比翼連理の英雄伝説 (砂糖露草)
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軌跡の始まり、それは遠くに

懲りずにかきはじめましたが楽しんでいただけると幸いです。(五体投地)


 

 

 ーエレボニア帝国、遊撃士協会レグラム支部。

 一昔前は盛況、とまではいかなくともそれなりの数の遊撃士たちが依頼を見に、報告しに訪れる場所。

 今では二年前の事件ゆえに存続こそしているが、閑散とした雰囲気を醸し出している。

 依頼がない、というわけではない。

 むしろ需要が供給を遥かに上回り、人手不足ここに極まれり、といったところだ。

 

 ここにいる『トヴァル・ランドナー』も遊撃士の一人。

 帝国に残る唯一の遊撃士協会を少ない仲間と共に回していた。

 

 つい最近にも諸事情により遊撃士が一人、しかも相当な手練れがやめてしまいそろそろ首が回らなくなりそうだ、とトヴァルは心中で愚痴を溢す。

 出来れば国外からの応援、もしくは有望な新人でも入ってくれないものかと現実逃避を始めた頃にー

 

 それはやって来た。

 

「すいません、誰かいらっしゃいますか?遊撃士になりにきたんですけど…………」

「ーへ?」

 

 水色の髪をたなびかせた、少しだけ遠慮ぎみな少年がカウンターの向かいにたっていた。

 

 

「アルト、姓は諸事情によりなし。16歳。使用武器は改造された導力拳銃二丁。経歴は一応帝国人、孤児として各地を転々としていたためこれもなしー」

 

 目の前の少年ーアルトから提出された履歴書をみて、トヴァルはひきつった笑みを隠せない。

 それも当たり前だ。

 こんなわからないことだらけの履歴書を見せられて頭を抱えない方が可笑しい。

 

 怪しい…………怪しすぎる。警戒するなという方が無理な相談だろう。

 それに、彼が警戒するもうひとつの理由があった。

 

(こいつの顔、どっかで見た気がするんだよなぁ)

 

 それもここ最近のことだ。

 遊撃士という仕事柄様々な場所に出向き、いろんな人にあったりするからそれ事態は問題ではない。

 しかし、心のどこかで鳴り響く警鐘は無視してはいけない気がしていた。

 

「あのートヴァルさん?なにか不都合でも………」

「んん、ああいや別に問題は……めちゃくちゃあるな。もう少しどうにかなんない?」

 

「すいません、幼い頃に両親を亡くしてそれ以降はがむしゃらに生きてきたもので…………あまり覚えてないんですよね。」

 

 孤児としてはごく当たり前な身空話だ。

 ついでに良心を持ち合わせていたらこれ以上の詮索を遠慮してしまいそうな話でもある。

 

 良識と良心の板挟みから、トヴァルはひとまず追求を取り止めアルトを観察することにした。

 

 水色の髪に、どこか見覚えのある柔和な顔立ち。

 その上で全体的に汚れが少しばかり目立ち、服は成長して丈が合わなくなったものをありあわせの布で補てんして無理矢理着ているようだ。

 生きていくのに苦労したというのは、本当らしい。

 

「ー猟兵か、若しくは犯罪にてを染めたことは?」

 

 単刀直入に切り出すとアルトは苦笑を浮かべつつこう返す

 

「食うに困って窃盗をしたことがありました…今では深く反省していますが。やっぱり前科があるとダメですかね」

「いやまぁ、それくらいならまだ問題ないな。」

 

 嘘はいってない、トヴァルにも誠実さは伝わったようで(怪しさ度外視して)ひとまず信じたようだ。

 少なくとも猟兵をしているようなナリではないし、孤児という身の上で多少の危ない橋はわたらざるを得なかったのだろうと判断した。

 

 悪い奴ではない、それはトヴァルの勘が告げている。

 ついでにここで断ろうものならそのまま路頭に迷いそうだと、良心が嗣げる。

 

 長くはない逡巡のあと、彼が決断したのはー。

 

「ーわかった、ひとまずテストをしてみよう。まず先に風呂入ってからな。」

「本当ですか!ありがとうございます!」

 

 

 見も蓋もない人手不足の現状そして良心の呵責に負けたのだったー。




作者は閃の軌跡2までしかやってないやれてない未熟者です…………すまない、すまない…………PS4用意しなきゃ()


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一人と一匹

正直なところ帝国所属の遊撃士ってどれくらい残ってるんだろうかっていう疑問がガガがg



 遊撃士試験のために郊外へと赴いたトヴァルとアルト。

 アルトは先程までとはうってかわり清潔な身だしなみとなっている。

 服も継ぎ接ぎだらけのものではなく、トヴァルから譲り受けたお古を身に付けていた。

 

 もし試験の結果が芳しくないものになっても餞別として他にもいくらか融通をきかせるつもりだった。

 また、その上で諦めないというなら国外で遊撃士になるための修練を積める場所を紹介してもいいとも思っていた。ーもちろん、遊撃士になったあかつきには帝国所属の遊撃士になってもらうという条件付きでだが。

 

 さて、遊撃士になるための試験は通常学実地訓練と実技試験、そして学術試験を合格する必要があるのだが。

 アルトが孤児であること(知識を学べる環境ではなかったこと)、また帝国遊撃士が危機的なほどの人員不足であるがゆえの特別措置としてトヴァル同伴の実地試験を行うことになっていた。

 即戦力がほしかったのと、知識は追々詰め込んでいけばいいという考えだ。

 

 ただこのときは、トヴァル自身あまり期待はしていなかった。

 仕事内容は多岐に渡るとはいえ、魔獣の討伐なんかもやってもらわなきゃならない。

 しかし見た目荒事に向いてなさそうだし、貧弱であったらまず遊撃士としては活動できないからだ。

 

 今回の試験は郊外にでてトヴァル監督のもと指定された魔獣を狩ることが合格条件だ。

 これで上手く仕留めることが出来たらよし、もし駄目そうだったとしたら助けに入りその時点で不合格にする心づもりである。

 

 そう、このときはそんな悠長なことを彼は考えていた。

 

「あの、トヴァルさん。ひとついいですか?」

「ん、なんだ?」

「今回の試験、本気で合格したいんで助っ人、というよりは相棒を呼びたいんですけどいいでしょうか?」

 

 ここに来ていきなりの要望にトヴァルは首をかしげる。

 べつに遊撃士試験は一人で受けなければいけないというものではない。

 一緒に遊撃士になるために修行を積んだ姉弟と、もしくは偶然同期として居合わせた候補生たちがパーティを組まされるといったこともざらだ。

 しかし、郊外にでてから助っ人を呼びたいなど前代未聞である。

 

 親兄弟が助っ人です。といわれたら流石にその時点で失格扱いにするがそもそもアルトは天涯孤独の身。

 嘘をついていなければ頼れる味方なぞいるはずがないのだが…………

 

「うーん、まぁ一回呼んでみてくれないか?それからじゃないと判断できない。」

 

 ひとまず様子見として、アルトのいう助っ人とやらをこの目で見てみることにしたようだ。

 仮に敵対勢力の尖兵だとして、自分なら対処できるだろうとトヴァルが判断した。

 

「ありがとうございます。それじゃあ呼びますね!」

 

 元気な声でそう宣言したアルト。

 トヴァルから少し離れたかとおもうと、手を口元に起き唐突に口笛を吹いた。

 

 ピュィィィィィ!と小気味のいい音が帝国の大気にこだまして、やがて虚空に消える。

 それからほどなくして近くから荒々しく地を蹴る音が聞こえ、段々と大きくなっていく。

 

 やがて彼らの前に姿を表したのはー。

 女子供なら裕に背負えるほどの巨躯をもつ狼の姿だった。

 

「な、あーっ!?」

 

 巨躯から来るものとその怪物由来の威圧感に呆気にとられてしまう。

 が、くさってもB級遊撃士。

 すぐに体制を建て直す。

 すると今度はアルトがトヴァルに組ついてきた。

 早まって巨狼に挑みかからないようにするためだった。

 

「ま、待ってください、彼は別に敵ではありません!」

「助っ人じゃなくてありゃ魔獣の類いだろ!」

「いやそれは……ちょっと僕にもわからないですけど、ですが襲ったりとかしませんから!大丈夫ですよ!…………たぶん!」

「何でそこで濁した!?てかお前にもわからないのかよ!?」

 

 必死に説得を試みるアルトと目の前の巨狼に警戒を示すトヴァル。

 たいする正体不明の狼はどこか気楽そうにその光景を眺めていたそうな。

 

 

「わかった、わかった。実際今まで襲ってくる気配すらしないから確かに危険な生き物じゃないんだろう。…………で、こいつが本当にお前のいう助っ人なのか?」

 

 理解に及ばないながらも、危険ではないと納得せざるを得なかったトヴァルが問いかける。

 アルトは誤解を解いたことで安堵のため息をはきつつもその言葉を肯定した。

 

「ええ、はい。彼が僕の助っ人で、今まで苦楽を共にしてきた相棒でもあります。…………あのナリなんで町にはいるときは郊外で待機してもらってるんですよ。」

 

 そういうとアルトは地面に臥せって寛いでいる狼を撫でる。

 確かにその姿は短くはない期間絆を紡いできたようにも見えた。

 

 恐らくこれまでも彼ら二人で苦難を乗り越えてきたのだ。

 つまり、アルトの本来の実力はこの狼と組むことで発揮する、ということだ。

 

 ここに来てトヴァルは気持ちを切り替える

 先程まではどちらかというと乗り気ではなかったのだ。

 しかし、巨狼を侍らせるその姿を視てアルトが只者ではない、ということを認識。

 望外の掘り出し物か、それとも例に視ないほどの厄ネタか。

 それを確かめるためにも今回の試験は都合がいい。

 

「ーそういうことならむしろ許可しないわけにはいかねぇな。いいぜ、じゃぁ今度こそ遊撃士試験、始めるとしようか」

「はい!よろしくお願いします!」

 

 試験開始の音頭とともに、元気と希望に満ちた返事がエレボニアの大地にこだまする。

 

 試験を始めるだけでも長らくかかったが、ようやく彼らの物語が幕を開けようとしていた。



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遊撃士

 そして始まる遊撃士試験。

 思いの外、否半ば予想通りの結果になった。

 

 戦闘スタイルとしては巨狼が前に出て敵を掃討しつつアルトが残党の討伐や援護射撃を行うといったものだ。

 アルト自体、主武装が導力式2丁拳銃という決め手に欠けるものであることを理解し後方支援に徹している。

 あるいは戦術オーブメントでも持っていれば話は違ったかもしれない、しかし高額かつオーダーメイドであるそれを用意する時間はなかったのである。

 

 見た限りでは戦闘の実力は十分、成長ののびしろもまだまだありそうだ。

 唯一の懸念は、やはり身元がわからないことだがそれをいってしまえばトヴァルも人のことが言えないだろう。

 

「トヴァルさーん!どうですか!合格ですか!?」

 

 件のアルト少年は年相応の、無邪気さを見せながらまるで喜ぶ犬のように成果を見せつけてくるのでさらに毒気を抜かれていく。

 少なくとも人柄という面でも問題はなさそうだった。

 ー仮に、なにかヤバイ組織に関わっていたとしても、アルトの実力ならなんとかなるし、むしろ監視する名目も含めて近くに置いておくのも手か。

 

 そこまで考えてようやくトヴァルは口を開く。

 

 

「ああ、それだけできりゃあ十分やって行けそうだな。条件付きでだが準遊撃士として認めよう。」

「本当ですか!?」

「あくまで条件付きだからな。一人前と認めるには経験も知識も足りないから当分は俺と一緒に行動して、遊撃士としての心構えと見識を深めてもらう―多少厳しく指導するつもりだから音を上げないでくれよ?」

「はい!よろしくお願いします、トヴァル先輩!」

 

 元気のいい返事と共に敬礼をするアルトをみて、苦笑いが止まらないトヴァル。

 一先ずこれからは敬礼をするのをやめるよう促した後、彼はアルトと巨狼を伴いレグラムへの帰路を辿っていく。

 

 

 そしてこれといった災難もなく無事に町の遊撃士協会にたどり着いた彼らに新たな風が吹く―

 

「マイルズ、今帰った。それで一つ報告が-」

「ああトヴァルお帰り。帰ってすぐで悪いんだがお客さんが来てるよ。君の、というよりはエレボニア支部としての、だけどね」

「―なんだって?」

 

 唐突のことに先程帰ってきたトヴァルとアルトは目を白黒させている。

 その原因となった受付のマイルズは、件の客とやらを呼びに行った。

 

 たいした時間もかからずにマイルズは帰ってきた、二人の少年少女を連れて

 

「初めまして!あたしの名前はエステル・ブライト。こっちは相棒のヨシュア!暫くの間エレボニア支部でお世話になるわ、よろしくね!」

「ぼくはヨシュア・ブライト、エステルともどもよろしくお願いします。」

 

 元気溌剌に自己紹介をする太陽のような少女と、その傍らに寄りそう月のような少年。

 国外から異動してきた異色の二人は、今を生きる英雄達であった。

 

 思わぬ来訪者に固まってしまったエレボニア支部の二人だが、真っ先に再起動を果たしたのはアルトだ。

 

「も、もしかしてリベールの異変を解決したブライト姉弟―あのエステルさんとヨシュアさんですか!?」

「イヤー、アレはあたしたちだけで解決できたワケじゃないんだけどね」

「たくさんの先輩たちの助力と国のみんなが一丸となったからこそ乗り越えられたものだからね。自分たちだけの手柄ってワケじゃないよ」

「それでも僕には雲の上の人と同じです!よければサインを―」

「いい加減にしろアルト!」

 

 ゴツン、よく響く打撃音がなると同時にアルトの口から「アタッ」と悲鳴が漏れでる。

 硬直から抜け出たトヴァルからの指導(しつけ)の一撃だった。

 頭をさすりながら恨みがましくトヴァルを批難するアルト。

 そんなやり取りを見たヨシュアは苦笑を浮かべつつ話を戻す

 

「えっと、あなたがたがこの支部所属の遊撃士ですか?」

「そうだな。おれは正遊撃士のトヴァル・ランドナーでこっちがついさっき入ったばかりで準遊撃士()()()()の―」

「アルトです、よろしくお願いします!」

 

 こうして、リベールの英雄とエレボニアの遊撃士、そして未知数な遊撃士のたまご達の初邂逅となるのであった。



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