ワザモノ! (ハレル家)
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0劇:始まりのチャイム
『人の歴史とは分岐点が重なりあって出来た結果である』
昔、どこの偉人が言ったのか、それとも漫画で見た言葉なのか真偽は定かではないが、そんな言葉を耳にした。
……平成が終わって数十年の月日が経ったある日、世界中に紫色に輝く魔法陣突如現れた。そこから人外とも言うべき異形が、世界の至る所に『異界』を展開させながら出現。自然、秩序、常識――全てのバランスが崩れ、異形が地上に溢れ、人類はなす術なく混沌に呑まれていった。
しかし、希望は消えていなかった。人類の約3分の1以上が死滅していく中で人類と共存を願う種族と一人の儚げな青年が立ち上がり、長い戦闘の末に終止符を打った。激闘の代償は大きく、命が風前の灯である青年は自身に宿る力を世界に託してこの世を去った。青年と親しかった種族はもう一度争いを起こさない為に異界平和条約を結び、多くの人々と青年が望んだ平和が訪れた。
人々は世界に平和をもたらした青年を『英雄』と讃え、彼から与えられた力を『超人術(マーシャルアーツ)』と名付け、世界総人口の約八割が能力持ち――『技人(ワザモノ)』が跋扈する超人と亜人が共存する混沌超人世界として統治された。
それから数年の月日が経ち……技人の養育機関が設立され、その内の一つである大学――界立マーシャル学園にて、多くの技人……人間と亜人の想いが交差する学園生活が始まろうとしている。
これは、とある人間と亜人が紡ぐ混沌とした青春に近くて遠い学園記録である。
『おはよう』
『ウース』
『今日ってなんの授業だっけ?』
『オレ、課題忘れたー』
天気は快晴。雲一つ無い空の下で学園に登校する少年少女が朝早くだと言うのに和気藹々と雑談している。
しかし、一見すると普通の光景だが、指摘するなら少年少女は普通ではなかった。
ある者は犬耳と尻尾が生え、ある者は背に翼が生え、ある者は下半身が馬であったり蛇であったり魚であったりと様々な特徴を持った種族だった。
数少ない人間と亜人が共存して学べる大きな学舎――界立マーシャル学園。
『ハッタハッタ! アトスコシデシメキリダヨ!』
『赤! 赤に食券三枚!』
『青に食券二枚!』
『赤一枚で青二枚!』
頭に犬耳と腰に尻尾が生えた種族――コボルトが下半身が蛇――ナーガの二人とケンカを始めようとしていた。周りの人は止めるどころか賭け事を始めている。
ここにとってはこの光景は普通のようだ。
そんな騒ぎをとある女性が一瞥してから校舎へと歩いていく。
「おはよう。二ノ宮さん」
黒い短めのショートヘアと血のような赤く鋭い目、顔立ちは少し中性的で凛としており、可愛いというより綺麗の部類に入る。だが胸部は壁のように平らで両手に包帯を巻いた女性――二ノ宮 咲耶が後ろからかけられた声に振り向いた。
「……おはよう」
振り向いた先には締まった体つきで眼鏡をかけており、髪は黒で前分け。背筋が常に真っ直ぐの青年――二階堂正義と黒髪をだらしなくボサボサにしたひょろりとした青年――火色栄司の二人が二ノ宮に向かっており、彼女は渋々ながらも挨拶する。
しかし、目には『めんどくさい』という気持ちが少し滲み出ていた彼女は二人に挨拶して、さっさと校内に入っていった。
「……不機嫌な時に声をかけてしまったのだろうか」
「大丈夫だよ。彼女は嫌々ながらも挨拶した……少なくとも無関心じゃないさ」
二階堂の言葉に火色がフォローする。
「だが、もしかしたら彼女は精神的なストレスを抱えているのではないのか? この学園は亜人が多く、人の数は少ない……僕と火色くんは順応が早かったが彼女はまだ慣れていないから、悩みを抱えたままではないのだろうか?」
「……ん~……確かに平和条約が結ばれてから長い月日が経ったけど……イジメでもないか……」
火色の言葉に二階堂は勢いよく詰め寄った。
「イジメだと!? それは大門ぢゃむぐ!?」
「待った待った! あくまで可能性だから! もしイジメだったら彼女は俺達どころか周りに会いたくないハズだよ」
「む、それもそうか……早とちりしてすまない」
二階堂が暴走しかけ、火色は落ち着くように諭すと二階堂は落ち着きを取り戻して火色に謝罪する。
「……どうした」
すると、二人の間に灰色のショートヘアを後頭部辺りで一つに束ねている。小麦色の肌に明るい青の瞳で全体的に優男な印象の青年が二人を見ていた。
「む、アルケイドくん。おはよう」
「……おはよう。それで、どうした?」
「……実は……」
小麦色の優男――スターク・アルケイドは氷のような無表情で二人に事情を聞くと、火色が二ノ宮について説明した。
「……あくまで予想だから違うと思うけど、念の為に気にかけて欲しいんだ」
「彼女にとっては余計なことかもしれないが、彼女も君もこの学園で数少ない人間だから……頼めるだろうか」
火色と二階堂の言葉にスタークはしばらく沈黙し、やがて口を開いた。
「……わかった」
「無理を言ってすまない……むむっ!?」
スタークの了承に安堵の表情を見せる火色と二階堂だが、二階堂は校舎の時計を見て反応した。
「いけない! もうすぐ
「ちょ、待ってよ!」
校舎へと駆けて行く二階堂を火色が追う。
「…………」
二人の後ろ姿をスタークは瞳に何かを込めて見つめた後、校舎へと入っていった。
運命の始まりまで、後もう少し……
次回からハッチャケる予定です(笑)
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1劇:望まぬエンカウント
fateコラボの深海電脳楽土は最高でした。思わず泣きましたよ……なんでアレが本編じゃないんだ!!
今回から少しずつギャグになりつつあります……
……変態も出る予定があるヤツはアップしてるんで……(ボソッ
げ、げふんげふん、それではどうぞ!
二ノ宮 咲耶。
マーシャル学園では数少ない学園に在籍する人間の女性。
文武両道、成績優秀の完璧主義者。
能力を活用して様々なことに取り組んで行き、努力で全てを乗り越えていく少女。それが彼女の外的イメージである。
諸事情で他人を信頼しない気質で、人間不信故に誰かを信じることができず、常に相手を疑ってしまう。この気質は自分自身でも嫌っており、努力しているつもりだが、それでも一朝一夕では治せない。
そんな彼女だが、この学園に入学してからやり直したい事ができた。時を戻せるマーシャルアーツがあれば彼女は躊躇なく使うもしくはその技者に頼むが都合よく持っている人なんていない。
それを話すには、まずは彼女がとある人物に出会う所まで遡らなければいけない。
彼女が、一人の
その日の放課後、自身の担任から用事を頼まれていた彼女――二ノ宮は頼まれた仕事をこなした後に職員室へと赴き、教師に報告して教室に置いてあるカバンを取りに行く道中だった。
すぐに終わると言っていたが完全下校まで残り三十分までかかる仕事の内容に少しだけ愚痴をこぼす二ノ宮。
この後、自分の身に何が起こるのか。
そしてどんな運命に出会うのかなど、この時はまだ知る由もなかった。
とある理由から二ノ宮は少しだけ急ぐ様子を見せ、自身が所属するクラスの扉を開けようと手を伸ばす。
『……ん……んんぅぅぅ……いや~羽を伸ばすのは良いねぇ。解放感あって生き返る心地だ』
隣のクラスから声が聞こえた。別に気にする必要が無いハズだが、彼女は聞き覚えの無い声色に耳を傾けた。
『やれやれ、目的の為とはいえ肩が凝って仕方がなッ!? ……文句は言えないな』
……え? さっきの沈黙は何?
突然訪れた沈黙に疑問符をあげる二ノ宮だが、向こうに敵意や悪意が無いことを理解した。気にせず教室の扉に手を伸ばし――
『ん? ドラン、そのピンク色のノートはどこから持ってきたんだい?』
――呼吸と共に止まった。硬直した首を隣のクラスに向ける。心なしかギギギ、という油が切れた機械のような音が聞こえてくる。
……いやいや、そんなハズない。あれは鞄に入れたし、ピンク色のノートなんて誰でも使ってるし、私の知ってるノートじゃ……
『……原案ノートなんて変わったなま』
「それ以上開けるなァァァァァァ!!」
言うが早く二ノ宮は大声で叫びながら隣のクラスに突入した。夕焼けの逆光でノートを持った人物の顔がわからないが、ノートを開けている様子を見た彼女は素早くその人物の懐に潜り込んだ。
「殺してやるぅぅぅぅ、うわぁぁぁぁん!」
力強い掌打がその人物の喉に当たりゴキン、と軽くて乾いた音が教室に響くと同時に糸が切れた人形のように膝から崩れ落ちた。
「……はぁ……はぁ……はぁ……あ……」
落ち着きを取り戻していく彼女だが、人を殺してしまった事に震え始める。手にはまだ、人に触れた感触が残されている。
「……ど……どうしよ……私……」
衝動的に殺ったとはいえ、取り返しのつかない事をしてしまった事実に恐怖で震える二ノ宮。バレてしまったらどうしようもな――
「いきなり出てきて一撃を打ち込んで殺してくるなんて、意外にテロリストめいた事をするのだね」
――声が聞こえた。
この場にいないハズの声に硬直する二ノ宮。一瞬、誰かが教室に入ってきたのかと思ったが教室の扉は自身が開けた所以外は閉まっており、人影もいない。そもそも声は彼女の後ろから聞こえた。
後ろには誰もいないハズだと彼女はそう考えながらゆっくりと後ろを振り向く。
「……え……」
そこにいたのは、自身が衝動的に殺してしまった人物――スタークだった。彼は二ノ宮に対して殺されたにも関わらずにまるで知ってはいけない事を知ってしまった人を見たような感じのばつが悪い表情で後頭部を掻いている。
「……なんで……」
「生きているのか……そう言いたいのだろう? 答えを言ってあげるが、くれぐれも口外しないでくれ」
スタークがそう言うと、教室が急に暗くなった。
いや、暗くなったのではない……日光を遮断するモノが突然現れたのだ。それは
その翼がまるで悪魔のように見えて呆然とする二ノ宮にスタークはカラカラとまるでイタズラが成功した子供のように笑って彼女に話しかける。
「スターク・アルケイド……“人間”改め“
二ノ宮の目に映ったのは、小さな子供に対して話すかのように余裕を持ってスタークの不敵に笑う顔だった。
だったので、
「せいや!!」
「ブゴファ!?」
取り敢えず腹を殴った。余裕を持った顔が少しムカついたかどうかは知らなくていい事である。
檀黎斗「祝え! 崇め奉りたまえ! かつて全世界を熱狂させた私のゲーム!! 全てを掌握するゲームマスターである私が生み出した最高傑作の一つであり、至高のゲーム……時空を超え、世界に産声を轟かす。その名もマイティアクションX。まさに……アハァ……私の神の才能による復活の瞬間ダァァァァァ!!」
最近、黒ウォズと白ウォズの継承の儀を見ているとこんなのが流れてくるのですが、どうすればいいですか?
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2劇:予想外なリザルト
「……はぁ……」
学校の昼休み。
ある者は持参した弁当や買っておいたパンやおにぎりなどの商品。
ある者は食堂にある学食。
各々の自由に昼食を食べようと動く中で一人の女性――二ノ宮が自身の席から外を眺めていた。
スタークが人間ではなく吸血鬼と本人からカミングアウトされた翌日、二ノ宮は大きくため息を吐いた。
見た目も相まって絵になるが、彼女の頭の中はとある悩みで埋め尽くされていた。
「…………」
その悩みを語るには、彼女がスタークを殴った後について話さなければならない……
◇
夕陽が差し込み、周囲がオレンジ色に染まる教室。
影の黒もオレンジの明るさを際立たせ、より一層コントラストを美しくさせる中で一組の男女が相対していた。
言わずもがな、スタークと二ノ宮である。
「……いてて……躊躇なく殴ってくるとか、原始人でもしないぞ」
「なにか言った?」
二ノ宮の先制攻撃である拳がスタークの腹部にめり込み、そのまま死んだスタークが目を覚ますまで待ってた二ノ宮がスタークから理由を聞こうとする。
「……というより、しゃべり方とか違うよね?」
「吸血鬼だとバレない為に極力喋る事を避けていたのだ。これが私の素だから文句を言われる筋合いはない」
やけにフランクかつ饒舌に喋る様子を指摘する二ノ宮にスタークが答える。彼女はアイドルの裏側を知ってしまったようなガッカリした様子をみせる。
「……なんだね?」
「……いやさ……寡黙なキャラだと思ってたら、すごい拍子抜けな性格なんだけど」
「ふん。他人の勝手な考えを押し付けないで欲しいものだよ」
二ノ宮の言葉にスタークは鼻で笑い、スタスタと教室のドアに向かって歩き、二ノ宮に振り向く。
「ごきげんよう。また明日」
「あ、またあし……って待ちなよ!!」
帰ろうとしたスタークに二ノ宮が待ったをかけた。
「なんだね? 何か忘れているのか?」
「忘れてる。大事な事を忘れてる!」
首をかしげるスタークに対して、二ノ宮は教室に響くような声量で答えた。
「僕、君の事を殺してない!!」
「新手のサイコパスかね」
まさかの答えに一周回り、逆に落ち着いたスタークがツッコミをいれた。
「大体、君が私の秘密を漏らさない。私も君の秘密を口外しない……それで納得じゃないのかね?」
「いや! 安心できない……だから、ここで諸悪の根源を絶つ!!」
「……いつから諸悪の根源となったのか、この際スルーするとして……無理だと思うが殺っ――」
瞬間、スタークは心臓が貫かれたような衝撃と共に絶命した。しかし、なかったかのように蘇り、また殺され、蘇りが繰り返された。
時には折り、時には砕き、時には潰す彼女の猛攻に成す術なく殺され、蘇るスターク。
割る、蘇る、裂く、蘇る、斬る、蘇る、抉る、蘇る、絞める、蘇る。
時間にして十数分。しかし二ノ宮にとっては数時間に及ぶ攻撃の二ノ宮の勢いが落ちていき、呼吸が荒くなって攻撃をやめた。
「……なんで……なんで、死なないの……」
殺そうとする内に何度も生き返るスタークに攻撃しても無駄だと判断した二ノ宮をスタークは見つめていた。
「言っただろう? “吸血鬼”だからさ」
そんな彼女にニヒルな笑みを見せるスターク。
「……諦めずに私を殺そうとする君を見て、余程知りたくない事だと理解した……そこで、取り引きをしよう」
「……取り引き?」
突然、取り引きを持ちかけるスタークに警戒しながら、二ノ宮は聞き返す。
「君の原案ノートを見てしまった私だが……個人的におもしろい作品だと思う。しかし、残念な部分もある」
「……吸血鬼に関する描写が少ないって事でしょ?」
スタークの言葉に渋々答える二ノ宮。
「そこは仕方ないよ。吸血鬼に関する情報が少なすぎる……あっても、それがデマの可能性だって……」
「そこでだ……吸血鬼に関する情報を私が提供しよう」
まさかの展開に驚く二ノ宮の様子を尻目にスタークが話し続ける。
「君は私の秘密を口外せず、私は君の秘密を漏らさないように細心の注意を払って、君に吸血鬼に関する情報を提供する……君にとって有利な取り引きだ。悪い話ではないだろう?」
……確かに悪くない……悪くないけど……話がウマすぎる……
まるで姿形がない霧のような存在と話してるような気味の悪さを覚えながら、二ノ宮はスタークに質問する。
「……君にメリットはあるのかい?」
「あるとも」
即答。迷いなく答えるスタークに二ノ宮は動かずに警戒する。
「しかし、ここで話すわけにはいかない……ゆっくり考えてから、答えを教えてくれ……お互い、秘密を守りたいからね」
そう言って、スタークは教室のドアに歩いていく。その姿を見ていた二ノ宮は自身が吸血鬼の情報を探していた時に『吸血鬼は夜の王と呼ばれる種族』とデマの情報が載ってたサイトを思い出し、あながち間違いではなかったと認識した。
余談だが、数秒後にスタークがドアの角に足の小指をぶつけて死ぬ姿を見てしまい、やっぱりデマだったと再認識した。
◇
その後、スタークは約束通り秘密にしてくれている。そもそも寡黙なキャラを演じている彼が急に饒舌になったら誰でも驚くだろう。
二ノ宮も彼が悪い人間もとい、吸血鬼ではないことは勘だがわかる。わざわざ自分に有利な話を持ちかけてきた……しかし、信じる事ができない。
「……………」
自身の悪癖を理解して治そうするが、今回はそれを抜きにしても信じられないと断言できる。
「………………あ…………」
なんとかあの男の事を知ろうと考える二ノ宮はある人物が頭に思い浮かんだ。
すぐさま、彼女はある人物に会う為にいるであろう場所に向かった。
活動報告にて新連載アンケートダービーやってます!
期限は4月14日までなので、暇でしたら、ご参加していただくと幸いです。
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