異世界転生は妖精と共に (リーン様の椅子になり隊)
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トーマ・カミヨ

「はぁ………かったりぃ」

 

 俺ことトーマ・カミヨ……或いは上代刀磨は転生者である。

 確か俺の家は神社で、真名的なモノでは神世到魔だと前世の母親が教えてくれた。

 生まれた瞬間から前世の記憶と自意識を持っており、名前を付けられることなく暫く育てられてから、捨てられた。

 ()()には俺以外の捨てられた子供達の死体があったから、既に腐りかけの柔らかくなった肉を喰らい、生き延びた。

 どうも俺はあらゆる病にかからず毒も効かぬ体質らしい。転生特典か?と真面目に考察したね。

 さて、そんな不可思議な世界だが、たぶん不可思議でも何でもないんだろう。だってこの世界魔法あるしモンスターだっているし。

 物騒な世界だよいやほんと。生き抜くためには強くなるしかない。だって俺身元保証人なんていないしね!だからモンスターを殺して金に出来る冒険者になりました。

 そうそう結構昔に気づいたんだけど俺の転生特典はどうもかなりチートらしい。喰ったモノの特性を少しだけ得られるらしい。逆説的に何でも食える。だから毒も効かないし、ウイルスなども体内に入った時点で喰った扱いらしく病気にならない。

 逆に俺は体液を超強力な感染力と致死率を持つウイルスに変えることも可能。毒にもな。普段は体液を猛毒に変えてモンスターと戦っている。だってほら、噛まれた時便利じゃん?へへへ、と言いながらナイフ舐めて死んだバカには腹抱えて笑ったが……。

 しかしここまで来るのは大変だった。何せ本当に微妙だからな。例えば火属性に適正ある魔法使いの盗賊をぶち殺して喰ってもライター程度の火しか出せない。炎を扱う魔物を何体も喰らって漸く魔法使いらしいことが出来るようになった。この道のりの長いこと長いこと。

 ちなみに剣術などは才能と鍛錬なので喰っても意味がない。どうも喰った数だけ俺の細胞分裂数も増えるようで、細胞が老化せず不老な俺は長い年月を掛け見様見真似で使えそうな剣術、体術を覚え複合させた我流を扱う。

 

「とはいえ、老化に関しては俺が意図したことじゃねぇからなぁ」

 

 本来なら貯まった金を使い豪遊したいが、見た目若い冒険者が働かず飯を食っているなんて世間の目も厳しいだろうしそもそも何時死ぬのかも解らない。先に述べた不老理由もあくまで当時不思議に思ったから調べただけで今は普通に不老だし………どの魔物喰ったからなんだろ?

 ああ、俺はこの先永遠に居きるのだろうか?やだなぁ、退屈だなぁ、早く発展しろよこの世界。

 とはいえモンスターのせいで生活圏も不用意に広げられないこの世界の文明がそうそう発展する訳ないのだが……でもこの世界、何故かゴムとかはあるんだよな。

 と、その時俺のポケットに忍ばせていた鉄の板が震える。

 無属性魔法『プログラム』で幾つか機能を付けた鉄の板。そのうち一つが片方の鉄の板が感じた振動をそのまま返す……まあ通信だわな。これはその前に行う通知。

 

「承認」

『はぁい、元気かしら?』

 

 と、そんな声が聞こえてきた。まあこの通信機に連絡よこせる人間なんて一人しか居ないのだが。

 

「どした?」

『用がなければ連絡しては行けないの?なんて………少し聞きたいことがあるのよ』

「聞きたいこと?」

『貴方、水の中で活動できるかしら?』

「まあなんなら水の中で暮らすことだって出来るけど、何で?」

『今すぐ私のところに来なさい』

「は?ちょ、何をいきなり……!こっちにだって仕事が………今日はねぇけど」

『なら良いじゃない。待ってるわよ』

 

 そう言って通信が切れた。はぁ、本当………あの女は相変わらず勝手すぎる。とはいえ数少ない年上だ。敬うべきだろう。

 

「【ハイ・サーチ】………うわ、どんだけ遠くにいんだよ。問題ねぇけどさ……【テレポート】と」



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妖精とペット

「海か………」

 

 潮の香り、日差し、波の音。間違いなく海だ。

 

「直接会うのは久し振りねトーマ」

「そうか?2、3年なんて俺等からすりゃ大した時間じゃないだろ」

 

 ニコリと微笑み手を振ってくるのは俺の数少ない年上にして友人のリーン。妖精族という種族で、本来なら十代後半から二十代前半で成長が止まるはずが十代前半で止まってしまった少女体型……永遠にな。

 

「相変わらず失礼なことをまず考えるのね貴方は………まあ良いわ。ちょっと海を潜ってきて欲しいの」

 

 海の底?

 何でまた……。まあ別に良いか。

 

「あれ、リーン。その人は?」

「あん?平たい顔だと?」

 

 と、海に向かおうとしたらリーンに声をかける者が居た。振り向いてみれば黒髪黒目の平たい顔の少年がいた。イーシェンのガキか?にしてはやけに日本人によりすぎている……つか此奴、妙な気配だな。くそ不味そうだし……何というか、農薬使いまくった野菜で造った料理みたいな匂いがする。

 それに比べ後ろの女どもはそこそこうまそうだな。おっさんたちは……肉の質は良さそうだ。良いもん食ってそう。貴族か?

 

「紹介するわね。此奴はトーマ、私のペットよ……とってこいが出来る賢い子なのよ」

「どうも、リーンのペットのトーマ・カミヨだ」

「え、ペ……ペット?」

 

 俺とリーンの発言にひきつった表情になるガキ。何か変なことでも言ったろうか?

 

「まあ良い。此処、何処だ?」

「イーシェンよ」

「イーシェン?まあ確かにイーシェン生まれっぽいのも居るが、何でまた」

「この海に沈む遺跡に興味があるのよ。行ってくれるわよね」

「別に良いが本当か?海の底なんて見えるもんじゃねーだろ。つか何で今更また探す気になったんだ?」

「ベルファストで中々おもしろいモノを持ってる子を見かけたのよ。そこの子ね……その子に頼んで探してみたのよ」

「ベルファストって……あの無能王の国か?信用できんのかそれ」

 

 と、俺の言葉にガキとガキの後ろの連中が反応する。リーンは面白そうにクスクス笑う。

 

「あら無能?どうして?」

「確かに噂を聞く限り有能だったんだろうが最近一人娘の我が儘のために何処の馬の骨とも知れぬガキを婚約者にしたそうじゃねーか。ミスミドとの交易のために貴族共に目を付けられてるのにそれだ。しかも暗殺されかかった直後だと聞く。馬っ鹿じゃねーの?そんなに死にたいのかって感じ」

「あら、でもその馬の骨は王の命を救って暗殺事件の黒幕も見つけたそうよ?」

「だから?王に必要なのは政治力だ。魔法だのなんだので一人を救うんじゃなくて政治で千を救える知能だ。だというのに王女と結婚させるって………まあ直ぐにでも結婚させるわけでもないらしいし幼い間に我が儘を聞かせて後で別れさせるだけなのかもしれねー───」

「私は冬夜さんと別れたりしません!」

「…………?」

 

 急にガキの後ろにいた女のガキが叫んだ。オッドアイに金髪の女。はて、この容姿何かで聞いたような……。

 

「ああ、例の我が儘姫。お前だったのか自分の恋愛のために国民のことを考えない姫は」

 

 思い出した。確かベルファストの第一王女の容姿がこんなんだった。そして今の発言からして間違いなく此奴だ。と、漸くにらまれていることに気付く。今更?とは言うな。蟻に凄まれたところで気づけるはず無いだろう。

 

「冬夜さんの事を何も知らないくせに侮辱して……取り消してください!」

「取り消せだと?断じて取り消すつもりはない!」

 

 このガキは自分が、王の一人娘という立場がどういうものか解っているのか?ベルファスト国王の年齢に対して結婚した若さを考えて子供が一人だけ。どう考えても次の子は望み薄だ。まあ王のくせに子供一人で満足する阿呆なら話は別だが。

 

「いかに個人が強かろうと国とは人という種族の群。それも他の動物ではあり得ないほど大量な。だというのに群を纏めたこともないガキに王位継承権を与える?いっそ貴族どもに反乱起こさせた方がまだ国のためになるだろうよ」

「そこまで。あんまり若い子を虐めるものじゃないわ」

 

 と、リーンが手をパンと叩き俺の言葉を止める。まあベルファストがこのまま滅びに向かおうと俺の知った事じゃないからどうでも良いのだが、しかし俺が言ってること何一つ理解できずにキョトンとしているガキがリーンの気になった相手、ねぇ。もう少し言ってやるべきか?

 

「ほらほら嫉妬しないの。確かに冬夜は興味深い存在ではあるけど、異性はもちろんペットとしてみるのも論外よ。バカな子ほど可愛いとは言うけど王位継承権を持ちかけている相手で遊べるほど暇ではないもの」

 

 俺が何か言う前にリーンがクスクス笑いながら頭を撫でてくる。

 リーンに此処まで言わせてまだ文句を言うほど子供でもない。リーンが俺の方が上だと言ってくれたし取りあえずこのガキに何かを言うのはやめる。

 

「ごめんなさいね?でも、この子が言っているのは何一つ間違っていない正論だと私も思うわ。子供が欲しくなったら言ってね?媚薬と排卵促進剤をあげるから」

 

 言外にさっさと新しい王位継承権持ち作れと持ちかけるリーン。俺はチラリと知り合いの女をみる。

 

「シャルロット、本来こういう忠告はてめぇがすべき事柄だろうが。何のための宮廷魔術師だ。王に忠言しろよ」

「ふぇ!?だ、だって……全部の属性使えて無属性魔法全て使える珍しい人が居たから、つい忘れて」

「無属性魔法全てだと?これか?」

 

 と、冬夜とかいうらしいガキを指すとむっとした顔をしてくる。

 

「あの、すいません」

「あん?」

「僕が馬の骨とか、ガキなのは否定しません。でも、ユミナや国王陛下の我が儘姫や無能王という言葉を取り消してください」

「やだね。リーンも言ってたろ?正論だって……正しさをネジ巻けたきゃ力を示しな。勝てばどんな奴でも正しさを振りかざせる」

「冬夜!こんな奴やっちゃいなさい!」

「ユミナさん達がかわいそうです!」

「冬夜殿がやらぬなら拙者が切るでござる」

「なんなら全員でも良いぜ?俺が勝つから」

 

 と、その言葉にこちらを憎々しげに睨んでくるガキども。大人たちは、何もいってこないな。俺の言うことに心当たりがあるのだろう。

 

「もうトーマったら。勝てるわけ無いじゃない………感心しないわよ?」

「つー訳で審判頼むなリーン」

「仕方ないわね。じゃ、場所を移しましょう」



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模擬戦、そしてキマイラ。

 リーンのペットと紹介された男は何処からどう見ても冬夜達と年齢差が開いているようには見えない。しかしシャルロッテの反応からするに、シャルロッテよりは確実に年上らしい。

 

「ほら来いよ。俺は大人だからな、若人達に先手を譲ってやるぜ?」

 

 クイクイと指を曲げ挑発するトーマ。先程勝てないとリーンに言われたばかりだというのに完全になめきった態度だ。琥珀がグルルと喉を鳴らす。

 

「えっと、じゃあ遠慮なく………スリップ!」

 

 無属性魔法スリップ、摩擦をゼロにして相手を滑らせる魔法。冬夜が戦闘に多用する魔法だ。

 

「………へぇ、この時代にもスリップの使い手が……ああ、全部使えるんだったな」

「「「「──!?」」」」

 

 が、トーマは微動だにしない。足下を見つめ楽しそうに笑う。

 

「このワザの対処は二つ。一つは俺かリーンしかできないが、魔力をスリップ対象に流して魔力を追い出せば良い。んで二つ目、これは練習すれば簡単に出来るぞ。滑るのは力が流れるから、力が逃げないように垂直に落とせばいい」

「普通は出来ないけどね」

 

 簡単に言ってのけるトーマにリーンがあきれたように肩をすくめる。

 実際、少しでも力の向きがズレればバランスを崩すというのに話を出来るトーマが異常なのだ。本人も自覚している。

 

「んじゃ、次は俺の番だ」

 

 と、まるで何事もないかのように歩き出す。真っ先に反応したのはエルゼ。八重もすぐさまかける。

 

「なら、別方向から力を加えるまでよ!」

「神妙にするでござる!」

「イーシェンの奴らってたまに語尾にござる付けただけみたいな奴居るよな」

「ブースト!」

「………スリップ」

 

 エルゼが身体強化してトーマに迫る。が、トーマが呟いた詠唱に目を見開く。

 

「?───喰らいなさい!」

 

 が、滑ることはなかった。ブラフかと思いそのまま突っ込むが、トーマの体に触れた瞬間拳が滑る。

 

「な!?」

「──!?」

 

 八重の刀も同様。腕で防ぐとあっさり滑り逸れる。

 

「スリップってのはこう使うんだよ」

 

 バランスを崩すエルゼの腹を蹴りつけるトーマ。かは、と肺の中の空気を吐き出し吹き飛ぶエルゼはそのまま岩に背中をぶつけ気絶する。

 

「イマジンブレード」

 

 さらに同様にバランスを崩した八重に、体勢を立て直す暇を与えず光の剣を生み出し喉を切り裂く。傷は出来なかったが目を見開き喉を押さえその場にうずくまる八重。トーマは既に興味を失ったのか残りの三人を見る。

 

「八重さん!エルゼさん!」

「お姉ちゃん!良くも……水よ来たれ、衝撃の泡沫、バブルボム!」

「水よ来たれ」

 

 リンゼがバブルボムを放つがトーマが単純な詠唱を行い生み出した水が全ての衝撃を飲み込む。ユミナが矢を放つもやはり水流に飲まれ無効化される。

 

「相変わらずねトーマの詠唱短縮」

「その気になれば詠唱すらしませんからね。どうやってるんでしたっけ、あれ?」

「一日中魔法を発動した状態を2、3ヵ月続けると魔力の流れが解るようになって、詠唱する事なく魔力の流れを再現できるそうよ。私はそんな馬鹿げた量の魔力持ってないからトーマに流してもらって感覚を学んだけど、一年はかかったわ」

 

 リーンとシャルロッテがその光景見ながら話す。

 食らえば食らうほど、少しずつではあるが強くなるトーマの魔力量はそれはもう規格外だ。故に出来た修行法で編み出した詠唱短縮、詠唱破棄は如何に相手に近寄らせないかが重要なこの世界の魔術師の根底を覆す。

 

「プレッシャー」

「ふぐ!?」

 

 それでも詠唱してやってるのは、手加減だ。トーマは己の力をインチキと捕らえる。故に命のやりとりのない戦いでは基本的に手加減する。相手が誇りをかけて挑んできたら別だが、それも相手の覚悟による。

 

「走り回って戦って、ようやく得た強化なのに、律儀よねぇ」

「まあ、それがトーマさんの良いところですよ」

「あげないわよ?」

 

 あれは私のものだもの、と笑みを浮かべるリーン。どうでも良いが笑顔とは本来攻撃的な意味を持つとか持たないとか。

 トーマはリンゼを地面に押しつけた後ユミナを見る。彼女は仮にも王族だ。なので閉じ込める。

 

「キューブ」

 

 名前の通り球体状の障壁がユミナを包み込む。本来はこれに閉じこもり危険地帯を歩くのに使われていた無属性魔法だが魔力操作と魔力量が高いトーマは内部で魔力の流れを生み出し魔法が使えぬ空間を作る。

 

「さて、残るは一匹と一人。降参するなら見逃すぜ?てかたかがスリップが通じないだけで何時まで惚けてんだよアホか?格下ばかりと戦って自分は強者だとでも勘違いしていたか?」

『吠えるな、小僧!その喉笛噛み千切ってくれる!』

「おお!?」

 

 子虎だと思っていた琥珀が本性に戻り吠える。突然大きくなった琥珀に多少驚愕したトーマ。自分が今まで会ってきた魔物の中でもトップクラスの力を持つ琥珀の動きに、しかし笑みを浮かべる。

 

「クイック」

『───!?』

「……何だ、全く見えてないのか。つかって損した」

 

 ガキン!と何もない空を噛んだ琥珀は見失った標的を探そうと周囲を見回そうとし、後ろから聞こえた声に振り返る。その瞬間には腹に蹴りが迫る。が───

 

ドパン!

 

 炸裂音が響く。琥珀に取っては聞き慣れた。トーマに取っては知識として知っている音。故にトーマの視線が其方に向き、高速で飛来する何かを受け止める。

 

「………ゴム弾?」

「嘘!?」

 

 込められた魔力が流れ込んでくる前に弾き飛ばし何を受け止めたのか見てみるとゴムだった。音の発生源ではゴムとはいえ銃弾を受け止めたトーマを見て目を見開いている冬夜が………そう、銃弾だ。その手には銃が握られていた。

 

「………?」

 

 確か銃には雷管といった極めて精密な部品が必要だった気がする。そんなものを作れる知識、可笑しくないか?

 カタギの人間ではない?少なくともゴム弾とは言え人の脳天狙うような輩がまともな相手とは思えない。()()()()意味ではないとは言え、リーンに興味を持たれている男が、だ。

 ……………殺しとくか?

 

「─────!!」

 

 僅かに漏れ出た殺気に当てられ腰を抜かす冬夜。トーマははぁ、とため息を吐く。向こうと此方が同じ時間の流れとは限らないが、此方にきて数百年。単純に日本でも銃刀法が廃止されたのかもしれないし、存外簡単に仕掛けが解る時代になったのかもしれない。とりあえずあの反応を見る限りカタギではありそうだ。

 

「つかこの程度でビビるって、まあその人間離れしたスペックに加え女共を強化している妙な力と遭わせりゃ苦労せずに生きられるか。んで、俺の勝ちで良いよな?」

「…………いいえ」

「………ほぉ?」

「もう少し、抗って見せます!苦労知らずなんて、言われたくない。皆と一緒に、努力して、苦労を分かち合った日々を否定されるわけにはいかない!」

「……………はぁ?」

 

 スッ、とトーマの目が細められる。殺気は、漏れていない。漏れていないが心の中でかなりくすぶっている。それを察したリーンはあらら、と呆れたように肩をすくめる。

 

「行くぞ!クイック!アクセル!ブースト!」

「遅い、軽い、未熟」

「──か!?」

 

 先程トーマが使っていた無属性魔法も使用し、周囲の者には消えたようにしか見えない速度で背後に回り込み銃弾を放とうとした冬夜だったが一瞬で移動したトーマに腹を殴られる。

 

「──っ、く……火、火よ……来たれ!」

「───!」

 

 トーマをしても2、3ヵ月、リーンでも一年かかった詠唱短縮を行い魔法を発動する冬夜。トーマはその炎を突き抜け冬夜の喉を掴む。

 

「マナドレイン」

「────!?」

 

 魔力が吸い込まれる。身体強化した冬夜の抵抗などまるで気にせず喉を掴み続けるトーマ。魔力を吸い込んでも吸い込んでも後から魔力が溢れてくる冬夜を見て、目を細める。

 

『我が主から手を放せ!』

「闇よ来たれ、我が求めるは歪なる獣、キマイラ」

『グルアァァァァッ!!敵、殺すぅ!』

『ひさひさひさ久々のぉぉ、敵ぃぃ!』

『牙で砕く角で貫く毒で犯す!』

『───ぬぅ!?』

 

 冬夜を救わんと迫ってきた琥珀に対してトーマはその場から飛び退き呪文を唱える。影が蠢き、飛び出してきたのは獅子と山羊の顔と蛇の尾を持つ山羊の後ろ足に獅子の前足を持った獣。

 

『主主主、あの猫食べて良い?』

『猫は山羊を襲う。なら私は猫を食う!』

『いや毒だ毒で弱らせようそうしよう』

「タマ、後藤、ビミ、五月蝿い。たく、相変わらず狂ってんなぁ」

 

 と、呆れたように肩をすくめるトーマ。三つの首はよだれを垂らしながら琥珀を見つめていた。

 

「好きにしろ」

『『『やったぁ!』』』

「な、何ですかアレ……」

 

 キューブに閉じ込められたままのユミナは禍々しい気配を放つ獣を見て、震えながら呟く。最高クラスの召喚獣、神獣相手に互角に戦う召喚獣など聞いたことがない。

 

「キマイラ……召喚者を軒並み食べちゃうから有名にならない問題児よ。トーマったらああ言うのしか召喚できないのよねぇ………ちなみにあの子曰わく国一つ食べたこともあるそうよ」

「あ、ありえません!魔法陣から出れないのに」

「その魔法陣を勝手に広げるのよ。餌場確保のために、ね……トーマが詠唱破棄を行えるようになったのもあの子達の魔法を乗っ取る魔力操作を見てだもの」

「達?それって、つまり……召喚者を食べた挙げ句魔法陣を広げ周囲を無差別に食い尽くす魔獣が他にも?」

「トーマは悪獣と名付けてたわ。質の()()だから」

 

 そんな悪獣を従える方法はたった一つ。悪獣が心底屈服するまで、徹底的に、悪獣達が己の誇りとする単純なる暴力で圧倒すること。

 

『可愛い可愛い子猫ちゃぁぁぁん!貴方のお家は俺の腹!』

『帰っておいで!良く噛んで、小さくするから!』

『弱い弱い弱い俺の主強い俺も強いなら弱いお前の主も弱い!』

『我が主を侮辱するか、異国の物の怪風情が!』

 

 キマイラと琥珀が争う中トーマを冬夜の首を押さえながら両膝を吐かせていた。

 

「吸っても吸っても魔力が溢れてくる。うらやましいねぇ、俺がそのレベルの回復速度を得るためにどれだけ魔力を扱う魔物や魔法使いを喰ったか………でもな、俺は喰えばいいんだ。喰うだけで」

「………?」

「お前はどうやってその力を得たのか知らんが、身体能力と技術が合ってない。鍛えたわけでもねぇな?動きの拙さから、その身体能力になって一年も経ってない。魔力もそうか?そうか、当たりか……」

 

 トーマは冬夜の脈拍、呼吸、目の動きを見ながら質問の答えを返される前に知る。

 

「才能ってのは、残念ながらある。同じ努力しても、片方が圧倒的に強なる光景を俺は何度も見てきた。だがな、そいつ等だって、まず体を鍛える。どんな技もみただけで覚える奴だって、使う下地が必要だ。だが俺は違う……努力せず、ただ食うだけで良い。お前は知らんが、それでも体も鍛えず強くなったのは確かだろ?」

 

 ギリギリと喉を締め付ける力が強くなる。ふりほどくのを諦め銃を撃とうとするも蹴りつけられ銃はカラカラ地面を滑る。

 

「努力した?苦労した?そういう言葉は、俺達みてぇのが一番使っちゃいけねぇ言葉なんだよ」

 

 そういって、冬夜を海に向かってぶん投げる。ドバァン!と水柱が上がり、雨のように降り注ぐ飛沫がリーンの日傘に当たる。

 

『主!』

『隙を見せた!』

『馬鹿な奴だ!』

『俺は目玉食うから俺は腹を食いちぎって俺は角で貫け』

「キマイラ、止まれ」

『『『────』』』

 

 ピタリと止まるキマイラ。琥珀もキマイラもボロボロで、琥珀は憎々しげにトーマを睨む。

 

「さっさと助けに行くんだな。この勝負、俺達の勝ちだ」



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庭園、そして玄帝

 悪獣キマイラは悪獣達の中でも人格が3つ存在するからか、とにかく狂っている。なので早々にお帰りいただいた。

 今はリーンに頼まれ水の中を泳いでいる。今の俺は水の中でも息が出来る。

 暫く泳いでいると巨石群が現れた。地球のストーンサークルみてぇだな。そのストーンサークルの間を抜けて、遺跡中央の階段から中へと入る。暗い地下へと下っていく。明かり?必要ねぇよそんなの。音で把握できるし、そもそも闇の中でも俺にはよく見える。

 やがて大きな広間、魔法陣のある部屋へと辿り着いた。

 

「それぞれの属性の魔石?複数で来ること前提なのか、全属性持ちが前提なのか……どちらにしろ俺には問題ねぇな」

 

 炎を吐く魔物、水を操る魔物、風を巻き起こす魔物、光で全てを貫く魔物、岩で潰そうとしてくる魔物、各種魔法使いや嘗ての狂的たる無属性魔法の使い手を食らったトーマに死角はない。

 全ての魔石に魔力を通す。が、何も起きない。この場合無属性の魔力だろう、と魔力を流した当たりから光り始めた魔法陣に乗り無属性の魔力を流す。

 

 

 

「ふむ、空か………」

 

 光に包まれた後、ガラス張りドームの庭園に出た。雲の近さから考えてそうとう高い位置にあるな……空中庭園なのだろう。

 リーン当たりが喜びそうだ。

 などと考えていると何かの気配を感じる。魂の反応は、ない。上手そうな臭いはするが、金属臭いな。喰えないことはないけど……ゴーレムだって喰った俺だし。

 昔を思い出していると気配の主が現れる。

 翡翠色の短く切り揃えられたサラサラの髪、白磁のような肌に金の双眸。ミステリアスな雰囲気を醸し出す女のガキだった。歳は見た目だけなら俺とリーンの間ってところか?さっきのガキの取り巻き女共と同じぐらいだ。

 ノースリーブの黒い上着に薄桃色の大きなリボン。白いニーソックスに黒いエナメルの靴。んで、パンツ。

 

「初めましテ。私はこの「バビロンの空中庭園」を管理する端末の「フランシェスカ」と申しまス」

「取り敢えず下履け」

 

 俺はパンツ丸出しの痴女にそう忠告してやったのだが痴女は首を傾げる。

 

「ぱんつは穿いてまスが?」

「言い方を代えるぞ、スカート履けや痴女」

「フランシェスカです」

「んじゃフラン」

「シェスカと及びください」

「シェスカ、スカート履け」

「まア、そこまで言うのなら穿きまスが」

 

 どこから出したのか、シェスカは白いフリルのついた黒いスカートを穿き始めた。持ってんのかよ……。

 

「……なにもしないんでスか?」

「しねーけど?」

「ちょっとダケなら触ってもいいでスよ?」

「俺、好きな女居るから………そいつに比べると他の女なんてマネキンにしか見えねぇんだよな。ああ、シャルロッテとか一部は別だが」

 

 シェスカは大人しくスカートを吐く。パンツ丸出しで現れるとは妙ちきりんな奴だ。羞恥心とかねぇのか?あったらスカート履くか。

 

「ここはいったいなんだ? なんのための施設だ?」

「ここは博士が趣味で造られた「庭園」でス。バビロンの「空中庭園」………「ニライカナイ」と言ウ人もいまス」

「博士?」

「レジーナ・バビロン博士でス。私たちの創造主でス」

「へえ、大した技術だな………」

 

 腕一本喰っても怒られないだろうか?リーンが怒りそうだな、貴重な古代文明の遺産だし。

 

「私はこの「庭園」の管理端末として博士に造られましタ。今から5092年前のことでス」

「ほう、俺より年上か」

 

 なかなかない出会いだ。魂の反応がなく、金属臭。しかし確かな肉体と思われる部分。

 

「機械生命体か?」

「驚きでス………魔法生命体と機械の融合体ですので、少し違うかもしれませんが似たようなものでスね」

「凄いな、どっから見ても人間の女だ」

「……子供はできませンが、行為そのものは出来まスよ?」

「いや、どうでも良いからスカートめくるな」

「新品デスのに」

 

 突然スカートを捲るシェスカ。なんか此奴と話していると凄く疲れるな………。

 全属性持ちなら、あのガキに押し付けておくべきだったか?

 

「それにしても5000年以上もよく稼働してんな…。シェスカもだけど、この空中庭園自体も劣化して壊れたりしねーの?」

「この「庭園」はいたるトコロを魔法で強化してますカラ。私も5000年と言いましてモ、メンテナンスのためのスリープモードに入り、非常時以外は待機状態でしタので。「庭園」の管理はオートにしたままでシタ」

「なる程俺が居るのは非常事態なのか。出て行った方が良いか?」

「いえ、あなたは適合者としテ相応しいと認められまシた。これヨり機体ナンバー23、個体名「フランシェスカ」は、あなたに譲渡されまス。末長クよろしくお願いいタしまス。まずハお名前をどうゾ」

「は?」

 

 適合者ってなんだ? いや、それより譲渡って?

 シェスカは俺の転送してきた魔法陣の方を指差し、説明を始めた。

 

「あの魔法陣は普通の人では起動しませン。多人数での魔力を受け付けるコトが出来ないよウになっているのでス。つまりあの転送陣を起動することのデきる者は、全属性を持つ者だけ……。博士と同じ特性を持つ者だけなのでス」

「それが条件なら別にいる。ソイツに………は、まずいか。こんな施設を……」

 

 それにあっさり渡したらリーンに嫌みを言われるな。彼奴、此処研究したがりそうだし。しかし過去にも全属性持ちが居たのか。

 

「適合者というのは、全属性持ちのことデハありませんヨ?」

「あ、違うのか?」

「私のぱんつを見ても、逆に隠すよウに言われまシたかラ、適合者でス」

「…………なんだそりゃ」

「大事なことでスよ? モし欲情に任せ、私に襲いかかってキタとしたら地上に放り投げていまシた。またなにもせず、ぱんつ姿のまま放置されてイたら、ソレも不適合者として丁重に地上へとお帰り願ったでしょウ」

 

 何でパンツ隠す隠さないで適合者を決めるんだろうかこのポンコツロボットは。

 

「他人を思いやる優しさ、それがなけレば私たちやバビロンを任せられナイと、博士はこのよウな方法を考えられたのでス」

「俺は他人を思いやったりはしねーがな………」

「最終的には各自の判断に任せると言ってマシた。女に慣れた妙に優しスぎるフェミニスト気取りヨリも、理想はチラ見しながラも自制し、興味がナイようなふりをスるムッツリが無難だト」

「俺はそれにそっているか?」

「いえ。ですが、この空中庭園を見つけた方ですし………ああ、もう一人居ルとのことですがそちらでモ」

「因みにお前の判断だと俺は?」

「ありデス。イケメンですシ」

「……………」

 

 取り敢えずリーン達に報告しに行くか。

 

「取り敢えず、俺の名はトーマ・カミヨだ。よろしくな」

「トーマ・カミヨ………記録しましタ」

 

 

 

「ただいま………ん?彼奴等何してんだ」

「あら、お帰りなさい。貴方に負けたのが悔しかったらしくってね、琥珀が新しく魔物を召喚しようって………ああ、神獣だったわ。あの白虎も、彼の《白帝》ですって」

「あれが召喚できる使い魔最高峰の4体のうち2体?喰っときゃ良かったな」

「?貴方より全然弱いわよ」

「でもレア物だろ?そういうのは、何故か力になるんだよ。殆どないから言ってなかったなそういや………それに単純に美味そうだ」

 

 魔法陣の前で腹を抱えて笑っている虎と魔法陣の中でクルクル回っている──色からして───《玄帝》を見つめる。

 

「で、どういう条件出されたんだ?楽しませる?転ばせる?」

「制限時間内五体満足で逃げ切り実力を示せ、だそうよ」

「は?それでスリップ?実力示さなきゃなんねーのに?」

 

 と、呆れかえるトーマだったが………。

 

『うおう…うおええう……まわ、回ってるわぁ、世界が回ってるわぁ……』

『ゆる、許してくださいぃ……もお転ぶの嫌あぁ……滑りたくないよぉ……』

 

 などと泣き言を言い出す玄帝に余計呆れた。

 

『ああ、酷い目にあったわぁ……。白帝が主と認めたってのも納得ねぇ……』

『望月冬夜様。我が主にふさわしきお方よ。どうか我らと主従の契約を』

「………ひょっとして神獣達って、馬鹿?まさか一定範囲の地面を滑らせる程度の魔法で広範囲殲滅できるはずの自分達の主に相応しいって言うなんて」

「貴方の悪獣達はそんな力を持ってたわね………神獣は、持ってないとか?まあアレはどうでも良いわ。それより、何を見つけたのかしら」

 

 と言うわけで早速リーンを空中庭園に連れて行くことにした。後ついでについてきたがったガキ共も。水を司る玄帝を手にした以上正規のルートで入ってきた後ゲートで仲間を呼べるだろうから、一々止めるのも時間の無駄だからだ。




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告白、そしてキス

「空中庭園……ね。古代文明パルテノの遺産とも言えるわね」

 

 辺りを見回しながらリーンが感慨に浸っていた。

 古代文明パルテノ。様々な魔法を生み出し、それによる道具、アーティファクトを創り出した超文明。

 バビロンもその文明が創り出した遺産のひとつであり、それ自体がアーティファクトとも言える。つまりシェスカもアーティファクトに含まれるのだろう。

 ガキ共は好き勝手庭園を見に行った。池や噴水などもあり、花壇に咲く様々な花。まあ確かに見応えはあるだろう。ん?つーかあのガキ持ってる板スマホじゃね?

 その一角、池のほとりに設置された休憩場になる東屋で、俺とリーン、そしてシェスカがくつろいでいた。

 

「どうだリーン?気に入ってくれたか?」

「ええ、私は古代魔法をいくつか発見できたらいいなと思ってたんだけど、それ以上のものが見つかっちゃったからねえ」

 

 喜んでもらえて何よりだ。

 

「つまり「バビロン」という空中に浮かぶ島を貴女たちの生みの親、レジーナ・バビロン博士が5000年以上も前に造った。それが今はバラバラになって世界中の空に漂っているというの?」

「左様でございまス」

 

 リーンがシェスカから聞いた話をまとめる。しかしレジーナ・バビロン、かぁ。全属性適性に加えこんなモノを造れるほどの脳味噌、遺体とかねぇかなぁ……。

 

「そんな物が空に浮かんでいたら、騒ぎになりそうなものだけど」

 

 と、何時の間にか戻ってきていたガキの女の一人の姉妹の姉の方がもっともなことを言う。

 

「バビロンには外部からは視認出来ない魔法障壁が張られテいます。このため、地上カラその姿を確認することはほぼ不可能でス」

 

 古代の天才博士は、ありとあらゆる古代魔法を駆使して、完璧なるステルス性をバビロンに与えていたらしい。

 発見するにはただひとつ、転送陣からの侵入しかない。しかし、それが許されるのは博士と同じ全属性持ちでなければならない。つまり俺かガキのような存在。

 

「それで、一体いくつこのような浮き島があるんでござるか?」

「私の「庭園」に「図書館」、「研究所」、「格納庫」、「塔」、「城壁」、「工房」、「錬金棟」、「蔵」と当時は9つありましタたが、現在いくつ残っているのかわかりませン」

「私としては、その「図書館」に惹かれるわ。古代文明の様々な知識がつまってそうじゃないの」

 

 侍女の言葉に答えたシェスカ、リーンは楽しそうな笑みを浮かべる。何が何でも見つけたくなった。

 

「他の管理者と連絡は取れないのか?」

「残念ながラ他の姉妹とは現在リンクが絶たれていまス。障壁のレベルが高く設定させていルので、いかなる通信魔法も受け付けませン。マスターが許可しない限り、下げられるコトはないでしょウ」

「ああそうだ、マスターと言えばそこのガキも一応全属性持ちだぞ」

「……そうデスか…………では」

 

 と、スカートを捲るシェスカ。

 

「ぶふぅ!?ちょ、何してるの!しまって!」

 

 などと顔を赤くして目をそらすガキだがチラリと視線がパンツに向く。

 

「ほら、お前好みのムッツリだ」

「誰がムッツリだ!」

「確かにムッツリでスね………でも、彼は正規のルートから来たわけデハありませんシ」

「まあそいつに権限与えようとしたらその瞬間ぶち壊すが」

「………嫉妬ですカ?ポッ」

「赤くなってねーよ。単純にガキに此処をやれねぇってだけだ」

 

 古代文明の遺産だぞ?こんな脳味噌空っぽの奴に渡せるかってんだ。かといって、俺が管理するのもな……それはそれで問題がある。

 どこかの国に所属したとしてもその国が狙われる原因になるし、かといって個人でもって居ると世界中が敵になるかもしれん。その辺をどうするか決めるまで存在は秘匿しておくか……そのためには、まずはこのガキ共だが────

 

「…以前私たちのを見たにもかかわらず、またですか。そんなにぱんつが好きですか」

「いや、前のは事故で、見えてしまったというか……」

「…今回のは自分の意思で見た、と?」

「なんですか、昨日の水着姿じゃ満足できませんでしたか? けっこう見てましたよね、私たちの」

「いや、あれは、その〜…」

「私も頑張ってお姉ちゃんとお揃いのビキニにしたんですが、ダメでした? やっぱり水着と下着は違いますか、そうですか」

 

 ………………なにやってんのこのガキ共。そしてあのガキは……なんだあの顔、ふざけてんの?女からかって遊んでんのか?

 

「なんで怒られてるのかわからないって顔ね」

「───!!」

 

 あ、ガキがリーンを見た。その目は雄弁に心が読めるの?エスパー?無属性魔法?それちょうだいと物語っている。こんなに解りやすいくせに他人の心は少しも理解しないのか………。

 

「まあ、あんだけやって気づかないのもどうかと思うが口にも出さず秘めた思いなんて耳障りの良いこと言って何も行動しないくせに他の女と仲良くすると私怒ってます的な反応する奴もどうかと」

「そうね……特に貴方なんて、大変だったものね。私に好意を寄せていた男共からの決闘三昧……あの頃はまだそこまで強くなかったのに」

「俺と違って百年も猶予があったくせにプレゼント一つおくらねぇ奴が何を言ったところで、止まるかよ。こっちはきっちり告白して、その上ふられたってのに」

「そうね。確か、500年早い、だったかしら?」

「おうそうふられた…………そういや今年で丁度500年経ったわけだが、まだ俺はアンタを手にするのに相応しくねぇか?」

「呆れた。まだ諦めてないのね」

「そりゃな」

 

 などと話していると双子妹が何やら俯いていた。

 

「き、きっちり………告白………冬夜さん!」

「…っハイ!」

「私は、冬夜さんが好き、です」

「っむぐっ!?」

「「「ああぁあああぁあ─────────ッ!!!!」」」

 

 と、宣言してガキにキスした。えっと………何これ?いや、うん。告白は良いよ?でもお前、つき合ってもない相手にキスって……。まあ好き合ってるなら良い、のか?

 

「マスター、私も遺伝子採取のためニキスをしてもヨロしいですカ?」

「あら駄目よ。私が許可しないわ」

「………アナタに、止めル権利があるノですカ?」

「あるわよ。だって私、さっきトーマに告白されたばかりだもの」

 

 嫉妬してくれるのは嬉しいが、俺にも殺気を向けないでほしい。が、俺の言葉に返事をしてないのを思い出したのかバツが悪そうに顔を逸らす。

 

「……何時までも濁す気はないけど、もう少し待って頂戴。あの頃はまだ子供がそういう風な感情を持った、で済ませられたけど、流石に今の貴方の想いをそんな風に笑い飛ばせないもの」

 

 それに、もう子供として見れないしね、と笑うリーン。嫌悪感はなさそうで安心だ……。

 

「500年待ったんだ。もう100年ぐらい待つさ」

「私当て馬ニされましタ」

 

 シェスカが何か言ってるが知るか。黙ってろポンコツ。

 

「それにしても………」

「いきなり、きっ、きっ、キスするとか! 私だってまだなのに! 私だってまだなのに!!」

「……俺たちは一体何を見せられてるんだ?」

 

 公然の場で告白した俺が言うのもアレかもしれないが公然の場でキスはもっとどうかと………。

 にしても思い切ったな双子妹。双子姉も侍女も我が儘姫もガキに惚れてたようだが………一歩リードだな。あのメスガキ共は何か意を決したような顔をしてるから、すぐ追い付かれるだろうが。




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博士、そして所有権

「彼あの後全員と結婚することにしたそうよ」

「へぇ……まあどうでも良いけど」

 

 現在リーンが拠点にしている王宮の客室で出された紅茶を飲む。あのガキあのメスガキ共と結婚するのか、心底興味ない。いや、一つ在るか。

 現状王位継承権を持つガキがメスガキの内一人の我が儘姫しか居ない現状反乱が起きる可能性もある。そうなると面倒だな………リーンを連れてさっさとこんな国から出て行っちまいところだ。

 

「ところで仮にも告白した相手の部屋にいるのに別の女を連れているのはどうかと思うのだけど?」

「ア、どうぞオ気にならさズシッポリと……」

「……………」

 

 リーンは扉の近くに控えたシェスカを見て、はぁとため息を吐いた。気にするだけ無駄だと判断したのだろう。それはきっと正しいことだ。

 

「何か俺にレジーナからメッセージがあるとか言ってきてな、それはリーンも興味あるだろ?」

「あら、夜這いじゃなかったの」

「夜這いが良かったか?」

「………生意気に育ったわね…………良いわ、そのメッセージとやらを聞かせない」

 

 俺が笑いながら挑発すると頬を染め拗ねたようにそっぽを向くリーン。自分でも解りやすい態度だと思ったのか話を逸らすためにシェスカに話しかけた。

 

「デは、此方をどうぞ……」

 

 そう言ってシェスカが左の手首を右手で脈を測るような仕草をすると、左手首の内側が開き、なにかコネクタのようなものがついたケーブルが引き出された。此奴、やっぱりロボット何だな。

 しかし無言でコネクタ差し出されても困るのだが………。

 

「何かしら、これ」

「さア? 新しくマスターになった者に渡せばわかル、と博士が」

「とりあえずあのガキのとこ行くぞ……」

 

 あのガキが持ってた居た、たぶんスマホだよな?なら、あのガキのところでメッセージとやらが見れるはず。

 リーンから記憶を受け取りテレポートでガキの所に転移した。

 

 

 

「よお邪魔す───邪魔したな」

 

 ガキ共が何かキスしようとしてた。と、メスガキの双子姉が顔を赤くしてガキを殴りつけようとしてたのでその拳を止める。

 

「おいガキ、お前ちょっとスマホ貸せ」

「え、あ……はい」

 

 事態の急な移り変わりに混乱しているのかガキはあっさりスマホを渡してくる。うん、スマホだこれ。

 早速シェスカと接続すると、画面に半透明なゲージが現れ緑に変わっていく。やがて100パーセントになると小さな婆が出てきた。

 

「レジーナ・バビロン博士でス」

「この人が……?」

 

 気怠そうにしていた博士の顔が不意に、こちらを見上げ、にたっと笑った。

 

『やあやあ、初めまして。ボクはレジーナ・バビロン。まずは「空中庭園」及び、フランシェスカを引き取ってくれた礼を述べよう。ありがとう、「望月冬夜」君』

「誰だそれ、さんざんカッコつけて何言ってんだこの婆は」

「望月冬夜はその子の事よ」

 

 と、ガキを指差すリーン。そういやそんな名前だったな。

 んで、とりあえず婆の話をまとめることにした。

 1・ガキは初対面の女のパンツに疑問を持つ

 2・婆は自分と同じ全属性持ちの存在する未来をみること出来て、ガキと疑似会話が可能(俺を知らない時点でイレギュラー有り)

 3・未来が不確定化すると予知できなくなる

 4・婆の文明はフレイズとか言う奴のせいで滅んだ。この時代もそうなる可能性有り

 5・バビロンはガキのために造った

 6・ガキ以外の手に渡らないためにバビロンを分けた

 7・メッセージの後シェスカが全裸になる

 

「脱ぎまスか?」

「脱ぐな………で、フレンズってのは何だ?」

「フレイズよ……全身硝子のような生命体よ。いえ、生命なのかしらね?魔力を吸い取る性質があって、魔法が効かないわ。それと、とっても凶暴ね。攻撃的で冬夜と私が確認した2体は襲ってきたもの」

 

 ふーん。魔法を吸収、ねぇ………喰ってみてぇな。

 どんな味がするんだろ?

 

「まあ何時来るか解らねえフレイズよりこの世界にあることが解るバビロン探しだな。シェスカ、リーン、帰るぞ」

「ええ」

「ハい」

「ま、待ちなさい!」

 

 帰ろうとしたら我が儘姫に止められた。何事かと振り返れば睨んできていた。ガキはぽかんとしているが……。

 

「今の博士の言葉によれば、バビロンは冬夜さんの為に造られたものなのでしょう?冬夜さんに返してください!」

「あ?見つけたのはお前等かもしれねぇがたどり着いてマスター登録したのは俺。返すも何もあれはもう俺のだ………そもそも婆だって未来は変動するものと言ってたろ。ガキとの会話が成立する前提のあの会話からして、俺がたどり着く可能性は本来無かったんだろう……だがたどり着いた。故に俺のだ」

「フ、フランシェスカ!貴方はそれで良いのですか?」

「博士は「望月冬夜」の名ヲ我々に明記してオりませんでシた………彼以外に渡ルのは困ると言っておきながら………。博士も言っテいたように未来は変わル。私も同意しまス。つまり望月冬夜様からマスターに、空中庭園に先たどり着く未来が変わっタ………で、あるならそちらを優先しますガ、可笑しいでしょうカ?一応このコードの意味が解らなイ相手……本来なら望月冬夜様以外相手でモ好きにセヨと言われてマス」

「だ、そうだ。何の問題もないな」

「それにフレイズに備えて残したなら、より強いトーマが持つべきでしょうからね」

 

 シェスカの説明が終わり俺がバビロンを所有することになんの問題もないことが解る。さらにリーンが付け足してきた。あんま余計なこと言うな、このメスガキ共の中ではそうなってないらしいから……。

 

「冬夜さんは【玄帝】とも契約しました!今の貴方にだって、絶対負けません!」

「玄帝ってのはそこでふよふよ浮かんでるタラスクの餌にちょうど良さそうな亀か?」

 

 家の悪獣の餌に使えそうな空飛ぶ亀を指さすと、亀から怒気を感じる。此奴あれだろ?スリップで泣かされた奴だろ?タラスクだったら水吐いて推進力にして突っ込んでくるぞ。

 あの亀は魔法陣を広げられねぇみてぇだがそれならそれで回転しながら全方位に攻撃すりゃ良いのにしなかった馬鹿を得ただけで、俺より強い?

 

「………不愉快ね。トーマがこれほどの力を得るまでどれほど努力したかも知らないで、新しい玩具を手にして直ぐ強気になるなんて」

「ん?待てリーン。苦労はしたが強くなるには筋トレより喰う方が効率が良かった俺だぞ?努力なんてとても──」

「貴方は黙ってなさい」

「ハイ、スイマセン」




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二回戦目、そして圧勝

 ガキの屋敷の庭で向き合うガキと俺。

 しかし広い屋敷だな。何でも公爵家の子女を救い妻の目を治し毒殺されかかった王を癒やして犯人を捕まえて貰ったらしい。

 

「辺境の領地ならともかく、仮にも貴族に殺されかかった後に与えるレベルかね?しかも我が儘姫まで住ませて………そんなに殺されたいのか?何か理由があんのかね………例えば──」

「炙り出したい、とか?そのための囮………にしても第一王女、しかも唯一の子の許嫁にするのはやりすぎだし、ユミナの顔が本気なのよねぇ………ちなみに毒殺方法はグラスに毒が塗ってあった、だそうよ。ミスミドに罪を着せようとした割に偽装工作はいっさいなしだったとか……」

「は?検査官買収してワインに毒入れもしなかったのか?いや、それ最終的に誰でも解ったことだろ?」

 

 屋敷をみながらこの国の王族の迂闊さに、いっそ政治的な何らかの企みを疑うな。まあ、前回気まずげに顔を逸らした当たり、ないんだろうな?シャルロッテに言って、王家に政治の勉強させなおさせるか?

 シャルロッテの言葉ならむげに出来んだろ。なんなら俺の権限で宮廷魔導師やめさせりゃ、仮にこの国が戦火にまみれても平気だろうし………。

 

「あの、もう始めて良いですか?」

「ん?ああ、すまん。ちょっと考え事をな……」

『あらぁ、余裕のつもりかしら』

『その余裕もここまでだ』

『その喉笛、今日こそ喰い千切ってくれる!』

 

 ガキの言葉に正気に戻ると使い魔達がやる気だ。あれ、一応は神獣なんだよなぁ………向こうも何か殺す気らしいし、良いんだよな?好きにして──

 

「じゃあ、始めなさい」

 

 リーンの言葉と同時に、虎が飛びかかってくる。その喉を突かんで、指に力を込める。

 

『ぐぅ!?』

「とりあえずお前からだ」

『ぐあぁぁぁ!?』

「琥珀!?」

 

 爪を振るい逃れようとする虎の喉に噛みつく。毛皮は大して美味くないのでさっさと噛み千切るに限るな。そのまま剥き出しになった喉の肉を喰い千切って飲み込む。

 

「ふぅ、流石は神獣などと言われるだけあるな。もはや大した力は入らないが、味だけは極上だ………さて、虎より亀の方が食料に向いているが」

『調子乗ってんじゃねぇぞ!』

『喰らえ!』

「はっ!その程度、水遊びとかわんねぇよ!」

 

 亀と蛇が放った水を同じく水で打ち払う。神獣とはいえ、俺がこの五百年どれだけ喰ったと思っている。

 多少の苦労と狡が加われば、俺に敵は居ない。

 

『嘘ぉ!』

『馬鹿な!』

「実力差を見て解るようになれ……大方神獣などと崇められ王の座に胡座をかいていたんだろ?だから弱いままなんだよお前は………闇よ来たれ、我が望むは毒の吐息を持つ竜亀」

『ガハハハ!ひっさしぶりの出番だぁ!おおっとぉ?早速殺したい奴はっけーーん!』

「落ち着け」

『げぶら!?あ、兄貴何するんすか!殺して良いんすよね!?喰って良いんですよねぇ!?』

 

 出て来るなり毒の吐息を吐いて亀に突っ込もうとする家の馬鹿亀の頭を蹴りつける。かかと落としだ。上半身が地面に沈み下半身が宙に浮いたタラスクはじたばた暴れて、次第に地面がぬかるみゆっくりと倒れ始める。ズボ、と頭が飛び出て六本の足を何とか地面に着けた。あ、地面が毒沼になってる。後で直しとかねーと。

 

「俺がまだ喰ってねーんだよ。使うのは灼熱の方だ」

『ええ~、兄貴毒喰っても死なねぇじゃないっすか』

「自分から毒喰うとリーンが怒るんだよ。つーわけでオラ行け、スリップ」

『ヒャッホー!』

 

 タラスクの腹ににスリップをかけ蹴りつける。楽しそうに滑り出したタラスクはスリップのかかっていない六本足を器用に使い亀に迫る。さらにグルリと半回転して水を吐き加速する。

 

『は、速い!?』

『ぐぁ!』

 

 ドゴォ!とダンプカーが正面衝突したような音を立てて亀が吹っ飛ぶ。その甲羅には罅が入り、しかしタラスクは無事だ。さすがリヴァイアサンの子………。親も親で硬かったからなぁ……。

 

「ま、あっちは亀どうし、こっちは人間同士楽しもうぜ」

「あ、アクセル!ブースト!クイック!」

「それは通じなかったろうが」

『うんめぇぇぇ!この亀、うめぇぇよぉぉぉ!』

『ぐああぁ!この、若造が───!あ、主よ、安心てください……我が障壁は、健在──うぐぅ!?』

『物理攻撃なら、ドラゴンにだって破れないわぁ………あぐぅ!』

「………黒曜、珊瑚……ありが──」

 

 俺が殴りつけると障壁が砕け拳が腹にめり込む。ガキはそのまま吹っ飛び塀にぶち当たり瓦礫に埋もれる。

 

「冬夜!」

「冬夜どの!」

「「冬夜さん!」」

 

 ドラゴン程度の攻撃に耐えられるから何だってんだ。こちとら200年ほど前に聖域から抜け出て好き勝手やろうとしていたドラゴンの群を余さず喰ってるんだ。さすがに古竜(エンシェント)が数匹混じってたから死にかけたがな。でも、おかげで全部力に出来た。

 

「タラスク、俺も喰う。代われ」

『兄貴、どうぞ』

 

 蛇と亀もなかなか美味かった。

 

 

 流石に殺すのは面倒なことになるだろうから回復魔法をかけておいた。

 

「まあ、分かりきった結果ね。玄帝だがコクヨーだか知らないけど、トーマにあっさりやられた虎と同格なだけですもの」

 

 つまらないというように肩をすくめるリーンをメスガキ共とメイド達が睨みつける。リーンはふん、と鼻を鳴らした。

 

「1日2日で追い付ける強さじゃないのよ。トーマは最強になるために、どれだけ死にかけたと思っているの?本当……貴方どれだけ死にかけたか覚えてるのかしら?」

「………リーンと一緒に住んでた間は………100回?」

「15242よ、私が把握している100年だけでね」

 

 ギロリと睨まれる。そんなに死にかけてたのか、まああの頃弱かったしなぁ……。

 

「で、でも!だからって、偉そうにするのは違います!500年も生きていれば誰だってスッゴく強くなれます!冬夜さんだって、500年も若いまま生きていたら………」

「長生きすれば強くなれるなら、妖精族がとっくに世界をものにしてるわ。500年鍛える?それを続けられるものがどれだけいるのかしらね?」

「まあそれに、俺は狡だからな。500年生きて、鍛えても俺と同じような強さにゃなれねぇよ」

「そうね。普通、死にかけて、殺させかけて、負けて、逃げ延びて、それでもまた強い奴や圧倒的な数の群に挑める奴なんて、いないもの………少なくとも私には冬夜にそれが出来るとは思えないわ。だって、彼は弱い奴としか戦ってないじゃない」

「そ、そんな事───!」

「それに、良く解らないけど冬夜も何か狡をしているんでしょう?急激に強くなる何かを………トーマだって急激にでこそ無くても人の限界を超えられる能力がある」

 

 これがなけりゃ俺はとっくに死んでるものな。

 

「でもトーマは、それをズルいと思って、最強を目指したわ………自分と同じぐらい強い奴が、自分と同じように狡をしていると思われるのはあんまりだ、そういって、狡をしているんだから仕方ない、そう思わせる程強なるって………本当、バカよね」

「ば、ばか……」

 

 いやだって俺に迫るほど強かったり同じぐらい強かったり俺より強かったりして、俺みたいに狡をしているからだなんて言われたらそいつの努力が報われねーじゃん。だったら俺は、誰にも勝てないレベルになって、狡をしたら彼処まで強くなるって思わせねーと。

 

「冬夜のそれも、狡でしょう?だったら同じぐらいの強さを持つ奴が現れて、そいつまで狡してるって言われないように鍛えなさいな………まぁ、無理でしょうけど。冬夜ってその時その時で生きて1日先のことすら見てなさそうだし。それに冬夜にトーマみたいな命懸けの修行しろって言ったところで適当な理由付けて逃げるに決まってるわ……」

 

 リーンはそういって歩き出す。俺も慌ててその後を追った。



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嵐竜、そしてフレイズ

「ふぅ、儲け儲け」

 

 ベルファストに来て初の冒険者活動はミスリルゴーレム。

 2体居たが取り敢えず中枢核ごと切り裂いた。ここが一番美味いんだが討伐部位だからなぁ………あ、一個は食えるな。うん、美味い。ついでにミスリル自体も喰う。

 さて、残りは一体。殴りかかってきたが腕を竜の鱗で覆い、すぐさまオリハルコンに変える。

 

「───!?」

「砕けろ」

 

 オリハルコンの鱗で覆われた腕で胸を貫き中枢核を引き抜く。こっちは無傷。こう言うのは傷がないと高く売れるんだよな。

 そういや俺の全財産って幾つだっけ?500年ぶん貯まってるからなぁ………少なくとも金に困った事は無いが……。

 

 

 

 

「ただいま」

「お帰りなさい。速かったわね……さっきユミナが来てたわよ」

 

 ギルドで換金してリーンの下に戻る。ん?我が儘姫が来てた?何しに来たんだ?何か新しい神獣と契約したからまた戦え、とか?

 

「バビロンの遺産を公平に探しましょう、ですって……偶然見つけたならともかく、情報をつかんだら共有しろ、と。勝手よね……どうする?」

「答えてやる道理はない………が、まあバビロンは元々あのガキのために残されたらしいしな。義理ぐらいはあるんじゃねーか?まあ、一度だけだな。それ以上は譲歩しない」

「優しいのね……そういうところも貴方の魅力だと思うわ」

 

 クスクス笑ってくるリーン。優しい?単になんか文句が五月蝿そうだからだ。

 

「それじゃあ早速……… 場所はサンドラ王国の南東、ラビ砂漠よ」

「何だ、もう情報掴んでたのか」

「昔、砂漠の中にあった古代遺跡に、ニルヤの遺跡と同じ、六つの魔石が埋め込まれていた石柱があったそうよ? 今は砂漠に飲み込まれて砂の下らしいけどね」

 

 砂漠か、海の底の次は砂漠。5000年前の地形は不明だが、未来を予知できる以上知っててそこに置いたはず。嫌がらせか?

 

「ちなみに冬夜達はもう向かったわよ」

「教えたのか?」

「貴方なら一度だけ許可すると思ってね。それに、別に今から追いつけるでしょう?」

「「庭園」を使いますカ?」

「それ使うと文句言われそうだからな。それに、もっと速い奴がいる………闇よ来たれ 我が望は嵐に住まう竜 リンドヴルム」

 

 片手を上空に向けると、上空に魔法陣が現れそれを雲が覆う。あっという間に雷雲となり、渦巻きその中央から稲妻をまとったドラゴンが現れる。

 鰐のような口に鋭い牙、鷲の前足とライオンの後ろ脚というグリフォンのような身体に、先端が鏃のようにとがった長い竜の尾。背中には蝙蝠のような翼が生えておりバサリと羽ばたけば雲が揺れ動き強風が吹き荒れる。

 

『おお!我を呼んだか!?嵐を呼び起こすこの我を!良いだろう、何が望みだ?殲滅か?全滅か?よし、滅ぼそう!』

「滅ぼさねーよ─………マジックアップ………ハイ・サーチ、バビロンの遺産、ラビ砂漠………よし、っと。リンドヴルム、今からお前に俺の記憶の一部を送る。そこまで飛べ」

『む、滅ぼさぬのか。我はいっこうにかまわん!道中あるであろう街や自然はどうする?壊すか?』

「壊すな。リーン、乗れ………シェスカは庭園で追ってこい」

「リンドヴルム………トーマ、私をしっかり抱きしめてなさい」

「おヤ、ドラゴンの上でナンて………私もぜひ連れて行っテください」

「リンドヴルムははえぇから振り落とされないようにするだけだよ。つー訳で行くぞリンドヴルム」

『承った!ヴェハハハハ!』

 

 ごぅ!と翼を羽ばたかせ高速で空を飛ぶリンドヴルム。景色があっという間に流れていく。

 俺の世界じゃ流星や稲妻の正体扱いされてて、俺が召還した此奴は嵐を纏って現れるから稲妻と勘違いされる。障壁を張って暴風をしのぎ無属性魔法「ベクトルインペル」でのしかかるGを調整する。力の向きを操る某学園都市最強と類似した能力だ。これを使えばのしかかるGの殆どをそらせる。

 とはいえ高速飛行には変わりない。リーンが胸元のポーラを落とさぬようにギュッと力強く抱きしめてくる。

 

「………リンドヴルム、速度上げろ」

『ヴェハハハ!任せろ!』

「え、ちょ──きゃああああっ!?」

 

 

 

「信じられない!貴方ねぇ、少しは同乗者の配慮をしなさい!」

「ご、ごめんなさい……」

「………その、まさかと思うけど私に抱きついてほしくて速度を出させたの?」

「……………」

 

 図星だったので何もいえずにいるとリーンがニヤリと笑う。

 

「ふぅん……?告白して、まだ返事もしてない相手に、ねぇ?まるで盛りのついた犬ね……やり方も小狡いし、もう少し堂々とできないの?」

「抱きしめて良いか?」

「………………駄目よ………まだ……」

 

 と、頬を赤くして顔をそらすリーン。

 延ばしかけた手が虚空をさまよう中不意に俺とリンドヴルムは何かの気配を感じる。

 振り向くと全身水晶のような巨大なマンタが中を泳いでいた。頭…というか体の先頭部分にアーモンド状の頭部らしきものが二つ並んでおり、その中にはオレンジに光る核のようなものが見える。

 

「あ、フレイズよあれ」

「あれが?」

『おお!感じるぞ、敵意だ!敵だ!ヴェハハハハ!ならば我も敵として合間見えようぞ!』

 

 マンタの意識が此方に向いた瞬間リンドヴルムは全身から稲妻を放ち雷雲に流す。ゴロゴロと雷雲から音が鳴り響き万雷の光がフレイズに迫る。

 

「─────!!」

「硬いな。ん?いや、リンドヴルムの攻撃、何時もより弱い?」

「魔力を吸ったんでしょ。リンドヴルムは己が生み出した嵐の中で自然発生した雷を操るけど、それも魔力を伴い威力を上げているから」

『なんと!我が力を糧とするとは、つまりそれは我との戦いをそこまで延ばしたいと言うとか!?何という配慮、我も貴殿との戦いを楽しみたいぞ!ヴェハハハハ!』

 

 と、リンドヴルムが感激している間にマンタの左右の核が光り、光線が発射される。リンドヴルムがゴバァ!と雷を吐き出すと中空でぶつかり大爆発を起こす。

 咄嗟にはなったとはいえリンドヴルムのブレスと互角か……。いや、発言からしてリンドヴルムは加減してやがるな、戦いを長引かせるために。

 

「因みに魔力ってのはどの程度吸えるんだ?参考として知っておきたい」

「知らないわ。自分で試しなさい」

「そーするよ……久々の詠唱魔法だ。日輪よ来たれ 世界を照らし 温もりを生む恵みの光よ 大河を枯らし 地面を割る殺意の光よ 今この場にその権威を示せ メギド」

 

 カッ!とマンタの上に巨大な炎の球体が現れる。マンタの表面が溶け出す。魔法で間接的な攻撃はできると聞いたが、周囲の温度を上げるのも有効か。結界を張ってる俺たちはともかく砂漠も溶けだした。

 と、マンタはメギドの中に突っ込んでいく。魔力を吸う気なのだろう。そして、核が弾け飛んだ。

 

「………あれ、終わりか?」

『何たることか!我が戦友よ、我が主の手に掛かるとは……それも仕方なきこと、より強い者が世を統べる。さらばだ戦友、我は貴殿のことを忘れない!』

 

 此奴のことだから三日後には忘れてんな。んなことより残骸回収しねぇと。

 

「水よ来たれ」

 

 取り敢えず地面を冷やさねーとな。ジュウウゥゥという音を立て固まっていく地面。落ちたマンタのかけらをヒョイと拾いパクリと食べる。うーん、美味いんだが物足りないなぁ。あ、これ核の部分だ。味違うかな?あ、結構濃い。

 

「うわ、君フレイズ食べるんだね」

「何だ、さっきから見てるだけかと思ったら漸くきたか」

「────!?」

「あれ、気づかれてた?」

 

 不意に声をかけられリーンがビクッと振り向く。そこには白髪にマフラーをした男がにこやかな笑みで立っていた。マンタの気配を感じた当たりで此方を伺っていた気配だ。

 

「はじめまして。僕はエデン……君、凄く強いね」

「俺はトーマ。ま、俺は狡してるからな。俺に追いつけるのは狡してる奴だけだ……と言える程度にはまあ狡と努力をしている」

 

 努力してないというとリーンが怒るから、今回はそういう。

 

「お前フレイズについて何か知ってるか?知ってるなら教えろ」

「それは私も興味あるわ」

「良いよ。フレイズはね、フレイズの「王」を探しているのさ。僕と同じ目的だよ」

「…………「王」?」

「おっと、そろそろ行かないと。ちょっと約束があるんでね。じゃあトーマ、また会えるといいな」

 

 エンデはそう言うとその場から消えた。瞬間移動か?



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透明、そして工房

「怪しい子だったわね」

「いや、あれは子じゃないな。たぶん俺の10倍は軽く生きてる」

 

 リーンの言葉に俺が訂正する。あの凄く美味そうな男、見た目こそあのガキと同じぐらいだったがかなりの年代物だ。何百年も新鮮な肉を食い続けていると臭いだけでその生物の健康状態、年代、性別などが解るようになってきたのだ。どぎつい香水つけてる奴は別だが……。

 

「ふぅん?ますます怪しいわね……」

「ま、取り敢えず敵ではないだろ」

「それはどっちの意味で?」

「俺の方が強い。彼奴が強さを隠すのがよほどうまいなら別だが」

「上出来よ。頭を撫でて上げようかしら?」

「良いのか?頼む」

「……………本当、大きくなってもそういうところは変わらないんだから」

 

 と、リーンが手を伸ばしてきたので膝を付ける。頭を撫でられるのは、本当に久し振りだ。五年ぶりだろうか?相も変わらず、俺はこの一時が永遠に続けばいいと願う。

 

 

 

 目的地に着いたが何もない。砂の下に埋もれているのだろう。リンドヴルムがその場にいるだけで嵐になり砂が巻き上げられていくので直ぐに見つけたが………。

 円柱状の結界を作りその中を俺とリーンで降りる。結界の外はすげぇ砂嵐だ。リンドヴルム、帰すか。

 

「というわけで戻れリンドヴルム」

『了解した!次こそ殲滅を望むが良い!』

 

 そう言いながら頭上に現れた魔法陣の中に入り元の世界に帰るリンドヴルム。俺とリーンは材質不明のドーム状の家一件ほどの大きさの物の前に立つ。扉はあるが取っ手はない。魔力でも流し込んでみようと手を伸ばせば向こう側へ突き抜けてしまった。リーンと顔を見合わせ、手を取り中に入る。が、リーンを入れようとしなかったので扉をぶち壊す。

 遺跡の中には薄ぼんやりとした明かりの中に六つの石柱と転送陣がある。

 

「これが入り口か………そういや複数同時に転移出来んのかね?」

「出来なくても向こうでゲートを開けばいいでしょう?」

「それもそうか。んじゃさっそく」

 

 魔力を流し、念の為リーンと手を繋いでから最後の魔力、無属性の魔力を流す。やはり視界が光に包まれた。

 目の前には「庭園」と同じような風景が広がっていた。一つだけ違うのは、正面に大きな建物が見えるってことだな。真っ白いサイコロのような立方体の建築物が建っている。

 その建物の方へ向かう道を歩き出そうとすると、突然道を遮るかのようにガキが飛び出してきた。

 

「そこで止まるでありまス!」

 

 右手を翳し、僕をその場に留めようとする。少女はオレンジの髪を両サイドでお団子状にし、リボンの付いたシニヨンカバーでまとめていた。白い肌と金色の瞳はシェスカと同類であることを示しているようだ。おそらく彼女がここの管理人なのだろう。歳はシェスカよりも下に見える。身長が低いからだろうか。

 

「ようこそ、バビロンの「工房」へ。小生はここを管理する端末、ハイロゼッタでありまス。ロゼッタとお呼びくださると有難くありまス。それと、どちらの魔力で来たのかモ教えて欲しいでありまス」

 

 そう、キチンとリーンも来ていた。まだ手は離してないがな。取り敢えず俺が手を挙げる。

 

「ここから先は「工房」の中枢でありまス。現在「適合者」以外は立ちいることを禁じられているのでありまス!」

「一応、トーマはシェスカからは「適合者」と認められたのだけど……はぁ、にしても……「工房」かぁ」

「なんだかイラッとするでありまス………シェスカ……フランシェスカでありまスか? なるほど、すでに「空中庭園」を手に入れているのでありまスね。それならば話が早い。「適合者」の資格があるか否か、試させてもらうでありまスよ」

「そこから一歩も動かずに、小生のぱんつの色を当てるでありまス!」

「……………何言ってんの此奴」

「風よ吹け、舞い上がる旋風、ワールウインド」

「何してんのお前」

 

 いきなり分け解らんこと宣ったガキ型ロボットロゼッタの言葉に混乱しているとリーンが風魔法を使ってスカートをめくろうとする。が、失敗。何か魔法がかかっているのだろう。

 

「仕方ないわね。一歩も動いちゃだめなのはトーマだけ?私か直接見て教えるとか」

「その手は想定していなかったでありまス!反則扱いにしまス」

 

 だ、そうだ。何かちょうど言い魔法は………

 

「リフレクト」

 

 反射魔法リフレクト。あらゆる物を反射させるこの魔法を上手く使えば光を反射させる簡易鏡が出来る。床を鏡にしてロゼッタのスカートの中を確認する。

 

「掃いてない?いや、これは……ビニールみてぇな………透明」

「正解でありまス! あなたを適合者と認め、今現在より機体ナンバー27、個体名「ハイロゼッタ」は、あなたに譲渡されたでありまス。末長くよろしくお願いするでありまス!」

 

 シースルーどころじゃねーな。つかリーン、そんなゴミを見るような目で見るな。

 取り敢えず工房の四角い建物は小さな四角い塊で形成されていて、形を自由に変えて色んな道具になるらしい。物体もコピー出来るとか………実は俺、あんま使用したこと無いけどクリエイトっていう無属性魔法持ってるんだよなぁ。アナライズ使えばコピー出来るし、ぶっちゃけここ要らなかったな。

 因みにクリエイトの使い手はかなりの魔力量の持ち主で、他の属性も持ちしかもエンチャントを持っていて魔剣を創ったりモアイみたいな巨大な顔面の像を落としてきたりと厄介な相手だった。アナライズ使いは魔力量は少ないが戦闘の癖を見抜かれたり俺自身が知らない、ダメージが回復しきっていなかった場所を的確につく格闘家だった。こいつも厄介極まりなかったな。

 この二人は取り敢えず殺すことなく腕と足の一部をそれぞれ喰った。レア物だからとても美味かったが、彼処まで努力で強くなった奴見ると殺したくなくなるんだよな。だって、素直に尊敬するし……。

 

「取り敢えずベルファストに持って帰るか。移動させろ」

「了解でありまス!あ、そうだ……ここではフレームギアも造っていたりしましたが、残念ながら今はないのでありまス」

「フレームギア?」

「フレイズとの決戦兵器でありまス。世界の危機に博士が立ち上がり………使う前に消えまシた」

 

 世界の危機?あれが?

 先程のマンタを思い出し首を傾げる。あんなのが数万現れたところで、危機となるのは生命だけだろ。世界の危機ってのは、もっとこう……

 

「どうしたの?」

 

 昔のことを思い出していると首を傾げた俺を不思議に思ったのかリーンが声をかけのぞき込んできた。

 

「………世界の危機って聞いて、前の世界を思い出したんだよ」

「ああ、貴方の言う前世のことね。そういえば、私貴方の死因を聞いてなかったわ」

「大地が揺れ砕け、空が燃え、ガハハと笑いながらおっさんが腕を振るい全てが吹き飛んでって……何だったんだろうなあれ?今まで相手してきた妖怪共とは比べ物にならない力を感じたが………俺の世界どうなったんだろ?みんな無事かね?」

「妖怪?」

「ああ、俺の神社、妖怪退治が生業だから……妖怪ってのは魔物みてぇな奴らで、退治した後魂が転生しないように食うことが出来る一族なんだってよ俺等……はぁ、親父生きてるかな?後四年しか生きられなかったのにあんな理不尽で死ぬとか冗談じゃねーぞ」

 

 まああれだけ破壊された世界だと住むのも大変そうだが、親父なら生きてる限り上手くやるだろう。生きてさえいてくれれば、な……。

 

「取り敢えず冬夜達に今回の勝負に勝った事を………今回の勝負()()勝ったことを報告しましょう?意味なく砂漠を歩かせるのはかわいそうだもの」

「りょーかい」




トーマが上代刀磨だった時代に少し触れる

日本人ですが冬夜とはまた違った世界の住人だったわけですね

トーマの世界に妖怪が居たものトーマが転生したのも喰えば喰うほど強くなる力を持ってるものだいたい全部神って奴等が悪いんだよ!


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日本人、そして別の世界

「こ、今回のは無効です!私達は、遭難していた人達を助けてたら!」

「そーなんだ」

「ぶふっ!」

 

 取り敢えずガキの屋敷に行き報告すると我が儘姫が何か言い訳して、適当に返すとなんかガキが笑い出した。

 

「冬夜殿、何を笑ってるでござるか?負けてしまったのでござるよ?」

「た、だって遭難がそーなんだって、古くて懐かしいなぁって……」

「?今の何処に笑う要素が?」

「へ?」

 

 双子妹の言葉にガキが首を傾げる。此奴、やっぱり日本語を理解してるな……そのくせ、此方の世界の言葉を全く理解してないな。どういうことだ?

 知識を植え付けられた?誰に?いや、何に?

 と、ガキが何やら考えてからジッと此方を見てくる。

 

「……女を囲って、次は男か?俺にその手の趣味はねぇぞ」

「僕だってないよ!」

「と、冬夜さん……」

 

 双子妹が何やら顔を赤くしている。此奴、腐ってやがるな。

 リーンに移すなよマジで……。

 

「あの………もしかしてだけど、君って──」

「ああ?」

「あ、貴方は日本に住んでたんですか?」

「ああ」

「やっぱり!」

 

 と、叫んで立ち上がるガキ。その目には仲間を見つけたような喜びが見て取れる。

 

「スマホの扱い方知ってたからもしかしたらって思ってたんだ。まさか同郷に会えるなんて……!」

「と、冬夜さん?その、同郷というのは?」

「あ、うん。僕もこの人も日本出身みたい………今の言い回しだと日本語も理解してそうだし、名前もたぶん本当はかみよとうま、ですよね?」

「ああ」

「そっかぁ……あれ、でも500年前にスマホ?それに見た目も……金髪に茶色どころか黒……」

「似たような世界だからって同じとは限らねーだろ。単純に類似点が多い世界なだけかもしれねぇぞ?例えば俺の故郷だと2011年に富士が吹っ飛んだ。その時金色の毛を持つ巨大な九尾の狐が暴れ回っている姿がネットを拡散して世界中に知れ渡った」

「何そのファンタジー!?2011年にそんな事件無かったよ!?」

 

 なら類似点が多いだけの別の世界なんだろうな。いやぁ、あの頃は大変だったわ。一種の信仰の域に達した到達した伝承『九尾の狐』だからなぁ。念動力も狐火も桁違い。もはや別物だった。まあ戦ったのは親父ですけど。俺まだ戦い方習ってなかったし……。習う前に転生したからな。

 でも、あの九尾の狐はクソやばかったけど、それでもあの世界を破壊していたおっさん……取り敢えず破壊神と呼ぶか……あの破壊神に比べたらかわいいものだしなぁ。

 

「ちょっと冬夜さん!?何でそんな親しげに!その人達は敵ですよ!」

「え?別に敵じゃないでしょ?どっちも僕等からつかかったわけだし……そりゃ、ユミナ達が馬鹿にされたのは悔しかったけどあの後国王陛下からも軽く考えすぎていたって謝りに来たじゃないか」

「っ………冬夜さんは、私と許嫁になったことが間違いだと………?」

「ああ!ち、違うんだよ!ただ、その……考えなしではあったのかなぁって……ユミナが僕を選んでくれたのは、素直に嬉しいよ」

「………何だこれ。まあ良い、俺は帰るな」

「あ、うん。またね……良かったらトーマ……さんの故郷の日本のことも教えてください。文化の違いとか、細かい相違点とか知りたいし」

「……………気が向いたらな」

 

 

 

 何というか、薄気味悪いガキだな。

 

「不気味な奴だったな……俺、彼奴苦手だわ」

「あら、前からじゃないの?とっくに嫌いでしょう?」

「俺が嫌いなのは俺に敵意を向けてくるあのメスガキ共みてぇのだ。あのガキは気に入らない……お前にそこそこ気に入られてるし、狡して強くなってるくせにその力を自分の力だなんて厚顔無恥に言い張る……けど、今回は違う。何なんだ彼奴?

 その時その時に流されて生きてやがる。普通誰だって深く考えることを深く考えない割に、当たり前のことを難しいことのように捕らえてやがる。気味が悪ぃ………俺は彼奴が苦手だ」

「………ふぅん。なのに、懐かれちゃったわね」

「まあ嫌いならともかく此方が一方的に苦手にしてるだとか、個人的な理由で気に入らない相手を無碍にする気はねーよ。悪いことしてるわけでもねーんだ。人には人の価値観があるのは仕方ねぇことだしな」

 

 どのみち今度ロゼッタに会わせなくちゃだしな。本人は俺に従うとか言ってたが、元々はガキのために用意されたんだから一度目にさせるのが遺産を残したレジーナとか言う奴への筋だろう。まあバビロンは俺が貰うがな。




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儲け話、そして拒否

「初めまして望月冬夜殿!ハイロゼッタと申すものでありまス!」

 

 と、ガキに敬礼するロゼッタ。

 

「早速小生のパンツの色を現マスターより早く正解するであります!」

「何で!?」

 

 本当に何言ってんのこのロボット。これ造った奴、絶対馬鹿だろ。間違いない。天才だろうがなんだろうが馬鹿だ馬鹿。

 そんでガキはロゼッタの透明パンツに鼻血を出してから正解した。俺より遅く。

 

「と、トーマさんもあれ見たんですか?」

「初な童貞じゃあるめーし、見たところでどうともねーよ」

「ふぅん………」

「───!?」

 

 鼻を押さえながらガキが言外に恥ずかしくなかったのか聞いてきたので素直に応えてやると、後ろから殺気を感じた。振り向くとリーンがジト目で睨んできた。

 

「童貞じゃない、ねぇ………いえ、良いのよ。500年もはぐらかしてたんだもの、文句を言う筋合いは無いわ」

「あ、ちょ……まっ───」

「トーマは、顔立ちもと整っているし強さもある。それは、女だって放っておかないでしょう。トーマを繋ぎ止めたい国が女を寄越すかもしれないし、最悪あなたの血を引く子だけでも欲するでしょう」

「いや、子供はいないと思う……最後にしたのは152年前だし………あれ、でも俺今は上代一族の血を引いてないし、平気か?」

「良く解らないけど、別に怒ってないわ。いい気分がしないだけ、ごめんなさいね」

「……いや」

 

 リーンの言葉に申し訳なさが入っているのに気がつき、俺はそれ以上何かを言うのを止めた。何とも言えぬ空気になってしまい慌てるガキ。何とか話を逸らそうとする。

 

「あ、そ、そうだ!「工房」って物を量産できるんでしょ?読書喫茶とかつくってみない?」

「読書喫茶?」

「色んなところから本を集めて、料金払って読み放題にしてさ。あと自転車の量産とかも……きっと儲かるよ。あ、もちろん自転車はともかく読書喫茶のお金は全部トーマさんが──」

「いや断る。そんなことのために「工房」使うかよ」

「…………え?」

 

 せっかく儲かるのに何で?と首を傾げるガキに俺は呆れたように肩をすくめる。いや、実際呆れているが……。

 

「過度な発展は衰退を生む。例えば自転車だが、見せてもらったがありゃモデリングを使ったな?俺も一応持ってるが……つまりあれを実質作れるのは俺とお前……後、工房の管理者であるロゼッタだけか。で、ロゼッタは俺の許可なく工房を使わない」

「その通りでありまス」

「えっと、それが何?」

「これを作れるのは俺等だけ。何かがあって俺等が死んだら終わり。そんな商品売れるかよ」

「死んだらって、そんな大袈裟な」

 

 ははは、と笑うガキ。大袈裟、ねぇ。魔獣蔓延るこの世界で、何でそんなに楽観視できんのか理解不能だ。チート持ちだろうとそれを越える存在がいるのは体に教えてやったはずだろうが。学んでねーの?本当に気味が悪い奴だ。

 

「まあ販売するとしたら金貨12枚ってとこか」

「え?流石にそれは高いんじゃ………」

「こっちの住人が自転車を再現すると人件費含めてかかる金額がそれだ。それより少し少なくしたんだよ。良いか、売って良い商品はその世界で再現できるレベルにしろ。んで、それより少しだけ安く売る。それが量産の条件だ………読書喫茶に関しては入場料はこれぐらいだな」

「ええ!?た、高すぎない?ぼったくりは良くないよ……」

「本屋を飢え死にさせないためにゃこれぐらいがちょうど良いんだよ。完結物をあえて数巻抜いて本屋に買いに行かせるとしてもこれぐらいだな。さらに安くしたいなら本屋の在庫と話し合ってラインナップを選ぶなら共営して一部の儲けを渡して──」

「ちょ、何で……?」

「そうですよ!せっかく冬夜さんが考えてくれた案なのにケチ付けるんですか!?」

「つけるけど?」

 

 何当たり前のこと聞いてんだ此奴。

 

「だって狡いだろ?」

「ず、狡い……?」

「例えば自転車……これをこっちの世界で作るとまず鉄をパイプにして、さらに左右対称に曲げる……これがそもそも大変なことだな。材料費込みで人件費金貨1枚ってとこだな。本体は3枚……タイヤは鉄の部分が二つで2枚、ゴムの部分も二つで2枚。歯車とチェーンとか細かいパーツは4枚程。後はペダルとかその辺……まあお前の自転車より雑に、あるいは脆くつくりゃ金貨10枚に押さえられるだろうが………普通はこの文明レベルだとこれぐらい。職人達が頑張って価値に見合う仕事をした結果だ………ボタン一つで大量生産なんて、それこそ頑張って作る奴らに失礼だ」

 

 まあ生産量が多けりゃそもそも他も造らんとは思うがそれこそ狡だろう。他人が頑張って稼ぐ金をボタン一つで得ることには変わりないのだから。

 もちろん必要なら量産するさ。例えばガキの持つスマホとか、もし量産できるなら各国の王やギルドマスター達になら売るのは止めない。一般化は止めるがな。絶対制作者が死ねば造れなくなる類だし。

 

「衰退するって言うのは?」

「文明ってのは少しずつ発展していくもんだ。他も真似しようとすれば出来るから、それより上を目指してな……だが突出しすぎた技術は追い付けないからと己の研磨を止めたり無理に追いつこうと粗悪品を造ったり、あるいは悪用したりもする奴が現れる。ロゼッタに会わせる前に話したと思うが、フレームギアとか良い例だな……俺はこれを出来る限り使う気はねーよ?盗まれて利用されたら困るからな」

「え?そうなの?勿体なくない?」

「まあフレイズが大量に現れりゃ、どうしても使用しなくちゃならねぇだろうがフレイズが全滅した暁には全て排除させるな俺なら。勿体ない?ロマンで平和が買えてたまるか。お前はもう少し考える頭をもて……」

 

 

 

 

「そういえば、冬夜がお金稼ぎに使っているショーギ、昔あなたに教わったわね。貴方は売らなかったけど……あれはあの時代の技術からでも再現できたと思うけど?」

 

 城の部屋地戻り、ベッドに腰掛けていたリーンがふと昔のことを思い出したのか聞いてくる。

 

「まあ、俺とリーンの間だけの秘密にしたかったのもあるが……単純に前世の知識で著作権だのなんだので金稼ぎたくなかっただけだ。ま、これもさっきの奴も俺の価値観だけどな。少なくとも工房は俺のなんだから俺の価値観を押し通したって問題ないはずだ」

「そういうと思ったわ」

 

 と、リーンが微笑み肩を竦める。と、笑みの形で細められた目が俺を見抜き思わず鼓動が高鳴る。

 

「にしても、貴方って既に経験済みだったのね」

「いや、だからそれは……!」

「言ったでしょう?怒ってないって。私に怒る資格なんて、無いもの………それでもまあ、気に入らないのよね。だから怒る資格をもらうわ」

「………リーン?」

 

 ゾクリと、ここ数百年感じた覚えのない捕食者に睨まれたような悪寒が走る。

 

「私と恋仲になりたい。そう言ったわね?500年前と、変わらず……私が欲しい?」

「─────!」

 

 言葉が出てこない。ただ、首を必死に縦に動かす。

 

「良いわ。私だって、貴方を子供として見れないし………嫌いではない。いいえ、好きだもの。付き合いましょう……」

「……良いのか?」

「良いわよ。500年、貴方が欲しかったものは()()にある。おいで、トーマ」

 

 両手を広げるリーンに、俺は無意識の内に近づき、ベッドに押し倒す。小さな体。力を込めれば、砕けてしまいそうな………いや、俺がやろうと思えばあっさり壊せてしまうだろう。

 慌てて離れようとすると、鼻孔を擽る甘い香りに気づけば顔を寄せていた。その頬を、リーンの手が撫でる。

 

「まるで獣ね。そんなに私が欲しいの?」

「………ああ」

「素直で可愛い子。良いわ、全部上げる……代わりに、私が貴方から()()()()()()を頂戴?」

 

 そう言って微笑むリーンの顔は、何処までも自信に満ちていた。俺が差し出さないなどあり得ないというような自信たっぷりで、美しく、俺がずっと手にしたかった笑み。

 

「もちろんバビロンなんて得てしまった貴方が、今後貴族王族共に目を付けられないはずがない。()()()()()()も強要されるでしょうね………それは、止めないわ。だって、どうせ貴方は私の物だもの……さあ、私が()()()()()は、解るわね?」

 

 そして当然、俺が彼女の言葉に逆らうはずがない………




この後めちゃくちゃ(略


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国のトップ、そして建国計画

「昨夜はお楽しミでしたネ」

「めでたいでありまスな!」

 

 起き抜けいきなりシェスカとロゼッタがどっかのゲームの宿屋みたいなことを言ってきやがった。スクラップにしてやろうか此奴ら……。

 

「あら、良いじゃないの。からかわれようと事実なんだから」

 

 と、俺の隣に寝ていたリーンがクスクス笑う。シーツだけで体を隠した彼女の姿に昨日の行為が夢でないと改めて認識させ、頬が熱くなる。

 

「ふふ。何を赤くなっているのかしら?もうとっくに初体験を終わらせてたくせに、今更恥ずかしいの」

「そりゃ、相手がお前なんだ。意識するなってのが無理な話だ」

「あら、そう?」

「朝から見せつけてくれるでありまスな」

「まあ500年来の恋ですシ」

 

 うるせぇよ外野。と、俺がシェスカ達を睨むが隣のリーンは楽しそうなので仕方なく怒りを収める。シュルシュルと衣擦れの音が聞こえ振り返るとリーンが着替えていた。

 髪を何時もの様に両側で結わえる。

 

「───ッ!!」

 

 が、歩き出そうとして倒れる。そのまま赤い顔で此方を睨んできた。これは、まさか──

 

「す、すまん。リーンは初めてなのに」

「良いのよ。痛いって言うのは、知ってたから。取り敢えず今日は大人しくしてるわ」

「そうした方がいいな………ん?」

 

 扉がノックされる。着替える時間がなさそうなのでクリエイト服を作り出しリーンに目で訪ねてから扉を開ける。ベルファストの兵が立っていた。

 

「国王陛下のお客人がお呼びです。着いてきてもらえないでしょうか?」

「………国王?」

 

 あの若造が俺になんのようだ?まあ良いか、取り敢えず言ってみるか。

 

「リーン、ちょっといってくる。それと、ロゼッタ、着いてこい」

「私でありまスか?」

「勘だ」

 

 

 

 

 兵に案内され連れてこられたのは、何とガキの家だった。何だ?我が儘姫が何か言ってきやがったか?その願いを聞いて、だとするともうこの王国に未来はねーな。

 

「おお、来てくれたかトーマ殿」

「やはり貴方でしたか。お変わりなく……」

「ん?ああ、誰かと思えばあの時の若造か。確か、ゼフィルスとか言ったか?老けたな、お前は」

「貴様、無礼な!」

「よせ、キャロライン」

 

 案内された部屋にはいるとベルファスト国王と昔冒険者をしていた頃出会った王子の面影を残す男、女騎士と我が儘姫と見知らぬメスガキが居た。

 

「若造……?あの、お父様……此方の方は?」

「あの方の名はトーマ・カミヨ。数十年前、兄弟の放った刺客に殺されそうになったところを助けていただき暫く護衛してくれた方だ」

「え、数十年前……?え?」

 

 と、俺の顔を見てくるメスガキ。銀髪のガキだな、あの双子の関係者か?って、だったらこんなところにいねーか。

 

「そいつはお前の娘か?」

「うむ。嫁にどうかね?皇帝はこの子の兄が継ぐ。皇族にはなれぬが公爵の地位は用意できるが?」

「お、お父様!?」

「いるかそんなガキ。で、王同士の会談にそこのガキが居るのにはキチンと意味があるんだろうな?」

 

 と、ガキを見ると我が儘姫と銀髪姫がなにやら睨んできた。何だ、あっちもこのガキに惚れたのか。皇族という身分でありながら……。

 

「そうか。残念だ」

「お父様!私は、あんな名も知らぬ方と結婚など」

「まあ落ち着きなさい。彼がお前を欲しがらぬのは、予想できた。ずっと惚れている相手が居るそうだからな」

「んで、そんなガキの紹介のために俺を呼んだ訳じゃねーだろ?仮にもレグルスはベルファストの敵国だ。一緒にいる以上、何かあるんだろ?」

 

 若造のフルネームはゼフィルス・ロア・レグルス。俺の記憶が確かならレグルス帝国の皇帝だったはずだ。

 

「うむ。その説明は冬夜殿からしよう」

 

 

 

 

 

「お前やっぱり馬鹿だな」

 

 何なんだ此奴?何で敵国の皇帝と姫と騎士を自分が所属している国の王に内緒で連れてきてんの?アホなのか?

 

「仮にもベルファストの人間が───」

「え?トーマさん、僕ベルファストの人間じゃありませんよ?住んではいるし、王様とも親しい仲ですど、国家間の問題となるとまた違ってきますし」

「……………お前それ本気で言ってんのか?ベルファスト国王、お前はそこんとこどうなんだよ?きちんと勉強で学んだことを考慮した上で答えろ」

「う、うむ……我が国の土地に住み、ユミナと婚約関係にある冬夜君を、この国とは無関係などとはとても言えない」

「え、そうなの?国に縛られるのって何かやだな……」

「なら今すぐ我が儘姫と別れることだな。んでこの屋敷を捨てろ」

 

 我が儘姫が睨んできたが知るか。文句なら国家反逆を行ったてめぇのオスに言えっての。

 

「しかし反乱ねぇ……俺はお前にあのやり方を続けると同じ思考の奴らが集まり、お前が老いれば見限るような臣下が増えると忠告してやったはずだがな」

「うむ。すまない、無駄にしてしまった……」

 

 何でも病気で弱ったレグルス皇帝に取って代わろうとバズール将軍が反乱を起こしたらしい。たまたま買い物に来ていたガキがクーデターと遭遇。銀髪姫を助けてその銀髪姫に頼まれ皇帝も助けにいってバズールに遭遇、バズールは魔法無効化能力を持つ悪魔を召喚。さらには悪魔を維持するだけの魔力を補う「吸魔の腕輪」という魔力を吸収する腕輪に、物理攻撃から身を守る「防壁の腕輪」を持ってるらしい。

 

「確か、「蔵」にそのような能力を持ったアーティファクトがあったような気がするんでありまスよ」

「…なんだって?」

「なにせ5000年も経っているでありまスから、「蔵」が今も無事とは限らないでありまス。何かのトラブルで墜落し、そこからアーティファクトや財宝などが流出したということも……」

 

 なるほどな。ま、俺はまだ蔵の管理者じゃねぇから関係ないな。

 

「で、話をまとめると俺にそのバズールを殺してこいってことで良いのか?」

「うむ。貴方に頼みたい」

「な!?こ、皇帝陛下!冬夜さんの言葉が信用なりませんか!?」

「彼ならどうにか出来る、だったかな?疑いはしない……だが、頼るかと言われれば別だ。これは政治的な要因も絡んでくる………」

「この騒ぎ終わらせた報償に貴族にでもするか?」

「いや、国主にする」

 

 そう応えたのはベルファスト国王。

 国主?レグルス皇帝の顔を見る限り、お互い既に話しあって決めた結果か。つまりその国は国境に生まれるわけか。 

「正気か?二国の後押しで国を作る……一見友好関係を結んだ結果のように見えるが、互いが互いに監視する砦を置いたようにも見られるぞ?」

「そこは問題ない。此方からはルーシアを差し出す」

「こちらはスゥシィを………」

 

──貴方が、今後貴族王族共に目を付けられないはずがない。()()()()()()も強要される

 

 ふと、昨晩のリーンの言葉が思い起こされる。

 確かに言われたとおりになった。なった、が………なるの早くないか?

 

「な!?お、お父様!?」

「待ってください!ルーは、冬夜さんのお嫁さんに───!それに、スゥまで……何を考えているんですか!?」

「我が国の話だ。余所の国の者は黙っていてくれ」

「何を?もちろん私は、国のことを考えている。王だからな」

「…………スゥつうとあの時のちっこいのか?あっちはまあ、まだ勉強させ直せるが………レグルス皇帝、お前の娘はいらん。というか嫁すらいらん………と言っても、これはそもそも俺だけの問題ではねぇんだろうが」

 

 俺の言葉に此方をまっすぐ見てくる王二人。

 さすがに国の一大事に矢面に立たせる以上無名のままではいられない。いや、この場合俺を表舞台に立たせるために依頼して来やがったのか?

 

「が、何故このタイミングで?両国間の同盟なんざお前等で勝手にやってろ。それこそそこの我が儘姫を帝国の皇太子に───」

「私は冬夜さんと結婚するんです!」

「──くれてやればすむ話だろ?」

「我々が君の存在を無視できぬからだ。監視できる所に置きたい」

「言うようになったな小童共……だが、俺がそれに従うメリットは何だ?縛られるなんざ、デメリットしかない」

「まず、後ろ盾を得る。貴方が煩わしく思うであろう国の勧誘を防げる」

「その代わり、有事の際は縛られるがな」

「それでも自由が多いはずだ。ギルドマスターの一部の者しか知らぬ金ランクのままでは、動きにくいだろう?」

 

 きちんと調べたのか。ふむ………確かに俺は国の勧誘を避けるために金ランクであることを伏せていることが多い。そのせいで金が入りそうな仕事をあきらめることもあった。

 

「………リーンに聞いてみる。彼女が駄目だと言ったら、俺は断るぞ」

「彼女に惚れている、だったか。それは、何よりも優先するのかね?」

「当然。失って困る地位も、やらなきゃならない義務もない。好きにやらせてもらう」

「あ、あの………」

 

 と、ガキが手を挙げる。王二人と俺の会話に一区切り着いたからだろう。

 

「スゥやルーを結婚って……本人達が望んでないのに、可哀想じゃないですか?」

「「「………………」」」

 

 少なくともお前が何かを言う資格はないと思うんだがな。 




リーンとトーマの濡れ場をRー18で書くべきか、書かないべきか


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反乱鎮圧、そして新国家建国

「駄目よ」

「だとさ、諦めろ」

 

 話を聞きながらふむふむ頷いていたリーンは開口一番に拒絶した。ベルファスト国王とレグルス皇帝は何とかメリットを多く聞こえるように言ったつもりがあっさり拒否され固まる。トーマは予想通りなので特に思うところはない。

 

「確かにトーマの力は強大。欲しがる国、組織、個人に至まで、無数にいるでしょうね」

「だからこそ、王という座に………」

「手が出しにくいだけで手を出す輩が消えるわけではないわ。特に、ここ最近の権力者達は馬鹿が多いもの。自分が命令すれば従って当たり前なんて考える奴らにその考えが通じるとでも?」

「………む」

「まあ、こういう手も使われるでしょうね。予想はしていたわ………国にとっては大事なことだものね。だから国の大切な血筋が()()()()()()()()()()()()()()()()わ。でも、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()………」

 

 要するに他の女がトーマに言い寄った場合、トーマは許すが女の方は許さないという事だろう。

 

「それに一つ勘違いしているわよ、貴方達」

「勘違い?」

「トーマに取って、引き抜こうとしてくる国々は()()()()だけで()()()()()()。いざとなったら滅ぼしてしまうのも手ね………ああ、「図書館」が見つかった暁にはどの国からも手を引いてあげましょうか?一世紀も経てば事実は伝説に変わるでしょうから」

 

 そのためにも図書館を見つけなきゃだけど、と笑うリーン。俗世などどうなると知ったことではないと、目が語る。

 リーンは妖精族の中でも特に好奇心が強い。移りゆく世界を探求せずには居られないだろう。新しい発見があればすぐ飛びつくだろう。それを良く知るからこそ、バビロンに籠もるのは避けていたトーマだがまさかリーンからその案が出るとは。

 

「まあそう言うわけだ。悪いな……」

 

 と、全く悪びれた様子のないトーマ。そんなトーマをリーンがギロリと睨む。

 

「貴方も貴方よ。私が断ると解っていたなら、さっさと断りなさいな」

「まあ、念のためおまえの意見も聞いておきたかったんだよ。そもそも結婚したところで肉体関係を持つ必要もねーからそこまで気にしないと思ってたし」

「?ああ、そう言う事ね」

 

 レグルスもベルファストも、警戒しているのはトーマという個人だ。国を創って欲しいのではなく、一つの場に止まって欲しいだけ。王家のように子を残す必要はないのだ。あくまで、敵意がないことを伝える為の婚約なのだから。

 

「出来れば子を作って欲しいところだが……それでも構わぬと言ったら、結婚を許してくれるか?」

「許すわけ無いでしょう?トーマは私だけのものよ。形式だけでも、誰かのものになんてさせない」

「そ、そうか………」

「まあ、依頼は受けてあげて良いわよ」

 

 と、リーンが予想外にも反乱鎮圧に行って良いと許可を出す。

 

「良いのか?国の後ろ盾が無い以上面倒事になると思うが」

「そうね、さっきも言ったようにここ数十年、権力者達は馬鹿が多いものねぇ……だから、命令よ」

「………?」

「そんな馬鹿達でも、迂闊に手を出したくない、そう思わせる仕事をしなさい。残虐に、残酷に、残忍に……ね」

 

 それはとても冷たい笑み。敵対者に、あるいは愚か者に一切の情けを与えない氷のような笑み。その笑みに、トーマもまた笑みを返す。

 

「了解、リーン………そう言うわけだレグルス皇帝、依頼は受けてやる。軍属の者達の命は保証しかねるが、どうする?」

「………致し方ない。ただ、先に降伏勧告はして欲しい。それと、余も連れて行ってくれぬか?」

「馬鹿を言うな。敵の狙いはお前だぞ?守れないことはないが、余計な仕事を増やすな」

「…………事の結末を見届けたい。それがせめてもの皇帝としての余の務めだ」

「務めが果たせなかった結果が今だろう。何言ってんだ?」

「皇帝の護衛にはベルファストの騎士団をつけよう。自分もトーマ殿の戦いぶりを見てみたい」

「………まあ、そう言うことなら良いが………明日の朝からでも行くか。リーンはどうする?」

 

 と、トーマはリーンを見る。経験則だが明日には腰も治っていると思う。

 

「もちろんついて行くわよ。私がやれと言ったのだもの、その光景から私が目を剃らすわけにはいかないでしょう?」

 

 

 

 そして翌日。

 俺達は帝都の片隅、高台にある建物の屋上に転移した。何故かガキと姫コンビも付いてきている。

 

「んじゃ、早速降伏勧告といくか………まあ、それはレグルス皇帝に任せるがな」

 

 パチンと指を鳴らす。光魔法の応用で空中に巨大なレグルス皇帝の姿が浮かび上がった。

 

『帝都民に告ぐ。余はレグルス帝国皇帝、ゼフィルス・ロア・レグルスである。此度の騒動は一部の軍が暴走したことが発端である。皆に迷惑をかけたこと、深く侘びよう。しかし、それもすぐに鎮圧される。安心してほしい。ただ今をもって帝都奪還の行動に移る。決して家から出ないように願いたい』

 

 レグルス皇帝は至らぬ点があった、そこは反省するが今回の蛮行は見逃せない。が、最後に一度だけチャンスをやるから軍服を脱ぎ降伏しろ、十秒以内なら認める、と忠告した。従う者も居たが、従わぬ者も数多くいる。

 帝都中の現状をマルチスコープという無属性魔法で観察していたが十秒経ったのを確認すると指をクン、と上に持ち上げる。

 ズドドドドドッ!!

 と地面から生えた無数の杭が軍属の者達を貫く。肛門から刺さった杭がそのまま口や眼孔、鎖骨あたりから飛び出た者はまだ運がいい。死ねるのだから。腹や手足を貫かれた者は中で枝分かれした杭に肉をかき回され骨を削られこの世のものとは思えない絶叫をあげる。しかも、傷口には杭……血が殆ど流れず、誰かが回復魔法をかけてやらなくては助からないのに生きながらえる。

 

「来たみたいね」

 

 と、リーンが空を見上げる。そこには巨大な悪魔、報告にあったデモンズロード。それに伴い、空や大地に様々な悪魔の眷属が現れる。目視で五十ばかりいるようだ。

 今回は殺しに来た。決闘ではない。故に加減はしない。詠唱も動作もなくシャイニングジャベリンを発動。悪魔達に触れる前に消えた。

 

「これが魔法無効か……突破出来ねえこともねーし、前回のマンタと同じやり方でも殺せそうだな………」

 

 その場合帝都が滅ぶが。そのあたり考慮して戦うべきか。

 というわけで使う魔法はあらゆるモノを反射する障壁を生み出せるリフレクト。範囲は、帝都中。反射項目は、日光。 

 

「魔法の副次効果だ……魔法無効じゃなんの意味もねぇよ」

 

 数多の日光に曝され一瞬で数百度へと温度が上昇し、悪魔達が燃える。日光をねじ曲げて落としたわけではないのでちょうど鏡に狙われたところ以外は大して温度は上がらない。街に大きな被害を与えることなくデモンズロードの討伐が終わった。

 

「んじゃ、帝都城に向かうぞ。今回の黒幕をぶち殺してしまいだ」

「そうね。早く帰って、ご飯にしましょう……」

「う、うむ……」

「…………」

 

 ガキと姫様コンビは吐いてた。仮にも戦争しに来たのに、死体見る覚悟してこなかったのか?いや、してきてあれか?どうでも良いけど。

 帝都城のバルコニーでは何故デモンズロードが燃やされのか解ってないのか青い顔して固まる男。報告にあった顔と一致する。バズールだろう。

 

「おっ、お前は何者なんだ!? あれは上級悪魔だぞ! 一人で倒すことなどできるはずが……!」

「チート持ちだからな、俺は。好きなだけ罵って良いぞ?良く解らんアイテム使って、それでも勝てない存在なんて理不尽だもんな?ただ、大人しく罵られてるとリーンが怒るから黙らせるが」

「く、ま……まだ私には「防壁の腕輪」と「吸魔の腕輪」がある!悪魔など、いくらでも召喚できる!」

「あの程度なら何万匹出してくれても構わないぞ。妖怪でもあるまいし、特に脅威とも思えなかったし……」

 

 あの程度が強大な存在なんだから、前世から力をしっかり引き継げていればわざわざ命の危険を冒してまで強敵を食いにいく必要なかったな、など昔のことを思い出しながらバズール将軍に近付く。

 

「き、来てみろ!貴様の攻撃なんぞ───!」

 

 確かに攻撃が遮られるような感覚はあった。が、気にせず突破し首を手刀で切り落とす。

 

「んじゃ、この首と反乱軍達は曝しとけ。噂になりゃ、早々俺に手を出す奴も居ねぇだろうから」

 

 あと珍しいアーティファクトは貰っといた。リーンにプレゼントした。

 

 

 

 

「あの後、皇女様は冬夜の婚約者の一人になったそうよ……まあ、貴方を引き入れることは出来なくても両国間の見える繋がり欲しかったんでしょうね」

 

 へぇ……まあ交易の要にもなるし、王が操りやすい奴だ。全くの無意味な行為ではないだろう。

 

「てことはあの屋敷は売り払うのか?いや、あのガキなら屋敷ごと転移させそうだな」

「あり得るわね………そうそう屋敷と言えば知ってる?帝国の北方に打ち捨てられた大きな城砦があるらしいんだけど、そこ……幽霊が出るんですって」

「………どんな味がすんだろうな」

「さあ?そもそも食べられるのかしら?」

「まあ、帝国なら関係ねーよ。大方あのガキが銀髪姫から話し聞いて見に行って解決して終わりだ。でお前これからどうすんの?」

 

 俺の言葉にリーンが首を傾げた。

 

「お前、あのガキ観察するためにベルファスト駐在の大使してたんだろ?あのガキ新しい国……ブリュンヒルデとか言ったか?そこの王になったし、ブリュンヒルデの大使になるのか?」

「まあ複数ではなく全ての無属性魔法が使える、そんな面白い存在今後現れるとは限らないしね……でも、減点よトーマ」

 

 と、俺の服の裾をつかみベッドに倒すリーン。振り払うことも出来たが、抗わず大人しく倒される。

 

「私と貴方は、恋人同士になったのよ?それなのに私が、珍しい()()の子供にうつつを抜かすと思われるなんて、あんまり良い気分じゃ無いわね。この前も私の意思を確認したいからなんて理由で、婚約の催促を断らなかったし……少しお仕置きが必要ねみたいね」

「……お、おい……リーン?」

「私がどれだけ貴方に夢中か、体にたっぷり教えてあげる。だから今後、怒らせないように気をつけなさい?」

 

 不意に気配を感じてチラリと視線を扉付近に向けるとのぞき込んでるシェスカとロゼッタ。足元でポーラがシッシッと手を振るい、此方に振り返ると腕を突き出す。あれは、多分親指があったら立てているのだろうな。などと考えていると耳を噛まれる。

 

「この状況で他を気にするなんて、本気でお仕置きされたいようね………」

 

 ゴクリと喉が鳴る。ああ、また喰われるな。そう思いながらも、逃げる気は起きない。近付いてくるリーンの唇を迎え入れるように俺もまた首を持ち上げ唇を重ねた。




一応リーンとのRー18が見たい人は一人いましたね。やはり書くべきか?

感想お待ちしております


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蜘蛛、そして次の遺跡

「久しいな師匠」

「老けたなジャムカ」

 

 リーンと共にミスミドに戻り、ミスミドの王となったジャムカ・ブラウ・ミスミドと対面する。一時期剣を教えてやった事があるのだ。

 

「最近若造に負けたらしいな……何と言ったか……」

「うむ。冬夜殿だな」

「…………そうか」

 

 冬夜ってーとあのガキのことだよな?彼奴に負けたのか。

 

「リーンも、もう冬夜殿は良いのか?」

「ええ。興味深かったけど、もう良いわ。もっと良いものが手に入ったし」

 

 そういって微笑みながら俺を見てくるリーン。ジャムカはむ?と俺とリーンを見比べる。そして、何かに気づいたようにおぉ、と手を叩く。

 

「成る程成る程!めでたいな!挙式は何時だ?」

「気がはぇぇ奴だな……」

「そう?私は今からでも良いけど」

「今から?おおそうだ、実は冬夜殿から親善パーティーの誘いが来ていたな。」

 

 親善パーティー?ああ、一応王に即位したんだもんな。交流のある国を誘うか………各国としてもこれを機に友好関係を結びたいはずだし、丁度良いんだろう。

 

「リーンとトーマ殿も行かないか?」

「悪いがパス。嫌いじゃねーけど、苦手なんだ。好き好んで会いに行きたいとは思えねー」

「む?そうか……苦手とな……ならば仕方ないな」

 

 

 

 

 取り敢えず、レグルスでの噂は広がった。各国の密偵を時折街中で見かけることはあるが取り敢えず接触してくることはない。虐殺が伝わっているのだろう。まあ何人かは自分達が声かければ、しかしまだ早いと言いたげな目をしている奴も居たが……。

 

「国の後ろ盾はともかくとして、王になるのもまあ手ではあったんだろうな」

「そうかもしれないわね。おちおち街中を歩けやしない」

 

 俺の言葉にリーンがはぁ、とため息を吐く。デート中も無遠慮に見てくる視線が鬱陶しくなってきたのだろう。と、その時ミスミドの兵士が現れる。

 

「失礼します!」

 

 そう言ってすぐさま跪く兵士。リーンが視線を向ける。話は聞くようだ。一応世話になってる身分だしな。

 

「水晶の魔獣が現れました。場所は大樹海の中央あたり。そこに住んでいる部族からミスミドへ救援の知らせが………」

 

 水晶の魔獣?フレイズか?そういやジャムカに一応忠告してたな。それで俺らの方に来たのか?

 

「それでフレイズはどうした? 倒したのか?」

「いいえ、部族の村々を潰しながらまだ居座っているそうです。視界に入る人間や亜人たちを皆殺しにしながら………ッ!形は、大きな蜘蛛のような姿だそうです」

 

 蜘蛛?前回はマンタ型で、リーンがあったのは蛇型、ガキがあったのは蟋蟀型らしいが、本当に色々居るんだな。しかし大きな蜘蛛、ねぇ。元々普通の動物よりでかいわけだから小型種とか言う奴なのか中型種なのか解らんな。中型種とかだったら前回の白髪若作り爺に会えるかもしれないが……。

 

「取り敢えず向かうか。シェスカ、ロゼッタ、バビロンを使う」

「召喚獣デなく?」

「助けに行って災害連れてってどうする。前回の強さを踏まえるに、別に悪獣が必要とも思えないしな……いや、救援だし急ぐべきか?」

「トーマさん!」

「おん?」

 

 何故かガキが居た。メスガキ共も。

 多分らジャムカの奴をしごいてやったから、ジャムカがリベンジマッチを頼んだってとこか?ジャムカも此奴ももう少し自分の今の立場を考えろよ……。んで、このガキは慌てた様子で俺に何のようだ?

 

「樹海にフレイズが現れたみたいです。向かいたいので、バビロンを貸してくれませんか?」

「そこになら今向かう。公王殿は自国に戻ると良い」

「え?あ……ま、待ってください!フレイズは魔法を──」

「吸収すんだろ?知ってるよ、戦ったから………情報提供してくれようとしたことにかんしては礼を言おう」

「違います!冬夜さんは、貴方の力になろうと」

「俺より弱いくせに?馬鹿言うなよ……だいたい立場を考えろ。救援要請を受けたわけでなし……他国の王が深く関わって良い問題じゃねえんだよ。お前はもう一介の冒険者じゃねーんだぞ?」

 

 そう言いながらリンドヴルムも呼び出す。すぐに嵐が巻き起こるがリーンはなれたもの。俺もすぐにリンドヴルムの背にリーンを連れて飛び乗る。

 

「それでも、フレイズに誰かが襲われるのを放っておけません!」

「放っておけ。それが王ってもんだ………まあ、一応ミスミドとブリュンヒルデは友好国だし、ジャムカも馬鹿だし来るぶんには残念ながら問題ねぇんだろうが……つまり、来るなら好きにしろ。俺は知った事じゃねー」

 

 そもそもが食客だからな俺。立場的に本来は止める止めないなんて出来ない立場だ。本来止めるべきはジャムカかその家臣達なんだろうが何してんだか彼奴等。樹海はお前等の国の土地では無かろうに……。

 

「飛べ、リンドヴルム。この際だ、今回の敵はお前にくれてやる」

『ヴェハハハハ!よろしいのか?よろしいのか!?ならば殺すぞ!壊すぞ!滅ぼすぞ!顔も知らぬ戦友よ、待っているが良い!』

 

 リンドヴルムが興奮してゴロゴロと雷が鳴り響く。この際だから、魔力を食うフレイズに俺の悪獣がどの程度通じるか見学するか………。千や万来たら、一人じゃどうしたって対処するのが面倒になるしな。

 地上(した)でガキがピポグリフに跨がる光景が見えた。同時にリンドヴルムが雷のごとく速度で飛ぶ。ガキもまあ、そのうち追い付くだろう。終わってるかもしれないが。

 

「…………しかし、フレイズ……異界、ねぇ…」

 

 俺やあのガキに異世界からどうやってか此方に流れ着いた存在が二つ。フレイズに関しては明らかに意図して来ているが………だとしても、これは異世界から異世界に渡ることが可能という事実に変わりはない。

 俺がこうしてここにいる以上、俺の世界の連中だって来てる可能性はある。親父は………ひょっとしたら生き延びたのだろうか?

 問題は、妖怪共だな……特にあの雌狐が来てたら最悪だ。

 まあフレイズが異界を渡る方法が解ればこれなくする方法も解るかもしれない。その方法が解ればあの雌狐が来る前に、絶対行おう。

 

『おお、あれか!?彼か!?ヴェハハハハ!何という大きさ、何という透明度!まるでガラス様だな我が戦友よ!』

 

 と、そうこう考えている内にフレイズが見えた。大きさ的には、中型種とか言う奴か?どっかの部族の女どもが戦っているようだ。

 

『ヴェーハハハハ!挨拶代わりだ!開戦の狼煙だ!さあ、殺し合おうぞ!』

「ホール」

 

 無属性魔法ホール。言ってしまえば丸いゲート。それを部族の女共の足下に出現させ転移させる。ちなみに場所はあのガキの近くだ。助けたかったらしいしな、これで保護と治癒をしてやれるだろう。次の瞬間、雲海より無数の雷がフレイズに落ちる。

 

『──────!!』

 

 見たところ筋肉はない。痺れたりはしないだろう。が、表面が見る見る砕けていく。と、コアが光り修復されていき、しかし砕ける。コアが一際強く輝き、割れた。

 

『む?終わりか?終わりか戦友よ!どうした、殺し合おう!まだ始まってすらいないぞ!』 

「終わってるよ。もう帰れお前」

 

 と、リンドヴルムを返しリーンとポーラを抱えて地上に降りる。砕け散ったフレイズの欠片は簡単に砕けた。

 リーンがそれをしげしげと見つめる。

 

「ガラス並みの強度しかないわね。この破片で武器が作れないかと思ったのだけれど」

「魔力を流すことで硬質化するじゃねーの?」

「……それよ! 魔力による硬化魔法! この体に魔力を増幅し、蓄積、放出する特性があるとすれば……!」

 

 リーンはもう一度かけらを両手に拾い、その破片に魔力を流しながら、それらを強く打ち合わせた。ガキィィン、と澄んだ高い音が出たが、そのかけらが砕けることはなかった。

 

「やっぱりだわ。この材質は魔石に似た特性を持っている。しかもはるかに魔力伝導率がいい。術式転換がほぼ100%だわ。魔力によっての結合がここまでの強度を保てるなんて信じられない」

「これ、実際生物なのかね?」

「さあ?取り敢えず、この欠片を持って帰りましょう。幾つか食べても構わないわよ?」

「そうか?じゃ、とっとと行くか。確かさっきの女共、女だけの部族で強い奴みると子を作りたがったはずだ」

「あら、貴方は危険ね。なら帰りましょうか………そしたら、冬夜にでも目を付けるでしょうね」

 

 まああのガキはこの世界基準で言えば強いからな。突然別の場所に転移させられ、目の前に現れ颯爽と傷を治す男……まあ惚れんじゃね?

 

「なあリーン、此奴等の体の研究ついでにどうやって世界を越えるかも調べてもらって良いか?」

「構わないわ。まあ、体を調べて解ることなのかは解らないけど」

「何も解らなくても文句はねぇさ………」

「「図書館」にフレイズの研究資料があればいいのだけど……」

「そういや、転送陣らしきものの情報手にしたぞ」

「へぇ……いい子ねトーマ。後でご褒美あげる」



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