聖王女と召喚士の歩む世界 (かぴばらさん32号R)
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第一話 全ての始まり

せっかくリメイク版なんだからハーメルンにも投稿したかったのですよ。

のんびり見てってくださいな。


後方支援その1!

 

 午前四時五十九分時。長いようで短い夜が終わり、ようやく日が登り始める時刻。仕事のある大人達は起床し、子供達はまだ夢の中にいる時間。

 時はなににも妨げられることなく順調に進む。十秒、二十秒、三十秒----六十秒。

 

 ピピピ!ピピピ!ピピピ!

 

 ごくごく一般的な、アニメや漫画に出てきそうなくらい普通の目覚まし時計の音が、とある一軒家の一室に響き渡る。

 ちょうどいいサイズの学習机、ハート型の折りたたみ式テーブル、白いカーペット、オシャレなカレンダー。その部屋は、いかにも年ごろな女の子らしさがある。派手でなく、なかつ質素でもない、普通の中の普通。

 そんな部屋の一角にあるベッド。膨らみのあるピンク色のかけふとんがもぞもぞと動く。もちろん中身はこの部屋の主。

 

「ん、んぅ........」

 

 かけふとんにスッポリ埋まっていたであろう顔が半分ほど出てくる。

 美しい金色の髪。微睡みの中うっすら開かれるは紅玉と翡翠の瞳。顔全体が現れなくとも、この部屋の主が少女であり、男性の目を惹きつける魅力があることがわかる。

 

 少女の名は『高町ヴィヴィオ』。Stヒルデ魔法学院在学の初等科四年生で今年で十歳になる少女だ。

 その正体は四年前、次元世界を震撼させたJS事件の核となった存在で、ゆりかごの聖王女オリヴィエ・ゼーゲブレヒトの聖骸布から作り出された人造魔導師、クローン体。

 なのだが、本人はそこまで気にしていなかったりする。今では毎日元気な生活を送っている。

 目覚まし時計が鳴ったということは起床時間であることを意味する。ヴィヴィオは日々ランニングをすることが日課になっているので、パジャマからジャージに着替えようと起き上がろうとする。

 

「........んん?」

 

 ふと、ヴィヴィオは体に違和感を感じた。体が動かない。具合が悪いわけでもないはずなのに体が異常に重たい。まるで何かに抱き着かれているような、そんな感触。

 だが彼女は体が動かないという違和感を気にする様子はない。あくまで手足も首から上も問題なく動く。加えて、抱き着かれているという感覚はしょっちゅう体験していた。緊張する必要性はまるでない。

 朝起きたらふとんの中で抱きついてる人。そんな人間、ヴィヴィオは一人しか知らない。

 そーっと、ふとんをめくり中を覗く。

 

「くひゅー....くひゅー..........」

 

 静かに寝息を立てる黒い物体が自分の胸に顔を埋めているのが見える。それが人間の頭だと理解するのにさほど時間はかからなかった。ヴィヴィオの中でこの抱き着いている人間が誰であるかが判明した。

 

「ぜろくーん。ぜろくーん、おーきーてー」

 

 ヴィヴィオは黒い頭の人物を『零』と呼び、その頭をポンポン叩く。小さくも暖かい手に数回触れられた頭はピクリと動き、一度ふとんの奥深くに潜る。

 すると暗いふとんの中が朱に輝き、ヴィヴィオから抱き着かれている感触が消えた。

 同時に白いカーペットに朱色のミッド式魔法陣が出現し、その中心に人影が現れる。

 朱く照らされた人影。真っ黒で飾りっ気のないズボン、近代的なデザインの茶色いベルト、展開されているミッド式魔法陣と同じ朱色で染められている少し襟の立ったフード付きの厚めなロングコート、背中の部分には不死鳥『朱雀』を彷彿とさせる金刺繍が施されている。ベルカ勢の騎士甲冑の内側に見られる黒に金色のラインが入ったインナーを着込み、両腕を組んでいる。

 肩まで届く黒髪が放出される魔力に吹かれゆらりゆらりと舞う。開かれている瞳は左右ともに血のように紅く、魔力光の影響で怪しい光を灯す。

 

「シャバデゥビタッチヘーンシーン!シャバデゥビタッチヘーンシーン!」

 

「あふぅ......。はいはいシャバデゥビシャバデゥビ」

 

 まだ眠そうにあくびをしながらふとんを押し退け、ベッドの上にちょこんと座るヴィヴィオ。腕を回し大きく背伸びして息をはく。

 

「おはよ零くん」

 

「ん。おはよヴィヴィオ」

 

 互いに何事もなかったかのようにあいさつをする。「髪、とかそっか?」と言う零に「ありがと」と小さな笑みを浮かべるヴィヴィオ。どちらもこのやりとりが日常のようなテンポで進む。

 零はすぐさまベッドに飛び乗る。どこからともなくブラシを取り出し、ヴィヴィオの長い髪の毛をとかし始めた。枝毛一つない金髪はゆっくりとブラシに撫でられ、細かいホコリなどを取り除かれる。

 

「いやはや、いいなーヴィヴィオ。こんなに綺麗な髪を持ってて。俺にも分けてよ」

 

「出来ないこと言わないの。君の髪だって充分綺麗でしょ?そっちこそ分けてくれたっていいんじゃない」

 

「ヴィヴィオはこの髪だから可愛いんだよー。よって黒髪など必要無しっ!」

 

「可愛いって言葉は安売りするものじゃないんだよ。ばか」

 

 ヴィヴィオは零の言葉を突っぱねるように言い放ち、黙り込む。

 ブラシが髪をとかす音だけが早朝の薄暗く静かな部屋を満たす。やがて零がブラシを動かす手を止め、ヴィヴィオの背中をポンと叩く。

 

「終わりましたよお姫様」

 

「うむ。ごくろうであった」

 

 ブラシを通しホコリっぽさが消えた髪を満足そうに見つめ、ベッドから立ち上がる。そのままクローゼットのある位置まで移動し、両開きの扉を開いて幾つかのハンガーにかかった服をいじる。

 

「どのジャージにしよっかなぁ」

 

「あ、そうだヴィヴィオ」

 

 零の呼びかけにピンクや水色のジャージを手に取りつつ背中を向けながら「なにー?」と返事を返す。零は自分の髪にブラシをかけながらポツリと。

 

 

「昨晩触ってみて思ったんだけどさ。ヴィヴィオの胸って歳のわり成長してるからもうブラが必要だと思うんだけど––」

 

「––––覚悟はいいね?」

 

「へ? いや冗談––」

 

 ジャージ二着が中を舞い、虹色の軌跡が零の顎を捉えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 もう一つの魔法少女リリカルなのはvivid。始まります。

 




主人公は初代よりひどい変態さんだったりする。

意見、感想、待ってます。

次回→作者の頑張り次第


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第二話 春の陽気は眠りを誘う

保険のテストとかいらないね(確信)。


↓はキャラ紹介。後々数は増える。

『紅影 零』
Stヒルデ魔法学院在学中の初等科四年生。この物語の主人公。思い立ったら即行動をモットーに生きる召喚魔導師。ヴィヴィオには過度なスキンシップをよくとる。


『高町ヴィヴィオ』
Stヒルデ魔法学院在学中の初等科四年生。零とは幼馴染であり親友。零に対して素直になれないことが多々あるのが悩みなツンデレ少女。



後方支援その2!

 

 世界とは理不尽だ。自由を求めて行動すれば法律という枷が掛けられ、命令通りに動いても豚箱に入れられることさえある。愛する者を愛してもその形が受け入れられず、これまた豚箱にぶち込まれることがある。

 なぜだ?なぜ俺の自由は受け入れられない?なぜ俺の愛は受け入れられない?なぜだ、なんでなんだっ!

 

「教えてヴィヴィえもん!」

 

「法に触れる愛だの自由は世間一般では受け入れられないんだよ」

 

 自由と愛について聞いてみたところ、ヴィヴィオから心無い冷酷な答えが返ってきた。

 

「でもSMプレイだって青○だって法律では実質セーフなんだよ?なのに俺がヴィヴィオとスキンシップをとるのが法に触れるっていうのはおかしいよ!」

 

「君の頭もおかしいよ。ネジが二、三○○○本取れてると思うよ」

 

 そう言って向かいの席でヴィヴィオは静かに味噌汁をすする。いけず。

 今日は四月六日。麗らかな春の光がミッドチルダを照らし、暖かな風を運ぶ今日この頃。我らが通う天下の私立学校、Stヒルデ魔法学院は始業式を迎える。晴天なのでよかった。

 

「そもそも、なんでいっつもわたしのベッドの中に入ってくるの。そして抱き着くの。私と君だってもう十歳で初等科四年生。いっしょに寝るのは恥ずかしいと思わないの?」

 

「思わない。ヴィヴィオ大好きだし!」

 

「........まったく君は。なんでそうなのかなぁ」

 

 ヴィヴィオはこういう突き放すような言動がたびたびある。けど実際はすごく優しいし、もしもの時は支えになってくれる。おまけにツンデレ。文句のいいようがないってもの。

 

「そーいえばさ。なんでなのはさんいないの?」

 

「なのはママは今日出勤早いの。なんでも教導隊の特別な集まりがあるんだって」

 

 現在、ヴィヴィオと食卓に並べられていた和食中心の朝食を食べているわけなのだが、それを用意した人物こそがヴィヴィオの言うなのはママこと、高町なのは。

 時空管理局本局の戦技教導隊教導官を務め、魔導師ランクオーバーSでエース・オブ・エースの二つ名持ち。ヴィヴィオの養子に迎えて大怪我したのに元気に砲撃ぶっ放してるというすごい人。

 裏の通り名は大魔王だったりするのは機密事項だよ?

 

「てか、なのはさん俺が来るの予想して朝食二人分作ってたのだろうか。偶然にしては準備が良すぎる」

 

 適用にヴィヴィオから貰おうと考えながら降りてきたがまさか朝食が二食用意されてたとは思わなかった。感謝感謝。

 

「たぶんそうだね。たしかエルちゃんが昨日からメンテナンスでしょ?そうなると誰が君のお世話するのかってことになるし、放っておくととんでもない食生活送るのなんて目に見えてるから」

 

「失礼なっ!俺だってちゃんとした食生活送るよ!」

 

「朝食は?」

 

「カロリーメイト」

 

「昼食は?」

 

「ウィダー」

 

「夕飯は?」

 

「食わなくてよくね?」

 

 ふふん。これほど栄養バランスに優れた食事はあるはずがない。とくに夕飯を食べないのがミソだ。夜は無駄なエネルギーを摂取しない方が体にいいことは科学的にも証明されている。

 

「......わたしがご飯作ってあげるから、絶対その食生活はやめてね」

 

「ヴィ、ヴィヴィオの手作りご飯!?やたー!」

 

 なんとヴィヴィオが私のためにご飯を作ってくれるらしい。エルの料理も美味しいけど、好きな人の手料理っていうのもまた最高の調味料になる。今日は始業式なので学校が午前中に終わる。これは昼食を楽しみにせざるを得ない。

 いやぁ....手料理かぁ。いい響きだ。

 

「そこまで喜ばなくても、大袈裟なんだよ君はっ」

 

 そっぽを向いてご飯をかきこむ姿が可愛すぎて萌える。でも行儀悪いから正面向きなさい。

 だがしかし、手料理の良さを理解していないのは大問題だ。これは正しい知識を教える他ない。

 

 

「いいかいヴィヴィオ。好きな人に手料理をふるまってもらうというのは男の夢なんだぞい!不器用な手つきで包丁を振るい、指を切っちゃいながらも必死で取り組む姿勢、何度も何度も何度の試行錯誤して完成したのは消し炭卵焼き。それでも愛情のこもった料理ならばコゲ味も甘い味に変わるってものさ!だからこそ!私はヴィヴィオの手料理を楽しみにするしなにが出来上がったとしても全力で食そう。それが漢ッ!」

 

「それ、シャマルさんの料理でも同じこと言えるの?」

 

 科学兵器はちょっとごめんなのでシャマルクッキングは例外としておく。

 ちなみにシャマルクッキングとは、八神はやてという人物に仕える騎士の一人で、ドジっ子僧侶な人のことである。ホイミと間違ってザキをかけてくるようなことはないけど、代わりに五感を殺しにかかる料理を作り出すことが....。

 作り出される確率は二パーセントほど。まぁ、それに去年ヴィヴィオ共々当たっちゃったわけだけど。

 

「ごちそうさま」

 

「ごちそーさま」

 

 苦い思い出もそこそこに朝食を食べ終え、食器を水に浸しておく。

 時刻は午前六時二十分。登校時間は午前八時ジャスト。学校には徒歩三十分程度で到着するため家を出るのは後一時間弱。

 

 つまり暇です。

 

「よっしゃヴィヴィオ。マリカのタイムアタックしようず」

 

「嫌だ。春休み中ずーーーっとそればっかしてた記憶しかないもん。しばらくキノコは見たくないよ......」

 

 三月の終盤から二週間あった春休み。このうち十三日間はひたすらヴィヴィオと遊んでた。マリカしたり次元世界をランダム転移して旅したりしたのは楽しかったです。

 

「いいじゃん!キノコ美味しいやろ!特にバター醤油焼きなんて絶品じゃないか。そう思ってプレイすればノープロブレム」

 

「あのキノコをバター醤油焼きにするの?....食べても大丈夫な類のものかな」

 

「一応大丈夫だよ。けど焼くと変な悲鳴を上げるからなぁ。そこらへんを耐えれば美味」

 

「ふぅん。そうなんだ。............あれ。なんかわたし、すごく重要なことにツッコミを入れなきゃだめなはずなんだけど」

 

「ツッコミ?芸人の道でも志すの?聖王教会が許してくれるかなぁ」

 

 生きる聖王女のヴィヴィオを芸人にするなんて聖王教会が死に物狂いで止めに入りそうだ。

 性王女とか売り出したら売れるだろうか。下ネタキャラは確実だね!

 

「ねぇねぇ。君、今すごく変なこと考えたでしょ」

 

 こやつはエスパーかなにかか。

 

「マジカル★性王女エスパーヴィヴィオちゃん。相手の脳内を読み取ってその希望通りのシュチュエーションで色々ご奉仕してくれる魔法少女。これは売れるね!」

 

「ふっ!」

 

 スパァンッ!と、鋭い音が鳴った。ヴィヴィオが顎を狙って繰り出した右回し蹴りを魔力付与した左腕で防いだ音だ。身体強化を施していたのか、腕がジーンとして痛い。

 黄緑と白のシンプルで芸術的な縞パンが視線を釘付けにさせてくれるね。

 攻撃を受け止めたのを見てヴィヴィオの口の端が持ち上がる。してやったりって顔して虹彩異色の瞳でこちらをニンマリ見つめていた。

 

 あ、これは......!

 

「はい、零くん今日クレープ奢りね♪」

 

「ぬぉぉぉぁぁぁぁ!なぜ防いだし!なぜ避けなかったし!?」

 

 朝登校するまでに一発(防御されても有効)入れれたらクレープを奢るという賭けをしていたが見事に負けてしまった。ランニングの最中適当に言ったことだから記憶から抹消されそうになってた。

 しかも奢るのは首都クラナガンに隣接する『ベルカ自治領』という一つ国に属する場所の中心区にある高級なやつ。連日、女子高生とか家族連れで賑わっていて明るい雰囲気のいいお店として雑誌とかでもよく紹介されてる有名店。

 

「回避より防御主体の君なら絶対防いでくれると思ったよ。さーてっ、なに食べよっかなー!」

 

「ぐぬぬ......。これは高町家常任理事国として拒否権を行使せざるを得ない」

 

「残念ながら高町家常任理事国は、なのはママとフェイママとレイジングハートとバルディッシュとわたしで席がいっぱいなの」

 

 デバイスに負けたでござる。

 

「..........」

 

「..........」

 

 そして会話が途切れるの巻。いくら俺とヴィヴィオの仲でも朝からガトリングトークをかましてたら弾切れする。

 

 なので。

 

「寝よう」

 

「いいけど、変なことしたら×××だからね」

 

「ヴィ、ヴィヴィオ。いきなり穴をチョメチョメするなんてレベルが高すぎるかと..」

 

「そんなこと言ってないよっ!?」

 

 

 ギャーギャー騒ぎながらも二人仲良くソファーに並んでスヤスヤと。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 しばらくして目が覚めた。

 

「......目覚ましもかけてなきゃこうなるわな」

 

「零くん急いで!新学期早々から遅刻とか嫌だからね!」

 

 

 壁に固定された時計は、もうすぐ八と十の針を針を指そうとしていた。

 

 

 




vividと初代な夜天の王→戦闘:日常=0.1:9.9
後方支援(この作品)→戦闘:日常=5:5

↑の割合のはずなのにそんな要素一つも出てこない後方支援だった。忘れてはならない主人公は召喚師設定。

意見、感想、書いてください。

次回→作者の筋肉次第


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第三話 勝負下着は黒

タイトル考えるのってすごく悩むよね。だからこのタイトルはしかたないよ。


〜登場人物〜
『紅影 零』
Stヒルデ魔法学院在学中の初等科四年生。この物語の主人公。思い立ったら即行動をモットーに生きる。ヴィヴィオには過度なスキンシップをよくとる。


『高町ヴィヴィオ』
Stヒルデ魔法学院在学中の初等科四年生。零とは幼馴染であり親友。零に対して素直になれないことが多々あるのが悩みなツンデレ少女。


後方支援!3

 

 午前七時五十分。高等科の生徒でもない限りほぼ全ての生徒が学校に到着して、人通りの少なくなった歩行者通路。老父が犬を散歩し、大学生ほどの女性がジョギングをし、サラリーマンが会社へと出勤する道。

 

 そこには遅刻しまいと全力疾走するヴィヴィオと零の姿が!

 

「あーーーーもうっ!ばかばかばかばか!なんでぐっすり寝ちゃうの!」

 

 二つのリボンからなる二本の触覚を揺らして走るヴィヴィオ。その後を零がなにやら端末を操作しながら追う。罵倒されても表情を曇らせることはなく、むしろ輝いていた。

 輝きが失われぬうちに零は走るスピードを上げてヴィヴィオと横並びになり、満面の笑みで端末からウィンドウを展開する。

 

「と、手を握りながら眠っていた可愛い可愛いヴィヴィオちゃんが申しております」

 

 ホロウィンドウに映っていたのは零の肩に頭をあずけ、右の手で左手の手をガッチリ握っているヴィヴィオ。色鮮やかな瞳はしっかり閉じられ、今にも寝息が伝わってきそうな写真だ。

 

「........ははっ。零くん、下手な写真加工はやめようか」

 

「加工写真なんぞに興味はない。写真は自然体こそが一番」

 

「私が無意識に君の手を握るなんて、どっかのキセキの世代が同じ学校に六人集まるくらいありえないことだから」

 

「あの確率ってプールの中に腕時計を部品単位でバラバラに入れて、かき混ぜたら完璧に組み上がるのより低いんだってさ」

 

「なにその無駄知識」

 

 後で削除しよう。そう心に決めたヴィヴィオはさらっと披露される豆知識に関心と呆れを抱きつつも、足を休めずひたすら歩道を駆ける。

 既に七時五十七分。全力疾走しているとはいえ学校までの道のりはかなり長く、このままでは間に合わないのは明白だ。

 

「これは厳しいねぇ..。しょうがない、小鳥さんを呼ぶしかないか」

 

「小鳥さん?....ああ、リトルバードのことね。---って、呼んじゃダメだから!?こらっ!その通信端末しまいなさい!」

 

「だってそうでもしないと遅刻だよー?」

 

「だからって局の高速輸送ヘリを呼ぶ必要性はないでしょ!そういうのって職権乱用って言うんだよっ!」

 

 通信端末を素早く取り上げ、電源を切る。零がブーブー文句を言うものの、ヴィヴィオが聞き入れる様子はない。

 要請されなかった小鳥さんこと、MH-6C-Rリトルバード。

 三年前に時空管理局が開発した小型の輸送ヘリで、最大速度、巡航速度共に二五○km/hを超える最新鋭機。お値段たったの高町家十軒分(土地代を含む)。

 そんなものを呼び出してしまえば大事になるのは必須となるため、ヴィヴィオは全力で阻止する。これも零のことを思ってのこと。ただし、常識でもある。

 

「はははっ、冗談だってば冗談。そんなことしたら議会から大目玉くらっちゃうのが目に見えるからね」

 

「君ならやりかねないから言ってるんだよ.....」

 

 そもそもなぜ一学生が局の最新鋭ヘリを呼べるのか?なんてことは二人の間で問題にならない。お互いがお互いの素性を裏の裏まで知り尽くしている間柄だからだろう。もはや、あれとってこれとってで互いの欲しいものがわかるくらいにはなっていた。

 揺れるスカートからチラリズムするパンツを凝視する零とそれに冷たい視線を送るヴィヴィオ。一般的に見てみれば、とても理解しあってるとは言い難い光景である。

 

「どこ見てるのかな、変態さん」

 

「パンツ見てるんだよ、性王様」

 

 直後、性(聖)王様の指先に虹色の光が集まり、最低出力に絞られた魔力弾が走る変態の額を直撃する。デバイスの補助が無く威力は低いが痛いものは痛いようで、魔力弾を受けた零は地面をゴロゴロ転がっていた。

 ヴィヴィオは半ば呆れながら、地面を転がる友人を見る。

 齢十歳にして魔導師ランク総合AAA+、一部を除き軒並み高い魔法適性と魔力、超人的身体能力、人間から幽霊までの幅広い人脈。性格以外は何をとってもほぼ完璧な人間と言っても過言ではないだろう。ほぼ完璧な人間---だからこそ、完璧でない部分はよく目立つ。完璧ゆえどこか抜けている紅影零を支えることは、既にヴィヴィオの使命のようなものになった。

 もちろん、好意に近いなにかを抱かなければ、自分にメリットのない人間のお世話など普通はしない。けれど、あえて好意を隠す。下手に見せれば調子に乗ることも理由の一つに上がるが、なにより素直になれないことが大きい。

 十歳ならもう花も恥じらう乙女でもいい年齢で、隣の席の気になる子にいたずらして困らせる同級生が大量に現れてもおかしくはない。

 大人なヴィヴィオはそれを避け、普段はクールに対応する考えに至った。その行動の結果が彼女がツンデレと称される原因になっていたと知るのは、数年後のことになる。

 

「ほら行くよ!はーやーくっ!」

 

「痛くて動けない。ヴィヴィオがホイミしてくれたら回復する、ほっぺにちゅーでもよし!」

 

「ザキ、アバダケタブラ」

 

 なんの躊躇いもなく死の魔法をかけられたことに、零は驚きを隠せない。

 

「死の魔法二連続とかオーバーキルもいいところなんですが!?」

 

「大丈夫、LUK(運)極振りしてる君なら耐えうるよ。それに万が一のことがあっても回復魔法にMP使うくらいなら、棺桶にして聖王教会で蘇生してもらった方が安上がりだから」

 

「ここにブラック勇者を見た」

 

「なにを言ってるの?わたしはバリアジャケットと同じ純白の心の持ち主だよ?」

 

「バリアジャケットが白くても勝負下着が黒いヴィヴィオを例に出してもねぇ....」

 

「いや、それ関係ないでしょ..........。ん?ちょっと待って!?君なんでそんなこと知って....あっ!こら逃げるなぁっ!」

 

「ヴィーヴィーオーの!勝負下着はーーーー!目ん玉飛び出るくらいのーーー「待たんかこらぁぁッ!」はやっ!?なんで百メートル十秒台の俺に追いつきそうなの!?てかヴィヴィオキャラ壊れてるっ!女の子はもっとおしとやかな言葉遣い---にしなくていいから!俺悪かったからその魔力付与した拳を握りしめないでくださいぃぃぃっ!」

 

 Stヒルデ魔法学院まであと三キロメートル。

 両者の大切なものを賭けた追いかけっこ始まる。

 

 




急いでたら短くなったの巻。目指せ3000字!

意見、感想、どしどし送ってね!

次回→作者の頑張り次第


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第四話 遅刻厳禁

登場キャラがまったく増えないよ!なんでだろうね。

もっとサクサク進められたらいいな。


〜登場人物〜

『紅影 零』
Stヒルデ魔法学院在学中の初等科四年生。この物語の主人公。思い立ったら即行動をモットーに生きる。ヴィヴィオには過度なスキンシップをよくとる。


『高町ヴィヴィオ』
Stヒルデ魔法学院在学中の初等科四年生。零とは幼馴染であり親友。零に対して素直になれないことが多々あるのが悩みなツンデレ少女。


『高町なのは』
時空管理局本局戦技教導隊所属の教導官。エース・オブ・エースの二つ名を持つオーバーSランク魔導師であり高町ヴィヴィオの義母。よくヴィヴィオと零の関係にちょっかいをかける。






後方支援その4

 

 『聖王教会』。数ある次元世界の一つ、第1管理世界ミッドチルダのベルカ自治区に本拠地を構える巨大な宗教組織。 かつて混戦の様相を呈したベルカの戦乱を治めたゆりかごの聖王女オリヴィエ・ゼーゲブレヒトを信仰し、同時にベルカ自治区の治安維持も担当することでよく知られる。

 他にも、有事の際に教会を守る教会騎士団、ベルカ式の使い手なら誰もが憧れる『騎士称号』を与える権限、ミッドチルダ政府および時空管理局への強い発言力を有する。

 聖王教会の運営する私立学校、Stヒルデ魔法学院はミッド最大の教会支部と隣接する形で作られ、シスターや騎士団一同は日々生徒達の学園生活を見守るのも大切な仕事の一つとして考え動く。

 

 校門の前に立ってる女性、シャッハ・ヌエラもその一人として数えるべき存在だ。

 

「..........来ません、か」

 

 腕時計の針は八時十五分を示す位置に進み、なお秒針を動かし続ける。

 教会シスターの長と教会騎士を掛け持つ多忙な身のシャッハがこうして校門の前に立っていることには、時空管理局地上本部より高く、八千メートル級の海溝よりも深い事情があった。

 

 ある少年少女二人がまだ登校していないのだ。

 一人は聖王教会において、『超』が付くレベルの重要人物。聖王女オリヴィエ・ゼーゲブレヒトを信仰する聖王教会から見ればまさしく『生きる信仰対象』となる。その身に何かあれば、色んな人の首が飛ぶ。

 もう一人は時空管理局において、『超』が付くレベルの重要人物。対テロ戦闘型LS級魔導艦をも凌駕する召喚獣を多数使役し、首都防衛に大きく貢献している。 その身に何かあれば、何かした奴が召喚獣に消し飛ばされる。

 こんな二人がなんの連絡も寄越さず遅れているとなれば、心配するのは当然のこと。 何者かの襲撃に合ったのでは?---魔導師ランクAAA+がそう簡単にやられるとは考えにくいとはいえ、最悪の状況を想定する必要性はないとは言えない。

 念には念を。その意味を込めて、シャッハは二人のうち片方の親、エース・オブ・エース、高町なのはに連絡を取るのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『シャッハさん?どうしたんですか?......ヴィヴィオ達が?ああ、それなら大丈夫です。 今、私も用事があって教会の近くにいるんですけど––さっき、塀を乗り越えるの見ましたから』

 

 シャッハは「ありがとうございます」と言って通信を切る。

 大きな深呼吸の後、再び端末を操作して、学院に通信を入れる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『高町ヴィヴィオさん、紅影零くん。シスターシャッハがお呼びです。至急、職員室まで来てください』

 

 ヴィヴィオと零は、目の前が真っ暗になった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「––––それで、なぜ遅刻したのですか?」

 

 職員室のほぼ中央に位置するシャッハの机。 そこにはStヒルデ初等科の制服を着た少年少女と、おかっぱ髪のシスターが一人。言わずとも、ヴィヴィオ、零、シャッハの三人だ。シャッハは一教師としての役目を果たすために、二人の遅刻理由を問う。

 

「「ヴィヴィオ(零くん)が寝坊したからです」」

 

 さっそく証言に食い違いが生じ、数秒ほど顔を見合わせたヴィヴィオと零はお互いのほっぺたを引っ張り合う。

 職員室の教師、シスターはその光景に苦笑いする。

 高町ヴィヴィオと紅影零が職員室に来るタイミングは常に同じで、大抵は零の起こす問題にヴィヴィオが巻き込まれていることが九割を占める。 意見が食い違うとほっぺたをグニグニ引っ張り合うのはもはや恒例行事と化したStヒルデ魔法学院職員室の名物。

 

「ふぃふぃおふぁてふぉひゃなひゃなきゃったのかわるひ(ヴィヴィオが手を離さなかったのが悪い)」

 

「ふぉーいうせろひゅんこひょ、わらひをおきょひゃなきゃったのにゃわるひ(そーいう零くんこそ、わたしを起こさなかったのが悪い)」

 

 互いに一歩も譲らず、仁義なきグニグニ合戦を続ける。ただの口論ではなく、ほっぺたを引っ張るという行動にでる辺り、二人がまだまだ子供だと感じさせられる。

 微笑ましいと言えば微笑ましいが、あくまでも今はお説教中であるので。

 

「むんっ!」

 

ゴチン!!と、ゲンコツが落ちる。

 

「「いぃッ!?!?」」

 

 突如襲いかかった鈍く響く痛みに、声を揃えて蹲る。 日頃トレーニングしている二人を遥かに超える量の修練を積むシャッハの拳は女性にもかかわらず重く、確かに『騎士』であると証明させるかのような一発を繰り出す。

 

「いいですか?私は今まで貴方達をここに何度も呼び、何度も叱ってきました。 心底嫌なことでしょう、怒られて嬉しい人間なんていません」

 

(....ガチギレじゃなかったら怒ったヴィヴィオ可愛いから怒られても嬉しけどなぁ)

 

「ですがね、これも全て貴方達を思ってのことなんです。二人は将来、聖王教会と時空管理局に大きく関与することになるでしょう。 その時は今のように守ってくれる人はいません。 一人でも戦っていける強い子に育ってほしいと、私は思っているんです」

 

「ヴィヴィオ、聖王教会にそんなに関与するの?」

 

 もう既に自分の意思で管理局に関与している零。ある意味、巻き込まれて、全くとは言わなくともあまり強くない意思で聖王教会に関わるヴィヴィオ。 両者の立場の違いを理解する零は聖王教会と深く繋がりを持ちたいか尋ねてみる。

 

「えぇー......。 私、なんかそういう宗教とか堅苦しいのはちょっと無理かも。 どうせなら、将来はパティシエールとかになりたいな」

 

「そりゃいい!ヴィヴィオの作るお菓子は美味しいもん!あ、帰ったらプリン作ってプリン!」

 

「プリン、ね。 ......うん、気が向いたら作ってあげる」

 

「........」

 

 なかなか為になることを言ったつもりが、一瞬でプリンの話に呑まれたのには流石にショックを受ける。

 そもそも十歳児に組織のどうこうを教えようとすること自体が無駄であるのに加え、本人達は自由人。今も説教のことを忘れてプリンに関して熱く語っているような状態である。

 『彼を相手にするなら、柔軟な思考が出来なければ苦労する』。幼い頃から仕える女性がかけてくれた言葉の意味をしみじみ感じる。

 よし。と、心の中で気合を入れ直し、体を二人に向き直す。抹茶プリン派の零、チョコプリン派のヴィヴィオもそれに気付き、プリン討論を中断した。

 

「........まあ、貴方達も四年生に進級。新しい仲間や授業のこともあって浮かれて眠れなかったことでしょう。今回は大目に見ておきます」

 

 零&ヴィヴィオ、無言でハイタッチ。

 

「––が、反省文は書いてもらいます。原稿用紙十枚分」

 

 

 ▼ ゼロとヴィヴィオは にげだした!

 

 

 ▼ しかし まわりこまれてしまった!

 

 

「げぇっ!?」

 

「これでも移動系魔法を専門としているので。いくら『超万能型(スーパーオールラウンダー)』の貴方相手でも、空ならともかく、陸で負けるわけにはいきません」

 

 最高のスタートダッシュを切った二人の目の前に一瞬にして現れる修道騎士シャッハ・ヌエラ。 陸戦AAAランクは伊達ではないようで、総合AAA+の零を超える速さで立ちはだかる。

 シャッハは前線に出て殴り合うガチンコの近接型。 対する零は主に後方からの召喚獣による支援攻撃に特化––しているが、ほぼ全距離に対応することが可能な万能型。射撃魔法に関する大問題を抱えているものの、現状問題なく使用出来る。

 単純なランクだけを見ると、零の方が有利に思われる。

 ここで重要になるのは『陸戦』と『総合』の違いだ。

 魔導師ランクを設定する基準として『陸戦』、『空戦』、『総合』の三つが存在する。 陸戦、空戦は文字通り大地を踏みしめて戦う者と、大空を舞って戦闘する者のこと。多くの魔導師は空を飛ぶのを夢見て空戦魔導師を目指すが、『空戦適正』という空戦を行うに当たって必須となる適正が障害になる確率が極めて高い。

 なぜならこの空戦適性、完全に才能に左右されるのだ。『魔力量が多くて魔法適性も高いけど、空戦適性がないから陸戦魔導師になる』なんて話はザラにある。 つまり、空に憧れる陸戦魔導師達は今日も努力する。

 もう一つの『総合』は、世間一般で一種の救済措置として認識されている。総合ランクとは空陸戦どちらかだけでなく、両方をランク決定要素に含んだ魔導師ランク設定方法。

 例えば、空陸戦ともにCランクの魔導師Aがいたと仮定する。魔導師Aはどちらのランクも成長が乏しいため、これ以上のランクアップは望めない。

 総合ランクが役に立つのはこの時だ。陸空戦技能の二者を総合、通常のボーダーラインを低くしてランクを決定することで、高い魔導師ランクを得られる。 器用貧乏向けとも言う。

 

「詰み」

 

 陸に特化した騎士、陸空戦を行えるが陸に特化してるとは言い難い魔導師。力の差を把握した聖王女様はポンと零の肩に手を置く。

 陸では勝ち目がない。 どうしようもない事実を悟り、逃げの構えを解く。 「よろしい」と満足げに頷き、こちらも構えを解いた。

 

「罪から逃げるなど言語道断。 よって貴方には反省文二枚追加」

 

 まさかの反省文追加に「うぐっ」と息を詰まらせた言葉を漏らす。

 

「ぷっ、ダメだなぁ君は」

 

「何を言っているんですか? 貴女も逃げようとしていたので同じように反省文二枚追加ですよ?」

 

「!?」

 

 余裕たっぷりに零を笑っていたヴィヴィオにも反省文が追加された。

 

「さぁさぁ。 二人とも、いつもの生活指導室に行きなさい。 途中で逃げたら反省文に加えて騎士専用トレーニングも加えますよ!」

 

 騎士専用トレーニングの言葉に顔を青くした二人は脱兎のごとく職員室を飛び出し、生活指導室に直行する。いい思い出を持っていないようだ。

 嵐が生活指導室へ走り去ったのを見届け、シャッハは自分の椅子に座ってため息をつく。

 

「あの二人。本当に大丈夫なんでしょうか・・」

 

 引き出しから小さな入れ物を出し、中の錠剤を二錠、ペットボトルの水で流し込む。

 

 入れ物のラベルには確かに『胃薬』の文字が書かれていた。

 

 




 ここのヴィヴィオさん、あんまり優等生じゃない。新鮮だと思いませんかね。
 でもさっそくグダグダし始めてるね!

意見、感想、待ってます。

次回→作者の頑張り次第



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第五話 いつもの反省文

 赤点が無くてまったり小説が書けるから調子が比較的いい作者です。

 今回もほぼ零とヴィヴィオの絡みだけだよ!

今回から「・・・」を「....」に修正。

〜主な登場人物〜

『紅影 零』
Stヒルデ魔法学院在学中の初等科四年生。この物語の主人公。思い立ったら即行動をモットーに生きる。ヴィヴィオには過度なスキンシップをよくとる。


『高町ヴィヴィオ』
Stヒルデ魔法学院在学中の初等科四年生。零とは幼馴染であり親友。零に対して素直になれないことが多々あるのが悩みなツンデレ少女。


『高町なのは』
時空管理局本局戦技教導隊所属の教導官。エース・オブ・エースの二つ名を持つオーバーSランク魔導師であり高町ヴィヴィオの義母。よくヴィヴィオと零の関係にちょっかいをかける。



後方支援!その5

 

「あぁぁ......。この原稿用紙も見慣れたよ......。反省文、いったい何枚くらい書いてきたんだろ」

 

「この原稿用紙全部使ったら五○○枚突破かな」

 

「普通は人間、生きててそんなに反省文は書かないような気がするんだけど」

 

「そーいうのも経験だよ、け・い・け・ん」

 

 零の大人ぶった台詞を特に気にすることなくスルー。幾度となくお世話になっている生活指導室で向かい合うように机をくっつけ、もくもくと反省文を書き続ける。

 相当数をこなしているだけあってか、シャープペンシルは止まる気配を見せず、紙の上をサラサラと流れるように滑り、マス目を埋めていく。ものの数分もしないで、原稿用紙の数は半分を切る。

 

「......りんご」

 

 ぽつりと呟かれた単語。謎の呟きに、ついに頭がおかしくなったのかと懸念を抱くヴィヴィオだったが、視界に入った表情がニッコリ笑っているのを確認した。四年間の長い付き合いから導き出されるその行動への答えは----。

 

「ゴリラ」

 

 しりとりである。

 

「ラッパ」

 

「パラガス」

 

「スイカ」

 

「蚊」

 

「カカロット」

 

「トマト」

 

「トウ○バ」

 

「バット」

 

「....トイレ」

 

「レート」

 

「........と、トリック!」

 

「クライアント」

 

「.......!戸!」

 

「TO○O」

 

「..........」

 

 しりとりが終わった、強制終了された。正確には、零が机から体を乗り出してヴィヴィオにデコピンをかました。

 

「いっつ!?い、いきなりデコピンは酷いんじゃないっ!」

 

「ヴィヴィオ、俺がしりとり弱いこと知ってて無限ループさせてくるもん!ちょっとくらい手加減してくれたっていいじゃん!」

 

「待ちガイルとか無限昇竜をこよなく愛してわたしに嫌がらせしてくる君よりましですーっ!」

 

「なにおう!?」

 

 先程のシャープペンシルを動かす音だけが響く空間から一転、指導室は子供同士の喧嘩特有のなんとも言えない空気に包まれる。

 なんで弱いのにしりとりしたんだよ、という問いがあるならば、その回答は『零がそういう性格だから』で、片付いてしまう。有言実行、即断即決。悪く言えば後先考えず突っこむ暴れ牛だが、良く言えばその場その場での適応能力が高い優秀な人材----と言えないこともない。

 頬を膨らませ、じーっと睨み合うことでお互い主張を譲らないスタイルを築く。この二人は仲が良く、とてもいいコンビではあるが、それゆえにか小競り合いを頻発させる傾向がある。『喧嘩するほど仲が良い』のことわざはこの二人のためにあるようなものだ。

 

「........君って人は本ッ当に、頼りになるときはそこそこカッコいいくせに、他は全然ダメだね。わたしがいないと世界一ダメダメだよ」

 

「........ヴィヴィオは、外見も中身も世界一可愛いくせに、それ隠そうとツンツンしてるのがダメだ。個人的には大好きだけど、社会的にはダメ」

 

「そういうの、戯言っていうんだよ、騎士様」

 

「そっちこそ、そういうの戯れ言っていうんだよ、お姫様。あと、騎士じゃなくて王子様の方がいい」

 

 なのはママより強くなったらね、と悪戯な笑みを作り、デコピンし返す。騎士と呼ばれるより王子様と呼ばれるのを望む零としては、いささか不満らしく、むっすりした顔つきになる。

 なのはママより強くなったら----管理局の『表』の絶対的エースを超えることなど容易ではない。 とんでもない精度で変態軌道を描く誘導弾。フィールド、バリア、シールドの多彩なプロテクションにバリアジャケットの装甲防御能力に直結する三○以上の防御用積層構造が生み出す圧倒的な堅さ。隙あらば敵を呑み込む一撃必殺の大出力砲撃。最近は娘を溺愛する少年を屠るために、かつての教え子に格闘技術を教えてもらっているとかいないとか。

 召喚魔法の『到達点』にまで至った零との魔法戦は相性最悪なのだが、なのはは彼に敗北を経験させられたことがない。

 『絶対的な経験差』。それこそが、ほぼ全ての魔法才能において、高町なのはを上回る紅影零が勝利を収められない原因だ。

 

「なのはさんに勝つとかそれなんて無理ゲー......。あの人との魔法戦は八割型バインド合戦だし、あっちの魔法はどの距離でも一発一発が一撃必殺の攻撃なのに、こっちは近距離じゃないと決定打が撃ちこめないときた。厳しいよ......」

 

 練度が大きく関わるバインドを主体に置いた戦闘は魔導師歴一○年越えのなのはに軍杯が上がる。発想の鬼の零とて、経験の差は覆しきれない。

 机に乗り出していた体を椅子に戻し、ヴィヴィオは苦虫を噛むような顔した零に前回のなのはとの魔法戦の感想を告げてみることにした。

 

「わたし、絶対無理とは思わないよ?この前だって、バリアジャケット大破まで追い詰めてたしさ!」

 

「大破させた瞬間にリアクターパージ....もとい、指向性爆発反応装甲に吹っ飛ばされて、バランス崩したとこに砲撃叩き込まれたけどねー。半壊してたとはいえ、杖無し砲撃でジャケットを抜くってさ......ちくせう」

 

 前回、二ヶ月前のなのはと零の模擬戦は二時間にも及び、見る者を釘付けにする白熱の試合だった。

 息つく暇もなく桜色の閃光が舞い踊り、空を翔ける閃光を墜とさんと、強大な爆炎が空を朱に染め上げた。

 自分の『狩場』の遠中距離をシューターと変則的な射撃魔法で維持。その隙間を縫うようにして砲撃を放つなのは。

 研ぎ澄まされた射撃を変換資質の炎熱で焼き払い、砲撃を晒しつつ距離を置かれぬよう、チェーンバインドをメインとして射撃魔法を織り交ぜながら徐々に接近する零。

 魔力量は拮抗。多大な魔力を消費する砲撃、それに対抗するべく数多に展開されるミッド・ベルカ術式。そこから二時間に及ぶ完全な消耗戦へと突入し、燃費で勝った零がなのはをジリジリと追い詰め、模擬戦開始から二時間でついに必殺の一撃を決めた----はずだった。

 確実に防御を抜くはずの一撃は、なのはのバリアジャケットの自動防御機能『リアクターパージ』により威力を大幅に削られ、決め手とはならなかった。

 巻き起こされた魔力爆発に体制を崩してしまう零に送られたのは、勝利の歓声ではなく、高速砲撃魔法『ストライクスマッシャー』。愛機レイジングハートを左腕と同時にバインドされている状況で右手から撃ち出された威力を犠牲に発射速度を求めた砲撃。

 本来、威力は期待出来ないものだが、零のバリアジャケットの半壊、なのはがありったけの魔力を注いだこともあって防御を貫通。結果、なのはの勝利で決着がついた。

 

 不屈のエース相手に大健闘したのだから、誇ってもいい。しかし、本気で勝つつもりだった零としては誇れるはずもなく、得意の戦術勝負、ジャケットの装甲強度で負けたショックで三日ほど引きこもってしまった。

 当時の心境を思い出したのか、整った顔が苦さを通り越して、渋さと辛さが混ざったような謎の表情に変わる。

 あまりの奇妙な表情に少し吹き出しかけたヴィヴィオは、零がぶつけてくる『こっちは真剣なんだぞ』という視線を感じ取り、ごめんごめんと謝る。

 

「男の子ならそんなこと気にしないの!それよりさ、写真撮ろうよ写真。お世話になった人達に、わたし達は今日も元気でやってますよーって」

 

「むむむぅ......確かにヴィヴィオの言うとおりかな。男ならくよくよしてないで、対なのはさん戦術を練り直すべきだね!まずはデバイスを使用不能にしたくらいじゃ砲撃を阻止不可能なことを理解したから、両手両足拘束したところに集束打撃を------」

 

 

 

『私が手足からしか砲撃を出せないと、いつから錯覚していたの?』

 

 

 

「あ、だめだ。あの人なら目からでも口からでも砲撃しかねねーわ。たぶん、召喚獣全解放して攻めてもドロッとしながら破壊光線を撃って殲滅してくるわ」

 

「 人の母親をどこぞのですぞが口癖のム○クみたいな巨神兵扱いしないでよ。目とか口から砲撃とか、さすがに無いから。........無い、よね..........?」

 

 砲撃をこよなく愛する母親を頭に浮かべ、いくらなのはママでも出来ないと自分に言い聞かせる。

 この一ヶ月後、実物を見ることになるのを、二人はまだ知る余地もなかった。

 

「っと、話が逸れちゃった。写真を撮るんだっけか。でもさ、それなら俺とヴィヴィオの二人だけより、コロナとリオも一緒に」

 

「却下」

 

「ほぇ?でも」

 

「却下」

 

「......お、おう。ヴィヴィオがいいならいいけど」

 

「そう。君とわたしと二人でいいの。それに意味があるんだからさ」

 

 同じクラスの学友、コロナ・ティミルとリオ・ウェズリーも一緒に写真を撮るべきではないかとの提案を、却下の一言でバッサリ切り捨てる。

 ヴィヴィオは、本当にいいのか首を捻る零の制服を掴み、強引に自分の横に引き寄せる。足をもつれさせ、倒れそうになる姿には目もくれず、馴れた手つきで撮影用のホロウィンドウを用意。タイマー設定まで済ませた。

 

「あとは......これかな」

 

 撮影の準備を終え、次は髪を縛る二本の青いリボンを解く。縛られていた金色の髪が下ろされ、両耳を完全に覆い隠す。

 腰まである長い髪を手に一つに纏める。二本の青いリボンのうち一本を口に咥え、鏡も見ず器用に纏める位置を微調整して、最終的に頭のてっぺん近くでもう一本のリボンを使う。

 振り向きざまに柔らかい髪がふわっと揺れた。男性の半数は萌え、女性に求める髪型。

 

「じゃんっ」

 

 ポニーテールだ。

 

「ポニテ....だと......?」

 

「ふふん。君の大好きなポニテだよ?しかも、いつものサイドポニーじゃなくて普通のポニテ。こっちの方が好きなんでしょー?知ってるよわたし」

 

「よし早く写真を撮ろう。そしてどっか遊びに行こう。もちろんその髪型で」

 

「素直でよろしい」

 

 犬の尻尾が付いていたならば、千切れんばかりに振っているのが簡単に想像出来るほど、目を輝かせ喜ぶ零を見て、ヴィヴィオの顔が今日一番の嬉しさを見せる。

 

「はやくはやく!」

 

「はいはい、わかったから。どこにも逃げないから急かさないで」

 

 タイマーを一○秒に設定し、二人は横に並ぶ。その間の距離、約五センチメートル。

 カウントは順調に進む。二人の距離に変化はない。

 

「......、」

 

「......、」

 

 カウントの電子音が変わり、スリーカウントに。

 

 三、

 

 二、

 

 一、

 

「そーれ、えいっ!」

 

「わわっ!?」

 

 残りカウント一秒のところで、零がヴィヴィオを自分に引き寄せた。

 悪戯っぽい笑顔の零と驚きに包まれるヴィヴィオのツーショットは、二枚目を撮る間も無く、自動で送信された。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 送信された写真は見る者を微笑ませ、嫉妬させ、そして。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あの二人はまたですかっ!?」

 

 

 

 シャッハを怒らせた。

 




 『お世話になった人』には、当然シャッハも居るわけです。
 この写真を送るの原作では放課後にヴィヴィオ、リオ、コロナの三人を撮った写真を送ることになってます。ちょくちょくオリジナルだね!

意見、感想、どんどんください。

次回→作者の頑張り次第、でも夜天の方も更新しなきゃ。


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第六話 そのころ彼女たちは

夜天を投稿しようと思ったら、先にこっちが完成してしまったの巻。

年内にどっちも投稿したいです。


後方支援!その6

 

  今日も今日とてミッドチルダの平和を守る時空管理局地上本部。ミッドチルダの要となる武装隊と治安維持隊は有事の際はいつでもスクランブルが出来るよう、訓練に励んでいる。

 本日は月に一度の時空管理局本局から戦技教導官が派遣される重要な日。地上本部陸空武装隊はこの日までに自分の持てる技術を磨き、教導官に評価してもらう。

 派遣された教導官は午後からの教導の内容を午前中に最終確認する必要がある。武装隊一つの隊員は約二○人前後で隊の数は軽く一○を超え、教導内容の量が尋常じゃないことになる。そのせいで本局教導官達は午前四時から自主的に地上本部へ出勤し、自分の捌く武装隊の教導内容を纏めることになった。

 航空戦技教導隊教導官、八神ヴィータ二等空尉も地上本部から用意された個室にて、その最終確認を行っていた。

 

 そこへ。

 

「ヴィータちゃん!ヴィータちゃん!ヴィィィィィィタッちゃんッ!!!」

 

 空気圧縮機で開くドアを腕力で無理矢理こじ開ける同僚、高町なのははそのままヴィータの目の前まで歩き、バンッ!と机を破壊する勢いで叩く。コップの中身のコーヒーが勢いよく机の上にぶちまけられ、書類が元気よく中に散らばった。

 一秒にも満たない間に机の上は大惨事となる。

 

「......なのは。あたしはお前が聖王教会に教導にも代えられないほど大事な用があるっつーから、ただでさえふざけた量の今日の書類を自分のだけじゃなく、お前の分までやってやってたわけだ。まぁ、この際その話は後だ。とりあえず------この惨状を納得させるだけの理由は、あるんだよな?」

 

「もちのろんだよ!見てこの写真っ!」

 

 取り出したる端末のホロウィンドウに映し出されているのは、一人の少年と一人の少女。少年が抱き寄せる形で少女を引っ張ったようで、少女の顔からは驚きの様子が見て取れる。

 ヴィータはウィンドウに写る仲睦まじい二人を知っている。『どうしようもないお馬鹿な少年とそのどうしようもないお馬鹿に恋する少女』。二人の組み合わせに疑問を抱く必要はなく、ましてやこの写真になにか問題があるとも思えない。

 だからこそ、悩む。高町なのはという人間を知っているのであれば、この焦りようは異常とも言えるだろう。

 制服を乱し、滝のように流れる汗が、聖王教会から快速のレールウェイに乗って全力疾走して帰ってきたのを物語っている。

 歴戦の魔導師エースオブエースをここまで焦らせる事件。ヴィータの頬に一筋の汗が流れ、

 

「零君ったら、またヴィヴィオを独り占めしてるんだよっ!!滅多に見せてくれない普通ポニテまでさせて!」

 

 次の瞬間にはプロ顔負けのボディーブローが炸裂した。「ほぐぅ!?」と痛々しい声を吐き出し、なのはは床に膝を着く。

 

「まっっったそんなくだらない理由か!!こんっの親バカが!ヴィヴィオも年頃だって前にはやてに言われたばっかだろ!?娘の友達にそんなに嫉妬してんじゃねーよっ!」

 

「くだらなくない!考えてもみてよヴィータちゃん!つい一年前くらいはなのはママ〜」ってくっついてきた子が、最近じゃ一緒に寝てもくれないんだよ!?帰って来ても零くん零くんーって!いや、自然とにやけてるヴィヴィオもとってもキュートでエクセレントでワンダフルなのは眼福だけど、だけどっ!」

 

 涙目で腹部をさすりながらヴィヴィオの可愛さと自身の寂しさを熱弁するなのはの真剣な目。ヴィータは娘ラブすぎて仕事を疎かにしかける親バカに怒鳴ったはいいものの、本人にとっては大問題らしく、一向に立ち直る気配がない。

 

「....ヴィヴィオはストライクアーツを頑張ってるみたいに、色恋沙汰も頑張ってんだ。しかも好きになったのは何処の馬の骨かも知らねぇ奴じゃなくって、あたしらもよく知ってるヴィヴィオの幼馴染ときた。間違った道を進もうとしてんなら止めるのが親の仕事かもしれねーけど、正しい道を進もうとしてんなら後押しするのも親の仕事だろ?」

 

 もしかしたら正しくないかもしれねーけど、と付けたし、床に散らばった書類を集める。彼女なりのフォローはなのはに伝わったようで、「....うん」とだけ呟き、なのはも書類をかき集め始めた。

 ヴィヴィオは決してなのはを嫌ったわけではなく、ただそれ以上に夢中になれることを見つけたに過ぎない。一○前、管理局に入ることを告げたとき、母はこんな気持ちだったのだろうかとなのはは想像をを膨らませる。今更ながら謝罪したくなった。

 

「お、そうだなのは。結局なんの用事があって聖王教会に行ったんだ?ヴィヴィオのこと以外なら直接的にはあんまり縁が無いだろ?」

 

「カリムさんがいいお酒が手に入ったって----」

 

「よしアル中、ちょっとそこに座れ」

 

「ヴィータちゃん、ここ床なんだけど」

 

「座らなきゃお前が先週一升瓶一気飲みしたのをヴィヴィオに報告する」

 

 金色の閃光も驚く速さでなのはは青い床に正座する。

 

「あのねヴィータちゃん。これには深い深い理由があってね....あ、痛い痛い、グラーフアイゼン押し付けないで。え?お酒とヴィヴィオどっちが大事か?そんなのヴィヴィオに決まってるよ。お酒はいくらでも買えてもヴィヴィオはたった一人なんだから。....お酒と仕事?..........し、仕事に決まってるじゃんっ!な、なにその目!?信用してない!?」

 

「仕事の合間にウィスキーボンボン食ってるやつが言っても信用はできねーよ」

 

「ウィスキーボンボンはセーフ!セーフ!」

 

「そうだな。市販のだったらセーフなんだけどな」

 

 酒の味しかしないなのは作のウィスキーボンボン、通称『酒玉』。キャンプするときに牧に火を付ける火種にもなる優れものである。

 なのはのスカートのポケットから『酒玉』の入れ物を奪い、一粒口に含んで顔をしかめる。市販の数倍以上のアルコール分がヴィータの口内を酒一色に染めたのだ。酒の分量と度数が気にならずにはいられない。

 

「うへぇ....やっぱ酒は無理だ」

 

「ふっふっふ....子供だなぁ。そんなヴィータちゃんには今日カリムさんから貰った果実酒がお勧めだよ!程よく甘くて、その気になれば子供でもゴクゴクいけちゃうんだって。いっしょにスコーンもあるから休憩がてら食べよう!」

 

 親指をぐっと立ててウィンクをするなのはをアイゼンで静まらせ、仕事の書類を頭に乗せる。二○センチはある分厚い紙の束の下から呻き声が聞こえるが、ヴィータは気に留める様子を見せず机と向き合い、自分の仕事に移る。

 

 

 

 

 

 教導が始まる二時間前のことだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「あらあら、こんなにくっついちゃって。羨ましいですね」

 

 聖王教会本部の一室。豪華な装飾が施されている部屋は、高い地位の人間が主であることを感じさせる。

 部屋の主----ウィンドウに映る写真を見て微笑む女性、騎士カリム・グラシアは、まさにその地位の高い人間だ。

 ゆっくりとした動作で紅茶の入ったカップを口まで運び、一口。

 

「......貴女も、そう思いませんか?」

 

 その言葉は独り言のように呟かれ、視線がカップから客人を招く際に使用される椅子に座った『貴女』と呼ばれる女性へと変わる。

 

「........ああ。うらやましい限りだ」

 

 一七○センチはある体、光を通さない黒いロングコート、相対する雪のように白い髪を背中まで伸ばし、コバルトブルーの瞳を持つ女性。

 聖王教会騎士団総騎士団長にして、時空管理局内の第三者機関『八席議会』の議長を務める魔導騎士。

 

 人は彼女を『アリス』と呼ぶ。

 

「さてと、そろそろお暇させてもらうよ」

 

「そうですか?もう少しゆっくりしてくださってもいいのに....」

 

「多忙でな。そのようなわけにもいかない」

 

 音もなく椅子から立ち上がり一直線にドアまで歩くと、ふと立ち止まり、カリムの方へ振り向く。

 アリスの右手が瞬間的に白い冷気に覆われ、冷気が晴れると、その手には二つの赤と緑のラッピングされた小箱。二つの小箱をカリムへ投げ、再びドアへ向き直る。

 

「『セツナ』と聖王女に渡してくれ。進級記念だとな」

 

 投げ渡された小箱を目を丸くして見つめていると、いつのまにかアリスの姿が消えているのと、カップの紅茶に訪れた変化に気付き、カリムは一言。

 

「....アリス卿、加減してください」

 

 

 カップの中の紅茶は、琥珀色の結晶と化していた。

 




 重要になるキャラの登場。そしてオリジナル用語、『八席議会』。お酒成分も有り。

 話を重ねるごとに謎がわかっていく....はず。

 意見、感想、どんどんください!

次回→夜天を更新したら


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第七話 ツンデレ・オブ・ツンデレ

 もう投稿ペースがガバガバですな。


後方支援!その7

 

 わたしの友達、紅影 零くんはすごく変わった性格をしてる。何が変わっているかって、この歳になっても恥じらいというものを一切持たない。

 四年生になっても一緒に手を繋いだり、寝たり、お風呂に....は最近いっしょに入ってない。たまに侵入しようとしてくるも、大抵なのはママが立ち塞がるから安心して入浴出来る。お風呂上がりにはバリアジャケット姿で睨み合っていることが大半で、たまにフェイトママが仲介している....何やってるんだろうか。

 そんな彼は今もわたしの手をとって教室へと繋がる廊下をスタスタ歩き続けている。人混みの中でもあるまいし手を繋ぐ必要性なんて一パーセントもないのに、無理矢理こうしてくるから一回は振り払った。

 でもやめた。捨てられた子犬みたいな目をしてきたからしょうがない。

 何度でも言うと、しょうがなく、仕方なくです。

 

「ヴィーヴィオー。お昼ご飯はなに作ってくれるの? 個人的には肉じゃがを所望す」

 

「肉じゃがぁ? 四日前になのはママが作ってたはずだけど。また食べるの?」

 

「ヴィヴィオが作ることに意味があると言ったじゃないか。なのはさんには出せない味があるの」

 

 なのはママに出せない味....彼の言う言葉はよくわからない。料理上手のなのはママが出せない味なんてわたしが出せるわけないのに、本当に無茶な要求ばかりしてくる。

 加えてこの嬉しそうな笑顔。新手の煽りかと疑いたくなり、眉間にシワが寄るのがわかった。

 不機嫌オーラを察してくれたのか、彼は足を止めわたしに振り向く。真剣な表情で両肩を力強く掴んできたのでちょっとだけびっくりとした。......かっこ良くないこともない。

 

 

「もっとジト目で、ほっぺた膨らませた感じでおなしゃす」

 

 ..........前言撤回。どうしようもない変態だった。

 

「ねぇ君さ....自分がどうしようもない変態だって自覚はあるの?」

 

「自覚っていうか何というか、そう教えられたからなんとも言えぬのさ....」

 

「あぁ....主に八神司令とフェイトママだっけ。二人が一番君に愛情を注いでたよね。君の変態性....いや、人格を形成したのはあの二人って言っても過言じゃない」

 

「でも同じ環境にいたヴィヴィオが俺と性格が真逆になるのはおかしい。もっと、こう....か弱い少女っぽく」

 

「ごめん。わたしのお母さんはか弱くないんだ」

 

 あっ(察し)、とか言ってやがる。後でママに報告しよう。

 『子は親の背中を見て育つ』。この言葉を残した先人は尊敬すべきだと勝手に考えてます。彼は八神司令から過剰なスキンシップ能力と性癖、フェイトママから中二病を。わたしはなのはママから不屈の心と....認め難いけど性癖を。

 同じ六課で育っても、関わる人の違いでここまで変わるのは人間の神秘かもしれません。絶対神秘。

 もちろん、彼もわたしも『親』となってくれた人がママたちでよかったと感じてる。今の幸せな日常––––彼が奇想天外なことをやってのけて、驚いて、笑って、たまに泣いて。彼がこういう性格じゃないと出来なかったし、わたしがこういう性格じゃなかったら素直に楽しめなかったはず。

 でも、わたしはともかく彼には本当の"血の繋がった"親がいる。何処にいるのかは知らないし分からない....つまり、彼は『次元漂流者』ってやつなのです。

 

「いいー天気だなぁ。こんな日こそ外で走り回るべきなのに、なーんで始業式とかする必要があるかな。....そうだ! 今度、学年規模の鬼ごっこをしよう。まず––––」

 

 最近彼、自分は次元漂流者ってこと、忘れてるんじゃないかと思うことが度々ある....というか絶対忘れてるよあれ。ここ一年くらい彼の故郷についての話をしてないし。完全にこの世界を謳歌してる。

 本人は楽しそうに鬼ごっこもとい、シスターシャッハの胃を痛める計画を無意識立ててるけど、わたしはそんな謎に包まれた彼の過去についてすごく気になる。

 

「ほんとにどこから来たのやら....」

 

「VIPからきますた」

 

「板に帰りなさい」

 

「ヴィヴィオのまな板に帰れと申すか」

 

 わたしの胸部に熱い視線を送ってきたからアイアンクローをプレゼントしてあげることにした。

 

「ごめんね。よく聞こえなかったよ....で、誰がまな板なのかなぁ?」

 

「じょじょじょ冗談だよヴィヴィオ。ヴィヴィオはまな板なんかじゃいさ。どっちかっていうと将来はボンキュッボンなナイスバディ、安産型になる予定だもんね! だからおっぱいも同年代の子に比べて大きくて最近は男子の視線が気になるんでしょっ」

 

「安産型ってのは余計。けど....よく見てるね、わたしのこと」

 

 アイアンクローしてる右手に少し力が入る。

 

「痛いですぅぅよぉぉぉヴィィィヴィオさぁぁぁぁん!?」

 

 どういった意図で見てるのかは後でじっくり聞き出すとして、わたしをちゃんと見てくれているっていうのは嬉しくなくもない。

 

 彼がなにやらギブアップのサインを送ってるのに気付いた。力を込め過ぎた。

 涙目になってるから一応、ごめんなさいしておく。

 

「いてて....そのまま握り切られるかと思った」

 

「それなんて南斗水鳥拳」

 

「実はヴィヴィオはあの伝説の拳法、聖王神拳の伝承者であった。聖王神拳は触れただけで相手を爆発四

散。......オリヴィエさんってたしかメチャクチャ強かったよね?」

 

「強かったけどそんな殺人拳の開祖ではないと思うよ。ま、その戦技がわたしに遺伝してるとは到底考えられないけど」

 

 一応、わたしは人造魔導師。クローンとも言える、人工的に造り出された人間。わたしの複製母体....簡単に言えばオリジナルとなった人、『ゆりかご』の聖王女オリヴィエ・ゼーゲブレヒト。彼女は魔法と武術の両方に優れていて、そこらの国々では敵なしだったみたい。最後は愛する人の制止を振り払って『ゆりかご』に乗り、戦乱を終わらせた......って、伝記には書いてあった。

 詳しいことは知らない。クローンだからってオリジナルの能力や記憶を完全に受け継ぐわけじゃないから、当時オリヴィエが愛する人とやらにコークスクリューをかました記憶なんて残っていない。

 

 残っていませんよ?

 

「だよねー。こっちとしてもその方が都合がいいわけだし、程よくか弱いなら乙女らしさが出るというもの」

 

「ほほぅ。つまり今は乙女らしくない、と」

 

「拳がヒュンヒュンと風を切る音出してる時点で乙女と言うのはどうかと」

 

「魔法少女だもん。しょうがないよ」

 

「ヴィヴィオの魔法少女の定義はおかしい」

 

 いろんな定義がおかしい人におかしいと言われる筋合いは無い。魔法少女は何したって可愛いってなのはママが言ってたからそうなんだよ。

 

 でも二○歳越えて魔法『少女』はアウトかな。

 

「....っと、ここが教室みたい」

 

「んぉ? おぉ、ここが」

 

 薄っぺらな世間話もそこそこに、わたしたちの目の前に現れたのは『4ーA」と書かれた札が取り付けられた教室。教室から初等科四年生として一年間を過ごす場所。

 Stヒルデは入学してから数回のクラス替えがある。初等科二年、四年と中等科一年、二年の計四回。

 初等科五年制、中等科二年制の基本七年間の在学で生徒たちは社会の立ち回り方を教え込まれる。

 ちなみに中等科を卒業してからも更に知識を深めたい人は高等科に進学する人が多い。わたしと彼も将来的には高等科に進学したいと考えてる。

 

「....ふふっ」

 

 ともあれ、今日から一年間、彼と一緒に過ごす学校生活は心躍る。去年は違うクラスだったから、その分を取り返すくらい楽しまなきゃ。

 

「ほんじゃまぁ、行きますか!」

 

「空回りしない程度で」

 

 わたしたちは、教室への引き戸を力強く開けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「諸君! 待たせたなッ!!!」

 

 開け放たれた引き戸の音に教室中の視線が集まった。うっ....なんかこいう大勢の人に見られるのは苦手。

 対して彼はこの視線が心地よいと言わんばかりに、満足げな表情を浮かべている。目立ちたがりな、彼らしい反応だと思った。

 三八の視線をものともせずにわたし手を引き、スタスタと教壇に上がって、彼は直ぐに白いチョークを手に名前を書く。

 ......みんなの前なのに手を離す気配がまるでない。振り払おうにも無駄に強く握られていて、無理。..........春先なのに身体が熱い。ああ、もう。だから彼とは外に出たくない。

 

「初見の人は初めまして。そうでない人も初めまして。Stヒルデでは知名度が高いと自負してるけど、自己紹介したいからするね。––––三ーC組出身、紅影 零! 好きな食べ物は卵で得意な魔法は召喚転送魔法全般! これから一年、楽しくやっていけたらいいと思ってます! よろしくっ!」

 

 恥じらいの一つもなく、教室中に響き渡るハリのある声で、彼は堂々と『自分』を宣言した。すっごいドヤ顔してる。元気よく弾けすぎだと思うけど、このくらい堂々としてるのは、ちょっぴり羨ましい。

 

 しばらく静寂に包まれていた教室だったけど、直ぐにそれは破られ、クラスメイトたちがワイワイ騒ぎ出した。

 

 

「なーにやってたんだよ、遅いぞ零ぉ」

 

「こーえーくん遅すぎぃ!」

 

「そうだぞ!お前がいなきゃ、このクラス始まんねぇぞー!」

 

「ヴィヴィオちゃんとなーにしてたのー?」

 

 最後に変な声を聞いた気がするけど気にしないことにした。

 主に声を上げているのはおそらく、元三ーCのメンバー。『紅影 零』という存在と一年間を過ごして、その姿に魅了された人たち。

 彼と同じクラスになれば一年間、密度の高い充実した学校生活を送れるという噂は結構有名で、今日のクラス替え発表を息を飲んで見守っていた人もいるとかいないとか。

 やっぱり、彼には謎カリスマ性あるんだよね....。

 

「ほらほら。ヴィヴィオも自己紹介して!」

 

「..........なら手、離し....て!」

 

 自分の喉から出たあまりにも小さく、掠れた声に、自分が一番驚いた。いつものように冷静に、ハッキリとした声が出ない。どんどん身体が熱くなっていく。わたしはこんなに大変な目にあってるのに、彼ときたら何か問題でも? と言いたげに首を傾げてキョトンとしてくれやがってる。

 お、落ち着け高町ヴィヴィオ。こここんなことで顔を赤くして声が出せなくなるなんて、まるでわたしが彼に手を繋がれて恥ずかしがってるみたいだよ。彼へのこの感情、誰にも悟られるわけにはいかない。なのはママたちにだって知れてないことをクラスメイトに知られちゃったら元の子ないんだから!

 だから、わたしはわたしの持つ言葉で、この場を乗り切る。みんなにわたしの思いを隠し通せる絶対の言葉。なのはママが使ってたって、八神司令が言ってた伝家の宝刀....!

 大きく深呼吸して、一瞬、たった一瞬だけ心を落ち着かせる。相手の攻撃を紙一重で躱し、全力のカウンターを打ち込むように、彼の目を見て、全力の出せるだけの声で、わたしは言い放つ。

 

 

「べ、別に!君のことなんか!全っ然好きじゃないんだからっ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 何故か、わたしはツンデレと呼ばれるようになった。

 




 なんか冷たいヴィヴィオって書くのがすごく難しい。てか、ツンデレを書くのが難しい。先人はどんな考えで書いていたのか気になる今日このごろでした。

 意見、感想とかあったら書いてくださいな。

次回→作者の頑張り次第


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第八話 デバイス・オブ・デバイス

 飛び抜けた性能のデバイスとかって、なんかいいよね。こう、三十年前の設計だけど、未だ最強とか。

 作者の妄想でした。


 暗い、暗い、暗い部屋。太陽の光が一切届かない、闇に閉ざされた一室。

 

 時空管理局本局の地下室の一つに数えられる部屋。この部屋の入室できるのは中央部に設置された培養器の中の『モノ』を知る人間だけ。

 大型の培養器の中は青白く発光する謎の液体に満たされ、這うような薄暗い光が部屋を異質さを物語っている。

 

『..........、』

 

 培養器の中の『モノ』は静かに、なんの動きも見せず、液体に浮いていた。万が一、培養器内の『モノ』を何も知らない一般人が見てしまえば、その人に常識があるならば、真っ先に管理局に通報するだろう。

 

 

 

 

 なにせ、人が入っているのだから。

 

 

 

 

 性別は女性。歳は一○歳前後に見え、体型は痩せ型。ウェーブのかかったブロンドの髪をクラゲの足のように揺らし、何故か逆さまになって浮いている。布という布を一切纏っておらず、人間が生まれる瞬間と同じ姿をして、ただただ静かに目を閉じている。

 まるで、何かを待っているかのように。

 

『––––––』

 

 突如、鍵のかかったように閉じられていた瞼が上げられる、いや、逆さまなので下ろされる。開かれたのは蒼き双眸。濃い蒼色の瞳は同系色である培養器内の液体が、まるで透明かのようにはっきりと主張する。冷たさと暖かさを備えた、全てを見透かすような瞳。

 その視線は、周り中のよく分からない大型機材ではなく、真っ直ぐに、室内と室外を繋ぐ唯一の扉に向けられていた。

 ミサイルの直撃に耐え得る強度を誇る特殊な素材と魔法術式で組まれている強固な四重層の扉が次々と開かれ、扉の向こうの光が差し込む。

 

「おはよう。気分はどう?」

 

 当然の如く培養器の二メートル前ほどまで歩いて近づいて来た人物は、少女になんの躊躇いもなく、親しげに話しかける。

 部屋の照明が着いていないため、人物はまるで影人間のように見える。

 発光する液体の色が、入って来た人物を薄っすらと照らし、ほっそりとしたボディラインと、腰まで届くであろう長い髪を微かに浮かび上がらせた。女性だ。

 

『....貴女がここに来るなんて、珍しいですね......奴らに動きが?』

 

「......うん。ついに動き出したみたい。でも、まさかここまで早い段階で動くのは、ちょっと想定外だったかな」

 

『想定外....か。ふふふっ。この程度、想定内ですよ』

 

 怪しげな笑みを浮かべる少女に女性は一瞬、呆気を取られるも、直ぐに口元が三日月の形に歪む。「そういうことですか」と、少女の意図を理解し、笑ったのだ。

 

 自分たちの手の平の上で踊る、『奴ら』に。

 

『くふっ、くくっ....くく、くはは、くはははっ!』

 

「ふっ、ふふふ....ふっははははっ!」

 

『「くっはっはっはっはっ!!!!」』

 

 二人は笑いは徐々に邪悪なものになり、互いに声を張り合うかのように大声で、悪の組織の重要人物のように高らかに笑う。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「エターナルハート、フェイトさん。なにしてるですか?」

 

 ––––そして予想外の人物の登場に硬直する。

 

 『フェイトさん』と呼ばれた女性は邪悪な笑みを貼り付けたまま、ギギギと錆びた機械人形の首を動かすように不自然な動きで後ろに振り返る。

 振り返った先には、これまた培養器内の少女と同い年ほどの年齢の少女が片手に何かの書類を持って佇んでいた。

 茶地のジャケットに青いネクタイを締め、同じく茶地のタイトスカート––––時空管理局地上部隊に所属する者の着る制服だ。ジャケットの裾ほどまである空色の髪と爽やかなレモン色の髪飾りが暗い雰囲気の部屋をほんのり明るい雰囲気に変える。

 

「リ、リイン? ななななんでこんなところに....?」

 

 空色髪が特徴の少女、リインフォースツヴァイ、略してリイン。管理局唯一の『ユニゾンデバイス』という少々特殊なデバイス兼人間。

 リインは固まっている二人の硬直を解くように口を開き、話し始める。

 

「それはこっちのセリフです。わたしは技研からエターナルハートのデータリンクシステムの調整準備を任されて来たんですよ」

 

 手元書類を『フェイトさん』––––時空管理局本局執務官、フェイト・Tハラオウンに突き出す。

 小難しい専門用語の羅列で、見ているだけで頭が痛くなりそうな資料の隅っこには、『時空管理局本局第一技術開発研究部 室長 シスイ・ティミル』と書かれたサイン。これは本局の技術開発研究部から正式に仕事を託されたという証になる。

 書類を見せられたフェイトはバツの悪そうな表情で「タイミング悪すぎだよぉ....」と、リインに聞こえない音量で呟く。

 

『あれ? データリンクの調整ってたしか最終日じゃなかったっけ。今日は魔導式偵察機の調整だったような......』

 

 『エターナルハート』の名で会話が進んでいる培養器内の"デバイス"、通称、エル。曰く、個人端末に求める全てを実現させた、管理局が誇る『ぼくのかんがえた最強のでばいす』。今年でちゃっかり三十路。

 その性能ゆえの一週間に渡る調整スケジュールを記憶の奥から引っ張り出し、本日は行わないはずの総合偵察システムの調整に疑問の声を上げる。

 

「うーんとですねぇ....何やら技研全体に緊急要請がかかってるみたいで、唯一、エターナルハートの調整が許可されているほどの技術者の揃う第一技研を回さないわけにはいかない状況、とのことらしいです」

 

『わたしよりも優先すべき要請で、全技研が動く要請かぁ......よっぽどの大事だねー』

 

 会話のため、口を開く度にポコポコでる気泡を目で追って、特に興味を示さないエルに、リインはやれやれといった感じで「さっそく始めるですよ」と言葉をかける。

 早足で培養器前まで進み、設置されているコンソロールパネルを慣れた手つきで叩く。デバイスだけあってか、高い処理能力でホロウィンドウに表示されるエラーや警告をハイスピードで次々と消していき、三○秒経たないで、データリンクシステムの中枢に辿り着いた。

 これまでの膨大なリンクデータの記録をストレージ型デバイス『蒼天の書』に一旦移し、不備がないかをチェックする。濁流のようにスクロールする文字を一字一句漏らさず、リインは処理し続け––––、

 

 ピタッと、手が止まった。同時に凄まじい速度で流れるデータも停止する。

 

「..........これは」

 

 深刻な表情のリインが凝視しているのは、データリンクによりエターナルハートに受信されたとあるデータの一部。

 

 

 データ名『魔法少女リリカル☆オリヴィエ』。

 

 

 聖王教会監修の元、一種の布教活動として深夜枠で放送されていたアニメだ。

 映画でも作ってるのかと疑うほどの戦闘シーンの作画と、熱い恋と友情の物語が話題を呼び、何を間違ったか、毎週日曜一八時三○分の放送枠を手に入れた謎の作品。現在は第四期が放送中。

 

 リインは目にも留まらぬ速さで後ろを振り向く。恐らく、このデータをデバイスにダウンロードしようと目論んでいたアニメ大好き執務官を捉えるために––––––、

 

「フェーイートーさーん!!––って、いないっ!? いつのまに消えたですかっ!!」

 

『今日は早めに帰宅して家族サービスするって言って、リインちゃんが振り向く五秒ほど前、かな? いやー

、家族思いないい人だねぇ』

 

 つい五秒前、家族のために高速移動魔法で早めに帰宅して行ったアニメ大好き執務官の焦りようを思い出し、「はっはっは」と棒読みのごとく笑う管理局の最高傑作なデバイス。

 同じく「あっはっは」と笑う管理局唯一のユニゾンデバイス。

 

 そんなユニゾンデバイスから一言。

 

 

「......エルちゃん。データリンクを私的に利用したことについて、まず言うことは?」

 

『ごめんなちゃい』

 

 ちっちゃな二人だけで、何処と無く広くなった部屋に、謝罪の声が響いた。

 

 

 

 

 

 

 

 管理局で人型高性能デバイス二機が漫才のようなものを繰り広げているのと時同じくして、Stヒルデ魔法学院の別館図書館に何やら分厚い本と格闘する少女が一人。

 

「『データリンクシステム––時空管理局本局を中心とした統合情報伝達システムのことを指す。全管理世界の衛星や専用施設から様々データを受け取り、それを瞬時に処理して本局から地上本部や各支部、次元巡航艦に送信して的確な指示を出すことができる画期的な情報伝達システム』....全然意味わかんないだけどこれ。零くん、なんでこんなの読めるんだろ」

 

 その意味のわからないシステムを使い、管理局地下施設で母親の一人が自分を題材としたアニメをダウンロードしようと目論んでいるのも知らず、高町ヴィヴィオは、顔をしかめながら『世界の超技術』という本のページをパラパラとめくる。

 百科事典並みに分厚く、変に難しい言葉を使っているあたり、対象年齢が明らかに高い。いくら賢い文系のヴィヴィオと言えど、完全に理解するのは一苦労、といったようだ。

 しょぼついた目をギュっと閉じ、背中を椅子に預けながら大きく背伸びをして固まった体をほぐす。

 

(......やっと学校が終わってクレープを食べに行こうと思えば、ホームルーム長が決まってないから魔法戦で決めるとか、なに考えてんの)

 

 ちらりと時計に目を向けてみれば、時は既に一二時まで五分とないところまで進んでいた。

 零が「ちょっくら行ってくる!」と言ってからはや三○分近く経ち、一緒にクレープを楽しみにしていたヴィヴィオとしては、徐々に上がっていく怒りのボルテージを抑えるのは難しいことだ。ましてや、零の強さを知っているヴィヴィオは、普通の学生相手に魔法戦でここまで時間がかかるはずない。当然のようにそう思っている。

 

 頬を膨らませて不機嫌さを滲み出しているヴィヴィオの後ろに近づく影が二つ。

 

「ヴィーヴィオっ!!」

 

「わひゃっ!?」

 

 首筋に冷たいものを押し付けられる感覚がヴィヴィオを襲う。肩が大きく跳ね、読んでいた本を床に落とし、鈍い音が図書館に静かに伝わる。

 やっと来たか。と考えるも、直ぐにその考えを捨てる。零ならこんな回りくどいことはせず、一気に抱きついてくるのが当たり前。

 自分をファーストネームで呼び、親しく接する人間、さらには図書館に訪れる人間となればかなり絞られる。

 

「だーれだ?」

 

「二人? さっきのはリオ、今のは....コロナ。うん、間違いない」

 

「「大正解!!」」

 

 背後にいた二人の少女は、素早く机を挟んで向こう側に駆ける。

 

 一人は頭に黄色い大きなリボンがついたカチューシャをしている、明るげな雰囲気の黒髪ショートカット。もう一人は腰の下辺りまで伸びた灰色の髪を、青と白の水玉模様のキャンディがついた二つのゴムで結ぶ、おっとりした雰囲気のツーテール。

 もちろんヴィヴィオは二人のことをよく知っている。今学期、四年生になって、同じクラスになった友人だ。コロナ・ティミルは一年生で、リオ・ウェズリーは去年の末に出会い、四年生になった現在も深い交流のある仲だ。

 一度、床に落ちた本を拾い上げ、ポーズを決めてウインクしてくる二人に、少々の疑問を持って話しかける。

 

「ここにいるのは言ってないけど....わざわざ探したってことなら、なにか用事があるの?」

 

「用事というか、学校終わった瞬間に師匠を引っ張って教室出て行ったのに、さっき師匠が屋外魔法戦場でクラスメイトとか教会騎士相手に大立ち回りしてたから、なにかあったのかなーって」

 

 コロナの言った教会騎士の単語に、ヴィヴィオは、何処か納得した表情になる。

 

(なるほどね。クラスの人だけじゃなくって教会騎士も....。デバイス無しの今の彼じゃ、厳しいかも)

 

 ある程度の予想をつけ、椅子から勢いよく立ち上がる。早足で本を元あった場所に戻し、自分の急な行動に驚く二人の横を通る。

 

「あ、ちょっとヴィヴィオ!? どこ行くのっ」

 

 スタスタと歩調を緩めることなく歩いてゆくヴィヴィオを、リオがやや慌てながらも、止めようと声をかける。

 リオの声に一旦足を止め、窓から差す太陽光を含み一層美しく輝やく金色の髪を揺らし、こう言う。

 

 

「いつまでもレディを待たせる、どうしようもない変態紳士さんを迎えに、だよ。二人も来る?」

 

 

 仕方なく、という口調とは裏腹に、小さく笑う口元。

 コロナとリオは顔を見合わせ、互いの意見が一致のを確認して頷く。二人の意見を代表してコロナが真剣な表情で一言。

 

「ヴィヴィオ、デレるのはちょっと早いよ。それじゃチョロインになっちゃう......それはそれで面白いけど」

 

「コロナ、少しだけ二人っきりにならない? もちろん、最後に聞こえた事についての話しで」

 

 デレは否定しなくとも、チョロインは認めないヴィヴィオの話し合いが始まる。

 




 デバイスがリアルタイムでデータリンクできたらかなり強くね?と思った。描写がないだけで原作ではされてるかもしれないけど。

意見、感想とかあったら嬉しいです。

次回→三月にはなる


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第九話 (燃え)盛る戦技場

まったく更新できてねぇ!

だがしかし、夏休みを利用すれば更新速度は上がるはずです。

がんばりまふ。


 

 青年は非常に疲れていた。かなりの量の魔力と魔法をデバイス無しで行使し、自らの変換資質の炎熱の余波で喉が焼けるように熱く、汗が滝のように地面に流れ落ちる。

 

「だぁぁぁ....はぁ、はぁぁ....こなくそッ。硬すぎるぞこんにゃろぉー......!」

 

 青年––紅影零は、Stヒルデ魔法学院の敷地内の魔法戦技場の中心で、二○メートルほど先に各々のデバイスを構えて立つ三人の教会騎士を忌々しげに見つめ、悪態をつく。変身魔法により少年から青年へと変化を遂げ、魔力運用効率が上がったはずの身体が、異様に重く感じていた。

 後方型を自称するだけあって強固なバリアジャケットは所々が焦げ、鋭利な刃物に切り裂かれたような跡も見て取れる。しかし、それは零だけではなく、相対する教会騎士三人も同じ状態––いや、もっと悲惨な状態と言っても過言ではなかった。

 基本的にミッド式魔導師のバリアジャケットよりも強固に形成するベルカ騎士自慢の騎士甲冑だが、一人の甲冑は上半身部が完全に焼け落ち、もう二人のものも、一部分がごっそり焼けたように消え去り、炎熱付与の魔力刃で斬りつけられたであろう跡が甲冑全体に切り込まれている。

 

(最初の方、派手に魔力を使いすぎちゃった....これじゃ"飛べて"あと四回、『コレ』は今のを含めて三回ってところかな)

 

 四○センチほどの朱い魔力刃を出力する黒いナイフを逆手に構える左手とは逆の右手を、目だけ動かして見る。

 手の平に浮かんでいるのは、高濃度に圧縮され、本来の朱色の魔力光を通り越し、禍々しい黒みがかかった魔力球。"ものすごい圧縮魔力をぶつけて相手を魔力爆発で吹っ飛ばす"という零の持つ、いたってシンプルな、ごくごく単純な純粋魔力攻撃。

 ただ魔力を圧縮してぶつけるだけなので、術式をいちいち組む必要もなく、AMF状況下やデバイス無しの状態にはまさにもってこいの技と言える。

 

("目的地"は長剣騎士さんの後方五メートルに一つ、斧騎士さんの前方八メートルに一つ、盾剣騎士さんの足元に一つで、こちらの手持ちは三つ。無難に考えて次の攻撃に派生し易い盾剣騎士さんに飛ぶのがベスト....てか、これ以外は道がない)

 

 構えていたナイフの出力する魔力刃の展開を停止し、少しだけ腰を屈め、腕に勢いをつけてナイフを地面に突き立てる。

 三人の騎士たちは、零の奇妙な動きに警戒を強め、各々がナイフに、魔力球に、零に意識を集中させる。三つのうちどれかに異変があった場合、一人が真っ先に対処できる三人一組の役割分担を組み上げ、隙を見せない威圧感で牽制する。

 騎士称号を得る実力者の威圧感を肌で感じつつも、これからの動作のために魔力球の圧縮率を下げ、零の準備は整った。

 

(目くらましに炎の津波でも出せればいいんだけど、贅沢言ってられないし––––これでっ!!)

 

 そう決断し、零は魔力球を"地面に叩きつけた"。

 

 ゴバッ!! と、今にも爆発するのではないかと思われるほど圧縮された魔力の塊が、魔法戦技場の地表を無理矢理抉り、大量の魔力と土煙が舞う。

 

 爆発の余波は一○メートル離れた騎士たちに、大型の津波のように覆い被さる。熱を帯びた魔力と土煙に目を潰されないよう両目を閉じ、少しでもダメージを軽減するために前方に向けて各々の武器を盾のように構える。

 いつ奇襲が来てもおかしくない状況になり、盾剣の騎士は、デバイスに探知魔法を発動させ、零の魔力反応を確認する。視界が潰されている今、頼れるのは探知魔法による発見のみ。

 反応は直ぐにあった。多量の魔力を持つ者だけあり、探知されるスピードも早い。魔力量の多い者のデメリットの一つだ。

 盾剣の騎士のデバイスは探知結果を淡々とした電子音に変えて自分のマスターに伝える。

 

 

 

〔Zurück, überflügeln Sie 0(後方、距離0)〕

 

 

 

 

「ほんっと、いくら強いからってデバイス無しで正騎士三人に挑むなんてバカの極みじゃないかと思うんだよ。それに......? リオ、コロナ、聞いてる?」

 

「あーはいはい聞いてるよー....」

 

「うんうん。聞いてる聞いてる」

 

 戦技場に行くまでの長い渡り廊下の道のりをリオ、コロナの二人はヴィヴィオの愚痴のようなノロケ話のようなものを聞かされながらてくてくと歩く。

 ヴィヴィオの"いつもの"行動で慣れたとはいえ延々とそんな話を聞かされるのは苦痛である。

 

 

「あ! いたぞっ! あそこ!」

 

 渡り廊下の向こうから声がした。すると、バタバタと激しい足音を立て、初等科生の制服を着た少年が十人ほどヴィヴィオたちに向かって走って来た。

 出会い頭に真竜クラスとばったり遭遇したりした経験を持つヴィヴィオにとってはこの程度たいしたことではないが、他の二人は一斉に駆けてくる男子生徒に驚きと戸惑いを隠せない。

 

「ツンま....高町さん!」

 

「高デ....高町さん!」

 

「高ま....ツンマチさん」

 

「高町....ツンデレさん」

 

「高町ネキっ」

 

 男子生徒たちの発言に高町ヴィヴィオは青筋を浮かべざるを得ない。今すぐにでもアクセルスマッシュを打ち込みたい衝動に駆られるが、相手は零のように避けたり防いだりしてくれそうにないのでグッと堪えておく。

 

「......まあ、わたしは心が広いからそんなこと気にはしないんだけどさぁ....。何か用?」

 

 ヴィヴィオは若干苛立ちを覚えながらも、男子生徒たちに尋ねて来た理由を問う。よく見ると全員服や肌に黒いススをつけている。男子生徒が口を開く前に、彼らが何をしてきたかの予想はついた。

 

「実はさっき、零のやつとホームルーム長を決める魔法戦をしたんだけどさ......これが僕たち惨敗だったんだ」

 

「一応、AAAランクの魔導師だからね。そこらの騎士なんかよりよっぽど強いよ?」

 

 自分のことではないのだが、友人の能力の高さを自慢げに語る。ドヤ顔な微笑に数人が一瞬心奪われた。伊達に美少女と呼ばれてはいないようだ。

 ぽけーっとする同級生に目もくれず、最初にヴィヴィオに話しかけて来た男子生徒は会話を続ける。

 

「そう。零はAAAランクの魔導師....僕たちが下手に飛びかかっても勝てる見込みは少ない。そこで考えたんだ! あの零の相棒と名高い高町さんなら、零を相手にしたときに有利な立ち回り方を知ってるんじゃないかってさ!」

 

「んー........そういうことね」

 

 一瞬、なにか迷うような素振りを見せたが、「いいよ。教えてあげる」と気前良く了承する。

 黙って会話を聞いていたリオ、コロナは驚いた。ツンの成分が強めな彼女とはいえ、零が不利になるような情報をあっさり提供するのは意外な行動と言えた。ましてや、現在デバイスを携帯してない零は致命的な弱点が露呈している。それを知られれば、AAAランクの魔導師であっても十人もの数を相手取るのは非常に厳しい。

 紅影 零を攻めるにあたっての"最も効果的"な位置を木の枝で土に書いて説明するヴィヴィオを眺めながら、二人はただただ首を傾げていた。

 五分ほどたったところで男子生徒達はヴィヴィオに礼を述べ、手を振りながら魔法戦技場へと消えて行った。ひらひらと手を振り返すヴィヴィオを見てリオが疑問に思っていたこと口にする。

 

「ねぇヴィヴィオ....なんで零の弱点とかをあんなあっさり教えちゃったの? いくらあいつでも、弱点がばれた状態で多人数相手は......」

 

「それならなーんにも心配はいらないよ、リオ」

 

「....?」

 

「わたしが教えたのは彼と戦うにあたって最も効果的かつ効率よく攻撃できる場所。具体的には彼の宿敵"なのはママとの交戦距離"になるとこ」

 

 コロナが「ああ、そっか」と、納得し、リオがさらに頭を捻らす。

 ヴィヴィオの母親––エースオブエース、高町なのは。もちろん超有名人である彼女のことをリオは知らないわけではない。しかし、何故その人との交戦距離だから心配いらないのかがわからない。

 高町なのはは大出力砲撃がメインの遠距離(ロングレンジ)と中距離(ミドルレンジ)を得意とする砲撃魔導師だ。

 

 "自分だけでは"射砲撃魔法を使用出来ない零が、有利に立ち回れるはずがない。

 

「リオは師匠と会ってまで日が浅いもんね。まだ格闘戦技くらいしか見たことないんじゃない? あれだって本当はおまけみたいなもので....」

 

「おまけ? あいつってFA(フロントアタッカー)じゃないの」

 

「......師匠は召喚士だよリオ。本領を発揮するのはFB(フルバック)で、後方からの火力支援が本来の戦い方」

 

 あんなガサツな召喚士がいてたまるかと、リオは思わずにはいられない。

 このままでは話が進まないことに気付いたヴィヴィオは二人の手を引き、戦技場へ歩き出しながら会話を続ける。

 

「とにかく、その距離は彼が最も警戒して対策を練ってるの。だから負けることは無いから、さっさと迎えに行く。おーけー?」

 

「お、おーけー....」

 

「ズドン」

 

 反射的にコロナの口からこぼれた謎の効果音がちょっと気になるリオだったが、気に留めず歩くヴィヴィオについて行くうちに、疑問は耳の穴から通り抜けていくのだった。

 

 

 

 一方、戦技場は。

 

 

 

『刻めェッ! 血液のビィィトォォッッ! 燃え盛れスピリットォォォッ!!』

 

『あっづづづづづっ!? 無理無理無理っ!! なんだよあれっ!?』

 

『な、なんて馬鹿魔力....!』

 

『こいつ今さっき正騎士三人と戦ってたくせにってわああぁぁぁ!?』

 

 戦技場ではテンションMAXの零が持ち前の大魔力で大暴れしていたりした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 数十分後。

 

 

「このクレープうめぇうめぇ」

 

「梅ソース入りなだけに? やかましいわ。....ん? なのはママからメール? なになに、『早く帰ってきたいいことがある可能性がなきにしもあらずと言えなくもないよ』。なんでこんな回りくどいの......」

 

「どしたのヴィヴィオ。メール?」

 

「うん、なのはママから。早く帰って来たらいいことあるかもしれないだってさ。というわけでさっさと家に帰るよ。あと口元、クリーム」

 

「おりょ、失敬失敬....拭いてくれてもええんや––––あ! ちょっと待って! 置いてかないでっ!?」

 

 




物語をサクサク進めたいのに出来ないとはこれいかに。

意見、感想とかをくださると嬉しいです。

次回→なるべく早くしたい。


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第十話 セイクリッド・ハート

Vividアニメ化決定ヒャァァァァフゥゥゥゥッ!!!

テンション上がってやる気のでてきたぁぁ!

夏休みに更新が早くなるかと思ったらそうでもなかったよ!


 

「ただいまー」

 

「ただいまでーす」

 

 寄り道をしながらもちょっと急いで帰ってきた二人は、いそいそと靴を脱いでリビングへ向かう。

 なんだかんだで、なのはの言う『いいこと』が気になる様子。ヴィヴィオは鼻歌を歌い、零は奇妙なステップをきざみながらクルクルと回る。特にこれと言った意味のない行動である。

 

 友人のいつもの奇行は見なかったことにしつつ、ヴィヴィオはドアを開け放つ。後ろで「かまって!」と幻聴まで聞こえたような気がしなくもなかった。

 

 

『とうとう追い詰めましたよ、スカルエッティ! クラウスを返しなさい!』

 

『くっくっくっ....聖王女、お前は私の罠に嵌ってしまったのだよっ!!』

 

『ダメですオリヴィエ! こっちに来てはいけないッ!!』

 

「どうして覇王がヒロインなんだろ......?」

 

 大型の液晶テレビから流れる映像と音声。

 と、それに釘付けになっている女性が一人。

 

「....フェイトママぁ......なに見てるの?」

 

 怒りを抑えているのか、わなわなと肩を震わせて静かに、ヴィヴィオは自分の複製母体が主人公を務めるアニメを嬉々として見る女性、フェイトに声をかける。

 

 静かな怒気を含んだその声に素早く振り返ったフェイトは怒りに震えるヴィヴィオを視界に入れるやいな、ただでさえ白い肌をさらに蒼白にする。

 ヴィヴィオはなぜかこのアニメが好きではない。理由は誰にもわからないが、とにかく嫌がる。零やフェイト、なのはにも見て欲しくないと言うほどにだ。よほど深い理由が有るのかと思われているが、実はけっこう単純だったりするのはまた別のお話。

 

「..........おおおおかえり。ヴィヴィオ、零」

 

「ただいま。フェイトママ、なんでそれ見てるの?」

 

「....あ、新しい魔法の研究材料!! ディバインバスター・改とか! アクセルスマッシュ・メテオとか! カッコイイでしょっ!?」

 

「ディバインバスター・改もアクセルスマッシュ・メテオも零くんの技じゃん。そーいう言い訳はよくないと思いますけどっ!」

 

 めいっぱい頬を膨らませて怒るヴィヴィオにフェイトが必死にごめんごめんと謝る中、何事もなかったかのようにリリカル★オリヴィエを視聴する零。他人の魔法技術や技を積極的に取り入れる傾向にあるためか、アニメや漫画などは真剣に見て、その技を真似ようと努力したりする。

 けれどもそれがリリカル★オリヴィエだった場合、ヴィヴィオが許すかと言えばそんなことはなく、無言で零の手首と制服の襟元を掴み、身体を腰に乗せるように勢いをつけて、ソファー目掛けて––––投げる。

 

 一瞬、宙を舞う零。完璧に決まった投げに僅かに驚くが、身体が床と垂直になる位置に差し掛かったところで表情が引き締まり、手首を掴むヴィヴィオの手を掴み返す。

 後は重力に任せてソファーへ強制ダイビングする、予定だった。予定だったのだ。しかし、あくまで『予定は未定』。

 

 

 高町ヴィヴィオは宙を舞っていた。

 

 

「––––うぇっ」

 

 目に映ったのはなんの変哲もない茶色の木の床ではなく、白い光を放つLED電球と同色の天井。自分の腕を掴んで投げているのは先ほど投げたはずの零になっているという怪現象だ。

 ソファーと背中が熱いキスを交わす直前で零は器用にヴィヴィオの腕を引っ張って、そのまま自分の腕の中へとスッポリ収める。

 

 お姫様だっこの完成。

 

「あっぶなかった....ヴィヴィオったらいつのまに投げの練習なんてしてたのさ? 初めて見たけど」

 

「君をいつかぎゃふんと言わせようとなのはママから習ってたんだけど、見事にカウンター転移で避けてくれやがったね。また飛ばすの早くなってない?」

 

「そりゃぁ、ヴィヴィオは魔力を通しやすい体してるから飛ばすのは簡単ですし。てか本気で床に叩きつけるような速度じゃなかったでしょうに」

 

「......さてさて、どうでしょ」

 

「優しいねぇ、ほんとに」

 

 自身の魔力を循環させた物体と自らの位置を入れ替えるという高位魔法をサラッと発動させることに「ずるいずるい」とバタバタ足を振り抗議し始めるヴィヴィオ。そんなこと言われてもどうしようもない零は、腕から落ちないように頑張ってヴィヴィオの体を抱える。

 その隙にフェイトは記録再生装置からリリカル★オリヴィエのディスクを取り出し、

 

「バァンっ」

 

 虹色の弾丸による狙撃で破壊される。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「たっだいまー! みんなー、なのはさんのお帰りだよーっ!!」

 

「なのはママ、なんかお酒くさいんだけど」

 

「どうしてもう出来上がってるんですかね....」

 

「なのはだからね。仕方ないね」

 

 太陽は沈み、午後七時四十分に差し掛かろうとしたところで高町家の家主の一人、高町なのはが仕事を終えて帰宅してきた。顔はほのかに朱色に染まり、吐く息はアルコール臭が強い。右手には教導に関する資料が入っている鞄、左手にはなにやら怪しい箱の入った紙袋を持っていた。

 とりあえずヴィヴィオに抱きつき、その酒臭さで思いっきり拒絶される様子はまさしく酔っ払いそのもので、拒絶されたショックで項垂れるなのはをフェイトが励ますまでが高町家の日常。

 その間にせっせと食器を並べて夕飯の用意をする子供二名。いつものことなので気にはしない。

 

 なのはが立ち直り、準備が整ってから、ほんの少し遅めの夕食始まった。

 

「なのはママ、ビールは一本だけだからね」

 

「えぇーっ!? 私、今日は頑張って教導してきたんだよ? 部下の恋愛相談にも乗ってきたんだよ?」

 

「関係ないし。って、部下の恋愛相談? だからお酒が入ってたんだ....」

 

「そうそう居酒屋で。それでね、その子が好きな人っていうのが面白い人でさ! お酒が好きなのに酒癖があまりよくなくて、おまけに魔法戦では鬼畜砲台なんてあだ名が付けられてるんだって! そんな人がいるのなんて聞いたことなかったから、誰か教えて? って言ったら、顔真っ赤にしちゃって。 なんでかな」

 

「....どっかで聞いたことのある人だね、零くん」

 

「俺に話を振らないでよ」

 

「なのは......青春は魔法に捧げたもんね」

 

「ん? どしたの三人とも?」

 

 

 なのはやフェイトの仕事、零とヴィヴィオの学校の話題を話しているうちに家族四人での楽しい夕飯の時間は過ぎていった。

 

 食後は洗い物を片付け、各々が自分の好きなことをする時間であるが、今日は違う。なのははみんなをリビングに呼び、紙袋から二〇センチ四方ほどのラッピングされた箱を取り出し、机の上に置いた。

 何事かと頭の上にハテナマークを浮かべるヴィヴィオ。零とフェイトはこの箱の中身がなにか分かったらしく、二人でニコニコと笑う。

 一つ咳払いをして、なのはは声高々に説明する。

 

「えー....こほん。本日は我が家の可愛い子供たちのであるヴィヴィオと零君が四年生へと進級しました。周りの人からの暖かい心遣い、姉弟二人の支え合いもあり、ここまで大きく育ってくれてママは大変嬉しく思います」

 

「ヴィヴィオがおねーちゃんだって。ヴィヴィオお姉ちゃん」

 

「当然でしょ。世話のかかる弟の面倒を見てるんだからね」

 

 先の酔っ払いオヤジのような雰囲気とは打って変わって深い愛情を感じさせる『母親』となったなのはに二人は照れ臭そうに笑う。養子ではない自分のこともしっかり家族として入れていることが零は内心とても嬉しかったりするが、言葉には出さない。

 ヴィヴィオもこれまでの生活を心の中で振り返り、色々なことがあったなぁ、と少し感慨深くなった。

 

「仲睦まじいのはいいけどまだ続きがあるからお静かに!....で、ヴィヴィオの方はそろそろ魔法基礎も板に付いてきたということなので、そろそろ自分の愛機(デバイス)を持ってもいいころだと判断しました」

 

「ほ、ほんとっっ!?」

 

「うん。だからこの箱の中身は今日、マリーさんから預かってきたヴィヴィオの専用デバイスなの」

 

 専用デバイス––––その響きだけで気分が高揚し、心臓の鼓動が高鳴るのをヴィヴィオは感じた。 夢にまでみたデバイスへの想いは零とその相棒との関係を見ているだけで日に日に強くなっていた。生涯のパートナーともなり得る存在との出会いに心躍らないはずがない。「開けてみて!」と急かす零の声のままにラッピングを解き、ゆっくりと蓋を開けた。

 

「––––––うさぎ?」

 

 箱の中に中に鎮座していたのは、箱の大きさに対してやや小さいでは? と疑問持つくらいのサイズの赤い蝶ネクタイが特徴のうさぎのぬいぐるみだった。

 だが、ヴィヴィオはこのうさぎを知っていた。忘れもしない、なのはが初めて買ってくれたうさぎのぬいぐるみのデザインとそっくり、いや、全く同じものなのだ。ちょっと涙ぐみそうになるのを、なんとか我慢する。

 

「..........ありがとう、ママ」

 

 箱から視線を外し、なのは達の方を向いたヴィヴィオの瞳は潤んでいた。

 

「....ちなみにぬいぐるみは外装、まぁ..アクセサリーみたいなものだから。中身は普通のクリスタルタイプだよ。フェイトちゃん、花粉症になちゃっみたいだからティッシュちょうだい」

 

「なのは、せめてこっちを向いて言うべきだよ。はい、ティッシュ」

 

 後ろを向きながらフェイトに渡されたティッシュで鼻をかむなのは。お酒が入ると何故か涙脆くなるので、一年中花粉症と偽ってこうしてフェイトにティッシュを貰う。

 可愛い一面を持つ母に意識を注いでいると、ふと背後からトントン、と肩を叩かれたような感覚が。

 

「なぁに零くん?」

 

「ヴィヴィオさんや。俺が真っ正面にいるのを見えないと申すか」

 

 真っ正面で自分を見つめる零。

 

 

 では誰が?

 

 

 くるりと首だけを横に動かすと、先ほど箱に入っていたうさぎのぬいぐるみがフワフワと浮遊し、ビシッ! と手を上げてご挨拶しているではないか。

 

「ぴーーっっっ!!!!????」

 

 人からでたとは考えられないくらいの甲高い悲鳴?のようなものを上げ、目にも留まらぬ速さで零の後ろに隠れるヴィヴィオ。その悲鳴に反応して零も反射的にバリアジャケットを展開してし、臨戦態勢に入りかける。

 

(あ、あれ? これデバイス?)

 

「ぜっぜぜ零のくんっ!!お化け! うさぎのお化け! なんとかしてぇぇっ!! ディバイン––––!」

 

「違う違う! ヴィヴィオこれデバイス! ヴィヴィオのデバイスだって!! っ、させるかァッ!」

 

 発射直前の高速砲撃魔法《ディバインバスター》のスフィアを魔力を纏わせた右手で握り潰し、零はヴィヴィオを羽交い締めにしてしっかりデバイスであることを確認させる。

 数秒間興奮状態だったヴィヴィオも少しずつ冷静さを取り戻し、「もう、大丈夫」と言って羽交い締めを解いてもらい、恐る恐るふよふよ浮くうさぎのぬいぐるみを手に取る。

 

「ふ、ふかふかしてる」

 

「....浮遊は第四世代型デバイスの独立稼働技術の一つだから、お化けじゃないってことは言っとく」

 

「知ってるもん!!」

 

「なんで変なとこで強がるのさ....」

 

 デバイスを抱きしめ、あっかんべーするヴィヴィオの対応にやや困りながら、スフィアを握り潰した衝撃で僅かに裂けたグローブをチェックし、バリアジャケットを解除する。

 

「ごめんね」

 

 ヴィヴィオは砲撃を撃ち込もうとしてしまった愛機となりうる存在に謝罪した。すると、デバイスは気にするな、と言わんばかりにヴィヴィオを慰めようと周りを飛び回り、必死にジェスチャーを行う。

 その姿が可笑しく、クスリと笑うヴィヴィオにデバイスは安堵を表現するかように動きを止めた。

 

「一応その子にはヴィヴィオの最新データの適応と術式の最適化、エルとかレイハさんとかバルさんの一部運用データを流用したりしてるんだけど、基本的に中身は真っ白なんだ。名前もまだないわけ」

 

 なのは達の代わりに零はデバイス関する説明をする。デバイスを抱えたままくるんと一回りした後、ヴィヴィオは堂々と言う。

 

「んふふ。実はもう決めちゃってるんだぁ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ヴィヴィオのデバイスのデータ登録は、家の敷地内の小さな庭で行われた。

 虹色に光輝くベルカ式の魔法陣が、中方に立つヴィヴィオを幻想的に演出させている。

 

「––––マスター認証、高町ヴィヴィオ。術式はベルカ主体のミッド混合ハイブリッド」

 

「あら、零君とは逆なんだ」

 

「俺は汎用性重視の戦い方ですので、ミッド主体ベルカ混合の方がいいんです。てか、今まで見てきたでしょう....」

 

 どこか抜けてる零となのはの会話はガンスルーしてヴィヴィオは登録を続ける。

 

「わたしの愛機に個体名称を登録。愛称(マスコットネーム)は『クリス』。正式名称––––『セイクリッド・ハート』」

 

「....っ! ......っっ!!」

 

「もう、嬉しいからってそんなに泣かないで。はい、ティッシュ」

 

 感動のあまりポロポロと涙を零すなのはと手際良くティッシュを渡すフェイト。二人の行動に苦笑いしながらも、登録は最終段階であるデバイス展開に移る。

 

「いくよクリス!」

 

〔....!〕

 

 新たなマスターの意気込みに答えているのか、大きく手を振り上げ、ポーズを決める。

 

 

 

 

「セイクリッド・ハート! セーーット、アーーーーップ!!」

 

 

 ミッドチルダの夜空に一筋の光柱が立ち昇った。

 





Q:クリスの外装ってなのはに貰ったぬいぐるみのデザインじゃなくね?

A:そっちの方がなんか感動するからそうしました。


意見、感想を貰えたら嬉しいです。

次回→やる気出てきた


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第十一話 『卿』

月 一 投 稿 達 成(夜天は更新してない)。

難しい設定とか考えると書いてる側は楽しいけど読者側がは?ってなるのがこの世の定めだと思います。(技量の問題もある)

今回はそんな感じ。 小難しいのはちゃっちゃと終わらせたいから一話にまとめちゃったかんじですので、見にくいかも。


後方支援その11

 

「––––お話って言うのは、例の傷害事件のことですよね?」

 

 Stヒルデ魔法学院の始業式から数日が経ち、週末特有のなんとも言えぬ柔らかい空気に包まれている聖王教会本部であったが、カリムが異様な空気を打ち消そうと正面に座る人物に優しく尋ねたが、やはりこの一室だけが異様に固いナニカが漂っていた。

 教会内のカリム・グラシア執務室に充満する異様な空気は、室外に待機している護衛騎士にも感じることが出来た。闘気や殺気の類では無い、ただの"緊張感"だけが、この空気を生み出す原因となっている。

 

 室内にいるのは五人。部屋の主たるカリム・グラシア、その秘書シャッハ・ヌエラ、この執務室の人物達に比較的重要な要件を話に来たシンプルな黒い眼帯をした少女チンク・ナカジマと、"管理局の切り札"が二人。

 

「ええ、我ながら要らぬ心配だと思ったのですが....件の格闘戦技の実力者を狙う連続傷害事件についてです」

 

 緊張で動きが鈍い手でホロパネルを操作し、チンクは一枚の記録画像をウィンドウに映し出す。

 画像には黒いバイザーを被った髪の長い女性と、地面倒れているスキンヘッドの男性が一人。明らかに平和的な行為行われていたとは考えにくい光景だ。

 

「うふふっ。心配性のあなたなら、お話してくれると思ってました」

 

「ははは....。それで、事件の容疑者である画像に映っている彼女が自称している『覇王』イングヴァルトと言えば––––」

 

 

「ベルカ戦乱期..諸王時代の王の名だな。特に名を轟かせたのは今から三〇〇年ほど前....覇王クラウスだったか?」

 

 チンクの言葉を遮るように喋ったのは、全身を黒い服、八席議会の正装に身を包んだ教会騎士団騎士団長、アリス卿。

 

「..........覇王クラウスは聖王家のオリヴィエ・ゼーゲブレヒト聖王女と深い関係があったと書物には記されている」

 

 続けて言葉を発したのはアリス卿と同じ黒の正装を身に纏い、同色のベルカの意匠が施されているデザインのフルフェイスを被ったいかにも怪しげな男性。何も知らない一般人が見かければ即通報してもおかしくないかもしれないが、このフルフェイスの人物が如何なる者か知っていたとすれば、そんな事は出来ない。

 

 時空管理局八席議会所属、セツナ卿。 世界最強と称される召喚獣達を使役する召喚士で唯一のSランクオーバー魔導師。ある意味ではエース・オブ・エースよりも有名人である。

 

「せ、説明の必要はあまり無いようですね。時代は異なりますがこちらで保護されているイクスヴェリア陛下や....ヴィヴィオの母体(オリジナル)である『最後のゆりかごの聖王』オリヴィエ聖王女殿下とも無縁ではありません」

 

「ヴィヴィオやイクスに危険が及ぶ可能性が?」

 

「....卿の重要関係者第一類のヴィヴィオに危害を加えるということは、其れ相応の報復を受ける覚悟が必要です。 巨大な組織ほど卿との"戦争"は避けたがるでしょう。 しかし、個人レベルとなればヴィヴィオが重要関係者第一類であるのを知る者は殆どいません。 卿の抑止力が働かないので、無くはないかと」

 

 チンク、カリム、シャッハは三人揃って渋い顔をする。『聖王の鎧』がないとはいえ、ヴィヴィオは聖王教会にとって生きる信仰対象。イクスヴェリアに至っては、封印処置が施されているとはいえマリアージュの生成能力が顕在する。どちらも様々な狙われてもおかしくはない。

 だがそれと同等以上に三人が危惧しているものがある。

 

 卿による報復。

 

 卿が所属する八席議会とは本来、最高評議会に次ぐ管理局の決定権を持ち、第三者的な目線から最高評議会の決定に賛同、異論を唱え決定に待ったをかける組織である。

 最終的な決定権は最高評議会側にあるので、あくまで決定の延期などしか行えないが、彼らの本質は政治的なものではない。

 

 彼らの本質は『戦闘』。 広大な次元世界から選び抜かれた魔導師・騎士の八人は各々が個人が持つには強大過ぎる力を有し、情勢の不安定な世界各国に睨みをきかている。

 通常では一部能力を制限される卿だが、管理局法では、重要関係者第一類に社会的・身体的に危害が加われば、その脅威を排除するために能力を最大行使することが可能になっている。

 問題は脅威の"排除の範囲"が明確に定められていないことだ。 全員が最低限の能力行使で事を済ませるのなら問題はないが、全力で能力を発揮しようものなら、その被害は計り知れない。 万が一対象の『脅威』を故意に殺害しても、『脅威の排除の範囲内』で法的には済ませれてしまう可能性がある。 これは過去に例があり、局内外で大問題となった。

 

 卿といえど一局員や騎士には変わりない。下手に死人を出せば管理局、聖王教会の信頼に関わる問題へと発展しかねない。 ただでさえJS事件、マリアージュ事件と不信が積もる中で更なる追い打ちを貰うのは非常に不味い。

 八席議会を危険な機関として解散を求める声も少数ながらあるが、何せ管理局創設当初から存在し、艦隊派遣が困難な世界へ艦隊の代用として任務を負うなど、多大な貢献をしてきた経歴、次元世界のバランスへの影響があるので現行それは難しいと言われている。

 

「セツナよ。 心配は要らぬと思うが 聖王女が襲撃された場合、間違っても感情に任せて襲撃犯を殺めるような真似はするな。 お前は管理局員だ、犯罪者は––」

 

「法で裁く、そのための時空管理局」

 

「......だそうだ。 安心しろ、セツナもある程度自分の立場に自覚はある。 普段はどうか知らぬが、"こっちの"姿なら私が保証する」

 

 セツナの『自覚』の保証をしたアリスは自分の中で何か納得がいったらしく、三人が何かを言う前に「ありがとう。 美味しい紅茶だった」と言って、椅子から立ち上がり、ツカツカと扉まで歩いて行く。

 

「え、あ、アリス卿? どちらへ行かれるのですか?」

 

 割と重要な話しを勝手に完結さでて何処かへ行こうとするアリスを慌て気味に引き止めるシャッハ。

 

「本局に戻る。 仕事がまだ山積みでな....いつの時代も公僕は書類との戦いでならん。 セツナ、お前はどうする? 冥王に挨拶でもしに行くのか」

 

「ああ、まずはそうするよ。 イクスヴェリアには近状報告をしなくてはならない。 話したいことが山ほどある」

 

「あの冥府の炎王イクスヴェリアに見舞い....聖王女共々、実に変わり者だな。 では」

 

 颯爽と去って行ったアリスに続き、セツナも腰を上げて後を追うように部屋を出ようとすると、「セツナ卿!」と、シャッハがアリスを呼び止めたように声をかける。 その声色はアリスにかけた『疑問』ではなく、明確な目的のある言葉が発せられるのを分からせた。

 

「シスター・シャッハ。 なにか?」

 

「セツナ卿、余計なお言葉かもしれませんが––––公務を執行する際のそのお心構えや態度......ほんの少しでいいので私生活にも反映させては如何でしょう....か?」

 

 しばしの沈黙。 シャッハはセツナの顔をじっと見る。 フルフェイスの仮面からは表情は読みとれないが、おそらく仮面の下で、彼は笑っていた。 そして。

 

 

「むりっ!!」

 

 

 そう言って朱い召喚陣とともに姿を消した。

 

 

「あ、あの子という子は......っ!」

 

「いつものこと....とはいえ、苦労してますね。 ご苦労様」

 

 ぐぬぬという音が聞こえてきそうなシャッハにカリムは「今日は飲みに行きましょうか」と飲みの誘いをしておく。 生真面目なシャッハは何かと心の内側に溜め込む傾向にある。 長年の付き合いで大概のことは理解出来るカリムなりの心遣いであった。 頭を抱えて頷くシャッハは相変わらず問題児な『あの子』の将来を本気で考えているのだろう。

 

 

「お願いしますよ、セツナ卿」

 

 

 

 

【中央第四区公民館 ストライクアーツ練習場】

 

 

「やっぱり、ヴィヴィオとコロナがストライクアーツをしてるって意外だったなぁ....あ、やっぱヴィヴィオは無し。 ヴィヴィオは元から武人だね....ふっ!」

 

「何それ誠に遺憾なんですけっど!」

 

 唐突なリオの発言に文系の鏡として、ヴィヴィオは遺憾に思わざるをえない。

 会話を続けながら顎めがけてとんでくる左右の拳を弾き、掌底突きで同じ動作を返す。 更に蹴りも加えて追撃を行う。

 

「っ!っとっと!? だってさー! わたしが初めてヴィヴィオを見たのって、ヴィヴィオがあいつをっ、追っかけてっ、階段の手摺を滑り降りてたことだぁーーーーもんッ!」

 

 拳と蹴りのラッシュを全て受け切った瞬間にリオは半歩下がり、右足を軸に得意の回し蹴りを放つ。 回避出来ないと踏んだヴィヴィオは右腕をガードに回し左手で右腕を支える。

 バチィッ! と、鋭い打撃音と衝撃がプロテクター越しにヴィヴィオの腕から耳まで伝わってくる。 防御から蹴りへの素早い切り替え、直線にとんでくるような一撃––リオ・ウェズリーの実家の格闘技『春光拳』だった。

 

「っ.....見えるんだけど身体が反応しないって、やっぱもどかしい」

 

「あっれー....? 今の防げるスピードで打ったつもりはなかったんだけどなぁ......」

 

「カウンターヒッターのわたしの行動としては自己評価で四十点。 これが彼なら八十点くらい....ま、そもそもスタイルが違うから評価のしようがないかな」

 

「ヴィヴィオー、自分の世界に入らないでー」

 

 組手を中断して一人ブツブツと自身の行動についての評価をし、ついでに零だったらどう行動するかを考え始める。 こうなってしまえばヴィヴィオの思考を止める術は無い。 自己評価は直ぐに終えるものの、零の行動パターンを予想して、どうコンビネーションに繋げれるかまで考える。 コンビで戦う場面はあまり無いのだが。

 一人とり残されてやれやれと眉間を押さえるリオの横を一人の女性が通る。 赤と黒スポーツウェア、燃えるように赤い髪、金色の瞳とかなり特徴的な容姿をしている。

 女性はそのままヴィヴィオのそばに近づき、軽めのチョップ一発。

 

「いたっ....ん、ノーヴェ?」

 

「ノーヴェ? じゃねぇこのアホちん。 またコンビネーションのこと考えてたろ、ったく......自分の動きを評価するのは悪いこととは言わねぇけど、コンビネーションのことを考えるのは今じゃないっての」

 

 赤髪の女性、ノーヴェ・ナカジマは目の前の優秀な弟子の悪い癖を指摘し、注意を促す。 今の練習はあくまで一対一の個人レベルでの試合を想定したものであって、コンビネーションの実戦を想定したものではない。 当然のことながら個人とコンビでは動きが大きく違ってくる。 お互いの弱点をカバーし合い連帯攻撃を行うコンビと、弱点のカバーを含めて一人で立ち回る個人では練習内容も異なる。

 と、この手の話しをノーヴェは何度もしているのだが、不思議とこれだけは治らない。 ヴィヴィオは常に零が一緒にいるという前提で物事を進める。 友情、絆、愛情、他のどれでもない強いものが二人を繋げている気がしてならない。

 

(類は友を呼ぶってか。 負けず嫌いのド根性持ちなのは似てるかもしんねぇな....けどなんだ、なんか変に似てるよな、特に魔力なんかは––)

 

「ノーヴェノーヴェ、どうしたの?」

 

「....いや、なんでもねぇ。 ってもうこんな時間か。おーい、そろそろ上がるぞー。 三人とも着替えてこい!」

 

「「「はーいっ!!」」」

 

 ヴィヴィオ、リオ、コロナは元気良く返事をして、走って練習場を出て行く。 時刻はそろそろ午後七時を回ろうとしていた。

 

「結局来なかったっスね〜、あのガキンチョ」

 

「....あ、居たのかウェンディ」

 

「ひどいっス!! ずっとここに居たじゃないっスか!?」

 

「冗談だよ、冗談」

 

「ノーヴェは顔が怖いから冗談言ってもそう聞こえないったたたたっ!? 決まってるっス!! 腕決まってるっスぅぅぅぅっ!?」

 

 失礼極まりない発言をしたウェンディの腕をガッチリと決め、ノーヴェは無言の怒りを示す。

 

「零のやつはお前と違ってちゃんと手に職付けてるから何かと忙しいんだろうよ。 最高評議会の無い今は形だけだが局のトップの一人だぞ?」

 

「そもそもそれがおかしいっスよ! たかだか十歳のガキンチョが管理局のトップになれるのが変っス。 まだ社会経験も一般知識も疎いのにどーしてそんな重要な職になれるんスか! 管理局の、いや次元世界の明日は暗いっス!!」

 

「......ウェンディ。 お前がドクターの話しを全く聞いていなかったのはよくわかった。 だから零にアホの子さんって呼ばれんだよ....」

 

「ほへ?」

 

 頭の上にクエスチョンマークを浮かべて首を傾げるウェンディに「行くぞ」と声をかけ、ノーヴェは更衣室へ歩き出す。 ついでに更衣室までの道のりの間、ウェンディに管理局内部の説明を始める。

 

「いいか、時空管理局の中で最も特殊な立ち位置にいるのが局内第三者機関『八席議会』だ。 こいつらは管理局内で最高評議会に次ぐ二番目の決定権を持ちながら、メンバーが異常なまでに若年層で構成されている。 これはさすがに知ってるよな?」

 

「知ってるっスよ。 基本は二十代から四十代、さらに十代までいるおかしな機関っス。 上層部とかはジジババばっかなのに不思議でしょうがないっス!」

 

「おかしくないんだよ。 一応、簡単な理由はあるわけだし」

 

「簡単な理由ぅ?」

 

 すれ違うスポーツウェア姿の人々を気にしながら他の人間の耳に入らないような小声でボソボソとその訳を話す。

 

「八席議会は局で二番目の決定権を持ってるとか最高評議会の決定に待ったをかけれるとか、んなもんはほぼ飾りみたいなもんなんだ。 最高評議会や上層部の中では八席議会は容易に動かせる『部隊』扱いなんだよ。 つまり本質は『戦闘』、最初から有事の際に戦うために設立されてんだ」

 

「....構成メンバーが異常に若いのは?」

 

「純粋に強いか特殊な能力持ってるやつを集めたからだな、それも相当ぶっ飛んだやつばかり。 あと、歳いった奴はやっぱ脆いし、負傷したら回復出来ずそれでアウトの可能性が高いから」

 

「局"二番目"の決定権を持ってるのは?」

 

「下手に若気の至りを運営方針に絡ませないため」

 

「部隊扱いなのに最高クラスの権力があるのは?」

 

「迅速に行動するにあたって、圧力をかけれる輩を存在させないため。 管理局内で万が一反乱が起きても問題無く対処出来るように、な」

 

 更衣室の扉の前でちょうど会話が止まる。 簡単な説明ではあったが、一応ウェンディの疑問にも答えたのでこれで解決かと思い気や、あまり納得のいった表情をしていないのに気付いた。

 

「管理局内外の大規模な事件にも迅速な対応が取れる......それでも随分リスキーな機関っスね。 なんか別に目的がある....とか?」

 

「そこまではドクターは話してなかった。 詳しく聞きたきゃアリス卿にでも聞いてみるのがいいんじゃない

か」

 

「真実を知って氷人形になるのはお断りっス」

 

 ウェンディはただ一度だけ対峙したことのある卿の姿を思い浮かべて身震いする。 あんな化け物と戦うのはもう二度と御免だと言わんばかりだ。

 更衣室に入るとちびっこ三人組は既に着替え終わった状態で二人を迎えた。 それからぼちぼち話をしながらノーヴェ達も着替えを終え、公民館を出た。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ん? 音声通信....零くんか。 ..........はい、なに? もう練習終わったけど、急なお仕事でも......なに、イクスと寝てたぁ? 変なことしてないでしょうね、してたらなのはママにコブラツイストしてもらうから。 今どこ? ....なんだ四区いるんだ、じゃあ待っててあげるから公民館まで..うん、わかった。 じゃっ」

 

「師匠から?」

 

「うん。 今から合流するってさ」

 

「遅すぎでしょいくらなんでも....」

 

 

 結局、三人娘と保護者二人は合流するまで待つこととなるのであった。

 




難しい会話は設定はやっぱ苦手かも。

でもこれで次回から思いっきりふざけれるね(ニッコリ)。

意見、感想などあったらお願いします。

次回→夜天の方の更新後。


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第十二話 激突する王

投稿スピードが上がった。 やったぜ。

10000字超えとか初めてです。 書きたいことが増える増える。


「––––ようやく、巡り会えました」

 

 第一声。 壁銀の髪をツーサイドアップにまとめ、古代ベルカの戦装備に身を包んだ黒いバイザーの女性は、高町ヴィヴィオにそう言った。

 

 零と合流してから十数分後、ノーヴェ達とも別れてどうでもいいような話しをしながら帰宅路についていた二人だったが、途中で零が合流地点に鞄を忘れて来たことが判明。 ついて来て欲しいと言われたが、練習で疲れていたヴィヴィオにそこまでのやる気は無く、直ぐ側のベンチで待っていると言って、休憩していた。そこにバイザーの女性は現れた。

 バイザーの女性の声は、ヴィヴィオとの出会いに対するものなのか、微かに震えているように聞こえる。

 

「..........どちらさまでしょうか?」

 

 ヴィヴィオは一見普通の反応をしているように見せかけ、いつでもデバイスのセットが出来るよう、警戒を強める。 自分が何者であり、どんな目的で"造られた"か理解しているからこその冷静な対応。 またあのような事件を起こそうと企む輩ならば、この場で叩くか、なんとか逃げ切って零と合流するか。

  ヴィヴィオとしては前者を選びたいところだが、真っ先にその選択肢は捨てた。 零のような破格の魔力を持つわけでもなく、なのはほどの硬さも、フェイトほどの機動力が有るわけでもない。 『聖王の鎧』は先の事件で失った。 万が一、相手が戦闘機人クラスの戦闘能力を持っていたならば目も当てられない。

 ここは安全策、弾幕で目くらましを行い、その隙に全速力で逃げよう––––決断を下したヴィヴィオの行動は速く、周囲に虹色のシューターを作り出し、アスファルトに叩きつけようとした。

 

 その直前に、女性がバイザーを外す。

 

「......覚えて、いませんか?」

 

「––––ッ!!」

 

 冷静さを保っていたヴィヴィオの息が詰まる。 脳が、視界が、一瞬違う世界に飛ばされるような感覚に見舞われる。 街灯で薄暗く照らされた一本道は瞬時に火の海へと変貌し、木や草は瓦礫へと徐々に変化していく。

 

 目の前に立っている"男性"は身の丈ほどの豪華な装飾を施された大剣を自分に向けて構えている。

 その目に宿るのは様々な感情を全て押し退けて出てきた『悲しみ』ただ一つ。

 何者かとの戦闘後なのだろう、満身創痍の男性は、必死の形相でヴィヴィオに言葉を掛ける。 その声は痛々しいほどに掠れ、ほんの一部分しか聞き取ることが出来なかった。

 だが、ほんの少し、たった一言でも、確かに聞こえた言葉。

 

 

 

『––––オリヴィエッッ!!』

 

 

 

「––––クラウス....? っ....」

 

 世界が再び、急激に変化した。 さっきまで視界に映っていた地獄のような火の海は何処にも存在せず、無数の瓦礫は夜風に吹かれ揺れる草木に戻っている。 満身創痍な男性は、バイザーを外し、素顔を曝け出した女性に戻っていた。

 壁銀の髪と碧と紺の虹彩異色は、ヴィヴィオの脳に眠る、ある人物についての記憶を呼び覚ますのに十分すぎるほど衝撃を与えた。

 

 『覇王』クラウス。 かつて、世の平穏を願い『ゆりかご』に搭乗しようとしたヴィヴィオの複製母体であるオリヴィエを止めるため、戦いを挑んだ『王』。 それが今、再び現れたのだ。

 ヴィヴィオは自分の––オリヴィエのことを調べ続けている。 彼女はいつ産まれ、どのような幼少期を過ごし、何をきっかけに誰と知り合い、どんな生活を送り、最後は何を願ってゆりかごへ乗ったか。 そのために無限書庫の司書資格を取り、零に無茶を言ってSランク級の秘匿資料を閲覧させてもらい、卿を護衛に古代ベルカのオリヴィエに所縁のある危険地帯に行ったこともある。

 二〇年分にも満たない記憶の中でも、最も楽しく、しかし最も哀しい想いを共有したクラウス––その子孫と思われる人物との出会い。 時代を越えた再開に動揺を隠すことは難しい。

 

「美しい金色の髪、鮮やかな紅と翠の虹彩異色、そして今の反応。 貴女は、『ゆりかごの聖王女』オリヴィエ・ゼーゲブレヒトの複製体で間違いありませんか?」

 

「....半分正解、半分は不正解です。 オリヴィエの複製体であることは間違いないんですけど、わたしは、高町ヴィヴィオって名前がありますから」

 

 ヴィヴィオは覇王に堂々と自分がオリヴィエの複製体であることと、自らの名前を伝える。 何者かも分からない不審者相手にここまで情報を伝えるのは余りにも愚かであろう。 だが、その目から動揺は既に消え去り、代わりに強い『意志』が宿り始めていた。

 

「これは失礼しました....。 ではヴィヴィオさん、貴女に二つ、確かめたいことがあります」

 

「ええ、どうぞ」

 

 覇王は"名前"で呼ばなかったことの非礼を詫び、ヴィヴィオに二つの質問を投げかける。

 

「一つは、冥府の炎王イクスヴェリアの居場所」

 

「..........、」

 

「もう一つは、

 

 

 

 

 

 

聖王たる貴女と、覇王である私の拳––––どちらが強いか」

 

 拳をグッと握りしめ、壁銀の魔力を纏わせながら覇王はそう言い放った。 宿るのはヴィヴィオとまた違った、明確な『意志』。 特に二つ目の質問は、一つ目の質問とは次元が違うほどに言葉の重さに差が出ている。

 両者の間にしばし沈黙が流れ、覇王が再び口を開こうとした瞬間、「そうですね....」と、ヴィヴィオが先に口を開いた。

 

「一つ目の質問に関しては、わたしの口からは言っていいのか分かりませんから保留で。 で、もう一つ、わたしと覇王さんのどちらの拳が強いかは......今から試す、ですよね?」

 

 言葉を終えたヴィヴィオの体が虹色の魔力に包まれる。 強い光に反射的に目を瞑った覇王だったが、徐々に弱まる光に瞼を開くと、そこには自分と同じほどの背丈にまで姿を変えたヴィヴィオが立っていた。 装着されたバリアジャケットは、オリヴィエの戦装備の名残りが垣間見える。

 

「..........意外です。 争いを拒みそうな、淑やかな雰囲気でしたが....そうでもないようで」

 

「無益な争いは大嫌いですよ。 けどこれはわたしと覇王さんの人生に関わること、だからこそ、この決闘は当然受け付けます。 それに....わたしは高町ヴィヴィオであって同時にオリヴィエ・ゼーゲブレヒトでもあるから......彼女の遺した運命は、全部受け止めるつもりです」

 

「......お言葉、感謝いたします」

 

 小さく頭を下げてから、覇王は静かに構えをとる。 すると、ヴィヴィオは「ストップ」と、急に待ったを掛けた。 やる気に満ち溢れていた覇王は何事かと構えを解く。

 

「ここじゃ色々と壊しちゃいけないものもあるし、移動しましょう。 少し行ったら野外練習場がありますから、そこで」

 

 可愛らしいウインクをしてそう言うと、ヴィヴィオは練習場のある方向へと駆け出す。 何かを急いでいる、そんな印象を受けたが、覇王も置いていかれないよう、それに続き駆け出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 目的地の野外練習場にはものの数分で到着した。 小型ナイターのから発せられるやや黄色を帯びた光が、格闘技・魔法による怪我の防止のため敷き詰められた緑色の特殊な弾力性を持つ素材のタイルと、向かい合う聖王と覇王を照らし出している。

 

(ようやく......この時が来た。 夢では、ない....!!)

 

 覇王は数メートル先で準備運動を行うヴィヴィオの姿を改めて見つめ直し、今、己が置かれている状況を再確認する。 相手は紛れもない聖王女で、後一分もしないうちに始まるであろう"決闘"に備え、コンディションを整えているのだ。

 どれだけ夢にまで見たろうか。 覇王イングヴァルトの直系の子孫として、記憶継承者の自覚を持ったころから脳裏に焼き付いて離れない、悲しい記憶。 オリヴィエがゆりかごへの搭乗を決意し、クラウスに最後の別れを伝えに来た、あの時。 自身の振るえる全身全霊、全ての力を出し切ってもなお、彼女を止めることが出来なかったことに対する、無力な自分への怒り、二度と彼女に会えない悲しみ、止まらない涙を隠して救いを求めた彼女を救えなかった後悔。 自分で経験したことのない、何百年も前のこと。 それがまるで自分の記憶のように、昨日体験したかのように覇王にのしかかっていた。

 記憶継承者に託された覇王の悲願。 呪いとまで思い、憎み恨んだこともあった。 けれど、断片を繋ぎ合わせ思い出す記憶が増えれば増えるほど、悲願を叶えたい––そんな使命感に駆られた。

 

 長い年月に渡って続いた記憶の連鎖を、もう誰も苦しまないよう、ここで終わらせるために。

 

「ルールは制限時間六分の一本勝負。 どちらかが戦闘不能か降参をした場合に決着....問題ありませんか?」

 

「制限時間、ですか。 何かご都合でも....」

 

「いえ、別にわたしは都合悪くないんですけど....魔導師ランク総合AAA+の"騎士様"がわたしを感知してここに来るまでの時間ですね。 さっき『先に帰ってる』って趣旨のメールを送ったので時間はあります。 それまでに決着をつけなきゃ、たぶん激おこ状態で、容赦無しに覇王さんに攻撃しそうですから」

 

 魔導師ランク総合AAA+、そのキーワードだけで覇王の中の戦闘意欲を掻き立て、なら来るまで待ちましょう、と言いそうになったが我慢して言葉を呑む。 魔導師ランクは本来、任務遂行能力をランク付けしたもので直接的な強さで決定されるものではない。 しかし、ランクが高い=任務遂行能力が高い=それに見合った戦闘能力を持つ、この図式は間違ってはいない。 高難度の任務をこなすにはそれなりの能力が要求されるのは当然のことである。

 ヴィヴィオの言った魔導師ランクAAA+は、優秀な者は本気を出せばある程度の規模の都市なら機能を完全に破壊可能な能力の保有を意味する。 まともに正面衝突すれば苦戦は必須であり、下手をすれば聖王との決闘の機会を失う。

 

「分かりました。 六分間で十分です。 この三六〇秒で––––覇王流の強さを証明しましょう」

 

「なら、わたしはストライクアーツ....と、高町式魔法戦技の強さを見せちゃいますっ」

 

 互いの顔付きが変わった。

 覇王は己の記憶刻まれた悲願を達成するため、ヴィヴィオは目の前の覇王を名乗る少女とオリヴィエの遺した運命を受け入れるため、戦う。

 

 両者の近くにホロウィンドが現れ、決闘開始のカウントダウンがスタートする。

 

十、

 

(....綺麗な構え。 きっと、いい師と仲間に囲まれて強くなってきた方に違いない)

 

九、

 

(凄い威圧感....。 この人、いったいどれくらいの練習を重ねたんだろう....)

 

八、

 

(私と違って、純粋に格闘技を楽しみながら)

 

七、

 

(わたしには想像もつかない、記憶の枷を付けて)

 

六、

 

(......ここで、決着をつける)

 

五、

 

(......なら、わたしが終わらせなきゃ)

 

四、

 

「ハイディ・E・S・イングヴァルト....」

 

三、

 

「オリヴィエ・ゼーゲブレヒト....」

 

二、

 

「––––アインハルト・ストラトスッ!!」

 

一、

 

「––––高町ヴィヴィオッ!!」

 

 ゴゥッ!! と、魔法陣を展開した両者から魔力が溢れ出す。 虹色と碧銀の魔力が呑み呑まれ溶け合い、全ての人を魅了することさえ可能であろう、言葉に出来ない美しさが生まれる。

 三百年前、余りにも巨大な力を持ってしまった女性は、自らを犠牲に世に平穏をもたらした。

 三百年前、巨大な力を持った愛する女性を救えなかった青年は、後悔からただひたすらに強さを求め、戦場の中で散っていった。

 

 長い時、永遠にも思えた時間。

 壊れて止まっていた運命の歯車が、

 

「推して参りますッ!!」

「いきますッ!!」

 

 

 今、動き出した。

 

 

 

 先に動き出したのはヴィヴィオの方だった。 カウントがゼロになったと同時に何よりも速く、アインハルトに突撃したのだ。 対してアインハルトは動かなかった。 回避はしない。 ただ、聖王の攻撃を、真っ正面から受け止める。

 スピードを乗せた飛び膝蹴りが、両腕をクロスして防御の構えをとったアインハルトに直撃する。

 

(––––ッッ、パワーなら私の方が上。 けど速い!!)

 

「スパァーク....!!」

 

 この一撃は通らないと分かっていたのか、左拳に電撃を発生させ、追撃の構えを見せる。

 反撃・回避どちらも間に合わない。 だが、電撃の発生を確認出来ただけでも、次の攻撃は把握可能であった。

 

(追撃ッ、 スタン付与!!)

 

「スプラッシュッッ!!」

 

 回避・反撃が飛んでこないのを確信して放たれたフルパワーの拳撃は、最初の飛び膝蹴り以上を衝撃を発生させ、タイルを削りながらアインハルトを無理矢理後退させる。 が、その顔に焦りや痛みによる表情は無く、冷静にヴィヴィオの動きを分析しているように伺えた。

 次は確実に反撃される。 ヴィヴィオにそれを理解させるのには、アインハルトの一連の行動は十分だった。

 

(ほぼ不意打ち気味の先制攻撃にフルパワーのスタン攻撃を加えて防御を抜けなかった....。 この硬さ、記憶通りの覇王さんの戦い方ならハードヒッターで間違いないはず)

 

「いい拳です。 やはり貴女は聖王女....今度は、こちらから行かせてもらいます」

 

(熱くなるな、わたし....! わたしにオリヴィエみたいな戦いは出来ないし、するつもりもさらさらもない。 真っ正面からのド突き合いじゃ一〇〇パーセント押し負けるッ!!)

 

 思考を張り巡らし、動きを止めるヴィヴィオ。 が、その隙を見逃すほど『覇王』は甘くない。 十メートル以上離れていた距離を歩法(ステップ)で一気に詰める、時間にして一秒にも満たない。

 初撃だった飛び膝蹴りのお返しと言わんばかりに繰り出された歩法の速度を乗せた拳を、紙一重で躱す。 脇腹の部分のバリアジャケットが引き裂かれたように破壊された。

 小さな、だが確かな痛みに表情が歪む。 だが、相当な速度で突っ込んで来たアインハルトは、まだヴィヴィオに拳を突き出した体勢で背中を向けている。

 拳を叩き込むには力が乗らない体勢、ならばヴィヴィオが選ぶ魔法は一つ。

 左手の平に高速で魔力が集まり圧縮され、直径十センチメートルほどの魔力球が完成する。 単純な術式で高威力––零の考案した名もない魔法は、魔力運用技術に優れかつ高速並列処理型のヴィヴィオが使用し、初めて最大効率・速度で発動を可能にする。

 発動が完了しても無防備な背中はそのまま。 直撃すればただでは済まない。 必殺の威力を秘めた魔力球を背中にぶつけようと腕を動かし始めた。

 

瞬間、

 

 

「––––《不動山》」

 

 

 アインハルトの動きが"完全に"止まった。

 

「えっ––––」

 

 思わず、声が出る。 あれだけを速度を出した状態だったにも関わらず、アインハルトは最初から動いていなかったかのように停止したのだ。

 愕然とするヴィヴィオの視界の端に、アインハルトの腰部が映り込む。 彼女の腰から足のつま先にかけて魔力光と同じ色をした帯状の布のようなものが幾重にも巻きつき、先端部がタイルに突き刺さって完全に身体を固定していた。

 

《覇王流・不動山》

 

 どれほど強い衝撃を受けても、地中深くまで根を張り巡らせた大樹のごとくその場に留まり確実に反撃へ繋げ、敵を討つ。 古武術『覇王流』の技だった。

 

 記憶ではない、初めて目の当たり覇王流にヴィヴィオの動きが僅かに遅れた。 アインハルトを縫い付ける帯状の魔力布は消え去り、右手が魔力で光り輝き出す。

 ヴィヴィオに自分の失態を後悔する時間は無い、 構わず狙い通りに腕を突き出す。 振り向き様に攻撃をされたとしても攻撃が到達するのはヴィヴィオの方が早く、発動させている魔法は当たれば魔力爆発でアインハルトを吹き飛ばす。 さらに砲撃魔法で追撃を行えば勝利は決まったのと同じ。 更に魔力を上乗せする。

 そう、ヴィヴィオの"身体"を狙うならばアインハルトは敗北するだろう。

 では、"身体以外"に攻撃するなら、どうなのだろうか?

 身体から最も離れた位置ある、アインハルトの攻撃がヴィヴィオの身体より早く到達するモノ。

 

 

 例えば、魔力爆発で攻撃する魔力球目掛けて、魔力付与打撃を打ち込んだら。

 

 

 ヴィヴィオが本当の狙いに気付いた頃には、時すでに遅し。 ありったけの魔力を込めれられた横薙ぎの手刀は、吸い込まれるように神々しい輝きを放つ虹色の魔力球に伸び、

 

 

 刹那。 光が、魔力が、空気が爆ぜた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「たーだーいーまー......」

 

 ヴィヴィオの『帰るね』メールを受け取り、ちょっとショックを受けながらも全力疾走で高町家に帰宅した零は、よろよろとした足取りでリビングのドアを開ける。 晩御飯の準備を終え、二人の帰宅を待っていたなのはとフェイトは、やけにテンションの低い零の姿を見て顔を見合わせた。

 

「おかえりー....どうしたの零君? なんかいつも以上にお疲れみたいで」

 

「おかえり。 何かあったの? 大丈夫?」

 

 零はそのままフラフラと歩き、ソファーに座って本を読んでいるフェイトの膝に寝っ転がる。 これをする時は大抵ヴィヴィオとの間に何かあった場合に限られる、それを知るフェイトは「ヴィヴィオがどうしたの?」と、聖母のような微笑みを浮かべ、ゆっくり頭を撫でる。

 

「聞いてくださいよぉ......ヴィヴィオったら酷いんです。 俺が公民館に荷物を忘れて、待ってってあげるって言ったくせに急に『帰る』なんてメールしてきて....あ、ヴィヴィオどこ? こうなりゃ、コチョコチョの一つでもしてやらねば」

 

 なのはとフェイトの表情が明らかに曇った。 撫でてくれていた手が急に止まったのに気付き、起き上がった零は首を傾げるが、即座に空気の変化を察知する。

 

 嫌な予感がした。 『襲撃犯』、『覇王』、『聖王女』、短い時間の間に、零の頭の中には考えたくも無い単語が三つ浮かんだ。

 

 母親の顔から『魔導師』の顔に変わりつつあるなのはの口から発せられたのは、零の予感をほぼ的中させたも同然のものだった。

 

 

「ヴィヴィオは......まだ、帰って来てないよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 零達が異変に気付き始めたのと同刻。 覇王と聖王、時を越えた両者の激突は更に激しさを増す。

 

「ソニックシューターッ! スクランブルシフトッッ!!」

 

 自らに気合を入れ直す意味もある掛け声とともに周囲に現れた六つのシューター。 純粋な格闘技術では劣ると判断したヴィヴィオは、射撃魔法を含めた魔法戦技全般を徐々に加えていく。

 機動性重視と思われるの六つの誘導弾に、アインハルトは覇王流の一つである《旋衝破》で迎撃を試みる。 弾核(シェル)を破壊せず掴み投げ飛ばす、古代ベルカの使い手でも一部の者にしか出来ない高等技術は、技を知る者への牽制にもなる。 実際にヴィヴィオは先ほどこの《旋衝破》をまともに喰らい、浅くないダメージを負っている。

 

 それでもヴィヴィオは––––一直線に、アインハルト以外には目もくれずを走り出した。 シューターが撃ち出される気配は無く、右拳に魔力を纏わせ、近接格闘に持ち込む算段でいるようだ。

 一定の距離まで近づかれると《旋衝破》の構えを解き、アインハルトも遅れて駆け出す。 拳により強く身体強化魔法を重ね掛けし、同じく魔力を纏わせる。 自分の装甲の硬さとシューターを威力を天秤に掛け、装甲が上回ると結論付た行動だった。

 

「はぁぁぁッッ!!」

 

 アインハルトの顔面目掛けて右拳が迫る。 まだシューターに動きは無い。 意識を割きつつも、アインハルトは左腕で拳撃を受け止め、右拳で頬を打ち抜くフックを放つ。 これだけ密接していれば攻撃から防御に切り替える魔力の伝達速度がいかに速くとも、攻撃の魔力を一〇〇パーセント防御に移し切るのは不可能。 限りなく覇王に近い素質を持つからこそ成り立つ相打ち戦術、防御の上から砕いて打ち抜く。

 防御を抜く右フックがヴィヴィオの左腕に当たる瞬間、空間に静止していたシューターの一つが動き出し、 密接状態の二人の身体の間をすり抜け、防御の左腕と攻撃の右拳の間に割り込むような位置で停止した。

 

(構わないッ、打ち抜くッ!!)

 

 そのまま防御ごと砕く勢いで拳はシューターに接触する。

 

 ボンッ! と、シューターが接触面から小さな爆発を起こした。 数分前の魔力球の爆発の規模と比べれば天と地ほどの差で、ダメージも無いに等しい。 しかし、爆発は確かに役割を果たした。

 物体の持つエネルギーの進行方向とは全く真逆の方向から衝撃を受ければエネルギーは、物体の速度は少なからず減少する。 些細な量・速度であろう。

 

 だが、"攻撃分の魔力を防御に移す時間"としては十分過ぎる。

 

「ぐっ....!! んっのぉッ!!」

 

「なっ!?」

 

 アインハルトの拳が弾かれた。 格上のハードヒッターの一撃を防いだのに加えて、弾き飛ばしたのは偶然と言っていい出来事だ。 もう一度やれと言われても恐らくヴィヴィオは無理だと言うはずだ。 今、たまたま運良く出来ただけ。

 それでも、突如として舞い降りた『ラッキー』。 それをみすみす失うほど、ヴィヴィオも愚かでは無い。

 

「抉り、飛ばすッ....!」

 

 一〇歳ちょっとの少女にしてはおっかないセリフを漏らして防御に回した左腕の魔力を左拳に移し、右腕が弾かれたことによって打ち込んで下さいと言わんばかりのガラ空きの鳩尾に、抉るような下からの拳をねじ込む。 格闘評論家が居るなら高評価を出すこと間違い無しのクリーンヒット。

 

「がぁッ..! っあぁぁぁぁッ!!」

 

 一撃はアインハルトの肺の空気を押し出し、胃の中に溜まっていた液体が口の中に嫌な味を広げる。 なんとか膝を着きそうなのを根性で耐え、嫌な味に染まり掛けてる肺の空気を声と一緒に吐き出しながら渾身の力を振り絞り、左足でタイルを踏み抜く。

 軸足の付けていたタイルを崩されたヴィヴィオの身体がグラリと揺れ、前のめりにバランスを崩す。 踏み抜きから間を置かず、ハードヒッターの真骨頂とも言える防御を抜く重い一撃、右膝蹴りが同じように鳩尾に決まる。

 

「ッッッッ〜〜!?」

 

 これまで経験したことの無い重過ぎる膝蹴りを鳩尾に受け、ヴィヴィオの身体がくの字に折れ曲がる。 肺が酸素を求めるが、呼吸がままならない。

 額に脂汗を浮かべ、腹部を抱えたまま数歩後ろへ下がり、タイルに片膝を着く。

 

(ぐぁっ、ぐぅ....っ、この子は、強い。 今、しか....無いッ)

 

 アインハルトはスッと右手を手刀の形にして腕を上げる。 膝が笑って足場に不安定さが残るが、彼女に他の手は無い。

 深呼吸を一回。 一気に力を練り上げる。

 

《覇王・断空拳》

 

 足から練った力を拳の直打又は撃ち下ろしとして叩きつけて攻撃をする、アインハルトが一番最初に修得した覇王流の花形。 相手は満身創痍、この一撃を決めれば行動不能に出来る。

 前髪が降りてヴィヴィオの表情は伺えない。三百年前とは同じようで同じでは無い、今度は覇王が勝利が目前。

 

「......高町、ヴィヴィオさん。有難うございました....!」

 

 オリヴィエ・ゼーゲブレヒトではなく、高町ヴィヴィオという一人の少女に敬意を示し、せめて痛みを知らず気を失う様に一思いに《断空拳》を振り下ろす。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 バギィッ!! と、骨にヒビを入れ、砕いたかのような軽い音が辺りに響いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「––––どう、いたしましてェ....!! でも、ちょーっとだけ、お礼を言うのが早すぎますねェ....!!」

 

 不屈の炎を宿す目に、背筋が凍るような錯覚にアインハルトは見舞われた。 《断空拳》が、アッパー系の拳撃に止められたのだ。

 

 振り下ろされた手刀はアッパー系の拳撃に相殺されているかに見えるが、手刀を相殺した拳から感じたのは、生温かく、ぬるりとした感触。 ポタポタとこぼれ落ちるのは赤い液体。

 

「拳が......!?」

 

 その液体の正体は血液。 ヴィヴィオの拳撃《アクセルスマッシュ》は、断空拳の威力の相殺などしておらず、自ら拳に大きなダメージを与えた。 ノーヴェが見れば激怒しそうな無茶無理無謀でも、反撃へと繋げる一手にはなる。

 追撃の危険を伴う回避より、右手を犠牲に確かな反撃をヴィヴィオは選択したのだ。

 

「ッおおおぉぉぉォォォォッッ!!」

 

「っ!? はぁぁぁァァッ!!」

 

 叫びにも近しい雄叫びを上げ繰り出される左拳。 ヴィヴィオ覇気を身体全体で受け、硬直していたアインハルトも弾かれたように断空拳に使った右腕を戻し、右拳を放つ。

 格闘技を学ぶ者同士の鋭い拳が交差し、互いの狙い通りの部位へ突き進む。 防御に割く魔力も神経も筋肉も捨て、全神経・魔力をこの攻撃に集中させる。

 

 何にも阻まれず進んだ両者の拳が、互いの顎を捉えた。

 

 ミシミシと骨が軋む音が拳を通じ二人に伝わってくる。 意識を刈り取るため全力で振り切られる拳、殴られた方向に顔が傾いていく中でも、二人の視線は互いの瞳から決して外れない。

 拳を振り切った後、二人は連続してバックステップを行い距離をとる。 速く鋭く的確に急所を狙う拳のヴィヴィオも、重く伸びる必殺の拳のアインハルトも、あの拳が決め手になるとは微塵も思っていない。

 

「全力ゥ、全開ッッッ!!」

 

 母親譲りの掛け声とともに、残り魔力を全て込められた魔力球が生成される。 限界まで圧縮された虹色の魔力は更なる輝きを放つ。

 

「貫きますッ! 《閃空》!!」

 

 握りしめた右拳の形をを貫手に変え、練り上げた力と魔力を纏わせる。 先ほどとは圧縮率が桁違いに高いのか、魔力光が深い緑色に変色している。

 

 技の発動を完了させ、地面を蹴ったタイミングは同じだった。

 

 二人の視界は顎を捉えた拳撃の影響でぼやけて、お互いをシルエットとでしか認識出来ていない。 故に近接格闘を避け、己の持つ最強の一撃で相手を倒すことが最善の策だと考えたのだ。

 たった六分間だけの決闘、時間にして二ラウンド分しかない短い時間。 アインハルトは列強の王達に高いのか勝利する悲願を、ヴィヴィオは記憶の茨に縛られた覇王を救うお人好しを。 それぞれ望みは違えど、最後はその道が交わることを願って戦う。

 

 距離はどんどん縮まり、技の接触まで一メートルと少ししかない。目で己の意志を語りながら、見つめ合う。 加減は少しも感じられなかった。 恐らく、誰かが仲介に入ったとしても本人達は気付かないだろう。

 

 

 ––––ましてや、人間よりも遥かに小さいナイフが二人の丁度仲間に降ってきたとしても、気が付くことはない。

 

 

 ナイフがタイルに突き刺さった次の瞬間、ヴィヴィオとアインハルトの間に三つの人影が割り込んだ。

 黒髪の青年はヴィヴィオとアインハルトが技を使っている手の手首を掴み止め、栗色のサイドテールの女性はヴィヴィオの真正面に壁のように立って勢いを殺し、金髪の女性も同じようにアインハルトの真正面に立ち勢いを殺した。

 

「時代を越えた出会いってのも感動的っちゃ感動的だけどさぁ....殺し愛みたいなのは、良くないと思うんだよ紅影さんは」

 

「こらヴィヴィオ、なんて顔してるの? それじゃゆりかごの時と一緒だよ」

 

「勝負の真っ最中だろうけど....お話、聞かせてもらっていいかな」

 

 感知に成功した零、なのは、フェイトの三人が現れたのを見た途端、限界を超えていたヴィヴィオとアインハルトの二人は緊張の糸が切れたのか、ガクンと両膝を着き意識を手放した。




展開がちょいと急でしたが、ここから原作が徐々に変化していきます。 ヴィヴィオさんちょっと男っぽかったかも。

あと、初の戦闘描写だったのでかなり不安です。 何かアドバイスやご指摘があればお願いします。

意見、感想を貰えるとさらに頑張れる。

次回→超スピード!?


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