就職することが出来る仕事は提督だけでした。 (狛犬太郎)
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プロローグ 就職先は鎮守府でした。

就活、それは人生に於いて分岐路となる重要な出来事である。艦これ世界線で生きる主人公達はどんな運命をが待っているのか。

艦これ小説初になります。ちょくちょく更新出来たらなと思ってます。

あんがいボロが出てたりすることもありますがお付き合い願えたら幸いです。



風が運んでくる磯の香り、聞こえるのはウミネコの鳴き声……をかき消す砲撃の音。

 

頑丈な門の先に見えるは立派な赤煉瓦の建物。

 

なぜこんな所にいるのかって?

 

それはこれから俺がここで働くから……いや、働く事になってしまったからである。

 

「いや、まだ大丈夫…。引き返して電車乗って、家に帰って、辞表書いたら郵送して……来年第二新卒としてどっかの企業に就職すればいいじゃん!!よっしゃ帰ろウボァー」

 

唐突に首根っこを捕まれ持ち上げられる。この圧倒的なプレッシャー……まさかっ!?

 

「帰れると思いますか?ここに印の押された契約書もありますし、茜(あかね)さんと藤太郎(とうたろう)さんの承諾も得てますから帰ってもまた連れてこられるだけですよ。諦めて下さい。て・い・と・く。」

 

誰かな?仲良くお手手を掴んでくる子は〜?……

 

「淀姉さん!?待って待って!!淀姉さんがいるなんて聞いてないよ!?オーケイオーケイ、分かった話し合いましょう。その握った手に力を込める前に!!」

 

軽巡『大淀』彼女の艦娘としての名前であり実名は淀川恵、通称淀姉さんである。

 

それにしても…親父と母さん……信じてたのに!!既に淀姉さんの手が回っていたか!!

圧倒的……っ!圧倒的制圧力……っ!!

 

全くもう…。と離してくれたがそもそも俺はこんな所に来る気なんて

 

「何処か具合が悪そうですが如何致しましたか提督?」

 

「滅相も御座いません。本官は至って健康体であります。」

 

焦りすぎて候補生時代の教官との話し方になってる。具合?悪いよそりゃ。だって……。

 

「あ、いたいた。提督、大淀さん。」

 

「こーちゃんだ!!楽しそうっぽい!!夕立も交ぜて交ぜて〜!!」

 

「おぉーこうちゃん、ここの配属になったんだ。これから楽しみだねぇ〜。」

 

「北上さーん!待ってよぉ〜!……げ。」

 

「アンタ達、ほんとに騒がしいわねぇ……。もう少し静かになさいよ。ほら、退いた退いた。不本意だけど私が初期艦らしいからアイツの提督姿を拝んでやろうじゃない。」

 

こんな風に他の連中も居るんだもんなぁ。

はぁぁ〜揃いも揃ってぞろぞろと……。

 

時雨、夕立、北上、大井、叢雲とは海軍学校高等部の知り合いだったりする。因みに淀姉さんもお家がお隣で高校の先輩でした。まさか他にも知り合いが……

 

「ちなみに知り合いの方々は結構ここに居ますよ?私の方で色々手配しましたから。」

淀姉さん心を読まないでほんと怖いから

 

「では、皆さんをご存知かと思いますが提督、自己紹介の方を」

 

あぁ、助かった。このままだとメンタルが崩壊する所だったよ。なんだっけ?自己紹介?そうだなぁ……

 

「えぇ〜本日付けでここを辞めることになった相良航希(さがらこうき)です。短い間でしたがありがとうございました。これからの皆さんのご活躍を心より願っています。…そして私の右腕が持っていかれないことも願っていますぅぅぅがぁぁぁぁ!!!」

 

「禁忌に触れたもの、求めすぎるものにはそれ相応の対価が必要になりますので今回は右腕を頂いていきます。」

 

俺は自己紹介するだけで人体錬成を行っていた可能性が微レ存……?

 

右腕を持って行かれると履歴書を左手で書かなきゃいけなくなるから困る…早いとこどうにかしなければ…。

 

「本当にアンタも懲りないわねぇ……。大淀さん、もういいでしょ。とりあえずコイツを執務室に連れていかないと始まらないし。」

 

叢雲ぉぉぉ〜〜〜!!!良い奴になったなぁ〜〜!!ちょっと目付きが悪いな〜とか回し蹴りが強烈だなぁ〜とかお尻が3つになりそうだった〜とか色々あったけどやっぱり成長してるんだね!!

 

「でも胸は……。あ、やべ」

 

いや、まだ間に合う、フォロー出来るはず。俺は数々の企業で数々の面接を受けてきた就活エキスパートだぞこれぐらいの事「釈明の余地は無いわ。合否通知の代わりに酸素魚雷食らわせてやるわ。有難く受け取りなさい!!!」

 

爆音が響く。死んだと思ったけどどうやら演習弾だったかぁ。ささやかな優しさを感じるけどそれならもう少し手心加えて欲しかったなぁ。いのちはだいじに。

 

空はこんなにも青いのに…いや、今日結構曇ってたわ。俺の気分はこんなにも青いのに……。

 

俺はただ、色んな世界が見たかっただけなのに

 

普通ってものを満喫したかっただけなんだけどなぁ。

 

どうしてこうなった俺の人生………。

 

 

 




極力早く次書きます。


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就活戦争1日目

ネタがちょくちょく挟まれてますので平にご容赦を。

航希君から少しこの世界設定をお話頂けるそうなので軽く耳を傾けて上げてください。

彼、プレゼンでメンタルやられてきた方なんで。

私の世界線だと、淀姉さんパワータイプなのでお気をつけて!

説明会でメモ帳、手帳、ペン、ファイルは忘れちゃダメだぞ!


俺の名前は相良航希22歳、大学四年生。まぁ就活生って奴なのさ。

 

大学は海軍直属の学校だ。高校、大学と海軍学校を進んできた。何?『軍隊学校じゃ出会いも無いだろぷっぷくぷー!』だって?はっ倒されたいかゲフンゲフン。

 

いやそんなことは無い、一応女子もいるんだよ。

 

これが俗に言う艦娘候補生って奴なのさ。

 

まぁ一般にも僅かながら女生徒いるんだけどな。

 

学校は学科ごとに分かれていて、普通に海軍の士官になるための普通科、大半の奴らはここに所属しているな。

 

他には少数ながら整備科、給糧科。給糧科はまぁほぼ安全な連中だけど整備科の中には偶にマッドな奴らが紛れてる。

 

そして真にやべー奴らの集い、憲兵科。もうやべーのなんの、筋肉モリモリマッチョマンの変態だ。もうすぐ空手の稽古の時間だからさらばだ。

 

んんっ、話が逸れたな。そして彼女らが所属する艦娘科だ。艦娘適性のある奴らが全国各地から集められ、高校大学と進学し艦娘になる。小さい奴らは10代前半から大きい奴らは 20代前半まで。

 

艦娘達は一般の学生とは違い年規定の年齢内であれば飛び級または戻りで学校へ入学する。

高校では若干の誤差はあるが駆逐、潜水、軽巡グループ

重巡、戦艦、航空母艦グループでクラスが分けられ授業が行われ、大学では合併を行い、より実践的な授業を受けるというシステムだ。

 

そして最後に提督科である。これが海軍学校の中でも人員が最も少ない学科だ。

 

何故かって?答えは簡単、提督適性のある人物はそうそういるものでは無いからだ。年に見つかって3人、ひどい年は0人の時もある。

 

艦娘、提督には適性検査というものがある。これは国民の10代から20代前半までの男女全てが毎年受けるものであるものが見えるか見えないかというものだ。

 

それは妖精だ。この妖精が見えるか見えないかで適性検査は行われる。そして適性があるものは海軍学校へと入学または編入という形だ。

 

この適性検査、女性の割合は低いがまぁ毎年一定数いる。多ければ100名前後、少なければ半分程度だ。

 

しかし、男性の妖精確認率はまぁ低い事低い事、さっき言った通り多くて年に3人程度だ。

 

とりあえず最初の出会いがあるかと言えばイエスだ。

 

まぁそれが恋愛事に発展するかはさておきだがな。

 

なんで俺が語ってるかって?そりゃ……俺が提督科の人間で体験したからさ。だから出会いはあったよ、提督候補と艦娘候補の関係としての出会いはな、うん。

 

『じゃあ卒業後はそのまま提督になるのか、羨ましいな。艦娘達に囲まれて鎮守府で暮らすのかクソッタレめ!』って言うんだろ?

 

一応、憲兵や上手いこと配属されれば整備、兵糧の男が来るからふへへ!!艦娘に囲まれてるぜ!!なんてことは多分無い。というか逆に男が他にいない状況の方がヤバそう。

考えてみろよ、女子校に1人男子生徒放り込んでみろ?

めちゃくちゃ肩身狭いだろ?そこから女の子に囲まれてるとか考えてなおかつ手を出そうとか相当な奴だよソイツは、もうある意味尊敬と畏怖の対象だな。

 

そして俺が提督になるって言うのは否だ。

 

確かに提督適性はある。今も目の前で妖精さんが俺のエントリーシートに落書きしようとしている。

 

おいやめろマジで。

 

なんで提督やらないかって?質問が多いねぇ。まぁあれよ、高校大学と軍隊学校で生活してると憧れんのよ周りの奴らがつまらないとか普通って言う生活に。

 

普通に共学の学校に行ったり、バイトめっちゃ掛け持ちしたり、友達とカラオケ行ったり、彼女とデート行ったりとそういうことを夢見たり、夢見たり!!あぁ、それでもコツコツと生きていく為には踊りましょう!歌いましょう!泣きましょう!笑いましょぉぉぉーーー!!!

 

…また話がズレたな失礼。このままいくとспасибо(スパシィーバ)してライラライラ言いそうだ。

 

まぁもう就職だから学生は難しいけど軍隊生活をしなくても良いのさ!

 

朝早くラッパの音で起床したり、やたら厳しい規律を厳守したり、体がバッキバキになる筋トレもし無くて済むのさ!!!

 

あ、ブラック企業は勘弁な?ちゃんとその辺は調べてあるからね。下調べは重要。

 

前置きが長かったけど今俺が何をしようとしているか、

 

『就職活動の為の書類作り』だ。

 

現在は4月、下調べは3年生からやってきたからその辺は抜かりない。

 

後はエントリーシート、履歴書、一般知能などの準備。

 

インターネットから提出だったり、郵送だったりするから気をつけろよ。

 

ともかく、これで狙っている企業に合格出来れば晴れて軍隊生活とはおさらばだぜ!!

 

こうして俺はガンガン書類を送り、面接試験や筆記試験をやり遂げてきた。正直、自信しかない。仮に何社か落ちていたとしても幾つかは引っかかっているはずだ。

 

後は結果を待つばかり……。フフフ、これで普通の生活が送れるのか……。胸が熱いな!

 

 

 

そして月日は少し流れ10月ーーーーーー

 

俺は寮の自室でウンウン唸っていた。

 

「……………何故だ。」

 

これまで受けた企業100以上、絶対どっか採用してくれると思っていた。

 

しかし、結果はこうだ。

 

スマホのメールには大量のお祈りメール、届く書類には不採用、不合格通知の文字。

 

そんな馬鹿な…これが社会の辛さってやつなのか…?

 

は、敗北者……?取り消せよ!その言葉、取り消せよ!

 

「100社以上受けて1個も受からないとかメンタル死ぬってまじで……。」

 

ガックリと膝をつき項垂れる俺。

 

そこにインターホンのなる音が響いた。

 

『郵便で〜す。』

 

アハハ、またお祈り文書が1枚増えるのか……。

 

「はいはい、今出ますよーっと…ってなんだ淀姉さんじゃない。」

 

淀姉さん、俺が小さい頃からの知り合いで今は軽巡大淀として海軍大本営で働いているはずだ。

 

「じゃないとはなんですかじゃないとは!」

「ごめんごめん!んで何用なの?」

 

淀姉さんが尋ねてくることはちょくちょくあったから驚きはしない。恐らく母さん辺りが様子見て来てくれと頼んだのだろう。

 

「言ったじゃないですか、郵便がポストに入ってたから届けたのと茜さんから様子を見てきてってね。」

はーやっぱり母さんかぁ、今度電話すっかな。

 

「とりあえずはいこれ、郵便ね。」

 

もうお祈り文書は見たくないわ。確実にメンタルやられる……。ないと思うけどこれ合格してたら速攻判子押すわ。

 

「あー淀姉さん、悪いんだけど俺の見えないように開封してくれる?もう俺にはそれを見れる元気はもう残ってなくて……。」

 

航希死す!デュエルスタンバイ!

 

「結構元気そうに見えますけどね。まぁいいですよ。」

 

御丁寧にペーパーナイフで封筒を切り、中身を確認する淀姉さん。

 

「えーと、相良航希 貴殿を………」

 

溜めないで溜めないでその焦らしは今の俺には大ダメージだ。どうせ落ちると分かっていても心が痛い。

 

「採用する事をここに通知する。」

 

…………ん?

 

「………淀姉さん、もう1回言って貰える?」

 

「相良航希 貴殿を採用することをここに通知する。」

 

聞き間違いじゃ、ない……?

 

「こうちゃん採用ですって!!おめでとうございます!!茜さんと藤太郎さんにも教えてあげなくちゃ!!」

 

「よっしゃぁぁぁーーー!!!判子判子!!もうそこありがとう大好き!!100パーセントそこ行きますよ行きます!!」

 

うおぉぉぉーーー!!!テンション上がってきたぁぁぁーーー!!!もう今日はお赤飯炊いちゃう!!!

 

「これが契約書で名前と印鑑の欄、ここですね!」

 

「はいはい!相良航希…印鑑っと!!」

はぁ〜〜〜良かったぁ〜〜〜人生に絶望しかけたけどやっぱ捨てる神あれば拾う神ありってね!!

 

「いや〜良かったですねぇ〜!これでこうちゃん達と一緒に働く事が出来ますよ〜!こうちゃんが海軍に来てくれるってお父さ…元帥も知ればきっと喜びますよ!!」

 

うんうん!良かった良かった!これで将来も安泰だ。

株式会社海軍で働く………海軍?いやいや無い無い。だって俺、海軍に履歴書とか送ってないし、あれだよ海軍じゃなくて貝群とか言う名前の貝の殻とか剥いたりする漁業系の会社だようんうん。

 

「……淀姉さん、因みにその仕事漁業系の仕事って書いてます?」

 

うーんと唸りながら淀姉さんは考え込む。考え込む顔も可愛いなこの人。この人の事なんも知らない人がいたらこれだけでワンパンでしょ。

「そうですねぇ……秋頃になると秋刀魚漁とかやるらしいですよ?」

 

そっかぁそっかぁ秋刀魚漁かぁ。まぁ海軍学校の生活で漁業系の仕事にも近しいものは感じるしきっと大丈夫でしょ。へーきへーき。

 

「秋刀魚漁ですかぁ、因みに他にはどんな事をやると?」

「後は〜そうですねぇ、総合職なので同じ職場で働く方達に指示を出す立場だったり、資材や経費の計算もするらしいですねぇ。少し大変かもしれないけどこうちゃんならきっと大丈夫よ!」

総合職かぁ〜!!きっと将来的にはその会社の軸になっていく人材になるんだな俺は!!ちょっとやる気出てきちゃったぞぉ!!

 

「こうちゃん!こうちゃん!見て見て!お給料も結構高いわよ!?月収50万スタートですって!!」

 

………………うん。

 

「……淀姉さん、もう一度最初から採用通知読んで貰ってもいいですか?」

 

大きく息を吸って〜吐いて〜

 

もう一度吸って〜吐いて〜

 

「え〜、相良航希 貴殿を採用する事をここに通知する。」

 

「淀姉さん、最初から・会社名・採用職を教えて下さい。」

 

淀姉さんの表情が曇る。何だか見たことある様な…

 

「…………君のようなカンのいいガキは嫌いだよ。」

 

「やっぱりじゃねぇかぁボケェェェーーー!!!早く!!その書類返して!!海軍なんでしょ!?絶対行かねぇからなぁぁぁーーー!!!」

 

なんか途中からおかしいと思ったんだよ!!まだ間に合う!!シュレッダーにかけるなり燃やすなり対処法がある!!おい何妖精さん達と話してるんだ!!妖精さん早く契約書を!!

 

「いや〜こうちゃん説得するの大変でした〜。去年から提督として働こうって言ってたのになかなかOK貰えなかったので良かったです。」

 

「提督なるって言ってくれなかったから不安だったけどこれで一安心だよねー。」

 

妖精さん達……まさかっ!お前っ!?

 

「こうちゃんがなかなか提督になるって言わないので私達の方で履歴書出しておきました。」

 

「中々の仕事ぶり」

 

「どうせなら建造とか開発したいよねー?」

 

こ、コイツらはぁぁぁーーー!!!

 

ってこんな事してる場合じゃない!!淀姉さんから契約書を!!

 

そんな時淀姉さんはどこに持っていたのか超絶厳重そうなケースに鍵をかけ自らの手とケースに手錠を掛けている始末。

 

あ、詰んだわコレ。

 

「じゃあこうちゃん、4月になったらまた迎えに来るからね!それまでに実家に帰って茜さんや藤太郎さんにも提督になりましたって報告してあげてね?きっと喜びますよ!」

 

それではまた〜と足早に帰って行く淀姉さん。

 

そして真っ白な航希の頭の中に1つの答えが浮かんだ!

 

「……あ、そうだ京都、行こう。(逃避)」

 

中学の修学旅行以来行ってないし、京都で晩年まで過ごすってのもありだな。少し早めの隠居生活…うん、ありありオオアリクイ。

 

「こうちゃん京都希望ですか!?良かったぁ〜今、舞鶴鎮守府の提督が今年で定年だったので来年からこうちゃんが舞鶴鎮守府の提督ですね!!これから楽しくなりますよ!!」

 

扉が勢いよく開く音と共に舞い戻ってきた淀姉さんめっちゃ心臓に悪いわ。

 

なんなんこの人なんでこっちに向かって歩いてくるのこわ「ポンッ」え?ポンッ?何?何ですかその謎の笑顔こわいこわいこわいどーする?どーする?俺?落ち着けクールになれ。某CMを思い出せ、微分・積分・二次関数!!

微分・積分・二次関数!!俺は!!やれば!!できる子だぁ!!俺はやればできる子だぁ!!俺はやれば出来る子なんですぅぅぅ!!!

 

圧倒的問題力と徹底的添削力は伊達じゃありません。

 

あ、てかヤバい。巫山戯てる場合じゃねぇ。

 

このままいくと4月には提督にされてしまう。

 

そしてね、一番ヤバイのがね、目の前でハイライトを消した笑顔の淀姉さんが放つプレッシャーなんですよねこれが。

 

眼鏡の奥にある瞳がね、笑ってないんですよ。

 

「……逃げたら、分かりますね?」

 

「……ハイ。」

 

……もし、キュ〇べぇがここにいるなら、俺の願いを1つ叶えて頂けませんか?

 

どうか、どうか俺を生まれ変わらせても頂けませんか?

 

魔法少女になってマ〇る方がこれからのことを考えるまだ楽に逝けるかもしれない。

 

あ、魔法少女じゃなくて魔法青年か…。まぁどっちでもいいわ今更…。

 

神さま仏さまキリスト様に閻魔様、誰でもいいです。

 

この運命を変えて頂けるならこちらの番号までお電話お願いします。

 

まぁテロップなんて出ないけど。

 

汚ねぇ花火が床を汚すことはなかったが、悲しみで鼻水と涙で床が汚れることとなったのは内緒な?

お兄さんとの約束だぞ!

 

来週もまた見てくれよな!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




キュ〇べぇ「僕と契約して、魔法少女になってよ!」

航希「え!?今からでも契約できる保険があるんですか!?」

キュ〇べぇ「我社では魔法少女のみの契約となっております。お引き取り願います。」


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就活戦争2日目

今回は簡単にこの世界の状況説明と航希くんのご両親の紹介です。

今回の文章、割と勢いで書いたところがあるので勢いで読んでくださいお願いします。

雨の日に研修、説明会とか勘弁して欲しかった思い出。

ハンカチは持ったか!?書類は!?折り畳み傘も忘れるなよ!!行くぞォォォーーー!!!(説明会)




……悲しいなぁ。

 

何をそこまで悲しんでるかって?

 

淀姉さん契約書ハイジャック事件が起きたあと俺は持ち前のなにくそ根性で最後まで足掻いてやるって心に決めてたのよ。

 

10月以降からでも採用してる企業探して色々転々としてみたんだよ。

 

そしたらどうなってんだよ、行った企業の先々で淀姉さんがいるんですわこれまた驚き。

 

挙句の果てには最終手段としてハローワークにまで行ったんですよ。

 

そしたら何が起きたと思う?

 

ハローワークの案内員として淀姉さんが出てくる始末、

 

そして紹介されるのは海軍 提督職のみ……。

 

俺には思想の自由と労働の自由は認められていなかったのかと改めて思ったね。

 

ワンチャン淀姉さんの前では人権すら危い。

 

権利侵害も程々にしろ!!ふざけるな!!

 

裁判だ!!

 

……まぁ裁判に持っていっても、なんか色々理由付けて

「異議ありッ!!」って言われてGAME OVERすんでしょ?知ってる知ってる。

 

時は3月中頃……

 

そんでね、今どこにいるかって言うとね、

 

なんと……実家に帰って来ていまぁぁぁす!!!いぇーい〜はぁ〜しんど……。

 

今回帰ってきた目的としては淀姉さんから両親に顔ぐらい見せに帰れって言うのと、こっちが本当の目的で淀姉さんから海軍就職について話されてないか確認するために来た。問題はこの両親という事だ。

まぁうん、俺の両親悪い人達じゃないんだよ。

 

というか身内に悪い人いたらちょっとどうしよう。

 

いやまぁ、いい人達なんだよ、いい人達なんだけど…

癖がありすぎて笑う。

 

笑うを通り越して笑えない。

 

話になるかどうか…。

 

まぁそこは一応両親を信じてしかないか…。

 

めっさ帰りたくないけどしょうがないから入るかぁと思った矢先、

 

「こうちゃん帰ってきてたなら早くお家入りなさいよ〜!びっくりしたじゃな〜い!ん?何よそんな顔して?」

 

勢いよく開いた扉が俺の顔面に打ち付けてきたらキレたくもなるし、そんな顔にもなるわ。

 

何を言ってもこの親には通用しないがな。

 

とりあえず家に入ると親父も居た。

 

ここで俺のクレイジーな家族を紹介するぜ!!

 

まずはマイペースで人を振り回す事に定評のある俺の母親!!相良茜ーーー!!!

 

まぁあれよ、玄関での下りを見れば何となくわかるよね?

 

歳の割には活発で明るい雰囲気の母親でその辺は元気そうでありがたい。もう少し大人しくなってくれてもいいんですよ?

 

そして次の家族!!めっちゃ渋いまるで某スニーキングゲーの色んなもの食べては『美味すぎるッ!!』って言う方に似ている我が家の大黒柱、相良藤太郎ーーー!!!

 

体も鍛えられてるし声の方もなんか大塚〇夫さんに似てると来た。まぁ基本無口な方です。

 

最近はゆ〇キャン△を見たらしくキャンプにハマっているという。

 

松ぼっくりは優秀な着火剤です。

 

ゆ〇キャン△はいいぞ。

 

あと何人か家族いるんだけど今はいないからまた今度な。

 

「こうちゃんたまには家に顔見せなさいって言ってるのなかなか帰ってこないから心配してたのよ〜?少し痩せたんじゃない?電話しても空返事ばっかりだから〜、ちゃんとご飯食べてる〜?」

 

「あーもーベタベタと顔を触るなっての…。俺もガキじゃないんだから飯も食ってるし大丈夫だよ。」

 

そして妖精さん達は俺の横腹を摘むな!!こそばゆいわ!!

 

妖精さん達は俺が出かけようとするといつの間にかバッグの中やポッケ、服の中に忍び込んでいる。置いてきても置いてきてもいつの間にかいるから諦めた。まぁ基本大人しいし、たまに手助けしてくれるからいいけどこうしてイタズラを働くこともある。

 

まぁ可愛いイタズラだと思うしかない。

 

服を少し持ち上げ軽く払うと隙間からポロポロと妖精さんが…ポロポロ…いや、多い!!多いんだよ君たち!!一体何人いるんだよ!!

 

いつも5人ぐらいだったのが3倍ぐらいいるじゃねぇか!!どうしたのこの子達!?

 

「道中で出会って、もうじき提督になると説明したらついてきてくれました。」

「よろしくお願いします。」

 

「お給料はお菓子類で。」

 

「なんなら前金も受け付けてますよ。」

 

「金平糖で手を打ちましょう。」

あーもーうるさいよ!!ハイハイ!!分かった分かった!!飴ちゃんあげるからはい、整列ーーー!!!

 

一瞬で辺りを飛び回っていた一気に机の上に整列した。

 

全く、現金な奴等め……。

 

元からいた妖精さん達用に持っている飴玉イチゴ味を取り出し手のひらに乗せるとワーッと群がってきた。

 

「こうちゃん、今そこに妖精さんがいるの!?」

 

「あぁ、なんか数が増えたけどいるよ。」

 

両親は俺が妖精さんが見える事は知っている。

 

しかし、二人とも妖精さんを見ることは出来ないので俺の行動を見て妖精さんの存在を認知している。

 

そして始まるのが……

 

「妖精さ〜んお母さん特性パンケーキですよ〜!!」

 

「……肉、食うかい?」

 

そう、餌付け祭りである。

 

妖精さん達は飴玉を放り捨て、パンケーキと肉に猫まっしぐらならぬ妖精まっしぐら。

 

散らかすならたかるんじゃないよもう……。

 

飴玉を拾い集め袋に戻す。

 

……改めて考えると不思議な光景だ。俺には妖精さんがパンケーキと肉を貪り食う姿が見えるが両親にはこの姿が見えない。となるとどういうことかと言うとパンケーキや肉がだんだんと無くなり、空いた皿やフォークなどがフワフワと浮き、 丁寧に洗われていく。

 

この両親も最初はこの光景に驚きこそしたが直ぐにいつもの調子でお菓子を振舞ったり、ミニカー等で遊び始めた。

 

今考えるとこの人達が俺の両親で良かったなと思った瞬間だった。

 

世の中にはこの不思議な光景で周りの関係がギスギスすることもあるから……。

 

妖精さん達は皿を洗い終えると「一宿一飯のお返しはせねば」とあちこちに飛び回り、電化製品を整備し始めた。

 

前にも家に帰ってきた時に似たような事があり、調子が悪いテレビや寿命が近かったエアコンがまた元気よく動き出す等、見事に整備されていた。

 

俺の寮の部屋の電化製品も整備してくんねぇかな。エアコン変な音してるし……。スーパーの安売り3連プリンとかで交渉してみるか……。まぁ妖精さん達ならこれぐらいで等価交換成立するよな?

 

「やっぱり良い子達だね〜!お皿も洗ってくれちゃったし。また家の物直してくれてたりするのかな?」

 

「らしいね。まぁ妖精さん達の特技のひとつだし、一宿一飯のお礼だとさ。」

 

「あらあら、いつもこうちゃんの面倒見てもらってるのに……ほんとに良い子達ねぇ〜!」

いや、面倒見てるの俺の方。そこんとこ忘れないで?

俺は忘れない。

 

「みんなありがとうね!これからもこうちゃんの事、見守ってあげてね!」

「勿論です。」

 

「おっちょこちょいだし私達が見てないとまだまだ危なっかしいです。」

 

「お守りのお礼にお菓子のグレードアップも受け付けてますよチラチラ。」

 

「駅前の限定ケーキセットでもいいんですよチラチラ。」

 

ちくしょーーー!!!散々いいやがってぇぇぇーーー!!!

 

俺も見てたけど学生身分にはなかなか手が出しづらい額じゃねーか!!

 

なら俺が食べたいわ!!

 

「そうそう、こうちゃん就職はどうしたの?妖精さん見えるし、やっぱり提督さん?」

 

おぉそうだ、本題を忘れるとこだった。

 

「いや、海軍には行かないよ。実は、本当に悪いと思ってるけど今年の就活には失敗したんだ…。連絡をなかなかしなかったのもこの話を切り出せなくて……。」

 

母さんが少し心配そうな顔をし、親父もこちらを見つめている。そりゃそうだよね、息子の就職失敗聞いて不安にならない親はそうそう居ないだろう。

 

「…海軍に行くのは駄目なのか?」

 

親父が少し寂しそうな顔をしているのも分からなくもない。今年定年で一線を退いた身だが元々海軍で働いていた人間だった。やっぱり自分の歩んできた道を息子にも進ませたかったって言うのはあったんだろうな……。

 

だがしかし、海軍に行く気は無い。

 

「…やっぱり、軍隊生活は俺には合わなかったみたいだ。それなら一般企業の営業で汗水垂らしたり、ホテルマンとか接客なんかのサービス業とかもやってみたいんだ。とりあえずここ1年間はどこかに家借りてアルバイトしながらまた就活して行こうと思うんだ。」

 

我ながらいい感じに本心を言えたな。流石丸1年就活続けてきただけあってスラスラ言葉が出てくる。進研ゼミで学んだ事はここに出てこないからな!経験あるのみよ。

しばらく無言の時間が続いたがその静寂を破ったのは、やはり母さんだった。

 

「まぁ、いいんじゃないの?こうちゃんも大人になったからね。やりたい事が無くてこうしてる訳じゃないし、やりたい事が決まってるならそれを目指す事はいい事だと思うわよ私は。…海軍、私はこうちゃんに向いてると思うけどね〜。まぁもう1年頑張ってみなさいな!」

 

「…お前の人生だ。やりたい事をやるといい。」

 

母さん……親父……。

 

「とりあえず、お風呂沸いたから入りなさいよ。色々あって疲れてるでしょう?」

 

気を使ってくれたのか一番風呂を勧めてくれた。念の為親父の方を見ると無言で頷いてくれた。

 

「なら、お言葉に甘えて…。あ、そうだ。淀姉さんから俺の就職の事でなんか言われたりした?」

 

「恵ちゃん?いや、特に?何かあったの?」

 

「いや、無かったら別に良いんだ。就活の事で結構心配掛けちゃったからもしかしたら母さんに連絡してたりして…って思っただけ。」

 

母さん、不思議そうな顔してたけど特に気にしてないみたいだ。

あぁ、恵ちゃんって言うのは淀姉さんの本名で淀川恵という。

 

実は淀姉さんの親父さんは海軍のトップ元帥であり、淀姉さんはその元帥の一人娘だ。

 

「淀川さんの旦那さんにはたまに会うけど、恵ちゃんが艦娘になってからはなかなか家に帰って来れないみたいだからねぇ〜。たまに連絡は来るけど、また会ってみたいわ〜!」

はははつい先日にも会いましたよ。十字固めされたり、コブラツイストされたり、しまいにはキン肉バスター御見舞されましたわ……。

 

海軍学校と寮、大本営はほぼ隣にあるので淀姉さんが割と突撃してくることはある。

 

割とマジ怖い。

 

とりあえずこの反応から察するに淀姉さんの手はまだ母さん達には延びていなかったようだし、一安心だ。大本営が隣にない一人暮らしが始まれば淀姉さんが突撃してくることも無いだろう。

「元気そうだったよあの人も。まぁ、艦娘になったら緊急出動とかあるしなかなか帰って来れないんだろうよ。…とりあえず風呂入ってくるわ。」

 

「はいはい、ゆっくり入ってていいからね〜。」

 

 

「…………って言ってるわよ?恵ちゃん?」

 

「ギルティーですね。」

 

航希は気づかなかったが隣の部屋には…修羅と化した大淀がいた。

 

「まぁ私もこうちゃんにはあぁ言ったけど本音言うと海軍にいけるなら行って欲しかったからね〜。藤太郎さんも海軍出身だし、恵ちゃんや元帥さん、あの娘達もいるから親としては知り合いもいる職場の方が安心するわ〜。」

 

「任せてください茜さん。私もこうちゃんのサポートに付きますので。こうちゃんには立派な提督さんになって貰えるよう尽力します。」

 

私もこうちゃんの自由を減らす事はあまりしたくない。

 

しかしながら、現実はそう上手くは行ってくれないのだ。

 

提督候補はなかなか見つからない。

 

去年は1人、一昨年は0人。

 

今も現職の提督や艦娘が頑張っているがその数はまだまだ足りていない。

 

対して、敵の戦力は未だに計り知れない…。

 

人類の敵、深海棲艦。

 

約30年前、世界中でその姿を現し、人間を襲う海の魔物。

 

日本では当時、自衛隊が防衛に当たったが、砲撃、ミサイル、機銃もあまり効果的では無かったのだ。

 

イージス艦による砲撃を人間ほどの大きさで海上を高速移動する深海棲艦に砲弾を当てるのは困難を極めた。

 

人類は深海棲艦にどうすれば有効打を与えられるかと様々な作戦を実行してきた。機銃攻撃や戦闘機による爆撃など作戦を変更したが深海棲艦に通常の武器では決定的なダメージを与えることは出来なかった。

 

そんな時、現れたのが妖精であった。

 

妖精は次々と武器を作り、妖精達が作る武器は既存兵器とは違い、深海棲艦にダメージを与える事が出来た。

 

妖精さんは武器を作るだけでなく、その武器を使う事が出来る者達を生み出した。

 

過去に沈んだ軍艦の気と人間を合成することで武器が使用出来るようになった。

 

しかし合成することが出来るのは女性のみであり、それが艦娘の始まりであった。

 

艦娘の出現により戦局を押し戻す事ができ、今に至るというのが歴史だ。

 

私自身も艦娘の適性が見つかり艦娘となったが、艦娘になる決心が付いたのもあの出来事から…彼の、こうちゃんのお蔭であった。

 

私の心はまだまだ弱い。それを支えているのは…。

 

とりあえず、4月から舞鶴鎮守府で働けるように手配は進めたからこうちゃんを説得しないと…。

 

やる事は多いけどこうちゃんには提督になってもらわないと。

 

「約束、忘れないでねこうちゃん。私は忘れてないから…。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーー

 

「ふっ……ぶあっくしょい!!!」

 

んー?何やら寒気が……。

 

風呂に入ってるのに寒気とはこれ如何に……。

 

最近説明会ハシゴしたり、淀姉さんから逃げ回ってたし、色々あったから疲れてるのかもしれないな。

 

葛根湯飲んで寝ればこの程度の風邪、一発よ!

 

……とりあえず、お湯温め直すか!

 

こんな時期に風邪なんて引いてられないからな。

 

風邪は待ってくれても淀姉さんは待ってくれない。

 

流石に手荒な事はしてこないと思うけど。

 

……しないよね?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




「幸せについて本気出して考えてみたら〜

いつでも同じ所に行き着くのさ〜!」

「そうですね!海軍提督(あぁー!!聞こえない聞こえない!!)ですね!」


あ、お気に入りや評価つけて頂きありがとうございます。非常に創作の励みになります。

頑張って続き書いていきます。


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就活戦争3日目

1万字近くなってしまった……。

しかも艦これの話ししてたかって言うと違う話しばっかしてましたわすんません。

軽い飯テロなんかもあるのでご注意を。

みんな 履歴書に書く特技なんて無いって言うでしょ?
そんなこと無いから!!優しさとか聞き上手とかあるでしょ!!

優しさ無いって?

それは貴方が悪魔とかでない限り大丈夫……なはず。


3月31日、気温も暖かくなり、学生であれば春休み明け前日、新社会人ならば明日は遂に初出勤と期待に胸を膨らませるものも居れば「めんどくせー」と大きくため息を吐く者もいる。

 

新たな生活、いつもと変わらない生活が始まろうとする期待と不安、気だるさ入り交じるそんな日…俺はそんな3月31日が好きだった……今まではな。

 

窓の外には春休み最終日とあって遊びに繰り出す学生。

 

リクルートスーツからビジネススーツへと進化し、記念に家族達と軒先で写真を撮る新社会人。

 

就活に躓いた身としてはそんな奴らが眩しく見えて憂鬱になってきた。

 

そんな俺が今何しているかって言うと……

 

『あ、ちょい航希。重量弾余ってない?』

 

『お!?ゴールドウェポンキター!!あ?弱くね?』

 

ゲームだった。

 

違うよ?別に就職諦めてニートとかになったわけじゃない。

 

状況的にそうにしか見えないとか言うなって。

 

俺もそう感じてんだからさ。

 

ともかく、OPEXというFPSゲームを共にやっているのが海軍大学でつるんでいた連中。

 

1人は俺と同じ提督候補だった神谷翔平(かみやしょうへい)。因みに重量弾は余ってない。俺もスピリットファイター使ってるから寧ろ弾が欲しい。

 

もう1人は海軍士官候補生だった大迫勝也(おおさこかつや)。大迫半端ないって!!そんなんできひんやん普通!!言っといてや出来るんなら…。とはなんの関係もありません。因みにそのゴールドウェポン、ゴールドの中で最弱らしいぞ。

 

なんで俺がゲームしてるかっていうのもコイツらとつるむきっかけってのがゲームだった。

 

俺らの学年で提督候補は俺と神谷だけだったので必然的に会話するようになった。そん時に神谷がモリオカートが得意だったり、タイタンフィールドなどFPS等のゲームをやっていることを知り、さらに意気投合した。

 

大迫は俺が学内に持ち込み禁止だったPS VOTAが見つかり、教官からこってり絞られてた時、コイツも俺同様、Swotchを持ってきてたのがバレたらしく、腕立て、スクワット、OKが出るまでエンドレスランニングの刑になった仲だ。

 

ランニング中に大乱闘スモブラで何使いか語り合ってたら夕飯抜きで倒れるまで走らされたのは今となっては懐かしい思い出だ。もう二度としたくない。

 

そんな神谷は鹿児島県近くにある佐世保第3鎮守府へ

 

大迫は函館の海軍基地への配属が決まった。

 

連絡を取るのも難しくなる のでこうしてマイクを付けてゲームしている。

 

『あーこうしてお前らとゲームすんのも最後になるかもしれないのかぁ…。そう考えるとなんか寂しくなるもんだな。あ、1パーティー見つけたわ。ピン立てるぞ。』

 

『あいよ。…にしても俺は佐世保、というか実質鹿児島で大迫は函館、相良は東京でアパート借りてもう1年就活とまぁ見事にバラけたな。補給物資落したから取りに来い。』

 

「あのさぁ…分かってるけどさ、その言葉グサッとくるな。もうちょいオブラートにお願いできませんかね?今の俺にはなかなかキツイ。お、ラッキー!パープルアーマーGET!」

 

『そう思うならなんで海軍で提督にならなかったんだよ…。提督候補なら100パーなれただろ。俺なんか海軍士官になるための試験とかあったんだぞ。超高倍率じゃないけどさ。索敵したけど検知無し。』

 

『なんならお前の知り合いだった大淀適性のあの先輩に言って提督にしてもらえよ。提督少ないんだからウェルカムだろ。大迫、ドローン出すからライフ回復させとけ。もうすぐ円来るぞ。』

 

「あっさり言ってくれるねぇ…。まぁ俺は提督になる気は無いんだ。絶対民間企業に受かって軍隊生活とはおさらばだ。」

 

とりあえず淀姉さんの話題を振るな、寒気がする。

 

さっきからメールやら着信やらでひっきりなしにスマホが震えてるんだ。ついでに言えばスマホが震える度に俺も震えてる。

 

怖すぎてメールすら見れん。電話に出るなんてもってのほかだ。

 

淀姉さんには実家に帰ったと連絡し、実際は寮の部屋を引き払った後、アパート借りてそこで暮らしている。

 

海軍大学ではアルバイトが禁止されている。国を守る訓練をするのにアルバイトする暇など無い。代わりにあまり多くはないが支給金が出る。

 

支給金をコツコツ貯めといて良かったと今更ながらに思う。

 

その支給金とは別に両親が先日、幾らか資金を下さったのでそれを使って生活している。就職したら倍にして返す。

 

ゲームも終盤に差し掛かり、残りは自身の部隊を含む3部隊が争う展開となった。

 

1部隊が丘の上、もう1部隊が向かいの建物の中、俺らの部隊も二階建ての建物に立てこもり、次の円がどうなるかという状況。

 

そして収縮を続ける円が最後の安全地帯を示した。

 

『よっしゃ!!円に入ったぞ!!俺達、なかなか運が良いぜ!!』

 

『丘の連中も向かいの家の奴らも円外だから収縮と同時に突っ込んでくるだろうな。シールドとライフ削られてるやつ今のうちに回復しとけよ。』

 

「収縮始まるぞ……3、2、1」

 

円の収縮が始まる瞬間、扉付近に手榴弾の警告マークが

表示された。

 

『来たぞ!!ラスト気を抜くな!!』

 

『こっちからもフラグ飛んできてるから窓の傍に寄るなよ!!』

 

ドッと屋内になだれ込んでくる敵部隊…だが俺達はこれを待っていた。

 

「スモーク焚くぞ!」

 

ランチャーから発射されたスモーク弾が拡散し、家中がモウモウと煙で覆われた。今だ!!

 

「大迫やれ!!」

『ほい来たぁ!!ビーストモード起動!!』

 

俺のキャラクター、カンガロールは辺り一帯に煙を発生させるスモークランチャーを装備している。

 

そして大迫のキャラクター、ブラッディハウンドは煙越しからでも敵を認知することが出来る必殺技を持っているのだ。

 

屋内に飛び込んできた敵は煙で俺らと出入口を見失い、右往左往するしか無かった。

 

そこからは大迫の操るビーストモードブラッディハウンドとサーマルスコープを装備した俺達からの一方的な攻撃だった。

 

「1パーティーやったぞ!」

 

『こっちも2人ダウンさせた!つー事は…ラストワンだ!!あ、おい!!外に逃げるぞ!!』

 

スモークの効果が切れ、屋内が不利と悟った敵は一目散に扉に向かって走り出していた。

 

「追うぞ!これで終わりだ!」

 

『いや、その必要は無い。』

 

なんで?と思った矢先、敵が外へ飛び出した瞬間神谷が操るライフレインの必殺技で要請した救援物資に敵が踏み潰された。

 

デカデカと画面に映る優勝の文字。

 

ラストキルはプロゲーマーの動画で見るような神谷のびっくりキルだった。

 

「はーそこまで正確だとおっそろしいな…。流石、先読みの達人。」

 

『ほんとタイミングバッチリで当てるよなぁ…ある意味チートじみてるぜお前。』

 

『褒め言葉として取っておくわ。とりあえず優勝出来たし、締めゲームとしては完璧だな。』

 

神谷は大学で艦娘候補、先輩提督候補らと行った合同演習ではかなり高い勝率を上げていた。

 

その理由はこの先読み能力の高さだった。

 

まるで未来が見えているかの如く、魚雷を撃てば当たり、奇襲を仕掛けた敵を次々に返り討ちにしてきた。

 

「流石これから提督になる奴は違うな。戦局の先を見てるってわけか!こんだけ優秀な提督がいれば日本の海も安心だな。」

 

『よく言うぜ!結局、俺は演習でお前から勝ち越し出来なかったって言うのによ!』

 

「いや、あれはほんとに運が良かっただけで。」

 

『思い出話も良いけどよ、それをするなら飯食う時で良くね?もうそろ6時だし、飯くいに行こうぜ。』

 

もうそんな時間だったか…。集中してると時間が経つのが早い。

 

お、そういやスマホのバイブが鳴りやんでる。淀姉さんもようやく諦めてくれたか…。

 

「ほんじゃ、飯食いに行きますかぁ!俺のバイト先でいいか?」

 

『勿論、俺、あそこの鶏雑炊めっちゃ好きなんだよ。』

 

『神谷、お前いっつも鶏雑炊食ってるよな。』

 

「わーったわーった!ほんじゃいつもの所で待ち合わせな。」

 

『『うぃーっす。』』

 

ゲーム機を終了させ、軽く身支度を済ませる。

 

財布よし、スマホよし、カバンの中で寝てる妖精さんやらポケットの中に入り込んでる奴もいるけどまぁいいわ。

 

それじゃ、待ち合わせ場所まで急ぎますかねぇ…。

 

と言っても

 

「おせーな早くしろよ。」

 

「まじで腹減ったわお前の奢りな。」

 

部屋が違うだけで同じアパートだから家出て目の前集合なんだけどね。あと神谷、奢るわけねーだろ。寧ろこれから稼ぎいいんだからてめぇが奢れ。

 

それはともかくダラダラと歩くこと15分、俺のバイト先でもある駅前の居酒屋に到着した。

 

「お疲れで〜す!親方、連絡してたとおり3名で!」

 

「お、来たな!そっちの二人も久しぶりだな!少しサービスしてやるからじゃんじゃん食べてってくれよ!」

 

「「「ありがとうございま〜す!!」」」

 

この人は高津斉昭(たかつなりあき)さん、この居酒屋『宝船』で働く店長だ。通称親方と呼ばれ、バイト、客からも親しまれている恰幅のいいおじさんだ。

 

席に着き、各々で好きなものを注文していく。

 

俺はここの刺身の盛り合わせと揚げ物は最高だと思っている。

 

神谷は先程の通り鶏雑炊、大迫は串物だ。

 

極論、ここの飯は美味いのだ。

 

親方からビールとお通しの枝豆を受け取る。音頭は神谷が取るようだ。

 

「それじゃ、明日から始まる輝かしい俺らの日々に乾杯!」

 

「乾杯ーーー!!!」

 

「おい待て!!悪意ありすぎるだろそれ!!」

 

あーあ、もういいよ。実際、コイツらは輝かしい人生送れるよ。だっていつでも頭の中ハッピーな連中だしな。

 

まぁ、俺も輝かしい未来が待ってるはずだしな!もしかしたら明日内定が貰える可能性だってある訳だし!うんうん!!

 

そんな事考えてる俺も頭の中ハッピー族だったらしい。

 

ともかく、ジョッキになみなみ注がれたビールを喉に流し込む。

 

「プハーッ!!ビールがキンッキンに冷えてやがるぜぇーーー!!!」

 

やっぱり最初の生は格別だな!

 

次々に運ばれてくる美味い料理を食べ、酒を流し込む…これが至福のときってやつだな…。そう言えば刺身頼んだけど、どんな魚を仕入れたのだろうか。

 

「親方、今日の刺身ってなんですか?」

 

「今日のヤツはうめぇぞ!!刺身の鉄板、マグロと春が旬の桜鯛、そして俺イチオシの初鰹だ!今切ってるからちょっと待っとけ!」

 

おぉ!!それは楽しみだ!!

 

「ほら、お待ち!マグロと桜鯛、初鰹の刺身3種盛りだ!」

 

綺麗に盛り付けられた刺身、色も綺麗でとても新鮮そうだ!

 

「めっちゃ美味そうだな」

 

「俺も頼んどきゃ良かったぜ」

 

すると親方は追加で刺身を差し出してきた。

 

「そう言うと思っていたから一緒に用意しといたぞ!お代はいらんから。まぁ俺からのささやかな就職祝いだ!食え食え!!」

 

「マジすか!?」

 

「うっひょー!!ありがとうございます!!」

 

では早速……

 

マグロの刺身を1切れ……美味いッ!!

 

口の中で広がる新鮮な魚の旨み、プリプリとした食感がこれまた堪らない!

 

次は初鰹だ…これも美味いッ!!さっぱりとした味わいで日本酒が飲みたくなる…!!

 

日本酒を追加で頼み、刺身を食らう。

 

やはり最高の組み合わせだ。

 

そして最後に桜鯛の刺身…美味いッ!!!

 

刺身でも美味いがこれは……

 

「親方、お茶漬け貰えます?この桜鯛の刺身にぴったりだと思うんですよ!」

 

「うぉ!それめっちゃ美味そう!!」

 

「親方!俺にもお茶漬け下さい!!」

 

「神谷お前、鶏雑炊食えなくなるぞ。」

 

そして色々な美味い飯を食べて腹も膨れた俺らは思い出話なんかで盛り上がっていた。

「そう言えばさっきお前ら合同演習で勝ち越したとかどうたら言ってたけどあれ結局なんなの?」

「あぁ、それか。俺と相良で演習する事が何度かあったんだけど、なかなか勝たせてくれないんだわコイツ。」

 

「ほー相良、結構強かったんだ?」

 

「なんて言うか、艦隊の動かし方が上手かった。攻めと引きのタイミングが完璧でめちゃくちゃやりずらかった。」

 

…なんか目の前で自分の評価を話されるとむず痒いな。

 

「そしてやたらと撤退戦が上手い。」

 

「それは何となくわかる気がするわ。相良、OPEXでもそうだったし。」

 

それは俺が常に逃げ腰って言いたいんか神谷。大迫、お前も分かってないわ。

 

「コイツと良く組んでる軽巡と駆逐の連中もなかなか動きが良くてな。なんであんなに上手く出来んの?」

 

「…アイツらとは高等部の時から組んでたからな。そういう事もあんじゃねーの?」

 

まぁ腐れ縁ってやつだよ。一癖も二癖もある連中だから大変だったけどな。

 

「そう言えばお前高校から海軍学校だったか。まぁそれを考えたら結構場数踏んでるし、付き合いの長い連中ならお互い何となく考えてる事が分かるってことか。」

 

「やっぱり大学からの提督候補と高校から提督候補じゃ経験の差があるって事か。」

 

「いや、だからたまたまだって。」

 

「いや、それにしては謎が多いんだよお前、やっぱり思うけど演習中のあの運の良さはなんなんだ…。」

 

「どういう事なんだよ?」

 

「…ようやく追い詰めて、これで決まりって時になると主砲が故障したり、不発弾だったり、確実に直撃コースだったのに艦娘が転んで当たらなかったりと様々よ。こういうラッキーが結構あるんだよ。」

 

「なんだそりゃ?」

 

「1番驚いたのは航路実践演習の時よ。」

 

航路実践演習とは実際の海域攻略を想定したトレーニングで、撤退や攻略戦などのシチュエーションをスタート地点から訓練終了地点まで、燃料や残弾数を考えながら戦闘と移動を繰り返しながら行う訓練のことだ。

 

「相良はな、俺や先輩後輩連中がボスマス以外に到達したり、かなり大回りする針路に進んだりする中、1発でかつ最短でボスマスに到達するんだよ、何度もな。」

 

それに関しては俺自信が1番びっくりしてた。

 

でもまぁ確率の問題だからそん時たまたま上手いこといっただけだと思っている。

 

だからもし俺が提督になってたとしたら戦艦や空母部隊と4連戦ぶち当たってボスマス以外のゴールマスで終わる人生になっていると思う。

 

「まぁ不思議な事かもしれないけど、無いわけじゃないからさ。次やったら俺はおそらくスタートした次のマスでゴールしたり、戦艦空母機動部隊と連戦させられると思ってる。」

 

嘘くせー、信用ねー等など散々なこと言ってくれるけどまじで分かるわけないだろ!!俺が知りたいわそのメカニズム!!

 

「いや、まじで思うけどなんでお前提督にならなかったんだよ?同じ提督候補だった神谷がここまで言うんだから疑問でしかないわ。」

俺はもう軍隊生活には疲れたの!!これからは普通に働いて門限とか外出許可証とかに縛られずに金曜日に同僚と酒飲みに行ったり、有給使って音楽フェスとか行きたいの!!

 

「っと、話し込んでたらこんな時間になってたか!明日朝イチの飛行機で向こうの鎮守府に行かないと行けないんだ。」

 

時刻は11時をちょうど回ったところ。そろそろお開きの時間だ。

 

「提督さんは大変だな。つっても俺も明後日から勤務だから明日の昼には函館行きの飛行機の中か。」

 

実感するとやっぱり寂しくなるもんだな。

 

「…またこうして3人で酒を飲もうや。」

 

「そうだな!」

 

「とりあえずお前は就職先見つけろよな。」

 

最後の最後まで痛いとこついてくる奴らだぜ全く。

 

少し残っていた日本酒を飲み干し、会計を済ませる。

 

「寂しくなるなぁ、常連客が居なくなるほど居酒屋やってて悲しいことは無いぜ。」

 

「親方、九州からまたこっちに来た時には必ず店に寄らせてもらいますよ!」

 

「俺も函館の美味い魚持ってきて親方に捌いてもらおうかな!」

「そいつぁいいや!来てくれたらまたサービスするよ!…そういや神谷君、提督さんになるだってな!そしたらうちの娘が世話になるかもしれんから、そん時はよろしくな!!」

 

世の中狭いもんだな。親方の娘さん、艦娘だったのか。

 

「へぇ〜そうだったんですか…因みに娘さんはどこの鎮守府で?」

 

「重巡摩耶の適性持ちで今は佐世保第3鎮守府で働いてるって言ってたな。」

 

佐世保第3鎮守府って……

 

「……それは驚いた、明日から俺の務める鎮守府ですよ。」

 

「ガッハッハッ!!そいつは奇遇だ!!ちょいと癖のあるやつだが根は良い娘なんだ。神谷君、娘を頼んだぞ!!そしてお前ら就職おめでとう!!また来てくれよな!!」

 

こうして、最後の最後で親方の娘が艦娘という意外な事実が発覚したが、俺達3人は『宝船』を出てアパートに帰るため住宅街を歩いていた。

 

「まさか親方のとこの娘さんが艦娘やっててそれが俺が行く鎮守府で働いてるとは思わなかったぜ。」

 

「案外、世間は狭いもんなんだよな。意外なところで人脈は繋がってるんだよ。」

 

あ、そうだ。食パン切らしてるんだった。明日の朝飯が抜きになっちまう。

 

「すまん、ちょいコンビニ寄らせてくれ。食パンを買いたい。」

 

「俺も喉渇いたしお茶でも買ってくか。」

 

「俺もアイス食うかな」

 

3人で途中にあるロー〇ンへ寄り道、店内は客は居らず女性店員さんがタバコの補充をしているだけだった。

 

各々買いたい物の売り場へ散っていく。俺は食パンを買う予定なのでパンのコーナーで食パンを1斤手に取る。

 

そして少し店内を物色、店に来るとさ目的のもの以外にも目移りしてなんか色々買いたくならない?俺はある。

 

結局、追加で妖精さん達と食べようと3連プリンを手に取り会計へと足を向ける。

 

ふとコーヒーメーカーとすぐ隣のイートインスペースで先に買い物を終わらせた2人に目が行った。

 

大迫、なんでそんなに震えてんの?

 

神谷、お前震え過ぎてカップからコーヒーめっちゃ零れてるぞ、熱くないのかそれ……。

 

てかなんなんだよお前ら、〇鬼のたけしみたく震えて…。

 

まぁいいや、とりあえず会計済ませるか。再度タバコの補充をしている店員さんに声をかける。

 

「すいませーん、お願いします。」

 

「はーい、ただいま!」

 

えーと、財布財布…って妖精さん達なんで全員カバンの中にいるんだよ、ミッチミチじゃねぇか。しかもなんかコイツらまで震えてるしホントなんなん?とりあえず財布取れないからちょっと退けって…。

 

そこでポケットにしまっていたスマホが鳴り出した。

 

十中八九淀姉さんだろう、無視無視。

 

「お、おい…相良、携帯鳴ってるぞ!出なくていいのか…?」

 

「そ、そうだよ!早くでた方がいいぜ!!」

 

コイツら何言ってんだ?今会計してるところ見りゃ分かんだろ。じゃなくても電話なんか出るか、出たら最後魂を抜かれるわ。てかマジで妖精さん退いてって!

 

「お客様、あの…」

 

ほら言わんこっちゃない!めっちゃ不審がられてるだろこれじゃあ!

 

「ちょっと待ってくださいね!財布が取りづらいところにあって!」

 

「それは構いませんが、携帯鳴ってますよ?よろしければそちらを…」

 

「いやいや、大丈夫ですよ!ほんと大した電話じゃないんで!後で掛け直しますから!」

 

「おい相良!!早く出ろ!!」

 

「あぁ…死んだな……。」

 

なんなんだよこいつら…うるせぇな。

 

お、やっと財布取れた。

 

「お客様、電話には出られた方が良いですよ。じゃないと、取り返しのつかないことになりますよ…?」

 

財布を無事に取り出し、顔を上げた先で俺を待っていたのは……

 

スマホを耳にあて、笑っているけど目に光のない…淀姉さんだった。

 

ハイライト仕事してお願い。

 

「……あっ、ハイ。」

そっと財布をカバンに戻し、スマホの通話ボタンを押す。

 

「モシモシコウキデスケド、ヨドネエサンデスカ…?」

 

「はい、朝からずぅっと電話し続けたけど居留守され続けた大淀です。」

 

淀姉さんがレジカウンターから出てきて俺をジリジリと追い詰める。

 

「イエ、アノ、キョウハチョットヨウジガアリマシテ…デンワニデルコトガデキナカッタンデス。」

 

「私の電話よりも重要な事があったのですか…。それは大変でしたね…。それでも、掛け直す暇はあったのではないですか?」

 

「ア、イエ、ナンテイウカ……戦略的撤退!!」

 

俺は一目散に出口に駆け出した!!!が無情にも自動ドアは俺の為には開いてくれないのだった……。

 

「そ、そんなっ!!なんでっ!?開けよ!!頼む!!開けゴマ!!……開いてくれぇぇぇーーー!!!」

 

「無駄ですよ、今この店の出入口という出入口は完全に封鎖されてますので、ネズミ1匹出入りすることは出来ません。」

 

こうなったら話し合いに持ち込むしかない!!光れ!!100社落ちたけど俺のトーク力!!

 

「……何が望みなんです?」

 

「言わずもがな、と言いたいところですけどそれでは流石にこうちゃんが可哀想なので選択肢をあげようと思います。」

 

せ、選択肢……?

 

「1つ、このまま大人しく提督になる。2つ、何としても私から逃げ、一般企業に就職する。さぁ、どうします?」

 

なんか明らかなトラップが用意されてる気がするが、罠でも進まなければならない。

 

「……因みに後者を選んだ場合どうなります?」

 

そんなに可愛く小首をかしげても無駄だぞ。今の俺には深海棲艦の姫級や鬼級よりもアンタが怖い。

 

「う〜ん、そうですね……。まぁ私がどうなるかは分かりませんって言うことだけは確かですね!」

それ、選択肢って言わなくね?Dead or AliveじゃなくてDead or Deadじゃん。

 

「提督になればAliveになりますよ。」

 

いやほんと心読むのやめて。

 

それは難しいですね。

 

なんで心の中との会話続行すんだよ止めてよ。

 

「無言は肯定と捉えてもよろしいですね?」

 

「いや今心の中で会話してたじゃん!!」

 

クッソ!!話し合いなんてこの人の前では無意味だ!!

 

少し手荒になるが淀姉さんを振り払ってでも!!!

 

ガッ!!⬅足払いの音

 

ドタッ!!⬅相良倒れ込む

 

ガシッ!!⬅淀姉さんからのホールド

 

「それで、良いお返事は聞けそうでしょうか……?」

 

まだ淀姉さんのホールドに力は入ってない……。

 

背に腹はかえられぬ……。とりあえずここは了承して、脱出の機会を伺うしかないか…。

 

「…わかりました!提督職、引き受けます!引き受けますから!!」

 

すると淀姉さん、ポケットから録音機を取り出し

 

「ありがとうございます!今の言葉はしっかり録音しておきましたからね!」

 

……この人の何が怖いかって確実に逃げ道を塞いでくるんですよ。

 

「いや〜でも良かったです。こうちゃんが了承してくれて!手荒な方法を取らなくて済みました!」

 

後者選んだら手荒な方法が待っていたのか…。

 

「ではこうちゃん、行きましょうか。舞鶴鎮守府まで!」

 

……え!?今から!?

 

「ちょいちょいちょい!!淀姉さん、今からって言ったって俺なんの準備も……」

「はい!もう荷物は送りましたし、アパートも解約済みです。高津さんにもお話は通してあるので大丈夫ですよ!」

 

仕事が早すぎるよ淀姉さん……。

 

がっくりと項垂れる俺に同情と戦慄を覚える男二人の視線が……。助けてって言いたいところだけど逆の立場になって考えてみれば俺だってそれしか出来ない。

 

では……と俺の目の前に立つ淀姉さん。

 

ん?何その手に握られた布と薬品は?

 

「さてこうちゃん、今日はお疲れでしょうから舞鶴鎮守府までゆっくりお休みになってください。」

 

あ、なんかこれOPEXで見たことあるわ。ライフレインの課金処刑モーションじゃん。注射器が布に変わっただけじゃん。

 

待って!手荒な事しないって言うたやん!!話が違っ!!……あ、この甘い香り、クロロホルすやぁ……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




諦〜めて淀姉さん〜!

あおい期待は私を切り裂くだけ〜!

あの人に伝えて〜『また3人で飯いこうな…。』

「「相良ぁぁぁーーー!!!」」


あ、またまた沢山のお気に入り登録ありがとうございます。評価つけて頂いたり、コメント頂けたりで、とっても嬉しい限りです。

次回からようやく航希くんが鎮守府での生活を始めることができます。

まぁ、逃げ出すかもしれないからどうなるか分からないですけど。

次回もよろしくお願いします。


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就活戦争4日目

相良君、鎮守府生活始まるよ!って前回言ったな?

あれは嘘だ。

えーすんません、次回からとなります。

あ、評価やお気に入りをたくさん頂き、ありがたいことに評価のバーが黄色になりました。

評価やメッセージ、お気に入り励みになります。

読者皆様には感謝の限りです。

投稿の度に誤字報告して下さるCBさんにも感謝を。

改めて見ると誤字めっちゃある事に気付かされる今日この頃。

説明会の時の服装?書いてないから私服でいいや!って乗りで行くとみんなスーツ来ててめっちゃ浮くこともあるので私服ダメってわけでは無いですけど説明会でもスーツの方が変にドキドキしないで済むよ!!参考の1つにでもしてね!!


どうも、軽巡大淀と申します。以後お見知りおきを。

 

時は3月31日

 

今、私が何をしているかと言いますと、書類を捌きつつある人に電話を掛けています。

 

しかしながら電話はなかなか繋がりません。最近は用事があるらしく外出なさってる事が多いようで…。

 

あんまり電話を掛け続けるのもよろしくありませんね。

 

書類を1枚を片付けたら1回連絡を入れましょう…。

 

デスクの端には山積みにされた書類の数々…この回数電話を掛ければいつかは繋がるでしょう。

 

え?その量を1日でやるのかと?

 

そうですね、まぁ年末と比べれば楽なもんですよ。

 

今1時なので4時間…電話を掛けることを考えれば6時前ぐらいには終わるでしょうから。

 

 

はい、そしてただいま5時半になりました。

 

しかしながら、折り返しの電話がかかってくることはありませんでしたね。

 

こいつぁ、グレートですよ。

 

書類も終わらせた事ですし、本日予定していた『突撃!お隣に住んでた幼馴染君を提督にスカウト!』作戦に向かいますか。

 

彼の居場所は彼の周りに居る妖精さん達に賄賂の3連プリンと共に発信機を持って頂いてます。

 

彼は私に言わず引っ越したようですが東京のアパートに住んでいるのはわかっていますので。

 

……あぁ、いけませんね。どうも艦娘になると合成された艦の気が適合者と同調して気が荒くなったり気持ちがストレートになりすぎるらしいので。

私も弱い心を見せないように、と思うと彼に強く当たってしまうのは反省しなくては…。

 

それでも彼にも悪い所はあると思うのです!!

 

この間だってお昼を一緒に食べようと思ったら『あ、淀姉さん?ごめんちょっと忙しくて…また今度!』とか、どこかに出かけようと誘えば『ごめん今日会社説明会!』とか断わられるし。あ、説明会は速攻で止めに行きました。

 

その割にはこの前見かけた時なんか駆逐艦候補の子とご飯を食べているんですよ!!

 

これは流石に怒ってもいいですよね?

 

私だってこうちゃんとアーンってしたりされたりしたいですし!!私がお仕事頑張ったり大変なことあったら頭よしよしされて甘えたいし、甘えさせたい!!!

 

 

……コホン。失礼しました。気持ちが熱盛してしまいました。

 

それはともかく、こうちゃんには提督になってもらわないといけませんので…作戦開始です。

 

あ、そうだ。舞鶴鎮守府までは距離あるし、こうちゃん着いてからお腹空いてるだろうからお弁当作ってあげなきゃ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーー

 

綺麗な夕焼け空だった……。

 

ここは何処だろう……?

 

とりあえず公園だって事は分かる。この公園見覚えがあるようなないような……。

 

見える光景は夕焼けと遊具、後は俺ともう1人…女の子だ。女の子は何故か口元までしか見えず誰かは分からない。

 

『〜〜〜〜!』

 

口元が動き何か話している。しかし俺には何も聞こえない。

 

女の子は構わず、話し続けていく。

 

声は聞こえないが彼女は笑ったりしているのは分かる。楽しそうに話しかけているのだ。

 

そうしているうちにだんだん俺の視界が白くなり始めた。

 

公園と女の子の光景が薄れていき、真っ白な世界だけが残った。

 

すると浮遊感と共に暗転

 

なんだなんだ何が起きてんだ!?

 

そう言えばなんか聴こえる……?

 

女の子の声……さっきの娘かな?

 

そんな事を考えていたらまた光が視界を覆った。今度は真っ白な世界なんてレベルではなく眩しくて目が開けられない。

 

光が俺を呑み込んでいく……。

 

「〜〜〜〜〜約束だよ?こうちゃん!!」

 

約束?一体何の………

 

ーーーーーーーーー

 

「2つじゃまだ足りないようですね、もっと探照灯をください」

 

「そんなものでピカピカやるのは無意味です。こんな時の為に用意しておいた96式150cm探照灯を」

 

「流石工廠妖精、良いもの作りますね」

 

何やら騒がしい奴らが居るようだな……ってうぉ!!

めっちゃ眩しい!!!おいバカ!!まじで眩しいって!!!

「おはようございます提督」

 

「どうですか?我々が丹精込めて作った大型探照灯は?

一発で寝起きバッチリ」

 

「やかましいわ!てかそんな手荒い起こし方しなくてもいいじゃん!目覚ましみたいな音の出るものとかさ〜あるじゃん!」

妖精さん達は顔を見合わせると

 

「「「「「あーたーらしい朝が来たーきぼーのあさーだ」」」」」

「お前らが音出すのかよ。てかなんでその歌チョイスしたんだよ。え、何?俺スーツ来て宇宙人と戦えばいいの?100点取ったら人生やり直させてくれるの?」

 

「要望が多いですね」

 

「我々の渾身の力作を」

 

「まだ寝ぼけているようですねもう1発探照灯で」

 

「もうええわ!!どうも、ありがとうございました〜。」

 

「3点ぐらいですね」

 

うるさいよ君達。乗ってあげたんだからそれでいいじゃんもう。……そんで、ここはどこよ?

 

「車の中です。」

 

いや、それは分かる。俺はその車がどこに到着したのか知りたいのよ。まぁ分かってるといえば分かってるけど確認でね。

 

「これから貴方が勤める鎮守府です」

 

はぁ〜〜〜涙が出ちゃう!だって海軍だもん!

 

……遂に来ちゃったかぁ〜。

 

やっぱり夢だったとかいうオチにならない?

 

「お?96式?96式?」

 

もう使わねぇよ。はいもうそれ危ないから没収ー。

 

妖精さんから探照灯を奪い取り車の床に置く。

 

「そう言えば大淀さんから荷物を預かってます。」

 

荷物?契約書と録音機でしょ。これで帰れるわやったね!

 

風呂敷を開くと出てきたのは弁当箱。

 

まぁ、契約書と録音機が出てきたら寧ろ驚きだわな。

 

お、手紙だ。えーと、なになに?

 

『こうちゃんへ

この手紙を読んでいるということは、舞鶴に到着したようですね。と言っても伝え忘れていましたがその鎮守府は正確には舞鶴第2鎮守府です。舞鶴から隣の宮津湾に位置する鎮守府です。有名な天橋立が鎮守府から見えると思います。資材の運用や任務でお困りの時は連絡を下さい。サポート致しますので。これから始まる鎮守府生活を応援しています。』

 

これ見ると提督になっちゃったんだなぁって思う。ん?2枚目?まだ続きがあるのか。

 

『……ここまでは軽巡大淀の話です。ここからはこうちゃんの幼馴染、淀川恵としてお話しします。まずはごめんなさい、私はこうちゃんにかなり強く当たってしまいました…。あなたに辛い思いをさせたと思います。』

………あのプレッシャーはなかなかだったね。

 

『でもこれだけは分かってください。私はあなたに嫌がらせをしたくてこのような事をしている訳ではありません。でも、私が散々お昼に誘ってたのに駆逐艦候補の子と一緒にご飯を食べていた時は少し怒っていました!』

 

それは本当にこっちがごめん。でも犬のようにじゃれついてくるアイツには敵わなかった…。ン?ナンノコトッポイ?

 

『まぁそれはもう水に流しましょう。…何故私がこうちゃんを提督にしようとしたか分かりますか?』

 

……提督の数が足りないから?

 

『それは、答えることは出来ません。どうしてかと思うでしょう。ですが私はこうちゃんに何故提督を勧めるのかその理由を気づいて欲しい、思い出して欲しい…だからここでは教えられません。』

 

思い出す……?

 

『…もし思い出したら、私に教えて下さい。思い出してくれて、それでも一般企業に勤めるというのであればその時、私は止めません。』

 

………。

 

『それまで私はあなたをサポートし続けます。何があろうと私はあなたの味方です。だから……信じて。 恵より』

 

『P.S. お弁当を作ったのでどうぞ食べてください。』

 

淀姉さん……。提督嫌だけど、ちょっとだけやってみようかな……ん?なんかもう1枚メモ書きが…。

 

『あ、書き忘れてたので追加で。こうちゃんの事だから「思い出せば解放されるのであれば、とりあえず適当に提督やってればいいんじゃね?」とか考えているのであれば今すぐ止めましょう。それと1番重要な事が…』

 

ゴクリ…あーこの先見たくない。

 

『も・し・に・げ・た・ら、地の果て、海の底まで追いかけますのでそこの所、覚悟しておいてくださいね?』

 

あぁ、文章なのに淀姉さんのあの笑ってるのに目の奥が笑ってないプレッシャーがひしひしと伝わってくるわ。

 

………………やっぱ、提督辞めよ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

よっす!少し未来の相良航希だ。ここから先はワレアオバが撮影してた映像、あぁ、はいはいプロローグのとこか。

 

今だから思う俺の心情を入れていくぜ!俺が淀姉さんから貰った弁当を食べ終わったあとの話さ!因みに弁当は半分以上妖精さん達に食われたぜ!!泣けてくるよな!!キョウシュクデス!!

ーーーーーーーーー

 

風が運んでくる磯の香り、聞こえるのはウミネコの鳴き声……をかき消す砲撃の音。

 

 『青葉〜、このボタンでいいの?え何?もう始まってるって?やべぇやべぇ!』

 

頑丈な門の先に見えるは立派な赤煉瓦の建物。

 

 

 

なぜこんな所にいるのかって?

 

 

 

それはこれから俺がここで働くから……いや、働く事になってしまったからである。

 

『そうそう、手紙を書いて俺を送り出したということは淀姉さんはここには来ていない?となれば……って思ってたんだよ俺も』

 

「いや、まだ大丈夫…。引き返して電車乗って、家に帰って、辞表書いたら郵送して……来年第二新卒としてどっかの企業に就職すればいいじゃん!!よっしゃ帰ろウボァー」

 

唐突に首根っこを捕まれ持ち上げられる。この圧倒的なプレッシャー……まさかっ!?

 

『ハハッ、本当に死んだと思ったよあれ。』

 

「帰れると思いますか?ここに印の押された契約書もありますし、茜(あかね)さんと藤太郎(とうたろう)さんの承諾も得てますから帰ってもまた連れてこられるだけですよ。諦めて下さい。て・い・と・く。」

 

 『ですよねぇぇぇーーー!!!いますよねぇぇぇーーー!!!』

 

「淀姉さん!?待って待って!!淀姉さんがいるなんて聞いてないよ!?というか首締まってるから離してくださいお願いします!!」

 

 

 

親父と母さん……信じてたのに!!既に淀姉さんの手が回っていたか!!

 

『うん、今俺は誰を信じたらいいか分からなくなってる。』

 

本当にこのままだと落ちる…っ!!ギブ!!ほんとギブ!!

 

 

 

全くもう…。と離してくれたがそもそも俺はこんな所に来る気なんて

 

 『手紙読んだ時は淀姉さん……。って思ってたけどあの時の絶望って言ったらないよほんと。』

 

「何か言いたそうですが、パイルドライバーとキャメルクラッチのどちらが良いですか?」

 

 『淀姉さん昔っからプロレス好きで良く試合とか見に行ってたのさ。今思えば全力で止めておくべきだったと思ってるよ。もっと違うの勧めてればなぁ。眼鏡とって、エレキベースを淀姉さんに持たせて白露にドラムやらせて、愛宕にキーボード、エレキギターを雪風に持たせてグループ結成すんだよ。け〇おん?知らんな。あず〇ゃん枠どうしよ。』

 

「滅相も御座いません。あの頃の淀姉さんが懐かしいなんて思ってまオガガガすんませんした!!!体が半分こしちゃうぅぅぅぅ!!!」

 

 

 

淀姉さん、昔は優しかったなぁ……。

 

『本当になぁ……。』

 

「あ、いたいた。提督、大淀さん。」

 

 『時雨かぁ、良い娘なんだよ基本、気が利くし大人しくてさ。ただ偶に目のハイライトお仕事しない時あんのよこの娘。その目で笑顔向けてくるのよ。淀姉さんみたいにならないでくれな。』

 

「こーちゃんだ!!楽しそうっぽい!!夕立も交ぜて交ぜて〜!!」

 

 『昔飼ってたゴールデンレトリバーのハナちゃんを彷彿とさせるんだよなぁ夕立は。もうすんごい、褒めて褒めて!!遊んで遊んで!!って感じでさ。お前ハナちゃんの生まれ変わりか……?まぁ冗談よ。』

 

「おぉーこうちゃん、ここの配属になったんだ。これから楽しみだねぇ〜。」

 

 『北上ね。1番取っ付きやすいと思ってる。フレンドリーそしてマイペースな奴で話しやすい。からかってくることもあるのよこいつ。でもからかい返してやると真っ赤になる北上様も面白いぜ。……でだ』

 

「北上さーん!待ってよぉ〜!……げ。」

 

 『北上さん大好き大井こと大井っち。北上からかってたのがバレてグーで殴られた。後北上に被せる感じで大井っちって呼んだらめっちゃ睨まれた。めっちゃ当たり強くて辛いわ。でもたまにしおらしくなる時ちょっと可愛いからどう反応していいかわからなくて困る事あるからこのままでもいいかもしれん。』

 

「アンタ達、ほんとに騒がしいわねぇ……。もう少し静かになさいよ。ほら、退いた退いた。不本意だけど私が初期艦らしいからアイツの提督姿を拝んでやろうじゃない。」

 

 『さぁ初期艦様のお出ましだ。叢雲、優秀かつ周りにも自分にもストイックな奴。このせいか性格がなかなかキツイことキツイこと。酸素魚雷(演習用)でぶんなぐられることもしばしば。意外にも甘いものと可愛い物好き。この前コイツがパフェ食べて幸せそうな顔してたのを目撃した時は12.7cm砲でぶん殴られて、工廠裏の野良猫に猫語で話してるのにかち合った時は装備の槍で突き殺されそうになった。笑ってる時の方が可愛いのに勿体ないやつだよな。』

 

はぁぁ〜揃いも揃ってぞろぞろと……。

 

 

 

時雨、夕立、北上、大井、叢雲とは海軍学校高等部の知り合いだったりする。因みに淀姉さんもお家がお隣で高校の先輩でした。まさか他にも知り合いが……

 

 

 

「ちなみに知り合いの方々は結構ここに居ますよ?私の方で色々手配しましたから。」

 

淀姉さん心を読まないでほんと怖いから

 

 『ゾロゾロいらっしゃいますよ(遠い目)』

 

「では、皆さんをご存知かと思いますが提督、自己紹介の方を」

 

 

 

あぁ、助かった。このままだと体が逆パカしちゃう所だったよ。なんだっけ?自己紹介?そうだなぁ……

 

 

 

「えぇ〜本日付けでここを辞めることになった相良航希(さがらこうき)です。短い間でしたがありがとうございました。これからの皆さんのご活躍を心より願っています。…そして私の右腕が持っていかれないことも願っていますぅぅぅがぁぁぁぁ!!!」

 

 

 

「禁忌に触れたもの、求めすぎるものにはそれ相応の対価が必要になりますので今回は右腕を頂いていきます。」

 

 

 

俺は自己紹介するだけで人体錬成を行っていた可能性が微レ存……?

 

 『この時、川の向こうで心理が扉越しに手招きしてた。これで俺も国家錬〇術師だぜ!』

 

というか淀姉さんやべぇな…。一瞬で俺を組み伏せ、あまつさえ右腕を持っていこうと…この鎮守府で働く?考えただけでも恐ろしいわ。早いとこどうにかしなければ…。

 

 『あ、脱出の手口、今も随時募集してますのでなにかいい案ありましたら教えてくださいます?』

 

「本当にアンタも懲りないわねぇ……。大淀さん、もういいでしょ。とりあえずコイツを執務室に連れていかないと始まらないし。」

 

 

 

叢雲ぉぉぉ〜〜〜!!!良い奴になったなぁ〜〜!!ちょっと目付きが悪いな〜とか回し蹴りが強烈だなぁ〜とかお尻が3つになりそうだった〜とか色々あったけどやっぱり成長してるんだね!!

 

 

 

「でも胸は……。あ、やべ」

 

 『なんで口に出ちゃったんだろうね?口縫うかって?いやいや、それは面接で鍛えたトーク力で…』

 

いや、まだ間に合う、フォロー出来るはず。俺は数々の企業で数々の面接を受けてきた就活エキスパートだぞこれぐらいの事「釈明の余地は無いわ。合否通知の代わりに酸素魚雷食らわせてやるわ。有難く受け取りなさい!!!」

 

 『やっぱ口縫った方がいいかもしれないわ。でも痛いと思うからジップロックにしてもらってもいいですか?』

 

爆音が響く。死んだと思ったけどどうやら演習弾だったかぁ。ささやかな優しさを感じるけどそれならもう少し手心加えて欲しかったなぁ。いのちはだいじに。

 

 

 

空はこんなにも青いのに…いや、今日結構曇ってたわ。俺の気分はこんなにも青いのに……。

 

 

 

俺はただ、色んな世界が見たかっただけなのに

 

 

 

普通ってものを満喫したかっただけなんだけどなぁ。

 

 

 

どうしてこうなった俺の人生………。

 

 

『そう思うか俺?安心しろ、今でもそう思ってるからさ。』

『あ?なになに?おぉ時間か、おーけおーけ。視聴者皆さん、俺の人生、中々ハードでしょう?そうなんですよ!メンツが濃い連中ばっかでやっていけないですわ。』

 

『もう疲れたよ。一般企業に務めて、趣味の合う彼女作って、ライブや音楽フェス行って、結婚して歳とったら余生を過ごす…こんな生活を送りたかったのよ。本当にどうしてこんなことに……。』

 

『もし、良い脱出の方法があったら教えてくれな!!それじゃ、またいつか!アデュー!!』

 

 

 

 

 

 

 

 

『ん?何青葉?……はぁっ!?妖精さんがマイク入れて全体放送してた!?ふざけんな!!ってこんなことしてる場合じゃない!!衣笠、ドアの鍵閉めろ!!そしたらありったけの物を置いてドアを塞げ!!どっから逃げる?窓からに決まってんだろ!!早くしろ死にたいのか!!まずい淀姉さん達だ!もう来やがった!!行くぞ窓だ!!って叢雲お前ここ3階ぐぁぁぁァァァッーーー!!!ドガーンッ!!!バキーンッ!!!ガラガラガラッ!!!ドガガガガッ!!!チュドーンッ!!!

ツーーーーーーーーーー』

 

この放送は舞鶴第2鎮守府、青葉、衣笠の提供でお送りしました!

 

 

 

 




なぁ〜お前背に〜俺も乗せ〜てくれないか〜?

そ〜し〜て〜1番遠い所で〜置き去りにして、やばい奴らから(特に淀姉さん、叢雲、大井)、遠ざけて〜

君の手で〜鍵をかけて〜躊躇いなど〜無いだ〜ろ〜(近場の部屋に避難、鍵かける。)

間違っても〜二度と開くことの無いよ〜に〜

「さぁ、錠の落ちる音で終わりです。」

「覚悟はいいわね?」

「酸素魚雷って冷たくて素敵ですよね…。」

……救いのな〜い魂は〜締められて〜消え〜ゆ〜く〜


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就活戦争5日目

鎮守府生活書こうとしたらなかなか長くなる事が判明したので分割することにしました。

今回では入渠施設、食堂

次回は工廠、艦娘寮、執務室なんかの話をして行こうと思います。

お気に入り登録が100を超えました!読者皆様、ありがとうございます!これからも本作をどうぞよろしくお願いします。

面接の時は公共交通機関が遅れたりすることも考えて
約束の時間より早く着くことをオススメするぜ!10分前行動大事!!


………ハッ!!!

 

なんか変な夢を見ていたような気がする……?

 

鎮守府に来た時の俺を未来の俺が解説している夢……?

 

ちょっとよくわからないですね……。

 

そしてここは、医務室か?

 

あぁ、そうか。叢雲に模擬弾で吹っ飛ばされたんだっけか……痛てーなーもう。コイツらと関わってくんだったら命がいくつあっても足りないわ。1UPキノコとかその辺に生えてないかな?

 

「あ、そうだ。このまま名誉の負傷ということで退役するか!よっしゃぁぁ!!!」

 

ありがとう叢雲、お前の事は一般企業に務めるまでは忘れない!!

 

「何言ってんだかアンタは……。馬鹿な事言ってる元気があるならさっさと起きる!!」

 

スパーンッ!!あぁ〜〜〜!!ハリセンの音ぉぉぉ〜〜〜!!!

 

「……叢雲さん、いらしてたんですね。」

 

「私だってこんなセクハラ野郎のとこなんか行きたくなかったわよ。でも私が初期艦だし今日の秘書艦らしいから仕方なくね。」

 

ははっ、仕方なくだってよ奥さん。し・か・た・な・く

 

「へいへい、こんな私めの初期艦様になって頂きありがとうございます。」

 

「それにしても、あ〜あ、どこかの誰かさんは人にいやらしい目を向けておいて謝罪のひとつもないのかしらねえ。本当に傷ついたわぁ。」

 

お前をいやらしい目で見るわけ無いだろ。まだまだガキンチョの癖して、ませた奴だぜ。お前を見るならもっとナイスバディな…わかったわかった、まぁ待て話し合おうじゃないか。とりあえずその槍をおけって……。

 

なんだってコイツらは人の心が読めるかの如く反応すんだよ。艦娘ってこういうもんなのか?それじゃあおちおちエ〇い事を考える事も出来ないぜ。

 

「……はぁ〜、叢雲様大変申し訳ありませんでした!!……これでいいか?」

 

「貸し1ね。ふふん、そうねぇ…?今度の休み、外出したらパフェでも奢ってもらおうかしら?買い物してアンタに荷物持ちさせるのも良いわねぇ……。」

 

こんにゃろぉぉぉ〜〜〜!!!人が下手に出てれば調子に乗りやがってぇぇぇ〜〜〜!!!

 

「あら?反抗的な目ね?大淀さんに医務室でもセクハラされましたって伝えとこうかしら?」

 

「おい待て!!それは完全なる冤罪じゃねーか!!あぁもう、わかったわかった!!降参だ降参!!パフェだろうが荷物持ちだろうが好きにしろ!!」

 

淀姉さんはシャレにならん。最近新技とか覚え始めてるからやられたら体がいくつあっても足りないわ。背に腹はかえられない。

 

「ふふん!言質取ったからね!忘れたとは言わせないわよ?……危なかったけど何とか話をこぎつけれたわ…。」

 

わぉ勘弁してくれよ…早速休日返上だぞ。…ん?最後何か言ってた?

 

「まぁ、それは今度の楽しみに取っておくとしてそろそろ行くわよ。」

 

「行くったって何処に?」

 

「アンタはこれからここで提督をやるんだから施設の事を知っておかないといけないでしょうが。私は先月からここにいたからアンタに色々教えてあげようって訳。感謝しなさいよね?」

なるほど、施設案内って事ね。まぁ確かにここの鎮守府の事を知っておかないと逃走ルートの確保も脱出も出来ないしな。重要な事ではあるな。

 

「あ、そう言えば淀姉さんはどうしたよ?こういう事なら淀姉さんがやるとばっかり思ってたわ。」

 

「大淀さん?あぁ、大本営に戻ったわよ。そりゃ大本営所属の艦娘がいつまでもアンタを見てられるわけないわよ。」

 

……え?マジ?本当の本当でマジ?

 

淀姉さんいない?

 

はぁぁぁ〜〜〜!!!最高〜〜〜!!!

 

ようやく淀姉さんのプレッシャーから解放される。

 

「まぁ代わりに何かやらかしたら私がアンタを確保するから変な気は起こさない方が身のためよ。」

 

………代理執行人叢雲。まぁ、淀姉さんよりはマシか。

 

「それじゃ、行くわよ。ついてらっしゃい。」

 

 

ーーーーーーーーー

 

「ここが入渠施設ね。知ってるとは思うけど、ここでは負傷した艦娘を治療する事が出来るの。入渠槽は4つあって同時に4人まで修復できるわ。」

 

ほー、これが入渠施設か。結構デカい所だな。講義で聞いてたけど、艦娘を入れて置くだけで傷が治っていくってすげーよな流石妖精さんの謎技術、凄すぎる。

 

「そしてこれが入渠で大事なアイテム、高速修復材よ。数に限りがあるから大事に使いなさいよ。」

 

「ゲームでよくあるよな。蘇生アイテムとか味方全員のライフを全回復するアイテムとか使おうとしても勿体なくてなかなか使えないってやつ。」

 

「必要な時は使いなさいよ!だからアンタド〇クエとかで回復タイミング逃してパーティー全滅すんのよ。今やってるのはゲームじゃないんだからちゃんとしてよね!」

 

うぐぅ〜〜〜!!!何も言えねぇ!!!

 

「因みにIII、IV、Vなら?」

 

「…選ぶのに困るけどやっぱりV。でも最後に全員集合のIVも良かったわね。」

 

ほうほう、やはりVか。しかしIIIも名作中の名作…言い出した俺も割と困る。まぁ他にも名作あるからなんにしても困るんだけど。

 

俺はとりあえずストーリーをダーっとやって行くってスタイルに対し、叢雲はトコトン突き詰めて完璧を目指すスタイルで隠しボスやら宝箱やら全部制覇しててコイツのデータ見た時ほんとにビビった。

 

あの時叢雲のデータ消したらどうなってただろう?面白い展開……にはなってただろうけど俺の命も面白い展開になってたな。データ消すのは大罪。俺もやられたらどうなるか分からない。

 

「ってそんな事はいいのよ。ちょうど今、入渠中の艦娘が居るからお試しで使ってみなさいな。」

 

「大事に使えって言ってたのにいいのか?」

 

「じゃないといざって時に分からないでしょうが…と言っても大したこと無くて高速修復材をこの機械の中にバケツごとセットしてボタンを押すだけなんだけどね。2人だからバケツは2つ、ほらやってみなさい。」

 

言われた通りバケツをセットしボタンを押す。

 

すると機械が作動しバケツが入渠施設に運び込まれて行った。

 

「これで修復材が浴槽に注がれて修復完了。ここのメーターを見てなさい。」

 

壁のモニターには艦娘の修復予定時間が書かれており、4時間の艦娘と1時間の艦娘がいたようだ。

 

するとそのメーターがみるみる減っていき、チーン!という電子レンジのような音で完了。

 

「これで修復完了になったわけか。」

 

「そういう事。入渠してた連中が出てくるから顔合わせも兼ねてもう少し待ってなさい。」

 

ここに来て初めてのコイツら以外の艦娘か…なんか緊張するな…。

あ、そう言えば…

 

「てかさ、俺ここにいていいの?」

 

「は?当たり前じゃない。じゃないと顔合わせ出来ないでしょ?」

 

 

「いや、そうじゃなくて入渠って風呂みたいなもんだろ?そしたら出てくる時さ…。」

 

「……あー、確かにそう思うわね。入渠槽は確かにお風呂みたいなものだけどちょっと違うのよ。」

 

「どういうことだってばよ?早くしないと出てきちまうぞ。」

 

「最後まで話は聞きなさい。入渠は損傷した艦娘を修復するってのは分かるわよね?それはね、艦娘自身の怪我だけでなく、着ている服も修復されるの。だから入渠する時はそのまま入るのよ。」

 

「そうすると傷も破けた服も元通りになって出てくるってことか。」

 

「そういう事。お風呂はこの施設内のもう少し奥にあるの。お風呂は24時間いつでも使えるわ。提督用っていうのもあるけど混んでたりすると私たちも使う事があるからもし、アンタが使う時は『提督使用中』って看板を扉のところに掛けておきなさいよ。」

するとガラガラと音を立てて入渠室の扉が開き中から艦娘達が出てきた。

 

「この高速修復材はどなたが……」

 

「もっとお姉様と二人きりの時間を楽しもうと思ってたのに、とんだ邪魔を…不幸だわ……。」

 

黒髪で巫女服を改造したのような服装の艦娘達。よく似てるし姉妹かな?

 

「扶桑、山城、コイツが今日着任してきて早々セクハラしてきた変態司令官よ。ほら、アンタも自己紹介しなさい。」

 

「誰が変態司令官だこら。余計なものが入ってるだろ「じゃ変態ね。」うがーー!!って違うそこじゃない!!」

 

はぁ〜コイツは……。ほら、二人とも困惑してるじゃんか。

 

「あー、一応ここで提督やる事になった相良航希だ。よろしくな。」

 

「あら、提督さんでしたか。初めまして、戦艦扶桑と申します。こちらは妹の…」

 

「戦艦山城です、よろしくお願いします。もし、お姉様に手を出そうものなら撃ちますので。」

 

おおう、妹の方怖いな。大井と同じ香りがプンプンするぜ。君子危うきに近寄らず。

 

「で、今日はどんな理由で入渠?出撃はしてないでしょ?」

 

「実は、歩いていたら飛んできたカラスに突つかれ、私を助けようとした山城が石ころにつまづき、工廠脇に積んであったドラム缶の山に衝突、山城はそこで大破、私は降ってきたドラム缶にぶつかり小破しました…。」

 

なんという不幸体質姉妹。普通に生きててそこまでの不幸に……あ、俺会社100社も落ちてたわ……不幸だわ。

 

「気をつけなさいよね…って言いたいところだけど気をつけてどうにかなってるならあんた達もそんな事にはならないわね……もうお祓いにでも行ってきたらどう……?」

 

格好だけならお祓いする側にしか見えない2人という。

 

俺もお祓いしてもらおうかな〜なんかやばいものがついてる気がするし…リアルな方で。

 

「とりあえずそろそろ行くわ。まだ案内してない所がかなりあるし、夕方から歓迎会やるからそれまで損傷しないでよ?」

 

「努力はします。」

 

「では提督さん、叢雲さん、後ほどお会いしましょう。」

 

こうして、扶桑、山城との初顔合わせは終わった。

 

「なんつーか不思議な連中だったな…?」

 

「不幸に愛されし姉妹なのよ。それでも実力者達だから上手く使えるようになりなさいよ?」

 

さぁどうなるか……その前に俺がこの鎮守府を去ってるかもしれんしな。

 

ーーーーーーーーー

 

「そしてここが食堂よ。大体100席ぐらいあって座れないって事は今はないと思う。」

 

「確かに結構広いな。」

 

お昼時ともあってか多くの艦娘達が食事をしていた……え?なにあの人、カレーの量やばくね……?てかちらほら量がおかしな奴らがいる。戦艦・空母は結構食べると聞いていたが予想以上だったわ。

 

街で大食い選手権とか出たら優勝間違いねぇな。

 

「それでここの食堂を切り盛りしてるのが給糧艦の間宮さんと伊良湖さんよ。」

 

「へぇ、驚いた。ここは間宮と伊良湖がいるのか。」

 

給糧艦間宮と伊良湖は艦娘の中でも適合する者が少なく希少な人材となっている。

 

希少な彼女達の作る料理はとても美味しいと有名で海軍学校の時にどんなものかと神谷や大迫と話し合ったなぁ。

 

「ヒトフタマルマル…ちょうどいい時間ね。休憩がてらお昼を食べてこの次は工廠に行くわよ。」

 

「あいよ。それにしても、噂に聞く間宮・伊良湖の料理かぁ…。食べる機会はないと思っていたが…。」

 

「あら、良かったじゃない。間宮さん達の料理は絶品よ。極めつけはアイスと最中……。くぅぅぅ!!間宮券があれば……!!」

 

そんなに美味いと聞けば楽しみが増えるな。ん?間宮券?

「てかその間宮券ってのは何よ?」

 

「間宮さんや伊良湖さんのデザートはいつでも頼める物じゃなくて、頼むには間宮券・伊良湖券ってのがいるのよ。大本営から各鎮守府に毎月1枚ずつ配布されるんだけどほんと、1枚じゃ足りないわ…。」

 

やべぇな間宮券、いつか間宮券求めて争いが起こるんじゃね?

 

「その間宮券、俺にも配布されんの?」

 

「されるわよ。同じように1枚ずつ」

 

流石に配布されるか。これで艦娘限定ですって言われたら甘党の提督、生殺しだろうな。

 

「そうそう、司令官には司令官が使える券とはまた別に間宮券が配布されるのよ。」

へぇ〜、提督豪華じゃん間宮券多めに貰えるなんて。

 

「多めに貰えてラッキーみたいな顔してるけどこっちはアンタには使えないわよ。」

 

「なんだよ使えないのか。」

 

まぁそりゃそうだよな、不公平だわ。

 

「それはMVP間宮券と言って、作戦で優秀な働きをした艦娘に司令官からご褒美として渡される間宮券ね。

これは1枚でアイスと最中が貰えるすんごい券よ!

MVPって言ってるけど実際は司令官が頑張ったと思う艦娘に渡す、実質司令官の裁量で渡せるわ。」

 

……ほう、いい事聞いたわ。みんな大好き間宮券を持っていれば、ヤベー奴らから絡まれても助かるかもしれない。最初から持ってる交渉カードみたいな物だな。

 

 

「間宮券についてはこんな感じね…懇切丁寧に説明して案内してる秘書艦様に間宮券くれてもいいのよ?」

 

「この感覚で投げ銭してたら間宮券が速攻で無くなるわ。こういうのは焼肉と同じで、偶に食べられるからより美味しく感じられるんだよ。」

 

そんなこと言ってたら焼肉食いたくなってきたわ。タン塩食いてぇ……。

 

「…なんか上手いこと言いくるめられた気がするけどまぁ確かにそうね、勝利の味はなんとやらって言うし。その代わり、私が活躍したらMVP間宮券、私に寄越しなさいよ?」

 

「ほいほい、考えとくわ。とりあえず飯食べようぜ。さっき焼肉の話したら一気に腹減ったわ。」

 

「それもそうね。あ、でも夕方から歓迎会やるから軽くにしといてよ。……間宮さ〜ん!」

 

厨房の奥から「はーい!」という声と共に1人の艦娘が現れた。

 

割烹着姿で柔らかい雰囲気、一瞬で癒し枠だと分かる艦娘、間宮さんだ。

 

「あら、叢雲さんいらっしゃい。今日のお昼はカレーライスですよ。……そちらの方はもしかして」

 

「そ。今日からここに着任した変態司令官よ。ほら、間宮さんに挨拶なさいな。」

 

まだそのネタ引っ張ってんのかよ…。このまま誰かに紹介される度にこれで説明されるのは面倒だわ。

 

「お前なぁ…一応これからお前の上司になるんだぜ?……初めまして間宮さん、一応ここで提督をやる事になった相良航希です。海軍学校の時から間宮さんの作るものは美味しいって有名だったから食べるのが楽しみですわ。」

 

「あらあら、それなら提督さんの期待に応えられるよう腕によりをかけてお料理しますね!あ、伊良湖ちゃ〜ん!ちょっと来てもらってもいいかしら〜?」

 

はぁ〜間宮さんいいわぁ〜。艦娘と言ったら一癖も二癖もあるような連中だけど柔らかな雰囲気、素敵な笑顔、女神か。

 

「どうしました間宮さん?あら、見慣れない方…あ、もしかして」

 

「そう、こちら今日着任した相良提督よ。伊良湖ちゃんも挨拶して。」

 

「初めまして伊良湖です!ご飯の事で何かありましたら間宮さんと私、伊良湖にお任せ下さい!」

 

かぁ〜この娘もいい子だわぁ〜!やっぱり給糧科出身は海軍で唯一まともな人材を輩出するってのは間違いないわ。

 

「ちょっとアンタ、私達の時と態度の差ありすぎでしょ!!間宮さん、伊良湖、騙されちゃダメよ!コイツ普段はもっとガサツな感じだから!」

 

うるせーー!!余計なこと言うな!!ちょっと黙ってろ!!ボロが出ちまうだろうが!!!

 

「あら、そうなんですか?相良提督、お気を遣わずどうぞ普段通りに話してくださいな。私も堅苦しいのは苦手でして…よろしければ私の事もさん付けせず間宮とお呼びください。」

 

「伊良湖も間宮さんと同じくです!」

 

はぁ〜〜〜なんなんこの人達?女神の生まれ変わりかよ……。尊いわぁ〜〜〜!!!尊過ぎて辛い。

 

「…分かった。それじゃよろしくな間宮、伊良湖。」

 

俺、ここに間宮さん達がいる限り、頑張れそうな気がする……。

 

 

 

 

 




東の海に船を浮かべて

誰より早く朝を迎えに

脱出の機会が今だと言うなら

僕は今ここを去るしかない

「逃げたら私がアンタをシバくって、言ったわよね?」
ニコッ

叢雲が死神の様に語りか〜け〜てくる〜

お縄〜に縛ら〜れて僕らは生きていく〜



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就活戦争6日目

まぁやっぱり収まりきらなかったので次回に艦娘寮とか歓迎会とかのお話にしようと思います。

多分『俺の想像してるキャラとイメージが違うぜ!』
って方いらっしゃるでしょう?

気持ちは分かる、だが許して。色んな性格の人がいるって世界線なので。極力イメージ寄せるんだけど一部ヒャッハーな人達も出てくるのでそこだけご理解を。

本作を多くの方々に見て頂き、「え、マジ?ひぇ〜ありがとう〜!」という感じに私も励みになっています。

お気に入り登録とかも本当にありがとうございます。

書けるうちに頑張って書きます。



面接で緊張したら負けだからね!!緊張するけど!!
もう堂々と!!間違えてもすいませんって言ってそのまま仕切り直せばいいから!!とりあえず堂々としときなさい!!!前日から緊張するって?明日の夕飯とか撮り溜めてる楽しみのアニメでも考えてな!!!




間宮達から今日のお昼であるカレーライスを受け取り席を探す。

 

うっ!視線を感じる……っ!!まさかっ!?雛見沢症ry

 

まぁ、なんてことも無くそりゃそうだ。新しい指揮官が来てそいつがみんなの憩いの場、食堂に現れてみろ。

 

向こうもびっくり、こっちもドキドキだ。

 

わぉ注目の的ですよ相良さん、転校生ってこういう気分だったのかな?

 

あれでしょ?

 

『今日転校生くるんだって〜!』

 

『え〜!?うそ〜!男子!?女子!?』

 

『な・ん・と、男子らしいよ!』

 

『カッコイイかな?もし良かったら〇〇声掛けてきてよ〜!』

 

『え〜!恥ずかしいよぉ〜!』ってやつ

 

なんかソワソワしてくるわ。いや、その前に今の妄想は我ながら気持ち悪いわ。

 

「何ソワソワしてんのよ、気持ち悪いわね…。シャッキっとしなさい!シャッキっと!アンタはこれからここの指揮官になるんだからみんなの前では堂々としてなさい!」

 

近くにいるこっちが恥ずかしいわ……とスタスタ歩いていく叢雲の金魚のフンのように引っ付いていく俺。

 

転校生から気の強いお嬢様の荷物持ちに早変わりって感じ。

 

「おーい!叢雲〜、こうちゃ〜ん!!ここに座るっぽ〜い!!」

 

「相良く…提督、叢雲、こっち空いてるよ。」

 

さっきぶりの夕立、時雨コンビだ。二人ともアホ毛が動いちゃってまぁ……時雨はピコピコと動くのに対し夕立のはもうブンッブンッとちぎれんばかりに動いてる。

 

やめろやめろ、アホ毛は抜けるとオルタ化するぞ。はいはいどうどう。

 

「全く、いつも騒々しいわね…。」

 

「良いじゃねぇか、みんなで賑やかにメシ食った方が美味いだろ。」

 

トレーを置き、早速とばかりにカレーを頬張る。

 

!!??何これカレーなの?めっちゃ美味くない?

 

一瞬スペースキャットの目を見開いてる猫みたいな顔になってたわこれ。

 

母さんの作るカレーも美味いんだけどこれはベクトルが違う。

 

「間宮さんが作る料理は本当に美味しいよ、ボクも初めて食べた時は感動したなぁ。」

 

「時雨はもっと食べるっぽい!こんなに美味しいものは沢山食べないと損だよ!」

 

「ならお前はもう少し落ち着いて食べろや…あ〜口の周りにカレー付いてるじゃねぇか…。ほら、拭いてやるからこっち向け。」

 

ハンカチを取り出し、夕立の口元を拭ってやる。ッポイ~

「………。」

 

「………。」

 

ベチャ!ベタッ!

 

「あ、提督ごめん。ボクも口元にカレー付いちゃって…。拭いてくれるかい?」

 

「私も少しよそ見してたら口にカレー付いちゃったわ。拭いてくれる?」

 

「いや、お前ら今明らかに自分で……「「拭いてくれる(かしら)??」」……はい。」

 

なんなんだよコイツらはよ……。

 

ハンカチがカレーまみれになるじゃねーか、洗うの大変なんだぞカレー。

 

「じゃあほら時雨、こっち向け。」

 

「うん…。」

 

いや、なぜ目を閉じる。カレー拭くだけなのにドキドキさせられるな…。

 

「ほら、取れたぞ。」

 

「うん、ありがとう提督。」

 

なんかコイツ、キラキラしてね?…まぁいいわ次は

 

「じゃこっち叢雲も向け。」

 

「ん」

 

いやだからなぜ目を閉じる。いやいやないない。こいつらに限ってそんな事はない。

 

「ほい、拭けたぞ「あ、ありが」ってお前髪の毛にまでカレー付いてるじゃねーか。あだ名カレー臭い女とかに「フンッ!!」ゴスッ!! 痛ってぇぇぇーーー!!!」

 

こ、コイツ…弁慶の泣き所、思いっきり蹴りやがった!!

 

あ、でもなんかコイツキラキラしてる…。

 

「アハハハッ!!!相変わらず仲良しだねぇ!!」

 

「久しぶり相良君!」

 

ん?この声…

 

 

「お前ら飛川と蒼井!?お前達もここの鎮守府だったのか!!」

 

コイツらは飛川龍子 (とびかわりゅうこ)と蒼井龍華(あおいりゅうか)海軍大学で艦娘候補生だった奴らだ。

 

因みに時雨の本名は時崎雨音(ときさきあまね)、夕立は立川夕香(たてかわゆうか)、叢雲は南雲凜香(なぐもりか)と言う。

 

「久しぶりだね〜!卒業演習以来だから2ヶ月ぶりぐらい?」

 

「そうそう、でも驚いたよ〜!新しい提督が来るって言うからどんな人が来るかと思ったら相良君だったからさ〜。あ、今は提督だから提督って呼ばなきゃね。」

 

「となれば俺もこれからは飛龍と蒼龍って呼ばなきゃ行けないな。」

 

「これから航空戦力がいる時は呼んでね!私達活躍しちゃうよ〜?」

 

「そうそう、今の私には多聞丸もついてるし!!」

 

「お、頼もしいねぇ!とりあえずこれからよろしくな!」

 

「こちらこそ!あ、相良く…じゃなかった、提督、私達これからお昼なんだけどまだ食べてるなら私達も相席いい?」

 

長い机だからまだ座れるけど…

 

「今はダメよ飛龍、蒼龍。まだ案内終わってないからそろそろ行かないと。もしこいつと話したかったら歓迎会の時にお願い。」

 

「あー、そっかそっか。今鎮守府案内中だったか。おーけーおーけーそれじゃまた後で!」

 

「叢雲ちゃん、提督をよろしくね〜!」

 

彼女達も間宮のカレーを受け取りに行ったのだろう。

 

大学の時から賑やかな奴らだったが艦娘になってからもそれは健在という訳だ。

 

「さてと、私達もそろそろ行くわよ。」

 

え?もう食べたの?早くない?

 

「アンタがくっちゃべってる時に私は食べてたからね。」

 

おいおい…そりゃねーぜ。

 

カカカッとカレーライスを掻き込み水を飲み干す。

 

「それじゃボクらはここで準備があるからもう少しゆっくりしてるよ。提督、また歓迎会の時にね。」

 

「夕立も準備頑張るっぽ〜い!!」

 

時雨、夕立コンビとも別れ、食器を片付けに行った初期艦様を追いかける。

 

「それじゃ、次は工廠ね。工廠は説明しなくても分かるわよね?」

 

「流石にな。」

 

工廠、装備を開発・改修したり、艦娘を建造する施設。

 

開発・改修はその言葉の通りだが建造はちょっと複雑かもしれない。

 

艦娘を建造する場合は、まず艦娘候補生、艦娘の適性がある者が必要である。そして建造機に入ってもらう。

 

そしたらば艦娘を作り出すエネルギーを注入する。

燃料、鋼材、弾薬、ボーキサイトの4種類だ。

 

この4種のエネルギーを加えることで艦娘候補生の中にある軍艦の気を呼び起こし、艦娘候補生の魂と合成すれば、艦娘の建造完了といった手順である。

 

因みに希少な適性の持ち主であったりすると通常の建造ではなく、大型艦建造と呼ばれる建造方法でエネルギーを多く使い艦娘を建造するのだ。

 

本当に妖精さんの謎技術凄いよな。人間と軍艦の魂を合成ってなんだよ、そのうちタイムマシンとか作り出すんじゃね?あ、なら俺、もしもボッ〇スの開発お願いしてもいいですか?

 

工廠は食堂を出て、先程の入渠施設のさらに奥にある。

 

「ここが工廠ね。ここでは明石さんを主体とした工廠妖精さん達や技術者の人達で私達の装備や私達自身のメンテナンスをしてるわ。」

 

おぉー、かまぼこ型の工場で、いかにもと言った感じの場所だな。

 

そして、明石ねぇ……まぁまさかそんな事はないでしょ。

 

我がクレイジーファミリーの1人、明石適性を持った姉がこんな所に、大体あの人は今横須賀にいるはずで……

「お、航希君じゃん!元気してた〜!?」

 

いや、見間違えだし聞き間違えだ。想像してるとそういうやばいものが見えたり聞こえたりするって……。

 

「ちょっと〜?実の姉に無視はないでしょ無視は〜?あ、お姉ちゃんのこと忘れちゃったかぁ〜。そしたら昔みたいに腕持ってグルグル回るヤツやれば思い出すかな?」

 

「覚えてます!!覚えてますからその腕を握った手を離して!!!離せやゴラぁぁぁーーー!!!」

 

大体アンタみたいなインパクトの塊みたいなの忘れる方が難しいわ!!

 

「え!?明石さんアンタ、コイツのお姉さんだったの!?」

 

「えぇそうよ〜、本名は相良明希(さがらあき)、改めてよろしくね〜!…気を取り直して明石の工廠へようこそ、叢雲ちゃん今日はどうしたの?装備の改修?」

 

「……あ、いや、違くて…今日は…明石さんの弟…さんが提督になったからそれで今鎮守府の案内をしてて…。」

 

「あぁ〜!そっかそっか!それで工廠の案内に来たってわけね〜!どうぞどうぞ入って入って〜!!かなり散らかってるけどね〜!!たははは〜!!」

 

おいおい…この姉いつもこんな感じでやってたのか…。

見ろよ、いつも強気なあの初期艦様がタジタジじゃねーか。

 

流石母さんの娘だわ……。

 

「前々からこの明石さんやりづらいと思ってたけど今日まさかの事実が発覚してさらにやりづらくなったわ。」

 

だよな〜。弟の俺ですらそう思ってるからさ〜。

 

 

「いやでも、明石さんを上手いこと出来ればコイツとも……。」

 

ん?なんだコイツ?聞こえんかったけど急にボソボソと

…。

 

まぁあの姉見て色々思ったんだろうな。

 

「それじゃ、軽〜く工廠の説明しちゃおうかな〜。まずはこの建造機〜!まぁ言葉の通りだよね〜。あぁでも艦娘候補生の娘が居ないとダメだから使うのはまだ先になるかな。だからそんときに改めて建造機を見せるよ!はい次〜!」

 

確かにここの主任みたいな立場だから説明してくれんのはありがたいんだけどさ、母親譲りのマシンガントークで説明してくのやめてくれよな…。

 

「アンタ、結構苦労してたみたいね……。」

 

「お、分かってくれる?そしてこれの上位バージョンがもう1人いるんですよヤバいだろ?」

 

乾いた笑いの叢雲を他所に明石さんのトークは止まらない。『トークを止めるな!』じゃない。誰でもいい、頼む止めてくれ。

 

「それでー、こっちが装備保管倉庫ね〜。私や妖精さんが作った装備がここに保管してあるからさ!」

 

……散らかってると言えば散らかってるけどそこまで思ったよりは散らかってないか。きっと妖精さん達が気を利かせて片付けてくれてるんだろうな…今度顔合わせも兼ねてプリンでも差し入れしよう。

 

「あ、そうそう!この倉庫だけどね!装備が入る量は限られてるから要らないと思ったものは誰かに持たせるなり、廃棄するなりしてね〜。じゃないとどんどん物が増えちゃってね〜!」

 

……妖精さん達の差し入れ増やそう。

 

「はぁ、近いうちにここの整理するわよ。私も手伝うから……。」

 

「あぁ、頼むわ……なんかすまん。」

 

「まぁいいわ、最初の1週間は私が固定で秘書艦らしいからその間でやるわよ。」

「奢りの件、パフェにアイスも付けとくわ……。」

 

「そう、ありがと……。」

 

なんでだろう、なぜただ説明を受けてるだけなのにこんなに疲れるんだろう……。

 

「それじゃあ〜最後、開発室〜!!」

 

よっしゃぁぁぁーーーっ!!!最後だぜぇぇぇーーーっ!!!

 

「今喜んだ弟〜、お前は補習だから居残りな〜。」

 

……………。

 

「じゃあ、ちゃちゃっとやっちゃいますか〜妖精さーん!かもーん!」

 

明石の呼びかけに応じ、何人かの妖精さんが集まってきてくれた。

 

「はいはい、どんな用件で?」

 

「開発?」

 

「96式探照灯ですか?」

 

お前もいたのかよ。あぁ、そういえば工廠妖精とか言ってたしな。96式はもういいよまだ作るんかい。

 

「提督さんの目覚ましは私が作る」

 

要らねーって言ってんだろ!!

 

「あぁ、キミこうちゃんと一緒にいた妖精さんか〜!

これからよろしくね!とりあえずお試しだし資材も勿体無いから簡単に主砲作ろっか!全部最低値でもいいけど今回は真面目に燃料10、弾薬10、鋼材30、ボーキサイト10でお願いね〜!」

 

「じゃあ持ってくるね」

 

そして戻ってきた工廠妖精さんは緑、黄、銀、茶色のオーラを持って帰ってきた。

 

「まぁみんな見たことあると思うけどこれが燃料と弾薬と鋼材、ボーキね。これを……ほいっと!!これで出来上がり!12.7cm連装砲ね!叢雲ちゃん、2番と3番スロット空いてる?」

 

「えぇ、空いてるわよ?」

 

「それじゃこうちゃんに装備のしかた見せてあげてよ!艤装展開して。」

 

あぁなるほどと納得すると叢雲は艤装を展開し、手で12.7cm連装砲に触れた。

 

すると12.7cm連装砲は一瞬で消え、叢雲の手に装着されてた。

 

「これで今、叢雲ちゃんは12.7cm連装砲を装備している状態ね。じゃあこれ、倉庫にあった5連装酸素魚雷。叢雲ちゃんまたお願い!」

 

叢雲が再び魚雷に触れると魚雷は消え、今度は叢雲の太もも辺りに魚雷が装備された。

 

「今叢雲ちゃんは第1次改装は済ませてあるから3スロット装備することが出来るの。元々装備していた主砲と今装備した主砲と魚雷で全てのスロットがいっぱいになった。」

 

てかコイツ改装済みだったのか。まぁ1ヶ月前から現地入りしてたらそうなってるもんなのかな?

 

「そしてここで問題!この状態で別の装備に触れるとどうなるでしょうか〜!?正解は触れても何も起こらないね!」

 

姉よ、問題やる言うたやん…答え早すぎるから問題になっとらんわ…。

 

叢雲もため息を吐きながら装備に手を触れる。

 

「…全部装備してると何も起こらないけど、変えたいと思った時は頭の中で念じるの。そうすると変えたい装備と変更出来るわ…こんな風に。」

 

すると両手に持っていた主砲の片方がまた地面に現れ、手に触れていた魚雷が装備されていたのと合わせて両足に装備された。

 

「まぁこんな感じね!工廠の説明はこれでおしまい!まぁ研究室とかもあって、そこで自主開発とかしてたりするけどそれは気にしないでね〜。」

 

あ、この顔はその研究室とやらでなんかやってるんだなコイツ。今度調査しとこう。

 

「それじゃあまた何か作るとか整備するって時はお姉ちゃ…工作艦明石にお任せ下さい、提督!!」

 

そのさぁ〜ニマニマしながら言うの止めて貰えませんかね明希さん……。悪意を感じるわ。

 

「悪意なんて飛んでもない!可愛い弟が提督さんになったんだから嬉しいことなのよ〜。」

 

だから心の中を読むなっての!!艦娘のパッシブスキルかなにかなのそれ?

 

「そういえばこうちゃん、朝方淀がこっち来てたけどまだ居たりする?」

 

「いや、大本営に帰ったらしいぞ。」

 

マジで助かった。

 

「えー、何よ〜同期である明石さんが仕事終わったら歓迎会の時に飲もうと思ってたのに〜。」

 

あ、そうそう。この人と淀姉さんは同い年で同期の艦娘だ。

 

「私見送ったけどあの人結構急いでたわね。なんでも事務処理と荷物整理があるとかで帰って行ったわよ。」

 

あの人多忙だからな。色々やる事あんだよ。てか俺にこんなことしてる暇あったら仕事してた方が良かったんじゃない?俺は就職活動出来る、淀姉さんは仕事が片付く、win-winじゃん?

 

「………ほ〜ん、なるほどね。そういう事ならおっけーおっけー!それなら…叢雲ちゃ〜ん?ちょ〜っといいかしら〜?」

 

やめろやめろ手をワキワキさせながら近づいてくるな!!

 

「なっ…何よ!?ヒッ!?」

 

あ、叢雲が捕まった。

 

「いやぁ〜初めてあった時から表情が硬いなぁ〜って思っててね〜ほら、笑顔笑顔〜!」

 

「ちょ、ちょっと明石さん!?や、やめ…アハハハッ!!やめなさいってのぉぉぉーーー!!!」

 

あーもう……本当にこの人はさ……。叢雲はくすぐりの生贄となったのだった。

 

「そうそう、叢雲ちゃんの自然な感じが見たかったのよ〜!可愛いんだからもっと笑って笑って〜!!」

 

「ほんとにやめなさいって!!!クッ…アハハハ!!!航希ッ!!!明石さん止めハハハ!!!」

 

この姉は暴走するとすぐこうだからな、はぁ……。

 

「おい『明石』もうやめろ、提督命令だ。」

 

「お?こうちゃん?」

 

「聞こえなかったか?今すぐやめろ。」

 

「……はいはい、すいませんでした提督。叢雲ちゃ〜ん大丈夫〜?」

 

こうしてヒィヒィ言いながら叢雲は明石から解放されたのだった。

 

「……ったく、明希姉はもう少し加減と落ち着きを知ってくれ……アンタのテンションについていけるのは母さんぐらいなんだから。……何ニヤニヤしてんだよ。」

 

「いやねぇ〜こうちゃんも大人になったんだなぁ〜ってさ〜『やめろ明石、提督命令だ。』くぅ〜!!カッコイイーー!!録音しとけば良かったなぁ〜!!」

 

うん、まだ反省してないなこの人。おーけーおーけー

 

「もう1つ提督命令だ、工作艦明石。「…え?」どうやら反省の色が見られないようだからこれから三日間お前の研究室とやらは出入り禁止だ。それまでお前が作りまくって散らかした工廠の掃除をしとけ!!」

 

「こうちゃん!!!あ、いえ…提督!!!そんな殺生な!!!あそこが私の唯一の楽しみなのに!!!」

 

「無駄なものばっかり作るなっての!!!大体明希姉は昔っからだらしないから……」

 

 

 

しばらく明石に説教していた航希を見て叢雲は後にこう語った。

 

「あれぐらい普段からしっかりしててくれれば私も苦労しないのに……。でもまぁ、アイツも苦労してんのね。」

 

この後、まだごねる明石を叢雲や近くの艦娘たちに取り押さえさせ、俺は妖精さんから受け取った鍵で明石の悲鳴と共に研究室をロックしたのであった……。

 

 

 

 

 

 

 

 




このまま猛スピードでここ(鎮守府)から逃げれたら〜

東京にある俺のアパートまで行けるだろう?

離れ離れになった嬉しい淀姉さんから〜

ピリリリ「ん?メール?」

『こうちゃん、もしかして、逃げようとか考えてません……よね?(ハイライト無しの笑顔写真付き!)』

淀姉さんなんて素敵ねぇーーー!!!(血涙)


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就活戦争7日目

はーーー白露オンリーイベント行きたかったなぁーーー!!!

はいはい、そして予定通りには進まないのがこのお話ですのでまた伸びましたね。次回は歓迎会、今回は艦娘寮だったりなんだったり。

実際の所色々すっ飛ばしてお出かけ回とか書きたいと思ってたりするけどちゃんと順にやって行こうとは思ってます。

もっと休みが欲しいと思う今日この頃。

あ、またまた沢山のお気に入り登録や評価頂きありがとうございます。なんか「やべぇ…なんかめっちゃお気に入り登録ついてるよありがてぇけど怖」おいおいおい死んだわ俺みたいな感じになってる私です。ホンマにありがとうございます。

面接練習で言われると思うけど靴下気を付けろよ!!

黒い無地のやつでスネ辺りまで来るやつな!!!

間違ってもオシャレなやつとかくるぶし丈、普通のでも地味だから許されるでしょみたいな感じで履いてくるなよ!!!

個性見せろとか言うけど靴下で個性見せたら確実アウトだからな!!!

黒無地スネ辺りまでのやつだぞ!!覚えとけよ!!






「………じゃあ次、艦娘寮ね。」

 

目に見えてお疲れの初期艦様。うさ耳みたいな艤装も垂れ下がっている。

 

うちの身内が大変申し訳ないとしかいいようがない。

 

「……なんか、ほんとすまんかった。」

 

 

「……まぁこれも貸しにしとくわ。」

 

工廠から移動して入渠施設、食堂を通り過ぎたら艦娘寮だ。

 

「ここが艦娘寮ね、全部で2棟あって、手前が駆逐・潜水艦・軽巡等、奥が重巡・空母・戦艦の寮。」

 

はいはい、このいかにもと言ったマンションやっぱり寮ね。ここ来た時にも目立ってたからね。

 

……そういえばさ、俺どこで暮らせばいいの?艦娘寮と同じ所とか言わないよね?

 

『ごめんなさ〜い!こっちの手違いで部屋が用意できなくて!!用意できるまで明石さんと同室でおねがいね!!姉弟だし大丈夫よね?』とか無しね。

 

どこのインフィニットスト何たら?

 

てか明希姉と同室はこっちのメンタルが色んな意味で持ちそうにないから勘弁してくれ。

 

脱走不可避。いやまぁいずれ出てく気だけどさ。

 

「なぁ叢雲、因みに俺の部屋的なのもあるのか?」

 

「ん?あぁ、あるわよ。ここからもう少し奥の方に。まぁ後で説明するからとりあえず付いてきて。」

 

良かった、違う建物らしい。流石に艦娘と同室とかはないか。

 

スタスタと艦娘寮の中に入っていく叢雲初期艦。

 

え?ちょっと待って入るの?艦娘寮でしょ?実質女子寮じゃん。

 

海軍学校の寮で生活してたときは完全に男女で寮が分かれており、許可が無くては入ることは出来なかった。

 

「何ぼさっとしてるのよ?」

 

「あ、いや、なんつーか…入っていいのかなーって。」

 

「あー、またそのパターンね。海軍学校の寮は完全に分かれてたものね。こればっかりはもう慣れるしかないわ、執務室とか作戦会議室、そしてアンタの部屋もここを通らないと行けないから。」

 

うーーーん、欠陥構造過ぎない?彼女達の部屋の前通らないといけない執務室とか私室とか。

……まぁいいか、別に部屋の中入るとか言う訳でもないし、考えすぎだわな。

 

というわけで突撃お隣の艦娘寮へ

 

玄関から廊下、そして各部屋があると言った一般的なマンション。

 

これだけ廊下が長いと学校にも見えてくる。

 

今いるのは潜水、駆逐、軽巡のエリアだ。

 

時折、アハハハッ!!と笑い声がするのが微笑ましい。

 

「こっちの寮には潜水・駆逐・軽巡の40人程度が生活してるわ。基本的に2人部屋か4人部屋で、大体は姉妹艦達と一緒の部屋割りになってる。これは隣の重巡・空母・戦艦も同じ。決定的な違いと言えば…まぁこの通り、結構喧しい事かしらね。」

 

「良いじゃないか、賑やかで。叢雲も姉妹艦と同じ部屋なんだろ?」

 

「そうね、慌ただしい奴、喧しい奴、と思ったら逆に全く動かない奴とか色々よ。ほんと、個室が欲しくなるわ。」

 

叢雲の性格からしたらそんな気はしてたけどな。

 

「まぁ〜でもなんだ、姉妹や友達と過ごせるってのもいい事だと思うぜ。」

 

「んなわけないでしょ〜。学校の時からそうだったけど、こっちとしては騒がしくていい迷惑よ。」

 

「つっても1人も大変だぜ?やる事は全部自分でやらなきゃいけないし。何かを手伝ってもらうこともない。」

 

何よりも……

 

「話す相手が居ないってのもなかなか辛いもんだからさ……。」

 

静かすぎる部屋、温かいものがあった筈なのにポッカリと抜け落ちたような空間、外からは楽しそうな笑い声が聞こえてくるのにそこはまるで時間が止まったようにシーンと静まり返……

 

「ちょっとアンタ…大丈夫?」

 

少し心配したように俺を覗き込む叢雲の顔があった。

 

おっと、いかんいかん!

 

「ま!もし本当にお前の個室が欲しいって言うならまずはMVPでも取ってきたら考えてもいいぜ〜。」

 

叢雲の頭をグシャグシャと撫で回す。

 

うぉ、サラッサラだなコイツの髪。

 

「ちょ!?…ちょっとアンタねぇ!!髪の毛グシャグシャにしないでよ!!」

わーむらくもさんがおこった〜にげブハッ!!

 

開いたドアに強かに顔面を打たれたのは今年入って既に2度目、このペースだと月1で顔面強打だな。

 

「はわわ!?ごめんなさいなのです!!」

 

「ちょっと大丈夫!?」

 

「その扉、向こう側に開くんだから気をつけなさいって言ってるじゃない!」

 

「…そもそもなんで内側に開くように作らなかったんだろうね、欠陥構造?」

 

おーいてて…鼻曲がってない?

 

「いいのよ、アンタ達は悪くないわ。余所見してたコイツが悪いわ。」

 

「あ、あぁ、俺の不注意だからさ…こっちこそごめんな?」

 

 

現れたのは4人の、おそらく駆逐艦だろうか。

 

「叢雲さん、その人はもしかして…」

 

「そ、今日着任した新しい司令官。ほら、アンタもモゾモゾしてないで挨拶しなさい。」

 

「ひゃ〜!!提督さんなのです!!本当にごめんなさいなのです!!」

 

「いやいや、俺の不注意だからさ、気にすんなって…。俺は今日ここに来た相良航希って言うんだ、よろしくな。……んで君たちは」

 

「私は駆逐艦暁、この子達の中じゃ1番上のお姉さんよ!レディーとして扱ってよね?」

 

この紫がかった黒髪の子が暁か。てなると特Ⅲ型の子達かな?

 

「はーい!司令官!私は雷!困ったことがあったら私を頼ってもいいのよ?」

 

でこの子が雷ね。なんだろ?天からバブみを感じておぎゃりたいとか聞こえた気がしたが気の所為だと思っておこう。この声に耳を傾けたら一気に引きずり込まれる気がしてならない。

 

沼は恐ろしい。

 

「…私は響だよ、不死鳥の名前は伊達じゃない。よろしく提督。」

 

目深に帽子を被ったちょっと眠そうな子が響。

 

んーーープロレタリアート?サワークリームとかお好き?

 

「……提督。」

 

「ん?なんだ?」

 

「ロシアでウォッカが1番消費されない月は?」

 

「2月かな」

 

「どうしてだい?」

 

「月が短いからじゃね?」

 

「…提督とは気が合いそうだ、今度ウォッカを持ってくよ。」

 

この子も心の中読んでくる子かぁ〜。もうなんか普通に驚かなくなってきたわ。あ、因みにこれはロシアのジョークな。

 

そして……

 

「君のお名前はなんだい?」

 

「あ…あぅ」

 

最初の事があったから話しづらくなっちゃったかな?

 

ここは1つ、場を和ませて

 

「Hi!! My name Koki Sagara! You can called me Teitoku!! Nice to me to!! What you are name!?」

 

ハハハ、横で叢雲がめっちゃでかいため息したのが分かったわ。ジョークじゃんよ。

 

「はわ!?はわわわわ!?」

 

「ちょ、ちょっと暁!提督さん英語喋ってるわよ!」

 

「…この前金剛さんから教えて貰った英語で電を助けてあげるんだ。レディーの嗜みだよ。」

 

「え!?ちょ、ちょっと待ちなさい!!……え〜と……。」

 

おーおー面白い反応する子達だわ。

 

「い、電!!とりあえず自己紹介よ!!名前聞かれてたじゃない!!」

 

「あ〜!暁、誤魔化したわね〜!」

 

1人、また1人と笑いが広がっていく。

 

あ、叢雲はやれやれみたいな顔してた。

 

「アハハハ!!!暁ちゃんたら……提督さん、私は電なのです!!さっきはごめんなさいなのです。」

 

お、調子戻ってくれたかな?

 

「よろしくな、電!さっきのは俺が悪かったからさ。あ、いやこれやってるとエンドレス譲り合いが始まってるからはいおしまい〜。」

 

こういうのはお互い水に流すのが1番。

 

「お〜い、ちび共〜さっきからどうした〜?」

 

「あ、天龍さんなのです!!」

 

「龍田さんもこんにちは!!」

 

「鬼ごっこしましょ〜!!」

 

お?新たな艦娘の予感?

 

「おいおいまた追っかけっこすんのかよ…。」

 

「でも天龍さんが鬼だとすごく盛り上がるしカッコイイのです!」

 

「……しょうがねぇなぁ〜カッコイイとまで言われちゃあこの天龍が鬼役を…」

 

「天龍ちゃ〜ん?鬼ごっこもいいけど前前〜。」

 

お、気がついた。

 

「お、もしかしてアンタが今日来た提督か?俺は天龍ってんだ、よろしくな!んでこっちが」

 

「龍田と言います〜、天龍ちゃん共々よろしくお願いしますね〜。」

 

俺系で暁達に集られてるのが天龍で……ちょっと背筋を凍らせてくれたのが龍田か……コイツ、気を抜いたら…いや、やめだやめだ。下手なことした方がヤバそう。

 

「なんだ提督黙っちまって?……あぁ、俺様の雰囲気にビビったのか。……フフ、怖いか?」

 

……いや、そんな子供達にまとわりつかれて背中によじ登られてるような状況見せられても……それなら後ろのたったさんの方が怖いんだが。

 

「天龍ちゃ〜ん、それじゃあ説得力ないわよ〜?」

 

うん、そうだわな。

 

「いや、すまん。ちょっと考え事をな。俺は今日からここで提督をすることになった相良航希だ。よろしくな天龍、龍田。」

 

「おうよ!もし出撃するならこの天龍様を入れてくれよな!こう言っちゃなんだが、俺は強いぞ?」

 

「そりゃ頼もしい限りだ。その時は龍田も頼むぞ。」

 

「えぇ、分かったわ〜。天龍ちゃんだけじゃ心配だしね〜。」

 

「あ?龍田そりゃどういう事うがっ!コラ雷、首を絞めるな!!」

 

なんだろう、天龍先生って呼んでいいですか?

 

幼稚園とかの先生みたいだからさ。

 

これからこの状況を天龍幼稚園と呼ぼう。

 

「天龍さん!!グラウンドに行きましょ!!早く早く〜!!」

 

天龍先生大人気ですねぇ〜!子供達4人に囲まれてますよ〜!

 

「ちょっとアンタ、そろそろ時間押してるからもう行かないと…。」

 

お、そうか。それはまずいな。

 

「それじゃ天龍、龍田、それと暁達もまた後でな。」

 

「おう、また歓迎会の時に話そうや!」

 

「提督さん、また後でなのです〜!!」

 

こうして天龍は暁達に引きずられるように、龍田はそれを見守るようにグラウンドへ向かっていった。

 

「はぁ〜、ようやく移動できるわ。」

 

なんとも賑やかな連中だったな。まぁただ1人アサシンのような雰囲気の方がいらっしゃったが。

 

こうして潜水・駆逐・軽巡エリアを抜け重巡・空母・戦艦達の寮へと入った。

 

「んでこっからが重巡から上の奴らの寮だっけか?」

 

「そうよ、面倒なのに絡まれなければいいけど……。」

 

叢雲さんよぉ〜、そういうのはフラグって言うんだぜ?

 

「叢雲さーん!!ちょっとよろしいですかー!!」

 

ほら、早速絡む気満々の奴が来たじゃん。

 

「叢雲、自分で立てたフラグなんだからどうにかしてくれよな……。」

 

「はぁ〜、1番現れて欲しくないのが出てきちゃったわ……。」

薄紫色で癖っ毛の艦娘がカメラ片手に猛ダッシュしてくる。廊下は走ると危ないぞー。

 

「どもっ!恐縮です!私、重巡青葉と言います!今日着任された司令官さんですよね!?インタビューお願いしたいのですが、まずはお名前伺ってもよろしいですか?」

おうおう、この感じ、この子もマシンガントークの民出身の子だな?母さんや明希姉と同族のにおいがした。

 

「……青葉お願い、今は頼むから帰って。取材したりするのはコイツの歓迎会の時、私がいない所で好きなだけしていいから。お願いだから私を巻き込まないで!」

 

いやいや叢雲さん、あなたが立てたフラグですよね?

 

それ丸投げは俺もちょっちピンチすぎや。

 

まぁでも自己紹介ぐらいはしないとな。

 

「俺の名前は相良航希だ。とりあえず今日からここで提督をすることになってる、よろしくな青葉。」

 

「はいっ!よろしくお願いします司令官!……ところで〜取材の方をお願いする事は……」

 

取材、ねぇ……今は時間も押してるらしいし、正直なところめっちゃ疲れた。取材はまた今度に……。

 

「それもそうだけど青葉、アンタが防犯用っていう名目で鎮守府の各所に取り付けた隠しカメラ、いい加減外してくれたんでしょうね……?」

 

ん?カメラ?防犯用なら別にいいんじゃねぇの?

 

「……たはは〜、今取り外す準備をしてまして……。」

 

「今の間は何よ今の間は!!アンタね……いい加減外にしなさいよ!!そもそもなんで監視カメラがローアングルだったり際どいラインで設置されてんのよ!!しかもそれで撮影した写真を自分の新聞に載せるなんて言語道断だから!!!」

 

ん?待て待て待て……。

 

コイツ(青葉)は鎮守府の至る所にカメラを設置してる。

カメラは脱出の時に非常に役立つ。

 

青葉を味方に引き入れておくのは今後必須条件。

 

 

となれば取材を受けておくことに越したことはない!

 

完璧だわ俺……。

 

では早速行動開始。

 

 

「まぁ待て叢雲。」

 

「何よ!!こちとら今後の自分のプライバシーが掛かってるんだから!!」

 

「気持ちは分かる、でも時間が押してるんだろ?すぐ出来ないことだろうし、とりあえずこの案内を済ませてしまおうや。だろ?」

 

まぁ、確かに…。と叢雲も折れてくれた。

 

そして……

 

「青葉。」

 

「はっ、はい!!なんでしょうか?」

 

「取材だが、今からでも構わんぞ。まぁ叢雲の案内もあるし、何よりも今日は疲れたから沢山は出来ないけどな。それでもいいなら」

 

「も、勿論です!!ありがとうございます司令官!!」

 

おっとぉ〜叢雲選手、超絶嫌そうな顔〜!!

兎も角この旅(案内)に新たなメンバー青葉を加えて再開。

 

道中は青葉からの質問を受けつつ、寮から連絡通路を通った建物にある応接室、放送室、作戦会議室、俺が最初にいた医務室など鎮守府運営に関する部屋について叢雲から説明を受けた。

 

途中「青葉!!カメラのフラッシュが鬱陶しい!!」

 

なんて青葉がどやされることもあったが賑やかなもんよ。

 

「で、これが執務室ね。明日からアンタはここで書類とかの作業してもらうから、8時にはここに来なさいよ?いいわね?」

 

あーーーここ最近は12時からの会社説明会に行ってたから起きるの10時ぐらいだったんだよなぁ……。

 

久方ぶりに5〜6時頃には起きなくちゃ……というか起こされるのかぁ。

 

否応なしに。

 

起床ラッパの音聞くと勝手に飛び起きちゃう生活とかもうしたくないわ俺。

 

それと青葉カシャカシャうるせぇ。

 

「司令官、明日から始まる鎮守府生活について一言お願いします!」

 

「めっちゃしんど……日本の海を守る為戦ってくれる艦娘達、その艦娘達が戦いやすいよう、そして戦闘がない日は彼女達が少しでもリラックスして過ごせる環境を整える事が提督である私の役目であると思っています。」

 

「おぉ〜!!素晴らしいお言葉ありがとうございます!!」

 

おうおう叢雲さんよぉ、おっそろいしいことするじゃんよお前。俺の背中に向かって自前の槍を突き立てるとはなぁ。

 

一瞬で面接中の就活生みたいな回答になっちまったじゃねぇか。

 

しかも青葉からは死角とかさてはお前淀姉さんからのまわし者……あ、実際まわし者だったわ。

 

「……まぁとりあえずこれで鎮守府の施設案内はおしまい。最後はアンタの部屋ね、付いてきなさい。」

 

「突撃司令官のお部屋!!果たしてどんなお部屋なのか気になりますねぇ〜!!」

 

いや、何も無い……あ、淀姉さんが荷物送ったって言ってたな。どんぐらい送ってくれたんだろ?

 

「前任の司令官も使ってたところで部屋というか、小さい一軒家みたいなのがあるのよ。アンタはそこで寝泊まりしてもらうわ。」

 

ほー、一部屋どころか小さくても家1つ貸してくれるたぁ嬉しいね。

 

再び連絡通路を通り、重巡〜戦艦達の寮を奥に進む。

 

「それじゃあ、アンタの寝泊まりする…と…ころ…」

 

なんだなんだ叢雲のやつ急に尻すぼみになって……ってうぉぉぉーーー!!!なんかすげぇ綺麗な所じゃん!!

 

 

寮の扉を開け、渡り廊下を挟んだ先には小さいけれどもまるで旅館のような建物が建っていた。

 

「すげぇじゃん叢雲〜!!俺これに寝泊まり出来るとかワクワクすっぞ!!」

 

「……ねぇ青葉、ここの建物こんな豪華な感じだったっけ?」

 

「……いや、私もかれこれこの鎮守府に3年ほどいますけどこんな旅館じゃなくてもっと普通な感じの一軒家だったと思います。」

 

なんか知らんけどラッキー!!とりあえずお邪魔しま〜す。

 

おぉ〜!!中もまるで旅館の一室を抜き取ったような感じで素晴らしい!!

 

叢雲達も付いてきて目を丸くしている。

 

「ようこそ提督さん」

 

お、お前らは………っ!!!

 

「そう、私達です」

 

えーと……あ、そうだ!!実家に帰ったときに集まった妖精さん達!!!

 

「まさか忘れてたりしてませんよね?」

 

い、いやそんなことないぞピューピュー

 

「……まぁ、いいでしょう」

「私達の仕事ぶりを見てもはや忘れられないでしょう」

 

いやだって……誤差はあるけどお前ら全員顔似てるし

 

「にしてもすげぇな!これお前らが作ったの!?」

 

「えぇ、私達は特注家具職人妖精ですので」

 

「この程度、朝飯……夕飯前です」

 

はぇ〜、ビックリだなぁおい。

 

いつも居るヤツらに見せてやりてぇよ。「辺りを見てきます」とか言ってどっか行っちまったしよ。

 

「でもなんだってこんなすげー物を作ってくれたんだよ?」

 

「ギクッ…わ、私達も職人ですのでなにかしてないと落ち着かないのです」

 

「そうだ提督さん、外もご覧になってください」

 

ん?珍しく妖精さんが口篭った?……まぁいいか。

 

外にも何か……おぉ!!

 

「温泉です」

 

「露天風呂仕様にしました」

 

すっげぇぇぇーーー!!!夕日も綺麗だし温泉も入れるとかどんな贅沢だよ!!もうお前ら最高かよ!!今度出かけた時になんかスイーツ買ってきちゃう!!!えーと5人ねはいはい任せて!!

 

「……もう後戻り出来ませんね」

 

「……あれだけのものを貰ってはやらない訳には……提督さんには黙っておきましょう」

 

 

 

ーーーーーーーーーーーー

 

 

 

そう、この時俺は浮かれに浮かれまくっていた……。

 

だからこの家の欠陥や罠、妖精さんのイタズラに気づくことが出来なかった。

 

そしてワレアオバを連れてきた事にも後悔している。

 

まさかあんな事になるとはな……。

 

……あ?何?追加のセリフ?

 

これの方がミステリー感出るから?はいはい分かった分かった…。

 

旅館もどきの建物で起こる数々の事件!!

 

迫り来る魔の手!!

 

一体黒幕は誰なんだ!!

 

真実はいつもじっちゃんの〇にかけてひ〇つ!!!

 

ギィィィィーーーバタンッ!!!

 

 

 




重ねた契約書〜 揺らいだ心を〜

見透かしているのね〜君はずるい〜

知らないふりして〜夜空を見上げた〜

何しようとしてるかって?夜間逃避行〜

「逃げても無駄なんですけどね。」

「ちょ!!淀姉さん待った!!待った待ったジャーマンスープレックスは待ってお願いしますぐぁぁぁーーー!!!」


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就活戦争8日目

ほいほいお待たせしました次のお話です。

ようやく歓迎会の話まで漕ぎ着けられましたわ。

まぁ1話で収まるとは言ってないんですけどね。

何やかんやと話を書いていくと当初予定してたものにどんどんと追加したい内容が出てきてしまいましてね。

だが私は早くお出かけ回が書きたい。

まぁ何話先の事やらか。

ネクタイの色にも意味があって

赤なら「積極的」、「情熱」

青なら「誠実」、「真面目」

黄なら「元気」、「面白い」

などなどあるんだぜ!!!

面接の時間違っても特殊な色のネクタイ付けていくなよ!!!

1番無難なのは青!!!ちょっとカッコよく行きてーなーって奴は赤!!他はあんまり勧めない!!!

白と黒はどうですかって!?冠婚葬祭にとっとけ!!!面接の時に付けてきたらやべーからな!!!



俺は大卒就活生、相良航希。

 

大学の同級生である神谷、大迫と居酒屋の帰り、コンビニへ行ってレジカウンターで会計をすまそうとしていた。

 

財布を取り出すのに夢中になっていた俺は目の前で電話をしている淀姉さんに気づかなかった!

 

俺は淀姉さんに薬を嗅がされ、目が覚めたら……

 

 

提督にさせられていた。

 

 

相良航希が脱出を企んでると淀姉さんにバレたらまた命が狙われ、周りの奴らにも危害が及……いや、そうでもねぇな……。割とみんなグルだったし。

 

 

俺自身の助言で何とかこの場から生きて帰ることにした俺は、淀姉さんにホールドされ、とっさに提督になると答え、脱出の機会を伺う為に海軍が基地を持っている舞鶴第2鎮守府に転がり込んだ。

 

 

たった一つの脱出法を見抜く見た目は提督、実際は就活生、その名は、相良航希!

 

 

…なーんて茶番もやっちゃうぐらい気分の良い俺です。

 

まさか私室がこんなに良い部屋になるとは思いもよらなかったぜ。

 

絶景露天風呂付き客室でしょこれ。

 

今日は疲れることばっかりだったけどこれのおかげで疲れも吹き飛ぶわ。

 

さて、これから何が起こるかと言うと、食堂で俺の歓迎会が行われるらしい。

 

あの間宮さん達の料理が食べられるんだ、楽しみでしょうがない。

 

まぁでも歓迎会って事は自己紹介やら、色んな奴らにも挨拶回りやらなんやらもしなきゃ行けないからまだまだ疲れるなこりゃ。

 

そんで今俺は叢雲、青葉と共に会場である食堂に向かって来た道を引き返しているところだ。

 

叢雲は「一体今日は何が起きてるのよ…歓迎会もほどほどにしてさっさと寝よう、ホントしんどいわ…。」と体を引きずるように歩いている。

 

運動して身体を鍛えてる奴らでも精神的な疲れには敵わないって事だな。

 

対して青葉は「はぁ〜、今日はネタが一杯で記者冥利に尽きるってものですね〜!しかもこれから歓迎会!まだまだスクープが私を待ってるなんて!!!」と目をキラキラさせながら歩いている。

 

確かに次から次へとネタが転がってくる今日はコイツからしたら最高にハッピーな日だろうな。あ、取材料としてカメラの位置教えて貰ってもいいですか?脱出用と観賞用として使いたいんですけど。

 

あ、そうだ……

 

「そういやさ、この鎮守府って艦娘ってどれぐらいいるのさ?」

 

「……青葉、頼んだわ。」

 

「では青葉がお答えしましょう!」

 

ほうほう青葉くん、元気がよろしいね。では青葉くんに聞いてみようか。

 

「うん、頼むわ。」

 

「はいっ!現在、舞鶴第2鎮守府では総勢69名の艦娘達が所属しています!」

 

ふむ、69名ね。そう考えるとそこそこ規模の大きい鎮守府だよな。……全員の名前を覚えるのが大変そうだ。

 

「艦種別に説明すると駆逐艦が24名、潜水艦が4名、軽巡洋艦が10名、重巡洋艦が6名、軽空母5名、正規空母が7名、戦艦10名そして給糧艦の間宮さん、伊良湖さん、工作艦の明石さんの3名ですね!」

 

ふむふむ、戦力は問題なさそう。しかしだな、脱出するにあたってはこの70名の目をかいくぐっていくのは些か厳しいものがある。

 

なんでだよなー淀姉さんももうちょっと逃げやすい鎮守府に送ってくれればよかったのに。

 

「戦力的には十分そうだな、青葉ありがとう。」

 

「いえいえ〜!何か知りたい事がありましたら是非ともこの青葉にお聞きください!明日の献立からお風呂場の覗き穴までお教えしますよ、フフフ…まぁ見返りをちょっとお願いしますがね?」

 

「……青葉、アンタもほどほどにしておきなさいよ?」

 

叢雲は疲れて遂に怒る気力も湧かないようだ。なんかここまで疲れてると案内させた身としても何だか申し訳ない気にもなってくる。まぁ全ては明希姉こと明石のせいなのだが。

 

にしても、何でもとな?そうだな…青葉の実力も知っておきたいし、ここは1つ何か頼んでみるか……。

前を歩く叢雲に聞こえぬようこっそりと青葉に話しかける。

 

「…なぁ青葉、お前の実力がどれほどのものか見せてもらいたい。試しに、そうだな……叢雲の弱みになりそうなを何か見つけてきてくれないか?」

 

「…叢雲さんの弱み、ですか。常日頃からガードの固い叢雲さんの素顔、気になりますねぇ〜!分かりました青葉にお任せください司令官!今回は初回ですし、取材も受けて頂いたのでサービスしますよ。」

 

「おう、助かるぜ。」

 

「いえいえ、今後ともご贔屓に。」

 

「しかしだ、どうやって叢雲から弱みを探るよ?アクション起こせば流石に警戒もするだろ?」

 

「弱みを見せないなら誘い出すまでです。特に疲れてる今はチャンスです。司令官、耳を……」

 

お?ほいほい…え?マジで?それいけるかぁ?というかそれが弱みになるのか?

 

「司令官、女性は多少強引な方が良い時もあるのですよ、叢雲さんのような方なんかは特に!最悪、これが失敗してももう1つぐらいは私が調べておきますので。」

 

まぁやってみないことには分からんか。まぁ失敗してもたんこぶひとつで済ましてもらおう。

 

「では作戦スタートです!……叢雲さ〜ん、ちょっといいですか〜?」

 

お、マジかよもうちょっと心の準備を…と思ったけど面接の方が緊張するだろ。ここはいかにこの役を演じ切るかが勝負、伊達に会社を100社も受けてないぜ!!見てろ俺の演技力!!

 

「何よ青葉?」

 

「いや〜今日取材した事を今度の艦隊新聞に載せようと思ってましてね、そこで1枚写真が欲しいのですよ!よろしければ司令官と初期艦である叢雲さんのツーショット写真を取らせて頂けないかなと思いまして。」

 

お、想像通り嫌そうな顔。

 

「えぇ〜、アンタに写真撮られたらロクでもないことに使われそうで怖いんだけど……。」

 

「使いませんよぉ〜!!司令官が着任して一発目の新聞ですよ?流石に真面目に書きますよいくら私でも!!

なんなら新聞が完成したら叢雲さんにの所に持っていくので確認して頂いて、リテイクがあるならその場で直しますから!」

 

「良いじゃねぇか叢雲、俺も提督になった記念に1枚ぐらい自分の写真が欲しいしさ、頼むよ。」

 

「……はぁ、分かったわよ。1枚だけね?」

 

「ありがとうございますっ!!では撮りますので、お二人共もっと寄って頂いてもいいですか〜?」

 

いきますよ〜という青葉の掛け声と共にカシャというシャッター音。

 

「ありがとうございました〜!この写真も現像したらお二人に渡しますね〜!!私は部屋で一旦このネタをまとめてきますのでまた後ほど、では!!」

 

「歓迎会遅刻すんじゃないわよ〜。」

 

……実を言うと青葉の作戦は青葉本人が離れてからがスタートである。

 

さて、俺も行動開始といきますかな。

 

「…叢雲、お疲れさん。今日はありがとな。」

 

「ホントよ、今日はアンタから幾ら感謝されても足りないくらいだわ。肩もだるいし、足も疲れたわ。」

 

「それは申し訳ないことをしたな…そうだ、そんなに疲れてるなら俺が食堂の前まで抱えてってやろうか?ほら、お姫様抱っこってやつ。…なんだよお前顔赤くなってんぞ〜?」

 

ちょっとおちょくる感じに言ってみるとみるみる叢雲は顔を真っ赤にしてしまった。あーはいはい、夕焼けのせい夕焼けのせい。

 

「ばっ!!夕焼けのせいよ!!そう見えるだけ!!」

 

言うとは思ってたけどそのまんま言ってくるとはな。

 

「し、しかも、お、お、お姫様抱っこなんて恥ずかしくて出来るわけないじゃない!!」

 

「冗談だよ冗談。ほら、おんぶならいいだろ?ほれ。」

 

今俺が何をしているかと言うとビジネス交渉なんかでも使われる技だ。

 

まず相手に断られる前提で予定より高い水準の要求をする。

 

 

当然相手は拒否、そしたらば予定通りの水準で再度交渉を行う。

 

 

そうすると相手は要求が下がったと安心し、OKが貰えるというパターンだ。

 

まぁ相手に有利な状況を作らないというのは大事な交渉スキルだ。

 

お?叢雲さん悩んでらっしゃるね?青葉が多少強引にって言うのはここだろう。この辺からはもうアドリブだから適当に。

 

疲れて頭の回転も鈍ってる今がチャンス。

 

「悩むぐらいならさっさと乗った乗った、そらよっ!」

 

叢雲の側まで寄り、ちゃっちゃとおぶる。考える隙も与えないと。

 

「ちょっ!?きゃっ!!」

 

はいはい、初期艦1名様ごあんなーい。って軽っ!?

 

「馬鹿!!さっさと降ろしなさい!!」

 

「まぁまぁ、落ち着けって叢雲さんよ。そんなにバタバタされたんじゃ落ち着いて話も出来ねぇ、OK?」

 

OK!ズドンッ!!とはならない。なったらヤバい。

 

「そんなこといいから早く降ろしなさいって!!」

 

「はぁ〜、ほら、お前にこれやるよ。」

 

ポケットから1枚の紙切れを取り出し、叢雲に差し出す。

 

「は?何よ急に……これって!」

 

「そ、MVP間宮券。執務室に行った時、封筒の中に入ってたからな、それを持ってきたわけよ。

…俺が思う今日のMVPは間違いなくお前だ叢雲。そしてMVPの艦娘が疲れてるって言うなら何か労いをするもんだろ?ならそのまま食堂前までおぶられてろ。労いの足ぐらいは俺がやるわ。」

 

すると観念したのか叢雲は大人しくなった。

 

……で本題の叢雲の弱みを握ろうってのをみんな忘れてるかもしれないから改めて確認するぜ?

 

実はねこの廊下、青葉特製監視カメラが至る所に仕掛けてありまーーーす!!!

 

叢雲さんのあんな表情やこんな表情もバッチリ激写!

 

おんぶしてるから叢雲の顔は見れんので後で青葉に見せてもらって大笑いしてやるぜ叢雲!!

 

 

そんなこんなで歓迎会会場である食堂に到着しましたとさ。

 

あ?叢雲はどうしたって?食堂が近くなったから降ろしてって暴れるから速攻で降ろした。

 

しかも部屋に用があるからと来た道を引き返して行った。

 

なんだよ、それなら自分の部屋の前で降ろしてくれって言えばいいのによ、ゲンコツのやられ損だわ。

 

何はともあれ歓迎会だとよ。

 

「あ、提督、来てくれたんだね。ちょうど準備も終わったところだよ。」

 

「こうちゃーん!!私も準備頑張ったっぽい!!褒めて褒めてーーー!!!」

 

おうおう、早速現れたな犬っぽい事に定評のある二人組。

 

2人まとめてワシャシャシャーーー!と撫で回す。

 

「お、貴方が新しい提督か?」

 

背後からハキハキとした声が聞こえた、新たな艦娘だな?

 

「そうだ、今日この鎮守府に着任した相良航希だ。よろしくな。そんでお前らは…」

 

「戦艦長門だ。今はここの艦娘達をまとめるリーダー的役割をしている。そしてこっちが妹の…」

「戦艦陸奥よ、よろしくね提督。」

 

ほう、あのビッグ7の長門と陸奥か。この存在感、流石と言うべきか。おかげで脱出の難度がまた上がったよこんちくしょう。

 

「長門と陸奥か、提督としてまだまだ未熟者だがよろしく頼むな。」

 

「…新任の提督にはまるで見えんな。落ち着いた物腰、まるでいくつもの修羅場を潜り抜けてきた奴の目だ期待してるぞ、提督。」

 

 

いくつもの修羅場を潜り抜けてきた…そうだな会社を100社も受けてきたからな。落ち着いた物腰ってのも数々の圧迫面接で鍛えられてきたのよ。ある意味修羅の道でしょ100社も受けてるのって。

 

すると長門は手を差し出してきた。あぁ、握手ね。

 

「あ、提督ちょっと待っ」

 

ギリギリギリッ!!!

 

ぐぁぁぁぁーーーッ!!!手がッ!!手がァァァァーーーッ!!!こ、コイツ…握力ゴリラかよ!?

 

名前ゴ級戦艦長門に改名しろ!!!

 

「長門あなたねぇ、自分の力を考えなさいよ。前任の提督の時もそれやったじゃない……。」

 

「すっ、すまん提督!」

 

流石脳筋……ビッグ7の名前は伊達じゃない……。

 

そして時雨、うずくまってる俺を心配して背中をさすってくれるのはありがたいんだけどな、気持ち悪いわけでも咳き込んでる訳でもないんだ。ただ腕がもげそうなぐらい痛いんだわ……。

 

「い、いや長門大丈夫だ……。」

 

「し、しかし提督!まるで足が産まれたての子鹿のようにガクガクと……ッ!!」

 

「うるせぇーーー!!!武者震いってんだよ!!!」

 

ーーーーーーーーーーーー

 

 

まぁそんなこんなあったけど俺の歓迎会が始まった。

 

机の上には美味しそうな料理がずらりと並んでいる。

 

駆逐艦達が美味しそうと目を輝かせているのが微笑ましい。

 

対して大型艦の一部は酒と美味い飯を目の前に、食べ物を取られまいとお互いに牽制し合ってるというカオスな空間と化した。正直怖いわ。

 

席としては、①駆逐艦と潜水艦14名グループ、②駆逐艦と潜水艦14名グループ、③軽巡10名グループ、④重巡、軽空母、正規空母、戦艦ごちゃ混ぜ+明石、⑤④と同じと言った席順だ。

 

間宮、伊良湖らは「皆さんよく食べられるので、私達も後から合流させて頂きますね!」との事。ほんとありがとうございます。

 

「提督も座ってくれ、主役が居なきゃ始まらんぞ。」と長門にも言われたのでどっか座ろう。

さて、俺はどこに座ろうかな〜と辺りを見渡すとわぉびっくり、視線がたくさん集まっている。

 

一部謎の威圧感を放つやつ以外、俺がどこに座るか気になっているようだ。

 

……まぁまずは駆逐艦グループから回って行くかな。

 

いやだって、あからさまに向こうやべーもん。特に何よあの正規食う母、気合が違うわやべーよ絶対。

 

ほとぼりが冷めたあたりに顔を出そう。

 

という訳で駆逐艦席にお邪魔します。

 

「ここはこの長門が進行役を務めよう。それでは主役も席に着いたことだし、そろそろ歓迎会を始めようか。まずはこの舞鶴第2鎮守府に着任した相良提督に一言頂こうと思う。では提督、一言頼む。」

 

イェーーーイ!!!来てくれてありがとうーーー!!!みんな、今日は盛り上がって行こうぜぇぇぇーーー!!!みたいなライブのノリで行く訳には行かないので真面目に行こう。大学の飲み会みたいな感じで?ははっ、知らんな。

 

「いま長門から紹介に預かった相良航希だ。

 つっても俺を知ってる奴もちらほら居るようで

 かなり安心したよ。知らない所は不安でな。けど

 にぎやかな鎮守府のようで楽しみだ。俺も

  げんき良く皆と共にやっていけそうだ。

 るいは友を呼ぶと言うしこれも何かの縁だろう。

 けっかは大事だが君達に無理はして欲しくない。

 どんな些細なことでも俺に言ってくれ。

 よろしく頼む。以上だ。」

 

拍手ありがとう〜!!メッセージは残したからほんとに頼むよ。マジでいつかやるからな俺は。淀姉さんなんざ怖かねぇ!!!L字になんて読むなよ?

 

「相良提督、ありがとう。提督は各テーブルを適当に回っていってくれ。話したい奴はその時に話しかけるといい。まだ話す事があったけどもう赤城を押さえてられそうにないから……乾杯!!」

 

乾杯ーーー!!!

 

……うぶぶ、なんか寒気が……気の所為か?

 

こうして賑やかな歓迎会が始まったのだった……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーー

 

「ふぅ、こっちでの仕事も片付けましたし、寮の荷物もまとめたと。忘れ物は…無さそうですね。」

 

寮のベランダで春の暖かな夜風を浴びながら一息つく。

 

急な転勤願いだったし大本営や元帥…もとい、お父さんには本当に迷惑をかけたと思う。幸い、お父さんも快く(力)了承してくれて助かりました。

 

彼にも私がそちらに行くことを連絡しておきましょうか。そして連絡したことで脱走する可能性があるので叢雲さん達にも連絡しておいて…これでよしと。

 

さて、今から移動すれば明日の朝には向こうに着くでしょうしそろそろ行きましょうか。

 

また彼と過ごせると思うと楽しみだなぁ〜!

 

「……待っててねこうちゃん、もうすぐ行くからね?」

 

 

 

 

 

 




ポジティブな言葉で褒めてくる淀姉さん〜

頼んでもないのにやたら提督職推す〜

俺はもう十分頑張っているのだけど〜

知らない間に急かされてる

提督になれと迫られ〜

今のま〜まじゃだめかい?

脱出は早足でなきゃ〜

「一体、どちらに行かれるのでしょうか?て・い・と・く・さん?」

……壮大な旅のと〜ちゅうぎゃああああぁぁぁーーー!!!


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就活戦争9日目

歓迎会、舞鶴第2鎮守府メンバーを紹介しようとしたらなかなか字数行くことが分かったので前半後半で分けることにしました。

急に忙しくなるのはNG

話書くにも書けないじゃない。

前回のネクタイ関連で話すけどネクタイの結び方知らない奴、今のうちに練習しとけよ!!

朝早い時もあるからネクタイに時間はいつまでも割いてられないぞ!!

動画見るなり人に聞くなりで練習だ!!!




そんなこんなで始まった歓迎会、俺はまず駆逐艦達のグループと共に食べる事になった。

 

隣の席には時雨と叢雲…となるとちかくに座ってる同じ制服の奴らは吹雪型と白露型の奴らか。

 

「悪いな、急に入ってきちまって。改めて、ここで提督をやる事になった相良航希だ、よろしくな!」

 

「はいはい!!私はしらムグゥ!!」

 

「あーーー!!!夕立も喋りムグゥ!!」

 

「待って白露、提督は僕達の事を知ってるから後で…」

 

「夕立ももう少し待っててね。」

 

そうだよ、お前らの事は知ってるよ。1番になりたくてしょうがないやつのことも…。犬みたいにブンブンしてるお前も…。

 

「そして色々すまんな」

 

「あ、いえいえ!私達も司令官とお話ししてみたかったですから!!」

 

「まずは自己紹介しなさいよ吹雪。」

 

叢雲に肘で小突かれ、わたわたと慌てるコイツは吹雪か。んーーー田舎に住んでる親戚の中学生って感じ?

おいもの民?なんじゃいそりゃ。

 

 

「じゃーご主人様にもわかりやすいように姉妹艦ずつでやりましょーか。てなわけで吹雪さんからオナシャス。」

 

ピンク髪でうさぎの髪留めしてる子から提案。

 

ん?なんか聞いたことある言葉。まぁそんなのどうでもいいか。とりあえずそうしてくれ、一部目つき悪い初期艦様とか、やたらクソクソ言ってくる奴とか何人かは学校同じだったから知ってるけど後は分からなくてな。

 

「それでは私達、吹雪型から行きます!私は吹雪型1番吹雪です!よろしくお願いします司令官!…ほら、次叢雲ちゃん。」

 

「えぇ〜?私自己紹介いる?」

 

「何言ってるの!?初めて会ったら挨拶するのは基本でしょ!!しかも司令官に挨拶しないなんてそんなこと駄目に決まってるじゃない!!」

おぉ、吹雪があの叢雲にお姉さんらしく振舞おうとしてるぞ!頑張れ!!一泡吹かせ!!でもな……

 

「いや、学校同じだったから初対面じゃないし……。なんならさっきまで鎮守府案内してたのも私よ。」

 

「え?え!?嘘!?……司令官、そうなんですか?」

 

「え…あ、うん。」

 

聞いてたから知ってるけど、うん、確かにそうだわ。

The慌ただしい子だな吹雪。

 

「そんなっ!?あんまりですっ!!」

 

「えぇ〜。」

 

なんで中破ボイスが流れるのさ…あぁ、メンタル中破ね。

 

「叢雲、何とかしろ。」

 

「無理。……はぁ、吹雪型5番艦叢雲よ。改めてよろしく。ほら吹雪、おいもよ。好きでしょ?」

 

もくもくとおいもを頬ばる吹雪、なんかリスみたい。

 

というか口の中の水分無くならないそれ。

 

「んじゃー私か!吹雪型4番艦深雪、よろしくな!!」

 

ほいほいこれまた元気いっぱいな子が出てきたな。

 

元気良過ぎて、電辺りとぶつからないように気を付けるんだぞ。

 

特Ⅰの子も次でラスト……って、寝てるだと!?

 

このガヤガヤ賑やかな場所でも寝るとはコイツ……出来るッ!!

 

どこでも寝れるって重要なスキルだよなー。

 

俺、夜行バスとかどうしても寝れないから…。

 

なお腰もしくは尻がしぬ。

 

「ほら初雪、起きなさい。あんたの番よ!」

 

ムクっと起き上がると一言、「初雪……です……よろしく。」そして思い出したかのようにご飯を食べ始めた。

 

「初雪はほんとよく寝るよな〜。逆に疲れないか?」

 

深雪が言うことも最もだが分からなくもない。

 

俺も正直布団に入って引きこもりたい。

 

「……布団と飲み物食べ物、本とゲームがあれば私は生きていけるから……。」

 

……今なんと言った?

 

「……初雪。」

 

初めて会う司令官から声をかけられ予想していなかったのか初雪はビクッとし、恐る恐る「…な、何?」と聞き返す。

 

「……モリオカートのタイム。」

 

「……大体1分30ぐらいには完走。」

「スモブラは何使い。」

 

「ゴンキーかリョウ。」

 

「「………グッ!!」」

 

しばらく無言のまま見つめ合い、お互いサムズアップしていた。

 

目を見ればわかる、コイツはなかなかの猛者だ。

 

「アンタ達、茶番も程々にして次にバトンを回しなさいよ。」

 

あ、いっけねいっけね!

 

ゲーマーを見つけるとついついね……。

 

「じゃー次は私達ですねご主人様!私は綾波型9番艦、漣です!!ご主人様にはメシウマな展開を期待してます!」

 

おーおーキャラの濃い奴だなぁ。艦娘の口からご主人様とかメシウマとか聞けると思わなかったわ。

「アタシは7番艦の朧、これからよろしくね提督。」

 

ショートボブの子が朧か。カニの髪留め……え、あれ本当に髪留め?動いてない?生きてない?リアルなやつじゃない?

 

「わ、私…10番艦の潮です…っ!も、もう下がってもよろしいでしょうか…?」

 

この子が潮か。大人しい感じというかおっかなびっくりというか。

潮さんや、今下がったら夕飯が食べられなくなってしまうぜ……。

 

そしてラストが……

 

「………。」

 

目と目が逢う〜瞬間寒〜けが〜

 

あらヤダ奥さん、めっちゃ睨まれてる……。

 

「……はぁ、まさかあのクソ候補生がクソ提督になるとはね……。まぁいいわ、綾波型8番艦、曙よ!とりあえずこっち見んな!このクソ提督!!」

 

わーい、クソ候補生からクソ提督にランクアップしたぞ〜。

 

………はい、海軍学校からの知り合い、曙こと早坂明乃(はやさかあけの)さんで〜す。

 

ん?中の人?はてさて、なんのことやら。

 

この流れるように出てくるクソ呼び、ふぅ〜何も言えねぇ〜!!

 

「ぼのぼのちゃん、いくらなんでもこっち見んなは酷ってものよ。」

 

「そうよ、ぼのぼの。」

 

「ぼのぼの、提督と知り合いなのか〜!」

 

「ぼのぼの言うな!!!」

 

「なんだよお堅いな〜ぼのぼの。同じ学校のよしみで俺はOKでしょ?」

 

「そこのクソ提督は後で張り倒すから覚悟してなさい。」

 

ひぇ……。なんで俺だけ……。

 

やっぱりぼのたんは恐ろしいわ……。

 

「あはは……じゃあ私達ね!海のスナイパー伊168よ!!イムヤって呼んでね!」

 

「提督、Guten Abend、伊8です。はっちゃんってよんでね。」

 

 

潜水艦の2人か、もう2人は隣のテーブルにいるのね。

 

しっかり者感あるのがイムヤでドイツ語の方がはっちゃんね。

 

一瞬、海外艦までいるのマジかよ!?とか思ったけど国内艦の方でしたかはっちゃん。

 

「じゃあ最後は僕達だね、ほら白露、出番だよ?」

 

「……1番じゃない私なんて……。」

 

「白露変な所で面倒くさいわね…白露型で一番乗りしないなら私からやるわよ?」

「んーーー!!!白露型の1番は私なんだからぁーーー!!!白露型1番艦白露です!!白露型一番乗りぃぃぃ〜〜!!!」

 

あーはいはい、わかったわかった!!お前は一番だよ!!!今騒々しいやつだけどな!!!

 

「白露型4番艦夕立!!頑張るっぽい!!あーーー!!!白露それ私の狙ってた唐揚げっぽい!!!」

 

よーしよしよし、お前達はもうめんどくせぇからご飯食べてような〜!!美味いか?おーそうかそうか美味いよな、間宮ご飯ほんま美味いわ…何だか泣けてくる…。

 

「じゃあ私ね、白露型3番艦村雨。村雨の良いところ、見ててよね?」

 

んーーーなんかおかしいよなぁ、この子が1番お姉さん感出してるんだよなぁ?村雨1番、時雨2番、白露3番じゃねぇの?ホントに。

 

「僕の2番は変わらないんだね?」

 

「お前は一部危ない思考があるけど基本的にはしっかり者の次女って感じだから…というか心の中と会話すんな。」

 

「……ふーん、危ない思考って何かな?かな?」

 

やめろやめろハイライトを消すな。そしてナタ持ち少女の口癖もやめろ。雛〇沢の恐怖を思い出させるな。

 

ほんとお前がいつか淀姉さんのような恐ろしさを持つんじゃないかとビクビクしてんだよこちとら……。

 

「…僕は相良君がもっと構ってくれたらそれでいいんだよ…僕の事を見ててくれれば…今は我慢してるけど、我慢出来なくなったら、僕は……」

え?何怖い。最初の方ボソボソいってたから聞き取れなかったけど何?我慢出来なくなったら……?何我慢してんの?トイレだよね?その目のハイライト無いのはお腹痛いからだよね?

 

「ほら、時雨姉さん。自己紹介自己紹介。」

 

あ、目にハイライト戻った。村雨ナーイス!!

 

「おっと、ごめんね。僕の名前は時雨。よろしく提督…僕の事が知りたいのかい?いいよ、なんでも聞いてよ。」

 

……………怖えーーーよッ!!!「なんでも聞いてよ。」の所でまたハイライト消すなよ!!!聞けるわけねーだろうが!!!「さっきなんて言ってたの?」なんて迂闊に聞いたら最後俺はしぬ。

 

「…はははお前の事は割と知ってるから何かあった時に聞くよ、じゃ、じゃあそろそろ隣のテーブルに行かなきゃ行けないからみんな、これからよろしくお願いしま〜す……。」

 

「え〜〜〜もう行っちゃうんですかぁ〜?」

 

「司令官が初期艦に叢雲ちゃん選んだ理由とか聞いてみたかったです!」

 

「それ僕も気になるなぁ…。」

 

「吹雪、余計なこと言わないで。とりあえず時雨、アンタ目が怖いからこっち見んな。」

 

おーおー怖い怖い。こんな時は逃げるが最良。伊達に淀姉さんから生き延びてきてないぜ。

 

俺はそそくさと席を立ち、隣のテーブルへ移る。

 

「お、来たわね提督!!さ、座って座って!!」

 

お、こっちの席は明るい雰囲気で……いや、なんか2人ぐらいこっちにガン飛ばしてる奴がいるわ。

 

流石にここから軽巡テーブルに方向転換出来ないから諦めて座るか……というかここで方向転換したら後でアイツらから問い詰められる気がしてならない……。

 

「あー、じゃあお言葉に甘えて……」

 

あー気まずい、ただ2人を除いて他の奴らはウェルカム雰囲気なのにその2人の威圧感が凄い。

 

「司令官は何飲む?……司令?」

 

まるでヘビに睨まれたカエル……動けばどうなるか…

 

「おーい!司令ったら!!」

 

ん?なん…うごぉぉぉ!!??

 

「やーっとこっち向いたよ。大丈夫?」

 

いやいやいや、首が無くなるかと思ったわ。

 

艦娘のパワー忘れんといて。

 

「いや、すまんな。ちょっと考え事を……。」

 

「こんな時まで考え事なんて良くないわよ?私は陽炎型1番艦陽炎。司令官、よろしくね!それでこの子達が…」

 

「…2番艦、不知火です。ご指導ご鞭撻、よろしくお願いします。司令。」

 

「アンタが新しい司令はんかぁ、うちは3番艦黒潮や!よろしゅうな!」

 

「13番艦浜風です。どうぞよろしくお願いします。」

クール娘と関西弁娘そしてマ〇ュか……ん?1人人理修復中の方いませんでした?

 

「おうよろしくな、相良航希だ。お前達陽炎型の働きにも期待してるぞ。」

 

「私達は自己紹介は必要かしら?」

 

「さっき自己紹介したばかりだから大丈夫だとおもうのです。」

 

「…とりあえずもう1回名前言っておこうか。」

 

「じゃあ、暁!…響。雷!電なのです!」

 

「おーおーお前達も改めてよろしくな!」

 

わーわーと子供達に囲まれてるとまるで先生になった気分だぜ。

 

「んじゃ私達でちね、私は伊58。ごーやって呼んで欲しいでち!」

 

「伊19!いくなの!!よろしくなの!!」

 

ウチの潜水艦達はキャラが濃いなぁ〜というか、キャラが濃くないのがいなくてキャラが濃いかめっちゃ濃いかってことなんだろうな。

 

「では私達ですね!朝潮型1番艦朝潮です!お久しぶりです相良提督!よろしくお願いします!」

朝潮、久しぶりだな。

 

「駆逐艦、大潮です~! 小さな体に大きな魚雷! お任せください!」

特徴的な帽子、元気っ子枠だな。そしてここからが恐怖!

 

「久しぶりね相良……。」

 

「あなた私達から逃げるように隣のテーブルに行ったわね……?」

 

いやぁ、そんな事は……。向こうにも曙居たし、たまたま……

 

「「言い訳しない!!!」」

 

「いや言ってないじゃん!!!言葉に出てないじゃん!!!」

 

「いーや、顔にそう書いてあったわ!!」

 

コイツらに心の中読まれるのが1番辛いわもう。

 

「とりあえず満潮、霞、あなた達も自己紹介しなさい。」

 

朝潮もっと強く言ってあげて!!というか助けて!!

 

「…3番艦満潮よ。私、なんでこんな部隊に配属されたのかしら?アンタ、司令官としてもっとしっかりしなさい!!」

 

「10番艦霞よ、私が秘書艦になったらガンガンシゴいて行くから覚悟してなさい!クズ司令!!」

 

大月満智留(おおつきみちる)と北条華澄(ほうじょうかすみ)が2人の本名。

 

……大学の時コイツらと組んで模擬戦した時は怖かったなぁ〜。ちょっとミスしたらもう罵倒の嵐だった。

 

だが俺も成長してるってところを見せないとな!!

 

宝船でバイトしてた俺には新たなスキルがある!!

 

それは……

 

心を無にして営業スマイルと営業トークさらにクレーム対応!!!

 

「そうだな、満潮や霞の言う通り俺が不甲斐ないばっかりに不安にさせてしまってたんだな。」

 

「そうよ!今のアンタに司令官なんて務まるわけないじゃない!!」

 

「全く、惨めよね!!」

 

無心だ無心。

 

「だけど満潮や霞がいるんだろう?俺がダメだと思うなら言ってくれ、お前達が納得出来るような司令官になれるように努力するからさ。」

 

「ふん、どうだか…すぐに投げ出すんでしょう?」

正直、めっちゃ投げたしたい。

 

「まぁ俺も提督をやるのは不安だったけとな、でも満潮や霞がいるから安心してるよ。叱ってくれるのはお前達ぐらいしか居ないからな。」

 

営業トークで大事なのは笑顔で相手を立てる事これ重要。

 

まぁでも叱ってくるやつかなりいるんだけどな。

 

初期艦様とか初期艦様とか初期艦様とかね。

「どうせ私達の事なんか口うるさい奴らって思ってるんでしょ!!このクズ司令!!」

「いやいやそんな事ないさ、間違ってると思う事を正直に言うってなかなか出来ないもんよ。だからもし、作戦なんかで悩ましい問題とかあった時はお前達に意見を聞きたい、その時は頼むぞ。勿論戦闘でも期待してる。これからよろしくな!」

 

最後は1番良い笑顔をする。これほんと大事よ?マジで。とりあえず笑顔をつくれ。

 

「……なんかやりづらいわね。」

 

「学校の頃こんな感じだったかしら……?」

 

「笑った時とかちょっと良かったし…」

 

「満潮アンタ…ププ!そういうことだったの!」

 

「バッ!馬鹿じゃないの!?そういう霞こそ、耳真っ赤にしちゃってさ!!あ〜ら恥ずかしい!!」

 

「なにを〜〜!!!」

 

あー、やっぱり営業スマイルは疲れるわぁ〜。あ?何?

姉妹喧嘩中?ラッキー!!今のうちに逃げるべ!!

 

こうして俺はさっさと軽巡席に逃げ込むのだった。

 

「こうちゃん来たみたいだね〜。ここ座んなよ。」

 

「北上さんの隣は渡しませんからね!」

 

「お、ウワサの提督クマ?ほら多摩、もうちょい詰めるクマ。」

 

北上と語尾が特徴的な艦娘の間に座らせてもらう。

 

もし大井と北上の間に座ったら大井がどうなるか分かったもんじゃない。

 

「こうちゃん何飲む?ビールは無いけどサワーとかカシスならあるよ〜。」

 

「ん〜ならレモンサワーで。」

 

「はいよ〜。」

 

北上にレモンサワーを任せ、料理に箸をつける。

 

「そんで、アンタが提督クマね。私は球磨型1番艦の球磨だクマ。よろしクマ。」

 

まぁだろうなと思ってたけど北上や大井のねーちゃんに当たる艦娘球磨だ。

 

決してペルソナ関係では無い。

 

「2番艦の多摩にゃ。お近づきの印に提督のイカ刺は貰っていくにゃ。」

 

うーんこの2人、なんともクマとネコっぽい。この鎮守府は犬っぽいのも入ればクマもネコもいる。

 

「…ってお近づきの印にイカ刺くれるんじゃなくて持ってくんかい!!」

というかお前イカ食べちゃダメだろうが!!!

 

「多摩はネコじゃないにゃ!」

 

いやもうネコだ。お前のキャラはネコで確定した!!

 

「はいこうちゃんレモンサワー。」

 

「おぉあんがと。」

 

さてレモンサワーひと口うぼぉ!何これめっちゃ濃いですけど……

 

「うっははは!!こうちゃん顔やばいよ?何飲んだのさ?」

 

「おめぇが作ったどちゃクソ濃いレモンサワーだよ!やってくれたなこんちくしょう!」

 

イタズラ大好き北上様に作らせた俺が間違いだったわ。

 

「おーおー提督も姉さん達の洗礼を受けたか。そいつは災難だったな。」

 

眼帯イケメン系女子?女子っていうかマジでイケメン男子にも見える。

 

「俺は5番艦の木曾ってんだ、よろしくな提督。俺を使えばお前に最高の勝利を与えてやるよ!」

 

はーなにこのイケメンカッコよすぎんだろ。一般の女子高とかだったらモテモテだろうな。

 

「生意気な末っ子だクマ、北上〜レモンサワー。」

 

「はいよ〜。」

 

「うげ!嘘だろ姉さん達…俺はもう飲んでるじゃねぇか!!」

 

「ハッハッハ!!残念だったな木曾、ほら頑張って飲めよ!…よう提督、飲んで食べてるか?間宮の作る飯は美味いからじゃんじゃん食えよ?」

 

「北上〜レモンサワー追加〜。天龍の分だクマ。」

 

「…お、おうってことだ。俺はいいから提督飲んでくれよ。」

 

「天龍ちゃ〜ん?煽ったからには責任もって飲まないと〜。」

 

そうだよ、責任持て。そもそも俺まだほぼ丸々1杯残ってんのに飲めるわけねぇだろ。

 

「おーい、提督〜こっち来て話そうよ〜!」

 

「那珂ちゃんもお話聞きたいな!キャハ!」

 

お呼ばれしたので席を立ち、大井と呼んできた艦娘の間に座ろうとする俺。

 

「なんで私の隣に座るんですか!!」

 

「別にいいだろそれぐらい…北上とお前の間にすわるわけじゃないんだから……。まぁいいけどよ、したらすまんちょっと間座らせてくれ。」

 

「……ッ!!す、座るなとは言ってません!…でも今回だけですからね!!」

 

なんなんだよコイツは…なら最初から座らせてくれよな。

 

「大井も素直じゃないねぇ〜「なんです川内?」いやなんでもない…私は川内型1番艦川内ね、夜戦があるなら私の事絶対に呼んでよね!!というかこれから夜戦行かせてくれてもいいんだよ!!」

 

夜戦大好き川内ね、そんで次が……

 

「2番艦神通と申します。以後お見知りおきを。」

 

うちの鎮守府は長女より、次女がしっかり者になる傾向が強いな。

 

そして最後が「艦隊のアイドル、3番那珂ちゃんだよ〜!!盛り上げていくからよろしくね!!プロデューサー!!」

 

俺はプロデューサーだったかな?提督もプロデューサーもマスターも大変そうだわ。

 

「あ〜〜こうちゃん、私が作ったレモンサワーまだ飲んでないね?」

 

「なぬっ!それは聞き捨てならないクマ。」

 

「多摩も飲んだにゃ!!早くグラスを空けるにゃ!」

 

うわ、めんどくせぇ…。なんだよこの大学みたいなノリ……。あ、コイツらも大学出てたわ。

 

「そうですよ提督、せっかく北上さんが作ってくれたものを飲めないわけないですよね〜?」

 

「…分かった。飲もう。」

 

このノリ俺嫌なんだよな〜、酒は美味しく飲みたくない?俺はそうしたい。

 

「そう言えば、まだ大井も飲んでなかったクマ。北上〜レモンサワー。」

 

「おぉ〜いいねぇ!大井っちの為ならスペシャルなレモンサワー作ってあげなきゃねぇ〜!」

 

「2人共一気クマ〜!!」

 

「お?2人共気合い入ってなぁ!」

 

「なら天龍ちゃんも一緒にやる〜?」

 

「い、いや、俺は結構だ……。」

 

いつもすまし顔の大井の顔が固まるのを俺は横目で見た。

 

あ〜あ、墓穴掘ったな。黙ってれば生き残れたものを…

 

早速北上が製造したえらく濃いレモンサワーが大井の元へと運ばれてきた。

 

飲んだ事はあるのだろう、しかしそれを飲むのは割と勇気がいる。

 

そして大井の事だ。大好きな北上さんが作ってくれた飲み物を飲まない訳にはいかない、しかしこれは飲みたくないという葛藤に悩まされているののだろう。

 

………。はぁ〜

 

「おい、大井そのレモンサワー寄越せ。」

 

「…え?」

 

「俺はこんな炭酸の抜けて氷でアルコールの薄まったレモンサワーなんて不味くて飲めそうにない。だからお前の新しいレモンサワーと俺のレモンサワーを交換してくれ。」

 

「て、提督……。でも…」

 

「早く寄越せ、じゃないと一気コールが始まるぞ。」

 

半ば強引に大井のレモンサワーを貰い、俺の炭酸も抜けアルコールの薄まった飲みかけ(まぁ言うてひと口)を大井に押し付ける。

 

ん?なんかコイツ顔赤いな、これ飲む前から酔ってんの?

 

「はい!いーっき!!いーっき!!」

そして始まってしまった一気コール

諦めて飲むしかない。

 

俺と大井は北上特製レモンサワーを一気に煽った。

 

新しいって事はどういう事かみんな分かるだろう。

 

アルコールは薄まって無く、炭酸もバッチリだ。そんなもの飲めば……

 

「うぼぉげぇぇぇ!!!めっちゃ濃い!!!というか喉が!!喉が痛てぇぇぇぇーーー!!!」

 

こうして軽巡テーブルをクリアしたい俺だった。




Hey 淀姉さん気づいてるのかい?

床に落ちた〜その白い灰は〜

俺が憂さ晴らしで全部燃やした偽の契約書だ

「反抗的な態度が見られるのでお仕置きですね!」

やめろぉぉぉ突っ込んで来るなぁぁぁーーー!!!

淀姉さんお得意のスピアーが俺の溝尾にぐぇふ!!!


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就活戦争10日目

はいすいません、歓迎会さらに伸びることが確定しました。この次で歓迎会は終わらせれると思うのでもう少しお付き合い願います。

最初っから70名も出演予定させるべきじゃなかったか…?

まぁでもやっちまったもんなんで推して参る。

飲み会ね、飲みすぎるのも飲ませすぎるのも良くないぜ!!

後々大変なのは自分だからな!!!飲み過ぎの次の日は死にそうになるし、飲ませすぎたら介抱するのもだるいし!!吐かれたりしたら目もあてられないぞ!!!

お酒はほどほどに楽しくな!!


軽巡テーブルからも逃げるように避難してきた俺は軽空母〜戦艦テーブルでも比較的安全そうなテーブルにやって来ていた。

 

「お、来たな提督!こっちに座るといい。」

 

早速長門から声をかけられ、長門が空けてくれた空間に腰を下ろす。

 

「挨拶回り、大変そうじゃないか?ウチの鎮守府は濃い面子ばかりだからな。まぁ飲兵衛達は隣のテーブルに行き、巻き込まれたくない奴らはこっちに流れてきて席が入れ替えになったからそんなにやかましくはならないと思うから安心してくれ。」

 

非常に、ひじょ〜に大変ですね。はい。

 

「そいつは助かるけど長門はいいのか?」

 

「ん?何がだ?」

 

「お前も向こうで酒を飲んでる陸奥みたいに飲みたいだろ?あ、やっぱリーダーになるとベロベロに酔うのはまずいか。」

 

 

「あぁ、そういう事か。確かにそれもあるんだが、恥ずかしい事に私は下戸でな…酒は弱いんだ。気持ちだけ受け取っておくよ。だから提督は私のことは気にせず飲んでくれ。」

 

あー確かにこの見た目で!?って言われてきたんだろうな。

 

北上にレモンサワー作らせて長門に飲ませたいけど、苦手と言ってる人に無理やり飲ませるのは良くないぜ。

 

理由は色々あるけど最終的にそいつの酔い方がめんどくせぇ奴だった時は自己責任な?マジで。

 

近くにあった徳利とお猪口を取り日本酒を注ぐ。

 

「まぁそりゃ仕方ないってことよ、酒が飲めなくても美味い飯がありゃそれでも話ができるってもんさ。」

 

にしてもこの肉じゃが美味いな。というか何食っても美味いわ。酒ともよく合う!

 

 

「それはそれは、提督のお口に合って良かったです〜!」

 

「頑張った甲斐がありましたねぇ〜!」

 

この鎮守府の女神、間宮、伊良湖ペアが降臨なさったぞぉぉぉーーー!!!

 

「あぁ、最高に美味しいよ間宮さん!伊良湖さ「間宮…です」……間宮!伊良湖!この肉じゃがなんか特に美味しくてどんどん食べれちゃうよ。」

 

…俺の知り合いには笑顔でプレッシャーを出す人がたくさんいるなぁ!!

 

「うふふ、ありがとうございます‪!これからも間宮、伊良湖共々よろしくお願いしますね!」

 

「提督、よろしくお願いします!」

 

はーほんといい人だなこの人達。この美味いご飯が毎日食べられるって考えると提督もアリ……いやいやいや!!!待て待て待て!!!結局仕事は大変だし、やべぇ奴らにも絡まれまくるし脱出は絶対不可避だ!!

 

そう考えるとこの鎮守府で1番やばい人達は間宮、伊良湖なのかもしれないな……。外で下手な飯が食えなくなるかもしれん。

 

「あ、提督。よろしかったらお酒のお代わりはいかがでしょうか?」

 

「お?おーありがとうな、頂くよ。」

 

長門とは反対側の隣に座っていたオッドアイ?の子にお酒を注いでもらった。

 

「ありがとう…それで君は…?」

 

「あ、失礼しました!私、古鷹型1番艦、古鷹と言います。重巡洋艦のいいところ、たくさん知ってもらえると嬉しいです。それでこっちが……もう加古!食事中に居眠りしないの!ほら、提督来てるから挨拶して。」

 

「ん?んーーー、あん?提督が来てる?おっと、そいつはいけねぇ!古鷹の妹、2番艦加古ってんだ。よっろしくぅー!!」

しっかり者の姉が古鷹、活発系居眠りの妹加古ね。

 

古鷹は問題なさそうだけど加古はアホの子属性持ってそうだ。秘書艦向きでは無さそう。

 

こういう子はあれだな、いざ事務仕事とかさせてみると予想通りやってなくて、見かねたしっかり者のお姉さんがやってるって言う想像が頭の中に広がってる。

 

まぁでも戦闘面では活躍してくれそうだ。

 

あれやこれやとたわいもない話を古鷹達としていると声をかけられた。

 

「Hi!テートク!古鷹、ワタシ達もそろそろテートクとお話ししたいネ!というわけでテートクを借りていってもOK?」

 

なんとも面白い話し方をする子だ、帰国子女的なやつか?扶桑、山城とはまた違った改造巫女服のような衣装ね。そして俺はものじゃないぞ!

 

「あ、金剛さん。ごめんなさい、ついつい話し込んじゃいました。提督もすみません、まだまだ回らないといけないのに引き止めてしまって…。」

 

「いやいや、俺も古鷹や加古と色々話せて良かったよ。2人共、また今度ゆっくり話そう……ってコイツはもう寝てるのか……。」

 

思わず苦笑いしてしまう俺だった。

 

古鷹は慌てて加古を起こそうとするが俺は古鷹を止め、席を立つ。

 

コイツも苦労してんなぁ……やっぱり癖のある姉妹兄弟を持つと大変だぜ。

 

「じゃあ古鷹、今日は楽しかったよ。これからよろしくな。あ、加古の事、頼んだぞ。」

 

挨拶もほどほどに「テートク!こっちネ!」と彼女に引っ張られるようにして移動した。

 

「あ、お姉様!!」

 

「提督もようこそいらっしゃいました!」

 

「紅茶もいい頃合ですのでどうぞお掛けになって下さい。」

 

あっちゅーまに席に座らされて目の前には紅茶とパンやらローストビーフやら、これまた美味しそうな料理が用意された。

 

「では改めて自己紹介ネ〜!ワタシは英国からの帰国子女、高速戦艦金剛型1番艦の金剛デース!ワタシから目を離しちゃノーノーですヨ!」

 

「司令!!私は2番艦の比叡です!!気合い!!入れて!!行きます!!」

 

「3番艦、榛名です!よろしくお願いします提督!」

 

「マイクチェック…よし、4番艦の霧島です!さて、司令のデータはどれほどのものか、見物ですね!」

 

うん、これまた面子が濃いわ。いや、悪い意味じゃないよ?今回は。

まず金剛、帰国子女だしあの喋り方、ガンガンアピールしてくる所とかインパクトでしかない。そして長女として妹達を大切にしてるってのもよく分かる。

 

次に比叡、まぁうん。元気ハツラツ、ファイトォォォーーー!!!いっぱぁぁぁーーーつ!!!って感じが凄い。そしてお姉様大好きなんだねもうありありと分かるよ。この子もアホの子属性ですね確信。

そして榛名、清楚系女子の代表。純粋でちょっと箱入り娘っぽい所ありそうだよね。新参ホイホイ?ダークホース?

何言ってるのか俺もちょっとよく分からない。

最後は霧島、コイツ見た時はちょっとドキッとしたよ。

あぁ、恋とか愛とかそんなんじゃねぇぜ?分かるだろ?あのインテリっぽい雰囲気、もうちょい黒く染めて髪伸ばして服着させれば淀姉さんの出来上がりだ。

なんだって?バスターx3アーツⅹ1クイック×1の脳筋?

 

宝具もバスター?ハハッ、怖くなってきたよ。

 

まぁ何がともあれこれだけインパクトのあるコイツらを忘れる事は難しいだろう。

 

しかも高速戦艦、速力もあれば火力もある。……脱出難度が上がる上がる。

 

まぁ結局の所難度が上がってもバレなきゃ余裕なんスよ。某ステルスゲーの3みたくワニの被り物に松明装備して煽りながら脱出してやるぜ。淀姉さんの居ない鎮守府なんてまぁ軽く出てやるわ。

 

これまた金剛達とたわいもない会話を楽しむ俺。

 

やれどこそこの紅茶の茶葉が美味しいとか、英国で食べた鰻のゼリー寄せが凄かっただの、今度三越で服を買いたいとか様々だ。この辺の会話はみんなの想像にお任せしよう。ん?尺の都合だよ尺の。

 

「でもほんとにこの紅茶美味いな…。」

 

酒やら油っこいものやら食べたから小休憩にはちょうどいい。

 

「やったネ!」

 

「お姉様の入れた紅茶が1番美味しいです!!」

「流石お姉様!」

 

確かに今まで飲んだ紅茶の中で1番美味かったと思う。

 

「そうソウ、今度テートクも私達のtea timeに招待するネー!その時には紅茶に合うお菓子も用意するヨ!」

 

「司令司令!!私も今度比叡特製カレーを作ってくるので食べて下さいね!!」

 

「おう!どっちも楽しみにしてるぜ!」

 

ん?なんか一瞬ほかの3人が固まったような気がしたけど…気のせいかな?

「金剛さーん、そろそろ時間だから提督貰ってっていい〜?」

 

「次は私達の時間ですわよ?」

 

「oh......もうそんな時間ですカ〜。もっと話したかったですけど、テートク!今度はtea timeの時にもっとお話ししまショーネ!」

 

「おう、また今度楽しみにしてるよ。」

 

こうして金剛4姉妹と別れた俺は呼びに来た艦娘2人に案内され、さらにテーブルの奥に座る艦娘達の元へ移動してきた。

 

「おーいみんなー、提督来たよ〜。」

 

「さ、提督、こちらに座って下さいまし。」

 

おー、やはり長門が言うように飲みの場としては比較的安全なのが集まってるらしい。激ヤバレモンサワー作ったり、大食い選手権が始まったり、大声でだぁ〜〜はっはっはっ!!!!とかそんな笑い方をするやつもいない。

 

おい明希姉、恥ずかしいからその笑い方やめろ。

 

「じゃーまずは鈴谷から自己紹介ね!最上型3番艦の鈴谷ね!提督、よろしくぅ〜!!」

 

「ごきげんよう提督、わたくしは神戸生まれのお洒落な重巡、4番艦の熊野ですわ。入渠の時は全身エステフルコースでお願いしますね?」

 

ほー、ちょっと意外。この子達制服一緒だから多分と思ってたけど姉妹艦なのね。鈴谷は渋谷にいるJKみたいだし、熊野はどこぞのお嬢様学校出身で鈴谷とは正反対の友達って感じ。

 

それと熊野、入渠の度に全身エステフルコースするとなったらお前の出撃はほぼ無くなると思うぞ……?

 

「提督何飲む?カシオレ?レゲパ?今なら鈴谷が作ってあげるよ〜?」

 

「鈴谷お待ちなさい、提督にそんな庶民的な飲み物は合いませんわ。ここは私がイタリアから取り寄せたヴィンテージワインを…」

 

いや、俺庶民なんで全然飲んでましたよカシオレ。むしろヴィンテージワインとかの方が飲んだことないわ。

 

「えぇ〜〜?そのワインやたら苦いじゃーん?そんなのより鈴谷の作ったカシオレの方が美味しいって〜。」

 

「んまぁ!このワインの美味しさが分からないなんて、鈴谷もまだまだお子様ですわね!」

 

「何を〜〜!!」

 

あ、そうそう。コイツら普通に酒飲んでるけど艦娘候補になると細かい事は省くが年齢制限的なものは全部解除されるんだ。だから飲もうと思えば駆逐艦達でも酒は飲める。まぁ駆逐艦達は元々10代前半だから酒を飲むこと自体無かったからあんま飲んでるやつは居ないな。恐らく酒よりもジュースの方が好きだろう。ハラショーコイツハスバラシイウォッカダ

 

「……提督、どうぞこちらに」

 

鈴谷と熊野が少し荒れだしたからコソッと隣に移動する。

 

「…危ない所でしたね。」

 

「祥鳳姉さん、これ新しいお皿とお箸。提督に渡して。」

 

「ここは静かだったのに…。」

 

「まぁ鈴谷と熊野が喧嘩するなんてしょっちゅうだし気にしない気にしない。相良君何飲む?サワー?日本酒?」

 

「こら瑞鶴、相良さんはもう提督なのだから提督と呼びなさい。…すいません、相良さ…提督。」

コイツらは完全に静かに飲みたい派の奴らだな。

 

そして……

 

「久しぶりだな、瑞季、明日翔。なら日本酒貰おうかな?てかあんまり気にしなくてもいいぞ?別にいつも通り相良で呼んでくれても構わないし。」

 

コイツらは大学同じだった鶴屋姉妹、鶴屋瑞季(つるやみずき)と鶴屋明日翔(つるやあすか)だ。

「おっけー、なら私は今まで通り相良君で呼ぶねー。はい、日本酒。」

 

「それでは次は私の自己紹介ですね、航空母艦大鳳です。飛行甲板まで十分な防御が施されてて、密閉型の格納庫も素敵でしょ?これで流星も烈風も問題ありません。どうぞよろしくお願いします。」

この子が装甲空母の大鳳か、正規空母って割には小柄な奴だな。まぁ真面目そうというかストイックそうなイメージ。装甲空母ってだけあって固そうなまない「提督今邪なこと考えてるでしょ?」…いやなんでもないです。その笑ってない笑顔やめてくださいお願いします。

 

艦娘は直感が働いたり、心の声が聞こえちゃったりするから下手な事考えると抹殺されかねんな…提督辞める名目で寺にでも入門するか?…いや、それはそれで俺には無理そうだな。俺は普通に辞めるぞ淀姉ぇぇぇーーー!!!あかん、石仮面付けて吸血鬼になってしまう。

「それじゃあ次は私達ですね、祥鳳型1番艦の祥鳳です!ちょっと小柄ですけど、ぜひ提督の機動部隊に加えてくださいね?よろしくお願いします!」

 

祥鳳か、凛とした雰囲気の真面目な子だと思う。

 

割烹着に三角巾付けたら可愛ささらに増しそう。

 

何秋刀魚だと?脱出予定あるし秋まで待てないから今度頼むしかないわそりゃ。

 

「私は2番艦の瑞鳳です!軽空母ですが私も戦力になりますよ!提督、あの…卵焼き焼いてきたんだけど…食べりゅ?」

 

食べりゅうううううううううううう!!!!!

 

はっ!?今のは一体……?今の言葉を聞いた途端に勝手に口が動いていた。うっ!?頭が…食べりゅ教…?

 

いかんいかん!こういう沼はまずいんだって!!

 

「あ、あぁ…食べりゅ……頂こう。」

 

ほら、早速言いそうになったよ。大丈夫?卵焼き食べ続けたら食べりゅ教?とやらになってないか心配になってきたよ俺。

 

「お、美味いなこの卵焼き、酒にもよく合うし。」

 

「わっ、ホント?えへへ、よかった〜!あ、提督、私も日本酒飲みたいから入れてもらっても?」

 

え!?お前酒飲むキャラだったのか。小柄だしまだ子供だろうと思ってたけど……もしかして実際は俺と同じぐらいの歳?

 

「お、おう。あ、でもお猪口が無いな。ちょっと向こうから取ってくるか。」

 

「いいですよ提督、提督のお猪口貸して下さい。」

 

「でもこれ俺が口付けたやつ」

 

「気にしない気にしない!」

あ、ひったくられた。さてはコイツ結構酔ってんな?…まぁいいや、酔ってるやつに絡むほど馬鹿な行為は無い。

 

日本酒を注いでやると瑞鳳はゆっくりとしかしひと口で日本酒を飲み干した。

「ぷはぁ!…ふふっ、いつもの倍美味しい!」

 

酒がまわってくると楽しくなってきちゃうんですよね分かります。

 

「あはは…すいません提督、これ新しいお猪口です。」

「お、すまない祥鳳、ありがとうな。」

 

お猪口を取ってきてくれた祥鳳から新たなお猪口受け取り日本酒をを入れてもらう。

 

瑞鳳の卵焼きをひと口食べ、日本酒をひと口…うん、美味い!

 

おつまみ系も充実してて非常に美味しい……ん?祥鳳?

 

「祥鳳、それ俺のお猪口……。」

 

しかし時既に遅し、祥鳳は飲み干したあとだった。

 

「えっ!?嘘!?ごめんなさい提督!!」

 

「いや、いいんだが……祥鳳、新しいお猪口はまだあったか?俺が何個か持ってくるよ。」

 

「実は……それが最後のお猪口で……。」

 

え?もう無いの?そんなにみんな日本酒飲んでたのか…

 

「主に隣の席が沢山使ってて……もう無いんです。」

 

おーい隣の奴らなにしとんねーーーん。

 

グラスは1人1個!!これ大事!!!

「ほら提督、私のお猪口使いなよ。大丈夫、私のって言ってもまだ飲んでないからさ。」

 

大鳳から酒の入ったお猪口を受け取る。クッソ、お猪口無いから仕方ないけど飲み会ではよくあるパターンだ。

 

『お、何?相良グラス無いじゃん。じゃあこれ新しいやつな。大丈夫大丈夫誰が頼んだかわかんないやつだからほら一気一気!!』

 

はーーーあんときめっちゃ飲まされて吐きそうだったしマジで酔った勢いで大迫ぶん殴りそうになった。

 

だが受け取ってしまった以上飲み干さない訳にはいかないので飲み干す。

 

「あ、ごめんなさい提督。それ乾杯の時にひと口飲んでたわ。」

 

………まぁいいけどさ、俺そんなに気にしないやつだからいいけどお前ら女の子とかってこういうの気にするやつじゃないの?

 

艦娘になると性格変わるって言うし、そういう所も寛容になっちゃうのかな?

なんだよ瑞鶴ジロジロ見てきて…なんか君黒いオーラ出てない?気の所為?

 

「あーこのお酒美味しいなー共感者欲しいから相良君も飲んでよねー?」

 

瑞鶴が飲んでいたお猪口をグイグイと押し付けてくる。

 

「え、いや、それこれと同じ酒……」

 

「飲・む・わ・よ・ね?それとも私が入れたお酒は飲めないって?」

 

「……頂きます。」

 

なんだってコイツは不機嫌なんだよ……。

 

とりあえず飲み干すと「よろしい!」と笑顔になった。

 

なんかほんとによく分からない。

 

いやぁもう飲まされたしそろそろ飲みたくない。

 

「ていと……相良さん、私もうこのお酒飲み切れそうに無くて…飲んで頂いても……?」

 

無情にも差し出されるお猪口、翔鶴よ声は申し訳なさそうにしてたけど顔は「勿論私のお酒も飲んでくれますよね?」って書いてあったな。

 

「ちょっと提督〜?何逃げてるし〜。今熊野とどっちのお酒が美味しいか勝負してて提督には審査員してもらうから!勿論鈴谷のカシオレの方が美味しいに決まってるけど〜!」

 

「鈴谷もお子様ですわね!!この芳醇な香り、繊細かつ大胆な味……まぁお子様の鈴谷には分からないものですわね。提督、勿論わたくしのワインの方が美味しいに決まってますわよね?提督のセンスが試されてましてよ?」

 

どんどんと追加される酒酒酒………。

 

長門、このテーブルに座ってるヤツらのどこが比較的マトモな奴らなんだ……今にも潰されそうだわ……。

 




俺が酔い潰れるまで〜話は聞くけど〜

疲れた歓迎会〜独りになりたい〜

隠す〜バレる〜お酒〜追加〜逃げる〜捕まる〜

え?この酒何色?赤?黒?

この席何気辛いよ頭がずっと痛いよ〜

「さがらく〜んわらしのお酒がのめらいって言うのぉ〜?」

「さがらさ〜ん、わたしも〜まだまだのめらすよぉ〜……はれ?さがらさんがさんにん?」

「提督!?鈴谷のカシオレの方が美味しいっしょ!?」

「いーえ!わたくしのワインの方が美味しいに決まってますわ!!」

痛い立ち位置!!!


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就活戦争11日目

はいお疲れ様です、歓迎会この回で終えることが出来ました。

また伸びるんじゃないかとビクビクしながら書いてた。

そしたら8000字超えてた。

5000字ぐらいで収めたいんですがね。

あ、そう言えばこのお話の設定で舞鶴第2鎮守府の全艦娘は70と言いましたが69に変更させていただきます。

ご了承下さい。

そしてお気に入り登録が250を超えました。有難い限りでとても励みになります。読者皆様、どうぞこれからもよろしくお願いします。

就職する前に旅行とか行っとけよ!!あ〜〜ここ行ってみたいな〜とかいう場所あるなら今のうちだ!!
でもとか言わずに行っとけ!!ほんとにな!!!


結局、鈴谷・瑞鶴達の酒は全て飲み切った、というか飲まされた。

 

しかしそれに見合う代償は大きかった。

 

現状を確認しよう。

 

まず1つ、視界がボヤけてきた。

 

2つ、かなり頭が痛い。

 

3つ、まだもう1テーブル残っててかつそこが1番難関だということ。

 

絶望的だ、今俺は少しでも回復を図ろうと間宮が入れてくれた水を飲んで休んでいる。

 

……もう、アイツらの席行かなくてもいいんじゃね?

 

わざわざ激戦区に行かなくても改めて挨拶すればさ、いいんじゃね?ってことよ。

 

という訳で飲み潰れた体でうつ伏せになる。

 

よーし、誰も声掛けてくるなよ?俺はもう潰れてるからな?飲みたくないからな?声かけても反応無いからな?

 

とりあえずこのまま休んで少しでも回復を……

 

まぁ来て欲しくないやつは来て欲しくない時に来るもんで現れたのが…

 

「おーいこうちゃーん!!楽しんでるかーい!?」

 

そう明石(明希姉)だ。

 

神は許しても明石は許さんと申す。

 

頼む向こう行ってくれ…俺はもう死んだんだ!!

 

「んーーー?潰れちゃったかぁ〜。それじゃあ仕方ないなぁ〜。」

 

そうそう、向こうで他の連中と一緒に飲んでこいほら!!

 

「はーーーい!!!提督が酔い潰れてるんで今から提督の昔の恥ずかしい話しまーームグゥ!!」

 

俺は今ある全ての力を使って明石の口を塞ぎ、椅子に座らせた。

 

あはは、なんでもないよ。うんなんでもないからみんなこっち見るな。

 

「こうちゃんやっぱり起きてるじゃない〜。」

 

「飲み疲れたから休んでて何が悪い。」

 

やっぱりこの姉はロクでも無いことばっかやらかすんだから……。というか酒くせぇ!!

 

「いや、休んでていいのよ?こうちゃんの昔話に花を咲かせるだけだからさ!」

 

「ふざけんなこんにゃろう!お前の恥ずかしい昔話暴露すんぞ!!」

 

「ご自由に?私はそこまで気にしないタチだからさ〜」

 

コイツ……酔っ払ってるのと元々の性格が相まって無駄に気が大きくなって余計にめんどくさくなってる。

 

「とりあえず向こうの席行こっか〜!挨拶まだでしょ?」

 

「いや、残りの連中はまたの機会に……。」

正直今日はもう休みたい……。もう疲れたよパトラッシュ……。

 

「ここの提督なんだから挨拶またの機会になんて許されるわけないでしょ〜?それとも……私だけ戻って昔話してきてもいいんだぜぇ〜?」

 

こ、コイツ〜〜!!!うぜぇ〜〜〜!!!もしこのまま帰ったらマジで明石は昔話暴露大会始めるに違いない……。

 

幸い、今の休憩でちょっと回復したし向こうには青葉や飛龍達の知り合いもいる。もしやばかったら助け舟を出してもらおう。

 

「……分かった分かった!!行きますよ!!行きますから!!」

 

「ほいほ〜い!提督さん1名様ご案内〜!!」

 

ズルズルと引きずられながら最も恐れていた飲み席へと連行される俺。

 

あぁ、ドナドナが聞こえてくる。

 

「あら?ようやく提督さんのお出ましね?」

 

「お、遂に来よったな!ウチをどれだけ待たせるんや!はよこっち座りぃや!」

 

あ〜〜〜『勿論飲むよな!?』って連中が勢揃いじゃん。もしくはそいつらに絡まれた犠牲者。

 

分かるのは陸奥、飛龍、蒼龍、青葉の4人だけだ。

 

「隼鷹〜連れてきたよ〜!」

 

「おぉ明石ナーイス!!提督〜やっと来たねぇ〜?私は隼鷹ってんだ!ほら、お猪口持った持った!!パーっと行こうぜパーっとなぁ!!」

 

あぁ、酒くせぇ空間……。座った途端にお猪口持たされてそれに並々……おい、零れてるって!!!

 

「ちょっと隼鷹!零してるわよ!?飲み過ぎだし他の人達にも絡みすぎ!!…すいません提督、このおしぼり使ってください。」

 

「あ、あぁ、ありがとうな…それで君の名前は…?」

 

「あ、すいません!名前は出雲ま…じゃなかった、飛鷹型航空母艦1番艦の飛鷹です!よろしくお願いします提督!」

妹さん随分いい飲みっぷりですね……。

 

おたくも相当姉妹に悩まされてるようで……。

 

自由奔放な家族を持つと誰かが苦労するんだよなぁ。

 

お分かり?明石さんよぉ?

 

「…なんと言うか、お前も苦労してるな飛鷹…まぁなんだ、これからよろしくな。」

 

飛鷹の疲れた苦笑いが今日の苦労を物語っている。

 

きっと俺も似たような顔をしているのだろうな。

 

「なんや飛鷹、しけた顔しよって。酒が足らんとちゃうか?ほら、もっと飲めや!!」

 

「ちょ!龍驤さん!!やめっ!!グホッ!!ゴボゴボ……。」

 

あーーー!!!お客様おやめ下さいお客様ーーー!!!あーーー!!!お客様お客様困ります!!!一升瓶を人の口に突っ込んで飲ませるなんてーーー!!!

 

あ、飛鷹…。一升瓶が口に突っ込まれたまま潰れたか…。お前の事は忘れないぞ、コイツらに酒で記憶飛ばされない限りはな。

 

「ほれ、提督もはよ飲みぃや。お猪口空けてくれんと酒が注げんでぇ?あ、ウチは軽空母龍驤や!よろしゅうな!」

 

この陽気な関西空母が龍驤か。まぁ実際酔ってるからここまで陽気かどうかは分からないけど。

 

……小柄なのによく飲むなぁ。俺は飲めそうに無いから勘弁して貰えませんかねぇ…。とりあえずこの一杯は何とか飲むか。

 

「あぁ、よろしくな龍驤。だが、すまん。俺ももう飲めそうにない…。また次回にお願いするよ。」

 

苦しい言い訳だけどこれぐらいしか言えん。頼むもう無理なんだって!!!

 

「まぁせやなぁ、提督は明日から執務もあるし、もう飲まれへん言うんやったら無理に飲ますのも可哀想やしなぁ……。」

 

お、流石関西人!!分かってるぅ〜!!そうそう無茶に飲ますのは良くないぜ!

 

「…せやけどな、提督。ここに座ってしもた以上選択肢は飲む、飲まへんやないで?」

 

は?何言うてんのこの子?あかんわ、ちょっちピンチ過ぎん?

 

「選択肢は飲むか飲まされるのどっちかや!!さぁ観念してお猪口空けぇや提督!!」

 

「ちょっと待て龍驤!!一旦落ち着け!!とりあえずその右手に持った一升瓶を置くんだ!!」

 

なんだってこんなに気性が荒いんだ!!コイツら禁酒にした方がいいんじゃねぇのもう!!

 

いや、やっぱりやめとこう。禁酒にしたらコイツら暴動起こしそうだわ。

 

「ほっほぉ〜、提督は一人じゃ酒が飲めん言うことか、しゃーないなぁ〜、そんなら今回はウチが特別に口移しで飲ませたるわ!あ、もしくは他の子にやってもらうのでもええで?」

 

思わず椅子から立ち上がり後ずさる俺。この酔っ払いども思考回路がおかしすぎる!!恥ずかしいとかいう概念はないのか!?

 

そ、そうだ!!飛龍や蒼龍に助けを!!

 

「え〜あに〜?さがらひゅんにくちうつしでおさけ飲まへるって〜?はいは〜い!!わらしのやるぅ〜〜!!」

 

「ちょっと〜そうりゅ〜ほれはわらしがやるんだからぁ〜!」

 

うわっ!飛龍と蒼龍!?ダメだコイツらも碌でもないヤツらの仲間入りしてやがる!!

 

あ、扶桑山城!!お前達なら!!!

 

「うえぇぇ〜〜ん!山城ぉぉ〜こんな姉でごめんねぇ〜〜!!」

 

「ヒック!!グスン!!そんな事ありません姉様は山城にとって大切なぁ〜〜!!」

 

こいつらもダメだ!!!まさか泣き上戸だったとはな!!

 

はっ!青葉!!青葉ーーー!!!助けてくれぇぇぇーーー!!!

 

「じゅんよ〜さ〜ん、もう飲めませんってばぁ〜〜。きぬがさ〜たすけてぇ〜!」

 

「あかしさん、わらしももうムリだってぇ〜!あ!ていとくさんたすけて〜!」

 

「何言ってのさ〜2人共まだまだ足りないって顔してるよ〜?」

 

「ほら、衣笠ちゃんもう一杯もう一杯!!」

 

何これ戦場かなにかですか?衛生兵が突撃歩兵に蘇生頼むような状況になってしまったようですね。

 

詰んだな。

「提督、大丈夫?」

 

時雨!?来てくれたのか!!ナイス!!助けてくれ!!

 

やっぱりこういう時に気が利く子は最高だな!!

「時雨、ちょっと助けてくれ。流石に俺ももうキツくて……。」

 

「分かったよ、僕が何とか龍驤さんを説得してくるからそれまで待って…」

 

「お、なんや?時雨が提督に口移しするんか?ええでええで!!ほら酒や、ぐいーっと行ったれ!!」

このバカ!!余計なこと言うな!!!時雨もその酒を机に置くんだ!!

 

「……提督、あと1杯だけだから我慢してよ。その代わり僕が飲ませてあげるからさ……。」

 

「ま、待て時雨!!酔っぱらいの言葉に耳を貸すな!!」

 

ハイライト仕事してぇぇぇーーー!!!クソっ!後ろはもう壁が!!誰か!!誰でもいいからヘルプミー!!!

 

「……ねぇ相良君。」

 

壁際ギリギリまで追い込まれもうダメかと思ったその時時雨が耳打ちしてきた。

 

あれ?ハイライト戻ってる……?というか呼び方が…あぁ、はいそういう事。

 

「…なんだ雨音(あまね)。」

 

「これ、やめてあげようか?」

 

お?賢者タイム?まさか正常に戻った?

 

「そりゃ、やめてくれんならやめてくれた方が……というかお前ら酒飲んでるからにしてもオープンになり過ぎだろ。」

「…艦娘になるとね、ちょっと気が荒くなったり、感情がストレートになっちゃうんだ、ごめんよ。」

 

気が荒くなったり、感情がストレートにねぇ…はぁ〜

 

「…でやめてくれんのか?」

 

「やめてあげてもいいよ、ただ条件があるんだ。」

 

「……なんだ?」

 

「うん、今度僕のお願いを1つ聞いて欲しいんだ。聞いてくれるなら僕が『時雨』の気を抑えておくからさ。」

 

さり気なくいい条件にしようとしてるなコイツ。『お願い』って言葉の幅が広すぎんだよなぁ。

 

「無茶なお願いとかは無理だからな、俺の出来る範囲なら聞いてやる。」

 

「そんなに難しい事は頼まないよ、強いて言うならば、1つ欲しいものがあるんだ。まぁまだどうなるか分からないけど。」

 

欲しいもの……買い物でも付き合ってやればいいのかな?まぁそれぐらいなら大丈夫か。何万もするようなものなら一蹴して終わりだ。最悪、そのような事は聞き覚えないで済まそう。

 

「じゃあ取引成立だね。あ、念の為録音しておいたから聞き覚えないですはなしだからね。」

 

 

……コイツ淀姉さんにやり口まで似てきたな。

 

こうして時雨は足早に去って行った。

 

「なんや?時雨やらんのかいな、まぁそんならウチが…///」

 

はっ!そうだ時雨をどうにかしただけで根本の解決になってねぇじゃん!!

ジリジリと迫り来る酔っぱらいども…飛龍と蒼龍、お前らゾンビみたいで怖いわ。

 

「貴女達やめなさい、みっともない…。」

 

「そうですよ、飲みすぎは身体にも良くないですからね!」

 

「い、いや…赤城は食い過ぎと思うんやけど……。」

 

まさか助けが来るとは思わなかった。

 

あ、あれは誰だー!誰だー!誰なんだー!

 

って!!そんな茶番はどうでもいい!!このままメルヘンデビューしちまう所だった!!

 

この弓道着っぽい2人にはホント感謝!!

「まぁ!龍驤さん、私が食べ過ぎだなんて!!」

 

「いや赤城さん、私が言うのもなんですが、私達かなり食べてますから…。」

 

「と、ともかく!!あんまり提督を困らせるのはいけません!このまま続けるなら今度鳳翔さんが来た時にお話ししておきますからね!」

 

空母勢は鳳翔という言葉を聞くなりびくっと反応し、皆席に戻って行った。

 

なんだなんだ、鳳翔さんってのはそんなに怖い人なのか……?

 

件の鳳翔さんとらやらを想像してみる。

 

……鬼軍曹のような人なのか?それともうちの母親は当てはまらなかったが世間で言うオカンみたいな感じの人とか……?はたまたレスラーの如くムッキムキのひととか?

 

謎が謎を呼ぶがともかく助かったという事だけは事実だ。

 

「助かったよ2人共、ありがとう。…失礼、君達の名前は…?」

 

「一航戦赤城です。大変でしたね提督、彼女達も普段は真面目な方々なんですがお酒が絡むとどうも……。」

 

「私は同じく一航戦の加賀です。けれどハッキリやめろと言わなかった提督もいけません。提督である以上もっと堂々となさって下さい。」

 

すんません、その通りです。

 

「まぁまぁ加賀さん、それは提督の優しさ故言わなかったのでしょう。皆に挨拶回りするのに雰囲気を壊すのは申し訳ないと提督はそうお考えだったはずです。それにこうして私達の所にも来て下さったじゃないですか。」

 

赤城さん優しすぎん?大食いで見境無くすのが玉に瑕だけど……優しすぎるわ。

 

「そうですね赤城さん。提督、失礼しました。よろしければ何か飲みます……いや、お酒はもうやめておきましょう…今お茶を入れてきますね。」

 

加賀が席を立つのと入れ違いに2人の艦娘が横と向かいに座ってきた。

 

「提督も大変だったねぇ!この鎮守府切っての飲兵衛達に絡まれたんだから〜。あ、私は航空戦艦の伊勢って言うんだ、よろしくね提督!」

 

このポニーテールっぽい髪型の子が伊勢ね。なんかあれだな、漫画とかに出てくる酒場だったり居酒屋に出てくる気前の良いお姉さんキャラ。あんな感じ。

 

「2番艦の日向だ。よろしくな。……時に提督、瑞雲に興味はないか?」

 

「よろし……え?瑞雲?」

 

瑞雲ってあれだろ?水上偵察機の……。

 

「あれは素晴らしい機体だ…偵察も攻撃も出来る、そして洗練されたシルエット、あのエンジン音、どれをとっても瑞雲は最高と言えよう。」

 

瑞雲について熱く語っているのが日向ね。なんだろ新興宗教か何かかな?瑞雲教?なんじゃそりゃ。食べりゅ教の他にもあんのか。

 

「おっと、すまない。つい熱くなってしまった。そうだ、お近づきの印にコイツをやろう。」

 

こ、これはっ!?

 

「そう、瑞雲だ。」

 

うん、瑞雲だわ。

 

「そいつを肌身離さず持っておくがいい。きっと瑞雲が提督を守ってくれるはずだ。」

 

瑞雲、御守りかなにかかな?

 

「それは護身用の瑞雲、そしてこれが観賞用と保存用だ。大事にしてくれよ?」

 

いや、多いよ瑞雲。観賞用はともかく保存用ってなんだよ。そもそも護身用の瑞雲ってなんなんだよ。

 

「本来であれば布教用の瑞雲も渡したいところだったんだが、生憎残り1スロットは主砲を積んでてな。また今度渡そう。」

 

布教って言っちゃったよこの人、やっぱりラピュゲフンゲフン…瑞雲教はあったんだ!!

 

その後は加賀の入れてくれたお茶を飲みながら4人と雑談した。特に荒れることも無く…いや、1回荒れたわ。

 

あの後明希姉モードの明石が懲りずにだる絡みを始めたので加賀に言われた通りハッキリと言ってあげた。

 

研究室の使用禁止期限を1週間に延ばした。

 

そしたらもう、暴れるのなんの…。

 

最終的に駄々こねても無駄と分かり泣き落としに作戦変更してきた。

 

「お姉ちゃんの事、嫌いなの……?」とか言いながら涙目で上目遣いとかしてきたけどここで許すと調子に乗るのは長年の経験なので放置した。ガチ泣きしてた。

 

はっきり言えと言われた加賀から「提督…貴方、案外鬼畜ね……。」と若干引かれたので、じゃあ物は試しと1週間は取りやめと言ってみたら速攻で泣き止んで調子に乗り始めたので再び1週間延期した。今度は加賀も賛同してた。満場一致だった。

 

そんなこんなあって、俺の歓迎会は終わりを迎えた。

 

「注目!!そろそろいい時間だ、明日も早いからお開きにしよう!」

 

長門の一声で注目が集まる。

 

「今回の準備は駆逐、軽巡のみんながやってくれた。片付けは軽空母から上の連中のだ。隼鷹逃げるな、川内は早く寝ろ、絶対に騒ぐなよ?」

 

所々から『ちぇ〜』という声が聞こえてた辺り件のヤツらはやる気満々だったわけだ。

 

「最後に提督、一言頼む。」

締めの言葉って苦手なんだよなぁ。

それっぽくすればいいか。

 

「あー、まずはこのような会を開いてくれた事に感謝をしたい。準備をしてくれた皆、美味しい料理を作ってくれた間宮、伊良湖に拍手!」

 

パチパチと鳴り響く拍手、『私達頑張ったもんね!』と笑顔の駆逐艦達が微笑ましい。

 

「片付けは俺と残ったヤツらでやろうな?逃げた奴は明日明石と仲良く工廠の掃除だ。」

 

「いぇーい!!仲間募集中だよ!!皆、私と一緒に工廠の掃除しようぜ!!」

 

「研究室使用禁止1週間に延ばされたからって吹っ切れんな明石!!頼むからちょっと静かにしててくれ!!期限また延ばすぞ!!」

 

 

「ハイッ!!スンマセンッ!!」

 

うるせぇ!!体育会系ばりの元気な返事を返すな明希姉!!

 

「あー、話を戻すぞ。俺はまだまだ新人だ、新人って事に甘えるつもりは無いが皆に迷惑掛ける事もあるかも知れない。未熟な俺かもしれないが早くみんなに頼られるような提督になれるよう頑張るから皆さん、手を貸して下さい!お願いします!以上解散!!」

 

こうして俺の歓迎会は幕を閉じたのだった……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーー

 

俺はその後、妖精さん達が魔改造した自室に戻り、シャワーを浴びてほっこりしていた所だった。

 

「ふー、さっぱりした〜。温泉は明日の朝にでも入るとするかな。」

 

風呂上がりは牛乳が鉄板だが今はない。しかし水道から出る水が冷たくてとても美味しい。

「結局の所、片付けは残った連中に任しちゃったし、部屋で休めと言われたけど申し訳ねぇな……。」

 

片付けをしようとした所で長門から「主役が片付けしてちゃダメだろう」と帰された。まぁでも疲れたし、お言葉に甘えて今に至る。

 

歯も磨いたし、日向から貰った瑞雲3機は…とりあえず机の上に置いとくか。後はメール確認して寝るだけだな……お、噂をすればなんとやら早速メールが……淀姉さんからだ、なんか怖いな。

 

受信ボックスからメールを開く。

 

えーなになに?

 

『提督生活1日目、お疲れ様です!どうでしたか?舞鶴第2鎮守府は?こうちゃんのお姉さんである明希も実はそこで働いてたんですよ?ビックリしましたか?』

 

いらないビックリ要素ホント勘弁ですわ。

 

『何はともあれ、これから始まる鎮守府生活応援してますからね!分からないことがあったらなんでも聞いてくださいね!』

 

聞いてくださいねって言ったって淀姉さん多忙だろうが。

 

まぁ、加賀や赤城辺りは詳しそうだしその辺にでも聞くか。

 

……ん?まだ文章あったのか、あぁP.S.ね。

 

『P.S. 大本営から舞鶴第2鎮守府へ転勤になりました。明日の朝にはそっちに着くと思います!改めてよろしくねこうちゃん!!』

 

 

…………………………………は?

 

何言うてんのこの人?冗談でしょ?

 

『こうちゃん冗談でしょ?とか言ってるかもしれませんが本当なのでよろしくね!』

 

しかも先読みまでしてくる辺りやべぇわ。

 

え?って事は…………まじ?

 

う、うわあああぁぁぁぁァ”ァ”ァ”ァ”ァ”!!!!!

 

こうしちゃいられん!!!こんな所さっさとおさらばしなければ!!!

 

脱出、脱出だ!!緊急脱出!!

 

必要な物をカバンにぶち込み、急いで玄関に向か「そんなに急いでどこに行こうって言うのかしら提督さん?」……。

 

玄関には既に叢雲が立っていた。

 

何故既にコイツが居るんだ!?

 

ま、まぁ落ち着け…たまたま来ただけかもしれない。

 

「い、嫌だなぁ!ちょっと食堂に忘れ物しちゃってな!それを取りに行こうと…」

 

「あらヤダこうちゃん、私片付けしてたけどこうちゃんの忘れ物なんて見当たらなかったけどなぁ〜?」

 

あ、明希姉まで!?

 

クッソこうなりゃ窓から脱出を!!

 

「提督、部屋の中で走ったら危ないじゃないですか、しかもこっちには窓しかありませんよ?ねぇ?北上さん。」

 

「こうちゃんさぁ、まさか……脱走しようとか……考えてないよねぇ?そうだったらあたしも悲しいなぁ。」

 

大井と北上!?他にも退路は……そうだ!勝手口!

 

「提督、君には失望したよ……締めの言葉とても良かったのに。何より……僕のお願いを反故にしようとしたのは見逃せないなぁ。」

こっちには時雨が!!ハイライトオフ!!消えてるじゃあないか!!戻して雨音さん!!早くハイライト戻して!!

 

「下手な嘘はつかなくていいわよ、アンタが脱走しようとしてるのはもう大淀さんから聞いてるから。」

「私としてはこうちゃんが脱走しようって言うなら手を貸すのもやぶさかじゃなかったけど研究室の件もあるし、何よりこうちゃんいた方が面白そうだからさ。」

 

 

「さぁ、明日から早いんですから諦めて布団に入りなさいな。」

 

「こうちゃん、初めて泊まる部屋で寝れないタイプなんでしょ?だったらあたし達、こうちゃんが寝れるまで一緒にいてあげるからさ…。」

 

「なんなら提督、僕が添い寝してあげてもいいよ?」

 

「お、良いねぇ〜!あたしもしてあげようか?」

 

「「ダメよ(です)!!」」

 

クソッ!!コイツらが全員淀姉さんから連絡を受けていたなんて!!あまりにも根回しが早すぎるぞ淀姉さん!!

 

しかし脱出する機会は何か知らんがコイツらが言い争ってる今しかない!!……よし!!

 

うぉぉぉぉぉーーー!!!走れ俺!!!

 

よし!!もうすぐ玄関に……っ!!

 

玄関のドアを開け放ち、俺は一抹の希望を見出していた。

 

このまま走り続ければ鎮守府を出て自由な生活を送れると(シュルルグイッ!!)おぉぉぉぉぉ!!!???

 

なんだこれ!?ロープが足に!!

 

「おーい、みんな〜かかったよ〜。」

 

「全く、アンタってやつは油断も隙も無いわね…。」

 

「クッソ!!解けろ!!俺は自由な生活をするんだ!!淀姉さんやお前らに自由を奪われてたまるか!!」

 

そのまま俺はズルズルと部屋に引き戻され布団の上に4人でガッチリ抑え込まれた。

 

「離せ!!離せっての!!HA☆NA☆SE!!」

 

「じゃー、みんなーそのまま押さえててね〜?こうちゃん、寝付きが良くないならお姉ちゃんが寝かせてあげよう!はい、りらーっくす。」

 

明希姉が何かの布をこちらに近づけてくる。

 

「やめろーーー!!!やめろーーー!!!それ絶対クロロホル( ˘ω˘ ) スヤァ…」

 

 

 




中規模〜鎮守府〜

夜から〜ソワソワ〜

明日は大本営から淀姉さんがやってくる〜よ〜

自室の色んなとこに立つ

眼光するどい艦娘達に

「頼むっ!!見逃してくれ!!後生だ!!」

「諦めて布団に入って寝なさい。」

「逃げようとしても無駄だよ。」



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就活戦争12日目

やってまいりました。

相良航希、鎮守府生活の始まり始まり〜

まぁ鎮守府生活と言うよりは彼の鎮守府での日常なのかもしれませんね。

こうちゃんの提督らしい姿はいつ見られるのかな?

と淀姉さんがカメラを持って待ち構えるぐらいいつになるか…頑張ります。

感想や評価も多く頂き、感謝の気持ちで一杯です。

これからもどうぞよろしくお願いいたします。

リクルートスーツはそんなに高いもの買わなくて良いからね、必要最低限の物を2〜3着あれば多分大丈夫だと思うよ!!!まぁ上は大丈夫だけど人によってはズボンや靴を就活中に2回3回買い替えなきゃ行けない人もいるからそこんとこ気をつけてね!!!


ん…んー?なんか眩しい……。あれ?やけに明るいわ、俺外で寝てたっけ……?

 

「提督さんおはようございます、朝ですよ。」

 

「そろそろ起きて下さい。」

 

……あーお前達かそれと96式探照灯妖精さん、とりあえず眩しいからそれ消せ。

 

いつもの5人組妖精さんと目覚ましではお馴染みとなりつつある工廠妖精さん改め、96式探照灯妖精さんが枕元にいた。

 

「なんですか、96式は眩しすぎるって言うからわざわざ普通のライトで起こしに来たというのに。」

 

いや、だからわざわざ光るもので起こしに来なくていいんだよ。探照灯とかライトとかじゃなくてもっとマトモな起こし方をしてくれ。

 

「「「……あた〜らしい」」」それはもういいから、もうそれ2度目だから、二番煎じはウケないぞ。

 

「なんとも注文の多い提督ですね。」

 

やかましいわ…………さて、なんだかんだで目覚めた訳だがまず非常に大変な事になった。まずは現状を確認しようか。

 

「記憶、ヨシ!」現場ネコ妖精は帰れ。

 

「昨日は随分お飲みになってたようですね。本当に記憶はありますか?」

 

覚えてるよそりゃ勿論。

 

むしろ忘れてた方が幸せに暮らせたな、皆、驚くなよ?

 

今日は特別ゲストになんと……あの淀姉さんがこの鎮守府に来てくれま〜す!!!皆、拍手ぅ〜!!!

 

「我々もその話は聞いてますので。」

 

なんだよノリ悪いな………はぁ〜、気が重い。

 

重いといえばさ、なんか体が全体的に重いというか息苦しいというか動きづらいというか……五体満足かどうかも確認しようか。

 

まず右腕……時雨が引っ付いてる。あの、動きづらいんですが……。

 

次に左腕……ハイパー北上様が俺が寝てるのに対し平行に眠ってらっしゃる。座布団を枕にしており、それが腕の上に乗ってるので血が止まりそう。

 

左足……明石。邪魔だから足を動かして明希姉の頭を退かす。布団から落とした瞬間、明希姉が「フガッ!」と変な声を出したが、その後何事もなかったかの様にグーグーと寝息を立てて再び寝始めた。

 

右足……なんで夕立がいるんですかねぇ?昨日の騒ぎの時はいなかったのに…あー時雨がここに行くって行ったまま帰ってこなかったからここに来た的なパターンか……ってなんかズボンの膝上辺りが湿ってるんですけど!!!コイツまさか涎……。

 

「漫画ではお馴染みの展開ですね。」

 

「艦娘達と同じ屋根の下で眠る提督さん。」

 

「電〇文庫やM〇文庫系のラノベ、漫画辺りではよくあった気がします。」

 

いや眠る(強制)なんですがそれは……妖精さん達に漫画とか読ませるんじゃなかったわ、ロクでも無いことばっかいいやがって。

 

コイツらも監視の途中で寝たって事だろう……そういや叢雲と大井が居ない。となると交代で監視してるって事だな……?となると1人は玄関、もう1人は外を警戒って感じか。そう簡単には逃げさせてくれないって事ね。

 

それでも僅かな希望を捨てては行けない。脱出の機会はまだまだある。

 

その為にもコイツらを起こさないように退かさねばな。

 

まずは左腕、北上を起こさぬようにゆっくりと腕を引き抜いていく。幸いにも綿の多い座布団だったので腕を引き抜いても北上が目を覚ますことは無かった。

 

まずは左腕の救出に成功、続いて右腕に引っ付いてる時雨だ。ここから難度が上がる。

 

まずは自由になった左手て右腕の解放を試みる。しかし時雨が俺の上着を掴んでいるため、簡単に抜け出せそうにない。

 

試しに上半身を軽く捻ってみた、これで時雨が離してくれれば良かったのだが「ん…むぅ…」と起こしてしまいそうになった。あぶねーあぶねー。

 

となればプランBだ。上着のボタンを外し、左腕から時雨を起こさぬようゆっくりと脱いでいく。脱げたら右腕の袖を掴みゆっくりと引き抜く。これで両腕解放だ。代わりに上着はそのまま時雨に抱え込まれてしまったので回収は不可能となった、まぁ仕方ない。

 

さて今度は右足の夕立だ。コイツが1番ムズいかもしれない。

 

まずは枕を夕立の頭の横に置く。そしてここからが緊張の瞬間だ、少しずつ膝を曲げ夕立の頭を太ももからずり下ろしていく。頭が落ちる瞬間横に置いておいた枕を滑り込ませる。

 

……よし、これで五体満足だ。

 

布団から起き上がり彼女達を踏まないように布団から脱出する。

 

「……いくら艦娘と言えどまだ4月だぞ、寒くないんかコイツらは……。」

 

掛け布団を夕立に掛け、毛布は時雨に掛ける。

 

妖精さんがどこかからブランケットを持ってきたのでそれを北上に掛けてやり、明石はーーーとりあえずタンスからバスタオルを2~3枚引っ張り出し、適当に掛けておいた。

 

にしても……うへぇー、夕立やってくれたなぁ、ベッタベタじゃねえか……。

 

時計を確認すれば現在6時、昨日の酒臭さも少し残ってるし、シャワーでも浴びるか……。

 

「提督さん提督さん、シャワーも良いですが、あれをお忘れですか?」

 

あん?何をさ?

 

「特注家具職人妖精さん達が作った温泉ですよ。」

 

………おぉ〜〜!!良いねぇ〜それ!!

 

朝日を見ながら温泉に浸かる……最高じゃん!

 

そうと決まればレッツらゴー!

 

(職人妖精さん鍵の方はどうなってますか?)

 

(バッチリです。戸を軽く引いただけで壊れるようになってます。)

 

(OKです。仮にバレても言い訳は『突貫工事だったので鍵が駄目になってた』で行けるでしょう。)

 

(ふふふ…提督さん、私達も大淀さんと同じく、簡単に鎮守府から脱出させませんよ?まぁ私達が妖精だから鎮守府で働きたいと言うのもありますが……)

 

(((提督さんの周りで面白い展開になってメシウマするのが楽しみなのです!!!)))

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーー

 

 

うぶぶぶっ!!!???

 

なんだぁ?なんか今背筋がゾクゾクしてきたわ。

 

淀姉さんとは違うなんと言うか……頭がハッピーな奴らに弄ばれてるような……。

 

まぁこの人生で会ってきた人間が大半の頭がハッピーな方々だったしな、朝方は少し冷えるからそのせいだろう。

早いとこ風呂に浸かろう……。

 

暖簾をくぐり脱衣場に続く扉を開け(ガキッ!)……なんだ少し立て付けが悪いな……。

 

ガタガタと音を立てながら扉をスライドさせ中に入る。

 

「おぉ、やっぱり旅館だわ。別途料金払って使う貸切風呂みたいだ。」

洗面所は2つ、ドライヤーが壁に引っ掛けてあり、衣類を入れるロッカーが1つ。体重計やら扇風機も置いてある。

どうやらロッカーには鍵が付いてないらしい、まぁそもそも俺しか住んでないから脱衣ロッカーに鍵なんか要らないか。

 

1番上段の右端に衣類を入れ、タオルを持ったら楽しみの温泉だ!!!

 

戸を開け放ち風呂場に入る、まずは内湯がお出迎え。シャワーを浴び、汗や酒臭さを洗い流す。

 

普段は朝シャンなんてしないが旅行気分もあってか頭、体を洗う。

 

泡をシャワーで流し、椅子から立ち上がる。

 

内湯に入ることも考えたが朝日を見ながら温泉に入る贅沢は今の時間しかできない。

 

自然と足は露天風呂へ向かっており、奥まで行き、露天風呂に繋がる戸を押し開ける。

 

おぉー、すっげぇ!モウモウと立ち込める湯けむりの向こうに見える太陽、温泉独特の香り!どこまでも続く水平線!……寒いしさっさと入ろう。

 

ちょっと熱めの温度、しかし温泉ならこれぐらいの熱さの方が丁度いい。

 

ふぅ〜〜生き返る〜〜。

 

さすが温泉、荒んでた心まで綺麗にしてくれる。

 

……ここからだとちょっと朝日が見にくいな、もう少し右に移動して……(トンッ)「あ、すいません…。」「あ、いえ、こちらこそ…。え……?」

 

やべ、ぶつかっちゃっ………は?俺は今何とぶつかったんだ?

 

待て待て待て落ちけつ俺、いや本当に落ち着け、落ちけつとか言ってる場合じゃねぇ。

 

おかしいぞ?風呂に居るのは俺だけのはず、他の奴らは寝てて、大井と叢雲が見回りに……あ……。

 

ま、まさかね?そんなはずはないよな?

 

横見ればほら、気のせ……

 

お湯に浸かって顔を真っ赤にした大井っちがいた。

 

「え……ちょっ、なん、なんで相良、君がここに…?」

突然の事で大川真井(おおかわまい)さんに戻ってるよ大井っち。うん、俺もね、あまりのことで頭が真っ白になっててね。俺、今多分IQ2位しかない。

「ちょっと大井〜?何騒いでるの…よ……。」

 

湯けむりの向こう側から叢雲の声。ジャバジャバと歩く音と共に……

 

目と目が逢う〜瞬間、君が無の感情だと気づいた〜

 

てかあれなのね、大事な所は謎の煙や光で見えないって本当だったんだ……!!

 

叢雲は一瞬訳分からないという顔になったが頭の良い叢雲さんだ。状況を理解してしまった彼女はみるみるうちに顔が真っ赤になっていく。

 

「……どうしてアンタがここに居るのかしら……?」

 

「……入口に鍵を掛けておいたのにそれでもお風呂に侵入してくるなんて……。」

 

怒りと困惑と恥ずかしさで声が震えているお二人。

 

俺も震えているぜ、恐怖でな。

 

おいおいおい、死んだわ俺。

 

でも鍵なんて掛かってなかったような…?

 

まぁ待て、落ち着け、戦場では焦った奴から死んでいく。ここはお馴染みの娘を連れ去られた男を宥めて話し合いをしようとする彼のように行こうじゃないか。

 

「まぁ落ち着け、そんなに殺気を突きつけられたんじゃ、ビビって話もできやしねぇ。この先どうなるかはあんた次第だ。オーケイ?」

 

「「馬鹿な事してないでさっさと出て行きなさい!!このド変態!!!」」

 

「ぐわぁ〜〜!!!」

 

話し合いは失敗、飛んできた桶やら椅子が俺を襲う。

 

慌てて俺は露天風呂から飛び出した。

 

最後に眉間にクリーンヒットした石鹸がなかなか痛かったぜ。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

この騒ぎにより部屋で寝ていた連中も目を覚ましたようでぞろぞろと脱衣場の入口まで来ていた。

 

一部、事情を察した奴らがニマニマしてた。

 

はっ倒すぞ。

 

そういや、大井が鍵を掛けてたって言ってたよな?

 

でも鍵なんて……。

 

ひとまず部屋まで戻り、そこにいた家具職人妖精さんに事情を説明し、ついてきてもらった。

 

脱衣場に戻ってくると叢雲と大井も出てきており、こちらを睨みつけていた。

 

「まぁ待ってくれ、ひとまず謝らせてくれ。本当にすまん。」

 

「馬鹿だ馬鹿だとは思っていたけどまさか、覗くどころか堂々と入ってくるとは……とんだド変態ね。鍵も掛けておいたのに。」

 

「それなんだけどな、俺が来た時鍵なんて掛かってなかったと思うんだよ。」

 

「……?そんなはずないでしょう。私が確かに鍵を掛けて置いたはずです!」

「……妖精さん、どうよそれ?」

 

妖精さんには先に扉の様子を見てもらってどうだったか確かめてもらっていた。

 

「あーこれですね。鍵の取り付け位置が悪かったのか開けようとした瞬間に金具が曲がってしまったようです。提督さんが開けようとした時にガタガタしてたのは曲がった金具が隣の扉に当たってたのが原因ですね。」

 

「だから本当に故意ではないんだ。ただ温泉があるの思い出して朝風呂しようと入ったらこんな事になってしまったってのが事の顛末で……本当にすまない!」

 

「これは我々家具職人の責任です、大井さん、北上さん大変ご迷惑をお掛けしました。」

 

妖精さんと一緒に頭を下げる。

 

この状況、誠心誠意謝るしか生き残る術はないからな。

 

1歩間違えれば、憲兵に突き出されて豚箱行きだ。

 

頼む叢雲、大井!!

 

「……まぁ今回は妖精さんに免じて許したくないけど許してあげるわ。鍵が壊れてたって言うのもこれで分かったし、事故ってことで。」

 

「叢雲さんの言う通り今回は妖精さんに免じて私も許しますけど、次は骨という骨を折りますね。」

 

ひぇ。おっかねぇおっかねぇ、オラまだ死にたくねぇだ。

 

「でもまたこれで貸しが増えていくわねアンタ…さぁて今度は何させようかしらねぇ……?」

 

「私もやっぱり提督に何かしてもらわないと気が済みませんね、北上さんと買い物行く時に荷物持ちでもしてもらおうかしら?」

 

うぐぅ〜〜〜!!!これだよこれ、コイツらの恐ろしいところ。ただでさえ学生から社会人に片足突っ込んだような状態の俺だぜ?

 

このペースだと暫く休日サービスしなくてはならないかもしれない。

 

「あーー!!大井さんと叢雲だけずるいっぽい!!それなら夕立も時雨とこーちゃんで買い物行くっぽい!!」

 

おい待て!夕立も!?休日3日は消えた……。

 

 

「大丈夫ですよ提督さん。」

 

お前はっ!?5人組妖精さんの2人目の妖精さん!!大丈夫とはどういうことだ!?

 

「安心してください。海軍は福利厚生もしっかりしてますから有給前倒しも出来ますグッ」

 

何が大丈夫だよ!!それ俺の次の有給がどんどん引かれていくシステムだから!!!ドヤ顔でサムズアップしてんじゃねぇ!!名案でもなんでもないから!!

 

「夕立が誘ってくれるなら僕もお言葉に甘えて行こうかな?あ、提督、これは僕の『お願い』じゃなくて夕立のお願いだからさ。」

時雨のやろ〜足元見やがって……。

 

それが歓迎会のお願いで済むなら喜んで連れてってやったのによ……。

 

「あら?でしたら私も提督とお出かけしても問題ありませんよね?」

 

「淀姉さんまで勘弁してくれよ…俺もうクタクタだからさ…………は?」

 

待って、おかしいぞ?居なかったはずの人がここにいる……。俺はまだ寝ぼけていた可能性があるな……。

 

もう一度布団に入っててててて痛痛痛痛痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛いア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ーーーーーー!!!!!!!

 

「こうちゃん?勿論こうちゃんも私も寝ぼけていませんよ?こうしてお互い目と目が合ってるじゃないですか……?」

 

あぁ懐かしの淀姉さんお得意のアイアンクロー。そしてお目目がとても笑ってなくて素敵すぎますね。

 

技はいつにも増してキレッキレですね。

 

「さて、事情は大体把握しました。」

いや待ってくれ、俺は把握出来てない。事態が飲み込めない俺を置いていかないでくれ。

 

「とりあえず今朝のこの騒ぎは叢雲さんと大井さんが許したという事で一先ず置いておきます。さてこうちゃん、色々言うことはありますが……昨日脱走しようとしましたね……?」

「知りません。」

 

「嘘はいけませんよ?まずここにいる方々に聞けば脱走しようとしてた事の話は聞けますから。」

 

「分からないでしょ、みんなで口裏合わせてるかもしれないじゃんか。映像でもなければ証拠にならないよ。」

 

「ひどーい」や「やめとけばいいものを…」など反応は様々だ。お前の命は今保証されてるけど俺は保証されてないんだ。お前らもこの立場になればこうしてるさ。

 

「映像があればよろしいのですね?わかりました。では提督、そちらのテレビをご覧下さい。」

は?なんで?映像があるの?

 

あ、俺だわ、ロープが足に絡まって……

 

『おーい、みんな〜かかったよ〜。』

 

 

『全く、アンタってやつは油断も隙も無いわね…。』

 

 

『クッソ!!解けろ!!俺は自由な生活をするんだ!!淀姉さんやお前らに自由を奪われてたまるか!!ヤメローヤメロー!!』

 

そうしてズルズルと部屋に引き戻されていく俺の映像が公開された。

 

『あ、青葉……見ちゃいました!』

 

「という訳で青葉さん衣笠さんからの提供でした。」

 

はい拍手〜!……ってふざっけんなワレアオバ!!!なんで見てたんなら助けてくれねぇんだよ!!というかなんてもん撮影してくれてんだ!!

 

「……これで気は済みましたか提督?言質も証拠もバッチリですよ?」

 

……冷や汗がダラダラと垂れてくる。記憶ないんですが……一体、俺が何をしたって言うんだ……。あぁ、淀姉さんにまた説教される……。

 

「提督さん、私は悲しいです。来て早々脱走だなんて……私は提督がこの鎮守府に来てくれたあまりの嬉しさに提督のお家をリニューアルしましたのに……早速脱走だなんて……」

淀姉さんが悲しそうな顔で俺の横を行ったり来たりする。

 

まるで冬眠出来なかった熊と鉢合わせてしまった気分だ……。

 

「さて、提督さん。脱走未遂について、何か申し開きはございますか…?」

 

淀姉さんからの尋問が幕を開ける事になろうとは…。

 

苦し紛れの言い訳かもしれないが割とそうなんです記憶曖昧なんです。俺もよく分からないんです!

「い、いや、昨日めっちゃ飲まされてて酔っててよく分からないんですが……。」

 

「でも心の中にはそういう気持ちがあるって事ですよね?」

 

着々と追い詰められてる気がする。なんか罰があるよ今回やっぱやべぇ世界だわ海軍。

 

「さて、こうちゃん」

 

「はい。」

 

「とりあえず壁に手をついてください。」

 

その棒は何ですかね?

 

「デデーン」

 

「相良、アウトー」

 

「精神注入ー」

 

やかましいわこのゲス妖精さんがぁぁぁーーー!!!

 

「こうちゃん、早くしてください。」

 

「分かりました受けます、ただ一つだけ聞いてください!」

 

「なんですか?」

 

「あのさっきから囃し立ててる妖精さん達を1発叩いてください!」

 

これには流石の妖精さん達も動揺したのか慌て出す。

 

「なんで我々まで!」

「提督さん潔く気を付けしてください!」

 

「うるせーー!!!お前ら裏でコソコソやってただろうが!!!じゃなかったら海軍精神注入棒の刑なんてならんやろが!!」

 

本気で尻が四つに割れる危機を感じた時、淀姉さんの殺気が消えた。

 

「……はぁ、流石に冗談ですよ。昔の海軍じゃないんですからしませんって。」

 

ほんとに恐ろしい方だわ恵さん。貴女が言うと冗談に聞こえないんですから…。

 

「本気で精神注入されるかと思いましたわ………。」

 

ホッと胸をなで下ろした俺。

 

「だからこうちゃん、私にこんな事させない下さいね?」

 

…………全身からぶわっと嫌な汗が吹き出てきた。

淀姉さん怒らせるべからず……。

 

「では、改めまして……提督、軽巡大淀、戦列に加わりました。艦隊指揮、運営はどうぞお任せください!」

 

………やっぱり早く逃げようこの鎮守府。

 




俺のシャツのボタンの上〜胸ぐら掴みながら〜

淀姉さんが笑っている〜(目は笑ってない。)

自由を守ろうにも俺の体は華奢〜

どうかビンタしないでとひれ伏すだけでもさせて〜

淀姉さんが狙って〜いる〜

緊張で息ひそめ〜

口の中は乾いてる〜

きな臭いにおいがする〜

首を横に振っても無駄〜

ここは〜誰が望んだ世界か〜?

ピースピース!!!

「ではまず反省してください(スッパァァァーーーン!!!)」


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就活戦争13日目

戦闘シーンとかなぁ〜書こうとは思ってるんだけどなぁ〜日常を優先させちゃうんですよね私は。

いや、いつかは書こうと思ってるというか書かないと行けないなと思ってるので書くと思いますが暫くは日常系艦これSSになっていくと思います。

まぁ戦闘シーンは淀姉さんがやってるし書いてないと言うほど書いてない訳でもない(言い訳)

いつかは深海棲艦との戦闘シーンも書きます。

お気に入り登録が300を超えました!

ありがてぇ……ホントにありがとうございます。

これを励みにまた書いて行こうと思います。

ただ申し訳ないのが4月からは更新が少し遅れるかもしれません。ゆっくりとですが続きを書いて行こうと思ってますのでそれまでお待ち下さい。

就活でこれぐらいやってれば受かるでしょ?って言うのは無いからな!!!全力でやるんだぞ!!




執務室の椅子に腰掛け俺は溜息を一つ吐く。

 

俺がこの舞鶴第2鎮守府で提督を始めてから、かれこれ一週間が過ぎた。そして、また新たな一週間が始まるわけである。

 

ん?その一週間で何か無かったのか、むしろないわけが無いって?

 

いや、特になんもなかったよ?俺が命を賭してまた脱走しようとしてバレて奴らに捕まって淀姉さんに説教されるってのを何日か繰り返したぐらいかなぁ……?

そのお陰でもう正座はお手の物。坊さんと一緒に念仏唱えるのも可能だろうと思う。……それは少し盛ったから聞き流してくれ。

 

そしてあるじゃねーかとか言うのは無しだ。これは無かった事にしてた方が良い、知らないほうが幸せってこともあるのよお互いにな。……まぁそんなに聞きたかったら、俺の気が向いたらまとめて話すかもしれんし、そんときにでもな。

 

あ、そうそう、後淀姉さんからデイリー任務ってのを与えられてたからそれをやったりもしたな。これをクリアすると大本営から燃料や弾薬、鋼材やボーキサイトなどの資源を提供してもらえるんだ。ありがてぇありがてぇ。

 

装備の開発、整理とか出撃とか遠征ね。結構大変だったよ?いろんな意味でも。

 

装備開発したら明石が「提督さ〜ん?もしよろしければ、成功報酬に研究室の鍵を……ダメ?」とさ。一週間は我慢しろって言ったらまた大騒ぎよ。あぁ、こういう時はスルーが一番だ。

 

因みに今日が研究室とやらの鍵を返す日なんだけどなんか気が進まない。理由としては鍵を返したら絶対明希姉が何かやらかすから。

 

それはさておき、とりあえずこの鎮守府にいる艦娘の戦力を知る為にも交代で近海を哨戒してはぐれ深海棲艦と戦ってもらったけど元々いたヤツらは40〜70ぐらいと練度高めだし、今年来た奴らでも俺よりひと月前から戦闘してるから練度で言うなら全体的に約30ぐらいはある。

 

中でも強かったのは一航戦の赤城・加賀の2人、ゴ級戦艦の長門、火遊び厳禁の陸奥辺りも強かった。ただ資源の食い方がえげつないので暫く貴女達の出撃はなさそうです。

 

鎮守府近海程度なら基本大丈夫だったな。

 

まぁ何人か小破したり、扶桑・山城が偶に中破してきたりする事もあったけどその程度だ。

 

……もっと2人の心配しろって?してるさそりゃ、唐突にドラム缶が降ってきたり、駆逐艦達がボールで遊んでたら後頭部に直撃したり、出撃以外にも損傷したりする事もまぁまぁある事だとしても、心配しかないわ。

 

誰か良いパワースポット教えてくれない?もう可哀想なんだよアイツら……戦力として強さを発揮するにもに不幸がそうさせてくれないなんて……。

 

「……お前も幸運艦って呼ばれてるならあの二人何とかしてやってくれよ。同じ西村艦隊だろ?」

 

「そりゃ僕だって何とかしたいさ、でも難しいからこうなってるんだ。」

 

因みに今日から秘書艦は時雨が担当している。叢雲は今日遠征に行った。秘書艦は一週間交代でローテーションしてやるらしい。だからいつもいる奴らが秘書艦じゃ無ければ脱走の機会も…いや、淀姉さんの事だ。何かしら対策してるに違いない。けどそこをどうにかするのが俺って訳よ。

 

「まぁそりゃそうか、でも何とかしてやりたいよなぁ……?」

 

「……可能性があるとすれば幸運艦の中でも幸運と言われる雪風適性のある娘がここの鎮守府に来てくれたらねぇ……。」

 

雪風かぁ……。あのレア適性をお持ちの方はそうそう見つからないと思うしなぁ……。

 

「もし、雪風が来てくれたら時雨、瑞鶴、雪風プラス軽巡辺りの誰かと扶桑・山城で出撃させよう……。」

 

きっとあの二人も幸運の女神のキスを感じてくれるだろう。

 

「とりあえず提督、取らぬ狸の皮算用もいいけど今日の任務と書類を片付けないとまた大淀さんにシバかれるよ?はいこれ、提督の承認印が必要な書類。」

 

そいつは勘弁願いてぇな、あの人と仕事するにはモリオブラザーズ並に命のストック無いとやっていけんわほんと。1UPキノコそこらに群生してないかな?

 

件の淀姉さんは今叢雲と一緒に遠征に行っている。昼頃には帰ってくるけど心に余裕があるって良いなぁ!

 

時雨から渡された書類に判子をポンポン押していく。

 

なになに?休暇申請届?飛龍と蒼龍か。理由が『明日街に買い物行ってきま〜す!もし良かったら、提督も来てくれたっていいのよ?』って友達とのLI〇Eか。休暇申請届なんだからもうちょいまともに書けやアイツら……。

 

まぁもう印鑑押しちゃったから今更だけど。

 

てか俺も休みたいわ。提督めっちゃ忙しいんだけど、俺の休みいつ取れんの?いや休みはあるんだけど俺の自由時間を下さい。ここ最近の休みは奴らの買い物やらお出かけやらに付き合わされてるからなぁ……。

 

あぁ俺はとんでもないブラック企業に就職しちまったもんだぜ。

 

えー次のお便りは舞鶴第2鎮守府にお住まいのR.N『恋するウサギ』ちゃん……ってミュージック・アワーじゃないんだよ。この番組ではみんなのリクエストをお待ちしてないからな。あ、でも良い脱出案があったらいつでも教えてくれな?

 

茶番はさておき、今度はなんだ?……間宮と伊良湖からか、えーと…今回の歓迎会で食糧の備蓄を結構使ってしまったから次の食糧の補給量を増やして欲しいとね、オーケーオーケー。

 

歓迎会やってもらった身だからね、予算多めに当てとこう。というかじゃなかったとしても間宮ご飯のためなら予算多めにするわ。

 

赤城、加賀辺りからすればこれこそ生命線だろうし、やっぱご飯は大事。まぁアイツらの食いっぷりには勘弁して欲しいとこだけどな。

 

はい、次は〜陽炎か。えーと……娯楽室を拡張、及び設備の充実化、(例)マッサージチェア、ジュースサーバー等ねぇ……すぐに拡張ってのは難しいけど新しい設備とか物の一つや二つぐらいなら増やせるしな、今度アンケートでもして聞いてみるか。正直俺なら漫画喫茶みたいなエリアが欲しい。

 

んで、次が……工廠、明石からか。んーと、新たな装備開発のために資金援助を……ってこれお前の研究室の資金だろ?今日解禁だからってこんなの出してきやがって。まともなものを作るなら予算やるのもいいんだが、いつも変な事してるからどうも胡散臭くてなぁ。

 

後で工廠に行った時に話を聞こう、この書類はそれからだな。

 

次は購買部の注文表と領収書?へぇ、ここ購買部なんてあったんだ。てなると間宮か伊良湖辺りが取り仕切ってるのかな?なら大丈夫だろう!印鑑ポン!

NEXT!えーと、日向ね。みんなに瑞雲の良さを知ってもらう為に演説会を行いたいので許可を……うーーーん

なんて言うかその……ついに瑞雲教本格的な布教に入ったのね。まぁ大事にならない程度に済ませてくれるならいいか。……食べりゅ教は無いよね?

 

んーと、次は瑞鳳。言ったそばから食べりゅ教来たよ。

 

みんなに美味しい卵焼きの作り方を教えたいので卵焼き教室の許可を。

 

まぁ卵焼きなら問題ないだろう。食べりゅ教をNOにするなら瑞雲教とかもっとヤバいしな。

 

てか皆、要望多いな。ストレス溜まってる?まだまだあるよ?

 

もっと休みが欲しいでち!とか執務室にBAR作ろうぜぇ〜!とかもっとマシな指揮が取れるように頑張りなさいクソ提督!どんな采配してんのよ!クズ司令官!もっと頑張りなさい!なんでこんな部隊に配属されたのかしら?見限られたくなかったら努力しなさい司令官。

 

………後半最早暴言じゃん、もうこの3人名前見なくても分かるよ。……いや待て、さり気なく頑張れ的な事言ってるあたりこれはツンデレメッセージと解釈してもいいはずだ!はっはっはっ!!……んなわけあるかいな、さっさと書類終わらせよう……。

 

書類を終わらせて、時間は11時

 

「……書類も片付いたし、そろそろ工廠に行って今日のデイリー任務片付けるか〜。時雨、あと何が残ってたっけ?」

 

時雨は淀姉さんから預かっているファイルを開き中を確認していく。

 

「えーと、今日は……後は工廠で装備の開発して、明日の出撃と遠征の編成を考えて発表ぐらいかな。」

 

今日は楽だな。出撃が無いのもここ一週間ローテーションで出撃繰り返してたしな。休憩ってことだろう。

「どうする?楽といえどもこのふたつをやったら昼過ぎになるけど、今のうちに昼食べておくか?それとも終わらせてから昼飯食べる?」

 

そう提案してみると時雨は「んー」と少し考えていたが

 

「先にやってしまおうか、今日の午後ぐらいゆっくりしよう。先に編成考えて、その次に工廠、その足で食堂でお昼を食べようよ提督。」

 

と結論を出した。

 

まぁ折角楽な日なんだから早く終わらせて自由時間を作った方が堅実だな。

 

(提督と2人でお昼〜♪提督と2人でお昼〜♪)

 

なんかコイツご機嫌だな、まぁ休みになるってわかったらウキウキするもんか。実際俺も嬉しい。何すっかなー。

 

時雨と話し合った結果、出撃の編成は燃費の良い水雷戦隊で行くことにした。

 

第一艦隊の旗艦……球磨にしておこう。後は時雨が調子が良いと思う面子で吹雪、不知火、夕立、霞、漣。鎮守府近海のいるはぐれ深海棲艦の掃討作戦だ。そろそろいなくなると思うけど。

 

第二艦隊からは遠征組で天龍と龍田の2人と暁、響、雷、電の天龍幼稚園のみんなに行かせよう。そして今回の旗艦は龍田に任せようという事で話がまとまった。

 

第三艦隊は最近1番にしろとうるさい白露を旗艦に村雨、朝潮、満潮の4人に行ってもらう事にした。

 

第四艦隊は今回無しで。資源節約と休みを取らせないと大変だからな。

 

明日の編成は緊急の何かがない限りこれで決定と……

あぁー工廠かぁ〜この鍵、明希姉に返したくねぇなぁ……。絶対ロクでもないもの作るってアイツ。

 

まぁでも約束は約束なんで机から研究室とやらの鍵を取り出し、ポケットに入れると時雨と共に工廠へと向かった。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「らっしゃい!らっしゃい!安いよ安いよ!!」

 

……俺は工廠に来たはずなんだけどさ、なんか明希姉が店やってるんですけど。なんでそんな商店街の八百屋魚屋みたいなノリなの?

 

「時雨、あれ何よ?明石ついにとち狂った?」

 

「ん?明石さんの……あぁ、そっか提督は初めてだったね。説明するよ、あれは明石さんが切り盛りしてる購買部さ。一週間に何度か店が開かれてて、そこでは色んな物が買える、言わばコンビニみたいなものさ。」

 

「へぇー、アイツこんな事もしてたのか……。」

 

というか明希姉が購買部やってたのか……。、

 

「外出許可が無いと外に出られない僕らからすると本当にありがたい場所だよ。明石さんに頼めば大体のものは仕入れてきてくれるからさ。」

 

そりゃ、なかなか便利なもんだな。それなら俺も明石になんか頼んどこうかな……?

 

「お?こうちゃん、時雨ちゃん、いらっしゃ〜い!何かご入用で?」

「いや、様子を見に来ただけなんだ。……と言うより、明希姉がまともに働いてるのに驚いたよ。」

 

「失敬な!!私だってちゃんとやってるんだからね〜!ブーブー!」

 

いやだって……あの明希姉だよ?いっつもちゃらんぽらん明希姉が……いや、よく考えてみれば仕事はしてるけど態度はちゃらんぽらんだわ。って違う違うそんな事しに来たんじゃなくて開発を頼みに来たんだよ仕事モード仕事モード。

 

「明石、今日のデイリー任務で開発するって任務があるからそれ頼みたいんだけど、どうすればいい?」

 

「お?はいはい、開発ですね〜!ちょっと店閉めるんで待ってて下さいね〜!」

 

シャッターを閉め、『すぐ戻ります』の貼り紙を貼って明石が店から出てきた。

 

「お待たせしました〜!とその前に!!……提督例のアレは勿論お持ちですよね?」

 

例のアレとか危ない物みたいに言いますねぇ明石さん、ただの鍵をなんですけど。

 

「はいはい、鍵ね鍵。ほら、あるよ。」

 

「んもー!もうちょっと乗ってくれてもいいじゃないですかぁ〜!!……まぁいいです、で今日は何狙いですか?今ならレベル高めでも行けちゃいますよ!流星ですか?彩雲ですか?それともわ・た「今日は対潜の為にソナーと爆雷投射機を4個ずつほど欲しいんだ、頼んだぞ。」……最後まで言わせてくれてもいいじゃないですか。」

 

ため息交じりに作業に取り掛かる明石に質問してみた。

 

「なぁ明石、あの購買部ってのはお前の発案で始めたのか?」

 

「いや、私じゃないです。もっと前からあったらしいですね。因みに他の鎮守府の明石適性の娘達もやってますよ。夕張と明石がどっちもいる鎮守府は毎日購買部やってる所もあるらしいですけど、ウチは私だけなんで流石に毎日は出来ませんけど……。けどまぁそれでも『ありがとう』と言ってくれる皆さんがいますからね、あそこは大変だけど頑張ろうって気持ちになれる場所なんですよ。」

 

明希姉……。明希姉の口からこんな真面目な言葉が出てくるとは思わなかったな……。まだまだちゃらんぽらんだけど、根は真面目なんだよな。

 

「……ホイ完成っと!じゃあ九四式爆雷投射機が4つと九三式水中聴音機4つですね!確認してください!」

「……んー確かに確認した。ご苦労さん明石。」

「えへへ……提督では鍵を……。」

 

そういや、コイツどうやって物を仕入れているんだろうか?鍵を取り出しがてら明石に聞いてみた。

 

「なぁ明石、購買部では注文を受けたものを取り寄せてるんだよな?どうやって取り寄せるんだ?そのルートは?」

 

「企業秘密で……待って待って!!鍵をポケットに戻さないで!!もうお茶目な冗談なのに……。」

 

「それで?結局どうやってるんだ?」

 

「簡単ですよ、Ama〇nです。」

 

………A〇azon?え?いいの?海軍がAmazo〇使ってて。

 

「嘘です。」

1発殴った。

 

「酷いですよ!乙女の頭を殴るなんて!」

 

「次下手な事言ったら1ヶ月鍵預かるからな。」

 

「すいませんしたッ!!!」

 

変わり身の早さに時雨も苦笑いしてた。

 

「じゃあちょっとお店の方来てください。そっちの方がわかりやすいと思います。」

 

明石に連れられて先程の購買部へと戻ってきた。

 

「じゃどうぞ中に入ってください。」

 

「僕も入っていいのかい?」

 

「まぁ秘密ってほど秘密でもないんでどうぞどうぞ。多分知ってる人は知ってますから。」

 

時雨と購買部の中に入ってみると売り場の奥にも部屋がありそこには「パソコン…?」

 

「そうです、このサービス、実は海軍の大本営がやってるんですよ。」

聞いてみると前に、艦娘達が通販で買い物するようになり鎮守府に宅配トラックが一時間おきに来ると言う状況があったそうだ。

流石に海軍としても情報漏洩や爆破テロの可能性もあるかもしれない、最初ネット通販の禁止をしようとしたが艦娘達の反対もあり、それで始まったのが明石の購買部ということらしい。

 

外部のネット通販は禁止になったが代わりに海軍内で通販出来るようにしたのだった。何か欲しいものがある時は明石に頼み、何日か後にまとめて軍の輸送トラックで運んでくるという仕組みだ。

 

「ほーなるほどね。ほら、じゃあ約束の鍵だ。その研究室とやらで問題起こしたらすぐに鍵没収するからな。」

 

「ひゃっほーーーい!!!愛しの研究室!!!勿論勿論!!!この私が問題起こす訳ありませんから!!!提督ありがとうございまーーーす!!!」

明石はダッシュで工廠奥へと引っ込んで行った。

 

時雨は「明石さんらしいね。」と笑っていたが

 

いや、購買部完全に営業終わってから行けやと思っていた。

 

「あら、提督こちらにいらしたのですね。」

 

「お、淀姉さん、遠征お疲れ様。予定より早かったね?どうだった遠征?」

 

「大淀さん、お疲れ様。」

 

「ありがとう時雨ちゃん。勿論成功ですよ。今日は天気も良く、波も穏やかでしたので早く帰ってこれました。獲得資源は後で報告書作成しますのでそちらに目を通して下さい。」

「ありがとう、休んでからでいいからね……ところで淀姉さんさぁ、明希姉の研究室入った事ある?」

 

淀姉さんはその言葉を聞くと怪訝そうな顔をした。

 

「明希の研究室……ですか?いえ、無いですね。私もこうちゃんが知っての通りここに来て一週間経ってませんから。明希ったらまた変なことしてるんじゃないでしょうね……。」

 

「一週間前俺が来た時、色々あってその研究室の鍵没収したのよ。で今日その鍵を返したんだけど結局俺もアイツが研究室何してるか知らないしさ。というか明希姉のヤツ購買部の営業放置してるし。」

 

淀姉さんは呆れたと言わんばかりに溜息を吐いた。

 

「連れ戻すついでに中の様子も見ていきましょう。明希の事だからとんでもない事をしてても不思議じゃないですからね。」

 

こうして俺達3人は明石の研究室に突入して行った。

 

そこで待ち受けていたのは……

 

「うへへ〜!ようやく研究室が返ってきたわ!全くこうちゃんもこうちゃんよねー、鍵取り上げて倉庫の掃除しろって?倉庫なんてどうせまた散らかっていくんだからさ〜。お!これこれ〜プラズマレールガン!誰か使ってみてくれないかな〜?伊勢さんや日向さんの刀、放電する日本刀とかカッコイイと思うんだけど!!いつか波動砲とかも作ってみたいしなぁ〜!色んな想像が膨らむ流石愛しの研究室!!」

 

…………。

 

多分俺と淀姉さんと時雨は同じ考えだったと思う。

 

このマッドサイエンティストが!!!

 

前にも言ったと思うんだけど、給糧科は安全だけど整備科にはマッドなやつが偶にいるって言ったでしょ?

 

明希姉みたいにやばいものを作り出すやつがいるんだよ。いつかガスグレネードとかまで作り出しそう。

 

お前はOPEXのドースティックかよ。

 

横を見れば……ヒェッ!!

 

修羅と化した淀姉さんがいた。

 

「明希ぃ〜?貴女、購買部をすっぽかしてまで何してるのかしらぁ〜?それと……この規格外の装備は何かしらねぇ……?」

 

「よ、淀!?なんでここにというか今遠征のはずじゃ!?」

 

「予定より早く終わったんですよ。それよりもこの装備はどうやって作ったのかしら?まさか私達が汗水流して回収してきた資材を使ってたりしませんよねぇ……?」

 

「そ、そんなまさかぁ……へへ、えへへ……こうちゃん助けて!!淀にシバかれる!!」

 

「……いや、無理だ。擁護出来るような要素が何一つないんだわ。それと、倉庫はどうせ散らかるから掃除の意味なんて無いって……どういう事かな明希姉さん?」

 

俺が助けてくれないと悟った明希姉は時雨にすがりついた。

 

「し、時雨ちゃん!!時雨ちゃんは私の事信じてくれるよね!?ほら!私の間宮券あげるからさ!ねっ!?」

 

しかし時雨はフイっと工廠の外に顔を向け……

 

「……雨は、いつか止むさ。」

 

「今日雨なんて降ってな……いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーー!!!!!!!」

 

こうして工作艦明石は淀姉さんからこってり絞られ、首から『反省中』というプラカードを下げ購買部横で正座させられていた。お昼は間宮に頼んで持ってきてもらい、その間購買部は淀姉さんと俺と時雨で営業した。

 

因みに明石愛しの研究室はまた一週間使用禁止になったとさ。




この番組ではみんなのリクエストをお待ちしています〜

素敵な恋のエピソードと一緒に〜ダイヤルをして〜

ここでおハガキを一通〜R.N『T督』さん〜

『最近仕事がハード過ぎて……先輩というか上司に当たる人がヤバいのなんので……早い所脱出しないと……。』

……恋のエピソードって言ってるじゃん。
つ、続いてのおハガキをもう一通!!R.N『明石海峡大橋』さん〜

『今日私の生き甲斐でもあった研究室がまた使用禁止になりました。その時に同期というか同僚からシバかれて……ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙コノヨノナカヲカエタイッ!!!……あ、こうちゃん大好きだよ〜!お願いだから鍵を返して下さい!!!』

ちょっとだけ企画に近づいた……いや、やっぱ違うわ。
頼むぜ、時間的に次が最後だし!

さ、最後のおハガキを一通R.N『カスミ』ちゃん〜

『ちゃ、ちゃんと頑張れって言ったし…クズとか言っちゃってるけど私なりには応援してるんだから……。』

……こ、こういうのを待ってたんだよ!!ありがとう『カスミ』ちゃん!!!……お、他にも『ミッチー』ちゃん『ボーノ』ちゃんからも似たようなおハガキ頂いてました〜!時間の都合でここまでとさせていただきます〜!また次のラジオでお会いしましょう!

Let's get to your love~!!






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就活戦争14日目

お疲れ様です、作者の狛犬太郎と思われるなにかです。

4月、始まりましたね。新しい環境で過ごすのはとても大変かと思います。私も非常に大変になりました。

生活習慣がガラッと変わりますものね。

ひたすらに眠いし、愛しのお布団とは朝早くにお別れとなるのは悲しいですね。

新生活で大事なのは早い事その生活に慣れることかもしれませんね。

学生も社会人も寝れる時は寝ろよ!!

特に新しい環境になった時は特に!!

就活生は本当に寝とけ!!

倒れるぞ!!



目覚まし時計がセットした定刻通りに鳴り出した。

 

只今の時刻、朝5時。寝惚け眼を擦りながら布団からムクリと起き上がる。本日は日曜日、しかしそんな事は関係ない。どんなに粘っても1時間以内に叢雲辺りが怒鳴り込んでくるに決まってる。

 

いや、まだ叢雲ならいい方かもしれない。もし、淀姉さんが来ようものなら俺の布団の上はプロレスのリングへと早変わりだ。因みに一切の抵抗も許されない、というか抵抗しようにも身動き一つ取れずに関節技を決められる。

 

提督になって1ヶ月が経った。1ヶ月経った訳なのだがどういう事か未だ休みらしい休みが無い。正確には休みはあるんだけど俺の心が休まらない。

 

休めるかな〜と思うと誰かしらが俺の部屋にやって来るので1人で自由な時間を過ごせない。

 

先週の日曜日は午後から半休だったものを我が姉である明希姉こと明石が盛大にやらかしてくれたのでその半休すら失われた。

 

そんな明石さんですが次の日に有給使って隼鷹や球磨達何人かと共に街でパーっとやってきたらしい。皆さんご想像の通りべろんべろんになって帰ってきた。

 

マジでなんなのコイツら……って思ったねあの時は。

 

主犯である明石に説教しようかとも思ったが、酔っ払い共に説教しても馬の耳に念仏、逆にダル絡みされる事が予想出来たので諦めてさっさと部屋に帰らせた。

 

道中明石がやたら絡んできたけど全て、「はいはい…」と聞き流した。

 

結局のところ……『いいなーー!!俺もパーっとしたいなーー!!』ってのが本音だ。折角、職場が京都にあるんだ。京都の風情ある町並みで神社やお寺、美味しい食べ物や気になる脇道、綺麗な舞妓さんなんかを見て、居酒屋なんかでお酒飲んで気分よく前に住んでたアパートに帰りたい。まぁ京都駅までここからだと電車で2時間ぐらいかかるんだけどな。もし今日休みだったとしたら疲れてるから天橋立とかが良い。隣駅だし。

 

同じ京都でも東京から新幹線乗るのと時間的には大して変わらないのだ。むしろ新幹線の方が早いかもしれない。

 

まぁそれでも鎮守府内じゃないし、監視の目も緩まるだろう。艦娘達に行き先を伝えずにササッと行ってそのままおさらばだ。

 

……その作戦の大前提として休みの獲得が必須なんですがね。

 

兎にも角にも眠いしダルい。……正直、俺すんごい頑張ったと思うんだこの1ヶ月。今日ぐらい休んだっていいじゃないか……。愛しのお布団、どうして君は僕を離してくれないんだい?でも本当は僕も君ともっともっと一緒にいたいんだ!!でも魔王が迫ってくるんだ!

 

「ちょっとアンタ〜!いつまで寝てるのよ!入るわよ〜!」

 

ほら、魔王襲来だ。でもなんか雰囲気違うな……魔王って言うより朝起こしに来たオカンって感じ。

 

玄関の開く音と共に足音が1つ。

「やっぱりまた寝てるじゃない……。ほら、早く布団から出なさいよ、時間は有限なんだから!」

 

俺はその声が聞こえるや否や、布団を頭から被り、芋虫に変化した。

 

「……叢雲ぉ〜、俺はもう疲れたんだ。昨日遅かったし今日は休ましてもらうぞ!仕事はしない!!もうお布団と結婚する!!」

 

「……は?何言ってんのよ、アンタ今日休みじゃない。」

 

………………?

 

ちょっと何言ってたかよく分からなかったなぁ。

 

「叢雲さん、今なんて言った……?」

 

恐らく俺の顔は今、相当アホ面だろう。しかしそんな事よりも重要なワードが叢雲から聞こえたぞ!?

 

「だから、アンタは今日休みでしょうが!!」

 

「……休み?」

 

「休み。」

 

「Holiday?」

 

「Yes,Holiday.」

 

「………よっしゃあぁぁぁぁーーーーーーっ!!!!休みだぞぉぉぉぉーーーーーーっ!!!」

 

夢にも見た休みが今現実に……!!!

 

………ん?でもなんで急に休みに?

「アンタは今日は休みって……昨日大淀さんから言われたんじゃないの?」

 

昨日、昨日……執務室で時雨と仕事して、昼に食堂で間宮ランチしてまた執務室で書類にはんこポンポンしてる途中で眠気が襲ってきてうたた寝したら淀姉さんも襲ってきて……あぁ、チョークスリーパー決められてもう一度眠りについた気がする。うたた寝してた辺りとチョークスリーパー決められた辺りの記憶が定かじゃないからその辺で言われてたのかもしれない。

 

うたた寝してた俺も悪いけどチョークスリーパーでトドメを刺した淀姉さんにも非はあると思うんだよ、え?ない?……そっすか。

 

まぁ、それはそれとしても……

 

「休みは休みじゃあぁぁぁーーー!!!俺は寝るぞ、叢雲ぉぉぉ〜〜〜!!!」

 

背景にドドドド!!とかゴゴゴゴ!!とか擬音が付いてる石仮面の某アニメみたいな喋り方で布団に潜り直す俺。

 

休みじゃ休みじゃ!!二度寝できるという幸せ!!5時起きどころか昼ぐらいまで寝たっていいわけじゃん!!だって休みだもん!!

 

「何言ってんのよ、とっとと起きなさい。アンタは私に借りがあるでしょうが。今日はその借りを返しなさい。私も今日休みだからこれから出かけるわよ。」

 

沈黙が部屋を包んだ。実際俺の顔は今絶望の顔だろう。

 

「……いや、待ってくれ叢雲!今日は、今日だけは勘弁してくれ!!頼むから今日だけは休ませてくれ!!」

脱出の失敗、増え続ける仕事、淀姉さんからの説教で心身ともにもうヘトヘトだ。

 

借りは返さなければ行けないが今日は辛すぎる。

 

「次いつ休みが被るかなんて分からないんだから今日以外機会はないでしょうが!!文句言わずにさっさと起きる!!」

 

抵抗も虚しく叢雲に布団を剥ぎ取られてしまう。これが夏なら大したことないのだが、4月の朝はまだまだ冷えるのだ。

ぬくぬくと温かったお布団を奪われ、部屋の冷えた空気が俺を一気に冷やしていく。

 

「だあああぁぁぁーーーーーーー!!!!!!!わーったよ!!!行けばいいんだろ行けば!!!」

 

「うむ、宜しい。」と叢雲は満足げに頷いていた。

 

くっそぉぉぉ〜〜〜!!!休みってなんだよ!?これじゃあいつも通り休日返上じゃねーか!!

 

着替えると言って叢雲を追い出したが「アンタ寝直す気満々だから、5分経っても出てこなかったら大淀さんに報告して休み取り消してもらうから」と俺の考えてる事がバレバレだったので諦めて着替えた。

 

そして着替え終わり、部屋から出ると引きずられるように叢雲に連行されるのであった。

 

この時俺は気がついていなかった。

 

「フッフッフッ……青葉、見ちゃいました!!あのお二人でお出かけですか!幸いにも今日は私もお休み!!まだまだ謎が多い司令官と普段隙のない叢雲さん!!この機会を逃す訳には行きません!!」

 

出歯亀精神旺盛なコイツに捕捉されていたことを。

 

「さてさて、この情報をどうするか……。私だけで独占するのもありですが記事的にはもう少し面白くしたいものですね!……今日のお休みは誰がいたっけなぁ?白露型の子達は今日遠征かぁ、司令官がお休みだから時雨ちゃん、夕立ちゃんも同行と……他の面白そうな子達も出撃だったり遠征だったりで……あ、良い方達見つけちゃいました〜!!」

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーー

 

舞鶴第2鎮守府から1番近い宮津駅から特急はしだてで約2時間。時間は9時頃、俺は叢雲と共に京都までやって来ていた。

 

最初俺は天橋立で観光したりご飯食べたりすると思っていたのだが叢雲の要望で京都となった。買い物をするなら京都まで出てしまった方が色々あると言うことらしい。

 

京都に行きたいとは思っていたけど正直今日は天橋立とかでササッと観光して終わらせたかった。

 

烏丸口から改札を通り修学旅行以来の京都タワーが目の前に現れた。

 

「さて、着いた訳だが叢雲さんよ、なんか予定とか決まってんの?あ、エスコートしなさいとかは無しな?京都は中学の修学旅行以来で土地勘無いし、実質今日休みを知ったわけだし。」

 

「……今回は仕方ないわね。まぁ、今日は私の行きたいところに行く気だったし、私は何度か来たことあるから今日は私が案内してあげるわ。でも次来る時はアンタが私の事案内しなさいよね?」

 

「えぇ〜、今回含めても2回しか京都言ったことないやつに 案内任すのかよ〜?」

「なら今回色々見ておく事ね、足りないなら次までに良い観光スポットや美味しい食べ物を調べておきなさいよ?」

 

いつも通り俺に対して当たりは強いが口調は普段より優しげだ。余程楽しみだったのかいつもツンツンとした表情も柔らかく、ふんすっ!と気合十分だ。

 

対して俺は眠そう気だるげだ。

 

いつものうさ耳艤装があったらブンブン動いてそうだ。

 

今日の叢雲はいつもの制服ではなく私服だ。茶色のテーラードジャケットに白いブラウス、黒のスカートに緑がかった黒のタイツという組み合わせ……なかなか似合ってる。艤装も外しているのでかなり新鮮だ。

 

やっぱりインパクトというか印象強いよな?叢雲のうさ耳艤装。あれが無くなるだけでも相当イメチェンだと思う。

 

「何よ、ジロジロ見……アンタ、私に何か言うことは無いのかしら?」

 

あ?なんだよ急に?あぁなるほど。

 

「あぁ、分かった分かった。初日は色々迷惑掛けたな。今日は俺が金出すけどカードの上限額超えるまでってのは無しにしてくれよな?」

 

「それもそうだけど、そうじゃなくて今日の私を見てどう……〜〜〜ッ!!今日アンタには荷物持ちさせるから!!覚悟してなさい!!」

 

背中を思いっきりぶっ叩かれた。

 

「あだっ!?何すんだよ急に!?」

 

「うっさい!!グズグズしないでとっとと歩く!!」

 

こうして俺は朝と同じように叢雲に腕を引かれながらズルズルと歩くのだった。

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーー

 

「おーおー随分と仲良さげに歩いてるクマねぇ。」

 

「いや、球磨姉さん、俺には提督が引きずられてるようにしか見えないんだが……というかなんでこんな事に……。」

 

「にゃー、木曾はあのもどかしい感じが分からにゃいかにゃ?」

 

「まだまだクマねー。」

 

「それはさておきどーすんだよ?見ろよ、北上姉さんと大井姉さん達。大井姉さんは『私全然興味無いんですけど』感アピールしてる割にはめっちゃ提督達の事チラッチラ見てるし、北上姉さんは双眼鏡やらなんやらで提督達ガッツリ見てて最早不審者じみてるし……ほら、俺らの事忘れて追いかけてっちゃったよ。」

 

「仕方のない妹達だクマー、まぁでもこの状況だったらその気持ちもわからなくはないクマ。こういう時こそお姉ちゃんが一肌脱いでやるクマ。多摩、木曾、みんなを追いかけるクマ〜!」

 

「にゃー!」

 

「お、オー……。」

 

「木曾、全然元気ないにゃ!もっと声を張るにゃ!」

 

「しかもクマ、にゃーと来てるのにオーとはなんだクマ。なんか掛け声あるだろクマ。」

 

「いや、俺、姉さん達みたいな特徴ある語尾付けないし。」

 

「文句が多いクマ!この際だから私が木曾の語尾を決めてやるクマ……まぁ無難にキソでいいクマね、これからは〜キソとか〜キッソーとか言うクマよ。」

 

「やだよ恥ずかしい!!なんだよキッソーって!?ボケモンのペカチュウか!!」

 

「愛嬌のあるいい語尾にゃー。木曾良かったにゃー。」

 

「多摩姉さんまで……こんな事だったら天龍達と残って自主トレしとけば良かった……。」

 

「ほら、まずは練習あるのみクマ!とりあえず『木曾だキソ!』って言ってみるクマ。」

 

「恥ずかしいなんて感情捨てるにゃ!多摩達はこの語尾に誇りを持ってるにゃ!それが言えないという事は多摩達の誇りを馬鹿にしてると同じにゃ!」

「めんどくさい姉たちだな!?俺は絶対「帰ったら青葉に木曾の恥ずかしい話を流すクマ」分かったよ!!言う!!言うから!!」

 

「分かればよろしいクマ。とりあえず今日はお試しクマ。1回『木曾だキソ!』って言うクマ。」

 

「姉さん卑怯だぞ……はぁ、1回だけだからな……き、木曾だ……キソ……。」

 

「木曾、それは無いクマ。肝心な所が聞こえないクマね。」

 

「もう一度にゃ。」

 

「1回って言ったじゃねーか!?「青葉に」だから卑怯だぞ!!」

 

「木曾、おねーちゃん達もそこまで鬼じゃないクマ。」

 

「ついでに言うなら多摩は猫じゃないにゃ。」

 

「結構鬼だわ。俺もついでに言うならそれは知ってる。」

 

「私達に聞こえるようにセリフを言えれば1発で終わるクマよ、さぁ木曾、恥ずかしいと思うなら1発で決めるクマ!」

 

「にゃー!木曾、腹から声出すにゃ!」

「うぅ……なんだってこんな事に……。」

 

こうして木曾の自己紹介(語尾にキソ付き)はなんだかんだで結構な回数続いた。その時の姿を青葉に撮影されてるとは木曾も思わなかっただろう。

 

彼女がその事を知るのは後日、青葉が鎮守府内で発行している新聞に掲載されてからだった。

 

後に木曾は遠い目でこう語った「姉さん達から恥ずかしい話をバラされなかったところで無意味だった……こうして俺の恥ずかしい話は新聞に載っちまった訳だしな……。」

 

頑張れ木曾、負けるな木曾!今日も元気に頑張るキソ!!

 

「おいやめろ!!」




3〜段重ねのアイス

食べたくな〜ったと

眠っている僕を起こして急いだ

今日の朝、被害者は俺。この時、3段重ねのアイスが食いたかった事は俺も知らん。

いざ店に着いたら

終了していたキャンペーン

仕方なく2段のアイスでも我慢した

不貞腐れてる君を慰めようとして(財布的に助かった)

やけに明るく振舞ったら

余計に怒らせてしまった。

思わずにやけてる僕を

「何ニヤニヤしてるのよ!!アンタの財布空にするわよ!!」そいつは勘弁してください。

あと1段はチョコミントが良かったみたい

やっぱりねって言うと叢雲は

「別にいいじゃない、好きなんだから!」

照れくさそうにチョコミントを頬張ってむせてた。

可愛らしい所もあるのね。



次回は京都観光編です。


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就活戦争15日目

4月も始まり、1週間になりますね。

もうお休みがあったという方も今日お休みという方もいらっしゃるでしょう。

休みは最高だ。休み期間以内ならいつまでお布団と共に過ごしてても問題ないから。

新生活に慣れるまで頑張りましょう。

スーツは2着ぐらい持っておけよ!!

着る人はめっちゃ着ることになる消耗品だから交互に着てけば結構持つからな!!!


青葉から提督と叢雲が京都まで出かけたという情報が舞い込んできたのは朝6時過ぎ。

 

食堂で愛しの北上さんと一緒に素敵な朝ごはんを私は食べていた。寝惚け眼の北上さんがご飯をゆっくり食べる姿はとても可愛いのだ。

 

すると私の隣に「失礼しま〜す!!」と朝でもやかましい事でお馴染みの青葉が座ってきた。正直鬱陶しい。私は「おはようございます。」と一言だけ言い、北上さんとの食事を再開する。

 

「球磨型の皆さん、今日はお休みなんですね〜、実は私もなんですよ〜!〜〜〜。」

 

無難な会話をしようと青葉はあれやこれやと話を振ってきた。私は北上さんとの朝ごはんを楽しみたいのでハッキリ言って邪魔でしかない、何なのかしらホント……。

 

面倒になった私が邪魔だと伝えようとした時、青葉から私達の目の前に、1枚のメモ用紙を滑らせてきた。

 

一体なんなのかと折りたたまれたメモ用紙を開いていくと……そこには一言だけ

 

『提督と叢雲ちゃんが2人でお出かけする。』

 

とだけ書かれていた。

 

青葉がちらりと食堂の奥へ視線を向ける。

 

そこには件の提督と叢雲が朝ごはんを食べ終え、食器を片付けている所だった。

 

そしてこちらに目配せすると一呼吸置いて日常会話を始めた。

 

「実は今日の休みを使って私、『京都』まで行こうと思うんですよ〜!『7時発』の特急に乗ってなんですけど、これを使えば大体9時ぐらいには京都駅に着くんです〜!

それでお茶飲んで少ししたらピックカメラで新しいレンズを買おうと思ってるんですよ〜!」

 

青葉が所々言葉を強調して来るのには意味がある。今回は『京都』と『7時発』というワード。

 

へぇ〜『7時発』の特急で『京都』に……。

 

「……『京都』ねぇ〜、偶にはアタシ達も遠出してリフレッシュするってのも良いねぇ大井っち、ならアタシ達もその7時発の特急に乗ってこうか〜。」

 

北上さんの顔はついさっきまで寝惚け眼だったとは思えない戦闘直前の顔つきへと変わっていた。

 

私は提督と叢雲が出掛けることに興味など無い、本当に微塵も興味など無いが北上さんが偶には遠出しようと言うのであれば致し方ない。

 

「もし、向こうでお会いしましたら1枚よろしいですかね?新しいレンズの被写体にお二人はピッタリですので!」

 

青葉がシャッターを押すポーズをする。

 

あまり撮っては欲しくないのだが、北上さんとのツーショットなら旅の記念にもなる。……

 

「アタシは構わないよ〜。」

 

「あまり撮って欲しくはありませんけど、出来ればツーショットでお願いしますね!」

 

と私は北上さんとのツーショットをアピールしておく。

 

「ありがとうございます!ではでは、私もそろそろ準備しないといけないのでこの辺りで失礼します!今日の休暇、楽しんできてくださいね!」

 

……記者って言うのは本当に『良い性格』してるわ。まぁ、今回は見逃しましょう。あくまでも、青葉は私達に観光地をオススメしてくれただけですし。

あ、北上さんが食器を片付けるみたい。私達も7時の電車に乗るならそろそろ支度しなくては……。

 

後ろの席にいた姉妹達も話を聞いてたらしい。勘のいい姉のことだ、今の会話と視線のやり取りで察したのだろう。結局、球磨型全員で京都へ遊びに行く事となったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

なんだか後ろの方が騒がしいが興奮気味の叢雲に腕を引っ張られて止まる事は叶わないので見ることは出来ない。……まぁ大したことは無いだろう。この辺なら芸達者な人とかもいるはずだし。マジックとかその辺やってたと想像する。

 

「んで叢雲、これからの予定はどうするよ?」

 

グイグイと歩いていく叢雲を少しでも落ち着かせようと声を掛けてこれからの目的を聞く。

 

「まずは今いる南北自由通路を通ってバスロータリーまで行くわ。そこでバスの1日券を買う。そしたらそうね……デザートを食べるにしてもまだ時間が早いからどこか観光しようかしら。……アンタはどこか行きたい所とかある?」

 

聞かれても京都でピンと来る場所は限られてるからなぁ……他にどんな所があったっけな?

 

「んーそうだなぁ……。マップ的な所ない?そこ見て決めようぜ。」

 

「ん、分かったわ。」

 

叢雲の案内でバスロータリーまで出てきた俺らは券売機横の全体マップを確認する。

 

懐かしいな、中学の修学旅行で京都を訪れた時今でも覚えてるのは金閣寺と清水寺ぐらいだが。

 

「じゃあ、どうするのよ?」

 

「うーん、どーすっかな……。」

 

俺らが行き先で悩んでるとおじさんが声を掛けてきた。

 

「お兄ちゃん達はどちらまで?」

 

どうやら観光案内の人らしい。そう言えば修学旅行の時もこんな感じの人いたな。

 

京都は目的地が沢山あり、それだけ行先の違うバスがあるので観光客、特に外国人なんかはどのバスに乗ればいいか分からなくなる。

 

そんな観光客相手にどのバスに乗ればそこまで行けるか教えてくれるのがこのおじさんだ。

 

 

「いやぁー、今どこに行こうか迷ってて……因みにどこかオススメってあります?」

 

分からない時は知ってる人にオススメを聞くのが1番良い。基本ハズレはないからな。……まぁ偶に微妙な時もあるけど。

 

まぁそもそも京都だしハズレは無い、さらに言えば長年観光案内してるだろうこの人なら安心だろう。

 

「そうだねぇ〜、私のオススメなら伏見稲荷大社かなぁ……今の時間ならまだそこまで混んで無いだろうし、あそこは時間が経つにつれてどんどん人が来るから行くなら朝方の方が良いと思うよ?」

 

伏見稲荷大社かぁ、この京都で日本人にも外国人にも大人気の観光スポットのひとつだ。修学旅行でも行けなかったし、行ってみるか。

 

「あら、良いんじゃない伏見稲荷大社。1回行ったけどなかなか良いところよ。」

 

叢雲とも意見が一致したので目的地は伏見稲荷大社で確定した。

 

「ありがとうございます、因みに伏見稲荷大社行きのバスはどこから……」

 

「伏見稲荷大社でしたらここからぐるっと奥まで行ってC4のバス停まで行ってください。そこから伏見稲荷大社行きの急行105か南5番のバスに乗ったら稲荷大社前で降りてください。後は道なりに行けば伏見稲荷大社まで着きますので。」

 

えーととりあえずC4のバス停まで行って105か南5番のバスに乗ったら稲荷大社前ねオーケーオーケー

 

「何から何までありがとうございます、助かりました。」

 

「いえいえ、これが仕事ですから!あ、そうそう、お二人はバスの一日乗車券お使いになられます?」

 

「えぇ、使う予定よ?」

 

「では、1つお得な情報を教えておきましょう。すぐ隣の券売機、凄い並んでるでしょう?これを待つのは結構しんどいですよね。」

 

右を見れば俺らと同じように多くの観光客がバスの一日乗車券を買おうと券売機は長蛇の列だ。確かにこれを待つと考えると憂鬱だ。

 

「この話を知ってる人はこの列には並ばないんですよ。このまま伏見稲荷大社行きのバス停の方まで行ってみてください。……実は向こうにも券売機があるんです。」

 

「え!?それ本当!?私、前来た時この列並んだわ…。」

 

「これからは向こうで買った方が早いという事を覚えているとお得ですよ。待っても2組程度ですから。おっと失礼、向こうで外人さんが困ってるみたいだ。」

 

「あ、どうぞどうぞ。俺達はもう分かりましたから。

本当にありがとうございました、お仕事頑張ってください!」

 

「本当に助かったわ!ありがとうね!」

 

「おおきに、今の時期は桜も綺麗だから色々見てデート楽しんできてくださいね〜!」

 

案内人のおじさんは仕事をすべく、案内板と睨めっこする外国人の元へ向かっていった。

 

………。

 

隣を見れば少し俯いて顔を赤くした叢雲がいた。

 

いやいやいや待て待て待て、俺らはここに遊びに来ただけだ。それをデートって言うんじゃないかって?

 

やめろよ、俺だって今考えたら恥ずかしくなってきたんだから……。

「こっ、これはデートなんかじゃなくてただの買い物だから!!勘違いしなッ〜〜〜!!!」

 

……あ〜、舌噛んじゃったなこりゃ、痛そうだ。

 

涙目でヒーヒーしてる叢雲見てたら笑えてきた。

 

隣でめっちゃ焦ってる奴見ると安心してこない?今そんな感じ。

叢雲の頭をポンポンと撫でると教えて貰ったバス停まで足を進めるのだった。

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

アタシ達はこうちゃんと叢雲を追ってバスロータリーまでやってきた。

 

「……くっ、バスですか。」

 

「まぁここでの移動手段のひとつと言えばバスだしねぇ〜。……問題はどうやってバレずにこうちゃん達をつけられるか。」

 

 

そもそもどこに行くのか、いくら私服と言えど同じバスに乗れば2人のどちらかは気がついてしまうだろう。

 

大井っちはさっきから黒いオーラがチラチラしてるし、

彼女がこうちゃんの事を興味無いと口では言ってても実際そうでも無いことは知っている。

 

アタシもアタシで多分ソワソワというか少し落ち着きないだろう。

 

ではどうやって尾行するか……。

 

「全く2人共さっさと行き過ぎだクマ!まぁそもそも木曾がちゃんと声出さないのが悪いんだクマ。」

 

 

「……やっぱり姉さん達鬼だわ。」

 

 

「木曾、何言ってるにゃ!多摩は鬼でも猫でも無いにゃ!」

 

うん、それはアタシも知ってる。

 

「それはいいクマ。大井、提督はどうしたクマ?」

 

 

おっと、このまま話を聞いてたらこうちゃんを見失ってしまう。

 

「あんなに楽しそうに……私だって……いやいや!そんな事ないわ。私には北上さんがいれば……。」

 

 

「あー……、これはだめそうクマね。」

 

 

「あ!見つけたにゃ!!向こうに歩いてくにゃ!!」

 

視線を向けた先にはこうちゃんと叢雲の姿があった。

 

歩いていく先は……

 

「……あのバス停は伏見稲荷大社に向かうクマね。」

 

伏見稲荷大社か、無難といえば無難な選択だと言える。

 

「行先が分かったのはいいけどどうするよ球磨姉?木曾に尾行してもらう?」

 

「だからなんで俺なんだよ!?絶対バレるって!!」

 

焦る木曾を他所に球磨姉はフッフッフッと悪い笑いをする。

 

「木曾、そう焦るなクマ。こんなこともあろうかとちゃんと作戦は考えてあるクマ。」

 

そうして球磨姉は背負っていたカバンをゴソゴソと漁るとこの状況を打開するアイテムを引っ張り出した。

 

「じゃーん!那珂チャンから借りてきた変装セットクマ!サングラスとウィッグ、それとマスクだクマ!」

 

「結局尾行じゃねーか!!てかそんな変装じゃいくらなんでも気がつくだろ!?」

「那珂チャンを馬鹿にするなクマ!那珂チャンはな、これで幾多の街を駆け抜けて来た実績の持ち主クマ!これだけ実績のある変装なら木曾にも出来るクマ!」

 

「止めだ止めだ!!姉さん、俺は降りるぜ!!付き合いきれん!!」

 

おっ?大井っちに動きが……

 

「……木曾、うだうだ言ってんじゃないわよ、やるやらないじゃないの……『やれ』。」

 

「……………ハイ。」

 

「そう、じゃあお願いね?」

 

大井っちの笑顔の『お願い』は本当に迫力があるなぁ、まぁ目が笑ってないんだけどね。

 

「とりあえずこれで尾行担当は決まったにゃ。そしたら私達は次のバスで移動かにゃ?」

 

「いや、バスで次を待つのは得策じゃないクマ。そもそも伏見稲荷大社行きのバスはそこまで多くないクマ。」

 

「じゃあどうします?」

 

京都を移動すると手段といえば……

 

「電車を使うクマ。というかここから伏見稲荷大社に行くんだったらバスより電車の方が圧倒的に早いし楽だクマ。」

 

バスの一日乗車券は京都市内をほぼ行けるという非常に便利なものだが欠点として道路は基本的に混雑してたり、

大量の観光客でバス停に長蛇の列ができ、1回では乗れない等と時間をロスすることもある。

 

その点、電車は短時間で目的地付近まで一気に移動出来る。まぁ欠点と言えば京都の電車の料金が結構高いという事だろう。

 

「そうだクマ、後お前達にコレを渡しておくクマ。」

 

球磨姉が姉妹全員にまた新たなアイテムを手渡していく。

 

「これいつも使ってる無線機じゃねーか。球磨姉さんこんなものどうやって持ってきたんだよ?明石さんと倉庫番の妖精さんがいるだろう?」

 

腹を括ったのか木曾も真面目な顔つきだ。やるならトコトンやるって言うのが木曾のいい所だと思う。まぁでも木曾の疑問は私も気になるところだ。

 

これはいつも作戦時に使う小型無線機。作戦時以外は無断で持ち出せないように倉庫にしまってあるのだが、どうやって……。

 

「知らない方がいい事もあるクマ……ってカッコよく言ってみたいところだが実際は多摩と一緒に明石と倉庫番妖精さんにちょっと袖の下から良いモノを渡してきただけクマ。」

 

「俗に言う賄賂ってやつにゃ!」

 

おいおい、ザル過ぎでしょウチの鎮守府。最早倉庫番の意味ないじゃん……。

 

身内のセキュリティ一の甘さに一抹の不安を感じながらもアタシら姉妹により変装させられた木曾を提督達が乗るバスへ送り込み、アタシ達は提督達よりも先回りする為、電車へと乗り込んだのだった。

 

 

 

 

 

 

 




ベッドに〜倒れ込んで〜ため息一つ

執務で〜疲れ果てて〜身体は重い〜

想像した将来は近づいてこない〜

シーツに顔をうずめて「なんでだ?」って呟いた真夜中〜

Ah Ah Ah Ah Oh God bless you 願いは届かないのか〜

「ですから今日はお休みにしたじゃないですかこうちゃん。叢雲ちゃんと京都まで行くんでしょう?」

「淀姉さん、これじゃあ実質休日出勤です。」

「あら、でしたら私と一緒にお仕事します?まだまだ捌かないといけない書類がありますよ?」

「謹んでお休みを頂戴させていただきます。」

「あ、そうそう、こうちゃん。来週は久しぶりに私とお出かけしましょうね?」

……100%うまくいくという人生ってどうなんだろう〜?

俺は良いと思う。



※本編に特急はしだて7時発と書いてますが実際の発車時刻に、はしだて号の7時発はありません。

もし、遊びに行く予定の方がいらっしゃる場合、改めて時刻表を調べてね。


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就活戦争16日目

仕事の都合で少々遅れました。

やっぱり新しい環境は慣れるまで大変ですね。

皆さんも体調管理には気をつけて。

今回の京都旅行編ですがまだ暫く予定なのでどうぞお付き合いの程よろしくお願いします。

今は話の都合上叢雲ちゃんにかなり有利になってるから大井っちやハイパー北上様、淀姉さん、時雨、夕立等の方々と航希君の絡みをもっと増やしたいですね。

すいません頑張ります。


……何だか不穏な空気なのは気の所為だろうか?後々面倒な事が起こるのは勘弁願いたい。

 

案内人のおじさんに言われた通り、伏見稲荷大社行きのバス停近くに券売機があったのでそちらでバスの一日乗車券を購入する。

 

叢雲が「前回20分近く列に並んでたのが馬鹿みたいじゃない……。」というのも分かるぐらいあっさりと券が買えた。

 

みんなも京都行く時は覚えといた方が良いぞ?ほんと早い。

 

5分ほど待つと伏見稲荷大社行きのバスがやってきたので俺らはバスに乗り込んだ……あの後から乗ってきた人存在感ヤベーな。

肩ぐらいまでの長さで茶色がかった黒髪にキャップ帽、

ボーイッシュな服装、そして何より存在感を放つのがデカいサングラスとマスクだ。

 

乗車時にマスクを1度外してくれと運転手に言われて取ってたが1番後ろの席に腰掛けると直ぐにマスクをつけ直した。

 

普通なら風邪気味か花粉症なのだろうで済ますのだが、格好が格好なので中々目立つ……なんつーかお忍びで遊びに来た有名人って感じ。

 

スラっとした手足、ボーイッシュな格好、デカいサングラスにマスクと来た。モデルか有名バンドの一員とかだろう。実際、所々から「あの人カッコよくない?モデルさんかな?」や「雰囲気あるな、どこのバンドメンバーだろ?」やらいわれてた。

 

……でもあの人がマスク取った時、どっかで見たことあるような気がしたんだよなぁ……。

 

まぁ俺の有名人説が正しいならテレビとかどっかで見たことあるんだろうな。

 

因みに叢雲はスマホを使って本日の本目標であるデザート店と今後の予定を調べまくっていた。

 

時折「アンタも意見出しなさいよ。」と言われたのでバス停に行く前に観光案内所で貰ってきたマップを叢雲と見つつ予定を考えていた。

 

こうしてバスに揺られること15分程、本日最初の目的地である伏見稲荷大社に到着した。

 

伏見稲荷大社行きのバスだけあってほぼ全員が稲荷大社前のバス停で下車した。

 

……お、あの人も降りるか。やっぱりお忍び旅行とかなのかな?

 

有名人さん(仮)は喉が渇いたのか自販機で水を購入し、みんなに見られないよう後ろを向いてから水を飲んでた。有名人も大変だな、そんな所まで気を使わないといけないなんて俺ならストレスでハゲる。

 

「さっきからどこ見てるのよ?あんまりキョロキョロしてるとみんなから気持ち悪がられるわよ?」

 

「サラッと毒吐いてくるね君ぃ〜、まぁ慣れてるから良いけどさぁ。」

 

「え?気持ち悪がられるのに?」

 

「ソッチジャネーヨ。」

 

なんで気持ち悪がられるのに慣れなきゃ行けねーんだよ?思わずカタコトになっちまったじゃねーか。

え?何?俺、鎮守府でみんなから気持ち悪がられてるの?自分、提督辞めて良いっすか?元より辞めたいんである意味好都合かもしれないけど、それはそれでメンタル来るわ……。

 

「まぁ冗談はさておき、さっさと行くわよ。ここじゃ他の人の邪魔にもなるし、伏見稲荷大社までもう少し歩かないと行けないからね。」

「へいへい。」

 

「返事は『はい』そして1回。」

 

「はい…。」

 

さて、気を取り直してレッツ観光だ。

 

流石京都の観光名所、他の観光客も結構いる。

 

というか………

 

「京都駅の段階で思ったけど、外国人めっちゃいるな……。」

 

右を見ても外国人左を見ても外国人。

 

日本人かと思えば外国人ぐらいの割合で外国人がいらっしゃる。

 

外国人も『そうだ京都、行こう』みたいな感じで来てるのかな?流石Cool Japan。これがあと数時間したら倍以上人が来るって考えるとなかなかヤベーな。人口密度的にはHot Japanだわこりゃ。

 

「まぁ外国人の間でも京都の観光スポットナンバーワンになってるぐらいだし来るでしょ?なんだかんだで私達日本人も結構いるし。」

 

「観光地としては有名になってありがたいかもな。」

 

まぁ問題もあるらしく国内外含めて観光客が多くなり過ぎて道が狭くなったやらバスが非常に混むやら色々問題も出てるだろうし、これからの課題なのだろう。

 

こうして暫く歩いていくと朱く大きな鳥居が見えてきた。

 

「さて着いたわ!ここが伏見稲荷大社よ!」

 

「おぉ〜、これは凄いや。」

 

月並みな感想だが圧巻の一言だ。朱朱朱と目につく限り朱色の建物、堂々立つ鳥居の先にはこれまた立派な楼門が構えている。

 

他の神社と異なるのはまず普通神社の脇に居るのは狛犬だが伏見稲荷大社は『お稲荷さん』と呼ばれているだけあって楼門の脇には狛犬ではなく、狐が鎮座している。

「ねぇアンタ、この楼門ってあの豊臣秀吉が建てさせたものだって知ってた?」

 

へぇ〜、あの秀吉が……やっぱり有名な人は色んなところで色んなことをしてるもんだな。

 

「それは知らなかった。叢雲、お前物知りだな……。」

 

「結構調べたり、テレビで見たりしたからね。……なんでもお母さんの病気を治してくれたってお礼でこの楼門を建てたらしいわよ?」

 

はーすっげぇなおい。俺も鎮守府脱出祈願して置こうかな……出来たら油揚げといなり寿司めっちゃお供えしよう。流石に楼門は建てられんからな。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

木曾は戦闘中焦らず冷静に判断できる能力の高い艦娘だと皆からも言われてきた。木曾自身もどちらかと言えば冷静沈着であると自負していた。

 

そんな木曾でも焦る事はある。現に今やっている尾行には焦りを感じていた。任務内容は同型艦の姉妹達から強制的にやらされている提督と叢雲の動向を監視するもの。

 

腹を括ったつもりだったがやはり後ろめたさがある。

 

それが木曾の心の余裕を無くさせたのだろう。

 

『はぁ〜、尾行は尾行でも海の上で深海棲艦を尾行する方がまだ気楽だな。出歯亀精神旺盛な姉さん達には困ったもんだよ……。』

 

何より木曾を焦らせているのは「あの人カッコよくない?」「どっかのバンドメンバーとか?」とほかの乗客から視線を浴びまくってる事だった。

 

みんなあまりこっちを見ないでくれ……ほら提督達も見てるじゃないか……。

 

球磨姉さんは那珂ちゃん御用達の変装装備と言っていたが絶対に間違ってると木曾は感じていた。

 

変装は目立たないためにするものだ。

 

後に那珂に聞いてみたところ『変装すると有名人感でてみんなに注目してもらえるから〜!!』との事だった。まぁその事を今の木曾は知る由もない。

 

恨むぜ球磨姉さん……ともかく早く降りてぇ……。

 

『ザッ…そっちの様子はどうだクマー?』

 

そんな時、件の球磨姉さんから無線が入った。一応周りに聞こえないよう小声で返答する

 

「とりあえず提督達からはバレてないはずだ……が、すげぇ注目されてる。……本当にこの変装大丈夫なんだろうな?」

 

『ザッ…自信持つクマー。木曾は私の妹クマ、私の妹がこんなことでへこたれるわけないクマ。』

 

もうへこたれそうだわ……と心の中で思いいつつ木曾は「はいよ、じゃあ監視続けるから現地で。何かあったらまた連絡する。」と無線を切った。

 

相変わらず乗客らからは視線を浴びてるが提督達は今後の予定を決めているのか地図を開いてあれやこれやと話し合っていた。

 

興味を持ってくれないでありがたい限りだ。特に叢雲は普段から警戒心が強いから正直バレると思っていたが休みに出かけてるということもあって警戒心が薄れているのが幸いだった。

 

……もし、提督達にバレたらと思うと球磨姉さんや多摩姉さんは『あーあー、やっちまったクマね』『にゃー、つまらなかったにゃー』で済むかもしれないが今回に関しては大井姉さんと北上姉さんがやばい。ハッキリ言ってどうなるか分かったものじゃない。

 

へこたれたいが自分の命が掛かってると思い、気合を入れ直した。

 

すまねぇな提督、叢雲。出歯亀だなんて事分かっているけど俺も命が掛かってるんだ。だから気付かないでくれよ…?

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

そうこうしてるうちに本殿までやって来た。

 

お参りの常識二礼二拍手一礼はしっかりな?

 

あ、神社によっては違うところもあるから気をつけて。

 

そして勿論お願いは鎮守府脱出を祈願して……。

 

お参りを終えて端に避ける。

 

「アンタは提督だし、お願いはやっぱり暁の水平線に勝利を刻むことかしら?」

 

おぉ、なんかスタート画面で聞くようなセリフ……いや、スタート画面?なんでスタート画面なんて言葉が……?よくわかんないや。

 

「あー、そんなのもあったなぁ……。まぁそれもお願い出来るなら……。」

 

「は?アンタ、紛いなりにも提督でしょうが……普通そういうのをお願いするもんでしょう!?」

 

いやー確かにね、分かる、分かるよ叢雲。大丈夫だってへーきへーき、先輩方も能力高い人達ばっかりだし、艦娘達も強い。期待の新人神谷君も佐世保にいる訳だしさ。そこいらの方々が何とかしてくれるでしょ?

 

俺はね、一般企業行きたいのよ。守る側じゃなくて守られる側。Do you understand!?

 

「確かに重要な事だと思うよ?それこそ人類の悲願だ。常日頃から願う事だろう。でも神様にお願いする時ぐらい自分のため、人の為そういった願いをしてもいいと思うんだよ叢雲君。」

 

「何か腹立つわね……じゃあアンタは何お願いしたって言うのよ?」

 

「……神様にお願いすることは他人に言うと叶わなくなるって知らんのかお前。分かった分かった、その振り上げた拳を下ろせ。……まぁ強いていうなればある人の幸せを願った。」

 

一応出任せじゃないぜ?あ、因みにある人ってのは勿論俺な?

 

「ちょ、ちょっと!!その言い方じゃあ余計気になるじゃない!!誰なのよ!?もしかして ワ、ワタシ……?」

 

小声で言われてもさっぱりだ。

 

「い、いや、そこはプライバシーの関係で……。」

 

「ま、まぁいいわ。言われても困るし……。(もし私とか言われてたらどんな顔していいか分からないわ……。)」

 

そうだそうだ気にするな気にするな。ついでに俺の脱出についても気にするな。

 

まぁいい加減この話も面倒だ。早いとこ話を切り替えねば。

 

「とりあえずあれだ、おみくじでも引いていこうぜ?来た記念にもなるだろ?」

 

もう既に俺はおみくじの方へ歩みを進めている。

 

全くもう……。と叢雲も後を追ってきた。

 

「おみくじねぇ……なんだかんだ最近引いてこなかったわ……。」

 

「そうか、俺は毎年引いてるぞ?年初めの1発目運試しとして幸先いいか悪いか。」

 

今年は大吉引いたはずなんだけどなぁ……就活は失敗するわ脅されて無理やり海軍入れさせられるわで本当に大吉だったとは思えんがなぁ……。まぁたかがおみくじだし。

 

「ふーん、まぁ私は中吉辺りが来てくれればいいわ。アンタは日頃の行い悪いし良くて末吉か凶でしょうけど。」

「……ほぉー、言ってくれじゃねーか。そういうこと言ってる奴がだいたい微妙なの引くんだよ!ほら引け引け!」

 

カチャカチャとお互いみくじ筒を振ると棒が一本

 

「……六十二番だ!」

 

「……二十七番よ!」

 

文句無しの真剣勝負!!……まぁ実際真剣勝負もへったくれもないが。

 

でも煽られたからにはコイツより良い運勢を引きたいというもの。

 

叢雲の分も含め200円を支払い、巫女さんに番号を伝え、おみくじを貰う。

「あら、いいの?ありがとう。」

 

「ついでだ、ついで。まぁ100円ぐらいなら良いけどこれが何万単位なら勘弁だわ。あの巫女さん美人だったなぁ……。」

 

「ふんっ!!」

 

思っきし足踏んづけられた。

 

あまりの痛みにしばらく悶絶したわ。

 

流石初期艦様だわぁ。

 

「そうやってすぐに鼻の下を伸ばすんだから……巫女服好きなの……?」

 

あ?何言ってんだコイツ?

 

「大好……んなわけねーだろ。そんな特殊なもん持ち合わせてねーわ。」

 

「いや、アンタ今、大好きって言いかけたわよ。」

「いや気の所為だ。そんな事よりおみくじなんだったのか見ようぜ。」

 

「あ!逃げるなこら!!」

 

これ以上質問されたらボロが出る可能性がある。

 

就活で鍛えたポーカーフェイスが無かったら死んでいた。

 

まぁこのお口が悪いんでポーカーフェイス鍛えるよりお口鍛えたほうがいい。失言なくそう。

 

気を取り直しておみくじを広げていく。

 

こっ、これは……っ!?

『小吉』

 

……なんか微妙なとこ突いたな。

 

「やったわ!大吉よ!!ふふん、ほら見なさい!私は大吉だったわよ!アンタはなんだったのよ?」

 

うぉっ!?近い近い!!そんな乗り出して来るんじゃない、 落ち着け航希、平常心だ平常心。

 

「……ほら小吉だよ小吉。」

 

「ほら、やっぱり私の方が良かったじゃない!……にしてもまぁ微妙なとこ突いてきたわね。でも小吉で良かったじゃない、下手もの引くよりはね。」

 

あながち間違いではないな。正直、ここん所の運勢考えたら大凶引いても不思議ではなかったね。

「んで、なになに?」

 

 

「いやお前、まず自分の見ろよ……。」

 

「私は大吉だから基本いい事書いてあるでしょ?えーと……『失物』でやすい。」

 

失物……なんかあったっけな?

 

「『商い』無駄遣いを無くせ。」

 

なんかピンポイントで資材の事言われてる気がしてならない。

 

『学業』は関係ないわね。

 

関係ない訳ではないがな。一般企業受ける時SPIとかあるから。

 

「『病気(やまい)』所を選び保養せよ。」

 

本当だよ、休ませてくれよ……所を選びっていうの言ってんだから部屋まで来たり、盗撮してたり盗聴すんなよ……。

 

「『争事(あらそいごと)』決戦は遠くない。」

 

争事……深海棲艦との戦いの事かな?淀姉さんとかだったら怖すぎる。

 

「『抱人(かかえびと)』荒れることあり、用心せよ。」

 

……抱人って確か雇ってる人の事だよな?俺で言うなら艦娘達の事か……荒れるとか言うなよ恐ろしい。

 

 

「『転居(やうつり)』難あり 流れを待て。」

 

おいおい……1番聞きたくない話だわ。まぁでも無理って言ってないから、流れを待とう。ん?声が震えてる?そんな馬鹿な……。

 

「『旅行(たびさき)』行く先に利益あり」

 

いや、これからの奢らされてるんですが、それは……。

 

「『願望』さまたげありて成り難し 進むは凶。」

 

さまたげって絶対淀姉さん率いるコイツらだろ、かんべんしてくれよ……。

 

てかなんなんだよ、本当に小吉かよ。内容的には末吉か凶のちょっといいぐらいじゃねぇか。

 

「それで最後『縁談』……。」

 

………ん?なんで溜めるかな?バラエティー番組じゃないんだから最後に溜めんでいいわ。

「……はぁ〜。」

 

なんかため息と共に睨まれたんだけど。

 

俺が何したって言うんや。

 

「もういいわ、アンタの運勢見てても飽きた。時間考えたらもう良いし。」

 

えぇ〜、お前から見せろって言ったのに急になんだってばよ……。

叢雲からおみくじを返してもらい、まじまじとおみくじを眺める。

『失物』、『商い』、『抱人』etc.…まぁまぁ分からんでもない内容だったな。一部、絶対に信じたくないけど…。

 

志は高く生きよう。諦めたらそこで試合終了だってじっちゃんが言ってた。

 

最後叢雲が急に不機嫌になったのはなんだったかな……確か『縁談』だっけ?

 

……『縁談』縁談多くも女難あり 間違えば争いが起こる 用心せよ

 

………ぷっ、はーっはっはっ!!!有り得ねーー!!!

 

縁談多くて、間違えば争いが起こる?いやいや無いわー!!女難は認めるけどな!!!海軍学校の時からその節はあったからそれは認めるわ!!でも争いってどんな環境だよ!!

 

「……何ニヤニヤしてんのよ、気持ち悪いわよ?」

 

「いやいや、悪い悪い。おみくじの内容があまりにも的外れな所があってな。お前のおみくじはなんて書いてあったんだよ?」

 

「まぁ割と無難な事が書いてあったわね。『願望』は

機会多い 活かせ とか、『病気』は 特に問題ない、『縁談』は……宿敵多いが巡り巡りて良い方向へ向かう、とかね。」

 

まぁ大吉って無難でちょっといい感じの事書いとけばそれっぽくなるよな。

 

「んで、どうするよ?観光客は奥の方まで行ってるけど何かあるのか?」

 

ぞろぞろと観光客達は道の奥へ奥へと足を進めていく。

 

「あぁ、あの有名な千本鳥居を観に行くのよきっと。」

 

あーあの京都のCMだと必ずと言っていいほど出てくるあれか!!

 

「それは気になるな……勢いで千本鳥居全部見に行くか?」

 

「それやると伏見稲荷大社の山に登る事になるから一周すると1時間半はかかるわ。今回は時間も限られてるし、少し見てパフェ食べに行きましょう。」

 

ひぇー1時間半?リアル登山じゃねぇか。こんな疲れてる時にやるもんじゃねーな。またの機会にしよう。

 

「ほら、人も増えてきたし、歩く歩く!時間には限りがあるんだから!!」

 

また叢雲に腕をを引かれ歩き出す。

 

頼むからもう少しゆっくり行かしてくれ……体力、体力が足りない……。




鎮守府の執務室にひとつ残る蛍光灯の明かりの下で〜

背もたれに身体を預け〜

俺はPCを閉じた〜

秘書艦だった夕立がソファーで寝ながらぽいぽい言ってる気がしたけど……いや、本当だった。寝息が「ぽい〜……。」ってどんなだよ。

皆が帰ったデスクは暗い〜

というかデスクは俺と秘書艦分だけだから、そこでスヤスヤ眠る夕立が起きてたらもう少し明るかったかもしれない。

せめて過去の話をそっと咲かせよう〜

……淀姉さんに締められたり、とっちめられたり、叢雲から回し蹴り食らったり、夕立と俺が体力尽きるまで遊ばされたり、エ〇本時雨にバレた時、時雨の目からハイライトが消えて大変な事になったり、北上が寝るとか言って膝に寝っ転がって来たら大井から「北上さんに何すんのよ!!」って思っきし引っぱたかれたり……酷い記憶ばっかりだな。

あれは桜舞う〜春の真ん〜中で〜

うるさい奴らが居ない一人で過ごした遠い日〜

あれは夜な夜な語った夢と果たせない約束たち〜

あれは灰色のふるさとを捨て〜

東京に借りたワンルーム〜

憧れを抱き〜

理想を描き〜

嬉しくて眠れなかった〜

戻りたいなぁ、学生時代……。

「こうちゃ〜ん?お仕事、まだ終わりませんかね〜?」

「すんません!!もう終わらせます!!!」


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就活戦争17日目

お疲れ様です、狛犬太郎と言う何かでございます。

4月は入れ替わりの時期なので何かと忙しいですね。

そんな4月も半分すぎたので早いような気もしてきます。「慣れてきたなぁ〜」と思っているそこの貴方、こんな時だからこそ気を抜いていると怪我したり、風邪引いたりするのでお気をつけて。

「あったけーなーこんな時は仕事したくねーなー」

なんて言ってると鬼の形相をした淀姉さんがサボリはいねがーと突撃してくるので。

あーあー、相良提督は仕事サボるから……。


おぉーこれが噂の千本鳥居かぁ……すげぇなぁ、何が凄いって千本鳥居もそうなんだけど、観光客の量ね。

 

「あはは……毎度の事ながらここは凄いわね。これでもマシな方って言うんだから。」

 

皆さん、自撮り棒やスマホを駆使して写真や動画撮影に勤しんでいらっしゃるようで……どう通ったもんかねこれ。

 

「写真撮ってる人が少ないうちに横から通るわよ!ここで遠慮してると永遠に先に進めないから。」

 

「お、おう。」

 

叢雲よ……逞しくなっちゃって……。

 

観光客達を迂回し、人の壁の隙間から鳥居の中へと入り込む。これだけでも結構一苦労だ。

 

「入口も写真撮る人で混むけど、この先の方が混むのよねぇ……。」

 

「うげぇ、これより混むのかよ……。」

 

「まぁでも分からなくもないわ。そこからがメインでこれぞ千本鳥居って感じなのよ。まるで朱色のトンネルみたいで、夕方になるとカーブの先は異世界に繋がってるんじゃないかってぐらい幻想的なのよ!」

 

おぉ、あの叢雲がよく喋る事……。よっぽどここが好きなのかな?でも確かに幻想的というかなんというか。

 

「そうそう、伏見稲荷大社のお祭りも凄いのよ?宵宮祭と本宮祭って言うんだけど境内の至る所に赤い提灯をぶら下げるんだけど夜になると凄く綺麗で幻想的なのよ!ちょっと待ちなさい……ほら、これが写真!」

 

叢雲はスマホのファイルから写真を選択し、俺に見せてきた。

 

……ほー、コイツはすげぇなぁ。叢雲じゃなくても幻想的って言葉が当てはまる写真だと思う。

夜の暗闇に朱色が映えること映えること。

 

イン〇タ映え間違いないと思うぜこれは。

 

イ〇スタしてないから分からんけど。

 

「これはすげぇなぁ……。確かに叢雲が行きたくなるのも分かるわ。」

 

「でしょでしょ!鎮守府のみんなにも見て欲しいわ!絶対これは見た方が良い!!あ、7月の20日か21日のどっちかは休むわよ?絶対ね!」

 

おーおー、まだ4月なのに気合入ってますねぇ。

 

「分かった分かった、休暇申請を事前に出してくれれば休めるようにするから。」

 

最も、俺がその時期までこの鎮守府にいるとは思わんがな!!

 

「勿論、アンタも行くんだからちゃんと休み取っておきなさいよ?その為には仕事を溜めない事!私が秘書艦の時はサボらせないから!!分かったわね!!」

 

「わーったわーった。そん時は来れるヤツら誘ってみんなで来ような。」

 

「(……私はまたアンタと2人で回る気だったんだけど……。)」

 

「んぁ?なんか言ったか?」

 

「……別に!!なんでもないわ!!ほら、この先で写真撮るんだから早く行くわよ!!」

 

「おわっ!?だから引っ張るなって!!」

 

今日コイツよくボソボソ喋るから分からんのよね。

 

いつもみたいにハッキリ言ってくれれば楽なんだけどな。

 

……まぁ楽しそうだし、いいか。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「うにゃー!!人混みで前に進めないにゃー!!」

 

「うげぇ、アタシ人混み苦手ぇ〜……。」

 

「北上さん、こっちに!!」

 

うーん、やはり京都の観光名所は伊達じゃないクマ。

 

提督達を追ってきたはいいものの、丁度団体観光客とかち合ったらしく人の壁に阻まれてしまったクマ。

 

「球磨姉さん、どうするよ!?これじゃあ提督達を見失っちまうぜ!」

 

「分かってる、今考えてるクマ。」

 

と言ったけど、この観光客達は写真を撮りまくるからしばらくは動かない……どうしたものかクマ……。

 

「お困りのようですね。手を貸しましょうか?」

 

耳元で聞き覚えのある声が聞こえた。振り向くと瑞雲に乗った妖精が頭の上辺りで飛んでいた。

 

どうやって瑞雲でホバリングしているのか構造が気になるところだが今それはどうでもいい。

 

「お前は提督と一緒によく居る妖精さんクマ?」

 

「あら、覚えていただいて光栄です。よろしくお願いします球磨さん。」

 

「あぁ、よろしクマ……ってなんで妖精さんがこんな所にいるクマ?提督ならこの先クマよ?」

 

「後ろで艦娘の気配がしたので面白そゲフンゲフン。

気になってこっちに来てみました。」

今コイツ面白そうって言いかけたクマ。やっぱり妖精さんはイタズラ好きってのは本当クマね。まぁ私達もイタズラ、出歯亀精神でこんな事してるから人の事言えないクマ。

 

「提督達は球磨達に気付いているクマか?」

 

 

「いや、2人共気付いていないみたいですよ。私は提督達を他の方々に任せてこっちに来ただけですので御安心を。」

 

とりあえずそれが分かっただけでも一安心だ。

 

今バレてしまったら妹達に起こる面白展開もパーになってしまう。まだ溜めの時間だ。

 

「手を貸してくれると言ってたクマね?」

 

 

「えぇ、我々も面白い展開は大好きなので勿論手を貸しますよ。」

 

「今この人混みで先に進めそうにないクマ。どうにかしたいクマ。」

 

 

妖精さんと会話していると妹達も気がついたのかこちらに集まってきた。

 

「やっぱり駄目にゃ〜、とても全員では抜けられそうにないにゃ〜。」

 

「ふむふむ、やはり1人ぐらいなら通れると思いますが5人全員となると難しいですね。分かりました。では1人ここの道を通る人を選んで下さい。残りの4人は私が迂回路に先導します。」

4人か……。

 

「多摩、北上、大井、お前達は球磨と一緒にこの妖精さんについて行くクマ。」

「アタシはこの人混みの中突っ切らなければなんでもいいや。」

 

「あぁ、人混みで北上さんと抱き合う状態で幸せだった……。」

 

「大井〜戻ってくるにゃ〜提督と叢雲を追わなきゃいけないにゃ〜。」

 

「木曾、お前は変装してこの団体の端を何とか掻き分けて提督達を追うクマ。」

 

 

「マジかよ、また俺かよ。というかこの人混みの中進むのかぁ、もう疲れたぜ……。」

 

やはりこの中で1番フィジカルが強くて人混みに耐えられそうなのは木曾だろう。

 

いや、決して面倒そうだから木曾に押し付けた訳じゃないクマよ?ちゃんと適性で判断したクマ。

 

「決まりましたね、では回れ右して付いてきてください。」

妖精さんの乗った瑞雲はぐるっと旋回すると結構な速さで飛び始めた。

 

「逆に戻ってるけど大丈夫なの!?」

 

大井の疑問もご最もだ。

 

「大丈夫です、このままぐるっと回って納札所から迂回していきます。……まぁ実際逆走なのであまりよろしくありませんがちょっと行くだけなので。」

 

この妖精さん、目的達成の為には手段を選ばないタイプクマね……けど嫌いじゃないクマよ。

 

「!……今無線で仲間達から連絡が来ました。もうすぐ千本鳥居を抜けて奥社奉拝所に到着するとの事です。」

 

「奥社なんたらってのは何処なのさ〜!」

 

「おもかる石のある所クマ、時間を考えればそこで引き返すだろうからみんな急ぐクマ〜!!」

 

4人の少女達は人を避けながら鳥居の中を駆ける………一方木曾はと言うと……

 

「Could you take a photo for us?」

 

「えぁ!?お、俺英語分かんな……写真?あぁ、オーケーオーケー……これ、どうやって通ろうかな……。え!?俺も入るの!?」

 

この後ジェスチャーやらなんやら使って説明したら通してもらえたとか。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「やっぱり千本鳥居は写真撮るのには最高のポイントね!」

 

「……そいつぁ良かったですわ……。」

 

千本鳥居、確かに幻想的だった。光が差し込んできて風もそよそよと吹いてくる。

 

ただ、人の多い事多い事。叢雲に写真頼まれて撮ったり撮られたりただでさえ少ない体力を持っていかれる。

元気だねぇ、この子も。

 

そして、千本鳥居を抜けると少し開けた場所に出た。

 

「あ、アンタもこっち来なさい!ほら、この列並んで!」

 

叢雲に腕を引かれるまま列に並ぶ。

 

「この列はなんの列なのさ?」

 

「修学旅行とかでおもかる石って聞いたことあるでしょ?あれよ。」

 

あーあの、石を持ち上げて軽いと思ったら願いが叶うってやつね。まぁ軽いと感じるしかない。願うのは勿論、鎮守府脱出、自己防衛だよね?

 

5分程並ぶと俺らの順番が回ってきた。

 

「アンタからいいわよ、私もこれやった事ないからどんぐらいの重さか私に教えてよね。」

 

俺は実験台か……。まぁそんなに重くないはずだ、行くぞっ!!

 

「あ、重ぃ………全っ然重くないわぁ〜〜!!めっちゃ軽いわぁ〜〜!!」

 

「……アンタ、今絶対重いって言ってたわよね?」

 

「言ってないですぅ〜!軽かったですぅ〜!!」

 

言ってないです。ほんとに言ってないです。

 

伏見稲荷の神様、セーフですよねこれ?(セーフだよ!裏声)

 

ほら、神様もセーフって言ってるからセーフ。異論は認めない。

 

「分かった分かった、軽かったんですねー凄いですねー。」

 

めっちゃ適当に流された……なんか虚しいわ。

 

「まぁ、思ったよりは重いって思っておいた方が良さそうね……じゃあ次は私の番ね。」

 

スタスタとおもかる石に近づく叢雲、ふふふ……地味に重いと感じるおもかる石の重みを知るがいい!!

 

そして『あ、やっちゃった!』みたいな感じになれや!!ガハハ!!

 

「いっせーのっ!!」

 

持ち上げる時一瞬艤装を展開する叢雲

軽々と持ち上がるおもかる石

こちらに満面の笑み+ドヤ顔の叢雲

 

 

何そのドヤ顔、腹立つわぁ〜〜!!!というかそれは反則だろ!?

 

「あ〜本当に軽いわぁ〜!アンタ、これが重いって思うようじゃお願いは叶いそうに無いわねぇ。」

 

むきーーー!!!違反勝ちして楽しいかコンチキショー!!!

 

「まぁ帰って筋トレでもする事ね!」

 

「うるせーー!!心無い奴だぜ!!だから胸も無いんだろうが!!!」

 

「あ”?」

 

「きょ、今日という今日はお前の眼力に屈しないぞ!!そんな顔しても無駄だ!!」

 

精一杯の虚勢だが、いっつも負けっぱなしなんだ!!今日こそは負ける訳にはいかない!!

 

「へぇ〜ほぉ〜、良い根性してるわねアンタ……。それだけ威勢のいい啖呵を切るわけなんだからそれなりの覚悟があるわけね……。」

 

 

心で負けるな心で負けるな心で負けるな心で負けるな心で負けるな心で負けるな心で負けるな心で負けるな心で負けるな……。

 

 

「どんな事されても俺は屈しないぞ!!それだけの侮辱を受けたんだ!!」

 

「アンタのプライドなんて深海棲艦にでも食わせておきなさい!!この私を侮辱したんだから覚悟なさい!!」

 

 

「はーー、なんの覚悟すればいいですかねぇ!?」

 

 

「大淀さんにアンタからセクハラされたって言うわ。」

 

「調子乗ってすんませんした、それだけは勘弁してください。」

 

一瞬で土下座に移行した。やっぱり叢雲に勝てなかったよ……。

 

コイツの言ってる覚悟ってのは命の覚悟だ。

 

俺はまだ死にたくない……。

 

誰得だよ、俺の即堕ち二コマ漫画。

「とりあえず列の邪魔になるから社務所裏ね。」

 

「……はい。」

 

30秒後、スッパァァァーーーン!!!というビンタの音が境内に響いたという。

 

やっぱり人が嫌だと思ってる事は言っちゃ駄目だね!

 

お兄さんとの約束だよ!!

 

命が幾つあっても足りないからね!!

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

境内を駆ける4人と団体観光客から道を譲ってもらい提督達を追いかける1人の少女達、何故彼女達は境内を走るのか……。

 

1人は本人も気付いていない嫉妬と照れ隠しから。

 

1人は自らの淡い想いに気付きつつ、事情を知ってしまった以上ジッとしていられなくなったから。

 

1人は妹達の雰囲気を察し、甘い、面白い展開を見てウマウマしたい、けど妹の幸せも祈り、かつ心配しているから。

 

1人は姉と同様出歯亀精神旺盛で面倒事になったら末っ子に丸投げするかにゃ〜と呑気だけど奥底ではやっぱり心配してるから。

1人はただひたすらに、完全に無関係でいれたのに姉達の好奇心のせいで巻き込まれてしまったから。本人もずーっと俺はなんでこんなことしてるんだろう……。と思い続けている。

そんな彼女達はひたすら走る、前を飛ぶ妖精さんを追いかけ走る。

 

「もう少しです。そこのカーブを曲がれば後は一本道です。」

 

「もうちょいで着くクマ!お前ら、間違っても飛び出すなクマ!!」

 

「えぇ!!」

 

「はいよー!!」

 

「にゃー!!」

 

「もうそろそろ着きそうだな。姉さん達はもう着いてるか?」

 

5人の到着はほぼ同時、そして5人が見たものとは……っ!!

 

 

 

「うるせーー!!心無い奴だぜ!!だから胸も無いんだろうが!!!」

 

 

「あ”?」

 

 

「きょ、今日という今日はお前の眼力に屈しないぞ!!そんな顔しても無駄だ!!」

 

「へぇ〜ほぉ〜、良い根性してるわねアンタ……。それだけ威勢のいい啖呵を切るわけなんだからそれなりの覚悟があるわけね……。」

 

 

「どんな事されても俺は屈しないぞ!!それだけの侮辱を受けたんだ!!」

 

「アンタのプライドなんて深海棲艦にでも食わせておきなさい!!この私を侮辱したんだから覚悟なさい!!」

 

 

「はーー、なんの覚悟すればいいですかねぇ!?」

 

 

「大淀さんにアンタからセクハラされたって言うわ。」

 

「調子乗ってすんませんした、それだけは勘弁してください。」

 

「とりあえず列の邪魔になるから社務所裏ね。」

 

 

「……はい。」

 

目標である提督がもう1人の目標である叢雲に啖呵を切って最終的に土下座し、社務所裏に連れてかれるシーンだった。

 

状況が飲み込めない5人はただ呆然と見つめるしか無かった。

 

そしてその30秒後、スッパァァァーーーン!!!というビンタの音が聞こえてきたそうな。

 

めでたしめでたし。

 

 

めでたしで済めば良かったのですが……。

 

「うぉ!?ちょっ!!押さないでくれ!!」

 

先程、木曾が苦戦していた後続団体観光客がここまでやって来ていたのだ。

 

変装グッズのウィッグやサングラスが取れてしまい木曾だということが丸わかりになってしまった。

 

「これに懲りたら変な事言わない事ね。」

 

「……ふぁい、ふいまへんへひた。(はい、すいませんでした。)」

 

頬に大きな紅葉付けた提督と少しスッキリした顔の叢雲が社務所裏から出てきた。

 

団体観光客に押し出された木曾と提督達が……。

 

 

「あ、まずいクマ!!木曾が!!」

 

「にゃー!!」

 

倒れた木曾を起こそうと提督が近寄ってきてしまった。

 

 

「大丈夫ですか?………あれ?」

 

「あぁ、大丈夫……あ、やべ……。」

 

目と目が逢う〜瞬間〜お互い誰だか気付いた〜。

 

……終わったな。

 

 

 

 




肌を焦がすような〜

南風が吹いた〜

ほんの少しサボり過ぎた〜

さぁ始めようお仕〜事〜

真っ白な書類に覆われた〜

テーブルの上に残る決済書〜

脳裏に淀姉さんの怒る顔映す〜

廊下を踏み歩く淀姉さん〜

それが運命の足音なのなら〜

煽るような〜ノック音は〜

Heart beat!!

「こうちゃ〜ん?あれだけサボってたのですからもうそろそろお仕事片付きますよねぇ〜?」

「も、ももももう時期終わりますのでもうしばらくお待ちください!!!」

魂削ることでしか〜

終わらない仕事だってある〜

千の文字よりも確かに刻まれて行くんだ〜

淀姉さんのハイライトの無い視線!!




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就活戦争18日目

暖かいというか暑いって感じになってきましたね。

この時期でこれだけ暖かいと今年の夏が怖いです。

そうそう、八景島シーパラダイスで瑞雲パラダイスが開催されましたね。瑞雲だったり烈風だったり、多くのレイヤーさんもいらっしゃって大盛り上がりですってね!

キャラクターのパネルも素敵なものばかりで……まぁ私行けてないんですけどね。

GW辺りに行けないかなぁ……。というか行けたとして当日券とかあるのかやら。

行った方が居たらどんな感じだったか教えて欲しい…。

気を取り直して京都伏見稲荷大社編、始まり始まり〜


……………ズイパラ行きてぇ。


追記 就活戦争18日目を初期内容から少し変更しました。活動報告を書きましたのでそちらをご覧下さい。



「大丈夫ですか?………あれ?」

 

「あぁ、大丈夫……あ、やべ……。」

 

おっかしいなー観光客に押し出されて倒れた人が目の前に出てきたから助けたらなんか見知った人なんですけどー。

 

「木曾じゃないか、こんな所で会うなんて奇遇だな。お前も伏見稲荷大社観光か?」

 

「はぁ?木曾?あら、本当だわ。」

 

 

「い、いやこれはそのだな……。」

 

そんな木曾さんだが今もどうやって言い訳しようか考えていた。だがしかし……

 

「ん?ちょっと待ちなさい。木曾だけってわけないわよね?真面目な木曾がこんな変装やら人の休日追っかけ回す趣味は無いはずだから。……他の球磨型の連中はどっかにいるのかしら?」

 

 

おぉーなんとまぁ、笑ってるのに笑ってない顔とはこの顔だ。『吐け、吐かないなら痛い目に遭わすぞ』というプレッシャーがひしひしと伝わってくる。

 

これにはあの木曾も引き攣った笑みしか返せない。

 

 

「待つクマ、球磨達はここにいるクマ。」

 

声のする方に視線を向ければ球磨達が鳥居の影から出てきた。いつもいる妖精さんが日向から貰った護身用瑞雲に乗ってる。

 

護身用に乗ってきたんだから俺の護身してくれよ。なんで自転車感覚で乗り回してんだ。

 

「全く……球磨型が揃いも揃って人の休日の追っかけなんて趣味が悪いわね。どう落とし前付けてくれるのかしら?」

 

落とし前って……お前は極道の者か。

 

「っ!わた」

 

「全て責任は球磨にあるクマ。何かあれば私に言うクマ。」

 

 

大井が何か言い出そうとしていたが球磨は手で口でそれを遮った。

 

しばらく叢雲は考え込むと「はぁ〜」とため息をついた。

 

 

「……いいわよもう、付いてきたアンタ達の気持ちが分からないでもないわ。でも次やったらただじゃ置かないわよ?」

叢雲はチラリと大井達の方を向くと「アンタ達にも機会が来るだろうからその時にでも振り回しなさいな。」

と一言。

 

大井、北上は少し苦い顔をしていた。

 

「(これは余裕見せつけられたなクマ。初期艦で秘書艦とかもあったから提督と関わる機会多かったのは叢雲だったクマねー。)」

 

「(後で荒れなきゃいいけどにゃー。)」

 

気持ちが分からないでもない?機会?なんのこっちゃ……。まぁ向こうの話だ俺には関係ないか。

「……じゃあ、球磨達は行くクマ。観光楽しむクマよ。」

 

「おう……ってお前ら一緒に行かないのか?」

 

ここにいる舞鶴第2鎮守府メンバーの思考がフリーズした。

 

え、何?なんでみんな固まってんの?女の子連中って友達と会ったらそのまま遊びに行くんじゃないの?

 

 

「ちょ、ちょっと待つクマ!」

 

「そこで待ってなさい!」

 

すると叢雲を含めた6人で円陣を組むようにヒソヒソ話を始めた

 

 

「(え?提督理解してないクマ?いくらなんでも状況理解して無さすぎるクマよ。)」

 

「(昔っからニブチンな奴だとは思ってたけどここまでだとは思わなかったわ。)」

 

「(あーこうちゃん結構おっちょこちょいな所あるからねー、でもそこが可愛かったりするよねー。)」

 

「(でも流石に私達だけモヤモヤさせておいて、自分だけ気にしてないのは気に食わないので私は後で1発殴らせてもらいます。)」

 

 

「(大井落ち着くにゃ〜それやっていつも布団の中でどんよりするんだからやめとくにゃ。)」

 

 

「(……多摩姉さんも後で1発殴りますね。)」

 

 

「(にゃっ!?)」

 

「(それもいいけど本題に戻そうぜ、どうするよ叢雲?俺達もついて行っちゃっていいのか?)」

 

「(木曾も1発ね。)」

 

 

「(なんでだよ!?)」

 

「(……まぁ、今更よね。さっきも言った通り今回は許すけど、次は怒るから。というかアイツもアイツよね、どうして女の子と出かけてるのに他の女の子誘うのかしら?……考えたらムカムカしてきたから私も後でアイツの事1発殴るわ。)」

 

「(じゃあ、同行させてもらうクマ。叢雲、今度詫びに行くクマ。)」

 

 

「(えぇ、期待してるわ。)」

 

お、円陣終わったか。結構長かったな。

 

「じゃあ球磨達も一緒に行かせてもらうことにしたクマ。提督、よろしく頼むクマ〜!」

 

「おう、みんなで行った方が楽しいからな〜頼むぜ〜。」

 

なんだよ妖精さん、そんな目で見るなよ……。

 

「……提督さん罪な人ですよね。可哀想に……。」

 

……なんか急に憐れまれたんですけど。なんなん急に?

 

 

え、なになに?一旦CM?……え?CMあんの?

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

「こんにちは、妖精さんです。」

 

 

「ん?どの妖精か分からない?瑞雲に乗ってる妖精ですよ、最後に出てきたじゃないですか。ちゃんと覚えて下さいね?」

 

 

「そしてこんにちは探照灯でお馴染み、探照灯妖精さんです。さっきまで提督のカバンの中にいました。」

 

「はいこんにちは。さて、提督さんの鈍さが露見したのは今更なのでそこはスルーして今回は伏見稲荷大社についてお話しして行きましょう。」

 

「歴史秘話ヒス〇リアですか?」

 

 

「歴史秘話ヒ〇トリアじゃないですよ?でも見てる人、良いセンスしてます。はいそこ、テレビ点けない。今の時間歴史秘話ヒス〇リアはやっていませんよ。」

 

「言われたら気になるじゃないですか。」

 

「それはさておき、今回は伏見稲荷大社です。京都駅からも比較的近いエリアで市バスであれば提督さんが前に説明した通り、京都駅バスターミナルC4のバス停から出るバスに乗ります。バスターミナルは京都タワーが見える方にあります。反対側に降りないようにお気をつけて。」

 

「反対側に降りるとデパートのアバンティーしかないからね!」

 

 

「まずC4のバス停から105か南5番のバスに乗ったら稲荷大社前まで行きます。交通状況にもよりますが大体15分〜20分で着きます。」

 

 

「思ったより近いですね。」

 

「そうですね、京都駅からも比較的行きやすいです。そしてもうひとつの交通手段として電車があります。正直球磨さんの言う通りこちらの方が圧倒的に楽で早いです。バスの難点は時間によっては結構待たされたり、乗客が沢山いることもありますので。」

 

 

「電車だと大体6〜7分って所かな。行きはいいけど京都駅に戻る電車は混むから気をつけてね。バスも同様だよ。」

 

 

「電車はJR奈良線で稲荷駅か京阪本線で伏見稲荷駅まで行きましょう。ですが、電車で気をつけなければいけない点もあります。似たような駅で近鉄京都線の 伏見駅というのがあります。 」

 

「この路線に乗って伏見駅まで行っちゃうと伏見稲荷大社から結構離れちゃうからこれだけは気をつけてね。私はこれで1回やらかしたよ!」

 

「そして駅やバス停から伏見稲荷大社まではまず迷うことは無いでしょう。奈良線で行けば伏見稲荷大社は目の前なので不安という方は奈良線を使って稲荷駅で降りて下さい。でなくても他の観光客達が沢山いますので、最悪その団体について行けば着きますね。ある意味それでたどり着けない方はお稲荷さんからお断りされてるのかもしれませんね。」

 

 

「京都駅は沢山電車があるから分からなくなったら駅員さんに聞いてみてね。」

 

 

「では、伏見稲荷大社の見所について説明していきますね。結構見所あるというか基本見所しかないのであんまり説明する意味無いですね。」

 

「え?今回これで終わりですか?」

「冗談ですよ、ちゃんとお話ししますから。観光雑誌に書いてあるような所から書いてないような所までお話ししますのでご安心を。」

 

「いぇーい!」

 

 

「じゃあまずは千本鳥居ですかね。伏見稲荷大社はともかく沢山の鳥居があります。提督さん達が通ってたあれですね。一言で言うと鳥居と言うより朱色のトンネルって感じがします。ただ伏見山の雰囲気とその朱色のトンネルが見事に合わさって、天気が良く太陽の光が差し込んできたりすると、とても幻想的な風景が見られます。」

 

 

「今日は天気が良かったし神秘的で良かったよー!」

 

「ただこの千本鳥居、入口付近は写真撮影で混み合います。中も写真撮影の方が結構いらっしゃるのでガンガンいこうぜってタイプの方、いのちはだいじにに切り替えておいてください。」

 

「綺麗だから立ち止まって写真撮るのもありだと思うよ?」

 

「続いておもかる石ですね。」

 

 

「提督さん達もやってたあれね。」

 

 

「石の前でお願いする。石を持ち上げる。軽いか重いかで占うパワースポットですね。これぞ本当のパワーストーンってやつです。」

 

 

「実際に軽いか重いかは京都に行って確かめてね!私達?普段装備を持ったりする私達からすれば石なんて軽い軽い……って言うのは冗談で、人によって重さは変わると思うし、これ言うとネタバレにもなっちゃうからやっぱり気になったら行ってみるといいよ! 」

 

 

「あとこのおもかる石の近くに絵馬があるんだけど伏見稲荷大社の絵馬は面白いことにキツネの形をした絵馬なんだ!」

 

 

「凄い絵の上手い人や面白い顔したキツネさんの絵馬が見られますよ。」

 

 

「私的には賭博黙示録カ〇ジの顔のキツネさんを見た時は面白さとスゲーって思ったね……。」

 

「インパクトしかなかったですものね……。では、続いて稲荷山参拝コースについてお話しして行きましょう。叢雲さんは大体1周するのに1時間半って言ってましたが、実際の所、結構体力のある人がほぼ休憩無しのノンストップで行った場合なら可能かもしれません。」

 

「叢雲さん、艦娘だし体力的には提督なんかよりもあるからね!」

 

 

「ですので指標としては大体2時間半から3時間半っていう所でしょう。体力のある方は2時間ぐらいで回れるかもしれませんが、写真撮ったりゆっくりと回りたいという方は3時間は時間をとった方がいいですね。」

 

「まぁそもそも山登り慣れてないや体力そんなに自信が無いって人はとりあえず四ツ辻まで目指そう!あ、そうそう、靴はスニーカーとか歩きやすい靴をオススメするよ!ヒールやレンタル着物着てきた方は残念だけどおもかる石のある奥社奉拝所で引き返した方がいいね。それ以上行くと足痛めたり、服が汚れたりしちゃうから。」

 

「……探照灯妖精さん、説明してない所を話しても伝わりませんよ。では、探照灯妖精さんが言ってた四ツ辻についてお話ししましょうか。あ、靴は私も歩きやすいのをおすすめします。」

 

 

「四ツ辻ですが山の中腹辺りにあります。歩いて1時間ぐらいの場所ですかね。」

 

 

「ここは凄いんだよー!なんと京都の街並みが一望出来ちゃいます!」

 

 

「ここで京都の街並みを眺めながらソフトクリームを食べて休憩なんてことも出来ますので私としてもおすすめポイントですね。」

 

「あ、そうそう、ソフトクリームで何故か思い出したけど飲み物は伏見山入る前に買っておいた方がお得だよ。山の中にも自販機があるんだけど……ちょっとお高くなるからね……。」

 

「500mlで250円ぐらいでしたね……。」

 

「やっぱり山の中だからね、しょうがないね。」

 

 

「なんで先に買っておかなかったのか私……き、気を取り直して続いては猫に出会えるかもしれない伏見稲荷大社です。」

 

「猫ですか、伏見稲荷大社は猫の神様も祀られてるんですか?」

「いえいえ、そういう訳ではなくて野良猫……なのですかね?多分野良猫だと思いますけど稲荷山を歩いていると猫さんに遭遇することが結構あります。」

 

 

「猫好きの人も猫アレルギーの人もこれはたまらんですね。」

 

「まぁ猫さんに会えるのは運次第ですので会えたらラッキーぐらいに考えておいてください。というか本当に猫さんに会いたい方は猫カフェに行けば確実ですので。」

 

「京都はふくろうカフェとかあるし見所多いよー。」

 

 

「1回行ってみたいですよねあれ。……ともかく話を戻しましょうか。」

 

 

「ほいー。」

 

 

「次は知ってる人は知ってるマイナーな所をお話しして行きましょうか。皆さん、京都で竹林と言うと嵐山の竹林が有名ですよね?」

 

 

「嵐山の竹林も観光客がいーっぱいいるよー!」

 

 

「そんな竹林ですが、なんと伏見稲荷大社でも見ることが出来ます。」

 

「え!?そうなの!?」

 

 

「本当です。しかもそんなに人も多くないです。」

 

 

「穴場ってやつなのね!」

 

 

「そうですね、ついでに言えばその道を通って頂上まで行くことも出来ますね。ルートが全然違うので四ツ辻とか通りませんけど。」

 

 

「まぁ頂上まで行って戻る時に四ツ辻を通って帰れば寄れるからね。」

 

 

「でそんな伏見稲荷大社の竹林ですが、行き方はおもかる石のある奥社奉拝所から山道方面に少し行くと鳥居のトンネルが少し途切れます。そこの右側に〈奥の院方面〉と書かれた道標があります。伏見稲荷大社は基本舗装されてますがここはちょっとした山道になってます。」

 

「思ったけど伏見稲荷大社って割と山登りだよねー。」

 

 

「だって山登りですから。伏見山ですよ?あ、因みにこちらのルートは竹林で引き返すなら問題ないですが山頂まで行く場合歩きにくい靴や体調不良の方はオススメしません。途中から完全に山道になるので。」

 

 

「ひぇー登山だねー!」

 

 

「普通のルートで登るのも登山なんですけどね。こちらはハイキングコースにもなってるので。まぁ、正規ルートが鳥居のトンネルをひたすら行く道とするならこちらは裏道ですね。でもハイキングコースにもなってるだけあってこちらも綺麗ですよ。途中。雰囲気のあるお塚とか末社とかその後、畑の辺りに出るのですがそこから夕日や伏見桃山城とかも見えますので。」

 

「とりあえず一言いうなら伏見稲荷大社来る時は歩きやすい靴で来てね!」

 

 

「後こちらのルートには民家の横も通りますのであんまり騒がないようにして下さいね。というか伏見山自体が聖域なのでどんなとこでも騒ぎすぎるのは良くないのですが。」

 

「伏見稲荷大社の営業時間ってどのぐらいなの?他の神社とかお寺は4時半か5時半ぐらいで閉まっちゃうでしょ?」

 

 

「そこは心配ありません。一応24時間解放されてます。ですから夜行く事も出来ますよ、明かりも途中から無いのでめちゃくちゃ怖いですけど。」

 

 

「相当勇気がいるね。」

 

 

「まぁ神様も寝てる時間なので夜神社に行くのはよろしくないのですがね。もしかしたら何か起きるかもしれないですね、保証は出来かねますが。」

 

 

「興味本位で行って遭難しても知らないよー?もし私がいたら探照灯で照らしてあげられるかもね!」

 

 

「ですがそんな夜の伏見稲荷大社が見たいという方、ご安心を。伏見稲荷大社の夜でも堂々と入れてそんなに怖くない日があります。」

 

 

「おぉ!!やっぱりそんな日が!!」

 

「はい、それでは最後に伏見稲荷大社の例大祭、宵宮祭と本宮祭です。」

 

 

「叢雲さんが言ってたお祭りだね!!私もお祭り大好き!!」

「このお祭りの期間中は伏見稲荷大社全体に赤い提灯が設置されます。建物から鳥居の中まで至る所に。」

 

「おぉー!!それは凄いねぇ!!」

 

 

「本当に凄かったですね。存在が不思議な私達が言うのもなんですけどもう異次元に来たような感じでした。普段の伏見稲荷大社も幻想的なのですが、10倍増しで幻想的です。叢雲さんがみんなに見て欲しいというのも納得いく風景が見られます。」

 

 

「おぉー!!なら今度私達も行こうよ!!」

 

「そうですね、行きましょう。ただ一つ注意するとすれば……。」

 

 

「え!?何かあるの?」

 

 

「人の数が尋常じゃないです。通常でも凄いですがこの日に関してはその何倍もの人が来ますので。」

 

 

「やっぱりですかー。まぁそれだけ人気のあるお祭りってことなんだね!」

 

 

「もう本殿の辺りはまるでコミッ〇マーケットみたいな感じですね。道を行くも帰るも人の波をかき分けて進むしかないってぐらい混みます。でもオススメですよ、あの幻想的な風景は1度見ておいて損はしませんから。」

 

「今年はいつやるの!?」

 

「7月20日が宵宮祭、21日が本宮祭ですね。予定が合えば是非行ってみてください。」

 

 

「それじゃあそろそろ時間だね!」

 

 

「また機会がありましたら私達が京都の観光地を紹介するかもしれませんね。ではまたいつかお会いしましょう。」

 

「またねーー!!」

この放送は舞鶴第2鎮守府、青葉、衣笠の提供でお送りしました!

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

………CM長くね?CMと本編の長さ逆だろ普通。

 

 

「司令官〜!本編は尺の都合で次回に持ち越しですって〜!」

 

 

「は?マジかよ……ずっと待機させられてた意味だわ。妖精さんのこんな観光情報見るぐらいだったら自分でググった方がもっと色々出てくるわ。てかCMの癖に長すぎんだよ。CMなんだからもっとまとめろっての……。」

 

 

「いいじゃないですか〜あれはあれで妖精さんも青葉も頑張ったんですからね〜。下調べだったり撮影だったり……。」

 

 

「まぁ問題は今後のお前の行動だわな。本当に出歯亀精神旺盛なの抑えてくれよな……俺の命が幾つあっても足りないんだよ。」

 

 

「むぅー!!出歯亀精神じゃなくて知的好奇心と言ってくださいよー!!」

 

「……はぁ〜、もういいわ。もう俺疲れたよ、大変なのは脱出と淀姉さん怒らせた時だけでいいよ……。」

「お?また大淀さんと何かありました?」

 

 

「……淀姉さんと明希ね、明石と時雨と夕立が私達だけ除け者にしてずるい、私達も連れてけとさ……。」

 

 

「……?いいじゃないですか、また行ってくれば。」

 

「俺はいつ休めばいいんだよ!?ってことを伝えたら夕立は悲しそうな顔をするし、時雨は目のハイライトオフになるし、淀姉さんは笑顔だけど目が笑ってない圧力かけてくるし……。というか明希姉は自分で行け。」

 

 

「って事でまた行く事になりました……。」

 

「ここまで来たらそんなこと考えないでもう楽しんだらどうです?モテモテでいいじゃないですか?」

 

「アイツら何となく好意があるような雰囲気は出してくるけどモテてるかと言うとどうなんだろうな。」

 

『結構わかりやすいと思うけどなー。』

 

「なら今度のお出かけは青葉もついて行きますね!青葉がバッチリ皆さんの取材しちゃいますよー!!」

「やっぱり絶対に付いてくるなよトラブルメーカー!!」

 

「それは無理です!!」

 

 

「良い笑顔で却下するなこんちくしょう!!」




生まれながらの才能のことを〜

神様からのギフトと人は

呼ぶらしいけれど〜僕のはちっちゃい箱だな〜

「こうちゃんさー、提督の素質って相当な才能だとアタシは思うんだけどなー。」

……リボンも無くて〜色だって地味で〜

みすぼらしいその箱が〜

なんか恥ずかしく後ろ手に隠し〜てた〜

「うーん、提督って今花形中の花形の仕事だと思うんだよね〜。」

…………自問自答きっとそこには答えがないことを〜

意外と前に気づいてたかも〜悩んでる自分に酔っていた〜

明日に架ける橋は脆く崩れそうで〜

今行かなくちゃ〜駆け抜けなくちゃ〜

心さえ軽やかに行けたら〜

「こうちゃ〜ん、仕事ダルいのはアタシ分かるけどさ〜、やらないとまた大淀さんにどやされるよ〜?」

「なら秘書艦として俺をサポートして下さいお願いします!!!間宮券はあげられないけど後で間宮で何か食べさせてあげるから!!」

「やっほーい。」


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就活戦争19日目

遂にやって来ましたGW。

皆さんどこか行かれるご予定はありますか?

ちなみに私はまだざっくりとしか決めてない。

とりあえずGW中に八景島シーパラダイスで瑞パラして東方Projectの同人イベントに行ってこようかなと思ってます。

艦これ同人イベントは私の近くであんまりやってないイメージ。佐世保や、舞鶴、呉、横須賀なんかでやってるというか西日本の方がバンバンやってるから砲雷撃戦とか行きたかったなぁぁぁーーー!!!ってなってる私です。

メロブやとらのあなで委託して頂けるの本当にありがたいですね少し高くなりますが(遠い目)

では本編続きをどうぞ。


前回のあらすじ、紆余曲折を経て球磨型がパーティーに加わった。

 

 

「すんごいざっくりだにゃー。」

 

 

「まぁいいクマ、逆に1から10まで説明されてもどんな嫌がらせだってなるクマ。」

 

 

だろ?こういうのはなんとなーくまとめた方が思い出しやすいんだよ多分。

 

「いや、紆余曲折じゃあまとまってないぜ提督。つーかそのまま話すなよ。」

 

「おぉ、すまんすまん。」

 

 

「ところでこうちゃん、叢雲〜、次はどこに行くのよ?」

 

現在はおもかる石の場所から引き返して駅の方まで戻ってきているところだった。

 

 

「あー、どうすんの叢雲?」

 

正直、俺はスイーツ食いに行くって事だけは知ってるけどどこの店に行くかは聞いてないからそこん所は叢雲に丸投げだ。

 

「そろそろいい時間だし、目的のスイーツ店に行きましょうか。」

 

 

「スイーツ店行くんですか!?ち、因みに何処の……?」

 

 

大井の食いつきっぷりが凄い。怖いところがあってもやっぱり甘いものが好きな女の子なんですね。

 

 

アイスクリームとかならちょいちょい食べてたけどパフェだのクレープなんてもん海軍学校の時は食べられなかったからなぁ……。

 

俺もスイーツ楽しみなんだ!今流行りのスイーツ男子って奴だよ!……すいません調子乗りました。甘いもの食べるのひさしぶりです。

 

「祇園にあるスイーツ店よ。味は毎日行列が出来るぐらいだからきっと美味しいはず!ほら、この店よ。」

 

「あぁー!!ここ前から行きたかった所なんですよ〜!!楽しみ〜!!ね?北上さん!」

 

 

「そうだね〜。大井っちここ最近スイーツ店スマホで調べまくってたもんね〜。」

 

「い、いいじゃないですかぁ〜!!」

 

「確かに最近の大井はスマホでケーキやらパフェやらの写真ばっかり見てたにゃー。あ、でもその中何枚かに提督の写真ムグッ!?」

 

「多摩姉さん……?」

 

「い、いやー見間違いだったにゃー!そもそも最近の大井は出撃や遠征で忙しかったもんにゃー!!」

 

「ん?お前、俺の写真でも持ってんの?」

 

「ばっ!?ばばば馬鹿なこと言わないでくださいよ!?そんなのももも持ってるわけないじゃないですか!!」

 

 

「えぇ……写真って言ってもあれだろ?海軍高等学校の卒業式で撮った卒業写真だろ?あれなら俺も今フォルダーの中にあるぜ。俺も懐かしくなって偶に見返すんだよ。アイツらどーしてるかなー?」

 

 

「こうちゃん、君には失望したよ。」

 

 

「なんでだよ!?」

 

しかもそれ時雨のセリフ!!ちゃんと使用許可取ってます?

 

 

「とりあえずもう電車来るから京都駅まで戻るクマ。でも提督、妹達を泣かせたら球磨が許さないクマね…。」

「え?あ、はい。」

 

 

いや、お宅の妹さんもそうだけど俺も泣かされたこと結構ありまして…主に大井さんから……。

 

 

男は強く生きるもんだクマ。うじうじしないでビシッとするクマ〜。

 

 

コイツ!?直接脳内に……っ!?

 

 

まぁ結構当たり前の事になってきてるので驚きもせずネタで返す辺り、俺もここに慣れ始めてるということを理解して少し萎えた。脱出への道のりがどんどん遠くなっていく……。

伏見稲荷大社から電車で京都駅まで戻り、そこからバスに乗り換えて祇園まで向かう。

 

移動中のバスの中でてんやわんや……とはいかないのであまり大きな声にならないよう、周りに配慮しつつの会話。

 

叢雲達はネットで可愛い服を見つけたからデパートにあったら欲しいやら間宮券が全然足りないやら結構会話が盛り上がっていた。

 

「実際、デザートは食べ物だし時が経てば駄目になってしまうって考えればもっと間宮券を配って消費した方がいいと思いません?」

 

「大井はわかってないクマねー。間宮券ってのは焼肉と同じだクマ。毎日食べられたら間宮券のありがたみがどんどん薄れていくクマ。やっぱりあれは偶に食べるのがいいんだクマ。」

 

「おいおい、そう言う割には球磨姉さん昨日一昨日と連日貯めてた間宮券使ってアイス食べてじゃねーか。」

 

「そ、そりゃ球磨だって2日連続でアイスが食べたくなる時だってあるクマ!!」

 

 

「ほぉ〜、偶に、ねぇ……。」

 

「……木曾、帰ったら覚えておくクマ。」

 

「いやいやいや!!!姉さんそれは無しだろ!!」

 

「まぁ結局の所、美味いもんは毎日食えた方が幸せだと多摩は思うにゃ〜。」

 

「アタシもそう思うな〜。美味しいものは食べれる時に食べとく主義。」

 

「私は北上さんがいればいつもご飯が美味しいです〜。」

 

「アンタ達は本当にブレないわねぇ……。まぁでも頑張って勝ち得た間宮券で食べるアイスが1番美味しいと私は思ってるわ。」

 

 

あーでも俺も美味しいものは食べれる時に食べておきたいかな〜。そう考えると入りたくない海軍だけどやっぱり間宮がいる鎮守府は大きいな〜。……まぁ、ちょっと対価が大きすぎるというかなんというか……。

 

「叢雲は仕事終わりにビール飲んだらプハーッ!!って言うタイプだしな。」

 

「あれ疲れた日にビール飲んだら大体の人が声出ると思うわ。てか馬鹿にしてんの?」

 

 

「いやしてない。むしろ出ない筈がないとすら思ってる。仕事終わりに温泉とか入ったらあぁ〜〜……って声が出るぐらいの俺だし。」

 

「あーアタシもそれ分かるわー。」

 

 

「なんだか40〜50代みたいな会話してるにゃ〜。」

 

「北上さんは美少女です!!」

 

「うら若き乙女達が揃いも揃っておっさんじみてどうするクマ!もっとピシッとするクマ!」

 

「そう言う球磨姉さんだって今の内容全部当てはまってるけどな。」

 

 

「……木曾、明日も覚悟しとくクマ。」

 

「いやだって事実じゃん!!」

 

木曾も大分俺に近いところあるよな。ポロッと言っちゃう所とか。

 

「ほらアンタ達、おしゃべりもその辺にしなさい。もうすぐ祇園に着くわ。本日のメイン、デザートの時間よーー!!」

 

活き活きとしてますね叢雲さん。もしなんか俺がやらかしてもその時はデザートの事考えて頂けます?その間になんとか誤魔化しておきますんで。

 

問題は叢雲をやり過ごすことが出来たとして第2、第3の奴、そしてラスボスの淀姉さんが控えているので恐らくそれまでには俺のライフポイントはゼロだろう。

 

誰が可能性永遠の0だ、可能性ゼロじゃないわ!0.01%ぐらいはあると信じてる!……多分あるよね。

 

永遠の0はいいぞ、涙無しには見られないけどな。

 

ともかく、永遠の0オススメですよ。本当に。映画版もドラマ版も漫画もあるからちゃんと見て。

宮部さん、許してください……。

 

俺もこの鎮守府から生きて帰る努力をしよう……。

 

そんなこんなもあって京都駅からバスで20分ほどの祇園四条までやってきた。

 

「ここの通りが四条通りね。ほら、向こう見てみなさい。あれが有名な八坂神社。」

 

「ほーあれがねぇ。」

 

各々、反応は様々だ。「あーそう言えばテレビで見たことある風景だね〜。」「あ、北上さん北上さん!舞妓さんですよ!!」「大井姉さん、あれは観光客で本物の舞妓さんじゃなムグッ!?」「木曾、また面倒な事になるから放っておくにゃ〜。」「にしてもまぁ、相変わらず人が多いクマねー。」

 

まぁ皆さんなんだかんだ楽しんでらっしゃるみたいで……。

 

「とりあえずお店の方に行くわよ。道路の向こう側だから信号渡りましょう。」

 

「「「はーい。」」」

 

いや、小学校の遠足か。間延びした声で返事するな。

 

ぞろぞろと移動する俺ら。道の幅と通行人の都合上、二列縦隊で移動してる、やっぱり遠足感ある。

 

そして店の前まで到着した俺らが見たものとはっ!?

 

「あー……、並んでるねー。」

 

「毎日行列って言ってましたもんね。」

 

「まぁ想像通りと言えば想像通りよね。」

 

勿論、多くの方々か並んでおられましたとさ。

 

「まぁでも並ばないとスイーツは食べられないクマ。」

 

「そうにゃ〜、他の人が並ぶ前にさっさと列に並ぶにゃ〜。」

 

おっしゃる通りで。宝くじだって買わなきゃ当たらない。脱走だってしてみなきゃ脱走出来ないからな。

 

あ?確率?知らん。難易度VERY HARDって事だけは知ってる。

 

コイツらを掻い潜るのも大変だけどやっぱり淀姉さんが難関だな。

 

まぁ今は仕事の事を少しでも忘れよう。今考えるべきは久方ぶりのスイーツで何を頼むかという事だ。

 

列に並ぶと店員さんからメニューを手渡された。待ってる間に何を頼むか決められるし、店側も効率を上げられるし、人気店だからこそのシステムだ。

 

「何にしようかしらねぇ……あ、これ美味しいそう。私白玉パフェ!」

 

「北上さんは何にします?」

 

「あー……、アタシこれいいなーおいもさんパフェ。……でもほうじ茶カステラパフェも捨て難い。」

 

「なら私が北上さんと違う方頼んで半分ずつ食べましょうよ!」

 

「おぉ〜、良いねぇ〜。」

 

「球磨は桜あんみつにするクマ。やっぱり期間限定と書かれてると頼んじゃうクマ〜。」

 

「にゃー!!それ多摩も狙ってたやつにゃ!!」

 

「なら俺は白玉ぜんざいとやらにするかな。」

 

スイーツを頼むだけでも大盛り上がりの我々ですわ。

あ、でも球磨の期間限定って書かれてると頼みたくなっちゃう気持ちめっちゃ分かる。

 

俺もどーすっかなぁ、限定ねぇ……あー、この桜パフェっての美味そうだな。やっぱり人間、期間限定って言葉に弱いな。よしこれに決めた!

 

「んじゃ俺はこの桜パフェにするかな。」

 

「へぇー、アンタのも美味しそうね。」

 

「だろ?やっぱり期間限定はなんかそういう効果があんだよ。」

 

「超適当なまとめ方だったけど分からなくもないあたりが不思議よね。」

 

期間限定には不思議な力があんだよな。

まぁそこからなんだかんだ待つこと10分ぐらい……。

 

「7名でお待ちお客様大変お待たせ致しました!4人がけの席に3名と4名様でお座り下さい!……ご注文はお決まりでしょうか?」

 

席の配置は3名側に球磨・多摩・木曾

 

4名側に俺・叢雲・北上・大井だ。

 

「私は桜あんみつクマ!」

 

「多摩もそれをお願いするにゃー!」

 

「俺は白玉ぜんざいを。」

 

「私はほうじ茶カステラパフェを!」

 

「アタシはおいもさんパフェ〜。」

 

「私は白玉パフェをお願い!」

 

「そんじゃこの期間限定の桜パフェをお願いしま〜す。」

各々自分の好きな物を頼んでホクホク顔だ。

 

こんぐらい笑顔の絶えない職場ならまだ良かったんだけどねぇ……どうしてこんなに凶暴化したのかやら。

 

「はい!桜あんみつがお2つ、白玉ぜんざい、ほうじ茶カステラパフェ、おいもさんパフェ、白玉パフェ、桜パフェがお1つずつでですね?かしこまりました、少々お待ちくださいませ!」

 

お店の人に注文して後はスイーツが出てくるのを待つばかり。

 

にしても……

 

「次から次へと客が並んでいくなぁ。そんなに有名な店だったのか。」

 

 

「私達今回運良いわよ、普通30分以上並ぶ事もあるって言ってたし、そう考えたら10分ぐらいで席に着けたなら早いもんだわ。」

 

「まぁ有名も有名なお店ですからね〜。『京都 スイーツ』で検索すれば大体引っかかる人気TOP3ぐらいのお店ですし、本当に運が良かったですね!」

 

ほぉー、そういうの聞いたらテンション上がっちゃうじゃない?提督、テンションアゲアゲです!!

 

暫くすると注文したデザートが運ばれてきた。

「お待たせ致しました〜!桜あんみつ2つ、白玉ぜんざい、ほうじ茶カステラパフェ、おいもさんパフェ、白玉パフェ、桜パフェになります!」

 

 

「待ってましたクマ!」

 

「良いねぇ〜!痺れるねぇ〜!」

 

「きゃ〜!美味しそう〜!」

 

皆さんテンション上がりまくりですわ。

 

お隣の叢雲さんも「この日をどれだけ待ち望んだ事かしら!やっぱりスイーツは人を幸せにするわね!!」とテンション上がりまくりです。むふーっ!と鼻の穴広げちゃってまぁ。

 

そして俺の目の前にも念願の期間限定桜パフェが置かれた。

 

「お、おぉ……。これが桜パフェ……。」

 

う、美味そう……やっぱりこれ選んで正解だったわ。

 

「……それじゃあ、全員スイーツは行き届いたわね?

やっぱり食べ物は出来たて、作りたてが1番美味しいわ。では、満を持して……頂きます!」

 

「「「頂きま〜す!!!」」」

 

 

早速パフェをスプーンでひとすくい……んんーーーっ!!!うめーーー!!!

 

口の中に広がる冷たい桜の風味、いちごの甘酸っぱさ、フレークのカリッとした感じ……いや、フレークは普通だわ流石に。

 

にしても「美味いっ!!」

 

「でしょう!ここを探しておいた私に感謝なさい!んふーー!!美味しい〜!!」

 

 

みんな頬が緩んでますよ?なんというかみんな顔がモニュモニュした感じになってるし……。まぁ俺も人の事言えてないと思うけど。

 

どんどん食べたいけどもっと味わって食べよう。そもそもそう簡単に来れる場所じゃないしな。

 

「提督さん、提督さん。」

 

ん?この声は……

 

「私達の分のパフェは無いのですか?」

 

「あんなに影ながらサポートしてきたのに……。」

 

「甘味……甘味……。」

 

「あー私達も甘いもの欲しいなーチラッチラ。」

 

「今なら提督さんのパフェひと口ずつ頂ければいいんだけどな〜チラッチラ」

 

「頂ければ朝起こしに行く時も探照灯からラッパ目覚ましになるんだけどな〜チラッチラ。」

 

お前達は!?いつもの5人組妖精さん+探照灯妖精さん!?

 

どっかにいるとはおもってたけど、ほんとにどっから湧いて来るのかね君達は?

 

「私達はバッグの中。」

 

「私は上着の裏。」

 

「私達は両ポケットの中。」

 

あなた〜のパフェに狙いを決〜めて〜……いや風邪薬のCMじゃねーんだよ。

 

「ちなみに私は提督さんが歓迎会の時に日向さんから頂いた瑞雲で追いかけてました。」

 

本当に神出鬼没な方達ですねぇ!!なんか驚かなくなったよもう。

 

「それで……パフェは頂けますでしょうか?チラッチラ。」

 

 

「わざわざ新しいのを注文しなくても提督さんのを少し頂ければいいですよチラッチラ。」

 

 

「頂けなければ後で何かが起こるかもチラッチラ。」

 

チラッチラチラッチラうるさいなお前ら!!

 

てか最後!さり気なく怖いこと言ってんじゃねーよ!!

何する気だ!?

 

 

「ではパフェを頂けますか?」

 

はー、分かった分かった。はい、やるから欲しいやつはせいれ〜つ。

 

「「「はーい!!!ササッ!!」」」

 

こういう時は本当に素早いのよね君達……ほれ、あーん。

 

「あーん……は〜癒されます〜、感謝ですね〜。」

 

「流石に気分が高揚します。」

 

「なんか、もう……いっぱいですわ……。」

 

「はい!力が湧いてくるようです!」

 

「充分かと。」

 

「ありがたくいただきます。」

 

なんか補給ボイスって感じしましたね。まぁなんでもいいか。とりあえず6口分で満足してくれるなら良い方か。妖精さんがそんなに大きくなくて良かったぜ。大きな妖精さんってなんすかねぇ……。

 

 

まぁそれでも俺の期間限定桜パフェは減っちまったがな。とほほ……。

 

ガックシと肩を落としていると横からアイスの乗ったスプーンが現れた。

 

「そんなにガッカリしないの。ほ、ほら、私の少し上げるから……。」

 

「え?いいのか?」

 

「は、早くしなさいよ!今も溶けてるんだから!」

 

「い、いやそうじゃなくて…これお前のス「だぁぁぁーーー!!!さっさと食べなさい!!!」ムグゥッ!?」

 

スプーンを口にねじ込まれるって経験懐かしいよね。

小三の頃、苦手だったプチトマトを淀姉さんからスプーンで口にねじ込まれた記憶が……。あ、でもこのアイスめっちゃうめぇ……。

 

「美味しいなこれ……サンキュー叢雲。」

 

「ふ、ふんっ!まぁそれぐらい良いわよ!」

 

多分叢雲はそういうのを気にしないタイプなんだそういうことにしておこう。意識?してないっス全然そんなことないっス。

 

「(お、隣の席が何やら甘ったるい空気になってきたクマ!)」

 

「(甘ったるいけど案外悪くない感じにゃ!あ、木曾、野暮ったい事は今言わない方がいいにゃ。今何か言ったら多摩達まで巻き添え食らうにゃ。それだけは勘弁願いたいにゃ。)」

 

「(さ、流石に出来ねーよ!)」

 

「ほうほう、そういう事なら北上さんもこうちゃんにひと口あげよーじゃないか〜。あぁ大丈夫、アタシは気にしないタイプだからさ。ほら、おいもさんパフェ。」

 

「ふ、不本意ですけど、私からもちょっとぐらい分けてあげますっ!!私も気にしないタイプなので!!」

 

正面に座る2人からもスプーンが伸びてきた。

 

え?いいの?君達本当に気にしないタイプ?あーでもそっか、軍隊学校いると回し飲みとか普通にあったしその影響もあって気にしないんだろうな。うん。

 

「じゃ、じゃあまず北上のから貰おうかな。」

 

「ほいほいどーぞ。あーん……。」

 

さつまいもとバニラアイスの甘さが見事にマッチして非常に美味しい。おいもさんパフェって言うからちょっと警戒してたんだよね。しばふ村で取れたおいもだとみんな似たような顔になるって伝説があるから……。

 

「うん、これも美味しいな。さつまいもとバニラアイスの甘さが丁度いい。」

 

「でしょ〜?」

 

「じゃ、じゃあ次は私のを……。」

 

ぱくりと大井のほうじ茶カステラパフェを頂く。

 

こちらも非常に美味しい。 ほうじ茶のカステラと抹茶アイスがこれまた美味しい。

 

「あー、これも美味いな、しかもカステラとアイスで新食感って感じがする。」

 

「で、ですよね!!私もそう思いました!!」

 

三者三様のパフェを食べさせてもらった訳だし俺のパフェも少しあげるか。

 

「ほれ、お返しだ。俺のパフェも少し食っていいぞ。」

 

スッと中央に俺の期間限定桜パフェを送り出す。

 

「みんなで適当に食べてくれ。あ、ちょっとは残しといてくれよ?」

 

しかし、3人ともこちらを見てパフェには手を付けない。

 

「ん?どうした?要らないのか?」

 

すると北上がケラケラと笑い出す。

 

「いやいやこうちゃん、私達もこうちゃんに食べさせてあげたし、こうちゃんに食べさせて貰いたいなーってね。」

 

「ま、まぁ妥当よね!」

 

「そ、そうですね!北上さんが言うなら仕方ないですね!」

 

「え、えぇ〜?」

 

 

「妖精さん達、これを狙ってたクマか?」

 

「ふふふ、球磨さんもこの席配置、狙ったとしか思えませんが?」

 

「「計画通り(です)(クマ)……。」」

 

 




カクテルに浮かぶ冴えない顔は誰〜?

明日へと立ち上がるが足取り重い〜

交差点に群れる新社会人のエネルギーを〜

羨んだ俺は何処へ往くのだろう〜?

迸るほどの青春と再就職先を探せど〜

……いや、そう言えば軍隊学校に青春もクソも無かったわ。再就職先探そうとハロー〇ーク行こうとしても淀姉さんに捕まるしなぁ。

見つけられない〜俺だけど〜脱出の機会を伺い生きてる〜

相良って愚かにも〜ちっぽけな脱走の機会を〜

捨てられず(縄で)雁字搦め〜

そんな〜俺を〜見つめるあなた〜

哀れみはいらないよ〜

や〜るせのない風が吹く〜

「……もう諦めたらどうです?どうせすぐ捕まるんですから。」

「大井、ならこの縄を解いてくれ!俺は諦めないぞ!」

「それは出来ません。」

這ってでも〜転んでも〜出口を見つけよ〜う!


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就活戦争20日目

こんにちは作者の狛犬太郎です。

遂に念願の八景島シーパラダイスで開催中の瑞雲パラダイスに行くことが出来ました。

もう瑞雲めっちゃかっこいい。あんなの見せられたら写真撮りまくっちゃいますわ。

キャラクターパネルも最高に可愛いのばっかりでゆうしぐパネルぐへへ。

大井っち北上様叢雲さんもパネル出てこーい。

というかみんな出して(無茶振り)

とテンションアゲアゲです!!ってなぐらい良かったです。

まだ期間中の筈なので行こうか行かないかで悩んでる方、とりあえず行こうか。

最後に一言、瑞雲は良いぞ……。

もう一度言おう、瑞雲はめっちゃ良いぞ。


やぁおはよう皆さん、舞鶴第2鎮守府でい・ま・は提督をしている相良航希だよ。

 

ん?京都?あぁ、前の休みのやつね。何とか生きて帰ってこれたよ。

 

因みに今は6月、あの京都お出かけから3週間ほど経っている。

 

どこまでやってたっけ?あースイーツ食いに行った所か。あの後も色々あったよ、錦市場に行って食べ歩きしたり、駅中のデパートにみんなで服買いに行ったりもした。

 

『この服どっちが良い?』っていう質問に

 

『どっちも似合う』って回答はNGだぞ?

 

溜息か蹴りかビンタかチョップかねこパンチかくまパンチ?が飛んでくるぞ。上から来るぞ気をつけろ!

 

ソースは俺だ。

 

んでそっからだ。折角鎮守府の外に来てるんだからやる事は1つ、逃走しかない。

 

淀姉さんも居ない、連中は可愛いお洋服に夢中。あ、木曾はクール系な服見てた。けどめっちゃチラッチラ可愛いお洋服も見てました。可愛い。

 

まぁそんな機会をこの俺が逃すわけがなかろう。みんなには「ちょっとトイレ行ってくる」と言い残し、意気揚々と駅の改札に向かってサラダバー……違う違う、サラバダーする予定だった……筈なんだけどなぁ〜おかしいなぁ〜?

 

なんでみんな改札に先回りしてるのかなぁ〜

 

ヤメローヤメロー!!HA☆NA☆SE!!

 

って感じに捕まりましたとさ。

 

後で聞いたらかの有名なトラブルメーカー青葉さんが付けてたらしい。速攻でメールが行ったらしいですよ?俺が改札方面向かった瞬間。

 

証拠写真もバッチリだ!因みに叢雲達のローアングル写真や際どい所の写真もバッチリだったのでその後2人仲良く鎮守府に帰ったら反省室なる場所で叢雲達から粛清(説教)されました。因みに青葉のカメラデータは淀姉さんによって消されました。青葉ガチ泣きだった。某議員の如く「ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙!!!この鎮守府を変えたい!!!」ってな感じになってた。

 

京都のお出かけはそんなところだ。

 

じゃあ今日は何してるかと言うと……

 

脱走だ。お昼を食べ、執務を再開して1時間後、『こんな量の書類やってられるか!!俺は逃げる!!』と言うことで、秘書艦だった夕立にお茶を入れに行ってもらってる間に抜け出してきた。

 

『お宅も懲りないねぇ……。』って声が聞こえた気がしたけど俺は何があっても諦めないぞ。何度収容所(鎮守府)に連れ戻されてもいつかは外に出て、民間企業で働くんだからな!!

 

京都の次の脱走計画は海から泳いでの脱出を図ってみたが逃げてから10分後、対潜装備で固めてきた淀姉さんを含むいつもの連中が追ってきて余裕で捕まった。反省室に連行された。

 

その次の計画は地面に穴を掘り、地下トンネルを掘ってそこから脱出する計画だった。

 

トンネルの名前はトム・ディック・ハリーと名付けよう。

 

冗談だ、正直三本もトンネルを掘っている余裕は無かったので今俺が住んでる家のストーブみたいな所の下から鎮守府の外へ出る一本だけ掘った。

 

ストーブ下に掘る理由?何となくそこに掘らないと行けない気がしたからさ。詳しい事は映画『大脱走』を見てくれ。

 

 

そん時は妖精さん達に賄賂(お菓子)を渡して手伝って貰ったり、鎮守府を囲む塀の外に逃走用のバイクを置いておいたりしてもらった。

 

暇が出来たら穴を掘り、掘ってない時は偽装の為、穴を隠すようその上にストーブを置いて穴を隠蔽していた。

 

着々とトンネルを掘り進め、もうすぐ開通というところでアクシデント発生、よく部屋にやってくる夕立がよりにもよってストーブ横ですっ転んでしまい、持ってたお茶を零した。

 

ここでバレる訳にはいかないので慌てて「俺が拭くから下がってろ」と言ったが、夕立と一緒に来てお茶を入れていた時雨が雑巾を持って登場。

 

バレないように祈ったが祈りも虚しく「ん?水の滴る音……?零れたお茶が地面に染み込んでいく……まさかっ!?」とストーブを退かされてしまいバレた。

 

こちらも勿論反省室行き。

 

その後トンネルは俺が反省室でお説教されてる間に埋め立てられた。

 

んで今回!!余りにも突発過ぎたので作戦らしい作戦は考えていなかったが散歩してる体で自然に外に出る作戦だ。

 

今日はそもそもこの日にやらないでいつやるかと言うぐらい好条件なのだ。淀姉さんは大本営に業務報告に行ったので今鎮守府に居ない。

 

出撃と遠征は球磨、多摩、白露、村雨の4人が遠征。

 

霧島、祥鳳、瑞鳳、木曾、白雪、朝潮の6人は輸送船団の護衛任務で出撃。

 

大井、北上、叢雲は浜風を含む4人で対潜哨戒だ。輸送船団の進路に敵潜水艦を目撃したと他鎮守府からの連絡があったので先回りさせた。

 

時雨は今日風邪を引いてダウンしてる。朝飯後におかゆ持って様子見に行ったら「いつか、咳は止むさ……。」とか言って元気そうだったからおかゆ置いて帰ろうとしたらすんごい咳き込み始め「提督……苦しいよ……。」とか言うんでおかゆ食べさせて寝かせた。ついでに看病役としていつもの妖精さん5人組を置いてきた。

 

病人の割にキラキラしてるという謎状態の時雨さんは不思議でした。

 

それで秘書艦は先程も言ったが夕立だ。

 

俺が逃走しても実質行動出来るのは夕立のみ、これをチャンスと言わずになんと言おうか。

 

だから今回こんなガバガバ作戦だが成功率は高いのだ!!

 

さて、まずは夕立を撹乱しなくては行けない。

 

最初から出口に向かってしまうと速攻で外に行ったことがバレてしまうので、夕立に出会わないようにどこかに寄りつつ鎮守府の外へ出る、完璧だ。ガバガバだけど完璧だ。

 

ついでに少しでも脱走発覚を遅らせる為にも執務室に『明石に呼ばれたから工廠に行ってくる、ちょっと待ってて。』とメモ書きを残しておいた。これで暫く夕立は動かないだろうさ。

 

とりあえずこの鎮守府の癒し、間宮&伊良湖に会ってアイスクリームでも食べよう。なんだかんだ間宮券まだ使ったことないんだよな。

 

面倒な奴に捕まる前にさっさと食堂に……

 

「お、提督じゃ〜ん!どったのこんな所で?」

 

「ご機嫌麗しゅう提督、あら?でも今は執務されてるのではなくて?」

 

現れたのは鈴熊コンビ。

 

おーーい、フラグ回収早すぎんだろ。早速面倒な奴らが現れたぞ。

 

「よ、よう、鈴谷と熊野。いやなんだ、休憩がてら間宮にアイス頼もうと思ってな。」

 

今は午後1時過ぎ、休憩するには早いかもしれないが無性にアイスを食べたくなったということにしておけば大丈夫だろう。

 

 

「お、奇遇だねぇ!鈴谷達もこれから間宮アイス食べに行くとこだったんだ!」

 

「よろしければ提督もご一緒にいかが?」

 

ま、まぁ面倒な連中に絡まれるという誤算はあったがこのまま行くか。逆に「やっぱり止めとく。」なんて言ったらそれこそ不審だ。

 

「ならありがたくご一緒させてもらうおうかな。それに、誘われてて別件で用事があるならあれだが何も無いのに断るのは失礼だしな。」

 

「そうですわ、この私からの誘いなんて滅多になくてよ?もっと感謝してくださいませ。」

 

「熊野ったらそんなこと言っちゃって〜。提督誘おうって言ったの熊野からじゃ〜ん!しかも提督が間宮券持ってなかったらどうするって言ったら『私のMVP間宮券を使えば最中とアイスが貰えますし、どちらか提督に譲れば3人で食べれましてよ。』って!!」

 

「ちょ!?ちょちょちょっと鈴谷!?何を言い出すのかしら!?」

 

え、熊野優しすぎ……。ちょっと涙出てきた。

 

「そうだったのか熊野、ありがとうな。まぁでも大丈夫だ。俺もちゃんと間宮券持ってきてるし。お前のMVP間宮券はお前が使うといい。」

 

熊野は恥ずかしそうに「別にどちらか譲って差し上げてもよろしかったのですが……」と言ってくれた。

 

優しい。熊野優しすぎる。でも補給の度にフルコースエステは出来ないから許してくれ。

 

「んじゃ、そうと決まれば食堂までレッツゴー!!」

 

鈴谷が飛びついてきた拍子にポヨンとした感触が腕に……まさか……これは……っ!?鈴谷の胸部装甲!?

 

「鈴谷!!貴女も少しは淑女らしい行動をとりなさいな!急に大きな声を出したり、飛んだり跳ねたりしてははしたないですわよ!!」

 

あの、今も腕の横で鈴谷さんの胸部装甲が飛んだり跳ねたりしてるんですが……結構、大きかった……です。

「ハイハイ、分かりましたよ〜。もう、熊野ったら今どき大きな声出したりジャンプぐらいするっしょ。……ん?提督?どうかした?」

 

「いやなんでもないです。」

 

鈴谷達は気づいてないみたいで助かりました。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

一方、その頃執務室……

 

「艦娘音頭で提督と〜おてんとお日様、わ〜ら〜って〜る〜っぽい!」

 

ガチャ「こーちゃん!お茶持ってきたっぽい!!……あれ?こーちゃん?」

 

お茶を頼まれたのだが頼んだ本人であるこーちゃんが執務室に居ない。

 

お茶の載ったお盆を机に置いた時にメモ書きが目に入った。

 

「メモ?なになに……『明石に呼ばれたから工廠に行ってくる、ちょっと待ってて。』っぽい?」

 

それは仕方がない、まぁ大した事で無ければ10分15分で戻ってくるだろう。

 

「それなら私も少し休憩しようかな〜ノビー。にしても……ふわぁ〜、今日は暖かくて眠くなるっぽい……スヤスヤ。」

 

お昼も食べたし少し眠くなってしまった。ちょっと寝るだけ。こーちゃんが帰ってくるまでの間。そう、ちょっとだけ……。

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

「はい、お待たせしました!間宮さんと伊良湖特製、アイスクリームと最中です!」

 

そんなこんなで間宮アイスと伊良湖最中を食べるため、鈴熊コンビと共に食堂にやって来ました。

 

そしてこれが海軍で噂の間宮アイスと伊良湖最中……

 

「ひゃっほい!久しぶりの間宮アイスと伊良湖最中!!これでテンション上がらない奴はいないっしょ!!」

 

「私、色々なアイスクリームや最中を食べてきましたが、やはり、間宮さんと伊良湖さんの作る甘味は1番でしてよ!」

 

「うふふ、ありがとうございます!伊良湖ちゃんと一生懸命作ってますからね。どちらも出来たての方が美味しいですからどうぞ食べてください!提督さんもどうぞ!」

 

そんじゃお言葉に甘えて……

 

「「「頂きまーす!!」」」

 

………………暫く言葉失った。アイスクリームで美味しいって言うとみんなハー〇ンダッツとかその辺想像するよね?ハー〇ンダッツの美味しさを1と例えるなら間宮アイスが1583674972倍ぐらい美味しかったと言う感じ。流石に数字を適当にし過ぎたけどとりあえずそれぐらい美味しいという事をみんなには伝えたい。

 

「提督さん、お口に合いませんでしたか?」

 

いかんいかん、間宮が心配そうにこっちを見てるじゃないか。めっちゃ美人。

 

「いや、すんごい美味しくて言葉を失ってた。」

 

「でしょ〜?間宮さんのアイスはちょー美味しいんだからさー!」

 

「間宮さんのアイスも美味しいですけど伊良湖さんの最中も絶品でしてよ!」

 

ほうほう、それは是非とも食べてみなくては……

 

「では早速……。」

 

…………………うん、最中ってなんだっけ?

 

いや、そういう事じゃない。最中は分かる。ただこの最中、美味しすぎて市販の最中ってどんな味してたっけ?ってなってる。

 

「提督さん、どうでしょうか?」

 

「……めちゃくちゃ美味しい。こんな美味い最中初めてだ……。」

 

「良かったぁぁぁ〜!!!間宮さん良かったよぉぉぉ〜!!!」

 

「うんうん!!頑張ったわね伊良湖ちゃん!!」

 

2人共なんて美味しいものを作るんだ!これじゃあ外でアイスクリームや最中食べた時コレジャナイ感になって食べられなくなるだろ!!

 

美味しすぎてありがとう!!!

 

「ん〜〜〜!!!やっぱこれっしょ〜!!間宮さんのアイス最高〜!!」

 

「伊良湖さんの最中も非常に美味ですわ〜!!」

 

3人ともスプーンを動かす手は止まらない。

 

そして気がついた時には……

 

「あー……無くなっちゃったかぁ〜。」

 

「この時が1番虚しくなるのですわよねぇ〜。」

 

俺の器も皿の上からもアイスクリームと最中は無くなっていた。

 

熊野が言うように虚無感ある。

 

「まぁでもまたMVP取ればこの間宮アイスが食べられると思えば頑張れるっしょ!!」

 

「そうですわね!鈴谷、次のMVPはこの私が頂きますわよ!!」

 

「お、熊野も言ってくれるじゃーん?なら早速演習場で自主練で1VS1といこうじゃん!!」

 

「勿論受けて立ちますわ!間宮さん、伊良湖さん、ご馳走様でした。またMVP取ってアイスと最中食べに来ますわ!」

 

「はい、またお待ちしてます!」

 

鈴熊コンビ仲いいんだよな。いやほら、歓迎会での酒の一件があったから大丈夫かなー?とか思ってたんだけど喧嘩するほど仲がいいとも言うし、やっぱ酒の席ってのもあったからな。

 

「あ!しれーかんだ!!」

 

「司令官さん、間宮さんも伊良湖さんもこんにちはなのです。」

 

「司令官、間宮さん、伊良湖さん、ごきげんようです。」

 

「Здравствуйте こんにちは提督、間宮さん、伊良湖さん。」

 

第六駆逐隊の4人と

 

「お、なんだなんだ提督じゃねーか!間宮アイス食ってたのか?」

 

「天龍ちゃ〜ん、まずは挨拶からでしょ〜?提督、こんにちは〜。間宮さん達もこんにちは〜。」

 

天龍型の2人の天龍幼稚園のみんなだ。

 

「あぁ、みんなこんにちは。今日はどうした?」

「これからみんなでドロ刑をしようって話になったのです。」

 

「ただ人6人だからもっと人数が欲しいなぁーと思ってたところなのよ。でもドロ刑なんてレディーらしくないわ!」

 

「……暁、婦警さんも女怪盗もレディーだと思わないかい?」

 

「た、確かに……大人のレディーって感じがするわね……。」

 

「でしょう?ならドロ刑はレディーの遊びだ。」

 

「確かに!し、仕方ないわね、レディーたるものドロ刑なんて朝飯前よ!!」

 

「まぁもう、お昼も過ぎたから夕飯前かしらね。」

 

アハハハハーーー!!!と楽しそうな笑い声。

 

やっぱり天龍幼稚園は微笑ましいなぁ〜。

 

「てな訳だ、提督も参加してくれや。」

 

「え!?俺かぁ!?」

 

「……司令官さん、駄目でしたか?」

 

「仕方ないさ、提督も執務で忙しいんだ。」

 

ぐぁぁぁ!!!そんな目で俺を見ないでくれぇ!!

 

分かった1回やってそろそろ脱走する、そうすれば丁度いい時間だろう。

 

「分かった分かった、ただし1回だけだからな?」

 

六駆のみんなから歓声が上がる。

 

ここまで喜ばれるんじゃしょうがないわ。

 

「お、司令はんやないか〜。みんなもこんな集まってどないしたん?」

 

「お、黒潮に陽炎、不知火もいい所に来たな!これからドロ刑する事になったんだわ。けど人数が足りなくて困ってた所なんだよ。つー訳でだ、お前達も参加してくれ。因みに提督も参加する」

 

「お、提督も参加するの?それは燃えてくるねぇ〜!!……にしてもドロ刑かぁ〜懐かしい〜!OKよ!陽炎型3名、参加するわ!今日浜風が出撃しちゃてて暇だし3人で演習場行こうと思ってたところだったのよね!」

 

「演習場と言えばさっき鈴谷と熊野も演習場に向かったぞ。」

 

「でしたら演習場に行って鈴谷さん達も呼んできましょうか。」

 

「そうね、それで道すがら会った人達にも声掛けてくるわ!じゃ、ちょっと待ってて!」

 

なんか思ったよりも人が増えそうだなこのドロ刑。

 

正直10人ぐらいで始めてサラッと終わりたかったのだが……。あ、そうだ。このドロ刑に乗じてそのまま鎮守府から脱出すればいいじゃん!俺あったま良い〜!!

 

「こんな機会だし間宮と伊良湖もどうだ?」

「えぇ!?私達ですか?」

 

「そうよ間宮さん達も一緒にやりましょー!!」

 

「みんなでやる方が楽しいのです!!」

 

この子達に誘われて断れる人はそういない。

 

「みんなに誘われちゃ断る訳にはいきませんね間宮さん。」

 

「あはは、走るのなんて久しぶりだから私走れるかしら〜?」

 

次回に続く!!!




歩き〜疲れたら〜帰〜っておいで〜

な〜つかしい〜う〜たなど〜歌いましょう〜

帰りてぇなぁ……あの東京のアパートに。

ゲームしてぇなぁ……アイツらと3人で。

宝船で酒飲みたいなぁ……。

「…提督、悩み事は脇に置いて1杯どうだい?良いウォッカが手に入ったんだ。今日は古い友の様に語らおうじゃないか。提督の愚痴でも聞かせてよ。」

「響ぃぃぃ!!!コロブチカ流してぇぇぇ!!!ウォッカもストレートでお願いします!!!」

「Ладно.任せてよ提督。」


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就活戦争21日目

最近は暑くなったり寒くなったりの変動が激しいですね。体調管理はしっかりしましょうね。

結果、私は鼻水が止まりません。私は、愚かね……。

そして大変申し訳ない報告が、9話目で駆逐艦の紹介をしたのですがその時大潮ちゃんの紹介をガッツリ書き忘れたので9話に書き足しました。

駆逐艦、大潮です~! 小さな体に大きな魚雷! お任せください!

頑張れ大潮!負けるな大潮!テンションアゲアゲでいきましょう!

ドロ刑回にはタイタンフォール要素が少しだけ含まれますので平に御容赦を。

二次創作の明石はある意味最強。


「第1回、舞鶴第2鎮守府主催、チキチキ!?ドロ刑対決〜!!!ドンドンパフパフ!!!いぇーい!!!」

 

えぇ……。どうしてこんな事になってるの……?

 

「司会は工作艦明石と……」

 

「どもっ!いつもお馴染み、重巡青葉がお送り致します!!」

 

「ちょいちょいちょい待てーーーい!!!」

 

「ちょっと何よこうちゃ〜ん、今盛り上がってる所なのに〜。」

 

「そうですよ司令官!とりあえず企画を説明するのでもうちょっと待っててください!」

 

「あ、すいません。」

 

なんか勢いで謝っちゃったけどこれ俺謝る必要無いよね?

 

「……では気を取り直して、今回の企画を説明しちゃいます!!」

 

「今回行う競技は皆さんご存知のドロ刑です!!事前に確認したところ、皆さんルールはご存知のようでしたので端折らせて頂きまーす!参加者の皆さんにはこの説明が終わり次第、艦種別にくじ引きで警察役と泥棒役に別れてもらいます!」

 

多分ドロ刑だったりケイドロだったり地域によって違うかもしれないけど内容は一緒だろう。

 

念の為ドロ刑のルールを説明しておこう。泥棒側と警察側に別れてゲームスタート。泥棒側はひたすら逃げる。警察側は逃げる泥棒を捕まえる。捕まった泥棒は1箇所に集められる。

 

捕まったら終わりでないのがドロ刑の面白いところだ。泥棒側には捕まった泥棒を助けられるというルールがあり、逃走中の泥棒が捕まった泥棒にタッチ出来れば全員解放だ。

 

警察の勝利条件は泥棒全員の逮捕、一方泥棒側の勝利条件は一定時間逃げ切ることが出来れば勝利だ。

 

もしドロ刑やる時はちゃんと泥棒側の勝利条件である一定時間逃げ切るってルールを忘れるなよ?じゃないと泥棒側になった奴らエンドレス地獄になるからな。

「間宮さんと伊良湖さんにはバランスを保つため2人で引いてもらいますね〜!」

 

まぁ非戦闘員である間宮、伊良湖は妥当だと思う。

 

……というか非戦闘員というカテゴリなら俺もそうだと思うんですがそれは。

 

「あーそれで〜こうちゃんさ、急でひじょーに申し訳ないと思ってるんだけど、こういうイベントって景品があった方が盛り上がると思うのよ〜それでー……間宮券、2、3枚とか〜出してもらえませんか……ね?」

 

……はぁ〜、この姉はさぁ……。

 

「……まぁ、分かった。今回は俺も参加してるし、景品があった方が盛り上がるってのも納得するから景品としてMVP間宮券をだそう。ほら、じゃあこれなMVP間宮券。」

 

「ありがとう!!こうちゃんありがとう!!」

 

「さてさて、今回はなんと景品が出るみたいですよ!明石さん一体景品は!?」

「はい!今提督からもOKが出たので問題無いです!今回の景品はMVP間宮券〜!!

間宮券を獲得するには警察側は泥棒を最も多く捕まえた人、泥棒側は最も多く味方を脱獄させた人、脱獄が無かった場合、逃走時間が最も長かった人とします!」

 

参加者からは「MVP間宮券がGET出来れば私達のアフタヌーンティーもGorgeousになりマース!」とか「お姉様の為、この場に居ない霧島の為、気合い、入れて、行きます!!」やら「流石に気分が高揚します。」とか「MVP間宮券、ここで失う訳には……。」なーんて声が。1人間宮券の為に中破して無い?

 

「しかーし!!捕まえた数、逃げれた時間だけだと性能差もありますので追加のルールと景品を出しますね!」

 

「そう、泥棒もただ逃げるだけじゃつまらない。ですのでこの明石、お宝を用意しました!それは『提督に1つお願い出来る券』でーす!!!こちらを4枚用意しました!!」

 

……………は?

 

「では追加ルールの「ちょい待て待て待てーーーい!!!」こうちゃん何よさっきから。」

 

「いや明希姉、聞いてないわそれ。間宮券は納得したけどそれは聞いてないわ。」

 

「こうちゃん、お姉ちゃん特権です。」

 

「いやいやいや、知らねーよ!?お姉ちゃん特権なんて!!」

 

全国の姉を持つ弟さん達よ、姉って生き物は横暴だよな……。

 

「こうちゃん、今ここにこうちゃんが中学生だった頃のノートがあるのだけど。」

 

そ、それはっ!?俺の黒歴史が書かれたノート!?馬鹿な!?全て処分した筈だ!!

 

だがあの痛々しい思い出すのも恥ずかしい思い出が書き込まれたノートがあるのは事実だ……っ!!まさかこの姉……

 

「返答次第ではこれを公開することも。」

 

人はそれを脅迫と言います。流石俺の姉、やる事が鬼畜すぎる。

 

「くっそ!!卑怯だぞ明希姉!!!」

 

俺も明希姉の恥ずかしい話を暴露しても……駄目だ、コイツの恥ずかしい話をしても本人が恥ずかしいと思ってない可能性がある……。流石あの母さんの娘だ……。

 

「大丈夫大丈夫、使う前に私がOKかOKじゃないか審査するから!問題ナッシング!!」

 

「いや、そこは俺が判断するべき問題だと思うんだけど……。」

 

「じゃあこれもOKね!ありがとう!」

 

会話にならなかった。もう拒否権ないじゃん……。

 

「長門、何とかしてくれ。」

 

隣にいた長門に言うだけ言ってみる。

 

「すまんな提督、私でもこれを収拾つけるのは難しい。」

 

ですよねー。そういう長門さん何か楽しんでない?

 

「フフ、警察になれば駆逐艦達とキャッキャウフフ出来、泥棒になれば駆逐艦達とキャッキャウフフ出来る……最高じゃないかドロ刑……っ!!」

 

…………聞かなかったことにしよう。というか知りたくない。

 

その時参加する長門以外の艦娘達の間では謎の緊張感が辺りに張り詰めていた。

 

『普段はいつものメンバーばかり提督にあれこれ出来てるけど私達にはあまり機会の無い事……。』

 

『私達も秘書艦とかやってみたいし、これは良い機会じゃないかしら……?』

 

『偶には私達にも良いことがあってもいいよね?』

 

『となれば……』

 

『『『何としてもチケットをゲットしなくては!!!』』』

 

「では改めて、追加ルールの発表です!この券を鎮守府の何処かに隠しました!泥棒はこれを探しつつ警察から逃げてください!そして最後までそれを持っていれば獲得!!対して警察側は今回参加している司令官を捕まえる事が出来た人がチケット獲得となります。」

 

「あ、ですので今回司令官は自動的に泥棒側となります!」

 

え?それ俺の負担デカ過ぎない?

 

「ですが、それだと司令官の負担や全員で提督を捕まえに行ってすぐ司令官が捕まるという事態も考えられますので司令官をちょっと強化させてもらいます!!」

 

え、何強化って?体でもいじられるの?怖いんだけど。

 

「大丈夫よこうちゃん、ほらこれ着て。」

 

手渡されたのはなんか俺のやってたゲームで見たことあるようなスーツ。

 

「……んでこれは一体何さ。」

 

「明石さんお手製、特製スーツよ!クローク機能に自分そっくりのホログラムを作り出す機能なんか付けときました!!」

 

「思いっ切りタイタンフィールドのパイロットじゃねーか!!!」

 

道理で見た事ある物だと思ったよ!!再現度高ーなおい!!!

 

「これ使うんだから簡単に捕まらないでよ〜?あ、そうそう、二段ジャンプや壁走り、能力の連続使用とか出来ないから気をつけてね〜?」

 

あのさ……それはいいんだけど……

 

「……こういうアイテムをさ、艦娘用に作れば戦闘が凄い楽になるんじゃないかと思うんですよ明石さん。」

 

「いやー提督さん、良いところに目をつけましたねぇ〜。実は実戦用に作ろうとすると何故か失敗したり、直前で故障するんですよ〜。本当に謎。だけどお遊び目的に作ると何故か出来ちゃうの凄いよね私!」

 

さすが明石の力だ、謎過ぎる。これを能力の無駄遣いと言わずになんと言おうか。てか褒めてはいない。

 

そんな事は何処吹く風、明石はルール説明を続ける。

 

「提督の強化はこんな感じですね〜。じゃあ追加ルールの続きを説明します!もし、チケットを持った泥棒が警察に捕まったとします。泥棒を捕まえた警察はチケットを押収という事で自分の物にする事が出来ます!」

 

すると参加者から「えーそれ警察めっちゃ有利じゃ〜ん!」や「これはもう警察一択でしょ〜」とブーイングの嵐

 

「皆さんの仰る通り、このままだと警察の方が旨みがありますよねぇ……しかしッ!!泥棒にも旨みはありますよぉ!」

 

あ、一応あるのねそういうの。

 

 

「泥棒だって逃げるだけが脳じゃない、ならばどうする!!スタイリッシュに戦うのです!!!私も記者の時、戦わないといけない場合もありますからね!!」

 

そして明石が再び机の下から何かを取り出す。

 

「というわけでこちらも追加ルールと追加アイテムですね!このペイント銃を鎮守府の何処かに設置しておきました!もし、このペイント銃に撃たれた警察は1分間行動不能となります!」

 

「そしてここが泥棒の美味しい所!!このペイント銃で行動不能にした警察がチケットを持っていた場合、それを略奪出来ます!!」

 

「自衛するもよし、味方を守るために使うのもよし、逆に攻めに出て警察を狙うもよし!!」

 

これには参加者も「おおっ!!」と声が上がる。

 

「ただーし!!」と明石は歓声を遮るように声を上げる。

 

「このペイント銃は1発しか弾が入りませーん!!ですので使う時は考えて使いましょ〜!!」

 

1発か……まぁ防衛手段があるだけマシか。泥棒はひたすら逃げる事しか生き残る手段が無いしな。

 

「あ、そして警察側になられた方、捕まえた泥棒を集めて置くエリアに看守とか言って張り付いたままでいるの無しですからね〜。」

 

あーそれ大事。居たよなそういう奴。あれはずるかった。

 

とりあえず10メートル以内に居ていいのは泥棒を追いかけている時を除いて10秒間という事に落ち着いた。

 

「それともう1つ、相手を傷つけない装備であれば使用をみとめますね!何を装備するかはお任せします!」

 

相手を傷つけない装備ねぇ……いつも使ってる無線機とかか。分かった、探照灯がある事は俺も理解したからアピールしてくんな150cmはもういいんだ探照灯妖精さん。

 

あ、そうだ。

 

「明石、このチケット俺が最後まで持ってたらどうなんのよ?」

 

自分で自分にお願い聞いてもらうってどんな状況?

 

「あー、そうですねぇ。いっけないそこ考えて無かったなぁ〜。」

 

企画者、割と適当ですね。

 

「じゃあ、艦娘の誰かにしれーかんがお願い出来るって事にすればいいんじゃない?」

 

そう発言したのは初期参加者の雷だ。すまんなウチの姉がルール魔改造しちまって……。

 

「お!雷ちゃんその案ナーイス!!採用!!てな訳でこうちゃん、もし逃げ切れたら艦娘の誰かに何かお願いしてもOKよ!……あ、でもエッチなのはダメよ?」

 

…………何を言い出すかと思えばこの姉は……間宮さんに膝枕して貰いながらお昼寝するのはOKだろう。……多分な。

 

まぁそれは半分冗談として勿論脱走の為に使う。

 

これを使って淀姉さんに……

 

『艦娘に1つお願い出来る券?海軍を辞めるや脱走関係じゃ無ければどうぞ。』

……うん、こうなるな多分、というか確実に。

 

まぁお願い出来る券なんて口約束みたいなものだしな〜、後の事考えるとあんまり大っぴらな事言って警戒させるのも面倒だしなぁ……。

 

となると間宮膝枕お昼案が有力……?

 

「ルール説明はこれぐらいですね〜!範囲は鎮守府内で制限時間は1時間。今2時半なので3時から開始とします!!」

 

1時間……通常20分か30分の所1時間か。まぁ普段から動き回ってる艦娘基準で考えれば妥当なのか。

 

となるとこれは苦しい戦いになりそうだ……。だがせめてもの休み獲得の為には俺も手を抜かんぞ!!

 

幸い明石が作ったパイロットスーツがある。どこまで使えるのかは分からんがあるのと無いのとでは大違いだろう。

 

俺は誰にも捕まらねぇ!!!間宮券も頂いて艦娘にお願い出来る券をゲット!!間宮膝枕お昼で体を休めて脱走に繋げる!!完璧だ!!

 

………あれ?俺このゲームの途中で脱走する予定じゃなかったっけ……?あぁでも間宮膝枕お昼は捨てがたい。

どうする!!どうする俺!?どうする!?

 

そんなくだらない葛藤に苛まれる提督さんでした。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

工廠で作業をしていたら黒潮さんがやって来て天龍を含むいつもの子達とこうちゃんでドロ刑を開催すると知った私。

 

お祭りは良いですよね〜!私お祭り大好き!

 

お祭りじゃないけど、みんなでなにかするのって楽しいじゃないですか?

 

私と同じようにネタの匂いを嗅ぎ付けた青葉もやって来た様なので早速企画を立てて単なるドロ刑をイベントに仕様変更。

 

急な話だと言うのに結構な参加者が集まった。

 

出撃、遠征組を除いて伊58、伊19の潜水艦2人組は今日が休みという事で何処かに出掛けた。

 

潜水艦2人組、特にごーやが嬉しそうに朝、出掛けて行ったのを覚えている。

 

まぁウチの鎮守府はそこまで潜水艦達に酷いスケジュールの遠征はさせてない。

 

ごーや、いくの2人は去年まで別の鎮守府に所属しており、ブラックでは無いものの結構なスケジュールをこなしてたらしい。

 

この鎮守府に来た時の第一声が「オリョクルはもう嫌でち(なの)……。」だった辺り結構厳しかったんだろう。

 

やっぱり程々の休みは大事ね。

 

とりあえず今回は参加しないのはまず司会の青葉、撮影兼音声の衣笠。

 

……衣笠いつも裏方やらせてごめん。今度前に出すよう掛け合っておくから。

 

《よろしくお願いします。》

 

あ、わざわざパネルでどうも。衣笠からアピールあったって言っときますね。

 

後不参加なのは……風邪の時雨ちゃん、今大本営に行ってる淀と秘書艦だが現れなかった夕立ちゃん……執務室にいてもこんだけ賑やかなら出てくると思うんだけど、出てこない辺り……お昼寝してるな?まぁ今日はいい天気で暖かいし分かる分かる。

 

提督含めて71人、遠征出撃不参加が21人で残りは参加だから丁度50人、25対25のデスマッチね!!

 

 

…………私達からの説明も終わりくじ引きタイム。

 

戦艦は9人、長門・陸奥・金剛・榛名・扶桑の5人が警察、比叡・伊勢・日向・山城の4人が泥棒となった。

 

運命は2人を分かつのね、扶桑さんと山城さん……。

 

空母が10人、加賀・瑞鶴・蒼龍・隼鷹・大鳳の5人が警察、赤城・翔鶴・飛龍・龍驤・飛鷹の5人が泥棒となった。

 

隼鷹が警察って言うのが不思議すぎてしょうがない。飛鷹と逆でしょうが。まぁ、本当に警察するわけじゃないから関係ないといえば関係ないですけど。

 

重巡は4人、鈴谷・古鷹が警察、熊野・加古は泥棒となった。

どちらもその役の格好が似合うなぁ。鈴谷・古鷹コンビには際どいミニスカポリス、 熊野・加古には怪盗、男装の麗人に是非ともなって頂きたい。

 

軽巡は5人、元々の参加者、天龍・龍田に加え神通が警察。夜戦大好き川内と艦隊のアイドルこと那珂ちゃんが泥棒だ。

 

警察が怖すぎる。あ、すいません、フフ怖の方じゃなくてほかの2人が怖すぎるんです。

 

駆逐艦は16人、深雪・黒潮・暁・雷・不知火・霞・曙・朧の8人は警察、電・響・陽炎・大潮・漣・潮・吹雪・満潮の8人が泥棒だ。

 

この子達には微笑ましい姿を期待している。特に吹雪ちゃんのドジっ娘には期待してるぞ!!

 

残り組潜水艦2人はイムヤ、はっちゃんは泥棒となった。

 

その他、提督は泥棒。間宮さん、伊良湖さんの2人は間宮さんが警察、伊良湖さんが泥棒となった。

 

因みに私は警察側で参加します。

 

さてそろそろ25対25のゲームの始まりだ!!

 

せっかく追加景品まで出したんだから私も楽しませてもらいましょう。このドロ刑でどんな事が起きるか楽しみです!!!

 

ゲーム開始時刻となり、泥棒達は一斉に逃げ出した。ある者は単独で、ある者はチームを組んで走り出す。

 

ゲーム開始まで10秒前、9…8…7…6…5…4…3…2…1

 

「それでは〜……ゲームスタートぉぉぉーーー!!!」

 

 




ラララ僕が大人になる頃には〜

さらに科学は理想の世界を創る〜

「こーちゃん、窓の外なんか眺めてどうしたっぽい?」

……ぽいぽい言う犬っぽい艦娘はもういるからもう犬はいいかな。風邪でダウンしてたクール系ワンコもいる。

「ちょっと〜こーちゃん聞いてる〜?」

僕自身早くロボットになった方がいいと思う。

このワンコ、すげぇスキンシップ激しいんだけど気づいてないかな?

背中に飛び乗ってきたり、抱きついてきたりさ……ワンコだと思うようにしてるけど2つの丘が君もあるからさ……私も男の子だからさ……ね。

「こーちゃん!無視するなっぽい〜!!」

ハートも鉄にしよう。

傷ついたら取り替えよう。

この事も忘れられる。

「提督さん?夕立と何してるのかな……?」

時雨さんのハイライトが消えました〜。

この鎮守府は生身では危険すぎる!!


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就活戦争22日目

1週間ぶりぐらいの投稿

ドーモ皆さん、狛犬太郎です。

私事で全く関係ない事ですが

ポルノグラフィティのライブ神VS神に当選しましたやったぜ。

まさか当たると思ってなかったので最高にハイです。

本小説の方はリアル鬼ごっこ……ではなくドロ刑が開催されてますね。

子供の頃を思い出してみんなで走り回ってみませんか?

私は直ぐに脱落する自信あります。

これから暑くなってくるのでお気をつけて

では本編どうぞ。


ゲーム開始の合図である空砲の音と共に走り出した俺を含む逃走者たち25名。

 

間宮膝枕お昼と脱走を天秤に掛けている俺だがまだ決めかねてるのでとりあえずやるだけやってみて、駄目そうな雰囲気なら脱走を狙うという方針にした。

 

まぁ明石が作ったこのスーツの性能もどんなもんかな。

 

ゲーム開始前に明石からスーツの説明を受けたのをまとめると

 

・ホログラムは1分に1回使用可能。一度に2体までホログラムを出すことも出来るが再度ホログラムを起動するまでのリチャージ時間が倍の2分となる。

 

・ホログラムは起動すると自身が向いている方向に走り出し、障害物に当たれば止まり、消える。ホログラム起動時は起動音がするので注意。

 

・クロークは起動すると30秒間自身の姿を見えなくする。再度使用可能になるまでのリチャージ時間は3分。

クローク機能は時間経過、衝撃があった時解除される。

 

ということらしい。

 

基本、緊急時に使うべきだろうな。正直透明になれるって聞いた時、ずっとこれで隠れてればいいじゃんとか思ったけど流石にそれは無理だった。

 

結局は自身の体力を信じるしかないのだ。

 

スーツの力に頼るのも有るが、開発者である明石が警察側にいるという事を頭に置いておく必要がある。

 

このスーツの弱点を知ってる訳だしな。

 

それにあの姉が何かしてない訳が無い。

 

警戒しておいて損は無いからな。

 

さて、そろそろ警察連中が追ってく……

 

「提督〜!!待ちなさい〜!!」

 

「Hey!テイトクー!!今なら優しく捕まえてあげますから止まるデース!!」

 

「お姉様!!私は右からお姉様は左から回り込んでください!!」

 

「不知火!アンタは無線で朧に先回りするよう伝えて!あのクソ提督を捕まえるのは私達よ!」

 

「あのクズにお灸を据えるいい機会ね。」

 

いやいやいや、明石がとかいうレベルじゃないぞこれ。

 

警察がガチ過ぎるんですがそれは……。

 

逃げ切れるのかこれ……。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

遡ること5時間前……

 

「……以上が舞鶴第2鎮守府からの報告になります。」

 

こんにちは大淀です。本日は大本営にやって来ています。目的としては資源の備蓄状況や敵との戦闘報告、そして新人提督の現状報告だ。

 

なので大本営呼び出しを受けて、執務室にいるのは私ともう1人、佐世保第3鎮守府から代表として来た軽巡矢矧、そして報告相手の海軍元帥だ。

 

「……舞鶴第2鎮守府の備蓄は現状問題無し、か。」

 

「はい、深海棲艦がこのまま日本海側攻勢を強めなければですが……。」

 

現在、舞鶴方面での深海棲艦の攻勢は激しいものでは無い。静かなもので現れる敵も潜水艦やイ級、ごく稀に空母や戦艦などが目撃される程度だ。

 

静か過ぎるのも困りもので空母はともかく戦艦達から『そろそろ私達も戦わせて欲しい』という言葉を遠回しに聞いている。

 

そして、今日は珍しく敵戦艦が確認されたので金剛型の霧島に出て貰ったのだった。

 

そしたら彼女『ふおぉぉぉ!!!久しぶりの戦闘ですか!?私のデータを活かす時が来たのですね!!!』と意気揚々に出撃して行った辺り、余程戦闘欲が溜まっていたのでしょうね。

 

機会があれば他の方々にも行ってもらいましょうか。

 

まぁ多少は資材があると言っても、無駄使いは出来ないレベルですから戦艦や空母の方々にはまだまだおやすみですね。

 

「……現状、深海棲艦の目撃件数は北側より南西側が活発化しているようだな。……矢矧君、君の所の鎮守府はどうだ?」

 

「はい、現在の佐世保第3鎮守府では……」

 

矢矧さんが自分達の鎮守府の状況を元帥に説明していく。資材状況は南西方面で深海棲艦が活発化している影響もあり、戦闘がやはり増えているようで、少し心許ないと言った感じだ。

 

しかし、激戦区に送られても鎮守府運営をしっかりこなしている辺り、佐世保第3鎮守府のこうちゃんの友達の新人提督も海軍大学の噂通り中々能力のある人物らしい。

 

「神谷提督には1年目から大変な所に行かしてしまいすまないと思っている。多くはないが資材をそちらの鎮守府に送ろう。」

 

「感謝致します元帥。神谷提督もしっかりやってますのでご安心を。」

 

「ほう、そうか。君の所の秘書艦は矢矧君じゃなかったのか?」

 

「はい、重巡摩耶が務めております。この2ヶ月で2人共、大分打ち解けてきたようなので問題ありません。」

矢矧さんの口調が随分楽しそうですね……一段落したら佐世保第3鎮守府に演習を申し込んで、向こうの鎮守府の雰囲気を演習がてら見に行きましょうかね。

 

こうちゃんも友人と会えるのは嬉しいでしょうし。

 

「そうかそうか。とりあえず2人共報告は以上かい?」

 

「「はい。」」

 

「よし、では解散だ。あ、めぐ……大淀は少し残ってくれ。それから矢矧君、資材の方は来週辺りまでに届くようにするからそれまで待っていてくれ。それではお疲れ様。」

 

矢矧さんは会釈で私に挨拶すると「失礼します」と退出して行った。

 

「……それで、何の用でしょう、元帥?」

 

「あぁ、もういいよ。楽にしてくれ恵。堅っ苦しいのは会議だけでいい。」

 

「なら普段からお父さんはもう少しどっしり構えて下さい。だから今みたいにボロが出るのですよ。」

 

「別にいいじゃないか、お前が娘って事隠してる訳でもないし。」

 

「それでも海軍元帥が頼りなく映るのはよろしいことではないでしょうが……というか、何か用があるのではないのですか?」

 

「おぉ、そうそう。そっちの鎮守府での生活はどうだい?」

 

「どうもこうも今報告した通りなので言うことが無いのだけど……。」

 

「なんだ恥ずかしがってるのか?お隣の相良のとこの息子が提督なんだからなんかあってもいいじゃないか。」

 

「ですからなんかとは……」

「だって恵、航希君のこと好きだろ?あれから進展あったのかなーと。」

 

………は?

 

「そう怒るなよ。娘の色恋沙汰の1つや2つあっても驚きはしないさ。それともなんだ?気がついてないとでも思ってたか?」

 

まぁ確かにそう思ってた所もありますが……

 

「いや、意外だなぁと思って。お父さんあんまりそういう事気にしてないというか、昔からそういう話をしてこなかったので。」

 

「馬鹿を言え。自分の大事な娘だぞ?気にならない訳が無い。それこそお前が変な男でも連れてきてみろ?お父さんガンバッチャウゾー。」

 

最後のカタコト言葉に生気が無いのですがそれは……。

 

「ふーん……という事はこうちゃんは問題無しという事ですか?」

 

「そりゃ昔からの付き合いの相良の息子だしなぁ。航希君、真面目だしいい子だし、彼なら問題無いとは思ってるけど……。」

 

「……けど?」

 

「いや、恵にその気があったとしても、向こうにその気があるのかどうなのかーってのもあるし、じゃなくても彼いい子だから他の艦娘達からもモテたりしてるんじゃない?」

 

……この父親、腐っても私の父親で海軍元帥だ。割と的確にポイントを捉えてくる。

 

「……はぁ、そうですね。こうちゃん、モテますよ。確定なら高校の時からの知り合いから、他にもそんな雰囲気出してる娘は何人かいます。ついでに言えば私が空回りしてるのも事実ですね。」

 

「そんな事だろうと思ってたよ。恵、根は真面目で優しい子なんだけど、艦娘の影響もあるだろうけどちょーっと独占欲が強いというか、強く出ちゃうというかね。」

 

くっ!なんだかんだ父親という事ですか!結構見てたのですね、急に恥ずかしくなってきました……。

 

「……はぁ、降参です。そうですよ私は重い女ですよ〜だ。」

「そう拗ねる事は無いさ。1ついい事を教えてあげよう。多分お前に母さんとの馴れ初めを話したことは無かったよな?今はもう時効だろうから話すが母さんには内緒だぞ?恵、母さんをどんな人物だと思う?」

 

「え?お母さん?……それは、お淑やかな感じで甲斐甲斐しく世話してくれる優しい人って感じ、かな……?」

 

優しげな微笑み、お母さんから頭を撫でてもらうとすごく安心した思い出、ただ怒らせるとめちゃくちゃ怖かったのも覚えてる。

 

「そう思うだろ?甲斐甲斐しく世話してくれる優しく、包容力のあるお母さん、まるで男の理想みたいな人だ。だが、俺と出会った時はそんなんじゃなかったんだ。」

 

………え!?あのお母さんが!?

 

「お、その顔が見たかったんだよ!みんなこれを話すと『そんな馬鹿な!』みたいな顔するんだよなぁ!うん、母さんはな、結構というか相当面倒な人だった。草食系の皮を被った肉食系って感じだった。」

 

うーん、イマイチピンと来ない……いや、今の私を想像すれば……あー、だから何となく想像出来た。

 

「……ん?なら何故お母さんと結婚したのです?結構面倒な人だったのでしょう?」

 

「うーん、別に嫌な人じゃない、というか好きだから結婚したんだけどね。」

 

それはそうだ。

 

「付き合って3年ぐらいして、結婚の話をした時に母さんから『結婚するに当たって、私に何か改善した方がいい所を教えて下さい。』って聞かれたのさ。」

 

はいはい、定番と言えば定番ですよね。改めて相手とどう接していくかの確認ですね。

 

「そんときに俺は結構酔っててな。いや、自分からガバガバ飲んだ訳じゃないんだ。向こうからね……。」

 

これも驚きだったがお母さんはお酒がとても強い。中学生の頃水の如くサラリとお酒を飲み干していく姿を見た時は驚いた。人は見かけに寄らないの典型みたいな人なのだろう。

 

「それで母さんに『もっとお淑やかで優しく包容力のある人がいい』って言ったら……」

 

「本当になっちゃったわけですか……。」

 

「ただ、1発ぶん殴られた。ただ結婚したら言った通り男としてドンピシャな人になってた。まぁお前に見せてなかったようだが、偶に昔のような雰囲気を出す時もある、今でもな。」

 

それ言われたら殴りますね。……お母さんもそういう所あったのかぁ……私もいつまでもこんな状況は嫌だし、こうちゃんにも……うーん……。

 

「でもな、男って言う生き物は愚かにもこういう女の人に憧れを持つわけなんだよ恵。」

 

ちっぽけなプライドに雁字搦めになる訳ですね。

 

「……やっぱりそういう女性の方が良いんですか?」

 

「そりゃそゲフンゲフン……一概にそうとは言わないけど俺はそうだと思うな。」

「最初否定した意味ありますそれ?」

 

「気にするな……まぁあの母さんですら変わったんだ。お前もその気になれば出来るさ、なんたって俺と母さんの子だからな。」

 

「……でもこうちゃんどんな風に接すればいいか……。頭では分かっていても出来ない時があるので……。」

 

また何かあったら手が出てしまいそう……。

 

「あぁ、そういう時はな、目標を見つけるといいらしいぞ?今回ならお淑やかで包容力のある人、鎮守府に1人ぐらいそういう艦娘居るだろ?その人を観察するんだ。それで自分とどう違うのか比べて自分なりにアレンジして変わってくんだ、って母さんから聞いたぞ。」

 

「お淑やかで、優しく、包容力のある人………。」

 

お淑やか……龍田さん?いや、あの人はどちらかと言えば私に近い気がする。

 

なら熊野さん?うーん、ちょっと違う気がする。

 

加賀さん?近いといえば近いんだけど私の目指すところとは……。

 

赤城さんは……駄目だ、一航戦の人は当てはまるような気もするんだけどご飯食べてるイメージしか湧いてこない!!

 

……ん?ご飯…………あ、間宮さんだ。

 

お淑やかさ、優しさ、包容力、全てを兼ね備えた人材と言えばウチの鎮守府で間宮さんの右に出る人はいない!

 

「まぁ注意すべきはその目標にした人は男の方も良いなぁ〜と思ってるわけだからグズグズしてたり目標にした人が男に好意持ってたりすると……。」

 

………っ!!

 

「急ぎで鎮守府に戻る用が出来ましたのでこれで失礼します元帥。仕事サボって大和さんに迷惑かけないようにしてくださいね失礼します。」

 

「たまには家に帰ってくるんだぞ〜!」

 

「はーい!って一人暮らし始めたばかりの娘ですか私は!!」

 

私は気がついた時には部屋を飛び出していた。間宮さん……私は貴女を超える……っ!!

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

走る〜走る〜俺〜達〜流れる汗もそのままに〜……。

 

「……提督大丈夫ですか?すんごいしんどそうですけど……?」

 

「あぁ、ゼー事実、ヒュー相当、しんどいわ……。」

 

あっちにも追手、こっちにも追手、しかもめっちゃ体力ある連中と体力勝負するのは骨が折れる。

 

因みに今俺は食堂に身を潜めることにし、先客で厨房の中にいた川内と赤城の3人で休憩している。

 

多少息も整ってきた。すると横からスッと水の入ったコップが現れた。

 

「あはは!提督もまだまだだねぇ!ほら水飲みなよ。」

 

「うっさい、多少鍛えてても一般人がこのレベルで追いかけっこしてみろ、普通ならとっくにギブアップだわ。……ぷはぁ!川内サンキュー。」

 

流石艦娘、あんだけ走ってたのに息切れの1つもしてない。

 

「とりあえずさっき確認した限りでゲーム開始10分の逮捕者が翔鶴さんと潮ちゃんと吹雪ちゃん、後は大潮ちゃんに比叡さんか……。」

 

「おーおー、結構捕まったなぁ。」

 

「翔鶴さんは駆逐艦達の餌食に、吹雪ちゃんは開始直後に転んで捕獲、比叡さんは金剛さんに呼ばれて、立ち止まった所を確保。潮ちゃんと大潮ちゃんはめっちゃ素早い長門さんに……長門さんやばかったな、欲望全開だった。」

 

長門……お前……。

 

「ともかくサクッ戦闘開始から10分で私達の戦力は既に5分の4になりました。あまりよろしくないサクッ状況ですね。」

 

確かにこのペースで捕まったら時間内に全員捕まるな。というか赤城、こんな時にクッキーなんて食べてるん「っ!?皆さん伏せて下さい!!」

 

瞬時に3人ともシンクの裏に身を潜める。

 

味方からの危険報告は上司の命令よりもこんな状況でクッキー食べるなと叱るよりも重要、これほんと。

 

「……加賀さんの艦載機ですね。サクッ」

 

赤城がヒソヒソサクサクと小声で伝えてくる。

 

「いやお前な、冷静に報告しながらクッキー食べるな。とりあえずそれでクッキーやめとけよ?OK?」

 

「提督、その命令には従いかねます。実は先程膝に矢を受けてしまい、クッキーを食べないと力が出ないんです。」

 

「膝に矢を受けてしまった奴はそんな元気そうな顔でクッキー食わねーんだよ。後なんなんだよお前は、アンパンの民か。愛と勇気だけが友達なのか。」

 

「ちょいちょい!静かにして!こんな所で漫才してる場合じゃないって!加賀さんの艦載機結構近くまで来てるんだからさ!」

 

物陰からチラリと艦載機がいる食堂内を見る。

 

艦載機は低速でゆっくりと、低空飛行で何かを探すように飛んでいる。

 

「……おい、なんかあの艦載機の動きおかしくないか?」

 

「うん、まるで何かを探してるような……。」

 

「探すと言っても……はっ!?もしかして私達の足跡を!!」

 

赤城の言葉に一同驚愕だ。

 

足跡だと!?そんなもんまで見つけられるのか……流石一航戦の艦載機、いつも飯ばっか食ってるのは伊達じゃないって事か……。

 

少しでも痕跡を減らそうと俺は厨房内の足跡を靴で擦り……なんだこれ?食べカス?食べカスが点々と厨房内に落ちているのだ。

 

川内もこれに気がついたようで共に食べカスの行先を目で追って行く。

 

食べカスの線は1本は厨房外に、そしてもう一本はと言うと…………

 

「くっ!サクッ加賀さんの艦載機達がここまで練度を上げていたサクッなんて……。私も慢心してたサクッつもりはありませんでしたが、私もまだまだサクッ……。」

おい慢心しっぱなしじゃねーか!お前の足元見てみろよ、クッキーの食べカス塗れだぞ!

 

「……提督提督。」

 

ちょんちょんと肩を突つかれる。

 

「あ?どうした?」

 

川内の方に振り向くが川内は肩をちょんちょんするのをやめない。

 

短く突っついたり、間隔の空いて……ん?これは……トンツー?

 

『キケン』『アカギ』『オトリニ』『逃ゲヨウ』

 

………了解、付いていくから先導しろ。

 

ジェスチャーと目で合図し、俺はスーツのクロークを起動、川内は素早く裏口まで進み、音をたてないように食堂から脱出した。

スマン赤城、指揮官たるもの時には部下を切らねばならない事もあるんだ……っ!!許せ!!助けられたら助ける!!

 

『司令はん、それ関西じゃ助けん言うことやで〜』

 

何故、黒潮の声が聞こえるんだ……。

 

そんな事ない赤城、お前を助けてみせるからな!!……多分な。

 

その頃赤城は………

 

「提督、どうしましょう……提督?」

 

振り返ると2人の姿は無かった。

 

「あれ?提督!?川内!?」

 

キョロキョロと辺りを見渡すが2人はいない。

 

「やはりここに居ましたか、赤城さん。」

 

この冷静な声、先程の艦載機……

 

「くっ!加賀さん、どうしてここが!?しっかり隠れていたのに!!」

 

焦る私を他所に加賀さんは淡々と話す。

「……私の艦載機達が見つけてくれたのですよ、赤城さんが食べているクッキーの食べカスが点々と落ちていてここまで続いているのを。」

 

その時赤城は悟った。『あ、提督達はこれに気がついて……私を囮に……。』

慢心、ダメ絶対。

 

 

 

 

逮捕者 翔鶴、赤城、比叡、吹雪、潮、大潮

 

泥棒残り19人




「提督なんかになりたくはないんだ」と〜

現職提督が得意げ〜声高に叫ぶ〜

「そんなアンタには明日は変えられないわよきっと。」

お、叢雲さんよ。ほぼ歌詞通りだな?もしかして知ってる?

「知ってるけど、知ってなくても多分この言葉が出てきたわよ。」

一瞥もくれずに書類と向き合う叢雲さんマジかっこいいっす。書類は叢雲がやらずに誰がやる!?

「アンタに決まってんでしょうが!!!くだらないことばっかりやってないでさっさと書類やる!!!期限迫ってるんだから!!!」

ちょっと疲れたら休憩に……。

「今日中にこれが終わらなかったらアンタと私の明日の休みは消えるわ。アンタは自分の休みだけでなく部下の休みも消える罪の重さは考えられるかしら……?」

……………うん、やろう!

責任、取れないっす!!


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就活戦争23日目

お疲れ様です、作者の狛犬太郎です。

学校、仕事は5日間あるのに休みは2日間、少なければ1日。5日分の疲れが1日2日で取れるわけがないんだよなぁ……。

赤城改二が実装されましたね。すんごいカッコイイ赤城さん。これには加賀さんもテンションアゲアゲでしょうね。 ……資材の食い方が凄そう。

因みに我が艦隊の赤城さんはまだまだ先の事になってしまいそうです。

改装設計図………。

また勲章集めの旅に出なくては。

では本編の方、どうぞ。


赤城という尊い犠牲の下、食堂から逃げ出した俺と川内は新たな隠れ場所を探して移動し始めた。

 

道中、深雪や鈴谷の警察連中に捕捉されたが『たははーー!!!待て待て司令官〜!!』『おっ!?提督見っけ!!……って深雪危なごふっ!!』『あっちに提督が逃げたわよ〜!!』とホログラムを使ったり、向こうの自爆もあり振り切ることが出来た。すまんな、それは残像だ。

 

そんなこんなでたどり着いたのが入渠施設だった。因みに今俺らが隠れているのは仮眠室、カーテンや押し入れなんかもあり、最悪隠れる事も可能だ。

 

入渠施設には娯楽室やら休憩室なんかの部屋が多数あり、一つ一つ探すには骨の折れる作業になる。が、忘れてはいけないことが1つ、警察は泥棒を探すけど泥棒もその1日お願い券を探さないといけないという事だ。

 

……まぁ俺はひたすら逃げればいいんだけど。

 

恐らくそのお願い券を見つけない事には泥棒側も始まらないからお宝とは言え、そんなに分かりづらい場所には設置していない筈……食堂は多少探したが見つからなかった。となれば工廠か執務室や作戦会議室のある別棟、もしくはこの入渠施設だろう。

 

 

「いやーー!!夜戦じゃないけどこういうのもスリルがあって楽しいねぇ!!ね、提督!!」

 

小声だけどテンション高く話す川内、正直そのテンションについていけない。だって……

 

「お前達は楽しいで済むけど俺は楽しいで済まないから困るんだよなぁ……。」

 

俺を捕まえたら1日お願い券だからそれ狙いの奴がじゃんじゃん集まってくるんだよ。

 

ほら、外で連中の声が……。

 

指を口に当て、川内に息を潜めるように指示。

 

「くっ!提督は何処に……!?」

 

「司令を捕まえられれば大きいけど、最低限間宮券は確保しておきたい……。」

 

「結構探したけど見当たらない……。もうほかの所に行ってしまったのかしら……?」

 

そうだそうだ他の所を探しに行ってこい。

 

ここにはもう居ないぞ〜、というか俺らがお願い券探してる間は来ないで!!!

 

そんな願いが天に届いたのか足音は遠のいて行った。

 

「はぁ〜、行ったか……。」

 

本当に心臓に悪い。

 

「私としては明石さん達が言ってたペイント銃とかあったらな〜って思ってたよ。夜戦じゃないけど奇襲大好き!」

 

「流石夜戦大好き川内さん、普段の戦術もそんな感じなんだ。」

 

「正面から戦うのもいいけど闇夜に紛れて相手の後ろから魚雷当てた時の気持ち良さったらもう……。」

にしても、1日お願い券ねぇ……。変なお願いじゃなければいいんだけど……。

 

まぁ俺は積極的に探さない方針だ。見つけた所で川内か誰かにお願いされるだけで……川内か。

 

「……川内、お前は1日お願い券を手に入れたら俺に何を願う気だ?」

 

「ん?唐突だねぇ、まぁ勿論私は夜戦の許可を最低1週間分ぐらい貰う気だからね!ゲットしたら覚悟しててよ提督!!」

 

……うん、コイツにお願い券ゲットして貰うべきだわ。

 

痛むのは資材、戦艦の長門辺りがこの条件なら考えるが軽巡の川内だ。1週間分ぐらいの資材なら捻出出来るだろう。

 

何より俺の心は痛まない。面倒事に巻き込まない辺り川内の条件提示はこちらとしても好条件だと言えよう。

 

まぁこの場では少し渋るけどOKみたいな返答をするのが正解かな……。

 

「1週間か……うーん、資材の備蓄がどんぐらいかにもよるな。」

 

「そこをなんとか!!お願い提督!!私も久々に夜戦したいんだよぉ〜!!」

 

「……1週間分の約束は出来ないがもし券をゲット出来たら夜戦を認めよう。」

 

この回答に川内は少し不満げで「ぶー」と頬を膨らましていた。ほっぺた押してみたい。

 

「……まぁ俺のサポートをしてくれるならもしかしたら1週間になるかも「やるやる!!勿論!!」しれないが……。」

 

せめて言い終わるまで待ってくれてもいいのよ?

 

「よぉーし!提督、この川内さんが付いてるんだから大船に乗った気持ちでいてよ!!……実際は軽巡だから中船ぐらいかもだけど。まぁそんなことはともかく私に任せて!連中に提督は捕まえさせないからさ!」

 

「あぁ、期待してる。」

 

まぁ前提条件として川内がお願い券を獲得する必要があるんだけどな。

 

あ、そう言えば脱走計画……

 

「……まぁ、今回はいっか。」

 

とりあえず俺達2人は今いる仮眠室を調べ始めた。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「よーーし!!翔鶴姉に続き赤城さんも逮捕!!いいペースね!!この流れで私が相良君を逮捕して……。」

 

「五航戦、赤城さんを捕まえたのは私よ。そして調子に乗るのと変な事口走るのは結果を残してからにしなさい、みっともないわ。」

 

「むがーーー!!!言わせておけば1人捕まえたぐらいでーーー!!!いいわ!!なら私は提督を捕まえて加賀さんより結果を残してみせるわよ!!」

 

たはは、この2人はいつも言い争ってばかりだなぁ。本当は仲良いのにね。

 

こんにちは、二航戦蒼龍です!よろしくね!そうそう、この間この2人、飲み会で……いや、今この話はいいか。機会があればまた今度。とりあえずこの2人のフォローをしないとね。

 

「まぁでも赤城さんを捕まえられたのは大きいですよね〜。向こうの空母は飛龍と龍驤さんと飛鷹ですし、戦力差で言うなら制空権は取ったようなものじゃない?」

 

「慢心してはいけないわ。まだ戦いは序盤、提督達がこれから何を仕掛けてくるか分かったものじゃない…。」

「加賀さんそれ赤城さんのセリフ。」

 

「赤城さん……慢心しては……。」

 

何処か複雑な表情の加賀さん。因みに赤城さんは今牢屋の代わりとなるサッカーゴールの下で持参したデカおにぎりを( ‘ч’ )モグモグしながら捕まった吹雪や翔鶴と談話してる。

 

「……見つけました。第3倉庫裏に伊勢型の2人と潜水艦の2人です。」

 

こんな時でもしっかり索敵をする大鳳は偉いというか真面目というか……。

 

「第3倉庫の近くにいる子はいるかしら?」

 

無線で呼びかける加賀さん。

 

ゲーム開始前に艦載機を扱う空母が司令塔の方がいいということで本作戦の旗艦は加賀さんになった。

 

そこでも瑞鶴と揉めたのはまぁ想像通りかな?

 

『ザッ…こちら軽巡班神通、今資材置き場近くです。』

 

「そう、今第3倉庫で伊勢型と伊号潜水艦の子達を見つけたわ。至急そちらに向かって。」

 

『ザッ…了解、龍田さんと天龍さんと私で向かいます。通信終わり。』

 

「神通達か、最低1人は捕まるわね。」

 

流石軽巡最強と言われるだけある神通、そしてその神通とも引けを取らない龍田と体力お化けの天龍だ。瑞鶴の想像通り1人は捕まるだろう。出来れば戦艦のどちらかを捕まえてくれると更に楽になる。

 

しばらくして無線に連絡が入る。

 

『ザッ…こちら神通、伊勢さんを確保。天龍さんがイムヤちゃんを確保しました。日向さんとはっちゃんには逃げられましたが今龍田さんが追ってます。』

 

「了解、時間はまだあるわ。捕まえた2人は天龍が連行、神通と龍田は引き続き逃げた2人の捜索を。」

 

『ザッ…了解。』

 

「さっすが軽巡のエース達、一気に2人も確保とは。」

 

「気を抜かないで、いつ誰が仕掛けてくるか分からないわ。」

 

その後暫くはお互いに動きがなかったが司会進行の青葉からの放送が流れ事態が動いた。

 

『おぉっと!?今泥棒の誰かが1日お願い券を見つけたようですよ!!見つけた方は頑張って警察から逃げて下さい!!警察の方も泥棒にお宝を持ち逃げされないようファイトですよ〜!!』

 

この放送には周りのみんなも「おおっ!」と声を上げた。遂に泥棒がお願い券を見つけたらしい。これで提督を捕まえる以外にもお願い券を入手する手段が増えた。

 

そんな中、無線から逮捕情報が入ってくる。

 

「不知火が那珂を鈴谷が飛鷹を捕まえたわ。」

 

これで泥棒は残り15人。

 

このペースなら時間内に全員捕まえられるんじゃないかとも思う。

 

まぁルール的にも泥棒は不利だしなぁ……。飛龍も今どの辺にいるんだろう?

 

泥棒は減っていくのに対し警察は減らない。

 

今回はペイント銃があるから一時的に警察が行動不能になる事もあるがゲームから退場という訳では無い。

 

では何が警察にとって怖いか。それは……

 

『脱走だぁぁぁーーー!!!泥棒が逃げたぞ!!!……ぷはぁ!!この酒美味いな……。』

 

ゴール付近で警戒をしていた隼鷹からの連絡で事態は一変した。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「んー、無いなぁお願い券……。」

 

「もっと簡単な所にあると俺は踏んでたんだけどな。」

 

仮眠室、娯楽室、休憩室等など探してみたが見当たらない。

 

まだ警察連中がいるかもしれないので会話は極力小声で行う。

 

「最後は入渠場だね。」

 

「そこに無ければ入渠施設には置いてないな。つーわけだ川内、入渠場を探してきてくれ。」

 

不思議そうな顔をする川内。

 

「提督何恥ずかしがってるのさ?今入渠中の奴は居ないでしょ?」

 

「ちげーわ!1人は見張りをしてないと見つかったら一網打尽だろうが。」

 

「あぁ、なるほど……。」と頷く川内。「全く……。」とため息を吐き、俺は見張りをする為出入り口に向かい暖簾を……ポヨン……ん?ポヨン?待て待て俺は暖簾を捲った筈だ。そんな柔らかい感触がする筈ないんだ……。

 

前を向くのが怖すぎる。あれだよね?お風呂場だけではないけど漫画で結構あるあれですよね?いやいやいや待て待て待て、俺が今いる状況は漫画みたいなものじゃないかもしれないというか触ってるものが「あ、あのさ……提督、そ、そろそろ……手を退けて欲しいなぁ……って……。」

 

「………すんませんしたァァァーーー!!!」

 

「何事や!?飛龍大丈夫か!?」

 

大声に驚き、後を追ってきた龍驤が見たものとは……

 

土下座する相良と顔を真っ赤にした飛龍だった。

 

状況を察するのに時間は掛からなかった。が、ここで茶化すのが龍驤だ。

 

「…… あのなぁキミィ、幾ら今ドロ刑やっとるからってほんまに憲兵沙汰になるような事するのはウチとしてもちょっち困るで〜。」

 

「違う違う龍驤さん!!事故事故!!相良君、私は気にしてないからさ!!(ま、まぁ、気にしてないといえば嘘になるけど……。)」

 

「ジョーダンやジョーダン!流石にこれが本気ならブラックジョーク過ぎるわ!」

 

ジョークじゃなかったら俺はどうしようかね。

 

「飛龍……いや、飛川、本当に悪かった!!俺はただ暖簾を捲ろうとしてだな……。」

 

「い、いや〜私もビックリしちゃったけど、事故だからねこりゃ!しょーがないしょーがない!!」

 

飛川(飛龍)は顔の前でパタパタと手を振りながら、たはは〜と笑いながら許してくれた。顔はまだ赤いけどね。

 

これが憲兵案件になったらこの仕事を辞められるけど社会的にも人生辞めることになる所だった……。

 

「……龍驤、茶化すのも良いが俺のメンタルが持たないから今後無しな。」

「何の事や〜?」

 

「諦めろ龍驤、お前は犬山さんにはなれない。」

 

「ちょっと待てや司令官、今どこ見てその言葉言ったか言うてみ?大丈夫、怒らへんから。」

 

怒らないからと言う奴は絶対に怒るこれ確実。

 

すると入渠場から川内が慌てて顔を覗かせた。

 

「ちょ、ちょっと!!そんなことしてる場合じゃないって!!今の騒ぎで警察が集まって来てるよ!!」

 

遠くからは「今の叫び声はなんだ!!」や「テートクが私を呼んでるネー!!」やら「榛名は大丈夫です!!」とか聞こえてくる。

 

川内の言う通り、着々と警察が迫ってきている。

 

「待てや川内!!今ウチにとって重要な事聞ぃとんねん!!」

 

「捕まるよりマシでしょ!!行くよ!!」

 

「早く早く!!」

 

「話を聞けやーーー!!!」

 

「ちょい川内!外出たら龍驤の口塞いでおけ!飛龍も足持ってくれ!このまま騒がれたら4人仲良く豚箱行きだ!!」

 

俺は龍驤を抱え、飛龍も川内が開けた窓から飛び出し、入渠施設から脱出したのだった……。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「神通さんと天龍さんが伊勢さんとはっちゃんを逮捕ぉぉぉ〜!!どんどん捕まってしまう泥棒側!!状況を打開できるかぁ〜!?」

 

Здравствуйте.響だよ。簡単に失礼、なんせゆっくりしてられる状況でも無くてね。

今も放送で知らせが入り、8人目となる逮捕者、伊勢さんが逮捕された。これで泥棒側は残り17人。

 

「はわわ…8人目、どんどん捕まっていくのです!響ちゃん、このままだと私達も……。」

 

「大丈夫、電には私が付いてる。捕まったみんなも提督が助けてくれるさ。」

しかしこの状況を理解出来ない程私も馬鹿ではない。

 

開始からおよそ20分、それまで鎮守府奥にある提督の私室(家)横の茂みに身を潜めているがそろそろ追っ手が来るのも時間の問題だ。

 

……冬が来るまで時間稼ぎが出来れば勝機はあるかもしれないが制限時間は1時間……まぁ冗談だ。今の私は響。あちらの姿ではない。

 

戦力差も電が言った通り8人も捕まってしまい、大分開いてきた。

 

どうしたものかと考えていた時足音が近付いてきた。

 

こっそりと茂みから確認してみると同じ泥棒の満潮だった。頭だけ茂みからだし満潮を呼ぶ。

 

「……満潮、こっちだ。」

 

満潮もこちらに気がついたようで、私達と同じように茂みに身を潜めた。

 

「……味方がいて良かったわ、始まって早々なんかヤバい長門さんに大潮は捕まっちゃったし、今も逃げてきたけどどこも警察だらけよもう。」

 

「はわわ!ここもいずれお巡りさんが来るのです!」

 

「暁の様なお巡りさんならいいのだけど、実際そうは行かないだろう。」

 

向こうには開幕でバーサーカーの如く、潮と大潮を捕まえた長門さん、高速戦艦の金剛さんに榛名さん。

 

私達と遊んでくれる天龍さん、龍田さん、演習で戦い方を教えてくれる神通さん等と猛者揃いだ。

 

私達3人が集まっても敵わないだろう。

 

そう、圧倒的に戦力が足りない。

 

提督や他の誰かと合流出来れば、仲間達を脱獄させることも出来るかもしれない……。

 

「しっ!誰か来るわ。隠れてやり過ごすわよ……。」

 

息を殺して茂みに潜む。

 

足音はバタバタと音を立てて近づいてくる。

 

3人ぐらいだろうか……いや、1人は担がれてる?

 

走って来たのは提督と飛龍、川内。そして提督に抱えられ川内に口を塞がれた龍驤。

 

私と満潮はその異様な光景に顔を見合わせる。

 

「飛龍!ドア開けろ!川内はそのまま龍驤を押さえておけ!」

 

まるで人攫いの瞬間を目撃しているような気分だ。なんかハラハラしてきた。

 

素早い動きで家に突入して行く4人。飛龍が扉を開け、提督と川内は突入。飛龍が殿に回りそのまま扉を閉じる。その動きはまるで熟練の特殊部隊……いや、熟練の拉致部隊と言った方が正しいか……。

 

「……ちょ、ちょっと、あれはどういうことかしらね……。」

 

「わ、私にも何が何だかなのです……?」

 

「…確認してみれば分かる事だ。幸い提督達は味方だ。」

 

「味方のはずなのにこんなに不安を覚えるのは久しぶりね……。」

 

辺りを見渡し、警察が居ないことを確認した3人は満潮、響、電の順にソロソロと玄関まで移動する。

 

「…じゃあ、開けるわよ?」

 

私と電はコクコクと頷く。

 

そーっと、満潮の手がドアノブに向かって伸びていき……だが、次の瞬間、勢いよくドアが開き、中から手が伸びてきて、また満潮、響、電の順で家の中に引きずり込まれた。

 

一瞬の出来事で何が何だか分からなかった……がどうやら川内さんが私達の事を引きずり込んだようだ。

 

満潮と電も思考が停止しているようでまだポカーンとしている。

 

「お?どうしたの?おーい、駆逐艦〜大丈夫かー?」

 

川内の声にハッとした私達。

 

「ちょ、ちょっと!!私達をどうする気よ!?まさか解体!?」

 

「はわわ!!はわわわわ!!」

 

「はぁ?何言ってんのさ……そんなことするわけないでしょ。ほら上がった上がった。あ、靴は脱いだら中に持ってきて。万が一、警察が来たら逃げなきゃ行けないからね。」

 

すると提督が居間からひょっこりと顔を出した。

 

「お、3人とも来たな?こっちだこっち、作戦会議するから全員集合だ。」

 

「ほらほら、時間が限られてるんだから行くよ。」

 

川内に押されるように居間に行くと残りの3人は座布団に座り、麦茶を飲んでいた。時間が限られてると言う割には結構寛いでる。

 

「それはそうとキミィ、さっき事、忘れたとは言わせへんでぇ。」

 

「わーったよ、悪かったって!ほら、北海道限定の美味しい飴ちゃんやるからこれで勘弁してくれ。」

 

「ウチが飴ちゃん1個で許すと思……うまっ!?何やこれごっつ美味いやん!?」

 

龍驤さん、飴ちゃん1個で許してしまったようだ。

 

「……さてと、行動出来る奴らがある程度集まったな。あ、お前達3人も麦茶で良い?というか麦茶ぐらいしかないけど。」

 

「あ、うん。ありがと。」「頂きますなのです。」「Спасибо.」

 

「いいよ提督、私が入れてくるから座ってて。」

 

「お、サンキュー飛龍。それじゃあ……反攻作戦の作戦会議、始めようか!」




ひとひらの〜夢〜

夢に〜焦がれ〜

焦がれるけどあの淀姉さんがいる〜

物語る眼光〜恐ろし過ぎて〜

危うげで〜少し心配〜

時には優しい時も〜

あるんだけれど〜

お願いします急ぐのでどうか怒らないで〜

「……怒りませんよ、無理しない程度に頑張って下さい。ニコッ」

…………………!?!?!?!?

時には優しい時も〜って言ったけど急に来たな……。

何かいい事でもあったのかな?機嫌良さそうだし。

けどちょっと落ち着かないな。とりあえず書類終わらそう。

その後ソワソワしながら書類終わらせましたとさ。


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就活戦争24日目

お願い券、最終的に誰がGETする事にしようかなーと少し悩んでる狛犬太郎です。

最近、時雨沼にまた嵌って中々抜け出せません。

というかどのキャラも沼が深い。可愛い、かっこいい等々素敵なイラストを見るとはーやっぱこの娘可愛すぎてしんどいって言う感情がry

特に艦これキャラは甲乙つけがたいぐらいキャラ素敵なの多いから嬉しいけど困る。レベリング……改装……改装設計図……改二までの道のりは長い……。

とりあえず、たくさんの沼には気をつけよう!






参加者の中では間宮と同じく、非戦闘員の伊良湖は食品庫の物陰に隠れてビクビクしていた。

 

「ひぃ〜、どうしよう……。久々にドロ刑というか運動に参加してみたけど、皆とはバラバラになっちゃったし私一人じゃ……。」

 

ちょっと前まで食堂の方に味方がいるようだったので味方が居るうちに合流を……と思っていたが、どうやら誰か捕まってしまったらしい。

 

お陰で私は隠れきれたが、出るに出れなくなってしまったという事だ。そして現在の食堂は人の気配もなく静寂に包まれている。

 

「うぅ〜……出たら捕まっちゃいそう……でもいつまでも居られないし……。あーもう!!根性よ根性!!捕まったら捕まったよ!!やれるだけやってみるしかないじゃない!!」

 

私も久しぶりにみんなと同じようにやるイベントで浮かれていたのかもしれない。それ故に結構やけくそ気味になっているようだ。

 

「そうよ、もしかしたら食堂に提督に1つお願い出来るチケットとかあるかもしれないわ。今は誰も近くに居ないみたいだし、探してみようかしら……。」

 

意を決して食品庫から顔を覗かせる……やはり誰も居ない。まぁ居るのであれば味方であって欲しい。

 

「みんな戦闘に行く時はこんな気持ちなのかなぁ……あぁドキドキする……。」

とりあえず探さねば始まらない。警察の誰かが来たら諦めるしかないか……速さ的に間宮さんぐらいしか逃げるのは無理だし。

 

ゴソゴソキョロキョロと食堂を探し回る伊良湖。

 

テーブルの上から下、食器棚の中、受け渡し口等々探してみるが……

 

「……うーん、やっぱり見つからないかぁ〜。まぁお宝って言うぐらいだから多少難しい所に隠してあるのかな……。」

 

探し回って喉が渇いたので水を飲もうと厨房内へと戻り、水道でコップに水を汲むと一息に煽る。

 

こういう時、食堂にいると便利よね。水もすぐ飲める。

 

「……ぷは!運動してると水が美味しいなぁ……と言ってもそんなに動いてないんだけどね。」

 

仕事と運動の体力の違いを改めて感じるわ。駆逐艦の子達は凄いなぁ……出撃遠征で動きまくってるのにその次の日にはまた走り回って遊ぶんだから。

 

偶には私もジョギングでもしようかしら……。

 

そんな事を考えつつコップを濯ぐ為、流し台へ向かうとふと視界に映るもの。

 

「……ちょっと誰よ〜、こんな所ででクッキー食べてそのままの人〜。あぁ〜床も食べカスだらけじゃない……。」

 

調理台の上に食べ終わったクッキーの箱と小分けの袋が置かれていた。

 

仕事的にも性格的にもこういう所は気になるポイントだ。

 

奥からちりとりと箒を手に食べカスを集め、ごみ箱へ。

 

「しかも箱もそのままって……せめて捨ててってくれても……。」

 

もう!とクッキーの箱を手に取り箱を畳む。

 

箱なんかの紙は再生紙になるからキチンと分別して下さい!燃やせるごみじゃないですよ!

納豆のパックもしっかり洗ってプラスチックに!

パッケージに食品やソースが付いてたらその時点で燃やせるごみになっちゃうんだから!

 

資源は大事に使いましょう!伊良湖とのお約束です!

 

「こういう時だから厨房に入るのはいいけど、これは後で厳重注意ね!」

 

パッパッと手を払い改めて調理台の上に置いたコップを濯ごうと振り返ると、コップ以外にもまだ金色の紙が置かれていた。

 

クッキーのごみを捨てそびれたかと思い、手に取る。

 

「クッキーに付いてる応募券とかかしら?にしては金色って言うのも応募券らしくないわね……。」

 

こちらの面は裏面らしく何も書いてなかったのて表面を見てみる。

 

「えーと、何なに……?『提督に1つお願い出来る券』……えええええぇぇぇぇぇぇーーーーーーっ!?!?!?」

 

 

一方その頃、臨時牢屋では………

 

「……はっ!?」

「どうかしましたか赤城先輩?」

 

「あ、吹雪さん、いえ、何と言いますか……先程食堂で隠れていた時にクッキーの食べカスの他にも何か重要な事を忘れているような……。」

 

「重要な事…ですか?」

 

「あの時の私は前々から明石さんにお願いしてようやく手に入った期間限定のクッキーを食べることが最重要だったもので……って、頭の中で何かが……?」

 

「あはは、赤城先輩らしいですね……もしかしてそのクッキー食べてる時に『お願い券』を見つけてたりして!!」

 

「……うーん、どうだったのでしょうか……?今となっては知る由もないですねぇ、誰かが助けて下さったら後で見に行ってみましょうか。」

 

「その時はご一緒しますよ!私は赤城先輩の護衛艦ですからね!」

 

「あら、頼もしいわ。じゃあその時はよろしくね。」

 

「はいっ!!」

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「……不幸だわ。」

「ちょい山城さん、さっきからそればっかりぃ!!漣、不幸の言葉ばっか聞きたくないよ!!」

 

あ、ども(。・ω・)ノ駆逐艦漣です!今何とですね港にある事務所脇に山城さんと隠れている所です!

 

この人さっきから不幸ばっかりだからなぁ……漣が居るのに不幸とはなんですか!ぷんぷん!!

 

「漣、私にとって姉様は全てなの。今はその姉様と離れ離れ……これを不幸と言わずになんと言うか……。」

 

「うわめんどくせー……じゃあ、早いとこ捕まってゲーム終わらせた方がいいんじゃないの?」

 

前々から思っては居たけどここの艦娘達、一癖も二癖もあるんですよねー、まぁ漣が人の事言えたもんじゃないですけどね!

 

「それは無いわ。他の人……やはり無いわ、姉様以外に捕まるなんて有り得ないわ。私は姉様に追いかけられながら……。」

 

『山城〜待って〜!』

 

『うふふ〜!姉様〜こっちですよ〜!』

 

『ふぅ、ふぅ、え〜い!捕まえたわよ山城!』

 

『きゃ〜!捕まっちゃいました〜!』

 

『うふふ、山城、お巡りさんに捕まった泥棒はどうなるか分かってるわよね?』

 

『つ、捕まった泥棒は牢屋に……。』

 

『そう。だから山城、貴女も牢屋に入れないといけないの。』

 

『そんなっ!!ようやく姉様に会えたのに!!』

 

『うふふ、安心して山城。私達の為に特別な牢屋を用意したわ。……二人っきりの牢屋をね。』

 

『あぁ、姉様!!まだ日も高いのに……あ〜れ〜!』

 

 

「……うふ、うふふふふふふふふふふ!」

 

……うわぁ、漣がネット漫画や、コ〇ケの同人誌買ってそういう耐性があっても目の前で自分の欲望語られたら幾ら漣でもドン引きですわ……。

 

「……そういう訳よ。」

 

「そういう訳じゃねーよ。知らねーよ漣のいない所で言って欲しかったですわそれ。」

 

「だからこそ、私は扶桑姉様以外に捕まる事は許されないの。」

 

「おーい話聞いてー……いや面倒だ、警察のみなさーんここに捕まえるべき泥棒がいますよー。」

 

だー疲れる、ツッコミはぼのたんの役目で私の柄じゃねーです。

 

「止めなさい漣、それで扶桑姉様を呼べるなら良いけどそれ以外を集めるのは……。」

 

「山城、見つけたわよ。普段は姉妹でも今日は敵同士、捕まっても恨みっこ無しよ。」

 

「……扶桑姉様ktkr!!!」

 

「ちょ、ちょい待ち!!それは漣のセリフ!!!リテイク!!リテイクの方向でオナシャス!!」

 

というか何さ!?展開が早すぎる!!気がついたら扶桑さん現れるし、ネタは奪われるし!!!あ!?尺の都合!?こっちの都合も考えてよ!!

 

「良くやったわ漣!!扶桑姉様に捕まるなら本望よ!!」

 

「だーーー!!!山城さん待った待った!!!タダでさえ泥棒も出番も少ないんだからもう少し粘ってくれないと!!」

 

欲望に忠実な事は悪いことではない!!時と場合を考えてね!!!歓迎会以来全然出れなかったんだからこういう時こそ出たいもの!!

 

『その気持ちよくわかります。』

 

衣笠さんも分かる人だね!!今度直訴しに行こう!!

 

「はっ!?そうね、姉様と追いかけっこして最後に捕まるという私の夢が叶えられてないわ!!」

 

ダメだやってられんわ!!押さえてられねー!!

 

「もう知らねー!!山城さんサラダバー!!」

 

この人扶桑さんの事になるとポンコツ過ぎる!!

諦めてここは逃げよう……と言うか、嫌な予感がしてならないのでスタコラサッサ、出番はまたいつか回ってくるはず!!

 

残された扶桑、山城の間には静寂が訪れた。

 

「山城、私、姉として負ける訳にはいかないの。全力で行かせてもらうわ……。」

「……扶桑姉様、邪魔者は去りました。これで私達姉妹の一騎討ち、勿論私も全力で(捕まりに)参ります。……いざ尋常に」

 

「山城確保ォォォォーーーーー!!!!」

 

「ダンプっ!?」

 

漣が見た山城さんの最後は凄まじい速さで突っ込んで来た長門さんに跳ねられ、宙を舞う姿だった……。

 

そして嫌な予感の正体は長門さんだったか……あの人に捕まるのは不味い、早いとこ退散しよう。

 

「扶桑っ!!この辺りに駆逐艦の子が居なかったか!?」

 

「漣ちゃんなら向こうに逃げましたね。長門さん、そして山城が長門さんの衝突で大破しました……。」

 

「あぁ……扶桑姉様の膝枕……このまま私は……」

 

「む、それは済まない。私が責任をもって山城を入渠させよう。何、修復時間なら心配ないぞ。この間私が戦闘で入手した高速修復材もあるから直ぐに治る。……すまん、無線だ。」

 

会話を止め、無線機に耳を傾ける。

 

『ザッ…こちら加賀、警察各班に通達、泥棒が脱走した繰り返す、泥棒が脱走した。』

 

「何っ!?脱走だと!?」

 

「……提督達ですね。」

 

「あぁ、やってくれたな……。扶桑、引き続き捜索を頼む!山城は心配するな、私が入渠場まで連れて行ってやる。ではな!」

 

「あぁ!?待って!!入渠よりも扶桑姉様の膝枕の方が大事!!あ〜れ〜!!扶桑姉様ぁぁぁ〜!!!」

 

ポツリ1人残された扶桑姉様はただ一言。

 

「空はあんなに青いのに……。」

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

時間は少し遡り、提督自室……

 

「はい、つーわけで作戦会議始めたいと思いまーす。」

 

「作戦会議って言うんだから指揮官らしく作戦はもう考えてあるのよね?」

 

そ、そんなことないっスよ満智留さん……。

 

「……大丈夫だ、作戦はある。上手くいくかはさて置きだがな。」

「今の間は何なのよ!」

 

やっぱり昔っからそうだったけど、満潮さん手厳しいですわ。

 

「まぁまぁ、落ち着きなって。とりあえずみんな1つは装備持ってんでしょ?それ見て見ようよ。」

 

ナイス川内!夜戦1週間は近いぞ!

 

「まぁ俺は見ての通りこの明石が作ったスーツだ。ホログラムと透明になれるクローク機能がある。」

 

「てーとくさん、てーとくさん。」

 

ん?この声は……

 

「……まーたお前か、探照灯妖精さん。もういいよ、探照灯この場面じゃ使えないでしょうが。」

 

私の探照灯、空いてますよ?みたいなドヤ顔すんな。

 

「どうぞ私が作った大型探照灯を使って下さい。」

 

「使いません。」

 

「大型探照灯。」

 

「使いません。」

 

「普通の探照灯。」

 

「使いません。」

 

「今から30分以内に探照灯をお使いのお客様には大奮発!!簡単着脱!!どこでも探照灯を通常1つの所……なんと2つ!!2つお付けしちゃいます!!」

 

「えー!?ホンマに!?2つも貰えるなんてめっちゃお得やん!?せやけど…お高いんやろ?」

 

「そんな事は御座いません!!なんとお値段」「だーーー!!!うるせぇーーー!!!龍驤も悪ノリしてくんじゃねぇ!!てかそもそもなんで急に通販番組みたいになってんだよ!!要らねーったら要らねぇから!!」

 

「てへぺろ!」

 

あざと可愛い!!許す!!

 

「残念ですがてーとくさん、もう既に肩の横に装備させて頂きました。」

 

………お前は許さん。てかなんだこれ外れねーじゃねーか!!

 

「てーとくさんが1度は使わないと外れないようになってますので。」

 

「おいなんだその『このそうびはのろわれています。』みたいなやつ!!」

 

コイツはまたややこしい事してくれるなぁもう。

 

「まぁまぁ!!えーやんえーやん!!ちょっちグレーやけど元々付いとったって事で!提督だってあって損はせぇへんやろ?」

「流石龍驤さん、ノリが良い方に悪い人はいません。」

 

「ちょっと!!ふざけてる場合じゃないのよ!!いつ警察が来るかわかんないんだから!!」

 

こういう時の満潮とても有難いです。

 

「本来アンタがまとめるべきなのよ!!」

 

すんませんした。

 

「まぁそれもそうね、んじゃ次私!と言っても空母らしく艦載機ね。今も外の辺りを警戒してるわ。因みに今の所は敵影無し。」

 

「ま、当然やけどウチも艦載機やな。」

 

「私と響はドラム缶を持ってきたのです。……実際は次の遠征用に装備しててそのままにしてだけなのです。」

 

「それとさっきこれを見つけたんだ。」

 

響が取り出した物、それはペイント銃だった。

 

「おー、ペイント銃あったんか。よう見つかったな。」

 

「ここに来る道中、倉庫の前に置いてあったのを拝借して来た。」

 

ペイント銃があれば多少楽になるか……?

 

「じゃあ次は川内さんが行こうか!私は煙幕持ってきたよ!これがあれば緊急時も逃げられるからね!満潮はも煙幕でしょ?」

 

「……えぇ、そうよ。私も煙幕。」

 

となると……艦載機2、ドラム缶が2、煙幕が2、ペイント銃が1「探照灯が1です。」

 

……わかったわかった、それでいいよ使えば良いんだろ使えば。

「やりました。」

 

「はいはーい!」

 

「元気がよろしい!川内君!!」

 

「ぶっちゃけ思ったんだけど、牢屋付近まで行って煙幕焚いてゴリ押しでみんな脱走させればいいんじゃない?ペイント銃もある事だしさ。」

 

「あーそれウチも思ったわ。案外、行けるんとちゃうかな?」

 

「ちょっと待ってよ!」

 

「満潮君、意見がある時は挙手しなさい。」

 

「こんな時に面倒な事……もういいわ、はい。じゃあ、どうやって牢屋付近まで近づくの?牢屋付近には警察がいっぱい居るわよ。それにペイント銃の弾数は1発、1人止められても防衛線を突破するのは難しいわ!」

 

飛龍が閃いた!!みたいな顔してる。多分これも問題あるんだろうけど。

 

「あ!それなら提督に行って貰えばいいんじゃない?ほら、提督のスーツ、透明になれるじゃない!!」

 

「おぉー!確かに!それやったら行けるんとちゃうか!?」

「あー……そっか、お前達コイツで透明になった時見てないんだっけ……。まず、飛龍の案だが、確かに普通に近づくよりか安全に近づける。」

 

「ならこれで……!!」

 

飛龍の言葉を遮るように俺は言葉を続ける。

 

「だが恐らくバレる。試しにクローク使うから見とけよ……。」

 

クロークを起動し、透明になる。恐らくみんなの反応は……。

 

「確かに透明と言えば透明だけど……」

 

「なんとなく輪郭的なのが見えるっちゅーか……」

 

「遠目で見れば分からないかもしれないけど、近くからなら……」

 

「そういう事だ。なんとなくわかるだろ?このクローク機能は物陰や薄暗い所ならほぼバレない。しかし、明るい所なら割と見えるんだよ。ついでに言えば走れば足音もするから加賀とか瑞鶴とか勘のいい奴は気がつくだろうな。」

 

「確かにこれじゃあ防衛ラインの突破までは難しそうだね。」

 

「ゴリ押しでって言うのは間違いじゃない。というかどんな作戦を立ててもこの状況じゃゴリ押しにしかならないからな。そこからどう捻りを加えるかだな。」

 

「捻りか……あ!夜戦に持ち込めれば……!!」

 

「時間は後30分ちょっと!夜戦にはならないわよ!」

 

「飛龍さん、牢屋付近はどうなんだい?私達はずっと外の茂みに隠れてたから。」

 

「んーそうね、さっき見たそのままなら索敵入れてもやっぱ今のやり方であの防衛線を突破するのは難しそうね。」

 

「私達もドラム缶じゃ何かするのは難しそうなのです。」

 

様々な意見が飛び交うけど決定的な意見は出てこない。

 

そりゃそうだよなぁ、そんな簡単にポンポン作戦出てきたら困らんわなぁ……。

 

川内の飛龍の案も悪くは無いんだけどなぁ……満潮の言う通り、どうやって防衛ラインを突破して牢屋付近まで近づくかが問題だ。

 

そんなのバレないで進む事が出来るのは某ステルスゲーの蛇の人ぐらい……ん?

 

「おい、みんな何持ってるもう一度教えてくれ。」

 

「え?提督のスーツに探照灯。私の煙幕。」

 

「私も煙幕。」

 

「私は艦載機。」

 

「ウチも艦載機。」

 

「私達はドラム缶なのです。」

 

「それとペイント銃。」

 

…………行けるのか?俺はあのゲームのように行けるのか?否っ!!俺なら、俺達なら出来る!!

 

「何や提督、作戦出来たんか?」

 

「あぁ、現状の装備でやるならこれしかない。よし、みんな、俺の作戦を聞いてくれ。」




仕事など出来〜ない〜曜日だってあるさ〜

そんな日は何も聞かず〜

布団のそばにいる〜

「ちょっとアンタ!!起床時間過ぎてるわよ!!いい加減起きなさい!!」

悲しみの静〜寂に休みが消えぬよう〜

ガチャ!! ドンドンドンドン!!!

休みがどこかに〜ある〜事〜

すぐに思い出し〜て〜くれるように〜

ガラッ!!「あと10秒で起きなければ私にも考えがあるわ。」

叢雲〜の後ろ手に隠された物が僕〜の眠りを狙っているなら〜

この身を差し出しても〜安らかな夢を僕…にぃぃぃぃぃーーー!?!?!?!?

冷った!?何これ!?冷え冷えのウィ〇ーインゼリー!?

「起きたわね?じゃあそれあげるから食べて着替えたら執務室行って仕事するわよ、まだまだ書類残ってるんだから。」

新たな〜朝日が僕を叩き起すまで〜

あ?これもう開いてるじゃん。叢雲が開けてくれたのか?

(……まぁ、言わなくても良いわよね。実は私が少し飲んでる事なんて……。)


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就活戦争25日目

ドロ刑終わらそうと書いてたら1万字超えてた……。

作者の狛犬太郎です。今回はご報告がありまして、こちらの「就職することが出来る仕事は提督だけでした。」ですが有難いことにお気に入り登録500に到達致しました。

沢山の方々に読んで頂けたようで私も嬉しい限りです。

これからも相良提督と艦娘達の賑やかな日常にどうぞお付き合い下さいませ。

作者の方も皆さんに読んで頂けるよう頑張ります。

八景島シーパラダイスで買った艦これサントラCD聴いてると海に行きたくなる……。『長波、駆ける』とかめっちゃカッコイイ……。




「……本当にこんな作戦でみんなを脱走させられるの!?」

 

「と言ってもこれぐらいしか案は無いでしょ。私とみんなを信じなって。」

 

私と川内さんがいるのは薄暗く、狭い場所……響と電が持っていたドラム缶の中だ。

 

ドラム缶の底をくり抜き、小さな覗き穴を幾つか空けたもの……これで防衛ラインを越えようと言う作戦だ。

 

確かにこの鎮守府には至る所にドラム缶が置いてある。

気をつけなければ分からないかもしれない。しかしそれでも不自然さは残るものだ。

 

「しっかも、これ結構重いし……。」

 

「正直、私もダンボールの方が良かったなー。まぁ提督にダンボールの思い入れがあそこまであるとは思わなかったね。流石にあそこまで言われちゃ譲るよ。」

 

司令官の方はと言うと私達とは反対側から潜入している。私達とは違い、ドラム缶ではなくダンボールで。

 

ドラム缶だって不自然なのにダンボールは流石に気がつくでしょ。

 

『川内、満潮ストップや。もうすぐ金剛と榛名がそこを通るで。』

 

静かにドラム缶を地面に置き、息を殺す。

 

「お姉様!不知火さんが那珂ちゃんを確保したとの事です!」

 

「ぬいぬいもやりますネー!榛名、私達もそろそろticket持ちかテートクを捕まえますヨー!Follow Me!」

 

「はい!お姉様!!」

 

「ふー、行ったか……。」

 

「龍驤さん、この周辺の警察は?」

 

『……その先んとこの倉庫横に霞と曙が居るな。ぐーっと迂回して霞達の反対側から進め。』

 

「了解。」

 

私達の視界はドラム缶に空いた穴のみ。それだけでは確実に誰かに見られてしまう。そこで空母の2人には潜入隊の目の役割をして貰っている。

 

艦載機を飛ばし、物陰から警察達の動きを探り、それを無線で教えて貰っているのだ。

飛龍さんは司令官、私達は龍驤さん。そして響、電の2人は私達の目となる空母達の護衛に付いている。

 

龍驤さんの指示の下、止まる、移動、止まる、移動を繰り返し、ジリジリと防衛ラインを越えていく。

 

この雰囲気、緊張感、戦闘前の偵察に似ている……。

 

確かにこれはゲームだ。だが、やり方によっては戦場の空気を味わう事も出来る。これは一種の訓練にもなる。もしかしてアイツはそれを……!?

 

「満潮!ほら見て!牢屋だ!防衛ラインを越えたよ!」

 

「よしっ!!後はアイツに合わせるだけ……え?」

 

 

「あの時の私は前々から明石さんにお願いしてようやく手に入った期間限定のクッキーを食べることが最重要だったもので……って、頭の中で何かが……?」

 

 

「あはは、赤城先輩らしいですね……もしかしてそのクッキー食べてる時に『お願い券』を見つけてたりして!!」

 

 

「……うーん、どうだったのでしょうか……?今となっては知る由もないですねぇ、誰かが助けて下さったら後で見に行ってみましょうか。」

 

 

 

「その時はご一緒しますよ!私は赤城先輩の護衛艦ですからね!」

 

 

 

「あら、頼もしいわ。じゃあその時はよろしくね。」

 

 

「はいっ!!」

 

 

なんか……牢屋内、和気あいあいとし過ぎじゃない?

 

伊勢さんと翔鶴さんも楽しそうに談笑、大人しく座ってた潮、大潮も先程確保された那珂ちゃんに「笑顔が少ないよー!!スマイルスマイル〜!!」と引っ付かれていた。

 

……はぁ〜、なんか訓練だーとか意気込んでたけど急に恥ずかしくなってきたわ。そりゃそうよね、ドロ刑で訓練になるなら常日頃の訓練はどうなるのかって話よ。

 

……まぁでも、作戦話してる時真面目な顔してたし……普段から少しでもいいからあれぐらい真面目にやってくれれば……アイツ根は良い奴だし、結構カッコイ………

 

「満潮、聞いてる?」

 

「ひゃい!?な、ななな何かしら!?」

 

川内に呼びかけられてるのに気がついていなかった満潮は思わずガタガタとドラム缶を揺らしてしまう。

 

「しーっ!!静かに!!こんな時にどうしたのさ!?」

 

「あ!ごめんなさい!」

 

いやいやいや!!!私は何を考えてるのよ!?

 

あ、アイツの事なんか全然!!

 

「とりあえずほら、深呼吸して一旦落ち着いて。」

 

そう!今は落ち着いて次の行動を……ゆっくり吸って…

ゆっくり吐く…また吸って…また吐いて…。

 

「ごめんなさい川内さん、落ち着いたわ。」

 

「なら良かった。龍驤さん、こっちは定位置に着いたよ。いつでも行ける。」

 

『あいよ〜、ちょっと待っときや〜。飛龍、提督は〜……了解。もうちょいで向こうも着くとさ。向こうが着いたら頃合いを見て合図するで。そしたらアイツらに一丁かましたれ!泥棒の意地見せたれや!』

 

数十秒後、提督が配置に着いたという連絡が入った。

 

後は合図を待つだけ……。これは訓練じゃない、お遊びだ。だがお遊びだからと言って手を抜くようなことは私らしく無いわね。

 

「やってやろうじゃない……。」

 

「お、気合い入ってんね〜満潮!それなら私も負けてらんないな〜!」

突入まで後20秒……

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

ゆっくり、ゆっくりと確実に前進して行く。

 

逆側は川内と満潮に任せている。潜入プロの川内が付いてるんだ、恐らく大丈夫だろう。

 

まぁバレたらその時はその時だ。そこから作戦を開始するしかない。

 

すると俺のサポートをしている飛龍から無線が入る。

 

『提督ストップ!後ろに間宮さんと古鷹さん!』

 

慌てて物陰に向かいダンボールで身を隠す。

 

間宮さんと古鷹なら巻くことは可能だろう。しかし今回は誰にもバレずに警戒されない事が第1なのだ。

 

じっと警戒していたが間宮と古鷹はこちらに向かってくること無く、角を曲がって行った。

「ふぅ、逃げるのも大変だけどバレないようにって言うのは尚更疲れるな……。」

 

『OK提督、近くには誰も居ないから真っ直ぐ進んで。』

 

全然関係無いけどあれだよな、OK〇〇〇〇って言われると某インターネットが頭浮かぶよな。

 

はい、どんな御用でしょう?って言えばいい?

 

冗談はさておき、ダンボールを引きずらないよう注意しながらゆっくりと前進を再開する。

 

しばらく前進すると不知火の後ろ姿を遠くに確認した。

 

そろそろ防衛ラインに近づいてきたと言う事か、辺りを飛龍に確認してもらうとチラホラ警察組がいらっしゃるらしい。

 

ともかく正面に立っている不知火を退かさないと進めない。

 

退かせなくとも注意を逸らしたい……。

 

辺りに何か無いかと見渡すと……

 

ん?これは……開発に失敗というか妖精さん達が作りだした謎ぬいぐるみ……。

 

机の上、誰かが持ってきたのだろうか?雲みたいなのとペンギンみたいなぬいぐるみ、そして……カワウソ?なんじゃありゃ?でもどっかで見たことある気がするんだよな……?ボクカワウソ!

 

女の子はよく分からないけど可愛いものに反応するって言うしな。コイツらに関しては可愛いというか奇妙なって言う方が合ってる気がするけど……。

 

これを投げて不知火の注意を引きたいけどあの不知火だぞ?物音で注意を引くかもしれないけどコイツらは興味を持たれずに終わるかもしれないな。

 

まぁ物は試しだ。駄目ならまた別の手段を考えよう。物音を立てないように近づき、三体のぬいぐるみを引っつかむ。

 

「ともかく1発試してみるか……なっと!」

 

物陰からぬいぐるみをぶん投げる。隣の建物は体育倉庫だ。投げたぬいぐるみは外に出ていたスコアボードに当たり、ぶつかった衝撃でパタパタと音を立てるスコアボード。

 

音に気がついた不知火はゆっくりと体育倉庫へと近づいて行く。

 

お?ぬいぐるみに気がついたな。さて、不知火はどんな反応するか……。

 

不知火は1度足を止め、ぬいぐるみを一瞥すると何事も無かった様にすぐ横の脇道に入っていった。

 

……まぁ、予想通りと言えば予想通りか。物音がしたから近くに泥棒が居るかもってただ警戒させちまったかな?

 

そうなると不知火の趣味とか気になるよな、何が趣味なんだろ?イメージ通りの趣味ってなると……駄目だ、想像するのが戦術指南書を読んでる不知火の姿しか浮かばない。

 

不知火の趣味はともかく、アイツが居ないうちに………うおっ!?

 

慌てて身を隠す。通りに再び不知火が現れたからだ。

 

危ねぇ、不知火の奴戻ってくるの早えーよ……ん?なんだアイツ、またぬいぐるみの所に……。

 

というかなんか不知火の奴、妙にソワソワしてると言うかなんというか……今も辺りをキョロキョロと気にしている。

 

辺りを確認し終えたのか不知火はこちらも驚くような素早い動きでぬいぐるみを拾うと体育倉庫の中へと消えていった……。

 

え?まさか、そうなの?

 

コソコソと体育倉庫横まで移動し、中の様子を伺う。

 

するとそこには………っ!!

 

「ふふっ……不知火に見つかったのが運の尽き、あなた達は不知火の部屋に飾ってあげます…ふふ……ふふふっ!」

見つかったとか言うから少しドキッとしたが、重要なのはそこじゃない。あの不知火が、無表情で有名な不知火が、笑顔で、ぬいぐるみ達に頬擦りしてるんだ。

 

何故だ、何故こういう時こそ青葉が居ない!!

 

1番美味しい絵だろ!!

 

「……貴方はペンペン、貴方はふわりん、貴方は……この子、何処かで見たような……?ボクカワウソ!」

 

おいおいおい、やべぇよやべぇ、不知火さんぬいぐるみにめっちゃ可愛らしいというかファンシーな名前付けてるよ……いやいや、別になんの問題も無いのよ?人の趣味嗜好にケチつけるような奴は馬に蹴られて何たらって、そこじゃない。

 

不知火の普段は謎に包まれていたからな、しかも普段からクールで真面目って言うイメージがあったし、凄いギャップだった。

 

知ってしまえば意外だったという驚きとホッと安心感。

 

戦闘報告の時も表情が読みづらいというか淀姉さんとはまた違う怖さがあったからストレス発散とか大丈夫かなー?俺なんか作戦やらかしたかなー?なんて思ってたからなぁ……でも少し安心した。怖いと思ってた不知火もこんな風に年相応の一面を持っていたのだ。

 

そう思えば微笑ましい様な嬉しいような、少しだけ不知火の事が分かったような気がしたんだ……そう、この時までは。

 

「ふふ……ふふふ………誰だッ!!!」

 

ぐいんッ!!と振り向く不知火の頭。

 

………………殺されると思った、本気で。

 

「今確かに視線を感じた……まだそう遠くには行っていないはず。誰だか分かりませんが不知火の秘密を知ったからには……徹底的に追い詰めてやるわ。」

 

怖ッ!!怖すぎる!!やっぱまだ不知火の事分かってなかったわすんません!!目がね、あの眼光がね、めっちゃ怖いねん!!……だが幸いにも俺が近くに居ることをまだ不知火は気づいていない。

 

こっちに来る前にさっさと移動して……ブオン

 

ん?この起動音、まさか……。

 

恐る恐る後ろを振り返ると今来た道を走りながら戻るホログラムの姿があった。どうやら移動しようとした時に椅子の角にぶつかってホログラムが起動してしまった様だ。

 

起動したのがクロークなら問題無かった、透明になるだけだから。だがしかし、このホログラムはより本物だと錯覚させる為にも足音がするように設計されていると明希姉が言っていた。

 

今、目撃者を血眼で探している不知火に近くで物音、足音がすればどうなるか、「足音っ!!」ホログラムの足音にすぐ気がつく。

 

そしてそのホログラムの姿は誰か?そりゃもちろん、この俺だ。何も知らない不知火がその姿を目撃すれば自分の姿を見たのは俺だと思うだろうよ。

 

走り去るホログラムに向かって不知火はポツリと呟く。

 

「……見てしまったのね司令、不知火の秘密を。こうなってしまったからには……。司令には申し訳ないですが、手段を選んでられません。」

 

おいおいおい、死んだわ俺。

 

今不知火に見つかったら絶対処されるのが目に見える。

 

今度、今日の事聞かれても全部何も見てないの一点張りで行こうそうしよう。

 

こうして俺は体育倉庫をぐるっと迂回して防衛ラインを突破して行った。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

『ザッ…あ!良かった繋がった!どうしたのよ提督、急に無線切って……。』

 

「あーすまん、近くに警察……というか不知火が居てバレるとまずいから無線切ってた。」

 

『ザッ…なら良かった。でもそれならごめんなさい、私の索敵が甘かったせいね……。』

 

「不知火は倉庫内にいたみたいだからそれはしょうがないさ。」

 

まぁ、それにより俺は不知火から命を狙われるようになったがな。

 

「それで、この先に警察は?」

 

『ザッ…その通りには居ないよ。あ、でも今みたいに建物内とかに居るかもしれないから気をつけてね!それと川内と満潮もそろそろ定位置に着くらしいから提督も急いで。』

 

「了解。」

 

今度はその通りに誰か居ることは無かった。通りを抜けるとグラウンドの端に到着、反対側を見ればドラム缶が2つ、あれが川内と満潮か。

 

「飛龍、定位置に到着した。」

 

『ザッ…はいはーい、にしてもここが牢屋ってのも厳しくない?こんな開けたグラウンドの真ん中って。』

 

「文句言ったってしょうがないだろこうなってるんだから。とりあえず飛龍、辺りを調べて来てくれ。タイミングが良ければそのまま作戦開始だ。」

 

『ザッ…了解!ちょっと待ってね〜、あー黒潮と陸奥さん、後は隼鷹が牢屋近くを警戒してるみたいだね〜。』

 

3人、それなら行けるか……?いや、やるしかない!

 

「飛龍、川内達に通達。残り時間が30分になったら作戦を開始する。」

 

『ザッ…了解!』

 

今からおよそ1分後作戦開始、恐らくここで脱走させられなければこのまま泥棒は壊滅だろう。

 

だから俺はこの作戦を成功させてみせる!!待ってろ間宮膝枕ぁぁぁーーー!!!

 

 

 

 

 

「……あら?今何か聞こえたような?」

 

「どーしたの間宮さん?誰か見つけた?」

 

「あぁいえ、なんでもないのよ深雪ちゃん。早く私も1人捕まえなきゃって!」

 

「あはは!それならこの深雪様の出番だね!!間宮さんのフォローなら任せて!!」

 

「あら頼もしいわ!じゃあ、深雪ちゃんよろしくね。」

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

……残り時間30分定刻となった。作戦開始の時間だ。

 

「よし、飛龍、龍驤やれ。」

 

『ザッ…よっしゃ任せとき!艦載機のみんな、お仕事お仕事〜!!』

 

『ザッ…みんな、頼んだよ。』

 

『ザッ…ファイトなのです!』

 

任せとけ必ずみんなを脱走させてやる。

 

『ザッ…川内、満潮、提督を任せたわよ!全機発艦!』

 

グラウンド手前に待機していた龍驤達の艦載機が一斉にグラウンドへ突入。

 

「敵艦載機発見や!!」

 

「落ち着いて、これは陽動よ!隼鷹、貴女は艦載機を!黒潮、貴女は私と辺りを警戒!!」

 

味方の艦載機が現れた事で牢屋内は盛り上がる。

 

「あれは、飛龍さんと龍驤さんの艦載機!?という事は……皆さん!!提督さん達が助けに来ましたよ!!」

 

「きゃは!那珂ちゃんもテンション上がってきたよ〜!」

 

ドラム缶の中で待機していた川内、満潮もアクションを起こす。

 

「さぁ満潮!私達の出番だ!!先に暴れてくるよ!!」

 

「気をつけてね!!」

 

「満潮も!!」

 

ほぼ同時にドラム缶から飛び出す2人。

 

「来たわよ!黒潮、絶対に通しちゃダメよ!!」

 

「陸奥はん任せとき!!牢屋には1人も近寄らせんで!!」

 

「ちょいちょいちょい!!盛り上がってるとこ悪いけど飛龍と龍驤2人相手にするのは流石に骨が折れるってもんよ!!早いとこ片付けて貰っていいかい!?」

 

「そう簡単に私達は捕まらないよ、そんな事より、私達にばっか構ってていいの?」

 

「アイツはもう近くまで来てるわよ。」

 

陸奥と黒潮はその言葉に身構える。

 

注意して!黒潮にそう声をかけようとしたその瞬間、茂みの端から提督が走り込んでくるのを陸奥は見逃さなかった。

 

「くっ!間に合わない……っ!!」

 

脱走を許してしまう、そう思った時……

 

「そうはさせないわよ!!」

 

「大人しく捕まりなさいこのクソ提督!!」

 

騒ぎを聞き付け近くにいた霞と曙が提督の進路を塞いだ。

 

「ナーイス!!二人ともグッドタイミングや!!」

 

「くっ!こんな時に増援なんて!」

 

まさかの増援で顔をしかめる満潮。

 

「これで5対3……残念だったわね、頼みの綱の提督もこれで逮捕。さぁ川内、満潮、貴女達も観念なさい。」

 

絶体絶命、その筈なのに川内の顔から笑みは消えない。まさかまだ策を!?

 

「あはは!陸奥さん、霞と曙が捕まえようとしてるのは本当に提督かな!?満潮、煙幕!!」

 

「了解!!」

 

満潮が牢屋に向かって投げつけた玉からモウモウと煙が立ち込め、牢屋周辺を真っ白の世界と変える。

 

牢屋内は突然の煙に咳き込んだり「那珂ちゃんアイドルだからそういうのNGだって〜!!」と賑やかだ。

 

「このクズっ!!神妙にお縄につきなさ……って!?透けた!?」

 

「陸奥さんやられた!!これクソ提督の罠だわ!!」

 

満潮が牢屋前に焚いた煙幕……まさか!?もう提督は!!

 

クロークで透明化してるのか提督の声だけが聞こえた。

 

「ふははは!!!残念だったな警察諸君!!君らが追いかけ回してたのはホログラムだぜ!!さぁ、みんな逃げろ逃げろーーー!!!」

 

牢屋からワーワーと一斉に逃げ出す泥棒達。

 

川内が置き土産にもう1つ煙幕を散布した事でグラウンドは火災現場ばりの煙が立ち込めていた。

「よーし、これで全員逃げたな……そんじゃ俺もおさらばさせてもらおうかガシッ……な?」

 

もー川内ったら〜もう泥棒は全員逃げたってのによ〜。

 

「川内、もう全員逃がしたぞそれは俺……。」

 

あれ?今俺さ、透明化してる最中だよね?しかも煙の中、いくら川内でもわかる筈……。

 

「はぁい、こうちゃ〜ん。とっても素敵なチケットだね。返して欲しい?」

 

振り返るとごつい機材を被った奴がいた。恐らくサーマルゴーグルだ。しかし声でわかる、アイツだ。寧ろ透明状態の俺を簡単に見つけることが出来るのはこのスーツを作った奴しかしない。

 

「あ、あぁ勿論。」

 

勿論返して欲しい。それがあれば俺は間宮の膝枕で昼寝ができるんだ……。

 

「良い子ね。友達も沢山このチケットを狙ってるんでしょう?賭けてもいい。」

 

「49人だよ。でも参加してる姉さんが1番タチが悪い。」

 

マジで主催者張り倒したい。

 

「お姉さんは何処にいるんです?」

 

「分かんないよ。いつも研究室に引っ込んで自分の事ばっかりやってる。開発の依頼してるのにさ。」

 

「そんなことないですよ。きっとその開発に関わることなんですよ。」

 

んなわけねーだろ。プラズマレールガンやら波動砲やらとんでもスーツ作ってる奴がまともな思考してるわけねーだろ。

 

「そっかとりあえずもう行かなきゃ。」

 

「待てや!!」

なんだよ急に大声出すなよ。

 

「行っちゃう?これ置いて行っちゃうの?」

 

それは……っ!?

 

「俺の名前と印鑑入り休暇申請届!?しかも五連休!?」

 

Oh,my boat!とか言ったやつ誰や。

 

「Exactly!!さぁこうちゃんこれが欲しいんでしょ?……受け取りなよ。」

 

ご、五連休……だがしかし……絶対裏がある……ない訳が無い。

 

「何を悩む事があるの?五連休よ、五連休。普通なら淀がOKしてくれないよ?」

 

「………本当に五連休貰えるんだろうな?」

 

「えぇ勿論、大本営からの実印付きですよ?さぁ、どうぞお受け取り下さい。」

 

五連休の言葉に思わず手が伸びる。

 

「そうよ、こうちゃん。休めるのよ、こうちゃん……休むんだ……。」

 

こうして俺は悪魔(明石)の囁きに耳を貸してしまい、休暇申請届を掴んでしまった。

 

「五連休が!!終わったら!!12連勤ですよ!!」

 

「ぐあぁぁぁぁぁぁーーーーーっ!!!!!」

 

・相良航希 逮捕

 

・牢屋内に居た泥棒は全員脱走

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

こうちゃんを牢屋に連行し終えた私は通りをプラプラ歩いていた。

 

大本営からの書類も渡したし、お願い券もゲット。ノルマクリアだドン!

 

「はー、こうちゃん確保でお願い券は私の物。何お願いしようかなー?研究費用up?それとも今後の面白い事に使うのも……ひゃん!?」

 

東側の暗殺者か!?

 

突然、体中が痺れて動かなくなった。もんどり打つようにして倒れ込む私を見下ろす影が……。

 

「……やってくれたわね川内ちゃん、とっくに逃げたものだと思ってたのに。」

 

ペイント銃を片手に川内ちゃんは不敵な笑みを浮かべる。実を言うとこのペイント弾には痺れ薬が混ぜてあった。まさか自分で食らう事になるとは思っていなかったが。

 

「いやー悪いね明石さん、私、漁夫の利は得意でさー!それと提督とも約束しててねー!『泥棒を全員逃がしたら恐らく俺は明石に捕まる。そこでだ、お前にこのペイント銃を渡す。後は分かるな?明石からお願い券を奪え。明希姉さんに渡すぐらいならお前の夜戦1週間の方がマシだ』ってさ!」

 

「……マークされてたってわけですか、まぁそりゃそうですよね。」

 

「あ、恨まないでよー?これも勝負だからさ!!じゃ、お願い券は頂いていくよー!!やっせん〜やっせん〜!!」

颯爽と走り去っていく川内。楽しそうだなぁ〜今度戦闘出てみようかな〜。

 

それはともかく、

 

「お願い券の分は連休の時にきっちり楽しませてもらおうかしらね……。」

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「………不幸だわ。」

 

「あぁ、不幸だな……。」

 

牢屋代わりのゴールに仲良く並んで体育座りしてるのは俺と山城。

 

ゲームの方は今現在も継続中、残り時間が20分ぐらいか。もう疲れたしゆっくりしたいところだが……

 

「まさか私が捕まったタイミングでみんな脱走だなんて……。」

 

コイツがいる。

 

「タイミングが悪かったとしか言えねぇなぁ……。と言うより、俺としては何故ドロ刑しただけでお前が大破するか理由が分からないんだが……。」

 

「……提督は暴走車両に撥ねられた事ある?」

 

いや、あったらこんな所でピンピンしてない。

 

「無いでしょ?私は今日撥ねられた、長門さんという暴走車両に。」

 

……あぁ、理解したすまん。

 

まだ駆逐艦追っかけ回してんのかアイツ……。

 

「だから覚えておいて、日常なにが起きるか分からないのよ。」

 

「……了解です。」

 

流石今日撥ねられただけあって言葉の重みが違う。

 

「まぁ、あれだ。もう捕まってるしあと20分ゆっくりしようぜ。あれだったら寝ててもいいぞ?時間になったら起こしてやるから。」

 

「……私が寝てる間に変な事したり」

 

「しねーよとっとと寝ろ。」

 

はーやっと静かになっ「あ、司令官!お疲れ様です!実はなんですけど〜」……。

 

「青葉、俺は今とてつもなく嫌な予感を感じてる。それ以上何も言わずに回れ右して帰れ。」

 

「いや〜、そう言われましても……皆さんやる気満々でして〜。」

 

「……『皆さんやる気満々』?確かに始まった時はやる気満々だったけどまだみんなやる気満々ってのはどういうことだ?」

 

「あ、すいません端折り過ぎましたね。えー重巡青葉、司令官に報告致します。出撃していた艦隊が帰投しました。それでですね、大井さん、北上さん、叢雲さんが飛び入り参加。大本営に行っていた大淀さんも帰投したので参加するとの事です!」

 

………ま、まぁ落ち着けつ、落ち着つけ。俺はもう既に捕まってる追われる理由も無い。あと20分ここで過ごせばいい。

 

「………そ、そうか、いいんじゃないか?こういう息抜きも大事だろうし!はは、あははは!」

 

「でここからが本題なのですが、さっき明石さんから連絡があってですね、あ、録音しておいたの流しますね。ガチャ『あ、青葉?今ね出撃組と淀が帰ってきて参加するって言うからこうちゃん復活させよう!あ、お願い券また渡しておいてね!あ、参加するのは大井、北上、叢雲と淀ね。残り時間20分だし、みんな警察でいいや!うん、うん、了解〜じゃあよろしくね〜!』って事なんで……じゃあこれお願い券です!」

 

バシッと背中に貼り付けられるお願い券。

 

「い、嫌だ!!もう良いだろ!!十分やったじゃん!!」

 

一遍アイツらに追われてみれば分かる!!鬼ごっこがどれだけ怖いか理解出来るぞ!!

 

「あはは……私としても撮れ高は十分なので大丈夫なのですが……彼女達のボルテージが最高潮でして……。」

 

「勘弁してくれ!俺はもう部屋に帰る!」

 

「司令官それ死亡フラ」「見つけたわよ!!」

 

……今、聞こえないはずの声が聞こえたよ。

 

この場に叢雲がいるはずないじゃないかHAHAHA。

 

「こうちゃーん、見て見ぬふりするのは構わないけどそのチケットは置いてってもらおうかなー。」

 

「………北上さん、北上さんは右から、私は左から行きます。」

 

「おっけー大井っち、いつも通りにね〜。」

 

「アンタが大人しく私にチケットを渡してくれれば事が済むのよ。だからさっさと渡しなさい。」

 

やっぱ幻聴じゃなかったよ……北上、大井、叢雲集結しました。オラまだ死にたくない……。そして………

 

「こうちゃ〜ん、勿論、私にチケットを頂けますよね……?」

 

この心臓を鷲掴みにするような声、俺の知る限り一人しかいない。

 

冥王召喚?ジャッジメント?

 

全てを奪われた提督が一言、犬はお帰りください。もしくは超になって出直してきな。

 

ってそんな事どうでもいい、我が鎮守府のハーデス、淀姉さんまでもが集結してしまった。

 

「……青葉、そういやお前、新しい一眼レフカメラ欲しいって言ってたよな?買ってやるから……いや、差し上げますから。」

 

「司令官すいません。私も今は自分の命が可愛いです。」

 

「頼む助けてくれ!お前の司令官の命が掛かってるんだ!」

 

「駄目です、7時半から空手の稽古があるんですよ!」

 

「今日は休め!」

 

頼み込むも「司令官、頑張って下さ〜い!」と逃げられた。

 

「山城、起きろ起きてくれ!!俺の命が危ないんだ。」

 

「……私を起こさないで、死ぬほど疲れてる。」

 

それ俺のセリフぅぅぅーーー!!!

 

こうして俺と艦娘の第2次ドロ刑大会が幕を開けたのであった!!

 

ただ一言言うのであれば、「明石許さんからなァァァーーー!!!」

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

16:00 執務室…

 

バサバサと言う音で夕立は目を覚ました。

 

「……あれ?夕立、寝ちゃってた…っぽい?フワァ~」

 

6月にしては爽やかな天気、窓の外から吹き込んでくる風が心地よい。ふと時計を見れば……

 

「16時!?こーちゃんヤバいっぽいまだ全然仕事終わってないっぽい〜!!ってえぇーーーっ!?」

 

飛び起きて辺りを見渡せば風に吹き飛ばされたのか書類が散乱していた。

 

踏んだり蹴ったりとはこの事か。

 

「って、こーちゃんまだ帰ってなかったっぽい?」

 

こーちゃんが工廠に行って2時間以上経っているがまだ戻っていないようだ。工廠で何かあったのだろう。

 

「ならチャンスっぽい!!こーちゃんがいなかったから仕事は進まなかった!それで行けるっぽい!!とりあえずこの書類を集めなきゃ〜!!」

 

わたわたと書類を集め始めた夕立。そんな床に散らばった紙の中で一際目立つ金色の紙を夕立は見つけた。

 

「ん?何かしらこの紙?」

 

こんな書類あったっけ?と拾い上げてみるとそれには

 

「『提督に1つお願い出来る券』……?」

 

記憶を辿るが、眠る前までこんなのは無かった筈だ。となれば、誰か置いていったのか、もしくは風に飛ばされたのか……?って!とりあえず書類集めな

 

「あー疲れ……ってなんじゃこりゃーー!?」

 

そんな事考えていたらこーちゃんが帰ってきてしまいましたっぽい。

 

「あわわ……こーちゃん違うっぽい!!夕立が散らかしたんじゃなくてこれは風で飛ばされたみたいで!!」

 

「とりあえずいいから窓閉めろ窓!!」

 

……舞鶴第2鎮守府の慌ただしく騒がしい日常はまだまだ続くようです。

 

「めでたしめでたし……っと。」

 

「おい!明石!!見てんなら手伝え!!ドロ刑でお前に嵌められた事忘れてねーからな!!」




布団の中で〜夢を見ていた〜冴えない夢だった〜

変わりまくった毎日と〜重なって〜ふと思う〜

友よ〜この頃〜元気で〜暮ら〜してるかい?
どこか〜心は〜傷んでないか〜い?

知らな〜いうちに提督にさせられていたなんて〜

あの頃は想像しないかった〜じゃれあって過ごした日々〜友よ〜また〜会おう〜そ〜し〜て〜また笑おう〜くだらない話を〜しようよ〜

「アイツ、結構疲れてきてる感じ?」

「そりゃそうよ叢雲ちゃん、だってこうちゃん今日10連勤目だし。」

「後で佐世保に着任したアイツの友達に連絡して貰おうかしら?」

「いいと思いますよ。あ、その友達の鎮守府に演習の申し込みしたらどうです?演習で行くか呼ぶかすればその友達にも会えるでしょう?」

「あ、いいわねそれ。後でやっとくわ。」



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就活戦争26日目

ガリガリ君が美味しい時期になってきましたね、作者の狛犬太郎です。

うーん、暑い。本当に暑い。いかにも夏って雰囲気。嫌いじゃないけど好きでもないんだよなぁ。

でも夏になれば艦娘達の水着や浴衣姿がうふふ。

やっぱり、夏いいですね。

そしていつの間にか夏コミも近づいて来ましたね。休み、取れればいいんですが( ͡ ͜ ͡ )

1日ぐらい行かせてくれぇ〜。推しキャラ本がほしい!!時雨、叢雲本特に!!と言うか資金があれば全て欲しい。

今回は感想で初雪とゲームして欲しいと言うのがあったのでそちらをテーマに書かせて頂きました。(言う割には初雪要素薄いのはゴニョゴニョ……。)

大変済まないと思っている。

では本編どうぞ。


ガチゲーマーと人並みにゲームをする奴の違いは何だと思う?

 

レベルやランクの差、装備の差、様々だろう。

 

だが真に違うのはゲームに対する考えだろうと俺は思っている。

 

人並みゲーマーが『あー楽しかった〜!ストーリーもグラフィックも良いし近いうちに大型アップデートも来る、何より双剣とランスは最高ね〜……ふぁ、眠くなってきたし続きは明日の仕事終わってからやろうかしらね。』

 

と程々に楽しんで程々に止められる奴に対し、ガチゲーマーは『発掘武器……これは、はずれ……祭り期間だし、もうすぐ追加コンテンツも……歴戦王のハムタロトもう1回、しよう……。』

 

『おけ。』

 

貪欲に上のランク、上の装備を求め続け、これを達成するのに労は惜しまない、これがガチゲーマーだ。

 

そしてガチゲーマーには危険が伴う。

 

……大きな危険が。そんな危険がこの鎮守府にはいるのだ。

 

ガチャ!「初雪!!ゲームは終わりよ!!明日朝から出撃でしょうが!!アンタも聞こえてんでしょ!?これで寝坊するんだから寝なさい!!」

 

オカン(叢雲)と言う危険が……。

 

「……叢雲、もう1回手伝って。次は必ず、出す。」

 

『こういう時に限って物欲センサー発動して出てくんだよな〜。俺も王金・風龍の片手剣欲しいけど全然出ないわ。』

 

「私もまだランスの欲しいやつ出てない……って、そうじゃなくて、いい加減クリハンを止めなさーーい!!」

 

クリーチャーハンター、通称クリハン。

 

今俺達がやっているゲームである。

 

仲間と共にクリーチャーを狩り、装備を強くしていくハンティングゲームで俺が小学生ぐらいの時から流行りだし、今に至るまで大人気のシリーズだ。

 

今日は書類仕事が早く片付いたので前々からフレンドコードを交換していた初雪、こちらヘビーゲーマー。

 

そしてクリハンをやっている事が初雪経由で判明した叢雲、こちらはライトゲーマーと過去ヘビーゲーマーに片足突っ込んでた俺の3人でクリハンをやり、いまに至る。

 

「叢雲、まだ23時、あと1時間は、余裕。」

 

『そうだぞ叢雲、何だったらこの時間まで書類やってる時だってある。23時はまだ今日だ、明日じゃない。』

 

「それに叢雲、もう一度、やれば、叢雲の欲しいランスだって、出る、かも……。」

 

「そんな簡単に出たら苦労しないっての……。」

 

『分かんねーだろ!回さなきゃ当たらないし宝くじも買わなきゃ当らない。お前の欲しいランスだって次で出るかもしれないんだぞ!?』

 

なんかスロッカスみたいな事言ってるぞ俺。

 

物事は何事も程々にな。

 

「はいはい、狙い武器1つも出てないアンタは黙ってなさい。て言うかアンタ達、いい加減止めないと大淀さんと間宮さんに言いつけるわよ?」

 

な、なんて恐ろしい事を……。淀姉さんなんかにチクられたらキャメルクラッチされた後、ゲーム機本体を破砕処理されてしまう……。

 

「酷、過ぎる、間宮さんに、言われたら、コントローラー、取り上げられる……。」

 

「ならとっとと電源を切って寝る事ね。そろそろ2人が巡回してくる時間じゃないかしら?……それでもいいの?」

 

バタバタと音がしたと思ったらマイクが切れた。初雪が電源を落としたらしい。

 

にしても叢雲卑怯だぞ、ここに淀姉さんを引き合いに出してくるか?もし、叢雲が困った時は明石連れてくるからな?あのテンションについてってもらうからな?

 

ともかく消灯時間は過ぎたので電気を点けていると巡回の奴、今日は淀姉さんと間宮さんがやって来るのでQS4は諦めるしかない。

 

だがしかし、ゲームをする事を諦めるとは一言も言ってない。

 

頭から布団に潜り込む。するとスマホがブルブルと震え出す……予想通り初雪からのLI〇Eだった。

 

(提督、本当に寝る?)

 

(馬鹿言え、こんなに目が冴えてるのに寝れるわけねーだろ。勿論やる。)

 

(何が、いい?)

 

(んー、SwotchでもVotaでも3BSでも良いんだけどなーでも、カチャカチャ音のでるものは控えた方がいいか。となれば、無難にスマホゲーか?)

 

(問題、ない。)

 

では早速とモンスタースライダーを起動させ「こうちゃん、眠れないなら次のお仕事持ってきますけどどうします?」

 

あ〜〜〜めっちゃ眠くなってきたなぁ〜〜〜!!!

 

やっぱ夜更かしは良くないよね〜〜〜!!!

 

……本当にこの人音もなく気配も無く侵入してくるの何なん?

 

次の日、初雪に聞いたら向こうも叢雲が乗り込んできたってさ。やっぱバレてるんすね。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「……提督ってさ〜ゲーム好きだよね?」

 

食堂でカレー食ってたら前に座ってた蒼龍から尋ねられた。

 

「まぁ、結構やってるわな。蒼龍はゲームとかやらないのか?」

 

「んー、あんまり機会が無かったからね〜。でなんだけど、私達の練度も結構上がってきたし、海域も安定してきたからさ、飛龍と一緒になんかゲーム買おうって話したのよ、だけどどれが面白いとか全然分かんなくてね〜。そこでさ、提督のオススメとかあったら教えて貰えない?」

 

あーなるほどなるほど。俺のオススメねぇ……。

 

俺のオススメと蒼龍達が合うって保証無いからなぁ。

 

「……こういう系のゲームやりたいとかある?ファンタジー系とか格闘系とかふわっと系とかさ?」

 

「うーん……普段戦闘してるから格闘系はいいかな〜。あーでもファンタジー系とかなら戦闘もいいかな〜。ふわっと系だとどんなのある?」

 

「あー……おいでよアニマルの海とかいいんじゃないか?漁村を発展させていくみたいなゲーム。後はファンタジー戦闘系なら俺が今やってるクリーチャーハンターとか案外合うかもしれんぞ?みんなでクリーチャーを倒して装備を強化して行くゲームなんだけど。」

 

「へぇ〜……ちょっと動画見てみるね。」

 

そう言うと蒼龍はスマホを取り出しPVを視聴し始めた。

 

そして数分後……

 

「めっちゃ面白そうだし買う!!!」

 

「ほーええやん。ちなみにどっち買うんだ?」

 

んー、と考え込む蒼龍の顔がこれまた可愛いこと。

 

何?そういう見せ方みたいなのがあんの?最高かよ。

 

「どっちも買おう!!」

 

「子供か!」

 

そして元気っ子か!!

 

まぁでもわかる。面白そうだし、ついつい買っちゃうんだよな。だがこうやって積みゲーが生まれてくる。

 

けど蒼龍はゲーム初心者だし、2本ぐらいなら積むほどのものでもないか。

 

「後で飛龍にも見せてあげよう!きっと飛龍も買いたくなるはず!!とりあえず私は買うことに決めた!」

 

「お、おう。まぁゲーム仲間が増える事は嬉しい事だ。なんかわかんない事あったら聞いてくれ。」

 

「もっちろん!その時はよろしくね!そろそろ飛龍が出撃から帰ってくるはずだから迎えに行ってくるね!!」

 

そして3日後……

 

「買いました!」

 

「買っちゃいました!」

 

いや、早いな。まだ3日しか経ってないのにもう準備完了してるよ……。

 

本日の仕事は休み。蒼龍達の用事に付き合うわけだが、それがゲームなら全然OKです!

 

「流石明石さんね、頼んだ次の日には届いてるし、本体の設定までしてくれたわ!」

 

「昨日なんか楽しみ過ぎてぐっすり眠れちゃったもんね!」

 

ぐっすり眠れちゃったなら良かったわ。

 

「とりあえず相良くんID教えて〜。」

 

「あ、私のやつこれね〜。」

 

フレンドコード交換会するのはいいんだけどさ……

 

「なんで君達、テレビごとここに持ってきたのさ?」

 

インターホン押されて何かと思えばテレビ持った2人が玄関前で立っていたのには驚いた。

 

「え?だってこういうのって50メートル以内じゃないと通信出来ないんじゃないの?」

 

いつの時代だってばよ。

 

「んなわけあるか!Wi-Fiあれば世界の裏側からだって出来るわ!」

 

「へー時代は進化したねー?」いや、お前スマホ使いこなしてるのにゲームの情報は10年前ぐらいで止まってんのな。

 

「とりあえず持ってきちまったのはしょうが無いから今回はここでやるか。後で明石にマイクも頼んどけ。」

 

コンセントは沢山あるからいいけどブレーカー上がっちゃうんじゃないかとも思ってたが流石妖精さんの建てた家、聞いてみたら大丈夫らしい。まぁ大型探照灯点けまくってたしそれもそうなのか?

 

そんなこんなでフレンドコード交換会も終了し、早速ゲーム開始。

 

「あ、そうそう。昨日の夜キャラメイクだけはやったんだ〜。」

 

「すんごい時間かかっちゃったよね〜。」

 

まぁコイツらも女の子だからきっとバッチリメイク決めた女ハンター作ってきたんだろうな。

 

他の奴が見る機会はギルドカードぐらいしかないけど結構分かるよね男が作ったネカマハンターと女が作った女ハンター。

 

そして画面に映るコイツらのキャラ

 

蒼龍、あーまぁ、想像通り。可愛い女ハンターさんですわ。蒼龍らしいと言えば蒼龍らしい。コイツは普段からオシャレ気にしてるもんな。

 

で、問題は飛龍のキャラ。いや、問題では無いんだけどさ……。

 

「すんげー渋いおっさんだな……。」鍛え抜かれた身体、顔には大きな傷に白く染ったあご髭……とても新人には見えない。ベテランだろどう見ても……。

 

「えへへ〜カッコイイでしょ〜?」

 

うん、カッコイイんだけどストーリー絡めて見たらこんなに歴戦感ある奴なのにルーキーってすげー違和感じゃね?店長かと思ったらバイト初日でしたって奴並に肩透かしだろ。

 

「ほらほら見てよ私のオトモ犬〜!この子も可愛いでしょ〜?このタレ耳とかパッチリした目とか〜キャー!ゴロ太可愛いー!!」

 

おじいちゃん家で飼ってる犬の名前かよ。

 

「私のも負けてないよー!凛々しい顔立ちに傷跡、そして益荒男の如く荒々しい毛並み!!多聞丸、カッコイイぞー!!」

 

おいおいおい、犬の名前に多聞丸って……多聞丸様に怒られるぞ……?

 

まぁいいんだけどさ……。

 

「てかさ、相良くんも新しいデータ作ってやろうよ!私達が新しく始めるのと一緒にさ!」

 

「あ、いいね!そうすればアドバイスとか攻略法とかわかりやすいじゃない?」

 

「あーまぁ確かにそうだな、しかもレベルや装備が強い奴が入って来てもヌルゲーになるだけだしな。OK!ちょっと待っとけ……。」

 

 

新たに新規データを立ち上げ、キャラを作っていく。と言ってもご丁寧にキャラを作ってる暇は無いからそれっぽく作りあげていく。

 

そんな時ブーブーとスマホがなる音が聞こえた。相手は初雪だった。

 

キャラメイクを一時中断しメッセージを確認する。

 

(提督、つけてるなら、クリハンやろう。)

 

「お、いいタイミングだな。お前ら初雪誘ってもいい?」

 

「勿論OK!」

 

「初雪ちゃんかぁ〜、めっちゃ強そう。」

 

初雪ちゃんめっちゃ強いぞ?

 

そんな事はともかくメッセージを返信。

 

(飛龍と蒼龍がクリハン買ってな、これから俺も新しくキャラ作ってやろうと思ってるんだけどお前もどう?)

 

(分かった。所で、なんでマイク、付けてないの?)

 

(いや、なんか蒼龍達が俺の部屋までテレビと本体持ってきてやってるからさ……。)

 

(なんで……?)

 

(アイツらのゲーム時間は10年前で止まってんだ、許してやれ。どうする?お前もこっち来るか?)

(いや、私は……)

 

「あ、相良く〜ん、お菓子持ってきたから適当に食べていいからね〜?初雪ちゃんも来るならどうぞって伝えといて〜。」

 

(今飛龍がお菓子持ってきたから初雪も来るならどうぞって言ってたけどOK?そしたら部屋作って待っててくれ、飛龍達も部屋に連れてくから。)

 

(……行く。)

 

(んあ?)

 

(私も、そっち、行く。)

 

(お、おう、分かった。じゃあ部屋はこっちで作っとくわ。)

 

部屋を作り、蒼龍達を招待。後は初雪を待つばかり……

 

ピンポーン!呼び鈴が鳴る。玄関に向かうとハードとコントローラーを抱えた初雪が立っていた。

 

「おーいらっしゃい、あ、あとテレビか……。」

 

「自分で、取ってくる……。」

 

「でも重いだろ?任せろ取ってきてやるって。」

「いや、でも……」

 

そこに蒼龍が割り込んできた。

 

「相良くーん?ダメだよ乙女の部屋に許可無く入るのは〜。初雪ちゃん、私が手伝うから一緒に行こうか?」

 

「……うん。」

 

あー……確かにデリカシー無かったなこれ。そりゃそうだ、知ってるとはいえ男を部屋に上げるのは……ね。

 

「今部屋、散らかってるから、提督に、見せられない…。蒼龍さんなら……。」

 

ちゃんとお部屋の掃除しましょうね?

 

暫くして初雪のテレビも到着。その間に俺もキャラメイクを済ませ、いつでも始められるようにしておいた。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

提督はぁ〜鉱石を掘るぅ〜ヘイヘイホー

 

クリハン序盤の鉱石集めマジ大事。

 

何作るにしても鉱石要りまくるからな。

 

今俺達がやっているクエストは小型肉食クリーチャー、ジャガラス10頭の討伐クエ、だがジャガラスだけ狩って終わるのは勿体なさすぎるので素材集めをしている所だ。

 

「相良くん、そこなんかあるの?」

 

「あぁ鉱石だ。蒼龍、このゲーム序盤でお世話になる鉱石さん達だ。しっかり取っておけよ。」

 

「わー!!なんかいっぱい取れる〜!!」

 

飛龍、序盤だから取っておいて損は無いけどハリの果実とかバクレツの果実とかボウガン使わないとあんまり意味無い気がする。

 

「アオライト鉱石…光虫…薬草…」

 

初雪は黙々と採取、採掘を行ってる。やるのはいいんだけどお前だけ強くなりすぎても意味無いからな。

 

今回はこの2人をサポートして一人前のハンターにするのが目的なんだからよ。

 

てかなんで布団敷いてるのそれ俺の布団。

 

初雪曰く、布団が無いと落ち着かないとかなんとか。

 

因みにみんなの装備は俺が太刀、初雪がハンマー、飛龍が大剣で蒼龍は弓

 

蒼龍は「私は別世界でも弓で行く!!」との事で、

 

飛龍は「近接武器とか使ってみたかったんだよね〜!……飛行甲板で深海棲艦殴りつけるのってアリかな?」とかいう感じで各々武器をセレクト。

 

まぁ慣れたら色んな武器使ってみてね。

 

「相良君相良君!!なんかデッカイの出てきたんだけど!!」

 

「なんかティラノサウルスみたいなやつね!さっき2、3発でちっちゃいの倒せたならコイツも10発ぐらいで倒せるでしょ!よっしゃ!飛龍さん任せなさ〜い!」

 

「あ、飛龍待ってよ!私もやるわよ!攻撃隊、発艦はじめっ!」

 

「あ!お前ら、ちょっと待て!!そいつは……!!」

 

そして蒼龍、今のお前の弓からは艦載機は出ないぞ!?

 

初心者が大型クリーチャーに勝負を仕掛ければどうなるか……。

 

飛龍『力尽きました。』

 

蒼龍『力尽きました。』

 

相良『巻き添え食らって力尽きました。』

 

『3回倒れたので復活できません。街に戻ります。』

 

デカデカと画面に映るクエスト失敗の文字。

 

まぁ、想像通りだわな。

 

「いやいやいや!!なんであんな強いのが居るのよ!!おかしいでしょ!?」

 

「飛龍、この手のゲームにはな、序盤に初心者殺しが居るのが鉄板なんだよ……。」

 

「アナンジャフ、初期装備だと、結構面倒。」

 

「えー、じゃあ今は倒せないって事〜?」

 

「まぁ、倒せないことも無いが、正直コイツに時間かけてまだ作れない装備の枠を解禁するぐらいなら先に進めてた方が得かなぁ……。」

 

「そして、何か1個作れても、そこまで強くない…。」

 

正直、俺はアナンジャフの装備あんま好きじゃないんだよなぁ。あんまり強いと思わないというかなんというか……。

 

「まぁ、元々倒さない前提でストーリー組んであるんだから次はスルーして行こうぜ。」

 

飛龍、蒼龍は少し不満げそうだ。

 

「それにさ、強そうなクリーチャーが簡単に倒せたら達成感も何もないだろ?飛龍達が深海棲艦を倒した時、どうだったよ?凄い嬉しかっただろ?それと同じさ。」

 

「クリーチャーも、最初は簡単なのから、倒して、ハンターを強くしていけば、今のも、いつか倒せる、はず……。」

 

「クリハンは特に序盤が楽しいもんだからな。防具どれにしようとか、武器をどうやって強化して行くとか考えると楽しいぞ。」

 

正直な所、これでゲームがつまらないと言う印象持たれるのはちょっと辛い。折角買ったんだ、もっと楽しんで貰いたいしな。

 

「だからさ、もう1回やろうぜ!」

 

さぁ、どうだ……?

 

「何言ってるのよ相良君、当たり前じゃない!もうクエスト貼ってあるから早く早く!」

 

「やられっぱなしで終わるなんて有り得ないもんね!」

 

………良かった良かった。

 

「ははっ、次はやられるなよ?」

 

「そう言う相良君だってさっきやられてたけどー?」

 

「ねー?」

「ばっか!あれはお前達の巻き添え食らっただけで……。」

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

明くる日も明くる日も、4人はクリハンをやり続けた。

 

出撃から帰ってきて、休憩時間や終業後に一狩り。執務を急いで終わらせて一狩り。

 

「お疲れ様です大淀さん!これ、先日の演習結果です。」

 

「お疲れ様です大淀さん。」

 

「あら、吹雪さん、赤城さん、ありがとうございます!確かに受け取りました。」

 

「にしても、最近の提督、いつにも増して熱心にお仕事なさってますね。何かあったんですか?」

 

「私も分かりませんけど普段からこれだけ熱心に執務してくれればいいんですけどねぇ……。」

 

「そう言えば、初雪ちゃんも凄い頑張ってるんですよ!この間も出撃でMVP取ってきたんです!」

 

「確かに初雪さんの成長は目覚しいですね、この演習でも成果を上げてますし。」

 

「……空母でも飛龍さんと蒼龍さんは伸びてきましたね。集中力が高まったというかなんというか……偶に不思議な動きをしてる時もありますが、彼女達なりに考えて行動してるということなのでしょうね。」

 

「よーし、私も初雪ちゃんに負けないよう頑張らないと!でもあんまり根詰め過ぎるのも良くないと思うので司令官にお茶入れてきますね。」

 

「なら私も一緒に行きましょう。さっき間宮さんにお茶に合うお菓子を頼んで置いたんで、吹雪さんと赤城さんもご一緒に如何ですか?」

 

「えっ!?いいんですか!?」

 

「はいっ!楽しみですっ!!」

 

「赤城さん、お代わりは無しです。」

 

「……はい。」

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

クリハンの道は辛く過酷なものだった。

 

二日目……

 

「きゃ〜!!ポケポケ装備可愛い〜!!見て見て相良君、ゴロ太もお揃いで可愛くない!?」

 

「骨!!野性味溢れる骨装備!!多聞丸もワイルドでカッコイイぞぉ〜!!」

 

……楽しそうで何よりだ。あ、因みに俺の初期装備はイロア装備一択です。

 

「やっぱり、ハンマー、最高……。」

 

初雪の奴、よく頭に張り付いてられるな……。俺ハンマー試したけど無理だったわ。めっちゃスタン取るやん……どうなってんのその技術。

 

四日目……

 

「……やっぱり、アナンジャフと戦うなら火耐性強い防具が欲しいよね。」

 

「となると、レオレイア、辺りが……。」

 

五日目……

 

「うぁー棘が全然出ない!」

 

「俺も尻尾が足りねぇ!もう1回だ!」

 

一週間後……遂に……

 

「やった……。」

 

「倒した…んだよね?」

 

倒れ込むアナンジャフと画面に映るクエスト成功の文字。

 

「あぁ、倒したんだ。今度はお前達の力で……。」

 

「おめで、とう……。」

 

「「うぅぅぅ〜……やったぁぁぁーーー!!!」」

 

抱き合うようにして喜ぶ二人。

 

「おいおい、まだアナンジャフを倒しただけだ。クリハンはまだまだ先があるぞ?」

 

「次は、上級、難易度が上がってくる……。」

 

「……そっか、そうだよね!よし!蒼龍、次のクエスト行くよ!私、レオレウスの大剣欲しいんだ!」

 

「私はレウギエナの防具が欲しいな!相良君、初雪ちゃん手伝って貰ってもいい?」

 

「もち、ろん。」

 

「構わないぜ。俺もレオレウスとレウギエナの太刀作りたいし。」

 

 

 

そして二週間後……

 

「……よっし、今日の書類終わりっと。叢雲〜もう今日の仕事無いよな?」

 

「ちょっと待って……えぇ、今日はこれで終わりね。どうしたのよ?最近熱心に仕事しちゃって?ヤバいものでも食べた?」

 

「食ってねーよ!さっさと仕事終わらせて悪いか?」

 

「いーや、むしろ今までもそうしてくれた方が私も助かったんだけどね。」

 

うるさいやい。

 

「ところで、早く終わったなら久しぶりにクリハンやりましょうよ?そろそろ発掘ランス欲しいし。」

 

「あーそれなんだが……。」

 

「?」

 

話そうとしたその時、執務室の扉が開き、

 

「提督〜!執務終わった〜?」

 

「早く次のクエストやろうよ!!……あ、叢雲ちゃんおつかれ〜!」

 

「お疲れ様……クエストって、二人もクリハンやってたの?」

 

「うん、提督のオススメって事で最近始めてね〜。今ランク8なの。」

 

「それで提督にも手伝ってもらってるって事!そしてその口振りだと叢雲ちゃんもやってると見た!」

 

「えぇ、やってるわよ。あ、ならこれから4人でやらない?手伝うわよ?」

 

「あー……ゴメンね叢雲ちゃん、実は初雪ちゃんもいつも手伝ってくれてて……。」

 

「あー……なるほど、4人までだからね。」

 

ここで使えるあの名言!!ここで使わずいつ使おうか!?

 

「悪いな叢雲、このゲーム、4人用なんだ。」

 

「アンタはそれが言いたかっただけでしょうが!!」

 

決まったと思った。後悔はしていない。

 

「まぁ叢雲、冗談だ冗談。もうすぐラスボスだからそれ終わったら3、2でクエスト回そうじゃん。こいつらの2人の装備作るの手伝ってやってくれ。」

 

「あーOK。なんかそんな話してたら初期の頃が懐かしいわね……私も作り直そうかしら?」

 

「いいんじゃね?早く追いついてきてくれよ。」

 

「そこは手伝うとか言いなさいよ!?」

 

 

その後、5人で消灯時間過ぎてもクリハンをやってた為、大淀さんと間宮さんに怒られたとかなんとか……。

 

ゲームは程々にね、妖精さんとの約束だよ?

 

『間宮さん、お願い、します……っ!明日からは、消灯時間までに寝ます、から……っ!コントローラーを……。』

 

『待って淀姉さん、芝刈り機は流石に待って……待ってっ!!ストップ!!』

 

 

 




今回のポルノグラフィティ替え歌後書きはお休み致します。次回は書きますよ!

仕事神よ〜!!鎮まりたまえ〜!!


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就活戦争27日目

た、台風……。

仕事休みにして……。

なんて事は許してくれない会社、どうも狛犬太郎と申します。

そろそろ夏休みの話もでてき始めた頃でしょう。

相良君は遂に五連休を貰えたらしいのでどこか行くらしいです。

そして今回は新たな艦娘適正者が見つかる!?

あれは誰だー!?誰だー!?誰なんだー!?

人気投票1位の方では無いのであしからず。

それでは本編どうぞ。


時は7月後半……気温はぐんぐん上がり連日真夏日が観測されるようになった。

 

俺は明石から貰った大本営実印付きの休暇届でとある場所に来ていた。

 

え?そんな5日も休んでて良いのかって?大本営から各鎮守府交代で休めってお達しが来てんのよ。

 

だから今は舞鶴第1鎮守府と第3鎮守府が俺らの担当区域もこの5日間担当してくれてんのさ。

 

同様に艦娘達も5日間の休暇が与えられた。実家に帰った奴、仲のいい仲間と旅行に行く奴、そのまま鎮守府に残って過ごす奴とそれぞれだ。

 

だが俺の場合行先は既に指定されている。まぁ明石……もとい明希姉の仕業だろう。休暇なんだから好きな所に行かせろと言いたいのは山々だけど、休暇届の行先欄に書かれていたのは俺の爺ちゃん婆ちゃんが運営する小さな旅館。

 

まず京都まで電車で移動、そこから新幹線で東京まで、そこからまた電車に乗り換えて2時間ほどそこから更にバスで移動……距離的に結構移動しなきゃ行けないのが大変である……。

 

そんなんだから昼頃出たらもう夕方ってに笑っちゃう。

 

この行先を見る前までは正直どっか出かけないで部屋で寝たいと言う感情が脳内円グラフで八割を占めていたが、よくよく考えたら鎮守府で寝ようとしたところで誰かが俺の部屋に突入してきてどっか行きたいだ、何かしようと引きずり回されるのは確定……それならば、明石が用意した爺ちゃん婆ちゃんの旅館でゆっくりするのがありだろう、そう考えたのだ。

 

だから行先指定だったが全然嫌じゃなかった。

 

俺は親が色々ハッピーな方々だから爺ちゃん子、婆ちゃん子だったし、それに爺ちゃん達が元気かどうかも気になる所だしな。

 

何より嬉しいのは艦娘達が居ないという事、めっちゃ気楽だ。

 

いつもなら世間が思うオカン並みにオカンしてる初期艦様や最近風邪でダウンしてて、後日お見舞いに行ったら「僕だけ除け者にして楽しそうなことしてたらしいじゃない…?」とハイライトオフにしてる奴とか、いつ参加してたのかお願い券を持って「こーちゃんに何お願いしようかな〜!」とぽいぽい言ってる奴とか、ドロ刑終盤で乱入してきた重雷装艦2人組とか特にヤバいのは大本営からおいでになったダークホースでもある元帥の娘さんとかエトセトラエトセトラ……。

 

そんな奴らが居ないと思うだけであぁ^〜心がぴょんぴょんするんじゃあぁ^〜。

 

……ん?これって、脱走のチャンスじゃありませんこと?

 

艦娘は誰も居ない、俺一人の旅館、お金も着替えもまぁまぁある…………行けるやんけ!?

 

まぁ待て落ち着け俺よ、まだ焦る段階じゃない。まずはゆっくり温泉に浸かって疲れを癒し、最終日鎮守府に帰らずそのままドロンすればいい……。

 

流石俺!最高かよ!

 

てな訳で久しぶりの爺ちゃん達だ。元気にしてっかな〜?

 

「爺ちゃ〜ん婆ちゃ〜ん、久しぶり〜航希だよ〜。」

 

入口の引き戸をガラリと開け中に入るとそこには……

 

「あ、遅かったですねこうちゃん、皆さんもう到着してますよ?」

 

………え?何故淀姉さん?Why?

「鎮守府の外でお泊まりなんて久しぶりっぽ〜い!」

 

「夕立、宿で騒いじゃダメだよ。」

 

「ここにアイツのお爺さん達が……。」

 

「ん?大井っち、何そわそわしてるの?」

 

「き、ききき北上さん!?な、なんのことですか!?」

 

いつもの面子もいらっしゃるんですがそれは……。

 

「お?こうちゃ……フフフ、よくぞここまでたどり着いたな我が弟よ……。どうやら四天王の1人を倒してきたようだな?奴は四天王の中でも最弱、四天」

 

「長いしくどいし面倒くさいわ!!!どうしてこうなってるのか説明しろや馬鹿姉!!!」

 

ギャグ漫画〇和は良いんだよ!!面白かったけど!!

 

「よよよ……こうちゃんに馬鹿って……。」

 

「早くしないとまた研究所の鍵没収するぞ。」

 

「はいっ!!順を追って話していきますと!!」

 

切り替えはえーな。

 

・五連休だってさ〜。

・皆どこか行く?

・うーん、特に無いわね……。実家は来月帰るし……。

・そう言えばこーちゃんはこの連休どーするとかみんな聞いてないっぽい?

・あー、聞いてないね、そう言えば……。

・はいはーい!こうちゃんのスケジュールならこの明石にお任せ!!こうちゃんはこの5連休なんと、私達のお爺ちゃんが運営する旅館に泊まることになってま〜す!

・うわびっくりした!明石さん、急に出てこないでよ……。

・それなら夕立もこーちゃんに付いて行くっぽい!お願い券持ってて良かった〜!!2人でご飯食べて向こうで遊ぶっぽい!

・っ!?!?!?!?!?!?

・ゆ、夕立?ぼ、僕も一緒に付いて行っていいかい?ほら、夕立の荷物とか準備する時手伝って上げられるしさ!

・ま、待ちなさい!夕立、私も行って良いかしら?ほら、間宮券上げるから……?

・ちょ、ちょちょちょっと待ってくださいよ!?

・皆さん集まって何してるんです?

・あー、大淀さん、実はかくかくしかじかでねー。

・あれ?皆さんは行かれないんですか?私はこうちゃんが絶対脱走を試みるから監視するため今から私達も連絡して部屋を予約して置こうと思ったのですが……もし、行く方がいらっしゃるなら一緒に予約しておきましょうか?

・「「「お願いします!!!」」」

 

ってのが真実ですけどそれを言うのは野暮なので、工作艦明石、端折ります!!

 

・5連休だってさ〜。

・皆どこか行く?

うーん、特に無いわね……。実家は来月帰るし……。

・そう言えばこーちゃんはこの連休どーするとかみんな聞いてないっぽい?

・あー、聞いてないね、そう言えば……。

・はいはーい!こうちゃんのスケジュールならこの明石にお任せ!!こうちゃんはこの連休なんと、私達のお爺ちゃんが運営する旅館で2泊3日にの旅行に行くことになってま〜す!

・あれ?皆さんは行かれないんですか?私はこうちゃんが絶対脱走を試みるから監視するため今から私達も連絡して部屋を予約して置こうと思ったのですが……もし、行く方がいらっしゃるなら一緒に予約しておきましょうか?

・「「「お願いします!!!」」」

 

「って感じでしたね!」

 

この事が明石によって端折られた真実だとは思っていないようです。

 

「嘘だドンドコドーンーーー!!!」

 

ざっけんな!!みんな好きな所に行ってきてくれよ!?

しかも淀姉さんめっちゃ警戒してるじゃん!!

 

……まぁそのまま脱走しようと考えてたけどさ。何でそんなに勘がいいの?怖いよもう。

てか淀姉さんには偽の情報を流してた筈なんだけどな……。まぁ大体こんなの流した奴なんて……明石からダイレクトか、青葉経由だろうな。むしろこのぐらいの奴しかしない。

 

やっぱ帰っ

 

「あ、因みにもう駅まで行くバスが無いんで帰れないですよ?」

 

は?まだ17時30分だぞ?一応人が住んでるエリアだろ?1本ぐらいあんだろ1本ぐらい。とりあえず調べりゃ1発よ……?

 

ハーイ、ナビじかーん!!

 

「うわ……マジで無いわ。」

 

「言ったじゃない、無いって。」

 

ウソ、私の爺ちゃん家、田舎すぎ……?ここで暮らしていくなら子供は自転車、大人はバイクか車必須じゃん。

 

実際田舎、本当に田舎。

 

すると奥から爺ちゃん婆ちゃんが現れた。

 

「おぉ、明希に航希、それに恵ちゃんもよく来たの。ほら上がった上がった。」

 

「皆様も遠い所ようこそお越しくださいました。長旅でお疲れでしょう?さぁさぁ、中へどうぞ。」

 

仲居さん達がササッと現れ、荷物を持つと部屋に運んで行った。

 

上がるとロビーに通され、お茶を出してもらいそのまま宿泊手続。

 

「にしても本当に久しぶりだねぇ……前に来た時は明希が艦娘になる前だったっけね?」

 

「そうそう!3年前だっけね!暫く来れなくなるからーってね。でもこうちゃんは来なかったんだっけ?」

 

「あぁ、1年はひたすら艦隊運用の筆記と実技に追われてた。」

 

「かーっ!すっかり大きくなっちまってよ!ちょっと前まで二人ともこーんなちっちゃかったのに。」

 

爺ちゃん婆ちゃんは小柄で笑顔の素敵な老人って感じの二人だ。例えるなら七福神に居そうな感じ。

 

「恵ちゃんもすっかり美人になってねぇ〜!」

 

「あはは、ありがとうございます源蔵さん、初枝さん。お二人共お変わりないようで。」

 

「あっはっは!まだまだ現役じゃよ!」

 

「航希も提督さんになったんだってね〜!って事は皆さん艦娘さんって事かしら?別嬪さん揃いね〜!」

 

「そうそう、口うるさゲシッ……く俺を支えてくれる優秀な部下達だよ。」

 

口うるさい連中って言おうとした瞬間に俺の後ろにいた叢雲に足を蹴られたのと淀姉さんからヤバめのオーラを感じ取ったので慌てて路線変更。

 

「それはそれは、いつも孫の明希と航希がお世話になっております。これからもよろしくお願いしますね?」

 

挨拶1番を取ったのは白露、は居ないが姉妹艦である時雨が1番になった。

 

「こちらこそ!僕は時崎雨音、艦娘では駆逐艦時雨と言うんだ。今日からお世話になります。」

 

まぁコイツ、普通にしてれば真面目なんだよなぁ……普通にしてれば。

 

「わ、私は南雲凜香です。艦娘としては駆逐艦叢雲、一応コイツの秘書艦をやってます。よ、よろしくお願いします!」

 

ん?叢雲さん噛み噛みじゃないっすか?あれれ〜?もしかして緊張しちゃってまゲシッ………何で分かったんだよ。

 

「はいはーい!私は立川夕香!艦娘としては駆逐艦夕立っぽい!!よろしくお願いしますっぽい!!」

 

こんな時も元気わんわんお夕立さん。

 

「……提督にはお世話になっております。大川井乃(おおかわめぐの)です。艦娘では重雷装巡洋艦大井と言います。どうぞよろしくお願いします。」

 

そう言えばこいつの本名そんな名前だったな……。と言うかこいつもちょっとソワソワしてる?

 

「こんにちはー、アタシは北見佳穂(きたみかほ)。艦娘ではアタシも大井っちと同じ重雷装巡洋艦の北上です〜、よろしくお願いします〜。」

 

お前はほんとブレないって言うかなんて言うか……。

まぁコイツの強みだよな。

 

「あらあら、ご丁寧にありがとうございます。さ、手続きも済みましたしお部屋にご案内致しますね。お部屋は2部屋でご用意してますので4人1部屋、3人1部屋でごさいます。」

 

「お?こうちゃん入れれば丁度4:4になるじゃない?

って事で…部屋割り決めね!!このくじ引きで勝負が決まる!!」

 

「決まらねーよ!!」

 

明石からくじを奪い取りデコピン。

 

「あだっ!?」とか言いながらうずくまる姉、やめろ見苦しい。

 

てか何お前らくじ引こうとしてんだよ!?これは没収したもの!!淀姉さんも落ち着いて!?くじ引きしないから!!

 

「大丈夫よ〜こうちゃん、小さい頃女の子の格好とかしたじゃな〜い?また女装、する?」

 

復活してくんな!!そして俺のトラウマを抉るな!!

そもそもアンタが無理やり着せたんだろうが!!

 

再びデコピンに沈む明石、コイツの生命力はG並みだわほんと。

 

この後、明石によって俺の小さい頃の写真がコイツらに公開され、いいように遊ばれたのは言うまでもない。

 

噂の女装させられた時の写真がこの場に無いのが唯一の救いだった。

 

「お、部屋一緒にするかい?一応出来るけど?」

 

「爺ちゃんも乗らんでいいから!!俺も部屋行くから部屋教えて!!」

 

「わかったわかった。まぁ予約順でみんな隣の部屋だけどね。……ところで航希、どの娘狙いじゃ?」

 

……………何言ってるんですこの人?

 

「は?」

 

「惚けんでもええわい、こんな別嬪さん達連れてきて何も無いってことはないじゃろう?」

 

「いや、ないです。」

 

「恥ずかしがりおって……恵ちゃんか?それとも最初に自己紹介した娘か?」

 

やめろやめろ!アイツらはそういう話に敏感なんだ!血の匂いを嗅いだサメの如くすぐ来るんだから!

 

「あのね爺ちゃん、一応アイツらは俺の部下、そう言うのは」

 

あれ?爺ちゃん居ないし。

 

ふと、後ろを振り返ると淀姉さん達に何か話しかけている。

 

「そう言えば皆さん丁度いい時期に来ましたのー!明日、地元の祭りの日なんじゃよ?もし、皆さんお時間があれば行ってみるのもありじゃと思いますよ?」

 

爺ちゃんが指さす先には壁に貼り付けられたポスターには夏祭り、花火大会と書かれている。

 

その言葉とポスターを見た瞬間皆の目の色が変わったのが分かった…。

 

「こーちゃんこーちゃん!!明日夕立と回るっぽい!!」

 

「さ、相良くん!僕と一緒に……。」

 

「ちょ、ちょっと待ちなさい!アンタがどうしてもって言うなら私も……。」

 

「おー、お祭りねぇ〜、こうちゃんアタシ綿あめ食べたーい。」

 

「き、北上さんが行きたいって言ってますから仕方ないですけど付いてってあげます!」

 

「勿論私と、ですよね?」

 

「おぉー、これが修羅場って奴ですね!こうちゃん明日は頑張ってね〜!!」

 

あぁ、面倒くさい事になった……。

 

後、明石はっ倒す。

 

 

その後、全員部屋に通された。俺は勿論一人部屋、だがさっき抵抗しなかったら四人部屋に通される所だった。部屋で寛いでたら隣の部屋から『こうちゃ〜ん、こっちの部屋においでよこうちゃ〜ん』という不気味な声(明石)が。

 

他の客にも迷惑になるからやめろ。

 

なので静かな場所で、奴らが居ない風呂に行こうとしたがそこで1人になれるとは言ってない。

 

「なーんで君らまで付いてきちゃうかなー?」

 

「提督さんが、中々構ってくれないからですよ。」

 

なんだよ構ってちゃんかよ?

 

現れたのはいつもの妖精さん達。前までは日向から貰った瑞雲(護身用)をみんなでシェアして乗っていたが、遂に全員分の瑞雲を揃えたらしい。

 

とりあえず話しかけてきた構ってちゃん妖精のほっぺをぷにぷにする。めっちゃ柔らかい。

 

「お風呂に行くのもいいけどさー、ちょっと外を散歩してからにしようよ!」

「良いですね探照灯妖精さん。」

 

……コイツも当たり前の様に付いてくるようになったよなぁ。

 

とりあえず大型探照灯を持ち歩くのはやめろ、せめて普通の探照灯にしろ。

 

「まぁでも散歩か……。久しぶりにこの辺り歩くのも良いか……。」

 

そもそもここに来たのが何年前だったかな……?

 

まぁいい、早くしないとすぐ暗くなっちまうし、辺りでブンブン飛び回ってるコイツらが喧しくて敵わん。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

聞こえるのはセミの鳴き声、カエルの鳴き声、なんかよくわからん虫の鳴き声と様々だ。見せつけてくれるね田舎。

 

夕暮れの田んぼ道を行くのは俺と回りを飛び回る妖精さん達だけ。

 

何もない。けど何もないのが田舎のいいところだろう。

 

「そう言えば源爺が風奏ちゃんが会いたがってたとか言ってたな……。今家に居るかな?」

 

「お?風奏ちゃんとは?」

 

「……確か従姉妹の方でしたったけ?」

 

妖精さん達が瑞雲をブンブン言わせながら尋ねてくる。

 

正直蚊や蝿と間違えて叩き落としそうになるから耳元で飛ばないで欲しい。

 

「あー、君はその時から居たんだっけか。そうそう、従姉妹の山屋風奏(やまやふうか)ちゃん。前あった時は……あの子が7歳とかだったから7年ぐらい前って所か……?」

 

俺も14だか15だかぐらいの歳だったはず。

 

「ってかもう7年も前なのか……そう考えると7年って早いもんだよなぁ。」

 

「提督さん提督さん、発言が年寄りですよ?」

 

「そろそろ育毛剤も考えてみては……?」

 

「これ見えます?」

 

探照灯妖精さんが腕をCの字にしてみせるけど見えるからそんぐらい。え?てか俺老けて見える?

 

「「………。」」

 

え?何で目逸らすの?え?そんな事ないよね?…マジ?

 

ま、まぁいい。今は風奏ちゃんだ。叔母さん、叔父さん、風奏ちゃんに挨拶していこう。家はすぐそこだ。

 

さらに歩くこと3分、目的地である山屋宅に到着。

 

呼び鈴こそあるものの、田舎では呼び鈴どころか日中、誰も居ないが鍵を掛けてない所もままあるのが現実。

 

なので軽くノックしてから名前を告げて戸を開ける。

 

「こんちわー!相良茜の息子の航希ですー!ちょっとご挨拶「…お兄ちゃんっ!!」ぐぇふっ!?」

 

バタバタと家の中から足音がして扉を開けた瞬間、緑のモフモフが突っ込んできた。

 

何とか受け止めたものの、鳩尾にダイレクトアタックされたので中々のダメージを食らった……っ!!

 

「…お、おう、元気みたいだな風奏ちゃん……。」

 

「…うん、お兄ちゃんがこっち来るって聞いてたから元気にしてた。」

 

俺来なかったら元気にしてないみたいな言い回しやめたげて。

 

その風奏ちゃんはそのまま俺の腰にがっちり掴まって離してくれない。無理に振りほどくのも気が引けるし、まぁいいか。

 

続いて出てきたのは叔母の奏恵(かなえ)さん。この人は俺の母、茜の妹に当たる人だ。

 

「あら、こっちに着いてたのね、いらっしゃい航希君。……にしても、立派な大人になったわねぇ〜!前会った時は中学生ぐらいだったかしら?」

 

「多分そのぐらいだったと思いますね〜。」

 

「お、来たか!おぉ〜航希君、立派になったじゃないか!今は海軍で提督やってるんだってねぇ〜!」

 

「あ、あはは〜、いや、そんな大したものでも……。」

 

早く辞めたいとか言いづらい。この人は叔父の和一(かずひと)さん。結構テンション高めだけど凄い優しい人だったのを覚えてる。

 

「なーに言ってるんだ、この国の平和を守ってるんだ、立派だよ!物腰もしっかりしてるし、これならこれからの日本も安泰だな!……航希君ならうちの風奏をやってもいいよ?」

 

「あはは……ありがとうございます。でも和一さん、風奏ちゃんに後で怒られますよ〜?勝手に決めないでって。」

 

「…大丈夫、私はお兄ちゃんと結婚するから。」

 

そうそう、大丈夫大丈夫…………!?!?!?!?

 

「ふ、風奏ちゃん!?ちょ、何言って!?」

 

「…ところでお兄ちゃん、お兄ちゃん回りを飛び回ってるのは何なの?」

 

「お?私達の事が見えるのですか?」

 

「…わっ、しゃべった……。」

 

ちょいちょいちょい待ち!色々一気に起こりすぎて訳分からなくなってきた、とりあえず……

 

「風奏ちゃんさ、この飛び回ってるのが見えるの?」

 

「…うん、見えるし、私達の事が見えるのか?って言ってたし……。」

 

あちゃー、こりゃ艦娘適性有りって事かよ……。どうしたもんか……。

 

「……風奏ちゃん、落ち着いて聞いてね、風奏ちゃんが見ているのは妖精さん。それで俺たち海軍ではこの妖精さんが見える人達を艦娘候補って呼ぶんだよ。」

 

「…つまり、私に艦娘の適性があるって事?」

 

「そういう事、前の適性検査では何も無かったの?」

 

「…特に何も無かった。」

 

うーん、本当に妖精さんってのは謎なんだよなぁ………この適性も何かきっかけがあって出るのかはたまた別の理由なのか……。

 

ともかく適性者を見つけて何もせず放置すると処罰を受けるんで聞くことは聞いておこうね。

 

「一応職務上こういう場面に出くわしたら確認しなきゃ行けないことがあってね、風奏ちゃん、艦娘になる気はある?」

 

「…うん。」

 

「即答っ!?いやいやいや、もうちょっとよく考えてから……。」

 

「…お兄ちゃんと一緒に居られるなら、構わない。」

和一さんも奏恵さんもヒューヒューじゃないですって!!

 

山屋風奏、後に駆逐艦山風となる人物である。




有給〜なんてララ〜ララ〜

信じない方がいい〜

実際に有給が取れるなら〜

どんな嘘でもつこう〜

五連休に魅せられた〜

僕のこの心〜

なお実際、「ちょっとこうちゃん聴いてます〜?」

「あぁっ!?夕立!そこでドロー4だなんて!?」

「フッフッフ……この勝負、夕立が貰ったっぽい!!そしてこーちゃんの膝の上に」

「ほら、そんなアンタにドロー4よ。」

「ぽい〜〜〜っ!?!?」

騒がしい連中の身悶えながら

淀姉さんentry!!

「あの〜皆さん、宿では静かにしてください。」

「「「………はい。」」」

「ちょっとこうちゃ〜ん、だから私はぁ〜」

それはまさに現実さ、お気の毒さま。

頼むから全員部屋に帰ってくれ……。



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就活戦争28日目

雨続き、これが明けたら炎天夏。

ずっと雨っていうのも勘弁してもらいたいですけど真夏の炎天下は考えただけでも暑くなってくる……。

学生の皆さん、夏休みまでもう一息!

社会人の皆さん、一緒に腹くくろう……。

では本編どうぞ。


ちょっと気が重いんだが、部屋に戻ってきた。

 

「お、やっと帰ってきたわね?一体どこまでほっつき歩いていたのよ?」

 

「いや、ちょっと親戚の家まで挨拶にな……。」

 

と言うかコイツら何で当たり前の様に人の部屋に居るんだ……。

 

「にしてはちょっと遅かったね。」

 

「この人の事だから脱走経路でも探してたんじゃないですか?はい北上さん、あーん!」

 

「こうちゃん、もう夜なんだからあんまり外をウロウロしないでください。こうちゃんの脱走経路なら把握済みですから諦めて下さい。」

 

さらっと淀姉さん俺の今後の行動を潰してくるのやめようよ。夢も希望もないじゃんか。

 

「まぁ遅れたのにも理由があってだな……とりあえず、俺の従姉妹に当たる子で山屋風奏ちゃんでーす。」

 

後ろからコソッと現れてみんなに挨拶する風奏ちゃん。

 

「……はじめまして。」

 

「「「……はじめまして。」」」

 

急な新キャラに大半はびっくりしてるなこりゃ。

 

まぁこの中で面識あるのは淀姉さんぐらいか?

 

「……確か昔1度お会いしましたね、覚えていらっしゃらないかと思いますが。」

 

「…何となく顔は覚えてるけど名前が……。」

 

「ですよね、では、改めまして私は淀川恵、艦娘大淀として海軍で働いてます。これからよろしくお願いしますね風奏さん?」

 

「…よろしくお願いします。」

 

その頃、面識ないグループではひそひそ話が開始されていた。

 

『……随分可愛いらしいのが出てきたね〜?男の人ってああいう子に保護欲唆られるんじゃなかったっけ?』

 

『私は北上さんの方が可愛いと思います。……でも親戚でしたよね?それなら妹的な感じじゃないんですか?』

 

『従姉妹、って言ってたね。幼なじみと同じように面倒なポジションだよ。見たところ距離も近いし、私達のライバルになる可能性も……。』

 

『…アンタ、さらっと大淀さんに喧嘩売ったわね……。分からなくもないけど。まぁ、従姉妹から好かれるって言ってもあれでしょ?男兄弟がいなくて親戚のお兄ちゃんが来て嬉しいって奴でしょ?流石にそれは……いや、ありそう。』

 

「さっきからみんなで何話してるっぽい?」

 

「ううん、何でもないよ夕立。」

 

「そうそう!なんでもないわ!……とりあえず座ったら?お客さんを立たせたままはまずいでしょう。夕立、湯のみ取ってくれる?」

 

「っぽい?」

 

今回のひそひそ話に夕立は参加させてもらえなかった。

後でボロが出ると困るからという事らしい。

 

「はー!良いお湯だった〜!あれ?他にも誰か来てる感じ〜?」

 

俺達が席に着いたと同時に明石が帰ってきたようだ。

 

「あ!?風奏ちゃんじゃない?久しぶり〜!!3年ぶりかしら〜!?」

 

「…………どうも。」

 

風奏ちゃんは挨拶もそこそこに俺の後ろに隠れてしまった。

 

うわぁ……すげぇ嫌そうな顔……。明希姉、風奏ちゃんに何したんだよ……?

 

「明石さん、アンタその3年前に何やらかしたのよ?」

 

「凄く嫌そうな顔されてるね。」

 

「え〜?普通にお話ししてただけなんだけどなぁ……?」

『『『多分そのせいだと思う。』』』

 

満場一致だった。明希姉の普通は普通じゃないから。

恐らく風奏ちゃんにマシンガントークを浴びせたり、過剰なスキンシップをしたんだろう……黙ってれば美人なんだけどなぁ。

 

「あ、そうそう淀姉さん、風奏ちゃんなんだけど、妖精さんが見えるらしいんだ。」

 

「…声も聞こえた。」

 

「あら、風奏ちゃんにも艦娘適性が出たのね。こうちゃん、ご両親と本人の了承は得ましたか?」

 

「……どっちも取ったけど、本当に良いんだな?今ならまだ変えられるぞ?」

 

「…問題無い。」

 

マジで風奏ちゃんも艦娘になるのかよ……。

 

さっきの言動もあるし、面倒な娘が増え……いや待て、まだ俺の鎮守府に配属になると決まったわけじゃないか。

 

それに適性が見つかったからってすぐ艦娘になる訳じゃない。そこから海軍学校で色々身につけて初めて艦娘になるんだ。

 

まぁ風奏ちゃんが正式に艦娘になるのは一年後、早くても半年はかかるだろう。

 

因みにここ10年の間に最速で艦娘になったのは淀姉さんらしいです。

 

知識は自分の親が海軍元帥だけあって問題なし、スキルも抜群、艦の気との同調率も非常に高い数値を叩き出した淀姉さんは2週間で艦娘になったそうです。

 

まぁ、偶に1ヶ月ぐらいで出てくる人もいるけど、これもそうそう無い。ウチの鎮守府で強いて言うなら加賀、赤城はその類だったらしい。赤城が1ヶ月、加賀が1ヶ月半と聞いた。

 

……ドロ刑の時の赤城を見てると果たしてそうなのかとも思ってしまうがね。とりあえず今は風奏ちゃんだ。

 

「じゃあ淀姉さん、確かに伝えました。」

 

「はい、確認しました。では風奏ちゃん、私が休暇から帰ったらと書類を準備して送りますね。多分来週までには封書で届くと思いますので。」

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「さて、夕飯も食べたし、提督はお風呂に行ったし……。」

 

大淀さんは大本営に風奏ちゃんの適性発現の報告、明石さんは酔い潰れたので隣の部屋に寝かしてきた。

 

残された僕達と風奏ちゃん。

 

「私は駆逐艦夕立っぽい!よろしくね!風奏ちゃんって呼んで大丈夫?」

「…うん、問題無い。よろしくね夕立。」

 

おぉ、夕立が行った。無邪気、純粋無垢の塊みたいな子だからね。流石だよ。

 

「僕は時雨、夕立とは同型艦で姉妹みたいなものさ。よろしく。」

 

「…よろしく。」

なんと言うか掴みどころのないというのが山屋風奏ちゃんの第一印象だ。

 

この娘はまだ本性を隠してるんじゃ……?とも思っている。

 

私達に続いて叢雲、大井、北上も挨拶していく。

 

「そう言えば風奏ちゃんはこーちゃんと従姉妹なんだよね?……小さい頃の風奏ちゃんとこーちゃんってどんなんだったっぽい?」

 

あー悪い顔、いたずらっ子の顔だね。後で相良くんに昔のネタを振る気満々って感じだ。

 

だけど僕も気になるので止めない。むしろもっとやれ。

 

「あ、それ僕も気になるな。提督、普段から自分の事話さないからさ……。それにこれから仲間になる風奏ちゃんの事も知りたいな。」

「どんなって……?」

 

「うーん……あ、思い出とか!?こーちゃんが面白いことした話とかないっぽい?」

 

「…お兄ちゃんとの思い出……。」

 

他の3人を見れば口には出さないもののチラチラ見たり髪の毛をいじったり、興味ないフリして聞き耳をバッチリ立ててるのが丸わかりだ。

 

少しでも相良君の情報が欲しいのは誰もが同じという事らしい。

 

「…お兄ちゃんは凄く優しくてカッコよくて、私に色んな事を教えてくれた。…私、一人っ子だからっていうのもあるかもしれないけど、本当に私のお兄ちゃんのような人だった。」

 

け、結構言うね。でも分かってるじゃないか。ふふん!だけど提督の魅力はそれだけじゃないんだよ!色んな事が出来てそうだけどちょっとズボラだったり、そこがまた支えてあげたいポイントだったり、この間も執務中にお茶入れに行ったら相良くんが居眠りしててその顔がまためっちゃ可愛いかったなぁ……

 

「…よそ見してて田んぼに落ちたり、好物の唐揚げを一気に食べて喉に詰まらせたりおっちょこちょいな所もあった。」

「あー……相良君らしいね。」

 

「こーちゃん食い意地はり過ぎっぽい。」

 

「…学校から出された宿題も『なんとかなる!!』って言ってギリギリまでやらなかったり……。」

 

「はぁ、アイツのサボり癖は昔っからだったってわけね……。」

 

叢雲から大きなため息が出る。

 

確かに書類を溜める癖はなんとかして欲しいものだ、手伝う人の身にもなってよ……。

 

「まぁでも風奏ちゃんがこーちゃんの事、お兄ちゃんって言うのも分かるっぽい。確かに夕立もこーちゃんはお兄ちゃんって感じがする。」

 

「あー、確かにねぇ〜。」

 

「言ってしまえば何ですが姉の明石さんが『アレ』ですから……。」

 

「アイツもまだまだお子様だけどあの二人のやり取りを見てるとどっち上なのか分からなくなるわよね……。」

 

明石さんは自由奔放過ぎるというかなんというか、ね……。

 

「…確かにお兄ちゃんはそそっかしいところもあるけど凄く優しい人。お兄ちゃんは私の救世主でもあるから。」

「へぇ〜その話気になるっぽい!」

 

「……あんまり聞いてて楽しいものじゃないよ?」

 

「そこまで言われたら気になるじゃない。でも、言いたくないなら言わなくても大丈夫よ?誰しも思い出したくない、言いたくないことなんてあるものよ。」

 

大井がそう言うと風奏ちゃんはぽつりぽつりと語り始めた。

 

「…初めてお兄ちゃんと会ったのは私が6歳の頃、あの頃は家がこんな田舎にあるのが凄く嫌だった。」

 

………。

 

「…歳の近い子は近所にいない。小学校の友達と遊ぼうにも山一つ越えないと行けない。お父さんお母さんも仕事で居ない。遊んでくれるのはこの旅館の源じぃと初さんや中居さんが空いた時間に遊んでくれたぐらい…。私は1人お人形やお手玉で遊ぶ毎日……。」

 

風奏ちゃんは目尻に涙を浮かべながらも続ける。

 

「…そんな毎日が続き、夏休み、お兄ちゃんがやって来た。…お兄ちゃんが私を孤独の牢屋から連れ出してくれた!毎日お兄ちゃんと一緒に遊んだ!川で釣りもした!夏祭りにも行った!花火も見た!本当に毎日が楽しかった!」

 

「……でも何事にも終わりは来ちゃう。お兄ちゃんは夏休みが終われば帰ってしまう。…そしたらまた私は一人ぼっち。でもお兄ちゃんは次の夏休みも来てくれた。その年の終わってしまっても次の夏休みが楽しみだった。」

 

「…だからお兄ちゃんが海軍学校に行くことになった時は凄く悲しかった。」

 

そう、海軍学校に入学すれば遠出するの事は難しい。学校から泊まりで出れるのは三が日とお盆ぐらいだからね。だから実家が遠い人なんかは帰らないという選択をする事もしばしばある。

 

「…でもお兄ちゃんはまたいつか必ず来るからって、そしてその約束を守ってくれた…7年も待ったけどね。」

 

確かに風奏ちゃんの一番楽しく、一番寂しかった相良君との思い出だったのだろう。

 

「…この7年間、私も艦娘になれればと思ってた。そしてようやく、その願いが叶った!これからはお兄ちゃんと一緒に居られる。近くには艦娘の仲間もいる。もう一人ぼっちじゃないんだって!今はまだだけど……。」

 

「何言ってるっぽい風奏ちゃん、風奏ちゃんはもう夕立達の友達っぽい!」

 

「……え?夕立ちゃん達と私は、もう、友達……?」

 

風奏ちゃんはポカンとした顔で私達を見つめる。

 

「当たり前っぽい!みんなでお話ししてお菓子食べればもう友達っぽい!」

 

「うん、そうだね。風奏ちゃんが正式に艦娘になったら友達どころか僕達の姉妹になるかも!」

「友達……姉妹……。」

 

「そうだ!風奏ちゃん、明日、夕立達と一緒に遊ぶっぽい!昼は川遊び、夜は夏祭りに行くっぽい!わたあめ焼きそばたこ焼きチョコバナナ……うーん、どれも捨て難いっぽい!」

 

「…うん、うん行く。私も皆と、お兄ちゃんと遊びたい!わたあめも焼きそばもたこ焼きもチョコバナナも食べたい!」

 

「決まりっぽい!」

「夕立はそういうのでお金無駄に使うんだから程々にしなさいよ……。」

 

「うぐっ!?ま、まぁまだなんとかなるっぽい!」

 

「…あ、今の宿題ギリギリまでやらなかったお兄ちゃんっぽかった。」

 

そして暫く談笑して時刻は22時……事件は起きた。

 

「じゃあそろそろお開きにしようか。僕はもう一度お風呂に入ってから寝るよ。」

 

嘘である!

 

時雨はお風呂に行くふりをしてタイミングを見計らい、相良の眠る部屋で一緒に寝ようと考えているのだった!

 

「私は喉が渇いたから飲み物買って外のベンチで夜風にでも当たってくるわ。ここは星も綺麗だし。」

 

嘘ではないが虚偽である!

 

叢雲が自販機で飲み物を買って向かうのは外にあるベンチなどでは無く、勿論相良の部屋!相良の寝顔を堪能しつつ縁側で待機。適当なタイミングで物音を立て、相良を起こす。縁側で星空を見上げる少女というロマンチックな展開(ソースは叢雲愛読の少女漫画から)しようとしているのだ!

 

「じゃーアタシ達は部屋に戻りますかー。」

 

「北上さんと二人っきりの部屋が良かったなぁ……。」

 

嘘である!!

 

北上が戻る部屋は相良の部屋!途中、相良が起きて何か言っても「あー、ごめん部屋間違えちゃった〜。でも動くの面倒だしこのまま寝るね〜。」と誤魔化す気満々である。

 

そして大井、大好きな北上さんに便乗して相良の部屋に行こうとしてるのは明白。布団配置的には大井・相良・北上さんになると想像してるが大井としては相良・大井・北上さんにならないかなー?と期待してたりしている!

 

各々が私利私欲の頭脳戦を展開していたその頃……

 

「風奏ちゃんは今日お家に帰るっぽい?」

 

「…源じぃにお願いして泊めてもらえる事になった。だからお兄ちゃんの部屋で寝ようと思ってる。」

 

「あー!いいなー!夕立もこーちゃんと寝たい!風奏ちゃん、私も一緒に良い!?」

 

「…構わない。」

 

『『『『…………え?』』』』

 

これに焦ったのは残りの4人。

 

せっかく練った計画もこれでは台無しだ。

 

4人は瞬時に状況を理解した。まずやるべきはこの2人に釘を刺しておくことであると。

 

「駄目よ夕立、今日はアイツの休暇でもあるんだから。偶にはゆっくりさせてあげないと。」

 

「風奏ちゃんも寝るなら僕達の部屋で寝るといいよ。ちょうどこっちの部屋は3人だったからね。風奏ちゃんがいればぴったり4人だ。」

 

「それにほら〜、これから艦娘になるなら色々話せるし、多分駆逐艦だろうから夕立から色々聞けると思うよー?」

 

「それに提督とは明日遊べるし、提督と遊ぶなら提督にはしっかり休んでもらった方がいいじゃないですか?」

 

苦しい言い訳だが自分達の名目を保ちつつ2人を行かせない為にはこれしか無かった。

 

だがその程度で止まるような2人ではない。

 

「大丈夫っぽい!静かにしてそのまま寝るっぽい!」

 

「…お兄ちゃんには迷惑かけないしそもそも起こさないよ。じゃあ、おやすみなさい。」

 

サッと部屋を出ていく2人。

 

「ちょ、まっ!」

 

慌てて部屋を出るとそこには……。

 

「………大淀さん、何してるっぽい?」

 

相良の部屋の前に立っている大淀さんがいた。

 

「あら、夕立ちゃん。こうちゃんがちゃんと寝ているかどうかの確認をね。」

 

嘘である!!この海軍元帥の娘さん、堂々と部屋に忍び込んで相良と一緒に寝ようとしていた所だったのだ!

(暴れられた時用の睡眠導入剤と手錠は常備。)

 

結局の所、全員が全員、似たような事を考えていたわけだったのであった……。

 

妥協案で誰も提督の部屋に行かない(と言うかお互い牽制し合って行けない)ことになったとさ。

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

※ここから先は彼女達がもし相良君のお部屋に行ってたらのifストーリーとなります。(実際は誰も行けなかった。)

 

 

 

if① 時雨……

 

誰も見ていない事を確認して時雨は提督の寝ている部屋に入っていく。

 

鍵はどうしたかって?そこはいつも相良君の近くにいる妖精さんに頼んで開けておいてもらったんだ。(対価としてカステラをあげた。)

 

幸いな事にみんな普段の疲れが溜まっていたのだろう。おしゃべりした後、みんなすぐに眠ってしまった。

 

本当のことを言えば僕も眠い。だけどこんな時じゃないと出来ないことだってある。

 

「…ふふっ、可愛い寝顔。」

 

相良君の隣に腰掛け、彼の寝顔を見る時雨。

 

普段はおちゃらけてたり、大淀さんにビクビクしてたり

と大変そうだ。……まぁ、大淀さんの件は書類溜めた提督が悪いんだけど。

 

でも眠る時ぐらいはゆっくりしてもらいたいな。

 

「僕は艦娘、この国を深海棲艦から守る兵器だ。」

 

「……でも、それ以前に一人の女の子でもあるんだよ。だから好きな人が出来たって不思議じゃないのさ。」

「君が僕の好意に気付いてくれるのはまだまだ先かもしれない。ライバルも、多いし。でも必ず……必ず僕は、君を、振り向かせて、みせるから……すぅ…すぅ…。」

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

if②叢雲……

 

思った以上に事が上手く行く日だった。

 

時雨、大井、北上はお風呂へ。

 

夕立と風奏は部屋で寝ている。夕立ナイス。『風奏ちゃん、一緒に寝るっぽい!!』って言って引き止めてくれたからね。もし風奏がアイツと一緒に寝るとか言い出してたらどうしようかと思ってたわ。

 

とりあえず喉が渇いたのは事実、ロビー端にある自販機でレモンチューハイを購入し一口飲む。

 

滅多にお酒を飲まないが今日は飲みたい気分だった。

 

まぁ明日仕事がある訳でもないし、1杯飲んだぐらいどうって事はないでしょう。

 

時間は有限なので早速アイツの部屋に向かうとしようかしら。

 

そして2分後、部屋の前に到着。一応、辺りを見渡して誰も居ないことを確認し、部屋に入る。

 

音を立てないようにゆっくりと歩き、眠る航希を確認する。

 

朝、航希を起こすのは叢雲の役目……という訳でもないが、いつもやっている。

それ故に航希の寝顔は別段、珍しい訳ではない。

 

しかし珍しくないから見ない訳では無い。むしろ、起こしに行く時、偶に5分ほど航希の寝顔を眺めている事もある。

 

「……いつもふてぶてしい顔してるのに、寝てる時は可愛らしいものね。」

 

叢雲は暫く航希の寝顔を眺めていたが思い立ったように立ち上がり、縁側の窓を開け、縁に腰をかける。

梅雨が明け、一気に暑さが増した。普段は暑いと思うが今日は風もあって、心地良い。

 

レモンチューハイを片手に星空を見上げる。

 

「……鎮守府から見る星空も良いけど、ここもまた素敵なものね。」

 

時折、風が叢雲の髪をさらりさらりと靡かせ、月明かりに照らされた銀色の髪は幻想的なものだった。

 

「……確かに綺麗なもんだな。」

 

「あら?起こしちゃった?」

 

「なんか物音がするもんでな。てかなんで俺の部屋に居るんだよ?」

 

「向こうはさっきまで騒がしかったのよ、だから静かな所に行きたかった訳、そんなとこよ。」

 

「ふーん、そんなもんかい。」

 

「そんなもんよ。」

 

航希も縁側に移動してきて椅子に腰かける。

 

「………。」

 

「………。」

 

沈黙。しかし、その沈黙もまた心地が良いものだった。

 

「なんだお前、酒飲んでるのか?珍しい。」

 

「……そうね、普段は誰かさんが面倒事を起こしてくれちゃうから中々飲む機会が無いのよね。」

 

「誰の事やら……俺ももう一杯飲み直そうかな。」

 

航希が立ち上がろうとすると叢雲からレモンチューハイを投げ渡された。

 

「……少しぬるくなっちゃったと思うけどあげるわ。飲むなら少し付き合いなさいよ。」

 

「流石初期艦様、気が利くことで……。じゃあ、有難く頂こうかな。」

 

「感謝なさい、今日は月も夜空も綺麗で気分も良いから特別よ?」

 

「あぁ、確かに綺麗だな……それじゃあこの月に」

 

「この夜空に」

 

「「乾杯。」」

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

if③北上、大井……

 

「……んで、なんだってわざわざこの部屋に来るわけなのよ君たちはさ?」

 

「いやー、こうちゃん寂しがってるんじゃないかなーって。」

 

「いやいや、もう寝ようとしてたんですがそれは。」

 

「まーまーいいじゃないですか、そーゆーわけでお邪魔しまーす。」

 

「邪魔するなら帰ってくれ。」

 

「ドリフネタ、伝わる?」

 

「さぁな。」

 

呆れたように、そして半ば諦めたような表情で私達を部屋に通してくれる。

 

「ほら、お前も上がってけよ。あれだろ、北上の暴走に巻き込まれたやつだろ?」

 

「……お邪魔します。」

 

「邪魔するなら帰ってくれ。」

「同じネタを2度使うのはウケませんよ。」

 

「1度目も滑ってるから気にすんな。」

 

私は上がるついでにお茶を入れる。

 

「ありがと大井っち〜。」

「ほら、提督もどうぞ。」

 

「おー、ありがとう。」

 

3人同時にお茶を飲んで一息。

 

「「「はぁ〜。」」」

 

「大井っちは将来良いお嫁さんになるよ。ね、こうちゃん?」

 

「ちょっ!?北上さん!?」

 

「あー、確かに。大井、家事も出来るし料理も上手い。」

 

「それでいて可愛いところもあるし、なんでも出来ちゃうか思えばおっちょこちょいな所もあるし。」

 

「あ、あの……二人とも、もう……」

 

「いやだからさ、この間秘書艦の時に夕飯作ってきてくれたのよ。そん時の飯が美味いのなんの。あの肉じゃがとか間宮や伊良湖に匹敵するぐらい美味かったぞ?」

「お、こうちゃんラッキーだねぇ。肉じゃがは大井っちの得意料理なんだよ。それを作ってもらえるなんて愛されてるねぇ〜!」

 

「え?マジ?それは……北上さん、北上さん、まずいですよ。」

 

「え?あ、まずいですねこれは……。」

 

「……二人ともそこに並んでください。」

 

大井っちが貼り付けたような笑顔でこちらを見つめていたのであった。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

if④夕立、風奏……

 

控えめなノックと騒がしい声で俺は目を覚ました。

 

「こーちゃん、開ーけーてー!」

 

「…夕立ちゃん、あんまり大きな声出しちゃ駄目。」

 

ドアを開けるとそこには想像通り夕立と風奏がいた。

 

「夕立、他のお客さんに迷惑かかるだろ。鎮守府じゃないんだから静かにしろ。」

「……ごめんなさいっぽい。」

 

「まぁ分かればいいんだ……んで、どうした?2人して俺に何か用か?」

 

「うん、お兄ちゃんと一緒に寝ようと思って。」

 

「っぽい。」

 

言われた通り声を小さめで話す2人。

 

「お前達部屋があるだろ?」

 

「それでもお兄ちゃんと一緒に寝たい。昔はいつも一緒に寝てたじゃない?」

 

「夕立、こーちゃんと風奏ちゃんのお話聞きたいっぽい。」

 

「うーん……。」

 

「……お兄ちゃん、ダメ?」

 

「……っぽい?」

 

うぐっ!そんな顔で見るなよ……。

 

「しょうが無い、今日だけだぞ?明日は自分の部屋で寝るように。」

 

「「やっ!……しー。」」

 

布団を敷いて早速ごろんと布団の上に転がる2人。

 

布団の配置は俺を挟むようにして夕立・俺・風奏という川の字になった。

 

夕立は最初楽しそうに話していたが、疲れていたのだろう、途中からすぅすぅと寝息を立て始めた。

 

俺も寝るかなーなんて思った頃

 

「…お兄ちゃん、起きてる?」

 

「あぁ、起きてるよ。」

 

「…こういうの、懐かしいね。」

 

「まぁ、7年も前だからな。久しぶりだろうよ。」

 

少しの沈黙。

 

「…お兄ちゃん、私、友達出来たよ。しかも沢山。」

 

「良かったなぁ。」

 

「…今まで早くお兄ちゃんが来てくれないかなってずっと思ってた。このまま寂しいのが続くんじゃないかって考えちゃうと寝れない時もあった。」

 

「……。」

 

「…でももう大丈夫、夕立ちゃん達がいる。LI〇Eも交換したからいつでも連絡出来るし。」

 

「……そう、か。」

 

「…でもね、思ったの。確かに一人ぼっちでは無くなった。でもお兄ちゃんと会えないのはまた別に寂しいんだって。」

 

「………う、ん。」

 

「…今度は待つ側じゃない、だから直ぐにお兄ちゃんの所に行くよ。」

 

「………すぅ……すぅ。」

 

「だからちょっとだけ待っててね、私の大好きなお兄ちゃん。」

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

if⑤大淀……

 

どうしてこんな事になっちゃったんだろう?

 

そう思うことがよくある。

 

私は彼に怯えて欲しいわけではなかった筈なのに…。

 

大淀がいるのは暗い部屋の一室、相良の部屋だった。

 

目の前でこうちゃんはすぅすぅと寝息を立てて眠っている。

 

「幸せそうな顔……。」

 

4月頃よりは表情が柔らかくなってきた。

 

逃げる逃げる言ってるけどなんだかんだでまだ提督をやってくれている。

 

……確かに私が妨害してるのもあるけど、多少は提督を楽しんでる所もあるようだし。嬉しい事だ。

 

このまま提督辞めるつもりは無いとか言ってくれないかなぁ……そしてあの時の約束も……いや、それは高望みよね。

 

変わらなければ生き残れない。何処かで聞いた言葉が今胸の奥に突き刺さる。

 

この戦いにはライバルが沢山いる、それも強者揃い。

 

「……まずは私が変わるべき、か。」

 

こうちゃんが跳ね飛ばした布団を掛け直す。

 

「……私も直ぐには変われないかもしれません、でもこうちゃんが昔みたいに私に笑顔を向けてくれるように、私もこうちゃんに真っ直ぐに笑顔を向けられるよう頑張ります。」

 

「ですから、もう少し待ってて下さいね?私も待ってますから……。」

 

一瞬だけ、こうちゃんの頬と私の距離がゼロになった。

 

大淀は部屋を後にした。

 

静寂に包まれた部屋でポツリと呟く声。

 

「……ならば俺も変わるべき、か。」

 

頬の感触を確かめながら航希は再び布団の中に潜り込んだ。

 




僕の名前を呼ぶのは誰〜?

遠いようで近いようで〜

部屋の外から聞こえたようで〜

「起きなさーい!!ご飯の時間よ!!ご飯食べたら川に行くわよ!!」

そうさ僕は眠たくて〜

眠たくて眠たくて〜

僕は此処に来たんだ〜なぁそうだろ〜?

過去がくれたのはヴォイス〜

明日に導くヴォイス〜

叢雲が近くにいる〜起き〜る〜よ〜

「……ねっむ」


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就活戦争29日目

梅雨、長すぎませんかね今年……。

水不足にはならなそうだけど日照不足で野菜が高いこと高いこと。

これから1週間も暑いのに晴れないという1番嫌なパターンですね。

だけどもうすぐ夏だ!休みだ!お出かけだー!!

艦これサーカス、行きたかったなぁ……。

時雨と満潮と山城出演とかめっちゃ見たかったなぁ……。

当たった人、本当におめでとう。

覚悟の準備をしておいて下さい。絶対楽しい。(羨ましい)



時は7月中旬、ジメジメした梅雨が明け、本格的な暑さ。太陽がジリジリと肌を焦がすこの感じ、梅雨は梅雨で嫌だけどこの焼けるような暑さも俺は苦手だ。

 

そしてここからもう一段階暑くなると考えたらしんどくなってくる。

 

更には耳をすまさなくても聞こえてくるミンミンジージーというセミの喧しい鳴き声。

 

暑さのオンパレードとはこの事か。

 

……でも暑い暑い考えてもしょうが無い、日本はそういうところなのだから。

 

まぁ、今日唯一の救いであるのが……

 

「「「川だーーー!!!」」」

 

そう、涼しい涼しい川遊びである。

 

俺達は朝ごはんを食べた後、宿の送迎車を借りて旅館から10分程の川までやって来ていた。

 

……海だーーー!!!なら分かるんだけど川で盛り上がるところが艦娘らしい。

 

一般的には川より海の方がテンション上がるかもしれないけど俺らは毎日腐るほど海見てるから……。

 

川も勿論あるんだけど、こういう感じに泳げるような川ではないからね……。

 

「わーい!夕立が1番乗りっぽい!!風奏ちゃん行くっぽい!!」

 

「…ちょ、夕立ちゃん……!」

 

「こら夕立ぃ〜!まだテントとか準備できてないんだから手伝いなさ〜い!!」

 

「明希、そっちのシート引っ張って。」

 

「はいよ〜、あー淀、引いたらその辺の石を上に置かないと風で飛ばされるわよ。」

 

楽しそうにテントの準備を始める奴ら

 

ただ大変なのは……

 

「はぁ……はぁっ……タンク、重っ……!」

 

荷物を運んでいる奴らだ。20リットルのウォータータンクを2つが中々しんどい……。

 

この川は駐車場からまぁまぁ距離があり、坂になっているのだ。

 

テント建設組と荷物運搬組に分かれて作業しているのだが荷物運搬がやたらと辛い気がする。

 

だがしかし、女子に荷物運ばせて男の俺が楽な事するのも流石に気が引ける……

 

「提督、大丈夫かい?少し持とうか?」

 

後ろから追いついてきた荷物を満載した時雨に声をかけられた。背中に背負ったドラム缶には大量の食材、両手には炭や火鉢を持っている。

 

……そういや、コイツらは艦娘だから艤装使えば超パワフルになるんだったわ。

 

まぁ、今更か。

 

でもそこは男の意地というものがあるので重くても持って行く。

 

「いや時雨、お前もそこそこ持ってるだろ。大丈夫、もうそこだ。」

 

「僕は艤装使ってるし、アクアシューズだから足元も大丈夫だけど……無理しないでよ?提督はビーチサンダルなんだから転ばないようにゆっくりでいいからね?」

 

「あいよ……さて、どっこらしょっ!……っとっと。」

 

確かにビーチサンダルで足元が安定しない。

 

あー、こんな事ならアクアシューズとか買っとけば良かったなぁとも思ったりした。

 

だが無い物ねだりをしても仕方が無い。タンクを両手にゆっくりと坂道を下っていく。

 

「へーい、こうちゃーん、大変そうだねぇ。」

 

「…そう思うなら手伝ってくれよ北上ぃ。」

 

続いてやって来たのは大きなスイカを抱えたハイパー北上様。ほんと重いなこれ、タンクを置いてちょっと休憩。

 

「北上さ〜ん、待ってよぉ〜!」

 

そして大井こと大井っちがやって来た。大井さん走ると自前のスイカ……いや、りんごが揺れ……

 

「……なんか一瞬イラッと来ました。提督、邪な事考えてませんでしたか?」

 

「滅相もこざいません。」

 

なんでこの人達こういう事に鋭いんですかねぇ…。

 

「大井っち大井っち〜。」

 

「なんですか北上さん?」

 

「もう持ってくる荷物無いよね〜?」

 

「……そう、ですね。」

 

「こうちゃんがタンク重いって言うから手伝ってあげてよ〜。あたしはスイカ持ってるからさ。」

 

「え……?」

 

「いや、大丈夫だって。もうそこだぞ?」

 

「まぁまぁ、そう言わずに手伝ってもらいなよ〜。」

 

「そういう事は大井に同意を得てからさ……。」

 

すると横からスッと手が伸びてきて置いておいたタンクを1つひょいと持っていった。

 

「べ、別に手伝わないとは言ってません!もう運ぶ物もありませんし、北上さんからのお願いなら断る訳にも行きませんから!あくまでも北上さんのお願いだからですからね!!……って重いわね、これ。……もうちょっと素直になった方が……」

 

大井は艤装を展開するとゴニョゴニョと言いながらスタスタと行ってしまった。

 

「あ〜勿体無いな〜大井っち〜……。まぁあたしらも行きますか〜。」

 

「一体何だったんだよ……。」

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

そして全ての荷物を川まで運び出した俺達、準備は終わったとなればみんな……

 

「きゃーっ!!やっぱり冷たいっぽい〜!!それっ!!」

 

「冷たっ!?夕立、やったね〜?お返しだよっ!!」

 

「冷たーい!!風奏ちゃんも……それっ!!」

 

「ひゃっ!?…夕立ちゃん、覚悟……。」

 

水遊びのお時間である。白露型である2人は水着も制服カラーのビキニタイプ、風奏ちゃんは白青緑を基調としたホルターネック。よく似合っている……まぁ面と向かっては言えないがな。

 

「全く、水遊びでこんなにはしゃいじゃって……折角の休みなんだからもっと静かに休み「叢雲にも……それっ!!」冷たっ!?」

 

叢雲も白と黒を基調とする水着。銀色の髪がよく映える。

 

「よーし明石さんも交じっちゃうぞ〜?この明石特製水鉄砲で……ちょいちょいちょい!?叢雲ちゃん、それはまだ早いってバズーカ水鉄砲は締めに使おうと………って、冷ったい!?……ちょっと淀!?」

 

「ごめーん明希、手元が狂っちゃった?」

 

「なんでそこで疑問形なのよ!もう許さないわよ〜?」

 

淀姉さんは青と緑のパレオタイプの水着、なんかめっちゃ大人っぽ……いやいやなんでもない。そして明石はライムグリーンの水着の上に何故かエプロンという……後で聞いてみたら仕様との事らしい……?

 

「北上さ〜ん、日焼け止め塗りましょうか〜?」

 

「あー、日焼け止めかぁ……面倒だし大丈夫だよ。普段海の上でも特にしてないしさ。」

 

「北上さん!女の子にとってお肌のケアは大事ですよ!ほら、パーカー脱いでください!」

 

「お、大井っち……顔が怖いよ……?」

 

「うふふ……北上さん、大丈夫ですよ〜。」

 

………あそこはあそこで大変そうだ、主に北上が。

 

格好は二人ともパーカーを羽織っているのだが、恐らく北上は白の水着、大井は黄色の水着……かな?

 

因みに俺は少し離れたところで釣りをしている。いや決してコイツらの水着姿を遠くから眺めようなんて………思っていたりいなかったり。

 

まぁ近くにいればどうなるかなんてご察しの通りだ。

 

まずは夕立、時雨、風奏ちゃんの辺り、まぁ確実にびちょ濡れにされ、その後に遊びに振り回される。

 

続いて叢雲の近く、あのよくわからん特大バズーカ水鉄砲の巻き添えを食らってびちょ濡れになる。

 

明石と淀姉さんの近く、水鉄砲を入手する代わりに背後に立つ淀姉さんから水を食らう。

 

北上と大井近く、一見安地に見えて1番危険な場所だ。恐らく近づいた瞬間、『北上さんの柔肌を覗き見る輩は酸素魚雷を喰らいなさいな!!』ってぶん殴られる未来が見えた。

 

となれば安全地帯は必然的にこの少し離れたところで釣りをする。そして近くによる為には魚を釣り、持ってきた食材と共に調理をする事、流石に飯を作っている所にやって来て暴れる奴は居ないだろ。

 

お、噂をすれば早速1匹目が釣れたぞ!

 

良いニジマスだ。この調子でどんどん……ズルッ

 

あ………。

 

幸せは自分から歩いていかないと得られないものだけど災難というのは向こうから歩いてくるものである。

 

俺の浅はかな考えなど災難の前には無意味なのだろう。

 

だから想像もしてなかった。

 

アイツらの特に関わりない所で俺は普通に滑って川に落ちた。

 

落ちる瞬間、向こうでバズーカ水鉄砲を構えていた叢雲と目が合った。

 

やっぱり『……あ。』って顔してた。

 

そしてドッポーン!と景気の良い音をたてて落ちた為、更にみんなの注目を集める事になったのだった。めちゃくちゃ恥ずかしかった。

 

……川にビーチサンダルは止めようね。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

「くっ!……ぷぷ、あははははっ!!アンタ、何にもない所でなんで落ちるのよ……ぷふっ、落ちる瞬間までばっちり見ちゃったし……あーヤバい、思い出し笑いしちゃう……ちょっと川に入って落ち着いてくる……ふふっ!」

 

案の定、バッチリ見てた叢雲や明石は大爆笑、夕立と風奏ちゃんからは無邪気に、北上達からはケラケラ笑われた。

 

そんな中、時雨は心配してくれた。こういう時そういう配慮がありがたい。ほんと優しい子。ちょっとだけ心の痛みが和らいだ。

 

結局、びちょ濡れになった俺は焚き火に当たりながらビールを飲んでいた。

 

あービール美味しい。荒んだ心には酒が効くって隼鷹が言ってた。実際それはやばいけど、今だけは何となくわかる気もしなくもない。

 

「帰りは私の運転でもお酒を飲みすぎないで下さいね?この後はお祭りに行くんですから。」

 

「流石に1杯で済ませるよ淀姉さん……。」

 

振り向こうとしたら頭にタオルが被せられた。

 

「いくら夏で、焚き火に当たっているとはいえ、そんな格好のままでいたら風邪を引きますよ?拭いてあげますからじっとしててくださいね?」

 

「ちょ、それぐらい自分でやるよ!?」

 

「いいですからじっとしててください。それとも……恥ずかしいんですか?」

 

恥ずかしいってのもあるけどちょっと恐怖もある。

 

まぁでも最近、淀姉さんのプロレス技もほぼ無くなった、というか脱走を試みても罰が良い所正座1時間か、執務室に連れてかれて一緒に書類やるぐらいになった。

 

まぁ、ここで俺が変な気を起こさなければ多分大丈夫だと思う。

 

「……なんか今失礼な事を考えましたね?」

 

「い、いや、そんな事は……。」

 

あー淀姉さんからの視線が痛い。

 

「……まぁいいです、ほら、拭くのでじっとしててくださいね。」

 

「……ういっす。」

 

ゆっくりと丁寧に髪の毛や背中をタオルで拭いてもらう。なんか、こういうの懐かしいな……。

 

昔もこんな風に……あの時もこの川だったっけ……?

 

それから……あぁ、川で遊んでじいちゃん家で風呂はいって、えーっと……夏祭りに行って……それから、それから……すごく眠くなってきた……。

 

「こうちゃん。」

 

記憶が混濁する中、頭を拭いてくれている淀姉さんが耳元でこっそりと話しかけてきたのを覚えている。

 

「明日の夏祭り、もし、こうちゃんが覚えているなら『あの場所で』待ってます。」

 

……?あの場所……?……っ!!そうだ公園で!!……誰かと……?あれは誰だったろうか……?

 

ハッと目を覚ますともう後ろには淀姉さんは居なかった。

 

辺りを見渡してみるとバーベキューコンロで肉を焼いてる明石と何か話しながら取り皿の準備をしている。

 

この状況だけ見ると淀姉さんがタオルで拭いてくれたのは夢なのではないかととも思えてくる。

 

夢か現か。真か幻か。ただ、あの時、あの淀姉さんの口振りから考えるならいつかの夢に出てきた女の子は淀姉さんの可能性が高い。

 

……しかし、俺はその女の子の顔が『全く』思い描けない。まるで『何かに記憶を操作されているような』……。

 

なのでその子が淀姉さんだという確証が出せないでいた。

 

不思議な気分だ。狐につままれると言うのはこういう感じなのかも知れない。

 

「ほんと、何なんだろうな……。」

 

ポツリと零れた呟きに答えるものは居ない。

 

もう一度声が聞こえ、答えを教えてくれるかもしれないと耳を澄ましても、聞こえてくるのは彼女達の楽しげな声とセミの喧しい鳴き声だけだった。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

川で遊んでお昼ご飯も食べた舞鶴第2鎮守府一行は川遊び最後のイベントスイカ割りに突入した!

 

「よーし、皆の者!!スイカを割りたいかーー!?」

 

「「「おーーー!!!」」」

 

「明希、手短にね。時間押し気味だから。」

 

「え〜、しょうが無いなぁ……まぁ、気を取り直してみんな大好きスイカを食べようと思いますが!!ただ切り分けるだけじゃあつまらない!!そしてここは川!!ならやる事は1つ!!スイカを割りましょーーー!!!」

「明希、長い。」

 

「え〜……。」

 

こうして川遊び最後のイベントスイカ割りが始まったのだった。

 

「ほいほい、準備完了〜!じゃあ順番は公平にくじ引きで行こうか。ちょちょっと作ってくるから待ってて〜」

 

ビニールシートの上にスイカを置いた明石はくじを作るためテントに戻って行った

 

「変な細工とかしないだろうな?」

 

「何よ〜こうちゃん私の事を疑ってるの〜?この正直がそのまま生まれてきたような明石さんだよ〜?ないない!!」

 

「胡散臭さで言うならこの中で一番だよお前!よく堂々と言えるな!?」

 

「まぁ、大丈夫でしょう。このスイカ割りのくじに細工して得する人がいるとは思いませんし……。」

 

否、そんな事は無い!!

 

スイカ割り、それは夏の定番イベントとも言えるものだ。

 

親や大人が管理するスイカ割りなら棒を渡す人、目隠しをする人は基本親が行う。

 

しかし!!これは特にそう言った役目を全部担当する人はいない。となれば彼女達が考えるメリット、それは……提督に目隠しをする役目!!

 

目隠し役は基本的にスイカ割りを行う人の次の人。

 

当然、何も考えずにくじ引きに挑む彼女達ではない。

 

『ここだ!』

 

『ここね!』

 

『ここしかない!』

 

「「「「くじなら作ってお(いたよ)(いたわ)(いたっぽい)(きました)(ぉー、大井っちもか〜。)!!!」」」」

 

……だからこそ、手の内が同じという事も有り得る事なのかも知れない。

 

各自、自身で細工済みのくじを作る。

 

くじ引きで出来る細工なんてこんなものなのである。

 

「よーしお前ら、細工済みって事だな。俺が作ってくるからちょっと待ってろ。」

 

「「「…………。」」」

 

「……まぁ、これで公平にはなりましたね。」

 

「「「……はい。」」」

 

「まぁ、そんなもんだよねぇ〜。」

 

因みに順番は提督が1番、2番時雨、以下省略で時雨は非常に喜んだ(影でガッツポーズしてた)が特に鎮守府のいざこざを知らない風奏がトコトコと航希に寄って行き、

 

「…お兄ちゃん、タオル巻いてあげる……。」

 

「お、風奏ちゃん、サンキュー。」

 

となってしまった。

 

艦娘ではないし、会って2日目の風奏に時雨も強く言えず、

 

「そ、そんな事って……。」

 

「分かる、よく分かるわ……。」

 

「時雨、元気出すっぽい……。」

 

「まぁ、お茶でも飲みなよ……。」

 

「こればかりは同情するわ、本当に……。」

 

と共に運を試したライバル達からの慰めを貰い、天国と地獄を味わった時雨であった……。

 

スイカは明石さんが元気よく叩き割ったとさ。

 

「よっしゃーーー!!!みんな〜!!スイカが割れたぞぉーーー!!!………あれ?なんでこんなお通夜みたいな雰囲気になってるの……?」

 

「明希、あなたの知らないところでは戦いが行われていたのよ。私も負けたけど……。」

 

「………はぁ?」

 

こうして川遊びは幕を閉じたのであった。

 




川に向かうの送迎車〜

オンボロ〜に見えるかい?

実際まぁまぁ古いんだよなぁ。しかもこの車マニュアルだし。

ハンドルはあるけれど〜ハンドルめっちゃ重いし、

因みにブレーキの効きも悪いけど、ブレーキが軋んで止まるのを諦めたら谷底まで真っ逆さまなのでNG

跳ね馬のように乱暴だけ〜ど

それでも遠くまで運んでくれ〜る〜

ただ必死に運転してたら〜

君(猿)が目の前に現れ〜た〜

Hey You(猿)〜

「邪魔だどけぇぇぇーーー!!!マジで危ねぇから退いてくれぇぇぇーーー!!!」


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就活戦争30日目

花火大会や夏祭りシーズン!

皆さん学生さんも社会人もそろそろ夏休みの時期ですね?

出かけますか?出かけましたか?

海に行ったり川に行ったりプールに行ったり遊園地に行ったりそれこそ祭りや花火大会で友達とではなく彼氏彼女さんとキャッキャウフフしたりしましたか?

最後が当てはまる方、今すぐお祓いに行きましょう。

来ーる、きっと来るー!青春を灰色に過ごした者の怨念の数々が来ますよ……。

許せねぇ……許せねぇ……って方、朗報です。

そんな荒れた心を沈めるゲーム、あるんですよ。
『ぼくのなつやすみ』って言うんですけどね、やりましょう。

夏を涼しく過ごしたい方、ホラーゲームを買いましょう。

バイオとかそういうのじゃなくて日本舞台ホラーゲームを。

呪怨とかイケニエノヨルとか夜廻とか零とかSIRENとか。

艦娘達とホラーゲームやったり怖い話するお話も書きたいのでいつか書こうと思います。

今年のほん怖、怖いと良いですね(ニッコリ)

では、本編どうぞ。


 

………もし、貴方があの事を忘れてしまっていても、私は忘れません。

 

 

 

貴方の為なら、私は神様にもう一度祈りましょう。

 

 

 

 

例え、この身が海の泡となって消えようとも……。

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

ひぐらしの鳴き声と、遠くから祭囃子の太鼓や笛の音が聞こえてくる。

 

夕方になり、昼間よりは幾分涼しくなっただろう。

 

そしてこれから始まるのはこの日を締めくくるメインイベントの1つ、夏祭りと花火大会だ。

 

……そして俺には確認する必要のある、淀姉さんとの『約束』だ。

『思い出せば提督を辞めても良い』と、この鎮守府に来る時に言われたが果たしてどういう事なのか。

 

あれだけ俺を引き止め、海軍に入隊させたのに思い出せば辞めて良いと言うのも今思えば不思議な話だ。

 

……もしかして、俺はこれから自身の、そして淀姉さんのパンドラの箱をも開けようとしているのではないだろうか……?

 

考え込む俺を他所にコイツらはテンションアゲアゲだ。

 

まぁそりゃそうだ。コイツらには全く関係ない話だからな。

 

「こーちゃん見て見て!!この浴衣可愛いでしょー!?風奏ちゃんと一緒に選んだっぽい!!そして風奏ちゃんのも可愛いから見るっぽい!!」

 

「…い、いや、私は……その……っ!」

 

「あぁ、二人ともよく似合っているぞ。夕立の浴衣姿なんて見ないから凄く新鮮だし、風奏ちゃんは小さい時以来で懐かしい感じもするな。」

 

ハハハと笑いながら2人を褒めてあげる。

 

「おぉ〜、こーちゃんたら夕立達に見とれちゃうっぽい〜?」

 

「…は、恥ずかしくなってきた……!」

 

「ハハハ、2人とも可愛いんだからどっしり構えて……いや、女の子がどっしり構えてるのは変か……いつも以上の笑顔でいてくれよな?」

 

そう言うと2人は恥ずかしそうに笑いながら

 

「っぽい!!」

 

「…うん。」

 

と返事を返してくれた。

 

「ごめん!ちょっと着付けに手間取っちゃって…!」

 

「まぁ、まだ時間あるし大丈夫でしょ?」

 

「おー、こうちゃんも浴衣じゃん。」

 

「北上さ〜ん!髪留めがまだですよ〜!」

 

おーおー、続々とやって来ました浴衣連中。

 

後は明石と淀姉さんか……お、噂をすればなんとやら2人もやって来たな。

 

「おっ待たせ〜っ!!いや〜浴衣着るのなんて久しぶりねぇ〜!お、こうちゃ〜ん、私達浴衣の美女、美少女に囲まれて夏祭りと花火大会なんて羨ましい限りねぇ〜!」

 

「サラッと自分を交ぜるな気色悪い。」

 

「酷い!!弟に罵倒された!!もう何かあってもこうちゃんの手助けしてあげないからね!」

 

面倒臭い姉だなぁ……まぁ、美人だと思うよ?黙ってればね……大事な事だからもう一度言うね?黙ってればね。

 

「はぁ〜、分かった分かった。とてもお綺麗ですよ、明希お姉さま。」

 

「むきーー!!馬鹿にしてーー!!淀からもなんか言ってよ!!」

 

「あら?こうちゃん、浴衣よく似合っていますね。カッコイイですよ。」

 

「淀姉さんこそ、よくお似合いですよ。素敵です。」

 

青の浴衣と黄色の帯、柄は……なんだろう?なになに?ハナキリンって言うのか、妖精さんありがとう。

 

ふと、視線を上げると淀姉さんと目が合った。

 

すると淀姉さんはニッコリと微笑む。

 

………いかんいかん!!変に意識してしまう!!一旦『約束』の話は忘れよう。

 

「なんだいなんだい!2人してノリが悪いなぁ!ま、いいか。ほら、そろそろ行こうよ〜!」

「車、取ってきますね。」

 

祭り会場は昼に行った川とは反対方向の山で行われる。

 

こちらもちょっと距離があるので運転を淀姉さんに任せて行くことになった。

 

なんか度々お願いして申しわけないな……。

 

そんな事考えてると後ろから時雨に声をかけられた。

 

「あ、あの提督……因みになんだけどさ、僕の浴衣、どうかな?に、似合ってる?」

 

「勿論だ、よく似合っているぞ。その藤の柄なんか素敵じゃないか?」

 

時雨の浴衣は黒をベースに白いラインと藤の花柄が散りばめられた浴衣だ。時雨の雰囲気によく合っていて俺はいいと思う。

 

「そ、そうかな?ありがとう。……えへへ、良かった。提督も、浴衣よく似合っているね。……その、カッコイイ、よ……。」

 

「……お、おう、ありがとう。」

 

なんだコイツ、そんな風に頬染めながら言われたら……不覚にも少しときめいちまったじゃねぇか……。

 

い、いや、空気に流されるな……祭りはそういう雰囲気になりやすいとはよく聞くけど、駆逐艦相手は不味いだろ。

 

完全に憲兵案件だからな、時雨もとい雨音の歳はまだ15……手を出そうものなら……15?逆に言えば来年になったらOKになっちまうのか……いや、OKでは無いけど結婚年齢引き上げはあと何年か先だから大丈夫とか言ってきそうだからなコイツ……。

 

というか仮に、艦娘とそういう関係になったら確実に海軍からは逃れられない。あくまでも俺は民間企業………あー就活中に淀姉さんに追いかけ回されてた頃が懐かしいな……。

 

……まぁ、序盤こそあれだったが、ここでの生活も悪い事だけでも無かったなとは思う。最近は割と自由な時間や休みもある。そして何よりも、間宮さんのご飯は美味しいし……。

 

鎮守府のみんなと関わってると面白いこともある。この間は休みに空母勢とカラオケ行ったり、鈴谷と熊野がゲームやりたいと言うのでVRでバイオ〇ザードをプレイさせてあげたり(良心)、何人か誘って人生ゲームしたりもした。

 

……いやいやいや!情に流されるな俺!お前は民間企業で働くんだろうが!?

 

「……ところでさ、提督、何か今……悩んでたりしない?」

 

「……悩みならお前達に振り回される事かな。」

 

「いやまぁ、それはごめんと言うか……じゃなくて、それにしても提督いつもより元気ないというかいつもと雰囲気が違う気がしてね……ちょっと気になったんだけど、何も無いならいいんだ。」

 

「……そうか。」

 

「大丈夫ならお祭りと花火大会を楽しもうよ!僕、かき氷が食べたいんだ!特にいちご味!提督は何味が好き?」

 

「……そうだなぁ、今はブルーハワイかな。」

 

「ブルーハワイかぁ……確かに僕も結構好きかな……そしたらさ、僕が提督の分も買ってあげるから半分こしようよ、どうかな?……?提督?」

 

「………あ?あぁ、大丈夫だ。」

 

「………よし。」

 

勢いで生返事しちまったけどなんて言ってたかな?まぁ多分大したことじゃないだろう。

 

にしても女はカンが鋭いといつも思い知らされてるがこんな事もピンポイントに当ててくるんだなぁ……。

 

……どうなるもんかね?

 

そう心の中で呟く。

 

「あーーー!!!行けない財布忘れた!!!みんなちょっと待っててお願いだから!!!」

 

「……分かったからさっさと取ってこい!!」

こうして俺は悶々とした気持ちのまま夏祭り会場へと向かうのだった……。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

時刻は17時30分、日も大分傾き、もう少しで太陽も沈む頃、舞鶴第2鎮守府一行は祭り会場に到着。

 

途中、明石が財布を忘れて取りに帰るというアクシデントはあったが、無事に会場に着くことが出来た。

 

いや〜、ほんと焦りましたよ〜!道の途中とかに落としてなくて良かった〜!

 

……忘れただけなら良かったですね、無くしてなくて、とりあえずナレーションに入ってこないでください明石さん、まだ出番あるでしょう?

 

ほいほーい、お邪魔しました〜。

 

……ナレーション妖精の身にもなってくださいよ、度々出演者がナレーションとか回想に入り込んでくるとか。特に明石さんは自由過ぎます。報酬の金平糖が減るじゃないですか全く……。

 

……さて、どんな時でも一悶着起きるのがこの鎮守府の運命。今も何か起こっているみたいですよ?

ではまたいつか。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

やってきましたはお祭り会場、見てくださいこの人集りを。この祭りの為に色んな所から人が集まって来るんですよ。久しぶりに祭りなんて来たけど、この感じ懐かしいな……。

 

提督、あれを見てみろ!!

 

えぇーーーっ!?!?

 

って誰がお祭り男だ。乗らせんなそして回想に入ってくんな明石。

 

てへぺろ。

 

後で殴る。

 

……馬鹿姉はともかく、祭り会場は既に多くの人で賑わっており、右を見れば金魚すくい、くじ引き、左を見ればたこ焼き焼きそば等々……祭りに来たんだなっていう気分になる。

 

かく言うコイツらもテンション爆上がりな訳でして……

 

「うわぁ〜!!屋台っぽい!縁日っぽい!風奏ちゃん、綿飴買いに行くっぽい!」

 

「…夕立ちゃん、走ると危ないよ。」

 

「あー射的かぁ……一丁やってみますかぁ。」

 

「きゃ〜っ!!北上さん、頑張って〜!!」

 

「うは〜!お祭りとか来たのいつぶりだろ〜?お、明石さんたこ焼き食べたいな〜?こうちゃ〜ん、買ってくれてもいいのよ?……チラチラ!そして……こうちゃんのお好みの子はどんな子かな〜?あの子かな?向こうの子かな?」

 

まぁ、大人しくしてくれたのは隣にいる時雨と叢雲と後ろにいる淀姉さんぐらいだ。

 

そして、とりあえずたこ焼き買ってやるから明石は黙ってようか。主にせっかく大人しかった隣と後ろにいる奴らの視線が痛いし片方はハイライト消しかけてるし、後ろでは黒いオーラが出てるのが分かる。

 

ともかく、このままコイツらを自由にさせておくと全員はぐれて大変な事になりそうだ。

 

さっきからうるさい明石にたこ焼きを買って1個口の中にねじ込んで黙らせ、綿飴を買って食べている夕立と風奏ちゃんを回収し、射的を楽しんでいる北上と大井の元へ向かう。

 

「いや〜、さすがにあのぬいぐるみは無理があったかぁ〜。まぁ、駄菓子が回収出来ただけでも良しとしましょうかね。」

 

「北上さんがこんなに頑張ったのに……あの屋台、インチキしてるんじゃないでしょうね?ちょっと一言…。」

 

「はい、集合〜。」

 

「お、こうちゃん、いつの間に。あ、こうちゃんにもあげるよ、サメジャーキー。」

 

サメジャーキーとはこれまたピンポイントに珍しいもの持ってきたな。まぁ結構美味いから貰うけど。

 

「北上さんとの時間を邪魔するのであれば提督でも容赦しません……。」

 

お前は言うこと一つ一つが恐ろしいわ。俺、一応提督だぞ?

 

「はーい!注目〜!」

 

お、こういう時のリーダーシップに定評のある叢雲さん!!

 

「とりあえず全員確認よ、はぐれた時の集合場所は祭り会場の入口、後全員携帯電話は持ってるわね?」

 

そうそう、集合場所の確認と連絡手段の確保は大事だよな。

 

「そして最後、自由行動もするのはいいけど、私達はこの脱走癖のある提督がいる事を忘れては行けないわ。だから交代で提督の監視をすることにしたわ。」

 

そうそう、脱走癖のある提督を…………は?

 

「確かにそうだね。」『叢雲ナイス!』

 

「まぁ〜今までのパターンならね〜。」『こうちゃんに何してもらおうかな〜?』

 

「し、仕方ないですね!」『そ、そう!仕方なくです!脱走するのは違反ですからね!』

 

「夕立と風奏は2人でコイツの監視をお願いね。それと夕立、風奏を連れてあんまり遠くまで行かないこと、いいわね?」

 

……話が勝手に進んで行ったけど今回脱走するのはパスだな。まぁ監視役がつかないわけないか。それに今回は淀姉さんの件があるしな、気になるし逃げる訳にも行かないか。

 

「叢雲ちゃ〜ん!順番なら任せて!こんな事もあろうかと明石さんくじを……」

 

「順番はそこの輪投げの順位で決めるから大丈夫よ。1位から好きな順番を選ぶ。同じ順位はジャンケン。

……後、わたしが言うのもなんだけと明石さんそのくじに細工してたの見たし、そんなの使わないわ。」

 

「あ、はい……すいません。」

 

馬鹿な奴め、自分の考えが上手くいかなくて悔しそうな顔してるぜこの姉!!

 

「おぉ〜、いいねぇ〜。」

 

「ま、まぁなんでもいいですけど……。」

 

「とりあえず、それならフェアですね。」

 

「うん、それで行こう。」

 

「夕立、負けないっぽい!」

 

「…私も、頑張る。」

 

この屋台の輪投げは1人6投、10から100までの棒が立っており、今回景品は関係無いが合計が100点以上で景品が貰えるというものだ。

 

まぁとりあえず順番は最早関係ないな。誰が来ようと脱走する気が今回は無いから純粋に祭りを楽しむとしよう。

 

そして種目は輪投げか……叢雲が輪投げをチョイスしたってのも最近のアイツは命中率が高かったからそこを信じてのこれなんだろうな。

 

まぁ運任せになると時雨とかの方が強いし、輪投げとなれば自身の実力次第だし、ましてやそこらの屋台なら仕込みも出来ない。いつも裏でなにか仕込んであるこいつらにしてはフェアな勝負だな。

 

……にしてもなんでこんな監視役の順番を勝負してるんだこいつら?

 

「提督さんと回りたいからですよきっと。」

 

「うお!?びっくりした……脅かすなよ妖精さん。」

 

「それはすいません、とりあえず皆さんの順番争いは提督さんとイベントに行く為ですよ。ほらこのチラシに。」

 

「ほ〜、この祭り中にちょいちょい挟まれてるイベントに行きたいのか。」

 

なになに?スイカ割り、流しそうめん体験、大食い対決、ビンゴ大会、盆踊り、ラストに花火大会か。はーはーまぁ色々あるなぁ……となるとスイカ割りは昼間やったから多分1番最初が不人気だろうな。

 

お、輪投げ勝負始まったな……最初は言い出しっぺの叢雲からか。

 

「なんか分かってそうでわかってない感じですねこれは。私としては皆さん素直になれないからああいう感じになってるけど実際は……って感じがしますけどねぇ」

 

「はは、そうだったら嬉しいけどその後面倒な事になりそうな予感しかしないな。まぁ無い無い、俺とアイツらは昔っからの腐れ縁みたいなもだからさ。」

 

「ソウデスネー……はぁ、素直じゃない人達と捻くれ者の仲介は大変です……。」

 

「ん?なんか言ったかー?」

 

何か妖精さんが「そうですね」以外にも言ってた気がしたけど祭囃子と参加者の喧騒にかき消されてしまった。

 

しかも「そうですね」も棒読みだった気がするし、気になるところだがまぁいいか。

お、叢雲の奴は360点か、まぁまぁ高得点だな。

 

俺も暇だしコイツらの後にやってみますかぁ〜。

 

因みにこの後提督さんが輪投げをやった結果、180点という微妙な結果に終わりました。提督、飴ちゃんGETおめでとうございます。

 

『うっさいやい!飴ちゃんが欲しかったんだよ!』

皆さんの順位はまた次回に、では御機嫌よう。




あれは遠い夏の日のシンキロウ〜

こだまする秘書艦の声〜

ほら 馬鹿笑い、道を行く人もみな

かつての提督候補 見違えたろ?


雨上がりの港で〜ぎゅっと目を閉じれば

遥かばかり見た〜あの日の青空〜

そうかあの日の僕は今日を見ていたのかな〜

こんなにも晴れわたってる〜

バーサス同じ空の下で逃げ出しましょう〜

あの少年よ〜こっちも戦ってんだよ〜

「航希は馬鹿何処だ!!航希!出てこい!!」

「キャア!?」

「何!?叢雲ちゃんどうしたの!?」

「吹雪!潮!司令官見なかった!?ちょっと目を離した隙にアイツまた執務ほっぽってどっか行ったのよ!」

「し、司令官なら、ホラーゲームを買うって町に行きましたけど……ほら、門のところ。」

「ありがとっ!こぉらぁー!!止まりなさーい!!」

「げえぇ!?叢雲!?もう来やがった!」

「あんなハリボテとスピーカーで誤魔化そうったってそうは行かないわよ!!さぁ、観念しなさい!今日という今日はきっちり仕事やってもらうわよ!!」

「嫌だっ!あんな書類と睨めっこしてるなんて我慢ならねぇ!あんな所に居られるか!俺はホラーゲーム買って部屋に帰る!」

「アンタそれ、死亡フラグ……あーあ、大人しく戻ってれば良かったものを……」

なんか叢雲が後ろをちょいちょい指さしてるけどなんだトンッ……よ………。か、身体が動かない……。

……この、首をトンッってするやつ、意識を残して行動を不能にするなんて芸当が出来る人は俺の知ってる限りじゃただ1人……。

「こうちゃん、また逃げ出したのね?うーん、あんまりしたくは無いですけど〜、こうも脱走するんであればちょっと考えないといけませんね……。」

勿論、淀姉さんだ。

「な、何をするんです……?」

「妖精さんに頼んで固定器具付きの椅子を作ってもらいましょう!」

「あーバ〇オ7やサイ〇ブレイク、OUT〇ASTにもあったあれね。」

「」

「こうちゃん、ちゃんと執務出来ますか?」

「……します。」

「そしたらそのゲームは私が買ってきておきますからそれまで執務しておいて下さいね。」

「……え?マジすか?」

「ちょっと大淀さん、あんまりコイツを甘やかしちゃダメよ?」

「よっしゃあ!頑張るぜぇ!」

…………その後、淀姉さんがゲームソフトを買ってきてくれた。ただそれは目的のホラーゲームじゃなくて恋愛シュミレーションゲームだった。しかもヒロインの子が妙に淀姉さんに似てた。一応やり切った。割と神ゲーだった。でも、俺がやりたかったのはホラーゲームだったんだけどね……。


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就活戦争31日目

お久しぶりの投稿。ドーモ皆様、狛犬太郎と申します。

皆様お盆休みは如何お過ごしでしょうか?

私は途中で仕事が舞い込んできました。(ニッコリ)

夏休み?知らんな。

遊べる時遊んだ奴が勝者だ……みんな、遊んどけ……。

コミケ参加者の皆様お疲れ様でした。金曜日に参加出来たあなた方は最高に運が良い。

1日目の以降に参加した方々、地獄を見ましたね。(遠い目)

欲しいものは買えましたか?金曜日に行けましたか?素敵な作品多かったね!!
私も行けませんでした!!委託で買おうね!!

では本編!!





1番手、叢雲……始

 

「やっぱりこういうのは言い出しっぺが1番になるもんなのかね?」

 

そう言うと叢雲はクスクスと笑いながら「かもしれないわね。ちょっと予定とは違ったけど、光栄に思いなさい?この私が最初にアンタとお祭りを回ってあげるわ!」と言い返してくる。

 

とりあえず2人でスタスタと縁日の屋台を見ながら歩き出す。

 

叢雲の浴衣は白に薄い紫の花柄の浴衣だ。

 

全く、この初期艦様は……まぁ、会った時と比べればコイツも表情豊かになったもんだよな……。

 

高校に入学したばかり頃の叢雲は周りを寄せ付けないプレッシャーを放ちまくって、演習の時も相手に合わせるなんて事はしない孤高の一匹狼みたいに尖ってたからな。

 

それがこうして仕事を手伝ってくれたり、身の回りの世話も焼いてくれたりする……まぁちょっとやりすぎというか、もうちょい放任してくれてもいいかなー?

 

現在の叢雲がどんな人かと言われると舞鶴第2鎮守府に所属する全員が口を揃えて『鎮守府のオカン』という。

 

姉妹艦の初雪からは『私のお母さんよりもお母さんっぽい』との事だった。

 

俺の脱走計画では淀姉さんの次に警戒すべきターゲットの1人でもあるので偶には大人しゲフンゲフン…ゆっくりして貰いたい。

 

「……アンタなんか失礼な事考えてない?」

 

……叢雲がジトーっとこちらを見てきたのでこの話はおしまい。

 

「い、いや、そんなことは無いぞ?」

 

「アンタっ……ま、いいわ もう……ほら、時間は限られてるんだからシャキシャキ歩く!」

 

「へいへい。」

 

「返事ははい、そして1回!!それと……」

 

前を歩く叢雲が急に立ち止まる。ぶつかる所だったぜ。

 

「ん?どうした?」

 

なんかソワソワしてるな……トイレ……いや違うな、俺の手と自分の手を交互に見て……あぁ、なるほど。

 

「あぁ、はいはい、はぐれた拍子に逃げられちゃ堪らないって事か。ほれ、袖でも掴んどけよ。」

 

「そっ、そうよっ!アンタはすぐに碌でもないこと考えるからね!もし、逃げたりしたら憲兵隊と大淀さんに報告するから!!そのつもりでいなさい!!」

 

憲兵隊と淀姉さんのコラボはヤバいですよ。

 

「わーったわーった!逃げませんよ今日は。」

 

「ふんっ!どうだか……とりあえずアンタ、手、出しなさい!」

 

「はいよ。」

 

5秒ほど叢雲は唸るように俺の左手を見つめる。なんか食われそうで怖い。

 

そして意を決し、俺を掴んできた……袖じゃなくて手を。

 

「……あのー叢雲さ「とっ、とっとと行くわよっ!」」

 

俺の言葉を遮るようにして叢雲は俺の手を引っぱり、ずんずん前を進んでいく。

 

叢雲の耳元が赤く見えたのは祭りの明かりのせいだろうか……。

 

それもそうだがそんなことよりも……

 

「叢雲そんなに急ぐと……」

 

「急いでなんか!……きゃっ!?」

 

そういうや否や、パキッという音と共に叢雲がバランスを崩す。

 

「うぉ危ねっ!?」

 

航希は慌てて繋いでいた手を引き、間一髪叢雲を引き寄せることが出来た。

 

「あ、ありがと……。」

 

「叢雲今日どうした?いつものお前らしくないぞ…?」

 

2人はまだ気がついていない様なので補足しておくと今の2人は航希が叢雲を抱き寄せる形で密着状態、人が大勢くるお祭り、その大勢のど真ん中で抱き合っていれば目立つのも当然である。

 

「お二人さん見せつけてくれるねぇ〜!」

 

「ヒューヒュー!!」

 

「ママー!熱々カップルだー!」

 

「あらあら、初々しくていいわねぇ〜。ほら、タクちゃん、迷惑になっちゃうからあんまり大声出さないの。」

 

「ばっ!?ちょ、ちょっといつまでそうしてるつもりよ!?離れなさい!!」

 

「い、言われなくても離れるわ!!」

 

バッと離れる2人、そこで叢雲は気が付いた。自分の履いていた下駄の歯がポッキリと折れており、少し後ろに転がっていた。

 

「急に転んだ理由はこれか……。」

 

「鼻緒が切れたら縁起が悪いって言うが歯が折れて縁起が悪いって聞かないし、まぁ大丈夫だろ。何より怪我が無かったから良しとしようじゃねぇか。」

 

「まぁそうね。それはさておき、どう移動したものかしら……。」

 

流石に壊れている下駄を履いて歩き回らせる訳にも行かないだろう。

 

しょーがないと一言言うと航希は叢雲の前でしゃがみこむ。

 

「祭りならその辺で下駄も売ってんだろ。ほら、おぶってやるから乗った乗った。」

 

「ちょっ!恥ずかしいわよそんなの!!」

 

「下駄が壊れて動けないお前の手を掴んで周りに見られ続ける方が俺としては恥ずかしいんだが……。」

 

再び周りを見渡す叢雲、屋台のおっちゃんや通りすがりの人、子供達と様々な人から見られていると理解した叢雲は壊れた下駄を手におずおずと航希の背中に乗っかった。

 

「よーし、掴まってろよ……にしても懐かしく感じるな〜。」

 

「……何がよ。」

 

「いやほら、俺が鎮守府来て最初の日、お前が鎮守府を案内してくれただろ?んで食堂に向かう時、おんぶしたってやつ。」

 

「……あー、あったわね。とりあえず恥ずかしいから忘れなさい。」

 

「それは難しい相談だ。友人と飲みに行って帰りにコンビニで明日の朝飯の食パン買おうとしたらいきなり拉致られて、気がついたら鎮守府に居た。」

 

懐かしい記憶が脳裏に浮かぶ。コンビニ店員に変装した淀姉さんがあんな所まで追っかけてきてるとか思う?

 

「……ものの例えだけどお前が初めて明石を見たとしてあのハイテンション馬鹿の顔を忘れられるかって話と同じよ。そんな日の出来事を忘れられると思うか?」

 

「……無理。だけどアンタは忘れなさい。」

 

ふぅー、むちゃくちゃ言ってくれるぜコイツぅ……。

 

こうして叢雲をおぶって5分ほど歩いていると下駄を売っている露店に辿り着いた。

 

「ほれ、着いたぞ。買ってやるから好きなの選べ。」

 

「え!?だ、大丈夫よ!それぐらい自分で払うから!」

 

「いーっての……じゃあまぁあれだ、普段執務を手伝ってくれる初期艦様へのお礼って事で。」

 

「……なんか今日のアンタ変ね。いつもならそんなこと言わないと思うけど……変なものでも食べた?」

 

「食ってねーよ!……まぁ、祭りの時ぐらいはって事だよ。……早く決めないと俺が適当に決めちまうぞ?」

 

「……そういう事ならアンタに選んでもらおうかしら?ちょっと選んでよ、この叢雲様に合いそうな素敵な下駄を。」

 

「なんだよ全く……俺のセンスにあんま期待すんなよ……?」

 

「じゃあ、期待しておくわ。私は目をつぶってるから選んだら教えなさい。」

 

やめてくれよ俺プレッシャーに弱いんだから……。

 

航希はじっくり一つ一つ下駄を見て選ぶ。

 

そして数ある下駄の中から1つを見つけた。

 

直感的にこれだと感じたのだろう。

 

露店のおばちゃんにお願いしてお勘定してもらう。

 

なんか察したようにおばちゃんがニコニコしながら小指を立ててきた。

 

違うんです、そういうんじゃありません部下なんです。

 

まぁそんな事も伝わるわけはなくおばちゃんから下駄を受け取る。

 

「毎度ありがとう、大切にするんだよ?」

 

おばちゃん、二重の意味を込めたその言葉は俺は聞かなかった事にするよ……。

 

まぁ、しない訳じゃないけどさ……。

 

さてここからが本題、この下駄が初期艦様のお眼鏡にかなうかどうか……。

 

「ほれ、買ったぞ。どっか座るところは……。」

 

近くにあったベンチに叢雲を下ろし、足元に下駄を置く。

 

「それじゃあ、司令官直々に選んだ物を見せて貰おうかしら!」

 

叢雲は閉じていた目をパチッと開き、足元に目を向ける。

 

「どうだ?正直、女物はよくわからんから……。」

「……意外ね。もっと微妙なのが来ると思ってたのだけれど、可愛らしいのが来たわ。」

 

どうやら、彼女のお眼鏡にかなったらしい。

 

俺が選んだのはヒール型で黒の漆塗りに桜色と赤い紐を合わせたの鞠柄の下駄だった。

 

「そいつは良かったよ……うっし、じゃあどうする?交代の時間まで適当にぶらつくか?」

 

「そうねぇ……あ、アンタちょっと向こうで売ってるりんご飴買ってきてくれるかしら?今度のお金は私が出すからさ。その間に私はこの下駄が履きやすいか試してるから。」

 

チャリンと叢雲から小銭を受け取る。

 

「あぁ、オッケーオッケー。んじゃちょっくら行ってくるからそこから動くなよ?」

 

ベンチから50メートルほど離れたりんご飴の屋台に向かい、屋台のおっちゃんからりんご飴を2つ貰う。

 

そして先程いたベンチに戻るとそこに叢雲の姿は無かった。さっきの下駄屋に居るのかと振り返るとそこにもいない。

 

「おいおい……叢雲の奴、動くなって言ったのに……。」

 

探しに行こうか迷っていると後ろからトントンと肩を叩かれた。帰ってきたか。

 

「叢雲、あれほど動くなって……おい……。」

 

振り返ると叢雲はそこに居た。ただ振り返るとほっぺたに指が当たるあれをしてきた。

 

「何ぼーっとしてるのよ、ずっと後ろに居たわよ?」

 

……意地の悪いことで。コイツ俺の視界の後ろに回り込んで遊んでやがった訳だ。

 

「まぁまぁ、良いじゃないの。それよりほら、どうかしら?似合う?」

 

正面向いて叢雲を見てみると先程購入した下駄と頭には狐のお面を付けていた。

 

「………。」

 

「航希?何か言いなさいよ?」

 

「あ、あぁ!よく似合ってるぞ!」

 

「アンタねぇ……もうちょっとあるでしょう……まぁいいわ。……それともさっきの間は、私に見惚れてた?」

 

「う、うっさい!違うわ!」

 

「……ぷっ、あははは!!アンタも可愛らしいところあるのね!」

 

くっそ〜なんか負けた気がしてならねぇ……。

 

……確かに見惚れてた所はあるけどよ、だって買ってあげた下駄を履いてくれてあの叢雲に狐のお面は反則だろ……。

 

そんな事を考えていたら腕を掴まれてぐいっと引かれた。

 

「ちょっ!?叢雲危ない危ない!!飴飴!!」

 

「ほら、行くわよ!グズグズしないの!時間は限られてるんだから!!」

 

彼女に腕を引かれるまま2人は祭りの人混みに消えていった。

 

提督さんは叢雲さんという狐に化かされたのかもしれませんね……。

 

まぁそれは叢雲さんも例外ではなく、提督という狐に化かされているかもしれません、2人共に耳まで真っ赤にしていたのですから……。

 

1番手、叢雲……終

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

2番手、時雨……始

 

その後、時雨達と合流し叢雲は夕立達に引っ張られる形でイベントの盆踊りに参加して行った。

 

「じゃあ次は僕だ。よろしくね、提督。」

 

「物は試しで聞くけど、今日は脱走する気はないって言ったら1人にさせてくれる?」

 

「無理だね。」

 

ばっさり言われた。まぁそりゃそうだよな。

 

「そんな事考えないで普通に祭りを楽しもうよ?こんな時ぐらいでしか羽を伸ばせないんだから。」

 

「切ないねぇ……帰ればまた書類地獄が待ってるなんて考えたら逃げたくもなるわ……。」

 

「その時は監視がてら僕も手伝ってあげるよ。」

 

「そりゃどーも。」

 

やっぱりこの鎮守府から逃げ出すのはまだまだ難しそうだ……。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

こうして俺と時雨はとりあえず露店を見ながらぶらぶらすることにした。

 

目に入って気になるものがあれば呼び止め、店に寄っていき、食べたり、遊んだりした。

 

……射的とかやったけど、時雨の奴めちゃくちゃ上手かった。

 

……俺も大学の講義で多少は銃を扱う事はあったから行けるかな〜なんて思ってたけど常日頃から海の上で主砲撃ってる訳だから上手いのかもしれない。

 

格好つけようとしたら向こうは色々取ってて、対して俺は何とか手に入れたよくわからんキーホルダーだった……何でキリンが主砲と魚雷発射管を装備してるんだろ?……キリン改ニ?何それ?

 

「あはは!中々面白かったね!」

 

「まぁ俺は惨敗だったがな。流石に艦娘と射的は勝てないか。」

 

「これ勝負だったのかい?」

 

「……まぁ、あれだ。男には負けられない物ってのもあったんだが……まぁそれはいいとして、次はどうするよ?また適当に回るか?」

 

時雨は「うーん……」と考え込む。暫くすると何かを思い出したように顔を上げた。

 

「そうだ!かき氷!提督、ちょっとそこのベンチで待っててよ!」

 

「お?おぉ、あんまり遠くに行くなよ〜。」

 

「すぐ戻って来るから〜!」

 

言葉通り時雨はすぐ戻ってきた。かき氷を2つ手に持ちながら。

 

「はい、提督の分。」

 

「え、いいのか?」

 

「このぐらいどうって事ないさ、ブルーハワイ好きって言ってたし、ブルーハワイで良かったかい?」

 

「あれ?俺、ブルーハワイ好きってお前に言ったっけ?」

 

「もー!お祭りに行く前にかき氷の話をしたじゃないか!忘れちゃったの?」

 

「……あー、すまんすまん。」

 

「とりあえず溶けちゃうから食べようか。」

 

「それもそうだな、頂きます。」

 

「頂きます。」

 

シャクシャクとかき氷を頬張る。ブルーハワイのシロップが適量かかってて良かった。偶に全然シロップかけない店とかあるからな……。

 

「……提督、僕との話を忘れてた罰としてそのかき氷、少し僕にちょうだいよ。」

 

「そりゃ、元々お前が買ってきた物だから幾らでも……。」

 

ブルーハワイのかき氷を時雨に差し出すが手で止められる。

 

「出来れば、あーんって食べさせて欲しいんだ。」

 

マジか、時雨の奴も大胆に来るなぁ……。

 

幸いここは通路から少し外れた場所、人通りも多くはなかった。

 

時雨がジーッと見つめてくるし、観念した。パッと終わらせよう。

 

「……分かった分かった。ほれ、あーん……。」

 

「あーん……うん、ブルーハワイも美味しいね。じゃあお返しに僕のいちご味をあげるよ、はい、あーん。」

 

「いや、俺は「あーん!」……はぁ、あーん。」

 

口の中にいちごシロップの味が広がる。これはこれで美味しい。

 

「いちごもいちごで美味いな……。」

 

「でしょ?もう一口あげるよ。」

 

そして、お互いのかき氷をあーんで食べさせてあげるという傍から見ても甘ったるい空間が暫く続いた。

 

2人がその事に気がついたのはかき氷が無くなってふと顔を上げてからだった。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

かき氷を食べ終えた2人は恥ずかしさを誤魔化すかのように歩きだし、すぐ近くにある神社の階段で腰を下ろした。

 

「……なんであんな恥ずかしいことを暫く続けていたんだろう俺は。」

 

「ま、まぁいいじゃないか。人の噂も七十五日って言うじゃないか。というか噂になる事もないと思うけどね。」

 

そうだ、忘れよう。さっきのを見ていたやつ、忘れろ。

そうすれば全て丸く収まる。

 

隣の時雨を見れば、先程までニコニコしていたのに今は神妙な顔をしている。

 

何か考えてるのかな?と思った矢先、時雨が口を開いた。

 

「……相良君はさ、この仕事と言うか、提督を辞めたいかい?」

 

………。

 

「確かに押し付けがましいとも思ってるし、大淀さんから無理矢理連れてきちゃったって言うのも聞いてる、僕としても罪悪感を感じてるんだ。……当の本人である大淀さんは僕なんかよりもそう思ってるんじゃないかな……。」

 

時雨の顔を見れば今にも泣きそうな顔をしていた。

 

「……誰にも言わないか?」

 

「勿論。」

 

確認を取り、一呼吸置いて俺は口を開いた。

 

「……辞めようとは思っている。」

 

「……そっか。」

 

時雨は悲しそうに微笑み、空を見上げた。

 

そこで相良の言葉は終わらなかった。

 

「だけど、最近それが分からなくなった。」

 

「……え?」

 

「確かに辞めたいと思ってる。朝は早い、仕事もめちゃくちゃある、休みも中々取れない、淀姉さんも……最近は優しくしてくれるけど、最初の頃は怖かった。」

 

時雨は黙って俺の言葉に耳を傾けてくれた。

 

「辛い事の方が多かったと思う。でも辛い事だけでは無かった。……楽しい思い出も沢山あった!飛龍達とゲームしたり、ドロケイしたり、みんなボロボロになりながらも海域を解放した時なんか達成感が凄かったし、紆余曲折あったけどお前達と京都市内やこうして田舎に遊びに来てる!……だからこそ分からない、俺はもう軍関係の仕事には就かないって思ってたのに……っ!」

 

自分の心の中の言葉を話す度に感情が制御出来なくなっていた。もしかすると、俺は泣いていたのかもしれない。

 

時雨は立ち上がり、しっかり10秒待ってから口を開いた。

 

「なら、今は分からないでいいんじゃないかな?」

 

そのまま時雨は俺の後ろに回り込み、そっと抱きしめてくれた。

 

「急がなくてもいい、ゆっくりで良いんだ。僕は相良君が答えを見つけられるまで傍に居るよ。例え、それが提督を辞めるという答えだったとしても、僕は傍に居る。笑って『また遊びにおいでよって』言ってあげるから……。」

 

「しぐ……雨音ぇ……っ!!」

 

そこで改めて俺は涙を流している事を理解した。

 

背中に雨音の優しい温かさを感じながら。

 

 

 

2番手、時雨……終




月の明かり頼りに歩き出した〜(もう夜)

おぼつかぬ足取り〜(ヘトヘトになり帰宅)

白い冬も青い夏もそっと踏み出した〜(就活)

いつの間にか迷い込んだ深い森(鎮守府)は
暗く湿ったまま止まった〜

苦しくて叫ぶ声〜 届か〜ない何を待つ?

内定? 合格通知? 救いを求め天を仰ぐ〜

『こうちゃん!!合格通知ですよ!!』

『海軍なんて絶対行かねぇからなぁぁーーーっ!!!』

……なんて事もあったなぁ〜。

それからあの鎮守府に来て色々あって……。

結局、俺はどうしたいんだろう……?

ここで提督を続けるか、辞めて民間に行くか……。

胸のモヤモヤが晴れない感じが気持ち悪い……。

俺は……。




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就活戦争32日目

4ヶ月?5ヶ月?ぶりの投稿でございます。

狛犬太郎と申します。

頭の中にストーリーが中々出来上がらなかったので
大分間が空きましたがひとまず、書き上がりましたので
投稿させていただきます。

次回も不定期になりますが、どうぞよろしくお願い致します。


3番手、北上&大井……始

 

時雨に話を聞いてもらい少しスッキリした。

 

あれからお互い無言で空を見上げて過ごし、時間になったので合流地点まで戻ってきた。

 

「お、きたきた。こうちゃん遅いよ〜。」

 

「北上さんを待たせるってのは何事ですか!」

 

「すまんすまん、時雨と空見てぼーっとしてたら時間ギリギリになっててさ…。」

 

「……は?」

 

「え、何それうらや……ゲフンゲフン、まぁいいよ大井っち、あたし達もその時間が回ってきたわけだしさ。」

 

「……そうですね、じゃあ提督、行きますよ。」

 

「おう、じゃあ時雨、夕立と風奏ちゃんを頼んだぞ。」

 

その件の2人は現在、すぐそこにある金魚掬いの屋台に夢中だ。

 

「うん、任してよ。……それと提督、もし、また何かあったら僕に話してよ。話、聞くからさ。」

 

「……ありがとな。」

 

なんやかんやでこの時雨と回った時間が名残惜しい気もしなくないと思っていた俺だが背筋に冷たいものを感じるのだった。

 

「こうちゃ〜〜ん???」「提督さ〜〜ん???」

 

嫌な予感を感じながら振り返ればすぐ後ろに大井・北上コンビが黒いオーラを放ちながら立っていた。

 

「ぬぉ!?びっくりした、脅かすなよ……。」

 

「提督、女の子を待たせるのは良くないよ。ほら、行った行った。夕立〜風奏ちゃ〜ん、二人とも調子はどう?……って、夕立!?取りすぎ!!取りすぎだって!!」

 

……風奏ちゃんはともかく、夕立の動向が心配になってきた。

 

ともかく、これ以上2人を待たせる訳にも行かない。あの二人は時雨に任せよう。

 

「すまん、本当に待たせたな。」

 

「……えぇ!本当に待たされました!」

 

「そうだね〜大分待たされたね〜。こうちゃん、これはこうちゃんの身体で支払ってもらうしかないようだ…。」

 

「き、きききき北上さん!?!?」

 

なんか一人勘違いしてる奴がいるぞ。誤解といて北上さん。

 

「……北上。」

 

「はいはい分かってますよー。でも待たせた分、残り時間はあたし達を楽しませてよねー。」

 

「か、身体で……提督の身体で……。」

 

全っ然分かってねーじゃん!!はいはい、じゃねーよ!!

 

「大井の誤解を解けっての!!分かりましたよ!!身体ってのは俺がエスコートしろってことだろ!?射的でもわたあめでも好きな所連れていきますよ!!」

 

「……へ?」

 

「おー、こうちゃん太っ腹ー。」

 

この2人と回るのは疲れそうだ……。

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

さて、エスコートする、と言い切ったは良いがはてさて何をしたらいいもんか……。

 

件の2人は近くの縁日の屋台でよくあるパンチボックス(番号を選んでその中身の景品が貰えるやつ)やらに夢中だ。

 

実際、この2人は俺抜きでも楽しめる筈だしな。

 

あれ?俺、いらない子?

 

なーんて思ってると不思議そうな顔をして2人が戻ってきた。どうせ当たった景品がしょぼいとか……またお前かボクカワウソ。

 

「こうちゃん、これなんのキャラか知ってる?」

 

「俺もなんなのか詳しくは知らないんだが、ボクカワウソとか言う奴らしい……。」

 

「謎だわ……。」

 

ここまでよく見かけると何かの縁を感じざるを得ない。なんなんだよボクカワウソって。

 

いや待て、コイツ魚雷を持ってるぞ……大本営、なんかこのキャラに1枚噛んでる感じですかね?

 

「物は試しだしさ、こうちゃんもこのくじみたいなやつやってみてよ。もしかしたらまた別のボクカワウソ?が出るかもしれないし。私達ももう1回引いてみよっか。」

 

「北上さんがやるなら次は私も引いてみようかしら……にしても何度見ても謎ね……。」

 

「みんなでやるのか……まぁ構わんけど、流石にもうないだろ……。」

 

1回300円なのでついでだからこいつらの分も払ってやった。

 

ーーーーー

 

 

「ほんとなんなんだよボクカワウソって……15種類+シークレットverが3つあるとか聞いてねぇよ……。」

 

俺と大井はそれを見て止めたが、北上は

 

「なんかやってるうちに可愛く見えてきた、ちょっとコンプリート目指すわー。」との事で諭吉を屋台のおっちゃんに渡して箱をパカパカ開けていた。

 

流石ハイパー北上様、謎感性だわ…。

 

てか何これ?ボクカワウソ専用のボックスなの?

 

主砲とか魚雷は分かるんだけどさ、俺が当てちまったシークレットverの1つであるボクカワウソ改(一航戦)とかもうカオス過ぎる訳分からねぇ。

 

「とりあえずどうするか……あの状態になった北上を動かすのは難しそうだし……かと言ってあんまり遠くまで行く訳にもいかんしな。」

 

近くの壁に寄りかかって隣で同じように壁に寄りかかる大井に話しかける。

 

「そうですね……あ、あそこにある綿飴でも食べません?」

 

「お、いいな。そうしよう。」

 

とりあえず北上に一声かけての近くの綿飴屋台へと向かう。

 

「さっきの所で出してもらったので今度は私が出しますよ。」

 

「別にそんぐらい気にしなくてもいいって。」

 

俺の財布を押し退けて、自らの財布を取り出す大井……財布を………

 

巾着をポンポンゴソゴソ、そしてパタパタと自分の至る所を叩く大井っち。

 

「お、おい、まさか……。」

 

ぽかんとした表情から一変、じわじわと目に涙を溜める大井っちがそこにいた。

 

「お、お財布……落としちゃった……。」

 

あー、やっちまいましたかぁ……。

 

「よし、ひとまず落ち着こうか。心当たりは?」

 

しかし大井は首を振るばかり。

 

「とりあえず、来た道を戻ろう。北上がいる店に落ちてるかもしれん。」

 

泣きじゃくる大井を連れて地面に目を向けながら来た道を引き返す。

 

道を戻ればさっきの店の少し先に祭りの本部があるからそこに届いているかもしれない。

 

少し歩いて店に戻ればそこには北上の姿が無い。

 

「まじかぁー、入れ違いになったか?」

 

スマホを取り出し北上に連絡、しかし出ない。この賑やかな人混みに着信音がかき消されてしまったのかもしれない。

 

向こうもこちらがいない事に気がつくだろうし、待っていれば折り返して連絡が来るはずだ。

 

仕方が無いので、もう少し先にある祭り本部まで移動。

 

結果として、財布は届いていなかった。

本部の人がアナウンスで呼びかけてくれるとの事でこの場で待機することになった。

 

「にしても珍しいな、お前が財布を落とすなんて。」

 

泣き腫らした目でキッとこちらを睨む大井。

 

「……あなた、デリカシー無いってよく言われません?」

 

「すまんすまん。いやな、いつもしっかり者のお前も偶にはミスをするんだなって。」

 

大井はちらりとこちらを見ると大きな溜息を吐いた。

 

「はぁ、高校の頃の私を知っててそれを言うんですか?」

「んー、魚雷の命中率が低かったって言うのはミスに入るものなのかね。」

 

「ミスですよ!ほんっとあなたはデリカシーの欠けらも無い人ですね!!だから大淀さんにいつも折檻されるんですよ!!」

 

「その勢いだ。」

 

「え?」

 

「勢いの無い大井っちなんて大井っちらしくないからねー。……って、今の北上に似てない!?」

 

「……ぷっ、全然似てないですよ!北上さんを汚さないでください!!」

 

うがーー!とぽかぽか殴られた。

 

その手がピタリと止まる。

 

「……どうしてそこまで私にしてくれるんですか?私、性格もきついし、めんどくさい女だと思うんですけど……。」

 

潤んだ目でこちらを見つめる大井。

「なんで、だろうな?」

 

「ちゃんと答えてください。」

 

これは何かしら答えを出さないと解放してくれないパターンだな。

 

「……大井が放っておけないから、かな。」

 

「……本当にそれだけですか?」

 

「……どうしてそう思う?」

 

「……女の子からそれを言わせます?……いや、これはめんどくさい女ですね、ごめんなさい。」

 

2人の間に沈黙が流れる。

 

その沈黙を破ったのは大井からだった。

 

「私はですね、北上さんが大好きです。可愛らしい顔、憎めない行動、全てが大好きです。」

「あぁ、そうだな。」

 

「そして、私にはもう1人大切な人がいます。」

 

「……へぇ、あの鎮守府にか。」

 

「そうですね。」

 

「……。」

 

「出会った時はなんて面倒な人だろうと思っていました。やたらと突っかかって来るし、指示も不可解。でも、私を、私と正面から向き合ってくれた。」

 

「私と同じようにめんどくさくて、サボり癖がある、デリカシーも無くて何度もムカつきました!でも……いざと言う時は頼りになって優しい人で……。」

 

 

「私はそんな人の事もあいし…」prrrr!!!

 

幸か不幸か鳴り出したのは俺の電話だ。

 

「……電話ですね。」

 

「いや、でも……」

 

吃る俺に大井は誤魔化すように笑った。

 

「出ないと電話が切れちゃいますよ!!さっさと出る!!」

 

大井から急かされるようにして電話に出る、相手は北上だった。

 

「…北上、いや、なんでもない。今どこにいる?」

 

『そういうこうちゃん達こそ、あたしを置いてどこ行ったのさー。』

 

「ちゃんと向かいの綿飴屋に行くって伝えたんだけどな……まぁ連絡がついて良かったわ、今祭りの本部に来てるからそこまで来てくれ。」

 

『祭りの本部……あー、あれか。おーい、こうちゃーん、大井っちー。」

 

「なんだ近くに……お前そのボクカワウソの量は頭おかしいわ……。」

 

見れば大量のボクカワウソのキーホルダーを巾着に付けた北上が現れた。

 

「いやー、最初の店でコンプリート出来なくてねー、おっちゃんに聞いてほかの店ハシゴしてたんだわ〜。おかげでほら、こうちゃんに貰ったシークレット含めて3種類揃ったし。」

 

デデン!と掲げた3種類のボクカワウソ達。

 

正直、もういい。

 

「右からボクカワウソ瑞雲祭りVer、秋刀魚漁Ver、」

 

「北上、いい。もういいんだ……。」

 

「なんだよぅ、実はこのシリーズ、第2弾もあって…」

 

「だーーーっ!!もういいわ!!それより今大井が財布無くして困ってんの!!俺は探してくるからお前は大井と一緒にここで」

 

「大井っちの財布?……あぁ、ならあたしが持ってるよ?」

 

今まで俯いていた大井が顔を上げる。

 

「……え?北上さんが……?」

 

「だってほら、こうちゃんと一緒に回る前に大井っち射的するから持っててーって……もしかして、忘れてた?」

 

「……良かったぁぁぁ〜〜〜!!」

 

え?結局、大井のおっちょこちょいって事?

 

「……まぁ何はともあれ見つかって良かったわ。お前気をつけろよな〜。まだまだ大井もおっちょこちょいだな。」

 

「……ムカッと来ました。今度、酸素魚雷の刑に処します。」

 

「理不尽過ぎるッ!!!」

 

まぁ、何はともあれ財布が見つかって良かったわ。

 

ホッとしたのもつかの間、元気な声が俺の耳に飛び込んできた。

 

「あー!!こーちゃんっぽい!!そろそろ私達の時間ーー!!って何してるっぽい?迷子?」

 

「…夕立ちゃん、ちょっと、待って…!」

 

「夕立!!ステイ!!ストップーー!!」

 

夕立と風奏ちゃん、そしてそれを止めるべく時雨が向こうからダッシュしてくる。

 

風奏ちゃんが今にも転びそうで怖い。慌ててテントの外に出る。

 

「夕立〜!危ないから走るな〜!風奏ちゃんが転んじまうぞ!」

 

全く騒がしい奴だ……。次はこいつらと回るのか、持ってくれよ俺の身体……ッ!!

 

 

 

 

「……ねぇ、大井っち。」

 

「なんですか?北上さん?」

 

「こうちゃんに告るなら、私も一緒にさせてねー。」

 

「うぐっ!……すいません、気持ちが先走っちゃって……。」

 

「まー、しちゃったらしちゃったで私もするから良いけどねー。」

 

『『これからも3人で過ごせたら良いなぁ……。』』

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

神社の奥を更に進み、道を進む。

 

木々に囲まれた道を抜ければ私の思い出の場所だ。

 

私の生まれ故郷。そして、彼と初めて出会ったあの場所。そう、こうちゃんと初めて会ってから12年経つのだ。

 

夏休み三日目、1人神社の奥から伸びる道を進んでいたらたまたま今回の目的地である公園を見つけた。

 

そして夏休みに源蔵さんの宿に泊まりに来て、ジャングルジムから海を眺めているこうちゃんと出会ったのだ。そしてその日から毎日のようにその公園に集まり一緒に遊んだ。

 

懐かしいこの道最後の階段を上り、思い出の場所へと足を踏み入れる。

 

「……変わってないわね、ここも。」

 

所々塗装が剥がれたジャングルジム、誰かが下から登ったであろう足跡の付いた滑り台、崩された山だけが残る砂場、風で揺れるブランコ、ここだけ時間が止まっていたかのようにも感じる。

 

あれから何年もの月日が経っているのにまるで昨日の事のようにも思えてくる。

 

……まるでおばあちゃんね。って、私はまだ20代じゃない。

 

クスッと心の中で笑う。

 

私は数々の遊具の中で、ジャングルジムに向かって歩みを進める。

 

ここの時間は止まっているように感じた。しかし私の時間はしっかり進んでいる。あの頃は大きく見えたジャングルジムも今となっては私の背より頭2つほどしか大きくない。

 

今となってはジャングルジムの頂上に登らずともいつか見た海が見える。隣町の港にに煌めく明かりともうすぐ沈む夕日に輝く水平線が美しかった。

 

たった数日海を見ていなかっただけで久しぶりに見るような気がした。

 

そこは私と彼のお気に入りの場所。彼とそこで色々な事を語り合った。学校での事、くだらない事、自分の事、そして、将来の事……。

 

様々な思い出が詰まったこの場所。

 

彼との約束の時刻はもう少し先。

 

私は沈んでいく夕日を眺める事にした。

でも夕日は霞んで見えない。

 

私は私が泣いているという事に今、気がついた。

 

「昔を思い出してる?」

 

突然耳元で声がしたのでビックリしたが振り返ると瑞雲に乗った妖精さんが居た。いつもこうちゃんの傍に居る妖精さんだ。

 

そして、こうちゃんが初めて出会った妖精さんであり、私に『艦娘』の『大淀』としての適性を与えた妖精さんでもある。

 

「そう、みたいですね。ここに来たら色々込み上げてきたみたいで……。」

 

「無理もないよ。ここは君達にとって思い出の場所でもあり、忌まわしい記憶の場所でもある。」

 

丁度今頃ではなかっただろうか 。もうすぐ夏休みが終わろうかと言う12年前の夏、この辺り一帯は深海棲艦の襲撃に遭っているのだ。

 

狙いは向こうに見える隣の港町、深海棲艦の攻撃は日没、黄昏時に行われた。

 

こうちゃんが何故この記憶を鮮明に覚えていないか、それはこうちゃんが深海棲艦の攻撃で命に関わる怪我を被った事から始まる。

 

私は彼を誘い、いつもの様に2人で公園に集まり遊んだ。そろそろ帰ろうかと言う時、この公園から突如として町の至る所から爆音と共に火の手が上がっていくのを目撃した。

 

最初は花火かなと思っていたが、爆発と火の手は一瞬で街全体を覆い尽くす。

 

子供ながらにとんでもない事が起こっているとその状況を理解した。

 

深海棲艦の攻撃は隣町だけに収まらなかった。

 

異形の者達から放たれたカラスのような、はたまた白い玉、黒い玉が空を覆い尽くし、こちらへと向かってくる。

 

その場が危険なのは頭では理解出来た。しかし体が全く動かない。迫り来る爆発、動かない身体、そんな時私の腕を引いたのがこうちゃんだった。

 

こうちゃんは我が身を盾にして私を庇ったのだ。

 

私が次に見た光景は大量の血を流して地面に横たわるこうちゃんの姿だった。

 

そんな彼が息絶えだえで言った言葉、それは

 

「淀姉ちゃん、ごめんね……約束、守れそうにないや……。」

 

その言葉に私は生まれて初めて『死』という言葉を実感した。

 

誰も助けは来ない。このままではこうちゃんが本当に死んでしまう。

 

そんな時現れたのがこの妖精さんだ。

 

そしてこうちゃんは妖精さんの力によって一命を取り留めた。

 

涙を流して妖精さんに感謝を伝えた。ありがとう、こうちゃんを助けてくれてありがとう。と

 

しかし、妖精さんから告げられた言葉に衝撃を受けた。

 

妖精さんはこうちゃんを助けるのにあるエネルギーを彼の身体に与える事で命を救った。そのエネルギーは異形の者達、深海棲艦達にとって喉から手が出るほど手に入れたい代物であるという事。

 

エネルギーの力でこうちゃんの身体は保たれているが、深海棲艦がこうちゃんの身体にそのエネルギーがある事を知ればそれを狙っていずれ深海棲艦から狙われる事となる事。

 

そのエネルギーが奪われればどうなるか、エネルギーの力によって保持されていたこうちゃんの命は今度こそ確実な死となる。

 

何とかこうちゃんを守る術はないのかと妖精さんに詰め寄ったところ、深海棲艦に対抗出来るのは『艦娘』しかいない。

 

こうちゃんの笑顔が好き、おっちょこちょいな所も好き、その優しさが好き、挙げていけば尽きることの無い想いの数々。

 

そして、彼を救う選択肢は1つ、こうして私は『艦娘』となる事を決めた。

 

彼を守るため、そして何よりも彼が好きだから。

 

「でもそれは、こうちゃんを提督へと縛り付ける理由となってしまった……。」

 

妖精さんは何も言わない。黙って私の言葉に耳を傾けてくれた。

 

「私を庇わなければこうちゃんが命の危機に晒されることなく普通に暮らせていた!それでも私は彼を愛してしまった!本当なら提督なんてやらないで普通に一般人としての人生を歩んで行くはずだった!でも……」

 

「……離れたくないんだよね。」

 

「我儘だって分かっています……でも私はこうちゃんが好きなんです、この気持ちに嘘はつけないんです。」

 

妖精さんは目を閉じフーっと息を吐いた。

 

「それは素直になった今、本人に直接言ってあげた方がいいかもね。それじゃ、邪魔者は撤退するよ。」

 

そう言って妖精さんが姿を消した先にこうちゃんがいた。

 

あの時と同じ、私が好きな笑顔で。

 

「……今は夕立ちゃん達と一緒にお祭りを回っている時間ではありませんでしたっけ?」

 

「その予定だったんだけどね、神社の奥に道を見た途端、行かなきゃいけない気がしてさ、夕立と風奏ちゃんにはこの後焼きそばとチョコバナナ、イカ焼き、ヨーヨー釣りに射的をやって、花火大会を見て宿に戻ったら一緒に寝るって契約で順番を後にしてもらったよ。」

 

「あらあら、モテる男は辛いですね。このペースだとお祭り終わってしまいますよ?」

 

「茶化さないでくれよ、淀姉さん。」

 

しばし沈黙が辺りに立ち込める。

 

そしてその沈黙を破ったのはこうちゃんだった。

 

「…さて、俺はどこから話せばいい?」

 

「どこからとは……いえ、こんな事言うのは野暮ですね。では、1から行きましょうか?いつでもどうぞ。」

 

まぁまぁ焦るなと言いたげにこうちゃんは首を竦める。

 

「淀姉さん、俺達が話し合うなら取っておきの特等席に移動しようじゃないか。」

「こうちゃん……もしかして……」

 

「おっと、それより先は特等席に座ってから話そう。」

 

こうちゃんはジャングルジムに登ると手を差し伸べた。

 

あの時、約束をしたの時の様に 。

 

私は下駄を脱ぐと彼の手を掴みジャングルジムの頂上まで登る。着物だと少し登りづらかったがこうちゃんが手で支えてくれた。

 

「懐かしいな……ここで淀姉さんに会ってからもう12年、になるのかな……。」

 

頂上に腰掛けて開口一番こうちゃんがポツリと呟いた。

 

「そうですね、長かったような短かったような……。」

 

その言葉を聞いただけで涙がこみ上げてくる。しかしぐっと堪えて続きを促す。

 

「12年前のあの日、俺は淀姉さんに電話でこの公園に呼び出されて、いつもの様に遊んで、夕方になればこのジャングルジムで夕日を見ながら色々なことを話した。」

 

私は黙ってこうちゃんの話を聴く。その言葉を一言一句聴き逃さぬように。

 

「色々話をしてそろそろ帰ろうかと言う時……ここは深海棲艦の襲撃が行われた。」

 

「……はい。」

 

「俺はあの空襲の時、淀姉さんを庇ってその後病院で目覚めて、その日の記憶が曖昧だった事に気がついた。」

 

こうちゃんは懐かしむように悲しげに話を続ける。

 

「いつもの様に淀姉さんと遊んでいたのだろうということは想像していたのだけど、具体的な内容を思い出そうとするとモヤが掛かったようにその時の記憶が思い出せなくなっていた。」

 

「……えぇ。」

 

私の心が締め付けられる。

 

あの時に体が動いていれば、という懺悔が頭をよぎった。

 

苦い顔をしている私の肩にこうちゃんは優しく手を置く。

 

「……でも、偶に夢を見るんだ。」

 

「……え?」

 

顔を上げ、こうちゃんの顔を見ると彼はニッと笑顔をつくる。

 

「その夢では、場所は公園、夕日が綺麗な場所なんだ。顔はモヤが掛かって分からなかったけど、いつも最後に約束をするんだ。」

「……こうちゃん。」

 

お互い一呼吸置くと、こうちゃんは話し始めた。

 

私は耳に全神経を集中する為目を閉じた。

 

「淀姉さん、あの時の約束の言葉は_______ 」ドンッ!!!

 

言葉を遮るように爆音が辺りに響く。

 

私は閉じた目が開けられない、いや、開けたくない。

 

その音は普段から聞き覚えのある音。全身に警戒信号が走る。

 

目を開けた時それが花火であればどれだけ良かっただろうと思った。

 

しかし現実は違った。

 

「淀姉さん、淀姉さん!!」

 

彼の声に呼び戻されるように目を開ける。

 

そこには、

 

『忌まわしい過去の記憶の光景が目の前で再び起こっていた。』

 

数々の異形が沖に姿を現した。私は怒りを覚えたが私の今すべき事を思い出す。私は『艦娘』、『大淀』だ。どんな時でも焦りはしない。

 

「こうちゃん、今すぐに大本営に連絡して横須賀近辺鎮守府から応援を呼んでください。貴方はそのまま車で大本営に向かって下さい。」

 

「何言ってるんだ!俺も一緒に行くに決まってんだろ!淀姉さん、車まで行こう!俺は大本営に連絡するから淀姉さんは祭り会場にいるみんなに連絡して車まで来るよう」

 

「ごめんなさいこうちゃん、私はやらなくては行けないことがあるの……。」

 

「やる事は連絡……まさか、淀姉さん!?」

 

私は軽巡『大淀』とリンクする。

 

浴衣は制服に変わり、身体に艤装を展開、どこも異常はない。

 

「私はここから出ます。早く駆けつけないと間に合わなくなってしまいますからね。」

 

「正気か!?単艦であの数の深海棲艦とやり合えばどうなるか分かるだろ!!1度みんなで集まって」

 

「こうちゃん、今この間にも深海棲艦の攻撃は行われています。私は軽巡『大淀』、深海棲艦と戦う為、襲われている人を救う為、大切な人を守る為に居るの。」

 

「淀姉さん、待ってくれ!俺はまだ、あの時の約束を……」

 

「大丈夫よこうちゃん、私は沈まないわ。必ず戻ってくる。……でもその前に『淀川恵』として我儘を許して。」

 

「あぁ、なんでも言って___」

 

唇に温かく柔らかい感触、全ての時間が止まったかのように思えた。このままずっとこの時間が続けばいいとさえ思えた。

 

けど私は行かなきゃ、町を守る為にも、そして彼を守る為にも……。

 

「じゃあこうちゃん、みんなの事、頼んだわよ。約束の答えは私が帰ってきたら聞くわ。」

「……待って!待ってくれ!!淀姉さぁぁぁん!!!……ズルいなぁ、自分だけ我儘言って行くなんて……俺も行くか。」

 

私は沈まない、約束の答えを聞くまでは、沈めない。

 




大事な話には邪魔が入るもの。

ハイパー北上様の部分は申し訳ないと思う私でした。

次回もどうぞよしなに。


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就活戦争33日目

そんなコメント頂いたら頑張っちゃうじゃない。

お久しぶりです作者です。

今回は相良君達の出番はほとんどなく、もう1人の提督、神谷君がメインとなってます。

一応、今後の話に繋げるような形ですので。

イベント海域と菱餅集め、捗ってます?

我が鎮守府では資材の底が見えそうです。

イベントやるなら最低でも燃料弾薬は10万ずつ、バケツは300個用意しましょうね。

じゃないとイベント中に遠征回すことになりますよ!

クリアはしたけど掘りのガンビア・ベイとゴトランド沼りそうな予感。




…悲劇は繰り返させない。

 

……同じ過ちを繰り返さない。

 

………あの約束の為、あの笑顔の為。

 

…………あの日、あの場所で誓った想い。

 

 

 

 

そう、私は、彼と交わした『約束』を彼の口から

 

この耳で、頭で、心でその言葉を聞くまでは死なない、死ねるわけが無い。

 

夢にまで見たその言葉をどれだけ待っていたか恋焦がれたか……。

 

 

 

……そんな大事な言葉を奴らは遮った。

 

だからこそ……

 

「今、私は『久しぶりに本気』で怒っているのです。再びこの地に現れ、私の大事な時間を奪った事を、覚悟して下さい……。」

 

私は立ちはだかる異形の群れに言い放つ。

 

さぁ、ダンスを始めましょう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

襲撃より数刻前……

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

「だーーーっ!!何なんだよあの強さ!?アタシらの砲撃をヒョイヒョイ躱すしよぉ〜〜!?」

 

「それが大本営直属の部隊って事だろ。そうムキになるな摩耶。」

 

俺は神谷、佐世保第三鎮守府の提督をやっている。

 

隣のヤツは高雄型重巡洋艦3番艦の摩耶だ。俺の地元の居酒屋『宝船』で働く親方の娘さんでもある。

 

どうも、先程行った大本営艦隊との演習内容がご不満の様だ。

 

…普段はサバサバしてて良い奴なんだけど、ちょっとカッとなりやすいのが難点だが、まぁ、すぐ落ち着いてくれるので問題ないだろう。

 

「うっさい!…いや、わりぃ、これじゃあ八つ当たりだな。はぁ、頭では分かってるんだけどなぁ…。」

 

「また演習する機会はあるさ。そんときまでにもう一度戦況データを確認して対策しよう。」

 

摩耶も練度的にはそこそこ高いはずだが向こうはそれ以上という事だろう。まぁそれぐらい無いと日の本の要は務まらないよな。

 

「そうよ〜摩耶さん、あんまりカッカしないの。可愛い顔にシワができちゃうわよ?」

 

「余計なお世話だっつーの!!第一よ、瑞穂、お前手を抜きすぎなんだよ!!早々に撤退して行きやがって!!」

 

「ですけど〜、提督さんと離れるのが嫌だったので〜。」

 

それでこっちは水上機母艦の瑞穂。コイツの話をすると長くなるから今は大部分は省くが元深海棲艦だ。

 

まぁ紆余曲折を経てウチの鎮守府にやって来た奴だ。

 

明確にアピールしてくるのは嬉しいのだが、押しが強すぎる所があってそこに苦労している。

 

あとこの2人はいつもぶつかってるからその仲裁をするのも一苦労だ。

 

「コイツの前だからって猫被んな気色悪い。」

 

「あら、私は猫ちゃんなど被っていませんよ?トリッターで猫ちゃんを頭に乗せて被ってるみたいなのは見ましたが、摩耶さんも見ました?可愛いかったですよねぇ〜!」

 

「くだらねぇこと言ってじゃねぇっての!人をおちょくるのも大概にしやがれ!」

 

「きゃー!摩耶さんに襲われるー!」

 

「仲がいいのか悪いのかやら…あ、提督、この道右だってさ。」

 

この子は瑞鳳、真面目な子で今日の秘書艦でもある。今現在、演習場から大本営に移動中で、その道案内をしてくれている。

 

お姉ちゃんっ子な所が玉に瑕。

 

「…提督、そろそろ止めた方がよろしいと思いますが…。」

 

ウチの鎮守府のお母さん的ポジション。瑞鳳の姉という事も納得である。

 

「まぁ、喧嘩するほど仲がいいって言うしねぇ。あ、これ美味しー!」

 

「…阿賀野さん、そのお菓子1つ貰ってもいいですか?」

 

「もっちろん!弥生ちゃん、あ〜ん!」

 

…まぁ、お菓子大好きの2人だ。正確には弥生は甘い物好き、阿賀野は全般的。

 

「このやろ……いや、分かった。お前の手の平で踊らされるのもムカついてたんだ。お前がその気なら」

 

「あら、その気なら?」

 

「お前の恥ずかしい話から、お前が悩んでるポイントをコイツに一つ一つ丁寧に説明していく。」

 

「………は?」

 

「まずお前、最近鏡の前やら体重計の前でウロウロ…」ガッシッ

 

がっしりと摩耶の肩を掴む瑞穂からはドス黒いオーラが出ている。

 

「摩耶さぁ〜ん?それは卑怯ではなくて…?」

 

「お前が売ってきた喧嘩だろ?言い値で買ってやっただけだろ?」

 

「やりますか?構いませんよ?」

 

「いい加減頭に来てんだ、いつでも来いよ。」

 

これ以上ヒートアップしても困るな。

 

「お前らもう止めろ、ここで騒ぐなら置いていくぞ。」

 

ピシッと2人にチョップをかます。

 

「いだっ!?」「ひゃん!?」と後頭部をさする2人

 

「お前らなぁ…わかってるとは思うけどこれから元帥に会うんだ。頼むから大人しくしててくれよな。」

 

2人とも「へいへい…」「はぁ〜い」と返事をしてくれたが最近分かった事だがこの2人の返事は割と当てにならないという事だった。

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

控えめにノック。

 

中から秘書艦らしき、女性の「どうぞ」という声。

 

「淀川元帥、失礼致します!佐世保第三鎮守府、神谷、入ります!」

 

神谷を先頭に祥鳳・瑞鳳、摩耶・瑞穂、阿賀野・弥生の順で部屋に入る。

 

席には淀川元帥、後ろには先程演習で相手をして頂いた艦娘達と秘書艦らしき人が控えていた。

 

「おぉ、待ってたよ。神谷君、さぁ君達もそこにかけてくれ。」

 

淀川元帥に促され、神谷達は席に腰掛ける。

 

「神谷君、神谷君、そうガチガチになるんじゃない。君の部下達を見習って。」

 

祥鳳と瑞鳳は大本営艦娘の空母の装備に目が釘付け。

 

阿賀野と弥生は預かったお菓子に視線が向いてる。

 

摩耶は瑞穂にメンチ切ってる。

 

比較的まともそうに見えるのは摩耶にメンチを切られている瑞穂がしゃなりと俺の隣の席で腰掛けていた。

 

「お、おいみんな、もうちょっとしっかりしてくれれ!元帥の前だぞ!?」

 

「いいんだよ神谷君、私から見れば君の方がガチガチになりすぎてて話しづらい位さ。彼女たちくらい楽にしてくれ。」

 

楽にしてと言われても海軍省トップの人物を前にして緊張しない新人提督はそうはいないだろうと思いながらも神谷は1つ深呼吸して気持ちを落ち着かせた。

 

「本当に硬くなるような内容じゃなくてね、まぁ、演習お疲れだったと言うぐらいなのだよ。……天城君、君から見てこの子達の戦いぶりはどうだったかね?」

 

天城と呼ばれた瑞鳳達が釘付けだった空母がずっと前に出る。

 

「そうですね、個々の強さはそれなりにありますが協調性という観点で見れば、きつい言い方かもしれませんが杜撰の一言でしょうか。」

 

天城はズバッと言い切る。

 

これには佐世保第三鎮守府の艦娘達が瑞穂を除いて悔しそうな顔をしているのを神谷は見ずとも雰囲気で察した。

 

瑞穂も笑顔こそ保っているが、また黒いオーラが出ている。

 

『何ナら今スぐココで沈めテ差し上ゲまシょうカ?』と言わんばかりだ。

 

天城は「ですが…」と付け加える。

 

「佐世保第三鎮守府の提督さん、貴方の指示には驚きましたね。圧倒的不利な状況でも私達が何を考えているのかわかっているかの如く打開策を考え、クセのある艦隊をまとめていた…。」

 

「…お褒めの言葉、ありがとうございます。」

 

「第1部隊の航空隊で陽動、大きく回りませた第2部隊が本隊を狙う。反対側からはしおいさんが魚雷攻撃。」

 

「いや〜驚いたよ、進もうと思った所に爆雷がどんどん落ちてくるんだから〜。」

 

しおいと呼ばれた潜水艦はケラケラと無邪気に笑う。

 

「こちらの防衛には秋月さん、どうでしたか?秋月さんから見て彼女達は」

 

「祥鳳さんと瑞鳳さんの艦載機達も凄かったですね!天城さんの戦闘機を掻い潜って来たのは久しぶりでしたよ。しっかり撃墜させて頂きましたが…。」

 

ちょっと申し訳なさそうに秋月と呼ばれた艦娘ははにかんだ。

 

「その後は、私、由良が先制魚雷攻撃。今は居ませんが高雄さんが観測手を務めてました。」

 

薄いピンク色の髪をした由良と名乗る艦娘が呟いた高雄という言葉に摩耶が小声で「うっ…あの姉さんじゃありませんように…」と呟いたのが聞こえた。

 

そして一際オーラを放つ艦娘が前に出る。

 

「…そして最後は後方に下がるお前たちをこの武蔵が主砲で叩く予定だったのだが…上手いこと躱されてしまったな。」

 

まさかの名前が出てきて佐世保第三鎮守府の面々にざわめきが起きた。

 

『戦艦武蔵が1演習に参加…?』

 

『あの距離から、かつ正確な砲撃が、きたのには驚いたけど、そう言う事…。』

 

阿賀野と弥生の呟きにも納得だ。

 

今回の演出は両方、艦娘同士の試合前の顔合わせなどは行わず、どんな艦種が来るか分からないという実戦を想定して演習が行われた。

 

演習時、通常なら空戦をしている距離だったが、今回はその距離の砲撃で挟差コースの弾が飛んできたのだ。

 

この砲撃で大本営艦隊に戦艦が居るのは間違いないと踏んでいた神谷だが、その艦が武蔵だとは思いもしなかった。

 

そもそもというもの、大和型という艦の適合者はほとんどいない。何故なら、最強と言われた戦艦、その膨大なエネルギーを受け止められる『器』がそうそういる訳では無いからである。

 

収まる器の持ち主が見つかったとて、そのエネルギーが暴走でもしようものなら辺りは火の海、器の持ち主も無事では無いだろう。そういった観点から大和型という艦はその特殊性故、一般国民には存在すら秘匿とされている。

 

大本営には大和型が居るという話は海軍学校時代から聞いていたがそんな武蔵が目の前にいるのだ。

 

神谷も驚きを隠せない様子だった。

 

「にしても早々にやられて撤退して行ったそこの水上機母艦、お前は何者だ?」

そんな武蔵が、瑞穂を呼びつける。

 

「…あら、申し遅れました。水上機母艦、瑞穂です。

どうぞよろしくお願いしますね、武蔵さん。」

 

「とぼけるな、艦娘名なら先程名簿で確認した。私が言ってるのはお前の本性だ。」

 

「武蔵さんも変わった事をおっしゃいますわね。ですから本性も何も、私は水上機母艦瑞穂ですよ。…『今はですけど。』」

 

「ふん、白々しい…いや待て、佐世保第三鎮守府……あぁ、お前があの報告にあった『転化体』か、なるほどな…。」

 

「はて、なんの事でしょうか?」

 

「………まぁいい、次は『手を抜くなよ』?この武蔵を楽しませてくれ。」

 

瑞穂はただ微笑み返す。神谷は一刻も早くこの部屋から出たかった。この2人の間に居たくない、寿命が縮む。

 

「うーん、私は演習相手同士交流を深めて欲しかったからこういった席を用意したんだけどなぁ…すまないな神谷君、うちの艦隊の子、血の気が多くて。」

 

「い、いや大丈夫です…。」

 

「もっと和やかな感じで話しがしたかったんだけどねぇ…さて、本題に入ろうか。一応新人提督にはこうして大本営まで来てもらい大本営艦隊との演習をしてもらってるんだ。近況の報告も兼ねてね。」

 

神谷は内心ホッとしていた。大本営に呼び出されるなど最初何かやらかしたのではないかとビクビクしていたのだ。

 

「どうだい神谷君、提督の仕事は慣れたかね?クセのある子も居るから大変だろう?」

 

「えぇまぁ…でも、そんなクセのある子達に助けられて何とかやって行けてます。」

 

淀川元帥は嬉しそうに笑った。

 

「そうかそうか、実に良い事だ。君達も神谷君とはコミュニケーションは取れているかい?」

淀川元帥は佐世保第三鎮守府の艦娘達に尋ねた。

 

神谷自身も艦娘達とコミュニケーションは取ってきたつもりなので大丈夫だと思いたいが、面と向かってダメ出し等を言われたらと考えると心にくるものがある。

 

「んー、そうだなぁ…。」

 

まずは摩耶か!無難な事言ってくれ!

 

「強いていえば、口煩いというか真面目というか……あ、学校で言う委員長みたいな感じ!」

 

……褒められてんのか貶されてんのかどうなんだそれ。

 

「まぁでも、頑張ってると思うなアタシは……親父からも話は聞いてたし。……あー!なんか本人の前で言うのは背中がむず痒いわ。」

 

「瑞鳳もそう思います。新人提督さんって聞くとちょっと頼りない気がしますけど、神谷提督は細かいところキチンとしてますし、ある程度執務もこなしてましたし。ね、お姉ちゃん。」

 

「そうですね、偶にサボっている姿も見受けられますが……概ね私も瑞鳳と同じ意見です。」

 

「そうだね〜、提督は怒ると怖いけど基本優しいと思います!偶にお菓子もくれるし!」

 

「弥生も、そう思います。睦月型の、他の子達とも、話に来てくれたり、してます、はい。」

「私は勿論、そんな提督が大好きなので問題ありません!」

 

だーーー良かったぁ〜〜〜!!適度にコミュニケーション取るって大事だなぁ〜〜〜!!1人愛の告白して来たヤツいたけど

 

とりあえず内心ウルっと来ていた神谷提督だった。

 

「なるほどなるほど、なら大丈夫そうだな。いや何、今は無いと思いたいが昔はブラック鎮守府なんて言われていた所もあってだな、そういう心配はなさそうだね。」

 

その後も元帥からは海域の状況、施設の環境等様々な確認を行い、シートの項目にチェックを入れて秘書艦である天城に手渡した。

 

「さて、業務的な話はこれで終了だ、お疲れ様。」

 

「いえいえ、お忙しいのにあの大本営艦隊と演習までさせて頂けたんです。光栄極まりないですよ!」

 

「そう言ってくれるとありがたい、せっかく佐世保から大本営まで来てくれたんだ。ささやかだがこの後、食事の席を設けてある。改めて艦娘達の交流を兼ねてどうだい?」

 

「それは勿論、光栄__」

 

そんな会話を遮る様に勢いよく扉が開いた。

 

「お話し中の所失礼しますッ!淀川元帥!」

 

「何事だね高雄君。」

 

息を切らして部屋に飛び込んできた艦娘

 

先程まで優しげだった淀川元帥の顔付きが一変し、鋭い表情となった。

 

一瞬で辺りに戦闘中のような緊迫感が走った。

 

「ほ、報告させて、頂きます!神奈川、静岡県沿岸にて大規模な敵艦隊が確認されました!!付近の町まで20キロもありません!」

 

「なんだと!?沿岸警備隊は何をしていたんだ!!今すぐ各所に連絡を取り、避難警報を出せ!天城君、至急、付近の鎮守府に出撃要請を!!秋月君達は準備が出来次第出撃準備に掛かれ!!武蔵君はここに残れ!!」

 

部屋の中は一気に慌ただしくなる。映像を見せる高雄、無線で連絡を取る天城、出撃準備に向かう秋月、由良。

 

神谷は声を上げた。

 

「淀川元帥!!」

 

すると淀川元帥は少し表情を和らげ笑顔を作る。

 

「すまんな神谷君、食事会はまたの機会になりそうだ。」

 

「その時を楽しみにしております。それよりも私達にも何か手伝わせて下さい。こんな話を聞いて黙ってはいられません!!」

 

「しかしだな……。」

 

すると無線連絡をしていた天城が慌てた様子で元帥を呼んだ。

 

「元帥!!今、町が敵航空隊からの攻撃を受けたとの報告が!!」

 

「クソっ!!被害状況は!?」

 

「現場が混乱しているので詳細は分かりません!しかし、居合わせた艦娘が現在1人で応戦しているとの事です!!」

 

「くっ!!迎撃隊を急がせろ!!」

 

「元帥!!今電話にて連絡が!!舞鶴第二鎮守府の相良提督からで現場に居合わせたと!!それで……現在舞鶴第二鎮守府所属艦の大淀が単艦にて応戦中との報告が……」

 

「……なんて事だ。……恵。」

 

淀川元帥の顔には焦りが見て取れた。相良の所に所属している大淀と言ったら元帥の娘である大淀に間違いない。

 

「……淀川元帥、やはり私も参加させて下さい。私の友人が巻き込まれたと聞いては居ても立ってもいられません。」

 

淀川元帥は少し黙ると、ゆっくりと口を開いた。

 

「……危険な戦いになるがその覚悟はあるか?敵は映像を見る限りでは前回の大規模攻勢と同じぐらいの戦力だ。分かるとは思うが戦場では覚悟なき者からやられる……それでも来るか?」

 

真剣な眼差しで元帥は問う。

 

「私の覚悟は決まっています…皆はどうだ?無理にとは言わない。だが、俺の願いとしては手を貸してもらいたい。俺の友が困っているんだ……。」

 

神谷は振り返り、自分の部下達に頭を下げた。

 

「……そんなに頼まれちゃあやらない訳に行かないよな、アタシは行くぜ!」

 

「提督の頼みとあれば行かないわけ無いですよ!」

 

「そうですね!」

 

「えぇ!」

 

「任せて、下さい。」

 

次々に立ち上がり、賛同してくれる部下達。

 

「どうした瑞穂、お前まさか、怖気付いたのか?」

 

「もう少し面白い冗談を言ってください。他ならぬ提督さんの頼みですよ?行かないわけありません。でも離れるのは嫌ですし、困りましたね……。」

チラチラとこちらを見る瑞穂。最近言いたい事は何となくわかって来た。

 

「瑞穂、頼む、お前の力を貸してくれ。お礼に何か1つ言う事を聞こう 。」

 

「かしこまりました!瑞穂、全力を尽くさせて頂きますね!!」

 

「元帥、という訳です。我々佐世保第三鎮守府の今作戦に参加させて頂きます。……御命令を。」

 

「よろしい、佐世保第三鎮守府、神谷提督、現時刻を以て君の艦隊を大本営艦隊に組み込む。神谷提督に第三艦隊の指揮権を移行。準備が出来次第出撃し、敵を撃退せよ!!」

 

「はっ!!謹んで御命令をお受け致します!!」

 

一同揃って敬礼をし、退出しようとした所を瑞穂に止められる。

 

「……さてと、出撃する前に高雄さん、少しそちらの映像を見せて頂いても?」

「えぇ、どうぞ。」

 

高雄はタブレットを瑞穂に手渡す。

 

「……この艦載機、やっぱり貴女でしたか空母棲姫。」

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

出撃準備の為、佐世保第三鎮守府の面々は退出して行った。

 

残されたのは無線連絡をしている秘書艦の天城と待機命令を出された武蔵のみとなった。

 

忙しなく無線にて連絡を取り合う天城を他所に武蔵は窓際によりかかり、外を眺めていた。

 

「……さて、提督よ、どうする?私は奴を呼んでくれば良いのか?」

 

「あぁそうだ、武蔵君、社にいる大和君を呼んできてくれ。君達、巫女の力が必要だ。」

「……あいわかった。」

 

武蔵も一言述べるとゆっくりと部屋を退出して行った。

 

部屋には符号を打つ音と

 

「……恵、どうか、無事で居てくれ。」

 

淀川元帥がポツリと零した言葉のみが響いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

…もう失わない。

 

……もう忘れない。

 

………もう逃げない。

 

…………その約束を伝える為。

 

その為に俺はここに居る。

 

「早く帰ってきてくれないと民間企業に就職しちまうからな……。止めたいなら必ず帰ってきてくれよ、なぁ、淀姉。」

 

さぁ、俺達の戦いを始めよう。

 



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就活戦争34日目

お久しぶりです。
狛犬太郎と申します。

今後も不定期で更新していこうと思いますので
何卒宜しく御願い致します。

イベント資材厳しい…


…まるで12年前の悪夢を見ている様だ。

 

燃える街、空と海を覆う黒い影。

 

全身から嫌な汗がシャツを湿らせ、警報と避難を呼びかける放送の音がそれを現実だと改めて教えてくれる。

 

俺、相良航輝は公園から祭り会場へと繋がる林道の坂を駆け下りていた。

 

今この時も淀姉さんは1人で敵と戦っている。不安ではあるが俺が活路を開いてくれると信じて出撃した淀姉さんが無事でいる事を信じるしかない。

 

「くっそ!携帯さえ繋がれば、直ぐにでもみんなに連絡出来たのに!」

 

何とか海軍大本営には事態を報告することが出来たが、仲間たちに連絡を取ろうとした瞬間、これも敵の攻撃なのか電波障害が起き、祭り会場にいるみんなとの連絡がつかなくなってしまっていた。

 

「連絡は取れないけど、アイツらの事だ、会場の入口辺りにに集まってる筈だ!」

 

不安に押し潰されぬよう自分を奮い立たせるよう叫びながら坂道をひたすら下る。

 

そんな俺を何かが追い抜くように飛んできた。

 

「提督さん、お急ぎの様ですね。」

 

案の定、いつも俺の周りにいる妖精さん達だった。

 

「あぁ!めちゃくちゃ急いでるよ!ついでに急ぎすぎてお前達を叩き落とす所だった!」

 

最初、コウモリか何かかと思ったよマジで、一瞬気がつくの遅かったらぶっ叩いてた。まぁこいつらの事だし何とかなる…

「もし、叩き落とされてたら提督さんが寝ている間に、耳を齧ってたよ〜。」

 

前言撤回、間違っても手を出すのは止めておこう。

結構強いんだよこいつらの噛む力。

というかこんな時まで能天気な奴だ。ちょっとイラついたから後でデコピンしておこう。

「皆さんの場所はお分かりで?」

 

「携帯が繋がらないからどうだか分からないが多分アイツらの事だから入口辺りに居ると思う!」

 

「誘導しますよ。私達は艦娘の気配が分かるので。」

 

おぉ、ありがたい妖精さんの謎スキル!

 

「しかしもう暗いですね、何か灯りがあれば…」

 

「お?96式?96式?」

 

お前じゃねぇ工廠妖精さん、座ってろ。

お前もこれ解決したらデコピンな。

 

「ぶー、分かりましたよ。流石に今回は真面目で行きますよ。…ハリウッド映画ばりの照明やってみたかったなぁ…。」

 

そんな呟きと共に、どこからともなく現れた信号拳銃を工廠妖精さんが上空へ向けて照明弾を発射する。

 

「どうだ、明るくなっただろう…?」

 

いつだかの成金風刺画じゃねーんだよ明るくなったけど…

 

「工廠妖精さん、こんな時につまらないネタはもう止めておきなさい。提督さん、皆さんいらっしゃいましたよ。」

 

1人まともなのがいてよかったと思う。こうして林道を掛け出ると俺の休暇に付いてきた舞鶴第二鎮守府の仲間たちと風奏ちゃんの姿があった。

 

「提督ーー!!」

 

時雨達が向こうから駆け寄ってくる。

 

「ここだ!すまない!」

 

「ちょっとちょっとこうちゃん!?一体全体何事よ!」

「アンタこの緊急時に何処ほっつき歩いてるのよ!というか大淀さんは!?」

 

明石と叢雲が息を切らせながら叫んだ。

 

「俺の事は後だ、その淀姉さんが今1人で深海棲艦と戦ってる!こんな状況だがみんな行けるか!?」

 

「当たり前っぽい!」

 

「そういう事なら早く大淀さんを助けに行かないと!」

 

夕立と時雨が頷く。

 

他の奴らを見渡せば同じように頷いた。

 

「とりあえず移動だ。説明は移動しながらする、行くぞ!」

 

「「「了解!!」」」

 

「皆さん、少しお待ちください。」

 

駆け出そうとする俺達を呼び止める声がした。

 

振り返れば先程のまともそうな妖精さんだった。

 

「どうした?移動しながらじゃダメ…ってどうしたお前…身体がめっちゃ光ってるんだが…」

 

照明弾、程明るい訳では無いが先程の妖精さんに光が灯っているのだ。

 

「提督さん、私は貴方達の覚悟を知りたいのです。本当に、大淀さんを助けたいですか?」

 

「当たり前だ!」

 

「ここに居る皆さんを信じますか?」

 

「勿論!」

 

「これからも鎮守府の皆さんと共に歩んで頂けますか?」

 

みんなの視線が俺に集まるのが分かる。

つまりはそういう事だ。

 

お前はここで身を固める覚悟があるのかと。

 

この妖精さんは俺にそう問いかけてるのだ。

 

沈黙が辺りに立ち込めた。

 

じっ…と妖精さんは俺を見つめる。

 

すっと肩に手が置かれた。振り返れば時雨がいた。

 

「提督、僕は君の意見を尊重する。でもひとつ言うとすれば…僕は君を信じてる。だから提督も僕を信じて欲しい。こんな時だけど僕は言うよ、ううん、今しかない。『僕は君が大好き。』これからも僕達と共に居て欲しい…その為なら僕は頑張れる。」

 

時雨…

 

「アンタの事、まぁ、嫌いじゃないっていうか…ってそういう事じゃなくて!アンタは私が支えてないとダメダメなんだから!!じゃなくて、〜〜〜っ!!あぁもう、1度しか言わないから心して聞きなさい!?『アンタは私が支えてあげる!だからアンタも私を支えなさい!!』ふんっ!!」

 

叢雲…

 

「夕立、難しい事は言わないっぽい。だから2つだけ確かな事を言うわね。夕立はこーちゃんの為なら、こーちゃんが夕立を信じてくれるならもっともっと強くなれるつぽい!そしてね、『夕立はこーちゃんの事がだーーい好きって事!』」

 

夕立…

 

「なーんか駆逐達に先越されちゃった感じ?でもまぁ〜、これもワビサビよねぇ〜。『あ、アタシはこうちゃんの事、大好きだよ〜なんせ、ハイパー北上様と大井っちだからね』ねー、大井っち〜。」

 

「…ふぇ!?ちょ、ちょっと北上さん!?私、心の準備が…おほほほ〜…はぁ、でもこんな所でこんな雰囲気で私だけ引っ込む訳には行かないわ…。はぁ、提督、良く聴いていてくださいね?『私、大井は提督の事も、愛してます。』」

 

北上、大井…

 

「アタシは、まだお兄ちゃんの、事を、みんなほど分かってない…だから、艦娘がどうあるっていうのは、分からないけど、お兄ちゃんの力に、なりたい、なれたらいいな…お兄ちゃんはアタシの、恩人で『アタシの、想い人だから…』」

 

風奏ちゃん…

 

「うーん、私的には全然ウェルカムなんだけど、お姉ちゃんって言う家族関係もあるから流石に言い難いんだけどな〜でもでも!こうちゃんが望むなら私もー「あ、そう言うの大丈夫なんで…」ちょっとこうちゃん!?タンマタンマ!!流石にこんな時までこういう落ちを持たせるのよくないと思うよ!?お姉ちゃん…いや、『明石は提督の事大好きですよー!?!?』」

 

…まぁ、そういう事なんだろう賑やかなお姉様です事。

 

「…さて、提督さん、貴方はどうですか?」

 

妖精さんは静かに、改めて問いかけた。

 

その問いに俺は、一呼吸置いて答える。

 

「……そうだな、俺の答えは『 ___ 』だ。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「ゴアァァァァァッ!!」

 

「ふっ!」

 

グシャリと音をたてて軽巡ホ級が吹っ飛ぶ。

 

一体、また一体と潰していく。しかし数が数だ。

 

数も多いが中には駆逐イ級が燃料満載のドラム缶を咥えて特攻を仕掛けてくるのだ。

 

弾の消費を抑える為、特攻艦には主砲、近接戦闘は明石の工廠からパクった、元い、借りてきた大きめのハンマーで対処する。

 

第1スロットの15.2cm連装砲の弾が無くなる。

すぐさま15.2cm連装砲を投げ捨て、2番スロットの20.3cm3号砲を取り出す。

 

海も敵だらけだが、空にも敵は溢れている。

 

蝙蝠の群れのように蠢く敵艦載機には艤装の甲板上に取り付けてある3番スロットの12cm30連装噴進砲を叩き込んだ。

 

「…全く、キリが無ければっ!休む暇もありませんねっと!」

 

そう言った矢先、敵の攻撃が止まった。

 

凌げたか?と思ったが、それは違った。

 

ゲームで例えるなら、ボス戦の始まりだ。

 

それまでの雰囲気とは違う個体がゆっくりとこちらに近づいてきた。

 

深海棲艦達はそれに道を空けるよう左右に別れていく。

 

「…ツクヅク、シブトイモノダナカンムストイウモノハ…。」

 

「……空母棲姫。」

 

お互いに睨み合ったその雰囲気には周りの深海棲艦達も思わず後ずさる。

 

「タントウチョクニュウニキコウ、オオワタツミノユビワハドコダ。ユビワノアリカヲイエバオマエハミノガシテヤル…。」

 

『大綿津見の指輪』はるか昔、大綿津見神が海の調和を保つ道具の1つとして伝えられるもので、現在はとある場所で祀られている。

 

伝説では、この指輪を付ければ穢れを払い、海の力を操る事が出来る…と言われている。

 

それならば私達、艦娘が使えば戦況を有利にする事が出来るのではと過去に指輪を嵌めて出撃する試みはあったが何か効果があるということは無かったのだ。

「…さぁ、存じませんね。仮に知っていたとしても教えて差し上げる気はありませんが。」

 

当然、すっとぼけるに決まっている。

 

敵が狙っている物をわざわざ教える阿呆は居ないだろう…ウチの鎮守府には居ないと信じたい。

 

「フ、シラントイウコトハナイダロウ?カイグンゲンスイノムスメトモアロウカンムスガ。」

 

っ!?コイツそんな事まで!

 

思わず動揺する。そんな情報まで知られているとは…。

 

「…マァイイ、ユビワノケハイモコノチカクニアルヨウダシ、マチヲヤキハラッテサガセバイイ…イヤ、オマエヲイタメツケテゲンスイノマエニモッテイッテヤルノモイイカモシレナイナ…」

 

…近くに反応?そんな馬鹿な。指輪は横須賀の大和さん達が…っ!?

 

私は直感に従い慌ててその場から身を引く。

次の瞬間、私が先程まで居た足元が爆ぜ、辺りに水飛沫を撒き散らす。

 

空中、海上に動いたものは無かった…となれば!

 

「アラ?ハズシチャッタカシラァ…ザンネンネェ、アタッテレバクルシムコトナクシズメタカモシレナイノニィ…。」

 

音もなく忍び寄り、敵を倒す深海の暗殺者がそこに居た。

 

「……潜水棲姫」

 

考えうる最悪の状況とはこの事かもしれない。

しかし、どんなに最悪だったとしても、私は諦めることは出来ない。この国の為にも大好きなこうちゃんの為にも。

 

眼鏡に付いた水飛沫を拭い、主砲を握り直す。

 

「ソウダ、ソノメダ…ソノメ二ゼツボウヲウカベルスガタガマチキレナイ…ダカラ、カンタンニシズマナイデクレルカシラァ!!」

 

こうして、宵闇の祭りは幕を開けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

鎮守府の裏にある山道を少し行くと鳥居が現れる。

鳥居を潜り、また少し歩けば今度は洞穴が口をぽっかり開けている。そんな洞穴の入口に私を待ち構える者がいた。

 

提督の命令通り、この社で祈祷を行う姉を呼びに来たのだ。

 

普段であれば、私が来るとニコニコしながら掃除をしたり、握り飯を頬張っている姉だが今日ばかりは凛とした面持ちで私を出迎えた。

 

「…大和、薄々勘づいているとは思うが、奴らが動いた。」

 

「……12年前、だったわね。」

 

「あぁ、まだ先代の大和達の時だ。」

 

夕陽が差し込む境内でポツリと呟いた。

 

前回の大襲撃は先代の大和達が命を賭して、この国を守り抜いた。

 

「…場所も12年前と同じあの場所なの?」

 

「あぁ、やはりあの場所には何かあるのかもしれんな。」

 

深海棲艦が2度も狙った場所だ。何かがあの場所に隠されているのかもしれないと武蔵は睨んでいたが、大和の考えは違った。

 

「…私はあの場所と言うよりは、何か別の要因があったのではないかと思っています。彼の地には私もあの戦いの後赴きました。ですがあの土地自体からは大綿津見神の気配は感じられませんでした。」

 

私は巫女の仕事よりは艦娘としての仕事が多い。私、武蔵には武の才、姉の大和には巫女の才が色濃く出た。

 

色濃く出ただけで私にも巫女の力はあるし、大和も戦えない訳では無い。もし、戦に出れば十二分にその力を振るえるだろうが、神社を守る巫女の立場としては中々戦場に行かせることも行くことも出来ないのだ。

 

私が海域攻略に出ている間、大和はあの場所に訪れていたのだろう。

 

ですが…と大和は少し濁すような言い方をする。

 

「…大和にしては珍しいな、何か引っかかるのか?」

 

「…えぇ、確かに彼の地自体には気配は感じられません。ですが、確かに大綿津見神の気配、残り香と言うのでしょうか。その気配はあったと思います。」

 

「…武蔵も分かると思いますが、今の社に大綿津見神は居ると言えば居らっしゃる。」

 

「…しかし、大綿津見神の大部分の気配が無い。」

 

「私は思うのです、深海棲艦があの場所を狙うのはあの場所自体に何かがある訳では無く、何かが来たから大綿津見神もその場所に現れているのではないかと…。」

 

「……まさか、大綿津見の指輪の適性者が現れたとでも言うのか!?」

 

洞穴の中にある社を見れば大綿津見の指輪がそこにあった。以前に大綿津見神の力を使えないかと、指輪を付けて出撃するという試みがあったが指輪は何も反応しなかった。

 

「確証はありませんが、私はそう睨んでいます。大綿津見神の力を感じればその力を狙う深海棲艦も現れる…そして大綿津見神も自身の適性者を探している…その適性者が現れたと。」

 

「……ならば、真相を確かめに行かねばな。大和よ、提督から私達に出撃命令が下った。彼の地へ向かうぞ。」

 

 

 

 

 

 

海に夜の帳が下りてきました。大綿津見神よ、願わくば暗い私達の航路を照らして頂けますか…?

 

 

無人となった社には指輪が海を眺めるのだった。

 

 

 

 

 

 

 



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