メアリー・ポピンズ、ホグワーツへ行く (むぎすけどん)
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ホグワーツからの手紙

「ホグワーツ魔法学校?」

昼下がりのお茶を楽しんでいたメアリー・ポピンズは、とつじょ、窓から乱入してきた客人に向かって、たずねた。

「そうです。偉大なるメアリー・ポピンズ様。ここにブラック校長からの手紙があります」その茶フクロウは畏まるようにして黄色っぽい封筒を渡した。

 

ブリストル ロバートソン通り 3番地 パーシモン・ホームズ 2フラット

メアリー・ポピンズ様

 

と、緑色の丁寧な字で、宛名書きしてある。

「おじさんでなく、私宛てなのね。ごくろうさま、フーティ。焼きたてのジンジャーブレッドでもいかが?」

フーティという名前のそのフクロウは、「もちろん!」とでもいうように、「ホーホー」鳴きながら、食卓の上にのぼり、メアリーが切り分けたブレッドのかけらをついばみ始めた。

封筒をひっくり返すと、大きく”H”という文字が描かれていた。

「まちがいない。ホグワーツの紋章だな。」メアリーと一緒にお茶を飲んでいた、アルバート・ウィッグが言った。

ウィッグはメアリーの母方のおじにあたる。小さいころから、身寄りのないメアリーと一緒に暮らしていて、親代わりになっている。

メアリーは封筒を開いた。

 

親愛なるメアリー・ポピンズ様

このたびホグワーツ魔法魔術学校に入学を許可されましたこと、ここにお伝えいたします。

新学期は九月一日より始まりますので、七月三十一日までにフクロウ便にてのお返事をお願いいたします。

詳細につきましては、同封いたしました別冊よりご確認ください。

校長 フィニアス・ナイジェラス・ブラック

 

「ついに私にも来たのか」、メアリーはつぶやいた。「バートはなんていうかしらね」

バートとは、ハーバート・アルフレッドというメアリーの幼なじみのことである。メアリー同様、魔法使い一家の生まれではあるものの、バート本人には魔法の才能がない、いわゆるスクィブと呼ばれる存在で、家族の中で肩身のせまい思いをしていた。ホグワーツ魔法学校からの入学許可書をだれよりも心待ちにしていたのは、バートだっただろう。

「仕方ないだろう。ホグワーツに入れるのは魔法の資質をもったものだけだ。」

「話にはよく聞くけど、ホグワーツってどんなところなの?」

「そうか、メアリーにはあまり話してなかったな。」

ウィッグは同封されていた入学案内を広げて、説明する。

「7年間で一通りの魔法を学ぶことができる、魔法使い専門学校ってところかな。寮制をしいていて、入学する者はもれなく親もとを離れ、寮で暮らすことになる」

「そして、この4つの寮に振り分けられるんだ。このアナグマのシンボルはハッフルパフ、ライオンはグリフィンドール、カラスはレイブンクロー、そしてヘビがスリザリンというようにね。」「アルバートおじさんはたしかスリザリンだったわね」

「その通り。マーリンやアグリッパといった偉大なる魔法使いを輩出した、高潔なる伝統を持つ寮だ。メアリーやわたしのような純血の魔法使いが多く集まる」

「わたしのいとこにはハマドリアッドもいるし、組み分けさせる可能性が一番高いわね。」

ハマドリアッドは、キングコブラで、メアリーの母方のいとこにあたる。メアリー・ポピンズはヘビの血筋を持つ純血の魔法使いなのだ。

「誤解ないように言っとくがね、メアリー。」

「スリザリン寮は、邪悪な魔法使いが集まる寮だという噂をもしかしたら耳にしたことがあるのかもしれない。」

「実際、薬学を得意とするものや、魔法族の血筋が集まるからか、世間一般ではダークで、排他的なイメージがついている。

しかし、実際のところはマグル出身の魔法使いもいたりするし、一見、無愛想に見えても、仲間や身内に対しては親切で世話好きな気のいい連中ばかりだ。

ホグワーツはその性質上、寮同士で対立や衝突することが多いけれども、メアリーは、たとえ、どの寮になっても、偏見で目をくもらせてはいけないよ。」

「私を誰だと思ってるの、アルバートおじさん」メアリーは自信ありげに笑った。

「メアリー・ポピンズよ。」

鼻高々にこちらを見る姪に対し、ウィッグは少々不安そうな表情をするのだった。



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キングスクロス駅

休日のキングス・クロス駅はごった返していた。

「もう行っちゃうのかい、メアリー」

まゆを下げたバートがメアリーを見上げた。背はまだメアリーのほうが高い。

「まるで捨てられた子犬みたいですよ、バート」メアリーは笑った。

無理もない、とメアリーは思う。アルフレッド家は代々続く魔法使いの一家。魔法の使えないスクイブであったバートは小さいころから親からネグレクトに近い扱いを受けていた。メアリーと出会ったころの彼はそのため無口で誰にも心を開かない少年だった。メアリーはよくそんな彼を冒険に連れて行ったり、魔法で動く絵を一緒に描いた。最初はおっかなびっくりのバートだったが、しだいにメアリーに陽気な笑いをみせるようになった。ところが、メアリーがホグワーツに行くことになり、バートは暗い現実に戻ることになった。最後までホグワーツからの手紙を待っていたバートだったが、とうとう彼のもとに手紙は届かなかった。

「メアリー、これをあげるよ」バートは手提げ袋から一枚の紙を取り出した。

それは、メアリーを描いた肖像画だった。丁寧にスケッチされたそれはバートが3日かけて完成させた出来の良いものだった。

「ヴィクトリア女王だって、こんな素敵に描いてもらえないでしょうよ」メアリーは満足そうに微笑んだ。

メアリーは魔法の杖を取り出した。ダイアゴン横丁のオリバンダーの店で買ったばかりの新品だったが、メアリーポピンズ好みに魔改造されたその持ち手にはオウムの頭が綺麗に彫刻されていた。

「ポリーというの」メアリーはうっとりした顔で言った。

「素敵な杖だね」とバートはうなづいた。

「ジェミニオ」とメアリーはつぶやいた。するとメアリーの肖像画が二つに分かれ、まったく同じ絵が2つ作られた。

「私からはこれをあげる、バート。忘れないでね。」メアリーはそのうち一方の絵をバートに渡した。

「メアリー・ポピンズを忘れる?冗談じゃない。」バートは言った。そのとたん、バートの絵の中のメアリー・ポピンズがウインクした。複製された絵は魔法で動く絵だったのだ。

 

メアリーが早く来たのか、ホグワーツ特急の中のコンパートメントは結構すいていた。

メアリーが一人で窓に映った自分の姿を眺めていると、1人の少年がコンパートメントに入ってきた。

「ここいいかい?」

「どうぞ」とメアリーは言った。

「ぼくはアルバス・ダンブルドアというんだ、君は?」と少年が名乗った。

確か、二年前に日刊預言者新聞で読んだことがある。とメアリーポピンズは考えた。

『マグル殺しのダンブルドア』。そう呼ばれた彼の父親は今アズカバンにいるはずだ。

明るく見える少年その表情の中には陰りが見てとれた。

メアリーはそんな考えをおくびにもださず、

「私はメアリーポピンズ、よろしくね」と微笑んだ。

「うん、よろしく」その少年ははにかんだ表情で言った。



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ダンブルドアの失言

「ところで」、とダンブルドアは言った。

「荷物はそれだけ?」

ダンブルドアの視線はメアリーポピンズの膝上の色鮮やかなカバンに注がれた。

「そう。」メアリーポピンズは自慢気に言った。

「じゅうたんで作ったのよ。」

 

ダンブルドアはとたんに不安に感じた。

彼女がそんなカバンを持ち歩くこと自体、なんとなく政治的に正しくなさそうだし、第一、膝に乗るくらいのサイズのカバンにローブや着替え、鍋一式に一年生の授業に使う教科書全部が入りきるものなのだろうか。

同時にダンブルドアは自分のスーツケースを見つめた。自分の荷物は彼女の3倍近くある。

一般的に女性の荷物のほうが着替えなどで容量が大きくなるはずなのに、反対に自分の荷物のほうが多くコンパートメントを占領してしまっている。

この状況にダンブルドアは、少し、決まりが悪くなった。

 

すでに汽車は発車し、メアリーは窓の景色に興味をなくしていた。

会話の少なくなったコンパートメントの中で、ダンブルドアは、必死に言葉を探していた。

彼はオランダ人形のような容姿の美しい少女に惹かれていた。

むしろ、このコンパートメントに入った理由は、ホームで窓を見つめるポピンズの姿を見たというのが大きい。

「そ、そういえば、きみはどこの寮に行きたいんだい?」とダンブルドアはおずおずと聞いた。

「そうね」メアリーポピンズは思案しながら言った。「うーん、どこの寮にも良さがあって、いいと思うのだけれど、血筋として、親戚にスリザリンの人が多いから、自分の意思に関わらず、スリザリンに決まっちゃうと思うわ。」

「スリザリンだって!」ダンブルドアは、興奮して、メアリーポピンズを見つめた。

「スリザリンのやつらなんか、みんな最悪だよ。それより勇気あるものはみんな...」

ダンブルドアは言葉を続けられなくなった。

メアリーポピンズは、恐ろしい目つきでダンブルドアをにらんでいた。

「それ以上、私の身内のものを侮辱してみなさい。」

不穏な空気がコンパートメントを渦巻き、ダンブルドアは文字通り息をすることができなくなった。しだいに頭の血管が浮き出るようになり、ダンブルドアは苦しそうにうめいた。

「あの、ここ空いてるかしら」その時、赤毛の女の子がコンパートメントに入ってきたのがダンブルドアを救った。

「あら、どうぞお入りなさいな」

メアリーポピンズの表情が明るくなったとたん、ダンブルドアの息がつげるようになった。息も絶えだえの彼の表情は蒼白になっていて、ひざがガクガクとふるえていた。

 



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ネリー・ルビナとの出会い

「わたしはネリー・ノアというの。」とその赤毛の少女は名乗った。

メアリーはまゆを上げた。「すると直系の?」

聖書の時代から、ノアの一族は春を呼びこむ特別の儀式を担当してきた。その儀式は人類を滅ぼす大洪水のあと鳩が春をもたらしたことにちなむとされている。

もちろん、もとをただせば、人類はみな、ノアの残した子孫ということになるのだが、直系の一族が存在していることをメアリーは知っていた。

「まぁね。」その少女はきまり悪そうに笑った。

「あまり、人にそのことを知られたくないから、普段はネリー・ルビナ(あかのネリー)と名乗るようにしてるの。どうせ、組み分けの儀式でバレるんだけどね。」

「ノアの直系の話は魔法界では有名な話だからね」とメアリーは同意した。

「ところで、その子は大丈夫なの」ネリーは心配そうに顔面蒼白のダンブルドアを見た。

とたん、メアリーの表情は硬くなった。やがて、少し考えたメアリーは

「私としたことが、少しかっとなってしまって魔法の制御ができなくなってしまったようです。謝罪を受け入れてくれますか、ダンブルドア。」と優しい声で言った。

ぶんぶんとダンブルドアは首を前後に動かした。

「それでも、スリザリンがどうとか、グリフィンドールがどうとかで人を判断するのはそもそも間違っていると思いますよ。私のおじも、いとこもみんなスリザリン生でしたが、みんな尊敬できる、りっぱな魔法使いになりました。なかには月に移り住んで、大事な任務を行っている方もいます。」

「あなた、もしかして、メアリー・ポピンズ?」ネリー・ルビナがびっくりして言った。

「ああ、失礼しました。まだ名乗ってなかったですね。そうです。私がメアリー・ポピンズです。」

「コリーのおばさんが言ってたわ。南極ではあなたずいぶん無茶したらしいじゃない。」

「コリーのおばさんを知ってるの?」メアリーは驚いた。魔法界でパン屋を経営しているコリーのおばさんはメアリーのいとこのいとこという関係にあたり、昔から仲良くしていた。話してみれば、ネリー・ルビナとは共通の知り合いが多いことがわかり、ホグワーツに到着する頃には2人はすっかり意気投合する仲になっていた。

 

汽車がとまったところには「森番」と名乗る痩身の男が立っていて、機敏な動きで、新入生を誘導した。「森に棲む魔法生物を管理する仕事」だと本人は語っていたが、その痩せている体で魑魅魍魎の危険な生物に対応できるのだろうか、とメアリーは一抹の不安を感じた。

 



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組み分け

メアリーが大広間に入ると、そこは別世界だった。

おびただしい数のろうそくが空中に浮かび、幻想的に4つの長テーブルを照らしていた。

長いテーブルにはすでに上級生と思われる生徒たちが座っており、各色の配色から察するに、おそらく各寮に分けられているということなのだろう。

見上げると、天井は夜の空のようになっていて、実際に星々がきらめいているように見える仕掛けになっていた。

「高度な認識阻害呪文が重ねられてるわね」、とメアリーは感心した。

広場の奥にはもう一つの長テーブルがあり、ホグワーツ魔法学校の教授陣と思われる人たちが鎮座していて、森番に引率される一年生の集団を観察していた。

メアリーはふと真ん中に座っているヤギひげの男と目があった。男はねっとりとした目でメアリーを観察していたが、メアリーが見返すとすぐ視線をそらした。位置関係からいってあれがホグワーツ校長のフィニアス・ブラックではないかとメアリーは推測した。

森番は教授陣に一礼し、教授たちの前方に置かれていたスツールの上にボロボロのとんがり帽子を置いた。しばらくすると、帽子は軽やかに歌いだした。その内容が校長の外見的特徴を揶揄するような内容だったので、真ん中に座っていたヤギひげの男は不機嫌そうな顔でその帽子を睨んだ。

やがて、ヤギひげの男の隣にすわっていた年配の女性教授が先生方を紹介し、そのヤギひげの男がブラック校長であることが確定した。年配の女教授は教頭であり、バチルダ・バグショットと名乗った。

バグショット女史は高名な魔法史学者であり、その著作のいくつかはメアリーも読んだことがある。

ミーハーではないが、彼女を実際に見ると貫禄があり、ブラック氏よりもよっぽど校長にふさわしいのではないかとメアリーは感じた。

痩せた森番はロバートソン・アイといい、教授陣の席に戻った瞬間、急にやる気のない表情になり、こっくりとうたた寝を始めた。自分の仕事以外の時は極力関わろうとしないタイプらしい。

バグショット教頭から、トンガリ帽子についての説明がされた。どうやら、その帽子をかぶることにより、自動的に組み分けの選別が行われるらしい。

実際にバグショットからエイブリーと呼ばれた少年がかぶると間髪いれずに帽子が「スリザリーン!」と叫んだ。左側の緑色のテーブルから歓声が聞こえ、エイブリー少年は小走りでそちらに向かった。

新入生の組み分けは順調に行われ、やがて

「ダンブルドア、アルバス!」とバグショットが言った。

 

そのとたん広場が「ざわっ」とし、剣呑な雰囲気に飲み込まれた。

「あれが、『マグル殺しのダンブルドア』か!」

「人殺し」

「恥知らずめ。」

「アズカバンに送られればいいのに」

といった少年を罵倒するひそひそ声がそこら中にささやかれるようになった。

 

「全く、子供は関係ないでしょうに、恥知らずはどちらでしょうね」とメアリーはつぶやく。汽車の中で少年はときおり暗い表情を見せていた。2年前の事件が少年の環境を一変させたのだろう。メアリーの親戚を愚弄した少年に対し制裁を行ったのは気の毒だったかもしれない、と彼女は少しばかり同情した。

 

ダンブルドアは口さがないささやき声の中、平然とした表情で広場を歩いていた。そういった類の中傷に慣れていたのだろう。そんな少年をバグショット教頭は温かい表情で見守っていた。

トンガリ帽子をかぶったダンブルドアだったが、エイブリー少年とは対照的に、組み分けに時間がかかっていた。その間、少年は能面のように無表情で、広場のひそひそ声はとどまることはなかった。

やがて、「…ならば、グリフィンドール!」と帽子は叫んだ。

それを聞いた少年は少し喜んだ表情になったが、赤色のグリフィンドールのテーブルを見て、表情が固くなった。

グリフィンドールのテーブルではまばらに拍手がおこり、上級生たちは微妙そうな顔でダンブルドアを見つめていた。とても少年を歓迎しているという雰囲気ではなかったのだ。

 

ダンブルドアの組み分けが終わり、広場に漂っていた剣呑な雰囲気はなくなった。しかし、それも次の名前が呼ばれるまでのことだった。

「ドージ、エルファイアス!」

その少年は異形だった。

少年の顔には鱗のような青色のできもののようなもので覆われていて、それを見た広場は異様な雰囲気になっていた。

「無理もない」とメアリーは思った。

「あれは、龍痘。 ひどい時には死にいたることもある感染性のある病。」

まさか、ホグワーツで対策をしていないこともないだろうけど、自分に伝染ることを恐れる人たちもいるだろう。そう思い、メアリーはブラック校長のほうを見た。するとブラック校長は驚いた表情でドージを見つめていることに気付いた。

「まさか…ね。」

そうこうするうちに、異形のドージがグリフィンドールに組み分けされた。グリフィンドールのテーブル席はもはや、お通夜状態といってもよかった。

 

それからしばらくして、ネリー・ルビナが呼ばれた。

「ネリー・ノア!」名前を呼ばれた赤毛の少女はぺろりと舌を出した。覚悟はしてたけど、本名を呼ばれたのは不本意だったらしい。しかし、思ったより彼女が騒がれることはなかった。ノアの名字はマグル界にも一定数いたし、まさか直系の子孫としては、認識されなったのだろう。先に紹介されたグリフィンドールの新入生のインパクトが強すぎたというのも大きかったのかもしれない。

ネリー・ルビナは、ほどなくハッフルパフに組み分けされた。

 

そして、

「ポピンズ、メアリー!」とバグショットは言った。そのとたん、今までとは違った種類のざわっとした声がささやかれるようになった。

「なんて綺麗な子だろう」

「あれが、メアリー・ポピンズか」

「七つの海を制覇した魔女」

人々からの賞賛の声を背景にして、メアリー・ポピンズは鼻高々にトンガリ帽子まで行進した。

ふとグリフィンドールの席の方から強い視線を感じた。メアリーがそちらを見ると、ダンブルドアがにらむようにしてこちらを見つめていた。

「汽車でのことを根に持たれたのかしら」といぶかしく思いながら、メアリーは帽子をかぶった。

 

「フム、お前がメアリー・ポピンズか。話には聞いておる。」バリトン調の低い声がメアリーの耳の中で響いた。

「ナバホ族を解放しただとか、ポセイドンの娘の病を治した、だとか眉ツバもんじゃと思っておったが、まさか、すべて、真実であったとはな。」

一種の開心術であろうか。メアリーは戦慄した。

「心配するな、あの校長にお前のことを話すことはない。それにお前の心の奥底まではのぞけないようだ、不思議よのう」と帽子は言った。

先ほどの歌しかり、帽子は校長を嫌ってるのだろうか。たしかに彼はうっかり屋さんっぽいところがありそうだが。

「うーむ、さきほどのダンブルドアといい、とんでもない逸材が今年集まってきたようじゃな。ことにお前の底が見えぬ。

うん、勇気はある。しかし、無謀さはない。そのような行動を一番に嫌っているようじゃな。魔法の知識は、この年にして相当お持ちのようだな。知識欲は人一倍ありそうじゃ。するとレイブンクローもありえるな…

そして、人に献身したい、という思いがあるな。不思議なことじゃ。ずいぶん、うぬぼれ屋さんかと思っていたが」

「うぬぼれ屋ですって!」メアリー・ポピンズは憤慨した。広場の空気が凍った。

「まぁ、怒るな。なんという覇気じゃ。..末恐ろしい。仲良くなった子も組み分けされたようだし、ハッフルパフにしてやろうかとも思ったが…。いやしかし、それはないな。ハッフルパフはありえん。やはり、スリザリンが一番可能性が高そうだな。純血のヘビの血筋を持つようだし、身内思いの面がある。野心も高いし狡猾なところもある」

「狡猾だって!」またもやメアリーの覇気が広場を襲った。さっきまでにらんでいたダンブルドアもおびえた表情になった。

「…計画的で…完璧に近いという意味じゃな」帽子の声も少し震えていた。

「そうでしょうとも!」とメアリーは受けあった。

「い、偉大なる魔法使いになるだろう、するとやはり..」

「スリザリーン!」と帽子は叫んだ。

とたん、われんばかりの大歓声がスリザリンのテーブルで起こった。

 



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