【悲報】この世界には魔法がない (すもも子)
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1話

「白雪姫」って呼ぶ魔法使いさんが見たかった。
あと魔法がない中世欧州ファンタジー世界に魔法使いさんをぶっこんでみたかった。
反省も後悔もしていない。
※オリ主の性別は決めてないです。
※捏造キャラ出ます。


 

 ここが『赤髪の白雪姫』という中世欧州ファンタジー系少女漫画の世界じゃねと気づいたのは、空腹で行き倒れていたところを主人公ちゃん(小)に助けられてからだった。

 そこ、クソだせえとか言わない。自覚してるから。

 シチュエーションが謎って?説明するから待って。

 

 

 

 自分はタンバルンどころかクラリネスでもないどっかの国のスラム街で目を覚ました。

 姿形も見慣れた自分自身のものだったし、コタツでぬくぬく寝落ちした記憶があったのでたぶんトリップ的なアレだったんだろう。アレだよ、次元の狭間に落っこちた的な。知らんけど。

 知らない世界に来たと直感してからの記憶は曖昧だ。社会経験もろくにないし専門知識があるわけでもないのに現代日本から気づけばよく分からん場所で地面とキスしていたのだから、まあお察し案件である。

 

 意識がハッキリしだしたのは奥深い森で人と関わらなくなってから。

 自分が自分でないようなフワフワした心地が段々薄くなり、ボロ小屋の横で魔法を使って火を起こしていたら完全に覚醒した、のだと思う。

 

 そう、魔法である。

 

 な、何を言っているかわからねーと思うが以下略。

 本気で分からない。科学的に説明されるような法則を完全に無視した、単なるイメージだけで魔法というべきアレコレが使えてしまった。白目剥いた。

 スラム街でも記憶が曖昧な期間においてでも、魔法なんて存在はなかったはずなのに。

 恐る恐る漫画やゲームで得たうろ覚えな魔法をとにかく使おうとしてみたら、だ。

 風を操ったり火を起こしたり水を浮かせたり凍らせたり、植物を生やしたり枯らしたりダイヤモンドを錬金したり、変身したり素手で木を斬ったり影に潜ったり天候を操ったり(「あっ操れる」と思ったところで止めた)、とりあえず想像したことがすべてできてしまった。白目剥くどころか気絶したくなった。

 端的に言ってやばいとしか言えない。ヤバみが深みでまっことつらみ。自分で自分が恐ろしすぎた。

 ほぼノーモーションで魔法もどきが使えるなど、神にでもなったのだろうか。尋常じゃない冷や汗と限界まで走った後みたいな心臓の鼓動、そして腹痛がなければたぶん神だった。ついでに腹痛は治癒魔法的な何かで治せた。

 魔法の発動に必要なそれっぽい魔法陣すら出ない。いや、魔法陣出ろとおもったら空中にそれっぽい魔法陣が出た。出した張本人ですら意味が分からないのでたぶん見掛け倒しのハッタリ魔法陣である。

 誰かが作った術式ならまだ安心できたのに。そう思う自分はやはり小心者で神ではない。

 とりあえずその辺の木の棒を魔法の杖っぽく加工して、指向性を持たせ魔力を適切に調整する的な役割を担わせたら多少魔法の規模&威力はマシになった。

 

 ゆえに、引きこもろうと決意した。最初は。

 だって自分で自分が怖いもん。死にたくはないから自殺はしないが、イメージで使えてしまう魔法もどきが恐ろしすぎる。こんな大層な力は望んじゃいない。

 そんなこんなで、魔法という超絶便利なツールを必要最低限用いて森に引きこもること幾星霜。

 

 時間感覚が曖昧になってきた頃、己の人間性が欠如していくことに気づき、やはり街に出た方がいいと思い直した。

 やー他人が怖いくせに人と関わらなきゃ精神崩壊みたいなルート一直線なのホント草。わろえないけど。まあ精神いじくる魔法を使えばいいんだろうけど、生理的な嫌悪感みたいな、倫理的に無理的な心情があったので選択肢を削除しました。自分はまだちゃんと人間です。

 

 増えた独り言のおかげで声帯は問題なく機能するが、表情筋がガチで固くなっていたので解しつつ適当に歩きすすめる。

 

 

 

 

 そうして、ペース考えずに気合で歩き続けた挙げ句お腹が減って動けないポンコツを晒していたところ、フード付きの服を着た赤髪の少女が話しかけてきたのだ。

 場所は森の出口近く。地面に倒れローブに包まれ布饅頭と化して動かない自分を心配してくれたのだろう。

 天使かと思った。おまわりさんこっちです。

 

「大丈夫ですか?!」

 

 大丈夫です。腹が減ってるだけです。

 

「え?」

 

 ……おなかすいただけですぅ!

 

「……い、今おじいちゃん呼んできます!待っててください!」

 

 

 どこかへ駆けていく少女。持ってきたのであろう薬草辞典が自分のすぐ近くに放置されている。

 

 近くに少女が居たから身動きがとれなかったのであって、人さえ居なければ適当に浮いて森に戻り食料を調達するのだが。

 ……顔も見えない怪しい奴を心配して駆け寄り、自分の持ち物を忘れてまで大人を呼びに行ってくれた少女に「もう少し警戒心を持ちなさい」と言いたく思ったので、大人しく倒れておくことにした。

 断じて少女の優しさが日陰者に染みたわけではないぞ。記憶があやふやな頃を除いたら第一な異世界人との会話に感動したわけではないんだからな。……ウソです感動に打ち震えていました。

 

 

 少女が呼んできた男性は中々にムキムキなダンディおじ様だった。アジア人からしたら西洋の方は大体イケメンに見えるエフェクトがかかっているけれど、なんかこう勢いがあって気持ちのいいおじさんだった。少女の祖父らしいが、全然爺って感じじゃない。

 

「おじいちゃん、この人!」

「分かった分かった。おうい、生きてるかアンタ」

 

 生きてます。

 

「立てるか?肩貸すぞ」

 

 申し訳ない。

 

「ハッハッハ、このくらいかまわんさ。で、腹減ってるって聞いたんだが、うちで飯食ってくか?」

 

 自分金ないんですが。

 

「ふむ……じゃああとで働いて返してもらおうかな!」

 

 神かよ。

 

「そう言われたのは初めてだなぁ!」

 

 少女に心配されつつ肩を貸してもらって、近所の方からかけられる声に萎縮しつつしばらく歩いた先は酒場だった。

 ご夫婦で経営しているらしい。今は仕込み中だったとのこと。お邪魔して申し訳ないと言いつつ、店の椅子に座らされた。

 お言葉に甘えて料理が来るまで少しお話をした。

 少女は暇ができるたび、薬草辞典を片手に近隣の森を散歩するらしい。純粋にすごいなと思った。酒場のお手伝いもちゃんとする良い子のようだ。圧倒的光属性に浄化されそうだった。

 

 少女のおばあちゃん(肝っ玉母さん感でいっぱいだった)に介抱されつつスープに浸した柔らかいパンを食べる。

 

 本音を言えばあまり美味しくはなかった。

 自分は日本人らしく舌が肥えていたし、急拵えで悪いがと注釈もつけられていた。

 

 それでも、食べながら泣いた。エグエグ泣いた。

 ずっと着てるボロボロのローブで目元を擦ろうとすれば少女がキレイなタオルを貸してくれた。

 さらに泣いた。

 「何があったか知らんが、飯食って泣けるなら上出来だ」とお爺様が快活に笑った。

 さらに泣いた。

 「ベッドはそれでいいね。飯代分は働いてもらうから、覚悟するんだよ?」と茶目っ気たっぷりにお婆様が笑った。

 さらに泣いた。なんなん見ず知らずの薄汚い輩に優しすぎじゃろ。

 

「私、白雪って言います。あなたの名前は?」

 

 とりあえず下の名前だけを答えて、スンッ……と真顔になった。

 

 目の前の少女は赤髪である。

 赤い髪の白雪という名の少女。

 薬草辞典。

 酒場経営者の祖父母。

 

 まさかまさかまさかと思考する頭を抑えるように額に手を当て、ここは何という国ですかと聞いてみる。

 

「アンタ知らずに来たのかい?ここはタンバルンだよ」

 

 ……ラジ王子?

 

「おう。知ってるじゃねえか」

 

 ……隣国は、クラリネス?

 

「うん」

 

 満場一致で肯定されて、めのまえが まっしろに なった!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 赤い髪を珍しがったこの国の第一王子に求婚されたので国を出る準備をしていたとき、チリンと軽い鈴音がした。

 

「や。久しぶり」

 

 フードを深く被った人影が、気配もなくいつの間にか室内に居る。

 鈴音は、今から来ますよという合図だ。

 魔法使いだというこの人はいつも何かしらこうやって直接側に現れるので、毎回毎回驚くからせめて鈴音を鳴らしてほしいと言ったことを、こうして律儀に守ってくれている。

 

「久しぶりっていうほどかな」

「さあ?とりあえず白雪姫が王子に求婚されたって聞いて、ちょっと急いで飛んできた」

「姫じゃないしなるつもりもない。心配ありがとう」

「白雪といったら姫ですぅー……今は洒落にならんか、すまん。そしてどいたま」

 

 この人は私のことをいつも「白雪姫」と呼ぶ。

 私が「姫じゃない」と返すまでがワンセットだ。

 まあ、第一王子から妾にされそうになってる今は本気で洒落にならないのだけれど。

 

 

 

 

 よく通っていた森で行き倒れていたところを拾ったこと人は、なんだか最初から不思議な人物だった。

 ボロボロのローブを羽織っているのに下の服は上等なもの。働いたことのないような白い手。完璧ってわけではないけれど、最低限以上に身についていたらしい綺麗な所作。余り物のスープに浸したパンを食べて号泣して、ここはどこだと聞いた様。

 今は亡き祖父母は、どこかの貴族だったのではないかと推測していた。

 結局ずっと本人から過去を聞くことのないまま、出会ってからもう十年の付き合いになる。

 

「荷造りしてるっぽいけど、家出するの?」

「そのつもり」

 

 フードの隙間から、口元がへにょりと曲がったのが見える。

 

「なんとかしようか」

 

 ほら、くると思った。

 

 祖父母が褒めてくれた赤い髪を理由にからかわれたときは、相手が鳥に糞をかけられたり変なところで迷子になったりしていた。仕返しなんてしなくていいから!と言っても「なんのこと?」と知らんぷり。いたずらっ子と言えば可愛いけれど、魔法使いさんは魔法が使えるのだから、ちょっとだけ困る。

 私のことを気に入っているらしい魔法使いさんは、何かにつけて味方になってくれるのだ。

 今回だってこうして、遠くに居たはずなのに心配して来てくれたし、第一王子からの求婚という冗談キツい話をなんとかしようかと提案してくれた。

 だからこそせめて洒落の範囲で収めなければならない。

 

 ボロボロの猫の傷を暖かな光で癒やす様子を目撃してしまった私に、この人は「実は魔法使いなんだ」って、あっけらかんと話してくれた。

 魔法使いは存在したんだ!

 今よりずっと子どもの私は、そう無邪気にはしゃいだことを覚えている。

 でも、数年前にふと疑問に思ったんだ。

 この人は一体、どれくらいの魔法が使えるのだろう?

 どれくらいの、というのは規模や威力、時間諸々全て引っくるめたアバウトな聞き方だろうけれど、私は疑問ををそのままぶつけてしまった。

 一拍置いて、いつもフードや髪に隠れている目が何故か私と合う。

 

『なんでも、かな』

 

 底の知れなさを思わせる真っ暗な目が、とても恐ろしかった。ゾッとした。冷や汗をかいた。

 次の瞬間「何、自分に興味持ってくれたの?思春期か?お?」と軽いノリで絡んできてくれなければ、私はこの人から逃げていたかもしれない。

 

 

 

 基本優しくて、ノリが軽くて、律儀なところもあって、ちょっぴり得体のしれない人。

 

 成り行きでうちの酒場で働き、今ではこっそり魔法(という名のズルだとこの人は言う)を用い巡業手品師として生計を立てているこの人への印象は、こんなところだ。

 ついでに言っておくと、この人は年をとっている感じがしない。

 

 

 

「うーん、あなたの❝なんとかする❞はちょっと怖いから遠慮しようかな」

「そ?……魔法の出番が欲しかったらいつでもいってくれよー」

「ありがとう、魔法使いさん」

 

 魔法使いさん。

 そう言うと目に見えて機嫌が良くなった。魔法使いであることを吹聴しないのは色々と面倒事を避けるためだと言うけれど、魔法使いさんと呼ばれるのは好きらしい。

 手品師としての芸名も『魔法使いさん』だ。まんまだなあと思った。

 

「亡命するならこの森からがいいよ」

「本当?」

「ホントホント。魔法使いさんウソつかない。もうちょっとしてから行けば暗くなる頃には空き家にたどり着くだろう。そこで休みな」

「分かった」

 

 ローブの内側、どこからか出した地図を指し示す。

 予め私が行くつもりだった場所とあまり変わらなかったので、採用しようかな。

 

「兵士が来たらアレだし、国境までは送ってくよ」

「えっ、いや、そこまでしてもらわなくても」

「いいからいいから。じゃ、準備できたら呼んでね」

 

 鈴が鳴って、姿がかき消える。

 たぶん心配の現れだろうこの強引さは久しぶりだ。

 そこまでしてもらわなくてもいいという気持ちは本当だけれど、魔法使いさんが付いてきてくれると思うと少し安心するのも本音。

 お言葉に甘えるしかなさそうだ。

 

「よし」

 

 深呼吸をして束ねていた髪を切り、魔法使いさんと合流して家を出た。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いってらっしゃい」

「いってきます」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 チリン、と鈴が鳴る。

 

「や。久しぶり」

 

 ❝山の獅子❞の中心も中心、大将たる武風の執務室にローブを深く被った人物が気配もなく下り立った。

 

「おう、久しぶりだな。手品師の巡業はうまくいってんのか?」

 

 武風の対応も慣れたものだ。

 

「この魔法使いさんに何言ってんだ。此処でしばらくやったらクラリネスへ行くつもり」

「さすがだな」

「もっと褒めてくれてもいいんだぜ?」

「お前はすごい!さすが皆を喜ばせる魔法使いだ!よくやってる!」

「ヒョエ……浄化される……」

 

 初めて会った頃から姿形が変わっていないだろうと思われる魔法使いの頭をローブ越しにわしゃわしゃと撫でてやると、本気で照れている様子がわかる。

 子ども扱いされることに慣れていないのだろう。

 それでも武風にとっては、十年以上の付き合いになる可愛い子どもである。

 魔法使いを名乗るそれが、たとえ人の理を外れたものであろうとも。

 

 

 

「そーいや白雪姫さー」

「お前さんまだ姫呼びしてんのか……」

 

 よれた服を直しながら、話題をそらすように魔法使いが口にしたのは武風の実の娘のことだった。

 死んだことになっているためそう易々とは会いに行けず、どんどん自立していく娘のことを赤の他人のはずの魔法使いから聞くことは常である。元々娘をきっかけにこうして交流を深めたのだから、当然のことではあるが。

 

 

 

 

 

「ついさっき国を出たよ」

 

 

 

 

「えっ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 




とりあえずラクスド砦で
「ここには恐ろしい魔物が!」
って言われて
「魔物…」←脳裏にテヘペロしてる魔法使いさんが過る

そんなシーンが書きたかった。


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2話

とても短いし進んでいるわけではない。
時系列的にはまだ単行本1巻。



 

 

 チリン。

 雑音の多い酒場だからこそ、かすかな鈴の音が彼にだけ届くよう調節する。

 

「や。久しぶり」

 

 なんとなく転移後の決まり文句になってきた一言を告げ、先に始めていた彼と同じテーブルにつく。

 周囲からの注目を浴びないよう認識阻害的な結界を張り、突っ伏してから思いの丈を叫んだ。

 

「白雪姫がイケメンすぎてつらい!!!!!」

「あ、店員さん酒お代わりください」

 

 外から内への干渉を阻害しているだけなので、内から外に声をかけたら普通に届く。それを勝手知ったるこの男、巳早は悶える自分を無視してどんどん注文を進めている。畜生慣れきってやがる。

 人の奢りだからって高いものから頼む、お前ホントそういうとこだぞって。いや別にいいけど。強欲でいいと思うけど。

 

「畜生他人事だと思いやがって……」

「まあ他人事だからな」

「せやな!!!!!」

 

 せやな。

 それでも一応話は聞いてくれるらしい。巳早から話を続けてくれた。

 

「白雪姫白雪姫って、よくもまあそんなに入れ込めるもんだ」

「尊いからね。しょうがないね」

「キモい」

「まあ白雪姫国出ちゃったけど」

「へー。店員さんこれと同じの一つ追加で」

 

 何かしらの仕事終わりだっただろう巳早を手紙で酒場に集合かけたのは自分である。

 奢りって言っとけばほぼ確実に来てくれるから、知り合って以降こうしてお喋りに付き合ってもらっているのだ。キャバクラ風カウンセリング的なノリで。お喋りするならそりゃ可愛い女の子の方がよかったけどコミュ障にはハードルが高かった。

 その点稼ぎたがりの野心家たる巳早に出会ったのは運が良かったのかもしれない。

 近所のちびっこたちに手品と称した魔法をこっそり披露してたのを偶然見られて、「手品で稼ぐ気はないか」と声をかけられたのだ。そう、自分に手品師の道を提示したのは、何を隠そう巳早である。

 おもしろそうだったので話に乗り、暫くの間自分がパフォーマンスをして、巳早が役所への届け出とか公演依頼とか知名度アップとか諸々を担当していた。パトロンみたいなものかなと思っていた。

 そして、最初は良かったのだけれど、魔法使いたる自分はそれほど目立つ気がなかったので、方向性の違い?的なあれそれで結局コンビを解消した。

 巳早は自分という金の成る木を思いの外アッサリ手放した。あまりしつこくするのは得策じゃないと思ったらしい。いざとなれば魔法使ってやろうと思っていたので、察しが良いですな。現代日本で株やっても大丈夫なんじゃね?たまにポカしそうだけど。

 さらっと聞いたが巳早は没落貴族らしく、あれこれ失ったからこそ稼げるもの使って稼ぐのが今の信条のようだ。財はいくらあっても困らないもんね、基本は。でも人間的に屑で下衆で下劣というべきところまでは堕ちきっていないと思われる。

 そういうところが好印象なのである。

 白雪姫以外で最初に長く付き合ってきた男なので関係を終わらせるのが少し勿体なく思い、今でもこうして酒と食事を理由に駄弁ってもらっている。

 これ友達っぽくね?向こうがどう思ってるか知らんけど。コミュ障にしてはがんばってるんだよ。

 ……嫌われてはいない、はずだ。

 あっ泣きたくなってきた。

 

「そう、そんで相談なんだけどさあ」

 

 まあそれは置いといて本題に入ろう。

 

「んだよ」

「白雪姫はこれから結構危ない目に合うんだが、手助けするべきかなあどうだろう」

「……未来予知もできんの?」

「化物見る目やめて???泣くぞ???いい年した魔法使いさん泣くぞ???」

「えっむしろ化物じゃないつもりだったのかお前」

「泣いた」

 

 ナチュラルな化物扱い!ひどい!でも否定できない!

 

「もー!それは置いといて!」

「危ない目って具体的には?」

「……たまに命の危機?」

「やべえな」

「でもさー、死ぬわけじゃあないと思われるんだよ。自分はほら、魔法使いさんだからさ、気づかれないように危険な芽を摘むとかできるわけだけど、それが本当に白雪姫のためになるかと言われたら微妙だし」

 

 呆れを含ませた巳早のジト目に気づかない振りをして話し続けてみた。

 

「自分が勝手に保護者気分で守りたがってるだけとも言えるし。白雪姫には王子様がいるし、騎士がつくし」

「過保護通り越してストーカー扱いされたくなかったら白雪姫離れした方がいいんじゃねえの」

「グハッ」

 

 ガラスのハートに正論がクリティカルヒット!

 

「少なくとも俺は嫌だね。保護者面した怪しい魔法使いがいつまでもくっついてくんのは」

「ガフッ」

 

 フルコンボだドン!

 

「……そうだよな……セコムもいきすぎたらダメだよな……」

「死ぬわけじゃねえならほっとけよ」

「でも白雪姫に手を出す輩はぶっ飛ばしたい……」

「じゃあ後で闇討ちするってのは?悪夢見せるとか。お前がやったってのがバレなきゃセーフだろ」

「……なるほど」

 

 彼らに介入せず、暗躍するということか。あくまで自分のために。

 ……魔法使いなんてイレギュラーもイレギュラーだけど、それくらいは許されるだろう。

 

「おし、王子や騎士の邪魔はせんようにしよ。馬に蹴られたくないし。そんで不貞の輩は白雪姫にバレないようにぶっ飛ばす」

「あっそ」

 

 我関せずとばかりに流す巳早。知ってた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 金になりそうな赤髪の娘は結局使えなかった。

 なんなんだアイツ。普通拐われたらビビって動けなくなるもんじゃねえの?そこで優しくすれば落ちるかと思ってたんだが、まさか全力で抵抗されるとは思わなかった。

 しかも第二王子が騎士やってるし。マジでどういう繋がりだよ。

 勿体無いが、計画は諦めるしかなさそうだ。

 

 麓の役人に引き渡されて、暫く拘留されることになった。

 マトモに取っ捕まったのは初めてかもな。父や兄はどんな気分で牢に入ったのだろう。……やめやめ、んなの考える暇があるなら次の稼ぎについて思いを馳せた方が余程いい。

 ガリガリと頭をかいているとき、ふと引っかかったことがあった。

 

「……白雪?」

 

 赤髪の名前だ。第二王子には「気安く呼ぶな」みたいなことを言われたが。

 そう、そして、その名前は、あの化物が散々連呼しているものと一致しないだろうか?

 

「……………………白雪姫?」

 

 

 

 

 

 チリン。

 

 

 

 

 

「や。久しぶり」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「自分で言った言葉には責任を持とうね」

 

「お前が言ってた白雪姫って赤髪かよ!言えよ!聞いてたら手出しなんざしなかったよ!」

「ほんとにござるかぁ?」

「……」

「そこで即答できないところが巳早だなって」

「いやっ、お前に喧嘩売るとか命知らずなことはしねえぞ?!ていうか赤髪が白雪姫……姫って柄かあれは!」

「白雪姫はイケメンだからね」

「飛んだお転婆娘だよ!あと第二王子って、あれか、前言ってた白雪姫の王子か?!ガチで王子なのかよ!」

「せやで。騎士もガチで騎士やで。まだ居ないけど」

「……クソっ、関わるんじゃなかった」

「……まあ、別に怒ってないしどんどん関わってくれていいよ」

「はぁ?どういう風の吹き回しだ、あんだけ過保護だったのに」

「お前は手段を選ばないけど、救いようのないゲスクズじゃないからね。むしろその貪欲さが羨ましいレベルだし。白雪姫は白雪姫だけど、自分は巳早のこともそれなりに気に入ってるんだぜ」

「……そうかよ」

「ひとの交友関係に口出ししないよ!大人でしょ!」

「普通じゃね?」

「ぐう正」

 

 

 

 

 




魔法使いさん
:原作介入はほぼしないことに決定。
マジでヤバくなるまでは手出ししない、白雪姫をおびやかした者は独断と偏見により個人的に復讐する腹積もり。
異変を察知されたら白雪姫は魔法使いさんの仕業だと気づくだろうし、王子勢に目をつけられるのも厄介そうだから、目立ったことはしない。
ストーリーテラー気分だが、要は人見知り拗らせて誰かと関わるのが怖い状態。
主人公ちゃんとは最初から関わってたし、巳早はそっちから近づいてきたので平気。武風さんに対してはがんばった。



巳早
:わりとちゃんと魔法使いさんに脅威を感じてる。
手品師として生計を立ててやったが、ガチの魔法使いであり魔法の底が知れなさ過ぎて本能的な恐怖を感じ、魔法使いさんで稼ぐのが限界だなって頃に離れた。
が、なんか気に入られてたまに飲みに誘われる。奢りだというので遠慮なく飲み食いする。
扱いさえ間違えなければ安全、という認識。
魔法使いさんにはどうやっても勝てないと確信して開き直ったとも言える。




白雪姫
:魔法使いさんは、近所の兄ちゃんという認識が近い。
神出鬼没なのでいずれどこかで会えるだろうと思っている。
魔法使いさんにそこまでビビっていない。
ぅゎ主人公っょぃ。




第二王子
:白雪の話に出てきた魔法使いさんとやらがちょっと気になる。
クラリネスでショーがあったら一回くらい見に行こうかな。タイミングが合えば。





主人公ちゃんが魔法使いさんと他の人たちとの関係を知るのは海の鉤爪とのアレコレが終わってから。
魔法使いさんは自分のことをあまり主人公ちゃんに話さないし、主人公ちゃんも聞かないから。




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3話

単行本4巻末に飛びます。
ウィスタルでの騒動がとりあえず終結し、ゼンと白雪が告白し合った後の日常編のところ。
タンバルンでラジ王子たちとあれこれする前。


ちょっと深夜テンションで書いたところがありますがご容赦ください。




 なんかこうピンと来たね。

 

「……ハッ!白雪姫の気配!」

 

 巳早に聞かれたらキモいと言われそうなセリフを吐いたのは、舞台や闘技が盛んなユリカナとかいう街で人形劇を披露していたときである。

 

 当然普通の人形劇ではない。街の人形屋さんとがんばって交渉して色んな人形を借り、魔法で操っているのだ。

 誰も触っていないのに人形が動く様はやはり受ける。手品と言い張れば大体楽しんでくれるから楽だよね。世が世なら即刻魔女狩り対象にされそう。

 その辺のちびっ子たちが持ってる人形をお借りして即興で動かせばさらに反応が大きくなった。本物の魔法ゆえ、がんばって有りもしない種を探すことだな(謎の上から目線)。

 ストーリーは適当な童話だ。なるべくハッピーエンドなやつ。正直うろ覚えなので捏造入りまくってると思う。まあ元の世界の童話を知ってる奴は居ないだろうし、居たら居たで同郷一本釣りってことでもーまんたい。

 

 

 

〜〜〜

 

 

「昔々あるところにかつて世紀末ヒャッハーとして名を馳せたおじいさんとおばあさんがいました」

 

▼金髪モヒカン肩パッドギャングのおじいさんとおばあさんが登場!

 

「おじいさんは山へ長年のライバルである熊のポッピッポーとの決着をつけに、おばあさんは川へ洗濯ネット(玉鋼製)の点検にいきました」

 

▼おじいさんの何倍もの大きさの、片目に傷がついている巨大熊が登場!

 

「おばあさんがヒャッハーしていると、川上からドップラー効果を備えた尻のような桃のような未確認飛行物体が流れてきました」

 

▼高速回転する桃(?)!対峙するおばあさん!

 

「戦闘機もかくやという素早さの物体Xにおばあさんは怯みません。冷静に流水制空圏を発動しゴッドフィンガーを展開…そのときその空間はまさに宇宙空間のごときヘヴンだったのです」

 

▼おばあさんはプロフェッショナルな優しい手付きで桃(?)を救う!

 

「捕獲した物体Xを片手におばあさんが家に戻るとおじいさんは熊鍋を作っているところでした。

『ちょうどいい、この物体Xもかっさばいてもらおう』

おばあさんがそう思いおじいさんがふるう狂刃の元に物体Xを投げようとすると、物体Xからつんざくような声が上がります

『ヒャッハアァァァ!!!!ヒャッハアァァァ!!!!ヒャッハアァァァ!!!!ヒャッハアァァァ!!!!』」

 

▼桃(?)が極大バイブレーション!

 

「慌てておじいさんのエンジェル・オブ・ヘルにより物体Xを解体すると、中には元気な産声をあげるモヒカンの赤ん坊が入っていました」

 

▼おじいさんの必殺技が炸裂!桃(?)から赤ん坊が没シュートだドン!

 

 

「『ヒャッハアァァァ!!!!ヒャッハアァァァ!!!!ヒャッハアァァァ!!!!ヒャッハアァァァ!!!!』

その産声(?)を聞いて、おじいさんとおばあさんは直感します。

――――この赤ん坊は、ヒャッハーの中のヒャッハー…『聖☆ヒャッハァー』となる力を秘めている!」

 

▼そのときおじいさんとおばあさんの脳裏に電流が走る!(雷魔法)

 

「おじいさんとおばあさんには子供が居ません。運命に翻弄され続けたヒャッハーは自分達の代で終わりにしようと決めていたからです。

しかしなんの因果か、二人の目の前にはヒャッハーの神に愛されていると一目で分かる赤ん坊がいます」

 

▼おじいさんとおばあさんは慈愛に溢れた表情(魔法でキラキラエフェクトを演出)で赤ん坊を抱き上げる!

 

「カップラーメンができるほどの長考の末、おじいさんとおばあさんは赤ん坊を育てることにしました」

 

▼カップラーメンをすするおじいさんとおばあさん!

 

「これが、のちの伝説のヒャッハーであり、ヒャッハー連邦の創始者となる、K=S・桃太郎(フルネーム:ケツ=尻ンダー・桃太郎)の始まりの物語です」

 

 

(※桃太郎列伝第ニ章より抜粋)

 

 

 

 

〜〜〜

 

 

 

 

 

 

 ネタが早すぎて人形が勝手に動いてるところにしか注目されなかったょ。。。

 まあ自分でも無理あるかなとは思ってたけど。

 

 

 

「すっげー浮いてるー!それどうやんのー?!」

「コツはイノセントな心です」

 

 手で運ぶのが面倒なので、人形を詰め込んだ木箱を電車ごっこのように紐で引っ張りながら歩く。

 寄ってくるちびっ子たちに手を振らせ、ファンサービスさせるのを忘れないように進んでいると、見覚えのある後ろ姿があった。

 

 赤い髪は隠しているらしい。

 

 あまりジッと見ていると、特に黒猫っぽい未来の騎士に気づかれそうなので、どうしようかな。

 と、悩んでいるうちに側近らしき3人がどっか行ってしまった。

 残るは白雪姫と、王子様。

 

 ……やっべ話しかけられん。

 なんて声かけたらいいの?白雪姫気づいてくんないかな。

 ふぇぇ柱の影で何話してんだろ。邪魔しづらい。

 いや、魔法使いさんともあろうものがコミュ障発揮して白雪姫に話しかけられないなんて!そんなことはあってはならん!冗談は見た目だけにしろよ!

 ……自分で言ってて傷ついた!

 白雪姫慰めて!

 

 

 もうどうにでもなーれのAAを思い浮かべながら、神出鬼没大胆不敵な魔法使いさんの皮を被って鈴を鳴らした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 白雪は頼っていると言う。

 ここに来られてよかったという言葉を聞いて、胸が暖かくなった。

 一人で突っ走りがちな白雪が、俺…俺たちの影響を受けて変わってきたというなら、良い方向であればいいと思う。

 

「あ、あと祖父母だけじゃなくて、お節介な魔法使いさんが居たんだ」

 

 白雪が思い出したように口にした名前を以前にも聞いたことがあった。

 

「魔法使い?……あー、前にちらっと言ってた手品師だったか。そんなに付き合い長いのか?」

「知り合って十年にはなるかな」

「十年」

 

 十年…?

 俺とミツヒデの付き合いより長い…だと…?

 十年前なら当然白雪は今よりずっと子どもで……つまり魔法使いさんとやらは白雪の幼少期を知っているのか……?

 白雪にはもう身内が居ないらしいが、付き合いの長さで言えば魔法使い野郎が一番……?

 いや待てまだ男と決まったわけじゃ……。

 

「……ソイツとは仲が良いのか?」

「気に入られてるとは思うよ。ただ不思議な人…人?だからなんとも言えないなあ」

「白雪がハッキリ言わないのは珍しいな」

「うちに住み込みで働いてもらってたときも出てっちゃったときも、ずっとこう、壁?があったというか……悪い人じゃないんだよ?」

 

 住み込み。

 えっそれはつまり白雪と一つ屋根の下で……?

 えっ???

 

 

 

 思考がグルグルし始めたとき、不意に鈴の音がした。

 

 

 

 チリン。

 

 

 

「なんだ?……鈴?」

「えっゼン今の聞こえたの?」

「あ、ああ」

 

 何故か食いついてくる白雪にどうかしたのかと問おうとして、何もなかったはずの目の前、白雪の背後に突然現れた人影に臨戦態勢をとった。

 

 

「や。久しぶり…ってうおおおおお?!」

 

 

 全身を紺のローブで覆いフードで顔を隠した不審者が片手を上げて呑気にそんなことを言うので、腕を掴み取り押さえる。

 

「いたたたたたギブギブギブギブ待って!曲がっちゃいけない方向に腕が!ごめんて!すみません!ピギーボク魔法使イサンジャナイヨ!」

「魔法使いだと?」

「そだよ!白雪姫助けて!君の王子様つよいね!貧弱魔法使いを助けて白雪姫!」

 

 知り合いか、という意味を込めた視線を白雪に向けると、本当に珍しく頭痛を抑えるように額に手を当て、ため息を吐いていた。

 少しギョッとした。

 

「ごめん、ゼン。離してあげて。その人さっき言ってた魔法使いさんなんだ。……噂をすればってやつなのかなぁ……」

 

 押さえつける力を弱めて、とりあえず頭に残った事実だけを確認する。

 

「白雪お前、姫呼びされてるのか」

「そこ?!」

「白雪姫ーぼすけてー」

 

 

 

 

「ゼン!白雪!すまんオビを……って、何があった?!」

「誰、そいつ」

 

 帰ってきたミツヒデと木々に気を取られた瞬間、助けてーと喚いていた下の自称魔法使いが消えた。

 体制を崩していると、いつの間にか白雪の背後を陣取る不審なローブ野郎が見える。

 何が起こった。確かに押さえていたはずだ。しっかり腕を掴んでいた。だが、まるで雲を掴むかのようにすり抜け、消えた。そして瞬きの間に、白雪の後ろに居る。どういうことだ。

 混乱しながら半分冷静な頭でローブの不審者からの敵意がないことを察する。白雪の言うとおりならば、不審なだけであって危険人物ではないはずだ。

 

 

「……何者だ?」

「……」

 

 俺はさっき白雪の知り合いの魔法使い()だと聞いていたが、知らない二人は腰の剣に手を添えている。

 全く頼れる側近である。

 

「ふぇぇ。。。なんでこんな殺気立ってるの……コワヒ……」

「すみません、怪しいだけで悪い人じゃないので許してあげてくれませんか。前に言ってた手品師の人です」

 

 情けない声で白雪を盾にするように怯える不審者。

 絵面の意味が分からん。

 

「ああ!魔法がどうのと言っていた人か!すごい偶然だな!」

「……想像以上に不審者だね」

 

「フグゥ」

 

 言った!言ったぞ木々!さすがだな!

 そしてダメージを受けているローブ野郎。そうだな、絶対零度の目って、くるよな。

 若干のシンパシーを感じた。

 

「不審者だなんてそんな……ちょっと怪しい格好をした胡散臭い魔法使いさんってだけですよ」

「グハァッ」

 

 白雪の 天然ボケ こうげき!

 魔法使いは 膝をついた!

 

 こないだから精神攻撃受けすぎじゃね、とかなんとか言いながら起き上がるローブ野郎。

 なんなんだ打たれ強いのか弱いのか。

 どういう仕組みか周りを浮遊している箱からさらに人形が飛び出してきて、人間臭い仕草で魔法使いを慰めている。

 これが手品の一環なのか。どうなっているんだ本当に。

 そして魔法使いは叫ぶ。

 

「善良な魔法使いさんになんたる仕打ち!もう君らのツレの所在なんて教えてあげないんだからな!」

 

 は?

 何を言ってるんだコイツ。

 

「あっそうだオビを見失ったから探そうと言いに来たんだ、が……」

 

 ミツヒデの言葉が終わるかどうかのところで、魔法使いに視線が集まる。

 

「……なんだよー!教えてやんないからなー!君たちのツレがここから歩いて3分の武闘大会で偽名使って優勝狙ってるとか教えてやんないんだからなー!」

 

「教えてるよ?」

「教えてるな」

 

 何故だろう、真偽は定かでないはずなのに本当のことを言っているのだろうと確信してしまう。

 俺と白雪の言葉を聞いた魔法使いは、ハッとして一歩後ずさった。

 

「ぐぬぬ……覚えてろー!」

「あっ魔法使いさん!またね!元気でね!」

「白雪姫こそ王子様と仲良くね!」

 

 子どもじみた捨て台詞とともに魔法使いの体が浮き上がり、律儀に挨拶を交わしてから人形とともに遠く屋根の向こうへ飛んでいってしまった。

 色々と聞きたいことがあったのに、勢いに飲まれてしまった。

 さらに言えばアレは橋の上を、人混みの上を越え飛んで行ったというのに、アレに注目する人間は居なかった。

 

 

 

 

 

 

 現実を理解するのに時間がかかり、二番目に起動したミツヒデがポツリとこぼす。

 

「白雪、姫呼びされてるのか」

「なんで皆そこなの」

 

 ああ恥ずかしいと手で顔を隠す白雪が可愛かった。

 

 ちなみに最初に起動したのは木々だ。

 

 

 

 

 

 

 





魔法使いさん
:新たに人形使いの称号を得た手品師(適当)。
イメージは人形を糸で操るタイプの劇、そして糸無し。ストーリーよりどうやって人形が動いているのか、という方に注目されそれなりに盛況だった。
知り合いがいたら突如安心する安定のコミュ障。知り合いが居なけりゃ居ないでそれなりには取り繕えるけど、居たら気が緩む。
転移魔法で白雪姫の後ろに現れて、魔法で霧状になって白雪姫の後ろで再合成、それから認識阻害の魔法をかけつつ空へ逃げた。
白雪姫と王子の青春シーンを間近で見てテンションが上がった結果がこれだよ。
あとで穴掘って埋まった。


白雪姫
:魔法使いさんはマジで魔法使いなんだとがんばって説明した。
さすがの主人公でも完全に信じさせることはできなかったので、早くまた会ってみてほしいけど神出鬼没だから無理かなと思っている。



第二王子
:めっちゃ目を擦ってミツヒデに怒られた。
魔法使いには色々問いただしたいことができた。性別とか。
狐につままれたような気分。


側近(でかい方)
:ゼンや白雪に何もないならよかった。
あれが噂の手品師か……思った以上に訳が分からないな???
狐につままれたような気分。


側近(麗人)
:白雪……慣れきってるな、と思った。
よく職務質問されないね(純然たる感心)。
狐につままれたような気分(表には出ない)。


側近(身軽な方)
:順調に優勝してた。
ずるいですよ!4人は会ったのに俺だけハブですか!……え?自業自得?そりゃそうだ。
手品師やってる魔法使いは知らないが、情報屋やってる魔法使いなら知ってる。





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4話

評価、感想、誤字報告等ありがとうございます!ネタが尽きるまでちまちま書いてみます!



今回のメインは単行本6,7巻。
タンバルンでのあれこれには殆ど手出ししないつもりだった魔法使いさん。

※オリ主は原作をあまり覚えていません。千里眼もどきの魔法で現在と多少の未来は分かります。でも基本はあまり使いません。何故かって?便利すぎて怖いから。





 

 

 クラリネスは王都ウィスタルの港街で路上公演やってたら山の獅子メンツが居た件について。

 手品と称した魔法にいつも良いリアクションをくれる鹿月と、興味ない振りをしつつ種を暴こうとこっちを注視してくるイトヤがどうして山から下りてきているのだろう。

 フィナーレに景気よく鳩を飛ばし、お捻りを回収しているとあちらから話しかけてきた。まあ魔法使いさんは目立つよね。

 

「なあアンタ、いつもうちに来てる手品師だよな。今この辺回ってんの?」

「はい!そちらでのショーを最後にタンバルンを出まして、現在はウィスタル中心にクラリネスを巡業中ですよ」

 

 巳早相手なら「せやで」の一言で済ませるところだが、魔法使いさんのお客なので一応敬語を使っている。

 

「じゃあさ、クラリネスで赤い髪の女って噂になってない?うちのオヤジの娘らしいんだけど」

「タンバルンの愛妾騒ぎで有名になった赤髪だ」

 

 めっちゃ知ってますな!!!!!

 

「赤髪の白雪姫ですか、知ってますよ」

「マジ?!今どこに居るか分かる?!」

「えーウィスタル城近辺ですかね。第二王子と仲良くしてらっしゃるのを見たことがあります」

 

 ついこないだね!謎テンションのまま会っちゃってね!

 ……みたいなことを話したら二人共難しい顔して考え込んじゃった。

 なにゆえ。

 

「情報ありがとう、助かった。またうち来いよな!」

「……」

 

 そう言った鹿月と無言でお辞儀したイトヤはまた何処かへ行ってしまった。

 

「毎度ご贔屓にー」

 

 なんで探してるのか聞きそびれたな。とうとう武風が白雪姫に会う決断でもしたんだろうか。白雪姫が亡命したから?今更感あるけど。

 

 あっ直接聞きに行けばいいか。

 

 最近は転移より空中散歩がマイブームなので、周りから見られないように結界を張って飛び立った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 山の獅子の集落なう。

 室内に入るときだけはチリンと音を立てて転移する。なんかそれっぽいじゃんね。

 それから武風の背中に話しかけてみたんだが。

 

「なあ鹿月とイトヤがクラリネスに居たんだけど」

 

 

 

「鹿月とイトヤが今何処に居るって?」

 

 いたたたたたたた肩離して!魔法使いさんは貧弱なんだよ!

 えってか大将武風は知らなかったの?

 

「クラリネスだよ!ウィスタルの港街!あんたは知らなかったのかい」

「こないだから考え込んでると思えば、ちょっと出てきますの一言で暫く帰ってきていなくてな……」

「家出かな???」

「二人がそう言ってたのか?」

「いや違うけど。白雪姫を探しに、的なことは言ってたけど」

 

 首をかしげた自分の言葉に武風は目を丸くして、数秒後に「あー……」と言いながら頭をかいた。

 ふむ。困っているようだ。恥ずかしい?申し訳ない?心配?でも彼らの気持ちも理解る?そんな風に思案しているように思われる。

 

「なんとかしようか」

 

 すべてをなんとかできるだけのスペックがある、それが魔法使いさんです。

 

 ……それでも、本音を言うなら、チートなんか使いたくない。

 矛盾していると思うか?普段から魔法を多用しているように見えるからだろう。いや確かに使っている。だって便利だもの。皆が驚いて楽しんで笑ってくれるのが楽しいから、手品と称した魔法を使いたい。

 だが、言い訳染みたことを言うなら、いや実際言い訳なのだろうが、自分のそれと、この世界の誰かにとって都合のいいような魔法を使うのは、何かが違う気がするのだ。

 自分は散々白雪姫の味方をしておいて、その実この世界の誰かに対して大々的な魔法を使ったことはない。偶然を装った些細な悪戯、それが精一杯だった。だから白雪姫が国を出るとき、なんとかしてほしいと頼まれなかったことに、実は内心で安堵したのだ。

 だって、この世界には魔法がないじゃないか。

 魔法がないのだから、魔法使いさんがこの世界の住人に口出しするのは、お門違いではないかと思うのだ。

 とかなんとか言っておいて魔法に慣れた自分は気軽に魔法を使おうとするから、やはり自分は凡人だ。すぐ楽な方向に逃げる。つまりは不相応な力を手に入れただけの凡人でしかなかった。

 

「いや、これは俺らの問題だから大丈夫だ」

「そうかい」

 

 断ってくれてありがとう、なんて言う資格はない。

 魔法などという夢のような力をちらつかせ、使ってもいいのだと甘い蜜を垂らしておきながら拒否されることを望むなど、傲慢が過ぎるだろう。

 全く。何様だ、自分は。

 

「心配ありがとよ、魔法使い」

「べべべ別に心配してるわけじゃないんだからね!!!あくまで自分のためなんだからね!!!勘違いしないでよね!!!」

「へーへー」

「あしらい方適当すぎない???」

 

 そうだ、自分のためだ。

 この世界の人々は魔法なんてないのが当たり前で、それでも懸命に強く美しく格好良く生きている。

 そんな彼らの前で、彼らのためを理由に魔法を使いたくないだけなのだろう。

 だって、惨めじゃないか。情けないじゃないか。みっともないじゃないか。

 自分はチートだ。きっとなんだって思い通りになる。訳もわからず得たこの力を自分は手放せない。この世界には魔法がないのに。使えるから、便利だから、何かあったら困るから、色んな言い訳を並べ立てて今日も自分のために魔法を使う。

 

 頭の、どこか冷静な部分が、愚かだなと自嘲する。

 

「なにかあったら呼んでくれていいんだぜ?」

「そうさなぁ……どうしてもヤバくなったら頼らせてもらおうか」

「!」

 

 そう言ってくれる武風は、もうずっとよくしてくれている。

 白雪姫だって素敵に育った。王子様も、騎士も、側近さんも、魔法使いさんが出る幕もなく格好良い。

 この優しい世界が、眩しくて仕方がない。

 

「そうだろうそうだろう!この魔法使いさんが必要だろう!まかせろーばりばりー!」

 

 つまるところ、魔法使いさんは要らないのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 それから暫く後。

 鹿月とイトヤがタンバルンに戻り、それを追うようにして第二王子御一行がクラリネスからタンバルンへ全速力で駆けているとき、その中に巳早の姿を見つけたので追いかけていると夜営に入った。

 ついでに言うとさっき鹿月たちが白雪姫をGETしたのが分かった。

 御一行に混じり、端の方で一人火の番をする巳早に鈴を鳴らして近づく。

 

「最近ナーバスになりがちだから慰めて」

「……こんなときに何なんだ、今の状況分かって……んだろうなお前のことだから」

「さっき白雪姫拉致られたよ」

「…………なんで!それを!ここで!俺に!言ってくれちゃってんだテメェはぁ!」

「巳早くらいにしか言えないじゃん?部外者同士仲良くしようず」

 

 あ"あ"あ"あ"あ"あ"と苦悩を滲ませた声を上げながら頭を抱える巳早。かわいそう。

 側近方にも見える位置に怪しげなローブ野郎が居るのに気づかない様子を見て、巳早は幻覚魔法の存在に気づいてくれたらしい。釈然としないような顔で質問をしてくる。

 

「てか、あの野良猫顔はどうしたんだよ。護衛のはずだろ?」

「実力的には同等かちょい上だったっぽいけど、一瞬の隙を突かれてたね」

「だっせ」

 

 てか夜会に侵入するために入ったベランダがドンピシャで白雪姫の部屋に繋がってるってどういう確率?美少年は神にすら愛されてるの?

 

「……これからどうすんだ魔法使い」

「それな」

 

 マジでどうしよう。

 

「暗躍でもしようかな」

「お前が暗躍するって思ったら一気にやる気なくした。帰りてえ」

「じゃあしない」

「おい」

「だって骨折り損のくたびれ儲けさせるのは申し訳ないし」

 

 まあ確かに?自分はスーパーチートな魔法使いさんですから?そんな自分が暗躍してるって知ってたら途端に危険が危険じゃなくなるし?「どうせ魔法使いがなんとかするから大丈夫」みたいな気持ちになるのも分からなくもないけど。

 前は自分の暗躍を推奨してくれてたけど、巳早的には当事者じゃないつもりだったもんね。今がっつり当事者だしね。鹿月とイトヤの顔を知ってるってだけで隣国くんだりまで出張させられたもんね。

 自分は巳早に報われてほしくないわけじゃないんだよ。

 

「うん…うん。じゃ、がんばれ」

「は?」

 

 三十六計逃げるに如かず。

 

 巳早のリアクションを待たず、魔法使いさんは転移して逃げた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ハッピーエンドまでを順調に見届けた。

 

「やっぱこれ魔法使いさん要らないね???」

 

 何たる無様な……魔法使いさんが必要ないことが証明されてしまった!

 所々危なかったけれど、結局魔法使いさんの出る幕はなかった。皆みんな格好良すぎて出るタイミングが無かったとも言える。

 どーせヘタレでチキンでコミュ障な魔法使いさんですよ。泣きそう。

 

 いや、まあ、分かってたけど。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「よーぉ魔法使い。遅かったな、宴は終わっちまったぞ」

「なんだよー離せよー縮むだろー」

 

 海の鉤爪が落ちた祝いの夜から一夜明け、白雪を含む第二王子御一行が帰路についた。

 これからまた山の獅子としての日常が戻ってくる、そんな平和な空気の中いつものように現れた魔法使いの頭を武風はしっかと掴む。

 

「魔法使いさんが嫌いになったかな」

 

 武風の手を軽く掴み、ふざけるように揺らしていた体を魔法使いは止めた。

 魔法使いの目がフード越しに武風を捉えていることが分かる。

 

「軽蔑する?侮蔑する?何故助けなかったと怒る?それは見当違いだよ武風。この世界には魔法がないのに、魔法使いさんがあれやこれやと手出しするわけにはいかないじゃないか」

 

 武風は口をつぐみ、魔法使いの言葉を促す。

 

「魔法使いさんが居なくても大丈夫だったじゃないか」

 

 声色はいつもと同じ。表情は今までだって見たことがないから、魔法使いが何を考えているかなんて知る由もない。

 

 それでも武風は、人ならざる力を、それも神のごとき尋常ならざる力を持つ魔法使いは、ずっと人との関わりを恐れてきたように見えていたから。

 

「なあ知ってるか。お前、気まずくなると口数が増えるんだぞ」

「うぇっ」

 

 武風はそれこそ見当違いなことを言う魔法使いを茶化す。

 

「俺はお前に対して怒ってねえし当たるつもりもねえ。お前に協力するなと言ったのは俺だしよ」

「そうだね」

「だから、まあ、なんだ。我慢してくれてありがとうな」

 

 ローブに隠れてわずかに見える口元が半開きのまま停止した。

 目を丸くしているだろう魔法使いに言い聞かせるようにして、武風は本心を口にする。

 

「お前がなんとかしてくれなかったから、俺ら自身の手でアイツらを終わらせることができた。礼を言う」

 

 呆然。

 それから憮然たる面持ちであろう魔法使いは一歩下がり、首を緩く振った。

 

「違う。なんで礼を言う。魔法使いさんなんて居なくても同じだったんだ。そうだろう」

「少なくとも俺はお前が居てよかったと思うぞ?なにせ種も仕掛けもない手品師だ。またうちでもショーやってくれよ」

 

 ちびどもがいつも楽しみにしてんだ、と言いながらニカッと笑いかければ、暫く硬直していた魔法使いは何事かを呟いて転移してしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……これだから白雪姫の父親は!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




魔法使いさん
:圧倒的光属性や善性の固まりのようなヒトと接すると劣等感が刺激されるので相性が悪い。が、決して嫌いになれないし相性の悪い自分が嫌になる。
良くも悪くも凡人。なまじ力を得てしまったので厄介である。
それでいて主人公たちのような、美しくて確かな人との繋がりが羨ましくて仕方がない。


巳早
:魔法使いの野郎何しに来たんだ。
魔法使いさんを警戒しつつ、原作通り無事爵位をGETできたやや不憫枠。その不憫さを上回る野心が売り。
基本悪者ではないが、良い奴ってだけでもないから魔法使いに比較的懐かれてる(無意識)。


武風
:居なくてもよかったなんて、存在を軽んじるようなことを言ってくれるな。
大将やってるだけあって懐が深く、清濁合わせ持てるだろうけれど根っこは圧倒的光属性。




以下、ちらちらみんなの様子を伺っていた魔法使いさんがちょっと遊び心を発揮した没ネタ。


6巻末のおまけ頁を見た人なら知っているだろう、白雪と鹿月が取っ捕まってる海の鉤爪の本船への木々潜入作戦で食い下がったミツヒデのシーン。
「誰か女装したらいかがです」と進言した巳早だが、「髪が長いから地でいけるんじゃないか」みたいなことをゼンに言われた上「色も白いし服を着替えれば雰囲気でなんとかなるかもしれん。ちょっと儚げにしてみろ」という無茶ぶりに答える元貴族の巳早。

魔法使いさん「出番だねわかるとも!!!」

ゼンとオビの目の前に、魔法使いさんの悪ノリで女体化させられた巳早がーーーーー!







特に関係ありませんが作者の推しはオビです。




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