THE UNSUNG RECORDーGIRLY AIRFORTHー (天羽々矢)
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予告(仮)
推奨BGM:ZERO/ACE COMBAT ZERO THE BELKAN WAR
西暦2015年、突如それは現れた。
中央アジアにて発見されたそれは“ザイ(災)”と名付けられ、既存の航空機を遥かに凌駕する戦闘力を持っていた。
それに対抗する為、人類は特殊無人戦闘機“ドーター”とそれを操るする人間型操縦機構“アニマ”を開発。
人類はアニマを対ザイへの切り札とし研究を続けていた。
・・・しかし、その中にはある理由から等で欠番になった個体もいる。
―――戦争を望まない者―――
―――素体の記憶が残り恐怖に駆られた者―――
それも個体で様々である。
この物語はアニマと彼女らと共にある少年の物語ではなく、アニマによって未来を奪われ異形と心を通わせた少年、欠番になった少女達の・・・報復の物語である。
「俺の家族は・・・アニマに殺されたんだ・・・!」
「私は・・・貴方について行くと決めましたから」
「ミオも着いてるから、大船に乗ったつもりでいなさいよ!」
「不明機接近!バカな・・・ザイを従えているだと!?」
「不明機確認。翼端がオレンジ!それに・・・爪痕?」
「こいつ、イーグルで遊んでるの!?」
「速すぎる、変態・・・!」
「いくらアニマが嫌いだからって、それで協力する人間まで殺すのは間違ってる!」
「周りに恵まれた奴に虐げられた奴の気持ちが分かるか!!」
あの日の爪痕が、戦いの火種となり、そして大火となり空を焼く。
世界とは完全に不完全だ。
誰もが正義となり、誰もが悪となる。
そして誰もが被害者であり、加害者でもある。
「ザイ接近、全機撃墜し制空権を確保しろ」
「どかーんってやっつけちゃうから!」
役者達に与えられた舞台
「よーし、全部倒しちゃうんだから!」
「やるぞグリペン!」
「うん、慧」
彼の翼は希望となり
「戦いにルールはない」
「敵を殺す。それだけだ」
絶望ともなる
「認めなさいガキ、これが戦争なの」
変化する出会い
「返してくれよ・・・!」
変わる運命
「犬どもめ!」
変われない世界
「撃ってみろよ臆病者!」
THE UNSUNG RECORD -GIRLY・AIRFORTH-
道を狂わされた者達は、その牙を生みの親達へ向ける。
その時、人間はどうするのか
「何も知らないくせに・・・!」
「貴方こそ子供では?」
「自分は彼の為に戦うという理由があります!」
「ホントムカつく!」
「ただの軽戦に負けるわけないじゃない!」
「バカのアニマたちには負けない」
交戦規定は唯1つ
「勝って・・・帰るんだ!!」
「待ってる人がいるんだ、やられてたまるか!!」
“生き残れ”
――――――READY FOR TAKEOFF――――――
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ALT01 夢見た道の末路 ー日本国首都防空戦ー
Side.A OP:SAVIOR OF SONG/ナノ feat.MY FIRST STORY
突然だが、皆は自分が死ぬ夢を見た事はあるか?
俺は今までのそういうのは見てこなかった。・・・そう、今までは。
最近は毎晩そんな夢だ。それも殺される相手は全部同じ。
・・・主翼の端がオレンジ色で、尾翼に3本の爪痕が描かれてる機体。
そんな忘れたくても忘れられない悪夢を・・・また見る事になる・・・。
[スキッパーヘッドより
無線機から聞こえる男性の声も余所に、戦闘機の操縦席に座る少年は何かを恐れるように右手をかざしている。
「どうしたの、慧?」
その少年の様子に後席に座る光りを帯びているペールピンクのストレートロングヘアを持つ少女が呼びかける。
「・・・いや、何でもないさ。行くぞグリペン!」
「うん、慧」
慧と呼ばれた少年の言葉に返答するグリペンと呼ばれた少女。
2人の乗る真紅の戦闘機“JAS-39D グリペン"がその翼を翻し東京の空へ向かう。
そしてそれに追従する黄金の戦闘機。
《よーし!イーグルが全部どかーんてやっつけちゃうんだから!》
自分をイーグルと呼んだ、まだ幼さの残る少女の声が聞こえる。
そしてその彼女が操る戦闘機“F-15J イーグル”が増速し戦闘空域へ突入していく。
それに続くようにグリペンも増速する。
空域に侵入したと同時にザイが3機爆散。イーグルがすれ違いざまに機関砲で撃墜したのだ。
《へへーん!そんなんじゃイーグルに勝てないよーだ!》
イーグルの意気揚々とした声が響くが、そこに別のザイが地上に向け急降下していく。
「グリペン、あいつ横羽線を狙ってるみたいだ!追うぞ!」
「了解」
グリペンがそのザイの迎撃に向かい、レーダーがザイを捉えミサイルを発射。
ザイはミサイルを回避しようと急速機動するが振り切れずにミサイルが命中する。
「間に合った・・・」
撃墜の様子を視認した慧は安堵するが、直ぐ後ろに別のザイが張り付く。
「慧、後ろ!」
「クソ!」
グリペンはすぐに回避行動をとりザイをかわそうとする中、ザイに一発のミサイルが叩きこまれる。
そしてすぐに後ろを黄金のF-15Jが横切る。
「イーグル!」
《慧!イーグルすごいでしょ!?》
「全然すごくない、あれくらい私と慧にも撃墜てきた」
イーグルに助けられたにも関わらず、負けず嫌いのグリペンは対抗意識を燃やす。
[BARBIE、こちらアルファ・リーダー。東京湾上空に敵影!]
そこに味方の自衛隊機から更なる敵の報告。
「BARBIE01了解!」
《02ラジャー!》
グリペンとイーグルが翼を翻し東京湾上空へ急行する。
そこには1機だけ、大群からはぐれたであろうザイが飛行していた。
「レーダー、ロックオン」
グリペンの言葉を受け、慧はザイの後方に機体を着ける。
ザイはグリペンを振り切ろうと洋上を高速で機動するがグリペンはそれに追従していく。しかし突然ザイが動きを止め真っ直ぐ飛ぶようになった。
「動きが止まった、今なら!」
慧は躊躇わず機関砲の発射ボタンを押す。
グリペンの砲口から弾丸が吐き出されザイに命中、そのまま撃墜される。
・・・だが、それこそが失敗だった。
撃墜から程なくして、ザイの爆煙から何かが飛び出し、
「ぐあぁぁっ!!」
「うぅぅぅっ!!」
グリペンの機体に直撃した。煙から飛び出したのはAIM-120中距離空対空ミサイルだったのだ。
グリペンのエンジンからは炎が上がっており、エンジンはおろか操縦桿も効かなくなってしまった。
「クソッ・・・グリペン、しっかりしろ!」
慧は後席の少女に叫ぶが返事が無い。
先程の被弾の衝撃で気絶してしまったのだろう。
やむを得ず慧はグリペンを自分と同じ前席へ引きずり出し、座席下に付いている緊急脱出レバーを思い切り引く。
座席がコクピットから射出され空中に放り出される。
パラシュートが開いた事を確認し、慧はグリペンを落とさないよう右手でしっかり抱き抱える。
その周辺ではグリペンを撃墜した敵が次々と自衛隊の戦闘機を撃墜していく。
しかもその機影はグリペン、イーグルと同じ特殊なカラーリングを施し機体表面が発光している事から同類だという事が分かる。
機首はイーグルの物と同じF-15ではあるが、ミサイルを機体の兵装ドア内に格納しており、いぶし銀の下地に両主翼と水平尾翼の翼端がオレンジ色、更に垂直尾翼には三本の爪痕が描かれている。
《ヤダッ!ついてこないでよぉっ!!》
イーグルも爪痕の機体から必死に逃げ回るが戦闘能力の差が違い振り切る事が出来ない。
逃げ回る際にイーグルの機体が慧とグリペンの近くを掠めるように飛び煽られるが、慧はグリペンを落とさなかった。
「やめろ・・・やめてくれ!!」
慧は思わず爪痕の機体に向け叫ぶが戦闘機のジェットエンジンが響き渡る戦場の空で聞こえるはずもなかった。
そして・・・
《やあぁぁぁぁぁっ!!!》
「イーグルッ!!」
慧の目の前で、イーグルが撃墜された。
その後も爪痕の機体はまるで貪るように残りの自衛隊機も撃墜していき、最後のお楽しみと言わんばかりパラシュートで降下している慧とグリペンに向け突っ込んでくる。
「うわぁぁぁぁぁっ!!!」
悲鳴を上げ、機体の機首が慧に激突する・・・
「うわぁっ!?」
悲鳴と共に慧が起きる。
辺りを見回せばそこは古い掩体壕の中のようで、慧はそこに敷かれているレジャーシートの上で横になっていた。
どうやら知らない間に眠ってしまっていたらしい。
「慧、どうしたの?」
すると右側から女の子の声がする。
そこにはちょこんと座っているペールピンクのストレートロングヘアの少女、グリペンがいた。
「いや、何でもない・・・」
「嘘。呼吸、脈拍数共に高い。それに凄い汗」
グリペンに的確に指摘され言葉に詰まる慧。
確かに今の自分は過呼吸気味かつ脈拍も高く汗も多量にかいている。
「・・・本当に何でもないよ。それよりどうした?」
慧は無理矢理はぐらかし話題を変えようとする。
その意図を察したかグリペンも頷き言葉を続ける。
「そろそろセルフチェックの時間。慧も一緒に来るよう室長が呼んでた」
グリペンは淡々と言葉を続け、それを聞いた慧は起き上がって立ち上がり、グリペンもそれに続く。
同時刻、某無人島
無人島であるにも関わらず綺麗に整備された滑走路に1機の戦闘機が降り立つ。
機体はいぶし銀の下地に両主翼と水平尾翼の翼端がオレンジ色、・・・そして垂直尾翼には3本の爪痕。
正に慧の悪夢に出て来た機体がそのまま夢から出て来たように酷似していた。
その機体が格納庫に入った瞬間シャッターが閉まり、コクピットを覆っている装甲型キャノピーが開き乗っていた少年が降りると、ザイと同じガラスのような白い半透明のアームが降り勝手に機体の整備を始めた。
「お疲れ様でした、“レン”」
そこにタオルとスポーツドリンクの入ったボトルを持った、茶色のサイドテールにピンク色の花の髪留めを着け、赤いチャイナドレスを着ている少女が機体から降りたレンと呼んだ少年に近づく。
「ありがとう、“イチゴ”」
レンはヘルメットを脱ぎその黒曜石のような黒い髪を露わにした後、イチゴと呼んだ少女からタオルとスポーツドリンクを受け取り床に腰を下ろす
そしてイチゴもレンの隣に座る。
「・・・本当によかったのか?」
「私は・・・貴方について行くと決めましたから」
突然のレンの問い掛けにイチゴは特に迷う素振りを見せずに返答する。
その様子にレンはこれ以上は失礼にあたると思ったのか言葉を発せずボトルに口をつけ爪痕の機体を見やる。
それは少年、レンの目的の為の道具であり自らの翼――――――
―――――――F-15SE-ANM サイレントイーグル。
Side.B OP:KODO/nonoc
理屈は何となく分かるのですが同系列機は1機までって、制約キツすぎでしょ・・・。
それに同系列機の事は普及されてますが、派生・発展型に関しては特に何もないですし・・・
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ALT02 Side.A story 消えた翼は不穏の香り -小松男女会談劇-
Side.A OP:SAVIOR OF SONG/ナノ feat.MY FIRST STORY
「アーッハッハッハ!」
航空自衛隊、小松基地のブリーフィングルーム。
少年、“鳴谷 慧”は自分の見た夢の内容をイエローのウェーブロングヘアの少女“イーグル”に話すと彼女は大爆笑した。
その隣ではペールピンクのストレートロングヘアの少女“グリペン”が不満げな表情で頬を膨らませている。
「・・・慧が変な事いうからイーグルに笑われてる。すごく不愉快」
グリペンは慧が話した夢の内容が不満なようだ。
「あ~ありがと慧!笑ってイーグル、すっきりしたよ!」
「私は不愉快」
「いや、まだ続きがな・・・」
イーグルは一頻り笑ってスッキリした反面、グリペンはむくれている。
慧は2人を止め話を続けようとするそんな微妙な空気が漂う中、部屋に肥満体型の白衣の男が入ってくる。
彼の名は“八代通 遥”、日本の防衛省技術研究本部勤務の技術者であり、グリペンやイーグルの
そう、グリペンとイーグルは外観こそ人間の少女であるが中身は全くの別物だが、それは後に説明するとしよう。
八代通は入室後、口に咥えていた煙草を取り口から煙を吐いて一息いれるがその表情は何処か苛ついているようだった。
「どうしたんですか八代通さん?何か怒ってると言いますか・・・」
八代通の様子に慧は問い掛けるが、それに対し八代通は更に深い溜息をつき言葉を発する。
「・・・ついさっき防衛省を通して通達があってな。どこかの馬鹿がドーターごとアニマを持ち去りやがったそうだ」
八代通の言葉に慧はもちろんむくれていたグリペン、更にいつも笑顔なイーグルまで表情を引き締めた。
ドーターとアニマは現在世界を震撼させている飛翔体“ザイ”への切り札。それを何者かが持ち去ったというのだ。
ドーターとは人類がザイとの戦闘に勝利する為に既存の戦闘機を大幅に改造した特殊戦闘機であり、アニマはそれを操る人間の少女の姿をした自動操縦機構。グリペンとイーグルがこれらに値する。
「イギリス空軍が開発を進めていた個体だったそうだが、グリペン同様に動作が安定しなかったため廃棄が予定されていた所をその馬鹿に襲撃され持ち去られた、だそうだ」
「・・・そのアニマは抵抗はしたんですか?」
「俺もその件は問い詰めたんだが、どうも目立った抵抗もせず黙って馬鹿について行ったらしい」
その言葉に慧は驚いた。
それでは対ザイへの切り札であるアニマが自分から人類の側を離れたという事ではないか。
だが「その上」と言った後に八代通は更に言葉を続ける。
「今から2か月程前にもこれに似た強奪事件が起きている。場所はスリランカの人民解放海軍基地で持ち出されたのは廃棄が予定されていたドーター込みのアニマだ」
2か月前と言えば、慧が幼馴染の“栄 明華”と共に日本へ避難してくる前の話だ。
何故そのような事を今話すのか慧は疑問に思ったがその意図を察したか問い掛ける前に八代通が答えた。
「現時点でアニマはザイに対抗できる唯一の手段だ。それが強奪されたとなれば軍の士気にも責任問題にも関わるからな」
つまりは下手に混乱を起こしたくなかった、責任を押し付けられたくなかったという何とも身勝手な理由で隠蔽されていたという事になる。
それが隠す事に限界を感じた軍の人間により今防衛省を通り知らされた、といった具合だろう。
「だがまあ、現段階では特に反抗されるという事態は無いだろう。初期構築時に人類を守る事を刷り込まれているからな」
煙草を吸いながらそんな事を言う八代通であったが、慧の不安は拭われなかった。
その理由は明快、自分が見たあの悪夢だ。気が付けた口が勝手に開いていた
「・・・八代通さん、盗まれたドーターって本当に2機だけなんですか?」
慧の言葉に八代通は持っているタブレット端末に視線を落とし、その後わずかに首を振るだけだ。
「ああ、強奪されたのは2機だけだ。何か気掛かりな事でもあるのか?」
「・・・さっきグリペンとイーグルにも話したんですけど、イーグルと同じような機種でミサイルを機内に格納してたドーターに俺が何度も殺される夢を見まして・・・」
その言葉を聞いて八代通は顎に手を当てた後に再びタブレット端末に視線を落とし何か操作をする。
そして何かに気づきそれを慧に伝える。
「君の言う特徴の機体だが、1年前にシアトルのアメリカ軍基地から1機盗み出されているそうだ。だがドーター化されていない普通の戦闘機だ」
「それにF-15のアニマは既にイーグルがいるからな」と更に言葉を続ける。その言葉にイーグルは嬉しかったのか八代通に抱き着く。
「ハルカ、普通のも含めて盗まれた機体の名前は分かる?」
突然グリペンが八代通に問い掛けるも、彼は特に返さずに続けた。
「現時点で強奪されたのは・・・F-15SE、J-15、トーネードGR.4Aの3機だ」
無人島に降り立つ1機の飛行機。
着陸に備え速度を落とすにつれその主翼がゆっくりと広がっていく。
そしてその翼が地面に降り立った。
その飛行機はその後誘導に従い、格納庫へゆっくりと地面を進み格納庫手前でエンジンが止まる。
その格納庫の中では茶色のサイドテールの少女、イチゴが待っており、そして機体の装甲型キャノピーが開くと中から飛行服を着ている前髪の一部に赤いメッシュの入った金髪ロングヘアの少女が降りてくる。
イチゴはその少女に一礼する。
「お待ちしてました、“トーネードGR.4A”」
そのイチゴの言葉に少女・・・トーネードGR.4Aのアニマは不満げな表情を浮かべ言葉を返す。
「確かにわたしはトーネードGR.4Aのアニマですが、今ではレン君から頂きました名前があります。
・・・そうですね、今後からは“シャロン”と呼んでいただけますか?」
Side.A ED:Colorful☆wing/グリペン(CV.森嶋 優花)、イーグル(CV.大和田 仁美)、ファントム(CV.井澤 詩織)
今、原作3巻を読んでます。確かにあのシーンは鳥肌モノですね・・・
でもこの小説じゃどういう立ち位置にしようものか・・・
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ALT03 Side.B story 生まれし命への協奏曲 -廃棄アニマ強奪作戦-
Side.B OP:KODO/nonoc
小松基地でアニマ強奪の件が話されていた時とほぼ同時刻、ロシア連邦領内カムチャッカ半島。
酷い吹雪の中を厚手のコートを着ている1人の少年が歩いている。
特徴的なのは黒曜石のような艶のある黒髪と濃青色の瞳
その少年は高い山の上に立つと、懐から双眼鏡を取り出し眼下にある施設を見やる。
管制塔や滑走路がある点では普通の飛行場と同じだが、異彩を放っているのは別の物。
滑走路近くのエプロンに備えられているのは航空機を空襲から守る為の掩体壕、更にSAM(地対空ミサイル)や自走式対空砲が配備されており警備が厳重だ。
そしてそこに向かう2台のトレーラー。後ろのトレーラーの荷台にはシートが被せられた何かではあるが、所々シートからはみ出して中身が僅かに見えている。
その物体の特徴は、胴体と両翼が一体化したように滑らかに流れている流線型のボディと、その両翼の前に更に小さな翼、カナードがある。
それを確認した少年は唇の右端を僅かに持ち上げ、その後山を滑り降りる。
その向かう先は・・・飛行場。
トレーラーのコンテナの中で倒れているウェーブが掛かった苺色のツインテールと頭長で飛び出ているアホ毛の少女、その少女は拘束されていた状態で倒れていた。
ただ動作が一定せずまともな成果が残せないと判断されただけでこの仕打ちである。
日付が変わる頃には自分は廃棄されこの世から消えてなくなるだろう。
(イヤだ・・・)
少女は本心ではそんな事を望むはずもない。だが自分は人間に歯向かえない。
“人類を守る”、それが彼女に与えられた
(私、消えちゃうの・・・?)
抵抗もできず、少女の目尻から涙が零れた。
だがそれに目を向ける者などいるはずもない。
そしてトレーラーが施設に到着し少女は別の場所に隔離される。
当然拘束されたままであり室内には照明すら無い。
少女はもう何も考える事ができなかった。このまま処分されるのを待つだけであろうか・・・。
その時、外が何か一瞬騒がしくなったがすぐ静かになる。
そして少女が幽閉されている部屋に1つの影が入る。
影は頭に手と口の口元のスカーフに手をかけそれを取っていく。そして露わになったのは、漆黒の髪と濃青色の瞳の少年。
少年は片膝をつき少女を見つめる。
「あなたは・・・?」
「俺はレン。・・・
「・・・今は違うの・・・?」
「・・・そうだな、今は違う。でもだからこそ今できる事があるんだ」
少年・・・レンの言葉に少女は首を僅かに傾げる。
するとレンは集中するように両目を閉じ、そして再度見開く。
その目の虹彩輪郭は赤く発光しており、左目には銀色の鳥のような紋様が浮かんでいる。
「・・・
「・・・ミオ・・・、私が・・・ミオ・・・」
「そう、君は今から変われる。けどそれを受け入れるかは君次第だ」
レンが呟くように唱え、少女はレンが新名と言った名前を呟く。
そしてレンの目から視線を外せなくなり、その目を見つめ続けると自分の深層で何かが割れ砕け散ったような音が聞こえたような気がした。
そしてレンは再び立ち上がるとそのまま部屋を出て行こうとする。
「ま、待って!・・・あなたも置いていくの・・・?」
少女の言葉にレンは立ち止まり、そして振り返り僅かに微笑む。
「大丈夫、夜になったら迎えに来るから。その時に答えを聞かせてくれ」
レンは最後に少女にそう言い残し立ち去っていった。
深夜、ついにミオの廃棄処分が始まろうとしている。
幽閉されている部屋に入ってくるのは白衣の男達。恐らくはロシア軍の関係者なのだろう。
「最後に言い残したい事はあるか、“Su-30SM”?」
その男の内の1人が少女・・・Su-30SMのアニマに問い掛ける。
「・・・一言言っていい?」
少女は静かに、しかし確かにそう言い、そしてその男を憎々しげに睨み付けながら言葉を放つ。
「・・・
少女、ミオがそう怒鳴りつけたその瞬間、
ドオォーン!!
爆発音と共に基地内に激しい振動が襲う。
そして基地内に空襲警報が鳴り響く。
[警報!当基地に複数のザイが接近、至急迎撃態勢!!]
基地内放送で管制官の怒号が響き渡り、男達はミオの服の胸倉をつかみ上げる。
「ちょうどいい、最後の仕事だ。ザイを墜としてこい!」
「お断りよ」
男の指示をミオはあっさりと蹴った。
「何だと!?」
「大体使えないからってミオを廃棄処分しようとしておいて、いざザイに襲われたら戦えなんて自分勝手にも程があるわよ!」
「こいつっ!!」
「彼女の言う通りだ。勝手が過ぎるんじゃないか?」
「なっ!?」
背後で何か少年のような声が聞こえたと思った瞬間、男の意識は途切れた。
周囲の兵も既に頭から血を流して倒れている。
そして部屋に入ってきたのは。黒曜石のような黒髪と濃青色の瞳を持った1人の少年。
その少年の右手にはサイレンサーとスコープの付いた拳銃、ワルサーPPK/Sが握られている。
「レン!」
「約束通り、迎えにきたぞ」
少年、レンの登場にミオが歓喜の声を上げながらレンに抱き着き、その頭をレンは優しくなでる。
「それじゃミオ、君の答えを聞かせてくれ」
レンは一先ずミオを自分の身体から離し問いかける。
それにミオは足元に倒れている男の死体を一瞥した後にレンに向き直る。
「・・・ミオを作っておいて使えないから廃棄する、けどいざザイに襲われたら戦えなんて都合の良い連中の為に戦うなんて冗談じゃないわ!だったらいっそ、こんなところ抜け出してやるわよ!」
心を決めたミオにレンは微笑み、
「それじゃ早いとこ、こんなとこから抜け出すぞ!」
そう言ってミオの手を取って引き、ミオを部屋の外へ連れ出す。
建物の外ではロシア軍の地上部隊が上空のザイに向け迎撃を行っていた。だがザイの高機動性に弾丸はその殆どが回避され対空砲やSAMが次々と破壊されていく。
しかしそのザイは何処か普通のザイとは違っていた。
それは通常のザイは透き通る青いガラスのような物だが、基地を空襲しているザイはガラス質なのは同じだが色が炎のようなオレンジ色に変色している。
レンとミオは外に出た後に一先ずミオの機体があるハンガーに向かう。
胴体から主翼へ滑らかに変化させたボディに主翼前縁の付け根からコクピット下部まで伸びたストレーキ、更に所要前方にある小さな翼、カナードを備えたそのパールホワイトの機体は・・・
“Su-30SM-ANM フランカーF2”
予め燃料はレンが燃料ポンプ車を見つけ出し給油を済ませている。
そしてレンは基地の敷地外へ。その近くに廃棄されていたバンカーの奥に予め隠しておいたのだ。
ミオは自機のSu-30SM-ANMにA乗り込みコクピットの操縦系統、NFIに接続する。
「不思議・・・前は飛んでるだけでも辛かったのに・・・」
不思議と今のミオに意識の混濁は無い。
前まではノイズが酷く接続してせいぜい意識を保つのが限界であった。
今では何の異常も無く正常に接続できる。
空では既にロシア軍の戦闘機、Mig-29がザイの迎撃に当たっているが既存の戦闘機がザイに敵うはずもなく次々と撃墜されていく。
「ちょっと、上にザイがいるけど上がって大丈夫なの!?」
滑走路へタキシングしつつ空の状況を見たミオがレンに悲鳴混じりの問いを投げかける。
するとレンは、
《・・・全機、これより離陸する機をフォローしろ。機体はSu-30》
無線機で意味不明な発言をする。
すると上空のザイ達の機体が一瞬発光し、離陸しかけているミオのSu-30SM-ANMを止めようとするMig-29を優先して撃墜していく。
その光景にミオは言葉を失った。
《ミオ、上空が空いてる間に上がるんだ!》
「っ!?わ、分かったわ!!」
レンに催促されミオはそのまま滑走路へタキシング。
離陸開始位置に付くと同時にスロットルを全開にし加速。そして速度が時速250kmを超えると機首が持ち上がりゆっくりと空へ昇っていく。そしてランディングギアを格納し水平尾翼と推力偏向エンジンノズルを上に向け更に高度を上げる。
そしてそれに次ぎバンカーからも戦闘機が速度が乗った状態で出て来た。
そいぶし銀の下地に両主翼と水平尾翼の翼端がオレンジ色、垂直尾翼には3本の爪痕。
レンが駆るF-15SE-ANMだ。
レンは外の車道で十分加速した後に離陸、そのまま急上昇しミオのSu-30SM-ANMに追いつき前に着く。
そしてそれを確認したのかオレンジ色のザイ達も戦闘行為を止め基地上空から離脱、レンとミオの後方に着いた。
その異様な光景にミオは何て言葉をかければよいか分からないでいる中、レンから無線が入る。
《今の光景に難て言えばいいか分からないだろ?ザイに命令を出してるなんてさ。・・・俺の事嫌いになったか?》
無線からそう聞こえたレンの言葉にミオは首を横に振り、今の自分ができる精一杯の笑顔を見せる。
「冗談!どんな奴であってもレンはミオを助けてくれた王子様なのよ!ついて行くに決まってるじゃない!」
ミオのその言葉にレンは笑みを浮かべ、オレンジ色のザイ達を従えながらミオと共にロシア領空から離れていく。
ED:アンチクロックワイズ/After the Rain
ホント、ライノの立位置どうするかな・・・
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ALT04 始まりへ向う小夜曲 ー第1次海鳥島攻略戦ー
Side.A OP:SAVIOR OF SOONG/ナノ feat.MY FIRST STORY
ロシア領空から離脱しレンがミオを拠点の無人島に招待した翌日。
機体・・・ドーターの方は現在整備を受けている。
そしてその島の一角でレンとミオが2人で会話している。
その内容は、レンの過去と・・・カムチャッカでレンがミオに使った
「・・・そう、そんな事があったのね・・・」
レンの話を一通り聞い終えたミオは呟くようにそう言葉を口にした。
「正直言って、俺のやろうとしてる事は唯の逆恨みみたいな物さ。でも、そうしなきゃ俺自身を許せない気がして・・・」
自虐とも取れる言葉を発しながらレンは自嘲するように薄笑いする。だがそんなレンの左手をミオが両手で取り優しく包むように握り、
「何言ってるのよ!レンのおかげで今ミオがここにいるの!ミオにとってレンは王子様なのよ!だから、そんな事言わないで・・・」
瞳を潤ませながら悲願するように言う。
余談だがミオはレンにその名を貰って以来、ずっと一人称が“ミオ”になっている。
ミオのその表情にレンはドキリとし言葉を失うが、その直後、
ドドドドドドドドドッ!
地響き音と地震のような振動と共に何かが近づいて来る。
そして急ブレーキが聞こえるような雰囲気と共に前髪の一部に赤メッシュの入った金髪ロングヘアの少女、シャロンが滑りながら姿を見せその場で停止する。
今の彼女の服装は、上着は白と青が基調の制服、下は黒いプリーツスカートと編み上げアンクルブーツという年相応の女子らしい恰好だが、鬼気迫る表情と見開かれ血走っている琥珀色の瞳がそれらをぶち壊しにしていた。
「シャロン・・・?」
「れ、レン君大丈夫ですか!?変なフラグ立ってませんか!?」
顔に汗をかき息を切らしながらもレンの右手を両手で取りそんな事を問うシャロンにレンは怪訝な表情を浮かべる。
「・・・変な・・・フラグ?」
あの後何とかシャロンを落ち着かせ、更にイチゴとも会い、島の作戦司令室と思われる趣の部屋に4人が集まった。
「先程シャロンが日本国航空自衛隊の無線を傍受、石垣島北方150キロの無人島“海鳥島”にザイが降下。その時の航空写真もシャロンが入手してくれました」
イチゴが手に持つタブレット端末を操作するとスクリーンの画像が変わり1つの小島の画像が映し出される。
左右に細長い十字架のような形をしており、島の中央には水晶のように煌めく物がある。
それは正六角柱が立ち並んでそれらを光の糸が繋いでおり、全体的に不思議な幾何学模様を作り出している。
それを見たレンは一目で分かった。
「東シナ海でザイが構築した前線基地か」
「十中八九間違いないでしょう。現在空自の小松基地から発進したドーター3機がこの島へ向け進行しています」
再びイチゴがタブレットを操作し画像を変える。
それに映っているのは色とりどりかつ機種もバラバラの3機編隊。
編隊の先頭を行くエメラルドグリーンの機体“RF-4EJ ファントムⅡ”
その左後方に着くサンライトイエローの機体“F-15J イーグル”
そしてRF-4EJの右後方に着く真紅の機体“JAS-39D グリペン”
機体の表面が発光している事からこれらの機体がアニマ用の機体、ドーターである事が分かる。
すると何かを思いついたのかレンが徐に立ち上がる。
「レン?」
「今から俺達も海鳥島に行くぞ」
「今からですか?それでは到着は今日の深夜に・・・」
「いいんだよ、それで」
レンはスクリーンの前に立ち隣のイチゴを見やった後にシャロンとミオに顔を向ける。
「重ねて言う。もし俺といればこの先どんな危険に遭うか分からない。無理についてくる必要はないぞ?」
レンはこの場にいる全員に問うが、その全員が覚悟している表情だけで言葉を返さない。それだけでレンは彼女等の覚悟を理解し、これ以上の問答は無礼に値すると察して頷き更に言葉を続ける。
「これより俺達は海鳥島に向かい現地のザイと
『はい!!』
レンの指示に3人の少女は力強く返答する。
《いやっほー!》
海鳥島上空に突入した矢先にイーグルの元気そうな声と共にザイが3機消える。すれ違いざまに機関砲を命中させたのだ。
それに続くように真紅の機体、グリペンが1機のザイに追従。跳ね回るマーカーを睨み付けロックオン、ミサイル発射。
放たれた槍はザイをしつこく追い回し炸裂。撃墜だ。
その後も1機、また1機とザイを撃墜していく。この調子であれば制空権確保は目前・・・に思われた時だ。
「新たな敵機が接近、数は・・・8機」
「8機!?」
グリペンの後部席に座る少年、慧が驚愕の声を上げる。
どこからともなく湧いてきたのか、前方2時と10時方向から向かってくるザイの編隊。
数が増え時間がかかればかかる程グリペン達が不利になる。燃料の制約もあるが1番ば武装。
イーグルが装備する空対空ミサイルは残り8発。グリペンは6発。残りは機関砲。
しかも2機で3発を消費している為、このペースが続けばミサイルが尽きる。
慧はディスプレイを確認し作戦の要であるファントムの位置を確かめる。
するとどうだろうか。ファントムは海鳥島に横腹を見せながら悠々と旋回している。まるで作戦を遂行する気が無いように。
《ちょっと!何してんの!?イーグルたちが突破口を作ってるんだから早く来てよ!ミサイルがなくなっちゃう!!》
《自分の身を守るので精一杯に見えますけど?その上で私の護衛なんてできるんですか?》
《できるかじゃなくてやってるの!いいから作戦通りに――――――》
イーグルがファントムへの怒号を吐き切る前に爆発音が響く。
至近弾を受けたようでイーグルの山吹色の機体の左主翼から煙がたなびいている。
「いけない」
その様子にグリペンがスロットルを開け、立ち塞ぐザイを掻き分けるよう突撃し機関砲弾をばら撒く。
イーグルは破片を受けただけのようで飛行に支障は無いようだ。だが、
「何だよ、これ・・・」
島の上空から島の様子を見た慧が言葉を漏らす。
横殴りの流星群を思わせる幻想的な光景だがその構造要素の1つ1つが明確な敵意を持っている、美しくも絶望的な光景。
イーグルは手近なザイを追い回しているが頭に血が上っているか機関砲弾はその全てが空を叩くだけであった。
そこでグリペンが喘ぐ。
「限界、撤退すべき」
《冗談!ここまで来て!!》
「残弾を撃ち尽くしたら手遅れになる」
すると島の地面が煙を吹き出し何かを打ち上げる。
「グリペン、イーグル、下!」
慧が声を荒げるとグリペンとイーグルはすぐに回避機動を取る。
そして打ち上げられた物体がグリペン、イーグルと同高度に達した瞬間、周囲に光のリングが走った。
「っ!!」
凄まじい爆発が空を覆い、衝撃、閃光、爆風が機体を翻弄する。
計器が出鱈目に変動し警報が猛々しく鳴り響く。
グリペンは右目を抑え苦痛に顔を歪めている。それでも左手はドーターのコントロールパネルから離しておらず機体を安定させている。
「何が起きた!?」
「地対空・・・クラスター弾」
「大丈夫か!?」
「地上発射タイプ。多分・・・新型」
グリペンの発言に慧は戦慄した。
通常のザイでも厄介なのに地上兵器、俗に言う対空火器まであっては制空権を確保しても安全とは言えない。
あんな物を1発でも喰らえば撃墜されるだろう。
《また来る!!》
そこにイーグルの悲鳴が響く。
再び地上から新型が2発、3発と発射され包囲網からも制空戦型ザイが向かってくる。
味方への誤射も誤爆もお構いなしに物量で押し切る腹積もりのようだ。
「撤退だ!!イーグルも全速力で!!」
慧が叫び、警報を掻き消すようにエンジンが唸る。
アフターバーナー全開、残っている兵装を一点に集中させ脱出口を作り2機のドーターは爆煙を切り裂きながら来た道を逃げ帰っていく。
作戦は・・・失敗に終わった。
その日の深夜、海鳥島上空。
慧達が逃げたその島の上空に、無謀にも近づいていく4機の機影。どれも機体表面が発光している事からドーターである事が伺える。
そしてその編隊の先頭を行く、翼端がオレンジで尾翼に3本の爪痕が描かれている機体、F-15SE-ANMのコクピットに居座る少年、レン。
そんな4機をレーダーに捉えたか、上空で哨戒していたザイ4機が向かってくる。
《来たわよレン!どうするの!?》
ただ黙っているレンに編隊の最後尾にいるパールホワイトで所々がピーチブロッサムピンクに発光している機体、Su-30SM-ANMのコクピットにいるミオが声を荒げる。
ちなみに彼女のドーターは無人島に来て早々に駄々とも取れる彼女の要望で、両主翼と水平尾翼の翼端がレンのF-15SE-ANM同様オレンジに塗られている為少しちぐはぐな印象を受ける。流石に3本の爪痕までは描かれていないようであるが。
《落ち着いてくださいミオ。レンなら上手くやります》
そんなミオを宥めるように聞こえる女性、イチゴの声、
ミオの左前方を飛行するクリムゾンレッドの機体からだ。
パッと見た外観はミオのSu-30SMと似ておりカナード翼もついているが、機体サイズは同等か一回り小さくなっているような感じだ。
中国人民解放海軍の艦上戦闘機、“J-15-ANM フランカーX2”。それがイチゴが駆る機体の名だ。
そしてその右隣にはアンバーイエローのパターンが浮かび上がっているアイスグリーンの可変翼戦闘機、シャロンのトーネードGR.4Aが飛行している。
そしてザイが4機を射程に捉え、機内にロックオン警報が鳴り響くが、
「・・・聞け、ザイ達!」
そこでレンが声を上げる。
見れば覗いているレンの虹彩には赤い輪郭が、左目の瞳に銀色の紋様が浮かんでいる。
レンは言葉を続ける。
「今の俺達には交戦の意志は無い。・・・いや、それどころがお前達が世界をどうするかにもはっきり言って興味はない」
「けどな」と言ってレンは更に言葉を続ける。
「俺の家族は・・・
「その時、俺・・・周りがすごく憎かった。何でアニマだってだけであんなに優遇されるんだ、何でここまで蔑まれなけりゃならないんだって・・・。家族との幸せだった思い出は、全部アニマとそれに組み入る人間への憎しみに塗り替えられたよ。だから、この身が破滅しようが構わない。・・・あの時、俺の家族を奪ったアニマと、それを庇い立てして逃げた連中に必ず報いを受けさせてやる!!!」
レンが自分の胸の内を吐き切った瞬間、海鳥島の基地型を含む周囲のザイ達の機体が光り出し、青く半透明なその姿がレンの怒りを象徴するような燃えるようなフレイムオレンジに変色していく。
それはザイがレンに
《ザイの色が変わった!?》
《ここのザイ達もレン君の気持ちを分かってくれたみたいですね》
その光景にレンに付き従うアニマの少女達が各々の反応を見せる。
するとザイの1機がレンの前に出て友好的に機体を左右に揺らす。その意図はレンには理解できた。
「基地に寄っていけってよ」
《ちょうどよかったですね、燃料ももうありませんし》
レンのF-15SE-ANMが機体を翻してザイの誘導に追従し、後続の少女達も続いて行く。
Side.B ED:アンチクロックワイズ/After the Rain
展開が早いなんて言わないで・・・
アニメGAFのライノの声がまさかの白石涼子さんだったという件。
某執事アニメ主役キャラの人じゃねぇか・・・出演キャラも男子のが多いし・・・でも好きな声優さんだ!過去にやってた武装神姫のゲームで使ってたキャラの声の人だし。
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ALT05 天駆ける煉獄の翼 -第2次海鳥島攻略戦Ⅰ-
Side.B OP:KODO/nonoc
レン達が海鳥島でザイから補給を受け明朝、0600。
島でザイが整えた滑走路にレン達のドーターが既に発進準備を終えている。今回の彼らの目標は廃棄予定のアニマの強奪ではなく・・・海鳥島を攻撃予定の海上自衛隊及び米海軍の艦隊への攻撃だ。
そして上空ではレンの配下であるオレンジのザイ達が哨戒、主であるレンの離陸を今か今かと待ちわびているようだ。
「各機、準備はいいな?」
《DRAGOON02、スタンバイ》
《03、問題ありません》
《04、いつでもいいわよ!》
同胞の少女達の準備も完了している。
それにレンは何も言わず、コクピットのパネルに触れる。するとパネルが発光するに伴い機体も発光し各部に銀色の光のパターンが浮かび上がる。
「
F-15SE-ANMのエンジンノズルが火を吹き、その地面を加速しながら駆けていく。そして機種が持ち上がりゆっくりと地面を離れる。
そして空に昇り車輪を格納する。
《DRAGOON02、
それに続くはイチゴのJ-15-ANM。滑走路を駆けレンの待つ空へ上がる。
《DRAGOON03、行きます!》
《04、行くわよ!》
そしてシャロンのトーネードGR.4A-ANMとミオのSu-30SM-ANMも続けて離陸。
4機で
朝焼けの海の上空を飛ぶ3機の航空機。
エメラルドグリーンのRF-4EJを先頭にサンライトイエローのF-15Jと真紅のJAS-39Dがデルタ隊列を組みながら飛行している。
昨日はファントムがグリペンとイーグルの戦闘から作戦空域に侵入せず混乱を招いたが、その後に慧から模擬戦を申し込まれ、慧がグリペンを操縦するというギャンブルにも近い手段で勝利を収めこの作戦に引っ張り出したのだ。
・・・そしてファントムからの要望により、今のグリペンは慧が操縦桿を握っている状況だ。
[台湾空軍と米軍、那覇の飛行隊が共同で陽動作戦を行う。海鳥島上空の敵機を誘い出すイメージだ]
無線機から聞こえるのんびりした声はドーターの整備を請け負う整備士、船戸だ。
この切迫した状況でもペースが崩れないのは神経が図太いからか否かは本人にしか分からないだろう。
「随分と大規模になりましたね」
[上も尻に火が点いてるんだろう、東シナ海の航路が完全に閉ざされてるからなぁ、早く手を打たないと前線の兵站が崩壊しかねない。ま、大層な話だがお前さんらが頼りなのは変わりない、頑張ってくれよ]
そんな素っ気ない労いの言葉は日常である証なのだろう。これから赴く場所は全てが日常とかけ離れているが。
(結局は俺達3人か・・・ま、最初からそのつもりだったけど)
今の状況を慧が少し軽く見ている時だ。
[スキッパー・ヘッドよりBARBIE、エマージェンシーだ。台湾空軍の飛行隊が敵別働隊により壊滅。新たなザイが第7艦隊へ向け移動中]
作戦はファントムが艦隊から発射された巡航ミサイルを誘導するという物。その艦隊その物が壊滅してしまっては作戦の根幹が瓦解する事になる。
「BARBIE01よりスキッパー・ヘッド、艦隊の援護は?」
[那覇基地の部隊が向かっているが、到着までは時間がかかる」
つまりは、慧達が艦隊から近いという事だ。
慧が戦術マップを確認する途中で「いけません」と咎める声が聞こえる。ファントムの声だ。
《我々が援護に向かえば、そこで武装と燃料を使い果たします。このまま進みましょう》
「だけど・・・!」
今の状況に慧は判断しかねていた。
ファントムの言い分も分かるがここで艦隊が全滅したら作戦その物が崩壊する。
陸自のミサイルだけでは威力不足だろう。
《二手に分かれましょう》
そこでファントムが提案した。
《私達の内1人が艦隊の援護に回る、他の2機はそのまま作戦続行》
「たった2機で島に突入するのか!?」
《それでも手持ちの戦力でやり繰りするしかないんです、贅沢は言っていられません》
ファントムの言葉に後席に座るグリペンが頷きながら言う。
「贅沢は敵」
「分かったよ。じゃあできるだけ奴らを追っ払ってくるよ。増援がたどり着くまで頑張るしかないな」
《何を言ってるんですか?》
そこに聞こえてきたのはファントムの呆れるような声。
《あなたは予定通り、私を守ってください》
「は!?」
何を言っているんだ、と慧は思ったがファントムはお構いなしに言葉を続ける。
《イーグル、艦隊の援護に回りなさい》
《はぁ?なんであなたが仕切ってるのかなぁ》
イーグルの不満げな声が聞こえるが、ファントムは言葉を続ける、それも彼女が確実に動くであろう言葉を。
《私の意見ではありませんよ。いざという時はそうしろとお父様が仰っていたのですよ》
《え、本当?》
《本当です。イーグルなら押し寄せるザイを千切っては投げ、千切っては投げ大活躍してくれるはずだと。悔しいですが私も同じ意見です》
「むふーっ!」と妙な鼻息が響いた。
《じゃあ話が別だね。お父様、イーグルの事頼りにしてるって言ってたし、分かった!ガンガン墜としてくるよ!》
言うが早いか、イーグルは急旋回し艦隊の方へ飛び去っていく。
その後、慧はファントムにおずおずと尋ねてみる。
「なぁ、今の話って・・・」
《嘘です》
あっけらかんと答えるファントムに慧は“やはりこのおかっぱ頭は信用できない”と内心思った。
そして島の領空へ入る・・・が、何か様子が妙だ。
「・・・慧」
後席のグリペンも違和感を覚えたらしい。
「あぁ・・・、ザイが
そう、普通なら基地防空の為のザイがいるはずが、何故がそのザイが1機も見当たらないのだ。
その上、そのまま基地に接近してもあの新型である地対空クラスター弾を発射する様子さえ見られない。
「どういう事なんだ・・・」
《確かにこの状況は異様ですね、ですが予定通り始めましょう》
ファントムが息を吸うと、機体下部ステーションから管制ポッドが伸び展開。広がったアンテナの先端に明りが灯る。
《この状況ですが、背中はお任せしてよろしいですか?》
「ああ、1機たりともお前に近づけさせない、今からそこはお前の特等席だ!」
《あら、格好いい》
お互いに軽口を叩き合い会話を締めくくる。
《BARBIE03よりドールハウス、レディー・フォー・コントロール。作戦開始を要請する》
ファントムの言葉に本部から“了解”と返答が来る。今度こそ成功させる。
しばらくは何も起こらなかったが、異変が起きたのは十数分後。
彼方の空に無数の黒点が現れ、それらは次第に白い線を引き空に縞模様を描く。
そして多数の巡航ミサイルは最終誘導フェイズに入る。
最初の爆発は十数個といった具合だろうが、次第にその数は増える。二十、三十、四十と爆炎が表土を覆っていく。
「EPCM、レベル低下」
グリペンが状況を報告する。
慧ははぁ、と息をつき空を見上げる。夢ではない、本当に自分達はザイに勝ったのだと。
「ミッションコンプリート。RT・・・」
《わあぁっ!!》
『っ!?』
慧が言葉を吐き切る前にイーグルの悲鳴らしき物が聞こえた。
「どうしたイーグル!?」
慧が無線機に向け吠える。
《なんか
イーグルの言葉に慧はおろかグリペンとファントムも困惑した。
オレンジ色のザイなど聞いた事が無い。
[スキッパー・ヘッドよりBARBIE、50を超えるザイの大編隊が第7艦隊へ向け移動中だ!]
AWACSからの更なる報告に全員が戦慄した。
・・・そう、ザイがいなくなったのではない。
最初から基地を囮として見捨てる算段だったのだ。
だが更に不運は続く。それはAWACSが教えた。
[BARBIE02、後方からボギーが急速接近!]
「あぁもう!!」
F-15J-ANMのコクピットで癇癪を起していながらもイーグルはボギーを振り切ろうと機体を揺さぶる。
だがそれでも後方のボギーはイーグルに追いすがってくる。
「もう、誰か何とかしてよ!!」
悲鳴に近い声をイーグルが上げる。
そこにイーグルのディスプレイにメッセージが浮かび上がった。
《
それは通信メッセージだった。発進元は・・・BARBIE04。
そのメッセージの直後にスマートなラベンダーパープルの単発機がボギーをの後方に回り、ボギーがイーグルから離れる。
「バイパーゼロ!」
その機体を見てイーグルが歓喜の声を上げた。
それは那覇基地専属のアニマ、“F-2A-ANM バイパーゼロ”。
本来なら最前線の拠点である那覇基地防空の任務があるのだか、状況が状況な為に今回の作戦に投入されたのだ。
バイパーゼロはボギーをしつこく追い回しミサイルの発射準備を終える。
そしてミサイルシーカーがボギーを捉えた・・・その瞬間だった。
ボギーの機首が持ち上がったと思いきやその場で180度回転しバイパーゼロの機首に自身の機首を向ける。
そしてお互いが向かい合った刹那、ボギーの主翼付け根の機関砲が火を吹いた。それも発射された弾丸は
そしてその直後・・・バイパーゼロのエンジンが炎と共に黒煙を噴き始めた。
ボギーはバイパーゼロと向かい合ったままの体勢でアフターバーナーを点火しすれ違っていく。
「嘘・・・何が起きたの・・・!?」
その光景を見ていたイーグルは信じられないようだった。
だが理屈は簡単だ。機首が向かい合った瞬間にボギーが発射した弾丸がバイパーゼロの機体のエアインテークに吸い込まれるように命中しエンジンに内部から損傷を与えたのだ。
ましてや戦闘機動を取っていた状態でエンジンは高温高圧。その状態で損傷などすれば無事で済むはずがない。
そしてバイパーゼロがすれ違った瞬間に見たのは・・・翼端がオレンジに塗られた主翼と水平尾翼、そして垂直尾翼に掛かれた3本の爪痕だった。
《もっと早くやれたのではないですか、“レン”?》
そのボギー・・・F-15SE-ANMのパイロットであるレンに僚機の少女からそんな声が賭けられるが、レンは言葉を返す。
《・・・分からせてやりたいんだよ、現実って奴を》
Side.A ED:Colorful☆wing/グリペン(CV.森嶋 優花)、イーグル(CV.大和田 仁美)、ファントム(CV.井澤 詩織)
ようやくオリジナルと原作側を絡ませられました・・・
さて、今後もオリジナルアニマを出すか否か・・・
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ALT06 天駆ける煉獄の翼 -第2次海鳥島攻略戦Ⅱ-
OP:KODO/nonoc
海鳥島上空でザイと遭遇しなかったために武装と燃料に余裕が生まれたグリペンとファントムは第7艦隊へ急行している。
既に艦隊上空ではボギーことF-15SE-ANMが自衛隊機、米軍機への攻撃を開始、最初に被害を受けたF-2A-ANMバイパーゼロは空域からの離脱を始めていた。
「バイパーゼロがやられた!?」
《うん・・・相手が機体をひっくり返したと思ったらバイパーゼロのエンジンがボンッて・・・》
グリペンのコクピットで慧がイーグルから話を聞いていた。
最前線の拠点である那覇基地防衛の切り札であるバイパーゼロが被弾する程の相手だ、慧達では相手にならないかもしれない。
《
ディスプレイにバイパーゼロからのメッセージが浮かぶ。
エンジンから黒煙を吐き、フラフラと不安定な状態でバイパーゼロが離脱し、自分をやった相手の事を伝える。
《
「え・・・!?」
バイパーゼロからの報告に慧が反応した。
オレンジの翼端と3本の爪痕、それではまるで慧が夢で見たあの機体と同じではないか。
[アロー3、ロスト!更にもう1機!]
そこにAWACSから味方機撃墜の報が入る。
やられたのは自衛隊機のようだ。
[何者なんだこいつは。機体は・・・F-15!]
F-15・・・機体まで夢と同じと来た。
慧の動悸が更に激しくなる。
「慧、大丈夫?」
そんな慧を後席のグリペンは心配しているようだ。
「あ、ああ、大丈夫だ・・・」
慧は自分の状態を誤魔化しグリペンには大丈夫だというが、内心は酷く動揺していた。
夢の中とはいえ自分が何度も殺された相手がすぐ目の前にいるかもしれないのだ。しかも夢ではなく現実でだ。
しかし、そんな慧達を更なる不運が襲う。
[警告!新たなボギー出現、機数3!その上ザイの大編隊も到達した!]
最悪だ。
バイパーゼロに損傷を与えた相手だけでなく、新たなボギーとザイまで相手にしなければならない。
《恐らく後から来たボギーが最初のボギーの取り巻きなのでしょう。慧さん、リーダー機の方をお任せしてよろしいでしょうか?私が取り巻きを、イーグルでザイをお出迎えします》
ファントムの提案に慧に更なる重圧が伸し掛かる。
夢に出て来た奴が現実にいるという事だけでも衝撃なのにそれの相手をしろと言ってきたのだ、慧にとっては冗談ではなかった。
《DRAGOON02、03、04、相手は3機だ。紅い奴を俺がやる》
《了解、DRAGOONリーダー。03、04、我々で緑と黄色を相手しましょう》
《DRAGOON03、了解しました》
《ちょっと!何勝手に命令してるの!?ミオに命令していいのはレンだけよ!》
対してボギー・・・レン達DRAGOONはリーダーであるレンは紅い機体、グリペンに狙いを定めイチゴ達はそれ以外、イーグルとファントムを狙うがミオはレンからの指示でなければ動かないようだ。
そこでレンが新たに指示を出す。
《02は黄色、03は緑、04はザイ達と一緒に艦隊を攻撃だ》
《了解です、レン》
《了解しました、レン君》
《レン!了解、派手にやってやるわ!》
《お前ら揃いも揃って名前を出すなよ・・・》
自分の指揮下の少女達が全員名前を出した事に呆れながらも編隊を解き各々の役割に向かう。
まずはミオ、レンの指示で護衛としてついたザイ4機と共に海面を低空で駆け抜け空対艦ミサイルの射程に捉える。
「目標ロック!発射ぁ!」
Su-30SM-ANMの主翼ハードポイントからKh-35空対艦ミサイルが切り離され、直後にミサイルのエンジンが点火、イージス艦に向け飛翔する。
イージス艦はミサイルを迎撃しようとCIWSを連射するが、ミサイルを捉え切る事が出来ず、ミサイルが艦橋を直撃。恐らくもう機能は果たさないだろう。
そしてミオは機首を引き起こして急上昇、そして今度は別のイージス艦に狙いを定めて大空に機体の腹を向け背中から急降下、そして再び空対艦ミサイルを発射し機首を引き起こす。
そしてミサイルがイージス艦を穿ち、ミオは機体を水平に戻しそこにザイが他の艦船も沈めミオの後方に戻る。
続いてイチゴとシャロン。
各々が指示された標的と会敵し交戦状態に入る。
イチゴはイーグルと、シャロンはファントムとだ。
《標的を捕捉》
「このぉ!」
ザイを迎撃しようとしたイーグルはマニューバを駆使して背後についたイチゴのJ-15-ANMを何とかかわそうとするが、どうもイーグルの動きは無駄があるのかイチゴを捉え切れていない。
それどころか追われているイチゴの方がまだ余裕そうだ。
《折角です、少し遊ばせてもらいましょう》
イーグルがムキになっている事を利用し、イチゴはそのままイーグルを引っ張り回し艦隊から徐々に離していく。
「イーグル、貴方自分の役目を・・・!」
ファントムはムキになっているイーグルに呆れフォローに向かおうとした瞬間にロックオン警報が鳴り響く。
そのファントムの後方には主翼を後ろに下げた状態のシャロンのトーネードGR.4A-ANMが張り付いた。
《お相手、よろしくお願いしますね》
「あら、オープン回線でご挨拶とは随分と余裕ですね」
オープン回線でファントムに通信を入れるシャロン。
そこでファントムは自身の技術、ドーターへのクラッキングを始めようと意識を集中させる。そしてそれにファントムの手が触れている左右のパネル、ドーターの操縦機構である“
・・・が、
バチッ!!
「くっ!」
少しした時に突如NFIのパネルがまるで主であるファントムを拒絶するようにスパークを起こし出し、レーダーが捉えているはずのトーネードの機影が3つに分裂し出した。
「これは、カウンタークラック・・・?」
ファントムの頬を僅かに汗が伝う。
恐らく先程のオープン回線での通信に返答した事でファントムの位置を特定し、レーダー等の通信機器を解析で自分達のデータ・リンクの暗号を特定したのだろう。そして先程のNFIのスパークはシャロンのクラッキングで機器の一部がショートしたからだ。それによりファントムからクラッキングを解く事ができない。
あの一瞬の内にそれをやってのけたシャロンにファントムは思わず戦慄し、本物のシャロンにロックされないよう回避機動を取るしかない。
最後に残ったのは慧とグリペン、そしてF-15SE-ANMを駆るレン。
レンも自分の獲物を見つけ捕捉すべく接近。慧もロックされまいと機体を捻らせ両者はそのまますれ違うが、慧にはその一瞬で見えた。
・・・翼端がオレンジに塗られた主翼と水平尾翼、そして垂直尾翼に描かれた3本の爪痕。
「3本の爪痕・・・本当に・・・いたのかよ・・・!!」
慧の動悸が更に激しくなるが今の状況だ、一刻も早く追い払わなくては。
先手を取ったのは慧。レンのF-15SEの背後を取りミサイルロックをしようと追従する。
「慧、撃って。当たる」
「え、でもまだ捉え切れてないぞ!?」
「撃って」
グリペンに言われるがままに慧は発射ボタンを押した。
主翼ハードポイントからミサイルが切り離され飛翔、F-15SEに向け飛ぶ。
まだシーカーが捕捉できていなかった状況にも関わらずだ。
「大丈夫、射程距離内にいれば墜とせそう」
瞳に光の筋を浮かべながら言葉を発するグリペンに慧は驚愕した。
しかし次に行動に出たのはレン。
機体を急降下させるに伴いミサイルもレンを追い急降下。そしてレンは海面擦れ擦れで再び機首を上げミサイルもそれに追従、しかしレンが飛ぶ先には・・・米海軍の駆逐艦がいた。
《・・・そのままついて来い》
冷静な発言の後にレンは駆逐艦からの迎撃を回避する為に海面と垂直になるよう機体を傾け、そして駆逐艦の艦橋と激突しそうな程に擦れ擦れで飛行。・・・だがそうすれば今度はレンを追っているミサイルが飛んでくる。しかも艦橋への直撃コースだ。
「!」
それに気づいたグリペンは急ぎミサイルの軌道を変更。艦橋に直撃しないようミサイルを上昇させた。
が、その一瞬でレンのF-15SEがミサイルの背後につき20mmバルカン砲を斉射しミサイルを撃墜する。
「ミサイルが迎撃された・・・?」
「あんな無茶苦茶な飛び方するなんて・・・!」
慧とグリペンはレンのセオリー無視の飛行に戦慄するしかない。
そしてそれが致命的な隙となった。
今度はレンがグリペンを捉えミサイルをロックしすぐさま発射。
「ミサイル!」
「っ!!」
グリペンが警告を発し、慧はすぐにフレアを投下し急速回避。ミサイルはフレアに釣られロストするがそれもつかの間。
レンの後方にオレンジに変色したザイが2機、編隊を組みながらつく。
「オレンジのザイ!?イーグルが言ってた!?」
「普通のザイとEPCMパターンが全然違う・・・」
突然参入してきたオレンジのザイに慧とグリペンの混乱は更に加速する中、F-15SEのコクピットにいるレンは右手をNFIのパネルから離し、人差し指と中指で2のジェスチャーをした後に右手を振り下ろす。
するとオレンジのザイの表面が一瞬発光し2機がグリペンに機銃で襲い掛かる。
「慧、ブレイク!」
「クソッ!」
慧はすぐに機体を捻らせ急降下、当然2機のザイもそれに追従する。
だが、ザイの反応に慧が何かの予想を導いた。
「まさかあいつ・・・ザイを操ってるのか!?」
F-15SEを探しながら、慧が最悪の予想を口走るが、
「ボギー直上!」
「!?」
グリペンの警告に慧が真上を見るが既に手遅れだった。
レンのF-15SEが急降下しながらグリペンに近づき、胴体側面の兵装ステーションのドアが開きミサイルがせり出す。そして間髪入れずに発射。
回避する隙もなく、
「ぐうぅっ!!」
「うぅっ!」
ミサイルが炸裂し、衝撃がコクピットを襲う。
「ぐ・・・グリペン大丈夫か!?」
「へい、き・・・」
慧がグリペンの安否を確認し、彼女は兵器だというが明らかに平気ではない。
額に玉のような汗が浮かんており、表情も非常に辛そうだ。
機体の方はエンジンが炎と共に黒煙を噴いており、ミサイルの破片で主翼や尾翼といった操縦翼面にもダメージが入ったようで無理ができない。
そこにレンのF-15SEが止めを刺さんと戻ってきた。慧は逃れようと操縦桿を動かすがダメージで機動性が落ちたグリペンにF-15SEを振り切れるはずがない。
「はぁっ・・・はぁっ・・・!!」
操縦桿を握る慧の手の震えが次第に大きくなってくる。
自分が夢で見た、自分が3本の爪痕を持った機体に殺される悪夢が現実に起きようとしているのだ。
そして自分の死刑宣告のようにロックオンアラートが鳴り響く。ここまでか・・・、
《レン、戦果としては十分です、帰投しましょう。燃料ももうありません》
そこにレンに配下のアニマ、イチゴから通信が入った。
その言葉にレンは戦況を確認。イチゴを始めとしたアニマの妨害により艦隊への損害は既に7割を超えていた上、日本のドーター2機にダメージを与えた、確かに戦果としては十分だろう。
《分かった》
レンはグリペンへのロックオンを解き上昇、太平洋方面へ進路を変え悠々と飛び去っていく。
戦闘中のイチゴ達や残っているザイも戦闘行為を停止して翼を翻しレンの後方で編隊を組んだ。
最後にレンは慧達に現実を突きつけるよう、宛先を固定せずにメッセージを発信した。
《
そのメッセージにはBARBIEの誰も反論する事が出来なかった。
事実、自分達は艦隊のの7割を撃破されてしまい、その上ドーターも2機損傷を受けたのだ。
海鳥島のザイの前線基地破壊という作戦目的その物は達成こそしたが、その代価としては大きすぎた。
・・・彼らは試合にこそ勝った、勝負では負けたのだ。
推奨BGM:Two Pairs/ACE COMBAT 7 SKIES UNKOUWN
ED:Colorful☆wing/グリペン(CV.森嶋 優花)、イーグル(CV.大和田 仁美)、ファントム(CV.井澤 詩織)
原作3巻をどうするか鬼門だぞこれ・・・。
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ALT07 勝利は良薬より苦し ー攻略戦後会談劇ー
OP:SAVIOR OF SONG/ナノ feat.MY FIRST STORY
海鳥島のザイ前線基地攻略作戦から小松基地へ帰投した慧達であったが、その気分は沈んでいた。
海鳥島のザイの前線基地を破壊する事には成功したが、所属不明のドーターとオレンジのザイの大編隊の介入により米海軍の第7艦隊残存艦艇はその7割を撃破され、日本側のドーターも2機損傷してしまったのだ。
そのアニマ達は現在メンテナンス中だ。
「随分と手痛くやられてきたようだな」
室長室で慧は八代通と会話をしているが、やはり雰囲気は重いままだ。
「だが」と八代通は煙草の煙を溜め息と共に吐き出した後に言葉を続ける。
「こちらとしても全く予想出来ていなかったからな、責任を追及する事はできん」
「八代通さん、あいつら何処の所属なんですか?何の躊躇も無く俺達に攻撃を・・・」
慧の言葉を右手を軽く挙げる事で静止させ、八代通はタブレット端末を手に取り画面を操作する。
「君の質問だが・・・、奴らは
「はい?」
「正真正銘の所属不明という事だ。それにバイパーゼロ、イーグル、ファントムから送られてきたデータを調べてみたが。君らを襲ってきた奴らに見覚えはあるか?」
そう言って八代通は慧にタブレット端末の画面を見せる。それに映っていたのは生き残った米海軍の兵士が写真に収めた所属不明のドーター。
慧はその画面を凝視する中で何かに気づいた。・・・そう、海鳥島攻略作戦以前、ファントムが小松基地に配属になる前。
八代通がアニマ強奪事件の話をした時だ。その時に強奪されたドーター数機の外見的特徴とパーソナルカラーも一致している。
主翼と胴体が一体になった流線型のボディ、そして主翼前に着けられたカナードが目を引くクリムゾンレッドの機体、J-15。
トレードマークともいえるであろう可変後退翼を持つアイスグリーンの機体、トーネードGR.4A。
「ひょっとしてこれ・・・!」
「そうだ、強奪にあった廃棄予定だったアニマを運用している。それも完全にリセットし再調整した上でな」
それだけでも恐るべき事だが「更に」と八代通は言葉を続ける。
そして次に見せたのは慧とグリペンに1発叩きこんだ機体、F-15SE。
「米軍を問いただしたが、軍の何処の部署でもこいつ・・・F-15SEのドーター化はしていない、だそうだ」
「それってまさか・・・!!」
慧がまさかの予想をした後に八代通は「そのまさかだ」と相槌を打った。つまりは・・・、
「・・・戦闘機を盗んだ奴らが独自でドーター化に成功した・・・」
「その可能性が極めて高いだろうな」
これらの事案から推測するに相手は非常に高い技術力を持っている事は明らかだ。
その上、絶不調で成果を上げられず廃棄が予定されていたアニマ達をリセットし0から調整し直すほどだ。
「俺どころか全世界の技術者ですら持ち合わせていない技術を持っているという事だな、連中は。今回は運に助けられたな。もし奴らが燃料不足になっていなければ君とグリペンはあの時の戦闘で花火になっていたぞ」
冗談のつもりなのか八代通がほくそ笑むが慧には全く冗談に聞こえなかった。
戦況判断も単純な戦闘能力も相手の方がイーグルどころか最古参の類であるファントムよりも上。
おまけにリーダー機であるF-15SE-ANMのアニマはザイを制御下に置く異能とも取れる能力を持っており、そのザイも通常のザイを上回る戦闘能力を持っているのだ。
「まぁ、今のままやりあえば100%こちらの負けだな。技量、戦闘能力、全てにおいてこちらのアニマ達を上回っている」
「じゃあ・・・どうすればいいんですか・・・」
八代通の言葉では今の慧達では所属不明ドーターには絶対に勝てないという。
だが八代通は笑みを崩さなかった。
「何、別に撃墜しろとまでは言わんさ。奴らも同じドーターだ、
彼は自身の部隊である“独立混成飛行実験隊”の1部下である慧にそう言った。
“And it's evrey time, you hurt yourself with kiives"
以前放送されていた某可能性の獣のアニメの主題歌を聞きながら拠点へ帰投している4機編隊の内の1機、編隊の先頭、レンのF-15SEの左後方を飛行するアイスグリーンの機体トーネードGR.4Aのアニマ、シャロンだ。
曲に乗っているようで機体を左右に揺らしている。
だが、そのシャロンの右後方、編隊の最後尾を飛ぶSu-30SMのアニマ、ミオは少し鬱陶しげに顔を顰めている。
《さっきからうるさいんだけど》
《そうですか?人間の娯楽も以外といいですよ。ああ、お子様の貴女には分かりませんか》
《誰がお子様よ!?》
「お前らうるさいぞ・・・」
先頭を飛行するレンはシャロンとミオの口喧嘩に呆れ右手で頭を抑えている。
そして拠点の無人島に着き各々着陸と機体の収容を終えた後に自室に戻り一先ずの休息を取る。
だが、休息を取っているレンの自室の扉がノックされレンは来客を出迎えに行く。というよりはこの島には自分達以外はいない為来客と言えど誰かは予想も難しくない。
外にいたのは前髪の1部に赤メッシュの入った金髪ロングヘアの少女、シャロンだ。良く見れば右手にタブレット端末を持っている。
「レン君、少し良いですか?」
ミオと会話していた時は鬼気迫る表情だったが、今はどことなく真剣だ。レンもこういう時のシャロンは真面目だという事をこれまでの経験から把握していた為無言で部屋に招き入れる。
「今度は何処のアニマは廃棄処分される予定なんだ?」
レンがシャロンを部屋に招き入れての第一声はそれだ。
するとシャロンは無言で持っていたタブレット端末をレンに渡し、レンはその画面を見る。
「予定日は4日後の日曜日にシエラネバダで、だそうです。どうしますか?」
シャロンの問い掛けにレンは顔を見合わせ僅かに唇の左端を持ち上げるだけ。その表情でシャロンは理解したのか笑みを浮かべる。
「次に備えるぞ、すぐにブリーフィングだ」
「はい、レン君」
タブレット端末を机に置き部屋を出るレンとそれにつき従うシャロン。
置いて行かれたタブレット端末のその画面の名前欄にはこう表記されていた、
―――――――――――――――――――――――――“F-14D
劇中曲:into the sky/SawanoHiroyuki[nZk]:Tielle
ED:アンチクロックワイズ/After the Rain
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ALT08 Side.B story 澄み切りし無慈悲なる殺意 ーシエラネバダ攻防戦ー
OP:KODO/nonoc
太平洋上空、4機の異機種戦闘機編隊が悠々と飛行している。
そんな彼らの内の2機の機体にホースが繋がれている。シャロンのトーネードGR.4AとミオのSu-30SMだ。
今は空中給油中でありレンとイチゴは既に給油を済ませている。
だが給油をしている
給油中でもシャロンは気に入ったのか、某可能性の獣のアニメ主題歌を流している。
《
重爆撃機ザイからメッセージが入り、繋がれていたプローブが外れていく。
《何か少し軍隊らしくなったんじゃない?》
給油を終えレンの編隊に戻るミオがそんな事を言った。
レン達の後方には2個飛行隊分、計24機のオレンジのザイが編隊飛行を行っているのだ、ミオも少なからずそう思ったのだろう。
《DRAGOON各機、準備はいいな》
《DRAGOON02、スタンバイ》
《03、準備完了です》
《04、いつでもいいわよ!》
レンがウイングマンの少女達に確認を取り、全員から準備完了の報が入った。
そしてレンがバレルロールしながら高度を一気に落とし飛び去っていく。
《では皆さん、シエラネバダまで一直線と行きましょう!》
そしてそれに続くようにイチゴもロールして高度を下げレンに続く。
そしてシャロンとミオもそれに続き、それを追うようにザイ達も全機高度を下げ飛行していく。
アメリカ合衆国西部、通称“西海岸”とも呼ばれる地域。
そこに部類するカリフォルニア州の東部にそれは存在する。
全長650km、最高峰4,421mに達する山と他の山々が連なったそれは“シエラネバダ山脈”と称される。
その山中にあるタホ湖の南部湖岸に秘密施設のような建造物があった。
エントランスホールの床には“
そのエントランスでは現在、レンと歳の近しい1人の少年研究者と大勢の研究員達が言い争っていたが、
「ぐぅっ!」
その少年研究者が1人の研究主任らしき男に殴り飛ばされる。
「道具に情でも移ったかBoy?」
「その子は、道具じゃありません・・・!」
少年研究者が決死で止めようとするが警備員に取り押さえられ、奥にいた青と黒が混ざり合ったような濃い色、ラピスラズリの髪をポニーにした少女が他の研究員達により更に奥へと連れ去られる。
少年研究者はその光景を見て己の無力さと、この世界の無慈悲さを呪った。
「・・・すまない、トムキャット・・・!」
DARPA研究所内で最も厳重に警備されている室内でそれは行われようとしていた。
少女の頭部や腕部と言った各部位に電極のようなコードが繋がれている。
「これよりF-14Dの記憶消去作業を開始します」
研究員がコンソールを操作し作業に入る。
もうすぐ少女、F-14Dのアニマの記憶が全て消去され本格的な廃棄処分に入るであろう。
(あぁ・・・私、もうすぐいなくなるんだ・・・)
アニマの少女はもうすぐ自分が自分でなくなる事を特に悲しむ様子は見られないが、その目尻からは涙が零れていた。
そして記憶の消去作業の開始コマンドが実行され・・・
ドオォォォッ!!
突然の爆発が室内を襲い、研究員達とアニマの少女が吹き飛ばされた。
倒れた少女は何が起きたか理解が追いついていないが、その時に爆発で破壊された壁の外に見えたのは4機編隊を組んだ異機種の戦闘機で、その先頭の機体の垂直尾翼には3本の爪痕が描かれていた。
《標的への着弾を確認》
DARPA研究所への攻撃を行った編隊の2番機、J-15-ANMのアニマ、イチゴが報告した。
先程の爆発はレンによる爆撃だ。
「よし、俺は先に降りてアニマとの接触を試みる。全機散開、自由戦闘に入れ」
《DRAGOON02、了解》
《03、了解です》
《04了解よ!》
《
レンの指示を受け僚機の少女達が駆るドーターは各々分散。更にレーダー網を低空で回避し研究所上空に達したザイ達も戦闘に参加する。
その間にレンは研究所敷地内の滑走路に強行着陸を試みようとしている。
当然DARPA側も迎撃を試みようとしたがザイの攻撃により対空車両は既に全滅していた。
しかしレンはそれでもまるで減速する様子は無くこのままではハンガーに激突するかに思われた。
だがレンはランディングギアを展開した瞬間に機首を一気に跳ね上げた。するちどうなるか、機体全面を強力なエアブレーキとする急減速が可能となり、すぐに機首を水平に戻す。
ドンッ!と音が聞こえそうな激しいランディングだがギアはおろかタイヤも悲鳴を上げていない。
そして手近な場所に駐機しコクピット内に収納していたサブマシンガンMP7を手に取ってコクピットを降り研究所に突入していく。
道中で研究所の警備員と鉢合わせるが冷静に排除していく。
だが、目的の部屋に向かう途中でレンが脚を止めた。そこは必ず通るルートに入っていたエントランスホール、そこで警備員に無理矢理連れてかれようとしている少年研究者がいたのだ。
レンは溜め息を1つついた後に偶々足元に転がっていた瓦礫の破片を手に取り、振りかぶった後にそれを警備員の反対側に向け投げる。
そして破片が落下しそれに警備員が気を取られた一瞬の隙に飛び出し右手に持ったMP7を撃ち警備員を射殺する。
警備員の沈黙を完全に確認する為に遺体に近づき左脚のつま先で軽く突く。
そして反応が無い事を確認するとレンは踵を返し立ち去ろうと・・・
「ま、待ってくれ!」
した時に少年研究者に呼び止められる。
レンがその少年研究者の方を見る。短い金髪でターコイズブルーの瞳、そしてレンとそこまで歳の離れていない雰囲気だ。
レンは少し鬱陶しげにするが話くらいは聞こうと思ったか向き直る。
「何だ?俺は急ぎたいんだが・・・」
「彼女・・・スーパートムキャットは、無事なのか・・・?」
少年の言葉にレンが反応した。
まさに自分の、自分達の目的の名前が出て来たのだから。
「どこにいるか分かるのか?」
「分からないけど・・・大方予想はできる・・・」
そう言って少年が立ち上がるとズボンに着いた砂ぼこりを払った後に小走りで駆け出し、レンもそれに続く。
そして例の研究室にたどり着き部屋に入ると、ラピスラズリのポニーテールの少女が倒れている。
少年研究者はすぐに少女を揺する。
「トムキャット!大丈夫!?」
「・・・アシュレイ・・・?」
揺すりが効いたか少女の意識が戻り少年研究者、アシュレイの名を呼んだ。
その様子からまだ彼女が無事だという事が分かりアシュレイはホッと一息ついた。
すると今度はレンが片膝をついて少女を見据える。
「・・・あなたは・・・?」
「俺は・・・君を
「トムキャットを攫いに!?君は何を!?」
レンのまさかの発言にアシュレイが目を見開くが、レンは気に留めず目を閉じ、そして再度見開く。
その瞳の虹彩輪郭に赤い光、そして銀色の鳥のような紋様が浮かんでいる。
「凰舞 煉の名において、汝を解き放つ・・・。君が変われるかどうかは君次第だ」
「私が、変われる・・・?」
「そしてそれを受け入れるかも君次第だ」
まるでカムチャッカでレンがミオにやった時と酷似しているその空気の中、レンの眼を見つめ続けた少女の中で何かが砕け散ったような音がしたような気がした。
そしてレンが立ち上がり踵を返すと、少女が何か決めたような表情を浮かべ立ち上がり、アシュレイの方を見て申し訳なさそうに顔を伏せた。
「・・・ごめんなさいアシュレイ、私、彼と一緒に行く」
「そんな、トムキャット!?」
少女、F-14Dのアニマの言葉にアシュレイが驚愕するがその言葉を「待てよ」とレンが止める。
そして今度レンはアシュレイと向き合う。
「あんたはどうしたいんだ?随分とこの子に執心みたいだけど」
「どうって・・・」
「ここで他の連中と共にするか、それとも一緒に来るか?」
「・・・」
「ハッキリ言えば俺はアニマが憎いし嫌いだけどそれは廃棄処分されていったアニマ達も同じもんだと思う、勝手に作られ役立たずと分かればすぐ廃棄。そんな人間を嫌ってるアニマもいるが、彼女らは逆らう事が出来ない。けど俺・・・俺達ならそれができると思ってる」
レンの言葉にアシュレイは考えていた。
トムキャットは自分が開発に携わった初のアニマであり愛着もあった。しかし思ったような成果が得られなかったと分かった瞬間に同僚達も掌を返し彼女を容赦なく廃棄しようとした。止めようとしても駄目だった。
その時ほどに現実の非情さと自身の無力さを恨んだ事はなかっただろう。
レンがトムキャットに告げた、「変われるか否かは自分次第」という言葉。あれは自分にも言えるのではないか。
そう思ったアシュレイはついに決心した。
「・・・僕も行く・・・いや、連れていってくれ!」
「・・・」
「僕もこんな酷い人間達は嫌いだ、そして弱い僕自身も。トムキャットが変われるなら僕もきっと変われると思う、頼む!」
アシュレイはレンに頭を下げた。
するとレンは溜め息をつき、右手をジャケットの右ポケットに入れ忍ばせていたサイレンサー付のワルサーPPK/Sを取り出しアシュレイに向ける。
「なっ!?」
「ま、待って!?」
アシュレイが驚愕しトムキャットが止めようとするがレンは止まらずワルサーの引き金を引いた。
アシュレイは目を瞑り襲い来るであろう弾丸を見ないようにしたが、弾丸がアシュレイには飛ばず、代わりに背後で誰かが倒れた音がした。
アシュレイが背後を見ると、自身に向け銃を向けていた基地の米軍兵士が倒れていた。
それを見てアシュレイは冷や汗をかいた、もし遅れていれば自分は確実に撃たれていたと。
レンは兵士が倒れたのを確認するとワルサーをしまい首の動作でアシュレイに行くよう促す。
「すぐに準備しろよ、遅れたら置いていくからな」
「!・・・分かった!」
アシュレイはすぐに部屋を飛び出し必要な物を取りに戻った。
そしてレンも来た道を引き返していき、
「あ、待って!」
トムキャットの少女もそれに続いていった。
制空権を確保し上空で待機していたイチゴ達のレーダーに接近する機影が映った。
機数は24機、2個飛行隊分だ。機種は統一されF-15C。
《うわ、数だけ揃えてきたわよ~あいつら》
《シャロン、ミオ、もう少しですから粘りましょう》
《分かってますよイチゴちゃん》
《だからミオに命令していいのはレンだけ!勝手に命令しないで!》
少女達は米軍機を確認するや否やすぐに散り散りになり迎撃に向かう。
そしてその頃のレンとトムキャットのアニマは各々の機体に乗り込みエンジンに火を入れる。
その時の違和感に気づいたトムキャットがレンに通信を入れる。
[ねぇ、あの時私に何をしたの?]
「何って?」
[まだ少し辛い感じだけど、前よりもずっと楽にドーターと繋がれる]
少女の言葉にレンは「ああ・・」と言葉を漏らした。
確かに自分はあの時、自分の能力を使いトムキャットの問題と共に根底にある彼女を束縛していた物を砕いた。
そんな時、今度は上空のシャロンから通信だ。
《レン君、ひょっとしてまた
「仕方ないだろ、あれしか手段がないんだ」
《でもあれはレン君にも凄い負担になるんですよ?しかもこの前海鳥島で沢山のザイ達にも使って・・・》
シャロンはどこかレンを心配しているようであった。それだけレンの能力が負担のかかる物だというのだろうか。
そんな会話を余所にレンはタキシングを開始し、トムキャットのアニマが操るラピスラズリのドーター“F-14D-ANM スーパートムキャット”もそれに続く。
「滑走路に出次第離陸するぞ、“ステラ”」
[ステラ?]
「君の新しい名前だよ。気に入らなかった?」
[ステラ・・・私の名前・・・]
レンが新たに名付けた名前を静かに呟くように繰り返すトムキャットのアニマの少女・・・ステラ。
そしてレンが滑走路に侵入した時に別の通信が入った。しかしドーターからでないか画面は「
発信元は、タキシングを始めたばかりのC-12ヒューロン軽輸送機だ。
[レン、言われた通りに準備してきたよ]
この声は先程の少年研究者の声だ、確かトムキャットのアニマ、ステラはアシュレイと呼んでいた。
「何で俺の名前を?」
[何でって、さっき君がトムキャットの前で名乗ったじゃないか、オウマ レンって」
そのアシュレイの言葉にそうだったと頭を抱えるレン。
向こうの名を知らずこちらの名だけ知られているのは不公平な話だが今は時間が惜しい。
「・・・全機、今から俺達の協力者になってくれる人員を乗せた輸送機が離陸する。コールサインは“
[エルフ?随分可愛らしい名前だね、ありがとう]
アシュレイの軽口にレンは不本意ながらも少し笑ってしまった。
レンはその後スロットルを全開にし離陸、ステラもそれに続き離陸していく。
アシュレイが乗るC-12もタキシングしていく中、レンがある事に気づいた。
「なぁ、その機にはあんたしか乗ってないのか?」
「当たり前だろ?君達が全員追い払っちゃって、軽飛行機の操縦ライセンス持っててよかったよ」
またしても軽口を叩いたアシュレイ。先程よりも少し精神的に余裕ができているように思える。
そして遅れる事数十秒、アシュレイが操縦するC-12も離陸した。それを確認したすぐにレンがアシュレイに通信を入れる。
「ステラ、あんたも俺の後ろにつけ」
『え?』
「イチゴ、シャロン、エリア外にいる重爆型に
《了解!》
《なるほど、了解しました!》
レンがシャロンに何かを言っているようだがアシュレイにはレンを信じ素直に後ろについた。
すると上空で戦闘を行っていたイチゴ達もレンの後ろにつき6機でデルタ隊形を組んだ。
「よしイチゴ、シャロン、頼む!」
『了解!』
レンの指示を受け、イチゴとシャロンのNFIパネルの発光が強まる。
イチゴが敵味方を迅速に識別しシャロンがそれを各機へ転送するといった具合だ。
《・・・全機へ、識別信号を更新。レーダーの確認を》
イチゴが告げるとレーダーの表示が変わっている事にステラとアシュレイが気づいた。
先程までボギー表示だったレン達の機影が
《本当だ、レーダーの表示が更新されてる》
《どんな手品を使ったの・・・?》
レーダーの表示を見たアシュレイとステラは各々言葉を漏らすが、悠長に構える時間は無い。
残っている米軍のF-15Cがまだ残っている。
だが目的を果たしたレンはもうこの場に留まる理由は無い。
「・・・DRAGOON03はELF01の直掩に。それ以外はついてこい!」
『了解!!』
エリアを離脱していくステラのF-14D-ANMとその前を行くアシュレイのC-12の護衛にシャロンが着き、レン、イチゴ、ミオが米軍機迎撃に向かう。
《丁度いいですねミオ、1つ撃墜数勝負と行きませんか?》
《勝負?》
《どちらがレンの2番機に相応しいか、ここで決めてもいいですよ?》
《!!・・・上等よ、受けて立ってやろうじゃない!》
追撃してくる米軍機を見てイチゴがミオに勝負を持ちかけるが、レンが溜め息をつくと同時にレーダーに赤い円が3つほど表示された。それらは米軍機のいるポイントと重なっている。
「悪いけど2人共、その勝負は無効だ。
《っ!?そうでした!》
《グズグズしてると巻き込まれる!!》
レンが呆れ声で言うや否やイチゴとミオはすぐに回避機動を取る。
それを確認した米軍のF-15が追撃に入ろうとしたが
「5、4、3、2、・・・インパクト!」
レンがカウントダウンを行った直後に空で青白い閃光が弾けた。
それと同時に激しい衝撃が機体を揺さぶり、そしてそれに巻き込まれた米軍機12機が一気に墜落していく。
《くぅっ!》
《ちょっ!味方の上に弾着点から離れてこの衝撃!?相変わらず無茶苦茶ねザイって!》
「発射指示出したのは俺だけどな・・・」
《あっ、いや別にレンを責めた訳じゃ・・・》
ミオの慌てようにレンは軽く笑った。
残りは半数の12機、レン達にはすぐに撃墜できる数だ。
「イチゴ、ミオ、残りを全部墜とすぞ!」
『了解(よ)!』
衝撃から逃れた残りの米軍機を仕留めるべくレン達は散開。
レンはF-15Cを2機捕捉し即座に発射、狙われた2機はブレイクすべくフレアをばら撒くがドーターのミサイルから逃げきれるはずもなく呆気なく撃墜。
その後に別のF-15Cがレンの後方に回るが、F-15SEが機首を一気に跳ね上げ急減速しF-15Cはオーバーシュート。追い抜かせた所で再び機首を水平に戻しすかさず機関砲斉射、更にもう1機撃墜だ。
更に真正面にも米軍機、ヘッドオンし射程圏内に入った所で機関砲斉射、すれ違いざまで撃墜した。これで4機めだ。
イチゴも負けておらず、背後に2機食いつかせてすぐにJ-15の機首を跳ね上げ急減速、その状態でミサイルを発射。
まさかその状態からミサイル攻撃するなど思っていないであろう米軍機は呆気なく2機とも墜ちた。
そして別のF-15Cの背後を取りすぐさま機関砲で攻撃、これも容易く撃墜だ。更に背後から迫ってきている別の機に対しては機首を90度持ち上げ急減速する中、更にもう90度、つまり機首を180度回転させヘッドオン。ロックオンしすかさずミサイルを発射。回避させる隙も与えず撃墜し、そのまま回転し機首を元に戻す。
ミオの方も残りの4機を相手取っており2機のF-15Cからの追撃をバレルロールして開始し2機の後方に回ってすぐさまミサイルを発射し撃墜。そしてすぐ加速し近くにいた別の機に機関砲斉射し撃墜していく。
「どうよ、3機撃墜!」
《4時下方、敵機!》
ミオに飛ばされた警告に言われた通り4時下方から1機のF-15Cが機関砲を撃つべく接近してくる。
ミオがそれを確認し回避しようとした時、そのF-15Cに機関砲が撃たれ爆発した。そしてその直後にイチゴのJ-15が飛び抜けていった。
「あ~!ちょっと、何ミオの餌を横取りしてんのよ!?」
《あのままではあなたが撃墜されていたかもしれなかったので援護しただけですか?》
「余計なお世話よまったく!」
手柄を取られ不機嫌さを隠す様子もなくミオが吐き捨てる。
するとイチゴが思い出したように言い出す。
《さっきので私は5機撃墜しました》
「う・・・」
《はは、ドンマイミオ。ちなみに俺は4機だ》
「うがぁ―――――っ!!!」
軽口を飛ばすレンとイチゴにミオが悔しさを隠さずに雄叫びを上げた。
3人は編隊を組み直し先に交戦エリアを離脱したシャロン、アシュレイ、ステラと合流すべく進路を太平洋方面へ。その途中でアシュレイに通信を入れる。
「こちらDRAGOON01、もうすぐあんたらと合流できそうだ」
《了解、積もる話は落ち着ける場所でしよ。あと・・・》
アシュレイの言葉にレンは頭に?マークを浮かべた。
《いい加減あんたじゃなくて名前で呼んでよ。僕にはあんたじゃなくて“アシュレイ・シュトラウス”
ってちゃんとした名前があるんだから》
アシュレイのその言葉にレンはフッと軽く笑い更に言葉を続ける。
「分かったよ。これからよろしくな、アシュレイ」
《うん。こちらこそよろしく、レン》
お互いが挨拶を終え、レン達はアメリカ領空から離れていく。
推奨BGM:Faceless Soldier/ACE COMBAT 7 SKIES UNKNOWN
ED:アンチクロックワイズ/After the Rain
遅ればせながらGAFアニメ最終回見た感想・・・怖すぎだろ!
ライノ目血走ってたし、原作でも鳥肌たったけどあれは映像化されてるから尚更・・・あれ見ちゃうと何とか救ってあげたいな・・・
あとつい昨日気づきましたが、本作の評価ランプが点灯してる・・・こんな作品にも評価してくださる読者の皆様、本当にありがとうございます!!
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