IS? そんなことより筋肉だ! (蜜柑ブタ)
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SS1 興味本位は時に非常事態を招く

一夏、ISを動かしちゃう回。

原作とちょっと状況が違います。


 

 

「な………………なんじゃこりゃーーーーーー!!」

 

 高校受験会場に少年の叫び声が響き渡った。

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 少年の名は、織斑一夏。

 今年、高校生になる年頃の若者だ。

 高校受験のため受験会場に来たのだが、迷ってしまった。

 うっかり人気の無いところに入り込んでしまい、その時、小さな囁き声を聞いて、そこを覗き見ると、同じく受験生らしき男子達が、待機状態で立て掛けられているインフィニット・ストラトスを前に悪戯をしようとしているのを見つけた。

「なにやってんだ!」

 一夏は、曲がったことが嫌いだ。

 小学校時代から、曲がったことは大嫌いで、虐めを見つけてはいじめっ子をこらしめ、反省させる。虐められる側に問題があるなら矯正する。あるときは、不良グループを伸したとか、暴走族を壊滅させたとか……、ちょっと大げさに上乗せされたような、真実のようなことが噂されるほどの人物だった。

 一夏の声にびっくりした男子達は、一目散に逃げていった。

「ったく……。あ、道聞いときゃよかった。」

 注意するのも大事だが、受験会場の場所を聞くのを失念していたと、一夏は後悔した。

 誰かいないかと周りを見回すも、そこに佇んでいるインフィニット・ストラトス……通称IS(アイエス)があるだけだ。

「しっかし……、これがISねぇ…。」

 

 一夏の住む世界は、今、女尊男卑の時代の到来の時代であった。

 始まりは、篠ノ之束(しのののたばね)が開発した、パワードスーツ、インフィニット・ストラトス(IS)が世に出たことだ。

 最初こそ見向きもされなかったソレは、とある大事件によって、一躍注目され、そしてついには世界のパワーバランスは一気にひっくり返してしまった……。

 

 白騎士事件。

 

 日本に向けて2341発のミサイルが発射されるという災いが起こり、それを全身を覆うパワードスーツを纏った白い騎士のようなIS装者がその半数を迎撃したのだ。

 さらにそれにとどまらず、白騎士を捕獲しようとした軍を人災をほとんど出さず迎撃し、逃げおおせたのだ。

 この一件以来、ISは核兵器に変わる最強の兵器として注目された。

 だが問題があった。

 このISなるもの……、どういうわけか、女にしか扱えないのである。男には扱えないのだ。

 そのため、自然と女がそれを扱う側となり、男女平等を謳っていながらも、男尊女卑が根強かった世の中は、瞬く間に女尊男卑の世界へと変わっていった。

 しかも、ISの開発者である篠ノ之束は、わずか500程度のISコアを作った後、姿をくらました。

 結果、世界中で篠ノ之束は、指名手配となり、世界がわずかしかないコアを取り合うような混沌をも抱えることとなった。

 

 一夏は、グッと拳を握りしめる。

 思い出すのは、6年前に離ればなれとなった少女の顔だ。

 名を、篠ノ之箒(しのののほうき)。

 その名の通り、束の身内であり、妹だ。

 そのため、国家機関により連れて行かれ、離ればなれとなった。

 彼女は、一夏にとって、恋人と言える存在だった。

 すべては、IS開発者である、束に原因がある。そして、ISさえなければ……っと、考えることは幾たびもあった。

「こんなもんのせいで……。」

 顔をしかめ、なんとなしに、ISに手を伸ばした。

 テレビや、姉・千冬の試合で遠目に見ていても、実物を実際に目の前にするのは初めてなので、つい興味本位で手が動いていた。

 触れた瞬間だった。

「えっ?」

 キンッと金属音と共に、頭の中に凄まじい勢いでISの情報が流れ込んできたのだ。

「なっ!」

 

「そこの君、なにを……、なっ!?」

 

 後ろの方から声が聞こえたが、一夏はそれどころじゃなかった。

 視界には、ISのパラメーターなどが映し出され、そして、手足を見れば……、さっきまで立て掛けられていたISが手足を覆っていた。

 非常に窮屈に感じ、まるで全身に拘束具をまとったような重たさと、窮屈さが苦しかった。

 

 っというのも……、一夏の肉体は、この年齢の少年にしてはあまりにも発達していた。

 人は言う。

 そんな非常識な筋肉があるかと。

 収縮自在。普段の状態でも十分な立派な体格。

 そう一夏は、マッスル!……なのだ。

 自他共に認める筋肉バカなのだ。

 曲がったことが大嫌いで、そして、今の世界の風潮を嘆き、自らが男の強さの象徴となろうと鍛えに鍛え……、ついに手に入れたその身は、残念なことにISを装着するには不向きになっていた。むしろ枷となっていた。

 

 

「な………………なんじゃこりゃーーーーーー!!」

 

 っと、筋肉バカ一夏……、そう叫ぶしか無かった……。

 

 

 その後、あれよあれよという間に、IS学園への強制入学が決定し、同じ高校、あるいは別の学校で筋肉クラブを立ち上げて、女尊男卑の世界に対抗しよう!っと誓い合っていた友人達が、非常に悲しむのはまた別の話である。

 

 




一夏は、友達多いです。男女問わず。
一夏の考えに同調した筋肉信仰を広めんとする同士達もいましたが、一夏のIS学園行きが決まって、みんな悲しみました。


wikiでの、この事件での死者は皆無だった…ってところが微妙なんですよね。ここがIS二次創作作品で白騎士に復讐しようとする展開が多いところだと思う。


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SS2  箒との再会

箒アンチは、よく見かけるけど、一夏とのラブラブなのは見たことがない気がする。


 

 一夏は、大きなため息を吐いた。

 入学しなければ、強制的にモルモット……。

 そんな選択肢を出されれば、入学を取らざるをえない。

 

 世界初の男のIS装者。

 

 それが今の一夏の肩書きだった。

 まさかこんな形で、今の世界の風潮の元凶となったモノに深く関わることとなるとは……っと、再びため息を吐いた。

「まいったな……。」

 教室に入ってからの女子達からの好奇の目線は別に構わない。なにせ、ここはIS学園。本来は女子学校なのだ。そこに男が紛れ込むこと自体おかしいのだ。

 今一番困っていることは、この学校の教員として働いている、実の姉・千冬のことだ。

「うむ。一夏。ますます肉体に磨きがかかっているようだな?」

「おう。あったり前だ千冬姉。」

「私は感動しているぞ! おまえの努力に!」

 お互いのスケージュールの都合で数ヶ月ほどまともに顔を合せられなかったため、久しぶりに顔を合せ、一夏の成長に感涙している千冬に、一夏は苦笑した。

 モンド・グロッソというISの大会で、一夏は、千冬の優勝を妨害しようとした者達により誘拐されたことがあった。

 辛うじて助かったものの、助けに来た千冬が優勝を棄権するという事態になった。

 しかし、それでも千冬の実力と人気は凄まじいモノで、同級生の女子達が、千冬様、千冬様…っと、まるで神のように崇められているのだ。

 表面上は、クールに振る舞っている千冬だが……蓋を開ければ、ただのブラコンだ。

 誘拐事件以来、過保護にはなっていて、一夏が独り立ちさせてくれと言ったときは、号泣されたほどだ。

 そんな千冬の真の姿のことを口に出せないので、姉に持つ一夏を羨み、妬む視線や言葉に否定を出せなかった。……言ったところで信じるかどうかも微妙なところであるが。

 

 ところで…、教室に入ってから、懐かしい匂いを感じていた。

 

 鼻も鍛えている一夏は、人より鼻がいい。

 この匂いの正体はなんだろうと、教室を見回すと、ふいに、プイッと顔を背けたポニーテールの少女がいた。

 

 やがてチャイムが鳴り、クラス担任の千冬と、副担任の山田が入って来た。

 そして、生徒達それぞれの自己紹介をすることとなり、織斑という名であるため早い段階で出番が回ってきた一夏は、重い腰を上げて、教卓の前に来た。

 

「織斑一夏だ。名前の通り、担任の織斑先生とは姉弟にあたる。だからといって、公私混同はしないつもりだ。もう知っての通りだが、不注意でISを動かしちまって、この学園に来たが、できたら仲良くなりたいと思っている。趣味は筋トレ。嫌いなことは曲がったこと。特に、虐めは嫌いだ! 特技は……。」

 

 すると、一夏は、バッと上半身の制服を全部脱いだ。

 びっくりする生徒達や千冬達を後目に、一夏は、リミッター解除をして筋肉を膨張させた。

「筋肉を自在に操る筋肉魔法! 以上!」

 様変わりした姿でムキッとポージングを取った瞬間、キャーっとか、ギャーっと生徒達から悲鳴が上がった。顔を赤面させたり、青くしたり反応は色々だ。

「この馬鹿もんが!」

 後ろから千冬が出席簿で一夏の頭を叩いた。

「なんだよ? 織斑先生。」

「年頃の娘達の前で裸になるバカがどこにいる!」

「ここにいる!」

「堂々と言うことじゃない!」

 叩かれても全然痛くない一夏は、ケロっとした顔で堂々と言うので、プルプル震えた千冬が顔を赤くして怒った。

 なお、副担任の山田は、赤面した顔を両手で隠していた。

 

 その間に、一夏は、自分向けられる悲しそうな視線を感じて、生徒達がいる方を見た。

 すると、またあのポニーテールの少女が顔を背けていた。

 

「あ……。」

 

 その横顔には、見覚えがあった。

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 全員の自己紹介が終わり、またチャイムが鳴ると、一夏は、教室から逃げるように出て行ってしまったポニーテールの少女を追いかけた。

「待ってくれ!」

「っ…。」

「ほうき…。」

「いち…か…。」

 廊下で腕を掴んで止めて名を呼ぶと、ポニーテールの少女…、篠ノ之箒は、ゆっくりと振り向いてくれた。

 その目には涙が浮かんでおり、顔を紅潮させている。

「………………久しぶりだな。」

「……ああ。ああ!」

 ブワッと涙を零した箒が、一夏に抱きついた。

「会いたかったぞ、一夏!」

「俺だって!」

 一夏は、箒の体を抱きしめた。

「背ぇ、伸びたな…。髪も伸ばして…。」

「そっちこそ、ますます肉体に磨きがかかってるな。すごかったぞ!」

「おおよ! 鍛えてるからな!」

「一夏…一夏…。」

「箒…。俺、正直ここ(IS学園)に来て、あーめんどくせぇって思ってたけど、撤回するわ。箒に再会できたんだから。」

「私も…、ここに来てよかった…。篠ノ之束の妹だからと、強制的にココに来らざる終えなかったのだが…、私は、今、人生で一番幸福だぞ!」

「なあ、箒……、頼みがあるんだ。」

「私の方こそ……。言いたいことがある。」

「あのな……。また付き合い直してくれないか?」

「それは私の台詞だ!」

「いや…か?」

「そんなことはない! 喜んで!」

 箒はこれ以上ないほど幸せだと笑った。

「箒!」

「一夏!」

 

「このバカップルどもが! 予鈴が鳴っているぞ、教室に入れ!」

 

 多くの野次馬をかき分けて、千冬が赤面しながら、二人の頭を出席簿で叩いたのだった。

 




6年も離れてたら、成長と共に姿も匂いも変わってるはず。
すぐに箒の存在を認識できなかったのはそのため。

千冬は、一夏が箒と好き合っていたことは知ってます。


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現時点での設定など

お試し短編の方にあげている設定を移しました。



2019/03/02
ラウラの設定追加。


◇登場人物設定

 

・織斑一夏(おりむらいちか)

 本編主人公。

 女尊男卑の世界の到来を嘆き、己が男の強さの象徴となり、男の権利回復のため筋肉を鍛えに鍛え始めた。

 結果、誤って動かしたISが拘束具になるほどの非常識な筋肉を手に入れIS学園に通いつつ、スポンサーを得て、世の男達に筋肉を広めるべく様々な筋肉関係のCMやグッズなどを出して世の男達に発破をかけようとする。

 体格は、『魔法?そんなことより筋肉だ!』のユーリの体格に、原作の一夏の頭が乗ったような感じ。

 箒と付き合っている。

 

 

 

 

・織斑千冬(おりむらちふゆ)

 一夏の姉。

 モンド・グロッソで、一夏が誘拐されて以来、一夏に過保護であるが、一夏が女尊男卑の世界を嘆き、そして己自身が男の強さの象徴にならんとしている信念に感動しその後押しのためスポンサーを紹介するなどしている。

 

 

 

 

・篠ノ之箒(しのののほうき)

 一夏のファースト幼なじみ。

 今の世界の風潮を作ってしまった姉の束を憎んでいたが、一夏がそれを打破しようと己を鍛えに鍛える姿に感銘を受け、それを応援する。

 一夏に酔狂していると同時に、彼に恥じない妻になろうと花嫁修業をしている。

 束の身内であることから、国家機関のせいで一時期から一夏と離ればなれとなり辛い日々を送っていたものの、IS学園で再会し、付き合いを再開した。

 

 

 

 

・凰鈴音(ファン・リンイン)

 一夏のセカンド幼なじみ。

 中学時代の転校生で、なおかつ中国人の親に持っていたため虐められていたところを一夏に助けられ、以来一夏を慕っていた。

 毎日味噌汁を作るという感覚で、毎日酢豚を作ってあげると告白しており、その想いを残したまま両親の不仲が原因で一夏と離ればなれになるも、IS学園で再会。

 箒と一夏が仲が良いことは知っていたが、IS学園で二人の仲良しぐあいを見て、初恋だったことを一夏に告白し、初恋を清算する。

 

 

 

 

・セシリア・オルコット

 イギリスの代表候補生。

 父親が軟弱だったため、典型的な女尊男卑思考。

 最初こそ、一夏を筋肉ダルマと嘲っていたものの、クラス代表戦の代表を巡る戦いで、ISが邪魔だと外した一夏に敗北する。

 一夏が世の男達のため、男の強さの象徴となろうとしてるのがマジであることを理解すると、自分のスポンサーに連絡して、一夏との試合をタネにイギリスに前代未聞のマッスル流行をもたらす。

 

 

 

 

・シャルロット・デュノア

 フランスの代表候補生。

 シャルルという偽名で男と偽り、一夏に近づくため転校してくるも、貧弱な体格を嘆いた一夏に鍛えてやると言われ、早々に男装がバレてしまう。

 一夏の相談を受けた千冬の手回しや、また経歴などを最初から怪しまれていたため、早々にバレるのも問題であったらしく、そこまで重い罰はなく、デュノア社も一時期世間を騒がせるも、一応は沈静化して少しばかり業務収縮はした。

 その後、改めて本名でIS学園に戻り、友達として一夏を慕う。

 

 

 

 

・ラウラ・ボーデヴィッヒ

 ドイツの代表候補生。そしてドイツ軍人。

 遺伝子強化による試験管ベビーで、身体能力が極めて高い。

 自分を助けてくれた千冬に酔狂すると同時に、千冬から聞かされていた一夏の存在に憧れに似た感情を抱いていて一度でいいから会いたいと渇望していた。

 そして念願叶って出会い、一夏の筋肉が病みつきになり、ことあるごとに触るようになる。

 

 

 

 

 

 

※気分と思いつきで変更するかも。




なんで、箒をヒロインにしたかって?

箒アンチは多いが、ヒロインにしたのって、少ないなぁって思ったから。


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SS3 喧嘩は買います

一夏と箒のバカップルぶりにあてられ、ゲンナリする他の生徒達……。

そして、セシリアとの接触。


原作とは異なる形での、決闘となります。


 

 一夏は、ご機嫌だった。

 箒もご機嫌だった。

 あまりのニヤニヤと幸せオーラに、周りでヒソヒソ、近場にいる者は、砂糖吐きそうなほどゲンナリしていた。

 二人の仲については、学園中に、すっかり知れ渡った。

 元々、女子学園、異性との交際を禁じる罰則自体もなく、一夏は世界初の男性IS装者、箒は篠ノ之束の妹と二人とも重要人物であるため、下手に手も出せない。

 ただ……。

 

「清いお付き合いをしろ。」

 

 っと、千冬が唯一注意していた。

 ま、ようするに男女間でのそういうアレやコレは卒業するまで禁止だということだ。

 しかし、二人で一緒にいられれば幸せな二人はそれでもいいのであった。

 しかし休憩時間となれば、人目もはばからず、ベッタリだ。ただしキスなどはしない。箒が一夏にもたれて、一緒にいるだけだ。だが、それだけでも、十分すぎるほど幸せオーラが満ちていて、あてられた側は砂糖吐きそうなほどゲンナリしていた。

「ふ、二人はどういう関係なの…?」

 グループの中でジャンケンして、聞きに行かされた女子生徒が勇気を出して聞いた。

「へ? 幼なじみで、恋人だけど?」

 ビクビクしながら聞いてきた女子生徒に、空気読んでない一夏が、なんてことないように言った。

 箒は、耳まで赤くなり、キャーっという感じで顔を両手で覆いながら、グリグリっと一夏におでこをすり寄せていた。

「へー…。」

 聞いた女子生徒は、そうとしか声を出せなかった。

 そしてすごすごと去って行った。

 

 

 そんなこんなで、休み時間終われば、授業が始まる。

「織斑君、分からないところはありますか?」

「えーと。このページの…。」

 筋肉バカと呼ばれ、そう自認している一夏だが、頭が悪いわけではない。

 ちょっとばかり、猪突猛進なところはあるが(主に筋肉関係で)、頭の柔軟さもある。

 ここは、ISの専門学校ゆえ、元々普通の高校に行くために勉強していた一夏には、難しかった。しかし、世界に僅かなコアしかないパワードスーツの専門学校なだけあり、教員達の教える力も高く分かりやすい。だが、それでも分からんところはあるので、分からなかったところは素直に聞く。

 筋肉だけが取り柄かと思い込んでいた女子生徒達は、一夏の勉強への姿勢に、少しばかり感心した。

「一夏! 相変わらずの頭の柔らかさだな!」

「ココ(頭)も大事だぜ? ココの強さも強さのひとつだからな。」

「私はほとんど分からなかったぞ!」

「おいおい、それは問題だぞ、箒。」

 腰に手を当て、堂々と言う箒に、さすがに一夏もビシッとツッコミを入れた。

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 授業が半分終わり、昼食タイム。

 さすが世界のIS学園。食事の質はとっても高い。日本国であるため、日本のメニューを支柱に、バラエティ豊かなメニューが揃っている。

「一夏。それでいいのか?」

「明日からなんだ。千冬姉が、上とかけ合って、俺専用の筋肉増強食を作ってもらえるの。」

 

 筋肉増強食(?)ってなに!?

 

 っと、周りの女子生徒達は、心の中で思った。

 まさかアレ以上筋肉を付ける気か!?っと、同級生の女子生徒達は青ざめたりもした。

 周りのことなど気にせず、気づきもせず、一夏は、日替わり定食を超特盛りで、箒は、きつねうどん(並)を注文し、一緒の席に座って仲良く食べていた。

「うめぇな、箒!」

「美味しいな、一夏!」

 日本昔話よろしく凄まじい勢いでかっ込む一夏。箒はツルツルと普通のペースで食べている。

 終いにゃ、お代わりまでしていて、ダイエット中の女子生徒達が、見ているだけで腹がいっぱいになるなどしていて、心の中で感謝されていた。

 

「ちょっと、よろしくて?」

 

「ん?」

 金髪で、どこかのお嬢様であることを感じさせるしゃべり方をする女子生徒に話しかけられ、一夏は立ち止まった。

「なんだ、貴様は!」

「落ち着け、箒。で? なんだ?」

「まあ、なんですの、その態度は?」

「ん? 俺、別にあんたに変なことしてないだろ?」

「まあ…いいですわ。わたくしは、セシリア・オルコット。あなた達とは同じクラスですわよ。」

「ああ…、そっか、すまんかった。で、何の用だ?」

「あなた、ISについては、からっきしのようですわね?」

「そりゃ、日常で触れる機会がなかったからな。それが?」

「わたくしが勉強を教えて差し上げてもよろしくてよ?」

「はあ?」

「なんだと!」

「貴女はすっこんでなさい。で? どうします? 頭を下げれば教えて差し上げますわよ。なにせ、わたくしはイギリスの代表候補生なのですから。」

「だいひょうこうほせいか…。うーん。」

「……なぜ悩みますの? こんな機会普通はありませんわよ?」

「いや、代表だったら即決だったけど、代表候補生でっとなると、先生に聞きに行った方が良さそうだなって思っちまって。」

「まあ! なんですの!?」

「いや…、別にオルコットさんが、悪いわけじゃないけど…先生達の方が経歴は上だし…。」

「そ、それは…。」

「一夏、チャイムが鳴ったぞ! 行くぞ!」

「あ、うん。悪いな、オルコットさん。」

「あ! お待ちになりなさい!」

 一夏は箒に引っ張られ、セシリアは、二人を追いかける形で教室に入った。

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 千冬が教卓の前に来て、これからの行事について話をした。

 クラス代表戦という、ISを使った実践でのトーナメント戦をやるので、クラス代表を決めるということだった。

 途端、生徒達がざわつく。

「はい! 私は、一夏を推すぞ!」

「待て待て、箒。興味はあるが、俺はまだISについてはド素人だぜ? そんな奴が代表になったら大変だ。」

「しかし! おまえは、ずっと学校でいつも学級委員だのと代表をして来たじゃないか!」

「だから、代表戦は、そういう小学校のソレとは比べちゃいけないって。」

「その通りですわ!」

「なんだと!?」

 セシリアが立ち上がり、箒をビシっと指差した。

「ISによる神聖なるクラス代表戦の代表となることを、たかが小学校の代表と同じに見られてはたまりませんわ!」

「おまえに一夏の強さの何が分かる!」

「はっ、たかが筋肉モリモリで、それしか取り柄がないような筋肉ダルマではありませんか。」

「貴様!」

「……ちょいと待ってくれるか、オルコットさん?」

「な、なんですの?」

 一夏の静かな声に、セシリアは、本能的にビクッとなり、クラス全体が静まりかえった。

 ゆっくりと立ち上がった一夏は微笑んでいた。しかし、その笑みが怖い! ものすごく怖い!

「たかが筋肉って言ったか?」

「え、ええ…。た、たた、たかが筋肉を鍛えたからといって…、強さには繋がらないと…。」

「本当にそうか?」

「えっ?」

「今、この場で証明できるか?」

「は、はい…?」

「だ・か・ら。お前は…俺より…強いのかって言ってんだよ!!」

 一夏は、上半身の制服を破るほど筋肉を膨張させ、ガツンッと両の拳をぶつけ合わせた。

 その迫力に、セシリアは圧倒され、椅子をずらしてしまい、ヘナヘナと尻餅をついた。

「け、けど、男が強かったのなんて、昔の話だよ!」

「そうだよ、そうだよ! ISを付けてたらいくら筋肉がすごくっても…。」

 迫力に圧倒されながらも、勇気を出した一部の女子生徒達の訴えにより、他の女子生徒達も賛同し、そうだそうだと声を上げだした。

 涙目だったセシリアは、皆さん…っと声を漏らし感激した。

「じゃあ、試してみりゃいいだろ。」

「へっ?」

 それは、誰の声だったか分からない。

「なあ、織斑先生!」

「うむ!」

 一夏が千冬に話を振ると、千冬が腕組みして力強く頷いた。

「貴様らが納得できないというのならば、ISを装着した上で、一夏に勝ってみるがいい! もし! ISが使える女だからという理由だけで、強くなった気でいたのならば、先ほどまでの言葉を撤回しろ!」

 途端、騒いでいた女子生徒達が押し黙った。

「どうした!? 何も言えんのか!?」

 千冬の怒声に、ますます女子生徒達は、縮こまる。

「ならば、勝負ですわ!」

 へたり込んでいたセシリアが回復して、立ち上がり、挙手した。

「おう! その喧嘩、買った!」

「その代わり…、わたくしが勝ちましたら、一生奴隷にしますわよ!」

「き、貴様!」

「落ち着け、箒。」

「しかし!」

「俺が負けると思ってるのか?」

「!」

 心配する箒に、一夏はそう言って微笑んだのだった。

「では、クラス代表戦の代表決定戦を、十日後に執り行うとする! 以上!」

 

 

 こうして、一夏とセシリアの戦いが決定した。

 

 




ここでの一夏は、さすがに他国の飯の味を貶したりはしません。
ただ、基本、筋肉バカなので、筋肉のことになると……ちょっとばかり、アレですが。

千冬の台詞は、インフィニット・ストラトスを読んでて感じた、女尊男卑思考の人達への筆者の問いかけですね。数百個しかない、コアの威光だけで強くなった気でいるのかって。

次回は、一夏と箒の、ルームシェア。
ちょっと甘い展開かも。


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SS4 一夏と箒のルームシェア

あまり見かけない、ラブラブな、一夏×箒を書きたかった……。
筆者の技量では、この程度です。


 

「一夏。これから、寮で暮らしてもらう。コレが鍵だ。」

 

 授業が全て終わり、千冬に呼ばれて職員室に行くとそう言われて、鍵を渡された。

「荷物はもう搬入したのか?」

「ああ。そのことについてだが、部屋の広さの都合で、おまえのトレーニング機器については、無理だった…。より最新の物がこの学園にあるので確認してくれ。」

「やっぱりな。そうだと思った。」

 けど最新機器があるのは嬉しいと、一夏はウキウキした。

「すまん。本当は使い慣れた物がいいだろうが……、お前のルームメイトの荷物もあるのでな。」

「あれ? 一人部屋じゃないんだ。」

「すまん…。上とはかけ合ったんだが、おまえの入学は想定外だったので、空き部屋がない……。」

「いや、いいよ。織斑先生。それで、誰がルームメイトなんだ?」

「……篠ノ之だ。」

「箒が?」

「不服か?」

「いやとんでもない! むしろ、一緒にいられるなら願ったり叶ったりだ!」

 IS学園に来てよかったー!っと、跳びはねる一夏に、一夏と箒の仲についてすでに知っている教師達が苦笑していた。

「ただし!」

「分かってるって。清いお付き合いだろ?」

 はしゃぐのを止めて、千冬をまっすぐ見て、真面目に言う一夏。

「きちんとした準備が全部整ってから、嫁にもらうから。」

「さすが、我が弟だ!」

 男女間のそういうアレやコレに真面目な一夏に、感激した千冬が泣いた。

 一夏は慌てた。

 おそらく千冬は、社会ではクールビューティーで通っているだろう。だから本当は、ブラコンで弟のあれこれに一々過剰反応する姿はあり得ないだろう。

「と、とにかく、部屋! 行ってくる!」

「そ、そうか。」

 あっという間に泣き止んだ千冬がキリッとして言った。それを見て一夏は、ホッとした。

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 これから箒とルームシェアする部屋を前に、一夏は、ウロウロしていた。

 箒との同居は、きちんと準備をしてからと決めていたのに、まさこんな形で早く実現するとは思わなかったので、ガラにもなく慌てていたのだ。

「スーハー…スーハー……、おっし!」

 落ち着こうと、呼吸を繰り返し、やっと踏ん切りが付いた一夏は、部屋をノックしした。

 

『い…今開ける!』

 

 その声の後、ドタンバタンっと、こける音が聞こえ、少ししてドアが開いた。

「い、一夏…!」

「箒…。」

 部屋着姿の箒が出てきて、箒はカーッと顔を赤くした。

 すでに千冬から一夏とルームシェアすることになったことは聞いていたのだろう。

「は、入れ…。」

「ああ。」

 二人はやっと部屋に入った。

 離れて並んだベットに向かい合う形で座り、二人とも黙った。

「あのさ、箒…。」

「な、なんだ!」

「こういう同棲っての? 本当は、もっと準備してからちゃんとしたかったんだよな。」

「あ…ああ…、そうか…。もしかして、イヤだったか?」

「とんでもない!」

 俯く箒に、一夏がビックリしてそう否定した。

「ただ…、こんな早く実現するとは思わなくってな…。俺が迎えに行くつもりだったんだけど。」

「一夏…!」

 顔を上げた箒の目からポロッと涙がこぼれた。

「箒?」

「ふえ~ん…。」

 箒は、子供のように泣き出した。

 一夏は慌てて箒の傍に来て、箒を泣き止ませようとした。

「どうした? なんかイヤだったか?」

「ちがう~…。うれしくって…!」

 箒は嬉しさのあまりに泣いたのだ。

「私は今世界一幸せだ~!」

「おいおい、今そんなこと言ってたら、結婚したときどうすんだよ?」

「け、けけけけけ、結婚だと? そそそれは、幸せすぎて…死ぬ!」

「こら、死ぬなんて言うな!」

 一夏がかる~~~~く、ペシーンッと箒の頭を叩いた。

「箒が死んだら、俺が死ぬ!」

「それはダメだ!」

「じゃあ、お互いに死なない方向で。」

「う、うん!」

「いいな?」

「ああ…! もちろんだとも!」

「箒…。」

「っ…、い、一夏…。」

 一夏に抱きしめられ、箒は、一夏に身を寄せた。

 

 箒は、六年ぶりに取り戻せた幸せを噛みしめた。

 

 

 




箒アンチは、よく見かけるけど、一夏とラブラブな箒ってほとんど見たことがない気がする。私が見つけてないだけかもしれないが……。


次回は、セシリアとの決闘。


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SS5 白式と一夏

白式、涙目な展開かも……。


ISは、一夏にとって拘束具です。


 

 翌日、教室に行き、朝のSRの後、千冬が……。

「織斑。お前に、日本政府から専用機が配られることとなった。」

 途端、クラスの生徒達がざわついた。

 それを聞いて一夏は目を丸くした。

 専用機とは、その国の代表など、ある程度実力のある者にしか与えられることがない、数少ないISコアを使って開発された、文字通りの専用の機体のことだ。

 例えば、このクラスでなら、セシリアが持つ、ブルー・ティアーズなどが挙げられる。

「ただし…、あくまでも実験体としてだ。」

「…受け取らないって選択肢は?」

「ない。」

「なんか、そんな好待遇受けて良いのか、俺…。」

「お前は世界初の男のIS装者なのだから、この待遇も致し方ない。受け取れる物は受け取っておけ。」

「あー…。」

 周りからの羨む目を受けながら、一夏は、椅子にダラリッと背中を預けた。

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 一夏の専用機であるが、何やら準備が整っておらず、おそらくはセシリアとの決闘まで届かないという通達を受けた。

「だいじょうぶなのか?」

「すまんな…。今急ピッチで準備をしているそうだが…。」

「いや、織斑先生は悪くないって。それより、ISの特訓のことだけど……。」

「一夏! 私が相手をしてやる!」

「いやそれは止めとくよ。」

「なぜだ!?」

「いくら特訓って言ったって、箒を傷つけたくない。」

「い、一夏…。」

「では、放課後ならば、私が直々に指南してやろう。それでどうだ?」

「それって贔屓にならないか?」

「問題はない。あくまで私は教師。お前は生徒だ。ISの指導を求めるのならば、お前はどちらにせよ教師に頼んでいただろう?」

「……うん!」

 千冬がそう言って微笑んだのを見て、一夏は力強く頷いた。

「ただし! 手加減はせん!」

「それでいい! それが一番だ!」

「よく言った!」

 力強い一夏の言葉に、千冬はまた感激し、感涙した。

「泣きすぎだぜ、織斑先生……。」

 一々泣く千冬に、一夏は力が抜けたように言った。

 

 

 その後、体育館や、練習用アリーナなどで、破壊音が何度も響き渡ったり、地響きがしたりと……なんやかんやあったが、十日が過ぎた。

 

 

 そして、セシリアとの決闘の日を迎える。

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 そして、当日。

 ついに、一夏の専用機が届いた。

 本当にギリッギリッで。

「普通なら開発元にクレーム入れても不思議じゃないけどな…。」

「すまん、一夏…。」

「いや、だから織斑先生のせいじゃないって。」

「うむ…。とにかく時間がない、急いで装着し、フォーマットを始める。」

「間に合うのか?」

「…おそらく試合開始時間までに終わらんだろう。」

「試合開始時間を延ばすのは?」

「試合会場の貸し出し時間は決まっている。」

「そうか…。」

「すまん、一夏…。」

「だから、謝らないでくれよ。」

「まさか、フォーマットもせずに戦うのですか?」

 この場に来ていた箒が声を上げた。

「……仕方がないのだ。」

「それじゃあ一夏があまりにも不利だ!」

「けど、喧嘩を買った以上、ここで棄権するわけにはいかない。このまま行く。」

「そうか…。じゃあ、装着を始めろ。」

「分かった。」

 スタッフ達の力も借り、白き機体・白式を装着した。

 だが……。

「うわっ、窮屈!」

「我慢しろ。」

「打鉄をうっかり装備したときもそうだけど、ISってなんでこんな邪魔な感じなわけ!?」

「そう感じるのは、世界でお前だけだ…。」

 そして、装着が終わり、フォーマット処理を始めた状態で、一夏は、試合会場に出た。

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

「あら? 逃げずに来ましたのね?」

「あー、早く終わらせてぇ…。」

「まあ! なんですの! わたくしと戦うのがそこまでイヤですの!?」

「いや、そうじゃなくて…。」

 

『今回のルールは、特別ルールを開設! IS無しでも試合続行可能! ただし、生命の危険を判断した場合、速やかに試合中止とする!』

 

「な、なんですの!? そのルールは!」

「もしも、俺がISが邪魔すぎた場合、外してもいいってことだ。」

「あなた…、本気で?」

「おおよ!」

 

 そして、試合開始のブザーが鳴った。

 

「お別れですわ! 踊りなさい、ブルー・ティアーズ!」

「ふんっ!」

「なっ!?」

 放たれたレーザーを、一夏は気合い一発で弾き無効化した。

「あーもう! 邪魔くせぇ! 筋肉が締め付けられる感じだ!」

「ISに対してそこまで文句を言うのは、世界であなただけですわよ!」

「シッ!」

「きゃっ!」

 鋭い拳の一撃がセシリアのブルー・ティアーズのひとつを破壊した。

「す、素手で…。」

「くっそ…。力の半分も出ねぇ…。」

「これで!?」

 一夏の呟きに、セシリアが驚愕する。

 やがて、白式のフォーマットが完了した。

 一夏のセンサーに、武器の表示がされたが、一夏は無視した。

「あたたたたたたたたたたたたた!!」

「きゃあああああああああああ!」

 連続で繰り出される、拳の突きに、セシリアのブルー・ティアーズがどんどん破壊されていった。

「ぶ、ブルー・ティアーズは、六機あってよ!」

「それがどうしたーーー!」

「くっ!」

 一夏が拳を握りしめ、迫ったときだった。

 急に、一夏がグッと苦しげに声を漏らし、へたり込んだ。

「?」

 セシリアが怪訝に思ったときだった。

「やっぱ、邪魔!」

 途端、一夏は、白式を解除して放り捨てた。

「なっ!?」

 セシリアのみならず、観客席の生徒達も教師達も驚愕した。

 次の瞬間、一夏は、筋肉を膨張させ、ISスーツの上半身を破った。

「見せてやるよ……。俺が目指す、男の強さの象徴を!」

「し、死にたいのですか!?」

「行くぜ…。」

 一夏が拳を握りしめ構える。

 セシリアは、本能的にヤバいと感じて、下がった。

 そして、ミサイルを発射し、その衝撃で一夏を気絶させようとした。

 

「必殺………………ピストル拳!」

 

「えっ?」

 次の瞬間、放たれた巨大な拳の圧は、発射されたミサイルを打ち砕くだけじゃなく、セシリアに迫り、そしてセシリアは、吹き飛ばされた。

 吹き飛ばされる最中、セシリアはセンサーで、自分のシールドエネルギーの残量があっという間にゼロになっていくのを見て、そしてブルー・ティアーズが解除されたのを感じた後、試合会場のステージに投げ出され気絶した。

 

 

『勝者! 織斑一夏!』

 

「っしゃあ!!」

 一夏が両拳をあげて笑った。

 なお、試合終了のブザーと共に、放送席から勝者が誰かを告げる声が聞こえるまで、観客席はシーンっと静まりかえっていたのだった。

 

 




雪片使わず、拳のみで戦った一夏でした。

次回は、セシリアに変化が?


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SS6 一夏、協力者を得る

セシリア、陥落?

というかキャラ崩壊? 注意。


 

 セシリアは、保健室で目を覚ました。

「オルコットさん。」

「あ……。」

 目を覚ますと同時に、一夏の声が聞こえた。

「だいじょうぶか?」

「え、ええ…。わたくしは…。」

「オルコット。お前の負けだ。」

 千冬がそう告げた。

「わたくしは…、負けたのですね…。」

 セシリアは、両手で顔を覆った。

「…悪かったな。」

「なぜです?」

 謝罪を口する一夏に、セシリアが不思議そうに一夏を見て聞いた。

「俺…、筋肉のこととなるつい、カッとなっちまうんだ。だからその…、つい…。」

「いえ…、わたくしも言い過ぎましたわ。それにしても…驚きましたわ。まさか肉体ひとつでISの絶対防御を打ち砕くなんて…。」

「“絶対”ほど、信用できないものはないって思ってる。」

「お強いのですね…。」

「強くなったんだ。」

 そして一夏は拳を握り語る。

 

 この女尊男卑の世界において、男達の救済と変革をもたらすため、自分が男の強さの象徴となるために強くなろうと自分を鍛えに鍛え続けているのだと。

 

「すごい、目標ですわね。」

 セシリアは、どう反応したら良いか分からず、口元をひくつかせた。

 だが、なぜか嘲笑する気にはなれなかった。

 一夏ならばあるいは…っという確信めいたなものを感じたのだ。

「これで分かっただろう? ISを使えるからと言って強くなった気でいるのは、間違いなのだと。」

「はい。織斑先生。」

「…他の生徒達もそれが分かれば良いのだがな。」

 セシリアの返事を聞いてから、千冬は、少し遠い目をした。

 

 その後、セシリアは、千冬から、実は一夏のISがフォーマット処理中状態であったことを聞いて驚愕するのだった。

 

 そして、一夏の強さ、その努力に心打たれたセシリアは……、イギリス本国にある連絡をした。

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 翌日。

 箒と共に教室に入った一夏は、クラス内にいる生徒達がスマートフォンを手に、ざわついているのを見た。

「どうしたんだ?」

「あ、織斑君…。」

 近場にいた女子生徒に聞こうと話しかけると、スマートフォンの画面を見せられた。

 

 そこには、動画サイトが開かれており。

 そこに映し出されている動画は……。

 

「これは…。」

「オルコットとの試合じゃないか!」

 それは、観客席から撮影されたと思われる一夏とセシリアの決闘の映像だった。

 そして動画の最後には……。

 

『驚愕! 筋肉は“絶対”を打ち砕く希望か!?』

 

 っという英文や、日本語をはじめとした様々な言語で翻訳された、その言葉で締めくくられていた。

 なお、動画の下の方にあるネット市場の商品は、すべて筋肉に関わる物ばかりで埋め尽くされていた。

「こ、こんな動画あげられたら…、オルコットが…。」

 

「それは、わたくしがあげるよう指示したのですわ!」

 すると、セシリアが堂々と腰にあてて胸を張って大声で言った。

「オルコットさんが!?」

「セシリアと呼んでください!」

「じゃ、じゃあセシリア…。どういうこと?」

「わたくし…、これまで男とは、軟弱で女にすがりつくしか能が無い生き物だと思っていましたが、そんなわたくしの軟弱な考えは、一夏さんの、あの強烈な一撃で破壊されましたわ! そしてわたくしは考えたのです! どうすれば、一夏さんの掲げる目標を実現できるかを! そしてわたくしは、自分のスポンサーや本国のIS協会に進言しましたわ! わたくしと一夏さんの、あの試合を動画サイトにアップさせることを!」

「け、けど、それじゃあ…。」

「もちろん……、IS協会は難色を示しましたし、わたくしの地位も危険でしたが、政府はこの戦闘記録を見て相当な衝撃を受けたようでして、これまでのIS開発の見直しをすると検討しているそうですわ。」

「そ、そうか…。」

「そして…! 今、イギリスでは、空前絶後の、マッスルブームが来てましてよ!!」

 コレを見よと、セシリアがどこから出したのか、英国新聞をばらまいた。

 そこには、イギリス全土で、前代未聞のマッスル流行になっていることが書かれていた。

 

 マッスルブーム!?

 

 一夏と箒とセシリア以外の女子生徒達が一斉に声を上げた。

「今、筋力トレーニングジムの会員枠が埋まりすぎて、プロテインが不足していて、てんやわんやみたいですわよ。」

 

 そこまで!?

 

 一夏と箒とセシリア以外の心がひとつとなった。

「そこで一夏さん!」

「ん?」

「実はわたくしの食品関係のスポンサーや新聞記者から、CMに使う映像撮影と、写真撮影などをしたいという依頼が来ていまして…。」

「おお! そうか! なら断る理由はないな!」

「受けてくださいますか!?」

「もちろんだ!」

「ありがとうございます!」

 では、早速とセシリアは、スマートフォンを手にして、連絡をしていた。

「やったな、一夏!」

「おお! やっぱ男の強さの象徴になるには、まずメディアからだな!」

 

 ヤベェ……。

 

 クラスの女子達は思った。

 これまで自分達が虐げてきた男達が、一夏のようになって反撃してきたら、勝てるビジョンが見えないことを……。

 

 この男(織斑一夏)は、マジでやる男だ…!

 

 そして一夏が、本当に世界の今のパワーバランスを変えるほどの大物になるという確信めいたなものを感じたのだった。

 

 

 

 

 

 一方その頃……。

 

「ここがIS学園ね……。」

 

 ツインテールに、髪を束ねる髪飾りがついた少女が、IS学園の校門に来ていた。

 

「待ってなさいよ。一夏!」

 

 

 それは、新たな旋風。

 

 少女の名は、凰鈴音(ファン・リンイン)。

 かつて一夏の二人目の幼なじみだった少女だ。

 

 

 




セシリアは、一夏のファンになる。
あくまで女性として好意を寄せるというより、一夏という男の強さの象徴への憧れからのファンですね。なお、一夏には、同志となる友人達がいるのでファン1号ではない。


そして、鈴登場。


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SS7 一夏と鈴と…

クラス代表になる一夏。


そして鈴との再会。


 

「では、クラス代表は、織斑で異論は無いな?」

 

 ……なぜこうなった?っと、一夏は思った。

 

 確かにセシリアには勝ったが、勝った後はセシリアに代表の座を譲る気でいた。

 なのだが、それをセシリアが辞退し、自分より強い者がやるべきだと高々に言ってのけ、他の生徒達は何も言えず、そして一夏が代表を務めなければならなくなったのだ。

 セシリアは、すっかり一夏のファンになっていた。熱狂的な。

 クラスメイトとは仲良くなりたいとは思っていたが、酔狂されたいと思っていたんじゃない。

「なぜこうなった…。」

「いいではないか、一夏。嫌われるよりは。」

「まあ…そうだけど…。」

「一夏さん! 聞きまして! 隣のクラスに転校生が来たそうですわよ!」

 そこへ問題のセシリアが駆け寄ってきた。

「ああ、そう…。」

「なんでも中国からの代表候補生だそうですわよ。」

「へえ…。」

 中国と聞くと、思い出す。

 小学校時代、中国人を親に持つからと虐められていた少女がいた。

 もちろん一夏は彼女を助けた。

 それ以来、仲良くなった。しかし、彼女はやがていなくなってしまった。

 いなくなる前……。

 

 『毎日、酢豚を作ってあげる』っという、言葉を自分に言っていたのを覚えている。

 

「あれって…。」

 その意味が分からないほど、一夏は鈍感ではなかった。

 しかし、なにもややこしく言わなくてもっと、今更ながら思う。

 ところで、話を変えるが、クラス代表トーナメント戦では、優勝クラスには、デザートの半年分のフリーパス券があるらしいのだ。

 甘味は嫌いじゃないが、体作りのため控えめにしている一夏は、そこまでデザートがいいのか?っと思うところだ。

 耳を澄ませば、クラスの女子生徒達が、織斑君なら勝てるかもっとか、一組と四組くらいしか専用機がないとか話しているのが聞こえる。

「一組と、四組くらいって…、専用機だからって勝てるとは限らないだろ?」

 そう一夏が独り言を呟き机に突っ伏していると。

 

「その情報。古いよ。」

 

 すると、教室の戸が開いて、ツインテールの髪型の少女が入って来た。

「誰だ?」

「だ、だ、誰だって!? あんた、私を忘れたの!?」

「ん?」

 言われれば、見覚えがある面影があり、そして華奢な肢体から香るこの匂いは……。

「鈴(りん)?」

「そうよ、一夏! 私よ、凰鈴音よ!」

「久しぶりだなー!」

 一夏は立ち上がり、鈴に駆け寄った。

 鈴は、一夏を前にして、下から上までジロジロと見た。

「う~ん。成長したわね~?」

「おう。お前も背ぇ伸びたじゃねぇか。」

「相変わらず、筋トレしてるわけ?」

「おう。」

「イギリスのニュース見てびっくりしたわよ。」

「あ、見てたのか?」

「これでも中国の代表候補生よ。他の国のことは気にしなくっちゃ。」

「あ、転校生ってお前のことか。」

「一夏…。」

「あら、そっちは誰?」

「俺の幼なじみで、俺の彼女の箒だ。」

「あ、ああ…。」

「……ふーん。二組で聞いたわよ。人目もはばからずイチャついてるって。」

「そうか? 一緒にいるだけだぜ?」

「……。」

「……。」

 首を傾げる一夏。

 一方、鈴は、箒をジーッと見た。箒は居心地悪そうに俯いた。

 やがて、チャイムが鳴り、鈴は二組に戻っていった。

「どうした? 箒。」

「いや…なんでもない。」

 一夏が怪訝そうに聞くと、箒は俯いたまま首を横に振った。

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 そして、昼食時間になる。

「いっちかー!」

「鈴か。」

 鈴が手にしているお盆にラーメンを乗せた状態でやってきた。

「聞いたわよ。クラス代表になったんでしょ?」

「ああ…。そのことか…。」

「なに? 不本意なの?」

「本当はセシリアに譲るつもりだったんだ。だって、俺、ISについてはド素人だぜ?」

「けど、勝ったんでしょ? 勝ったんならやるっきゃないじゃない?」

「そうなんだよな…。」

「ねえ、……ソレ…、どうしたの?」

「ああ、俺専用の筋肉増強食(?)だ。」

「相変わらずねぇ。」

 一夏専用に作られた筋肉増強食(?)なる食事に、周りの生徒達の注目が集まっていた。

 一夏の前の席で、箒は、モソモソっときつねうどんの揚げを食んでいた。

「じゃあ、負けられないわね。」

「ん?」

「私、二組のクラス代表になったの。」

「そうか。おめでとう。」

「うふふー、当然でしょ!」

「け、けど…、一夏が勝つ!」

 ずっと黙っていた箒が言った。

「それは分からないわよ?」

「一夏が勝つ!」

「本人は、ド素人だって認めてるのに?」

「勝つと言ったら勝つんだ!」

「落ち着けよ、箒。」

「一夏…、お前は…。」

「箒?」

 ワナワナと震えた箒は、食べかけのきつねうどんを残して走り去って行ってしまった。

「箒!」

「別にいいじゃない。頭冷やさせなさいよ。」

「けど!」

「はあ……、相変わらずね。」

 鈴は、ヤレヤレと肩をすくめ、ため息を吐いた。

 一夏は、箒を探しに行ってしまった。

 その後ろ姿を見送り、鈴は再びため息を吐いたのだった。

「……つけいる隙…全然なさそうね。」

 そう呟いたのだった。

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 箒を探して、寮の部屋に入った一夏は、ベットの上で、布団を被って丸くなっている箒を見つけた。

「箒? どうしたんだよ?」

「来るな!」

「おい…。」

「私なんかより…、アイツと仲良くしてれば良い。」

「鈴とか? なんでだよ?」

「だって…。お前は、アイツのこと好き…。」

「ああ、好きだぜ。」

「っ!」

「けど、友達としてだ。箒への好きとは違う。」

「い…一夏…。」

 ゴソゴソっと、箒が涙でグシャグシャになった顔を出した。

「怖かったんだ…。」

「うん。」

「私…、ずっと怖かったんだ。」

「うん。」

「六年間…不安だった。」

「そうだったのか…。」

「国家機関によって、私の身柄が監視下に置かれて……、一夏が他の女に目移ししているかもって不安だった。」

「そうか…。」

「だから、ずっと不安だった。IS学園で一夏と再会するまで不安だったんだ…。けど再会できて、一夏も私を想っててくれていて、安心してたら…。」

「鈴が転校してきて、不安が爆発したってわけか。」

「怖かった…、怖かったんだ! ごめん、ごめんなさい…!」

「バカだなぁ…。」

「ば…!?」

「俺がそんな移り変わりするような男だと思ってたのか? 俺の方こそ、不安にさせてたのに気づいてやれなくて、ごめんな。お前の彼氏失格だよ。」

「そ、そんなことない!」

 ガバッと箒が飛び起きた。

「一夏は、最高の男だ! 私にはあまりにも、もったいない、男だ!」

「俺にとって、箒はもったいないくらい、一番だよ。」

「い、一夏ぁ…。」

「よしよーし。」

 泣きじゃくる箒を一夏が抱きしめ慰めた。

 

 

 




六年間も離ればなれになってたら、それも大人達の身勝手とかに振り回されりゃ、精神的にも不安定になるわなって、思って。それも思春期に。

このネタの一夏は、鈍感じゃない。


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SS8 一夏の特訓(?)

特訓っていうか…、ほとんど痛めつけですね。


 

 一夏と箒が仲違いしたという噂が広まり…、そしてその後、仲直りしたという噂がすぐに広まった。

 生徒達からしたら、なんやねん?って感じだ。

 噂の真相は、廊下を一緒に、仲良く手を繋いで歩いている一夏と箒を見ればすぐに分かる。

 箒がメッチャ鼻歌歌っている。

「箒。メッチャご機嫌だな。」

「当たり前だ! 私は改めて、一夏に恥じぬ妻になるべくだな…。」

 

 

 

 

「これが…三年も続くの?」

「もういや…。」

「ああもう……。」

 

 

 彼氏欲しい!!

 

 

 それは、年頃の女子達の切実な思いだった。

 

 そしたら、この幸せバカップルオーラを相殺できるのに…っと、涙ぐむのであった。

 

 関係ない話だが、三年生の卒業を控えている生徒達や、未婚の女性教師達による、結婚相談所への足運びや、出会い系サイトへのアクセスが急増したらしい。

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

「一夏~。」

 放課後、練習用に貸し出されたアリーナに、鈴が来た。

「どうした、鈴?」

「またお前か。」

「なによ、その反応は? あんた、ド素人でしょ? ISの動かし方教えてあげようかなって。」

「ああ、そのことなんだけど…。俺、それ必要ないわ。」

「ええっ!」

 さすがの鈴も驚いた。

「だって、邪魔なんだもん。」

「なによ、私は、親切で…。」

「そうじゃなくて、俺にとって、ISは拘束具みたいなもんなんだよ。筋肉の動きを邪魔して、マジで動きにくくてな。」

「そういえば…、動画で見たわよ。素手で倒したんでしょ?」

「わりぃな。せっかくの親切なのに。」

「けど、そしたらどうするの? どうやって特訓するわけ?」

「こうする。」

「行きますわ、一夏さん!」

「えっ?」

「おらあ、来いやぁぁぁあああ!!」

 筋肉を膨張させた一夏に向け、セシリアが、ブルー・ティアーズからミサイルを発射した。

 ドカーンボカーンっと、爆発が起こり、一夏が爆風に飲まれる。

「い、いいいい、一夏ーーーーーーーーーー!?」

「………………ふう…。」

 驚愕する鈴とは裏腹に、爆風が晴れると、ケロッとした一夏がいた。

「うっそぉ…。」

「すごいぞ、一夏!」

 愕然とする鈴とは反対に、目をキラキラさせて応援する箒。

「ふーむ…。やっと慣れてきたぜ…。」

「なれ…!?」

「では、お次はレーザー行きますわよ!」

「おう! 頼むぜ、セシリア!」

「ちょっ…。」

 鈴が止めるよりも早く、ブルー・ティアーズからレーザーが発射された。

 それを一夏は、ステップを踏みながらすべて避けていく。

 さらに散弾も避け、接近武器による攻撃も白羽取りで止めるなどの芸当を見せた。

「な、ななななな…。」

 一夏の特訓を見ていた鈴は、ただただ驚くしかなかった。

「ふう…。いい汗かいたぜ。ありがとな、セシリア。」

「お安いご用ですわ。」

 セシリアは、微笑みブルー・ティアーズを解除した。

 ぼう然と立ち尽くしている鈴の横を通り過ぎ、一夏は箒と共にアリーナから出て行った。

「どうしましたの?」

「……アレ…いつもやってんの?」

「ええ。クラス代表になってからですわ。」

「………………そう…。」

 鈴は、あの動画を思い出した。

 目の前にいるセシリアと戦っている映像。

 一夏は、邪魔だとISを解除して捨て、素手から放った巨大な拳の圧の一撃で専用機を倒しているのだ。

 

 どうしよう…っと、鈴は、だくっと汗をかいた。

 

 絶対に負ける気はないが、勝てるビジョンが薄れてきてしまった……。

 拳の圧と言えば、自分の専用機である、甲龍(シェンロン)の必殺武器である衝撃砲と被るところがある。

 空気圧でも、あっという間にブルー・ティアーズのシールドエネルギーを奪ったあの一撃の威力は、圧倒的に一夏の方が上なのは間違いない。あんなの喰らったら、IS無しだと確実に死ねる自信がある。

 ISのミサイルで無傷でいられる、あの強靱な筋力を誇る一夏の肉体に、どう対抗すればと…っと、鈴は思考の袋小路に入った。それは、アリーナの貸し出し時間が終わり、管理者から出て行くよう声をかけられるまで続いた。

 

 

 その後、別の練習用のアリーナで、鈴がクラスメイトを相手に、必死になって猛特訓している姿があったとか?

 

 

 

 




セシリアが協力。

鈴、勝てるビジョンが見えなくなる。


次回は、クラス対抗戦。


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SS9 クラス対抗戦!

vs鈴。


そして無人機。


最後に、鈴の初恋の清算。


 

 そしてついにクラス代表戦の日を迎えた。

 

「一夏! 体調は万全か!?」

「おう!」

「一夏さん…。」

「どうした?」

 セシリアが紙を片手に、何か言いにくそうな顔でやってきた。

「一回戦目の相手なのですが…。」

「それがどうした?」

「凰さんですわ。」

「鈴? ってことは、二組か。」

「いいのですか? いきなり代表候補生ですわよ?」

「いいってことよ。むしろ初戦から燃えるぜ!」

「さすが一夏だ!」

「まあ、一夏さん…。」

 

「無駄話は終わりだ。準備をしろ。」

 

 千冬が来て、そう告げた。

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 試合会場に、白式を装備して出る。

「待ってたわよ。一夏。」

「楽しみにしてるぜ、鈴。」

 鈴は、専用機・甲龍を装着した状態で出てきた。

 赤く、そして肩部分から浮かぶ甲龍と文字が書かれた浮遊する部位が、どこか龍の顔を思わせ、ブルー・ティアーズとは違う雄々しさを感じさせる。

「イギリスに勝ったからって、なめないでよ?」

「分かってるさ。」

「ふふふ…。」

「なんだよ?」

「ねえ、一夏賭けをしない?」

「なんだ?」

「私が勝ったら、箒抜きでデートして!」

「はあ?」

「分かった?」

「おいおい…。それは…。」

 

 やがて試合開始のブザーが鳴った。

 

「先手必勝!」

「チッ!」

 鈴は、大型ブレード、双天牙月(そうてんがげつ)で、斬りかかってきた。

「ふんっ!」

 それを白羽取りで止める。

「隙だらけよ!」

 そしてもう一本の大型ブレードを出し、がら空きになった胴体を狙う。

「むんっ!」

 バキンっ!

「なっ!?」

 次の瞬間、右手の手刀で受け止めていた大型ブレードをたたき折った。

 それに驚いた隙に、一夏が鋭い蹴りを鈴の腹部に決めた。

 鈴は吹っ飛び、しかしすぐに体勢を整える。

「や、やるわね…。」

「くっそぉ…。」

「?」

「やっぱ窮屈で力の半分もでねぇ…。」

「これで!?」

 鈴は思わずたたき折られた大型ブレードの折れた箇所と、一夏を交互に見た。

「仕方ないわね…。本気で行くわよ!」

「おう! 来いやぁぁぁあああ!!」

 来い来いと手で示す一夏。

 鈴はニヤリと凶悪に笑い、肩部分の浮遊しているパーツを口を開けるように開閉させた。

 カッと光が漏れ、次の瞬間、一夏の体に衝撃が当たった。

「むっ…、これは…。」

「あら? 倒れないのね…? もっと出力を上げた方が良かったかしら?」

「なるほど…、見えない弾丸か。」

「ええ、そうよ。ご名答。」

「俺のピストル拳と、どっちが強いか…試すか!?」

「さすがに真っ向から、それを受けるほど馬鹿じゃないわよ!」

「ピストル……。」

「! 来る…。」

「拳!」

 白式を装備した状態で放たれたピストル拳の圧は小さめだったが、鈴はそれを最速スピードで右に逸れつつ前に突進した。その結果、左肩の衝撃砲を放つためのパーツが壊れ、それを代償にしてピストル拳を放って大きく隙が出来た一夏に接近できた。

 決まった!っと、鈴は確信し、ブレードを抜き放ち一夏に斬りかかった。

 一夏に迫ったブレードだったが、寸前で止まった。

「なっ!?」

 一夏は、刃を指で挟んで止めていた。

「さすがだぜ、鈴。ピストル拳の隙を突くとはな。」

「ぐっ、くっ!」

 指で挟まれたブレードは、抜くことも押すこともできなかった。

「それに敬意を表するぜ。ピストル…。」

 鈴は、感じた。

 負けると。

 振り抜こうとした拳を目にして、鈴はグッと目を閉じた。

 

 

 次の瞬間、上空から試合会場のシールドを破って何かがステージに降ってきた。

 

 

「なっ!?」

「えっ!?」

 もうもうとステージを砕いた埃が舞う中、巨体が動いた。

 埃を晴らすように放たれた強力なビーム砲が二人に向けられた。

 咄嗟に二人は離れて、二人がいた場所をビーム砲が通り過ぎた。

「なんだ、ありゃ?」

 それは、異形だった。

 フルスキン。つまり全身装甲。

 それは、通常のISではほとんど見られない形状である。

 異様に長い腕といい、頭部もなく、肌のひとつも出してない形状は希だ。これほど気味の悪いISを見るのは初めてだ。

 頭部と思しき部分は酷い猫背状態で向けられた箇所にある、さきほどのビーム兵器を放つための発射口で分かった。腕と肩と一体化していて分からなかった。

 

『凰さん! 織斑くん! 今すぐアリーナから避難してください!』

 

「そうはいっても……。」

「逃がしてくれそうにないわね……。」

 ビーム兵器の発射口が完全にこちらに向けられており、背中を見せれば撃つと言わんばかりだ。

 

『織斑、凰! 聞こえるか!』

 

「なんだ?」

 

『今、避難活動をしているが、なぜか出入り口のシャッターが何者かに閉められ、現場は混乱している! 教師達が救援に向かいたいが、この通りシャッターのハッキングが解かれるまで動けない! その正体不明のISの足止めをしてくるか!?』

 

「…分かった! けどさ……。」

 一夏は、白式を解除して外した。

 そして、ゴッと拳と拳をぶつけ合わせた。

「ぶっ壊しても構わないよな?」

 

『……好きにしろ。ただし、殺すな。』

 

 放送の向こうで千冬が笑ったのを感じ、一夏は、ニヤリッと笑った。

 

「ほ…本気? さっきのビームの威力見たでしょ!?」

「それがどうした?」

「私がコイツの足止めするから、あんたは逃げて!」

「織斑先生からコイツのぶっ壊しの許可を貰ったんだ…、なら…。」

 一夏の筋肉が一気に膨張した。

「存分に相手してやんよ!!」

「も……もう! 知らないからね!」

 鈴はヤケクソになってブレードを構えた。

 キュインッとビームを溜める動作に入った謎のISが一夏に発射口を向けた。

「狙いは、俺か!」

「一夏!」

「頼むぜ、鈴!」

「え、ええ…!」

 そしてビームが放たれる。

 一夏は、横に走り避ける。謎のISが一夏を追うように動く。

「はあああああ!」

 鈴が背後を狙ってブレードを振り下ろす。だがそれを巨体からは想像も出来ない速度で、まるで後ろに目がついてるのでは?っと思うほど正確に避けた。

「そんなっ!?」

 一夏に迫った謎のISが一夏が大きく長い腕を振り下ろした。

 それを避け、一夏は懐に入り込み、腹部に強烈な打撃を与えた。

「ん?」

 殴ったとき、一夏は、不信に感じた。

「おい、鈴!」

「なに!?」

「コイツ…、誰も乗ってねぇ!」

「なにそれ!? そんなわけないじゃない!」

「この感触は、機械しか入ってない感触だ! コイツは無人だぜ!」

「あり得ないわ!」

 鈴が即座に否定した。

「いいや…、コイツは無人だぜ!」

 一夏が再び振られてきた腕を受け止め、そして掴み、根元辺りから手刀でたたき折った。

 バチバチと内部が露出した。そこには生身のナの字も無い。コードや関節を支える金属の筋が入っていた。

「うそ…。」

 鈴はそれを見て、本当に無人機であることを知った。

「なら、遠慮はいらないな! ぶち壊す!! 鈴! 離れろ!」

「!」

 鈴は咄嗟にステージの端に逃れた。

「ピストル拳!」

 ISという拘束具もなく、リミッター解除をして放たれた強大な拳の圧が、無人機のISを粉砕した。

 バラバラと、構成していた部品が散らばり、そして、コアがコンコロリンっとステージに落ちて転がった。

「っしゃあ!」

「す、すごい……。」

 一撃で強力な無人機のISを破壊してのけた一夏に、鈴は汗をかき、ゴクリッと息を飲んだ。

 

 やがて、シャッターのハッキングが解かれたのか、教師の救援部隊が駆けつけ、粉々になった謎のISを見て目を丸くしていた。

 

 

 クラス対抗戦は、謎のISの襲来により、中止となった。

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 その後、一夏が破壊した謎のISのコアは学園側に回収され解析となった。

 一夏は念のため保健室で怪我を見てもらえと言われ、渋々保健室へ。

「一夏…。」

「鈴か。どうした?」

「あのね…。ちょっと話があるの。」

「……おう。」

 モジモジとする鈴がそう言って一夏を屋上へ呼んだ。

「あのね……。私は、あんたのこと…好き。もちろん、男女のアレの意味で。」

「…知ってた。」

「そう…、って、いつから!?」

「『毎日、酢豚を作ってあげる』。あれって、そういう意味だろ?」

「覚えてたんだ…。」

 鈴はカーッと顔を赤くした。

「けど……。」

「分かってるわ。だから言いたかったの。」

「鈴…。」

「初恋だったんだ。だから、諦めきれなかった。だから、試合前にあんなこと言ってごめん。」

 あんなこととは、鈴が勝ったら、箒抜きでデートしろと言ったアレだ。

「びっくりしたぜ? アレは…。」

「ごめんごめん。動揺を誘いたかったんじゃないの。ただ諦めきれなくて…何か口実が欲しくって…。本当に…ごめん。」

 鈴の目かが涙がこぼれ落ちた。

「箒のこと……、ちゃんと幸せにしなさいよ!」

「もちろんだ。」

「……うん。うん!」

 鈴は、グシグシと乱暴に腕で涙を拭うと顔を上げ、ニッと笑った。

「これからは、友達よ!」

「ああ、よろしくな、鈴。」

 そう言ってお互いに笑顔で握手をした。

 

 

 こうして、鈴は、初恋を清算したのだった。

 




ISの戦闘描写ムッチャ難しい!
Fateより書き難い!

無人機は、粉砕。


そして、一夏に告白し、初恋を清算した鈴は、これからは友人として仲良くします。


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SS10 一夏の数日間

一夏の友人の一人、弾登場。
あと、蘭も。

数馬は、まだ決めてない。けど弾と似たような感じにするかも。


最後にシャル登場。


 

 一夏は燃えていた。

 っというのも……。

「一夏……。」

「箒……。」

 

 カレンダーには、クラス別個人トーナメント戦のことが記されている。

 

 クラス対抗戦は中止になったが、来月行われる予定のソレには、様々なスカウトマンや、スポンサー、果ては、政府機関のお偉いさんも来る一大イベントだった。

「俺は…、勝ち抜くぜ!」

「頑張れ、一夏!」

 これは、一夏が男の強さの象徴となり、世の男達に発破をかける大きなきっかけになりそうな重大なイベントだった。

 セシリアの仲介でイギリスでスポンサーを少しだけCMや新聞の一部の見出しに写真掲載されたが、それでは足りない。

 世界中のスポンサーや、お偉いさん方が来るならまたとないチャンスであるのだ!

 もちろん……、今の社会の風潮では、自分の存在はむしろ疎ましがられているだろうから、取り上げて貰える可能性は低いだろうが、だが何もしないわけにはいかない。

 何もしないのは、死んでるも同じだ。

 それが一夏の考えだった。

 自分で決めたのだ。世界を変えようと。今の世界のパワーバランスを嘆いたのなら、変えればいいと。そのために鍛えに鍛えてきた。

「一夏。お前ならやれる! 私は信じている!」

 箒が気合いを込めるように言う。

 一夏は、気合いを入れてこれからも特訓していこうと、筋トレのスピードをあげた。

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 後日、千冬から新しいISスーツを渡された。

「これは?」

「お前は、いちいち服を破るのでな。企業が破れないISスーツを開発したのだ。」

「えー? じゃあ、窮屈じゃ…。」

「まあ、着てみろ。そして筋肉を使ってみろ。」

 言われて渋々着替え、リミッター解除をしてみる。すると……。

「おお! これは!」

「どうやらうまくいっているようだな。収縮性に特化した素材を使った特別製だ。これからはソレを使え。さすがに毎回上半身裸は、女子生徒達からのクレームで目に毒だと……。」

「なんだよ、筋肉の何が悪いってんだ?」

「年頃の娘共には、男の裸体は刺激が強いのだ。ふっ、この素晴らしい腹筋を理解せんとは…、まだまだケツの青い奴らめ。」

「撫でるなって。」

 腹出しのスーツなので、一夏の鍛え抜かれた腹筋を撫で触り、うっとりする千冬に、一夏がツッコんだ。

「ああ、それと、白式をおまえの筋肉の仕様に合わせるよう問い合わせをしているぞ。」

「それって、リミッター解除をしても対応できるようにするってことか?」

 千冬が言うには、なぜISが一夏の体に適応できないのか、その理由を簡潔にまとめると、一夏の肉体にISの処理が追いつけていないためだろうと考えられるそうだ。

 しかもIS・白式は、刀一本に依存した欠陥機で、それのせいもあって処理ができていない可能性が高いとみられているそうだ。

「そのためには、近いうちにお前の肉体のデータが必要になるだろう。その時は一緒に行くぞ。」

「分かった。」

 だが、その時、ビリッとスーツが弾けるように破れた。

「あっ。」

「……開発元に言わんとな。耐久性に問題があると。」

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 さらに、後日。

「ふう……。」

「食ったなぁ。相変わらずの食欲じゃねぇかよ。」

 彼の前には、引き締まった体の青少年が小さな机を挟んで座っている。

 五反田弾(ごたんだだん)。中学校からの一夏の友人の一人だ。

 今、一夏は、休日を利用し、IS学園の外に外出して、弾の家、というか食堂に来ていた。

 一夏には及ばないが、弾もまた一夏の男の強さの象徴になろうという考えに同調した同志である。そのため、学業と実家の料理の修業をしつつ、筋トレにも励んでおり、その体躯は、同じ青少年を遙かに上回るほど大きく成長した。聞くところによると高校に入学した途端、運動部からの勧誘がすごかったそうだ。

 本当は、箒も連れてきたかったが、箒は、篠ノ之束の妹とあって、危険があるため許可が下りなかったのだ。もし許可が下りる場合は、国家機関の息がかかった護衛と監視者付きでないとダメだろう。

 箒は一緒に行けないことを寂しそうにしていたが、久しぶりに友達に会いに行くのだから楽しんでこいと言って笑顔で送り出してくれた。

「腕上げたな、弾。」

「おう! けど、爺ちゃんにはまだまだ及ばねぇな…。」

「相変わらず中華鍋ふたつ振ってんのか?」

「ああ。80にもなるってのに。」

 弾の祖父は、現役の料理人である。肌は浅黒く、筋肉隆々。厳(げん)と言うのだが、その名の通りかなり厳しい爺さんで、特に食事のマナーには厳しい。姉しか親類がいない一夏にとって、食事のマナーなど身近なしつけをして貰ったことのある恩人でもある。

 ちなみに今いない。

 

「ただいまー。」

 

「おかえり、蘭(らん)。手洗い、うがい忘れるなよ?」

「分かってるよ、もー。お兄はうるさいなぁ…。って、一夏…さん?」

「おう。蘭。お邪魔してるぜ。」

「お…お久しぶりです!」

「久しぶりってほどじゃないだろ? どうした?」

「いえ…。」

 モジモジとする蘭。その様子に兄である弾が、プッと吹き出した。

「お兄!」

「わりぃわりぃ。」

 弾がプププっと笑いながら、降参だと手を上げる。その様子に蘭はますます怒る。

「相変わらず仲が良いな。」

「そうか? お前んところの千冬さんも元気か?」

「ああ。相変わらずさ。」

「一夏さん…、IS学園での生活…どうですか?」

 蘭が恐る恐る聞いてきた。

「楽しいぜ。まあ、今まで共学の学校にしか行ってなかったら、そういう意味での不便はあるけど。」

「彼女出来たのか?」

「あ? な、なんだよ、急に…。」

「顔に書いてあるぜ。早く会いたいなって。」

「……六年前に離ればなれになった元彼女と再会できたんで、付き合いを再開したんだ。」

「おお! ドラマチック!」

「えっ!?」

 蘭は、ガーンッと衝撃を受けた。

「どんな人なんですか!?」

「蘭?」

「もしかして、鈴か?」

「いや、違う。」

 弾が聞くと、一夏は否定した。

「…ホッ……。」

 鈴じゃないと聞いて蘭はちょっと安心した。

「…事情があって名前は言えないけど、俺にはもったいない女の子だ。」

「ほー。」

「……た、体格ぐらい言えないんですか!」

「体格か……、ポニーテールが可愛くて、胸の成長がだいぶいいな。蘭よりあるぞ。」

「ガーン…!」

「巨乳、好きか?」

「いや、再会したときにはそれぐらいになってたんだよ。」

 一夏は、なんてことないように言った。

 蘭は、ショックで固まっていた。

「蘭?」

「おーい、帰ってこーい。」

「ハッ! うぅぅ! 一夏さんのバカーーーー!」

 蘭は泣きながら家の中に駆け込んでいった。

「はあ……。」

「わりぃな。アイツも悪気は無いんだ。」

「分かってる。むしろ俺の方が傷つけたんだ。」

「蘭には良い経験だっただろうさ。なにせ初恋破れるなんて、経験できたんだ。」

 変に恋心をこじらせて病むよりは圧倒的に良いと、弾は言った。

 

 

 こうして、蘭の初恋は破れた。

 

 一夏が帰った後、泣きに泣いた蘭が部屋から出てきて。

 IS学園への入学を考え直すと言い出したのだった。

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 休日明けの、月曜日。

 季節外れの転校生が二人来るという話で持ちきりだった。

 一人は、フランス、一人は、ドイツ。

 ここはISの専門学校だ。それゆえに生徒達も非常に多国籍だ。

 

 しかし、問題は、フランス。

 

 

「シャルル・デュノアです。」

 

 入って来たのは、まさに貴公子という雰囲気を纏った、金髪の美しい“少年”だった。

 




弾は、原作より体格が良いのと、一夏からの影響もあって蘭に押し負けてません。対等な兄妹という設定のつもりで書きました。
蘭、初恋破れる。


とりあえず、現段階(2019/02/26)で書きためているのは、ここまでなので、しばらく間、開くかも。


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SS11 二人めの男!? っと、思いきや…?

結構、スランプ来てるかも……。
全然書けない…。


タイトル通りかも。シャルの男装は無理があるので早々にバレたことにしました。

あと、ラウラの一夏への対応が原作と違います。注意。


「気に入らねぇな。」

「一夏…。」

「貧弱すぎる!」

 

 シャルルが入って来てからのクラス中の女子達の、キャーっとか、ギャーっとかいう声は別にいい。

 一夏が気に入らないのは、シャルルの体格だ。

 

 ハッキリ言って、貧弱すぎる。

 いや、一夏と比べてはいけないが、それにしたって細すぎる。

 それが一夏は気に入らなかった。

 

 シャルルの自己紹介が終わると、次は、ドイツから来たという小柄な銀髪の少女の方の自己紹介となる。

 一夏は悶々としていて聞いてなかった。

 簡潔に自己紹介を終えたドイツからの転校生が近づいてきても気づいていなかった。

「お前が…。」

「……あっ?」

「お前が…教官の弟の織斑一夏か?」

「それがどうした? って、誰だよ?」

「!」

「一夏、一夏、ラウラだ。ラウラ・ボーデヴィッヒだ! さっき前で自己紹介していただろう!」

 慌てて箒がそう言った。

「ん? ああ、すまん、聞いてなかった。で、ボーデヴィッヒ、何のようだ?」

「会いたかったぞ!!」

「うお!」

「何をしている貴様ーーー!」

 いきなりラウラに抱きつかれ、一夏は困惑の声を上げ、箒は席を立ち上がり怒った。

「私は、一目でもいいからお前と会いたかったのだ! 教官の自慢の弟君と! こうして会えて、私は感激している!」

「そ、そうか…。分かったから、離れてくれないか?」

「ううむ、教官の話に違わぬ素晴らしい肉体だ! 実に素晴らしいぞ!」

 ラウラは、聞かず、ベタベタと一夏の体を触りまくる。

「いい加減にしろ、ボーデヴィッヒ!」

「きょ、教官! 申し訳ありません! つい!」

 千冬からの怒声を受けると、パッと一夏から離れビシッと敬礼のポーズを取るラウラ。

「教官ではない。織斑先生と呼べ。とにかく席に着け。」

「はい!」

 力強く返事をしたラウラは、自分の席に着いた。

 一夏は、ヤレヤレとため息を吐いた。

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

「織斑くーん、織斑くーーん! 助けてーー!!」

 休み時間になり、声をかけられて振り返ると、シャルルが走ってきた。そのシャルルの後ろには女子達の大軍。どうやら、逃げてきたらしい。

 シャルルは、一夏が立ち止まるや否や、その背中に隠れた。

「デュノアくーん、織斑君といたらダメだって言ったじゃない!」

「そうだよ、筋肉が移るよ!」

「あっ?」

「あ! ごめ…。」

 筋肉を悪く言われると一夏が豹変することをうっかり忘れていた女子達は、青ざめ、慌てて謝罪しようとしたが遅い。

「ほっほう? 筋肉の何が悪いのか聞かせて貰おうか?」

「ご、ごめーーん!」

 ゴキッと手を鳴らした一夏に、女子達は一斉に逃げ出した。

 一夏の後ろに隠れていたシャルルがホッと息を吐いていた。

「おい、デュノア。」

「ご、ごめん。」

 一夏が後ろにいるシャルルを見ると、シャルルは慌てて謝ってきた。

「まあいい。じゃあな。」

「あ、あの…!」

「なんだよ?」

「同じ男同士なんだし、仲良くなろうよ。」

「おまえ、そう言って、俺を盾にする気じゃないだろうな?」

「う…それは…。」

「まあ、いいけど。それよかお前さぁ……。」

「なに?」

「貧弱すぎる!」

「うぇぇ!?」

 一夏に腕を掴まれ、腕を揉まれて、シャルルは、困惑した。

「多少は鍛えてるっぽいが、この程度の筋肉で満足しているんじゃないだろうな!?」

「えっ…えっ?」

「ちょっと、来い!」

「うわわ!」

 そのまま腕を掴まれ引っ張られていった。

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 連れてこられたのは、一夏と箒の部屋。

「ほれ、コレ。お古だが、使えよ。」

「なに、コレ?」

「筋肉増強ギアだ。」

「えっ?」

 出されたのは、いあゆる筋肉トレーニング用具(手作り)。

「まあ、採寸あわせしないといけないから、脱げ。」

「えっ、それは…。」

「いいから脱げ、男同士なんだから! 俺はな、お前を一目見たとこから気に入らなかったんだよ。この貧弱な体が!」

「いや! やめて、やめて!!」

「……なーんちゃってな。」

 メチャクチャ自分の胸を抱きしめて嫌がっていたシャルルから、急に一夏は手を離した。

 涙目だったシャルルは、不思議そうに一夏を見た。

「おまえ…女だろ?」

「えっ…。まさか…。」

「悪かったな。怖かったろ?」

 パッと一夏はシャルルから距離を取った。

「いつから?」

「教室に入ってきてのを見たときからだ。」

「ひ、一目で!?」

「筋肉はおろか、骨格も女じゃねぇか。うまいこと胸は隠してるが、キツイだろ? さっき触ったときに鉄板の感触があったぞ。」

「うっ…。」

「まあ、たまに体質的にどっちでもない奴もいるけど、おまえはハッキリしてるんだよ。女の体だってな。」

「う、うう…。」

「それで? 目的は俺か?」

「そ、そうだよ…。僕は男性IS装者のデータを集めてこいって命令されて…。」

 それを聞いた一夏は、ヤレヤレとため息を吐いた。

「お前さ…、おかしいとか思わなかったのか?」

「な、なにが?」

「普通、男のIS装者が現れたら世間がほっとくかよ。俺の時だってかなりの大騒ぎだぜ? 見て聞いてなかったはずないだろ?」

「それは…。」

「それに、IS学園ほどの機関が、そんな無理のある履歴を見逃すと思うか?」

「え…、あ…。」

「それで? どうすんだよ、織斑先生。」

「えっ!?」

 

 すると、部屋の戸が開いた。

 そこには、千冬が立っていた。

 

「うむ、すまんな一夏。」

「あ、ああ…。」

 シャルルは、ガタガタと震えた。

「デュノア。一緒に来てもらうぞ。」

「おっと、ISを使おうだなんてするなよ? 罪が重くなるからな?」

「うっ!」

 待機状態のISを一夏に奪われ、シャルルは抵抗する術を失った。

 そしてシャルルは、床にがっくりと項垂れた。

 

 そして、シャルルは千冬に連行されていった。

 当然だが、その日からシャルルはいなくなり、女子達は一夏が何かしたと騒いでいたが、一夏は普段通り振る舞った。

 

 

 

 ところが、後日……。

 

「シャルル改め…、シャルロット・デュノアです。」

 

 本来の性別と、本名で戻ってきた。

 実は男装女子だったことを知って、そりゃもう女子達が絶望の声を上げたが、中性的なのは変わりないし、僕っ子なので、新たなポイントを見つけて喜ぶ者達もいたりと、てんやわんやだった。

 一方、箒は男の装者の登場で部屋を変えられる可能性を危惧していたのが徒労に終わり、ホッとしていた。

 

「織斑君!」

「なんだ?」

 休憩時間に、シャルル改め、シャルロットが話しかけてきた。

「あの…、この間はごめん!」

 そう言って頭を下げてきた。

「別にいいさ。それより、無事でよかったよ。」

「心配してくれたんだね。」

「ああ。すぐに発覚したとはいえ、フランス側も、お前の実家も罪は逃れられないって思ってたからな。」

「うん…。あの時、君が僕からISを奪ってなかったら、君を人質にしてでもって…動いてたかもしれないんだ。あれ以上罪が重なってたら、僕……。」

「よかったな。シャルロット・デュノア。」

「あの! それでなんだけど!」

「ん?」

「僕と友達になってください!」

「なにぃ!!」

 一夏の近くにいた箒が絶叫した。

「あ、もちろん、篠ノ之さんと付き合ってるのは知ってるよ。だから普通のお友達として! 変な意味はないから安心してよ。」

「そうか。なら、よろしくな、デュノア。」

「よろしく!」

 そう言って二人は笑顔で握手した。

 箒はヒヤヒヤしていたが、シャルロットに本当に恋心とかそういうのが無いのを理解すると、ホッとしたのだった。

 

 だが。

 

「織斑一夏!」

「また、お前か。」

「今日は、尻を触らせてくれ!」

「お前な、場を弁えろ!」

 

 ラウラがすっかり、一夏の筋肉の虜になってて、ことあるごとに触らせろと言ってくるようなったのだ。

 箒は、しまったと思ったときには、ラウラは、一夏の尻の肉を触っていた。

 

「ボーデヴィッヒ! 私の許可無く一夏の筋肉を撫で触るとはどういう了見だ! 私も触るぞ!」

「織斑先生も自重しろ!」

 最近じゃ、ラウラに感化されたのか千冬も自重しなくなった。

 なので、千冬のイメージぶっ壊れは防げず、すっかりブラコン、かつ筋肉好きが通ってしまい、それでもファンはいるのだから不思議なもんだ。

 

 ところで、この後、シャルロットから、実家のデュノア社がIS開発の業務収縮の代わりに、イギリスのマッスルブームに乗っかって筋肉関係の食品やグッズ開発に着手することを決定したらしく、そのイメージキャラとして一夏に協力してもらえないかと依頼が来ていると言われ、断る理由も無い一夏はすぐに契約に乗ったのだった。

 だいぶ先の話になるが、一夏を起用したデュノア社はその後IS開発業務を廃止し、筋肉グッズなどで大成功を収め経営難から脱出するのは別の話である。

 

 

 




筋肉が好きっていうか、一夏の体が好きな千冬&ラウラです。

デュノア社をどうするか、考えて、IS開発業務から方向転換して筋肉グッズの開発に着手して、後々成功したということにしました。
あと、デュノア社長が一夏に感謝してぜひうちの娘の婿に!って展開も少し考えましたが、さすがにそりゃなしだっと思ったので辞めました。


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SS12 空を飛ぼう

完全にスランプに入ったっぽいので、これ投稿したら、しばらく空くかも。(とか言いつつ更新するかも)

今回は、ISの実技の授業。


 

 ISの実技授業。

 まあ、言葉通りだ。

 ISを実際に使い、実技の授業を行うのだが……。

「えーっと…、織斑君の専用機は、今現在、開発元に返却して調整中なのでありません。なので、皆さんと同じ量産機のISを使います。」

 っという、ことである。

 なので、現在進行形で一夏は丸腰だ。しかし、丸腰だからこそ恐ろしいことはもう周知の知だ。

「あの~、先生。」

「なんですか?」

「織斑君…、なんで水着なんですか?」

 そう、今、一夏は、今短パン型の水着一丁だ。

「ISスーツが間に合わなかったのだ。」

 千冬がそう言った。

「うむ、やはり、一夏の筋肉は美しいな!」

「自重しようぜ、織斑先生…。」

「はい、そうですね、教官!」

「織斑先生だ。馬鹿者!」

 ラウラまで加わり、腕組むしていた一夏が、ヤレヤレとため息を吐いた。

 箒とシャルロット、セシリア以外の女子生徒達が息を飲む。

 言われて改めて見れば、確かにすごい。

 無駄なく鍛えられた筋肉は美しく隆起していて、リミッター解除をして無駄なぐらい膨張させなければ美術品も脱兎で逃げ出しそうなほどの美しさだ。

 手足の体毛も薄く、太すぎず、だが細すぎない手足も割れた腹筋も、そんじょそこらの男にはない、つい見惚れてしまいそうなほどの代物だ。

 顔立ちだってもとより千冬によく似ているため、イケメンだ。だが、付きすぎた体の筋肉がバランスを悪くしている。

 これが細マッチョだったなら、最高だっただろうな…っと、多くの女子達は思っていた。

 しかし、一夏は妥協しない男。それは無理な話であった。

 そうして実技の授業が始まるが、問題が発生する。それは、一夏がいる班で、ISを立たせたまま解除してしまい、ISが直立状態になってしまったことだ。こうなってしまっては、誰かに運んで貰うしかないのだが…。

「織斑君のISがあればね。」

「こんなもん、こうすりゃいいだろ?」

「えっ?」

 一夏の専用機があれば、一夏に運んでもらうことでなんとかなったのだがと口にした女子生徒の言葉に一夏が急に、こうすればいいと言い出した。

 すると、一夏は、宙を飛んだ。

 いや、跳んだのだ。

 空気を蹴って。

「できるかーーーーー!!」

 っと、同じ班の女子生徒達が総ツッコミした。

「織斑! お前の班が一番遅れているぞ!」

「おっと、じゃあ、俺がこうやって運んでやるから一人ずつ来いよ。」

「えー…。」

 結局、一夏が空気を蹴って跳ぶことで打鉄に一人ずつ乗せることで実技が行われたのだった。

「…どうだった?」

「胸板、硬かったよ…。」

「汗臭くなかった?」

「ううん。全然。むしろ……、なんか良い匂いした。」

「えっ? 嘘…。」

 などと抱っこされて運ばれた女子生徒が、ヒソヒソと別の班の女子生徒に話をしていたのだった。そして、その姿を見つけた千冬に授業に集中しろと怒られていた。

 そんなこんなで、ISを使った実技の授業は進んだ。

 

「一夏。窮屈だろうが我慢しろ。」

「分かってますって。」

 ISを使った空を飛ぶ実習になる。

 セシリアが自身の専用機・ブルー・ティアーズを展開し空へ飛んで見本を見せる。

 それに習って一夏も打鉄を展開して、窮屈さを我慢しながら空へと飛ぶ。

「行きすぎだ馬鹿者!」

「うぉっととと!」

 無線で怒られ、慌てて降下するが、今度は降下速度が速すぎて一夏は地面に激突した。

「馬鹿者! 地面に激突するな! 空いた穴はお前が埋めろ! 篠ノ之も手助けはするな!」

「へ~い。」

「一夏…。」

 地面に空いた大穴から這い出てきた一夏がケロっとした顔でそう返事をし、箒はヒヤヒヤ状態で見ていた。

「それで? やはり窮屈か?」

「うん…。空気を蹴って跳ぶのとまるで違うからな。」

 

 当たり前だろ!

 

 っと、女子生徒達は心の中でツッコんだ。

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 その後、白式が返ってきた。

 

 一夏の肉体に対応できるよう処理速度を上げるよう調整したらしいが、相変わらず刀一本しか使えないらしく、欠陥機であることには変わりないらしい。

「刀に容量が取られてるなら、刀無しにすりゃいいだろ?」

「それができないから困っているのですよ…。」

「俺、刀使わないし。」

「それはそれで困りますよ。」

 っと、開発元の企業・倉持技研のスタッフが困った顔で言う。

「実験機とはいえ、なんでこんな代物を俺に?」

「それは…、申し訳ありません。」

「…まあ、世の中に467個しかないコアだ。その貴重な1個を俺みたいなペーペーに貸してくれただけでもとんでもないことだからな。贅沢は言えないな。」

「いえいえ、本当に申し訳ないです。」

「とりあえず、試してみたらどうだ? それを装備してリミッター解除ができるならば、問題はないだろう。」

「ああ。やってみる。」

 千冬に促されて、一夏は、白式を展開した。

 そして、感じた。

「うん? 確かに窮屈さはだいぶ無くなったな…けど…。」

「どうした?」

「リミッター解除したいが…、ギチギチいってる…。」

「ああ! やめてください! このままじゃ内部崩壊を起こしてしまいます!」

「まったく問題が解決していないじゃないか!」

「そうは言われましても…。」

 千冬にガーッと怒られ、スタッフは萎縮した。

 結局、問題は解決せず、一夏が倉持技研に直接いくことで、肉体のデータを取って、それで調整しようということになった。

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 後日行われることになった実技の授業は、二組との合同だった。

 一夏は、前日と変わらず水着一丁。二組の女子生徒達からの視線がメッチャ集まる。

 幼なじみで、初恋を清算し友人となった鈴はメッチャ自慢していた。

 

「どいてくださ~~~い!」

 

 そこにIS・打鉄と同様の量産機のIS・ラファールを身につけた山田が飛んできた。暴走してしまっているようだ。

 一斉に逃げる生徒達。だが一夏は逃げず、相撲取りみたいに構えて、突進してきた山田を受け止めた。もちろんISを使わず、生身で。

「だいじょうぶですか?」

「あ、ありがとう。織斑君。」

「気をつけてくださいよ。貴女は仮にも生徒の見本となる教師なのですから。」

「は、はいぃ…。」

 一夏からの言葉に、山田は落ち込んだ。

 そして、千冬が山田が元代表候補生だから、試しに戦ってみろと、セシリアと鈴を指名した。

 さすがに現役の代表候補生を二人相手には、分が悪いのでは?っと誰もが思ったが、、すぐにその考えは覆された。

 さすが世界のIS学園。教師のISの実技力の極めて高い。

 もとよりクラスも違い、かつ所属国も違う専用機持ち同士。連携が取れるはずがなく、それを利用されて相打ちを狙われ、山田一人に二人は負けた。

 戦いを見ていた女子生徒達が、ぼう然とする中、一夏はウズウズしていた。

「一夏…、悪いことは言わない。やめろ。」

 察した箒が思わず止めた。

「山田先生!」

「は、はひぃ!?」

「ぜひ、俺と戦ってくれ!」

「えっ!? それは、ちょっ…。」

 箒の制止を振り切り、山田に戦ってくれと鼻息荒く言う一夏に、山田は青ざめてオロオロとした。

 ラファールの性能が良いとはいえ、セシリアを生身で倒し、クラス対抗戦で現れた謎のISの無人機を一撃で破壊した一夏だ。いくら技量が高くても勝てるビジョンが見えない。

 山田は、千冬に助けを求めて視線を向けた。

「うまく飛べるようなったら許可せんことはない。」

「! くっそー!」

 ISで空を飛べることが条件だと言われ、一夏は悔しがった。

 とりあえず一夏と戦わずにすみ、山田は安堵したのだった。

 




ポイント。許可はせんことはない。するとは言っていない。
空気蹴って跳ぶのは、滞空時間がないので一夏は空中戦は不得意かも。
けど、順応性は高いから……。うん。


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SS13 一夏と箒と、唐揚げと

スランプとか言いつつ、書けるだけ書く。

今回は、甘~い一夏×箒を目指しました。一夏のために頑張る可愛い箒が書きたかった…。

けど、筆者の技量ではこの程度…。


 

 その日の昼食タイム。

 場所は、屋上。

「あーん。」

 箒が箸で摘まんだ唐揚げを、一夏の口に入れた。

 バクッと一夏がその唐揚げを口に含み、モグモグと噛みしめ、飲み込む。

「…美味い!」

「そうか! よかった!」

 今日は、食堂ではなく、箒の手料理のお弁当でお昼ご飯にしていた。

 高タンパク質な胸肉の唐揚げの他に、だし巻き卵、きんぴらゴボウ等など、和食を基調としたお弁当。なお、一夏の分は、箒の倍以上デカい。

「い、一番の自信作だったんだ。口に合ってよかった。」

「今までで食った唐揚げで一番だぜ。」

「そ、そうか!」

「あー、箒を嫁にしたら、こういう美味い飯が毎日食えるのか~。楽しみだ!」

「一夏…!」

 ガツガツと弁当を貪る一夏の言葉に、箒がカーッと赤くなる。

「わ、私は…お前の嫁にふさわしいか?」

「当たり前だろ?」

「そうか…よかった。」

「なあ、箒、リクエストするけどいいか?」

「なんだ?」

「爆弾むすびっての? また作ってくれよ。」

「そんなもの作ったことかあるか?」

「ほら、六年前……。」

「あ…。」

 箒は思い出す。

 六年前、まだ国家機関の監視下に置かれる前、一夏に初めてふるまった、こ汚い下手な料理。それがご飯に色んな具を詰めて丸めて海苔を付けただけの、いわゆる爆弾おむすびだった。

 無駄に大きいばかりで、加減も分からず作ったのだが、二人で笑って食べた思い出を、箒は思い出した。

「あ、あんなのでいいのか?」

「あれがいいんだ。箒のこと思い出すたび、たまに作ってたんだぜ?」

「一夏…。」

「なあ、いいだろ?」

「もちろんだ! 他にリクエストあったら、言ってくれ!」

「そうだな~。」

 箒は、一夏からのリクエストを、素早くメモしていった。絶対に聞き逃さない!っという勢いだ。

 

「仲良いのはいいわね~。」

「篠ノ之さん、幸せそうですわ。」

「こっちが恥ずかしくなるね。」

 

「なぜ、いる?」

 三人の声を聞いて、箒が振り返る。

「今日は天気良いから、食堂でバスケットもらって屋上で食べようかなって思っただけよ?」

「わたくしもですわ。」

「僕もだよ。」

「いつからいた?」

「唐揚げ食わせてもらった時からだぜ。」

 一夏がそう言った瞬間、箒はぐわーっと真っ赤になった。そして、顔を手で覆って、俯いた。

 ところで、実は屋上(広い)には、チラホラと他にも生徒がいたのだが…、言うべきかどうするか、一夏は悩んだ。

 チラッと見ると、鈴がジェスチャーで、言うなっと一夏に伝えてきた。なので言わないことにした。

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 休日。

 

「…美味いな。」

「新作って、口に合わないことも多いけど、コレは当たりだな。」

 一夏は、箒と共に駅前の全国チェーンカフェ店に来ていた(ス●バみたいなとこ)。

 いわゆるデートだ。

 箒の身元の都合で、あまり出回れないので、駅前のカフェでコーヒーと甘い物でもという簡単なお出かけだ。

 箒は、ホイップミルクがたっぷりのラテを。一夏は新作シリーズを注文して買った。

「こういうのを飲むのは久しぶりだ。」

「そうなのか?」

「ああ…。こういう店には入れなくてな。」

「…そうか。」

 箒は束の身内であるため、こういう一目のつく場所に来ることすらできなかったのだ。

 なお、デートするにあたり、国家機関の息がかかった監視役や護衛役が回りに普通の人に紛れている。私服なので分かりにくいが、分かる人間には分かるだろう。

 箒が、チラチラと、レジカウンター横にある、コーヒーに合うであろう焼き菓子や、ケーキなどが並んだケースを見ていた。

「なんか食いたいのか?」

「えっ、あ…。別に…。」

「小遣いが気になるなら、俺が払うよ。好きなの食えばいい。」

「い、いいのか?」

「ああ。こういう時ぐらい好きなの食わなきゃな。」

「じゃ…じゃあ、あのケーキがいい。」

「良し。じゃあ買ってきてやるよ。」

 そう言って一夏が席を立ってレジに行った。

 箒が、ウズウズと待っていると……。

「お嬢ちゃん、可愛いね。遊ばねぇ?」

「なんだ、貴様ら!」

 そこにいかにもガラの悪そうな連中が箒に声をかけた。

「今から俺達と遊ばねぇ? 彼氏なんて置いてってよぉ。」

「行かん!」

「そう言わずにさぁ。」

「やめろ、触るな!」

 

「な~に、やってんだ?」

 

「あっ?」

 箒の腕を掴んだ一人が、急に肩をポンッと叩かれて、振り返る。そして青ざめる。

「お、おまえ…。」

「人の彼女に何してんのかなぁ? お前ら?」

 一夏は、血管浮かせてニッコニコである。

「やべえ! 織斑だ! 織斑一夏だ! 逃げっぞ! 殺される!」

 一人がそう叫ぶと、全員逃げていった。

 実は、彼ら、中学時代に、一夏に潰された暴走族の一員だった者達だった。

「ったく、あんなのがいるから、男の地位がますます悪くなんだ。箒、だいじょうぶか?」

「ああ。」

「ほら、買ってきたぞ。食え。」

「あ、ああ…。」

 お盆に乗った皿には、季節限定のケーキが乗っている。

 箒は、ジーッとケーキを見つめていた。

「どうした? 食わないのか?」

「あ、…いや。食べるのがもったいないような気がして…。こういうのを食べるのも、ホント久しぶりなんだ。」

「別に珍しくないだろ。“これから”は。」

「あっ…。」

 一夏がフォークでケーキを一口大に切り取り、フォークに乗せた。

「ほら、アーン。」

「!」

 ケーキが乗ったフォークを差し出され、箒は真っ赤になった。

「ほら、食わないと、俺が全部食っちゃうぞ?」

「た、食べる!」

 観念した箒が口を開けた。

 その口の中に、優しく一夏はフォークを入れ、箒はフォークの上のケーキを食べた。

「…美味い。」

「今度は、もっと洒落たとこ行こうぜ。ケーキとコーヒーが美味い店。探すから。あ、コーヒーがイヤならジュースが美味い店でもいいし。軽食が美味いところでも…。」

「うん!」

 箒は、口の中に広がったケーキの濃厚な甘みを味わい、ホイップミルクがたっぷり入ったコーヒーのまろやかな苦みで流し込みながら、嬉しそうに頷いた。

 

 ああ、幸せだ…。

 っと、箒はただただそう感じていた。

 

 

 

 




箒って、たぶん、ス●バみたいなカフェとか、そういう洒落た店にほとんど行ったことないんじゃないかな?っと勝手に妄想。6年間も監視下に置かれてあっちこっち移転させられたりしてますからね。

あと、爆弾おむすびの話は、完全なる捏造です。


あと、このネタの一夏は、恋人にはとことん甘やかす感じに…したかった。できたかどうか分からないけど。

今回は、箒にラテとケーキ食べさせてますが、インフィニット・ストラトスのキャラ達の食べ物の好き嫌いが分からん!
どうしよう…。


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SS14 射撃訓練

サブタイトル通り。

前半は、一夏が白式に文句。白式、涙目。


後半は、シャルロットに射撃訓練を教えてもらうが…?



 

 ISの装備は、おおまかに分けて、近距離、中距離、遠距離と別れてくる。

 量産機でも調整すれば、ほぼその人の専用機のようにカスタマイズも可能だ。

 シャルロットが使っている、ラファール・リヴァイヴ・カスタムⅡなどは、その一例だ。容量が拡張されており、ちょっとした武器庫である。

 そして、一夏の白式であるが、これは、完全なる近距離専用機といえる状態の物であり、雪片弐型という刀と、第一形態でありながら、ISの第二形態で使えるワンオフアビリティという機能がある。

 なのだが…、肉体資本の一夏にはすこぶる相性が悪かった。

 己の肉体が武器である一夏には、刀なぞ必要なかったのだ。なので、格闘装備を所望したかったが、刀に完全に容量を取られ、仕様を変えることができない白式はそれすらできない。

 なので、いっそ量産機のISをと一夏が言い出したものだから、白式の開発元は必死に頭を下げた。日本政府の使者も頭を下げに来た。

 なぜそこまで白式を一夏に使わせたいのか、問いただすと……。

 なんと篠ノ之束の名が出た。

 白式は、元から欠陥機で、開発自体が凍結されていたが、それを束が完成させたが今の白式らしい。

 ここで初めて一夏は、白式の装備が、かつて千冬が使っていた葛桜というISと同じ装備であることを知った。というか、今まで白式が表示していた装備を無視していたため、気づいていなかったのだ。

 まさか、自分に千冬と同じ道を辿らせる気か?っと聞いたところ、そういうわけでもないらしかった。ただ、世界のパワーバランスをひっくり返す発明をした束の顔色をうかがって、束が作った白式以外に一夏に与えられる専用機が無かったことが起因していたらしい。

 一夏は複雑な心境になった。

 っというのも、束のことだ。なにせ箒の実の姉。そして、一夏と箒を六年もの間、引き裂いた原因でもある。

 憎まなかったと言ったら嘘になる。

「どういうつもりだ、束さん…。」

「一夏…。」

「……箒。俺、あの人に会ったら、殴るかも。」

「構わん。やれ。私だって殴りたかったんだ。」

 束を殴ること、決定。

 

 

 なお、その夜。

 一夏は、夢で、白いワンピース姿の少女がシクシクと泣いている光景の夢を見たのだが、ただの夢だと思って目覚めてからも特に気にしなかった。

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 土曜日。

 自由時間として解放されたアリーナで、一夏は、シャルロットに頼んで射撃武器の特訓をしていた。

「織斑君の白式って、本当に完全な格闘特化型なんだね。」

「ああ。どこを探しても、射撃に関する部分が見当たらないんだ。」

 通常のISには、射撃も出来るよう、それ用のセンサーが備わっているのだが、白式にはそれが無いのだ。つまり、射撃武器を使おうと思ったら、完全に目視などの自身の感覚だけでやらなければならない。

「うーん。それは困ったね。でも、中にはあえてセンサーを切って自分の感覚だけで撃つ人もいるから、無理な話じゃないよ。」

「そうか。」

「軍人の人は、センサーが壊れた時を想定してそういう訓練をするって聞くし…。」

「軍人か…。そういや、ボーデヴィッヒは、軍人だったな。」

「そういえば、そうだったね。」

「まあ、今日はデュノアに頼んだんだ。講師、頼むぜ。」

「うん。分かった。じゃあ、これを貸すよ。」

 そう言ってシャルロットは、自身のISの装備品である五五口径アサルトライフル『ヴェント』を渡してくれた。

「あの的を使おう。」

 そう言ってシャルロットが示したのは、ISの射撃訓練用の的だ。

 他の生徒が使っていたので、番が回ってくるまで待ち、順番が回ってから一夏は、アサルトライフルを構えた。

「脇を締めて。それで左腕をもうちょっと…。」

「こうか?」

「うん! いいよ!」

「…発射。」

 そう呟き、一夏は的に向かってアサルトライフルを撃った。

 そして撃ち出された弾丸は、的の中心に命中した。

「すごい! 一発でど真ん中だ!」

 さらに一夏は、撃つ、撃つ、撃つ!

 弾丸はすべて的の真ん中に当たった。

「す、すごい! すごいよ! マニュアルで、この精度っていったい…。」

「フッ。そりゃそうさ。」

「えっ? どういうこと?」

「目も鍛えているからさ!」

 そう言って一夏は、自分の目を指差した。

「えー…?」

「さすが、一夏だ!」

 シャルロットは唖然とし、特訓の様子を見ていた箒が感激していた。

「深く考えちゃダメよ。アイツの筋肉は非常識だから。」

 そう言ったのは鈴だった。

 

 非常識? それだけの言葉で括っていいのか?

 

 っと、聞いて見てた他の生徒達は思ったのだった。

 

 その時。

 

 

「織斑一夏!」

「なんだ、ボーデヴィッヒか。」

 ラウラが自身の専用機・シュヴァルツェア・レーゲンを装備した状態でやってきた。

「私と試合をしろ!」

「なんで?」

「私が勝ったら、一日お触り自由権を寄越せ!」

「断る。」

 すげなく断られ、ラウラは、ガーンっとショックを受けていた。

 一夏が再び、的を狙い撃とうとすると的と一夏の間にラウラが入って来た。

「おい、邪魔だぞ。」

「私が教習する! それではダメか?」

「今日は、デュノアに頼んだんだ。また今度にするよ。」

「む…むむ…。」

 ラウラが呻く。どうしても一夏とお近づきになるきっかけが欲しいらしい。というか、単純に触りたいだけだ。

「な、ならば…。」

 するとラウラが突如、シャルロットに向かって、リボルバーカノンを向けた。

「えっ?」

「おい!」

「ならば、そちらよりも強いのならば納得いくか!?」

「なんでそうなる!?」

 いきなり銃口を向けられ、困惑しているシャルロットの盾になるように一夏が前に出た。

「どっちがどうとかじゃねぇよ! 俺は今日はデュノアに特訓を頼んだだけだ! 明日ならお前に頼むかもしれねぇってことだ!」

「む…。」

「俺に触りたいからって、他の奴に危害を加えるなら、もう触らせねぇぞ!」

「そ! それだけは! す、すまんかった!」

「俺に謝るんじゃなくて、デュノアに謝れ。」

「分かった…。すまんかった…。」

「あ…べ、別にいいよ。撃たれてないし、だいじょうぶだから。」

「織斑一夏! 明日、私が教習する!」

「…分かった。」

「約束したぞ!」

 嬉しそうに微笑んだラウラが去って行った。

「織斑君…いいの?」

「あいつ…、ああでも言わなきゃ絶対引き下がらないぞ?」

「一夏…。」

「だいじょうぶだ、箒。ベタベタ触らせたからって、減るもんじゃない。」

「そうだが…。」

「ま、俺の血肉は全部、箒のモノだからな。」

「い、一夏ぁ。それは、私の台詞だぞ!」

 感涙する箒。

 始まったイチャコラに、シャルロットを含めてアリーナにいた者達は、あ~、ヤレヤレっと、思ったのだった。

 

 

 




このネタのラウラは、千冬を慕っていますが、一夏に敵対意思は示してません。

次回は、ラウラ暴走?


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SS15 ラウラの失態

続けて投稿。

ラウラが、自爆?



2019/03/07
AICがワンオフアビリティじゃなかったので、一部書き直し。


 

 

 翌日。

 前日が土曜日だったため、今日は日曜日で、休日だったのだが、一夏と箒の部屋の扉が激しくノックされた。

「なんだ、なんだ? こんな朝早くから…。」

「まさか…。」

 上半身裸で寝ていた一夏が気怠そうに起き上がり、箒は隣のベットの中で目を覚まし、悪い予感を覚えていた。

 一夏がシャツを着て、激しくノックされる扉に近づき、誰だとインターフォンで聞いた。

『私だ! ラウラ・ボーデヴィッヒだ!』

「こんな早くにどうした?」

『約束を忘れたか! 今日は私が教習すると言ったはずだ!』

「わりぃけど、昨日の予習と宿題で、寝不足なんだよ。もうちっと寝かせてくれよ…。」

『なにぃ! 約束が違うぞ!』

「いや…時間指定してないだろ?」

『む…。』

「昼頃、飯食った後、第二アリーナで落ち合おうぜ。」

『分かった。必ず、来い!』

 扉の向こうからラウラが去って行く気配を感じ、一夏は、ボリボリと頭を掻いてため息を吐いた。

「あー…、寝よ。」

「一夏…。」

「おやすみ。」

 ベットにバタッと倒れた一夏はすぐにグーグー寝だした。

 箒はベットから起き上がり、寝ている一夏の上に布団かけた。

 箒は心配していた。

 このIS学園に来てからというもの、一夏は心身共に鍛えると共に、他の生徒達に学業で追いつかなければと頑張っている。頑張りすぎている。

「無理するな。」

 あっという間に熟睡の一夏に、箒はそう囁いた。

 ラウラのせいで目が覚めてしまった箒は、部屋のキッチンを使って朝ごはんの用意をしたのだった。

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 一夏は、一、二時間後に目を覚まし、箒と朝ごはんを食べ、そして残っていた宿題を終え、昼ご飯を食べ終えてから約束していた第二アリーナへ向かった。

 しかし、何やらアリーナの出入り口が騒がしかった。

「どうした?」

「あ、織斑君、大変だよ!」

「ボーデヴィッヒさんが、オルコットさんと、二組の凰さんと!」

「はあ?」

 それを聞いてから、人混みをかき分けてアリーナに入ると…。

 セシリア、そして鈴が、ラウラを相手に戦っていた。

「何があったんだよ?」

 近場にいた生徒に聞いた。

 聞くところによると、自由に解放されていた第二アリーナを全部貸し切ろうとラウラが横暴を働いたらしく、それに怒ったセシリアと鈴がお仕置きだと言って試合を申し込んだらしかった。

 だが、同じ代表候補生とはいえ、相手は正規軍人。練度だけで見れば、圧倒的にラウラが上だろう。それゆえに一対二でも勝てていない。

 ラウラの方もノーダメージとは言えないが、セシリアと鈴に比べればかなり軽度だ。

 ラウラが手をかざす。それだけであらゆるモノが動きを止める。おそらくは、あれがラウラの専用機の特殊機能だろう。ただし、前方のみだ。

 鈴が止められた隙を突き、セシリアが猛攻撃を仕掛ける。

 だがその攻撃も、ラウラが同時展開したワイヤーブレードにより、ブルー・ティアーズが絡め取られ、プラズマ手刀により破壊された。

「くっ…、負けましたわ。」

 攻撃手段のほとんどを奪われたセシリアは、降参した。

「まさか、ここまで相性が悪いなんてね…。」

 ボロボロの鈴も仕方なく降参した。

 ラウラは、フンッと鼻を鳴らした。その直後、一夏を見つけ目の色を変える。

「待っていたぞ!」

「おまえ…。昨日の今日で…。」

「なんだ?」

「今後一切、お前はお触り禁止だ。」

「な、なぜだ!」

「自由解放されたアリーナの独断占拠! そしてそれを咎めた二人に対しての暴力行為! 俺に触りたいからって、他の奴に危害を加えるなら、もう触らせねぇぞって、言ったよな!?」

「あ…。」

 ラウラは、それを言われてやっと事の重大さに気づいて青ざめた。

「す…すまん…悪かった…私が悪かったから、それだけは…!」

「いいや。ダメだ。行くぞ、箒。」

「頼む! 許してくれ!」

 ラウラが追いすがろうとするが、それより早く一夏は箒と共にアリーナから出て行ってしまった。

 残されたラウラは、絶望の叫び声を上げた。

「自業自得ね。」

 鈴がそう呟いて肩をすくめた。

 その後、野次馬の生徒から連絡を受けた千冬達が独断でアリーナを占拠したラウラを叱ったのだった。

 




ラウラ、自爆。
やる気が空回りして暴走の結果、一夏の怒りを買ってしまう。
原作ほどラウラは、暴力的じゃないかも。セシリアと鈴を一方的にいたぶっていないので。


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SS16 学年別タッグトーナメント戦 前編

お触り禁止を言い渡されて、凹むラウラ。

そして箒は……。


 

 月曜日。

 教室に入ると、ラウラの席のところだけ、雨でも降ってんじゃねーかというほどジメッと暗くなっていた。

 見ればラウラが机に突っ伏していた。そんなラウラを見て周りがヒソヒソとしている。

「自業自得とは言え、あそこまで落ち込んでたら、ちょっとだけ気の毒だね。」

 っと、シャルロットが言った。

「どうする? 一夏。」

「ほっとけ。」

 箒が聞くと、一夏はそう素っ気なく言い、席に着いた。箒とシャルロットはお互いに顔を見合わせた。

 どうやら一夏のお怒りは治まっていないらしい。

 その後、朝のHRとなったが、ラウラがまだ突っ伏していたため千冬にスパーンっと叩かれて起こされていた。しかし起きてもズーンッと暗くなっており、隣、前後の女子生徒達は気まずそうだった。

 そしてHRで、衝撃的な連絡事項が出された。

 

 学年別トーナメント戦が、個人戦では無く、タッグトーナメント式変更されたとのことだった。

 

 タッグ、まあそのままである。つまり二人でコンビを組んで戦えということだ。

 

 おそらくであるが、単独で戦うよりもある意味で難しいだろう。なにせ二人で戦うのだから。

 

 一夏はそれを聞いて、真っ先に箒のことを考えたが……。

「一夏。大事な話がある。」

「なんだ?」

 休憩時間に箒から話かけられた。

「私は、お前とは組まない。」

「!」

「別にお前に不満があるんじゃない。私は私の力でお前と当たりたいんだ。」

「それは…。」

「私のことを案じてくれるのは素直に嬉しいが…、私だっていつまでも守られてばかりの女のではないことを示したい。」

「そうか。」

 一夏は、箒の気持ちを受け止め頷いた。

 その後。

「さてと…、どうするか…。」

 一夏は、タッグトーナメント式になった学年別トーナメント戦に誰と組んで立ち向かうか考えた。

 するとそこへ。

「ねえ、織斑君。」

「ん? デュノアか。」

「僕と組まない?」

 思ってもみないお誘いだった。

「そりゃ嬉しいな。助かる。誰と組むか悩んでたところだったからな。」

「じゃあ、組んでくれるってことだね?」

「ああ。」

「…実はね。篠ノ之さんが組まないって言ってたのたまたま聞いちゃったんだ。」

「そうか。箒には箒の考えがあるんだ。俺はそれを尊重する。」

「…本当に篠ノ之さんのこと好きなんだね。」

「ああ。」

「羨ましいなぁ…。」

「デュノアにだって、そのうちいい男ができるさ。」

「そうかなぁ?」

 なーんて話をして笑い合っていたのだが、一夏は気づいていない。

 後ろの方。数メートル離れた位置の柱の陰で、箒がギリギリっとハンカチ噛んで嫉妬していたのを。

「そんなに嫉妬するなら、素直に一緒に組めばよかったじゃない?」

「だが、しかし…!」

「もう…、面倒ね、あんた達って。」

 後ろから鈴にツッコまれ、箒はキーッとハンカチを噛む。鈴はヤレヤレとため息を吐いた。

 

 

 それから、タッグトーナメント式になった学年別トーナメント戦まで、一夏は箒とほとんど行動せずそれぞれ自主トレに励んだ。

 いっつも一緒の二人が離れているので、いよいよ本格的に喧嘩かという噂が広まった。だがその後、単に箒がタッグトーナメントで一夏と戦うために個別に動いているだけだという話が広まり、なーんだっという、ガッカリしたような納得したような変な空気が広がったのだった。

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 そして、学年別タッグトーナメント戦の日を迎える。

 

「いよいよだね。」

「ああ。」

「僕はもう心の準備が出来ているけど、一夏は?」

 タッグトーナメントのために、練習をしていて、一夏はシャルロットに、千冬と被るからと下の名前呼びを許可した。

「ああ、俺も問題はない。」

「さすがに学年別トーナメント戦…、すごい熱狂度だね。」

 アリーナの出入り口から見える観戦席の熱狂具合を見てシャルロットがそう言った。

「なにせ、今年は、俺がいるからな。そのせいもあるし、世界のお偉いさんや、スポンサーが来てるんだ、そりゃ盛り上がるだろうさ。」

「IS装者希望者は、ここが正念場だろうしね。」

「目を向けてもらえればいいんだけどな。」

「そうだね…。」

 一夏の狙いはただ一つ。お偉いさんや、スポンサーの後押しを得て、世界に筋肉という新たなパワーバランスの象徴を広めることだ。

 イギリスだけでは足りない。日本だけでもダメだ。世界に広めなければ意味がないのだ。

 っと、シャルロットは、一夏との特訓の時によく力説されていた。

 本気だとシャルロットは感じたし、ちょっと引き気味にもなったが、本気だからこそ熱くなれるのだと思い始めた。

 デュノア社にいる実父からの連絡でも、一夏のCMがフランスで広まり始め、新しく取りかかった筋肉グッズの事業が軌道に乗り始めていることは聞いていた。きっと世界が望んでいたのかもしれない。ISに並ぶほどのパワーの象徴を。

「上手くいくといいね。」

「…ま、最初は反感は喰らうだろうけどな。」

 そんな順調に物事が進むとは考えていない一夏。そういう風に現実をしっかり見ているところも好感が持てるのだ。

「よし。じゃあ、まずは俺達の初戦の相手を見よう。」

「うん、そうだね。えーと……。まずは…。あっ。」

「どうした?」

「まずいよ、一夏。僕らの最初の対戦相手、篠ノ之さんだよ。」

「そうか。」

「いいの?」

「ああ。」

「そっか…。しかも、ボーデヴィッヒさんと組んでる。油断できないよ。」

「ボーデヴィッヒか。」

 ラウラの名が出ると、一夏は顔をしかめる。

「一夏に怒られて、相当堪えてるはずだから、何をしてくるか分からないよ?」

「だとしても、俺は手加減はしないさ。」

「そっか。」

 一夏は、例え相手が恋人でも本気で相対するのが礼儀だと考えている。向こうもそれを望んでいるのだから。

 

 他の人達の対戦を見物し、やがて自分達の番が回ってくる。

 

「よし! 行くぞ、デュノア!」

「うん!」

 一夏は、白式。シャルロットは、ラファールのカスタムⅡを装備し出撃した。

 




箒も箒なりに強くなろうとして、一夏とは組まない方向で行きました。
原作通り、一夏はシャルロットと組ませました。


次回は、vsラウラ&箒?


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SS17 学年別タッグトーナメント戦 後編

vsラウラ&箒。


あと、VTシステム。


ISの戦闘、難しい!!(涙)


2019/03/07
AICがワンオフアビリティじゃないことを知ったので、一部書き直し。


 

 

 ステージに上がると、ラウラと箒のコンビも出撃してきた。

「一夏…。」

「箒…。」

 箒は打鉄を装備している。

 ラウラを見ると、ラウラは、硬い表情で一夏を見てきた。

「ボーデヴィッヒ。」

「…な、なんだ?」

 一夏に話しかけられ、ラウラは、ビクッとなった。

「ちったぁ、反省したか?」

「あ、ああ! 反省した!」

「ならいい。本気で来いよ。」

「ボーデヴィッヒ、一夏が、ああ言ったんだ。本気で行かなければ認められないぞ?」

「わ、分かっている…。」

 ラウラは、まだ心にしこりがあるらしい。それだけショックだったのだ。一夏にお触り禁止を言い渡されたのが。

「俺に勝ったら、お触り禁止は解いてもいいぞ?」

「!」

 途端、ラウラの表情が一変した。

 そして、プルプルと震え出す。それは明らかな歓喜の震えだ。

「勝つ! 絶対に勝とう!」

「あ、ああ…。」

 急に俄然元気になったラウラに、箒が引き気味に返事をしたのだった。

「すごい単純…。」

 シャルロットは、口の端をひくつかせた。

 

 やがて、試合開始時間となる。

 

 実況と共に、試合開始のブザーが鳴る。

 

「行くぞ!」

「おお!」

 ラウラがプラズマ手刀を展開し、一夏が拳を握りしめて互いに突撃する。

 手刀と拳がぶつかり合い、火花が飛ぶ。

「おお、やるな?」

 一夏の拳の一撃を受け止めたラウラに、一夏は軽く感動した。

「ふっ。私は、少々特殊だ。身体能力ではお前に勝るかもしれんぞ!」

「言うじゃねぇか!」

 その美しい銀髪といい、左目の眼帯といい、浮世離れしているとは思っていたが、どうやら根本から普通の人間ではないのだと一夏は確信した。

 その後は、肉弾戦による打ち合い。白式によって力の半分も出ない一夏だが、セシリアや鈴を圧倒してきた。しかしラウラは、互角に渡り合う。

 互いに一旦離れた直後、一夏はピストル拳(小)を放った。

 するとラウラは、手を前にかざし、拳の圧を自身のAIC(停止結界)で止めた。

「! 俺のピストル拳を!?」

「我がシュヴァルツェア・レーゲンの停止結界の前では、お前の必殺技も無力!」

「隙あり。」

 ラウラが止まった隙を突いて、シャルロットが斜め後ろから襲いかかる。それを箒が割って入って止めた。

「タッグだということを忘れるな!」

「もちろん、君のことを忘れたわけじゃないよ。」

 シャルロットは、両手に銃火器を出現させ、弾幕を放つ。

 箒は必死にその弾幕を刀でさばこうとするが、精度の高い射撃に押される。

「面白いな! その技!」

「一対一でならば、私は負けん!」

「そうかな?」

「むっ!?」

 一夏が、白式を外した。

 そして、リミッター解除をして筋肉を膨張させる。それが一夏が本気を出す合図だと聞いているラウラは、表情を引き締めた。

「ピストル…。」

「またそれか! 無駄だ!」

「拳!」

 次の瞬間放たれたのは、先ほどのものは比べものにならない強大な一撃だった。

 ラウラは、再びAICを発動させる。

 ラウラを中心に拳が割れ、その片方が…。

「うあああああ!」

「篠ノ之!?」

 シャルロットと交戦していた箒に当たり、箒が吹っ飛んでいった。

 ラウラがそちらに気を取られた直後、一瞬で距離を詰めてきた一夏が拳を振るってきた。

 ハッとしたラウラが再びAICを発動させて、一夏を止めた。

「ぬ、ぐっ!?」

「悪く思うな。私は負けん!」

「この…、おおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」

「な、なにぃいい!?」

 止められていた一夏が気合いでAICを破った。

 そして振り下ろされた拳が、ラウラに決まり、ラウラが吹っ飛んでいった。

「が…は…!」

 ステージの素材に叩き付けられ、シュヴァルツェア・レーゲンの一部破片を撒き散らしながらラウラがバウンドして倒れた。そこを一夏が追撃しようとする。

 ラウラがヨロリッと立ち上がる。先ほどの一撃で、シュヴァルツェア・レーゲンのあちこちが壊れた。

 シールドエネルギーは残っているが、さっきからセンサーが危険を知らせているのがうるさい。

「う、うるさい…、うるさい…うるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさい!」

 ラウラが迫る来る一夏を見ながら、ビービーとうるさいセンサーに悪態を吐く。

 その直後。

 

『VALKYRIE TRACE SYSTEM』  …………………boot。

 

 その羅列がセンサーに映った直後、異変が発生した。

「う…!? ああああああああああああああああああああ!!」

「なっ!?」

 紫電の光と共にラウラのシュヴァルツェア・レーゲンが変形を始め、黒い泥となる。それは、ラウラの全身を包み込み、形を変えた。

 その姿には、見覚えがある。

「…千冬、姉?」

 体型こそラウラのソレだが、ISの形状は、千冬がかつて使っていたIS・葛桜のソレだった。ただし、黒い。

 眼前で止まった一夏に、ラウラ(?)が黒い刀を振るった。

 一夏は寸前で避けたが、胸の皮膚の表面が切れた。

 距離を取った一夏に、不気味な黒い葛桜が、うなり声のような機械の声をあげて、刀の先を向けてきた。

 

『一夏!』

 

「織斑先生! こりゃ、なんだ!?」

『それは、恐らくVT(ヴァルキリー・トレース)システムだ!』

「ヴァルキ…、ってことは…。」

『そうだ。ソレは、モンド・グロッソの優勝者のデータだろう!』

「なるほど、だから千冬姉か。」

『IS条約で禁止されている技術だ! ボーデヴィッヒのその状態から察するに、完全に意識を持って行かれているだろう! 教職員の部隊を行かせる! お前はデュノアと篠ノ之を連れて逃げろ!』

「なあ、千冬姉! このままだとボーデヴィッヒはどうなる!?」

『最悪……死ぬ。』

「なあ、千冬姉…。」

『一夏…。気持ちは分かる。だが…、できるのか?』

「引っぺがしゃいいんだろ? 一刻を争うなら早いうちがいい!」

『…頼む!』

 一夏が拳と拳をぶつけ合わせて気合いを入れたのを見て、千冬が祈るようにそう言った。

 黒い葛桜が、一夏に襲いかかってきた。

「ふんっ! おらぁ!」

 振り下ろされた模造の雪片を白羽取りで受け止め、斜めに強引に折る。

 すると、黒い葛桜が苦しげに鳴き声を上げ、紫電を撒き散らしながらよろめいた。

「おららららららららら!」

 連続して放たれた拳の圧が、黒い葛桜を削る。

 当たるたびに、紫電が舞い、黒い葛桜を模る泥が揺らいだ。

 グラリッと倒れそうになった黒い葛桜を、一夏が掴んだ。

 そして、揺らぐその黒い泥を掴み、引き裂くように両手で掴んで引っ張った。

 そうして露わになった気絶したラウラを掴み、黒い葛桜を足で踏んで、ラウラを引っ張り出した。

 バチンバチっと、紫電が弾け、黒い泥から、シュヴァルツェア・レーゲンのコアが転がり落ち、やがて完全に形を失った。

「ボーデヴィッヒ? ボーデヴィッヒ!」

「う……うぅ…。」

 一夏がラウラに声をかける。ラウラはぐったりとしていて目をつむっていた。

 やがて、救護班が駆けつけ、一夏はラウラを託した。

 ラウラが無事に運ばれていったのを見届けると、一夏は、筋肉を収縮させ、ガクリッと膝をついた。

「一夏!」

 箒がISを解除して一夏に駆け寄った。

「…ちっと…疲れたぜ…。」

「一夏…。お疲れ様。」

 一夏が箒に身を委ね、目を閉じた。箒は、ホッとしながら、一夏を抱きしめた。

 

 

 この騒動により、学年別タッグトーナメント戦は、休止となった。

 




結局、力業…。

別に連載していたインフィニット・ストラトス作品とは別に、こちらのVTシステムは、そこまで強くないということにしました。

あと、最後に一夏は、日頃溜まっていた疲労で倒れました。


これ…書き直すかもしれないな。箒と戦ってないから。でもタッグだから、どっちかがシャルロットと戦わないと勝負にならないし…。難しい!!(涙)


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SS18 ラウラの失恋

サブタイトル通り。

触りたがりだから、実は…って単純な理由。


 

 ラウラは、目を覚ました。

「ここは…。」

「目が覚めたか?」

「きょうか…。」

「織斑先生だ。」

「…織斑先生。私は…、っ!」

「無理に動くな。体に相当な負担がかかっている。打撲と筋肉疲労…。二、三日は安静にしてろ。」

「はい…。あっ。」

 ラウラは、離れた位置にある隣のベットに、一夏が寝ているのに気づいた。ここは、保健室だった。

「なぜ彼が?」

「ああ…。日頃の寝不足と疲労が溜まっていたらしくてな。あの後、眠ってしまって、今休ませてる。」

「なにが…あったんですか?」

「……本来は機密だが…。」

 それから千冬は、大きな声で言えないことをラウラに説明した。

 シュヴァルツェア・レーゲンに、条約で禁止されている技術であるVTシステムが積まれていたらしく、それが発動してラウラが支配され、暴走したが、それを一夏が止めたのだと。

「そうですか…。」

「このことでドイツは責任を追及されるだろう。シュヴァルツェア・レーゲンも、最悪凍結されるかもしれん。」

「…仕方ありません。」

 ラウラは、ふうっと息を吐いた。

「そうなれば、私は除隊でしょうか?」

「そうはならんだろう。お前は何も知らなかったのだ。」

「ですが…。」

「お前じゃなく、VTシステムの研究者と研究所の首が飛ぶだろうがな。」

 それを指揮していたであろう、ドイツ国家機関も逃れられんだろうなと、千冬は腕組みして言った。

 

「う~ん…、箒~、めし~。」

 

「一夏。何を寝ぼけている?」

「う? 千冬姉?」

 一夏が起き上がり、ぼんやり顔で周りを見回した。

 一夏は、ラウラが自分を見ているのに気づいた。

「おう。ボーデヴィッヒ。だいじょうぶか?」

「ああ…。体が痛むが問題ない。」

「ラウラのことを心配するのはいいが。一夏、お前もいい加減自分の身を省みろ。」

「えっ?」

「疲れが溜まっているだろう? あの後、すぐに寝たのを忘れたのか?」

「あ…う…。」

「己を鍛えるのはいいが、加減を知れ。体を壊してしまっては意味がない。」

「ごめん…。」

 一夏は、シュンッと落ち込んだ。

「織斑一夏…。ありがとう…。私を助けてくれて。」

「ん? ああ。」

「これからは、ラウラと呼んでくれないか?」

「分かった。俺のことも、一夏って呼んでくれていい。」

「いいのか?」

「織斑先生と被るだろ?」

「分かった…。」

 ラウラは、嬉しそうに微笑んだ。

「一夏ーーー!」

 そこへバーンッと保健室の扉が開かれて、箒が入って来た。

 すかさず千冬が出席簿でスパーンと箒を叩いた。

「他に休んでいる生徒がいたら、どうする気だったんだ?」

「す、すみません。」

「おう、箒。」

「一夏! だいじょうぶか!?」

「ああ。ぐっすり寝たら治った。」

「胸の傷は!?」

「これくらいかすり傷だって。」

「バイ菌が入ったら大変だぞ!」

「安心しろ。ちゃんと消毒して治療した。それに切られたと言っても、ほんの皮膚の表面だ。血も出ていない。」

 心配する箒に、千冬が言った。

 千冬の言葉を聞き、そして、一夏の胸の傷の具合を見て、箒はホッとした。

 ラウラは、ジーッと箒を見ていた。

「ラウラ。」

 千冬が言った。

 ラウラは、ハッとして千冬を見た。千冬は首を横に振る。

 ラウラは、再度箒を見た。箒は泣きそうな顔で一夏と会話している。一夏はそんな箒を慰め、そして豪快に笑った。実に仲が良さそうだ。羨ましくなるほどに…。

 気がつくとラウラの目に涙が浮かんでいた。

「ラウラ…。お前にもいつか春が来るだろう。」

「はい…。」

「あ、そうだラウラ。」

「な、なんだ?」

 一夏から急に話を振られてラウラは戸惑った。

「お触りの件だが…、まあ別にいいぜ。触るぐらいなら。」

「ほ…本当か!? ぐぉ!」

 それを聞いて目を見開き飛び起きたラウラは、全身の痛みに呻いた。

「ただし触るだけだぞ。それ以上はダメだからな?」

「う…。」

 言われてラウラは、ドキッとした。少しでも一夏とお近づきなれればなんて…少しだけ夢見なかったと言ったら嘘になるのだから。

 だが一夏にはすでに箒という存在がいる。自分が入り込む余地はないのだ。そう思い知った。

 一夏は、そんなラウラを見て、苦笑する。

 ラウラは、自分の気持ちを見透かされてしまったと思い、顔を赤くした。

 箒は二人の様子を見て首を傾げていた。

 

 そして、二、三日後、体の痛みが取れたラウラは、復帰する。

 それと、ラウラの専用機、シュヴァルツェア・レーゲンのことだが、コアは無事だったため、IS学園にある部品で補強して再び使うことが許された。

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 学年別タッグトーナメント戦は、事故(※ドイツの条約違反によるもの)により中止。

 だが今後の個別の能力値を計るため、一回戦だけはやるということになった。

「私は、結局何も出来なかった…。」

「ん?」

「お前と戦い、私が守られてばかりの女でないことを示したかったのだが、結局はボーデヴィッヒの足を引っ張っただけだった。」

「今回はタッグなんだから、仕方ねぇよ。」

「しかし、あの一撃は本当に凄まじいな。」

「ピストル拳のことか?」

「まともに受けなかったとはいえ、シールドエネルギーの半分以上は削られた。生身で受けたら確実に死ぬぞ。アレは。」

「だろうな。」

「まさか…実際に人間を粉砕したとか…?」

「してない。まだやってねぇよ。」

「やるな!」

「車ぐらいは粉砕はしたけどな。追っかけられたから。」

「そうか…。って、まさか命を?」

「分からねぇ。ただ良くない気配を感じたんでな、誘い込んでぶっ壊してやった。」

「そ、その後は!?」

「別に咎められたりはしなかったぜ。たぶん、女性権利団体か、IS関連の過激派だったかもな。」

「無事で、よかった…。」

「殺されてたまるかよ。でも…、ま、ここ(IS学園)も安全地帯とは言えないかも知れねぇけど。」

「どういうことだ?」

「ほら。」

 一夏が顎をしゃくって示す。

 箒がそちらを見ると、数名の女子生徒と教員が慌てて逃げていったのが見えた。

「過激派ってのは、どこにでもいるもんだろうな。」

「!?」

「落ち着け、箒。」

「しかし!」

「ああいうのは、向こうから手を出してきたら反撃すればいい。こっちが手を出したら思うつぼだ。」

「…分かった。」

「よしよし。」

 俯き拳を握る箒の頭を、よしよしっと一夏が撫でた。

 

「一夏ーーーー!」

 

 すごい速度で走ってきたラウラが、一夏に後ろから抱きついた。

 そしてグリグリとほっぺたを一夏の背中に擦りつける。

「ああ…、素晴らしい背筋だ…。」

「こら、ボーデヴィッヒ! 一夏が許したからって、図々しいぞ!」

「触るだけだ。それ以上はせん。」

「む、ぐぐ!」

 そう言われたらそれ以上言えなくなる箒。

「箒。」

「い、一夏。」

「俺は、お前のモノだ。」

「!」

 背中にラウラをくっつけた状態で真顔でハッキリと、一夏がそう言った瞬間、箒は目を見開いてダーッと泣いた。

「泣くことないだろ?」

「だ、だってぇ…。」

 えっぐえぐと、子供のように泣く箒の頭を、一夏はよしよしと撫でたのだった。

 

 




でも結局は、一夏と箒の当て馬?
箒、第一、一夏さんです。


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SS19 みんなで水着を買おう

今回は、ほのぼの……っと思わせて?な展開。


 

 千冬に叱られてからというもの、一夏は自分の生活を見直すようになった。

 まずは、睡眠時間の確保。

 日頃のトレーニングと、IS学園での勉学に追いつくため睡眠時間を削っていたのが仇となり、ラウラをVTシステムから解放した後、倒れるよう寝てしまった。こんなことが続いていては、いつ命を失うか分かった物じゃない。

 千冬側、つまり教師達も生徒一人にあまりにも負荷を与えてはいけないとお達しを受け、一夏のケアに奔走した。

 ここは、世界に名を轟かすIS学園。一夏や箒のような例外を除いて、各国の代表候補生など様々な事情を抱えた生徒達がいる。その成長を促すための心身のケアは重要だ。

 そのため、一夏に出されていた宿題の内容の見直しなどが個別に行われ、また一夏自身の頭の柔軟さもあり、一夏は睡眠時間をしっかり確保した上でトレーニングもしつつ、勉学もしっかりと他の生徒に追いつけるようなった。

 そんな中、ある行事のことがHRで伝えられ、廊下の掲示板に張り出された。

 

 『臨海学校』

 

 それは、ISの非限定定空間における稼働試験という主題があり、各国から代表候補生宛に新型装備が山ほど送られてくるらしい。

 しかし、規制があるため部外者が介入することは禁止されている。そのため揚陸艇によって、ドカッと運ばれてくるそうだ。

 一夏は、しかめっ面だった。

「どうした、一夏?」

「…なんか、猛烈に嫌な予感がする。」

「奇遇だな。私もだ。」

「一夏さん!」

「いっちかー。」

「一夏。」

「一夏!」

 そこへ、上からセシリア、鈴、シャルロット、ラウラがやってきた。

「どうした?」

「次の休みに、ショッピングにでも行きませんか?」

「おう? なんだ急に…。」

「臨海学校じゃ、水着がいるのよ。あんた、あの無地ので行くの? 格好悪いじゃない。」

「まあ、一夏がイヤなら別に…。篠ノ之さんは?」

「私は別に…。」

 すると、鈴が箒に近寄り耳元で囁いた。

 その自慢のバストを魅せる水着で一夏のハートをわしづかみしない?っと。

 ハッとした箒は、鈴を見た。鈴は、グッと親指を立てた。

「一夏! 水着を買いに行こう!」

「どうした? 箒。」

「いいから!」

「わ、分かった分かった。次の休みにみんなで行こうぜ。」

「決まりね。」

 鈴は、ふふんっと笑い、顔を赤くしている箒に笑いかけた。

 セシリアとシャルロットは、顔を見合わせ、凰さんはやるね、やりますわね…っとヒソヒソと話、ラウラは、低身長を利用して一夏の腕に子供みたいにぶら下がっていた。

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 そして、後日。休みの日。

「しっかし、こう大人数で出かけるのは、中学以来だな。」

「なんだかんだあって、あんたも振り回されてるもんね。」

 一夏の言葉に、鈴がそう言った。

「もしかし煩わしいですか?」

「いんや。楽しいぜ?」

 心配するセシリアに、一夏が首を振って言った。

 そんな会話をしながら、一行は街中にある大型ショッピングセンターに入る。

「こういうとこ、来るのもひっさしぶりだな~。」

「あんたってオシャレには無頓着だもんね。」

「そうか?」

「どーせ、出かけても筋トレ道具とかにしか用はないでしょ?」

「うっ。」

 図星だった一夏は呻いた。

「昔っから、安物のシャツばっか着てさ。トレーニングで汗染みるからって。」

「その話。詳しく。」

 ヤレヤレと肩をすくめる鈴に、箒が食いついた。

 そして、水着コーナーに行く。

 色とりどりの、様々な様式の水着があり、目移りしそうだ。

 一夏は、そのコーナーの一角、こじんまりとしている男物の水着を見ていた。

「ブーメランは、やめてね?」

 念のためと、鈴がそう言ってきた。

「なんでだよ?」

「あんた中学校の時、水泳授業で超ブーメランなの着てきて女子達から悲鳴浴びたの忘れたの?」

「そういや、そうだったな。で、お前は選んだのか?」

「まだ。じゃ、行って来る。」

「おう。」

 鈴が去って行った。

 一夏が水着を物色していると……、いきなり彼の横に衣類が大量に入った買い物籠が置かれた。

「これ、払っといて。」

 見知らぬ女性がいきなりそんなことを言われた。

「はあ? なぜだ?」

「なによ、男のくせに。」

「男だからといって、赤の他人の支払いをすると思っているのか?」

「なによ? 逆らう気?」

「そうだな。」

「あーら、そんなこと言っていいのかしら? 警備員さーん!」

 すると女性は、手慣れた感じで警備員を呼んだ。

 駆けつけた警備員から事情聴取される。一夏はあくまでも事実のみを言い、女性は嘘を吐いた。

 話は膠着し、ひとまず警備室で話をすることになった。

 箒達が一夏がいないことに気づいたのは、それから数分後のことだった。

 近くにいた店員に聞き、一夏が女性とひと悶着あったことを知ると、全員で急いで警備室へ向かった。

 そこで見たのは、警察に連れて行かれ喚く女性と、警備室内の椅子で腕組みしていた一夏だった。

「一夏!」

「おう。」

「おう、じゃないでしょ! なにやってんのよ!」

「相手が中々白状しなくってな。警察沙汰になった。」

「でも、さっきの人、連れてかれちゃったね。何したの?」

「別に? 俺の名前出しただけだ。」

「あー…、なるほどね。」

「どういうことだ?」

「一夏は、世界初の男性IS装者でしょ? あらゆる国家機関に名前も顔も知れ渡ってるはずだし、監視カメラとかにも証拠があるなら、どっちを信じるかなんてハッキリしてるわ。」

「加えて…、先ほどの方…どうやら常習犯のようでしたし、罪は重そうですわね。」

「はあ…、ロクな世の中じゃないぜ。」

「まったくだ。」

 女尊男卑に染まらず、良識ある男女である全員が同時にため息を吐いた。

 そして、ショッピングを再開し、一夏は無難な水着を選んだのだった。

 

 

 バスを待っている間、箒は、頬を染めた状態で、大事そうに買った水着が入った袋を抱えていた。

「箒。楽しみね?」

「う、うん…。」

 ニヤニヤ顔の鈴が後ろから言うと、箒は頷いた。

「一夏が鼻血吹いて倒れるかもね?」

「一夏はそんな軟弱な精神をしていない!」

 シャルロットの言葉に箒がそう反論した。

「ま、一夏さんは、お堅い方そうですものね。」

「一夏は真面目なんだ!」

「真面目すぎるのもどうかと思うがな。」

「男って少々スケベなぐらいがいいじゃない? まったく興味なさそうに振る舞ってても心配じゃん。これで箒に興味示さなかったら、問題よ。」

「う…。」

 鈴達の会話に、箒は青ざめた。

 千冬から清いお付き合いをしろとお達しを受けているとはいえ、一夏は今までずっと箒に手を出していない。せいぜい手を繋ぐぐらいだ。

 姉の言葉を忠実に守っているのだろうが、それにしたって年頃のお盛んな青少年らしからぬお堅さだ。

 もしかして…、自分には魅力が無いのか!?っと、急に箒は不安になった。

「それは早合点だと思うわ。アイツ(一夏)、箒を幸せにするって言ってたんだし。」

「しかし…。」

「そうですわよ、篠ノ之さん。一夏さんは、きちんと準備が出来てから、お嫁に貰うと言っていたと聞いていますし。篠ノ之さんに魅力が無かったら絶対そんなこと言わないですわよ。」

「そもそも好きじゃ無い相手をお嫁に貰うなんてことしないと思うよ?」

「いつの戦略結婚当たり前時代の話よ…。」

「……そうか。そうだな。」

 鈴達の励ましを受け、箒の顔色が良くなっていった。

「おーい、バス来たぞ。」

「はいはーい。」

 そうしてショッピングを終えた一夏達は、IS学園への帰路につく。

 だが…。

「…なんかスピードがおかしくない?」

「ちょっ…信号!」

 乗っていたバスが止まらず、赤信号を無視した。横断歩道を渡ろうとした人々が慌てて止まるのが通り過ぎていく窓から見えた。

「運転手さん!?」

「ぶ、ブレーキが…。」

 一夏が駆け寄ると、戸惑う運転手のそんな言葉が聞こえた。

 アクセルを踏んでもいないのに、スピードが徐々に増す。異常事態に気づいた他の乗客達がパニックになり始めた。

 

『IS学園の生徒につぐ。』

 

 その時、バスの音声案内の音声機器から女の声がした。

『神聖なるISをこれ以上汚されぬよう、そこにいる織斑一夏を始末なさい。』

「なっ!?」

 箒達は目を見開き驚く。一夏は、目を細めた。

『聞けない場合は、このままバスの乗客もろとも始末する。』

「ふざけんじゃないわよ!」

「そうですわ!」

「卑怯な…。」

『…交渉は決裂か。ならばそのままその男と共に死ね!』

 そう叫ぶ声と共に、音声が切れた。

「くっそ…、過激派か…。」

「ふざけてるわ!」

「バスを止めなきゃ!」

「待て!」

 一夏が、鈴達がISを展開しようとしたのでそれを止めた。

「このスピード…、もしかしたら強引に止めたらその時点でバスが爆発する仕掛けがあるかもしれねぇ…。ISを完全に展開せず、センサーで調べられるか!?」

「わ、分かった! ………! 爆発物の反応がある!」

「位置は!?」

「この真下ですわ!」

「おおお!」

 一夏がバスの床を殴り破壊して剥がし、爆弾を見つけた。

「こいつは…。」

「何よコレ!? 生体反応に反応する爆弾だわ! なんて用意周到なのよ!?」

「ってことは、俺の生体反応が消えたら爆発と、バスが止まる仕掛けか。」

「ふざけてる!」

「……。」

「一夏?」

「……わりぃな、箒。」

 一夏は、箒に微笑みを浮かべた。

「一夏!?」

「ふんっ!」

 次の瞬間、一夏は拳を自身の心臓の上に叩き付けた。

 そして、倒れる一夏。

「一夏ーーーー!」

 十数秒後、爆弾が止まった。そして、運転手がブレーキを踏んでバスを止めた。

 突然止まった衝撃で箒達は倒れ、乗客達も倒れそうになった。

 床を転がった箒が慌てて立ち上がり、倒れている一夏に駆け寄った。

「一夏! 一夏!!」

 必死に一夏の体を揺する。

 間もなく、警察が到着し、バスの扉が開いた。

 乗客達が急いで降りていき、鈴達も避難した。

 運び出された一夏に箒がすがりついていた。

「一夏ーーー!」

 箒は泣きじゃくった。

 鈴達は、痛ましげに二人を見ていた。

「う……。」

 その時、ピクリッと一夏が動いた。

「一夏!?」

「うぅ…、死ぬかと思った。」

「まさか、あんた!? 心臓を自力で止めて動かしたって言うの!?」

 鈴が驚いて聞くと、ムクリッと起き上がった一夏が頷いた。

「あー、よかった。バスの外に出たら反応しない爆弾で。」

「あっ。」

 そうだった、バスに仕掛けられていた爆弾は、一夏の生体反応で動いていた特殊な爆弾だったのだ。もし外に出て息を吹き返しても反応していたら、今頃爆発していただろう。

「なんて無茶なことを…。」

「わりぃな。敵がIS学園の代表候補生を警戒して、ISを展開しても死ぬようにしてる可能性があったから、こうでもしなきゃって思ってな。」

「だからって!」

「そうですわ!」

「本当に死んだらどうする気だったのだ!?」

「そうだよ!」

 鈴達が口々に怒った。

「けど、俺は…、俺のせいで死ぬ人間がいたら悲しい。」

「……バカ。」

 箒が一瞬呆け、しかし、涙を流して一夏に抱きついた。

 

 その後の調べで、爆弾のセンサーは、一夏の言うとおりISの完全な展開にも反応する仕掛けがされており、しかしその範囲はバスの中だけで、外に出てしまえば反応しない代物だった。ただ一夏の生体反応には過敏になっており、心臓が停止した状態が続いたことを認識しないと爆弾が解除されないモノとなっていた。唯一幸いだったのは、ISの一部だけの展開には鈍かったことだ。

 さらに、その後、バス会社に出入りしていた女性権利団体の一部が犯人だったと分かり、女性権利団体は、無関係な一般人やIS学園の代表候補生達まで殺そうとした責任を彼女らにすべて負わせる形でトカゲの尻尾切りで彼女らを切り捨てた。だが千冬が、そして世の中がそれだけで許すわけがなく、日本国内のその女性権利団体は、日夜ニュースに取り上げられるほど世間から罵倒され、責任を追及され、巻き込まれたIS学園在学の代表候補生である鈴達の命を脅かし、殺人を強要したとしてそれぞれの所属国からも激しく罵倒され、責任を追及されて、実質潰された。その過程でかなりの人数が裁判で実刑を受けたり、自ら命を絶つこともあった。どうやら彼女らにしてみれば、女性権利を主張しているだけに、同じ女性達から罵詈雑言を浴びせられるのは相当に堪えたらしい。

 追い詰められ、潰される頃まで彼女らは、見苦しくISを神聖視する発言や、男(織斑一夏)を貶す言葉を吐き散らしていた。

 芋づる式で一夏達の動きを実行犯に伝えていたIS学園の生徒や教員もいなくなることとなったが、表向きは諸事情で自主退学、自主退職という扱いとなった。

 




真の過激派って、いかなる犠牲を払ってでも目的を果たそうとするだろうなって思って……。
一夏と仲良くしてるとかそんな理由で殺す理由になるかも…。

あと、一夏が心臓を自力で止めますが、これはほとんど一か八かの賭けです。下手すると死んでました。

前回、一夏が見つけた過激派の生徒達や教員達も今回の一件で一網打尽にされました。って、ことにしましょうか…。


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SS20 波乱の臨海学校

束、登場。


でも、扱いが軽い? 酷い?


 

 

 今回の騒動は、臨海学校の中止を呼びかけられるほどに重大なことであった。

 しかし、IS学園の重要行事を止めるわけにいかず、予定通り行事は行われることになった。

 臨海学校の宿泊先に行くための乗り物は、爆発物などの仕掛けがないか、徹底的に調べられた。もちろん道中も警戒は怠らず。なので今年の臨海学校はかつてないほどの厳戒体勢で出発となった。

 だが、それでも臨海学校を楽しみにしている生徒は多く、一夏達のように水着を新調したりして、バスの中で、キャッキャッとしている姿が見受けられた。

 一夏は、ドッシリと座り、腕組みして窓の外を眺めていた。

「一夏?」

「……嫌な予感しかしねぇな。」

「気を張りすぎだ。」

「過激な連中のこともだが…、なんかそれ以上に…会いたくない相手がいそうで…。」

「あいたくない?」

「箒も用心しとけ。」

「なんだ? 私と因縁がある相手が来ると?」

「……念のためだ。」

 一夏はそういうと、再び窓の景色を見つめた。

 箒は、そんな一夏の様子に、自分自身も大きな胸騒ぎを感じ始めていた。

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 臨海学校は、三日間。

 宿泊施設である海に面した旅館に、何事もなく到着した。

 バスから降りた一夏や、他の生徒達。

 そして、旅館の女将さんの挨拶の後、部屋割りとなった。

「俺、織斑先生と?」

「そうだ。……念のためだ。」

「分かった。」

 臨海学校開催中に、何が起こるか分かったものじゃないため、護衛をかねて姉の千冬と同室となったのだが、一夏は素直に頷いた。

 箒は、名残惜しそうにしていたが、仕方ないと納得し、自分に割り振られた部屋に荷物を運んだ。

「泳ぎに行きたければ自由にしろ。初日は自由行動だ。」

「分かった。箒~。」

「な、なんだ?」

「泳ぎに行かね?」

「! わ、分かった。待っててくれ!」

「更衣室は、別館だ。」

 千冬はそう言い部屋に入っていった。

 一夏は、箒と共に着替えと水着を持って別館へ向かった。

 なのだが……。

「一夏…。」

「無視だ。」

「一夏…。」

「無視無視。」

 不安げに一夏の名を呼ぶ箒に、一夏はそう言って首を振る。

 そして二人は、道ばたに埋まっている“ウサ耳”を無視して通り過ぎる。

 

「……ひどいよおおおおおおおおおおお!!」

 

 道ばたに埋まったウサ耳が飛び出してきた。

 いや正確には、ウサ耳を付けた女性が現れたのだ。

「…チッ。」

「舌打ち!? 酷いよって、イッ君!」

「あーあ…。あんたを目にしなければ、殴らずに済んだのによぉ?」

 一夏は、立ち止まり拳を握ると、ウサ耳女性に拳を振るった。

「なんの!」

 ウサ耳女性は、背中のジェットで一瞬にして距離を取った。

「チッ! 大人しく殴られやがれ、束!!」

「ひっどいよぉ! 昔みたいに束姉って呼んで~?」

 

 ウサ耳女性……、改め、篠ノ之束が、うぇ~んとわざとらしく泣き真似をしている。それが余計にイラッときた。

 

「姉さん…。」

「やっほー。箒ちゃん! 君のお姉ちゃんの、束さんだよ~!」

「歯ぁ、食いしばってください。」

「ぅきゃーーー! 箒ちゃんまでーーー!」

 竹刀を出して、束を追い回す箒。束は、ヒョイヒョイ避けながら逃げる。

 騒ぎはやがて、二人と同じく更衣室に向かっていた生徒達に知られ、人だかりができる。

「束!」

 騒ぎを聞きつけた千冬が叫んだ。

「やっほー。ちーーーちゃーーーん!」

「死ね!」

「ひっどいよぉ!」

 千冬が出席簿で殴ろうとしたため、束はすぐさま逃げた。

「冗談だ。そして、何の冗談でここに?」

「なんか束さんの扱い酷くない!?」

「誰の…。」

「せいで…。」

「んぎゃああああああああ!!」

 背後から一夏と箒に捕まり、束の悲鳴が木霊したのだった。

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 十数分後……。

 

 束は、シクシクと膝を抱えて泣いていた。

「いい加減泣き止め、大人だろ。」

「だってぇ、だってぇ…。」

 えっぐえぐと泣く束の様に、千冬はため息を吐いた。

「それで? 何をしに来た? ただで来たわけではないのだろう?」

「そうだよ!」

 急に立ち直った束が立ち上がり、クルッと振り向く。

「箒ちゃんに、スペシャルプレゼントがあるんだよーーー!」

「いらない。」

「えっ? そう? 嬉しい? ………………あれ?」

 束は、表情を凍らせ、小首を傾げた。

 箒は、至って真面目な顔である。

「どうせ、私に専用機を押しつけに来たのでしょう?」

「よく分かったね? そうだよ~、箒ちゃん専用のピッカピカの新品! 名付けて紅椿(あかつばき)!」

「いらない。」

「どうしてーーーー!?」

 束はあり得ないと声を上げる。

「ねえ、箒ちゃん、冗談で束さん言ってるわけじゃないよ? 本当に本当に用意したんだよ? 箒ちゃんきっと喜んでくれるかな~って、喜ぶ顔想像しながら夜なべして作ったんだよ? 誕生日プレゼントだよ、ほら!」

「いりません!」

 待機状態の紅椿を無理矢理渡そうとして、箒にたたき落とされた。

「私が欲しいのは、ISじゃありませんので!」

「じゃ、じゃあ何が欲しいの? 束さん分かんない…。」

「……包丁とまな板…。」

「えっ?」

 恥ずかしそうに、そう呟いた箒の言葉に、束は、自分の耳を疑った。

「その…、一夏に料理を振る舞うのに…、新しい包丁とまな板が欲しくって…。」

「な~んで、そんなつまらないもの!」

「つまらない? 妹が欲しいものひとつ分からない人が姉だなんて思いたくありません。」

「ガーン!」

「おお、言うな箒。」

 ズガーンっとショックを受けた束の様に、一夏は愉快そうに笑い、腕組むした。

「イッ君…、相変わらず身体なんて鍛えて、何が楽しいの?」

「楽しいさ。分からないだろ? 引きこもって、努力のドの字も知らない天災様にはな。」

「そう! 束さんは、天災なのさ! イッ君の白式も見てあげ…。」

「ああ。そのことなんだが…。近いうちに白式を凍結して、量産機のISに切り替える予定になっている。」

「どうしてーーーーーーー!?」

 千冬の言葉に、束が再度叫んだ。

「一夏の身体に、白式が合っていないのだ。このままでは、一夏の力の半分も出せん。だから汎用性の高い量産機を調整する予定だ。」

「えっ、まさか…! イッ君! 白式見せて!」

 束が、一夏が一応持っていた白式の待機状態であるガントレットを渡した。腕に付けるものだが、腕が太いため、付けずに腰に引っかけていた。

「いやあああああああああああああああ! なにこれなにこれ!? この程度の稼働時間じゃ…第二形態移行すら…。しかも、なにこの…亀裂…?」

「だって、窮屈すぎて、使おうにも使えねぇんだもん。亀裂はたぶん、俺がリミッター解除をしようとして、ギチギチいってた影響か?」

「そんな馬鹿な! ISは、使用者の体型にも合うようにコアがきちんと計ってぴったりはまるようにしてくれるのに…。まさか…そんな…、白式のコアの計算力を越える肉体の強さだなんて!?」

「その通りだ。雪片に容量を食われている白式では、一夏の肉体にあまりにも合わないんだ。…諦めろ。」

「うっそだーーー、ドンドコドーーン! んぎゃっ!」

「作品が違う!」

「何の話だ?」

「さあ?」

 コントみたいなことしてる束と千冬の様子を見て、箒と一夏が顔を見合わせたのだった。

 束は、ギャーギャーと、信じられない、そんなことあり得ないっと、叫んでいて、野次馬の生徒達からヒソヒソされていたが、気づいているのかいないのか…分からなかった。

「どうでもいいが、海行っていいか?」

「ああ、行って良いぞ。」

「無視しないでーーーーーー!!」

 束を放っておいて、更衣室へ行こうとする一夏と箒の後ろから、束が泣きながら飛びついたのだった。

 

 

 




ウサギは放っておくと死ぬって、誰が言ったんだ?
かまってちゃんな束。黒いか白いかは決めてない。

白式、涙目な感じに実は話が進んでいた回でした。白式を凍結して、量産機のISを使おうという流れになっていたということで。

このネタの箒は、力を望んでおらず、あくまで一夏の伴侶になりたいとだけ考えています。紅椿、涙目?


次回あたり、福音かな?


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SS21 お堅い? いいえ、健全(スケベ)です!

まず、束の扱いが悪いです。注意。


あと、R-15程度のスケベ要素(?)あり。かも。


一夏も若い男だから大変なのさ(?)。


 

 

 束は、ひっぐ、ぐすん…っと、泣いていた。

「いい加減、泣き止め。お前もいい年なんだから。」

「束さんは、束さんだもん…。年取らないもん。」

「じゃあ、お前の子供の頃を知っている私はなんだ?」

「うぇ~ん!」

「あーあ…、なんか殴る気も失せるな。」

「まったくだ。」

「ほら、一夏と箒が、呆れているぞ? いい加減立ち直れ。」

「箒ちゃん、きっと新型ISが欲しいって思ってただろうからって、束さん一生懸命作ったのにぃ…。それなのに、欲しいものが包丁だの、まな板だのって、つまらないものだし~。」

「……もう、姉さんとは呼びません。」

「いゃん! ごめん、箒ちゃん! 束さん悪かった!」

「こういうのは、無視に限る。箒、無視しとけ。」

「酷い!」

「ああ、そうだな、一夏。」

「酷い!」

「もう放っておけ。それに限る。」

「酷い!」

「冗談だ。せめて妹の欲しいものぐらい調べてからプレゼントすればよかっただろ? なぜ、しなかった?」

「だって、だってぇ…。箒ちゃんが他の凡人共を押しのけてイッ君と肩を並べられるようになるならって…。」

「お前は、妹をなんだと思っている?」

「そういうところが、俺は嫌いなんだ。」

「酷い!」

「自分がこの世で特別だからとか言いやがって、興味関心が無いモノには、とことん冷たい…。あんたのそういうところ…昔から大嫌いだったよ。」

「うぅ! イッ君なんて嫌いだーーー!」

「おお。俺も大嫌いだから、嫌ってくれていいぜ。」

「いやぁぁぁぁぁん! ちーーーちゃーーーん! イッ君がメッチャ冷たいよーーーー!!」

「一夏に嫌われる要因を作った元凶が何を言っている?」

「私、何かした!?」

「…インフィニット・ストラトスを作ったことだ。」

「えっ? そんなことで?」

 途端、ピシッと空気が凍り付いた。

「あっ?」

 次に、一夏のドスの利いた声が響いた。

「そんなことで? だ?」

「い、イッ君…?」

「あんたが、あんなモノ作って……、作るだけ作って…逃げて……。」

 一夏が、ズシンッズシンッと音が聞こえそうな迫力で束に近づく。

「おかげで、俺と箒は…六年も…離ればなれだ! 天災だなんだのって自負ししてて、他人にゃ興味ないあんたにゃ、その痛みなんて、これっぽっちも分かりゃしないだろうけどなぁ!?」

「ぅひっ…!」

「一夏…。」

 腰を抜かす束を見おろし、睨み付けている一夏の背中に箒が抱きついた。

「……もう、いい。」

「箒…。」

「…もう、どうでもいい。現在(いま)、一夏と過ごせる、現在(いま)が大事だ。」

「箒。」

「箒ちゃ…。」

「海に…泳ぎに行こう。」

「そうだな。」

「箒ちゃん!」

 箒は、まるでそこに束がいないように無視して、一夏と共に別館へ入っていった。追いすがろうとする束を、千冬が掴んで止めた。

「好きの反対は…、無関心。っとは、中々効くな。お前は少しは人の心を理解しろ。」

「うっ…。うぅぅ、うわああああああああああああああん!!」

 束は、その場に崩れ落ちるように膝をつき、長い髪の毛を振り乱して狂乱した。

 そして、自らの装置を使い、飛び去っていったのだった。

 千冬は、それを見送った後、野次馬の生徒達に解散するよう言い渡し、自分は旅館に戻った。

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 砂浜は美しく、青い海からの波を受け止める。

「ほら、行きなさいよ、箒。」

「うぅ…。」

 鈴に押されながら、大きなタオルで身を包んで水着を隠している箒が赤面しながら砂浜を歩かされていた。

 一夏は、先に砂浜に来て、パラソルやシートを準備していた。

「相変わらず手際良いわね~。箒、絶対に逃がしちゃダメよ?」

「あ、ああ…。」

「ほら、お披露目お披露目!」

「待ってくれ!」

「おい、鈴。あんま箒を虐めるな。」

「虐めてないわよ。」

 変な言いがかりつけるなと、鈴は呆れ半分に言った。

「どうした、箒?」

「うぅ…、い、一夏!」

「おう?」

 急に叫んだ箒に、一夏はキョトンとした。

 そして、箒がバッとタオルを取った。

 途端、一夏は目を丸くした。

「に、似合うか?」

「……。」

「い、一夏…?」

 すると、一夏がフラフラと箒に近寄り、そして抱きしめて…のしかかろうと…。

 

「清いお付き合いをーーーー!!」

 

 次の瞬間、千冬のドロップキックが一夏の頭に決まった。そして一夏が吹っ飛んで転がり、倒れた。

「一夏ーーー!?」

「……ハッ! 千冬姉! 俺…。」

 ガバッと起き上がった一夏。

「学校を卒業するまでは、清いお付き合いをしろと言ったはずだぞ! 公共の面目で押し倒そうとするバカがおるか!!」

「ごめん!」

「おした…!?」

「あらら~。よかったわね、箒。アイツ(一夏)ってば、健全にスケベよ。だいじょうぶ!」

 鈴が箒の肩に手を乗せて、自分の方を見てきた箒に向けて笑顔と共にグッと親指を立てた。

 経験こそ無いが、意味が分からないほど初(うぶ)じゃない箒は、理解して顔を真っ赤にした。

 ここまでのことを見て、聞いていた他の生徒達がいたのだが、分かる人は赤面してキャーキャー騒いでたり、分からない人は何事?っと首を傾げていた。

 そして説教が終わった一夏は……。

「箒。日焼けオイル塗ってやるよ。」

「えっ!?」

「おい、一夏。」

「分かってるつーの。織斑先生。別に邪な…ことはないから。」

「だったら、目を合せて言え。変な含みを込めて言うな。」

「ああ、そうだよ! 箒の柔肌に触りたいっての!」

「ほれ、見たことか!」

 千冬からの追求に白状したというか、単にヤケクソで叫ぶ一夏。そして周りを困らせる。

 箒はパラソルの下で赤面して膝を抱えて俯き。鈴は、呆れ返り。他の生徒達は、どうなる、どうなる!?っと遠巻きに観察中。

「や~い、スケベ。」

「ああ、そうだよ! スケベで悪いか!」

「ねえ、箒。堅物気取りのスケベってどう思う?」

 鈴が呆れながらそう言うと、ヤケクソ一夏がそう叫び、鈴が箒に尋ねた。

 すると、箒は俯いたままボソボソっと……。

「一夏なら……いい。」

 っと、言った。

「男の体ってなぁ! 大変なんだぜ! 朝とか! ましてや隣に、同じ部屋に好きな相手がいるんだぜ!? 処理がたいへ…。グハッ!」

「お前も大変なのは分かる! だが、周りのことを考えて発言しろ!」

 若い男の生理現象の大変さと、好きな相手とお預け状態がいかに大変かを叫ぶ一夏の後頭部を、千冬が畳まれている別のパラソルで殴った。

「そうか! 一夏…私のことをそんなに我慢して……。辛かっただろ?」

 箒がバッと顔を上げた。

「箒…。こんなスケベな俺は嫌いか?」

「そんなことない! むしろ何もないから、私に魅力が無いのかと心配だったぞ!」

「そんなわけあるか!」

「一夏!」

「箒!」

「清いお付き合いをーーーー!!」

 抱き合おうとした二人の間に千冬が入って止めたのだった。

 

 




束のことが嫌いな一夏さん。
なぜ嫌われたのか分からないけど、無視されるのが辛いのは分かる束。

女性の生理現象も大変だけど、男の生理現象も大変だぞって話。シモのことで。
意味が分からないほど初じゃない箒。(本程度ですが、本番のことを考えて変な意味で勉強はしてる)


スランプで、中々進まなくて申し訳ない……。現時点(2019/03/29)で、ここまでしか書いてないんだ……。


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SS22  海を楽しもう

まだ銀の福音ではありません。


海を楽しみ、そしてご飯を楽しむ一夏達。


 

 

 夏の日差しで輝く砂浜と海より眩しいモノに、水着で海に来た女子生徒達は思わず手で目を覆った。

 

 日焼けオイルを塗りたくり、神々しく(?)輝く、鍛え抜かれた肢体。

 これほどに太陽の下が似合う男も、そうはおるまい。

 織斑一夏。

 まさに、太陽に愛されたような男だ。

 

 その一夏が、しかめっ面で、腕組みして立っている。

 

 その後ろでは、パラソルの下で、シートの上で鈴にオイルを塗って貰っている箒がいる。

 ちなみに、千冬が一夏の背中を睨むように監視していた。

 

 見るな、触るな、想像するな。

 

 っと、千冬から言われ、一夏は箒にオイルを塗るのを断念。

「一夏~、終わったわよ。」

「おう…。」

 返事はしても、一夏は振り向かない。振り向けないのだ。

「千冬さ…。」

「織斑先生だ。」

「織斑先生…、あの…、いくらなんでも厳しすぎでは?」

「約束は約束だ。清いお付き合いを破ろうとしたのだ。当然のことだ。」

「え~、でも男って、多少スケベな方が健康的じゃ…。っ。」

 箒の援護をしようとした鈴だったが、千冬に睨まれ黙らざるを得なかった。

 鈴が負けたので、残るセシリア達が何か言うことはできず押し黙る。

 千冬は、はあ…っと息を吐き。

「性欲を持て余す年代だ。気持ちは分かるが…、風紀というものがあってだな…。」

「そうですけど…。」

「とにかく公共の場で、邪なことをしようとしたのだ。それなりの罰は必要だ。」

「ですけど…。」

「お前達の気持ちは分かる。だが、己を律せぬ者が未来の伴侶を幸せに出来ようか!」

「ち、千冬さん…!」

 未来の伴侶と言われ、箒は涙ぐんだ。

「ともかく! 私は、お前達を見張ることとするから、覚悟しておけ!」

「へ~い。」

「だいじょうぶだと思いますけどね。」

「凰。お前は黙れ。」

「そ、それはそうと! 泳ぎに行こうよ! せっかくの自由時間なんだし! もったいないよ!」

 シャルロットが場の空気を変えようとそう言った。

「そうだな。じゃあ、準備体操してから、行くぜ。」

「生真面目ね~。」

「足つって、溺れても知らねぇぞ?」

「それはイヤね。」

 っというわけで、みんなで準備体操してから、海に向かった。

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

「は~~~、きもっちぃいい。」

「温泉じゃないぞ。」

 ほどよく冷たい海水の温度に、つい浸る一夏に、箒がツッコミを入れた。

「温泉なら、二人きりで行きたいな。」

「っ!」

「もちろん、こんよ…。」

「一夏…。」

 砂浜にいる千冬が腕組みして睨んでいる。

「わーかってるって。そうだ、箒。あそこのブイまで泳ごうぜ。」

「う、うむ。」

「置いてったりしねぇよ。もちろん、疲れたなら俺の背中に乗ってくれ、泳いでやるよ。」

「まあ、それだと、ウラガマシマ太郎のようではありませんか?」

「ウラガマシマってなによ? 浦島太郎よ。」

「あら…。」

 セシリアが赤面した。

「えっと、確か、海の底に亀に乗って連れてってもらうって話だよね?」

「竜宮城よ。でも、長いこといすぎて、帰ってみたら誰も知ってる人いなくなってたってオチだけど。」

「まあ…、ハッピーエンドではないのですわね? あら? 一夏さんと、箒さんは?」

「とっくに泳ぎに行ったわよ。」

「早っ。」

 遠くにあるブイを見れば、すでに一夏と箒がそこにたどり着いていた。

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 温水プールで泳ぐことはあれど、海のように塩の味がして、波という邪魔が入る環境で泳ぐのは体への影響が違う。

 それを感じながら一夏は、箒を背中にくっつけた状態でブイにたどり着いた。

「遠くまで来たな。」

「ああ。」

 振り返れば、砂浜がずいぶんと遠い。

 ちなみに、一夏は目も鍛えているから分かるが…、千冬が双眼鏡で完璧にこっちを見ている。

 うん。ナニかすれば確実にIS纏って飛んでくるだろう。そんな凄みを感じる。

「なあ、一夏。」

「ん?」

 一夏の首に腕を回していた箒が話しかけてきた。

「この臨海学校が終わったら…、またケーキを食べに行きたい。」

「そうか。けど、もっと洒落たとこ行こうぜ。」

「あまり店に負担をかけさせられん。だから、あそこでいい。」

「いいのか? 駅前のあそこで。」

「二人で行くのがいいんだ。」

「…そうだな。」

 見張りがいることを気にしなければ二人きりのお出かけなのだ。箒はそれが重要なのだと言う。

「そういや、新作で、パフェなんかもあったな。それはどうだ?」

「いいな。二人で…食べよう。」

「おう。」

「そろそろ、戻るか?」

「そうだな。しっかり掴まってろ。」

 一夏は、箒を背中にひっつけた状態で浜辺に向かって泳ぎ始めた。

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 そうして海を堪能し、夜になれば旅館の夕飯が始まる。

 ひとりずつあるお膳に、小鍋に、前菜、刺身……。旅館ならではの料理が並んでいる。

 刺身もただの刺身じゃない。なんと、カワハギ。肝も付いている。並の旅館ならマグロの赤身とか、鯛とか刺身パックに入ってそうな並びになりそうだが、この旅館は違うようだ。

 小鍋も季節の野菜と、地元の漁港で獲れるであろう、魚のアラが入っていて、これも美味い。目玉の周りのゼラチンが最高だ。

「食べにくいですわね…。」

「けど、アラは、体に良いんだぜ?」

「あら?」

「魚の頭のぶつ切りとか…、普通なら捨てるところのことだ。まあ、魚の中に、アラって呼ばれてる魚もいるから混同されがちだけど。頭なんか特に、目玉とかゼラチン質で、コラーゲンたっぷりだし、栄養価も高いから成長期の体にはいいぜ?」

「まあ! それはいいことを聞きましたわ。頑張って食べますわ!」

「頭の部分って食べにくいけど、隙間にある肉が美味しいのよね~。」

 アラの骨に四苦八苦するセシリアと、慣れた手つきで喜々と食べている鈴。

 その時、ガターンっと音がしたので、見ると、シャルロットが鼻を押さえて悶絶していた。

「どうした!?」

「~~~辛っ!」

「ああ、ワサビか。これ、本ワサビだから、練りわさびと違ってすげぇだろ?」

 練りわさびとは比べものにならない、ツーンっに思いっきりダメージを受けたらしい。

 けれど、ワサビの辛さは持続しない。やがてハーハーっと、涙目のシャルロットが起き上がった。

「すっごかった…。」

「けど、美味いだろ?」

「うん…。慣れればね…。」

「ワサビ寿司…、わさび漬け…、ワサビのお菓子。日本人はワサビが好きだからな。」

「お菓子もあるのですか!?」

「ワサビ羊羹ってのもあるしな。」

「ヨウカンって、あの黒っぽい塊ですわよね? ワサビでもするなんて…、どれだけ好きなんですの?」

「国ごとに嗜好ってのがあるからな。ん? 箒、どうした? 刺身の肝が欲しいのか?」

「あっ、なんで分かった?」

「分かるに決まってるだろ? ほれ、やる。」

「あ、ありがとう。」

「わたくしの分も差し上げますわ。生の内臓は、ちょっと食べ慣れませんので…。」

「美味いのに…。」

「仕方ないだろ。人の好みなんだから。」

 

 そんなこんなで、夕食を楽しく食べた。

 

 臨海学校の二日目は、各種装備試験運用を丸一日かけて行うのだ。今のうちに英気を養っておかなければならない。

 

 

 しかし、一夏達は知ることはない。

 

 密かに、誰にも悟られず、忍び寄る……悪意に。

 




銀の福音……、いまだにどうするか悩んでますが、半分は束のせい、半分は……って決まってきました。
ただ、その場合だと、ゴジエヴァの作品と、ISにアイツをぶち込んだのをpixivにアップしないと読者が混乱するだろうから、アップしないとな。


原作では、セシリアが生の魚に抵抗感を持っているように書かれてますが、イギリスって、生の魚食べないのかな? 魚の内臓なんて論外か?


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SS23  悪意染まる、銀の福音

過激派を想像された方……、申し訳ない!
違うんです。


今回は、出撃編?


束アンチかも。注意。


 

 次の日。つまり臨海学校の二日目。

 専用機持ち達は、大忙しだった。

 なにせ、それぞれの所属国から大量のISの装備が送られてきているのだ。その運用データを取るため、丸一日使う。

 ……っというか、一日だけで足りるのか?ってぐらい送られてきた者もいる。

 IS装備が積まれたコンテナの山を見て、ガクーンっと項垂れているその姿には、さすがに同情する。

 しかし、限られた総数しかないISを使う身。代表でなくとも、その候補生だ。弱音を吐いてはいられない。項垂れていた者もすぐに気を取り直して、作業に移った。

 箒は、ふと、一夏の様子がおかしいことに気づいた。

「どうした、一夏?」

「なんだろ…?」

「えっ?」

「嫌な予感しかしねぇ…。」

 

「ちーーーーーちゃーーーーーーーーん!」

 

 そこに束が走ってきた。

 しかも泣きながら。

「どうした?」

「あの…えっと…。」

 束が狼狽えている。あの自分が興味あること以外には無関心で、天災などと言われるほどの天才が、涙を流し狼狽えている。

「…た、助けて…。」

「えっ?」

 

「織斑先生!」

 

 顔をしかめる千冬のもとへ、他の教員が駆けつけた。

 そしてナニかを伝える。途端、千冬は目を見開いた。

 それから千冬は、周りを見回してから、IS装備のテスト稼働中止の知らせと、特殊任務が入ったことを伝え、一夏を含めた専用機持ちに集合をかけた。

 専用機を持たない他の生徒達は、割り振られた旅館の部屋で待機となった。

 混乱が広がる中、千冬が室外に出たら懲罰すると言い渡し、強制的に落ち着かせ黙らせ、専用機持ち達以外を待避させた。

「篠ノ之、お前も来い。」

「なぜです?」

「箒ちゃん…、お願い…。」

「姉さん?」

 涙を浮かべて震えている束に、箒は訝しんだ。

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 非常事態の全容を簡潔にまとめると……。

 

 アメリカの軍用IS・銀の福音(シルバリオ・ゴスペル)が、突如暴走し、日本に向かって飛んできているということだった。

 

 装着者であるナターシャの状態は不明だが、おそらくは意識がないだろうとのことだった。

 飛行経路からして、このままだと今臨海学校が行われている旅館の上を通過する予定なので、現地にいるIS学園の総力を挙げて止めて欲しいという緊急任務が入ったのだ。

 説明中も、同じ室内にいる束が、エッグ、グスンっと泣いていた。

「あの、織斑先生。なぜ、束博士が泣いているのですか?」

「それは…。」

「違うの違うの! こんなはずじゃなかったの!」

 束が子供のように泣きわめきながら言い始めた。

 

 まとめるとこうだ。

 

 一夏のIS・白式を第二形態に移行させることと、箒に紅椿を受け取って貰うため、銀の福音を使い戦いの舞台を作ろうとしたが、細工中に何者かの横槍が入り、束の制御を離れ、銀の福音が暴走を始めてしまったのだと。

 

「あんたって人は…。」

 一夏は、怒り半分、呆れ半分で頭を押さえた。

「って、ことは、銀の福音は、コアネットワークをぶっちぎって単独で動いてるってことですか? どうにかならないのか? ISはあんたの作品だろ? 束博士?」

「やったよ! やったけど、他のISコアを守るので手一杯で…!」

「どういうことだ?」

「分かんない! けど、あれは、ウィルスとは違うよ! ナニか…別の何かの意識がくっついてて、他のコアまで支配しようとしてた! コアネットワークを切らなかったら、今頃世界中のコアが“アレ”に奪われてたよ!」

「なにかのイシキ?」

 束ほどの天才にあるまじき、曖昧な答えに、一夏達は顔を見合わせた。

「ネットワークに直接ダイブして、直接叩こうとしたけど…、そしたら逆に食べられかけて…、ネットワークを切るしかなかった! ねえ、お願い! 銀の福音を助けて! あのままじゃ、日本を壊したら、他の国まで壊しに行っちゃうよ! 束さんのISを怪物にしないで!」

「助けるって言ったって…。」

「ようは、ぶっ壊せってことだ。」

 困惑する一夏達に、千冬がそう言った。

「武装をすべて破壊するなり、コアを機体から切り離せばなんとかなるだろう。」

「けど、装者は?」

「……最悪の事態は想定しておけ。」

 つまり、銀の福音を装着している現状のIS装者を見捨てることも考えておけということだ。

「最悪だぜ…。」

 一夏は、ジトッと束を睨んだ。

 束は、ビクッと震え上がって涙をまた流した。

 束がコアネットワークを介して、戦いの舞台を作ろうとする細工などしなければ起こらなかったことだろうから。

 おそらく、束もまったくの想定外のことであっただろう。横から何者かが入り込んでくるなどとは……。

 束の力でも及ばない、その介入者が何者なのかは今は置いておくしかない。今は、やるべきことがある。

「ですけど、織斑先生、いくら暴走状態とは言え、単独で動き続けていれば、いずれエネルギーが尽きるのでは!?」

「それが…。」

「分かんないの! 今の銀の福音は、エネルギーがまったく尽きる気配がなくって…! まるで支配している奴からエネルギーを受け取ってるみたいに見えて…。」

 あり得ない事態だった。いくら絶対防御などのオーバーテクノロジーを抱えた逸品とはいえ、限界はある。なのに、その限界がないというのはおかしい。

 エネルギーを尽きさせて、行動不能にさせるという作戦は通用しないと分かり、こうなっては、本当に破壊して止める以外にないということだ。

「ですが、エネルギーが尽きないということは、シールドエネルギーも尽きないというこでは!? どうやって絶対防御を突破すれば?」

「そこで、白式だ。」

「ああ…。」

 一夏はすぐに思い至った。

「白式のワンオフアビリティである、零落白夜は、絶対防御を突破し、本体を攻撃することができる。ただし、白式のシールドエネルギーを消費するがな。」

「じゃあ、一夏が唯一の手段ってことね。」

「けど、失敗した場合は? 回避されてエネルギーを無駄に消費した場合だ。」

「そこで、紅椿だ。」

「紅椿が?」

「紅椿の仕様だが。これの単一仕様能力に、エネルギーの倍加能力がある。これを使えば、残り少ないエネルギーを一時的だが、フル状態にできる。これを使い、エネルギー提供を行えば、多少は戦闘時間を長引かせられるだろう。しかも、本来ならシンクロしなければできないエネルギー提供を接触しただけで行えるのも大きい。」

「もしかして…。」

「そうだ。箒。紅椿は、おまえのデータに合わせて作られている。おまえじゃなければできないのだ。」

「…結局、あなたの思い描いたとおりになるわけですね?」

「違うの違うの…。こんなの、束さん望んでない…。」

「箒。そのことは後回しだ。」

「一夏…。」

「織斑先生。日本政府は、この一件を学生に委ねるってことか?」

「唯一の攻略手段である白式がこちらにある以上、やむを得ん。それに、時間が無い。」

「分かりました。」

「…すまん。」

「やるしか…ないぜ。」

「先生。私達は?」

「お前達も、援護として回って欲しい。唯一の突破口となる二人を守ってくれ。二人のどちらかが倒れてもダメだ。それに、場合によっては、紅椿にエネルギー提供をして倍加させることもできるだろう。」

「はい!」

 鈴達は、声を揃えて力強く返事をした。

「覚悟は良いか? では、これより銀の福音のデータを開く! 決して口外するな!」

 そして、銀の福音のデータが開示された。

 

 相手は、軍用として開発されたIS。

 アメリカ側は全てを公開できなかったらしく、オールレンジ攻撃が可能なことと、攻撃、防御両方が可能なタイプであることしか分からなかった。鈴達はせめて偵察だけでもと意見を出したが、現行の銀の福音の速度では、一回が限界だろうと言われた。

 しかも、旅館の上空まで来るまでの時間は、わずか50分。

 

「やっぱ、一撃で落とすしかないのか…。」

「国内にある全ISや自衛隊も動く予定だが…。」

「被害を最小限に抑えるには、俺と箒にかかってるんだな?」

「…すまない。」

 千冬は、辛そうに顔を歪め頭を下げた。

「束博士。」

「ひぅ…!」

「…この戦いが終わったら、横槍を入れてきた敵の解析をしっかりやってくれよ?」

「わ、分かってる!」

「頼むぜ。」

「では……、作戦を開始する!」

 千冬の号令により、銀の福音撃破の任務が始まった。

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 急ピッチで、箒が紅椿の最適化を行い、装着した。

「…ああ、腹が立つほど馴染むな。」

「箒に合わせて作られてるなら、当たり前だろうな。」

「では、作戦通り、箒は紅椿で一夏を乗せて飛べ。一夏は、白式のエネルギーを温存しろ。」

「了解!」

「各自、出撃の準備は整っているか!?」

「はい!」

 鈴達は、それぞれ専用機の準備を整え、いつでも出撃できるようにしていた。

 束は、自身の豊かなバストの上で祈るように手を組んでいた。

「では、武運を祈る!」

「はい!」

 一夏達は、力強く返事をして、出撃した。

 

 

 

『ふふふふ…、待ってるよ。』

 

 

 

「!?」

「き、聞こえた…か?」

 ISのチャンネルから聞こえたのは、無邪気な悪意を孕んでいるような、男の声だった。

「こ、コアネットワークを切ってるのに!? 誰だよ!? お前、誰だよ!?」

 束が喚いた。

 しかし、返事はなかった。

 千冬は、汗を垂らしながら、出撃した一夏達が無事に戻ってくることを祈った。

 

 

 

「一夏! いたぞ!」

「あれが…銀の福音か…。」

 

 ハイスピードで空を飛んでくるソレは、まさしく、天使。

 軍用ISなどという分野でなければ、本当に美しい…、銀色のフルスキンのISがいた。

 

 

 

『ふふふふふふ…。さあて…、この宇宙の君達は、“こっちの君達”とはどう違うのかな?』

 

 

 謎の男の声は、間違いなく銀の福音から聞こえていた。

 

 

 




別連載している、インフィニット・ストラトス作品のアイツなら、これくらい出来るかも……。
なぜそんなことをしたのかは、後々。


次回は、アイツに支配された銀の福音との戦闘。


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SS24  ドコニモイナイ敵

とりあえず、書けるとこまで勢いで書く!
じゃないと、完全に詰まりそうで……。


銀の福音を操っている奴のヒントになる、言葉を言っています。

私が投稿した、他の作品を見たことがある方は、たぶん、分かる。


 

 

 ゾクンッ。

 

 銀の福音から発せられる、謎の男の声は、背筋に悪寒を走らせる謎の不快感を孕んでいた。

 ハイスピードで空を飛んでいた銀の福音が、一夏達の肉眼で確認できる距離に来ると、一転して止まった。

 そして、翼を広げ、宙で止まる。

 

「おまえ…誰だ?」

 

『へえ? こっちの織斑一夏は、ずいぶんとすごそうだね。』

 

「なに?」

 

『けど、君は強いのかな? 相手してよ。』

 

「! 来る…!」

 

 キュインッと銀の福音のウィングスラスターが開いた。

 次の瞬間、光の弾丸が、撒き散らされるように放たれた。

 オールレンジ攻撃とは、データにはあったが、それは、まるで羽根のような弾丸で、避けるものの、一度突き刺されば、途端に爆発する。

 その連射速度は、スポーツとして確立されているISとは比べものになるものではない。まさに、軍用。殺すための兵器そのものではないか。

『コレ(銀の福音)を選んで正解だったかな? 他の機体でもよかったんだけどね。』

「なんなのよ、アンタ!? 正体ぐらい現わしなさいよ!」

『姿を見せろと言われて、見せるバカはいないよ?』

 悪態を吐く鈴に、小馬鹿にするような言葉が返ってきて、カッとなった鈴が衝撃砲を放とうとした。

「バカ!」

 一夏が止めるが遅く。瞬間加速で近寄った銀の福音の拳が、鈴を殴り飛ばし、海へと落とした。

「凰さん!」

「セシリア! 行ったぞ!」

「はっ!? きゃあああああ!」

 再び瞬間加速で近場にいたセシリアを狙った銀の福音が、回し蹴りを食らわした。

『……弱いね。』

 空中で遠くへ吹っ飛んでいくセシリアを見送って、銀の福音から発せられる男の声が失望したように言った。

 我に返ったシャルロットとラウラが武装を展開するも、ウィングスラスターの乱射によって避けるので手一杯になったところを格闘技で落とされる。

「箒…、接近できるか?」

「やってみる…。」

『は~あ、これじゃあ、何のために、干渉したのか分からないよ。こんなんじゃ、遊びにもならない。』

 ヒソヒソっと箒と話し合う一夏。

 銀の福音は、謎の男の声と共に、ヤレヤレっという動作をする。それだけで、銀の福音の制御が完全に謎の男に奪われているのだと分かる。

 その際に、クルリッと背中が一夏と箒の方に向く。それは、大きな隙だった。

「今!」

 箒が紅椿の倍加能力で加速し、一夏が零落白夜を発動する。

『……けど、簡単に倒されるなんて言ってないよ?』

 零落白夜が銀の福音を捉える直後、銀の福音の裏拳が刃を横から弾き、強烈な回し蹴りが二人を襲う。

『まだまだ!』

 ウィングスラスターが開き、回し蹴りでよろめいた二人に降り注ぐように放たれる。

 箒は咄嗟に装甲展開をして、その攻撃から一夏から守った。

「箒!」

「おまえが倒れたらお終いだ! 私のことは気にするな!」

『邪魔。』

 次の瞬間、かかと落としが箒に決まり、箒は海へたたき落とされた。

「箒いいいいいいい!!」

『こっちの一夏と篠ノ之箒は、恋仲か…。いいねぇ、甘酸っぱい若い恋って。』

「なっ…、てめ…!」

『その意思力……。肉体だけじゃなく、精神力の面でも強いんだね?』

「絶対倒す!!」

『かかっておいで。』

 一夏は、雪片を収め、怒りのままに拳と蹴りを食らわせようと振るう。しかし、銀の福音は、それをヒラリヒラリと避ける。

 一夏は直感する。コイツは、今まで戦ってきた敵とはまるでレベルが違うと。

 練度もそうだが、何かが根本的に違う。なぜかそう思えた。

『ふーん。俺が普通じゃないってことは、気づいたんだね? けど、残念。この宇宙じゃ、俺には届かない。』

「なんなんだ、お前は!?」

『なんだろうねぇ? 俺にも時々分からなくなるんだ。なんのため、生まれてきたのか…、何のために生きているのかすらも。』

「わけの分からないこと言ってんじゃねぇよ!!」

『そうだね…。っ!』

「おおお!!」

『おっ?』

 一瞬の隙を突き、銀の福音の翼のような手を上へ弾き飛ばした直後、一夏は零落白夜を雪片を抜くと同時に発動した。

 ズバンッと、銀の福音の胴体の装甲と、翼の片方が切れる。

『か…は…、や、やるね…。抜刀と同時にか。』

 すると、銀の福音に変化が起こった。

 胎内の赤子のように体を丸め、そして、翼が変化した。

 白いエネルギーのそれが、まるでサナギから蝶へと変化するように。

『セカンドシフト(第二形態)だっけ? まだ終わらせないよ。』

 エネルギーそのものとなった翼が撫でるように振られた。

 触れた瞬間、白式の片方の肩と腕が破壊され、シールドエネルギーがごっそり持って行かれた。

「う…!」

『終わり?』

 更に片方の翼が撫でようとした。

 その時。

「一夏ああああああああああああ!!」

 海から飛び出してきた箒が、紅椿のエネルギーブレードが下から背後へ、銀の福音を切り裂いた。

 復帰した、鈴が飛び、戻ってきたセシリア達も攻撃を仕掛ける。

『ふうん? ハーレムって、わけじゃなさそうだね。織斑一夏には、本命がちゃんといる。』

 銀の福音がエネルギーで出来た翼を一斉に発射した。

 追尾性のある破壊の塊であるそれは、セシリアのブルー・ティアーズを根こそぎ破壊し、鈴の龍砲を潰し、彼女達のシールドエネルギーを尽きさせた。

 箒は、紅椿の倍加能力を使い、激しい攻撃を掻い潜りながら、しかし回避しきれず受けながら、一夏に接触して、エネルギーを供給した。

「これで…限界だ…。ごめん…。」

「箒!」

 一夏から手を離した箒を、銀の福音の翼がなぎ払った。

 破損した装甲を撒き散らしながら箒は、気絶して海へと落下していった。

『いいねぇ、好きな人の為の献身。いいねぇ。』

「……ぶっ殺す…!」

『愛する人を傷つけられた怒りも…、いいねぇ。』

 ぶち切れた一夏の肉体が、膨張する。

 白式はついに限界を迎え、内部崩壊を始めるが、次の瞬間、光り輝きだした。

 それは、セカンドシフト。本来なら必要な稼働時間と、白式のコアとの干渉がなければあり得ないことだが、白式は自らの崩壊を悟り、賭けを打った。

 光が消えると、一夏の体に見事にフィットした、けれど白い美しいISがそこにあった。

「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」

『これは…。』

 白式が一夏の肉体に同調した形態を取ったことで、一夏はそれまでISに邪魔をされて発揮できなかった力を存分に発揮した。

 そのあまりの猛攻に、拳の圧や蹴りの圧が、エネルギーの翼をも消し去るように振るわれる。

 破壊のエネルギーの翼は、もはや意味を成さなかった。

『……すごいね。“ゴジラさん”以来だよ。。』

 そう男の声が呟いた瞬間、一夏のピストル拳…、否、零落白夜と同じ原理によって新たに生成されたナックル型の武装が纏った拳のエネルギーが、ピストル拳の圧と相まって銀の福音を破壊した。

 飛び散る装甲と、消えていくエネルギーの翼。そして、装者であるナターシャの顔が露わになり、海へと落ちていった。

 

 

 戦いは……、終わった。

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 戦闘終了が確認されたと同時に、救出隊が出動して、海に落ちて浮いていた者達、そして、一夏も船に降りた。

 ナターシャも無事に救出され、銀の福音も取り外されて、すぐに解析に回された。

 陸地で待っていた束がすぐに解析をし、その間に一夏達は、怪我を見て貰っていた。

 鈴達は、ISこそ壊されたとはいえ、シールドエネルギーを消耗しただけですみ、多少の打撲などはあったが、命に別状はなかった。

 箒は、気絶していたものの、やがて目を覚まし、一夏に抱きしめられた。

「馬鹿野郎…。」

「一夏…。ごめん…。」

 お互いに無事を確認しあい、泣いた。

 それを見ていた鈴達は、よかった…っとホッとして顔を見合わせた。

 すると、そこへ千冬が神妙な顔をして来た。

「織斑先生?」

「……動けるか? 動けそうなら、来てくれ。」

 一夏達は、不思議そうに顔を見合わせた。

 

 そして、旅館に仮設された束の解析室(?)に通された。

 

「ねえ…、銀の福音から聞こえてた声に聞き覚えはないよねぇ?」

 束は、青い顔をしていた。

「まったくないな。」

 一夏がそういうと、箒達も頷いた。

「ねえ……、どこにもいない存在って…信じる?」

「はっ?」

「言葉通りだ。」

 わけが分からないと顔をしかめる一夏達に、千冬が言った。

「この声の、声紋は、世界中のデータを照合したが、いなかったんだ。」

「いない!? 似た声もいなかったのか?」

「近い声はいないことはなかったが、その人物達は、今回の件とはまったく関係がないのだ。もちろん、裏も取ってある。近い声の者達はそれぞれアリバイがあった。」

「あとね! 銀の福音のコアに、なんかコブみたいな生体がくっつていた! コレ!」

 そう言って、束は、ガラスケースに厳重に収まったソレを見せた。

 それは、強いて言うなら、腫瘍のような…、肉の塊だった。大きさは、こぶし大ぐらいだろうか。

「信じられないけど…、コレが銀の福音にエネルギーを与えていた根源だったよ!」

「なにぃ!? コレが!?」

「あとね、あとね! これ、生き物の細胞だってのは分かったから、遺伝子情報を照合したよ! そしたら……、該当者……ゼロって……。信じられる?」

「ひとつもかすらなかったんだ。近い生物も、近い人間もこれっぽっちもいない。まさに…、どこにもいない何かだ。」

「まさか…地球外生命体とか?」

「一応……、遺伝子の形状から言ったら、地球人の日本人に似てるように見えるけど……、束さんのコンピュータを使っても、世界中のマスターコンピュータをハッキングして使っても、該当する人間が一人もいないんだよ! こんなこと……、束さん…頭…ふっとう…しそ…。」

「しっかりしろ! お前がそんな状態でどうする!」

 ブクブクと泡を吹く束を、千冬が揺すった。

「と、とにかく…、地球上にはどこにもいない存在が今回の敵だったんだよ…。」

 

『残念。この宇宙のどこにもいないよ。』

 

「なっ!?」

 すると、どこからかあの男の声が聞こえた。

「どこだ!? どこにいやがる!?」

『どこにもいないよ。そこの宇宙にはね。』

「さっきからわけの分からないことを…! 出てこい!」

『だから…、俺は姿を見せることはできないし、これ以上の干渉はできない。そっちに俺の細胞の一部を送ってみたけど、その程度が限界だ。今の段階ではね。』

「なんだよ、お前!? 束さんのISなんてことしてくれんだよぉ!! こんな気持ちの悪いのくっつけやがって!」

『もし、この計画自体が成功を収めるのだとしたら……、君達と、こちら側にいる俺達をそっくり入れ替えることもできるだろうね。』

「なんだと!?」

『ま、その必要性は今のところないから、安心して。今回は、実験のために干渉を行わせてもらったよ。こうして俺が干渉できるのは、俺という存在が、そちら側の宇宙のどこにも存在しないからだった。たまたまそちら側の宇宙が選ばれただけの話だよ。』

「そんなふざけた理由で…。」

『だろうね。でも、そんなもんじゃない? 歴史的大発明とかだって、アレやソレ…偶然による発見とかソレとか、そんな感じじゃない?』

「殺す! 殺してやる! 絶対見つけて殺してやる!」

 束が喚く。しかし、男の声は、クスクスと笑うだけだった。

『ま、いいや。戦ってみて、すっごく面白かったよ。機会があれば、また……、じゃあね。』

「あ、待て! …クソっ!」

 声は遠ざかり、そして、消えた。

 束は、急いで手元にある小型コンピュータを使い、解析をしていた。

「……本当に…、どこにもいないんだ…。この宇宙には…。」

「つまり…、まったく違う世界からの侵略者ってことか?」

 一夏の言葉に、束は、頭を両手で抱え、唸った。

「今の奴の言動だと…、おそらくはこちら側に干渉してきたのは、何かしらの実験か何かを行っただけだったのだろうな。」

「そんなのってアリなの!? なんてはた迷惑!」

「束、お前の力でも向こうのことを知ることはできないのか?」

「それができたら…、とっくに…。」

「……どう報告すればいいんだ?」

 千冬は、今回の一件について政府にどう報告するか悩んだ。

 

 

 こうして、謎の敵(?)による、銀の福音暴走事件は、終わった……。

 

 

 




一部、PS3ゲーム・トーキョージャングルの設定を一部参考にしています。ネタバレか?
時空から時空への移動という点だけですが。

アイツが再び何かやってくるかどうかは…、未定です。


なんで、こんな展開にしたのかって?
単純に、超展開というのをしてみたかったから。あと、ネタとして使いたかったからです。


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SS25  鈴のお節介

夏休み編。


鈴、オカンぶり発揮。(?)


 

 

 銀の福音のコアに張り付いていた謎の生物の細胞の解析のため政府に提供をしろと、千冬が束に言ったが、束はそれを拒否し、手早く機材を撤収させると、ロケットで逃げて行ってしまった。

 しかし、残った銀の福音の機体にも細胞が僅かに残っていて、機体ごと解析に回すこととなった。

 一夏達の知るところではないが、銀の福音を開発したアメリカと、被害を被った日本側で解析の権利の所在でかなりもめたらしい。そりゃ、開発したアメリカ側は、機体の構造や積んでいる兵器の秘密を知られたくないし、日本側は攻撃をして来た敵の正体を知りたいし……、そしてアメリカが謎の細胞を悪用しないという保証もないとして、互いの主張は平行線だったらしいが、それは、別の話である。

 

 

 

 波乱の臨海学校は、終わった。

 

 IS学園に帰った一夏達は、やがて夏休みを迎える。

 

「あっつぅ…。」

「これぞ、日本の夏。」

「暑苦しいから、ちょっと離れてよ。できれば視界に入らないで。」

 IS学園内のグラウンドでだれる鈴が、大汗かいて元気にトレーニングに励む一夏にそう悪態を吐いた。

 日本の気温と湿度にやられ、世界中からやってくるIS学園の生徒達の大半は、夏休み期間中は帰っている。一夏に言わせれば、軟弱!らしい。

「何を言うか、凰! 夏は汗をかていこそだぞ!」

「あんたは、一夏に感化されすぎよ。」

 同じく大汗かいてる箒に、鈴は呆れて言った。

「箒、鈴、しっかり水分補給だけはしろよ。ただの水じゃダメだ。ミネラルの入ったスポーツドリンクをしっかりとな。」

「分かってる。」

「言われなくても分かってるわよ。」

 一夏を見れば、トレーニングと気温でかいた汗で濡れていた。

 太陽の下、汗がきらりと光っているようで、程よく日焼けた肌に、なんて…汗の似合う男だろう…っと妙な感想が思い浮かぶ。それもこれも、無駄なく鍛えられた筋肉によるものだ。完成された形があるからこそ、それ以外が輝くためのスパイスとなる。

 ところで。

「白式は、これからも使うことになったのね?」

「白式ってか、雪羅(せつら)だ。」

 一夏は、腕に付けている、待機状態のIS・雪羅を見た。相変わらずのガントレット型だが、まったく邪魔にならない。

 収縮性を持ったガントレットとなった白式は、セカンドシフトをしたことで、ナックル型の新武装を備え、さらに、遠距離攻撃手段として荷電粒子砲・月穿(つきうがち)が付いた。

 白式改め、雪羅は、真の意味で一夏の専用機となった。

 これまで、唯一の武装である雪片に依存し、拘束具にしかならなかったISが、これまでの短い一夏に装着時間による交感により、コアが一夏に合わせて自らを再構築するに至ったのだ。

 刀型の武装である零落白夜だけじゃなく、ナックル型の零落白夜が新たに構築された点が特異である。

 一夏は、ウルッと涙を溜めた。

「どうした!?」

 いきなりのことに箒がびっくりした。

「いやな…。今まで俺、ISって全力が出せなくなる枷だって思ってたんだわ。けど、ようやく自分に合ったISが手に入ったのかと思うと感動して…。」

「この世界でISがそこまで邪魔になるのって、あんただけよ。」

「新しい武装もついたしな。」

「ワンオフアビリティだっけ?」

「ああ。」

 

 

 千冬がその武装を見て、名付けてくれた。

 

 零天破甲(れいてんはこう)。と。

 

 

 一夏の拳に、零落白夜と同じ原理でシールドエネルギーを被せ、絶対防御を無効化してISを攻撃できる、強いて言うならナックル型の零落白夜だ。

 さらに、ピストル拳と合せることで、中距離攻撃も可能となっている。ピストル拳の破壊力にシールドエネルギー破壊が加わるので、距離も含めて応用も効くので、実質的に刀型の武装・零落白夜を越えるだろうとみられている。

 なお、刀型の武装・零落白夜もある。

 しかし……、圧倒的に一夏は、肉弾戦派だ。そのせいか、近頃夢で白いワンピースの少女や、女騎士などがシクシク泣いてるのが出る。だが一夏は、夢だと割り切って気にしてなかった。

 

 そんなこんなで、昼が過ぎれば夕方になり、日が落ちれば気温も下がって、やっと過ごしやすくなる。

 過ぎしやすい時間帯になれば、一夏は夏休みの宿題にとりかかる。

 高度なIS関係の数式などに苦戦する箒を助けながら、時間が来れば夕食を食べて、また宿題、そして時間になれば就寝。

 夏休みの最初は、こんな感じであった。

 

 

 後日、部屋の机に置かれていたアルバムを、箒が見つけた。

「一夏のか?」

「ん? ああ。出しっぱだったな。」

「見ていいか?」

「別にいいぜ。」

 許可を取ってから、箒はアルバムを開いた。

「あれ?」

「どうした?」

「これ何枚冊目かか?」

「いや、それが最初だ。」

「なんで、小学生からなんだ?」

「ん? そういや、そうだな。」

 箒に言われて今気づいたとばかりに、一夏が言った。

 一夏は、変なところで鈍いというか…、良くも悪くも割と自分のことを気にしない面がある。

 自身の肉親が…、親と呼べる存在がひとつも映っていない写真だらけのアルバムを持っていても違和感を持っていなかったのが良い例だ。

 箒はヤレヤレと思いながら、一夏から聞いていた一夏の両親の顛末を思い出す。

 確か…、蒸発してどこかへ行ってしまったと言っていたはずだ。その後は、千冬が保護者として頑張ってきたらしい。そんな姉の背中を見て、そして、自分も強くあらねばと思う一夏は、千冬の剣を学ぼうと箒がいた道場で稽古していた。だが、やがて箒が束のせいで監視下に置かれて離ればなれになると、今度は、女尊男卑の世の中を嘆き、そして、自身をこれ以上無いほど痛めつけるように鍛え始めて……。

「差がすごいぞ。」

 中学生からの成長過程がすごいことになっている。男子の成長期に鍛えに鍛え始めたのだ。そりゃ変わる。

 箒は、中学生初期の写真と、今の一夏を見比べた。

「どうよ? 俺成長しただろ?」

「ああ。」

 そんな会話をしていると、部屋の戸がノックされた。

 

『いっちか~、いる?』

 

「鈴か。入れよ。」

 一夏が入室を許可すると、鈴が入って来た。

「はい、これ。」

「なんだこれ?」

「何って、チケットよ。」

「おい…、これは…。」

「ふっふっふっ…。箒、駅前のパフェで手を打つわよ。」

「むっ!?」

 一回は差し出したチケットを意地悪く自分の口元の方へ持って行き、鈴が悪役のように笑った。

 チケットは、今月出来たばかりのウォーターワールドのチケットだった。

 確か、前売り券は全売、当日券も開場二時間前に並ばないと手に入らない人気ぶりだと聞いていた。鈴がこれを持ってきたということは、つまり……。

「いくらだ…?」

「2500円。」

「むむ…。」

 確か、駅前にあるパフェで有名な喫茶店の特に高いパフェは、それぐらいしただろうか?

 しかし、それにしたって、結構な出費になる。最重要監視対象として国家の監視下に置かれている箒にすれば、支給されるお小遣いにかなり痛い。

 だが、こんな機会そうそうない!

 箒が意を決して買うと言おうとすると。

「じゃ、買った。」

「あんた、金あるわけ?」

「バイトしてた時の貯金ぐらいあるさ。」

「それって、箒との結婚資金とか…?」

「ああ。」

「!」

「使ってもいいの?」

「未来も大事だ。だけど、現在(いま)を楽しむのも大切だろ? 金なんてまた稼げばいい。」

「…分かった。」

 ふうっと息を吐いた鈴が、ズイッとチケットを押しつけるように一夏に手渡した。

「じゃあね。」

「おい、今からサイフ…。」

「いいの。気が変わった。その代わり……、結婚式には絶対呼ばないと承知しないわよ?」

「あ、ああ。」

「凰…。」

 思わず泣きそうになる箒に向け、鈴はニッと明るく笑う。

「それと…、思いっきり箒に綺麗なドレス着せなさいよ。」

「当たり前だ。」

 そこだけキッパリ即答する一夏。箒は、想像したのかカーッと赤面した。

 鈴は笑顔で手を振りながら、部屋から出て行った。

「…で? 箒、行くか?」

「も、もももも、もちろんだ!」

 一夏に話を振られ、箒はプスプスと煙が出そうなほど顔を真っ赤にしてどもりながら返事をした。

 

 鈴からのプレゼントで、思わぬデートが決まったのだった。

 




ナックル型の新武装の名前は、千冬が付けてくれたという流れにしました。
応募ありがとうございます。


ここからは、オリジナル展開かも。
原作だと鈴が一夏とデートしようと企むけど、一夏に急用ができてセシリアにチケットが渡る流れでしたから。


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SS26  いざ! 障害物レース!

ウォーターワールド編。


ほとんどオリジナル展開かも。


そして、最後に……。


 

 

 箒は、ドキドキしていた。

 隣には、一夏。今、ウォーターワールドへの道中だ。

 箒は、自分の胸を押さえ、とにかく落ち着け!っと自分に言い聞かせていた。

 臨海学校と違い、ここには千冬という監視役がいない。自分を関している、政府の息がかかった監視役が一般人に混じってはいるが…、彼らはあくまで箒に危機が及んだり、逃げたりしたときのための存在でしかない。つまり箒が一夏とナニをしようと手を出しては来ない。

 鈴のサプライズで思わぬ遠出となったが、許可が下り、一夏とこうしてデートできるわけで。箒は、臨海学校で約束したデート以上の緊張感を感じていた。

 臨海学校の自由行動の時は、千冬の眼光があったため、何も進展はなかったが……、今千冬は今ここにはいない!

 

『箒…。』

『一夏…。』

 

 って、感じで……、ファーストキスを捧げるぞぉおおおおおおおお!!

 

 学校卒業までは清いお付き合いをしろと命令されてたものの、箒だって飢えていたのだ。

 いや、今の環境に不満があるわけじゃないが、箒とてお盛んな年頃の女子。好きな相手と進展したい気持ちは大いにある。なので、ちょっとでもいいからコレをきっかけに進展したいところなのだ。

「…箒? 箒。」

「ハッ! な、なんだ?」

「さっきから話しかけてたぞ。どうした?」

「あ、いや…別に。ごめん、ボーッとしてた。」

「そうか。喫茶店があるみたいだし、軽く食ってから泳ぐか?」

「そ、そうだな。」

 ウォーターワールドに入っている喫茶店で、軽食を摂ることにし、二人は入店した。

 席に通され、着席し、メニューを広げると、そこには水をイメージしたドリンクや、南の島国を連想させるメニューがあった。まあいわゆるハワイアンっぽいアレ。

 頼んだオリジナルドリンクも、水色だったり、縁にフルーツ刺さってたり、南国フルーツ色だったりした。

 頼んだご飯モノは、無難にロコモコと、グリルフィッシュサンド……だったのだが、グリルフィッシュサンドが見た目ハンバーガー。

「バンズに焼き魚が挟まってるからじゃね?」

「ハンバーガーの定義とは…。」

 味は、美味しかった。ロコモコは野菜たっぷりで、肉汁がジューシーで卵も半熟。グリルフィッシュサンドは、食べてみたらサバだったりして、それトルコ名物サバサンドじゃね?ってなって、二人で笑った。

 

 

 そして、いざウォーターワールド。

 更衣室に行く途中、こんな放送が聞こえた。

『本日のメインイベント、水上ペア障害物レースは、午後一時より開始いたします! 参加希望の方は、十二時までにフロントへお届けください! 優勝者には、優勝賞品として、なんと! 沖縄五泊六日の旅をペアでご招待!』

「…聞いたか?」

「ああ。」

「行くぞ!」

「ああ!」

 踵を返した二人は、フロントの受付に駆け込んだ。

 受付からの、空気読めよ…っという空気のせいで他の男性参加希望者はスゴスゴと去って行くのを見て、一夏にも空気読めよ?っという視線が来たが、一夏は、その場でシャツを脱ぎ、筋肉を膨張させて見せた。

「どうよ? これでも見世物にならないか?」

「……こ、こちらに記入を…。」

 一瞬固まった受付だったが、すぐに我に返って記入用紙を出したのだった。

 こうして、参加チームの中で、唯一、男女のペアとなったのだった。

 

 しかし、一夏達は気づいていなかった。

 フロントの柱の影に、人の形っぽい影のような揺らいでいるモノが一夏達を見ていた。やがて、その影は消えた。

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 一夏以外の参加者は女だ。別にこれは女尊男卑の風潮のせいではない。単純に水のイベントには、女性参加者の方が受けが良いからだからだ。

 実際、先に入場した女性ペア達に、主に男性達の歓声と拍手が多かった。そして、一夏が箒と共に入ると、びっくりしたような声が上がり、一夏が調子に乗って筋肉を膨張させてポージングを取ってみせると、ギャーっとかキャーっとかいう悲鳴に近い声が上がっていた。

「なんか、入学したての頃を思い出すな。」

 あの時も、こんな悲鳴を浴びた記憶がある。

「一夏のこの肉体美を理解せんとは、軟弱モノ共め!」

「いや、そういうことじゃないと思うぞ。」

 箒が憤慨しているので、一夏がそうビシッとツッコミを入れた。

『さあ! 第一回ウォーターワールド水上ペア障害物レース、開催です!』

 っという、司会のマイクの声と共に、司会のお姉さんが素晴らしいスタイルを強調したビキニ姿で大きくジャンプし、その豊満なバストを揺らしたせいか大歓声が上がった(主に男性から)。

『さあ、皆さん! 参加者の皆様に、今一度大きな拍手を!』

 そのマイクの声と共に再度拍手と歓声が巻き上がる。

 参加者達は、手を振ったり、お辞儀をしたりしていた。

 そんな中、入念に一夏は、箒と共に準備体操していた。

『ありがとうございます! では、参観者の皆さん! 優勝ペアには、優勝賞品として、南国沖縄旅行五泊六日の旅が贈られます! 皆さん、頑張ってください! 特にそちらの男女のお二人方! 期待してますよ!』

「おおよ! 彼女のコイツと一緒に行くぜ!」

『おおっとぉ! なんとカップルでした! これは、ぜひ頑張って欲しいですね!』

「優勝は俺達のもんだ! なあ?」

「もちろんだ!」

 気合いを入れる一夏に同意を求められ、箒は力強く頷いた。

『では! ルール説明です!』

 

 50×50メートルの巨大プールの中心に設置された島に渡り、そしてそこにあるフラッグを取ったペアが優勝だということ。

 コースは、円を描くように中央の島に続いていて、その途中に設置された障害物は、基本的にペアでなければ越えられないようなっていること。

 そのためペアの協力は必須であり、二人の相性と友情が試されること。

 

 しかしこれが中々厄介そうだ。

 なぜなら島が空に浮いているのである。ワイヤーで宙づりになっているので問題はないし、下はプールだ。落ちたと問題はない。だが落ちたらコースのスタートから始めなければならないので、落ちないようにする必要性がある。

 そして、このイベント参加者……にも注意が必要だ。

 なぜなら、先行逃げ切りを目指す真面目組と、妨害上等のお遊び組と完全に分かれているのだ。それは、雰囲気で分かった。

「箒…。」

「…うむ。分かった。」

 一夏が箒にヒソヒソと話し、箒は頷いた。

 そして、レース開始の合図と共に、競技用のピストルが鳴った。

 次の瞬間、一夏と箒の足を狙って妨害上等組が足払いをかけてきた。

 それを瞬時に跳んで避け。

「お先に!」

 二人は、特に箒はべーっと舌を出して足払いを狙ってきた者達を挑発した。

 ただでさえリア充オーラ出しまくりの二人である。それだけでも悪目立ちし、他の女ペア達には忌々しいと思われているのだろう。雰囲気で彼女らの怒りを感じた。

「ほいよっと。」

 妨害してこようとする者達を片っ端からプールに落とし、その容赦のなさから開場からブーイングと歓声が上がる。

 だが真面目組の一部が妨害上等組と組んでいるらしく、すぐにプールから上がってきて妨害をしてこようとする。

 しかし、それを繰り返していると体力的に圧倒的に差があるため、やがて妨害組の動きが悪くなっていく。

 妨害組の動きが鈍くなると、一夏は、箒と共に、浮いている小島へと向かう。

 小さな島であるため、体格のある一夏では飛び移るのが難しそうだが、一夏は箒を抱えると、小島の上をまったくそんな気配などさせずにターザンもびっくりの動きで飛び移って行く。

 一夏の体格からは想像も出来ない小回りとスピードに、ブーイングが歓声へと変わる。

『こ、これはすごい! あのカップルさんは、高校生ということですが、何か特別な練習でもしているのでしょうか!? ああっと! 彼氏さん、彼女さんを抱っこしたまま第二の障害へ! これは、もはや持ち運び競争!? ルール的にはいいのでしょうか!? えっ…、ああ、いいみたいです! しかし、最後の島まで体力が続くのかーー!?』

「問題ねぇよ!! これぐらい!」

 司会の声に、一夏がそう叫ぶ。

 様々な障害物をほぼ力業で突っ切っていく。

 そんなこんなで、第三、第四の島をクリアしていくと…、先行していたペアが突然振り返って、一夏と箒に向かってきた。

 一夏の体格に負けないマッチョ・ウーマンという単語が似合いそうな、立派な筋肉の二人組である。

『ああーっと、ここで、トップの木崎・岸本ペア! ここで得意の格闘技に持ち込むようです!』

「きざき…、きしもと? まさか…。」

「そのまさかだ!」

 二人が構える。それはレスリングと柔道の構えだった。

『ご存じの通り! 二人は先のオリンピックでレスリング金メダル、柔道銀メダルの武闘派です! 仲が良いというのか聞いていましたが、競技が違えど、息はぴったりですね!』

「やっぱりか!」

「どうする、一夏!?」

「俺がやる! 箒は下がっ…。」

 

 その時だった。

 

 

 屋内プールであるウォーターワールドの天井付近に、バチンッと黒い稲妻が走り、そこから、バレーボールサイズの赤黒い球体がプールに落ちた。

 

 

「えっ…?」

 その異変に開場がシンッとなった時。

 下のプールの水がウネウネと不自然に蠢きだし、ついに一本の太い触手となって天井に向かって伸び、一夏達の方へ振り下ろされてきた。

「なっ!?」

「箒!」

 一夏が箒を抱えて跳び、直後、一夏達がいた場所に水の触手が振り下ろされてコースを破壊した。木崎ペアも後ろへ跳んで逃げていて攻撃を免れていたが、コースが破壊されたことで、一夏と箒も、木崎ペアもプールに落下した。

 一夏は、水の中で箒を抱え水面に一緒に顔を出した。

「プハッ! な、なにが…?」

 箒が必死に息をして、周りを見回す、すると、先ほどコースを破壊した一本の太い水の触手がウネウネと動き、一夏達の方を向くように動く。

「! マズい、逃げるぞ!」

 一夏は、アレが自分達を狙っていると気づいて箒を抱えたままプールの端まで急いで泳ごうとした。木崎ペアも急いで別方向のプールの端を目指し泳いでいた。

 その間に、触手はシュルシュルと水面へ消え、途端、まるで海のようにプールの表面が波打ちだした。

 プールの端に手を掛けかけた一夏と箒が波によって再びプールへ戻された。

「箒!」

「うあ! 一夏!」

 一夏が波に攫われかけながら、箒をプールの端の陸に放り投げた。そして、投げた後、一夏は波に飲まれた。

 一夏は、必死に口を押さえて空気を漏らさないようにしながら、水の中で目を開いた。

 そして、メチャクチャに動く水の中に、バレーボールサイズの赤黒い球体のようなモノを見つけた。

 それは、まるで血管のようなものが浮いており、かなりグロテスクな見た目だった。

 ソレが、まるで一夏と目が合ったかのようにニヤリッと笑った気がした……。

 




イメージとしては、ゼルダの伝説・時のオカリナだっけ? で、出てきた水のボスですね。
水を触媒にしている、核が弱点です。それを潰さない限り倒せません。


原作だと好調だった鈴とセシリアが、途中で木崎ペアに負けそうになったので、鈴がセシリアを使ってフラッグを取り、セシリアがキレますけど、一夏と箒のペアならどうするか考えて……、銀の福音を乗っ取ったアイツが別の形で襲撃してきたということにしました。


次回は、vs異次元の敵。


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SS27  必殺! 零天破甲!

vs異次元の敵。


銀の福音と違って割とあっさりかも。


一夏×箒で、キス表現有り。


 

 一瞬にして開場がパニックに陥った。

 そりゃそうだ。水が突然生き物のように動き出したのだから。

「一夏! 一夏ーーー!」

 一夏は水に飲まれたまま上がってこない。

 木崎ペアは、なんとか陸に上がったらしく無事だった。

 破壊され、大きく揺れたコースに別のペアが取り残されていたりと、大変な状況だった。

 こうなったらと、箒は、待機状態の紅椿を展開した。

 本当は使いたくない。だが用心に超したことはないということで、上からの命令で持たされていたがこんな形で役に立つとは考えつかないだろう。

 シールドエネルギーに包まれた状態で水に飛び込み、水の中でもみくちゃにされている一夏を見つけ、すぐに接近し腕を掴んで引き寄せた。

「一夏!」

「ガボボ…。」

 息が限界の一夏の口に、箒は迷い無く口を押しつけ、空気を与えた。

 一夏は目を見開く。だがすぐに正気に戻り、腕に装備しているガントレットから雪羅を展開し、箒と共に水から脱出して宙に浮いた。

 水が蠢き、今度は数本の触手になる。

「これは、一体何なんだ!? さっきの黒い稲妻が…。」

「さっき何かが落ちてきただろ? たぶんソイツのせいだ。」

「ボールみたいな、アレか!?」

「…笑ってやがった。」

「えっ?」

「来るぞ!」

 一夏の呟きに箒が訝しんだ時、水の触手が襲いかかってきた。

 それを避け、刃で切ったり、殴ったりするが、相手は水、まったく意味が無い。

 メチャクチャに動き回る水の触手のせいで残っているコースが破壊され、取り残されているペアが落下しそうになる。なので、即座に一夏は駆けつけ、抱え上げて陸へと運んだ。そして、参加ペアを全員避難させると臨戦態勢になってプールを睨んだ。

「箒。」

「ああ。分かってる。水を切っても意味がない。なら…。」

 透明な水の中に、赤黒い球体がある。アレこそが水を操っているのは明白。

 どういう原理であんなモノが水を操っているのかはこの際どうでもいい。

「的が小せぇ…。なら…。コレ、使うか。」

「いけるのか?」

「水の中から引きずり出すのが先決だ! 水から出せたら切れるか?」

「分かった!」

 一夏は、ブオンブオンっと振られる水の触手をかいくぐりながら、水を操っている球体の上に来た。

 そして、ナックル型の新武装・零天破甲を展開し、振りかぶる。

「零天破甲!!」

 振り下ろされた拳からピストル拳の圧にシールドエネルギーをまとった強大な一撃が水を破裂させ、深さのあるプールの水の底を晒し、巨大な拳の跡が出来た。

 水が爆発するように弾けたことで、水の内部にいた核が弾け出され、陸に落ちた。

 ボヨンボヨンっと跳びはね水へと逃げ込もうとするソレを狙い、箒がブレードを振り下ろした。

 

『ちぇ……、もう終わりか。』

 

 聞き覚えのある声が聞こえた直後には、箒のブレードが核を両断していた。

 ブチャッと嫌な音を立てて、弾け、赤黒い肉塊と血を撒き散らして潰れた。

「や、やったのか…?」

「分からねぇ…。けど、今の声って…。」

「ああ。銀の福音の時の…。」

 

 聞くだけで嫌悪感を感じる謎の男の声。

 ドコニモイナイ、謎の敵。

 

 

 その後、駆けつけた警察や、救急車や、IS学園から駆けつけた教師達など、一夏と箒は事情聴取や現場で起こった事などの説明をした。

 潰れて散らばった謎の敵のモノと思しき、核の残骸は残らず回収され、すぐに解析に回されることになった。

 

 ウォーターワールド近くに駐車された大型パトカーの後部に、私服姿の一夏と箒は、ひとまず待機となった。

 二人は、並んで座っていたが黙っていた。

 箒は、俯き、ズボンの端を掴んでいる。

「なあ…、箒。」

「…なんだ?」

「やっぱり…、あの声…あの時のだよな?」

「ああ…。なんだか分からないが、なぜか忘れられないあの声だった。」

「これといって特徴があるような男の声じゃないのにな…。」

 そこが不思議である。奇妙な嫌悪感を感じさせるが、その声自体に大きな特徴は無い。低すぎるとか、高すぎるとかじゃい。普通の成人男性ぐらいの声だ。

「なあ、箒…。」

「なんだ?」

「あのさ…、もしかしてファーストキスだったか?」

「!」

 言われて箒は思い出す。空気注ぎのため迷いなくやったとはいえ、唇と唇を合せたのだ。

「あああああああああああああ!」

「落ち着けよ。」

「だ、だって! だってぇ!!」

「俺も…、初めてだったし。」

「えっ?」

「なぁ、箒…。」

 狼狽えていた箒がキョトンとした瞬間、チュッと唇に少し冷えた一夏の唇が当たった。

「………………………………、っ!?」

 固まっていた箒はたっぷり時間をおいて、何をされたのか理解し、ボンッと真っ赤になった。

「あん時のは無し。これがファーストキスだ。いいだろ?」

「あああああああああああああああああああ!!」

「落ち着けって。」

「これが、落ち着いて…!」

 られるかっと、言いかけた時、一夏にギュッと抱きしめられた。

 少し冷えた、けれど熱い体。箒は、一瞬目を見開いたが、やがて、されるがまま、その身に自分の身を委ねた。

 

「お前らぁ!!」

 

 次の瞬間、ドスの利いた千冬の声が聞こえ、ドゴーンっと一夏の頭がド突かれた。

「一夏ーーー!?」

「清いお付き合いをしろと言っただろうが! お前達の気持ちは分かるが約束は守れ!!」

「いててて…。ごめん、千冬姉…。」

「まあ、今回のことは不問とする。」

「施設壊したことは?」

「やむを得なかった事態だ。弁償することはない。安心しろ。」

 千冬がとりあえず、そう言った。

 怪我人も出たが、怪我人は、パニックになった時にこけたり、ぶつかり合った時に出た者達だったので、謎の敵による直接的攻撃を受けた者はいなかったらしい。

「で? 解析の結果とかって、どうなるんだ?」

「恐らく、機密事項となるだろうな。銀の福音の暴走事件と同一犯だという証拠が出ればいいのだが…。」

「声は同じでした!」

「ああ、お前達のISに残っている記録からも同じ音声が出てきた。だが声だけではな。」

「束博士は?」

「あれから音沙汰ない。」

「…自分だけで解決させようって腹か。」

「まあ、アイツのことは放っておく。接触があるなら向こうから勝手に来る。今回の一件で、もし銀の福音の件と同一犯のものならば、サンプルが得られたのは大きい。お前達は、私と一緒にIS学園に戻る。荷物を持て。」

「もういいのか?」

「ああ。ISから戦闘記録も取って渡したし、監視カメラ映像もあるからな。お前達がこれ以上することはない。」

「分かった。」

「はい。分かりました。」

 二人は頷き、千冬と共にIS学園に帰ったのだった。

 

 

 帰るまでの道中、今回の一件は、厳戒令が敷かれるので、聞かれても黙っておけと忠告された。

 

「なあ、箒。」

「なんだ?」

「また、今度デート改めて行こうな。」

「あ、うん…!」

 一夏は箒の手を握りながらそう言い、二人は改めてデートの約束をしあった。

 




一夏と箒のファーストキスでした。

謎の敵は、どこかで覗き見してるでしょうね。たぶん。


原作読んでて思った。あんな簡単にIS展開して施設破壊してもいいのか?って……。

このネタでは、謎の敵を撃破するためやむを得ずISを使ってますが。もしあの場で撃破してないと、間違いなく被害者が出てました。


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SS28  不快な赤毛

ウォーターワールドの事件後。


※他作品を見ないと分からない構成かも。


※別に投稿している作品登場のオリキャラのアイツが完全に登場。


 

 

 報道規制により、ウォーターワールドで起こった事件は、施設の爆破事故としてテレビなどで報じられた。

 しかし、目撃者は多く、いくら規制をしても噂が広がり、またネット上にも掲示板などに話が広がり、どこから撮っていたのか映像が動画に上がるなどして、消される、またアップされるを繰り返していた。アップ主を見つけてデータを消しても、アップしたコピーしていた者がまたアップする。まるでトカゲの尻尾切りだ。

 なので……。

「銀の福音の件の時の奴と同一犯って可能性があるなんてね。」

「まったく、とんでもないですわ。」

「そうだね。せっかくのプールデートだったのに、篠ノ之さん、可哀想。」

「我がドイツも解析に参加させてもらえればな…。」

 すっかり、IS学園内に、銀の福音の件で関わった者達に知れてしまっていた。

「お前ら…、一応厳戒令が敷かれてるのに、ベラベラ喋ってたらどこで聞かれるか分からねぇぞ?」

 ここは、IS学園の室内トレーニング施設。なぜか銀の福音の一件に関わった者達全員が集まってそんな会話をしていた。

「だいじょうぶだよ。今、僕ら以外にほとんど生徒はいないんだよ?」

「けど、たまたま聞かれてそこから一般に流れたらどう責任を取る?」

「神経質過ぎよ、一夏。肩の力抜きなよ。」

「けどな、今回のウォーターワールドの件だって、本当は誰にも知られたらマズかったんだぜ?」

「別に良いじゃない。これだけネットでも大賑わいしてるんだし。」

 そう言って鈴がスマートフォンに表示した掲示板サイトを見せた。

 これ以上書き込みはできなくなっているが、内容はあの時のウォーターワールドでの事件の話題でいっぱいだ。

「聞くとこによると、ウォーターワールドのサイトも問い合わせでパンクしているらしいな?」

 ウォーターワールドの50×50の大型プールの水が突如としてモンスターのように襲いかかる映像は、CG映像だという疑いも多いが、実際に目撃した現場にいた者達の証言も多く、またCGでは加工できないようなリアルさが噂の真実性を高めていた。

 さらに、障害物レースを最初から最後まで動画に撮っていた物もあり、その最中に、突如バレーボールサイズの何かがプールに落ちるのがちょうど映っていて、そこから水がモンスターのように動き出したのが分かるモノまで出回ってしまっていた。さすがに、天井に起こった黒い稲妻のような異変までは映っていなかったが、遠目に見て上から落ちた何かが原因であることが分かるだろう。そのため、政府もネット規制を必死に行っているらしく、アップされてもすぐに削除、またアップ、削除を繰り返し、アップ主も捕まる事態まで起こっているらしい。まあ、あくまで人伝、またはネットなどを介して知ったことなので真実は不明だ。

「で、結局の所、敵の正体は何も分かってないって事よね? こっちは銀の福音の件もあるんだから少しは教えて欲しいわよね~。」

「そもそもどこにもいない敵って時点で、どうしろってんだ?」

「篠ノ之さん、お姉さんからの連絡とかはないんですの?」

「……ない。」

 セシリアから束のことを聞かれ、箒はフルフルと首を横に振った。

 八方塞がりである。

 しょせんは、代表候補生、本当の代表と違ってそこまで重要なことは知らされないのかもしれない。

 鈴は、ブーブーっと不満を漏らしていたが、どうしようもないものはどうしようもないのだ。

 そんなこんなで、昼食時間になったので、寮の食堂に向かう。

 その途中……。

 一夏は、箒達と談笑しながら横を向いて歩いていたが、ふと前から歩いてきて横を通り過ぎた人物に、ん?っとなって振り返る。だがそこには誰もいなかった。

「どうした?」

「えっ、あっ…いや、今髪の赤い男が通り過ぎたような…。」

「はっ? そんな奴いないじゃない。」

「だいじょうぶ?」

「ん~?」

 赤毛のようで、金色が混じったような少し奇妙な髪の色だった。そればかりが印象的で顔は見ていない。一瞬だったが、背は一夏ほど大きくはなく、体格も中肉中背という感じであったような気がする。

「どうしたのですか、一夏さん? 変ですわよ。」

「気のせい…だったのか?」

「トレーニングのしすぎではないのか?」

「…疲れてんのかな?」

「たまには息抜きしなさいよ。あんたには目標があって、頑張ってるのは分かるけど、体壊したら終わりよ?」

 みんなからメッチャ心配された。

 一夏は、頭を振り、ガシガシと片手で頭をかいた。

 先ほどの赤が脳裏に焼き付いて離れない。それが奇妙で、不快で……。この感覚には少し覚えがあった。そう、銀の福音の件と、ウォーターワールドで聞いた…あの声を聞いたときのような?

「まさかな?」

「一夏? 本当にだいじょうぶか?」

「ん…、だいじょうぶだ。」

 箒の心配する顔を見て、一夏は安心させるように笑ってみせた。

 そして立ち止まっていた一同は食堂へ向かった。

 

 その後ろ姿を見ている、赤毛に金が混じった変わった髪の色の、けれど体が半透明な存在が柱に背中を預けて見ていたことに気づかなかった……。

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 食堂で出てきたランチメニューに、マカロニがついていたのだが、シャルロットがマカロニの穴にフォークを刺して食べるというちょっと子供っぽい食べ方をしていたので、ラウラが興味を持った。

「へ、変かなぁ?」

「あ、俺も昔チビの頃やってたな。」

「私もだ。私は箸で刺してた。」

「それで、箸にどんどん刺していって、箸丸ごとマカロニで包もうとして怒られたよな。」

「ああ。千冬さんにな。食べ物で遊ぶな!っと。」

「…なんか、一夏の子供の頃って想像できないなぁ。」

「わたくしもですわ。」

「小学校高学年と、中学校の頃なら知ってるけど。」

「やはり、その頃はまだ筋肉はついていなかったのだろうな。」

「そりゃあ、鍛え始めたのは中学校からだからな。」

「それでも剣道やってたから体格はそれなりだったじゃない。」

 などと、マカロニから始まり、一夏のことで話が盛り上がる。

「一夏って、カッコいいから赤ちゃんの頃は可愛かったのかな?」

「…それがな……、俺のとこ、赤ちゃんの頃の写真ねーんだよ。」

「えっ? そうなの?」

「親が蒸発してから、その前の写真っていっこもねーの。」

「……それは、おかしくないか?」

 フォークにマカロニを刺していたラウラがポツリと言った。

「千冬姉も何も言わねーし、触れられたくないなら、追求はしないってことにしてんだ。だから今まで気にしないことにしてた。」

「そうなんだ…。」

 悪いことを聞いてしまったと、一夏と箒以外が悲しそうにする。

「別に気にしてねーよ。だから気にすんなって。」

 そう言って一夏は、肉の塊を口に放り込み、ムグムグっと噛みしめながら笑った。

 

 

『………………………………こちらのイチカは、違うんだね。出生が…。』

 

 

「!?」

 耳元で囁かれるように、その声が聞こえた。

 思わず箸を落とし、囁かれた方の耳を押さえる。

「一夏?」

「い、今…。」

「えっ?」

 箒達の反応を見て、一夏は、自分だけがその声を聞いたのだと理解した。

 幻聴にしてはあまりにもリアルで、声と共に吐かれた息の感触も耳に残っている。

 ゾワゾワと肌に鳥肌が立つのを感じた。

「いや、本当にだいじょうぶか? 部屋で休んだ方が…。」

「だ、だいじょうぶだ…。わりぃ、千冬姉のとこ行ってくる。」

「えっ? あっ。」

 一夏は、立ち上がると急いで食堂を出て行った。

 食堂を出て、廊下を走っていると……。

「……てめぇか…?」

 立ち止まり、横を向くと……、そこには、いつの間にか壁を背に赤毛に金が混じった色の髪の毛の男が立っていた。

 この真夏だというのに、マフラーを巻いていて、深く俯いていて顔は見えない。短すぎない程度の長さの赤に金が混じった髪の毛の、その色ばかりが目に付く。

「てめぇが……。アイツ…なのか? 答えろ!」

 しかし相手は答えない。

 反応がないため、これが幻覚なのかどうかすら怪しい。しかし、よーく見たら、少し体が透き通っていた。やはり幻かっと思った。

 蝉の鳴き声がイヤに耳に響き、気がおかしくなりそうな感じがする。しかし、一夏は正気を保とうと気を張った。

 やがて、赤毛の男が動いた。

 

『ヒトって……、簡単に狂わせられるからね。』

「はっ?」

 

 途端、世界が暗転した。

 

『バイバイ。また会おうね。近いうちに…。』

 

 意識が沈んだ直後、そんな声が聞こえた。

 

 

 

 

「…ちか! 一夏!」

「………………………………はっ!」

 一夏は、ハッと目を覚ました。

 泣き出しそうな箒の顔と、食堂の天井が見えた。

「箒…? 俺、どうした?」

「急に倒れたんじゃないか!」

「そうなのか…?」

 周りを見ると、鈴達も心配そうな顔をしていた。

「どれくらい…倒れてた?」

「30秒少々ってところよ。」

「保健室に行った方が…。」

「ああ…。一応行っとく。」

「付き添ってあげなよ。箒。」

「分かってる。」

 起き上がった一夏を支えるように、箒が寄り添い一夏は箒と共に保健室へ行った。

 




ウォーターワールドがどれくらいの施設なのかは分からないけど、大きな施設っぽいし、出来たばかりだから観客数も多かっただろうし、規制しても次から次に目撃情報が飛び出してくる状況。ただしあまりに現実離れしてるので真偽を疑う人も多い。

このネタの一夏の前に現れたアイツ……。
何を目的に接触してきたのかは、謎。
まあ、そういうキャラだから…。
どこのあたりから幻想だったのかは不明。少なくとも食堂にいる間に起こった。


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SS29  にゃんにゃんにゃん

今回短め。


別に箒とアレコレするわけじゃないです。


あと、このネタは、一夏×箒であって、ハーレムではありません。


 

 保健室で調べてもらったが、別状はなく、単なる真夏の暑さによる軽い熱中症じゃないかと言われた。

 しかし、一夏はあのリアルさが拭えず暑さとは別に嫌な汗をかいていた。

「箒。ちょっと来て。」

「えっ? あ、なにを!?」

 落ち込んでいる一夏の傍にいた箒を鈴達が引っ張っていった。

 しかし、一夏は動かない。動く余裕が全くなくなっていたのだ。

 これは、相当参っているなっと、保険医は思った。

「部屋でゆっくり休んだら?」

「……そうします。あれ? 箒?」

「さっき、彼女達と出て行かれましたよ。あっ。」

 やっと気づいた一夏は、慌てて箒達を探しに行った。

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 その後、寮を探し回って、自分と箒の部屋の前に来て、何か違和感を感じた。

 なんか…、よからぬことが行われてないか?そんな予感がした。

 まあ、鈴達が箒に手荒なことはしないだろうとは思うものの、少し用心しながら部屋に入った。

 そこで見たモノは……。

 

「にゃ………………………………にゃ~ん。」

 

 可愛い茶トラ猫柄のパジャマを身に纏い、パジャマについている猫耳フードまで頭に被り、肉球つきの手袋までつけた箒が猫のポーズで赤面した状態でにゃ~んっと言うと、周りにいた様々な柄の猫のパジャマを身につけた鈴達が、一斉にニャーン!っと出迎えたのだった。

「………………………………なんじゃこりゃ?」

 思わず出た言葉がそれだった。

 鈴が思わず小さく舌打ちした。

「猫は守備範囲外だったか…。」

「いや、猫は好きだぜ? けど、何この状況は? そっちの方が気になったぜ?」

「あ~ら、察しが悪いわね。あんたホントどうかしたんじゃないの?」

「いや、だから…。」

「暑さで参ってるらしい、あんたをビックリさせて頭冷やさせようってわ、け。」

「あれは…。」

 幻覚じゃない…っと言いかけたが、投げつけられた白ブチ猫のパジャマのせいでそれ以上は言えなかった。

「せっかく買ってきたんだからアンタも仲間入り!」

「ささ、着替えて着替えて!」

「なんでそうなるんだ?」

 言われるまま背中を押され風呂の脱衣所に押し込められたので、一夏は嫌な気分を拭おうと猫のパジャマに着替えた。

「よく俺のサイズがあったな。」

「サイズは、箒が計ったのよ。寝てる間にね。」

「へ?」

「冬に手作りのセーター編むんだよね?」

「あーあーあー!!」

 箒が必死に肉球つきの手袋の手で耳を塞いでいた。

「ニャーーー!!」

「ふぎゃあああああ!?」

 そんな箒の背中に一夏が笑顔で飛びついた。

「ニャーニャー、フニャー!」

「にぎゃあああああ!」

 まさぐられるようにくすぐられ、箒は涙目で笑い転げた。

 鈴達も加わり、全員でくすぐりあいっことなって、みんなで笑った。

「ふにゃはははは! あー、スッキリした。」

 起き上がった一夏は、暑くなったので頭に被っていた猫耳フードを外した。

 箒達は、ゼーハーっと息を切らして顔真っ赤になっていた。

「ありがとな、頭がスッキリしたぜ。さっきまでの嫌な気分が消えた。」

「そりゃよかったわね。」

「だいじょうぶか、箒?」

「ぅう…。」

「それじゃ、あとはごゆっくり。」

「頑張ってくださいね! 篠ノ之さん!」

 鈴達はそそくさと退室した。

「あっ、おい!」

「ぅう、一夏ぁ…。」

「っ…。」

 箒が寝転がったまま、涙目、赤面で一夏を見上げてくる。

 可愛らしい茶トラ猫のパジャマも相まって実に……。

「………………………………………………………………フンッ!」

「一夏ーーー!?」

 次の瞬間、一夏は自分で自分の顔を殴った。

 鼻血を垂らした一夏は立ち上がり、そのままズカズカと風呂場の方へ行き、水のシャワーを頭にぶっかけた。

「三角筋、小円筋、大円筋、ヒラメ筋、上腕筋、上腕二頭筋大胸筋、上腕三頭筋、円回筋、烏口腕筋、棘上筋、棘下筋、棘腕筋…。」

 ブツブツと、筋肉の名前を呟き、心頭滅却しようとする。

「一夏…………………、私は、魅力が無いか?」

「逆だ、箒。」

 恐る恐る風呂場を覗いてきた箒に、一夏は即答した。

「このままじゃ、千冬姉にコロされる……。」

「それは、さすがに…。」

「いや、やりかねねえ! 千冬姉の目はマジだ!」

「う、そうか…。ごめんな。煽るようなことをしてしまって。」

「いや…、さっきまでの嫌な気分も晴れたし、助かったよ。ありがとな。」

 一夏は振り返り、笑顔を向けた。

 

 箒達のおかげで、一夏は、謎の敵から受けた精神攻撃の後遺症を吹っ飛ばすことができたのだった。

 




…………………なんでこんなの書いちゃったんだろう?
猫の格好でじゃれ合うのを書きたかったつもりだが。


あと、筋肉の数えについては、別途連載終了のFate小説のをコピーしました。


とりあえず、前回の精神攻撃の後遺症が治った一夏でした。


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SS30  夏祭り その1

飯テロ目指した。


 箒は、浴衣姿で待っていた。

 ウズウズ、ドキドキ…。その姿はまさに恋人を待ち焦がれる少女そのものだ。

 そして。

 

「お待たせ! 箒。」

「遅いぞ!」

「ごめんごめん。」

 

 やっと来た一夏がヘラヘラ笑って頭に片手を置いて謝り、箒は、可愛らしくプンスカ怒った。

 この場には、夏祭りに来た者達で賑わっていて、箒の艶姿を見てナンパを考えていた男達もいたのだが、一夏が来たことで、なーんだ彼氏持ちかっとガッカリしていたりしていたのだがそれは二人の知らぬこと。

 一夏は、箒をジーッと見つめた。

「なんだ?」

 その視線に気恥ずかしくなった箒が頬を染めた。

「いや、似合うなって思ってな。綺麗な浴衣が似合うぜ。」

「っ…。い、行くぞ!」

「おう。」

 頬が熱くなるのを感じながらさっさと行こうとする箒を追いかけ、一夏はニヤニヤしていた。

 夏祭りには、今年も様々な屋台が出店している。それを見ているだけでもテンションが上がってくる。

「おい、箒、見ろよ、ドネルケバブが売られてるぞ。」

「多国籍になったものだな。」

「なんか食おうぜ。」

「うーん。」

 並んで歩きながら何を食べるか考える。

「お、箒。」

「なんだ?」

「ラーメンバーガーって、あるぜ。」

「むっ?」

 一夏に肩を掴まれて立ち止まり、一夏が指差した先には、ラーメンバーガーなるモノを売っている屋台があった。

 まあ、名前の通りである。ただバンズでラーメンを挟んでいるのではない。バンズ部分がラーメンの麺を固く揚げ焼きしたモノで、中にラーメンに使われる具材を挟み、タレをかけたものだ。

「すんませーん。ラーメンバーガー1個! 醤油で。」

「まいど!」

「なんで1個なんだ?」

「一緒に食おうぜ。食いあいっこだ。」

「!」

 それを聞いた箒は、またも赤面した。つまり……、間接キス的なアレ?

 そうこうしていると、ラーメンバーガーを受け取りお金を払った一夏が箒の手を引いて座って食べられるスペースへ移動した。

「箒から食うか?」

「え、あ…。」

「ほら、美味そうだぞ?」

 ズイッと、ラーメンバーガーの縁を突き出され、箒は、ゴクリッと息をのんだ。

 そして美味しそうな濃い醤油の匂いに誘われるまま、それを囓った。

 パリ、パリっと香ばしい表面がかみ砕け、すぐに中のモチッとした食感に到達、そして中の具材までかみ砕いて咀嚼した。

「!」

「どうだ?」

 目を見開き、口を押さえる箒に聞くと、箒は口を片手で押さえたまま、お前も食え!っと言わんばかりに指差していた。

 一夏も箒が囓ったところからラーメンバーガーを一口囓った。

「おおっ!」

「美味いな!」

 予想以上の美味しさに、二人はラーメンバーガー1個を堪能したのだった。

 なお箒は、間接キスだということを忘れていた。

「今ので食欲に火が付いたな…。次なに食べる?」

「やはり定番が……。」

 箒は、お好み焼きの屋台を見つけてそこをジーッと見つめた。

「よっしゃ、決まりだ。買おうぜ。」

「あ、ここは私が買う。」

「いいのか?」

「それくらいお小遣いはある。」

 そう言って箒は、お好み焼きの屋台に行ってお好み焼きを買ってきた。

「あ、焼きそばが挟んであるな。モダン焼きってやつか。」

「箸。」

「ありがとな。」

 プラスチックのパックに入ったお好み焼きを、二つの割り箸で分け合いっこ。

 小麦粉生地にたっぷりのキャベツと、アクセントに紅ショウガと豚肉のコク、間に入った焼きそばも炭水化物×炭水化物なだけに禁断の旨さである。ソースにマヨも最高である。

「やはり粉モノは外せないな!」

「今度みんなでお好み焼きパーティーでもするか?」

「いいな。具材はみんなで持ち寄るというのはどうだ?」

「それならたこ焼きも作ろうぜ。ロシアンたこ焼き何つって…。」

「それは中々に怖いな…。」

 

「あれ? 一夏…さん?」

 

「ん?」

 聞き覚えのある声が聞こえて見ると、そこには五反田弾の妹、蘭がいた。

 最後に見たラフな格好ではなく、箒と同じ浴衣姿である。

「よお、蘭じゃないか。お前もきてたのか?」

「は、はい!」

「誰だ?」

「紹介するぜ。中学自体から友達の五反田弾って奴の妹の蘭だ。」

「ら、蘭です…。」

「どうも…。」

「あの…一夏さん、もしかして、この人が?」

「えっ? ああ、俺の彼女だ。」

「…うぅ~。」

「?」

「負けた~!」

 蘭は自分の胸を押さえて嘆いた。

「蘭。女は胸じゃないぞ?」

「男の一夏さんが言わないください!」

「ほら、蘭。誰か待たせてるんじゃないか?」

「あ…。い、一夏さん!」

「なんだ?」

「……私…、もっと大人になったらちゃんと言います!」

「…そうか。」

 蘭はそう言い残すと、自分の学校の生徒会の仲間のところへ走って行った。

 箒は、そんな蘭の後ろ姿を見つめていた。

「…いいのか?」

「ああ。いいんだ。良い経験にはなったはずだろ?」

「けど…。」

「それとも、俺が蘭に移り気するとでも?」

「ち、ちが…。」

「俺は、今も昔もずっと箒だけだよ。」

「! い、一夏ぁ…!」

 感極まった箒は、一夏の胸に抱きついた。

 




蘭、敗北。


腹が減った状態で書いたから結構腹にキツイ。

ちゃんと飯テロに書けたかな?


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SS31  夏祭り その2

ほぼオリジナルかも。


弾も出てます。


あと、箒の幼少期のオリジナルエピソード(?)も入れています。


 

 腹が膨れたら、今度はゲームメインの屋台を回る。

「金魚すくいするか?」

「飼えるのか?」

「犬猫や鳥はダメだけど、金魚は書いてなかったはずだぞ?」

「まあ…五月蠅くはないしな。」

「けど問題がある。」

「なんだ?」

「金魚すくいの金魚はあんまり長生きしないことだ。」

「…う~む。」

 死んだら埋めてやりたい、だが場所はIS学園なので、敷地内に埋めやることができない。

「…できないな。」

「そうだな。」

 二人は金魚すくいの屋台から離れた。

 そして、景品を玩具のライフルで撃って落とすゲームのある屋台を見つけた。

「すんませーん。二人分お願いしまーす。」

「はいよ!」

 そしてお金を払い、二本のコルク弾が込められたライフルを渡された。あと、三発分の予備弾も。

「箒、どれか欲しいのあるか?」

「えーと…。あっ。」

 箒が景品を見渡していると、その中に高そうなテディベアが座らされていた。しかも五等賞と書かれていた。しかし、大きさ的に落とせるかどうか微妙なラインだ。

 ふと見るとこの屋台のオヤジがニヤニヤ笑っている。どうせ狙っても取れないだろうと踏んでの景品なのだろう。

「あれか? 熊の。」

「いいのか?」

「箒のも貸してくれ。それならいける。」

「分かった。」

 一夏は自信たっぷりに手を差し出してきたので、箒は頷き自分の分の玩具のライフルを渡した。

 そして…、チャキッと一夏が1本目のライフルを構える。その構えは、学園でシャルロットに教わった撃ち方だ。

 一発。そして、二発、三発、四発。すべて撃ち終えると座っているテディベアの体勢が変わった。

「次。」

 ポイッとカラになったライフルをオヤジの方へ投げ、もう一丁のライフルを構えて撃った。

 そして……。

 全て撃ち終えたとき、テディベアが落ちた。

「っしゃあ!」

 見ていた屋台のオヤジは、ポカンッとしていたが、ハッと我に返り、手元にあった鐘をカランカランと鳴らし、五等賞が取れたことを知らせた。

「うぇええええん!」

 すると、女の子の泣き声が聞こえた。

「あたしが欲しかったのにーー!」

「こら、あのお兄ちゃん達が取ったんだから、ミーちゃんのじゃないの。」

 泣きわめく浴衣の少女を母親が窘めていた。しかし少女はまったく泣き止まない。それどころか、お友達が持っているのに自分だけ持ってないと叫んだ。

 五等賞のテディベアを受け取った箒は、テディベアと少女を交互に見て、それから一夏を見た。

 一夏は、好きにしろよっという風に頷いた。

 そして箒は、少女の方へ向かった。

「ほら、泣き止め。あげるから。」

「ふぇ? いいの?」

「えっ? いいのですか?」

「友達に自慢しろ。いいな?」

「ありがとう!」

 箒からテディベアを受け取った少女は、それはそれは嬉しそうにテディベアを抱きしめた。

「すみません。ありがとうございます。あのお代だけでも…。」

「いや、いいんですよ。」

 一夏が箒の隣来てそう断った。

 少女と母親は何度もお礼を言って、そして去って行った。

 箒は、テディベアを大事に抱きしめて手を振ってくる少女に手を振り、どこか切なそうに笑った。

「…よかったのか?」

「ああ。私が持つより…、あの娘の方が似合うだろう?」

「そんなことないぞ?」

「……昔を思い出したんだ。私もまだ家族がいた頃、ああやって駄々をこねて困らせたことをな。そしたら、当てた商品の小さいお菓子をくれた人がいたんだ。欲しかったモノじゃなかったが、当時はそれだけで嬉しかったな…。」

「そうか。」

 

「よー、お熱いねぇ。一夏ぁ。」

 

「弾!」

「誰だ?」

「さっき紹介した蘭のお兄さんだよ。俺の同級生。」

「五反田弾だ、よろしく。あ、もしかして、一夏…、例の彼女か!?」

「へへへへ…。」

「このこのこの! 綺麗な子じゃねぇか! 羨ましいな、てめぇ!!」

 一夏に負けない体格の弾が、にやける一夏の首に腕を回し、グリグリと頭をこずいた。

「弾こそ、彼女くらい作れよな。」

 弾の腕を外した一夏がニヤニヤと笑って聞くと、弾はがっくりと項垂れた。

「そう簡単に作れるかっての! 数馬も嘆いてたぜ? 一夏の奴に先超されたーー!って。」

「なーんだ、数馬もまだか…。」

「くわーーー! リア充の余裕か!」

 弾がウガーっと叫ぶ。

「フッハハハハ! 羨ましいなら、お前らもがんばれよ!」

「このやろーーーー!」

 などと笑い合いながら小突きあいをしていた。

 男同士の仲の良い小突きあいを見て、箒はクスッと笑った。

 やがて弾は、持っていた携帯電話が鳴ったのでメールをチェックし、時間になったと言って、そして一夏と箒にまた会おうなっと言って待ち合わせ場所に行った。

「さてと…、そろそろ花火の時間だな。行こうか。」

「ああ。」

 二人は花火がよく見える場所へ移動した。

 そこは、二人が見つけた穴場だ。神社の林を抜けると、そこは花火がよく見えるのだ。

「足下気をつけろよ。」

「ああ。」

 一夏に手で支えて貰いながら林を歩き、やがて天窓のように開けた場所に出る。ここが穴場だ。

 やがて……。

 

 ヒュルルルルルル…、ドーーーーーーン!

 

 夏休み恒例の花火が始まった。

 普通に見物客が集まる場所はきっとごった返しているだろう。しかし、ここは二人の秘密の場所。だから誰も邪魔はなく、花火を見られる。

「……綺麗だな。」

「ああ…。」

 箒は、一夏の腕に手を絡めて寄り添った。

 赤や青、緑、黄色…、様々な色彩の花火が夜空を彩る。

 ここの花火は百連発で有名で、一時間程度はずっと続く。

「…一夏。」

「どうした?」

「また…来年…。」

「ああ、もちろんだ。」

 来年もこの夏祭りに来ようっと二人は花火が美しく照らす夜空を見上げながら約束し合ったのだった。

 

 




実は、アイツが邪魔者として出る予定でしたが、やめました。やめて正解だったかも。
花火を利用されたらさすがに死者が出る。


なお、このあとデザートにクレープとか食べたとかって話も入れようと思ったけどやめた。


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SS32  千冬と異界からの敵

勢いって怖いな。


今回は、千冬の一夏と箒への思いと、謎の敵との会話。


 

 

サイド:千冬

 

 

 

「真那…、私はな…あの二人の恋路を邪魔したいわけじゃないんだ。」

「はい。」

「大事な弟と同じぐらい、私は篠ノ之妹も大事なのだ。国家機関と束の勝手のせいで6年も振り回されてなお、一夏を思い続けてくれた。そして一夏も同じく…。篠ノ之と離ればなれになってから、一夏は本気で笑った顔を見せなくなったのだと、再開してからの笑顔を見て思い知ったよ。」

 千冬はそうブツブツと言い、グイーッと黒ビールを一気飲みした。

「私はそのことに気づかなかった。酷い姉だ。」

「そんなことないですよ。」

 ここは、バー。山田真那と千冬が並んでカウンターに座っている。

 酒が入ってブワッと感情が出てしまった千冬が、さっきから一夏と箒のことばかり話していた。

「よ~く、よ~く分かりますよ。お二人、とっても仲が良いじゃないですか。もう見ているこっちがほっぺた真っ赤になって熱が出そうなほどアツアツじゃないですか。」

「私はな、私はな! ただ! 二人の幸せを願っているだけなのだ!」

 ダーンッと空になったビールが入っていたコップの底をカウンターに叩き付けるように置いた。

「しかし、それが二人の恋路を邪魔しているのなら、私はどうしたらいい?」

「二人とも、分かってると思いますよ?」

「しかしだな…、臨海学校の初日に凰から言われた…。『男って、多少スケベな方が健康的』っとな。私が堅すぎるのか!?」

「いえいえ、公衆の眼前で押し倒そうとしたのを止めないと大変なことになってましたよ!」

「うむ…うむ…、そうか…。そう言ってもらえて、少し気が楽になった…。」

 千冬は、酒の力も手伝って、グスンッと涙ぐんだ。

 真那は、思った。これは、相当疲れてるし、思い詰めていたんだなっと。

「お二人とも、まだ16歳ですから、心身共にまだまだ若いですから、切羽詰まって過ちを起こしかけることもありますよ。」

「それも青春なのだろうな…。」

「織斑先生にもあったでしょう?」

「……ない。」

「えっ?」

「私は私でそれどころじゃなくてな…、色々とな。私は恐らく一般基準でいう青春というものを謳歌していない。」

「あ…、そ、そうだったんですか。」

 マズいことを聞いてしまったと、真那は気まずくなった。

「そのせいかもしれんな…。堅いことばかり言ってしまうのは…。」

 

 

『“こっちの千冬”も、ブラコン…か。』

 

 

「…………………ところで、貴様、いつからそこにいた?」

『さてね?』

 二席ほど離れた位置に、赤毛に金が混じったような髪色に、マフラーで顔を隠した中肉中背の男が座っていた。

 千冬は、ハッとする。店が…、周りが…、すべて鈍い灰色に変わり、時間が止まったようなっていることに。

『邪魔が入ると、面倒でしょ?』

「…名のひとつぐらい名乗れ。」

『ふーん。こんな異常事態でもそこまで落ち着いてられるのか。』

「貴様にはそれだけのことができる、得体の知れなさがある。一々驚いてられん。」

 千冬が席から立ち上がり、護身用の短い木刀を取り出した。

『残念だけど、名前は教えない。この宇宙には俺という可能性がないからね。名乗ったところで見つけることはできない。』

「なるほど…、ここにいる貴様は幻影か何かか?」

『せいか~い。これは実体じゃない。今の実験段階じゃ、肉片を送るのがやっとだ。』

「ウォーターワールドでの事件は、やはり貴様の仕業か!」

『そうだよ。別宇宙への攻撃実験をかねた転送実験だよ。』

「貴様らは、侵略者か?」

『さ~て? その予定は今のところないけど、もしもの…時は…ね?』

「っ!」

 つまり必要とあらば、こちら側の世界を侵略するということだ。

『だからこその、攻撃と、それに必要な転送。実験は成功。銀の福音と、今こうして、会話も成立しているし、別宇宙への干渉は可能だという立証もできた。あとは、転送量とそのための技術さえできれば、いつでもそちら側への侵攻はできる。』

「貴様ら…!」

 千冬は怒りによって表情を歪めた。

『今回は、こちら側がそれぐらいできる状況だって事を言いに来ただけ。そして、侵攻する予定自体はないから、別宇宙との戦争が起こることはないって思ってくれていいよ。』

「ならば、銀の福音と、ウォーターワールドでの件はどうなる! あれこそ敵対行為ではないか!」

『備えあれば憂いなし。って、言葉があるじゃん。なにもそちら側じゃなくても、いいんだ。ただ、実験に成功したか否か。その結果が欲しかったから、その過程でたまたまこの宇宙が選ばれただけに過ぎないんだ。まあ、あえて理由を付けるなら、俺という干渉のための力の媒体が、この宇宙に存在しないというのも、選ばれた理由かな? 現段階じゃ、俺という存在がいないと別宇宙への干渉は今のところ不可能だ。けど、技術進歩が進めばいずれ、俺がいなくても干渉は可能になる。そのためには、これからもそちら側を利用させてもらうかもね。』

「私達の世界を実験場にする気か!」

『早い話が、そういうことだね。』

「おのれ!」

『おおっと。』

 千冬が木刀を振るってきたが、赤毛の男の幻影をすり抜けただけだった。

『そうそう、この間、一夏が倒れたでしょ? あれ…、俺が精神干渉を行ったせいなんだ。ごめんね。』

「なっ!」

 千冬はあの時一夏が熱中症で倒れたと聞いていたが、まさか謎の敵の干渉のせいだったとは思わなかった。

『あ、そろそろ終わりだ。じゃあね。』

「待て!」

 

「…………………織斑先生?」

 

 男の姿が消えたと同時に、真那の声が聞こえた。

 ハッとした千冬は、慌てて周りを見回した、木刀を手にした千冬をバーのマスターも、他の客達も怪訝そうに見ている。

 千冬は木刀を収め、痛む頭を押さえてふらつきながら、カウンターに手をついた。

「織斑先生! だいじょうぶですか!」

「あ、ああ…。すまない。トイレ…行ってくる。」

 心配して駆け寄ってきた真那を手で制し、千冬は頭を押さえながらフラフラとトイレに向かった。

 そして便器に手を置き、盛大に吐いた。

「……っ、ふ、ふざけている…!」

 アレは、別宇宙からの敵の警告なのか、単なる遊びなのか、それとも実験の一環なのか…その答えを出す要素がない。

 自分達の世界を、別宇宙への干渉という侵略の準備のための実験に利用されているなど、あってはならない。だがどうする?

 敵はそれほどの技術力を持っているのなら、世界中のISをすべて出撃させたとて、勝てる見込みはあるのか?

 そもそも、なぜ自分にあの敵は干渉してきた?

 そういえば、こっちの千冬と言っていなかったか? つまりあちら側の宇宙には自分も存在するということか? 同一にして別人の自分が。

「……クソッ!」

 すべてがまるであの敵の掌の上で遊ばれているような錯覚がある。

 それを想像した千冬は強烈な嫌悪感がこみ上げ、また吐いた。

 

 




とりあえず、原作4巻は、これで終わりかな……。

アイツが何をしに来たのか…、まあ謎行動はいつものことだし。別作品でも。
ただひとつ言えるのは、準備さえ整えば、いつでも侵略が可能だということを言いに来たことですね。

千冬が吐いているのは、精神干渉による後遺症です。酒も入っているのでメチャクチャ脳を揺すられた。


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SS33  強くなるため

今回も飯テロ目指してみた。


 

 

「零天破甲!」

「あああああああああああ!」

 実戦訓練で鈴と戦っていた一夏は、とどめの一撃を放ち、鈴を撃破した。

「く~~~、こんな攻撃…どうやって避けろってのよ!?」

 アリーナのステージの端まで吹っ飛んで転がった鈴が、キーッと怒った。

 零落白夜のシールドエネルギーを攻撃力に変換する特性がナックル型新武装にも使われた新武装・零天破甲は、ピストル拳の圧と合わさることで初めて発現する武装で、攻撃範囲も攻撃力も極悪だった。まあ、もっともピストル拳を使わずとも単に殴るだけでも零天破甲は使えるが、零天破甲が零天破甲として真に力を発揮するのは、一夏がピストル拳を放てるだけの肉体を維持することが最低条件である。

「しかしだな、まったく攻略法がないわけじゃないぞ。」

「どういうこと?」

「私の…紅椿のワンオフアビリティである、絢爛舞踏は、最小のエネルギーを最大に増加させる。最大出力での刃でなら、零天破甲は、面積が大きい分、一刀両断の一撃で両断されれば攻撃そのものが、真っ二つだ。」

「相当な技量がいりそうだけど…。」

 聞いてたシャルロットがコメントした。

「だから…、本来ならば私のような者が使うべきではないのだ。それなのに、束博士ときたら…。」

「一応お姉さんなんでしょ?」

「一応はな。アレと血が繋がってると思うと反吐が出そうなときがある。」

 うわ~、嫌われてるんだな…っと、鈴達は思った。身内にこれだけ嫌われて、ちょっとだけ束が気の毒になったのだった。

「しかし、よくよく考えてみたら、紅椿は、白式(雪羅)と対になる機能を備えていますのね?」

「そうよね。シールドエネルギーの攻撃変換と、最小のエネルギーを最大増加。しかも、普通なら難しいエネルギー譲渡が簡単にできるなんて…。」

「つくづく私向きじゃない。」

「そうご自分を過小評価しないほうがいいですわよ?」

「けど、私は県大会で優勝したとはいえ、真に剣の達人というわけではないぞ?」

「なら、できるようなるっきゃないじゃない。」

「はっ?」

 すると鈴にガッと肩を掴まれた。

「一夏! まだシールドエネルギーに余裕ありまくりでしょ! 箒があんたの技ぶった切れようになるまで練習させなさい!」

「なぜそうなる!?」

「紅椿が白式と一対の機体なら、それを扱える唯一の存在であるあんたが使いこなせるようなるっきゃないじゃない! 例え不本意でもね。」

「そ、そんな…。私は…。」

「銀の福音の時を思い出しなさいよ。あの時みたいに非常事態になって一夏が出撃しなきゃならなくなった時、紅椿がもう一つの要になるのよ? なにも日本代表になるほど強くなれってわけじゃないの。ただ、もしもの時のために力は付けておいて損はないわ。」

 渋る箒の肩を掴んだまま、鈴はそう言い聞かせた。

 箒は、うむむ…と呻く。

 鈴の言うとおりではある。謎の敵の襲撃もいつまた起こるとも分からない状況である。備えあれば憂いなし。まさにその言葉通り力を身につけておけば銀の福音の事件の時のようにサポートとして控えておくことができるだろう。よくよく考えたら、銀の福音の時は、起動させたばかりで機体に慣れていなかったのもあり、もっと力があればもっとうまく立ち回れていただろうし……。

「無理はしなくていいんだぞ、箒。」

「一夏…。」

 一夏は優しく微笑んでいる。

 箒は俯き少し考え、決意したように顔を上げた。

「一夏! 私と実践訓練をしてくれ!」

「いいのか?」

「欲しくて手に入れた力じゃないが…、手に入れたものは仕方ない! 私は、強くなりたい! お前の傍で恥じぬ強さを!」

「そうか…、なら、来い!」

「ああ!」

 箒は、紅椿を展開した。

 鈴達は、そんな二人の様子を微笑ましく見ていた。

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 実践訓練のためのアリーナ貸し出し時間が迫り、中断となった。

 時間も時間なのでお昼ご飯。

 各国からIS装者や、その関係者となるべく人がやってくるIS学園。メニューも様々な国の料理がある。

 ラウラは、遠い異国の地でこれだけ美味しいドイツのシュニッツエル(仔牛のカツレツ)が食べられるとは思わなかったと言っていた。

 いつの間にやら仲良くなったらしいシャルロットにシュニッツエルを一口切り分けて分けてあげてたりしていて、微笑ましい。

 そしてなんだかんだでそれぞれの国の美味しいお菓子について話題が生まれた。

「そういえば一夏って、カロリー計算とかしてる?」

「ま、一応な。鍛える分のエネルギーが足りないと体がダメになるし、多すぎてもダメだ。」

「それだけの筋力を維持しようと思ったらねぇ。」

「最近糖質制限ダイエットなんて流行ってるみたいだが…、糖質ってのは別に悪者じゃねぇぞ? アレがないと脳のエネルギーがまず足りなくなる。それに、肉だけ食ってても、消化がうまくできなくて、腹の中でとんでもない腐敗臭を出すってこともあるらしいからな。結局は、なんでも食い物ってのは何かしら体に良いんだって、俺は思うぜ?」

「結局は、バランスだな。」

 うんうんっと箒が頷いていた。

「そうだ。今度、みんなでお好み焼きと、たこ焼きパーティーでもしないか?」

「おこのみやき?」

「日本食よ。簡単に言うと、小麦粉にキャベツとかを入れて平たく焼いてお好み焼きソースって独自のソースをつけて食べる。見た目のボリュームに反して意外とヘルシーなのよね。」

「じゃあ、たこ焼きって…、あれ? たこって、あのたこ?」

「そう、デビルフィッシュなんて言われてる、アレよ…。」

「食えるのか?」

「たこって、全身が骨のない脂っ気もない筋肉の塊で、旨味も塊でもあるからな。干せば良い出汁が取れるし、しっかりとした下処理をしたうえで、生ならシコシコ、茹でればプリプリ…、食わず嫌いしてると損する食い物だと思うぞ?」

「そういえば、たこが安売りしていたから買ってある。唐揚げと、アヒージョにでもするか?」

「いいな。」

 たこに抵抗感がある者達がその説明を聞いて口の中に湧いた唾をゴクリッと飲んだ。

「まあ、なにもたこ限定ってわけじゃない。肉を入れて良しだし。ロシアンルーレットみたいに、色んな具を入れればそれはそれで楽しいだろ?」

「たこ焼き器でホットケーキミックス生地を焼けば、まん丸な焼き菓子になるしな。」

「楽しそうだね。僕は賛成。」

「わたくしもですわ。」

「大賛成!」

「…じゃあ、私も…。」

「じゃ、決まりだな。基本になる具材はこっちで用意するから、入れてみたい具とかは、各自で持ち寄るってのはどうだ?」

「それは楽しそうですわね。」

「セシリア…頼むから変なのは持ってこないでよ?」

「なんで疑われるのですか?」

 鈴にジトッと見られ、セシリアは心外だと言った。

 

 こうして、各自具材持ちよりお好み焼き&たこ焼きパーティーが決まったのだった。

 




箒が紅椿を受け入れる。


あと、次回は、お好み焼き&たこ焼きパーティー?


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SS34  お好み焼きとはいうが、お好み過ぎもよくない

勢いで、書いて投稿。


お好み焼きの作り方にはご家庭やお店で色々とあるでしょうが、正解はないと思う。


 

 休日。

 予定通りお好み焼き&たこ焼きパーティー開催となった。

「小麦粉、キャベツ、卵、豚肉…、お好み焼きってシンプルなんだね。」

「シンプルイズベストってやつさ。」

「まずは、関西風からだな。」

「なになに風って、色々とあるのか?」

「地方によってはな。まあ、大きく分けて混ぜて焼くタイプと、広島風って言われてる挟み焼きタイプとかが有名どころかな?」

「色々と作るから、小さく作って切り分けて食べよう。」

「この赤いのはなんですの?」

「紅ショウガだ。」

「しょうが…ジンジャーがなぜこんなに真っ赤なのです?」

「色付けてるからだな。」

「こっちのカスみたいなものはなんだ?」

「天かすだ。天ぷらの衣だけを揚げたものって思ってくれていい。」

「このひげの生えたような…ものは?」

「山芋だ。」

「こういうの入れると美味しくなるのよね~。」

 卵と水で溶いた生地に粗みじん切りにしたキャベツと天かす、とろろにした山芋、みじん切りにした紅ショウガを少々入れて混ぜる。

 それを、熱したホットプレートの鉄板の上で先に焼いた薄切りの豚バラ肉の上に広げ、丸く平たく焼く。

 焼き上がったら、ソースとお好みで青のり、鰹節、マヨネーズをかけて頂く。

 小さめに作った関西風お好み焼きをヘラで切り分け、みんなの分の皿に載せて渡す。

「あ、美味しい。キャベツが甘くて…、ふっくら、トロッとしてて、このソースが甘っ辛くていいね。」

「マヨネーズが合いますわ!」

「かけ過ぎよ。」

「豚肉のコクがちょうど良い。」

「んじゃ、次、広島風。」

 ホットプレートの鉄板の上におたまで薄く広げた小麦粉の生地の上に、キャベツの千切りを…うわっ!っというほど乗せる。

「乗せすぎではないか?」

「これが広島風の特徴なんだよ。焼くと熱でキャベツがしんなりするから。」

 その上にさらにモヤシ、豚肉、イカ天…。さらに小麦粉を溶いた生地も少々かける。

「広島風はここから難しい…。」

「どうしてですの?」

「ひっくり返すのがな。」

「なるほど。」

 隣に焼きそばを焼く。

 そこに一夏がヘラを二つ手にして、ふ~っと息を吐き、キャベツ盛りだくさんの方の下にヘラを突っ込む。

 そして、タイミングを見計らってひっくり返しつつ、焼いた焼きそばの上にキャベツ盛りだくさんの方を乗せた。

「上手くいった!」

「わあ、上手上手!」

「あとは、卵を焼いて…。」

 熱が通ってすっかり半分ぐらい高さが縮んだキャベツ盛りだくさんお好み焼きを最後に半熟に焼けた卵の上に乗せ、ソースを塗る。

 そしてできあがり。切り分けてみんなで食べる。

「うわっ! こっちの方がキャベツの主張が強いって言うか、同じお好み焼きなのに全然違う。」

「見た目のボリュームの割に、キャベツとモヤシのおかげでさっぱりいけるな。」

「どっちが美味かった?」

「う~ん。これは、個人の好みじゃないかな?」

「技術が必要なのは、広島風で。簡単なのが関西風でしょうか。」

「たこ焼き器が温まったぞ。」

「じゃ、たこ焼きも始めるか。具は用意してるよな?」

 各自持ち寄った具材がテーブルに置かれた。

「セシリア…。」

「なんですの?」

「なぜにそれなのかな~?」

 鈴がヒクヒクと口元をひくつかせながら指差す。

「お好み焼きといいますから、お好みの具を使うのかと思って…。」

「だからって、なんでお菓子なのよ!?」

 クッキー、ビスケット、チョコレート、飴……、色とりどりのお菓子がある。

 鈴は無難にシーフード。シャルロットとラウラは、共同で購入したのか様々な種類のソーセージ類だった。

「いいじゃねぇか、たこ焼きに使おうぜ。」

「一夏!?」

「当たりを引いたらラッキーだ。」

「いやアンラッキーでしょ!」

「ホットケーキミックス生地なら、チョコレートも合うんじゃないか?」

「それは甘いのであって、普通のたこ焼き生地じゃ…。」

「よーし始めるぞ~。」

「ちょっと~~!」

 鈴の訴え空しく、たこ焼きパーティー開催。

 小麦粉をだし汁で溶き、卵も入れる。醤油と塩少々。

 温まったガス火のたこ焼き器の穴にあふれるほどその液を流し込む。入れすぎのように見えるが丸めるときにこれじゃないといけない。

「具材はそれぞれ用意したの入れていけ。」

「ソーセージの美味しそう。」

「チーズを入れても美味いぞ。」

「それいいね! 入れよう入れよう!」

「エビも美味しそうですわね。」

「ちょっと、一夏! 飴を入れないで!」

「ロシアンルーレットたこ焼きなんだからいいだろ?」

 そして串を全員に渡し、焼けてきたところからひっくり返していく。

「こう?」

「そうだ。上手いぞ。」

「ふん、ほっ。」

「おお、ラウラ、達人だな。」

 一夏が褒めるとラウラは、自信満々そうに笑顔になり鼻を鳴らした。

 焼けたのからボールに入れていき、全部が入ると……。

 一夏はその上に皿にボールを被せて蓋をした。そしてそれを両手で持ち、シェイクする。

 そして、ボールを外し、大皿にたこ焼きを乗せた。

「んじゃ、ロシアンルーレットたこ焼き始めるか。」

「普通に食べさせてよー!」

 鈴の絶叫空しく一夏は、ソースをたこ焼きの表面に塗った。

 全員が箸、あるいはスプーンを手に息をのんだ。なぜスプーンなのか? 理由は、真ん中を指した感触でなにが入ってるか分からないようにするためだ。

「よし、ジャンケンだ!」

 一夏の一言で食べる順番を決めることに。

 そして決まった順番。

 一夏、セシリア、シャルロット、鈴、箒、ラウラとなった。

「んじゃ、いただきます。」

 一夏が手を合せてから、たこ焼きのひとつを箸で摘まんで迷いもなく口に入れた。

 注目が集まる中…。

「エビだ。美味い。」

「オーソドックスね。」

「では…次はわたくしですわね…。怖いですわ…。」

 セシリアは、スプーンでたこ焼きのひとつを掬い、恐る恐る口に運んだ。

「ん…? これは、プリプリっと…歯ごたえが…。もしかして、これはたこ?」

「普通ね。」

「たこって美味しいのですね! 噛めば噛むほど味が出ますわ。」

「次は僕だね…。うーん。これ!」

 シャルロットは、もう迷っていてもしかたないと、すぐに口に入れた。

「ん…。なにこれ、食感は良いけど、なんか味が…。」

「たぶんコンニャクだな。ローカロリーだし、いいと思って入れたんだが。」

「煮物で食べたことあるよ。食感のおかげで悪くないね。」

「次は私ね…。あ~、怖っ。」

 鈴は、ため息を吐きつつ箸で摘まんで、クンクンと匂いを嗅ぐ。だが匂うのはソースの強い匂いばかりで中身は分からない。

 鈴は、ふ~っと息を吸って吐き、意を決して食べた。

「……んん!? なにコレ…!」

「味は?」

「鉄の味が…。」

「ああ、ブラッドソーセージか。」

「ぶら…。」

「血のソーセージって奴か。そんなのも入れてたのか。」

「うぅ~!」

「無理するな、ほら、ティッシュ。」

 涙目の鈴は口を押さえ、けれど、必死に噛んで飲み込んだ。

「こんなハズレがあったなんて…、飴を警戒しすぎてたわ…。」

「好みは分かれるが伝統あるソーセージだ。」

「それは分かるけど…。」

 残るは、ラウラと箒。

「ねえ、いっそのこと、せーので食べたら? その方が面白くない? これだけあるんだし。」

「うむ。」

「そうだな。じゃあ…、せーの。」

 ラウラと箒がスプーンと箸でたこ焼きを口に運んだ。

 そして、モグモグっと咀嚼する。

「…………………どう?」

「………………チーズ入りソーセージ?」

「箒は?」

「……………何もない。」

「あ、それ天かすか。」

「天かすってアリ!?」

「結局、誰も飴は取らなかったね。」

「ならいっそここからは全員で、せーので食べていこうぜ。それなら恨みっこ無しだろ?」

 一夏の提案でそうなった。

 そして、せーので食べる。せーので食べる。せーので……。

 

 ガリッ

 

 三回目でなんか音が鳴った。

 音がした方を見ると、ラウラだった。ラウラは、しかめっ面でガリゴリっと、飴入りたこ焼きを噛んでいた。

「あ、味は?」

「いや、味とかじゃないでしょ…。」

 心配を余所にラウラはリアクションもなく、飲み込んだ。

「吐いても良かったんだよ?」

「いや、食べ物を無駄にしてはいけないと軍で…。」

「たこ焼きもなくなったことだし、デザートいくか。」

「暢気ね~。」

 しかし、鈴はハッとした。

「ねえ、一夏。あんた、鼻がきくんだったわよね?」

「ん? ああ。」

「もしかして…どれが飴か分かってたとか?」

「……。」

「黙るな!」

 一夏が目をそらしたことで、不正発覚。この後、こってり怒られたのだった。

 

 そんなこんなで、お好み焼き&たこ焼きパーティーは、楽しく終わったのだった。

 




一夏、不正発覚。咄嗟に嘘もつけない。

もっとカオスにすればよかったかな? しかし私の技量ではこの程度……。

お好み焼きは家で作るときはいつも関西風。それでいて魚肉ソーセージを使ったり(漫画で見て参考にした)。


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SS35  お邪魔虫?な更識楯無

原作通りの流れで、一夏争奪戦をルールに入れるけど……?


 

 

「おっかえり~! 私にします? 私にします? そ・れ・とも…。」

 

 バターン!

 

 っと、一夏は、廊下と自室を繋ぐドアを閉めた。ゴンッ、へぶっ!っという音と声が聞こえたが無視した。

 隣にいる箒をチラリと見ると、箒はなにが起こったのか分からず、ぼう然としていた。

「箒…部屋間違えたみたいだ。」

「いや、ここは…私達の部屋だぞ?」

「いいや、あんな痴女がいる部屋が俺らの部屋なわけ…。」

 しかし、視線をドアの番号に向けても、そこには自分達の部屋であることを示す番号しかない。

「酷いよ~。」

「出てくるな! そんな格好で!」

 鼻をさすりながら出てこうようとする裸エプロン姿の少女を、一夏は慌ててドアを閉めようとしたが、彼女も負けじと出ようとドアを押さえ踏ん張る。

「一夏! このままでは目立つ。一旦部屋に入ろう!」

 騒ぎを聞いて、他の部屋の生徒や廊下を歩いていた生徒が立ち止まりだしたので、箒はそう言って加勢し、なだれ込むように二人で部屋に入ってドアを後ろ手で閉めた。

「で? 何のご用ですか? 生徒会長さま。」

「いゃん。そんな堅苦しくならなくっても。楯無ってよ・ん・で?」

「仮にも先輩ですよね?」

 

 彼女の名は、更識楯無(さらしきたてなし)。

 このIS学園の2年生で、生徒会長を務めている女子生徒だ。

 

 なぜ、その偉い(?)人が、自分達の部屋に、裸エプロン姿で、待ち構えていたのか……。

 次に吐き出された楯無の言葉に、絶句することになる。

 

「私も、今日からここに住もうと思って。」

 

 その言葉を理解し、リアクションするまで、たっぷりと1分ほど。

 

「な、なぜだああああああああああああああああ!?」

 

 箒の絶叫が部屋に響き渡った。

 

 

 楯無との出会いは、最近のことだ。

 実習の授業では、一夏のみが後にロッカールームでISスーツに着替えるのだが、その時に背後から来たので思わず応戦。しかし楯無は単に悪戯半分で目隠しぐらいするつもりだっただけに、裏拳が来るとは思わなかったようだが、それでも十分対応していたため実力は相当なものだろう。

 警戒する一夏に、降参だと手を上げ、けれど、どこか楽しそうにしている様には敵意はなく、一夏はひとまず臨戦態勢を解いた。

「ごめんね。ひとまず今日は退散するわ。」

「あっ、おい!」

 あっという間に逃げられ、その後、1分授業に遅れ、千冬に怒られた。

 一夏が遅れた理由としてロッカールームで不審者に襲われかけたことを言うと、千冬は顔をしかめ、相手の特徴を問い詰めてきた。

 その迫力に押されそうになったが、特徴を言うと、千冬は酷くホッとしたように息を吐き、おそらく生徒会長の更識楯無だろうと言った。

 授業後、千冬に何かあったのか聞いたが、黙秘された。

 

 更にその後の、全校集会にて。

 問題の楯無が生徒会長として現れ、今年の学園祭の大イベントを発表した。

 特別ルールを導入するとして…。

「名付けて! 『各部対抗織斑一夏争奪戦』!」

 

 ……………俺に拒否権はないのか?

 

 一夏は、絶句していて、その後の説明をほとんど聞いていなかったが、あとで箒に聞いたところ、学園祭では毎年各部活動ごとに催し物を出し、それに対して投票を行って、一位の組は部費に特別助成金が出る仕組みだった。しかし今回はそれじゃあつまらないので、帰宅部の織斑一夏をその部に強制入部させることになったのだとか。

 しかし、生徒達の反応はびみょ~だった。それを見て、楯無は、あれ?っと首を傾げていた。

 その理由を一夏だって分かっている。箒だって理解している。

 一夏の存在は、恋に夢見る乙女達には微妙な存在なのだ。なにせまず本命がいて、付き合っている。そして、一に彼女である箒、二に筋肉、っな男だということが知れ渡っているからだ。

「まあ、運動部なら、全国一位狙ってやってもいいけど…。いっそ世界狙っても…。」

 一夏がポリポリと頭を掻きながら呟くと、運動部の生徒達がそれを聞いたらしく、急にやる気を出してきた。

 一夏の運動能力の異常性もまた知れ渡っているので、もし運動部に入れば即戦力どころじゃないだろう。

 おそらく今年の学園祭イベントで一番やる気出すのは運動部で、残りの文系部は部費のことでやる気出すだろう。この後、あんまりにも反応が微妙だったため、その場で緊急会議していた楯無達が部費のことも入れた上で一夏争奪戦をルールに入れると叫んだので、文系もとりあえずやる気出してくれたようだ。

 その後、クラスで出す催し物について話し合い、意外なことにラウラの提案でメイド喫茶となった。

「織斑君の分のメイド服も…作る?」

「むっ! それはいいな! ぜひ、作れ!」

「それ見て嬉しいのはボーデヴィッヒさんだけだよーーー!」

 クラスの女子生徒の冗談を聞いて、別な形で一夏の筋肉が拝めると思ったラウラが一人鼻息荒く興奮し、セシリア以外の女子生徒達から総ツッコミを入れられていた。

 っというわけで、一夏は厨房となった。セシリアが一夏に執事役をっと言い出したが、ムッキムキの執事を想像した他のクラスメイトが執事はスマートなイメージがあるからと、却下したのだった。

 一夏は別に厨房でもよかった。最近コーヒーに凝っていた一夏は、バター焙煎をしたコーヒー豆とコンデンスミルクを使ったベトナムコーヒーを出してみないかっと提案。

 ベトナムコーヒーってどんな味っとなって、休み時間に人数分ベトナムコーヒーを作って紙カップに入れて持ってきて試飲してもらい、即採用となった。

 まあ、バター焙煎のコーヒー豆は普通では手に入らないので、試飲に使ったものと同じ普通に焙煎したコーヒー豆にバターを乗せてレンジで温めて作ったバター焙煎のコーヒー豆もどきを使うことになり、せっかくベトナムコーヒーを売るならアジア風なお菓子を添えて提供しようという挙手が上がるなど盛り上がった。

 まあ…そんなこんなで色々と決まったところで寮に帰ったら、裸エプロン姿の楯無が部屋にいたわけである。

 

「で? なんで貴女が一緒に住むことになるんですか?」

「内緒。」

「それだと困ります。ここは二人部屋ですよ?」

「じゃあ、箒ちゃんベット詰めて?」

 出て行くという選択肢はないらしい。

 しかし、一夏はなんとなく事情を察してきていた。

「自分の身ぐらい、自分で守りますよ。」

「それで怪我でもしたら大変だから。」

「そういうことですか。」

「あ~ん。一夏君ってば誘導上手。」

 楯無がわざとらしくペロッと舌を出して、テヘッと額に手を置いた。

「まさかまた過激派が…。」

「その事については、もう一掃されてるよ。安心して。」

「そうですか…。」

 悪い予感を覚えた箒に、楯無がそう言った。

「ただね…。君達はもうイヤというほど知ってるはずだけど…。」

「……………アイツか。」

「そう。別宇宙からの敵の襲撃。」

 楯無は、表情も声も引き締めて言った。

「片や世界初の男性IS装者。片や篠ノ之束の妹さん。この二つは決して欠いてはならない要素なの。」

「だから、IS学園における最強の称号を持つ生徒会長の貴女が護衛として来た。」

「簡単に言えばそういうこと。」

「率直に言えば良いじゃないですか。」

「それじゃあつまらないでしょ~?」

 真面目な顔をとろかして人懐っこい顔と声で言った。

「……これは、仕方なさそうだな。箒、悪いけど我慢できるか?」

「私は…。う~。」

「だいじょうぶ! ナニかしてても見ない振りしててあげるから!」

「な、なななななななな、何の話だーーーーー!?」

 再び箒、絶叫。顔真っ赤で。そんな箒を、楯無は、楽しそうに見ていた。

 

 




ベトナムコーヒーのもどきの作り方などについては、とあるコーヒーの漫画を見て参考にしました。筆者は飲んだことないけど、バターは好きだから美味しそうだなぁって思ってる。

銀の福音、そしてウォーターワールドで一夏と箒に対して、別宇宙からの敵の攻撃を受けているので、楯無が護衛にっということにしました。もちろん過激派の存在も忘れていません。


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SS36  お邪魔虫(?)更識楯無 その2

どうも、楯無のキャラが掴みきれない…。

なのでキャラが違うかもしれません。





 

 

 っというわけで、二人部屋に無理矢理、更識楯無が同居することになった。

「一夏く~ん。」

 しかし人で遊ぶのが好きらしい楯無は、ちょっかいかけてきた。

 まず朝起きてワイシャツに下着のみという危ない格好の楯無が、寝ていた一夏の上に乗っかってたり。

「箒ちゃ~ん。」

 洗面所で自分の豊かなバストを気にしている箒の後ろから忍び寄り、その胸をブラジャーの上から掴んだりして悲鳴を上げさせ。

 

「…直訴しますよ?」

「やだぁん。そこまでしなくっても。」

 一夏が怖い顔で楯無に言うが、楯無は全然反省してない様子だ。

 箒は、涙目で先ほど掴まれた胸を両腕で覆って一夏の背中の後ろに隠れている。なお、この状況、箒の悲鳴を聞いて駆け込んだ一夏が楯無から箒を引っぺがして背中に隠したからだ。

「箒。緊急ボタンで織斑先生呼べ。」

「や~ん! ごめん、ごめんってば~!」

 さすがにマジだと気づいたか、楯無がふざけながらも謝罪した。

「それにしても、一に箒ちゃん、二に筋肉って本当なんだね?」

「あぁん?」

「ゴメンナサイ、ワタシがワルカッタデス…。」

 楯無は、残像が見えそうなほど素早い動きで土下座した。

 一夏は、やがて表情を変え、はぁっとため息を吐いたのだった。

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 中間テスト。

 テストに関しては言語圏に依存するため、必然的に日本人が中心になる。目のも鮮やかな金髪や明るい茶色、ラウラのような珍しい銀髪などがいない日本人特有の黒髪が中心の空間というのは少し違和感を感じてしまう。

 昼食タイムになり、いつものように食堂に行こうとすると…。

「一夏く~ん、箒ちゃ~ん。」

「更識先輩…。」

「たまには教室で食べましょうよ。」

 そう言って楯無は、五段もある重箱の弁当の包みを出した。

 そして一夏達の他に教室で弁当を食べる組みに声をかけ、六人ほどが集まり、机と椅子を並べた。

 楯無が喜々として重箱を開けた。

「うわ…、豪華…。」

 生徒の一人が思わず口に出すほど、その重箱弁当はすごかった。

 伊勢エビにホタテ…、もはや弁当と言える範疇じゃない。

「一夏く~ん、はい、あ~ん。」

「はっ? んぐっ!?」

「ちょっ…!?」

 箒がギョッとしかけた瞬間には一夏の口にピーマンの肉詰めが入れられていた。

「なにして…。」

「はい、箒ちゃんも、あ~ん。」

「むぐっ!」

 なにしてるんだ!っと叫びかけた口の中に、肉じゃがが入れられた。

「美味しい? ねえ、美味しい?」

「……………はい。」

「……ええ、とても良い味です。」

 子供みたいに目をキラキラさせて聞いてくるので、思わず怒るのも忘れて感想を言っていた二人だった。

「よかった~。ほらほら、おむすびも色んなのあるんだよ。食べて食べて。」

「は、はあ…。」

 楯無のお茶目さに一夏も箒も、そしてこの場に居合わせた生徒達も振り回せれたのだった。

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

「疲れた…。疲れたぞオオオオオオオオ!!」

「気持ちは分かる。」

 放課後の特訓を終え、夕食前に一旦部屋に戻るなり箒はベットに倒れ込んでそう叫び、一夏はベットに腰掛けてそう返した。

「もうやだ…、あの人苦手だ、私。」

「分かる。」

「当分この状態が続くのか!?」

「おそらくはな…。なにせ別宇宙からの、見えないうえに、いつ来るかも分からない敵からの護衛って名目でいるんだから。」

「うぉおおおおおん…。」

 箒はベットに顔を埋めて嘆いた。

「たっだいま~。あれ、二人ともどうしたのかな?」

 二人の疲労の元凶現る。

 一夏と箒の二人は、もう返事をする余裕もなく、視線だけ向けすぐに視線を外した。

「お疲れの二人に政府からの機密の朗報だよ!」

「…なんです?」

 ぶっきらぼうに一夏が聞く。

「なんとなんとー! 一時閉鎖して調査対象になっていたウォーターワールドの天井付近から、別宇宙からの転移エネルギーの痕跡データが出たんだよ!」

「えっ!?」

「つ、つまり!」

 一夏は俯いていた顔を上げ、箒は飛び起きた。

「やっと元気出た?」

 そして楯無は、そこからおふざけ無しで政府の調査機関が見つけた、別宇宙からの攻撃の痕跡について話した。

 ウォーターワールドで回収された謎の敵の物質については、まだ調査中であるが、銀の福音の装甲に残っていたエネルギーの痕跡と、ウォーターワールドの天井に残っていたエネルギーの痕跡データが一致。そして急ピッチでこのエネルギーの発生の前兆を感知するレーダーの開発を世界規模でしているそうだ。

 そしてそのレーダーの試作機が明日にもIS学園に到着予定で、学園祭までには設置は完了する予定となっているとのことだった。

「上手くいけば今後IS学園に攻撃が来そうになっても感知して、備えられるよ。」

「レーダーの範囲は?」

「まったく別の宇宙からの転移だよ、それはすごいエネルギーの余波があるから、IS学園全体に及ぶんじゃないかな? たぶん隠せないはずだって。」

 だからこそ転移してきた時のエネルギーの痕跡が強く残っていたのだ。

 つまりこちら側に転移エネルギーの痕跡を消す何かしら対策を立てておかないと、転移を行うたびに巨大なエネルギーの波紋を発生させるため、どうやっても検知することは可能なのだとか。今回制作されているレーダーは、その巨大なエネルギーの波長が発生し始める、つまり転移が行われ始める段階を知り、その後対策手段を立てるためのものだ。なお、予防策も考えられたらしいが、向こう側(別の宇宙)にすでに、こちら側の宇宙に干渉できる強大な手段があるため、防ぐことは不可能だというのが実情らしい。

「つまり…、レーダーによる対策が成功すれば、こっち側ですぐ応戦して、被害を未然に防ぐしかないってことか。」

「そういうことだよ。」

「敵の本質が見えてないし、どこまで戦えるかか…。」

 一夏は眉間を指で押さえ、あの不快な赤毛の男の存在を思い出した。

「ウォーターワールドで回収された敵の、何かは、まだ解析中なんですよね?」

「そうらしいわよ。」

「もし……人間の形をしたナニかだったら…?」

「一夏?」

「心当たりがあるの?」

「赤い色に…、金色が混じった髪の色…。中肉中背で、顔は分からない。」

「どこかで会ったのか!?」

「いや…あれが幻覚じゃなかったら、もしかしたらって思って。」

「まさか、夏休み中に倒れたときに?」

「……そのことは織斑先生に?」

「いや、言ってません。」

「…じゃあ、あとで私から聞いておくよ。」

「束博士も、あれから音沙汰無いしな…。」

「そうだ! あの人が勝手に最初に干渉を受けた銀の福音のコアとあの細胞を持って逃げたせいでこんなに時間がかかったんだ! 次会ったら殴る!」

「そんときゃ俺も参加するぜ。箒。」

 そして一夏と箒は、ガッと腕を組み合った。

 それを見ていた楯無は、アハハハ…っと乾いた笑い声と口元をひくつかせたのだった。

 




すでに向こう側の方が干渉するための技術が確立されているので、やられた側である一夏達が防ぐのは難しいということにしました。

たぶん、一夏から聞いた特徴を千冬が聞いたら、一夏に掴みかかるようにして問いただすと思う。自分も出会ってるから。

レーダーを設置するため……すでにフラグは立っている。


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SS37  共通点と八方塞がり

今回は会話ばっかり。

オリキャラさんが出てます。まあ、ここだけの登場でしょうが。


 

「おりむ~。」

「あれ? のほほんさん。」

 そこへやってきたのは、同じ一年生の布仏本音(のほとけほんね)。

 のほほんさんというあだ名は、そののんびりとした雰囲気と言葉遣いから来ている。

「来て~、来て~。」

「なんだ?」

「おい、一夏にしがみつくな。」

「貴女も~。おりむーのお姉さんと~、会長がね~、連れてこいって~。」

「えっ?」

 一夏と箒は顔を見合わせたのだった。

 本音に連れられて行った先は、本来なら関係者以外立ち入り禁止のエリア。

「遅いわよ。」

「てひひ。ごめ~ん。お姉ちゃ~ん。」

 すると手にファイルを持っている、眼鏡に三つ編みの三年生が出迎えた。

「お姉ちゃん?」

「紹介する~、わたしの~、お姉ちゃ~ん。」

「布仏虚(のほとけうつほ)です。よろしく。」

「織斑一夏です。」

「篠ノ之箒です。」

「では、これから案内するわ。」

 そう言って鉄格子の扉にかかっている鍵のロックを解除し、虚の先導で敷地内に案内された。

 そこには、いかにも工事現場の作業員という格好の人達が一生懸命作業している。そしてその中には、白衣の科学者もいた。

「会長。織斑先生。連れて参りました。」

「ごくろ~。」

「うむ。」

「で? もしかして、コレって…。」

「ああ、件のレーダーだ。」

 厚い工事用の布で覆われているちょっとしたタワーらしき物があるのは分かるが、その全容は布で隠れているため分からない。

「なるほど。それで? 俺達が呼ばれた理由は他にあるんだろ?」

「ああ。ちょっとこっちに来てくれ。」

 連れて行かれた先は、仮設の建物だった。

 入ると、幾人もの科学者と思しき人達に、軍人やスーツ姿の人までいた。

「連れてきたぞ。」

「ご協力ありがとうございます。」

 軍人とスーツ姿の人が頭を下げてきた。

「お二人が…ウォーターワールドでの件の被害者である…?」

「ああ。二人は偶然にも現場にいて、あの事件を解決し、サンプルと状況映像などの提供をしてくれた。」

「初めまして。私は政府機関からの使いとして来た、左東(さとう)です。そしてこちらにいるのは、コップ氏。アメリカ軍からの使いの者だ。」

「よろしく。」

「他にも各国の科学者が来ているが、紹介は必要ないだろう。手短に頼む。彼らは仮にも一般生徒だ。」

「分かっていますよ。では、申し訳ないがご協力を願いたい。」

「何をするんですか?」

「異世界からの転移、そして攻撃という異常事態に、偶然にも居合わせてしまった君達の体に残っている転移エネルギーの痕跡データが欲しいんだ。」

「君らの体に残っているエネルギーの痕跡データを、ここにあるレーダー装置に、前兆から終わりまでのデータを入れる。簡単なことだよ。」

「なるほど。今建設しているのは、レーダーがエネルギーの前兆を観測するための機器でしかなく、ここにあるのが本体ってわけですか。」

「そうだ。このIS学園の学園祭までには作業を終わらせておきたいところなので、どうかお願いできるかい?」

「断る理由もありませんし。それにどうせ断ることもできないでしょう?」

「まあ…そうなんだが、社交辞令としてね。」

 左東は、苦笑いを浮かべた。

「しかし、私達の体にそんな物が残っているのでしょうか?」

「あの現場にいて、転移の瞬間と、終わりまで見ていることが重要なんだ。」

「規制も敷かれていることだし、あの場に居合わせた一般人を巻き込むわけにはいかなくてね。」

「そりゃ俺達が打って付けだな。」

「では、準備は出来ていますので、こちらに。」

 左東とコップに案内され、科学者から測定用の装置の上に立つよう指示された。

 一夏が先に乗り、測定が始まった。

 うぃ~んだの、ぴ~っだの、色んな音が鳴る。

 5分ほどだろうか。

「終わりました。では、次は、篠ノ之さん。」

「はい。」

 一夏と入れ替わりに箒が装置に乗った。

 そしてまた5分程度。

「データ入力のミスがないか、測定に問題が無かった調べますので、こちらの方で待っていてください。」

 言われて別室で、椅子に座っていると、測定に付き合ってもらったお駄賃代わりか、左東が自販機で買ってきてたらしいジュースを一夏と箒に渡してくれた。

「すまないね。付き合わせてもらっておいて、この程度のことしか出来なくて…。」

「いえ、お構いなく。」

「……私個人から言わせて貰いたい。君達があの現場にいてくれたこと…、本当に感謝する。おかげで異世界からの攻撃に備えられるんだ。」

「あの、束博士は、あれから何も?」

 それを箒が聞くと、左東は首を横に振った。

「残念ながらどこの国も束博士の行方もその後の動向も掴んでいなくてね。君達が攻撃に用いられたモノのサンプルの残してくれたおかげで、なんとかアメリカ側との協議ができたんだ。」

「我々も一枚岩でなくてな…、銀の福音の件については、日本にはずいぶんと迷惑をかけた。すまない。」

「いえ、コップ氏の責任ではありませんよ。」

「ってことは…、一致したって事ですか?」

「ふむ。理解が早くて助かる。その通りだ。まあ、あまりにもサンプルが足りないので、完全な確証が得られたと言ったら微妙なところではあるが。ほぼ一致しているとは聞いている。」

「銀の福音に付いていた謎の細胞と、ウォーターワールドで転送されてきた水を操る何かが同一だったということですか?」

「君達は、ISに使われている技術の中に、水を操るナノマシンがあることを知っているかい?」

「えっと…、アクア・ナノマシン?」

「そうだ。混入された水は、ISの制御で自在に操れる。それと非常によく似ていると聞いているんだ。」

「つまり…?」

「ISコアによる制御か、あるいはあの解析中の細胞による制御かの違いだということだよ。」

「……ん?」

「気づいたかい? そう…、ウォーターワールドのプールの水を操れたのは、アクア・ナノマシンとそっくりのナノマシンによるものなんだ。」

「!?」

「そっくりということは、つまり、敵である異世界にもこちら側と同一の文明があり、もしかしたらほとんど同じレベルの技術力がある可能性が高い。」

「ISが向こう側にもあるということですか?」

「可能性は高い。」

「そんなことが…。」

 箒が愕然とした。

「君達は分かっていることだろうが、このことは国家機密レベルのことだ。他言してはならない。」

「分かってますよ。」

 返事をする一夏にたいして、箒は俯き黙っていた。

 

 その後、無事にデータの入力が成功し、あとは、実際に転移現象が起こるのを待つばかり…という状況となった。

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 その後一夏は、千冬に腕を掴まれ部屋の橋に連れて行かれた。

「なぜ言わなかった?」

「…ああ。」

 どうやらあの赤毛の男についてらしい。

「幻覚だと思ったのもあるし、なんか…こう…。」

「私も、奴に会った。」

「えっ?」

「行きつけのバーでな。奴は時すらも止めたようにして、私に語りかけてきたのだ。」

「それで!?」

「私も現実だと認識したくはないという気持ちはあったが、あまりもリアルでな…。」

「俺の時と同じだ…。」

「奴は人間ではない。それだけは分かった。」

「やっぱ千冬姉もそう思う?」

「しかし、私が聞く限りでは、どうやら私に接触してきたのは個人的なことようだったな。」

「個人的にって…。」

「私に警告をしにきたらしい。アチラ側は、準備さえできればこちら側を侵略できるほどの状態だとな。」

「!?」

「敵は、こちら側を侵略するほどの武力を持っているということだろう。銀の福音の件といい、ウォーターワールドでの件といい、向こう側はこちら側を攻略する手段を幾重にも持っているのだろうな。恐らくだが、その要となるのは……。」

「あの…赤毛の男?」

「奴はこう言った…。『技術進歩が進めばいずれ、俺がいなくても干渉は可能だと』。つまり、現時点では奴がいなければ、こちら側に干渉することができないということだろう。技術進歩と言うぐらいだから、現時点ではまだ奴がいなければ何も出来ないということだ。だが……、こちら側はアチラ側のことを何も知らない。それ故に、反撃する手段がまるでないのだ。」

「あの赤毛の男をなんとか出来れば、干渉する手段を失う…。けど、それができないか…。」

 千冬も一夏も八方塞がりだと頭を抱えた。

「……今回のレーダーの件で少しは進展があればいいのだが…。」

 別の宇宙からの攻撃という、大規模すぎることを解決させるのは無理なのだろうか?

 そんな不安が二人の脳裏を過ぎった。

 




ウォーターワールドでの水の操作について考えて、アクア・ナノマシンが使われていたという設定にしました。
つまり、アイツの細胞にアクア・ナノマシンを使って改造した、水場専用の兵器です。

一夏達側は、干渉される側なので防ぐ手段がなくて難儀。


そろそろ、学園祭編やらないとな。


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SS38  IS学園祭 その1

学園祭編。


数馬も登場。弾同様に、一夏の同志です。


 

 学園祭とはいえ、IS学園は特殊だ。それゆえに一般公開はしてはいない。なので来る客は上級生から下級生。そして教員、そして各国の国家関係者やIS関係のスポンサーなどの人々だ。あと、招待状のチケットを送ってもらった身内ぐらいだろう。

 一年一組。つまり一夏のクラスは、アジア風喫茶店と看板を出し、厨房で豆からひく美味しそうなバター焙煎のコーヒー豆もどきの匂いに釣られて客が殺到。

 また同じクラスメイトが案を出してたアジアっぽい手作りお菓子として、パイナップルケーキや、バナナココナッツ団子、コーヒー味羊羹など、一風変わったお菓子も好評で、ベトナムコーヒーと共に提供してお客さんに喜んでもらっていた。

 しかし忙しさ故に厨房は右往左往だ。

 また、このままじゃ自分達の分がなくなる!っと嘆くクラスメイトもいたりする。

「はいよ! ベトナムコーヒー五丁完成!」

 そんな中、一夏は汗ひとつかかず自分が出した案であるベトナムコーヒーを次から次に作って、コーヒーと食べるお菓子も綺麗に並べる。

「おい、一夏。」

「なんだ?」

 すると表でアジアン風なデザインのメイド服で料理提供をしていた箒が一夏を呼んだ。

「…クレームだ。」

「えっ? 不味かったか?」

「とにかく行ってくれるか?」

「分かった。あとのこと頼む。」

「いってらっしゃい。」

 他の厨房担当者達にあとのことを頼み、一夏はエプロン姿のまま表に出た。

 呼ばれた先に行くと、そこには、チャイナドレス姿の鈴が椅子に座っていた。

「おお、鈴。似合うじゃねぇか。」

「見せに来たわけじゃないの。」

「あっ、クレームってお前か。不味かった?」

「そうじゃなくて…、むしろ美味しすぎるぐらいよ。ってか、二組の真似したでしょ?」

「はっ?」

「私のクラスはね、中華喫茶やってんの! なのにアジア喫茶ってなによ! おかげで全然こっちに客が来ないのよ!」

「なんか売りになる料理でも出してるのか?」

「一応…、烏龍茶と、飲茶…。」

 しかしマジの烏龍茶はメッチャ高いので市販の烏龍茶だし、飲茶にいたっては、冷凍を温めただけだ。

「手作りのゴマ団子でも出しゃいいのに。」

「油が危ないからって、禁止されたのよ! 案は出したけど、実際作ったら爆発しちゃって…。」

「温度管理難しいからな。」

「むーーー! 悔しい!」

「悔しくて文句言いたかっただけか。」

「そうよ! …悪かったわね、忙しいのに。」

「いや、偶然とはいえ被って悪かったな。」

「真似じゃないならいいわ。じゃ、美味しかったわ。終わり頃また来るからお菓子取っといて。」

「はいよ。」

 鈴は、スクッと立ち上がり手拭き用に出されたナプキンで口元を拭いて出て行った。

 一夏はその後ろ姿を見送った後、厨房に帰った。

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 一段落ついて、箒が休憩していると、同じく一段落ついた一夏がやってきた。

「箒。」

「一夏も休憩か?」

「弾達が来るってさ。」

「ん? ああ、あの時会った、一夏の同級生か。」

「招待状のチケット送っておいたんだ。数馬って奴も来ることになってんだ。」

 それを聞いた箒は、ハッとする。

 それすなわち、二人の友人に彼女である箒を紹介するということだ。

「一夏、一夏! この格好じゃ…。」

「可愛いじゃねぇかよ。」

 顔を赤らめて慌てる箒に、一夏がニヤニヤ笑いながら言う。

 アワアワする箒。

 そして…。

 廊下からキャーキャーいう女子生徒達の声が聞こえた。

「よお、一夏!」

「弾!」

「ひっさしぶりー!」

「数馬!」

 五反田弾と、御手洗数馬(みたらいかずま)が、女子生徒達をかき分けて教室に入って来た。

 一夏ほどではないが、いかにも運動部系な体格の良い二人組の男子の登場に、男っ気がないIS学園の女子生徒達は大騒ぎだ。

「箒さん、夏祭りぶりっすね。」

「おっ! 弾から聞いてた一夏の彼女か!?」

「紹介する。箒だ。」

 一夏が座ったままの箒の肩に手を置いて、ニヤ~っと笑った。

「ちきしょう! メッチャんこ可愛いじゃねぇか!! 死ね、リア充!」

「おおっと。甘いぜ。」

 一夏に殴りかかる数馬を、一夏が軽く応戦した。

「ハーハハハハ! 筋肉の鍛え方が甘いな、数馬!」

「仕方ねぇだろ! お前がいなくってから、ご教授できる相手がいないんだよぉ!」

「なら、今から相手してやるよ!」

 ただのふざけ合いとは思えない、完全に戦いが展開され、しかもあまりの激しさに見ていた女子生徒達は感じた。

 あの男達…、一夏と同類だと。

「他の客がいるのに暴れるな!」

「おう、すまん。やめる。」

「一夏…、彼女に甘いってマジなんだな?」

「今度、弾と一緒にご教授してやるよ。」

「約束だぞ?」

「おう。」

 箒が止めに入ったことでふざけ合いをやめた二人は約束を交わして拳をぶつけ合った。

 ああ…やっぱり同類だ…っと、さっきまで弾と数馬にキャーキャー言ってた女子生徒達は、大人しくなってしまった。

 その後、箒とイチャラブする一夏を見て、数馬はハンカチを噛んでキーッ!っと嫉妬し、その様子を見て弾は腹を押さえて笑い転げていた。

 

 その後、なぜか一夏と箒が楯無に呼び出された。

 

 呼ばれて来た先で、なぜか、王子の格好と、姫の格好をさせられた。

「なんです? これ?」

「分からない?」

「も、もしかして…。」

「ふふん。観客参加型、演劇よ!」

「俺ら強制参加!?」

「あなた達だけじゃないわよ~?」

「えっ?」

 すると、別の所から、鈴、セシリア、シャルロット、ラウラが箒と同じデザインのドレスを纏って現れた。

「…あの演目ってなんですか?」

 箒が恐る恐る聞くと、楯無は、持っていた扇子を開き、口元を隠してクスクス笑い、そして言った。

 

「シンデレラよ。」

 

 一夏達は、悪い予感しかせず顔を見合わせたのだった。

 

 




数馬も一夏と同志。体格も原作よりも良く、けれどモテてることに気づいてない残念さん。

次回は、シンデレラという名の箒の戦いかな?


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SS39  IS学園祭 その2(書き直し)

原作読んだら、よく一夏生きてたな…。っというか殺人未遂罪にならないのが不思議。



vsオータム。


最後は、またアイツ…。


2019/06/30
オータム戦のところを一部書き直し。


 不安なまま、劇が開幕となった……。

 

『むか~し、むかし。あるところに、シンデレラという少女がいました。』

 

 出だしは、まあ普通だが……、ここからが普通じゃなかった。

 

『否! それはもはや名前ではない! 幾多の舞踏会をくぐり抜け、群がる敵兵をなぎ倒し、灰燼をまとうことさえいとわぬ地上最強の兵士達! 彼女らを呼ぶにふさわしい称号! それが『シンデレラ(灰被り)』!』

 

 予想以上であった。

 

『今宵もまた、血に飢えたシンデレラ達の夜が始まる。王子の冠に隠された隣国の軍事機密を狙い、舞踏会という名の死地に少女達が舞い踊る! 果たして真なるシンデレラの名は誰の手に!?』

 

 なんじゃそのムチャ設定は!?っと思いながら押し出されるように舞台に出された一夏に向け、一人の姫が襲いかかる。

 鈴だった。

「甘い!」

「チッ! 寄越しなさいよ!」

「ふっ…、その程度でシンデレラを名乗ろうとはおこがましいぜ!」

 フンッ!ハッ!ホッ!っと繰り出される鈴の攻撃、中国の手裏剣・飛刀を躱していく一夏。なんか雰囲気で舞台設定にノッてみたりもしてみる。

「ふっ。」

 ふいに立ち止まった一夏がクイッと首を横に曲げた。その瞬間、スナイパーライフルから放たれた弾丸が一夏の頭があった位置を通り過ぎていった。

「甘いな! シンデレラ、その2!」

「くっ!」

 スナイパーライフルを構えていたセシリアが唇を噛んだ。

 しかし負けてられんと、移動、狙撃というスナイパーの基本を使い、再び攻撃を開始する。

 その間にも、鈴が接近戦も試みてきて特殊強化ガラス製のガラスの靴を振り上げてくる。

 一夏がのけぞった瞬間を狙い、セシリアがライフルの照準を合わせて撃った。

「させるか!!」

 放たれた弾丸が箒が手にする日本刀によって真っ二つにされ、防がれた。

「ようやく来てくれたか、我がシンデレラ!」

「わ、私が来たからには安心しろ、我が王子!」

 ノリにノッている一夏に箒が合せた。

「い、いいいい、いいか! シンデレラの名は私のモノだ! 王子にふさわしいのは他でもない、私だけなのだ!!」

 噛みつつも、楯無から教えられていた台詞を言う箒。

「さ~て、それはどうかしらねぇ? 今日こそはシンデレラの名は私のモノよ!」

「いいえ! わたくしのモノですわ!」

「ならば、来い!」

 箒が刀を手に臨戦態勢になる。

「隙あり!」

「くっ!」

 後方から襲ってきたシャルロットに対応しきれなかった箒。

「あまーい!」

「おっと!」

 狙った一夏の背中が素早く振り返り、裏拳が来たのでシャルロットは飛び退いた。

「王子!」

「背中は任せろ! 我がシンデレラ!」

 箒と背中合わせで臨戦態勢になる一夏。

 

『国を想う王子には、悲しくもそれ以上に想うシンデレラがいた! そしてそのシンデレラもまた、王子を誰よりも想っていた! 果たして二人の想いの行方は!?』

 

 時々、楯無のこんな実況みたいなマイクが入る。

 次の瞬間、一本のワイヤーでターザンのように高所から飛び降りてきたラウラが一夏の王冠を掴んだ。

 その素早さに一夏が対応できなかったため、王冠が頭から少し離れた瞬間。

「あがあああああああああ!?」

「王子!?」

 

『王子にとって、国は思い人であるシンデレラと同じぐらい重たい全て。その重要機密がが隠された王冠を失うと、自責の念によって電流が流れます。』

 

「なんだと!?」

「ぴ、ぴぴぴぴぴぴ、ピストル拳!」

 凄まじい電流が流れる中、ワイヤーを外して着地したラウラに向けて軽いピストル拳を放った。

 ラウラの小さな体が軽く飛び、王冠が手放された。

 箒は落ちてくる王冠を刀でキャッチし、慌てて一夏の頭に被せた。

 プスプスと一夏が身に纏っている王子の服装から煙が出ている。

「あ、あんがと…。」

「だいじょうぶか!?」

「し、痺れた…。」

 あの一夏をこれだけ痛めつけるほど電流だ。いったいどれくらいの電流が流れたのだろう。

 倒れそうな一夏を箒が支え、そのままゆっくりと倒して膝に頭を乗せさせた。

「箒…。」

 王冠の秘密を知って攻撃できなくなった鈴達がぼう然と箒の名を呼んだ。

「……シンデレラの名はくれてやる。だが王子の命のため、王冠だけは諦めてくれ…。」

「…負けたわ。」

「えっ?」

 一夏の頭を抱きしめて涙を堪えている箒に、鈴が飛刀を手放して言った。

 するとガシャンっとセシリアがスナイパーライフルを手放し、シャルロットもラウラも手にしていた武器を手放した。

「シンデレラの名は、他でもないあんたのモノよ。」

「やはり、貴女にこそふさわしいですわ。」

「そうそう。」

「うむ。」

 鈴達が降参だと手を上げた。

 

『こうして、シンデレラの名は、王子の思い人のシンデレラだけのモノになりましたとさ。めでたしめでたし…。』

 

 そして劇の幕が下りていき、大歓声と拍手が起こった。

 

 楯無主催のムチャクチャな演劇は、こうして終わったのだった。

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

「ごくろうさまー!」

「はあ!!」

「やん。危ない。」

 担架で運ばれ、更衣室で休まされていた一夏と箒の所に楯無が来たので、箒は刀を振るったが、楯無しは難なく躱した。

「なんてことをーーー!!」

「ごめんごめん。ちょっと電流の圧の加減を間違えちゃった。」

「ちょっとどころじゃない!」

「あー、だいじょうぶだ、箒。」

「無理するな一夏!」

 一夏がベンチの上から起き上がったので箒が振り返った。

「本当だ。俺は死なんから。」

「けど!」

「箒を置いて、逝けるかよ。」

「一夏…。」

「……本当にごめんね。」

 楯無は、そう本当に申し訳なさそうに謝罪をして、更衣室から退室した。

 立ち上がろうとした一夏だがふらついた。それを箒が慌てて支えた。

「馬鹿! 無理するな!」

「ごめん…。」

「謝るな。」

「………ところで、いつからそこに?」

「はっ?」

 一夏が誰かに向かってそう言った。

 すると、ロッカーの陰から一人の美しい女性が現れた。

「ただのガキってわけじゃなそうだねぇ?」

 凶悪な笑みを浮かべた女性は、挑発的に言う。

「貴様、何者だ!?」

「亡国機業(ファントム・タスク)…。」

「!?」

「こんなしょんべん臭い小娘が、あの篠ノ之の妹か。少しは私を楽しませてみな!」

 次の瞬間、女の背中から伸びてきた蜘蛛の足のようなISの足が伸びてきて、箒を狙う。それが当たる直後、一夏が庇って肩に突き刺さった。

「ぐっ…。」

「一夏!」

「そっちのガキは、さっさと白式をだしな。そしたら命ぐらいは助けてやってもいい。」

「それはつまり…、命さえあれば、手足を千切ろうが、骨を折ろうとするってこったろ?」

「…フンッ!」

「紅椿!」

 一夏にもう一本の足が迫ろうとしたとき、箒が紅椿を展開して装甲展開を行い防いだ。

「ほう? 見たことない機体だね。ついでだ、そいつも頂かせてもらおうか。」

「箒…!」

「一夏、逃げろ!」

「ああ、ついでだ。織斑一夏! 第二回モンド・グロッソでてめぇを誘拐したのは、あたしら亡国機業だよ! 感動の再会だね!」

「なにぃ?」

「一夏!」

「小娘は邪魔だ。」

「ああ!」

 気を取られた箒を、女が蹴って吹っ飛ばした。

 一夏は、ロッカーに叩き付けられた箒を見て、女を睨み拳を振りかぶろうとした。

「あ? なにしようってんだい? さっさとびゃくし…。」

「ピストル拳!」

「ごっ…。」

 生身の一夏によるコンマ一秒もせず放たれた怒りの一撃を食らい、女がロッカールームの端に吹っ飛んで壁にめり込んだ。

「箒…、箒!」

「うぅ、だいじょうぶだ…。それより、肩の傷…。」

「これくらいだいじょうぶだ!」

「ぐっ、くっ! てめぇええええええええええええ!!」

「この野郎…、まだ!?」

「オータム様だ、クソガキ!!」

 完全にISを展開したオータムと名乗った女は、八本の装甲脚から八門の集中砲火を放った。それを一夏は瞬時に展開した白式の拳にシールドエネルギーを纏わせてすべて弾く。

 オータムのISは、まさに蜘蛛。人型のISではなく、八本の装甲脚を持っており、かなりの大型だ。

 狭いロッカールームだというのに、小回りが利くらしく、接近戦を得意としているのか凄まじい接近戦を行ってきた。

 一夏は、器用に動く八本足と互角に応戦する。

「おらぁ!!」

 振り上げられた足を掴み、ジャイアントスイングでロッカーに叩き付ける。

 だが叩き付ける間にいつの間にかエネルギー状の糸が絡みついていた。

「やるじゃねぇか、クソガキが…だが…遊びは終わりだ!」

 雁字搦めにされ、倒れ込んだ一夏の上にオータムが四本足の装置を乗せた。

「ぐっ、あああああああああ!?」

 次の瞬間、電流のようなエネルギーが流れる。だが劇の最中にあった電流の比では無い。全身を引き裂かれるような奇妙な感覚。

 やがて装置のロックが解除され、オータムがどいた。

「…! おま…え…!」

 一夏は、気づいた。いつの間にか白式が強制的に解除されていたこと。

 そして……、白式のコアがオータムの手にあったことに。

「ついでだ。そっちの篠ノ之の妹のISもいただいておくか。」

「や、めろ…!」

「邪魔だよ。」

 床を這いずろうとした一夏を、オータムが脚部で蹴った。

 吹っ飛んだ一夏を、柔らかい何かが受け止め、ふわりと床に降ろした。

「!?」

「遅くなってごめんね。」

 IS・ミステリアス・レイディを展開した楯無し、水のクッションで一夏を救ったのだ。

「てめぇ、どこから入った! この部屋は全システムのロックがかかってんだよ!?」

「さてね。」

「まあいい、お前から殺してやるよ!」

「一夏君! 念じるのよ! そうすれば、ISは答えてくれる!」

「えっ?」

「はんっ。そのガキにゃもう何もできやしない! コアはこっちにあるんだからね!」

「それはどうかな?」

 楯無がアクア・ナノマシンを使っているミステリアス・レイディの水を使ってマントを形成しつつ、ドリルのようなブレードを形成する。

 水は攻防一体となって、蜘蛛のような足を持つオータムの攻撃を防ぎつつ攻撃を行う。

「ところで、この部屋って、湿度高くない?」

「? …まさか!?」

「その、ま・さ・か。」

 クスッと笑った楯無がパチンッと指を鳴らした瞬間、オータムの体が爆発に飲まれた。

 一夏は、起き上がりながら、念じた。

「……来い…。白式!」

 一夏がそう強く念じた瞬間、オータムの手から白式のコアが消え、一夏の白式が輝いた。

「くっ…、なっ…、そんな馬鹿な!? てめぇ、白式をどこに…。」

「あそこ。」

 楯無が指差した先には、今まさに零天破甲を最大出力で放とうとする一夏がいた。

 オータムは、ゾッとし大慌てで全ての脚部でガードしようとした。

 一夏は、そのまま零天破甲を放ち、その足を粉砕した。

 装甲がどんどん破壊される中、蜘蛛のようなISが突如光り輝いた。

「一夏君!」

「うわっ!」

 次の瞬間、オータムのISが爆発した。

 最大出力で作られた水のマントを使い、楯無は、一夏と箒を庇っていた。

「じ、自爆?」

「ええ。直前に本体とコアを切り離してのね。」

「アイツ…逃げたのか…。」

「だいじょうぶ。追撃は他の子達がするから。あなたはすぐに治療しないと出血が…。」

「俺はいいから、箒を…。」

「箒ちゃんは気絶してるだけ。怪我をしてるのはあなたの方よ?」

 

 その後、救出しに来た教員により、一夏はまた担架で運ばれ、肩の傷の治療を受けた。箒の方は気絶していただけで、怪我はなかった。

 そして、オータムが亡国機業の仲間と思しき者の援護を受けて逃げていったことが告げられたのだった。

 更に、更識の家が、対暗部用暗部の家柄で、事前に妙な組織が動いていたことを察しており、そして狙いが一夏であったこと、その予防策として楯無が同居していたことを説明された。

 

「それならそうと言ってくれたらよかったのに…。」

「敵を欺くには、まず味方からよ。」

「そうですか…。」

「それに、いつまた別宇宙からの攻撃もあるかも分からなかったし、もし同時攻撃があったら、さすがの私でも…。」

「アクア・ナノマシンですね…。」

「そう。もしウォーターワールドで起こったアレと同じモノがまた来たら、私のミステリアス・レイディじゃ相手に出来なかったと思うの。」

「ですよね。」

「しかし、これで当面は……。」

 

 その時、凄まじい警報音がIS学園中に鳴った。

 

「この音は…。」

「うそ…。」

「えっ、まさか…。」

「そのまさか…。」

「行かなきゃ…!」

「待って! あなたは怪我人よ!」

「けど、狙いは俺って可能性がある!」

 

 一夏は、制止を聞かずに走り、遅れて目を覚ました箒が、事態について行けず混乱していた。

 一夏が外に出ると、屋台が並んでいたIS学園の庭は、大パニックになっており、その中心に自爆したはずのオータムの蜘蛛のようなISが立っていた。

 一夏が来たことに気づいたのか、蜘蛛のようなISが振り向く。

 よく見ると……、その体の中心である人間の部分は、赤黒い細胞組織によって形成されており、自爆によってバラバラになった機体を支えるように全身に血管のように細胞が浸食した異形となっていた。

 

『やあ、一夏…。久しぶり?』

 

 あの不快な男の声が蜘蛛のようなISから聞こえた。

 




ほぼ原作通りっぽくしてみた。
けど、一夏が箒と好き合っていることは周知の知なので、鈴達はあくまで箒を引き立てる役として頑張ってました。けど電流は予想外で固まる。
筋肉一夏をダウンさせるほどの電流ってどれくらいかな?っと思いつつ、ダウンさせるほどの電流が来たということにしました。


最後に、アイツが壊れたアラクネの機体(コア無し)に細胞を与えて再形成しました。
次回は、バトルかも。


2019/06/30
どこを書き直したかと言うと、一夏が白式を展開せず、まずピストル拳でオータムを吹っ飛ばしたところです。


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SS40  異形

謎の敵(隠す必要もないが)の細胞によって再生構築されたアラクネの装甲部位との戦い。

若干のグロ描写があるかも。


 

 

『この機体…、アラクネか…。近接攻撃向きだから、一夏といい勝負できそうだね。』

 異形に浸食された異形のアラクネが準備運動でもするように動く。

「そろそろ名前ぐらい教えてくれても良いじゃないか?」

『さ~て、それはまだ秘密にするよ。』

「チッ。」

『箒ちゃんは?』

「狙いは、箒か?」

『いや、違うよ。ただ近くにいないから聞いただけ。』

 そう言って異形のアラクネが肩をすくめた。

 一夏は、白式を展開した。

『怪我してるみただけど、だいじょうぶ?』

「てめぇの心配なんかいらねぇよ!」

 速攻で勝負を付けようと一夏が零天破甲を放とうとした。

 しかし、キュインッと一瞬で接近してきた異形のアラクネ。

「はっ!?」

『フフフフ。』

 不気味な笑い声と共に、二つの腕と複数の装甲脚による猛攻が来る。

 そのスピードは、オータム以上だった。

 トドメとばかりに横蹴りが入り、吹っ飛んだ一夏は、屋台のひとつに突っ込んで倒れた。

「一夏君!」

「一夏!」

 楯無と、箒がISを展開した状態で駆けつけた。

『やあ、初めまして。生徒会長さん。』

「あなたが…例の?」

『そうだよ。それにしても妹さんに酷いこと言うんだね。』

「!」

『まあ、そんなことは今はいいか。悪いけど、君じゃ相手にならないよ。』

「それは、どうかな?」

 楯無は、水で作ったランスを展開した。

 だが異形のアラクネは、棒立ちである。

 それを不審に思いながら、攻撃を行う。だが……、その水の攻撃は、当たる瞬間に飛散した。

「!? まさか…。」

『そう、君のソレ(IS)と同じ、アクア・ナノマシンもあるんだ。相殺するなんて簡単だよ。』

「くっ!」

 それだとアクア・ナノマシンを主力武器とするミステリアス・レイディでは、まったく太刀打ちできない。予想していた通りの展開になってしまい、楯無は口元を悔しそうに歪めた。

「一夏! だいじょうぶか!?」

「ああ…。なんとか…。」

 箒に助け起こされ、一夏は立ち上がった。

「一夏! 助けに来たわよ!」

 すると、鈴達、専用機持ち組が駆けつけてきた。

「確かに…私のミステリアス・レイディじゃ勝てない。でもこの包囲網で、たった一人でどうにかできるかしら?」

 楯無は、教員達の援軍なども来ているのを見回し、微笑んだ。

『ふ……、あは、アハハハハハハハ!』

「何がおかしいのかしら?」

『じゃあ、これは予想してた?』

 すると、異形のアラクネに変化が起こった。

 メキョメキョ、ベキベキっと、背中から何かが生えてくる。

 それは、脱皮するように出てきた……、もう一機のアラクネだった。

「なっ!?」

 あっという間に、異形のアラクネが二体になり、さらに…。その二体の異形のアラクネからまた同じように異形のアラクネが生えてきて、四体に。

『さあさ、早くしないとどんどん増えるよ?』

「こ…、攻撃開始!」

 教員の救援隊が攻撃開始の合図をした。その間に、十六体に増えた異形のアラクネが一斉に動き出した。

 量産機を装備している教員達に一斉に襲いかかり、殴る蹴る、撃つ。

 その戦闘能力に、ある者は、IS学園の建造物に叩き付けられ、ある者は、地面に叩き付けられ、次々に戦闘不能に陥る。

「マジかよ、一体一体がそのまんまの戦闘能力なのかよ!?」

「いいえ! そんはずないわ、いくらなんでもこれだけの物質を分裂させたら劣化するはず…。」

『それがないんだよね~。』

 十六体の異形のアラクネが一斉に一夏と楯無を見た。その悪夢のような光景に、背筋がゾワッとなる。

『死ねない細胞だかこそ、これだけの芸当ができるわけ。』

「しねない?」

『うん。そう。俺は、死ねない身体なんだよ。』

 異形のアラクネ達が襲いかかってきた。

 一夏は、出力最大にした零天破甲を放ち、三体の異形のアラクネを破壊し、潰した。鈴達がそれぞれ一体ずつぐらいを相手にしている。そのため一夏の援護に回れない。

「一夏!」

 箒が接近して一夏にエネルギーを譲渡した。

 エネルギーを満タンにした一夏は、再度零天破甲を放とうと構える。

 散開した異形のアラクネが四方八方から狙ってくる。

 箒もブレードを構え、一夏と背中合わせで臨戦態勢になる。

 楯無も一応は構えるが、アクア・ナノマシンを無効化されてしまう状況は、彼女にとってあまりにも不利であった。

「はっ!」

 一夏が一体の異形のアラクネに接近し、頭を零天破甲で潰し、背後を狙ってきた異形のアラクネも裏拳で潰す。

 箒は、接近してきた異形のアラクネから、楯無を守るため装甲展開し、攻撃を防ぐ。

「ごめんね!」

「謝るのはあとです!」

 ガンゴンガンゴンっと、展開された装甲の上を異形のアラクネ達が殴る。

「一夏…、頼む…!」

 箒は楯無を守りながら祈るように目をつむる。

 やがて一夏の絶叫が聞こえ、装甲を殴っていた異形のアラクネがいなくなった。

 箒が目を開けると、マウントを取った一夏が零天破甲で異形のアラクネを潰していた。

「箒!」

「ああ!」

 箒は接近してエネルギー譲渡を行った。

 鈴達を相手にしていた異形のアラクネ達が、方向を変えて一夏に襲いかかろうとする。

 

『あっ、時間切れ。』

 

 その声と共に、グシャリッと異形のアラクネ達が崩れ落ち、ドロリッと装甲を侵食していた赤黒い部分が溶け出た。

 

「ひっ…!」

 その気味の悪い様に、誰かが悲鳴を上げていた。

 すべての異形のアラクネが潰れて動かなくなり、静寂がおとずれた。

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

「一夏! 無事だったか!?」

「弾、数馬。お前らもだいじょうぶだったか?」

「他の生徒達と避難してたよ。」

 二人から聞いたが、大パニックになっていた中、こけたりして倒れていた生徒を担いで運ぶなど、避難に協力していたそうだ。

「日頃鍛えていたのがこんなところで役に立つとはな。」

「備えあれば憂いなしって奴だぜ。」

「鍛えてよかったろ? なあ?」

 男三人で笑い合った。

 しかし、ふと笑うのを止める。

「俺達…見たよ…。気持ちの悪い、IS…。あれって、例の噂になってる化け物か?」

「やっぱ噂になってるのか…。」

「いくら規制したって噂ってのはとんでもない早さで広まるからな。ましてやネット社会だぜ?」

「…詳しいことは言えねぇんだ。」

「分かってる。俺らが関われるような事態じゃないのは分かってる。あんなの見たら…。」

 二人は、異形のアラクネが数を増す光景を見ているのだ。

「また規制が敷かれるだろうけど、IS学園内で起こった事だし、一般参加もごく一部だしな。」

「言いたいことは分かる。俺達は口外しないさ。」

「いたずらに混乱を招くようなことはしねぇよ。」

「…サンキュ。」

 今回の件は絶対に口外しない。そう二人は約束してくれた。

「一夏。ここにいたのか。」

「千冬姉。」

「あ、お久しぶりです。千冬さん。」

「ああ、弾か。それに数馬もか。すまないな…。せっかくの学園祭に来てもらってこんな事態に巻き込んだ。」

「いえ、千冬さん達の責任じゃないっすよ。」

「それで、俺達どうなるんです?」

「……少しばかり拘束という形で今回の件を外に口外しないことを約束する誓約書などを書かされることになるだろう。被害者であるお前達には申し訳ないが…。」

「それぐらいっすか?」

「それが終われば、帰ってもいいだろう。なにも牢屋に入れて一生出られん事態にはならん。」

「怖いこと言わないでくださいよぉ。」

「すまんすまん。だがそういう事態もあり得ることを知ってもらいたかっただけだ。」

 千冬はそう言い苦笑した。

 弾と数馬は、笑えね~っと思ったのだった。

 その後、千冬の言うとおり、一般参加の一部の招待客は、拘束され、誓約書と同時に結構な額の示談金を渡されて帰されたのだった。後で聞いたが、壇と数馬は未成年であることを理由に断ろうとしたものの、若さ故に口が軽いと思われたのか高圧的に押しつけられたためやむを得ず受け取ったものの、家族に知られると問題なので帰り際に募金に入れてきたそうだ。

 

 こうして、亡国機業と、別の宇宙からの攻撃という二段構えのトラブルは解決した。

 

 




楯無が全然活躍できてないので、ファンの方申し訳ありません。
しかし前回書いたように、アクア・ナノマシンを無効化されてしまう状況だと、彼女のISでは不向き過ぎるということにしました。

今回は、時間切れで異形のアラクネは戦闘不能なりましたが、無限増殖されてたら、いくら白式と紅椿の組み合わせでも負けてたでしょう。


次回は、一夏の誕生日かな。


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SS41  一夏の誕生日

一夏の誕生日と、キャノンボール・ファストが被ったよ(?)。


そして一夏の理性は、ギリッギリッ。


 

 大きなトラブルが起こったIS学園学園祭は、終わった。

 その後日。

「そういえば、そろそろ誕生日だな一夏。」

「ああ。」

「えっ? そうなの?」

 みんなで食堂で夕食を食べていたら、箒が一夏の誕生日の話を切り出し、シャルロットが聞き返した。

「そうなのですのね、いつですの?」

「九月二七日。次の日曜日だな。」

「あれ? その日って…。」

「ああ…。キャノンボール・ファストと被るんだ。」

 

 ISを使った高速バトルレース、その名も『キャノンボール・ファスト』。

 国際大会も行われる一大競技であるが、IS学園では少し状況が変わる。

 市の特別イベントとしてのそれは、学園の生徒達は参加するのだが、どうして専用機持ちが有利になってしまうので、専用機部門と一般生徒向けの訓練機部門とが別にある。

 学園外でのイベントであり、使われるアリーナは、市のISアリーナを使用する。そこに入れる人数は、おおよそ2万人以上だとか。

 

 基本的にこのイベントのために、生徒達はISを高機動調整を行うのだが……。

「俺の白式は相変わらずだからな…。」

 なんの罰ゲームだっと言いたいぐらい、容量がないのは相変わらずで、高機動パッケージをインストールできないのだ。

「その場合は、駆動エネルギーの分配の調整や、スラスターの出力調整をすればいい。」

 ラウラがそう言った。

 そういえばっと、一夏は思い出す。

 ラウラから説明を受けたが、あの時襲ってきたオータムが名乗っていた亡国機業であるが、あれは、正体が分かっていないテロ組織であることであった。

 どこの国にも属さず、思想を持たず、信仰もなく、民族に偏らない。

 古くは第二次世界大戦中には存在していたらしい。

 その存在は確認されているものの、思想も理念もなく、国でもなく民族でもないため、全容が明らかでなく、まさに亡霊(ファントム)と呼ばれる所以はそこから来ているようだ。

 最近のその組織の狙いはISであり、一夏の白式からコアのみを引き抜いた兵器も、本来はどこにも存在しない兵器であったらしく、つまり国家最高機密の兵器であったのだ。

 ふと見ると、セシリアが浮かない顔をしていた。

「どうしたセシリア?」

「あ…、いえ、なんでもないですわ。」

「そうだ、セシリアのブルー・ティアーズには、高機動に優れてるんだろ? 超音速起動について教えてくれないか?」

「すみません…。それは、ちょっと今は…。」

「ああ、そうか。」

「なら、私が教えよう。シュヴァルツェア・レーゲンの姉妹機の『シュヴァルツェア・ツヴァイク』を使う予定となっているのでな。」

「じゃあ、頼む。」

「お前もだぞ、箒。このまま紅椿の性能に振り回されてばかりではいられんだろう?」

「あ、ああ…。」

 紅椿の性能は、高機動パッケージに匹敵するものだ。そのため、箒はついて行けず振り回されていた。

 束が箒の誕生日プレゼントにと作ったという新型ISは、蓋を開けてみたらとんでもない代物で、確かに箒の体には合っているが、箒の実力では扱いきれるような代物ではなかったのだ。ワンオフアビリティ、絢爛舞踏は問題なく動かせるのだが、なにせ機動性がすごすぎる。そして、展開装甲も、現在は防御にしか使えず、他の仕様、つまりエネルギーソード、スラスター、ビットなどに使い分けられないのだ。

 箒は箸を置き、はあ…っとため息を吐いた。

「ため息を吐く暇があるのなら、経験を積むことだ。」

「……。」

 ラウラが軍人としての顔で言う。箒は黙って俯いていた。

「けど、防御は上手くなってるらしいな。箒。」

「一夏?」

「あの状況で更識先輩を守り切ったんだからたいしたもんだよ。」

「……うん!」

 箒は少し涙ぐんだ。

「あ、そういえば、あんた生徒会に入ったんでしょ?」

「ああ。結局、投票でシンデレラの劇が一番になったからな。」

「あれって、無効だよね。僕らが頑張ったおかげじゃないのかな?」

「まったくですわ。」

 トラブルは相次いだものの、投票の結果、生徒会主催の劇が一番になってしまい、一夏争奪戦の結果は、生徒会の一員になることで決まったのだった。

 もちろんブーイングは上がった。主に部費について。

「鈴はどこに入ったんだ?」

「ラクロス部よ。」

「僕は料理部。」

「わたくしは、テニス部ですわ。」

「私は…茶道部だ。」

「で、箒は剣道部と。」

「ああ。」

 そしてそれぞれの部について楽しく談笑した。

 

 やがて食事も終わり、寮の部屋に戻る。

 一夏が制服の上着を脱ぐ。すると、まだ痛々しく残る肩の傷を覆った包帯が現れた。

「まだ…痛むか?」

「ん? ああ、ちょっとだけな。」

 傷は縫ってナノマシンによる治療も行われた。あとは自然治癒を待つだけだ。

「私が…もっと強ければ…。」

「箒のせいじゃないって。」

 ソッと包帯に指で触れる箒に、一夏は微笑んだ。

「私は…もっと強くなりたい! 私だって一夏を守りたい!」

「箒…。」

 気がつけば箒は泣いていた。

「うぅ~。分かってるんだ! こんなこと言っても一夏を困らせるだけだって!」

「そんなことないさ。…ありがとな。箒。」

「うぅ~うぅ~。一夏~。」

 グスグスと泣いている箒を一夏が抱きしめた。

 

「あらあらあらあら。女の子を泣かしちゃダメじゃない。」

 

「……いつからそこに?」

 箒が泣き止み、楯無に聞いた。

「『まだ…痛むか?』って言ったあたりかな?」

 つまり箒の恥ずかしいところを全部見られてた。

「更識先輩…、殴らせてください。」

「ああん。箒ちゃんってば、暴力的。」

「私の醜態を見た記憶を消す!」

「だいじょうぶ! 誰にも言わないから!」

「信用できん!」

 箒がぬオオオオおおっと竹刀を振り回して楯無を追い回した。楯無は、キャピキャピしながら軽やかに逃げ回る。

「ま、それはそうと、一夏君の包帯はキャノンボール・ファストまでには取れそうだね。」

 箒が振り下ろした竹刀を真剣白羽取りして止めた楯無がそう聞いてきた。

「あ、それとね。」

「ふぎゃっ!」

 竹刀ごとベットの方へ箒を投げた楯無が言い始めた。

「非公式の情報だけど、一夏君のISのコアを取ったあの兵器って、リムーバーっていうらしいけど、まだ未完成でどこにも出回ってなかった物なんだって。」

「はっ?」

「つまり、どこの国もまだ開発中で実用化できなかったってこと。だから…、可能性として、別の宇宙の敵の可能性もあるって考えられてるみたい。」

「それって…。」

「まさか、別の宇宙の敵がテロ組織に助力を?」

 起き上がった箒が驚いて言った。

「あとね、亡国機業のISの装甲だけど…、現段階の解析だと、自爆前にはすでに寄生されてた可能性が高いって。」

「それもう関わりがあるで、確定じゃないっすか?」

「銀の福音の件もあるからね。いつ寄生されたのかまだ分かってないらしいし。もしかしたら向こう(亡国機業)も知らない間にやられた可能性もあるよ?」

「それもそうですけど…。」

 今思い出すと、ウォーターワールドでの一件で転送されてきたあの謎の細胞みたいなモノは、水からはじき出した後、自分で跳びはねてなかったか?

 つまり自立して動くことが可能な可能性が高い。もしISの格納庫に侵入されて、整備中のISに取り憑かれても気づかれないかもしれない。

 なぜだろう? あの赤毛の男には、それだけのことをする力があると確信できてしまう。

 それと同時に、一夏はあの赤毛の男の姿を思い出しめまいを感じた。

「だいじょうぶ?」

「あ、…だ、だいじょうぶです。」

 なんでだ? なぜあの男のことを思い出すとこうも頭が痛くなるのか…。まったくもって謎であった。

「お姉さんのお胸で休む?」

「いえ、それなら箒の胸の方が…。」

「!」

「だってさ、箒ちゃ~ん。」

 それはそれは楽しそうに笑った楯無が、真っ赤になっている箒に話を振った。

「一夏の…スケベ!」

「おお! スケベで悪いか!」

「いいや! いい! 健康な証だ!」

「お姉さんお邪魔?」

「いえ、理性がヤバいのでいてください先輩。ここで約束破ったら、俺が千冬姉にコロされる。」

 一夏が素早く返答し、やんわりと楯無を止めた。

 あら、大変ね?っと楯無は、ニヤニヤと口元を扇子で押さえながらほんのりと赤面して笑っていた。

 

 




頑張れ一夏。あと、二年と半年(?)ぐらいだ。


次回は、誕生日プレゼントのためのショッピングかな。


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SS42  お邪魔虫? それともキューピット?

なぜかみんなで一夏の誕生日プレゼントを見に行くの回。


箒が、ちょっとね……。

鼻血注意。



2019/05/16
 原作読んでたら、一夏が自分を十五歳と言っていたので、正確には16歳の誕生日だったみたいなので修正しました。


 誕生日。それは、その人の誕生を祝い、プレゼントを渡し、ご馳走を味わう習慣だ。

 織斑一夏は、16回目となる、つまり16歳の誕生日を迎えようとしていた。

 

「なぜ、こうなる?」

「まあ、いいじゃねぇかよ。」

「むー!」

「ほら、むくれないの。」

 誕生日プレゼントのためのショッピングデートを期待していた箒は、待ち合わせ場所で待っていた、いつものメンツにほっぺたを膨らませた。それを鈴がおかしそうに笑う。

「凰! お前は、自分の専用機の調整があったはずだぞ!?」

「それ終わったの。急ピッチで終わらせてきたわ。」

「お前らもか!」

「僕は、まだだけど、帰ったらやるよ。」

「私は、まだ姉妹機が届いてない。」

「わたくしも調整は済みましたわよ。」

 っとそれぞれ言った。

 箒は、うぐぐっと呻き、やがてダランッと腕を垂らして俯いた。

「箒。」

「?」

 一夏が箒の耳にヒソヒソと囁いた。

「誕生日の日…、更識先輩…生徒会の仕事で空けるってさ。」

「!」

「機嫌直せ。なっ?」

「みなまで言うな! 私は気にしてなんかない!」

 ガバッと顔を上げた箒が真っ赤な顔で叫んだ。

 そんな箒を見て、一夏は楽しそうにニヤついていた。

 鈴達はその様子を見てホッとしていた。

 

 そしてショッピング開始。

 

「よ~し、どこから行くか…。」

「そうだ、一夏。一夏って時計とかって持ってないよね? 腕時計とかどう?」

「ん? ああ、けど俺の腕サイズがなかなかな…。」

 筋肉を膨張させると、それで千切れてしまうので付けてないのだ。

「最近は、ISの収縮性スーツの素材と同等のを使った腕時計のベルトって見出しで売られてるのあるわよ?」

「ほ~ん。そんなのがあるのか。そんなのがあるなら欲しいな。」

「ほら、あそこなんか…。」

 見れば確かにそんな広告が張ってあった。

「傷つきにくいし、水にも熱にも強いってあるし、ネットだと結構好評みたいよ。」

「あっ、ホントですわ。」

 セシリアがスマフォで調べて評判を見て言った。

「やはりドイツ製が…。」

「外国製は絶対高いわよ。」

「むっ…。」

 自国の時計をおすすめしようとしたラウラだが、速攻で却下された。

「やはりイギリス製が…。」

「ちょっと聞いてないの? 日本じゃ外国製のブランドは高いって決まってるの。」

「けど、中国製って安いよね?」

「あーもう! うちの国のパチ物評判なんとかならないかしらねー!」

「ゴチャゴチャ言ってないで、行こうぜ。」

「あんたはなんやかんやでマイペースよね。」

 箒と共に時計屋に入ろうとする一夏に、鈴が呆れながら言ったのだった。

 

「……………一夏さん?」

 

「あれ? 蘭じゃねぇか。」

 聞き覚えのある声が聞こえたのでそちらを見ると、いかにもショッピングに来ましたという感じのお出かけスタイルの蘭がいた。

「奇遇だな。こんなところで会うなんて。」

「えっ…あ、はい! あの、一夏さん…、そちらの方々は?」

「ん? ああ、IS学園の友達だよ。」

「……。」

「どうした?」

「酷いです!」

「なんだ?」

「彼女さんがいるのに、他の女の人達連れて歩くなんて!」

「? 友達と歩いてて悪いことか? 男が女友達作っちゃ悪いかよ?」

「う…それは…。」

「ご心配無用よ。」

「えっ?」

 鈴の言葉に蘭が鈴を見た。

「ま、こんなご時世だし、抵抗あるのは分かるけど、別に私達一夏と箒の仲に割り込もうってわけじゃないの。」

「それに今日は、みんなで一夏の誕生日プレゼントを選ぼうって決めてたんだし。ねっ? みんな。」

 鈴に続いてシャルロットのそう言ってセシリア達に話を振ると、皆頷いた。

「そうだったんですか…。すみませんでした、一夏さん…。」

 蘭は、納得したのか、一夏に謝罪した。

「いや~、確かに言われてみれば、この状態って、端から見ればいわゆるハーレム状態ってやつか?」

「言うまでもないな。」

「けど、俺、そんな気ないし、俺の一番は、昔も今も箒だけだぜ?」

「!」

 軽く惚気る一夏に、箒がボンッと真っ赤になった。

「ね? アイツ絶対他の女になんてなびかないわよ。」

 鈴がポンッとぼう然としている蘭の肩に手を置いた。

 察したセシリア達は、気の毒そうに蘭を見て、顔をそらしたのだった。

 すると蘭の目から涙がこぼれた。

「ちょっ! まずっ…、一夏!」

「おう。」

「そこの喫茶店入ってるから、アンタと箒は、適当に物色でもしてなさい! 落ち着いたら連絡するから!」

「…分かった。」

 鈴は、ハンカチでボロボロっと泣く蘭の顔を押さえてやりながら、セシリア達共に近くの喫茶店に入って行った。

「……よかったのか?」

「…俺が慰めてもどうしようもないだろ。それに、女心が完全に分かるほど俺は万能じゃない。」

「…そうか。」

「行くか。」

「…ああ。」

 後ろ髪引かれる思いで箒は一夏と共に喫茶店から離れた。

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 その後、ショッピングの客達で賑わいを見せる街を歩き回り、服を見たり、アクセサリーを見たり、本を見たりしていた。

 箒はふと気づく。

 これ、普通に男女のデートじゃないかと。

 なんでもなく普通にしていたので気づいてから急に緊張してきて、顔が紅潮するのが分かった。

「どうした?」

「あ、なんでもな…、っ!?」

 そう言って慌てて顔を逸らし宙を見上げた時に見えたのは、派手な看板の……まあ、いわゆる、アレなホテルの看板なわけで…。

 コンマ一秒とせずいかがわしい想像が駆け巡ってしまった、お盛んなお年頃の少女である箒は鼻血を吹きそうになった。

 フラ~っと倒れそうになった箒を、慌てて一夏が支えた。

「どうした! 貧血か!?」

「ちが…ちが…。」

「血が!? 血が足りないのか!?」

「違う…。違うんだ…。」

 箒は鼻を押さえて、ボソボソっと言う。

 その時、一夏の携帯が鳴った。メールだ。見ると、鈴からだった。

 蘭を落ち着かせ、家に帰したそうだ。

「だいじょうぶか、箒? どっか休めるとこ…。」

 その一言で箒は、ホテルを連想してしまい、今度こそ鼻血を出した。

「ほうきーーー!?」

 びっくりした一夏の叫び声に行き交う人達が立ち止まった。

 

 その後、鈴達と合流したのだが……、箒が鼻血を出した理由を聞いて、鈴達は呆れ返り。

 

「どうなの、一夏? こんなエロ思考女子って。」

「いいんじゃねぇの?」

「って、ああああああああ! 篠ノ之さん!」

「不用意にそういうこと言っちゃダメだよ、一夏!」

「凰も焚き付けるな。」

 近くにあった、スタ●みたいな店に入っていたのだが、机に突っ伏した箒がドクドクっと鼻血を垂らすのでセシリア悲鳴、シャルロットは、ティッシュを出しながら注意し、ラウラは鈴にも非があるという風に言った。

 

 




蘭をいじめたいわけじゃないんだ……。
ただ初恋をそう簡単に諦められるような年頃でもないだろうし、キッパリと好きな人にはすでに恋人がいるからと頭で理解してても心では…って感じになりそうで。

あと、箒も箒で、結構スケベぇな思考してるって感じにしちゃった。どうしてこうなった……。


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SS43  敵からのちょっかい

前回、さすがに箒の鼻血は彼女らしくないなって思ったので、こういう理由付けをしました。

今回は、それを含めた事件。


 

 結局、誕生日プレゼントは決まらず、お開きとなり、IS学園に帰った。

「今日の夕飯…、レバーとかほうれん草とかマグロの赤身の刺身とか食おうぜ。」

「うん…。」

 一夏の背中に背負われた箒が鼻にティッシュを詰めた状態で頷いた。

 一夏の背中の上で箒は…。

 情けない! 情けないぞ私!っと自己嫌悪に陥っていた。

 今までだって二人っきりになる機会はなんぼでもあったじゃないか!っとも思うが、最近、無理矢理同居してきた楯無に邪魔されたりと二人っきりになる機会がめっきり減ってしまった反動だろうか。まあ、とにかく今日の箒は色々とおかしかったっと箒自身が自覚していた。

 そして夕飯は、ほうれん草のおひたし、レバニラ、マグロの赤身の刺身っとなった。一夏が食堂のおばちゃんに血を増やす食べ物をと頼んで出してもらったのだ。

 意気消沈している箒は、モソモソと元気なく、それらを食べる。

「元気出したら? 箒。」

 鈴が励まそうとする。

「しかし、おかしいことだ。」

「ラウラ?」

「いくら興奮したとはいえ、あれだけ血を流して貧血どころかむしろ血が多そうに顔色が赤いではないか。逆に血が多すぎるんじゃないのか?」

「そんな風に急に血なんて増えるわけありませんわ。」

「……ぅ…。」

「箒?」

 なにやら箒の様子がおかしかった。

 すると、ティッシュを詰めていた鼻からぽたりぽたりっと血が垂れ始めた。

「ちょっ…! いくらなんでもおかしいじゃない!」

「篠ノ之さん、しっかり!」

「箒、箒ぃ!」

 箒の意識は、そこで途絶えた。

 

 

 

『あれ? 量間違えちゃったかな? ま、死んでないし、成功?』

 

 

 

 意識を失う直後、あの不快な、あの別の宇宙からの敵の男の声が聞こえた気がした。

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 

「微量の細胞検出!?」

 箒が倒れたので慌てた一夏達だったが、間もなく同じく食堂にいて食事を摂っていた女子生徒達の何人かが鼻血を出すなどして倒れる事態になり、医者がすぐに駆けつけ、担架で運ばれる事態になった。

 その後、すぐに食事内容の確認と食堂の調理場の検査が行われ、そこから……。

「型から見て…、間違いなく、あの別宇宙からの敵の細胞で間違いないとのことだ。」

 千冬がそう説明した。

「それが食堂の貯水タンクから出たって事かよ!?」

 箒の様子を見るため食事に手をつけていなかった一夏達は無事だったのだ。

「そ、それで…篠ノ之さんは…?」

 セシリアが蒼白した顔で聞いた。

「他の者達と合わせて検査した結果から見ると…、血液循環が良くなりすぎていただけだ。」

「……………はっ?」

 思わず間抜けな声が出てしまった。

 それは、毒物による異常というより……。

「ハッキリ言えば…、いつもより健康な状態だ。」

「あれだけ鼻血出して!?」

「それが、まったく貧血も起こっていない。血液濃度から見ても、普段から貧血気味だった者もいたのだが、標準値になっていた。……不可解だが、健康状態が良くなっていることを抜けば、ある意味で劇物であることには変わりないが…、こんな劇物があり得るのかと検査担当者も首を傾げている。」

「体内に入ったその細胞は!?」

「精密検査結果から見て言えば、体内に細胞は欠片も残っていない。だが経過を見てみないことにはな……。」

「……隔離…ですね。教官。」

「織斑先生だ。馬鹿者。…ボーデヴィッヒの言うとおり、少しの間だが経過を見ることとなるだろう。それと、他の貯水タンクも調査している。あと、寮の部屋内にある冷蔵庫内の食物も調べることになるだろう。」

「なぜです?」

「出かけ先でかなりの鼻血を出したのだろう? もしかしたら箒が事前に口にしてしまった物に敵の細胞が混入していた可能性も無きにしろ非ずだ。」

「ですが、織斑先生! 別の宇宙からの敵の転移については、レーダーが反応するはずですよね!?」

「その件については、あくまで憶測だが、学園祭のあの襲撃時に同時に行われていた可能性がある。レーダーは、まだ開発して間もないものだ。同時に数カ所の転移には対応できてはいない。それに、あくまでもレーダーは、転移の際のエネルギーに反応する物であって、すでに送り込まれた物には反応しない。」

 亡国機業のISの装甲を再生させたうえに、増殖まで行った敵の細胞だ。もしかしたら、どこかで増殖していて、それがナメクジのように移動して貯水タンクなどに入ったという想像もできる。

 うっかり想像して、全員の背筋がゾワッとなった。

「無論、増殖している可能性は否定ができん以上、このIS学園のある人工島全土を調べ上げてひとかけらもないことを確認が出来るまで授業も中止だ。最悪、キャノンボール・ファストも中止となる可能性もある! 以上!」

「…箒。」

 一夏は、何より箒のことを心配していた。

 そんな一夏を鈴達は心配そうに見ていた。

 

 

 そして検査と調査という名の厳戒態勢が敷かれ、寮内の部屋もくまなく調べられるなどプライベートもあったものじゃない状況となったが、隔離されていた生徒達が解放されたのは、わずか二日後だった。

 なぜここまで早く調査が終わったのか……、それは、ある研究機関に送られた敵の細胞を調べていた研究チームがラットを使った実験を行い、そしてラットがとんでもなく健康状態が良くなるが、量によっては完全な健康と引き換えに死ぬという実験結果と、なぜか体内に入ったその細胞は完全に燃え尽きるように消えるという実験結果を報告し、今回生徒達の体内入ったであろう量と、貯水タンクから検出された量が照合された結果、症状が出た時点で体内にある敵の細胞は消えていると判断されたからだった。

 生徒達の隔離の解除と共に、IS学園がある人工島の全土の調査が集中的に行われ、こんなに早く調査が終わったのである。

 おそらく政府や国家機関がキャノンボール・ファストという一大イベントのために、支障が出ないよう調査チームを強化したためだろうと考えられるが、敵の細胞が独自に動いていて今なお増殖しているという最悪は免れたのはIS学園にとっては大きかった。特に精神的に。

 ちなみに、一夏と箒と楯無が住んでいる寮の部屋の冷蔵庫にあった箒が飲んでいたジュースのペットボトル内から極微量の敵の細胞が見つかり、箒自身からの証言で、出かける前に一口飲んでいたことが明らかになった。

 

 一夏達の知らぬ事だが、今回の事件を機に、敵の細胞に興味を抱いた科学者達が、こぞってその細胞を研究したがり、そこに不老不死の可能性を見いだそうとする者さえいたとか……。

 




血圧が上がりすぎると鼻血が出るんでしたっけ? ピーナッツとか食べ過ぎるとかで。

アイツの細胞は、元々の登場作品では、体内に注入すると超健康になる代わりに死ぬという設定だったので、超微量が入ると一時的に血圧が急激に上がって鼻血に繋がったということにしました。ただし体は健康なってます。
箒の場合は、出かけたときに知らぬ間に直接ちょっかいかけられているので効果が出るのが多少遅れたということで。そして食堂の貯水タンクの事件で追い打ちかけられて倒れる。

なお、研究したところで、思うような研究結果は出せないんですけどね……。(ゴジラ対エヴァンゲリオン(仮)にて)


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SS44  箒の苦悩

キャノンボール・ファストに向けた調整。

けれど箒は……。


 

 謎の敵の細胞によるトラブルは、早期に解決したものの、二日を無駄に消費したのは変わりない。

 キャノンボール・ファスト本番までに何もできなかった時間を取り戻すべく、生徒達は必死だし、できなかった授業も詰め込まないといけない。敵が残したIS学園の爪痕は小さくなかった。

 高機動実習として、中央タワーに繋がった第六アリーナを使う。

 副担任の真那が授業を進めるが、まず専用機持ちに実習をしてもらうと言った。

 まずストライクガンナーというパッケージを持つブルー・ティアーズ、つまりセシリアと、通常装備だが、全出力をスラスターに調整して仮想高速起動に調整した一夏がやることになった。

 セシリアにハイスピードの切り替え方を教えてもらい、スタート位置につく。

「では…、3…、2…、1…GO!」

 真那のフラッグを合図に同時に飛翔。

 あっという間に音速にまで加速する。瞬時加速を常にやっているような感覚の中、一夏は超音速という世界を楽しんだ。

 ISという機体があるからこそ到達できる世界。それは肉体のみでは到達はできないだろう。

 ああ…ISはすごいんだなぁっと初めて実感した瞬間だった。

 そして中央タワーの外周を周るのだが、ここは慎重にいかないといけない。なにせ超音速の世界。もしぶつかればとんでもないことになる。ぶつかった衝撃波でタワーを破壊すれば反省文どころじゃない。

 手慣れているセシリアに習いながらタワーの頂上から折り返し、アリーナへと戻る。

「二人ともすごく優秀でしたよ!」

 戻ってきた二人に、真那が笑顔で言った。

「いいか! 今年は異例の一年生参加だが…。」

 千冬がパンパンと手を叩いて注目を集めてから言った。

 今回のキャノンボール・ファストは、異例の一年参加が決まっており、謎の敵からの攻撃で無駄になった二日を取り戻すことと、キャノンボール・ファストの経験は今後大きな経験に繋がると言った。

 そして、訓練機のキャノンボール・ファスト参加者を選出することを告げた。

 本来は、キャノンボール・ファストは、整備課が登場する二年生からのイベントなのだが、今年は例年になく専用機持ちが多いことから異例として一年生もキャノンボール・ファストに出場することになったのだ。なお、訓練機組は一般生徒が参加するので優勝すればご褒美がある。

 クラス対抗戦の時のように、デザート無料券だ。

 異例の一年生参加に加え、敵の攻撃もあって予定が狂ったこともあり、指導する教師達は必死だ。教え子達に良い成績を残させてやりたいのは山々なのだ。

 タッグトーナメントでは、ラウラのVTシステムの暴走もあり色々と無かったことになったりしてしまったが、国際大会も開かれるキャノンボール・ファストだ。当然だが世界中のお偉いさんやスポンサーが使いを出す一大イベント。しかも今年は異例の一年生の参加もあるので期待は大きいに違いない。

 一夏としてもなんとかお偉いさんやスポンサーのハートをがっちり掴んで、自分の目標である筋肉による世の男性達の発破をかけられればと考えている。

 セシリアから聞いたが、イギリスのマッスルブームは、少しずつだがヨーロッパ諸国にも伝わっているらしく、シャルロットの親の会社の筋肉関連品の事業も少しずつ軌道になってきているとか。

 一夏の懸念はただひとつ…。

「トラブル起こるなよ~…。」

 それでスポンサーとかに逃げられたんじゃ話にならない。

 ふと見ると、箒が紅椿のデータが映された空中投影ディスプレイを睨むように見ていた。

「箒。だいじょうぶか?」

「ん、…ああ。」

「調整…難しいか?」

「いや、調整自体は問題ないと思う。だが…扱う者が未熟ではな…。」

「あ~、なるほど。」

 並んでディスプレイを見て確認する。

 紅椿は、装甲を展開することで、高速起動仕様にもなるという、従来のISでは考えられないほどの万能性を秘めている。

 問題は、装者である箒が現在防御にしか展開装甲を扱えていないことだった。エネルギー増幅のワンオフアビリティ・絢爛舞踏は、扱える。奇しくも謎の敵との戦いの経験が、扱いが難しいワンオフアビリティの扱いを上手くしたのだ。

 そのため、多目的動力で、絢爛舞踏が使えないとすぐにエネルギー不足になる紅椿の仕様を見事クリアしているのだが、セシリアのブルー・ティアーズのようなBT兵器のように使い方次第で攻撃にも防御にも、そして機動にも使えるという超優等生な機体である。そのあまりの万能性に箒は振り回されてしまっているのだ。つまり機動に展開装甲を回した状態を維持できないのである。つまり油断するとすぐに装甲が防御形態になってしまうのだ。超音速状態でそんなことになれば、確実にこける。

「防御に徹して、じっとしすぎたのが原因だ…。」

「いや、それは悪い事じゃないと思うぜ?」

「気休めはやめてくれ。」

 箒は、プウッと頬を膨らませてそっぷを向く。こりゃ相当に参ってるな…っと一夏は思った。

「防御をいったん忘れて、機動に徹すればいい。」

 そこへラウラが来て言った。

「お前は極端すぎる。」

「そう言われても…。」

「練習あるのみだ。機動状態を保つように。」

「言われんでも分かっている!」

 うがっと箒が怒った。

「そういえば、一夏はいったいどのように調整したのだ?」

 ラウラは、ぷんぷん怒る箒から視線を外し、一夏に話を振った。

「雪片を封印した。あと、零天破甲も。」

「それは…。」

「ああ、なにせ高機動パッケージを白式が受け付けないからな、そうでもしないとスラスターに出力を回せねぇ。」

「敵が来たら?」

「殴る。」

「攻撃が来たら?」

「躱す。もしくは、受け止める。」

 ムキャッと一夏は二の腕の力こぶを膨らませた。

「一夏ならできそうだね…。」

「おう、デュノア。インストールは終わったのか?」

「うん。ラウラもね。」

 猫耳を思わせるヘッドギアをつけたシャルロットが来てラウラに笑いかけると、ウサ耳のように長いヘッドギアをつけているラウラが頷いた。

 よく見ると、インストールしたパッケージを読み込んでいるのか、そのヘッドギアが少しピクピク動いている。それがなんだか本物の動物の耳っぽくって、可愛い。

 一夏は、そう思いつつも、代表候補生であるシャルロットと、現役軍人のラウラの機動を見たいと頼んだ。二人は快く受けてくれ、チャンネルを回してくれることになった。

 直視映像と呼ばれるそれは、視界情報の共有、つまりシャルロットが見ている世界をISを通して見ることができるという便利機能だ。

 そして、二人がスタート位置に付き、スタートする。

 加速の仕方は二人とも個性があるが、減速のタイミングは似ていて参考になった。

「う~ん、さすが代表候補生だ。」

「これぐらい基本だよ。」

 戻ってきたシャルロットが笑顔で言った。

 一夏は、その後自分の白式の出力調整を見直すなどした。

 順調な一夏とは裏腹に、箒はまだ紅椿のデータと睨めっこしていた。

 見かねたラウラとシャルロットが、箒に助け船を出す。

 そして、紅椿を高機動状態にして、外周をしようとする。だがスタートと同時に身構えた途端、防御形態になってしまった。

「むむぅ…。」

「馬鹿者! 機動状態を保てと言っただろう!」

「なるほど、力むと防御しちゃうんだね。今まで力みながら防御形態をしてたから、癖になってるのかも。」

「しかし身構えないと発進すらできん! それを直せ!」

「できたらやってる!」

「もう、喧嘩しちゃダメだよ。」

 イライラが溜まって怒る箒と、厳しく指導するラウラが衝突すると、シャルロットが間に入る。

 そんなことを繰り返している間に、一夏は真那に実戦でのキャノンボール・ファストを模した訓練をしてもらっていた。

 キャノンボール・ファストは、ただスピードを競うではない。妨害有りのバトルレースなのだ。超音速で加速しながらの高機動戦闘。

 一夏は、超音速の世界にすぐに慣れ、真那の妨害攻撃を防ぎつつ、グレネードやマシンガンを躱し、接近と同時に見ずに裏拳をして真那をコースアウトさせた。

 コースアウトした真那を助け起こしに行き、アリーナに戻る。戻って箒の様子を見に行くと、箒は折りたたみ椅子に座って泣いていた。その隣にはシャルロットが必死に慰めていて、シャルロットの反対側でラウラがそっぷを向いて腕組みしていた。

 どうやら、上手くいかなかったらしい。

 その後放課後も箒はラウラとシャルロットの指導を受けて高機動状態を発動させた状態を保とうとしたようだが……、結局この日は上手くいかなかった。

 

 こうして、一日は終わる。

 




このネタでの箒は、絢爛舞踏を早期に使いこなせていますが、他の展開装甲がうまく出来ていません。
また、謎の敵との戦いで防御に展開装甲を使いすぎたため、癖が付いて力むとすぐに防御形態に。完全に紅椿に振り回せています。
これは、本人が不本意で紅椿を手に入れてしまったことも大きいです。

アイツのせいで、二日無駄になっているので大変なことになってます。


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SS45  キャノンボール・ファストと…乱入者

キャノンボール・ファストと、また乱入者。


一夏と箒が喧嘩とは言わなくても、ちょっと離れてます。


 

 部屋に帰ってきても、一夏がシャワーを浴びて戻ってきても、箒はずっと紅椿のデータが映されたディスプレイと睨めっこしていた。

「箒。飯食いに行こうぜ。」

「私はいい。」

「おいおい。食わないと体がもたないぞ?」

「冷蔵庫にある作り置きを適当に食べる。」

「…そうか。」

 これは何を言っても無駄だろうと判断した一夏は、それ以上は言わず、服を着て食堂に向かった。

 食堂について、夕食に日替わり定食を頼んでいると、ラウラが来た。

「一夏。箒は?」

「紅椿のデータと睨めっこだ。」

「…展開装甲の構造上、そこまで出力調整はしなくてもいいのだがな。」

 っと言って、ラウラは一夏と共に席に着いた。

「アイツは、自分が紅椿にふさわしくないと思い込んでいる。恐らくそれが使いこなせていない原因だろう。」

「望んで手に入れたわけじゃないんだ。仕方ねぇんじゃね?」

「しかしだ。運も実力のうちと言うではないか。」

「……嫌いな相手から無理矢理渡されて、素直に喜べって方が無理だろ。」

「ともかく、その意識を改善しない限り、箒は紅椿を使いこなせんだろう。」

「そうか…。」

「一夏。お前からも言うべきだ。」

「俺は…。」

「そうやって甘やかすから、箒は強くなれんのだ。」

「お前…。」

「あいつ自身、お前の隣に並び立てる存在でありたいと願っているのだ。そのためには強くならなければならない。そのために必要なのは甘やかすことじゃない。」

 ラウラは、軍人としての顔で一夏に言う。

「今回のキャノンボール・ファストだが…、箒は優勝する気でいる。だから…、お前も加減はするな。」

「……分かった。」

「箒の特訓は、私とデュノアでする。お前は介入するな。いいな?」

「分かってるって。」

「うむ。それならいい。」

 ラウラは、そう言って頷くと、食事を食べ始めた。

 一夏も、食事を摂り、部屋に帰ると、疲れて眠ったのかディスプレイをそのままの状態で寝ている箒を見つけた。

 一夏は、箒の体の上に布団をかけてやり、自分のベットに入って寝た。

 

 そうして、クラスメイトや他の生徒達が箒と一夏が離れていることに動揺しつつ、キャノンボール・ファストの日を迎えることとなる。

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 キャノンボール・ファスト当日。

 秋晴れの空に、パンポンっと花火が飛ぶ。

 そして会場は満員だ。とあるアイドルグループが満員に出来なかったと言われる会場が満員だ。

 キャノンボール・ファストのプログラムは……。

 まず、二年生。

 次に一年生の専用機持ちのよるレース。

 そしてそれが終われば一年生の訓練機組のレース。

 そして最後に三年生のエキシビジョン・レースとなっている。

「よう、箒。」

 一夏が箒に声をかけるが、箒は答えない。

「篠ノ之さん。呼んでるよ。」

「…ん? あ、ああ。一夏か…。」

 シャルロットに肩を叩かれてハッと我に返った箒が一夏を見た。

「…調子はどうだ?」

「……そっちこそ。」

「負けないからな。」

「っ、…望むところだ!」

 箒は、キッと一夏を睨むように見て叫んだ。

 端から見ていたシャルロットは、心配そうに二人を見ていた。

 やがて、準備をしろと千冬が来て呼ばれ、二人はそれぞれ別れて準備をした。

 二年生のレースは、抜きつ抜かれつのデッドヒートで、会場は凄まじい歓声に包まれていた。

 二年生には、セシリアと同じイギリスの代表候補生がおり、専用機こそないが、セシリアの先輩であり、彼女から操縦技術を習ったのだとセシリアが語った。

 やがて、二年生のレースが終わり、一年生の専用機持ちによるレースの開始の準備となった。

 一夏と箒の他、セシリア、鈴、シャルロット、ラウラが並ぶ。

 一夏がチラリと見たが、目に見えて箒に余裕が無いように見えた。

 スタート開始と同時に大こけしなければいいが…っと心配だったが、声をかけたらいけない気がして声をかけられなかった。

 やがて、スタート位置に付く。そして各自スラスターを点火して、独特の音が鳴る。

 そしてアナウンスが一年生の専用機持ちのレース開催の言葉をマイクから放ち、スタートを開始するランプが点灯を始める。

 

 3・2・1……

 

 GO!

 

 っというスタートと共に全員が発進。

 箒はこけず、無事に発進した。

 まず先頭に出たのはセシリアだった。

「お先に!」

「やらせないわよ!」

 次に前に出たのは鈴だった。

 横向きになった衝撃砲を放ち、セシリアは、ローリングしながら回避し、その隙を突いてラウラが前に出る。

 そして大型リボルバーキャノンが発射され、被弾しなかったものの、鈴は回避のため大きくコースラインをずらすこととなった。

 そこへシャルロットが加速して追いつく。

「はっ!」

 そこへ箒が追いつき、刃から放つレーザーを乱発する。

「来い! 箒!」

 一夏は、それを回避し、箒を見る。

「負けん!」

 一夏と箒が並ぶこととなって格闘になる。

 振り下ろされた刀を裏拳で弾き、弾かれた刃をそのままに、箒が刀の柄で一夏の頭を打つ。

 コースラインに戻ったセシリアと鈴も復帰し、混戦となりそうになった時だった。

 

 突如、空から飛来してきたISの攻撃がトップを進んでいたラウラとシャルロットに向かって放たれた。

 その攻撃によりラウラとシャルロットは、壁へと弾かれ、激突した。

 

「やっぱりこうなるかーーーーーーー!」

 やっぱりトラブルが起こってイベントがそれどころじゃなくなることに、一夏は絶叫を上げたのだった。

 

 




箒は、ただ一夏に守られてばかりじゃなく、自分も一夏を守りたいと頑張ってるだけです。
そして、恒例となったトラブルに、一夏絶叫。


次回は、サイレント・ゼフィルス戦。
アイツが…出るかはまだ未定。


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SS46  共謀者はどっち?

vsサイレント・ゼフィルス。


あと、最後の方、織斑マドカ登場。


原作通りな流れで、オリジナル展開かも。


 

 突然の事態に、会場は大パニック。

 係員達の避難指示など届くはずもない。

 

 そんな中、壁に叩き付けられ動けない状態のラウラとシャルロットに駆け寄った一夏が、雪羅のエネルギーシールドを発動して敵のBTライフルを防いだ。

「おい! 動けそうか!?」

「…ご、ごめん。スラスター死んじゃった。PICでなんとか飛べるけど…、アイツ(襲撃者)には届きそうにないよ。」

「支援射撃を行うのが…やっとだ。」

 超音速移動中に空中からの攻撃をもろに受けたのが祟ったらしい。

「一夏は、行け! 私が支援射撃をするから、セシリア達を援護しろ!」

 見るとセシリアと鈴が敵のISであり、イギリスから強奪されたもう一機のBT装備型のIS・サイレント・ゼフィルスと戦っていた。

 しかし、高機動用に調整しているため、完全に戦闘モードである敵に出遅れていた。

「分かった! 頼むぞ!」

 一夏が飛ぶと同時に、ラウラが射撃兵器を使い、敵のBT兵器を撃ち落とそうとする。

 一夏に迫ったBT兵器は、一夏が裏拳で弾いて破壊し、サイレント・ゼフィルスに接近する。

 その間に、鈴は撃墜された。

「来たか…。」

「ふんっ!」

「くっ!?」

 一瞬だけ余裕だった敵だったが、一夏の拳が飛んできて慌てて避けていた。

 その後、雪羅の形態で放たれる格闘技にサイレント・ゼフィルスは押されていった。

 タイミングを読んでBT兵器が放とうとしてくるようだが、それを阻止する形で猛攻撃が来るためサイレント・ゼフィルスは完全に避けるので手一杯になっていた。

「これほどとは!」

「とどめだ! ピストル拳!」

「ちぃ!!」

 BT兵器がシールドを作り、放たれたピストル拳を相殺する。

「一夏さん! わたくしがやりますわ!」

「セシリア!?」

「BT一号機たるブルー・ティアーズの力、お見せしますわ!」

 セシリアが割って入り、サイレント・ゼフィルスに攻撃を仕掛ける。

 サイレント・ゼフィルスは、そのすきに一夏から離れ、空の彼方へ飛ぶ。それを追ってセシリアが飛ぶ。二機の青い機体が空の彼方へ飛んで行ってしまった。

「セシリア! あの、馬鹿…!」

「一夏! 補給を!」

「ああ!」

 箒が一夏に接触して、絢爛舞踏を発動してエネルギー補給を行った。

「箒も来い!」

「なぜだ?」

「もし、あの別宇宙の敵がまた来たらどうする!」

「! 分かった!」

 念には念である。一夏は、箒と共に会場から飛び立ち、セシリアを追った。

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 市街の上空で、セシリアと、サイレント・ゼフィルスの攻防が行われていた。

「馬鹿野郎!」

「一夏さん!」

「これ以上パニックを広げるんじゃねぇ! もしアイツが来たら…。」

「貴様…やつを知っているのか?」

「あ?」

「答えろ!」

 セシリアを押しのけたサイレント・ゼフィルスのBT兵器が一夏に向けて射撃された。

 一夏を守るように箒が装甲を展開して防ぐ。

「やつって…、あの赤毛の奴のことか?」

「やはり、知っているな…。貴様らは共謀者か?」

「何言ってんだよ! そりゃこっちの台詞だぜ!」

「誤魔化すな!」

「わたくしをお忘れになってはなりませんわよ!」

「ちっ! お前はいい加減落ちろ!」

「くっ!」

 セシリアのインターセプターを破壊し、ライフルも破壊してシールドエネルギーをごっそりと消耗させる。

「ああああああ!」

「セシリア!」

「ま、まだ…ですわ! ブルー・ティアーズ、フルバースト!」

 途端、四門の同時発射。これは、ブルー・ティアーズにとっては、機体が空中分解しかねない諸刃の剣。けれど、セシリアはそれでも負けられないと発動した。

 しかしサイレント・ゼフィルスは、それを避ける。

 そして、ブレードがセシリアの右腕を貫いた。

「あ…!」

「ばかやろーーーーーー!」

「一夏!」

「ピスト…。」

「いいえ。まだですわ。」

 一夏が激情のままピストル拳を放とうとすると、セシリアが脂汗をかきながら、けれど静かに言った。

 そして、左手を銃を撃つように構える。

「…バーン。」

 その瞬間、四門のブルー・ティアーズのBT兵器のビームがサイレント・ゼフィルスの背中を貫いた。

 しかしサイレント・ゼフィルスは、揺れた機体をすぐに正す。

「…うそ…ですわ…。」

「セシリア!」

 一矢報いたと思い笑ったセシリアだったが、まったく効果が無かったことに愕然とし、機体が限界を迎え、落下していく。

 それを一夏が瞬間加速で接近して受け止めた。

「ッ…、まさかコレに救われるとはな。」

 そう言ってサイレント・ゼフィルスの装者が取り出したのは、ISコアに似ているが…まるで生物と機械が融合したような物体だった。

「それって…まさか…。」

「……どうやら貴様らは共謀しているわけではないようだな。」

「だからさっきから何言ってんだよ! ソレ…、あの赤毛の奴の…。」

「詳細は知らん。……ッ。命拾いしたな。」

 通信を受けたサイレント・ゼフィルスの装者は、背中を向けて飛び去っていった。

「おい、待て!」

「深追いするな、一夏! 今はセシリアを…。」

「あ、ああ…。」

 思わずサイレント・ゼフィルスを追いかけようとした一夏を箒が止めた。

 一夏達は、セシリアをアリーナへ運んだ。

 すぐにセシリアは、病院に運ばれ、一夏と箒は、千冬に報告。

 その報告の中に、別宇宙の敵である赤毛の男の仕業と思われる技術を応用したモノがあったと聞いて、千冬は眉をつり上げた。

「奪えればよかったんだけどな…。」

「それは、無謀だ。篠ノ之、よくぞ止めた。」

「はい…。」

 サイレント・ゼフィルスの装者から、赤毛の男の仕業と思われるモノを奪おうと考えていた一夏を叱り、一夏を止めた箒を千冬は褒めた。

「ともかく、今回の件が落ち着くまで学園で待機とする。いいな?」

「ああ…、俺の目標が…。」

「一夏…。」

 っというわけで……、せっかくスポンサーを得たかった一夏の野望は潰えたのだった……。

 

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

「誕生日おめでと~~~!」

 パーンと、クラッカーが鳴らされた。

 せっかくのキャノンボール・ファストのイベントがダメになり、学園に帰った一夏達。

 大騒動になった二度目の亡国機業の襲撃事件により、暗くなりそうな雰囲気を吹き飛ばそうと、一夏達は一夏の自宅で、一夏の誕生日を祝った。

「ありがとな!」

 一夏も笑う。もう、笑うっきゃない。本当は心で泣いていた……。おのれ! 亡国機業め!っと。

 なお、千冬達はいない。事後処理のため慌ただしく動いてるらしい。

 なにせ、ISによる市街戦をやってしまったのだ。そりゃ大問題だ。

 一夏も箒も取り調べを受けたが、この場にセシリアがいない。なにせ敵ISを追って市街戦をする要因を作ったのだから、怪我の治療もあるがお説教もたんまりあったのだろう。

「い、一夏さん…。」

「よう、蘭。お前もきてたのか。」

「あの…これ、ケーキ…。」

「おう、ありがとな。…うん。美味い!」

「あ、ありがとうございます!」

 渡されたケーキを食べ、一夏は笑顔で味の感想を言った。蘭は頬を染めて俯いた。

「よかったな、蘭。いっぱい練習したもんな。」

「そうなのか?」

 この場には、弾も数馬も来ている。弾がそういうと、蘭が顔を上げて真っ赤な顔で、お兄!っと兄・弾の頭をど突こうとした。

「美味そうだな…。俺も食っていい?」

「ダメ! それ一夏さんに作ったの!」

「ケチだな~。」

 数馬が冗談めかして聞くと、ぷんすか怒った蘭が止めてきた。

「っ…ハアハア…、一夏さん…。」

 するとそこへ、右腕を包帯で固め、釣っている状態のセシリアがいかにもプレゼントっという感じの箱を抱えて入って来た。

「セシリア! 病院はどうしたんだよ!」

「すみません…。どうしてもコレを渡しておきたくて…。」

「それより体だろ? 大丈夫なのかよ?」

「活性化再生治療のおかげで、そこまで大事にはなっていませんわ。それより、コレを…。」

「これは…、ティーセット?」

「イギリス皇室御用達の、高級品ですわよ。」

「おいおい、そんな高級なもん…。」

「たまには、お姫様のようなお上品なお茶会もいいですわよ? ね、篠ノ之さん。」

「えっ?」

「本来は、アフタヌーンティーは、その家の女主人が取り仕切りますが…、バトラー(執事)のように、お姫様をおもてなし差し上げてみては? 執事の服をわたくしのスポンサーに見繕ってもらいますわよ? 一夏さん。」

「…いいかもな。」

「一夏!?」

 アフタヌーンティータイムで、お嬢様(お姫様)、イコール自分が執事(一夏)にご奉仕してもらうのを想像した箒は、ボンッと真っ赤になった。

「最近、ちょっと仲が悪いようでしたので…。」

「えっと…その…。」

「いや、それは私が…。」

「ほっら、そんなのいいから、食べなさいよ。みんなで持ち寄って料理が冷めるわよ?」

「あ、そうだな。ほら、箒も食えよ。」

「あ、ああ…。」

 ちょっとギクシャクしながら、みんなが持ち寄ってくれた料理を堪能したのだった。

「あ、このラーメンうめぇ!」

「ふふふん。麺から手作りしたのよん。」

「むむむ…。これは負けるな…。」

「ラーメンもいいけど、箒が作ったうどんのが好きだな、俺。」

「!」

「あら、そうなの? じゃあ、今度うどんパーティーする?」

「な、何を言ってるんだ!」

「うどんって、パスタの太いのみたいなのですわよね。」

「違うわよ。全然。知らないなら食堂で食べれば良いじゃない。」

「僕は好きだよ。コシがあって美味しいよね。」

「私は食べたことないな。今度食べてみるか。」

「……皆さん…仲良いですね。」

 すると蘭が、ポツリと言った。

「ま、一夏らしいっちゃらしいな。中学校時代もこんな感じだったしよ。」

「そうなの? お兄。」

「そうだぜ、蘭ちゃん。コイツ、男だろうが女だろうが関係なく仲良くなるから。けど、知り合った当初から本命がいたよな?」

「ああ。箒のこと…ずっとずっと好きだったからな。」

「!」

「かー! これだからリア充はよ!」

「うぅ、う…。」

「蘭…、諦めろ。」

 泣きそうになる蘭の頭に、弾が手を置いた。

「ごめんな…、蘭。」

「うぅう…、一夏さん…。私、いつか…ちゃんと祝福できるようなれるかなぁ…?」

「なれるって。だいじょうぶよ。蘭。」

 鈴も蘭の背中を摩った。

 蘭は、グシグシと乱暴に袖で涙を拭うと、コクリッと頷いた。

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 やがてジュースが足りなくなり、一夏と箒がジュースを買ってくると言って、自宅近くの自販機で大量のジュースを購入していた。

「これだけあればいいんじゃないか?」

 ついてきた箒が袋に入れたジュースを見て言った。

「じゃ、帰ろうぜ。」

「ああ。……なあ、一夏。」

「なんだ?」

「ごめん…。」

「なんで謝るんだ?」

「キャノンボール・ファストで、私は私なりに力を示したかったんだ。だから、冷たく当たって、その…ごめんなさい。」

「……箒。」

「っ…。」

 一瞬身構える箒の頭に、一夏の手が乗った。

「馬鹿だな。」

「ば、馬鹿とはなんだ!」

「それぐらいで俺の気持ちが離れると思ったか?」

「そ、そんなことは…。」

「けど、ちょっと寂しかったのは確かだ。だから、詫びろよ。」

「あ、ああ。もちろんだ!」

「んじゃ…。」

「えっ…、あっ…。」

 顎をクイッと持ち上げられ、一夏の顔が近づいた。箒はキスされると思い、目をつむった。

 その直後。

「っ! 箒!」

「あっ!」

 トンッと突き飛ばされ、箒は尻餅をつき、袋に入ったジュースが散乱した。

 自販機に一本のナイフが刺さった。ちょうど、箒の頭があった場所に。

「……まったく、見せつけてくれる。腹立たしい。」

「その声…。」

 そこには、一人の少女が立っていた。

 その顔は……。

「気づいたか? 今日はよくもやってくれたな。」

「お前…一人か?」

「ほう? 動揺しないのだな、この顔を見て…。」

「いや、十分動揺してるさ。なんでそんなに千冬姉に似てる?」

「私は、お前だ。織斑一夏。」

「お前が、俺?」

「私の名は……、織斑マドカだ。私が私たるために、私は、お前を殺す。」

 そして取り出された銃口から、一発の弾丸が放たれた。

「ふんっ!」

「なに!?」

 弾丸は、一瞬にして膨張した一夏の大胸筋によって防がれた。

「危なかった…。この鍛え抜いた大胸筋がなかったら、心臓一発だったぞ…。」

「どんな鍛え方したらそんな体になるんだ!?」

 不敵に笑っていた織斑マドカの顔が一瞬にして焦りに変わる。

「鍛えたからだ!」

「だからどんな!?」

「一夏! 下がれ!」

「チッ!」

 箒が紅椿を展開し、装甲で一夏を庇う。

 マドカは、舌打ちをして飛び退き、夜の闇に姿を消した。

「今のは…、どうして千冬さんに…?」

「さあな…。」

 紅椿を引っ込め、一夏に縋った箒を安心させるように抱きしめ一夏は、マドカが消えた方向を睨んだ。

 




中々、気持ちを切れない蘭ちゃん。

このネタの一夏は、だいぶ冷静。千冬と同じ顔を見ても取り乱さない。
あと、マドカ。一夏と箒のイチャラブにイラッっと。


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SS47  更識簪(さらしきかんざし)

やっと書けた……。

待ってた方いますかね…? こんな駄文…。


今回は、簪をタッグマッチのパートナーに誘う。


 

 織斑マドカ。

 

 千冬にあまりにもよく似た顔は、イヤでも脳に焼き付いた。

 一夏と箒は、警戒しつつ帰り道の途中、今日は誕生日会だから水を差さぬよう翌日言おうと決めた。

 

 そして翌日。食堂にて。

「襲われた!?」

「ああ。サイレント・ゼフィルスの装者にな。」

 その人物が恐ろしく千冬にそっくりだったことと、織斑マドカと名乗っていたことは伏せた。

「だいじょうぶだったの!?」

「ああ、撃たれたけどな。」

「ダメじゃない! 怪我は!?」

「この鍛え抜いた大胸筋が防いでくれたさ。」

「…あっ、そう……。」

 よくよく考えたISのミサイルでも無傷の男だ。銃弾ごときじゃ死なんだろう。

 

「なぜ、それを報告せん?」

 

 そこへ、真那と共に千冬が夕食が乗ったトレーを持ってやってきた。

「すみません…。タイミング見逃して…。先生達忙しそうだったし…。」

「忙しかったのは事実だが、友人達に報告するよりも早く、そういうことは我々に報告すべきだぞ? 分かったな。食事が終わったら、あとで、来い。」

「はい。」

 怒られたあと、そう返事をした一夏。

「私も行くぞ。当事者だからな。」

「ああ。」

 箒も行くと言った。

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 職員室ではなく、千冬の部屋で報告となった。

 それは、一夏が希望したことであり、何かを察した千冬は了承した。

「では、報告しろ。」

「はい。昨日の晩、俺の誕生日パーティーを催しましたが、その最中ジュースを買い足しに行った際に、箒と共に、サイレント・ゼフィルスの装者の襲撃を受けました。」

「そうか…、顔は見たのか?」

「はい…。」

 途端、言いにくそうにする一夏と箒に、千冬は眉間にしわを寄せた。

「どうした? 言えないか?」

「千冬さんに……。」

「私に?」

「織斑先生に…そっくりでした。」

「!?」

「なにか心当たりが?」

「あ…、すまん。以上か?」

「はい。」

「そうか…。怪我がなくてよかった。他に思い出したことがあれば、すぐに言ってくれ。」

「分かりました。」

 そう返事をしてから、一夏と箒は退室した。

 椅子に座っていた千冬は、机の方に椅子を回し、机に肘を置いて、ハア…っとため息を吐いた。

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

「一夏くーん!」

「なんですか、先輩?」

 部屋に帰るなり、いきなり楯無がとびつてきたので、頭を掴んで止めながら一夏は面倒くさそうに聞いた。箒はもう怒らない。一々怒っていては、身が持たないと分かったからだ。

「頼みがあるの!」

「だから、なんです? 俺も宿題とかあるから、忙しいんですけど。」

「手伝ってあげるから聞いて!」

「…はあ、分かりましたよ。なんです?」

「やったー! あのね! 妹のことを頼みたいの!」

「はあ?」

「なっ!」

 さすがに箒は声を上げた。

「何を言ってるんですか!」

「あっ! 違うの! 頼みたいのはね…、今度の全学年合同タッグマッチのパートナーになって欲しいってこと!」

「はあ…。」

「なんだ…そんなことか。って、それでも問題だ! なぜ一夏に!?」

「だって…、一夏君のせいなんだもん…。」

「はっ?」

 すると楯無が俯いて、ブツブツ説明した。

 楯無の妹である、簪(かんざし)は、日本代表候補生なのだが、本来与えられる専用機がないのだという。

 その原因は、簪の専用機を開発する企業であった倉持技研が、一夏が持つ白式の方に人員を回してしまい、結果簪の専用機が完成しないままになっているのだそうだ。

「クレームを入れるべきなのは、倉持技研ではないか! 一夏は専用機なぞ望んでいなかったのですよ!」

「そ、そうだね…。でも、一夏君がIS触らなかったら、こんなことにはならなかったよ?」

「…むっ。」

 楯無の言い分に箒が噛みつくが、そもそも一夏がISに不用意に触らなければこんな事態にならなかったと指摘されて、一夏は腕組みして唸った。

「けど…、それですと、俺、きっと恨まれてませんか?」

「それは…。」

「たぶん、俺が誘ったとしても乗らないんじゃないですか?」

「けど、簪ちゃんの性格じゃ、タッグを組んでくれる人なんて…。だ、だからね…! お願いしてるの!」

「一夏。聞く必要は無い。」

「…けどな。」

「お願い!」

「……分かりました。あなたの頼みだってことで言ってみます。」

「あ、あの…、できたら、私の名前は出さないで…。」

「あん?」

 それを聞いた一夏は、なんとなく察した。

 どうやら楯無と簪は、あまり仲が良くないようだと。

「…分かりましたよ。じゃあ、名前は伏せておきます。」

「ありがとう! 大好き!」

「ああああああああ!」

 楯無が、嬉し泣きの顔で一夏にガバッと抱きついたので、さすがに怒った箒であった。

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 後日、一夏は、簪がいる四組へ向かった。

「あれ、織斑君?」

 クラスの女子生徒がやってきた一夏に話しかけてきた。

「更識さんっている?」

「えっ、いるよ?」

 あそこ。っと女子生徒が指差した。

 そこには、楯無と同じ色の、けれどセミロングの長さもある髪の毛に、眼鏡をかけた少女がいた。

 簪は、宙に映し出されているディスプレイをジッと見つめたまま、カタカタとキーボードをタイピングしていた。

「失礼しま~す。こんにちは。」

 一夏は、急に話しかけるのもあれかと思い、社交辞令として挨拶した。

 しかし、簪は微動だにしない。

「…初めまして。織斑一夏だ。」

 すると、簪がピクッと止まった。

 すると簪は、椅子から立ち上がり、右手を握って振り上げる動作をしたが、すぐに腕を降ろしてまた座った。

 それが簪が一夏を殴ろうとしたのだと一夏は察した。だが、殴ってこなかったのは、おそらく殴っても無意味だと分かっているのか、それとも単に面倒くさかっただけかと思った。

「……話は、聞いてるよ。」

「……そう。」

 会話が続かない。

「……用件は?」

「今度のタッグマッチ、俺と組んでくれないか?」

「イヤ…。」

 即答で返された。

「専用機が未完成って点を抜いて妥協してもらえないか?」

「あなた…、組む相手、困っていない…。」

「確かに候補はいるっちゃいる。けど、アイツらは友人であり、ライバルだ。ここは、ライバルとして、ぶつかりたいんだ。」

 すると、キーボードを叩いていたふいに止まる。

「…いる…。」

「ん?」

「あなた…、彼女…いる。私といると…嫉妬される…。」

「アイツがこんなことで嫉妬するほど脆い奴じゃねぇよ。俺とアイツの仲なんだから。それに、俺から誘ったとしても、アイツの方からきっと断る。」

「……どうして?」

「アイツは、アイツなりに、俺と肩を並べられるようなりたがってるからさ。前の、タッグトーナメントでも、俺とは組まなかった。あとキャノンボール・ファストの時だって、一時的に離れてただろ? それが証拠だ。」

「……どうして…、私?」

「日本代表候補生なんだろ? 俺の友人達は、外国の代表候補生ばっかだけど、日本の代表候補生の実力だって知っておきたいって思って悪いか?」

 そういうと、簪は俯き、タイピングをやめて、腿の上に手を置いて両手の拳を握った。

 まるで何かに耐えるような、何か言い訳を探しているようにも思えた。

「……いいの?」

「ん?」

「ん、…じゃない…、私で…本当に…いいの?」

「おう!」

 一夏は輝かんばかりに笑った。

「……分かった…。よろしく。」

「おう、よろしくな、更識さん。」

 一夏が笑顔で握手しようと手を出し出すと、簪は、ビクッとなり、一夏をチラッと見上げて、やがて恐る恐るといった様子で自分も手を出し、一夏の手を握って握手した。

「…おっきい、手…。」

 っと、僅かに赤面して俯いてポツリッと呟いていたのだが、一夏は、ハテナっと思った。

 

 

 こうして、一夏は、簪をタッグマッチのパートナーに出来たのだった。

 




割とあっさりと誘いに成功してますが、原作と違って、唐変木のハーレム状態じゃないのと、一夏の実力と、箒との関係を知ってるからこそ、うまく事が運びました。

ここからは、たぶん、ほぼオリジナル展開かも。


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SS48  簪と一夏

ほぼオリジナル展開かも。


 

 一夏は、メッチャ鼻歌歌って、ISによるランニングを行っていた。

 他の生徒達が釣られてペースを上げてしまい、ぐったりしている中、一夏だけはピンピンしていた。

 簪は、自己ペースを守って周回し、先に休んでいた。

「なんか飲むか?」

 一夏が来て、自販機を指差す。

「あるから…、いい…。」

 そう言って簪は、水筒に入ったスポーツドリンクを飲んだ。

「その匂い…、手作りか。いいよな、手作りって。自分でその時の体調に合わせられるし。」

 一夏も持ってきていた水筒を空けて、中に入っているお手製のドリンクをグビグビ飲んだ。

「……犬…?」

「ん?」

「なんでもない…。私…候補生…だから、体調管理…大事。」

「そっか。」

 一夏は、少し離れた位置にドカッと座ってタオルで汗を拭いていた。

 やがて簪が、スッと立ち上がり、ランニングコースから学園に帰って行こうとした。

「一夏!」

 その声を聞いて、ピタッと簪がつい立ち止まった。箒の声だったからだ。

「聞いたぞ! パートナーが決まったのだな!」

「そっちは?」

「秘密だ。」

「楽しみにしてるぜ。タッグマッチの日を。」

「私もだ! 今度こそ私が勝つ!」

「いいや、俺が勝つね。」

「なにお~!」

「アハハハハ!」

 じゃれ合う一夏と箒の様子を、振り向いた簪が見つめていた。

 確かに一夏の言うとおり、箒が一夏のパートナーに対して 嫉妬している素振りはない。

 しかし、なぜだろう?っと簪は思う。

 一夏と箒の仲の良い光景を見ていると、胸の辺りがざわつく気がしたので、思わず手を添えていた。

 ヒュウっとふいに強く吹いた風が、簪は正気に戻し、簪は慌てて前を向くと、今度こそ学園に入った。

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 次の日。

 一夏は、簪がいる整備科の設備の場所に来た。

「おーす。」

「!」

「あっ、ごめん。続けてていいぞ。」

「……なに?」

 本来は、整備科が科目に入る二年生から使えるルームだが、今は簪しかいない。

「いや、聞いたんだけど。一人で専用機のISを組み立ててるんだってな?」

 簪は、返事をしなかった。

「なんか手伝えることがあればって思ったんだ。」

「ない。」

 簪は、即答した。

「そっか。けど、タッグマッチの時は、量産機に乗るのか? それぐらいは教えてくれよ。」

「ううん……。打鉄弐式(うちがねにしき)を使う。……予定…。」

「それが更識さんの専用機か。間に合うのか?」

「……たぶん…。」

「なんなら、俺の白式のデータ見るか? 参考になるかもしれねぇし。」

「……いいの…?」

「いいさ。減るもんじゃねぇし。」

 そう言って一夏は、ディスプレイに、白式を繋ぎ、データを開示した。

 その内容を見て、簪は目を見開いた。

「これ……。」

「代表候補生としては、どう見る?」

「…すごく……、無理してる…感じ…。」

 ISコアには、それぞれ癖や好みがあり、白式が雪片のみの武装しか許さず、他のパッケージがインストールできないのもそのせいだ。

「そっか…。俺、白式に無理させてんのか…。」

「けど、すごく譲歩してくれてる…っと見ることも…、できる…。」

 この稼働時間で、ここまでのデータをたたき出すなんて…っと簪が呟いた。

「最初の頃はさ……、マジで拘束具かってぐらいキツくってな。俺の肉体に耐えられなくなって壊れかけてたんだよ。」

「あり得ない……。あなた…異常。」

「けど、臨海学校以来、急に俺の体に合った形態になってくれたんだ。おかげで、空を飛ぶの気持ちいいし、邪魔になってないんだよな。」

 ワハハハ!っと豪快に笑う一夏に、簪は目を丸くした。

「で? なんか参考になったか?」

「さ…、さすが、倉持技研の機体…、打鉄弐式にすごく使えそう…。ワンオフアビリティが、…これ…。」

 我に帰った簪が、ディスプレイの項目のひとつを指差した。

「零天破甲か?」

「面白そうな武装……。殴るのも…あり…かも…。」

「おう。接近戦がいけるならいいじゃね?」

「けど、この武装……、あなたの肉体がないと…ダメ…。武装は…付け足し……、うどんのネギと…同じ…。」

「うどんのネギ扱いかよ。白式。」

 簪の例えに、一夏は笑った。

 すると無表情だった、簪の口元が僅かに緩んだ。

「私も……あなたほど…強ければ…。」

「…更識さんは、姉さんを越えたいのか?」

「……どう、なんだろ…。ただ、このままじゃ、影も踏めない…。」

「なるほど。」

「……あなたは…、織斑先生に…追いつきたい…?」

「いや。」

 一夏は首を横に振った。

「千冬姉は、千冬姉。俺は、俺だ。誰がなんと言おうとな。」

「!」

「どうした?」

「……本当に…強いんだね…。」

 すると簪の目から、ポロリポロリっと涙がこぼれ落ちた。

「おいおい!」

 一夏は慌ててハンカチを出した。

「み~ちゃった。おりむ~~~。」

「のほほんさん?」

「お嬢様を泣かせるな~~!」

「おわっ!」

 いつものほほんとした本音が、このときばかりは怒って一夏に飛びかかってきた。

 そんな一夏を後目に、簪は渡されたハンカチで涙を拭いていた。

 

 

 その後、誤解を解き、本音の協力と、一夏の白式のデータのおかげで、未完成だった機体・打鉄弐式は、完成するに至る。

 

 バンザーイ!バンザーイ!っと豪快に喜んでくれる一夏に、簪は俯き、僅かに頬を染めていたのだった。

 




簪が一夏に向ける感情は……?

正直、筆者もよく分からん。(笑)


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SS49  簪にとっての光

久しぶりに更新。


かなり悩んだ。


展開は、原作とは違います。



 

 一夏は、貸し出されたアリーナで、簪と対峙していた。

 実戦しようするための、データを取るための相手をするためだ。稼働は無事にできると分かり、あとはタッグマッチに向けた実戦トレーニングも兼ねた稼働データが必要だったのだ。

「いつもで来い!」

「…ん……。」

 仁王立ちで腕組みしている一夏に、簪は小さく頷いた。

 のほほんさんこと、布仏本音さんは、見学席で簪を応援してる。

 試合開始のブザーと同時に、簪は、打鉄弐式のミサイルの砲門を開いた。

 一斉発射されるミサイルを、一夏は素早くかいくぐり、簪に接近した。

「かかった…。」

「!」

 簪がそう呟いた直後、背中に先ほど発射されたミサイルが一発。

 そのすきに距離を取った簪。その後、立て続けにすべてのミサイルが一夏の背中に容赦なく命中した。避けようとしても、避けた先でまた命中する。

「くぅ…、なるほど…、これが、マルチロックオンによる誘導ミサイルか!」

「そう。」

 しかしこれだけの数のミサイルを自動ではなく、自分の目と感覚でコントロールするのは、簪の能力によるものだ。

「ピストル拳!」

「…それ、知ってる。」

 何度も見たことがある技だと、簪が呟くと、フワ~っと風船のように漂うようにスラスターの出力を調整し、ピストル拳の風圧に乗って微調整しながら回避してみせた。

「やるな! コレ(ピストル拳)を回避しきったのは、あんたが初めてだぜ!」

「……何度も見て…シュミレートした…から…。」

「けど、さすがだぜ!」

「……どうも…。」

 簪は褒められて、ポッと少し赤面した。

 しかし、直後、打鉄弐式のブースターの片側が爆発した。

 凄まじい数のエラーが発生し、スラスターが誤作動して簪ごとアリーナの壁に向かってムチャクチャに飛んでいった。それを一夏がハイスピードで先回りして身体で受け止めた。

「ぁ…。」

「止められそうか!?」

「う…うん…。」

 緊急で止めるシステムを作動させ、打鉄弐式を強制停止させた。

 一夏に受け止められた時もスラスターは暴走していて、ずっと噴出していたのだが、一夏は動じず受け止め続けていた。

「だいじょうぶか?」

 打鉄弐式を止めて解除した簪をお姫様抱っこ状態で下ろし、一夏が聞いた。

「…平気…。それより…。」

「俺はなんともないぞ? 鍛えてるからな。」

 心配する簪に、一夏は笑顔でそう言ったのだった。

「……ーパーマン…。」

「ん?」

「なんでもない…。」

 ハッとした簪が慌てて首を振り、一夏の腕から飛び降りた。

 本音が走ってきて、簪を心配した。

 一夏は、そんな様子を見て、ポリポリと指で頬を掻いた。

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 打鉄弐式の修理はすぐに終わり、一夏との実戦データは、素晴らしい結果を生んだ。

 これまで構築したシステムの間違いが分かれば、あとは合わないパズルを組み直すように合せて行けば良い。

 そのおかげで、劇的に打鉄弐式のシステムは、良くなり、二度目の実戦トレーニングでは、エラーも無かった。

 

 タッグマッチが、あと1週間と迫った時、簪は、綺麗にラッピングされた袋を手に、一夏と箒の部屋の前でウロウロしていた。

 

 胸に抱えるように抱きかかえられた袋の中身は、数少ない簪の料理のレパートリーである抹茶のカップケーキ。

「…がぅ…、違う……お、礼…お礼…。」

 頬どころか、耳まで赤くして、ブツブツと呟きながらウロウロしている。

 簪は、打鉄弐式の感性を手伝ってくれた一夏に憧れに似た感情を抱いていた。

 ヒーローというものに憧れを持つ簪の目に、一夏は、まるでヒーローの原典とも言うべきスーパーマンのようなものを感じていた。

 誰よりも強くあろうとし、けれど自惚れず、そして他人のためにすべてをかけようとする姿勢。完璧なまでに鍛え抜かれた肉体もスーパーマンを彷彿とさせた。

 しかし、簪にとって一番の不幸だったのは、一夏にはすでに思い人がいて、将来を約束し合っていることだった。

 自分が入れる余地もないし、そんな勇気も無い。自分の感情はあくまでヒーローへの憧れだと断じようとしていた。

 抹茶のカップケーキだって、打鉄弐式を作るのに協力してくれたお礼だと自分に言い聞かせているのだ。

 早くしないとせっかく焼きたてを持ってきたのに冷めてしまう。簪は、勇気を振り絞って、チャイムを鳴らそうとした。

「?」

 こちらに向かって歩いてくる二人組の気配を感じ、気がつくと慌てて柱の陰に逃げていた。

 

「……で…、簪ちゃんの機体…完成した?」

 

 その声を聞いて簪は、心臓が跳ねた。

 姉…楯無の声だった。その隣にいるのは……。

「ええ。なんとか完成しましたよ。…一度壊れかけて危なかったこともありますけど。」

「そう! 本当にありがとうね! 大好き!」

「抱きつかないでください。」

 楯無が無邪気に一夏に抱きつこうとしたので、一夏がその顔に手を置いて、拒否していた。

 その会話を聞いていて、簪は理解した。

 

 一夏は、楯無に頼まれて簪に近づいたのだと。

 

「でも、ま、私の機体データ役に立ったでしょ?」

「あのですね…。」

 さらに追い打ちをかけるように簪を絶望させる言葉が飛び出る。

 完璧無比の姉に追いつきたい一心で、自分の力で機体を組み立てたかった。

 一夏や本音達の強力こそあれど、自分の力で打鉄弐式を完成させた……つもりでいた。

 すべては、姉の掌の上で行われていたのだと、そう理解した簪は、その場にズルズルとへたり込んだ。

 

「言っときますけど、俺の白式はあなたのデータなんて1個も使ってないですよ?」

 

 絶望に沈もうとしていた簪の心に、ひとすじの光のように、一夏の言葉が聞こえた。

「そりゃそうよ、一夏君の白式にそんな余裕なんてこれっぽっちもないもんね。」

「確かに、きっかけは、あなたの言葉でした。」

 一夏は、腕組みして言った。

「俺は、ISについては、ド素人。ましてや代表候補生のことなんて最近までこれっぽっちも知らなかったんだ。日本代表候補生がいることだって知らなかったんだ。きっかけこそあなたの頼みであれ、俺はあなたの妹さん…簪さんに出会えて組めたのはよかったって思ってるんだ。心から。」

「それって、簪ちゃんのこと買ってくれてるの?」

「当たり前だろ。俺のピストル拳を避けられた相手なんて、今のところ簪さんだけなんだぜ?」

「へえ! あの攻撃を!」

「なにその反応? そんなに意外かよ?」

「え…いや、そういうわけじゃ…。」

「なーんか、引っかかってたんだよな。あんた簪さんになんか言ったか? こう……、強くなるな、みたいなこと。」

「っ!」

「…言ったな。」

 一夏がジト~っと楯無を見る。楯無は、言葉が出ず、パクパクと口を動かし落ち着きが無かった。

 簪は、信じられなかった。あの完全無比の姉が一夏に押されている。一夏が楯無を圧倒している。

「あ~あ、俺、あなたのこと軽蔑するわ。」

「あーーー! そんなこと言わないでーーー!」

「知るか。」

「一夏くーーーん!」

 部屋にさっさと入っていった一夏。ドアは閉められ、追い出された楯無はドンドンとドアを叩くが開かない。そして諦めた楯無は、トボトボと去って行った。

 楯無が完全にいなくなってから、簪は、立ち上がり、おぼつかない足取りで一夏の部屋のドアに近づいた。

 恐る恐るチャイムを鳴らすと、やや時間をおいてドアが開き一夏が出てきた。

「どうした?」

「あ、あの……。」

「それ、どうした? 潰れてるぞ?」

「あ……。」

 言われて簪は気づいた。せっかく作ってきた抹茶のカップケーキが力んで抱きしめていたため、潰れてしまっていたことに。

 それに気づいた簪の目にブワッと涙が浮かんだ。

 ひっぐ、えぐ…っと嗚咽を漏らす簪を見た一夏は、簪が手にしている抹茶のカップケーキが入った袋を奪い取った。

 簪が、あっ!と言う間もなく、袋を開けた一夏が潰れてしまった抹茶のカップケーキを口に放り込んでいた。

「うん。美味い!」

 ペロッと手を舐めて、笑顔でグッと親指を立てた。

「……ホント…?」

「ああ。手作りか?」

「う、うん…。」

「美味かったぜ。ありがとな。」

「…嘘…じゃない…?」

「嘘吐くかよ。マジで美味かったんだぜ?」

「あ、あの…!」

「ん?」

「また…作ってきて…いい? 今度は…焼きたて……持ってくる…から。」

「ホントか? 歓迎するぜ。」

「…うん!」

 簪は、強く頷き、気がつけば走って自分の部屋に帰っていた。そして、ベットにダイブしていた。

 顔を両手で押さえてゴロゴロ転がる。その顔は耳まで真っ赤だった。

 

 彼は…、一夏は、簪にとってのスーパーマン(ヒーロー)だ!

 

 簪はそう確信し、枕を抱きしめて恍惚とした。

 

 

 一方その頃。一夏は……。

 

「どうした、一夏?」

「いや…、なんかな…、どうしたものかと思ってな。」

「タッグの相手とか?」

 部屋に帰ってきた箒と簪のカップケーキを食べながらそんな会話をしていた。

「お前のことだから気づいてやってるだろ?」

「あ~…。」

 一夏は、頭を抱える。分かっている箒は、簪が近くにいると匂いで理解しててなんかやったなと、ジトッと一夏を呆れた目で見ていた。

 

 




打鉄弐式の稼働データを取るために実戦トレーニングをしたのは、原作にはありません。

あと、抹茶のカップケーキを作ったけど、楯無との会話を捏造しました。
簪の存在を知ったきっかけは、楯無だったが、一夏は簪と組んだことは後悔はなく、簪が近くにいることを知った上で悟られぬようフォローし、楯無を軽く軽蔑。

箒は、簪が一夏と組んだ相手だと知った上で、対戦相手として見ています。別に嫉妬はしません。


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SS50  簪の激情

久しぶりの更新です。

申し訳ありませんでした。


今回は、タッグマッチトーナメント当日だが……?


そして、50話目です。終わる気がしない…。


 

 

「お、おはよう…。織斑…くん…。」

「おはよう。簪さん。」

 タッグマッチトーナメント当日、簪が駆け足で来て、耳まで赤くしてたどたどしい挨拶をしてきたので、一夏は気づかないフリして笑顔で挨拶を返した。

 簪は、モジモジとしながら、俯いている。

 一夏は、簪の様子を見て……、あっ、こりゃマズいっと思った。

 これは、完全に恋する乙女のアレだ……。

 恐らく、彼女の憧れの男性像とかヒーロー像とかそういうものに、一夏はドストライクなのだろう。

 好意は、普通に嬉しい。だが、一夏には将来を決めた相手がいる。友達としてならともかく、恋人としては……。

 もし、簪が告白をしてきたら、ごめんなさいをしないといけない。一夏は、箒一筋なのだから。

 まあ、まずは…。

「気を引き締めていこう。簪さん。」

「う…うん!」

 言われてハッとした簪が顔を上げて、コクコクと頷いた。

 

 そして、タッグマッチトーナメントの開会式が始まった。

 

 まず教頭先生が。

 次に、生徒会長の楯無が上がる。

 そして今回の企画として、優勝者ペア予想応援・食券争奪戦を提示した。

 賭事じゃねぇか…、っと生徒会副会長をやらされている一夏は、頭を抱えた。

 まあ、細かいことをツッコんでてても、この自由奔放な会長を止められないので、もう放っておく。

 それより大事なのは、タッグマッチだった。

 長話が終わり、やがて第1回戦の相手が分かる。

 しかし…。

「ウソだろ…。」

 あろうことか、篠ノ之箒と、楯無のタッグが第1回戦の相手だった。

 まさか…っと思い、一夏は、楯無をジロッと見る。だが楯無は、ブンブンっと必死に首を横に振っているので、どうやら偶然らしい。

 簪を見ると、簪は、モニターを見て、青ざめていた。

「簪さん。」

「……。」

「簪さん。」

「…へっ? あっ!」

 呼んでも反応がないため、肩をポンッと叩いて正気に戻させた。

「しかし…、聞くところによると、会長って、学園で唯一の国家代表だっていうしな。あのミステリアス・レイディのアクアナノマシンの攻撃も変幻自在だし、こーりゃ、いきなり強敵だ。俺の零天破甲で、ごり押しで行くか?」

「…た、たぶん…、だから…、一番、警戒する…はず。」

「えっ?」

「織斑くん…、あの攻撃…、あれなら水の盾も意味がない…。だから、一番に狙うはず。」

「…やっぱりなぁ。」

「分かってた…?」

「自覚はあるさ。俺、あの攻撃で、ウォーターワールドの50メートル四方のプールの水を四散させたことあるからな。先手必勝で、楯無先輩を潰すか…。」

「たぶん…それも、向こうは読んでるはず…。無駄にエネルギーを消費するのは、危険。」

「………なら、あれ行くか。」

「あれ?」

「本番で披露するから。」

「…それだと…困る。組んだ相手の手の内…知っとかないと……、援護できない…。」

「まあ…単純なことだ。ピストル拳…、あれ、足でもできんだよ。」

「足で?」

「隙が大きくて、ISの脚部的にやりにくいから、使わないでいただけだ。」

「…確かに…初見なら、ビックリするかも…。」

「……まあ、やったらたぶん白式の足が折れるな。」

「えぇ…?」

「第二形態もそうだけど、近接戦専門だからか知らないが、脚部がそれ相応に踏ん張れるようになってんだ。それで、キックなんてやってみろ、それに対応できるようになってないから確実に壊れる。最悪、白式を外して生身でやるつもりだ。」

「それだと…。」

「死にゃしないからだいじょうぶだって。」

「でも…。」

「なんだ? 俺が簡単に死ぬって思ってるのか?」

「う、ううん…。」

「……ただ、一番の心配は……。」

「えっ?」

「…邪魔が入らなきゃいいがな。」

 それが一番の問題だった。

 今までだって、イベントのたびに、邪魔が入り、その都度、イベントが潰れる事態になっているのだ。

 スポンサーを得て、筋肉を宣伝したい一夏としては、本当にイヤでしょうがない。

 スポンサーを得られないもあるが……。

「……アイツが関わってこなきゃ…いいがな。」

 

 あの別宇宙からの攻撃。それが一番の問題だ。

 

 厳戒令が敷かれているため、知らない簪は、首を傾げたのだった。

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 IS学園の屋上で、金色の混じった赤毛を風で揺らしているひとりの男がいたて、クスクスと笑っていた。

 

 そして、まるで体重がないかのように、宙を飛び、遙か空の彼方から、飛んでくる飛行物体に、吸い込まれるように憑依したのだった。

 

 途端、先頭を飛んでいた飛行物体の一体が、ピタッと止まり、それに合わせて、他の機体も止まる。

 

 

『あれ? あれ? あれぇぇぇ!?』

 

 

 遙か彼方、潜伏場所で束は必死になって飛行物体、ゴーレムⅢの操作を取り戻そうとしていた。

 だが、何かに上書きされたようにゴーレムⅢのシステムは、束の操作を離れていた。

 

『やれやれ…懲りないねぇ…。』

『!? おま…っ。』

『じゃ、貰うね。』

『待てよ!!』

 束が叫ぶより早く、ゴーレムⅢは、飛行を再び開始し、IS学園の上空まで来て、同じ4体の機体を引き連れて、IS学園へと舞い降りた。

 

 

 別宇宙からの攻撃を解析、感知するレーダーが反応し、凄まじい警報音を学園中に鳴らした。

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 その警報音に、一夏の何かが切れた音がした気がした。

「っっっざっけなーーーーー!!」

「お、織斑くん…!」

 ピットから飛び出した一夏。

 ピットから飛び出したところに、ゴーレムⅢ達が舞い降りてきた。

「……無人機か…?」

『ご名答。その発展型ってところかな?』

 異形の無人機・ゴーレムⅢが、道化師のように、だが優雅に一礼した。

「てめぇら…、そこまで…。」

『違うよ。これは、この世界の無人機。それをちょっともらっただけ。』

「なに?」

 それを聞いた一夏の脳裏に、ある人物が思い浮かぶ。

 ISの発明家、篠ノ之束……。

 有人でないと動かせないISに無人機という技術を使えるのは、その発明家でないとできないだろう。

「…あんにゃろう…。次会ったら…、ド突く!」

『まあまあまあまあ。それより、……戦おうよ。』

 

「一夏ーーー!」

 

 そこへ、箒達が飛んできた。

「織斑くん!」

 そこへ、打鉄弐式を装備した簪がピットから飛び出してきた。

『さてさて…、楽しくなりそうだ。』

「てめぇは、黙れ!」

 一夏は、白式を纏い、先頭に立つゴーレムⅢに殴りかかった。

 その一撃をゴレームⅢが片手で受け止め、他の4機が宙へ飛んでいく。その4機に、箒達が戦いを挑む。

 一夏は、左手でも殴ろうと拳を振るうと、その左手も受け止められた。

『ふふふ…、この程度?』

「……なんか、不快なんだよな…。」

『ん?』

「あんたの、声がなぁ!!」

 次の瞬間、一夏は、右足を振り上げ、ピストルキックを放った。

 白式の脚部が砕けると同時に、ゴーレムⅢも砕け散った。

「す…すごい…!」

 見ていた簪は、ただただ驚いた。

 だがしかし……。

 

 砕け散ったゴレームⅢが、一瞬にしてまるで再生映像を戻したかのごとく元通りの姿になった。

 

『あー、びっくりした。足でもできるのかー。』

「なっ…。」

『同じ手ばかりじゃ…、つまらないでしょ?』

 次の瞬間、超高密圧縮熱線が、一夏の顔めがけて至近距離で放たれようとした。

「織斑くん!」

『おっと。』

 発射直後に、ミサイルが飛んできて、ゴーレムⅢが飛び退いた。

「簪さん! 下がってくれ! コイツは、俺が…。」

「私だって…戦える!」

 簪が後方から、マルチロックオンシステムによる、ミサイルの砲門を開いた。

「砕いても戻るなら…、一片たりとも残さない!」

『おー、いいね、着眼点は丸だよ。』

「へー、そうかよ…。なら、零天破甲!」

『おっと!』

 放たれた拳のエネルギー攻撃を、スイ~っと、高速でゴーレムⅢが横へずれて避けた。

「簪さん! 俺がまた砕くから、砕けた端からミサイルで微塵にしてくれ!」

「わ、分かったわ…!」

『さて…さてさてさて、そんな見え据えた手が上手くいくかな?』

 すると、宙で箒達と戦っていた別個体のゴーレムⅢの破片が落ちてきた。

 その破片が生き物のように蠢き、ゴーレムⅢに生物が混じったような異形となって増えて再生した。

『さあさあ、早くしないと増えるばかりだよ?』

「おまえは、プラナリアか!? もしくはヒトデか!?」

『や~ん、そんな図鑑で切ってみようだなんて書いてある生き物と一緒にしないでぇん。』

「キモいんだよ!!」

 一夏は叫びながら、殴る殴る。

 クラス対抗戦で現れた無人機と違い、巨体ではなく、全体的にシャープであるため素早く、それでいて小回りが利くため格闘能力も高い。

 一体を捕まえ、頭を掴んで握りつぶそうとすると、後ろから横から蹴りや拳が来て妨害される。

 それでも構わず一夏は捕まえた一体の頭を握りしめたまま、引きちぎり簪の方へ投げた。

 ハッとした簪がミサイルを放ち、一夏が破壊したゴーレムⅢを粉みじんに粉砕した。あまりにも細かく粉砕されると再生しないらしい。

『ほっほ~、やるね。自分で組み立てたにしちゃ、たいした物だよ。お姉さんも鼻高々じゃないかな?』

「っ…。」

 簪は、そう言われてドキッとした。なぜそんなことを知っているんだと思ったからだ。

「簪さん!」

「あっ…。」

 相手の言葉に気を取られた直後、背後に回っていたゴーレムⅢが簪に近距離から超高密圧縮熱線を放とうとした。

 

「簪ちゃーーーーん!」

 

 直後、簪を突き飛ばした存在がいた。

 ミステリアス・レイディを装備した楯無だった。

 簪を突き飛ばしたことで、ゴーレムⅢの超高密圧縮熱線の射程距離に入った楯無に、容赦なく熱線が放たれた。

「お…ねぇちゃ…。」

 熱線の中に消えた楯無の姿に、簪は愕然とした。

 

『あらら…、君に無能でいなさいって言った人がいなくなっちゃった。』

 

 別宇宙の敵の憑依により底上げされたゴーレムⅢの能力と、アクアナノマシンを無力化されたことで、楯無は、全身を焼かれて倒れた。

 

『……よかったじゃん?』

 

「ああああああああああああああああああああああああああ!!」

 

 

 簪は、あらんばかりに絶叫し、薙刀型のブレードを展開し、楯無を攻撃したゴーレムⅢに斬りかかった。

 

 

 

 




束が性懲りも無く襲撃させるために行かせたゴーレムⅢを、別宇宙の敵が乗っ取り、奪う。
全体的に能力が底上げされ、プラナリアのごとく砕かれると再生・増殖する。また、アクアナノマシンを無効化する能力も備えた。

姉の重傷と、敵の挑発に激情を爆発させた簪。


次…、いつ更新できるかな……。


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SS51  一夏と簪と箒と

連続投稿。


決着。


 

 簪がムチャクチャに振るう薙刀型ブレードを軽々と躱し、ゴーレムⅢが簪の眼前に迫った。

「落ち着けーーー!」

 簪に攻撃をしようとしたゴーレムⅢを、横から蹴り飛ばし一夏が簪を掴んだ。

「あああああああああ! ああああああああああああああああ!!」

「目ぇ覚ませ!」

「あぅ!」

 狂乱する簪を、一夏がビンタした。

「しっかりしろ!」

「…ぅう…、お、姉ちゃん…が…。」

「まだ息はある! 助けるためにはどうするか考えろ!」

「!」

「俺が敵を引き付ける! その間に織斑先生達のところへ楯無先輩を!」

「で、でも…。」

「死なせたいのか!」

「…っ!」

 

『いいんじゃないの~?』

 

 ゴーレムⅢがクスクスと笑い声を漏らす。

『だって、君のこと『無能』っていうような酷いお姉さんだよ? 最近、姉とも呼んでなかったみたいだし…、いっそいなくなればって思わなかった?』

「…ぁ…。」

『正直なれば? 君の気持ちに。』

「てめぇは、黙れ!!」

 ケタケタと笑う仕草をするゴーレムⅢを、一夏が零天破甲で破壊した。

「ちが…、違う…、でも…私…。」

「アイツの言葉に惑わされるな!」

「うぅう…。」

『さーて、さて? もってあと、数十分てところかな?』

 いつの間にか再生したゴーレムⅢが、倒れている楯無をブレードの先端でつついた。

 一夏は、楯無から離れさせるためそのゴーレムⅢに殴りかかった。

「しっかりしろ、更識簪!」

「ぅ…。」

「君とお姉さんにどういう経緯があったかなんて、知らない! だけどな…、ここで…、本当に終わらせて良いのか!?」

「っ…。」

「生きていれば如何様にもできるだろうが! 仲直りも、決別も! こんな中途半端に終わらせて後悔したまま生きる覚悟があるのか!?」

「……。」

「どうしたい! 戦うか……、戦わないか! たったそれだけのことだ!!」

『ほらほら、早くしないと、本当に…死んじゃうよ?」

「私は……。」

 簪は、全身火傷をして倒れている楯無を見た。

 僅かに指が痙攣している。まだ息があるということだ。

 だがあの怪我ではもたない。すぐに最新鋭の医療技術にかけないと確実に死ぬ。

「私は……!」

 簪は、ミサイルの砲門を開いた。

「……戦う!!」

「よく言ったーーー!!」

 一夏は、すべてのエネルギーを使い果たす勢いで、連続で零天破甲を放ちまくり、周辺にいるゴーレムⅢを砕いた。

 それをマルチロックオンシステムで砲門を開いた打鉄弐式のミサイルの嵐が粉みじんにする。

「いまだ!」

「お姉ちゃん!」

 簪が楯無を抱き上げ、戦闘場所から一時離脱した。

 簪を追おうとするゴーレムⅢに一夏が立ちはだかり、簪への攻撃を防ぐ。

 

「更識妹か!」

 生徒達を守っていた千冬が、飛んできた簪と、抱えられた楯無の変わり果てた姿に驚きつつ言った。

「お願い…します! お姉ちゃんを…助けて!」

「もちろんだ! 救護班! 急げ!」

 楯無しはすぐに運ばれていき、最新鋭の医療機器である、カプセルに入れられ、ナノマシンによる治療を受けた。

 それを見た簪は、戦場に戻るべく踵を返したのだった。

 

 そこで見たのは、また増殖して数を戻したゴーレムⅢの群れの中で、箒からエネルギー譲渡を受け、エネルギーを回復させた一夏が、ゴレームⅢを一気に半数砕き、その中から、ウォーターワールドを襲撃した核のような物を見つけ、それを掴んで握りつぶし、他のゴーレムⅢを自己崩壊させた光景だった。

 

 簪は、宙に浮いたまま、その光景をぼう然と見ていることしか出来なかった。

 

 自分が来なくても終わってしまった。

 

 一夏の隣には、箒がいる。

 

 気を許した仲間達がいる。

 

 そこに自分が入る余地などない。

 

 簪は、涙を浮かべ、ハッとして我に返り逃げるように飛んで行こうとした。

「おーい、簪さーーーん!」

 すると、一夏が簪を呼んだため、止まった。

「降りて来いよ。」

「……。」

 渋々降りると、一夏は、汗と煤けた顔で笑った。

「いや~、簪さんがいなかったら、勝てなかったかも…。」

「……えっ?」

 思いも寄らぬ言葉に簪は戸惑った。

「半数以上を1度に破壊したことで、他の機体をコントロールする頭が1箇所に集中したんだよ。」

 シャルロットが説明した。

「その通りだ。そのおかげで、相手も予想していなかった核ができあがり、それを潰されたことで自壊したのだ。」

 ラウラが頷き、そう言った。

「空から見てたけど、更識さん、すごかったわよ! あたし達、一体ずつ相手するので手一杯だったもん。」

 鈴がそう言った。

「大手柄ですわよ。あの別宇宙の敵の焦った声…、聞かせてあげたかったですわ。」

 セシリアがそう言った。

 思わぬ賞賛の言葉に、簪はただただ戸惑った。

「簪さん。」

「は、はひぃ?」

「ありがとう。君がいてくれたから勝てたんだ。」

「!」

 一夏の笑顔とお礼の言葉に、簪は、ドバッと涙を流した。

「ちょーー!? どうしたのよ! 一夏、あんた何かしたわけ!?」

「いや…その…。」

「何気まずそうにしてんのよ! あーもうどうすんのよ!」

「浮気か!?」

 ラウラが信じられんと声を上げた。

「えっ、えっと、違う…、違うんだ…。なんかこう…。」

 色々と重なって、自分への好意になってしまったなどと、どう説明したらいいか分からず一夏はダラダラ汗をかいた。

「あ、あの……、おり、むらくん…。」

「なんだ?」

「………好きでいて…いい?」

「それは、どういう意味で?」

「……私のヒーローでいてください…。」

「……好きにしたらいい。」

「…あ、ありがとう!」

「おい、一夏!」

「落ち着きなさい、ラウラ。」

「これが落ち着いて…、それでは、箒が…。」

「あくまでヒーロー像として好きって意味であって、男性として好きとは違うって事よ。」

「なに?」

「そういう感じで好きって言われること多かったもんね、一夏。」

「…ああ。」

「ま、好きって意味には色々とあるってことよ。」

「うむむ…。いいのか? 箒。」

「ヒーローとして見られることも、一夏の理想と夢に近づくための糧ならば…、私はそれを支えるだけだ。」

 箒は強い意志を宿した顔でそう言い切った。

「…うん。知ってる。篠ノ之さんには…敵わない…。」

「ごめんな…。簪さん。」

「簪…でいい。」

「じゃあ、俺も一夏って呼んでくれていい。織斑先生と被るだろ?」

「じゃ、…じゃあ、一夏…く、ん…。」

「なんだ? 簪。」

「ーーーっ!」

「更識さーーーん!?」

 一夏が簪を呼び捨てにした途端、簪はブーーーと鼻血を吹いて倒れた。

「うーーむ…、名前の呼ぶ捨てでこれじゃあ、それ以上となったら、死ぬんじゃないか?」

「失血死する前に、救護班に任せましょう。」

 鼻血をダラダラ流している簪を抱えて、救護班の所へ急いだのだった。

 

 

 その後、最新鋭の医療機器の治療間に合ったおかげで、カプセルの中で楯無は、意識を取り戻し、カプセルの外で鼻に血のにじんだティッシュを詰めた簪を見て、カプセルの中で大慌てしたのだった。

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 自壊したゴーレムⅢ達は、すぐに解析に回された。

 結果は、真っ黒。

 別宇宙からの敵の干渉であるという証拠がバッチリ取れた。

 ただ、媒体となった機体については、所属も分からず、かといって亡国機業の仕業とも思われなかった。

 ただひとり…、容疑者が浮かぶとしたら……。

 

 篠ノ之束。

 

 彼女しかISコアは作れず、それでいて無人機という技術を盛り込めないだろうという判断が下された。

 束が作った機体を密かに奪ったのか…、それとも何かしら行動を起こそうとしている最中に奪われたのか。

 タイミングによっては、束への罪状も重くなる。

 監視カメラ映像で、最初は、5体いたことは分かっている。その後、破壊・増殖を繰り返し、生物的な部分が増え、最後には一体に核が形成されて一夏に破壊されたことが分かっている。

 科学者達は、できたら核を手に入れられたら…っと贅沢言っているが、現場を知らない奴らが何を言っていると、上からきっつい説教を受けることになる。

 代表候補生ではなく、正式な国家代表が全身火傷で死にかけた事態に、楯無が所属するロシアは、ミステリアス・レイディによる、別宇宙の敵への攻撃、及び防衛を禁止する命令を楯無にした。

 楯無はこれに反抗したものの、妹を庇った際、防御に回していたアクアナノマシンが無効化された結果大怪我に繋がったのだと突きつけられ、おそらく次に同じ事をしたら死ぬと言われ、唇を噛んで俯くしか無かった。

 

 一方、簪は、別宇宙の敵との戦闘を経験したことから、厳戒令が敷かれていて機密とされていたことを伝えられ、また専用機が完成したことから今後別宇宙の敵との戦闘に備えて欲しいと通達された。

 

 

 




浮気じゃない…浮気じゃないんだ……。
友好的に接してたらこうなっちまったんだ…。

そろそろ、筋肉ギャグ的な文章に戻さないとな。


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SS52  楯無、ピンチ?

やっと書けました。待ってた人いるかな?


今回は、ひっさしぶりのギャグっぽい展開?



楯無が不憫です。注意!!


 

 

 簪は、日本政府から異次元からの敵の存在、そしてこれまでの攻撃から得られた情報と、IS学園に新しく設置されたレーダー塔の真実を知らされ愕然とした。

 この世界のどこにも存在しない、該当しない存在からの攻撃。

 簪の姉である楯無を瀕死に追いやったゴーレムⅢという無人機を操っていたのも。そしてアメリカとの秘密の情報共有で、攻撃の始まりがIS学園の臨海学校の時期に起こったアメリカの銀の福音というISが操られてしまったことであることも聞いた。

 また篠ノ之束が銀の福音を使ったマッチポンプをやらかそうとして隙を突かれたことや、謎の異次元からの敵の証拠となる謎の細胞のようなブツも盗んでいまだに音沙汰がないことなども知った。

 アクアナノマシンを主力とするIS・ミステリアル・レイディの装者である楯無は、異次元の敵が同じアクアナノマシンを使っていることからまったく太刀打ちできないということがゴーレムⅢの事件でハッキリとし、異次元からの敵との戦いへの介入そのものを禁じられ、次に異次元の敵が襲来した際には増殖する能力を持たされていたゴーレムⅢを倒した功績から妹の簪が代わりに戦いをと要請された。

 これに対し妹を死地に送りたくない楯無は異を唱えたものの、覆せるわけも無く、逆に学園祭での一件とゴーレムⅢの事件でまったく役立たなかったことを突きつけられ黙らせられたのだった。

 あと、一夏本人が強すぎて護衛も必要ないんじゃないかってレベルなため、今後の楯無の護衛についても疑問視する声が上がっており、楯無いらない説が楯無本人の耳入るのはほどなくであったとか?

 

「それで、朝からどんよりしてるわけですか?」

「………うん。」

 学園のトレーニングルームで頭からキノコ生えそうほどどんより状態の楯無に、一夏達は話を聞いて若干唖然とした。

「生徒会長は、学園最強の称号なのに……なのになのに…。あのやろ~~~。」

「敵が異常なんですよ。」

「そうそう。」

「……みんな優しいね。嬉しいよ、私…。」

 一夏の言葉にウンウンと賛同する箒達に、楯無はダバ~と泣き出した。相当ショックだったことが伺え、同情のまなざしが向けられる。

「しっかし、簪があの野郎(異次元からの敵)との戦いに参加することになったわけだけど…。簪的にはどうなんだ?」

「私は…、力になれるなら構わない。むしろ…嬉しいかも。臨海学校で何も出来なかったし…。」

「あの時は専用機持ちだけが呼ばれたからね。簪はその時はまだ専用機組み立て中だったわけだし? しょうがないじゃない。」

 落ち込む簪を鈴が励ました。

「これからは仲間ですわね。よろしくお願いしますわ。簪さん。」

「う、うん…。」

 セシリアが笑顔で握手を求めてきたため、簪は、緊張でドキドキしながらその手を握った。

「簪ちゃーーーん…、お姉ちゃん本当は簪ちゃんにはアイツ(異次元からの敵)とは戦って欲しくないよ…。」

「お姉ちゃんは、あの敵にはまったく役に立てない状況だから仕方ないよ。」

「ガーーーーン!!」

 楯無の胸にグサリッと刺さる言葉のトゲ。役立たずという言葉は今の楯無には禁句だったうえに、実の妹に言われてしまって楯無は床に倒れて床を涙で濡らした。

 そんな楯無に目もくれず、簪は、フッフッと呼吸しながらダンベルで筋トレをしている一夏をジッと見ていた。

 トレーニングで血流が良くなったことでほんのり赤らんだ皮膚、隆起した筋肉。

「…すごい。」

「すごいよね。あの筋肉。」

「うむ! 最高の筋肉だな!」

 特にラウラが過剰反応。

「そういえば…聞いた…。一夏君…筋肉で世の中を変えたいって言ってるって…。本当?」

「ああ、そうだぜ。」

 一夏は、ダンベルを置き、ムキッと力こぶを作る。

「この女尊男卑の世の中を変えるにゃ、ISに並ぶほどの力が必要だぜ。」

「それが筋肉?」

「おおよ!」

「知ってる…。オルコットさん…素手で倒してる。」

「そうですわね。あれは、完敗でしたわ。」

「……きっと…、上手くいくと思う。応援してる…。」

「ありがとな!」

 簪がそういうと一夏は歯を見せて笑ってお礼を言った。簪は、ポッと頬を染めて恥じらった。

「けど世の中にゃ、筋肉付けたくてもつかない体質(ガリガリ)って人間もいるだろうから、そこら辺もちゃんと考えていかないといけねーよな。」

「伸ばせる長所は人それぞれだ。」

「おお、良いこと言うな箒。」

「それに男の権威が上がったところで、それで男尊女卑の世の中が増長しても良くはない。何事もバランスだと思う。」

「難しいところだよな~。」

 箒と一夏は、それぞれ腕組みしてウ~んっと悩んだ。

「……なんか似てるね?」

「そうですわね。そういえば夫婦というのは、お互いに似てくるとどこかで聞いたことがありますわ。」

「夫婦じゃないけどね。まだ。ま、もう事実婚よね。あの二人。」

「やっぱり価値観を共有するからかな?」

「なんであれお似合いだ。」

「同意見…です。」

 

「私のこと無視しないで~~~……。」

 

 さっきからずっとほっとかれていた楯無が床の上で倒れたまま、し~くしくしくと泣き崩れていた。

 

 

 




えーと、夫婦はお互いに似てくるってのは、どこかで見たような、聞いたような……。価値観とかが。

鈴達は、一夏と箒のカップルを見守る友人達です。簪はヒーローとして一夏のことが好きなだけで箒から奪おうという気はありません。年頃の娘だしね。


そして楯無、ある意味でピンチ! さあ、どうしようかな?(自分で書いといて…)


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