悪逆皇帝と騎士 (beatkun3 )
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原作開始10年前〜
1話 出会い


今回は導入ということでかなり短くなっていますが、次回からはもう少し長くするつもりです。


 1人の幼い少年が、美しい庭園で何か困っているようであった。

 

 この少年、名を「ルルーシュ・ヴィ・ブリタニア」と言い、この「アリエスの離宮」で母と妹、それに使用人たちと暮らしているため、迷うことなどありはしない。しかし、アリエスの離宮は庭園といってもとても広く、むしろ野原と言われた方がしっくり来るような作りになっていた。故に、この庭園のある「アリエスの離宮」に初めて入る人間は迷子になってしまう確率がかなり高いのである。であれば、ルルーシュが困っているのは、迷子の誰かを発見してしまったからであると想像ができる。

 

 ルルーシュは幼いながらも賢い頭脳を持ち、時には大人顔負けの脳の回転を発揮することもあったが、こういったトラブルにはめっぽう弱かった。

 

 それに、ルルーシュはこのアリエスの離宮で生活してきたため、外に出ることなど数えるほどしかなく、この離宮を訪ねてくる人物も、異母兄弟姉妹が基本で、全く知らない人を見かけるのも初めてのことだったので、困ってしまうのも当然なのだろう。

 

 ルルーシュはついに話しかけることに決めた。自分よりも年下と思えるこの少女は恐らく誰かに連れられてこの場所に来たが、途中で迷子になってしまった。つまり、この離宮に入ってくる人物の子供である可能性が高く、敵対の危険はない。そう判断した故であった。

 

 その少女は、ピンク色の鮮やかな髪に、質の良い服を着せられていたが、その髪や服にも泥や葉っぱが付いていた。それは正面に偏っていた為、どこかで転んでしまったのだろうと思い、ルルーシュがその少女の全身を見ると、膝を擦りむいてしまっていた。

 

「こんな所で何をしてるんだ?」

 

 ルルーシュは少女の手当てをするにも、まずは触れてもいいかの許可を取らなければいけないと考え、できる限り優しい声を意識しながら少女に声をかけた。少女は泣きながらルルーシュの方を見て

 

「…迷った」

 

 とだけ言った。

 ルルーシュは「そうか」と頷くと、続けて「名前は?」と聞いた。

 

「アーニャ。アーニャ・アールストレイム」

 

 そう少女が答えると、ルルーシュは自分の推理が間違ってなかったことを知った。アールストレイムと言えば、古くから帝国に使える名家であり、それと同時に、「ヴィ」家の支援もしてもらっている家だ。ならば、この少女がここにいるのも納得ができるというものだ。

 

「アーニャ、まずは、その膝を手当てさせてもらえないかな?なんでこんな場所にいるのかは、そのあとで話してくれ」

「…分かった」

 

 ひとまずアーニャの許可を取ると、ルルーシュは来ていた服の袖を破った。続いて、遊んでいる途中で喉が渇いたら飲もうと思っていた水の入った水筒を開け、アーニャの膝に振りかけた。アーニャは痛かったのか、先程よりも泣き声が大きくなってしまったが、ルルーシュはその間にも的確な処置を施していく。

 

「アーニャ、もう大丈夫だよ」

「…ありがとう」

 

 ルルーシュが処置を終えてアーニャに話しかけると、アーニャは泣きながらもきちんとお礼を言い、少しして落ち着いた後、自分が何故ここにいるのかを語って聞かせた。しかし、それは幼い少女の言うことで、「自分が迷ったのではなく、護衛の方が迷っている」と言った発言をして、ルルーシュを笑わせていた。

 

「おにいさまー!いったいどこにいますかー?」

 

 妹の声だ。ルルーシュは返事をしようとして、いまだに座り込んでいるアーニャに目を向けた。

 

「そろそろ妹が僕を探してここに来るはずだ。アーニャもそこから帰れると思うよ。でもその前に、妹に君を紹介したいんだ。良いかな?」

「…ん」

 

 ルルーシュの申し出に、アーニャは少し嬉しそうにはにかんで頷いた。それを見たルルーシュは赤面し、アーニャの方に手を差し出すと「またはぐれたらいけないから、手を繋ごう」と言って、アーニャの手を取ると、妹の声のした方向へと向かっていくのだった。

 

 

 



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2話 崩れた日常

 アーニャはルルーシュと出会った後から、よく1人でもアリエスの離宮に足を運ぶようになった。ルルーシュには、妹「ナナリー・ヴィ・ブリタニア」がいるのだが、年齢が同じということもあり、よく遊ぶようになっていた。また、アリエスの離宮に遊びに来るその他の皇女とも仲良くなったようで、遊ぶ姿が度々目撃されていた。

 

 アーニャは、初めのうちはあまり喋ることを得意としていなかったようで、抑揚の少ない声で聞かれた事に淡々と答えるばかりで、自分から積極的に話しかけるという行為をあまりしていなかった。しかし、皇女殿下達はどうやら活発な方が多いようで、アーニャはよく腕を引かれていた。

 

 そんな日々がアーニャに変化をもたらしたのか、以前よりも笑顔を浮かべる事が多くなり、庭を駆け回るような少女へとなっていった。

 

 ルルーシュもよく遊びに誘われるのだが、ルルーシュはとんでもなく体力が無いため、すぐに疲れて倒れ伏してしまい、その様子を笑われて、怒って追いかけるも、またすぐに倒れてしまうという負のスパイラルに陥ることも多く、その様子はアリエスの離宮を訪れる多くの大人や、ルルーシュとナナリーの実母「マリアンヌ」を笑顔にさせていた。

 

 そんな日々が2年ほど続いたある日、アーニャはいつもの様にアリエスの離宮を訪れ、ルルーシュやナナリーと一緒に遊ぼうと思った。しかし、どうも様子がおかしいことに気がついた。

 

 違和感の正体はすぐに分かった。いつもは多いとまでは行かなくても、来客が途切れることなどなかった庭園や建物の中に人の姿どころか、人の気配すらも感じられないのである。

 

 アーニャは困った。ルルーシュ達と遊ぶときに外で遊んだはあっても、ルルーシュ達と会うのは基本的にアリエスの離宮以外にあり得ず、それ以外にいそうな場所を知らないからだ。アーニャは、言い寄れない不安を感じながら、1人でルルーシュとナナリーの姿を探して歩いた。ポツリと雨が降り出した。

 

 

 

 

 時は少し遡り、ルルーシュの場面に移り変わる。場所はアリエスの離宮では無く、父である第98代ブリタニア皇帝「シャルル・ジ・ブリタニア」の住む王宮、さらにその中にある謁見の間にて、父と対面していた。

 

「…父上、なぜナナリーにあの様な厳しい言葉をおかけになられたのですか!?ナナリーは、一晩のうちに母を亡くし、歩行する術を失い、そして光すらも奪われたのです!それなのになぜ、あの子に優しい言葉をかけてあげないのですか!?」

 

 ルルーシュは、激怒していた。母が死んだのにもかかわらず、「そうか」という一言だけで済ませ、死に顔も確認せず、その上、ナナリーに向けて酷い言葉を投げつけたのだ!ナナリーはそうで無くてもまだ6歳の子供で、物事の道理も完全に理解したとは言えない年頃であり、昨晩にたくさんの大きなものを失ってしまったというのに!

 

 ルルーシュは目の前の父である皇帝シャルルを厳しい目つきで睨みつけていた。シャルルは目を背けることなく、ルルーシュの言葉を聞いていたが、ルルーシュの言葉が止まったのを見ると、ルルーシュに言った。

 

「ナナリーがそこで立ち止まるなら、あやつはそこまでの人間だったということよ」

 

「なっ!」

 

 ルルーシュには、父のその言葉が信じられないものに感じた。この男は、いったい何を言っているんだろうかと。

 

 ルルーシュは再び言い募ろうとしたが 、目の前からの凄まじいプレッシャーに口を開けることが出来なかった。そうしているうちに、再びシャルルが口を開く。

 

「人間とはぁ!不平等においてこそ進化する生き物であるぅぅ!今のナナリーやお前の様な状況になってこそ、真に人間とは進化するのだぁ!つまり、貴様達がここで立ち止まるというのならば、それは怠惰というものよぉ!」

 

 その言葉に、ルルーシュは絶句する他なかった。この男は、確かに強さを求めていた。しかし、これでは度がすぎている。ルルーシュが衝撃を受けていると、シャルルから1つの事実を告げられた。「日本へ向かえ」と。

 

 

 

 

 ルルーシュは、気づいたらアリエスの離宮、その庭園にいた。ナナリーは王宮で治療を受けているが、それが終わり次第2人は日本へと連れていかれるだろう。政治のための駒として。

 

 ルルーシュは悲しかった。母の命を守れなかったこと。ナナリーの心を守れなかったこと。そして、自身の尊厳すらも守れなかったこと。全てに対してルルーシュは絶望を覚えていた。

 

 体にあたる雨はだんだん激しさを増し、体から急速に体温を奪っていく。もはや立っていることすらできず、その場に座り込むと、丸くなってしまった。その姿はまるでいじけた子供の様だが、その内面は荒れ狂う暴風の様であった。

 

 ルルーシュは考えた。これまでのこと、これからのこと。そして、アーニャのこと。

 

 彼女と初めて出会ってから、もう2年の付き合いになっていた。最近では行儀見習いとして、このアリエスの離宮に来ていたため、遊ぶ機会は以前ほど多くはなかったが、それでも親しくしていた少女。その少女のことが頭をよぎる。

 

 ルルーシュは女々しい考えだと自分自身を嗤った。ルルーシュにこの感情はまだわからなかったが、彼女のことを考えただけで、体が温かくなる様な気になった。

 

 このまま、この暖かさに浸っていたい。ルルーシュは、もう半分も回っていない脳の片隅でそんなことを考えた。その時、目の前から声が聞こえた。最も聞きたかった、1人の少女の声が。

 

 

 

 

 アーニャは焦っていた。アリエスの離宮の中を長い間探してみても、人どころか、ネズミの一匹すら見当たらない。探してない部分は庭園の隅だけになり、アーニャは雨の中そこに向かった。そして、見つけたのだ。びしょ濡れになりながら丸まる、1人の少年の姿を。

 

「ルルーシュ?」

 

「…」

 

「ルルーシュ!」

 

「…アーニャか?どうして君がここに…」

 

「それはこっちのセリフ!こんなになって、こんなところで何してるの!?」

 

 アーニャはルルーシュに厳しい口調で詰問した。ルルーシュはしばらく黙っていたが、アーニャが声をかけ続けると、ポツリポツリと今までのことを話し始めた。

 

 母が殺されたこと。ナナリーの目が見えなくなり、足も動かなくなってしまったこと。父に見捨てられたこと。そして、日本へと行くこと。

 

「…そう」

 

 アーニャは何も言えなかった。もう大好きなルルーシュやナナリーには会えないかもしれず、マリアンヌにはもう2度と会えないのだと。しかし、今ばかりは己の悲しみではなく、ルルーシュの悲しみを優先した。

 

「ねえ、ルルーシュ」

 

「…なんだ」

 

「辛い時には泣いたっていいんだよ?」

 

 ルルーシュは涙を流していなかった。拳をきつく握りしめ、歯を食いしばり、自らの内から湧き上がる悔しさと必死に戦っていた。しかし、アーニャの言葉を聞き、今まで耐えてきた分が一気に放出された。

 

 ルルーシュはみっともなくアーニャの胸にしがみつき、大声で泣いた。恥ずかしさもあった。しかし、それよりも悲しみが勝った。いくら頭がいいと言っても、ルルーシュもまだ9歳の少年。子供だった。

 

 アーニャは何も言わず、ただルルーシュの背中を撫で続けた。優しい手つきで、ずっと。

 

 いつの間にか、空は晴れていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




今回一番苦労したのは、シャルルのキャラクター性です。うまくできていたら幸いです。もし良ければ感想や評価などお待ちしております。
追記:感想にもあった「アーニャは原作のようにマリアンヌ襲撃の現場にいたのか」につきましては、明日投稿予定の次話にて描写を入れるつもりです。また、その描写に関する補足も近いうちに入れると思いますので、よろしくお願いします。
ということで、次話をお楽しみに!


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3話 別れ

本日はこの話の後に、3話までの設定についての補足が入ります。読まなくても支障はないと思いますが、目を通していただけると、よりこの作品への理解が深まると思うので、ぜひ見てください。
それでは、本編どうぞ!


 ルルーシュは恥ずかしさのあまり、「穴があったら入りたい」と切実に思いながら、アーニャの方を向けないでいた。理由は単純明快で、先程までルルーシュがアーニャに慰められていたという事実に、ルルーシュのプライドが大きなダメージを受けているのである。

 

 妹と同い年の年下の女の子に正面から抱きしめられ、背中をさすられていた!さらに、自分はその女の子の胸でみっともなく泣いてしまった!…ルルーシュの小さな自尊心は、傷つきっぱなしである。

 

 しかし、先程の出来事によりルルーシュが救われたのも事実であり、ルルーシュがお礼を言おうとアーニャの方を向いた瞬間、アーニャと目があった。ルルーシュは全力で顔を背けた!もう1度、恐る恐るアーニャの方に顔を向けると、アーニャの頬が赤く染まっていた。先程の出来事は、やった本人からしても恥ずかしいことだったようだ。

 

「アーニャ!」「ルルーシュ!」

 

「むっ、先に良いぞ!」「…先に良いよ」

 

 そして、2人とも目を見て話していないために、声が完全に重なってしまうというベタな展開が待っていた。ルルーシュは1つ咳払いをし、アーニャの方を完全に向くと、未だ赤く染まる自分の頬を意識しつつも話を切り出した。

 

「…アーニャ、まずは、俺の事を慰めてくれてありがとう」

 

「…私は当然のことをしただけ」

 

「それでも、俺はお前に救われた。お前だから、救われたんだ。ありがとう!」

 

 ルルーシュは、今の純粋な気持ちを伝えることにした。どれだけ恥ずかしくとも、もうアーニャとは2度と会うことはないかもしれないから…

 

 アーニャもルルーシュの真剣さを感じたようで、「分かった」と返事をすると、今度は自分の番だと言わんばかりにルルーシュの顔を真っ直ぐ見つめた。

 

「ルルーシュ、日本に行くって、本当?」

 

「…あぁ。今日、父上に言われたよ。」

 

「…もう、会えないの?」

 

「…そうかもしれない」

 

「そんなっ!…私、嫌だよ。ルルーシュとも、ナナリーとも会えなくなるなんて!」

 

 そう言って、今度はアーニャがその瞳に涙を浮かべていた。アーニャも所詮は6歳の少女。大好きな相手が突然いなくなるなんて、泣かずにはいられなかったのだろう。それを見たルルーシュは、思わず口を開いてしまった。それは、胸に宿った未だ覚めやらぬ、熱い衝動に身を任せてのものだったのかもしれない。しかし、このとこのルルーシュの頭の中にあったのは、「アーニャを泣かせてはならない」という1つの思考だけだった。

 

「アーニャ!約束をしよう!」

 

「…約束?」

 

「あぁ!俺とお前で!」

 

「…どんな?」

 

「それはもちろん…!?」

 

 ここまで言ってルルーシュは気づいた。自分が一体、アーニャに向かって一体何を言おうとしていたのかを。この時になって、ルルーシュはようやく自覚した。自分がアーニャに恋してるということを。

 

 しかし、この場で婚約の申し込みなど決してできるわけがなかった。なぜならば、ルルーシュはもはや廃摘されたも同然の身分であり、しかもこれから日本に行けば、もう一度生きて帰ってこれるかも怪しい。しかし、口に出した言葉の続きを言わないことなど、時間を巻き戻せでもしない限り不可能なわけで、ルルーシュはとっさに別の言葉を口にしていた。

 

「アーニャ、君は俺の騎士になるんだ!」

 

「…騎士?」

 

 ルルーシュは内面で頭を全力で抑えていた。何言ってんだ俺のバカ!と自分自身を罵っていた。口に出した言葉を止められないのも事実。ここで何かを口にしなければルルーシュはアーニャの涙を止めることはできなかっただろう。しかし、この「騎士になってくれ」というのはどう考えてもおかしかった。

 

 そもそも、男が女の騎士に守ってもらうなど、世間から見れば不甲斐ない以外の何者でもなく、また、この場面に適しているとも到底思えなかった。一方のアーニャはポカンとしているため、第1目的である「涙を止める」ことには成功していた。

 

「そうだ!お前は俺の騎士となるんだ!何年かかっても良い、必ず俺を迎えに来い!…そして、俺を守ってくれ。」

 

 この言葉には、アーニャと離れたくないというルルーシュの気持ちと、アーニャに立派になってほしいと願うルルーシュの気持ちの両方が込められていた。

 

 騎士というのは、この国の中ではかなり高い地位に就くことができる職である。皇族の専属の騎士として仕えることができれば、それ相応の生活ができる。それに、皇帝直属の最強の騎士に与えられる「ナイト・オブ・ラウンズ」の称号を手にすることができれば、その将来は順風満帆であると言っても過言ではない。

 

 ルルーシュは、1度口に出した言葉が止まらないというならば、それを利用しようと考えた。ルルーシュの考えではこの約束を交わした後、この言葉を励みに訓練を頑張るようになれば、高い実力をつけて本当に騎士になることができる。そうすれば、アーニャは1人でも生きていける。そう思った。

 

「分かった!何年かけてでも、絶対にルルーシュのこと迎えに行くから!」

 

 アーニャはそう言って屈託無く笑った。ルルーシュの考える、裏の未来を考えもせず、ただ実直に、この約束を果たそうと考えた。アーニャはこの後、凄まじい成長を遂げることになる。「ルルーシュの騎士になる」その約束を胸に抱いて。

 

 

 

 

 ところで、この光景を影から眺めている1人の男がいた。その名を「ジェレミア・ゴッドバルト」といい、元々は「ヴィ」家を支援する名家の長男であった。

 

 しかしこのジェレミア、実は先日の「マリアンヌ襲撃事件」で警護を担当していたものでもあり、職務を怠慢し、敬愛するマリアンヌを守れなかった罰として、自殺まで考えていた。そして、最後にアリエスの離宮を見ようと足を運び、この光景に遭遇したのだった。

 

 ジェレミアは涙した。幼い少年と少女の、この世で最も尊ぶべき神聖なる誓いに。そして気づいた。2人が何も手にしていないことに。

 

 本来、騎士の誓いというのは、自分の心臓に剣を向けた状態にして、忠義を果たすべき主君へと差し出す。それを主君が受け取り、左右の方に剣を乗せ、誓いの言葉を宣言するというものだった。しかし、今2人は剣どころか、棒切れ1つすら持っていなかった。

 

 ジェレミアは迷った。この神聖なる誓いを邪魔してでも、剣を貸し出し、より忠義に対する思いを厚くするべきか。はたまた、この光景をすぐに入るであろう自らの墓まで持っていくのか。

 

 その時、ジェレミアは少年がルルーシュだということに気づいた。ジェレミアはその時、確かに感じた。この少年に忠義を果たすことこそが我が使命なのだと。であれば、ジェレミアに迷いはなかった。

 

 

 

 

「ルルーシュ様。失礼ながら、進言させていただきたいのですが、よろしいでしょうか?」

 

 ルルーシュはとっさに声のした方を向いた。するとそこには、長身の男が傅いていた。ルルーシュは、その声に聞き覚えがあった。よくアリエスの離宮に来て、母と話をしていた人物だと気づいた。

 

「ジェレミア・ゴッドバルトか?」

 

「はっ!」

 

「進言とは一体どういうことだ」

 

 ルルーシュは多少怒気を含ませながら言った。自分とアーニャがせっかく(?)良い雰囲気だったのに、急に出てきた男に壊されたからだ。しかし、このタイミングで出てくるとは、何かあるに違いないと考えたルルーシュは、とりあえずその「進言」とやらを聞くことにした。

 

「恐れながら、御二方は神聖なる騎士の誓いをしてらっしゃるにもかかわらず、剣をお持ちでないご様子。しからば、我が剣にて、その儀を完遂させて欲しいと思い、参りました」

 

「ほう、気がきくではないか」

 

 ルルーシュは機嫌が良くなった。いくら仮初めであると言っても、本格的なものであるほど、アーニャの取り組みも一生懸命になるだろうと考えたからだ。

 

「アーニャ」

 

「…うん」

 

 ジェレミアがやり方を2人に教え、それになぞらえてルルーシュとアーニャの叙勲式が始まった。

 

 その誓いの様子はまさしく皇帝と騎士の関係のようであったという。

 

 

 

 

 飛行場にて、ルルーシュはナナリーを背負って歩いていた。その先には、日本へ向かう飛行機がある。これに乗ってしまえば、おそらくアーニャとは会えなくなるだろう。と思った。涙はあの日、あの庭園で出し切ったと思っていたのに、目からは涙が溢れ出そうで、ルルーシュは思わず空を見上げた。

 

 飛行場には、他の皇族たちの姿もある。泣いているものも、無関心なもの

 もいた。挨拶もそこそこに、ルルーシュは飛行機になろうとした。その時、この場所で聞こえるはずのない声が聞こえた。

 

「ルルーシュ!」

 

 アーニャだった。警備員の制止を振り切ってルルーシュの元へと駆けてきたアーニャは、ルルーシュの目の前で止まると

 

「絶対に迎えにいくから!」

 

 と言った。

 

「あぁ、待ってるよ」

 

 ルルーシュはそう返すと、そのあとは黙って飛行機に乗った。涙はもう、止まっていた。

 

 

 

 

 アーニャは、ルルーシュの飛行機を見送った後、ジェレミアのもとに身を寄せることにした。忠義とは何か、騎士とは何かを知るためだ。それに、実家では元々皇子と仲がいいという理由で優遇されてきたが、その皇子はもういない。実家でどんな扱いを受けるかなんて想像もつかないが、少なくともろくなことにはならないだろうと思った。

 

 アーニャが考え事をしながら歩いていると、不意に懐かしい雰囲気を感じたような気がした。アーニャは気のせいかと頭を振り、自分にできることを精一杯することにした。

 

「…頑張ってね♪」

 

 そんな誰かの呟きは、喧騒の中に溶け込んで、浮かんでくることはもうなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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3話までの設定、補足

この話の前に、本編3話「別れ」を投稿しています。まだお読みでない方は、まずそちらを読んでからこの話を読むことをお勧めします。


 いつもご愛読ありがとうございます!

 まずは、評価バーが赤色になったことについてお礼を言わせてください。ありがとうございます!読者の皆さんの評価が直接私のモチベーションにもつながりますので、ぜひ皆さんの思った通りの評価、感想をしてくれると嬉しいです。

 

 さて、今回は、本編ではなく設定編ということですが、説明の必要があると感じた場合には実行していこうと思います。また、これによる投稿の乱れは極力ないようにするつもりです。

 

 

・アーニャの設定について

 

 

 3話の最後を見てお気付きの方は多いかと思いますが、ここで明記させていただくと、感想にもあった「アーニャにマリアンヌが憑依している」という原作の設定は外させていただきました。

 

 理由としては、アーニャにマリアンヌが憑依していた場合に起こる記憶の喪失や、それによるアーニャの内向的性格への変化が私の書きたい物語には合っていないものだと考えたからです。また、早い段階で原作との大きな違いが出てしまいましたが、ここからどう言った物語をルルーシュやアーニャ、そして他の人物たちが紡いでいくのか、ぜひとも楽しみにしてもらえると嬉しいです。

 

 原作との違いをプラスのものとして捉えながら、この作品「悪逆皇帝と騎士」を楽しんでいただけると幸いです。

 

 

・章タイトルについて

 

 

 1話から3話まで投稿させていただきました今作ですが、章タイトルは「原作開始10年前〜」となっています。

 

 コードギアスの原作アニメは、ルルーシュが高校2年生、17歳の時に始まります。その8年前からルルーシュは日本にいることがアニメでは明らかになっていたので、アーニャとの関わりを持たせるにはもう少し早いほうがいいと思い、「10年前」という年代を初めに使わせていただきました。

 

 原作10年前の話は実際には1話と2話の最初だけで、2話の途中からは8年前へと変わっています。この原作開始前編は後に2、3話で終了し、原作に入っていこうと思うので、楽しみにしていてくれると嬉しいです。

 

 

・各種キャラクターの設定

 

 

 各種キャラクターの設定について、大きく変えたところはアーニャとマリアンヌに関してだけで、後のキャラクターについてはほとんどいじっていません。そもそも、今までで出てきた主要のキャラクターが少ないということもありますが…

 

 また、唐突に出てきたジェレミアに関して、私は「幼少期編でルルーシュたちとの関係を作るにはここしかない!」と思い登場させました。彼は、アニメをご覧になった方ならわかる通り忠義の男です。しかし、彼の忠義はR2の途中からでしか発揮されません。私は彼の忠義をもっと尽くして欲しいと思い、ルルーシュとアーニャの2人に幼いうちから関わらせることで、彼の忠義をより物語に絡ませていこうと思いました。

 

 また、マリアンヌはアーニャに憑依していないですが、その魂は生きています。しかし、本編に彼女が関わってくることはしばらくないだろうと思います。原作程度の絡みはもちろんしていくつもりです。

 

 

・最後に

 

 

 この作品は、まだ始まったばかりで、作者である私も大まかなプロットがあるにしろ、どのような物語になるのか想像がつかない部分もあります。しかし、そう言った箇所も読者の皆さんと一緒にこの作品を盛り上げ、楽しんでいけたらいいなと思っています。これからも「悪逆皇帝と騎士」をよろしくお願いします!

 

 次話から日本編に入り、あのキャラクターも登場します!ぜひお楽しみに!

 

 

 

 

 

 

 



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4話 最悪の出会い方

 ルルーシュは、舗装のあまりされていない道を、ナナリーを背負いながら歩いていた。太陽に体を照らされ、汗が滝のように流れ落ちる。何度も休憩を挟んだため足取りはしっかりとしているが、ルルーシュ自身の意識はもはや朦朧としている。ルルーシュを歩かせているのは「背中にナナリーを背負っている」という事実だけだった。

 

 しかし、ルルーシュが命を張るには、そのたった1つの事実だけで十分だった。なぜなら、ルルーシュには、もうナナリーしか残されていないのだから。

 

 

 

 

「お兄さま、大丈夫ですか?私、重くありませんか?」

 

「あぁ、大丈夫だよナナリー」

 

「でも、お兄さまは体調が良くないようですが…」

 

「心配ないよ。それに、あとはここを登ればすぐに着くからね」

 

 ルルーシュがナナリーのことを気遣いながらゆっくりと歩いてきてからどれほどの時間が経っただろうか。ようやく目の前に、目的地の目印である長い石畳の階段が姿を現した。

 

 階段には等間隔で鳥居が並んでおり、先が見えないほど長い。何度も休憩を挟み、ときには諦めそうになりながらも、それでも諦めることなく、1歩1歩を踏みしめながら、ルルーシュはゆっくりと階段を上っていく。そうして、階段を上った先で待っていたのは現日本国首相「枢木ゲンブ」その人だった。彼は、ルルーシュとナナリーを一瞥すると、

 

「疲れただろう。家の中に入りなさい。少し休憩したあと、君たちが今日から住むことになる場所に案内しよう。」

 

 そう言って、建物の中へと入っていった。お礼を言う間もなかったが、ルルーシュは言葉に甘えて、家の中に入ることにした。

 

 家は木造の、落ち着く感じのする家で、大理石を使った宮殿に住んでいたルルーシュからすればそれまでの自分の常識がひっくり返されるほどの衝撃を受けた。

 

 休憩中には、ナナリーがルルーシュに、家の様子や、家の中に何があるかなどを聞き、ルルーシュがそれを詳しくナナリーに伝えていく。2人のやりとりを見ていたゲンブは、微笑ましいものでも見たかのように笑ったあと、何かを耐えるような悲痛な顔をして、「君たちの住む場所へ案内しよう」といった。ルルーシュはナナリーをおぶさると、ゲンブの後をついていった。

 

 

 

 

「…すまないね。この日本には、君たちブリタニア人のことを良く思ってない者がたくさんいるんだ。その者たちを納得させるために、君たちにはここに住んでもらうほかなかった」

 

 そういってゲンブがルルーシュたちを連れてきたのは、土倉の前だった。相当年季が入っているのだろう。しかし、中は意外にも綺麗で、ルルーシュは驚いたが、「流石に、皇族の方を埃まみれの場所に住ませておくわけにはいかないよ」と言って、その場を立ち去った。

 

「お兄さま、私たちが今から住むのはどんな場所なんですか?」

 

「素敵なところだよ。さっき見た枢木の本家に負けないくらい立派だね」

 

 ルルーシュは、例え嘘をつくことになっても、ナナリーを悲しませることなどできなかった。しかし、そんなルルーシュの考えをぶち壊すかのように、大きな声が響いた。

 

「お前ら、ブリタニア人だな!僕の基地で何してるんだ!」

 

 それは、ルルーシュと年齢が変わらないように見える少年だった。栗色の髪は風を受けてなびいており、育ちがいいことを思い浮かべさせる。さらにルルーシュは、そこに先ほど見た枢木ゲンブの面影があるのを感じ取った。

 

「枢木ゲンブの息子、枢木スザクだな?」

 

「そうだ!」

 

「ここが貴様の基地だと?」

 

「そうだ!ここは僕の基地なんだ!それに、本家の作りと変わらないなんて、馬鹿にしてるのか!?」

 

「…ッ。貴様!言わせておけば!」

 

 ルルーシュは怒っていた。この日本に来ることが決まった時から、ずっと怒りをその内面に孕んでいた。しかし、我慢してきた。自分は外交のための道具なのだと。それも、限界だった。そして何より、ナナリーを悲しませるような真似をしたこの少年「枢木スザク」を許しておけはしなかった。

 

 ルルーシュはスザクに飛びかかった。ルルーシュには勝てると言う自信があった。なぜなら、いきなりこちらに絡んできた蛮人に負けるはずなどないと思ったからだ。しかし、その思い込みはすぐに幻想となった。

 

 ルルーシュが飛びかかってくると、スザクはその身体を捻ってルルーシュを交わし、地面に転がったルルーシュの上に馬乗りになると、その顔目掛けて拳を振り抜いた。「バシッ!」という大きな音が1度響いた。もう1度殴ろうと、スザクが拳を振り上げた瞬間、その場所に悲痛な声が鳴り響いた。

 

「もうやめてください!」

 

 スザクは、驚いて拳を途中で止めた。ルルーシュもまた、殴られた痛みなど無いように、驚いた顔をしてナナリーの方を向いた。

 

「私たちは、枢木首相にこの場所に住むようにと言われたんです!あなたの居場所を奪ってしまうのは申し訳なく思っています!しかし、私たちも生きるために必死なのです!どうか、ここは引いて頂けませんか!?」

 

 ルルーシュはさらに驚いた。今までナナリーが大声で何かを懇願する様子など見たことがなかった。まして、目と足が不自由になってから、内向的な性格になってしまい、以前のような活発な言動も鳴りを潜めていたため、驚くのは当然のことだった。

 

 それは、スザクも同じようであったが、その驚きのベクトルはルルーシュとは違っていた。

 

「君…目が?それに足も…」

 

 スザクが驚いたのは、ナナリーの姿だった。閉じた目、そして身じろぎひとつしない足。スザクは、その様子に同情を覚えた。

 

「ッ!…今日は、もう帰る」

 

 そう言って、スザクは家のある方へと足を進めていった。その足取りは重さを感じさせるものであった。

 

 2人の出会いは、互いに傷跡を残す、最悪のものとなったのだった。

 

 

 

 

 




枢木首相はキャラ付けが難しかったです。この話自体、アニメでも詳しく語られているわけではないので、私のイメージによるものとなっています。違和感などを感じましたら、遠慮なく感想にて指摘してください。

追記
感想にてご指摘頂いたため、ルルーシュの体力について考慮し、最初の方に、ルルーシュがこまめに休憩を入れる描写を加筆いたしました。みなさんのおかげでこの作品は成り立っています。これからもご愛読よろしくお願いします。


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5話 決意

前話にて加筆修正を行わせていただきました。理由は、ルルーシュの体力について作中で矛盾が生じたためです。
それから、本日2/23の昼間に日間ランキングにて15位という順位をいただくことができました。
これもひとえに拙作をご愛読していただけるみなさんのおかげです。
これからもどうぞよろしくお願いします!
長くなりましたが、本編をお楽しみください。


 ルルーシュとスザクが土倉の前で喧嘩をした日から数日、2人の関係に変化が見られた。

 

「あの時は、ごめん」

 

 スザクが土倉に来て、ルルーシュに謝ったのである。スザクは喧嘩をしてからこの日まで、ルルーシュとナナリーの生活を覗き見ていた。そして、ルルーシュがナナリーを愛していることや、置かれた環境の厳しさを知った。そして、その観察の過程で、自分がいかに恵まれていたかを知った。

 

 スザクはあの日の自分を殴り倒したくなった。あの日のスザクは、相手がブリタニア人だということを理由の大半にして、相手の言い分も聞かずに、ルルーシュを深く傷つけてしまった。それは、スザクが持つ正義の心が許さなかった。

 

 過ぎてしまった時は元には戻せない。それでもスザクは、あの出会いのやり直しがしたい。もう1度ルルーシュと話がしたい。そんな気持ちを持って土倉を訪れたのだった。

 

 

 

 

 ルルーシュは困惑していた。喧嘩をした当日には、枢木ゲンブが謝罪を口にし、スザクのことも叱っておくと言っていたが、結局その日からスザクに関しての音沙汰が何もなかったため、いきなり謝られても困るだけであった。

 

 ルルーシュが返事に戸惑っていると、ナナリーがルルーシュに向かって笑いかけた。

 

「お兄さま、あの人もああ言っておりますし、許してあげてはいかがでしょうか?」

 

「ナナリー…」

 

 ルルーシュにも言い分はある。ルルーシュがあの日怒ったのは、ナナリーの為とはいえ、ルルーシュがナナリーに嘘をついたことを知られてしまったからである。そして、ナナリーを深く悲しませることになってしまったからである。

 

 しかし、目の前で本気で謝っている様子を見せられてしまっては怒るに怒れなかったし、何よりナナリーが良いと言っているのだ。ルルーシュに申し出を断る選択肢はもはや存在しなかった。

 

「あぁ、俺はお前のことを許そう。だが、お前も俺のことを許してくれないか?俺はあの日、カッとなったとはいえ、お前に掴みかかってしまった。お前には反撃されてしまったが、その行為自体を俺は詫びよう」

 

「そんな!君が謝ることなんて…。いや、良いよ、許してあげるよ」

 

「ふふっ、じゃあ、仲直りの印に握手ですね。それに、ちゃんと自己紹介もしないと!」

 

 そうして、2人の間に起きた喧嘩は終わりを迎えた。そうして2人は、最悪の出会いから一転して、お互いを支え合うことのできる親友となっていくのであった。

 

 

 

 

 ルルーシュが日本に来てからそれなりの時間が経過していた。スザクとの関係は良好になり、今では親友と呼ぶのも恥ずかしくないほどの関係になっていた。そうして、ルルーシュがこれからの生活に希望を見出していたその時、ルルーシュ達に信じられない報告が届いた。即ち、「ブリタニア帝国が、日本に向けて宣戦布告をした」と…

 

 

 

 

「くそッ!」

 

 ルルーシュは怒っていた。自分の父、シャルル・ジ・ブリタニアに対し、純粋な怒りを覚えた。自分とナナリーを人質として日本に送り込んでおきながら、その日本を攻め、ナナリーを危険にさらすことなど、ルルーシュに許しておけるはずがなかった。

 

 ルルーシュは、その知らせを聞いてすぐに逃げ出す準備を始めた。と言っても、その身1つ同然で国から追い出されたルルーシュとナナリーの荷物など少ししかなかった為、準備自体はすぐに終わった。

 

 ルルーシュは、スザクに逃げることを知らせるか悩んだ。しかし、一緒にいるところが、両軍のどちらに見つかってしまっても、ロクなことにはならない事は目に見えていた。ルルーシュとスザクの、ブリタニア帝国第11皇子と日本国現首相の息子の友情関係はここで断ち切ってしまわねばならない。そう思ったルルーシュは、スザクに何も伝えないことを選んだ。

 

 ルルーシュはスザクに伝えない道を選んだ。今から会うにも、見つかるリスクが高すぎる。そう判断しての判断だった。

 

「ルルーシュ!」

 

 しかし、逃げ始めてから少し経った後、スザクはルルーシュに追いついた。元々、ルルーシュは体力が無く、それにナナリーをおぶっている為、こまめな休憩が必要で、時間をかけても進める距離は僅かであった。一方のスザクは、元々運動が得意であり、ルルーシュとは親友とも呼べるほどの仲だった。つまり、スザクにはルルーシュがどこにいるかがおよそではあったが分かったから、追跡も可能だったのである。

 

 スザクがルルーシュ達に追いついた時、ルルーシュ達は休憩をしていた。スザクは、体の火照りに身を任せ、声を荒げてルルーシュに怒りをぶつけた。

 

「どうして僕に何も言わずに逃げるんだ!僕たちは、親友じゃなかったのか!?」

 

「ッ!親友だからこそ!俺たちは一緒にいるべきではないんだ!」

 

 スザクがルルーシュに向かって大きな声を上げると、休憩していたルルーシュも立ち上がり、それに負けないような大声を張り上げた。ルルーシュには、ここで声をだしてしまえば、ブリタニア人に攻撃的な日本人に見つかる危険があることなどわかりきっていた。しかし、どうしても感情の高鳴りを抑えることができなかった。

 

 ルルーシュは、スザクに説明した。ブリタニアが日本に攻め込んで来れば、ルルーシュとナナリーはブリタニアに捕まってしまい、そのまま殺されて、侵略の合法的な理由とされてしまうだろうと。そして、現首相の息子であるスザクがその場にいれば一緒に殺されてしまう。そうなるのはごめんだと。

 

 スザクは、理解はしても納得できなかった。こんなお別れの仕方なんて嫌だと思った。しかし、上空を日本軍の戦闘機が飛んでいるのを見ると、もう時間がないことを嫌でも思い知らされて、スザクは悲しくなった。

 

「ルルーシュ、僕は…!」

 

「…スザク、ここでお別れだ」

 

 スザクとルルーシュは顔を合わせた。2人とも泣いていた。雲ひとつない青空がどこまでも広がっているのに、雲の代わりには戦闘機が飛んでいる。

 

 世界は、理不尽だ。ルルーシュにとってはいつだってそうだった。スザクは、初めてそう感じた。

 

「俺は、このままナナリーと一緒に逃げる。スザク、お前は家に戻って、俺の代わりに枢木首相に今までのお礼を言ってくれ。恩を仇で返すようなことになってしまったが、それでも礼を言いたいとな」

 

「…あぁ、分かった。…元気で、ルルーシュ」

 

「お前もな、スザク」

 

 また会おう。その言葉は、互いに口にしなかった。2人は、別々の道に進み始めた。

 

 もう、涙は止まっていた。

 

 

 

 

 スザクは、ルルーシュと別れてすぐに元来た道を引き返すと、父親である枢木ゲンブがいる家に駆け込んだ。幸い、今日は父は仕事は無く、家にいるからだった。

 

「父さん!」

 

 スザクにとって、父というのは、母の分も愛情を注いでくれる素晴らしい人だった。自分のためにしてくれることは少なかったが、それでも愛してくれているというのは感じていたし、何より、国のために頑張っている父の背中が、とてもカッコよく見えて、将来自分も"誰かのため"に行動できる人間になりたいと思っていた。

 

「…スザクか」

 

 ゲンブは、部屋の畳の上で瞑想をしていた。スザクが飛び込んでくると、その姿を確認した後、また瞑想を始めた。

 

 その姿を見て、スザクは息を整えると、神妙な面持ちでゲンブの対面に座って、言葉を紡いだ。

 

「ルルーシュとナナリーは、もう逃げたみたいだ。恩を仇で返すような真似をして申し訳ないって。それに、今までのお礼も…」

 

「そうか」

 

「父さんも、早く逃げよう。もうすぐここも戦場になる。それに、父さんがもしブリタニア軍に捕まってしまったら、間違いなく殺されちゃう!」

 

「私は戦う。お前は1人で逃げるんだ」

 

 スザクは耳を疑った。父が今なんと言ったのか咄嗟に信じることができなかった。

 

「父さん、何言って…」

 

「いいか、よく聞け、スザク。私は、お前のことはもちろん、ルルーシュとナナリーのことも、自分の子供のように思っていた。だが、ブリタニア帝国のことは許しておけないのだ。なぜなら、奴らは子供の命をなんとも思っていないからだ。子供とは、守るべきものだ。それが自分の子供ならば尚更。しかし、ブリタニア皇帝は、その責務を放棄した。私にはそれがどうしても許せない。」

 

「でも!」

 

「すまないな、スザク。これは、私のわがままなのかもしれない。だが、奴らに国を明け渡してしまえば、この国はきっと不幸になる。子供たちが笑えない世界になってしまう。そんな明日を、私は許せない。だから、お前たちを守るために、私は戦うよ」

 

 ゲンブは、スザクを見つめた。スザクは、その目にある父の強い意志を感じ取った。もはや、説得は不可能だった。

 

「分かった。…父さん、死なないで」

 

「もう行きなさい。ここでお別れだ」

 

 スザクは、その場を去った。涙は止まったはずなのに、もう涙が出てきた。

 

 数日後、父の部下に連れられて避難した先で、父が自害したことを知った。父は、優しい人だった。それ故に、失う今日と、守るべき明日の重圧に耐えきることができなかったのだろうと、スザクは思った。

 

 日本軍はその後も抵抗を見せたものの、最終的にはブリタニアに降伏し、日本という国は地図上から消えた。日本には、エリア11という名が与えられ、日本人はイレブンと呼ばれるようになった。

 

 スザクは決意した。父の意志を継いで、子供たちが笑えるような明日を作ろうと。その為に、力をつけようと思った。血を流すことなく世界を変える、そんなことを目標にして。

 

 

 




・原作とのスザクの設定の違いについて
原作では、スザクは「父を殺した罪悪感」から、自分を犠牲にしてまで他人を救おうとします。
今作では、「父の意志を継いで」他人を救おうとすることにしました。
この違いが、どんなものを生み出していくのか、楽しみにしていてください。
さて、次回からは原作アニメに移っていきます。
原作の良さを活かしながら、自分なりに、みなさんが楽しめるものを書いていきたいと思っていますので、これからもよろしくお願いします。


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「コードギアス 反逆のルルーシュ」編
6話 平穏の崩れ


今話からアニメ「コードギアス 反逆のルルーシュ」の内容へと突入します。アニメをその都度見直しながら執筆を致しますが、何かおかしい所がありましたら、遠慮なく申しつけください。
また、今週は少し忙しいため、更新時間が遅れたり、更新できない日ができるかもしれません。極力ないように心がけますが、ご理解いただけると嬉しいです。
それでは、お楽しみください!


 薄暗いバーの店内。2人の男が机を挟んで向かい合って座っている。1人は貴族の男であり、余裕の表情で爪とぎをしている。一方、向かい合うのはこのバーの主人らしき男で、冷や汗を流しながら机に向かっている。机の上にはチェス盤とチェスクロックがあり、片方のチェスクロックの残り時間だけが刻一刻と減っていく。バーの主人が諦めかけたその時、バーの扉が大きく開き、そこに光が差し込んだ。

 

「やっと来てくれたのか!」

 

 バーの主人が心底安堵したかのような表情で、今しがた入ってきた青年に声をかけた。

 

「状況はかなり悪いようですね」

 

「あぁ…。だが、君なら勝てるだろう…?」

 

「ええ、任せてください。報酬はいつもの所へ」

 

 青年は、バーの主人との会話を終えると、先程までバーの主人が座っていた場所に腰掛けた。盤面はもう負けといってもいいほどに壊滅的であった。青年が席に着いた途端、その青年がキングの駒を取るのを見て、貴族の男は青年を嘲笑うかのような口調で話しかけた。

 

「貴様、キングから動くだと?」

 

「王が動かないと、民はついてこないからな」

 

 そうして青年は、キングの駒を動かした。

 

 

 

 

「ルルーシュ!今の試合8分37秒だって!今までの最短記録更新だな!」

 

「相手が弱かっただけだよ。貴族なんて、権力を傘にした無能なのさ」

 

 今しがたまで、チェスを打っていた青年に話しかける者の名は「リヴァル」。彼は「アッシュフォード学園」に通うブリタニア人の学生であり、学生服を身にまとっている。

 

 であれば、先程までチェスを打っていた青年もまた学生であることがわかるだろう。

 

 彼の名は「ルルーシュ・ランペルージ」。かつて、「ルルーシュ・ヴィ・ブリタニア」として生きていた少年、その成長した姿であった。

 

 

 

 

 ルルーシュとリヴァルは、昼休みに学校を抜け出してチェスの代打ちに来ていた為、急いで学校に戻る必要があった。リヴァルの運転するバイクのサイドカーに乗ろうとしたその時、ビルの壁面に設置されていた大型テレビの映像が突然切り替わり、1人の男が姿を現した。

 

 男の名は「クロヴィス・ラ・ブリタニア」。ブリタニア帝国第3皇子であり、ルルーシュの腹違いの兄。そして、現在の「エリア11」総督であった。

 

 クロヴィスは悲痛そうな表情を見せると、その口を開いた。曰く、「先日の「イレブン」の反乱によって失われた8名の命に追悼の意を」ということだった。

 

 ルルーシュは、その姿を忌々しげに睨むと、リヴァルを促してバイクを発進させた。

 

 

 

 

 ルルーシュとリヴァルが学校に向かう途中、高速道路を走っていると、後ろから大型のトラックが迫ってきた。明らかに法的速度を無視した速度での運転であり、このまま進めば、ルルーシュとリヴァルの乗るバイクなど原型を止めることなく潰されてしまうであろうことが目に見えていた。

 

「おいおい!これはヤバイって!」

 

 リヴァルは必死に速度を上げて追いつかれないようにするが、小型のバイクと大型のトラックでは馬力が違う為、その差は縮まっていく一方だった。

 

 ルルーシュは考え事をしていた為、リヴァルの焦った声を聞き、現在の状況を把握したが、今のルルーシュにできるのは、バイクとトラックがぶつからないように祈る事だけだった。

 

 道路が分岐に差し掛かった時、トラックはリヴァルのバイクを避けるように、立ち入り禁止の道路へと進んでいき、そのまま壁に当たって動きを止めてしまった。その音を聞きつけてか、周りには多くの野次馬が集まって来ていたが、誰1人としてトラックの運転手を助けようとする者はなく、それどころかその様子を携帯で撮るなどして、事故そのものを面白おかしく見ている者もいた。

 

「誰もトラックの運転手を助けようとする奴はいないのか…!」

 

 ルルーシュは悪態1つつくと、何かを訴えるリヴァルの声を無視して、トラックに駆け寄った。そして、トラックに手を触れた瞬間、誰かの声のようなものを聞いた気がした。

 

「中の人、大丈夫ですか!」

 

 ルルーシュが必死に呼びかけるが、トラックの運転席からは返事がなく、ルルーシュはどうにかして運転席に行けないかと、トラックの荷台の部分に乗り込んだ。そしてその瞬間、突然トラックがバックをし、凄まじいスピードで再び走り出した。ルルーシュの制止を求める声も虚しく、トラックはそのまま何処へと走り出してしまった。

 

 

 

 

 一方その頃、クロヴィスは会見を終え、パーティーへと戻っていた。周りの貴族たちがクロヴィスのことを賞賛している時、1人の小太りした男がクロヴィスの元へ走り寄って来た。男がクロヴィスの耳に何事かを囁くと、クロヴィスは焦ったかのように男に向かって声を荒げた。

 

「何?"アレ"を載せたトラックが、テロリストどもに盗まれただと!?」

 

「はい、そのように…」

 

「警察への説明はどうなっている!」

 

「それが、"アレ"の中身を民間人に知られるわけにはいかず…」

 

「ッ!もういい!親衛隊を出せ!」

 

「しかし、今このエリア11には「ラウンズ」の方が…」

 

「あんな"小娘"など放っておけ!本国への説明は後からどうとでもできる!」

 

 クロヴィスはそう言い放つと、管制室へと足を急いだ。

 

 

 

 

 舞台は再びルルーシュへと移り変わる。トラックで運ばれている間、ルルーシュは考えを巡らせていた。先程、トラックの運転席の方から、1人の女がKMFに乗ってトラックの荷台から降りていったのを見て、ルルーシュは、このトラックがテロリストのものであることを知った。何故なら、このKMF、通称「ナイトメア」は、ブリタニア軍を除けば、エリア11の反ブリタニア勢力しか保有していないものであるからだ。

 

 外からは、明らかに車ではないものの駆動音まで聞こえて来て、先程は銃声も響いた。その際にトラックが揺れたことから、このトラックには何かある。そう考えたルルーシュは、トラックの中を自身の携帯で照らした。今まで気付かなかったが、ルルーシュがあるトラックの荷台には、大きな丸い機械のようなものが積み込まれていた。

 

 ルルーシュが、その球体について考えをめぐらそうとした時、トラックに大きな衝撃が走ったかと思うと、トラックはその動きを停止させた。

 

 衝撃のせいだろうか、トラックの荷台の側面が開いた。その時、向こう側の通路から1人のブリタニア軍の軍人が姿を現した。その軍人はフルフェイスのヘルメットを装備しており、暗闇の中でも活動できるようだった。その軍人は、ルルーシュの乗るトラックの荷台の中に入り、隠れているルルーシュを見つけると、ルルーシュに向けて蹴りを放った。

 

 咄嗟の判断でその蹴りを腕で防ぐことに成功したルルーシュだったが、衝撃までも防ぐことはできなかったようで、ルルーシュの身体は宙を舞った。

 

「もうこれ以上罪を重ねるな!」

 

 軍人はルルーシュに向けてそう言った。

 

「罪を重ねるなだと?そもそも、最初に罪を犯したのはブリタニアではないのか!」

 

 ルルーシュは蹴り飛ばされた状態から立ち上がると、暗闇からその姿を晒しながら軍人に向けて声を荒げた。すると、その姿を見た軍人は何かに驚いたかのように動きを止めると、フルフェイスのヘルメットを外しながらルルーシュに向けて話しかけた。

 

「ルルーシュかい?良かった、無事だったんだね!」

 

「お前…スザクか!?」

 

 それは、7年前に別れたルルーシュの親友、枢木スザクだった。

 

 こうして、2人が再会したところから、新たな物語の幕が開くのだった。

 

 

 

 

「…様、どうやらクロヴィス殿下が何やら始められるようですが…」

 

「…私は何も言われてない。それに、何かあればジェレミアがなんとかするはず」

 

 ルルーシュたちとは別のところでも、物語は動こうとしていた…

 

 

 

 

 



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7話 王の力

 ルルーシュとスザクの再会。それは、2人にとって大きな意味を持っていた。

 

 スザクには、7年前に別れてから安否がわからなくなっていた親友と再会できたことを純粋に喜ぶ気持ちがあった。しかし、ルルーシュには別の気持ちも存在していた。即ち、日本人であったスザクがブリタニアの軍人としてこの場所にいることに驚愕する気持ちであった。

 

「お前…ブリタニア軍に入ったのか」

 

「あぁ、僕の理想を叶えるために」

 

 ルルーシュの問いに、スザクは「理想」と答えた。それについてルルーシュが聞こうとすると、先にスザクが口を開いた。

 

「ルルーシュ、ところで君はこんなところで何を?まさか君がテロリスト…」

 

「違う!俺は巻き込まれただけだ!テロリストとは何の関係もない!」

 

「そうか、良かった。」

 

 スザクは、安堵した表情を見せると、すぐに顔を引き締めて、トラックの荷台に積んであった球状の物体に指をさしてこう言った。

 

「それよりも、早くここから離れないと!ここは危険だ!その中には、テロリストが軍から奪った猛毒のガスが入っているんだ!」

 

 スザクの言葉を聞いたルルーシュは、スザクに聞きたいことよりも自身の安全を優先し、スザクと一緒にその場を離れようとした。ちょうどその時、スザクが「毒ガス」と言っていた球体が開かれた。

 

 スザクは自身の被っていたマスクをルルーシュの顔に押し付けると、そのままルルーシュと一緒にトラックの荷台の床に倒れこんだ。ルルーシュはスザクの咄嗟の行動に反応しきることができず、受け身も取れていないようであった。痛みに耐えながら顔を上げようとすると、その上には目を見開くスザクの顔が見えた。

 

「おい、スザク。一体何が…」

 

 そして、ルルーシュもその光景を見て驚きを隠せなかった。球体の中から出てきたのは毒ガスなどではなく、拘束服で全身を固定された、緑の髪の女だった。

 

 

 

 

「おい、答えろよスザク!これが毒ガスか!?」

 

「違う!僕は本当に毒ガスと!」

 

 ルルーシュとスザクは、女をトラックの荷台から降ろし、拘束服の点検をしながらこの女について話をしていた。ルルーシュがスザクに事の真意を問いただそうとしたその時、先程スザクがやってきた通路から、小規模な歩兵部隊が現れた。スザクはその部隊の先頭にいた男に近づくと、その男に向けて敬礼をした。どうやら、スザクよりも上の階級の者らしかった。

 

 その男は、軍服の内側から出した自身の銃をスザクに手渡すと、ルルーシュに聞こえるほどの声でスザクに命令した。

 

「枢木一等兵、こいつであのブリタニア人の学生を殺せ」

 

「そんな!彼は違います!テロリストではありません!」

 

「ならん!君がその手で殺すのだ」

 

 ルルーシュにとって、スザクに銃が渡されようとしている時間は、地獄のように感じられた。親友の手で、何も残せないまま殺されてしまう。そんな最悪の未来を想像してしまい、ルルーシュはスザクの事を直視することができなかった。しかし、次のスザクの一言にルルーシュは驚き、スザクへと顔を向けた。

 

「僕には、民間人を打つことなどできません。それに彼は友達で…」

 

 スザクの答えに、ルルーシュが安堵した一瞬の後、スザクの上官とみられる男はスザクに渡そうとしていた銃を自分の手で構え直すと、

 

「では君が先に死ね」

 

 と、スザクの脇腹を銃で撃った。

 

「スザァァァク!」

 

 その光景を見たルルーシュは思わず叫ぶが、スザクを撃った男はそのまま銃をルルーシュの方へと向けた。銃の引き金に指がかけられ、ルルーシュが思わず目を背けたまさにその時、突然トラックが爆発した。ルルーシュは、その混乱に乗じて、女を引きずるようにして、地下道の中を走っていったのだった。

 

 

 

 

「クロヴィス殿下、親衛隊から報告が」

 

「内容は」

 

「それが、テロリストを逃してしまったとのことで、これから捜索をするようです」

 

「そうか…」

 

 テロリストに関する報告を聞き、クロヴィスは何か思案するような顔になると、近くに控えていたバトレーに現在の状況を聞いた。

 

「バトレー!地上に出ているテロリストの活動状況は!」

 

「新宿ゲットーにて、未だに反乱を続けているとのことです」

 

「軍からアレを盗み出したテロリストどもが逃げた場所も新宿ゲットーだったな…。」

 

 そういってクロヴィスは少しした後、立ち上がってこう命令を下した。即ち、「新宿ゲットーを壊滅せよ!」と。

 

 

 

 

 ルルーシュは、トラックの爆発に乗じて新宿ゲットーの地下道を歩いていた。幸いにも後ろからあったが来る気配はなかったが、ルルーシュは急いで逃げていた。元々の体力のなさが災いし、しかも女を引きずらようにしながら逃げてきたため、もうルルーシュの体力も限界に近かった。

 

 ルルーシュは女を投げるようにして放ると、壁に寄りかからながらも女に向かって怒鳴り声をあげた。

 

「一体お前は何なんだ!お前のせいで…俺は…スザクまでも…!」

 

 しかし、1度怒鳴ったことで逆に冷静になったのか、ルルーシュは再び女を立たせると、また地下道を歩き始めた。

 

 そうして進んでいくと、目の前に階段が見えた。ルルーシュは階段の陰に身を潜めると、少し頭を出して周囲の様子を確認した。するとその時、正面から光が差し込んだかと思うと、辺りに銃声が鳴り響いた。

 

 ルルーシュは突然の出来事に驚いたが、女の頭を下げさせると、自分もすぐに頭を階段に隠して銃声が止むのを待った。

 

 銃声が止んだ後、再びルルーシュが階段から頭を出して、銃声の発生源を覗き見ると、そこにいたのは先程スザクを撃った男と、その男が率いる部隊だった。さらにその周囲を見渡せば、イレブンとみられる死体がそこかしこに転がっており、先程の銃声の犠牲者であるのだと知った。

 

 すると、どこからか赤ん坊の泣く声が聞こえた。その声のする方をルルーシュが見ようとした時、それよりも早く銃声が鳴り響き、赤ん坊の声が聞こえなくなった。ルルーシュが別のルートからの脱出を試みようとしたその時、ルルーシュのポケットから携帯の着信音が鳴り響いた。

 

 

 

 

 ルルーシュは、階段に隠れていたところを発見され、階段から引きずり出されていた。ここはどこかの倉庫らしく、床には先程撃たれたイレブンの死体が転がっている。この先の自分の未来を想像したルルーシュは、自らの運命を強く呪った。

 

(俺はここで終わるのか…!何もすることができず、こんなところで…!ごめん!ナナリー!)

 

 ルルーシュが死を予見し、銃弾がルルーシュに向けて放たれた瞬間、それまで兵士たちに捕らえられ、抵抗を続けていた女が勢いよくルルーシュの前に飛び出してきたかと思うと、

 

「殺すな!」

 

 と言いながら両腕を広げ、ルルーシュを守るかのような体勢になった。しかし、その叫びも虚しく、放たれた弾丸は女の額をまっすぐ打ち抜き、女はそのまま地に倒れ伏してしまった。

 

 ルルーシュ自身もまた、目の前で人が死んだということに驚き、思わず膝を地面についてしまった。ルルーシュの心は折れ、もう立ち上がることさえできないようだった。

 

 スザクを撃った男が他の兵士たちに命令を下し、再び銃の照準がルルーシュへと向けられた瞬間、突然、先程額を穿たれ死んだと思われていた女の手が動き、ルルーシュの手首に触れた。次の瞬間、ルルーシュの意識は今ある場所を離れ、別の場所へと移ったのだった。

 

 

 

 

「力が欲しいか?ならば、契約をしてもらう」

 

 女は言った。

 

「お前に力をやる代わりに、私の願いを1つ叶えてもらおう」

 

「王の力はお前を孤独にする。それでも望むか?力を」

 

 ルルーシュはそれに答えた。

 

「いいだろう!結ぶぞ、その契約!」

 

「俺に、その力をよこせ!」

 

 

 

 

 ルルーシュの意識は、再び倉庫へと戻った。未だ自分の体から血が流れている様子も、痛みがある様子もないことから、ルルーシュは今の会話が、この世の理から外れた力で行われていたことを知った。自身にも、その力の一端が与えられたことを本能で察したルルーシュは、立ち上がり、自分を撃てと命じた男の目を見据えた。

 

「なぁ、ブリタニアを憎むブリタニア人は、どう生きればいい?」

 

「貴様!」

 

 男は銃を構え直し、ルルーシュを撃とうとしたが、ルルーシュの先程までとは違う雰囲気を少し不審に思い、撃つのをためらった。

 

「どうした?撃たないのか?それとも、今更気づいたのか?撃っていいのは撃たれる覚悟のある奴だけだと!」

 

 そうルルーシュが言い、左目を覆っていた手をどかすと、その下にあった左目から、何かの模様のようなものが姿を現した。男には見えなかったが、ルルーシュの異様な雰囲気を感じたり、怖気付いたのか、少しずつ後ろに後ずさりしていた。

 

「ルルーシュ・ヴィ・ブリタニアが命じる…貴様達は、死ね!」

 

 ルルーシュがそう命じると、ルルーシュの目の前にいた部隊の男たちは皆、ルルーシュに向けて構えていた銃を自分の首筋に構え直すと、

 

「Yes,your highness!」

 

 と高らかに宣言すると、一斉に銃の引き金を引き、全員がその場に倒れ伏した。

 

 ルルーシュはその光景を目にし、一瞬だったが動きを止めた。しかし、顔を歪めると、自分が手に入れた力と、これからの自分の生活を想像するのだった。

 

 

 

 

 

 




最後のシーンですが、アニメと台詞回しをほとんど変えていません。理由は、このシーンがコードギアスの始まりであると思うからです。
「撃っていいのは撃たれる覚悟のある奴だけだ」このセリフ、とても印象に残っています
それでは次回もお楽しみに!


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8話 行動開始

「お前は一体、俺に何をして欲しかったんだ…?こんな変な力まで与えて…」

 

 ルルーシュは、モノ言わなくなった女の身体を見つめながらそう呟いた。先程は確かにルルーシュの手首に触れたはずなのだが、その肉体は力無く床に寝そべり、とても生者のモノとは言えない様子であった。ルルーシュがそうして女を見つめていると、ルルーシュの背後にある倉庫の入り口から大きな音がして、ルルーシュは後ろへ振り返った。そこにあったのはブリタニア軍のKMF「サザーランド」であった。

 

 

 

 

 サザーランドのパイロットである軍属の女性「ヴィレッタ・ヌゥ」は、目の前の光景に驚きを隠せないでいた。クロヴィス第3皇子の命令で、新宿ゲットーをKMFで駆けていたヴィレッタだったが、親衛隊からの信号を受け取りこの場所に来たのだった。

 

 しかし、信号を発した肝心の親衛隊は血の海に沈んでおり、その中心部には、学生と思わしきブリタニア人の少年が1人立っているだけであった。

 

(親衛隊が…!ここで一体何が?)

 

 ヴィレッタは、目の前の学生が何か知っているはずだ。そう思い目の前の学生-ルルーシュに向かって話しかけるのだった。

 

 

 

「貴様、ブリタニア人の学生だな?一体ここで何があった!答えろ!答えなければ…」

 

 そう言ってKMFから発射された弾丸は、ルルーシュの背後の壁に風穴を開けた。ルルーシュはそれを受けても舌打ち1つで済ませると、KMFに乗るヴィレッタに向けて、先程と同じ能力を行使しようとした。

 

「そこから降りろ」

 

「貴様…何様のつもりだ?」

 

 しかし、結果は先程のようには行かず、ヴィレッタは警戒心を強めた。

 

(ふむ…やはり直接見なければ効力を発揮することはできないか)

 

 ルルーシュは心の中でそう結論づけると、続けてこんな嘘を吐いた。

 

「私は、アラン・スペンサー。父は侯爵だ。内ポケットにIDカードが入っている。確認の後、保護してもらいたい」

 

 ヴィレッタも、相手が侯爵だと言われればその真偽を確かめるほかない。まして、爵位を欲して騎士になろうとしているヴィレッタにとって、たとえほんの少しでもその可能性があるのなら、自分の手で確認しなければ出世への道を断たれることになりかねない。そう思い、ヴィレッタは直接確認することにした。

 

 ヴィレッタは外に出ると、銃をルルーシュは構えながら、ゆっくりとルルーシュに近づいていく。ルルーシュは、その瞬間を待っていた。

 

「手は上げたままでいろ。IDは私が確認する」

 

 そう言いながら近づいてきたヴィレッタに対し、ルルーシュは再び能力を行使する。

 

「よこせ!お前のナイトメアを!」

 

 ルルーシュがヴィレッタにそう言った瞬間、ヴィレッタは手に持っていた自身の機体の認証キーをルルーシュに投げ渡すと、その機体のパスワードを言った。ルルーシュは顔を歪めると、「ありがとう」と言って、ヴィレッタが乗っていたサザーランドに乗り込むのだった。

 

 

 

 

 スザクが意識を取り戻したとき、そこは意識を失うまでいた地下道ではなく、どこかのベットの上だった。目の前には見慣れない、白衣の男性と軍の制服を着こなす女性がいた。

 

「あの…ここは…?」

 

「ん?あぁ、まだ新宿ゲットーだよ」

 

「ここは救護車。クロヴィス殿下の居る本陣の中にあるから、この戦場で最も安全な場所といってもいいわ」

 

 その後、女性が何かを手に持ってスザクの前に差し出した。

 

「スザク君、これが君を守ったのよ」

 

「スーツ内での跳弾を防いだだけなんだけどね。何か大切なものなのかい?」

 

 女性の手の上にあったのは、銀の懐中時計だった。表面のガラスはひび割れていて、長針と短針も止まってしまっていた。もう2度と時を刻むことはないだろう。

 

 スザクは、白衣の男性の言葉を遮った。そして、ルルーシュのことを聞こうとしたが、思い留まり、現在の状況を聞いた。

 

「あの、ルルー…。現在の状況はどうなりましたか?」

 

「カプセルが爆発して、毒ガスが撒き散らされたみたいだよ。イレブンにも大量に被害が出たみたい」

 

「犯人はまだ捜索中だそうよ」

 

「そうですか…」

 

 スザクはそう言ったが、内心では複雑な心境を抱えていた。毒ガスだと聞かされていた球体の中には、拘束服を着せられた女性が入っていた。一緒にいたルルーシュの安否も気になる。延々と続く思考を遮ったのは、白衣の男性の言葉だった。

 

「枢木一等兵。君、KMFの騎乗経験は?」

 

「はっ?イレブン出身者は騎士にはなれませんが…」

 

「なる方法があると言ったら、どうする?」

 

 白衣の男性の手に握られていたのは、KMFの認証キーだった。

 

「おめでとう!世界でたった1つのナイトメアが君を待っている。なれば変わるよ。君も、君の世界も」

 

「望もうと、望むまいとね…」

 

 

 

 

「ブリタニアめ…!よくも!」

 

「カレン!グラスゴーはまだ動くか!?」

 

「大丈夫!私が囮になるから、扇さんたちは市民のみんなの救助を!捕まるのは私たちレジスタンスだけで!」

 

 現在新宿ゲットーでは、テロリストの殲滅作業が行われていた。その過程で民間人も殺されており、グラスゴーに乗る「カレン」と呼ばれたレジスタンスの少女は、怒りに身を任せてブリタニア軍を攻撃するのだった。

 

 

 

 

 ルルーシュは、先程ヴィレッタから奪ったサザーランドのコクピット内で電話をかけていた。

 

「あっ、もしもし?ルル?やっと繋がった!今どこで何してるの!?」

 

 電話の相手は「シャーリー」と言って、ルルーシュと同じ学園に通う女子生徒だった。ルルーシュはシャーリーの言葉を無視すると、近くに情報を発信するものがないか尋ねた。

 

「シャーリー。近くにテレビはあるか?なければラジオでもいい」

 

「ちょっと待ってね。ごめん、これ貸して!」

 

 シャーリーは更衣室でテレビを見ながら着替えをしていた友人からテレビを借りると、ルルーシュに次の指示を仰いだ。

 

「それで?何すればいいの?」

 

「ニュースを見てくれ。新宿付近で何か情報はないか?」

 

「交通規制がかかってるぐらいで、他には特に何も無いみたい…。それよりルル?また賭け事でもやってるんじゃ無いでしょうね!」

 

「そうか、ありがとう。悪い、シャーリー。妹に伝えておいてくれ。今日は帰りが遅くなるって」

 

 シャーリーのお説教が始まりそうなのを遮って、ルルーシュはシャーリーとの電話を切った。

 

 

 

 

 ルルーシュは、サザーランドのスクリーンに周辺の地図を映すと、先程シャーリーから聞いた情報を元に、戦場について考えていた。

 

(情報がおおっぴらに公開されている以上、援軍は来ないだろう。つまり、盤上の駒はこれだけか…)

 

 先程見つけたチェスの駒をいじりながら、ルルーシュは考えた。

 

(この包囲網の中を1人で突破するのは難しい。かと言って、助けを求めたところで帰って危険だ…)

 

 ルルーシュは1度コクピットから出ると、銃声の響く空の下で決意を露わにした。

 

「俺を巻き込んだ責任…必ず取ってもらうぞ」

 

 

 

 

 カレンは今、2機のサザーランドに追われていた。カレンのグラスゴーは左腕が破壊されてしまっていたし、相手も相当の手練れだったため、防戦一方となってしまっていた。このままでは負けてしまう。そう思っていたカレンの元に一本の無線連絡が届いた。カレンのグラスゴーの無線は回線が秘匿されているため、一般使用することのできないものだった。カレンはその声を警戒した。

 

「西口だ!線路を利用して西口に向かえ!」

 

「誰!?一体どうやってこのコードを!」

 

「誰でもいい!勝ちたければ私に従え!」

 

「勝つ…!?」

 

 謎の声の"勝つ"という言葉に、このままではどうにもならないことを知ったカレンは、その声に従い、線路へと機体の進路を変えた。

 

「全く、逃げるだけでは狩りにならんだろう」

 

 カレンを追う2機のサザーランド。そのうちの1機に乗るジェレミアは、そう言って余裕の笑みを浮かべた。

 

 

 

 

 

 線路を利用し、西口に向かうカレン。その後ろからは2機のサザーランドが迫っていた。絶体絶命だとカレンが諦めかけたその時、無線から先程の声が流れた。

 

「列車に飛び移れ!」

 

「分かった!」

 

 声に従い、カレンは対面から走ってくる電車の上に飛び乗り、そのまま真っ直ぐ進んでいった。2機のサザーランドは反応が遅れてしまったのかそのまま列車に衝突したが、ジェレミアの乗る機体が列車を止めると、もう1人に指示を出した。

 

「お前はあのグラスゴーを追え。私はここから奴を狙う」

 

「分かりました」

 

 そういって、サザーランドが列車の陰から飛び出した瞬間、それは銃撃に晒されて、一瞬のうちに破壊されてしまった。

 

「何!?」

 

 ジェレミアはすぐに線路から降りると、柱の陰に身を隠して射線の方向を見た。ジェレミアの視線の先には、崩れた廃ビルがあり、そこにはブリタニア軍のサザーランドがあった。

 

「バカな!狙うべきはあの片腕のグラスゴーだろう!?」

 

 ジェレミアは混乱したが、自身の方へ向かってくるグラスゴーを確認すると、一時撤退を選んだのか、そのまま軍の本部がある方向へと姿をくらました。

 

「ありがとうございます!」

 

 そう言って、カレンがジェレミアと同じ場所を見ると、そこにはすでにサザーランドの姿はなかった。

 

 カレンが困惑していると、外から仲間の声が聞こえた。

 

「カレン、無事か!?」

 

「ええ!扇さんたちもあの指示を?」

 

「あぁ、それでこの場所に来るように言われたんだが…」

 

 カレンと、仲間たちのリーダーである「扇」が話していると、無線からまた声が聞こえた。

 

「来たか…列車のコンテナを開けろ!それを使って勝ちたくば、これより我が指示に従え!」

 

 テロリストたちがコンテナを開けると、そこにあったのは大量のサザーランドだった。扇は仲間たちに謎の声に従うように言うと、次の指示を求めたのだった。

 

 

 

 

「ふぅ、意外と疲れるな…」

 

 先程までテロリストたちに指示を出していたのはルルーシュだった。ルルーシュは、黒のキングをその手で持ちながら、冷や汗を1つ流した。

 

「しかし、やりとげる決意は必要だ。これは、命を賭けた"ゲーム"なのだから…」

 

ルルーシュの顔には、微かではあるが、確かに笑みが浮かんでいた。



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9話 再会

 軍の本部で、クロヴィスは現在の戦況を確認していた。前面に置かれたパネルには、新宿ゲットーの地図と自軍のKMFの状況が示されていた。

 

「一般のイレブンに混じって、テロリストどもが多少の抵抗をしているようですが、我が軍の圧倒的優位は変わりません。やはりラウンズの力など使うまでもありませんでしたな」

 

「当然だ。それより、毒ガスのカプセルはどうなっている?」

 

「はっ、現在中身(・・)を捜索中です。見つかり次第、また連絡を」

 

「よし。全軍、そのまま殲滅を続けろ!」

 

 クロヴィスは、自軍の勝利を疑うことなくそう指示を出したのだった。戦場のどこかで、反撃の狼煙が上がったことも知らず…

 

 

 

 

「なぁ、扇ぃ!本当に得体のしれないやつの言うことなんて信じていいのかよ!この機体だって罠かもしれないだろ!?」

 

「どうせ何もしなければ俺たちは終わっちまう!それに、今の状況であいつらが罠なんて仕掛けるはずがない!彼を信じよう!」

 

 メンバーからの反対の声もあったが、レジスタンスのリーダーである扇は、謎の声に従うことに決めた。先程の戦闘や、このサザーランドを見るに、彼に従った方がこの戦いに勝てそうだったからである。何もせずに終わるなら、何かを為して終わりたい。扇はそう考えていた。

 

「…よし、10分経ったな。それでは、君たちに次の指示を与える!」

 

 聞こえてきた謎の声の正体に疑念を抱きながらも、レジスタンスは全員リーダーに倣い、謎の声に従うことにした。しかし、次の瞬間に聞こえてきた指示の内容に耳を疑うことになるのだった。

 

 

 

 

(よし、テロリストどもが俺の指示の通りに動いてくれるなら、障害はクリアしたも同然。この勝負、勝てる…!)

 

 ルルーシュは廃ビルに隠れながら、そう考えていた。自分からは相手のKMFの位置が全て分かるし、そこから敵の動きを推測することも容易で、ルルーシュは正にストラテジーゲームのように相手を追い詰めようとしていた。

 

「…よし、10分経ったな。それでは、君たちに次の指示を与える!」

 

「P2、P3は今から23秒後に、目の前の壁に向かって銃を乱射しろ!そこに敵が来る!」

 

「なっ!そんなの信じられるわけないだろ!」

 

 ルルーシュの出した指示に、当然レジスタンスからは反対の声が届いてきた。しかし、それを遮ったのはまたしてもリーダーである扇だった。

 

「構えろ!」

 

「扇!でもよぉ…」

 

「俺は彼に乗る、そう決めたんだ」

 

「ちっ、分かったよ。おい、お前!嘘だったら承知しねぇからな!」

 

「おい、玉城!」

 

 レジスタンスの中でも特にうるさかった男。「玉城」と言うらしい。ルルーシュは、彼のことが嫌いになった。一方、扇のについては、「話がわかる奴もいる」と、少し評価を上げていた。

 

「そろそろ時間だぞ!5秒前!4、3、2、1、撃て!」

 

 ルルーシュの指示に合わせて、レジスタンスの指示された面々は、目の前の壁に銃弾を放った。すると、その向こうで敵のサザーランドが爆発する音が聞こえて、レジスタンスたちは作戦の成功を悟った。

 

「嘘だろ…」「凄い…」

 

 そういった声が流れる中で、ルルーシュは冷静に次の指示を出す。最初の撃破で、今までは半信半疑だったレジスタンスも素直にその指示に従うようになり、結果、相手のサザーランドは軒並み壊滅状態に陥り、レジスタンスたちは殆ど無傷でいた。今この瞬間、戦況はルルーシュの率いるレジスタンスに完全に傾いたのだった。

 

 

 

 

 一方、ブリタニア軍の本部では、将軍や参謀達が、次々と不利になっていく戦況を見て顔を青ざめさせていた。

 

「ラスゴー隊もやられました!」「他から早く応援を回せ!」「ダメです!どこもテロリストどもに攻撃されていて!もう動かせる隊もありません!」「何か策はないのか!」

 

 眼前で行われる、まるで意味を持たない戦術会議に業を煮やし、クロヴィスは座っていた豪華絢爛な椅子から勢いよく立ち上がると、大声で叱責を飛ばした。

 

「なんたる失態か!テロリストどもにいいようにやられおって!」

 

 そう言いながらクロヴィスは、新宿ゲットーの地図が映し出されている画面の1点に指を置き、こう指示を出した。

 

「どうせこの場所にテロリストどもがいるのだ!包囲を説き、残る全軍をここに向かわせろ!」

 

「しかし殿下!それでは本陣の守りも…」

 

「この場所までテロリストが来ることなどない!いいから早く機体を回せ!」

 

 クロヴィスからの突然の指示に混乱を隠せない軍のトップ達だったが、クロヴィスの命令に逆らうことなどできず、結局その命令通りに部隊を動かした。しかし、テロリストの罠にはめられてしまい、その場所に集めていた全てのKMFが反応を消失させてしまった。

 

 それを見た本部の人間は皆顔を青ざめさせたが、直後に入ってきた通信に驚きを隠せなかった。

 

「は〜い!殿下、まだお困りですか?」

 

「貴様!ロイド!特派の分際で再び殿下に何の用だ!」

 

 通信の相手は、先程スザクを救った「ロイド」という人物だった。クロヴィス相手にも、人をおちょくるような口調と声色で話しかけていた。先程の失態と合わせて軍部の者達の顔はもう真っ赤だった。

 

「よい!それよりもロイド!貴様の"おもちゃ"であれば、この戦況を逆転できるのか!」

 

「お任せください、殿下」

 

 実は先程、1度特派の申し出をクロヴィスは断っていた。その手前、ロイド率いる特派の連中に頼むのは気が進まなかったが、それよりも今、"視察"という形でエリア11に来ているラウンズにこの失態がバレ、本国に報告されるよりはマシだと思った。

 

 しかし、ロイドに指示を出した後入ってきた部下の言葉で、クロヴィスは自身の対応が遅かったことを知った。

 

「ラウンズ、アールストレイム(・・・・・・・・)卿が、我が軍のサザーランドで勝手に戦場に出てしまわれました!申し訳ありません!我々では止める権利もなく…!」

 

 

 

 

「クロヴィス殿下からの許可は下りたよ。行けるかい?スザク君」

 

「はい。でも、どうして僕なんかが…」

 

「まあまあ、そういったのはまた後で」

 

 スザクは、パイロットスーツに着替えていた。手には、先程渡された認証キー。名前は「Z-01 ランスロット」と言い、世界で唯一の第7世代KMFということらしかった。しかし、スザクにはそんなことは些細なことだった。

 

「作戦内容を確認します。作戦内容は、敵戦力の無力化、および排除です。」

 

 作戦を心の中で復唱するのと同時にスザクは思った。

 

(この力さえあれば、この戦いを止められる!誰も傷つかずに済む!)

 

「共同開発兵器、Z-01ランスロット、発進!」

 

 そして、スザクが戦場に降り立った時、全てのピースが揃うのだった。

 

 

 

 

 ルルーシュは、手の上でチェスの駒を転がしながら、戦場の様子を見ていた。自分の指示で動く駒が、相手の駒を次々と倒していく。自分の思い描いたシナリオが盤上に現れるのを見て、ルルーシュはほくそ笑んでいた。今戦場に残る敵機は、最初に抱かずに比べると雀の涙ほどになっていた。

 

 それゆえに、ルルーシュは油断していた。これで勝ったと。しかし、現実はゲームのようには甘くなかった。

 

「助けてくれ!こちらP3!今、見たことも無いKMFが!うわぁぁぁ!」

 

「くそ!こちらP5!なんなんだこいつは!早すぎる!実弾も弾かれた!」

 

「一体何が起こっている!おい!」

 

 ルルーシュには訳がわからなかった。もうこの勝負は自分の勝ちだと思っていたし、今更どうこうなるなんて考えてもいなかった。それ故に対応が遅れてしまった。ルルーシュが気付いた時には、目の前に白いKMFがその姿をさらしていたのだった。ルルーシュは知る由もないが、その機体はランスロットであり、乗っているパイロットはスザクだった。

 

 戦場で、親友は再び相対するのだった。

 

「なんなんだ!お前は!」

 

 ルルーシュは、乗っているサザーランドの武装で応戦しようとするが、実弾は腕のシールドのようなものに弾かれてしまった。

 

 ルルーシュはKMFの操縦経験などなかった。相手のKMFは殴りかかってきたが、その一撃に、ルルーシュは反応できなかった。しかし、相手の拳がルルーシュにあたる直前、片腕のグラスコーがそれを防いだ。

 

「逃げてください!早く!」

 

 それを見たルルーシュは、迅速にその場を抜け出した。崩れていか廃ビルを後ろ目に見ながら、ルルーシュはこれからのことを考えるのだった。しかし、安心したのもつかの間、ルルーシュの背後からランスロットが迫ってきていた。それも驚異的なスピードであり、このままではすぐにルルーシュは追いつかれてしまう。

 

「なんなんだあの化け物は!」

 

 このままでは追いつかれる。そう思ってルルーシュが後ろ向きに銃を構えようとしたその時、ランスロットは突然空中に飛び上がると、崩れた建物から落ちてくる女性と子供を助けたのだった。それを見たルルーシュは、一気に力が抜けた。

 

「なんだアイツは…戦闘の最中に人助けだと?ふん、まぁいい。おかげで俺は逃げられるんだからな」

 

 しかし、ルルーシュはまたしても戦場で油断してしまった。そして、その油断が一瞬の命取りとなった。

 

 ルルーシュが気を緩めた瞬間、突如として近づいてきたサザーランドに、ルルーシュの乗るサザーランドは馬乗りに倒されてしまったのだった。

 

 

 

 

 時は少し遡り、ルルーシュが廃ビルを脱出した直後。ルルーシュの乗るサザーランドを背後から追跡していたスザクだったが、目の前に女性と、赤子が落ちてくるのを見て、追跡を続けるのか、それとも助かるのか、一瞬の戸惑いが浮かんでしまった。ちょうどその時、ランスロットの通信に、若い女性の声が聞こえた。

 

「あなたはその人たちを助けてあげて。私が奴を捕まえる」

 

「分かりました!お願いします!」

 

 そうしてスザクは、人命救助に当たったのだった。

 

 

 

 

(くそ!油断した!)

 

 ルルーシュは今の状況をどうやって打破しようか考えていた。しかし、どれだけ必死に考えようとも、自身が動けない時点で詰みのようなものだった。ルルーシュに残された手段は、相手の目を直接見ることで命令を下すことしか無かったが、テロリストだとバレている今の状況で怪しまれないように相手に顔を見せるのは無謀のような気がした。

 

 ルルーシュがピンチに焦っていると、頭上のサザーランドのコクピットが開き、中から1人の少女が姿を現した。そして、その姿を見たルルーシュは、刹那のうちに思考を止め、その姿に見入ることになってしまった。

 

「…アーニャなのか…?」

 

 そこにいた少女を見て、かつて共に過ごした初恋の少女の姿をそこに幻視したルルーシュは、そう小さくつぶやきを漏らしたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




ようやくこの小説の本題を始めることができそうで、ホッとしております。
今まで書いてきたどの話よりも構想に悩んだ話でした。ついに出会ったルルーシュとアーニャ、2人の今後の関係にご期待ください!


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10話 2人の逢瀬

3/6追記
忙しさのピークが過ぎたので、今週の土曜日あたりからまた連載再開していきたいと思います!よろしくお願いします!


「…アーニャなのか…?」

 

 ルルーシュは思わずそう小さく呟いてしまう。最後に会ったのは8年前で、ルルーシュ自身もアーニャも小さかったため、記憶を頼りにするのは少々不安な気もしたが、それでもルルーシュの目の前にいる少女は間違いなくアーニャであるとルルーシュは思った。

 

 ルルーシュは思わず乗っていたサザーランドのコクピットから飛び出した。普段の冷静なルルーシュであったなら、こんな突発的な行動は取らなかっただろう。しかし、ルルーシュは今、平静とはかけ離れた精神状態の中にいた。

 

「アーニャ!」

 

 ルルーシュは、コクピットから飛び出しながら目の前の少女にそう呼びかけた。そこに策などはなく、8年前から続く純粋な想いがあった。そして、目の前の少女は、ルルーシュの姿を見てその動きを止めた。

 

「…ルルーシュ?」

 

 そのつぶやきがルルーシュの耳に入った瞬間、ルルーシュは思わずアーニャの元へと駆け寄ろうとした。しかし、よほど焦っていたのか、はたまた慣れないKMFの操縦で疲れていたのか、ルルーシュはサザーランドの機体の上で足を滑らせてしまう。ルルーシュは、滑り落ちる自分の体をまるで他人事のように考えていた。目の前にアーニャがいるのも、何かの夢なのかもしれない。そうも考えた。

 

 そして、ルルーシュは目を閉じ、浮遊感に身を投げ出した。しかし、地面にその体がぶつかる直前、何かに支えられるようにルルーシュの落下が止まった。何事かとルルーシュが目を開けると、目の前にはアーニャの顔があった。つまり、ルルーシュはお姫様抱っこをされていた。

 

「なっ!おい!離せ!」

 

 ルルーシュは恥ずかしさのあまり、ここが敵地だということも忘れて叫んでしまう。アーニャはルルーシュを地面に立たせると、そのままルルーシュに抱きついた。

 

「ルルーシュ!本当にルルーシュ!?」

 

「あぁ!俺だよ!アーニャ!」

 

「ルルーシュ!」

 

 ルルーシュとアーニャは、互いの名を呼びあうと、その存在を確認するかのように強く抱き合った。2人は、唐突な再会に涙していた。それは、別れの時とは違う、喜びの涙だった。

 

 

 

 

「本当にアーニャなんだな?」

 

「うん。ルルーシュ」

 

 ルルーシュとアーニャはいまだに抱き合っていた。まるでもう離さないと言っているかのように、2人はその腕を緩めようとはしなかった。しかし、その均衡を破ったのはルルーシュだった。

 

(む、胸が!いや、胸…なのか?)

 

 ルルーシュは、押し付けられたアーニャの胸を意識してしまっていた。しかし、アーニャは良く言えば発展途上、悪く言えば貧しかった。そのため、ルルーシュは自分の感じているものが本当に胸であるのか判断がつかなかった。

 

 そんな不埒な考えを悟ったのだろうか、アーニャはルルーシュから手を離すと、そのまま体を後ろへと引き、胸を隠しながらこう言った。

 

「私にも、ある…」

 

 わずかに赤面してみせるアーニャの様子に、ルルーシュはもうノックダウン寸前だった。思わず鼻を抑えたルルーシュだったが、あらまめてアーニャに目を向けた時、その格好に驚いた。なぜなら、アーニャがサザーランドから出てきたときに、軍属であるだろうことはルルーシュにもわかっていた。まして、自分がそうなるように望んだからだ。しかし、これは想定外だった。

 

「アーニャ…、そのコートは?」

 

 アーニャは、通常の軍服の上に、装飾の施されたピンクのコートを羽織っていた。彼女の髪の色と同じ色で、とてもよく似合っていたが、ルルーシュが着目したのはその存在自体にである。

 

 なぜなら、色付きのコートの着用を許されているのはブリタニア帝国の上位12名の騎士「ナイト・オブ・ラウンズ」のみであったからだ。そして、ラウンズが守るのは、ルルーシュがこの世で最も憎む男。第98代ブリタニア皇帝、シャルル・ジ・ブリタニアであったからだ。

 

 故に、ルルーシュは質問した。返答次第によっては、彼女に謎の力を行使することを考えて。しかし、アーニャの返した言葉は、ルルーシュの予想を上回るものだった。

 

「あぁ、これ?ジェレミアがなっておけって。ルルーシュが生きていたら必ず役に立つって言ってたから」

 

「つまり、それは俺のためということか?」

 

「うん」

 

 ルルーシュは驚いた。アーニャが自分のためにラウンズという、帝国では最上級に位置する地位を保持していたこと。そして、ジェレミアがアーニャにそれを進めたことである。ジェレミアとルルーシュはそこまで面識があるわけではなかったので、なおさらだった。

 

「アーニャ、ジェレミアが協力してくれたのか?」

 

「結構。これもジェレミアの。私の専用機はまだできてないから…」

 

 ルルーシュは、ジェレミアの評価を上げると同時に、警戒心を増した。ジェレミアがロリコンで無いことを願うばかりであった。もしそうであったなら、ルルーシュはジェレミアを処理しなければならないからである。

 

「アーニャ、ジェレミアと話がしたい。あとで連絡を取ってもらえないか?」

 

「?もちろん」

 

 ルルーシュのどこか鬼気迫る様子を不思議に思いながらも、アーニャはそれを了承した。

 

 それから2人は色んなことを話した。今までの生活を互いに言い合って、笑ったり、ときには泣いたりもした。ここが戦場だということを忘れるほど、2人は話を続けた。今までの会えなかった時間を埋めるように…

 

「アーニャ」

 

「何?」

 

「俺はこれから、ブリタニアを潰す。俺に、協力してくれないか?俺には、君が必要なんだ。」

 

「良いよ。私もルルーシュと一緒に戦う。だって私は、あなたの"騎士"だから」

 

 ルルーシュは、まっすぐアーニャを見つめた。アーニャは、ルルーシュの顔を見た。2人とも頬が赤みを帯びていた。影が1つになった。甘い味がした。

 

 

 

 

 ルルーシュは、ブリタニア軍の本部に来ていた。

 

「お久しぶりです、兄上」

 

「貴様…いったい何者だ!」

 

「覚えてませんか?小さい頃チェスをしましたよね?アリエスの離宮で。全て僕の勝ちでした。」

 

「まさか、お前は!」

 

 ルルーシュは、クロヴィスに銃を向けたまま不敵に微笑むのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 



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11話 日常と非日常

お久しぶりです!
先週は忙しく、またキリもいいところだったので、少し更新が止まってしまいました。申し訳ありませんでした。
毎日投稿は少し厳しいかもしれませんが、最低でも週1で投稿していきたいと思います。
これからも今作品をよろしくお願いします!
というわけで、第11話です。1週間ぶりにペンを取ったので、おかしいところもあるかもしれませんが、感想にてご指摘いただけると嬉しいです!


 

「お前、まさかルルーシュなのか?」

 

「ええ、お久しぶりです兄上」

 

 ルルーシュはブリタニア軍の本部、クロヴィスのいる場所に乗り込んできていた。その他には拳銃が握られており、その標準は常にクロヴィスに向けられている。

 

「いやぁ〜。ルルーシュ、生きててよかった!日本侵攻の時に死んだと聞いていたから…」

 

 クロヴィスは、その言葉とは裏腹に、怯えた様子でルルーシュに声をかけた。当然である。腹違いの弟とはいえ、自らが拳銃を向けられていれば、恐怖の感情が濃く出てしまうからだ。

 

 さらに、クロヴィスはルルーシュが死んだと思っていた。いわば、今のクロヴィスにとってのルルーシュは、亡霊のようなものなのである。

 

「どうだい、ルルーシュ。私と一緒に本国に…」

 

「また俺たちを外交の道具にするつもりか?」

 

 クロヴィスの保身に走った言葉に、途中で被せるようにルルーシュは自らの境遇についてをクロヴィスに語った。それは、クロヴィスにルルーシュ自身の立場を思い出させる行為であった。

 

「俺たちが日本に送られたのは、母さんが殺されたからだ。母さんは皇妃と言えども、元は庶民の出だった。それを他の皇妃たちに恨まれて殺されたんだ!」

 

 ルルーシュは、怒りのあまり我を失いそうになっていた。本来の目的も忘れ、ルルーシュが銃の引き金に指をかけたその時、2人は扉の開く音を聞いた。そして、入ってきた人物を見て、クロヴィスは目を輝かせた。その顔は水を得た魚のようで、歓喜に染められていた。

 

「おお!アールストレイム卿!さぁ、早くこの私を助けてくれ!」

 

 入ってきたのは、アーニャだった。アーニャはルルーシュの元まで近づくと、その手をルルーシュの手に重ねた。

 

「ルルーシュ、あなたの目的を忘れちゃダメ」

 

 それを聞いたルルーシュは我に帰り、アーニャに「ありがとう」と言った。

 

 それを眼の前で見ていたクロヴィスは、今までの喜色に満ちた表情から一転して、絶望に彩られた表情に戻っていた。

 

「ど、どうして!アールストレイム卿!そいつは私を殺そうとしているのだぞ!」

 

「あなたの生死は関係無い。私は、ルルーシュについていく」

 

 クロヴィスに淡々と返すアーニャ。その様子を見て、クロヴィスはあることを思い出した。

 

「そうか…お前は、アリエスの離宮でルルーシュたちと一緒にいた!」

 

「もういい。お前はただ俺の質問に答えればいい」

 

 クロヴィスが、激情しそうになると、ルルーシュは下ろしていた拳銃を再びクロヴィスに向けた。クロヴィスが大人しくなるのを確認すると、アーニャに声をかける。

 

「アーニャ、人よけはどうなっている?」

 

「問題ない」

 

「そうか…。さぁ、クロヴィス!答えてもらおうか!母さんを殺したのは誰だ!答えろ!」

 

 ルルーシュはアーニャから周辺の安全を確認すると、クロヴィスにあの力を使った。瞳は赤く、何かの紋様を映し出していた。クロヴィスは、ルルーシュの命令を聞くと、その身体から力を抜きダラリとなると、ルルーシュの質問に答えた。

 

「私じゃない。シュナイゼルと、コーネリアが知っている」

 

 ルルーシュはそれを聞くと、再び拳銃の引き金に指をかける。

 

「ルルーシュ、ここは私が…」

 

「いや、大丈夫だ。これは、俺がやる」

 

「そう…。分かった」

 

 ルルーシュとアーニャがそんなやりとりをしていると、クロヴィスは我に返って、ルルーシュたちに向けて叫んだ。

 

「バカな!ルルーシュ!考え直せ!母は違うと言えど、実の兄弟だぞ!」

 

「…さようなら、兄さん」

 

 ルルーシュが、指に力を込める。世界に1つ、赤い花が咲いた。

 

 ルルーシュは、震える手を下ろした。その手を、アーニャの小さな両手が包んでいた。

 

 

 

 

「こら!ルルーシュ!」

 

 ルルーシュの頭に、軽い衝撃が走った。感触からするに、丸めた紙で頭を小突かれたようだ。ルルーシュは、正面の女性を見据える。

 

「ルルーシュ、今寝てたでしょ?」

 

「嫌だなぁ、寝てませんよ。ちょっとぼーっとしてただけで…」

 

 ルルーシュが今いるのは、アッシュフォード学園の生徒会室。そして、たった今ルルーシュを叩いた人物は、この学園の生徒会長であり、学園長の孫娘である「ミレイ・アッシュフォード」であった。

 

 ルルーシュの座る長机には他にも人が座っており、1人はよくルルーシュを賭けチェスへと送っていく生徒会書記のリヴァル。その隣には、ルルーシュのクラスメイトであり、生徒会所属の「シャーリー・フェネット」がいた。

 

 さらに、そこから少し離れた場所に置かれたパソコンの前に座っている眼鏡の少女が生徒会所属の「ニーナ・アインシュタイン」がいた。

 

 この光景こそが、ルルーシュの今の「日常」であった。

 

 

 

 

 ルルーシュが予算審査を一旦終え、学園に登校すると、クラスメイトたちが小型テレビを見て何やら言っていた。近づいてみると、昨日の新宿のニュースのことだった。しかしニュースでは、毒ガステロとだけ報道されており、クロヴィスの安否などについては特に触れていなかった。

 

 ルルーシュは、なぜ政府がクロヴィスの死を隠すのか気になったが、思考に没入する前に、シャーリーの声を聞き、そちらに意識を向けた。

 

「ねぇ、ルル。新宿って…」

 

「あぁ、シャーリー。昨日、このことで電話をかけたんだ。知り合いからリアルタイムで聞いていてね」

 

 ルルーシュがシャーリーからの質問にそう答えていると、教室の別の場所から、女子たちの声が上がった。ルルーシュがそちらを見ると、そこには赤い髪の少女が座って、クラスメイトの女子に囲まれていた。

 

 ルルーシュがそちらを見ていると、リヴァルが後ろから肩に手を回して耳元で囁いた。

 

「なんだよルルーシュ〜。ああいうのが好みなのか?」

 

「あぁ、いや。彼女…」

 

「ん?あぁ、今日は来てるみたいだな。カレンさん。体が弱くて、たまにしか学校に来ないけど、成績は抜群に優秀。授業に出てないのに勉強ができるなんて、まるで誰かさんみたいだな!」

 

「余計なお世話だ」

 

 ルルーシュは、リヴァルとの話の最中にも、目の前の「カレン」という少女について考えていた。

 

(雰囲気は多少違うが、あれは昨日新宿にいた女…!どうりでどこかで…)

 

 

 

 

 昼休み。カレンは友達に誘われ、庭で昼食を食べていた。穏やかな時間が流れていたそこに、突然蜂が舞い込んできた。他の女子たちは一目散に逃げ出したが、カレンだけは少しずつ、蜂を刺激しないように距離を取ると、草陰に身を隠した。

 

「あぁーめんどくさい。病弱設定になんてしなきゃよかった」

 

 そう言いながら、目の前に飛んできた蜂を素手で両断するカレン。そして、残っていた昼食のサンドヴィッチを口にくわえると、教室に戻ろうと体の向きを変えた。すると、そこに1人の男子生徒が立っていた。ルルーシュだった。

 

(やばい…聞かれた!?)

 

 カレンは内心で大きく焦っていた。可能であれば、目の前のこの男を処理しなければならない。そう考えていた。

 

 一方、ルルーシュはカレンに近づくと早速力を使った。カレンが力かかったことを確認すると、カレンに質問をした。

 

「お前、昨日グラスゴーに乗って新宿にいた女だな?」

 

「はい」

 

「どうしてブリタニアに対し、テロを起こした?」

 

「私は日本人だから。ブリタニアの血も半分入ってるけど…」

 

「ハーフ…!?」

 

 ルルーシュは、多少の驚きを受けたが、それ以降は昨日の新宿の事について聞くだけに留めた。そして、全ての質問を終えると、カレンの目に光が戻った。

 

「あの、何か?」

 

「いや、いい。もう用は済んだ」

 

 ルルーシュはそう言って、カレンの元を去ろうとした。しかし、思い出したかのように立ち止まると、念には念を入れるため、カレンに再び力を使った。

 

「新宿でのことは何もいうな」

 

「新宿?あなた、一体何を知っているの!」

 

 しかし、力は不発に終わったのか、カレンの意識ははっきりとしていて、

 ルルーシュは大いに焦った。

 

(バカな!力が発動しない!?くそ、一体どうしたら!)

 

「さあ、今の言葉がどういう意味なのか、吐いてもらうわよ!」

 

 カレンがこちらに近づいてくる。その時、ルルーシュの頭はパニック状態に陥っていた。どうこの場を切り抜けるか、ルルーシュが必死にそれを思考していると、二階の窓からシャーリーの声が聞こえた。

 

「ルル〜!カレンさ〜ん!次の時間、理科準備室だから、早く行かないと〜!」

 

「やべ!俺、実験器具出さないといけないんだった!」

 

 ルルーシュは、シャーリーの天然のフリに乗っかる形でその場を走り去った。後には、どこか納得できていない様子のカレンだけが取り残された。

 

 




4/11追記
いつも拙作をお楽しみいただいているみなさまに大事なお知らせがあります。更新が長らく止まっていますが、この先1年は更新が満足にできないと思います。
あまり人に広めることではないので、理由は活動報告に書いておきますので、気になる方はそちらで確認お願いします。
更新ができる時間ができれば、できるだけ更新したいと思っているので、よろしくお願いします。


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12話 暗躍する影

長い間お待たせしてしまって大変申し訳ありません!少し時間を作ることができたので投稿します!
また、活動報告に書いた通り、設定資料を保存していたスマホのデータが機種変で飛んだので、設定が当初考えていたものと違うかも知れませんが、ご了承下さい

少々短めではありますが、本編を是非お楽しみください!


 クロヴィス殿下が何者かに殺害された。その一報を受け、エリア11の純血派のトップであるジェレミアは自室から軍部に向かおうとしていた。そして、今まさに部屋を出ようとしたその時、ジェレミアのズボンのポケットが微かに振動した。ジェレミアはその場所に携帯電話を入れていたが、それは小刻みに震え続けており、メールではなく電話の着信であると気づいた。

 

 部下の誰かがクロヴィス殿下の訃報を知らせに電話をしたのだろうか、はたまた、その後の指示を仰ごうとしているのか。とにかく、今は一刻も早く状況の確認に努めなくてはならないと、携帯電話の画面に表示されている名前をチラリと見た時、ジェレミアはドアノブにかけられていた手を引き、その"アールストレイム卿"と表示されている相手からの電話を取った。

 

「もしもし。アールストレイム卿、今はクロヴィス殿下についての情報の確認が最優先でありますゆえ、急ぎでなければまた後でこちらからかけ直しますが?」

 

「ジェレミア、周りには誰もいない?」

 

「えぇ、今は自室ですが…」

 

「そう、なら周囲に誰も近づけないで」

 

「…!分かった」

 

 ジェレミアは一旦電話をポケットに入れ、外に誰もいないのを確認したのち、ドアに鍵をかけ、自室の椅子に腰掛けた。

 

「それで、要件はなんだ?」

 

 先程からジェレミアは、アーニャに対する言葉遣いを崩しているが、彼女は幼少期からゴットバルト家、ひいてはジェレミアに世話になっており、2人の間には一種の師弟関係というものが成立しているため、公の場でなければこのような口調で話すのだった。

 

 また、アーニャが電話をかけてくるということは普段滅多になく、普段はメールでのやり取りであるため、ジェレミアは緊急事態でも起こったのでは無いかと警戒していた。

 

「話して欲しい人がいる」

 

「それは一体…?」

 

 アーニャからの突然の電話、さらに「話して欲しい人」という不可解なセリフ。ジェレミアの胸には大きな波紋が広がっていく。

 

(アーニャが私と話して欲しい人だと?軍に属している人間はそもそも私に直接電話をかけてくるだろうし…。いや、まさか…!)

 

 ジェレミアが思い当たる一つの可能性にたどり着いたとき、耳に男の声が聞こえた。

 

「久しぶりだな、ジェレミア。実に8年ぶりになるか…」

 

 その声に聞き覚えはなかった。しかし、その声の主は容易に想像ができた。なぜならそれは、生涯をかけて仕えると決めた己の主君の、面影を残す、そんな声だったからだ。

 

「おぉ…、ルルーシュ様…。よくぞご無事で…!」

 

 その声には、万感の想いがこもっていた。

 

「お前も息災だったようで何よりだ。それで、クロヴィス死亡の報告は既に届いているな?」

 

「はっ、これから事実確認に向かおうとしていたところです」

 

「いや、その必要はない。なぜなら…クロヴィスを殺したのは俺だからだ」

 

「なんと…!では、ついに殿下自ら動かれるということですか?」

 

「いや、俺はまだ表立って動けない。俺は8年前に既に死んでいることになっているからな。今お前に頼みたいのは、クロヴィス殺害についての裏工作だ。できるな?」

 

「お任せください。このジェレミア・ゴッドバルト、これより、我が全てを貴方様のために使いましょう」

 

 こうして、ジェレミアはルルーシュからの支持を受け、枢木スザクをクロヴィス殺害の容疑者に仕立て上げた。着々とルルーシュの企みは進行していくのだった。

 

 

 

 

「お兄さま!さっきのニュース、スザクさんですよね!?生きてらっしゃったなんて…。でも、あのニュースは…」

 

「大丈夫だよ、ナナリー。スザクがそんなことをしているもんか。きっと何かの間違いだ。すぐに釈放されるよ。だから、今日はもうお休み」

 

「はい、お兄さま…」

 

 ルルーシュは、ナナリーを寝かしつけていた。本当はアーニャにも合わせたかったが、それをしてしまえばどこかで足がつくかもしれない。姉妹のように仲の良かった2人を引き離しておかねばならないことは、ルルーシュにとってまさしく断腸の思いであった。

 

「すまない…ナナリー。でも、もう止まるわけにはいかないんだ。俺は、必ずナナリーが、アーニャが、みんなが笑って過ごせる。そんな世界を作ってみせる。必ず…!」

 

 ルルーシュは本当ならば、ナナリーには嘘をつきたくなかった。しかし、ナナリーは優しすぎる。だから、汚れるのは自分だけで十分だ。そう決意を固め、ナナリーの頭を撫でると、自室へと戻っていったのだった。

 

 暗い廊下に朧げに見えるその後ろ姿は、酷く大きく見えた。

 

 

 

 

「……このエリア11の総督であり、敬愛すべきクロヴィス殿下は既におられません。しかし、私たちはこの悲しみに耐えなければいけないのです。……」

 

 翌朝、学校に登校したルルーシュを待っていたのは、クロヴィス死亡の追悼式であった。改めて自分がしたことを目の当たりにすると、気分が悪くなるのを感じた。実際、クロヴィスを殺した直後は堪えきれずに吐いてしまい、アーニャを心配させてしまっている。好きな女性の前でもう無様な姿を見せないためにも、ルルーシュは自身のやったことを正面から受け止め、そして自分の糧へとしていた。

 

 そして、それと同時にルルーシュはカレンの方へと意識を向けていた。彼女と解放戦線をどう操るのか、それがこれから先最も重要になってくる。それらをどう利用すべきか、ルルーシュはそれを考えていた。

 

 追悼式が終わった後、ルルーシュが教室へ戻ろうとしていると、シャーリーが声をかけてきた。

 

「…ルル!ちょっと、ルルってば!」

 

「ん?なんだ?シャーリー」

 

「なんだじゃないわよ、もう!いっつも人の話なんて聞いてないんだから!」

 

「ごめんごめん、それで、何の話?」

 

「純血派って何?」

 

「あぁ、それはブリタニア軍はブリタニア人のみで構成されるべきだっていう考えを持った人たちだよ。今軍部で一番力を持っているらしい」

 

「ふーん、そうなんだ…」

 

 そんな会話をしていると、ルルーシュの背中をリヴァルが軽く小突いてきた。

 

「ルルーシュ、今日これからどうする?今日は授業もないみたいだし、久しぶりにやりに行くか?」

 

「もう!賭け事はダメよリヴァル!それに、ルルも!」

 

「あぁ、そうだな。もうやめるよ。それに、もっと手強いのを見つけたしね…」

 

 2人が顔を見合わせ、頭の上に疑問符を浮かべているなか、ルルーシュの目にはカレンの姿が写っていたのだった。

 

 

 

 

 

 

 




2020/9/12 追記

皆さんお久しぶりです。
次話の更新などについて、活動報告の方に書かせていただきました
次話の更新は遅くとも10月中には必ずしますので、お待ち下さい


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