混沌の魔女。 (kame-3)
しおりを挟む

おとぎ話

プロローグですらない話


古き王たちの時代…

混沌の世界にはなにも無く、不死の古龍が飛び交うだけの世界だった。

この世界に突然"火"が表れた。

その火の周りにどこからか集まりだした者達がいた。

その者達の中の一人、薪の王グウィンは原初の火から王のソウルを見出した。

この力を使い、グウィンは騎士の部隊を作り上げた。

しかし、それでもグウィンはその強大すぎる力を持て余した。

そこでそのソウルを4つに分け、集まりだした者の中で力を持つものに分け与えた。

 

後の墓王 ニト

 

  四人の公王

 

  混沌の魔女達

 

グウィンはこの分け与えた者たちと協力して

その頃世界を跋扈していた古龍を殲滅しようとした。

 

しかし、古龍は不死であり、古龍を殺す事はニト、公王、混沌の魔女、グウィンの部隊

そのどれでも不可能だった。

 

戦いを続けている最中、鱗のない古龍、シースが裏切った。

シースは古龍ではあったがその体には鱗が無かった。

古龍の不死性は、その鱗にあり鱗を剥がせば古龍は不死ではなくなると。

グウィンはシースにも王のソウルを分け与えた。

白竜シースと共に、グウィンは戦いを優位に進めた。

 

そして古龍の殲滅を終えたグウィンは、その戦いの中で唯一全く協力しなかった

矮小て貧弱な種族、人類に興味を持った。

グウィンは、最初に生まれた人類に王のソウルでは無く

闇のソウルを分け与えた。

 

闇のソウルの力で繁栄した人類は、龍、神、に並ぶまでになった。 

 

そこでグウィンは人類と共に王の都市、アノールロンドを建造した。

そこで、神の時代をつくり、更に繁栄していった。

 

しかし、グウィンは原初の火が少しずつ弱くなっていっている事に気がついていなかった。

 

アノールロンドで信仰を集めていたグウィンの耳にこんな噂が流れた。

 

闇のソウルを持つものに呪いの印が浮き出ていると。

呪いの印が浮き出たものは不死となっていると。

不死となった人類は文字通り不死となり、死なない体となった。

しかし、永久の命は矮小な種族には重すぎる報酬だった。

とても長い時間生きた人類は心が折れた。

心が折れた不死は、亡者となり、他人のソウルを殺して奪うだけのものとなった。

 

グウィンはこの事に焦りを感じた。

なぜならグウィンは神でありながら不死ではなく。

このままでは人類の時代がきてしまうと。

グウィンは直ぐにその原因を調べ、特定した。

原初の火が消えかけていると。

 

王のソウルを取り込み過ぎたことに気がついたグウィンは、分けたソウルを回収しようと

地下墓地、イザリスの都、公爵の図書館、小ロンド

に赴いた。

しかし、強大な力に取り憑かれた彼らは聞く耳を持たなかった。

混沌の魔女達は原初の火が消えかけている事を知り、

原初の火を作り出そうと禁忌に触れた。

かつて古龍との戦争で使った呪術と王のソウルを使い原初の火を生み出そうとした。

しかし、原初の火に近づくことは禁忌であり、やってはいけなかった事なのだ。

 

混沌の魔女達は作り出したものを混沌の苗床と名付け、イザリスの都の地下に封印した。

しかし原初の火のレプリカだけあって、

近くにあった混沌の魔女達、イザリスの都の住民は

後にデーモンと呼ばれる化物に変異した。

 

四人の公王は、王のソウルを使い小ロンドを治めた。

しかしこの強大な力を制御しきれなかった。

 

暴走した公王は、闇のソウルを見出してしまった。

公王は王のソウルを持ったまま闇のソウルの溜まり場、深淵に封印された。

 

白竜シースは生に取り憑かれていた。

古龍でただの一体だけ不死ではない自身を恥じて、不死の研究を結晶洞窟で行っていた。

シースにとって、神の時代の存続より、自らの不死の研究のほうが優先度が高かった。

 

墓王ニートは、地下墓地の更に奥深くで自らの瘴気を放っていて

ソウルを回収できる状態ではなかった。

 

原初の火が消えるまでもう時間が無い。

グウィンは部下の蛇に不死の使命というものを世界中に流すよう命令して、

自らを薪として、原初の火に飛び込んだ。

一時は原初の火は保ったが、それでも不死の呪いの進行は止まらなかった。

 

そこで一人の不死の英雄が、不死の使命を聞き、王のソウルを集めた。

その不死の英雄がグウィンから火を継ぎ、

世界から不死の呪いは消え去った。

亡者は不死では無くなり、周りの人類に殲滅された。

 

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

一話

一話です。


「ふぅん…」

僕はこの物語をよく聞いて育った。

百年前にあったっていうこの物語、正直言って現実味が無かった。

深淵に飲まれたっていう騎士アルトリウスの話とか、

それらと同じでただのおとぎ話だと思っていた。

 

 

 

今日が来るまでは…

 

 

 

 

「、……い!」

「おーい!起きろ!起きろフィレス!」

「…ふぁあ…はーい!」

 

目が覚めた。

 

(久し振りにあの話の夢を見た気がするなぁ…)

 

いつもと同じで階下からお父さんに起こされて一日が始まる。

でも今日はいつもと違ってお日様が登ってなくて、春なのにまだ肌寒い。

 

「早く準備して降りてこーい!今日はお前の初めての仕事の日だろう!」

「あっ、そっか…はーい!今行く!」

僕の村では男は10歳になると一人ひとりに仕事が与えられる。

でも仕事とはいってもお手伝いとか、そんなのが多い。

 

僕が与えられた仕事は木こりの仕事だった。

昨日10歳の誕生日のプレゼントで、お父さんの斧をプレゼントされた。

使い古しだったけど、ちゃんと手入れが行き届いていて手に馴染むいい斧だった。

 

朝の支度をして、家を出る。

「行ってらっしゃい」「頑張ってこいよ!」

 

「行ってきます!」

お父さんとお母さんの声を背に受けて家を出た。 

(まだ日は低いけど朝焼けが綺麗だなぁ…)

こんなに早起きしたのは初めてで、肌寒い早朝の空気を全身で感じて村を駆け出す。

村の皆と死ぬほど走り回った森だから、目をつむってでも駆け回れる。

(ってことは無いんだけど…)

 

20分ほど歩いて森に到着。

「よし!始めよう!」

貰った斧で木を強く斬りつける。

「「カコン!」」

「痛った!」

昨日斧を貰ったときに練習したとはいえ、練習と実践は違うもの、

予想以上の反動に手を離してしまった。

「これは大変そうだなぁ…」

 

____________

 

「ふん…最近亡者が多くなってきた…

また"火"が弱まってきたか…」

 

森の中、一人の黒いローブのようなものを纏った女性が立っていた。

 

「馬鹿弟子が火を継いでから100年…か。

人間の体にまた呪いの印が浮かび上がってきている…

王のソウルと言えど流石にもう火が弱り出したか。」

 

彼女は、そう呟きながら森を歩いていると…

 

(ガサッ…)

 

背後に人ならざる何かが立っていた。

その姿はかろうじて人形を留めているが、筋肉は削げ落ちその瞳は

赤く染まっていて、焦点はどこにもさだまっていない。

その姿は物語の中の亡者に酷似していた。

 

『大発火』

 

女性が右手を亡者にかざし、そう呟くと

彼女の目の前が火で包まれた。

その火に巻き込まれた亡者は燃え尽きて、その跡には塵すら残らなかった。

 

____________

 

「ふぅ…つかれたぁ…」

僕は森の中で木こりをしていた。

「おじいちゃんも僕が10歳になったからってこんな辛い仕事させなくてもいいのになー木こりなんて大人の仕事じゃないかぁ…」

 

(ガサッ…)

 

背後で草の擦れる音がした。

 

「ヒエ…お父さん、べ、別にサボってた訳じゃ…」

後ろを向くとそこには

 

 

「ア…アァ…」

亡者が立っていた。

 

 

混乱して足が動かない。

「え…?」

亡者は僕ににじり寄ってきた。

「ァ ア…アァ… 」

 

亡者は右手の折れた剣を振り上げた。

「た…たす、け…」

声は届かない。亡者は何か訴えるようにこちらを見て、

「ア…アア…アァ…」

剣を振り下ろした。

不思議と最後は怖く無かった。

死ぬってこんなもんかと、そう思ったのかも知れない。

 

目を開けると、凄まじい熱気とともに亡者が燃え尽きていた。

「え…え?」

頭が追いつかない。

(なんで?なんで?なんで燃えて…え?)

僕は訳もわからず傍の木に持たれかかるようにへたりこんでしまった。

 

「……少年、大丈夫か?」

 

声をかけられ視線を上げるとそこに大人の女の人が立っていた。

黒いフードを深く被っているから顔は見えないけど、

雰囲気が大人びていて凄く綺麗だなと思った。

 

「本当に亡者が多い…これは宿を探すのは厳しそうだな…」

 

「え…えと…誰です…か?」

混乱してそんな事しか言えなかった。

 

「私はクラーナ」

「クラーナさん…えと…そ、その呪術って…」

「話は後だな。まずはこの雑魚共を蹴散らしてからだ。」

そう言われて、周りに注意を向ける。すると木の影から亡者が2体出て来る。

 

「ア…ア…ア…」

「アァ…ア…」

 

「…少年戦ったことはあるか?」

 

「ないです…」

 

「ふむ…そうか…まぁいい。

方法は問わん一分間生き延びろ、そうすれば私が焼き払おう。

ただし、逃げるな。」

 

「え?逃げるなって…」

 

「死にたいなら逃げるんだなこの森には多くの亡者が居る。

恐らく近くの集落かなにかが潰れたんだろうな…

そんな場所を視界の悪い森で逃げたら囲まれて殺されるのがオチだろう。」

そう言って彼女は右側の亡者と対峙した。

 

(せっかく一人前の男になるための一歩を今日踏み出したんだ。

死ぬなんて絶対にゴメンだ…)

 

深呼吸を一回。

「一分で良いんですよね…」

 

「…いい返事だ。」

クラーナさんの口元が緩んでいた。

 

(よし…)

僕は左側の亡者と対峙した。

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

2話

化け物と対峙する。

 

(1分か… )

 

いつもなら少しの時間、けれども今は化け物の目の前、1秒1秒を意識してしまって全く時間が進まない。

自然と呼吸も荒くなり、脂汗が背中を伝う。

 

「アァ…」

 

化け物が唸り声を上げて近づいてくる

 

「く、くるなぁ…」

 

亡者の破けた衣服から見えるのは老婆のような腕、その手に持つのは折れた剣。

まるでその亡者の心を表したように

錆びて朽ちたその剣は空を切り、ただ振り回される。

空を切るのはただ力によって振り回されるだけのもので、

 

「あ …あぁ…」

 

なんの訓練もしていない村の子供が、亡者になったとはいえ大人の腕力にかなうはずもなく

斧を握っていた手の指は折れ

 

「ぁ…あぁ…」

 

小さく空いた口から溢れ出るのは絶望の音、

さきほどまであった生き残る自信なんて、どこかに霧散した。

その代わり、心を満たすのはただの恐怖。

目の前にいる亡者を見上げる力もなく、自然と斧に目線が落ちる。

 

下がった頭。

 

「…………」

 

絶望に飲まれるココロ。

 

先程までの威勢は消え

それはまさに深淵の闇に飲まれた残り火

 

それには周りに火を移す力も無くただ消えるのを待つのみ。

 

「ア、ァ……ァァァ」

 

亡者の声に顔を上げる

そこには、折れた剣を上段に高く振り上げ

今にもその剣を振り下ろさんとしている。

 

 

 

 

「先程の威勢はどこに消えた?少年。」

 

 

 

 

視界が白く染った。

その後に、身を焦がすような高熱と、

矮小な子供なら軽く弾き飛ばす衝撃が襲いかかる。

 

「ガハッ!?」

 

視界が晴れる前に背後の木に背中を打ち付け、肺の空気が全部抜ける。

 

(キーーーーン…………)

 

そこで、僕の意識は途切れた。

___________________________________________

 

 

 

 

「おい少年、大丈夫か?」

「ん…んぁ…」

 

ゆっくりと覚醒する。

おきるとすぐに体の至る所から激痛が走った。

「ッッッッ!!!!!」

 

「落ち着け、まだ周りに亡者がいる、気が付かれると面倒だ。」

 

「そ、そんなこと言われてもッッ!!!!!!」

 

痛みにのたうち回ると、頭になにかかけられた。

 

「あ…れ?」

 

不思議と痛みがきえていく。

それどころか謎の液体に触れた所の傷はたちまち治って行った。

「落ち着けと言っている」

「なんですか…?これ、金色に光ってる…」

「これはエスト、“不死に効く”万能薬だよ。毒には効果を持たないがな」

 

“不死に効く”

 

「それってどういう…」

「ん?自分が不死な事に気がついていなかったのか」

 

さっきの亡者がフラッシュバックする。

体はやせ細り人間性を無くしたもの。

 

「僕って、あんなのと同じなの…?」

 

「少し違うな。全てを失い、全てを欲す人間の成れの果て、それが亡者さ。」

 

「な、なるほど…?」

 

抽象的過ぎて僕にはあまりよく分からなかった。

そんな僕の呆けた顔を見てかクラーナさんは少し笑った。

 

「フフ…落ち着いたようだな。ところでいくつか質問があるのだが」

 

「は…い。なんですか?」

「お前…いやまずは名前だろうな。

少年、名前はなんと言うんだ?」

 

「フィレスです。」

「フィレス。まずお前はここで何をしていたんだ?」

「ええと…」

僕はクラーナさんにこの村の風習を話した。

折れかけていた心は少しづつ落ち着いた。

話を聞いてくれるクラーナさんはまるでお母さんのようだった。

「それでお父さんの斧で木こりの仕事に来ていました。」

 

「…その村はこの近くにあるのか?」

 

「はい、今からなら太陽がてっぺんに来る前に帰れますよ?」

 

と言って空の太陽を指さす。

空の太陽を見るとまだ8時くらいの所にあった。

 

(…?太陽が見える?)

 

太陽を直接見られたことに疑問を覚えた。いつも眩しすぎて見れない太陽が今日は全く眩しくない。

「その村の他に村はあるか?」

クラーナさんにそれを打ち消されてしまった。

「…あぁ!えーっと、僕の村とは逆方向の森の向こうに1つ小さな村がありますよ。そこの村はこの森をぬけたすぐ先ですね」

 

「なるほど…な。」

 

「???どうかしましたか?」

クラーナさんがいきなり顔をしかめた。

「恐らくこの亡者どもはその村から来た奴らだろうな。」

「この亡者って…あの村の人ってことですか…?」

「おそらくな。1番近い村はフィレスの村だろう。そこを察知したヤツらがこの森に迷い込んでいるんだろうな…」

考えるようにように腕を組むクラーナさん。

「それって僕の村も危ないんじゃ…」

「かなり危険だろう。いくら亡者でも1匹1匹なら大人ならば簡単に撃退できる。だがこいつらのタチの悪い所は群れるという事。

塵も積もればなんとやら、こいつらの群れを倒すのは一苦労だ。一般人なら簡単に殺されるだろうな」

「…」

息を飲む。僕の村もあまり大きいとは言えない。働ける大人もこの時間は仕事に行っているだろうし、村に今残っているのは…

「女の人と、子供だけ…」

「そういう事だ。あまり時間はかけられないな。すぐに村に向かおう」

 

_

 

森の向こうの村

 

クラーナとフィレスが亡者と戦う少し前。

この世界で初めての亡者がここで生まれた。

 

「頼むよぉ俺も死なせてくれよォ…………」

1人の男の泣き声が村に響いていた。

この男の子供は数日まえに死んでしまった。

生きる意味を失ったこの男は、自害しようと思ったのか、ナイフを喉元に突き刺し、血を吹き出しながらもまだ生きていた。

「なんで…なんで俺は死ねないんだよぉ…それなのによぉ…なんで俺の子は死んじまったんだ…」

絶望に飲まれる男の瞳にもう人間性は無い。

「あぁ…あぁ!!!」

ナイフを強く喉に突き立て、男は死んだ。

その代わりに居たのは。

ただの物だった。




先週投稿した2話は、まだ下書きだった事をいま気がついたので削除し、再投稿しました。
削除前の2話を読んでしまった方、申し訳ございませんでした。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

3話

「お願い…お父さん、お母さん…生きてて!」

少年のか細い声が木々の揺れる音と2人の足音でかき消される。

フィレスとクラーナは10分ほど森の中を駆けていた。

「もうそろそろです!」

見慣れた村のシルエットがフィレスの視界に入る。

「ハァハァ…」

息を荒らげながら自分の家まで駆け込む。

ドアを勢いよく開けフィレスは叫んだ。

「父さん、母さん!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

「おおフィレス、早かったな、どうした?」

 

 

「と、父さん…ごめん。」

 

 

 

 

 

 

 

 

「間に合わなくて…」

 

聞こえてきた声は幻聴だった。

分かってた。

クラーナさんの制止する声は聞こえてた。

遠目からの景色を見ても。

笑い声じゃなく、うめき声が聞こえてくる村の広場も。

漂う血の匂いと重たい空気。

僕は叫んだ。

「うあぁぁぁぁあ!!!」

 

「あ゛ぁ…」

 

呼応するようにうめき声が目の前の父さん“だった”ものから零れる。

 

「だから止まれと言ったんだ…」

 

クラーナさんの声が聞こえた。

 

「なんでこんな…酷いじゃないか…」

 

「なんでボクだけ生きてるんだ…」

 

ボクの存在がブレていくような感覚…

少しずつ…少しずつ…ボクが無くなっていくような。

 

「フィレス!!」

 

『火球』

 

クラーナさんの口から短い物語が紡がれる。

 

「あ゛ァ…」

 

父さんは一瞬で燃え吹き飛んだ。

テーブルと共に吹っ飛ぶ父さんを眺めながら僕はただ呆然としていた。

突然起こった出来事に脳の処理が追いつかない。

 

「あれ?父さんは?」

「逃げるぞ!この村はもうダメだ!」

「うぇ…?」

うなだれていた僕をクラーナさんが横腹に抱えて走り出した。

「まっ…て…お父さんが…お母さんが…」

「あんな所にいたらお前もああなるぞ!!ぐっ…邪魔だ!」

 

火球の音で集まってきた亡者を焼き払いながらクラーナさんは森に向かって駆けた。

 

「一旦逃げるぞ!確か篝火が向こうの方に…」

 

抱えられた僕の目に、燃え上がる家がうつった。

 

 

「なん、で…」

 

フィレスの意識はここで途切れた。

 

 

 

 

 

 

 

森の中

 

フィレスの寝息と、篝火の音だけがクラーナの耳に入ってくる。

日は陰り、辺りは暗く風もない。

フィレスはうなされていて苦しんでいる。

あまりに急な出来事。

10歳になってすぐの子供が許容できるものじゃない。

 

「それでもお前は逃げられないだろうな。」

 

手の甲を見ると不死人の証であるダークリングが刻まれていた。

 

「…亡者になんかなるんじゃないぞ。」

 

フィレスの頭を撫でながらそう呟くと、

 

「…んぁ…?お母、さん?」

 

フィレスが目を覚ました。

クラーナを見ると周りを見渡す。

目に映るのは家では無く木と篝火の火のみ。

 

「あ、れ?また…森?」

 

フィレスの脳がだんだんと、状況を理解していく。

化け物になってしまった父親の顔、そこには生気と呼べるものは宿っておらず、老衰したような肌にがらんどうの瞳。

 

「…………あぁそっか、いなくなっちゃったのか。」

 

涙が流れた。

 

「なっ…なんで…なんでぇ、」

「…」

 

泣くフィレスを優しく抱くクラーナの心中には、かつて

異形となってしまった姉妹の姿があった。

 

 

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

4話

3話の最後書き直しましたんでよろしくお願いいたします。

短め


「落ち着けたか?」

「…はい」

「そうか」

 

目を真っ赤にして答えるフィレス。

 

「心は折れてないか?」

「………わかんないです」

 

 

死んだ顔ではにかむフィレス

そんな顔を見ていられなくなったのかクラーナが手を空に掲げる。

 

《浮かぶ灯火》

 

イザリスのクラーナが後に教えることの無かった呪術。

炎を浮かべ、亡者を集めることが出来る。

 

全てを焼く火も時として、心の灯火となるという。

絶望の世界には焼くための火よりもそんな光が必要だ。

 

 

 

小さな火の玉が辺りを照らす、今は陰ってしまった日の光のような暖かな光がフィレスの心を照らした。

希望を失い、消えてしまった心に。

 

「…あったかい。」

 

クラーナの腕の中で安心したようにフィレスは笑った。

 

「よかった。生気が戻ったみたいだな…」

「…ありがとうございます、なんというか、急に1人になった気がして…」

「わかるよ。」

 

「え?」

「昔の話さ、気の遠くなるような…昔の。」

 

寂しげな視線の先には灯火があった。

 

______

 

「これからどうなるんでしょうか。」

フィレスは不安そうに言った。

生きていくことが、この世界のことが、とても不安で。

 

「分からない。お前はもう死ぬことは無い、その印がある限りな。」

 

フィレスの手の甲を指さす。

そこにはダークリングと呼ばれる傷が刻まれていた。

 

「これが、“ダークリング”ですか。」

「そう、人を不死にする呪いだよ」

「はい、聞いた事があります。これが…」

「焼かれても切られても潰されても生き返るんだ、常人なら心が折れて亡者になってしまう…それでも。

1人だけ、過去1人だけ見たことがある」

「誰を?」

「こんな理不尽な呪いを受けながら死地に赴き死んで死んで死んで死んで最後には使命を全うした狂人をな」

「そんな、人が居たんですか」

「そう。でもそれは“果たすべき使命”があったからなんだよ」

「?」

「お前は…何も無い、ダメだよ、そんな人間は早く折れてしまう。」

「何も…なにも。」

「フィレスが生きていきたいなら、生きる意味を見つけるんだ、それは強い力を持つ。神をも殺せる力を。」

「生きる意味…」

「そう、生きる意味。」

「そんな、急にいわれても…」

 

手を組んで唸るフィレス。

いい案は浮かんでこないみたいだ。

するとクラーナが口を開いた。

 

「あの馬鹿も他人から貰った使命を継いだんだったな。

フィレス。」

「はい?」

「生きたいか?」

「………はい。」

 

沈黙の後、フィレスは答えた。

覚悟を持った目で。

 

「いい返事だ。ならお前には私を分け与えよう。」

「?クラーナさんを?」

 

クラーナが右手に火をともした。

 

「これをお前に託したい。」

「“呪術の火”、ですか?」

「私たちの罪を、後に伝えて欲しいんだよ。」

「混沌の魔女の話…たしかおとぎ話には…」

「そう、原初の力(始まりの火)を追い求めた私たちの罪、背負ってくれるか?」

 

フィレスは力強く答えた。

 

はい。(YES)



目次 感想へのリンク しおりを挟む




評価する
一言
0文字 ~500文字
※目安 0:10の真逆 5:普通 10:(このサイトで)これ以上素晴らしい作品とは出会えない。
※評価値0,10は一言の入力が必須です。また、それぞれ11個以上は投票できません。
評価する前に
評価する際のガイドライン
に違反していないか確認して下さい。