休みも残り少なくなった頃、教室の前でセシリア・オルコットとばったり出くわした。

 

「「…………」」

 

互いに無言になり、僕の方が道を譲る。

 

「……申し訳ありません八代さん。事情を知らなかったとはいえ、不快な思いをさせてしまいました」

 

「……いえ、オルコットさん、僕の方が説明不足だった所もありますのでお気になさらず」

 

「距離を取られながら言われてもあまり納得は行きませんわね」

 

苦笑いを浮かべるオルコットさんに、こちらは俯くことしか出来ない。

 

「ゆっくりで構いませんわ。貴方のやり方で慣れていけばいいのです………わたくしもそうしてきましたから」

 

高圧的な態度ではなく、その様な柔らかい顔もできるのか、と失礼ながら思ってしまった。

 

「……それでは、失礼します。あ、それとわたくしは貴方やもう一人の彼を認めたわけではありませんので勘違いしないように」

 

最後に一言をつけ加えて、オルコットさんは教室に入っていった。

 

「ゆっくりでいい………か」

 

彼女のその言葉に、少しだけ心が軽くなったような気がした。




ここまでお読み下さり有難うございました。一応三回ほど読み直しをしたのですが、もし誤字脱字等ありましたらまたご指摘の程よろしくお願い致します。

この作品は、今後は月に一度以上の更新を予定していきたいと思います、どうかお付き合いくださると幸いです

皆様のお気に入り登録、感想、評価は作者の執筆の養分となっております。

それでは、また次回更新でお会いしましょう(・ω・)ノシ


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第三話

どうも、話数を重ねる毎に本当にこれでいいのか、と悩みが増えていく黒っぽい猫です

まあ、そういう話はあとがきでするとしてまずは本編をどうぞ。今回もよろしくお願いします


「決闘ですわ!!!」

 

……………頭を抱えながらどうしてこうなったのか考える僕。立ち上がって激おこモードのオルコットさん、憮然とした顔の一夏。

 

そして僕と同じく頭を抱える千冬さん。

 

どうしてこうなったのか……それは数分前に溯る。

 

 

一年一組の午後の授業はHRから始まった。そこで千冬さんは自薦を他薦問わずクラス代表者を募り始めた。

 

多くの生徒は一夏を指名。理由は一番目の男性操縦者だからという短絡的な理由。そして推薦された一夏自身は道連れという形で僕を推薦。

 

男子二人の投票となるかと思われた。

 

だがそこに待ったをかけたのがオルコットさんだった。

 

彼女曰く『最低限の知識すら持ち合わせていない一夏さんにやらせても恥をかくだけですし八代さんが代表を務めるのは彼の体質的に不可能です!!わたくしが自己推薦で立候補しますわ!』との事。真っ当な意見のような気がするが何を思ったのかそれに対してクラスメイトが反発。

 

やれ『空気読め』だの『話題性がある人にやらせた方が目立つ』だの酷く醜い言葉がオルコットさんに投げかけられていた。

 

一夏も、流石に恥とまで言われてカチンときたのかケンカを売るような発言をしてしまい、オルコットさんを挑発。その結果として冒頭に戻る、という訳だ。

 

 

 

 

 

「いいぜ。ハンデはどのくらいつける?」

 

「あら?早速お願いですの?」

 

「いや、俺がどれくらいハンデが必要なのかなーと」

 

それを聞いた瞬間クラス全体が失笑し、オルコットさんは呆れ顔をしている。

 

『男が強かったのなんて何年も前の話だよ?今女と男が戦争したら三日ももたないって言われてるのに〜』

 

『いいジョークセンスだねぇ、織斑くん』

 

明らかに馬鹿にしている口調で話す彼女達を見ていると不快になってくる。千冬さんと山田先生、オルコットさん本人でさえも顔を顰めている。

 

「……なら、ハンデはいい」

 

『今からでも遅くないから付けてもらった方がいいよ?』

 

心配している数少ない生徒の一人は一夏にそんな声をかけるが、男が一度言った言葉を曲げられるか、の一言でその親切心を両断してしまう。

 

なんでそんなつっけんどんに言うんだよ……。

 

「はぁ……取り敢えず、僕は辞退したいんですけどそういう訳にはいきませんかね?オルコットさんの言う通り、僕にはとても務められるとは思えません」

 

せめて僕だけでも辞退したかったのだが

 

「評価されるという事は、期待されているという事だ。本人が望むかどうかではなく、な。それがここまで短絡的な理由になるとは思わなかったが、申し訳ないが辞退は認められない」

 

そう言われてしまえばどうしようもない。

 

「全員注目!!この三人の中からクラスの代表者一名を選出する。選出方法はISでの模擬戦。一週間後に行う事とする。また、それまで織斑、オルコット、八代の三人の接触を禁止する!以上だ」

 

模擬戦………か。嫌だなぁ……

 

「尚、これは決定事項だ!あらゆる異論反論は認めない!!分かったらさっさと席につけ。授業を再開する!まだ決める事はいくらでもあるからな!!」

 

納得するしないに関わらず、決闘することが決まった瞬間だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「慧君!迎えに来たよ〜」

 

「あ、先輩。そう言えば今日の放課後は生徒会室に行くんでしたね」

 

「何だかげっそりしてる?大丈夫??」

 

「気苦労は絶えませんけど、大丈夫ですよ。ご心配なく」

 

突然の生徒会長に教室全体がざわめいている。どうやら、僕が思っていた以上に先輩は有名人らしい。

 

『ねえ、八代君って生徒会長のお気に入りなのかな?』

 

『えー、だとしたら既に手遅れじゃ………』

 

『やっぱり狙い目は織斑君ね…』

 

驚愕のざわめきに混じってとんでもないのがあった気がするけど気にしない。

 

「そう、それじゃ早く行くわよ!突っ立ってても仕方ないんだから!」

 

「あ、ちょっと引っ張らなくても歩きますから」

 

クラスの大半が呆気に取られながら、僕は教室から引きずり出されてしまったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「それで〜?イギリスの代表候補生に喧嘩売ったんだって?」

 

歩きながら話を振られる。どうやら上級生にも噂は既に広まっているのだそうだ。悪事じゃないのに千里を数分で走破している。

 

「売ったのは僕じゃなくて一夏です。僕は彼に巻き込まれただけですよ。織斑先生も辞退は認められないとの事で」

 

「ふぅん……機体はあるのよね?確か篠ノ之博士の所の」

 

「まあ、手を加えたのは僕ですけどね。七割方自作ってところです」

 

「ね。今度見せてよ、慧君のIS」

 

「試合の日にお披露目しますよ……そんなに見てて気持ちのいいものじゃないですし」

 

「え?」

 

「いえ、なんでもありません……っと生徒会室はここですか?」

 

『生徒会室』と銘打たれている部屋の前で先輩が急に止まった。思わずつんのめってしまう。

 

「ええ、中に入ってちょうだい。入るわよー」

 

返事を待たずにドアを開け、中にズカズカ入っていく先輩。まるで自室に入るかのような気軽さである。実際生徒会長の部屋と呼べなくもないので問題は特に無いのだろうが。

 

「失礼します、一年一組の八代 慧と申します。楯無先輩に呼ばれ参上しました」

 

「うん、知ってる〜」

 

挨拶をして中に入るとフワフワした返事が返ってくる。どこかで聞いたことがあるような……。

 

「君は確か……布仏 本音さん…だったっけ?同じクラスの」

 

クラスメイトが一夏の失言に笑っている時に心配そうに眉をひそめていた数少ない生徒の一人だったはずだ。

 

「そうだよ〜、女の子苦手って言ってたから忘れられてると思ってたよ〜」

 

「周りが女尊男卑に染ってる中、そうじゃない女子生徒がいるのは印象的だったからね」

 

その言葉に悲しげに目を伏せる布仏さん。

 

「皆、悪い子じゃないの……ただ、それに慣れちゃって──慣れさせられてるんだと思う」

 

「──女性権利団体か」

 

ISの開発発表と共に急速に勢力を拡大させ、公然と女尊男卑を掲げる団体だ。その力は国際連合すらも抑えることが出来ず、国際的な場で差別的な発言をすることすらある。

 

だが、その所属企業や下部組織の規模の大きさゆえに反発できるものはいない。束が姿を隠しているのも彼らに見つかり、自分がこれ以上利用されるのを避ける為だった。

 

当然そこまで大きな組織が教育に関与しないわけがない。歴史を盾に『大戦前の日本は男尊女卑社会だった。だから現在それが逆転しているのは当然の事だ』などと世迷言を植え付けているそうだ。

 

そういった教育を受け、刷り込まれた子供達は差別を容認し、またそれを受け入れてしまう。

 

「…………うん」

 

「布仏さんのせいじゃない。君がそんなに落ち込む必要は無いさ。それに弱いって思われているなら好都合さ」

 

「ありがとね、やっしー。優しいんだね」

 

拗ねている時のアイツみたいだ、と思いながら無意識のうちに布仏さんの頭を撫でる……愛称が某梨の妖精みたいなのはノーコメントで。

 

「別に僕は優しくないよ」

 

布仏さんの頭を撫でながら落ち着かせていると後ろから重さを感じる。何故か抱き着かれているようだ。

 

「招待したのは私なんだけどな〜?」

 

「???」

 

「あれ〜?やっしーは女性恐怖症だよね〜?こんなに接近して大丈夫なの〜?」

 

「僕のトラウマの原因は敵意を向けられて虐待を受け続けたことだからね。敵意やら好奇の視線やらに晒されるのは負担になるけど、布仏さんや楯無先輩からはそういうのが感じられないからかな?

 

それでも、多分今は薬が効いてるからが大きいと思うよ…効果が切れると幻覚で錯乱することもあるからさ」

 

それでもこの二人には本当に嫌悪を感じない。

 

もしかして昔会ったことが………ッ…!

 

昔を思い出そうとして思い出したのは実験室の光だった。そこで行われた麻酔無しの手術が頭を過り脂汗が流れる。

 

「すみません先輩……少し離れてもらいますか?」

 

「ッ!!大丈夫?!」

 

背中から先輩が離れた瞬間二人から距離をとり壁に背中を預け座り込む。

 

「ぁ………痛い…………」

 

左腕が、疼く。もう傷は癒えているはずなのに痛い、熱い。そこだけじゃない、背中が抉られるような激痛も伴ってあの時の光景がフラッシュバックされる。

 

「やめ…っ………怖いっ!………ごめん…なさいっ!」

 

「大丈夫、大丈夫よ慧。私がいる」

 

優しく誰かに手を握られる。夢で金属を捩じ込まれる感覚とは違う、現実の確かなもの(温もり)

 

トラウマと幻覚に囚われた視界が元に戻ってくる。生徒会室、机と椅子、こちらを心配そうに見る布仏さん。手を握って頭を撫でてくれている楯無先輩。

 

「………ごめん、なさい。昔の事を…思い出そうとして。若しかしたら、二人には僕の両親がいた頃に会ったことがあるんじゃないかって思って」

 

「「!!」」

 

「そしたら……!思い出したのは…縛り付けられて左腕を………「大丈夫。無理に思い出さなくていいのよ」……っ!!」

 

今度は手だけじゃない、体全体が温もりに包まれる。

 

「いいのよ。謝らなくて…慧君は何も悪くない…何も悪くないの」

 

「そうだよ〜。私も気にしてないから〜」

 

「ッ!!!」

 

二人の優しい微笑を見た時、自分の中で何かを思い出したような気がした。ただ、それは一瞬のことで、僕がそれの正体を掴む間もなく消えてしまった。

 

「…かた…………な……?」

 

「ぇ…………?」

 

「ううん、なんでもありません………」

 

「本当に……?」

 

「ええっと………」

 

近い。兎に角先輩が近い。先程まで意識していなかったのもあり──というか、女性をそういうふうに意識したこと自体今まで無かったのだが──抱きつかれていることで感じる先輩の心音や僕の耳元にかかる息にドキドキしてしまう。

 

「その、先輩………近いです…もう、大丈夫ですから」

 

「ん………」

 

密着するのはやめてくれたものの、投げ出した僕の足の上に乗っている先輩はじっとこちらを見つめたままである。

 

「あの〜……私もいるんですけど〜?」

 

「「あっ」」

 

それから布仏さんが声をかけるまで、その姿勢のままで、我に返った後に恥ずかしさで僕は死にたくなった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「遅れてすいません、会長………そこの彼は?」

 

顔を伏せたまま誰かが入ってくる音だけが聞こえる。あれから布仏さんと先輩の顔を恥ずかしくて見れない。

 

「ああ……ちょっと…ね」

 

「お嬢様が抱きついて見つめ合ってたんだよ〜」

 

「ちょっと本音!虚に言わないでって言ったわよね?!」

 

「ああ、成程。それで彼は耳まで真っ赤なのですね」

 

「………真っ赤じゃないです」

 

「真っ赤ですよ」

 

「真っ赤だね〜」

 

「真っ赤よ」

 

「っ……」

 

わかっている。反論の余地も無いくらい顔が熱を持っている。

 

「ていうか、原因は先輩でしょ………」

 

「てへっ☆」

 

……可愛いけど無視しよう。反応したら負けだ。そのまま楯無先輩の方は無視して部屋に入ってきた人──恐らく先輩だろう──に挨拶する。

 

「初めまして、申し遅れました。僕は一年一組の八代 慧です。知っているとは思いますが二人目の男性操縦者だそうです」

 

「何故他人事なのかはわかりませんが…ご丁寧にありがとうございます。私は布仏 虚と申します。愚妹がお世話になっております」

 

「いえ、そこまで深い仲でもまだないので」

 

「えぇ〜。やっしーとはもう友達〜」

 

「そうは言っても、お互いのことよく知らないからさ。それにそもそも、友達っていた事ないからまだよくわからないし」

 

僕の人との繋がりは千冬さん、束、それと妹みたいなのの三人だけだったから友達と呼べる人はいなかった。

 

「「「…………」」」

 

「?僕は義務教育も受けてないんだよ?それに今はマシだけど昔は女性だけじゃなくて対人恐怖症だったから、人と会話が出来なかったし」

 

学校、というのは勉強する場という側面と集団生活を学ぶ場というふたつの側面があると本で読んだ。前者は知識を、後者はコミュニケーション能力を養うことを目的としているが僕には後者が圧倒的に不足している。

 

有り体に言えば、他人とどう接していいのかわからないのである。

 

「それなら私と友達になろうやっしー!私が友達の第一号だよ!」

 

布仏さんがニコニコと笑いながら手を差し出してくる。握手を求められているらしい。

 

「ほら早く早く〜」

 

こんなにグイグイ来るタイプだったのか、と新たな発見に驚きながらも差し出された手をそっと握る。

 

「おお〜、やっしーの手は思ってたより大きいですなぁ」

 

「そうかな」

 

何を話していいのかわからない。まともな返答だとは思わないがもう少し何か言えと我ながら呆れてしまう。

 

「こら慧君、そんなに難しい顔しなーいの」

 

後頭部に軽い衝撃、先輩からチョップされていた。

 

「さっきも言ったでしょ?ゆっくりでいいのよ。別に急がなくても周りの人は逃げ出さないわよ?貴方には三年間あって、それが終わるまでに仲良くできればいいじゃない」

 

「そんなものなんですかね……」

 

「そんなものなのよ」

 

そう僕に言って笑った先輩の笑顔に危うく魅了される直前、布仏先輩が咳払いをして楯無先輩の首根っこを掴んだ。

 

「ところで会長」

 

「な、何かしら?」

 

「仕事して下さい。最近サボってたのですからまた仕事が溜まってます」

 

先程までの先輩らしさはどこへやら、居心地が悪そうにしている。

 

「………はい」

 

「先輩、もしかして僕を連れてきたのってこれを手伝わせる為なんじゃ……」

 

「ほら、ご飯ってゆっくり食べた方が楽しいじゃない?だからよ」

 

「………本当は?」

 

「…ごめんなさい、溜め込み過ぎてどうにもならないので助けて下さい」

 

「布仏先輩「虚でいいですよ。本音と被りますから」では虚先輩。この仕事って僕が手伝っていいものなんですか?」

 

虚先輩は少し顎に手を当ててから頷いた。

 

「まあ、はい。基本的に書類を優先度ごとに仕分けしたり、会長が決定した書類を分けるのが仕事なので問題無いかと」

 

「そうですか。それでは先輩、早く終わらせて下さいね。今夜は酢豚を作りますから」

 

「はーい」

 

この時の僕は、まだ知らなかった。これからほぼ毎日生徒会の仕事の手伝いをさせられることを。




いかがでしょうか?原作を未所持の私は図書館ISを借りているのですが、やはり読み込むのは二週間の貸し出し期間では難しいですね……古本屋を見に行こうかしら…

さて、ここからはお礼です

前回の更新後に誤字報告や感想で文体に変な部分があるとのご指摘を下さった皆様、本当にありがとうございました

今後とも誤字やおかしな部分はあるかと思いますがご指摘下さると大変助かります

また、評価やお気に入り登録をして下さった皆様、ここまで読んで下さった読者の皆様にお礼申し上げます
次回もよろしくお願い致します

黒っぽい猫でした


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第四話

私は!生きてます!!
GWに更新できなくて私自身も絶望の最果てに行進してましたがなんとか踏み止まりました

何はともあれ本当にお待たせしました、愛と苦痛の花束を、第四話でございます


しんと静まった倉庫で僕は自分のISと向き合っていた。

 

「……久しぶりだね『閻魔』」

 

真っ黒な装甲をそっと撫でながらそう呟く。そしてこの黒を見る度に思い出す。僕が今ここにいる理由を。

 

「全ては復讐のために」

 

十年前。全てを奪われたあの日から僕は憎悪していた。女を。そして父親のような男を。

 

束と千冬さんに助けられ、平穏を手に入れてからもその気持ちは変わらなかった。

 

それどころか、その平穏な生活の上に何層にもわたって温もりが積み重なっても僕の心に残ったこの黒いシミは寧ろ存在感を増していった。

 

そして今も、それは変わらない──変わらない、ハズだった。

 

「……全部、先輩のせいだ」

 

たった一週間と少しだ。その短い期間の間に、僕の心にあったドス黒い何かを、僕がずっと原動力としてきた泥のようなモノ(憎しみ)を先輩は拭い去ろうとしていた。

 

何故なのか?そんなのはわからない。理屈では測れない。ただ確かな事が一つだけあった。

 

「これは──ずっと昔の……」

 

忘れかけていた昔の事。母さんが、父さんがまだ近くにいた頃の思い出。日差しの下で笑っていた──

 

「…………」

 

だが、指から伝わってくる冷え冷えとした鉄の感触は僕を一気に現実まで引き戻す。そんなもの(温もり)は妄想に過ぎない。こちら(憎悪)こそが本物なのだ。そう主張するかのように。

 

「うん…そうかもね。復讐心は何も変わらないよ、閻魔」

 

僕はそうやって自分を律してきたしこれからもそうする。憎しみに躍らされている訳では無い。憎しみを、糧にしているだけだ。

 

「少なくとも、母さんをこの手で殺めるまでは……」

 

手元のスマホが振動して僕に試合開始の合図を出した。

 

「さあ行こうか、閻魔」

 

首元についている漆黒の首輪をなぞりながら僕は倉庫を後にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「へ?先に僕とセシリアさんが?」

 

僕がアリーナに到着した頃には既にみんな揃っており、出し抜けに千冬さんにそんなことを言われた。確か当初の予定では三機体による三つ巴の戦いだったハズだ。

 

「ああ、そうだ。一夏の機体は既に届いてはいるが最適化をしなければならないからな」

 

最適化には確かに多少の時間を有する。流石に最適化もされないうちから操れるほど専用ISの操縦は優しくない。

 

「納得しました。僕は別に構いませんよ」

 

「わたくしもそれで構いませんわ……慧さん、負けませんから」

 

「………うん、僕も負ける気は無いよ」

 

戦闘のことを考えるとどうしても歯切れが悪くなってしまう。僕は果たして周りの期待に応えられるような試合ができるのだろうか。

 

今朝背中を押してくれた先輩の笑顔が脳裏をよぎった。

 

「……慧さん?体調が優れないのですか?」

 

「あ、ううん。平気だよ」

 

「そうですか。それでは、わたくしは先に行っていますわ。いい勝負にしましょうね、慧さん」

 

「うん」

 

僕の目的は復讐だ。その為に必要だと判断した知識は全て取り込んできた。問題点はこの知識が『搭乗者を殺すこと』に偏っていることだ。

 

控え室に向かいながら一人考える。

 

世間一般でのISはあくまで競技に使う乗り物、そのものを使って闘うことはあれども命の奪い合いをするものであるとは思われていない。

 

知識を持つ軍事学者であればその限りではないが、そんなのは極々少数だ。お偉いさんの教育方針により、大半の人間はISが人を殺す可能性を考えていない。

 

それの善し悪しは置いといてその原因の一つは絶対防御、という機能がISには必ず搭載されている事。それはISに搭乗するパイロットに外的な要因による命の危機が発生した際にIS自らのシールドエネルギーを用いてパイロットの身体と命を護る、という機能だ。

 

競技に使われる前は宇宙開発の為に設計されただけの事はあり、例えば全方位からミサイルが直撃してもパイロットは生きている、なんていう実験結果も出ている(公表されてはいないがこれの被検体は僕だった。勿論僕自身が率先して立候補しただけで千冬さんも束も大反対した)。

 

さて、そんな一見万能に見えるシールドエネルギーだが、幾つか抜け道がある。その一つが一点突破だ。

 

やり方は簡単、先ず機体に大出力の砲撃を浴びせる。当然絶対防御が発動して搭乗者を守る。そしてその直後にこの砲撃の間を縫って一点のみに絶対防御を集中させる。

 

なまじ絶対防御は凄まじいエネルギーを消費しているだけあって非常に頑丈だ。だが、その分小回りが利かない。全体を守りながら細かい部分を分厚くするなどという芸当は幾ら束の設計とはいえ不可能だったらしい。

 

そして僕の専用機『閻魔』の数少ない正規武装の一つである『剣山』はその一点突破を可能にする。瞬間的にブーストすることで絶対防御を貫通させ、その刃を直接搭乗者へ突き刺す。

 

とはいえ、それも今回は使えない。これは連携攻撃だからだ。砲撃を行うための()()の調整もまだ完成していないので現状はこの攻撃はできない。また、やはり彼らが手元にない以上『単一仕様能力』も使えない。

 

そうすると、僕の機体が今回出せるパフォーマンスは多く見積っても全体の二割程度だろう。

 

全開の僕であればセシリアさんに遅れをとることは無いだろうが、ここまで手枷足枷が多いと厳しくなる。

 

「できることなら……使いたくはないんだけど…」

 

奥の手の『同調』を使っても五分で戦えるかどうかだ。一夏と戦うことを考える余裕なんてない。

 

(僕はどうしてこんなに真剣になってるんだ…?そもそも手を抜いて負ければ済む話じゃないか。元々クラス代表なんて辞退したかったのに)

 

考えてみればそうだ。では全力で戦わなきゃいけない理由は?

 

「また…………先輩のせいか…」

 

再び先輩の笑顔が脳裏に浮かび心を揺り動かす。そして同時に今朝のやり取りが頭の中で再生される。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

今朝、いつもの様に起きてきた先輩と共に、トーストとハムエッグといったとてもシンプルな朝食を食べていた。

 

「ねえ、慧君」

 

「なんです?」

 

「ええっと………今日が試合よね?」

 

「はい、そうです。先輩も見に来るのですよね?」

 

「もちろんそのつもりよ……でも、その……」

 

珍しく先輩にしては歯切れが悪い。

 

「?どうしたんですか?」

 

「いやー……あはは。一週間ずっと仕事に付き合わせちゃったからさ…大丈夫なのかなーって」

 

苦笑いをする先輩の目は所在なさげにキョロキョロと忙しなく動いていて、本当に気まずいのだと僕に理解させる。イタズラを叱られた子供()のような態度に思わず吹き出してしまう。

 

「え?!ちょっと、私結構気にしてたんですけど?!笑うなんて酷いわよ!」

 

「ふふっ、そう思うなら仕事を溜め込まないで下さいね。先輩」

 

「うぐっ……」

 

その一言でトドメをさされたのか、先輩はテーブルに突っ伏した。

 

「まあ、真面目な話。操縦技術だけなら僕は先輩にも負けません。だから一週間ISに全く触れなかったからといって鈍ったりしません」

 

「慧君………」

 

「それに──そんなことを言い訳にしたら、先輩にかっこ悪いところ見せちゃいますよ」

 

「えっ………」

 

………ん?あれ?と今の言葉、深く考えずに口に出したがと思い返す。

 

聞きようによっては『僕は先輩にかっこいいところを見せたい』っていうことなのでは?

 

目の前の先輩は顔を真っ赤にしながら口をパクパクさせている。言葉が出てこないらしい。

 

僕自身も何故この顔が熱いのかなどわからない。ただ、強烈な羞恥があるのは確かだ。

 

「あっ、そろそろ時間です。先に行きますね!」

 

「えっ、慧君?!」

 

僕は火照った顔を誤魔化すように食器を片付ける。カバンを持って──。

 

「待って、慧!」

 

いきなり呼び捨てにされ、思わず動きを止める。振り返ると、肩に手を置かれた。

 

「先輩……?」

 

困惑する僕に笑顔を浮かべながら先輩は言う。

 

「頑張ってね、慧。応援席で見てるから。かっこいいところを私に見せて?」

 

「……はい」

 

その頬にはまだ朱が残っていたが、いや、残っていたからこそなのか…先輩の笑顔は、とても綺麗だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「約束……かな」

 

自分が全力で戦わなきゃいけない理由を再確認しながら拳を握る。どんな形だとしても、例えそれが望まぬ戦いでも、僕は先輩と約束した。

 

かっこいいところを見せると。

 

それなら、負けるわけにはいかない。否、例え敵わなくとも最後まで諦めるわけにはいかない。

 

「来い──閻魔」

 

僕の身体に、黒々とした金属がまとわりつく。そして目元までをバイザーの様に覆うと視界がより鮮明になる。室内の細かいホコリまで見える程度には。

 

「さあ、行こう………今だけは──今日だけは、先輩の為に戦おう」

 

その言葉に、まるで返事をするかのように機体が輝く。不思議なものだ、ISはただの機械のはずなのに。

 

アリーナへと続く通路を閻魔で駆ける。飛び出した僕が見たのは──…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なんなんだこの観衆は………」

 

隣に立ってモニターを睨む人がこめかみを抑えた。その呟きに、私は苦笑いしかできない。先生が見る画面の先にはアリーナを埋め尽くす程の生徒いる。

 

「ごめんなさい、織斑先生。十中八九私のせいです」

 

その言葉にギロ、と先生に睨まれ私の背を冷や汗が流れる。同時に、この人も慧の事を大切に思ってくれているのだと改めて実感する。

 

「説明してくれるんだろうな、更識?」

 

「私が彼に会う為に彼の教室まで行っていたのはご存知だと思います。それで『生徒会長が新入生に一目惚れした』と噂を流され、それに過剰反応した……私のファンが『生徒会長に相応しいのか見定めてやる』と息巻いていた矢先、彼とセシリアさんの決闘が決まったものですから………」

 

「その連中が我先にとアリーナに駆け込んできた、と」

 

「そういう事です」

 

「…………はぁぁぁぁ」

 

さらに深く溜息をつく先生にどう謝るべきなのかしら……。

 

「いや、いい。お前は謝るな。有名になるとはそういうことだ。ただ、その分今後の慧を守ってやれ。今はともかく日常で女に囲まれたらまたパニックを起こしかねん」

 

「…はい!」

 

ここに居るのは織斑先生、私の二人だけだ。一夏君と箒さんはISの最適化の為、山田先生はそれを見守る為に控え室に行っている。

 

今なら、聞いてみてもいいかもしれない。

 

「………織斑先生」

 

「どうした、更識」

 

「慧は……セシリアさんに勝てると思いますか?」

 

「………」

 

その質問に織斑先生は腕を組み沈黙した。そしてその沈黙が一分くらい経った頃重々しく口を開いた。

 

「恐らく、八代が本気でセシリアと戦えばセシリアは五分と持たないだろう。それだけ八代の操縦技術は抜きん出ているからな。だが、そうすればセシリアは確実に死ぬ」

 

死ぬ、その一言に頭の奥が痺れる。が続いた先生の言葉に私は安堵した。

 

「勿論、八代にそれらの行為は事前に禁止しているから万に一つもあいつがそんな暴挙に出ることはありえんよ」

 

「そう……ですか」

 

「ただ、それを抜きにすると八代は極端に弱くなる。アイツの身に付けた力は『戦うための力』ではなく『殺すための力』だ。お前ならこの二つの違いは理解できるだろう。

 

それに今回、奴のメイン兵装は最終調整段階にあるため使えない。つまり八代はほぼ丸腰でセシリアに挑む必要が出てくる」

 

「それじゃあ………!」

 

「八代に勝ち目は殆どと言っていいほど無いだろうな」

 

「そんなっ……!」

 

私が今朝彼に向けた言葉は、そうだとすれば重りでしか無かったのだろうか。彼を苦しめるだけの結果に終わってしまっているのだろうか。頑張れなんて、そんなことを言われる前から彼は満身創痍だったというのに。

 

「……………」

 

「そんなに悲観するな、更識。八代が負けると決まったわけじゃない。お前の八代への思いはその程度なのか?」

 

「違います!そんなわけ──」

 

反射的に口を次いで出た言葉に織斑先生は笑みを浮かべた。

 

「なら、どっしり構えて信じてやれ。お前が信じる慧を」

 

その想いは、とても大切なものだから。

 

そう言って寂しそうに笑った織斑先生は何か遠くのものを見ているように思えた。

 

その目の奥に映る何かを読み取ろうとした時、画面の向こうから景気の良い声が聞こえてくる。

 

『さあ!!いよいよ彼の登場だ!入学二日目から我が校最強に見初められた白髪の貴公子、寡黙な振る舞いと全員の度肝を抜く自己紹介にハートキャッチされた女子生徒も多かったと聞きます!

 

果たしてそんな彼の実力や如何に?!一年一組、八代慧!!』

 

その言葉と同時に、ハッチが開き中から彼が飛び出してくる。そして手馴れた動作で飛行しながら地面に着地する。

 

巻き上げられた砂煙が収まり、私の目が捉えた彼の機体は──唯黒かった。




戦闘回に入れませんでした…次回戦闘パートです

また近いうちに更新できればなと思っておりますのでもう少々お待ちください


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第五話

珍しく早い、でも別人じゃないです!
黒っぽい猫ですよ!黒っぽい猫!!

今回は初の戦闘ですが、どちらかというと慧君のISお披露目に近いです。未熟なのは許してくだせぇ()

さて、それでは本編をどうぞ!!


大歓声の中、ISの視界フィルターを用いて観客達を視界に入れないようにしながら周囲に目を光らせる。すると、反対側のハッチが開き青い機体が出てくる。

 

『さあ、対するはイギリスの代表候補生。貴族の名に恥じぬ立ち居振る舞いは忽ちファンを惹き付けた!上から目線も「そこがいい!罵られたい」などと一年生のみならず二年、三年生をも新たな世界へと誘ったお嬢様!セシリア・オルコット!!!』

 

………僕は思ったよりヤバい高校にいるのかもしれない。自分の体質とかそんなのを抜きにして背筋を嫌な汗が流れ落ちたのを感じる。

 

「人気なんだね……セシリアさん……」

 

『目を逸らしながら仰らないで下さいな?!わたくしはノーマルです!』

 

IS間のみで用いられる無線で話しかけると悲痛な叫び声が返ってきた。なんだか随分と大変なようだ。

 

『……学友としてなら良いのですがね。IS関連の女性達はなんといいますか……貞操の危機を感じます』

 

「ご愁傷さま………」

 

戦う前にオルコットさんは元気を失ったものの、僕にとってはいい具合に気が紛れた。お陰で直前の暗い気持ちを引きずらなくて済みそうだ。

 

『さぁ!!両者向き合った!試合開始まで残り五十秒だ!』

 

アリーナの中央に数字が浮かぶ。段々と減っていくそのカウントが徐々に頭を冷やしていく。

 

殺す必要は無い。勝てばいいんだ。

 

30…28……25…………20……………

 

左側に差してある扇を広げながら言い聞かせるように何度もその言葉を繰り返す。

 

………9、8、7、6、5、4、3、2、1──0

 

ブザーが鳴り響く。その音が僕の耳を叩いた直後、全力で接近する。

 

「踊りなさい!!わたくしとブルーティアーズの奏でる円舞曲(ワルツ)で!」

 

オルコットさんの脇で何かが光る。あれは──

 

「ビットか!!」

 

「もう遅いですわ!!貫きなさい!」

 

計四本のレーザーが僕のことを焼かんと駆けてくる。狙いは当然僕のいるコックピット。短期決戦で僕のシールドエネルギーを削り切るつもりなのだろう。

 

「──フッ!」

 

四本のうち最も接近の早い一本を『衆合扇』を用いて射線をずらし、残りの三本を前のめりに倒れることで回避。その前へ倒れた運動エネルギーを支えに加速し再びの接近を試みる。

 

僕に遠距離兵装がない時点で、相性は最悪と言ってもいい。だが、不意をついた近接格闘の一撃であれば、食らわせるチャンスがあるはずだ。

 

「させませんわよ!!」

 

が、やはりこれもセシリアさん本人から繰り出されるレーザーに阻まれてしまう。

 

「追撃ですわ!!!」

 

「チッ!」

 

さらに休む間もなく放たれるビットからの追撃に再び距離をとることを余儀なくされる。どうやら深追いするつもりは無いらしい。ビットはオルコットさんと一定の距離離れると戻っていく。

 

「………随分と慎重だね」

 

「ええ。慧さんはどう仕掛けてくるのか予想できませんからね。勝つ為に無茶をしてカウンターをされてはかないません」

 

慢心はしませんわ。そう言って再びオルコットさんはライフルを構える。

 

「やれやれ。ただでさえ薄い勝ち筋なのになぁ……」

 

「では降参してくださいまし?白旗なら何時でも受け入れますわよ」

 

挑発するような笑みを浮かべているオルコットさんに対し、僕はどんな顔をしているのだろうか。

 

「──冗談!!!」

 

そう短く切り返し、僕は三度オルコットさんへの接近していくのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アリーナに轟く歓声は途切れることを忘れたのか、狂ったように響き続ける。どの生徒の目もアリーナで戦うふたりに釘付けだ。

 

『すごい、スゴすぎる!!この二人の激闘は最早男女間の差別意識など周りから吹き飛ばすほどのものです!誰の口からも二人ともすごいという言葉が漏れております!

 

攻め続ける八代君と、それを防ぎ反撃をするオルコットさん!どちらが勝ってもおかしくありません!!』

 

「凄いですね……あの二人…」

 

「ふっ、このくらい当然だよ、山田先生」

 

感嘆の声を漏らす山田先生に織斑先生は誇らしげだ。織斑先生が直々に手ほどきをしたらしい慧と代表候補生であるセシリアさんの戦闘は、その目に入る派手さだけでなく、見る人を魅了する美しさを持ち合わせていた。

 

レーザーを紙一重で避け続ける慧は隙を見て接近戦に持ち込もうとし、それを阻むべく何手も先を読み隙を作らないようにセシリアさんは立ち回って対抗する。その構図がまるでダンスのように絶え間なく行われている。

 

代表候補生の彼女は兎も角、男性操縦者である慧の動きの良さには皆驚いているようだ。

 

(あの時の言葉は、嘘じゃなかったのね…)

 

朝言われた操縦技術だけなら負けないという言葉。その言葉通りの…いや、その言葉以上の動きを慧は私に見せている。その事実に嬉しさを感じる一方、胸の奥が少し寂しげに揺れたのを自覚する。

 

(守れると思っていただなんて……高慢もいいところだわ)

 

自虐しながら彼の試合に再び目を向ける。相変わらず二人とも互角な立ち回りをしている。

 

とは言っても、現状近距離戦に入れていない時点で不利なのは慧だ。ジリジリとシールドエネルギーは削られている。

 

(このままではいずれ──)

 

「「あっ!!!」」

 

私の不安は的中し、遂にセシリアさんの一撃が慧の機体を捉えた。慧はそのまま地面に叩きつけられ砂煙に覆われる。

 

「慧!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

試合が始まりもう五分は経過しただろうか。未だに僕はセシリアさんに一回も攻撃を当てられずにいる。焦りを抑え、歯軋りをしながらもう何度目としれない接近をする。

 

「今度こそ………!」

 

「甘い!」

 

同じことの繰り返しのように、ビットが行方を阻む。そしてビットの攻撃を避けた先──ほんの五メートル前方の地点にオルコットさんがライフルを構え立っていた。

 

「んな──っ?!」

 

決して油断していた訳では無い。ただ、試合当初の言葉が僕の頭の中に残っていたが故、カウンターを受けかねないこの距離にオルコットさんが入ってくる可能性を無意識に頭の中から除外していたのだ。

 

「これで…チェックメイトですわ!!!」

 

回避不可能な距離だと悟り僕は彼女の銃口から着弾地点を予測し、両手で衆合扇を構える。

 

「──っ!!!」

 

凄まじい衝撃を体に受ける。射出されたレーザーの光が僕の目を焼き、オルコットさんの姿が目の前から掻き消える。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『──見てるから。かっこいいところを私に見せて?』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「──ハッ!!!!」

 

背中に走った衝撃が沈んだ意識を現実まで引き上げる。どうやら一瞬だけ意識が飛んでいたらしい。その一瞬の間に、今朝の先輩の言葉を思い出したような気がする。

 

「本当に厄介な呪いですね、先輩……」

 

身体はまだ動く。ISも解除されていない。それならまだ戦える。

 

「でも、このままだと埒があかない」

 

溢れるような闘争心を捩じ伏せ、一度冷静になろうと現状を整理する。

 

いくら操作性で僕がオルコットさんを上回ろうと、ジリ貧なのは遠距離攻撃ができないコチラだ。同じように戦っても勝てないだろう。

 

兵装も僕はほとんど近接用なのに対し、オルコットさんは遠距離特化型。もはや絶望的と言ってもいいのかもしれない。

 

(ああ、でもどうして──どうして僕は今こんなにも)

 

楽しいのだろうか、と自問する。この体を包み込む高揚感、強く脈打つ鼓動は今まで味わったことの無いものだ。こんな状況下で、負けてしまうかもしれないというのに僕は今とても楽しい。

 

「人を殺すのではなく、ただ勝つ為に戦う…か……」

 

成程。人が『試合』としてのISに意義を見出す理由が初めて理解できた。

 

「使おう………あれを」

 

こんなところで使って良いのか、などという躊躇いはなかった。勝つ為に全てを出し尽くす。試合は、きっと全力だから楽しいのだ。

 

「……『同調(コネクト)』」

 

左腕の人工皮が剥離し、無骨な金属が露呈する。そしてその左腕が閻魔に飲み込まれる。すると閻魔の全体がうっすらと赤く光を放ち始める。

 

「っ!」

 

左腕を介して膨大な量のデータが頭の中を駆け巡る。その多さに処理落ちを起こしかけるがなんとか堪える。

 

目から赤い液体が流れ落ちるが今はそれを拭っている暇はない。顔全体をバイザーが覆っているのもあり、オルコットさんはこの現象に気づいていないようだ。

 

脳を全力で回し逆転の一手を模索する。彼女のビットの動き、ISの動き、何より彼女自身の武装。

 

そしてISの頭脳を借りつつ僕は一つの結論に落ち着く。

 

「これしか………無いか」

 

危険ではあるし、体に負担もかかる。だがやらねばどのみち次で負ける。

 

砂煙も収まり始めた。やるなら今しかない。僕は思い切り衆合扇を空へ放り投げた。

 

「そこですわ──!?」

 

オルコットさんは、煙の中から出てくる物体をビットと手持ちのライフルで撃った。その攻撃で敵の待機位置を把握、最も撃たれる数の少ない方角から飛び出す。

 

「──!!逃がしませんわ!」

 

意表を突かれて慌てたのか、オルコットさんはこちらにビットを差し向けてくる。

 

予定通りだ。

 

僕に向けられたビットの砲身が輝き──()()()炸裂した。

 

「!たかだかビット一基!まだまだ!!」

 

驚愕に目を見開くオルコットさんだが、一瞬で切り替えたのか再びビットに指示を出す。

 

だが今の僕には、その命令の内容が全て見えている。

 

一基を背後から、そしてその一基を起点に三角形に展開。一箇所だけ逃げ場を作りそこに逃げた僕を狙撃するつもりの様だ。

 

「なら………!」

 

僕は地面を蹴りあげ全力で飛び上がる。目指す先は僕に砲を向けているビットだ。

 

「何を?!迎え撃ちなさい!」

 

「…介入(マインド)

 

腕を伸ばしオルコットさんが出した指示に介入、書き換える。

 

自爆せよ、と。

 

それによって4基あったビットの2台目も無力化に成功する。

 

「そんなっ……?!」

 

絶句したオルコットさんは今度こそ動きが一瞬止まる。

そして僕はその隙を突こうと突進する。

 

「あがぁっ!!」

 

だがしかし、どうやらそんなに甘くないようで僕の思惑に反して突如襲ってきた頭痛に僕の体の動きも止まる。

 

ISと情報共有を行っている故、本来の処理能力を遥かに凌ぐ速度で情報の処理を僕の脳は行う。そんな行為に負担がかからないはずがない。

 

その上、運動神経とISを連動させてもいるため、体全体への負荷もかなり大きい。

 

僕の目から血が流れているのもそのデメリットだ。そして今の頭痛も。

 

(でも──それでも僕は!!)

 

勝ちたい、負けたくない。

 

「はぁぁぁぁああっ!!!」

 

身体を奮い立たせて駆け、背中にある『剣山』を掴み一閃。僕の攻撃が初めてオルコットさんに直撃する。搭乗席に与えたその打撃により一割ほどシールドエネルギーを削り取る。その手応えに達成感を覚えるがそれで終わるわけにはいかない。

 

「きゃっ!?」

 

脳の処理速度をギリギリまで引き上げ、ひたすらに物理攻撃を叩き込む。今の僕を突き動かすのは『勝ちたい』という衝動だけだ。

 

「もう一撃!!!これで──終わりだっ!!」

 

僕の目に可視化された彼女のシールドエネルギーはあと僅か。これで勝てる。そう確信した。

 

その時、確かにオルコットさんは笑っていた。自分の負けが確定したというのにとても嬉しそうな笑顔だった。

 

「わたくしも、タダで負けるほど甘くはありませんわよ?」

 

僕の十数回目の攻撃がオルコットさんのシールドエネルギーを全損させると同時に、後ろから放たれたビットのレーザーにより僕もシールドエネルギーを全て失う。

 

「──ッ!!!」

 

強烈なフィードバックと同時に。同調のもうひとつのデメリット、それはISと運動神経を連動させる代償として痛覚までもが再現(フィードバック)されることだ。

 

背中を焼かれるような激痛を歯を食いしばることで堪える。この機能を知っているのは束だけなので気取らせなければ心配をかけることは無い。

 

ブザーの音が耳を突き刺す。どうやら試合終了の合図らしい。やっと周りの歓声が戻ってくる。

 

『な、なんと!!!!両者同時にエネルギー全損!!試合は引き分けだァァあ!!』

 

熱狂的に繰り返される拍手の中オルコットさんがこちらに近づいてくる。

 

その表情は穏やかで、どこか晴れやかだった。

 

「お疲れ様です、慧さん。良い試合でしたわね」

 

「どうだろうね……僕は必死に食らいつこうとしただけさ」

 

余裕なんて無かったし、今も肩で息をしている。頭痛に苛まれているし吐き気も酷い。もう起きているのもやっとだ。

 

「たった二つの武装でわたくしの攻撃を受けきったというのに、それではまるで嫌味のようですわよ?

 

……もし慧さんが全力でしたら、わたくしは瞬殺されていましたわね」

 

自虐するように笑いながら、オルコットさんは目を伏せている。本当にそう思っているのだろう。

 

「それなら、もっと強くなればいい。上がいるってことは、今以上に強くなれるってことなんだから。それは君の伸び代だと思うよ、オルコットさん」

 

上手い言葉をかけられたかはわからない。人と話す機会があまりにも少なかったから口下手だろうし。

 

「そう……ですわね………」

 

でも感慨深そうにオルコットさんが頷いているところを見るに、上手く言葉をかけられたらしい。

 

「さ、僕達は一旦引こうオルコットさん。しばらくピットインの時間だろうしね」

 

「そうですわね。あ、わたくしのことはこれからセシリアと呼んでくださいな。慧さんであれば構いません。殿方にファーストネームを呼ばせるのはこれが初めてですが♪」

 

ウインクをしているオルコットさん──もといセシリアさんに僕も笑みを浮かべた。

 

が、そこまでが限界だった。不意に体から力が抜けるとISが解除される。勿論、僕達がいるのは空中だ。

 

「あっ──」

 

「慧さん!!!」

 

セシリアさんは手を伸ばしているけれども僕が彼女に伸ばした手は空を切った。僕の落下を妨げるものは何も無かった。

 

(身体──動かないや)

 

さすがに歴史上こんな間抜けな落ち方をするのは僕だけだろうな、なんて事を考えていると、ガクン!と急に落下が止まる。

 

「──痛!」

 

その衝撃に頭が揺らされ頭痛が再発する。痛む頭を撫でながら上を見ると、水色の機体が僕の足を掴んでいた。

 

「…………先輩?」

 

「………」

 

先輩と思われる搭乗者は何も言わず僕のことを運んでいく。もちろん逆さまのままなので血は頭に上る。当然、頭痛は悪化する。

 

「………先輩、せめて宙ずりは勘弁して貰えませんか?というか、なんで僕こんな運び方されているんですか?」

 

「………」

 

何故だろう、先輩から不機嫌なオーラを感じる。

 

そして僕はそのまま出撃口まで連れていかれ、丁寧に降ろされた。

 

「………あの、先輩」

 

「………」

 

無言のまま先輩は自分のISを解除しこちらに近づいてくる。その目はジトッと僕のことを見ている。起き上がることも億劫な僕はそのまま先輩を眺めることしか出来ない。

 

「………慧君、私は怒っています」

 

「はい、それはなんとなくわかります」

 

僕の上に跨り、僕の逃げ場を塞ぐように先輩は両手を顔の側面につく。所謂床ドン状態だ。

 

「じゃあ、どうして怒っているのかは?」

 

「………カッコイイ姿、見せられませんでした。ゴメンなさい」

 

「…………」

 

おかしい。僕は確かに正解を口にしたはずなのに先輩の機嫌が直るどころか寧ろますます悪くなっている。

 

「ええっと………違い、ますか?」

 

どうやら違ったらしい。とぼけているわけではないとは理解したようで、先輩は一つため息をついてから諭すように言ってくる。

 

「………想像してみて、慧君。もしも慧君の大切な人が頑張ってたらどうする?」

 

大切な人……束だろうか。一番身近にいた人だから思い浮かべるのは容易なことだ。

 

「応援、すると思います」

 

「うん、そうね。でも、もしその人が自分の身体を全く顧みないで死にそうなほど頑張っていたとしたらどうする?」

 

大切な人が……死にそうなほど…?

 

「もしもそんな事になっていたら、まず止めます。身体が心配ですから。その後は──お説教ですね」

 

束の徹夜を諌めた回数はもう十や二十ではきかないだろう。その度に説教をしたのはいい思い出──ではないな。その度にむくれるし。

 

「はい、今の大切な人を慧君自身と重ねてみて」

 

そこまで言われて、僕はようやく先輩が言わんとしている事を理解した。要するに、僕は先輩を心配させてしまっていたのだろう。

 

「………ごめんなさい、心配をおかけして」

 

「…ん。医務室に行くわよ、慧君」

 

笑顔は浮かべなかったが、先程より幾分か穏やかな顔で先輩は肩を貸してくれた。

 

「でももう一試合残って「駄目に決まってるでしょうが、お馬鹿」はい」

 

一応言ってみたものの全て言われる前に却下されてしまった。

 

「織斑先生からも、もう慧君の試合はしなくていいって言われたわ。身体をしっかり休めて明日からの授業にちゃんと出席しなさいって」

 

「………そう、ですか…千冬さんにも迷惑を…」

 

「そう思うなら、自分を傷つけてまで戦わないでよ、慧君……」

 

「…………」

 

先輩の言葉に、僕は何も返せなかった。

 

 

 

 

 

 

アリーナの中にある医務室に入ると、ベッドに寝かされる。しばしの沈黙のあと、先輩の細い綺麗な指が僕の頬に触れる。その手が僕の流した血で濡れるのを見て僕の胸には得体の知れぬ痛みが走った。

 

「……慧君のISの力、私に教えてくれる?」

 

「………何故です?」

 

「貴方を守りたいから。貴方のことを知っておけば、何かあった時に対応もしやすいでしょ?私も話すから」

 

「守られるほど、僕は弱くありません」

 

「知ってる。でも、その力でさっき落ちたのは誰かしら?」

 

軽い雰囲気で言う先輩だが、その目に雰囲気ほどの軽さはない。

 

「……先輩、意地悪ですね」

 

「あら、今更気づいたの?おねーさん、結構イタズラ好きよ?」

 

「わかりました、降参です。お話します。

 

僕の専用機『閻魔』は、戦闘を見ておわかりいただいた通り僕の義手とドッキングさせることが出来ます」

 

左腕を見せると、先輩の表情が歪んだ。あまり見ていて気持ちの良いものでは無いし当然か。

 

「この力を使うと二種類の力が使えるようになります。

 

一つ目はこの機体以外が用いる遠隔操作武装の操作権を強奪すること──より正確に言えば、敵の遠隔操作武装への通信に介入して書き換えるということです。セシリアさんのビットを破壊したのはこの効果ですね。

 

そしてもう一つ──僕の脳から流れる運動の指令を左腕を介して直接ISに伝達する力があります。剣山を用いての攻撃はこれを利用したが故にあんな速度で連撃ができました」

 

「そう………それだけ?」

 

「単一仕様能力は──ぁ」

 

ぐにゃり。と擬音が聞こえそうなほど視界が歪んだ。そして──

 

「──────────!!!!!!」

 

「ちょ………い?!どうし」

 

僕の視界は、まるで電源の切られたテレビの様に不意に暗闇に染った。視界だけではない、聴覚も、嗅覚も、声帯すらも動かない。

 

そして、その暗闇の中に僕の意識は溶け落ちていくのだった。




如何でしたでしょうか?戦闘描写は今後まだまだ伸ばしていきたいと思います……未熟でごめんなさい。

もし、主人公機体の情報をまとめて出して欲しい!という要望がありましたら次回かその次のあとがきか前書きに書かせていただこうかと思います

前書きと後書き、どちらが良いかまで記入していただけると助かります



露骨な感想稼ぎはここまでにして(おい)、ここからは私事です

まず、この作品のお気に入りが90件を超えました
二つ目に、この作品が日刊ランキング71位にランクインしておりました

これも一重に読者の皆様のおかげです
誠にありがとうございます

これからもよろしくお願い致します

長くなりましたがここまで読んで下さった皆様に重ねて感謝をさせていただき、後書きと致します

それではまた次回更新でお会いしましょう!
サラダバー(・ω・)ノシ


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第六話〜閑話〜

お久しぶりです、黒っぽい猫にございます
毎回お久しぶりです、と挨拶してる気がしますね……気の所為ですか?

そろそろ定期的な更新に切り替えたい所ですがやる気にムラの多い私だから無理だろうなぁ……

とまあ、雑談は置いといて本編をどうぞ!


例の試合から二日後。僕は少し無理をして登校していた。頭痛はすっかり取れたものの、まだ体の芯にだるさは残っている。

 

「おはよう、一夏」

 

「ああ。おはよう慧。体調はもういいのか?」

 

「ありがとう、もう大丈夫だよ。それと、一昨日は戦えなくてごめん」

 

「気にすんなって!セシリアと戦ってる時の慧の迫力は凄かったしな!観てるこっちまで震えたぜ!!」

 

カラカラと陽気に笑いながら背中を叩いてくる一夏。どうやら、昨日の試合は本当に白熱したものだったらしい(・・・)

 

昨日目を覚ました僕からは、気を失うまでの昨日一日の記憶が全て失われていた。

 

文字通り、何も覚えていないのである。目が覚めた時には試合の日は過ぎていて、慌てて楯無先輩に確認をした。その後どんなに楯無先輩や千冬さんからその話を聞いても、僕は何も思い出せなかった。

 

ただ、オルコットさん──セシリアさんとの試合で僕は《同調》を使ったらしい。だとすれば直接的な原因はそこか。人間であればギリギリ耐えられる情報量にしたつもりだったが調整が甘かったらしい。

 

今日の放課後には試合映像を見せてもらうので、それで自分の動きを研究するべきだろう。僕自身の使い方が悪かった可能性もある。

 

(ともあれ、また調整が必要なのか………)

 

束から貰った基礎機体『打鉄』に約二年半に及ぶ発展改良を加えてきた僕専用の機体『閻魔』。手がかかる子ほど可愛いというものだが、子と言うより手間のかかる相棒だ。

 

(まあ、それが楽しいのも事実なんだけどね)

 

とはいえ、今は学業もあるし楯無先輩と同室で過ごす時間も捨て難い。倉庫に籠らず少しずつ行う調整は時間がかかるだろうし、それまでは《同調》も使えないと考えるべきだろう。

 

「あれはそろそろ届くし、それほど問題にはならないけどね」

 

「ん?何か言ったか、慧?」

 

「んーや、なんでもないよ一夏。それより、クラスの女子の視線が僕の方にも向いてるのはどうして?」

 

周囲を見渡すと、目が合ったクラスメイトに目を逸らされた。この前まで目が合うことなんて無かったのに。

 

「どうしても何も、昨日の慧とセシリアの試合は凄かったからな!皆も口々にそう言ってたし俺もそう思ったぞ!あんなに綺麗な試合はIS世界選手権の決勝戦のレベルだって」

 

そう言われても、僕自身はまだ試合の内容を知らないからなんとも言えないんだけどなぁ………。

 

「あ!見つけましたよ!!八代君、織斑君!」

 

「──ッ!!」

 

咄嗟に声をかけられたことに身の毛がよだつ感覚と共に胸ポケットから折りたたみのナイフを取り出──

 

「彼女は大丈夫よ、慧君」

 

──そうとした所で僕の右腕が先輩に掴まれた。

 

「………先輩」

 

「彼女は、ただ取材に来ただけの新聞部よ。貴方に危害は加えないわ」

 

「……わかっています、わかってますよ。そのくらい」

 

ただ、反射的に身体が動いただけだ。それに僕の反応は決して的はずれなモノじゃないはずだ。既に千冬さんが僕の女性への拒絶反応の事は話しているのにわざわざ後ろから話しかけてくる人相手に僕が取る反応としては間違っていない。

 

いくつも反論は思いついたが、優しく諭すような先輩の口調にそれ以上の反論はできなかった。

 

「それと貴女もよ、猿飛さん。私が行くまで話しかけないように言ったはずよね?」

 

一転、冷たい目で取材に来たという女子生徒を睨み付ける楯無先輩。見ている僕と一夏の背中にも嫌な汗が流れた。うん、先輩って本気で怒ると怖いんだな。

 

だが、慣れているのかその女子生徒はニコニコと笑ってその視線をいなした。それどころか一歩こちらに近づいてきた。

 

「ごめんごめん、楯無ちゃんのお気にの男の子が、実物で見るとこんなに可愛いなんて知らなくってさ〜」

 

そして嬉々として楯無先輩を弄り始めた。それに対して顔を真っ赤にする楯無先輩。うん、可愛い。

 

「んな!お気に入りって?!そ、そういうのじゃな──「え〜、じゃあ私がちょっかい出しちゃおっかな〜?」あーもう!猿飛さん!そういう話はやめて頂戴!!」

 

頭を抱えてしまった先輩に代わり、その女子生徒はこちらを向いて握手を求めてくる。

 

「初めましてだね、二人とも。先程はいきなり声をかけてごめんなさい。警戒されるのはわかっていたけど、二人の姿を見たら我慢できなくってついね☆私は二年生の猿飛亜弥奈(あやな)。新聞部の副部長を努めさせてもらってます。

 

楯無ちゃんとは中学の頃からの腐れ縁よ。よろしく」

 

「……ご丁寧にどうも。僕は八代慧と申します。ご存知の通り一年生で専用機『閻魔』の搭乗者です。次からはもう少し遠くからもう少し小さな声でお願いします」

 

「俺は織斑一夏です」

 

僕が若干トゲを込めて、その雰囲気を感じたのか言葉少なに一夏がそれぞれ自己紹介をして握手をする。薬もしっかり飲んでいるので今は特に症状が出ることは無い。

 

「それで……取材、というのは?」

 

「うん、それはね──」

 

先輩の話は所々意味のわかりにくい言葉が使われていたので雰囲気で意訳をすると『クラス代表の織斑一夏、そして男性操縦者である僕にそれぞれ昨日行われた戦闘についてのインタビューをしたい』らしい。

 

あくまで自由意思を尊重されるらしいので僕は断ろうとした。だが一夏が乗り気だったのと、復活した先輩に頼まれてしまったので引き受けることにした。

 

 

 

 

 

 

 

そして放課後、わざわざ迎えに来てくれた楯無先輩に感謝しつつ僕と一夏、それとセシリアさんは移動をしていた。セシリアさんからは試合の感想を聞きたかったらしい。

 

「そういえば、楯無先輩は今日の仕事終わったんですか?」

 

「慧君の付き添いって言ったら虚に許可を貰えたわ。本音も了承してたから問題ないわ!」

 

「それ、その後ろに僕が仕事を手伝うって言葉を込めてませんよね?」

 

「それはそうと、一組のクラス代表はどうしてセシリアさんじゃないの?あの試合はクラス代表を決めるための試合で、勝ったのはセシリアさんよね?」

 

あ、図星だ。先輩は僕から目を逸らしつつ他の二人に話しかけている。まあいいか、虚先輩には後で謝っておこう……多分、見知らぬ女子と会話をする上で僕の抑止にする為に先輩は着いてきたのだろうし。

 

多分きっと、なんとなく面白そうだからとかそんな理由じゃないと思う。思いたい

 

「確かに試合の上ではわたくしの勝ちですが、殆どISに乗ったことの無い一夏さんにあの様に後ろを取られてしまっては代表候補生としては負けも同然です」

 

自らの未熟さを恥入るばかりです、とセシリアさんは苦笑した。あれ?そういえば僕はどうして彼女(オルコットさん)をセシリアさんと呼んでいるのだろう?

 

確か僕は彼女の事をオルコットさん、とそう呼んでいたはずだ。

 

「昨日の一夏君の機動も凄かったわよね。型にはまらない動きだった」

 

「ええ。空中戦のセオリーなどまるで知らないのにあそこまで動けるのは正直予想外でしたわ」

 

「二人とも褒めるのか馬鹿にするのかどっちかにしてくれよ……」

 

「勿論褒めているのよ?一夏君は凄いもの」

 

「そうですかね?」

 

「っ…………?」

 

チクリ、と何処かが一瞬痛んだ。だがその痛みは本当に一瞬で自分で何が痛むのか確かめる前に消えてしまう。

 

「慧さん?どうかしましたの?」

 

足を止めた僕の顔を心配そうにセシリアさんが覗き込んでいた。不思議なもので、先輩同様にセシリアさんに近づかれても不快感は感じない。

 

「いや、なんでもないよ。大丈夫」

 

「?そうですか」

 

無理をしてはいけませんわよ?と不安そうなセシリアさんに笑みを返しながら考えるのをやめる。どうせ考えた所でこのような痛みは初めてなのだから、原因がわかるわけがない。

 

(なら、考えるだけ時間の無駄だね。痛みも治まったし)

 

何の気なしに楯無先輩にチラリと目を向けたら目が合った。咄嗟のことに気まずくて目を逸らす。と、今度は先輩の方から視線を感じる。その視線に耐えきれず振り返ると頬に細い指がぶつかった。

 

「……なんですか?先輩」

 

「ふふっ、ひっかかった♪」

 

「…知りません」

 

今度は自分でも強く認識できるほどに心臓が強く脈打った。顔が少し熱を帯びる。

 

「照れてるの?」

 

「まさか。僕がした試合の内容が気になるだけですよ。恥を晒すような真似をしていなければいいのですが」

 

「あら、かっこよかったわよ?」

 

「………そうですか。それはどうも」

 

そんな僕と先輩のやり取りを見ていた一夏とセシリアさんからの生暖かい視線を受けながらインタビューの為に新聞部が借りたらしい教室へと向かっていくのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………死にたい」

 

「はいはい、死んじゃダメよー」

 

それから数十分。一夏とセシリアさんがインタビューを受けている間に僕は昨日の試合のリプレイ映像を観ていたのだが──

 

「なんですかこれ…非効率すぎる……」

 

自分の試合運びの下手さに思わず項垂れる。そもそもビット相手に接近戦を始めるとか何考えてるの僕は……。普通なら冷静にビットを一台ずつ破壊すべきだ。ましてや試合開始直後から《同調》を使わないなんて…。

 

幾ら試合だからってこんな見所を作るような、カッコをつけるような戦い方は僕らしくもない。

 

「先輩にはわかりますか?僕が何故こんな戦い方をしたのか。先輩から見ても効率的じゃないのは一目瞭然ですよね?」

 

「まあ確かにね。慧君の戦い方はどちらかと言えば試合の見せ場を作るような立ち回りだったわ」

 

「有り得ません。僕の戦闘技術は……っ」

 

僕の戦闘技術は殺しに特化している効率主義的なモノのはずだ。そう続けようとして歯噛みした。先輩にそんな話は聞かせたくなかったし、聞いて欲しくなかった。

 

言葉に詰まった僕の頭に先輩の手が載せられ、そのまま髪がクシャリとかき混ぜられる。先輩の顔は、僕が止めた先の言葉すらも見透かしているかのような、そしてその上で僕に触れているかのような優しい表情だった。

 

「それでもね、慧君。君は実際に昨日()()為ではなく()()為に試合に臨んだのよ。私が証人になる」

 

「……それは何故です?」

 

「約束を、したからね」

 

君は覚えてないみたいだけど、と続けて寂しそうに笑う先輩を見た時、何かを思い出した。

 

──やくそく、しましょう?

 

「!」

 

「………?慧君?」

 

(今のは──?)

 

「ちょっと、どうしたの?」

 

わからない。でも、確かに聞いたことのある声だ。酷く懐かしい 感じがする。それに今湧き上がった感情は──

 

「慧君!!」

 

「うわっ?!いきなり話しかけないで下さいよ先輩」

 

「いやいや!何回も話しかけてるわよ!」

 

「え、あ…そうですか。ゴメンなさい。考え事をしていたらつい」

 

「ふーん。どんな?」

 

「自分の戦い方の見直しが必要だと。こちらが近接武器しか持たない場合にどうやって長距離武装に対抗するのか。そしてどのような手段で相手をこ──倒すのかを考えなければなりません」

 

目に浮かぶのはあの時僕の体を弄り回った外道達の顔だ。その不快感を表に出してから後悔したがもう遅い。

 

「……っ!!……そう……慧君は──」

 

ふと何かを言いかけて、先輩は黙り込んでしまった。その顔には苦々しさが浮かんでいる。そっと目を逸らした先輩に堪えきれず、僕は自分の気を紛らわすように話題のすり替えを試みようとした。

 

「………?僕がどうかしましたか?」

 

「!ううん。何でもないわ……よ?」

 

「僕に聞かれましても困るのですが…」

 

「あはは……うん、そうよね。さっきのは本当になんでもないから忘れて、慧君」

 

「はあ、先輩がそう言うのなら」

 

嘘だ、それは直感的にわかった。でも先輩か僕に嘘をつくのには理由があるのだと思う……いや、そうなのだと信じたい。

 

「慧、次はお前の番だって。セシリアとの対談形式でやるらしいから早く来てくれって言ってるよ」

 

ちょうど会話が途切れたタイミングで一夏が戻ってきた。その言葉に席を立って扉の方に向かう。

 

「それじゃ、行ってきますね。先輩」

 

「うん。行ってらっしゃい、慧君」

 

心に去来した重苦しさを拭えぬまま、僕はインタビューを受ける為にその場をあとにした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(あーあ、何やってんだか……私は)

 

慧が行ってから、私は強い自己嫌悪に襲われていた。今は一夏君もお手洗いで席を外している。だから思う存分落ち込むことができる。

 

「まだ憎んでいるのね、なんて聞けるわけないし聞くまでもないコトでしょうに……」

 

それに、慧はわざわざ意図的にその言葉を使うことを避けていた。多分私に対してそのような言葉を使いたくなかったのだろう。例えそれが私に向けられていないモノ(憎悪)だったとしても。

 

あの時彼が一瞬だけ見せた深く冷たい目。その目の奥底には確かに私達(女達)への憎悪があった。そしてその目に見据えられた時、私は確かに自分の身が竦んだのを感じた。

 

私が彼と過ごした時間はまだ本の一週間と少し。それなりに親密な関係慧と築き上げられたと思っている。それなのに、私はどうしてもあの目に恐怖を覚えてしまった。

 

「こんな事で…私は本当に慧の支えになれるの………?」

 

震えを抑えるように身体を抱きながらうわ言のように漏れた言葉は、私の中で反響して思考から離れることはなかった。




如何でしたでしょうか

最近大学生活とバイトとイベントに忙殺されておりまして筆が捗らなくて、更新が遅くなったことにお詫び申し上げます…ごめんなさい!!


と、謝罪はこの辺りにして事務報告です。アンケート機能により実地しております第一回アンケートは、7月31日の午前12:00をもって締め切らせて頂きます。ご協力の程よろしくお願いします

ここまで読んでくださった読者の皆様に感謝申し上げると共に、次はもう少し早く投稿できるように頑張ります。よければ評価や感想、お気に入り登録などをお願い致します

それでは…(・ω・)ノシ


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第七話

この作品では約半年ぶり……大変長らくお待たせ致しました

今回もよろしくお願いします

この話のあとがきは機体の説明書きとなっております。よろしければ読んでください

また、ここおかしくね?などありましたらご指摘のほどよろしくお願い申し上げます

それでは本編です、どうぞ!!


「これより授業を始める。各自ペアを作り柔軟を行え!五分後に再び整列!」

 

『はい!!』

 

アリーナに凛とした声が響く。その中で僕は取り敢えず近くにいた一夏に声をかける。大体の女子がペアで柔軟をしているのでそれに従ってペアを作るためだ。

 

「一緒に柔軟やろう、一夏」

 

「おう、いいぜ!」

 

「背中押してくれる?」

 

開脚し、一夏に後ろから押してもらう。毎日風呂上がりに柔軟をやっているお陰で特に問題なく腹まで地面につく。

 

「うわっ、体柔らかいな慧。少し気持ち悪いぞ」

 

「言ってくれるね……別にいいでしょ、体が柔らかい男子でも」

 

地味にこちらの心を抉ってくる一夏に仕返しとばかりに今度は僕が思い切り背中を押し込むが、半分をすぎた辺りでピタリと動かなくなった──が、ここで辞めては仕返しにならない。

 

「いてててて!慧!痛い!!痛いから!!!」

 

躊躇なく体重を賭け奥に動かしていく。

 

「痛みを感じないと柔らかくならないぞー」

 

「気持ち悪いって言ったの謝るからやめてくれ!俺が悪かった!」

 

「分かればよろしい」

 

「いてて……股が裂けるかと思った……」

 

大袈裟な一夏に手を貸して起こしながら元の位置に整列する。僕達が戻る頃には既にほとんどの生徒が整列していた。そんな僕達の耳に、再び千冬さんの声が響く。

 

「よろしい、では本日の訓練──授業だが、八代。織斑、オルコット。前に出てこい。手本を皆に見せてもらう」

 

「「「はい」」」

 

指名された僕、一夏、セシリアさんは急いで前に出る。教官モードの千冬さんはとても怖い。今授業を訓練って言ったよね?

 

「それでは私の合図によってISを起動してもらう……はじめっ!」

 

瞬時に首輪が光って僕の機体──閻魔が体に装着される。

 

手間取った一夏を以外の僕とセシリアさんを見て頷き、一夏を睨みつけながら千冬さんは続ける。

 

「この様に、ISの扱いになれてくればコンマ一秒以下でISを展開できるようになる。諸君らもIS乗りを志すつもりなのであればこの程度のことは造作もなくできるようになってもらう。次に武装の展開だ、まずはオルコット、慧。遠距離用の武装を展開しろ」

 

「「はい」」

 

再び僕とセシリアさんがほぼ同時に武装を展開する。僕が展開したのはセシリアさんとの試合では使わなかった武装だ。拳銃のような形をした黒い鉄の塊──『黒縄』と呼んでいる武装だ。

 

一度引き金を引くとワイヤー付きの鉤爪が飛び出し的を貫き二度目の引き金でワイヤーを巻きとる。意表を着いた動きをする際にとても重宝する。どちらかと言えば中距離用だが飛び道具はこの程度しかないので仕方なく展開する。

 

尤も、この前は使う機会もなかったのでお披露目しなかったが。

 

「うむ、まあこんなものだろう。では次に近接用武器の展開を行え」

 

その言葉に『黒縄』をしまい込んで今度は試合でも使った近接武装の『剣山』を展開する。やる事は先程と別に変わらない。

 

だが……

 

「どうした、オルコット?さっさと展開しろ」

 

「くっ……このっ……ええい!『インターセプター』!!」

 

セシリアさんは中々武装を取り出せず、千冬さんに急かされて最終的に武装の名前を呼んで武装を展開していた。

 

名前を呼んで武装を出すのは初心者、形をイメージして取り出すのが中級者であり、形を思い描く前に欲しいものを取り出せるようになってようやく上級者と言われる。

 

僕は曲がりなりにも形がなくても呼び出せるし、セシリアさんも遠距離武装は普通に呼び出していた。使う武器に偏りがある故だろうが、呼び出し方が初心者のそれでは本人も不本意だろう。

 

「オルコット、少しは近接武器の取り扱いにも慣れておけ」

 

「で、ですが織斑先生。わたくしは間合いにそもそも入らせませんので──」

 

「この前の試合で二試合ともかなり接近されていたようだが?」

 

「うぐっ──」

 

「それとも何か?お前は遠距離戦から近距離戦になる度に武装の名前を叫びたいと?」

 

「うぅ……」

 

段々と覇気が無くなっていく。借りてきた猫のようにしょんぼりとしたセシリアさんを見てため息をついた千冬さんは今度はこちらに向き直る。

 

「わかったらオルコットは今後の自主訓練に近接格闘を加えるように。

 

よし、八代。そのまま飛んでみろ。織斑、前に出てきてお前もだ。その位はできるだろう?」

 

「はぁ……」

 

「気の抜けた返事をするな!!!」

 

「はいっ!」

 

呼ばれた一夏は随分と強く当たられているようだ。やはり姉弟だからだろうか。身内贔屓はあまり褒められたことでは無いが千冬さんも人の子だということなのだろう。

 

専用機──確か『白式』だった──を展開した一夏が勢いよく飛び出した。その速度で行くと──っ!!

 

「一夏っ!!!」

 

咄嗟に黒縄を再展開しワイヤーを射出、ドームの天井に突き刺して一気に巻きとる。恐らく一夏は逆噴射の方法は知らないからこの速度で天井に激突したらいくら絶対防御があっても無傷ではいられない。

 

「のわぁぁぁあっ!!!」

 

一夏を追い越し天井に着地、そのまま今度は天井に向けて推進剤の全力噴射を行い白式に体当たりをする形で少し強引だが勢いを殺し、地面へと勢いよく突っ込む。

 

「──っ!」

 

乱暴な形となる為一夏にもダメージは入るがとてつもなく硬いアリーナの天井に激突するよりはマシだと割り切ってもらうしかないだろう。

 

ズドン!!!と強烈な音と共に僕と一夏は地面に叩きつけられる。勿論痛みは無いが衝撃が脳を揺らし意識を奪いさろうとする。

 

「一夏……」

 

ふらつく視界を無理矢理見ながら立ち上がり一夏を見る。こちらもふらつきながら立ち上がってきたのを見てホッとする。

 

「いててて……慧、ありがとな。助かったよ」

 

「いやまあ、あのままだと白式が壊れてたかもしれないし。これからその機体を使うことが増えるのにそんな事になったら副代表として僕が戦場に立つ羽目になるかもしれないでしょ。それはイヤだよ、僕は」

 

「素直じゃねぇなあ、慧は」

 

「うっさい一夏……と、織斑先生が来た」

 

「八代、織斑、無事か?!」

 

少しの間呆けていた千冬さんがこちらに駆け寄ってくる。

 

「ええ。無事です。ですが織斑先生、やはりまだ操縦技術が未熟な一夏にこれは早すぎると思います。試合の時完璧に操縦出来たのだとしても彼に基礎知識が不足している状態で今のように突然実習に放り込むのは無謀が過ぎるのでは?」

 

「うむ……要検討する」

 

流石の千冬さんも、このような事があっては強く出れないらしい。なんとも言えない雰囲気のまま、この日の実技訓練は終わった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「訓練の時、一夏君を助けたんですってね?」

 

「ええ。僕は仮にも副代表ですから。彼に怪我をされたら彼の仕事が僕に回ってくる。そんなのつまらないじゃないですか」

 

その日の放課後、生徒会室で仕事をしているとニコニコしている楯無先輩がそんな話を切り出してきた。

 

「その話なら私も聞きました。なんでも織斑君を地面に押し倒したのだとか。クラスの友人が『一慧キマシタワー!!』と叫んでいたのを小耳に挟みました」

 

……そんな情報は小耳に挟んで欲しくなかった。捏造もいいところである。

 

「時に、一慧とはなんなのでしょうか?」

 

「この世界には知らなくていい事の方が多いんだよお姉ちゃん」

 

首を傾げた虚先輩に本音さんが答えている。その通り、そんな視線を向けられるこちらの身にもなって欲しい。せめて虚先輩にはそういう事を知って欲しくない。

 

「一慧……アリかも…………?」

 

「……楯無先輩、お願いですから変な方向に拗らせないでくださいね?」

 

女の子同士恋愛派(同性愛者)そういうのが好きな腐った人(BL大好きの腐女子さん)も一定数学園にいることは知っていたが、まさか自分が後者のエサにされるとは思ってもみなかった。

 

前者は別にいいと思うが、後者は僕の目に見える範囲でやらないで欲しい……いや、目の届かない所で拡散されても困る。やっぱり僕を対象にしないで欲しい。

 

「おりむーはともかく、やっしーがそう思われてるのは仕方が無いんじゃないかな?」

 

「……というと?」

 

「だってやっしー自己紹介の時に『女性が苦手』って言ってたじゃん」

 

……一番の地雷を落としていたのはもしかして僕自身?

 

「もしかしなくてもやっしーの自業自得だよね〜」

 

フワフワと笑う本音さんと若干頬を赤らめてトリップする先輩を前に、僕は頭を抱えるしかなかった。

 

 

 

閑話休題。

 

 

 

「そういえば、そろそろ春のクラス対抗戦の時期よね。慧君と本音のクラスからはやっぱり一夏君よね?」

 

「ええ、恐らく。僕に何も言って来ないということは一夏もその気なのだと思います」

 

クラス対抗戦、ちょうど春の終わりと初夏の始まりの合間に行われる学年別、クラス対抗で行われる試合だ。勿論出るのはクラスの代表の一夏だ。

 

もし一夏が普通の学生ならあの操縦技術を心配してクラスの全員で特訓を行うが、一夏は普通の学生ではない。

 

「幾ら操作がおぼつかなくても、専用機持ちの一夏はそうそう負けませんからね。僕にはあまり関係ないですがほぼ勝ちだと思います」

 

「そーだよねー。今から景品が楽しみだな〜」

 

専用機と量産訓練機の間にはそのくらいのスペック差があるのだ。僕と、僕の言葉に同意する本音さんに先輩は含みのある笑顔を浮かべた。

 

「ふふふ……それはどうかしらね?」

 

「何かあるんですか、先輩?」

 

「ええ。生徒会の三人には先に話しておくけれども「いや、僕は生徒会の役職に着いた覚えはありませ──」編入生が来るのよ、それも専用機持ちの」

 

僕の訴えは華麗にスルーされた。虚先輩も特に突っ込まずに話はその編入生の方に流れていく。本音さんもそちらに興味津々のようだ。

 

「専用機持ち?またどこかの国の代表候補生ですか?」

 

「ええ。中国からの来校よ。確か今日か明日には到着する予定だけど、1年2組に行くから慧君とは別クラスね」

 

「ふうん、そうなるとまた話は変わってきますね。一夏がセシリアさん相手に善戦したことは向こうも知ってるでしょうから」

 

「ええ。恐らく舐めてかかられることは無い。本気で来るでしょうね」

 

「……厳しいですね、今の一夏だと」

 

「え〜〜。景品が遠のくのは困るな〜〜」

 

「そういえば、その景品ってなんなの?」

 

「食堂のスイーツ無料券だよ〜。それと新メニューの優先試食券。食堂は何時も新メニューが作られた後で試食を集うんだけど〜、それに優先で抽選される券なの〜」

 

へえ、普段は食堂を使わないのでよく分からないな。僕と先輩の部屋には調理用設備が揃っているし、マーケットも敷地から一歩出ればある。土日は基本的に外出を認められているので週に一度買い物へ行けば二人が一週間食べる分は確保できる。

 

足りない時は申請をすれば20:30までの外出は認められるのでそれを使ってもいいのだしね。

 

「新メニューの開発とかだったらもう少しやる気が出たかな……甘いものはそれ程好きじゃないし」

 

「へ〜、そうなの?」

 

「ええ。だからもしうちのクラスが貰う事になったら先輩にあげます」

 

「ホント?!」

 

ガタン、と楯無先輩が勢いよく立ち上がる。それほど長い付き合いではないが、先輩が甘いもの好きなのは何となくわかる。

 

「ホント?!嘘じゃないわよね!」

 

「はい」

 

「〜〜♪」

 

嬉しそうに飛び跳ねる先輩の横で本音さんが少し残念そうな顔をしている。その口がもにょもにょ動くのを読唇術で読んでみる。

 

(貰いたかったのに……?いやいや、食い意地張りすぎでしょ……)

 

対照的な二人を見て僕と虚先輩は顔を見合わせて苦笑を浮かべるのだった。

 

ふと、僕のスマートフォンが着信を報せる。こんな不規則な時間に僕に掛けてくる人間なんて一人しか思い至らない。

 

「少し外に失礼します」

 

「?ええ」

 

先輩達に断って外に出て電話に出る。

 

「もしもし、束?どうしたの急に?」

 

『やっほーけー君。久し振りにけー君も束さんの声が聞きたくなってきた頃じゃないかなって思って掛けてきたのだよ〜。どうかな?楯無ちゃんとはもうやる事ヤったのかな〜?』

 

「……切っていい?」

 

『あー!冗談だよ冗談!待って待って切らないで〜』

 

「寂しがってるのはどっちなのさ、束……まあいいさ。それで要件は何?」

 

慌てる様子の束に苦笑いしながら先を話すように促す。

 

『んーと、けー君に送って貰った『閻魔』の一応の計測結果からできる考察が終わったから報告と、あの子達と4機は送っておいたからあと二、三日でけー君の手元に届くと思うよって話』

 

「ありがとう、束。それで考察データの方は送るだけじゃダメなの?」

 

『うん、改めて慧君に釘を指しておかないといけないから』

 

珍しい、束がはっきり僕の名前を呼ぶなんて。

 

「ふーん?」

 

『慧君、結論から言うとね──『閻魔』の《同調》はもう使わない方がいい。使い続ければ、それは最終的に慧君の脳を損傷させる。記憶喪失じゃあ済まなくなる』

 

「………………」

 

『あれは、脳にかかる負荷が強すぎる。人間の脳は普段リミッターをかけているから5%程度しか使えない。天才の私をもってしても恐らく全体の10%を使えていればいい方なの。

 

──今回、慧君は自分の脳の15%以上を活用していた、それも機械で無理矢理活性化させた結果に、だ。そんな無茶を繰り返せば、遠からず慧君の脳は損傷する』

 

そんな事、私は認められない。強い口調で束は断じた。

 

「……」

 

『慧君の目的にあの力は必須なわけじゃない。今回送るあの子達をちゃんと使えば問題は無いはずだよね?だからお願い──もう《同調》は使わないで』

 

「……わかった。でも、僕は僕でこのシステム(同調)は研究する。束にその結果をこまめに送るから、それを見て今後は使用して良いかどうか決めてくれる?」

 

『……自分の体で試すのは禁止だよ?』

 

「わかってる。あくまでデータのみにする」

 

『ならいいけど』

 

まだ心配してくれる人がいる。その事が、僕をまだ辛うじてこの世界に繋ぎ止めてくれているのだろう。

 

「…………ありがとう、束」

 

ボソリと呟いた言葉だったが、どうやら全ては拾えなかったらしい。

 

『え?どうかしたの?』

 

「いや、なんでもない。それより、そろそろ先輩達のところに戻らないといけないから行くよ」

 

『うん……ね、けー君』

 

「うん?どうしたの、束?」

 

『今、楽しい?』

 

「どうかな……少なくとも、退屈することはなさそうだよ。束といた時と同じだよ」

 

『そっか……』

 

「?」

 

『ううん。なんでもないよ!それじゃけー君!今度はそっちに会いに行くから楽しみにしててね!!まったねー☆』

 

「は?いや、ちょったば──」

 

ツー、ツー

 

会いに来るって……あのウルトラ引きこもりで機械オタク、宇宙大好きで外の世界の人大嫌いって言ってた束が?

 

こんなに人まみれのこの場所に?

 

「……不安だな」

 

来る事の喜びより先に不安や心配が出てしまうのは、束の日頃の行いだから気にしないことにするのだった。




第三世代機『閻魔』


全体的に細いフォルムが特徴のISであり、八代慧の専用機。その色は黒く、機体の至る場所に灰白色の線がヒビのように刻み込まれている。

約二年半の歳月をかけて量産用機体から慧がカスタマイズを行って作り上げた。本体の武装は少ないものの『同調』や『換装』を組み合わせることによって最新鋭のISとも互角に渡り合える。

①『同調』について

彼の義手となっている左腕と機体を直結させることによって脳とISを結び付け、通常では不可能な反射速度、機動力を生み出す。

ただし脳にかかる負荷が大きく、リミッターを掛けても一時的な意識の混濁、記憶の喪失が起こる。また、ISに当たった攻撃の何割かを自身の痛覚に反映するフィードバックも発生する。


余談ではあるが、セシリア・オルコットと行った試合で用いた時は『同調』の出力割合は起動可能領域の四割に抑えていた。

現在、篠ノ之束により使用が禁止されている。


②『換装』について

彼のISの武装が少ないのには『換装』を行う際に武器スロットに余裕を持たせる目的もある。

彼の機体にはオプションとして計4機の独立駆動型ビットが付属されている。セシリア・オルコットとの試合では調整と輸送が間に合わず使われなかったが、それらそれぞれ、或いは複数と『換装』を行う事でこの機体は本来の力を発揮できる。

4機のビットについては登場した時に随時説明を挟んでいく。


③武装について

閻魔が持つ武装は以下の通りである。

剣山……無骨な細剣。特殊なものは何も無く相手に対して突いてダメージを負わせる。基本的に背中に背負う。

衆合扇……鉄扇であり、当然折り畳んでの収納も可能。特殊なコーティングにより一定量までならレーザー兵装を無効化できる。物理攻撃も可能。普段は左側に刀のように身に付けている。

黒縄……ワイヤーガン。武器の回収を主に想定され作られた武装。2丁ある為両手が塞がるというデメリットを除けば立体機○装置のような運用もできる。



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如何でしょうか?なにかご不明点などありましたら加筆修正の際の参考にしたいので遠慮なくよろしくお願いします

できればもう少し早く投稿したいなぁ……などと思っておりますがお察しですね、はい。

最近私も鼻風邪気味です。どうか皆様もご自愛なさって下さい
Twitter、もっと遊びに来てくださっても宜しいですよ?()

長話もあれですね、それではなるべく早く、また次回お会いしましょう!サヨナラ!!


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