この個性社会において、普通の考え方とはどうだろうか?人間らしい考え方とはどういうものだろうか?
己を自制し、生まれ持った力を使わずに日々を暮らす。個性を使って悪用するものが現れたら戦わず、逃げもしないでヒーローを待つ。
個性を使ったのがバレれば警察により取調べ。原則として、個性は使わないのが当然のこと。
故に、個性を使いたいのなら個性を使って敵を倒すヒーローになるしかない。誰もが憧れる、光り輝き人々からの視線も名声も、汚いが金も持てるヒーローに。
バカじゃねぇの。
鼻で笑ってやろうぜ。お前ら全員バカだって。いやいや、くだらんくだらん。何がヒーローだ。どんだけ子供時代引きずればいいんだ。いい年こいてくせぇんだよ。
誰かを助けたい?嘘言うなよ。お前は人を助ける自分が美しく見えてるだけだろ。言えば不利益になると分かってるから、誰かを助けたい、困ってる人を見過ごせない。聖人君子か、気持ちわりぃんだよ。
本当は自分でわかってる癖に目をそらす。力を振るう自分がかっこいい。敵を叩き潰すす自分がかっこいい。そんで自分の前に無力で平伏す敵を見下ろすのが気分がいい。
人の本質は嘘つきだから。自分を偽って仮面を被り、綺麗な自分を演じ続ける。仮面の下では誰よりも強くありたい金が欲しい女に好かれたい。汚ぇことばっか考えてんだろ?そういうもんなんだよ、人間ってのはよ。
欲望の体現者こそヒーローだ。今の社会で殆どの人間が持つ不満。それを解放した姿がヒーローと呼ばれるのだ。
金が欲しい名目で人を助ける。
名声と権力を求めて人を助ける。
力を振りかざしたいから人を助ける。
敵と何も変わらない。いや、むしろ正直な分敵の方がいいではないか。自分の欲を隠そうともしない。薄汚い仮面を被らない金汚さを隠さない。力を正面から振りかざす。
正直者で結構。好悪で言ったら間違いなく好ましいんだよ。例え、そいつがどれ程のゲスでもクズでも、汚く嘘つきながら生きてるヒーローよりはマシだね。
「誘き寄せるのは簡単だ」
「目撃情報は絶え間なくネットに更新される」
「後はどうやって出会うかだ」
「会っちまえばこっちのモノ」
「
「現代社会における希望の光。No.1ヒーロー。善の最前線。正義の体現者。平和の象徴。オールマイト」
「誰も勝てなかった。数百を超える力を持つ先生とやらでも。奴の正義という暴力に負けた」
「これからお前が依頼してきたのは復讐か、それとも弔い合戦か」
「どちらでも構わない」
「俺達に依頼し、その事を話したということは」
「殺して欲しいんだろ?」
「壊して欲しいんだろ?」
「奪って欲しいんだろ?」
「落として欲しいんだろ?」
「汚して欲しいんだろ?」
「失墜させたいんだろう?」
「終わらせたいんだろう?」
「笑いたいんだろう?」
「泣きたいんだろう?」
「沈めたいのだろう?」
「悦に浸りたいんだろう?」
「見たいんだろう?」
「いいぜ」「いいよ」「受けてやるよ」「受けましょう」「創ってやるよ」「見せてあげます」「笑わせてやる」「泣かせてあげます」「希望の失墜」「平和の陵辱」「時代の転換」「希望から暗黒へ」「血の復讐」「涙の弔い」「絶望の訪れ」「悪の再起」「愉悦の為に」「悪の為に」「同胞のために」「仲間の為に」「約束の為に」
「「俺達は、オールマイトを殺しましょう」」
オールマイト。平和の象徴。
何故彼がそう呼ばれるのか。何故彼が象徴として君臨するのか。理由は多々あるが、結局は一つ。
誰もが追いつけない、類を見ないほどの強大な個性。その個性をもってしても、誰一人殺さないほどの絶妙な加減。どんなに危険な場所にも現れる最高のヒーロー。
彼は最高だから、NO.1だから。単純に強いから。素晴らしい経歴があるから。他のヒーロー達よりも簡単すぎる。完璧で完全だからこそ、平和の象徴は脆い。
誰でもいい。人質でも、傷付けるのでも、個性を振りかざすだけでも、近くにいることは確認している。他で事件を起こして他のヒーローを誘導させる必要すらないほど近くにいる。
さぁ、始めよう。
近くにいた女の首を掴み、地面に顔面から叩きつける。周りが仰天している間に、逃げようとしている連中から潰していく。より残酷に、より記憶に残りやすいように。より話題になるように。
そのために目を抉ろう。ナイフで指を雑に切り落としていこう。喉に手を突っ込み、そのまま穿こう。落ちているポールペンで心臓を刺そう。投げ捨てられた煙草を陰部に押し付けよう。肌が裂けるのではないかと思うほどの力で髪を引きちぎろう。
ほんの少しの虐殺。二十数人を潰すだけでほら、簡単。来たよ来たよ来ちゃったよ。間抜けにもオールマイトが、平和の象徴が来ましたよ。
しかし、思っていたよりデカいなぁ。俺の身長が160前半しかないのに。まぁ、これは嬉しい誤算だな。だってこっちの方が、オールマイトの攻撃を
「SMASH!!」
おうおう、つえぇなぁ。何とか避けたが、地面が吹き飛んでやがる。地面でのたうち回っている市民が死んじゃいますよォ。あっ、どうでもいいのか。
邪魔が来る前にさっさと終わらせようぜ。お前が下に転がる市民をどうでもいいって思ってるように、俺もお前以外どうでもいいって思ってるからさ。
「DETROIT SMASH!!!」
勝負が着くのはすぐだった。一分経ってない。唯一の武器だったナイフなど、やつの体を裂こうとした時に折れちまったよ。硬すぎだぜ鍛えすぎだぜ。
瞬殺瞬殺。まっ、普通にやればこうなるわ。所詮俺はヒーローを殺すことに特化してるからな。正面戦闘なんかしてられっかっての。
つか絶対手加減なんてしてねぇだろ。
ほら、驚いてないで、俺の顔なんて見てないで見てみろよぉ平和の象徴。もっと下だよ。お前の手があるところだよ。
見えたか?見えただろう?それがお前だ。お前という存在、暴力だ。
違うなんて否定はさせない。間違いだなんて言わせない。
だってほらぁ、お前の腕、俺の胴体を穿いてるぜ?
こりゃあ完全に死にますわぁ。心臓は多分衝撃で破裂してるし、内蔵は滅茶苦茶。肺は吹き飛んじまっただろうな。腸は一割残ってるか。軒並内蔵は全滅だろうよ。あーあー、痛ってぇ。
もうだめだーこりゃあ死んじまうわ。だってもう血が足りてない気がするもん。こんだけ中身やられたのに喀血の一つもないもん。心臓がないから血は回らない。留まる血は穴からドバドバ落ちてく。
あーあ、落ちてく血はまるでお前だなオールマイト。お前の積み上げてきた全て。人間が頼っていた平和の崩壊。
せめて1回でも、過去に誰かを間違えて殺っちまってたら、もっと軽くすんだろうに。こんな所まで来ちまったら、もう救いはねぇなぁ。
あ、遺言遺していいか。まぁ誰に聞かせる訳でもないが。口の動きで誰かが訳してくれるだろうよ。ほら、沢山テレビが来てる。人も寄ってきてる。みんな見ている撮っている。君が人を殺したところを。
「さようなら
「おめでとう
「今日が君の誕生日だ」
「素晴らしいバージンだったろう?」
「気分はきっと
「理解したろ、平和は弱いと」
「納得したろ、平和は脆いと」
「たった一つ、泥を混ぜるだけで砕け散る砂の牙城」
「何人もの玄人達が積み上げてきたものを、お前が壊したんだよ」
「さぁ、暗黒の到来だ」
「絶望の再起だ」
「拍手で迎えようじゃないか」
「ヒーローも
「おやすみ、
「おはよう、
「依頼は完了した」
誰か一人でも殺してしまえば、平和の象徴は終わりだと思うんですよ。だって誰も殺さないから、平和の象徴なんだろう?
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