GOD EATER 『施しの英雄』 (へいよーかるでらっくす)
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第1話
紙クオリティですが楽しんで頂けたら幸いです。
2022/4/28.追記:第一話を思い切って書き直してみました。話の大筋は変わっていませんのでご安心ください。
───オラクル細胞
それは西暦2046年、北欧地域にて遺伝子工学企業『フェンリル』によって発見された。人類が今まで見たこともない全く未知の細胞というのもあってフェンリルの学者達は躍起になって研究に励んだ。
"この細胞が人類に新たな希望を与えてくれるかもしれない"
そんな可能性を期待していた学者も中にはいた。
だが、これはそんな期待を抱くようなものではなかった。それは研究を進めていく内に学者達も気付き始めた。この細胞が持つ恐ろしい特性を…。
それは細胞自らが"考えて、喰らう"というものだった。個々の細胞ごとに生命活動が完結しており、これはアメーバやゾウリムシといった単細胞生物に近いだろう。そしてあらゆるものを取り込む極めて特異な器官を細胞壁状に有しており、これによって捕食を行い、自己進化を繰り返す。あらゆるものとは言ったがそれは文字通りの意味であり、有機物は勿論のこと、金属やガラスといった無機物すら問答無用で捕食してしまうのだ。
さらに自己進化速度も異常だった。そもそも進化とは1世代で完結するものではなく、何世代もかけ気の遠くなる年月を経て行うものである。ところがこのオラクル細胞はそういった過程をすっ飛ばし、捕食したものの情報を取り込み自身にとって最も適した姿へと急速に進化していくのだ。もはや彼の進化論を提唱したダーウィンが顔を真っ青にするレベルである。
そして西暦2050年、驚異的な速度で進化を繰り返していった結果、人類とって最悪な事態が発生した。
───オラクル細胞が人類に牙を剥いたのだ。
オラクル細胞の進化によって誕生したその"生物"は爆発的に増殖し世界中の大都市が短期間で壊滅した。当然人類側も黙っているわけがなく、この異常事態を解決するべく既存の兵器を用いてあらゆる手を尽くした。しかし決死の抵抗も虚しく人類は無惨にも蹂躙され、世界の人口は歴史上類を見ない速さで減少していった。
さらに負の連鎖は続き、この生物の発生が少ない土地をめぐり人類同士が紛争。人口は最盛期の100分の1にまで激減した。
いつしか人々は通常兵器が全く通じないこの強大な力を振るう生物を前に極東地方に伝わる八百万の神々になぞらえてこう呼ぶようになった。
───
◆◆◆◆
人々が消え廃墟となった街、荒れ果てた大地。かつての繁栄が嘘の様に消え失せた世界を青く輝く月が神秘的な光で照らす中、禿山の頂のように草がなく、むき出しの岩肌が覗く大地に1人の青年が立っていた。
幽鬼のような痩せた身体に白い肌と髪、碧い瞳、黄金に輝く鎧と耳輪、胸には赤い宝石が埋め込まれてる。
その名はカルナ。
インドの叙事詩"マハーバーラタ"に登場する英雄で、人間の王女クンティーと太陽神スーリヤの間に生まれた半神半人であり、肉体と一体化した黄金の鎧は神の子の証として父スーリヤから贈られたものだ。そして叙事詩の主人公、アルジュナの宿敵にして生き別れの兄でもある。
"施しの英雄"とも呼ばれ、何かを乞われたり頼まれた時に断らない事を信条とした聖人で、圧倒的な力を持っていながら、血の繋がった兄弟と敵対する悲劇を迎えた。それに加え様々な呪いを受けた影響で、その本来の力を発揮する事なく命を落としたと語られている。
そんな大英雄である彼は今、
白い体色をした獣脚類の恐竜の様な体躯。口には発達した二本の鋭い牙が生え、鬼のような巨大な尻尾をもつ怪物。
名を"オウガテイル"
『ガァァ!!!』
オウガテイルは威嚇と同時に尻尾から無数の刺をカルナに向けて飛ばす。刺は弾丸並の速度で飛来し、常人に当たれば致命傷は免れないだろう。
「……」
そんな攻撃を前にカルナは顔色一つ変えずに後ろに跳躍して躱し、刺は彼が立っていた地面に次々と突き刺さる。硬い岩肌に深々と刺さるその光景は刺の威力の高さを物語っていた。
オウガテイルはカルナが地面に着地した瞬間に身体を尻尾で支えバネの様に曲げると彼に向かって飛び掛かり、獰猛な口を大きく開け、そのまま喰らおうと迫る。
「……」
しかしこれも左にステップし躱す。
オウガテイルもそれを読んでいたのか、続け様に尻尾を振り回しカルナを吹き飛ばそうとするが──
「……ッフ!」
またも尻尾が当たる直前に後方宙返りをして躱される。
『グルル…グガァァァ!!!!!』
攻撃が当たらない事に苛立ったのか咆哮を上げると再び尻尾から刺を飛ばす。それも一度ではなく確実に仕留める為に連続で飛ばした。
しかし、これも当たらない。何故ならカルナは連続でバク転をし難無く躱したからだ。その流れる様な動作はプロの体操選手でさえ思わず見惚れてしまう程の美しいフォームを描いていた。
『グルルル…』
何をしても攻撃が当たらないのを見たオウガテイルは怒りで目を血走らせ、唸り声を上げながらカルナを中心に円を描くようにゆっくりと歩き出す。
「…さて」
すると今まで無口だった彼が口を開く。
「お前の動きは見切った。そろそろ終わらせるとしよう…」
そしてカルナが口を閉じた瞬間──
『ッ!?』
シュンッ!と風を切る様な音と共にカルナの姿が消えた。突然獲物が消えた事に困惑するオウガテイルだったが──
「何処を見ている?」
『ッ!!』
声が聞こえた方に視線を向けるとカルナは直ぐ真横に立っていた。そしてその手にはいつの間にか
『ガァ!!』
オウガテイルは直ぐ様尻尾をカルナに向かって振るがまたしても跳躍して躱される。それどころか彼はそのまま尻尾の上に着地し──
「──詰みだ」
目にも止まらぬ速さでオウガテイルの首を槍で切り裂いた。
泣き別れした首と胴体。首は石ころの様に地面に転がり、胴体は首元から大量の鮮血を吹き出しながらドサッと鈍い音と立て地面に倒れた。すると首と胴体から黒い靄が発生し地面にゆっくりと沈む様に消えていった。
「……」
それを見届けたカルナは無言のままその場を立ち去っていく。その手には先程まで握っていた槍は影も形も無くなっていた。
異形の怪物を表情一つ変えずにいとも容易く葬るその姿は正に英雄の名に相応しいと言っても良いだろう。
さて、そんな彼の内心はというと───
「(やっべぇよ、マジで死ぬかと思った。というか超怖かったぁ)」
滅茶苦茶ビビっていた。
◆◆◆◆
どうも皆さんこんにちは。何故か"転生"してしまった一般人Aです。いきなり何言ってんだコイツと思うかもしれないけど実際に転生してしまったんだから仕方ないじゃないか。かくいう俺も絶賛困惑中だ。
さて、とりあえず事の経緯を簡単に説明しよう。高校卒業後に厄介な病気を発症しそのままおっちんだ。で、気がつくと見知らぬ場合に突っ立ていた、以上である。
流行りの異世界転生系ではよくある死後に髭面のおっちゃん神様とか、めっちゃ美人な女神様が現れて「あなたを転生させます。好きな特典を選んで下さい」といった会話も一切なく、気づいたらこの世界にほっぽり出されていたのだ。どうやら俺の世界の神様は想像以上に勝手な奴らしい。
神様にとっては良かれと思ってやったのかもしれない。でも俺は別に転生なんて望んでいなかったし、精々死ぬ間際に
…でも神様。俺はこう願ったよね?"来世はこんな不幸を帳消しにするような人生を送りたい"って。だったらさぁ、
なんで転生先がよりにもよって"GOD EATER"の世界なんだよッ!!人類THE ENDになりかけている世界に転生とかふっざけんじゃねぇぞ!そもそもこんなお先真っ暗な世界で幸せな人生が送れる訳ねぇだろ!それとも何か?俺にもう1度死ねと言っているの!?
確かにこのゲームは超が付く程好きだった。世界観、登場人物、ゲームシステム、プレイ中に流れるBGM、どれをとっても素晴らしい出来だった。テーマソングも最高だ。もともと音楽にはそこまで関心はなかったけど、スマホにダウンロードしてから一体何回再生したことか。プレイ時間も1000時間を超える程にやり込み続けた程だ。
だが!それとこれとは話が別。ゲーム自体は好きだけと断じてこの世界に転生したいなんて思ったことはねぇよ!
そして極め付けはこれだ。
「一体何が起きた?理解不能とは正にこの事だな」
なんで身体がFateのカルナさんになってんの!?いや確かにカルナはFateでは1番好きなキャラだし、この身体じゃなければさっきのオウガテイルに間違いなく殺されていたけどさ。でもここ型月じゃなくてGEの世界だよ?世界観思いっきり無視しちゃっているんですけど…。
それにどういうわけか
…よし、ツッコミまくったお陰か少し冷静になれた。転生したことと、この身体についてはもう置いておこう。考えても時間の無駄だ。とりあえず状況を整理しよう。先ず今いる場所は幸いにも我が故郷である日本のようだ。そこらに転がっていた古い看板や標識は全て日本語で表記されていたからまず間違いない。ただ、日本の何処にいるのかは流石に分からないので、これに関しては追々調べるとしよう。次に今の時系列について。これも大雑把だけどある程度予想できる。何故なら、
「…
そう、空を見上げれば分かるが月が地球のような状態になっているのだ。これは紛れもなく『月の緑化現象』。原作主人公達がアーク計画を阻止した後の世界であることは確定とみていいだろう。ただそこからどれくらいの時間が経過しているのかは判断材料がない以上これも調べていくしかないね。
さて、軽く状況整理をしたところで今後の行動方針を決めよう。優先しなくてはいけないのは現在地の確認と安全の確保だ。
え?カルナさんボディがあるから安全確保の必要はない?……そりゃあ確かに中身は一般人とはいえ身体はトップサーヴァントなんだから護身については問題ないかもしれない。さっきの戦いで証明されているしね。
だがしかし!俺のメンタルに壊滅的なダメージを受けるのでこれは最優先事項なのだ!考えてみろ、普段テレビや動物園で見ているライオンやトラが突然目の前に現れたら怖いだろ?今回はそんなライオン達ですら可愛く見える程の正真正銘の化け物だぞ?怖いなんてレベルじゃねぇよ。ゲームでは雑魚だったオウガテイルですらあの恐怖感だ。これが大型アラガミだったら失神する自信があるね。ましてやそんな化け物達がうじゃうじゃいる環境で野宿するなんてまっぴらごめんだね。
そういうわけで安全確保のためにどうしたらいいか?これは考えるまでもない。なんせここはあの日本、つまり極東地方だ。だったらあるじゃないか、もっとも安全な場所が───
そう!極東支部だ。
彼等に匿ってもらえれば俺のメンタル保証は約束されたも同然。問題はどうやって匿ってもらうかだけど、支部を見つけて正面から堂々と侵入…なんて馬鹿な真似はできないし、この姿のこともある以上迂闊な行動はできない。となると
「…
主人公率いる第一部隊に接触できればこの問題を解決できるかもしれない。彼等は以前にサカキ博士に頼まれて秘密裏にアラガミである"シオ"を保護した過去がある。今回も同じように保護してくれる可能性があるのならやってみる価値はあるだろう。もっとも、アーク計画の事件から何十年も経っていた場合はこの案は破綻するけどね。こればっかりはなんとも言えない。身勝手な神様がそこまで配慮してくれているのかと聞かれると怪しいところだし……いや、考えるの止めよう。
兎に角、先ずは現在地を確認して極東支部近辺に向かわなければいけない。彼等を探すのはその後からでいいだろう。…これは想像以上に苦戦しそうな予感がするなぁ。
「先が思いやれるが、代案がない以上、やるしかないな」
そうと決まれば早速行動を開始だ。もしかしたらさっきのオウガテイルの仲間が近くにいるかもしれないし、早いところ此処から離れよう。今の俺に戦う余裕なんて──っ!?
「……遅かったか」
お、おいおい…冗談じゃないぞ…。なんで……なんでよりにもよって…
『グオォォォ!!!!!』
「ヴァジュラ。それも4体ときたか…」
無理無理無理無理!!こんな奴らを相手にするなんて絶対に無理!この体中からいっぺんに汗が流れ落ちていくような感覚、オウガテイルが可愛く思えてくるよ!
と、兎に角此処から逃げよう。この身体のスペックをもってすれば逃げ切ることは可能な筈だ。そもそも所詮俺はただの一般人。神機使いのようにアラガミと戦う義務なんて微塵もない。逃げることは決して間違いではない筈だ。……………だけど
「………」
逃げようと考えれば考える程、俺の意思に反してこの身体が強く訴えてくるんだ。"この怪物を野放しにしてはいけない"って。でも不思議と威圧的なものは感じない。あくまでこちらの意思を尊重しているような…そんな気がする。これはきっと本来の人格、カルナの意思なのかもしれない。
……………だあーーもう!!わかったやりますよ!やってやりますよ!カルナは俺の1番の推し鯖だ。そんな推し鯖の…大英雄の姿で敵を前に無様に逃げるなんて確かにカッコ悪いもんね。本当は滅茶苦茶怖いけどやれるだけやってみようじゃないか。インドの大英雄の力、素人ながら存分に使わせてもらうぜ!……あ、あとヴァジュラさん?俺はきっと食べても美味しくないから、そのまま回れ右して帰ってくれてもいいんだよ?
『ガアァ!!!』
や、やっぱりだめですかそうですか!ならばこの超インド人の力、思い知れぇーー!!!(ヤケクソ)
「オレを喰うつもりか、怪物よ。だが貴様らがオレを喰う事は無い。何故なら───此処でオレが貴様らを討つからだ」
「我が名はカルナ、太陽神の子。我が槍を恐れぬのなら掛かってこい」
◆◆◆◆
『ーッ!!??』
カルナの言葉と同時にアラガミであるヴァジュラ達が身震いしてしまう程の強烈なプレッシャーが襲いかかった。唯の獲物である筈の人間から放たれる異様な雰囲気を前に思わず後退してしまうヴァジュラ。しかし───
『グオォォ!!!!!!』
怯んでいたのも一瞬。直様アラガミの「喰らう」という本能に上書きされ、雷のような激しい咆哮を上げる。すると一体のヴァジュラが飛び出し、その巨大に似合わぬ速さでカルナに接近。目前に迫ると右前足を振り上げ、野獣のように生え揃った爪で引き裂こうとする。
『ッ!?』
だがヴァジュラの爪がカルナ引き裂くことはなかった。何故なら
「…
あろうことか、カルナは
「…では、お返しだ」
すると空いている右手に光の粒子が集まり出し、オウガテイルを絶命させたあの黄金の槍が顕現する。同時に槍を握りしめ、ヴァジュラの前足を切り裂いた。傷口から血が噴き出し、苦痛を感じたヴァジュラは思わず後退すると怒りの形相でカルナを睨みつける。
「先ずは貴様から仕留めると─ッ!?」
追撃を加えようとするカルナだったが即座に中断にその場から飛び退く。すると彼が立っていた場所に
「……そう簡単にはいかないか」
ヴァジュラの攻撃手段はその姿に違わぬ敏捷性を活かした突進や、爪を用いた格闘戦だけではない。先の雷球のように自身が生み出した雷を意のままに操ることができるのだ。その威力は岩をも砕き、人間が浴びれば即死するレベルに達する。
『グガァァ!!!』
ヴァジュラ達は再び雷球を生成すると凄まじい速度で放つ。流石のカルナもこれには回避をとらざるを得ない。次々と迫る雷球を軽快なフットワークで躱し続け反撃の隙を窺う。しかし、
「──これはっ!?」
突如、カルナを覆う様に巨大な雷のドーム状のフィールド展開された。
まさかと思ったカルナは先程傷を負わせたヴァジュラに視線を向けると負傷したヴァジュラが帯電したマントを逆立たせ───
『グオォォ!!!』
天に向かって雄叫びを上げた。すると呼応する様にドーム全体が激しく発光しカルナの身に強烈な雷撃が襲った。
「ぐっ!」
雷撃によってカルナの動きが止まる。その隙を見逃す筈がなく、残りのヴァジュラ達は雷球を放ち、更なる追撃を加える。カルナの瞳には自身に迫る雷球が写るが今の彼に避ける術はない。数秒とかからず雷球は命中した。周囲は青白く発光する中、バチバチバチッ!と激しいスパークが覆う。スパークは数秒間続き、雷撃によって粉塵が舞い、焼き焦げた匂いが漂う中、ヴァジュラ達は警戒した様子でジッと見つめる。
この光景を第三者が見ればこう思うだろう。"彼は死んだ"と。
唯でさえ常人が即死する威力の雷撃だ。それをあれだけ浴びれば生きているわけがない。仮に奇跡的に生き残ったとして、その命は最早風前の灯だろう。
しかし!
『ーグガッ!?』
それは一瞬の出来事だった。傷を負ったヴァジュラが仲間達と同じように見つめていた時、スパークによって舞っていた粉塵が突如
「──その命、貰い受ける」
それがヴァジュラが見た最後の光景だった。突貫したカルナはそのままヴァジュラに突っ込むとヴァジュラごと地面を抉りながら突き進み、剥き出しになった岩盤に激突した。余りの威力に岩盤が弾け飛ぶ中、カルナは何事もなかった様子で骸となったヴァジュラに背を向けて歩き出す。
「オレが雷程度で死ぬと思ったか?」
「(めっちゃ痺れたけどな!)」
軽快な足取りで残りのヴァジュラを見据えながら近づいていくカルナだが、ヴァジュラ達は今の出来事を理解できてないのか心なしか困惑している様子だった。当たり前だ。あれだけの雷撃を受けた人間が
「さて、今度はこちらの番だ」
そんな彼等を他所に左手を前に出しながらカルナは語り出す。
「お前達の雷は確かに強力だ。
「こちらは"炎"で対抗しよう」
すると左手から緋色の火球が生み出され、息を吹きかけると無数の火炎弾が飛び出し、先程の雷球を彷彿させる速度でヴァジュラ達に迫る。思わぬ奇襲を前に回避をとるが1体の個体が反応に遅れた。結果、数発の火炎弾が命中すると激しい轟音と共に爆散した。
『グォォ……グルル…』
被弾したヴァジュラの姿は酷い有様だった。顔の半分は焼き爛れ、王者の冠を彷彿させる角は無惨にも折れ、マントに至ってはほとんどが焼き切れていた。しかし流石はアラガミの中でも上位に君臨する存在と言うべきか、絶命には至らずその命は健在だった。
『グガァァァオォォ!!!!』
憤怒の形相で雄叫びを上げるとヴァジュラは近接戦を仕掛けるために傷だらけの四肢を無視して走り出した。そんな中、カルナは槍の刀身をヴァジュラに向ける。すると刀身の先に炎が収束し始め、
「…消え失せろ」
ズオオオォォォォ!!!!!
収束した炎はヴァジュラの巨体をも遙かに上回る
さて、この常識外れな光景を生んだ当の本人はというと、
「(……うっそおー)」
自分がやったというのに呆気に取られ、普段は無表情の彼でも若干困惑の色を浮かべていた。この男、馬鹿なのだろうか?
「…う、うむ。些かやり過ぎてしまったな」
「(いや待って待って!?俺はただちょっとレーザーを撃とうとしただけなのに、魔力が勝手に集まって爆発しそうになったから咄嗟に撃っちゃったらなんかヤバいレーザーが出たんですけど!?何あれ波○砲!?オーバーキルにも程があるだろ!)」
なんと彼は軽いビームを撃つつもりでいたが、魔力のコントロールが上手くいかず、暴発しそうになったことにビビって思わずそのまま撃ってしまったのだ。その結果あのようなとんでもレーザーになってしまったのだ。
だがそれは仕方ないのかもしれない。彼の頭には生前のカルナが培ってきた膨大な戦闘スキルがある。槍の捌き方、攻撃の見極め方、魔力の使い方。その種類は多種多様。しかし彼は元々ただの一般人だ。たとえ優れた戦闘スキルがあってもそれを扱うのが素人、ましてや転生してロクに戦ったことがない今の彼が完璧に使いこなすことなど不可能だろう。
『ーグガァァッ!!』
呆気に取られるカルナだが今は戦いの真っ最中。無防備に立っている隙にヴァジュラが彼の背後を取ると低く屈みタックルを行うが、直様反応したカルナは素早く跳躍し躱す。攻撃を空かしたヴァジュラはバックジャンプをして距離を置くと上空にいるカルナを睨み付ける。
すると彼は空中にいる状態で槍投げの構えを取り、腕を大きく振り上げると相手に目掛けて投擲。槍は凄まじい風圧を生みながら高速で飛来しヴァジュラの身体を意図も容易く貫いた。刀身が身体を貫通して地面に突き刺さり串刺しとなっている間に、重力に従い落下したカルナはそのままヴァジュラの頭頂部に踵落としをお見舞いする。
『グォガァ!?』
カルナの筋力と落下速度が相まって、まるで頭が2つに割れる様な衝撃が走り、ヴァジュラの頭部が地べたに這いつくばる。その隙に槍を引き抜くとカルナはヴァジュラの首に槍先を当て、
『ッ!?』
「───その首、落とさせて貰うぞ」
刹那、シュンッ!と風を切るような音が響きヴァジュラ身体が倒れる。その首から先はなく、あるのは夥しい量の血液のみ。本来ある筈の頭部は宙を舞い、ベチャリッ!という不快な音を立てヴァジュラの死骸の背後に転がる。カルナの槍がヴァジュラの首をも取った瞬間だった。
「…後は貴様だけだ」
『グルルル…』
カルナが見据える先には最後の1体となったヴァジュラが唸り声を上げながら佇んでいた。他の仲間を容易く葬った彼を警戒しているのか、直ぐにでも襲い掛かろうとする様子はない。
「悪いがオレにはやらなければならないことがある。そろそろこの戦いに幕を引くとしよう」
幕引きを宣言すると地面を力強く蹴り、疾風の様に駆け抜けた。同時にヴァジュラも駆け出し、戦士と化け物の距離は一瞬にして縮まった。そして───
「おおぉっ!!」
『グオォォッ!!!』
互いの得物を振り下ろした。
「…フム、耳のいいアラガミが寄ってくると厄介だな。急いで退散しなければ」
何事もなかった様子で周囲に目を配りながら警戒するカルナ。すると彼は両足に魔力を集め、
「知識によれば…こんな感じか?」
ボォウッ!と足から炎がジェット噴射の様に噴き出した。身体が宙に浮き、噴射の威力を更に高めていくとカルナは赤い閃光となり遙か空の彼方へと消えていった。
『………』
カルナが去っていくと辺りは静けさを取り戻し普段と変わらぬ静寂に包まれる。そして、先程まで戦闘が行われていた場所では全身の至る所が切り裂かれ、憐れな姿となったヴァジュラの死骸が横たわっていた。
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第2話
申し訳ありません!
これからは不定期ですが更新していきますので宜しくお願いします。
それと今回かなり滅茶苦茶な設定をしていますがどうか許して下さい。
中身は別人ですがカルナには出来るだけ暴れて欲しかったんです…
4体のヴァジュラを難無く討伐したカルナは現在、優雅に空を飛んでいた。
既に陽は沈み夜空が広がっている為、今の彼を地上から見れば、まるで星空を駆ける彗星ような幻想的な光景に映るだろう。
先の一戦でもそうだったが何故彼はこうして空を飛ぶ事ができるのか?それはカルナが保有するスキル『魔力放出(炎)』のお陰だ。
魔力放出とは武器・自身の肉体に魔力を帯びさせ、瞬間的に放出する事によって自身の能力を向上させるスキル。より簡単に言うと魔力によるジェット噴射だ。
カルナの場合は魔力が燃え盛る炎となって武器に宿り、攻撃や防御にも応用が可能だ。そして今のように足から噴射し続ける事によって空を飛ぶ事だって出来る。やろうと思えば炎を翼のように展開つつジェットの如く噴射することで、ジャンボジェットと同等以上の速度で飛行する事も可能なのだ。
だが、絶大な能力向上を得られるがその反面、魔力消費は通常の比ではない為非常に燃費が悪くなる。特にカルナの場合は強力な分、通常の魔力放出以上に燃費が悪い。もし仮に今のカルナが魔術師によって召喚されていれば、契約した魔術師は例え一流だろうと自身の魔力をごっそり抜き取られとっくに死んでいるだろう。
しかしーー
「…………」
今のカルナは魔力放出で空を飛び続け、さらにはヴァジュラとの戦いでも魔力を消費した筈なのだが全く気にした様子はない。それどころか涼しい顔をしている。
魔力消費の事は無視してもあれ程恐ろしさ化け物を相手にしてこの表情とは流石はかのインド神話の大英雄。とんでもない胆力だ。
さて、そんな彼の内心はと言うとーー
「(おぉぉおお!!スゴォォォーーイ!!!)」
まるで初めて飛行機に乗った子供の様にはしゃいでいた。
酷い落差である……。
◆◆◆◆
ヴァジュラ4体を見た時は気絶しそうになったけど無事に倒す事ができた。流石はカルナだ、戦闘能力が半端じゃ無い。
それと戦闘中に気づいたんだけど身体に意識を集中させると今まで感じた事も無い不思議なパワー?みたいなものを感じた。それも
まだ確定したわけじゃ無いけど多分これが魔力ってやつなんだと思う。
さて、話を戻そう。
俺はヴァジュラ達を倒した後、直ぐにあの場所から離れた。それは何故か?理由は簡単、あの戦闘音を聞いてまたアラガミが集まって来る可能性があるからだ。アラガミの中には非常に聴覚が優れた奴もいる。主にコンゴウとか!コンゴウとか!!コンゴウとかぁ!!!(憎悪)
………コホン!で、そんな面倒くさい事になっても困るので魔力放出を使って早々にあの場所から離れたという訳だ。こうして俺はそのままアラガミとの遭遇率が比較的低い空を飛んで移動してるんだけど1つ言わせて欲しい……
空を飛ぶって楽しい!!滅茶苦茶楽しい!!まるで鳥になった気分だ!人間は昔から空を飛ぶ事に憧れていたけどその気持ちが今では良く分かる!こんなの憧れるのも当然だ!!
あぁ…いっそこのままずっと飛んでいって……
って!ダメだ!ダメだ!俺の目的は空を飛んで遊ぶ事じゃない、ゴッドイーターを探す事だ。
でもすっかり夜になっちゃったし、このまま探すのは効率が悪いから何処か安全そうな場所で休んで、探すのは明日にしよう。
「そうなると身を隠すだけでなく出来るだけ見晴らしの良い場所が好ましいな。しかしそう都合良くあると………いや、あったな…」
本当にあったよ…。このまま真っ直ぐ行った先にある周りには特に建物もない平原に小屋がポツンと。ついでに言うと更に先にはビル群が見える。
というかかなり離れている筈なのに良く見えるなぁ…。そういえば確かカルナってアーチャーの適正もあって夜でも数キロ先にある車のナンバープレートを確認出来るんだっけ。つくづく規格外のスペックだよ……。
と、それよりも見たところボロボロだけど身を隠すには十分だし万が一アラガミが近づいても直ぐに視認出来るから今回は彼処で休もう。
「さて、周りにアラガミの気配は……ないな。では明日に備え寝るとしよう」
うん、アラガミは近くにはいないようだしこれなら落ち着いて眠れそうだね。
いやぁ〜それしにして今日はもう疲れた。精神的に…。
とんでもない事になっちゃったけど、前世では病気のせいでろくに歩く事も出来なかった。それが今は歩くどころか飛ぶ事だって可能なんだから、これはこれで悪くはない…のかな。
どうしてこうなったのかは分からないけど折角第2の生を得たんだから精一杯生きないとね。
よし!じゃあもう寝よう!魔力放出も結構使っちゃったし明日に備えて回復させ…ない……と……
ちょっと待てよ?
確かに俺はヴァジュラ戦の時に魔力放出は使ったし、此処に来るまでもずっと使っていた。それも30分以上…。
さっき言った身体に宿る不思議なパワーみたいなものが魔力だと仮定してもあれだけ使ったのならいくら膨大でもかなりの量を消耗…いやそれどころか魔力切れになっている筈だ。でも改めて集中してみてもほんの少し消耗した程度、具体的言うとバケツ一杯の水があったとしてそこから1/5ぐらい減った程度にしか感じない。
それはおかしい…
カルナの保有スキル『魔力放出(炎)』は通常の魔力放出よりも強力な分、燃費が相当悪かった筈だ。
聖杯大戦の時もマスターにかける負担が大きいから彼自身最大出力での使用は自重していたし、負担を最小限に抑える為に使用時間は10秒未満に限っていた。
それによくよく考えれば魔力放出だけじゃ無い。この鎧だって纏っているだけでも魔力を消耗してしまう筈だ。
ならばこれは一体?考えられる事は……
「魔力の消費量が軽減されている…という事か?」
これならあれだけ魔力放出を使って尚且つ鎧を身に付けていた状態で消耗した魔力が少なかったのも納得がいく。
でも仮にそうだとして、どうしてそんな事が……
………ダメだ、全く分からない。
ハア…仕方ない。そもそも調べようが無いし、この事はもう諦めよう。
それよりもカルナの最大の欠点であった燃費の悪さが改善されてめちゃくちゃ良くなっているんだから寧ろ喜ぶべきだ。
というか燃費の良いカルナってもうチートだよね…。
ん?待てよ……という事は
もしそうなんだとしたら……
「是非とも試してみたいな…」
うん、試したい!めっちゃ試したい!よしやろう!!今此処でぇ!!!
…………いや、落ち着け俺。
確かに試したいけど今此処で盛大に
ならば今日は諦めて明日場所を改め、その上でやろうじゃないか。本当は今直ぐやりたくてウズウズしているけど…。
「では今度こそ眠ると…………敵か…」
うん、来たね、アラガミが。さっき言ったビル群がある方角からこっちに近づいて来る気配が……多いな、複数体いるみたいだ。まだ距離は大分離れているけどこのまま此処に来られても困るし、俺の安眠の為にも……
◆◆◆◆
カルナが隠れている小屋に向かって地上からおよそ50メートルの高さで浮遊して移動するアラガミの群れ。その種類は2つ、
1つは女体と卵の殻が融合したような形状と巨大な眼が備わっている小型アラガミ、ザイゴード。その数はおよそ30体。
もう1つは女性の体と蝶が融合したような形状をし、額にはザイゴードと同様に巨大な眼があり死の天使の名を冠するアラガミ、サリエル。数は3体だ。
どちらも飛行能力が優れており空中を高速で移動しなから攻撃を仕掛けてくる。さらに一部の攻撃には状態異常が付与されている為、神機使いにとっても厄介な存在だ。
ましてやそれが群れとなって行動しているので、この場合は複数人で討伐するのが妥当だろう。
ーーしかし彼の場合は1人で問題無い。
『『『…………』』』
「突然ですまないがお前達で試させてもらうぞ?」
『『『!!!???』』』
突如頭上からか声が聞こえ一斉に上を向くサリエル達。
そしてその瞬間、
「頭上注意だ…」
サリエル達に向かって無数の炎弾がまるで流星群のように降り注ぐ。
予想外の敵襲に混乱する中、次々と炎弾がザイゴード達に命中していく。
しかし3体のサリエルはザイゴード達よりもいち早く反応し降り注ぐ炎弾を持ち前の飛行能力でなんとか躱し続けた。
やがて攻撃が止み、煙が立ち込める中、残っていたの数体のザイゴードと3体のサリエルのみ。サリエル達は全滅こそはしなかったものの何発かは命中してしまい、3体とも頭部やスカートが結合崩壊していた。
「フム…やはり魔力は大して消耗していないな」
そんな彼らを余所目にカルナは自身の魔力消費量について改めて驚く。
「(結構派手にやったつもりだけど、それに対して消耗した魔力はやっぱり少ない。後は"あれ"を使っても同じなら燃費が良くなったというのは確定だね)」
『『『ーー◼︎◼︎◼︎◼︎!!!!』』』
「(おっと、流石に怒ったか)」
攻撃された怒りからかサリエル達が一斉に咆哮を上げた。
更にサリエルの額にある眼が3体とも発光し、活性化する。
活性化とは所謂怒り状態の事で、この状態になるとアラガミはより攻撃的になる。
『『ーー◼︎◼︎◼︎!!』』
ザイゴード達はオラクルの塊を生成し砲弾の様に放つ。
放たれた塊は放物線を描きながらカルナに飛来する。
「……悪いがその様な攻撃はオレには通用しない」
カルナは槍を軽く横に振った。
たったそれだけの動作で強烈な衝撃波が発生しザイゴード達が放ったオラクルの塊とぶつかり、掻き消えた。
「お前達の攻撃はさして脅威ではない。だがお前達が持つ
そう言った瞬間、ザイゴード達の視界からカルナが消えた。
『『!!??』』
突然標的が消えた事に驚くザイゴード達。しかしその刹那……
「ーー先に仕留める…」
声に反応する間も無くザイゴード達は
カルナは魔力放出を使い、目にも留まらぬ速さでザイゴード達の死角に移動し、槍を横に薙ぎ払い巨大な炎の波を発生させた。
この灼熱の波にザイゴード達は呑み込まれたのだ。
そして一瞬にしてオラクル細胞ごと焼かれ、他のアラガミを呼ぶ間も無く
「(よし!これでもう他のアラガミは呼べない。後はサリエrってヤバ!?)」
『『『ーー◼︎◼︎◼︎!!!』』』
喜んでいるのも束の間、活性化したサリエル達が一斉に額にある眼からレーザーを発射した。
直ぐさま上昇し回避するカルナ。しかしーー
「ッ!…そうか、追尾するレーザーか」
レーザーは器用に向き変え再びカルナに迫る。
サリエルのレーザーは一直線に進むレーザーだけで無く状況に応じて敵を追尾するホーミングレーザーも使うのだ。
「(ダァ〜〜そうだった!!こいつホーミングレーザー使ってくるんだ!すっかり忘れていたよ!…面倒くさいなぁ!!)」
内心愚痴をこぼしながらレーザーを躱し続けるカルナ。
それを見たサリエル達は何度も発射し無数のレーザーがしつこく彼を追尾する。
「(数を増やそうが俺には当たらないよ!)」
だがカルナの飛行能力は並みの飛行アラガミを遥かに凌駕する。
聖杯大戦の最終決戦時には瞬間的な次元跳躍能力という驚異的な飛行能力を持つ黒のライダーの宝具『
そう簡単には当たらない。
ーーしかし彼は罠に嵌ってしまった……
「(しまった!?誘い込まれた!)」
何とカルナが回避した先には2体のサリエルが待ち構えていた。
攻撃が当たらないと判断したサリエル達は彼が自分達の目の前に来る様にレーザーで誘導していたのだ。
そして誘導されているとも知らずに回避していたカルナはまんまと誘い込まれてしまったという訳だ。
『『ーー◼︎◼︎!!』』
「(まずい!?)」
そして2体のサリエルはカルナに向かってに暗紫色に光る粉のようなものを撒いた。彼はそれを浴び、吸い込んでしまった。
今の攻撃はサリエルがもつ状態異常攻撃『毒鱗粉』だ。
この鱗粉は体内に取り込むと毒状態になり、普通の人間なら瞬く間に死に至る。神機使いの場合でも徐々に体力を奪われてしまい、
一定時間の経過、もしくはデトックス錠というアイテムを使用する事で解除が可能だ。
そしてカルナは鱗粉によって動きを止めてしまい、先程まで回避していたレーザーが一気に目前にまで迫る。
『ーー◼︎◼︎!!』
更にカルナの後方にいた残りの一体が駄目押しと言わんばかりにより威力を高めたレーザーを発射した。それに続く様に前方の2体も同じ威力のレーザーを発射する。追尾性能こそは無いものの、その分命中すれば致命傷は避けられないだろう。
そしてーー
レーザーは全て命中しカルナはそのまま地上に落下した。
『『『ーー◼︎◼︎◼︎』』』
カルナを追うようにサリエル達も地上に向かう。
落下した場所は土埃が舞い上がっていてカルナを視認する事が出来ない。
だがサリエル達は特に警戒した様子はなく、地上すれすれまで降下し落下した場所を囲い捕食を行う為、ゆっくりと近づいていく。
『『『………』』』
どうやらサリエル達は標的を仕留めたと確信しているようだ。
それもそうだ、毒で弱らせたところを更にホーミングレーザーと殺傷能力を高めたレーザーで追撃したのだ。いくら普通の人間より身体能力が高い神機使いであろうと今の攻撃をもろに受ければ命は無い。仮に生きていたとしても戦闘不能は確実だろう。
ただしーーーそれは
「ーーーーー成る程…」
『『『!?』』』
突如、土埃の中から聞こえる筈のない声が聞こえた。
「レーザーで誘導し鱗粉でオレを弱らせると同時に動きを鈍らせ、更に追撃を加える……フッ、オレは間抜けにもお前達の策に嵌ってしまったという訳か…」
そう呟き、槍で空中に舞った土埃を払いながら
「オレとした事が不覚を取った。オレもまだまだという事か」
『『『!!??』』』
「ん?攻撃が効いてない事に驚いているのか?アラガミにも驚くという感情があるのだな…。だが訂正しておこう、
『『『ーー◼︎◼︎◼︎!!!』』』
咆哮を上げるサリエル達は再び額の眼からホーミングレーザーを発射する。しかしーー
「その手にはもう乗らんぞ?」
そう言うと同時にカルナは全身を燃え盛る炎で纏い、レーザーが目前まで迫った瞬間、炎が彼を守るように火柱となって舞い上がった。
火柱が消えるとカルナは持ち前の神速でサリエル達の包囲をすり抜け後ろに回り込む。
『『『!?』』』
標的を見失い混乱するサリエル達。
「ではそろそろ……」
後方からの声に反応して一斉に後ろを向く。
すると其処にはーー
「……勝負をつけさせてもらう!」
右眼に手を添え、指の隙間から覗く瞳が
そしてーー
「(フフ……フフフフフ!………よくもォ……)」
顔には一切出ていないが内心ではかなりご立腹のようだ。
「(よくも散々やってくれやがりましたねェ、サリエルさんよォォ??イイだろう!そっちがその気ならこっちにだって考えがある。当初の予定通りオマエ等には実験台になってもらうぞ!)」
『『『???』』』
「(聴け!そして喜べ!オマエ達は
『『『!!!』』』
何やら口調がおかしな事になっているが、そんな彼の内心を悟ったのかは定かでは無いが、このままでは危険だと察したサリエル達は一斉に元来た方角、正確にはビル群に向かって引き返す。恐らくビルの陰を利用して逃げようしているのだろう。
「逃すと思うか?」
しかし、逃走など許さない。
「武具など無粋。真の英雄は眼で殺す……!」
そして今、彼の右眼から
「『
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第3話
ところでFGOでは遂にカルナのモーションがリニューアルされましたね!宝具演出を見て鳥肌が立ったのは私だけではない筈…
ーー極東地域
かつての日本の関東地区、神奈川と呼ばれていたエリア。そこに建てられた巨大な要塞。その要塞はアラガミの脅威から人類を守る為、そしてアラガミに立ち向かう為に作られた人類最後の砦。
フェンリル極東支部、通称アナグラ。
アナグラには神機使いやフェンリルの職員が住み込みで働く中央施設という建物がある。此処は支部の最重要部位で、もし破壊でもされたらアナグラの崩壊を意味する。
中央施設の最上階には役員区画と呼ばれる区画がある。
役員区画と言っても支部長の座に就く人物が執務を行う支部長室があるだけのフロアだ。
現在支部長室の中では椅子に座りデスクに積まれた書類の山と如何にも嫌そうな表情をして睨めっこをするキツネ目の男性がいた。
「ハァ〜……」
彼こそがここフェンリル極東支部の支部長、ペイラー・榊だ。正確には支部長
和服が趣味なのか着物の上にインバネスコートを羽織り、複数の眼鏡を鎖で首にかけていて支部長というよりも研究者のような印象を受ける。
「ちょっとこの量は多過ぎじゃないかい?」
そんな彼は今、本日通算11回目の愚痴をこぼしていた。
「私はあくまで研究者であって支部長なんて柄ではないのになぁ〜……。」
支部長にあるまじき発言だが榊の言う事は事実である。
彼は元々支部長ではなくフェンリル極東支部の技術開発部門を統括するオラクル技術研究者なのだ。
アラガミ研究の第一人者であり、オラクル細胞の技術利用を可能にした「偏食因子」の発見者でもある。
しかし
「で、でもこの書類の提出期限にはまだ余裕があるし、ここは少しサボ…じゃなくて休憩でも……」
そう言って席を立とうすると、室内に来客を知らせる電子音が響いた。
「(…おや?)」
『夜分遅くに失礼します。雨宮です』
「(ツバキ君!?ま、まさか私がサボらない様に釘を刺しに!?)」
「は、入りたまえ…」
『失礼します』
榊が許可すると支部長室の自動ドアが開き1人の女性が入室する。
彼女の名は雨宮ツバキ。
数少ない引退した元神機使いであり、腕輪には封印が施されている。
新人神機使いの教官を務めていて周囲からは『鬼教官』と恐れられている。
以前に榊が休憩という名のサボりをしているところをツバキに見られてしまい、どやされた事がある。
「そ、それでどうしたんだい?ツバキ君?」
「榊支部長に至急報告したい事があります」
釘を刺しに来たのかと焦る榊だったが、どうやら違ったようで内心ホッとする。
「…榊支部長?」
「な、なんでもないよ。それでどんな報告なんだい?」
「……その前にこちらをご覧ください」
そう言ってツバキは1枚の写真を取り出し榊のデスクに置く。
写真には廃墟となったビルが並ぶ光景とともに廃墟に向かって進行する複数のアラガミと思しきものが写っていた。ただし遠くから撮影したせいかボヤけてしまいアラガミの詳しい容姿を確認する事はできない。
「……この写真は?」
「先程
「フム…」
改めて確認するとボヤけているが確かにサリエルの特徴と一致している。しかし何故わざわざ自分にこの写真を見せるのかと疑問に思う榊であったが…
「ここからが本題です。こちらがその数秒後に同じ場所を撮影した写真です」
ツバキはもう1枚の写真を取り出し榊に見せる。
それを見た瞬間、彼は驚愕する。
「これは!?」
1枚目の写真には確かに廃墟とサリエルが写っている。
しかし2枚目の写真にはーー
「……ツバキ君、もう1度確認するよ?この写真は本当に数秒後に撮影されたんだね?」
「正直私自身も信じられませんが、間違いないかと」
「………」
「撮影した本人もあまりの出来事に思わず意識が飛びそうなったと……ですが通信の際、当時の状況を詳しく話してくれました」
「ッ!聞かせてくれ…」
僅か数秒後に起きたという目を疑いたくなる光景に思わず頭を抱えたくなる榊だが、撮影した本人が当時の状況を報告してくれたと聞いて気を取り直し話しの続きを促した。
「内容はこうです『1枚目の写真を撮影時、どの照合データとも一致しない大規模なエネルギー反応を探知、同時にサリエルの後方十数メートル離れた場所で赤い光を確認。その直後
「………その後のサリエル達はどうなったんだい?」
「反応が消え、消滅したとの報告です」
「し、信じられない…新種のアラガミによるものなのかそれとも………ダメだ、全く見当も付かない」
榊は今度こそ頭を抱えた。
今の話しが事実だとしら光線1つで広範囲を焼き払い、更にアラガミを一瞬にして消滅させる『何か』がいるという事になるのだ。
誰だってこんな話を聞けば榊と同じような反応をするだろう。
「ン〜〜〜〜〜……」
しかし榊はアラガミ研究の第一人者であると同時にとびっきりの変人でもある。報告を聞いた時は確かに恐怖を感じていた。だが今は恐怖という感情ではなく謎の存在に対しての強い興味が湧いていた。故に彼はこう言ったーー
「実に興味深い!!」
「……榊
榊の発言にツバキは思わず額に手を当て溜息を吐きながら呟いた。彼が根っからの
そしてすっかり自分の世界に入ってしまった榊。
このままでは話しが進まない為ツバキは彼に呼び掛ける。
「榊支部長?」
「おっと、ごめんごめん、つい興奮してしまってね。とにかく、その謎の光線が放たれた場所にはより詳しい調査をするように観測班に伝えておいてくれ。それからこの事はまだ周りには伏せておくように」
「無論です。現状では
「宜しく頼むよ。それでツバキ君、報告は以上かな?」
「…………もう1つあります」
「まだあるのかい!?」
「嬉しそうに反応しないで下さい…」
何故か含みのある間をおいて答えるツバキ。
だが榊は特に気にせず、まだ報告があると聞いてそれはそれは嬉しそうな表情をする。
だが次の報告を聞いて榊の表情は一変する。
「別の搭乗者からの証言なのですが……『光線が放たれた後、その近くで
「………………なんだって?」
◆◆◆◆
俺は今、空を飛んでゴッドイーター探しを再開している。陽はとっくに昇っていて今はおそらく昼間…だと思う。
さて昨晩の戦闘の話しをしようと思うけど、その前に忘れちゃいけないのが、ここは現実の世界だって事だ。アラガミはゲームみたいにプログラムされた行動しかしない、なんて事は絶対にない。
攻撃が来れば避けるし、自分の攻撃が当たらなければ工夫して当ててくる。
それはオウガテイルやヴァジュラと戦った時で分かっていたんだけど………
あんなの予想できるかぁ!!!なに?レーザーで誘い込むって?鱗粉で動き止めて追撃する?お前等幾ら何でも頭良すぎだろ!?前世では『え?サリエル?脳天バレットで余裕余裕〜』だったのにサリエル風情があんな策で俺を嵌めやがって!
どこぞの伝説の
おかげで俺のイライラ度が一気にMAXになったわ!
……まあこの黄金の鎧『
あの時、確かに俺はレーザーをもろに受けた。
だけどこの鎧は神々でさえ破壊困難と言われていて、あのムーンセルの干渉すら跳ね除ける力を持つんだ。たかがサリエルのレーザー程度じゃ傷1つ付けられない。
ただし鱗粉の毒は効いた。理由は内側、つまり体内からの攻撃には効果を発揮しないという弱点があるからだ。
あれは吸い込んじゃうとアウトなタイプだからね。
俺も一瞬焦ったけどそれは迂闊だった。
この鎧には装備者にどのような傷も即座に回復する高い自己治癒能力が備わっているんだ。あの程度の毒じゃ体力が減ったところで即座に回復する。だから効いていても全く問題無かったという訳だ。
それと目からビーム…もとい、宝具『
この事から俺は低燃費英霊カルナとなって転生したって事が分かった。うん、チートだね!
そんなこんなで宝具が直撃したサリエルは3体とも見事に消滅。憧れの目からビームを撃てて溜まったストレスも発散できて万々歳!これでぐっすり眠れる!そう思っていた、だけどーー
……あのさカルナさん、貴方の宝具デタラメすぎですよ…。いや、ビームの軌道を上手く操作できなかった俺にも落ち度があるよ?イライラ&興奮状態だったからさ…。
でもさ、あの威力はちょっと無いですって。完全にナ○シカの『焼き払え!』のシーンみたいな有様になっちゃったよ!
改めてインド神話ってヤバいんだなってあの時再認識したよ…。
話しを戻して、その後はさっさと退散して小屋には戻らず、できるだけ遠くに移動した。あれだけ派手にやっちゃったんだ、アラガミが集まってくるに違いない。だから別の寝床を探していたけど結局良さげな場所は見つからず、そこらにあった岩の影に隠れて寝る羽目になった。あと寝心地が非常に悪かった。
で、朝になって捜索を再開して今に至るという訳だ。
ん〜〜〜それにしても……
「やはりそう簡単には見つからない…か」
ダメだね、朝からずっと空から探しているけど全く見つからない。
せめて『贖罪の街』や『鉄塔の森』といった知っているフィールドが見つかればそこで待機して神機使いが任務で来るのを待つという作戦が使えるんだけど…。
いや、そもそもここが関東じゃなくて九州とか全く違う地方なのかもしれないし最悪一週間探し続けても見つからない可能性も……。
いやいや!探し始めてまだ2日も経っていないんだ!ネガティブに考えるのは止そう。俺には飛行能力とずば抜けた視力という大きなアドバンテージがあるんだ。案外あっさり見つかるかもしれないし、もしかしたら今日にも………ん?あれは…
「森…か?」
え、嘘!?アラガミが闊歩するこの世界にあんな森が!?
アラガミって植物も食べるから森なんて残ってる訳ないと思っていたけど…。もしかしてアラガミがあまり近づかない場所なのかな?
それに森の中心には……居住区だ!ちゃんと今も人が暮らしているのが見える!それにまだ建設途中みたいだけど居住区の周りに壁が出来ているね。でもゲームじゃあんな居住区がある描写は無かった筈だけど……
いやそんな事はこの際どうでも良い。そもそもあんな立派な森がある時点で今更じゃないか。
兎に角だ、建物に近づいたら一度地上に降りて夜まで待機する。夜になったらこっそり居住区に侵入して誰にも見つからないように住民の話しを聞いて情報収集する。
前にも言ったけど今の俺の姿は一般人から見れば完全に不審者だ。見つかれば騒ぎになっちゃうからくれぐれも慎重に行動しないとね。カルナに気配遮断スキルなんて無いけどそこは大丈夫。
俺の幸運ランクはA+(自己申告)、例えどんな困難でも乗り越えてみせる!!
よし!作戦は決まったし夜まで待機だ!
◆◆◆◆
「…………失敗したな」
作戦通り夜になってから居住区に侵入し情報収集をしていたカルナは現在、民家の屋根の上に立っていた。しかし彼が呟いた『失敗した』とは一体何の事なのか?それはーー
「(みんな寝るのが早すぎィィィ〜〜!!!)」
見つかるリスクを下げる為に夜なってから行動するというのは別に間違っていない、寧ろ合理的だ。だが今回はそれが仇になった。
殆どの住人が眠ってしまっているのだ。
アラガミが闊歩するこの世界で夜になって外出するのはフェンリル支部の居住区でもない限り、はっきり言って自殺行為だ。
故にここの居住区の住人達は夜になれば外出は控えて、早々に就寝するのだ。
情報源である住人達が眠っていては収集のしようがない。
勿論少数だが外を出歩いている人は居たし、部屋の電気が付いている家もあった。しかし幾ら聞き耳を立てても肝心の極東支部の事やここはどの地区なのかといった情報は手に入らなかった。
「さて…どうしたものか……」
「(まずい…非常にまずい!このままじゃ折角のチャンスが…)」
相変わらず顔には出ていないが焦るカルナ。
打つ手なしかと思ったその時ーー
……〜〜〜♪
「…ん?」
ふと、カルナの耳に一瞬だけそよ風のような声が響いた。
気になった彼が耳を澄ませてみると……
〜〜〜〜♪
「これは…歌声か?………あの塔の森からだな」
歌声は居住区の中央に建てられた塔の周りにある森から聞こえてきてた。
「……行ってみるか」
興味を持ったカルナはその歌声に惹かれるように森の中へと歩いて行った。
「そうか、歌声の正体はあの少女か」
森の中に入ると歌声が聞こえなくなったが正確な方角は分かっていたので迷わず進んだ。
そして奥に進んで行くと白いワンピースを着て、髪を背中まで伸ばした少女が立っていた。少女が立っている先には大量の花束が置かれていて恐らく亡くなった人達の事を想って供えられた物だろう。
「ふむ…既に歌い終えたようだな。もう暫し聴いておきたかったが仕方ない、引き返すか…」
しかし、引き返そうと足を一歩前に出した瞬間ーー
何かが折れるような音が辺りに響いた。
「(あ…)」
思わず自分の足元を見ると…足の下に
彼は間抜けにも足元にあった小枝を踏んづけてしまったのだ。
『ッ!そこに誰かいるんですか?』
当然近くにいた少女の耳にも音は聞こえていたので気付かれた。
「……いかんな、流石に気づかれたか。ならば見られぬ内に…」
見られていなければまだ間に合うと考えたカルナは直ぐに退散しようとする。しかし、音がした方に近づいてきた少女の瞳に人影が映った。
『あ!やっぱり誰かいますね?』
「……手遅れか」
『あのー……』
「…………」
見られてしまった以上、逃走という手段は返って逆効果になる。
そこでカルナは賭けに出る事にした。
◆◆◆◆
こうなったら仕方がない!隠れるのはやめだ!
あの子には素直に俺の姿を見せる。それでもし騒がれたら速攻でこの居住区から離脱だ。
よし、行くぞ。頼むから騒がないでくれよ、少女よ…。
「……………すまない、驚かせてしまったようだな。謝罪しよう」
「えっ…」
うん、当然の反応だ。目見開いて完全にフリーズしているね。
にしても正面から見て気づいたけどめっちゃ美少女だねこの娘。
歳は14・5歳ってところかな?
「………」
おっと、まだフリーズしているし、とりあえず声を掛けてみるか。
「………大丈夫か?」
「ッ!ハ、ハイ!大丈夫です!すみません、つい見惚れてしまって…」
へ?見惚れる?
「見惚れていた?」
「はい、綺麗な人だなって…」
「……そうか」
よ、予想外の反応だ…。でも確かにカルナの顔って目付きは鋭いけど超美形だからね、それに見惚れたって事かな?まあ一先ず騒がれずに済んだから良しとしよう。
取り敢えず自己紹介をしてから俺は怪しい男じゃないよって事をアピールしよう。
「ところでまだ互いに名乗っていなかったな」
「あっ!確かにそうでしたね。私の名前は
へー、ユノか。可愛らしい名前じゃないか。では俺も…
「ユノ…か、いい名だ。オレの名はカルナだ」
「カルナ…素敵な名前じゃないですか!では私はカルナさんとお呼びますね」
「構わない…」
「……あの、ところでカルナさんは…その…随分と変わった格好をしているんですね?」
あーやっぱり気になってはいたのね、当たり前だけどさ。
だがすまんなユノよ、その事については答えられないんだよ。
「ユノが思っている事は十分理解している。だがオレの姿に関してはできればあまり聞かないでくれると助かる」
「あ…す、すみません!私ったら失礼な事を聞いてしまいましたね」
「いや、ユノが謝る必要はない。寧ろお前の疑問に答えられないオレがするべきだ。すまない…」
「い、いえ!カルナさんの方こそ謝る必要なんてないですよ。答えられないのは何か事情があるからなんですよね?でしたら、もうこの事は聞きません」
ぐう!!なんていい子なんだよこの娘はぁ!!親の顔が見てみたいわ!そしてコソコソ隠れていてごめんよユノ!最初に会えたのが君で良かったぁ!!
「…そうか、感謝する!」
「フフ…感謝だなんて大袈裟ですよ。ところでカルナさんはこの居住区の人じゃないですよね?あ、別にその事で警備の人に伝えようとは思っていないので安心して下さい。カルナさんは悪い人には見えませんから」
…………君のような勘のいいガキは好きだよ……!
あのさ、一体どういう教育をしたらこんないい娘が育つんだい?マジで一回君の親の顔が見てみたいよ。間違いなく一目見ただけで『あ、この人絶対いい人だ』って分かる顔をしているね。
よし!ユノには嘘は尽きたくないし、ここは思い切って話してみるか。
「お前の配慮に心から感謝しよう。そしてその通りだ、オレはここの住人ではない。この居住区に来たのは情報収集する為だ」
「情報収集?」
「そうだ。すまないがユノ、お前にはオレが今からする質問に答えて欲しい。お前にとってはおかしな内容だと思うがそこは無視してくれると助かる。嫌なら断ってもらって構わない」
「…分かりました。私が分かる範囲なら答えます」
「感謝する。では1つ目だ、ここはどこだ?」
「…ここは極東地区に作られた独立拠点、
という訳でオリ主が最初に出会った原作キャラはユノでした。
ですが正直言って深い理由はありません。ただ何となく「ユノと絡ませてみるか…」と思っただけなんです。
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第4話
前回の投稿時には既に7割近くが完成していたのですが誤ってデータを消してしまい、完全にモチベーションがダウンしていたのですが、この度どうにか投稿することが出来ました!
ただ…大体5000字で終わる筈が10000字オーバーの無駄に長い内容になってしまいました(ドウシテコウナッタ…)
ヘッタクソな文章が長々と続きますが、楽しんで頂けたら幸いです。それではどうぞ!
あ、今回は戦闘シーンありです。
あれからユノにいくつか質問した結果、ここは関東、それも極東エリアだって事が判明した。ただし極東支部の正確な方向や距離は流石にわからなかった。これに対してユノは申し訳なさそうな顔をしていたが、現在地が分かっただけでも十分な収穫だったので、その事を伝えてお礼を言ったら『お役に立てて良かったです!』と笑顔で返してくれた。(君は天使か!?)
それとこの拠点の名前は『ネモス・ディアナ』というらしい。
なんでも、ここは極東支部に入れず路頭に迷った人達が暮らしているんだとか。つまり、
まあ当然だね。必死になってアラガミから逃げてきてやっと支部に辿り着いたかと思ったら、神機使いの適正がないからって理由で追い返されたんだ。逃げてきた人達にとっては堪ったもんじゃない。俺だって同じ立場だったら絶対に恨む。三代先まで祟ってやるね。
ただユノ本人は恨んではいないようで寧ろアラガミと戦っている極東支部の人達には感謝しているとのこと。(君は聖女か!?)
とまあ以上のことを教えて貰い、質問を終えた俺は今何をしているかというと。
〜〜〜〜♪
ユノの歌を聴いていた。
質問の後、俺がユノの歌声についての話題を振り、そのまま話し込んでいく中で1曲歌ってくれないかと頼んだところ、彼女は喜んで引き受けてくれた。
こうして歌を聴いている訳だけど、さっき聴いた歌とは印象がかなり違う。話を聞くにあの時の歌は亡くなった人達に向けて歌っていたらしい。つまりは
道理であの歌を聴いた時、声は綺麗なのに歌詞の内容が寂しいなって思った訳だ。
さて、どうやら歌い終わったみたいだね。
「…あのーカルナさん。ど、どうでしたか?」
「素晴らしい歌だ…素晴らしい歌だ!」
「わ、わざわざ二回も言わなくても…」
いやいや、大事なことだから二回言ったのさ。
「それだけ見事だったということだ。お前の歌は実に心地良かったぞ」
「うぅ、そう言ってくれるのは嬉しいですが……は、恥ずかしいです」
嘘でも何でもなくユノの歌は本当に綺麗だった。
正直に言うと俺はもともと歌に強い関心はもっていなかった。
そんな俺でも最初に歌を聞いた時、純粋に『もっと聴いてみたい』と思う程だ。
理屈はわからないけど、もしかしたらユノの歌には人を魅了する力があるのかもしれないね。
「恥ずがしがる必要はない。お前の天使のような美声を聴いて心が癒された」
「て、天使!?流石に大袈裟すぎる気がしますが…でも、そう言ってもらえてホッとしました。いつもと違って緊張していたので上手く歌えているか正直心配だったんです」
「ん?それはどういうことだ?」
「実は私、外出は控えるように父から言われていて、普段は自室で1人で歌っているんです」
「つまり、人前で歌ったことがないということか?」
「全くないわけではないんですが、それでも数えられる程度しかありませんね。だから人前で歌とどうしても緊張してしまうんです」
成る程ね。おそらくユノのお父さんはアラガミに襲われるリスクを下げる為に外出は控えるように言ったんだね。
だから人前で歌う機会が殆どなかったと…うーん、勿体無いなぁ。
ん?ということはこんな時間にここにいるのはもしかして…。
「念の為に聞くが、ここにいることはお前の父は知っているのか?」
「うっ…じ、実は…その…父は今仕事の関係で留守にしていて…今日はこっそり部屋を抜けだして来たんです」
やっぱりそうか。意外とお転婆なところがあるんだね。
気持ちは分かるけどそれはあまり良くないぞ。
「…それはあまり褒められたものではないな」
「ご、ごめんなさい……」
いや俺じゃなくて君のお父さんに謝らないと。
「で、でも早く部屋に戻れば大丈…あ!」
「どうした?」
「早く戻らないと部屋の様子を見に来た家政婦さんにバレちゃう!!」
え、ちょっ家政婦さん!?もしかしてユノってお嬢様だったの!?
ってそんなこと気にしてる場合じゃない!
「ここからの距離は?今から間に合うのか?」
「部屋はあの塔の上層部にあって、ここからよく見るとベランダが見えますよね?あそこに私の部屋があるんですが………正直…ダメだと思います…」
あのベランダね。でも今からじゃ間に合わない…か。
そもそもこうなったのは俺がここにユノを引き止めちゃったのが原因だ。だったらその責任は俺が取るべきだし、いい案なら既に思いついている。でもそれを実行するということはこの身体の力の一端を見せるということになる。
でも………そんなことは知ったことか!!恐らく詮索されるだろうけどその時は上手いこと誤魔化せばいい。兎に角今は彼女のことを優先するべきだ。
「間に合うかもしれないぞ」
「…え?」
「きゃあーーーー!!!どうなっているんですか!!カルナさーーーんっ!!!!!」
「叫ばない方がいい、周囲にバレてしまうぞ?」
「無茶言わないで下さーーーーーいっ!!!!!!」
というわけで今俺はユノをお姫様抱っこして塔の壁を登っています。
この身体のスペックをもってすれば垂直の壁を登ることなんて造作もない。……まあ、本音を言うと一度でもいいからやってみたかったんだよね、これ。
「口を閉じろ、舌を噛むぞ」
「は、はいぃぃーーっ!!!!」
よーし!ベランダに到着だ!時間にして一分も経ってないね。
やったなユノ、無事に間に合ったぞ!
「…………」
あっまずい、完全に放心状態だ。
「ユノ、大丈夫か?」
「ハッ!は、はい…何とか……大丈夫です」
いやホントにごめん。
ユノにとっては絶叫アトラクションを安全ベルトなしで乗ったようなものだもんね。でも間に合わせるにはこれしか方法がなかったんだ。
「すまない、お前には刺激が強すぎたな。謝罪しよう」
「あ、謝らないで下さい。カルナさんのおかげで間に合ったんですから」
「いや、今にして思えば事前に伝えておくべきだった。そうすれば多少は違った筈だ。本当にすまない…」
「あのー、登ることを伝えても大して変わらなかった思いますし、そんなに気にしなくても…」
「すまない…」
「い、いえあの…ですから……」
◆◆◆◆
「(なんて綺麗な人なんだろう…)」
それは葦原ユノがカルナを見て最初に感じた印象だった。
透き通るような白さをもつ髪と肌。胸元は剥き出しになっているとはいえ埋め込まれた赤い宝石と相まって独特な妖しさを曝け出していた。
そして何よりも目を引く彼が纏う黄金の鎧。雲1つない夜空に浮かぶ月の光を浴びて輝くその鎧は不思議とも何とも形容できない神秘的な雰囲気を帯びていた。
これらを統合している彼の姿は正に完成された1つの美と言っても良いだろう。
だが如何に美しいとはいえカルナの姿はこの世界の住人からすれば明らかに異質に映るだろう。さらには研ぎ澄まされた剣のような鋭さをもつ眼光と他人を寄せ付けない雰囲気を無自覚だが曝け出しているため、余計にその異質さを加速させてしまっていた。
人は異質なものや未知なものに恐怖感を覚える。
故に彼に怯えたり、警戒する者が殆どだろう。
だがユノは怯えることもなければ、警戒することもなく、ただただ彼の姿に見惚れてしまっていた。
これについてはカルナも気になっていたので質問の後にユノに聞いた。
『何故警戒すらしなかったのか?』と。
すると彼女は
『うーん…そうですね。強いて言うなら、カルナさんから危険な感じを全くしなかったから…ですかね。それに、表情には出ていませんけど何処か困っているような様子だったので、できることなら力になりたいなって思ったんです』
もともと勘の鋭いユノはカルナから発する独特な雰囲気に驚きこそはしたが、彼に敵意はなく自分を脅かすような存在ではないことを何となくではあるが感じ取ったのだ。
これを聞いたカルナは表情こそは変わらなかったが、内心ではユノの人柄のよさに改めて感動し涙を流していたのだが、それについては割愛しよう。
話を戻すが、ユノは最初に出会った時からカルナがただの人間ではないことも薄々ではあるが勘付いていた。
「(やっぱり、カルナさんは…)」
そして今、人1人を抱え垂直の壁を高速で走るという人間離れした身体能力を見て確信へと変わった。
「それにしても、歌以外であんなに声を出したのは初めてですよ。
昔あった遊園地という場所にはきっとあんな体験ができるアトラクションが沢山あったんでしょうね。フフッ…私は直ぐにバテちゃうと思いますけど」
だが、彼女は何も言わなかった。
これには普段は無表情のカルナも僅かだが目を見開いた。
「…なにも聞かないのだな」
「え?」
「隠す必要はない、お前は気付いた筈だ。オレが普通の人間ではないことをな。いや…恐らくは最初から気付いていたのだろう」
「……」
「お前の気遣いには感謝している。そんなお前にこのようなことを問うのは、すじ違いだということは理解している。だが答えて欲しい、何故お前は──」
態度が一切変わらず、何も詮索してこないことがどうしても気になってしまったカルナはユノに疑問をぶつけた。
だが、言い終わる前に彼女はカルナの目を真っ直ぐ見据え口を開く。
「初めてだったんです」
「何?」
「身内以外で誰かとあんなに話したのは初めてだったんです。私言いましたよね?父から外出は控えるように言われているって。だから、気軽に話せる相手も同年代の友達もいないんです」
そう、ユノは所謂箱入り娘であった。
彼女の父親の方針により外どころか部屋からも殆ど出してもらえず閉鎖的な生活を送っていた。話す相手はいつも父親か彼女の身の回りの世話をする使用人ぐらい。しかし、ユノは父親のことをあまり快く思っていないため二人の会話は殆どなく、使用人は話しても畏まった態度を取るため対等に話すができなかった。
しかし彼女とて十代の少女だ。そんな生活をしていれば気軽に話せる相手や友達を求めるのは当然と言えるだろう。
「私、凄く嬉しいかったんです。カルナさんにとっては何気ない会話だったかもしれないですけど、私にとっては、まるで願いが叶ったような気がして…」
「……」
「カルナさんは疑問に思うかもしれませんが、楽しい時間をくれたあなたが例え人間ではなかったとしても、私は気にしません。だって……会話をするあなたの姿は間違いなく
「ッ!」
「と言っても今までロクに人と話したことがない私が何を言っているんだって思うかもしれないですけど…あ、あはは…」
自分で言っておきながら羞恥心を覚え、頬を掻きながら目を晒す。
そんなユノにカルナは、
「…この世界で最初に会えた人間がお前でよかった。お前と出会えたことに幾千もの感謝を…」
ユノの前で片膝を付き、頭を下げて感謝の言葉を伝える。
その光景はまるで御伽話にある、一人の少女に忠誠を誓う騎士のようであった。
「え?え!?ちょ、ちょっとカルナさん!?頭を上げて下さい!」
「む?お前に感謝の念を伝えるためのオレなりの表現なのだが…」
「大袈裟すぎです!!兎に角その体勢はやめて下さい!こっちが混乱しちゃいます」
「…………そうか…」
「なんで残念そうなんですか…」
ユノに言われ姿勢を戻すが、その顔は心無しかしょんぼりしているように見えた。
「(そういえば…)」
するとここで、彼女はあることに気が付いた。
「(彼は確かに言った『この世界で最初に会えた人間は』って。それじゃあまるで…)」
「
「──え?」
カルナが先程言っていた言葉の意味について考え込んでいたが、彼の声に遮られ中断する。
一方で時間切れと呟いた彼の視線はユノの部屋の出入り口に向けられていた。
「この部屋に何者かが近づいてくる。恐らくお前が先程言っていた使用人だろう。ならば頃合いだ、オレは早々に立ち去るとしよう」
「ッ……お別れ…なんですね…」
「(そうだ。カルナさんがここに来た目的は極東支部の場所を知るため。ならばもう…ここにいる必要はない)」
「ああ、名残惜しいが別れの時だ」
「………」
別れの時間という現実を突きつけられたユノは顔を伏せて悲痛な表情を浮かべた。それだけ彼女は人とのコミュニケーションに飢えており、カルナとの会話を心の底から楽しんでいたのだ。
「ユノ」
酷く落ち込んでしまった彼女にカルナは優しく語り掛ける。
「そう悲しむことはない。何も今生の別れというわけではないのだからな」
「─ッ!」
カルナの言葉にハッと顔を上げるとカルナは穏やかな表情を浮かべ、いつもの鋭い目つきではなく、自分の心を優しく理解するような目をして見つめていた。
「……また…会えますか?」
「会えるとも。いつになるのか、それはわからない。だが必ずその時が来る。再会を果たした時は、またお前の歌を聴かせて欲しいのだが…頼めるか?」
再会の約束、自分の歌をまた聴かせて欲しいという言葉。それだけでユノの心は喜びで一杯になり、彼女の顔に先程まであった影は嘘のように消えていた。
「…はい……はいっ!その時にはもっと上手く歌えるように頑張ります!」
ユノの様子にカルナはどこか安心したような顔をし、ゆっくりと歩みを進め、ベランダの端まで移動したところで彼女の方に向き直る。
「ではさらばだ、ユノ。…いや、
「ッ!」
「お前が歩むこれからの未来に、太陽神スーリヤの加護があらんことを…!」
そう告げた瞬間、カルナはベランダの柵を飛び越え
─────────
「─へ?───カ、カルナさんっ!?」
自分のことを"友"と呼んでくれたことに唖然としていたユノだったが、カルナの投身自殺紛いの行動に我に返り、直ぐ様柵に駆け寄って下を見下ろすが、
「あれ?」
カルナの姿は何処にもなかった。
「……………全く、脅かさないで下さいよ…」
「お嬢様っ!!どうされたのですか!?」
するとそこへユノの様子を見に来た使用人が彼女の声を聞き、慌てて部屋に入って来た。
「な、何でもないです!ただちょっと歌の練習を…」
「……そうでしたか。ですが今日はもうお休みになって下さい。こんな時間に起きていては明日に響きますよ?」
「ホッ……はい、御免なさい」
何とか誤魔化せたことにホッとしながら使用人に促されベッドの方へ歩き出すが、一度足を止めベランダに視線を向けた。
「(絶対に約束ですからね。それから……友達になってくれてありがとう…)」
◆◆◆◆
ネモス・ディアナが建設されたこの土地は、"アラガミの出現率が極めて低い"という極東エリアでは非常に珍しい場所だった。植物が生い茂り、巨大な森が今も尚残っているのがその証拠と言っていいだろう。
だが、あくまで
ユノが鎮魂歌を歌っていた場所にあった大量の花束。その殆どがアラガミの襲撃で犠牲になった人達への手向けとして置かれたものだった。
そして今夜はその低確率を引いてしまった。
『──◾️◾️◾️!!!』
凛とした静けさが広がる大地に、身の毛もよだつような雄叫びが響く。
雄叫びの元凶はゆっくりとした足取りで真っ直ぐとネモス・ディアナへと進行していた。
その正体は、筋肉質で猿人のような体格をし、上顎から顔全体にかけて仮面で覆われ、背中には四つのパイプの様な器官がある"コンゴウ"と呼ばれるアラガミだった。
彼等は単独で活動もするが、基本的に数体の群れを作って行動する。しかし今回は運が悪いことに──
『『『『『──◾️◾️◾️◾️◾️!!!!!!!』』』』』
"二十体以上"もの巨大な群れとなって行動していた。
コンゴウ達は咆哮と同時にネモス・ディアナを囲う森に向かって一斉に走り出す。森の先にある居住区に住む人達、否──"餌"を捕食するために。
しかし──
「──覚悟」
突如、一番先頭を走っていたコンゴウの頭上から"黄金の閃光"が飛来し爆発音と同時に地面を揺らした。辺りは衝撃で岩石が飛び散り、土埃に包まれた。
突然の出来事に進行していたコンゴウ達は一度後退し、前方を睨みつけ警戒していると、
コツ…コツ…
ゆっくりとした足音が聞こえ始め、薄っすらと人影が映り、
「……」
右手に黄金の槍を持ち、刺し貫くような冷たい眼差しをしたカルナが姿を現す。
同時に土埃も治り始め、視界が晴れてくると彼の背後では、頭部から上半身にかけてが見るも無残に潰れたコンゴウが地面に大きくめり込んでいた。
「………………」
『◾️◾️◾️……』
足を止めたカルナはその鋭い眼光でジッと前方を睨み付ける。
コンゴウ達も同族を一瞬で殺したカルナを警戒しているのか、攻撃はせず唸り声を上げながら睨み返す。
数十秒の間睨み合いが続き
『◾️◾️◾️!!』
痺れを切らした一体のコンゴウが背中のパイプ器官で空気を取り込み、圧縮した空気砲を放った。
人間の二倍近くもある空気砲は、周囲の砂や小石を巻き上げ、岩石を砕きながら一直線に進み、目前まで迫る。
カルナは流れる様な動作で右手を前に出しながら槍に魔力を纏わせ、石突きを地面に突き立てる。
キーーーーンッ!!
空気砲が槍と接触した瞬間、耳を劈くような甲高い音が周囲に鳴り響き、槍に纏わせた高密度の魔力が盾の役割を果し空気砲を打ち消した。
「さて…」
カルナは何食わぬ顔で槍を回し、コンゴウ達に穂先を向ける。そして、アラガミですら戦慄してしまう程の濃密な殺気を放ちながら告げた。
「悪いがここから先へは行かせん。掛かってくるがいい、愚かな怪物よ」
それが開戦の合図となった。
カルナの殺気に一度は怯むが、直ぐに本能に従い攻撃を開始した。
三体のコンゴウは身体を丸めてローリングアタックを仕掛けるが、カルナは防御も回避もせずに槍を構え、地面を蹴って正面から突っ込む。
そして紙一重で躱した瞬間、
「遅い」
コンゴウ達に
カルナは躱す際、目にも溜まらぬ速さで相手を何度も切り裂いたのだ。
斬撃を受けた身体は、まるでバターの様にバラバラに切断され、地面には大量の鮮血と肉片が飛び散る。
『『『『──◾️◾️◾️!!!』』』』
コンゴウ達は怯むことなく周囲の空気を取り込み、次々とカルナに向けて空気砲を放った。
「虚仮威しだな…!」
槍を両手に持ち刀身に魔力を纏わせると斜めに振りかぶり、目前まで迫ったタイミングで勢いよく振り下ろした。すると魔力で出来た巨大な斬撃が発生し無数の空気砲を一撃で切り裂いた。しかし、
「─ッ!?」
突如、足元を中心に発生した"竜巻"がカルナを襲う。
コンゴウは取り込んだ空気を使って相手がいる地点に任意のタイミングで竜巻を発生させる能力もあり、数体のコンゴウが空気砲を放つと見せかけて彼が油断した瞬間に攻撃を仕掛けたのだ。
「──フッ!」
竜巻によって吹き飛ばされる中、空中で素早く受け身を取りスライディングしながら着地するが、
『─◾️◾️!!』
背後に回り込んだ一体のコンゴウが丸太の様に太い豪腕でカルナを殴り付ける。カルナは直ぐ様反応し、両手に持った槍で受け流すと素早く左手に持ち替る。そして空いた右手を強く握り締めると、
「ハァッ!!」
その細腕で
一見無意味な攻撃に見えるが、カルナの筋力はステータスで表すとBランク。一番低いEランクでさえ人間の約十倍、Bランクだと約四十倍の筋力がある。
『◾️◾️◾️!!!???』
拳は見事に命中した。顔面を覆う仮面部分が粉々に破壊され、コンゴウは身体を大きくのけ反らせる。無論この隙を彼が見逃す筈がない。
「─フンッ!!」
そのまま身体を回転させ無防備なコンゴウの腹部に向かって強烈な回し蹴りを放つ。
コンゴウの身体はくの字に曲がり、人間の数倍もある巨体が凄まじい速度で吹き飛び、戦線から大きく離れていった。
だが、追撃は終わらない。
カルナは魔力放出を使い、吹き飛んでいくコンゴウに追い付くと脚に炎を纏わせ、腹部にもう一度回し蹴りをして地面に叩き付ける。
ドゴォンッ!という重量のある音と共に地面が大きく陥没した。
『……◾️◾️…◾️…』
丸みのある腹部は大きく凹み、皮膚は焼き爛れ、虫の息となったコンゴウはビクビクと小刻みに身体を震わせながら口から大量の血と"握り拳大程の球体"を吐き出す。
すると、まるで電池が切れた様にピクリとも動かなくなった。
「…ん?」
吐き出された球体が気になり、手に取ってみるとその球体は微かに蒼く光っていた。
「これは……」
『──◾️◾️!!』
球体に気を取られている間に背後から彼を追い掛けて来た別のコンゴウが鋭い牙を覗かせながら頭に喰らい付こうと迫る。しかし、
『─◾️◾️!!??』
「少し待て」
なんとカルナは背後を一切見向きもせず、槍先をコンゴウの口の中に突っ込んだのだ。コンゴウは必死になって噛み砕こうするが、ギチギチと音が鳴るだけでまるで歯が通らなかった。
「ふむ、奴が生命機能を停止したタイミングから推測すると……おそらく"コア"か。こうして見るのは初めてだな」
"コア"とはアラガミを構成する無数のオラクル細胞を制御し、様々な命令伝達を司る──言わば『司令塔』の様な役割を担っている細胞だ。
コンゴウの動きが停止したのはその司令塔であるコアを吐き出してしまったからだ。
もっとも既に瀕死だったため、吐き出さなかったとしても結果は変わらなかったのだが…。
「さて、では続きだ」
コアを炎で跡形もなく燃やし、コンゴウに視線を移しながら槍先に魔力を集中させ、
『─◾️◾️!!??』
「待たせた謝礼だ。受け取れ…」
槍先から極太の熱線を空へ向けて放った。当然口内で放たれたためコンゴウの頭部、更には上半身が一瞬にして消滅し、残された下半身は焦げ臭い匂いを漂わせながらゆっくりと倒れた。
「残りの敵は……」
『『『『──◾️◾️◾️◾️◾️!!!!!』』』』
追い掛けて来たコンゴウ達は十数メートルの距離を取り、既に戦闘態勢に入っていた。
「よし、全てこちらに来ているな。これでオレも戦い易くなる」
戦線から離れたのは追撃のためだけではない。
あの場所はネモス・ディアナを囲う森の近くだったため、自分の攻撃で森に被害が出てしまう可能性があった。故に自分も追撃のついでにあの場所から離れた。更に自分を見失った個体がいても確実にこちら側へ誘導するためにわざと目立つように熱線を空へ放ったのだ。
「ここからは手加減なしだ。貴様達は
宣言した瞬間、まるで彼の怒りを表すように緋色の炎が激しい勢いで溢れ出し、漆黒が広がる夜空を紅く染め上げた。荒ぶる猛火を前にコンゴウ達はたじろぐがカルナに容赦の二文字はない。
槍に炎を纏わせ、姿勢をやや低して構えをとる。
「行くぞ…」
地面が割れる程の力で蹴り、一体のコンゴウに目掛けて疾風の如き速さで突貫する。その様は炎で形成された一つの巨大な槍そのものだった。ターゲットにされたコンゴウは左にステップして躱そうとするが反応が余りにも遅すぎた。
巨大な炎槍は容赦なく胴体を貫通し一撃で息の根を止める。
だがカルナの攻撃は終わらない。
彼はそのまま華麗な槍捌きで別のコンゴウの胴体を貫き、或いは両断し次々と命を刈り取っていく。相手もパンチや空気砲で反撃を試みるが悉く躱され、パンチに至ってはカウンター技で返されてしまい逆に反撃を受ける始末だった。
カルナの攻戦は更に続き、怒涛の勢いで群れの半数近くを狩っていくその光景は最早戦闘ではなく"蹂躙"に等しかった。
しかし、ここでカルナにとって予想外のことが起きた。
「ッ!?」
なんと腹部を貫かれたコンゴウが両手で槍を掴んだのだ。これによって動きを止めてしまい、その隙に別のコンゴウが助走しながらカルナに向かって強烈なラリアットを叩きつけた。
「ぐっ…!」
ラリアットにより吹き飛ばされたカルナは地面を数回バウンドしながら近くの岩壁に激突した。
すると周囲のコンゴウ達がしめたと言わんばかりに次々と空気砲で追い討ちを掛けていった。
『『『──◾️◾️◾️◾️!!!!!』』』
空気砲の衝撃で大量の土埃が舞う中、コンゴウ達が最後の止めを刺すために全速力で走り、カルナに目掛けて飛び掛かった。
この時、もし彼等が人間の言葉を喋れたのならこう言っただろう。
『この戦い、我々の勝利だっ!!』と。
だが彼等は知らない。
「───
インド神話で語られる『炎を司る神』の名を唱えた瞬間、カルナを中心にまるで火山が噴火した様な勢いで巨大な火柱が発生した。
その規模と熱量は今までの比ではなく、近付いて来たコンゴウを呑み込み、悲鳴を上げる間もなく瞬時に蒸発させていくその様は、最早炎ではなく火山から溢れる溶岩そのものだった。
火柱が消えると中心地では鎧の効果により一切のダメージを負っていないカルナが石突きを地面に突き立て、仁王立ちしていた。
『──◾️◾️』
対して相手の数は先程の火柱によって一網打尽したため、残ったのは奇跡的に難を逃れた一体のコンゴウのみ。
「…後は貴様だけだ」
仲間が全て殺られたこの状況でコンゴウがとった行動は…
『─◾️◾️!!』
"逃走"だった。
本来の"喰らう"という本能よりも生物であれば誰もが持つ"生存本能"が勝ったのだ。
『自分ではあれに勝てない、このままでは自分も狩られる』
そう察したコンゴウはカルナに背を向け一目散に走り出した。
だが、
『──◾️◾️!!???』
「何処へ行くつもりだ?」
カルナがそれを許す筈がない。
彼は素早く前に回り込むとコンゴウの顎にアッパーカットを繰り出し、怯んでいる隙に脚を炎を纏わせる。
「─ハァッ!!」
魔力放出の爆発力を利用してコンゴウの腹部を渾身の力で蹴り上げた。
足は腹部に深くめり込み、生体から鳴ってはいけないグロテスクな音を出しながら砲弾の如き速度で空高く吹き飛んでいった。
そして右目に魔力を集中させ、最後の一撃を放つ。
「とく消え去るがいい、『
放たれた光線の威力は以前よりも格段に抑えられているが、それでも一撃必殺の奥義であることに変わりはない。
光線は瞬時にコンゴウを貫き、爆発と共に跡形もなく消し去った。
爆発が治まると先程まで続いていた戦闘音は無くなり、いつもの静寂な夜を取り戻していた。
こうして極東に造られた小さな楽園『
見捨てられても尚、必死に生きる人々のために。そして──
コンゴウは犠牲になったのだ。
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