卯月は寂しいと死ぬ (Higashi-text)
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01話

 

「はい、次はいつもやってるウサギのポーズをお願いします!」

 

「わかったぴょん! これでいいぴょん?」

 

「いいですね! すごく可愛いですよ! いい笑顔!」

 

私は今、広報のパンフレットに使う写真の被写体になっている。

各艦種から1人以上の艦娘が大本営に呼び出されていて、今回は私と同じ鎮守府の瑞鶴さんも一緒にここまで来ていた。

先程まで彼女がポーズを決めているのをカメラマンである青葉さんの後ろから眺めていたのだが、瑞鶴さんははじめての撮影にもかかわらず緊張していないようだった。かなり良い写真が撮れたのではないだろうか。

 

この写真撮影は定期的に行われていて、写りが良くて戦果をあげた艦娘が呼ばれている。参加するか否かは任意であるため、ここにいる艦娘よりも戦果を挙げている人はいるはずだ。私の場合は半ば強制になってしまったけれど。

 

「あと、これは上からの指示なんですが、敬礼のポーズをお願いします」

 

「司令官にぃ〜、敬礼ぃ! ぴょん!」

 

「はぅあ! すばらしいです!」

 

カシャカシャとカメラのシャッターの鳴る音がするのを笑顔とポーズを崩さずに聞き流す。青葉さんの後ろにいる他の艦娘が、私を見て目をキラキラさせているのがわかる。私は広報の写真撮影など既に何回もこなしているし、笑顔には自信があるのだ。それに可愛くてあざといような仕草とポーズを加えると、シャッターの鳴る頻度が上がり、他の艦娘が更に目をキラキラさせる。

実は私のファンは意外と多いのだ。他の鎮守府の艦娘と会うと、握手やサインを求められることがある。今も私をキラキラした目で見ているのはそう言った人達なのだろう。もはや1種のアイドルみたいな扱いだ。

 

今回も私の写真が駆逐艦の中で1番大きく掲載されるかもしれない。

アイドルの気分を味わいながら、写真撮影をこなしていく。

全艦娘で1番ではないけれど、私は常に上位3位に入る人気がある。それは見た目の良さだけではなく、艦娘としての強さと戦果も理由になっているのだが、私が戦うところを知っているのは自分の鎮守府の人達だけだ。

 

「ありがとうございました! あちらに休憩スペースがあるので撮影が終わるまで自由に過ごしてください」

 

「青葉さんもおつかれぴょん! 可愛く撮ってくれてありがとぴょん!」

 

「それは私ではなくて卯月さんの実力ですよ。カメラマンに撮られるのではなくて、撮らせることができるなんて、まるで本当のアイドルみたいです」

 

「えへへぇ、褒められると照れるぴょん。青葉さんも残りの撮影がんばるぴょん!」

 

私は青葉さんにそう言ってから次の人と交代する。その時に緊張した様子で握手を求められたけど、握手した後に脇腹をくすぐってあげた。

そんなに緊張していたらいい写真が撮れないから。

 

 

 

 

休憩室にいく途中で通路を逸れて、非常口から外に出る。周りに誰もいない事を確認してから、私はため息を吐き出した。先ほどの笑顔も既に引っ込めている。

 

「はぁ……」

 

 

 

ーー私は写真を取られるのが嫌いだ。

卯月を演じる必要があるから。

 

 

 

あのテンションは私が卯月であるための儀式みたいなものだ。普段の私はあそこまでハイテンションではないし、笑顔でもない。

最初の撮影で普段通りに振る舞った時、誰かに『卯月じゃないみたいだ』と言われたことがある。それがショックで私は卯月を演じることにした。あの頃は今以上に自分の存在に対して疑問を持っていたから、せめてあの場では卯月であろうとしたのだ。

今では鎮守府では普段通りだが、外では卯月を演じている。

ちなみに普通の卯月は常にあんな感じだ。私も昔はそうだった。いつからだっけ、こんなふうになったのは。

 

 

本来なら広報の写真撮影なんてやりたくない。しかし、前に一度引き受けてしまってからは、妙に人気が出てしまい断れなくなった。

何故か写真や映像など、人を魅せるのは得意なのだ。先程青葉さんが言っていたのはお世辞ではなく事実であり、私は自分の意思でカメラマンにシャッターを押させることができる。

うちの鎮守府の那珂ちゃんは私を師匠と仰いで鏡の前で笑顔やポーズの練習をしているが、そもそも艦娘としての練度と戦果を上げないと撮影には呼ばれないと思う。

 

 

しばらくぼーっとしてから、休憩室に向かう。そろそろ撮影は終わっただろうか。休憩室に入ると、そこには瑞鶴さんしかいなかった。

 

「あれ? 瑞鶴さんだけ? 他の人たちはどうしたぴょん?」

 

「もうみんな解散したわ。残ってるは私達だけ」

 

「あぅ……ごめんなさい」

 

「別に怒ってないって。私もゆっくりしたかったから丁度良かったし。……それよりあなた本当に人気あるのね。さっきまでいた子達に卯月のことすごく聞かれたわ」

 

「うぅ……申し訳ないぴょん。なんか知らないうちにファンとか沢山できてて……」

 

「あれだけ人気あると大変そうね。まあ確かに、可愛くて強いとなればみんな憧れるか」

 

これが私が演技を辞めれない理由の一つでもある。変にアイドルみたいになってしまったため、私に憧れなんかを抱く子達が現れてしまったのだ。

 

「瑞鶴さんも明日は我が身だぴょん。多分、今回の写真が載ったらファンが出てくるよ」

 

「あなたみたいに毎回撮影に呼ばれてる艦娘と一緒にされてもねぇ……」

 

「そのうち、私達の鎮守府でも写真の切り抜きやら、保存用や布教用のパンフレットとかがたくさん……」

 

「やめてよ! っていうか提督さんが保管してる卯月のやつ、そろそろ業務用棚にまで侵食してきそうなんだけど」

 

「司令官には止めるように言ったけど、聞いてくれないぴょん」

 

「私のもやろうとしたらまとめて爆撃しようかな」

 

「司令官がやらなくても加賀さんはやると思う」

 

「……帰ったら絶対やらないように言っておくわ」

 

瑞鶴さんは私が卯月を演じている理由を知っている。特に第1艦隊で一緒に出撃するので、私の事情もよく知っているのだ。

私が気兼ねなく話せる人は結構限られている。

基本的に第1艦隊の皆と一部の艦娘は大丈夫だ。とある事情のせいで自分から仲良く話しかけられないのが理由なのだが、この人は何があっても最初から今まで態度を変えなかったし、気にしなかった。

 

 

2人で休憩室から出て廊下を歩いていると、前から他の鎮守府の艦娘が歩いてくるのが見えた。私はすぐに卯月になりきり笑顔を見せる。

 

「よよよぉ? そこにいるのは電だぴょん? どうしたぴょん?」

 

「く、呉の卯月ちゃんなのです! あ、あ、あの、私、休憩室に忘れ物をしてしまって! えと、ええと、」

 

「それは大変だぴょん! 瑞鶴さん、何か見なかったぴょん?」

 

「ああ、このカバンはあなたのだったのね。丁度これから帰るついでに届けようと思ってたんだけど……はいこれ」

 

「あ、あ、ありがとうなのです!」

 

「よかったぴょん! これでうーちゃん達は真っ直ぐ帰れるぴょん!」

 

「あ、あのっ!!! 卯月ちゃん!!!」

 

「どうしたぴょん?」

 

「サ、サインくだしゃい!」

 

電はいま受け取ったカバンから色紙とサインペンを取り出して叫んだ。

私と瑞鶴さんは一瞬固まってしまったが、私はすぐに再起動して対応する。サインをねだられるなんてよくある事だ。遠征任務先で会ったりすると艤装や服にサインすることもある。私がいる撮影に来れると知って準備したのだろう。

私を慕ってくれるのは嬉しいが、同時に寂しくもある。ファンが慕っているのは本来の卯月ではなく、私が演じる卯月なのだから。

 

電が去ったあと、瑞鶴さんはそっと私の頭を撫でてきた。

 

「……大丈夫?」

 

「……ぴょん」

 

 

 

ーー私は他の鎮守府の子達と話すのが嫌いだ。

彼女達を騙しているみたいだから。

 

 

 

最前線で活躍する私に憧れて努力する駆逐艦は多いらしい。特に他の鎮守府にいる卯月はその傾向が強いと聞く。しかし、そんな子達が憧れているのは、一見卯月に見えるが、よく分からない何かなのだ。

 

私は自分が卯月であるという確証が持てない。

それは自分が卯月じゃない事を感じることがある、私だからこそのものだろう。

 

 

 

ーー私は自分が嫌いだ。

自分が何か分からないから。

 

 

 

 

 

 

 

 

呉鎮守府に帰ってくると入り口で加賀さんが立っており、私達を出迎えてくれた。加賀さんは私達と同じ第1艦隊に所属していてよく一緒に出撃する。

また、ここの鎮守府では加賀さんと瑞鶴さんの仲が非常に良い。そして加賀さんが瑞鶴さんへの好意をあまり隠さない。最近、この2人の部屋が同室になったのだが、それを最初に言い出したのは加賀さんだった。

 

艦娘寮の部屋へ荷物を置くため瑞鶴さんと加賀さんの後ろを歩く。

 

「瑞鶴、撮った写真はないのかしら」

 

「まだ私も貰ってないって」

 

「そう。写真が使われるパンフレットはいつこちらにくるの? そもそも写真が使われるのはパンフレットだけなの?」

 

「……発行されるのは2週間くらい先だと思う。今のところはパンフレットの話しか聞いてないわ」

 

「卯月、どうなの? あなたはパンフレット以外にもインターネットや雑誌に写真が使われているわよね?」

 

「うーん、何とも言えないぴょん。写真の出来が良いと使われることもあるけど、この間雑誌で特集やったばかりだからしばらくは無いんじゃないかな」

 

「つまりどこかで艦娘の記事を載せる機会があれば良いのね。ちょっと出版社に連絡してきます」

 

「待った待った。加賀さん、変なことしないで」

 

「出版社に連絡することは変なことではありません」

 

「やめて。卯月が写真の出来がよくないとダメって言ってるでしょ」

 

「写真は素晴らしいに決まっています。鎧袖一触よ」

 

「やかましいわ。もしそうでも余計なことしないで。お願いだから」

 

「余計とはなに。あなたの素晴らしさを広めることは私の義務みたいなものです」

 

「私を褒めてくれるのは嬉しいけど、大ごとにしないで。あとパンフレットが来ても切り抜きや保存は禁止ね」

 

「!? ……じゃあ私は何をすればいいの」

 

「知らないわよ」

 

「……なるほど。私が自分であなたを撮ればいいのね」

 

「このまえ一緒に撮ったじゃん」

 

「あなたの写真は何枚あってもいいもの」

 

「自分の部屋に自分の写真がたくさん飾られる身にもなってよ! せめてツーショットの写真飾ってよ!」

 

「私は自分の写真は恥ずかしいからいやよ」

 

「……加賀さん、今日中に飾ってある私の写真を全部片付けて」

 

「いやよ」

 

「やりなさい」

 

「…………瑞鶴、五航戦が一航戦に指図するなんて、あなた随分と偉くなったものね?」

 

「やらないとしばらく口きいてあげないから」

 

「卯月、助けて」

 

加賀さんから助けを求められるが、瑞鶴さんもなんだかんだで加賀さんを受け入れているので、私が言えるのはこのくらいだ。

 

「……まずはお互いに繋いでる手を離すぴょん」

 

 

 

 

 

 

荷物を置いた後、司令官に帰還報告をするため瑞鶴さんと執務室に向かう。

 

ドアの前に立つと、向こうから声が聞こえてきた。

どうやら司令官は電話越しに怒鳴っているようで、ドアのすぐ前に立っている私達に声が丸聞こえだ。

瑞鶴さんに目線でどうするか聞くと、首を横に振られた。報告は後にしよう。

私達がドアから離れようとした時、司令官の怒鳴り声で私は聞いてしまった。

 

我が第1艦隊が大規模作戦の本丸として出撃要請されている事を。

 

 

 

 

ああ、またか。

次は大丈夫だろうか。一緒に出撃するみんなは気をつけてくれるが、不安は消えない。

 

 

 

 

 

ーー私は自分が大嫌いだ。

仲間を傷つけてしまうから。

 

 

 

 

 



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02話

 

 

大本営から帰ってきて1週間が経とうとする頃、私達第1艦隊は海の上を航行していた。

 

旗艦の長門さんを先頭として単縦陣で進んでいる。今回の出撃は大規模作戦に向けての掃討作戦だ。

この掃討作戦の目的は、組織的な行動をせずにいる厄介な深海棲艦を減らすことである。

 

単独で動いている奴らは大体雑魚だが、まれに鬼級や姫級が数匹の深海棲艦を引き連れて行動していることがあるのだ。奴らに大規模作戦を邪魔されないために、事前に間引いておく。

 

「各艦、そろそろ予定海域だ。気を抜くなよ」

 

水平線を睨んでいた旗艦の長門さんがこちらを振り返りながら言った。彼女は私が着任した時から旗艦を務めており、私もよくお世話になっている。とても優しくて頼れるお姉さんだ。

 

「Hey 長門ー! ワタシ達がここまでする必要あったのですカー? 単独の鬼や姫くらい、他の鎮守府でも問題ないはずネー」

 

「そう言ってやるな。提督も上に散々抗議したんだ」

 

「いくらワタシ達が強いといっても、ワタシ達ばかり戦っていたら他の艦娘が経験を積めまセン」

 

「私もそう思うが、それだけ大本営から信頼されていると前向きに考えるしかない。本来は私達が今後の作戦で最重要戦力になるのだから、それまで温存しておくべきだとは思うのだがな」

 

「せめてうちの鎮守府の第2艦隊と何人か入れ替えて連れてくるべきデシタ」

 

「残念ながら編成も大本営からの指示だ。常に最強戦力で挑むように言われている。本番で1隻でも多くの艦娘を使うためだろう。この編成ならば絶対に欠けたりしないからな」

 

「あいつらどれだけチキンなのデスカ」

 

「……金剛、この掃討作戦で提督との約束がなくなったからといって文句ばかり言うな。今後埋め合わせしてもらえ」

 

「せっかくのチャンスがなくなったのデース!! これくらいイイじゃないデスカー!! 提督は中々構ってくれないのニー!!!」

 

「金剛、うるさいです。ちゃんと警戒してください」

 

「Boo! 加賀も想像してみればイイのデス! 瑞鶴との約束が突然なくなったらどうしますカ!?」

 

「そんなことはありえません」

 

「あ、来週の映画の予定、私行けないかも。なんか翔鶴姉が異動してくるらしくて、さっき案内役たのまれた」

 

「…………………………そう」

 

「ちょ、ちょっと、そんなに落ち込まないでよ! そ、そうだ、加賀さんも一緒に行こう? 私だけである必要ないし!」

 

「………別にいいです。姉妹水入らずで過ごせばいいわ」

 

「じゃ、じゃあ映画は今週行こう? ほら、明後日とか休みもらってさ?」

 

「……それじゃあ足りません」

 

「う、うーん…………今夜は添い寝してあげる」

 

「さすがに気分がこう……しょうがないわね。どうしてもと言うならそれで手を打ちます」

 

「Shit! イチャついてんじゃねーデス」

 

「金剛さん、普段とキャラが違うっぽい」

 

「モー! なんでワタシの恋はうまくいかないデスカー!」

 

「それは提督さんを相手にしてる限りどうしようもないっぽい。あれは分かっててやってるっぽい。まず、金剛さんはそれに気づけないといけないわね」

 

「卯月ー! みんながいじめるヨー! 卯月はワタシの味方ですよネー!?」

 

「……え? も、もちろん、うーちゃんは金剛さんの味方だよ。……夕立、これなんの話ぴょん?」

 

「卯月ちゃん、ぼーっとしてたけど大丈夫っぽい?」

 

「電探に感あり! 10時の方向! 来たぞ!!」

 

長門さんの言葉により、空気が変わった。みんな真剣な顔になり戦闘準備を始める。

 

「加賀と瑞鶴は発艦後、後方から支援! 私と金剛は射程内に入り次第撃つぞ! 卯月、夕立は先に行って撹乱しつつ倒せるものは倒して構わん! 夕立は卯月にあまり近付き過ぎるなよ」

 

「卯月ちゃん、今度こそ負けないっぽい! 夕立の方が活躍してみせるんだから!」

 

「それはいいけど、離れててね? 怪我させたくないぴょん」

 

「わかったっぽい!」

 

加賀さんと瑞鶴さんが艦載機を発艦させたのを確認しながら夕立と2人で先行する。

ある程度進むと敵の深海棲艦が見えてきた。駆逐水鬼と軽巡棲姫が1体ずつ、ヲ級が2体、タ級が2体、ネ級が4体、その他軽巡型と駆逐型が複数。

これは思っていたより数が多い。今回は私達が出てきていて良かったかもしれない。

 

 

今から戦闘が始まる。敵を倒すのだ。

私は冷静であろうと努めた。

しかし深海棲艦が近づいて来るたびに、自分が置き換わって行くのが分かる。

 

 

 

 

ーー私はこの瞬間が嫌いだ。

自分が自分でなくなるから。

 

 

 

 

何かが混じって来るような感覚。

私はそれに必死で抗おうとする。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーああ、ダメだ。やっぱり抗えない。

 

私は思い切り水面を蹴る。そうすると視界が一瞬で流れていき目の前には敵の駆逐艦がいた。そのまま主砲をゼロ距離で放つと次の目標を探して転身する。

すぐ横にいた駆逐艦の頭を思い切り蹴り飛ばすと、破裂音がした後、首だけ無くなった体が沈んでいく。

左にいた軽巡が主砲を打ってくるが、砲弾は私へ当たった瞬間、打った方向に跳ね返り軽巡の主砲を破壊した。私には汚れ一つ付いていない。

仰け反る軽巡の頭を、こちらの主砲で吹き飛ばしてやる。

 

「次はどいつピョン。全員沈めてやるヨォ」

 

 

その時はもう、自分に仲間がいることなんて覚えていなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

目の前にはゆっくり沈んでいく軽巡棲姫がいる。

逃げ回るから仕留めるまでに時間が掛かってしまった。手こずらせやがって。

苛立ちで思い切り踏みつけてやると軽巡棲姫は何かに発射されたように下へ沈んでいく。浮かんでくる気泡だけが、ここに彼女が居た証拠だった。

 

近くに敵はおらず、私だけが海の上に立っている。

残党を探しに移動しようとしたが艤装が動かない。

 

そこで私はやっと冷静さを取り戻してきた。

自分が何をしていたのかを思い出すと同時に周りを確認する。

 

 

 

 

ーー私はこの瞬間が嫌いだ。

いつのまにか仲間を傷つけているから。

 

 

 

 

大丈夫だ。今回もみんなは私から離れていてくれたらしい。邪魔だからと攻撃した記憶はない。

急いで無線でみんなの居場所を確認した。

 

「こちらうーちゃん。終わったぴょん。みんなどこ?」

 

『こちら長門。今は逃走した雑魚どもを片付けている。もうそっちに近づいても大丈夫だな』

 

「ぴょん。ごめんなさい、燃料切れで航行できないぴょん」

 

『分かった。私が曳航しに行くから少し待て』

 

「ありがとぴょん。毎回申し訳ないです……」

 

『なに、気にするな。私が好きでやっていることだ』

 

 

無線を切ったあと、ぼーっとしながら長門さんを待つ。

今回も大丈夫だった。でも次は大丈夫じゃないかもしれない。

 

 

私は昔、仲間を大破させたことがある。

それは仲間が私を庇って大破したとかではなく、私が邪魔だと思ったから攻撃してどかしたのだ。

その時も戦闘が終わって我に帰ってから攻撃してしまったことを思い出した。

 

そのことがきっかけで、私は自分がだんだんおかしくなって行くのが分かってしまった。

それまでは好戦的になったり周りが見えないことはあったが、戦闘中の緊張による物だと思っていたし、仲間が邪魔だとは思わなかった。

 

しかし、時が経つにつれてどんどんそれが強くなり、仲間を邪魔だと思うようになって、ついには戦闘中に仲間のことは考えなくなった。

ただ敵を倒すという思いだけが私に残るのだ。

 

仲間は敵ではないということだけは認識しているが、自分の邪魔なら攻撃してでも排除するという行動に出てしまう。

私はそうならないように、いつもこれに抗おうとしている。戦闘が始まる前に冷静であろうとして、それを保とうと精一杯努力する。しかしそれが成功したことは今までに一度としてなかった。

 

 

敵の砲弾を跳ね返すのも、その頃から出来るようになった。最初は衝撃が弱いという違和感しか感じなかったが、仲間を攻撃するようになる頃には衝撃を感じずに跳ね返すことができた。今では集中すれば任意に方向を操作出来る。

色々なものの方向を変えることが出来るけれど、自分でも分かっていないことが多い。

 

ちなみに戦闘以外でも役に立つことが多々ある。

その代わりこの力を使うと体力か燃料の消費が激しくて艤装が動かなくなることがあるので多用は出来ないけれど。

 

 

これらのことは同じ鎮守府の皆はだいたい知っている。

これといって何かを言われたり行動をされたりした訳ではないが、私が自分から壁を作ってしまうようになった。

人の本心は分からないのだから。

それに、仲良くしてもいずれ傷つけてしまうかもしれないのだ。運が悪ければ轟沈させてしまうかもしれない。

 

だから私は戦闘を行うことが確実な場合、第1艦隊の艦娘としか出撃しない。

もし私が何かしても彼女達は自分でどうにかすることが可能だから。

 

彼女達くらいの練度になると、意識して倒そうと思わない限り轟沈することはないだろうし、私の邪魔にならないように動いてくれる。

それでも完璧ではなく何回か攻撃してしまうことはあるが、上手く対処してくれている。少なくとも轟沈しないということが分かっているだけでも精神的な負担は減るのだ。

私にとって、それはとてもありがたい。

 

 

遠くから長門さんがこちらに向かってくるのが見える。その後ろにいるのは加賀さんの艦載機だろうか。

我に帰り冷静になると燃料切れで航行出来なくなっていることが多いので、私は誰かに曳航してもらう機会が多い。

長門さんは進んで私を曳航してくれる。ただ、なぜかロープを使わずに抱っこしてくるけど。

多分私に負担が来ないようにしているのだろう。そのうち恩返しをしなくてはいけないな。

 

 

 

長門さんに手を振りながら思う。

いつか、自分は卯月に戻れるのだろうか。

 

 

 

 

 

 

 

 

「加賀さん、私の艦載機はこれで全部よ。……あれ、そういえば長門さんは?」

 

「? そういえば居ないわね。さっきまで後ろにいましたが」

 

「長門さんなら卯月ちゃんのとこに行ったっぽい」

 

「What!? 夕立! なんで止めなかったのデスカ!?」

 

「だってそうすれば夕立への被害が減るっぽい。夕立は長門さんにベタベタされるの嫌っぽい」

 

「加賀! まだ飛んでいる艦載機を急いで向かわせるデース!」

 

「わかりました。見つけ次第、発光信号で長門に警告します」

 

「卯月ー! いま助けに行くネー!」

 

 

 

「………ねぇ、夕立。いつも思うけど長門さんて実際にヤバイの?」

 

「ヘタレだからベタベタしてくるだけっぽい」

 

「ってことは合意があればヤバイってことね」

 

「うーん……本当にヤバイことはしないっぽい。たぶん合意があっても踏みとどまると思う。駆逐艦の幸せを1番に考えられる人っぽい」

 

「……意外にしっかりしてるのね」

 

「ホンモノだったら夕立が憲兵に突き出してるわよ。あれでも優しくて頼れるお姉さんを目指してるっぽい」

 

「ふーん。まあ確かに駆逐艦によく話しかけられてるわよね。その時は誰かしらの監視がいるけど」

 

「みんな誤解してるっぽい。でも面白いから、聞かれないとわざわざ夕立からは言わないっぽい」

 

「……私も黙ってよ」

 

 

 



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03話

 

 

 

ーー私は遠征任務が嫌いだ。

他の艦娘と話す機会が増えるから。

 

 

 

私は今、遠征任務に出ている。

駆逐艦である限り、重要な任務が無くて都合がつく時は、高練度でも遠征任務に組み込まれるのだ。実際に今この艦隊には最前線を任されるような高練度の駆逐艦が3人もいる。

 

高練度で強い艦娘がいるだけで、ある程度の安心感が得られるらしい。今回は新人もいるのでこの編成になった。

といっても私が戦闘を行うようなことになれば逆に仲間が危険になるので、私は戦闘なんて無いような遠征任務しか参加できないという制限があるけれど。

 

戦闘に参加して相手を倒すと意識するだけで、私は止まれなくなるのだから。

 

 

「叢雲ー、お前どこ行く気だー?」

 

「天龍さん、分かってはいるんだけど! これ引っ張ってると真っ直ぐ進めないのよ!」

 

「ま、お前は初任務だからな。他のやつのことよく見て技を盗めよー」

 

「なんでこんなにドラム缶重いのよ! もう!」

 

「叢雲ちゃん、吹雪型1番艦として私が教えてあげるよ! だからお姉ちゃんって呼んで?」

 

「ぜったいに呼ばない! でも教えて」

 

「吹雪お姉ちゃんって言ったら教えてあげる」

 

「ねぇ睦月、教えてくれない?」

 

「にゃ、にゃしぃ……」

 

「おーい、叢雲ちゃーん?」

 

「バカ姉は無視していいから、教えてください」

 

「わ、分かったにゃしぃ。じゃあ、とりあえず一本から練習してみよう? 天龍さん、残り持ってもらっても良いですかにゃ?」

 

「おう。……弥生、卯月、お前らも手伝え」

 

「…はい」

 

「別にうーちゃんが全部持っても良いぴょん?」

 

「それじゃ俺が面倒で押し付けたみたいだろうが」

 

「別にいいのに。天龍さんは気にしすぎぴょん。弥生の分も、うーちゃんが持つぴょん」

 

「…弥生は、自分で持つから…大丈夫」

 

「ねぇ、卯月ってそんなに力持ちなの? すごい非力そうに見えるんだけど。第1艦隊にも所属してるんでしょ?」

 

「叢雲ちゃんもそのうち分かるよ。卯月ちゃんはすごいんだから! それと私も昔は第1艦隊に居たんだよ? お姉ちゃんすごいでしょ?」

 

「少なくともあんたは全くそう見えないわ」

 

「そんな〜。 卯月ちゃん、私すごいよね? 第1艦隊で頑張ってたよね?」

 

「ぴょ、ぴょん。吹雪はすごいぴょん。夕立が着任する前は一緒に出撃してたよ」

 

「…吹雪は、弥生の目標。弥生は吹雪のこと尊敬してる」

 

「ほらぁー! 叢雲ちゃん。私、すごいんだよ? 弥生ちゃんに尊敬されてるんだよ?」

 

「……これを尊敬?」

 

「うーん、今の吹雪ちゃんはちょっと尊敬できないにゃしぃ……」

 

吹雪は叢雲がきてから空回りしていて頼れそうにないけれど、普段はとても頼れるのだ。

久しぶりに会えた妹が可愛くて可愛くて仕方ないのだろう。

 

私も妹が来たらこうなるのだろうか。でも睦月は私達が来た時もこんな風にはならなかったと思う。少し過保護になったくらいか。

 

私は天龍さんからドラム缶を受け取ると、弥生と2人で分けて持った。

弥生はじっとこちらを見ていた。私を心配しているらしく気づくと見られていることが多い。

彼女は私の姉にあたり、表情が硬いので何を考えているのか分かりづらいが、とても優しい性格をしている。

また、ここの鎮守府で私より1日早く建造された同期でもある。最初は訓練などもずっと一緒だった。

なので私の変化を1番近くで見てきた艦娘だ。

 

 

そして、私が初めて仲間を攻撃して、大破させたのも彼女である。

 

本人は気にしないでと言っているが、私は気にするのだ。

私は今でも彼女に対して罪悪感が消えていない。

 

 

「全員止まれ!」

 

「!っとと。 天龍さん、どうしたんですか?」

 

「吹雪、3時方向の水平線に何か見えた気がする。俺の気のせいなら良いが、深海棲艦だったらまずい。悪いが先行して見てきてくれ」

 

「わかりました!」

 

「卯月、大丈夫か? 念のために睦月と叢雲を連れて先に鎮守府に行っててくれ。ここより内側に敵はいないはずだ」

 

「ぴょん。なら9時方向から鎮守府に向かうぴょん」

 

「睦月と叢雲がいるんだ。くれぐれもお前は戦おうとするなよ。睦月、いざとなったら叢雲を連れてなりふり構わず逃げろ」

 

「了解にゃ! 叢雲ちゃん、睦月のそばにいてね」

 

「わ、わかったわ」

 

「ドラム缶はうーちゃんが持つぴょん」

 

「緊急だから別に投棄してもいいんだけどな。まあこれで何もなかったらもったいねえか。……よし、全員ドラム缶を卯月に預けろ! それとそっちの指揮は卯月が取れ」

 

「…………ふ、吹雪!」

 

「なあに? 叢雲ちゃん」

 

「その……気をつけなさいよ」

 

「………まっかせてよ!! 大丈夫、私がやっつけちゃうんだから!!」

 

「お前なんでそんなにキラキラしてんだよ……」

 

「…まぶしい…です」

 

「天龍さん! 先に行きます!」

 

「……あいつ、はしゃぎすぎだろ。まあいいや。弥生、行くぞ」

 

「…了解」

 

吹雪の後を天龍さんと弥生が追いかけて行く。私も反対方向へ行かなければ。

 

「じゃあ行くよ。準備はいいぴょん?」

 

「にゃしぃ!」

 

「私も大丈夫だけど……そのドラム缶、全部運べるの?」

 

「問題ないぴょん。うーちゃん達は左へ90度回頭後しばらく真っ直ぐ行って、そのまま鎮守府を目指します」

 

そう言って私は移動する。後ろでロープに繋がれたドラム缶同士がぶつかる音が聞こえるが、気にせずに速度を上げた。普通の駆逐艦なら波の抵抗で移動できない量だが、私の場合は波や風の力を利用して進むことができる。

 

 

 

ーー私はこの力が嫌いだ

この力は普通じゃないから。

 

 

 

速度が安定したところで、後ろから2人が付いてくるのを確認する。

 

「すごい、これが第1艦隊……。私もいずれこの量のドラム缶を運べるようにならないといけないのね」

 

「……叢雲ちゃん、これは卯月が特別なだけだから気にしないでいいよ」

 

「こんなに運べるなら、私たち遠征行かなくてもいいんじゃない? というかなんで最初からこの量を運ばないの?」

 

「……これ、結構燃料つかうぴょん。だからあんまり効率よくないぴょん」

 

「ふぅん。惜しいわね。そういえばなんで卯月は戦ったらダメなの? なんか天龍さんに念を押されてたけど。強いんでしょ?」

 

「……もしかして叢雲ちゃん、吹雪ちゃん達が心配で気を紛らわそうとしてるのかにゃ?」

 

「ち、違うから! 心配なんかしてないから! 単純に疑問なだけよ!」

 

「およよぉ? ほんとかにゃー?」

 

「本当よ! それで、なんでなの!?」

 

「ぴょ、ぴょん。それは、まあ、なんていうか。うーちゃんが強すぎるから、とか、周りが見えなくなる、みたいな?」

 

「? どういう事?」

 

「うぅ……なんていうか、うーちゃんからは言いづらいから、あとで吹雪にでも聞くといいぴょん」

 

「………ま、いいわ。それより睦月、さっきの続きなんだけど……」

 

叢雲は睦月にドラム缶の運びかたについて質問し始めた。きっと私に気を使ったんだろう。

本当は自分で言うべきだとは思うけれど、どんな反応をされるのか怖いのだ。もし何か言われたら、自分が異常だと再認識させられる。

だから“あなたが邪魔で沈めるかもしれない”なんて言えるわけがないのだ。

 

私は後ろの2人の会話を聞きながら鎮守府に向けて先を急いだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

結局、天龍さんが見たのは深海棲艦ではなくドロップして浮いていた艦娘だった。

そして今、その艦娘は私の前に立っている。

 

「三日月です。よろしくね。卯月お姉ちゃん!」

 

この時、私は衝撃を受けた。普段は砲弾も跳ね返してしまう私だが、この衝撃は跳ね返せなかった。

 

『お姉ちゃん』

 

この鎮守府では睦月型の末っ子だった私に、初めて妹ができたのだ。

正直に言おう、すごくかわいい。

 

無言で三日月を抱きしめる。

 

「お、お姉ちゃん?」

 

「はっ!? う、卯月だぴょん。よろしくぴょん!」

 

「…ずるい、私も」

 

三日月の後ろにいた弥生はそう言うと私ごと三日月を抱きしめてきた。

普段の無表情も心なしか嬉しそうな顔に見える。

 

「さっき弥生お姉ちゃんに聞いたんだけど、ここでは私が睦月型で1番下なんだね」

 

「そうなるぴょん。もう睦月には会ったぴょん?」

 

「まだだよ。さっきドックで目が覚めたばかりだから」

 

「なら今から会いに行くぴょん。きっと喜ぶぴょん」

 

「…弥生も行く」

 

睦月型は寮で同じ部屋を使っている。この鎮守府で同型艦は同じ部屋になることが多い。同型艦がいない場合は1人部屋になるし、人数が多い場合は別れたりするけれど。

今のところ例外は加賀さんと瑞鶴さんくらいだ。そういえば今度翔鶴さんが着任すると聞いたけれど、部屋はどうするのだろう。3人で同室になるのだろうか。

 

 

部屋で三日月が睦月に挨拶している時、私は睦月に聞かなくてはいけないことがあった。

 

「ねぇ、睦月、ちょっと聞きたいぴょん」

 

「およ? なに? 卯月」

 

「うーちゃん達も睦月のことお姉ちゃんって呼んだ方が良いぴょん?」

 

「…たしかに」

 

「およよ? 2人ともどうしてそんな深刻そうな顔してるの?」

 

「…弥生たち、睦月にお姉ちゃんって言ったこと…あまりない」

 

「……うーちゃん、三日月にお姉ちゃんって言われて嬉しかったぴょん」

 

「ああ、そういう……。睦月は今のままでいいよ。名前で呼ばれるのも気に入ってるにゃ」

 

「わ、私も名前で呼んだ方がいい?」

 

「三日月は好きな方でいいよ。睦月は妹がいるだけで幸せだから」

 

私の姉はなんて素晴らしいのだろう。吹雪もこうなら叢雲にお姉ちゃんと呼んでもらえるかもしれない。今なら吹雪の気持ちも分かるけれど。

私はどちらで呼ぶか悩み出す三日月を見ながら、吹雪にそれを教えてあげるかどうか考えていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

三日月が着任して数日が過ぎたある日、弥生は三日月の砲撃訓練を見学していた。

普段は第2艦隊で重要な任務があるため妹の訓練を見ることは出来ないが、今日はたまたま都合がついたのだ。

 

三日月の隣には叢雲がおり、同じく砲撃訓練を行なっている。

プライドの高い彼女のことだから、三日月に負けないように裏で訓練しているのかもしれない。

そんなことを思いながら、弥生はそれぞれの後ろにいる睦月と吹雪に目を向けた。

 

三日月は基本的に睦月が指導している。

それは睦月が普段あまり重要な任務についておらず、抜けても大きな問題にならないからである。

弥生は睦月と違って、後方でのサポートよりも単艦での強さを重要視している。その違いから既に、弥生は睦月よりも練度が上になっており、第2艦隊でもトップを争うほどだ。

 

「睦月お姉ちゃん、やっと当たりました!」

 

「その調子だよ。次はもっと遠くの的を狙うのです」

 

「いやー、三日月ちゃんは上手だね。うちの叢雲ちゃんは最初当てるまでにどれだけ掛かったか」

 

「今は当てれるんだからいいでしょ!」

 

「でもまだ時々当たらないでしょ? あの距離なら百発百中にならないと」

 

「前から思ってたけど、本当にそんなことできるの? あんた適当言ってんじゃないでしょうね」

 

「まあまあ叢雲ちゃん、落ち着くにゃしぃ。吹雪ちゃんは本当に出来るよ。弥生もできるにゃ?」

 

「…できる」

 

「吹雪ちゃんすごいです! 弥生お姉ちゃんもすごい!」

 

「…睦月も、それくらいできるはず」

 

「まあ、当てるだけならできるかにゃ」

 

「睦月お姉ちゃんもできるんだ! 私も頑張らないと」

 

「………疑って悪かったわ」

 

「叢雲ちゃんはかわいいなぁ」

 

「吹雪ちゃんは相変わらずにゃしぃ」

 

「…弥生は、吹雪のこと…尊敬してる」

 

「そういえば前も言ってたわね。私は未だに実感できないんだけど」

 

「吹雪ちゃんはなんていうか、戦い方が普通で強いのです」

 

「普通? たしかに吹雪は見た目が普通で地味だから会っても記憶に残らないけど」

 

「叢雲ちゃん、お姉ちゃんだって泣くことあるんだよ?」

 

「普通じゃない戦い方ってどんなの?」

 

「…代表的なのは夕立と卯月、かな」

 

「あの2人の戦い方はちょっと真似できないにゃ……」

 

「どんな感じなの?」

 

「あの2人は、近接戦闘の割り合いが多いんだよね」

 

「き、近接戦闘? 艦娘なのに?」

 

「意外と接近戦で戦う人は多いんだよ? 特に戦艦の人達とか。でもあの2人の相手ができる人はあまり居ないと思う」

 

「この鎮守府だと長門さんと金剛さんくらいじゃないかにゃ」

 

「あと卯月ちゃんは不思議な力があるからね。私も使ってみたいなぁ」

 

「それって、もしかしてドラム缶をたくさん運んだ時のやつ?」

 

「それにゃしぃ。卯月が言うには、燃料か体力を犠牲にして向きを変えられるらしいのです」

 

「……なんか漠然としててイメージ湧かないわね」

 

「一応言っとくと、他の艦娘に比べて割り合いが多いだけで、砲撃や雷撃もすごく上手だからね?」

 

「卯月お姉ちゃんすごい!」

 

「…だからこそ、弥生は吹雪を尊敬してる。夕立が着任する前、第1艦隊で活躍してた」

 

「……たしかにそんな人達の中で活躍してたのはすごいかもね。でもなんで今は後方にいるの?」

 

「後方任務で万が一があった時の保険として配属されてるにゃ。あとは新人の育成だよね、吹雪ちゃん?」

 

「そうだよ。だから叢雲ちゃんの初任務で天龍さんが何か見た時も私が先行したし、ドラム缶の運び方も教えたでしょ?」

 

「運び方を教えてくれたのは睦月だけどね」

 

「私も卯月お姉ちゃんと一緒に戦いたいです」

 

「うーん。……それにはかなりの努力が必要になるかな」

 

「…まずは、第2艦隊へ所属する」

 

「それで弥生より強くならないとダメにゃ」

 

「……弥生お姉ちゃんより、強く……」

 

「そしてこれが重要なんだけど、……卯月ちゃんが戦いやすいように行動する必要があるね」

 

「卯月が戦いやすいように?」

 

「……今のうちに教えておいた方がいいかもしれにゃしぃ」

 

「…………うん。なんていうか、卯月ちゃん、戦闘が始まると性格変わっちゃうんだよね」

 

「性格が変わるって……二重人格ってこと?」

 

「それに近いかも。とにかく率先して敵を最後まで倒してくれるんだけど、邪魔すると危ないんだよ」

 

「危ないって、怒られるんですか?」

 

「いや、そうじゃなくて……卯月ちゃんの邪魔になると、攻撃してくるんだ」

 

「えっ、味方を攻撃するってこと? 敵と味方の区別できてないの?」

 

「区別はついてるから率先して狙われたりはしないんだけど、卯月ちゃんの戦闘に少しでも邪魔になると追い払われちゃうんだよね。攻撃されて」

 

「……睦月お姉ちゃん、本当?」

 

「……本当にゃしぃ。戦闘が終わって冷静になると、いつもの卯月に戻って青ざめるにゃ」

 

「……戦ってる間の記憶はあるのね。でもそれってすごく危ないんじゃない?」

 

「にゃしぃ。実際にそれで弥生は大破したことがあるのです」

 

「あなた大破したの!?」

 

「…うん。でもそのせいで、卯月はずっと苦しんでる。卯月は自分からみんなと仲良くできなくなった。…自分が傷つけてしまうかもしれないって」

 

「卯月は寂しがりにゃ。誰かが自分から離れていくのが恐いのね」

 

「お姉ちゃん……」

 

「…だから、弥生は強くなった。卯月を助けてあげたい…から」

 

「弥生がここまで強くなった理由の1つは、第1艦隊に入って卯月と一緒に戦うためにゃしぃ」

 

「…昔、卯月はよく弥生を励ましてくれたし、優しくしてくれた。弥生は、卯月のこと大切に思ってる。…だから、弥生は一緒に戦えるって教えてあげたい」

 

「……私も、私も協力します!」

 

「……私もやってあげるわ。でもみんな既に色々やったんでしょう?」

 

「うん。それで解決しないから困ってるんだけどね」

 

「あぅ……」

 

「…でも、三日月は良い感じだと思う。三日月の前だと、卯月はいつもより笑う」

 

「そ、そうなの? じゃあ、私もっと仲良くする!」

 

「卯月は妹が出来て嬉しそうにゃしぃ。いっぱい甘えるといいのです」

 

「…うん。私も嬉しいし。………それにこのままだと、弥生も先に進めない」

 

「叢雲ちゃんも私に甘えて良いんだよ?」

 

「遠慮しとくわ」

 

「…………実は私も前から苦しんでて……」

 

「……………そうなの?」

 

「……三日月、練習再開するのね!」

 

「はい!」

 

「…弥生もそっちに行く」

 

 

 

 

 

 

 

 

「長門、これはどういうことネ?」

 

「ち、違うんだ、これは卯月と三日月に写真を撮ってくれと言われただけで……」

 

「じゃあなんで2人はこっちを向いていないのデスカ?」

 

「シャッターを押した時にたまたま夕立が来て2人を呼んだんだ! だ、だからこちらを向いてないんだ!」

 

「じゃあなんでこの写真を長門が持っているのデース?」

 

「そ、それはたった今拾ったから……」

 

「Hi、加賀ー!! Goodtiming! 長門が駆逐艦を盗撮してたヨ!! 憲兵に連行するから手伝ってくだサーイ!!」

 

「頭にきました。瑞鶴、翔鶴、先に行ってて」

 

 

 

 

 

「うわー、これ通りがかった私達のせいかな。加賀さん行っちゃったよ」

 

「あの、瑞鶴、あの人は?」

 

「翔鶴姉、あの人はなんて言うか、誤解の果て? なのかな? うーん、でも写真持ってたのは言い訳出来ないような」

 

「あれはさっき夕立が落としたっぽい」

 

「あんたそこに居たのね。もしかしてワザと? これは流石に酷いと思うんだけど」

 

「夕立もワザとじゃないっぽい。三日月ちゃん達が夕立と一緒に写った写真をくれた時に部屋に忘れていったから、届けようとしたら途中で落としたっぽい。夕立も探してたの」

 

「ホントでしょうね?」

 

「ぽい! 偶然っぽい! 夕立、嘘はつかないっぽい!」

 

「でも長門さん、なんであんなに焦ってるの? 余計怪しく見えるんだけど」

 

「あれは多分、長門さん自身も言い訳が出来ない状況だと分かってるからっぽい。あと金剛さんと加賀さんが怖いから」

 

「……フフフ、彼女は私と分かり合える運の低さかも」

 

「翔鶴姉?」

 

「翔鶴さん、はじめまして! 夕立よ! よろしくね!」

 

「翔鶴です。いつも瑞鶴がお世話になってます」

 

「鎮守府の案内? 夕立も行く!」

 

「夕立は長門さんの誤解をといてきなさい」

 

「今はあの2人が怖いからいや。瑞鶴さんは行けるっぽい?」

 

「無理だわ」

 

 

 



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04話

夜、私と三日月は睦月型の部屋に帰ってきた。

 

本当はもっと早く寝れるはずだったのだが、もう寝ようというタイミングでなぜか私達2人が憲兵から呼び出されたのだ。

私1人ならともかく三日月と一緒となると心当たりがなく、そもそも三日月が悪いことをするわけがない。結局なにも検討がつかないまま向かうことになった。

 

呼び出された部屋に入ると写真を渡され、これは君たちの物かと聞かれた。それはちょうど無くしたと思っていた写真であり、いくつか質問された後に返してもらえた。

どこかに落としたと思ったが、親切に拾って届けてくれた人がいたのだろう。

 

この写真を撮った時は、三日月がいきなりカメラを持ってきたので驚いた。写真を撮られるのは嫌いだけれど、三日月にお願いされたら断れない。

ツーショットが欲しいと言われたので、ちょうど通りかかった長門さんに手伝ってもらったんだっけ。

 

写真を返してもらう時に何度も長門さんのことを聞かれたが、あの憲兵さんは長門さんのファンだったのかもしれない。気持ちは分かる。長門さんはステキな人だ。私も将来はあんな人と結婚したい。

 

 

意外と時間が掛かってしまったため、部屋に戻ると睦月と弥生はもう寝ていた。私も寝よう。

 

「卯月お姉ちゃん、今日は一緒に寝てもいい?」

 

「急にどうしたぴょん?」

 

「……ダメ?」

 

「早く枕を持ってくるぴょん」

 

「やった!」

 

 

ベッドに三日月と並んで横になる。静かな部屋には姉達の寝息と彼女の呼吸をする音だけが聴こえてくる。

隣に温もりを感じながら、私は彼女に話かけた。

 

「……もう鎮守府には慣れたぴょん?」

 

「うん。お姉ちゃん達のおかげでだいぶ慣れたよ」

 

「それは良かったぴょん。……私は慣れるのに時間が掛かったから」

 

「…………。 ……ねぇ、お姉ちゃん、私のこと好き?」

 

「当たり前ぴょん」

 

「じゃあ、私のこと大切に思ってる?」

 

「大切ぴょん。三日月のためなら何でもできるぴょん」

 

「……ずっとそばにいてくれる?」

 

「もちろんぴょん」

 

「私もね、お姉ちゃんと同じだよ」

 

「……ぴょん?」

 

「私もお姉ちゃん達のこと好きだし、大切だし、ずっとそばにいるからね」

 

「……三日月は優しいね」

 

「卯月お姉ちゃんの方が優しいよ。……だから、何があっても私はそばにいるから」

 

そう言うと三日月は私に抱きついてくる。彼女の体温と一緒に暖かな何かが流れ込んでくるようだった。

私もそっと三日月を抱きしめる。この想いが彼女に伝わるように。

 

「……今日の三日月は甘えん坊ぴょん」

 

「………まだ、足りないよ。もっと仲良くなるんだから」

 

 

 

 

 

 

三日月は翌日以降も私と一緒に寝るようになった。寝る時間になると恐る恐る私のベッドに入ってくる。

私が抱きしめてあげるとうれしそうに抱きついてくるのがたまらなくかわいい。

 

それが羨ましかったのだろう、今日は弥生も一緒に寝ると言い出した。

さすがに妹を独占し過ぎていたかもしれない。弥生も私と同様に三日月をかわいがっているのだ。

 

「三日月、弥生が寂しがってるから今日は弥生と一緒に寝るぴょん」

 

「わかった! 弥生お姉ちゃん、いっしょに寝よう?」

 

「…大丈夫、3人で寝る」

 

「あのベッドで3人は狭いぴょん」

 

「………………」

 

「な、なら布団を並べて寝ればいいにゃしぃ。このベッド、マットレスじゃなくて布団だから床に敷けるのです」

 

「なら4人で寝れるね! 私いつかやってみたかったの!」

 

それぞれのベッドから布団を持ち出して、畳の上に並べる。睦月は1番端がいいらしい。私も端にしようとすると弥生に手を掴まれて真ん中にされた。弥生はそのまま端になり睦月と私の間に三日月がおさまる。

でもこれだと弥生と三日月が離れてしまう。

 

「弥生、これじゃあ弥生が三日月と離れちゃうぴょん」

 

「…弥生はここがいい」

 

「じゃあ、うーちゃんと三日月が交換すればいいぴょん。三日月、交換ぴょん」

 

「わかった! 弥生お姉ちゃんと寝るの初めて」

 

「睦月とは一緒に寝たことあるぴょん?」

 

「この間、いっしょにお昼寝したの」

 

「………もう、こうなったら三日月とくっついて寝る」

 

「弥生、なんか怒ってるぴょん?」

 

「…怒ってない」

 

「電気消すにゃしぃ」

 

しばらく4人で話していたが早々に睦月が寝てしまった。彼女は今朝早かったらしいので仕方ない。

私も眠くなってきた頃、三日月がとんでもないことを言い出した。

 

「私、将来は卯月お姉ちゃんと結婚します!」

 

「み、三日月?」

 

「だって夕立さんが言ってた! 結婚する相手は強くて優しくてずっと一緒に居たい人がいいって。それにお互いに好きで大切に思ってれば結婚していいんだよね」

 

「……三日月は将来、うーちゃんよりもステキな人に出会えるぴょん。だからうーちゃんなんかと結婚したらダメぴょん」

 

「……卯月お姉ちゃんは、私と結婚したくないの?」

 

「そんなことないぴょん! 弥生、助けてぴょん!」

 

「…三日月、残念だけど卯月と結婚はダメ」

 

「なんで? だって結婚すればずっと一緒にいられるんでしょ?」

 

「…それは、そう…だけど」

 

「弥生お姉ちゃんも卯月お姉ちゃんと結婚すればいいんだよ。そうすればずっと一緒!」

 

「…それは良いアイデア」

 

「弥生!? やっぱりさっきから怒ってるぴょん?」

 

「明日、睦月お姉ちゃんにも教えてあげよう! そうすれば4人でずっと一緒だね」

 

 

 

 

 

 

 

 

ーー私は人参が嫌いだ。

あれは独特の風味と味がするから。

 

 

 

目の前にある人参は、普段なら誰かに食べてもらっている。特に弥生や長門さんはよく私の代わりに食べてくれる。私は僅かな望みにかけて向かいに座る妹を見た。

 

「そんな顔してもダメです。好き嫌いは良くないよ」

 

「三日月、うーちゃんは人参がそこまで嫌いなわけじゃないぴょん」

 

「じゃあなんで人参だけ残してるの?」

 

「それは人参が好きな人にあげるためぴょん。弥生は人参が大好きだから、うーちゃんは弥生のために人参を残してるぴょん」

 

「弥生お姉ちゃん、人参好きなの?」

 

「…う、うん。人参は好き」

 

「弥生、嘘は良くにゃしぃ。弥生も人参嫌いでしょ」

 

「えっ、弥生は人参嫌いだったぴょん?」

 

「卯月お姉ちゃん! 弥生お姉ちゃんも人参嫌いなんだから自分で食べないとダメ」

 

「うぅ、弥生が人参嫌いなのは知らなかったぴょん。いつも食べてくれてたから、てっきり好きなんだと思ってたぴょん……。今までごめんぴょん」

 

「…大丈夫。卯月のくれる人参は、食べれる」

 

「……弥生は結構単純にゃ」

 

弥生は人参が嫌いだったのか。私なら人のために人参を食べるなんてことはできない。

やはり彼女は優しい。そこは昔から変わっていないな。

 

私は周りを見て長門さんを探す。長門さんこそは人参が好きなはずだ。いつもは彼女のお皿にそっと乗っけている。

彼女はちょうど近くの空いた席に座ろうとしているところだった。

 

「長門さん! いいものあげるぴょん!」

 

「いいもの? なんだ卯月、何をくれるんだ?」

 

「ちょっとこっちに来て欲しいぴょん!」

 

「卯月お姉ちゃん!」

 

「三日月、本当だぴょん。うーちゃんは長門さんのためにとっておいたんだぴょん!」

 

私は残っている人参をフォークで全部突き刺すと、こちらに来た長門さんに向けて差し出す。

 

「長門さん、あーん」

 

「!?!?!?……………………………………あ、あーん」

 

「おいしいぴょん?」

 

「……ああ…………ああ……、うまいぞ……」

 

「ほら、こんなにキラキラぴょん。長門さんは人参が大好きぴょん」

 

「長門さん、人参好きなんですか?」

 

「うむ、大好物になった」

 

「三日月も長門さんみたいな人を目指すといいぴょん。長門さんは優しくて頼れるステキなお姉さんぴょん。うーちゃんの憧れぴょん」

 

「…弥生も、憧れて…ます」

 

「三日月はまだあまり知らないかもだけど、ここの駆逐艦はみんな長門さんに憧れてるにゃ」

 

「ははは、照れるじゃないか」

 

「あれ? 加賀さんぴょん。どうしたぴょん?」

 

「なんでもないわ。……ちょっと長門を借りてもいいかしら?」

 

「違う、加賀、今のは卯月からやってきたんだ。不可抗力だ。私は悪くない」

 

「それは私達も見ていたわ。だから今は審議中です。とりあえず向こうに行きましょう」

 

 

 

 

 

 

 

 

今日、私の所属する第1艦隊は招集がされていた。

他の鎮守府での掃討作戦など、大規模作戦の準備がなかなか進まないというのは聞いている。私たちは既に任された領海における掃討作戦を完了させたので、他の鎮守府の手伝いをさせられるのかもしれない。

私は時間ギリギリになると執務室の前に来てドアを見つめた。思わずため息を吐いてしまうが、そのままドアノブを掴む。

 

 

 

ーー私はこの部屋が嫌いだ。

戦う時は必ずこの部屋に呼ばれるから。

 

 

 

執務室に入ると既に皆は揃っていたけれど、なぜかその中に夕立の姿はなかった。

嫌な予感がするが、そのまま列の最後に並び司令官を待つ。

静かな部屋には時計の音だけが響きわたり、緊張と不安が自身の体を蝕んでいく。秘書艦の長門さんと補佐の金剛さんが私に一瞬だけ目を向けたのが、余計に不安をかき立てた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「叢雲ちゃん、あの……私達の部屋にきますか?」

 

「……三日月、何回同じことを言わせるの? あんたはもっと優秀だと思っていたわ」

 

近くの席で三日月と叢雲が話しているのを、私は静かに聞いていた。

吹雪と夕立がこの鎮守府からいなくなってから3日が経つ。2人がいなくなっただけでどこか静かになった鎮守府では、時間の流れが遅く感じる。

 

「……で、でも、叢雲ちゃん、明らかに無理してます。今日だって全然ご飯食べてないじゃないですか」

 

「……そんなことないわ」

 

「そんなことあります。叢雲ちゃん1人で抱え込まないでください。……寂しいなら寂しいって言ってください」

 

「……これくらいで寂しいわけないでしょう。あなたの目は節穴なの?」

 

「あれから叢雲ちゃんはどこか上の空です。砲撃訓練だって私より当たらないし、時間があればボーっとしてるし、もう見てられません!」

 

「……言ってくれるじゃない」

 

「まあまあ、叢雲ちゃん。でも私達の部屋にくるのは嫌にゃしぃ?」

 

「……別に嫌ってわけじゃないけど……」

 

「ならさ、1人で部屋にいるよりも睦月達と一緒にいよう? きっとその方が吹雪ちゃんも喜ぶにゃ」

 

「でも……」

 

「……それにね、前に吹雪ちゃん、言ってたにゃしぃ。もし吹雪ちゃんに何かあったら、その時は叢雲ちゃんをお願いって」

 

 

 

 

 

 

「ねぇ、卯月。なんか吹雪が行方不明か沈んだみたいに聞こえるんだけど」

 

「瑞鶴さん、多分三日月は天然で言ってるし、睦月はわざとやってるぴょん」

 

「……駆逐艦って仲良いわよね。でも叢雲の調子が悪いのはなんで?」

 

「あれは本当に吹雪がいなくて寂しいだけぴょん。叢雲は今までずっと同室に吹雪がいたから、1人で過ごすのは初めてぴょん」

 

「あー、だから砲撃訓練も外してるんだ」

 

「…あれは、三日月が上手くなっただけ。…叢雲は、いつもと同じ」

 

「……。なるほど、それだと煽ってるようにしか聞こえないわね」

 

「…三日月は、結構天然。…自分が上手くなったとは思ってない」

 

「ふーん。……それにしても、あの2人も大変ね。他の鎮守府の手伝いなんて」

 

吹雪と夕立は進まない掃討作戦のせいで他の鎮守府に出張している。夕立は戦力を期待されて、吹雪は戦力に加えて教導を期待されて一時的に異動となった。掃討作戦が終わり次第戻る予定ではあるが、時間が掛かるかもしれない。

 

2人がいなくなる事によって第1艦隊で出撃できる駆逐艦が私だけになり、作戦の幅が狭まると思われた。しかし、司令官から空いた席には後日に駆逐艦を入れることでそれを回避すると言われ、今日やっと配属されたのが弥生だった。

 

これから第1艦隊でミーティングをするため、今は残りの人を待っている。弥生が艦隊に入るにおいて、戦い方や注意事項などの説明をしなければならない。と言っても第2艦隊と大きく違うところは私のことくらいなので、顔合わせの意味合いが強いけれど。

 

「…おかげで、弥生が第1艦隊に入れた。これで、卯月と一緒に戦える」

 

「弥生は第2艦隊でもトップクラスだったわね。卯月も安心できるんじゃない?」

 

「…………弥生の実力を疑ってるわけじゃないぴょん。でもうーちゃんは安心できないよ……」

 

「…………」

 

「……まあ、そんなに簡単にはいかないわよね……。……ほら、弥生も第1艦隊で戦うのは初めてなんでしょ? 何かあったら私を頼ってもいいからさ。卯月もそんな暗い顔しない」

 

弥生は私に大破させたれたことを怒っていない。それは本人からもう何度も聞いた。でも私が弥生に抱いている罪悪感はまだ消えていないのだ。普段は普通に過ごしているが、彼女と一緒にいるとやはり意識してしまう。

 

それに、未だに暴走してしまう私が、次の出撃で弥生を攻撃しない保証はない。私はあの時から何も変わっていないのだ。

弥生は変わったのだろう。いや、変わってくれたと言うべきか。彼女は優しいから、私のために頑張って強くなった。あの日、弥生から言われたことを私はまだ覚えている。

 

「それにしてもあの2人遅くない? 呼びに行った加賀さんまで戻って来ないし」

 

「…たしかに、少し遅い」

 

「あの3人も仲が良いぴょん。この間、長門さんを追いかけて遊んでたぴょん」

 

「ああ、やってたわね。……多分あれは遊びじゃなくて本気でやってたと思うけど」

 

「…瑞鶴さんは、一緒に追いかけっこ、しないの?」

 

「私は遠慮しとく。あの2人に追いかけられて逃げれる気がしないし、仲間にはなれないわ」

 

「…瑞鶴さん、最初から諦めたらダメ。まずは、やってみる。できなければ、努力する」

 

「う、うん。そうね、私も頑張ってみよう……かな?」

 

「…大丈夫。あの2人には、弥生から言っておく」

 

「……なんて?」

 

「…瑞鶴さんも長門さんと同じ(で遊びたい)。仲間。それに、弥生が(第1艦隊で戦うのが)初めてだから優しくしてくれた。だから、」

 

「言い方! 待って!待って! 言い方おかしくない!?」

 

「…?」

 

「あ、分かってないやつだ。卯月、今のおかしいわよね!?」

 

「ぴょん?」

 

「…………弥生、大丈夫よ。私、自分で言えるから。だから、弥生から言わなくても良いわ。ていうかお願いだから言わないで」

 

「…わかった」

 

「瑞鶴、遅くなったわ」

 

「加賀さん!? い、今の聞いてた?」

 

「なんの話?」

 

「ありがとう幸運の女神! ……なんでもないわ。遅かったけど、どうしたの?」

 

「掲示板のところで、広報のパンフレットを見つけたの。あなたの写真が載っているものよ」

 

「ああ、この間のやつね。私まだ見てないや。……ちょっと待って、掲示板? 来客用スペースとかじゃなくて?」

 

「“ご自由にお取りください”って書いてあったからたくさん貰ったわ。あなたと卯月の写真も切り抜いて掲示板に貼ってあったわよ」

 

「うぅ、やめて欲しいぴょん」

 

「提督はあとで爆撃しておこう。……それで、長門さんと金剛さんは?」

 

「パンフレットに夢中で忘れていたわ」

 

「何しに行ったのよ!」

 

「そんなことより、これを見て。この写真、最高だと思わない?」

 

「…瑞鶴さん、すごくカッコいい」

 

「そうね。ファンが出てくるレベルだわ」

 

「うーちゃんの思ってた通りぴょん。サインの練習をしておいた方がいいぴょん」

 

「そうね。瑞鶴、練習したサインは全部頂戴」

 

「……ああ、もう。どんな顔して歩けばいいのよ……。でも流石にファンはまだできないでしょ」

 

「あら、あなたは既にファンである私が見えていないのかしら?」

 

「はい。卯月は毎回こんな気持ちなのね……。そういえば三日月は知ってるの? 卯月が有名ってこと」

 

「うーちゃんからは言ってないぴょん」

 

「…弥生も、言ってない」

 

「……三日月ー! 部屋に戻る時は一緒に行くぴょーん!」

 

「卯月お姉ちゃん、わかったー!」

 

「三日月ー、今のうちに掲示板に行くと良いわよー。卯月の写真が貼ってあるからー」

 

「えっ、そうなんですか!? ちょっと見てきますー!」

 

「みか…づ……き。行っちゃったぴょん……。瑞鶴さん、なんで言っちゃうぴょん?」

 

「隠してもすぐバレるって。むしろこのまま隠してたら後で泣かれるかもよ?」

 

「……それは嫌ぴょん」

 

「卯月の写真も素晴らしいわ」

 

「…加賀さん、弥生にも見せて。…………あとで弥生も貰いにいく」

 

「急いだ方がいいわよ。結構人が集まってたから」

 

「えっ、人が集まってたの!? もう、本当にどんな顔すればいいのよ!」

 

「…弥生、急用を思い出しました。少しだけ、外します」

 

 

結局、長門さんと金剛さんが来たのは弥生が戻ってからだった。

何やら深刻な顔をしており、こちらに来るなり私達に指示を出してくる。

 

 

「すまないが、第1艦隊はこのまま執務室に移動してくれ。今夜にも出撃する可能性が高い」

 

 



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05話

私の横には弥生が並走しており、彼女が緊張しているのが伝わってくる。配属されて早々に出撃とは彼女も運がない。

 

今我々が向かっている海域には姫級が3体いるらしい。

本当は隣の鎮守府の担当海域だが、1度に3体の姫級を相手にするのは難しかったようだ。ほとんどダメージを与えられずに撤退したらしく、敵の戦力は減っていないとのこと。

 

ちなみに、既に日が落ちて時間が経っている為、加賀さんと瑞鶴さんは一緒に来ていない。彼女達は夜戦だからと言ってただの置き物になる様な艦娘ではないが、空母が狙われる夜戦を積極的にするような酔狂な艦娘でもないのだ。

 

私は前にいる長門さんと金剛さんを視界におさめながら、弥生の方に意識を向けた。

弥生は第2艦隊でもトップクラスの実力がある。

彼女は吹雪のように長い経験を積んだわけではないし、夕立のように火力とセンスがずば抜けているわけでもない。

しかし、それでも彼女は今の実力を手にしたのだ。そこには他の追随を許さない程の努力があった。

 

彼女がここまで強くなった理由を、私は知っている。

 

「ねぇ、弥生」

 

「…なに?」

 

「昔、弥生がうーちゃんの為に強くなるって言ってくれたの覚えてるぴょん?」

 

「…うん、今もそれは変わらない。弥生は、卯月と一緒に戦うために強くなった」

 

「……弥生はすごいぴょん。うーちゃんも弥生みたいになりたいぴょん」

 

「…? 卯月は、今のままでもいいと思う」

 

「……うーちゃんは………。……それより弥生、さっきから緊張してるぴょん?」

 

「…少し。卯月と一緒に戦うんだって思ったら緊張してきた」

 

「うぅ、うーちゃんのせいだったぴょん。近づかないでとしか言えないぴょん……」

 

「…それは大丈夫。そうじゃなくて、弥生はやっと卯月に教えてあげられる……」

 

「各艦! そろそろ予定海域だ! 準備だけはしておけよ」

 

「今回は少し不安ですネ。いつものメンバーが3人しかいないデス」

 

「おいおい。お前がそんなこと言うなんて珍しいな」

 

「負けるとは思ってないデス。でも4人で姫級3体がいる艦隊とやりあうのは時間が掛かりマス」

 

「まあ、確かに雑魚は多いからな。綺麗な戦闘にはならないだろう」

 

「弥生は大丈夫デスカ? 恐らく、第2艦隊では経験がないような乱戦になりマス」

 

「…大丈夫、です」

 

「弥生は我々と違って近接戦闘の経験が少ないだろう。無理はするなよ」

 

「…はい。でも、頑張ります」

 

「電探に感あり! 長門、どうやらお出ましネ! 凄い数デス!」

 

「……卯月、大丈夫、いつも通りだ。先に行って撹乱しながら、倒せる奴から倒していいぞ」

 

「……行ってくるぴょん!」

 

やはり長門さんには敵わない。みんなのことをよく見ている。実は先程から緊張と恐怖で手が震えているのだ。

別に敵が怖いわけではない。いつもの安心感がないのが原因だ。敵の数が多くこちらの人数がいつもより少ない上に、今回は弥生がいる のだ。もし攻撃してしまっても沈まないという安心感がない。

 

ーー弥生を攻撃して、沈めてしまうかもしれない。

 

あの時の光景が蘇ってくる。

仲間達が必死に呼びかけるが意識が無く動かない弥生。止まらない血。動けない私。

 

 

ダメだ、今それを思い出しても余計に震えが増すだけだ。他の事を考えよう。

さっき弥生は私と戦うために強くなったと言った。やはり、私のために努力をしてくれたのだ。

 

この鎮守府の第1艦隊に正式に配属されるのはかなり難しい。必要なのは純粋な練度と戦闘力に加え、周りを見る能力や判断力、そこに私の邪魔をしないという制限がつく。

私は練度と戦闘力はあるが、他は基準に達していない。暴走してしまうから例外的に配属されただけだ。

だから弥生の努力がどれくらいのものか、想像に難くない。

 

弥生は優しい。こうして一緒に戦うことで、私のそばに居ようとしてくれている。

それに私が心配なのだろう。ずっとこちらを見ているのが分かる。弥生はいつも私のことを心配してくれているのだ。

 

そんな弥生に私はこたえられるだろうか。

いつか肩を並べて戦う事は出来るだろうか。

そういえば弥生が言っていたな。出来なければ、努力する。

なんだ、やる事は普段と変わらないじゃないか。

 

 

敵との距離が近づいてくるにつれて、私は冷静であろうとする。

自分が置き換わっていくのが分かるけれど、必死に私のままでいようとする。

何かが混じってくる感覚があるけれど、頑張ってそれを追い出そうとする。

 

今日は弥生がいるんだ。今日こそは。

敵まであと少し。

 

もう少し。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーやっぱりダメだ。

 

 

私は湧き上がる何かにそのまま身を任せた。

 

 

 

戦艦が撃ってきた砲弾を跳ね返して駆逐艦に当てる。駆逐艦はそのまま吹き飛んだ。

 

魚雷が何本も囲むように向かってくる。私に当たった途端に向きを変えて、先程の戦艦へ全て真っ直ぐに向かって行った。

 

重巡と別の戦艦が殴りかかってくるが、そいつらの腕がぐちゃぐちゃになっただけで、こちらにダメージはない。

そいつらに手を当てると相手はその場から動けなくなる。残った手足で必死に足掻いて抵抗してくるが、その分ボロボロになっていった。

 

後方の空母から行われた爆撃が私に命中した瞬間に、その2体は私の手から砲弾のようなスピードで飛んで行った。そのまま何体かを巻き込んで行き、闇に紛れて見えなくなる。

 

「あはハハ~! 最っ高だピョン! もっと楽しませてェ!」

 

 

もう、敵しか目に入らない。

 

 

 

 

 

 

 

 

「じゃあ叢雲ちゃんは三日月のベッドを使うにゃ。三日月は普段卯月の所で寝てるから気にせず使ってね。自分の部屋だと思ってくれていいにゃしぃ」

 

「……なんか悪いわね」

 

「大丈夫にゃ。それに睦月も賑やかな方が楽しいから」

 

「叢雲ちゃん、見てください! 卯月お姉ちゃん、とっても可愛いくてキレイです! ステキです!」

 

「はいはい。さっきからずっと言ってるけどそんなにすごいの?」

 

「見ればわかります! このページです!」

 

「……わぁ……可愛い。卯月ってこんな顔もするのね」

 

「2人はまだ知らなかったかにゃ? 定期的に広報で使う写真撮影があるんだけど、卯月は毎回呼ばれているのです」

 

「確かにこれだけ可愛かったら納得だわ」

 

「ふっふっふ、叢雲ちゃん、甘いにゃしぃ。この撮影に参加出来る条件は見た目だけじゃないのね」

 

「あっ、こっちに瑞鶴さんもいる! カッコよくてステキだなぁ」

 

「瑞鶴さん? 本当だわ。こっちもモデルみたい。もしかしてこれって強いことが参加条件なの?」

 

「そうにゃしぃ。正確に言うと、強くて戦果をあげていて、写りが良い艦娘が大本営から呼ばれるんだよ。参加は任意だから断る人もいるけどね」

 

「瑞鶴さんも卯月お姉ちゃんもすごい! ……あれ? 参加は任意?」

 

「どうしたのよ? 呼ばれたら普通は行くでしょ?」

 

「うーん。……でも卯月お姉ちゃんはこういうのあまり好きじゃない気がする……」

 

「えっ? そうなの?」

 

「さすがに三日月は分かっちゃうよね。確かに卯月はこれが好きじゃないにゃ。でも色々あって半ば強制参加にゃしぃ」

 

「色々って何よ? そこが重要なんじゃない」

 

「私も知りたい」

 

「続きはお風呂に入った後に教えてあげるにゃ。着替えとタオルの準備をするのです」

 

「あら、もうそんな時間なのね。卯月と弥生はいつ帰って来るのかしら。待たなくていいの?」

 

「さっき長門さんがこれから出撃するかもって言ってたから、すぐには帰って来ないかもしれにゃしぃ。もしかしたら真夜中になるかも」

 

「これから出撃なんて、第1艦隊は忙しくて大変ね。私達がお風呂から出ても戻ってなかったら先に寝てて良いの?」

 

「にゃしぃ。明日も訓練だから早めに寝ようね」

 

「私は卯月お姉ちゃんのベッドで待ってる!」

 

「三日月、あんたいつも卯月と一緒に寝てるの?」

 

「はい。いつも一緒です。卯月お姉ちゃんと一緒に寝るとなんだか暖かくて安心できます」

 

「ふぅん。あんたそういうところも子供っぽいわね」

 

「むー。叢雲ちゃんだって時々吹雪ちゃんと寝てるじゃないですか」

 

「は、はぁ!? 私はちゃんと一人で寝てるわ!」

 

「でも吹雪ちゃんが言ってましたよ? 叢雲ちゃんは時々深夜にこっそり布団に潜り込んできて早朝に出て行くって」

 

「!?!? あ、あいつ気づいて…… と、とにかく、私は一人で寝れるわ! 吹雪の言うことなんて信じないでちょうだい」

 

「……叢雲ちゃん、今日からしばらく睦月がお姉さんになってあげるにゃ。だから、睦月の布団に来るとよいぞ。誰かと一緒だと安心するもんね」

 

「行くわけないでしょ!」

 

「ちなみに睦月は一度寝ると起床時間まで起きないにゃしぃ」

 

「わ、私も!」

 

「……い、行くわけないでしょ」

 

「まあ、気が向いたら来ると良いよ。さぁ、まずはみんなでお風呂にゃ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

最後に残った重巡がこちらに砲撃を行ってくる。既に燃料が切れているので艤装を使用した航行はできないが、身体能力だけでそれをかわした。

まだ弾薬は残っていたので、遠距離からの精密砲撃を行う。

相手が装填を終わらせてから私を狙うタイミングと姿勢を予測して、主砲の砲口が来る場所に狙いをつけて撃つ。

重巡は砲をこちらに向けた瞬間に、艤装の暴発と誘爆により大破した。倒れる重巡に向けてもう一度砲撃をすると、そいつは海に沈んでいく。

 

遠くの方に長門さんがいる以外、立っているものは見当たらない。

 

結局、姫級を倒し終わっても雑魚は引く気配がなかった。引いてくれれば楽が出来たかもしれないのに、全く空気を読まない奴らだ。

 

周りにある敵の残骸を見ながら、私はだんだんと冷静さを取り戻して行く。

 

 

 

 

ーー私はこの瞬間が嫌いだ。

気づくと仲間が傷ついているから。

 

 

 

 

サァーっと血の気が引いて行き冷汗が出る。

勘違いだと思いたがる自分を押しのけて、その時の記憶を何度も思い出す。

 

 

 

そして、思わず膝をついてしまった。

 

 

 

「ぁ、ああ、ああああああああああああああ!!!!」

 

 

 

私はまた、やってしまった。

仲間を撃ってしまった。

あれは、大破以上だ。

 

ーーーよりにもよって、弥生を。

 

 

必死に周りを見渡すが、弥生は見つからない。藁にもすがる思いで無線機に向かって叫ぶ。

 

「弥生! 弥生!! どこ!? 返事して!? 弥生ぃ!!!」

 

『卯月!? どうした!?』

 

「弥生ぃ!! 弥生ぃ!!! 弥生ぃぃ!!!」

 

『おい! 卯月!! しっかりしろ!』

 

「な、長門さん!! や、弥生が! 弥生がいない!! ささ探さなきゃ! う、うーちゃん、ま、また、またやっちゃった! し、しし沈んじゃったかも、し、しれな………… ぁあ ああっ ああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!」

 

『お、おい! 落ち着け! 卯月!!」

 

 

迫り来るパニックと押しつぶされそうな絶望の中、水しぶきの向こうで長門さんがこちらに来るのを見て、私は意識を手放した。

 

 

 

 

 

 



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06話

 

 

 

 

 

 

 

目が覚めると長門さんの腕の中だった。どうやら私は長門さんに曳航されているらしい。

非常に疲労感があり、体が怠くて動くことがままならない。

それでもどこからか体に力が入ってしまう。緊張しつつも私は口を開いた。

 

「……長門さん……弥生は?」

 

「起きたか。弥生は無事だ。金剛が曳航したから今頃は鎮守府のドックで修復中さ」

 

それを聞いて一気に安堵の気持ちが押し寄せ、力が抜けて行く。

 

「…………」

 

「……まあ、なんだ。卯月、無理かもしれないが気にするな。あれは事故だ。それに旗艦を務めた私の責任でもある」

 

「……………………」

 

「卯月?」

 

「長門さん。降ろして欲しいぴょん」

 

「それは構わないが、お前一人じゃ航行できないだろう」

 

「もういいよ。うーちゃん鎮守府には帰らない」

 

弥生の無事を知った途端に安堵が広がるが、同時に激しい後悔と罪悪感、それに消えたいという気持ちや色々な感情も広がってくる。

 

 

端的に言えば死にたかった。

 

 

「帰りたくないって、どうするんだ? 帰らないと補給もできないぞ」

 

「ここに置いていって。自沈する」

 

「は、はぁ!? 自沈だと!? おい、冗談だよな?」

 

「……もういやだよ。……耐えられないよ」

 

「…………」

 

「……………お願いだから、……ここに……置いていってください……」

 

「……なぁ、卯月。なんでそんな悲しいことを言うんだ」

 

「……悲しいことなんて言ってないです」

 

「私は悲しいぞ」

 

「……それは勘違いです」

 

「いいや、悲しい。勘違いなんかじゃない。それに私だけではなくみんな悲しいはずだ」

 

「……ごめんなさい。じゃあ何も言いません。……だから置いて行ってください」

 

「いいやダメだ。私は置いていかないぞ。そもそも降ろさないからな。お前がなんと言おうが降ろさないし離さない」

 

「……どうすれば自沈させてくれますか? うーちゃんに出来る事ならなんでもします」

 

「……………………よし、決めたぞ。卯月が沈んだら私も沈む。卯月が自沈したらすぐに私も後を追うことにした。だから、お前が自沈する時は私を沈めると思え。一蓮托生というやつだ」

 

「……そんな、ずるいです」

 

「ああ、今まで隠していたが、実は私はずるい性格でな。幻滅しただろう」

 

「そんなことない!……です」

 

「まあ、いずれ分かるさ。それよりいつも通りに話してくれ。お前にかしこまった言葉を使われたくはない」

 

「……ぴょん」

 

「ではまずは鎮守府に帰って、補給して、風呂に入って、弥生の見舞いに行って、たっぷり寝るんだ」

 

「……弥生に、謝らないと……」

 

「まだ少し掛かる。今日はいつもよりだいぶ疲れているだろう。私に任せてまだ寝ていなさい」

 

長門さんは私の疲労もお見通しらしい。やっぱりすごいなぁ。私も長門さんみたいな人になりたかったなぁ。

頭を撫でられる内にいつのまにかまぶたが重くなり、私はそのまま眠気に負けてしまった。

 

 

 

 

 

 

 

抱きかかえている卯月が寝たのを確認しながら、長門は先程の光景を思い出す。

 

卯月がパニックになった時、足元から水が大量に噴き上がり広範囲に広がった。おそらく卯月の力が暴走したのだろう。

そのせいで卯月は体力を限界まで削り動けない状態だ。今は大人しく腕の中で寝ている。もしまだ力を行使出来る余裕があれば、自身の腕などすぐに振り払われてしまう。

 

だがこうして卯月が何も出来ない間に話す事ができて良かったと思っている。自沈するなどと言い出したのだ。もしかしたら弥生が無事なことすら言えないまま自沈されていたかもしれない。

 

先程はなんとか出来たが、鎮守府に帰ってからどうするか。卯月の言い出した言葉がショックで中々頭が回らない。

 

「……これは思っていたより深刻だな…………」

 

 

 

 

 

 

 

 

「……弥生、……ごめんなさい……」

 

「…大丈夫」

 

「私もすまなかった。旗艦として責任は私にある」

 

「…長門さんも、弥生は大したことない、です」

 

「……弥生は大破したんだぴょん。……大したことあるよ……」

 

「…大丈夫。もうすぐ治る」

 

「……それでも攻撃したのはうーちゃんだから。……弥生は怒って良いんだよ」

 

「………卯月、ごめん」

 

「……何で弥生が謝るの?」

 

「…弥生のせいで、卯月はまた苦しんでる。弥生がもっと強ければよかった」

 

「……違う……違うぴょん! どう考えてもうーちゃんが悪い! 弥生は悪くない!」

 

「卯月、落ち着け」

 

「…弥生は、まだ努力が足りなかった。弥生のせいで、ごめん」

 

「弥生は十分努力してる!! なんで自分を責めるの!? うーちゃんが悪いのになんで弥生が謝るの!?」

 

「おい、弥生は怪我人だぞ」

 

「だって!!」

 

「卯月!」

 

「……ごめんなさい」

 

「……………ごめん」

 

「っ……謝らないでよぉ……。もう、やめてよぉ……」

 

「…………」

 

「……これ以上、うーちゃんに優しくしないで……」

 

 

卯月は気づかないうちに流れていた涙を袖で拭い、ドックを後にした。

残された長門は何も言わない弥生の頭を撫でる。そうすると弥生の目からも涙が溢れ出した。

 

「……弥生、お前は強いぞ。私はお前の努力も知っている。だからという訳ではないが、あまり無理はするなよ」

 

「………は、い」

 

「見ての通り、卯月は今不安定だ。心にもない事を言ってしまう時もあるだろう。あまり気にしない事だ」

 

「…………」

 

「……私は卯月の様子を見てくるから、まずは傷を癒しなさい」

 

 

そう言うと長門は撫でている手を戻そうとしたが、弥生が手首を掴んで引き止めてきた。どうしたのかと目を向けると、小さい声で囁いてくる。

 

「………もう少しだけ、このままがいい、です」

 

「……ああ、いいぞ」

 

「………弥生は、悔しい、です」

 

「……」

 

「…また、卯月を泣かせてしまいました」

 

「……ああ」

 

 

 

 

 

 

「…………………最後にギュッてして、ほしい、です」

 

「……こうか?」

 

長門が両腕で包み込んでハグをすると、弥生の細い腕が背中に回された。

 

「…弥生は、もっと強くなります」

 

「そうか。でも無理はするなよ」

 

「…はい。…そして卯月と一緒に戦える様になって、そばに居たい、です」

 

「そうだな。私も出来る事は協力しよう」

 

「…もう大丈夫、です。…卯月のところに行ってあげて、ください」

 

「ああ、まかせろ」

 

 

 

 

 

長門は最後にまた弥生の頭を撫でてからドックを出た。すぐ近くには金剛が立っており、腕を組んで壁に寄りかかっていた。

 

「弥生はワタシにまかせるネ。まずは練度をカンストさせマス」

 

「……分かっていると思うが、無理はさせるなよ」

 

「大丈夫デス。でも多少無理した感覚がないと、納得しないと思うネ。そこら辺はうまくやるヨ」

 

「頼んだ。お前がいるなら弥生は取り敢えず大丈夫だな。問題は卯月か……」

 

「……無線で言っていたのは本当なのデスカ?」

 

「……ああ、精神的に追い詰められている。自沈したいと言われた時、私はかなりショックだったよ」

 

「それはワタシもデス。せっかく三日月が来てからは笑う様になっていたのニ……」

 

「今まで問題を根本的に解決出来ていなかったツケが回ってきた。秘書艦として不甲斐ない限りだ」

 

「それを言うなら補佐としてワタシも同じネ。……何か策はあるのデスカ?」

 

「そんなものはない。まずは少し話をしてみる」

 

「頼みマスヨ。……それにしても、どうやって卯月を止めたのデス?」

 

「なに、卯月が沈んだら私も沈んで後を追うと言ったんだ」

 

「Oh……事情を知らなければ、まるでBurning loveネ」

 

「本当にそれならどんなにいい事か」

 

「手を出したら憲兵に突き出しマス」

 

「前から言っているが、お前達は私を誤解している」

 

「でも駆逐艦を見て抱きしめたくなりますよネ?」

 

「……だ、誰だって可愛いものは抱きしめたくなるだろう」

 

「そのままTake outしたくなりますよネ?」

 

「…………」

 

「ドキドキしますよネ?」

 

「…………」

 

「駆逐艦loveですよネ? ロリコンですネ?」

 

「い、いやそんなことは」

 

「さっき弥生を抱きしめてほんの少し興奮しましたネ?」

 

「………わ、私は卯月の様子を見てこよう」

 

「質問に答えるデス」

 

 

 

 

 

 

 

 

私は自分の部屋に帰らないまま外のベンチに座って海を眺めていた。真っ暗な空には月すら出ておらず、海は全てを吸い込みそうな程暗くて深い闇に染まっている。近くにある鎮守府の設備灯のみがこの周辺を照らしていた。

 

頭を埋めるのは後悔と自分に対する怒りだ。

さっきは弥生に謝るはずが、怒鳴った上に酷いことを言ってしまった。今まで私は弥生の優しさに散々甘えてきたのに、“優しくしないで”なんてどの口が言えるのだ。

 

そもそも原因は私が暴走してしまう事にある。私は人に何かを言える立場ではないのだ。みんなに迷惑をかけているのは私なのだから。

 

 

ーーああ、本当に、海の底へ消えてしまいたい。

 

 

長門さんがあんな事言わなければ直ぐにでも沈んでいたのに。

でも、あんなことがすぐに言える長門さんはやはりカッコ良い。それに比べて私はなんてカッコ悪いのだろうか。

 

いや、もしかしたら普通の卯月なら意外とあんな風なことが言えるのかもしれない。やはり私は卯月ではないから言えないのだろうか。

 

そんなことを思っていたら、後ろから話しかけられた。

 

「卯月、寝ないのか?」

 

「……長門さん」

 

「寝ないなら少し話に付き合ってくれ」

 

「……いつから居たの?」

 

「今来たところだ。私も寝られなくてな」

 

「……」

 

「なあ、卯月。卯月は何か好きなものはあるか?」

 

「……いきなりどうしたぴょん?」

 

「何、特に意味はないさ。ちなみに私は可愛いものが好きだ」

 

「……可愛いもの? 意外ぴょん」

 

「そうだろう? この事は秘密にしてるんだ。卯月も誰かに言ったらダメだぞ」

 

「……なんでうーちゃんに教えてくれたの?」

 

「卯月に私の事をもっと知ってほしいと思ったからだ」

 

「……うーちゃん、本当に自分が好きなものは分からない。……嫌いなものはいっぱいあるけど」

 

「ほう。例えば?」

 

「うーちゃん」

 

「……他には?」

 

「戦うこと」

 

「なるほど。確かに戦う事は私もあまり好きじゃない。なら好きな人はいるか?」

 

「……みんな好きぴょん」

 

「ふふ、私もだよ。じゃあ誰が1番だ?」

 

「……そんなの決められないよ」

 

「……そうだな。私も決められないよ…」

 

「……でも、」

 

「?」

 

「1番好きな人が居たら結婚するんでしょ?」

 

「あ、ああ。お互いに好きなら結婚も良いんじゃないか。やはり卯月も女の子だな。結婚に憧れているのか」

 

「……結婚すると幸せになれるって聞いたぴょん」

 

「らしいな」

 

「なら、うーちゃんも辛く無くなって、変われるかもって思った事はあるよ」

 

「……そうか」

 

「でも、うーちゃんは結婚できない。うーちゃんを1番にしてくれる人はいないから」

 

「そんな事ないぞ。三日月なんて真っ先に卯月の名前を挙げるんじゃないか?」

 

「三日月はまだ着任したばかりだから、偶々近くにいるうーちゃんが大きく見えてるだけ。きっとすぐに離れて行くよ」

 

「お、おう。……駆逐艦はたまに子供か大人か分からなくなるな」

 

「何か言ったぴょん?」

 

「いいや、なんでもない。でも、そんなに卑屈になる事はないぞ。私が卯月を1番好きになる事もあり得るのだから」

 

「……嘘ぴょん」

 

「嘘じゃないさ。まだ1番は決められないが、私は卯月がかなり好きだ。このままだと直ぐに1番になるかもしれないな」

 

「……うーちゃんも長門さんは好き。でも1番かどうかは分からないよ」

 

「なら1番になれるよう努力するまでだ」

 

「……努力」

 

「ああ、努力だ」

 

「…………うぅ」

 

「う、卯月?」

 

「……うーちゃん、弥生の努力を無駄にしちゃった」

 

「な、何を言ってるんだ?」

 

「弥生はうーちゃんと戦うために強くなったって言ってた」

 

「……そうだな」

 

「でも、うーちゃんが、その努力を無駄にしちゃった」

 

「そんな事はないさ」

 

「……弥生は、うーちゃんのために努力したのに、……うーちゃんが無駄にしちゃったよぉ」

 

「……卯月、弥生の努力は無駄になっていない。弥生は強くなった」

 

「それでも! 弥生は優しいから、自分を責めてる! うーちゃんが悪いのに、自分を責めて傷ついてる! うーちゃんはそれが嫌なのにぃ!」

 

「…………卯月」

 

「それに弥生だけじゃない! もう、みんなに嫌な思いはして欲しくない! でもうーちゃんがいるとみんな辛い思いをする! こんなの、いつかみんな遠くに行っちゃうよぉ!」

 

「……」

 

「1人は、寂しいのは、……嫌だよぉ……」

 

 

 

 

 

 

 

泣き続ける卯月を、長門は優しく抱き寄せた。卯月の腕が私に縋り付くのを感じて、さらにギュッと力を込める。

 

 

結局、卯月は優しくて寂しがりなのだ。

 

だから、仲間に辛い思いをさせたくないがどうにも出来ず、いつか距離を置かれてしまうことに怯えている。

 

卯月と距離を置く人など少なくともこの鎮守府にはいないが、本人は不安なのだろう。

 

泣きじゃくる卯月を抱きしめて頭を撫でながら、長門は暗い空を見上げた。

卯月の不安を取り除く方法を考えるが、いい案は思い浮かばない。そもそもすぐに思いつくのならば既に実行している。

 

卯月が泣き疲れて寝てしまった後も、戻るのが遅いと不審に思った金剛が来るまで、長門はその場から動かずに考え続けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「……お姉ちゃん達、帰って来ませんでした」

 

「もう、心配なのは分かるけどちゃんと寝ないとダメにゃしぃ」

 

「うぅ、ごめんなさい……」

 

「今日の訓練で寝ちゃダメだよ? でも本当に辛かったら言うんだよ?」

 

「うん、睦月お姉ちゃん。私、がんばる」

 

「……み、三日月、あなた寝てたわよね?」

 

「いえ、静かにしてましたが………ちゃんと寝てましたよ」

 

「……起きてたの?」

 

「叢雲ちゃん、私は寝ていました」

 

「本当に寝てたのね?」

 

「は、はい。それはもう熟睡してました」

 

「……私は夜に卯月が来て少し話しをしたんだけど」

 

「えっ、そんなはずないです! 私ずっと起きてましたし、叢雲ちゃんも睦月お姉ちゃんと一緒に…………いえ、そうなんですね。私も起こしてくれれば良かったのに」

 

「誤魔化せてないのよ! 起きてたのね!? 見たのね!?」

 

「み、見てないです! コソコソ睦月お姉ちゃんの布団に入っていく叢雲ちゃんなんて見てないです!」

 

「あああー! なんで言うのよ!! しっかり見てんじゃない!!」

 

「まあまあ、今睦月は叢雲ちゃんのお姉さんだからね。一緒に寝てもおかしくないにゃ。それに明け方に出て行っちゃったから少し寒かったにゃしぃ」

 

「む、睦月も起きてたの!? 起床時間まで起きないって言ってたじゃない!」

 

「今日はたまたま起きたのです」

 

「もう! 嘘つき! 私だけコソコソしてバカみたいじゃない!」

 

「今日からは最初から堂々と来て良いからね」

 

「そ、そうですよ。良かったですね!」

 

「……三日月、あんた今日の訓練覚えてなさいよ」

 

「お、お姉ちゃん!」

 

「ちゃんと寝なかった罰にゃしぃ。自分でなんとかするのです」

 

「叢雲ちゃん、ごめんなさい!」

 

「…………はぁ、もういいわよ。それより2人とも戻ってないのは何かあったんじゃないの?」

 

「えっ! そうなんですか!?」

 

「うーん。どこまで行ったのか分からないから何とも言えにゃしぃ。加賀さん達なら知ってるはずだから聞きに行くにゃ」

 

 

 

 

 

 

 

 

「……弥生が大破、ですか」

 

「加賀さん、弥生お姉ちゃんは大丈夫なんですか!?」

 

「ええ、無事よ。ちょうど知らせに行こうとしてたから来てくれて助かったわ」

 

「私はただの付き添いよ。それで、弥生はまだドックなの?」

 

「ええ。意識はありますし、修復もすぐに終わります。ずっと金剛が付いているから大丈夫よ」

 

「はぁぁぁ。良かったにゃ……」

 

「三日月、ドックへ行くわよ。ちゃんと自分の目で確認したいでしょ?」

 

「はい。……叢雲ちゃん、ありがとう……」

 

「しっかりしなさい。貴方の姉のことでしょう」

 

「今は叢雲ちゃんも私達の姉妹にゃ」

 

「………………そ、そうね。……それで、卯月は無事なんでしょ? どこで何してるの?」

 

「貴方いつから睦月型に…………彼女は長門の部屋にいるわ」

 

「長門さん? なんで?」

 

「……その、言いづらいのだけれど……、弥生を大破させたのは卯月なのよ……」

 

「えっ!? 卯月が大破させたの!?」

 

「卯月お姉ちゃんが!?」

 

「……それで、かなり不安定な状態になってしまって……。今は長門が付きっ切りで様子を見てるわ」

 

「……その、卯月はどんな感じでしたか?」

 

「私も話したわけじゃないのよ。でも少し見た限りだと…………なんだか昔に戻ったみたいな印象だったわ」

 

「昔って……」

 

「卯月お姉ちゃん……」

 

「……そう、ですか。……加賀さん、ありがとうにゃしぃ。まずは弥生の様子を見てくるにゃ」

 

「ええ、行ってあげなさい」

 

「2人とも、行くにゃしぃ」

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ、加賀さん居た。もうあの子達見つけた?こっちには居なかったんだけど」

 

「ええ、瑞鶴。ちょうど今見つけて話したわ」

 

「そっか。……何というかさ、昨日私達も出撃すれば良かったのかな」

 

「そうしたら、私達の護衛もしないといけないから更に被害は大きくなったでしょうね」

 

「……そう、だよね……」

 

「瑞鶴、気持ちは分かります。でも私達は最善の選択をしました。だからこれ以上貴方が気に病む必要はありません」

 

「……うん」

 

「もう、しっかりなさい。いつもの元気はどうしたの?」

 

「……そうよね。私らしくなかったわ。加賀さん、もう大丈夫よ」

 

「そう。……それと相談があるのだけれど」

 

「なに?」

 

「私も翔鶴型になろうと思うの」

 

「加賀さん!! しっかりして!!」

 

 

 

 

 



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