超 人 記 (仮題) (脱臼狸)
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第1話

【いつかの日】

 

なんでもない日常に危険は付き物。

今日もまた事故が起ころうとしていた。

『一時停止』を無視して飛び出した車の先に子供がいた。

 

だがもう遅い。

 

驚き固まった子供に車が迫る。

その瞬間を見てしまった歩行者の悲鳴をスキール音がかき消した。

 

その時だ。

赤い影が風を切る。

あわや!というところで子供の姿は消えた。

 

目をつぶっていた公衆は激突音がしないことを不審に思った。

そこにはブレーキ痕を残し停止した車があるだけだった。

 

違和感に気づいたのはその中の一人だ。

仮面に赤マントを纏った、見るからに怪しそうな人物がすぐその傍に立っているではないか。

周囲の人々もその存在を認識すると小さなざわめきが起きた。

しかし、怪人は気にした様子もなく、埃をはらうようにマントを翻すと、スッポリと収まった子供が中から出てきた。

 

「ありがとう!」

 

満面の笑みと大きな声だった。

置いてけぼりだった公衆が理解しかけた時に、一陣の風が吹いた。

再び視界を遮られた人々が次に目にした時。件の人物は跡形もなく消えていた。

 

この人物こそ巷で噂になりつつあった怪人『赤備え』であった。

 

 

 

 

 

 

自分は転生者である。名前は鷹崎。

特殊能力を持った超人として生まれた。

 

ただ、これは残念というべきか。気づいたのはだいぶ月日が流れてからのことだったが、生まれた先はどうやら日常系な感じの世界だったらしい。

 

しかし、せっかくの超能力(・・・)だ。良い事に使いたい。しかしそれが人々に受け入れられるかは、情報社会で正体を明かしたまま行動するとどうなるかは、分からない。なら身バレ防止と超人ムーブを兼ねた変装をすればいいじゃない。そして「変な奴がいるぞ!」と言われるのも承知で自警活動をしようと決意したのである。

お気づきかもしれないが、怪人『赤備え』の正体は、OVAジャイアントロボに登場する『コ・エンシャク』というキャラクターの格好をした自分である。チョイス理由は私の趣味だ。良いだろう?

 

結果として、世間での評判は様々だ。

好意的に見てくれる人もいれば、不安や恐怖を抱いている人もいる。

だが。そう。それでいい。それでいいのだ。

 

ちなみに、話題に乗った『怪人饅頭』なんてものが出始めているのを最近ニュースで見た。

商魂逞しい限りだ。しばらくしたら地元名物になっているかもしれない。

 

さりとて。

自警活動では生きてはいけない。

確かに、能力を使えばお金に困ることはないが、そこはちゃんと働いて得た金銭でどうにかすべきである。

 

そう。

たとえ人とは違っても、根本的な感覚がズレてしまえば、壊れてしまう。身をもって知った経験だ。

 

「ただいまー」

 

「ぬ」

 

ほんの少しばかり物思いにふけっていると、どうやら居候している従妹の『ひかる』が帰ってきたらしい。それから入れ違いになる形で自分はバイトのため家を出た。

 

バイト先は小さい頃から世話になっている建設会社の現場だ。力仕事なら任せろーバリバリ(死語)、と超人能力をフル活用して働いている。

足(移動手段)は、免許が取れる歳になったら譲る約束をしている、従妹お気に入りのホンダのズーマー。

自分で走った方が早いんじゃ?と思われるかもしれないが、それでは情緒がない。わかるだろう?

 

「こんちはー」

 

「おーう、たか坊」

 

「たかさーじゃーん。ヤッホー☆」

 

子供の頃から可愛がってくれているオヤジさん達に挨拶して現場に入る。

 

そうこうしている内に、現場の紅一点で同じバイト仲間で歳も近い、藤本里奈もやって来た。

 

派手なメイクと刈り上げた金髪がすごい、如何にもギャルですと言わんばかりの見た目をしている彼女だが、とても素直で気遣いできる良い子なのだ!

 

里奈(名前で呼んで欲しいと言われた)は入った当初は、自分にできそうな仕事だから選んだと言っていた。

だが今は新しいバイクを買うことを目標にやってるそうだ。

 

 

 

 

 

 

「ふひゃー、ぢかれたー」

 

「おつかれさん」

 

「アハハー、たかさーもおっつー☆」

 

バイトの終わり。

帰り道が同じなので里奈をズーマーの上に乗せてハンドルを押して歩く。

 

「たかさーってまぢ怪力系だよねー」

 

超人なのは伊達ではない。しかし片手だけで押していたら普通に危なそうなものだが、降りないところを見るによほど信頼してくれているらしい。

 

いやまあ、単純に歩きたくないからかもしれないが。

 

普段、里奈は原付なのだが、今日は歩きだというので、こうして送っている。

 

以前「大丈夫なのにー」と言われたが、親しいから余計心配してしまうと言ったら笑われた。解せぬ。

 




ギャル語は難しいですね。

【NGシーン】

「たたみがえしー」なんて気の抜けた感じでアスファルトを素手でバリバリ剥がしてダンプカーに積み込んでいる鷹崎。

「たか坊がいればショベルカー要らねーな」

「たかさーまぢ重機系ー♪」


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第2話

【あれが噂の赤備え】

 

東京タワーの上から夕日を眺めるのが最近の日課になりつつある、どうも鷹崎です。

 

もう半身になりつつあるのでは?というほどコ・エンシャク姿に違和感を感じなくなった、今日も今日とて自警活動です。

 

「ありがとねぇ~」

 

返事するのは憚れる、というかエンシャクの姿の時は何故か喋れなくなる、ので大きく頷いてみせる。

 

今は、昨今では珍しいと思う、風呂敷を抱えたお婆ちゃんをおんぶして移動中である。

というかあまりにもベタなシチュエーションなので思わず感動してしまった。

まるで漫画みたいだぁ……と思ったけど自分の方が漫画のキャラみたいだったわ。

 

「お世話になりました~」

 

頭を下げようとしたお婆ちゃんを手で制し、軽く会釈して飛び立った(・・・・・)

特に驚いた様子もなく手を振って見送ってくれたお婆ちゃんの、器の大きさを見た気がする。

 

ビル風にあおられてマントがバサバサはためくがなんのその。こちとら法則無視の権化。そんな程度で自分のカッコいい(と思う)ムーブは遮れない。

 

スワァァッ!という派手な擬音が聞こえてきそうな体勢で近くのビル屋上に着地。

以前はこの高さにタマヒュンしていたが、慣れた今となってはどうってことはない。

 

怪人『赤備え』、正直仮面とマント以外赤くないのに、なんて呼ばれてだいぶ経つ。

さっきもそうだったが、認知度が高まってきたのかスマホで写真を撮られるようにもなってきた。

特に近づいて撮ろうとしてくるのは何故だか女子高生の子が多い。なんでも仮面の顔が『こわかわいい』から、らしい。

 

あと気分はアザラシのタマちゃんだが、果たして今の子はタマちゃんを知っているのだろうか。

 

そうして街を一望していると何やら子供が泣いている声が聞こえてきた。

何事かと急いで現場まで急行すると、その場で蹲って泣いている少年と傍でそれを見ている女子高生がいた。

 

泣かした……という感じではなさそうだったのと、騒ぎに気づいたお巡りさんがやって来たので一先ず静観することに。それから人だかりの中から体格のいいスーツ姿のお兄さんが割って入ったかと思えば、あれよあれよという間に連れていかれてしまった。

一応、大丈夫そうではあったので、自分もその場を後にすることにした。他に困ってる人いないか探すかー。

 

 

 

 

 

 

そういえば、今更なのだが。この世界では『アイドル』が席巻していると言っていいほど人気がある。

というのも、かつて見聞きしたはずの有名人や曲、果ては自分が扮する『赤備え』の元ネタにもなったアニメ作品や萬画の作者などがほとんど存在していなかったことも、影響があるのかもしれない。

 

しかし何よりも、アイドルとして活動するかれら(・・・)には、人々を魅了する何かがあるからこそだろう。

 

なぜ突然こんな話をし出したのかというと、従妹の南条光(なんじょうひかる)はそのアイドルになるため、遠路はるばるやって来たのだ。

 

なんでも、自分でも聞いたことがある有名な芸能プロダクションのP(プロデューサー)にスカウトされたから―――ではない。

 

まず、光は特撮が好きな女の子だ。その珍しい趣味に世間はどう思うだろうか。

だが、自分の従妹はそんな事で挫けたりしない、でっかい(ハート)を持っているのだ。

 

 

 

そう。むかし、昔のことだ……。

 

超人としての自分に悩んだ時期があった。

 

まともに物は握れない、まともに歩けない、まともに見ることも聞くこともできない。おまけに、目覚めた特殊能力は当然制御できずにずっと暴走状態のまま。

 

やり場のない力と自分の在りように苦しんで、なんで生まれてきてしまったんだと後悔した。

 

そうして自棄になって、本気で死のうとした時。今よりも幼い頃の光が助けてくれたのだ。

 

だから、今の自分が在る。そして、俺の(ヒーロー)が憧れるような『赤備え(ヒーロー)』になろうと思ったのだ。

 

 

 

…。

……。

……ん、話が、逸れたか。

 

それで、スカウトの人に「アイドルにならないか?」と聞かれた時に、光はヒーロー番組の主題歌を歌うためにアイドル(ヒーロー)になろうと思ったらしい。

叔父さんと叔母さんは心配していたが、反対しようとはしなかった。自分と同じように、光を応援しているのだ。

 

 

 

 

 

 

南条光にとって従兄の鷹崎は、まさしく世のため人のために戦う正義のヒーローだ。

 

そう。光は『赤備え』の正体が鷹崎である事を知っている。

 

もちろん、ヒーローの秘密は誰にも知られてはいけないので、鷹崎本人にも黙っている。

 

それは南条光が唯一知っている『秘密』。

 

しかし、幼かった故自分が鷹崎を救ったヒーローであることを覚えていない。

また『赤備え』誕生のキッカケを作った生みの親である事も知らない。

 

なぜならそれは鷹崎の『秘密』だからだ。

 

世間では怪人なんて呼ばれているが、確かに、見た目は今の正統派ヒーローのそれではない。

 

しかし、ヒーローの歴史を遡ってみれば、『月光仮面』や『黄金バット』などに通ずるものがあるとは特撮ファンらしい光の弁だ。

 

だが1人の『人間』として見た場合はどうだろうか。

 

というと、優しいし、特撮趣味を理解してくれているし、家事は……料理だけちょっと苦手そうか。

 

容姿は、なんというか、こう、カッコいいと、思う。

あまりそういう事は考えたことがないから、まだよく分からない。

 

あとは……そうだ!

 

バイクのチョイスがいい!

 

免許が取れるようになったら譲ってもらう予定の赤色のズーマー。

でもヒーローが乗るタイプじゃないと思われそうだが、これはこれでいいんだ。

 

ん?

そういえば譲ってもらう事しか考えていなかったけど、その後はどうするんだろう?

 

「なぁ、たか兄。バイクを譲ってくれた後はどうするんだ?」

 

「ん? ああ、もちろん、新しいのを買うつもりだぞ」

 

「そうか! よかった! じゃあ、次どんなのを買うんだ?」

 

「そうだなぁ……サイドカー付きのCB1300SFなんて、いいかもな」

 

「お~!」

 

流石たか兄だ!

アタシのつぼ(・・)を突いてくるなんて分かってる!

 




見やすくするために『。(句読点)』毎に改行した方がいいでしょうか?

【NGシーン】

自棄になりそうになった時、今よりも幼い……いや、ん? あれ? そんなに……変わってない?

「……いま、失礼なこと考えたな?」

「ぁ……ゴメンナサイ」


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第3話

今日もまた、現場のバイトへ行く予定だったのだが……。

 

「鷹崎くん、出番だぞ!」

 

「はい!」

 

―――現在(いま)、自分はヒーローショーのステージに立っています。

なんでもスーツアクターをしているというオヤジさん達の知り合いがリハーサル中に怪我をしてしまったということで、急遽助っ人として自分が行く事になったのだ。

 

人選理由は単純に、自分の身体能力を買ってのことらしい。

 

いきなり電話が掛かってきた時は何事かと思ったが、これだけ信頼されている以上、その期待を裏切るつもりはない。

 

さっそく先方との顔合わせを済ませると、どの程度できるのか確認することになった。

 

スーツを着た状態で軽いバク転から始まり、前方宙返り、後方宙返りとシンプルなものを連続して熟していく。

 

すると突然、監督の顔つきが変わったかと思えば、要求してくる内容が急に難しくなった。

 

何故かというと、このヒーローはとてもアクロバティックな動きをするのが一つの目玉だからだそうだ。

本来の演者が怪我をしてしまったのも、この激しいアクション中のアクシデントの所為(せい)だという。

 

どれぐらいの動きができればいいのか分からないと伝えると、参考にとXMA(エクストリームマーシャルアーツ)の動画を見せられたのだが……。

 

結論から言うと出来た。

 

鋼鉄の鎧を着込んで都会(ジャングル)を縦横無尽に駆け回っている身ではあるが、こう小回りが利くかは今回が初めての経験だったので、上手く行ってよかった。

 

こうして無事にアクションに太鼓判を押して貰いステージに上がる資格を得たが、佇まいは風格あるのに演技は素人だとダメ出しを貰った。

 

幸い今回のショーは、その場の雰囲気と演者に合わせて喋る生オフという手法を予定していたので、その分のカバーは任せてくれと言われた。

 

ちなみにだが、用意された音楽とセリフに合わせて演技するのが完パケというらしい。

 

そして冒頭に戻り、時折こちらのミスをカバーしてもらいながら、ショーは無事に終了。

観客の拍手と共に幕は閉じ、監督やスタッフさん達に労いの言葉をもらって帰路についた…のだが。

 

「ズルいぞたか兄!」

 

帰って光に開口一番に言われた言葉だ。

 

ぷんすこ怒られて困っていたのだが「ヒーローがヒーローをやるのは…あれ………?」と急に言葉が尻すぼみになって黙ってしまい、最後の方は何を言ったのか聞き取る事ができなかった。

 

それから、光に大層羨ましがられた後日。

バイト代と一緒に貰ったヒーローショーの招待券を見せると、途端に目を輝かせていた。

悩みもするが、決める所はきっちり決めるのが光らしい。

 

今から楽しみで仕方ないと興奮している光に興が乗って、悪役を演じていた人の動きを思い出しながら構えると、それを察した光も即座にヒーローのポーズを取った。

 

その動きは、堂に()る姿は流石だったが、ちょっと悔しかった。

 

 

 

 

 

 

バイト前、里奈から『昼メシパクつかなーい?』と誘われ、断る理由なんてないので二つ返事で家を出た。

 

待ち合わせ場所に到着して、さほど時間が経たない内に里奈もやって来た。

 

「たかさーちょりーす☆」

 

「里奈」

 

片手を上げて挨拶もほどほどに、連れだって歩き出す。

 

「でぇ、たかさーはガッツリいきたい物ある系?」

 

背中に腕を回して、こちらを見上げる里奈がそう言ってきた。

だが実は、里奈に誘われたのは良かったが、特に食べたい物は思いつかなった。

 

「ごめん、考えてなかった。里奈は?」

 

「んー、昨日は焼きそばだったからー。あ、パスタとかよさげかなー♪」

 

「分かった」

 

メン類コンプだー、とテンションアゲアゲ(?)になった里奈に引かれる形で近くの洋食店へ入店する。

 

まだ混み合うような時間じゃないと思っていたが、その予想に反してほぼ満席に近い状態だった………。

 

 

 

 

 

「たかさー、あっちの席だってー」

 

「―――あ、今行く」

 

不意に、こちらをじっと見ているような視線に気を取られたが里奈の声で引き戻される。

 

ただの勘違いだったかもしれないのと、他のお客さんをジロジロと見るのも失礼だと思ったので、手招きしている席に着いた。

 

メニューを確認して、パスタと決めていた里奈はたらこパスタに、自分はなんだか無性に炒めご飯(・・・・)を食べたくなったのでエビピラフのセットを注文した。

 

それから他愛もない話をしている内に料理が来たが、何故か自分のピラフには旗が刺さっていた。

 

「?」

 

「アハハー、たかさー おにかわ じゃーん☆」

 

見ると女性店員さんは苦笑いで、その店員の視線の先にいた、店主らしき中年男性が意味有りげな笑みを浮かべていた。

 

「???」

 

全然わからん、が炒め物の匂いに食欲が刺激されたので考えるのをやめた。一口含んで咀嚼、飲み込んで一息。旨っ、と言葉が口から漏れた。

 

ただ時折、店主がこっちを見ているのが気になって思うように進まないというか、不思議と旗を倒さずに食べようとしている自分がいた。

 

ふと、対面の席の里奈が静かなのが気になって見ると、フォークをお皿に当てないようにしながら、パスタを(すす)らないよう少量ずつ巻き取って食べていた。

 

確か、パスタは音を立てずに食べるのがマナーだったよなぁと思い出していると、視線に気づいた里奈がキョトンとした表情で手を止めた。

 

「どしたの、たかさー?」

 

「え、あ、ああ。食べ方、綺麗だと思ってな」

 

「……そ、そう?」

 

はにかんで、照れを隠すように耳に髪をかける仕草に、ドキッとして急に耳が熱くなった。

 

周囲の目がやけに生暖かくなった気がして誤魔化すように首に手を当てた時、思わず机に肘をぶつけてしまった。

 

「あ」

 

旗が倒れた。店主は変顔になっていた。

 

―――眼福だったので昼食は自分の奢りとなった。

 




書き方はまだまだ試行錯誤中です。

批評していただけるのをお待ちしてます。


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第3話:掲示板

1:今日の特オタから明日の特オタへ:20XX/04/19:ID

ヒーローショーどやった?

 

2:〃

よかった

 

3:〃

よかった

 

4:〃

よかった

 

24:〃

脚本目当てで行った人、自分以外におる?

あと戦闘パートそこまで期待してなかったから良い意味で裏切られたわ

 

27:〃

ワイも脚本目当てやったわ

まさか1話限りやった戦士のために脚本書き下ろされたとか豪華すぎひん?

 

28:〃

しかも脚本書いたのが作品の監督やからな

 

31:〃

ああ、やけに観客に大きなお友達多いなーと思ったらそういうことか

 

35:〃

もう公式の外伝作品だな

 

37:〃

実際、予算が降りなかっただけで元はVシネマ用に書いた内容らしいな

 

―――

――

 

71:〃

スレ上がってたから気になって来た

ショー見に行ってないから説明してもらってもいい?

 

73:〃

ええで

 

・まず、○○監督書き下ろしの脚本

・内容は『あの回』に登場した戦士の後日談

・変身能力を失っても人々のために地道に活動している最中、倒したはずの仇敵が復活したってストーリーやで

 

78:〃

再変身の流れは熱かったよな

 

80:〃

あれはちびっ子達に応援してもらうという、所謂ヒーローショーの王道展開の都合といえばそれまでかもしれないけど、実際興奮したな

 

82:〃

司会進行を務めるお姉さんが言うまでもなく声を揃えて応援してたもんな

 

95:〃

地道な活動のさ、あれって『赤備え』の影響受けてるよな

 

96:〃

それは思った

 

98:〃

『赤備え』ってなに?

 

100:〃

スレ違いになるから、URL貼るからそっち見てきてくれ

ただ一言でいうと地元怪人

ttp://www.itasoku/XXXX

 

101:〃

地元怪人とかいうパワーワード

 

105:〃

なんでや!

ご当地ヒーローとかいるから対極的な存在がいてもいいやろ!

 

108:〃

え、マジで『怪人』なん?

 

109:〃

違うぞ

 

怪人っていっても俺らが定義する『悪役の怪人』じゃなくてそのままの意味

えーと、なんて言えばいいのかな

 

110:〃

人助けする見た目怪しい人じゃない?

 

111:〃

そうそう、そんな感じ

 

113:〃

ほーん、とりあえず見てくるわ

 

―――

――

 

123:〃

そういえば上の方でアクションも評判良かったらしいけど、どんなのか動画ある?

 

126:〃

ほい つURL

 

137:〃

アクションが本編よりキレッキレで草

 

142:〃

言い訳がましいかもしれんが、本編のあれはマジで『急ごしらえ』らしいからなー

 

145:〃

現場で突然監督が思いついてぶっ込んだらしいもんな

 

148:〃

なお、人気が出たためスポンサーにしこたま怒られたもよう

 

149:〃

え、なんでなん?

 

150:〃

商品化のスケジュールとかがあるからやで

 

156:〃

これだけ動いて息切れしてないってアクターの人すごいな

 

158:〃

後半ぶっ通しで動いてるもんな

 

164:〃

でも立ち回りは微妙じゃなかった?

 

167:〃

確かに覚束ない感じはあったけど、アクロバティックな動き出来る点を重視したんちゃうか?

 

175:〃

そうか?

 

音響と声当ててた人の迫真の演技もあって夢中になってたから気にならなかったな

 

193:〃

知り合いのスタッフから聞いたけど、予定してたアクターが怪我したから、そのアクターの知り合いが助っ人に来たらしい

 

なんでも、まったく畑違いの素人さんらしい

 

194:〃

ファーwww

 

196:〃

よく素人さんにシン(主役ヒーローのこと)を任せたな

 

199:〃

アクションできるか見てた○○監督からお墨付き貰ってたらしいぞ

 

200:〃

!?

 

201:〃

!?

 

204:〃

監督って確かアクションにこだわってる人やんな

 

205:〃

作品愛にも溢れてる

 

206:〃

あとちょっとすけべ

 

209:〃

おいw

 

210:〃

おいw

 

212:〃

おいw

 

214:〃

原石やんけ!

 

215:〃

ミスターの後継者候補やな

 

219:〃

特撮界の未来は明るい

 

224:〃

でもその人、別の仕事してる人なんやろ?

 

227:〃

是非スカウトしてほしいけど、生活あるだろうしなぁ

 

あと容姿もポテンシャルあったら今だとアイドルか俳優の方に取られそうだな

 

229:〃

ありえるな

 

―――

――

 

315:〃

そういえば話変わるけど

 

ショー終わった帰りにすれ違った、たぶん兄妹の妹ちゃんが月光仮面の話してて興奮したわ

 

335:〃

また渋いチョイスしてるなその子

 

346:〃

ええんちゃうか

 

女の子がヒーローに憧れたり、男の子がヒロインになってもいい時代やぞ

 

357:〃

もちろんいいと思う

けど、いい歳した俺らみたいなおっさんがヒロインは絵面ひどいな…

 

361:〃

それ以上言うな!

 

366:〃

やめろぉ!

 

379:〃

俺らはどっちかというと、それを応援したり守ってあげる側じゃないんですかね……




一度書いてみたかった掲示板…っぽい?内容。

本編の内容よりこういう掲示板で何気なくオリ主等が話題として書かれるのが好き、という方は一定人数いそう。


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第4話:前

【迷いの森】

 

いつものように自警活動。

今は迷子になった子供を抱っこしてご両親を捜索中だ。

 

いや、この言い方には少し語弊があるかもしれない。

正確には、自分が(・・・)迷子にさせてしまった子供だ。

 

なんでも、空を飛んでいた『赤備え(自分)』を見つけて夢中になって追いかけている内に知らない場所まで来てしまったらしい。

それで、途中でこちらを見失ってようやくここがどこか分からないことに気づいて怖くなって泣いていた所に、声を聞いた自分がやって来たのだ。

 

不幸中の幸いだったのは、こっちを追跡中に何もなかったことだろう。事故に遭わなくて本当に良かった。

 

交番に連れて行ってあげるのが一番なのだが、身元確認されても困るのと、なにより近くの交番とも距離があった。

 

なので、とりあえず単純に来た道を戻ることにして、その前に懐から取り出した板に『迷子のご両親を探しています』と書いて前後に首から下げた。

念の為に誘拐犯と誤解されないための措置である。見た目がまあ、怪しいから仕方ないよね。

 

(どちらかといえば愉快(・・)犯?)

 

それから来た(と思わしき)道を歩いているのだが、時折「お空飛ばないの?」みたいな期待した目で見られる。

 

残念ながらそうするわけにはいかないと頭を振った。

差し迫った状況ならその限りではないが、流石に抱きかかえた(・・・・)だけなのは安全とは言えず、この子が危険だ。

 

それに…と、道すがらすれ違う人が何事かとこちらを怪訝な顔で見てくるが、この板に気づいてすぐに納得したような顔になる。

こちらも立ち止まって、身振り手振りで尋ねてみるが望む答えは得られなかったので、会釈してまた歩き出す。

こうして歩行者からの情報収集も兼ねているのだ。

 

そうしている間に、どうやら見覚えのある場所まで近づいていたらしく、指差す方向に従って進むと一軒家に辿り着いた。

 

その前に一組の男女が立っており、こちらに気づくと走ってきたので子供を降ろす。

 

お母さんが子供を抱きしめ、お父さんの方が何度も頭を下げてきた。

元はといえばこちらの不注意みたいなものだったので、お礼を言われるのはなんだか申し訳ない気持ちになる。

 

ただ、変に誤解だと説明するとややこしいことになりそうだったので素直に受け取ると、しゃがんで小指を立てる。

それが何か分かってくれた子供が、同じく小指を立てて、色んな意味を込めてゆびきりを交わした。

 

知らない『赤備え』を追いかけちゃダメだぞ、とか。

迷子の原因が自分の所為とお父さんお母さんに言わないでね!……とか、色々。

 

可愛らしい笑顔だけど、分かってないだろなー、と仮面の下の自分はきっと苦笑いしている。

 

 

 

迷子の一家に見送られながら『赤備え』はまた空を駆け、夕日の中に溶けていった。

 

 

 

 

 

……ふぅ。

 

東京タワーの上でちょっと休憩。

今日はある意味、ミイラ取りがミイラになる、みたいだったな。

 

気が抜けていた。

思ったより、気になってしまってるんだなー、と思いつつ懐から一枚の名刺を取り出した。

茜色に染まるその名刺には、芸能プロダクションの名前が印刷されており、同時につい先日の出来事を思い返した。

 

 

 

 

 

 

帰り道。後ろからあの時と同じ視線を感じた。

 

心臓が跳ねた衝撃を誤魔化すため、靴ヒモが(ほど)けた振りをしてその場にしゃがみ込む。

 

気のせいかと思った気配も、こちらに付かず離れずの距離でピタリと動きを止めていた。

 

様子を窺がっているのだろうか?

まさか……『赤備え』の正体がバレた?

 

いや、まだそうと決まったわけじゃない。とりあえず、尾行者が誰か知るべきだ。

 

立ち上がると、気配が動き出したので、素早く裏路地に入るとその場で跳躍。身を翻してすぐ隣の建物の屋上に着地した。

 

なんだか、やってる事が忍者っぽい気がしないでもない。

 

見下ろして尾行者を見ると、追いかけてきたのはスーツ姿の男で、知らない顔だった。

男は見失った事に驚きと焦りを隠せないでいて、辺りを見回していた。

 

隙ありと見て、飛び降りて背後を取る。

 

「動かないでもらいたい」

 

「うわ!? え!? え!?」

 

背中に人差し指を押し当てると、慌てふためきながらも即座に両手をあげてみせた。

 

「あ、あれ!? たしかにさっき、ここに入って、あれ!?」

 

「自分を尾行していたみたいですが?」

 

「えぇ!? 気づいてたなんて、君すごいな!」

 

「はぁ……お前は誰だ」

 

少し語気が強くなるが……なんというか、一気に毒気が抜かれる。

まるで、こっちが一人シリアスに『スパイごっこ』でもしてるみたいだ。

 

「え、えーとその前に……鷹崎―――さんでしょうか?」

 

「……そうですが」

 

「よかったぁ! あ、懐に手を入れてもいいかな? 渡したいものがあるんだけど……」

 

「わかりました」

 

指を引っ込めて、すぐに対応できる距離を取る。

男は踵を返して、懐から取り出したケースの中から名刺を差し出してきた。

 

「わたくし、こういう者でして。端的に申しますと、鷹崎さんをスカウトしにきました」

 

「はぁ…自分のことは、どこで?」

 

「先日あった、ヒーローショーが社内で話題になりまして。その折に、鷹崎さんのことを知りました」

 

「…そうですか」

 

勘違いだったか。焦って墓穴を掘らずに済んでよかった。

とりあえず名刺を受け取って「それで、どうでしょうか?」と言われたが「考えてさせてほしい」といってその場は辞退したのだった。

 




長すぎると何かあって途中で読んでいた所を見失いそう、というのと、書いている途中で長くなりそうだったので区切ることにしました。


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第4話:後

そんなこんなで、スカウトされたのはいいが正直迷っていた。

仕事はオヤジさん達のおかげで間に合ってるし、なによりこの自警活動に支障が出ないかという不安があった。

 

今の自分にとって『赤備え』のウェイトは結構大きい。

光を意識して始めた活動だったし、それと…能力を誇示する自己顕示欲がなかったと言えば嘘になる。

 

しかし今は違うとはっきり言える。

プライドや責任が、というのも大事だけど、そんな大層なことじゃなくて。

もっと単純。手を伸ばせば届く、自分がやりたい事。ただそれだけなのだ。

 

― 名刺を仕舞って、再び空へと飛び立つ。

 

でも…楽しかったなというのも本音で、それで二の足を踏んでいた。

もしかしたら、あれも自分がやってみたい事だからなのかもしれない。

 

 

証明写真ボックスの中で着替えて、ちょっと小腹が空いたので近くのコンビニに立ち寄る。

 

「いらっしゃいませー」

 

店員さんの挨拶を受けながら店内の奥、パンのコーナーへ向かうと目当ての物を探す。

 

「あれ? たかさーじゃん」

 

「ん?」

 

声を掛けられ、誰かと思えば里奈だった。

いつもよりあっさりした化粧にシュシュで髪を束ね、ひし形模様のベージュのセーターに桜色のロングスカート。

作業服姿を見る方が多いから、新鮮だ。

 

ただ、上から下までじっくり見ていてしまったらしい。

 

「やーん、たかさーのえっちぃー☆」

 

からかい半分、照れ半分な感じで、胸を隠して片足を上げた(まいっちんぐ)ポーズを取ってくる。

 

「スマン。でも可愛いぞ、本当」

 

「…んー。ド直球なのズルいけど、ウレシイからいっかなー♪」

 

笑顔になった里奈が隣に並んで、同じくコーナーを物色し始めたので、自分も再び吟味する。

 

「たかさーはなに探してるぽよ?」

 

「チョコクロワッサン」

 

出来ればパサッとしてるやつじゃなくて、適度に水気を含んで食感が しっとり とか もっちり してるのが自分の好みだ。

 

「たかさーのこだわりなんだー♪ かわいー☆」

 

「か、可愛いかは分からないけど…そうだな」

 

こだわり(・・・・)と言われて、不意にさっきの事を思い出してしまい、言葉に詰まってしまう。

 

「? どしたのー?」

 

「ん、いや、なんでもない」

 

流石に自警活動、延いては『赤備え』の事をバラすわけにもいかない。

誤魔化し迷った気持ちが表れるように、手に取った商品は果たして当たりなのか。

 

里奈はコンビニスイーツとなにやら赤黒く毒々しいと思えるラベルのカップを買っていた。

 

「なんか、すごいの買うんだな」

 

「何事もチャレンジ……かなーって」

 

「……そっか」

 

言葉と裏腹に、何故か里奈も迷っているような気がした。

 

 

 

 

 

 

後日。

あの時、里奈の様子が変だった理由が判明した。

 

「里奈がアイドルにスカウトされた?」

 

「おう。なんだ、たか坊は聞いてなかったのか」

 

まったくの初耳である。

しかし、そうか。里奈もまた悩んでいたのか。

一応オヤジさん達にも相談したみたいだし、それなら自分にも一言ぐらい…と思ったが、自分も同じような状態なので当てにならなかったかもしれない。

でもまあ、よかった。あと……もう一人ぐらい誰かが相談しても、いいよな。

 

「実は、自分もスカウトされたんだ。けど……―――」

 

「―――…他にどうしてもやりたいことがあって、踏ん切りがつかない、と」

 

「まあ、最終的にどうするかはたか坊が決めることだが、俺たちは応援するぞ!」

 

「なんなら、助っ人の時みたいにバイトしに行くのじゃダメなのか?」

 

「……ん?」

 

ぽろっとウロコが落ちる思いだった。

そもそも、自分がスカウトされたのは、超人能力を買われてのこと。

ならば、アルバイトでも問題ないのでは?というのは、とんだこじつけだろうか。

 

といっても、これは自分のワガママなので、どうなるか分からない。

ダメだと言われたら、その時はきっぱり自警活動に専念させてもらうとしよう。

 

「皆でなに話してるぽよー?」

 

自分なりの答えが見つかったところで、ひょっこり里奈が顔を出した。

 

「たか坊がな、346プロって所でバイトするらしくてな」

 

「たかさーが? でも、うん。たかさーならイケちゃうかも☆」

 

そう、言ってくれた里奈のエールに感謝しつつ、アイドルとしてスカウトされた事について聞いてみる。

口に指を当てて悩ましげな表情をしていたが、途端に晴れやかな顔になった。

 

 

 

 

 

 

「それでは、よろしくお願いします」

 

「こちらこそ、よろしく頼むよ!」

 

以前、自分をスカウトしにきた男性と軽く言葉を交え。かくして、自分は346プロにバイトという形で関わる事となった。

今後の予定を調整するというので、しばらくはまだ未定らしいが、とりあえず連絡先の交換と許可証代わりのゲストカードを受け取ってその場を後にする。

 

あとは、一緒に来ていた光の用事が済めば帰るつもりだったが、応対してくれた事務員の千川さんにまだかかりそうと言われたので、せっかくなので一通り見て回ることに。

 

ずいぶん大きな建物だなー、と暢気に思う一方で、ここでバイトするのかぁと急に押し寄せた緊張と不安に胃がキリキリする。

 

それから適当に歩いていると、長い連絡通路から見える満開の桜に目を奪われしばらく眺めていると、両方の入り口から人が近付いてくる気配があった。

 

片やテレビで見たことがある、青い将校服デザインの衣装で統一された女の子4人。

片や女子高生で、それぞれ違う制服姿の女の子3人。

 

なんとなく居心地の悪さを感じてしまうのは気のせいだろうか。

4人組のユニットが通り過ぎ、女子高生の子たち内2人が興奮した様子で会話に興じる中。はて、とその1人に見覚えがある事にどこで会ったかと首をかしげてしまう。

 

こちらの視線に気づいたらしく、その子は胡乱(うろん)げな表情でこちらを睨むように見てくるが、軽く会釈すると焦った様子で会釈し返してきた。

 

気まずくなり、お互い移動したすれ違い様。不意にその子の視線の先が気になり、思わず二度見してギョッとする。

桜の木の上に金髪でたぶんギャル(?)な女の子。光と同じか下の中学生だろうか。

無邪気な笑顔でこちらに手を振ってくるので反射的に振り返すと、満足した様子で木から降り始めた。そこまではよかった。

 

「きゃっ」

 

ずるりと足を滑らせて体勢を崩す光景にすかさず自分は柵から飛び出した。

女の子を横抱き(お姫様抱っこ)にキャッチして着地。即座に降ろすとその場から全速力で離れた。

 

大丈夫?と一言掛けるべきだろうが、ピンチを助けてお姫様抱っこしたのが自分では、夢を壊すような真似はできない。

 

 

ベンチに腰掛けて一息ついていると、終わったのか光が駆け寄って来る。

 

「? どうしたんだ、たか兄?」

 

「いや……」

 

ここは、なんだかすごいところだな。その言葉が口から漏れることはなかった。

 




お待たせしました。思ったより長くなりませんでした。
お気に入りが最後に見た数から30倍ぐらい増えていて驚いています。

※個人的なことなので、たぶんいつかこの行は消すかもしれません。
職を失くしたので、しばらくそのごたごたで更新が遅れるかもしれませんが、最終回となる着地点は決めたのでそこに辿り着けるよう頑張ります。


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第5話

鷹崎はバイトという形で346プロに在籍する事となった。

しかし、事態は意外な展開を迎えることとなった。

 

 

346プロの各部門。

今回の場合は、俳優部門とアクション・スタント(以下AS)部門とで、鷹崎が取り合いになっていた。

鷹崎をスカウトしたのは俳優部門に所属する人間だったので当然そこに籍を置くはずだったのだが、それに異を唱えたのがAS部門だった。

 

AS部門の部長と、鷹崎が出演したショーの監督は知己であり、その監督から鷹崎の事を聞いていた部長は是非とも自分の所に連れて来たかった。

 

ところが、自分たちよりも一足先に俳優部門の人間にスカウトされてしまった。

横から掻っ攫っていった盗人と揶揄こそすれ、早い者勝ちでもあるので、大人しく手を引くはずだった。普段ならば。

 

AS部門には好材料があった。

即ち、鷹崎本人の希望が、あくまでもスーツアクターのようなもの、と漠然とではあるがこちらの部門の方が適している条件を提示されていたからだ。

俳優部門が即座に突っ撥ねる事ができなかったのも、これが原因だった。だが、だからといってAS部門に取られたくない。

 

ビジュアルも良い。それでいて運動神経も抜群。今のうちに点数を稼いで是非アクション俳優としての道に進んで欲しいと目論む俳優部門。

 

あの監督が高く評価した逸材。アクションは勿論、スタントマンとしても活躍してほしいと期待しているアクション・スタント部門。

 

お互いに譲るつもりはなく。平行線をたどり、答えは出ないまま。

ずるずると話が長引いていることもあり、鷹崎は宙ぶらりんになってしまっていたのだった。

 

 

 

だが、ここで声を上げた部門がいた。

 

 

 

バイトとはいえ何時までも仕事を与えないのは人材と時間の浪費だ。

話が纏まるまでの間、良ければこちらで預からせてはもらえないだろうか。

 

また、件の人物の従妹や知り合いがいる環境の方が落ち着くだろうし、少しずつ興味を持ってもらってはどうだろうか?

 

そう言った、温和な表情と物腰丁寧な初老の部長は、いったい裏でどんな事を企んでいるのか。

…なんて、二つの部門の人間は思ったが、モチロンそんな何処ぞの不味いコーヒーを淹れるマスターのような事は考えていない。

 

比較的新しいその部門は、1人でも人手が欲しかっただけなのだ。

 

 

 

 

 

 

【見守り怪人】

 

今日は区の自警団のスクールガード活動にお邪魔している。

 

なんでも所属している1人が腰を痛めたとかで、その話を偶然小耳にはさんだのでこうして参加している。

最初は少し離れたところで見てようかと思ったのだが、地の利がイマイチで、不審者扱いされては本末転倒だったので大人しくじいさま、ばあさまの後ろをついていくことに。

 

だというのに毅然(きぜん)とした態度でこちらを気にした様子がないのは、純粋にすごいと思う。

 

アレだろうか、この世界の老人は『激動のじいさま』みたいなのが基準なのだろうか。

 

「はーい、これ持ってねぇ」

 

などと考えているうちに、自警団のおばあさんから手旗を手渡され、ちょうど下校途中の小学生集団がやって来た。

 

「わぁー、赤ぞなえだぁ!」

 

「ホンモノなのかな」

 

「すごーい!」

 

わーわー。きゃいきゃい。1人が走ればあとは雪崩だ。

あっという間に囲まれて、マントを引っ張ったり服を摘んだりとやりたい放題だ。

スネを小突いてくる子もいるみたいだが、逆に怪我をするかもしれないからやめなさい。

 

「も、もう。みんなダメだよぉ…」

 

でも子供のヤンチャは度が過ぎなければ可愛いものだ、と特に気にせずマスコットしていたが、1人の女の子が子供達を注意した。

 

「あの、ご、ごめんなさい赤備えさん……」

 

おっかなびっくりな感じで謝ってくるが、さっきもいったが度が過ぎなければ自分は全然気にしないのだが……おや、この子は確かあの時の。

そう、346プロの通路ですれ違ったアイドルの子だ。

 

名前は……ランドセルを見て、『佐々木 千枝(ささき ちえ)』、千枝ちゃんか。

あの時は大人びた感じだったが、今はなんというか年相応といった印象を受ける。

 

うーむ。これが女は化ける、というやつだろうか。

 

とはいえジッと見つめられるのも怖かろう。

頷いて安心(伝わるといいな)させて、さっき渡された『横断中』の手旗を水平に構える。

 

はーい、みんな列に並びなおそうねー。

…と言いたかった。

 

背後から中々の速度で近づいてくる、エンジン音が聞こえさえしなければ。

 

 

 

 

『赤備え』の目がジロリと動いたのを千枝はハッキリと見た。

自分に向けられたモノではないと分かりつつも、それでもやはり怖く思い少し後ずさる。

そんな反応に気づいていない『赤備え』は千枝に押しつけるように手旗を手渡した。

 

「あ、あの………?」

 

返答はなかった。

『赤備え』は喋らない。ジェスチャーで返事をする。

他には、空を飛ぶ。目にも留まらぬ速さで動く。凄い怪力の持ち主。など、本当に人間なのか疑わしい噂があった。

だからこそ怪人と呼ばれているのだが。

 

バサリ、と広げたマントが『赤備え』の首から下を纏う。

 

視線が後ろを向いていることに気づいた千枝がそちらに意識を向けると、ほどなくしてその意味が分かった。

 

下校中の集団が歩いている通りのほぼ隣の角から、左右確認を怠ったトラックが飛び出した。

 

一瞬で変化した事態の直面に、誰もが頭の中は真っ白になり硬直した。

 

 

 

その時。迫り来るトラックを横目に千枝は見た。

 

 

 

『赤備え』が前傾姿勢になると、マントがはためき、足元が消えた。代わりに黒い影が交互に動いている。たぶん脚だ。肉眼で追えないほどの速さで脚を動かしているのだ。

しかもその速度は尋常ではない。上半身は微動だにせず、まるで滑走するように移動している。

 

しかし、千枝が目で追えたのもそこまでだった。次の瞬間『赤備え』の姿が消える。そのあと見たのは、もの凄い衝撃音と同時に無残に変形したトラックの姿だった。

 

 

 

 

何をしたのかと聞かれたなら。

『十傑集走り』の高速移動でトラックの後方に回り込んで、袖から出した無数のロープで(運転席は外して)縛って綱引きしたのだ。

 

その結果トラックをオブジェに変えてしまったが、自分は謝らない。元はと言えば交通ルールを守らなかったのが悪い。

 

まあ、消し飛ばさなかっただけ冷静だったので許してほしい。

 

対象者が1人だけなら抱えて避けるだけで済むが、複数の場合は危険物を取り除く方が早いだろうという判断だ。

 

ロープを解いて巻き取る。

どうやってそんな物を隠しているのかと聞かれてしまうと「そんなこと俺が知るか!」としか言えない。

 

ススッーと(滑ってるようにしか見えない)摺り足で小学生と自警団の許へ安否確認。

腰が抜けた子がいるので抱き起こす。他は、うん、大丈夫そうだ。

 

騒ぎを聞いて人が集まりだしている。通報もしたのかサイレンも響いている。

うむ、トンズラするか。器物損壊罪だな。

 

だが命に替えは無い。生命は地球の未来……昔死のうとした人間の台詞ではない、か。

 

「あの! 赤備えさん…ありがとうございました」

 

さっきまでこちらを怖がっていた反応が嘘みたいに凛とした千枝ちゃんを皮切りに他の子達も口々にお礼を言ってくる。

 

…、……。

 

頭を下げてから再びマントを纏って、垂直上昇から脱兎の如くその場から離脱した。

 

…本当に活動の邪魔してしまうとは思いもしなかった。

 



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掲示板:『赤備え』のウワサ

トラックを破壊したことで非難されるかもしれないと覚悟していた。

けれど思っていたほどにはならなかった。

おそらく、自警団や小学生の子供たちが証言してくれたからだろう。

 

だが何よりも、()()()()()佐々木千枝があの場に居たというのが最も大きいのかもしれない。

とはいえ、彼女の社会的地位を利用したようでとても心苦しかった。

 

そういうワケで、ナーバスになっていては支障が出るかもしれないという考えと、ほとぼりが冷めるまでの間活動を自粛する事にしたのだった……。

 

 

 

 

 

 

551:名無し:20XX/04/28:ID

最近『赤備え』出ないな

 

553:〃

神出鬼没とはいえ、そこそこ知名度上がってるのにな

 

555:〃

やっぱりアレか?

 

556:〃

トラック事件から1週間か、早いな

 

557:〃

トラックぶっ壊すなんてことしたからなぁ……

世間にはそれを怖がってる人もいるから気を遣ってるんだろ

 

558:〃

目撃された場所がどこか分かる方が安心する、って人もいそうだけどな

 

560:〃

気wwwをwww遣うwww

……そうかもな、スマン

 

―――

――

 

765:〃

まあ、だいぶ名物になってきたよな

 

768:〃

名物といえば……

噂になり始めた頃に『怪人饅頭』作った店は先見の明があるよな

後追いは多々あるけど、元祖といえば?って聞いたら大体の人はあそこって答えそうだし

 

771:〃

ごめん、初耳だわ

どこのお店?

 

773:〃

確か『pore pore(ぽれ ぽれ)』っていう名前、だっけ?

 

776:〃

あそこの店主のおっちゃん、熱心に『赤備え』のスクラップしてるのも有名よな

 

778:〃

カレーも美味しいよ

ただ、時々味が変わるから注意ね

 

779:〃

あれってバイトで入ってる冒険好きのお兄さんが居る時に変わってるよ

 

781:〃

……あれ? 元祖って『タチバナ』じゃないの?

 

783:〃

そっちも元祖だよ

『pore pore』がお饅頭作る際に協力してもらったらしくて、その伝手で共同販売してるよ

 

786:〃

ちなみに、そっちは揚げ饅頭で出してる

 

789:〃

へー、ちょっと気になるから行ってくるわ

 

―――

――

 

1:〃

新しいの建てておきますね

 

2:〃

1さんおつおつ

 

3:〃

おつー

 

4:〃

おつです

 

7:〃

初見です。はじめまして。

 

9:〃

お、新しい人か

こんにちは

 

12:〃

気になって来ました。よろしくお願いします。

早速なのですが『赤備え』について教えてもらませんか?

 

14:〃

新しい人は前に別スレから来た人以来やな

 

17:〃

ワイやな、ヒーローショースレからきますた

 

18:〃

前のスレ見てもらった方が早い……と思ったけど、纏まりないしな

ちょうどいい機会だしテンプレ用にまとめない?

 

20:〃

そうしよか

 

21:〃

じゃあ、まず確定している情報について書かせてもらおっかな

 

外見は鎧を着込んでいて、赤い仮面とマントを付けています

長身で体格も良いのですが、性別は現状不明です

 

24:〃

頭は緑、腕が赤で体と足は黒なんて言われてた時期もあったな

 

25:〃

画像は前スレにもあるけど、一応貼っておくわ

つURL

 

28:〃

ありがとうございます。

画像を見て、なんというか、目と口元がかわいいですね。

 

31:〃

女子高生の子達の感想も『こわかわいい』らしいもんな

 

32:〃

新規さんは女性的なのかな…?

 

35:〃

やめとき

感性に性別の違いなんてないから気にせんでええで

 

37:〃

やだ、イケメン……嫌いじゃないわ!

 

39:〃

 

40:〃

続き書くよー

 

空を飛んでいるという目撃例の多さから、飛行能力を持っていると思われます

また建物を飛び越える跳躍力や、滅多にないですが目で追いつけないスピードで走る姿も目撃されているそうです

 

45:〃

ハイスピードカメラで撮影を試みたら、捉えきれずに振り切られた、なんて話もあったな

 

47:〃

攻撃力というか、膂力かな?

これは最近あったトラック事件が記憶に新しいけど、新規さんはご存知かな?

 

48:〃

トラックを止める際に巻き付けたロープ捌きがすごかったらしい

 

49:〃

はい、知っています。それがキッカケですので。

 

52:〃

そかそか

まあ、そんな感じで『赤備え』は助ける事を基本としてるよ

活動している時間帯は子供の登下校時によく見られて、次いでご老人の手助けをしている、かな

 

55:〃

怪人と呼ばれるのは、この見た目にそぐわない行動をしているからと言われてる

あとここまで書かれた内容からも、『赤備え』はとても普通の人間とは思えないため、超常現象的存在として認識されてるよ

 

59:〃

超常現象……?

 

63:〃

妖怪や宇宙人みたいな存在の事やで

 

67:〃

それにしてはコミュニケーション能力があるからなー

友好的というかなんというか

 

69:〃

とりあえずはこんな感じかな?

今後また何か気なったら見に来てくれたらいいと思います

 

72:〃

はい。教えていただいてありがとうございました。

 

―――

――

 

121:〃

そういえば、港の方であった騒ぎがあったの誰か知ってるかな?

 

124:〃

こっちはそんなニュースなかったな

 

127:〃

宝くじ当たった話なら

なんでも、過去最大の当選金額だったとかで

 

131:〃

そうそう、でも宝くじか

当たったら、当たったら……寄付するかもな

 

133:〃

なんとなくわかる気がする

 

―――

――

 

151:〃

ちょっと前に会社の先輩が帰り道に『赤備え』と遭遇したらしい

子供を抱き上げてて何事かと思ったら迷子だと分かりやすく書かれた板を首からぶら下げてたんだとか

 

154:〃

『私がプリンを食べました』みたいな感じで板を首から下げてたの自分も見たぞ

 

157:〃

おい>>154の人www

 

159:〃

やめろw

 

162:〃

シュールすぎるわw

 




あまり掲示板っぽくなかったかもしれません。

『赤備え』に対する認識みたいな回ですが本編とは関係はない…かも?


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第6話

新しいお仕事に慣れてきたのでこっそり更新です。
まだしばらく不定期になるかもしれませんがよろしくお願いします。


自室で『赤備え』の衣装と向き合う程には、活動を再開しようと思いだした頃。しかし、時間は活動を自粛してから少し経った辺りまで遡る。

 

その日。

「一度顔を出して欲しい」という旨を受けた自分は現在、346プロにやって来ていた。

 

おそらく予定の調整が出来たからだろうが、まさかバイトをする前にクビになったワケじゃないはずだ。

 

大きなエントランスホールで許可証を見せて女性に受付をしてもらう。

 

「少々お待ちください」と言われた後、やり場に困ったのでグルリと辺りを見回す。

1回目は緊張して周りを見る余裕がなかったが、2度目となる今回もまだ慣れそうにない。

一流企業とはこういう場所なのだろうかと、いや、そういった建物を見たり(活動中に無断で)登ったり壁に張り付いたりしただけで全然分からないけれど。

 

とはいえ、そんな未知の世界へと自分は足を踏み入れたのだ。

芸能界。自分にとってテレビの中の世界で、身近にあってとても遠いと思える場所。

特にアイドルという、職業というより、まるでこの世界における象徴(シンボル)のような存在。

 

光はその道に自分よりも早く進んだ先達であるが、そう考えるとどうも実感が湧かなかった。

そして、もしかしたら里奈もこっちにやって来るかもしれないと考えると、おかしい、別にそこまで遠くない気がする。

 

などと考えているうちに確認が終わったらしいのだが。

戻ってきた受付の人に指定された先は何故か隣の新棟。

前回はここの上で面接を受けたので、てっきりそうだと思っていた。

なんでも、所属先というか身元の預かり先がそっちになったとかで、詳しくは先方で聞いて欲しいとのことだった。

 

出鼻を挫かれる思いだが、あちらにはあちらの都合があるのだろう。

とりあえず指示に従って、前に通った所よりも大きなガラス張りの連絡通路から新棟へと渡っていく。

 

ふと、外に目を向けると。

前に見た時より桜の花びらが散っている。もうすぐ時期が終わるのだろう。

残念というか、寂しいというか。季節の変わり目は終わりと始まりだ。

……そろそろ、休んでいた活動の再開も予定しておかないとな。

 

通路を渡り終えた自分は、指定された階を目指してエレベーターに乗り込んだ。

 

 

 

 

 

 

黄緑色の事務服なんて珍しいというか、派手というか。

でも浮いている感じはなく、むしろこの服装以外だと違和感を感じるかもしれないと思うほど、よく似合っていた。

 

千川ちひろさんという、前に光を待っている際に対応してくれた事務員さんと自分はテーブル越しに対面していた。

 

「―――それで、鷹崎くんには、ここに所属していただくことになったんです」

 

はあ、と気が抜けたような声が漏れる。

 

まさか、自分の能力を高く買ってもらったのは良いが、取り合いになった挙句、まったく別の部署預かりになるなんて思いもしなかった。

 

ただ、こちらには光や知り合い(たぶん里奈の事だと思う)が居る場所で社に慣れてもらおうという、非常にありがたい好待遇を受ける以上文句なんて言えない。

 

素直に好意を受け取って、簡単な部署の説明の後、早速軽いところから始めることになった。

 

アイドル部門。

今西さんという人を部長に事務員の千川さん、プロデューサーは武内さんという人と、アイドル候補発掘のために全国を行脚していて基本的にいないためほぼスカウトマンみたいになっている人 ―つまり光をスカウトした人― の計4人。

で、その人達を筆頭にアイドル、アイドルの卵達が大勢いるとのこと。

 

1ついいだろうか?

いや、皆まで言うなと思うがあえて言わせてもらう。

 

人 手 不 足 す ぎ ま せ ん ?

 

これ絶対に光や知り合い云々は建前ですやんか。

なんとなく察した自分は千川さんを見ると、サッと視線を逸らされる。確信犯だ。

 

しかし、まあ、何事も経験。そう、ポジティブに考えよう。

とりあえず了承して、しばらく自分が担当する仕事を頼まれる。

隣の部屋に置かれている、資料やその他諸々の紙類を詰め込んだ箱の山。既に整理済みであるそれを倉庫に運んで欲しいという、要は運搬作業だった。

 

体力的というか、いやこの場合は絶対時間の都合が取れなかったからだろう。

流石に千川さん1人でこの量を運ぶのは無理だ。

大量の箱を見上げるのなんてホームセンターみたいな場所でしかなさそうと思っていたが、そんな様子に申し訳なさそうにしている千川さん。

 

ちなみに、どうやって積んだのかは気にするな!

 

「大丈夫ですか、いけますか?」と千川さんが念の為といった感じに聞いてくる。

 

しかし、何事にも適材適所はある。そういう意味ではこれは自分向きだった。

 

だから、自分はこう返した。

 

「任せてください。鍛えてますから」

 

 

 

 

 

 

「しゅっ」

 

そんな軽い掛け声で積み上げた箱を持ち上げる鷹崎を見て、やっぱり最近の若い子は力持ちなんだなー、とのほほんと考えつつ、この子は当たりだな、と千川ちひろは特に気にした様子もなくありがたがった。

 

これは完全な余談なのだが。

以前にも、この部署にはアルバイトとして1人の少女がいた。

ちひろが知り合いから紹介された女子高生で、今の346に在籍するアイドル達と同じくらい可愛らしい子だったので当時プロデューサー2人もスカウトした程だ。

 

残念ながら、その子は服飾系のデザイナーになる夢があったので断られたが。

 

そして、特筆すべき点としてその子は力持ちだった。怪力といっても言い。

鷹崎同様に積み上げた箱を軽々と運んでいたのだ。

 

その時は箱の耐久性が規定された重量を超え、要は過積載のため、箱が壊れるというハプニングがあったので、それ以降346プロでは頑丈な箱が使用されている。

 

もちろん、最初はちひろは驚いたが、しばらくすると見慣れたため免疫ができたのだろう。

 

だから気づかない。そう、たとえ総重量260kgになる積み上げた箱を鼻歌交じりに運んでいたとしても。

 

別にこれで話が重くなる(・・・・)ワケではないので、ご安心を。

 

 

 

 

 

 

お仕事の最初って大体こんな感じで軽いところから始まるよなー、と経験に則った感想が浮かぶ。

 

ただ、置き場から倉庫への移動途中。数名(おそらくアイドルの子だと思う)がこちらをギョッとした表情で見ていたのに気づいて、悪目立ちする悪手だったなーと若干後悔もしたり。

 

「わー、お兄さん力持ちだね!」

 

かと思えば、好奇心を刺激されたのか近づいて来る女の子が1人。

この年頃の子におじさん呼びされないのは珍しいしちょっと嬉しい。

 

「こんにちは。自分は鷹崎というんだ。今日からバイトでね。名前を聞いても?」

 

「うん! わたし、赤城みりあ! よろしくね、たかざきお兄さん!」

 

「よろしく、みりあちゃん。ただ、この大荷物だ。危ないから、少し離れておいてくれると助かるよ」

 

大きく頷いて、ちょっと後ろを付いてくるみりあちゃん。まるでカルガモの雛みたいで、すごく可愛い。

それに小さい頃の光を思い出してとても懐かしかった。子供のこういう所や元気さは癒されるし、活力をくれるものだ。

 

「そういえば。ここにいるって事はみりあちゃんもアイドルなのかい?」

 

「そうだよ! あ、でもデビューはまだなの。プロジェクトのいっかん?で、順番に発表するって(プロデューサー)は言ってたよ!」

 

やっぱり、この世界ではアイドルの力の入れようがすごい。

それとも、やはり芸能プロダクションとして老舗になる美城だからこそなのだろうか。

資金があり、会社としての信用と実績、それと広く太い人脈……それって一流企業じゃないですかーやだー。

そこでバイトする事になったなんて、ああ、ちょっと意識すると今更になって胃の辺りがきりきりするような感覚が。

 

「結構大掛かりなんだ。じゃあ今はレッスンを?」

 

「うん! えっとね、莉嘉ちゃんときらりちゃん、それからみんなと一緒にダンスや歌の練習をしてるよ!」

 

りかちゃん、きらりちゃんという子がみりあちゃんと年が近く、親しいのだろうか。

ただ、嬉しそうに話す姿は、なんだかこっちまで嬉しくなる。

 

などと、そうこうしてる内に目的地へと到着する。

 

「おっと。それじゃあ、みりあちゃん。ここでお別れだ。レッスン、頑張ってね」

 

「またね、たかざきお兄さん!」

 

大きく頷いて走り去っていくみりあちゃん。

 

穏やかな時間だと思ったが、なるほど。確かに、この環境なら馴染んでいける。

さっきあった不安は、今はどこにもなかった。

 




説明回みたいになってしまったかもしれません。
書いては消し、書いては消しを最近までずっと繰り返してました。


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第7話

ひっそり更新してみます。


運搬作業が粗方終わって千川さんに報告すると休憩してくれればいいと言われた。他にありそうな仕事は書類捌きなので、まだまだ部外者っぽい立ち位置の自分が関わるのは良くないだろう。

 

なので、休憩がてら他の所を見て回ることにしてみた。

アイドル部門が比較的新しい部署なのもあってか、周囲にある利用施設の種類は多岐に渡るというのが気になっていたのだ。

 

レッスンスタジオやトレーニングルームにはじまり、他にはカフェ、大浴場やサウナに、エステサロン?

 

はっはっはっ。どういう会社なのか分んねぇや。

 

まあ、自分には殆ど縁の無い利用施設。場所だけ覚えてそそくさと後にして、千川さんの所に戻ると以前通路ですれ違った制服違いの女子高生三人組とスーツ姿の男性がいた。

男性の方も見覚えがあるのだが、はて、どこかで会ったか……。

 

「あ、鷹崎くん。おかえりなさい。紹介しますね。こちら、武内プロデューサーとシンデレラプロジェクトメンバーの渋谷凛ちゃん、本田未央ちゃん、島村卯月ちゃんです」

 

「あ! あの時通路に居た人!」

 

「関係者の方だったんですね!」

 

「えと、あの時はどうも……」

 

「ああ、こちらこそ…バイトの鷹崎です。どうぞよろしく……」

 

頭を下げて。渋谷さんと武内さんが並んでるのを見た瞬間。バッと顔をあげて武内さんを見た。

 

「あの、自分の顔に何か?」

 

「いえ、なんでもありません」

 

どこかで見覚えあるなーと思ったらあれだ、あの時泣いた子供の側にいた女子高生と助けに入ったスーツのお兄さんだった。

 

 

 

 

 

 

そんな感じでアイドル部門の人達と知り合い、バイトの仕事をこなすこと数日。

それはやってきた。

 

「鷹崎くん。今日はこれを着てもらうのがお仕事になります」

 

千川さんが持ってきたのは『ぴにゃこら太』なる、それは見事な8の字体型をした黄緑色の……………ね、ねこ?のキグルミだった。

 

これはアイドル部門のマスコットキャラクターで以前は他の人がやっていたが、スタント志望の自分がいるので担当してもらおうという事になったらしい。

 

もちろん断る理由なんてない。むしろそれ目的でバイトしに来た身の上なのでようやくそれらしい事ができると思った程だ。

 

あと、この黄緑のぴにゃこら太とは別に黒いぴにゃこら太もあるらしく。そっちは時々武内プロデューサーがしているのだとか。意外だ。

 

そんな説明を受けながら更衣室に案内されて早速着替える。といっても動きやすい服で出社するようにと事前に聞いていたので、上着を脱いで中に入るだけだ。

開いた背中に足、次いで腕を突っ込んで手足に通す。中は十分なスペースはあるのだがこの体型の都合上、足はともかく手は丸い形状のため物を掴むことは出来そうにない(出来ないとは言ってない)。

当然後ろに手が回らないので、そこは千川さんに閉めてもらい無事完了。

 

暗いフィルター掛かった丸穴から見る視界のためかなり制限されるが、そこは超人能力で補正できるので問題ない。

それから具合をみるため千川さんに連れられ、やって来たのはアイドルの子達がいつも使っているレッスンスタジオ。

 

軽く体を動かし、飛んだり、跳ねたり、ステップしたり。

やはり手は動かない。きっと動かしてもバタバタしてるようにしか見えないだろう。

 

「どうですか鷹崎くん?」

 

『大丈夫そうです。…そうだ。ちょっと、派手に動いてみてもいいですか?』

 

「派手に、ですか? ええ、それは構いませんけど……」

 

『それじゃあ、ちょっと失礼して……宙!』

 

よっ、と力強く跳ねる。

ヒーローショーのテストでやったバク宙などのアクロバティックな動きの再現だ。

やっぱり手を動かすのはどうしようもないがそれ以外はとりあえず大丈夫そうだ。

 

千川さんは予想外だったのか目を丸くしていた。

 

「流石、運動神経がすごいんですねー」

 

驚きつつも千川さんが拍手してくれる。その賞賛に応えようとしたが、ニュッと手を上げるだけだった。

 

 

 

 

 

 

とある後日。

『さんいく!アイドル』という番組にて、マスコットとして『ぴにゃこら太』扮する鷹崎が出演していた。

 

メイン司会が「おねえさん(アイドル)」と呼ばれるように歌、ダンスに加えて、ゲストに呼ばれるアイドルの特技や趣味を活かすという子供向けの番組だ。

 

「おねえさん」に振られる話に、以前のヒーローショーの経験が生きたのか、身振り手振り見事対応していく。

 

そうして順調に収録が進み、本日のゲストであった中野有香の趣味であった空手の披露が行われた。

 

「オリャー!」

 

『ぴにゃこら太』の持つ、演武として用意された試割板を掛け声と共に放った正拳突き、回し蹴り等で見事に叩き割り無事終了。

 

したかに見えた。

 

「鷹崎くんー。中野さんとの比較用の絵が欲しいからやってみてくれないか」

 

そう言ってスタッフが試割板を台に固定している作業を見せながら声をかける番組ディレクター。

ディレクターとしては、子供向けの番組だからコミカルなシーンを入れたかったのと、この着ぐるみでは割れないだろうという考えからの発案だった。

 

『あ、はい。わかりました』

 

「悪いけど、よろしくねー……ん?」

 

そうして全員が撮影位置に着き始めたのを見届けて自分もと踵を返して、ふと鷹崎が軽く跳ねているのを見て振り返った。

 

まるで跳ぶ距離を調整しているような動きが気になったが、勘違いだろうと所定位置に着く。

 

「それじゃいくよぉ!」

 

カメラが回って、少し間をおいて。

 

とーん、とーん、

 

威嚇(?)するように手を上げていた『ぴにゃこら太』がそのポーズを解き、試割板に背を向けて片足で二度跳ねた。

 

ん?とディレクターが疑問を抱いた次の瞬間。

 

とーん、ばぎゃッ!

 

三度目の跳躍に捻りを加え、見事な飛び回し蹴りが板を破砕した。

 

「お見事!」

 

中野有香が手を叩く。

スタッフも声を漏らしながら拍手する中、ディレクターは思っていたのと違ったがこれはこれでとそのままOKを出すことにした。




大泉洋「ガチャピン?」


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