審神者の力は砕けない (きど)
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001

クロスオーバーってたまんないっすわ〜


「明日からあなたには政府の指示の元お国のために働いていただきます」

 

 

 

ある日政府の役人が家に来て、その台詞と書類だけを置いて帰って行った。

詳しくは説明を受けていない。極秘事項なんだそうだ。そもそも家に来た政府の人も内容は知らないらしい。最近噂になっていることが自分の身に降りかかるとは思っていなかった。

両親は反対したが国の命令には逆らえなかったし、剣術しか取り柄のない私が「お国のため」に働けるのなら…そう思って次の日迎えに来た政府の人に大人しく着いて行った。

 

 

政府の人に連れて行かれた先の建物で目隠しとヘッドホンをされた。なんだか犯罪者みたいだ。これから行く場所を知られては困るらしい。詳しい説明は移動先で受けると聞いた。

フラフラ歩くのでは危ないということで車椅子に乗せられる。しばらく移動したあとに目隠しとヘッドホンを取られる。

車椅子から立ち上がりながら周りを見渡せば、真っ白い普通の部屋にいた。窓はなく机と椅子だけ置いてある。目の前の机の上には書類がいくつか置いてあって、反対側にはスーツを着て眼鏡をかけた若い男の人と、同じくスーツを着た長い髪の女の人が座っている。

近くの椅子にかけるよう言われたので目の前の椅子に座れば、これからやっと説明をしてくれるそうだ。

 

 

まずは急にこのような形での呼び出しをしたことを謝罪される。極秘事項のためやむを得ない措置で、どうか分かって欲しいと言われる。

実はここは過去や未来に行ける技術のある2205年で、過去の歴史改変を目論む「歴史修正主義者」という相手と戦うのが私の仕事らしい。頭おかしいのかと思ったが、話の続きを聞くことにする。

私は「審神者」という眠っている物の想い 心を目覚めさせ、自ら戦う力を与え、振るわせる技を持つ者の力を持っているらしく、その力で刀の付喪神を「刀剣男士」として呼び出し戦って欲しいのだと続く。

神様はなんとなく信じているが、こうも言われると現実味がない。

しばらく審神者の仕事について書類を見ながら説明を受ける。衣食住の心配はなさそうだ。本丸という場所で生活するらしい。

 

 

まずは初期刀という刀を選ぶと言い、隣の部屋に移動した。5振りの刀が並んでいる。

真っ赤なのと、キラキラなのと、シンプルなのと、金ピカなのと、黒いの。なんとなく敵と戦うならば派手なものよりも斬れ味が良さそうで、心惹かれた一番右の黒い刀を手に取った。

 

 

 

「陸奥守吉行ですね。こちらの一振りは初期刀として政府からの支給になります。他の刀も鍛刀などで後々手に入ると思います。ではこちらの部屋へ」

 

 

これからさっき言っていた本丸という場所に移動するらしい。もうされるがままだ。

さらに隣の部屋に移動すると、真ん中に変なゲートとその横に装置が置いてあった。これが転移装置らしい。なんと。これで本丸に飛ぶんだそうだ。

政府の人が装置をいじって私の本丸に座標をセットしたと言うと、まずは眼鏡の男の人がゲートに入って行く。もう1人の女の人が私に入るよう促した。

さっきゲートを潜った男の人は反対側には出ず消えていった…これはいよいよ本物かもしれない。

 

意を決してゲートを潜ると、大きな日本家屋が建っていた。



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002

本丸に着いたら本丸についての説明は別の者にということで引き継がれ政府の人は帰って行ったが、引き継がれた案内人は喋る狐だった…何を言っているのかわからねーと思うが私も何をされたのかわからなかった…

管狐、つまりは妖怪らしい。政府に使役されている使い魔のようなもので、各本丸にいる審神者のサポートをしているらしい。

こんのすけとお呼びください、好物は油揚げでございます!と尻尾を揺らしながら言った。

 

 

こんのすけの話では、これから私が手にしているさっき選んで来たこの刀を顕現させるのだそうだ。

ということで祈祷部屋へと移る。鍛刀した刀剣男士を顕現させるため祈祷を行いらしい。そんなものやったことはないが…

祈祷には様々な方法があるらしい。ただ刀に触れて霊力を込める者、祝詞を唱える者、舞を踊る者、色んな審神者がいるらしいが、それは個人の霊力や刀との相性にもよるらしい。

とりあえず一番簡単そうな方法を試す。刀を両手で持ち、なんとなく顕現しろ〜と頭で思う。

 

 

手に力を込めた瞬間に部屋一面に桜が舞って、その中心には人影が見えた。

 

 

 

「わしは陸奥守吉行じゃ。せっかくこがな所に来たがやき、世界を掴むぜよ!」

 

 

 

随分と奇天烈な格好をした青年が立っていた。ハネた茶髪に襟足は少し長く、全体的にオレンジ色っぽい着物を着ている。左肩にだけ防具があり、人懐っこい笑顔を浮かべている。

 

 

こんのすけが審神者である私の紹介を終えると、おんしゃあ今日からわしの主っちゅーことやのお!よろしく頼むぜよ!とニコニコと言われたので、丁重に挨拶した。

 

 

 

 

 

 

 

それからというもの、いきなり鍛刀しろと指示があったので適当に資材をぶっ込み鍛刀してみれば3時間の表示が。札を使って鍛刀を終わらせれば真っ暗で真っ直ぐな一振りの刀が出来上がっていた。先程と同じように祈祷部屋に行き力を込めれば太刀の同田貫正国が顕現した。実践刀という感じがあってとても好感を持てる。

その二振りで出場しろと指示があり、一振りの刀を拾って帰って来た。ドロップと言うらしい。再び祈祷して顕現させると、今度は乱藤四郎という名前の短刀だっだ。女の子だと思って一緒にお風呂に入ろうとしてしまったのは、今ではいい思い出だ。

 

 

そして次に来たのは短刀の薬研藤四郎と今剣と五虎退に脇差の堀川国広とにっかり青江、打刀の加州清光とへし切長谷部、太刀の一期一振、大太刀の蛍丸だった。

その後もどんどん本丸の戦力は増えていった。

 

 

私が戦場に出るのを止めようとした刀剣男士もいた。しかし私の腕を見ればみな私に使って欲しいと言ってくれた。嬉しかった。戦うことしか取り柄のない私に、この私にしかできない仕事があったんだ。それも沢山の命や歴史を守るための戦い。

そもそも、最初はただの人間である私の方が強かった。レベル1なんか話にならない。こんなレベルの刀剣男士は折れそうで戦場に出せなかった。私が本体で戦ってレベルを上げ、レベル30くらいからは自力で出陣してもらっていた。

 

 

そうこうしている内に随分と色んな刀が増えた。今日も本丸は平和だ。

そういえば最近江戸の方に多くの歴史修正主義者たちが出るらしい。また調査に行かなくては。

 

 

 

 

 

 

 

いつも通りの任務のはずだった。負傷や疲労も酷く、あと1区画だけ調査したら帰るつもりだったのだ。そこに…運悪く検非違使が出現した。

最近調査のために何度も江戸に出陣していたせいだろう。

この日、私は顕現したばかりの巴型薙刀を持っていた。正直言って薙刀は得意ではない。単に私の身体のサイズに合っていないからだ。

 

 

厚藤四郎、破壊。浦島虎徹、重傷。長曽祢虎徹、浦島虎徹を庇い破壊。陸奥守吉行、銃で遠くの仲間を守りながらも中傷。燭台切光忠、重傷。酷い有り様だった。仲間を庇った者から死んでいく。

厚はさっき私を庇って折れた。主だけは絶対に守らねばならないと思っているんだろう。今、私を庇って光忠が折れた。

 

 

迫る白刃。陸奥守が「おまさん、なにしゆうが!!逃げ!!」と叫ぶ声が聞こえる。痛い。動けない。もう防御も回避もままならない。

 

 

敵の刀が、私の肉を斬り裂き骨をメキメキと叩き折る音と感覚を感じる。痛い。痛い。痛い───。

 

 

 

 

 

 

 

室内に鳴り響く目覚ましの音で目が覚めた。随分と、懐かしい夢を見たものだ。




最初の鍛刀って強制ALL50なんで短刀しか出ないんですけど、それはそれ、これはこれ。


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003 再会

今日は私の3歳の誕生日だ。

 

 

私には前世の記憶がある。審神者という職業で、時の政府の元歴史修正主義者たちと戦っていた。

ある日戦場で死んだら生まれ変わっていた。幸いなのはまた日本に生まれた点だろうか。今日はその時の夢を見た。夢の中であってもみんなに会えたのは嬉しいが、最後には自分の刀と共に激痛の中死ぬ夢だ。皮肉な誕生日である。

 

 

いつも通り顔を洗って食堂に行く。両親は死に、親戚もいなかったので今は孤児院に住んでいる。集団で生活するのは本丸で慣れていたから良かった。

朝食を食べていつも通り子供たちの相手をする。本丸の短刀たちは見た目こそ子供だったが、中身は私よりも歳上だった。本物の子供の相手はちょっと疲れる。

 

 

今日あんな夢を見たからだろうか。無性にみんなに会いたくなった。

この世界では私は独りだ。寂しい。またみんなに会いたい。

審神者になった日も本当は不安だった。あの日誰よりも早く顕現して、誰よりも長く一緒にいてくれた私の初期刀…陸奥守吉行。寂しさや不安を吹き飛ばしてくれるあの笑顔にもう一度会いたい。

そう思った時だった。部屋いっぱいに桜吹雪が舞う。暖かい…分かる。ここに彼がいる。

ありったけの霊力を込めて叫んだ。

 

 

 

 

 

 

 

「来い!!陸奥守吉行!!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

桜吹雪の中に、見慣れた姿が立っていた。

 

 

 

「わしは陸奥守吉行じゃ。せっかくこがな所に来たがやき、世界を掴むぜよ!…おまさん、なんちゅう顔しゆうがか」

 

 

 

あの、優しい笑顔が、そこにはあった。

思わず飛び付くと、笑いながら抱きしめてくれた。あの日、目の前で主を斬られたこと、守れなかったこと、きっと気にしていただろう。

彼が目の前で主を失ったのはこれで2回目になる。本当に申し訳ないことをした。

 

 

しばらくすると、部屋は桜でいっぱいだし、知らない男はいるし、私は泣いているして職員さんが大慌てで部屋に入って来た。

周りにいた子から事情を聞くと「優ちゃんにも個性が発言したのね!おめでとう!」と言って嬉しそうにしていた。

 

 

次の日は役所に個性届けを出しに行った。もちろん個性は「審神者」である。私は他の刀剣男士にも会うために猛特訓を始めた。個性も身体能力らしい。鍛えれば強くなる。

と言っても、鍛え方も分からない。他にこんな個性を持った人はいないから参考にはならない。ここには資材も鍛刀部屋もないければ戦ってはレベル上げに一役買っていた歴史修正主義者もいない。ドロップもない。

仕方がないのでひたすら霊力を上げてむっちゃんと組手をした。

 

 

そして私の4歳の誕生日、同田貫正国が顕現した。



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