モフモフ幻想郷ex (アシスト)
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1.俺氏、モフモフまみれ。

モフモフ復活。


※本作品は前作『モフモフ幻想郷』のエクストラステージになるので、先にそちらを読んでいただけるとより楽しく読んでいただけると思います。



 

幻想入りして、早一年。

 

 

 

「きゅー」「きゅー?」「きゅー!」

「きゅ!」「むきゅー」「きゅー」

「きゅきゅー!」「きゅーっ」

 

 

モフモフまみれになりました。

 

 

 

 

 

――――――

 

 

 

 

 

 

幻想入りして丸一年。

早いものである。

 

つまり、初めてすくすく白沢と出会って一年経ったと言うことだ。何度も言うけど早い。すくすくもそう思わないか?

 

 

「きゅー」

 

 

え、そんなことよりモフモフして?

よっしゃ任せろ。

 

 

「………」

 

「どうしたろくろ首」

 

「いや。前から気になってたけど、ナナスケはモフモフの言葉がわかるの?」

 

「わかるらしいぞ。そしてナナスケ、私の表情を見るがいい」

 

 

仕事をそっちのけですくすく白沢と戯れていたら、『ナナスケ仕事しろ』の表情をしたバイトのこころちゃんに注意された。

 

最近よく来てくれるおかげで、こころちゃんの表情の変化もわかってきた。ちなみに今のこころちゃんはめちゃめちゃ怒ってる。こわいこわい。

 

 

 

って、ばんきさんいらしてたんですね。

はいパス。

 

 

「きゅー!」ポーン

 

「ずっと前からいたわよ……ってモフモフを投げrぶっ!?」

 

 

すくすく白沢をばんきさんにパスしたつもりが、少し力加減を間違えてしまったか。ばんきさんの顔面に抱き着つようにすくすくがぶつかってしまった。

 

でもすくすくはモフモフだからね。

そんなに痛くないはず。

 

 

「……あとで覚えとろよ」

 

「きゅー?」

 

「なんでもない」モフモフ

 

「きゅー!」

 

 

何か言われた気がしたけど、ばんきさんは気にすることなく顔にくっついたすくすくを引きはがし、すくすくと遊び始める。

 

やっぱりダメージはないようだ。

流石モフモフである。

 

 

 

「ナナスケさん。私にも同じように投げてもらえませんか?」

 

「きゅー?」

 

 

 

阿求さんはブレませんね。

 

 

 

 

 

――――――

 

 

 

 

 

 

最近は特に時間が過ぎるのが早く感じる。

あっという間に閉店時刻である。

 

 

「きゅー」「きゅ」「きゅーっ」

 

 

後片付けや掃除はすくすくたちが手伝ってくれるおかげで早く終わる。その分、ご飯の準備に時間がかかるわけだが。

 

しかし、今日の晩ごはんはカレー。予め作っておいたのを温め直すだけだから、とても楽。すくすくたちの好物の1つでもある。

 

あ、ばんきさん。

そこのお皿取ってください。

 

 

「ん」

 

「きゅー!」

 

 

ありがとうございます。って、すくすく布都が乗っとる。別の皿に移動させよう。

 

 

 

――――――

 

 

 

「きゅー……zzz」

 

「ねぇトオル」

 

 

食後のブレイクタイム中。胡座をかいた上で眠るすくすくを起こさないように優しくモフモフしていたら、隣でくつろいでいたばんきさんに名前を呼ばれた。

 

どうかしましたか?

 

 

 

「……昼はよくもやってくれたわね。えいっ」

 

「きゅー!」

 

 

俺の顔面にすくすくが激突。

モフモフだから痛くな……いや待って痛い。

 

ばんきさん、すくすく勇儀は反則ですって。角は痛い。

 

 

「えいえいっ」

 

「きゅー!」「きゅー!」

 

 

俺の意見に耳を貸すこともなく、今度はすくすく萃香とすくすく華扇をポーンと投げてくるばんきさん。痛いっす。

 

こうなったらこっちも反撃だ。すくすくも軽く投げられる分には楽しそうだし、遠慮なくやらせてもらおう。

 

 

さぁ、すくすく合戦の始まりですよばんきさん。

我がモフモフをくらうがいい。

 

 

「……まけない。えいえいっ」

 

「きゅ!」「きゅー!」

 

 

互いに手を伸ばせば指先が触れ合うぐらいの近距離で、すくすくをポンポンと投げ合う。意外と楽しい。それに角以外ならやはり痛くない。むしろ心地よい衝撃だ。

 

投げられて飛ぶのが楽しいのか、次は自分と言わんばかりに、他のすくすくたちも群がってくる。

 

5分も投げ合っていると、身体中にすくすくが抱き着いた状態になった。何故かすくすくも「きゅーっ」って言いながら離れようとしないし、まさにモフモフまみれ。

 

 

こんな日々に、幸せを感じる今日この頃。

ばんきさんはどうですか?

 

 

「……………まぁ、幸せかな」

 

 

うん。よかった。

 

 

 

 

―――———

 

 

 

 

後日。

 

 

「ナナスケさん! 私もモフモフ合戦やりたいです! さぁやりましょう! えいやーっ!」

 

『きゅー!』

 

 

そう言いながら、開店と同時に阿求さんがやってきた。

 

 

………一体どこで知ったのだろうか。

気になるところである。えいえいっ。

 

 

 



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2.俺氏、びっくり仰天。

 

 

ある日の営業中、喫茶店が揺れた。

 

 

 

『『『きゅーっ!?』』』

 

「うおおおっ! 何事!?」

 

 

地震というよりは、大きなものが空から落ちてきたような衝撃。すくすくもお客さんもどよめくほどの大きさのだ。

 

 

そういう俺もかなりびっくり。

何事かと思って喫茶店の外を確認してみると。

 

 

「きゅー」

 

 

喫茶店サイズほどのすくすくが、そこにいた。

 

 

 

いやデカっ。

 

 

 

 

――――――

 

 

 

「きゅー」

 

 

「………なんか、すごいの来たね」

 

「『びっくり仰天』の表情」

 

 

ホントにびっくり仰天だよ。

こんなサイズのすくすくがいるとは。

 

お客さんには非常に申し訳ないけれど、本日はもう閉店。目の前のモフモフをどうにかしなければ。

 

 

「きゅーっ」

 

 

太い声で鳴きながら、喫茶店前に悠然と佇む黄土色の巨大すくすくを観察する俺とばんきさんとこころちゃん。

 

よく見ると、にょろっとした髭が2本生えている。ナマズのすくすくだろうか? でもなぜこんなにも大きいのか。

 

 

 

……ってあれ。さっきまで阿求さんも一緒に観察してたはずなのに、いなくなっている。

 

 

 

「阿求ならあっち」

 

「も、もふもふ———っ!」

 

「きゅー」

 

 

 

ばんきさんの指さす方向には、ハートマークを振り撒きながら巨大すくすくに抱き着く阿求さん。うん、いつも通り。

 

 

「きゅーっ!」「きゅー」「きゅ!」

「きゅー」「きゅー!」「きゅー」

 

 

他のすくすくたちも当然の如く、巨大すくすくに抱き着いたり登ったりしている。うん、いつも通り。

 

 

しかしどうしよう。保護しようにもこの大きさでは喫茶店に入らない。かと言って、ずっと外にいさせるのもなぁ。最低限、雨風を凌げるようにしないと。

 

 

そうだ。こういう時こそ紫さんに相談してみよう。亀の甲より年の功ってね。

 

 

 

——— GSチャット ———

 

 

@シン・ナナスケ

>紫さん、相談したいことがあるのですが。

 

 

@シン・ナナスケ

>あれ?

 

 

@シン・ナナスケ

>紫さーん?

 

 

@シン・ナナスケ

>…………………あっ。

 

 

@シン・ナナスケ

>紫さん。10歳前半にも関わらず

>圧倒的な才能と知識と美貌を携える貴女の力を

>お借りしたいのですが。

 

 

@ゆかりん(14)

>何かしら?

 

 

@シン・ナナスケ

>巨大なすくすくが降ってきたのですが

>どう対処したら良いでしょうか?

 

 

@ゆかりん(14)

>愛で受け止めてあげなさい

 

 

 

――――――

 

 

 

 

だめだ。紫さんの機嫌が悪い。

相談するのは諦めよう。

 

 

「いっそまた増築したら? モフモフたちもやる気みたいだし」

 

「「きゅー!」」

 

 

ばんきさんはすくすく萃香とすくすく勇儀を抱えながらそんな案を出す。

 

うーん、増築するにも土地がないんだよなぁ。

借りてる敷地はもう目一杯使っちゃってるし。

 

 

せめてもう少し小さければな何とかなるんだけど……。

 

 

「きゅー」クイクイ

 

 

お、すくすく永琳。何か良い考えがある?

 

ズボンのすそを引っ張るすくすく永琳の左手には、不思議な色のカプセルが握られていた。

 

 

なるほど。小さくなる薬か。

流石月の頭脳のモフモフ。早速試してみよう。

 

 

 

『きゅー!』『きゅー』『きゅー!』

 

 

「モフモフ……モフ……モフぅ………これが……幸せっ………!」

 

 

 

飲ませる前に、すくすくと阿求さんに巨大すくすくから降りてもらわないと。というか阿求さん、いつの間に頭の方まで登ったんですか。

 

 

 

 

――――――

 

 

 

 

 

「きゅー!」

 

 

「ほぅ………これはまた『良いモフ』ですね。ぎゅーっ………むふぅ………」

 

 

 

すくすくナマズに溺れる妖怪が一人。

モフモフソムリエ、さとりさんである。

 

 

すくすく永琳の薬のおかげで、巨大すくすくは小さくなったが、それでも尚、ほかのすくすくより二回りぐらい大きい。

 

おそらく、人をダメにするソファぐらいのサイズ。現にさとりさんがダメになっている。これでもかってぐらい口元が緩んでいる。おそるべしすくすくナマズ。

 

 

俺も仕事が終わったらダメになろう。

 

 

 

 



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3.俺氏、お父さん気分。

メインキャラ追加回。



 

 

週に一度のお休みの日の出来事。

 

暇を持て余していた俺が、ダメになりながら猫じゃらし片手にすくすく橙とすくすくお燐の二匹と戯れていた時のこと。

 

 

「きゅー」「きゅー?」

 

「うわーっ!? ちょ、やめてー! 襲わないでー!」

 

 

 

玄関が妙に騒がしい。

 

 

お休みの日にお客さんが来ることは珍しくないけど、今はもうカラスが鳴く夕暮れ時。

 

こんな時間に誰だろうかと思い玄関を開けると、すくすく美鈴とすくすくあうんがお客さんで遊んでいた。

 

 

「「きゅーっ」」ツンツン

 

「やめてやめてつつかないで!……あ、でもこれ気持ち良いかも」

 

 

短いモフモフの手で、頭にお椀を被ったお客さんの頬をつんつんするすくすくたち。

 

 

これはまた、ちっちゃいお客さんだ。

 

 

 

 

——————

 

 

 

 

「少名針妙丸と申します。この度は助けていただきありがとうございます店長さん」

 

「きゅー」

 

 

すくすく白沢の頭の上で深々とお辞儀をする、小人さん改めすくなちゃん。

 

 

いろいろ話を聴いたところ、彼女は博麗神社からはるばる徒歩でやってきたらしい。霊夢さん経由で喫茶店の存在は知っており、一度来てみたかったのだとか。

 

 

「それはもう長い道のりでした……。猫に追われ、妖精に絡まれ、モフモフにつつかれ……たどり着いた時にはもうこんな時間になっていました。なのに今日は定休日だったなんて……グスン……」

 

「きゅー」

 

「うう……ありがとうモフモフ……ずずーっ!」

 

 

すくすく針妙丸がすくなちゃんの涙を拭き、鼻をかんであげている。他のすくすくたちも励ますようにキューキュー鳴きながら寄り添っている。

 

すくすくは小さいけど、すくなちゃんはもっと小さいからね。自分より小さいすくなちゃんに対して母性本能がすくすくにも働いているのだろう。

 

 

「ただいまー。って、うわっ。女の子泣かせとる……」

 

 

あ、お帰りなさいばんきさん。

そして誤解です。待って待って遠ざからないで。

 

 

 

 

——————

 

 

 

 

今日はもう遅いし、こんな時間に小人の女の子を一人で帰らせるわけにもいかないので、すくなちゃんは喫茶店に泊めることにした。

 

何より、せっかく来てくれたのだから、ちゃんとおもてなしをしないとね。腕によりをかけて料理を作ろう。すくなちゃんは小人だけど『私はたくさん食べる方です!』って満面の笑みで言っていたから、たくさん作るぞー。

 

 

「「「「きゅー!」」」」

 

 

すくすく咲夜とすくすく妖夢、すくすくアリスもやる気まんまん。頼もしい限りである。

 

珍しくすくすく美鈴も厨房にいる。よし、今日は中華中心にしようか。

 

 

ばんきさんも、お手伝いお願いします。

 

 

「うん。まかせて」

 

 

うん。まかせた。

 

 

 

 

――――――

 

 

 

 

「肉まん! シューマイ! かに玉! どれもおいしいです!」

 

「おお……良い食べっぷりね」

 

「きゅー!」

 

 

ばんきさんは少し驚いた表情で、料理を食べるすくなちゃんを見守る。

 

確かに、その小さい身体のどこに入っていくのかってぐらい、すくなちゃんはもりもり食べる。育ち盛りなのだろうか。たくさん食べて大きくなってね。

 

 

それにしても、美味しそうな顔で食べるなぁ。

おかわりいる? 小籠包もあるよ。

 

 

「たへまふ! ほれもおいひーれふ!!」

 

「口の回りが大変なことになってる」フキフキ

 

「んんー……ありがとうございますろくろ首さん!」

 

「ばんきでいいよ」

 

 

すくなちゃんの口の周りをばんきさんが拭く。

その様子はまるで親子。

 

 

……娘ができたらこんな感じなのかなぁ。

 

 

「えへへ……。お二人とご飯を食べてると、なんだかお父さんお母さんと一緒にいるみたいです」

 

「ぶっ!?」

 

 

あ、ばんきさんが吹きだした。

うわぁー。顔真っ赤。

 

 

 

 

 

―—————

 

 

 

 

 

 

「針妙丸ー、迎えに来たわよー。って、あら?」

 

 

後日、すくなちゃんを迎えに霊夢さんがご来店。

 

が、店内に入ってすぐ、霊夢さんは目を丸くして立ち止まってしまった。

 

 

「霊夢!いらっしゃいませ!」

 

「きゅー!」

 

 

その理由は、霊夢さんを出迎えたのが、すくすくに乗り、小人用のエプロンを身に着けたすくなちゃんだったからだろう。

 

 

『一宿一飯の恩義! 私もここで働かせて下さい!』

 

 

昨日の晩ごはん後、すくなちゃんにそうお願いされたのだ。

 

人手が増えるに越したことはないので二つ返事で承諾。すくすくアリスにすくなちゃんのエプロンを作ってもらい、さっそく今日からお仕事してもらうことに。

 

 

「これまた小さい店員さんだこと。ナナスケさん、針妙丸のことよろしくね」

 

「店長さん! これからよろしくお願いします!」

 

「きゅー!」

 

 

うむ、よろしく。

これからまた賑やかになるなぁ。

 



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4.俺氏、扱いの差が激しい。

 

 

 

すくなちゃんがバイトを始めて数日。

 

 

 

 

「お待たせしましたー! こちら、ショートケーキとなります!」

 

「きゅー!」

 

「おぉー。こんな小さいのに働き者とは偉いねぇ。これ、あたいが上司からこっそりお借りしてきたキャラメルなんだけど、持っていきなよ」

 

「貰っていいんですか! やったー!」

 

「小人さん、私からもどうぞ。咲夜さんからひっそりお借りしているキャンディです。すくすくさんのもありますよ!」

 

「きゅーっ!」

 

「まぁ…! こんなにたくさん! あとで美味しくいただきますね!」

 

 

 

すくなちゃんの人気がすごい。

 

 

もともと人懐っこい性格に加えて、何事にも一生懸命な娘だ。その見た目の愛らしさと相まって、お客さんの母性本能をことごとく刺激しているのだろう。

 

そして、すくなちゃんは常にすくすくの頭の上に乗っている。その方が移動が楽なのだと。すくすくも上に乗られる分には構わない様子。

 

たまーにだけど、すくすくが5匹ぐらい積みあがった状態でお昼寝していることもあるので、上に乗られるのは慣れてるのだろう。

 

 

そして小町さんと美鈴さん。

後でバレてもうちでは匿いませんからね。

 

 

 

 

——————

 

 

 

 

「「」」

 

『きゅー?』ツンツン

 

 

 

同日の午後。

 

笏とナイフが頭に突き刺さった状態で床に大の字で倒れている2体の屍に、すくすくが不思議そうな顔で群がっていたときである。

 

 

「こんにちはーナナスケさん。このお店はいつもスクープの香りがしますねぇ」

 

 

文さんことパパラッチさんがご来店。

お出口はあちらですよ。

 

 

「あややー……私の信頼も落ちたものですねぇ……。しかし、今日は取材に来たわけではないので構いません。私の背中にいる方にご飯を出していただけませんか?」

 

「ご、ごはん……」グウゥゥゥゥ……

 

 

よく見ると、緑色の帽子をかぶったツインテールの女の子が、お腹からすごい音を鳴らしながら文さんにおんぶされている。

 

 

そういうことは早く言ってくださいな。

今すぐフルコースをお出ししますから。

 

 

 

 

——————

 

 

 

 

キュウリの浅漬け。

 

キュウリの酢の物。

 

キュウリのサラダ。

 

かっぱ巻き。

 

 

「ぷはぁー! いやぁ、助かったよ盟友! おかげで生き延びれたー!」

 

 

すべてを料理を平らげて復活したのは、かっぱっぱのにとりさん。無事で何よりです。死体が増えなくてよかった。

 

にとりさんが死にかけていたのは、飲まず食わずで5徹していたからなんだとか。理由は『納期がヤバかった』だって。お疲れ様です。たくさん癒されて行ってくださいね。

 

 

「きゅー」「きゅー?」「きゅー」

 

「いつも以上に辛い戦いだったよ今回はー。すくすくー、私を癒してー」

 

「「「きゅー!」」」

 

「はぁー……もふもふぅ……」

 

 

すくすく文、すくすくはたて、すくすく椛の3匹を抱き寄せて、頬ですくすくをすりすりするにとりさん。

 

 

「きゅー…!」

 

 

そんな様子を羨ましそうに見つめるすくすく阿求。

 

 

モフりたいのか、モフられたいのか。

たぶん、両方かな。

 

 

 

 

 

……あれ、向こうの席に文さんがいる。

まだ帰っていなかったのか。

 

ここからは聞こえないが、コーヒーを飲みつつ、メモ帳に何か書きながら、真面目な顔でブツブツと何かつぶやいている。

 

 

 

「『小人が働く喫茶店!』……これではインパクトに欠けますね。『喫茶店店主、今度は小人と熱愛か!?』……うん、こちらの方が良いです! あくまで『か!?』なので嘘は書いていませんよね゛ね゛ね゛いだだだだだ!?」

 

「ヤ メ ロ」

 

「きゅー!」

 

 

 

あ、ばんきさんが文さんの頭にアイアンクローを喰らわせた。すくすくばんきっきも文さんの顔をこれでもかってぐらいボカボカと叩いている。

 

痛そうだけど、まぁ文さんだし、いっか。

 

 

 



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5.俺氏、SNSを活用。

 

 

 

――― GSッター ―――

 

 

@運営

>GSチャットに新機能『GSッター』を追加!

>ここに書き込んだ呟きや画像は

>不特定多数の皆が閲覧することができるよ!

 

@運営

>適当にぼやくも良し、何かを宣伝するも良し!

>さぁ! みんな好きに呟いてみてね!

>ただし、過激な内容は御法度! 節度は守ろう!

 

 

 

――――――

 

 

 

 

にとりさんは言っていた。「パクリじゃないもん! インスパイアだもん!」って。

 

 

 

まさか幻想郷でSNSができる日が来るとは思ってなかった。流石はにとりさんが5徹しただけある。

 

GSチャット同様、GSッターでも外の世界にいる人たちとコミュニケーションが取れるらしい。今まで何も疑わずに使ってきたけれど、すごい技術だなぁ。

 

 

「きゅー」タプタプ

『きゅ?』『きゅ!』『きゅー!』

 

 

GSッターはすくすくの間でも人気になっており、すくすく菫子が絶賛やっている。他のすくすくたちも、すくすく菫子のスマホを囲うように、画面を覗き込んだり、呟いたりしている。

 

でもすくすくたちは『きゅー!』としか呟かない。唯一文字が書けるすくすく阿求でさえ『きゅー!』。

 

まぁ、本人たちは呟くたびに満足そうな顔してるし、すくすくの『きゅー!』にも色々な想いが込められているのは俺が1番良く知っている。疑問には思わないでおこう。

 

 

 

どれどれ。俺もちょっとのぞいてみよう。

 

 

 

 

――― GSッター ―――

 

 

@ちっちゃい賢将

>またご主人が宝塔を無くしたなう

 

@プリンセスわかさぎ

>最近ばんきちゃんの付き合いが悪いなぁ

 

@ヴォルケイノ藤原

>ひまー

 

@ドラゴンみすず

>ここは暇つぶしに最適ですねぇ

 

@片翼の天使

>おしごとつらたん

 

@すくすく

>きゅー!(すくすくたちの写真付き)

 

@モフリストAQN

>すくすくさーん!

>今から行きますねー!

 

 

――――――

 

 

 

 

うむ。まんまアレだね。

何とは言わないけどさ。

 

 

さて、すくすくたちよ。あんまりGSッターばかりやってちゃいけないぞ。お客さんもいるし阿求さんも来る。さぁ、お出向かえの準備だ。

 

 

『きゅー!』

 

 

うん。良い返事。

 

 

 

 

 

——————

 

 

 

 

 

「ナナスケナナスケ、良いこと思い付いたぞ!」

 

「きゅー!」

 

 

夕方。喫茶店閉店後の後片付け中に、右肩にすくなちゃん、左肩にすくすく菫子を乗せ、右手にすまーほを持ったこころちゃんが駆け寄ってきた。

 

 

良いこと?

 

 

「店長さん、GSッターで喫茶店の宣伝をしましょう! きっとたくさんお客さんが来てくれると思います!」

 

 

こころちゃんの代わりにすくなちゃんがそう答える。

 

なるほど、宣伝か。開店初期のころはいろいろやっていたけれど、軌道に乗ってからはやってないなぁ。これは良い機会かもしれない。

 

 

幻想郷は狭いようで広い。口コミや文々。新聞では情報が届きにくい場所への宣伝としては大いにありだろう。

 

 

よし、やってみようか。

 

 

「ふはは! そう言うと思って既に喫茶店用のアカウントを作っておいたぞ! 『褒めて』の表情!」

 

「すくすくさんの写真もたっぷりです! いっぱい宣伝しましょう!」

 

『きゅー!』

 

 

2人もすくすくもすごいやる気。

やはり女の子。こういうことが好きなんだろう。

 

 

そういえば、すくなちゃんもすまーほ持ってるんだね。

 

 

「はい! この前ようやく手に入れました!」

 

 

そう言って、すくなちゃんは小人用のものと思われる小さいすまーほを掲げる。

 

 

最近ってことは、あれもにとりさんの5徹に含まれているのだろう。ホントによく働くなぁ………。

 

 

 

 

 

 

——————

 

 

 

 

 

 

「(………………)」

 

 

 

 

「(…………はぁ)」

 

 

 

 

「(…………おしごと、つらたん)」

 

 

 

 

「(………なにか癒し、ないかな……ん?)」

 

 

 

 

 

「(…………もふもふしてる……かわゆい)」

 

 

 

 

 





独自設定用語
『GSッター』


紫に指定された理不尽な納期に負けることなく、にとりが作った今どきのSNS。ちなみに『GS』は『GenSou』から取っており、深い意味はない。


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6.稀神サグメは癒されたい。

 

 

最近、お仕事がとてもつらい。

 

 

 

仕事が難しくて大変、というわけではない。単純に仕事の量が多いのだ。やってもやっても書類の山が減らない。燃やしたい。

 

 

唯一の癒しは、仕事の合間にするGSッター。これはとても良い。普段、言葉を発せられない私にとって、これほど良いストレス発散手段はない。

 

 

そんなある日、GSッターで気になる呟きを見た。

 

 

 

 

——— GSッター ———

 

 

@すくすく喫茶『モフモフ』

>今日から3日間スイーツが半額! ぜひ来るがいい!

>すくすくさんも待ってますよー!(写真付き)

 

 

——————

 

 

 

 

地上にある喫茶店についての呟き。

 

 

スイーツも魅力的だが、私が気になるのは『すくすくさん』と呼ばれる生物。

 

写真を見る限り、とてもモフモフしている。そしてとてもかわゆい。見てると胸がキュンキュンする。それぐらいかわゆい。

 

 

 

………もふもふしてみたい。

 

 

 

 

——————

 

 

 

 

 

思い立ったが吉日、早速有休を取った。

地上に降りるのは久しぶりだ。

 

 

 

「「きゅー……zzz」」

 

 

 

ここが噂の喫茶店『モフモフ』。お店の前には、春の心地良い暖かさに負けたのか、2匹のモフモフが気持ちよさそうに眠っていた。

 

 

これがすくすくさん………生で見るともっとモフモフだ。そしてかわゆい。

 

 

恐る恐るそーっとすくすくさんを指で突いてみようとしたが、起こすと悪いのでやめておく。それに、喫茶店の中にはもっとたくさんすくすくさんがいるはずなのだ。

 

 

胸に期待を込めて、私は喫茶店の中へと入る。

 

 

 

「きゅ?」「きゅー」「きゅー!」

「きゅーっ」「きゅ!」「きゅー」

「むきゅー」「きゅー!」「きゅー」

 

 

 

その瞬間、大量のすくすくさんが身体中に飛びついてきた。

 

 

全身が、モフモフとした幸福で覆われたような感覚。

 

 

 

 

………なごむ。

 

 

 

 

——————

 

 

 

 

 

「きゅー!」

 

 

 

席に案内されてからも、すくすくさんをモフモフし続ける私。

 

すくすくさんが可愛すぎる。特に、お腹をモフモフしてあげた時の「きゅー!」の鳴き声がたまらない。かわゆいを通り越してきゃわたん。マジやばたにえん。

 

 

これは想像以上に癒される。

一生モフモフしてられる。

帰りたくない。

 

 

「横から失礼します! こちら、ご注文のお料理です!」

 

 

幻想郷に移住しようかと思いかけたその時、小さな店員さんがすくすくさんに料理を運んできてくれた。ありがとう……と言ってしまうと後で何が起こるかわからないので、ぺこりと一礼し、料理のお皿を受け取る。

 

せっかく来たのだから、料理も楽しまなければ。

注文したのはプリン。私の好物。

 

 

一口食べると、口の中で甘さがとろける。

実に美味。おかわりしようかな。

 

 

「プリン、お気に召して頂けましたか? 今日からの新メニューなんですよ」

 

「きゅー!」

 

 

夢中になって食べていると、頭の上に赤色のモフモフを乗せた、店主と思われる男に声をかけられた。

 

ほんのちょっぴりパーマかかった黒髪に、ポーカーフェイスをあまり崩さないミステリアスな雰囲気の人間。この者が、この癒しの空間を作った張本人。

 

 

………なんだろう。

見ていると、頬が熱くなる。

 

 

「きゅーっ!!」ボフーン

 

 

そう思った瞬間、私の顔に赤色のすくすくが体当たりしてきた。

 

モフモフだけど痛い。なぜゆえ。

でもかわゆいから許す。

 

 

「こらこらすくすくばんきっき。お客様に体当たりはダメだぞ」

 

「きゅーっ……」

 

「次からは気をつけるようにな」モフモフ

 

「きゅーっ!」

 

 

 

赤いすくすくを宥めるようにモフモフする店主。

これはとても絵になる。写真撮っておこう。

 

 

 

………写真立て、家にあったかな。

 

 





こんな中途半端なタイミングで申し訳ないのですが、ここから先は作者の諸事情より、更新スピードが大幅に落ちると思います。ご了承ください(´・ω・)


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7.私、パルパル。


exでは、デレデレしたりパルパルしたりするばんきっきの可愛さを伝えられたらいいなぁ、と思ってます。




 

最近の私は、とても気分が良い。

理由は語るまでもない。ふへへ。

 

 

 

アイツとそういう関係になれたおかげで、寝てる時間とバイトしてる時間以外は、常に喫茶店に入り浸っていられるし、2人きりの時間も大幅に増えた。これほど幸せなことがあるだろうか。いやない。とても幸せ。

 

 

「ばんきちゃん、いきなりデレデレになったねー」

 

「この前まではちょっとおちょくるだけで顔真っ赤だったのに」

 

 

姫と影狼が何か言っているが、気にしない。

なんとでも言え。私はもう吹っ切れたのだ。

 

お前たちもアレだ。恋をすればこの気持ちがわかる。

 

 

「うわーっ! ばんきちゃんの口から『恋』って! 似合わない! 気持ち悪い! 末永くお幸せに!!」パルパル

 

「うわーっ! 置いて行かれた感すごい! 私も出会いが欲しい! 結婚とかしてみたい!」パルパル

 

 

姫と影狼が嫉妬に狂っている。

実に良い気分。

 

 

でも、まぁ、その。け、結婚はまだ早いだろう。

 

そりゃ、小人に『お母さんみたい!』って言われたときは恥ずかしかったけど嬉しかったよ? でも結婚は、うん。まだ早い。もっと交際を積むべきだろう。

 

 

私とトオルの関係はまだ始まったばかりなのだ。これから時間をかけて、その……愛を育んでいきたい。

 

 

 

………乙女か私は。

 

 

 

………乙女か私。

 

 

 

 

 

——————

 

 

 

 

 

 

と、この前までは思ってた。

 

 

 

「きゅー!」

 

「………!」モグモグ

 

「お気に召してもらえて何よりです」

 

 

そう甘いことも思っていられないかもしれない。

 

 

 

最近、喫茶店に行くと銀髪片翼の女をよく見かける。

 

女の私から見てもとても奇麗な人。口は飾りと言わんばかりの寡黙かつポーカーフェイスだが、気持ちは羽に出ているっぽい。ケーキを一口食べるごとに羽をパタパタさせている。美味しいのだろう。

 

 

ここまでは良い。問題はその女がトオルに向ける、妙に熱っぽい視線だ。

 

 

経験談から言わせてもらうと、あれは以前、私がトオルに向けていたものと同じもの。つまりLOVEな視線。間違いない、女の直感が私に言っている。

 

そんな視線にアイツが気づくわけもなく、平然と接客を行っている。料理を美味しそうに食べてくれるのが嬉しいのか、ほんのり笑顔になっている。

 

 

 

……できれば、その顔は私だけに向けてほしい。ぱるぱる………。

 

 

「きゅー………!」パルパルパルパル

 

 

はっ。今、すごい嫉妬の念に駆られた気がする。

お前の仕業か黄色いモフモフめ。後でたくさんモフモフしてやる。

 

 

 

 

と、とにかく。私の彼氏に別の女が好意を寄せるのは、彼女としては良い気分ではない。

 

かといって、この公然の場でトオルとイチャコラしたり、『私の彼氏に色目使ってんじゃないわよ!』と言えるほどの勇気は持ち合わせていない。

 

 

今はトオルを信じよう。

そんで、今夜小人が寝たらイチャコラしよう。

 

 

……こ、今夜は寝かせないんだから!

 

 

 



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8.俺氏、いろいろ言われる。

 

 

——— GSッター ———

 

 

@おっきーな

>部下二人が反抗期気味

>かなしい(´・ω・)

 

@普通の魔法使い

>今日は本でも借りに行くかな

 

@ヴォルケイノ藤原

>ひまー

 

@にゃん☆にゃん

>新鮮な死体募集中☆

 

 

運営が にゃん☆にゃん さんの

アカウントを凍結しました!

 

 

@聖徳太子

>当然の結果だな

 

@すくすく

>きゅー!(お昼寝中のすくすくの写真付き)

 

@片翼の天使

>もふもふかわゆい

 

@モフリストAQN

>片翼の天使さんとは

>おいしいお酒が飲めそうです!

 

 

 

——————

 

 

 

 

 

GSッターで宣伝を始めて数日。

 

 

「きゅ?」「きゅー」「きゅー!」

「きゅーっ」「きゅ!」「きゅー」

「むきゅー」「きゅー!」「きゅー」

 

 

「………」モフモフ

 

 

 

不思議な雰囲気のお客さんが、うちの常連リストに加わった。

 

常に口元を片手で軽く覆い、俺やこころちゃんが親近感を覚えるぐらいのポーカーフェイス。どことなく気品を感じられるオーラ。そして銀色の片翼。

 

 

名前はサグメさん。訳あって喋れないらしく、常に携帯してるスケッチブックに書いて教えてくれた。

 

 

GSッターをやり始めたぐらいのタイミングで来てくれるようになったから、つまりそういうこと。しかも月からやってきてくれているらしい。SNSの力恐るべし。

 

 

「………」モフモフ

 

「きゅー?」

 

 

身体の至る所にすくすくがくっ付いた状態にも関わらず、無言ですくすく白沢ををモフリ続けているサグメさん。かれこれ数十分モフリ続けている。

 

 

「………ふふっ」

 

「きゅー!」

 

 

時々微笑む横顔はとても美しい。すくすくも嬉しそうに、サグメさんの腕の中できゅーきゅー鳴いている。とても絵になるね。うん。

 

 

サグメさん以外にも、GSッターを見てやってきました!って人は多い。結果としては大満足。

 

 

 

 

だがしかし、良いことばかりではない。

 

 

 

「………」パルパル

 

「きゅー……!」パルパル

 

 

 

GSッターを始めたころと同時期ぐらいから、ばんきさんの様子がおかしい。

 

なんと言うか……感情の起伏が妙に大きい。2人っきりの時はとても機嫌が良く、甘えてくることが多くなった。しかし、今はとてもパルパルしている。

 

その証拠に、すくすくパルスィを頭に乗せた状態で、服の上から俺の横っ腹をつねってくる。

 

 

痛い何故ホワイ。

ばんきさん、俺なにかしました? 

 

 

「……別に。……今夜も寝かせん」ボソッ

 

「きゅー!」

 

 

そう言って手を離し、ぷいっとソッポを向いてしまうばんきさん。ちょっと頬が膨らんでいる。

 

かわいいけれど、やっぱり不機嫌。

最後ボソッと何を言ったのだろうか。

 

 

「ラブコメの波動を感じる、の表情。ナナスケ、いつか背後から刺されぬように注意するべし」

 

「店長さん! 浮気はめっ!だよ!」

 

 

店員二人に何故か注意された。

俺は死ぬまでばんきさん一筋なんだけどなぁ……。

 

 

「ナナスケさん。今思ったことを今夜就寝前に言ってあげると良いでしょう」

 

「言葉として口に出し、相手に伝えて初めて、愛は育まれるものです。モフモフさんもそう思いますよねー」

 

「きゅー!」

 

 

常連さん2人からアドバイス。

勉強になります。

 

 

同じテーブルに向かい合うように座る阿求さんとさとりさん。

 

2人はほぼ毎日と言っても過言ではないほどお店に来てくれているが、2人一緒にいるのは珍しい。

 

やっぱりモフモフ愛好家同士、話が合うんですね。

 

 

「それもあるんですが……実は私、モフモフソムリエになるため、さとりさんに勉強を教えてもらっているんです!」

 

「私としては、とても教え甲斐がありませんけれど」

 

「そんなこと言わないでください! 試験は3日後! 若輩者ながら、モフモフしつつ頑張らせていただきます!」

 

「きゅー!」

 

 

阿求さんはすくすくをモフモフする手を休ませることなく、さとりさんにモフモフソムリエのイロハについて教わっている。

 

モフモフソムリエって試験で取れるのか……。

応援してます阿求さん。

 

 

 

……ん? 阿求さんがモフモフしてるすくすく。

もしかして、初めて見るすくすくかも。

 

 

「きゅー!」

 

 

青い箱みたいな帽子をかぶった、薄い水色っぽいすくすく。

 

 

すくすく慧音先生だ。

そう言えば今までいなかった。

 

 

「きゅー」「きゅー」

 

 

すくすく白沢とは別個体みたい。2匹は互いを確かめるようにモフモフしながらじゃれ合っている。かわゆい。

 

 

 

 

うーむ。当然のように増えたが、すくすくがどこから現れてくるのかは未だ謎のまま。

 

いつか解明される日が来るのだろうか。

 

 



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9.俺氏、祝う。


お久しぶりです。





 

 

 

 

 

「………私、ずっと我慢してました」

 

 

静かに、しかし力強く。

阿求さんは俯きながら、そう呟いた。

 

 

その日は朝から雨だった。豪雨と言っても過言ではないほどの雨風の中なのに、阿求さんは傘を差さずに喫茶店を訪れた。

 

 

 

「ずっと苦しかったんです……。貴方が、他の人と一緒にいると思うと……キュッて、胸の奥を締め付けられるような……そんな痛みが、止まらなかった……」

 

 

 

阿求さんが一歩、また一歩近づいてくる事に、髪や着物から雨水が滴る。

 

普段とは180度違う雰囲気を纏う阿求さんを目の前に動揺し、心配の言葉すら喉から出てくることはなかった。

 

 

 

「でも……でも! 私……もう限界なんです! こんなことダメだって……頭ではわかってます! けどっ……!」

 

 

溜まっていた苦しみを全て吐き出すように。

阿求さんは顔を上げて、真っすぐ、見つめる。

 

 

 

 

 

 

「お願いです……今日だけ、今この瞬間だけ……私を、貴方の一番にしてください……」

 

 

 

 

 

 

そう言って、阿求さんは震える身体で抱き着いた。

 

 

 

 

 

 

 

「すくすくさんッ………!!」

 

 

 

 

 

 

すくすく大ナマズに。

 

 

 

 

 

「きゅぅー……」

 

 

 

 

びしょ濡れ阿求さんに抱き着かれ、何とも言えない表情をするすくすく大ナマズ。

 

 

 

 

うむ。

 

 

 

いつもの阿求さんでした。

 

 

 

 

 

——————

 

 

 

 

 

「ご迷惑おかけしましたナナスケさん……私ったら、嬉しさのあまり飛び出してきてしまいました」

 

「きゅー」ゴー

 

 

すくすく咲夜にドライヤーで髪を乾かしてもらっている阿求さん。びっくりしましたよ、ホントに。

 

 

事情を聴いたところ、阿求さんがああなってしまったのは、『モフモフソムリエ』への最終試験が禁モフだったからとか。

 

 

『最後の試験は一日禁モフ。一度離れてこそ、モフモフの真価を理解できるのです。これを乗り越えれば貴女も私たち「モフモフソムリエ」の一員よ』

 

 

阿求さんにとって生き地獄のような最終試験を乗り越えた結果が冒頭である。いやー……阿求さんは本当にすくすくが好きなんだなー……。

 

 

そして無事(?)、禁モフを乗り越え『モフモフソムリエ』に合格し、うちにやってきてくれたのだ。めでたいことに違いはない。今日のお代はいりませんので、じゃんじゃん好きなもの頼んでくださいな。

 

 

 

 

 

 

——————

 

 

 

 

 

「あの……阿求は、ここにいますか……?」

 

 

 

阿求さん来店からしばらくして、今度は鈴の髪飾りをつけた女の子が来店。いらっしゃい小鈴ちゃん。なんだか疲れた顔してますね。

 

阿求さんならあちらの席で美味しそうにスイーツを食べながらすくすくのフルコースをモフモフしてますよ?

 

 

「はぁ……モフモフぅ………あれ小鈴。私に何か用?」

 

「『何か用?』じゃないわよもう! いきなり走って出て行って! 身体壊すよ!?」

 

「すくすくさんがいる限り、私は不滅です。ねー?」

 

「きゅー」

 

「……どうしてこうなっちゃったんだろう……」

 

 

すくすくにデレッデレの阿求さんを見て、さらに顔色を悪くする小鈴ちゃん。気持ちはわからないでもない。俺だって、阿求さんが一年でここまで変わると思ってなかったもの。すくすくは人生を変えるね。

 

とりあえず小鈴ちゃんも座ったら? 体調が悪そうに見えるし、さっきから足元がとてもふらついている。髪もボサボサだし、よく見たら目の隈も酷い。大丈夫?

 

 

「大丈夫じゃないんですよ! 禁モフだかなんだか知らないけど! 阿求ったら昨日いきなり鈴奈庵(うち)に来たと思ったら、私にすくすくさんの話を徹夜で語ってきて! 一睡も許されることなく聴かされた私の身にもなってよ、もう!」

 

「ごめん小鈴。ああでもしないと理性を保てそうになかったから。そんな疲れ切った小鈴におすすめなのは、マミゾウさんのすくすく。疲労も吹き飛ぶモフモフ感よ!」

 

「きゅー!」

 

「………かわいいけども、モフモフだけども……ちょっと仮眠させて……」

 

「きゅー」

 

 

 

そう言い残して机に伏し、夢の中に旅立った小鈴ちゃん。その頭の上にはすくすくドレミ―がちょこんと乗っていた。

 

うん。いい夢見させてあげてね。

毛布も持ってきてあげよう。

 

 

 





不定期にはなりますが、鬼形獣も出たのでマイペースに書いていこうと思います。新すくをお楽しみにください。



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10.俺氏、顔に出る。


リハビリも兼ねたギャグ回。



 

 

 

 

 

——— GSチャット ———

 

 

@( 罪)

>朗報だ親友

 

@シン・ナナスケ

>どしたし

 

@( 罪)

>東方キャノソボールの配信が開始した

>スマホの中でゆかりんが俺に笑いかけてくれている

>まさに夢のような現実。実に朗報だろう?

 

@シン・ナナスケ

>ふーん

 

@( 罪)

>反応が薄いな

>何時でも何処でもゆかりんと一緒なのだぞ?

>今が人生の絶頂期と言っても過言ではない

 

@シン・ナナスケ

>過言だと思うぞ

 

@( 罪)

>ああゆかりん

>貴女ははどうして

>ゆかりんりん

 

@シン・ナナスケ

>末期かお前

 

 

 

——————

 

 

 

 

 

「何も過言ではないわ。 私と24時間一緒にいられるなんて幸せ以外の何物でもないでしょ、この朴念仁」

 

「きゅーっ!!」

 

 

スマホをポケットにしまった瞬間、スキマからヌルりと現れた紫さんとすくすくゆかりに叱られた。

 

運営相手には、俺とアイツの会話にプライバシーはないらしい。解せぬ。

 

 

 

 

————————

 

 

 

 

紫さんが喫茶店(うち)に来るのはそう珍しいことじゃない。寧ろ、常連さんの中でもよく遊びに来る方だ。

 

が、いつもなら藍さんと橙ちゃんが一緒なのに、今日は珍しくお1人の様子。

 

 

正確にはお1人と1匹。

 

 

「きゅー!」

 

 

すくすくゆかり。

 

俺が幻想入りするより前に紫さんが発見し、そのまま八雲家の下で暮らしている黄色いモフモフ。今はすくすく藍、すくすくちぇんと一緒に、互いをモフモフしながらじゃれ合っている。

 

すくすくの間には本人たちのような上下関係はなさそう。みんな楽しそうに「きゅーっ!」とはしゃいでいる。

 

 

「今日もすくすくさんは可愛いですねぇ…」パシャシャシャシャ!

 

 

そんな様子をすまーほのカメラ機能を使って撮影している阿求さん。とても穏やかな顔をしているが、残像が見える速度ですまーほの画面をタッチしている。セルフ連射とは、阿求さんやりよる。

 

 

至福の時間の邪魔してはいけないので阿求さんはスルー。

紫さん、お料理をお持ちしましたよー。

 

 

「ありがとう。やっぱり3時のおやつはこれに限るわ♪」

 

 

紫さんお気に入りの料理はすくすくアリス特製アップルパイの上にバニラアイスを乗せたもの。温かさと冷たさ、そして甘さがベストマッチした自信の一品である。

 

ルンルンと食べ進める紫さんだが、3日に一度のペースでこれを食べにきて大丈夫なのだろうか。アップルパイのバニラアイス乗せは確かに美味しいが、かなりの高カロリー料理でもある。食べ過ぎると太りますよ?

 

 

「………ナナスケ、知らないようだから教えてあげる」

 

 

はい?

 

 

「美少女はね。太らないのよ」

 

 

 

………………。

 

 

 

 

「店長さんが見たことない表情してます! こころさん、あれはどんな表情でしょう?」

 

「あれは『……しょ、少女?』とか思ってる表情。ナナスケ、生きて帰ってくるべし」

 

「きゅー……」

 

 

 

遠くで少名ちゃんとこころちゃんの会話が聞こえた瞬間、足元が崩れ落ちるような感覚が俺を襲う。

 

 

落ちる瞬間見えたのは、すくすくの『お達者でー……』と言いたげなしょぼん顔。

 

 

そして気がつけば、無数の瞳が俺を睨みつける不気味だが見慣れた空間に放り出されていた。

 

 

 

………次のアカウント名、何にしようかなぁ。

 

 

 



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11.俺氏、モフりたい。

 

 

「き、きゅー……」ツンツン

 

 

すくすくの短くも可愛いおててに突かれて、ふと目を覚ます。

 

重い瞼をこすりつつ、スマホを確認すると深夜2時。草木も眠る丑三つ時だと言うのに、何かあったのだろうか。

 

 

俺を起こしたすくすくは半霊を抱いてぷるぷると震えながら「きゅーっ……」と怯えるように鳴き、俺の腕にすり寄ってくる。

 

 

どうしたすくすく妖夢。こわい夢でも見た?

お兄さんに話してみなさい。

 

 

「き、きゅーっ」

 

 

なぬ、幽霊が出たって?

その抱いている半霊ではなく?

 

 

意外にも幽霊が苦手だと判明したすくすく妖夢に引っ張られるように、連れてこられたのはすくすくのたまり場。

 

たくさんのすくすくと少名ちゃんがスヤスヤと眠っている中、その部屋の中心には確かに、赤色に淡く光る幽霊のようなものがいた。

 

 

「わおーん……zzz」

 

 

半透明な身体を丸めて寝ていたのは、触れられないのが実に惜しいほどの毛並みをもったオオカミの幽霊。

 

 

……特に無害そうだし、怖がる必要はないのでは?

 

 

「きゅーっ……」

 

 

正体がわかっても、すくすく妖夢は俺の腕から離れようとしない。

怖いものは怖いらしい。

 

 

仕方ないので、一緒に寝ることにしよう。

寝付くまでナデナデしてやるかね。もふもふ。

 

 

 

 

 

——————

 

 

 

 

 

「あっはっはっは! いやぁー悪いねぇ! うちの組のもんが迷惑かけた! ごめん!」

 

 

 

そんなことがあった同日の昼。漆黒の翼を背負い、カウボーイハットを被った女性が両手を合わせて謝りにやってきた。初めて見るお客さんである。

 

名前は早鬼さんと言うようで、勁牙組ってところの組長さんらしい。とても元気なお姉さんである。

 

 

「ぐるる……(すみません組長! 道に迷った挙句にこの店に入り込んだんスが、妙に居心地が良くてそのまま寝てしやいました………)」

 

「無事で何よりだが、謝る相手は私じゃないだろ?ほら」

 

「あおーん!(すんませんでしたモフモフのアニキ!すくすくさんたちも!)」

 

『『『きゅー!』』』

 

 

言葉はわからないが、謝っている気持ちはよく伝わった。

 

 

まぁ、うちとしても実害はありませんでしたし、すくすく妖夢を含めたすくすくたちも特に怒っていないようなので、気にしないでくださいな。

 

 

「そうはいかん。 部下の責任は上司の責任、落とし前はしっかりつけさせてもらいたい。というわけでナナスケ! 私にできることがあったら何でも言ってくれ!」

 

 

そう言ってバーンと自分の胸を叩く早鬼さん。

な、なんでもだって……!?

 

 

「わかってますねナナスケさん。願うべきことは、たったの一つ」

 

「そうです! 私たちのためにも、お願いします!」

 

 

どこからともなく現れて、俺の両脇に立って声をかけてくるモフモフソムリエの阿求さんとさとりさん。

 

一応俺もモフリストの端くれ。2人が願わんとしてることは理解できる。そして俺も、それを一目見た瞬間から。心のどこかでそれを望んでいた。

 

 

というわけで早鬼さん。

只ならぬモフオーラを放つその翼をモフってもいいでしょうか?

 

 

「おおっ! 私の自慢の翼に目をつけるとはなかなかやるね! じゃんじゃんモフれ!……って言いたいところだが、そっちの2人はともかく、ナナスケはやめておいたほうがいいかもしれないな」

 

 

なぬっ、なんでもって言ったじゃないですか!

 

 

「なんでもとは言ったが……後でそっちの嬢さんが怖そうだからな。それでもいいなら存分にモフってくれ」

 

 

そっちと言われて早鬼さんが指さす方向を見ると、見慣れたろくろ首さんが一人、すくすくパルスィを頭に乗せてこっちを見ていた。

 

 

 

………ばんきさん。違うんですよこれは。目の前にモフモフしたものがあるとモフリたくなるのは、当たり前のことなんですよ。下心とかは全くないで「えいっ」ブッ!?

 

 

俺がセリフを言い終える前に、ばんきさんが投げたすくすくが俺の顔面に直撃。モフモフのはずなのに、妙に硬かった気がする。痛い。

 

 

……あれ? よく見たら、初めて見るすくすくじゃないかコレ?

 

 

「きゅー」

 

 

鹿のような角に、カメのような甲羅を背負った淡黄色のすくすく。

硬かったのは甲羅の部分か。

 

 

「おおっ、吉弔かこれ? はっはっは! すくすくだと可愛げがあっていいじゃないか! 」

 

「きゅっ!」

 

「いたっ!?」

 

 

何故か早鬼さんにも体当たりをかます新すくすく。

 

元となった人物は早鬼さんの知り合いのようだが、すくすくの様子から察するに、あまり仲が良い相手ではなさそうだ。

 

 

「モフモフ…モフモフ……ほほう、これはなかなか……」

「モフモフ…モフゥ…圧倒的至福っ……しあわせ……」

『きゅー!』モフモフ

 

 

頬を擦る俺と早鬼さんを他所に、モフモフな翼をこれでもかとモフるモフモフソムリエとすくすくたち。

 

とても羨ましいが、俺は先にパルスィさんと化したばんきさんをどうにかせねば。どうしたものか……あっ、そうだ。

 

 

 

ばんきさんばんきさん。

 

 

 

「……なによ、私よりそっちの女の翼の方が良いんでしょ妬ましい。勝手にすればいいじゃない妬ましい。もっと私に構いなさいよ妬ましい」

 

 

 

 

週末、デートにいきましょう。

 

 

 

 

 





次回、ばんきっき回。



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12.私、デートの準備。





 

 

 

「週末、デートにいきましょう」

 

 

 

その瞬間、パルパルとした邪悪な感情が頭と一緒にポーンと吹き飛んだ感覚がした。

 

 

 

——————

 

 

 

アイツと付き合い始めて数か月。一緒にいる時間やスキンシップはそこそこ増えた。にも拘わらず、実はデートと言うものをしたことはない。

 

イチャコラするときは喫茶店ですくすくたちと一緒にじゃれ合うのがほとんど。買い出しにはいつも付き合ってるけど、あれはデートとは言わないだろう。手を繋ぐことはあっても、いわゆる『恋人繋ぎ』をしたのは、付き合い始めた直後の一回きりだったりする。キスなんてもってのほか。……あ、えと、あれはノーカンだから。

 

一般的なカップルはどうかは知らないけど、それでも、私たちの関係性の進展はかなり遅いほうだと思う。

 

 

もちろん、それにはどうしようもないようなちゃんとした理由がある。

 

 

 

「ふんふん。それで、その理由って?」

 

「………………………………は、はずかしいから」

 

「はぁぁーっ! ほんっっとどうしようもない理由だわー! ないわー! ばんきっきないわー!!」

 

「きゅー!」ポフポフ

 

うっさい影狼。頭を叩くなモフモフ。

自分でもわかってるわいそんなこと。

 

 

 

時は夜9時。場所は人里のとある居酒屋。

私は草の根の連中と、私のすくすくと一緒に飲んでいた。

 

 

今日の主催者は珍しく私。目的はもちろん、初デートについての相談である。

 

 

いやー……ね? 今までの私って孤高を生きる妖怪だったわけでして。 妖怪としてそれなりに長生きしてるけど、彼氏ができたのは生まれて初めてなわけでして。 多少は吹っ切れたとは言え、どういう距離感で接していいか未だにわからないわけでして。その結果、あまり仲が進展しないわけでして。

 

トオルはトオルで付き合う前と後で特に変わった様子はなし。いや、少し笑顔が増えたかな? 私のおかげだと嬉しい。ふへへ。

 

 

「にやけてる場合じゃないよばんきちゃん。それにしても、お互いに奥手なんだねぇ」

 

「きゅー」

 

「奥手すぎよ! キスすらまだとかホントないわー! てっきり夜のイチャコラまで行ってると思ってたのに! つまんねー!!」

 

 

そろそろ殴っていいかなコイツ。

 

影狼のテンションが何時にも増しておかしいのは、熱燗が10本目に突入したからである。お酒の場で相談したのは間違いだったかもと今更だが後悔。

 

 

 

で、だ。

 

後悔してでもこの二人にデートの相談をしたのには、ちゃんとした理由はある。こっちは本当に。

 

 

「………せっかくのデートだし、その、オシャレとかしたいんだけどさ。最近の流行とか、よくわからなくて……できたら教えてくれないかなぁ、って」

 

 

せっかくの初デート。良い思い出に残せるように、できる限りのことをしたい。

 

 

今の関係性でも十分に幸せだが、欲を言えばもっと踏み込みたい。ただでさえ、夜雀だの片翼女だの、付き合っても尚アイツを狙う輩がいるのだ。正直、不安で仕方ない。

 

そりゃあこの前「俺は死ぬまでばんきさん一筋ですから」って言われたときは、すくすくで顔を隠すほど恥ずかしかったし嬉しかった。アイツの私への好意が本物だって実感できたから。

 

でも、できれば、その好意を行動で示してほしいというか………ギュってしてほしいって言うか………チュッてしてほしいって言うか。本人の前じゃ恥ずかしくて口が裂けても言えないけれど。そういう私の気持ちをトオルに察してほしいと思うのは、私の我儘なのだろうか。

 

 

とにかくだ。今回のデートは私とトオルの関係性を進展させされるチャンスでもある。

 

草の根(2人)に頼むのは癪だが、なりふり構ってはいられない。男心にグッとくるコーディネートをお教え願いたい。

 

 

「よしきた! 私たちに任せてばんきっき! 男心が理性を見失うぐらい飛びっきりのコーディネートに仕立て上げてあげるわ!」

 

「明日さっそくお買い物ね! 私の美的センスを遺憾なく発揮する時が来たわ! ”姫”の名は伊達じゃないってところを見せてあげるねばんきちゃん!」

 

 

そこはかとない不安は感じるが、持つべきものは友。ここは信じよう。

 

 

「きゅー」

 

 

ん? どしたのモフモフの私。

もしかして、デートについて来たい?

 

 

………できれば、お留守番しててくれると嬉しいかなぁ。

 

 

 

 



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13.俺たち、デート。


全力で書きました。




 

 

 

 

―—— GSッター ———

 

 

@ビクトリーナナスケ

>急募・おすすめのデートスポット

 

@普通の魔法使い

>デートってしたことないけど

>天界はきれいな所だってきいたことあるぜ

 

@はらぺこ亡霊

>デートはしたことないけれど

>うちの桜はとってもきれいよー

 

@動きたくない大図書館

>ほとんど外に出ないけれど

>妖怪の山の畔にある山道はデートに向いてるって

>本に書いてあったわ

 

@ビクトリーナナスケ

>なるほど

>参考にします

 

@モフモフソムリエAQN

>がんばってくださいナナスケさん!!

 

@すくすく

>きゅーっ!!

 

 

―—————

 

 

 

ついに、デート当日である。

人生初のデート。すでにドキドキである。

 

 

喫茶店は休店日。すくなちゃんとすくすくにお留守番を任せて、やってきたのは待ち合わせ場所である人里の出入り口。

 

待ち合わせ時間10分前にも関わらず、俺がやってきたときには、見慣れた顔のばんきさんの見慣れない姿がそこにあった。

 

白を基調としたワンピースの上に、花びらの模様がおしゃれな薄紅色のカーディガン。首のチョーカーには、俺が付けているネックレスと同じ、黄色く煌めく宝石でできたアクセサリーが付いている。

 

 

柄にもなく見惚れてしまった。

ドキドキがさらに加速する。あばばばば。

 

 

ポーっと立っている俺に気づいたのか、ばんきさんが小走りで俺の方に近づいてくる。

 

 

イカンイカン。平常心を取り戻せ俺。

しっかりしろ。今日は大切な初デートなんだぞ。

 

 

おはようばんきさん。

お待たせしましたか?

 

 

「……ううん、私も今来たところ」

 

 

ほんのり顔を紅く染めて、微笑みながらそう答えるばんきさんの姿に、胸がキュンとする。

 

 

うむ。

 

 

俺の彼女が可愛すぎる。

 

 

 

 

——————

 

 

 

 

『ばんきっき! 30分前には待ち合わせ場所にいなきゃだめだから! そして「待たせちゃったかな?(イケボ)」「ううん、今来たところ♪(可愛く作った声)」ってやり取りをするのがラブラブデートへの第一歩よ!』

 

 

これは影狼のアドバイス。

30分どころか1時間前に来て待ってたけど、まずは第一歩成功。上々よ、私。

 

 

 

今日の私は一味どころか百味違う。

 

この日のために、紅魔館の大図書館まで行ってデートのイロハについて3人で勉強した。今日の私は孤高に生きる妖怪ではなく、恋に恋する一人の乙女。とにかく本気なのだ。

 

どれぐらい本気かって言うと、明日恥ずか死んでもいいように、遺書まで書くぐらい。モフモフの私にビリビリにされたけど。

 

 

ちょっとやそっとじゃ、今日の私は動じない。

ラブラブデート、やってやろうじゃないの!

 

 

そう心の中で硬く決意した瞬間

 

 

「その、今日のばんきさん。かわいいって言うか、綺麗って言うか、ええと………とても素敵です」

 

 

ピキッと、私の決意にヒビが入った。

 

 

 

………やややyやややっややややyやばい。

嬉しさのあまり発狂しそう。

 

 

 

『ばんきちゃん! 殿方はギャップに弱いの! 暗めの色がカッコいいと思ってるばんきちゃんが、明るめの可愛い服装に身を包んだ時、ナナスケさんの胸はキュンキュンが止まらないはずよ!』

 

 

これは姫のアドバイス。服は人形遣いに頼んだらノリノリで作ってくれた。

 

胸がキュンキュンしてるかはわからないけど、いつもは働かないトオルの表情筋が目に見えて仕事をしている。こんなに照れた顔見るの初めてかも。私の彼氏が可愛すぎる。

 

 

めちゃくちゃににやけそうな顔を何とか抑え、あたかも当然のように、私はトオルの腕に自分の腕を絡める。

 

 

『恋人繋ぎ? ばんきっき、貴方はそれで本当に満足なの?』

『知らないのばんきちゃん? ラブラブカップルなら腕を組むぐらい常識だよ?』

『きゅー!!』

 

 

これは2人とすくすくのアドバイス。

本当にこれが常識がは知らないけど、もう疑うことはやめにした。でないとたぶん、マジで恥ずか死ぬ。

 

 

「……今日、とっても楽しみだったから。エスコートよろしくね。トオル」

 

 

ちょっと上目遣いをしながらそう言って、私はトオルの腕を軽く抱きしめる。

 

 

恥ずかしい。でも、幸せ。

 

 

 

——————

 

 

 

 

 

俺たちがやってきたのは、妖怪の山の麓付近にある一本道の山道。文さんたち天狗の管轄のエリアであるが、一般の人に公開している珍しいエリアでもある。秋はキノコやタケノコが豊作なんだとか。

 

今は時期的に葉桜がきれいに咲いている。満開の桜もいいが、これはこれで風情があって俺は好きである。

 

この山道をまっすぐ歩いていくと、にとりさんもお勧めするほど澄んだ水が流れる河原に到着する。お昼ご飯はそこでマットを敷いてお弁当を食べる予定だ。

 

 

河原につくまでは、ばんきさんとのんびりおしゃべりしながらのんびりと歩く。平然を装っているが、胸のドキドキが最高潮に達しようとしている。

 

 

今日のばんきさんはもう、ね。かわいすぎでやばい。

一挙手一投足が俺のツボを正確に連打してくる。

 

 

「ねぇ。トオル」

 

「どうしましたばんきさん?」

 

「……えへへ、なんでもない」

 

 

ほらね。かわいい。

 

少しでも気を緩めると抱きしめたくなる衝動に負けてしまう。抑えろ俺。流石にまだそういうのは早い。

 

 

 

 

 

たわいもない会話をしながら歩くこと数十分。河原に到着した。

 

下見にも来たけれど、何度見ても絵になる場所だ。良いデートスポットを教えてくれてありがとうパチュリー(動きたくない大図書館)さん。

 

 

 

少し歩き疲れたのもあるので、さっそくマットを敷いて二人で座り込む。

 

ふむ。デートもそうだけど、こうやってばんきさんと2人だけになるのって、意外に初めてなんだよな。

 

いつもなら遊んでほしそうに「きゅー!」って寄ってくるすくすくがいるから心穏やかになれるけど、2人きりだとホントに良い意味で心臓に悪い。幸せなドキドキってやつだ。

 

でもたぶん。ばんきさんもすごいドキドキしてる。

抱き着かれている腕からすごい鼓動を感じるし。

 

今日は2人だけでデートって約束だったけど、こういう時、すくすくがいたら少しは和らぐんだけどなぁ。

 

 

「きゅー」

 

 

そうそう、こんな感じに。

 

 

 

………ん?

 

 

「トオル。あそこ」

 

 

俺の幻聴ではないらしく、ばんきさんも気づいたようだ。

 

 

「きゅー」

 

 

一匹のすくすくが石を積み上げて遊んでいる。

 

近づいて抱っこすると、毛並みはモフモフだが耳はモチモチしている。モフモチである。

 

 

「……きゅー?」

 

 

私、何かやっちゃいました?って感じに鳴くすくすく。

 

 

えーっと、ばんきさん。

2人きりのデートって約束でしたけど、この子も一緒でいいですかね?

 

 

「…当たり前。モフモフがいてこその私たちだから。ねっ? いっしょに遊んであげよ?」

 

「きゅーっ!」

 

 

そう言って、ばんきさんは俺の抱いているすくすくを優しくナデナデする。

 

 

うん。

 

 

俺の彼女がばんきさんでよかったです。

 

 

 



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14.俺たち、恥ずか死。

 

 

 

 

ばんきさんとのデートから翌日。今日は喫茶店の通常営業日だ。さぁ、気持ちを切り替えていこう。

 

 

え? お昼以降のデートはどうなったかって? そりゃあもう、ラブラブでモフモフなデートをしましたよ。初デートとしては大成功。楽しかったよなーすくすく。

 

 

「きゅーっ!!」

 

 

河原で見つけたすくすくえいかも嬉しそうに「また行きたい!」と鳴いている。うん、俺も。

 

 

「よっすー。今日も働きにきたぞー」

 

 

開店時間の15分前、カランコロンと入り口の扉が開くと同時に、こころちゃんの声が聞こえた。

 

彼女は不定期のバイトだが、最近は毎日来てくれている。ここのところお客さんも多いし、とてもありがたい。

 

 

おはようこころちゃん。

今日もがんばろう。

 

 

「おっはー、ナナスケ。ゆうべはおたのしみだったらしいな」

 

 

ちょっと待ってこころちゃん。

誰から教わったのそのセリフ。青娥さん? 青娥さんなの?

 

 

こころちゃんからのいきなりの爆弾発言に流石に動揺する俺。すくなちゃんは「おたのしみ?……あっ! デートのことかぁ!」と納得したようにうなずいている。あぁ純粋。

 

 

「ん? 今日の新聞に書いてあったぞ。ほらコレ」

 

 

そう言われて手渡されたのは、今日付け発刊の文々。新聞。見出しは『必見! 喫茶店店主の彼女だけに見せる笑顔!』

 

 

 

 

……………おっおぅ。

 

 

 

 

——————

 

 

 

 

 

ザワザワ ザワザワ

 

 

「いやぁ、読みましたさとりさん? この新聞もといラブコメ小説」モフモフ

 

「もちろん。地底でも話題になっているほどですから」モフモフ

 

「見かけによらずやるねぇ店主さん。よっ、色男!」

 

「へぇー、ナナスケ先生もこんな笑顔できるんだなぁー。へぇー」ニヤニヤ

 

「いいなぁ……私もナナスケとこんなデートしたいなぁ……」

 

「今日彼女さんは来ないのかい? 君は笑うことが少ないからね。新聞の笑顔、ぜひ生で見てみたい」

 

 

ザワザワ ザワザワ

 

 

 

 

穴があったら入りたい。

 

来店した全てのお客さんが新聞を片手に持っている。話を聞く限り、今日の朝一、号外として人里中に巻かれたようだ。ホントにもう、恥ずかしいったらありゃしない。

 

どこで見てたのか知らないが、新聞には昨日のデートのことが、文さん(パパラッチ)の脚色をふんだんに交えた内容で書かれていた。

 

そんな新聞を読んで、生温かい目で俺を見るお客さんたち。

やめて、そんな目で俺を見ないで。

 

 

「きゅー」「きゅー?」「き、きゅー!」

「むきゅ」「きゅー!」「きゅー!?」

「きゅー…」「きゅ!」「きゅーっ」

 

 

すくすくたちも新聞を読んで、各々違った反応を見せている。没収したいが、たぶん今更だろう。

 

 

唯一の救いは、ばんきさんが来ていないこと。

新聞の内容が内容だしな。きっと今日は来ないだろう。

 

 

 

 

 

 

 

そう思ってた時期が、俺にもありました。

 

 

「ささっ、ばんきちゃん。入った入った」

 

「ちょ、何で押すのよ二人とも」

 

「何言ってるのばんきっき。主役が一番に入らないでどうするのよ」

 

 

 

草の根の方に無理やり連れて来られるように、ばんきさんが来店してしまった。

 

 

 

ザワザワ ザワザワ

 

 

「おおっ! 主役がそろったぜ! ほら行ってこいナナスケ!」

 

「一見クールそうに見えるけど、彼氏の前ではきっとあんな顔やこんな顔になるのねぇ」

 

「こんな新聞が広まってるのに、何も知らないような顔で訪れにくるなんて。どこまでバカップルなのよ妬ましい」

 

「恥ずかしがる素振りすら一つも無しとは。まぁ、こんな甘々デートを日常茶飯事(文の脚色)でしてるぐらいなら当然なのかのぅ」

 

「ナナスケ、ラブラブするのは構わないけれど、するならブラックコーヒーを無料提供しなさい」

 

 

ザワザワ ザワザワ

 

 

 

 

 

「………え? なに? なんでめっちゃ見られてるの私?」

 

 

何故自分が注目の的になっているのか、いまいちわかっていない様子のばんきさん。

 

 

「ニヤニヤ」

「ニヤニヤ」

 

 

その後ろで、ニヤニヤを口に出しながらニヤついている草の根のお二方。

 

 

………なるほど。あの二人、わざとか。

 

 

「きゅー!」

 

「ん? どしたの私のモフモフ。 ……なにこれ、今日の新聞? そういえば今日うちには届かなかったのよね。どれどれ……………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

五分後、生温かい目線を背中に浴びつつも、真っ赤に染まった顔を両腕で隠しながら、机にうつ伏す2人の男女がそこにいた。

 

というか、俺とばんきさんだった。

 

 

『きゅーっ……』ナデナデ

 

 

励ますように、俺とばんきさんの頭をなでるすくすくたち。

 

気持ちは嬉しいが、今はそっとしてほしいなぁ……。

 

 

 





諸事情により更新ペースが少し遅くなりますが、ご了承いただけるとありがたいです……。




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15.俺氏、実家を思う。

 

*————————*

 

 

 

「きゅぅ…」

 

「ナ、ナナスケ……しかとその目に焼き付けろ……これが私の『かき氷食べたい』の表情だ……」

 

「きゅーっ!」

 

 

 

季節の移り変わりは、歳を重ねるほど早く感じるものである。

 

 

昨日まで春だったと思っていたら、気が付けば夏になっていた。すくすくラルバが元気よく店内を飛び回っている。

 

代わりにその他のすくすくとこころちゃんが夏の暑さに負けて、たれたパンダの如く溶けている。そろそろクーラーの準備をするべきか。

 

 

「はぁ……ふわふわでひんやり……気持ちいいなぁ……」

 

「きゅー!」

 

 

こんな季節に人気なのは、やっぱりすくすくチルノ。その上ですくなちゃんがうつ伏せで身体を(うず)めている。二人とも、お客さんが少ないとはいえ、だらけ過ぎはよくないぞ。

 

そういえばすくすくチルノ、少し日焼けした?

白色の部分がこんがり茶色っぽくなってるけども。

 

 

「きゅー?」

 

 

どうやら自覚はないようだ。

まぁ健康に害はないみたいだしいいか。

 

 

かき氷機はどこにしまったかなぁと考えながら、阿求さんが注文したわらび餅を運ぼうとしたタイミングで、バターン!と勢いよく入口の扉が開かれる。

 

 

「暗いわ暗いわ! そんな顔じゃあハッピーは訪れないわよー!」

 

「圧倒的低気圧。これは盛り上げざるおえない」

 

「プリズムリバー三姉妹、ただいまゲリラコンサート開催中でーす!」

 

 

おおっ。誰かと思えば幽霊楽団じゃないですか。

今日は雷鼓さんがウィズってないんですね。

 

 

「雷鼓さんは女子二楽坊のヘルプに行ってるの。ごめんなさいねー」

 

「パーカッション担当は幻想郷において需要が高い。あの人は引っ張りだこ」

 

「私もできなくはないけど、雷鼓さんには適わないかなぁ。でもご安心を! 私たちはもともと三人組! しっかり盛り上がらせるわ!」

 

『うおおーっ!!』

 

『きゅー!!』

 

 

突然の幽霊楽団乱入に大いに盛り上がるお客さんたちとすくすく。妹紅さんなんか何処から取り出したのか、自家製法被(はっぴ)を身に着け、両手にペンライトを持っておられる。ガチ勢や…。

 

 

 

 

*————————*

 

 

 

 

幽霊楽団のゲリラライブは珍しいことではない。月に一回ぐらいの頻度でやってきてくれる。彼女たちとすくすくリバーによる六重奏をBGMに食べるスイーツは別格だと、お客さんからも好評なのだ。

 

 

「きゅー♪」「きゅー!」

「きゅ!」「きゅーっ」

 

 

演奏に合わせて歌ったり、短い手足としっぽをフリフリしながら踊ったりするすくすく達。その可愛らしさにノックアウトされるお客さんも少なくない。阿求さん大丈夫ですかー?

 

 

「……ただいま。今日は一段のにぎやかなのね。ちょっと暑苦しい」

 

 

おっ。おかえりなさいばんきさん。

今日はお早いお帰りですね。アイスコーヒーどうぞ。

 

 

「ありがと。すくな、ちょっとこのモフモフ借りるね」

 

「きゅー?」

 

「ああっ。私のひんやりがー……」

 

「仕事しろよ」

 

 

やはり外も暑かったのか、すくすくチルノに乗っていたすくなちゃんを持ち上げ、代わりに自分の頭を置くばんきさん。

 

 

「ふぃー……生き返るー……」

 

 

気持ちよさそうに目を細めるばんきさん。

 

なかなかシュールな光景だけど、それでもかわいいと思えてしまう俺は重症だろうか。まぁ暑いときは首元を冷やすと良いって言うし、ばんきさんの行動は理にかなっている……よな?

 

 

「やっほー店主さんにろくろ首さん! ちゃんと盛り上がってるー? ハッピーかなー?」

 

 

おやメルランさん。盛り上がってますよー。

今は休憩中ですか? よろしければお飲み物をサービスしますよ。

 

 

「本当!? じゃあアイスコーヒー三つ! ルナサ姉さんはブラックでー、リリカはシロップ多めでー、私のはフロートで!」

 

「メル姉ずるい! 私もフロートがいい!」

 

「私もフロートを所望。少し熱くなり過ぎた」

 

「ルナ姉、ダイエット中じゃなかった?」

 

「……明日からかんばる」

 

「それがんばらないやつよルナサ姉さん!」

 

 

ワイワイがやがや騒がしく言い合う三姉妹。

さすが騒霊。コーヒーフロート三人分、お持ちしますね。

 

しかしこの三姉妹は仲が良い。俺にも文字通り姉弟(きょうだい)がいるけど、最近会ってないし元気にしているだろうか。

 

そもそも幻想郷に来て一度も実家に帰っていない。紫さんに頼んで、久しぶりに顔を出してみようかな。

ばんきさんも来ます?

 

 

「うえっ!? そ、それはちょっと。まだ、早いかな……心の準備が……ごにょごにょ……」

 

「呼んだかろくろ首」

 

「あんたじゃない! 」

 

 

こころちゃんにそう言うと、ばんきさんはすくすくチルノに赤くなった顔をポスっと埋める。かわいいね。

 

 

「きゅー」

 

「おおっ。初めて見るすくすくだ。店主さん、この子新入り?」

 

 

ばんきさんの行動に胸キュンしていると、リリカさんにそう声を掛けられた。

 

振り向くと、そこには俺も見たことないすくすくがリリカさんに抱きかかえられていた。

 

 

「きゅー」

 

 

何とも形容しがたい、不思議な色をしたすくすく。

いったい誰のすくすくだろう。皆さん知ってます?

 

 

「うーん……わかんない。けど、なんて言うのかな」

 

「……この子を見てると、不思議と懐かしい気持ちになる」

 

「ねー。もしかして、私たちの演奏を聴きに来たの?」

 

「きゅーっ」

 

 

元気よく返事をするすくすく。

 

やりましたねお三方。お客さんが増えましたよ。

休憩後も良い演奏、期待してますね。

 

 

「まっかせて!」

 

「もち」

 

「ハッピーに飛ばしていくわ!」

 

「「「きゅー!!!」」」

 

 

気合を入れる三姉妹とすくすくリバー三姉妹。

 

 

結局、三姉妹はこのすくすくの元となった人物を思い出すことはできなかった。『懐かしいけどわからない』というのが三人の出した結論だった。

 

しかし、このタイミングで現れたということは、三姉妹と縁のある方が元になっているのは間違いないだろう。

 

 

わからないなら直接聞くべし。

すくすくよ。君と三姉妹の関係は?

 

「きゅー!」

 

ほう。三姉妹はお姉ちゃん的存在とな。

 

 

……実はプリズムリバー四姉妹なのか?

今は亡き妹的な。いやいやいや。流石にないか。

 

 

 



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16.俺氏、パンを買う。

 

 

——— GSッター ———

 

 

@いまいずみん

>暑いわー

>夏暑いわー

 

@ばんきっき

>何で今日バイトを入れちゃったの私のばかー…

 

@普通の魔法使い

>こういう日は涼しいところで冷たいものに限るぜ

 

@ヴォルケイノ藤原

>あつー

 

@オータムな姉

>秋はどこ……ここ……?

 

@オータムな妹

>まだ初夏よおねえちゃん……

 

@すくすく

>きゅー!(店先で水浴びするすくすくの写真付き)

 

@モフモフソムリエAQN

>暑い時こそすくすくさんをモフりに行くべきですよね!

>あっ……でも今日……お店お休み……ガクッ

 

@鈴奈庵公式アカウント

>阿求ー、生きてるー?

 

 

 

——————

 

 

 

「きゅー」「きゅー!」「きゅーっ」

 

 

店先で打ち水を始めると、すくすくたちが自ら水を浴びようと走ってくる今日この頃。

 

いやー、今日から夏本番だね。昨日のうちにクーラーの準備をしておいて正解だった。やっぱり喫茶店は涼しくなきゃいけないよね。

 

ギンギラギンにさりげなく照らしてくる太陽と青空を、すくすくゆうかりんと一緒に育てた立派な向日葵が仰いでいる。これぞ夏って感じだ。

 

ちなみに今日の喫茶店は休業日であるが、別件でお客さんがやってくる予定がある。

 

 

「ごきげんよう店主さん。花の手入れも欠かしていないようね、殊勝な心がけだわ」

 

「おはようナナスケ! わぁ、すっごく大きなひまわり! 私よりも大きいわ!」

 

 

噂をすればなんとやらと思いながら、声のした方向を振り返る。

 

純白の日傘をさしてやってきたのは、黄色いバンダナと花柄の刺繍が入ったエプロンを身に着けた幽香さんと、おそろいのミニエプロンを着たメディちゃん。

 

おはようございますお二方、お暑い中ご足労頂きありがとうございます。

ささっ。涼しい店内へどうぞ。

 

 

 

————————

 

 

 

幽香さんはお客さんとして喫茶店に来ることも多いが、パンを売りに訪れてくれることもある。

 

なんでも最近パン作りにハマったようで、ベーカリーを始めたんだとか。自前の窯とかも家にあるらしい。とても本格的である。

 

 

「今日持ってきたのはバケットにクロワッサン、後は食パンね。どれも良い焼き加減に仕上がっているわ。そちらの小人さんにすくすく、一口いかが?」

 

『きゅー!』mgmg

 

「ふあぁぁ…! この食パン、ふわふわのモチモチ…!」

 

「こっちのクロワッサンは私も作るのを手伝ったのよ! 食べてみて!」

 

「『サクサクふわふわ美味』の表情!」

 

 

味も見ての通りだ。すくすくたちもすくなちゃんも幸せそうな顔でパンを頬張っている。あのこころちゃんでさえ、ほのかに口元がにやけている。風見ベーカリー恐るべし。

 

人里でも出店を出しているようだが、すぐに行列ができて売り切れてしまうほどの大人気っぷり。そんな風見ベーカリーとタイアップできるのは、ひとえに幽香さんの気まぐれのおかげだろう。

 

ってことで、今日もある分全部買わせてもらってもいいですかね?

 

 

「もちろんよ。そのつもりで持ってきたもの。お得意様だし、少し安くしておくわ」

 

「まいどありー!」

 

「きゅー!」

 

 

お金を払い、パンの入ったバスケットをそのまま受け取る。

 

買ったパンはそのままランチとしてお客さんに出しているわけではなく、サンドイッチにしたりフレンチトーストにしたり、ひと手間加えてから提供している。クロワッサンは我が家の朝食用だ。

 

そうだ。今日はこれから新メニュー試食会をしようと思ってるのですが、一緒に食べていきませんか? お代はもちろん頂きませんよ。

 

 

「あら、そういうことならご馳走になろうかしら。しっかり品定めしてあげる」

 

「ナナスケ、ゴチになるわ!」

 

「この時を待っていたぞナナスケ! お腹ペコペコの表情!」

 

 

そう、お休みなのにこころちゃんがいるのはそういうことなのだ。この食いしん坊さんめ。

 

よし、さっそく調理に取り掛かろう。

すくすく達よ。幽香さんたちへの対応をよろしくたのむぞ。

 

 

 

*————————*

 

 

 

調理と言っても、今回は大したことはしない。

 

食パンの耳を切り、たっぷりの生クリームとマスカットを挟むだけの、簡単なフルーツサンドだ。

 

簡単とはいえ侮るなかれ。これがとても美味しいのだ。断面図はSNS映えするし、喫茶店とメニューとしては文句の付け所のない一品に仕上がっている……と俺は思っている。

 

しかしエビデンスは大事だからね。

みんなにも食べてもらい、感想をもらおう。

 

 

「きゅー?」

 

「あー……面倒な奴がいるタイミングで来ちまったな」

 

「本当よ。まさかアンタがいるとは思ってなかったわ幽香」

 

「あらまぁ辛辣ね。昔は一緒に異変を解決するほど仲良しだったじゃない」

 

「そんな記憶は一切ないぜ」

 

「あんたが一番和を乱してたでしょーが」

 

 

料理を持って戻ってくると、何やら人が増えている。

 

霊夢さんに魔理沙さんじゃないですか。

本日は休業日ですよ。

 

 

「そう言うなってナナスケ。今日は涼しいところで冷たいものが食べたい気分なんだ。安心しろ、金は払う」

 

「きゅー」

 

「私はツケの支払いと、針妙丸の顔を見に来たのよ。迷惑かけてない?」

 

「もー霊夢! 私を子供扱いしないでよー!」

 

「きゅー!」

 

 

すくなちゃんがすくすく白沢の上でびょんぴょん跳び跳ねる。うーん、子どもだ。

 

そして各々方の事情は理解した。まぁ、たまには賑やかな休日も悪くないだろう。ばんきさんがいないのだけは残念だけど、バイトなら仕方ない。

 

 

ではお二人も食べて感想をくださいな。

マスカットのフルーツサンドです。パンの耳で塩ラスクも作ってみたので、こちらもどうぞ。

 

 

「もぐ……へぇ、辛口のコメントを考えていたのだけれど、存外悪くないじゃない」

 

「爽やかな甘さでとってもおいしいわ!」

 

「『まいうー』の表情」

 

「クリームがあんまり甘くない分、フルーツの甘さが引き立ってるのね。今度の宴会に持ってきてもらおうかしら」

 

「パン耳ラスクも良い感じに塩味が効いてて美味いな。これは止まらん」サクサク

 

「きゅー」サクサク

 

 

よっし。みんなからの感想も重畳だ。唯一何も語らなかったすくなちゃんは、目を輝かせながらハムスターのようにフルーツサンドを頬張っている。ちょっと大きかったかな。

 

ともあれ、これならメニューに載せても問題なさそうだね。塩ラスクも魔理沙さんとすくすくの食べっぷりを見る限り、採用の価値ありだ。

 

 

……むっ。よく見たらそのすくすく、初めてみる子だ。

 

 

「きゅー」

 

 

紺色を基調にした帽子に、先端が三日月の形をした杖を持つ緑色のすくすく。

 

魔法使いっぽいけれど、魔理沙さんの同業者かな?

 

「うおおおっ! 魅魔様! すくすく魅魔様だ! 久しぶりだぜ魅魔様ー!」

 

「まぁ、見ない間に随分と可愛くなったじゃない魅魔。撫でてあげましょうか?」

 

「ダメだ幽香! お前に魅魔様はモフらせない! しばらくはわたしの魅魔様だ! ほら! こっちのフルーツサンドも美味しいぜ魅魔様!」 

 

「きゅー」

 

おおう。魔理沙さんが年相応の少女の如くはしゃいでおられる。

その割にすくすくはマイペースそうだけれど。

 

しかし、みまさまとはいったいどちら様で?

 

 

「魅魔は魔理沙のお師匠さんよ。今は魔界にいるんだっけ?」

 

「多分な! 音信不通がデフォな人だけど、きっと元気にしてるぜ! なっ魅魔様!」

 

「きゅー?」

 

 

すくすくみまさま「そうなの?」って言ってるけど……。

いやまぁ、魔理沙さんがそう言うならそうなのかもしれない。

 

 

「私も魅魔とは随分顔を合わせてないわね。久しぶりに()り合いたいものだわ」

 

「ゆうかもそのみまって人を知ってるの?」

 

「ええ。霊夢がまだ亀に乗って空を飛んでいた頃、4人で仲良く異変解決をしたわ」

 

「だからそんな記憶はないぜ」

 

「アンタらは自分勝手に暴れてただけでしょーが……ってあれ? 私のフルーツサンドがなくなってる!? そこに食べかけ置いておいたのに!」

 

「あら、あれ霊夢のだったの。もういらないのかと思ってあげちゃったわ」

 

「ちょ!? 幽香ァ!!」

 

 

お祓い棒片手に幽香さんに詰め寄る霊夢さん。仲良しなのは良いことですが、弾幕ごっこは外でやってくださいねー。

 

しかし、幻想郷の亀は空を飛ぶのか。

知らなんだ。

 

 

 

 

 

 

*————————*

 

 

 

「……ふーん。なかなか美味しいじゃないか。しかしまぁ、相変わらず賑やかな奴らだったね」

 

「きゅー?」

 

「おや、見つかっちまったか。まぁ見なかったことにしておくれよ、亀のすくすく」

 

「きゅー!」

 

 

 

*————————*

 



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17.俺氏、なんとなくわかる。


※新作ちょいネタバレ注意



 

 

 

 

至る所で蝉が鳴き、外の気温が30度を超える真夏のある日。

 

「「きゅー!」」

 

こうも暑い日が続くと、お店の外でマスコットと化しているすくすくめーりんとすくすくあうんはしんどいかなと思って様子を見に来たのだが、2匹とも全然元気そうだ。

 

しかし、水分補給はちゃんとすること。

暑かったら無理しないで、店内に入ってくるんだぞ。

 

「「「きゅー」」」

 

そう言い聞かせて3匹の頭を撫でる。

うむ、暑くても心地よいモフモフ感。たまらんね。

 

 

ところで、一匹増えてない?

 

「きゅー」

 

千万両と書かれた小判を持った三毛猫っぽいすくすく。

 

招き猫ならぬ招きすくすく。

コイツは縁起が良い。後で猫まんまをを作ってあげよう。

 

 

 

 

————————

 

 

 

 

「……………」モフモフモフモフモフモフモフ

 

「きゅー?」

 

「……トオルトオル、アイツは一体何してるの?」

 

 

本日のオススメ『黒蜜きなこあんみつ』をテーブルに置いたタイミングで、ばんきさんが俺の耳元でヒソヒソと聞いてくる。

 

ばんきさんの視線の先には、一言も喋ることなく両目を閉じて集中しながら、一心にすくすくミケをモフり尽くすモフモフソムリエ阿求さんの姿。

 

ああ、あれはですね。すくすくを極限までモフモフすることで、すくすくの神髄について調べているんですよ。

 

「……ごめん。ちょっと意味わかんない」

 

安心してください。俺もよくわかってないです。

 

 

阿求さん曰く、すくすくミケの元となった人物は『お金かお客を招き入れる程度の能力』を持っているようで。

 

これがなかなか難儀な能力みたいで、お金かお客のどちらかを招き入れるともう一方を遠ざけてしまうという飲食店で扱うには致命的な能力らしい。

 

「ですので! お店に悪影響を及ぼさないか調べるために、精一杯モフモフさせていただきます!」と阿求さんに言われたのが事の始まり。

モフればわかるのか…阿求さんも人間やめてきたなぁ…。

 

まぁ俺としては何の心配もしていない。現時点で、すくすくとはいえ疫病神と貧乏神が居座っているが、うちの経済面に支障はない。一匹ぐらい特殊な能力を持ったすくすくがやってきたところで何の問題もないだろう。

 

 

で、阿求さん。

結果はどうですか?

 

「はい、全く問題ありません! たくさんモフモフしてしまいごめんなさいすくすくさん。少し窮屈でしたよね」

 

「きゅーっ!」

 

「えっ? 気持ちよかったからもっとモフモフしてほしい? ああもうすくすくさんは本当にもうっ! もうっ!!」モフモフ

 

とろけるような笑顔で、再びすくすくミケをモフりだす阿求さん。

 

ついにすくすくと意思疎通できるようになっておられる。モフモフソムリエになっても、阿求さんの進化は留まることを知らないようだ。

 

「トオルもすくすくの言葉がわかるんだよね。どういう風にわかるものなの?」

 

阿求さんの行く末を少しだけ心配する俺に、ばんきさんがそう聞いてくる。

 

どういう風といわれても……なんとなくわかるんですよ。

 

「きゅー!」

 

例えば、今のすくすく橙は『新しい猫友だ!』って遊びたそうに言ってますし。

 

「きゅー!」

 

今のはすくすくめいりんが『喉かわいたー!』って言ってます。

 

「きゅー!」

 

今の鳴き声は『初めましてー!』って言ってますね。

 

 

ん? 初めまして?

 

「きゅー」

 

鳴き声の正体は、お団子ヘアが特徴的な黄色のすくすく。首元には埴輪のような装飾を付けている。

 

名前はすくすくまゆみって言うそうです。

礼儀正しいすくすくみたいですね。

 

 

「私には全部同じ聞こえる……って言ったら、すくすくに失礼かな」

 

「きゅー?」

 

「ん、今のすくすくの私はなんて言ったの?」

 

今のは……えーっと……他の人に聞かれるとちょっと恥ずかしい程度のことを言いましたよ。

 

「ちょ!? ホントになんて言ったの!? おい私、何を言った!」

 

「きゅー…」

 

すくすくばんきっきの両頬をムニムニとこねくり回しながら尋問をするばんきさん。その隙にそそくさと厨房に戻る俺。

 

 

ふむ、『次のデートはいつするのー?』か……。

夏っぽいデートプランを考えておこう。

 

 

 



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