六人目の青薔薇 (黒い野良猫)
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プロローグ

こんにちは!黒い野良猫です!

今回はBang Dream!を書いていきたいと思います!

この間の7th LIVEでテンション上がっちゃいました!

至らない点があるかと思いますが、どうぞよろしくお願いいたします。


 ここは某スタジオ。誰もが知っている某音楽番組の収録が行われていた。

 観客も満員となり、スタッフのカウントダウンが始まり、キューを出す。するとスタジオにはお馴染みの曲が流れる。

 すると女性アナウンサーと髪をオールバックに、グラサンを掛けた司会者が階段から降りてくる。

 様々なアーティストが登場する中、一組のガールズロックバンドが登場すると、会場のボルテージが上がる。

 数組のアーティストの演奏が終わり、遂にそのバンドの番となった。

 

「続いてはこちらの方々。今、若い世代に大人気のガールズロックバンド、Roseliaです」

 

 アナウンサーが言うと、カメラは彼女達――Roselia――に向けられる。

 

「宜しくお願いします」

「それにしてもこの番組初登場なのに人気凄いね。君達、高校生からバンド組んでいたんでしょ?」

 

 司会者がRoseliaのボーカルでリーダー、湊友希那に話を振る。

 

「はい。私達は高校二年からバンドを組みました。唯一年下の宇田川あこだけは中学生でした」

 

 友希那は大人びた返答をする。

 

「成程。バンドを組もうとした切っ掛けって言うのは?」

 

 今度の質問は、ギターの氷川紗夜が答えた。

 

「もともと湊さんがFUTURE WORLD FES.に出場するために組まれたバンドです。ですが今は全員が頂点のその先を目指すという志をモットーに活動しています」

「FWFって確か二年前に君達が初出場して、優勝したフェスの事だよね? 優勝した時、どんな心境だった?」

 

 この質問にはドラムの宇田川あこが答える。

 

「それはもう嬉しかったです! 夢が叶ったって、みんなで喜びました! ですが――」

 

 その時、全員の顔が暗くなる。

 

「ん? 何かあったのかな?」

「あ、いえ……取り敢えずその日は夜まで祝勝会しました……」

 

 表情をすぐに戻し、控えめな性格のキーボード、白金燐子が答える。

 だが一人だけ、表情が晴れない人物がいた。友希那は隣に座っている彼女の手をそっと握る。

 

「リサ……」

「……大丈夫。ありがとう」

 

 Roseliaのベース、今井リサはそっと友希那の手を握り返す。

 

「今回歌っていただく曲、軌跡なのですが、これはどういった曲なのでしょう」

 

 アナウンサーが良いタイミングで、質問してきた。

 

「この曲は私達Roseliaが出会えた事に関して感謝を述べた曲です。最初は私の夢の為に組んだバンドですが、今は彼女達を組めて良かったと思います」

「成程。ではこの曲は湊君がメンバー四人に向けた曲なんだね」

 

 司会者が言うと、友希那は少し黙る。そして、ゆっくりと口を開いた。

 

「……いえ。実はもう一人、彼女達以外向けて作った曲でもあります。表舞台には立ちませんが、影で私達Roseliaを支えてくれた大切な人で、かけがえのない、六人目のメンバーです」

 

 友希那がそう言うと、全員首にかけているペンダントを握る。

 このペンダントはFWFが終わってから全員、肌身離さず首から下げている。

 

「その方は今どちらに?」

「訳あって今はいませんが、恐らく、彼にも届くと思います」

「届くといいですね。それではRoseliaの皆さん、準備の方をお願いします」

 

 こうして、Roseliaはステージに立つ。セッティングが終わると一度五人が輪になり、ペンダントを開き一枚の写真を見る。

 

 ――見ていてね……アタシ達の姿……

 

 そして各立ち位置に立ち、アナウンサーが口を開いた。

 

「それでは聞いてください。Roseliaで"軌跡"」

 

 これは、一人の少年と彼女達の"軌跡"を描いた物語。



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Roselia結成編 第一話 帰郷

 車に揺られ約二時間。特にやる事もないので俺は外の景色を見ていた。

 そんな俺の姿を見かねた親父が話しかけてきた。

 

「それにしても、ここに来るのも久しぶりだな~。何年ぶりだ?」

「そうねぇ、十年くらいかしら」

 

 親父の質問に、お袋が答える。

 

「正しくは九年と九ヶ月。俺が小学校に入学してすぐに引っ越したんだろ? それぐらい覚えとけよ」

 

 ぶっきらぼうに答える。ふと隣を見るとギターケースが置いてあった。

 

「そう言えば親父。引っ越し先って前と同じ家なんだろ? 地下室は無事なのか?」

「安心しろ。あの家を出る際、ここに帰ってくることを見越して入り口を隠しておいた。相当めんどくさい仕掛けをしたから、物好きでもいない限り地下室は開けられん。まぁ、十年も空けていたから掃除が大変だがな」

「機材は無事なのか?」

「それは確認しないと分からん。っと言ってるうちに着いたぞ」

 

 俺達の目の前にはトラックが一台止まっており、家の中に荷物を運んでいる。

 表札を見ると"内田"と書かれていた。

 

 ――帰って来たんだな……この街に。

 

 俺は表札を撫でると、お袋の声が聞こえる。

 

(かなで)! 荷物運ぶの手伝ってー!」

「おーう」

 

 申し遅れた。俺の名前は内田(うちだ)(かなで)。今年から羽丘()()学園に通う高校二年だ。

 え? 何で女子高に通うかって? その話はまた今度だ。それより……

 

「奏ー! 早く来てよー! このタンス何処にあったっけー?」

 

 お袋が俺を呼んでいる。早く行かないと。

 

「このタンスは窓際に、その食器棚は台所の右横。テーブルはキッチンとくっつけて……」

 

 俺は事細かに指示し、荷物を置いていく。

 今指示している家具の置き方は、俺達がこの家を引っ越す前の形にしている。当時六歳の俺が、どうしてそこまで覚えているのか。それは俺の身体に秘密があった。

 "サヴァン症候群"。知的障害や発達障害などのある者のうち、ごく特定の分野に限って優れた能力を発揮する者の症状だとネットではそう書かれているが、俺は知的障害と発達障害どちらも属していない。いたって普通な男子高校生だ。

 何故俺がサヴァン症候群になったかは定かではないが、サヴァン症候群だと気づいたのは、俺が四歳の時、テレビでやっていた音楽番組で演奏されていた曲を何も見ずにピアノが弾けてしまったのだ。それを不思議に思った両親は俺を病院に連れていき、その時診断されたのがサヴァン症候群。

 そしてもう一つ。"絶対音感"。ある音を単独に聴いたときに、その音の高さを記憶に基づいて絶対的に認識する能力。だが、ここでも一つ誤りがある。俺は単独ではなく()()でも認識することが出来る。勿論、両親も絶対音感を持っていない。俺だけの能力なのだ。

 そこから俺は色んな楽器に手を出した。ギター、ベース、ドラムなど、全てこなしてしまった。圧倒的な音楽の才能。それが表舞台に立つことは一度もなかった。

 

「奏。地下室開いたぞ」

 

 俺が色々な楽器に手を出したのもあるが、親父も元々ギターをやっていた為、思いっきり弾ける防音となる部屋が欲しかった。そこで作ったのが、この防音スタジオ(地下室)だ。

 

「やっぱり埃が凄いな……」

「暫くは掃除だけで終わりそうだな……」

 

 持ち運べない機材にはもの凄い埃が被っていた。今日使いたかったが、しょうがない。新学期までまだ数日あるから、明日やるか。

 

「俺、ちょっくら散歩に行ってくる」

「気を付けてね~」

 

 三月といっても、外はまだ肌寒い。俺は薄手のコートを羽織り、玄関を出た。

 玄関を開けて最初に目に映ったのは、二つの一軒家。表札を見ると今井と湊と書かれている。どちらも、あの頃と変わらない。

 

 ――覚えててくれてるかな……いや、十年も前の事だ。忘れているだろう。

 

 けど、覚えててほしい。そう言う願望を抱きながら、街をぶらついた。

 

 ――やまぶきベーカリーに羽沢珈琲店、北沢精肉店も、何も変わってねぇな……

 

 懐かしいと思いつつ、北沢精肉店でコロッケを買い、自分が通う羽丘女子学園に向かう。

 

「相変わらずコロッケの味は変わってねぇな。美味い」

 

 コロッケを食べながら歩いていると、奥から二人組の女生徒が歩いて来た。

 一人はギャルのような姿をして、一人は幼い頃から美しい銀色の長い髪を(なび)かせていた。

 

 ――綺麗になったな、二人共……

 

 そう思って歩く。二人組もそのまま通り過ぎようとした時だった。

 ギャルの子が足を止めて、こちらを振り向いてこういった。

 

「……奏?」



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第二話 再会

「……奏?」

 

 その声に俺は立ち止まり、振り向く。

 

「やっぱり! 奏だよね! ひさしぶり~いつ帰って来たの?」

 

 いきなりのマシンガントークにたじろぐ俺。俺の名前を呼んだギャルは俺の前まで来て、手をとると顔を近づける。って言うか、近い……

 

「リサ、落ち着きなさい。奏が困ってるでしょ」

「あ、アハハ~……ごめんごめん。つい嬉しくって」

 

 銀髪の子に注意されるギャルは苦笑いして俺から離れる。

 

「……久しぶりだな、リサ、友希那」

「久しぶり!」

「えぇ。久しぶりね。いつ帰って来たの?」

「今さっきだよ。親父の部署がまたここに戻ったから、帰って来たんだ。そんで今は街を散策中」

 

 俺はふと友希那を見る。友希那の表情は、幼い頃とは違い、何かが抜けていた。

 まるで、ぶっきらぼうになったかのように。

 

「それで、奏はどこに転入するの? この辺で共学って、無くない?」

「あぁ。俺の転入先は恐らく、お前達と同じだよ」

「同じって、羽丘かしら?」

「でも羽丘って、女子校だよね。まさか奏、女装して――」

「する訳ねぇだろ。お前ら何も知らねえのか?」

 

 二人の反応を見る限り、知らなさそうだ。リサは首を傾げている。

 

「羽丘は今年から、共学に変わったんだよ。といっても、一年からだけどな。それに校舎も男子と女子で分けられるらしい」

「そうだったんだ……。でも奏は二年じゃん。一年と同じ授業するの?」

 

 そう。問題なのはその先だった。別に羽丘に転入する分には構わない。男子と女子で()()()くれるなら。

 

「俺もその方が良かったんだけどよ……。実は俺のお袋と羽丘の理事長が仲良いらしくてな。お袋が俺をここに転入させたいと言ったらしい。そしたら何て言ってきたと思う?」

 

 俺は落胆した表情で言った。

 

「女子と同じクラスという条件なら良いですよ、だって。そしたらお袋は俺の意見も聞かず、二つ返事で返しやがった」

「あ、アハハ。奏のおばさん、相変わらずだね……」

 

 リサが苦笑いして答える。

 

「そう言えばお前らは? 今帰り?」

 

 俺が言うと、友希那は何かを思いだしたのか、スマホを見た。

 

「私、もう時間だから行くわ。リサ、奏、また」

 

 そう言ってそそくさと俺達を置いていき、友希那は歩いて行った。

 

 ――あの方向は、ライブハウス……?

 

 ふと隣のリサの様子を見ると、何処か寂しそうな、辛そうな表情をしていた。

 

「……リサ」

「ん? どうしたの?」

 

 俺が呼ぶと、何事も無かったかのように返事する。その顔は、無理をしている笑顔だった。

 

「……ちょっと話さないか。近くの公園で」

「う、うん」

 

 いきなり言われたせいか、少し戸惑い気味だったが、俺達は止めた足を再び動かし、公園へと向かった。

 道中、二人共無言だった。俺はその時、一つの仮説を立てていた。友希那がああなってしまった理由。そして友希那が向かった先。

 公園に着くと近くのベンチに座り、俺は缶コーヒーを渡す。

 

「微糖で良かったか?」

「うん、ありがと」

 

 リサは俺から缶コーヒーを受け取ると、俺は隣に座る。

 そこからは無言が続く。だが、いつまでもこうしてはいられない。

 俺はゆっくりと、その口を開いた。

 

「……友希那がああなってしまったのは、やっぱりおじさんの事か?」



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第三話 孤高の歌姫

「……友希那がああなってしまったのは、やっぱりおじさんの事か?」

「――っ!」

 

 リサの反応を見る限り、当たりという事だろう。

 

「どうして……?」

「さっき会った友希那を見ていると、幼少期とは違う、何かが抜けた表情だった。それに受け答えもぶっきらぼうで。まるで興味ありませんといっているように」

「表情……?」

「近くにいたお前が一番よく分かってんだろ? まぁ俺の記憶は幼少期までしかないから、そこから先の事は分からないが、友希那がああなったのは、大方予想がつく」

 

 リサは口を開かず、俺の話を聞いている。

 

「三年前、おじさんのバンドが突然解散してしまった。それだけじゃない。恐らく解散を決めたのはFUTURE WORLD FES.。その時披露した曲を批判されてしまった。おじさん達を殺したアレンジをされたのにも関わらず」

「殺した……?」

「あのフェス、テレビ中継で俺も見ていたんだ。おじさんが出るのを知っていたから。そしていざ聞いてみたら、まるで違う。俺も餓鬼の頃、お前達の近くでおじさんの曲を聞いていたから分かる。あれはおじさん達の曲じゃない」

 

 俺は一口コーヒーを飲み、続けて喋る。

 

「けど、周りはそんなの知ったこっちゃない。客はそのバンドの曲が聞ければそれでいい。そして自分達が納得いかないと好き勝手言う。だから友希那は復讐しようとしてるんだろ? 自分のお父さんの音楽を、自分の音楽を認めさせるために」

「どうしてそう思うの?」

「友希那が向かった先はライブハウスだ。今俺が語った考察と、友希那の行き先から考えれば、そう思うさ」

「そっか……」

 

 リサは少し微笑み、コーヒーを口に含む。

 

「奏の言っていることは大体あってる。友希那はバンドメンバーを集めて、FWFに向けたコンテストに出場しようとしている。そこで自分の音楽を認めさせるって」

 

 リサは立ち上がり、数歩歩いてこちらを見る。

 

「友希那、あの日から変わっちゃった。あの日から音楽以外の事に興味無くしちゃって……そして、笑顔も無くなった。今友希那の家ではね、音楽の話は一切していないんだ。お父さんを苦しめるからって」

 

 俺はリサの話を黙って聞いていた。

 

「友希那はライブハウスで歌いつつ、バンドメンバーを探してるんだって。知ってる? 今じゃ孤高の歌姫なんて呼ばれて有名なんだよ?」

 

 リサは自分の事の様に話してくる。相当嬉しいのだろう。

 

 ――孤高の歌姫、ねぇ……

 

 俺はスマホを出し、検索エンジンで孤高の歌姫と調べる。するとすぐに湊友希那がヒットした。

 

「スカウトも黙っていられない程の歌唱力、か。そう言えばアイツ、よくおじさんの歌口ずさんでたもんな」

「覚えてて、くれたんだね……」

「まぁな。てか、俺がサヴァン症候群だって事忘れたのか?」

「あ、そっか……」

 

 リサは思いだしたかの様に納得する。

 

「けどね」

「ん?」

「アタシは、音楽で友希那に辛い思い、してほしくないんだ……」

 

 リサの表情は、見ていて苦痛だった。

 

 ――幼馴染思いの、素直な奴だ……

 

「そっか……」

 

 俺は立ち上がり、リサの頭を撫でる。

 

「大丈夫。お前の思いは、友希那に届いているよ」

「……ホントに?」

「あぁ。幼馴染が言ってるんだ。少しは信じろよ」

「フフッ、そうだね」

「さて、暗くなってきたし、今日はもう帰ろう。送ってくよ」

 

 辺りを見ると、だいぶ日が暮れていた。街灯がつき始め、星が輝く。

 

「ありがと。でも大丈夫だよ。アタシ家近いし」

「知ってるよ。どうせ帰る方向一緒なんだから良いだろ」

「一緒って、まさか……」

 

 俺の言葉を察したのか、目を見開くリサ。

 

「そう、またお二人さんの目の前だよ。またよろしくな」

「――うん!」

 

 そう言ってリサは今日一であろう笑顔を見せてきた。ガキの頃からそうだが、やっぱりリサは笑顔が似合う。勿論、友希那もだが。

 すると、リサのケータイが鳴った。恐らくおばさんからだろう。

 

「はいはーい、どうしたのー?」

『ちょっとリサ! 懐かしい人が帰って来たわよ! 貴女も早く帰ってらっしゃい!』

 

 近くにいる俺でさえも十分すぎる声量で話してきた。親父かお袋が挨拶に行ったのだろう。興奮しているのが分かる。

 

「落ち着いてお母さん。アタシもう会ってるから。近くにいるから」

『本当!? そこに奏ちゃんいるの!? なら尚更早く帰っていらっしゃい!』

 

 そう言って通話は切られた。

 

「アハハ……だって」

「俺、お前の母ちゃん苦手なんだよなぁ」

「なんか、ゴメンね?」

 

 リサは苦笑いで謝ってくる。

 

「取り敢えず行こうぜ、お袋たちが待ってる。どうせ飯一緒に食おうとか言いそうだしな」

「そうだね。行こ!」

 

 こうして俺達は帰路についた。

 

 ――孤高の歌姫、湊友希那。今度見に行ってみるか。

 

 俺は地図アプリでライブハウス"CiRCLE"を見ながら、そう思った。



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第四話 波乱の新学期

 部屋にはギターの音が鳴り響く。アップテンポからスローテンポまで、恐らく十曲ぐらい引いただろう。

 

「奏ー! ご飯よー!」

 

 天井扉が開き、お袋が顔を覗かせる。掛け時計を見ると、七時半を指していた。

 

「おう、今行く」

 

 俺はギターをギタースタンドに立てると、スタジオの電気を落とし、階段を上る。

 リサ達の再会から数日。スタジオを丸一日かけて掃除し、暇あれば楽器を弾いていた。だが、それも今日から引く時間が少なくなる。

 

「今日から学校ね。奏、周りが女の子ばかりだからって、変な気は起こさないでね」

 

 エプロン姿のお袋が俺のご飯をよそい、渡してくる。

 

「そう思うなら、俺をここに転入させんなっての」

「しょうがないじゃない。この付近の学校といったら、羽丘か花咲川しかないんだから」

「どっちも女子高じゃねぇか……」

「それに、試験無しで入れたんだから良いでしょ? どうせ満点取るんだし」

 

 俺は呆れて物も言えなかった。

 俺は別に頭が良い訳ではない。前も言ったように、一度見てしまったものは覚えてしまうのだ。大学の問題だろうと、アメリカの問題だろうと、一度見てしまったら内容を覚えてしまい、自然に解けてしまう。だから試験ではいつも満点を取ってしまう。

 

「ケド、貴方が心配だわ」

「ん?」

 

 突然神妙な顔で言ってくる。

 

「病院で検査して、異状なくて、記憶力がよくて、耳も良くて……。貴方の脳に負荷が掛かりすぎていないか心配で……」

 

 するとお袋は俺の頭を撫でる。

 

「……お願いだから、無理だけはしないでね」

 

 ここまで心配してくれる、少しは嬉しいと思う自分がいる。

 

「大丈夫だよ。今までなんともなかったんだから。それに、今度は幼馴染もいるしな」

 

 俺が言うと、お袋ははにかみ小さく、そっか……といって台所に戻って行った。

 暫くすると、インターホンが鳴る。恐らく、リサ達だろう。

 玄関を開けると、案の定リサと友希那だった。

 

「おはよう、奏」

「やっほ~」

「おう、ちっと待ってろ。すぐ準備する」

 

 リサ達を中に入れ、俺はすぐにバックを取りに行く。

 

「んじゃ、行ってくる」

「行ってらっしゃい。リサちゃんと友希那ちゃんに迷惑かけないでね」

「はいよ」

「リサちゃん、友希那ちゃん。息子をよろしくね」

「はーい! じゃあおばさん、行ってきます」

「行ってきます」

 

 こうして俺達は家を出て、羽丘学園へと向かった。

 

「な~んか懐かしいね、こうやって三人で通学するの」

 

 リサが嬉しそうに言ってくる。

 

「まぁな。小学校上がって俺がすぐに転校したから、一ヶ月くらいしか一緒に行ってないからな」

「でも、これからまた三人で通学できる。ね、友希那?」

「えぇ、そうね」

 

 通学中、友希那の表情は一切崩れない。無表情のままだ。

 校門が近付いてくると、周りの目が殆どこちらに向く。何故なら女子しかいない中、男一人だけ混ざっているからだ。

 周りから何か聞こえるが、俺は知らない。無視してクラス分けの書かれた掲示板へと向かう。

 

「お、俺とリサはA組、友希那はB組か」

「その様ね、じゃあ私は行くわ」

「あ、待ってよ友希那~」

 

 そう言って友希那はそそくさと教室へ入って行く。リサはそれを追う。

 

 ――友希那の心を開くには、まだ時間が掛かりそうだな。早くメンバーが見つかるといいが……

 

 メンバーが見つかれば少しでも変わるだろう。

 

 ――でも友希那。そのメンバー、案外近くにいるもんだぜ。

 

 俺は友希那を追っているもう一人の幼馴染の背中を見て、そう思ったのだった。

 

「さて、と。理事長室行くか……」

 

 取り残された俺は一人寂しく、理事長室へと向かうのであった。

 

 ―――――――

 ――――

 ――

 

 理事長室に着いた俺はノックを三回する。

 

「どうぞ」

「失礼します」

 

 俺は中に入り、この学校で俺を女子科にいれた張本人――理事長――と対面する。

 

「君が内田奏君か。私がこの学校の理事長だ。宜しくね」

「は、はぁ。宜しくお願いします」

 

 理事長は握手を求めてきたため、握手する。

 

「それにしても、君のお母さんからここに転入したいと聞いた時は驚いたよ」

「なら何で断らなかったんですか」

「断ったら、君の転入先がなくなるだろう?」

「いや、そうですけど……せめて男子科に――」

「二年生一人だけになるだろ?」

 

 俺は察した。この人には何を言っても通じない、と。

 

「まぁ、ここに入れてくれた事は感謝しますよ。でも良いんですか? 女子科の中で男一人って……」

「君の事はお母さんから聞いている。君なら大丈夫だと」

「どっからその信用が出て来るんですか……」

 

 俺はもう呆れるしかなかった。

 

「体育とかに関しては心配しなくていい。流石にそこは一年男子科と同じにしてあげるよ」

「なんか、その一年に視線で殺されそうなんですけど……」

「ハハハ! 君は面白いな!」

 

 肩を思いっきり叩かれる。痛い……

 

「まぁ、これから宜しく頼むよ」

「は、はぁ。では、失礼します」

 

 そう言って俺は理事長室を後にする。

 自分の教室に向かうまでも、もの凄い視線を感じた。正直逃げ出したい。

 目的地のA組に向かうと、何人かはグループで、何人かは一人でいる。

 

「すぅ、ふぅ……、よし」

 

 俺は意を決してドアを開ける。すると視線は一気にこちらに向かれた。

 俺は気にしない様に黒板に張られている自分の席を確認し、すぐに離れる。

 

 ――廊下側の一番後ろで良かった……

 

 何かあればすぐに逃げれる。

 そう思ってると、リサがやって来た。

 

「どうだった? 理事長とは」

「なんかもう、疲れたよ……」

 

 そう言って俺は机に伏せる。

 

「アハハ……それは大変だったね……」

「新学期から、大変だなこりゃ」

 

 すると、俺とリサの所に一人やって来た。

 ライトグリーンの髪を持つショートカット。

 

「リサちー、この子知り合い?」

 

 リサの事を"リサちー"と呼び、親しげに話す。

 

「あ、日菜。そう、アタシと友希那の幼馴染。今日からここに転入したんだって」

「どうも、内田奏です」

 

 日菜と呼ばれた子に自己紹介する。

 すると日菜と呼ばれた子は俺の顔に自分の顔を近づけ、俺を見つめる。あまりの近さに、俺はのけ反る。

 そして、ふ~んと言って離れる。

 

「何か、るん♪ってくるね!」

「――――はぁ?」

 

 初日から変な奴に絡まれて憂鬱になる俺だった。



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第五話 るんっ♪ て来た

「何か、るんっ♪ てくるね!」

「――――はぁ?」

 

 突然理解不な言葉を言われた。なんだよるん♪って。

 

「ねぇねぇかー君!」

「か、かーくん!?」

 

 なんかもう、処理が追い付かない。いきなりか―君なんて言われる始末。

 

「そう! "かなで"だから"かー君"。良いでしょ?」

「ま、まぁ……」

 

 ――リサ、どうにかしてくれ!

 

 そう言う意味を込めた目でリサを見る。するとリサもお手上げなのか、首を横に振る。マジかよ……

 

「どうしてかー君は女子科なの? もしかして変態さん?」

 

 ――変人に言われたくねぇよ!

 

 そう思いつつ、俺は日菜と呼ばれた子の質問に答える。その時、クラスの人が耳をこちらの話に耳を傾けている様にも感じた。

 

「二年で男子は俺だけだから、男子科で一人でやらせるより、女子科で一緒に勉強するといいとありがたくもない事を理事長から言われたんだよ」

「ふ~ん。なんかるんっ♪ て来た!」

 

 そう言って顔をまた近づける。

 

「ねぇ、そのるんっ♪ てなに?」

「ん? るんっ♪ はるんっ♪ だよ?」

 

 ダメだこいつ……話が通じない……

 

「まぁまぁ日菜も落ち着いて。日菜、時々分からない事言うけど、全然悪い子じゃないから、仲良くしてあげて?」

「別に良いけどさ……。日菜、さん? そろそろ離れてくれない? 近いんだけど……」

 

 限界を感じた俺は離れるよう催促する。すると膨れた顔で離れてくれた。少し可愛いと思ってしまった。

 すると始業の鐘が鳴り、担任が入ってくる。

 

「よ~し、これからHRはじめるぞ~。その前に内田、前へ」

 

 先生から名指しされ、俺は前に行く。

 

「え~、今年からこの高校に転入した内田奏だ。訳あって内田は男子科ではなく女子科で勉強させる。安心しろ。体育は男子科の一年と一緒にやらせるから。それにこいつは頭良いから、明日行われる学園統一試験に向けて教えてもらうと良い。では内田、自己紹介を」

 

 殆ど先生が言ったせいで、言うことないんですけど……

 

「えっと……ご紹介に上がりました内田奏です。父の仕事の都合で、転校してきました。女子科にたった一人の男子で狭苦しいし、皆さんも何かしら警戒していると思いますが、特にこちらから行動を起こす気はないので安心して下さい。このクラスで一年間、宜しくお願いします」

 

 俺がお辞儀すると、教室内では拍手が起きる。何とか受け入れてもらったようだ。

 その後自分の席に戻り、今後の予定や明日の試験の事などの説明を聞き、下校という事だった。始業式? 理事長の話が長かったとだけ言っておこう。あと周りが女子、女子、女子。他のクラスの女子の視線もめっちゃ感じた。

 

「奏~、一緒に帰ろ~」

「おう」

 

 下校準備をしている時、リサが荷物を持って俺の席に来た。

 

「友希那は?」

「友希那はもう帰っちゃったみたい……今日もライブハウスかな」

「そっか」

 

 リサは寂しそうな表情をする。リサと友希那の壁は、今だに開いたままだ。

 

「ま、お前が思いつめることはないさ。それより、今日俺んちにきて飯作ってくれないか? 親父とお袋両方いないからさ」

「良いけど……奏は料理できないの?」

「メンドクサイ」

 

 俺の発言に、リサは苦笑いをする。そこに、例の女の子がやって来た。

 

「なになに? これからリサちー、かー君の家に行くの?」

「う、うん」

 

 リサも戸惑っている様子。すると日菜さんも何か思ったのか、目を光らせてこう言った。

 

「ねぇ、私もかー君の家に行っていい? 何かるんっ♪ てきそう!」

「は、はぁ!?」

「ひ、ひひひひひひ日菜!? どうしたの急に!?」

 

 リサがもの凄くテンパっているのが分かる。何回"ひ"を連呼してたんだよ。

 

「別にいいじゃん! 一回男子の家に行ってみたかったし、リサちーのご飯も食べてみたいし! 今考えただけでもるんっ♪ てくるね!」

 

 ――いや、るんっ♪ てこなくて良いから!

 

「じゃあそういう訳で、レッツゴー!」

 

 そう言って日菜さんは俺の手を取り、そそくさと先を歩くのだった。そして俺は日菜さんに引っ張られる形となり、リサはその俺の後ろを付いて行く形となった。

 

「そう言えば、私の事は呼び捨てで良いよ!」

 

 ……どうやら心も読めるようだ。この先が思いやられる、そう思った俺だった。



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第六話 ライブ

 日菜の襲来から数日。あれから何事も無く学校生活を過ごしている。

 相変わらず日菜は鬱陶しいし、何かクラスの奴に一人宝塚っぽい人いるし。てか、めっちゃ人気だな、宝塚の人。なんか「儚い……」とか言ってるし。

 そんなこんなで俺は一人、ある場所目指して歩いていた。

 

「ここか……」

 

 CiRCLE。数々のバンドがここにきてライブをする、言わばライブハウスだ。

 

「リサの話だと、今日も友希那が出るって言ってたしな。一度は生で見てみたいと思ってたし、入るか」

 

 ライブはまだ始まっていないのに、既に人が大賑わいだ。

 

 ――ライブ関係者は既に中にいる筈だし、こいつ等全員観客か? 多すぎるだろ。

 

 周りの話に聞き耳を立てると、友希那の名前がちらほら聞こえた。

 だが、喜ばしい内容だけではなかった。中では友希那の事をとっつきにくい、話しても無視するなどの非難の声もあった。

 

 ――恐らく今の友希那からしたら、周りの声よりメンバーって感じだな。周りに何を言われようとも、自分は自分のすべき事をってか……

 

 するとライブが始まるのか、カフェにいた人たちがぞろぞろと中に入って行った。

 俺も流れに沿うよう、中に入って行く。

 

「友希那もそうだが、他のバンドはどんな感じなんだろうな」

 

 俺は受付した後、ドリンクチケットを貰い、オレンジジュースを貰う。

 他の客が盛り上がっている中、俺はのんびり観賞する。

 

 ――どのバンドも音がほつれてる。バラバラだな。これじゃ友希那の目に止まらないだろう。

 

 そう思っていた時、一つの、いや、()()の人物に目がいった。

 

 ――このバンド、ギター以外なってない。まるでギターに追いついていないような、そんな感じだ。そしてこの音、相当な努力をしてきたのだろう。しっかりと伝わってくる。これは友希那も見逃せないな。

 

 そのバンドが終わると、恐らくギターである子の名前を皆叫ぶ。

 

 ――紗夜、ねぇ……。容姿が日菜にそっくりだな。今度聞いてみるか。

 

 すると関係者入り口の方に友希那が入って行くのが見えた。

 

 ――やっぱり、友希那も黙ってないか。

 

 俺は空いたグラスを戻そうとした時、誰かとぶつかる。

 

「あ、ごめんなさい!」

「いや、こっちも見てなかったから」

 

 紫色のツインテールをした、見た目中学生の子と、その隣には友希那程長い黒髪と、胸がデカい女の子がいた。

 

「あ、あこちゃん。大丈夫?」

「りんりん! あこは大丈夫! お兄さんも大丈夫ですか?」

「あ、あぁ。俺も大丈夫だ」

 

 しかし、珍しいこともあるもんだ。この胸のデカい子、名前は白金燐子。ジュニアのピアノコンテストで優勝したことのある実力者だ。そんな子が、バンドに興味を持っているとは……

 

「あ、あの……どうかしましたか?」

 

 気付いたら俺は白金を凝視していたらしい。視線に気づいた白金が話しかけてくる。

 

「あ、いや、何でもない。じゃあ」

 

 俺はそそくさとその場を離れ、グラスをカウンターに戻す。

 俺はスマホで時間を確認する。もうそろそろ友希那の番だ。

 

「それにしても、友希那の人気は凄いな。さっきより人がいるなんて」

 

 俺は後ろの方で、友希那の出番を待つ。するとゆっくりと上手から出てきた。

 友希那はマイクの調整をし、準備が整ったのか、観客にも静寂が訪れる。

 そして、ブレス音が聞こえた、その時だった。

 

 ――な、なんだよ……これ……

 

 会場一帯を包み込むように、友希那の声が響き渡る。言葉一つ一つが音にのって、情景に変わる。

 こんな歌声を聞いたのは、生まれて初めてだった。

 

「凄いな、友希那は……」

 

 俺はそっと会場を出て、帰路についた。

 

 

 その後、演奏終了後のライブハウスでは――

 

「どうかしら、紗夜。私とバンドメンバーを組まない?」

「こちらこそ、宜しくお願いします」

 

 音楽に全てをかける二人の出会いにより、一つのバンドが生まれた。

 

「あ、あの! 友希那さんのファンでした! あこをバンドに入れてください!」

「あ、あこちゃん……」

 

 また、一人の少女がメンバーに入ろうと、必死に嘆願した。

 

「友希那……」

 

 また一人の幼馴染はこっそりと彼女のライブをみて、彼女が無事にメンバーを見つけられることを祈っていた。



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第七話 初めての喧嘩

 友希那のライブから数日後。

 

「リサ、帰ろうぜ」

「うん。あ、友希那も誘っていい?」

「別に良いぞ」

 

 授業が終わった俺達は、一緒に帰る。

 

「え!? 友希那、今の話マジ!?」

「本当よ。紗夜って子とバンドを組むようになったの。まだボーカルとギターしかいないけど、コンテストに向けて新曲も出来上がってるわ」

 

 リサと友希那の会話を、俺は口を挟まず聞く。

 まぁ、予想していた通りだ。紗夜という子の音楽の情熱、友希那の、音楽に全てを書ける程の真剣さ。それらが絡み合ったんだろう。

 

 ――ただ言わせてもらうと、紗夜って子の音、何か違和感を感じる。あの時のライブもそうだったが、何かに焦っている様な……

 

 その時、校門前に服装は違うが見覚えのある子がいた。

 

「友希那さん! 今度こそお願いします!」

「ん? あれ? あこじゃん。どしたの?」

「リサ、知り合いなの?」

 

 まさかリサと関りがあるとは。服装から見て、羽丘の中等部か。って事は部活か何かか?

 

「お願い! お願いします! あこ、良いドラム叩きます! だからバンドに入れてください!」

「ちょちょちょ、話が見えないんだけど? あこ、ドラムやってたんだ。友希那のバンドに入りたいの?」

「うん! でも、何度も断られて……それでも、友希那さんのバンドに入りたくて……どうやったらあこの本気が伝わるかなって……」

 

 するとあこは自分のスコアを見せてきた。

 

「友希那さんの曲、全部叩けるようになってきました! いっぱいいっぱい練習して……! その……」

 

 するとあこは頭を下げた。

 

「お願いです! 一回だけで良いから一緒に演奏させて下さい! それでダメだったら諦めるから……」

「――何度も言ってるけど、遊びじゃないの」

 

 そういって、友希那は歩き出す。俺はあこの方を見る。あこの下には、僅かに水滴が落ちていた。

 

 ――こいつ、ここまで本気で……

 

 リサを見ると、あこを心配そうな目で見つつ、友希那の方を見る。

 

 ――しょうがない。ここは一肌脱ぐか。

 

「待てよ友希那」

 

 俺は先に歩く友希那に声をかける。

 

「いくら何でも冷てぇんじゃねぇの。ここまで真剣に志願しているのに、その音も聞かずに追い出すなんて」

「……彼女は世界で()()に上手と言ったのよ。一番を目指さない人を、メンバーに入れる資格はないわ」

「それはこいつの音を聞いて決めてんのか」

「ちょ、奏!」

 

 少し喧嘩口調になってしまい、リサが止めに入る。

 

「こんなにスコアをボロボロにするまで練習してくれたのにも関わらず、その音を聞いてやらないなんて、お前の親父さんを潰した事務所並み……いや、それ以下のクズだぞ」

 

 その言葉に頭が来たのか、こちらに向かってきて友希那は俺の胸ぐらを掴んだ。

 

「私をあんな事務所と一緒にしないで!」

「一緒だろ。人の言葉も聞かずに自分だけ突っ走って。自分の事しか考えていない今のお前は、ビジネスの事しか考えず、バンドの意見を無視し解散まで追い込んだ事務所と全く一緒だ」

「ちょっと二人共止めなって! ここ学校の前だよ!」

 

 リサが割り込み、俺の胸ぐらを掴んでいる友希那の手を剥がす。

 

「お前の言いたいことも分からんでもない。けど、ここまで真剣に、涙を流してまで志願している奴を無下にするのはどうかと思うぞ」

 

 俺は落ち着いた口調で話す。友希那も少し落ち着いたのか、何も言わず話を聞いてくれた。

 すると友希那はため息をつき、言った。

 

「はぁ、分かったわ。一回だけよ」

「え……?」

「一回だけ、セッションしてあげるわ。それであなたの実力を見る。それでいい?」

 

 その言葉を聞いた時、あこは顔を輝かせた。

 

「あ、ありがとうございます! あこ、頑張ります!」

「なら早く行くわよ。紗夜を待たせているから」

 

 そう言って友希那は先を歩く。こんな時でも、表情は崩さない。

 

「あ、あの!」

 

 俺も後に続こうとした時、あこに声を掛けられた。

 

「あ、あこの為にありがとうございます! 確か、ライブハウスで一度会ってますよね?」

「気にするな。今回の友希那の行動には少し腑に落ちなかったからな。それに覚えててくれたか。俺は内田奏。リサと友希那の幼馴染だ」

「宇田川あこです! 宜しくお願いします! 奏さん!」

「何しているの、早く来ないとセッションさせてあげないわよ」

「あ、待って下さい友希那さん!」

 

 友希那が言うと、宇田川は友希那の下に走って行った。その場には俺とリサが残る。

 

「奏と友希那が喧嘩したところ、初めて見たかも」

「あれは喧嘩とは言わねぇよ。俺が一方的に言っただけだ」

「でも友希那、凄いキレてた」

「事務所以下のクズって言ったからな。それは頭に来るだろ。まさか胸ぐらを掴まれるとは思わなかったが」

「そうだね……」

 

 俺達は友希那と宇田川の背中を見る。

 

「……俺はあいつを押した以上、見届けねばならん。お前はどうする?」

「ならアタシも行こうかな。あこのドラム見てみたいし」

「じゃ、行くか」

 

 その時、俺のスマホがなった。画面を見ると、友希那からメッセが来てた。

 

『さっきはごめんなさい』

 

「律儀な奴」

 

 俺は微笑み、友希那に返信する。

 

『別にいい。俺も悪かった』

 

「かなでー! 置いてくよー!」

「今行く」

 

 俺はスマホをしまい、友希那達の後を追うのだった。



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第八話 セッション

 友希那の説得をし、無事に宇田川のテストが行われるようになり、俺達はライブハウスCiRCLEに向かう。

 

「あ、友希那ちゃんいらっしゃい。あれ? 今日は人が多いね」

「ごめんなさい。三名追加しても大丈夫かしら?」

 

 友希那が申し訳なさそうに言う。

 

「大丈夫だよ。もう紗夜ちゃんも来ているから。一番スタジオね」

「はい。ありがとうございます」

 

 友希那は受付を済ますと、言われた一番スタジオへと向かう。

 中に入ると、紗夜と思われる人が既にギターを弾いていた。

 

「紗夜、お待たせ」

「お疲れ様です、湊さん。それで、この方達は?」

「あ。挨拶遅れちゃってごめんね。アタシ今井リサ。友希那の幼馴染で、今日は見学に来ましたっ♪」

 

 あれ? いまリサの語尾から音符が見えたような……気のせいか。

 

「宇田川あこです! 今日はドラムのオーディションをしてもらいに来ましたっ!」

「……オーディション?」

 

 紗夜が眉を寄せ、友希那を見る。

 

「悪いな。俺が友希那に無理言って受けさせた」

 

 俺が咄嗟に前に出る。

 

「……あなたは?」

「すまん、申し遅れた。俺は内田奏。リサと友希那の幼馴染であり、宇田川のテストを見届けに来た」

「私は氷川紗夜です。それより、勝手に決めないで貰えますか。私達は遊んでいる暇はないのです。テストなんて――」

「紗夜。私が許したの。ごめんなさい、練習時間を使って。でも、彼女も努力しているらしいから。五分でいいの。良いかしら?」

 

 友希那が言うと、氷川は黙ってあこを見る。

 

「……まぁ、湊さんが選出するなら、私は構いません。それと内田さん、でしたよね」

「お、おう」

「今後一切、このような事が無い様お願いします。湊さんから聞いていると思いますが、私達は――」

「分かってるよ。それより時間が惜しい。早く始めようぜ」

「そうね。あこ、準備して頂戴」

「は、はい! リサ姉、奏さん! あこ、合格できる様頑張るから!」

 

 あこは張り切って、ドラムの準備を始めた。

 

「できればベースもいると、リズム隊として総合的な評価が出来るのですが……」

「そうね、でもしょうがないわ。今は私達三人でやりましょう」

 

 入り口付近に座る俺とリサ。だが、俺はいいベーシストを知っている。

 

「――ベースなら、丁度良いのがそこにいるじゃねぇか」

 

 そう言って俺はリサを目だけで見る。

 

「……え!? アタシ!?」

「お前以外誰がいるんだ。今はやってないみたいだが、昔はやってたんだろ? 右手の指の硬さが物語ってる」

「確かにやってたけど……それなら奏だって……」

「いいから、騙されたと思ってやってみろ」

「う、うん……ベース取ってくる」

 

 リサは何処か納得いかないような顔で、ベースを借りに行った。

 

「奏、どうしてリサがベースをやってたって知ってるの? リサがベースを始めたのは貴方が引っ越した後よ」

 

 不思議に思った友希那が、俺に聞いて来た。

 

「俺と再会した時、リサが俺の手握ったろ。その時右と左で指の硬さが違ったんだ。勿論、一般の人には分からないごく僅かな硬さだけどな」

「そのごく僅かな硬さを見破るなんて……貴方何者ですか?」

「俺の話は良いだろ。それより、リサが帰って来たぞ」

 

 俺のそう言うと、良いタイミングでリサは入ってくる。

 

「おまたせ~。すぐに準備するから待ってて」

 

 リサはチューニングを始めると、準備が整ったのか、友希那に合図を出す。だが、そのチューニングは完璧ではない。

 

「リサ。3弦が少し高い。ちょっと貸せ」

 

 俺はリサからベースを受け取ると、ペグを緩め、ピッタリな音に合わせる。

 

「はいよ」

「さんきゅー♪やっぱり奏がいると楽でいいね」

 

 氷川は目を見開き、俺を見ていた。まるで信じられないと言っているかのように。

 

「俺を便利屋として使うんじゃねぇっての。お待たせ友希那。いつでも初めて良いぞ」

「えぇ。それでは行くわよ」

 

 宇田川の四コールから始まり、リサと氷川が弾き始め、続けて宇田川も入る。

 そして友希那の歌が入ると、全員が全員、信じられないような顔をしていた。

 

 ――そりゃそうだろ。初めてセッションしたにも関わらず、ここまで綺麗に絡み合うんだ。そこら辺の下手なバンドより、全然響いてくる。ただ……

 

 明らかに音が一つ足りない。それはキーボード。ここまで絡み合っているのにも関わらず、音が一つ足りないだけで全体の音が足りなく感じる。

 一曲のセッションが終わり、全員が全員、肩で息をしていた。そして全員、顔を見合わせる。

 俺はスタンディングオベーションをして、友希那達の方に近付く。

 

「初めてセッションしたにも関わらず、こんなに綺麗に音が合わさる。それはまるで、最初からこのメンバーでバンドを組めと言っているかのようだ」

 

 友希那は改めて、宇田川とリサを見る。

 

「どうだ友希那。これを聞いても、まだ宇田川を突き放すか?」

「言い方に気を付けてちょうだい。私は突き放そうとはしていないわ。でも――」

 

 友希那は宇田川の前まで歩く。

 

「あこ。あなたさえ良ければ、我がメンバーに入ってくれるかしら。紗夜も良いわよね?」

「え、えぇ。今のセッションを聞いて、流石に断れません」

「あ、ありがとうございます! あこ、精一杯頑張ります!」

 

 友希那から合格を受けた宇田川は喜んでいた。

 

「良かったね、あこ」

「おめでとう」

「リサ姉! 奏さん! ありがとう! あこやったよ!」

 

 はしゃぐ宇田川に、俺は頭を撫でる。宇田川は目を細めて気持ちよさそうにしていた。

 

「後はベースとキーボードですね。湊さん、どうしますか」

 

 氷川が問う。ふと、リサの表情が目に入る。自分では力不足だった。そう物語っている顔だった。

 だが、友希那の答えは違った。

 

「何を言ってるの紗夜。ベースも既に決まってるじゃない」

 

 友希那はリサの手を取って言う。

 

「リサ。確かに今のあなたは私達の求める音ではない。でも、あなたがいないと、このような音を奏でられないのもまた事実。リサ、これまでと違って遊んでいる暇はないわよ。それでもいい?」

「ゆ、友希那……それって……」

 

 リサは涙を溜め、声が震える。

 

「素直に言えよ。あなたが欲しいって」

「五月蠅いわよ奏」

 

 結構小さい声で言ったつもりだが、友希那には聞こえていたようだ。

 

「それでリサ、どうなの?」

「グスッ、うん! これからも友希那の隣にいさせて貰うね!」

 

 その言葉を聞くと、友希那は微笑む。

 

「あこ、リサ。付いてこれなくなったら置いていって、次第には抜けてもらうわ。それ程の覚悟、ある?」

 

 友希那の言葉にあことリサは顔を見合わせ、大きく頷いた。

 

「うん(はい)!」

「なら良いわ。今日は解散よ」

 

 俺は扉を開け、外に出ようとする。すると友希那に呼び止められた。

 

「奏」

「ん? どうした」

「あなた、こうなる事が分かって、リサを入れたわね」

 

 友希那はジッと俺の目を見る。

 

「さぁな」

 

 俺はフッと笑い、先を歩く。

 その時俺は思い出し、再び友希那の方を見る。

 

「友希那。久々にリサと三人で飯食おうぜ。お袋が二人を連れて来いって」

「……そうね。たまにはいいかもしれないわ」

 

 その時の表情を、俺は見逃さなかった。

 

「――やっと笑ったな、友希那」

「何か言ったかしら?」

「いーや、別に~」

 

 どうやら友希那には聞えなかったようで、片付けを終えた三人が丁度スタジオから出てきた。

 

「お待たせしました」

「じゃあ帰ろっか♪」

 

 こうして、キーボードを抜く新たなバンドが生まれた。

 もう一人のメンバー、キーボードと出会うのは、遠くないのかもしれない。



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第九話 キーボード

「今日はここまでにしましょう」

 

 バンドが結成され、数日が経った。だが未だに、キーボードの席は空いたままだ。

 そして一つ、気に食わないことがある。

 

「なぁ」

「どうしたの? 奏」

「何で俺、毎回呼ばれてんの? しかも今日土曜日」

 

 そう。あこ――本人が名前で呼んでくれと言ってきた――とリサがバンドに加入してから、何故か俺も練習に呼ばれる。

 

「そんなの決まってるじゃない」

 

 友希那が腕を組み、行ってくる。

 

「あなたにキーボードをお願いしたいからよ」

「内田さん、キーボードできるのですか?」

「キーボードどころか、楽器全般出来るわよ」

「奏さん凄い! 何かこう、闇の力を感じる!」

 

 氷川よ、そんな意外そうな目で見るな。そしてあこよ、俺に闇の力はない。

 

「確かにキーボードは出来るが……」

「なら決まりね。次からは見てないで、ちゃんと練習に入りなさい」

 

 何故か友希那は俺がキーボードをする事が決まったような口で言った。

 

「悪いが俺はバンドに入る気なんてさらさらない」

「何故かしら?」

「別に良いだろ。それより、時間が来てるんだから早く出ようぜ」

 

 俺の返答が気に食わないのか、睨みを利かせる友希那。

 取り合えずスタジオを出て、友希那は次の予約を取る。その間に俺は外に出ようとするが、あろうことか、氷川に捕まった。

 

「待って下さい」

「どうした?」

「いえ、内田さんは逃げるだろうから、捕まえとけって湊さんが」

 

 ――友希那の野郎……

 

「お待たせ。それで奏? どうしてバンドに入ってくれないのかしら? 理由を聞きたいのだけれど」

 

 友希那の目を見ると、理由を話すまで帰さないと言っているかの様だった。

 

「分かったから、取り敢えず飯でも食いながら話そうぜ。腹減った」

 

 CiRCLEを出て、近くのファミレスに入り、各々注文する。

 氷川、昼食にフライドポテトだけっていうのはどうかと思うぜ。

 

「それで? 何故あなたはバンドに入る事を拒むのかしら?」

 

 早速、友希那が口を開いた。

 

「そうだよ奏。折角の音楽センスがもったいないよ」

 

 リサも友希那に応戦する。

 

「あの、奏さんってそんなに凄い人なんですか? 確かに全部楽器を使えるって言ってましたけど……」

 

 あこが恐る恐る聞く。

 

「えぇ。あなた達も間近で見た筈よ。あことリサとのセッションの時、彼はチューナーを使わずにチューニングをしたわ。熟練者ならまだしも、高校生でここまで出来る人はそうはいない」

「ですがベースの音を狂いなくチューニングできる。それって……」

「そう、彼は絶対音感の持ち主よ」

「絶対音感ってあれですよね! 一つの音を聞いただけで、音の違いが分かるってやつ!」

 

 あこが何か興奮している。友希那は何故か自分の事の様に嬉しそうに話す。リサは何かニコニコしてる。氷川はフライドポテトに集中してる……カオスだ。

 

「あこの言っている事に間違いはないわ。でも、彼は違う。彼は複数の音を聞き分けることが出来るの」

「複数の音、ですか……?」

 

 氷川はフライドポテトを食べていた手を止め、こちらを見る。唇が油で少しテカって色っぽい。

 

「む……」

「いってぇ!!」

 

 その時、隣に座っていたリサが俺の足を踏んで来た。

 

「何すんだよリサ!」

「べ~つに~」

 

 リサは何処か不貞腐れた様子で、そっぽ向いた。

 

「何やってんのあなた達は……。それで奏。理由を聞かせて貰ってもいいかしら?」

「……別に、俺はバンドに入りたくないからそう言っているだけだ」

「だから、その理由を聞いているの。あなた、今でもあそこで弾いているのでしょ?」

「弾いてるからって、俺がバンドに入る理由にはならないだろ」

 

 俺と友希那は睨みあう。

 

「ちょ、ちょっとちょっと、どうしてすぐに喧嘩腰になるのさ!」

「今の奏さん、ちょっと怖い……」

 

 あこが涙目でこちらを見る。少し怖がらせちまったか。

 

「……悪い。ムキになりすぎた」

 

 俺は頭を冷やす為、お冷を口に含む。

 

「俺はバンドに入る事は出来ないが、実は、お前達の欲しがっているキーボードに、心当たりがある。彼女なら、お前達の音に、更なる力を与えてくれる筈だ」

「彼女っていう事は女の人なのね? あなたと面識はあるの?」

 

 女って言った瞬間、リサの頬が膨れた。何それ可愛い。

 

「一度会っているな。向こうは覚えているか分からんけど」

「じゃあどうやってその人と会うのよ。無駄な期待はさせないで頂戴」

 

 友希那は呆れたかのように、背もたれにもたれて溜め息をつく。

 

「おいおい。俺がいつ会う手段がないって言ったよ」

「でも面識はないに等しいんですよね? それなのにどうやって……」

「確かに、俺は連絡手段がない。だが、この中に一人いるんだよ。そうだろ? あこ」

「ん!? うえぇええええ!?」

 

 ドリアを頬張ってたあこがいきなり話を振られ、驚いて喉に詰まりそうだったが、何とか飲み込んだ。

 

「あ、あこ、キーボードに知り合いなんていませんよ!」

「なんだ。あこ、知らないのか。てっきりそっち方面で知り合ったと思ったんだが……」

「一体誰なの? 勿体ぶらないで早く言いなさい」

「……ピアノコンテストジュニア部門で、無名だったのにも関わらず数々の優勝を経験したピアノの天才――」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――――白金燐子だ。



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第十話 準備

「ピアノの天才――白金燐子だ」

 

 俺が言うと、あこは目を見開いた。

 

「り、りんりんが!?」

「あぁ」

 

 俺はスマホを出し、当時の記事を見せる。

 

「当時名もなき十歳のピアニストが、コンテストで数々の賞を総なめしてきた。無名だった彼女はいつしか天才とまで呼ばれるようになった。その時の天才が――」

「白金燐子、という訳ね」

 

 友希那の言葉に俺は頷く。

 

「中学に上がってからは名前も聞かなくなったが、まさかあこといるとは思わなかった。何で知り合ったんだ?」

「NFOっていうゲームで知り合ったんだ! りんりん、強いんだよ!」

「NFOとは何ですか?」

「いわゆるネットゲームだ。世界中の人達と繋がれるゲームなんだが、そこで知り合うとはな。奇跡というかなんというか……」

「じゃあ、アタシ達はその燐子って子とコンタクト取れば良いの?」

 

 リサが尋ねてくる。

 

「いや、ここはあこが適任だろう。あこ、バンドに入ってからも白金とは連絡とってるか?」

「うん。ゲームやるときとか通話しながら」

「その時、バンドの話もしているか?」

「してるよ! 憧れの友希那さんとバンド出来る様になったーとか、今日の練習がーとか、キーボードが見つからないーとか」

「練習風景、動画に取ってたよな。それは送ったか?」

「うん! 送ったよ?」

 

 ここまで順調だと、逆に怖い。まぁ、攻めるならここだろう。

 

「恐らくだが、白金はバンドにハマりつつある。この間の友希那のライブを見に行った時、少なからず心を打たれた筈だ。あこから送られた練習動画も含めてな。そしてそれを見ながら、自分でピアノを弾いてると思う」

「話がうますぎるような気がしますが……」

「あくまで可能性の話だがな。その為にはあこの協力が必要だ。良いか? あこ」

「あこは全然大丈夫ですよ! りんりんが入ってくれるなら、あこも嬉しいし!」

「と、いう訳だ。次の練習までに、白金を連れてくる。それまで気楽に待ってろ」

 

 これでバンドに関する話は終了し、あこと連絡先を交換して解散となった。

 今、友希那とリサと帰っているが、リサの表情がどこか不機嫌だ。

 

「どうしたリサ、そんなフグみたいな顔して」

「な、誰がフグよ! 別に、ただ奏が燐子って子の事をよく知ってるな~って思って……」

「よくは知らねぇよ。言ったろ、可能性の話だ」

「そうだけど……」

 

 何処か不安げのある表情に変わった。こいつ……

 

「嫉妬してんのか?」

「な――っ!」

 

 俺がいうと、リサは顔を赤くした。

 

「な、何言ってんのさ! もう知らない!」

 

 そう言ってリサはそそくさと先を歩く。

 

「はぁ。奏」

 

 隣を歩く友希那が声を掛けてくる。

 

「私は貴方を諦めた訳ではないわ。必ず、理由を話してくれるまで誘い続けるから」

「その前に白金の事を気にしろっての」

 

 あこには今日も白金に連絡するよう伝えてある。そして何気なくキーボードの話をするようにと伝えた。

 

 ――さて、吉と出るか凶と出るか……

 

 俺は神に頼むしかなかった。

 

 ―――――――――

 ―――――

 ―――

 

 夜――。

 

『りんりーん! 準備出来たー?』

 

 あこちゃんからチャットが入った。わたしはヘッドセットを取り出し、パソコンと接続すると、通話ボタンを押す。

 

「お待たせ、あこちゃん」

『あ、やっと来たー! 今回のイベントりんりんがいないとクリア出来そうにないんだよね~』

 

 わたしとあこちゃんはオンラインルームに入り、今回から始まるイベントの準備をする。

 

『いやぁ、今日も疲れたよ~』

 

 あこちゃんはあの日以来、バンドの話もするようになった。憧れだった友希那さんのバンドに入れたことが嬉しかったのだろう。

 

 ――正直、あこちゃんが羨ましい。

 

「お疲れ様、あこちゃん」

『ありがと~りんりん。でもさ、相変わらずキーボードが見つからなくて困ってんだよね~。りんりん、誰か知らない?』

 

 あこちゃんの話によると、キーボードが見つからないらしく、困っているらしい。

 わたしはあこちゃんから送られてきた練習風景の動画をみて、感動した。初めて見に行った友希那さんのライブもそうだけど、あそこまで音を奏でられるものは見た事もなかった。

 そして気付いたら、その動画を見ながらピアノを弾いていた。

 

 ――本当は、あこちゃんに言いたい。わたしが弾けるって……でも……

 

 人見知りで引っ込み思案の私に、それが出来るのだろうか。正直怖い。

 子供の頃、ピアノのコンテストで優勝したことあるけど、あれは一人だから出来たのだ。でも、バンドは違う。バンドは力を合わせて一つの音を作り出す。わたしにそれが出来るのだろうか……

 

『りんりん?』

「あ、ごめんねあこちゃん。それで?」

『うん。実はね? りんりんに会ってほしい人がいるんだ』

「わたしに?」

 

 いきなりどうしたのだろう。

 

『なんかあこの知り合いでNFOやってる人がいてね、毎回りんりんがハイスコア出しているから、一体誰なんだって話になって、あこの友達だよ! って言ったら、是非会ってみたいって』

 

 あこちゃんの友達、か。別に良いかな……

 

「うん。いいよ。いつにする?」

『ホント!? ありがとーりんりん! 日にちと場所が決まったら、また連絡するね!』

 

 そう言って、わたしとあこちゃんはクエストに入って行った。

 あこちゃんの友達、一体どんな人なんだろう……

 

 

 

 ―――――――

 ――――

 ――

 

 俺は地下室でいつも通りギターを弾いていた。その時、俺のスマホにメッセが入る。

 

『りんりんと約束できました! いつにしますか?』

「仕事早ぇなアイツ」

 

 あまりの仕事の速さに驚きを隠せなかったが、せっかく掴んだチャンスを無駄にはしたくない。

 

『次の練習が明々後日だから、明日の昼くらいかな。よろしく頼む』

『りょーかいです!!』

 

「さて、と。俺も明日の為に寝るか」

 

 俺はスタジオの電気を消し、自室に戻ってベットに飛び込むのだった。



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第十一話 接触

 翌日。白金燐子と会う為、俺は羽沢珈琲店であこ達を待っていた。

 数分後、いかにも中二病を拗らせた服を着ているあこと、おどおどしている白金が入店してきた。

 

「かなでさーん!」

「おう」

 

 あこが俺を見つけると、手を振ってくる。

 

「あ、あこちゃん……あこちゃんの、言ってた人って……」

 

 緊張しているのか、しどろもどろな言い方をしていた。

 

「一度ライブハウスであってるよな。改めて、俺は内田奏。宜しく」

「は、初め……まして。白金……燐子です」

 

 そう言って白金はお辞儀をする。

 

「今日は急に呼び出してすまなかったな。お前と話がしたかったんだ」

「えっと……NFOの事、ですよね……?」

「……は?」

 

 ――NFOの事? 一体何言ってんだ? ……まさか!

 

 俺は恐らく、事の発端者であるあこを見る。するとあこは申し訳なさそうに後頭部に手をやり、苦笑いする。

 

「……すまん。あこから何聞いたか知らんが、俺はお前に聞きたいことがあったんだ」

「聞きたいこと……ですか……?」

「あぁ」

 

 俺は一間置き、口を開いた。

 

「あこから貰った練習動画を見て、どう思った」

「――っ!」

 

 いきなりの事で、目を見開く白金。

 

「な、何の事ですか……?」

「しらばっくれても無駄だ。あこからお前に動画を渡しているのは聞いているし、あこは知らなかったらしいが、俺はお前の正体を知っている」

 

 喉を鳴らす音が聞こえる。恐らく白金だろう。まさか、こんな所で自分の正体を明かされるとは思わなかったのだから。

 

「今から六年前、突如現れた天才ピアニスト、白金燐子。中学に上がってからお前の名前を聞かなくなったが、十歳の時から成しえた偉業は、未だ誰も破られていない」

 

 白金は言葉を発することなく、下を向いている。

 

「だけど、意外な場所でお前を目撃した。それは先日、あこと一緒に行ったライブハウスだった。恐らくお前はあこに連れられてきたんだろうが、そこで思いもよらぬ出会いがあった」

「想いもよらぬ、出会い……ですか……?」

 

 恐る恐る口を開く白金。

 

「……湊友希那との出会いだ」

 

 俺が言うと、白金は顔を上げてこちらを見る。

 

「お前は友希那の歌声を聞いて、魅了されてしまった。そしてその友希那のバンドに入ったあこを羨ましく思った。そして練習動画を見て、何かに釣られたかのように、気付いたら練習動画を見ながらピアノを弾いていた。そして自分もこのバンドに入りたいと思ってしまった。違うか?」

「ど、どうしてそう思う……の、ですか……?」

 

 まぁ、当然な質問だろう。今の話じゃ、まるで白金の事を何でもわかると言っている様なものだ。

 

「あの時、ピアノを弾いていたお前の姿は、もの凄く楽しそうだった。心の底から音楽が好きなのだと伝わって来た。そんなお前が、友希那の歌を、あのバンドの風景を見て何も思わないわけがない。そうだろ?」

「……」

 

 暫く黙った後、白金は注文していたカフェオレを口に含み、話した。

 

「内田さんの、言う通りです……。あこちゃんから貰った、動画をみていると、もし、私が入ったらと思ってしまって……。そして弾いているうちに、楽しく……なって……」

 

 白金自身がそう思っているなら、もう時間の問題だろう。

 

「白金。お前、バンドに入らねーか」

「……え?」

「お前の知っている通り、今友希那のバンドにはキーボードがいない。でも、お前程の実力ある奴が入ってくれれば、バンド自体の音が更に良くなるし、お前も一人で弾いていた時より、もっと楽しくなる」

「りんりん! あこ、りんりんとバンドやりたい! 一緒にやろうよ!」

「で、でも……」

 

 白金は躊躇っている。それは恐らく、自分の性格だろう。引っ込み思案で、人見知りの白金は迷ってるんだ。入りたいけど、この性格のせいで言いたいことが言えない。

 

「――白金」

「な、何……?」

「やりたいことが出来ないのと、自分の気持ちに正直になるの、どっちが楽だと思う?」

「自分の、気持ち……」

「お前、さっき自分で言っただろ。弾いていて楽しかったって。けど、その性格のせいでバンドに入るのが怖い。それはつまり、自分の本当の気持ちに素直になれないだけだ。楽しいなら、そんなもの押しのけて、楽しむだけじゃねぇか」

 

 白金は何も言わない。葛藤しているんだ。今の自分に。

 

「まぁ、無理強いはしない。ただ、自分の気持ちが付いたら、あこに連絡してくれ。なるべく早い方が良いが……」

 

 そう言って俺は伝票を持って立つ。

 

「お前達はまだゆっくりしていろ。まだ話したいこととかあるだろうしな。俺はここで失礼する」

 

 俺はそのまま会計まで行って、支払いを済まし、店を出る。

 

 ――答えは出ている筈だ。後は素直になるだけだぞ、白金……

 

 そして俺は帰路につくのだった。



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第十二話 決意

 内田さんが帰って、お店にはわたしとあこちゃんが残った。

 二人の間には会話はなく、沈黙が流れる。

 そんな沈黙を、あこちゃんが破る。

 

「ねぇ、りんりん。あこね、りんりんとバンド組みたい!」

「あこちゃん……」

「あこ、りんりんの実力分からないけど、奏さんが言っているてことは、そうなんだよ! あこも、確証はないけど……」

 

 あこちゃんが言い淀む。

 確かに、わたしもあのバンドに入りたい。あの中で弾きたい。その気持ちがある。でも……

 

「気持ちは嬉しいよ、あこちゃん……でも、わたしの実力じゃ……」

「なら、それこそ奏さんに見て貰おうよ!」

「え……?」

「奏さん、楽器全部弾けるんだって!友希那さんも本当は奏さんをキーボードにしようとしてたんだけど、それを断ってりんりんを推薦したんだよ! 奏さんも、それくらいの責任はあると思う!」

 

 前に、あこちゃんから聞いた。自分のセッションの時も、一人の男性があこちゃんを受けさせるよう友希那さんと喧嘩してたって。その時の男性も、内田さんだったのかな……

 

「あこちゃん、今すぐに、答えは出せない……から、今日の夜、また話そう?」

「うん! りんりんもいきなりの事だから、整理しないといけないしね! 分かった!」

 

 そう言ってわたし達はお店を出る。

 支払いをしようとした時、既に代金は支払われていたようで、恐らく内田さんが払ってくれたのだろう。

 

 ――今度、返さなきゃ……

 

 わたしはあこちゃんと別れ、家に帰ると、自室に戻り布団に飛び込んだ。

 

 ――友希那さん達のバンドはレベルが高い……いくらコンテストで優勝経験があるからといっても、わたしが力になれるとは思えない……でも……

 

 それでも弾きたい。そう思ってしまう。

 

『やりたいことが出来ないのと、自分の気持ちに正直になるの、どっちが楽だと思う?』

 

 そんな時、彼の言葉を思いだす。

 わたしは起き上がり、あこちゃんから貰った動画を開いて、ピアノに座る。そして動画を再生して、一気に弾き始めた。

 

 ――やっぱり、楽しい……! この演奏を、生で感じたい……!

 

 心の底からそう思えた。

 そこからは早かった。わたしはすぐにあこちゃんに連絡して、自分の気持ちを伝える。

 

『もしもーし、りんりーん!』

「あこちゃん、わたし、決めた……わたし、バンド入るよ……!」

『りんりん……』

「家に帰って、もう一度よく考えたの……そしてピアノを弾いて、改めて実感した……わたし、あのバンドに……はいり、たい!」

『分かった! じゃあ、奏さんにそう伝えとくね! じゃあ早速NFOやろっか!』

「うん」

 

 ――彼の言葉の通り、自分に素直になってみよう。そしたら少しは、変われるかな……

 

 そう思いながら、私はPCを起動させるのだった。



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第十三話 実力

『奏さん! りんりん、やる気になってくれました!』

 

 夜、ギターを弾いている俺のスマホにあこからメッセージが来た。

 

 ――案外早かったな……せめて明日くらいまでかかると思ってたんだが、それ程演奏していて楽しかったんだろう。

 

『分かった。白金には次の練習がある日に来るよう言っといてくれ。何なら一緒に来ても良いぞ。ありがとな、あこ』

 

 ――役者は揃った。あとは友希那達がアイツの実力を目の当たりにするだけだ。

 

 俺はギターをスタンドに立て、地下室の電気を消そうとする。その時、一つの写真立てが目に入る。

 その写真には中学の時の俺と、一人の男性がギターを持って笑っている姿が映っていた。

 

 ――先生。俺のやってる事は、正しいんでしょうか……。

 

 その写真に問いかけても、答えは返ってこない。

 

 ――そう言えば、そろそろだな……

 

 俺は電気を消し、地下室を後にした。

 

 

 ――――――――

 ―――

 ―

 

 翌々日。

 

 今日は白金がセッションをする日だ。

 俺とリサ、友希那は先にCiRCLEに入り、氷川、あこ、白金を待っていた。

 

「それにしても、本当に白金さんがやる気になってくれるなんてぇ~。奏、何言ったの?」

 

 リサは俺に聞いているが、どこか棘を感じる。何だろう、白金が来るって分かった昨日からずっとこんな態度だ。教室にいても、どこか素っ気ないし、日菜は「なんかるん♪って来ない……」とか言ってたし。

 

「別に俺は何も言ってねぇよ。てか、どうしてそんな素っ気ないんだよ。俺お前に何かしたか?」

「別に、してないけど……」

 

 俺が言うと、尻すぼみで返してくる。何だろう、可愛いと思ってしまう。

 

「こんにちはー!」

「お待たせしました」

 

 するとCiRCLEにあこ、氷川、それから白金が来た。白金は相変わらずおどおどしている。

 

「は、はじめ……まして……。白金、燐子……です」

「私は湊友希那。奏から聞いていると思うけれど、あなたの実力を見たいわ。早速だけど、セッションして大丈夫かしら」

 

 友希那は白金の前に立ち、面と向かって話す。

 最初はたじろぐ白金だが、覚悟を決めたようで、強く頷く。

 友希那は月島さんに鍵を受け取ると、スタジオに入る。それに釣られて全員入り、それぞれ準備を始める。

 

 ――……一言声かけてやるか。

 

「白金」

「は、はい……」

 

 緊張しているのだろう。手が震えている。

 

「……大丈夫だ。コンクールの時の様に、お前の力を見せてやれ。いつも通りで良い」

 

 俺の言葉が響いたかどうか知らないが、白金の顔つきが変わった。

 そしてキーボードの前に立つ。

 

「準備は良いわね。曲は――で行くわよ」

 

 あこのフォーカウントから始まり、全員の音が一気に鳴る。

 その時、俺の身体全身に電流が走ったような感覚に襲われた。

 

 ――な、なんだよ、コレ……

 

 聞いた事がない。ここまで重なり合う波長。滑らかな旋律。キーボードという新たな歯車が入ったことにより、より力強く動き始めた友希那というエンジン。

 

 ――これは、化けるな……

 

 俺はそう思いつつ、静かに曲を聞いた。

 

 ―――――――

 ―――

 ―

 

 ――な、なんなの……こんな偶然が二回も……

 

 歌い終わると、私、湊友希那は驚愕していた。

 始めは私と紗夜しかいなかったバンドだが、そこにリサとあこが加わり、そして今、白金燐子という新たな歯車が加わった。

 あことリサが入った時も、身体に電流が流れるような感覚に覆われたが、今回の電流は前回とは比べものにならない……

 

『彼女なら、お前達の音に、更なる力を与えてくれるだろう』

 

 私はファミレスでの奏の一言を思いだした。

 

 ――まさかここまで力強くなるとは……そう言えばあの時も……

 

『――ベースなら、丁度良いのがそこにいるじゃねぇか』

 

 ――あの時も、奏の一言で今の音が完成した……

 

 私は奏を見る。彼は拍手をして私達に賞賛の言葉をかける。

 

 ――奏……あなたは一体何者なの……この十年、何があったの……

 

 私は、そんな思いを奏に抱き始めた。




いつも「六人目の青薔薇」を読んで頂き、誠にありがとうございます。

今日まで毎日投稿をしておりましたが、私情により、投稿のペースが遅くなります。

いつも楽しんで読んで頂いている方には大変ご迷惑をお掛けしますととともに、これからも今作品を、宜しくお願いししたい所存でございます。

また何かありましたらご連絡いたします。


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第十四話 新バンド結成

 結果は予想外。あそこまで絡み合うとは思わなかった。

 俺は賞賛の拍手と言葉をかける。

 

「すげぇよ。まさかここまでになるとは思わなかった」

「お、奏がべた褒めだねぇ」

 

 リサが嬉しそうに反応する。

 

「さて、友希那……友希那?」

 

 俺は友希那を見ると、何か考えている様な表情を取った後、意味ありげな目で俺を見てきた。

 

「湊さん、どうかされたのですか?」

 

 そんな友希那に、氷川が声を掛ける。

 

「え、ああ、ごめんなさい。それで、結果なのだけれど……」

 

 友希那は白金の前まで行き、手を差し伸べた。

 

「燐子。合格よ。今日からあなたは、このバンドのキーボードとして、このバンドに死力を尽くしてもらうわ。みんなもそれで良いわよね」

 

 友希那が残り三人に確認するも、全員頷く。

 

「さぁ、FWFの予選まであと半年。それまでに経験を積むわよ」

 

 友希那が言った時、白金の動きが固まった。

 

「FWFって、確か……」

「音楽の最高峰を決める大会、FURTURE WORLD FES.。私達はそこで頂点を目指す為にバンドを組んだの。あこや奏から聞いていないのかしら?」

「い、いえ……何も……」

 

 白金がそう言うと、友希那が俺を睨む。仕様がないだろ、説得することに手いっぱいだったんだから。

 

「そ、そんな……私……」

 

 すると白金はおどおどしてしまい、お得意の気弱な白金が出てきてしまった。それを友希那は呆れたように言う。

 

「無理なら良いわ。他のキーボードを探すだけだから。というか、そこにいる奏にやって貰うだけだわ」

「わ、私……」

 

 すると、白金から今まで聞いたことのない声が聞こえた。

 

「私、弾きたいです! このバンドで……キーボードを弾きたいです!!」

 

 白金の声が、スタジオに響き渡る。

 友希那はそれを聞いてフッと笑い、白金の加入を認めた。

 

「紗夜、リサ、あこ、燐子。私達は頂点を目指す為、どんな努力も惜しまないわ。あなた達にその覚悟はある?」

 

 友希那がみんなに問う。その答えに全員が頷いた。

 

「なら決まりね、私達、バンド結成よ!」

「そうなると、バンド名決めないといけませんね」

 

 紗夜が言う。ここから先は友希那達が決める事だ。お役御免の俺はそっとスタジオを出ようとする。

 

「奏、待ちなさい」

 

 だが、友希那に止められた。

 

「どうした友希那。俺はキーボードを連れてきた。もう俺はお役御免だろ」

「そうはいかないわ。このバンドは、少なからずあなたも関わって来た。あなたもこのバンドの一員よ」

「一員って……もう全部埋まったじゃねえか。他に何やれってんだ」

 

 すると友希那は先程同様、フッと笑う。

 

「……あなたに、このバンドのマネージャー兼技術指導をお願いするわ」

 

 友希那がそう言った時、俺は昔の事を思いだした。

 

『なぁ、バンド組まね?』

『俺達にギター、教えてくれよ!』

『あ、俺にドラムを教えて貰っても良いか?』

 

 最初は嬉しかったのに……

 

『もう、お前には付いて行けねぇわ』

『一人でやってくれよ』

『これだから天才は……』

 

 そう言って、また離れていく……

 

「――で、奏!」

「――っ!」

 

 友希那の声で現実に戻される。

 気付いたら血が出そうなほど手を握りしめていた。

 

「奏、どうかした?」

「い、いや……」

 

 心配そうな表情をしてリサが近付く。

 

「それで奏、答えを聞きたいのだけれど」

 

 答えは決まってる。

 

「……悪い。俺はもうバンドに関わる気はない。ごめんな……」

 

 自分でもわかる。力のない返事をして、スタジオを出て行った。

 

 ――もう、あんな思いはしたくない。音楽なんて、一人で楽しめばいいんだ……俺が深く関われば、また()()()()。これくらいが丁度良いんだ。

 

 俺はそう心に決め、CiRCLEを後にした。



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第十五話 幼馴染の想い

 奏が帰ったあと、静寂が訪れるスタジオ。

 アタシはさっき奏が言っていた事を思いだす。

 

『……悪い。俺はもうバンドに関わる気はない。ごめんな……』

 

 ――奏……一体何があったの? アタシ達と別れた後、何が奏を変えちゃったの……?

 

 昔は楽しそうにギターを弾いていた奏。でも、奏のおばさんに聞く話によると、今はそんな楽しそうに弾いていないと言う。

 この十年、何が奏を変えたのか知りたい。それは恐らく、友希那も一緒の筈。

 アタシは友希那を見ると、奏が出て行った出口をずっと見ていた。

 

「……湊さん、取り敢えず今日は終わりにしましょう」

「……そうね」

 

 紗夜がそう言うと、友希那達は片づけを始める。アタシもそれに続いて自前のギターをギターケースにしまう。

 

「あ、あの! 結局バンド名ってどうするんですか?」

 

 するとあこが話を変えてくれた。

 

「そうね。みんな、良いのある?」

「う~ん、いきなり言われても難しいかなぁ~」

「そうですね。考えてもいませんでした」

 

 全員が唸る。

 

「では、一人一つ考えてきて。そして明日聞かせて頂戴」

 

 そう言ってアタシ達は解散となり、アタシは友希那と帰る。

 

「……ねぇ、友希那」

「どうしたのリサ?」

 

 アタシは前々から思ったことを聞いてみる。

 

「どうして、そこまで奏に拘るの?」

 

 奏が帰ってきてから、友希那は所構わず奏をバンドに誘う。学校でも、登下校時も。

 確かに、奏がいればもっと良くなると思うし、それこそ技術指導だったら、もっと上手くなるかもしれない。でも、どうしてそこまでして奏を誘い続けているのか分からなかった。

 

「奏自身、バンドには関わりたくないって言ってたし、これ以上――」

「リサ」

 

 アタシの言葉を、友希那は遮る。

 

「このバンドを組むとなった時、おかしいと思わなかったの? 奏はあなたのベースの音を聞いた事ないのにも関わらず、あなたを推薦した。今回の燐子の件もそう。小学生の頃の音は聞いた事あっても、今の音は嘗ての音と同じだとは限らない。でも奏は燐子を推薦した。そしてこうなる事を確信してた」

 

 言われてみれば、奏はアタシがベースをやったことがあるって知らなかったのに、アタシの手を握っただけでそれを見抜いた。

 燐子の件も、奏は「更なる力を与えてくれる」といって、その結果、本当になった。

 

「私の勘だけれど、恐らく奏はこの十年で、何かあった筈なのよ。それはリサも感じているでしょ?」

「う、うん……」

「私はまだ、奏がバンドを完全に嫌っているとは思えない。じゃなかったら、ここまでメンバー集めに手を貸してくれる筈ないわ。それに、奏のその()()()()も知りたい。だから私は奏を誘い続けてるの。そしていつかは、あの頃の奏に戻って欲しい。私達の好きな奏に」

 

 アタシ達は奏が好きだ。幼馴染としてもそうだが、異性としても。だから、先程の奏を見ていると、すごく胸が締め付けられるほど痛くなる。

 大好きな幼馴染で、恋敵の友希那がこう思っているんだ。なら、アタシの答えも一つしかない。

 

「分かった♪あたしも手伝うよ、友希那♪」

「あらリサ、無理しなくて良いのよ? そしてそのまま奏を諦めても良いわよ?」

「おっ! 友希那が珍しく煽るね~。アタシだって負けないからねっ?」

 

 ――奏。アタシ達が絶対、奏を助けるから。だから、待ってて。

 

 アタシ達は夕日に染まる帰路を歩いて行くのだった。



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第十六話 その名もRoselia

『あなたに、マネージャー兼技術始動をお願いするわ』

 

 夜、ベッドに仰向けになっている俺の脳内に友希那の一言が駆け巡る。

 

『……悪い。俺はもうバンドに関わる気はない。ごめんな……』

 

 俺はあの日から、バンドに関わる事を止めた。一人でやっていた方が楽しい。そう心に誓った。

 けど、友希那の奴は絶対に諦めないだろう。しつこく誘ってくる筈だ。

 だからといって、俺は自分の過去を話そうとは思わない。俺が何かあったなんて、アイツらには関係ない事だ。

 俺はカレンダーを見る。二週間後の日曜日に赤く丸されており、二周忌と書かれていた。

 

『お前の音、面白いな! 俺にもっと聞かせてくれよ!』

『お前が悪いんじゃない。お前の音を誰も理解できていないだけだ。だけど、必ずお前の音を必要としてくれる人がいるさ』

 

 あの時の出来事が鮮明に蘇る。

 

「先生……」

 

 気付くと俺は涙を一筋流していた。

 そして俺は、そのまま眠りについたのだった。

 

 ―――――――

 ―――

 ―

 

 翌日――。

 

 アタシ達はCiRCLEで練習した後、近くのファミレスで昼食を取っていた。

 その名も、バンド名発表会。

 

「それで、みんなが考えてきた名前を聞きたいのだけれど」

 

 食事も終わり、友希那が本題に入った。

 食器も片付けられ、今はグラスしかない。

 

「私は一晩考えたのですが、あまり良いのが浮かびませんでした」

 

 紗夜が申し訳なさそうに言う。正直、アタシも良いのが浮かばない。

 

「あこは考えましたよ! 闇の使者が舞い降りる……その名も「ダークエンジェル」!」

 

 ダークエンジェル……あこ的にはカッコいいかもしれないけど、バンド名だとどうかな~……

 

「カッコいいかもしれないけど、長く続けていく上でその名前は厳しいわね」

 

 友希那もそう言っている。

 

「じゃあ友希那さんはなにか考えてきたんですか?」

 

 ちょっと不満そうなあこが、友希那に聞く。確かに、アタシも少し気になるかな~

 

「私も考えてきているわよ。「Roselia」。どうかしら?」

「Roselia……? 聞いた事ない言葉ですね。造語ですか?」

 

 アタシも聞いた事がない。紗夜が友希那に聞いた。

 

「えぇ。薔薇のRoseと椿のCameliaを合わせたの。強いて言うなら青い薔薇。私達にピッタリだと思わない?」

「Roselia……カッコいいですね! あこもそれに賛成です!」

「えぇ。私も特に異論はありません」

「アタシも良いかな~」

「わ、私も賛成です……。青い薔薇、花言葉は確か夢かなう、奇跡、神の祝福だったと思います……」

「奇跡かぁ。確かに、アタシ達にピッタリだね♪」

「じゃあ今日から、あこ達五人でRoseliaですね!」

 

 あこが笑顔で言ってきた。確かに、アタシ達は五人だが、友希那はそう思っていないと思う。先程の青薔薇の花言葉「奇跡」。この五人を巡り合わせたのは、間違いなく、彼だから。

 

「いいえ、あこ。まだ一人足りないわ」

「足りないって、まさか……」

 

 紗夜がもしかしてという顔で友希那を見る。そのもしかしてだ。

 

「えぇ。内田奏。彼を必ずRoseliaに入れるわよ」

「ど、どうして彼にそこまで拘るのですか? 正直、あの人がいてもいなくても変わらないと思います!」

 

 紗夜が友希那に少し声を上げて言う。だが、友希那は落ち着いて答える。

 

「本当にそうかしら? 燐子がRoseliaに入ったのも、奏があの時推薦しなければあり得なかったわ。それに、彼は音楽の天才。全ての楽器が扱えるのだから、的確なアドバイスだってもらえる筈。そんな彼を放っておくのは、もったいないと思わない?」

「天才……」

 

 紗夜が天才という言葉を聞いたとき、どこか苦虫を嚙み潰したような顔をしていた。

 

「だから私は何度でも彼を誘い続ける。彼に、Roseliaのマネージャーをやってもらうまで」

 

 こうなった以上、友希那の意志は固い。まぁ、アタシも友希那に賛成だけど。

 

「……分かりました。そこまで言うなら、私も何かしら手伝います」

「あこも手伝いますよ! 奏さんは少なくとも、あこのセッションに立ち会ってくれた人ですから!」

「私も……問題、ありません……」

 

 こうして、アタシ達はRoseliaとして結成され、奏をRoseliaのマネージャーに入れるべく、作戦会議を行うのだった。



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第十七話 怒り

「奏、Roseliaのマネージャーになってもらうわよ」

 

 そう言って俺の教室までやってくる友希那。

 あの日以降、友希那は俺に会うと必ずバンドに誘ってくる。

 

「友希那。何度言っても無駄だ。俺はバンドと関わる気はない」

 

 俺はそう突っぱねるが、友希那陣営に加勢してくる人物がもう一人。

 

「頼むよ奏~。バンドとして見なくても、せめて指導だけ……」

 

 そう。もう一人の幼馴染、リサだ。

 

「リサ。指導の件もお断りだ。俺はお前達のメンバーを揃えるまで関わってしまったが、これ以上関わる気はない」

「でも、この間のライブ見に来てくれたじゃん!」

 

 ――こいつ、見てやがったのか……

 

 実は先日、Roseliaを結成して初めてライブを行った。俺はそれを気まぐれで見に行ったのだが、まさか見つかっていたとは……

 

「あれは単なる気まぐれだ。とにかく、俺はバンドに関わる気はない」

 

 そう言って俺は立ち上がり、トイレに行くため教室を出ようとする。

 

「あ、そうだ」

 

 俺は二人に言い忘れていた事を思いだし、足を止める。

 

「俺なんかより、自分のメンバーの方を気にした方が良いんじゃないのか?」

 

 それだけを言い残し、俺は今度こそトイレに行くのだった。

 

 ―――――――――

 ――――

 ――

 

 私達は今日も奏をメンバーにするべく、奏を誘い続ける。しかし……

 

「俺なんかより、自分のメンバーの方を気にした方が良いんじゃないのか?」

 

 奏はそう言って、教室を出て行く。

 

 ――自分のメンバーを気にする? 一体どういう事かしら……

 

 私は奏の言葉が頭に残った。リサを見ても、何だか分からないような顔をしている。

 私達は奏が言った事を疑問に思いながらも、練習するためCiRCLEに向かう。

 

「やっほ~♪」

「こんにちは」

 

 私達がCiRCLEに入ると、中には既に全員いた。

 

「こんにちは、湊さん、今井さん」

「友希那さん、リサ姉、やっほー♪」

「こ、こんにちは……」

 

 三人を見るが、特にこれといって変わった様子はない。

 

「取り敢えず、練習を始めるわよ」

 

 私達はスタジオに入り、いつも通りに練習する。

 数十分後――。

 

「いったん休憩にするわ」

 

 そう言って汗を拭くもの、飲み物を飲むものが現れる。

 

 ――やっぱり、奏の指導が必要ね。今のままでも悪くはない。けど、更なる高みを目指すには、奏のような――

 

 その時だった。

 

「いい加減にしてよ!!」

 

 突然、紗夜が叫んだ。

 

「お姉ちゃんお姉ちゃんって何なのよ! 憧れられる方がどれだけ負担に感じてるか分かってない癖に!!!!」

「紗夜……?」

「何でも真似して! 自分の意志はないの!? 姉がすることが全てなら、自分なんていらないじゃない!!」

 

 そう言って力強く拳を握る紗夜。一体何があったのかしら。

 

「紗夜、もしかしてヒナの事……」

「――っ!」

 

 日菜。私には誰だか分からないけど、恐らく紗夜と何か関係がありそうね。話からして、妹かしら。

 

「すみません。今日は上がらせていただきます」

 

 紗夜はそう言って荷物をまとめ、スタジオを出て行った。

 あこは涙を浮かべ、リサがそれに寄り添い、燐子は紗夜を心配しているかのような表情を浮かべていた。

 

 ――紗夜も何か、邪な理由で……

 

『俺なんかより、自分のメンバーの方を気にした方が良いんじゃないのか?』

 

 その時、奏の言葉が蘇る。

 

 ――まさか、奏はこうなる事を……!

 

 気付くと私は荷物をまとめていた。

 

「ゆ、友希那?」

「みんな、早く帰る支度して!」

「え、でも練習は……」

「今日は終わり。取り敢えず話を聞きに行く人物がいるわ。あこと燐子も準備しなさい」

「会いに行くって、誰なんです?」

「決まってるじゃない――」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――奏の所よ。



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第十八話 全てを知るもの

 スタジオを出ると、私達は奏の家に向かって走り出した。

 

「友希那。どうして奏の所に行くの?」

「リサ。今日の奏の会話覚えてる?」

「確か、バンドの方を気にした方が良いって……まさか!」

 

 リサも感づいたのか、驚いた表情をする。

 

「えぇ。そのまさかよ。恐らく奏はこうなる事を予測していた。バンドのメンバーは、紗夜の事だったんだわ」

 

 そう言って話していると、奏の家の前についた。

 燐子は運動が苦手なのか、もの凄く息を切らしている。

 

「行くわよ」

 

 私はインターホンを押す。すると出てきたのは奏のお母さんだった。

 

「いらっしゃい、友希那ちゃん、リサちゃん、それから後ろの二人も」

「こ、こんにちは……」

 

 燐子とあこは挨拶をする。

 

「おばさん。奏は?」

「奏ならいつもの場所よ」

「ありがとう。失礼します」

 

 そう言って私達四人は中に入って行く。目の前には二階に上がる階段があるが、そこを通りすぎる。

 

「あれ、友希那さん。いつもの場所って、奏さんの部屋じゃないんですか?」

「いいえ。奏は別の場所にいるわ」

 

 あの部屋に繋がるハッチを見つけると、私はそこを開ける。

 

「二人とも、驚かないでね~」

「う、うん……」

 

 開いたハッチに、私達は下りていく。扉を開けるとそこには背中を向けてギターを弾いている彼の姿があった。

 

「す、すごい……」

「普通の一軒家に、こんな地下室があったなんて……」

 

 初めて見た二人は驚愕で固まってしまった。

 そんな二人を置いて、私は彼の後ろに立つ。

 

「来るとは思っていたが、まさかこんなに早く来るとは思ってなかったよ」

 

 そう言うと立ち上がり、ギターをスタンドにおいて、こちらを振り向く。

 

「説明してもらうわよ、奏」

 

 ―――――

 ―――

 ―

 

 いつかは来ると思っていた。それが今日だとは思っていなかったが……

 

「説明してもらうわよ、奏」

 

 友希那は真剣な目でこちらを見る。まぁ、ヒントを与えたのはこちら側だ。話す義理はあるな。

 

「取り敢えず、上に行こう。あこ、白金、後でゆっくり見させてやるから帰って来い」

 

 固まっていた二人を呼び戻し、俺達五人は上に上がる。

 リビングに入ると、お袋は既に五人分の飲み物を用意しており、テーブルの上に置かれていた。

 そして俺は一人用ソファーに、四人はその左右に向かい合うように置いてある二人用ソファーに座る。

 

「奏。あの言葉は、紗夜の事を言っていたのね?」

「あ、あの……話が見えないんですけど、何かあったんですか?」

 

 何も知らないあこが申し訳なさそうに聞いてくる。

 

「あ~あこ達は何も知らなかったね。実は――」

 

 そう言ってリサは今日の出来事を話す。その話を聞いた時、あこを白金は目を見開いてこちらを見ていた。

 

「さぁ、話して頂戴」

「その前に何があった。それが分からなきゃ話そうにも話せん」

 

 すると珍しく、あこが話し始めた。今回の要因はあこだったらしい。

 

「実はあこ、お姉ちゃんに憧れているって言って、お姉ちゃんの様になりたいって言ったんです。そしたら……」

「氷川が爆発した、そう言う事か」

 

 俺が言うと、あこはコクリと頷く。

 

 ――やっぱり、予想通りだ。

 

 俺は深く深呼吸をすると、ゆっくりと口を開いた。

 

「そうだな。まずは、ある双子の姉妹の話をしよう」

 

 これから語られるのは、姉に憧れ、姉の真似をするも、何でもそつなくこなしてしまい、姉はそんな妹に劣等感を抱き拒絶し、終いには距離まで開いてしまった姉妹のお話。



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第十九話 双子の姉妹

「ある所に、双子の姉妹がいました。姉は努力家で、何をやるにも一生懸命でした。妹はそんな姉の事が大好きで、姉に憧れ、姉がやってきた事を真似するようになりました。ですが妹は何をやってもすぐに飽きてしまいます。何故なら、姉がやって来たことを全て簡単に成し遂げてしまうからです。そんな妹ですが、大好きな姉と同じことがしたいため、姉が新しいことを始めると、妹も真似て始めます。いつからか双子は、比べられるようになってしまいました。姉はそんな妹に、劣等感を抱き始めました。周りは妹の事を『天才』と称したのです。そして二人は高校生となりました。そんなある日、姉が妹に言いました。もうあなたと比べられるのはうんざり、と。そこから姉と妹の間に溝が生まれました」

「その姉妹って……」

 

 リサが恐る恐る聞いてくる。恐らく、感づいたのだろう。

 

「双子の姉、氷川紗夜とその妹、氷川日菜だ」

 

 俺が二人の名前を言うと、全員固まってしまった。

 

「どうして奏がそこまで知っているのかしら?」

 

 不思議に思った友希那が、聞いてくる。まぁ、当然だろう。

 

「この話を知ったのは偶然だけどな。先日、お前達のライブを見に行った帰りだった」

 

 俺は当時の事を話し始めた。

 

「ライブが終わった後、俺はギターの弦を買いに江戸川楽器店に寄ったんだ。その時、一つのフライヤーが目に入った。そのフライヤーには、新しく結成されたアイドルバンドが映っていた。バンド名はPastel*Palettes。リーダーの丸山彩を中心に、モデルの若宮イヴ、女優の白鷺千聖等が所属していた。その中に、とある人物の名前を見つけたんだ。その人物の名前は、氷川日菜」

 

 ―――――――

 ―――

 ―

 

 バンドを見に行ったその日の夜。俺は一人の人物に電話を掛けた。

 

『もしもしかー君? どうしたの?』

「悪いな日菜。こんな時間に」

 

 

 Pastel*Palettes、通称パスパレの一人、氷川日菜だ。

 

「大したことじゃないんだが、ちょっと聞きたいことがあってな」

『なに? 彼氏ならいないよ?』

「んな事に興味はねぇ。お前、アイドルだったのか?」

『あれ? 何で知ってるの~? あ、フライヤーか!』

 

 電話でも能天気さは変わらない。

 

「そもそもお前、ギター弾けたのか?」

『ギターなら始めたばっかりだよ? 元々おねーちゃんが弾いてたから、あたしも弾いてみたいとは思っていたけど』

「お姉ちゃんって、氷川紗夜の事か?」

『あれ? おねーちゃんの事知ってるの?』

「ちょっとな。それで、何でアイドルなんかに?」

『なんかるん♪ってきたから、何となくオーディションを受けただけ。そしたら受かっちゃった♪』

 

 この時俺はこう思った。氷川日菜、彼女はもしかして天才なんじゃないかと。

 よくよく考えてみると、普段の授業の風景を見ても、ノートを取っている様子はあまり見られない。だが、名指しされ黒板に答えを書きに行くと、その答えは完璧だった。

 

 ――まさか俺と同じ……いや、まだ確証はない。

 

「日菜、明日時間あるか?」

『あるけど……何で? デート?』

 

 俺は純粋に思った。

 

「お前のギター、聞かせてくれ」

 

 彼女の音が聞いてみたいと。

 

 ―――――――

 ―――

 ―

 

「そしていざ日菜の音を聞いたらビックリ。あいつは本当の天才だった。一度弾いたものを自分の物にしやがる」

「わお! まるで奏みたい……」

 

 俺の言葉にリサは驚いているが、実際の所は違う。

 

「確かに、はたから見れば俺と同類だと思うだろう。だけど、俺と日菜は違う」

「違う? 話を聞いた限りだと、奏さんとひなちんは同じ様に聞こえますけど……」

「話を聞けばな。俺と日菜との決定的な違い。それはコピー能力だ」

「コピー、能力……」

「俺の能力は一度聞いたものを全く同じに真似することが出来る。その人の音色からメロディまで。でも日菜はそれが出来ない。というか、普通は出来る筈がない」

「どうして?」

 

 疑問に思ったのか、全員が首を傾げる。

 

「その話は今度聞かせてやる。そんな事より、今は氷川だろ。今の話を聞いて、どう思った」

「どうって、言われても……」

 

 あこは俯く。

 

「姉妹の問題に、首は突っ込めないわ」

 

 友希那はそう言う。だが――

 

「そうは言うが、このままだと氷川は潰されるぞ。妹という壁に」

 

 その発言に、友希那も俯いてしまう。

 

「――――はぁ」

 

 正直言って、この話は俺にとって既に船に乗ってしまっている。

 

 ――もうバンドとは関わらないって言ったんだけどな……

 

 だが、ここまで来てしまっては後には引けない。そう思った俺は友希那にこう告げる。

 

「これで最後だ」

「――え?」

「今回の件、持ち込んだのは俺でもある。氷川の件は俺に任せろ。そして、これで最後にしてくれ」

「……」

 

 友希那は腕を組み、黙って目を瞑る。

 悩んでいるのだろう。仲間を潰してまで俺を誘い続けるか、勧誘を最後にして、ようやく見つけたメンバーを取るか。

 

「……分かったわ」

「友希那……」

 

 重々しく口を開く友希那。そんな友希那を心配するリサ。

 

「その代わり約束して。必ず、必ず紗夜を救うと」

 

 友希那は俺の手に自らの手を添え、言ってきた。

 

「あぁ、任せろ」

 

 そう言って俺は友希那の手を握るのだった。

 

「次のライブは何時だ?」

「二日後よ。CiRCLEでやるわ」

「って事は、一日しかないか。ぶっつけ本番になるけど、それでもいいな?」

「えぇ。手段は問わない。あなたに任せるから」

 

 こうして俺は、最後の仕事に取り掛かる。

 

 ――氷川紗夜。お前に巻き付いているその鎖、俺が断ち切ってやる。



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第二十話 妹の存在

 友希那達と約束した次の日の放課後。白金と連絡を取り、まだ花女に氷川がいると知った俺は待ち伏せをするため、花女の校門前で待っていた。

 途中、猫耳みたいな髪をした女の子が俺の方を見て何か言ってたが、無視してやった。うるさい。

 まぁ、女優の白鷺千聖がこの学校の生徒だと知った時は驚いたが。

 そうこうしている内に、氷川が昇降口から出て来るのが見えた。

 

 ――これで最後なんだ。いい結果で終わらせよう。

 

「よう」

「内田、さん……」

 

 校門から出てきた氷川に、声を掛ける。

 

「どうしたんでか?」

「ちょっと、お前と話したくてな」

「すみません。今日は練習があるので」

「悪いが、お前には休んでもらう。このままだと、明日のライブで足を引っ張るぞ」

「何ですって……?」

 

 俺の言った言葉に苛立ちを覚えたのか、睨みを利かせてくる。

 

「別に悪い様にはしない。まぁ、俺の話を聞いてどう思うのかは、お前の勝手だけどな」

 

 暫く氷川は黙るが、何を思ったか、俺に付いてくることになった。

 

「分かりました。お話、お聞かせください」

「了解した。ここじゃあれだし、近くのファミレス寄るか」

 

 そう言って俺達は花女を後にした。俺はスマホを取り出し、リサにメールを打つ。

 

『取り敢えず誘い込むことには成功した。あのファミレスで行う』

 

 実は今回の話は、遠くでリサ達にも聞かせるつもりだ。そうすれば、少しは氷川の気持ちも分かるだろうと思って。

 するとリサから返事が来た。

 

『リョーカイっ! じゃあアタシ達は後から入るね☆』

 

 内容を確認した俺はスマホをしまい、目的地まで歩くのだった。

 後から聞いた話だが、花女の氷川紗夜には羽丘の彼氏がいると噂になっていたそうだ。なんかごめん。

 

 ――――――

 ―――

 ―

 

 ファミレスに着いた俺達は席に座り、取り敢えずドリンクバーを注文しておく。

 

「それで、話とは何ですか?」

 

 ドリンクを取りに行くと、氷川は直ぐに聞いて来た。すると丁度良いタイミングでリサ達が入店してきて、氷川の後ろにバレない様に座った。

 

「そうだな……単刀直入に言う」

 

 俺は一呼吸置き、氷川の目を見て言い放った。

 

「お前は、何に怯えてる」

「――っ!」

 

 すると氷川の目が見開き、固まってしまった。

 

「お前の演奏をずっと聴いてきた。初めて聴いたのはお前が友希那とバンドを組んだ日だ。あの時からお前の音に違和感を感じていた。自分らしさがない、どこか焦っているように思えた。Roseliaの四人にはそれぞれ色を持っている。紫に輝く湊友希那。それを支える赤の今井リサ。力強さ見せつけるピンクの宇田川あこ。全てを照らす白の白金燐子。だが、お前には色がない。無色透明だ。周りは判らないかもしれないが、俺にははっきり判る。そして、その原因もな」

「原因……ですか?」

 

 氷川が恐る恐る口を開く。

 

「妹である、氷川日菜の存在だ」

「――っ!」

「いつも自分の真似ばかりをして、そつなくこなしてしまう日菜が、憎たらしかった。なぜこんなにも努力しているのに、真似ばかりする妹だけ簡単にこなしてしまうのか。そしていつの間にか比べられ、妹に劣等感を抱いてしまった。違うか?」

 

 氷川は何も言わずただうつむいている。だが、こちらの話は聞いているようだ。

 

「そんな日菜でも、未だに手を出していないジャンルがある。それが音楽だった。いくら天才でも、音楽だけはそう簡単に真似できないだろう。そう思ったお前はギターに手を伸ばした。だが、結果は残酷だった」

 

 氷川の手が強く握られているのを感じた。

 

「その日菜もつい先日、音楽に手を出した。しかも、お前と同じギターをな。そしてまた、追い越されるんじゃないかと、思ってしまった」

「仕様がないじゃないですか……」

 

 すると氷川は漸く口を開いた。

 

「日菜に何をやらせても私を越してしまう。そんな妹に、劣等感を抱くのは当たり前じゃないですか!」

「……」

「何で日菜なんですか……! どうして私がしてきた事を奪っていくんですか! どうして私が、こんな思いを……」

 

 氷川は肩を震わせる。

 

「私にはもう、ギター(これ)しかないんです……。これを奪われたら、私は……」

 

 涙を流す氷川。こんな氷川に俺は、言い放った。

 

「何も無くなると? 笑わせんな」



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第二十一話 氷川紗夜の音楽

謝罪とお詫び、これからの活動について

先日、読者の方からコメントを頂きました。
内容は、他の作者様の作品と主人公の名前が被っているとの事でした。その事につきまして、ご説明いたします。

当初、この作品を作っていく上で、当主人公の名前はパッと浮かんで来て付けた名前でした。ですが、その名前は他の作者様の作品で既に使われており、読みは違うものの、漢字が全く一緒だという事を教えていただきました。
この作品の主人公と、名前が被ってしまった作品の主人公は全くの別人であり、決して真似したとか、そういうことは一切ありません。
そのせいで、沢山の読者様に混乱とご迷惑をお掛けしたことを、心からお詫び申し上げますと共に、謝罪させていただきます。大変申し訳ございませんでした。

この件につきましては、既に話が付いており、お許しを得ました。
いざこざがあったとか、決してそのような事は起きていないので、ご安心ください。

そしてこれからの活動ですが、活動報告にて載せておくので、そちらもご確認ください。


これからも当作品と、黒い野良猫をよろしくお願いいたします。


「私にはもう、ギター(これ)しかないんです……。これを奪われたら、私は……」

「何も無くなると? 笑わせんな」

 

 すると氷川は涙目でこちらを睨む。

 

「あなたに何が分かるんですか! あなたは何でも楽器を弾けるんですよね!? 要はあなたも日菜と同じ天才じゃないですか!」

「お前、中学の時からギター弾いてんだろ? センスはあるのに、まだまだド素人だな」

「天才のあなたからしたら凡人の私なんてまだまだド素人ですよ!!」

「そんな事を言っているから、ド素人なんだよ」

 

 俺は一旦落ち着こうと、グラスに入っているジュースを一口飲む。

 

「ふぅ。良いか氷川。確かに日菜は天才なのかもしれない。実際、アイツの音を聞いた。始めて数日しか経ってないのに、あそこまで弾けるのは大したもんだ。でもな――」

 

 俺は氷川の目を見て、言い放った。

 

「音楽において、氷川日菜が氷川紗夜を超えるなんて、絶対ありえない」

 

 すると氷川は信じられないと言っているかのように目を見開いた。

 

「どうしてそんな事が言えるんですか」

「勉強とかは確かに超えられるかもしれないが、音楽で特定の人物を超える事なんて出来ないんだよ」

「でも実際、日菜は私を――」

「良いから話を聞け。俺達人間には、一人一人個性を持っている。その個性は絶対に被る事はない。被ってしまっては、個性とは言えないからな」

 

 氷川は黙って俺の話を聞く。奥にいるリサ達もそうだ。

 

「それは音楽においても同じ。音楽にも、人それぞれの個性がある。同じ楽器で、同じ曲を弾いたとしても、その人と被る事は絶対にない。更に言ってしまえば、日菜がお前を真似している時点で、超すことは出来ないんだよ」

「真似をしている時点で……ですか?」

「あぁ。良いか。この際はっきり言わせてもらう。真似事は所詮真似事だ。真似をしている時点で、オリジナルを超えるなんて絶対にありえない。それはあこにも言える」

 

 すると氷川の奥で向かい合っているあこと目があった。

 

「あこも確か、姉に憧れてドラムをやり始めたといっていたな。憧れることは別に悪い事じゃない。素晴らしい事だ。でも、姉の様になりたい。それはつまり姉を真似ているのと同じだ。その時点で、あこは姉を超える事なんて出来ない。本人はどう思っているか分からんが」

 

 奥であこは落ち込んでいる様に見えた。ここで名前を出して悪かったと思っているが、氷川を説得するうえで仕様がない事だ。

 

「よく音楽の世界でも、『この人は既に自分を超えました』とか言っているが、あれに深い意味はない。ただ自分がその人と比べて衰えてしまったと思い込んでいるだけだ。後は自信を付けさせる言葉でもあるけどな」

「わ、私は……」

「氷川。俺のさっきの質問の意味が分かったか? 何に怯えているのかって。今まで日菜はお前を越してきたのかもしれない。でも音楽では超すことは出来ない。なのにどうして怯えているんだ? そう簡単に日菜に越されると思い込むほど、自分のしてきた音楽はそんなもんだったのか?」

「そんな筈はありません! 私は、音楽に全てを……」

 

 最初こそは勢いある形で言ってきたが、後半は尻すぼみになっていった。

 そんな氷川に、俺は微笑んだ。

 

「なら、それでいいじゃねぇか」

「え……?」

「氷川紗夜は、氷川紗夜の音楽を貫き通せばいい。お前の音楽に、日菜は関係ないだろ? なら、追い越されるとか、そんな事思ってんじゃねぇよ。思っている暇があるなら、ひたすら自分を磨いて、Roseliaを頂点に導け。Roseliaのギターは、お前しかいないんだから」

 

 瞬間、氷川の頬に一つの涙が零れ落ちる。

 俺は立ち上がり、氷川の頭に手を乗せる。

 

「明日のライブ、楽しみにしてるぜ! ()()

 

 俺は手を放し、その場を後にする。帰り際、友希那達にこう言い残した。

 

「これで俺の仕事は終わった。ここからはどうするかはお前達次第だ。明日、お前達のライブを見に行く。最高の音を聞かせてくれよ、Roselia」

 

 そう言って俺はファミレスを後にした。

 翌日。俺はRoseliaのライブを見に行った。

 今日学校で日菜に「ありがとう」と言われたが、俺に心当たりはない。あるとすればそれは、紗夜が一歩踏み出しただけだ。

 次にステージに立つRoseliaを見る。するとそこには、無色透明だった前とはうって変わって、エメラルドグリーンに輝く氷川紗夜の姿があった。

 

 ――何だよ……こんな音、出せるんじゃねぇか……

 

 その音に迷いは無く、氷川紗夜を表している音が、ライブハウスを駆け巡った。



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第二十二話 母からの依頼

アンケートのご協力、ありがとうございました。

結果の通り、主人公を他のバンドと絡ませることにします。




 氷川紗夜が復活したライブから数日。あれから友希那は約束通り俺を誘わなくなってきた。誘わなくなってきたんだが……

 

「奏。明日も地下(スタジオ)借りていいかしら?」

 

 そう。CiRCLEが使えない日は俺ん家の地下を使うようになった。別に断る理由もないので貸している。

 

「別に良いけど、明日は俺いないから。一応お袋に言っとく」

「あら、何処か出かけるの?」

「ちょっと野暮用でな。機材の設置とか好きに使って良いから。壊さなければ」

「しないわよそんな事」

 

 そう言ってわざわざ俺ん家まで来た友希那を見送り、玄関を閉める。まぁ家が目の前だから良いんだけどな。

 

「お袋、明日Roseliaが地下使うらしいから案内よろしく」

「分かったわ。あなたも明日出かけるんでしょ? 早く準備しなさい」

「とっくに終わってる。後は向こうで必要な物を買うだけだよ」

 

 そう言い残し、俺は自室に戻った。

 翌日。俺は制服に身を包み、玄関を出る。

 

「じゃあ行ってくる」

「気を付けてね」

 

 お袋に見送られ、俺は近くの駅まで歩いていく。

 今日は日曜日。それに早朝もあってか駅にはまだ人が少ない。

 電車が来ると俺はそれに乗り込み、目的地を目指すのだった。

 

 

 ―――――――――

 ―――――

 ――

 

 

 朝。私達Roseliaは奏のスタジオを借りるべく、奏の家の前まで来ていた。

 

「揃ったわね。じゃあ行くわよ」

 

 全員が揃ったことを確認すると、私は奏の家のインターホンを鳴らす。

 暫くすると奏のお母さんが出てきて、私達を向かい入れてくれた。

 

「おばさん、奏は?」

 

 リサが聞く。

 

「あの子ならもう出掛けたわ。一時間くらい前にね」

 

 どうやら奏はもう家を出たらしい。一体どこに行ったのかしら。

 

「それより、奏から話は聞いているから。スタジオ、自由に使って」

「ありがとうございます」

 

 紗夜がお礼を言うと、私は地下に繋がるハッチを開ける。

 中に入り電気を付けると、既に機材がセットされていた。恐らく、昨日のうちに奏が準備してくれたのだろう。

 あの日の約束通り、紗夜の調子を戻してもらってから奏をバンドに誘っていない。でも、こうして奏は間接的に私達を助けてくれる。

 だから疑問に思う。どうしてここまで手伝ってくれるのに、バンドに関わりたくないというのか。

 

「湊さん? 私達は準備できましたけど……」

「あら、待たせてしまってごめんなさい。私もすぐに準備するわ」

 

 紗夜に声を掛けられ、ふと我に気づく。いけない。今はバンドの事に集中しないと。

 

「凄い! 奏さん、スネアの位置とかぴったりに設置してくれてる!」

「奏は一度覚えたらそれを覚えられるからね~。本当に羨ましいよ」

「内田さんは、記憶力がいいんですね……」

 

 気づけばみんな奏の話をしていた。

 

「はい、おしゃべりは終わり。練習を始めるわよ」

「オッケ~♪曲は?」

「最初はBLACK SHOUTで行くわよ」

 

 そういうと燐子のキーボードが旋律を奏でた。

 

「はぁはぁ……一旦休憩にしましょう」

 

 あれから数曲歌い、一旦休憩することにした。

 

「友希那ちゃん、リサちゃん、みんな。上にいらっしゃい。お飲み物用意したわよ」

 

 タイミングを見計らったように奏のお母さんが顔を出してきた。

 私達は厚意を受けるべく、上に上がろうとする。するとその時、一枚の写真とギターが目に入った。

 

「ん? どうしたの友希那」

「あ、リサ。これ……」

 

 私はリサに先程の写真を見せる。そこには恐らく中学の時の奏と、一人の男性がギターを持って写っていた。

 近くにあったギターは写真に写っている男性のギターだった。

 

「奏、笑ってるね」

「えぇ。今も笑っているけど、この笑顔は心の奥から笑っているような気がするわ」

 

 やはり、何かあったに違いない。

 私は写真立てを手に取り、上に上がった。

 リビングに入ると既に紗夜達が座っており、ジュースやケーキをいただいていた。

 

「友希那さん、どうしたんですか? そんな慌てたような顔をして」

 

 ジュースを飲みながら足をパタパタさせているあこに言われる。

 

「……おばさん」

「どうしたの? 友希那ちゃん」

 

 私に背を向けているおばさんに写真を見せる。

 こちらに振り向き、私の持っている写真が目に入ると少し驚いたような表情をするが、すぐに微笑む。

 

「その写真、見ちゃったのね」

 

 でもその表情はどこか悲しそうな感じだった。

 

「おばさん。奏に一体何があったの?」

「どうして?」

「奏は言ったわ。もうバンドと関わる気はないと。でも、今もこうして部屋を貸してくれる。その時点で、私達Roseliaに関わっているわ。奏も心のどこかでは、バンドと関わりたいって思ってるんじゃないかしら」

 

 私が言うと、おばさんは目を閉じて小さく「この子たちなら……」と呟いた。

 

「友希那ちゃん、リサちゃん、座って」

 

 おばさんに言われ、私とリサは座る。そしておばさんも座ると、話を始めた。

 

「友希那ちゃん、リサちゃん、紗夜ちゃん、あこちゃん、燐子ちゃん。お願い」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――――――奏を助けてあげて。



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第二十三話 奏の過去 前編

「奏を助けてあげて」

 

 おばさんの口から突然言われた言葉。突然のことで、私とリサ以外が固まってしまった。

 だが、すぐにあこが口を開く。

 

「奏さんを、ですか?」

「湊さん、話が見えてこないのですが……」

 

 続けて紗夜が口を開く。

 

「この写真を見て」

 

 私は先程下にあった写真を紗夜達に見せる。

 

「これは内田さんと……」

「一人の、男性の方が、写って……ますね」

「その写真がどうかしたんですか?」

 

 疑問に思ったあこが、私に聞いてくる。

 

「この写真に写っている奏、とてもいい笑顔なの。こんな笑顔、私達に向けた事ある?」

「言われてみればありませんが、それがどうかしたんですか?」

「アタシ達はね、この時の奏の笑顔を知っている。この笑顔は、心の底から音楽を楽しんでいる時なんだ」

「でも、ここに戻ってきてその笑顔を向けることは無くなった。だから、奏の過去に何かあったんじゃないかって思ったの。そうすれば、奏がバンドに関わりたくない理由が分かる筈」

 

 三人に話し終えると、今度はおばさんの方を見る。

 

「だからお願い。おばさん。奏に、何があったか教えて……?」

 

 おばさんは暫く黙っているが、一呼吸つくと、口を開いた。

 

「……あれは、奏がが小学校五年の時の話よ――」

 

 

 ―――――――――――

 ―――――

 ――

 

 目的地に着いた俺は、その場に荷物を一旦置く。

 

『三島家之墓』

 

 俺の目の前にはそう書かれた墓石が建っている。

 俺は近くの店で買った御線香に火をつけ、全体に火が行き渡ってるのを確認すると、香炉に寝かせる。

 香炉に寝かせると、あの人の好きだったおはぎとビールをお供えし、しゃがみ込んで合掌する。

 

 ――先生。あなたが亡くなってからもう二年が経ちました。俺はあれから、生まれ育った東京に戻って、ごく普通の生活をしています。

 

 俺は心の中で先生と話していると、昔の事を思いだしていた。

 

 

 ―――――――――――

 ―――――

 ――

 

 東京を離れて四年。俺は小学五年生になった。

 友達は何人か出来たが、それでも、友希那やリサの様に、俺と同じ趣味の人は現れなかった。

 五年になるとクラス替えが行われ、会ったことのない人と同じクラスになる事があった。

 そして最初に行われるのは、自己紹介。

 

「俺は内田奏といいます。俺は音楽が好きで、ギター、ベース、ドラム、キーボードなど、楽器全般弾けます。将来はバンドを組んで、FUTUR WORLD FES.という世界大会に出場し、優勝するのが俺の夢です。残り二年、宜しくお願いします」

 

 周りから拍手を浴びる中、一人俺と目があう奴がいた。そいつは俺を見るとニヤっと笑い、すぐに普通の顔に戻る。

 

 ――何なんだ、あいつ。

 

 俺はそう疑問に思いながらも、席に座った。

 授業終了の鐘が鳴る。すると先程笑っていた奴が真っ先に俺の下に飛んできた。

 

「なぁ、バンドメンバー探しているんだよな!?」

「あ、あぁ。そうだけど……」

 

 食い気味で来たため、少したじろいでしまう。

 

「やっとみつけたぁ! おい(まさる)! やっと見つけたぞ!」

 

 すると、勝と呼ばれた奴は耳を塞ぎながら俺の席にやってくる。

 

「うるさいな啓太郎(けいたろう)。そんな大声出さなくても聞こえるよ」

 

 俺の席に来たのは、同じクラスの森田啓太郎と貝沼勝だった。

 

「実は俺達、自己紹介で言ってなかったんだけど二人でバンド組んでんだ! 良かったらお前も入らないか!?」

「良かったらって……パートは何だ?」

「俺がベースで、啓太郎がドラム。だから奏にはギターボーカル頼みたいんだけど、良いか?」

 

 正直驚いた。俺と同い年で、ここまでメンツが集まっている事に。

 そして、嬉しかった。漸く俺と同じ趣味の奴を見つけた事に。

 だから俺の答えは簡単だった。

 

「俺で良かったら、喜んで」

「マジで!? サンキュ!」

 

 俺が入ると知ると、啓太郎はもの凄く喜び、俺の手を握る。少し痛い……

 

「まぁこんな奴だけど、中身は良い奴だから。宜しくな、奏」

「あぁ。宜しく、勝」

 

 俺と勝も握手を交わし、早速放課後に勝の家で実力を見ようとなった。

 

「じゃあ後でな!」

「あぁ。じゃあな」

 

 俺達はギターを取りに一旦帰り、また学校に集合となった。

 

「ただいま」

「お帰り奏。おやつあるわよ」

 

 リビングから母さんが出て来る。だが、俺は約束があるので後で食べると言った。

 だが、母さんは俺の顔をじっと見る。

 

「な、なに?」

「いえ、何か嬉しそうだなぁって思って。何か良い事あった?」

「良い事、ね……」

 

 俺は先程の出来事を思いだす。すると自然に笑みが零れた。

 

「そうだな。漸く見つけたって感じ」

「そう。良かったわね」

 

 母さんの言葉を受け取ると、ギターを取りに部屋に戻る。

 ギターをケースにしまい、背負いこむ。

 

「じゃあ、行ってくる」

「先方にご迷惑のならない様にね。行ってらっしゃい」

 

 こうして俺はギターを背負ったまま自転車を漕ぎ、目的地まで走って行った。

 

「え!? 奏って四歳から楽器弾いてんの!?」

 

 勝の家に到着し、早速俺の実力を見せようと二人の前で演奏した。

 

「あぁ。最初はピアノかな。テレビでやってた音楽番組を見て、何故か俺も出来そうだと思ってピアノを弾いてみたら弾けたって訳。そこから色んな楽器に手を出した」

「へぇ~。じゃあお前は音楽の天才なんだな!」

 

 そう言って勝はチューニングをするが、中々音が合わないのか苦戦していた。

 

「勝、ちょっと貸してみ」

「え、お、おう……」

 

 俺は勝からベースを受け取り、チューニングをする。その姿を二人はじっと見てた。

 

「これで良いだろう。ん? どうした?」

「いや、何も付けずにチューニングできるんだなって……」

「あぁ。俺は絶対音感の持ち主なんだ。だからチューニングも簡単」

「じゃあ本物の天才だ……」

 

 そんな二人は俺を驚愕の目で見ていた。

 

「じゃあさ、俺達に色々教えてくれよ! そうすればもっとうまくなる筈だ!」

「はいよ。早速練習しようぜ」

 

 こうして俺達は三人で練習し、いつかはライブハウスで演奏しようと約束した。

 その筈だった……。

 

「もうやってらんねぇよ!!」

 

 バンドを組んで二ヶ月近く。ある日の練習中、突然啓太郎が叫び出した。

 いや、叫ぶという言い方は少し語弊がある。正しくは、俺と啓太郎が言い合いになり、そこで怒鳴ったと言うのに近い。

 

「もうお前の言っている事分かんねぇよ!」

「んだよその言い方! 大体、てめぇが教えてくれって頼んで来たんだろ!」

 

 そう。啓太郎は俺の指導に付いて行けてなかった。そのせいで、イライラしていたのだろう。

 

「お前が出来ても、俺達が出来るとは限らねぇだろ!」

「だからお前達のレベルに合わせて教えてんだろうが!」

「はっ! 天才のいう事は違うね。そうやっていつも見下してんだろ」

 

 ――は? 何だよそれ……俺がいつ見下したって言うんだ……

 

 俺はもう何が何だか分からなくなった。

 

「もうお前には付いて行けねぇわ。このバンド、解散だな」

 

 そう言って啓太郎は荷物をまとめて出て行った。

 

「お前ももう、出てってくれ……」

 

 勝にそう言われる。俺は頭が真っ白だった。

 そして気付けば、家のベットに飛び込んでいた。

 こうして、俺の小学校生活は幕を閉じた。



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第二十四話 奏の過去 後編

 あの出来事から早くも二年が経ち、俺は中学生になった。

 中学に上がっても、俺の生活に特に変わった様子は無く、ギターも一人で弾いていた。

 

「はぁ、つまんねぇな」

 

 友希那とリサは元気にしているだろうか。友希那のおじさんはだいぶ有名になってきて、今では東京では知らない人はいないだろう。まぁ、ここではまだ知られてないみたいだが。

 

 ――会いてぇな。あいつ等なら、きっと……

 

 なんて柄にもなく考えていると、音楽室についた。

 普通は通り過ぎる筈だが、何故か俺は足が止まってしまった。まるで音楽室が俺を呼んでいるかのように。

 俺はそっとドアを掛けようと試みる。

 

 ――鍵がかかってない……

 

 すんなりと開いたドアに少し戸惑いながらも、俺は音楽室に入った。

 中は机とグランドピアノ、歴代の偉人たちの肖像画が飾られていた。

 その中でも俺は、一つの()()()が目に入った。

 

「これ、ESPのMAVERICKじゃねぇか。色も黒で綺麗だし、値段は確か三十万近くだったような……何でここに……」

 

 俺はそのギターを手に取り、気付いたらアンプに接続していた。

 ダメだと分かっているのに、何故か弾きたいと思ってしまう。そして俺は一気にピックを振り下ろした。

 その瞬間、俺の身体に電流が走ったような感覚が襲う。

 

 ――な、何だこれ……今まで弾いて来たギターより全然すげぇ! これがESPの楽器なのか……!

 

 そして俺は無我夢中にギターを弾いていた。自分の好きな曲から、演奏が難しいと言われている曲まで。

 気付いたら俺は息を切らしながら弾いていた。

 

「すげぇ、凄ぇよこのギター!」

「凄いだろ」

「あぁ、今までこんな音聞いた事な……」

 

 そこで俺は気付く。本当なら俺は今一人の筈だ。なのに、何故か俺以外の声が聞こえた。

 俺は声のする方を振り向く。そこには音楽の先生が立っていた。

 

「人のギターで何してんだ? お前」

「あ、いや……」

「下校時刻も過ぎてるし、相当熱中していたようだな」

 

 先生に言われて俺は時計を見る。すると時刻は十八時をとっくに過ぎていた。

 

「まず、勝手に音楽室に入ったこと。人の(ギター)を勝手に触り、挙句の果てに演奏を始める。そして下校時刻を過ぎる。相当な処罰が下されるな」

「す、すみません……」

 

 すると先生は俺の方に近付いて来た。俺は何されるか分からず、思わず目を瞑る。だが、先生の手は俺の肩に置かれた。

 

「でも、いい音だった。お前の音、面白いな! 俺にもっと聞かせてくれよ!」

「え?」

 

 予想外だった。てっきり叱られると思った。だが帰って来た返事はまさかの称賛の声だった。

 

「いや~俺でもここまで音は出せないよ! お前、相当な実力者だな?」

「いや、あの……」

 

 まさかの出来事で、俺は戸惑ってしまう。

 

「でも、人の物を勝手に触ったのは事実。罰として、明日の放課後もここに来い。今度は自分のギターを持ってな」

「罰って……そんなもんで良いんですか?」

「何だ? やっぱり反省文が良いか? 俺は原稿用紙十枚は書かせるぞ?」

「喜んでギターを持って来ます!」

 

 俺は勢いで頭を下げる。だが、自然と笑みが零れる。

 こうして俺は、中学の音楽の先生――三島(みしま)孝弘(たかひろ)先生――と出会った。

 次の日。約束通り俺は自分のギターを持って音楽室に来た。

 

「お、来たな」

「これが俺の罰なんでね。言われた通り、ギターも持ってきました」

 

 そう言って背負っていたギターケースを下ろし、蓋を開けてギターを見せる。

 

「へぇ、EVOの0303Z Hybrid LTD Jet Blackか。結構いいの持ってるな」

「まぁ、親父の御下がりですけど」

「親父さん、ギター弾いてたのか」

「えぇ、昔バンドを組んでいたみたいで……」

 

 俺と先生の他愛ない会話は、下校時刻が来るまで続いた。

 その日から俺は毎回放課後に音楽室により、先生とセッションしたり、ギターの話をしたりした。

 

「サヴァン症候群ねぇ。それで楽器全般弾けるって訳か」

「えぇ。そのせいで、周りは俺の事よく思ってないみたいですけど……」

 

 ソースは小学校の頃の俺。一時期バンドを組んでいた時期だ。

 

「そっか。だけど、必ず良い奴が現れるさ」

 

 そう言って先生は俺の肩を叩く。

 そんな事を言われ、中学二年に上がったある日。三人の男子が俺の机にやって来た。

 

「ね、ねぇ……」

 

 一人はおどおどしながら声を掛けてくる。

 

「どうした?」

「あのさ、内田君ってギターやってるの?」

「え? あぁ」

 

 俺はずっとギターを学校に持って来ていたから、気になって声を掛けてきたんだろう。

 

「やってるけど、どうしたの?」

「じゃあさ! 俺達にギター、教えてくれよ!」

「ギターって、三人か?」

「いや、俺は違うんだけど……」

 

 三人中二人はギターで、一人はドラムらしい。

 

「別にドラムも出来るぜ」

「ホントか? あ、じゃあ俺にドラム教えて貰っても良いか?」

「良いけど、どうしたんだいきなり」

 

 話によると、三人でバンドを組みたいらしいが、如何せん楽器が初心者なもんで、どうしたら分からなかった所にいつもギターを背負っている俺が目に入ったらしい。

 

「じゃあ、指導係って事で良いのか?」

「それなんだけど……内田君にも入って欲しいんだよね」

「待て待て、流石にギター三人は多すぎだ。バランスが合わん」

「あ、だよね……」

 

 俺が言うとしゅんと落ち込む。

 

「まぁ、キーボードなら良いぜ」

「え? キーボードも出来るの?」

「あぁ。楽器全般出来る」

 

 俺がそう言うと、三人はとても嬉しそうに喜ぶ。

 

「じゃあバンド結成だね!」

「バンド名どうしよっか?」

「Miracle Shineなんてどうかな?」

 

 ――奇跡の輝き、か……

 

「良いんじゃね? 俺は好きだよ」

「ほ、ホント!? じゃあそれで!」

 

 こうして俺達「Miracle Shine」は結成され、まずは夏に行われるお祭りの野外ライブ出場を目標に頑張った。

 

「へぇ、バンド組んだのか」

「はい。何か俺以外美男子って感じで、女子と間違われてもおかしくない容姿で……」

「あぁあいつ等か。それにしても、漸く見つけたか」

 

 先生は嬉しそうに、まるで自分の事の様に喜んでくれた。

 

「頑張れよ。夏祭りのライブには見に行くから」

「ありがとう先生」

 

 そう言って俺は帰宅した。

 

「あ、お帰りなさい。FWF始まったわよ」

 

 俺が家に帰ると、お袋がそう言ってきた。

 今年のFWFに、友希那のおじさんが出場する。俺はそれを楽しみにしていたのだ。

 だが――

 

「何だよ、コレ……」

 

 俺は驚きが隠せなかった。何故なら、おじさんたちのバンドが今までと打って変わってしまったのだ。

 

 ――こんなの、おじさん達の音楽じゃない。外部からの余計なものを入れられたんだ。

 

 俺はその時、一人の幼馴染を心配した。

 

 ――友希那、大丈夫かな……

 

 こうして俺にとって最悪のFWFは幕を閉じた。

 そして数日後、おじさんのバンドは解散した。

 

 

 月日は経ち、夏祭り野外ライブ本番まで迫って来た。

 

「き、緊張してきた……」

「大丈夫だよ。今まで練習してきたんだから、いつも通りやれば」

「そ、そうだよね!」

「じゃあ円陣組もうぜ」

 

 そう言って俺達は肩を組み、円陣を組んだ。

 

「俺達のデビューライブだ。締まって行こうぜ」

「「「おう(うん)!!」」」

 

 そして、アナウンスが入った。

 

『続きまして、本日デビューライブの『Miracle Shine』です!』

 

 こうして俺達はステージの上に立った。

 だが、結果は散々だった。

 俺以外の三人は緊張に押しつぶされ、ミスの連発。挙句の果てには演奏中止となった。

 周りからの声も酷いが中でも気になったのは――

 

「キーボード以外全然なってないよな……」

「キーボードが可愛そうだぜ……」

「何であんなバンドに入ったんだろうな」

「宝の持ち腐れだぜ、あれ……」

 

 そう、俺を庇うように他の三人を非難する声が多かった。

 三人はそれを聞いて悔しそうに拳を握る。

 そんな三人に、俺は声を掛ける。

 

「気にすんな。俺達はまだ始まったばかりじゃねぇか。この失敗を糧に、また練習頑張ろうぜ」

 

 だが、帰ってくる言葉は、否定だった。

 

「僕達じゃ、内田君の足を引っ張るだけだよ……」

「な、何言って……」

「周りの声が正しい。正直言って、内田は別次元の人間だ。凡人は天才に付いて行けねぇよ……」

 

 その時、俺は小学校の時の記憶がフラッシュする。

 

 ――また、こうやって離れていくのか……そうやって天才だからって諦めて、また離れていくのか……

 

 俺は声が出なかった。何て言ったら良いのか分からなかった。

 唯一出た言葉は――

 

「そう、か……」

 

 の一言だった。

 そして「Miracle Shine」から、内田奏の名前がなくなった。

 俺は日の暮れた道をとぼとぼ歩く。するとそれに立ち塞がるように、一人の男が立っていた。

 

「先生……」

「内田……」

「先生……やっぱり俺、バンド向いてないのかな……」

 

 そんな事言う俺に、先生はそっと抱き締めてくれた。

 

「そんな事ない。周りはお前を天才だと言っているが、誰もお前の本当の良さに気付いていないだけだ。ミスった時も、何とかカバーしようとしただろ」

「でも、結局裏目に出ちまった……俺、俺……!」

 

 すると俺の目から、滅多に流れない物が流れた。先生はそんな俺を黙って抱き締める。

 

「ごめん先生、情けない所見せちまった」

「心配すんな。いいか内田。今はいないかもしれないが、必ずお前の音を必要としてくれる人がいるさ」

「いるかな、そんな人……」

「いるさ。近い将来、絶対な」

 

 こうして俺の中二の夏が、幕を閉じた。

 

「そうだ、お前にこのギターをやるよ」

 

 そう言われて渡されたのは、いつの日か俺が勝手に弾いていたESPのギターだった。

 

「でもこれ、先生のじゃ……」

「良いからもってけ。このギターはお前にぴったりだ。だから、使ってやってくれないか」

 

 こうして俺は先生からギターを貰い、暇があれば先生のギターで弾いていた。

 これが、俺と先生の最後の会話だった。

 

 

 夏休みが空けてから、先生を学校で見ることは無くなった。話によると、体調が優れず休職しているそうだ。

 

 ――先生がいないんじゃ、音楽室使ってもつまんねえな。

 

 その日から俺は音楽室に通わなくなった。

 そして中学三年になり、受験シーズンとなった。先生は未だに学校に来ていない。

 

 ――まだ良くなんねぇのかな。

 

 ある日、急遽全校集会が開かれることになった。

 何事かと思い、俺は体育館に集まる。

 

「皆さんに、残念なお知らせがあります。以前より、休職していた三島孝弘先生ですが――」

 

 ――えっ……

 

「先日、市内の病院でお亡くなりになられました」

 

 その時、俺の中で何かが崩れる音がした。



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第二十五話 新成、Roselia!

平成最後に投稿できて良かったです。


「それから奏は変わってしまったわ」

 

 私達は内田さんの過去を内田さんのお母様から聞いていた。

 

「今まで笑って弾いていたギターも、いつの日か笑顔が消えてしまった。何処か抜けたような、心にぽっかりと穴が空いた様な、そんな感じになってしまった」

 

 するとお母様の頬に、一筋の涙が零れた。

 

「音楽が大好きだったのに……サヴァン症候群のせいでバンドの解散に追い込まれ、奏の事を一番近くで見てきた先生も失ってしまって……」

 

 他の四人も俯き、悲しそうな、辛そうな表情をしている。

 

 ――内田さんはなりたくて天才になったんじゃない……むしろそのせいで自分が辛い目にあっているのに……私はそれを日菜と同等に考えてしまった……。一番辛いのは内田さんの筈なのに……

 

 私はあの日のファミレスでの発言に後悔し、後で謝ろうと決意した。

 

「奏は自分の事をこう言ってたわ。『俺は死神だ。深く関われば関わろうとするほど、周りの人は離れていく』って。だからあの子はバンドと関わるのが怖いのよ。また自分のせいで、解散の危機まで迫ってしまうんではないかって……」

「だから奏は、頑なにバンドに関わろうとしなかったんだ……」

 

 今井さんが小さく呟く。私は一つ疑問に思い、質問をした。

 

「内田さんがバンドに関わりたくない理由は分かりました。ですが、何故彼はここまで私達に協力してきたのですか? メンバー集めも、スタジオを貸してくれることも。本来なら、その事も拒むはずなのに……」

「それはね、紗夜ちゃん。多分、まだ信じたいんだと思う」

「信じる、ですか……?」

 

 今度は白金さんが呟く。

 

「うん。特に友希那ちゃんとリサちゃんをね」

「アタシ達を?」

「あの子にとって、あなた達二人はとても大切な存在。引っ越した後も二人の事を気にしていたわ。だから、僅かな可能性を二人に掛けているんだと思う。二人なら、自分の空いた心の隙間を埋めてくれるんじゃないかって。でも、それでも怖いの。また失ってしまった時の反動の方がデカいから」

 

 内田さんがここまでお二人を思ってくれているなんて……幼馴染だからでしょうか。お二人を見ると、どこか嬉しそうな表情をしていた。

 

「お願い、みんな。奏を助けてあげて。過去に縛られているあの子を、解放してあげて」

 

 そう言ってお母様は頭を下げる。

 私達は目を合わせる。四人が四人、決意をした目をしていて、頷いた。

 

「任せて、おばさん。奏は私達Roseliaが必ず救うわ。だから、安心して」

「ありがとう、友希那ちゃん、みんな……」

 

 こうして私達は内田さんを救う事を誓い、再びスタジオに戻って練習をするのだった。

 

 

 ――――――――――――

 ―――――

 ――

 

 あの日から俺は、数週間引きこもった。先生はかなり前から病気で、本来なら俺が中一の秋には亡くなってもおかしくなかったそうだ。

 

「じゃあな、先生」

 

 俺は先生に別れを告げ、その場を離れようとする。

 

「あら、あなたは……」

 

 すると向こう側から女性の声がした。その女性を見ると、花と手桶を持っていた。

 俺はとりあえず一礼する。

 

「旦那の墓参りに来てくれたのね」

「旦那、というと……」

「三島の妻です」

 

 この女性は先生の奥さんだった。

 奥さんも俺に一礼して、先生の墓の前まで行く。

 

「ありがとうね。奏君、でよかったからしら?」

「あ、はい。内田奏です」

「そう。旦那がいつも嬉しそうに話していたわ、あなたのこと」

 

 奥さんの表情は柔らかな笑みを浮かべていた。

 

「あの、葬儀に出席せず、申し訳ございません」

 

 俺は頭を下げる。

 先生の葬儀には出席しなかった。したら、本当に先生が死んでしまったと実感してしまうから。

 

「いいえ。あなたも辛かったでしょう。それなのに去年もあの人の命日にお墓参りに来てくれて」

「気づいていらしてたのですか?」

「えぇ。私が来る前に、もの新しいお花と、綺麗にされた墓石があるもの。あの人の話から聞くに、あなただとすぐ分かったわ」

「そう、ですか……」

「それとね、あの人、満足してたの。入院する前、自分のギターをあなたに渡せて良かったって」

 

 先生は分かってたんだ。もう自分に時間がないことが。

 

「あと、渡そうと思ってたんだけど、なかなか会えなくてね。これ」

 

 奥さんはカバンから、一枚の封筒を出して、俺に渡した。

 

「生前、あなたに書いた手紙だそうよ。自分が死んだとき、渡してくれって」

 

 俺は手紙を受け取ると、早速封を開いて手紙を読む。

 すると途中から文字か擦れて見えなくなってきた。手紙のせいじゃない。自分が泣いているんだとすぐに分かった。

 

「せん……せい……!」

 

 涙が止まらなかった。自分が死ぬかもしれないのに、ここまで自分のことを思ってくれたなんて。

 

「あの人の思い、無駄にしないでね」

「はい……!」

 

 こうして俺は奥さんと別れを告げ、東京へと戻るのだった。

 

 ――――――――――――

 ―――――

 ――

 

「ただいま」

 

 東京についた俺は家に帰ってきた。玄関を見ると、まだたくさんの靴が置かれていた。

 

「おかえりなさい、奏」

「ただいま。なに、まだあいつらいるの?」

 

 あいつら、友希那達のことだ。

 

「えぇ。それと、あなたが帰ってきたらすぐに地下に来てとも言ってたわ」

「まじか。何か問題でもあったのか?」

 

 俺は一旦荷物を置きに部屋に戻り、着替えて地下室に行った。

 

「おい、どうしたんだ?」

 

 俺は地下に行くと、友希那達は普通に練習していた。

 

「あら、おかえりなさい奏」

「ただいま……って、今何時だと思ってんだよ。十八時だぞ」

「えぇ。知っているわ」

「じゃあ何で――」

「あなたに聞いて欲しい曲があるからよ」

 

 友希那がそう言うと、他のメンバーは準備する。

 

「それじゃ行くわよ。Re:birth day」

 

 新曲だろうか。俺の知らない曲を披露してきた。

 

 ――あれ……何でだろう……

 

 頬に伝わる冷たいもの。それが何か分かるのに時間はかからなかった。

 

 ――何で俺、泣いてんだろう……

 

 この曲を聞いているだけなのに、涙が止まらない。止まる気配がない。

 その時俺は、昼間貰った手紙を思いだす。

 

 

 ――――――――――

 拝啓、内田奏様。

 

 

 お前がこの手紙を読んでいるという事は、俺は死んだという事だな。

 病気の事、黙っててすまなかった。お前の姿を見ていると、病気である事を言えなかった。

 サヴァン症候群のせいで、バンドメンバーから嫌われ、解散まで追い込まれ、音楽に対して絶望していたお前を、見ていられなかった。

 才能あるお前に、音楽を止めてほしくなかった。だから俺は、僅かな命を全て、お前に授けようと思った。

 お前の演奏している姿を見ていると、心なしか、病気も治るんじゃないかと思った時もある。それ程お前の音は輝いていた。

 もしかしたらお前はもう、バンドなんて組めないかもしれない。また解散に追い込んでしまうだろうと、そう思ってしまうかもしれない。けどな、全員が全員、そうじゃないんだ。俺の他にも、お前の事を分かってくれる人がいる筈だ。

 無理にバンドに入れとは言わない。だが、必ずお前の能力(ちから)を欲しがっている奴がいる。そいつらの力になって欲しい。

 俺がお前にしたように、今度はお前が支える番だ。

 お前が育てた音楽、上で聞いてるからよ。

 だから、腐るなよ……

 今までありがとう、奏。

 

 

 三島 孝弘

 ――――――――――

 

「奏」

 

 演奏が終わると、友希那が声を掛けてくる。

 

「あなたの事は聞かせてもらったわ。でも、それでも私達はあなたが必要なの」

「……俺は死神だ。俺が関わると必ずバンドは解散に追い込まれる。大切な人までいなくなる」

「そんなの関係ないわ。そもそも、私達は頂点を目指しているのよ? そんな簡単に解散しないわ」

「でも、俺が!」

「奏」

 

 今度はリサが声を掛けてきた。

 

「確かに過去の事があるから信じられないのかもしれない。でも、少しはアタシ達を信じてよ! 幼馴染を、信じてよ……」

 

 するとリサも大粒の涙を流していた。

 

「内田さん」

 

 すると紗夜が近付いて来た。

 

「申し訳ありませんでした」

 

 そう言って紗夜は頭を下げる。

 

「な、何で……」

「以前、あなたの事を日菜と同じ『天才』だと言いました。ですが、今日の話を聞いて、病気のせいで苦しめられているのを知って、私はなんて失礼なことを言ったのかと後悔しました。何も知らないとはいえ、あの時の発言、申し訳ありませんでした」

「あ、頭を上げてくれ。別にそこまでしなくても……」

「それでも、私は内田さんに入って欲しいと思っています。私は更なる高みを目指したい。その為に、内田さんの力が必要です」

 

 紗夜は真剣に言ってくる。

 

「どうしてそこまでして、俺なんかを……」

「忘れたの? 昔約束したじゃない」

 

 ――昔……

 

『私、お父さんみたいなバンドマンになりたい!』

『友希那がなるなら、アタシもなる!』

『ははは、友希那もリサちゃんも嬉しいことを言ってくれるな。でも、そんな簡単じゃないぞ?』

『なら、僕が二人を支えるよ』

『奏……』

『僕が友希那とリサを、カッコいいバンドマンにする。そしていつか、お父さんやおじさんを超す最高のバンドになるんだ』

 

 ――そっか……あの時の約束、覚えてたんだ……

 

 友希那は俺の両手を取る。

 

「奏。私達を支えなさい。そして、奏のおじさんや、私のお父さんを超すバンドを作り上げなさい」

「……俺の指導は、生半可じゃないぞ」

「それぐらい覚悟しているわ」

「練習がきつくて、嫌な気持ちにさせるかもしれないぞ」

「それぐらいしなきゃ、頂点は目指せません」

「時々厳しい事を言うかもしれないぞ」

「それ程あこ達を思ってくれてるんですよね!」

「かなり高度な技術を教えることになるぞ」

「頑張り、ます……」

 

 あこ、白金も続けて俺の近くに寄る。

 

 ――先生。俺……

 

「友希那、リサ。お願いがある」

「なに?」

 

 ――俺漸く……!

 

「俺を、Roseliaのマネージャーにしてくれないか……?」

「勿論。歓迎するわ」

 

 ――漸く、居場所を見つけました……!

 

 こうして俺、内田奏はRoseliaのマネージャー兼技術指導に就任し、影でRoseliaを支えることとなった。

 

 

 

 

 

 

 これから始まるは、頂点を目指すガールズロックバンドの五人と、それを影で支える一人の男の物語。

 彼等を待ち受けるのは一体、何なのか。それはまだ、神のみぞ知る物語である。

 

 

 

 

 第一章 完




これにて、Roselia結成編を終了します。

次は第二章「日常編」がスタートします。

活動報告でも述べました通り、ここで一旦休載します。

次に戻ってくるのは恐らく夏休みごろになると思います。
勿論、それより早く帰ってくることもありますので、暫くの間、お待ちください。

この物語は始まったばかりです。必ず完結させますので、これからもこの作品をよろしくお願いします。

それではまたいつか、お会いできるその日まで……


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日常編 第一話 内田奏の日常

みなさんお久しぶりです!



 あの日から数日経った。

 俺はRoseliaのマネージャーとなり、技術指導したり、彼女達のアフターケアをしている。

 

「んん……」

 

 寝苦しい。そう思った俺はゆっくりと目を開ける。すると目の前にはいる筈のない幼馴染、リサが俺のベッドで寝ていた。

 

「何でここに……ん?」

 

 背中にも違和感を感じる。まさかとは思うが、俺はゆっくりと振り返る。

 

「何でお前もいるんだよ……」

 

 もう一人の幼馴染、友希那が寝ていた。つまり今俺は、二人に挟まれている事になる。

 

 ──つーか、狭い……

 

 ちょっとでも動けば、リサが落ちてしまう。どうしようかと考えているうちに、「んん……」という声が前の方から聞こえた。

 

「ん……ん? 奏、起きてたんだ……」

 

 眠そうな目を擦りながら、言ってくる。

 

「おはようリサ。所で、何でここにいるんだ?」

「何でって……何で?」

「俺が聞きてぇよ……」

「うるさいわよ」

 

 すると後ろの方からも声が聞こえた。友希那が起きたのだろう。

 

「おはよう友希那。何で俺のベッドで寝ている」

「決まってるじゃない。あなたと寝たかったからよ」

 

 そう言って何故か俺を抱き締める。

 

 ──って何やってんの!! 

 

 背中に柔らかい感触が当たる。

 

「むっ……」

 

 リサは面白くなさそうに見ていたが、何か思いついたのか、リサも正面から抱き着いて来た。

 

「り、リサ!? 何やって……」

「ん~♪ 奏あったかい~」

 

 ──いや俺は暑いんだけど! 

 

 前と後ろから柔らかい感触が伝わってくる。

 

 ──つうかこいつ等付けてないのかよ! 

 

 すると「がちゃっ」と音がして、誰かが入って来た。

 

「奏~友希那ちゃん、リサちゃん、ご飯よ……」

 

 入って来たのはお袋だった。

 俺とお袋の目が合うと、お袋はそっと──

 

「お邪魔しました~」

 

 といって部屋を出て行った。

 

「待てぇ! 誤解だぁ!」

 

 朝から疲れる、そんな一日だった。

 

「はぁ……」

 

 朝食も済ませ、俺達は学校に向かう。

 

「どうしたの奏? 溜め息なんてついちゃって~」

 

 隣のリサが他人事のように言ってくる。

 

「誰のせいだと思ってんだ誰の」

 

 俺は友希那とリサを睨む。

 俺の視線を感じたのか、あからさまに俺から目を逸らす二人。

 

「おはようかー君!」

 

 すると背後から聞こえたのは、クラスメイトの氷川日菜だ。我がRoseliaのギター、氷川紗夜の双子の妹であり、アイドルバンドPastel*Palettesのギターでもある。

 昔は二人の間に壁を感じていたが、今となっては中の良い双子の姉妹にしか見えない。紗夜は何処か気恥ずかしさがあるようだが、満更でも無い様だ。

 

「じゃあ私はここで失礼するわ。奏、今日のメニューよろしく」

「はいよ~」

 

 そう言ってクラスの違う友希那は俺達と別れる。因みに“今日のメニュー”というのは、今日行われるバンドの練習メニューの事である。マネージャー兼技術指導の俺はこの日どの曲をやるのかも管理しているのだ。

 

「やぁ、おはよう子猫ちゃんたち」

 

 教室に入ると、さわやかに髪を(なび)かせ、あいさつしてくる奴が一人。

 

「やっほ~薫♪」

「薫君おはよ~」

「うっす。てか、俺は子猫ちゃんじゃねぇっての。いい加減俺をそう呼ぶの止めてくれ」

 

 瀬田薫。何故か女子に大人気で、何かあればすぐに「シェイクスピアが──」って言っている。あと、「儚い」も彼女の口癖だ。

 彼女はハロー、ハッピーワールド! のギターをしている。

 

「ははは。かのシェイクスピアも言っている。男も子猫ちゃんの一部でしかないと。つまり、そういうことだ」

 

 ダメだこいつ。てか、シェイクスピアそんな事言ってねぇだろ。勝手に作ってんじゃねぇ。

 

「まぁいいや。で? ハロハピの方は順調か?」

「あぁ。こころの素晴らしい案で、今度は商店街でライブをするそうだ。是非見に来てくれ」

「そ、そう……」

 

 弦巻こころ。あの有名な弦巻家の一人娘で、次期社長だそうだ。まだあったことないが、会わないことを願っている。

 授業も(つつが)なく終わり、俺とリサは友希那、中等部で後輩の宇田川あこと合流し、自分の家に向かう。

 

「皆さん、こんにちは」

「お、お疲れ様です……」

 

 家に着くと、既に紗夜と白金燐子が待っていた。

 

「何だ。外で待ってないで中に入ればよかったのに」

「いえ、いくら何でも勝手に入る訳にはいかないと思いまして……」

「んな事気にすんな。早く着いたら中に入って構わねぇよ。ただいま~」

 

 そう言って俺は家に入る。Roseliaのメンバーも続けて中に入り、五人はすぐに地下室へと行った。

 俺はリビングに入り、予め作っておいた薄めのスポーツドリンクを人数分出し、地下へと向かう。

 

「お待たせ」

「来たわね。それで、今日のメニューは?」

「取り敢えず、ブラシャを修正しよう。あの曲は他の曲に比べたら出来は良いが、如何せん完璧とは言えない。だから、今日は完成まで近づける」

「完成させる、ではないのですか?」

「一日で出来る訳ないだろ。まずは土台をしっかりさせるんだ」

「分かったわ。みんな、準備して」

 

 友希那の一言で、全員がスタンバイする。全員が準備できたのを確認すると、俺は頷き、伴奏が始まった。

 

「OK。今日はここまでにしよう。はい」

 

 そう言って俺は先程のスポドリを渡す。

 

「今日やったとこ、ちゃんと復習しとけよ」

「はい……分かり、ました」

 

 こうして俺達Roseliaは解散し、友希那とリサは俺の家で飯を食べる。いや、自分の家で食えよ。

 これが俺、内田奏の日常である。案外、悪くないのかもな。



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第二話 まん丸お山に彩りを!

「ふぁあ~……」

 

 俺は家で大きな欠伸をした。

 今日はRoseliaのみんなは来ていない。いわゆるOFFの日だ。何故こんな大きな欠伸をしたか。それは……

 

「暇すぎる……」

 

 やる事が無いのだ。

 

「……出かけるか」

 

 俺は財布と携帯を持ち、家を出た。

 

「とは言ったものの、どこ行こうかな~」

 

 予定もなく家を出たため、目的地も特にない。

 暫く街をぶらぶら歩いていると、聞き覚えのある声が後ろから聞こえた。

 

「お~い! かー君!」

「ン? 日菜と……紗夜?」

「こんにちは、奏さん」

 

 俺が後ろを振り返ると、そこには氷川姉妹がいた。

 日菜はアイドルを意識してか、少し変装をしていた。

 

「よう。二人で仲良く買い物か?」

「べっ、別にそういう訳では//」

「うん! そーだよっ!」

 

 紗夜は顔を真っ赤にし、日菜は嬉しそうに頷く。

 本当に二人の仲が戻って、良かったと思う。

 

「それで、かー君は何してんの?」

「俺か? 特にやることないから、ぶらついてたんだよ」

「そうなんだ。あっ! じゃあ私達と一緒に出掛けない?」

 

 すると日菜がひらめいたような感じで言ってきた。

 

「いや、せっかく二人のお出かけなんだし、邪魔しちゃ悪いよ」

「良いっていいって! ね? おねーちゃん!」

「でも、奏さんに迷惑なんじゃ……」

 

 紗夜は困ったような顔でこちらを見る。

 

「いや、別に迷惑ではないが……」

「ならいいじゃん! ほら、しゅっぱーつ!!」

 

 そう言って俺と紗夜の手を取り、日菜は先を歩く。

 

「すみません日菜が……」

「別に良いよ。さっきも言ったように、暇だったから」

 

 日菜に手を引っ張られ、連れてこられた先は……

 

「ハンバーガーショップ?」

「うん! よくおねーちゃんと来るんだ!」

「そう言えば紗夜、ジャンクフードって言うか、フライドポテト好きだったもんな」

 

 俺が言うと、顔を真っ赤にさせ俯く。可愛い。

 

「ほら、早く行くよ!」

 

 そう言って日菜はまた俺らの手を引く。

 

「いらっしゃいませ~……あ! 日菜ちゃん、紗夜ちゃん!」

「やっほ~彩ちゃん!」

「こんにちは、丸山さん」

 

 入ってくるなり、いきなり日菜と紗夜に話しかける。それは意外な人物だった。

 

「お前、パスパレの丸山彩か?」

「え!? そ、そうだけどっ!」

 

 俺が名前を呼んだ時、凄く嬉しそうな表情をしていた。

 

私の事を知ってくれる人がいた……やった! 

「いや知ってるも何も、日菜が“彩”って呼んでたし、紗夜も“丸山さん”って呼んだんだから、普通分かるだろ」

「え!? そうなの!? って言うか、え~っと……」

 

 丸山が俺の事を誰だか分からない表情で見てくる。そう言えば、自分の名前言ってなかったな

 

「あぁ、悪い。俺は内田奏だ。宜しく」

「もしかして、日菜ちゃんがよく言ってる“天才さん”ですか!?」

「お前、こいつに何教えてんだよ」

「彩ちゃんだけじゃないよ~。パスパレのみんな全員知ってるかな~」

「あなたね……」

 

 隣の紗夜も頭を押さえ、やれやれといった感じだった。

 

「取り敢えず、何か頼もうぜ。流石に迷惑だ」

「そうだね! 彩ちゃん、いつもの!」

 

 ──ファストフード店でいつものって通じるのかよ……

 

「私も御願いします」

 

 ──紗夜は……うん。分かるわ。

 

「じゃあ俺は──」

「畏まりました! あ、私もう少しでシフト上がるから、待ってて!」

 

 三人が注文し、席に着く。

 日菜と俺は普通のハンバーガー、紗夜はLサイズのポテト二人分だ。

 

「何か……凄いな」

「あ、あまり見ないでください//」

 

 見るな言われても、目の前に座っている訳で、視界に入る事は仕方のない事なのだ。

 

「お待たせ~」

 

 するとバイト終わりの丸山が来た。

 

「お疲れさま~」

「お疲れ様です」

「お疲れさん」

 

 労いの言葉をかけ、丸山は俺の隣に座る。

 

「何で俺の隣に座るんだよ」

「奏君とお話したいから、かな?」

 

 首を傾げて言ってくる。可愛い。

 

「俺と話って、俺は特にすることないぞ」

「奏君に無くても、私にはあるの! え~っと……奏君、ギター上手なんだって? 日菜ちゃんから聞いた」

「ギターどころか、楽器全般引ける。引き方を一回覚えれば簡単だ」

「す、すごいね……」

 

 丸山は驚愕した顔を浮かべていた。

 そこから俺達は他愛もない話を続け、いつの間にか日が暮れていた。

 お開きになる時、丸山が俺に言ってきた。

 

「奏くん! 今週末にパスパレの初ライブがあるから見に来てね!」

「あ! いいねそれ! るんっ♪てくる!」

 

 ──ライブか……

 

「分かった。見に行くよ」

 

 俺達はそう約束し、別れた。

 だが、その時の俺は知らなかった。あんな酷いライブになるとは……



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第三話 史上最悪の初ライブ

 日曜日。俺は約束通りPastel*Palettesのライブを見に来た。モデルの若宮イヴ、女優の白鷺千聖がいるせいか、会場は大満員だ。

 時間になると、会場は真っ暗になり、ステージに光が集まる。するとパスパレの五人が上手から出てきた。その時、観客は拍手で迎い入れる。

 丸山以外の四人が楽器を持って、セットする。

 

 ──さて。では見せてもらおうかな。アイドルバンドの力を。

 

 だが、それと同時に嫌な違和感もあった。

 

 ──何だこいつ等。変に脱力しすぎてないか? まるで演奏する気が無い様な……

 

 そして、演奏が始まる。

 

 ──……は? 

 

 俺は耳を疑った。今まで聴いて来た演奏の中で、それはあり得ない位最悪な演奏だったからだ。

 

 ──……こんなお遊びの為に俺は呼ばれたってのか。友希那達に悪い事したな。

 

 本当なら、今日はRoseliaの練習だった。だが、俺は友希那達に無理を言い、ここまで来たのだ。

 

「帰るか」

 

 俺がそう呟くと隣の人が、

 

「何でだい? こんな素敵なライブなのに」

 

 と言ってきた。確かに、素人なら彼女達が演奏していると思っているのだろう。だが、俺の耳は騙されない。

 

「……俺にはこんなライブ、不愉快でしかありませんよ」

 

 俺はそう吐き捨て、会場を出た。

 

「ただいま~」

「あれ? 奏、帰ってくるの早いね」

 

 家に着くと、リビングには休憩中のリサ達がいた。

 

「どうでしたか? パスパレのライブ」

「ライブぅ? あんなのライブとは言わねぇよ」

 

 冷蔵庫から取り出したペットボトルを飲み干し、握りつぶす。

 

「バカにされた気分だよ。客を騙しやがって……」

「ちょちょ、一旦落ち着こうよ奏!」

「日菜が何か悪い事を……?」

 

 俺を抑制するリサ。申し訳なさそうにする紗夜。

 

「いや、別にアイツらが悪いって訳じぁ……いや、一概にも言えるか」

「何が……あったん、ですか?」

 

 俺は五人に事の顛末を話した。

 

「そんな事が……」

「おかしいと思ったんだ。いきなりアイドルがバンドを組むって話。事務所としては恐らく、アイツらの名前を売り広めたいだけだ」

「……」

 

 友希那が先程から口を挟まず聞いている。

 

「今は騙せても、そのうちボロが出るぞ。例えば機材のトラブルで、演奏が止まったりとかな」

「そうなったらパスパレは……」

「あぁ。間違いなく批判を喰らうだろうな。そして解散まで追いやられる」

「か、奏さん!」

 

 スマホをいじっていたあこが突然声を上げる。

 

「どうした?」

「こ、これ……」

 

 スマホを俺に渡し、画面を見る。

 

「まさか、既にボロを出したとはな」

 

 内容は「Pastel*Palettes、エアバンドか!?」という記事だった。

 

「これはかなり痛いぞ。それも、初ライブとなると」

「日菜……」

 

 紗夜が心配そうに画面を見つめる。

 

「こうなってしまった以上、アイツらの自業自得だ。さて、練習しようぜ練習」

 

 俺はスマホをあこに返し、ハッチへ向かう。その時、記事に書かれていた白鷺の言葉を思い返す。

 

『皆さんごめんなさい。機材のトラブルで演奏が出来なくなってしまいました。私達は今後もライブをやっていく予定なので、もし宜しければ是非遊びに来てください! Pastel*Palettesでした』

 

 ──無理だよ。今のお前達に居場所はない。周りは敵だらけだ。それをどう打開するかは、今後のお前達次第だ。

 

 こうして、Pastel*Palettesによる史上最悪の初ライブは幕を閉じた。



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第四話 謝罪

 Pastel*Palettesが最悪なライブをした次の日。学校ではそのライブについて持ちきりだった。

 

「凄いね……みんなライブの話をしている……」

「実際見に行ったのか、それともネットで見たのか。何にせよ、アイツらの味方はいない。客を騙してしまったんだからな」

「どうにかならないのかな……」

「時間の問題、とまではいかないが、アイツらが次にどういうアクションを取るかによって、Pastel*Palettesの今後が変わるだろう」

 

 俺の隣でリサが心配している表情でいる。

 

「そんな事より、俺達は今次のライブについて考えないといけないんだ。自分の事を気にしろ」

「分かってる」

「かー君、リサちーおはよー!」

 

 すると後ろのドアから日菜が入って来た。彼女の様子を見ると、特に変わった様子は見られない。

 

「ヒナ、おはよー」

「おう」

「かー君、ちょっといい?」

 

 そう言われ、俺は日菜に屋上に連れていかれる。

 

「どうした? こんな所まで俺を連れ出して」

「かー君、ごめんなさい」

 

 すると突然日菜が頭を下げて謝って来た。

 

「な、何だよ突然」

「昨日のライブ、騙すようなことをしてごめん。おねーちゃんから聞いた。かー君が怒ってたって。かー君、音楽に関しては真剣だから、騙したあたし達が許せないって」

 

 ──待て待て! 俺そこまで言ってないぞ! 確かにキレてはいたが、許せないなんて言った覚えはねぇ! 

 

「……許せないとまでは言ってないが、確かに腹は立った。人を誘っといて、自分達は演奏していないんだからな」

「ごめんなさい……」

「別に良いよ。恐らくこの件に関しては裏がありそうだし……それより、今後の自分達を気にしろ」

「今後のあたし達……?」

「今のお前達は音楽界で誰も味方がいない。敵だらけだ。今後Pastel*Palettsを続けていくならどうするか、考えるんだな」

 

 そう言い残し、俺は屋上を後にする。

 

「あ、おかえり~。どうだった?」

「あの日菜が律義に謝って来た。紗夜が何かしら言ったんだと思うが……」

 

 ──それにしても、どうして俺に謝らせるような真似を……? 

 

 俺は疑問を残しつつ、一日の授業を受けるのだった。

 

 ☆☆☆★☆☆☆

 

 一方花咲川女子学園では──

 

「彩ちゃん! 昨日のライブどういう事!?」

「折角お金払って見に行ったのに、エアバンドってどういうこと!?」

「えっと……その……」

 

 学校に行ったらクラスのみんなに質問攻めされている。正直、なんて答えればいいか分からない。

 

「何ですかこの騒ぎは」

「あ、紗夜ちゃん……」

 

 同じクラスの紗夜ちゃんが来た。

 

「氷川さん! 昨日のライブ知ってる? パスパレの」

「えぇ。存じ上げております」

「私達を騙してお金取ったんだよ! 返してよ!」

 

 また非難が飛んでくる。正直ここから逃げ出したい。そう思っていた時だった。

 

「確かに、彼女達は騙したのかもしれません。ですが、それには恐らく理由があると思います。いくら何でも彼女達のせいにするのはおかしいと思いますよ」

 

 紗夜ちゃんが言うと、みんなが黙ってしまった。

 

「丸山さんも、みなさんに言うことがあるのではないのですか?」

「えっ?」

「いくら貴女達のせいではないとはいえ、騙したことは事実です。でしたらまず、やる事があるでしょう?」

 

 やる事……あっ。

 

「みんな、騙すような真似をして、ごめんなさい」

 

 私は頭を下げてみんなに謝った。

 

「まぁ何か理由が有るならしょうがないけど……」

「私達も強く言いすぎちゃった。ごめん」

「これでこの話は終わりですね。さぁ、授業が始まるので席に戻りましょう」

 

 紗夜ちゃんのお陰で、この話はすぐに終わった。

 

「ありがとう紗夜ちゃん」

「いえ。それより、丸山さんはもう一人謝る人物がいらっしゃいますよ」

「分かってる。奏君だよね」

「分かっているのなら大丈夫です。丸山さんも席に戻って、授業の準備をしましょう」

「うん!」

 

 ──良し! 学校が終わったら奏君に謝ろう! ……あ。

 

 そう意気込んだ私だが……

 

 ──奏君の連絡先知らないや……

 

 後で紗夜ちゃんに教えてもらおう。



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第五話 文化祭は大忙し!?

 六月。夏が近づいてきたこの時に、我ら羽丘は一つのイベントが開催されていた。

 それは──

 

「お、お帰りなさいませ、お嬢様~……」

 

 そう、文化祭だ。

 

「いやぁ似合ってるよ奏!」

「うん! 何かるんっ♪ てくる!」

 

 接客している俺を面白そうに見ているリサと日菜。何故なら俺は今執事の恰好をさせられていた。

 事の発端は数週間前に遡る。

 

「今年の文化祭、我が2Aの出し物は喫茶店にしたいんだけど、どうかな?」

 

 文化祭実行委員の一人が教卓の前に立ち、言ってきた。

 

「良いんじゃない? なんといっても我がクラスには薫様がいるし……」

「薫カフェ、なんてどうかな?」

 

 と、話は瀬田を中心にしたカフェになっていた。

 

 ──文化祭か。俺はメンドクサイ役じゃなけりゃ何でもいいや……

 

 俺は心の中でそう思っていた。

 

「てことで薫様、お願いしても良いかな?」

「フフッ。別に構わないよ。子猫ちゃん」

 

 こうして話は終わるかと思っていた。

 だが、ここで一人の人物が口を開く。

 

「ちょ~っとまったー! みんな、誰か忘れてない?」

 

 そう、日菜だ。

 

「あたし達にはもう一人、活用しなきゃいけない人がいるじゃん!」

「あ、確かに!」

 

 誰かがそう言った瞬間、全員の視線が俺の方に向く。

 

「……え? 何?」

「ここは一つ、かー君にも一肌脱いでもらおう!」

 

 こうして日菜の余計な一言により、2Aの模擬店は『執事カフェ』となってしまった。

 

「つーか知り合いにこんな姿見られたくないんだけど……」

 

 俺がそう呟いた時だった。

 

「来たわよ奏」

 

 我らがRoseliaリーダー、友希那が来てしまった。

 

「似合っているわね。その格好で毎日私の返りを待っててほしいわ」

「勝手な事言ってんじゃねぇ。お前一人か?」

「あら? お客様に向かってその口調は何かしら?」

 

 ──この野郎。心の底から楽しんでやがるな……なら、こっちもそれ相応の対応をしてやる。

 

 すると俺は友希那の手を取り……

 

「お帰りなさいませお嬢様。お嬢様が帰って来ずとても寂しい思いをしておりました。できればこのまま離れないで欲しいものです」

 

 俺は友希那の手の甲にキスをする。すると周りから黄色い声が上がる。

 友希那を見ると、顔を真っ赤にして固まっていた。

 

「ちょちょちょ奏! 今のどういう意味!?」

 

 すると顔を真っ赤にしたリサが俺の両肩を掴み揺らしてくる。

 

「おお、落ち着けリサ! 別に深い意味は無い! 揶揄(からか)っただけだ!」

 

 俺がそう言うと、今度は別の方向からどす黒いオーラが発せられていた。

 発生源はそう、友希那である。

 

「奏……?」

「ゆ、友希那? どうした……?」

「貴方、私をおちょくったのね……?」

「友希那、その手は何でしょう……」

 

 友希那は右手を広げ、後ろに振りかぶる。

 そして──

 

「この馬鹿!」

 

パァアアアアアアン! 

 

 クラスに乾いた音が響いた。

 

「理不尽だ……」

「あはは……今のは奏が悪いよ」

 

 俺は今控室で真っ赤に腫れている頬を冷やしていた。

 

「てか友希那、あんな力強かったのか」

「しょうがないよ、元プロレスラーだもん」

「何を言ってんだお前は?」

 

 友希那がプロレスラー? そんな訳ないだろう。

 

「そんな事より! この仕事終わったら一緒に回る約束忘れてないよね?」

「忘れてねーよ。後一時間ぐらいしたらシフト交代だから、もう少し待ってろ」

「奏君そろそろ行ける?」

 

 クラスの一人が控室に入って言ってきた。

 

「あいよぉ。指名か何か?」

「うん。宜しくね」

 

 そう言って控室を出て行く。リサに氷嚢を渡し、俺も続いてホールに出た。

 

「ご指名ありがとうございます。お帰りなさいませお嬢様方……ってお前らか」

「先輩、仮にも客に向かってお前らは無いと思いますよ」

「蘭ちゃん落ち着いて……」

「エモーい」

「似合ってますよ奏先輩!」

「カッコいい……」

 

 俺を指名してきたのは、幼馴染バンド、Afterglowだった。

 

「ホントお前ら仲いいよな。席空いてるぜ。こちらへどうぞ」

 

 俺は五人を案内し、注文を取る。

 俺が五人と知り合った切欠。それはリサの働いているコンビニで青葉と知り合い、よく通っている珈琲店に羽沢が働いていて、まさかの青葉と幼馴染だと知り、あこの紹介で姉の巴を知り、そしてなんやかんやあって他の二人と知り合った。

 

「お待たせしました~」

 

 俺は注文されたものを運ぶ。

 

「そう言えばAfterglowは文化祭のライブ、出るんだろ?」

「はい。先輩は見に来るんですか?」

「まぁ俺はリサと回るから、リサが行くって言うなら行くかな。お前らの音は何時でも聞けるし」

「アドバイス、いつも参考にしています!」

 

 そう言いながらケーキを口に運ぶ上原。そのカロリーは一体どこに向かっているのやら……

 

「かー君先輩、今ひーちゃんの事エロい目で見てたでしょ~」

「見とらんわアホ」

 

 俺は青葉にチョップする。

 

「うわ~暴力はんた~い」

「モカ。遊んでないで早く食べよ。リハーサルもあるし」

「は~い」

 

 その他にも中等部のあこが来たり、他の接客などをしていた。

 

「奏君、時間だから上がって良いよ」

「おう。後宜しく」

 

 俺は更衣室で制服に着替え、外で待ってるリサの下に行く。

 

「お待たせ」

「ううん。行こっ☆」

「あら、私も一緒に良いかしら?」

 

 俺とリサが行こうとすると、友希那が来た。

 

「全然良いよ~。三人で回ろっか!」

 

 こうして俺を真ん中に、リサと友希那が俺の袖を摘んで歩く。正直歩きづらい。

 

「そう言えば蘭達のライブ見に行く?」

「俺はどっちでも良いぞ? 友希那は?」

「そうね。こういう機会もないし、見てみましょうか」

「おっけい☆」

 

 俺達は一通り出店を見て回ると、ライブの時間になり体育館へ向かう。

 体育館は超満員で、俺達は後ろの方で立ち見することになった。

 

「もしRoseliaが全員同じ学校だったら、アタシ達もここでライブやってたかな?」

「さぁな。少なくとも友希那と紗夜は反対しそうだけどな」

「当たり前じゃない。私は頂点を目指しているのよ? こんな所で遠回りなんてしている暇はないわ」

「ほらな」

 

 友希那の言葉に苦笑いし、遂にアフグロの番となった。

 

『こんにちは、Afterglowです。それでは聞いてください』

 

 こうしてアフグロの演奏が始まる。彼女達の演奏はとても力強く、彼女達の絆を見せつけられているかのようだった。

 

 ──まぁ、中学から組んで来たんだからそんなもんだろ。それにしても、良い音だ。

 

「どう? 奏から見たAfterglowは」

「そうだな。まだまだ成長できる。そんな感じだ」

「奏がそこまで言うなんて、流石美竹さん達ね。私達も負けてられないわ」

「そうだな」

 

 微笑みながら、俺は彼女達の演奏を見る。

 こうして、羽丘の文化祭は幕を閉じた。

 

 ☆☆☆☆★☆☆☆☆

 

「今日も疲れた……ん?」

 

 ベッドにダイブした俺のスマホに、一つの通知が入る。紗夜からだ。

 

『こんばんは。夜分遅くにすみません。来週、花咲川で文化祭があるのですが、是非いらしてください』

 

 ──花女の文化祭か。面白そうだな。

 

 するともう一通通知が来る。燐子からだ。

 

『こんばんは(^^)/来週花女で文化祭があるから、来てください(*^-^*)』

 

「毎回思うが、対人だと人見知りが発動して話せなくなるけど、メールだとめっちゃ人が変わるな……」

 

 俺は二人に行くという返事を返すと、そのまま眠りについたのだった。



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第六話 Poppin'Party誕生

お久しぶりです!
お待たせして申し訳ございませんm(_ _)m

ってかリサ姉、弟いたの!?
今後出そうか迷ってます。アンケートとるので、ご協力をお願いします!


 翌週。紗夜と燐子と約束していた花女の文化祭が始まった。

 リサと友希那は二人で用事があるとかで、今日は一緒ではない。

 

「それにしても、花女も結構広いな」

 

 紗夜の件で一度花女の前まで来たことあるが、中には入った事なかったため、意外な広さに驚いていた。

 

「さてと、紗夜達のクラスに行くか」

 

 紗夜と燐子は同じクラスの為、探す手間が省ける。

 昇降口で各クラスの出店が書かれているチラシを受け取り、紗夜達のクラスへ行く。

 

「紗夜達のクラスは……コスプレ喫茶!?」

 

 ──マジかよ……あの紗夜と燐子がコスプレか……

 

 見てみたいと思っている自分がいた。

 

「ここか」

 

 2-Bと書かれた教室に着く。そこには確かに、『コスプレ喫茶』と書かれていた。

 ゴクリ……と喉の奥がなる。恐る恐る入ろうとすると、後ろから声が聞こえた。

 

「か、奏君!?」

 

 そこには丸山がいた。()()()の恰好をして。

 

「丸山、お前……そんな趣味あったのか」

「違うよ!!」

 

 俺が言うと、丸山は顔を赤くして否定した。

 

「良いんだぞ丸山、恥ずかしがらなくて。あれだ、人の趣味は色々あるからな、うん」

「だから違うんだって!///」

「何の騒ぎですか?」

 

 すると今度は教室の方から声が聞こえた。

 やって来たのは紗夜だ。

 

「か、奏さん!?///」

「紗夜……お前、()()()()だったのか……」

「ち、違うんです! これはくじで決まって……!///」

 

 赤面しながら言う紗夜。普段のギャップと激しいため、とてつもなく可愛いと思ってしまう。

 

「丸山が小学生、紗夜が魔法少女……燐子は?」

 

 そう言って俺は中を覗く。するとそこには……

 

「あまり、見ないでください……」

 

 ミニスカポリスの燐子がいた。それを見た俺は……

 

「奏君! 鼻血鼻血!」

「破廉恥です奏さん!」

「う、うぅぅ……///」

 

 酷い言われようだが、これはこれでありだと思う。

 

 ──ごちそうさまです。

 

 心の中でそう思った。

 

「へぇ。ここでもライブあるんだ」

 

 暫く落ち着いた頃、花女で行われるライブの話になった。

 

「はい。今年も色々なバンドが出場する予定です」

「で、お前はその警備に当たる、と」

「はい。風紀委員なので仕方がありませんが……」

「じゃあ燐子。一緒にライブ見ようぜ」

「う、うん。良いよ……」

「じゃあ私は時間なのでこれで」

「おう。仕事頑張れよ~」

 

 そう言って俺達と別れる紗夜。もし紗夜が魔法少女の恰好で校内うろついたら……考えるのは止めとこう。

 

「じゃあ行こうぜ燐子」

「うん」

 

 俺と燐子は二人で校内を回る。途中で「え? 白金さんって付き合ってるの?」とか聞こえるが、気にしない。

 ほら見ろ、隣の燐子顔真っ赤だぞ。激おこぷんぷん丸だよ。

 

「あの、私気にしてないから……」

「そ、そうか」

 

 少し気まずくなったが、気にせず体育館へ向かう。

 体育館に到着すると、既に人が溢れかえっていた。

 

「凄いな……」

「何でも、今年の一年生は見ごたえがあるみたいなんだ」

 

 そう言う燐子から出場者リストを貰う。

 

「何々……CHiSPA、Poppin'Party、その他諸々……燐子はどのバンドが気になるんだ?」

「私は、特にこれといったバンドは……」

「ま、一年だしな。温かい目で見守るしかないか」

 

 そう言っていると、会場が暗くなった。ライブの始まりである。

 どのバンドもまぁまぁな感想だった。悪くはないが、これといって良くもない。俺達Roseliaと違って、楽しいだけでやっているバンドが殆どだ。

 

「あ、今音外れた……」

 

 すると、燐子がふと呟く。

 

「……お前、今の分かったのか?」

「う、うん……何となくだけど……」

 

 先程のバンドのミスは、サビに入る前に触れる弦を間違えたのか、音を外したのだ。だが、周りの人は気付かない程の、極僅かな小さなミス。それを燐子は聞き取ったのだ。

 

 ──もしかして……後でちょっと試してみるか。

 

 もし先程の燐子の感覚が他の人にもあるなら、Roseliaはもっと良くなる。俺は一つの可能性を感じた。

 そう思っていると、次のバンドがやって来た。CHiSPAである。

 

「ほ~、中々いいじゃん」

「珍しいね……奏君が褒めるなんて……」

「お前は俺を何だと思ってる。俺だって褒める時は褒めるさ」

 

 今日のバンドの中で、一番良いと言っても過言ではない。一つ一つの音がしっかりと絡み合って良いハーモニーが繰り広げられている。

 CHiSPAが終わり、ラスト一組となった。そう、Poppin'Partyである。

 四人が登場した時、何か違和感を感じた。

 

「……何つうか、表情が暗いな」

「え?」

「とてもバンドを演奏するような表情ではない。何か欠けている様な、そんな感じがするんだ」

 

 会場も何か異変を感じたのか、少しざわつく。

 すると、いつぞやの猫耳がマイクに向かって話し始めた。どうやら、Poppin'Partyのリーダーの様だ。

 

『文化祭、盛り上がってますかー!』

 

 その声で、会場のボルテージは上がる。

 

『最初の曲、行きます! 【私の心はチョココロネ】』

 

 そう言って演奏が始まる。

 

 ──ドラム不在の中、ここまで演奏できるとは……

 

 俺は感心していた。リズム隊で重要なドラムを抜きにここまで良い演奏が出来ている事に。

 だが、やはり音が足りない。いまいち欠けているのだ。

 演奏が終わり、会場のボルテージもMAX状態だ。

 

『次の曲は、この日の為に作った曲です。今日は一人いないけど、いつか、一緒に歌おうと約束しました』

 

 ──成程な。そのドラムの子は訳ありか。

 

 その後も猫耳は自分の思いを告げる。

 

『そんな気持ちを込めて歌います。聞いてください──』

 

 その時、体育館のドアが開いた。一人の女子生徒が、息を切らして入って来た。

 その少女はドラムスティック片手に、ステージに上がる。Poppin'Party、最後の一人の様だ。

 少女はセッティングし、軽くアップする。その時、俺は何かを感じ取った。

 

「……燐子」

「どうしたの……?」

「このバンド、化けるぞ」

「えっ……?」

 

 すると準備が整い、猫耳が言った。

 

『それでは聞いてください。【STAR BEAT! ~ホシノコドウ~】』

 

 その時、奇跡が起きた。足りなかったドラムというネジが見事にはまり、歯車が綺麗に回る。

 

「恐らくドラムの奴、一回もメンバーと音合わせしてないぞ」

「わ、分かるの?」

「何となくな。でも、いきなりここまで合わせられるんだ。大したもんだよ」

 

 Poppin'Partyのメンバー、戸山香澄、花園たえ、牛込りみ、市ヶ谷有咲、山吹沙綾。今後関わってきそうな気がする。覚えておくか。

 こうして新たなバンド、Poppin'Partyが誕生した。



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第七話 メンバーの成長

 花女の文化祭も終わり、またいつもの日常に戻る俺達。俺んちの地下室で、いつもの様に楽器を設置する。

 だが、今日は少し違う。

 

「え? 奏がギター弾く?」

「おう。今日は紗夜の代わりに俺が弾いてみようかなと。たまには良いだろ?」

 

 そう。いつもは聞き専だった俺だが、今日は自分から弾くと申し出たのだ。

 

「紗夜も聞き専に回った方が、色々と見つかるものがあるんじゃないか?」

「確かにそうね。紗夜、今回はそれで構わないかしら」

「はい。奏さんの技術も参考にしたいですし、それでお願いします」

 

 話は纏まり、俺は準備をする。

 何故俺が急に弾くと申し出たのか。それはただ弾きたかったからではない。

 こうなった経緯は、花女の文化祭での出来事だ。文化祭のバンド演奏中に燐子がふと呟いた事が気になった。極僅かな人にしか気付けないミスを気付いたのだ。

 今回の目的は、俺がわざと極僅かにミスり、皆が気付けるかどうか試したいのだ。もし、全員気付ければ、Roseliaの実力は格段と上がる。

 

「じゃあ行くわよ。【BLACK SHOUT】」

 

 そう言って演奏を始める。俺は勿論、紗夜を模倣して演奏している。紗夜はずっと俺を見ている。なんか照れる。

 

「たとえ明日が 行き止まりでも 自分の手で 切り開くんだ」

 

 ──ここだ! 

 

 俺はわざとサビの途中で音を少し外した。すると、突然演奏が止まる。

 

「……ん? どうした?」

 

 俺は辺りを見渡す。周りはもの珍しそうに俺を見ていた。

 

「珍しいわね……」

「え?」

「奏、今音外したでしょ?」

 

 友希那とリサが言ってくる。

 

「あこも思いました! 奏さんが音を外すなんて、珍しいなと」

「私も、聞こえた……」

「……紗夜はどうだ?」

 

 一言も発していない紗夜に、俺は話をふる。

 

「そうですね。私も皆さんと同じ意見です。奏さんが音を外したのには、何か理由がおありの様ですし……」

 

 ──紗夜の奴、そこまで見抜いたのかよ……

 

 正直ここまでとは思わなかった。全員が全員、極僅かなミスに気付いたのだ。

 

「……確かに、俺は今わざと音を外した。紗夜の言う通り、理由もある」

「理由?」

「俺が理由もなしに音を外すわけないだろ。今回俺が音を外したのは、お前達を試したんだ」

「試した、ですか?」

 

 俺は事の経緯を話す。すると、全員が顔を見合わせ、驚いたような表情をする。

 

「確かに、耳が良くなった気がするわ」

「アタシも感じた。ちょっと変な音が入るだけで、嫌な感じするし……」

「あこも違和感を感じます。この間の羽丘の文化祭でも、何組か音外してましたし……」

「奏さんといて、耳が冴えてきたのでしょうか」

「いつも、奏君の音を聞いているから、だと思う……」

 

 全員が思ったことを口にする。これは願ってもない事だった。

 俺は嬉しさのあまり、フッと笑う。

 

「どうしたの? いきなり笑って」

「いや、良い収穫を得れたなと思って」

「収穫?」

 

 リサが聞いてくる。

 

「あぁ。お前達は疑似絶対音感を手に入れた。俺ほどではないが、多少のミスでも気付く程な。それが嬉しいんだ。お前達は、もっともっと高みを目指せる」

 

 俺の言葉に、皆が笑顔を見せる。

 彼女達が成長した瞬間だった。

 だが、俺はまだ知らなかった。この先のライブで、彼女達がもっと進化することを。



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第八話 女優との邂逅

 俺は今、窮地に立たされていた。

 

「それで? どうして奏が白鷺さんと一緒に居たの?」

「いや、だからそれには訳が……」

「訳って何? 早く教えてよ」

 

 目の前で目の光を失った友希那とリサが立っているのだから。因みに俺は正座中。

 

「はぁ。湊さん、今井さん。取り敢えず落ち着いてください」

 

 リビングで休憩していた紗夜が声を掛けた。

 

「紗夜──!」

「話を聞いてから、煮るなり焼くなりしましょう」

「俺何もやってないよね!?」

 

 すると紗夜も少しずつ目の光を失っていく。何? 病んでんの? ()ゼリアなの? 

 

「皆さん……落ち着いて、ください」

「取り敢えず奏さんの話を聞こうよ」

「燐子、あこ……!」

 

 俺は二人を初めて女神だと思えた。

 

「はぁ、そうね。奏、足を崩して良いわよ」

「ごめんね~。ちょ~っと意地悪したくなって☆」

「意地悪というより、いじめだよそれ」

「取り敢えず、お話を聞かせてくれませんか?」

「分かったよ」

 

 あれは数時間前の事──。

 

「かー君! ちょっと良い?」

 

 日菜に呼ばれた俺は、日菜に連れられ屋上に行く。

 

「どうしたんだ。こんな所で」

「実はね。かー君に会ってほしい人がいるの」

 

 何だろう。この、娘が父親に彼氏を紹介するような感じ。

 

「俺に会ってほしい人?」

「うん。千聖ちゃんなんだけど……」

「千聖……白鷺千聖の事か?」

 

 ──何故白鷺が俺に会いたいと? 訳が分からない。

 

「この間のライブの件、もう一度話し合ったんだ。本当にあれでよかったのか。その時、かー君の話になって……」

 

 日菜の話を要約するとこうだ。

 まず前回の初ライブでの出来事について、もう一度話し合ったらしい。本当にあのままで良いのか。その時、俺が当時のライブを不快に思った事と、彩達が俺に謝った事を話したら、白鷺も会いたいという話になったそうだ。

 

「まぁ、話の流れは分かった。でも、何故急に?」

「千聖ちゃん自身も、かー君に謝りたいって言ってたし、何より、聞きたいことがあるみたい」

「聞きたいこと、ねぇ……」

「場所はつぐちゃんのお店ね。放課後、一緒に行こう」

 

 こうして俺は、白鷺千聖と会うことになった。

 

 ☆☆★☆☆

 

 放課後。俺は日菜と一緒に羽沢の店へと向かった。リサ達には用事があると伝えておいた。

 

「いらっしゃいませ~。あ、内田先輩! 日菜先輩! こんにちは」

「よう」

「やっほ~つぐちゃん。千聖ちゃん、来てる?」

「はい。奥の席でお待ちです!」

「ありがと~。かー君行こっ!」

 

 こうして俺達は奥の席へと向かう。

 

「千聖ちゃんお待たせ~」

「あら日菜ちゃん。こんにちは。隣にいるのが……」

「初めまして。内田奏です。白鷺千聖、であってるよな?」

「えぇ。私が白鷺千聖よ。宜しくね」

 

 こうして俺達は邂逅を果たす。

 俺達は席に座り、注文すると早速本題に入る。

 

「で、名女優が俺に何の様で」

「まずあなたに謝罪をしたくて。初ライブの際、不快な思いをさせてしまい、申し訳ないわ。ごめんなさい」

 

 そう言って頭を下げる白鷺。

 

「話は分かった。でも、それだけで俺を呼ぶ理由にはならんだろ。実際、俺とお前が会うのは今日が初だし、何より俺に謝る義理もない。違うか?」

「えぇ。確かにその通りよ。私は本来なら貴方に謝るどころか、会う必要もない」

「なら何で」

「貴方に、お願いがあるの」

 

 真剣な眼差しを向ける白鷺。どうやら、それ程真剣なようだ。

 

「私に、ベースを教えてほしいの」

「ベース? 何でまた」

「あのライブ以降、私は考えたわ。元々エアバンドに賛成していた私だけど、彩ちゃんや日菜ちゃんから貴方の事を聞いて思ったの。本当に名前を売るだけで良いのか、と。もしかしたら貴方以外に、不快に思った人がいるのではないかと」

 

 成程。つまり白鷺は白鷺なりに、答えを導き出した訳か。

 

「その答えが、エアバンドを止め、本物のバンドとして活動していく、と」

「えぇ」

「なら尚更わからねぇな。何で俺なんだ? 事務所にもベースが、と言うか楽器弾ける人がいるだろ」

 

 俺の質問に、今度は日菜が答える。

 

「確かにいるよ。でも上の人は私達の出した答えに反対するの。このままエアバンドとしてやっていくって。お前達は名前を広げられれば、それでいいって」

 

 その言葉をきいて、俺の中に怒りが湧いた。

 

 ──やっぱり、何処の事務所も屑ばっかだ。所詮は自分達の事しか気にしていない。事務所の名前が広がれば、その事務所に入りたいと思う人が増えてくる。そしてどんどん名前を広げていく。

 

「──気に喰わねぇ」

「え?」

「お前達の事務所、気に喰わねぇって言ってんだ。名前を広げる? バカな事をぬかしてんじゃねぇよ。そんな事の為に、所縁ある音楽をバカにされてたまるか」

 

 俺は静かに言う。

 

「会わせろ」

「会わせろって……まさか!」

「お前達のトップ──社長に会わせろ。その腐った根性、叩きのめしてやる」

 

 机の下では、血が出そうなほど手を握りしめていた。

 

「……分かったわ。来週、貴方を事務所に連れていくわ。それで良い?」

「あぁ。それで良い」

 

 俺は全員分の料金を払い、俺達は店を出る。

 

「じゃあ詳しい事は日菜ちゃんを経由してお知らせするわ。宜しくね、内田君」

「ばいばいかー君!」

「おう。じゃあな」

 

 こうして俺達は別れ、俺も帰路に着こうと思った時だった。

 

「奏……?」

 

 そこには、目の光を失ったリサと友希那がいた。

 そして、冒頭に戻る。

 

「成程。でも聞かせて。どうして奏がそこまでするの? 先程まで赤の他人だった白鷺さんの為に、何でそこまで?」

 

 友希那が聞いてきた。

 

「……別に俺はアイツの為にとか思ってねぇよ。音楽をバカにされたから、その発言を撤回させるんだよ」

「やっぱり奏は音楽になると熱くなるね」

「文句あるか? 練習量倍にすんぞ」

「ちょっと、それは厳しいって!」

「そんな事より、俺達もライブが控えてるんだ。練習するぞ」

 

 俺達は地下室に向かう。

 

 ──待ってろ。その舐め腐った考え、俺が改めさせてやる。



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第九話 VS社長

「ここよ」

 

 白鷺との邂逅から数日後。俺は白鷺に事務所へと連れてこられた。理由は一つ。舐め腐った社長とお話をするだけだ。

 それから、パスパレの残りの二人とも会った。大和麻耶、若宮イヴ、それからマネージャー。

 マネージャーはどちらかというと俺達の味方らしい。会社の為に道具扱いされる事が許せないだとか。マネージャーが話が分かる人で助かった。

 

「でも奏君。本当に良いの? いくら私達の為とは言え、こんな事……」

 

 丸山が言う。今回の件、Pastel*Palettesの全員が参加するそうだ。

 

「勘違いすんな丸山。俺はお前達の為にやるんじゃない。音楽をバカにされたから、それを撤回してもらうだけだ」

「巻き込んでしまって、すみません……」

 

 俺は事務所を睨みつける。

 

「では行きましょうか。こっちよ」

 

 俺は白鷺の後を付いて行く。それに続いて丸山も付いてくる。

 中に入り、エレベーターに乗る。途中でマネージャーと合流し、そしてついに、目的の部屋へと着いた。

 

「内田君。私も協力する。一緒に社長を説得してくれ」

 

 マネージャーの人が言う。

 

「えぇ。やれるだけの事はやってみますよ」

「じゃあ、入るよ」

 

 その言葉で、マネージャーは社長室のドアをノックする。すると奥から返事が聞え、俺達は中に入る事にした。

 

「おや、Pastel*Palettesが全員揃って何の様でしょう。それに、関係のない人がいるようですが」

 

 貫禄ある中年男性が立派な椅子に座っていた。

 

「いきなりの事で、申し訳御座いません。実は、社長にお願いがあって、ここに来ました。彼は、彼女達の友人です」

「どうも、初めまして。内田奏といいます」

 

 俺はお辞儀をして挨拶をする。人間、第一印象は大切だ。

 

「初めまして。この事務所の社長をしている鳴滝という。それで、お願いとは?」

 

 早速本題に入った。俺達は椅子に座り、丸山が口を開く。

 話の流れとしては、先に丸山達Pastel*Palettesが社長に嘆願する。そこで何かあれば俺達が介入するという手筈だ。

 

「しゃ、社長! 私達、バンドがしたいです!」

「何を言っているんだい。君達は既にPastel*Palettesというアイドルバンドじゃないか」

「いえ、そうではないんです。私達は、()()()()()()バンドをやりたいんです」

 

 今度は白鷺が言う。その時、社長の目付きが少し変わった。

 

「……どういうことだ?」

「あの時、私達の演奏を一瞬で見抜いた人がいるんです。その人は言いました。聞いているだけで不愉快だと。もしかしたら、他にも同じような事を思っている人がいたかもしれません。そんな思い、二度とさせたくないんです。だからお願いします。私達に演奏をさせてください。お願いします」

 

 白鷺が頭を下げると、俺以外の人が頭を下げる。俺はずっと社長を見ている。すると、社長と目が合った。

 

「君かい? その()()()といったのは」

「……えぇ。俺ですが」

「そうか。君か……」

 

 すると社長はニヒルな笑いを浮かべた。

 

「じゃあ君をPastel*Palettesを侮辱したという事で、侮辱罪で訴えられるな」

「なっ──!」

 

 社長の一言で、部屋の空気が変わった。だが、俺は物怖じしない。

 

「いやぁ自らがこうやって罪を認めてくれるなんてありがたいよ。今弁護士に連絡するから、ちょっと待ってなさい。慰謝料だけで済ませる様にするから」

「ま、待って下さい! 私達は別に彼を侮辱罪で訴えようなんて……」

「君達も辛かったでしょう。彼に侮辱されて。これで終わるからね」

「まぁ待てよ」

 

 俺が口を開く。

 

「それ、本当に侮辱罪として通るかな」

「何?」

「侮辱罪、名誉棄損の成立には条件がある。一つ目。先ずは事実を摘示しているかどうか。そこで侮辱罪か名誉棄損で分かれる。もし俺の言った不愉快という言葉が事実でないなら、侮辱罪にあたいするだろう」

「ほら見ろ! 君は彼女達を侮辱した──」

「だが、それを公然としていない。その時点で、侮辱罪の罪に問われないんだよ。残念だったな」

 

 ライブの日。確かに俺は隣の人に不愉快といった。だが、その発言は公然とされていないため、侮辱罪には問われないのだ。

 社長は俺を睨みつけると手に持った受話器を元に戻す。

 

「そんな事より話を戻そうぜ社長さんよ。どうすんだ? 彼女達は()()()()()()バンドがしたいらしいぞ」

「ふん。そんな事させる訳ないだろう。彼女達はモデルだ。アイドルだ。女優だ。そんな事をしている暇はない」

「じゃあ何でそんな多忙な五人を集めてアイドルバンドを組ませたんだ? おかしいだろ」

「君は分かってないな。私は彼女達に仕事を手に入れる機会をあげているだけなんだよ」

「そしてエアバンドをさせた結果、あの様な惨事になった。違うか?」

「それが何だと言うんだね?」

「そのせいで、こいつ等の立場は怪しくなってんのが分からないのか? 今音楽界で、こいつ等パスパレの居場所は無いぞ」

 

 それに──と俺は言葉を繋げる。

 

「こいつ等から聞いたぜ。アンタらはこいつ等を道具としか思っていない。自分達の事務所の名前が広がれば、それで良いとな」

「だから何だと言うんだね。彼女達は言わば、私達の駒だ。私達がいなければ、彼女達は仕事がもらえない。私達のお陰で彼女達は仕事が出来るんだ。事務所の名前を広げるくらいしてもらわないと困るね」

「そ、そんな……」

 

 社長の言葉に、丸山は絶望の顔色を浮かべる。

 

「ふざけんなよ……」

 

 その時、俺の中の何かが切れた。

 

「お前、こいつ等の事なんだと思ってんだ。こいつ等はあんた等の道具じゃない、人間だ。一人一人名前を持った、意志を持った生物だ。それを道具? ふざけたことをぬかしてんじゃねぇよ」

「な、何を……」

 

 突然の事でたじろぐ社長。だが、そんな事は知った事じゃない。

 

「気に喰わねぇのはそれだけじゃねぇ。アンタが音楽をバカにしている事だ。確かに、エアバンドで名前を広げたグループだっている。けどな、そいつらも音楽において一生懸命なんだよ。音楽が好きだけど楽器が弾けない。けど諦められない。どうしようか考えた結果、出た答えがエアバンドなんだ。そんな彼等にも才能がある。一瞬で歌詞をつくりあげ、作曲が出来る。だから売れるんだ。だがアンタらはどうだ? 自分達の売名の為だけに、楽器に触れたことのない人にステージを立たせ、客を騙し、そして機材ミスで彼女達の居場所を削った。アンタらなんの努力をした!? 彼女達が音楽で売れる為に何かしてあげたのか!? 言ってみろ!!」

 

 気付いたら俺は社長の胸ぐらを掴んでいた。

 

「内田君! 落ち着いて!」

 

 マネージャーが俺の肩を掴み、声を掛ける。だが、俺は手を緩めない。

 

「何を言い出すかと思えば、そんな事か」

「何だと……?」

「彼女達にしてあげた事? それは曲を提供したことだ。活躍する場所を提供したことだ。楽器を弾いている演技を指導してあげた事だ。それ以外に文句はあるかね?」

 

 そう言って社長は俺の手を放す。

 

「あるに決まってんだろ。さっきも言った通り、その活躍の場をお前達が奪ったんだ。それに楽器を弾いている指導? それならここにいる氷川日菜と大和麻耶は要らねぇだろ。二人は楽器を弾ける。それも気に喰わねぇ。楽器を弾ける人にわざと弾かせてねぇんだからな」

「じゃあどうすると言うのだね? 次のライブまで一ヶ月。彼女達が本気でバンドをしたいと言っているが、一ヶ月で何が出来ると言うのだ?」

 

 その言葉を聞きたかった。俺は一度パスパレに目を向ける。そしてここぞとばかりに俺は笑う。

 

「俺がこいつ等に教えてやる。楽器の弾き方から全部」

「君にそんな事が出来るのかい?」

「俺を誰だと思ってる。俺は全ての楽器を弾くことが出来る。教える事なんて、造作もない」

「……随分と自信があるようだね」

「あるに決まってるさ。音楽は無限の可能性に秘められている。勿論こいつ等にも。それを引き出すのが俺の仕事だ」

 

 俺はドアの方まで歩き出し、背を向けて言った。

 

「あんたがバカにした音楽で、パスパレの居場所を取り戻す。首洗って待っとけ」

 

 そう言って俺は社長室を出て行った。

 数分後、Pastel*Palettesとそのマネージャーが出て来て、今は休憩室にいる。

 

「ちょっと内田君、大丈夫なのかい? あんな事言って」

 

 マネージャーが心配そうに言ってくる。

 

「俺は出来ない事は言いません。こいつ等の目を見て、出来ると思ったから判断したんです」

「目を見て……?」

「あの時、社長が一ヶ月で何が出来る、そう言ってましたね」

「確かに言ってたけど……」

「その時のこいつ等の目、見返してやるっていう目をしていたんですよ」

 

 俺がそう言うと、白鷺が口を開く。

 

「流石に今回の件、私も許せません。意地でも、ちゃんとしたライブを成功させてあの社長にぎゃふんと言わせたいんです」

「白鷺君……」

「私もチサトさんの意見に賛成です! 私も今回の事は許せません!」

「流石にるんっ♪ てこなかったなぁ」

「わ、私もあんなこと言われて、悔しかった。だから奏君。お願い。私達を鍛えてください」

「ジブン達の力で、お客さんを喜ばせたいっす」

 

 誰一人、目が死んでいない。

 

 ──こいつ等、もしかしたら……

 

「さっきも言ったが、俺はお前達の可能性を引き出すのが仕事だ。その為なら、どんな手段も選ばない。付いてこれるか?」

「「「「「はい!!」」」」」

「良い返事だ。じゃあ早速、お前達の予定を教えてくれ」

「予定、ですか?」

 

 若宮が首を傾げて言ってくる。

 

「お前達はバンドである以前にアイドルであり、学生でもある。ずっと練習している時間もないだろう。だから予定を教えてほしい。その予定で、俺がメニューを決める」

 

 俺が言うと、一人一人予定を言ってくる。俺はメモを取らず、頭の中でインプットしていく。そしてカレンダーと照らし合わせて、全員が集まれる日を探す。

 

「大体わかった。明日、それぞれの予定表を渡す。丸山達には紗夜から渡すよう頼んでおく。それで良いか?」

 

 全員が頷く。

 ここから一ヶ月。こいつ等の本当の闘いが始まる。



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第十話 焦りと不安

「じゃあ今日は前回のおさらいから行くか」

「えぇ。お願いするわ」

 

 社長との一件から数日。俺達は本格的に活動するため、練習を始めた。

 場所は俺の家。最初はRoseliaが使うから駄目だと言ったが、友希那が珍しく譲ってくれた。

 今日は白鷺一人だ。丸山と若宮はバイトで、日菜と大和が仕事だ。白鷺は女優の為、一番時間が欲しい人物。あまり無駄には使いたくない。

 練習を始めて二時間以上が経過していた。夏が近づいているのもあり、一応冷房は付けているが、真剣にやっている白鷺は汗をかいていた。

 

「一旦休憩するか」

「えぇ、そうね」

 

 俺はスポーツドリンクを白鷺に渡す。白鷺はそれを受け取り、口に含む。

 

「どうだ? 感覚は掴めたか?」

「えぇ。何とかね。貴方の教え方が分かりやすくて助かるわ」

「お褒めに預かり光栄です」

「それにしても、自宅にスタジオがあるなんて凄いわね」

「まぁ、今となってはRoseliaの練習場所だけどな」

「ホント、申し訳ないことをしたわ」

「友希那からも許可得てるんだし、気にすんなよ。そんな事より自分の心配しろよ。ただでさえ多忙な女優さんなんだから」

「分かってるわ。一秒たりとも無駄に出来ないから。始めましょう」

 

 スポドリを俺に渡すと、ベースを手に取って再び弾き始める。

 こうして白鷺の練習が数日続いて、今日は全体練習の日だ。

 マネージャーの話によると、披露する曲は一曲、「しゅわりん☆どりーみん」らしい。一曲だけなら良かった。流石にニ、三曲は一ヶ月では無理だからだ。

 

「最初はミスしても構わない。一通り通しでやるぞ」

 

 全員が頷き、演奏を始める。

 最初は酷いとしか言いようがなかった。日菜は余計なアドリブを加え、白鷺は遅れ、逆に大和は早まり、若宮は音を外す。問題なのは丸山だった。体力が無さすぎる。後半にはハァハァ息を切らしていた。

 

 ──これは一からメニューを変えないといけないな……

 

 俺はすぐさまメモ用紙とペンを取り出し、一人一人のメニューを書いていく。

 

「ここに今後のメニューを書いた。次の全体練習まで、このメニューをこなしてくれ」

 

 メニューの内容は、日菜には一先ずアドリブ禁止に基礎定着。白鷺は今までと変わらず基本から。大和はスピードを合わせる事。若宮は速弾きの練習。丸山は──

 

「ら、ランニング十キロ!?」

「当たり前だ。お前は歌って踊る。強いて言うなら一番体力を使う。けど今のお前は体力無さすぎだ。なら体力付けるしかないだろう」

「そ、そうだけど……」

「一人が辛いなら、俺も一緒に走る。勿論ペースはお前に合わせる。それでどうだ?」

 

 俺がそう言うと、丸山はそれなら……と渋々了承した。

 俺のメニューに日菜はつまらなさそうに、大和と若宮は張り切っていた。その中で一人だけ、俺のメニューをじっと見つめている人物がいた。

 

「……」

 

 白鷺だ。

 

「どうした白鷺? お前も何か不服か?」

「い、いえ。何でもないわ。ありがとう」

 

 そう言ってメモをしまう。すると白鷺は次の仕事があるのか、時間だと言ってスタジオを後にした。

 俺はそんな白鷺を見る事しか出来なかった。

 それから一週間が経ち、再び全体練習の日が来た。今日は先日出した課題の見直しみたいなものだ。

 丸山も何とか体力をつけ、一曲は難なく踊れる体力を持った。

 日菜にもアドリブは極力抑えるよう言っているし、大和はペースを合わせるだけだから大丈夫だろう。若宮も速弾きの成果が出ている。問題は──

 

「大丈夫か? 白鷺」

「え、えぇ。大丈夫よ」

 

 そう。白鷺だった。

 白鷺の表情は何処か焦っている様な、不安げな顔をしていた。

 この一週間、白鷺は練習に来ていない。撮影で忙しかったからだ。

 

「じゃあ先週同様、一曲通しでやってみるか」

 

 全員が頷き、準備を始める。準備を終えると、丸山が歌い始めた。

 

 ──出だしは好調。全員課題を何とかクリアしているようだな……ん? 

 

 その時、一つの音に異変を感じた。ベースの音が震えているのだ。

 俺は白鷺を見る。何故か苦痛な表情を浮かべていたのだ。すると、一ヶ所に気になる部分があった。

 

 ──アイツの右手、震えてる……? 

 

 極僅かだが、右手が痙攣している様に見えた。次第に音の震えが大きくなる。不安定なのだ。

 

「……ちょっと待て」

 

 俺はそう言って演奏を中止した。みんなは何が起きたか分からないような表情を俺に向ける。

 だが、これ以上は危険だ。俺は白鷺の下に行く。

 

「ど、どうしたのかしら」

 

 俺は黙って、白鷺の右手を掴み上げる。その手を見ると、赤く腫れていた。

 

 ──オーバーペースか……

 

「いつからだ? 少なくとも先週は何ともなかったはずだ。あるとしたら、この一週間の中しかないが」

 

 ベースはエレキと違い、基本指弾きが主流である。つまり、指に掛かる負担が大きいのだ。リサも通って来た道だろう。

 指弾きに慣れてない人間がいきなりやりすぎると、指がそれについてこれなくなる。

 

「……私には時間が無いの。女優の仕事もやって、バンドもやって。休んでいる暇なんてない。だからこの一週間。何とかみんなに付いて行こうと一人で黙々とやったわ」

「その結果がこれか……」

「あの社長を見返したいの! こんなことで躓いてなんかいられないわ! 練習を続けましょう」

 

 白鷺は俺の手を放そうとするが、俺は放さなかった。

 

「悪いが、それは無理だ」

「何で?」

「これ以上やると、お前自身が潰れる」

「私なら大丈夫だわ! だから早く──!」

 

 パァン! 

 

 その時、渇いた音がスタジオに響いた。白鷺は何が起こったか分からない表情をする。俺も何が起こったか分からない。気付いたら白鷺の手を放していた。俺はその音を起こした張本人──丸山を見る。

 丸山が白鷺の頬をぶったのだ。

 

「いい加減にしてよ千聖ちゃん! そんなの自分勝手すぎるよ!」

「ま、丸山……?」

「自分勝手ですって……? 早く練習しないといけないと思っている私のどこが自分勝手なのよ!」

「そういう所だよ! 焦って練習して、千聖ちゃんが潰れたら、誰がパスパレのベースやるのさ! パスパレのベースは、千聖ちゃんしかいないんだよ!?」

 

 丸山は涙目で言ってくる。

 

「社長を見返したいのは千聖ちゃんだけじゃない! 私達もだよ! それなのに、千聖ちゃんは自分の事だけ……もっと私達を頼ってよ!」

「彩ちゃん……」

「千聖ちゃんは焦りすぎだよ。もっと楽にいかないと」

「日菜ちゃん……」

「時には休憩も必要ですよ、千聖さん」

「麻耶ちゃん……」

「一蓮托生です! チサトさん」

「イヴちゃん……」

 

 全員が千聖の下に寄り、声を掛ける。

 

「みんな、ごめんなさい。目が覚めたわ」

「ううん。私こそごめんね。叩いちゃって」

「いいえ。そのおかげで目が覚めたもの。だから今度彩ちゃんに何かあったら、私が殴ってあげるわ」

「なぐっ!? 千聖ちゃんが怖いよぉ……」

 

 いつの間にか辛気臭い雰囲気は無くなり、いつも通りのパスパレに戻ったようだ。

 

「……俺がお前に基本をやるよう言ったのは、お前に指弾きを慣れてもらう為だったんだ。だが、それが逆に不安にさせちまったのかもな。すまん」

「内田君も悪くないわ。むしろ、私を思ってやってくれているもの。内田君に文句をいうなんて、お門違いだわ」

「そう言ってもらえると助かる」

「でも、今日の練習どうしよっか……千聖ちゃん、今日は弾けないし……」

 

 丸山が言うと、周りの表情が暗くなる。おいおい、一人忘れてないか? 

 すると日菜が思い出しかなの様に、俺を見る。

 

「かー君がいるじゃん!」

「確か、内田さんは全ての楽器を弾けるんでしたね」

「なら一安心です!」

「奏君、良いかな?」

 

 丸山が不安そうに聞いてくる。

 

「まぁ、白鷺がこうなった以上、弾くのは俺しかないって分かってたしな。良いよ」

 

 俺は白鷺からベースを受け取る。

 

「ごめんなさい。教えて貰って、更には私の代わりまで」

「気にすんな。そんな事より、お前は座って聞いとけ。今から聞かせるのは、完成した「しゅわりん☆どりーみん」だ」

「完成した……?」

「そう。お前が完全に復活し、ここまで弾けるようにしてもらう。だからその耳でよーく聞いておけ」

「分かったわ」

 

 そう言うと白鷺は椅子に座り、俺達を見る。

 俺はアップがてら、速弾きして、指を慣らす。その様子に、全員が驚いていた。

 

「よし。俺の準備は良いぞ……どうした?」

「改めてみると、奏君ってホント凄いよね」

 

 丸山の言葉に、全員が頷く。

 

「褒め言葉としてとっておくぜ。早速始めようか」

 

 全員定位置に着き、一呼吸置いた所で丸山が歌い始めた。

 

「しゅわしゅわ はじけたキモチの名前 教えてよ きみは知ってる? (しゅわしゅわ! どり☆どり~みん yeah!)」

 

 そして俺は白鷺のパートを弾き始める。俺の能力、コピーを使って。

 すると周りは音に乗って来たのか、一体感が生まれた。

 

「凄い……」

 

 白鷺が呟く。

 こんな感じで一曲終える。全員が肩で息をし、お互いを見る。

 

「どうだった?」

「なんか凄くるんっ♪ てきた!」

「なんだかベースの音に乗せられて凄く気持ちよかった!」

「気分爽快です!」

「ドラムやってても、凄く気持ちよかったっす」

 

 各々が感想を言ってくる。

 

「白鷺は聴いててどうだった?」

「そうね。聴いていてとても楽しい気分になったわ」

 

 それを聞いて安心した。

 

「それが本来の完成形だ」

「本来?」

「お前達の仕事、コンセプトは先程白鷺が言っていたように、聴いている人を楽しい気分にさせるんだ。お前達はアイドルバンド。激しい曲もなければ、暗い曲もない。だから客を魅了するには、楽しい気分にさせるしかないんだよ」

「じゃあRoseliaは?」

「Roseliaはどちらかと言うと、客を圧倒させる魅了かな」

 

 アイツらはそんな事考えてないと思うけど。

 

「つまり私がここまで弾けるようになれば……」

「あぁ。「しゅわりん☆どりーみん」の完成だ。だからって焦るなよ。今は休養だライブまであと二週間。その程度の腫れだったら、二日で治まる。そこからでも十分間に合うさ」

「分かったわ」

 

 こうして俺達の練習は続き、いよいよ、本番の日がやって来たのだった。



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第十一話 生まれ変わったPastel*Palettes

「き、緊張してきたぁ……」

 

 丸山が控室で震えている。今日は遂に本番の日だ。今までやって来た事が、ここで披露される。

 

「何今更緊張してんだよ。お前達はやる事をやって来たんだろ? ならそれをやるだけじゃねぇか」

 

 因みに、何故か俺も控室にいる。マネージャー曰く、社長が今日だけ臨時マネージャーとして中に入れてくれたそうだ。中々優しい所あるじゃん。

 

「大丈夫か? 白鷺」

「えぇ。舞台とかは慣れているから大丈夫よ」

 

 白鷺はあれから指を完治し、無事、自分の音色を手に入れることが出来た。

 

「そっか。日菜は?」

「今すっごくるんっ♪ てきてるよ!」

 

 目をキラキラさせた状態で俺に詰め寄ってくる。近い。

 

「分かった、分かったから離れろ。大和は?」

「ジブン、柄にもなく緊張しています。変な所でミスしないか怖いっす……」

 

 スティック握る手が微かに震えていた。

 

「スタジオミュージシャンやってたんだろ? それと同じだと考えればいい。余計な事は考えるな」

「りょ、了解っす!」

「若宮は?」

「バッチリです! 意気衝天の勢いです!」

 

 若宮は張り切っていた。

 

「そ、そうか。あまり張り切りすぎるなよ?」

「はい!」

「Pastel*Palettesさん。準備をお願いします」

 

 係りの人が伝えに来た。その言葉に全員の顔つきが変わる。

 俺は最後に、五人に言葉を送った。

 

「お前達はこの一ヶ月頑張って来た。時には衝突もあったが、それを乗り越え、今のお前達がいる」

 

 全員は真剣に俺の話を聞いていた。

 

「このライブは、いわば卒業試験だ。この一ヶ月で培ったお前達の演奏、楽しみにしている。頑張れよ」

 

 その言葉に全員が頷き、控室を出た。控室には俺とマネージャーだけが残っている。

 

「ありがとね、内田君」

「えっ?」

「彼女達を育ててくれて。正直、ここまで出来るとは思わなかった」

「俺は教えただけです。後は彼女達の努力の結果ですよ」

「そっか……」

 

 そう言ってマネージャーは笑う。

 

「僕は舞台袖に行かないといけない。君はどうするんだい?」

「俺は客席の後ろでこっそり見てますよ」

「分かった。じゃあまた」

 

 そう言ってマネージャーも控室を出た。

 

「さてと……」

 

 俺も控室を出て、ある場所に向かう。

 場内は既に満席だった。

 

「あ、奏さーん! こっちこっちー!」

 

 すると紫色の髪をしたツインテール、あこの姿が見えた。

 

「悪い悪い。遅くなった」

「お疲れ様です、奏さん」

「おう、紗夜もお疲れ」

 

 ある場所と言うのは、Roseliaが座っている場所だった。実は今回、Roseliaも見に行きたいと言ってきたのだ。

 奥からあこ、燐子、紗夜、空席、俺、リサが座っていた。

 

「日菜、何か失礼な事をしていませんでしたか?」

「大丈夫だよ。変なアドリブが多かったから止めさせたけど」

「何かすみません……」

「気にすんな。それより、友希那どこ行った?」

「友希那なら少し席を外してるよ」

「そっか。それより、お前達の練習はどうなんだ? この一ヶ月何も見ていないが……」

「それなら大丈夫よ。ちゃんと奏のメニュー通りにやったわ」

 

 すると突然友希那の声が聞こえた。どうやら帰って来たようだ。

 

「お帰り。それなら良かったよ」

「えぇ。それより、彼女達の方はどうなの?」

「やれるだけの事はやった。余程の事が無い限り大丈夫だろう」

「奏が教えたんだもん。大丈夫だよ」

「何処から来るんだよその自身……」

 

 リサが笑顔で言ってきた。正直嬉しいが、そこまで過大評価されても困る。

 

「奏君は……教えるのが上手、ですから……」

「なんたって、Roseliaのマネージャーだもん!」

「ははっ。ありがとよ」

 

 そう言っていると、会場にベルが鳴り、暗くなった。いよいよ始まる。

 色々なアイドルが出る中、遂にPastel*Palettesの出番が来た。

 

「みなさーん! こんにちはーっ! 私達……」

「Pastel*Palettesです!」

「まずは一曲、聞いてください! 『しゅわりん☆どりーみん』!」

 

 こうして丸山が歌い出す。そしてハモリの所で、全員が音を鳴らす。

 すると、観客の声が少し聞こえた。

 

「これ、また口パクか?」

 

 すると丸山が音を外した。

 

「いや、今音外したし、ホントに歌ってるんじゃないのか?」

「演奏ももしかして生演奏か? アイドルなのに凄いな」

 

 観客が少しずつ、Pastel*Palettesを認め始めてきている。

 そして無事、演奏を終えることが出来た。

 

「皆さん、改めましてPastel*Palettesのボーカル、丸山彩です! 今日は来てくれてありがとーっ! 最初に、皆さんに謝りたいことがあります」

 

 すると会場が少しざわつく。

 

「私達は前回のステージで、歌も演奏もしていませんでした。ファンの皆さんに嘘をついてしまった事、とても申し訳なく思っています。本当に、ごめんなさい!」

 

 そう言ってパスパレが頭を下げる。

 

「今日は本当の演奏を聞いて欲しくて……一生懸命練習してきました! こうしてまたチャンスを頂けたことをとても嬉しく思っています。本当に、ありがとうございます! そして今後とも、Pastel*Palettesを──」

「よろしくお願いします!」

 

 すると観客がパスパレを応援する声を上げる。中には先程の音を外した事をからかう客もいた。

 

「本当でしたら、今日は一曲やって終わる予定でした。ですが、私達はある人に認めてもらいたくて、また、ある人に成長した姿を見てもらいたくて、こっそり私達で練習した曲があります。聴いてください──」

 

 そう言って、俺の聞いたことのない曲を演奏し始めた。

 

「こいつ等、一曲だけって……」

「多分彩の言う通り、奏に成長した姿見てもらいたかったんじゃない?」

「そうね。リサの言う通りだわ」

 

 確かに、俺は付きっきりで見た訳ではないが、それでも一緒に居た時間は長いと思っている。短時間で、こんなに……

 

「……あいつ等には、驚かされてばっかだな」

 

 こうしてパスパレの演奏は終わり、俺達は控室へと行った。

 

「あ、おねーちゃん!」

「ろ、Roseliaの皆さんがどうしてここに……」

 

 日菜は紗夜に抱き着き、大和は驚いていた。

 

「ちょっと日菜、離れて……」

「勿論、あなた達を見に来たのよ。奏が指導したんですもの。その結果をこの目で見ないと」

「皆さん凄かったです! こう、バーンって感じで!」

「とても楽しい気分に、なりました……」

「いや~一ヶ月で良くここまで仕上げたね、奏」

 

 リサが言うと、パスパレ全員俺の方を見る。

 

「……正直言って驚いたよ。俺に隠れて新曲やってんだからさ」

 

 俺はフッと笑い、一人一人の顔を見る。

 

「彩、日菜、千聖、麻耶、イヴ」

 

 俺が全員の名前を呼ぶ。いきなり呼ばれて日菜以外は驚いた表情を浮かべる。

 そして俺は言葉を送った。

 

「──卒業、おめでとう。もう俺の指導は必要ない。後は事務所の人達にレッスンを付けて貰え」

 

 俺が言うと、彩が涙を流し始めた。そしてイヴが嬉しさのあまり四人に抱き着く。

 

「ありがとね、奏君」

「あなたのお陰でここまでこれたわ」

「すっごいるんっ♪ てきたもん!」

「感謝感激です!」

「フヘへ……」

 

 何か一人アイドルらしからぬ笑いをした人物がいるが、スルーしよう。

 

「いやぁ素晴らしかったよ」

 

 そう言って入って来たのは事務所の社長だった。

 

「内田君、だったかな。正直ここまで出来るとは思ってもいなかった。それに客の反応も良かったし。本当にすまなかったね」

「いいえ。音楽には無限の可能性がある。その可能性に賭けただけですよ」

「ははは。そうだね。パスパレのみんなもすまなかった。考えを改めるよ」

 

 そう言って社長は頭を下げる。その行為に、誰もが驚いた。

 

「所で内田君。君に頼みたいことがあるんだが」

「何でしょう?」

「Pastel*Palettesのサブマネージャーとして、うちの事務所に来ないか?」

 

 その言葉に、全員が驚く。

 

「君の技術を無駄には出来ない。どうだろうか?」

 

 Roseliaのみんなが俺を見る。答えは決まっている。

 

「ごめんなさい。俺は既に身を固めているんです」

「どこかの事務所に入っていたのかい?」

「いいえ。俺は──」

 

 するとRoseliaが俺の後ろに立った。

 

「Roseliaのマネージャーなので」

 

 そう言って俺達は控室を後にした。

 一ヶ月にも及ぶ、Pastel*Palettes育成生活は幕を閉じた。生まれ変わったパスパレが今後どのように活躍していくのか、心の中で期待していた。



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第十二話 突然の誘い

 Pastel*Palettesが無事復活し、数日が経った。

 

「見てみて! この雑誌にRoseliaが乗ってるよ!」

 

 二人の女子が、リサに話しかけた。リサはそれを手に取ると、俺の所に持ってくる。

 

「みて奏! アタシ達だって!」

「この間のライブだろ? それなら俺も見たわ。題名は『孤高の歌姫・友希那がついにバンドを結成』だろ?」

「すっごい、一字一句あってる……」

 

 他のクラスメイトも俺の所にやってきて、話を始める。

 

「そんな事よりこれ見てよ。アタシ写真写り悪くない?」

 

 そう言われて俺は記事の写真を見る。そこには友希那を真ん中に右からあこ、紗夜、友希那、リサ、燐子が映っていた。私服で。

 

「いやコレ、写真写りが悪いってより、お前が──」

「待った内田君! この先は言わない方が良いよ!」

「えっ? あ、あぁ……」

 

 クラスメイトに止められ、俺はその先を言うのを止めた。

 

「気になるなぁ……あ、奏。あこから連絡来た?」

「あぁ。なんか打上げやるんだろ? 俺は行かないけど行って来いよ」

「え? 何で?」

「何でって、今日は友希那の個人練習の日だ。それにそのライブは俺いなかったしな」

「確かにそうだけど……」

「楽しんで来いよ。俺の予想だと、燐子とあこしか来なさそうだが」

「紗夜も来なさそうだもんね……」

 

 リサと話していると、チャイムが鳴り、次の授業が始まる。

 放課後になり、俺は友希那と待ち合わせしてCiRCLEに向かう。

 

「それで友希那? 今後の目標は考えているのか?」

「今後の目標?」

「俺含め、Roseliaのメンバーは揃った。ライブも何回か出ている。そろそろ明確な目標を決めても良いんじゃないのか?」

「そんなの決まってるわ。FUTURE WORLD FES.に出場するために、コンテストに出て、上位三位以内に入る事。それが目標よ」

「はいよ。じゃあそれに向けてメニューを組めばいいんだな?」

「えぇ。宜しくね」

「任せろ」

 

 こうして今後の目標が決まり、俺と友希那は個人練習に入った。

 練習が終わり、次の受付をしようとした時だった。

 

「あの……!」

 

 一人の女性が話しかけてきた。

 

「友希那さん……少しお時間よろしいでしょうか?」

「失礼ですが、どなたでしょうか?」

 

 女性に聞き返す友希那。すると女性はカバンから名刺を取り出してきた。その名刺を見ると、有名な音楽事務所の名前が入っていた。

 

「率直に言います。友希那さん。うちの事務所に所属しませんか?」

 

 その女性は友希那を勧誘してきた。当然、友希那の答えは──

 

「事務所に興味はありません。私は自分の音楽で認められたいだけなので」

 

 そう言って俺達は帰ろうとする。だが、その人も諦めていなかった。

 

「あなたは本物だ! 私……いえ、私達ならあなたの夢を叶えられる!」

「夢……?」

「一緒にFUTURE WORLD FES.に出ましょう!」

 

 この時、友希那の足が止まった。

 

「友希那?」

 

 すると友希那は振り向き、言った。

 

「ごめんなさい。私はRoseliaでFUTURE WORLD FES.に出場するって決めていますので」

 

 そう言って今度こそ帰ろうとする。

 

「では正直に言わせてもらいます。今のRoseliaでは次のFUTURE WORLD FES.に出場するのは厳しいでしょう」

「何ですって……?」

「でも友希那さん。あなただけなら話は別です! コンテストに出場する必要もない、本番のフェスに参加することが出来るんです! あなたの為にメンバーも用意しました。後はあなたの気持ちだけです」

「ちょっと待ちなさい。あなた、Roseliaが出場できないですって……?」

「今の実力では、厳しいでしょう」

 

 つまり、俺は喧嘩を売られたという事か? 

 

「確かに、私達だけなら厳しいでしょう」

「なら──」

「でも、私達には彼がいるわ」

 

 そう言って俺を見る友希那。すると女性は俺に話しかける。

 

「失礼ですが、あなたは?」

「初めまして。Roseliaのマネージャー兼技術指導をしております、内田奏と言います」

 

 俺は軽くお辞儀する。

 

「彼がマネージャーで技術指導もしているんですか? ただの高校生にしか見えませんが……」

「彼はただの高校生ではないわ。彼は全ての楽器を弾けるわ。それだけじゃない。絶対音感の持ち主でもあるわ」

 

 何故か友希那が自慢げに答える。

 

「それに先日ライブしたPastel*Palettesを一ヶ月指導したわ。彼女達は一ヶ月で楽器が弾けるようになる程、彼の指導は的確なの」

「成程……。それは素晴らしいですね」

「分かってくれたかしら。だから諦めて頂戴」

 

 友希那がそう言うと、女性は黙り込む。

 

「……分かりました。今日は諦めます。ですが友希那さん。私達は必ずあなたを手に入れます。では」

 

 そう言うと女性は俺達の下を去っていった。

 

「私達も帰りましょう。奏」

 

 暫くすると、俺達もCiRCLEを出た。

 

 ──あの目は一体、何だったんだ……

 

 女性とのすれ違いざま、俺を睨みつけるような、そして何か企みのあるような目を俺に向けた事を、友希那は知らない。

 

 ──嫌な予感しかしねぇなぁ……

 

「奏? 早く行きましょう」

「あ、あぁ」

 

 止めていた足を再び動かす。あの女性に不安を抱きながら……



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第十三話 Roseliaのマネージャーとして

「ふぁ~……」

 

 大きな欠伸をしながら街を歩く俺。今日はオフの日だ。

 友希那とリサに遊びに行こうと誘われたが、今日はゆっくりしたいと言って断って来た。リサならともかく、あの友希那が誘ってきたのはビックリした。まぁ、これも良い方向に変わっていっているのだろう。

 実は最近、妙な噂を聞く。何でも、羽丘の有名人は誰かと聞き込みしている人がいるらしい。

 すると目の前に、見知った人が立っていた。

 

「こんにちは、内田奏さん。数日ぶりですね」

 

 そう。あの時CiRCLEで友希那をスカウトした女性だった。

 

「どうも。何と言うか、予想は出来ました」

「予想、ですか?」

 

 俺の言葉に首を傾げる女性。

 

「あの時の目、あれは俺を邪魔だと思った目か、もしくは俺を事務所に入れさせ、友希那を説得させるか。そのどちらかでしょう」

「流石ですね。やはり、学年一位の頭脳は伊達ではない」

「……調べたのか」

「聞き込みをしただけですよ。この羽丘女子学園で有名な人は誰か、と。勿論Roseliaの友希那さんや今井さん、Pastel*Palettesの氷川さんに大和さんがいましたが、その中にあなたの名前もあったので」

「最近聞く噂はそれか……」

 

 まさか俺の名前まで入っているとは思わなかった。

 

「それで? 俺に会いに来たって事は……」

「えぇ。詳しい話は、お店の中でしましょう。大丈夫です。私が全部持ちますので」

「いや、そういう事を聞いてるんじゃ……」

「さぁ、行きましょう」

 

 そう言って目の前を歩く女性。本当は逃げても良かったんだが、何だか面倒くさくなりそうなので、黙って付いて行く事にした。

 その光景を見ていた人が、二人。

 

「ねぇ、りんりん。あれ、奏さんだよね……?」

「う、うん……奏君だと、思う……」

「あの女の人、誰なんだろう……りんりん! 付いて行こう!」

「えっ!? でも、良いのかな……」

「気になるじゃん! 早く早く!」

「ちょっと待って、あこちゃん……!」

 

 ☆☆★☆☆

 

 俺達はお高そうなホテルに入り、そこのレストランにいる。

 

「内田さん。単刀直入に言います。私達の事務所に入ってください」

 

 入って早々、女性がそう言う。

 

「何で俺なんですか?」

「先日のお話、本当かどうかPastel*Palettesの事務所にお伺いしました。本当に一ヶ月でPastel*Palettesが楽器を弾けるまで指導したのか、と」

「まぁ、普通の人なら疑うよな」

「はい。そして事務所の方も仰っていました。彼の能力は信じられない。放っておけない、と」

「そう言ってくれるのはありがたいな」

「それは我が社でも同じです。あなたは金の卵だ。全ての楽器を弾けるなら、我が事務所に所属してデビューしませんか?」

「デビュー? 俺を入れさせ、友希那を納得させるんではなく?」

「それもありました。ですが、あなたをマネージャーや技術指導に置いておくのは勿体なさすぎます。なので、内田奏さん、是非とも我が事務所に入ってください。共にデビューしましょう!」

 

 成程。全ての楽器が弾けるなら、それを使って売れさせようってか。だが──

 

「……デビューしたところで、俺に何かメリットはありますか?」

 

 この話に俺のメリットは無い。ただ名前が広がって、金がもらえる。それだけだ。俺はそんなのに興味は無い。

 

「申し訳ないんですが、俺には金も名誉もいらない。ただ……」

 

 俺は五人の顔を思い浮かべる。

 

「俺はRoseliaが頂点へ狂い咲けば、それでいい。なんせ俺は、Roseliaのマネージャーなんだから」

「何故そこまでRoseliaに拘るんですか?」

「俺はアイツ等に救ってもらった。だから俺はその恩を返す義務がある。その恩は、俺があいつ等を頂点に連れていくことだ」

 

 そう言って俺は立ち上がり、お辞儀をしてその場を離れる。

 

「……行くぞ。燐子、あこ」

 

 後ろから付いて来た二人を回収して。

 

「うぇっ!? 気付いてたんですか!?」

「当たり前だ。紫色の髪がヒョコヒョコ顔出せば、誰でも分かる」

「う~ん……完璧な尾行だったと思うんだけどなぁ」

 

 あこは顎に手をやり、唸っていた。

 

「奏君。どうして、断ったの……? 事務所デビューの話……」

「聞いてたのか」

「ごめんね……」

「言った通りだ。俺はRoseliaでFWF.に出場したい。お前達は俺を暗闇から、過去から救ってくれた。だから、その恩返しをしたいんだ」

 

 すると、先程まで唸っていたあこが手を繋いできた。

 

「奏さんがそう言ってくれるなんて、あこ嬉しいです!」

「うん……いつも迷惑かけていたんじゃないかと、思ってたから……」

「全然迷惑なんかじゃねえよ。俺は自分の意志でお前達のマネージャーやってんだ。そんな事気にする暇あったら、今度行われるコンテストの練習でもしてろ」

 

 俺はあこと燐子の頭に手を乗せる。

 

「行こうぜ」

「あ、待って下さいよ~!」

「ま、待って……」

 

 俺はこいつ等を頂点へ行かせて見せる。それがRoseliaのマネージャーとしての、俺の役目だ。

 そう胸に刻み込ませ、迫りくるコンテストに向けてメニューを考える俺だった。

 

 ☆☆★☆☆

 

 夜──。

 

「へ~。そんな事があったんだ」

「全く。私が無理だと知ったら今度は奏に手を出してくるなんて……呆れたものだわ」

「まぁそうなんだけどな。それより……」

 

 ここは俺の部屋。なのになぜか──

 

「何でリサと友希那が俺の部屋にいるんだよ!」

 

 帰って来たらこの二人がいたのだ。そして何食わぬ顔で飯を食べ、何故か風呂に一緒に入ってこようとした為、それを阻止して落ち着いたと思ったら、パジャマ姿の二人が部屋で待ってた。

 

「何でって、一緒に寝る為じゃない」

「いや、君達の家目の前じゃん。わざわざここで寝る必要ないじゃん」

「そんな事言って~本当は嬉しいんでしょ?」

「なっ!? 何言って///」

「それに、アタシ達の気持ち、分かってるんでしょ?」

 

 リサが言うと、俺は固まってしまった。

 前々から気付いていた。二人が最近スキンシップが激しい事を。もしかしたらとは思っていたが、自分の勘違いでいてほしかった。

 

「沈黙は肯定と捉えるわよ?」

「……俺の勘違いでいて欲しかったんだがな」

「この写真を飾っておいて、何言ってんの」

 

 リサは俺の机に飾ってある写真──俺を真ん中に左右に友希那とリサの幼少期──を手に取る。

 あの頃は口癖のように言っていた。

 

『ぼく、いつかゆきなとリサにふさわしいおとこになるよ!』

 

 でも、そんな昔の事二人が覚えている訳──

 

「あなたは既に、私達にふさわしい男性よ」

「覚えてたのかよ……」

「当たり前じゃない。とても嬉しかったんだから」

「もう告白同然だもんね~あの言葉」

「はっず……」

 

 俺は多分、顔を赤くしている。

 

「でも、今は何も言わないわ」

「え?」

「今はRoseliaの大事な時期。余計な感情何ていらない。だから全部終わったら、その時は待ってなさい」

「アタシもだぞ~? 奏をメロメロにするんだからっ☆」

「ははっ……お手柔らかに……」

「じゃあもう寝ましょうか」

「そうだね~」

 

 そう言って俺のベッドに入ってくる二人。

 

「って、何ナチュラルに入って来とんねん」

「ダメ……?」

 

 涙目の上目遣いはダメだろ……

 

「……分かったよ」

 

 そう言って俺は二人をベッドに入れた。右に友希那、左にリサだ。

 今日は色々あったからすぐに寝れそうだ……

 

 ☆☆★☆☆

 

 奏が寝て数分後。

 

「寝たかしら……」

「今日は色々あったみたいだから、疲れてもうぐっすりみたいだね~」

 

 奏。あなたは私達にとってかけがえのない存在よ。だから、絶対に離さないから。

 

「おやすみなさい、奏」

「おやすみ、奏」

 

 私とリサは彼の頬にそっと口付けした。

 次は大事なコンテスト。絶対に負けない……。

 そう思いつつ、私は眠りについた。



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第十四話 コンテスト

「うわぁ~! すっごいカッコいい!! まさに黒の支配者、闇の破壊者!」

 

 地下スタジオであこが騒ぐ。

 

「これが燐子が作った衣装か。中々良いな」

 

 以前、俺と友希那がスカウトされた同時刻に、リサは燐子とあこと打ち上げに行った。案の定紗夜は来なかったらしい。

 その時雑誌の写真を見て、リサが浮いているという話がでたそうだ。俺が言おうとしたことを、あこが代弁してくれたらしい。そこで、統一感を出そうと、燐子が衣装を作ると言う話になったそうだ。

 明日はコンテスト本番。今日はその衣装合わせって所だ。

 

「一人一人にサブコンセプトがあって、デザインを少し変えているのね。アートワークの才能が有りそうだわ」

 

 ──紗夜なりに褒めてんのか……分かりにくいけど。

 

「やっほ~お待たせ~って……衣装すごっ!」

 

 遅れてきたリサがやって来た。

 

「凄い凄い超良い感じじゃん! 紗夜もあこも似合ってるよ!」

 

 リサが言うと、あこは嬉しそうに、紗夜は何か胸を張っている……? 

 

「まぁ、燐子が凄いって事だな」

「そ、そんな事ないよ……」

 

 そう言って扉を開けてきたのは燐子だった。ちょっと恥ずかしそうに入ってくる。

 

「あなた達も着替えてきたら?」

「ん! そだね!」

「じゃあ俺は外に出てるわ」

「別にいても良いんだよ~?」

「うぅ……///」

「何言ってんだアホ。早く着替えろ」

 

 リサが言うと、燐子が顔を真っ赤にさせていたため、俺はすぐさま退散した。

 階段を上りリビングに入ると、ソファーに座っている友希那がいた。

 

「どうした友希那? みんな衣装に着替えてるぞ」

「奏……」

 

 その表情は友希那には珍しかった。

 

「不安、なのか?」

「不安……かもしれないわ。私らしくない」

 

 俺は友希那の隣に座る。

 

「もし歌詞を間違えたり、音を外したり、みんなに迷惑を掛けたり……思考の負の連鎖が止まらないの」

「……まぁ、明日は今までのライブと違って、FWF.の出場権をかけた大一番だ。その連鎖もあるだろう」

 

 でも──と言いながら友希那の手を握る。

 

「お前達なら大丈夫だ。今まで、この時の為に練習をしたんじゃないだろ? FWF.で頂点に狂い咲くためにやって来たんだろ? 明日はその通過点だ。此処でつまずいたら、笑われちゃうぜ」

「奏……」

 

 すると友希那は何か吹っ切れたのかフッと笑う。

 

「そうね。私はRoseliaの湊友希那よ。こんな所でつまずいてられないわ」

「その意気だ。じゃあ行こうぜ」

「えぇ……ねぇ奏」

「ん? 何だ?」

「……ありがとう」

 

 そう言って俺の横を通り過ぎる。その笑顔は、とても優しかった。

 

 ☆☆★☆☆

 

『出場者の皆さん。出番の五分前には──』

 

 スタッフの声が大きな控室に響き渡る。

 いよいよ本番の日がやって来た。今回は公開イベントにより、色んな人が見に来る。

 

「ああっやば! メンテ用のスプレー忘れた!」

「忘れものには注意って言ったじゃない」

「うぅ……」

 

 紗夜に怒られる。

 すると紗夜はスプレーを渡してきた。

 

「これを使って」

「あ、りがと……」

 

 紗夜はあれ以来、柔らかくなった気がする。これも奏のお陰だ。

 因みに今奏はそばにはいない。友希那と一緒にコンテストの説明を聞きに行っている。こんな時に近くにいてほしかった。隣ではあこと燐子が何やら話しており、あこが騒いでいる。

 

「あこ、あまり騒がないで頂戴」

 

 説明を聞きに終えた友希那と奏が帰って来た。

 すると、辺りからこんな声が聞こえる。

 

「ねぇ、あれってRoseliaだよね」

「もっとクールなのかと思ったら、何か意外」

「てか、あの男の人誰?」

「友希那の彼氏とか?」

「いや、スーツ来ているからそれは無いでしょ」

「見て、Roseliaの名簿にMgr.って書いてあるよ。多分マネージャーじゃない?」

「凄い。マネージャーまで雇ってるんだ」

「カッコいい……」

 

 などと言っている。てか最後の人、カッコいいのは同感だけど、奏はあげないからね! 

 

「一人で何やってんだお前」

「ひゃわっ///」

 

 いきなり奏が声を掛けてきた。それに驚いて変な声を出す。

 

「余計な事考えてないで、今の事を考えとけ」

「う、うん……」

「皆さん、五分前です。そろそろ行きましょう」

 

 紗夜が声を掛ける。アタシ達はステージの袖に向かう。

 

「いよいよね……奏。何かある?」

 

 ステージ袖に着いたアタシ達は、奏の方を振り向く。

 

「そうだな……俺からは一言だけ」

 

 全員ゴクリと喉を鳴らす。

 

「……お前達の全てをぶつけてこい。お前達なら、出来る」

 

 そして──と言葉を繋げてきた。

 

「前を見ろ。俯くな。自分と向き合ってこい」

 

 その言葉はまるで、アタシに言われているようだった。

 奏は分かっていたのだろう。アタシが緊張して心のどこかでまた逃げているのを。それを気付かせてくれた。

 

 ──やっぱり奏は優しいな……

 

「Roseliaさん、お願いします」

「行ってこい!」

「「「「「はいっ!」」」」」

 

 そして私達はステージへと向かった。

 観客は超満員。みんながサイリウムやブレードを振ってくれている。

 

 ──さっきまでの緊張が嘘みたい! 

 

 まるで奏が背中を押している様な、そんな感じだった。それは紗夜達も同じようだった。

 演奏が終わると、観客は歓声を上げる。アタシ達は手を振り、ステージ袖に向かうのだった。

 

「お疲れ。後は結果だけだな」

 

 奏は五人分のタオルを渡してくれた。ここでもちゃんとマネージャーしてくれる。本当にありがたい。

 こうしてアタシ達は結果を待つだけとなった。



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第十五話 ここから

 俺達は今、いつものファミレスに来ている。

 紗夜はお茶、友希那は紅茶を(すす)っている。

 

「二人共相変わらずクールだなぁ……」

「覚めていたらこんな所に来ません」

「そうよ」

 

 ──いや、何回か来てんだろ……

 

 そんな突っ込みは置いて起き、あこが飲み物を机に勢いよく置く。

 

「そうですよね! 友希那さんも紗夜さんも、Wハンバーグ&エビフライ&チキンソテーのプレート、ご飯大盛りデザートつきで良いですかっ?!」

 

 あこの言葉に、二人は頷く。え、マジで? 食えるの? 

 

「じゃあそれを六人ともで! 燐子、宜しく!」

「は、はい」

 

 ──え? 俺も喰うの? 

 

「……スーパーやけ食いセット六人前……ですね……」

「頼むならちゃんとメニュー通りに頼め……」

 

 俺は頭を抱えながら突っ込むのだった。

 

「ま、結果としてはこうなっちゃったけど……」

 

 リサが口を開く。

 結果としては、俺達は落選した。有力候補と呼ばれたRoseliaが、だ。

 この時、俺はとても申し訳なく思えた。俺の力が足りなかった。俺は拳を強く握った。

 すると友希那がその手をそっと握ってくれた。

 

「安心して、あなたのせいではないわ」

「でも、俺は……お前達を……」

「講評を聞くわ。理由はそれからよ」

「……あぁ」

 

 俺達はその場に残り、審査員の講評を聞く事にした。

 俺達の番になり、講評が始まった。

 

「素晴らしい演奏だったわ。本大会で限りなくトップに近いレベルだった」

「なら、なら何故私達は落選したのですか?」

 

 紗夜が声を上げて言う。

 

「あなたたちは結成して、まだ日が浅いみたいね」

「……日は浅くても、練習量はどのバンドにも変わりないはずです」

 

 すると、審査員が、笑顔で言う。

 

「そう。……だからこそあなた達には『入賞』ではなく、『優勝』してメインステージに立ってほしいのです」

「──っ!」

「Roselia。あなた達には伸びしろがありすぎる……ですから、来年もう一回り成長した姿を私達に見せて下さい」

 

 こうして俺達の講評は終わったかの様に思えた。

 

「そして、マネージャーの内田奏さん」

「は、はい」

 

 急に俺の名前を呼ばれ、固まってしまった。

 

「噂はかねがね聞いております。あのPastel*Palettesを指導したとか」

 

 ここまで話が広まってるのか……

 

「Roseliaが短期間で成長したのは、あなたのサポートのお陰でもあります。あなたは誇っていい。あなたの能力で、Roseliaを更に進化させてください」

「……はい!」

 

 そんな事を思いだしていると、やけ食いセットが届いた。

 

「落選したけど、すっごく認めてもらえたし、アタシはそんなに悪くないんじゃないかなって」

 

 全員に行き渡ると、紗夜がいきなりがっつき始めた。

 

「でも、私は認めないわ!」

「そうよ。このジャンルを育てていきたいって言うのなら、優勝させてもっと大きな活躍を……」

 

 すると友希那もがっつき始めた。そんなにイラついてたのか……

 

「でも、確かに悔しかったですけど、それがどうでもよくなるくらい、あこ……楽しかった!」

 

 すると、俺とあこ以外固まってしまった。

 

「ちょっとわかっちゃうな~……」

「わたしも……今までで一番……」

 

 みんなが楽しそうに話している。その光景を見ながら、俺は食を進める。

 

「でも、もう一つ認められたものがあるわ」

 

 すると友希那が俺の方を見る。

 

「……ん?」

「奏。あなたのその能力が、全国に認められたのよ」

 

 その言葉を聞いた時、先生の手紙を思いだす。

 

 ──お前の事を分かってくれる人がいる筈だ。

 

 俺の事を分かってくれる。それは、俺を認めてくれるって事だったのだ。

 

 ──そっか。そういうことだったのか……

 

 漸く、俺は人に認められたのだ。

 

「そっか……そうだな」

 

 ──先生。見ていますか? 俺、やっと人に認められました。先生の言う通りになりましたね。

 

 俺は窓の外を見る。その夜空は星が輝いていた。

 

【──良かったな……】

 

 ふと、声が聞こえた気がした。

 

【お前の事、見てるからな】

 

 ──あぁ。見ててくれよ、先生。

 

「奏? どうしたの?」

「いや、何でもない。それよりどんどん食おうぜ! 冷めちまう」

「そうね。早く食べましょう」

 

 こうして俺達のコンテストは、幕を閉じた。

 俺達はここから始まる。来年に向け、俺達は新たな一歩を踏み出すのだった。

 

 ☆☆★☆☆

 

 夜──。

 友希那達と別れた俺は、ある場所に向かっていた。

 

 ──まだいるかな。覚えてくれるとありがたいが……

 

 すると、目的の場所には、目的の人物がいた。

 

「こんばんは」

「誰だい。こんな時間に」

 

 少し不機嫌な声を上げる女性。足が悪いのか、杖をついている。

 

「お久しぶりです」

「あんた、まさか……」

「内田修也、と言えば分かりますか?」

 

 内田修也と言うのは、俺の親父の名前だ。この人は、親父にギターを教えてくれた人らしい。

 

「あぁ。あいつの子供か。大きくなったね」

 

 俺の事が分かると、フッと笑う。

 

「それで、私に何の様だい」

「一つ。お願いがあります。Roseliaを、このライブハウスで演奏させてください」

 

 俺は頭を下げる。

 

「ここはオーディションで出場者を決める。明後日、ここに来な。見てあげるよ。アンタの作り上げたバンド」

「ありがとうございます──」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ──────────都築オーナー。



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第十六話 オーディション

「ライブハウスのオーディション?」

 

 翌日。地下スタジオに集まった五人に、昨日の事を話す俺。

 

「そこのライブハウスでライブするには、オーディションに合格しなければならない。昨日コンテスト終えたばかりだが、実践は多い方が良い。大丈夫か?」

「えぇ。私は構わないわ。みんなは?」

 

 友希那が代表してみんなに聞く。

 

「アタシは大丈夫だよ~」

「私もです」

「あこも平気です!」

「わ、わたしも……」

 

 どうやら全員OKの様だ。

 

「それで奏。そのオーディションは何時なの?」

「明日だ。オーディションでやる曲は一曲だ。だからって気を抜くな。あそこのオーナーは元バンドマンだからな。ちょっとのミスでも気付く」

「なるほど。まるで奏さんみたいですね」

「けどあの人は、ミスなんかよりもっと大切なものを学ばせてくれる。だから無理言ってオーディションを入れたんだ」

「ミスよりも大事な事……ですか……?」

「それは明日になれば分かる。それで、明日は何の曲をやるんだ?」

 

 俺は友希那に問いかける。

 

「BLACK SHOUTで行くわ」

「了解。じゃあ今日は調整しようか」

 

 そう言って今日は一日ブラシャを練習した。

 翌日。

 

「来たかい」

「わざわざありがとうございます、オーナー」

「今日はよろしくお願いします」

「準備しな」

 

 俺達はライブハウスSPACEに行き、オーディションを受けに行った。

 友希那達はステージに上がり、俺とオーナーは観客席に座る。

 

「いつでも始めな」

 

 オーナーが言うと、それを合図にイントロが流れ始める。

 出だしは好調。そのままの流れで演奏は続いていく。オーナーはそれを黙って見ていた。

 そして演奏は終わる。全員、俺を含めてオーナーを見る。

 

「それが、アンタたちの全力かい?」

 

 ゆっくり立ち上がるオーナー。

 

「あたしには、まだまだ出来ると思うけどね」

 

 でも──と言葉を続ける。

 

「アンタ達は本番で強くなるタイプだ。それを見せて貰うよ」

「って事は……」

「合格だ。来週のジョイントライブに出てもらうよ」

 

 その言葉であことリサが喜び、燐子はホッと安心したような表情をした。

 

「因みに、ジョイントライブって誰が出るんですか?」

「Glitter*Greenだよ」

 

 ──Glitter*Green……聞いたことないな。何処かの新生バンドか? 

 

「Glitter*Greenはここの常連さ。かなり人気があるよ」

「確か、花咲川の生徒会長である鰐部七菜先輩がいた気がします」

 

 紗夜が顎に手を添えて言う。

 

「って事は、下手すりゃ俺達よりバンド歴先輩だな。胸を借りるつもりでやらねぇとな」

「そうね。奏の言う通りだわ」

「って事でよろしくね、Roseliaさん」

 

 すると俺達の後ろから声が聞こえた。振り返ると、四人の女子高生がいた。一人はなんか人形を抱えている。

 

「初めまして。私達がGlitter*Greenです。私は牛込ゆり。宜しくね」

「私は鵜沢リィ。宜しくなのだ」

 

 鵜沢先輩は自分の名前を行った後、人形を口元に持っていき、低い声で言った。

 

「私は鰐部七菜です。宜しくお願いします」

 

 先程紗夜から聞いた鰐部先輩だ。丁寧にお辞儀までする。

 そして最後の一人はゆっくりとこちらに近付いて来た。そして優しい笑顔を向ける。

 ……なんか嫌な予感がする。すると突然、右腕を上げた。

 

「集え少女よ大志を抱け! フゥ!!」

 

 俺達は口を開いて固まってしまった。

 

「聞こえないぞぉ! 大志をいだ──」

「ハウス!!」

 

 すると鵜沢先輩が止めに入った。すると先輩はUターンして帰って行った。

 

 ──てか、ハウスって犬を躾ける言葉じゃ……

 

「あの子は二十騎ひなこ。普段あんな感じだけど、悪い子じゃないから……」

「は、はぁ……」

 

 代わりに鰐部先輩が紹介してくれた。二十騎先輩を見ると、鵜沢先輩に頭を撫でられていた。何だコレ……

 

 ──それにしても牛込って、Poppin'Partyにもいたよな……もしかして姉妹か? 

 

「ちなみに妹もバンドを組んでいるの。名前は牛込りみ。もしかしたら関わりそうだから教えておくね。姉妹共々よろしく」

「それにしても~どうしてガールズバンドの聖地に男の子がいるんだい? もしかして~女の子かい?」

 

 頭を撫でられていた二十騎先輩が俺の所に詰め寄って来た。正直、この人は苦手だ。

 

「お、俺は正真正銘男です。そう言えば、俺達も自己紹介してないな。友希那」

 

 俺が言うと、Roseliaは一列に並ぶ。

 

「Roseliaのボーカル、湊友希那です」

「ギターの氷川紗夜です」

「ベースの今井リサで~す」

「我は漆黒の闇から生まれしドラマー、宇田川あこ!」

「き、キーボードの、白金……燐子、です……」

「そしてRoseliaのマネージャー、内田奏です。宜しくお願いします」

 

 そう言って全員頭を下げる。

 

「成程~マネージャー君だったか~因みに、好きな子とかいるの?」

 

 二十騎先輩が言うと、友希那とリサが期待のある目でこちらを見る。

 

「い、いませんよ! 俺は今、Roseliaを頂点に導くことに専念したいので」

 

 俺がそう言うと、あからさまにがっかりする二人。分かりやすいな……

 

「まぁ、お互い頑張りましょう。当日宜しくお願いします」

「こちらこそ」

 

 そう言って、俺達はSPACEを後にした。

 

「何かGlitter*Greenって凄い人ばかりだね……」

「何か、どっと疲れたわ……」

 

 帰り道、リサと友希那と三人で帰っていた。

 

「それにしても、奏に好きな人がいないのは納得しないな~」

「奏は私達が好きじゃないの?」

「言ったろ。今はRoseliaを頂点に導くことが最優先だ。恋愛は、その次。てか、今は干渉しないんじゃなかったのかよ」

「確かに干渉はしないわ。でも、好きな人にそんな事言われると傷付くわよ」

 

 友希那は淋しそうな表情をする。

 

「ごめんな。勿論お前達、紗夜、あこ、燐子含めみんな好きだぜ」

「それは友達としてでしょ?」

「まぁな」

 

 俺はフッと笑う。

 

 ──俺も好きだよ。お前達の事。友達としてではなく、女として。でも、それを言うのは今じゃない。だから、待っててくれ……

 

 そう心に決め、俺達は帰路を歩く。



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第十七話 失敗を通して

 遂にこの日がやって来た。今日はGlitter*Greenとジョイントライブを行う日だ。

 始まるのは十九時から。それまで俺ん家で軽く練習し、SPACEに向かう。

 中に入ると、既にGlitter*Greenと、何故かPoppin'Partyがいた。

 

「Roseliaです」

「よろしく願いします」

 

 友希那と紗夜が言う。

 

「Roseliaちゃ~ん!」

 

 すると二十騎先輩が迫って来た。

 

「ハウス!」

 

 鵜沢先輩が言うと大人しく帰って行った。そして頭を撫でられる。

 すると猫耳、戸山香澄が来た。

 

「こんにちは! ポピパです。宜しくお願いします!」

「「「「よ、宜しくお願いします」」」」

「宜しく」

「宜しく~♪」

 

 友希那とリサは返事を返す。

 

「始めるよ」

 

 するとオーナーから声が掛かった。リハを始めるらしい。

 

「あの!」

「ん?」

 

 俺も準備しようとすると、戸山が声を掛けてきた。

 

「私、戸山香澄って言います! どうして皆さんと一緒に行かないんですか?」

 

 戸山は恐らく、他の五人がステージに向かったのに一緒に行かなかった俺が気になったのだろう。

 

「俺は表舞台には立たないんだ。影であいつらを支える。つまりマネージャーだ」

「マネージャー……」

「それにしても、文化祭見たぜ。Poppin'Party」

「わ、私達を知っているんですか?!」

「ギターボーカルの戸山香澄、リードギターの花園たえ、ベースの牛込りみ、キーボードの市ヶ谷有咲、ドラムの山吹沙綾」

「凄い、私達の名前まで……」

「もしかして、ストーカーさん?」

 

 花園がとんでもないことを言い出した。

 

「ちげーよ。俺は一度見たものはすぐに覚えられんだ。俺は内田奏。羽丘の二年だ」

「内田。アンタも手伝いな」

「了解っす。じゃあ行くわ」

 

 オーナーから呼び出しを受けたため、俺はステージに向かう。

 

「そう言えば、彼女達ってここで働いてるんですか?」

 

 俺は気になった事をオーナーに聞いた。

 

「ここで働いているのは花園だけだよ。残りの四人は今日だけのヘルプさ」

「他のスタッフが見当たらないと思ったけど、まさか……」

「あぁ。インフルエンザだって。全員アウトだよ」

「だからか」

「それより、PA頼むよ」

 

 PA。Public Adressといって、音響機器の事をさす。

 

「俺がやって良いんですか?」

「アンタが適任だろう。やっていいよ」

 

 そう言ってオーナーと場所を変わる。

 

「Roseliaです。宜しくお願いします」

 

 友希那がマイクに向かって言う。そこから、俺達は音を合わせていくのだった。

 

「内田先輩、PAも出来るんですね」

「音楽全般に関しては、何でも出来る。それより、今日はよろしくな」

「「「「「はいっ!」」」」」

 

 こうして、俺達のジョイントライブが幕を開けた。

 そしてRoseliaの番。最初はBLACK SHOUTだった。出だしは順調。このまま行けば大丈夫だと思った。

 だが──

 

 ──やっちまったな……

 

 リサがここ一番でミスをしてしまった。周りの反応は少しざわつく。それでも友希那達は気にせずに歌い続けた。

 そして、ライブが終わった。

 

「グスッ……ヒグッ……」

 

 リサはライブが終わり、控室に戻ると泣いてしまった。

 友希那はリサの背中をさすり、慰める。

 俺はそれを外で見ていた。すると、戸山と市ヶ谷が来た。

 

「内田先輩……」

「ここ一番でミスをするっていうのは、バンドマンにとってかなりの痛手だ。それに俺達は先週、大事なコンテストに落ちている。そう簡単にミスは許されなかった」

「コンテストに落ちた……」

「それがプレッシャーになったんだろうな。いつもミスをしない所でミスをしてしまった。それが悔しいんだろう。あそこまで泣くっていうのは」

 

 すると、中から声が聞終えた。

 

「いつまでも泣いてんじゃないよ」

 

 オーナーが声を掛ける。

 

「ライブってのは、完璧な演奏が百点な訳じゃない」

 

 その言葉に、リサは顔を上げる。

 

「客は、どうしてわざわざライブハウスに歌を聞きに来てると思う?」

「それは……」

「今この瞬間、目の前のアンタ達がどんなステージをやり切ってくれるか、それを楽しみにしてるんだ」

 

 全員、オーナーを見る。

 

「やり切ったんだろ」

「……はい」

「胸を張って帰りな」

 

 そう言われると、リサは涙を拭く。

 

「はい……!」

 

 そして全員立ち上がり、オーナーにお礼を言った。

 するとオーナーは控室から出て来る。

 

「ありがとうございました。オーナー」

「アンタがコンテストを終えてすぐここに来たのは、完璧な演奏だけが大事じゃない。そう伝えたかったんだろ?」

「えぇ。まさにオーナーの言った通りです」

「苦労を掛けさせるね全く」

「面目ない」

 

 俺は頭を下げる。

 

「また、宜しくお願いします」

 

 オーナーは何も言わず、その場を去っていった。

 いつものファミレス──。

 

「完璧な演奏が百点じゃない、か……」

「あこ、何か分かった気がします」

「私達がいかにそのライブをやり切るか」

「そして……お客さんは、わたし達のやり切る姿を……楽しみに、してる……」

「奏。あなたが言ってた『大切なことを教えてくれる』って言うのは、この事だったのね」

「俺達は完璧を求めすぎた。そのせいで、ライブで何が大切なのか見失ってた。だから、あの人に会わせたんだ」

「そうだったのね。これからライブに対する姿勢を変えないと」

「俺達はまだ始まったばっかりだ。焦らずゆっくり、来年のコンテストに向けて頑張ろう」

 

 全員頷く。

 だが、俺はまだ知らなかった。これから面倒事に絡まれる事になるとは……

 数日後。

 

「内田先輩! 私達の演奏を見てください!」

「……はぁ?」



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番外編 ガールズバンド格付けチェック~序章~

新年あけましておめでとうございます!
本年も何卒、よろしくお願い申し上げます。

さて、過ぎましたが、お正月と言えば、格付けチェックですよね。
という訳で、お試しで書いてみました!
需要があれば続きかくかも……
無かったら消しますw


「ガールズバンド格付けチェック~!!」

 

 司会者、内田奏が言うと、スタジオは拍手で盛り上がった。

 

「さぁという訳でやってまいりました、お正月恒例格付けチェック! これは某番組のパロディでお送りしたいと思います!」

「という訳で、早速参加者をご紹介いたしましょう!」

 

 アシスタントの月島まりなが言う。

 

「チームPoppin'Partyから、戸山香澄様、市ヶ谷有咲様」

「頑張ります!」

「足引っ張んなよ、香澄」

 

 香澄が張り切った表情で言う。反対に、有咲は不安気味の表情で言う。

 

「チームAfterglowから、美竹蘭様、青葉モカ様」

「いつも通りやれば大丈夫」

「モカっていくよ~」

 

 蘭は表情を崩さずに、モカはおっとりと言う。

 

「チームPastel*Palettesから、丸山彩様、白鷺千聖様」

「まん丸お山に彩りを! 丸山彩です!」

「よろしくお願いします」

 

 彩はいつも通りの挨拶をし、千聖は女優らしい態度を見せる。

 

「チームRoseliaから、湊友希那様、今井リサ様」

「Roseliaの名に恥じぬ様頑張るわ」

「どうも~♪」

 

 友希那も表情を一切変えず、リサは笑顔で挨拶する。

 

「チームハロー、ハッピーワールド! から、弦巻こころ様、奥沢美咲様」

「みんなを笑顔にするわよ!」

「落ち着いてこころ。よろしくお願いします」

 

 こころはとても笑顔で、美咲はそれを抑えるかのように挨拶する。

 

「チームRAISE_A_SUILENから、玉手ちゆ様、鳰原れおな様」

「よろしくお願いしますっ!」

「よろしく」

 

 パレオは優しい笑顔で、チュチュはドヤ顔で挨拶した。

 

「それでは改めてルールを説明します。今から皆さんには味覚や音感など六つのジャンルから格付けチェックに挑んでもらいます。間違える度に一流→普通→二流→三流→そっくりさん、そして最後には映す価値、いえ、いる価値なし(この話から消滅)と、ランクがどんどん下がっていきます」

「要するに間違えなければ良いんです。皆さんは一流バンド。ですよね? チームPoppin'Party」

「うぅ……緊張してきた……」

「どうやら緊張で潰れそうな表情をしていますが……さて、チームPastel*Palettesはいかがでしょう?」

「私は大丈夫ですが、彩ちゃんが心配です」

「千聖ちゃん!?」

 

 会場は笑いで包まれていた。

 

「さぁチームRoselia、普段は頂点を目指していますが、ここではどうでしょう?」

「勿論、私は私のやるべきことをやるだけだわ」

「アタシもちょ~っと不安かなぁ。上手く出来るか分からないし」

「検討を祈りましょう。チームAfterglow、意気込みはありますか?」

「別に。私はいつも通りやるだけだから」

「とか言って~蘭足震えてるよ~」

「モカ! 余計な事言わないで!」

 

 蘭の足を見てみると、確かに震えていた。しかも、尋常じゃない程。

 

「チームハロー、ハッピーワールド! 何かありますか?」

「みんなを笑顔にして見せるわ!」

「こころはそれしか言わないんだから……まぁ、頑張ります」

「さぁチームRAISE_A_SUILENですが、自信の程は?」

「私に解けない問題はないわ。どっからでもかかってきなさい」

「流石ですチュチュ様!」

 

 自信ありげに答えるチュチュに、それを褒めるパレオ。

 こうして、彼女達による戦いが、幕を開けた。

 

 現在のランク

 ・一流バンド

 Poppin'Party

 Afterglow

 Pastel*Palettes

 Roselia

 ハロー、ハッピーワールド! 

 RAISE_A_SUILEN



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