彼方の傭兵 (悠士)
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玄界編
1話 傭兵


 耳を澄ませば戦闘音がいたるところで響いていた。剣がトリオン兵を切る音、ビームを受けて吹き飛ばされる音、建物が破壊される音。そして背後から剣が振り下ろされる音が聞こえると、半歩右へずれて左回転しながら勢いもそのままに叩きつける

 

「っぐ!やるな、まだ若いのにそれほどの腕前を持っているとは。我軍に欲しい逸材だ」

 

 吹き飛ばされた相手は片膝を地面に付けながら言ってきた

 

「そうか、でも悪いな。オレは傭兵だから今はこっち側なんだ。あと軍とか固くるっしいところには居たくないな」

 

「自由気ままな傭兵がいいのか?」

 

「おう、こっちのほうが性に合ってる。だから悪いな、仕留めさせてもらう!」

 

 まるで世間話をするみたいに敵のリーダーと会話をすると、剣を構えて突撃する。迎え撃とうとするが、その攻撃はオレには()()()()()

 

「なにっ!?」

 

 横に振られた剣は確かにオレに当たる軌道だった。けど途中で上へ()()()()()()。敵が驚いている隙に下から切り上げて、トリオン供給器官を破壊する

 

「……我々の負けだ。最後確かに捉えたと思ったのだが?さすがはブラックトリガーってところか」

 

「オレが来た時点で負けは決定だから、だから残念がる事ないぞ?あとオレのトリガーは、ブラックトリガーじゃないから」

 

「……ブラックトリガー……じゃない……!」

 

 腰の鞘に剣を収めて音を聞いた。聞こえる範囲ではどうやら加勢に行かなくても程なくして戦闘が終了しそうだ

 

「そうだよ。オレはレイ、篠島(しのしま)(れい)。貿易国家ソチノイラを拠点としている。用があるときはそこへ行ってくれ。あと旅行とか行ったりするからそのときはごめんな」

 

 去り際にそれだけ言って苦戦してそうなエリアに向かった。モールモッドが7体だったが、オレからすれば雑魚の集まりだ

 

「おい!後退しろ!オレが片付ける」

 

「す、すまない!」

 

「たすかる……」

 

 負傷している兵を下がらせて前に下り立つと、モールモッドが一斉に襲い掛かってきた。けれどもう()()。振り下ろされた刃は腰から抜いた剣で叩いて砕けた

 

「はいはい、おしまいだよ!」

 

 次々と壊しては弱点の目を斬って撃破する。7体全て倒すと同時に今回の戦闘が終わった。トリオン兵のなかでは最高硬度を誇るモールモッドのブレードが壊れる音は聞いてて気持ち良かった

 

 オレが倒したリーダーは捕虜に。攻めてきた国への交渉材料として使うわけだ。負傷兵もそこそこ、トリガー使いの戦士も半分が倒されたらしい

 

 作戦本部に帰還すると今回の侵攻の被害と戦果の報告をする。以外にも市街地とかはそこそこ、酷いのは戦士の負傷者だったみたい。血や薬品の匂いが医務室を中心に広がっている。怪我人も廊下や休憩室などを使っても埋め尽くされていた。もうこういう光景は幾度と無く見てきた

 トリガーを使えない戦士はトリオンでできた大砲や剣で応戦するのが精一杯、使える者も能力によってどれくらい戦えるか左右されるため、長時間戦えない者ものいる。しかもトリオン体が破壊された後は死ぬか捕まるかどちらかだ。生き延びられても怪我を負ったりすることも多い

 

 中を少しだけ覗いたら司令官の部屋に向かった。今回依頼主はその人だからだ。仕事が終わった後の話をするためにドアを叩いて中へ入った

 

「レイくん、今日は助かった」

 

「どーも、ちょっかいしてきてる国の戦士を相手にするのが今回の依頼だからね。そっちも忙しいだろうから面倒な話は抜きにして、報酬の話しをしようか」

 

「そうだな、そうしてくれると助かる」

 

 机の上には書類の山。何が書かれているのかはちょっと気になるが、傭兵のオレが気にしたってしょうがない。今回の戦果は敵兵3人、トリオン兵29体。決まった報酬額50万ココと敵兵10万ココ×3人、トリオン兵5万ココ×29体で合計225万ココ。オレの中ではいつも通りの稼ぎだ

 

「失礼します」

 

 報奨金を入れた箱を持った女性が入ってきて受け取る。中を見て確かめるとしっかり現金である事を確認すると、依頼書に完了のサインをして退室する

 

 これで仕事を終えたオレはこれ以上滞在する理由もない。だけどお土産くらいは買っていきたいから街へ向かった。戦闘のあとだというのに空は晴れている。さすがに動物の声はしないが

 少し歩いていけば街があり、飲食はもちろん服やアクセサリーなどの店が立ち並んでいる。色々見て買ったのはお菓子がほとんど。こっちの国の品もある程度はソチノイラにもあるし

 

「よし、ん?」

 

 両手に抱えるほど買い込んだらゲートを開く場所までいくだけなんだが、視線を感じて振り返ると、小さな子供がオレを見つめていた

 

「どうした?父さんか母さんはどうした?」

 

「…………死んじゃった……」

 

 子供が一人でいる少し不安はあった、聞いてみれば昨日の戦闘で建物の壁が乗ってて返事をしてくれないという。戦争をしてるからそういうことはよくある。今回はたまたま、この子の家族が被害を受けてしまっただけ。だが他人事とはいえ、運がなかったね、なんて無神経な事は言わない

 

「これあげる。一人になった子が一緒に暮らしてる場所に行こうか?」

 

「………うん」

 

 買った袋からお菓子を一つ出して渡す。これで元気を出せなんて無理な話だ。けど親が死んだのなら昨日からご飯とか食べていない。その証拠に小さく胃袋が鳴っているのが聞こえた。腹が減っていたら頭が回らなくて正常な判断ができないし。子供は袋を開けて食べながら後を付いて来る。街の人に聞きながら30分ほどで孤児院に到着した

 

「……一緒に居て」

 

「ごめんな、兄ちゃんこの国の人間じゃないんだ。お仕事でこっちに来てたんだ」

 

「帰っちゃうの?」

 

「ああ、元気に生きろよ?お父さんとお母さんの分までね」

 

「…………うん」

 

 かわいそう、一緒に居てあげたいという気持ちはある。けどそれだけで助けるのは傲慢だ。何でも救えるほどオレは器用じゃないし、神様や天使ってわけでもない。最後に頭を撫でて別れて街から遠く離れた草原に来る。拳ほどの大きさの球体を取り出して、スイッチを押して起動すると投げる。するとゲート()が発生した

 

「よし、間に合った」

 

 オレが投げたのは携帯型ゲート発生装置。使いきりのちょっと高めもの。帰還先を設定できるもので、もちろん出口はソチノイラだ。生身では危険だからトリオン体に換装してからゲートに飛び込んだ

 

 水中に居るような浮遊感を感じながら、到着するまで身を任せていること15分。閉じていた視界が少しだけ明るくなったから目を開ければ貿易国家・ソチノイラに到着だ

 

「よーレイ!仕事終わりか?」

 

「ああ!そこそこの稼ぎだけどな!」

 

 帰還ゲート用の発生ポイントから出てきたオレに声を掛けてきたのは、顔なじみの傭兵のゲージュ。豪腕で振られるハンマーの一撃はクレーターができてしまうほど。トリガーの性能も桁外れの威力を誇っている

 

「オレ等にも土産とかねえのか?」

 

「ないよ!あそこに持っていくものがほとんどだし、ゲージュが欲しいのはお酒だろ」

 

「ははは!よくわかっているじゃねぇか!!」

 

 ゲージュは酒好きでもあるためお菓子には目もくれないのだ。会話もそこそこにまずは帰還したら「ソチノイラ派遣協会」に出向いた。ここはソチノイラを拠点としている傭兵たちが依頼を受ける場所であり、帰還したら報告をするのが義務だ

 

 ちゃんと終えたのか? ソチノイラに居るのかどうか? 依頼内容に誰が適切なのか? そういったこことを管理する施設だ。中に入りカーブしていないめがねをかけたポニーテールの女性の人が居るカウンターへ向かった

 

「久しぶり、メノイさん。帰還報告をしにきたよ」

 

「あら、久しぶりねレイくん。はい、依頼終了のサイン確認しました。お疲れさま」

 

「メノイさんもお疲れ。これお土産」

 

「いつもありがとうね」

 

 メノイさんとは傭兵登録をしてからよく依頼の受注や完了などの報告で会うことが多い。そのため他の人よりは世間話とかプライベートな会話をしたりなど仲がよかったりする

 

「次に近付いている国から依頼が色々あるけど、どうする?」

 

「うーん、今回はいいかな。旅行とか考えているし」

 

「あら、ずるいわねレイ君は。じゃあお土産は期待しちゃおうかな?」

 

「えー余裕があったらそうする」

 

 みたいにまるで友達との会話に近い。ちなみに旅行というのは言葉通り、他国へ遊びに行くことだ。ゲートを使っての移動はトリオンがないとできないことだが。逆に言えばあれば行けたりもする

 

 この貿易国家は自国の利益のために戦争をしたりはしない。というよりは軍事力を持っていない、というのが正しい。いつ襲われて侵略されてもおかしくないが、そこは何代も前の国王が他国との会談を重ねて、貿易国家と呼ばれるほどに作り変えていったのだ

 ソチノイラにトリガー技術はあるが、戦争のためでなく、貿易のために日々研究開発されている。帰還に使った小型のゲート発生装置もその一つ

 

 オレのトリガーも他国からの技術を元に、開発者と相談しながら作ったもの。複製も上位互換もない一点もの。結構苦労はしたけど、満足できるトリガーに出来上がった

 

「おにいちゃーん!」

 

「やっときたー!おせーよ!」

 

「悪い悪い。お土産は買ってあるから」

 

 協会から出て南通りの端にある建物に行けば、戦災孤児を集める孤児院に到着した。するとオレの姿を見つけた子供達が一斉に集まって、持っていたお土産を奪っていった。がめつい子供達だ

 

「お帰り。無事でよかったわ」

 

「ただいま先生。オレは強いから!簡単には倒されないよ、いてっ!」

 

「バカか!そんなに自信持ってたらさっさと死んじまうぞ!」

 

「おっさん乱暴……敵にやられる前におっさんに頭叩かれて倒れそー」

 

 長い髪を束ねた美人の40代が孤児院の先生。そのあとオレの頭をたたいたのが、顎鬚生やした色黒のおっさん。ちなみに2人は夫婦だ

 

「おいお前達!喧嘩するな!」

 

 オレはこの人たちに勉強を教わっていたことがある。美人の先生は玄界(ミデン)という国で教師をしていたらしい。ここでは孤児院の職員だけでなく、子供達に勉強を教えたりしている

 運がないことにトリオン兵に連れ去られたが、そのときはトリオン能力が低すぎるという事で捨てられここに流れ着いた、と数年前に先生が思い出すように言ってくれた

 と、ちょっと昔のことを思い出していたら遠くでお菓子の取り合いをする声が聞こえた。全く、先生から譲るということを覚えなさいと教えられているはずなのにいつも取り合いの喧嘩になるのだ

 

「それにしてもちっこい頃はビービー泣いてたガキがよ、今じゃ無敗とも言える傭兵になるとはな」

 

「おっさん、ジジ臭いこと言うなよ。オレまで老けてしまう!」

 

「残念だな!お前もいずれジジ臭いおっさんになるんだよ!」

 

「あー!若者にそんな事言っていいのかよ!グレるぞ!」

 

「おーグレろ!何度だって引っ叩いてやらぁ!」

 

 全く。まだ17の未来ある若者にジジくさいこと言わないでほしい。一緒に老けてしまいそうな気がするからやめて欲しい。まあおっさんの言うとおり、オレは昔はなんでもすぐ泣いてしまうような子供だった。そんな子が今じゃ傭兵家業を始めるほどだから、気持ちは分からなくもない

 

 雑談もそこそこに孤児院を後にして自宅へ帰った

 

「ただいまー」

 

 癖で言ってしまう帰ったときの挨拶。今は誰も居ないのにだ。電気を付けて買ってきたご飯を広げて食べる。いつもは作るのだが、仕事の後なので作る元気はない

 

 本が少しと着替えとベッド。それだけの簡素なオレの部屋。長期で仕事をするときもあるため、私物はできるだけ少なくしているのだ。泥棒が入っても盗るものがないと思えるように

 

「ふぁ~………旅行………どこ行こっかなー」

 

 食べ終えて窓を見ると、丁度月が昇り始めていた。旅行しようと思ったら遠征艇をレンタルしなくてはいけない。安くはないから滞在期間と資金を考えて決めないといけない。雑誌を片手に捲りながらその日は終えた

 

 

 

 目が覚めると、まずすることは

 

「いただきます!」

 

 ご飯だ

 

 軽くストレッチのあと朝食を作った。師匠から色々教えられたから今ではもう完璧だ。完食をすると次は部屋の掃除。昨日は帰ってきて疲れていたから、片付ける暇もなかった。掃除機を取り出してトリオンを吸収するとスイッチを押して動き出す。ごみを吸い取って綺麗になっていく床を見て清々しい気分になる

 

「さてと、次は洗濯っと」

 

 掃除機のごみを捨てて片付けると、次は洗濯物だ。あらかじめトリオンを吸わせておいて必要な量をチャージさせたから、ごみ掃除の間に完了している。脱水された衣類を取り出して干していく。やることやると手持ち無沙汰になったので、情報を集めるために外に出ることにした。といっても3~4日しか空けていないから大して変わっていないだろうけど。適当な雑誌を購入、一緒に飲み物も買って近くのベンチに座った

 

「………ふーん……アフトクラトルから移住者が50人越え……多すぎだろ」

 

 軍事大国アフトクラトル。神の国とも言われ、傘下になっている国も多い。だがそのアフトクラトルから移住者というのは結構珍しい。貴族社会で有名で、地位が上がれば楽できるし遊べるほど金ももらえる。低くても庶民には問題ないほど生活はできる。そのアフトクラトルの人が50人近くもこっちへ移住してきたのだ

 

「よそ者が集まるから拒むことはないけど、何があったんだ?」

 

 移住した人たちは情勢が少し怪しいので避難してきた。と取材に記事には書かれていた。他にも移住者達からの情報で、新型トリオン兵が完成したという

 

「従来のトリオン兵を凌駕する性能を持っている。手練れの戦士でもなければ勝てないだろう。ふーん……どのくらいなんだろう?モールモッド10体分の強さだったり?なわけないか」

 

 詳しい性能までは書かれていなかった。他には品切れだった商品の入荷、新デザインの服の紹介、今月の依頼数など書かれていた。あらかた読み終えたから立ち上がって街を歩くと、「マカロン」と書かれたお菓子が目に入った

 

「噂のミデンのお菓子…不思議な食感に手が止まらなくなること間違いなしか……ミデンのお菓子、ね……」

 

 ミデン生まれのオレだけど、こんなお菓子があるなんて知らなかった。というよりも一度も行ったことないし、赤ん坊の頃にここに流れ着いたから知らなくて当然だ

 

「おっちゃん!マカロンってミデンのお菓子なんだ?」

 

「おう!この間レシピが手に入ってな!さっそく作って売ってんだ!」

 

「へー……でも塩って……お菓子に塩味って変じゃない?」

 

 丸っこいマカロンというお菓子は見た目からして甘いものって思える。色も淡いから女性には結構人気が出そうだ。だけどそこにしょっぱい塩味っていうのは戸惑う

 

「そこは決まってるだろ!冒険だ」

 

 さも当たり前のようにいったおっちゃん。冒険して売れなかったらどうするんだってツッコミは言わないことにした、でも

 

「じゃあキャラメルと……塩で」

 

「あいよ!930リィルだ」

 

「意外とするね?」

 

「そりゃーレシピを買うのに結構払ったからな!材料にも高いのもあるからな」

 

「なるほど………ん!なにこれ!?」

 

 パンともクッキーとも違う不思議な食感。フワッとサクッとしてて、味もしっかりある。少し高いけど、余裕あれば買って損はないお菓子だ。続けて塩も食べると甘さも少しある、けど塩があとからやってきて口の中をスッキリさせてくれた

 

「うまいだろ?」

 

「うめー!でも高いかな?子供は買えないだろうね」

 

「そこはしょうがねーよ。売り始めたばかりだから、時間が経てば少しは安くなるだろうな。それまで我慢してくれってところだ」

 

「それまで店が続いているといいけどね」

 

「このガキ~。ん?爆発?」

 

 遠くから爆発音がして、目を向けてみれば爆煙があがっていた。一箇所だけでなくほかにも何箇所から。破壊音の中には悲鳴も聞こえる。バムスターとバンダー来ていると叫び声が聞こえた

 

「どうやらどっかの国が送ってきたか、送るはずの部隊を拾ってしまったか。とにかく一応店じまいはしたほうがいいよ」

 

「マジか?そりゃ大変だな。坊主はどうするんだ?」

 

「オレは、戦うよ。トリガーオン!」

 

 大した驚きもなく、じゃあそうしよう程度の感じでゆっくりと店じまいの準備を始めるおっちゃん。オレは懐から腕輪の形をしたトリガーを左腕に嵌めて起動した

 

「おまえ傭兵だったのか?気をつけろよ」

 

「ありがと。おっちゃんも手遅れにならない内に逃げてな!!」

 

 ちょっと驚いたみたいだけど、今の時代子供もトリガーで戦うのは不思議ではない。オレくらいの年になればもうどの国でも軍人として戦っていたりもする。会話もそこそこに地面を蹴って住宅の屋根に着地しながら戦闘エリアへ向かった

 

 

 

 

 

 

 



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2話 旅行とマカロン60

 段々と街の中心から離れていくと見えてきた。確かに多い。どこかの国に本格的に攻めにでも行くつもりだったのだろうな。波のように押し寄せてくるトリオン兵だが、オレ達の住処を何してくれてんじゃー! って怒って迎撃にむかった傭兵も多い

 

「さっすが傭兵だな~強い。オレも家を守るために戦うか。見えない脅威(ノヴァ)起動」

 

 オレもトリガーを起動すると、半径600mがトリオンでできた領域が展開される。目には見えずトリオンを感知するレーダーでも使わない限りは反応がない

 

 剣型トリガーの三日月を抜いて向かう。モールモッドがオレを捉えて背中から展開された。先端からブレードが生えて振るわれたが

 

「遅いぞ!!」

 

 通常の振るわれる速度とは半分ほどだった。余裕で躱して目玉を斬って振り返ると同時に2体目も斬る。迫ってくるモールモッドは全て動きが遅く撃破は容易い。あっという間に20体ほどの残骸を作った

 

 今度はバンダーが近付いてくるも、普段から鈍足だが今はいままで以上に遅い。目の前に来ると大口を開けて食べようとするが、三日月を一振りするだけで弱点を斬って撃破する

 

 なぜトリオン兵の動きが鈍いのかは、オレのトリガーが原因だ。専用トリガーノヴァは、展開した範囲内にあるトリオン全てに干渉する能力を持っている。そしていくつかの効果を付与する機能があり、今はその一つの動きを鈍くする「鈍化」を発動中だ。だから多対一ではかなり有利にもなるが、味方が居ると一緒に効果を受けてしまうため集団戦には向かない

 

「師匠ーー!!」

 

「ん?フィーロ?帰って来たのか?」

 

「はい!」

 

 腕を振ってオレの下に来たのはフィーロ。オレに戦い方など教えてくれた師匠の忘れ形見。お調子者であまり物事を深く考えないから少し困っている

 

「帰ってきてたなら言ってくださいよ!」

 

「ああ、悪い悪い。それでどうでした?シンさん」

 

「そうだな。60点かな。交渉ごとは相変わらずってところ」

 

「やっぱりか……」

 

 すぐにやってきたのはシンさん。5年前に立ち寄った国の戦いで死にかけていた玄界(ミデン)の人間だ。治ったら送ろうとも考えたけど、恩返しがしたいと残っている。本名は風間進というらしい

 

 今回フィーロは戦闘では申し分ないほど強いから、交渉ごととかもやらせてみようと思ったのだ。その付き添いとしてシンさんにも行ってもらっていたのだ。だけどやはり深く考えない所為で危うく安い報酬で済ませられそうになったと

 

「うるさーーい!!師匠と話してるんだから静かにしてろ!!」

 

「………トリオン兵にそれは無理だろ……」

 

 地鳴りがうるさく、我慢できなかったフィーロが真っ黒い棒を突き出すと先端が伸びて命中する。相当な威力でバンダーがひっくり返るほど。シンさんも呆れている

 

 2時間の戦闘で今回やってきた敵は殲滅が完了した。しばらくいたがどうやらどこかの国が送っていたのを拾ってしまったらしい。いくら待っても次が来ることはなかった

 

「帰るか?」

 

「おう!」

 

 フィーロのほうも来ることはなかったらしく、オレと合流してきた。後始末専門の業者も来たことだし引き返すことにした

 

「じゃーん!どうよ!」

 

 家に帰るとテーブルにはフィーロが今回稼いだ金が山積みになった。シンさんと2人で行ったから正確にはその半分なんだが。とりあえず報酬額が600万リィルだった

 

「あそこは結構金があるからな。なんとか妥協してくれるまで粘ったぜ」

 

「さすがシンさんだったよ!いきなり120万リィルも言ってびっくりしたよ」

 

「フィーロ、前からいてるだろ?報酬の交渉するときは最初に高額にして、相手がこれならいいだろうって妥協するまで少しずつ下げていけって。トリオン兵の相場は何度も教えたろ?」

 

「う……はい…」

 

 撃破した数はそんなに多くはないらしい。ぼったくられる前に倒せって命令されてたみたいだ。財源は無限じゃないから、できるだけ払う額を減らしたかったのだろう

 

 やはり交渉はまだまだ勉強させないといけないとフィーロの評価は変わらずだ。対してシンさんはもういいのではないかと思う。自分の国に帰るのを

 

「シンさん。いつまでいるんですか?」

 

「……迷惑なのか?」

 

「違いますよ。むしろ助かってます。けど、恩返しがしたいって言ってもう5年も経ってるんですよ?十分助かりましたし……あまり居過ぎると、今度は帰りづらくなりますよ?」

 

「………」

 

 オレの言葉になにも答えない。いつまでもいるのはシンさんの家族が心配する。もう5年も経っているから心配というよりは、気持ちの整理をしてしまっているかもしれない。確か弟がいるとも言っていた。怪我が治ったときは何度も帰ったほうがいいと言ったが

 そのたびに恩返しがしたいといってきたのだ

 シンさんが持っていたトリガーを元にノヴァも作れたし、フィーロの教育とかも手伝ってくれたし。なによりオレが玄界(ミデン)出身だと知ると、どういう街なのか? どんな食べ物があるのか? こんな遊びがあるとか教えてくれたから退屈はしなかったのだ

 

 それに、居過ぎると今度はソチノイラ(ここ)が帰る場所になってしまってまう。5年もいたから離れるのは寂しくもあるが。そうなってしまったら故郷に帰りにくくなる。帰るべき場所があるなら、帰ったほうがいい

 

「だけどな、5年もいたから向こうじゃとっくに死んだことになってるだろうし。いきなり死んだ人間が帰ったら驚くだろ?」

 

「……親しい人まで忘れてここに居たいんですか?」

 

「………」

 

 2度目の沈黙。少なくともオレが知る限りじゃソチノイラに親しくなった人は居ないはずだ。たしかに死んだ人間が帰れば騒ぎなるだろう

 以前教えてくれたことのなかには、玄界(ミデン)近界(ネイバーフッド)のことは知らないらしい。自警団みたいなごく一部の人間しか知らないらしい。だから行方不明なった、死んだ人間が戻るのはかなり注目を集めることになる

 

 それまで必死で守ってきた人たちに非難が集まるらしい。どうして早めに伝えなかったのか? 警察や自衛隊にトリガー(ソレ)を渡さないんだ? お前達だけで守れると思ったのか? 遺族になにか言うことはないのか?と。聞いてて非常に不愉快になった。戦争しているのにどうしてそんな平和ボケしたことがいえるのかと

 

 実際シンさんがいた日本という国は平和なんだという

 

「今度、玄界(ミデン)にでも旅行とか考えているんだ」

 

「っ……どうしていきなり」

 

「旅行!玄界(ミデン)に!」

 

 旅行と聞いてはしゃぐフィーロをみてから続けた

 

「そのときにシンさんを帰そうかなって思ってる。強引だけどこうしないといつまでもいそうだし。あとついでに食べ物とか興味出てきたし」

 

「興味……?」

 

「うん。さっきの戦闘まえにマカロンってお菓子を食べたんだ。おいしかった」

 

「ずるーい!!師匠、オレ達のは!?」

 

「自分で買え、ここに稼いだ金があるんだから」

 

「行ってくる!!」

 

 まだまだお子様なフィーロは何枚かお金を持って飛び出ていった。少しは落ち着きをもってほしい。師匠の子のはずなのに性格は結構違う

 

「…これはオレの考えなんで、もう十分恩は返してもらえましたから。長く滞在しようと思っているのでその間に決めてください」

 

「決めるって……なにをだ?」

 

「帰るか、残るか、です」

 

「分かった。まあ正直オレも二の足を踏んでいた感じはあるからな。切欠が欲しかったのかもしれん。いつ行くんだ?」

 

「うーん1週間後、くらいかな?それくらいあったら準備はできますか?」

 

「十分だ。オレを助けてくれてありがとうな」

 

「オレが未熟だったからですよ。しっぺ返しもされちゃったし」

 

 実はシンさんにオレのトリガーを渡したすぐ、近くで流れ弾が落ちて爆発したのだ。それなりの怪我だったが特にどこかが使えなくなるとか後遺症とかはなく回復はした。あとで師匠に酷く怒られたのは懐かしい思い出だ

 

「ただいまーーーー!!いっぱい買ってきたよ!」

 

「………何個買ったんだ……?」

 

「えーと……60個!!」

 

 両手で袋を抱えて帰って来たフィーロは、テーブルに大量のマカロンを置いた。数を聞いたら急に頭が痛くなった

 

「シンさん……コイツの教育どうしたらいいかな……?」

 

「すまん…これっばかりは難しい……」

 

 シンさんも頬を引きつってしまうほど考えなしに買うフィーロにお手上げみたいだ。そいつが稼いだ金はそいつの自由だ、というのが師匠の教えだ。だからオレもフィーロの金はフィーロが自由に使えばいいと思っていたのだが、本気でオレが管理しないといけないかもしれない

 

「師匠……?」

 

 オレ達の悩みを理解していないフィーロはジュースをコップに注ぎながら声を掛けてきた

 

 それからオレ達は旅行について色々話し合った。行き先は三門市というところ。玄界(ミデン)ではここに(ゲート)が開きやすいのだという。着いた後のホテルの確保や、巡る場所など。ほとんどシンさんからの情報がたよりだから、それを元に観光することになると思う

 

 依頼は受けるのかととも聞かれた。傭兵には大きく依頼方法が二つ。一つは協会を通しての正式な依頼、もう一つは個人が直接出向いて受ける略式依頼

 

 略式は協会を通さない分手続き料はかからないのと、報酬が100%と自分のものにできるのだ。本来は10%は所属料として払う必要があるのだが必要ないのだ。ただしデメリットも。報酬額は決めれるが、相場よりも安くなる。そして依頼主が踏み倒す可能性もあるのだ。これが原因で一時期国の商品が入ってこないこともあった

 

 どちらの依頼にせよ、慎重に考えて交渉しないといけないのだ。フィーロは依頼があれば戦う気満々だ。だが戦うのではなく、目的は観光だから依頼はなければ引き受ける必要はない

 

「えーー。戦おうよ!」

 

「ダーメ。あと観光中も今回から使うお金はオレが管理するからな」

 

「えー!?どうして!?」

 

「どうしてもこうしても、コレをみれば金遣いが荒いのだから当然だろ」

 

 目の前には沢山のマカロン。当然オレ達だけじゃ食べきれない

 

「……」

 

 口を尖らせて不満を露にするが受け付けない。自覚はあるみたいだが。とにかく1週間後に行くのを予定に決定。残りの時間をはぞれぞれ準備のために使った

 

 

 

 

 

 

 

玄界(ミデン)に行くのか?坊主?」

 

「ああ、コレ食べて少し興味が沸いてね。ついでにおっさんの依頼もやってやろうかなと」

 

「そいつはありがてえ!」

 

 旅行2日前にきたのはマカロンを買った屋台。最初来たときと同じおっさが店番をしていた。話を聞くとちゃんとした店はあると、この出店は人気が出そうなもの、新しいアイデアができたときにどれほど売れるかの調査とかを目的に使っているらしい。ついこの間も大量購入した子供がいたと。間違いなくフィーロのことだ

 

 ここに来たのは依頼の確認だ。さっき協会に行けば他国の料理のレシピを1つ持ってくる毎に報酬を支払うという。まさかこのおっさんだとは思わなかったけど、依頼を出すほどだから相当儲かっているのだろう。旅行ついでにやってやろうかなと引き受けたのだ

 

「長く滞在するつもりだから渡すのは先になるけど、いいか?」

 

「いいが、そんなにいても大丈夫なのか?」

 

 おっさんの心配も最もだ。惑星国家は決まった軌道を描きながら進んでいるが、もちろんそれぞれの国で速度は違う。滞在の時間が長ければ長いほど帰還は困難になる

 

 だが問題はない。帰還する際の道は2つほど国を経由すればいい

 

「問題ないよ。帰る道も考えてあるから」

 

「ならいいけどよ、この時代何があるかわからねぇからな。気をつけろよ」

 

「ああ、分かった。ところでレシピって具体的にはどんなのがいいんだ?」

 

「そうだなーお菓子とスタミナ料理かな。お菓子は女性や子供に人気でな、すぐに広まってくれるから結構儲かるんだよ。スタミナ料理はぶっちゃっけ量があればいい。お前達傭兵とかに需要はあるんだ」

 

 理由も一緒に聞いて納得がいった。確かに男のオレは味もだけど、とにかく腹が減ったら量がほしい。女性や子供もお菓子には弱い、フィーロも60個も買ってしまうほどだし。まだ10個ほど残っているのに、ほんとうに無駄遣いはどうにかしないといけない

 

 アイツの場合はトリガー開発は必要ないが、生活費は必要だ。いつか好きなこと付き合ったり、結婚したりするときには必要だ。オレはそんな子もいないし、付き合う予定などない。傭兵をやっていればいつかは死ぬ。悲しい思いをさせるくらいなら、一緒にならないほうがいい

 

 これまでに幾度となく大切な人を失って悲しむ人を見てきた。最初は苦しかったけど、何度も見ていくうちに、変わっていった。戦争だからしょうがないと

 

 依頼の確認を終えると家に帰宅した。気が早いフィーロはもう準備を終えていた

 

「行くのは2日後だぞ?早いな」

 

「師匠がいつも言っているじゃん!準備は何度も確認しておけよって!」

 

「ああ、そうだったな。でもそれだけじゃないんだろ?楽しみで仕方ないんだろ?」

 

「もちろん!」

 

 オレの教えをしっかり覚えているのはいいが、本当は旅行が楽しみなのだろうと聞けば満面の笑みで答えた。全くしょうがない奴だ、と呆れるがまだ13の子供だから仕方ない。オレもそろそろ準備をしようと部屋を出ようとしたら、フィーロに呼ばれた

 

「どうした?」

 

「……本当にシンさんを帰すの?」

 

 さっきと違って表情を暗くして聞いてきた。5年もいれば仲間としてだけでなく、家族のようにも思える。5年前はオレは12歳、フィーロは8歳だ。そんな幼い頃から過ごせば兄のようにも思っていてもおかしくはない。だから故郷に帰すのは嫌なのだろう

 

「しょうがないだろ?シンさんは帰るべき場所があるんだから」

 

「……じゃあ師匠も?」

 

「え……?」

 

「だって師匠も玄界(ミデン)の人……でしょ?」

 

 フィーロの言うとおり確かにそうだ。オレは生まれは玄界(ミデン)だ。けどそれだけだ

 

 オレの帰る場所はこのソチノイラだ

 

「バーカ。オレの帰る場所はここだ。だからそんな泣きそうな顔するな」

 

「だって……だって…師匠も、シンさんも…オレには……お兄…ちゃんだから……いなくなっちゃうって思ったら……」

 

 安心させようとしたはずなのに、なぜかまだ泣きそうになる。こういうのは苦手だから勘弁して欲しい

 

 タオルで涙を拭いたりするが止まらない、もうどうすればいいのかわからない。師匠から頼むと言われてるけど、あやし方は教わったことないから困る

 

 あたふたしていたらシンさんが入ってきて頭を撫でた

 

「ありがとうな、フィーロ。オレもネイバーの弟ができるとは思わなかったよ」

 

 やっぱりシンさんは頼れる人だなって思ってしまうオレも、案外涙もろいのかもしれないな

 

「っ!…シンさん」

 

「お前もだ。色々ありがとな、お前達のことは絶対に忘れない」

 

「おれも…ジンざんのごど……わずれないぃ!」

 

「はい。オレも忘れません」

 

 フィーロのことは笑えないな。オレもシンさんがいなくなるのは寂しい。胸の中がジワリと暖かくなってくるがわかった。頭を撫でられてちょっと複雑でもあったけれど

 

「よーし今日は外で食うか!奢ってやるよ」

 

「うん!」

 

「いいですけど、帰ったときのお金が少なくなっても知らないですよ?」

 

 これ以上しんみりとした空気を吹き飛ばすかのように、シンさんが外食をしようと言ってきた。フィーロはすぐに答えたのは当然といえるだろう、表情もいつも通りになっていた。でも気持ちのほうは落ち着いていないだろうな。帰ったらまた泣いてしまうんじゃないか不安だ。どこまでも手のかかる弟だ

 

 

 

 

 

 

 

 



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3話 巻き込まれた者たち

傭兵とか修たちの世界以外の視点から書いた話が見たいなーと探したら意外と少なく・・書いてみることにしました!

レイやフィーロなどのプロフィールも後ほど作ったら投稿しようと思っています。キャラデザインも「picrew」で作ったのを見ながら書いているんだけど、さすがに画像投稿は・・不味いのかな?利用したところは個人にチェック入っているけど・・・どうなんでしょうね・・?レイはこんなデザインだよ!って見せたいけど・・


 旅行当日

 

 家にあっては困るもの、たとえば肉など生ものは消化もした。野菜も日持ちしないものは施設に上げたりもした。家賃は払う必要がない

 

 元々師匠が一括で買った家なのでいらないのだ。いるのは水道代くらいだが、今月分はすでに支払い済みなので問題もない。盗みが入っても取られるものは無い

 家具とかは可能性はあるかもしれない。傭兵の稼ぎがいい奴はそこそこ良い物を買っていたりするのだ

 

「準備はできたか?」

 

「もちろん!!」

 

「ああ、行くか」

 

 フィーロもシンさんも準備は万端のようなので玄関を開けて行くことにする。少し大きめの荷物をそれぞれ持って、鍵を閉めて目的地へ向かった

 

 西へ歩いていくと大通りに出る。この通りはメインストリートだから人がとても多い。ぶつからないように気をつけながら避けて北へ1kmほど歩いた

 乗り合いトラックに乗ればいいのだが、それくらいの距離は徒歩で十分だ。知り合いや馴染みの店とすれ違いながら着いたのは貸し出し航行艇。所謂遠征艇だ

 

 金を払えばトリオンを注いで目的地まで送ってくれる。ただ(ゲート)を開くトリオンは自前でもいいが、少ない人もいるため、その場合は追加料金で開いてくれる。だがオレたちは自前で開けるため、船を借りるだけでいい

 

「料金は29900リィルです。航行艇に破損や故障などあった場合は修理代を請求させていただきます。航行の際はご注意ください」

 

「分かりました」

 

「それではこちらが4人用の航行艇になります。素敵な旅になることを願っています」

 

 料金を支払い注意を聞いて航行艇を受け取る。卵の形をしていて手のひらに収まるサイズだ。これは収納状態だからだ。これはトリオン兵を送り込むのにコンパクトにする技術を利用して作られている

 発着場の一つに置くと距離を取る。すると卵は光りだすと次第に膨らみだして乗り合いトラックと同じ大きさになった。縦4m×幅5m×長さ9mくらいモールモッドのような足に胴体はイルガーみたいな形状をしている。色は青色だ

 

 見た目が見た目だけに、輝く青色になると若干の不気味さがある。胴体横が開いてシンさんとフィーロがそこから乗り込む。トリオンはすでに充填されているためすぐに発進可能だ

 

『OKだ。いつでも開いてもいいぞ』

 

「了解です」

 

 船からシンさんが準備できたと聞いて、オレは(ゲート)を発生させて入り口を開ける。それからすぐに航行艇に乗り発進する

 

「到着は10時間後だからゆっくりしていろ」

 

「はーい!!」

 

 制御は自動だから運転する必要も無い。ゆっくりと言っても中は広くないから寛ぐのは少しむずかしいけど。背もたれに体を預けて力を抜いて横を見れば、フィーロが食べ物の雑誌を見てテンションが上がっていた

 

「師匠!師匠は玄界(ミデン)でなにを食べるんですか?」

 

「オレ?そうだなー……お菓子とか少し興味があるかな。でも美味いものならどれも食べてみたい」

 

 突然の質問に少し悩んだが、マカロンを食べてお菓子に興味があった。他にもおいしいものは沢山あるとシンさんから言っていたし。食べたら驚くぞと自慢げに言った。オレもそれなりにいろんな国の食べ物を食べたけど、それ以上なのかと勝手に想像を膨らませていた。多分シンさんは味を知っているから自信持って言えるんだろう、それがオレとフィーロの期待を膨らませていた

 

「シンさんは?」

 

「オレかー……卵丼食べたいなー。あ、でも牛丼もいいなー寿司もたべてー」

 

 聞き慣れない言葉にオレもフィーロも疑問を浮かべた。どれも知らない食べ物だが寿司は聞いたことがある。だけど前に聞いたときは生の魚をご飯に乗せて食べると言っていた。生ものを火にかけず食べるなんてありえない。そんなことをすれば腹を下してしまうの当然なのにだ、なのにシンさんはそんなことは無いといった。もちろん状態が悪かったら下してしまうが、普通は生でも食べれると

 玄界(ミデン)の食べ物は変ったものがあるんだなと思ったものだ

 フィーロはオレも食べてみたーいと言っていた。怖さもあるけど興味もある。シンさんが言うなら大丈夫なのだろうけど。食べるときは怖いから一緒に居て欲しいな、そのほうが安心する

 

 

 

 

 

 

 

 

『レイ、フィーロのこと……頼む』

 

『師匠!!で、でも!』

 

『こんな……師匠ですまない。許してくれ……』

 

 時間があるから仮眠でもとろうかと思ったら、ふと昔のことを思い出した。3年前、師匠が死んだときのことだ。長く続く戦いで師匠のトリオンが枯渇しだしたのだ。そのタイミングでトリオン体は破壊され、致命傷を負わされた

 オレが駆けつけたときはすでに遅く、意識が朦朧としていた。助からないと思ったのか最後の言葉を残したのだ。師匠の家族はフィーロと2人だけ。母親は産んですぐに亡くなった男手一つで育ててきたのだ

 

 オレが引き取られてからは兄弟みたいに育ってきた。きっと仕事で居ないことが多いから寂しくないように引き取ったのだと思う。多分予想外だったのはオレが傭兵になりたいと言ったことだろ。本当は街の子供みたいに普通に育って欲しかったと思う。当然戸惑いがあったのだろう、そのときのことはもうほとんど覚えていない

 

 これがオレの選んだ人生なら好きにすればいい。そう言って色々教えてくれた。もっと普通に親代わりとして接してあげたかったのだろう。もっと父親として育ててあげたかったのだろう。だから最期にそう言ってブラックトリガーを作って死んだ

 

 そのあと作られたブラックトリガーはオレもシンさんも適合しなかったが、ただフィーロだけが使えた。まるで親が子を守るみたいに。訓練は厳しい人だったけれど、日常ではどこにでもいる父親だった

 

「師匠!……師匠!!」

 

「っ…フィーロ?どうした?」

 

 あまりにも昔のことを思い返していたのかフィーロが何度もオレを呼んでいた。強化聴覚をもっているのに聞こえていないことに2人とも心配して見ていた

 

「だって、なんども師匠を呼んだのに返事もしないから……耳もいいはずなのに」

 

「そ、そっか……大丈夫だ。ちょっと昔のことを思い出していただけだ」

 

「昔?」

 

「ああ、師匠が消えたときの頃のだ」

 

 眉まで下げて心配するフィーロに安心させるように笑みを作った。でも難しいことは苦手なくせに、作り笑いは簡単に見抜いて表情を変えなかった。勘だけは妙に鋭い。サイドエフェクトかとも思うが計測してもトリオンは平均値だ。中々表情を変えないから仕方なく本当のことを言うしかなかった

 師匠のことが出てやっと心配顔から驚きに変わった

 

「ちゃんと話したことなかったな。師匠が死ぬ直前、ブラックトリガーを作ったんだ。あと、お前のことを頼む、とも」

 

「父ちゃん……」

 

「お前が使っている夜の雨(レーゲン)は師匠が作ったブラックトリガーだ」

 

「え、これが……!」

 

 あの時は師匠のことは死んだ、と嘘を言ったのだ。本当の事言えばきっと復讐をしようとか言うのではないかと心配していたのだ。だがそんなことは全くなく、一晩中泣いてからは父ちゃんより強くなると言って弟子になってきた。これでいいのかと困った。フィーロを頼むと言われたら傭兵にはなって欲しくないなとオレも思っていたからだ。昔からオレの訓練に一緒にしていたこともあったし、運動神経だけはよかった。師匠もフィーロの人生だから好きに生きたらいいとも言っていた

 

 迷ったけどフィーロが決めたのならオレがすることは、師匠に教えてもらったことをフィーロにもやらせて鍛えさせることだ。せめて適合したブラックトリガーが守ってほしいと願って

 

「オレのために……父ちゃん」

 

「師匠はいないけど、お前にはいつも、そばで守ってくれている」

 

「うん」

 

 両手を握って決意を改めて固めたフィーロを見て図体だけは大きくなったな、などもジジ臭いことを思ってしまった。絶対おっさんのせいだと決め付けた

 

「お?あと30分ほどで着くぞ!」

 

「ほんと!?もうすぐだ……!」

 

 本当、図体だけ大きくなった

 

 シンさんが座っている席の背もたれを持って覗き込んでいる様子は子供だ。いや、年も子供だからおかしくはないんだけどね

 と言いつつも、オレも少なからずもうすぐで玄界(ミデン)だと知ると気持ちの昂ぶりを感じている。人のことは言えない

 

「出るぞ!」

 

 目的地に着いた為入るための(ゲート)が開いて突入する

 

「到着だ。降りるか」

 

「オレ一番ー!」

 

「おいフィーロ!ったく……」

 

「頑張れ、お兄ちゃん」

 

「シンさん……」

 

 航行艇が着陸してドアが開くとフィーロが真っ先に出て行った。先が思いやられると肩を落としているとシンさんが皮肉を言ってきた。これからは面倒はオレ一人で見ないといけないからその意味も含まれているのだろうけど

 半分瞼を下げて恨めしく見つめた

 

 少し遅れたがオレ達も続けて降りるとようやく気付いた。人の気配が多くいることに。しかも全員が武器を構えており、まるでオレ達が来るのが分かっていたみたいだった

 

「おいおい、こんなときに近界民(ネイバー)かよ?」

 

 黒いコートの少年が緊張を感じさせる声で言った。妙に暗いことに今気付いたが時間は夜みたいだった。しかも不思議なことに人の気配が目の前にいる集団のみだ。正確にはあちこちで戦闘音が聞こえるが、人の声や生活音は少しも聞こえないのだ

 

「お帰りなさい、風間さん」

 

「「「「「!?」」」」」」

 

「え?あ!お前迅か!」

 

 沈黙が少し訪れるとそれを破ったのは緑色の剣、シンさんと同じ形だから弧月であろうものを持った男だった。そいつはシンさんのことを知っているらしく、呼びかけられた本人も思い出したのか驚いていた

 

「お前そんなにイケメンだったか?髪も伸び……て………蒼也?」

 

「…本物か?」

 

 5年の歳月も経っているわけだから外見が少し違うのも当然だろう。確かにイケメンと言えるほど整っているし、おしゃれなのかメガネのようなものも顔にじゃなく首にかけてた。前に言っていたボーダーと言うメンバーの一人と再会できたのだろうと思っていたら、若干疑問を孕んだ声で誰かを呼んだ。その言葉に答えるかのように一番背の小さい少年が呟いた

 

「なんで……お前が…?まさかオレの復讐でもしようと考えてたのか?」

 

「死んだ人間のための復讐しても何も変らないだけだ。オレは街のためにボーダーに入っただけだ」

 

「そうか…」

 

 その言葉は多分復讐じゃないってことに安心したのだろう。フィーロと色んな戦場を共にして、たまに復讐のために武器を手に取る者と戦ったことがある。もちろんその場で倒したがさらに復讐心を煽るだけになった。じゃあ目的を果たすためにやられろ、など自殺行為などするはずもない

 

 復讐に走るものは自分の納得いく結果が得られないと、段々歪になり精神を病んでいくことになる。たとえ手段が非人道的になろうとも果たそうとする。父親が殺されたことでフィーロもそうなるのではないかと心配したのもそれが理由だ

 

 シンさんの蒼也と呼ばれた弟はそんな雰因気を感じさせないが、油断はできない。武器はすでに構えられていて隙などあるように見えなかった。刀身どころか柄さえもそれ一つ構成されている。それに気になるのが他の面々だ

 

 蒼也のほかに2人、1人は消えているが服装が同じだったのだ。多分チームなのではないかと思う。最初に声を発した黒いコートの少年も同じ格好の大人がいる

 

「よかったねシンさん!家族に会えて!!」

 

「ああ、生きていてくれてよかった」

 

「感動するのはいいけど、居場所は分かるんだよ!!」

 

「なっ!?くそ…」

 

 気配には気付いているであろうフィーロもとりあえず油断はしていないようだ。端か見れば再会を喜んでいる少年に見える。だけど隠れている奴は隙があると判断したのか動いた

 けどオレには音でもわかっているから右腰の三日月を抜いて跳んで民家の屋根にいる奴に斬りかかる。意外と反射神経はいいらしく姿を現すと咄嗟に剣を構えてギリギリで防いできた

 

「消えるトリガー!?」

 

 どうやらシンさんも知らないトリガーらしい。ボーダーのトリガーはホルダーにそれぞれメイン、サブと4つずつ合計8つをセットするらしい。だがそれら全てを使えるわけじゃなく、1つずつしか使用できない。しかも同じ側のトリガーは特定のオプショントリガー以外は使用もできないという。つまり隠れてた奴が姿を現したのは剣を2本使用するために、隠れるトリガーを解除しなければならなかったと言うわけだ。5年の月日が経ってもこの制約は変らないらしい

 

「いきなり斬りかかるなんてどういうことだ?」

 

「そんなの決まっている。貴様等が近界民(ネイバー)だから!」

 

「理由になってねぇよ。シンさん聞いてた話と違うけど?」

 

「そんなはずはないんだが……」

 

 目の前の少年に聞いたはずなんだが、答えたのは紫の服の男だった。だけどおかしかった、シンさんはボーダーと言う組織に属していた。5年前に助けたことでその組織とははぐれてしまったが、その時に聞いた話は玄界(ミデン)近界民(ネイバー)を繋ぐ組織だと言っていた。もちろん被害が出ないようにトリオン兵とかは破壊したりなどしていたと。他にも同盟国と盟約を結んでいて必要とあれば応援に行くこともあると

 

 だが今目の前の奴等はなんの勧告もなしに襲い掛かってきた。明らかな敵対行為だ。話が違うことはあとで聞くことにして今はこの場から逃げ去るのが最優先事項だ

 

「悪いけど太刀川さん、オレ()()の勝ちは揺るがなくなったよ」

 

「おもしろい、お前の未来覆したくなった」

 

「シンさんは自由にしてください。フィーロ、アレは使うなよ?」

 

「了解!あとは好きにしてもいいんだよね?」

 

「ああ。手加減せずに倒せ」

 

 黒いコートの男が腰に下げた弧月を抜いたことでそれぞれが距離を取った。2名ほど屋根を上ってかなり離れたからおそらくスナイパー系統の武器を持っているのだろう。もしくは直接戦わずトラップなど設置する工作兵の可能性もある

 フィーロにも警戒するように言って三日月を構えなおす

 

 緊張感の漂う空気を破ったのは蒼也と同じ隊服の男だった。ナイフほどの刃が上下に生えた武器で迅へと走った。その行動に不思議に思ったのはオレだけでなくシンさんやフィーロも同じだった

 

「なんで仲間内で……?」

 

 クーデターと言う可能性もあるが、こんな街中で起こすと言うのは理解できなかった。どうしてなのか考えていると紫の服を着た黒髪の男が弧月を振り下ろしてきた。見えない脅威(ノヴァ)はまだ起動せず三日月で防ぐ。太刀筋としては悪くはないが、力みすぎている感じがする。というよりはしている

 男の表情は敵を睨む者と同じ目をしていた

 

「お前…復讐とか考えてないか?やめといたほうがいいぞ、そういう奴の末路はろくなものじゃない」

 

「黙れ!!貴様等ネイバーが攻めてこなければこんなことにはならなかったんだ!!」

 

「はぁ?一体何を言っているんだ?」

 

「とぼけるな!!」

 

 家族なのか親しい人なのかは分からないが男は怒りを込めた声で言ってきた。殺されて悲しいのは分かるが、だからって怒りの矛先を誰彼構わず近界民(ネイバー)に向けられるのは許されない。確かに人殺しを好む人もいるが、そうじゃないのがほとんどだ。そもそも殺さず取り込むか交渉材料にするほうが遥に価値がある。捕虜にしてもトリガーは回収してさらに交渉に使えば国としては利益になるのだから

 

 だが忘れてはならないのがこれが戦争と言うことだ。助かる可能性があっても一歩間違えば命を奪われるのだから。師匠もオレが知る限りは殺しはしていない。もちろんオレやフィーロ、シンさんもそんなことはしない

 

 目の前の男もいつかは命を奪うのだろう、だがオレがそれを止める理由はない。ましてや今襲われているのだから

 

「おめでたい頭だな」

 

「何だと!?」

 

「誰を殺されたのかは知らないが、戦争に命の奪い合いは付きものだろうが。自分だけが悲しいみたいな悲劇のキャラクターを作るな」

 

「っ!!……近界民(ネイバー)っ!!」

 

 そもそも何を持って近界民(ネイバー)と呼ぶのか分からない。他国に住んでいる人間。それも間違いではないと思う。だがこの男が思っているのはきっと自分達以外の生物を近界民(ネイバー)と呼んでいるのだろう。だとすれば連れ去れた人も近界民(ネイバー)ということになる

 

 現にオレが、赤ん坊のときに連れ去られソチノイラで育った玄界(ミデン)の人間だからだ

 

 弧月を弾き少し距離おいて言った

 

「この国に住んでいる人間以外がネイバーなら言ってやる。オレは元々はこの玄界(ミデン)の人間だ」

 

「っ!?ふ、ふざけたことを言うな!!」

 

「信じる信じないは勝手にしろ。だが間違えるなよ?そこにいるシン・カザマはボーダーの人間で今日までオレ達の下で過ごしてきたんだ。お前の理屈で言うなら、シンさんもネイバーと言うことになるんだぞ?」

 

 そう、オレだけでなくシンさんも玄界(ミデン)の人間だ。この5年はオレ達のところで過ごしていたが、それまでの時間は自分の国で生きていたわけだ。これで納得しろなんて無理なのは分かっている。だが近界民(ネイバー)にも色んな人間がいることを理解だけはして欲しい

 

 約17年。ここでオレは生まれたわけだから何も感じないわけじゃない。ただ育った記憶がないから帰ったことの感動とか懐かしさを感じないだけだ。といってももう傭兵としての知識や経験など培ったあとだから考え方とか違いすぎて逆に平和すぎる光景に苛立ちすらも覚えるかもしれない

 それはもう仕方ないと言うものだ。長年信じてきた、感じてきたことを変えるのは容易じゃないからだ

 

 

 

 

 

 




はじめは風間進さんと陽太郎は親子でしょ!とずっと思っていて、ゆりさんが出て「絶対この2人の子だね!」と信じていたんですが・・・よくよく考えれば5年前となるとユリさんは18歳・・・法律上は問題ないのでしょうけど・・それに陽太郎との会話も親子とは違う感じですし。この「彼方の傭兵」で色々調べてたら違うという結論に

陽太郎君、君は一体何者なんだい??

とここで第2の予想。陽太郎は同盟国の戦争で孤児になった、もしくは致命傷を負った親が林道さんに託した、のではと。他国で暮らす孤児、ヒュースと若干似ているあたりこれが先輩後輩だったり?

まああくまで勝手な予想ですけどねwwでも風間さんと髪型にている辺り親戚なのではとどうしても思ってしまうww


それと早速感想をいただいてありがとうございます!


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4話 戦い

アンケートなんて追加されてたんですね!
へ~今度何かアンケートとってみようかな?


 蒼也とその仲間に押されるフィーロとオレ。髪を上げた奴と怜が隠れて見つけた奴の見事な連携に後退しながら戦っていると怜から離れてしまった。これまでに消えるトリガーで分かったのはレーダーには映るということ、つまり目に見える姿だけみたいだ

 

「おっと!?おりゃ!」

 

 気配を感じ取れるフィーロは夜の雨(レーゲン)で防いで反撃している。もう一つ分かったのは長時間隠れていないことだ。長くても2分程度、おそらくトリオンの消費量が大きいのだろう。距離を取って様子を窺っているが隠れていない

 

「……こっちか!蒼也!なんでいきなり襲ってくるんだ!!」

 

「任務遂行の障害を排除するだけだ」

 

「任務?」

 

 後ろに現れた蒼也にギリギリ気付いたが左肩を少し斬られてしまった、だが腕が切られるほど深くはない。両手に持った弧月を振り下ろすが、2本の剣に防がれてしまう

 

「任務って何をやってんだ?」

 

「兄とはいえ教える理由はない」

 

「それもそうか」

 

 任務と言うのは何なのかは知らないがただ事ではないだろう。帰って来たときには大勢いた。多分2,3部隊はいると思う。トリオン兵排除の任務だというなら1部隊でいいはずだ。じゃあ一体なんなのか? トリオン兵排除以上の任務となると、やはり近界民(ネイバー)関連になる。だがボーダーは交流するための組織のはずだ、この5年で一体何があったのか知る必要がある

 

「っ……かくれんぼが好きな奴等だな!」

 

 蒼也から距離を取ると分かっていたかのように髪の長い奴が現れて剣が横に振るわれた。頭を下げて辛うじて切られることはなかったが、今度は前髪を上げている奴が剣を突き降ろそうとしてきた。横へ転んでなんとか回避するが、長い奴が追撃してきた

 これじゃ回避も防御も間に合わない。こいつ等の連携は見事だなとトリオン体を破壊されると思った瞬間、黒い流星が飛んできた

 

「避けろ歌川!」

 

「っく!!」

 

「シールドを貫通した!?」

 

 長髪の少年はいち早く気付いて回避行動を取ってから手をかざした。歌川と呼ばれた前髪を上げている少年の後ろにシールドが展開されたが、フィーロが放ってくれた夜の雨(レーゲン)に簡単に砕かれた。歌川と言う少年は右肩を貫通、右腿外側にかすり傷を受けた

 

「助かったよフィーロ」

 

「いつもよりは落ち着いたほうがいいっすよ?結構やっか……!!」

 

 立ち上がってフィーロのそばに来ると上空から光る玉が降り注いできた。夜の雨(レーゲン)を丸く広げて縦を作って防いでくれた。ブラックトリガーだからこの程度で壊れることなどないが、数が多すぎた。もしかして怜みたいにトリオンが多いのかもしれない

 

「風間さん!ここはオレが押さえるから太刀川さんの援護に行ってくれ!」

 

「出水か、任せたぞ。行くぞ、歌川、菊地原」

 

「「了解」」

 

 今度は黒いコートの少年が両手にトリオンキューブを持って現れた。武器らしいものも持っていないから多分射手(シューター)だろう。接近戦に持ち込めば勝てる見込みがあるが、蒼也たちのトリガーの事もあるし下手に近づけない

 

「ハウンド!」

 

 展開していたキューブを細かく分割して放ってきた

 

「フィーロ!下がれ!!アレは追ってくるぞ!」

 

「わ、わかった!!」

 

 ハウンドは味方以外のトリオンに反応して追従してくる弾丸トリガー。オレが知る限りじゃ放った後はただ追ってくるだけだが、消えるトリガーこととかあるから油断はできない。フィーロと一緒に下がっていると、後ろから何かの気配を感じた

 

「フィーロ!あっぶな…こういうことか」

 

「あっちゃ~防がれてしまったか」

 

「上手く狙えよ槍バカ!」

 

 振り返ると何かが飛んできていたので咄嗟に顔を傾けて回避する。すぐに弾丸も撃たれたがフィーロが守ってくれたので何とかなった。体勢を整えて見れば前髪をカチューシャで上げた槍の少年とメガネのスナイパー。服装が同じだから同じチームなのだろう

 

「援軍?面倒だなー…」

 

「どうだろうな。どちらもあの場にはいなかったからもしかしたら遅れてきたのかもしれないぞ?」

 

 スナイパーなら後方から来るのも納得はいくが、槍の少年はどうみても攻撃手(アタッカー)だから後から来るのはおかしい。なにか別のことをしていてそれで遅れた、と考えるのが自然かもしれない。前衛後衛が一緒に行動となると不測の事態に備えていたのかも

 

「うわっ!?何で、避けたのに…」

 

「大丈夫かフィーロ?」

 

 槍と戦っていたフィーロは的確な突きを躱していた。だが誰が見ても確実に避けたはずなのに首には浅いが斬れていた。幸い伝達神経までは届いていないようでよかった

 どうやら槍も新たに開発されたトリガーみたいで、思った以上に苦戦を強いられそうだ

 

「ん?こっちか!!」

 

「遅い!ギムレット!」

 

「シールド!!なっ…!?」

 

 コートの少年が大きなキューブを分割して新たな弾丸を放ってきた。炸裂弾(メテオラ)でなければシールドで防げるから、ギリギリ防御できる大きさで展開したらあっさりと破壊されてしまった

 そのまま手足を貫通してフィーロにまで命中しそうになったが、さっきと同じように薄く広げたことで防いだ

 

「マジか、不意打ちになると思ったのに。だが風間さんのお兄さんは結構ダメージ入ったな」

 

「やば……さっさとケリつけないといけないか。ハンティング!!」

 

「っ!!」

 

 ダメージは大きいけどまだ動けないことはない。幸い分割数は少なく弾丸自体の攻撃力を優先してか大きいだけだった。だがトリオンの漏出が無視できないほどだ。早いとこ終わらせて怜の援護に行きたい、そのためには出し惜しみはしないとオリジナルトリガーを使うしかない

 

 ハンティングはその名の通り狩りを意味する。旋空弧月を見た怜が「相手を追って切り刻んだら最強じゃん!!」と言ったことをそのまま形にしたトリガーだ。元は旋空だから拡張した斬撃というのは変らない、違うのは敵と定めたトリオンを追って切り刻むように周囲を回転することだ。放てば最後、余程の硬いシールドでもない限り防ぐのが困難だ

 ちなみに怜と戦ったときはあっさり当然見えない脅威(ノヴァ)に負けた。単純な剣の腕でもあと一歩ってところで負ける。お陰で鍛えられているけど

 

 オレの放ったハンティングはコートの少年の両足と右腕を切り落とした

 

「マジかよ……なんだよこのトリガー」

 

「オレのオリジナルだ。同じボーダーなのは気が引けるが、怜の援護に行きたいのでな」

 

 道路に倒れて言葉を漏らす少年にトドメを刺した。すると破壊された瞬間光となって大きな建物のほうに飛んで行った。混乱していると少年がその場にいないことに気付く。普通破壊されたら生身の体に戻るはずなのにだ。だがないということはさっきの光が運んだと言うことになる

 

「脱出機能みたいなのか?……できたんだ………」

 

 いつできたのかは知らない。だけどあの戦いのときにあれば、どれほどの仲間が助かったのだろうか。そんなことを思ってしまった。何人か死んだのはオレも知っている、だが残りのみんなはどうなったのかは知らないのだ。さっき会った迅以外に何人生き残っているのだろうか? 同窓会とまではいかないがこの5年間のことは知りたい

 

「進さん!!戦闘中になにボーっとしているんですか!!」

 

「ああ、わりぃ」

 

 オレとしたことが迂闊だった。今は戦闘中だったのを忘れてみんなのことを思い出していた。フィーロに呼びかけられて我に帰ると驚いたことに深くはないがあちこちダメージを負わされていた

 

「さっさと終わらせるか。槍の相手、まだできるか?」

 

「もちろんっす!」

 

「なら頼む!オレはスナイパーを仕留める」

 

 レーダーには映らないが気配でなんとなく分かる。怜やフィーロほどではないがそれなりには察知できるようにはなっている。バッグワームで見えない以上これに頼るしかない

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 フィーロたちのほうで光が飛んでいくのが見えた。何なんだと見ていると弧月が振られたので三日月で弾く。距離を取れば銃で射撃してくので「硬化」で固めてシールドを作って防ぐ

 もう10分近くこんなことを繰り返している。ここまでやれば力の差が嫌でもわかって後退するはずなのになぜかしない

 オレが復讐相手の近界民(ネイバー)だからなのかはわからない。音は聞けるが心の声までは聞こえないため何を考えているのか知ることができない。足止めされても面倒だから早いとこケリをつけようと三日月を2度3度と振るが、シールドと合わせて弧月で防いでくるから掠り傷程度しか付けられない

 復讐を考えている割には思った以上に冷静で対処も正確だった。怒りを見せるからこの少年の落ち着きは予想外だ

 飛び上がって今度は蹴ろうとするが、左腕で防いでから振り払って弧月が振るわれる。逆さで体勢が悪いが三日月で受けて地面に落ちた。すると少年は銃のカートリッジを捨てて別のを入れなおした

 

「ん?補充しても意味な…っ!?おもっ……」

 

「やっと跪いたな近界民(ネイバー)

 

 弾丸を補充して意味ないと言い切る前に撃ってきて、オレはシールドで防げると思ったら消えることなく貫通してきた。そのままオレに命中したが破壊されず、変わりに六角形の錘が体から生えたのだ。驚きの連続にバランスを崩して膝を地面に付けた

 

 ようやく反撃出れると思ったのか少年は銃を向けたまま近付く。引き金が引かれたので右腕とシールドで防ぐがやはり貫通して腕に命中、錘が出て片腕が使えなくなった

 この重くなるトリガーは見えない脅威(ノヴァ)と理屈は同じだと思う。領域内のトリオンを「硬化」で作ったシールドに干渉しないと言うことはトリオン体に、もしくは物質化しているものに命中して初めて効果を発揮するのだろう

 

 防げない以上回避するしかない。一度でも当たればバランスが崩れて動きが悪くなり撃破が容易となる。だが相手が悪い。それにここは見えない脅威(ノヴァ)の領域内だ

 

「なにっ!?」

 

「大分軽くなった。けどまだバランス悪いな…」

 

 そう。「脆弱」で脆くし「硬化」の剣で錘を切り落としたのだ。飛び出ている分は切ったがそれでも残った分の重さが動きを悪くている。ついでにまた撃たれたら困るので少年の手首ごと切り落とした

 

 傍からは見えない刃で切ったようにしか見えないと思う。何をしたのか分からないのか少年は距離を取るが、それでは弧月の間合いから外れることになる

 限界距離があると予測するのは当然だが、たかが数mは離れたとはいえない

 

「面倒だからさっさと終わらせるか」

 

「この距離でなにを…っ!!?」

 

 掲げた三日月をただ振り下ろす。それだけで少年の上にできた「硬化」の刃が落ちて右腕と右足を切り落とした。両腕がなくなれば戦えなくなるし、片足では機動力が半減する。これで少年は撤退以外の方法を取ることしかできなくなった。地面に伏した状態になって激しく睨んできた。憎い敵にたった一瞬で形勢逆転されたことが気に食わないのか、そもそもオレが憎いのか分からないが、できれば復讐の芽は摘んでおきたい。うつ伏せの状態を仰向けにして星を見えるようにした

 

「復讐したいならすればいいけどさ、近界民(ネイバー)も色んな奴がいるって知ってるんだろ?」

 

「だったらなんだ!?」

 

「見ろよ。近界民(ネイバー)の国ってのはこの星みたいな、無数に存在しているんだ。強者が正しい実力主義の国、トリオン兵の研究に特化した国、食文化の発展した国、神を崇拝する国。オレが住んでいるソチノイラも中立の国だ。どこかの国を攻める軍事力は少しも持っていないんだ」

 

 復讐の目を摘むと言っておきながら何を言っているんだろう思った。伝えたいことを伝えようと思うのは難しい

 

「………だから復讐をやめる理由にはならないっ!お前だって親しい人を失わない限り分かるわけないんだ!」

 

「分かるよ」

 

 これほど激昂するのだから相当親しかったのだろう。家族なら仲がよかったのだろう、友人知人もしくは恋人なら気が許せるほどだったのだろう。気持ちは分からなくもない。オレだって父親に等しい師匠を失ったのだから、しかも助けられる力を持っていながら。これがどれほど虚しいことなのかは言葉で伝える以外何もない

 

「師匠をな、引き取ってくれた父親が死んだんだ。大事な人を失う気持ちはオレだって分かる」

 

「だったらなぜ!!」

 

「そんなことをして、死んだ人は喜んでくれるのか?その人のことを知っているなら、少し考えれば分かるだろ?少なくてもオレは、嬉しくない。むしろなんでそんな馬鹿なことをしたんだと説教したいくらいだ」

 

「………」

 

「…これだけは知っといてくれよ。近界民(ネイバー)も人間だ。考えたり気持ちを感じたりする。誰もが争いを好んでいるとは限らないんだ」

 

 オレから言うことはこれくらいだ。あとはこの少年がどうするかだ。そのうえで敵として立ち向かうのなら選択肢は1つ、オレも敵として今度は手加減もせず倒すだけだ。地面に座って星を見上げていれば足音が近付いてきた、聞き覚えのある音だからフィーロと進さんだ

 

「お疲れ。でも進さん、結構ボロボロじゃないですか?」

 

「ああ、蒼也のチームが結構手強くてね。意外と追い詰められた」

 

 全身に傷だらけの姿はチームとしての力を示していたようだった。消えるトリガーは結構厄介みたいだ。風景に溶け込むってのはソチノイラでも実現は可能ではある。だが見えない脅威(ノヴァ)の開発者が言うには消費が大きいらしい。だからトリオンに余裕のある奴じゃないと博打だと。「君のトリオンなら可能だよ?付けるかい?」なんてこと聞かれたが当然断った

 

「さて、その状態じゃ帰れないだろ?送ってやるよ」

 

「いい、近界民(ネイバー)の手は借りない。緊急脱出(ベイルアウト)

 

「おわっ!?光…?」

 

 少年を送ってやろうと思ったのに断ったとたんトリオン体が爆散して光が飛んでいった。あの大きな建物に向かって

 

「脱出機能なんだと思う。この5年の間にできたみたい。って…怜?おまえ何をする気だ?」

 

「ん?基地に送ってやろうと思っただけですよ?」

 

「いやいやいや!!普通に歩くから!というか無理矢理送ろうとするな!」

 

 脱出機能とはすごいものが開発されたみたいでボーダーの技術力は侮れないな、消えるトリガーや重くなるトリガーとか

 進さんも基地へ送ってあげようと思って見えない脅威(ノヴァ)の「硬化」で掴むと中に浮かせる。慌ててやめるように言ってくるが、ここで解放すれば一緒に付いてきそうだから強引に。あと前々からやってみたかった実験を兼ねて

 

「シンさん……さよならっす…」

 

「なんでこんなときだけそっちなんだ!?みてないで助けろよフィーロ!!」

 

「色々大変だけど頑張ってください。そーー…っれ!!」

 

「ドアホーーーーー!!!覚えてろよーーーー!!」

 

 別れは決めていたことだからフィーロは止めることはしなかった。きっとこの先、生きていたことで注目されるだろうし、5年の変化で違いがあって戸惑うことがあると思う。でもソチノイラで普通に暮らせたから大丈夫だと思う。元々シンさんは玄界(ミデン)の人間だし。腕を振ってシンさんを投げると同時に「硬化」を解いた

 

「師匠…これが人間大砲?」

 

「そうだな。結構早いな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ぁぁぁぁああああああーーーー!!どわぁぁ!!?」

 

 怜のやつに投げ飛ばされてどこかの家に突っ込んだオレは家一つを貫通して2件目のリビングの壁で止まった。もう帰ることを決めたからこんな強引な事されなくても素直に帰るというのに。オレはそこまで帰りたくない奴に見えたのかと逆に怒りたくなった

 

「でっけー……」

 

 とりあえずボーダーの基地らしいところに行ってみることにした。マークが違うが英語で「BORDER」とあるから間違いないと思う。近くに来れば周辺は更地になっていて、入り口はないのか回るとあった。だけど入り方が分からないがパネルみたいなのがあるから触ると開いた

 

「おいおい、無用心過ぎないか?」

 

 ネイバーから守る組織がこんなんで大丈夫なのかと不安になる。とりあえず開いたので入ることにしよう。誰か知っている人がいるといいけど

 

 

 




味音痴の頼れる兄貴分:風間進

三途の川を渡り損ねた旧ボーダーメンバー。恩人の怜が同郷の者だと知って色々教えたりするが、唯一料理だけは恩を仇で返してしまいかける才能の持ち主。何も知らなかったフィーロがつまみ食いしたら病院に運ばれてしまったため、2人から料理禁止令を出されてしまった残念な兄貴分。いつかミデンの食べ物を食べさせたいと料理修行を始めたが報われる日があるのか……


フラフラ歩くお菓子発見人間:篠島怜

散歩が趣味でよく出歩くことが多いため、街で珍しいものを見かけるとつい寄ってしまう悪癖がある。たまに迷子になってしまうこともあり、中々帰らないことでフィーロを心配させて泣かせたことも。大体いつも片手にはお菓子の袋を持っていて、次の依頼までは家にはそのお菓子が常備されている。半分は怜がいつも食べてしまう


頭より体で覚える弟:フィーロ

小難しいことが苦手だから感覚でなんでも覚えようとする困った弟。戦闘能力は申し分ないので怜となんども模擬戦をして、終わったら勝っても負けても笑っている。何事も体を動かすのが好きなので修行はいつも全力


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5話 5年分の後悔

進さん視点で今回は進んでいきます

進さんのイメージはあくまで作者のイメージです


ところで進さんって一体いくつなんだろう・・?25~27ぐらいかな?22からってのももしかしたらありえるかも?


 ピンチだ

 

 緊急事態だ。この基地広すぎる

 

「………迷った」

 

 いい年した男が迷うなんて恥ずかしいにもほどがある。と言うよりは初めて来たところなんだから分からないのは当然だ。とにかく適当に歩けば階段かエレベーターに着くだろうと思ったのだが当てが外れてしまった

 

「つーか、なんで同じ扉ばっかりなんだ?何の部屋なのか書いとけよ」

 

 ひたすら同じ廊下、同じ扉。しかも大体の感覚だが区画ブロックのように均等な分かれ方をしている、まるでそれぞれが部屋のようになっているのじゃないかと。パネルを操作しても反応はない。近付いても開くことはなかった、どうすればいいのか分からない。そのとき聞き覚えのある声が掛けられた

 

「風間さん」

 

「ん?おー!迅!丁度よかった、どこ行けばいいのか分からなかったんだ。とりあえず司令官か誰か会えないか?」

 

 振り返ると迅が立っていた。なぜか手にはお菓子をもっていたが

 

「大丈夫ですよ。これから城戸さんたちのところへ行くところだから」

 

「城戸さんは生きてるのか!」

 

 あの戦いで玄界(ミデン)に危機が迫っていると知り、当時のみんなで阻止しようと全力で戦った。だが仲間が次々と倒れていってブラックトリガーを遺して逝った。オレもそうしようとしたが、トリガーに手を伸ばしていたときに怜が現れた。伸ばした手に自分のトリガーを握らされて起動したことで九死に一生を得ることができた

 

 迅に案内されてエレベーターに乗っている間に離れてからの話を大まかに聞いた。まず半数が死んでしまったこと、その残りが帰ってから玄界(ミデン)に押し寄せてきたトリオン兵を撃退したと。これが4年半前の出来事だと。その半年後にこのボーダー本部ができたと言うことだ

 今まで基地として使っていた河川敷の建物が玉狛支部として機能していること。真都ちゃんが脱退して一般人に戻ったこと

 

「………そうか。あの日からそんなに変ったのか…」

 

 5年経って戻ってきたと思ったら、ここまで変化しているのは衝撃が隠せない。蒼也みたいにポーカーフェイスを貫けれないから、いまフィーロがいたらすごい心配していたと思う

 

 そうだ。フィーロといえばさっきの戦い。なんで戦わないといけないのか聞かないといけない

 

「迅!ここに戻ってきたとき戦うことになったけど、何の任務なんだ?」

 

「太刀川さんたちの任務は玉狛にいる近界民(ネイバー)が持っているブラックトリガーを奪うためだよ」

 

「玉狛にいるのか!?近界民(ネイバー)が!?」

 

 ネイバーを敵対視している割には玉狛にいるというのはおかしい。オレの不安を考えてか迅は大丈夫だと言った。これからそのネイバーを守るための交渉をするために向かうのだと

 

「交渉?なんでだ?同じボーダーだろ?」

 

「大体3つくらいに別れてるんだ。近界民(ネイバー)と仲良くしている玉狛は本部とあまり仲がよくないんだ」

 

「ってことはあれか?派閥ってやつ?」

 

「そうだよ」

 

 なんど驚けばいいのだろう。今度は組織内で派閥が生まれていたという。それだけでなく今のボーダーはオレの知っているボーダーとは全く逆、近界民(ネイバー)は排除すべき敵。というのが本部隊員たちの大体の認識らしい。オレの知っているボーダーの形はそのまま現在の玉狛支部となっている

 

「…辛いな……」

 

 知っている者が変わり、親しい人が去り。胸の中に広がる哀愁は口にできるようなものではなかった。真都ちゃんみたいでもいいから、脱退してでもいいから生きてて欲しかった

 

「風間さん。着いたよ」

 

 着いたドアは大きい。司令室とかだろうと思ったが、違うようだ。中は大きなテーブルを囲うように数人が座っていたが、1人右側に座っている人は知っていた

 

「忍田さん!!」

 

「っ!もしかして…風間なのか!?」

 

「っ…!」

 

 少し老けているが忍田さんだというのは分かった。あと中央に座っている人も驚いているが知らない顔だ。あんな大きな傷を負った人をオレは覚えていない

 

「風間さん。あそこに座っているのが城戸さんだよ」

 

「え?……城戸…さん?」

 

 迅が教えてくれるがとても信じられない。昔はよく笑う人だったのに、オレの知っている城戸さんなら笑って生きていてくれたことに喜んでくれる。そんな人なのにいま目の前にいるのは目を少し見開くだけで笑いも感動の言葉も言ってこなかった

 しかも座っている位置から恐らく、このボーダーの司令官かそれに相当する役職なんだと思う。つまり近界民(ネイバー)を恨んでいる可能性が高いということになる

 

「一体……なにが…?」

 

「迅!なぜ近界民(ネイバー)を連れてきた!!」

 

「はっ!?」

 

 ネイバーってオレのことだよな? 確かにこの人たちは知らないからトリガー持ってるオレをそう見えるのかもしれないけど、忍田さんと顔見知りだって事くらいは想像できるんじゃないかと思うが

 

「大丈夫ですよ。この人は風間進さん。このボーダーの古いメンバーです。そうですよね、城戸さん?」

 

「ご存知なのですか城戸指令?」

 

「…生きているなら、なぜ帰ってこなかった?」

 

 やっぱり最初はそれが気になるだろうね

 

「恩返しがしたかったんだ」

 

「恩返し?」

 

「ああ、オレを助けてくれた少年に。死に掛けていたオレに自分のトリガーを渡してくれたお陰で命拾いした。そのせいで今度はそいつが怪我をしてしまったけど。とにかくオレは簡単に恩を返すだけじゃ納得できなくてな、そしたら気が付いたら向こうでの生活に馴染んでしまって」

 

「風間…お前と言うやつは」

 

 さすが馴染んだから5年も暮らしていたなんて呆れて当然だよな

 

「迅。なぜここにきた?」

 

 どうやらオレのことは終わりなのか城戸さんの鋭くなった視線は迅に向けられた。一体何を話すのか分からない。交渉をすると言っていたが

 

「もちろん決まっているじゃないですか。玉狛支部空閑隊員の正式入隊を認めてもらいたい。太刀川さんが言うには入隊日を迎えないと隊員じゃないらしくてね」

 

 空閑というのが匿っている近界民(ネイバー)の名前らしい。でも正式入隊っていうことは今は違うのか?

 

「もちろんタダでとは言わない。こっちからはブラックトリガー『風刃』を差し出す」

 

「ブラックトリガー!?」

 

 迅が持っていたのはブラックトリガーなのは驚いた。通常トリガーとは桁違いの性能を持っているから簡単に手放すことなんて普通はありえない。1人適合するだけで数十人分の戦力があるのだから防衛するのも1人でかなり有利になる。だが適合する人間は限られている、そのため手放すと言うことはその分戦力を減らすと言っているに等しい

 

「迅!ブラックトリガーを手放すほど重要なのかよ!?その空閑っていうやつは」

 

「そうだよ風間さん。それに心配しなくても風刃は適合する人間が多くいるんだ、戦力が減ったわけじゃないよ」

 

「そんなことしなくても隊務規定違反でお前から取り上げることもできるんだぞ?」

 

「そのときはもちろん太刀川さんたちのトリガーも取り上げるんですよね?それはそれで好都合、安心して入隊日を迎えられる」

 

「取り上げるのはお前だけだ」

 

「へー、それができるならやってみなよ?」

 

「おい、なんで自分の首を絞めるようなことを言うんだ?」

 

 城戸さんの言うとおり何かに違反したなら罰として迅のだけ取り上げてしまえば済む話。だがこの自信は自分の「だけ」じゃ済まないって確信している

 

「それに城戸さんの真の目的にも近付きますよ?」

 

「真の目的?」

 

 城戸さんが一体なにを企んでいるのか分からない。あのころとは違うせいで考えも分からなくなった。すこしの沈黙のあと城戸さんは空閑という近界民(ネイバー)の入隊を認めた。これで終わり、というほど簡単ではなかった

 

「だが風間といたあのネイバーは別だ」

 

「そ、そうですね!見失ったとはいえ顔は確認していますし、捜索すれば―」

 

「待ってくれ!!怜とフィーロは別に攻めに来たわけじゃない!オレを送り返すのと観光をするために来たんだ!」

 

「観光?バカか!ネイバー他の国を観光なぞするはずもないだろう。大方素質のある奴でも見つけて攫うのだろうが」

 

「風間の意見に同意するわけじゃないが私はその意見は性急過ぎると思う。本当に観光に来ているのであればこちらに敵意はないはずだ」

 

 城戸さんのあとに体調が悪そうな人が続けて言ってきた。あと太っている奴も。忍田さんの言うとおり怜たちは敵意があるわけじゃない、ただ今回は降りたところがたまたま悪くて戦う羽目になっただけだ

 

「だがA級部隊を退けた。脅威みなされるほどの戦力を持っているのは事実だ」

 

「たしかに怜たちは強いけど……城戸さんたちが何もしなければあいつ等は何もしない!なんでわざわざ状況を悪くしようとするんだ!?」

 

「悪くしているのはそちらだ。我々を脅かす人物が市民の中に紛れ込む、これは十分に危険なことだ。ネイバーを排除するのが我々の責務だ」

 

「排除……って、城戸さん……一体何があったんだよ?…昔のあんたはそんなんじゃなかっただろ!」

 

 まさか城戸さんからそんな言葉がでるなんて思いもしなかった。こんなことなら怜の言うとおりもっと早く帰っていればよかった。そしたらボーダーがこんなに変わることもなかったかもしれない

 

「風間。その怜って言う子と話はできるか?」

 

「忍田本部長!?」

 

「すみません。トリオン体なら通信機能で可能性はあるけど、さっきも言ったけどこっち着たのは観光も目的だから多分使うことはないと思う……」

 

「そうか…」

 

 僅かな希望でしかないけど。わざわざトリオン体で観光する必要なんてないから無理だと思う。忍田さんはどうやら納得させるために契約を結ぼうと考えてたらしい。城戸さんたちの考える管理のしかたとは違うが、何らかの形で目が届くようにしようと思ってたと。これなら一応は納得するらしいが、体調の悪そうな人、根付さんというらしいがそれでもまだ完全には納得できないと

 

 メディア対策室長と部署の偉い人で、ボーダーの印象をよくするために色々考えるらしい。広報のための部隊もあると後になって知った。でも確かに敵として広まっている近界民(ネイバー)が一般人の中にいると知ればこの人が不安になるのもわからなくもない。平和ボケしたこの時代ではちょっとのミスでも尾ひれが付いて悪い噂になって信用が失われる

 

 でも怜と会えて契約を結ぼうとしても内容によってはできないことかもしれないし

 

「内容は近いうちにくるであろう大規模侵攻の戦力として、話を聞く限り怜くんは傭兵なら報酬を用意して契約すれば、こちらの不利になることは極力しないだろう」

 

「そ、そうかもしれませんが……」

 

 中々首を縦に振らない根付さんに難航しそうだが聞き逃せない言葉が出た

 

「大規模侵攻って、またあるのか!?だったら怜たちにも協力させれば…!」

 

「しかし…近界民(ネイバー)に協力してもらうと言うのは……」

 

「ああ、調査の結果断定ではないがその可能性が高いとでたんだ。念には念を入れておくべきだと私は考える」

 

「城戸さん、頼む!あいつ等は悪い奴等じゃないんだ!それでも納得できないなら依頼すればいい!報酬を出せばちゃんと守ってくれる!」

 

「………」

 

 まだ確定ではないらしいが、この世界がまた狙われているのならやることは一つ、力のある限り戦って守り続けることだ。そのためにまずオレにできることといえばボーダーの説得。怜たちと協力できれば守りきれる可能性は一気に高くなる

 

「迅、お前には何が視えている?」

 

「そんなに心配しなくても、風間さんの言うとおり彼らは危なくないですよ。むしろ仲良くなればボーダーにとってもいい協力関係を築けますよ」

 

 そうだった。迅には未来が見えるサイドエフェクトがあるんだった。しかも怜たちを直接見ているから安全な奴等かどうかももう知っているから、迅の言葉は説得力がある

 

「と言うか…迅!お前オレが生き延びてるの知ってただろ!?」

 

「まあね。風間さんのためにも……みんなのためにも必要なことだったんだ」

 

「みんなって…迅、お前っ………」

 

 さっきまでの雰因気はまったくなくなり少しだけ表情を曇らせた。必要なことって一体何が? みんなのためにって誰のことだ? ただ言えるのはあの戦いの犠牲は必要だったということだ。当然怒りも沸いてきた。けれど先が見えるって事は誰がいつどこで死ぬのを、誰よりも先に知ることだ。回避することもできるだろうけど、もしその先の未来がよくないことだったら、よくするために必要なことをしないといけない。それがたまたま、オレ達の犠牲だった、ということなんだろう

 

 たとえ知ることがなかったとしてもいずれくることになる。そのときは何の準備もなしに。いや、していたとしても結果が変わらないかもしれない。むしろしないほうがよくなる事だってある

 

 迅は一体いくつこんな経験をしたのかわからない。同じ屋根の下で寝て食べて研鑽して、信頼しあった仲間を見捨てなくちゃならなかったときの気持ちは、オレにはわからない。ただ今この怒りを迅に向けるのは、絶対に間違っている。一番辛いのはコイツなのだから

 

 

 

 

 

 

 

 






なんだかんだで甘い兄:篠島怜

普段から厳しいことを言って一人前の傭兵になれるようフィーロを鍛えているが、血の繋がりはないとは言え可愛い弟。ブラックトリガーを持っていても危なくないように数の少ないところへ配置したり、欲しいものがあるときに我慢するように言っても理由を付けて頑張ったからと買ってあげたりなど、結局喜んでくれるフィーロを見るのが好きな甘いお兄ちゃんなのだ


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6話 玄界(ミデン)ワンダー!!

最初はクオリティと書こうかと思ったのですが意味が「品質」や「性質」なのでちょっと違うなと思い、「不思議」や「驚異」のワンダーになりました!
今回はあまり話が進まないですが、怜たちのミデンの知らないことを知る驚きを想像しながら読んでいただければと

ちなみに「驚異」って非情に驚くって意味らしいですね。「きょうい」って「脅威」「胸囲」くらいしか知らなかったです


「…ん……?…ぁ、そっか。ホテルなんだっけ……」

 

 何か夢を見たような見ていないような、曖昧な意識で目を開けて体を起こすと見慣れない部屋だった。数秒してここが玄界(ミデン)のホテルだということを思い出した。隣のベッドを見ればフィーロが満足そうにとても柔らかいベッドで寝ていた。多分オレは慣れないところだからいつもより早く起きたのだろう

 

 依頼も戦闘系じゃないからもう一度寝ていようかなとも思ったが、薄っすらと窓のカーテンには明かるかったからもうすぐ日が昇るみたいだから起きることにした

 

「ふーーん……どこ行こうかな……」

 

 体を伸ばして解すと窓近くの椅子に座った。隙間から見える街並みを見て今日の予定を考えるが、今になって進さんを帰したのは失敗だったのかもしれない。玄界(ミデン)はオレ達ネイバーには生き辛いようで下手にしゃべれない。外国で暮らしていたと言えば、あまり怪しまれることはないがボーダーに復讐をしようと思っている奴もいるくらいだから気は抜けない。これから街を歩くときはトリオン体の方がいいのかもしれない。サイドエフェクトがあるからナイフとか持って近付いても分かるがこっちの治安組織に捕まりそうだから避ける必要がある。身分証がないから困ることだかけだ

 

「んー……ししょー…?」

 

「おはようフィーロ。でも今は旅行中だから訓練はしなくてもいいぞ」

 

 時間も朝の訓練時間になるとフィーロが起きだした。目を擦りながら体を起こして周囲を見回してオレを見つける。寝ぼけた声で分かったと言ってまた寝た。まだ寝るのかよと少し呆れるが旅行中くらいは好きに寝てもいいわけだし。オレも早いけれど朝食を食べようと透明の袋からおにぎりを取り出す。こっちに来てボーダー関連以外で驚いたのはコレだ

 

 数字の順番に引っ張っていくと乾燥した海藻に包まれたおにぎりができるわけだ。一体どうやって海藻を乾燥した状態を保っているんだろうか? なにはともあれこのツナマヨというのは美味い。初めて食べる味だ

 このナントカ梅というのは先生が作ってくれたのより酸っぱい。フィーロと揃って変顔になりながら苦労して食べた。多分2度と梅を食べることがないと思う。他においしいと思ったのはおかかとわかめに似た海藻らしきもの。「昆布」と書かれているが読めない

 進さんに少しは漢字を教えてもらったけど、なんでも知ってる漢字教えようと思ったら時間が掛かるらしい。それくらい膨大な数もあるんだといっていた。孤児院の先生に聞いても同じ事を言っていた

 

 そういえば昔師匠が言っていた。玄界(ミデン)の言葉は特殊すぎるから解読は専門家が調べないと読めないと。だからレシピや文化などがソチノイラにあまり流れてこないのだと。ちなみにオレの名前が分かっているのは「母子手帳」というのがあったからだと。ただ名前の「れい」の部分は漢字の部分は破れていたらしい。誕生日は拾われた日となっている。まあ名前が分かっていれば漢字なんてどうでもいい。近界民(オレたち)にとって必要のないものだから。しかも家族名があるのも大体が貴族以上の偉い立場の者にしかない。だからってオレやその他の家族名を持っている奴に捨てろなんて横暴な法律は存在しない。そういうわけでオレはレイ・シノシマと名乗っている

 

 他に驚いたと言えばこのホテルの風呂場だ。なぜかトイレと同じなのだ。洗面台は別なのに。お陰で昨日は湯に浸かっているといきなり入ってきてズボンを下ろして小便をしたのだ。不便で仕方ないのに、なぜこんな作りにしたのか全く持って理解できない。体を拭くスペースも狭すぎるし。まあフィーロが男の子として成長しているのは兄としては嬉しいことだが

 

 

 

 

 

「兄ちゃん!どこ行く?」

 

 隣を歩くフィーロがオレを見て聞いてきた。ちなみに兄ちゃんと呼ぶのはこっちで「師匠」呼ぶのは少し違和感がありそうだったので、用心のためにそう呼ぶように言ったのだ。師匠でも問題なさそうなら戻してもいいと思うが、嬉しそうに呼ぶフィーロを見ると別にいいかなと思う

 

「適当に、かな?旅行だし」

 

 ホテルを出て街を歩く。不思議と赤い色があちらこちらで目立つ。フィーロがどうしてなのか興味深々だが、その答えはすぐに分かった。どうやら「クリスマス」というのが近いらしい。孤児院の先生が毎年やっていたので覚えている。白い髭を生やして赤い服を着た「サンタクロース」というおっさんが子供達にプレゼントを届けてくれる日らしい。ほかにイエス・キリストという子が生まれた誕生日らしい。子供のときはただの誕生日会としか思っていなかったが、今になって思えば子供が生まれただけで全世界で祝うような大事になっているのだ。一体そのイエス・キリストという子は何を為したのか少し気になった

 

 と、聞いたこと知っていたことをフィーロに教えた

 

「へ~なんかすごいんだね」

 

 どうやらあまり理解はできなかったみたいだが

 

「オレのところにもサンタクロースっておっさん来るかな?」

 

「さあな?いい子にしてれば来るんじゃないのか?サンタクロースだってさすがに悪い子にもプレゼントなんてあげないだろ」

 

「そっか!じゃあオレもいい子にしてたらもらえるかもね!」

 

「できるのか?」

 

「できるよ!!」

 

 どこからその自信が来るのか分からないが、良くも悪くも素直なところが長所でもあるから旅行中は平和かもなんて考えた。でもそれは叶わないかもしれない、出かける前にも買ってあった梅のおにぎりをもう食べたくない! とオレに押し付けてきたのだから。その前にもマカロンを60個も大量に買ってくるのだから

 

「ねえ、どっかでジュース飲みたい」

 

「うーん…あれで買えるみたいだぞ?」

 

 突然ジュースが欲しいと言い出したから店を探すが、あいにくこっちの土地勘がないからってのもあって店が少ないところまで歩いてしまった。オレの悪い癖が出てしまったようだ。周囲を見てみると真っ白い機械の箱には飲み物らしいのが並べられていた。その下には「150円」や「130円」と書かれているから恐らくこれが値段だろう

 コインの入る場所に数枚入れるとボタンが赤く光っておいしそうなのを選んだ。ガコンっと下から鳴って見てみると選んだのが落ちていた。中々考えられている、指定された金額が入らないと変えない仕組みなのか。しかも硬い金属だから簡単には盗んだりなどはできない

 

「おいフィーロ!それオレの…いい子にしてるんじゃなかったのか?」

 

「っ!!…ご、ごめんなさい」

 

 オレが機械に感心しているといつの間にかフィーロが蓋を開けて飲もうとしていた。人が買ったものを飲もうとしているからもういい子じゃないから、サンタクロースからプレゼントもらえないと知った途端返してきた。すでに蓋は開けられているから代わりにお金を貰うことにした。さっきと同じのを買ってオレも飲もうとしていたら

 

「んぅぅ!?イッタイ!!」

 

「は?痛い?そんなわけないだろ。虫歯にでもなったんじゃないのか?……んぐっ!?イタッ!?なんだよコレ…?」

 

「ほらね!それにオレは虫歯になってないから!」

 

 突然フィーロが飲んだジュースが痛いと言い出してそんなわけないだろうと、大方虫歯になって神経が触れてしまったんだろうと思ったのだが。オレも飲むと確かに口の中がチクチクと刺すような痛みが広がった。それどころか飲むと喉まで痛くなった

 一体何なんだこの飲み物は? 玄界(ミデン)の人はこんなのを好んで飲むのか?

 

「っ……痛いけど…ちょっとずつなら飲めそうだ」

 

「ぅ、ぅん…そうみたい…変なジュースだ」

 

 フィーロの言うとおり変な飲み物だ。一応もう一つ買った。こっちはりんごの味がするだけなので安全だ。フィーロは「巨峰」と書かれた難しいのを買っていた。味がしつこくなくて好きと喜んでいる。ためしに飲むとコレはぶどうというやつだ。年に1回か2回売られる希少な果物だ。そんな高価なものがここでは無人の販売機械のたった150円程度の値段でジュースに値段で売られている。驚きだ

 

「…少し冷えたな、どこかで何かを……っ!」

 

「ん?兄ちゃん?」

 

 見つけてしまった。とてもおいしそうなお菓子屋さんを

 

「あそこに行くぞ」

 

「え、ちょ、兄ちゃん!?」

 

 光沢はないがカラフルで美しい造形のお菓子。目を惹き付けられるほどの魅力にオレは負けてフィーロを連れて店内に入った

 

「いらっしゃいませー」

 

 まず感じたのは甘い匂いだ。これは砂糖をメインに使ったお菓子に似ている

 

「うわーなんか食べるのもったいないなー」

 

「ああ、お菓子…だよな?確かに食べるのもったいない」

 

 花の形を真似たのが殆どだが、どれも本物にそっくりな作りだから棚とかに置かれてもお菓子だとは気付かないと思う。色々見ていると今度は小さな粒が沢山入ったお菓子。子供が読む本に描かれる星と似ている

 

「お客様、観光客ですか?」

 

「え、あ、はい。ずっと遠いところにいたので」

 

 店員が来てオレに聞いてきた。おそらく同じ日本人なのに知らないのはおかしいから確認するために来たのだろう。日本人だと理解しているのは進さんから教えてもらった。他にもアメリカ人、中国人、朝鮮人など国によって色々人種が違うという。しかも体のつくりも違ったりすると

 

「そうでございましたか。こちらは金平糖と言いまして、砂糖を溶かした水を時間をかけて固めて作ったお菓子です」

 

「こんぺいとう…あっちの棚に並んでいるのは?」

 

「あちらは練り菓子といいます。簡単に言いますとあんこを使ったお菓子ですね」

 

「へー…こっちの黒いのは?」

 

「こちらはかりんとうです。小麦粉で作った生地を油で揚げて黒砂糖や白砂糖なでで絡めて乾燥させたお菓子です。甘くてさくさくでおいしいですよ」

 

 丁寧に質問に答えてくれてオレはますます興味を示した。ただ困ったのが練り菓子というのが消費期限という、その日まで食べなくてはいけないという日がとても短いと。沢山買ってゆっくり食べようかなと思ったのだが、期限というのがあるのなら少ししか買えない

 

「兄ちゃんどうするの?」

 

「うーん……じゃあ――」

 

 フィーロも食べたそうにしているがまた買いすぎると怒られるとわかっているのか財布を持って見上げてきた。何を食べたいのか聞くと全部練り菓子だった。なので10個までと定めた。オレも鞄から財布を出して金平糖とかりんとうに練り菓子6個にした。これだけ買って3000円以内に収まるのだから意外と安い

 

 さっそうおいしそうなお菓子と出会えて気分上々と言ったところでちょうど12時が来ようとしていたのでどこかで昼食を食べることにしようと人の多いところへ向かった。だがここで一つ問題が出てきた

 

「……っ」

 

「兄ちゃん…大丈夫?」

 

「ああ、まだ大丈夫だ」

 

 そう、人が歩く音がオレを苦しめるのだ。サイドエフェクトで人より数倍の聴力があるから、ただの足音でさえオレには結構うるさく聞こえるわけだ。フィーロはそれが分かっているから心配しているのだ。これならトリオン体になればよかったのかもしれない。オレのサイドエフェクト用に聴力を下げる機能を付けてくれているから、まだそっちのほうがストレスは少ない

 

「あ、兄ちゃん待ってて!」

 

「おいフィーロ!」

 

 何を見つけたのかフィーロがすぐそばの店に入っていった。知らない土地で一人で大丈夫なのかと不安になったが、聞こえてくる音は問題もなく買い物をしているようだった。それを聞いていつまでも子ども扱いはもうしないほうがいいかなと思い始めた

 

「お待たせ!はい、これ!」

 

「ああ、オレに?」

 

 出てきたと思ったらいきなり買ってきたのをオレに渡してきた。紙袋から取り出してみると中に何か硬い物が入った紺色の布製の何か。何に使うのか聞くと街の人を指した。確かに今手に持っているのを似ているのを頭に付けている。耳を挟むようにしている

 

「もしかしてオレのためにか?」

 

「うん!」

 

「…ありがと。これなら半分くらいだが音が減ったよ」

 

 オレのために買ってきてくれたフィーロに感謝して早速付けてみた。するとさっきまでうるさかった雑踏が一気に小さくなって家でモニターを見ている程度になった。挟み込む力も程ほどだからちょっと激しく動いたら落ちそうだが痛くはない

 

「それじゃご飯屋に行こう」

 

「うん!腹減ったしね!」

 

 これは意外と重宝しそうだなと思いながら袋を畳んで昼食を食べる店を探した

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 おまけ

 

「……だれだ?」

 

「お?やっと起きたか、蒼也」

 

 リビングで寛いでいると背後からうめき声に等しい声音で言葉を投げかけられたから振り向けば、眉間に皺を寄せて気分を悪そうにしているオレの弟の蒼也が見ていた。だれだ? とは酷いが酔い潰れるほどだから大方二日酔いで頭が痛いのだろう

 

「オレだよ。っていうかお前酒強くないんだな?」

 

「……兄さんか…?……」

 

「そうだよ。薬ないのか?」

 

「あそこの…一番下……」

 

 昨日会議の後玉狛に帰る予定だったが、蒼也と太刀川ってやつと会って少し話をした後オレ達兄弟は居酒屋へ向かった。蒼也と酒を飲み交わす時が来るなんて嬉しく思いながら飲んでいたのだが、ジョッキ3つ目で蒼也はかなり酔いが回ってきた。まさかこの程度でなんて驚いていると突然説教を始めたのだ。割り箸に

 

 あの時は笑いを抑えるのが大変だった。オレの自慢の弟がまさか酔った勢いで割り箸に説教なんて想像なんて誰もできるはずがない。なんとか話を合わせて店を出たのだが、今度は電柱に殴り始めた

 

 もうさっき戦った弟とはイメージがかけ離れすぎて眠るまで観察してしまった。玄界(こっち)でもソチノイラ(あっち)でも手のかかる弟はいるものだなと思ってしまった。もしかしたら航行艇を降りる時に言った皮肉が返ってきたのかと本気で考えてしまった

 

「忘れてくれ。頼むから…」

 

「……」

 

 どうやら蒼也は記憶が残るタイプのようだ。昨日の奇行を覚えているようで頭を抱えて言ってきた

 

「忘れるかは置いといてとりあえず何か食えよ。近くのコンビニで適当に買ってきたから」

 

「忘れろ……絶対に」

 

 もはや命令になってきた。この蒼也を同じチームの子達は知っているのだろうか? みたところ未成年のように見えたけど。そういえばレイジも20歳越えているのだったな。今度はレイジと呑みに行きたいものだ

 

「頼むから………忘れてくれっ……」

 

 この様子だと過去にも同じようなことがあったようだ。弟の頼みだし忘れることはなくても言わないようにはしよう

 

 

 

 




おまけは前回の終わりから怜たちが昼食を食べている午前中のことです。どうして蒼也の家の場所が分かったのかは聞かないでw

とにかく居酒屋で飲んで蒼也が黒歴史製造して潰れてお持ち帰りされるというのを書きたかっただけなので!!



そしてアンケートをまた使おうかなと思って用意してます!
アニメオリジナルのゼノやリリスを登場させるかどうかです。個人的には出しても良いと思っているのですが、なにか不味いことがあるわけじゃないですww
ただイメージCVと同じようにただ使ってみたいだけ!!なのですww


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7話 再会

最近KH3の実況を見ていたのだけど、やっぱりロクサス復活シーンはアツいねぇぇ!!!!KHシリーズで一番のお気に入りはロクサスだよ!!ヴェンと姿は同じだけど性格や声が若干違うよね~!BbSで見たときは「ロクサス~!!XⅢ機関入る前の過去編か!?」と衝動買いしたことも・・・・もちろん358/2も買いました!

とそれは置いといて、怜の声にロクサスとか似合わないですかね?怜の姿で「うらやましいよ、オレの夏休み…終わちゃった」とかさ
でもKH3でのリアに言った「交代だ」は言わせたいですね!

今回は7話と設定を公開です


 二日酔いで苦しむ弟を置いて今日の予定をやろうと部屋を出た。まずは玉狛だ。あの頃の多くのメンバーはそこで玉狛支部の隊員として残っているという

 

「っ~さっぶ」

 

 5年ぶりの冬の三門市に体を震わせながら何度も通ったことのある河川敷をあるく。もう遠くには懐かしの建物が見えている

 

「5年経っても、あそこは変わってないな。みんなは元気にしてるのかな?」

 

 城戸さんの事もあり変わってしまっているかもしれないと考えてしまう。それは勘弁して欲しいと思ったり、でも会いたいと思ったりしているから、正直頭の中はごちゃごちゃになってる

 それでもオレの脚は止まらず玉狛へと進んでいる

 

「……誰かいるか?」

 

 かつてオレも使っていたけど知らない奴がいきなり入っていたら驚くだろうけど、だれか知っている奴がいてくれればと思って玄関口で声を掛けてみた。けれど反応がない。人の気配はするのにだ

 

「上って…確か訓練室だったよな?聞こえていないのか?」

 

 訓練室とは懐かしい。斬っても殴っても撃ってもトリオンは消費されず何度でも復活することができる。ここでオレは弧月の使い方を習ったものだ。そういえば忍田さんが城戸さんの車を壊したこともあったんだっけ。聞いただけでしかないけどやんちゃで困る奴だと最上さんとかが苦笑してたっけ

 とりあえず誰がいるのか見ようと2階へ上がった

 

「ん?君は…新しい子?」

 

「あれ…どこかで……」

 

「おまえはだれだー!」

 

 2階はフロアの一つが訓練室でもあり、トリガー開発の部屋でもある。とりあえず訓練室に入ると、髪が長い女子がデスクに座ってモニターを見ていた。当時のメンバーの中にはいなかったから新しい子なのだと思う。だけど5年経っているから新人でもないだろう。いつに入ったのかは分からないが

 しかも小さな子供が動物に乗っている。よく見れば小さい頃の蒼也に似ている

 

「ああ!思い出した!風間さんのお兄さんだ!あれ?でも5年前に突然消えたって…」

 

「蒼也と知り合いなのか?」

 

 両手を合わせて何かを思い出したのか、蒼也のことを知っているようだった。もしかしてこんな美人の子と付き合っているのか? と考えてしまった。小さいくせに青春しているのかよと悔しいやら悲しいやら

 

「はい、私ここに来る前には風間隊のオペレーターをやってたんです。今は玉狛支部のレイジさんのチームのオペレーターですけどね」

 

「そうなんだ。お?小南ちゃんか、いま入っているのか?」

 

「え、ええ。遊真くんと訓練中ですけど」

 

「小南の…オリジナルか?ちょっと相手しようかな」

 

「え?あの…」

 

 近くによってモニターを覗くと白い髪の少年とショートヘアーの小南ちゃんが戦っていた。しかも今はオレの知らないトリガーを両手に持って戦闘していた。新しく開発して持ち替えのだろう。ちょっと挨拶がてら戦おうかなと「3」と書かれた扉を開けて中に入る

 

 トリオン体になると一瞬にして2人がいた空間に来た

 

「誰…うそっ!?な、なんで……なんで生きてるのよ!?」

 

「オレが生きてちゃ悪いか?小南ちゃん」

 

 驚く顔は予想していたけど、「なんで生きているのよ」はちょっと酷いな

 

「助けてくれた子がいてね。お陰で命拾いしたんだ。ところで、小南ちゃんは少しは強くなったか?」

 

「っ!当然よ!悪いけど遊真、10本目は後回しよ」

 

「わかった」

 

 そういえば迅が言っていたネイバーの子はこの子なのか。小南が訓練の相手ってことはそれなりに強いってことなんだろう。遊真という子は訓練中断されたのにあっさりと了承した

 

「風間さんこそ、今度は強くなってんでしょうね?玉狛に弱い奴はいらないよ!」

 

「おいおい、ずいぶん無茶苦茶だな?弱い奴は弱い奴なりに考えてるんだぞ?いつまでもそんな事言ってると、足元掬われるぜ!!」

 

 弧月を抜いて昔よりわがままな発言に少し呆れつつ、小南ちゃんは変わらないなと嬉しくもあった。右足を踏み込んで接近すると手斧が振り下ろされるが、そのまま力任せに振り抜くことなくバックステップで後退すると

 

「メテオラ!」

 

 4つのトリオンキューブが飛んでくる。シールドで防いでやり過ごすが、爆煙で見えなくなった。すぐに煙から小南ちゃんが飛び出してちょっとだけ驚く。手斧が振られてまた防いで、今度は振り抜くと切り返しで横に振るうが既にいなかった

 

「えっ!?合体した!?」

 

 上に飛んだ小南ちゃんは手斧の柄尻同士を近づけると1つに繋がって大きな斧になった。2つで1つの合体するトリガーなんて今まで見た中で全く知らない。こんなトリガーまで作ったのかよと驚いていると、落下と同時に振り下ろしてくる

 一度弧月で受け流してカウンターで仕留めると考えていたが

 

「っは!?弧月が壊れたっ!?」

 

 構えていた弧月は少ししか耐えられず斧に破壊された

 

「っぐ!おいおい、何だよそれ?」

 

「アタシのトリガーよ」

 

「オノ3つって持ちすぎじゃないのか?」

 

 左腕が切られて慌ててシールドで塞いでトリオン漏れは抑えたが、片腕を失ったけど戦えないほどじゃない。だが問題なのは破壊力が強すぎる斧だ。超近距離用の手斧は防げた、けど高火力の柄の長い斧は途端に威力が上がった。弧月が壊されるってどれだけトリオンを使っているんだ

 

「その斧、いったいどれだけトリオン振ってるんだ?弧月が壊れるって強すぎるだろ」

 

「当然よ。だってこれ、トリオン消費なんて考えてないんだから」

 

「は!?考えずに作ったのか!?」

 

 トリオンの消費を考えずに作るなんて長い時間戦えなくなるリスクがある。なんでそんなトリガーを作ったのかはわからないが、並みのトリオン兵の耐久力なら負けることはないと思う。数で押されなければだけど。それに、オレにだって「奥の手」がある

 

「怖いトリガーだけど、多分オレにはもう届かないぞ?」

 

「向こうで死にかけて強気になったの?言っとくけどこの程度でアタシに勝とうなんてあまいっ…っ消えた!?」

 

「こっちだ!」

 

 強気の小南ちゃんは斧でトドメを刺そうと振りかぶるが、タダでやられるつもりはない。命中する瞬間にオレの「奥の手」を使った。小南ちゃんが驚いている隙に後ろから弧月で胸を貫いた。仮想空間であるがトリオン体が破壊されたときの瞬間も再現される。もちろん訓練できなければ意味がないから再現だけで実際に戦えなくなるわけじゃない

 

「風間さん、テレポートなんていつセットしたの!?」

 

「テレポート?違うよ。向こうで作ったオレの奥の手だ」

 

 どうやらテレポートなんてのもあるみたい。名前からして移動系のトリガーなんだろう。漫画とかじゃ結構強力な能力だったりするけど

 

「もう一度勝負よ!!」

 

「勘弁。ちょっと遊んでみただけだから」

 

「勝ち越しなんて許さないわよ!」

 

「なんでだよ……ところで林藤さんは上の部屋にいるのか?」

 

「ボスのこと?どこにも行ってないならそうじゃない?」

 

 遊ぶのが好きな子ではあったけど戦いまで好きな子になったのかなと少し心配になった。訓練室を出ると3階に上がって奥に行くと「支部長室」と書かれた扉があった。ノックすると「入っていいぞー」と返事が返ってきた

 

「久しぶり、林道さん」

 

「っ!?風間、お前生きてたのか?」

 

「なんとかね」

 

 ちょっとだけ老けたオレに剣を教えてくれていた師匠だ。迅から聞いていたけどやっぱりちゃんと生きているってことを見ると安心する。中に入ってソファに座るとこれまでの事を説明した。林道さんはタバコを吸って吐くと匂いが強くなった。オレは吸わないから良さなんて分からないけど、そういえば蒼也も吸っていなかったな。居酒屋でも部屋でも吸っていなかったし匂いもしなかったな

 

「そうかぁ。色々大変だったな。それでこれからどうするんだ?まだ期限じゃないからギリギリ生活に戻れるけど?」

 

「期限?」

 

「行方不明になった人が死亡扱いになるまでの期限だ。お前はまだ5年だから拉致監禁されたとかすりゃ戻れるだろ」

 

「そうなんだ。てっきりもう死んだって扱いになってるのかと思った」

 

 そういえばどこかで聞いたことがある。行方が分からなくなった人が7年を過ぎると法律で死亡と定められると。だけど拉致監禁って設定で戻ったとしても無理があると思う。拷問を受けたわけでも性的暴力をされたわけでもない。食事を制限されたわけでもないから無理がある

 

「うーんそれは無理じゃない?ほら、オレメシも食ってたし訓練もしてたから筋肉もあるし健康的だぜ?」

 

「それもそうか。じゃあどうすっかなー」

 

「べつに今すぐ元の生活に戻りたいってわけじゃないから。急がなくてもいいよ」

 

 そりゃお袋たちには会いたいけれど、行けば騒ぎになると思う。メディア関係が出てくるといつもの生活が難しくなると思う、ほとぼりが冷めるまで時間が掛かるだろう。でもこっちで生活しようと思ったらいつか知り合いとかに会ってしまうだろうな。こっそり会ってもいいだろうが、変に縛られて身動きができなくなるのは面倒だ。お袋たちはそんなことしないだろうが、もしかしたらって事もある

 

「ところでこれからどうするんだ?ボーダーに入るのか?」

 

「そうだなぁ…5年の空白があるから就職とかしようにも難しいかもね。いっそボーダーに居たほうが色々面倒は少ないだろうね」

 

「お前がそうするならオレはそれに協力するだけだ。というわけで入るならコレを書いとけ」

 

「ん?入隊申請書?オレボーダーなのに?」

 

「昔はな、でも今はお前の登録は消されてる。みんなお前のこと死んだって思ってたからな。それに城戸さんは元メンバーだからって特別扱いはしないと思うぜ」

 

 ということはこの申請書は衝突を避けるための安全策ということか。それに規定に反した奴は余程のことでもない限りは例外は認めないという。だから昨日の迅は自分だけ罰を受けるということはないと自信があったんだ。隊務規定違反にはランク戦以外での隊員同士での戦闘を禁止していると。確かにそれならば蒼也たちも違反しているから処罰を与えないといけない

 ボーダーたちにとって恐らくそれは大きな損失になるのだろう、だから取り引きに応じることで回避することを選んだのだろう

 

 なんだか昔より何を考えているのか分からなくなっているような気もする

 

「レイジとかにも会うんだろ?今日は防衛任務がないから昼過ぎにはこっちに来ると思うぞ?」

 

「そうなのか、わかった」

 

 レイジは大学にも行っているから来る時間は決まっていないらしい。林道さんは付け加えて料理は美味いぞと言ってきた。あの好きな人の前ではテンパってしまう奴が料理上手になるとは驚いた

 

「ちなみに風間、お前ちっとはできるようになったのか?」

 

「………それ、聞かないで。林道さん」

 

「…そうか」

 

 オレの料理の下手さは誰もが知るところだ。キッチンには立たないようにと釘を刺された。そういえば蒼也の部屋のキッチンは調理器具があった。アイツはまともなのだ作れるのか。野菜炒めでもいいから少しは料理の腕前を分けて欲しい

 

 林道さんの言うとおり2時半ごろにレイジは玉狛にやってきた。もちろん驚かれた。そして晩飯のロールキャベツとポテトサラダがめっちゃ美味かった

 

 

 

 

 

 

 

「ふ~玄界(ミデン)のお菓子って美味い…」

 

「そうだけど…買いすぎじゃない、兄ちゃん?」

 

 ホテルに戻ったオレとフィーロは今日の散策の疲れをシャワーで流して、テレビでニュースを流しながら買ってきたお菓子を広げた。和菓子のほかにジェラートという冷たいもの、キャラメルとか言う甘いものとかチョコレートとか。それぞれ一口ずつ食べてその美味さに舌鼓を打っているとフィーロが首にタオルかけて呆れている

 

「確かにおいしいけど……体壊すよ?」

 

 まあコレだけ甘いものを食べていればあまり体によくないのはわかっているけど。でもおいしいものはおいしいんだからしょうがないよ。ソチノイラでもこれほどのものはないのだから

 

「大丈夫だよ。暖房も吹いているし食べ過ぎて腹を壊すことはないって」

 

 部屋の温度もいいくらいだ、窓は閉めているから冷たい風は入ってこないし、寝るときは布団を被るから大丈夫だ。最後の練り菓子に手を伸ばして食べる。もう花と見分けがつかないくらい綺麗なお菓子を齧るのはちょっと躊躇うが、美味かった

 今日の観光はとても満足できるもので食べ終えたオレはベッドに潜った。甘いものも食べたから眠って起きれば疲れが取れているだろう

 

 

 

 

 

 ―――と、思っていたのだが

 

 現在。おトイレさんと向き合っている

 

「…おげぇぇぇぇっ」

 

 昨日食べたものをすべて吐き出している最中だ

 

「だから言ったじゃない。体壊すよって」

 

「ぅぅ…んげぇぇ」

 

「ぅっ…とりあえず、薬もらってきたからこれで治るよ」

 

 何度目かわからない吐瀉物を出すとレバーを引いて流す。全くもって情けない。とにかく薬を受け取って水と一緒に飲み込んだ。もうほとんど出し切ったから出ることはないだろうけど、胸の気持ち悪さは消えてくれない

 

 ベッドに倒れるように横になると布団を被る

 

「フィーロー…外に行くなら気をつけろよー」

 

「いいよ。兄ちゃんが心配だし」

 

「……すまん」

 

 旅行を楽しみにしていたわけだしてっきり出るのかと思ったが、結構心配してくれていたみたいだ。と感動していたら

 

「それに、あまり使いすぎるからってお金自由に使えないし」

 

「………」

 

 外に出ない一番の理由はそれか。まあ昨日はオレも柄にもなく興奮してたみたいだし、今日は好きにさせてやろうかとお金を渡そうとするが

 

「いいよ。兄ちゃんもいないと楽しくないし」

 

「そうか。でも部屋いても…することはないと思うが?」

 

 ホテルの部屋には娯楽に関するものはせいぜいテレビくらいだが

 

「でもテレビの映像は面白いけど?ずっと見るだけってのは飽きるけど」

 

 そりゃ何もせずに見るのは飽きる。けれどオレは体調を崩しているからどこかにいくことはできないし。フィーロは出るつもりはないみたいだし。今日はゆっくりしよう

 

「フィーロ」

 

「ん?なに?」

 

「明日は出るか」

 

「うん!でもまずは兄ちゃんは体を治さないとだよ!」

 

「わかったわかった」

 

 念を押されてしまった。言われなくてもちゃんと体調は治すつもりだ。オレはそこまで我慢できずに観光しようとするやつなのかよ

 

 

 

 

 

 

 

 





もっと進さんと旧メンバーとの再会を書きたいのですが、何度も「生きていたの!?」を繰り返すのもお決まり過ぎてつまらないなーと

次回はとうとうボーダーとが動きます(予定)


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8話 遅咲きの童心

今回はほとんど怜とフィーロの観光がメインです

進さんから日本語は習ったが怜は平仮名とカタカナは大丈夫、フィーロは平仮名を少しくらいにしかわからない。なので漢字は全然だめですね・・・「篠島怜」と「風間進」は書けるくらいにはがんばったのだ


 昨日の体調不良は薬のおかげですっかり治った。今日はフィーロと共に二度目の散策に出掛けているのだが

 

 

 オレはいま衝撃を隠せない

 

 

 手に持っているのはご飯を入れて蓋を押すことでできる簡単おにぎり製作調理器具だ。サイズは小さめだが一度に3個もできるのだ。だが問題なのが値段が書かれていないことだ。これが一体いくらなのかわからないのだ棚にも書かれていない

 

「すごいな、フィーロ」

 

「うん。熱いご飯を触らなくていいね」

 

 全くもって驚きだ。他にもゆで卵をきれいに切る、ねぎを細く切るなど便利な道具を。だけどフィーロがゆで卵は嫌いなのでウチで作ることはあまりない。ほかに調理板、すり潰す板やスライス板。多種多様だ

 

「あ、兄ちゃん!」

 

「どうした?マジか…軽い……」

 

 フィーロが何かを見つけたようで、そちらに目を向けるとそれなりの硬さがありつつも軽い器を発見した。この感じだと落としたとしても割れなさそうだ。しかも4枚セット。器以外にもスプーンにフォークなどあっただけどこっちは強度が不安になる。だけど使い捨てと考えればまあ悪くないと思う。コストがどれくらいなのかと、ソチノイラでも作れるのかわからない

 

 食器コーナーを出ると今度は文具コーナーが隣にある。そこで少し懐かしいのを見つけた

 

「兄ちゃんなにそれ?」

 

「これか?折り紙ってやつだ」

 

「紙を折って動物とかヒコウキってやつを作って遊んだりするんだ」

 

「ふーん、でも簡単に壊れそうだね」

 

「紙だからな」

 

 まだ孤児院にいたころ先生に教えてもらった遊びだ。色のついた紙は染料も使うので気持ち高めだから孤児院ではあまりなかったけど、四角にきった白い紙を折っていろんなのを作った。懐かしいなと昔のことを思い出して1つカゴに入れた。次は何があるのかなと横を見るとまた衝撃のものだ

 

「フィーロ、これ…」

 

「ん?ツルツルで変な紙だ」

 

「ああ」

 

 不自然なくらい大きなカバーみたいなのを手に取ると、中には透明なツルツルした紙がある。一体何のためにあるんだと思っていたら上が開いた。なんだ? と思って広げると使い方がわかった

 

「わかった。これ、紙を中に入れるんだ!」

 

「…ほんとだ、これなら依頼書とか入れても雨とかで濡れないね!」

 

 時と場合にもよるが悪天候の中動いて依頼者に確認をとってもらうことだってある。依頼達成後にサインしても紛失すれば未達成となるため、この中に入れれば敗れることも濡れることもなくなるし、もしかしたら紙ではないだろうコレは透明だから見やすい。これは作ったほうがほかの傭兵たちにも役に立つだろう、研究者たちにも

 

「兄ちゃん……他国のものを持ち帰って作るのは違法だよ」

 

「ぁ……そうだったな」

 

 口に出てたみたいだ。フィーロから指摘されなければ危うく犯罪者になるところだった。と考えたところで思い出した。確かに他国の商品を自国で作るのは違法だ、けれど交流があまり行われていなければ別だ

 閉鎖的な国もあり、貿易の交渉を行ったらしいがことごとく失敗したと。そこで国王が考えたのが交流のしない国、又は交流をしていなかったけど積極的ではない国はその法律からは対象外となる。その理由はもし国の商品が素敵なもの、便利なもの、新しい技術を必要だった場合自国で作れば必要以上に余計に干渉することはない。逆に友好的であれば作らなくても取引で快く卸してくれるからだ

 

「だけどフィーロ、玄界(ミデン)は交流は積極的でもないけど…近界民(ネイバー)のこと関してはボーダー以外はほとんど知られていないみたいだよな?」

 

「うん、そうみたいだね?」

 

「そういう場合…国として判断されると思うか?」

 

「………わかんない」

 

 国王が定めたのは『国』であり、『組織』ではない。国の一部ではあるが、近界民(ネイバー)のことに関しては市民にはほとんど知られていない。ほとんどの国は政治ごとなど関係する機関の助けもあって交流などする。これがネイバー(オレたち)の常識だ

 だけど玄界(ミデン)はそんな感じではなさそうだ。進さんに聞いた限りでは3つの国と同盟を結んでいたという、とはいっても現在はどうなっているのかはこの前の戦闘で憎しみの目を向けられると怪しいところだ

 国の援助はなかったとしてもこの商品は玄界(ミデン)のという『国』の物だから複製はしないほうがいいだろう。わからない以上下手なことをしないのが一番だ。結論を出すとある程度カゴに入れるてから移動するとまたおかしなものをフィーロが発見した

 

「これ何に使うんだ?」

 

「ん?板?……使い道がわからん」

 

 フィーロの手に持っていたのは金属板が垂直に立つように作られた不思議なもの。文具コーナーになるのだからそれに関することに役に立つのだろうけど想像もつかない。もって帰っても意味のないものだったら邪魔にしかならないから買わないでおこう

 

 いろいろ見て回ったけどそろそろ清算を済ませようと店員にカゴを渡したのだが。この店は一体オレを何度驚かすのだろう。思わず表示された金額を疑った

 

「23点で合計2484円になります」

 

「え……安い」

 

 6000円はするだろうと思っていたのに予想よりかなり安かったのだ。本当にこの値段で大丈夫なのかと不安ではあるが、とりあえず財布からお金を出して清算を済ませた

 

「お客様外国の方ですか?」

 

 商品を袋に入れていた店員に聞かれた。とりあえずここは外国に住んでいたことにしてこんなに安い店があったのを知らなかったことにしないとたぶん怪しまれるかもしれないし

 

「そうですけど?」

 

「そうでしたか。このお店はお客様に便利なものを安く販売しているのですよ」

 

 確かに便利なものだ。一部用途がわからないものもあったが大体あったらいいな、みたいな商品が多くて驚きの連続だった。ソチノイラにもこういう店があればいいのに、店じゃなくても商品が流れてくれればと思ってしまう

 この店は「ひゃっきん」というものらしく。ほとんどの商品は100円と税を足した額で買えるらしい。物によってはそれ以上もするらしいが、基本的にはお手ごろな値段で便利なものを売っていると店員に教えてもらった

 

「すっごいお店だったね」

 

「ああ、中々使えそうなものがあったな。進さんがいればいろいろ教えてくれたのかもな」

 

「話したのは兄ちゃんじゃん。というより、投げ飛ばした…」

 

「………」

 

 何だか最近はフィーロに怒られたり呆れられる。兄なのに。昔から散歩に出てはお菓子を持って買えると呆れた表情をよく向けられる。進さんも同じ顔になってた。オレの散歩はそんなにいけないことなのかわからない。見つけたお菓子屋でお土産を買っているだけなのに

 

「兄ちゃん。あそこ行ってみたい!」

 

 袖を引っ張って指をさした方向には「TOYSHOP」と1文字ずつ違う色で作られた店だった。これから行く予定の場所はないから行ってみたのだが、近づくにつれて店がかなり巨大だというのがわかった。確かタイヤが4つで走る機械が車と言っていた、それが数え切れないほど広いスペースに置かれている。移動手段の車を止めるスペースも含めると相当広い

 

 とりあえず中に入るとタイヤのついたカゴが大きかった。何でこんなものが必要なのかわからず、無視して店に入るとなにやらよくわからないが、たくさんのイラストが描かれた軽い箱が並んでいる棚を見つけた。残念だけどあまり字が読めないから何なのかわからない。本かとも思ったが軽すぎる。フィーロが目を輝かせていたが分からないものを買っても意味がないのでほかのコーナーへ行く

 

「っ!!ぅわぁぁぁ……」

 

「…フィーロ?」

 

 棚に沿って歩いているとフィーロが突然立ち止まってさっきより目を輝かせた。何なのか見ればただのロボットだった。でも確かにかっこいい。ソチノイラ、というか近界民(ネイバー)の国中でもこれほどのものは見たことがない。しかも種類が豊富だ

 

「ぁあ!こっちは全部入ってる!あ、これはベルト?でもかっこいい…!」

 

 棚にある商品をあれこれ見ては手にとって悩んでいる。別に自分の金で買うのだからほしいのを買えばいいだろうと思う。20分悩んで選んだのは全部セットのよりは少ないセット商品だ

 

「兄ちゃん……」

 

「ん?買ったらいいんじゃないのか?」

 

「ぁ…うん、そうなんだけど……」

 

 いつもより低いトーンで来たフィーロは表情は暗い。予想はつく。全部セットのがほしいからお金を出してほしいということなのだろう。もちろんそのときは管理しているフィーロのお金から渡すつもりだ。だけど今回からお金は管理すると決めている。傭兵だから荒稼ぎしているから一般家庭よりは余裕のある生活をしているが、だからといって好きに買ってお金に糸目を付けずに贅沢するのを覚えたままだと先が心配なのだ。上げてあげてもいいがここで甘やかすと結局管理する意味がない

 ここは我慢

 

「旅行前に言ったろ。使いすぎないように管理するって。今もっている分使い切ったらまた渡してやるから」

 

「…!じゃ…だめだ……足りない」

 

 どうやら全部セットのロボットおもちゃは今もっているお金では足りないらしい。それでもある程度揃っているは買えるほどには残っているようだ。それならまだ渡す必要はない

 

「わかった……これで我慢する」

 

「ん、ソチノイラだって買えたくても買えない人だっているからな。1個ずつ覚えていけばいつかはいいことがあると思うぞ」

 

「………ぅん」

 

 すごい残念な顔しているし、見ているこっちは胸が痛い。こんなこと思うオレはまだまだ甘いのだろうか? オレも我慢しなければ、兄として。フィーロが隣で大事そうに抱えて歩いていると今度はオレが足を止めてしまった

 

「兄ちゃん?…なにこれ?」

 

「っっ……かっこいい」

 

「えっ!?」

 

 白く長い青のラインが入ったなぞの乗り物らしき物。N700A新幹線(のぞみ)と一部読めないがこれが商品名らしい。それがなぜだかオレの目を惹きつけたのだ。お菓子以上にこれほどの物があるなんて自分自身でも驚きだ

 

「…兄ちゃん……」

 

「っっ!!?……わ、わかってるよ……」

 

 さっきとは違う低い声、恨めしい感じの悪意がこもった様な。父さんの説教以外で背筋が震えることなんて初めてだ。ましてやフィーロに。振り返れば渋々我慢して選んだロボットのおもちゃで顔を半分隠して目が据わっていた。確実に恨めしい表情だ。フィーロのおもちゃが8954円。対してオレが今欲しているものは23890円も倍以上もする

 自分は我慢しているのに兄ちゃんだけ我慢しなくてずるい。確実に目でそう語っていた

 

「わかったわかった。そう睨むな………」

 

 初めてフィーロにトリガー以外で負けた。弟というのはこういうところで意外と強いのか。まさか玄界(ミデン)に旅行に来て意外な事実を知ることとなるとは。世界って広いなーと思う。オレは妥協して同じ「N700A」の基本(ナントカ)セットを買うことにしたこれは8455円だからフィーロのロボットとほぼ同じだから大丈夫だろうと思ったら、納得はしてないけどそれならいいよ と雰囲気が語っていた

 

 その後は見て回っても赤ちゃんや女の子向けのものが多数あった。これ以上は見て回っても時間が無駄になるかなと思ったから清算を済ませた

 

玄界(ミデン)って面白いものがいっぱいだね!ほしいものは買えなかったけど」

 

「ぁーーまあそうだね…っ!」

 

 満足ではないがそれなりには楽しめた、という意味ではフィーロに同意見だ。店を出て少し歩いているとオレの耳が聞こえてしまった。『探しているネイバー君見つけた、これから話をしてくる。っと、送信』っと

 

 オレたちのことを「ネイバー」と言うからには少なくともボーダー関係者であるのは間違いない。別にやましい事があるわけじゃないがボーダーには恨まれてるような幹事をこの前の戦闘で知ったから自然と足が速くなる。雰囲気を察したのかフィーロも歩調を合わせてきた

 

「敵?」

 

「わからない。ボーダーの関係者かもしれない」

 

 拾える音で乗っている乗り物の音は近づいてきている。走るべきかと思うが、最悪なことに両手に荷物を持っている

 

「フィーロ、いつでも換装はできるようにしろ。話をしてみる」

 

「わかった。でも大丈夫なの?」

 

「さあ?それを確かめるんだ」

 

 ちょうど信号機が赤になったので音は止まった。オレたちよりは少し距離があるから近づいてみることにした

 

「まさか君たちから来てくれるなんて助かるよ。でもここじゃ話しにくいからそこの角を曲がったところで待っててくれないかな?」

 

「オレたちが逃げるかもしれないぞ?」

 

「もしそうなった場合、ボーダーとしてはあまり無視はできないから警察とか協力してもらって探すよ?」

 

「ほー?安心しろ、ただの旅行だから何かを企んでいるようなことはない」

 

「そうだね、ソレを見れば遊んでいるのがよくわかる」

 

 髪を後ろに流してる男はオレたちの手の荷物を見てどうやら旅行だというのは一応信じてもらえたようだ。信号が青に変わったので乗り物は動き出した。信号機のところで曲がったので付いていくと乗るように言われた。言われるがまましたがって大丈夫なのか不安だが、少なくても音から聞こえる限りは椅子には何の仕掛けもないようだ

 それにオレは腕に、フィーロは首にトリガーを装備しているので、万が一何かあったときは対処可能だ

 

 あまり交流がない玄界(ミデン)の防衛組織に行って何があるのか。閉じられた箱を開けるときは楽しみだが、このときはいい気分ではないな

 

 

 

 

 

 

 




ちまちま描いてたフリー素材を利用した表紙的なもの

怜もフィーロも進さんも上手く描けてなくて申し訳ないです・・・・正面ならたぶんマシになるのかな?まあ今はこれが限界って感じです!

【挿絵表示】


ここで本編の補足
フィーロが欲しかったのは日曜日にやってる◯◯戦隊シリーズのコンプリート版
怜は鉄道模型の新幹線です
ちなみにお店はトイザらスです。作者の地元では何軒かあるのですが他県はどうでしょうね


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9話 契約

8話のタイトル変えよう・・・男心じゃなくて童心だ
こっちのほうが内容的にもしっくり来るしね


 街であった男は唐沢というらしい。ボーダーの外務というのを担当していて、内容はスポンサーという支援してくれている会社や組織からお金の援助をしてもらうために交渉に言ったりするらしい。他にも仕事としてはあるらしいが、この人は主にそういったことをしていると

 

「それにしても……たくさん買っているね?」

 

 突然唐沢さんがオレたちが買ったものを見て呆れているのか戸惑っているのか微妙な声で聞いてきた

 

「この国はソチノイラにはないものがあるからな。丁度いい、さっきこれを買った店で見たんだが、金属の板が繋がったものは一体何に使うんだ?」

 

「金属の板?……ああ、それは本立てだね」

 

 両手を使って形を伝えると本立てと答えが返ってきた。ブックエンドとも言われ、用途はテーブルなど壁がないところに置いておくと本が倒れないようにするための道具だという。また棚に置けば空いたスペースに小物とか置いたりなど活用もできたりする

 

 使い方を知ると買っておけばと後悔した。まさかそんな便利な道具だったとは、あの形を見ただけでは見当も付かなかった。そうなると全部は見えていないけど不思議な形をした便利な道具とかあるのかもしれない。今日で帰るわけじゃないからまた今度行けばいい

 

 しばらく車という乗り物はボーダー本部に着いたようで降りてから少し歩いた。エレベーターに乗って上にあがると近くの部屋に入った。大きな机に数人の大人が囲むように座ってた。おそらく中央に座っている顔に傷のある人が司令官かそれに相当する役職の人なんだろう

 

「あんたたちか?オレたちに用があるというのは?」

 

 移動中にこの唐沢さんから大まかなことは聞いた。オレたちに契約したいことがあると

 

「そうだ。私は界境防衛機関ボーダーの指令をしている城戸だ。まずはこちらの質問に答えてもらおう」

 

 探して連れてきておいて間髪いれずに質問ときたか。随分と勝手な組織だ。オレたちの胸中を無視して城戸という男は続けた

 

「何が目的でこっちの世界に来た?」

 

「進さんやそっちの戦士たちに聞いていないのか?ただの観光だよ。ほら」

 

 この前戦ったやつらも最初に目的と聞いてそれしか聞くことが無いのかと思ってしまった。とりあえずオレたちに敵意が無いことも知ってもらうためにもさっき買って手に持っていた物をテーブルに乗せた

 

「お、おもちゃ!?」

 

「……どうやら風間進()の言っていたことは嘘ではないようだね」

 

 太った男は驚き、少し痩せている男は呆れを表した。なんとも微妙な空気の中笑ったのはめがねをかけた男だ

 

「あはは。遊真といいお前たちといい、最近のネイバーは愉快なやつらばかりだな」

 

 咥えタバコでこの部屋の中ではこの男だけが雰囲気が違っている。敵意をとは違う、だが全面的に迎えてやるとは言えない。まるで値踏みでもされているようで居心地が悪い。その隣に座っている男も似た雰囲気だ

 他にも「遊真」という名前に聞き覚えがある。人違いでなければ7年前に会った黒髪のチビだったきがする

 

「ところでそんなわかりきった質問をするより先に、こっちは()()なんだ。交渉すなら対等にするのが当然じゃないのか?そっちが何もしなければオレたちだって荒事にしたくないんだ」

 

 めがねの男の笑いが収まると今度はオレから言葉を発した。この部屋に目に見える人数より1()()()()()()にも向けて。ほぼ棒立ちで音はしないが、城戸指令たちの発した声の波でおおよその位置と姿がわかった。姿が見えなければ優位に立っていると勘違いしている馬鹿な連中はこれまでにもいた。自分たちの口がその隠れているやつを見つけ出すレーダーの代わりを果たしてくれていると知らずに

 

「っ!!……」

 

「言い当ててほしいか?」

 

「…城戸指令」

 

「…出てきたまえ」

 

 ここでとぼけるやつはさらに馬鹿だ。城戸指令はオレの言葉がハッタリではないと思ったのか隅にいた少年が現れた。この前の夜にいた消えるブレードを使う戦士だった

 

「こいつ…なんで僕の居場所がわかったんだよ?」

 

「何のためかは知らないが戦士を隠して配置させる奴らに教えると思うか?」

 

 不満を口にしながら城戸指令の横に行った

 

「気を悪くしたのならすまない。ボーダーとして君たちがウソを言う可能性があったから念のために来てもらっていたのだ」

 

「交渉で負担を軽くしようとするやつらはいるからそれはいい。だがこっちは襲われる危険を冒してまで生身で来てやったんだ。そっちが一般人を守るための組織だって言うのは進さんから聞いてはいるが、たかがネイバーだからってこんな扱いはいくらなんでも横暴すぎないか?」

 

 小国なんかは成果に見合わない報酬を要求されたときとか武器を向けてきたり拘束しようと稀ではあるがそんなことをするやつらはいる。そのときは返り討ちにして倍額で要求するけれど。とにかくボーダーのこの行動は逆に自分たちの首を絞めたということになる

 

「どうだね?」

 

「ウソを言っているような感じはしなかったですよ。ほんとうに観光に来たなんて信じられないですけど」

 

 確認を取るように聞いた城戸指令。なんのウソも言っていないのだから当然の答えだ。オレと同じ耳がいいのかウソを看破する類のサイドエフェクト持っているのかは知らないが、少年の言葉が決め手となったようで敵意は無いと納得はしてくれたみたい

 

「で?契約したいって聞いているんだけど?」

 

「ああ、それは私から説明しよう。私はボーダーの防衛部本部長の忍田真史(しのだ まさふみ)だ。君たちが来る少し前、こちらでイレギュラー(ゲート)が何件か発生した」

 

 これでやっと話が進めれると安堵しているとめがねの男の隣のやつが立ち上がった。この人は雰囲気でわかる、かなり強い。見えない脅威(ノヴァ)を発動しないと確実にオレはやられる。なんでそんな男が本部長などという後方にいるのかは知らない。トリオンの成長は大体20歳くらいで止まると言われているが、それが関係しているのかもしれない。そうなれば教えを受けたやつは幸せだな、確実に強くなれる

 

 忍田という男にそんな評価をしていると聞きなれない言葉が聞こえた

 

「イレギュラー(ゲート)?」

 

「これだ、見てくれ」

 

 テーブルから画面が投影されてひとつのトリオン兵が映し出された。体躯は極端に小さく細い足と尻尾が生えている。背中はレンズの様のような物が埋め込まれている。間違いなくこれはアフトクラトルの偵察型トリオン兵・ラッドだ。遠征にいく国に向けて戦力調査などに使うために開発された。また周囲の人間から微量だがトリオンを吸収して単体で(ゲート)を開くことができる。戦闘力ないものの、量産が容易で小型なため捜索も面倒になる

 だが上手い使い方さえすれば敵を撹乱できたりするため何気に厄介なのだ

 

「原因はこのトリオン兵であり、先日C級隊員も招集して殲滅作戦を決行した。総数3千にも及ぶ数により、我々はこれを大規模侵攻の調査ではないかと結論を下した。またこれまで確認されていなかった中を浮く巨大なトリオン兵も確認された」

 

 今度はイルガーだ。本部長はこれが始めてのように言うがそれは当然だ。イルガーは体内に大量の爆弾を抱えている、それだけでなく自爆のためのトリオンもあるため簡単には使わないのだ

 

「これだけか?」

 

「何か気になることでも?」

 

「だからイルガーは1体だけなのか?いつ?どこで?」

 

「場所は市街地。イレギュラー(ゲート)から出現した。出てきたのも1体だけだ。それがどうした?」

 

 オレの質問に答えたのは太ったやつ。後に教えてもらったが鬼怒田といい、トリガーの開発室の室長というらしい

 

「ふーん。市街地でたった1体だけ?」

 

「ああ、だから我々はボーダー隊員たちをおびき出すのが目的だったのではないかと考えている」

 

 おびき出す? それだけじゃないはずだ、アフトクラトルならもう2体ほど追加で送れるはず。それをしないというのはその1体で得られる情報があったということだ。とはいえ次があったと知っているわけじゃないからこれ以上のことはなんとも言えないけど

 

「いつになるかはまだ不明だが、大規模侵攻(そのとき)までこちらに滞在してボーダーに協力してはくれないだろうか?」

 

「報酬は?」

 

「100万でどうかな?」

 

「足りるわけ無いだろ?いつ来るかわからないときまでこっちに居ろと無茶苦茶なこと言っているんだ。200万だ」

 

「え?……兄ちゃん?」

 

 倍の額を要求したことでフィーロは戸惑っているが、大事な報酬の話だから終わるまで待っててほしい。広報の室長という根付と鬼怒田もうろたえている

 

「必要とあれば私が持ってきますよ。ちなみに君にとって200万の報酬は高いのかい?」

 

「いや、大体がそれくらいだ。ただ内容によっては上下する。進さんがいた組織だから少しはまけている」

 

 いつもは300万リィルあたりが平均して稼いでいる。「黒狩りの魔術師」として知れ渡ってから依頼を受けてもらおうと上乗せされていったらいつの間にかこれくらいになったのだ。これでも一応協会で与えられているランクはSSだからそれなりに報酬は高いが

 

「悪いが200万円は簡単には出せない。代わりにといってだが、隊員たちが普段行っている防衛任務に君たちも参加してもらえないだろうか?」

 

「忍田本部長」

 

「城戸指令、この時期は何かと中高生は多忙です。夜間は彼らに任せればその分隊員たちの負担は減らせます」

 

「……ですが本部長、正隊員ではない者に我々の任務を任せるのは…それに他の隊員たちに知られれば…」

 

「彼らが担当する場合は周辺の担当部隊を調整します。太刀川隊、風間隊、嵐山隊、加古隊や木崎隊に任せれば問題は無いでしょう?」

 

 この時期は多忙というが何かあるのだろうか? それに今あげられた部隊はネイバーに対して寛容という事なのか? と思っていたらそうでもないらしい。城戸指令の隣にいるやつが「あんなやつと隣でやりたくないんですけど」と偉い人に向かって生意気な口をひらいた。あの少年の神経は一体どうなっているのか初めて気になった。骨みたいに図太いのだろうかと冗談みたいなことを思ってしまった

 

「君は何か要求はあるかい?」

 

 本部長が根付さんと話していると、唐沢さんが突然話しかけてきた。少し考えたオレは2つを要求した

 

「まず1つ、ネイバーに対して憎しみを持っているやつを近くに配置しないでほしい」

 

 この前は姉を殺されたことで復讐を考えているやつに会ったから、組織人間で無いと知ればまた襲ってくる可能性だってある

 

「もちろん配慮する。今言った部隊は意味も無く君たちを攻撃などはしない」

 

「2つ、そちらの仕事を肩代わりするのだから報酬を用意すること」

 

 報酬をボーダーが提示した100万円に戻す代わりに、大規模侵攻とは別に防衛任務の参加に対する報酬を要求した

 

「それも当然だ。風間から話だと相当腕が立つようだしA級と同等の報酬を用意する、観光するには十分過ぎるくらいの金額にはなるが」

 

 A級というのは多分協会で言うランクとかそういうものだろう。オレはそう結論付けるとそのA級と同等の報酬というのはどれくらいなのか気になった。本部長が言うには観光には十分過ぎると言う。ホテルはとってるから衣食住は問題ない。他になにかあるかとフィーロに聞いてみた

 

「……フィーロは?」

 

「うーん…ここの人たちと戦いたい!!」

 

「た、戦いたい!?お前さんはなにをいっとるんじゃ!!」

 

 案の定戦いたいと言ってきた。オレ以上に感覚派のフィーロはとにかく体を動かすのが好きだ

 

「こっちの人たち強いからもっと戦いたい!」

 

「…とフィーロは言っているが、ボーダーの判断は?」

 

「それについては検討しよう」

 

「大体まとまったか。それじゃコレにサインをしてくれ」

 

 予定外だが依頼を引き受けることになった。オレはそのつもりはなかったが、フィーロは戦えることにうれしいのか喜んでいる。といっても戦士同士は考えるといっているから、これはトリオン兵を倒すことに対してだな。身に付けている鞄から2枚の紙を取り出して必要なところを書いていく。あとは署名が必要なところにサインをもらうだけなのだが

 

「…すまないがなんて書いてるんだ?」

 

 読めなかったのだ。だが生憎オレは玄界(ミデン)のことばは少ししかわからないためこちらの文字はわからない。書いてある内容を伝えると本当かどうか怪しまれたが一応はサインしてくれた。面倒ではあるがボーダーが用意した紙にもオレとフィーロの二人の名前を書いてサインした

 

「篠島怜…きみはこちらの人間だったのか?」

 

「らしい。赤ん坊のころに連れ去られたらしいから人から聞いているだけだ」

 

「親に会いたいかい?必要なら捜索に協力するが?」

 

「……いや、いい。オレにとって親はオレを拾ってくれた施設の先生で、引き取ってくれた師匠だ。それで十分だ」

 

「そうか…」

 

 オレの名前を見て本部長がオレを生んだ家族を探そうかと申し出てくれたが断った。居たとしてもオレの帰る場所がこっちになるわけじゃない。それに生きていたことを知ればどこにも行かせないように閉じ込めたりするかもしれない。そうでなくてもいずれは別れることになる

 オレは平気でも相手はそうじゃない。死んだと思っていた子が生きていたのだから残ってほしいと強く願うはずだ、そんな身勝手な願いのために左右されたくない

 

 本部長はすこし残念そうにしていたがこれがオレの結論だ。用事も終わったから帰ろうとしたときめがねの男に呼び止められた

 

「お前たちこれから玉狛に泊まらないか?ホテルだろ宿泊費がかかるだろう?」

 

 それにと続けて言った。うちでなら強いやつが居るから好きに戦えるぞと。そんなこと言われてしまったら

 

「それホントっ!?」

 

 フィーロが引っかかってしまった。水を得た魚か網にかかった魚か、どっちが正しいんだろう? とはいえ男の言うとおり宿泊費なしで泊まれるのならそのほうがいい。しかもさっきまであった居心地悪い雰囲気はないから何か企んでいる訳でもなさそうだ

 

「すまないが迷惑かける」

 

「おう、気にするな!自分の家に居るみたいに寛げ」

 

 そういうわけでオレたちはホテルに泊まるのが最後になった。明日は玉狛というところで泊まることになり、迎えを寄越すと言ってくれた

 

「そういやまだ言ってなかったな。オレは玉狛支部の支部長をやってる林藤だ。いまはお前たちの先輩がいるから安心しろ」

 

「?」

 

 先輩とは誰のことなんだろう? すくなくともオレやフィーロに先輩に当たる人物は1人も居ない。誰なのか教えてもらえず気になってしまうが明日を迎えるしかなかった

 

 ホテルに戻って夕飯も食べたオレたちは撤収するために荷物をまとめていたのだが、ふいにフィーロは思い出したように昼間のことを聞いてきた

 

「そういえば兄ちゃん、報酬あんなにもらってもよかったの?」

 

「当然だろう?むしろ100万リィルなんて破格で受けたんだぞ?どこが不満なんだ?」

 

「いや、不満じゃないけど……あの報酬って()()()()()()で100万リィルなんだよね?」

 

 何が納得できないのかフィーロの言いたいことが理解できなかったオレは、いままでで一番のアホなことを犯してしまったことに気が付いた

 

「………ぁ…っっぁああ!!?じゃ、じゃあ……帰ったら……」

 

「1000万リィルだよ?」

 

「………」

 

 そう。オレたちは玄界(ミデン)に来る時にお金を換金しないといけない。そうしないと物が買えたりできないからだ。そしてその換金率はソチノイラで「10」が玄界(ミデン)では「1」にと極端に減ってしまう。だが帰るときも換金するので10倍に膨れ上がるのだ

 通貨単位を言わなかったからいつもの調子で交渉してしまったのだ。帰ったときは大金を手にすることとなった

 

「…ま、まあ向こうはこれでサインしたんだ。いいんじゃいか?」

 

「そ、そうだよねー」

 

 やらかしてしまったことにちょっと、いや、かなり罪悪感を感じた。心の中で謝罪して別で受けた防衛任務は真面目にやろうと固く決めた

 

 

 

 

 

 

 




とりあえずここまでこれた~
大規模侵攻も2人の配置とか相手とか考えなくては
それまでの話も・・・

あとお知らせ
非公開にしていた「Something to have that before losing」を通常公開に戻しました。まだプロローグしか直せていませんが、以前のよりは情報を多く書けたのではないかなと思います。空いた時間で修正するので最新話はかなり先になると思います

お暇があればよければ見ていってください(お見苦しい場面もありますけど・・)


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10話 家に還る

 車に乗って向かっているのは玉狛支部、というわけでなくボーダー本部だった。どうしてなのかというと本部長が呼んでいるのだという。内容はまだ教えてもらっていないらしい。林藤支部長の運転する車に乗って十数分

 

 本部に到着して本部長室に通されると忙しそうにひとつの紙を見つめながら視線を動かしている。オレたちに気付くと手を止めて話を始めた

 

「よく来てくれた」

 

「話があると聞いたけど?」

 

「ああ、昨日話した防衛任務なんだが。どの時間が都合がいいとか希望はあるか?」

 

 どうやら話というのは2つ目に契約した防衛任務についてことのようだった。見ている紙はシフト表で各隊の希望の日や時間などを考慮して調整しているらしい

 

「特に無い。トリオン体になれば眠気も関係ないからな。それより気になるのはこの時期はなにか面倒なのか?」

 

「時期?ああ、受験の事だね」

 

「ジュケン?」

 

「中高生の子供たちが将来の夢ややりたい事を勉強するために学校を選ぶんだが、もちろんタダで入れさせてもらえるわけじゃない。しっかり勉強していて人柄に問題が無いような子が進学できるんだ」

 

「えーっと、つまり夢を叶えるためのテストみたいなもの?」

 

 オレも全部理解したわけじゃないけどフィーロの言ってる事に多分間違いはないと思う。本部長も要約するとそれであっていると言った

 

「それじゃ特に要望がないようであれば深夜の1時から5時の間を頼めるか?場所はその都度連絡する」

 

「分かった」

 

「それからこちらにいるのが君たちをサポートする沢村くんだ」

 

「沢村響子です。僭越ながらあなたたちのサポートをすることになりました」

 

 傍にいた髪の長い女性の人が前に出て挨拶していた。だけどサポート役はオレたちには必要ない。それに仕事とはいえ夜に女の人の手を借りるのはちょっと躊躇ってしまう

 

「別にオレたちで十分だけど?」

 

「そういうわけにもいかないんだ。担当エリアは2人でやるには少し広いんだ。もし間に合わなくてトリオン兵が市街地へ行ったりしたら騒ぎになる、それでもし被害が出ればボーダーに非難が着てしまう。いまのボーダーはそれを防いでいるからこそ成り立っている。だからサポートは受けてほしい」

 

 それはそちらの都合、というのは簡単だが。サポートなしでやるといったオレもこれはこちらの都合だ。じゃあどうするのかといえば悪意が無ければ大人しく従っておくのが一番だ。それにこれは略式契約だから無かった事にされる可能性もある。だかそれは困るので受けることにする

 

「…分かった。篠島怜だ」

 

「フィーロだよ!」

 

 軽くだけど挨拶を交わすと本部長はオレとフィーロにそれぞれ2つずつ機械を渡してきた

 

「まずこちらはトリガーだ。昨日フィーロくんは言っていたね、隊員たちと戦いたいと。あれから城戸さんたちと話し合った結果戦闘を許可する事になった」

 

「本当!?やったー!」

 

 握る事を前提に作られた形状をしているそれは思ったとおり、このボーダーで作っているトリガーだった

 

「いいのか?あんた達にとっては敵であるネイバーと戦わせて」

 

「確かに問題はあるだろうね。ネイバーを恨んでいる者も多くいるのは事実だ。だけど先日の一件で君たちの実力は聞いている。A級上位部隊を退ける力ははっきり言えば脅威でもある。だがそんな君たちが対戦相手となれば隊員たちもいい訓練になり、戦力の向上が計れるだろうという結論になったのだ」

 

 なるほど、そういうことか。確かにそれなら許可をする意味はあるだろう。かなり危険を伴う事になるが、ボーダーはそれを冒してでも戦士の質を上げたいのだろう。遠征のためか防衛のためかは分からないけど組織としての考えは間違っていない

 

 それともう一つの機械は携帯と言うらしい。離れたところにいる人間にいつでも連絡を取れるものだという。急に用事ができて任務にいけなかったとき、体調が優れなくなったとかそういうときに使ってほしいと渡された

 使い方は玉狛の人に聞いてくれれば大丈夫と言われた

 

「あ、言い忘れたが渡したトリガーは何もセットされていないんだ。調整は玉狛でもできる」

 

「わかった、だが一つ言わせてくれ」

 

「なにかな?」

 

「このケイタイというやつ、使い方が分かっても文字が読めないんだが?」

 

「……」

 

 便利なものを持たせてくれたのは非常に助かるのだが、それ以前にオレたちは玄界(ミデン)の言葉がほとんど理解できないのだ。そのことを聞いた本部長は少しの沈黙のあと登録されているアドレスの名前をひらがなに書き直してくれた

 用事はこれだけの様なので今度こそ玉狛支部というところ向かう事にした

 

「そうか、進のやつが文字を教えてたのか」

 

「そうだよ!でもネイバーの言葉と違うから大変だった」

 

「確かにな。漢字というやつは本当にややこしい。なんとかオレと進さんのだけは書けるように覚えたけど」

 

「一」や「二」や「三」は棒が増えるだけだから簡単なのだが、「いち」には他にも「壱」と難しいほうもあるという。意味は同じなのになぜ二つあるのかさすがに進さんも知らなかったみたいだ。それだけじゃない。「いち」には「市」「位置」と読み方は同じなのに意味は違うのもある。読みが同じだけなら覚えるのは簡単だが、意味まで違うとなると口にしたとき混乱する。たとえば「この『いち』に来てくれ」というだけでも市場の事なのか、その場所に来てと言っているのか違ってくるのだ

「いち」の前に「名称(XXX)の」と付いたらなおの事分からない

 

玄界(ミデン)の人間は本当にすごいよ。複雑な言葉をよく理解していて、しかも何を言っているのかちゃんと理解している」

 

「そりゃ小さいころから学校に言って勉強しているからだな。早いやつは3歳とか始めて保育園や小学校の受験に備えている、なんて熱心な家庭もあるくらいだからな」

 

「へー、じゃあそんな家に生まれた子は災難だな」

 

「え?どうして?」

 

「考えてもみろ。小さいころから親に言われるがまま勉強していたら、そいつは期待に応えようとすることしか考えなくなる。最悪親の考える人生というのを用意されて、その上で生きていかなくなる」

 

「うへぇ~…そんな家にいたらオレ窒息しそう…」

 

 どんな想像をしてのかはあえて聞かないが、概ねオレとほとんど同じ考えなのだろう。それを分かっていたのか師匠、父さんはオレたちにお前たちの人生だから好きに生きろ言ったのだろう。林藤さんの話を聞いてからは本当にその教育方針には感謝しかない

 

「父さんは好きに生きろと言ってたからよかったよ~」

 

 フィーロも同じ気持ちのようだ。もしかしたらだけど育て方が分からないから放置していたって可能性もあるけど、それでもオレもフィーロも不満は無かった。家を空けることは多かったが、それでもオレは幸せな家だったと思う

 

 お互い父さんに感謝していると、オレの耳に予想外の声が聞こえてきた

 

「おーーい!篠島!」

 

「っ!!?」

 

「ん?兄ちゃん?」

 

 そう、オレを呼ぶ声が聞こえたのだ。ボーダーでも知っているのは幹部連中だと思う。他を除けば進さんくらいだが、さっきの声は全く違う

 一体どうして呼ばれたのか呆然としているとまた聞こえた

 

「何だ?塔冶(とうじ)

 

「これから陸部のあいつ等とカラオケに行くんだけどさ、篠島もこねぇか?」

 

 今度は間違いじゃない。しっかりと篠島と言った。しかも篠島と呼ばれた少年も呼ばれたのが自分だと分かっているようで答えていた

 一体どうして? 同じ家族名? たまたま? でも進さんが珍しくも無いけど探せばいるんじゃないか? と言っていたから違うのじゃないか?

 さっきからオレの頭は正常に回らない。しかも追い討ちをかけるようにオレの心臓はバクバクとうるさく鳴っている。違う、いるはずないと必死で否定していると揺れていた思考が一瞬で消える事を少年が言った

 

「いや、今日は墓参りだから無理。母さんがみんなでいくってうるさいから」

 

「ああそっか…兄、なんだっけ?」

 

「うん。生まれたばかりに行方不明のね、17年も前の事らしいし。あった事もないし兄って実感無いけどね」

 

「むしろお前()()が兄みたいなものか!いや、姉?」

 

「どっちでもいいよ」

 

 兄。17年前。そして「篠島」。これだけ揃っていてさすがに否定はできなかった。昨日本部長には捜索はしなくていい、といった傍からこれだ

 

「兄ちゃん!!?」

 

 気づけばオレは車から降りていた。後ろでフィーロが呼んでいるが今はそんな事はどうでもいい。それより今は確かめないといけない事があった。買ってくれた耳を被せるのをはずして少年の声と足音を聞いた。けど少し遅かったみたいで

 

「あれ?家で集まったら行くんじゃなかったの?」

 

「母さんの体調が余りよくないんだ、だから早めに行ってから病院に行く事になった」

 

「え、大丈夫なの?」

 

「今はな、もういつでもおかしくないから涼治(りょうじ)も早く車に乗れ」

 

「わ、わかった」

 

 なんで体調がよくないのに行くんだよ!? いつでもおかしくないってどんな病気を抱えてんだよ! 少年は急いで乗ったのかガサガサと音を立てて車に乗り込んだようだ。いっそトリオン体になって追いかけようかと思ったが

 尋常じゃない速度で追いかけてくると事故を起こす可能性もある。それに戦闘でもないのにトリガーを使うのも少々面倒だ。とくにボーダーが何かを言ってくる可能性が高い

 

「くそっ!!」

 

 この寒い時期に全力で走るなんて地獄だ。厚着した服が重いし雪で足が滑ってしまう。車が何度か曲がっていきある程度行く方向が分かると、まっすぐ追いかけるのではなく。道から逸れて短距離で向かう事にした

 

「…………山?」

 

 限界まで走って辿り着いたのは木々が生い茂る山だった。最低限の道は舗装されているようだが、あまり人がいる気配が無い。だから声もさっきより綺麗に聞こえる

 

「伶。今年も来たわよ」

 

「………」

 

 レイ

 

 直接聞くよりもさきに聞いてしまった。もう間違いようのないんだ

 山道をゆっくりと登って話を聞いた

 

「今頃おまえは、どうしているんだろうな…」

 

 きっとお墓に語りかけているのだろう。オレも命日の日には父さんの墓の前で何があったのかとか、こんな仕事したとか色々報告したりしている。そういうのはここでも同じみたいだ

 

「オレは……生きてるよ」

 

 まだ距離はあるから声は届かないけど、なんとなく答えてみた。なんていえばいいのだろう。この胸の中を支配する苦しい感情を。父さんが死んだときとは違う。悲しい苦しさだ。胸が締め付けられたと思ったら、とたんに穴が空いたみたいに軽くなってしまう

 けどそれらとは違う、けれどなんとなく覚えがある。懐かしい感情でもある、だけど思い出せない

 

 この感情の名前が分からないのに山道を進むオレの足は止まらない。あれだけ走ったけれど疲労感はあるはずなのに休もうという気も出てこない。季節限定のお菓子を買うときと似ている、今行かないと失いそうな焦りと

 そして中腹あたりで四角い石に家族名らしい文字が書かれた物が置かれている場所に来た。多分これが玄界(ミデン)のお墓なのだろう

 そこから少し進んだところにいた。お腹を大きく膨らませた女性と少し髭を生やした男、おそらくこの人たちが夫婦なのだろう。そして同じ身長で少年と少女が横にいた

 

「それじゃ伶、また来るわね」

 

 腐った花など袋に入れてまとめたら女性の人が挨拶をして立ち去ろうとしていた

 

「こんにちわ」

 

 オレに気付き挨拶をしてくれるが、どう返せばいいのか分かっているはずなのになぜかそれが出なかった。横を通り過ぎてからやっと言葉が出た

 

「あの…!」

 

「なにかな?」

 

 全員足が止まって男の人が代表して聞き返してきたが、また言葉が詰まってしまった。どう言えばいいのか分からない。直接言ってしまえば早いのだろう、だけどそれで信じてもらえるかは分からない、そもそもオレは信じてほしいのか? そのあとどうするんだ? オレ自身のことのはずなのに分からない

 

「あの……これ…」

 

「ん?母子手帳?」

 

 いつも持ち歩いている大切な母子手帳。これはオレが「篠島怜」となった家族以外で大事なもの。それを差し出したのだ

 

「きったね」

 

「こら。見てほしいの?」

 

 まただ、言葉が出ない。代わりにオレは首を縦に振った。表紙を捲って見た夫婦は固まっていた

 

「母さん?」

 

「伶?ほんとうに……伶なの?」

 

「た…ぶん……あなたた、ちの……子、です」

 

 ひどいな。しどろもどろになりながら何とかひねり出した

 信じられないものを見る2人を見れなくて俯いてしまったが、声が少し上ずっているし、すすり泣く声も聞こえる。血が繋がっているのかは不明だが、これまでの気になる言葉からおそらく

 

 この人たちはオレの、血の繋がった家族だ

 

「っっ!?」

 

「っ。よく、帰ってきてくれたね」

 

 突然抱き締められた。母親と思われる女性はオレより少し低めだった。それから父親は頭を撫でてきた。進さんの撫で方とは違い少し乱暴だけど、不思議と嫌という気持ちは出てこなかった

 

 すると思い出した。いままで分からなかった感情が

 

 多分これは愛情からくる羨望だったのかもしれない。街を歩いてれば親に捨てられた、死んで一人になったなどよくあること。転んで泣いている子があやされていたり、仲良く手を繋いでいるところを見てオレは自然とそういうのを求めないように見ない振りをしてきたのかもしれない

 オレには父さんにフィーロがいる。だから大丈夫だと虚勢も張ってたのかも。父さんが死んでさらにオレが守らないといけないと見栄も張ってたのかもしれない

 

 だからいま、2人からこうされているオレは、胸がとても苦しいのに嫌じゃない。欲しかった実の親からの温もりをこうして感じている

 

「た……だい…ま」

 

 

 

 

 

 

 

 

 




「帰る」も「還る」も意味としては同じらしいけど厳密には違うらしいね
「帰る」は自分の居場所に帰る
「還る」は様々な過程を経て元あった状態に戻る

という違いらしいですね


ネイバーに攫われて捨てられて養子になって傭兵になって、そして故郷に戻って家族の元へ。怜くんもとい伶くんは大変な目に遭っていますね。そして押し込めていたものが意思とは裏腹に表へ出てきた
なんだかんだで納得はしていても血の繋がりってだけで心が揺らいでしまうものなんですね

伶の設定は後ほど書き加えておきます


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11話 (まよ)い子たち

道に迷うって意味じゃないですよ?


「なんて呼んだらいいの?」

 

「えっと、好きに…呼んでくれたらいいよ」

 

 病院の待合室でオレは弟の涼治(りょうじ)と妹の涼子(りょうこ)と3人で座っていた。ちなみにこの二人は双子だという

 それでどうして病院にいるかというと、母親の中の赤ん坊がもうすぐ生まれそうだから、入院していつでも生まれてもいいように準備しておくんだと

 

 涼治はいままで自分たちに兄が居ると知りながらも、会ったこともないし呼んだことも無いからオレのことをどう呼べばいいのか迷っているらしい

 オレとしてもどう呼ばれてもいいと思っている。周りからは名前で呼ばれることもあるし、フィーロには「師匠」や「兄ちゃん」とも呼ばれる。あまり認めてはいないが「黒狩りの魔術師」とか

 

「ふーん……じゃあ兄貴と言おう」

 

 呼びなれていないのか照れ隠しなのかは分からないが素っ気ない返事だった。もしかしたらオレみたいにどうしたらいいのか分からないだけなのかも

 

「なあ、赤子って…男の子?」

 

「いや、女の子だよ」

 

「じゃあ妹、かぁ…」

 

 聞いておいてこの答え方はどうなんだろうと思う。だけどオレにまた新しい妹ができるのかと思うと不思議とドキドキしてしまっている。家族が増える事に喜んでいるのか? 誰かと付き合ったりとか仲間が増えるときでもこんな気持ちにはならなかった

 

 どうしてなんだろうと考えていると思い出した。師匠に引き取られたとき、フィーロがまだ赤ん坊のときだ。まだあのころはオレより下はいなかったから初めてできた弟に、はじめて見た赤ん坊にドキドキした覚えがある

 オレより小さいのに重たかったり、握られた指が思いのほか柔らかかったり、どう見てあげたらいいのか分からないと緊張もしたりした

 

「兄貴はさ、ネイバーからどうやって逃げてきたの?」

 

 懐かしいころを思い出していたら涼治がそんな事を聞いてきた。そりゃ突然帰ってきたら気になるのは当然だ。だがオレは逃げたのではない

 

「逃げたわけじゃないよ」

 

「じゃあ何しに来たんだよ?」

 

「旅行だよ。ある程度お金も溜まったからまたどこか行ってみようと思ったんだ」

 

「え?じゃあ、帰っちゃうの?」

 

「そうだよ。オレの家はここじゃないから」

 

「ここじゃないって……兄貴は連れ去られたのにネイバーの国に帰るのかよ!?」

 

 涼子も帰る言葉に驚いているみたい。まるで玄界(ミデン)に帰るのが当然みたいに思っていたみたいだけど、生まれた国がソイツの帰る場所とは限らない。人によって違うだろうが、オレからすれば育った国が帰る場所なんじゃないかと思う

 

 そこで過ごしてできた思い出によっては違うのかもしれないけど。オレはソチノイラで過ごした17年間は大切なものだ。苦しい事や辛い事とかあったけど、帰りたいところは? と聞かれれば迷わずソチノイラだ

 

「なんだよそれ……じゃあさっさと帰れよ!!」

 

「……それは難しいかな。ボーダーから少し仕事請けたからすぐにはできないな」

 

 涼治が怒って帰るように言われた。まあ家族としてはたしかに出会ったのに帰らないというのは、何しに来たんだよ!? ということになるのは当然だ

 

 これ以上ここに居ても涼治たちの気分を悪くさせるだけだ。大人しく帰るべきだと判断して待合室を出た。丁度そのタイミングで父親と会った

 

「あれ?どこに行くんだ?」

 

「ああ…行くところがあるから、もう行くよ」

 

「そうなのか?また来いよ?母さんも色々話したいだろうし、生まれた子も見に来いよ」

 

「……うん、時間があれば」

 

 そう答えたけど来るかはどうかは分からない。涼治たちに嫌われてしまっただろうし。受け入れられないならそれもしょうがないことだ、オレの考えが正しいわけでも常識でもないのだから

 

 でもうれしい事はあった。オレの名前だ。「怜」といままで思っていたけど、本当は「伶」が正しいと。少しの違いだけど母親たちは「賢く無くても良いけど、周りから頼られる人になってほしい」と意味を込めて名付けたと

 

 玄界(ミデン)の人たちは子供の名前に意味を込めたりするらしい。ネイバーの世界じゃ思いつかなかったことだ。あるとするなら先祖のように立派になってほしいと付けたりはするけど

 

「あれ?どうしておまえこんなところにいるんだ?」

 

「え?あ、林藤支部長。その人どうしたんですか?」

 

 出入り口に向かって歩いていると声をかけられて、顔を上げれば林藤支部長が茶髪の大きな人を担いでいた。顔色はとても悪い。聞けばオレが降りた後そのままフィーロと支部へ向かったが、帰ってみたら大きな人、木崎レイジさんが倒れていたという。あわてて車に運んで病院に運んできたということらしい

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――――――――伶が墓地で家族と再会していたころ、玉狛支部ではレイジが倒れていた

 

 

「おい!大丈夫か!?」

 

 玉狛支部というところに行ったらすごいデカイ人が倒れていた。林藤さんが声をかけるが小さな呻きしか聞こえない

 

「フィーロ、悪いけどここで待てるか?」

 

「わ、分かった!」

 

 慌てて荷物を運び込んでシートを倒して乗せると車は走り出した。オレはとりあえず中に戻ってみたがすることが無い。部屋はどこを使えばいいのか分からないし。というかここってボーダーの施設らしいが、ソファにキッチンにテレビって、どうみても大きめの家にしか見えない

 

「ほんとうに…基地なのか……ん?…………なんだろこれ…オレの勘がすごい警戒している?」

 

 大きな人が食べたであろう食べ物がオレの第六感が危険だと告げている。見た目は多分普通。茶色い見た目をしているけど。思わず手にとって匂いを嗅いでみる。とてもおいしそうな匂いだった。けれど口にして見ようと思ったら今度は冷や汗まで出てきた

 

「もしかして……これって………」

 

 なんとなく分かったこの危険な食べもの。これは進さんが作ったものだ。一度兄ちゃんが作ったのだと思って食べたら急に眩暈がして、目が覚めたら病院だったのを覚えている

 あの時はほんとうに食べ物が恐ろしいものだと理解した。兄ちゃんが分量とか手順とか加減を間違えたら不味くなるとしつこく言うのがほんとうに分かった

 

「あんた誰!?」

 

「ん?お前こそ誰だよ?」

 

 誰かが帰ってきたのは分かったから林藤さんかなと思っていたけど違った。髪が長くてオレに指を指してくるなんか偉そうな女の子だった。その後ろでこの人も長いが、兄ちゃんみたいに髪が黒くメガネをかけている。次に小さな子供と動物らしい生物

 

「どうしたの小南?あれ?君だれかな?」

 

「しんじんか?」

 

「オレはフィーロだけど。お前たちは?」

 

「何で答えなきゃいけないのよ」

 

「あたしは宇佐美栞だよ」

 

「おれはようたろうだ。こいつはらいじんまるだ」

 

「ちょっと!!なに普通に答えてんのよ!!」

 

 黒髪の子がウサミで、子供がヨウタロウと言うのか。動物はライジンマルらしい。コナミっていう女の子は隠そうとしているけど、オレと兄ちゃんはこれからここで泊まるのにそれは無理じゃないかなと思う

 

「それでフィーロ君はどうしてここに?」

 

 ウサミという女の人に聞かれて泊まる事になった理由を話した

 

 

「そうかー君たち傭兵だったのね」

 

「あんまり驚かないんだね?ネイバーでもあるんだけど?」

 

「そんなこと玉狛支部(ここ)じゃ、あまり関係ないから。というかあんた、まぁまぁ強いでしょ?遊真と同じ感じがするんだけど?」

 

 関係ないってどういうことなんだろう? 玄界(ここ)じゃ結構重要な事じゃないの? 協力しなかったら常に監視するみたいな事言いそうな怖い人とかいたのに。人によってネイバー(オレたち)に対する考えが違うのかな?

 

 しかもオレが強いってこと見抜かれてしまったし。ブラックトリガーは服の下にあるから見えないだろうし、見えてても傍から見ればただのアクセサリーにしか見えないはず。あれかな、雰囲気ってやつかな?

 

「ユウマって誰なのかは知らないけど、まあ強いほうだよ」

 

「ふーん。言っとくけど玉狛(ここ)じゃあたしたちが強いんだからね」

 

 一体どこにそんな自信があるんだろ? こういうやつって虚勢とか張っているんだよね。兄ちゃんにもブラックトリガー持っているからってかなり強いから大丈夫、なんて思うなと散々言われた。最初は意味をよく分からなかったけど、知っている傭兵が帰ってこなくなったのを知って分かった。強いからと思って実力に見合わない依頼を受けると失敗すると

 

「じゃあお前は大した事ないんだな」

 

「な、なんですってーー!!」

 

「兄ちゃん言ってたぜ。自分のこと強いと驕っているやつは虚勢張ってるって」

 

「こ…の…いいわ!!そこまで言うならあたしと勝負しなさい!!虚勢じゃないってこと教えてあげるわ!!」

 

「お!バトル?いいぜ!」

 

 なんか声が大きくてうるさいけど、バトルなら大歓迎だ! 後を付いて行ってみるとまさに基地っぽい部屋に来た。さらに扉が三つあって中に入ると壁しかない簡素な部屋だった

 

「10本勝負ね。あたしに1勝でも多く勝てたらまぁまぁ強いってこと認めてあげなくないからね」

 

「…なにその変な言葉?意味が分からないんだけど」

 

 認めてナンタラって言ってたけど、オレにはわからない。玄界(ミデン)の人なら意味が分かるのかな? とりあえずトリガーを起動して換装すると、コナミというやつは髪型が結構変わった。腰近くまであった長い髪が今じゃ肩までしかない。あそこまで大胆にトリオン体をいじっているのを見るのは久しぶりだ

 

「まあ10回勝てばいいんだろ?」

 

「あたしに勝てるなら…ね!!」

 

 腰に提げてるホルダーみたいなのから武器を抜くと小さな斧だった。超近距離タイプなのか判断して手の平から真っ黒いナイフの形にして2本出した

 

「へー、あんたそんなちっちゃい武器なんだ」

 

 一気に接近してきてナイフで受け止めた

 

「お前に言われたくない、っ!!」

 

「あたしは違うわよ!メテオラ!!」

 

「っ!?爆弾!?」

 

 力任せに振りぬいたと思ったけど、あまり抵抗されてなかったから勢いを利用して距離をとられた。同時にトリオンの弾丸を生成して飛ばしてきて、着弾すると爆発した。爆煙で少しの間視界が奪われたが、接近しているのが気配で分かるため。武器を振られる前に飛び退いた

 

「は?でかい斧になってる!?」

 

 煙は徐々に晴れて見えてくるようになるとコナミが持っているのは小さな斧じゃなく、身の丈ほどある大きな斧になっていた。オレみたいな変化するトリガーなのかな?

 

 これは少し慎重にいかないと危なそうな気がする

 

 そう判断したオレはナイフからいつも使っているただの棒に形状を変化させた

 

「っ!!アンタ…一体何、そのトリガー?」

 

「勝てたら教えてもいいよ」

 

 レーゲンの形状を変えたからなのか雰囲気が少しだけ鋭くなった。もしかしたら自分が強いと言っているのってあながち間違いではない? どちらにしてもやることは一つ。倒すのみ

 

「いくぜ!!」

 

 睨み合いをしてても意味が無いからオレから突撃する事にした。レーゲンを振り下ろすと斧で防がれるが流すように弾かれた。手元で回転させて握ってから斧が横薙ぎに振るわれた

 

「おっと!」

 

「どこでも出せるなんてズルいわね」

 

 間違いなく胴体を狙っていたから丸い壁を展開して防御する。オレのトリガーは手持ちの2つだけだと思っていたらしいが、それは違う。レーゲンに展開する数の制限は無い。でも多すぎると味方に当ててしまったりなど狙いが定まり辛くなるから、兄ちゃんからはしっかり制御できる数だけ出せばいい、と

 

「でしょ?だからこんな事もできるんだぜ!!」

 

「っ!!ほんとうにズルいトリガーね…」

 

 近距離ではあるが方向さえ気を付ければ当たる事はないから至近距離でレーゲンを放った。その数は15本。足に数箇所掠っただけだった

 以外と反応速度が速くて驚いた

 

「今のを避けるなんてすげー」

 

 大抵の人って何が起こったのか理解しようと固まるのに、コナミは理解するより避けるほうを選んだ。こういうのって頭より体で動くタイプって兄ちゃん言ってたっけ? 納得できないけどオレもそのタイプらしい

 

「アンタのそれ……もしかしてブラックトリガー?」

 

「え?どうして分かったの?」

 

「そんなの分かるわよ!あたしの双月でも傷つけられないなんてそれしか考えられないわよ!!それにネイバーのトリガーにしては柔軟すぎるのよ」

 

「あーなるほど…?」

 

 レーゲンが硬いのは分かるけど、全部のブラックトリガーがそうとは限らないと思うけどね。でも後の理由はオレも分かった。みんな何かしら特化していて、ボーダーみたいな色々なトリガーは装備していない

 

 敵に情報を与えすぎるのはよくないというけど、ブラックトリガーだとバレても狙われる確率が上がるか、その場に足止めしようとするくらいだ。今のところオレが仕事で負けたことは無い

 

「じゃあ、オレの最近のお気に入りでいこうかな」

 

「お気に入り…?……は?な、何よそれ…?」

 

 手に持っていた棒を消して、代わりに両腕の横にさらに大きな腕を出現させる。鎧みたいな見た目で指先はモールモッドのブレードのような形状をしてる。オレの動きと連動していて、兄ちゃんも「物騒なのを考えたな…」とちょっとだけ呆れられてた

 

「いくぜ!」

 

 さっきと同じように接近して今度は払うように腕を振る。双月とか言う斧で防がれるが、力はこっちが上だから吹き飛ばした。追撃しようと踏み込むが弾丸が飛んできて塞ぐようにガードする。やっぱり爆弾の弾で爆音と衝撃がきた

 

「っ!?足が!」

 

 撃ち終わったと思った瞬間にはバランスが崩れて倒れた。どうしてなんだと思ったら足が膝から下が切られてた

 

「下ががら空きだったよ!!これでトドメ!!」

 

「させるかよ!」

 

 声に気づいたときにはもう目の前にいてレーゲンの腕を動かしてももう遅かった。だけど負けるなんてかっこ悪いから自爆覚悟でレーゲンをゼロ距離から放った

 適当に配置したからいくつかはトリオン体に自分から損傷を与えてしまったが、なんとかコナミを胸を貫く事には成功した

 

「一歩間違えたら自爆してるじゃん」

 

「いや~油断しちゃった」

 

 オレは左腕を切り落とされるだけだったので勝負はオレの勝ちだった。だけどまだ1勝。残り9戦もある

 

「次はあたしが勝つからね!」

 

「勝てるものならどうぞー」

 

 勝って気分がいいオレは再び棒を握ってコナミと勝負を再開した

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ソチノイラの王城、その王がいる執務室では息子のルクセンがいた

 

「ならん。先代が築きあげてきたこの国を戦争に巻き込むなど」

 

「そうですか。失礼しました」

 

 話の内容は武力を持たず、ならず者の傭兵が大勢いる状況をルクセンは納得できていなかったのだ。そこで軍を発足し近隣国を支配下に置いて更なる発展を目指そうというものだった

 だが王であるアーヴァルンド国王は先代が苦心して築いたこの国を、戦争に巻き込むというのは頑なに反対した。それは武力ではなく対話でこの国の平和を手に入れたという実績があるからだ

 

 血を流さなくても平和は手に入れられる。アーヴァルンド国王も周辺の国々に更なる交易や技術提供など持てる策を使って今のソチノイラを維持しようと努力している

 でもルクセンは根っからの貴族主義で、傭兵たちをよく思っていないのだ。どうにかして排除してから軍を持とうと企てている

 

「ルクセン様。国王はなんと?」

 

 扉で控えていたルクセンの部下。忠誠を誓っており、なにより部下に対して愛情があることからルクセンがどう考えていようとかまわなかったのだ

 

「…父上も耄碌されたようだ。そろそろ私が玉座に座らねばならないようだ」

 

「お供します。ルクセン様」

 

 以前から計画していたことを決行しなければならないようだと知ると、部下たちは跪き頭を垂れた

 

「うむ。皆のもの、私について来い!」

 

「っは!!」





サブタイトルはいつも書き終わった後に決めるからなんて書こうか迷ってしまう・・作者も迷い子です・・(泣


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12話 いざ玉狛支部へ


小南のキャラ迷子に・・・多分こんなんじゃない気がする・・・


 体の大きなレイジさんが意識を取り戻し体調も回復した事でオレたちは病院を後にして玉狛支部に向かった。その道中自己紹介も済ませた。木崎レイジ21歳。趣味は筋トレらしく毎朝支部の周りを走ったりしているらしい。脂肪ってどれくらいなのかと疑いたくなるような筋肉質で、触ってみても結構硬かった

 

 しかも驚いたのが見た目に反して家事が得意らしく、料理は自炊していたり支部に泊まっている時は全員の分も合わせて作ったりなど器用なところ。もしかしたらレイジさんに聞けば依頼のレシピとか簡単に達成できるんじゃないかと考えてしまった。ミデン(こっち)の文字は変な記号っぽいのもあって解読が難しい

 

「帰ったぞー…誰もいねーのか?」

 

「もしかしたら上にいるんじゃないか?」

 

「そうかも、上から何か音がする」

 

 到着したら誰もいなかった。だけどオレとフィーロの荷物は置いてあったから出てはない。さっきから上のほうでパタパタと歩く音や機械のような稼動音が聞こえてくる

 

 全員で2階に行けば黒髪でメガネをかけた宇佐美栞、カピパラという動物に乗って寝ている林藤陽太郎がいた

 

「あ、おかえりなさい。その人は?また新人?」

 

「また」とはどういことなんだ? オレたちは仲間ではなく契約した共闘する関係なんだが、フィーロのやつが何かやらかしたのか?

 

「いや、こいつはネイバーだ。依頼でしばらく泊まる事になったらしい」

 

「あ~君が!フィーロくんから聞いてるよ」

 

「そうなのか?まあこれからしばらくやっかいになる、篠島伶だ」

 

「宇佐美栞です。篠島くんもあとで入る?」

 

 一体どういう意味なのか聞くと横に並んでいる扉の奥は訓練室らしく、今その一つにフィーロと小南桐絵という女の子が戦闘中だと。なんでもフィーロが虚勢張っているやつは弱いぞと言ったら小南が怒ったらしく、そのまま戦闘を始めたという。今のところ8勝1引き分けでフィーロが勝っているらしい

 

「フィーロから引き分けを!?」

 

 驚いた。レーゲンを使うフィーロから引き分けを取るなんてそうそういない。一体どんなトリガーなんだと思っていたら終わったらしい。9対1引き分けでフィーロの勝ちだ

 

「あ、あたしが……負けるなんて…」

 

「ふぃ~あ!やっときたんだ兄ちゃん!ねぇねぇ見てた?勝ったぜ!!」

 

 上機嫌なフィーロと結構落ち込んでいるショートヘアーの女の子。こいつが小南だな

 

「安心しろ。フィーロに勝てなくて当然だ。むしろ引き分けに持ち込んだのはすごいほうだと思うぞ?」

 

「…あんた誰?」

 

「はじめましてだな。オレは篠島伶。フィーロと同じでネイバーで傭兵だ」

 

「ふーん、アンタが…」

 

 すでに知っていたのかと疑問に思うがおそらくフィーロあたりが言ったのだろう。どう言っていたのかは知らないけど。そしたら何を思ったのかアタシと戦いなさいと言ってきた。フィーロに負けて悔しいのかオレで憂さ晴らしをしようと思ったのだろう

 

「断る」

 

「何で?」

 

「負け数が増えるぞ?」

 

「そんなのやってみないとわからないでしょ?」

 

「やらなくてもオレが()()でやるとお前が負けるのは決まっているからだ」

 

 しつこく食い下がってくるが、何度誘われても断る。そしたら最初っから手加減で相手するつもりだった事にさらに腹を立ててしまった。火に油を注いだ結果にめんどくさくなった

 

 それにトリガーの中には『歪曲』という起動を逸らす能力があるから、小南の攻撃は万に一つも当たる事がなくなる。これが負けると決まっていると言った理由の一つだ。だが小南は引き下がらなかった

 

「はぁ…1戦だけ。勝っても負けても文句なしなら相手をしてやる」

 

「いいわよ!後悔しても知らないからね!」

 

 それはこっちのセリフ。というのは言わずに飲み込んだ。小南の後を追って部屋に入って戦ったが5秒も掛からずに終わった。案の定文句を言ってきた

 

 やったのは単純明快。必要の無い動作だが指を鳴らすと同時に『硬化』で固めた刃を胸に突き刺しただけ。無色透明だから無防備で受けたのだ

 

「もう1戦!!」

 

「さっき1戦だけとオレが言って納得したよな?」

 

「ぅ…だけど見えない攻撃なんて卑怯じゃない!」

 

「ボーダーには見えなくなるトリガーがあるだろ?それも卑怯じゃないのか?」

 

「ぅぅ……」

 

 今度こそ何も言わなくなった

 

「さてと、静かになったことだし荷解きするか?」

 

「はーい!」

 

 レイジさんに部屋を教えてもらったのでリビングから荷物を持って運び入れた。しばらくはここに居ることになりそうだからトイレとか風呂なども教えてもらわないといけないな

 

 部屋は思っていたよりも綺麗でこまめに掃除もしているらしい。こっちではタンスというらしい棚入れに服を入れる。それだけ

 家具とか持ってきたわけじゃないしこれ以上するとといえば、買ってきた物を整理するくらいだ。そう思って袋に手を伸ばしたが

 

「……かっこいい」

 

 なぜか白くて長い「N700A」というのを開けていた。おもちゃでここまで心を揺らされるなんて玄海(ミデン)は恐ろしい国だ

 文字は読めないが絵が描かれていたので、そのとおりに設置していった。以外と繊細なのか細かいところもあって苦労したが30分かけて完成した。最後に繋げたコードみたいなのは大きな硬い箱、レバーやらダイヤルみたいなのが付いてあってどう動かすのか分からない。レバーを動かしても何も起こらなかった

 

「入るよー。レイジさんが嫌いなものはないか……なにこれ?おもちゃ?」

 

「ああ、おもちゃの店で買ったやつだ。だがこれは動かないんだ。不良品みたいなんだ」

 

 ノックして返事も待たずに開けて入ったのはさっきちょっとだけ相手した小南だ。どうやらオレたちの歓迎会をしてくれるらしく、嫌いなものはないかと聞きに来たらしい

 

「そんなの動かないの当たり前でしょ」

 

「なんでだ!?店のモニターでは動いていたぞ!?」

 

「あのね、この電源コードを挿さないからよ」

 

「電源?どこに挿すんだ?」

 

 近くに来た小南が一つだけどこにも繋がらなかったコード持った。どうやらこれは壁にあるコンセントに挿さないといけないらしく、動かないのは電気がきていなかったからだという。てっきりオレは不良品でも買わされたのかと心配した

 

 コンセントに繋いだ瞬間急に動き出してカーブで勢いがありすぎたのかレールから外れてしまった。慌てて持ち上げてキズを確認するが特に内容で安心した

 

「ふぅ…ところで何か用があったんじゃないのか?」

 

「そうよ!あんたたち嫌いなものって何?」

 

「唐突だな、特にオレもフィーロも嫌いなものなんて…あ、梅干は苦手だ」

 

「梅干?」

 

「オレは食べられない事は無いが、フィーロはダメだ。あと口やのどが痛くなる飲み物とか出すのか?」

 

「…それ炭酸でしょ?」

 

「タンサン?」

 

 オレとフィーロが飲んだのは炭酸ジュースという種類らしく、液体に二酸化炭素を溶かしてできる飲み物だという。小南も詳しくは分からないらしい。物理という科学の分野になるみたい

 慣れれば平気というが、知らずに飲んだときのあの痛みは恐ろしかった。咳き込んで吐き出さなかっただけすごいと思う。歓迎会には炭酸じゃない飲み物も用意してくれるらしいので安心した

 

「そうだ、小南」

 

「なに?」

 

「ここにトリガーを調整できる研究者かエンジニアがいるか?」

 

 今日ボーダーからトリガーホルダーを受け取ったのだが、まだ中身は空なのだ。これじゃトリオン体に換装しても戦うことなどできないし。トリガーに詳しい人がいると性能とか教えてもらおうと思っている

 小南に聞けばいると答えが返ってきて、そいつは訓練室であった宇佐美という女の子らしい。オレと年齢が近いだろうにエンジニアとしての技術があるなんてすごい

 

 フィーロと一緒に訓練室に行くとここで調整を行うらしい

 

「さて、ボーダーのトリガーはどこまで知ってるかな?」

 

「まずメインとサブで4つずつトリガーを装備可能なこと。同じ側でトリガーの複数起動はできない。これくらいか?進さんのは今のと比べれば古いからこれ以上はあまり知らないな」

 

「兄ちゃん。旋空って確か複数できたんじゃなかったっけ?」

 

 そういえばそうだ。特定の条件のみ同じ側に装備しているトリガーを複数起動できる。進さんの場合弧月とオプショントリガーの旋空が同時起動が可能だった

 

「うんうん。基本的なことは知っているみたいだね。あとボーダーのトリガーには脱出のための緊急脱出(ベイルアウト)があるね。これは換装時に必要なトリオンを使うから、残ったトリオンだけで戦うことになるね」

 

「それだとトリオンが少ないやつは起動だけでも精一杯のやつはどうするんだ?」

 

 緊急脱出(ベイルアウト)というのは帰還場所を設定していればトリオン体破壊、伝達脳か供給帰器官、トリオン切れになったとき確保していたトリオンを使用して帰還するというもの

 だが、あらかじめ確保するということは少ないヤツは短時間しか戦えないどころか、換装すらできなくなる。だけど宇佐美は大丈夫と続けて言った。好くな人はオペレーターになるかボーダーの職員になったりなどあるらしい

 

 戦い以外にもボーダーに関わりたいって人は居るらしいけど、トリガーを使ってネイバーと戦いたいという人が設立時から多いらしい

 トリガーホルダーに関することは聞いたので次はトリガー自体だ

 

「2人はどんなのにする?」

 

「オレ身軽なのだいい!!」

 

 確かに夜の雨(レーゲン)は何かを装備するのではなく想像した形状で出すから。フィーロは身軽なのが一番だろう

 

「伶くんは?」

 

「オレはあとでいい。フィーロが先に答えたし、最初にやってくれ」

 

「了解。それじゃどんなのがいいかな?アタッカー?ガンナー?」

 

 呼び方からしておそらく戦闘スタイルのようなものだろう。攻撃手(アタッカー)というのは遠距離系の武器を持たない近接戦闘を行うタイプ。銃撃手(ガンナー)は銃火器を使用して支援するタイプ。ただこれは銃火器を使用せず直接弾丸を放つ射手(シューター)という似たタイプがあるらしい。詳しく聞くと銃を使うと一定のトリオンを安定して撃ち、射程もある程度伸びる。トリオン量によって威力が上がるとも

 逆に使用しないのは弾丸を分割して数を作るか、分割せずに大弾で威力を重視するかで状況に応じて役割を替えるだけでなく。威力、弾速、射程などその都度変更できるという。汎用性が高い分器用貧乏になったり弾種でトリガーが埋まるから構成がほぼ似たりなどする

 

「うーん、オレはアタッカーでいい!あれない?アレ!体のどこからでも出せるやつ!」

 

「どこからでも?…あ、スコーピオンね」

 

「それそれ!2本入れて!」

 

 軽量型ブレード「スコーピオン」体のどこからでも出せて重さもほとんどない。スピードタイプのやつ等が使うことが多いらしいが、デメリットとして近接武器の中では壊れやすいという。形状多少は変えられるようでナイフのように短くすれば通常の剣にしてバランスをとったりなど人によって違うという。トリオンの消費も少なめ。だけどオプショントリガーはない

 

「他にもあるのにそれでいいのか?」

 

「うん!オレは動きやすいほうがいいから!」

 

 確認のために聞けばしっかりと自分の戦闘スタイルを理解しているようでちょっとだけ成長が見えた。でも夜の雨(レーゲン)はブラックトリガーだから耐久力桁違いに高いからいつものようには戦えないということだけ付け加えた

 

 宇佐美が補則するようにシールドは2枚セットしたほうがいいと言うとフィーロもそれに頷いた。他に何をセットしようかとトリガー一覧を見せてもらう

 武器に関連するオプショントリガーのほかにトリオン体自体や移動補助とか妨害トリガーとかある。これでそれぞれにあわせたトリガーを構成して戦うというのがボーダーのトリガーみたいだ。汎用性が高い分一点特化には優れていない。ネイバー(オレたち)の常識とは全く違うトリガーだった

 

「じゃあ次は伶くんだね」

 

「ああ、オレはまずは弧月2本入れてくれ。三日月は弧月をベースにしているから扱いやすい」

 

「オッケー!旋空は入れる?」

 

「…それは考える。あと弾丸を1つか2つ入れたい」

 

万能手(オールラウンダー)にするんだね。それじゃガンナー用トリガーの説明をしようか」

 

 オッケーという返事は何なのかは知らないが多分了承とか肯定の意味があるんだろう。万能手(オールラウンダー)というのは近接と遠距離どちらもできるスタイルという

 ガンナー用トリガーは全部で4種類。通常弾(アステロイド)、目立った性能はないが牽制などトリオンを無駄に使いたくないときとかに使える。炸裂弾(メテオラ)、着弾した瞬間に爆発する。また設置して移動阻害のスパイダーと併用すればトラップとしても応用できる。追尾弾(ハウンド)、トリオンを感知して追う探知誘導と、視線で動かす視線誘導の2種類の使い方がある。変化弾(バイパー)、設定した軌道で進む弾丸。複雑にすると味方にまで当ててしまいそうだ。常に軌道を描く隊員が何人かいるらしい。すごい

 

 説明を聞いて何をセットしようかと悩んでいると、2つを合わせてできる合成弾というのもあるらしい。ただしコツが必要で作るにも時間がかかる、メインとサブを使うから無防備になるといった弱点があるから使う場面は選ぶ必要がある

 

 何を選ぶか迷う。アステロイドは単純に牽制としての役割だけでなくシールドを使わせている間に接近して背後から斬るとか、考えなくても勝手に追ってくれるハウンドもいいかもしれない。視界を塞ぐためにとメテオラで爆発させたりとか

 使う場面を考えると悩む。フィーロみたいに自分のトリガーを考えていくと、アステロイドが妥当なのかもしれない。『硬化』で硬めたモノを飛ばしたりしたし、複雑な動きをさせたことはない。そうなれば旋空を選んでおくのもいいかもしれない

 

 宇佐美に今考えたトリガーを伝えてセットしてもらった

 

 

 

 

 




戦闘シーンがたったの一瞬・・・『硬化』つえええー・・・実はね閉じ込めたりとか他にも考えたりしてたんだ。あと小南の双月ってどれくらい強力なんだろうね。パシリッサを数回叩きつけるだけで切断しちゃうんだから、弧月で防いでも危ないよね


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13話 小さな虎

「お邪魔します」

 

「ただいま」

 

「今日もよろしくお願いします」

 

「ん?」

 

 宇佐美からトリガーを設定してもらっていると、下から誰かが帰ってきたらしい。声は3人だが、1人だけ心音がしない。でもトリガーを使っていればそんなのは当たり前だから気にしなかった

 

 でも訓練室へやってきた3人を見てやっぱり少しだけおかしいと思った。服装はみんな同じなのに、髪がクシャクシャになってる小さい少年だけが髪が白いのだ。髪を染める人も居たりするからおかしくはないのだが。なぜ他の2人は生身のままなのか? もしくはその逆、白い少年だけがなぜトリオン体なのか? 気にしてもしょうがないのだろうけど、そいつはどこかで見覚えがあった

 

「ん?誰かいるぞ?」

 

「おかえり遊真くん、修くん、千佳ちゃん。この人たちは伶くんとフィーロくんだよ。遊真くんと同じネイバーだって」

 

「遊真……?」

 

 どこかで聞いた名前だった。誰だったのか記憶を思い返すと思い出した。一度だけ会ったことのある、頭が鳥の巣みたいで小さい子供を。確か12年前くらいだった気がする。オレが引き取られて1年経つくらいに父さんが仕事先で知り合った言って2,3日泊まったんだった

 

『久しぶりだな、レイ』

 

「ん?………あーなんだったかな…かすかに覚えているけど…すまん」

 

 記憶を思い返していると指輪から液体が吸い込まれるとは逆の動きをして出てきたのは見たことがある何かだった。残念ながら名前は覚えていないし、これがトリガーなのか別の何かなのは忘れてしまった

 

『無理もない。あの頃はまだ5歳の子供だったのだ、覚えていなくても不思議ではないだろう。改めて、私はレプリカ。遊真のお目付け役だ』

 

「一応こっちも、篠島伶。久しぶりだよ。こっちはフィーロ」

 

「よろしく!ところで兄ちゃん会った事あるの?」

 

 フィーロもまだ赤ん坊だった頃だから覚えていないのは当然だ。むしろこれで知っていたら逆に怖い。フィーロの疑問は遊真も思っていたらしくレプリカに問いかけていた

 

 まだ5歳のときに会っていた事を話し、続きはレプリカから語られた

 

『遊吾はネイバーフット国々を歩いて情報を集めていたのだ。自らの足で出向き計算して情報を記録して。なのでソチノイラという国はあのときが初めてだったので情報を集めるために大陸中を歩いて、そしてまた別の国へわたったのだ。出るときに挨拶に行ったのだが、たしかその時は夜だったから2人は寝ていたと記録している』

 

「そうだったのか。まあなにはともあれ再会できてよかったよ。ところで遊真」

 

「なんだ?」

 

「お前、髪が白かったっけ?小さい頃だったから合ってないと思うが、黒かった気がするんだ…」

 

「そうだよ。前は黒かったけどいつの間にか白くなった」

 

 記憶に間違いはなかったみたいだが、返ってきた答えは大分端折られていた。「いつの間にか」のところにほんとうに何かあったんだろう。極度に精神的なストレスを感じると髪が白くなるなんて聞いたことがあるが。トリオン体に換装していることと何か関係があるのだろう。手足がない、とかだったら生身のままでは不便だからな。下手に触れてしまうのはよくないだろう

 

「そっか」

 

 と、ここで置き去りになっていた後ろの2人は黙ったままだった。自己紹介はさっきしたからいいとして、メガネを掛けたのが三雲修。B級隊員らしいが、階級と腕が合っていない気がする。将来的には遊真と隣の雨取千佳という少女とチームを組むらしい。どう考えても遊真以外は戦力にはならない気がする

 

 3人はそれぞれ師匠がいて、現在修行中らしい。ランク戦に向けて鍛えているとか。遠征任務に行くためとかいっている。オレからすれば、無謀なことをしている気がする

 

 

 そのあと歓迎を兼ねた夕食を食べてオレとフィーロは言われたとおり夜の遅い時間に警戒区域に来ていた。初めてのことということもあって他のチームと組んでもらうことになった

 

「待たせたな!オレは嵐山隊の嵐山准だ」

 

「時枝です」

 

「オレは佐鳥賢!必殺はツインスナイプ!」

 

「木虎よ。いい?腕があるようだけどあまり活躍しすぎないことよ?」

 

『はじめまして、オペレーターの綾辻遥です。なにか分からない事があったらなんでも聞いてください』

 

 5人での編成チームみたいだ。赤い服とブーツに黒のズボン。みんな同じ格好だった

 それぞれが簡単に自己紹介を始めたが、木虎という子は何か嫌なことでもあったのかオレたちに手柄を奪われたくないのか忠告をしてきた

 

「篠島伶だ。そこの木虎はどうかは知らないけどサポートを頼む」

 

「フィーロだよ!よろしく!」

 

「ちょ!?なんで私だけ邪魔者みたいに言うのよ!?」

 

「それはこっちだ。初対面でいきなり活躍するなと威嚇してくるヤツとよろしくなんてできないだろ?あと、その高飛車な性格はどうにかしたほうがいいぞ?無駄に敵を作るだけだ」

 

「アタシのどこが高飛車な性格をしているって言うのよ!」

 

 いまの言動がそうだと言いたいが、火に燃焼剤を投げ込むような結果にしかならないから黙っておく。すると何か言いなさいよ! と言ってきて、どのみち面倒な性格だなと口の中の空気を吐き出した

 

「木虎、とりあえず落ち着こう。ポジションの確認をしたいんだけど、いいかな?」

 

「ああ、オレはアタッカー寄りのオールラウンダーだ」

 

「オレもオールラウンダー!!」

 

 時枝という少年が出てきて木虎を落ち着かせた。こういうやり取りも手馴れているのか自然だった。ポジションと言ってもボーダーのトリガーはまだ不慣れだからいきなり実戦で使うのは危険、だから慣れるまでは自分たちのトリガーを使うことにした。もちろん本部長には許可を取った

 

「そうなると伶くんは木虎と充、フィーロくんはオレと佐鳥で分かれて行動しよう」

 

「了解だ。よろしく、時枝」

 

「うん、こちらこそ」

 

「ちょっと!私には?」

 

「…よろしく」

 

 仲良くできそうな時枝にだけ挨拶したら木虎が不満そうな声で言ってきた。無視したのは事実だけど、さっきまでの態度を改めようとしないやつにまでよろしくしようと思うほどオレの心は広くない

 

「よろしくなフィーロくん」

 

「よっろしくね~!」

 

「よろしく!嵐山!佐鳥!」

 

 あっちは楽しそうだな。この面度なヤツさえいなければ、なんて思ってしまうのは気が緩んでしまっているのかな。まあ元々旅行のつもりだったからしょうがないのかも

 

 オレたちは西から、フィーロたちは東から回るように巡回をすることになった

 

「僕はオールラウンダーだけど、二人とも前に出るなら僕はサポートに回るよ」

 

 そう言った時枝の肩からは銃を提げている。腕前は分からないが自らそう言うって事は慣れているのだろう。他にもチーム内でも立ち回りとか決まっているのだろうな

 

「オレは1人で大丈夫だから時枝くんはこの女のサポートに専念してくれて」

 

「この女って何よ!?あたしは木虎よ!木虎!藍!」

 

 ほんとうにどうにかしてほしい。時枝くんは分かった言ったけど、多分僕と年は同じだと思うから呼び捨てでいいよ、と言って驚いた

 

「あ、そうなんだ?オレ17だけど」

 

「僕は16だよ。一つ上だったんだね。先輩って呼んだほうがいいかな?」

 

「いや、呼び捨てのままでいい。向こうじゃ名前で呼び合うのが当たり前だったから」

 

「わかった。それじゃ今日はよろしくね」

 

「ああ、よろしく。あと木虎も」

 

「当然ね。足を引っ張らないでよ!」

 

 無視したらまた騒ぎ出すかと思って付け加えるように言ったけれど、相変わらず上から目線の態度にうんざりする。時枝くん、と呼ぶのはなんか違和感感じるので時枝と呼ぶの事にしよう。木虎はもう面倒なのでそのままだ

 すでにフィーロたちは見回りに動いているし、オレたちも行こうと時枝を先頭に進みだす

 

「…にしてもこっちの星ってあまり見えないんだな」

 

「そうかしら?街と比べればよく見えるほうだけど」

 

 木虎答えてきたけどソチノイラと比べると少ない。というか暗いのだ。光が点々とあるだけで夜の川がない。しかも空の向こうにあるとされる虹雲も全くないから、玄界(ミデン)の夜空はなんとも寂しい。ソチノイラの夜の空が綺麗だと知ったときは初めて他国に言ったときだ。帰ったときの空が綺麗だと知ったときは泣いたこともある

 

「君たちの国の夜がどんなのかは知らないけど戦闘に切り替えて。(ゲート)が開くよ」

 

 時枝の言葉の次には(ゲート)が開いた。モールモッドが5体にバンダー2体か。1分で方がつくと思っていると木虎が

 

「自信があるなら私より多く倒してみなさい?」

 

「…分かった。それで少しは舐めたような態度は変えるのか?」

 

 正直下だと思うならそうしてくれていいよ、そう思っていたのだがどうやら傭兵としての実力を身に付けているからなのか、木虎の態度は気に食わないと思っている。多く倒せば考えを変えてくれるのならチャンスかなと思ってしまった

 

「ええ、A級の私より倒せたなら認めてあげてもいいわよ」

 

 この感じじゃほんとうに認めてもらえるか微妙だな。とにかくやることやらないとな。見えない脅威(ノヴァ)起動、400mくらいか? 範囲内だな

 

 木虎は屋根の上を飛んで接近するが、それよりもオレのほうが早い。上空に7本の刃を『硬化』で生成。右腰の三日月を抜いて掲げると振り下ろす

 それと同時に生成した見えない刃が落下を始めてすべてのトリオン兵の目を上部から貫いた

 

「ッ!!?な、なにが起こったの!?」

 

 スコーピオンを手にした木虎がこれから攻撃しようとしたときトリオン兵たちが一斉に撃破された。一体どういうことなのかと慌てているが。言われたとおり多く倒した

 

「今の君が?」

 

「そうだよ。見えない脅威(ノヴァ)の能力の一部だよ」

 

 後ろで構えていた銃を下げて驚く時枝に答えた。詳しく言うわけにはいかないが何も教えずにいるのは後々面倒ごとになるのかもしれない。とくに木虎はどうやったのかとしつこく聞いてくるだろうし。というか来た、すごい形相で

 

「ちょっと!なんで私の標的まで倒したのよ!?さっきやったのは一体どんなトリガーなのよ!?詳しく教えなさいよ!!」

 

「……『硬化』だ。トリオンを固めて攻撃したり防御したりするだけだ」

 

「それだけ?もっと他にあるんじゃないの?」

 

 やっぱり聞いてきた。一体何が不満なのか分からない。怒る理由なんてないはずなのに。女性って言うのはたまによくわからないことで怒ったりするから少し面倒なところもある。とはいえ、木虎の場合はプライドが以上に高いせいで舐められた態度や言動すると怒ったりするから分かりやすいといえばそうかもしれない

 だが納得するだけの理由はあるのに怒るのはよく分からん。数式で答えが正解したのに、どうしてそうなったのか? みたいな

 

 子供でも納得できることなのに

 

「あるが。言わない。これ以上のオレのトリガーの情報公開はしない」

 

「なんで?協力しているなら」

 

「違う。協力じゃなく契約関係だ。何でもかんでも教えるわけじゃない」

 

 別に利害関係が一致しているわけじゃない。ただオレ達の旅行が邪魔されるの避けるために仕方なくボーダーに従っているだけ。そうでないと四六時中監視が付いたり襲ってきて命の危険だってあるからだ

 玄界(ミデン)は面倒な国だ

 

 

 

 

 

 

 

 

「ただいま」

 

「ただいまーー!」

 

 木虎という面倒な女の子を相手にしているせいで精神的疲労が耐えなかった。こんなことなら普通に寝ていたほうがまだマシだ

 

「おう、お帰りお前等!」

 

 だけど一難さってまた一難。玉狛支部に帰ってきたオレ達を出迎えたのは一人の男を病院送りにした元凶だった

 

「「進さん!!!」」

 

 風間進が椅子に座ってコーヒーを飲んでいた

 

「アンタ!なに暢気に飲んでんだよ!?」

 

「へ?」

 

「そうっすよ!!レイジさん危うく天国に送ってしまうところだったんですよ!!」

 

「あ、ぁあ……それは聞いた……」

 

 全くその通りだ。林藤さんたちが戻らなければレイジさんは死んでいた可能性があるかもしれない。本人が食べるのは平気でも、他の人が食べると途端に毒物になる不思議な料理に変わってしまうのだから

 

「聞いた。じゃない!!誓ったよね!?オレとフィーロの前で!もう2度と料理は一切しないと!!」

 

「…すまん。冷蔵には食べれるものがなくて……インスタントなら大丈夫かなって……」

 

「かな…じゃないよ!!進さんの料理この世のものじゃないほどのマズさなんだよ!?」

 

 実際に食べたフィーロが言うのだから言葉に厚みがある

 

 作った料理を酷評するのは作った人からすれば激怒するようなものだが、今回の場合完全に進さんが悪いため擁護する余地はない

 

「一応聞くけど、あれからまた作ってないよね?」

 

「作ってない作ってない!…さすがにレイジまで倒れたとなったらいよいよオレに料理の才能はないって分かったよ……」

 

「そうしてくれ。腹が減ったなら買うか食いに行けばいいんだから」

 

 幸いに進さんも傭兵として依頼をそれなりに受けていたからお金もある。金遣いは悪いわけじゃないからしばらくは金銭には困らないだろうし、ボーダーに所属したと聞いているから収入もあるだろうし

 

「ああ…これからはそうするよ」

 

 全くもってそうしてほしい。これ以上犠牲者は出したくない

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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14話 会いたいと思う理由

久しぶりの投稿

他のも少しずつ書いています


 弧月が縦に振り下ろされたのでオレも弧月で防ぐ。すると空いている手で殴ろうとしてきたのだが、普通じゃない速度が出ててシールドを展開して防ごうとするが、ピシッと亀裂が入った

 

「ッ!?」

 

「1発じゃ割れないか。なら、スラスターON」

 

 対峙するレイジが落ち着いて状況を理解すると再度レイガストのオプショントリガーを続けて使ってきた。確かにスラスターの勢いならあの速さは納得できる。しかも広くは無いがシールドに亀裂を入れるなんて威力も尋常じゃない。3度目でついに割れてしまい顔を傾けてギリギリで避けるが

 

「ブレードモード!」

 

「ッ!!あっぶね…」

 

 引き戻すときにレイガストがナイフのように小さなブレードモードへ変えて首が切られると思い、テレポートを使用してレイジの後ろへ回避した

 

「テレポートを入れていたのか」

 

「一応ね、不意打ちにいいかなと思って入れたんだけど。まさかそのまま殴ってシールドを壊しに来るなんて思わなかった」

 

「だが使うなら気をつけろ。移動する距離と方向には制限があるから慣れているやつには場所がすぐに分かるぞ」

 

 振り返ったレイジは追撃することなく使うなら注意しろと言ってきた。これをセットするときに宇佐美にも同じことを言われたから使う頻度は控えめのほうがいいと考えている。連続して使えないから今みたいな回避のために使うのがほとんどになりそうだ。だけど使いすぎるとカウンターとか受けてしまう可能性もあるからほんとに考えないといけない。まあこれはそのための訓練でもあるけど

 

「旋空弧月!」

 

 やはり弧月の専用オプショントリガーはセットしておいたほうがいいと思ったので入れておいた。レイジは無理に避けることはせず、シールドモードにしたレイガストで受けてから弧月からアサルトライフルに持ち替えてアステロイドを撃ってきた。シールドで防御していたら射撃が止まるとレイジが接近してきてまたレイガストを持った手で殴ってきた。また同じように割りにくるのかと思ってアステロイドを分割して放った。当然回避されるがいつまで近くにいられるのはやり辛い

 

「今度はオレから…ぅわっ!?ワイヤー…?いつの間に!?」

 

 弧月を構えて近づこうとするとが、足が地面と離れなくてこけそうになった。いつ仕掛けたのかワイヤーが足と地面が繋がっていた。さっきまでこんなものはなかったはず。じゃあいつなのかと考えるとついさっきレイガストで殴りに来たときだ

 どうやったのかは謎だけど仕掛けるならこのとき意外考えられない。罠のような物も考えられるが、弧月で切れるところを見ると足止めとしては効果は弱い

 

 確か宇佐美の説明によると弾丸みたいなトリガーだった記憶がある。ソレから両端にワイヤーが伸びて設置して足止めや、仲間の足場として役割もあるとか。細かい設定もできるらしいが、オレは選ばなかった

 

「…さすがに1本じゃレイジを倒すのは難しいか?……なら、アステロイド!」

 

「シールドモード!」

 

 飛んでアステロイドを細かく分割して、弾速を捨てて威力を上げて放つ。いつもよりは遅い弾丸にレイジも調子を狂わされたのか構えたレイガストを下げようとするが

 

「旋空弧月!!」

 

 2回振ってその場に留まらせる。シールドで防がないあたりオレのトリオン量で放たれる旋空を警戒しているのだろう。それは好都合でもう1度振ってレイガストで防がせているとさっきの弾丸がついにレイジに近づいて触れた。当然シールドでもないから簡単には壊れないが、周囲には弾丸が浮いてて下手には動けないはず

 その隙にオレは地面に旋空を放ち地面にぶつけて煙を上げると煙幕代わりになる

 

「いない!?…上か!」

 

「後ろだよ」

 

 レイジが見えげた先にはオレが脱いだ上着があり、それをオレと勘違いしてしまったのだろう。だが本当は後ろに移動しており、シールドで触れそうな弾丸を消して弧月で供給機関を突き刺した

 

「上で脱いでテレポーターで移動したのか?」

 

「お?さすがレイジさんだね、正解だよ」

 

 落ちた上着を拾って羽織るとレイジさんが正解を言ってきた。この玉狛支部のチームの隊長をしているだけあってすぐに答えに行き着いたのだろう

 

「続けるか?」

 

「いや、まだトリガーは考え直す必要がある」

 

 練習を続けるかと提案されたが、この構成ではまだオレに合っていないことがわかり考え直す必要があるため断った

 

「そうだな。まだ手にして日が浅いけど筋は悪くはないからな。時間さえあればランク戦で上位を狙えるはずだ」

 

「わるいけど、玄界(ミデン)には観光が目的で来たから。ボーダーに入るなんてことはしないよ」

 

 ボーダーのトリガーは面白いからじっくり練習をしてみたい気持ちもあるけれど、まだまだ見えない脅威(ノヴァ)を満足に使えているつもりもないから、ボーダーのランク戦のときこのトリガーを使おう

 

「オレこれから出るよ。夜までには帰るようにする」

 

「わかった。気をつけていけよ」

 

 もうすぐで25日でプレゼントとか用意する大人たちで大忙しらしい。オレも世話になる玉狛に何か買っておこうと出ようと予定していたのだ。レイジに一言言って玉狛支部を出た

 

 吐く息が白くなるほど冷えた空気に体が震えた。トリオン体にでも換装しようかとも考えたけどボーダーに文句言われそうだからやめておこう。体を震わせながら向かったのは病院。その6階に行くと並んだドアのひとつをノックする

 

「どうぞー」

 

 中から返事が返ってきて扉を引いて中に入る。母親の他に双子の涼治と涼子がいた。オレが来たと知ると楽しそうな表情から一瞬で曇り睨まれる

 

「何しに来たんだよ?」

 

 開口一番拒絶の感情が篭った問いかけだった。ここまで誰かに拒絶されるのはいつ以来だろう?いろんな国に行くから頻繁にあったのかもしれない。そういった不要なことはすぐに記憶の奥底に捨てて依頼に集中できるようにする。傭兵はそのとき限りの出会いがほとんどであり、早くても4ヶ月経たないと再会できないなど国の位置や速度の関係もある。ましてや乱星国家だと尚更だ

 

 だが、オレはこの二人にはできれば嫌われたくないという感情がある。「レイ・シノシマ」という人間を形成したのはソチノイラであり、傭兵として生きてきたことでできた。その過程で家族以外で嫌われてでも依頼を達成することが最優先であったため気にはしてこなかったが、涼治と涼子はオレの家族。それを再び認識するとどうして嫌われたくないのか分かった

 

 そうか…二人はオレの家族。弟と妹…だからなんだな

 

 答えはシンプルだった。言葉にして3つ。文字にして2文字の言葉に気持ちいいほどに納得できた

 

「お見舞いだが…もしかしてその赤ん坊が?」

 

「そうよ。(のぞみ)って言うの」

 

「希…少し大きい?」

 

 母親が答えてきて涼子の隣に来て抱いている赤ん坊を覗き込む。おととい産まれたばかりでまだ目は閉じているし、手も握られている。全身も少し赤みがあるが、生まれたばかりならそういうものだろう。と時々見ていた記憶の中にある赤ん坊と比べると少し大きいように見えた

 

 オレが大きくなって小さく見えたならまだ分かるが、逆だった。その疑問に答えるように産まれたときの体重は平均より少し重たかったらしい

 

「抱っこしてみる?」

 

「ちょ、母さん!?こんな危ない人に持たせたら危ないって!!」

 

 涼子があわてて母親の提案を阻止しようとしている。涼治も考えは同じなのか焦っていた。オレは2人から危ない人と思われていのかと少し衝撃を受けてしまった。確かに傭兵としやっていくには体も大事だから普段から鍛えていているため力には自信がある。だからと言って赤ん坊を誤って力を入れ過ぎてしまうなどしない。施設に行った時だって何度か抱いたことだってあるのだから

 

「大丈夫よ。ほら涼子」

 

「……気をつけなさいよ」

 

「ああ、分かった」

 

 気をつけるのは元より分かっていることだが、それを口にすれば入らぬ口論に発展しそうだから涼子の言葉に頷くように答えた。両腕を伸ばして受け取った赤ん坊は重たかった。抱き寄せてみれば簡単に壊れそうなほどの柔らかい筋肉。音から伝わる骨の密度も高くもなく低くもなくて簡単に折れそうだ。確かに気をつけないといけないと注意を払いながら抱っこをする

 

「希……妹」

 

「そうよ、伶の妹」

 

「オレの…」

 

 再度確認するようにオレの妹だという母親。確かにその通りで、眠っているのか顔を見ていると可愛いと感想が漏れる

 

「きっも。なにニヤニヤしてんだよ」

 

「…ニヤニヤ、してたのか?」

 

「自覚なしかよ」

 

 涼治に言われてどうやらオレの頬は緩んでしまっていたらしい。キモイと評されてひどいことを言うなと思うが、言われて意識すると確かに緩んでいる。気持ち悪い顔をしているのかもしれない

 

「希もいるのにここに残らないのかよ?」

 

「涼治…」

 

 最初に会って病院の休憩室でも聞かれたことをもう一度聞かれた

 

「…悪いけどオレの考えは変わらないよ。オレの家はここにはない、オレが住めるような世界でもない」

 

「そんなことはないよ。伶の家はここにあるじゃない?」

 

 母親が否定をするが、家があるなしの問題じゃない。オレが「家」は「家族と過した思い出の場所」だと思っている。たまたま旅行に訪れた先で家族に出会ったとしても、そこがオレの本当に帰るべき場所だったとしても、そこに「オレが過した記憶」はない

 

 他人の家に過す、という感覚が付きまとってしまう。家族と言えど慣れるまでに他人と思えてしまうのだ。それに比べてソチノイラで過したあの家には愛着がある。引き取られて現在に至るまで10年以上も暮らした。施設と違って広い家、欲しい物があると買ってくれた父、いつも一緒に居た弟。小さいときは嬉しいという気持ちが大きかった。だけど父さんは仕事以外だとごみは片付けないほど横着で、広い家がすぐに汚くなるなんて珍しくなかった。フィーロが大泣きしてお漏らししたときは情けないやつだと笑ったこともあった。調子に乗って料理をして食器を割ったことなんて両手で数え切れない

 

 そんな小さなことまで懐かしいと思うほど長く過し、所々に思い出が存在しているのだ。階段だったら転んで落ちたとか。だけどこっちで過すとなったとしてもそういった記憶は欠片もないのだ。目の前にいる母親の顔さえ墓で再会するまで記憶していなかったのだ。赤ん坊のときに攫われたのだから当然であろう。ならば向こうの世界で生まれたと言っても間違いではない

 

 もう一つ、大きない理由としてオレが近界民(ネイバー)であるということだ。この三門市の人たちは心にも体にも

 傷を負っただけでなく、住んでいたところを蹂躙されたということで酷く憎んでいる。この三門市を離れていった人だっているほどに、近界民(ネイバー)に対して理解をしようとしない。玉狛支部のような一部の例外はあるようだけど。国を動かすのは結局大勢の国民。いくら少数の人が「いい人も居る」と訴えたところで大多数の意見に掻き消されてしまう

 

 たとえ元玄界(ミデン)の人間であるオレであってもそれは例外ではないだろう

 

「伶は、なにも悪くないわよ…」

 

「ありがとう。でも世界ってそういうもんだよ。どの国でも多数の意見が正当化されてしまうんだ。それに……オレに本当の家族がいた。それだけでも十分だよ」

 

 そう、家族に会えた。これは攫われた人間の中でもほんの小さな確率、オレはそれに当たったのだから幸運だと言える。オレにできるのはこの人たちが危険な目に遭わないようにしてほしいと願うだけだ

 

「そうだ、今日来たのはこれを渡そうと思ったんだ」

 

「なにこれ?」

 

 こんな暗い空気にしてしまったのはオレだから、話題を変えて空気を変えようと鞄から茶色の封筒を3つ取り出した。1つは一杯になるほどの厚み、他2つはその1/3で中身はどれもお金だ

 

「万札!?いくらだよ…」

 

「涼治たちのは確か30万だったかな。そっちの大きいのは120万で両親と…希に」

 

「伶、このお金どうしたの?」

 

 いきなり大金を渡されて困惑するのも分からなくもない。けれどオレが渡してあげられるのはこれしか思い浮かばなかったまだ涼治たちのことを知らないオレは何をあげたら喜ばれるのか分からない。身体つきがいいから何かやってて鍛えているのだとわかるが、予想が外れて違うの渡したら意味がない

 

 じゃあ何をあげたらいいのかと悩んだ末がお金だった。これなら好きなものを買ったり食べたりできる。それに赤ん坊が腹の中に居ると知っていたら、色々と必要なものとかあって買わないといけないだろうと思った。ついでに入院費とかも含めて

 

「オレが仕事で稼いだお金だよ。心配しないで、人を殺したとかじゃないし盗んだわけじゃないよ。それに今はちょっとボーダーと契約中だから滞在中も少し収入がある」

 

「そ、そう……」

 

 安心、はしていないなと聞こえてくる心臓の音が伝えてきた。驚きと緊張が体の筋肉からも分かった

 

「あ、兄貴!」

 

「ん?なんだ?」

 

 用事も終わったから部屋を出ようとしたとき涼治がオレを呼んだ

 

「……もう、会えないわけじゃない……よな?」

 

「……生きてたらそのうちまた会えるよ」

 

 驚きの言葉だった。嫌われているから尚更涼治の言ったことはオレから少しだけ思考を奪った。その次に感じたのは嬉しさだ。好きになってくれたわけじゃないだろうけど、少しは好意的になってくれたことに今日来て良かったと思った

 

 ネイバーの世界で育ったオレがこうして会えた。生きていればいつかは再会できる。それをオレが証明しているのだから不可能ではない。何よりオレがまた会いたいと思っているから遠くないうちに叶うはずだ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 伶が病院で家族と会っていたころ、フィーロと烏丸は以前来たことのあるおもちゃ屋にいた。手には大金が入ったお金と、高額の商品を買おうと入れてたカゴがある

 

「ずいぶん沢山買ったな。伶に怒られないか?」

 

「ぅぅ…で、でも!兄ちゃんに上げるのだから大丈夫だよ!!」

 

 どこからその自信はくるのか悩んだ烏丸だが、伶に上げるものだと考えると確かに大丈夫だろう。こっちにきてどうやら気に入っている様子を何度も見たからだ

 

「兄想いだな」

 

「へへ!でしょ!オレ、兄ちゃんこと好きだから!」

 

 屈託のない笑顔で答えるフィーロに、烏丸は自分たちの兄弟を思い出した。何の疑いもなく向けられる笑顔はバイトや防衛任務をがんばる原動力になる。そんな兄弟を烏丸は好きだった。だからこう返した

 

「伶もお前のこと好きだろうな」

 

「うん!!」

 

 いい兄弟だなと思って烏丸も兄弟のためにとゲームを数本購入していた

 

 その1時間後に伶本人が来たのは知ることがなく、また先にフィーロたちが来ていたことをお互いすることなく目的のものを購入していった。お店の人たちはクリスマスが近いからなのかと思われたが、数万、十数万の買い物をしたと店員の間で話題になった

 

 



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15話 似た者兄弟

そういえばこの前はフィーロの誕生日だったのを忘れてましたww


 テーブルの前にはオレが知らないような料理が沢山並んでいた。馬鈴薯、玄界(ミデン)ではジャガイモというのが一般的らしいがそれをすり潰したものにマヨネーズという調味料と少しの野菜を混ぜたポテトサラダ。スパゲティという麺類の料理。皿のように薄くしたパンに野菜や肉を乗せて、さらにチーズを被せて熱して溶かしたピザという丸い食べ物

 

「おーーい!買って来たぞ!」

 

 そして進さんが買いに行ってたものが、生の魚の身を乗せた寿司という食べ物だ。寿司の到着に小南や宇佐美とか喜んでいたし、修もそんなに買ったんですかと驚きつつも心臓の鼓動が早くなっていたので喜んでいるみたい

 

「どうしたのフィーロくん?」

 

「…アレって、食べるものなの?」

 

 顔を引きつらせたフィーロに千佳が気になって声をかけていた。生ものを食べるという食文化が無いソチノイラ育ちのオレたちは疑問と不安しかない。戸惑いながら問いかけると、さも当然かのように「そうだよ?」と返ってきた

 

「進、あいつらの国って寿司とか無いのか?」

 

「そうなんだよ。寿司だけじゃなく生では食べないから、肉もしっかり火が通ってじゃないと食べないんだよ」

 

「そうなのか?」

 

 林藤支部長と進さんとレイジが3人で話していた。過去に生ものを食べていたという話は聞いたことがあるが、加熱していないため雑菌が死ぬことなく身体の中に入ってしまうこと、食べれるところと食べれないところの分かれ目が分かりにくいため、生ものを食べて体調を壊した、死亡してしまったという事例があるため飲食店では基本的に火を通して安全にしてから食べるというのが常識となっている

 

 当時の調査ではその程度しか分からなかったが、玄界(ミデン)にこのことを当てはめると雑菌がいるのは寄生虫が住み着く生物だったから。食べられるところと食べれないところは死んでから時間が経ち毎回腐っているところが変わってしまっていたから。体調を壊したのは加熱しないといけない部位を生で出したから、寄生虫が人体に寄生してしまい薬や検査をしても分かりづらかったから。ということになる

 

 かなり昔のことだから詳しいことは不明だけど中には状態が悪いものとかも混ぜて高値で売っていたということもあったとか

 

「へ~そんなことがね。まあ大丈夫だ、食べられるものじゃなかったら売ってないから。騙されたと思って食ってみろ?」

 

「………」

 

「…どうする兄ちゃん?」

 

 さすがにフィーロも食べるのは戸惑っている。林藤支部長が言っていることも間違いとも言い切れない。問題があればそれは商売として成り立たないため売っても意味が無い。だから売れるものは問題なく食べられるということだ。しかもオレはこの間嘔吐してしまったこともあるから結構不安も大きい

 

 だが進められている以上食べないわけにもいかず、恐る恐る手にとって半分かじる

 

「……?…っ!!?んっっーーーーーー!!!?」

 

 ご飯にもなにか手を加えているのか少し味があった。次に感じたのは乗った魚の身の柔らかさ。この前のお菓子の店で買った練り菓子に近い食感。味も変と思うほど不味いと感じるほどではなかったんだけど、徐々に刺激的なのが口の中を暴れ回り、何なんだ? と思った瞬間鼻の奥から突き刺すような痛みにオレは口と鼻を押さえてシンクに租借していたものを吐き出し、水を注いで口の中を注ぐがまだ痛かった

 

「なに…ごれ?めっちゃはながいだい……」

 

「に、兄ちゃん!?大丈夫!?」

 

 何なんだろこれ? あまりにも痛すぎて何年かぶりに涙が出てしまった。フィーロが心配して駆け寄ってくれるが、1人だけ思いっきり笑っていた

 

「あーっはははっは!!伶!おまっ……すっげー慌てて!!っぶ…っくっくく」

 

「進、おまえ……わさび入りを進めたのか?」

 

「いやー伶も17だしいけるかなー思ってたんだけど、やっぱりだめだったか」

 

 人が尋常じゃない鼻の痛みに悶絶しているときに笑っていたこの男は許し難い。大分落ち着いたから進さんの前に立つと

 

「わるかったって、今度は抜いてるほうをブフォッ!?……れ、おま……」

 

「……そのまま暗闇から帰ってくるな」

 

 手を握って腕を引いてから思いっきり突き出す。全く悪びれてる様子も無い進さんの鳩尾に渾身の一撃を食らわせた。腹を押さえて蹲ったが意識を保てず気絶。それからオレは指をポキポキと鳴らしながらみんなの方を向いて「わさび」とは一体何なのか問いかけた

 

「…珍しく兄ちゃんがキレてる……」

 

 強い刺激性と香を持つ食材で料理に薬味や調味料として使われるらしい。摩り下ろして使うのが一般的で身をもって知ったように刺激が強すぎるから量は気をつけたほうがいいらしい

 

「あちゃーここのは結構乗っているな」

 

 林藤支部長が箸で身を持ち上げると砂糖とかを一つまみした程度の緑色の物体が挟まれていた。慣れている人じゃないとこの量は厳しいらしく

 

「僕はさすがにその量は食べれないです」

 

「私も…」

 

 と修と千佳が遠慮していた。陽太郎も除いてそれ以外の人たちは食べれるという。炭酸のジュースといい玄界(ミデン)の人間の味覚は刺激的なのが好みなのかと疑いたくなる

 ソチノイラにはこういった調味料はある。けれど鼻の奥が痛くなるというものは無かった。初めてで不意打ちを受けた所為で今後わさびは受け付けれないと思う

 

 とりあえずわさびが入っていないほうの寿司を食べると意外と美味かった。ただやっぱり生ものという点が気になってしまい、腹を下してしまわないか心配になってしまう。ほかにも黄色いのは卵だったり、マヨネーズと混ぜたツナマヨだったりと安心して食べられるものとかもあってよかった。フィーロも案外気に入ったのかパクパクと口に運んでいると突然口を押さえた

 

「どうした、フィーロ?」

 

「兄ちゃん…これ、なんかプチプチ爆発してるんだけど!?」

 

「え…爆発……?」

 

 一体何を言っているんだと指をさしていたものを見るとぐるっと巻いた海苔の中に赤い透明な球体の謎の物体があった。爆発と言った言葉に食べるのを躊躇してしまうが、気になったのか修が見に来てこれの正体を教えてもらった

 

「それはいくらですよ」

 

「いくら?ん?これ高いの?」

 

「いくら」というらしいがなぜ修は金額を聞くときの言葉で答えたのかわからない。フィーロも同じ考えに至ったようで頭を傾げていた。オレの疑問がおかしかったのか苦笑いして詳しく教えてくれた

 

「いくら」というのはサケという魚の卵で、産卵する前に取り出して醤油にや塩に漬けたりして食べるんだという。プチプチするのは膜があるからで、噛むと弾けるように中身が飛び出すからなんだとか

 

 魚の卵まで食ってしまうなんて玄界(ミデン)は意外と残酷なことをするのか一瞬思ってしまったが、オレたちも鶏の卵を当たり前のように使っているのでそうでもないなと考え直した。ただ生の魚の肉をご飯に乗せて食べるのは正直気が狂っているのじゃないかと、思いついた人の精神を心配してしまった。すでにこの世にいない人を心配するだけ無駄なのは分かっているけれど

 

「フィーロ、まだ渡さなくていいのか?」

 

「ん?あ!!そうだった!!」

 

 とりまるがフィーロに何か言った後慌てて上の階に行った。何を渡すんだと気になっているとガサガサと音が聞こえてきた。ビニールじゃなくこれは紙に近い。まさか思いつくままに行動するフィーロが玉狛支部の人たちに何かお礼てきなのを買ったのかと思い感心しようとしたのだが、下に降りて部屋に入ったときには両手で抱えるほどの大きなものを持っていた

 

「兄ちゃん!これ!」

 

「え…オレに?」

 

 しかも渡す相手がオレだった。成長したなと思ったが訂正だ、案外そうでもなかったしこの大きさだと相当高いものを買ったのではないかと思う

 

「フィーロ、ボーダーからのお金、全部使ったな?」

 

「っ!!?そ、それは……」

 

 フィーロ自身のお金はまだ上げていないから買うためにはボーダーから防衛任務で稼いだ報酬金を使ったのだろう。けれどこれだけの大きさだと全て使ったに違いない。そして問いかけると当たりのようだ。心臓の鼓動が早くなり目を逸らした

 

 そりゃまだ子供だから買いたいものを好きに買いたいのは分からなくもない。傭兵だから減れば稼いでしまえばいいのだが、フィーロは金遣いが荒すぎる。お金の大切さをいい加減知ってほしいものだと大きくため息を吐くと横からとりまるが出てきた

 

「まあそこまで責めなくてもいいだろう。なにも欲を持って沢山買ってしまったわけじゃないんだ」

 

「そ、そうだよ!兄ちゃんが喜ぶと思って……ほとんど使ったけど…」

 

 一度怒られそうになった所為か自信なさ気に続けて言う。どうやらお金を沢山使ってしまったという自覚はあるみたいだ。ないよりはまだいい方かとこの話は終わりにして開けてみることにした

 

 文字は読めないが祝われているのか分からない紙で包まれたプレゼントを裏返してテープを剥がし、開いていくとこれは予想外だった。せいぜい沢山のお菓子とかが入っているのかなと思っていたのだが

 

「これは……」

 

「おーー鉄道模型が沢山じゃないか」

 

 林藤支部長の言うとおり鉄道模型が一杯だった。しかもオレがすでに持っている新幹線というものの車両を増やすセットがあった。ほかに赤色、青色、銀色など数種類あり。おまけに線路まで山のようにあった

 

「ほら、旅行で来たからさ。次いつ来るか分からないじゃん?だからそれまで飽きないように色々買ってみたんだ」

 

 確かにこれはオレが喜ぶものだ。鉄道模型というのは不思議と魅了されているため、これだけあるとしばらくは飽きることがないと思う。ただ線路の上を走らせる。単純なおもちゃでしかないのに不思議なものだった。しかも銀色のはつい最近発売されたものらしい。「新発売」と書かれていたらしい

 

「あ、これトラス橋ですね」

 

「トラス橋?修、鉄道に詳しいのか?」

 

 しかもここで反応したのが以外にも修だった。また不意を突かれようでみんなも驚きの表所をしていた

 

「あ、いえ…鉄道には詳しくないのですけど、橋とかは結構好きで」

 

 こういうと失礼なのは分かっているけれど真面目な修が橋というどこにでもあるような建築物が好きというのは意外性があった。見てもいいですか? 聞かれたのでいいよと答えると手にとって眺めている。鉄道模型というのは実際にあるものを縮小した模型の大きさで作っているため、細部までこだわって作られているらしい。でもやはり小さいためどうししても再現不可能な部分もあったりするらしい

 

 修いわく橋は忠実に再現されているが、やはり実際のものと思い比べるとレンガ模様が均一だったり、上から眺めたとき枕木という線路を安定して載せるための木材が安っぽく見えたりなど中々に厳しい評価をしていた

 

「ぁ、すいません。篠島先輩のものなのに」

 

「はは、大丈夫だよ。気にしてない。それよりも修のほうが意外だったな、そこまで細かく見ていたなんて。よほど橋とかが好きなんだな」

 

「あ、あはは……」

 

 まさかここで自分の好きなことを披露してしまったのが恥ずかしいのか照れてそれ以上何も言わなかった。親しい遊真や千佳でも知らなかったことらしい。でも好きなことを突き詰めていくのは良い事だと思うし、拘りを持つのは自分の好みとかはっきりするだけでなく、第三者から見た意見というのは作った当事者からは分からなかった発見がある

 

 そういえばオレも稼ぐようになって食べてみたかった店のお菓子をあれこれ買ったり、おいしい店はないかと探索していると父さんから少し驚かれたことがあった。「おまえ、散歩が好きだったのか?」と

 オレはそんな自覚などなく、ただお菓子の店を探していただけだからその時は違うよと答えたけど。続けて父さんは「好きでも好きじゃなくても自分の住んでいるところを見るのはいいことだ。いろんな発見もあるしより知ることができるからな」とも言っていた

 

 と、ここで父さんの言葉を思い出していたら少しだけ頭に引っかかった。「住んでいるところを見るのはいいことだ」という部分。オレは生まれたところは知っているし、先生たちからどういうところなのか聞いてはいたりする。でもそれは他人から得た情報だ。オレ自身が歩いて見て聞いて知ったことじゃない。本当の家族とも会って、それを知ることは良かったと思える。なら、オレの家族が住んでいるところを知るのも案外悪いことじゃないのかもしれない

 

 結果どういうことに繋がるのかはわからないけれど、情報というのはなんでもないことでも損はすることがない。ただオレは近界民(ネイバー)で、玄界(ミデン)の人たちからは嫌われている。正体を知られないように気をつけないといけないな、今度散歩でもするとき頭の中に留めた

 

「さてと、さっきは怒ってしまったけど。オレも人のことは言えないからな。今なら好きなだけ文句は言えるぞ?」

 

「え?どういうこと…?」

 

 オレのプレゼントは一通り見たので、続きは部屋に持っていったときにしようとまとめた。わけが分からないフィーロは困惑していて、それもそうだなと部屋から同じ紙に包まれた大きな箱を持ってきた

 

「え!?兄ちゃんそれって……!」

 

「さすがに透けてるから分かるか?」

 

 紙一枚だから中の箱の絵がうっすらと見えてしまっているため開かなくても何が入っているのか分かる。受け取ったフィーロは嬉しそうに喜んで、紙を剥がしてさっそく中身を出していた

 

「お前さんも粋なことをするな」

 

「そうかな…なんかなにかと理由をつけては甘いんじゃないかと思うんですよ」

 

「ははは、それでいいんじゃないか?お前もフィーロもまだまだ子供だ。わがままを言って好きに遊んで今しかできないことを思いっきり楽しめ」

 

 林藤支部長が褒めてくれるが、オレとしては少し複雑だ。最初にあのおもちゃ屋に行った時我慢させたのはオレなのに、こうして高いものを買ってあげている。オレもまだお金に余裕があるから好きに使いたいという欲が溢れているのだと実感した

 

「ありがと、兄ちゃん!!」

 

「…おう、壊さずに大事にしろよ?」

 

「うん!」

 

 満面の笑みでお礼を言ってくるが、なまじフィーロも身体を鍛えているため力加減を間違えると簡単に壊しそうだ。どれくらい持つのだろうなと不安もありつつも、弟の喜ぶ姿はいつも見ても幸せなものだ

 

 戦争は非情で残酷。だからこそ大切な人との思いがけない別れというのはとても辛い。できることならフィーロが父さんのところに行ってしまわないでほしいと虚しい願いを祈るばかりだ




なんだかんだで甘いお兄ちゃん。まだまだ未熟だと生まれ故郷に戻って初めて知った自分に成長の余地を感じたのかな…?





その先に〜より彼方の傭兵方がモチベがあるのはなぜ…


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16話 鬼ごっこと大晦日

 屋根の上を走って下で逃げている修を追いかけながら弧月を抜いて頭上に飛んで振り下ろす

 

「っ……上っ!!っく!」

 

「ギリギリだね。でもこの程度なら簡単に倒せるよ」

 

 刃があと少しで切りそうなところで修はやっと気付いてレイガストでギリギリ防いだ。そのままお互い追撃などせず修が離れていった。オレは追うことなく10秒数えて再び追いかける

 

 今やっているのは「鬼ごっこ」だ。オレとフィーロが考えた訓練方法。「鬼役」は攻撃が1回に1度のみ。10秒の間を置いて「逃走役」を追いかける。「逃走役」は制限が無く逃げに徹するも反撃に転じるも迎え撃つも自由。この訓練での勝敗は「逃走役」が「鬼役」を倒すか、制限時間が終わったときに鬼役が生きていたら勝ち。「鬼役」が攻撃を当てたときは役が変わるため、時間が経ったときに負けにならないために必死になって追い掛け回したものだ

 

 フィーロの夜の雨(レーゲン)は硬いから勝つのにもそこそこ苦労した。亀みたいに篭られると中で「硬化」で刃を作って刺したり。数の撃って壁を破壊されて無理やり責められたりと、今思い返せば中々にごり押しな戦い方をしていたなと思う

 それでも気は抜けないから訓練としては一応成り立っていた

 

 今追いかけている修は正直言ってかなり弱い。構えも逃げ方も反応も何もかもだ。当然オレがその気になれば一瞬で役を交代できるが、それじゃ修の訓練にならない。もちろん攻めるときの戦い方も身に付けないといけない、けれど先に教えるべきは防御と逃走だ。大した戦闘力は無くとも敵に見つかって少しでも生き延びることができれば戦い続けることはできる。進さんも攻撃面は並。けれど一度死に掛けた経験から逃げることの重要さを知っているため生存率ではかなりあがっているほうだ。それでも譲れない場面があると残ろうとする、ボーダーとして守らないといけないとと言って。いつか本当に命を落とすんじゃないかとヒヤヒヤするばかりだ

 

「うわっ!?」

 

「防げよ?」

 

 追いついた修の目の前にテレポートで移動して弧月を横に構えるとさっきよりは強めに振る。レイガストでは間に合わなかったみたいだが、シールドで防ぐも力に負けて数m後ろに吹き飛んだ。振りかぶったオレはそれで攻撃1回なのでまた10秒経つまでその場にいなければならない。すると起き上がった修が右手を向けたと思ったらトリオンキューブを生成した

 

「アステロイド!」

 

 6つに分割した弾は威力は無いが、時間差で放つようにしてて少しでもこの場に留めたいようだった。撃ち終わるとそのまま逃げた

 

「留めようというのは悪くないが、アステロイドだと逆効果なんだけどね」

 

 撃ち終わるまでにおよそ3秒。一度に放てば1秒程度なのにこの2秒差は逃げれる距離を大きく縮めることになる。返り討ちや迎え撃つのもアリのルールだが、修にそこまでできるのかわからない。もしかしたら空いているスロットにオレが知らない何かをセットしたのかもしれない

 

「9…10……さて、ただアステロイド撃っただけじゃないんだろ?………っ!!?」

 

 時間が経ったので再度追いかけるが、曲がった瞬間には広範囲に広がる小さなアステロイドの弾。いつ準備したんだと考える。生成時に空気が震えるため分かるのだがそんな音は無かった。大して離れていない距離でどうやってオレの耳を騙して作ったのか? 考えるよりもまずシールドでこれらの弾を排除しなければいけない

 

「アステロイド!スラスターON!」

 

「っっ!!」

 

 弾を放つと同時にレイガストのオプショントリガーを起動して一緒に近づいてきた。修が考えているのはアステロイドで耐久力が下がったシールドを壊せると。オレの耳を騙して弾の壁を用意したのはいいけれどまだ詰めが甘い

 

「…いない!?」

 

「後ろだ」

 

 レイガストが振り下ろされた瞬間、オレはテレポーターを起動して修の背後に回り逆手に構えた弧月で胸を貫く

 

「っく…またやられた」

 

「敵が修の想定どおりに動いてくれるとは限らない。常に周囲に気張ることだな」

 

「はい……」

 

「だけど時間差で放ったアステロイドはよかったと思うぞ。角を曲がったときに設置してあるなんて思ってなかったからな」

 

 おそらくだが弾がシールドに命中している間に用意したのだろう。当たって弾ける音と出して分割する音が重なったから気づかなかったのだと思う。技術や動きはまだまだだが考える頭は秀でているみたいだから、このまま成長すれば立派な参謀とかにはなるだろう

 まあそれでも数年はかかるだろうが

 

「それじゃ今度は修が鬼役だ。がんばってオレを鬼にしてみろ」

 

「はい!」

 

 やる気があるのはいいことだが、まずは追いたところでオレのガードを突破できるかだ。修のトリガーの構成だとレイガストとスラスターでのシールドを破壊の強引な方法くらいだろう。だがそれに以前にトリオン量の違いもあるから簡単には壊れない

 それじゃあアステロイドを設置して待ち構えるのか? それも無理だろう。耳がいいオレにはわざわざ罠に飛び込むことがない。力量的にもトリオンでも劣っている修がどう工夫して追いかけるのか少しだけ興味があった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 生まれ故郷に帰ってきて残っているメンバーに再会したり、成長したボーダーを調べたり、この5年間三門市にあったことを知ったりなど慌しい日々から抜けて、今日は久しぶりに街をゆっくり見て回ろうと歩いていると、ソチノイラにはない服を見かけてそう言えば持っているのは全部向こうで買ったものだったと思い返してこれからここで暮らすわけだから買おうと服やに入った

 

「うひゃー高っ」

 

 レイジから聞いてはいたが税率が上がったことでオレが知っている値段より少し高かった。多分だがソチノイラの物価がそんなに高いわけじゃないから、それに慣れてしまったからそう思うのかもしれない。とりあえずジーパンを2つ籠に入れて他にも見て回ると店員に声を掛けられた

 

「なにかお探しでしょうか?」

 

「ああ、えっと上の服を適当に見て回って……て…真都ちゃん?」

 

「風間くん…?…え、うそ……なんで…!?」

 

 驚いた。たまたま寄った店に声を掛けられた店員が旧メンバーで唯一引退した九條(くじょう)真都(まと)ちゃんだった。目じりに涙を溜めて口を手で隠して驚いている。それもそうか、死んでいたと思っていた人間がいたら当然の反応だ

 

「ほんとうに…風間くん?」

 

「おう、あの時助けてくれた子供がいてな。死に損ねたよ」

 

「っっ!!」

 

「九條さん!?」

 

 ついには泣いてしまった真都ちゃんは店員に支えられながらバッグヤードに入り、少しして出てきた。早いけれど休憩をもらったらしい。近くに喫茶店もあったのでそこへ誘った。それからはお互いのことを話し合った

 

「そっか。その伶くんのおかげで」

 

「ああ。あいつが居てくれなかったら本当に死んでたよ」

 

「…他のみんなは……?」

 

「…すまん。生きれたのはオレだけだ」

 

 一度はボーダーのメンバーとして一緒に過ごしてきたけれど、今はアパレルショップの店員という一般人なため詳しいことまでは教えられない。ネイバーのことも大きくはいえないから本当に簡単にしか伝えられない

 

 真都ちゃんはオレが生きているからもしかしたらと思ったらしいが、残念だけど死ぬのを免れたのはオレだけだった。やっぱりと言った表情で真都ちゃんは顔を曇らせた

 サンドイッチを頬張り咀嚼しているとこれからどうするのかと聞かれた

 

「とりあえずはボーダーにいるよ。5年も行方不明だったからね。ダチとかにばったり出会ってしまったら面倒なことになりそうだけど、頃合を見てお袋たちに顔を見せようかなって思う」

 

「そうだよね。ネイバーのこと知らない人からだとびっくりするよね」

 

 蒼也から聞いたけれどオレの戸籍は故人として記録されているらしい。つまりは死亡したということだ。一応7年の猶予はあるが、お袋たちが気持ちの整理をしてそうなったらしい。墓石にも刻まれているようだ

 

 このあとは特に何かがあったわけじゃない。真都ちゃんの休憩の時間が少なくなってきたので別れた。連絡先も交換して店を出たオレは玉狛へ帰った

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「どうぞ」

 

 部屋で鉄道模型を走らせて眺めていたらドアがノックされた。来る音からかなりの重量を持った音だったから林藤かレイジかと予想していたら後者だった

 

「これから時間があるか?」

 

「あるが、買い物か?」

 

 入ってきたレイジは服を何枚か着ていた。支部内でこれということは出かけるということなのだろう。それえなんでオレを連れて行くのかは分からないが、乗った車内で教えてくれた

 

「国の料理?」

 

「ああ、進さんからお前とフィーロは1人でできると聞いてな。今年も最後だからお前たちの国の料理も食べてみたくてな」

 

「そういうことか」

 

 折角タダで住まわせてもらっているし、何も手伝わないわけにもいかないからレイジの提案には文句はない。むしろもっと早くに手伝うと言えばよかったのだ

 最近は忙しくて忘れていたが、レシピを入手してほしいという依頼があるのを思い出した。だが玄界(ミデン)の言葉は難しいから本を買って済ますことができない。けれど隣にいるレイジは支部内では一番の料理上手で種類も豊富。味も店を出してもおかしくないほどだから教えてもらおう

 

「なあレイジ。教えて欲しいことがあるんだが、この国の料理を教えてくれないか?」

 

「料理?レシピのことか?」

 

「そう。他国のレシピをいくつか持ち帰ってくれって依頼で、スタミナ系とデザート系がいいらしい」

 

「なるほど。それなら支部に戻った後でいいか?」

 

「それで大丈夫だ。作り方をオレが書く」

 

 翻訳できるほど国の言葉を知っているわけじゃないからレイジが言ってくれたレシピをオレが書き記すしかない。時間は掛かるだろうけど

 

 そして着いた先がスーパーという店だ。何がすごいんだと「スーパー」という言葉と食料品の関係を考えるがやっぱり分からない。カートという押し車に籠を載せて店内へ

 オレも自国の料理をするために食材を見るがどれも残念なものばかり。形が整ったものがほとんどだ

 

「…鮮度の見分け方は」

 

「いや、それは分かるんだ。オレが思っていたのは綺麗に整った形ばかりなのが残念だってことだ」

 

「それが普通じゃないのか?お前たちの国は違うのか?」

 

「ああ、ソチノイラじゃ歪なほうが高級だ」

 

 形が歪ということはそこへ栄養が詰まっている、もしくは足りすぎて溢れている状態で高値で売られているのだ。逆に形が整っているのは基準値を満たしているだけ。調理のときにしやすいけれど、やはり味や栄養は歪なほうが上だ

 

「だから基本の形より大きい、どこかが膨らんでいる、曲がっているなど高値で売られるし。こんな形に育つのかよって言うようなものが料理屋とかが落札している」

 

「なるほど」

 

 まさか食材の考え方まで文化の違いを知ることになるとは思わなかった。とりあえず歪な形のがないとなると整ったのを買うしかないとあきらめて籠に入れていく

 

 

 




気づけばもう11月になろうとしている・・

1年経つのが早いなぁ・・・


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閑話 家族ができて、弟ができた日(前編)

本編がちょっと止まってしまっているのでちょと寄り道を


 少し無駄話をしよう。今回はちょっと話から逸れてオレの昔の話をしようと思う、だから無駄話なんだ

 

 始まりは少し戻る。少し前の依頼に行く前日会った少女からだ

 

 

 

 ―――――――――――――――――――――

 

 

 

 

「またやっちまった……ここは東地区か」

 

 買い置きしていたお菓子が切れそうだから買い足しに行こうと思っていたのに、気がついたときには首都デルシスの東地区に来ていた。目的地は西地区のはずなのに全く反対に来てしまった

 これはもう方向音痴のレベルで危ない。なのに家にはしっかり帰れるし、散歩やお菓子が絡まなければ目的にちゃんと行けるのにおかしい。オレの散歩癖って直せないんだろうか?

 

「お、ここはカカオクリームが美味い店か」

 

 甘いけれどちょっとした苦味があるトロっとしたカカオクリームの専門店。割合によって苦味しかないクリームだったりと大人から子供までおいしく食べれる店でオレが12のときに気に入ってたお菓子だ。ちなみに施設の先生は「チョコクリーム」と言っていた

 

 久しぶりに食べたくなったというか、見つけてしまったから食べたくなったので買うことにした。クリームを使ったケーキ類が半分以上あるのだが家においてい置くためのを買う予定なので焼き菓子を買うことにした

 10種類あるなか3種類をいっぱいに買って抱えるように持って店を出る

 

「さーて帰るか…ん?」

 

 目的のものとは違うけれどとりあえずお菓子は買えたので家に帰ることにした。オレの家は南地区にあるから数十分着く。天気もいいし遠回りでもしようかなと考えたけど明日には依頼を受けて接近している国に行かなくちゃいけないから、それまでに少しでも休んでいようと思っていたのだが

 

 オレの耳が遠くで女の子の泣き声が聞こえた。オレがいる位置と聞こえる声からして多分壁の向こう側なんじゃないかと思う。急いで門に向かった

 

「協会の怜だ。今日女の子がここを通らなかったか?」

 

「…いや、通っていないし」

 

「そもそも許可がなければ通ることすらできないからな」

 

 派遣協会所属の証のカードを見せると確認した門番が答えてくれるがオレの耳には確かに聞こえている。罠にしては人の声に近すぎるし、機械だったとしたら独特の反響音も聞こえるはず。それがないということはこの声は紛れも無く人間の女の子だということだ

 

「ならオレを通してくれ!勘違いとかならそれでいい!」

 

「…分かった。協会の人間なら問題ない。ただし夕刻7時には閉じるから気をつけろよ」

 

「助かる!トリガーオン!」

 

 緊急時や依頼などで傭兵が頻繁にデルシスの外に出るのは珍しくない。それでも本当は通行するための書類を書いたりなどしないといけないのだが、SSランクのオレはそれを無視できる

 実力や実績ももちろんだが、SSランクになるにはそいつの性格や態度など人間性なども重要視される。周りに迷惑をどれだけかけているか。人付き合いや交友関係はどうなのか。嘘などはつくのか? と調査をされて問題がないと判断されればやっとSSになるのだ

 同時に協会や国にとって重要な存在にもなるから、不利益になるようなことは極力しないようにしなければいけなかったり。良好な関係を絶ってしまうような事態にならなように注意しないといけないほど交渉や対応は気をつけないといけないのだ

 

 本当ならフィーロもSSになっても問題ないほど実力と実績はあるのだが、交渉が苦手なため下手をすればソチノイラにとって不利益なことをおこしてしまうんじゃないかということでSランク止まりなのだ

 

「なあ。お前が当番のとき女の子って来たか」

 

「ああ、来たよ?10歳くらいの子が。隣町におばあちゃんがいるからって」

 

「バカ!(こっち)側は危険生物が多いんだぞ!」

 

 広い土地を走っているとさっき通った門から衛兵同士の話し声が聞こえた。どうやら女の子は本当にとっていたらしい。オレが聞いた衛兵は交代してたから知らなかったということだ

 だけど叫びが聞こえているからわかっていたが、東側は近い街でも1万km以上はある。途中に森があるがそこにも村が1つ。それでも魔物の生息地でもあるから、10歳の女の子が行くにはとても危険なところだ。奇跡でも起きない限り生きてたどり着くことはできない

 それくらい危ないから協会に護衛や討伐依頼が絶えない

 

「いた!……サイスタイガーか不幸中の幸い…ってのは違うか?」

 

 視界に前足から鎌のような切断武器を生やした犬型生物。こいつらは基本的に群れで狩を行うのだが、たまに1匹でうろついているのがいる。その場合獲物を逃がさないように監視しながら仲間を呼んで、全員で確実に仕留めるのだ。幸運だったのは数が2匹だということ、女の子が気を背にしているがまだ無事だったということだ。すでに群れを呼ばれているだろうが目視できる距離までこれたなら助けられる。見えない脅威(ノヴァ)を起動して「硬化」を使う。けれどまだ距離はすこしあるから近づかないといけない

 

「…逃げないのか。悪いがその子は食べさせないよ」

 

「グガァァア!」

 

 2匹のうち1匹がオレに気がついて向かってきた。前足の鎌は鋭く群れのリーダーくらいになると樹木を切り倒すことだってできたりする。ただの生物がなんでそんなことができるのか? それはトリオンによって肉体に変化が起こってしまったからだ。もちろん人為的に

 このサイスタイガーはどこぞの乱星国家が捨てていった置き土産。非常に危険なため殲滅したとされていたけれど、生き延びて数をいつのかにか増やしてしまったのだ。もうほかの生物同様襲撃や邪魔をしてくれば返り討ちにしても構わないとされてしまっている

 

 走ってきたサイスタイガーは飛ぶと前足を伸ばしてきたが、左手で三日月を振りぬきながらタイガーを切り殺す。そのままオレは女の子のそばを離れないもう1体も倒す。人は殺さないのがオレたちの家の心情だが、ほかは危険であれば命を奪うことだってある。討伐依頼だってこれまでにいくつも受けたりした。中には災害が起こった後のような凄惨な状況になるような生物も。ただこれらの危険度が高いもののとかはオレみたいなSSSランクのが担当だったりするのだ

 

 とにかく女の子はこけたのかひざに擦り傷がある程度で目立った外傷はなかった

 

「大丈夫か?もう怖いのはいないよ」

 

「っ……ぅわっぁぁあぁーー!!」

 

「おっと!……うん、怖かったな」

 

 ひざを地面につけて声をかけると安心したのか泣き始めて飛びついてきた。トリオン体だから濡れた感触はしないけど、オレの胸は今女の子涙と鼻水で酷い状態だろうなとどうでもいいことを考えてしまった。シャツをを脱いでしまったらインナーウェア1枚しかないから水を被ってしまったら、乾くまで代わりのものがないなんてこの衣装に替えてからはそんなことを思ったこともあった

 

 そういえばフィーロはもう泣いてる姿を長いこと見てないなと女の子の頭を撫でながら大切な弟を思い出した。小さいころはものが壊れたり、好きな食べ物が無くなって食べれないことによく泣いたりしていた。女の子みたいにかわいい時期があったんだよなとまるで父親みたいなことを思った。これもあのジジ臭いことをオレに言うからうつってしまったのだと施設のおっさんに恨み言を呟いた

 

 女の子の名前はキーア。姉と母親の3人暮らしでオレと同じ養子だった。どうして街の外に出たのか聞くと姉と喧嘩をしたらしい。その理由が妹が生まれるということだという。それがよくわからないからさらに聞いて見た

 

「だって生まれたらおねえちゃんいっつもアタシに『これからお姉ちゃんになるんだから我慢しないといけないし、お手伝いもいっぱいしないといけないんだよ』って言うの!アタシまだ大人じゃないもん!」

 

「そ、そうなんだ…でもお母さんもお姉さんも手伝ってくれるとうれしいんじゃないかな?」

 

 どうやらまだ11歳だから甘えたいというのが理由みたいだった。確かにソチノイラでは16歳から大人として扱われるが、それでも未成年でも家の手伝いやお店で働いたりなどがんばっている子もいる。特にデルシス外周に住んでいる人たちは10歳にも満たない子でさえ土木作業の仕事場で汗を流している

 

 だからといってこの子甘えたいという気持ちが間違っているわけじゃない。だがいずれは16歳になり大人として働くこととなる

 

「違うもん!!お姉ちゃん絶対私のこと嫌いだもん!だからいつも手伝いなさいって怒るだもん!」

 

「……そっか。でもこのままお母さんやお姉さんに甘えていたら、誰にも助けてもらえなくなるよ?」

 

「そんなことないよ!」

 

「ううん。君の家もどれくらいお金があるのかはわからないけどね、ご飯食べたりするのにお金が必要なんだよ?いつまでも甘えてばかりだと何もできなくなる。外周に住んでいる子達だって小さくても毎日ご飯を食べようとがんばっているんだよ?」

 

「アタシあんな汚くならないもん」

 

「………」

 

 どうやら徹底して自分は甘えていられる立場だと思っているようだった。養子として迎えてくれたから愛情いっぱいに育てられたのだろう。その影響でここまで育ってしまった

 さっきまで死んで食べられるという危機的状況に遭いながらも変えないのならオレにもうこの子を諭す理由なんてない。このまま甘えて見限られてしまう結果を他人事として傍観するしかない

 

 いくらSSSランクだからって自立できるようにするまで面倒を見てあげる義理はない。そもそもオレにこの子を助ける理由なんて最初っからないのだから。たまたま悲鳴を聞いて傭兵として、協会の人間として助けないいけないと思ってからであり、万人を助けてあげる聖人でもない

 

「そっか。じゃあお兄ちゃんからはもう何も言わない。それからいっぱいお姉さんたちに甘えて怒られたらいいよ?」

 

「…え?」

 

「その代わりお母さんとかはいっぱい迷惑を受けることになると思うよ?新しい子の面倒を見てあげないといけないのに、君があれが欲しい、これが食べたい、あそこに行きたいと甘えて疲れてしまっても君は知らないんでしょ?」

 

「ち、違う…お母さんは悪くないの!悪いのはおねえちゃんだもん!」

 

「誰が悪いとかじゃないよ。お姉さんもお母さんも大変なときに君は何もしないのかって話。何もしないのならお兄ちゃんは君を助けたことを後悔するかもね。お姉さんもお母さんも疲れさせてしまう原因を作ってしまったのはお兄ちゃんだから」

 

「ちがうぉ…なんで……っそんなごと言うの…」

 

 別れる前に少しだけお説教でもしてあげようと思う。これでも一応1人の弟を持つ身として、本当は誰かの子でありながらも養子として迎えてもらった者同士として。そしたらというか当然責められていると思った子は徐々に泣き始める

 

 まだ小さい女の子だから泣かせてしまうのは少し心が痛いが、この子のためにも言っておかないといけないと鬼になる

 

「だけど君が、たとえばお皿を洗うのを手伝うだけで何が変わると思う?」

 

「ぅ……っっー!」

 

「君が変わりにしてあげることでお姉さんもほかの事に集中できるし、お母さんも赤ん坊の世話をできるんだよ?たったそれだけですごく助かることなんだ」

 

「お、にいちゃ…んはおでづだ…して…」

 

「うん、してるよ。というより今は手伝ってもらっている、かな?」

 

「ふぇ?」

 

「お兄ちゃんも君と同じ養子なんだ。だから昔は部屋の掃除や皿洗いとかいっぱい手伝ったよ。そしたらお駄賃もらえたけどね」

 

「……アタシも手伝ったら……もらえる?」

 

「それはお姉さんたちに相談してみたら?それでいつか貯めたお金で何か好きなもので買ったら良いよ。面白いことがわかるよ」

 

「面白いことって…?」

 

「それは秘密。誰かに教えてもらうんじゃなく自分で感じたら良いよ」

 

 少しだけオレのことも話すと興味を持ってくれたのか少しずつ泣き止み始めた。やっぱり共通点がある者同士だからかわかりやすいのだろう

 施設で4年も過ごしたこともあるかもしれないがみんなでお手伝いや掃除をしようという風に教えられて育ったから、父さんに引き取られてからも甘えることもあったが家政婦さんのお手伝いをしようということに文句はあまりなかった

 

 しかも父さんが帰ったとき家政婦さんに報酬を払ったり次のことについての相談とかするのだが、そこでオレが手伝っていることも話していた。父さんは偉いな、とかがんばったな、とか言ってお駄賃をもらった。それがオレがはじめて働いて得たお金だった。そのお金で買ったお菓子はいつもより味わって食べておいしかったのを覚えている

 

「お手伝いしてみたくなった?」

 

「…うん」

 

「うん、いい子だ。それじぁ帰ろうか」

 

 この子は甘えたいだけの子なのかと思ったけど、案外そうでもないみたいだった。今の動機としてはオレがお駄賃をもらってそれで好きなものを買ったときの『面白いこと』ってやつが気になっているからだろう。理由はどうであれお手伝いをする切欠は与えることができた

 

 まだ襲われないとも限らないから『硬化』で周囲に膜を作り安全を確保する。見えない脅威(ノヴァ)はオレを中心に動くから、女の子とは手を繋いで街へ歩きはじめる

 

 道中暇なのでオレの身の上話でもしてあげた。聞いてて面白くもないかもしれないけど、これからもお手伝いをしたり、新しく生まれる子のお姉ちゃんになるための参考程度に聞いてもらえれば十分だ

 

 

 

 

 



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閑話 家族ができて、弟ができた日(後編)

 

 

 

 13年前。南通りの孤児院

 

 

「レイーー待てー!!」

 

「やっだよー!捕まるものかー!!」

 

 オレは今逃げている。鬼に捕まらないために

 

「鬼ごっこ」という先生の故郷の遊びらしく。最近オレたちはこの鬼ごっこに夢中だった。ただひたすら逃げるだけだけど

 

 足に自慢があるオレは逃げ続ける。途中ほかのやつに近づくと

 

「っげ、こっち来んなよーー!!」

 

「ごめーん」

 

「レイ!それ絶対悪いって思ってないだろ!」

 

 鬼はほかのやつに狙いを変えた。うまいこといったと追われることとなったやつに適当に謝った

 

「ん?誰だあのおっさん?」

 

 逃げている途中でオレたちの家の門にひげ面のおっさんが立っていた。もしかしてお客さんかなと思ってオレは先生を呼んだ

 

「せんせーい!誰かいるよー!」

 

「え?あ、ホントだわ」

 

 おっさんに気づいた先生はあわてて行った

 

「ところでレイ」

 

「ん?なに」

 

「お前が鬼なーーー!!」

 

「あっっ!!?卑怯だぞーー」

 

「へっへーん!止まっているほうが悪いんだよーー!」

 

 後ろから鬼が来てオレにタッチしているのに気づいていなかった。言われて気づいて慌てて追いかけるがすでにみんな遠くに逃げていたから捕まえるのに苦労した

 

 夕方になってご飯ができたと先生が言ってきたため、みんな遊ぶのを中断してお皿やフォークなど人数分用意する。5分もしないうちにテーブルには食事の準備ができた

 

「それじゃ手を合わせて。いただきます」

 

「「「「「「いただきまーーす!」」」」」」

 

 今日のご飯はハンバーグでラッキーだった。オレの大好きな食べ物だからだ。先生の国でも人気の料理らしく誕生日とかうれしいことがあったりとかそういうときに作るって言っていた。そういえばここでもなにか特別なことがあると大体ハンバーグだった。けどそんなことはどうでもいい、大好きなハンバーグを食べれれそれでいい

 

「レイ。あとで先生の部屋に来てくれる?」

 

「ん?うん、わかった!」

 

「何かしたのかよ」

 

「何もしてないよ!」

 

「ほんとにー?あやしいなぁー?」

 

 先生はオレたちの親みたいなものだから呼び出されるってことは怒られることがほとんどだから内心怖かった。最近は何も悪いことはしていないのに

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「今日はお別れする子がいます。おいで」

 

「…え、レイが!?」

 

 次の日。朝ごはんの後みんなはいつもなら遊ぶけど、今日はお別れをしようということに残っていた。お別れするのはオレだった。昨日の話は引き取りたいという人がいたらしく、それがオレだったみたい

 

 本当なら誰もがお父さんやお母さんができることに喜ぶのだけれど、オレはなんだか素直には喜べなかった。住んで4年くらいらしいけど、それでも血は繋がってなくても一緒に過ごしていたから誰かの家族になるのがちょっと寂しい

 

 うれしいけど悲しかったりと頭の中がごちゃごちゃになってる

 

「レイ、おいで」

 

 お迎えが来たみたいで、オレは荷物を持って外に出た。門のところに行くと見覚えのある人が立っていた。ひげがもっさりと生えた汚そうなおじさん。昨日の来ていた人だった

 

「っげ、オレあの人の子になるの!?」

 

「そうよ」

 

 いやいや、そうよじゃないよ先生。オレこんなひげのおっさんの子なんて嫌だよ

 

「この子ですか?」

 

「ええ、すこし活発ですけど他の子の面倒も見てくれていつも助かってます。ロゥベントさんのお子さんの面倒も見てくれると思います」

 

 おじさんと先生がそんな話をして今度はオレのほうを向いた。なんかちょっと怖いから後ろに下がった

 

「こんにちわ。これからよろしくね、レイくん」

 

「…ひげ剃れよ。お父さんがひげのおっさんなんていやぁだっ!?」

 

「こらレイ!失礼なこと言わないの!」

 

「だってー…」

 

 ひげがいっぱい生えている人って汚いから、こんな人がお父さんになるなんて嫌だった。隠すことなくそんなこと言ったら先生に叩かれてしまった

 

「ははは…帰ったら剃るよ」

 

「絶対だぞ!」

 

 おっさんは少し笑ったが髭は剃るということを約束してくれたから仕方ないから子供になることを決めた。みんなと別れるのは悲しいけれど、先生がいつか遊びにおいでと言ってくれたから行くことにする

 

「オレっておっさんの子供の面倒見るために?」

 

「そうだよ。1週間前ほどに生まれたばかりの男の子だ。フィーロっていうんだ」

 

「へー。でもなんでオレなんか引き取ったの?」

 

「…おじさ、お兄さんは傭兵をしていてね。家にいないこともあるんだ。いつも家政婦さんを雇っているんだけど夜には帰らないといけないから、フィーロが家出独りぼっちになるんだ。仕事で居ない間に換わりに見てくれる子を探していたんだ」

 

「ふーん、お母さんとは別れたのか?」

 

「……死んだよ。フィーロを産んで少しして」

 

「ぁ……ごめん」

 

 おじさんの家に向かっている最中話をしていたら傭兵をしていることに驚いた。こんなおっさんがって。しかもすでに子供がいるのになんでオレをもらおうとしていたのか聞いたらお母さんは死んじゃってたみたい。聞いちゃいけないことを聞いてしまってオレは謝った

 

「いいよ、覚悟はしていたんだけどね。傭兵をしていたら他人が死ぬのはよく見かけてて、親しい人が居なくなってもすぐに切り替えられるって。でも妻が死んだときはかなりショックだったよ、3日ほど寝込んでしまった。案外人間って感化されやすくて脆いんだよ?だから一緒に居てくれる人を求めたりするんだ」

 

「ふーーん…」

 

「まだレイには早かったか」

 

 おじさんの言っていることってよくわからないけどひげが伸びているのはお母さんが死んじゃって悲しかったからだってのはわかった

 

「でかっ!?おっさん金持ち!?」

 

「金持ちではないけど…一般家庭よりは多い方かな?」

 

 家に着いたみたいで見て見たら白い壁に窓が立てに3つも並んでいた。3階建ての大きな家にオレは結構興奮した。手を離して玄関を開ければ廊下があり、横にあるドアを開ければ広いリビングだった

 

「でけーー!!」

 

「ロゥベントさんお帰りなさい。この子がそうなのかしら?」

 

「はい、レイ・シノシマって言うらしいです。レイ、この人が雇っている家政婦さん。一緒にフィーロの面倒を見てくれている人だよ」

 

「レイ・シノシマ!ねぇねぇ、フィーロってどこ?どんなやつなの!?」

 

「ちょっと静かにしていようか?さっき寝たところだから」

 

 オレはもう家の大きさにうれしくなり早くフィーロって弟に会いたくなった。家政婦さんに聞くと指を口に当てて静かにって言われたので声を小さくして後を付いて行った

 

「静かにね」

 

「…この赤ちゃんがフィーロ?オレと同じだ」

 

 2階に上がりベッドで寝ているフィーロが見えるようにオレを抱えてもらった。手を握ってて静かに寝ている赤ちゃんにかわいいなと見ていたら髪の毛がオレと同じ黒色だったことに気づいた

 

 オレはもうちょっと見ていたいので仕事に戻った家政婦さんに椅子を近くに持ってきてもらい眺める。今日からオレの弟で、何年かしたら「お兄ちゃん、お兄ちゃん」と言ってくれるのかなと想像していたらニヤニヤしてしまった

 

「お兄ちゃんが守ってやるからな」

 

 お兄ちゃん気分に浸っていたオレは近くに来た男に声をかけられるまで気づかなかった

 

「そうしてくれ。フィーロはまだ産まれたばかりだからな」

 

「うん…って誰!?」

 

「誰って…お父さんだよ。ひげを剃る約束しただろ」

 

「うそだ!?お父さんはおっさんなんだぞ!?お兄さんなんてオレ知らないぞ!!」

 

 お父さんと言い張る男は髪は伸びているがかっこいい人だった。どう見てもさっきまでの髭面のおっさんだったとは思えずフィーロを守るようにしていたら泣き出した

 

「おやおやどうしたの?大丈夫よフィーロくん、怖いものはないから」

 

 オレが大きな声出したから泣き出したみたい。家政婦さんが来て抱きかかえて泣き止ますまで何もできず、ずっと自称お父さんというお兄さんを睨む

 

「その人がお父さんよ。レイくん」

 

「うそだぁ!?」

 

「なんだよ、お父さんがかっこいいと文句あるのか?髭のおっさんは嫌だ嫌だ言ってたくせに」

 

「べ、べつに文句はねぇよ」

 

 こんなにかっこいいなら最初っから髭を剃っておけば文句はなかったのに。なんかだまされたみたいで悔しかった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

「とまぁ家族になった日は驚きの連続だったね」

 

「ふーーん…お兄さんは弟と喧嘩はしないの?」

 

「するよ?血の繋がりなんてなくても普通の家族のように育ったつもりだからね。喧嘩はよくしたし、泣かしたことも何度もある」

 

 門まであと少しって言うところで話し終えたオレは質問とか色々答えながらおんぶをして到着する

 

「よかった、無事だったんだね」

 

「よかったじゃないですよ。たまたまサイスタイガーだったからよかったけど、それ以外だったらすでに死んでいたかもしれないですよ。ちゃんと仕事してくださいよ」

 

「…そうだな。私たちの責任だ。以後気をつけるよ」

 

「ぁ…お姉ちゃん…」

 

 オレが門番の人たちに注意をしていたら背中に居たキーアちゃんが小さく呟いた。どうやら喧嘩をしたお姉さんが来てしまったらしい。少しでも身を縮めて隠れようとするが、体は斜めを向いていたのでほぼ見えているから意味はなかった

 

「キーア!!よかった…どこに居たのよ…って、レイさん!?」

 

「こんにちわ、メノイさん。この子のこと知っているんですか?」

 

 走ってきていたのはよくオレの依頼を処理してくれているメノイさんだった。肩を大きく上下させているし、汗を掻いているから相当走り回ったのだろう。顔を上げたと思ったらすごい剣幕でキーアちゃんと怒り始めてからオレに気づいた

 

「はい、私の妹です」

 

「あ、お姉さんってメノイさんだったの!?」

 

 意外な繋がりに驚いてしまった

 

 

 

 

「そうだったんですか。妹を助けてもらってありがとうございます」

 

「たまたまですよ。耳がよくなければ気づかなかったし」

 

「そっか…レイさんなら聞こえるんでしたね」

 

 事情や出来事など大通りを歩きながら話し合った。もちろん街の外へ出ていたことはかなり怒られてしまっていた。命の危険もあったのでオレは説教が終わるまで傍観していた。今回のことでまた喧嘩してまた街の外に出るなんてことはしなくなると思う

 

 しかもメノイさんはキーアちゃんのお友達の家を見て回ったらしい。結構な労力に心の中で静かに労った

 

 翌日協会に行くとメノイさんから珍しくお風呂を掃除してくれたらしい。お駄賃を上げるという約束で。オレの入れ知恵のせいで余計なことしたかなと心配したけどそんなことはないらしいみたい。これからも手伝ってくれるならという条件であげるということになったそうだ。これがきっかけでキーアちゃんも少しは大人への成長する土台になれば助けてよかったと思える

 

「レイさん、気をつけて行ってらっしゃい」

 

「ああ、それじゃ行ってくる」

 

 いつも依頼に行くときの言葉を交わしてオレは依頼人が待っているゲートに向かった

 

 



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17話 ランク戦

 新年を迎えて次の日。オレはそろそろトリガーを組めたのでボーダーからの頼まれごとのランク戦をするために本部にやってきたのだが。やはりというか全く見たことのないオレがいることで一体誰なのか? どこの部隊の隊員なのか? 強いのか弱いのか? と噂されている。仕方ないとはいえ本人が居る前でするのはやめて欲しいところだ

 

「なぜお前がここに居る?」

 

「ん?あ、えーっと進さんの弟だよね?」

 

「風間蒼也だ」

 

 誰に声をかけて戦おうか迷っていたら後ろから聞き覚えのある声がして振り向いた。180cmもあるオレからは見下ろす形になったがそこには進さんの弟の風間蒼也がいた。会ったのはあの夜の日だけだから少し振りだ

 

「篠島伶だ。好きに呼んでくれていいけど、今暇なら少し相手してもらってもいいか?」

 

「ランク戦を?ネイバーのお前が許可されているのか?」

 

「ああ、近いうちに何かあるんだろ?そのために少しでも戦力強化してほしいって頼まれててな。ボーダーのトリガーも借りている」

 

「そうか。それなら相手を頼む」

 

 オレも名乗って自己紹介を済ませるとランク戦に誘った。蒼也はトリガーをもって換装すると部屋に入りパネルの操作方法を教えてもらった。別室で待機していると対戦の申し込みがあったので言われたとおりパネルを押した。その次はデーター上で再現された仮初の街に転送された

 

「すげー、中々に再現されているな」

 

 道路の先には蒼也もいて、周囲は住宅街が建ち並んでいた。人の気配がないのは当然だが窓から見えた室内はテーブルやテレビや皿など細かく作りこまれていた。ソチノイラでもこれくらいの訓練室はあるが、ボーダーは結成してから10年も経っていないはずなのに、ここまでの技術力は感嘆する

 

「ボーダーが技術はそう低くはないぞ」

 

「そうだね…ッ!!」

 

「2本じゃないのか?」

 

 戦闘開始の合図はないから蒼也がスコーピオンを片手に接近してきた。弧月を抜いて防ぐが耐久が違いすぎるのでかけることはないが、右の甲から2つ目のスコーピオンが伸びてきた。シールドで防いで力ずくで振って距離を取らせた

 

「そうだな、確か蒼也の部隊は3位って聞いてるから1本じゃキツイかもしれないけど。まずは図らせてもらいたいかな。2本目抜かせるかは蒼也次第だよ」

 

「なるほど。オレを甘く見ているみたいだな。その言葉すぐに後悔することになるぞ」

 

 多分オレの悪い癖なんだろうけど最初は手加減していって。段々この程度じゃ対応できなくなるかなってところで加減をしなくなる。直すべきなんだけどついやってもしまう癖だ

 後悔するぞ言った蒼也の言葉嘘じゃないのはその気配から伝わった。まっすぐオレにだけ狙いを定めた鋭い刃。油断したら間違いなく狩られてしまうような気さえしてしまう

 

 再び蒼也が接近してきたが直前で姿を消した。これは蒼也の部隊がみんな装備しているカメレオンというものだ。風景に溶け込むステルストリガーだがその間は攻撃も防御もできない。オレはその弱点を知っているしサイドエフェクトでどこにいるかなんて音で位置が分かる

 後ろに回ったところで体を回転させながら弧月を振る。着地した瞬間だから咄嗟に回避なんて難しい。すれば体勢が崩れて倒される。だから蒼也は姿を現してスコーピオン2本で防いだ

 

「っく、ッ!!」

 

「他の奴らは斬撃だけでだけで済んだかもね?」

 

 弧月だけならスコーピオンで防げたかもしれないけど、オレは旋空を同時に起動していたからスコーピオンを壊してそのままトリオン体を切断した

 

 ほかのボーダー隊員なら弧月だけだったかもしれない。蒼也が活動限界がきたため戦闘が終了しそれぞれ部屋に備え付けられていたベッドに落ちた

 

「おっと?なるほど、部屋に戻るときはベッドに転送されるのか」

 

 蒼也が消えた直後にオレも転送されて部屋に戻ったのだが、落ちると思ったときには柔らかいベッドに受け止められた。トリオン体には痛覚は無いけれど床に落とされるよりは配慮されているなと感心してしまった

 

『旋空を起動していたのか?』

 

 ベッドから立ち上がるとモニターから対戦している相手の部屋から通信が来た。対戦の申し込みだけでなく、戦った後の会話までできるのは以外だった

 

「お?会話できるのか。そうだよ、弧月だけならアンタが相手だと防がれると思ったからな」

 

『なるほど、だが弧月を2本目を抜いていないからまだ本気ではないだろ?なぜ手を抜く?』

 

「癖みたいなものだし、なにも手を抜いているわけじゃない。2本で慣れたら1本で戦うのに隙ができてしまうからだ。戦場では何が起こるかわからない、だからこそ追い込まれても落ち着いて戦えるようにと普段から1本で戦うようにしているんだ」

 

 これは癖と言ったがそうなるように毎日訓練をして身につけたらからだし。父さんも武器を二つ持つなら一つだけでも戦えるようにした方がいいと言ってた。まさにそのとおりで黒狩りの魔術師なんて呼ばれていてもトリオンには限界がある、夜の雨(レーゲン)のような相性の悪い相手だっている

 何度か片腕だけで戦わないといけない場面だってあった。内心死ぬかもしれないと怯えながら何とか戦い抜いた事だってある。進さんも死ぬかもしれない経験があったから戦いは慎重だったし

 傭兵としての経験が長い父さんの言葉がどれだけ正しかったのかと身を持って知った。もちろんフィーロにもそう教えている

 

『そうか。なら2本目を抜かせれるよう本気でいかせてもらおう。準備が終えたらモニターに点滅しているボタンを押してくれ』

 

「これか?お?」

 

 言われた通りにボタンを押したら再度仮想空間に転送された。これで何度でも戦えるという仕組みみたいだ。玉狛支部のようなその場でトリオン体が修復されて戦うという仕組みじゃないらしい。蒼也とは何度も戦った。トリガー構成はいたってシンプルなのにスコーピオンの特性を熟知しているのか搦め手で何度も戦闘不能のまで追い込まれることがあった

 

 言い訳がましいがオレがまだボーダーのトリガーを理解していないことも関係はあると思う。支部の人たちを相手にそれなりに構成や訓練をしてきたつもりだったが、所詮は付け焼刃だったということだ

 

「君、見ない顔ね」

 

 蒼也と別れて椅子で休憩していたら今度は女の子が声をかけてきた。白い服が基調だが、肩をすこし出しすぎなんじゃないかと思うほど襟が広かった。トリオン体だけど風邪を引かないか心配になってしまう

 

「ああ、最近入ってね。まあ訳ありだからその辺の詮索はなしだとありがたい。オレは篠島伶だ、あんたは?」

 

「あら、偶然ね。私も名前が玲なのよ、苗字は那須って言うの」

 

「そうなのか…!」

 

 これは驚いた。オレの名前と同じ言い方をする人と出会ったのは初めてだ。字は違うけれど名前が同じというのは不思議と嬉しくなる。ただの偶然でしかないのに

 それで那須がオレに声をかけたのはランク戦を申し込みたいからだと言う。オレは戦うためにここに居るので断る理由はないためすぐに部屋に入り届いた申し込みを承認するが

 

「ん?バイパー?って言うことは…射手(シューター)か」

 

 モニターに表示された文字を見て攻撃手(アタッカー)でないことに少し疑問が浮かんだがすぐに解決した。けれどシューターは接近戦が苦手だからアッタカーに申し込むと言うのはあまりないはず。ということはこの那須は相当自身があるのだろう。しかも弾道を自身で設定しないといけないバイパーがメインと言うことは厄介な戦い方をしてくると思う

 

 そういえばガンナー用トリガーの説明を受けたとき宇佐美がリアルタイムで設定できるのは「イズミ」と「ナスさん」くらいと言っていたのを思い出した。これから対戦する那須が「ナスさん」だったなら結構注意しないといけないかもしれない

 

 転送された場所は遮蔽物が多い工場地帯だった。あちこちにパイプが張り巡らされており、風のあたる音で反響音が聞こえるから想像通りのものみたいだ。見た目だけの棒とかなら聞こえる音の情報量は少なかっただろうと少しだけ残念に思う。でもこの程度は多く戦場を渡ったからさほど障害ではない

 

 問題なのは那須の能力だ。どんな攻撃をしてくるのか知らないオレは待ち構えるしかないのだが、どうやら来たらしい。空気を貫く音が近づいてきたのだが、それにしては横に広がっているし、窓とかのひび割れたみたいに方向が一定じゃない。ランダムに動かして弾道の方向を特定させないようにしてる

 普通なら目標に向かってまっすぐ飛ばすものだが、それでもフェイントを含ませるにしても全弾を設定するなんて今までに居なかった

 

「こりゃ、確かに手強そうだな……嘘だろ?」

 

 壁を蹴って屋上に出るよ確かに弾道はジグザグに進みながら、3発を横に並べてそれが1発分のようになっていた。1発ずつなら弾の数だけ設定すればいいが、3発同時にとなるとかなりの空間把握能力が必要となる。那須はどうやらオレの想像を上回るトリガー使いのようだ

 

「っく……中々避けるのも、一苦労だな……ふぅ…まだ来るのか!?」

 

 近づいて倒さなければ一方的にやられるだけなので、那須の居るところまで走ったり建物と建物を飛んで近づこうとするのだが。通り過ぎたバイパーが追尾するかのようにオレを追いかけ始めた。まだオレの知らない性能でもあるのかと驚いたのだが、6割は建物に命中している

 ということは何パターンかオレの行動を予測して放ったということだろう。それにしては狙いの精度が高い。シールドでなんとか防ぎながら進んだのだが、建物の影から現れて驚いた。周囲はまだ命中している音も響いているから弾丸の音はわずかにしか聞き取れず、接近していることにすぐに気付けなかった。咄嗟に韋駄天で高速移動して回避してしまった

 

「危なかった…けどここまでくれば那須の居場所は分かるが、何をしている?弾丸が1つに…?」

 

 サイドエフェクトで聞こえる音の情報は波のように伝わるだけでなく、形までもラグはあるが性格に伝わってくる。目が見えなくても耳がその代わりとなる。目は色を補完する為の補助のような役割にも近い

 

 だから那須が隠れていてもオレには分かるのだが、両手で作ったトリオンキューブを近づけて1つにした。2つを1つにする意味はあるのかと疑問が浮かんだ瞬間に、キューブは分裂し放たれた

 

「っく……爆破!?」

 

 建物に隠れながら走っていたら弾丸が飛来してきてシールドで防いだが、着弾した瞬間さっきとは違い爆発した。弾丸は4種類あってその中にメテオラという爆発するトリガーがあるが、メテオラに追尾性能はないはず。だけど先ほどの弾丸は明らかにオレに向かって放たれた

 

 一体どういうことなのか考える暇もなく今度はバイパーが放たれる。那須はオレに近づかれないように距離を保ちながら逃げ回っている。けれどやられっぱなしになるつもりはない。メテオラが追跡することに関しても終わった後で考えればいいと疑問の解決を先送りして韋駄天を起動して限界距離まで飛ぶ

 

「やっと見つけた…!」

 

「追い詰めたのかと思った?でも残念、私が追い詰めっ…!!」

 

「残念。この程度防げれば問題ないよ」

 

 何度か繰り返して近づくと見える距離にまで来た。だがその瞬間上空からバイパーが降り注いだのだが、音で聞こえていたからシールドで難なく防げた。那須は不意打ちができたと思ったらしいがサイドエフェクトで聞こえているオレには不意打ちにはならない

 

 驚く那須に弧月を抜くと同時に旋空を起動して防御しようと展開したシールドごと斬る

 

 意外と手強さを感じた那須を倒すことができてよかった。初めての相手だからってのもあるけど毎回違う軌道を描いて飛来するだけあってそのときにならないと対処ができない。このまま訓練を続けて精度を上げたら傭兵としてもSランクは取れるはずだ

 

 残り9戦と戦ったが、お互い相手の戦い方を知ってきたこともあり7,8戦目は苦労した。9戦目はステージが河川敷ということもありオレのが優勢だった。最後10戦目は那須が引き分けを捥ぎ取った

 近接トリガーを持たない射手(シューター)とはいえ苦戦を強いられるとは思わなかった。いろんな国で戦ったがここまで強いのはそうそう居ない

 

 いや、そもそもオレの見えない脅威(ノヴァ)が強すぎるからなのかもしれない。遠距離系のトリガーを持つ相手には『硬化』で守りながら接近だったから、いつもと違うトリガーで苦戦したのだろう

 その分消費量は多いけど協力ではある

 

 この後は他のボーダー隊員と戦ってアドバイスなどして夕方には玉狛支部に帰りはじめた

 

『…大丈夫かな……』

 

『それはオレにも分からないなー。ま、聞いてもらえることを信じるしかないだろ』

 

『うん…そうだね…!』

 

 建物が小さく見えるところまで来るとフィーロの声が聞こえてきた。なにやら林藤さんと話しているみたいだけど一体何のことなのかまでは分からない。音が声や物の形を教えてくれても色や文字までは見えない

 

 徐々に近づいてきても話しは終わったみたいでそれ以上はなにも分からなかった

 

「ただいまー…お?今日は修と千佳が作っているのか。これは、カレー?」

 

「伶さん、お帰りなさい。これはカレーじゃないですよ、ハッシュドビーフです」

 

「はっしゅ、どびーふ…?」

 

 玉狛に帰るとキッチンには修と千佳がエプロン着てご飯を作っていた。なべの中にはカレーが入っているものと思ったのだが違った。なんていうのかはよく分からなかったが見た目はカレーに近い。でも刺激的な匂いはしないから確かに違うものだと分かる

 どんな味がするのかなと修が用意してくれるのを待っていると、上からフィーロが降りてきた

 

「兄ちゃん!!」

 

「どうしたフィーロ?そんな思いつめた顔して…?」

 

 ドアを開けて近くまで来ると緊張した顔で見てくる。心音も少し高くもしかして風邪でも引いたのかと考えてしまったが、もしそうなら部屋で大人しく寝ているはず。フィーロは昔から風邪を引くと大げさなくらいに気だるそうにする。だから風邪ではないと判断して次の言葉を待ったのだが、それが衝撃的だった

 

「これ…」

 

「紙?…ボーダー………修、なんて書いているんだ?」

 

「えっと、ボーダー入隊申請書ですね」

 

「入隊……?」

 

「お願い兄ちゃん!オレ、ボーダーで強くなりたいんだ!!」

 

 白い紙の一番上にはボーダーと書かれていた。けどその後の漢字の部分は読めないので修に読んでもらった。ボーダー入隊申請書、と書かれていたらしい。それを聞いた瞬間眉を顰めた

 

 頭を下げてお願いをするフィーロにオレは怒りしかなかった

 

 

 

 

 

 

 



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18話 兄弟喧嘩

「ただいまーって……なにこの空気?」

 

 少し疲れているのか小南が帰ってきた。今この場のピリッとした空気を感じているのかこちらを見なくても分かったみたい

 

「お帰り小南。それがちょっと……ね」

 

「ちょっとって何?……って、どういう状況なの?」

 

 

 宇佐美が誰も口を開こうとしないこの状況に抗うかのように返事をした。けれどいまはそんなことにかまけている場合じゃない

 問題はフィーロが渡してきた「ボーダー入隊申請書」のことだ。一体なにを思ったのか追求している最中だ

 

「フィーロ。何でボーダーに入りたいんだ?」

 

「強く、なるために」

 

「何でボーダーなんだ?」

 

「………」

 

 さっきからこれの繰り返しだ。ソファに座って腕を組みどうしてボーダーで強くなろうとするのか理由を聞いているのに頑なにしゃべろうとしない。言えない理由があるのかとオレは余計に怒りを募らせてしまう

 そもそもフィーロは十分に強い。このまま成長すればSSSランクにだってなれるはずなんだ。別にボーダーでなくてもいいのは分かっているはずなのに

 

 けれどフィーロはボーダーじゃないとダメだという。それならば理由を言えばいい、納得のできる理由なら許可しなくもない。頑なにしゃべろうとしないのなら入隊は却下だ

 

「言えないなら考えるまでもない。却下だ」

 

「っ……!」

 

 ここまで怒るのはいつ振りなのだろう。自分でも声で激怒しているのは分かってしまう。これ以上は進展はなさそうだし、少し早いが防衛任務にでようと立ち上がった

 

「修、悪い。折角作ってくれたのに食べれなくて」

 

「い、いえ…残しておくので明日にでもどうぞ」

 

「ありがとう。フィーロ」

 

「っ!」

 

「話す気になったら連絡しろ」

 

 修や千佳には悪いが用意してくれたご飯は食べる暇はなかった。残しておいてくれるらしいので任務のあとにでも温めて食べることにする。最後に泣きそうになっているフィーロに一言だけ言い残して支部を後にした

 

「はぁ……もしかして反抗期…なのか?」

 

 オレも1人前として戦えるようになってきて何度か父さんに反抗したことはあったけど、ここまで怒るような事態にはなかったはずだけど。フィーロにはフィーロなりのオレに対して対抗心とかあるのだろう。だけど理由の一つも言えないというのは納得ができない

 兄としても保護者としても未成年のフィーロのわがままを許すつもりは無い

 

「…オレはどうすればいいんだ、父さん…?」

 

 だけど残りたいと言ったのはフィーロの意志だ。家の教育方針としては本人の意志を尊重すべきなんだろうけど。結局オレも大人の仲間入りをしたと言ってもまだ未熟だという事だ。これで良かったのか、いまでも判断が間違っていたんじゃないかと思う時もある

 

 父さんはいつだって正しかった。家ではだらしない事もあったけど、それでもオレたちの親でいようと頑張っているのを見ていたから知っている。だから尊敬もしているし頼れた

 今はオレが代わりにならないと頑張ってはいるけど

 

 川原を歩いていても何も結論は出てこないまま防衛任務の時間が来てしまった。今日の担当場所に行けば遠くからフィーロがやってくるのが聞こえた。喧嘩中であっても仕事はちゃんとするつもりのようで、そこは傭兵としてしっかりプライドを持ってくれているようでよかった。けれど話す気はないようで分かれて巡回を始めた

 

 

 

 日が昇り今日の仕事を終えたオレは玉狛支部に戻ると修たちがもう朝食の準備をしていた

 

「早いな?」

 

「お疲れ様です。今日は空閑と千佳の入隊式があるんでいつもより早く起きてしまって」

 

「お前が出るわけじゃないのになに緊張してるんだよ」

 

 当番ではないはずの修が昨日食べ損ねた夕食を温めなおしてくれた

 照れくさそうにして用意してくれたけど、入隊日の今日は遊真と千佳が正式なボーダー隊員となる新たな門出の日。だけど修はすでに正式な隊員だから出るわけでもないのに緊張した様子だった

 

 変わっているなと口にしようとしたけど、オレもフィーロが傭兵になる試験を合格できるか落ち着かなかった事がある。懐かしい事を思い出して、修の気持ちもこんな感じなのだろうと思うと可愛いなと思う。他の人が聞いたら最低とか言われるかもしれないけど、年下の子が落ち着かない様子で心配するってのは可愛いと考えてしまう

 

 朝食を食べたオレは適当に街を歩いてみる事にした。携帯のマップや電話の仕方は教えられているから迷ったとしても玉狛支部に帰ってこれるとは思う。多分

 人の多いところに来てみたがソチノイラと比べれば多い。このままここにいたら音酔いでもしそうになるが、玄界(ミデン)に来た頃にフィーロが買ってくれた耳当てがあるおかげで幾分か楽だった

 

「…お?これ美味そうなだな」

 

 いつものように適当にぶらついていると「肉屋」と書かれている店に目がいった。見えるところに置かれたガラスの中に並べられている茶色いブツブツした見た目の食べ物が並べられていた。焦げていない綺麗な色をしていて食欲をそそられた。ソレを見てそう言えばと夕方になると黒い服や紺とかの服を着た子供たちが集団で居てみんなそれを食べていたのを思い出した

 

「おばさん、オレにもコレ一つ」

 

「はいよ、40円ね」

 

 カウンターに立っていた人に注文しお金を置く。すぐに小さな紙の袋に包まれて商品が出された

 

「あつ……ん、旨いな」

 

 とりあえず「コロッケ」と書かれた安いものを買ってみたのだが、手にすると出来たてなのか熱かった。口にすればさらに熱く口を開けて転がすようにしながら食べると、カリッとした触感のあとにフワッと柔らかかった。甘みもあってここに調味料とか加わるとさらに旨くなるだろうな思った

 食べ終えてからもフィーロがボーダーで強くなりたい理由を考えた。戦い方はオレが教えたし、ブラックトリガーは強力で油断しなければ負けることはない。これ以上強くなってどうするのか

 協会のランクを上げるためなのかとも考えるが、単純に強さだけでなく人柄や交渉などもできるかと違う面からも判断される。強さだけではSSSランクにはなれないのだ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 フィーロ.side

 

「兄ちゃんのケチ!」

 

 オレにはどうしてもボーダーで強くなりたい理由があったのに兄ちゃんは許してくれなかった。たしかに理由を聞かれて答えなかったから簡単にはいかないとは思っていたけど、それでもオレがやりたいって言っているんだから許してくれたっていいはずだ。昔から家ではやりたいことはやらしてくれたのに

 

「伶にちゃんとした理由を言わないからだろ?」

 

「だって!!……言ったら意味ないんだもん」

 

 隣を歩く遊真がもっともなことを言ってきた。オレと違って遊真と千佳は今日の入隊式に出てボーダーに入れるんだからズルいよ

 

「フィーロはどうしてボーダーに入りたいんだ?」

 

「……ちゃんとオレだけの力で強くなりたいから…」

 

「どういうこと?」

 

 理由を知らない修が聞いてきて、多分兄ちゃんはこの辺には居ないだろうから聞こえないと思って理由を話した

 

 オレがボーダーに拘るのは、ボーダーから借りているトリガーでオレがそこそこ強いってことが分かったからだ。今まではどんな相手でも勝てる自信はあった。それだけオレは鍛えられたし自己鍛錬もやってきた。だけどボーダーのトリガーを使ってると負ける数が増えてきたのだ

 それでオレはやっと理解したのだ。オレ自信はそこまで強くないのだと。今まで兄ちゃんや父ちゃんのトリガーに守られてきたから強かったのだと。だからちゃんと強くなろうと、今度は兄ちゃんを守れるように強くなろうとボーダーで強くなりたかったのだ

 修たちはそれなら言ってもいいんじゃないかと言うが、オレのせいでいつも兄ちゃんは辛い思いをしてきたから、今度は好きにさせてあげたかった

 

「兄ちゃんはオレの面倒を見てもらうために引き取られたって。だから守るために傭兵になったって。だからいつも思うんだ、オレが居なかったら兄ちゃんは傭兵とかにならなかったんじゃないかって…」

 

「フィーロくん…」

 

「だからもう守らなくてもいいくらいに強くなってびっくりさせたいんだ!…言わなきゃ許可してくれないのは分かってるんだけど…兄ちゃん耳がいいからサプライズとかいつも失敗するんだ…」

 

 誕生日も新しい発見も兄ちゃんは自慢の耳でなんでも聞こえてしまうからバレてしまう。内緒話だって仕事で居ないときにしかできない。だから強引にでもボーダーに残ることを許してもらうしかなかったのだ

 

「子供みたいな理由だな」

 

「な、遊真だって子供だろ!!」

 

 しょんぼりしながら話していたらいきなり遊真がバカにしてきた。遊真のほうが小さいんだから子供じゃんって言い返すが身長のことじゃないって言われた。そりゃ今までの流れからそれは分かっていたけど、それ以外にバカにされたのって理由のことなんだろうけど。なんか認めたくなかったから誤魔化した

 

 そうこうしているとボーダーに到着して、会場になっている広いところに行くと白い服を着たボーダーの人たちがたくさん居た。この人たち全員が今日正式にボーダーの隊員になるんだろ思うと羨ましかった

 離れたところに行ってつまらなそうにしながら入隊式が始まった。防衛本部長っていう人が話した後、赤い服を着たアラシヤマ隊って人たちが出てきてこれからやることを説明していった

 

 オレは入隊するわけでもないからただ見学しているだけだけど

 

 中・近距離タイプと遠距離タイプの2つに分かれて訓練するらしい。オレは接近戦が好きだから一番多く居たグループのあとを付いていく

 

「君も玉狛の子?」

 

「え、ちがうけど…」

 

「僕は時枝充」

 

「オレはフィーロ」

 

 いきなり後ろから声をかけられてびっくりした。敵意がないから近づかれたことに気付けなかった。それどころか好意的にも感じるけど、目が少しだけ探るような感じがして少しだけ気味が悪かった

 

「ああ、ごめんね。本部長から君たちの事は聞いているけど。入隊式にいるのは知らなくてね。気を悪くしたなら謝るよ」

 

「いや、平気だけど…オレもボーダーに入りたかったから、来てみただけ」

 

 残念そうに話すオレに気をつかってかそれ以上は何も聞いてこなかった。そのあとすぐに訓練室に到着し説明のあとに訓練が始まった

 ただ捕獲用のバムスターを倒すだけのつまんない内容。あんなのに5秒以上もかけるなんてノロマだなと思った。ボーダーのトリガーを使っても2秒もあれば十分だ。欠伸でもしてしまいそうなくらい暇なとき遊真の番になった。1人だけ黒い隊服だから目立っていて分かった

 訓練が始まると一瞬。1秒たらずで終了した

 

「うわぁ、はえぇ」

 

 オレは目で追えたけど他のやつらはいつ倒したんだ? とか、故障じゃいのか? とか文句が多かった。その後もやり直しをするとタイムは伸びるどころか縮んでいった。自分で自分の記録を塗り替えるなんてちょっとだけ見ていて面白かった

 

「あれが迅の後輩。なるほど確かに使えそうなやつだ」

 

 参加できないから端っこで座っていて遊真に人が集まるのを見ていたらさっきから上に居た人たちがしゃべり始めた。どっかで聞いたことのある声だったけど思い出せない

 

「そうですか?誰だって慣れればあのくらい」

 

「素人の動きじゃないですね。やっぱネイバーか」

 

 ほかにいた人の声も聞いてやっと思い出した。玄界(ミデン)に来たときに遭遇した進さんの弟の人たちだ。小南はかなりそこそこ強いと言っていたけど、隠れたりするからいつも以上に気配を探るのに疲れたし、多分弟の人はかなり強いと思う。後の2人は勝てそうだなって思ったことがある

 

 用事はそれだけなのかわからないけど1人が遠ざかるのを感じた。上位の人が訓練生のを見ても面白くないだろうから当然かなと思っていたら下の出入り口から現れた

 

「三雲君と組むんだろう?」

 

「うん、そう」

 

「なるほどな」

 

「風間さん!来てたんですか」

 

 訓練生の訓練も一通り終わり、指導している赤い人が遊真と話しを始めた直後弟の人も話しかけた。「風間さん」と言っていたからやっぱり進さんの弟さんで合っていた

 

「訓練室を一つ貸せ、嵐山。迅の後輩の実力とやらを確かめたい」

 

 突然現れて換装しながら貸せなんて結構上から目線なやつだと思った。あの戦いでも進さんの言葉にまともに受けとろうともしなかったし、兄弟の癖にずいぶんと横暴なやつだ

 

「待ってください、風間さん!彼はまだ訓練生ですよ!トリガーだって訓練用だ」

 

 そういえば宇佐美が言っていたっけ。訓練生は出力を抑えた専用のトリガーを与えられているって。まあ訓練が目的であってトリオン兵とか戦うためじゃないからと説明されて確かにそうだなって思った

 遊真はそれでもやってもいいよと返したけど、弟の人が戦いたかったのは修だった

 

「違う、こいつじゃない。オレが確かめたいのはお前だ、三雲修」

 

「いきなり何を言い出すんだ風間さん!」

 

「え、なんで修が……?」

 

 何を考えているのかオレにはわからなかった。遊真が相手なら分からなくもないけど、よりにもよってなんで修なのか。きっと兄ちゃんなら分かるのかもしれないけど、今は喧嘩してるからいないし聞きたくても聞けなかった

 

 

 

 

 

 

 

 

 




誤字報告ありがとうございます


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19話 レッツゴーホーム!

 1戦だけということでオレは進さんの弟さんと勝負することが出来たんだけど、正直言って勝てるような気がしない。ボーダーのトリガーに慣れていないからってのもある

 だけど修とのバトルを見てこの人の動きは無駄が少ないように見えたのだ。それだけ訓練してきたってことだ

 

「行くよ!」

 

 オレだって訓練はしてきたのだから自信だってある。スコーピオンを出して突撃するが、修の時のように姿を消したのだ。でもオレにはある程度は気配で探ることもできる

 

「そこだぁ!」

 

「っ!お前には意味がないか」

 

 左へ移動をしているから左手を振って切りつけようとするが、直前で現れてスコーピんで防がれてしまった。でもこれは予想していたことだから驚かない。追い討ちをかけるために近づいて斬りかかるが

 

「筋は悪くはない。だがまだ甘いな」

 

「っぅ!!」

 

 シールドと併せてうまいこと攻撃を防がれてしまう。中々傷を負わせられないことに焦ってしまってスコーピオンがはじき飛ばされてしまった。武器を手放されてしまうのは初めてで動揺してしまった

 その隙に弟さんはオレの首を斬って伝達系を切断されてしまった

 

 負けた

 

 トリオン体が復元されても膝を付いたオレは手も足も出なかったことに動けなかった。結局オレはレーゲン(父さん)がいなければこんなに弱かったんだ。だけどなおさらボーダーに入りたくなった。気を落としたオレが訓練室から出るとアラシヤマって人が慌ててオサムに話していた。聞き取れた内容はチカの身に何かあったことくらいだが、とにかくオサムたちの後を追うとそこには目を疑う光景が広がっていた

 

「そうかそうか、千佳ちゃんと言うのか」

 

「………」

 

「…………」

 

 どういうことだ、これ?

 

 あの夜にいた幹部の人のハゲになり始めている人がチカを台みたいなのに座らせて頭を撫でていた。やさしい声で

 オサムたちもオレと同じみたいで状況が掴めていなかった。てっきりチカの身になにかあったのかと思っていたのだ

 

「すごいトリオンだねーご両親に感謝しないかんよ」

 

「は、はい…」

 

「壁のことは気にせんでいい。あの壁もトリオンでできているから簡単に直せる」

 

「壁?……え、えっぇぇええ!?」

 

 怒るどころか褒めていることにチカはなにか良いことをしたのかと思ってしまうが、ハゲのおっさんが言ったことが気になって見てみると。的の奥の壁が大きな穴を開けられていた。今日の晴れた空が見える

 

 話を聞けばいつもどおりの訓練を教えているときに、チカがアイビスを持って撃ったらしい。いつも通りに。そしたらありえないほどの威力が出てそのまま壁を開けてしまったと言う

 

 そういえばウサミがトリガーの説明で言っていたような気がする。銃型は弾丸の性能を上げるだけでなく、トリオン性能によって銃の性能も左右されると。中でもスナイパーのは弾速、連射特化。バランス、そして威力重視の3つのタイプがあると。それで確かアイビスが一番強いとか

 

 そりゃ膨大なトリオンを持つチカに持たせたらとんでもないことになるよ。もはやこれは…

 

「狙撃じゃなく…砲撃に近いよ…」

 

 オレも兄ちゃんもいろんな国見て、仕事してきたけど。ここまで派手にトリガーの性能を上げるトリガー使いは見たことがないよ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 伶.side

 

 

「……なにが起こってるんだ…?」

 

 街を散策していると突然轟音が聞こえた。発生源はボーダー本部で、振り向けば壁からビームが飛び出た。与えられた携帯にはなんの連絡が無いから大丈夫なんだろうけど。とはいえ何か新兵器の実験でもしていたにしては威力が強すぎる気がする

 オレのサイドエフェクトでも基地の壁はかなり分厚いのが分かる。中に入ると外の音がほぼ聞こえなくなるから相当防衛力に注いでいるんだろう

 

 大丈夫なんだろうと判断し今日も三門市を散策することにした。何か美味しいお店とかないかなと歩いていると後ろから聞き覚えのある声が掛けられた

 

「兄貴?」

 

 振り向けばそこには涼治がジャケットのポケットに手を突っ込んで意外そうな表情でオレを見ていた

 

「涼治か。買い物か?」

 

「違う、DVD借りたから」

 

 手首には小さな黒い袋があり、お使いかなにかの帰りなのかと思ったら違うらしい。こっちの世界には映像や音楽を穴の開いた薄い円盤にデーターを記録しているらしい。それらを低価格で貸し出している店があるようで、涼治はそこで見たいものを借りてきたらしい。オレが大金を上げたことで色々と使っているみたいだ

 折角だからオレは涼治に店を案内してもらおうと考えた

 

「時間があるなら案内してほしいところがあるんだけど?」

 

「案内?どこに?」

 

「お菓子の店。玄界(ミデン)には色々あるのが逆に困っててな、ちょうどいいから涼治が好きなお菓子の店とかあったら教えてほしいと思ってな」

 

「お菓子が好きって…子供かよ」

 

「こっちの法律ではそうらしいな」

 

 子供かと馬鹿にされた気がするが傭兵生活しているオレの癒しでもあるんだ。それに涼治はオレより年が下なのだからまだ子供だ

 

「急にそんなこと聞かれても1人で行ったことなんてないからなー……あそこでいいかな」

 

「どこでもいいよ。とりあえずいろんなのを食べてみたいから」

 

 どこか思い浮かんだところがあったみたいだからそこへ向かうことにした

 

「あーあ、オレも適正があれば今頃ボーダーになれたのにな」

 

「なろうとしてたのか?適性がないって?」

 

「そう!えーっとトリオン?っていうのがオレには足りないからって、エンジニアとか他ならなれるって言うけどオレはトリガーを持って戦いたかったんだ!」

 

「トリオンが…?」

 

 涼治が入隊試験を受けていたことも驚きだけど、それ以上にトリオン能力が足りないことのほうが驚きだ

 今も研究が進められているがトリオン能力は基本的に遺伝性があることは判明している。そしてオレのトリオンは多い。つまり弟である涼治たちも()()()()トリオンは最低でも平均程度はあってもおかしくないのだ。だが適性がないと判断された。涼子も含めて

 

 計測器が壊れるなんてあるのかなって考えるが多分それはないだろう。試験日に使う道具を点検しないはずがない

 

「着いたよ」

 

 原因を考えていたら目的地に着いたらしい。そこはプリンの専門店らしく、小さな容器にスタンダードなものからイチゴや抹茶といったものまであった

 ここを選んだのがグルメ番組で見て近いと知って覚えていたからだと

 

「涼治はどれにするんだ?」

 

「いや、自分で買うよ」

 

「いいから、少しくらいは兄貴面させろ」

 

「…じゃあこれ」

 

 どれも美味しそうで迷ってしまう。さきに涼治の決めようかなと聞くが断られた。オレがいつまでミデン(ここ)にいられるかは分からないから、少しでも兄らしくしようと思った

 渋々と言った感じで選んだのはミカン味だ。酸味が効いて後味スッキリと書かれている。あとはイチゴとコーヒーと普通のを5つずつ買った

 

「そ、そんなにも買うのかよ…」

 

「母さんたちの分もだよ」

 

 オレを含めて6人家族。希はまだ離乳食には移れていないから申し訳ないけど5人分で買った。各1個ずつ食べられるように

 自分の分だけ取って帰ろうとしたが、涼治が「ここまで着たなら家に来ればいいじゃん」と家に行くことを許してくれた。少しは涼治とも仲を縮められたようで嬉しかった

 

「じゃあ、そうしようかな」

 

 住むはずだった家がどんなろころなのかも気になっていたからよかった。プリン専門店がから15分ほどで着いた。たしかに近ければ覚えやすいっていうのも頷ける。塀には「篠島」の文字があり、始めて来るのに帰ってきたんだっていう感覚になった

 

「ただいまー」

 

「お邪魔します」

 

「何言ってんだよ?兄貴の家でもあるんだから違うだろ?」

 

「っ、ただいま」

 

 まさか家に上がる挨拶を言い直されるなんて思いもしなかった。ちょっと素っ気無い感じもあるが基本は良い子のようだ

 

「伶!来てくれたんだ」

 

「うん。涼治に誘われてね。これ、途中で買ってきた」

 

 リビングにいくとソファに座っている母さんがテレビを見ていた。傍らには希もいて、いまは眠っている。プリンを買った袋を渡すと喜んでくれて、食べようとスプーンを用意してくれた

 

「おいしい、ありがとうね、伶」

 

「この店を選んだのは涼治だよ」

 

「ちょ、いらんこというなよ!!」

 

 自分のを取りに来ていた涼治は突然店を選んだのが自分だと暴露されて焦っていた

 

「涼治が?興味ないって言ってたのに珍しいわね」

 

「べ、べつに覚えてたのがそこだったからだよ!興味はねぇ」

 

「とか言ってしっかり2つも取りに来てるじゃん?」

 

「りょ、涼子!」

 

 大人ぶっているのかあまり興味がなさそうにしているが、オレは案内を頼んで着いたとき涼治の心臓の鼓動が早くなるのをしっかりと聞いていた。しかも涼子も食べにきたときちゃっかり涼治は2つもプリンを取っていたのを指摘した

 

 にぎやかで楽しいなと、母さんたちの笑いを聞きながらそんなことを感じた。ソチノイラにいたときも大体騒ぐのはフィーロだった。それでオレと進さんがいらないことを言ったり笑ったりする。血の繋がりはなくても、あの時間は本当に楽しかった

 

「ところで父さんは?」

 

「上の部屋よ。いつもの」

 

「いつもの?」

 

「鉄道模型だよ…物置部屋の半分を使って遊んでるんだよ」

 

 この場にいない父さんはどこにいるのか聞けば2階にいるようだった。鉄道模型と聞いてさっきから聞こえてくる小さな稼動音に納得がいった

 プリンを持ってオレは上がることにした

 

「父さん、入るよ?」

 

 ノックをして部屋に入ってみると驚いた。テーブルの上には山や街があるのだ。たしかに模型コーナーにそういうものがあったのを記憶しているが、目に映っているのはまるで使い込まれたような汚れがある。それがリアリティを出していて一体どれくらい遊んでいるんだと父さんにちょっとだけ呆れた

 

「おお、伶か。来ていたのか」

 

「うん、それよりすごいねこれ…でも結構汚れているけど、綺麗にしないの?」

 

「っ……伶、おまえは……!」

 

「え、ぇ…?な、なに……?」

 

 誰かが入ってきたことでオレがいることをやっと知った父さん。下であれだけ騒いでいたのに気付いていないなんてよほど鉄道模型が好きなんだってさらに呆れる。テーブルに近づいてみると汚れだけでなく樹木や小さな人もあった。山を貫通するようにトンネルもあり作り込みがすごいなと感心するが、汚いなとやっぱり思ってしまう

 綺麗に掃除をしないのか聞くと、突然肩を掴まれてびっくりする

 

「鉄道模型が好きなのか!?」

 

「ぇ、ぇ……?」

 

 全く父さんの考えが理解できず困惑すると話してくれた。結婚してから子供と鉄道模型で遊ぶのが夢だったらしい。幼児向けのおもちゃを買って遊んでいたけれど、大きくなるにつれて飽きていき、涼治はバスケ、涼子は園芸と部活に入って段々と離れていったらしい

 そこへオレが興味があるように話しかけたから嬉しくなったんだとか

 

 オレの鉄道模型への感動や衝動は父さん譲りだったのかと今理解した

 

「まぁ、好き…な方なのかな?まだかっこいいとかそのくらいにしがっ!?」

 

「最初はそれでいいんだ!そこからゆっくり鉄道模型の楽しさと奥深さを理解すればいいんだ!」

 

「ぁ……うん」

 

 肩を掴むの次は抱きしめられた。別にそれは良いんだが、余程子供と遊びたい気持ちが大きかったのか、それを知ると同時に呆れてしまった

 

 

 

 




最近伶のイメージcvが内山昂輝でムフフ〜でした

もちろんロクサスボイスっす!


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20話 守るために……

 初めての自分の家族の時間は楽しかった。とくにオレが鉄道模型が好きなことに父さんは喜んでいる。妹の希もまた抱いてみた

 

 楽しい時間というのは残酷なほどにあっという間に過ぎて23時を回っていた。オレは入れてもらったコーヒーを飲みながら、オレがいない間の家族の記録を見ていた。ミデン(こっち)ではアルバムって言うみたいだ

 母さんたちが付き合い始めてから、涼治や涼子が生まれてからの成長など色々あった。笑っていたり泣いていたりしていた

 

「なんだ、まだ起きていたのか?」

 

「父さん。夜はボーダーと契約した仕事があるから、それまでコレを見ていてね」

 

「懐かしいな。涼治が初めて表彰されたときか」

 

 父さんが言っているのは多分両手で持って上に掲げている金色の食器みたいな物の写真だろう。バスケというのがどういうものかは分からないが、髪が湿っているから激しい運動をする何かなのは想像はできた。周りには同じ格好の子が沢山いるからチームとかなのだろ

 

「伶は…なにかスポーツとかしたことあるのか?」

 

「いや、スポーツはないかな…闘技大会とかは出たことあるけど」

 

「闘技大会?」

 

 ソチノイラではスポーツはしたことがない。施設の先生が教えてくれたボールで投げ合いはしたことはある。たしかドッジボールとかだったようなきもするけど。アレをスポーツを言うのかは知らない

 代わりというわけじゃないけど涼治みたいに何かに出て表彰されるということならある

 

 年に2回。建国祭と文化祭のときにトリガー使い同士が勝ちあがり形式で戦う闘技大会なら出たことはある。使用するトリガーは自身の所有するもので、相手のトリオン体を破壊するか戦闘フィールドから出させるで勝敗を決める

 6年前に父さんにもらったトリガーで出て2位になって、それから3位、2位、1位と仕事がないときにタイミング合えば参加したりしている。今は2連続優勝を果たしているから協会内ではそういう意味でも知れ渡っている

 

「すごいな、伶は」

 

「オレが、というよりは作ってくれたトリガーのおかげだけどね」

 

「そうかもしれないけどな。けど結局は使う人次第だと父さんは思う。どんなに強力でも使いこなせなければ宝の持ち腐れだからな」

 

「…ありがと、父さん」

 

 確かに父さんの言うとおりだと思う。見えない脅威(ノヴァ)は強いけど、結局オレが使いこなせなければ意味がないのだ

 

「ところで父さん。宝の持ち腐れって、なに?」

 

 確かに見えない脅威(ノヴァ)はオレにとって必要不可欠の仕事道具でもあり相棒のようなものだ。言い換えればオレにとっての宝といえる。だが「宝の持ち腐れ」というのは少し意味が理解できなかった

 父さんに聞くと玄界(ミデン)の諺で、役に立つものや優れたものを持ってても使わなかったり発揮しないでいることのたとえだという。なるほど、それなら確かにさっきの会話でも意味が通る

 

「確か伶には弟がいるんだったよな?フィーロくんだっけ?仲はいいのか?」

 

「ああ、いつもはそうだな」

 

「そうか、そりゃたまには喧嘩だってするか」

 

 たしかに普段は仲のいい兄弟だと思っている。たまに喧嘩するのも普通のことだ。だけど今はちょっと長引きそうな予感がするし、フィーロがいま何を考えてボーダーに居たいというのか分からない。誰かから聞くのもいいかもと思って丁度父さんもいることだから聞いてみることにした

 

「なあ、父さん。少し聞いてもいいか?」

 

「ん、なんだ?」

 

「フィーロのことなんだが――」

 

 

 

 

 

「なるほどな。多分フィーロくんは伶のいないところで強くなりたいんじゃないか?」

 

「それは分かっているんだ。問題はなんでボーダーなのかだ。別にここじゃなくても国に帰れば強いやつは他にもいるし、何でオレのいない所なのか…」

 

「そりゃ、経験の長い伶がいたら知っているところを紹介されたり、やり方を指示されるからじゃないか?いま13歳なんだっけ?」

 

「なら反抗期なんだろうね。伶の助けもなく強くなりたいんじゃない?」

 

「………その理由がオレにはわからない…」

 

 父さんに聞いてもやっぱり反抗期なんじゃないかと返ってきた。強くなるのは別にいいけどなんでオレの手の届かないところでなのかが問題なんだ

 

「それは父さんも分からないな」

 

 これ以上聞いても分かることはなさそうだった。時間も迫ってきたし防衛任務に行くために家を出た

 

「お、伶も来たな」

 

「………オレこっち行くから」

 

 警戒区域を通っていると進さんとフィーロが見えた。だけど合流する前にフィーロは勝手に離れてしまった。ということはまだ本当の理由を言いたくはないってことなんだろう。頑なに言わないならオレも無理にでも連れて帰るしかない

 

「とりあえず見回るか?」

 

「そうですね…まったく」

 

 進さんと合流してオレ達は防衛任務を始めることにした。といってもトリオン兵相手に苦戦するほどじゃないが、問題はフィーロのほうだ。あんな調子で問題なく終えることができるのか心配だ

 

 

 

 

 

 フィーロ.side

 

 (ゲート)から出てきたモールモッドを相手にいているが、こんなにも難しい敵だったのか? て思うほど苦戦してしまってる

 

「っう!…このっ!」

 

 背中から伸びた刃が頬を掠めた。だけどこれで隙ができたと前に踏み出すと左右からまた刃が来るのが見えたからシールドで防いだ。その隙にスコーピオンで突き刺そうしたが

 

「あ、しまった!」

 

 夜の雨(レーゲン)の感覚でやってしまっていたから、2つまでしか使えないボーダーのトリガーでは何も起きなかった。その隙を見逃すはずもなく背中の刃が振り下ろされようとしたけど兄ちゃんのトリガーで守られた

 

「っはぁ!」

 

『硬化』で守られたトリオンの壁からさっそうと現れた兄ちゃんの三日月でモールモッドの腕を切られ、背中に着地すると目を突き刺して撃破された

 

「大丈夫か、フィーロ?お前らしくないな、この程度の敵に苦戦するなんて」

 

「っ、そうだよ!!どうせモールモッドも倒せないくらい弱いよ!!最強の兄ちゃんにオレのことなんか分からないよ!!」

 

「あ、おい!!」

 

 苦もなく倒す姿は確かにかっこよかった。だけどそれが余計にオレが弱いって言っているようで悔しかった。一生兄ちゃんには勝てないんじゃないかって。レーゲン(父さん)がいないと何もできないオレとは正反対だ

 

 顔も見たくなく、話もしたくなくてその場から逃げた

 

 ボーダーに入ればオレは、ちゃんとオレ自身の力で強くなれるのに。それを許してくれない兄ちゃんが今は大嫌いだ

 

 

 

 

 

 

 

 

 伶.side

 

「あ、おい!……一体なにがアイツを変えたんだ……?」

 

 いつ振りだ?ってくらいフィーロの怒った声を聞いた

 

 臨時でオレ達のオペレーターをしてくれている沢村さんのおかげでフィーロのほうが苦戦をしていると聞いて駆けつけたのだ。あいつなら大丈夫だろうと思っていたのだけどそうでもなかったらしい。進さんに後を任せてオレは救援に向かったのだけど

 どうしてこうなったんだろうな。最悪どこかに隠れて強引に残ろうとするかもしれないし。なんとかしてボーダーに残りたい理由を知りたいものだ

 

『…あの、大丈夫ですか、フィーロくん…?』

 

「多分、大丈夫じゃないと思うかな…」

 

 沢村さんまで心配してくれている。トリオン体だけどなんだか一気に疲れた気がする

 

 翌日の昼前にオレは目を覚ました

 

「おはよう。よく眠れた?」

 

「おはよう、ちゃんと寝れたよ」

 

 起きて下に降りれば昼食の準備をしてくれている母さんがいた。涼治は今起きたのかよと呆れられ、涼子には身体壊しちゃうんじゃない? と心配された。ちょっとずつだけど2人とも仲は進展していってると思いたい。フィーロのこともあり少し人間関係に不安を感じていた。もしかしたら仲が良いと思っているのは自分だけなんじゃないかと

 

「今日は何か予定があるのか?」

 

「………あーボーダーに呼ばれているから…」

 

 父さんが何かを楽しみにしているような感じで聞いてくるからすこし困惑してしまった。オレを引き取って育ててくれた義父(とうさん)とは全く違うから。もしかして昨日2人だけで話せたのがそこまで嬉しかったのかと思ったが、今日は予定があると知ると徐に肩を落とした

 

 実の親と言えどそこまで父さんのことを知っているわけでもないからイマイチ理解ができなかった

 

 昼食を食べてボーダーに着くと会議室ってところに呼ばれた。オレが最初に来たところと同じ場所。だけど今回は照明をつけていて部屋は明るい。座るように言われたので座った

 

 メンバーは城戸指令や忍田本部長たち幹部の4人と―

 

「風間隊隊長、風間蒼也。兄が世話になった」

 

「篠島伶。全くだよ。恩は返してもらったのに居座り続けるからどうやって送り返そうか悩まされたよ」

 

「はぁ……それはすまなかった」

 

 進さんと違って蒼也くんは結構礼儀正しかった。だけど見目の割りに表情の変化は乏しいみたいだけど。そういえば4つしたの弟がいるって言っていたのを思い出して、もしかしてと思ってオレは確認をするために多分だが聞いてはいけないことを聞いてみた

 

「ちなみに…年っていくつなんだ?」

 

「21だ」

 

「…やっぱり」

 

 三男や四男じゃなく次男でした。「くん」じゃなく「さん」と呼ぶのが正しいようだ

 

「そうか…ごめん、年下に見えてた」

 

「気にするな。いつものことだ」

 

 遺伝子って理不尽だな。兄は平均を超えているのに弟は以下なんだから。しかもこれで成人ってわけだから酒を頼むのも大変だと思う

 

「それで、お前は?」

 

「………三輪」

 

「三輪ね。一応聞くが年上って事ないよな?」

 

「ネイバーに気遣われたって嬉しくなんかない」

 

 名前だけだがとりあえずどう呼べばいいのかだけ分かればそれでいい。蒼也さんのこともあるし年齢の確認もしたかったけどさすがにそれには答えてくれなかった

 

 あとは玉狛から支部長の林藤さんがいる。旧ボーダーメンバーの1人ということもあり支部長でありながらこうして幹部会議に呼ばれたりするらしい。だけど陽太郎がいるのは謎だった。雷神丸も

 

「話を続けよう。予定していた通り近いうちに大規模進行がくる。そのために我々ができるうる限りの対策を講じているのだが、アフトクラトルとキオンのどちらかというところまで絞ることはできた」

 

「へー侵攻の察知だけでなく国の特定までできてるんだ。意外と優秀だな」

 

 正直驚いた。玄界(ミデン)を近寄る国はいくつもある。もちろん進路図からどの国かまで判明することも不可能じゃない。その国の情報をもっていればだが

 

「問題はここからだ。攻めて来る国によって対策を考える必要がある」

 

「なるほど。つまり傭兵としてあちこち国を行ってるオレからその2国の情報を得よう、ということなんだな?」

 

「理解が早くて助かる。対価が必要なら払おう」

 

「なりふり構ってられない…か」

 

 強引だなって思うが金で人的被害を抑えられるなら安いって考えなんだろう。ボーダーが設立されてまだ4年程度。市民からの信頼はあれど、それでもまだ少しの切っ掛けで崩れ去ってもおかしくはない。だから得られるなら少しでも確率性の高い選択肢を選ぶと言うわけだ

 とはいえ、キオンもアフトクラトルのどちらも大国。断定するにしてもあまり大差はない。ブラックトリガーの数ならアフトクラトルが圧倒的だが

 

「オレから情報を与えようにも、どうしてその2国に絞れたのか知りたい。教えるのはそれからだ」

 

 無闇に情報を与えればその2国、さらにはソチノイラにも影響を受けかねない。最悪報復と言う形で攻撃されることもありえないことじゃない

 

「いいだろう。忍田本部長、説明を頼む」

 

「わかりました。まずは我々が観測している近界(ネイバーフッド)の話から―」

 

 絞れた理由はこうだ。ボーダーが観測している周辺国の進路図で最も接近している国がいくつか存在するという。これまでも近づくに連れて送られてくるトリオン兵の数が増えてきたこともあったから警戒していると

 その次に纏めて送られてきたトリオン兵の行動が規則的であったこと。誰かしらが命令を出している、1人の隊員を執拗に狙う、隊員を前にして警戒区域外に向かおうとする、などから自立行動を行う通常のトリオン兵とは違う行動を示していると言うことだ

 

 だがこの二つはありきたりな理由。この程度でいちいち警戒していればキリがない。本題はその次だ

 

「そして先月、三門上空に超大型トリオン兵が出現した」

 

 説明と同時に奥の壁に設置されているスクリーンにはイルガーが表示された。たしかにトリオンを大量に使うイルガーを造っている国は多くはない。アフトクラトルやキオンと断定するのも分かる

 

「これは嵐山隊の木虎が撃破。川に落下し自爆による被害は最小限に抑えられた。次にイレギュラーゲートは超大型トリオン兵出現よりも前に起こり、後になって原因が判明し隊員総出で処理を行った。これがそのイレギュラーゲートを発生させる原因のトリオン兵ラッドだ」

 

「これは…!」

 

 イルガーの次に表示されたのがまさかの偵察型トリオン兵・ラッドだった。小型のボディにモールモッドと同じ脚で歩く攻撃性のない情報収集用だ

 

「これには全く苦労したわい」

 

 背もたれに体を預けて鬼怒田さんが腕を組んで怒っていた。ということは原因が分かるまで相当苦労したってことだろう。その考えは当りらしく、修が動かないラッドを見つけたことでイレギュラゲートの発生原因を突き止めたという。C級隊員も使って全てのラッドを掃討したらしい

 

「以上が2国が大規模侵攻に大きく関わっていると判断した理由だ。なにか追加する情報があると助かるんだが」

 

「あるもなにも、そのラッドを送り込んだのはアフトクラトルだ」

 

「なに!?そ、それは本当なんだろうな!」

 

 忍田本部長の分かりやすい説明のおかげでここ最近の出来事も含めて把握することができた。だけどラッドまで分かっていて特定できていないことちょっと歯がゆい気持ちだった

 説明の後に他に情報はと聞かれたのでオレは答えた

 

 金と引き換えに情報を渡してもよかったけど、オレには大事な家族がこの玄界(ミデン)にいる。金は命に換えられない、オレが生きているように母さんたちも生きていてほしい。そのためにできることがあるなら少しでもボーダーの力になるつもりだった

 

 

 

 

 

 

 ソチノイラ南部にある学術都市「クルシャンス」

 多くのトリオン技術者や研究者など存在する、ソチノイラの最先端技術が集中しているここは首都のデルシスよりも発展している。普通なら首都が最先端なのだろうが、一部の技術は交易用に開発などされており。安全性や利便性やコストなど基準をクリアしたものが他国との交易や首都や各都市への販売される

 

 もちろん医療に関してもクルシャンスが最先端だ。その大病院の一つ、トリオン分析士のヤクーバは電話を片手に渋い顔をしていた

 

「先生?どうかされましたか?」

 

「それがね、デルシスにいる甥っ子の定期健診の日が過ぎているのに来ないから心配になって」

 

 看護士が困っている様子を見て声を掛けた

 

「甥っ子って確か傭兵をやっているって言うレイ君ですよね?」

 

「そうだよ。あの子は他の患者とは違いすぎるから定期的に来る様に言ってるんだけど」

 

「…レイ君って今旅行に言ってるじゃないですか?少し前に先生が言ってましたよ?」

 

「………ああ!そうだった!」

 

 言われて今、伶は旅行中だったのを思い出した。お土産持って検診に行くと連絡を貰ったのを忘れていたのだ

 

「あーまた忘れてたか…早く戻って来い……手遅れになる前に」

 

 頭を掻いていつものように忘れてしまっていたのを悔やむような様子で、モニターに表示した伶のこれまでの検診結果の画像を見た。背中の痣を中心に全身に広がるトリオン。まるで木の根のように見えるそれは頭部に集中していた。ヤクーバはそれが原因で伶にサイドエフェクトが発現してしまっているんじゃないかと考えている。もしそうだとしたら、伶を攫った国は人為的にサイドエフェクトを発現させる技術を持っていることでもある

 だがその技術は未完成なのか、それとも完成して「コレ」でなのかは不明だった。伶の診断画像は古いものと最新のと比べると、根のようなものは()()()()()()。今現在も

 ありえないかもしれないがサイドエフェクトが2つ以上発現してしまう可能性がある。これまで多くの患者を診てきたヤクーバでもそんなことは前例がない。伶のために治療法、薬の開発をする必要が出てくる。だが当然検証するための実験体は伶自身にやってもらうことになる。叔父としてはそれは心苦しいと思っていた

 

 人為的にサイドエフェクトの発現はすごいが、成長し続けるのならそれは結果的に人の精神を破滅させてしまう。医者の端くれとしてそれは許せない所業だ




大規模侵攻が終わったあとの大まかにできてるけど
どう詰めていくかなやむなぁ・・・


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21話 成長

 攻めて来る国が分かると迎撃装置や罠の設置、指揮系統の整備など必要になってくる。だがアフトクラトルはただの強大な国ってわけじゃない。アフトクラトルの人間はトリオン受容体というトリオン能力強化のための装置が付いている。装置と言っても体の一部みたいなものだから少し違うと思うが

 

「そんなことは知っとるわ!玉狛のネイバーに付いているレプリカとかいうやつが言っとったわ」

 

「なるほど、じゃあブラックトリガーの適合率を上げるためってのも知ってるのか」

 

 どうやら遊真と一緒にいるレプリカが情報を提供しているようだ。ブラックトリガーの適合者も色が変化するなども。それならオレが伝えるべき情報はないだろうと思っていたときだ

 

「他に何か情報があると助かるんだが?」

 

「……情報といっても確かなことはない」

 

「些細なこともで構わない」

 

「あんたらボーダーはわずかでも情報がほしいのは分からないでもない。けどこっちも提供できる情報は選ばないといけない」

 

 攻めて来る国を守るわけじゃないが、ボーダーに流した情報によってはそれ以外の国に被害を及ぶかもしれないし。これから先ボーダーが攻めていくときにオレが渡した情報が役に立ち、甚大な被害を負いソチノイラに報復に来る可能性もないわけではない。それ以外にもソチノイラにとって不利益になりかねないことも考えないといけない

 

「オレは周辺国でも顔が知れている。ボーダーに協力している時点で『依頼をして防衛に協力した、させた』ということがアフトクラトルは必ず考える。侵攻の成果によってはオレがもたらした情報によって敗北し、ソチノイラへ侵攻し傘下に置こうと考えるかもしれない。だから教えられることは教えたくても、ソチノイラにとってよくない状況になるようなことは避けたい」

 

 最初にボーダーに連れられて監視下にいるようにと言われて断ったのもコレが理由だ。折角の休日で羽を伸ばしていたのにボーダーのせいで台無しになったけど

 理由を聞いた幹部たちもオレが敵になるかもしれないと言うことを想像してか、それ以上情報を知ろうとはしてこなかった。これ以上は部外者のオレはいるわけにもいかないので部屋を出た

 

 本部での用事も済ませたし、この後どうしようか考えたがランク戦のブースに行くことにした。今日も大勢のボーダー隊員で賑わっていて、そんなに暇なのかなと思ってしまった

 暫く部屋に入ったままでいると対戦の申し込みが来た。もちろん戦うために来たので承諾する。ステージは工場みたいで地形は入り組んでいて高低差もある

 

「はじめて見る顔ですね?」

 

「ん?子供…?」

 

 高めの声に対戦者に気づきたいオレは振り向くと、髪を左右に纏めた小さい女の子だった。オレも見たことないから初めてではあるけど、ちょっと遠くに行っててと適当に誤魔化して戦いが始まった

 

 女の子も同じ弧月みたいでまずは様子を見るために適当に斬りかかる

 

「っ、ふざけているのですか?」

 

「何がだ?」

 

「なんで2本目の弧月を抜かないのですか?」

 

 基本は出来ているみたいでちゃんと防御はしている。それもそのはずで肩のエンブレムはボーダーのと違っていた。確かコレはA級から部隊のエンブレムを作れるって聞いたことがある。ということは目の前の女の子はA級部隊にいるということだ

 そんなこと考えてながら戦っていると不満顔で左腰にある2本目の弧月を指してきた

 

「ああ…君とやるのは初めてだから様子見ってやつ。なんだったらオレに2本目を抜かせてみたら?」

 

「…その言葉、後悔しても知りませんよ?…韋駄天」

 

「っっ!?」

 

 女の子が1本だからってのもあるがいつもの癖で相手の力量で抜くか抜かないかで決めてしまっている。柄尻を叩いて軽く挑発すると、体を低く構えた次には消えた。風が切り裂かれるような音がして気付けばオレの身体は真っ二つになっていた

 

 ベイルアウトしてベッドに大分すると少し油断しすぎたと反省。それに韋駄天は使っている人が少ないから相手が使ったのを見てはじめて実感した

 

「ほんと一瞬だったな…」

 

 オレも使ってて分かっているのだが、使用中は向きを変えたり咄嗟に防御をしたりなんてできる余裕がないほど速い。人間が知覚できる速度を越えている

 

「だが、使わせなければ勝てるな」

 

 一撃必殺。まさにそんな言葉が当てはまるようなトリガーだ

 

 2戦目が始まると彼女はまた韋駄天を使おうとしている

 

「っっ!…っくぅ!?」

 

「まだ甘いね」

 

 使うのが分かればオレは屈んでシールドを固定モードで展開した。このときは強度も上がるし、オレのトリオン能力をもってすれば弧月でも破ることは難しい。現に韋駄天で突っ込んできた女の子はバランスを崩し地面に転がった

 

「はやいっ!?」

 

 立ち上がり体勢を直そうとしているところを、シールドを解除して接近したオレが弧月で胴体を斬った。見た目の所為か首を斬ることに抵抗を感じてしまった

 

 3戦目はオレをそれなりの実力者と判断したのかさっきよりは慎重になってきていた

 

 振り下ろされる弧月を受け止める。だがオレにはアステロイドを装備しているため右手で出して放った

 

「っ!?シールドが!」

 

「驚いてる暇はないよ!」

 

「っう!」

 

 分割せずに至近距離で放ったためシールドで防いでも砕けてしまった。広げていないから防げると思ったのだろうけどオレのトリオンの方が勝った。驚いている間に弧月を弾き、かえす要領で両腕を切り飛ばしてまたかえす動きで供給器官を斬った

 

 4戦目は韋駄天のチャンスを狙って距離をなんどか取ろうとしているが、その度にオレが詰め寄って防いで勝利

 5戦目もオレに2本目の弧月を抜かそうと頑張っていたけど片腕を犠牲にして勝利

 

 半分も戦ってなんとなく分かったが、この子の強みは韋駄天を使うことだ。それに動きからして1対1はそこまで強くはないのだろう。乱戦や仲間の支援があって安定して戦えると言った感じだ。苦手というわけでもないのだろうけど特別強いわけでもない。あと付け加えるなら隙を見せると前に出すぎる傾向もある。躓いたフリをすると迷いなく韋駄天で仕留めようとしてきた。固定シールドで防いだから良かったけど、勘のいい相手なら間違いなくカウンターで反撃される

 

 オレが思ったことを10戦して終わった後に教えた

 

「基礎は悪くはないけど、前のめり過ぎるね。あとは誰かに剣の特訓でもつけてもらって孤立して1人になった場合の戦い方とか身に付けたほうがいいよ。このままだと仲間の足を引っ張るよ?」

 

「…そうですか、教えてくれてありがとうございます。あなたは戦いながら私のことを見ていたのですか?」

 

「まあね、それがいまの仕事みたいなものだし」

 

「…?」

 

 ちゃんと腕を上げて状況判断が正確になれば韋駄天の使いどころも熟知してくるだろう

 

 今日はあと何人か相手をしたら玉狛支部に向かった。着替えがないから取りに行ったのだ。だがそこで思わぬことが起こっていた

 

「フィーロが風邪引いた!?」

 

「ああ、昨日から熱を出してな。腹の具合も頭も悪くはないから少し寝ていれば大丈夫だ。薬も飲ませているからじきに良くなる」

 

 いつも元気いっぱいのフィーロが熱で倒れていたのだ。どうやらこの時期はインフルエンザというものが広まり多くの患者を出すのだと。運悪くそれにフィーロが罹ってしまったのだ。病院に行って薬も貰ったらしいが、この国の保険証という医療費の負担軽減のためのカードがないため全額負担だという。もちろんその分のお金は玉狛に返した

 

「フィーロ、入るぞ?」

 

 念のためにとオレもマスクをつけて部屋に入る。寝ているのか寝息も呼吸も穏やかだ。いすを持ってきてそばに座って眺めているがすぐに起きる感じでもないから部屋を見渡すと、案の定オレが買ってやった玩具を机いっぱいに出している。片付けていないようすにしょうがないと思うが、楽しんでくれているようで嬉しくもあった

 

玄界(ミデン)に来てから…色々あったな。オレも初めてのことばかりだ」

 

 当初は進さんを送り返すのが目的の旅行だったけど、面倒なボーダーの所為で契約せざるを得なかったり、任務やランク戦とか。オレも本当の家族を見つけたり、フィーロがボーダーに残りたいと言い出したり。予定外のことが起こりすぎて正直どうするのが正解なのか分からないでいる

 

 金さえあれば遠征艇が使えるとは言っても玄界とソチノイラで気軽に行けるような距離でもない。ましてやネイバーに対して攻撃的なこの国で大事な弟を1人残すなんて不安で仕方ない。理由を言わなければ連れて帰るとは言ったが、果たしてそれがフィーロにとっていいことなのかも分からない

 

 玄界の法律どおり、オレはまだ子供ってことなんだろうな

 

「…にぃ、ちゃん?」

 

「起こしたか、悪いな。体調はどうだ?」

 

 オレの独り言で目が覚めたのかフィーロが起きた。何度も瞬きして眠い目を起こそうとするが無理に起きなくてもいいと言った

 

「兄ちゃん」

 

「なんだ?」

 

「…ごめん」

 

「なにだが?」

 

 呼ばれて応えると突然謝ってきた

 

「ボーダーに残りたいなんて言って…ごめん」

 

「……それは残るのやめてオレと一緒に帰るってことでいいんだな?」

 

「………うん」

 

 この前まで絶対に残りたいと言っていたのに急に一緒に帰るなんて、ころころ気が変わるフィーロのことが分からなくなってきた。13年も一緒にいるから分かっているつもりだったけどそうでもないんだな。強くなりたいというのは分からなくもないけど、フィーロのとってどういう意味で強くなりたいのかわからない。それが隠したいことなのかどうなのかも

 

「帰る日はまだ決まっていないんだ。そのときまで話すのを待ってやるよ」

 

 聴覚強化で周囲の音が聞こえるオレは内緒事やサプライズなんてことは全部バレバレ。隠し事をしたい人の気持ちはイマイチ理解できないでいる。隠して驚かすことになんか意味があるのだろうかと。どうせ教えるなら隠す必要なんてないのにだ

 

「それにしても、玄界(こっち)に来てから色々あったな」

 

「うん…兄ちゃん珍しくはしゃいでたよね」

 

「っ……まぁな」

 

 帰る帰らないのことばかり話すのも疲れるから、いすからベッドに移り座ってフィーロを見下ろしながらこれまでの事を話した

 練り菓子とかかりんとうとかで興奮したオレはいきなり腹を下したしゲロも吐いた。いきなりこんな誘惑に襲われるなんて思ってもみなかった。フィーロならまだしもオレまで玩具を買いたいなんて思うのも予想外だ

 そのあとはボーダーに付きまとわれるわ、むりやり監視下に置かれたり、契約させられたりと散々だ。でも悪いことばかりでもない

 玉狛支部の人たちはオレ達に対して友好的だった。クリスマスやお正月といったイベントを経験させてくれたり。本部の人たちとは違い多少の信頼は置ける人たちだ

 

 それにオレには、本当の家族と出会うことが出来た。サイドエフェクトのおかげだが、それでもあの時あの場所にオレが通らなければ一生再会することはなかったと思う

 

「お前にはどんなことがあったのかよく分からないけど、ボーダーに残りたいと思うほどのことがあったんだろ?」

 

「……うん」

 

 よく出掛けていたフィーロは頻繁にランク戦をしていた。そこで何かか誰かに影響を受けたのだろう。いつのまにかオレの言う通りに付いてくるだけじゃなく、自分で考えて動こうとしているのは素直に喜ばしいことだけど

 

「にしても、フィーロもいつの間にかこんなに大きくなってたんだよな」

 

「な、いきなりなんだよ!?」

 

「ん? 手を見てそう思っただけだ。この前までプニプニの柔らかい手だったのにな」

 

「いつの話をしてんだよ!! っつかジジくさい事いうとかあのおっさんにうつされたんじゃねぇのかよ!?」

 

「あー否定できないかもな」

 

 認めたくないけど確かに今のはジジくさいなと思う。おっさんの所為でフィーロにまで言われてしまった。だけどそう大きくなったと感じたのは本当だ。布団からでている手を見れば成長しているなと思う。たこを何度も潰して硬くなった手はもう柔らかくなんてないけど。あっという間に時間って過ぎるんだなってちょっと感慨深くなる

 

 そんなとき、頭の中にフィーロの声が聞こえた

 

『このまま残ったら、もう兄ちゃんと会えないのかな……』

 

「っ!?……フィーロ、なんか言った?」

 

「え、言ってないけど?」

 

 悲しそうな、寂しくなるような声が聞こえた。しかもいつも聞こえる声はと違って少し響いた感じだった。まるで風呂場で話したときのような

 平静を装って聞いてみるが何も言っていないという。ということはオレのサイドエフェクトが変化してしまったのかと考えた。けど相変らず玉狛支部内の音は全て聞こえているし、遠くまで外の音が聞こえている。オレの「聴覚強化」は正常に機能しているということだ

 一体どうしてフィーロの声が聞こえたのか考える間もなく次が聞こえた

 

『はぁ…どうやったら兄ちゃん納得してくれるかな…兄ちゃんを守るために強くなりたいなんて、言ったら意味が無いし…』

 

「っ!!」

 

 まただ。フィーロはなにも喋っていない。だけど聞こえた

 一体どうしてなんだと混乱もするが、なにより驚いたのはボーダーに残りたいといった理由だ

 強くなりたいと言っていたけど、その理由がオレだったなんて驚いた。フィーロは十分強い。だから残る必要なんてないのだが

 そういえばこの前の任務でモールモッド相手に苦戦をしていたのを思い出した。ボーダーのトリガーで戦っていたから慣れない所為だと思っていたけど、もしかして夜の雨(レーゲン)ないフィーロはあれが本来の実力なんじゃないかと思った

 

「兄ちゃん」

 

「ん、ああ。何だ?」

 

「あの、そろそろ離して」

 

「え…あ、わるかった」

 

 急に黙って考えたオレに不審な目を向けられた。ちょっと悲しいけど兄弟とはいえいつまでも手を握られているのは気持ち悪いよなと離した

 

「それじゃオレは任務に行くから、大人しく寝て風邪を治せよ」

 

「うん。いってらっしゃい」

 

 いってらっしゃい、なんて言われたのはいつ振りだろうな。なんてジジくささを一層感じながら部屋を出た。そういえば、叔父さんがこんなことを言っていたのを思い出した

 

『伶。君の体の根みたいなのは今も成長している。今後何かしら体に影響が出るかもしれない。他国に行くときは気をつけてくれよ?』

 

 もしかしてフィーロの声が聞こえたことといい、オレの中のトリオンが変化したというのだろうか? だとしたら成長が止まる20歳までにあと何回変化が起こるのだろう? できれば死んでしまうなんて最後は止めてほしい

 

 



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22話 夢と約束

 今夜もボーダーとの契約にある防衛任務を行い、もうすぐで予定の終了時刻ってところで忍田本部長からオレに通信が着た

 

『篠島くん、いま大丈夫かな?』

 

「なんですか、忍田さん?」

 

『君から頼まれていたことが終わったから、時間があるときにでも構わない。メディア対策室の根付さんのところへ向かってくれ』

 

「わかりました。ありがとうございます」

 

 どうやらオレが前に頼んだことの調査が終わったらしい。その報せを伝えにきてくれた

 

「何を頼んでたの?」

 

「ああ、ソチノイラに住んでいるミデンの人の…元々こっちで暮らしていた人たちから手紙とかビデオを預かっててね。それを家族に届けるために居場所を探してもらってたんだ」

 

 ソチノイラには多くのミデンの人が住んでいる。オレが知っているだけでも4~5人くらいだ。その人たちから旅行のことを伝えて家族に渡す手紙をとかを用意してもらった。届けられるかは分からないとも付け加えて

 だけど色々あったがボーダーと繋がれた事で捜索は苦労することなく、事情を話して代わりに探してもらったわけだ

 

「よくそんな面倒なことするな?」

 

「オレは赤ん坊だったから覚えてないけどさ、同じ国の生まれとしては少しくらいは力になりたいからさ。ほら、傭兵になっていろんな国に行けるくらいの移動手段はあるわけだし」

 

 金にならないことをしているあたり傭兵らしくはないと思うが、なにも金を積まれればなんでもやりますって言うほどオレは困ってもいないし腐ってもいない

 

「フィーロも来るか?」

 

「え…うーん…オレはいいよ。玉狛で訓練してる方がいい」

 

「…そっか。じゃあ進さんは来て下さいよ?」

 

「は!? なんで!?」

 

「だってオレ、こっちの住所よく分からないから。案内してくれる人がいてくれないと?」

 

「……嘘だろ…」

 

 フィーロに来るか声を掛けてみたがやっぱり断られた。残れないなら少しでも訓練でもして強くなろうってことなんだろう。なんだかフィーロが独り立ちしていくのを見ているようで少し物寂しいけど、理由を話してくれないなら連れて帰るだけだ

 代わりに進さんは連れて行くことにした。ミデンに来て半月以上は経つが住所なんて分かるわけもないし、こっちの文字は多すぎて覚えきれない。漢字とかいうのも似たものとかいっぱいあるし。そういうわけで案内人としてきてもらうことにした

 

 根付さんから住所を教えてもらい、できる限り問題を起こさないようにと注意をされて近いところから向かうことにした。まず最初はオレがとてもお世話になった施設の先生の家族だ。本部を出てバスというものに乗って大体30分くらいで着いた

 

「えーっと……ココだな」

 

「ここが…」

 

 うちと比べると小さいなというのが第一印象だし、何だから古そうな家だった。壁につたが這っているけど中から人の動く音とかが聞こえるからまだ暮らしている。もしかしたら行方不明になった自分の子が帰ってくるのを待っているのかもしれない

 呼び出しボタンを押した

 

「はーい? どちら様でしょうか?」

 

 女性の声がしてゆっくりとした足取りで玄関の扉が開かれた。白髪で背が曲がっている。介護もなしでずっと1人なのか気にはなったが、オレがするべきことはそんなことじゃない

 

「はじめまして。ネイバーの世界で小さいときに娘さんにお世話になった伶と言います」

 

「…菫が? 娘は…生きているの?」

 

「はい。オレが暮らしている国で生きてます。今日はコレを届けにきました」

 

 自分の子が生きているって知って老婆は目を少し開いた

 オレは鞄から1通の手紙を取り出し渡した。表には「母へ」と短く書かれていて、それを見るとこの文字は娘の…と呟いて口を手元で隠した

 

「菫は…娘は帰ってきていないんですか…?」

 

「…すいません。もちろんお誘いはしましたが先生は、娘さんは結婚されていてこれからもあちらの国で暮らすと言って断りました」

 

「そ、んな………菫…っ」

 

「……娘さんは孤児となった子たちの施設の先生として過ごしています。オレも4歳までお世話になりました。先生が拾ってくれなければオレは今こうして生きていません。とても感謝しています」

 

 生きていることにこの人は一抹の希望を抱いたのだろう。だけど先生を含めみんなソチノイラで暮らすことを決めていた。誰一人帰ることを望まなかったのだ

 

「失礼します」

 

 他にも行くところはある。冷たいかもしれないが涙を流す老婆の住む家から離れて次の家に向かった

 

 

 

 

 

「無理矢理にでも連れて来いよ!!」

 

「っ!! す、みません」

 

「お父さんやめて!」

 

 次の家に行くと手紙を届けたあと本人が帰ってきていないことに、父親は怒って胸倉を掴まれた。進さんが助けに入ろうとするが止めさせた。そのあとに小さい子が父親の服を掴んで暴力行為をやめてと叫んだ

 

「美野里。ちょっと黙っといてな。こいつにはしっかりと文句言わな気がすまないんだよ! なぁネイバー!」

 

 眉間に皺がよるほど怒りをぶつけられた。確かに無理にでも連れて行くことは可能だった。実際にそうするべきかなと考えたりもしたけど、もしそんなことすればオレたちを勝手に攫っていったネイバーたちと同じことをすることになる。攫って不必要なら捨てる身勝手な奴らと同列になるのは嫌だし、何よりオレはその人たちの意思を尊重したい。だから無理に連れて行くことをしなかった

 

(いさむ)は警察官になりたい言うてたんや! なのにネイバーのおまえらがその夢をぶち壊したんだよ! なのに今更この手紙一つで安心なんかできるわけないやろうが!」

 

「っぐ……勲…くんは…国の、衛兵として……はた、らいてます……警察、かん…のように、街の人たちを守って…」

 

「んなことはどうだっていいんだよ!! 女房が死んでワイが2人を苦労して育ててたんだよ! 勲を返しやがれよ! ワイらの…宝を……返し、やがれよ………」

 

「………」

 

 石動勲は街の衛兵として日夜訓練と警備に勤しんでいる。故郷に帰る誘いをしたとき迷っていた。けれど残ることを選んだのはその隣に1人の男性がいたからだ。いわゆる恋人だ

 一人不安な日々を過ごさなくてはいけない状況で最初に手を差し伸べてくれたのがその人だという。ネイバーの世界のことやソチノイラのことなど色々教わったりしてもらったという。それでも家族がいないことで寂しかったらしく、それを埋めるように助けてくれた男の人が慰めたらしい

 オレは赤ん坊の頃からだったから親がいないということに劣等感は多少あれど、施設には沢山の子達がいたから寂しくはなかった。もしオレが勲の立場だったなら拠り所になる誰かを探していたかもしれない

 

 結局この人たちにこれ以上の話を聞いてもらえず半ば逃げるような感じになったが次へ向かうために去った

 

「辛いな…大丈夫か?」

 

「ちょっと苦しかったけど…あの人たちが怒るのは当然だよ」

 

 バスが来るまで待っていると進さんが口を開いた

 

「それに……いや、なんでもない」

 

「なんだよ…言いたいことがあるなら言えよ」

 

「大丈夫…ただ、会いたい人にもう会えないってのは辛いのは分かっているけど。やっぱり思わずにはいられないな、って」

 

「…伶……」

 

 もう父さんには会えない。死んでしまった人にどう願ったところで会えるわけないのだから。だけどオレを引き取って養ってくれた父さんは、オレとフィーロの立派な父親だ。だらしないところもいっぱいあったけど。でもそれがこの人も普通の人なんだなって思える一面だった。言い方を変えるなら変に父親として頑張ろうとするより、普段通りに過ごしている方がこれがこの人なんだなって思えるから

 

 今日はこのあともう1回だけ怒る家族があっただけで残りは生きていたことに嬉しければ、帰ってこないことに悲しむ人もいた

 

 玉狛支部へ向かっている途中住宅街でオレはまた心が揺れてしまうものを見てしまった。それは後ろから猛スピードで近づいてきて横を通り過ぎて行った

 

「進さん……アレってなに?」

 

「アレ? バイクのことか?」

 

「バイク………」

 

「おまえ……まさか…」

 

 どうやら機械に跨って進む乗り物はバイクと言うらしい。小さくなっていく姿が見えなくなるまでじっと前を見つめてしまっていた。どうやらオレはまたしてもミデンの物に惹きつけられてしまったらしい

 正直に言って跨って走る様がカッコよかったのだ。あとで父さんにでも持ってるか聞いてみようと頭の片隅に留めて止まっていた足を進める

 

「進さん…あのバイクって乗り物はオレでも乗れる?」

 

「え? うーんどうだろうな…アレは多分大型だから乗れないんじゃないか?」

 

「…そうか……」

 

 大型ということは小型とかあるのだろうか? それにオレでも乗れないってどういうことなのか聞くと「免許証」というのが乗るに必要で、そのためには戸籍やお金、道路交通のルールや法律を学ばないといけないらしい。後で教えてくれたが年齢も18歳からだそうだ。今はまだ17歳だからギリギリ届かなかった。そういうわけでミデン(こっち)でそういうルールなら仕方がない。諦めるしかなかった

 

 

 日が変わり今日は篠島家に来ていた

 前から父さんがオレの持っている新幹線の模型と一緒に走らせようと約束していたのだ。それで今「リレーラー」とかいう線路に簡単に乗せる道具の使い方を教えてもらっている。何のためにあるのか分からなかったけど、線路に乗せてから模型を滑らせると自動で線路に乗るという超便利な道具だった

 

「すげー、乗せるのに苦労していたのが嘘みたいだ…」

 

「使い方は簡単だからやってみろ」

 

「あ、ああ…!」

 

 やってみろとリレーラーを渡されたオレは受け取ると父さんがやっていたようにやってみた。そしたら思った以上に簡単で、乗せて離すってだけで勝手に線路に乗ることに感動していた。今まではいちいち前輪を乗せてからゆっくりと後輪も乗せて、ズレたら持ち上げてやり直しって繰り返していたから、こんな便利道具だったなんてともっと早くに気付くべきだったと後悔していた

 

「よし、走らせてみるか」

 

 全車両を連結したら電源ボックスから電源を入れた。ライトが点灯しダイヤルを回せばゆっくりとオレのN700Aは走り出した。さすがに数が多いから重くて加速に時間が掛かっていたが、速度が乗ってくるとただ線路の上を走っているだけなのに感動していた。多分その理由はわかっていた。「ジオラマ」とかいう鉄道模型を走らせる舞台があるからだ

 父さんが時間掛けて本物そっくりに再現したジオラマがあることで、たとえ模型でも本物のように見えてくる。実際にあるモノを空から俯瞰してみているかのようだ

 

「……楽しいか?」

 

「ああ、ただ乗せて走らせて見ているだけだけど…不思議と興奮する」

 

「そっか、それはよかった」

 

 模造品が用意された線路の上を走るだけの、たったそれだけの玩具に胸の内が高揚するよな感覚に嬉しくなっていた。パーツを変えなければ同じ道をただ繰り返す。それのどこにこんな子供がプレゼントをもらって喜ぶのような興奮を感じるのかまだ分からない。父さんはオレのそんな様子が嬉しいのかよかったと言ったけれど、どこか寂しさを感じているような雰囲気があった

 

「父さん?」

 

 耳が言葉の抑揚がハッキリと分かる。なにか気になることでもあるのかと聞いてみた

 すると父さんは寂しそうな、だけど申し訳なさそうな表情になって答えてくれた

 

「…本当なら…もっと早くお前とこういう時間を過ごせたのかもしれないな、って」

 

 本当なら、そう言って続けた父さん。いや、父さんたちは再会した日からずっと、今日までそんな後悔を抱えてきたのかもしれない。それなら合わなければよかったのだろうけど、オレの心が体を動かして父さんたちの元へ帰って来た。もしかしたら、進さんを送り返すって目的のこの旅行は、本当はオレ自身が帰りたかったのかもしれない。玄界(ミデン)を選んだのは進さんの帰る国だからと考えていたけど違ったのかもしれない

 

「…………そうだね。正直、このまま過ごすっていうのも悪くはないなって思ってる」

 

「っ、こっちで暮らしてくれるのか?」

 

「いや、オレはあっちに帰るよ」

 

「そう…か…そうだよな。伶は長い時間違うところで生活してたもんな」

 

 父さんたちも玉狛の人たちも良くしてくれる。それは嬉しいことだけど。でもミデンはネイバーにとっては生き辛い国だ。たとえオレがこの国の生まれであっても、17年も過ごしたネイバーで過ごしたヤツを受け入れてくれるとは到底思えない

 それはボーダーがいきなり話し合いもなにも攻撃したこと、理由なんてネイバーだからと監視や軟禁を強要してきたり。そりゃ平和に過ごしていたところを襲われて被害を受けたのだから分からなくもないけど。自由を奪われるのは納得は出来ない

 さすがにボーダーの幹部や玉狛の人たちは知っているが、「ネイバーは普通の人間」ってことが受け入れられない限り正体を隠して生きないといけなくなる

 

 そんな後ろめたさを抱えながら生きるよりは、ソチノイラに帰って自由に生きられるほうが気持ちがいい。父さんたちには悪いけれどオレは帰らない選択肢を選ぶことはないと思う

 

「でも……いつかは1年でもいいからこの国で過ごしてみたい。玉狛の人たちが言っていたんだが、祭りとかイベントとかあるんだってね」

 

「ああ、あるぞ。春には花見をしたり、夏は山や海に行ったり、夏祭りもあるしな」

 

 花見、キャンプ、海水浴、夏祭り、ハロウィン…ミデンには色んなイベントがあって羨ましい。ソチノイラにもない訳ではないが数で言えば負けている。いつかフィーロと長期の休暇でもとってゆっくりと過ごすのもいいかもしれない。そのときだけはボーダーに入るのもいいだろう。生活費を稼ぐのに丁度いい

 

 具体的にいつになるかは分からないけど、叶えたいことの一つにはなった。それはまたミデンに来てもいい理由になった。次来た時は少しわがままでも言って困らせてみるのもいいかもしれない。ソチノイラじゃオレがフィーロの面倒を見ないといけないからと自分勝手すぎるようなことはしてこなかったけど、篠島家(ここ)じゃオレは父さんたちの子供だ。年的に恥かしいけどちょっとは甘えてみよう

 

「お父さん、伶、ごはんよ」

 

「はーい。食べるか」

 

「ああ、そうだな」

 

 昼ごはんの用意が出来た母さんが呼び来た。話の続きはまた今度にして下に降りて食べることにした

 リビングに行くと見知らぬものが置かれていた。大きな皿に黄色い大きなナニか。色的に卵を使ったのだろうけど、知らない料理に困惑した

 

「母さん……コレ、なに?」

 

「なにって、オムライスよ?」

 

「おむら、いす?」

 

 どうやらコレは「おむらいす」という料理らしい。オレは知らないからどういうものなのか聞いたら、ケチャップライスという炒めたご飯を薄く焼いた卵で包むらしい。卵って柔らかいからこんなに綺麗にできるものなのか不思議だった。そしたら母さんが「もちろん簡単じゃないわよ」と言ってきた。こんな綺麗にできるまでに何年も試行錯誤と練習をしてきたらしい

 早く食べようと急かす父さんの言葉でスプーンを持った

 

 どんな味がするのか想像しながら掬おうとした時だった

 

「っっ!!? なんでこんな時に…」

 

 ネイバーの襲来を知らせる警報が鳴り響いた。これだけ大きいということはいつもの防衛任務とかじゃないだろう、つまり契約にあった大規模侵攻がいま来たのだろうな

 

「はぁ…食べたかったけど、また今度だな」

 

「伶……どうしても、行かないといけないの……?」

 

 初めて食べるオムライスというものを食べるためのスプーンを置いて立ち上がり、外へ出るためにリビングへ出ようとしたら母さんが悲しげな声を掛けて止めてきた

 

「…ごめん、仕事だから。母さんたちは希や涼治たちを守ってやって」

 

 母さんからしたらいなくなった息子が戻ってきて嬉しいのだけれど、また居なくなってしまうんじゃないかと不安になっているんだろう。その気持ちはオレにもなんとなく理解は出来る。初めてフィーロを1人で依頼に行かせたときは無事で戻ってきてくれるか不安で落ち着かなかったから。フィーロの父(父さん)を失ったことがあるから、あの喪失感と恐怖は2度も経験したくはないと思った

 

「ちゃんと……帰ってくるわよね?」

 

「うん。終わったら、この家に帰ってくるよ。またオムライスを作ってよ」

 

 袖を掴んで震える手を見て、不安が拭えない声を聞いて少し胸が痛んだ。世界に絶対はないから死なないという選択肢はありえない。たとえトリガーで安全性がいくら上がったところで変わることはない

 オレが母さんにしてやれることは戦って守ること、それから安心できる言葉を言ってあげることだ

 

「………分かったわ。作って皆で待ってるから」

 

 この家に帰るのも後何回なのかは分からない。だけどソチノイラに帰る前に母さんの作るオムライスは食べてみたい。その約束をしたからか袖から手を離してくれた

 

「伶。無理だけはしないようにな?」

 

「…わかった」

 

 最後に父さんも一言だけ言って家から出るオレを見送ってくれた。距離が遠くなってもサイドエフェクトで聞こえる母さんのすすり泣く声に胸が苦しくなった

 

「………トリガーON(オン)

 

 いつまでも母さんたちのことを気にしていては戦闘に集中できないからトリガーを起動した。これは仕事なんだからと気持ちを切り替えて民家の屋根に飛び乗った。ボーダー本部のある警戒区域の方向から逃げるように多くの人が道路を走ったり車に乗っていたりしてた。我先にと逃げ行く人の声がほとんどで、つくづく玄界(ミデン)の人たちは勝手なヤツらだと辟易する

 

『兄ちゃん!』

 

「フィーロか! どこにいる?」

 

 止めていた足をまた進めていくとフィーロから通信が着た。玉狛支部で訓練をしていて、大規模侵攻が始まったからレイジさんたちと一緒に行動しているという。小南を回収してから戦闘に参加するらしい。進さんは今日は本部へ行ったらしい

 フィーロから状況を聞いてオレたちはバラバラに行動していることが分かった。それならオレはこのまま警戒区域に入って手当たり次第にトリオン兵を倒すしかない

 

「フィーロ。分かってると思うけどこれは『仕事』だ。レーゲンを使えよ?」

 

『っ…うん、分かってるよ』

 

 息を呑んだような音がしたけど分かってはくれたみたいだからそれ以上は何も言わなかった

 

「そういえば……フィーロは今回みたいな大規模な戦いは初めてか…?」

 

 他国へ行く依頼にはオレか進さんがいて、しかもランクが低い任務を選んでいたから今日みたいな戦闘はまだ未経験だった気がする

 

『う、うん…?』

 

「一つだけ言っておく」

 

『え、なに?』

 

「敵の目的や規模が分かるまではトリオンを無駄遣いするな。必要なときにトリオン切れになるぞ」

 

『わかった!』

 

 長い戦いで一番避けないといけないのはトリオン切れによるトリガー解除だ。オレたち傭兵は帰還用のトリガーは装備していないから、やられたら死を覚悟するのが大体だ。ブラックトリガーのレーゲンは強いけれど負けたことがないわけではない。相性の問題だってある

 フィーロはいつもの調子で答えるが意味をちゃんと理解しているかは怪しい気がした

 

「…見えた」

 

 警戒区域に入って少し進めばゲートから出現したトリオン兵が向かってきた。もうすぐで攻撃圏内に入るところで腰に刺している三日月を抜いた。最初はモールモッドだったが、横に回ると同時に足もまとめて横っ腹を斬る

 こんなモノに時間を割いている暇は無いから少し雑になるが倒して戦力を削ぐのが一番だ

 

「というか…始まってすぐに敵の狙いが分かるわけもないしな」

 

 狙いを定めて一転突破の電撃作戦なら目的がわかってもいいのだろうけど、聞こえてくる音や視界にはあちこちにゲートが発生しているのがわかった。狙いを絞らせないためか、玄界(ミデン)を支配下に置くために侵略に来たか。アフトクラトルがどういう目的でやってきたのかはわからないが

 

「オレはオレの仕事をするだけだな…っっ!!」

 

傭兵のオレがやるべきことは依頼通りボーダーに協力して大規模侵攻を退けることだ

見えない脅威(ノヴァ)にセットされている『硬化』を起動して幅と厚さは変わらないが長さが数mも伸ばして巨大な剣を作ると、モールモッドもバンダーもバムスターもまとめて振り下ろした三日月で真っ二つに斬った

 




最後の更新が1月末……半年も更新してなかったのか

得に最近は創作意欲がほとんど無くなってしまっていたから余計に伸びてしまった……申し訳ないです

復活したわけではないですが、また少しずつ書き進めていきます







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キャラクター設定
篠島怜&フィーロ


昨日の今日で投稿ですが、前から作ってあったものなので


挿絵がありますが「picrew」で作製したものを使用させてもらっています

それと苦手な方のために注意を。フィーロに少しBL情報が書かれているので苦手だという方は戻ることを薦めます


 

【挿絵表示】

 

(https://picrew.me/image_maker/41444)

 こちらで公開されているパーツを組み合わせて色を塗ったものです

 

 篠島怜(レイ・シノシマ)

 ↓

 篠島伶(レイ・シノシマ)

 178cm/AB型

 3月21日(?)/はやぶさ座

 17歳

 ↓

 2月26日/みつばち座

 出身:玄界

 好きなもの:お菓子、星、散歩

 職業:傭兵

 

 ファミリー

 義弟

 ↓

 祖父、父、母、弟、妹、妹

 

 RELATION

 フィーロ:守るべき大切な家族

 篠島家 :帰ってもいい家

 メノイ :かわいくて頼れる受付

 

 

 トリオン:12

 攻撃  :7

 防御  :9

 機動  :6

 技術  :8

 射程  :7

 指揮  :5

 特殊戦術:9

 TATOL :63

 

 サイドエフェクト:聴力強化

 

 トリガー:見えない脅威

 

 風間進が所持していたボーダーのトリガーの弧月を真似て作った剣。2振り腰に付いている

 半径600mに目に見えないトリオンに干渉する領域を展開する。干渉されたトリオンはブラックトリガーであっても影響する

 能力の使用は最高2つまで併用可能。多数の同時使用も考えられたが、消費トリオンがさらに増えて短時間しか戦えなくなるため、ボーダーのトリガーのように同時使用は2つまでとなった

 

『硬化』展開した領域内のトリオンを固めて壁を作る。応用で刃のようにも変えて離れた位置から攻撃することが可能

『歪曲』干渉したトリオンを操作して軌道をずらす

『脆弱』   〃    を脆くする

『鈍化』   〃    の動きを遅くする

『反転』   〃    の動き・向きを逆にする

 

ボーダーのトリガー

メイン:弧月 旋空 シールド 韋駄天

サブ :弧月    シールド バッグワーム

 

 

 経歴

 

 0歳:トリオン兵に捕まる。ソチノイラに保護され孤児院へ

 4歳:フィーロの父に引き取られる

 10歳:傭兵になるためフィーロの父に弟子入り

 12歳:依頼先の国で風間進を助ける。流れ弾で怪我する。進のトリガーデーターを元に見えない脅威ノヴァ作製依頼

 13歳:フィーロの父、ブラックトリガー作製。フィーロが弟子になる。見えない脅威ノヴァ完成

 17歳:玄界ミデンへ旅行に行く

 

 

 

 玄界ミデン生まれのソチノイラ育ちの傭兵。そのため生まれ故郷があることを知っても特に帰りたいとか実の親に会いたいなどの感情はない。怜にとってソチノイラが帰るべき場所である

 

 フィーロが生まれ母親が死んでしまったため、仕事の間に見てくれる人を雇っていたが親でない人に育てられるのは大丈夫か? と疑問に思ったフィーロの父が孤児院で怜を引き取ることとなった

 

 兄として面倒を見てあげないといけないと、雇われている人と一緒に教えられながら育つ。10歳になると兄として弟を守らないといけないと弟子入りをする。「おれもやる!」と付いてきたフィーロと厳しい訓練に耐える。師匠と一緒に仕事をしていると大勢の人が血を流していて始めて戦争の怖さを知った。その時にまだ息があった風間進を助けようと自身のトリガーを渡して生き延びさせる。代わりに流れ弾の衝撃で怪我をしてしまったが、馬鹿なことをしたお前が悪いと説教された

 

 進はその後も医療施設に行けたお陰で死ぬことは免れた。回復後も助けてくれた怜に恩返しがしたいと一緒に生活することに。進が持っていたボーダーのトリガーを師匠が贔屓にしている研究員に渡してデータを採取、それを元に怜の専用トリガーを作製を依頼

 

 作製のための研究費を稼ぎつつ、傭兵としては一般レベルまで成長した頃、師匠がトリオン切れを起こし破壊されトドメを刺される。駆けつけた怜に言葉を残してブラックトリガー・夜の雨レーゲンを遺して逝った。ありのままは伝えずただ死んだとだけフィーロに報告、2日後には目を赤くして「父ちゃんみたいに強くなる」と言って弟子入りしてきた。怜は悩んだが、フィーロの人生だからと渋々受け入れた

 教えられたことをそのまま伝えるように指導を開始。進もいたことで生活は安定していた。その1ヵ月後には依頼していた見えない脅威ノヴァが完成。命名は研究員

 

 ノヴァの扱いも慣れたことで進さんに帰ることを薦めた。十分は恩は返してもらったと思っているが、本人はまだ納得しないため残り続けた。さすがに5年も経過しすぎたため強引ではあるが玄界ミデンに送り返すことを決める。フィーロが悲しむと自分も胸が締め付けられるのを感じ、無意識に進のことを兄として慕っていたのだと知った

 

 耳が良いが故に自分の名前と同じ言葉を聞いてしまい気付けば追いかけていた。かつて胸の内に押し込めて求めていたものが体を動かし17年のときを経て血の繋がった親と再会を果たす。「篠島」は読めたが「れい」のところは破けていて読めなく施設の先生が考えた。本当は「伶」。意味は「秀才でも無くても良いけど、周りから頼られる人」になって欲しいと付けられた

 

 

 

【挿絵表示】

 

 フィーロ

( https://picrew.me/share?cd=hiTQr1mQwj)

 こちらで公開されているパーツを組み合わせて作ったものです

 

 159cm/B型

 9月3日/13歳

 

 出身:ソチノイラ

 好きなもの:身体を動かすこと、戦うこと

 職業:傭兵

 ファミリー:父、義兄

RELATION

父:かっこよくて強い

伶:かっこよくて強くて、ずっと一緒にいたい

 

 トリオン:7

 攻撃  :8

 防御  :7

 機動  :5

 技術  :4

 射程  :8

 指揮  :2

 特殊戦術:4

 TATOL :45

 

 サイドエフェクト:なし

 

 トリガー:夜の雨(レーゲン)

 形の無い黒いトリオンを想像通りに形を変える。普段は棒や能力を抑えて戦うように伶が指示をしている。許可が下りたときに本当の能力が発揮する

 それは触れたトリオンは全て消滅する。使用時は制御しやすいように身体を覆う鎧の形にしている。またトリガー使いを飲み込むような攻撃をしないことを注意している

 

ボーダーのトリガー

メイン:スコーピオン シールド アステロイド

サブ :スコーピオン シールド バッグワーム

 

 経歴

 0歳:誕生。伶が引き取られ兄ができた

 6歳:伶が楽しそうなこと(訓練)をしているため、一緒に遊ぼうと真似る

 8歳:進がやってきて新たに兄ができる

 9歳:父死亡、ブラックトリガー(遺品)を受け取る。伶に弟子入りして傭兵になる

 13歳:玄界(ミデン)に旅行へ行く

 

 生まれてすぐ母親が死んだためどんな人なのかは知らない。写真でしか記録がなく、また父親からの話しか分からないためイマイチ理解できていない。伶に守られながら育ち、自分だけで遊ぶのは退屈だと一緒に訓練をする。だがすぐ疲れる、駄々をこねたりなどしていた

 いつものように大人しくお留守番していたら風間進という兄ができた。もう寂しくないと思ったらそうでもないことにショックを受ける

 父が死に遺品を受けとって一日中部屋で泣いた。はじめは復讐を考えたが、「復讐したところで報われることなどない。そんなのは自分を殺すだけだ」という言葉を思い出し伶に弟子入りをする。夜の雨(レーゲン)の特性上形状変化は自由なので、伶から様々な武器の使い方を覚えるように言われている

 頭より体を動かすことが好きなため何度も交渉の仕方を教えても中々覚えられず毎回怒られる。大好きな兄がいるのでこのままでもいいとさえ思っている

 男所帯の家に育ったのと物心付いたときから伶がそばにいたことで家族以上の感情がある

 

 サイドエフェクトはないが、戦闘時における直感と気配の察知能力は高い。姿を消すトリガーの「カメレオン」をほぼそれで躱してきた。ボーダーのトリガーに触れたことで自分の強さがレーゲン頼りだったことに気付き、ボーダーに残って本当に自分が強くなろうと考える

 

 

 

 

 

 

 




キャラの追加情報は不定期ですが追加していくことになります

個人的な考えとして近界民(ネイバー)では男同士で親睦を深めるなどあるのではないのかなと、またフィーロの家庭は母親が死んだこともあり男所帯になったことで自然と意識してきたのではないのかな? と思っています
本編でそういった話は現時点では考えていないです


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風間進

そういえば進さんのイメージCVは誰が合うでしょうね? 蒼也さんが意外と低かったのは驚いた


 風間進(かざま しん)

 23歳

 178cm/A型

 6月3日/うさぎ座

 職業:傭兵⇒ボーダー隊員

 好きなもの:から揚げ、歴史ドラマ

 

 家族:父、母、弟

 RELATION

 蒼也 :成長しているか心配な弟

 伶  :命の恩人

 フィーロ:初めてのやんちゃな弟

 

 

 トリオン:6

 攻撃  :8

 防御  :6

 機動  :7

 技術  :6

 射程  :3

 指揮  :4

 特殊戦術:8

 TOTAL :48

 

 メイン:弧月 ハンティング シールド 

 サブ :   バッグワーム シールド ファントムゴースト

 

「ハンティング」

 怜の言葉をヒントに追従性能を追加した旋空弧月。雷のように走り目標まで来ると周囲を旋回し切り刻む。直接切らないのはトリオン体を破壊して命を奪わないようにするため

 

「ファントムゴースト」

 使用中はレーダーにも視界にも映らない緊急回避用のトリガー。トリオン体を分散して消えると目標の位置まで移動して再びトリオン体を形成する。ただし消費が大きいので何度も使用できない。進にとっての切り札

 一度死ぬ恐怖を体験したため、生き延びるために作ってもらった

 移動中は攻撃も防御もできない。テレポートと違うのは移動距離に制限がない、視線の先に移動するわけじゃない

 このトリガー名はどちらも同じ意味で、ちょっと面白く悲しい逸話があった

 

 経緯

 0~18歳:不明

 18歳  :故郷を守るために近界に行き戦う。追い詰められ重症を負い怜に助けられる。1ヶ月で退院、仲間は帰っていないので怜たちの元で暮らし始める。それから半年後に恐怖も薄れてきたので傭兵として登録・怜たちと仕事を始める

 19歳  :怜の言葉を元にオリジナルトリガーを制作依頼。10ヵ月後に完成。怜が同郷の者だと知り知っていることを教えられるだけ教え始める

 23歳  :強引に玄界へ連れて帰られる

 

 どういった流れでボーダーに関わったのかは謎。5年前の玄界(ミデン)に危機が迫ってきているため仲間とともにネイバーの国へ行き戦った。だが敵に追い詰められたことでトリオン体を破壊され、生身になったところで致命傷を負わせられる。最期にブラックトリガーを作ろうと手を伸ばしたが、たまたま父親の依頼に付いてきた伶にトリガー渡される。幸いトリオン体生成するだけのトリオンはあったので死ぬことを免れる。代わりに無防備になった伶が流れ弾で怪我を負ってしまう。

 

 ソチノイラの病院前で解除して瀕死の状態に戻ったが、すぐに治療ができたので死ぬことはなかった。1ヶ月で退院でき、助けてもらった伶に恩返しがしたいと暮らすことに。仲間は帰ってていないこと、さらに違う国へきてしまったので帰還困難になったのが理由が大きな理由だった

 

 半年は死ぬ恐怖を体験したためトリガーは握れても戦えなかった。その間はフィーロと一緒に留守番をしていた。実弟の蒼也と違い活発でやんちゃなため苦労はしたが、寂しさも退屈を感じることはあまりなかった。少しずつ恐怖を克服できたことで傭兵として活動することを決める

 

 訓練もしつつ傭兵としてのやり方を学んでいった

 

 故郷に帰らなければと思いつつも、他国の進を当たり前のように受けれられたソチノイラの居心地がよく恩返しと言いつつ残った。それ以外にも数年も行方不明だったため今更戻ったとき、世間が慌しくなり、家族に迷惑をかけてしまうからと考えていた

 助けれて5年経った今は、無理矢理であるが伶たちが旅行と言う名目で帰還を果たす。だがかつてのメンバーの状況に悲しさを感じた

 

 帰還を果たしてからは時期を見て親に会う予定。ボーダーには引き続き残ることを決めるが、迅以外は生存していることを知らなかったため登録は消されており、もう一度所属するため規則通りC級からやり直すこととなった。所属は玉狛支部で木崎隊に、トリガーはB級になった時点でこれまで使っていたのを緊急脱出(ベイルアウト)機能付きの現在のトリガーホルダーに移している

 

 お酒は強いほう。成人した弟と飲んでいたら、まさかの下戸で思わぬ醜態を見て驚きを隠せなかった。料理以外はそつなくこなせる程度にはできるお兄さんではある

 

 




思っていたよりは低いとかこんなのが好きなの?とかあると思いますが、あくまで作者の想像です


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