デュエライブ!サンシャイン!!〜振り子の担い手と輝きの少女達〜 (ハルカ)
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第1章 輝きを求める少女と 第1話 高海家の居候

初投稿です。

遊戯王は一応現役。最近はヴァレット、ネオス、魔術師を作って、オルタが安くなったので儀式青眼を組もうとしています。
ラブライブ!サンシャインは千歌ちゃん推しです。アニメはリアタイで視聴して毎週のように泣いてました。

どうぞ、よろしくおねがいします。


目が覚めたときのことは、よく覚えていない。自分のことで覚えているのは、名前と、年齢と、自分が決闘者だということ。

 

見覚えがあるはずもない天井が目に入り、身体の節々には激痛が走る。

 

それなのに、身体はデッキを求め、布団から這い出ようとうごめく。

戦うための剣を無くすなと、錆び付かせるなと喚いている。

 

ベットから体がずり落ち、大きな音を立てた。

 

「ッツァァ……」

 

痛みに思わず呻き声をあげる。畳に血が滴り、紅く染まっていく。そんなことより、デッキを求める。

戦わなければ、この命が成立しない気がするから、この命は、戦いと共にある気がするから。

 

「早く……デッキを……」

 

手を伸ばす。

ほとんど何も見えていない瞳は、どこにあるかも分からないデッキへと。

やがてその手は、小さく暖かい手に包まれた。

 

「だいじょうぶ?」

 

その姿はまだ見えない。

だが、ただ優しく、どこか惹かれるような輝きが、傷だらけで、今にも壊れてしまいそうな心を救ったのは、確かだった。

 

 

「記憶喪失?」

「らしいのよね……どうしようかしら?」

「髪も白いし、外国の方かしら? でも、顔立ちは日本人みたいよね?」

 

部屋の外で、複数の女性が話しているのが聞こえた。得体の知れない自分の処遇を決めかねているのだろう。もしも自分が同じような立場になったらきっと投げ出してしまうだろうに、彼女達は真剣に考えてくれている。

それだけで、目頭が熱くなった。

 

「なんだか、たいへんみたいだね〜」

 

手を握っている女の子が呑気に話しかけてくる。きっと、自分と同い年くらいであろうこの子は、事態の重大さを分かっていないのだろう。

 

「じゃあさ、おうちがわかるまで、ここにいたらいいんじゃないかな!」

「え…………」

 

女の子が顔を近づけて言ってくる。思わず出た声は乾いていたせいか掠れていて、直後に2度3度と咳き込んでしまった。

 

「わわっ、だいじょうぶ!?」

「へ、へいき…………」

 

心配している女の子を安心させたくて何かを言おうとするが、やはり声が上手く出なくて咳き込んでしまった。

 

「こぉら! 何やってんだバカ千歌!」

「あいったぁ! なにすんのぉ〜」

 

いつのまにか入ってきた女性見事なゲンコツを食らった女の子は、頭をさすりながら涙を目に浮かべている。

 

「ちかって……いうんだ……」

 

名前らしき単語に、何故だか惹かれた。話ができる程度に喉も回復したのか、咳は不思議と出なかった。

 

「うん! ちかはね、高海千歌っていうんだよ!」

 

元気よく自己紹介した女の子、千歌は、どこから取り出したのか分からないオレンジ色の果物を差し出してきた。

 

「みかん、食べる?」

 

身体だけを起こし、なんとなく差し出されたそれを受け取る。

そこから伝わってきた暖かさを、きっとこの先何があっても、忘れないだろう。

 

**********

 

「懐かしい夢を見たな……」

 

布団から出た彼は、軽く伸びをしてから立ち上がってカーテンを開けた。

高校二年生に上がる前の春休みだからといって、だらけた生活を送るのを彼はあまり好まない。朝日に照らされて、健全な起床をするのが彼の日課だ。

 

色素の抜けた白い髪の間に見えるオレンジの髪は、染めたのではなく地毛だ。目つきは鋭く、鏡に写る自分を見て引いてしまうくらいには人相が悪い。

だからこそ、日頃から健康的で健全な生活を心がけているのである。

 

布団を綺麗に畳み、押入れへとしまうと、寝間着を脱いで学校の制服へと着替える。

もう春休みの時期ではあるが、今日は少し遠出するため何かあったときのために制服の方が何かと都合がいい。

 

「よし、とりあえず朝ご飯までデッキの調整でもしておくか。午後には千歌と曜さんと東京だしなぁ」

 

机の横に置かれた籠に入っている大量のみかんから一つを取り出し、椅子に座る。まだ7時前ともなると、顔を洗うのも居間に行くのも他の住人を起こしてしまいそうで憚られる。

向き合った机の上には、昨晩遅くまで作業していたせいで散らばったデッキが広がっている。

 

デュエルモンスターズ。

 

世界的な人気を博し、スポーツのようにプロリーグまで存在するこのカードゲームは、最近ではアイドルの大会でパフォーマンスの一つとして利用されるなど、様々なところで用いられる。

 

「スペルは性質的にそこまで増やせない……やっぱりサーチとか手札補充がメインになって……いや、でもそうしたら枠が……」

 

彼も、デュエルモンスターズをするプレイヤー、決闘者(デュエリスト)の1人である。頭を使い、知識を振り絞り、時には運すらも味方にしなければならない彼は、こうしてデッキを調整していくのだ。

 

「うん……誘発はGとヴェーラーを最低限しか積めないなぁ……もうちょい積めれば安心なんだけど……」

 

分かる人にしか分からない単語を呟きながら、数枚のカードをデッキに出し入れする。

 

コンコンッーー

 

そうこうしていると、ノックの音が耳に入ってくる。二度の優しいその音は、彼を思考の世界から現実に引き戻すには十分だった。

 

「あ、はーい」

志貴(しき)くん? ご飯できたから、食べちゃって」

 

気がつけばもう8時前。

1時間以上もデッキを弄っていたことになる。集中しすぎてしまうと時間を忘れてしまうのは、彼、遊神志貴(ゆがみしき)の悪い癖だ。

デッキを纏めケースに入れると、ズボンのベルトに不足しているホルスターへと収納する。

 

「おはようございます、志満さん」

「はい、おはようございます」

 

にこやかに笑いかけてくるのは、志貴が住まわせてもらっているこの旅館を切り盛りしている三姉妹の長女だ。

名前は、高海志満。

おっとりとした細いタレ目と、前髪が控えめな黒髪のロングが似合う美人さん。

彼女狙いで泊まりにくる地元客も少なくない。

 

「お、やっと起きたか志貴〜」

「おはよう美渡さん。言っとくけど結構前から起きてましたよ」

「なにを〜」

 

グリグリと拳で志貴のこめかみをいじるのは、次女の高海美渡。

姉とは違うブラウン系の髪で、あまり似てないようにも見える。

しかしこちらも美人さんで、地元客からの人気は高い。

 

「で、あれ、千歌は?」

「あいつならまだ寝てるんじゃない?」

「そうみたいなの〜。志貴くん、悪いんだけど、起こしてきてくれる?」

「ハイハイ了解です」

 

二人からお願いされて、志貴は二階へと上がっていく。彼が住んでいるのは、一階の客間で、そこまで広くない部屋を充てがわれている。これは、彼自身が望んだことで、決して冷遇されているわけではない。

 

「さってと、我らがみかん姫は、今日もお寝坊さんかなと」

 

ちかのへや、と表札がぶら下がった部屋の前に着いた志貴は、二、三度ノックをして起床を確認する。

返事は予想通りなかった。

 

「おーい、みかん姫〜、もう8時過ぎたぞ〜っと」

 

お気楽な呼び方で部屋に入る。

和室の壁にベットが寄せられ、掛け布団は盛り上がって一定のリズムで上下している。

 

「おーい、いい加減に起きないと、曜さん来ちまうぞ」

 

布団の中に隠れている身体を揺さぶる。しかし、これがなかなか起きる気配がない。いつもならそろそろ起きるのだが、どうにも今日は手強いようだ。

 

「ったく、いつまで布団とイチャコラする気だよ千歌〜」

 

勢いよく掛け布団を剥ぎ取る。

そこには、パジャマで惰眠を貪るこの家の三女、高海千歌の姿が。

 

「え、わっ、ちょっ!」

 

無かった。

剥ぎ取った掛け布団の中から飛び出してきたのは、大型の犬め、モフモフとした毛並みが志貴の上に覆いかぶさった。

 

「わっはは! やったねしいたけ!志貴くんびっくり大作戦大成功だよ!」

 

隣の襖を勢いよく開けて現れたのは、みかん色の髪を側頭部で三つ編みにし、その先には黄色いリボンをつけた志貴と同い年くらいの女の子が現れた。

アホ毛がぴこぴこと動き、その笑顔の通りに嬉しさを前面に押し出している。

上二人よりは表立った人気は少ないが、彼女も同じように整った顔立ちをしている。

 

「いっつも朝は千歌の方が起こされちゃうからね! たまには意趣返しをってあいたぁ!」

「お前は、どこに、努力をしてるんだこのみかん姫はぁ!」

 

得意げな表情をした千歌へと志貴がデコピンをしてその頭を掻き毟る。

 

「なんだよぉ! たまにはいいじゃん! せっかくの春休みなんだしさぁ!」

「出かける日にやるんじゃないよ! そういうのは一日中暇な日とかにやりなさいよ!」

「出かける? あ、そうだ曜ちゃんと志貴くんと東京じゃん! なんで言ってくれないの!」

「そろそろ怒るぞこっちも!」

 

バタバタと下に降りていく千歌を追いかけて、志貴も階段を降りていく。

すでにリビングからは美渡の怒鳴り声が聞こえてくる。

何気ないいつもの日常。

これが、遊神志貴が10年近く居候している、高海家の朝の風景だった。




デュエルいけませんでした泣。

次回は曜ちゃんも出してオリ主のデュエルを……

どうぞ、よろしくおねがいします。


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第2話 決闘盤をゲットしろ! Aパート

はい、2話目のAパートになります……
なんとか曜ちゃんは出せましたが、決闘まではいけませんでした……
中々話が進みませんが、よろしくおねがいします!


「着替え終わったか〜?」

「もうちょっと待って〜」

「早くしろよ〜」

「わかってる〜」

 

千歌の部屋の前で待っている志貴は、気の抜けた声で扉越しに会話をする。

女性が着替えている時に話しかけるのはマナー違反と言われてしまうかもしれないが、10年近く一緒に生活していると、もはやプライバシーなどあってない様なものだ。

 

「おまえのご主人はのんびり屋さんだね〜」

「ワフン」

 

足元にすり寄ってきた大型犬、しいたけを撫でると、満足そうに鳴き声をあげる。

子供の頃はこの大きさに怯えもしたが、今では人懐っこく寄ってくるこの家族に愛情しかない。

 

「準備できたよ〜。変なとこないかな?」

 

部屋から出てきた千歌は、志貴も通っている「浦の星学院」の制服に身を包み、ヒラリと一回転してみせた。

身内や幼馴染という贔屓目を差し引いても、下手な女子高生にも負けない魅力があると志貴は思った。

 

「大丈夫だよ。変なとこができないための制服なんだから」

 

でも言わない。

絶対に言ってやらない。

 

「むぅ〜、なにそれ〜!」

「ほら膨れなさんな。さっさと行こう」

「は〜い」

 

志満と美渡に一言声をかけてから、二人は旅館「十千万」を出た。

時間がないときは表から出てしまうのだが、今日は怒られるのが嫌でしっかり裏口から出て行く。

日差しのいい中を並んで歩いている二人は、バスに乗ると一番後ろの席に座った。

 

「曜ちゃん何時に駅来るって言ってた?」

「さっき連絡したらそろそろ着くって返ってきたから、同じくらいじゃないか?」

「じゃあ急がなくても平気かな〜」

「多分な〜」

 

スマホの時間を確認しながら答える志貴の横で、千歌は自分のデッキから取り出した数枚のカードを見つめている。

右手と左手に持っているカードで何か悩んでいるようだ。

 

「どした?」

「うん……こっちと、こっち……新ルールだとどっちがいいかなって」

 

デュエルモンスターズは、つい最近ルールに大幅な変更を加えた。

メインデッキとは違い、特殊なカードで構成されたエクストラデッキというものが現代では重宝されているが、それによる環境の高速化も否めないのも事実だった。

 

それに対して、運営が出した結論は、エクストラモンスターゾーンという新たなゾーンの設置と、リンクモンスターの導入。

ギミックが増えるのは面白いことだと思うが、この新システムによって大幅に構築を見直さねば行けなくなったテーマも少なくない、というより大多数だ。

志貴が好んで使っているデッキもそうだし、千歌が唯一持っているデッキなどその最たる例にあたる。

 

「リンクかませるんなら、トークン引っ張りやすいこっちじゃないか?」

 

志貴が指差したのは、千歌が右手に持っていたドッペル・ウォリアー。低級モンスターだが、シンクロ召喚素材になればトークンを二体も残してくれる優秀なモンスター。リンクは条件さえ揃えば出せるモンスターも多いので、きっとこれから重宝されるだろう。

 

もう片方にあったのは、ダンディ・ライオン。

シンクロ素材にされなくとも、あらゆる場所から墓地に送られた瞬間にトークンを呼べる。

何度か禁止制限に出たり入ったりしているほど強力なカードだ。

 

「でも、ダンディ・ライオンならコストにした瞬間に効果使ってくれるよ?」

「ドッペルだって、墓地にいれば吊り上げやすいし、どうせシンクロ使うんだから大して役割変わらんだろ?」

 

そんなもんかな〜、と千歌は首を傾げている。だが、志貴も志貴でそこまで今の解答に自信があるわけではない。

“素材を墓地に送ればいい”という緩すぎるリンク召喚の説明から、ダンディ・ライオンはまず間違い無く今以上に規制をくらう。

それを見越して、千歌にドッペル・ウォリアーの方がいいと言ったが、どうなるかなど本当のところは運営様しか分からないのだ。

 

「ほら、着いたぞ。曜さんももう着いてる」

「わっ、もう着いちゃったか。さすが曜ちゃんだなぁ」

 

曜という名前を聞いて顔を明るくする千歌は、二枚のカードをカバンにしまっていたデッキケースにしまい、志貴に続くようにしてバスを降りていく。

駅前にはまだ午前も早いからか人は殆どなく、閑散としている。

だが、これくらいの時間な出なければ日帰りはかなりの重労働になるような田舎なのだ。

 

「お二人さ〜ん、おっはヨーソロー!」

 

待ち合わせ場所から元気な声が響いてくる。

そこにいたのは、千歌と志貴が来ている浦の星学院の制服に身を包んだ女の子。

ウェーブのかかった灰色の髪をボブカットに切り揃え、水色の大きな瞳が特徴的なその女の子は、二人の幼い頃からの友人の一人だ。千歌に負けず劣らずの整った顔立ちで、部活の関係上ファンも多い。

 

「ごめんね曜ちゃん、遅くなっちゃって!」

「大丈夫だよ、私も今来たところだから」

 

走ってきた千歌を抱きとめた女の子、渡辺曜が言った言葉は彼女を心配させないためか、それとも本当なのかは定かではない。

だが、それを言えるくらいに彼女は優しく、善良な人間だと分かる。

 

「あ、志貴くんも、おはヨーソロー!」

「はいよ曜さん。おはヨーソロー」

 

ヨーソローとは、曜の父親がフェリーの船長をしていることから憧れて使っている彼女の決め台詞だ。

 

「あれ、なんか頭についてるけど、どうしたの?」

「え、なにそれ」

 

曜に指摘され頭を触るが、それがどこか分からない。

そうしている志貴を見かねたのか、曜がクスリと笑って髪の毛を撫でてくる。

 

「ほい、取れたよ。犬の毛かな? なんでこんなとこに」

「ああ……そりゃうちのみかん姫の今朝やられたイタズラのせいだな……」

「あっ……」

 

ギロリと千歌を睨むが、当の本人は下手くそな口笛を鳴らしてソッポを向いている。

そうやって離れていく志貴に、どこか名残惜しいそうな視線を向けている曜に、誰も気がつかない。

 

「あっはは、とりあえず電車乗っちゃお。いま来るやつ乗り過ごしたら、次は1時間後だから」

「「はーい」」

 

駅内に入っても、人影はほとんど見ない。

電車ですらスッカスカなのだから、ここらの過疎具合も、極まってきているのかもしれない。

 

「ねえねえ、曜ちゃんはドッペルさんとダンディちゃんどっちがいいと思う?」

 

電車に乗ってすぐ、千歌はさっきの問いを曜にもした。

よほど自分のデッキの方向性に悩んでいるのか、もしかすると志満や美渡にもしていたかもしれない。

 

「う〜ん……私はシンクロ召喚っていうかエクストラデッキを使わないからなぁ……」

「そりゃあ羨ましい限りだよ。俺なんて大幅にデッキを見直さなきゃ行けなくなった」

「良くも悪くもだけどね。そうだなぁ……私なら、こっちの方がいいかも」

 

志貴とも会話をしながら曜が指差したのは、同じようにドッペル・ウォリアーの方だった。

それを見て志貴は小さくガッツポーズをして、千歌はまた首を傾げて唸り始める。

 

「やっぱりこっちかなぁ、属性的にもこっちがいいんだよねぇ……」

「千歌ちゃんはダンディがいいの?」

「そういうわけじゃないんだけどね……」

 

頭を抱えながら悩みを曜へと相談している千歌を見て、志貴は思わずニヤリとしてしまう。

きっと、負担の自分もこんな風に頭を悩ませて部屋を転げ回っているのだろう。

 

「まっ、東京で色々と散策しながら考えようぜ。ここら辺にはないカードとかも置いてるだろ」

「そうだね……とりあえずドッペルくんで今日は行ってみよー!」

「おー!」

 

電車の中でこんな風に少し騒いでも怒られないのも、空いている田舎の利点かもしれない。

 

**************

 

片道1時間と少し。

三人が着いた先は、首都東京の都会、秋葉原。

メイド服の人や、コスプレの人など様々で、まさに人間がごった返していると言ったような具合だ。

 

「すっごいね千歌ちゃん、志貴くん!」

「うん! あ、なにあれ!」

「二人ともあんまりはしゃいで逸れないでくれよ〜。叱られるのたぶん俺だから」

「知らないよーだ! 行こっ、曜ちゃん!」

 

輝いた笑顔を振りまきながら二人は人混みへと走っていく。

側から見れば仲睦まじいカップルのやり取りだが、実際はそんなことは微塵もない。

本人たちの心境は、お互いに悩まされる兄妹のような関係だ。

 

「とにかく、決闘盤(デュエルディスク)見にいくぞ! そのための軍資金も志満さんから貰ってるんだし!」

「え〜、もうちょっと遊んでからでも……」

「買ったら憂いなく遊ぼう。遊び疲れて買うの忘れてました〜とか嫌だろ?」

 

三人が秋葉原に来た理由は、春休みを利用した観光という理由だけではない。

彼らが在籍している浦の星学院は、地元の内浦でも決闘の科目に力を入れている学校だ。だからこそ、座学や実技の授業も成績に大きく響く。

そして、二年次からは実技科目が重要になっていく。実技科目では、決闘盤という電子機器が必要不可欠なものとなる。

カードの情報を読み込み、立体映像(ソリッドヴィジョン)を映し出した決闘のための機器。

それを買うために三人は秋葉原くんだりまで来たのだ。

 

「まあ、志貴くんの言うことも一理あると思うよ千歌ちゃん」

「……うん、そうだよね」

 

諭されて冷静になったのか、曜がブー垂れた千歌の肩をポンと叩く。

千歌本人も、面倒ごとはあとにするタイプなので失敗した経験も少なくない。

だからこうやって大人しく志貴言う通りにしたのだ。

 

「ごめんね志貴くん。ワガママ言っちゃって」

「別にいいよ。さっさと買うもん買って、秋葉原観光と洒落込もう」

「うん!」

 

元気よくうなづいた千歌の頭を優しく叩くと、振り返って曜に道案内を頼もうと話しかける。

 

「それじゃ曜さん、悪いんだけどナビを……アレ?」

 

そこに曜の姿はない。彼女も彼女で活発でいつでも元気が有り余っている印象だが、志貴の交友関係の中では比較的常識人なのが彼女だ。突然いなくなるようなことはしない。

しかし、彼女も人間だ。例外がないわけではない。

 

「まさか……」

「まさかだね……」

 

千歌と志貴はあたりを見渡す。見る場所は分かっている。それは“制服”に関わっている店だ。

案の定、曜の姿はすぐに見つかった。

浮かされた表情で、口元からはヨダレが垂れた彼女は、ユックリと“制服”の文字が看板に書かれた店へと近づいていっていた。

 

「せいふく……セイフク……制服……フヒ、フヒヒヒ……」

 

側から見れば完璧な不審者だが、それを二人は見逃さない。

 

「曜ちゃん(さん)!」

 

前途多難である。

 

 

 

「いやぁ、ホントに面目無い……」

 

曜が顔を赤らめながら志貴と千歌を先導する。

すでに表情は元の渡辺曜へと回復しており、再びどこかに行くような兆候は見れない。

 

「大丈夫だ……人間なんだし、そんなこともあるだろ」

「そうそう、気にしない気にしない。うわっ、なにあれ美味しそう!」

「お前は少し自重しなさいよ!」

 

どこかへフラフラと行きそうになる千歌の首根っこを志貴が掴んだまま三人で秋葉原の街を歩いていく。

たどり着いた先は、電気屋ではなく、都会らしい大型のカードショップだった。

しかも、かなりの列が出来上がっており、店の外まで続いている。

 

「あちゃ〜、ごめん二人とも、やっちゃったみたいだ……」

 

曜が何かを検索して小競り合いをしている二人に謝罪する。

それが何のことか分からない二人は、同じように首を傾げた。その動作は全く一緒で、まさに兄妹と言った具合だ。

 

「なんか新型決闘盤の発売日だったらしくって、それでこんなに並んでるみたい……」

「あらら……そりゃあ運が悪い」

「ほかのお店とかはどうなのかな?」

 

千歌を離した志貴が曜の持ってるスマホへと顔を近づける。それは自由になった千歌も同様だ。

 

「いやぁ、どのお店も一緒だと思うなぁ……スマホの最新機種発売と似たような感じだし……」

「そうだよね……どうしよっか……?」

 

このままでは本当に決闘盤を買って帰宅になってしまう。

千歌と曜の悲しそうな顔は、笑顔とはまた違った魅力を帯びているが、あまりずっと見ていたいものではない。

 

だから、志貴は提案する。

 

「じゃあ、こうしないか?」

 

 

 

「ねえ千歌ちゃん、本当に良かったのかな?」

「うーん、そう言われるとやっぱりなんか罪悪感みたいなのもあるよね〜」

 

千歌と曜は、二人で秋葉原を観光していた。

そう、“二人で”だ。

志貴の提案は、自分が三人分買うから千歌と曜はその間に観光を楽しむと言うものだった。

 

「店員さんに聞いたら2時間待ち〜とか言ってたし、やっぱり私たちも並んでた方が良かったんじゃ」

「うん、そうなんだけどね、志貴くんが任せろって言ってたから、千歌たちは任せるしかないんだよ」

 

安心しきった千歌の表情に、曜は少し羨ましいように目を細める。

そして一つため息をつき、何かの考えを振り切るようにまた笑顔に戻った。

 

「本当に志貴くんのこと信頼してるんだね!」

「そりゃ、6歳の頃から一緒にいるんだよ? 疑うようなこと、したくってもできないよ」

 

誤魔化すように大きく元気な声で曜が冷やかす。その瞳の奥に、揺れる光があることは千歌は気付かずに笑っている。

 

「いいなぁ……」

 

だから千歌は、曜の呟いた言葉も、それが誰に向けた言葉かも分からないのだ。

 

「行こっ、曜ちゃん!」

「うん、千歌ちゃん!」

 

 

 

一方、残って買ってやると大見得を切った志貴はと言えば。

 

「やっぱり変なとこでカッコつけなきゃ良かったなぁ……ああ、しんどい……」

 

はやくも自分の行いを後悔して項垂れていた。

列は長く、店の中を覗こうとしても遠くてよく確認できないのが現状だ。しかも最後尾と来たら笑うしかない。

 

「でも女の子二人に並ばせるのもアレだしなぁ……」

 

後悔しながらも、なんとか自分の考えを肯定しようと理論武装し始めた時、店の中から歓声が悲鳴と共に歓声が上がった。

爆発音のような声が身体に響き、思わず尻餅をつきそうになる。

 

「え、な、なんだ?」

 

背伸びをしてなんとか中を覗こうとする。態勢が不安定になると、そのに追い打ちをかけるように今でも並んでいた人たちが一斉に散らばり始める。

 

「ちょ、え、なんで⁉︎」

 

人の波に押され、縺れた足に引っかかったまま倒れてしまう。口々に出て行く人たちは、無理だとか、他の店の方がまだとか不平不満を漏らしている。

やがて人が志貴以外に居なくなると、ようやく店の中を見ることができた。

 

「イッつつ……なにがどうやって……」

 

立ち上がってすっかり人もいなくなった店の中に入っていくと、そこには仮面をつけた人と、店長らしき人が何か言い合っていた。

 

「なにしてくれるんだよ! ちょうどいい具合に手を抜いて、バランス取ってくれなきゃ困るだろ!」

「で、でも、決闘で手を抜くなんて……」

「はぁ⁉︎ それで売れなきゃ話になんないだろ!」

「そんなこと言われても……」

 

店長が仮面の人に暴言を吐いて高圧的な態度を取る姿は、あまり見ていて気持ちのいいものではない。

 

「とにかく、今日のバイト代は」

「あの、何かあったんですか?」

 

志貴が思わず店長へと声をかける。

見ていられなかったという理由もあるが、単純に野次馬根性が働いたと言うのもある。

 

「あ、ああ、お客さんですか。いやね、実はこの子が……」

 

店長の説明によると、新型の決闘盤を販売できる数は限られてる。

だからこそ、お客さんに店側で雇った決闘者と戦ってもらい、勝てた人にのみ少しの割引をして販売する、という余興も交えたイベントを催したようだ。

しかしながら……

 

「この人が、手加減とかまるで知らないから一台も売れないんだよ。これじゃあ売り上げが」

「要するに、勝てばいいんですよね?」

「へっ?」

 

店長の言葉を遮るように、志貴が言葉を紡ぐ。

本人としては大真面目だが、店長は目に見えて驚き、仮面の人はおかしな声を上げた。仮面でくぐもって少し聞き取りづらいが、おそらく女の子だろう。

 

「いや、あんた聞いてたか? 今まで誰も勝てなくて」

「だからって、俺が勝てないわけじゃないでしょ?」

 

笑みを浮かべながらカバンを下ろし、ベルトに着いたケースからデッキを取り出す。

 

「で、どこでやればいいですか?」

「あ、ああ……」

 

案内されたのは、店内にあるフリースペース。スタンディング用に、中々の広さを持っている。

仮面の女の子が決闘盤をつけていることから、おそらくそういうことだろう。

 

「決闘盤は貸し出してあるから、準備して」

「了解っと」

 

テーブルにあった旧式の決闘盤をつけて、デッキをセットした。

すると、三日月型のボードが生まれ、空気が決闘のものへと切り替わっていく。

 

「あの、お名前はなんて言うんですか?

「え、ああ、遊神志貴です」

 

まるで英語の教科書のような簡単な会話。英単語も片手で足りる程度の単純なものだが、節々に彼女が礼儀正しい人だと分かる。

 

「遊神さん、よろしくおねがい」

「で、そちらは?」

「へ?」

「そっちの、名前」

「あ、えっと、あのぅ……あ、あのぅ……」

 

至極当たり前な質問をすると、仮面の女の子はしどろもどろという表現が見事に似合うような反応をした。

名前を知られたくないのか、それとも名乗るようは名前などないのか。

 

「言い辛いようなら……」

「ま、待ってください!」

 

制止をかけ、女の子は大きく深呼吸をする。

 

「り、リリィって、呼んでください……」

「りりぃ、さん?」

「は、はい……とりあえずそれで……」

 

明らかに偽名。

だが、それでよかった。

行きずりの決闘者に大事なのは、大仰な名前ではなく、その実力。それ以外には志貴にとってそこまで重要なわけではない。

 

「それじゃあ」

「はい、いきましょう」

 

そして、始まりが宣言される。

 

「「決闘(デュエル)!!」」




はい、リリィさんという謎の決闘者の登場で切らせていただきました

曜ちゃんも千歌ちゃんも可愛いだけにキャラを掴めてない感満載ですが、何卒ご容赦を泣

感想やご意見、評価待ってます!


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第2話 決闘盤をゲットしろ! Bパート

2話目Bパートです。
決闘部分は、不慣れな所もありますが、よろしくおねがいします。
それでは、どうぞ。


「……志貴くん?」

 

少し離れたところで、千歌は何かを感じ取った。空気を振動して伝わってくるこの感覚は、今までに何度も味わった感覚だ。

その時に限って、志貴は決闘している。

 

「千歌ちゃん、どうしたの?」

「……ううん。何でもないよ!」

 

しかし、それを千歌は曜に話さない。何故だか、親友の曜にすら話す気にはなれない。

だってこれは、志貴と自分だけの、細やかな秘密の共有なのだから。

そうして少しズルい決心をした直後、彼女は運命の輝きと出会うのだが、それはまた少し先の話。

 

**************

 

「「決闘(デュエル)!!」」

 

志貴

LP:8000

手札:5

□ □ □ □ □

□ □ □ □ □

ー ◇ ー ◇ ー

□ □ □ □ □

□ □ □ □ □

リリィ

LP:8000

手札:5

 

先攻後攻は、決闘盤(デュエルディスク)による自動選択で決まる。

テーブル決闘の時は、「結局は手の込んだじゃんけん」と揶揄されることもあるが、こうすることで多少なりともマシになる。

 

先攻は……志貴!

 

「俺の先攻。とりあえず、《EM(エンタメイト)ドクロバット・ジョーカー》を召喚」

 

決闘盤にセットされ、立体映像(ソリッドヴィジョン)が形成される。現れたのは、シルクハットに身を包んだ仮面の奇術師。ジョーカーは、手のひらでトランプを手繰ると、その中の一枚が志貴へと弾かれた。

 

「デッキから、《オッドアイズ・P(ペンデュラム)・ドラゴン》をサーチして、Pゾーンにセッテイング」

 

次に現れたのは、一本の輝く柱。

しかし、ペンデュラムを揺らすためにはもう1本の柱が必要となる。

 

「バックに1枚セットして、エンドフェイズ」

 

柱が砕けて、竜の鳴き声が場に響いた。

 

「ペンドラの効果で自壊、《慧眼の魔術師》をサーチしてターンエンド」

 

志貴

LP:8000

手札:5→4

ド:EMドクロバット・ジョーカー

?:伏せ1

□ □ ? □ □

□ □ □ □ ド

ー ◇ ー ◇ ー

□ □ □ □ □

□ □ □ □ □

リリィ

LP:8000

手札:5

 

 

序盤らしい静かな立ち上がり。

志貴のデッキは、そこまで速効性が高いデッキとは言い難い。ちょっとした手間と、新マスタールールによってかなりの弱体化を受けたが、それでも長期戦に対応できるだけのスタミナと、一瞬における爆発力がある。

まずは、それのための下準備からが重要だ。

 

「私のターン……EM魔術師ってところですか」

「え? ええ、まあ、そんなところですね」

 

一発でデッキタイプを言い当てられたのは志貴にとって少し意外だった。

だが、考えても見ればここは東京。さらに志貴の動きはデッキタイプを晒していると言ってもいいくらいに順当だった。

 

「新ルールで廃れたって聞きましたけど」

「いやぁ、成り行きで……デッキタイプは変えられないっていうか、何と言いますか……」

「成り行き?」

「いえ、なんでも」

 

話を無理やりに切った志貴は、リリィへと進めろというような視線を受けて、手札を確認した。

 

「……まあ、いいです。じゃあ私は《影依融合(シャドール・フュージョン)》を発動。手札の、《シャドール・ビースト》と《シャドール・ファルコン》を融合します」

「シャドールかよ……」

 

リリィの背後に、人形で作られた獣と隼が現れる。それらが宙に浮かんだ穴へと入っていくと、捻れ狂い、新たな姿へと生まれ変わる。

 

「影の獣よ、暗き隼よ。今こそ交わり一つとなれ」

 

ー融合召喚ー

 

「現れなさい、レベル5、《エルシャドール・ミドラーシュ》!」

 

エルシャドール・ミドラーシュ

☆5 ATK2200/DEF800

 

穴から生まれたのは、黒い竜の上に乗った、緑色の髪の少女。

見た目の可愛らしさに反して、彼女が持つ能力は盤面へと制限をかける強力な効果を持っている。

 

「落ちた《シャドール・ビースト》の効果で1枚ドロー。《シャドール・ファルコン》の効果で、自身をセット」

「相変わらずインチキくさいな……」

 

融合は、基本的に三枚以上のカードで動く。融合カードと、それの素材のモンスターが二体以上。その性質上、手札や盤面の消費が激しいが、シャドールはカードの効果で墓地に行った瞬間にタイミングを逃さないタイプの効果を兼ね備えている。

 

「そういうテーマなんですから、我慢してください。では、ミドラージュでドクロバットに攻撃します」

 

エルシャドール・ミドラーシュ

ATK2200 win

vs

EMドクロバット・ジョーカー

ATK1800 lose

 

宣言に応じてミドラーシュの乗っているドラゴンから炎が放たれ、ドクロバットが見事に焼き払われる。新型決闘盤のおかげか、その過程がやけにリアルで少し申し訳なくなるが、これも決闘なのだから仕方ない。

 

志貴

LP:8000→7600

 

「ッ、ドクロバットはPモンスターのため、エクストラデッキに行く」

 

志貴がメインで使っているのは、Pモンスター。先程のオッドアイズ・P・ドラゴンのように、魔法カードとしても使える特殊なモンスター達。破壊されればEXデッキ行くことで、再び使用できる。

 

「スペルセット。ターンを返します」

 

志貴

LP:7600

手札:4

?:伏せ1

□ □ ? □ □

□ □ □ □ □

ー ◇ ー ミ ー

□ □ ? □ □

□ □ □ □ ?

リリィ

LP:8000

手札:3

ミ:エルシャドール・ミドラージュ

?:セット1(シャドール・ファルコン)

?:伏せ1

 

「俺のターン、ドロー……」

 

忌々しげに志貴は目の前にいるミドラーシュを睨む。可愛らしい女の子は、コテンと首を傾げて微笑みかけてくるが、それすらも志貴をイラつかせる要因になっていた。しかも、その下にいるドラゴンは瘴気を放って睨みつけてくる。

彼女がいる限り、志貴は特殊召喚を1ターンに1度しか出来ない。

P召喚による大量展開から連続して質の高いモンスターを召喚するのがEM魔術師というデッキ。

それをするには、ミドラーシュはまず最優先でとかさなければいけない。

 

「まあ、出来なくもないな……俺は、Pゾーンに《賤竜の魔術師》と《慧眼の魔術師》をセッティング」

二つの柱が生まれる。

片方には、金髪の魔術師が。

もう片方には、緑色の装束を着た魔術師が。

これによって、ペンデュラムを揺らす準備は出来たが、それにはまだ準備が足りない。

 

「慧眼の効果で、自身を破壊。デッキから《紫毒の魔術師》をPゾーンに置く」

 

金髪の魔術師が柱から消えると、新たに紫色の装束に身を包んだ魔術師が柱へと現れる。その口元には、怪しげな笑みがは浮かんでいた。

 

「そして罠発動。《連成する振動》これによって紫毒を破壊してドローに変える」

 

手札の数は、それだけで戦略の数へと直結する。ペンデュラムカードを破壊することで1枚ドローという性能は決して悪くない。

そしてなりより、このプレイングはドローだけでなく破壊すること(コスト)に意味がある。

 

「破壊された紫毒の効果によって、ミドラージュを破壊し、特殊召喚制限を解除する!」

「ミドラーシュは効果で破壊は」

「だからこれを使うんだ、《禁じられた聖杯》」

「フゥッ……通します。ミドラージュの効果で《影依融合》を墓地から手札へ」

 

聖杯から落ちた水が、ミドラーシュを守っていた瘴気を消す。

振動の力で砕かれていく紫毒の魔術師は、消える直前に持っていた鞭を振るってミドラージュを貫いた。

それによってミドラージュから放たれていた瘴気が消え、拘束が解除される。

 

「今のでいいのが引けた。空いたPゾーンに、《竜穴の魔術師》をセット。効果で、手札の時読みの魔術師を切ってあんたのバックを破る」

 

新たに現れた魔術師が、リリィの伏せカードを砕く。

見えたのは《激流葬》

効果で自分のモンスターも巻き込めるため、確かにシャドールとは相性がいい。

相手からすれば溜まったものではないが。

 

「おっかねえな」

「グルグル回してる人が何を」

「違いない。賤竜の効果で、ペンドラを回収」

 

これで準備は整った。

リンクモンスターを入れていない今のデッキでは、ここまでが限界だ。

Pゾーンのスケールは、2〜8。

これの間のレベルを持つモンスターを、手札とEXの表のカードから一斉に呼び寄せる。

今ならば、3〜7。

 

「揺れろ、魂のペンデュラム! 虚空に描け、記憶のアーク!」

 

ーペンデュラム召喚ー

 

「手札から、《オッドアイズ・P・ドラゴン》《相生の魔術師》、EXデッキから《慧眼の魔術師》をEXモンスターゾーンへ!」

 

オッドアイズ・P・ドラゴン

☆7 ATK2500/DEF2000

 

調弦の魔術師

☆4 ATK500/DEF1500

 

慧眼の魔術師

☆4 ATK1500/DEF1500

 

現れたのは、三体のモンスター。

金髪の魔術師、《慧眼の魔術師》

顔の半分を隠した女魔術師、《相生の魔術師》

そして、志貴のデッキの中核を担う二色の眼を持つ竜、《オッドアイズ・P・ドラゴン》

 

ペンデュラム召喚はこれで終わり。

だが、これでターンが終わるわけではない。

 

「俺はこのまま、慧眼と相生でオーバーレイネットワークを構築!」

 

ふたりの魔術師が球体へと変わり、地面に浮かび上がった穴へと吸い込まれていく。

同レベルのモンスターによって行われる、三つ目の召喚法。

 

「星の流れを刻む魔術師よ。我が元に来たりて、未来をここに告げたまえ」

 

ーエクシーズ召喚ー

 

「ランク4、来やがれ、《星刻の魔術師》!」

 

星刻の魔術師

★4 ATK2400/DEF1200

 

顔の半分をマスクで隠し、深い青の装束を身に包んだ魔術師は、錫杖を鳴らして舞い降りた。

 

「星刻の効果により、ORU(オーバーレイユニット)を一つ取り除いて効果発動」

 

エクシーズモンスターは、レベルではなくランクを持ち、召喚に必要なオーバーレイユニットを消費することで効果を起動する

 

「デッキから《調弦の魔術師》を手札に加える」

 

前のルールならばもう少しだけ動くことができた。しかし、リンクモンスターを使わなければEXデッキからモンスターを1体しか出せないとなれば、ここまでが限度だろう。

まだリンクモンスターも揃えていないのだから。

 

(本当なら、汎用リンクは今日買い揃えるはずだったんだけど……まあ、無い物ねだっても仕方ない)

 

「バトルだ。星刻でセットされてるファルコンを攻撃」

 

星刻の魔術師

ATK2400 win

vs

シャドール・ファルコン

DEF1400 lose

 

「破壊され、リバース効果発動。墓地からビーストをセットします」

「関係ない。踏み砕け、オッドアイズ」

 

オッドアイズ・P・ドラゴン

ATK2500 win

vs

シャドール・ビースト

DEF1700 lose

 

星刻が打ち抜いた伏せから現れた影の隼が、墓地から影の獣を吊り上げて潜ませる。

それを目の前で見たはずなのに、志貴は何のためらいもなく攻撃宣言をした。

 

「ビーストのリバース効果で、2枚引いてから1枚捨てます」

「対応はない。ターンエンド」

 

志貴

LP:7600

手札:1

星:星刻の魔術師(ORU1)

オ:オッドアイズ・P・ドラゴン

賤:賤竜の魔術師(スケール2)

穴:竜穴の魔術師(スケール8)

連:連成する振動

賤 □ 連 □ 穴

□ □ □ □ オ

ー 星 ー ◇ ー

□ □ □ □ □

□ □ □ □ □

リリィ

LP:8000

手札:5

 

リリィの盤面は見事に更地。

しかし、墓地にカードは増やしただけでなく、ちゃっかり融合魔法カードも回収しているのだから抜け目ない。

 

「私のターン、ドロー……あのぅ、変な質問、いいですか?」

「え、どうぞ」

 

さっきもだが、リリィは自分のターンが来るたびに何かしらのは会話をしてくる。

志貴も別に決闘中の無駄話が嫌いではない。むしろ、それで仲良くなれるのなら大満足だ。

だが毎回となると、なにか思惑があるのではないか、と勘繰ってしまう。

 

「なんで、決闘することにしたんですか?」

「え、そりゃあ決闘盤を手に入れたくって、ツレの二人にも大見得切っちゃったし……」

 

我ながら理由がなかなかに恥ずかしい。

 

「でも、あの流れなら私はクビでしたから、普通に手に入れることも出来たはずなのに……」

「い、言われてみれば確かにそうだったかも……」

 

誤算である。

物事をもっと深く考えないからこうなると千歌にも言っている本人がこれなのだから、浦の星学院二年生組は本当に前途多難だ。

 

「ま、まぁ……なんて言えばいいかな……負けなしのリリィさんと決闘したかったってのもあるし、それにその、なんと言いますか……」

「なんと言うんですか?」

「……あの店長に虐められてるのが見てられなかったと言いますか」

 

ギリギリ対戦しているリリィにしか聞こえないような小さな声で言うと、顔を赤くして逸らす。

 

「……ふふっ、変な人」

「あー、はいはい自覚しておりますよ、ターン進めてくれ」

「ああ、はい。そうですね……じゃあ少しやってみますか……私は、《イービル・ソーン》を召喚します。そして、効果発動」

「なら召喚にチェーンして《増殖するG》を起動させる」

 

イービル・ソーン

☆1 ATK100/DEF300

 

増殖するG

☆2 ATK500/DEF200

 

そう言いながら引き抜き、決闘盤にセットしたのは、これまでとは少し毛色が違うモンスターだった。

小さな針を全身につけたその植物は、召喚と同時に弾ける。

 

志貴

LP:7600→7300

 

「自身をリリースして300のダメージ。更に、効果の発動権を放棄した分身を呼びます」

「特殊召喚が行われたため、1枚ドロー」

 

イービル・ソーン×2

☆1 ATK100/DEF 300

 

志貴

手札:1→0→1

 

負けじと志貴も消費した手札を取り戻そうと発動した効果を活用する。

特殊召喚するたびに、志貴はカードを引くことができるが、きっとこれで止まってくれるほどリリィは甘くないだろう。

 

「そして、現れなさい、勝利へ導くサーキット!」

「ッ、まさかリンク召喚か!」

 

宙へと円が現れる。

しかし、融合、エクシーズの円とは違い、そのものには意味があるような形だ。

 

「アローヘッド確認。召喚条件は、モンスター2体。私は、イービル・ソーン2体を、リンクマーカーにセット!」

 

その宣言とともに、円の右下と左下にあった矢印へそれぞれのイービル・ソーンが向かっていく。

そして円から現れる新たなモンスターは、その円を担いだままEXモンスターゾーンへと舞い降りた。

 

「リンク召喚、LINK2《LANフォリンクス》!」

 

LANフォリンクス

右下左下 ATK1200 LINK2

 

「……1枚ドロー」

 

志貴

手札:1→2

 

「これによって、私はリンクモンスターのマーカー先にもEXデッキからモンスターを召喚できる」

「何もないさ、続けてかまわない」

「それじゃ、私は魔法カード《影依融合》を発動。相手フィールドにEXデッキから召喚されたモンスターがいるので、デッキから素材を落とす。落とすのは、《マスマティシャン》と2枚目の《シャドール・ビースト》」

 

LANフォリンクスのマーカー先で、融合の門が開かれる。そこに吸い込まれていくのは、影の獣とデフォルメされたケルベロス。見た目は可愛いと思う者もいるかもしれないが、そこから現れる者も、本人も凶悪の一言に尽きるモンスターだ。

 

「影の獣よ、大地の力を宿して、新たな姿へ生まれ変われ」

 

ー融合召喚ー

 

「現れなさい。レベル10《エルシャドール・シェキナーガ》!」

 

エルシャドール・シェキナーガ

☆10 ATK2600/DEF3000

 

鎖で繋がれ、雁字搦めになった人形が、閉じた瞳で志貴を睨みつける。

これ以上は動くなと、自らの主人と敵対する者へそう言っている気がした。

 

「1枚ドロー……」

「私も、ビーストの効果で1枚引きます」

 

志貴

手札:2→3

 

リリィ

手札:5→6→5→4→5

 

「さらに私は速攻魔法《捕食生成(プレデター・ブラスト)》を発動」

「ぷ、捕食ァ⁉︎」

 

突然のカードに目を見開く。

確かに、捕食植物というテーマはシャドールと相性がいい。全くそんな気配を見せなかったからといって、無いと思うのは逆にどうかしてる。

少し考えれば、イービル・ソーン(植物族)というヒントもあったのだ。

 

「効果で私は《捕食接ぎ木(プレデター・グラフト)》を見せることで、星刻に捕食カウンターを一つ起きます。そしてそのまま発動」

 

墓地から《捕食植物》モンスターを問答無用で蘇生する便利な魔法カード。

だが、このゲーム中にそんなのを墓地に送る機会なんて……

 

「あ、あの時か」

「はい。さっきのビーストの効果で捨てたのは、《捕食植物サンデウ・キンジー》。よってこの子をを蘇生させます」

 

《捕食植物サンデウ・キンジー》

☆2 ATK600/DEF200

 

植物と合体したエリマキトカゲ。

わざわざビーストの効果で墓地へと落とし、増Gの効果を誘発させてまで呼び出したモンスターだ。強力でないわけがない。

 

「1枚ドロー」

 

志貴

手札:3→4

 

「サンデウ・キンジーは、捕食カウンターの乗ったフィールドのモンスターを使って融合召喚が可能。それには相手モンスターも含まれる」

「ああ、知ってるさ」

「なら話は早いですね。私はサンデウ・キンジーと、効果で闇属性となった星刻で融合!」

 

サンデウ・キンジーの蔦に星刻が絡め取られ、現れた穴へと引きずりこまれていく。

これがもし美少女モンスターなら絵になっただろうが、言っても仕方のないことだ。

 

「魔界の花よ、種付けた物を餌へと変え、見るもの全てを食い荒らせ」

 

ー融合召喚ー

 

「現れなさい、《捕食植物キメラフレシア》!」

 

捕食植物キメラフレシア

☆7 ATK2500/DEF2000

 

巨大なラフレシアの花に、鋭い牙を持ち、触手の先には食虫植物が蠢いている。

捕食植物の中でもタチの悪いカードの1枚だ。

しかもこちらはアタッカーの一体を削られた状態からの展開。

嫌な予感は止まらない。

 

「増Gの効果で1枚ドロー!」

 

志貴

手札:4→5

 

「キメラフレシアの効果発動。1ターンに1度、自身以下のレベルを持つモンスターを対象に、そのモンスターを除外する」

 

キメラフレシアの触手が、オッドアイズへと伸びていく。喰らい尽くし、餌へと変えてしまおうという本能を剥き出しにしたその攻撃は、しかしながら届くことはなかった。

上空から現れたヴェールがキメラフレシアを包み、その動きを止めた。

 

「引けてよかったよ、《エフェクト・ヴェーラー》」

「……まあ、仕方ありません。いいでしょう。バトルフェイズに移ります」

 

シェキナーガが動く。

 

「オッドアイズを、シェキナーガで攻撃」

「何もない、通るよ」

 

エルシャドール・シェキナーガ

ATK2600 win

vs

オッドアイズ・P・ドラゴン

ATK2500 lose

 

シェキナーガの鎖がオッドアイズを絡めとり、その首を切断した。その身体は粒子となって消え、志貴のEXデッキへと集まっていく。

 

志貴

LP:7300→7200

 

これで志貴の場はガラ空き。伏せカードも何もない。

 

「ヤッベ」

「キメラフレシアとLANフォリンクスの2体で、ダイレクトアタック!」

 

志貴

LP:7200→6000→3500

 

LPを半分以上削られるのはかなりの劣勢だが、志貴に焦りはない。

先にLPを0にすれば勝てるのならば、自分が0になる前に決着をつければいいだけの話した。

どんなLPコストも、死ななければ安い。

 

「私は、スペルセットでターンエンド」

 

 

志貴

LP:3500

手札:4

賤:賤竜の魔術師(スケール2)

穴:竜穴の魔術師(スケール8)

連:連成する振動

賤 □ 連 □ 穴

□ □ □ □ □

ー ◇ ー L ー

□ □ シ □ キ

□ □ ? □ □

リリィ

LP:8000

手札:2

L:LANフォリンクス

キ:捕食植物キメラフレシア

シ:エルシャドール・シェキナーガ

?:伏せ1

 

「俺のターン、ドロー……!」

 

引いたのは、魔法カード。しかも、このタイミングには最適なカードだ。

 

「なぁリリィさん」

「え、はい、何ですか?」

「あんたは、生粋の融合使いだよな」

「ええ、デッキの性質上そうなりますけど……」

「じゃあ、俺も見せていくぜ!」

 

その宣言と共に、賤竜の魔術師が輝く。

 

「賤竜の効果で、EXデッキからオッドアイズを回収、振動の効果で、そのまま賤竜を破壊して1枚ドロー!」

 

手札が増え、ペンデュラムを揺らす柱が片方消える。

それもほんのいっときの話だ。

 

「空いたPゾーンに、《竜脈の魔術師》をセッティング、その効果により手札から調弦を捨ててシェキナーガを破壊する!」

「ッ! シェキナーガの効果で、墓地から影依融合を回収!」

 

新たに現れた魔術師が杖を振るう。

彼の周りに、小さな粒子が集まっていき、それが矢となってシェキナーガを貫いた。

シェキナーガは特殊召喚されたモンスターの効果を、シャドール1枚をすてることで無効にして破壊するは効果を持っている。

だが、魔法・罠に対しての耐性はまるでない。

刈り取ろうと思えばこんなにも簡単に刈り取れるのである。

 

「竜穴の効果、《時読みの魔術師》を捨てて、バックを割りに行きたい」

「チェーン発動、《貪欲な瓶》によって、墓地から5枚のカードをデッキに戻して1枚ドロー」

 

戻ったカードは、捕食接木、捕食生成、シャドール・ビースト、エルシャドール・ミドラーシュ、シャドール・ファルコンの5枚。

イービル・ソーンを回収するかと思ったが、何か考えがあるようだ。

 

リリィ

手札:2→3

 

「竜穴の効果は立ち消える。それじゃあ、こっからが本番だ!」

 

スケールは1〜8。

出せるのは、2〜7のモンスター。

 

「揺れろ、魂のペンデュラム! 虚空に描け、記憶のアーク!」

 

ーペンデュラム召喚ー

 

「手札から、オッドアイズ・P・ドラゴン、《虹彩の魔術師》、EXデッキから、賤竜の魔術師を召喚!」

 

緑の装束を羽織った魔術師。

精悍な顔つきの、赤装束の魔術師。

美しく輝く、二色の眼の竜。

 

主人の危機に駆けつけた僕のモンスターたちは、出ただけでは終わらない。

 

「賤竜の魔術師の効果、墓地の調弦の魔術師を回収。さらに俺は手札から魔法カード《融合》を発動!」

「ゆ、融合!?」

「ああそうさ、何もエクシーズやペンデュラムだけが俺の戦術じゃない!」

 

指定されたのは、オッドアイズ・ペンデュラム ドラゴンと、賤竜の魔術師。

竜と魔術師が虚空へと混ざり合い、新たな姿へと生まれ変わる。

 

「風を纏う魔術師よ、まばゆき光となりて、竜の眼に今こそ宿れ!」

 

ー融合召喚ー

 

「現れろ、秘術を振るいし魔天の竜《ルーンアイズ・P・ドラゴン》!」

 

ルーンアイズ・P・ドラゴン

星8 ATK3000/DEF2000

 

光を放ちながら現れたのは、片目にルーン文字が刻まれている眼帯を携えた魔竜。

神秘的な魅力と共に、どこか怪しげな魔力を帯びている竜は、主人の敵をその片目で睨みつけ天へと吠えた?

 

「融合、召喚まで……」

「賤竜の魔術師のペンドラはEXデッキに送られる。そして、P召喚されたモンスターをフィールドで融合したため、ルーンアイズはこのターン、相手のカード効果を受けず、レベル5以上のモンスターを融合素材としたことにより、モンスターへと3回までの攻撃が可能になったが、2体しかいないし仕方ない」

 

ルーンアイズの眼が光、ブレスが口から漏れ出る。

 

「連撃の、シャイニーバースト!」

 

まず狙われたのはLANフォリンクス。圧倒的な光の奔流になすすべもなく掻き消される。

 

ルーンアイズ・P・ドラゴン

ATK3000

vs

LANフォリンクス

ATK1200

 

「ッ、痛う!」

 

リリィ

LP:8000→6200

 

ルーンアイズの攻撃は止まらない。

 

「第2打ぁ!」

 

キメラフレシアへとブレスが放たれる。

キメラフレシアは、それを一度は弾くが、上空よりルーンアイズが触手を踏み潰し、至近距離でブレスを放った。

輝きが爆発を生み、キメラフレシアを焼き払う。

 

リリィ

LP:6200→5700

 

「くっ、キメラフレシアの効果により、デッキから《超融合》を手札に加える……」

「虹彩の魔術師でダイレクトアタック」

「通します」

 

リリィ

LP:5700→4200

 

虹彩の魔術師が振るった赤い剣が直撃し、LPが大幅に削られる。

まだ同点とまではいかないが、このターンで一気に差は縮まった。

 

「バックに1枚セットして、ターンエンド」

 

志貴

LP:3500

手札:1

賤:竜脈の魔術師(スケール1)

穴:竜穴の魔術師(スケール8)

連:連成する振動

?:伏せ1

脈 □ 連 ?穴

虹 □ □ □ □

ー ル ー ◇ ー

□ □ □ □ □

□ □ □ □ □

リリィ

LP:4200

手札:5

 

大量にあった手札を全て使い切った。

そうしなければ、あの盤面は崩せなかった。恐らくアレが最善手だ。

 

「私のターン……ねえ、遊神さん」

「なんですか?」

「私、今日の決闘は手を抜いてくれって言われたんです」

「みたいですね」

 

そうでなければ決闘盤など売れない。ほどよく勝って、ほどよく負けてくれればいい。バランスを取ってくれ。

大方、そんなことを言われたのだろう。

 

「でも、私は……」

「ああ、そんなの糞食らえだ」

「…………!」

 

なぜ決闘者が決闘で手を抜かなければならない。勝つために闘うのにどうして相手に遠慮しなければならない。

そんな風に加減を強制する奴らなど相手にする価値などない。

 

「……ありがとう」

「え、なにが?」

「……ふふっ、変な人」

「え、いや、だからなにが」

「なんでもありません、私は影依融合を発動!

デッキから2枚の《シャドール・ドラゴン》を融合し、ミドラーシュを融合召喚!」

 

再び現れる人形の姫。確かに強力なモンスターだが、リリィの狙いはこのモンスターの召喚ではない。

 

「墓地に落ちた2枚の《シャドール・ドラゴン》の効果を発動、伏せカードと竜脈の魔術師を破壊」

「チェーンして発動、《ダメージ・ダイエット》このターンの戦闘ダメージは半分になる」

 

スケールと伏せの排除。モンスターをフィールドに置く必要性。そして彼女がサーチしたカードの中には……

 

「魔法カード《超融合》を発動!」

「やっぱりそうなるよな!」

 

手札1枚をコストに、フィールドのモンスターを敵味方問わず、そして対象を取らずに融合する融合の切り札の1枚。この効果には、あらゆるカードで対処することはできない。

まさに必殺のカード。

 

「私は、ミドラーシュと虹彩の魔術師を融合!」

 

ちょうどEXモンスターゾーンの上空に生まれた穴が、強制的に2体のモンスターを引きずり込む。

バチバチとプラズマを発生させ、中からは竜の咆哮が轟いた。

 

「闇の力よ、今こそ重なり、毒持つ邪竜へと生まれ変われ」

 

ー融合召喚ー

 

「現れなさい、《スターヴ・ヴェノム・フュージョン・ドラゴン》!」

 

スターヴ・ヴェノム・フュージョン・ドラゴン

☆8 ATK2800/DEF2000

 

紫色の邪竜が吠える。

これが映像で、結局は偽物だと頭では理解していても、いま志貴が感じている恐怖は確かに本物だ。

 

「ミドラーシュの効果で影依融合を回収。さらにスターヴ・ヴェノムの効果により、私はルーンアイズを選択。ターン終了時まで、攻撃力を3000アップさせる!」

 

スターヴ・ヴェノム・フュージョン・ドラゴン

ATK2800→5800

 

デュエルモンスターズ最高ステータスを持つ《F・G・D》を超えるほどの存在感は、店内を震わせ、それと同時に志貴心を奮わせた。

 

楽しい。

 

これだけの窮地、逆境、それが志貴の魂を熱くさせる。

 

あの日からずっとそうだ。

 

命を削るような決闘を身体が求めている。

 

その中で、満足して消えれたのならば、どれほど……

 

『志貴くん、みかん食べる?』

 

『志貴くーん! おっはヨーソロー!』

 

頭の中が沸騰してきた時、2人の声が聞こえてきた。今ここにはいないはずなのに、おかしな話だ。だがそれのおかげで頭に上った血も下がっていく。

 

落ち着け、命を賭けるのはここじゃない。

 

「バトルです、スターヴ・ヴェノム・フュージョン・ドラゴンで、ルーンアイズに攻撃!」

「ダメージ・ダイエットの効果でダメージは半分だ!」

「速攻魔法、《決闘融合ーバトルフュージョン》」

「っな!?」

 

スターヴ・ヴェノム・フュージョン・ドラゴン

ATK5800→8800

 

リリィが使ったのは、融合モンスターの攻撃力を戦闘する相手モンスターの攻撃力分アップさせる速攻魔法。

もしも志貴がダメージ・ダイエットを使つてダメージを半分にしていなけれは、このターンでライフは消し飛んでいた。

 

「っ、グァァ!」

 

志貴:3500→700

 

スターヴ・ヴェノムの放った紫のブレスと、ルーンアイズのブレスがぶつかり合い、ほんの一瞬だけ拮抗する。

しかしそれも本当に一瞬だけ。

スターヴ・ヴェノムのブレスが、ルーンアイズを消しとばし、志貴へと大ダメージを与えていく。

 

「私はカードをセットして、ターンエンドです」

 

 

志貴

LP:3500

手札:1

賤:竜脈の魔術師(スケール1)

穴:竜穴の魔術師(スケール8)

 

脈 □ □ □ 穴

□ □ □ □ □

ー ◇ ー ス ー

□ □ □ □ □

□ □ □ □ ?

リリィ

LP:4200

手札:5

 

満身創痍とはまさにこのこと。吹けば飛ぶようなLPは、飾りにすらならない。

それでも志貴の闘志は折れない。目にはまだ、希望が灯っている。

 

「なんで、諦めないの?」

「…………」

「そんな満身創痍で、劣勢で、どうしたまだ……」

「約束したんだよ、決闘盤買っておくって」

「そ、そんな理由……」

「俺、あいつとの約束破ったことないのが自慢だから」

 

くだらないそんな理由。

しかし、それだけで必死になるには十分だ。

 

「俺の、タァン!」

 

光の軌跡を描いてカードを引く。細目で見えたのはこの逆境を覆せるものではない。だが、まだ彼には希望が残っている。

 

「振動の効果、竜穴を破壊してもう1枚ドローする!」

 

もう一度カードを引く。

これなら、もしかしたら。

 

「フィールドのカードが破壊されたことで、手札の《アストログラフ・マジシャン》の効果を発動! 手札から特殊召喚し、破壊されたカードと同名のカードをサーチする!」

 

アストログラフ・マジシャン

☆7 ATK2500/DEF2000

 

目元だけを見せた魔術師は、光る杖で志貴へと新たなカードを渡す。それは、逆転へと繋がる天の一つ。

これらを繋げて、勝利へ導くのが志貴の役目だ。

 

「俺は、調弦の魔術師をPゾーンにセット」

 

これでペンデュラムは揺れる。

スケールは1〜8。

 

「三度揺れろ、魂のペンデュラム。虚空に描け、記憶のアーク!」

 

ーペンデュラム召喚ー

 

「手札から、竜穴の魔術師、エクストラデッキから、オッドアイズ・P・ドラゴンをP召喚!」

 

2体のオッドアイズが空を舞う。2色のまなこは、邪竜へと威嚇するように吠える。

 

 

あれではP召喚を防ぐことはできない。

 

「そして、オッドアイズと竜穴の魔術師で、オーバーレイ!」

 

魔術師と竜が穴へと入り込み、凍気が店内へと浸透していく。それは、邪竜が吐き出す瘴気も同じだ。

 

「全てを凍らす凍気とともに、天に嘶き魔を屠れ!」

 

ーエクシーズ召喚ー

 

「ランク7、絶対零度の魔竜《オッドアイズ・アブソリュート・ドラゴン》!」

 

オッドアイズ・アブソリュート・ドラゴン

★7 ATK2800/DEF2500

 

(さ、寒い……?)

 

おかしい。

目の前にあるのは立体映像のはず。

青の魔竜が放っている吹雪も演出のはずなのに、なぜか肌は冷気を感じている。

 

「バトルだ!」

「……っ、え、バトル⁉︎」

 

冷気に気を取られたリリィが意識を決闘へ戻すが、志貴の一言は信じられないもの。

確かにアブソリュートとスターヴ・ヴェノムの攻撃力は同じだが、それでは相打ち。

ここまで戦った彼が、破壊時に特殊召喚モンスターを全滅させる効果を知らないわけがない。

 

(まさか、ヤケクソの自爆特効!?」

 

「アブソリュートの効果により、ORUのオッドアイズを墓地に送り、この攻撃をキャンセル、その後、オッドアイズを蘇生!」

 

自分の放ったブレスで、アブソリュートは攻撃を中断した。

その中から、一つのシルエットが浮かび上がる。

何度も主人の危機に駆けつけた僕の一体。

オッドアイズ・P・ドラゴン。

 

「オッドアイズで、スターヴ・ヴェノムへ攻撃宣言し、アブソリュートでそれを無効にする!」

「い、いったい何を…………!」

 

攻撃の中断、オッドアイズの効果。

それが何を意味するのか、リリィはようやく気がついた。

 

「まさか、あなたは……!」

「気がついたところでもう遅い!」

 

志貴がリリィの驚愕に答える。

手札から発動される速攻魔法。

それは、オッドアイズの攻撃力を爆発的に引き上げ、再びの攻撃権を与える、必殺の魔法。

 

「「《ダブル・アップ・チャンス》!」」

 

オッドアイズの溜め込んだブレスが極大限まで高まり、スターヴ・ヴェノムを打ち倒した波動が、秋葉原へと突風になって打ち放たれる。

 

「…………お見事です」

「ああ、またやろうぜ」

 

 

リリィ

LP:4200→0

 

 

**************

 

「いやぁ、本当に3台も買っていただいて、ありがとうございます」

「あ、あははは、まぁ、最初からそのつもりだったし……そんな媚び売られましても……」

 

擦り寄ってくる店長を軽く遇らう志貴両手には、新型決闘盤がしっかり3台抱えられている。指に鉄の重みが食い込み、千切れそうなほど痛みが続いている。

 

「じ、じゃあ、俺はこれで……」

「ええ、ええ! またのお越しを!」

 

作り笑いを貼り付けながら志貴は店を出る。

何かあったのか、警備員やら警察官やらがあちこちを走り回っている。

 

「二度と来るかよ……」

 

決闘盤だけなら出費もその通りだった。だが、アームカバーやらメンテ用のグリスやらまだ使わないはずの物を粗方買わされた。

それを買うための金は、志貴の財布からの出費だ。こんな店に二度と来てたまるものか。

 

「あ、あのぅ!」

 

項垂れながら歩いていく志貴へと声がかかってきた。

さっきまで面と向かって聞いたことのある声だった。

振り向くとそこにいたのは、さっきまでとは少し違うお面をつけた人影が走ってくる。

金箔で彩られたそのお面は、見るからに不気味だ。

 

「ええっと……リリィ、さん?」

「は、はい! あのぅ、今日は本当にありがとうございました!」

「い、いや、本当にお礼言われるようなことは何にも」

「それでも、ありがとうございました!」

 

不気味なお面をつけた女の子に頭を下げられてお礼を言われる。

かなり異様な光景だ。

 

「そ、それで……私の、名前なんですけど……」

「ああ、いいよ、リリィさんで」

「え、で、でも」

「また会って、決闘した後に教えてくれればそれでいいさ。なんだか今日は満足しちゃったし」

「あ、ああ、ちょっと!」

 

ヒラヒラ手を振って志貴は去っていく。疲れ切ったのか、足取りはどこかフラついたものだった。

決闘者なら、いつかまた会うこともあるだろう。だからこそ、今は聞かない。

それが志貴の礼儀だ。

 

「さってと、曜さんに連絡して千歌を引きずって来てもらおうかな……っと」

「志貴くん!」

「グッフゥ!」

 

スマホを取り出そうとした時にはもう遅かった。

背後からの声に気がつき、振り返ろうとした瞬間にみかん色の何かが志貴の腹部へと激突してくる。

 

「ち、千歌ぁ……おまえ今度コレやったら腐ったみかんの刑に……」

「私、決めた!」

「おい人の話を、って何を決めたって?」

 

何かに浮かされたように蒸気した顔を近づけて、高海千歌は高らかには宣言した。

 

「私、スクールアイドル始める!」




はい、ついに物語は原作へと突入していきます。

作者はそこまで決闘上手くないので許してください。

ここ三回はオリ主メインだったので、次回からは千歌ちゃんサイドに視点を当てたいと思います!

感想、ご意見、ご指摘、待っています!

デュエリストアドベントはP名称のカードしかサーチできなかったので、無かったことになりました。
申し訳ありません。
エルシャドールミドラーシュは効果で破壊できません。禁じられた聖杯をかませて無効化しました。
申し訳ありません
誤字訂正2/24


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第3話 輝きたい! Aパート

うーむ、進まないですね……なかなかどうして……

原作入ったはいいけどまんまになってしまいそうで……

難しいです……


それは、突然だった。

 

千歌が秋葉原で指揮を待っている時、突然の風が街を遅い、目の前にいたメイドさんの配っていたチラシが辺りに撒き散らされてしまう。

 

「ああっ、待って!」

 

千歌はそれを見て見ぬ振りはできない。

散らばったチラシを、隣にいた曜と一緒に拾っていく。

1枚1枚丁寧に広い、集めていくと再び突風が吹き、最後の1枚を吹き飛ばしてしまった。

 

「もうっ、待ってってば!」

「千歌ちゃん、そんな遠くに行ったら」

 

曜の制止も聞かずに走り出す。

チラシは、止まることなくヒラヒラと宙を舞って逃げられてしまう。

その様子は、千歌をどこかに誘っているかのように見えた。

 

「はぁ、はぁ……どこ行っちゃったの……?」

 

走り疲れて息を整えていると、何かの音楽が聞こえてきた。

顔を上げれば、大きなモニターに九人の少女たちが歌い、踊っている。

見る人から見れば、普通だと言われるかもしれない。しかし、それが千歌を引きつけた。

 

「すごい……」

 

三度風が巻き上がる。

それは、チラシだけでなく、千歌の心も宙へと舞い上がらせた。

 

熱くなる。

 

鼓動が高鳴る。

 

ああ、これだ。

 

きっと待っていたんだ。

 

普通の日常に現れる奇跡を。

 

何かに夢中になりたくて。

 

何かに全力になりたくて。

 

脇目も振らずになりたくて。

 

でも、何をやればいいか分からなくて。

 

燻っていた自分を吹き飛ばしてくれる、何か。

 

それが、きっとこれだったんだ。

 

「すっっごい!!」

 

運命的な出会いに理由はいらない。憧れることにも理由はいらない。

ただ、夢をみることだって、決して罪なんかじゃない。

 

***************

 

春。

全国各地で入学式が行われ、桜が新しい門出を祝う季節。新入生は期待と不安に心を踊らせ、進級生たちは緊張と責任感を胸に秘めている。

それは、この静岡県沼津市にある『浦の星学院』も例外ではない。

 

「スクールアイドル部でーす!」

 

新入生を狙い、各部活は勧誘活動に励む。

その中には、帰宅部であるはずの高海千歌の姿もあった。

 

「あなたも! あなたも! スクールアイドル部ゥ!」

 

メガホンを使って道行く生徒に片っ端から声をかけている。下手をすれば男子生徒まで見境なしだ。

その手に持っている紙製のプレートにはスクールアイドル部と書かれているが、部首と意符が逆に書かれている痕があり、上からバツをして直してある。

 

「スクールアイドルやってみませんかぁ!? 輝けるアイドル! スクールアイドルゥ!」

 

校舎へ入っていく人達は誰も見向きもしない。

ここまで大きな声で言っていれば、聞こえているはずだが、聞こえているだけで届いてはいないようだ。

 

「おーい、千歌ちゃーん!」

 

千歌に頼まれて手伝っていた曜が帰ってくる。

何人かに声をかけていたようだったが、もうみんな行ってしまったようだ。

 

「スクールアイドル部でぇす……」

 

力無い千歌の声がメガホンに入っていく。曜も、何かを言おうと言葉を探しているが、何も気の利いたことなど言うことはできない。

 

「今、大人気の、スクールアイドルでぇす!!」

 

地下の声が空へと吸い込まれていく。分かってはいたことだ。彼女たちのいるような地域で、スクールアイドルをやろうなどと言う人物はそうそういない。

分かってはいたことだったが、ここまで誰も見向きもしなくなると心が折れそうになる。

運命を感じ、奇跡を感じても、人生とはままならないものなのだ。

 

ーー数時間前ーー

 

「わぁ! あいったぁ……」

「大丈夫? 結構派手に転んだけど」

「平気平気、大丈夫!」

 

珍しく早起きし、曜とともにこれからの事についてを話していた千歌は、盛大に転んで腰を打っていた。

その背にある襖には、つい先日の秋葉原観光までなかった大きなポスターが貼ってある。

 

「よし、もう一回!」

 

立ち上がった千歌は、ぎこちなく回転してポーズを決めた。

ピースサインを頭に当て、腰に手を添えた決めポーズ。さらにウィンクのおまけ付きだ。

 

「どう? ちゃんとできてる?」

 

曜は、千歌のそのポーズと自分の持ってるスマホに映っている画像と見比べる。

 

「うーん……多分合ってると……」

 

映っているのは、ポスターの中心にいる女の子が踊っている最中の画像だろう。

千歌がしているのは、それを真似たポーズのようだが、残念ながら微妙に違うように思える。

 

「思う!」

「ねぇよ!」

 

それらしいことを言って誤魔化そうとしている曜にツッコミを入れたのは、勢いよく襖を開けて入ってきた志貴だった。

 

「朝っぱらから何やってんだ、しばくぞ、美渡さんが」

「え、そんなに怒ってた……?」

「あ、志貴くんおはヨーソロー!」

「はいおはヨーソロー、あんまり千歌を甘やかさないでくれ曜さん」

「いやぁ頑張ってるの見たらついね」

「ったく……」

「ね、ねえ、美渡姉そんなに怒ってた!?」

 

狼狽し始めた千歌をスルーして、曜の隣に座った志貴が画面を覗き込む。顔が近づき、息遣いも感じ取れる距離だが、お互いに気にしていない。

もしかしたら気にしていないフリをしているだけかもしれないが。

 

「これか、千歌の言ってるスクールアイドルってやつは」

「そうだよ!」

 

先ほどの動揺は何処へやら。千歌が元気よく返事をすると、どこから取り出したのか「スクールアイドル部」と書かれたプレートを突きつけてきた。

 

「新学期始まったら、すぐに部活を立ち上げる!」

「お、おう……そりゃあ結構なことで……」

「アッハハ……ほかに部員はいるの?」

「ううん……曜ちゃんが水泳部じゃなければ、誘ってたんだけど……」

 

やる気に満ち溢れた千歌に気圧された志貴は、そのプレートを受け取った。しかし、協力者は無し。始まりからつまづいているような状態だ。

 

「それにしても、何でスクールアイドルなんだ?」

「そうだね、どの部活にも“興味ない”って言ってたのに、

「え? ふふーん、それはねぇ……って」

 

千歌が笑みを浮かべて訳を話そうとした時、その視界に部屋の時計が入ってきた。

ここから学校まではバスで無ければいけない距離にあり、本数も少ない。

そしてあと数分後に出るバスに乗り遅れれば、次は1時間後だ。

 

「「「もうこんな時間!?」」」

 

3人が面白いほど取り乱して階段を駆け下りる。

 

「わぁ曜ちゃん推さないでよぉ!」

「ちょっと二人とも待ってくれ俺まだ鞄部屋だ!」

「二人のこと待ってたら本格的に遅刻だよ!」

「こぉら! こっちから出ちゃダメって言ってるでしょ!」

 

「「「ご、ごめんなさーい!」」」

 

 

タッチの差、というのを千歌は初めて体験した。本当にそれほどギリギリにバスへと駆け込み、曜と志貴に挟まれて息を整えていた。

 

「ま、間に合ったぁ……」

「おかしい……余裕を持って起きたのに……なぜ一年時のデジャヴが……」

「ふぅ〜、危なく無駄になるところだったよ〜」

 

千歌が鞄から出してきたのは、手書きのチラシをコピーしたものだった。みかんのイラストやみかん色のフォントで『スクールアイドル部大募集!!』と書かれている。

 

「そんなの作ってたんだ」

「昨日の夜うるさかったのはこれか……」

「うん、早い方がいいでしょ? 楽しみだなぁ〜」

 

チラシは鞄の中にギッシリと詰まっている。

それを1人で区張り切るのは骨だろう。メガホンまで持っているくらいだ。

 

「う、う〜ん……よし、分かった!」

「なになに?」

「私も今日は、千歌ちゃんのために人肌脱ぎますか!!」

「おお! さすがは曜ちゃん!」

 

隣へと抱きついて楽しそうに戯れはじめる。

だから気がつかない。

隣にいた青年が、どんな表情をしていたか……

 

 

そして現在。

 

「すくーるあいどるぶで〜す……」

 

曜がメガホンに小さな声を放つ。その隣では千歌が余りに余ったチラシを抱えて溜息をついていた。

 

「だいにんき……すくーるあいどるぶで〜す……」

 

もはや大人気と言っているあたりに力が感じ取れない。

諦め半分と言った様子だ。

 

「はぁ……」

「全然だねぇ……」

 

まるで相手にされず、他に生徒はいないか探していると、まだ残っている生徒に気がついた。

そのリボンの色は一年生の黄色。

そして、何よりもその顔は

 

「かわいい……」

「え、千歌ちゃん、ってわぁ!」

 

つぶやいた頃には千歌は立ち上がり、その二人へと駆け足で近づいていった。

 

「スクールアイドル、やりませんか!!」

「ずらっ!?」

 

奇怪な鳴き声をあげたのは、茶色のフワッとした髪の女の子。ロングヘヤーと茶色い瞳が特徴的だった。

 

「ずら?」

「あ、い、いえ、まる、いや私は……」

「大丈夫、悪いようにはしないから! あなたたち可愛いからきっと人気が出る。間違いない!」

 

何度か言葉の節々を直していたが、その後ろから地下の持っているチラシへと熱い視線を送っている少女の存在で気にしなくなった。

ルビー色の髪を2つで纏めた小さな女の子は、千歌がチラシをズラせばそれについてくる。

 

「興味あるの?」

「ライブとか、あるんですか!?」

「ううん、これから始めるんだけど、人数が足りなくって」

 

そう言いながら千歌は女の子の手を取ってチラシを突き出していく。

 

「だから、あなたみたいな可愛い子にぜひ!」

 

その瞬間だった。

赤らんでいた少女の顔が一気に青ざめ、表情が固まっていく。

隣では茶色い瞳の女の子が耳を塞いで少し離れている。

 

「ピギャぁぁぁぁぁぁ!!」

「え、うわぁっ!!」

 

突然の発狂に千歌は尻餅をつき、少し離れたところにいた曜ですら耳を塞いでいる。

 

「え、え、どうして突然!?」

「ルビィちゃんは究極の人見知りズラ……」

「今さっきまで普通に会話してたのに!?」

 

誰かの名を呼びながら動転している女の子、ルビィをなんとか宥めようとしていた時、頭上のにあった桜の木から誰かが落ちてきた。

 

「わ、わ、わぁぁ!」

「今度はなにぃ!?」

 

その人影が地面に落ちる直前、千歌の隣を新たな影が割って入ってきた。

落ちてきた影を抱きとめたのは、オレンジ色のメッシュが入った白髪の青年だった。

 

「あ、志貴くん!」

「戻ってくるのが遅いと思ったら、何やってんのお前は!」

 

志貴が千歌へ怒鳴り声を上げる。困ったように笑っている彼女は、頭を掻いて申し訳なさそうにしている。

 

「ご、ごめんなさい……って、志貴くんこそ何やってたんだよぉ! 手伝ってくれなかったし!」

「俺は2人が貰い忘れた分のプリントとか貰ってたんだよ!」

「おお! それはありがとう、って、その子どうするの?」

「え? ああ、キミ大丈夫?」

 

ゆっくりと抱きとめた女の子を降ろして向き合った。

ダークブルーのお姫様カットに、頭の右部分にはシニョンが出来上がっている。

 

「…………げ」

「「げ?」」

 

そして、ワインレッドの瞳が輝いた。

 

「下賤な人間ごときが、この堕天使ヨハネに触ったことは許してあげましょう。所詮、この身体もただの器なのですから!」

「……え?」

「うわぁ……」

 

大袈裟な振り付けに芝居かかった言動。

所謂“イタイ子”の類だと2人は確信した。

だが、頬は少し赤くなり、プルプルと震えている。照れているのか、それとも慣れていないのか。何にせよ、悪人には見えない。

 

「あれ? 善子ちゃん?」

 

その少女を見た茶色い瞳の女の子が声を上げた。

 

「よ、善子? いったいなんの……」

「やっぱり善子ちゃんだ! 私だよ! 花丸だよ! 国木田花丸!」

 

近づいていった女の子、国木田花丸が話しかけた瞬間に善子と呼ばれた子は顔を青くさせた。

 

「は、な、ま、るぅ!?」

「幼稚園以来だねぇ〜」

「に、人間風情が何を言って……」

「じゃーんけーん……」

 

善子が誤魔化そうとした直後に、花丸の出したじゃんけんに思わず反応した。

 

出されたのは人差し指と薬指、それに親指が立てられた特殊な形態だった。

 

「そのチョキ、やっぱり善子ちゃんだ!」

「善子言うな!」

 

どうやらチョキだったようだ。

 

「私はヨハネ! ヨハネなんだからね! あと、助けてくれてありがとう!」

「え、ああ、どういたしまして」

 

捨て台詞を残して去っていく善子を花丸が、そして花丸をルビィが追いかけていく。リボンの色から、全員が一年生というところを見ると、これ入学式終わりだったのだろう。

 

「あの子達……あとでスカウトに行こう!」

「なかなか、エキセントリックな子達だったな……」

「あははは……千歌ちゃん、志貴くん、そろそろ私達も戻らないと……」

 

曜が落ちたチラシを拾いながら2人へと近づいて行った時、その近くにもう1つの人影があった。

 

「このチラシを配っていたのは、あなたですの?」

 

黒髪のロングヘヤーに青緑色の瞳。口元にある黒子やその佇まいから、疾駆の麗人という言葉がよく似合うその人は、チラシを手にとって千歌を見ている。

いや、睨んでいるという言い方の方が正しいかもしれない。

 

「いったいいつのまに、“スクールアイドル部”なるものが、この学院に出来たのです?」

「あなたも、一年生? 興味あるの?」

 

奇策に千歌が話しかけると、その女性は目つきを更に鋭くしてきた。

なにかを悟ったのか、志貴は既にその場から立ち去り、曜は千歌へと耳打ちする。

 

「千歌ちゃん、その人は一年生じゃなくって……」

「え……も、もしかして……」

 

**************

 

「あ〜あ〜……失敗したなぁ……」

「志貴くんとかいてくれたら言いくるめられたかもしれないけど、早々に帰っちゃってたもんね〜」

「なんか志満姉からお掃除頼まれたんだって〜」

 

曜と千歌は、スクールアイドル部設立を見事に先ほどの女子生徒、生徒会長である黒澤ダイヤに却下された。

もともと申請も何もしていないのに加え、人数も集まっていない。それだけならまだ筋は通っているが、彼女は千歌にとって絶望的な言葉を発した。

 

「私が生徒会長でいる限り、スクールアイドル部は認めないからです!!」

 

天候が味方するほどの威圧感は、圧倒的だった。

船の淵で項垂れた千歌は、茜色に染まっていく空を見上げて呟く。

 

「でも、なんでスクールアイドル部はダメなんて言うんだろ」

「……嫌い、みたい」

「え?」

 

曜が、顔を逸らしながら声を絞り出す。

 

「前にもクラスの子が作りたいって言ったら断られたって……」

「え!? 曜ちゃん知ってたの!?」

「ごめん!」

「もぉ〜、先に言ってよぉ〜」

「だって、千歌ちゃん夢中だったし、志貴くんにも、言わない方がいいかもって……」

「そんなこと言われてたんだ……」

「とにかく、生徒会長の家、網元のお嬢様みたいで、そういうチャラチャラしたの好きじゃないみたい」

 

千歌は、空へ手を伸ばす。

届きたい憧れの場所があって、それに精一杯手を伸ばす。

 

「チャラチャラなんかしてないのになぁ」

 

その空を握りしめたくても、何かが手に入ることはない。

だって、高海千歌は、未だスタートラインに立つことすら許されていないのだから。

 

「よっと、到着!」

「おーい、果南ちゃーん!」

 

船から降りた2人は、海の近くにあるダイビングショップまで歩いて行った。そこは、曜や志貴、千歌とも仲の良い三年生が働いている。働いているとは言っても、そこは彼女の実家なのだ。

 

「遅かったね、今日は入学式だけでしょ?」

 

出てきたのは、深い青の髪をポニーテールに纏めた紫の瞳の少女。

ダイビングスーツを着て、凹凸がハッキリした体型が特徴的だった。

 

「うん、それが色々とね……」

「はいこれ、回覧板とお母さんから!」

 

千歌が鞄からビニール袋を取り出す。薄っすらと柑橘系の香りが漂っている。

少女、果南は、手すりに頬杖をつきながら呆れたように微笑んだ。

 

「どうせまたみかんでしょ?」

「文句ならお母さんに言ってよぉ〜」

 

このダイビングショップは、果南の実家が経営しており、数少ない観光地の1つとして有名になっている。

しかしながらつい先日、経営者の父親が骨折してしまい、果南は休学する羽目になった。

 

「果南ちゃん、新学期から学校来れそう?」

「うーん、まだ父さんの骨折も治ってないし、家の手伝いもあってね……」

 

大きな酸素ボンベを運び、1つ、2つとバルブを回す。

 

「そっか……果南ちゃんも誘いたかったなぁ」

「誘うって?」

「うん! 私ね、スクールアイドルやるんだ!」

 

千歌が元気よく言った瞬間、果南の手が止まった。しかしそれも一瞬で、直ぐに作業へと戻っていく。

 

「ふうん……まあ私は、千歌達と違って三年生だしね」

「だよね〜、ねえ知ってる!? すごいんだよ」

「はい、お返し」

 

と千歌が再びエキサイトして話し始めようとした時、その顔に何かが果南の手によって押し付けられた。

 

「また干物〜?」

「文句なら母さんに言ってよ……って、昔言ったら志貴と一緒に怒られたんだったね」

「そんなことあったね〜」

「そう言えば、志貴はどうしたの?」

 

キョロキョロと果南が辺りを見渡す。

まるで野良犬でも探すような仕草だ。

 

「志貴くんったら酷いんだよ! 生徒会長に怒られそうになったら直ぐに帰っちゃうんだもん!」

「あっはは……まあ、志貴くんは一番正しい判断をしたと言うか何というか……」

「そうなんだ……久しぶりに会いたかったんだけど」

 

会いたいと果南のような美人から言われて嫌じゃない男性はいないだろうが、当の本人はここにはいない。

きっと今頃、家の手伝いをしているのだろう。

故に、ほんの一瞬だけ曜から締まった空気が漏れたことは気のせいである。

 

「あれ、なにあれ」

 

それを誤魔化したかったのか、曜は空を見上げて指差した。盛大な音を立てながら向かってくるのは、ド派手なショッキングピンクのヘリコプター。行先は、恐らく山にあるホテルだろう。

 

「小原家でしょ……」

 

その時、果南が放った声は今日のいつよりも低く、複雑な感情がこもったものだった。

 

 

ヘリコプターの中から、島を見下ろす視線がある。

その瞳は、懐かしむような優しさを含んでおり、口元には笑みが浮かんでいた。

 

「二年ぶぅりですね」

 

どこか嘘くささのある口調。

 

誰もまだ知らない。

 

彼女もまた、大きな波乱の一部だと。

 

 

 

港から曜と分かれ、バスで家の近くまで乗ってきた千歌は、軽く伸びをして帰路についていた。

 

「どうにかしなくちゃなぁ……」

 

その手には、折り曲げられたスクールアイドル部勧誘のチラシが握られている。

初めて、心の底から何かをしたいと思った。

それを諦めたくはない。

だが、どうやって。

 

「せっかく見つけたんだし……」

 

考えは浮かばない。そもそも千歌はそこまで頭が良い方ではない。

溜息を吐き、ただ歩いているだけだ。

その時、海の方から何かの気配を感じ取った。

志貴が決闘する時とはまた違う、まるでピアノの音が聞こえてくるような気配。

 

気配のした方、海の方へと目を向けると、そこには初めて見る少女が立っていた。海へと目を向けたその子は、ここら辺では見慣れない制服に身を包み、赤紫色のロングヘヤーをバレッタで止めた茶色い瞳が特徴的だった。

風が彼女を包んで、どこか幻想的な雰囲気を齎したその姿に千歌は見とれてしまい。

 

しかし、次の瞬間にその少女は何を思ったのか制服を脱ぎ去り、学校指定であろう水着に早着替えした。

 

「うそ……まだ、四月だよ?」

 

その予感は的中した。

少女は走り出した。

向かった先は夕日が反射する海。

静岡の、四月の、海だ。

 

「待って!」

 

気がつけば抱きつくように少女へと走っていった。お腹を抱えて引き止めるが、少女は振り切ろうと叫ぶ。

 

「離して!! 行かなくちゃいけないの!!」

「いや、死ぬ、死んじゃうから!! ちょっと待って話を」

 

海の近く。

滑りやすい立地。

そんなところで取っ組みあっていたら普通では入れない。

 

「あっ」

「えっ」

 

四月の海に、見事に2人は落っこちた。

これが沖縄だったら。

そう思わずにはいられない千歌であった。




次回は皆さんお待ちかねのあの人の登場と、決闘回にしたいと思っています。
よろしくおねがいします。
感想待ってます。

2/28 追記修正


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第3話 輝きたい! Bパート

はい、なんとか書き上げました。
既存の話に、いかにオリジナルを混ぜるか。
それが問題ですね。
というわけで、どうぞ。


「大丈夫? 沖縄じゃないんだからさ〜」

「…………」

 

浜辺で焚き火をしながら、千歌は濡れた身体を温めていた。その隣には海に飛び込もうとして結局千歌と一緒に落ちた女の子が砂浜に体育座りしていた。

クシャミをした彼女にタオルを被せた千歌は、濡れた自分の髪を拭きながら後ろの階段に座った。

 

「海に入りたいなら近くにダイビングショップもあるのに」

「……海の音を聞きたいの」

「海の音?」

 

何かを話したと思えば、彼女が言ったのは不明瞭なこと。

そして、それ以上は彼女も言わなかった。

 

「…………」

「……わかったじゃあもう聞かない〜」

「…………」

「……海中の音ってこと?」

「フフッ……」

 

明るく楽しげな千歌の態度に、彼女も思わず吹き出してしまった。

千歌と面と向かって話して、終始無表情のまま過ごすことは難しいだろう。

 

それから、彼女は色々なことを話してくれた。

彼女がピアノをやっていること。

曲を作っていること。

東京からやってきたということ。

その曲が、海についての曲だと言うこと。

 

だから千歌も、それに呼応して色々なことを聞いていった。

東京とはどんなところなのか。

どうしてわざわざ東京からここに来たのか。

そして、東京都民ならどんなスクールアイドルを知っているのか。

 

「スクールアイドル?」

「うん、東京だと有名なグループたくさんいるでしょ?」

 

自分がスクールアイドルと出会ったのが東京。ならば東京に住んでいる彼女はどれくらい知っているのだろう。

そう思っての質問だったのだが。

 

「何のはなし?」

「えっ?」

 

2人の間には沈黙が降り注ぎ、波の音がそれに便乗してヤケに大きく聞こえた。

何本目かのバスが通り過ぎ、きっと家では志貴としいたけが欠伸をする時間帯だろう。

 

「まさか知らないの!? スクールアイドルだよ! 学校でアイドル活動して、大会が開かれたりする」

「有名なの?」

「有名なんてもんじゃないよ!ドーム大会が開かれるくらいチョー人気なんだよ!」

 

立ち上がって夕日をバックに千歌はスクールアイドルのことを彼女へと話していく。

 

「って、私も知ったの最近だからあんまりは詳しくないんだけど……」

「そうなんだ、私、ピアノとでゅ……ピアノばっかりやってきたからそういうの疎くて……」

 

ピアノの後に何かを言いかけたことが気になったが、それよりも千歌はスクールアイドルを知ってほしかった。

 

「じゃあ、見てみる?」

 

振り返り、少し大袈裟なフリをした。

 

「なんじゃこりゃぁ! ってなるから」

「なんじゃこりゃ?」

「なんじゃこりゃ!」

 

そう言って千歌が差し出してきたスマホの画面に映っていたのは、過去のスクールアイドルの動画。

『μ’s』という名のそのグループは、学校の制服を着てステージに立ち、歌い、踊っている。

歌を聴き、踊りを見た彼女は少し首を傾げる。

 

「どう?」

「どうって……何というか……普通?」

 

普通と言われて千歌は項垂れる。

 

「あ、いや、悪い意味じゃなくって、アイドルって言うから、もっと芸能人みたいなのかと思って……」

「……だよね」

 

海からくる潮風に打たれながら、千歌が答えた。その背には、彼女には分からない『μ’s』への憧れが秘められている。

 

「だから……衝撃だったんだよ……」

 

千歌には、彼女のようにずっとピアノを頑張って来たり、何かに夢中でのめり込んで来たり、将来こんな風になりたいと言う夢があったり。これまでの千歌にはそんなもの1つもなかった。

 

「私ね、普通なの」

 

普通星に生まれた普通星人。どんなに変身しても、普通でしかない。

それでも何かあるんじゃないかと、曜が高飛び込みをする姿や、志貴が大会に出ている姿を見て思っていたが、気がつけば高校二年生になっていた。

 

「まずっ! このままじゃ本当にこのままだぞ! 普通星人通り越して、普通怪獣チカッチーになっちゃうーって!」

 

ガォーっ、と千歌が唖然とした彼女へ吠える。笑顔を見せながら効果音を発して砂浜を駆けた。

 

「そんな時、出会ったの。あの人たちに」

 

みんながみんな自分と同じ普通の高校生なのに、自分にはない輝きを放っていた。

それで思った。一生懸命練習して、みんなで心を1つにしてステージに立てば、輝きを放ち、素敵になれる。

 

スクールアイドルは

 

こんなにも。

 

こんなにも。

 

「キラキラ輝けるんだって!」

 

気がつけば千歌は全部の曲を聴き、毎日のように練習をした。

だから千歌も、『μ’s』が目指したものを自分も目指したいと思ったのだ。

 

「私も、輝きたいって!」

「……ありがとう」

 

千歌の話を聞いた彼女が呟いた。今まで何かを思いつめた表情をしていたが、どこか元気を取り戻したように笑っている。

 

「何だか、頑張れって言われてる気がした。いまの話」

「本当に?」

「うん、スクールアイドル、成れるといいわね」

「うん! あ、私、高海千歌。あそこの丘にある、浦の星学院って高校の二年生」

 

千歌が海の先にある丘へと指を指した。彼女は、それを聞いて、同い年だと言いながらタオルで身を包みながら千歌の隣へと歩いて来た。

 

「私は、桜内梨子。高校は……」

 

音乃木坂学院高校。

 

そう彼女、桜内梨子が言った時、白い羽が二人の間を通り過ぎ、畳んであった制服の上に舞い降りた。

 

**************

 

「で、そんなとこで千歌は何やってんだ〜」

 

夕食を終え、入浴の順番を待っていた志貴は、中庭から屋根瓦に寝転がって夜空を見上げている千歌を見つけた。

まだ三つ編みを解いていない彼女は、脚をブラつかせて夜風に当たっている。

 

「うん、どうしようかなって」

「……スクールアイドルのことか?」

「うん、生徒会長にあそこまで言われると、ダメなのかなって思っちゃった」

「まあ、昨日の今日でさらに言えば相手はダイヤさんだしなぁ……」

「あれ、志貴くん生徒会長と知り合いなの?」

「あ、いや、有名人だしな、あの人」

「ふ〜ん、そうなんだ〜」

「なんだよ〜、何が言いたいんだよ〜」

「べぇつにぃ〜」

 

上と下で会話のキャッチボールを交わしていくと、不意に千歌が屋根の上から降りてベランダへと降りた。

 

「ねえ、志貴くん」

「はい、なんですか?」

「明日から実技の授業も始まるじゃないですか〜」

「そ〜ですね〜」

「だからさ〜、今からちょっと決闘()らない?」

 

手すりに顔を乗せて見下ろしてくる千歌の誘いに、志貴は一瞬迷う。

時間的なものもあるが、彼自身の中に迷いがある。

それでも、彼はそれを了承する。

 

「いいよ、じゃあ決闘盤(デュエルディスク)取ってくるから中庭で」

「ホントに!? って、わ、ワァァ!」

「え、ちょ、バカチカァ!」

 

嬉しさで身体を勢いよく乗り出してしまった千歌は、その運動で手を滑らせて落下してくる。

部屋に戻る直前に志貴が気がつき、受け止めなければ大惨事だっただろう。

頭から落ちて来た千歌を抱きとめて、倒れそうになりながらなんとか踏みとどまる。

抱き合った状態になった二人の鼓動は、二重の意味で早鐘を打っていた。

 

「あっぶなかったぁ……」

「し、死ぬかと思った……」

 

二人の体温が熱くなっていくばかりで、鼓動が収まる気配はまるでない。

安心しきった千歌の頭をポンポンと叩く志貴も、安堵して抱き合ったまま硬直している。

 

「気をつけろよ本当に……」

「あはは……ごめんね、志貴くん」

 

離れた二人は各自に決闘盤とデッキを取りに行った。

その時の二人の心臓が、離れていても強く動いていたことを、まだ気がついていない。

 

 

「準備できたよ〜!」

「よぉ〜し、じゃあ負けた方が風呂最後な〜」

「そういうのは後から言わないでよ〜!」

「あっはは、じゃあ、行くぜ」

 

「「決闘(デュエル)!!」」

 

 

志貴

LP:8000

手札:5

□ □ □ □ □

□ □ □ □ □

ー ◇ ー ◇ ー

□ □ □ □ □

□ □ □ □ □

千歌

LP:8000

手札:5

 

互いの決闘盤が点滅し、それが段々とゆっくりになっていった。

 

先攻は……千歌!

 

「私のターン! 私は、《調律》を発動、デッキから《クイック・シンクロン》を手札に加えて、トップを一枚落とす!」

「通しだ、何もない」

「よしっ! じゃあ、手札を切ってクイックロン特殊召喚! さらに、《チューニング・サポーター》を召喚!」

 

クイック・シンクロン

☆5(チューナー)ATK700/DEF1400

 

チューニング・サポーター

☆1 ATK100/DEF300

 

どちらもステータスの低い弱小モンスター。それらは単体では何もできないが、クイック・シンクロンの持つチューナーと言う特殊な力と、それ以外のモンスターのレベルを足すことで、より大きな力を生むことが出来る。

 

「いくよ! 私は、レベル1のサポーターに、レベル5のクイックロンをチューニング!」

 

クイック・シンクロンの身体が解け、五つの輪へと変わっていった。

それの中にチューニング・サポーターが入っていくと、星となって消えていく。

連なった星は、6。

 

ーシンクロ召喚ー

 

「来て、全てを貫く槍の戦士! 《ドリル・ウォリアー》」

 

ドリル・ウォリアー

☆6 ATK2400/DEF2000

 

右腕にドリルを付け、黄色いマフラーを靡かせた戦士。

星を足していくことで小さな力を大きくしていくのが千歌が得意とするシンクロ召喚だ。

 

「サポーターの効果で一枚ドロー、ドリルさんの効果で、手札を一枚捨てて次の私のスタンバイフェイズまでゲームから除外するよ!」

 

ドリルを使って地中へと消えていく。捨てたのはジャンク・シンクロン。それだけを見れば、ディスアドバンテージに見えるかもしれないが、それが今の新ルールではうまく働くことがある。

 

「カードを一枚セットしてターンエンド!」

 

志貴

LP:8000

手札:5

□ □ □ □ □

□ □ □ □ □

ー ◇ ー ◇ ー

□ □ □ □ □

□ □ □ □ ?

千歌

LP:8000

手札:1

?:伏せ1

「それじゃ、俺のターン」

 

一枚カードを引くと、少し考え込む。リリィとやった時のように、やることが一つに絞られれば楽なのだが、

 

「とりあえず《虹彩の魔術師》をPゾーンにセッティング。そして《デュエリスト・アドベント》を発動し《ペンデュラム ・コール》をサーチ、そのまま発動。手札を一枚切って、デッキから《賤竜の魔術師》と《調弦の魔術師》をサーチ」

 

一枚が二枚へと変わる莫大なアドバンテージカード。当然ながら制限カードに指定されている。

 

「そのまま、空いているPゾーンに賤竜をセッティング!」

 

二つの柱が揺れ動き、新たな存在を呼び起こす。

スケールは2〜8。

呼応するのは3〜7。

 

「揺れろ、魂のペンデュラム! 虚空に描け、記憶のアーク!」

 

ーペンデュラム召喚ー

 

「手札から《調弦の魔術師》《紫毒の魔術師》《オッドアイズ ・P・ドラゴン》!」

 

調弦の魔術師

☆4(チューナー)ATK0/DEF0

 

調律機を手に持った魔術師。

怪しげな笑みを浮かべる紫の魔術師。

そして、彼の分身とも言える二色の眼の竜。

 

その三体が現れ、主人の元に傅いた。

 

「調弦の効果により、デッキから《時読みの魔術師》を特殊召喚」

 

彼にとってのペンデュラム召喚は次に繋げる為の布石。それそのものが目的ではない。

だから、これも次へと繋がるための展開式の一つだ。

 

「現れろ、虚空に浮かぶサーキット!」

「え、まさかリンク召喚!?」

「アローヘッド確認。召喚条件は、闇属性モンスター二体、俺は紫毒と時読みをリンクマーカーにセット!」

 

現れる門に二人の魔術師が吸い込まれていった。生まれるのは、新たなルールに対応した志貴新たな力。

 

ーリンク召喚ー

 

「リンク2、《見習い魔嬢》!」

 

見習い魔嬢

右下・左下 ATK1400 LINK2

 

過去に、見習い魔女というモンスターが存在した。いま現れたリンクモンスターは、それのリメイク版で前者と違いP.I.G能力で闇属性モンスターを墓地から回収出来る。

 

「時読みは調弦のデメリットで除外。賤竜の効果で、EXデッキから紫毒の魔術師を回収して通常召喚」

 

現れた怪しげな魔術師と、調律機を持った魔術師が目配せをすると、空へと舞い上がる。

 

「調弦の魔術師を、紫毒の魔術師にチューニング!」

 

四つの輪へと変わった調弦が、紫毒を包み込み光と変わる。

連なる星は、8。

 

ーシンクロ召喚ー

 

「来やがれ、光を放つ双剣士《覚醒の魔導剣士》!」

 

覚醒の魔導剣士

☆8 ATK2500/DEF2000

 

白い装束に身を包み、二本の曲剣を構えた魔術師が唸り、刃を構えた。

明るい光を放つと、それが墓地へと伸びていった。

 

「うぇ……シンクロまで対応させたんだ……」

「まぁ、魔術師ってそういうテーマだしな」

「こっちはシンクロ召喚だけでも精一杯なのに〜」

「上手くいきゃ融合も入るだろ。続けるぞ、魔導剣士の効果で、シンクロ召喚時に魔術師Pモンスターを素材に使用したことにより、墓地の魔法カード、デュエリスト・アドベントを回収」

 

オッドアイズ ・P・ドラゴン

ATK2500→3000

 

覚醒の魔導剣士

ATK2500→3000

 

見習い魔嬢の力によって、志貴の闇属性モンスターの攻撃力をアップさせる。

これで準備は整った。

千歌のガラ空きの盤面に一気にフィニッシュ打点を叩き込む。

 

「バトル」

「の前に、罠発動!《威嚇する咆哮》!」

 

志貴の攻撃宣言が成立する直前、轟音が志貴が操るモンスターを威圧した。

攻撃宣言そのものを中止する罠は序盤に使わせておきたい一枚だ。

 

「まぁ、そりゃそうだよな」

「そりゃそうだよ、小学生の時に教えてもらったもんね」

 

子供の頃、千歌は攻めしか考えていなかった。先攻や後攻でワンショットを取る自信があるのなら構わないが、まだ彼女にはそんな実力はない。

だからこそ、攻撃反応ではなくフリーチェーンで打てる防御札を積んだ方がいいと志貴はアドバイスした。

 

「しゃあない。ターンエンドだ」

 

 

志貴

LP:8000

手札:2

見:見習い魔嬢

オ:オッドアイズ ・P・ドラゴン

覚:覚醒の魔導剣士

賤:賤竜の魔術師

虹:虹彩の魔術師

賤 □ □ □ 虹

覚 □ オ □ □

ー見ー ◇ ー

□ □ □ □ □

□ □ □ □ □

千歌

LP:8000

手札:1

 

 

「行っくよー! 私のターン!」

 

勢いよく千歌がドローすると、地中に潜っていたドリル・ウォリアーが再びその姿を現した。

 

「ドリルさんの帰宅時能力で、墓地から《ジャンク・シンクロン》を手札に加えて、召喚!」

 

ジャンク・シンクロン

☆3(チューナー)ATK1300/DEF500

 

みかん色の帽子に、洋服の後ろにあるリコイルスターターが特徴的な機械の戦士が、地面へワイヤーを伸ばす。すると、消えたはずのチューニング・サポーターが復活し、横に座した。

 

「ジャンクロンの効果でサポーターを釣り上げ、そしてサポーターを対象に《機械複製術》を発動!」

「嫌なコンボだな本当に……」

 

光を浴びたサポーターが増殖し、メインモンスターゾーンを埋め尽くした。

しかも、ジャンク・シンクロンで蘇生したもの以外は、シンクロ召喚時にレベルを一つ上げる効果を持っている。

 

「私は、ジャンクロンを三体のサポーターにチューニング!」

 

連なる星が光となり、一列に並んだ。

その光の数は、8。

 

「来て、困難を砕く拳の戦士、《ジャンク・デストロイヤー》!」

 

ジャンク・デストロイヤー

☆8 ATK2600/DEF2500

 

三本を超える腕を持った機械の戦士が現れると、拳が分離して志貴の盤面を襲う。

 

「サポーターの効果三回分で三枚ドロー! さらに、デストロイヤーの効果で、志貴くんの賤竜の魔術師と、オッドアイズ、見習い魔嬢を破壊するよ!」

 

爆発エフェクトが巻き起こり、煙が盤面を覆い隠す。

自信満々に鼻を鳴らす千歌だが、晴れた盤面を見て驚愕する。

オッドアイズとEXモンスターゾーンにいた見習い魔嬢は消えて無くなったが、肝心のPゾーンにいる賤竜の魔術師がそこに存在しているからだ。

 

「ええ!? なんで破壊されてないの!?」

「ペンデュラム・コールの効果で、次の俺のターンまで魔術師は破壊されないんだよ」

「なにそれズルじゃん!!」

「ズルではないよ!!」

 

ヤンヤヤンヤと喚いている二人だが、決して本気で喧嘩しているわけではない。こんなものは、何時もの痴話喧嘩と似たようなものなのだ。

 

「むぅ、効果はちゃんと読んどけばよかった……」

「……そんなんでスクールアイドルなんて出来るのか?」

「え、出来るよ、なんで?」

「少し、調べた……」

 

スクールアイドルが競う大会、ラブライブ。

その評価基準は、大きく分けて二つ。

歌と踊りによるパフォーマンスと、決闘だ。

前者は文字通りの話であり、後者は他のグループとの決闘による勝敗が大きく判定に関わる。

 

「……いまの千歌じゃ、きっと他のスクールアイドルには」

「やっぱり、志貴くんは反対なのかな?」

 

志貴の言葉を遮って、千歌が問う。

その声音には荒々しい感情は無く、ただ純粋な疑問のようなものが込められていた。

 

「……千歌が、ソフトボールとか、卓球とかを辞めて帰ってきた日のこと、覚えてる?」

 

志貴が千歌の問いに答えず、逆に質問を返した。その問いに千歌はなにも答えず、ただ頷くだけだった。

 

「俺も覚えてる」

 

色々なことに挑戦して、そして失敗して帰ってきた日の千歌は、彼には見ていられなかった。

誰にも見えないように泣いて、本気になれない自分を恥じて、悔やんで苦しんでいた。

 

「あんな顔をした千歌を、俺は見たくない」

 

ならばいっそ始めないでくれればいい。

そう何度思ったか分からない。

今回のことだって、志貴はずっと千歌が傷つくのが怖くて距離を置いた。

「だから……」

「大丈夫だよ!」

 

沈んでいく思考に、千歌の声が響いた。

 

「空も、心も、晴れるんだよ! 何回も沈んだって、上手くいかなくたって、大丈夫って、新しいことを見つけたって、だから、だから……」

 

千歌の目に涙が溜まっていく。

 

ああ、その通りだ。

 

不安なのは志貴だけじゃない。

 

千歌だって不安なのだ。

 

それを、なぜ志貴は勝手に背負っていたのか。

 

「……そう、だよな」

 

志貴に出来るのは、傷つかないように引き留めることじゃない。

傷つく彼女を支えることだ。

ならば。

 

「だったら、こんなとこでへこたれんな、千歌!」

「っ!! うん、行くよ。デストロイヤーで魔導剣士を、ドリルさんで志貴くんに攻撃!」

「どっちも通しだ!」

 

志貴

LP:8000→7900→5500

 

デストロイヤーの拳が魔導剣士を叩き潰し、ドリル・ウォリアーのドリルが志貴を貫いて大幅にライフを削っていった。

 

「ドリルさんの効果で一枚切って除外、バックにセットしてターンエンドだよ!」

 

志貴

LP:8000→5500

手札:2

賤:賤竜の魔術師

虹:虹彩の魔術師

賤 □ □ □ 虹

□ □ □ □ □

ー◇ー デ ー

□ □ □ □ □

□ ? □ □ □

千歌

LP:8000

手札:3

デ:ジャンク・デストロイヤー

?:伏せ1

 

大幅なライフアドバンテージは、一見すれば千歌の有利を表現している。しかし、この程度の差ならば幾らでもひっくり返せるのが志貴のデッキだ。

 

「俺のターン、ドロー!」

 

引いたカードと、EXデッキにあるカードを確認して戦略を立てる。

オッドアイズ、調弦の魔術師、紫毒の魔術師。これだけでは難しいが、志貴の手札は決して悪くない。

 

「まず、賤竜の効果でEXデッキのオッドアイズ を回収。そして《揺れる眼差し》を発動。フィールドのPゾーンのカードを全て破壊し、その枚数によって効果を連鎖させる」

 

砕かれたのは二つのペンデュラムカード。よって、千歌へと500のダメージを叩き込み、なおかつデッキからPモンスターをサーチできる。

 

千歌

LP:8000→7500

 

「わぁっ!? でも、これくらいなら!」

「俺がサーチするのは《EMドクロバット・ジョーカー》更に破壊された虹彩の効果で、《星霜のペンデュラムグラフ》をサーチ、そのまま発動。」

 

二枚しか無かった手札から欲しいカードをどんどんサーチしていく。

 

「フィールド魔法《天空の虹彩》を発動、ドクロバットを召喚して《オッドアイズ・アーク・P・ドラゴン》をサーチ」

 

ジョーカーがトランプを手繰り、志貴へと一枚弾く。

 

「デュエリスト・アドベントを経由して《アメイジング・ペンデュラム》発動、虹彩と調弦をEXデッキから回収、その後、アークをペンドラと共にPゾーンにセッティング」

 

相棒とも呼べる二色の眼を持った赤い竜と、それと似て非なる銀色の身体を持った竜が光の柱へと現れた。

 

「天空の虹彩の効果により、ペンドラを破壊して《オッドアイズ・ペルソナ・ドラゴン》をサーチ、アークの効果で、デッキから《EMオッドアイズ・ミノタウルス》を特殊召喚」

 

モンスター達の効果が連鎖し、盤面を整えていく。

 

「俺は、闇属性モンスター二体をリンクマーカーにセッティング!」

「うそ、二体目!?」

「いや、見習い魔嬢はさっき破壊された時、自身の効果でEXデッキに帰ってるよ」

 

ちゃんと後で勉強しような、と言うと、千歌は元気よくうなづいた。

素直で飲み込みが早いのは千歌の良いところだ。

そして最後に空いているPゾーンへとペルソナドラゴンをセットする。

これで準備は整った。

揺れる振り子は1〜8。

召喚されるのは、2〜7。

 

「再び揺れろ、魂のペンデュラム! 虚空に描け、記憶のアーク!」

 

ーペンデュラム召喚ー

 

「手札から、調弦、虹彩、EXデッキから、オッドアイズ、紫毒を特殊召喚!」

 

現れる三体の僕。

彼らの顔つきは、どこか主人の背中を押すかのように晴れやかだ。

 

「調弦の効果で、デッキから《慧眼の魔術師》を特殊召喚。そして再び現れろ、虚空に浮かぶサーキット!」

「ペンデュラムからの連続リンク!?」

「アローヘッド確認。召喚条件は効果モンスター二体以上、俺は虹彩と見習い魔嬢をリンクマーカーにセッティング!」

 

生まれてくるのは、新たに実装された種族の戦士。電脳世界に生まれ、力を手に入れた志貴の新たな仲間の一人。

 

ーリンク召喚ー

 

「リンク3、《デコード・トーカー》!」

 

デコード・トーカー

上・右下・左下 ATK2300 LINK3

 

紫のラインの入った鎧を纏った戦士は、その手に大剣を携えて現れた。

 

「星霜のペンデュラムグラフによって、俺は《黒牙の魔術師》をサーチ。続けて調弦を慧眼にチューニング!」

 

調弦の生み出した四本の輪に慧眼が通り、光となって消えていく。

連なる星は8。

 

ーシンクロ召喚ー

 

「来やがれ、炎を纏う竜の騎士《爆竜剣士イグニスターP》!」

 

爆竜剣士イグニスターP

☆8 ATK2850/DEF0

 

炎を放ちながら大剣を背負った紅い剣士が降り立つと、その炎で自身のPゾーンにいるアークを破壊した。

 

「イグニスターPの効果で、フィールドのPカードを一枚破壊し、相手フィールドのカードをデッキに戻す!」

 

爆風が千歌の伏せカードを弾き、デッキへと戻していく。破壊も出来ないから何が消えたか分からないが、千歌の苦々しい表情から良いカードが消えたのだろう。

 

「空いたPゾーンに黒牙をセッティングし、起動。デストロイヤーの攻撃力を半分に」

「それはダメ! 墓地から《スキル・プリズナー》を除外してデストロイヤーは対象を取る効果を受けないよ!」

「……調律か」

「うん! 使いどころが見えなかったけどね」

「効果を使ってしまったため、黒牙は自壊する」

 

上手く噛み合っている。

それが千歌の恐ろしさだ。

あらゆる行動が次へと繋がり、噛み合っていく。もしかすると今デッキに戻した行為すらも何かに繋がるかもしれない。

そんな恐怖が志貴の頭をよぎる。

 

「デコード・トーカーはリンク先のモンスター一体につき攻撃力を500上げる」

 

デコード・トーカー

ATK2300→3300

 

そして行われるバトルフェイズ。

 

「デコード・トーカーでデストロイヤーを、攻撃、オッドアイズとイグニスターPでダイレクトアタック」

「どっちも通すよ!」

 

千歌

LP:7500→6800→4300→1450

 

「っああ……」

「俺はバックに一枚セットしてターンエンドだ」

 

 

志貴

LP:5500

手札:1

ペ:オッドアイズ・ペルソナ・ドラゴン

オ:オッドアイズ ・P・ドラゴン

爆:爆竜剣士イグニスターP

デ:デコード・トーカー

星:星霜のペンデュラムグラフ

?:伏せ1

ペ □ ?星 □

オ □ 爆 □ □

ー デ ー ◇ ー

□ □ □ □ □

□ □ □ □ □

千歌

LP:1450

手札:3

 

一気に盤面はひっくり返ったが、千歌のフィールドにはドリル・ウォリアーと共に墓地からモンスターが回収される。

それだけでも充分なアドバンテージだ。

 

「私のターン、ドローしてドリルさんが帰ってくる。回収はジャンクロン」

 

引いたカードと、手札を確認する。これではこの状況は覆らない。

今は少しでも志貴のライフを削るのに専念しなければならないだろう。

 

「ドリルさんの攻撃力を半分に、そのままダイレクトアタック!」

「対応はない、そのまま通すさ」

 

射出されたドリルが志貴を貫き、ライフを削る。しかしながら、その威力は致命傷には程遠いものだ。

 

志貴

LP:5500→4300

 

「……モンスターをセット、カードをセットして、ターンエンド」

「エンドフェイズ、《サイクロン》を使ってそのバックを破る」

「っ、破壊されたのは屑鉄のカカシだよ」

 

志貴

LP:4300

手札:1

ペ:オッドアイズ・ペルソナ・ドラゴン

オ:オッドアイズ ・P・ドラゴン

爆:爆竜剣士イグニスターP

デ:デコード・トーカー

星:星霜のペンデュラムグラフ

?:伏せ1

ペ □ ? 星 □

オ □ 爆 □ □

ー デ ー ◇ ー

□ □ ? ド □

□ □ □ □ ?

千歌

LP:1450

手札:2

ド:ドリル・ウォリアー

?:伏せ1

?:伏せ2

 

「俺のターン……ドロー」

 

引けたのは貪欲な瓶。

もう一枚の手札は、融合。

いま使うには惜しすぎるカードだ。

ならばこのまま行くしかない。

 

「バトル、デコード・トーカーでドリル・ウォリアーを攻撃!」

「通すよ!」

 

ドリル・ウォリアーが応戦するが、攻撃力の上がったデコード・トーカーには及ばず叩き潰される。

 

千歌

LP:1450→550

 

ライフが3桁を切った。

それでも千歌の眼は死んでいない。

 

「イグニスターPでセットモンスターを破壊」

 

炎が伏せてあったモンスターを焼き尽くす。

これで千歌の盤面はガラ空きだ。

 

「終わりだ、オッドアイズで」

 

攻撃を宣言しようとした時、その体が光の光によって貫かれた。

 

「リバース効果、《ライトロードハンター・ライコウ》!」

 

それによって相手の盤面を削ると同時に、墓地を三枚肥やしていく。

落ちたのは、《ボルト・ヘッジホッグ》《ブレイクスルー・スキル》《ブラックホール》

苦虫を噛み潰したような千歌の表情から分かる通り、後の二枚は盤面を覆すのに必要だったカードだ。

 

「……エンドフェイズにペルソナが誘発。場に守備表示で現れながら、PゾーンにEXデッキからアークをセット。ターンエンド」

 

デコード・トーカー

ATK3300→2800

 

 

志貴

LP:4300

手札:1

ア:オッドアイズ ・アーク・P・ドラゴン

ペ:オッドアイズ・ペルソナ・ドラゴン

爆:爆竜剣士イグニスターP

デ:デコード・トーカー

星:星霜のペンデュラムグラフ

ア □ □ 星 □

□ □ 爆 □ ペ

ー デ ー ◇ ー

□ □ □ □ □

□ □ □ □ □

千歌

LP:550

手札:2

 

志貴の圧倒的な有利盤面。

だが、よくよく考えれば今のターンに攻撃力1000以上のモンスターを引けていればトドメをさせた。その可能性は志貴のデッキでは低くない。

 

(傾いてる……流れが、千歌の方へ)

 

その時、千歌と目があった。

ゾクリと背筋が凍る。

射抜くような眼光は決闘盤と同じようにオレンジ色に輝き、勝利への執念を感じさせた。

 

「私の、タァン!!」

 

勢いよく引いたカードを見て、千歌は即座に使用する。

 

「私は、《貪欲な壺》を発動! 墓地から五体のモンスターをデッキに戻して、二枚ドロー!」

 

戻されたのはドリル・ウォリアー、ジャンク・デストロイヤー、ライコウ、クイック・シンクロン、チューニング・サポーター。

 

このドローで全てが決まる。

確信が二人にはあった。

千歌は起死回生のカードを引く。

そんな不思議な確信が。

 

「私は魔法カード《死者転生》を発動! 手札の《ソニック・ウォリアー》を捨てて、墓地からジャンクロンを回収、そのまま召喚してソニック・ウォリアーを蘇生!」

 

現れた戦士が、新たな門を開く。

現れるのは、緑の装甲を持った機械戦士。

それを見た瞬間に志貴は何かを察する。

 

「墓地のボルト・ヘッジホッグを自身の効果で蘇生し、手札から魔法カード《地獄の暴走召喚》を起動! デッキから二体のボルト・ヘッジホッグを特殊召喚!」

「っ! 俺のデッキにペルソナは一枚しかいない」

 

ソニック・ウォリアー

☆2 ATK1000/DEF0

 

ボルト・ヘッジホッグ×3

☆2 ATK800/DEF800

 

ガラ空きだった盤面が埋まる。それだけでは力を発揮できなくても、この繋がりが強大な力へと変わっていく。

 

「ジャンクロンをソニック・ウォリアーにチューニング!」

 

ジャンク・シンクロンの身体が解けて三つの輪へと変わり、ソニック・ウォリアーを包み込む。

連なる星は、5。

 

「集いし星が、未来を照らす輝きに!」

 

ーシンクロ召喚ー

 

「来て、私の分身《ジャンク・ウォリアー》!」

 

ジャンク・ウォリアー

☆5 ATK2300/DEF1300

 

舞い降りたスクラップで組み立てられた機械戦士が唸ると、フィールドに存在する三体のボルト・ヘッジホッグから力が与えられる。

 

「チェーン1召喚時効果、レベル2以下のモンスターの攻撃力の合計が自身へ加算、チェーン2、墓地のソニックの効果、シンクロ素材として墓地に送られた場合、レベル2以下のモンスターの攻撃力を500アップさせる!」

 

ボルト・ヘッジホッグ

ATK800→1300

 

「通すかよ! ペルソナの効果! フリーチェーンでEXデッキより生まれたモンスターの効果をエンド時まで無効にする!」

 

力を受けようとした時、ペルソナ・ドラゴンから発せられたブレスでその力が掻き消された。

ペルソナドラゴンの効果を使うにはここしかない。

そう、いま、使うしかなかった。

 

「使ったね、唯一の無効札」

「ああ、使わされたな」

 

千歌が最後の手札を使う。

見えたのは《シンクロ・キャンセル》

シンクロモンスターをEXデッキに戻して墓地から素材のモンスターをフィールドに戻す魔法カード。

 

「もう一度、ジャンク・ウォリアーを!」

「通すよ……」

 

現れた戦士の攻撃力は、二度目のソニック・ウォリアーの効果を受けて強化されたボルト・ヘッジホッグの攻撃力が加算されていく。

 

ボルト・ヘッジホッグ×3

ATK1300→1800

 

ジャンク・ウォリアー

ATK2300→7700

 

「行くよ」

「ああ、対応は何もない」

 

そして、志貴がスクールアイドルに反対する理由もない。

きっと千歌は大丈夫だ。

ただ志貴がやるべきことは、その背中を支えて押し出すことだけだ。

 

ジャンク・ウォリアー

ATK7700 win

vs

デコード・トーカー

ATK2800 lose

 

志貴

LP:4300→0

 

**************

 

「え、もう一度?」

「うん、ダイヤさんにもう一度お願いしてみる」

 

次の日の朝、バスを待っている間に千歌は曜に相談していた。

意外だったのか、曜ももう一度という言葉を聞き返してしまっていた。

 

「で、でも」

「諦めちゃダメなんだよ! あの人たちも歌ってた、その日は絶対来るって!」

 

力強く拳を握る千歌の目には、どこか昨日よりも強い光が宿っているように見えた。

その姿が、曜には眩しく、そして嬉しく思えた。

 

「本気なんだね」

 

そう呟いた曜は、千歌が握りしめている部活動の書類を掠め取ると、背中合わせに寄りかかった。

 

「曜ちゃん?」

「……私ね、小学校の頃からずうっと思ってたんだぁ。千歌ちゃんと一緒に、夢中で、何かやりたいなって」

 

千歌が何かを言う前に、曜はその背中へと紙を押し付ける。

 

「だから、水泳部と掛け持ち、だけど!」

 

掛けられた体重が消えて千歌が振り返る。

すると、そこには申請書で顔を隠した曜がいる。

申請書の部員欄には、一番上に高海千歌。

二番目に、渡辺曜の文字が記されていた。

 

「はい!」

「ようちゃん……ようちゃぁん!!」

 

泣きながら千歌が曜へと抱きつく。人の目などお構いなしだ。

ただこの感謝の気持ちを、全身で曜へと伝えたい。一人で不安だった自分を支えてくれる、心からの親友に、感謝を全力で伝えたかった。

 

「おいおい、書類落としそうだったぞ」

「ふぇ、あ、志貴くん!」

「あはは、おはヨーソロー!」

 

志貴が二人を見ながら、勢い余って空へと飛んで行った書類をキャッチした。

 

「ほれ、しっかり持っとけよみかん姫」

「グスッ……その呼び方やめてよ……って、これ」

 

書類を見て、志貴へ視線を送る。

本人は何かあったか、と聞くように目配せをするが、その手にはしっかりとボールペンが握られていた。

 

一段目と二段目は曜が書いた時と同じ。

確実に変わっているのは、三段目。

そこには、遊神志貴の名前がしっかりと記されていた。

 

「しきくぅん!」

「ひっつくな鬱陶しい!」

「そりゃ、私も!」

「曜さんまで悪ノリするんじゃないよ!」

 

バスが来る。

 

新しい扉が開く。

 

それは、きっと素晴らしいこと。




はい、書いてて思ったのが、志貴くんのターンクソ長いのに対して千歌ちゃんのターンめちゃ短い。
ここら辺も改善していきたいと思います。
では、ご意見、ご指摘、ご感想ありましたら宜しくお願いします!


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第3話 輝きたい! Cパート

はい、連投です。
これからなら繋げろやって話ですが、ちょっと前回のはあそこでは区切りたかったのです。
それではどうぞ。


 

「……ふぅ、まだ3人。よくこれでもう一度持ってこようという気になれましたわね。五人必要と言ったはずですが?」

 

一時限目、HRすら始まらない時間に千歌たち三人は生徒会室でダイヤと向き合っていた。

 

「やっぱり、簡単に引き下がったらダメだと思って!生徒会長は、私のことを試してるんじゃないかって!」

「随分と前向きなお姫様だなお前は……」

「まあ千歌ちゃんの良いところだからね」

 

自信満々の千歌の両隣で話す曜と志貴に反応することなく、ダイヤが千歌を睨みつけた。

 

「何度来ても同じとあの時言ったでしょう!?」

「むぅ、どうしてです!」

 

お互いに机へと乗り出して啀み合う。

今にもキスしてしまいそうな距離だが、二人はそれを気にすることなく続ける。

 

「この学院には、スクールアイドルは必要ないからですわ!!」

「なぁんでです!?」

 

ムムムムといがみ合い、額をぶつけ合って一進一退。これではまるでラチがあかない。

 

「ま、まぁまぁ」

「ほら、千歌も、ダイヤさんも、取り敢えず離れて、と」

 

二人を曜がなだめていると、志貴がその間に入って無理矢理離れさせる。

曜もホッとしたのか胸を撫で下ろしていた。

 

「貴方に教える必要はありません!! だいたい、やるにしても曲は作れるんですの?」

「……曲?」

 

曲という単語に千歌は首をかしげる。その様子を見たダイヤは呆れたようにため息をつくと、三人に背を向けた。

 

「ラブライブに出場するには、決闘だけでなく、オリジナルの曲を使わなければいけない。スクールアイドルを始める時、最初に難関になるポイントの一つですわ。東京の高校ならいざ知らず、うちのような高校ではそんな生徒は……」

 

どこか実感のこもった言葉に、千歌は息を飲む。

曲作り。

果たしてそんな高度なことが出来る人物は……

 

 

「一人もいなぁい……」

 

ダイヤに言われてから、千歌と曜は必死こいて学校中を駆けずり回ったが、作曲をできる人物など一人もいなかった。

 

「生徒会長の言う通りだった……志貴くんも居残りさせられちゃってるし……」

「大変なんだね、スクールアイドルって……でも、志貴くんはなんでだろ」

「あ、なんだか生徒会の手伝いとかお願いされてるみたいだったよ」

「ああ、なんやかんやで、志貴くんって顔広いもんね」

 

一時限目が始まる頃には戻ると思うが、それのせいで手伝いには参加できなかった。

 

「だね……ってそれよりも曲だよ〜」

「学外、とかじゃダメなのかな」

「うん〜……こうなったら!」

 

気合いを入れて千歌が取り出したのは、『おんがく』と書かれた教科書。表紙にはデフォルメされた猫やら鳥やら兎やらが楽器を叩いている。

 

「私が! なんとかしてぇ」

「出来る頃には卒業してると、思う」

「だよね……」

 

そうしていると、担任の先生が教室内に呼びかける。

どうやら、転校生か来たようだ。

二年に上がるこの時期に転校生は珍しくないが、話題性を求めるなら5月辺りに来ればミステリアス度も増しただろう。

 

 

しかし、春と言えば出会いと変化の季節。

 

それは一年生でも二年生でも、そして三年生でも変わりはしない。

 

「クシュンっ、し、失礼」

 

小さなくしゃみをして、入ってきた転校生は自己紹介をする。

 

「東京の、音乃木坂という高校から転入してきました」

 

転校生の姿を見て、千歌の目が輝きを取り戻す。

世界は、そんなに捨てたもんじゃないと、再び希望を持ち始める。

 

「桜内梨子です。よろしくお願いします」

 

自己紹介を終えた瞬間、千歌は立ち上がって梨子の方へと手を伸ばした。

 

「奇跡だよ!」

 

伸ばされた方も、千歌の存在に気がついて目を見開き後ずさっていく。

 

「あ、あなたは!?」

 

それが、彼女たちの、スクールアイドルの、全ての始まりだった

 

 

**************

 

「それで、志貴さん。どういうつもりですの?」

「どういうって?」

 

生徒会室に残された志貴は、ダイヤと向かい合っていた。その表情は、お互いに和やかとは言い難い。

 

「スクールアイドルのことです。今さらどうして“また”協力するつもりに?」

「またも何も、俺はずっと協力してるつもりです。この二年間も、ずっと」

「……あなたには、何も責任は無い。むしろ、私たちが貴方に押し付けた形に」

「ダイヤさん」

 

ダイヤが歯を食いしばり、手の甲に爪を食い込ませながら言おうとした言葉を、志貴は言わせない。

それだけは、言わせたくない。

 

「俺は、進みます」

「……志貴さん」

「果南ちゃんも、マリーも、千歌がスクールアイドルを始めることで、何かしら変わります」

 

だから、と志貴は問う。

この先を、立ち止まったまま、どっちつかずのまま、もがいているダイヤへと。

 

「あなたはどうしますか?」

 

**************

 

「スクールアイドル、やりませんか?」

 

教室では、千歌が転校生へと迫っていた。まだ自己紹介した直後だというのに、この恐るべき行動力は良いこともあるだろうが、突然すぎれば相手を驚かせるだけにしかならない。

実際に、言われた本人は驚いて固まってしまっている。

やがて落ち着いた梨子は、ニッコリと微笑みかける。

千歌もそれを見てより一層笑みを強くしたが、一瞬で引きつった。

 

「ごめんなさい」

 

梨子は、頭を下げて見事に断る。

そうして、地下の絶叫が教室へと響いていった。




はい、志貴くんにちょっとした謎とダイヤさんの丸い部分が見えましたね。
これさらこんなのも増えていきます。
ご意見ご指摘ご感想、待ってます!


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第4話 転校生を捕まえろ! Aパート

はい、禁止制限が発表されましたね。
しんどいです。
守護竜ヴァレットが完全に終わりました。一から組み直して、なんとかリゾネーター ヴァレットとして形にはなりましたが、ハリファイバーを入れる隙がなくてビックリです。
では、どうぞ。


ピアノがある。

 

デッキがある。

 

どちらも大切で、手放せないもの。

 

前者は子供の頃からずっと触れていて、弾くことが生き甲斐だった。共にある時は、心が弾んで、飛んでいるような気分になった。

 

後者はピアノの後に出会った。けれど、自分を構成するものの一つで、内に秘めた闘争心を満たしてくれた。

 

なのに、今は触れても心が動かない。冷たいまま、立ち止まっている。

どっちつかずで、何もない。

そんな自分が、堪らなく、嫌だった。

 

**************

 

早朝、学校の廊下。

千歌は再び梨子へと勧誘をしに来ていた。

 

「ごめんなさい」

「だからね、スクールアイドルっていうのは」

 

素気無く梨子は千歌の隣を通り過ぎる。もうこれで何回目か分からない。

しかし、千歌は決しては諦めない。

たとえ、食事中であっても。

 

「ごめんなさい」

「学校を救ったりもできて、すごく素敵で!」

 

体育の時間であっても。

 

「どぉしても作曲出来る人が必要でぇ!」

「ごめんなさぁい!」

「待って、あ、ちょっ、ぐぇ」

 

それがたとえ体育の時間であっても。

その最中に転んだとしても、千歌の意欲は、決して薄れはしないこのシツコさが、彼女の強さだった。

 

 

「ワン、トゥー、ワン、トゥー、ワン、トゥー、ワン、トゥー」

「千歌、少し早めて。曜さんは少し抑え気味に」

「うん!」

「了解であります!」

 

昼休みの中庭には様々な人が訪れるが、生徒の絶対数が少ないため、いつもどこかしらには空きがある。

その空きの中でステップの練習をしている千歌と曜の映像を、渡されたスマホで志貴は録画していた。

志貴は音楽は作れなければ詩もかけないが、リズム感だけなら二人よりもある。

それを買われてのポジションだ。

 

「それで、桜内さんへの勧誘はどんな感じなんだ?」

「うん、あと一歩、あと一押しって感じかな」

「ええ……それホントかなぁっと」

 

志貴が持っていたスマホを受け取り、曜が隣へと腰掛けてきた。

千歌は少し息が上がっているが、さすがは水泳部のホープ。そんな様子は微塵もない。

 

「うん、だって最初は!」

 

最初の梨子。

 

「ごめんなさい!」

 

申し訳なさそうな笑顔で、声もまだ明るく断っていた。

 

「だったのが、最近は!」

 

最近になっての梨子。

 

「…………ごめんなさい」

 

明らかに千歌をやっかんで顔をなるべく合わせないように努力しているように思えた。

 

「に、なってきたし!」

「嫌がってるようにしか、思えないんだけど……」

「千歌にその違いを分かれって言う方が酷だと思うぜ」

 

動画の確認をしている二人が頷いていると、千歌は自信満々に膨よかな旨を張った。

 

「大丈夫、いざとなったら」

 

そう言って取り出したのは「おんがく」と書かれた教科書。

高校のではなく小学校、下手をすれば幼稚園で使われるようなレベルだが、なぜか千歌は自信満々だ。

 

「なんとかするし!」

「お前の教科書に対する信頼度エグいな」

「そのうち教科書で世界征服とか企みそう」

「どんな征服だろうなそれ」

 

ケラケラと笑っている志貴と曜を見て、バカにされたと感じたのか千歌が面白いほど頬を膨らませる。

 

「むぅ、なんだよぉ! 千歌だって考えてるんだよぉ!」

「分かってる分かってる。千歌はやれる子だって分かってる」

「分かってないなコンニャロー!」

「分かるかコンチクショー!」

 

ベンチから立ち上がってじゃれ合っている二人の姿を見て、周りにいた生徒たちも微笑ましそうな雰囲気を醸し出す。

曜もそれは同様だ。

その瞳に、寂しそうな影を落としていなければだが。

 

「あ、そういえば曜ちゃん」

「…………」

 

未だじゃれ合った状態で千歌がベンチに座っている曜へと話しかけた。しかし、彼女の反応はない。ただ羨ましそうに二人を見ているだけだ。

 

「曜ちゃ〜ん?」

「……あ、えっ、なに?」

「うん、衣装とかどうなったのかなって……大丈夫?」

「え、大丈夫大丈夫、ちょっとボーッとしただけだから! で、衣装だよね。教室にスケッチしたやつ置いてあるから、戻ろうよ」

「う、うん」

 

背中を向けて歩いていく曜へとついていくが、そこに何かの違和感を覚えた。

 

「ね、ねえ志貴くん、曜ちゃんどうかしたのかな?」

「…………やっぱりそういうのは敏感だよなぁ」

「え、なんか言った?」

「さぁね、まあ、大丈夫だろ」

 

千歌の頭を掻きむしった志貴は、曜の後ろをついていく。

何かを含んだような言葉に引っかかりを覚えながら、千歌もその後ろについていく。

 

この引っかかりが、いつか歪みを生んでしまうことになるのは、また別の話。

 

「どう?」

「おお……凄いね……でも衣装というより制服に近いような……」

「うん、これは制服だな」

 

スケッチブックに描いてあったのは、車掌の 格好をして笛を吹いた千歌の姿。

絵の完成度もさることながら、可愛らしい千歌とマッチしているが、しかしながらアイドルとはいえない。

 

「スカートとかないの?」

「あるよ?」

 

そう言いながらノリノリでスケッチブックを捲ると、出てきたのは婦警さんの格好をした千歌のイラスト。

こちらもまた可愛らしいがらやはりアイドルではない。

 

「上手いんだけどな……曜さんの趣味全開なだけで……」

「じゃあ、ほい!」

「武器持っちゃったよ」

 

新たに出てきたのは自衛隊、というよりサバイバルゲームの格好をした千歌。機関銃を構えた姿は、可愛いというより勇ましいが似合っている。

 

「それじゃあ、ほい!」

「わぁ、すごい!」

「おお、そうだよな、アイドルってこんなんだよな」

 

最後に曜が出してきたのは黄色いノースリーブにフリルのついたスカートの衣装を着た千歌のイラスト。

キラキラとしていて、王道のアイドルと言った様子だ。

 

「でも、こんなの曜さん一人で作れるのか?」

「うん、多分だけど大丈夫!」

「まぁ、キツかったら俺も手伝うし、あとは本当に……作曲だな……」

 

志貴が座っているのは曜の前の席。そして、その右斜め前に梨子の席がある。

そこに視線を曜と共に送っているが、そこには誰もいない。

 

「よーし、挫けてるわけにはいかない!」

「どこ行くんだ千歌」

「生徒会長に、もう一回話してみる!」

 

走り出す千歌。

自信と、勇気と希望に満ち溢れた彼女を志貴は止めることはない。

 

「お断りしますわ!」

 

だが、全て上手くいくとも限らない。

 

「こっちも!?」

「この人いつも断ってんな……」

「五人、必要だと言ったはずです。それに、作曲はどうしたのですか?」

 

書類をトントンと指で叩き、千歌を睨みつける。確かに、書類に書かれている名前と、ここにいるスクールアイドル部のメンバー数は一致する。

どこからともなく助っ人が現れるわけでもない。

 

「それは……いずれ……きっと……可能性は無限大!」

「…………」

「で、でも、最初は三人だったんですよね『u's(ユーズ)』も」

 

そう千歌が言った時、ダイヤと志貴が固まった。片方は怒りで、もう片方は驚愕でだ。

 

「知りませんか? 第二回ラブライブ優勝、音ノ木坂学院『u's』!」

 

千歌が言い終わるや否や、ダイヤが大きく音を立てて立ち上がった。

肩を震わせ、拳を握っているダイヤは、絞り出すように声を発する。

 

「それはもしかして……『μ’s(ミューズ)』のことを言っているのではないですわよね?」

 

そこで千歌は気がつく。

どこかで、彼女が尊敬して憧れているアイドルが、『u's』ではないと。

 

「あ……もしかしてあれって、『μ’s』って読むの」

「バカチカ……」

 

志貴が呟いた時にはもう遅い。

振り返り、大きく息を吸ったダイヤが、もしかしたら学校全体に響くのでは無いかというレベルで叫んだ

 

「おだまらっしゃあああああい!!!!」

 

**************

 

「前途多難すぎるよ〜」

「アレは千歌が悪いぞ。まさか『μ’s』を読めてないとは思わなかった」

「私が英語苦手なの知ってたでしょ〜!」

「憧れの対象なんだから読めてると思ったんだよ」

「あはは……生徒会長、すごく怒ってたもんね」

 

三人は放課後、バス停近くの防波堤に座り込んで話していた。天気も良く、雲ひとつない快晴だが、三人の心には霞がかかっていた。

 

許可を取りに行ったはずなのに余計にダイヤを怒らせてしまった。

あの後始まったのは、千歌の気持ちが本気かどうかを試すためのテストだった。

 

μ’sが最初に九人で歌った曲について。

 

第二回ラブライブ予選でμ’sがライバルであるA-RISEと一緒にステージに選んだ場所について。

 

μ’sがラブライブ決勝のアンコールで歌った曲、その冒頭でスキップしている4名は誰か。

 

などなどの問題を叩きつけられ、最後にはブッブー!! と大きなペケを押し付けられてしまった。

些細な弾みで全校中に放送されてしまったラブライブ検定だったが、完全なる千歌の敗北だった。

 

「じゃあ、やめる?」

「やめない!」

「となると、やっぱり桜内さんに頼むのが一番いいんじゃないか?」

「だよねぇ……」

 

グダリと石畳の上に寝っ転がる。

すると、その視界に見覚えのある人影を見つけた。

起き上がった千歌は手を振ってその人影の名を呼ぶ。

 

「おーい、花丸ちゃーん!」

「あ、こんにちは」

 

大声で声をかけられた少女、花丸が千歌に気がつくと、ペコリと頭を下げた。

その姿に微笑みながら、千歌は木の陰に隠れている誰かを忘れない。

 

「と、ルビィ」

「あれ、ルビィじゃねえか。何やってんだ?」

「ピギィ!」

 

千歌が声をかけるよりも先に志貴がルビィの名前を呼んだ。

それに驚いたのか、単純に恥ずかしがり屋さんなのかは分からないが、より一層ちぢこまってしまった。

 

「あれ、志貴くんルビィちゃんとも知り合いなの?」

「まあ、ダイヤさん経由でなっ、と」

 

道路に降りた志貴が、鞄から棒付きの飴を取り出し、千歌に目配せする。

飴をルビィの前でチラつかせると、ルビィは少しずつ木陰から出てくる。

取ろうとした直前に引く。それを繰り返し、ルビィが頬を膨らませながら道路に出てきた時にはもう遅い。

 

「捕まえた!」

「うゆっ!?」

 

出てきたルビィを抱きしめた千歌は、志貴から受け取った飴を呆けて空いた口に放り込んだ。

 

「し、志貴さぁん……」

「人見知り直せって言ったろ〜、っと、そっちの子は初めましてかな?」

「あ、はい。国木田花丸です。ルビィちゃんとは友達で」

「はいよろしく。俺は遊神志貴って言って、ここにいる千歌の……なんて言えばいいんだろうな」

 

初対面の花丸に自分のことをなんと説明しようか悩んでいると、付いてきた曜が少し考えて口を開いた。

 

「千歌ちゃん家の居候とか?」

「否定できないのが厳しい!」

「実際、志貴くん宿泊費とか払ってないからお客さんじゃないしね〜」

「追い討ちをかけるな千歌!」

 

騒いでいる三人が一年生の二人とともに騒いでいると、バスが来て一斉に乗り込んだ。

「スクールアイドル……ですか?」

「うん! すっごく楽しいよ、興味ない?」

 

乗るや否や、前の席に座った花丸とルビィに勧誘を開始する。

会ったその時はまともにできなかったが、このタイミングしか無いと思った。

 

「ルビィは……お姉ちゃんが……」

「お姉ちゃん?」

「ルビィは、ダイヤさんの妹だよ」

 

曜の隣にいた志貴が学ランのボタンを外しながら会話に入った。

春の日差しに当てられたせいで汗をかいてしまい、手で仰いでいると、曜がハンカチを出して渡してきた。

 

「なんでか嫌いそうだもんね、生徒会長」

 

何気なく曜が言ったことで、そこにいる全員が黙り込む。

その中で、志貴とルビィは別の思考をしていた。

あんなに熱意を持って『μ’s』を語れる人間が、スクールアイドルを毛嫌いする理由は一体なんなのか。その答えに、片方はすでに行き着いているが、何も言わずに押し黙ったままだ。

なぜならこれは、彼女たちが解決する問題だから。

 




はい、中途半端ですが、今回はここまで。
次回から少しずつオリジナル要素が入って行く予定ですので、よろしくおねがいします。
ご意見、ご指摘、ご感想、待ってます!


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