テイルズオブグレイセスθ (町の人)
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プロローグ
目覚め


初めまして。町の人と申します。
タイトル通り憑依ものです。チートもご都合主義もあります。
原作プレイ済みを想定していますので、ネタバレ満載の上未プレイだとついていけないと思われます。あらかじめご了承ください。
初投稿ゆえ拙い部分が多々あると思いますが、お付き合いいただければ幸いです。


 私は今、見知らぬ場所にいる。そして、自分が何者なのかもわからない。

 記憶はある。現代の日本生まれ。ごく普通の家庭で育ち、それなりの学校を出て、ほんの少しの苦労をしながら社会人として不自由なく生活している。どこにでもいる普通の日本人、それが私だ。

 では何故、「何者なのかわからない」のか。それは、目の前のガラスに映る自分の姿が原因だった。

 

 後ろで括られた赤い髪、目を覆う黒い仮面、全身タイツのような服装。さらに両腕に取り付けられた武器らしきもの。どう見ても「普通の日本人」の格好ではなかった。コスプレならまだ可能性はあるが、生憎そういった趣味はない。

 

(でも、どこかで見たことある気がしますね……)

 

 漫画か、アニメか、はたまたゲームか。そういった作品の中なら逆に有り触れた格好といえる。既視感があるということは、そのうちのどれかで見かけたのだろう。

 むむむ、とガラスを見つめていると、横合いから声をかけられた。

 

「何をしているのです」

 

 声がした方へ振り返ると、そこには車椅子に乗った緑色の髪の女性がいた。私に向けて訝しげな視線を送っている。

 彼女もまた日本人とは思えない容姿をしているが、聞こえたのは間違いなく日本語だった。少なくとも会話できないということはないらしい。

 その隣にはもう一人女性らしき人物が立っていた。その容姿は、ガラスに映っていた私とそっくりだった。髪型、顔、服装、武装、全てが同一。まるで、同じように作られたかのように。

 

「さあ、行きますよ」

 

 女性は短く告げると、くるりと背を向け進み出した。その後に私のそっくりさん(2号とでも呼ぼう)が続く。

 気になることだらけだが、このまま一人でいても何か分かるとは思えない。ここはひとまず素直に従うことにした。

 女性の後に続きながら、隣を歩く2号に目を向ける。私の視線に気づくこともなく、ただまっすぐ前を見据えている。その様はどこか機械的な印象を受けた。

 目立たないようにそっと目線だけで周りの様子をうかがってみる。SF映画に出てきそうな、近未来的な街といった感じの場所だ。その中央に位置する長い階段の先、そこが目的地らしい。

 階段の最上段には円形に光が輝く床があった。ゲームのセーブポイントみたいだな、などと呑気に考えていたら、そこに乗った緑髪の女性の姿が瞬時にかき消える。

 

「ええ!?」

「……」

 

 思わず声が出てしまった。ワープときたか。いよいよ現実味がなくなってきた。ため息をつきたくなってくる。

 そんな私に構うことなく、2号はすたすたと歩いて同じように消えていった。私一人だけが取り残された格好だ。

 少しためらったが、意を決して私も光り輝く床へと足を踏み出した。

 

 視界が一瞬にして切り替わる。

 そこには、何かが暴れたと思われる惨状が広がっていた。通路のあちこちに人が倒れており、破壊された機械がバチバチと火花を飛ばしている。その奥で、初老の男性が少年へ必死に話しかけていた。

 

「ラムダ、安心しろ。何があっても私がお前を守ってやる。だから頼む、もう一度私を信じてくれ! お願いだ……」

「……!」

 

 懇願する男性に、少年が嬉しそうな笑顔を浮かべる。しかし、その感動的なシーンは緑髪の女性によって引き裂かれる。

 

「所長、勝手なことをされては困りますね」

「エメロード君!?」

「この惨状を目にして、まだラムダをかばおうというのですか。全ての準備は整いました。ラムダはここで始末します」

「いいや、私はラムダを守る。何があろうと守ってみせる!」

 

 言い争う二人。しかし、私の意識は途中から全く別のところに向いていた。

 ラムダ、エメロードという単語。交わされる一連の会話。目の前の光景。空回りしていた歯車が噛み合っていく。

 奥底で眠っていた記憶が次々と蘇る。そして今目の前で起こっていることが、私のよく知る作品で描かれたものであることに気づいた。

 これから起こる悲劇を私は知っている。そして、それを回避できる力を私は意図せず手に入れていた。

 腕に取り付けられた武器をじっと見つめる。使い方は、自然と頭に浮かんできた。

 

 

 

「手荒な真似はしたくなかったのですが、仕方ありませんね」

 

 エメロードは、手を挙げてヒューマノイドに攻撃を指示した。しかし、微動だにしない。彼女は苛立たしげにそれを睨みつけた。

 

(またですか……全く、完成したばかりだというのにもう不具合が出るとは)

 

 ここに来る最中にもおかしな挙動を示していた個体。事が済んだらすぐに整備、あるいは廃棄処分も視野に入れなければ。そんなことを考えながら、エメロードは別の個体へ指示を出す。

 指示を受けたヒューマノイドは、一切躊躇せずにコーネルの肩を撃ち抜いた。

 

「ぐっ……!? エ、エメロード君、そのヒューマノイドは、まさか……!」

「ええ。私が所長の研究を元に作り上げたものです。素晴らしい出来栄えでしょう? さあ、ラムダをこちらに引き渡してください」

 

 恍惚とした表情を浮かべながら、エメロードは自画自賛する。彼女は自分の優位を微塵も疑っていなかった。

 だが、コーネルはまだ諦めていない。彼は痛みをこらえながら、ある方向へと目を向けていた。その先にあるのは、エフィネアへ向かうことのできる空飛ぶ機械、シャトル。

 

「ラムダ! あのシャトルまで走るんだ!」

 

 力の限り叫んだコーネルは、ラムダと共にシャトルへと駆け出す。これにはエメロードも余裕の態度を崩し、慌てて指示を飛ばす。

 

「っ、彼らを捕らえなさい! 抵抗するようなら射殺しても構いません!」

 

 ヒューマノイドのうち、一体は凄まじい速度で二人の追跡を開始する。もう一体はなぜか腕を見つめて固まっていた。やはり故障している。そう判断し、エメロードはその個体の廃棄処分を瞬時に決定した。

 

 ヒューマノイドはあっという間にコーネルに追いつき、その背に狙いを定める。このままいけば、コーネルはここで殺されてしまうだろう。しかし、ここで事態は急変する。

 正確に放たれた光線が、コーネルに迫っていたヒューマノイドを貫く。それを為したのは、動きを止めていたはずのもう一体のヒューマノイドだった。

 

「良かった……当たらなかったらどうしようかと」

 

 静まり返った空間に、ヒューマノイドのものとは思えない、やけに人間じみた声が響く。それを、エメロードは呆然とした表情で聞いていた。

 

 

「ヒューマノイドが同士討ち……? 一体何が起こったのだ?」

 

 コーネルもまた状況が飲み込めずにいた。そこへ、ヒューマノイドが近づいてくる。とっさに身構えるが、飛んできたのは光線ではなく、意外な言葉だった。

 

「お願いします。私もシャトルに乗せてください」

「……は?」

 

 予想外の展開に、コーネルは思わず素っ頓狂な声を上げてしまう。

 

「私のことは、後で必ずお話しします。そして、あなたたちを傷つけることは絶対にしないと約束します。どうか、信じてください」

 

 そう言って頭を下げるヒューマノイド。まるで人間のように懇願するその姿に、コーネルの心が動く。

 ラムダの良き理解者になってくれるかもしれない。そう感じたのだ。

 

「わかった。君の言うことを信じよう」

「……! ありがとうございます!」

 

 コーネルの答えに、彼女(・・)は満面の笑みを浮かべて喜んだ。




自分でも予想していなかった、原作1000年前スタートとなりました。
初めは7年前のラントから始めようとしましたが、コーネルやラムダのほか、物語開始前のキャラクターを無視できずこういう形になりました。フォドラは流石に諦めました。
原作のヒューマノイドが1000年後も普通に動いてたからイケるイケる! という安易な発想です。

主人公の詳細は次回に持ち越し。いわゆる説明回になる予定です。

2/23追記
終盤がころころ変わってしまい申し訳ありません。
修正はこれで最後にしたいと思います。
エメロードさんはほったらかしにされたままになりました。

2/28サブタイトル変更


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私の目的

書いているうちに、前話の後半部分にまで修正が及んでしまいました。
そこから今話に繋がっているので、そちらから先に読んでいただけるとありがたいです。


 あの場をなんとか切り抜け、私は無事シャトルに乗り込むことができた。

 シャトルはすでに発射しており、前方に見えるエフィネアへ向けて進んでいる。

 羅針帯(フォスリトス)はまだ存在していないため、以前テレビか何かで見た地球の姿によく似ていた。

 

 それにしても、まさか自分が「テイルズオブグレイセス」の世界にいるとは夢にも思わなかった。しかも、なぜかヒューマノイドになっているというおまけ付きで。衝撃のあまり固まってしまい、危うくコーネルさんを見殺しにしてしまうところだった。

 突然のお願いを聞き入れてくれたコーネルさんには、感謝してもしきれない。ということで、早速お礼として肩の怪我を治療させてもらった。

 原作のヒューマノイドが「ファーストエイド」を使っていたので、もしやと思い、手を当てながら術名を唱えてみたところ見事発動。私自身にとっても、貴重な回復手段があることがわかったので大収穫だ。

 

 しかし冷静になってみると、どうしてコーネルさんは私の同行を許してくれたのか、という疑問が湧いてきた。

 自分で言うのもなんだが、私はかなり怪しい存在だと言わざるを得ない。私のことを話す前に思い切って聞いてみたところ、こんな答えが返ってきた。

 

「君がヒューマノイドらしくないのが気になったのだよ。勿論、いい意味でな」

「ヒューマノイドらしくない、というと?」

「エメロード君の命令を無視して私を助けたこと。そして、まるで人間のような言動。長年ヒューマノイドを研究してきたが、君のように自我を持った個体は見たことがない。それに……」

 

 そこでコーネルさんは一度言葉を切ると、苦笑まじりにこう続けた。

 

「シャトルに乗せてくれと頼んできた姿が、あまりにも必死だったものでな」

「っ!?」

 

 思わず顔が熱くなる。ヒューマノイドなのにこんな機能ついてるのか、なんて場違いなことを思ってしまった。

 置いていかれてはまずいと、必死に頼み込んだのが功を奏したらしい。が、こう改めて自分の醜態を聞かされると、恥ずかしくてたまらない。

 そんな私の様子を、コーネルさんは温かく見守っていた。

 

 しばらくして落ち着いたところで、改めて話を切り出す。私のことを、そろそろ話しておかなければならない。

 

「……ええと、今度は私のことを説明しておきたいと思います。まず初めに、私にこうして自我が生まれた理由なんですが……残念ながら、私にもわかりません。信じられないかもしれませんが、気がついたらこうなっていた、としか言いようがないんです」

 

 これは紛れも無い事実だ。ここがゲームの世界だということは理解できたが、逆に言えばわかったのはそれだけだ。私がこんな状況に置かれている原因は、未だにさっぱりわからない。

 

「ふむ……。不可解だが、君がこうして私と話をしているのは確かだ。それは疑いようがない」

 

 どうやら、ある程度は納得してもらえたようだ。こちらとしても、これ以上の説明はできないので助かる。

 さて、いよいよここからが本題だ。

 

「次に、シャトルに乗せてもらった目的をお話しします。私は、ラムダの拠り所になりたいと思っています。ずっと先の未来まで、彼のそばに居てあげたい。そのために、私もエフィネアに行く必要があったんです」

 

 記憶がはっきりした時、私にはいくつか目標が生まれていた。そのうちの一つが、ラムダとともに生きていくことだ。

 全ての始まりとも言える、エメロードによるコーネルさんの射殺。それはなんとか回避することが出来た。

 だが彼にも寿命があり、いずれ別れの時は来る。その時、ラムダに寄り添える存在は私しかいない。自惚れかもしれないが、私はそう思っている。

 

「それは、願ってもないことだ。ヒューマノイドである君がラムダと共にあってくれれば、あの子に寂しい思いをさせずに済むだろう。しかし、君はラムダと会ったばかりのはずだ。それなのに、なぜそこまで……」

「それも、これから説明します」

 

 少し長くなると前置きして、私は原作におけるラムダの話を「目覚めた時頭に流れ込んできた映像」として話した。

 かなり無理があるとは思ったが、異世界のゲームで語られていた、と馬鹿正直に言うよりは幾分マシだろう。

 

 フォドラの星の核(ラスタリア)で発見された生命体。それはコーネル博士によって「ラムダ」という名を与えられ、人間として大切に育てられた。

 しかし研究を進める中で、ラムダの体組織が生物を凶暴な魔物(モンスター)に変化させ、さらにそれらを支配下に置くことができることが判明する。それを危険視したエメロードの進言により、ラムダは廃棄処分にされることとなった。

 だが、それは失敗に終わる。ラムダの生命力を見誤ったのだ。

 

「廃棄処分から逃れたラムダを追い、あなたはシャトル発着場へ向かった。後のことはご存知の通り、と言いたいところですが、私の見た結末は少し違っていました」

 

 そこで一旦言葉を切る。言うべきかどうか、迷ってしまった。だが、言わなければ話は進まない。

 

「……コーネルさん。あなたはヒューマノイドに撃たれ、亡くなったんです」

「……!」

 

 自分の死を告げられ、コーネルさんが息を呑む。

 

「あなたは死の間際にシャトルを発射させ、ラムダをエフィネアに送り出しました。その後のラムダのことも、私の記憶にあります。……続けますか?」

「……聞かせてくれ」

 

 エフィネアにたどり着いたラムダを待っていたのは、人間からの迫害だった。化け物め。こっちに来るな。そんな言葉を浴びせられ続ける。

 ラムダを受け入れる者は誰もいない。彼の居場所は、エフィネアのどこにも存在しなかった。

 その後、ラムダを消し去るためにフォドラから送り込まれたヒューマノイド、「プロトス1(ヘイス)」との死闘の末、ラムダは長い眠りにつくことになる。

 それから1000年の時が流れ、ラムダは再び目覚めた。

 人間への憎悪に支配されたラムダは、エフィネアの要である3つの大煇石(バルキネスクリアス)から原素(エレス)を奪い、彼自らが星の核(ラスタリア)に成り代わろうとした。

 全ての人間を、世界から消し去るために。

 だが、それは一人の愚直な青年によって阻止された。青年との対話の末、人間の可能性を見たラムダは共存を受け入れ、再び眠りにつくことになった。

 

「以上が、私の見たラムダの全てです」

 

 長い話を終えて、コーネルさんの様子を伺う。その表情は辛そうに歪んでいた。話の中のラムダの境遇に心を痛めているのだろう。

 

「辛い思いをさせて、すみません」

「いや、気にしないでくれ。聞かせてくれと言ったのは私だ。それに、君はラムダがそうならないように、こうして付いてきてくれたのだろう? そんな君を責められるはずもない」

 

 その言葉から察するに、こんな荒唐無稽な話を信じてくれたようだ。

 一方的に話しておいて勝手なことだが、なぜ、と思わずにはいられなかった。

 

「……作り話だとは、思わなかったんですか?」

「ああ。君は大煇石(バルキネスクリアス)星の核(ラスタリア)の存在を知っていた。目覚めて間もない君の口から、偶然その言葉が出てくるとは考えにくい」

 

 コーネルさんによると、それらを知るのは研究に携わっている人間、アンマルチアだけなのだそうだ。

 言われてみれば、エフィネアの人々は大煇石(バルキネスクリアス)煇石(クリアス)の恩恵にあずかってはいても、その正体が人工物であることや、原素(エレス)の源である星の核(ラスタリア)が存在することは知らなかった。

 物語の中で当たり前のように話されていたので、誰もが知ることのように錯覚してしまったのかもしれない。

 

「信じてくれて、ありがとうございます」

「礼を言うのはこちらの方だ。君は私たちの命の恩人なのだからな。本当にありがとう。そして、これからよろしく頼む」

 

 笑みを浮かべながら、コーネルさんが手を差し出してくる。私もそれに手を重ね、にこやかに応えた。

 

「はい。こちらこそ、よろしくお願いします」

 

 そこで、コーネルさんがふと気づいたように尋ねてくる。

 

「ところで、君に名前はあるのかね?」

「名前、ですか?」

「ああ。これから共に生きていくのだ。いつまでも『君』では他人行儀すぎるだろう」

 

 私の名前、か。

 一応日本人だった頃の名前は覚えているが、どういうわけか、それを自分の名前だと思えなくなっている。身体が変わってしまった影響なのだろうか。正直よくわからない。

 とにかく、今の私に名前はないということになる。

 どうしたものかと思っていると、視線に気づいた。目を向けると、ラムダが心配そうにこちらを見つめていた。私と目があった途端、ばっと物陰に隠れてしまう。なんだか小動物みたいだな、なんて思ってしまった。

 そこで、ふと思いついた。ラムダという名は、ギリシア文字から取られたものだとどこかで見た記憶がある。それがヒントになった。

 

「私のことは、シータと呼んでください」

「シータ、か。いい名だ。ラムダ、こっちにおいで」

 

 コーネルさんに呼ばれたラムダが、とてとてとこちらに歩いてくる。

 そして、私に対する警戒を隠すことなく、コーネルさんにぴったりとくっついた。

 

「ラムダ、そう怖がることはない。彼女……シータ君は、私達の味方だ」

「すぐにとは言いません。少しずつ、仲良くなってください」

 

 そう言って手を差し出す。それを、ラムダはじっと見つめていた。やがて、彼はおずおずといった様子で私の手を取った。

 にっこりと笑いながら、声をかける。

 

「これからよろしくお願いします、ラムダ」

「……」

 

 返ってきたのは、ぎこちない笑顔。

 私とラムダの、最初の触れ合いだった。

 

 

 コーネルさんとの話し合いを終え、私はシャトルの座席にどっかり座りこんでいた。緊張が解けて一気に疲れが押し寄せてくる。

 ヒューマノイドが疲労を感じるのかはわからないが、少なくとも精神的には疲弊していた。

 ヒューマノイドも眠ることがあるんだろうか、そういえばソフィも寝ていたような。そんなことを考えているうちに、私の意識は途切れていた。




主人公の名前はラムダ繋がりでギリシア文字から選びました。
特に深い意味はありません。

想定より長くなってしまったので、主人公の能力説明は次回に持ち越します。おそらくテンプレになります。


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私の正体と与えられた力

主人公の説明回です。
想定の倍くらいの文量になってしまいました。少し冗長かもしれません。
都合が良すぎる場面、及び神様チート満載です。


 気がつくと、私は見知らぬ空間にいた。早くも二回目である。

 とりあえず、ぐるりと周囲を見渡してみる。誰もいないし何もない。天井や壁は存在しないが、外というわけでもない不思議な場所だった。

 またよくわからないことになってしまった。そんなことを思っていると、突然目の前に白く光る球体が現れた。同時に、どこからともなく声が聞こえてくる。

 

「こんにちは、シータさん」

 

 再び周りを見回してみるが、相変わらず誰もいない。ということは、この球体から聞こえたのだろう。

 

「なんで、私の名前を知ってるんですか?」

 

 謎の声は、私をシータと呼んだ。

 それは確かに今の(・・)私の名だが、決めたのはつい先ほど。現時点で知っているのはコーネルさんとラムダだけのはずだ。

 

「貴女のこれまでの行動を、全て観測していましたので」

「観測って……一体どこから?」

「世界の外からです」

「……はい?」

 

 話の飛躍ぶりについていけず、つい間の抜けた返事をしてしまった。

 さっきまでは自分が逆の立場だったが、コーネルさんはよく私の話を真剣に聞いてくれたものだと、改めて思う。

 しかし、世界の外から、か。そんなことができるのは、それこそ神様とかそういう——。

 

「え、まさか神様……?」

「はい」

 

 つい口に出してしまった疑問は、あっさりと肯定された。

 普通なら信じないだろうが、私がこの世界にいることや身体がヒューマノイドの物になってしまったこと、そしてこの空間のことなど、既に普通ではないことがいくつも起こっている。神様くらいいても不思議ではなかった。

 おそらく、この空間に私を招いたのは神様なのだろう。ということはつまり。

 

「私がこの世界にいるのも、あなたが関係しているんですか?」

「その通りです。私が貴女を、ヒューマノイドの人格としてこの世界へ送り込みました」

 

 やはり、思った通りだった。相手が神様だと知った時から薄々そんな気はしていたが、これで目覚めた時からの疑問は解消された。

 しかし、まだ理由がわからない。それを知ったからどうするというわけでもないが、せっかく目の前に(厳密には別の場所にいるようだが)私を連れてきた張本人がいるのだ。この機会を逃す手はない。

 

「どうして私が選ばれたのか、お聞きしてもいいですか?」

「もちろんです。まず貴女は、『テイルズオブグレイセス』という物語の悲劇。それを改変したいという願いを抱いていたと思います」

「随分と大げさな気がしますが……まあ、確かにそうですね」

 

 原作における悲劇——主人公アスベルの父アストンを始めとする登場人物の死。家族・友人とのすれ違いや諍い。それらをなんとかしたいという思いは、プレイしていた当時から持っていた。

 もちろんそれは妄想の域を出るものではなかったが、今では私が掲げているもう一つの目標になっている。コーネルさんの死を回避できたことで、その思いはより強くなったと言っていい。

 しかし、それが今の状況とどう関係するんだろうか。

 

「私も同じ願いを抱いていたんです。それが貴女を選んだ大きな理由でした」

「え? というと、神様もグレイセスを知ってるんですか?」

「ええ。作品によって作られた世界を観測する、という形ですが」

 

 神様によると、人間が生み出した物語によって新たに世界が作られるらしい。私たちがそういった作品を楽しむように、神々もその世界を見て楽しむんだとか。

 

「そういう世界って、改変なんかして大丈夫なんですか?」

「問題ありません。改変した時点で元の世界から切り離され、また新たな世界が生まれます。皆さんが行う『二次創作』のようなもので、神々の間でも盛んなんですよ」

「……なるほど」

 

 正直その表現はどうなんだろうと思ったが、口には出さなかった。スケールが大きいんだか小さいんだかわからない。

 自らの手で改変することはできないのか、と聞いてみると、世界に入ると力を失ってしまうので不可能、という答えが返ってきた。神様といえど、なんでもできるというわけではないらしい。

 

「他者に恩恵を与えることは可能なので、自分と同じ思いを抱いている人間を探して、代わりに実行してもらうんです」

「それで、私が選ばれたと」

「はい。ただ、貴女が最初というわけではありませんでした。初めは、私と同じ願いを抱いている方に『私の願いを聞いてほしい』と頼みました。ですが、『本当にやりたいとは思っていない』と断られてしまったんです。何度も繰り返しましたが、結果は同じでした」

 

 気の毒だが、それは無理もないことだ。

 先ほども言ったように、そういった願望はあくまで妄想であり、実現できると思っている人はまずいない。それは私も例外ではなく、もし彼らと同じ立場だったなら、きっと同じことを言っただろう。

 断られ続ける様を想像して、少し可哀想だな、なんて思っていたのだが。

 

「そして、私は悩んだ末に決断しました。先に送り込んでしまってから、説明して納得してもらおうと」

「……随分と乱暴なやり方ですね」

 

 少し強い口調になってしまう。状況から察するに、私がその強引な方法で連れてこられたのは間違いない。

 既にこの世界で生きていく決心はついているので、それが揺らぐことはない。とはいえ、そんな横暴を「はいそうですか」と流す気にはなれなかった。

 

「……返す言葉もありません。ただ、安心してください。元の貴女は、日本で平和に暮らしていますので」

「……え?」

 

 私が日本で暮らしている? というか、「元の」とはどういう意味だろう。

 

「貴女の記憶と人格は、オリジナルの貴女を元に忠実に再現したものなんです」

「……それは、いわゆるクローンみたいなものですか?」

「そう捉えて頂いて構いません。本人を送り込むわけにはいきませんので」

 

 なんと、私は神様によって作られた存在だったらしい。

 フィクションにおいて、自分がそういう存在だと知った人物は大抵の場合悲観的になる。グレイセス本編でも、自身がヒューマノイドだと判明したソフィの反応はそういうものだった。

 しかし、悲しみだとか怒りだとか、そういった感情は特に湧いてこない。

 先ほど少し怒ってしまったのはあくまでやり方に問題があったからで、むしろ「元の私」が健在なのがわかって安心したくらいだ。もしかすると、名前を自分のものと思えなかった時点で、無意識のうちに勘付いていたのかもしれない。

 そこでふと、それならなぜ今までお願いされた人たちは全員断ったのだろう、という疑問が湧いてきた。戦うのが嫌だとか理由はあるかもしれないが、一人も承諾してくれないということはないはずだ。

 そうして考えているうちに、一つの仮説が浮かび上がった。まさかな、と思いながらたずねてみる。

 

「そういうことなら安心なんですが、今までお願いしてきた人たちにもこのことは伝えたんですか?」

「いえ。承諾してもらってからお伝えしようと思っていました」

 

 ……なんとまあ。そのまさかだった。

 もしかしたら神様が改変の仕組みについて説明していなかったのでは、と思ったのだが、見事的中してしまった。

 

「あの、先に伝えていれば、おそらく承諾してくれる人は居たと思いますよ?  その説明がないと、『今の人生を捨てて新しい世界で頑張れ』ということになってしまいますから」

「……あっ」

 

 私の指摘を受けて、神様もようやくそのことに気づいたらしい。

 

「うう、こんな初歩的なことに気づかないなんて……本当に申し訳ありません……」

 

 しょんぼりとうなだれているのが目に浮かぶようだった。私を問答無用で送り込んでしまったことといい、どうやらこの神様は少々ドジっ子の気があるようだ。

 巻き込まれた側としては堪ったものではない、と言いたいところだったが、一周回ってなんだか微笑ましく思えてきた。失礼ながら、脳内イメージは幼い子供である。

 

「ふふ、大丈夫ですよ。おかげでこうして、私がチャンスを得られたんですから。むしろ感謝してます」

「……そう言って頂けて、幾らか救われました。ありがとうございます」

 

 これで、私がこの世界にいる理由については全てわかった。それでは、話の続きを聞くとしよう。

 

「確か、私には恩恵が与えられてるんですよね?」

「ああ、そうでした。これからそのことについてお話しします。ヒューマノイドに関する説明も併せて行いますので、ご安心ください」

 

 こうして長い前置きが終わり、神様による説明が始まった。

 

 まず、この身体は原素(エレス)を動力としており、それが枯渇すれば消滅してしまうそうだ。

 攻撃を受ける等して損傷した場合は、自動で修復する機能が備わっている。プロトス1(ソフィ)ほど優秀ではないそうだが、多少のダメージなら問題ないらしい。ただ、その分原素(エレス)を消費するので過信は禁物とのこと。

 原素(エレス)は空気中のものを取り込む(稼働中は消費量の方が多いが、じっとしていれば回復できるらしい)ほか、食事で補うことが可能だ。

 原素(エレス)が枯渇しないように気をつけて、大きな損傷を避けさえすれば、目標である1000年後まで生き残れるということになる。

 ただ、原素(エレス)の残量をどうやって見極めるのか、という点が気になった。もし残り少ない状態で敵に遭遇してしまい、戦闘中に枯渇する、なんてことになったら目も当てられない。

 しかし、その心配は杞憂だったようだ。

 

「特殊な機能がありますので、問題ありません。シータさん、左のこめかみを指で押してもらえますか?」

「こめかみ……こうですか?」

 

 言われた通りに、左手でこめかみを押してみた。すると、前方にモニターのようなものが浮かびあがってくる。

 驚いて思わず飛び退るが、それは追従するように付いてきた。覗き込んでみると、そこには見覚えのある画面が映っていた。

 

「これは……グレイセスのメニュー画面?」

「はい。正確には、それを模したものです。現在の原素(エレス)残量が表示されているのがわかりますか?」

「えっと……はい、確かに」

 

 原作でパーティメンバーが表示されていたところに、私の名前があった。その横にはレベル表記がない代わりに「強化ポイント 1」と書かれている。名前からして何か強化する際に使うのだろう。

 そして肝心の原素(エレス)残量は、HPゲージがあったところに表示されていた。現在の残量は90%らしい。

 

「他の項目も貴女専用のものになっていますので、確認してみてください」

 

 画面上部には、術、アイテム、装備、マップ、ショップという風に項目が並んでいた。ショップというのがやたらと気になるが、左から順に確認していく。

 

 術のページは原作のようにセットするわけではなく、取得済みと未習得の欄に分けて一覧表示するという形だった。

 取得済み欄にはファーストエイドのみ。未習得欄には膨大な量の術名が並んでおり、属性ごとにソートすることも可能なようだ。技は存在しないようだが、装備から考えて私は後衛なので問題はない。

 試しに火属性のものを表示させ、一番上に出てきた「フォトンブレイズ」を選んでみる。すると、術の説明とともに「取得する」と書かれたボタンが現れた。どうやら術の取得はここで行えるらしい。

 ボタンを押すと「取得しますか? 消費ポイント 1」というメッセージが表示された。ここでさっきの強化ポイントとやらが使えるのだろう。

 

「あの、強化ポイントっていうのはどうやって貯めるんですか?」

「敵を倒すことで手に入ります。基本的には一体倒すごとに1ポイントですね」

 

 つまり、先ほどヒューマノイドを倒したことで手に入ったということか。

 せっかくなので、そのまま「はい」を選択してフォトンブレイズを取得する。私にとって、初めての攻撃術だ。

 

「試してみますか?」

「え、いいんですか? それなら、やってみたいです」

「わかりました。では、的をご用意しますね。術名を唱えるだけで発動できますので、詠唱は必要ありません」

 

 無詠唱でいいとは、なかなかのアドバンテージではないだろうか。そんなことを思っていると、少し離れた場所に別の球体が現れる。これが的ということか。

 では、早速試してみよう。球体をしっかり見据え、狙いを定める。心臓はないはずだが、鼓動が早くなるような錯覚を覚えた。

 

「フォトンブレイズ!」

 

 叫ぶと同時に球体の周囲を火球が包み、やがて炸裂する。火球が消滅すると、黒焦げになった球体が現れた。それを自分が為したという事実に、興奮が湧き上がってくる。

 

「すごい……」

「お見事です。ただ、注意してください。術を発動すると原素(エレス)を消費します。それはすなわち、体力を削って発動しているということと同意です。原素(エレス)残量には常に気を配ってくださいね」

「……そうですね。術を撃ちすぎて消滅とか洒落になりませんし」

 

 他のテイルズ作品で例えるなら、HPとTPが同じゲージにまとめられていて、そこから消費されるといった感じだろうか。

 技を出しすぎてTPがなくなってしまう、なんてことはしょっちゅうだったが、それを今やるとそのまま死んでしまうということになる。笑い話にもならない。

 なので、今の術でどれくらい消費したのか早速確認してみた。

 

「80%……? 今ので10%も?」

 

 フォトンブレイズは初級の術だったような気がするが、これは燃費が悪すぎるような……。

 

「初めはそんなものです。術は何度も使うことで原素(エレス)の消費量を抑えられるほか、威力も上がります。また、使用回数が一定値を越えれば上級の術が取得できるようになります。時間はかかりますが、もっと楽に戦えるようになりますよ」

 

 その辺りは、ゲームと変わりないらしい。

 幸い、時間はたっぷりある。プロトス1の襲撃がいつ頃なのかわからないのが不安要素だが、それさえ何とかすればその後は1000年後だ。じっくり仕上げていけばいい。

 

 次にアイテムのページ。

 どうやらアップルグミを一つ持っているらしい。選択してみると、「取り出しますか?」というメッセージが表示された。「使用しますか?」ではないことを疑問に思いつつ、とりあえず「はい」を選んでみる。すると、私の手の中にアップルグミが現れた。それを画面に当ててみると、手の中から消えて再びアイテム一覧に表示される。

 なるほど、これは便利だ。ただ、何もないところから物を取り出す形になるので、誰かに見られないように注意する必要があるだろう。

 装備のページも似たようなものだった。

 武器に光線銃、固有に仮面が装備されており、それぞれ外すと実際に私の姿が変化した。外した装備はアイテム欄に送られるようだ。仮面はともかく、光線銃は普段の生活で明らかに邪魔になると思っていたので、外せることがわかってよかった。

 

 マップのページを開くと、中心に三角形が表示されていた。おそらく私の位置を表しているのだろう。

 すぐ近くには青い点が表示されている。触ってみると、その上に『神様』と表示された。自分だけではなく周囲にいる人も表示されるようだ。あと、拡大と縮小もできるらしい。

 

「この空間は何もない場所なので、貴女と私の位置しか表示されていません。実際には地形も確認できますし、建物の中でも有効です。エフィネアに着いたら試してみてください。縮小すればエフィネア全土を見られますが、確認できるのは行ったことのある場所のみです。座標も表示されますので、シャトルでの移動にも活用できますよ」

 

 そういうことだったのか。通りで何も表示されないわけだ。

 シャトルに関しては私が扱えるのかどうかわからないので、落ち着いたらコーネルさんに聞いてみることにしよう。

 

「また、レーダー機能もあります。今度は右のこめかみを押してみてもらえますか?」

 

 言われたように、右手でこめかみを押してみる。すると、視界の右上あたりに円形のレーダーが表示された。マップと同じように、三角形と青い点が表示されている。

 

「レーダーを表示させておくことで、戦闘中に敵を見失う心配がなくなります。また、敵意を持つ者は人間・魔物(モンスター)問わず赤く表示されるので、不意打ちにも対処できます。外を出歩く際は、常に表示させておくことをお勧めします」

「なんか、色々便利すぎて逆に申し訳なくなってきますね」

「無理なお願いを聞いて頂いているんですから、これくらいの支援は当然ですよ。それに、これで終わりではありません」

 

 そうだ、まだ「ショップ」という謎の項目があったのだった。

 早速開いてみると、見慣れた画面が表示された。ただ、その内容に驚愕する。

 

「ア、アップルグミが30000ガルド……?」

 

 価格があまりにも高い。細かい額までは覚えていないが、少なくとも3桁程度だったはずだ。

 

「それは、ゲームとの違いが関係しています。アップルグミなどの回復アイテムは、この世界に存在しません。しかし、このショップではそれが購入できる上、効果は『ゲームのまま』なんです」

「ということは、怪我をした人にアップルグミを食べさせたら、怪我が治ると?」

「そうですね。例えば、エリクシールなら瀕死の重傷だろうが瞬時に治ります。当然、その分お値段は跳ね上がっています」

 

 そう言われてエリクシールの価格を確認すると、驚異の1000万ガルド。この世界の物価はわからないが、そうやすやすと買える額ではないのは間違いない。

 

「グミを貴女が食べれば、原素(エレス)を回復することができます。むしろそのためのアイテムと言っても過言ではありません。もしもの時はそれを活用してください」

 

 最初に説明された「原素(エレス)を食事で補う」というのは、そういう意味でもあったらしい。

 

「ガルドは魔物(モンスター)を倒すと手に入るんですか?」

「はい。倒した時点で自動的に加算されます。あとは依頼ですね。こちらは強化ポイントも獲得できます」

「なるほど……」

 

 当面は魔物(モンスター)と戦いながら依頼をこなして、強化ポイントとガルドを稼ぐ必要がありそうだ。燃費の悪さからあまり無理はできないだろうから、コツコツ地道にやっていこう。

 ちなみに、貯めたガルドはアイテムと同じように取り出すことも可能らしい。ある意味では夢の機能と言えるかもしれない。

 

 

「以上で、私の説明は終了です。いかがでしたか?」

「正直まだ道筋は見えてませんが、これだけのお膳立てがあれば、きっと目標は達成できると思います」

 

 不安がないといえば嘘になる。だが、それよりもこれからに対する期待の気持ちの方が強かった。

 

「そう言っていただけて安心しました。……最後に改めてお礼を。私の我儘に付き合って頂いて、本当にありがとうございます。これからも、貴女のことを見守っていますね」

「こちらこそ、こんなチャンスを与えてもらって感謝してます。死なないように頑張りますので、応援していてください」

「ええ、もちろんです」

 

 そろそろ、神様ともお別れらしい。おそらくもう会うことはないのだろう。

 正直に言うと少し困った(ひと)だったが、同じ思いを持つ同志とも言える存在だ。きっと忘れない。

 

「健闘をお祈りしています。どうか、お元気で」

 

 その言葉を聞いたのを最後に、私の意識は再び途切れた。

 いよいよ、私の挑戦がスタートするのだ。




コーネル「おはよう、シータ君。おや、仮面と銃はどこに?」
シータ「あ、えっと、これは……」

目覚めたあとこんな一コマがあったとかなかったとか。

アイテムの価格は結構適当です。エクスカリバーのサブイベントにおいて、騎士学校の奨学金が1000ガルド、国宝級の剣が120万ガルドということなので、それを一応参考にはしています。

今回でプロローグが終わり、次回からようやく本編です。

5/3追記
ミニマップ→レーダーに変更

2020/5/15
あまりにも今更ですが、ライフボトルをエリクシールに変更しました。


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1000年前〜
初めてのエフィネア


前話を投稿したら、一晩でお気に入り登録数が20台から一気に50を超えてひっくり返りそうになりました。
登録してくださった皆さん、ありがとうございます。


 神様との邂逅を経て、私は再び目覚めた。

 装備を外したままになっていたことを忘れていたため、コーネルさんに不思議がられて慌てることになってしまった。

 仮面は外したで済むが、銃はそうもいかないので、実は粒子化できるのだと説明してなんとか誤魔化した。あながち嘘というわけでもない。

 銃は必要に応じて装備すればいいとして、仮面は見るからに怪しいのでこれからはつけない方向でいこう。どうでもいいことかもしれないが、素顔は割と可愛いと思う。

 シャトルは現在エフィネア上空を飛行しており、あとは着陸を待つのみとなっていた。

 

「ラムダ、シータ君。もうすぐシャトルを着陸させる。シートに座ってじっとしていてくれ」

「……」

「わかりました」

 

 着陸の方法などを聞いてみたいと思っていたが、今は時間がなさそうだった。

 ちなみに、普段の移動にシャトルを使う気はない。空を飛ぶ機械など目立って仕方ないからだ。操縦方法を知りたいのは、緊急時の移動手段として使えるようにしておきたいためである。

 1000年後を迎えるまで、できるだけ世界に影響を与えるべきではないと考えている。もしかしたら、ほんの少しのことで未来が変わってしまうかもしれないのだ。そうなってしまっては元も子もない。なるべく目立つことは避けようと思う。

 そんなことを考えている間も、シャトルは徐々に高度を下げていく。

 ふと横を見てみると、ラムダが不安そうに座席にしがみついていた。私の視線に気がついたのか、こちらに振り向く。笑顔を向けると、ぎこちないながらも笑い返してくれた。些細なことだが、嬉しく思う。

 そうこうしているうちに、シャトルが着陸態勢に入ったらしい。元の世界の飛行機とは違い垂直に降下しているようだ。

 原作で初めてフォドラを訪れた際、シャトルは制御不能に陥り墜落した。そのため少し心配だったのだが、杞憂だったようだ。

 今思えば、あのシャトルは何百年も放置されていたものだったのだろう。いかにパスカルやポアソンが天才とはいえ、限られた時間では完全に整備することができなかったのかもしれない。

 数秒後、軽い衝撃と共にシャトルは静止した。無事着陸に成功したようだ。

 

 搭乗口を開き、外に出る。記念すべきエフィネアでの最初の一歩だ。

 シャトルの周囲には青々とした緑が広がっている。

 この時代のことはよくわからないが、ウィンドル・ストラタ・フェンデルの三国は既に存在していたはずだ。景色や気候から考えて、ここはウィンドルの領土と考えて問題ないだろう。

 まずは、ウィンドルのどのあたりなのかを把握しておく必要がある。コーネルさんに「周辺を探ってきます」と告げ、緑が生い茂る森へと足を踏み入れた。

 マップを開いて、二人の位置が表示されていることを確認する。これでシャトルが見えないところまで行っても、これを目印に戻って来られるはずだ。

 次にマップを縮小し、エフィネア全体を表示する。陸地の形が辛うじてわかる程度で、薄暗い闇に覆われているような状態だった。

 私の周りだけがスポットライトで照らされたように明るくなっており、移動するとその範囲が広がっていく。「一度行った場所は確認できる」というのはこういうことらしい。

 微かに見える地形から、ウィンドルの東にいることはわかった。原作のワールドマップを完璧に覚えているわけではないが、北に進めばラント周辺に行けるはずだ。とりあえず真っ直ぐ北上してみよう。

 こんな見通しの悪い場所ではどこに何がいるのかも分からないので、レーダーを起動しておくのを忘れない。

 

「……ん?」

 

 そこで、私から少し離れた位置に赤い点があることに気づく。次の瞬間、木陰から小型の狼のような魔物(モンスター)が飛び出してきた。

 思わぬ形で、エフィネアでの初めての戦闘が始まる。

 

「グルル……」

 

 魔物(モンスター)——タイニーウルフは、私を睨みつけながらジリジリと距離を詰めてくる。攻撃のタイミングを計っているのだろうか、すぐに仕掛けてくる様子はない。

 ならばこちらから仕掛けようと銃を装備する。念のため原素(エレス)残量も確認したが、まだまだ余裕があった。

 右腕を突き出して狙いを定める。そこで初めて、腕が震えていることに気づいた。魔物(モンスター)と対峙するという、初めての経験に緊張しているのかもしれない。それを抑えるように左手で右腕を掴みながら、意を決して光線を放つ。

 

「ギャンッ!?」

 

 光線は見事胴体に命中した。タイニーウルフは痛みにのたうち回る。その様に少し罪悪感を覚えるが、やらなければやられるのだと自分に言い聞かせる。

 とどめを刺すべく再び意識を集中し、唯一の攻撃術を発動させる。

 

「フォトンブレイズ!」

 

 火球がタイニーウルフを包み込み、炸裂する。黒焦げになったタイニーウルフは、倒れたままピクリとも動かない。なんとか倒せたようだ。

 

「ふう……」

 

 レーダーで付近に何もいないことを確認し、気持ちを落ち着けるために大きく息を吐く。

 ごく普通の日本人だった私には、当然ながら戦いの経験など全くない。一匹だけだったから良かったものの、もし相手が複数だったなら……と想像してゾッとする。

 これからは必ず周囲に気を配るように心がけよう。

 

 気を取り直して北上を開始する。なるべく音を立てず、魔物(モンスター)に遭遇しないように気をつけながら進んでいく。やがて、開けた場所に出た。

 マップで現在地を確認する。どうやら、人間によって整備された街道のようだ。ここまでくれば街へ行くことは容易だろう。コーネルさんとラムダをいつまでも待たせるわけにはいかないので、一旦引き返すことにした。

 

 

 シャトルの近くまで戻ってくると、私の姿を見つけたコーネルさんが近寄ってくる。その表情を見るに、やはり心配させてしまったらしい。

 

「無事だったか。帰りが遅いものだから心配したぞ」

「心配をおかけしてすみません。魔物(モンスター)に遭遇してしまったもので」

「なんと。……うむ、どうやら怪我はないようだな」

「はい、なんとか。それから、付近に街道を見つけました。それを辿れば街へ行けるはずです」

 

 それから、今後の方針について話し合うことになった。

 森の中には魔物(モンスター)が生息しているので、このままシャトルに残るという選択肢はない。となると街に移住する必要があるのだが、それにも問題がある。プロトス1(ヘイス)の存在だ。

 コーネルさんの死を回避したとはいえ、「ラムダがエフィネアに逃亡した」という結果は変わっていない。いつになるのかはわからないが、彼女はいずれやってくるだろう。その時、街に住んでいると無関係の人たちを巻き込んでしまうかもしれない。

 そんな私の考えをコーネルさんに伝えるが、彼の考えは少し違っていたようだ。

 

「そのプロトス1(ヘイス)というヒューマノイドは、エメロード君がこれから製作するのだろう? それには相応の期間を要するはずだ」

「ヒューマノイドはどのくらいで出来上がるものなんですか?」

「新しく製作するとしても、汎用のものならば一ヶ月もかからない。だが君の話を聞く限り、プロトス1(ヘイス)は従来のヒューマノイドとは一線を画すものらしい。推測だが、最低でも半年はかかると見ていいだろう」

「つまり、その間は街にいても問題はないと」

「そういうことになるな」

 

 他でもないヒューマノイド研究の第一人者の言葉だ。私が素人意見を挟む余地はない。

 当面は近くの街に滞在し、プロトス1(ヘイス)の襲撃に備えるということで話はまとまった。

 

「ところで、シャトルはどうするんですか?」

「このままここに置いておくつもりだが、何かあるのかね?」

「ええと、私も操縦の仕方を知っておきたいと思ってるので、なくなると困るな、と」

「そういうことか。それなら心配は無用だ。なにも破棄するわけではないのだからな」

 

 たまに点検にも来るつもりだそうだ。その時に整備の仕方や、操縦の方法も少しずつ教えてもらうことにしよう。いつかきっと役に立つはずだ。

 

 方針が決まったので、早速出発することになった。私が先導する形で森の中を街道に向けて進んでいく。

 私一人ならともかく、二人を守りながら戦うのは非常に困難……いや、私の経験の無さから考えて不可能と言っていい。万が一囲まれでもしたらひとたまりもないだろう。故に、魔物(モンスター)との遭遇は絶対に避けなければならなかった。

 先ほど森を歩いた時とは全く違った緊張感が私を襲う。自分以外の命を背負っていると思うと、恐ろしくて仕方ない。タイニーウルフとの戦いの方がよほど楽だった。

 ビクビクしながら全力で魔物(モンスター)を避け、街道にたどり着く頃には精神的に疲れ切っていた。

 

「はあぁ……」

 

 深いため息をつく。不思議がられるかもしれないが、そんなことを考えている余裕もなかった。

 一旦休憩させてもらうことにして、木陰にへたり込む。そんな私の元へラムダが近づいてきた。なんだろうか?

 

「……」

 

 頭を撫でられた。え、本当になんだこれ?

 私が困惑していると、コーネルさんが可笑しそうに笑い出した。

 

「ははは。ラムダ、私の真似をしているのか?」

「真似?」

「ああ。よくそうして頭を撫でながら褒めてやっていたのでな。いつの間にか覚えたのだろう」

「ああ、なるほど……」

 

 そういえば、そんな場面もあったかもしれない。

 私がコーネルさんと話している最中も、ラムダはひたすら私の頭を撫で続けていた。くすぐったいが、どこか気持ち良くもある。

 

「ありがとうございます、ラムダ」

 

 礼を言いながら、私もラムダの頭を撫でる。お互いの頭を撫で合うという妙な光景だが気にしない。

 ラムダは一瞬驚いたような顔をしたが、すぐに笑顔を浮かべた。気のせいかもしれないが、ぎこちなさが無くなっているような気がした。

 

 休憩を終え、移動を再開する。

 街道に出た後は道なりに進むだけだった。原作のように魔物(モンスター)がうろついているということがないのも助かる。

 その道すがら、コーネルさんにあるお願いをする。

 

「私に街の人間との会話を任せたい?」

「はい。私もラムダも子供にしか見えませんから、その方が不自然じゃないと思いまして」

 

 初対面の相手に抱く印象は、やはり見た目によるところが大きい。私が表立って話すよりも、コーネルさんが話した方が与える印象が良いものになると考えたのだ。

 

「なるほど。わかった、そういうことなら任されよう」

「お願いします」

 

 ここからは、コーネルさんに先導してもらうことにしよう。

 街道をそのまま進んでいくと、左右に道が分かれていた。突き当たりに看板がある。

 

「ふむ……左に進めば『ラント』という街があるようだ」

「……! 行きましょう」

 

 この時代においても、ラントという地名は存在していたようだ。アスベルやアストンの先祖が治めているということだろう。

 私にとっても馴染み深い街なので、最初の拠点とするには申し分ない。後は、滞在できることを祈るのみである。




一旦区切ります。

マップの描写については、他作品ですが「真・三国無双8」を参考にしています。
ヒューマノイドの製作期間については原作で特に言及されていないので、大まかに設定させてもらいました。


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つかの間の平穏

 ラントの入り口には男性が二人立っていた。槍を携えていることから、門番なのだろうと推察できる。

 怪しまれたりしないだろうか、許可証がどうだとか言われないかと不安だったが、彼らは友好的に話しかけてくれた。

 

「おや、見ない顔だな。旅行かい?」

「ああ。しばらく滞在できる場所を探しているのだが、宿屋などはないだろうか?」

 

 コーネルさんと相談した結果、私たちは家族で旅をしていることになっていた。旅の途中で、小休止のためにこの街を訪れたという体だ。

 

「そうか。なら、領主様のところに行ってみるといい。宿屋はないんだが、確か空き家ならあったはずだ。なあ?」

「んー……お、そういやあったな。なんなら、俺が案内しようか?」

「それはありがたいが、構わないのかね?」

「ああ。どうせ暇なんでな」

 

 門番がそんなことでいいのだろうかと思わないでもないが、私たちにとっては渡りに船だった。

 原作の時代では、ラントは他国との国境に位置していることから紛争が絶えないとされていたのだが、今は違うということか。もしくは各国がまだ発展途上のため、国境紛争そのものが発生していないのかもしれない。

 ちなみにラムダは、門番の姿を見つけてからずっと私の影に隠れている。彼の中では、コーネルさん以外の人間は恐怖の対象でしかないのだろう。ラムダが今まで受けてきた扱いを思えば無理もないことだ。

 それでも、いずれは他の人間とも仲良くなってほしいと思っている。すぐにとはいかないだろうが、少しずつ克服してもらいたい。人間の優しさを知ることが、ラムダの未来のためになるのだから。

 

「ならば、お言葉に甘えるとしよう」

「よし、決まりだな。じゃあ、付いてきてくれ」

 

 門番さんの後ろに続いて、ラントに入る。

 門から続く道の右手には商店が並んでいる。その先は左右に道が分かれており、左の先には別の門、右にはアーチ状の小さな橋がかかっている。奥に見える巨大な風車が、風を受けてくるくると回っていた。

 街の構造は、私の記憶にあるものとそう変わらないようだ。画面の中で見ていた風景が目の前に広がっていると思うと、感慨深いものがある。

 橋を渡って右に進むと、一際立派な屋敷が見えてくる。あれが領主邸のようだ。1000年前ということもあり、こちらは流石に記憶にあるものとは異なる。

 

「ちょっとここで待っててくれ」

 

 そう言って門番さんが一人領主邸に入っていき、それほど待たないうちに戻ってきた。

 

「中で話を聞くそうだ。俺は持ち場に戻るから、あんた達だけで入ってくれ」

「わざわざすまないな。礼を言う」

「なに、大したことはしていないさ」

 

 門番さんはそう告げると、「じゃあな」と手を振りながら去っていく。親切な良い人だった。

 

 領主邸に入ると、初老の男性が私たちを迎え入れてくれた。その服装からして執事なのだろう。もしかすると、フレデリックやシェリアの先祖だったりするのかもしれない。

 私たちは応接間と思われる部屋に通された。ここで話を聞くとのことだ。

 

「しばらく滞在したいとのことですが、どの程度の期間を想定しておられますか?」

「半年ほど住まわせてもらいたいと考えている。可能だろうか?」

「ええ、問題ありません。ただ、無償というわけには参りませんので、料金はいくらか頂くことになります。宜しいですか?」

「ああ、勿論だ」

 

 とんとん拍子に話が進んでいく。

 こちらのことは特に聞かれないが、身分とか調べなくていいんだろうか。まあ、聞かれても答えられないことばかりなので、こちらとしては助かるのだが。ある程度の「設定」は考えているとはいえ、詳しく聞かれるとボロが出そうだ。

 そんなことを考えていると、いつの間にやら話はまとまっていたようだ。北門の近くに空き家があるとのことで、そこを提供してもらえることになった。

 執事さんに礼を告げて、領主邸を後にする。

 そういえば先ほど料金がどうとか言われていたが、お金は大丈夫なんだろうか。そう思って聞いてみると、

 

「ああ、問題ない。初めからシャトルで逃げるつもりだったのでな。持てるものは全て持ってきている」

 

 とのことだった。いざという時は私が依頼などで稼ごうと思っていたが、そこは心配なかったようだ。

 フォドラでもガルドが通貨として利用されていたらしい。……いや、フォドラとエフィネアの関係からして、元々フォドラで使われていたものがエフィネアでも流通するようになったと考えるべきか。

 

 教えてもらった場所はそれほど離れていなかったので、すぐにたどり着いた。北門からほど近い位置にある家。ここが今日からしばらく私たちの拠点となる。

 

 

 コーネルさんには、街でラムダと共に過ごしながら話し方を教えてもらうことにした。

 てっきり憑依させているヒューマノイドに発声機能がないのかと思っていたが、そうではなかったらしい。人間の言葉そのものは理解できているので、そう遠くないうちに話せるようになるはずだ。

 

 一方私は、術の取得・強化とアイテムの確保のため、そして戦闘に慣れておくために魔物(モンスター)と戦うことにした。

 というわけで早速、ラントの裏山に来ていた。道中には巨大な蜂の魔物(モンスター)——ビーと、つぼみの状態のたんぽぽがそのまま巨大化したような魔物(モンスター)——プリツボミが数体。それらを倒しながら、頂上を目指すことにしよう。

 それと、戦闘による原素(エレス)の消費を確認するのを忘れていたので、こちらも調べておくつもりだ。また、敵の攻撃を避けられるかどうかも試そうと思う。少々危険だが、慣れておかないと後々困ると思ったのだ。

 

 敵を誘うため、足音を隠すこともなく山道を登る。すると、こちらに気づいたビーが一直線に向かってきた。

 ギリギリまで引きつけ、敢えて攻撃させる。まっすぐに突き出される鋭い針を、横にステップしてかわす。自分でも驚くほど冷静に攻撃を読むことができた。

 隙を晒して無防備になったビーに向けて、至近距離から光線を放つ。ビーは体液を撒き散らしながら地面に落ち、動かなくなった。少々グロテスクな光景だ。

 原素(エレス)残量を確認すると、3%ほど減っていた。これだけではまだなんとも言えない。

 戦闘そのものに関しては、初戦闘に比べれば随分と良くなったと思う。タイニーウルフとの戦いを経験したことで、少しは度胸がついたのかも知れない。

 

 再び山道を進む。次に襲ってきたのはプリツボミだ。ピョコピョコと跳ねるように近づいてくる様は可愛らしいとも言えるが、油断すれば大怪我では済まない。これでも魔物(モンスター)なのだ。

 プリツボミが長いリーチを持つ葉っぱを振り回してくる。横合いから殴りつけるような攻撃を、今度は後ろに飛ぶことでかわした。着地と同時に光線を放つが、かわされてしまった。その後も何度か光線を放ったが、全て避けられてしまった。胴体が小さいため当てにくい。

 ならば、術に頼るまで。ただ、フォトンブレイズは発動に少しラグがあるので、そのまま使っても同じようにかわされてしまう。少し工夫が必要だ。

 プリツボミが避ける方向を注視しながら、再び光線を放つ。何度か同じことを繰り返すうちに、方向をある程度読めるようになってきた。これならいけそうだ。

 葉っぱの叩きつけをかわし、また光線を放つ。プリツボミがそれをかわそうと跳ねた瞬間、避ける方向を読んで術を放つ。

 

「フォトンブレイズ!」

 

 私の読みは当たり、プリツボミは自ら火球に飛び込む形となった。その高温に耐えられるはずもなく、プリツボミは黒焦げになって沈黙する。上手くいってホッとしたが、かなり時間をかけてしまった。

 原素(エレス)残量は、先ほど見た時からさらに18%減っていた。術の消費を除けば8%。明らかに銃の無駄撃ちが響いている。もっと精度を高めなくてはならないだろう。または、相手の足を止める術を取得するというのもありかもしれない。

 

 その後も何度か戦闘を繰り返し、山頂にたどり着いた。

 そこに広がるのは、一面の花畑。実に壮観な眺めだ。確か、全ての原素(エレス)が集まる場所、なのだったか。

 誓いの木と呼ばれていた大木は流石に存在せず、代わりに小さな木がある。これから1000年近い時間をかけて、成長していくのだろう。

 なんとなく、崖の下を覗いてみる。この高さはどう見ても落ちればただではすまない。ソフィはともかく、アスベルとリチャードはよく無事だったものだ。

 さて、そろそろ戻るとしよう。あまり心配はかけられない。

 

 

 それから、短くも平和な日々が始まった。

 ラントの人々は皆優しく、突然やってきた私たちにも親切に接してくれた。

 近所の子供と遊ぶこともある。ラムダは初め怯えた様子で隠れていたが、少しずつ打ち解け、次第に一緒に遊ぶようになった。

 また、ラムダは少しずつ喋れるようになってきた。片言ながら会話も可能だ。人に怯えることも徐々に少なくなり、笑顔も増えた。コーネルさんも満足そうだ。完全にトラウマを消し去るにはまだ時間がかかるだろうが、順調と言っていいだろう。

 

 私の方はというと、裏山や時折北ラント道に現れる魔物(モンスター)を倒しつつ、依頼もこなしていた。

 ラントには宿屋が存在しないため、依頼は領主邸が取りまとめている。余談だが、日本でいう役所の機能も果たしているようだ。

 依頼は品物を届けるだけではなく、魔物(モンスター)退治や護衛など多岐にわたる。それを生業とする、いわゆる冒険者のような人たちもいるらしい。この辺りはゲームとは少し違うようだ。

 依頼を独占してしまうと困る人がいる。元々そんなことをするつもりはなかったが、予め知っておけたのは良かったと思う。

 私が受ける依頼は主に魔物(モンスター)退治……と言いたいところだが、実際は魔物(モンスター)のドロップアイテムが依頼にあれば納品するという形だった。

 子供が魔物(モンスター)退治の依頼を受けることを禁止されているわけではないが、非常識であることくらいはわかるし、何より目立つ。依頼品を納めるのであれば、おつかいとして扱われるので問題はなかった。

 

 コーネルさんやラムダ、街の人たちと交流しつつ、ラント周辺の魔物(モンスター)を倒しに出かけ、たまに依頼品を納める。そんな穏やか日々は、あっという間に過ぎていった。




3/14追記
裏山の花畑に関して記憶違いをしていたので修正しました。


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プロトス1襲来

どこもかしこも拙いんですが、戦闘描写は特に苦手です。
少し雑かもしれませんが、ご容赦を……。

4/17追記
どうにもしっくりこなかったので、今更ながらサブタイトル変更しました。


 ラントで暮らし始めてからしばらく経ったある日、私はシャトルの点検のため、コーネルさんと共に森を訪れていた。

 ラムダは家で留守番だ。住人とも打ち解けてきたので、わざわざ危険な森に連れ出すことはないと判断した。

 整備を手伝いつつ、コーネルさんに色々と教わっている。

 その最中に確認したいことができたので、作業が一段落したのを見計らって聞いてみた。

 

「フォドラの人たちは、普段からフォドラとエフィネアを行き来してたんですか?」

「そうだな。まあ、あまり多くはないがね。私も今回が初めてだ」

「へえ、初めて……って、え?」

 

 エフィネアとフォドラの間って、宇宙空間みたいなものなんじゃ……。

 元の世界で考えると、スペースシャトルで月に向かうようなものだ。所要時間からしてそれよりは遥かに近いのだろうが、ぶっつけ本番だったのかと思うと今更ながら怖くなってくる。

 

「よく無事にエフィネアまで飛べましたね……」

「なに、離着陸以外は基本的に自動操縦だ。それほど難しいものではないよ」

「そうなんですか?」

「ああ。君も言っていただろう? ラムダは一人でエフィネアへ向かったと」

「あ、そういえば……」

 

 言われてみれば、原作のラムダはたった一人でエフィネアにたどり着いていた。その後墜落してしまったのは、彼がシャトルを操縦できなかったからと考えれば納得できる。

 

「ところで、なぜそんなことを聞いてきたのだね?」

「っと、そうでした。エフィネアにもシャトルの発着場があるのかな、と思ったんです。場所を知っていれば、プロトス1(ヘイス)がこちらにやってきた時に察知できますから」

 

 いくらプロトス1(ヘイス)が他に類を見ない優れたヒューマノイドとはいえ、単身でエフィネアへ渡れるわけではない。こちらに来る際は必ずシャトルを使うはずだ。

 着陸地点を把握できれば、僅かとはいえ準備する時間が稼げる。

 プロトス1(ヘイス)は、間違いなくラント周辺の魔物(モンスター)とは比べ物にならない強敵だ。戦闘には万全の態勢で臨む必要がある。

 

「なるほど。それならば、シャトルに登録されていた座標がそうなのかもしれん」

「座標はわかるんですか?」

「シャトルを起動すれば確認できる。ただ、私はエフィネアの地理に詳しくないのでな。すまないが、場所まではわからない」

 

 コーネルさんは申し訳なさそうにしているが、全く問題はない。それどころか僥倖だ。

 座標さえわかれば、私は位置を特定できる。発着場である保証はないが、なにかしらフォドラに関連する場所であるのは間違いない。

 それを伝えると、コーネルさんは驚くと同時に感心していた。

 

「ほう、そのような機能まであるのか。流石はエメロード君、と言ったところだな」

 

 思わぬところでエメロードの株が上がった。殺されかけたのに、と思わないでもないが、コーネルさんらしいとも言える。

 彼女は関係ないとは言い出しにくいし、なにより「神様からもらった力なんです」などと言えるはずもないので、そういうことにしておいた。

 コーネルさんが操縦席に移動し、シャトルを起動させる。ブーンという低い音が響き、機器が次々と点灯していく。そのうちの一つに、数字が表示されたものがあった。これが座標なのだろう。

 すぐにでも調べたいところだったが、コーネルさんの前ではそうもいかない。後で調べておくと告げて、一旦話を切り上げることにした。

 

 点検を終えてラントに戻った後、私は裏山に来ていた。ここなら誰かに見られる心配はない。

 マップを起動してエフィネア全体を表示する。未だに大半が暗い状態だが、座標を当てはめるだけなら問題はない。

 指を当てるとその位置の座標が表示され、動かせば数値が変わる。それを注視しながら、見せてもらった座標に合わせていく。

 やがて、表示された数値が完全に一致した。

 

「これは……当たりみたいですね」

 

 私が指差していたのは、ここから少し北にある海辺の洞窟。そう、原作でシャトルが格納されていた場所だ。

 魔物(モンスター)を倒すという目的は裏山や街道で十分果たせていたので、わざわざそこまでは足を運んでいなかった。

 これは偶然ではないだろう。しかし、万が一ということもある。調べにいく必要がありそうだ。

 

 

 翌日、私は海辺の洞窟を訪れていた。

 北側の入り口から洞窟に侵入する。確か、こちらから進んだ方が目的の場所は近かったはずだ。

 人の手が入っていないこの洞窟は、当然魔物(モンスター)の棲家となっている。

 水辺ということで、生息している魔物(モンスター)も水属性のものが多い。火属性であるフォトンブレイズの相性が悪いのは言うまでもない。

 光線なら属性は関係ないが、それだけでは心許ないので、新たに術を取得しておいた。

 少し広い空間に出たところで、前方に緑色の不気味な魔物(モンスター)——グリーンスライムが現れる。

 どこぞのマスコット的な存在とは違う、ギザギザの歯がむき出しになった口のみが存在する緑色の塊。はっきり言ってかなり気持ち悪い。

 術の試し撃ちも兼ねて、さっさと倒してしまおう。

 

「クールスレット!」

 

 冷気の帯がグリーンスライムを包み込み、カチカチに凍らせる。そこへすかさず光線を放つと、グリーンスライムはバラバラに砕け散った。狙い通りだ。

 水を割ることはできないが、氷ならば可能。そんな単純な理屈だったが、上手くいって何よりだ。

 少し離れた位置には、ヒトデのような魔物(モンスター)——カントリースターがいる。すばしっこく動き回るので、狙いを定めにくい厄介な相手だ。

 ならば、動き回れなくしてやればいい。

 

「バインドゴースト!」

 

 カントリースターの足元から鎖が出現し、その自慢の足に絡みつく。表情などわかるはずもないが、慌てているよう見える。

 動けないカントリースターに対して、至近距離から光線を数発撃ち込む。少々えげつないかもしれないが、気にしてはいられない。

 この方法をとれば安全に戦えるが、あっという間に原素(エレス)がなくなってしまう。使うのはこういう厄介な相手と戦う時だけだ。

 残りの魔物(モンスター)も片付けて、さらに洞窟の奥へと進む。やがて、目的の場所にたどり着いた。

 見上げるほどの高い岩壁。この向こうに隠し部屋があり、そこにつながる道を出現させるスイッチがどこかにあるはずだ。

 ぺたぺたと岩壁を入念に調べる。人が触れられない高さにはないだろうが、それでも範囲は広い。なかなか時間がかかりそうだった。

 

 数十分か、あるいは数時間か。時間の感覚がわからなくなってきた頃、それは見つかった。

 一見するとただの岩肌だが、よく見ると四角く細い線が走っている。これを押せば隠し部屋が出現するはずだが、その必要はない。

 洞窟近辺で待ち構えていれば、先手を取れる。それがわかっただけで十分だ。

 

 

 それから数ヶ月が経ち、ラントでの穏やかな生活も終わりを迎えようとしていた。

 荷物をまとめ、出立の準備を整える。

 コーネルさんとラムダにはしばらくシャトルで待機してもらい、私は海辺の洞窟付近でプロトス1(ヘイス)を待ち構えるつもりだ。

 彼女を退けた後のことは、またその時に考えようと思う。

 翌日、世話になった人たちに感謝と別れを告げ、私たちはラントを後にした。

 

 プロトス1(ヘイス)の到着を、食事や睡眠も取らずにただひたすらに待つ。

 人間の身であれば耐えきれなかっただろうが、今の私はヒューマノイドだ。問題はない。

 もちろん原素(エレス)は消費するが、戦闘の前にアップルグミを食べれば済む話だ。大一番に出し惜しみはしていられない。

 そして数日後、ついにその日がやってきた。

 

「いよいよですか」

 

 上空を飛行するシャトルを見上げながら呟く。

 海辺の洞窟に向かい、隠し部屋の前で待ち構える。

 プロトス1(ヘイス)の戦闘スタイルは接近戦。近寄らせなければいい、と言葉にするのは簡単だが、実行するのは容易ではない。そのため、保険をかけておく。

 この日のためにストックしておいたアップルグミを二つ取り出し、まず一つを口に放り込んで原素(エレス)を回復。

 そして、自身に補助術をかける。アサルトサインで攻撃力を、ランパートサインで防御力を、インサイトで動体視力を強化し、もう一つアップルグミを食べて原素(エレス)の消費を帳消しにする。これで万全だ。

 じっと岩壁を見つめ続ける。初めて戦った時とは比べ物にならない緊張感が私を襲う。

 そして、その時が訪れた。地鳴りのような音を立てて岩壁が動き出す。その中から、紫の髪を二つに結わえた少女——プロトス1(ヘイス)が現れる。

 だがここで、私の予想していない事態が起こった。

 彼女は私を見て不思議そうに首を傾げた後、あろうことか私を素通りしたのだ。

 慌てて呼び止めようとしたが、それは叶わなかった。

 

「っ、待ってくださ——ぐっ!?」

 

 背後から何者かに攻撃される。幸い、ランパートサインをかけていたことでダメージは大きくない。

 ばっと後ろを振り返ると、そこには二体のヒューマノイド——女性型のウェリテスと、男性型のケントゥリオがいた。

 何故ここに? そう思っていると、ケントゥリオが口を開く。

 

「目標発見。破壊する」

 

 無機質な声を発すると同時に、私に向けて突進してくる。

 一旦思考を切り、咄嗟に光線を放つ。しかし避けられ、接近を許してしまった。

 繰り出される斬撃を見切ってなんとかかわすが、斬撃の隙を補うようにウェリテスの光線が飛んでくる。

 倒されはしないが、このままでは反撃できない。一旦引き離さなくては。

 

「ヒートレッド!」

 

 術を発動し、私の周囲に高熱を発生させる。

 危険と判断したのか、ケントゥリオは後ろに飛ぶことでそれをかわした。

 すかさず、着地の隙を狙ってバインドゴーストを発動する。足を絡め取られたケントゥリオは抜け出そうともがくが、そうはさせない。

 素早く近づき、至近距離から銃を連射する。あちこちに風穴を開けられたケントゥリオは、倒れて動かなくなった。

 次はウェリテスだ。こちらから距離を取り光線で攻撃してくるが、ケントゥリオとの連携がなければ恐るるに足らない。

 光線を避けつつ、攻撃後の隙を狙いフォトンブレイズを放つ。

 ダメージを受けて動きが鈍ったところへバインドゴースト。あとは先ほどの繰り返しだ。

 ウェリテスが沈黙したのを確認し、周囲を見る。すでにプロトス1(ヘイス)の姿はない。

 急がなければラムダが危ない。すぐさま駆け出した。

 

「間に合ってください……!」

 

 

 シャトルにたどり着いた私の目に飛び込んできたのは、本来の黒い球体となったラムダの姿だった。

 纏うオーラはとても弱々しく、今にも消え入りそうだ。

 対峙しているプロトス1(ヘイス)の姿が白く輝き、光へと変わっていく。対消滅機能を発動したのだろう。

 だが、まだ間に合う。

 

「レストレスソード!」

 

 宙に現れたいくつもの剣が、無防備なプロトス1(ヘイス)へ殺到する。

 対消滅に移行していた彼女は反応することもできず、全ての剣をその身に受けた。だが、それでも倒れることはない。

 私の攻撃程度では、彼女を完全に破壊することはできないことはわかっている。故に、全力で叩く。

 銃を、術を、原素(エレス)の許す限り撃ち続ける。そして……。

 

「戦闘続行、不能……撤退、します」

 

 私の攻撃でボロボロになったプロトス1(ヘイス)が去っていく。この後、ラントの裏山で眠りにつくはずだ。

 なんとか危機を退けることができた。しかし、私の心が晴れることはない。

 一歩間違えれば、ラムダだけではなくプロトス1(ヘイス)——ソフィまでもがこの世界からいなくなってしまっていた。それも、私のせい(・・・・)で。

 自分の予測の甘さを思い知らされ、私はしばらくその場を動くことができなかった。




インサイトに関しては、ゲーム中ではヒットした後の判定に影響するものでしたが、ここでは相手の動きを読むことで命中率を上げるという解釈になっています。

レストレスソードはゲームとは異なり、ターゲットに全ての剣が飛ぶことにしました。
原作通りだと使い勝手悪すぎますので……。かっこいいんですけどね。


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ラムダ復活へ向けて

随分と時間がかかってしまいました。そしてその割にあんまり話が進んでません。

この間にお気に入りが80突破、評価バーも空き3になりました。
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 私のせいだと思ったのには、もちろん根拠がある。

 ケントゥリオは私を「目標」と呼んだ。それはつまり、あの二体に私の破壊を命じた何者かがいるということだ。そして、フォドラで私が接した人間はコーネルさんを除けばただ一人、エメロードしかいない。

 そこに思い至った時点で、私は自責の念にかられずにはいられなかった。

 ラムダを消し去るために作り出したヒューマノイドが裏切り、さらにあろうことかコーネルさんをも連れ去ってしまった。エメロードが私に対してどういう感情を抱いたかは考えるまでもない。

 彼女がどういった行動に出るか、予測することは容易だった。にも関わらず、私はプロトス1(ヘイス)がラムダと接触することを許してしまった。あと少しで何もかも台無しになるところだったのだ。

 後悔がとめどなく押し寄せ、ああしていれば、こうしていればと思考がループしてしまう。

 

「シータ君、大丈夫かね?」

「……!」

 

 名前を呼ばれ、ハッと我に返る。見れば、いつの間にかコーネルさんがすぐそばまで来ていた。それにも気づけないほど動揺していたようだ。

 ……過ぎたことを悔やんでいても仕方ない。それに、ラムダとソフィの消滅という最悪の事態は避けられたのだ。少し悲観的になり過ぎていた。

 心配するコーネルさんに大丈夫だと告げ、少し落ち着くのを待ってからここまでの経緯を話した。こうなってしまった原因が、私にあることも含めて。

 だが、コーネルさんは私を責めたりはしなかった。

 

「エメロード君の暴走を招いたのは私の責任でもある。君一人で背負いこむことはない」

「……ありがとうございます」

 

 落ち着いたとはいえ、私のせいだという思いがなくなったわけではない。なので全面的に受け入れることはできなかったが、その言葉が私の心を軽くしてくれたのは確かだ。

 私としては、エメロードの行動に関してコーネルさんに非はないと思っている。しかし、それを言うことにあまり意味はない。私がそうであるように、彼もそれを認めようとはしないだろう。きっと堂々巡りに陥るだけだ。

 

 今度はコーネルさんから、ラムダとプロトス1(ヘイス)の戦闘について話を聞く。なんでも、木陰に隠れて一部始終を見ていたらしい。

 とても戦いと呼べるものではなかった、とコーネルさんは悲しげに語る。その内容は、私の想像とそう変わらないものだった。

 ラムダはプロトス1(ヘイス)の動きに翻弄され、一方的に攻撃され続けていたそうだ。ヒューマノイドが破壊された後はあの影の魔物(モンスター)のような姿になって戦っていたらしいが、それも長くは保たなかったようだ。

 改めて周りを見回すと、すぐ近くにヒューマノイドが倒れているのが見えた。近づくまでもなく、酷く損傷しているのがわかる。コーネルさんの方へ振り返ると、彼はゆっくりと首を横に振った。修復は困難、ということだろう。

 プロトス1(ヘイス)の接近を許せばこうなることはわかりきっていたことだ。なにせ、ラムダにとってはこれが初めての戦いだったのだから。

 ラムダを守るため。そう思って彼を戦いから遠ざけていたが、結果はこの有様だ。この先もこういったことが起こることは十分あり得る。考えを改める必要があるだろう。

 

 ラムダを見つめる。このまま消えてしまうのではないかという錯覚すら覚えるほど、放つ光は弱々しいものだった。

 ラムダはいずれ回復するはずだが、いつになるのかはわからない。それこそ、原作通り1000年近くかかるかもしれない。

 そうなれば、コーネルさんとラムダは二度と話すこともできなくなる。それはなんとしても避けたいところだ。

 まず思いついたのはファーストエイドを使うこと。しかし、プロトス1(ヘイス)への攻撃で原素(エレス)をギリギリまで消費してしまったので、今は試せない。回復させるために私が倒れては本末転倒だ。

 次はアップルグミだが、ヒューマノイドに入った状態ならともかくこの状態のラムダに使えるとは思えなかった。

 試すだけ試してみようと漂うラムダに取り出したグミを当ててみたが、やはり変化はなかった。もちろんコーネルさんには見せていない。

 こうなると残る手段は一つ。それは、私がラムダの宿主になること。原作でラムダがリチャードに憑依した場面から着想を得たものだ。

 1000年の眠りから目覚めたラムダは再びプロトス1(ソフィ)と戦い、またしても相討ちとなった。その直後、毒を盛られて瀕死の状態になっていたリチャードの「死にたくない」という思いに同調し、彼に憑依することでその命を救う。そして、ラムダ自身もわずか7年で回復していた。

 消耗が少なかった等、他の要因も考えられる。だが、宿主の存在が無関係とは思えなかった。

 

「ラムダを私の中に受け入れようと思います」

「……なに?」

 

 私の提案にコーネルさんが面食らう。

 以前記憶のことを説明した際は細かいところまで話していなかったので、先ほどの内容を改めて話し、その上で私の目的についても説明した。

 その間、コーネルさんはずっと難しい表情をしていた。

 

「……君の考えはわかった。私としても、ラムダをこのままにしておきたくはない。だが、そんなことをして君は大丈夫なのか? 下手をすれば人格が消滅してしまうかもしれないのだぞ」

 

 コーネルさんの懸念はもっともだ。

 今までラムダが使っていたヒューマノイドの身体は、言わば空っぽの器。

 対して、私にはこうして思考している「私」という人格がある。それが上書きされてしまうのではないか、とコーネルさんは危惧しているのだろう。

 しかし、私はその点に関しては心配していなかった。責任を感じているというのはもちろんだが、何も自己犠牲の精神からこの結論に至ったわけではない。

 

「私の記憶にあるラムダと共存した人間は、人格を失ってはいませんでした。それだけで判断するのは危険かもしれませんが、私は大丈夫だと信じてます」

 

 アスベルにしろリチャードにしろ、本人の意識ははっきりしていた。

 リチャードが意識を乗っ取られかけていたのは、ラムダの憎悪に強く共感していたことが大きな要因だ。

 今ここにいるラムダにその憎悪は存在しない。人間に対するトラウマも、ラントの住人たちとの交流のおかげで、ほぼ解消されたと言っていいだろう。

 また違った不安はあるのだが、それは今考えても仕方ないので流しておく。

 

「……わかった、君を信じよう。ラムダを頼む」

「はい、任せてください」

 

 どうにか納得してもらえたようだ。

 それでは、早速実行に移すとしよう。方法は正直よくわからないが、とりあえず思いつくままにやってみることにした。

 弱々しく漂うラムダを胸に抱くようにして、「おいで」と呼びかける。

 すると、ラムダは応えるようにゆっくりと動き出し、私の中へと入っていく。見た目とは裏腹に何も感じないので、なんとも不思議な気分だ。やがて、ラムダの姿は完全に見えなくなった。

 身体を軽く動かしてみても特に違和感はない。

 原素(エレス)に影響はないだろうか。そう思ってメニューを開くと、意外なものが目に入った。

 まるでパーティメンバーのように、ラムダの情報が表示されていたのだ。私と同じように原素(エレス)残量も表示されている。今はわずか1%しか残っていないらしい。

 この嬉しい誤算は、ラムダを回復させるのにきっと役立つはずだ。後で色々と試してみることにしよう。

 

 

 それから私はコーネルさんと共にシャトルに戻り、改めて今後のことを話し合った。

 まず初めに、拠点をグレルサイドに移すことを決めた。ラントに戻らないのは、裏山で眠っているプロトス1(ヘイス)のことが気にかかったからだ。互いに眠りについているとはいえ、あまり近くにいると影響を与えかねない。

 また、ソフィが「ラムダの動きを感知して目覚めた」と言っていた記憶がある。ラムダの意識が戻った時、同時に彼女も動き出すかも知れない。もしそうなった場合、ラントでは距離が近すぎる。

 私というイレギュラーがいる以上、原作通りに進む保証はない。つい先ほどそれを身を以て痛感したばかりだ。いくら警戒してもし足りないと思っておくべきだろう。

 私はラントに滞在していた時と同じように、魔物(モンスター)を倒しながら依頼をこなしていくつもりだ。煇術の強化、ガルド稼ぎはいくらやってもやりすぎということはない。

 コーネルさんには宿屋で待機してもらうことにした。シャトルの点検は継続するとのことなので、その時は私も護衛を兼ねて同行する。いずれは動かせるようになりたいものだ。

 話し合いが終わる頃には、辺りはすっかり暗くなっていた。

 いくら魔物(モンスター)の位置を把握できると言っても、夜の森を抜けるのは自殺行為でしかない。コーネルさんがいるとなれば尚更だ。

 そういうわけなので、今日のところはシャトルで一夜を明かすことになった。

 

 

 コーネルさんが眠ったのを確認し、起き上がってメニューを開く。先延ばしにしていた検証を行うためだ。

 ファーストエイドは……ダメか。術を選択しても「使用する」という表示が現れない。残念ながらこの方法は使えないようだ。

 次にアップルグミ。まず一つ食べてみたが、私は回復したもののラムダは変化なしだった。私が優先されるのか、あるいはラムダには効果がないのか。これだけでは判断できない。

 もしかしたら、私の原素(エレス)が満タンの状態ならラムダにも効果があるのではないか。他に取る手がない以上、試さないという選択肢はない。現在の残量は40%。一つあたりの回復量は原作同様30%なので、二つ食べればいい。

 これで残りは二つ。一気に使い切ろうかとも思ったが、念のため一つ残しておくことにする。さて、どうなるか。

 

「……おお」

 

 思わず声が漏れた。ラムダの原素(エレス)が4%まで回復したのだ。

 回復量が30%から3%にまで減少したのは、私とラムダの容量の違いによるものだろうか。単純に計算すれば十倍。三つの大煇石(バルキネスクリアス)原素(エレス)を吸収してしまえるほどだったことを考えると、むしろ小さく感じてしまう。

 逆に、私の容量が割と大きいのかもしれない。そうなると燃費の悪さが余計に際立つが、一応辻褄は合う。

 とにかく、アイテムの効果があることがわかったのは大きな収穫と言える。ガルドを稼ぐことが、そのままラムダの回復につながるからだ。実にわかりやすい。

 

 

 翌日、私たちは早速行動を開始した。

 森を抜けた先の街道。ここをラント方面とは逆の方向に進めば、グレルサイドへ行くことができる。

 時折飛び出してくる魔物(モンスター)に対処しつつ街道を進んでいくと、やがて街の入り口が見えてきた。 ラントと同じく門番が立っている。

 ラントを初めて訪れた時のように、やり取りはコーネルさんにお願いする。ここでも特に警戒されるということはなく、すんなりと話が進んだ。

 グレルサイドに入ってすぐ左手にある宿屋。そこが私たちの新たな拠点だ。ここから、ラムダを復活させるための日々が始まることになる。



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記憶

 グレルサイドでの生活が始まってすぐ、私は周辺の探索を行った。目的はマップ埋めである。それと並行して、原作に存在していたダンジョンの確認も行っていた。

 まず初めに訪れたのは、ウォールブリッジ地下遺跡。

 砦はまだ築かれていなかったが、グレルサイドとバロニアの間には川が流れており、通行のための橋が架けられていた。

 原作でパスカルが語っていた「遺跡が作られた後に川ができた」という推測を根拠に入り口を探してみたところ、街道から少しそれた先に設置されていたワープ装置を発見することができた。

 原作通りといえばそれまでなのだが、こんな誰でも見つけられそうな場所で大丈夫なんだろうかと心配になった。まあ、1000年後まで残っていたのだから問題ないのだろう。……多分。

 遺跡内部の探索は、フォドラの人間が中に居る可能性があったのでやめておいた。

 プロトス1(ヘイス)とラムダの戦いについての記述が残されていたことから、あの装置が作られたのはちょうど今の時期だと考えられる。彼らにとって、私は「暴走したヒューマノイド」だ。遭遇すれば厄介事になるのは間違いない。

 いずれ羅針帯(フォスリトス)が完成してフォドラとの繋がりが無くなれば、遺跡を訪れる人間はいなくなるはずだ。その時まで待った方が無難だろう。

 

 もう一つのダンジョン、王都地下についても、南バロニア街道の途中にある砂浜で洞窟の入り口を発見することができた。

 こちらも遺跡と同様、位置を確認するだけに留めておいた。洞窟内には光源が存在しない上、魔物(モンスター)も生息しているようだったので、一人で入るのは危険だと判断したためだ。

 インサイトを使えば多少見えるようにはなる(動体視力だけではなく視力そのものが強化されるらしい)ものの、戦闘を行うには少し心許ない。

 視界が悪い中で銃を扱うのは、私にとって至難の技だ。それに加えて、術も燃費の関係で連発できない。狭い洞窟内では魔物(モンスター)との戦闘を避けられないため、不安要素だらけの状態で挑むのは得策ではない。

 とはいえ、いずれはあの場所に入る必要が出てくる。その時までには対応できるようになっておきたいものだ。

 

 その他の暮らしに関しては、ラントに滞在していた時とそう変わったものではない。ただ一つ、収入が増えたと言う点を除いて。

 重要な土地とはいえ辺境であるラントに比べ、グレルサイドは人口が多い。それに応じて依頼の数も増えるため、他の利用者に気兼ねする必要がなくなった。それに加え、依頼の報酬も全体的にラントより高いということもある。

 そんなわけで、1日あたり1000ガルド程度だった稼ぎを三倍近く伸ばすことができていた。いち早くラムダを目覚めさせてあげたい私にとっては、とてもありがたいことだった。

 

 一方、コーネルさんにはプロトス1(ヘイス)に破壊されたヒューマノイドを修復してもらっていた。私が倒したケントゥリオとウェリテスのパーツを流用できるかもしれないと思い、お願いしたのだ。

 フォドラの人間に回収されている可能性もあったが、幸い私が去った状態のまま放置されていた。宿屋に持ち込むわけにはいかなかったので、一旦シャトルに運んでおき、整備をしに訪れた際に検証してもらっている。

 ちなみに、シャトルの整備の方は私に一任されていた。ヒューマノイドになったおかげか物覚えが良いようで、教わったことはすぐに覚えることができている。そろそろ、動かし方を教わってみてもいいかもしれない。

 

 

 

 グレルサイドでの生活が始まって半年、 そして私達がエフィネアにやってきて1年が経った。早いものである。

 そんなある日のこと。コーネルさんと共にシャトルのある森を訪れていた私は、作業の手を止めてシャトルから離れ、少し開けた場所へと足を運んでいた。ある程度アップルグミをストックできたので、使っておこうと思ったのだ。

 ちなみに、自然回復の方はおよそ1ヶ月あたり1%だった。これだけ見ると少なく感じてしまうかもしれないが、単純に計算すれば8年強で全快できることになる。本来は1000年かかっていたことを考えれば、むしろ驚異的な回復量だと言えるだろう。

 周囲に何もいないこと、そして自分の原素(エレス)が100%になっていることを確認する。それからアップルグミを三個取り出し、まとめて口に放り込む。今回は十五個使う予定なので、これをあと四回繰り返すことになる。余談だが、味は結構好みだったりする。まあ、流石にこの量を一気に食べるのはやりすぎだと思うけども。

 これで、ラムダの原素(エレス)は55%まで回復できた。この調子なら、もう半年もすれば100%にできるだろう。そんなことを思っていた、その時だった。

 

『シータ』

「……!」

 

 頭の中に直接、初めて聞く(聞き慣れた)声が響く。それを誰が発したのかは考えるまでもなかった。まさか、もう目覚めるとは。

 もちろん嬉しくないわけではない。とても喜ばしいことだ。ただ、100%まで回復させなければいけないと思い込んでいたため、不意をつかれた格好になってしまった。

 深呼吸を繰り返し、なんとか動揺を抑え込む。

 

「……目が覚めたんですね、ラムダ」

『ああ、おかげさまでな。まずは礼を言わせてくれ。ありがとう』

 

 半年前とは違って流暢な、それでいて原作のラムダとは僅かに違う口調。憎しみに支配されていた彼とは違い、纏う雰囲気は柔らかいものだ。

 しかし、眠っていたはずなのに成長しているのはどういうことなんだろうか。

 

『そのことか。実は、眠っている間にお前の記憶を覗き見てしまったんだ。恐らくその影響だろう』

「……そういうことでしたか」

『望んだことではないとはいえ、勝手なことをしたと思っている。すまない』

「いいえ、あなたが謝る必要はありません。元はと言えば、私が原因なんですから」

 

 ラムダを受け入れる際に抱いていた不安——記憶を共有してしまうのではないか、という懸念は、どうやら当たっていたらしい。

 コーネルさんに私の記憶のことを話した時は、ラムダには聞かせないようにしていた。彼に「自分が世界を滅ぼそうとした可能性」を知って欲しくなかったからだ。今となっては、その配慮も無駄になってしまったが。

 私の記憶をどこまで見たのかと尋ねてみたところ、私が日本人だったこと、この世界がゲームの中で語られていたことなど、大体のことは伝わっているらしい。

 私の能力、そして原作の知識も把握しているとのことだった。考え方を変えてみれば、心強い仲間を得られたと言っても良いのかもしれない。

 

 コーネルさんにも早く伝えてあげなければ。そう思ってシャトルに戻ろうとしたのだが、ラムダが『二人だけで話しておきたいことがある』と言ってきた。

 その内容に、私は再び動揺させられることになる。

 

『もしプロトス1(ヘイス)がもう一度襲ってきた時は、我だけで相手をさせてほしい。そして、そのまま我を眠らせてくれ』

「……え?」

 

 なんで。どうして。そんな言葉で頭が埋め尽くされる。そんな私の様子を察してか、ラムダは『すまない』と言った後、言葉を続けた。

 

『せっかく回復してもらったのに、こんなことを頼むのはどうかと思う。だが、そうしなければソフィという存在が生まれなくなる(・・・・・・・・・・・・・・・・)可能性がある』

「……ソフィが、生まれなくなる?」

 

 それは、どういう意味だろうか。

 

『確認しておくが、お前はどのような方法があると思っている?』

「そうですね……。もしかしたら話してわかってもらえないかな、と思ってます。今の時点でも僅かに人間のような感情があるみたいですし。後は……あまり積極的にやりたくはありませんが、目覚める度に倒すとか」

『残念だが、それは難しいな。終盤のソフィの言動をよく思い返してみるといい』

「………………ああ、確かに」

 

 言われて思い出した。使命を思い出したソフィは、頑ななまでにラムダを消すことにこだわっていたのだった。心を通わせていたパーティメンバーの言葉でも、最後まで曲げることはできなかったのだ。アスベルがあのような行動に出なければ、本当に対消滅を実行していただろう。

 そう考えてみると、私では力不足もいいところだった。

 

『もう一つの方法も、お前の精神的な負担が重すぎる。問題はそれだけではない。その方法では、プロトス1(ヘイス)の記憶が失われない可能性がある』

「記憶?」

『プロトス1(ヘイス)にとって、与えられた使命は何よりも優先すべき、存在理由そのものだ。そんな彼女が"ソフィ"となるためには、一度記憶を失う必要があるのでは、と考えたんだ。具体的な方法はわからないが、恐らく元の歴史をなぞれば同じ結果にたどり着けるはずだ』

「……なるほど。プロトス1(ヘイス)が長い眠りにつくことで記憶が失われ、"ソフィ"が生まれる土台ができあがる。そのためにはあなたも眠りにつく必要がある、というわけですか」

『ああ、その通りだ』

 

 アスベルたちに影響されて"ソフィ"という人格が形成されたのは、記憶を失っていたからこそ。そのラムダの推測は、決して的外れではないだろう。

 それにしても、1年前はまだ赤ん坊同然だったというのに、なんという成長速度だろうか。私の記憶を見てしまったことも、結果的には功を奏したのかもしれない。

 

『プロトス1(ヘイス)がこのまま眠り続ける可能性もないとは言い切れない。だが、逆もまた然りだ。もしその時が来たら、頼まれてくれないか』

「……わかりました。その時は、あなたの言う通りにします」

『ありがとう、シータ』

 

 本音を言えば、どんなことがあってもラムダを犠牲にするようなことはしたくない。だが他に方法を見つけられない以上、それは私のわがままにしかならないわけで。

 それに冷静に考えてみれば、なにも悲観的になることはないのだ。もしラムダが眠りにつくことになっても、いずれまた会えるのだから。途方もない時間がかかろうと、大した問題ではない。

 

 その他にも、いくつか方針を決めておいた。

 まず、ラムダの回復を一旦止めること。

 確証があるわけではないものの、ラムダの力が強まることにプロトス1(ヘイス)が呼応する可能性は無視できない。こうして目覚めさせることができたのだから、無理に回復を急ぐ必要はない。

 もう一つは、ラムダに魔物(モンスター)との戦闘を経験させること。プロトス1(ヘイス)に備えて、とラムダの方から提案してきた。私としてもそうしたいと思っていたので、本人がやる気になってくれているのはありがたいことだ。

 

 

 ラムダとの話し合いを終えて、私はシャトルへと戻ってきていた。

 シャトル内では、コーネルさんがヒューマノイドの最終調整を行っていた。流石はヒューマノイド研究の第一人者と言ったところか、彼はこの限られた条件下で見事ヒューマノイドを修復してみせたのだ。

 私に気づいたコーネルさんに、ラムダの意識が戻ったことを伝える。彼は一瞬驚いたような表情になった後、「よくやってくれた、ありがとう」と満面の笑みを浮かべ、私の頭を撫でてくれた。

 ヒューマノイドの調整もちょうど今終わったとのことだった。では早速、ラムダに入ってもらうとしよう。

 

(ラムダ、良いですか?)

『ああ、問題ない』

 

 黒い球(ラムダ)が私から抜け出てヒューマノイドへと向かっていき、吸い込まれていった。数秒ほど経った後、ヒューマノイドの目が開かれる。

 ヒューマノイド(ラムダ)はコーネルさんをじっと見つめた後、笑みを浮かべた。それは、ぎこちなさのない自然なものだった。

 

「おはよう、コーネル」

「……ああ。おはよう、ラムダ」




本当は今回で1000年前の話を終わらせたかったんですが、間を空けすぎているので一旦投稿させてもらいました。
次回でまとめられるように頑張ります。

ラムダの口調に違和感があるかもしれませんが、ご了承ください。
一応原作の回想が元になってはいますが、片手で数えられる程度の台詞しかないので想像によるところが大きくなっています。
コーネルの生存、シータの存在や記憶、人々との触れ合いにより変化した、ということでどうかお願いします。


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備え

大変ご無沙汰しております。なんとか1年経つ前に投稿できました。
ただ、書いているうちに文量が膨れ上がってまとまり切らなかったため、ほぼ繋ぎの回になってしまい話が進んでません。


 互いの無事を喜びつつ、言葉を交わすコーネルさんとラムダ。

 しばらくそれを見守っていたのだが、コーネルさんの表情が僅かに曇っていることに気づいた。恐らく、ラムダの変化に疑問を持ったのだろう。

 やはり、きちんと説明しておく必要がありそうだ。

 コーネルさんに声をかけ、回復の経緯を可能な範囲で話すことにした。

 

 ラムダが私の記憶を知ったことを告げると、コーネルさんは「……なるほどな」と納得したようにつぶやき、気遣わしげな視線をラムダに向けた。それに対し、ラムダは苦笑しながら応える。

 

「そんな顔をするな、コーネル。確かに、フォドラの人間に対する憎しみや怒りは我の中にも存在する。だが、我はお前やシータ、そしてエフィネアで出会った人々のおかげで、人間の暖かさや優しさを知ることができた。あの『ラムダ』と我は、もはや別の存在だ」

「……すまないな、気を使わせてしまって」

 

 ラムダの言葉を受けて、コーネルさんは安心したようにふっと笑った。

 復活直後のやり取りから心配はしていなかったが、私としてもこうしてラムダの気持ちが聞けたのは良かったと思う。

 

 感動の再会もそこそこに、恒例となりつつある今後の方針を決める話し合いが始まった。

 そこで私は、エフィネアを旅してみないか、という提案をさせてもらった。

 これまでは便宜上そういう設定にしていただけだったが、ラムダが復活を果たしたこの機会に実行してみようと思ったのだ。

 理由は、ラムダとコーネルさんの思い出作りのため。

 フォドラを脱出してからというもの、ひと時の平穏はあったものの、プロトス1(ヘイス)の襲撃に備えるため、私たちはずっと落ち着きのない日々を送ってきた。

 不測の事態はあったが、襲撃はなんとか凌ぐことができた。まだ完全に脅威が去ったわけではないが、ゆっくり過ごす時間は十分にあるだろう。

 後は、私自身がそうしたいと思っているというのもある。

 大煇石(バルキネスクリアス)を始めとした、アンマルチアに関するものを確認しておきたいというのが第一だが、かつて画面越しに眺めていたこの世界を、自分の目で見て回りたいという願望もあった。

 

 移動手段などについては既に考えてある。

 他国との交流が一切ないフェンデルはもちろん、ウィンドル・ストラタ間においても、一般人が自由に行き来できる環境はまだ整っていない。そこで、シャトルの出番である。夜間に飛行すれば、誰かに見つかったりすることはないだろう。

 目立ってしまうのを避けるため、服装などに関しては現地で調達するつもりだ。同様の理由で、旅の間は依頼をこなすのもやめておこうと思っている。

 説明を終えて、反応を伺う。

 

「……どうでしょうか?」

「うむ、いい考えだと思う。ラムダはどうだ?」

「ああ、我も賛成だ」

「決まり、ですね。二人とも、ありがとうございます」

 

 無事了承を得ることができた。まずは一安心だ。

 だが、話はこれで終わりではない。

 ラムダに目配せをする。彼は心得たというように頷き、話を切り出した。

 

「コーネル、我からも提案がある。シータにも頼んだことなんだが……魔物(モンスター)と戦うことを、認めてくれないか」

「……!」

「お前が我を心配する気持ちはよくわかる。だが、自分の身は自分で守れるようになりたいんだ。もう二度と、あの時のようなことにならないために、な」

「そうか……」

 

 コーネルさんが私に視線を向ける。

 

「シータ君。君も、ラムダが戦うことには賛成なのだな?」

「はい。本人が望んでいるなら、そうさせてあげるべきだと思ってます」

「ならば、私も認めよう。ただし、無茶だけはしないと約束してくれ」

「ああ、勿論だ」

 

 きっと、本音では反対したいに違いない。それは私も同じことだ。

 しかし、そういった配慮が結果的にあのような事態を引き起こしてしまった。それをコーネルさんもわかっているのだろう。私と違い、直接目の当たりにした彼はより痛感しているはずだ。

 

 その後、いつ旅に出るのか、どこへ向かうのかを話し合った。

 出発については、ラムダが戦いの経験を積んでからということになった。

 次に目的地だが、まずはストラタへ向かい、フェンデルを経て再びウィンドルに戻る、という大まかなルートを決めた。細かい中身に関しては、その都度話し合えばいいだろう。

 

 

 話し合いを終えた後も、コーネルさんとラムダは何気ない会話を続けていた。彼らの境遇を思えば、こんなありふれた光景ですら得難いものだ。

 それを微笑ましく見守りつつ、マップを起動する。以前言っていた、ラムダの目覚めにプロトス1(ヘイス)が反応するのではないか、という懸念。それを確認しておくためだ。

 プロトス1(ヘイス)は単粒子保全による再構成を行っているはずだが、その名前は変わらずマップに表示され続けている。ラムダの復活に向けて活動している間も、こうして毎日欠かさず確認を行っていた。

 今のところ、彼女がラントの裏山から動いた様子はない。少なくとも、同時に目覚めるということはなかったようだ。

 彼女もラムダと同様に、原作通りならば1000年後に目覚めることになる。

 しかし、損傷を与えたのが私であることや、こうしてラムダが目覚めていることなど、状況は全く違う。そのため、想定より早く再構成が完了する可能性は十分にある。警戒は続けておくのが賢明だろう。

 

 

 翌日、私は早速ラムダを連れて近くの森を訪れていた。

 ちなみに、ラムダには私の中に入ってもらっている。あのヒューマノイドは戦闘向きではないため、基本的にあの影の姿で戦ってもらうことになるからだ。

 フォドラ脱出時の発着場の有様からして、憑依した状態でも戦えないことはないのだろうが、今ここでわざわざリスクを犯す必要はない。

 ある程度奥に進んだところで、マップで魔物(モンスター)の反応を確認する。すると、お目当てのものはすぐに見つかった。

 私がラムダの相手に選んだのは、タイニーウルフだ。この辺りの魔物(モンスター)の中では比較的弱く、また、まだ戦いに慣れていなかった私でも倒せた、ということから判断させてもらった。

 目標の近くまで移動し、気取られないように心の中でラムダに呼びかける。

 

(ラムダ、準備はいいですか?)

『ああ。では、行ってくる』

 

 その言葉と共に、ラムダが私の体から抜け出る。黒い球体の状態のままタイニーウルフに向けて進んだ後、その真の姿を現した。

 

「——!?」

「……」

 

 タイニーウルフは突然現れたラムダに驚き、飛び退って距離を取る。

 一方ラムダは、調子を確かめるように腕や手をゆっくりと動かしている。その様子を、タイニーウルフは唸り声を上げながら睨み付けていた。

 私はそれを離れた位置から観察しつつ、ラムダの姿をじっくり眺めていた。あの時は間に合わなかったため、この姿を見るのはこれが初めてだった。

 影から生えてきたような黒い胴体、白い仮面のような顔、細長く伸びた腕、鋭い爪のような手。身の丈は私の倍どころではなく、恐らく4メートルは越えているだろう。

 

(……何も知らなければ、私も怖がっていたかも知れませんね)

 

 そんなことを考えていると、戦いに動きがあった。

 タイニーウルフが一直線にラムダに体当たりを仕掛けてくる。それを、彼は僅かに体をずらすことでかわしてみせた。

 外れる事を予測していなかったのか、タイニーウルフは勢い余ってそのまま地面に倒れ込む。ラムダはそれに視線を送りつつも、その場に佇んだまま動く気配はない。

 やがてタイニーウルフが起き上がり再び突進してくるが、それもラムダは軽々と避ける。その後も、同じやりとりが何度か繰り返された。

 どうしてラムダの方からは攻撃しないのだろう、と思い始めた時だった。

 

「……ふむ、こんなものか。では、次はこちらの番だ」

 

 そう言うや否や、ラムダはその長身からは想像できないスピードでタイニーウルフとの距離を詰めると、引っかくように右手を振り下ろした。

 不意を突かれたタイニーウルフは、それをまともに喰らい吹き飛ばされる。致命傷ではなかったようだが、よろよろと起き上がる姿からはダメージの深さが見て取れた。

 そこへ、ラムダが容赦なく追い討ちをかける。

 

「アベンジャーバイト!」

 

 巨大な風の牙が上下からタイニーウルフを襲い、その体をズタズタに切り裂く。倒れ伏したタイニーウルフは弱々しく鳴いた後、ぐったりと動かなくなった。

 

 戦いを終えてこちらに戻ってくるラムダに対し、労いの言葉をかける。

 

「お疲れ様でした。心配はしていませんでしたが、ここまであっさり倒してしまうとは思いませんでしたよ」

 

 ラムダは元々、プロトス1(ヘイス)と渡り合えるだけのポテンシャルを秘めている。経験のなさから苦戦するかもしれないとは思っていたが、負ける心配は一切していなかった。

 しかし、ラムダの動きは初めてまともに戦ったとは思えないもので、おまけに術まで使っていた。

 気になったので聞いてみたところ、「イメージトレーニングの成果だ」という予想外の答えが返ってきた。

 

「イメージトレーニング、ですか?」

「ああ。眠っていた間、プロトス1(ヘイス)との戦いを何度も振り返っていたんだ。どうすれば攻撃を避けられるか、どうすれば反撃できるか、とな」

「そういうことでしたか。……彼女を基準にされては、タイニーウルフが可哀想になりますね」

 

 苦笑しつつ応える。

 それに加えて、私の記憶の中にあった原作のラムダの戦い方も参考にしたそうだ。元が同一存在なのだから、馴染むのは当然と言える。

 しかし、術を使用していたのはそれでは説明がつかない。

 

「ところで、あの術はどうしたんですか?」

「ああ、あれか。理由はよくわからないが、使えるという感覚があった。もしかすると、シータに憑依した影響なのかもしれない」

「私の影響、というと……私が取得した術を、あなたも使えるということですか?」

「確証はないが、恐らくはそういう事だろう」

 

 あの術——アベンジャーバイトは、確かに私も使えるようになっている。原素(エレス)の消費量に対して威力・範囲共に優秀で、ゲームと同様頼りになる術だ。

 私の能力が、部分的にラムダに影響を与えたということだろうか。私がラムダを受け入れることを想定して、神様がこういう機能を仕込んでいたと考えれば、納得できなくはない。

 まあ、もしそうなのだとしたら、あの時説明してくれれば良かったのに、と思うけども。

 

(あの神様(ひと)、結構おっちょこちょいみたいでしたしね……)

 

 そんなことを考えていると、どこかから「ごめんなさい……」という幻聴が聞こえたような気がした。

 どんな形にせよ、ラムダの力になれているのは喜ぶべきことだ。感謝こそすれ、文句を言う理由はない。ありがたくその恩恵に預かろう。

 

 その後も何度か魔物(モンスター)との戦闘を繰り返したが、ラムダが苦戦することは一度もなかった。

 それどころか回数を増すごとに動きのキレが上がり、最後の方は相手が可哀想になる程だった。流石は原作ラスボス、と言ったところか。

 日が沈む前に切り上げてグレルサイドに戻る道中、ラムダと言葉を交わす。

 

「どうでしたか?」

『想定以上だ。イメージ通りに動けているという確信がある』

「それは良かったです。それで、明日からも続けますか? 私としては、もう十分なんじゃないかと思うんですが」

『そうだな……なら、一つ提案がある。ヒューマノイドに憑依した状態でも戦えるのか、確認させて貰えないか?』

「……え?」

 

 思いもよらぬ提案に、呆けた声を出して固まってしまう。

 そんな私の様子を察して、ラムダが弁解するように言葉を続ける。

 

『すまない、驚かせてしまったな。だが安心してくれ。実際に魔物(モンスター)と戦うわけじゃない』

「……そうなんですか?」

『ああ。旅の途中で、厄介な連中に襲われる可能性もあるだろう。それに備えるために、どの程度戦闘が可能なのか確かめたいんだ』

「厄介な連中というと……山賊だとか野盗だとか、そういう?」

『そうだ。シータが遅れを取るとは思わないが、我やコーネルが狙われる可能性は十分にある。憑依状態でもある程度戦えるなら、我がコーネルを守ることでお前の負担を減らせるはずだ』

「なるほど……確かに、私も守りながらの戦いは未知数ですからね」

 

 二人を伴って森を移動することは何度かあったが、常に魔物(モンスター)を避けて行動していたため、戦闘に発展したことは一度もない。

 さらに相手が人間となると、より難しいものになるのは容易に想像できる。

 

「そういうことなら、私は賛成です」

『ありがとう。グレルサイドに戻ったらすぐに、と言いたいところだが、街中でやるわけにはいかないだろう。明日ここで試してみたいと思う』

「わかりました。戻ったら、コーネルさんに話しておきましょう」

 

 グレルサイドに戻った私たちは、コーネルさんに今日1日の成果を報告し、その後、先ほど話し合った内容を説明させてもらった。

 魔物(モンスター)とは戦わないということで、この提案はすんなり受け入れて貰うことができた。

 

 そしてその翌日、私たちは再び森を訪れた。

 結論から言うと、ラムダは憑依状態でも十分に戦えることが判明した。

 まず、この状態でも術が使用可能だったのが大きい。私と同様に詠唱は不要なので、初級煇術を使って牽制すれば近づくことは困難だ。

 もし近づかれたとしても、その身体能力も見た目からは想像できないほど高い。さらに術で強化することも可能なので、並の人間にラムダを捕らえることはできないだろう。

 とはいえ、動きにはまだぎこちなさが残る。そこで、私が相手になって組み手の真似事のようなことをすることにした。接近戦に関してはお互いに素人だが、スピードに慣れるため、身体の動かし方を習得するためには有効なはずだ。

 それから数日間、出発の日を迎えるまで私たちは特訓に明け暮れた。



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