Fate/GEAR (斬緋藍染)
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序章:第六次聖杯戦争初日
第一話:英霊降臨


今回、数多くの作品をクロスオーバーさせる作品を作ることにしました。未だ拝見していない作品もございますので、穴が出来るとは思いますが、これを機に、そういった作品に目を通していき、穴を出来るだけ出さないように精進して参りますので、どうぞ私の作品、「Fate/GEAR」をよろしくお願い致します。


 時は2010年。この時代に、カノンスフィール・フォン・アインツベルンなる少女は、小さくて大きい島国の冬木という町で生活を営んでいた。

「かのーん!入るよー!」

 純和風建築の屋敷の外から女子の叫び声が聞こえてくる。

「分かった!」

 カノンは寝癖のついた白銀の髪の毛を整えながらそう叫んだ。

 叫んだ相手は遠坂(とおさか)美凪(みなき)という少女だ。

「待たせたな」

 居間には朝ごはんが二人分並んでいた。美凪が作ってくれたのだ。

「私ここに住んだ方がいいんじゃないかな?わざわざ毎日ここに来てご飯作るの面倒なんだけど」

「そ、そんなこと言うなよ…。私もしっかりするからさ…」

「はいはい、泣くな泣くな。冗談だよ。あと、聞いて欲しかったのは前半のことなんだけどな」

「い、いやそれは悪いよ。あーいやでも…。…美凪がそうしたいなら、どっちでもいい」

「じゃあ今日はお試しで泊まろっかな」

 そんな他愛もない話をしながら2人は食事を共にした。

 時刻は7時30分。清々しい朝の陽気に包まれながら、カノンは美凪と共に、家を出た。

「そうだ。そういえば、凛ちゃんは留学から帰ってきたのか?」

 美凪の従姉の遠坂(りん)は大学進学後、外国に留学しに行ったらしい。子どもの時から仲が良かったカノンには会えないのが少し寂しかったが、帰ってきたら魔術について教えてもらおうという思惑があった。

「つい先日ね。魔術の訓練のためにイギリスの時計塔に行ってエルメロイ…?だったか何だかって言う魔術師の講義を受けに行ってたんだけど、帰ってきて第一声が「科学と魔術を融合させるなんて出来るはずないじゃない!あの人本当に魔術師なの?!」とかなんとかだったんだよね。自分から行きたいって言って留学したんだから文句言うなって感じだよね」

 確かロード・エルメロイと言えば世界に名を馳せる大魔術師だ。そんな人をそのように言えるとは、やっぱり凛ちゃんは凄いな…。肝が据わってるというかなんというか…。

「そんなこんなで、この一ヶ月はずっと家にいるらしいから、なにか教わりたいなら来た方がいいよ。まあ、言ってもかのんには士郎くんやイリヤちゃん達がいるだろうけどね」

「士郎は当てにならないな。アインツベルンの家の血を引いてないし、父さんとも血が繋がってないらしいから、正当な魔術師とは言えないからな。聞くにしてもイリヤだろうなぁ」

 でもイリヤは今祖国に帰省してるからどっちにせよ聞くことは出来ない。

「あはは、そうなんだ。士郎くんってどうやって魔術行使してるんだろう…?まあいいや、その話はまたあとにしよっか。そろそろ学校着くから」

 歩いて10分程の距離に学校はある。どんなに遅く起きても走れば数分で着く故に、遅刻することなどほぼありえないのだが、先程のは美凪が早くに学校に行きたいからそう言って急かしているのである。

 

 校門をくぐってまず目に入るのは巨大な校舎。一つの建物で普通教室から特別教室まで全てが設置されている。体育館やプールも然りだ。

 反対側にはグラウンドがある。こちらも巨大だ。広大な敷地面積をほとんどグラウンドが占めている。

 グラウンドでは陸上部が活動をしていた。

間桐(まとう)くんいるかな」

「あ、あそこで高跳びやってるの、そうじゃないか?」

 間桐清隆(きよたか)。カノンと美凪と同じクラスの男子で2人の幼馴染。そのルックスと頭脳で生徒に慕われている。そしてこの学校の生徒会長を務めている。

「間桐くん、運動部に入っててよくあんなに勉強できるよな。時間あるのかな?」

「頭がインターネットに繋がってて〜みたいな?」

 そんなはずなかろうに。もしそれならちょっとしたチートだろうよ。

「まあ、間桐の家だ。なんか変なことでもしてるんだろうな」

「…(さくら)みたいな?」

 間桐桜。美凪の2人目の従姉であり、凛の妹である遠坂家の次女。一時期、間桐家に養子に出されていた時期があり、そこでおぞましいほどの虐待を受けていた。

「桜ちゃんは…。いや、この話はやめにしよう。桜ちゃんも間桐くんもかわいそうだし」

「…そうだね」

 キーンコーンカーンコーン…

 ちょうどチャイムがなった。SHR(ショートホームルーム)が始まる10分前だ。

「教室行こうか」

「うん。そうだね」

 2人は踵を返し、教室がある校舎へと向かって行った。

 

「おらお前らチャイムなってんぞー。早く座れー。今日は少し大切な話があるからなー」

 黒い髪を整えたイケメン眼鏡の担任は、そう言いながら教室に入室してきた。

「せんせー!大切な話ってなんですかぁ?」

 クラスの俗に言う陽キャの女子が担任に向かっていつもはしないような猫なで声で質問する。

「それは今から話すからちゃんと聞いてろ菊池(きくち)。さて、その話ってのは、このクラスに転校生来るって話だ」

 驚きと期待で教室がざわめいた。

 担任が入室を促すと、1人の男子が入ってきた。髪は青く、眼も蒼い。澄んだ海や青空のような綺麗なイメージを抱かせる好青年だった。

「自己紹介を」

「はい。黒鋼(くろがね)白空(はく)。イギリスのロンドンから来ました。と言っても、ロンドンにいたのは数年だからそんなに外国人みたいな感じではないんですけどね。とりあえず、こんなものでいいですかね。それじゃあよろしくお願いします」

 先程のギャル、菊池やその周りの女子共が再びざわめき出した。

「そこ黙ってろよー、話すならSHRが終わってからにしろ。さて、黒鋼はロンドンにいたこともあって、転入前に行わせてもらった試験では英語が98点だった。実力者が入ってきたということはさらに頑張らなきゃならないってことだからな。お前らも負けないように精進しろよ」

 うわぁ…嫌なことを言ってきたなぁ…。教師たるもの奮い立たせなきゃならないんだろうけど、気分は悪くなるよなぁ…。

「黒鋼。窓側から数えて2列目後ろから1番目の空いているあの席あるだろ?あそこの席に座れ。衛宮(えみや)、それから遠坂。お前らは隣同士になるんだから分からないことがあったら教えてやれよ」

 衛宮と言ったのはカノンの事だ。学校には衛宮花音(かのん)という名前で所属している。日本名にした方が何かと楽なのだ。

「了解した。よろしくな、黒鋼くん」

 そうカノンが声をかけると、白空は少しギョッとしたような表情を見せたが、すぐに顔を微笑ませ、挨拶を返した。

「うん。よろしく衛宮さん、それから遠坂さん」

 おそらく、カノンの口調についてだろう。あまりにも女の子らしくない。

「さ、1時限目は俺の授業だ。遅れないように準備しとけよ。これでSHRは終わりにする。間桐。号令を」

「起立、気をつけー、礼」

 と、いつも通りの朝の流れが終わった。イレギュラーなことと言えば彼が来たということくらいか。

 

 

暗殺者(アサシン)。いるか?」

 自らのサーヴァントを呼び出す。

「もちろんだ。いつも主君のそばにいる」

 音も立てず現れたのは華奢な容姿のくノ一姿の少女。

「他の英霊の気配はあったか?」

「いや、私の方では感知できなかった。恐らくこの学校にはいないのだろう」

「そうか。アインツベルンも遠坂も間桐もいるから一騎くらい見つかると思ったのだが…。…わかった。お前は学校から町中へと索敵の範囲を広げてくれ。校内は僕がやる」

「了解した」

 再び音も立てずに少女は消えた。

「さて。聖杯戦争はすでに始まっているぞ。早く呼び出さないと死んじゃうよ。御三家のマスター候補達」

 

 

 ピリッ――

「…っ。…なんだ?」

「どうしたの?間桐くん」

 昼休み。校舎の4階にある屋上のような所で食事をとっていたカノン、美凪、清隆。そのうち清隆の右手に軽い痛みが走った。

「いや……。なんでもない…。っ!!!」

 右手の痛みは突然強くなった。絶叫発狂する程の痛みではなかったが、普通に暮らしている分には経験し得ない痛みに清隆は驚いていた。

「この…痛みは…!」

「まさか!」

 キィィィン…

「令呪!」

 赤い紋章が現れた。かつて人理を修復した男のマスターの令呪を反対にした形のもの。

「なんで?まだサーヴァントは呼び出してないわよね?」

「分からない。が、俺に()()が来たんだ。お前らにも時期に来るだろう。昼休み中でよかった。それに、見られたのがお前ら2人だけなことも良かった」

「っ!」

 今度はカノンに痛みが走った。

「いっ!口…?」

 口の端に紋章が現れた。口端を囲う3つの火の粉のようなもの。

「口に令呪が…?」

「有り得なくはない。イリヤちゃんもそうだったろう。彼女は全身に現れていた。あれは極端だったけど、体のどこに現れてもいいということを最も表現している事象だろう」

「そ、そうだな。自分で確認できないのが厄介だが…」

「あとは私ね…。いつ来るのかな」

「こういうことを言うのは良くないだろうが、凛ちゃんという可能性も無くはない。昨日、帰ってきてただろ?もしかしたら彼女かも」

 清隆が美凪にそう言った。

「そうね。その可能性もあるよね。気長に待つとしますか」

 

 5時限目の皆が眠くなるような時間にそれは来た。

(よりにもよってこの時間に…!眠気覚めたけど…!)

 手が紅く光り輝いている。

「せ、先生。トイレ行ってきます…」

「腹痛?良いですよ。行ってきても」

「失礼します…」

 令呪の出現を見られないようにトイレの個室へと駆け込む。

(右手の甲…。…って場所は関係ないか。形は凛やお父様のような円2つに短い線がひとつ)

 魔術師として適正があるほど令呪の形は円に近くなる。美凪やカノンは適性があるようだ。

(そろそろ戻るかな)

 便座から立ち上がり、扉を開けると、そこには黒髪の忍者のような格好をした少女が立っていた。

「…ッ!?」

「その手…。お前はマスターか?」

「なんの…こと…?あはは、マスターってなに?」

 必死に誤魔化しているのは目に見えてわかる事だ。少女にもわかっているだろう。

「と言うかあなたどこから来たの?勝手に入ってきちゃダメでしょ?さ、早くお家へお帰り」

 そう少女に言うと、突然膝蹴りをされた。

「ぐはっ」

「子供扱いするな。無礼者」

「えぇ…?だってどう見たって小がk…ッは!」

 再び膝蹴り。今度は鳩尾(みぞおち)に入った。

「子供扱いするな。バカ直継…バカ継と同じだな。こう見えても私は大学生なのだ」

 大学生って見た目じゃないけど…?

 いや、そんなことを言っている場合じゃない。ここにいる間ずっと気を張っていた。なのにこの少女の気配を察知することが出来なかったのだ。恐らく気配遮断スキルを発動している。

(アサシンのサーヴァント…?御三家である私たちより早くに召喚するなんて…)

 いや、それは関係ないことだ。

「で、話が逸れてしまったが、マスターということで良いな?遠坂美凪」

(私の名前を…!!?)

「主君に伝えさせてもらう」

 そう言って少女は音もなく消え去った。

(いずれは対峙する相手だと言っても、事前にバレるとは…!マズイことになった…。あとで間桐くんとかのんには言わないとな…)

 急いで教室に戻った。授業終了5分前だった。

 

「別に大丈夫でしょ」

 授業が終わり、帰りのSHRが終わったあと、美凪は教室に残っていたカノンと清隆に相談しに行った。が、清隆から返ってきた言葉はそのようなものだった。

「遠坂の者となれば、マスターになるのは当然のようなものだし、俺らだって敵同士だろ?いずれ分かる事だ。今バレたところでどうということは無い」

「そうだ。それに、サーヴァントを見られた訳でもないんだし。な?」

「でも…」

「さ、この話はおしまいにしようか。そうだ、良いものを見せてあげよう。俺についてこい」

 そう言って会話を終了させた清隆は席から腰を上げ、教室の外へ出るよう言った。

「どこに行くの?」

「場所としては校舎の地下だ。何があるかは着いてからのお楽しみってことで」

 カノンと美凪の2人は促されるまま清隆の背中についていった。

 

 

「素に銀と鉄。礎に石と契約の大公――」

 夜の深い森の中で男は詠唱する(つぶやく)

「降り立つ風には壁を。四方の門は閉じ、王冠より出で、王国に至る三叉路は循環せよ」

 地面に人間の血で描いた魔法陣が反応する。

閉じよ(みたせ)閉じよ(みたせ)閉じよ(みたせ)閉じよ(みたせ)閉じよ(みたせ)。繰り返すつどに五度。ただ、満たされる刻を破却する」

 魔法陣を中心とした強風が巻き起こる。

「―――――Anfang(セット)。――――――告げる。――――告げる。汝の身は我が下に、我が命運は汝の剣に。聖杯の寄るべに従い、この意、この理に従うならば応えよ。」

 魔法陣に光の粒子が集合する。

「誓いを此処に。我は常世総ての善と成る者、我は常世総ての悪を敷く者」

 光の粒子が複数の玉の形になり、魔法陣の周囲を高速で回転する。

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()――」

 光の柱が天に伸び、英霊を呼び寄せる。

「汝三大の言霊を纏う七天。抑止の輪より来たれ、天秤の守り手よ―――!」

 光の柱の直径が広がり、森を覆い尽くさんとする。

「さあこい、俺の英霊!僕に力を与えろ!アハハ、アーハッハッハッハ」

 男の哄笑する声が森に響き渡る。

 光が収まるとそこには華奢な体の少し女のような顔をした少年がいた。

「ようバーサーカー!お前は誰だ?名前を教えろ」

「俺はツァラトゥストラ。察するに、お前は俺のマスターなんだな」

「ああ、そうだ。扱き倒してやるから覚悟してろよ、ツァラトゥストラ」

 マスターが差し伸べた手を彼は握らなかった。

「ん?どうしたんだよ」

「いや…ちょっと、な。多分、今の俺には()()の呪いが付与されてる。だから、マスター、あんたに触れていいものかどうか分からないんだ」

 呪い?触れない呪いって酷いものだな。

「どんな呪いなんだ?」

「…人に触れると…その人の首が飛ぶってやつだ」

「マジで…?」

「ああ」

 そんなの…。そんなの…。

「あはは!すげえなお前!」

「は?」

「触れれば殺せるって、それだけで勝てるってことじゃないか!」

 バーサーカーのマスターは歓喜する。

「相手が隙を見せたら殺せる…。隙を見せるにはこっちが強い必要があるか…。じゃあ今から人殺しに行くか」

「あれ、なんで聖遺物の特性を…」

 伝えてもいない蓮の身に宿っている聖遺物なるものの『人を殺した分だけ強くなる』という特性をバーサーカーのマスターは言ってみせた。

「え?ああ、なんか頭の中に知識としてあったんだ。当然のように、な」

 バーサーカーを召喚した時に流れ込んできた情報だ。

「そうか…。無意味に人を殺すのは趣味じゃないんだけど、あんたの描いた魔法陣も力になった。こう言うのは不謹慎なんだろうけど、人の血で描いてくれてありがとな」

「さあここで握手をしよう。お前も抑えようと思えば抑えられるだろう?あのーなんていったか…。なんとか効果みたいなやつ」

 プラシーボ効果。実際にはその効果がなくても、思い込みでそうなってしまうこと。例えば、風邪をひいている人に風邪薬だと言って小麦粉を飲ませると、風邪が治ってしまった。のような事だ。

「じゃあ…あんたがそう言うなら…」

 ガシッ

 お互いに強くにぎりしめた。

 しかし、何も起こらなかった。

「…。抑え…られたな」

「あ、とマスター?お互いに意思疎通をしやすくするために名前知っときたいんだけど」

「俺はアーノルド・グランディアス。よろしくな」

 アーノルドはそう言った。

 ツァラトゥストラは、よろしくな、アーノルド。と快く言った。

 

 

「ここだ」

 御三家のマスター3人は目的の場所へと到着した。

「これは…!」

 そこの床には魔法陣が3つ描かれていた。

「そろそろ聖杯戦争が始まる時期だろうと思ってな。準備していた。きっとお前らと一緒に戦うことになるだろうと思ったから、まずは俺の希望を叶えてみようと思った。3人で一緒に召喚してみたかったんだ。別にいいだろ?」

「悪くない。隠れてやるようなものじゃないし、別に共闘する気はあるからな。美凪は?」

「私も別に。ただ、遠坂の家は少し詠唱が長いんだけど、大丈夫かな?」

 その程度。2人は声を揃えてそう言った。

「じゃあ早速始めようか。俺は奥に行くから、花音はそこ、美凪はそっちに行ってくれ」

 指示された位置に全員がつき、準備が完了した。

「さあ、行くぞ…」

 手を前に差し出し、詠唱する。

「「「素に銀と鉄。礎に石と契約の大公――」」」

 ―――――――――――――――――――――――

「「「抑止の輪より来たれ、天秤の守り手よ―――!」」」

 部屋の中を眩い光が覆い尽くした。

「ッッ!」

 光が収まり、目が慣れてきた。

「あ…」

 3人の男女が突如そこに出現していた。

「私は槍兵(ランサー)。召喚に応じ、参上した。問うぞ。貴殿は私のマスターか?」

 間桐清隆の目の前には白い服に身を包んだ、どこかカノンに似ている、槍を持った青年が。

「やあ、君が僕のマスターかい?」

 遠坂美凪の目の前には杖を持ち、赤い宝石を頭につけた青い髪の少年が。

「おっと…俺だけか。まあいい、俺のマスターはお前か?」

 カノンスフィール・フォン・アインツベルンの目の前には巨大な岩が先端に付いた剣を持った男が眩しいほどの笑みをしながら立っていた。

「俺は槍兵(ランサー)か」

「私は魔術師(キャスター)だね」

「私は剣士(セイバー)だな」

 それぞれ、従えるサーヴァントが確定した。

「よろしくな、ランサー」

 槍兵の少女は頷き、よろしくと口にした。

「よろしくね、キャスター」

 魔術師の少年は眩しいほどの笑みを浮かべ、よろしくねおねいさんと。

「セイバー、よろしく」

 剣士の男はその剣を肩に担ぎ、よろしくなマスターと。

 

 

「現在、ここ冬木に限界している英霊は私が確認している中では、剣士(セイバー)槍兵(ランサー)暗殺者(アサシン)魔術師(キャスター)狂戦士(バーサーカー)の5騎。本来のシナリオ通りにことが進めば残りは弓兵(アーチャー)騎兵(ライダー)の2騎ということになる。が、イレギュラーとして、こちらが確認できていない裁定者(ルーラー)復讐者(アヴェンジャー)盾兵(シールダー)と言ったような特殊なクラス、『エクストラ』が現界する可能性も十分にありえる。そうしたら我々聖堂教会の出番だ。心してかかろう」




 今回はアサシン、バーサーカー、ランサー、キャスター、セイバーの5騎が登場しました。それぞれ、別の作品のキャラクターとなっています。多少の被りがあった方が作品としては展開しやすいのでしょうが、私が好きなキャラクターを並べてみると、このような感じになってしまいました。多少、マニアックなキャラクターも存在しますので、読者の皆さまにも原作に興味を持っていただけるととても嬉しいです。

 ちなみにランサーはオリジナルのキャラクターなので、キャラクター性は安定していると思います。

 真名が判明しているものはここで紹介させていただきます。
 バーサーカー:Dies iraeから出典。本作品中では「ツァラトゥストラ」という名で現界しているが、中身は「ロートス・ライヒハート」、見た目は「藤井蓮」という少年のものだ。Fate/Grand Order の「諸葛孔明」や「イシュタル」といった英霊と同じく、疑似サーヴァントである。
 藤井蓮は、Dies irae原作中では主人公として最大の敵であるラインハルトと〇〇〇〇〇〇(ネタバレ防止)と戦う。呪いというのは原作のヒロインの一人であるマルグリット・ブルイユの人の首をはねる呪い。
 本作品中ではまだまだ秘密を隠しているようだが…?


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第二話:カノンスフィール

「無事、みんな各々のサーヴァントを召喚したな。まずは確認だ。俺たちは共闘関係にあるってことでいいんだよな?」

 召喚を終え、地下室から退却し、学校から出た3人は、カノンが生活をしている古い和風の屋敷へと身を移していた。

「そうだな。私はそれでいい。そちらの方が安全だし、安心だ。まあ、誰かが裏切らないということが前提だけどな」

 カノンは肯定する。

「もちろん、私も。凛も士郎くんと共闘してたみたいだし、そっちの方がセオリーなのかも」

 美凪も肯定した。これで三者の意見が一致した。

「了解だ。じゃあそれで、よろしく頼んだぞ」

 ここで裏切ったら死刑、というような魔術をかけても良かった。そうすれば確実に裏切りは起こらないだろうから。しかし、それをしないのは彼らが皆、信用しているからだろう。それに、魔術をかけたら信頼できないと言っているようなものだ。だから、3人が3人ともそうしようと言わないのだ。

「次は他の陣営がどこの誰なのかって言うことについて話し合おう。と、言っても俺らが接触したのはアサシンだけだからな…。なんとも言えないが…。実際に接触してみてどうだった?なにかヒントになりそうなことは…」

 美凪に話を振る。

 しかし、美凪は首を横に振り、残念そうな顔をする。

「そんなにわかるようなことは無かったよ」

「どんな風貌だったかとか、見た感じの性別や年齢は、とか」

「見た目はさっき見つかったって相談した時に言った忍者のような…くノ一のような格好だったよ。性別は女だろうね。年齢は…見た目的には小学生くらい、良くて中学生くらいだったけど、自分では大学生とか言ってたからなぁ…。まあそういうことくらいだよ」

 カノンと清隆は顎に手を当て、考える素振りを見せながら美凪の話を聞いた。

「大学生っていう概念が存在している時代の人間が英霊になったのか…。真名が分かったところで弱点などは調べられなさそうだな」

「ああ。相当有名な大学生…それこそ、最近テレビに出るような人物でないと調べられないだろうな。ま、そんなやつは頭脳を使ってキャスターにでもなるだろうがな」

 しかしキャスターはここにいて、相手はアサシンなのだ。

「なんだ。清隆と美凪か。玄関に靴が多かったから誰かと思ったら」

 声が聞こえた方向を見てみると、居間への入口のところに背の高い男性が立っていた。

「兄さん、おかえりなさい」

 男性の名は衛宮(えみや)士郎(しろう)。第五次聖杯戦争時にセイバークラスの英霊を使役し、戦った元マスター。その時の印象とはかなり変わっている。白い髪に浅黒い肌。まるで第五次のアーチャーのようだ。

「ああ。ただいま。ところで、えーと…1,2…3人。この部屋、他にも誰かいるだろう。気配からして英霊…サーヴァントか」

 3人は驚きを隠せない。召喚したことはおろか、マスターに選ばれたことすら知らない彼がサーヴァントがいることを言っとのけたのだ。

 カノン達が目を丸くしていると、士郎が不思議そうに言った。

「そんなに意外だったか?これでも魔術師の端くれだぞ。気配くらい分からなくてどうする?…しかし、何故3体なんだ?…ああ、なるほど…。カノン、こっちに来い」

 カノンは言われるままに士郎の方へと歩んで行った。

「令呪を見せてみろ」

 カノンは口にある令呪を浮かび上がらせ、士郎に示した。

「口に…。なるほど。ま、私が言いたいことはそこではない」

 そう言うと、士郎は手の甲をカノンの目の前に差し出した。

「これは…!」

 士郎の手の甲には前回の聖杯戦争の時とおなじ模様の令呪があった。

「そうだ。オレも令呪を授かった。アインツベルンのマスターは俺なのかと思ったが、そうではないようだな。ただ聖杯に数合わせで選ばれただけか…あるいは…」

「じゃあ士郎のサーヴァントは?召喚はまだしていないのか?」

「ああ。帰ってきてからやろうと思ってたからな。どうせなら清隆、見に来るか?私が英霊を召喚するのを」

「そうだな。見させてもらえるなら、そうさせてもらおう。花音と美凪はどうする?」

 先に行ってるぞ。士郎はそう言って外へと出ていった。

「私も行く。どんな英霊が出てくるのか見てみたいからね。かのんは?」

「私も。でも少しやりたいことがあるから先行っててくれ」

「…?ああ、分かった。じゃあ美凪、行こうか」

 そう言って清隆は美凪の手を引いて、士郎について行った。

 

 私は、これで2度目の聖杯戦争への参戦となるのか。1度目は25年前、2004年の第五次聖杯戦争だ。その時にはセイバークラスの英霊、アルトリア・ペンドラゴンを召喚し、使役した。彼女は良い人柄で、とても接しやすかった。しかし、彼女はこの場にはいない。おそらく、私が召喚することは無いだろう。残念なことに、セイバークラスは既にカノンによって召喚が確認されている。残っているのは何のクラスだろうか。

「士郎」

 後ろから声をかけられた。男の声。清隆か。

「花音は後で来るとさ。やりたいことがあるとかなんとか」

「そうか。ところで清隆。残っているクラスは何がある?」

 外にある土蔵で作業をしながら、清隆に問い掛ける。

「俺が召喚したランサー、美凪のキャスター、花音のセイバー、美凪が見たアサシン、あとは…分からないな。俺たちが確認してるのはその4騎だけだ」

 なるほど。残りの確認していないクラスはアーチャー、ライダー、バーサーカーと言ったところか。出来れば、アーチャーがいいな。おそらく、私と相性が良いのはアーチャーだ。

「ありがとう。狙うはアーチャーだな」

「バーサーカーの方がいいんじゃないのか?」

「普通に考えたらそうなるのだが、私はアーチャーの方が相性がおそらくいいんだ。それに、そちらの方が援護もしやすくて良い」

 埃がかかっていたり、上にものが置いてあったりしていた魔法陣を露出させると、士郎は手を叩き、良し、と呟き立ち上がった。

「長ったらしい詠唱はなしだ。触媒もなしに、何が出てくるかわからないが、それも後世に伝えて行くべきことだろう。さあ(きた)れ!我がサーヴァントになる英霊よ!」

 眩い光が土蔵の中を包んだ。

 何かが落ちてきたような気がしたが、気のせいだろう。

「貴様が(オレ)のマスターか?雑種よ」

 光が消え、目の前が見えるようになるとそこには、黄金の甲冑を身につけた、あまりにも(物理的に)眩しすぎる男がいた。

「ギルガメッシュか。久しぶりだな」

「はっ!誰かと思えば貴様か衛宮士郎。ほう、雰囲気が(いささ)か変わったようだな。見所が出てきたではないか」

 目を細め、感心したように言う。

「そりゃどうも。遠坂曰く、『アーチャーに似てきたわね、衛宮くん』だそうだ」

「ほう、(リン)か…」

「あの、士郎?」

 清隆が会話に口を挟む。

「ああ、不思議に思うよな。彼はアーチャー、ギルガメッシュ。前回の聖杯戦争の時に顔を合わせたことがあってね。たしか第四次聖杯戦争の生き残りなんだったか?」

「そうさな。時臣が言峰によって殺された後、匿ってもらっていた故な。ま、そんなことはどうでもよかろう。貴様にこの我をしっかりと使役できるのかということが重要なのだが…。ところでシロウ、何だこの子供は」

 美凪がギルガメッシュの近くで目を輝かせていた。

「あなた、時臣叔父様について知っているの?」

「叔父様…?ほう、なるほど。時臣の姪御か。なかなか面白いではないかシロウよ。ああ、時臣についてはよく知っておるとも。奴の人柄から死に様までな」

「あまりそういうことは美凪の前では言わないで欲しいな。遠坂の父親にも良いところはあっただろう」

「はっ!あの男に良いところなどあったものか。愛していたものは妻子のみ。他は切り捨てても構わないといったような愚行の数々。我が言えたことではないが、反吐が出る。まあ娘の凛はそのようなことはなかったから、姪御である貴様も時臣のようなことは無いだろうと期待はしておるが…。期待を裏切るようなことをすればそれは万死に値するぞ?美凪(ミナキ)よ」

 ま、そんなことはどうでもいいがな。とギルガメッシュは吐き捨て、土蔵の外へと出ていった。

「ああ、少し待て。ギルガメッシュ」

 土蔵から出たギルガメッシュを追い、士郎はそう声をかける。

「なに?この我を引き留めるとは、どういうことだシロウ」

「今回はしっかりと私に従ってもらうぞ」

 その言葉を聞いたギルガメッシュは顔を強ばらせ、

「天上天下唯我独尊。その我に従えと、そういうのか貴様は!」

 そう叫んだ。

「ああ。そうだ。お前の

 マスターはこの私だ。唯我独尊だろうがなんだろうが、私の知ったことではない。それに、その目で見たのだろう?前回の聖杯戦争で言峰綺礼がランサーを令呪で自害させたのを。それと同じことが私にもできるのだぞ?英霊の座に還り、再び復活しようがなんだろうが、此度の聖杯戦争にはもう手は出せなくなる。さて、どうするかな、唯我独尊の暴君よ」

「貴様、それがこの我に対する態度かッ!死に急いだなッ!贋作者(フェイカー)ッッ!!」

 ギルガメッシュは背後に無数の光の穴を出現させ、そこから剣や斧などを覗かせた。

王の財宝(ゲート・オブ・バビロン)か。それを見るのは久しいな。さて、この戦いを無益にすることはしたくは無いな。ギルガメッシュ、聞けよ。この戦いに私が勝てば、お前は私に従え。お前が勝てば好きにして構わない。遠坂の父親のようにしてもらっても構わない。お前は彼を従者のようにさせていたのだろう?」

「ハッ!貴様如きが…生身の人間如きがッ!この我、英霊に勝てると思うなよ!」

 王の財宝から覗かせていた宝剣や聖剣などを数十個放った。

「危ない!」

 美凪が叫んで士郎の方へ駆け寄ろうとした。

「ダメだ!お前も死ぬぞ!美凪!」

 しかし、清隆に首根っこを掴まれ、阻まれた。

「でも士郎が!」

「私の事なら気にするな!さて、くだらんな英雄王。馬鹿みたいに飛ばせばいいってものじゃないぞ」

 そう言った士郎はひとつの宝剣をつかみ、魔術を展開した。

投影(トレース)開始(オン)

 その剣に魔術が伝播し、強化された。

 強化魔術。士郎が得意とする魔術のひとつで、魔力を通して対象の存在を高め、文字通りの効果を発揮する魔術。ナイフに使えば切れ味が良くなり、ガラスに使えば硬くなるといったようなもの。

「生身の人間の力を見せてやろうか。ギルガメッシュ」

 なおも降り続ける武器の雨を士郎はその手に持った剣で(はじ)き始めた。

「なに!?」

「ははは、オレに楽に勝てる思ったのか?そんな負け勝負を自らふっかける訳ないだろう」

「おのれおのれおのれおのれ!そこまで死にたいか!小僧ォッ!」

 更に王の財宝を展開する。今度は士郎の周囲を取り囲むように。

「これは厄介なことになったな。清隆、美凪、家の中に入っていろ。ここから先はかなり危険だ。ああ、くれぐれも、無駄なことをするんじゃないぞ。ギルガメッシュの怒りを買うと面倒だ」

「…分かった。美凪、戻るぞ」

「でも…」

「士郎が何もするなと言ったんだ。何か策でもあるんだろう。それに、そんな簡単に負けるわけないだろ?僕らの正義の味方なんだから、彼は」

「ぁ…。…うん。そうだね。負けるわけないよね、士郎は強いんだもんね。分かった。戻るよ清隆」

 2人が戻ったのを確認すると、士郎は手に持っていた剣を投げ捨てた。

 そして、その行為が更なる怒りを買うこととなった。

「貴様、我が宝物を…。ここから先は手加減は無しだ!」

 そう叫ぶとギルガメッシュは、王の財宝から金色の鍵のようなものを取り出した。

「今ここに、目覚めよ!エア!」

 鍵から巨大な魔術回路が出現した。

「乖離剣エア…。まずいな…」

 天地を切り裂き、世界を破壊する伝説の剣。ここでそんなものを展開されたら…。

「止むを得ぬか…」

 右手を前に出し、詠唱を開始する。

I am the bone of my sword.(―――体は剣で出来ている)

 地面に士郎の魔術回路が走る。

「小癪な…」

 ギルガメッシュは王の財宝を展開し、士郎に放つ。

 しかし、それらは士郎の前に展開された桃色の花弁のようなものによって阻まれた。

「アイアス…。そのようなもの、我が宝物をもってして破壊してくれるッ!」

Steel is my body, and fire is my blood.(血潮は鉄で、心は硝子)

 熾天覆う七つの円環は破壊されず、なおも士郎を守り続ける。

「ぬぅ…。いや、何故我は奴の詠唱を待っているのだ。さっさと放てば良いのだ。お約束など知ったことか!」

 ギルガメッシュの魔術回路が引っ込み、その場からエアが出現する。

I have created over a thousand blades.(幾たびの戦場を越えて不敗)

 士郎の魔術回路に稲妻のようなものが走る。

「なれば、我も雰囲気というものを出そうか『原初を語る。天地は別れ、無は開闢(かいびゃく)言祝(ことほ)ぐ』」

 エアが回転し、魔力の装填をする。

「士郎!」

 その直後、女の声が庭に響き渡る。

「かのん!危ないよ!」

 美凪は止めようとするが、その声は届かなかった。

 が、ギルガメッシュに異変が起こった。

「なっ…エルキ…ドゥ…」

 エアを消滅させ、王の財宝も閉じた。

「…どうしたギルガメッシュ。ここまで来てやめるというのか?」

「何故…何故ここにエルキドゥがいる!」

 ギルガメッシュはカノンを指差し、そう士郎に訊く。

「エルキドゥだと?たしか史実…ギルガメシュ叙事詩によると、ギルガメッシュの親友だかなんだかだったか…。そんなに似ているのか、そのエルキドゥとやらとカノンは」

「カノン…だと…?では、こいつはエルキドゥではないと…そう言うのか?」

 本気で戸惑っているようだった。

 士郎が()()()()()で見た資料によると、エルキドゥというのはランサーのクラスらしい。しかし、ランサーを召喚したのは清隆だ。そいつが召喚されるはずがないのだが。

「ああ、だが、もしかしたらエルキドゥとやらの因子がカノンの中にあるのかもしれんな」

 ギルガメッシュはカノンの元へと歩んでいき、頬を撫でた。

「カノン、貴様は何者だ…?我の盟友を知っているか…?」

 頬を触れられたカノンの脳にとあるビジョンが映し出された。

「ぁ…ぅあ…」

 

『ギルガメッシュ、君は非効率的だね。もう少し攻撃の仕方を抑えなければ、すぐに宝物庫の中身が尽きてしまうよ』

『僕は君の味方だよ、ギルガメッシュ』

『ギルガメッシュ』

『ギルガメッシュ』

 ……………。

 

「どうした?カノン」

「私は……」

 カノンが見た映像には、目の前に立っている黄金の王と緑の髪の女性のような()()が映っていた。

 あまりにもそれはカノンに似すぎていた。

「シロウ、我がマスターよ。此奴(こやつ)は…カノンは()()()()()()()()()?確かアインツベルンとやらにはそのようなことが出来るのだったよな」

「カノンは…」

 そうだ。ホムンクルスだ。士郎の姉にあたる、イリヤスフィール・フォン・アインツベルンや、養母のアイリスフィール・フォン・アインツベルンとは見た目が多少異なるが、アインツベルンが作った小聖杯ではなく普通の人間として生きるための実験体として作られた人形。

「なるほど。ホムンクルスだと言うのなら合点がいく。おそらく、カノンを作る際に我がバビロニアやウルクのものを使ったのだろう。我やエルキドゥのような力を得させるために。まあ、わざわざ戦闘用に作られていない土人形なんぞに何故そのような力を持たせるかは疑問でしかないがな」

 ギルガメッシュはカノンの横を通り過ぎながら、

「ま、其奴に免じて従ってやるぞ、シロウ。二度と会えないと思っていた奴に…擬似的にも出会うことが出来たのだからな。その礼と先程の詫びだ」

「いやに素直だな。…前回のあと、何かあったのか?英雄王」

「何も無い。何も無かった」

 そう言い、ギルガメッシュは家の中に入っていった。

 一瞬顔が暗かったのは気の所為だろうか。

「士郎…私は…」

「ああ、ホムンクルスだということは知っていただろう?」

 カノンは頷いた。

「イリヤのような見た目にしたかったのだが、使った材料に記憶があってね。そのような姿になった。それが英雄王の親友、盟友と似たような姿だったのだろう」

「じゃあ…」

「お前はエルキドゥの力を使える。どのような力だったかは調べねばならないが、感覚的にわかるだろう。お前の魔術はそれだ」

 今まで使ってこなかった…知らなかったカノン固有の魔術。普通に生活を送る分には必要が無いから。しかし、ギルガメッシュによってそれが白日のもとに晒された。

「これが…私…」

 知らなかった…知りたくもなかった戦闘兵器としての自分。神すらも知らぬ運命の歯車が動き出す…。




 今回は主人公格の3人が会議をしている所に、Fate/staynightの主人公である衛宮士郎が家に帰ってきて、話に乱入するところから物語が始まりました。その後、士郎が召喚したのはFate/Zeroのアーチャー、そしてその戦いの生き残りの英雄王ギルガメッシュ。士郎は成長し、容姿や口調がstaynightのアーチャーのようになりましたが、ギルガメッシュは相変わらずの唯我独尊っぷりです。
 本作の設定として、カノンはイリヤの妹という設定になっておりますので、士郎の位置付けはカノンの兄ということになります。
 ギルガメッシュは一度英雄の座に戻ったあと、再び召喚されたという設定です。記憶は残っているそうです。「触媒なし」となっていましたが、光に包まれた後、落ちてきたものが柳洞寺で2人が戦った時にギルガメッシュが使用した宝剣の1つで、それが触媒となりました。あの戦いの後、凛か誰かが持って帰ったんでしょうね。

 この章が終わったらまたしっかりとしたリメイク版でも出そうかなと思います。章の切り替えはサーヴァントもしくはマスターの誰かが死亡、あるいは戦意喪失、戦線離脱したら切り替えようかと考えています。


 それでは、Fate/GEAR 第二話:カノンスフィール。最後まで読んでくださり、ありがとうございました。もしよろしければご意見ご感想をおねがいします。
次回は誰かと誰かを戦わせようと思っていますので、お楽しみに。


 ちなみに、強化魔術の説明はTYPE-MOONwikiからの引用及び抜粋です。


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第三話:アルス・リュアリアム

 教会の神父、言峰(ことみね)斯詠(しえい)は資料を眺め、聖杯戦争の現状の確認をしていた。

「さて…。先の報告から大きな変更はなし、か…。剣弓槍、術殺、狂。最初の英霊が召喚されてからあと10分ほどで12時間。ライダーが召喚されていないのが少し気にかかるが…。まあ選定されたマスターに知識がないという事ならば合点がいく。召喚する手立てを知らないのだからな」

「どういうことです?せいはい(聖杯)えら()ばれるのはたしょう(多少)なりともまじゅつ(魔術)こころえ(心得)がある人ですよね?」

 神父の目の前に座っている少女が言う。

「そんなことも無いだろう。第四次のキャスターのマスターは聖杯戦争について何も知らないような感じだったからな。たまたま選ばれた、というのが正しいだろう。前回の衛宮士郎のように、な」

「そうですか。それじゃあ、ぎしき(儀式)がなりたたないんじゃないです?」

「そんなことは無い。遠坂、間桐(マキリ)、そしてアインツベルンがいれば聖杯戦争という儀式は成立する。だがしかし、召喚されないというのは儀式を滞らせる要因のひとつになり得る。早急に召喚してもらわなければならないのだが…」

 英霊が召喚されなければ最後の一組になろうと聖杯は起動しない。マスターを見つけ出し、強引にでも召喚してもらう必要がある。

「アルスが行くです?」

「…行けるのか?」

「だいじょうぶです!このアルス・リュアリアムの名にかけて、にんむ(任務)すいこう(遂行)してみせるですっ」

 少女は異なる色の両の目を輝かせ、敬礼して言った。

「そうか、なら頼んだぞアルス。念のために護衛の魔術を付けておく。…まあお前には必要ないかもしれないがな」

「では、いってくるです」

 アルスはスキップしながら教会を出て行った。

「…大丈夫だろうか…」

 教会に残された神父はその場で独り言ちた。

 

 

 森の中に一人の少年が立っている。

「アサシン、何か新しいことでもあったか?」

 少年は虚空に向け、そう言い放った。

「新しく英霊が召喚された」

 音を立てずにアサシンが現れ、そう伝えた。

「ほう。遠坂や間桐か?」

「そうだ。わたしが見たところ、キャスター、セイバー、ランサーのように見えた」

 アーチャーではないのか…。すると誰が…。

「そうか。ありがとう。引き続き付近の探索にあたってくれ」

「心得た」

 再び音を立てずに少女は消えた。

「僕が確認できたのは遠坂、間桐、そしてアインツベルンの代行者であろう衛宮。しかし、前回は衛宮だけではなく、アインツベルンも参加したんだよな…。だとするとアインツベルンは…」

 どうなっている…?見た目的に彼女がアインツベルンの当主なのだろうが…。

「考えていても何も起きない。明日訊こう」

 そう呟き、アサシンのマスターは青い髪を揺らしてその場を去った。

 

 アーノルドとバーサーカーは市街を散策していた。

「…なあツァラトゥストラ」

 アーノルドがバーサーカーに質問を投げかける。

「なんだ?」

「お前はそんな格好でいいのか?他の奴らは霊的な鎧みたいなものを纏っているからいいが、さっきお前に触れた時、何も感じなかったぞ」

 アーノルドの言うように、バーサーカーは普通の学生が着るような私服を着ていた。

「ああ。良いんだ。俺は…聖遺物の使徒は喰らった魂の分だけ身体が丈夫になる。ちょっとやそっとじゃ死にはしないさ。それに、呪いもある。そう簡単に怪我もしないと思う」

「ならいいけどよ」

 そう言って2人は夜が更けるのを待った。

 

「このへん()のはず…です…」

 アルスはもう1人のマスターを探して、冬木市にあるお寺、柳洞寺に足を運んでいた。

(魔力の流れ的にはこっちにいるはずですが…。あ、あの人ですかね)

 目を向けた先には、ひ弱そうな男が立っていた。

「こんばんは。もう1人のマスターさん」

「ぅ、うわぁ!なな、なんだ君は!」

(そんな反応をされるとこっちが驚いちゃうですよ)

 アルスは心の中でそう思った。

 まあ想像していた範囲外の驚きようだったから仕方がない。

「アルス。きょうかい(教会)いそーろー(居候)してるかわいいアルスちゃんです!」

「じ、自分でかわいいって言う奴がいるか」

 男はそう突っ込んだ。

「むぅ。まあいいです。アルスはおおきな心をもってるのでゆるしてあげるです。さて、ちょっとてのこう(手の甲)を見せてくれるですか?」

「な、なんで…」

「アルスのおしごと(仕事)だからです」

 アルスは男の手を握り、魔力を流し込む。

「うっ」

「すこしいた()いとはおもうですが、がまんするですよ」

 すると、男の手の甲に赤い模様が出現した。

「やっぱりアルスはまちがえてなかったです!さて、あなたはせいはいせんそう(聖杯戦争)ってわかるですか?」

「戦争?いや、なんの事だか…。そんな名前の戦争習ったかな…?」

「なるほどなるほど。それじゃあここから先のしょうかん(召喚)までがかなりじかんがかかりそうですね…」

 そう言うとアルスは男の手を離し、男に告げた。

「じゃあ、あなたはもうひつよう(必要)ないです。アルスがますたー(マスター)になってやるです」

 男の足元に魔法陣が現れ、そこから鎖がとび出た。鎖は男の足を固定するためのものだ。

「な、なんだ!?」

「ここは柳洞寺って言うらしいですね。やなぎ…やなぎの葉っぱは風に揺れるのがふぜい(風情)があるらしいですね。このばしょにふさわしいのは風のまじゅつですね」

「なっ…僕を…どうするつもりだ!」

「ころす…です!」

 風が吹き荒れる。

風よ(トルネード)!』

 男の体を竜巻が囲んだ。

「れいじゅよ!アルス・リュアリアムにけんりを!」

 男が死んでいるならアルスのその言葉だけで令呪は移るはずだ。彼女は普通の人間ではないのだから。

 しかし、数十秒経とうとも一向に令呪はアルスに移らない。

「あれ?おかしいですね」

 竜巻を収め、男の安否を確認すると、そこには多少残っているはずの血や肉が無く、男の姿はなかった。

「アルスのおしごとのじゃまをしないでほしいです」

 男は数十メートル離れたところで女のような可愛らしい顔をした男の腕の中にいた。

「この街の人間の命は俺たちのモンだ。勝手に取らねェで欲しいな。嬢ちゃんよ」

 階段から別の男が登ってきた。

「たしかあなたは…」

「俺はバーサーカーのマスター。アーノルド・グランディアスってんだ。そしてそいつはバーサーカー。嬢ちゃんのサーヴァントを出しな」

「アルスはますたーじゃないですよ?でもあなたや、あなたのさーばんとよりもなんびゃくばい(何百倍)もつよいです。はむ(歯向)かわないほうがみのためですよ?」

「ハッ!言うねえ。じゃあ示して見せろよ、その強さをよォ!」

 アーノルドの掛け声と同時にバーサーカーが飛び上がり、アルスに襲いかかった。

形成(Yetzirah)━━━!」

 バーサーカーの腕が赤黒いギロチンの刃に変化した。

「うぉオオォォォォ!!」

盾よ(シールド)!」

 アルスは攻撃を防ごうと、防御した。

 盾とギロチンが激突した。

「およ?」

 盾にヒビが入った。超強固で10tトラックにぶつかってもヒビひとつはいらない代物なのに。

「割れろォォォ!!」

(バーサーカーの力じゃないです…。もっとなにかアルスの知らない何か…)

 盾が破壊された。

「おお…!」

「良し、今だ!首を斬れェェ!」

 バーサーカーの刃がアルスの目前まで迫った。

 しかしそれは空を切っただけで肉を断つことは無かった。

「なに…」

「そンナ簡単に…殺セると思っタのかァ!」

 声がする方向にはアルスが、…いや、纏っているオーラが正反対すぎる。黒く赤い瘴気のようなものが目で見てわかる。

「天魔…いや、俺らなんかよりもっと…!」

「なんかヤバそうだな…。バーサーカー!撤退だ!逃げるぞ!」

「逃がスか…。ここデ…殺ス!」

 アルスが絶叫する。その()()で周りの街灯や柱が破壊する。

(クソ…!ちょうど飛び上がろうとしたタイミングで…)

 衝撃はバーサーカーにも影響した。

「うォおあぁアああ!!」

 アルスが咆哮と共に爪を巨大化させ、バーサーカーとアーノルドに襲いかかった。

「ッ!」

 ━━━━━━━━━━━━が、アルスの体に突如黄色い電撃が走り、アルスはバーサーカーとアーノルドの目前で止まった。

 アルスの腕には矢が刺さっている。

「な、なんだ…?」

「アサシネイト!」

 黒い何かがアルスに向かって降ってきた。

 降ってきたモノがアルスの身体を小刀で斬り裂いた。

 アサシネイト。降ってきたモノ━アサシン━が得意とする、言わば必殺技。相手が自分よりも遥かに弱いならば、即死させることさえ可能な代物。

「グぁあぁァアあああ!!」

「周りが見えてないと奇襲されるんだ。覚えておけ。…まあもう覚えておく必要も無いだろうけど」

 アルスを斬った少女がそう呟いた。

 少女がアルスの方を振り向くと、そこには何も無かったかのような顔をしたアルスがいた。

「…!?なんでだ…」

「ふふ。なにもたいさく(対策)してきてないとおもったですか?」

 教会を出る直前に神父に付けてもらっていた護衛の魔術が発動し、それがアルスの身代わりとなって崩壊したのだ。その証拠にアルスの足元には青いガラスの破片のようなものが散らばっている。

「パラライジングブロウも…」

 先ほどの矢には、攻撃が命中すると黄色の電撃とともに麻痺の弱体効果をつけるという術が施されていた。矢が刺さっていた数秒は弱体効果がアルスについていたが、狂化暴走状態(口調と纏うオーラが変化していたあの状態)を強制的に解除することでその効果もろとも吹き飛ばしていた。

「シエイにつけてもらった()()はつかわないつもりだったですが、はつどうしてしまったものはしかたがないです。ここらでかんべんしてやるです。()()()()()()ね」

 アルスは言い切らないうちにアサシンとバーサーカーの脇をかいくぐり、寺の外壁のところで気絶しているマスターになりきっていない男のところに走っていった。

「っ・・・!」

 バーサーカーは形成を解除し、腕をアルスのほうへと向けた。

活動(Assiah)!)

 見えない斬撃がアルスに向かっていく。

 だがしかし、その攻撃はアルスが直前に屈んだために命中しなかった。それどころか男の首を綺麗に切断する結果になった。

「結果・・・オーライ・・・なのか?」

「ざんねんですが、そうはいかないですよ?」

 斬られて空中に浮いている男の頭を、アルスは右の腕から射出した高圧の電気の球によって四散させた。

 それと同時に左の腕でも同様のことを行い、心臓を破壊していた。

「ギロチンみたいに()ってもまだ人はいきてるですよ?きったくらいでまんぞく(満足)してちゃめっです」

 顔の前に指で小さく(バツ)の形を作りながらそう言った。

「さて・・・」

 アルスは(おもむろ)に地面に手をつき、詠唱を始めた。

『地脈、水脈、霊脈…。汝ら我が輔翼となれ』

 石畳に亀裂のような模様が走り、それが光る。

「なっ…」

 階段の向こう側を見ると模様は街全体に広がっており、アルスに向けて魔力が亀裂にそって流れてきていた。

『マキリが定めし強請権。我に宿れ!コマンドマイグレーション!』

 地面から魔力の柱がアルスを囲うように7つ現れ、アルスの足元からも1つ現れた。

 柱から線が伸び、それらがアルスの背中を撫でる。

 アルスの体が赤くひかり、辺りを染める。

「っ!」

 そこにいた人は皆思わず目を瞑る。

 

 ……。

 目を開けると、令呪が現れているアルスがいた。衣服の襟のところから下まぶたのところまでヒビのような赤い模様が走っていたり、袖から爪の直前までもそれが出ているところから身体中にあると推測される。

「おもったよりれいじゅ(令呪)いこう(移行)はむずかしかったですね」

 そう言うとアルスはバーサーカー、アーノルド、アサシンの方を向き、

「すこしのおわかれです。つぎにあうときは()()()()()()()()()()()()たたかうですよ?()()()()()()()()()()(規格外の英霊)さん」

 そう言った。

「お、おい!待て!なんだ本当の力って!おい!」

 バーサーカーが訊くより早くアルスは飛び去ってしまった。

「チッ。なんなんだ規格外の英霊って…。俺か…?…いや、あんたのことかもしれないのか、アサシン」

 己と同じように立ちすくしていた少女にそう話しかける。

「わたしはこれ以上全力を出しようがない。口伝(くでん)宝具(ほうぐ)くらいだ。まだ見せていない力っていうのは」

「そういうことは言わない方がいいんじゃないのか。手の内を晒すことになるだろ?まあ、ハッタリって事もあるだろうが…。で、どうする?俺はこれ以上消耗したくないからあんたとは戦いたくないんだけど」

 手の届く距離に相手がいるのだ。ここで殺せるならば殺すのが常套なのだろうが…。どう出る…?

「そうだな。わたしたちには共通の敵ができた。あのアルスという少女を野放しにしておくのはあまり良くないような気がする。来る戦いのためにここで殺り合うのはお互い控えておこう」

「ああ。助かる。あんたが話の通じる相手でよかったよ」

 少し安心した。自分の考えと同じで助かった。

「ああ、そうだ。これは全くあんたを、あんた達を不利にするような申し出ではないと思うんだが…」

 話が通じる相手ならば、この話にも応じてくれるかもしれない。

「あんたのマスターと会ってみたい。会わせてくれないか?」

 無茶振りだとは分かっている。だが、協力関係、言わば条約を結ぶことが出来れば、こちらにとっても、相手にとっても美味しい話になると思う。

「そうだな…。私だけでは判断しかねる。わたしの主君に聞いてみるから、…3日ほど待って欲しい。それまでに是か非かは回答する」

「そうか。分かった。じゃあ3日後のこの時間までに覚悟を決めておいてくれ。一応、毎日この時間にここに来るからいつ来てもらってもかまわない」

「えと…。あなたはマスターの意見を仰がなくていいのか?」

 アサシンが不思議そうに聞いてきた。

 しかし、バーサーカーのマスター、アーノルドは…。

「さっきアルスが俺たちを殺そうとした時からずっと気絶してるんだ。こんなんでマスターが務まるのかって感じだよな。まあ、そんな訳で俺が代表になる」

「そうか。全然動きがなかったのはそういう事だったのか。…うん。じゃあマスターに意見を求めてくる。…また後日」

「ああ」

 友人と約束するような感じで別れの挨拶を交わし、アサシンは音を立てずにその場を去っていった。

 アルス…か…。俺よりもバーサーカーっぽいやつだったな。と言うより、彼女が英霊なのか人間なのか分からないな。令呪を宿せるってことは人間なのか?いやでも、あの力は生身の人間とは思えないほどだからな…。あとは、『規格外の英霊』って言葉だな。誰のことを指し、そしてなんの事なのか。…これから調べることが多くなったな。今はとりあえず英気を養おう。

 バーサーカーはアーノルドを抱え、その場を去った。

 

 

「…。これは…」

「どうかしたのか?兄さん」

 時を同じくして衛宮邸では、士郎とキャスターが何かを感じ取ったようにハッと顔を上げ、呟いた。

「南西の方角か…?大きな魔力の流れがあった。英霊が召喚されたか、あるいは誰かが誰かに令呪か何かを明け渡したか…」

「キャスター、その時の様子見える?」

 美凪がキャスターに言う。

「分かったよ。『ソロモンの知恵』!」

 キャスターの額に縁に囲われた八芒星が現れ、キャスターの意識を精神世界へと移行させる。

「キャスター…?」

 突然倒れたので皆が心配する。

「心配はないだろう。この魔道士の意識はここにはない。一時的な死亡状態だ。だが、おそらく肉体的にも精神的にも彼は戻ってきたら良好のままだろう。そうでなくてはあのように簡単にこの力を使うはずがない」

 ランサーがそう言った。

「だけど、さすがに長時間戻ってこないと心配だろ?一応魔力を送り続けてやれよ、ミナキ」

 セイバーが心配そうに言った。

「うん、そうだね」

 美凪はキャスターの手を握り、力をこめた。令呪が紅く輝いた。

 

 衛宮邸でそのようなことをしている時、キャスターは無数の鳥のようなものが羽ばたいている不思議な空間に一人立っていた。

「さて、お寺はこっちかな」

 魔法の力で浮き上がり、目的の場所まで移動する。

「あの魔力の規模は異常だった…。何が起こったんだ。お寺で…」

 速度を上げる。まわりには誰もいないので、意識が飛ばない程度には速度を上げることができる。

「あ…。あの子…」

 キャスターが目指している方向から猛スピードで飛んでくる少女がいた。

 現実の『肉体世界』の少女からは『精神世界』にいるキャスターの姿を確認することはできないが、その反対はできる。

(生身の人間じゃあんな速さで飛べないよね。だったら彼女が巨大魔力の原点かもしれない)

 キャスターは一羽の鳥のようなもの━━ルフ━━に少女を追っているように命令した。するとその鳥は少女の体の中に入っていき、少女を捕捉(マーク)した。

「頼んだよ。っと、もう着いてたんだ。じゃあ調査だ」

『精神世界』から『肉体世界』に、彼自身の魔力(マゴイ)を具現化して遷移したキャスターは、彼の額に映し出されているような魔方陣を地面に敷き、魔力の異常がないか調査を始めた。

(ここ、元から魔力が他のところより強いみたいだ。でも瞬間的な魔力はさっきより遥かに少ない。やっぱり、さっきの女の子が…)

 キャスターは即座に先ほどのルフの位置情報を確認した。

(教会…。何か嫌な予感がする。今すぐ戻って誰か向かわせなきゃ!)

 魔力(マゴイ)を崩壊させ、意識を本体へと戻した。




 今回は、かなりぶっ飛んだキャラクターの「アルス・リュアリアム」が登場しました。彼女は、普段はあほらしいキャラクターですが、怒ると人格が豹変し、攻撃的になるという設定です。おそらく呼んでいる中では分かりづらかったのではないでしょうか。彼女は何者なのか。英霊なのか、普通の人間なのか、はたまた別のなにかなのか。それは、これから判明していくことです。

 続いてバーサーカーこと藤井蓮とアサシンについて。彼ら彼女らは先ほど提示したアルスという強大な存在を同時に目の当たりにしたので、共闘関係を結ぼうとしています。どちらもクールなキャラクターなので相性は良さそうですね。アサシンの正体も順々に判明していきます。どちらが『規格外の英霊』なのか、も。
 アーノルドは staynight の間桐慎二ポジションっぽいですね。全くそんなつもりはなかったのですが、書いているうちにそんな感じになってしまいました。もうそれでいいや。

 最後に御三家のマスターたちについて。衛宮士郎が完全にオリジナルキャラ化していますが、オリジナルキャラだということにしましょう。ボク、ゲンサクナンテ、シラナーイ。…はい。原作なんて知りません。
 さて、話題は変わって、遠坂美凪のサーヴァントであるキャスターが後半活躍しましたね。彼の正体はもう言っている様なものですね。マゴイだとかルフだとか。極めつけはソロモンの知恵。これ以上はいけない。


 それでは、Fate/GEAR 第三話:アルス・リュアリアム。最後まで読んでくださり、ありがとうございました。もしよろしければご意見ご感想をおねがいします。




花粉症キッツ


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幕間:陣営A

 キャスターが調査をしている間、何もしないというのは生産的ではないので、ギルガメッシュにカノンの能力についていくつか質問をする。

「ギルガメッシュ、早速だが、エルキドゥがどのような能力を持っていたか教えてくれるか?」

 戦闘を終え、落ち着いた士郎はギルガメッシュにそう訊いた。

「そうだな…。奴は自身の身体を変化させることが出来た。主にこのような鎖のような形をして戦っていた」

 ギルガメッシュは王の財宝から先端がナイフのように尖っている鎖を出現させた。

「別にこの形のみではなく、如何様なものにも変化(へんげ)することが出来るのだがな」

「それは全身を変えていたのか?それとも部分的にか?」

 カノンがギルガメッシュに問う。

「どちらも然りだ。手のひらから射出したり、全身を変えて特攻したりとな。まあ鎖はひとつの変化の形でしかないゆえ、カノン自身で別の戦い方を編み出すのも良かろう」

「そうか。それでは、想像したものが形になると言ったようなイメージでいいのか?」

「…それはよく分からんな。(オレ)がそれをやっている訳では無いからな。我が盟友のみぞ知ると言ったところか」

 ギルガメッシュのその言葉を聞いて試してみたくなったのか、カノンは何かを思い浮かべるかのように天を仰いた。

「えっと、そうだな…。…ああ、こういうのは良いな。これにできたら、強いんじゃないか…?」

 そう言うと、カノンの腕が太い刀のようなものに変化した。

「おお…」

「オレが使う投影魔術みたいだな」

「…セイバー、その(つるぎ)で私の腕を攻撃してみてくれないか?」

「いや、いいのか?斬れちまったらどうするんだよ。復活するのか?」

 セイバーは心配してくれているようだ。

「大丈夫だ。私は治癒の魔術の心得がある。まあ何かあれば美凪が何とかしてくれるだろうさ」

いきなり名前を出された美凪は目を丸くしてカノンの方を見た。

「なんだ?」

「い、いや。なんでもないよ…」

「そうか。ならそれで…。居間(ここ)でやるのは危険だし、みんな庭に行くぞ」

 時刻は11時20分。あまり大きな衝撃や音を出すとかなり近隣に迷惑がかかる時間帯だ。

「あまり騒がないようにするように」

 士郎がそう言った。

「心配するなよ、兄さん。大声は出さないようにする。美凪も間桐くんもな」

「分かっている。別に叫ぶようなことが起こるようなわけでも無いだろうしな」

 カノンは腕を元に戻し、退出した。それに続いて他の彼らも庭に移動した。

 

 カノンたちは、居間から、未だ士郎とギルガメッシュが戦い合った痕跡が残っている庭に移動した。

「なあマスター。本当に大丈夫なのか?」

「ああ。さっきも言っただろうが、治癒の魔術の心得はあるからな。もし腕が吹き飛んだとしても大丈夫だ」

「そ、そうか。そういうなら従わねえ訳にはいかないよな」

「ああ、あと一つ。さっき腕を攻撃してみてくれって言ったが、10分間の戦いにしようか。完全に殺し合いだ」

 カノンがそう言うと、周りの全員が驚愕を漏らした。

「おい花音!何言ってんだお前!相手はサーヴァント、英霊だぞ!いくらお前でも…」

「私がそう決めたんだ。自分の責任くらい、自分で負うさ」

「チッ。お前いい加減にしろよ」

「やめとけ」

 士郎が清隆を制止する。

「カノンが決めたことだ。俺たちがどうこう出来る問題ではない。というより、手を出さない方がいい。あいつは戦闘においては、英霊に及ばないまでも、太刀打ちできるくらいの力を持っているだろう」

「士郎はあいつが死んでもいいのか!?」

「いい訳ないだろ。もし本当に危険だと思ったら俺らが介入すればいい。今はカノンのやりたいようにやらせてやれ」

 激昴している清隆とは反対に、士郎は落ち着き払っている。それが清隆の心にさらにイラつきをもたらした。

「チッ、クソ!」

「美凪」

 士郎が美凪の名を呼んだ。

「な、なんですか?」

 我関せずを貫いていた美凪は寝耳に水と言ったように驚いていた。

「ガンドでうなじの近くを撃ってくれないか。気絶させて黙らせてくれ。そんなに強くなくていいからな」

「わ、分かった」

 居間に戻ろうとしている清隆の首の後ろを美凪は指さし、赤黒い弾丸を射出する。

 見事に命中し、清隆は気絶した。

「こいつがこれ以上暴れていたら話が進まない…」

「士郎、なんか言った?」

「いや。なんでもない。さ、カノン。始めてくれ。10分間測っていてやる」

「分かった。さあ来いセイバー」

 カノンがそう言うとセイバーは、腕にはめた円盤から2枚のカードを抽出し、手に持った剣に魔力を送った。

「いくぞ、エクスカリバー」

 そう呟き、剣を大きく振りかぶった。それを野球バットのように、力の限り振った。

 振った剣から魔力の波動が発生し、カノンに襲いかかってきた。

「へえ。だが…」

 その波動をカノンはなんの防御もせずに受け止めた。

「かのん!」

砂埃が辺りを覆う。

「…はぁ…。なめてるのか?セイバー。殺す気でかかってこいよ」

ほぼ無傷で立っているカノンがいた。

 手のひらから鉄を伸ばし、日本刀を形成した。そしてセイバーとの距離を一気に詰めた。

「このくらいさ!」

「ッ!」

 下から切り上げるような斬撃。

 不意をつかれたセイバーはよろめいた。

「クソッ…」

「ハァァ!」

 腕を思い切り振り上げ、頭目がけて振り下ろす。

 ガキィィン!!

 しかし体重をのせたその一撃はセイバーの剣によって防がれる結果になった。

「チッ」

「マスター。まさかお前、俺を殺すつもりなのか…?」

「愚問だな。当たり前だ。殺す()()()だ。お前を殺す気で戦わないと、これからお前の援護すらできない。だから今は本気で戦おう。兄さん!残り何分だ」

「7分」

「そうだよな。あんたが本気でやるって言うなら、俺もそうする。これからの為にも」

 セイバーの周囲に風が巻き起こる。

「あ…」

「俺の…俺の力を解放する。マスター。お前を本当に殺すことになるかもしれない。だが許せ。これが俺の…お前への忠誠だ!」

 セイバーが手に持つ剣…エクスカリバーから超高濃度の魔力が溢れ出し、セイバーの体を包む。

「行くぞ!エクスカリバー!『聖剣解放(トランス)』!」

「あれは…!」

 聖杯の泥に飲まれた訳では無いが、あの時のものに似ている…。

「少しまずいな…。あれがあの時のものと同じなら…」

 だがしかし、発生した条件や場所なども違う。彼が自ら発したように見えた。

「まあ多少警戒しておくだけで、あまり気にしなくてもいいか…」

 魔力が弾け、セイバーの姿が見えた。

 鎧が半分無くなり肌が露出し、右眼は黒く染まり、エクスカリバーの先端に付いている岩が巨大化している。

「ほう」

「マスター。この姿は俺のもう一つの側面だ。そしてこの状態の時は更なる力を発揮できる。本当に死んじまうかもしれないが、良いんだろう?」

「ああ、構わない。全力でかかってこい」

「ではそうさせてもらう。アビリティ2,3を発動」

 エクスカリバーが反応し、セイバーの腕に刻まれた紋様から力が流れ込む。

「妖精達よ、俺に…エクスカリバーに力を!」

 エクスカリバーの岩が黒紫色に光り輝き、紫電を発する。雷が切り裂いた空中から、ほぼ裸の女が数体出てきた。

「ちょっとまずいかもな。…巨盾!」

 手を地面につくと、地面から巨大な盾が出現した。

「エクスカリバー…応えてくれ!」

 エクスカリバーを大きく振りかぶり、カノンの盾を強く叩きつけた。女たちもそれに呼応して盾に殴りかかった。

「くッ…」

「うおおォおぉおオぉオあああァあ!!」

 盾にヒビが入る。

「く…うぉぉあああ!!」

 盾に鎖を巻き付け強度を強める。

「守るだけじゃ…敵は倒せねえぞッ!」

「自分より…強い力を持つ相手と戦うには…死なないためには…守るしか…ないんだ!」

「なら守らせない。城は崩す。それが傭兵の俺ができる最善の方法だ!」

 セイバーの後方から無数の紫色の(いかずち)が発生し、盾のヒビを超正確に叩いていく。

(これじゃ…割れる…)

「これで、終わりだ」

 巨大な雷が盾に衝突する。

 衝撃で盾が砕け散り、セイバーとカノンが対面する。

「さらば。我が主」

 セイバーがエクスカリバーを頭の上に振り上げてそう言った。

「まさかここまでとはな…」

 エクスカリバーをカノンの頭目がけて振り下ろした。

「そこまでだ!」

 その声が庭に鳴り響く。

 セイバーが頭の直前で剣を止め、剣を投げ捨てた。

「時間だ。危なかったな」

「ああ…。死んだかと…」

「もう少し俺がこの姿になるのが早ければ、お前は死んでいたな。まあ、そうならんように調整したんだが」

 自らのマスターを見下ろし、そう言った。

「というより、なんで()()を使わなかった?それを使えば俺をどうとでも出来ただろう?」

 自分の口を指さし、カノンに言った。カノンが有する令呪のことだろう。

「それじゃあ本気の戦いにはならないだろう?死を覚悟するからこそ本当の力を発揮できると言ったものだ」

「くだらん理論だ」

 そう吐き捨て、セイバーは家の中に戻って行った。清隆の頭を叩きつつ。

「ぁ…?なんだ?」

「あ、戦いは終わったよ。どっちも死ななくって、かのんは見ての通りピンピンしてるよ」

「戦い…?…ああ、花音お前引き受けたのか」

 清隆はカノンに詰め寄り、そう言った。

「当たり前だ。私が死ぬはずない」

「よく言うな。セイバーが死なないように考えてくれたんだろう?」

 カノンの言葉に士郎が突っ込む。

「なっ…。兄さんそれは言わない約束だろう?」

「そんな約束知らないな」

「やっぱり死にかけたんだな…。お前が死んだら俺達は…どうすればいいんだよ…」

 清隆が胸倉を掴み、泣きそうな声でそう言った。

「馬鹿らしい。士郎や美凪がお前にはいるだろう。私がもし死んでも大丈夫だ。ま、私は死なんがな」

 ハッハッハと大きく笑い、カノンは家の中に入っていった。

「クソ…ちゃんと取り合えよ…」

「まあいいじゃないか清隆。()()()()を漏らしていても何もならないぞ。ここから先の未来を見据えて生きていけ。ほら戻るぞ」

 清隆の肩を抱え、士郎は部屋に入って行った。




 幕間:陣営A、最後まで読んでくださりありがとうございます。
 今回は、キャスターが柳洞寺の巨大魔力について調べている間の、カノン達の話でした。カノンが自分の力を計るためにセイバーと戦い、その中でセイバーが『聖剣解放』という力を発動する、という流れです。『聖剣解放』はセイバーの宝具の1つ目だと思ってもらって結構です。概要は下に載せておきます。



宝具名:エクスカリバー=カタストロフィ
種別:対城宝具
能力:セイバーの宝具であるエクスカリバーの力を最大まで発揮し、極限の力を発動させる。代償として自己犠牲の感情に飲まれた裏の人格になってしまう。


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第四話:■■■■

 部屋に戻ると、キャスターが戻ってきていた。

 カノンは何か収穫があったか訊いた。

「お寺の方向から女の子が飛んできたんだけど、その子がさっきの魔力の原因かもしれない!」

 収穫はあった、と。

「じゃあその女の子を探さないとな」

「大丈夫。彼女にはマーキングをしておいたから。今それをアーチャーに辿ってもらってる」

「そうか」

 なら安心だ、とはならない。

 廊下に飛び出し、士郎を呼びに行く。

(ギルガメッシュ…。従うとは言っていたが、一人にすると何をするか分からない…。早急にマスターである兄さんを向かわせなくては)

 走っているとすぐに士郎を見つけた。

「兄さん!」

「カノン。どうした?」

「キャスターが情報をつかんで、今アーチャーをその情報の根源に向かわせたらしい!早く兄さんも行ったほうが…」

 最後まで言う前に士郎に口を押さえられた。

「焦らずとも、奴は…ギルガメッシュは何もしないよ。念のため私も向かうが、お前たちはここにいろ。…というより寝ていろ。もうこんな時間だ。明日も学校があるだろう?」

 時計を見ると11:30。まだ「こんな時間」という時間ではない。

「私も行く。兄さんが危険な目にあったらイリヤたちに顔向けできない」

「何のためのサーヴァントだ?私を心配するのならお前のサーヴァントを遣わせろ。あと、お前は先ほどの戦いでそれなりに怪我を負っているはずだ。治癒魔術だけでは申し分ない。良いから私の言うことを聞くんだ」

 私を信じろ。そう言って士郎は駆け出し、家を出て行った。

「待…」

「だめだよ。かのん。ここは従おう?私もかのんをこれ以上危ない目には遭わせたくないよ」

「でも…」

「うるせえよ。良いからいうことを聞け。花音。ランサー、士郎を追え」

『了解した』

 姿は見えないが、声が聞こえてきた。霊体化しているのだろう。

「協力したいなら、自分のサーヴァントを向かわせろ。俺たちが行く必要はない」

「それに、情報なら向かわせたサーヴァントから受け取っていればいいよ」

「…分かったよ。セイバー、無理はするな。何かあれば私を呼べ」

「大丈夫だ」

 セイバーは三人に頷き、走っていった。

「待てセイバー!」

 その背中を呼び止めた。

「行くのなら、霊体化して行け。その格好では街中は歩けない」

「…ああ、なるほど。市民の目とかケーサツとかとかの心配か。分かった』

 最後のほうは霊体化していたので空間に響き渡るような声になっていた。

「俺たちの仕事は終わりだ。さ、寝た寝た」

「清隆は私たちとは別の部屋で寝てよね」

 美凪が睨み付け、そう言った。

「なっ…。俺を何だと思ってるんだお前は。そんなこと分かってるよ」

「いや、でもお前この間私たちが寝てるところに入ってこようとしたよな?」

 カノンがニヤニヤしながら言う。

「バ…!お前のこの間は何年前まであるんだよ!」

 5歳くらいの時の話だ。だから、16歳である彼らにとって11年前のことになるのだ。年頃の少年にとってそれは話題に出して欲しくないほど恥ずかしいことだ。

「さぁ?ま、いつも男の人が来るとこの部屋を使っているからここを使えよ」

 少し歩いたところにある和室に案内した。二つ並んでいるうちの北側だ。反対側は士郎が使っている。

「ああ。分かった」

「布団とかは持ってくるから、少し待っていろ」

 カノンがいなくなり、部屋の中には美凪と清隆のみとなった。

「家に連絡しないとだな」

「うん。…あ、でも連絡すると凛、来たがっちゃうかも…」

「あー士郎にご執心なんだっけ?いつまで恋する乙女なんだっての…。今年いくつだよ」

「あんた本当デリカシーってものがないのね」

 女の年齢に関することを口にするものじゃない。そんなこと中学生でも分かることだろう。

「そんなものを学ぶ暇があったら、学習に必要なことを学ぶ」

「そんなんだから…」

「なんか険悪な雰囲気になってるな。なにかあったか?」

 カノンがタイミングを計ったかのように戻ってきた。

「あ、いや。なんでもないよ。布団、ありがとな」

「?ああ…。礼なんていい。さ、美凪。私たちも行くぞ」

「うん」

 美凪は去り際に清隆に向け舌を出した。

「あんにゃろ」

 物申したかったが、時間も遅いのでやめることにした。

 …ということにしておこう。

 

「ただいまですー!」

 アルスは教会の扉を勢い良く開けた。

「どうだった、アルス。何かあったか?」

「このとおり、れいじゅ(令呪)はうばってきたですよ」

 服のボタンをはずし、露出狂のように前面だけを斯詠しえいに見せた。

「ああ、そうか。外ではやらないようにな」

 斯詠も聖職者であるが、多少動揺していた。

(子どもの裸に動揺してしまうとは…。情けないな)

 顔を片手で抱え、自らを糾すように心で思った。

「で、どうするんだ?俺をお前のマスターにするのか、お前自身が英霊を呼び出すのか」

姿勢を正し、アルスに訊く。

「わたしがますたーにも、さーゔぁんとにもなるです。シエイはわたしのえんごやくになってほしいです」

それは主と従を共に担うということ。かなりの才能が無いと難しいことだが…

「危険だが、大丈夫なのか」

「わたしをなんだとおもってるですか?」

「…そうだったな。分かった。お前の補助をする」

 そうだ。アルスは普通の人間じゃない。アルスは■■■■なのだから。

「さて、さっきから盗み聞きとは趣味が悪いな。誰だ、そこにいるのは」

 窓の方を向き、虚空に向け言い放つ。

「盗み聞きなどと、そこまで(オレ)も落ちてはいないぞ。神父よ」

 斯詠が見た方向に黄金の王が出現した。

「ほう。アーチャーか。綺礼(キレイ)が言っていたような金ピカだな。同一の英霊か」

「お前こそ、キレイに似た風貌よな。何者だ?」

「俺は言峰斯詠。言峰綺礼の従弟だ。お前は…」

「ギルガメッシュ。貴様の従兄のサーヴァントだった者だ。まあ、過去のマスターのことなどどうでも良いがな」

 自ら真名を開示するなど愚の骨頂だが、まあこいつにならば知られているだろうから気にせずとも良いだろう。

「先ほどの話についてだが、現在(いま)を生きる人間を英霊に仕立て上げるとは、英霊に対する侮辱だぞ?」

 ギルガメッシュが煽るように告げる。

「ハッハッハ―――――――!別にそのようなつもりはないよ。だが、この()の意見を尊重したい。この決定は覆せんよ」

「そうか。なら死ね。危険な芽は摘んでおくのが道理よ」

 王の財宝(ゲート・オブ・バビロン)を3個展開し、アルスに向け放つ。

 まったく全力ではない。これで傷一つついているようなら見込みはない。ここで消さずとも危険はないということになる。

 3つの宝剣はアルスの胸に直撃した。

 ――が、突き刺さることはなく、鋼の如く弾き返した。

「ほう…」

「シエイ、このひとえっちです。おんなのこのおっぱいねらってくるなんて」

 アルスはギルガメッシュを指さしながら斯詠に訴えた。

「ああ、そうだな。こいつヤバい奴だな」

「はっ、童女の身体なんぞに興味はないわ。もう少し成長してから言えよ、子供」

 吐き捨てた。ギルガメッシュもデリカシーが無いらしい。

「しかし、我が宝剣をものともしないとは、どのような魔術を使った?」

「なにもしてないです。アルスはつよいですから!」

胸を張り、そう言った。

「そうか。ならば、尚更、生かしておくことは出来んな」

 乖離剣エアを取り出した。

「出力を弱めれば、被害はこの教会のみで済むだろう」

 エアが回転を始め、魔力を放出し始めた。

 剣先を地に向けていたため、床が少しずつ崩壊を始めた。

「詠唱は無しだ!天地乖離す開闢の星(エヌマ・エリシュ)!」

 ギルガメッシュが宙に浮き、アルスの方向目掛けて腕を振り下ろした。風のようなものがアルス(と斯詠)を巻き込んだ。

吸収(アブソープション)!」

 アルスが手を前に差し出すと、禍々しく黒い竜巻が現れ、天地乖離す開闢の星とぶつかり合った。瞬く間にギルガメッシュの放った魔力が吸収されていく。

「チッ」

「アーチャー引け!そいつを倒すことは出来ない!」

 教会の入口から士郎が叫んだ。

「なめるなよ雑種!」

「従え英雄王!こんな所で令呪を使いたくはない!」

 そう叫んでもギルガメッシュは止まることは無い。

「なら仕方がない…。いるだろランサー!行け!」

『了解』

 ランサーが実体化しながらギルガメッシュに走っていく。

「衛宮士郎…。何故貴様は2人の英霊を使役している?」

 しえいは士郎に問いを投げかける。

「俺のサーヴァントじゃないさ。というか、あんたは把握してるだろう言峰!」

 ランサーは黄金の槍を出現させ、エアに向けて投げる。

「なに!?」

 すかさず2つ目の槍を出現させ、飛び上がった。

 1つ目の槍は見事にエアに命中し、ギルガメッシュの手から落下させた。

「アーチャー、己の主の命令は聞き入れるものだ。無視など言語道断だ」

「だが、ここでこやつを殺しておかねば、いずれ世界が崩壊するやもしれんのだぞ?」

「正当な手順を踏まねば殺せぬと言っているだろう!」

 槍をギルガメッシュに叩きつけ、地面に叩き下ろした。

「貴様…ァ!」

「これ以上!この場を破壊されるのは聖堂教会としても、俺としても、許すことはできない。これ以上続けるようならば、共々、消えてもらおう」

 斯詠が二人の間に入り、静かに告げた。

「『令呪を持って命じよう。アーチャー、そしてランサーよ。それぞれの根城に戻り、明朝8時まで謹慎せよ』」

 斯詠の両腕が光り、絶対的な命令を放った。

「それより先は何をしても構わん。俺の令呪の効力は朝8時までだ」

 アーチャーとランサーがその場で光となって消えた。

「強制送還とは驚いた。そんなに大事なものかね?この場所は」

 士郎が斯詠に尋ねた。

「絶対不可侵の領域だと忘れたのか?衛宮士郎。ここを攻めてはいけないのだよ」

「ああ。そうだったな。だが、オレの判断ではないからな。…それはそうと、令呪を使ってしまったが、良いのか?」

 斯詠は袖をまくり、腕を露出した。消えているのは1画のみ。

「2人に使ったが、1回分しか消費されていない。私の魔力を使えばまた元に戻す事ができるゆえ、大した出費ではない」

「令呪を元に戻すだと?」

 1度使用した令呪は元には戻らないはずだ。マスターには預託令呪を持っている監督役の神父から復活してもらえばいいが、その分の預託令呪は消失する。どちらにせよ、元には戻らない。

「一種の錬金術だよ。自然の魔力を自らの魔力とし、凝縮して令呪にする。超高度な魔術師ならできるはずだ。もっとも、そんなことができる魔術師はこの世に10人もいないだろうがな」

「常軌を逸した、言わばチート能力か。では、あと一つ質問を」

斯詠に向け人差し指を立て、そう言った。

「なんだ」

「その彼女、名は…」

「アルス・リュアリアム」

「そうか。では、アルスは何者なんだ?ここで殺しておかねば世界が崩壊するとかなんとか、アーチャーが言っていたよな。あれはどういうことだ」

 それを聞くと斯詠はふっ、と笑い、答えた。

「それについては答えることは出来ないな。俺もこいつについてはよく知らないからな。知りたいのなら君が掘り下げていけよ」

「はは。そうか。分かった。もうすぐ日が昇る。明日…というかもう今日か。私は色々忙しいのでな。帰るとするよ。また何かあれば訪ねることになるだろうから、その時はよろしく頼むよ」

「ああ。聖堂教会の監督役として、支援させてもらおう」

 扉を勢いよく閉め、士郎は教会を後にした。




第四話:■■■■――――――

 この話は前回の幕間と同じ話にしようとしたのですが、思ったより長くなってしまったため、第四話として投稿させて頂きました。
 アルスが異常な存在であるという説明がありましたね。これから分かっていきます、という前にも書いたような説明を書きますが気にしないでください。きっと気のせいです。



おっぱい。


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