勘違いしてなるものか (プータロー)
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俺の隣の席は中野さん
突然だが俺は目立つのは嫌いだ。いや別にコミュ障って訳では無い、そこまで拗らせているつもりはないが学校生活静かに暮らせるのであればそれに越したことはない。思春期という面倒極まりない時期の高校生の中で目立つだなんてそれこそ役ネタの元だ。
てめぇもその思春期の男だろというツッコミは受け付けていない。
理想は陰キャでもなければ陽キャでもない。アイツ面白いけど大人しくていつもは静かみたいなキャラが理想。
しかし、しかしだ。俺は今かつてないほどに悪目立ちしていた。
事の発端はついさっきの先生の発言。
「じゃあ中野 四葉さんの席は……如月くんの横で」
この一言だけで俺の平穏な日々は終わりを告げた。分かるだろうか?
言わずもがなこの中野さんとやらは転校生でショートの髪に頭には特徴的なリボン、俺から見ても普通に可愛いらしい女の子である。その女の子が俺の横の席になるのだ。
もうあれだ。先程から男子からの目線が痛い、主に嫉妬の目線が。
馬鹿野郎やめろ!その視線は非リア充の俺を滅ぼしかねない!濡れ衣だ!
何故こうも思春期の高校生というのは男と女の関係にこうも多感なのか。実にめんどくさい事この上ない。
「宜しくお願いしますねっ!如月……えっと」
「拓人」
「拓人くんっ!」
ニコッ、と効果音でも付きそうな100点満点の笑顔を浮かべる中野さん。すまない俺には君の笑顔は眩し過ぎるようだ。ほら、周りの人の目線とか考えてね?俺のガラスのハートに容赦なく突き刺さってるから。それとそんなにストレートに笑顔向けられると照れちゃう、勘違いしちゃうだろ。
俺はこれなら起こる前途多難な出来事にため息を吐かずには居られなかった。
「どうかしたんですか?何か悩み事でしょうか?」
おい馬鹿何故ため息に反応する。思春期の男の子は色々とデリケートな生き物なのだ、少し現実逃避していただけだからそっとしておいて欲しい。
「いや、気にするな」
「気にしますよ。隣の席になったのも何かの縁ですし私で良ければお話聞きますよ?」
この何でもかんでも有耶無耶にする伝家の宝刀「気にするな」が通じないだとっ!?
この善意100%の笑顔が俺には眩し過ぎる、というかこのため息は君のせいだよ君のせい。とそんな事を馬鹿正直に言えるはずもないので適当に誤魔化しておく。
「本当に大丈夫だ、気にしないでくれ」
「それならいいんですけど……けど何かあれば遠慮せずに言ってくださいねっ!」
だから眩し過ぎるって。
俺は直視出来ずに目線を逸らしてしまう。しまった、これじゃ「べ、別に可愛いとか思ってないし緊張とかもしてないし!」とか思っちゃってる思春期の童貞特有のキョドりが発動してしまったみたいじゃないか。
くそう、何なんだ。この女もしかして俺に気があるのか?
いや早まるのはいけない。このままでは「コイツ俺の事好きなんじゃね?」と思った挙句意識し過ぎて結局恋に落ちてしまって告白して玉砕してしまう。いや、玉砕するのかよ頑張れよ。
だが俺は騙されはしない。必ず俺は無事に学校生活を乗りきってみせる!
それから嘘のように何事も無く授業が進んでいった。
肩透かしを食らったようだが何も無ければそれに越した事はない。何事も平和が1番なのだ。
しかし見れば見るほど隣の中野さんはかなりの美人と言うか可愛いのだと認識させられる。今は気難しそうに教科書と睨めっこしているが彼女の魅力は決して外見だけではない。周りも元気にしてしまう程の明るさに直視出来ないぐらいの眩しい笑顔、休み時間に質問攻めにされる中野さんは少し困ったような顔をしながらも丁寧に質問に答えながらも常に笑顔でそれでいて楽しそうだった。何だか頭の上に付けた特徴的なリボンもぴょこぴょこと動いているように見えて少し笑ってしまった。
ふっ、俺じゃなかったら既に惚れていたな。
は?お前見すぎじゃねぇかって?
ば、ばばばばばばばか言うんじゃねぇし。べ、別に可愛いなとかどんな子なんだろうとか気になった訳じゃないし。
少し同様していると手が机の上の消しゴムに当たってしまい落ちてしまった。くっ、めんどくせぇな、さっさと拾ってしまおう。
「「あっ」」
消しゴムを取ろうと手を伸ばすと横から別の手が伸びてきてちょん、と指と指が触れ合う。反射的に顔を上げると驚いたような顔をした中野さんが。しかし直ぐに笑顔になり固まってしまった俺を横目に消しゴムを拾い上げる。
「落としましたよ」
「……あ、うん。さんきゅー」
俺は1つ息を吹き出し先程伸ばした手を逆の手でに包み込むように握り締める。
ふむ、中野さんの手めっちゃ柔らかいやん。これはやばい。具体的に言うと人をダメにするソファを見つけた時並にやばい。あれやばいよね、初めて座った時感動したわ。
くそ、今の俺は顔が赤くなっているに違いない。何でそんなにも俺に笑顔を向けてくれるのか。惚れちゃうだろやめてくれ。
チラッと隣の中野さんを盗み見る。
あ、目が合った。
「どうしたんですか?」
「ごめん、ちょっと見ただけなんだ」
って馬鹿か俺は何正直に言ってんだよ。こんなんただキモイだけじゃん。
「そ、そうですか」
え。何でそこで顔を赤くしてらっしゃるんですか?俺の事好きなんですか?やめてください勘違いしてしまいます。
結局俺はその日まともに授業を受ける事が出来なかった。
如月 拓人
本作の主人公。過去の黒歴史を引き摺って少し拗れた思春期の男子高校生。無気力系男子で日々を平和に過ごせたらそれで幸せ。常に眠たそうに垂れた目が特徴的で初対面の女の子以外とは割と普通に喋れる。
イケメンというよりどちらかと言うと美少年。女子人気は悪くない。
最近の悩みはテンションが高くなると隣の席の女の子がめちゃくっ付いてくる事。
中野 四葉
本作のヒロイン。天然無自覚系ヒロイン、何気ない仕草や普通の女子より距離感の近さで今日も主人公を勘違いさせていく。困った人を見過ごせない性格で色々と多感な思春期男子高校生特有の物思いに老ける主人公にやたらと絡んでいく。
やたらとチラチラと此方を見るお隣さんは何か悩んでるのかなと力になりたい様子。
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部活動の中野さん
学校という名の牢獄は何も授業が終われば解放されるだなんてことは無い。いや、勇敢なる帰宅部の諸君は何事も無く帰宅出来る。何それ帰宅部最高かよ。
そんな俺は帰宅部、ではなく意外とよく言われるが部活動に所属している。別に帰宅部でもいいのだが親が煩く何かしら入る必要があった。何たる不覚。
そんな俺は何部に入っているかと言うと
「ナイスシュート、拓人!」
「どうもっす」
サッカー部、ではなくバスケ部である。
何故バスケ部かと言うと実はサッカーの方が人気がありがちに思われているが実はバスケの方が入部希望者数は圧倒的に多い。
直射日光を避けてバスケなのか単純にバスケのが人気なのかは知らんが少なくとも俺の場合はそうだった。そしてバスケは普通の体育でもやるぐらいメジャーで俺でも少し経験はあったし何より圧倒的入部希望者数これに限る。
この大多数に紛れる事によって烏合の衆と成り果て俺はモブAもしくはモブNなどの目にも止まらない存在になれる。
目立ちたくない俺にとってこれほど適した部活ない。
天才かよぉ!と自分を褒めたたえまくってそして現在。
「流石は部のエース、頼りになるなぁ!」
「拓人さんがいれば県大会は貰ったも同然っす!」
「拓人さん……ハァハァ」
どうしてこうなった。
理由は分からない。けど何故か俺はいつの間にか部活の中でエースという称号が与えられていた。やるからには手を抜くなと育てられた俺は馬鹿正直に頑張った結果これだ。自分に才能があると自惚れる訳ではないがどうしてこうなった。過去にドヤ顔していた自分を殴りたい。
しかし今となってはやり甲斐を感じているしバスケはやはり楽しい。今日は隣の席の中野さんに散々掻き乱されたからな、思いっきり発散してやる。
よしスリーポイントシュート、ここからなら外さない!
「四葉さんナイス!」
「ありがとうございますっ!」
がたんっ
「なんだって!?あの拓人が外した!?」
「嘘だぁ、俺達の拓人さんがぁ!?」
「あの狙った獲物は逃がさないスカイスナイパー拓人さんがぁ!?」
おい、なんだそのダサい名前は。名誉毀損で訴えてやるから名乗り出ろ。
じゃなくて、なんでいんの?
あのどういう仕組みか分からんが本人の喜怒哀楽でぴょこぴょこと動くリボン……間違いない、中野さんだ。
可笑しい、俺のリサーチでは中野さんは帰宅部だったはずだしこの前まで女バスにはいなかった(勇気を振り絞って聞いた)
余りの驚きに中野さんを見ていると目が合った。
(っ!?だから笑顔で手を振るなっちゅうの!)
やはり耐えきれず目線を逸らす。くそ、これじゃまるで女を知らない童貞のような反応じゃないか。※童貞です
これじゃ同じ部員から「お前女の子と目が合っただけで目線逸らすとか童貞かよぉwww」と指をさされて笑われてしまう
※多分指さした奴も童貞です
くそっ、こうなればやるしかない。1度目線を逸らしてしまった俺だが次はそうはいかん。とりあえずこのままでは俺が中野さんを意識し過ぎてしまっているように見られてしまう。ならば逆に考えろ、めっちゃ仲良さげにしてたら逆に男女の性別の垣根を越えて築かれた友情が周りに示されるのではないか?
ふっ、我ながら天才かも知れない。俺の前世は間違いなく諸葛孔明だな。
思い立ったら即行動。
俺は思い切って中野さんに手を振る。ふふっ、ただ手を振るだけじゃ甘い。俺は身体全体を使って手を振るぜ。
まるでいつも校門前で俺を見つけて手を振る中野さんの様だな。
そんな俺を見て驚いたのか固まっている中野さん。ふっ、どうやら今回は俺の勝ちのようだな。
と思ったが次の瞬間目をキラキラさせて同じように身体全体を使って手を振り返してくれる中野さん。
フフフ……
そっと目線を逸らす俺。
くそう……やはり中野さんには勝てなかったよ。てかなんでそんなに嬉しそうなの?心無しか目がいつもの2倍ぐらい目線がキラキラしてるけど?なんなんほんと俺の事好きなの?
「拓人さん?」
「……なんでもない、練習に戻ろう」
「いやあの女の子……」
「練習に、戻ろう」
これ以上言わせないでくれ。分かっている、分かってるから皆そんな温かい目で俺を見ないでくれ。
このままでは不味い。とりあえず気を取り直して練習に集中しよう。そうだ、俺はバスケ部でその部活動の練習中だ。練習はしっかりとやらないとな。
しかし……気になるものは気になってしまう。
チラッと中野さんのいる方を盗み見る。
素早いドリブルで女バスの部員を抜き去る中野さん、おいほんとに帰宅部か?
そのドリブルは軽快でリズミカルにボール、いや胸が跳ねている。
っていやいやいやいやいや。どこ見とるんだ俺。いやしかし制服の上からでは気が付かなかったがなるほど中々の質量だな。って何解析しとるんだ俺は。
ダメだこれ以上は変態と言われても言い逃れが出来ない。今度こそ練習に集中しよう。
…………
くっ、やはり気になるっ!?
なんでここまで俺は中野さんの事が気になってしまうんだ。くそ、こうなったのも全部中野さんのせいだ。
チラッと見るとバッチリ目が合った。
なんで見とるんですと。
太陽のように眩しい笑顔で俺の方を向いて嬉しそうにピースサインをしている。なにやだ可愛い。
暫く見とれてしまったがはっとなった俺は急いで目線を逸らす。くそう、なんなんだよ。俺の事好きなのかよ勘違いするだろやめてくれ。
この後もめっちゃ目が合って練習に身が入らなかった。
如月 拓人
本作の主人公。帰宅部かと思いきや実はバスケ部。割としっかりとした家庭で育った主人公は半強制的に部活に入部し染み付いたやる時はやる精神でバスケ部のエースに。やったねママン、教育の賜物だよ。
いつもの気だるげな雰囲気は変わらないが俊敏に動きシュートを決める姿は女バスや同じ体育館を使う部活の女子をギャップ萌えで死に至らせる。けど中野さんの事が気になり過ぎて今日はシュートが全然入らなかった模様。翌日沢山目が合ったね、と微笑まれ戦闘不能になった。
中野 四葉
本作のヒロイン。困った人はほっとけなくてとりあえずお試しで女バスの練習に参加。培われた運動能力で圧倒はしないものの運動部もビックリの動きをする。隣の席の如月が手を振ってくれてスーパーハイテンションに。嬉しい時は全身で表現する。目も沢山合ったし仲良くなれたかなとほくほくする。
男子バスケ部後輩
気だるげなバスケ部の先輩がエースだなんて認められず反発。しかし練習態度と実力を見てころっと心変わりした。口癖は流石は俺達の拓人さん。
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いつものお礼だよ中野さん
授業。
それは学び舎の囚人である我々が受ける事を義務ずけられている刑である。永遠に子守唄を聞かされたり無駄に身体を動かしたり。
しかし世の中は学力や身体能力で我々囚人の価値を定めて常にふるいにかけられる。何とも息苦しい世の中だろうか。
と現実逃避もとい暗黒面ごっこは終わりにして。
ようは俺が何を言いたかったのかと言うと、授業って真面目に受けなかったらくっそ暇だよなって話。
こんな聞く耳持たない生徒相手に淡々と教科書読み上げる先生は気の毒だがやはり人間集中力には限界がある。1限目、2限目は何とか。しかし3限目からはどうしても集中力が続かない、そこに体育やら音楽とかの机に向き合わなくていいような授業ならまだしも国語 国語表現と続いて歴史ときたもんだ。こりゃ集中力だって切れるに決まっている。
故に俺は暇である。
魔が差した俺はチラッと横を見た。
そこには教科書と睨めっこした中野さんの姿が。おっ、今日は起きているのか珍しい。中野さんは勉強が得意でないのか良く眠っているのを見掛ける。しかし寝ている姿が起きている時と違って静かなもんで。
何処か淑女を思わせる可愛さがあって見ていて飽きない。これがギャップ萌えというものなのかもしれない。いつも明るく太陽みたいな奴が静かになって眠る姿は見惚れる程可愛らしい。
えっ?毎回中野さんの寝顔見てるのかって?
ば、ばばば、ばかいってんじゃねぇよ……いや確かに可愛いなーとか思って笑っちまう時もあるけどそんなまじまじと見てねぇし本当だし!
おいそこ、女の子の寝顔見てニヤつくとかやべぇやつとか言うな!これは……その……中野さんの策略に乗ってやってるだけだし!チョロくなんてないぞ!
こほんっ。
まぁそんな訳で中野さんが起きているのは珍しい。最近何だか起きている頻度が高くなって来ているのはテスト期間が近付いて来ているからだろうか。そう言えば中野さんの成績はいかほどなのだろう、小テストが返ってきた時はすげぇ顔が歪んでいたからきっと成績は芳しくないのだと思うのだがこうして勉強をしようとする意欲は素直に凄いと思う。
苦手分野というのは苦手で避けたり出来なかったりするからこそ苦手分野であってそれとしっかりと向き合っている中野さんは……なんというか凄くて、とても魅力的だ。
は?めっちゃ中野さんの事見てんじゃんって?ち、ちちちちちげぇしっ!たまたま目に入っただけだし!
いやほら中野さんって俺にめっちゃ絡んで来るしぃ?
※お前が見てるから
それに物落としたら直ぐに拾ってくれて優しいしぃ?
※そりゃ隣から落ちてきて目に入ったら拾います
いっつもめっちゃ笑顔で挨拶してくれるしぃ?
※社交辞令です
まぁなに?俺に気がある……とは思わないけどもしかしたらもしかするかもしれないしぃ?
※ないです
だから仕方がない。これは仕方がない事なんだ。まぁいつものお礼?的な?
よし、いけ俺!
「中野。お前なに教科書と睨めっこしてんだ?」
ちょっと声が上ずった死にたい。
「ふぇ?あ、えっとですね……ちょっと分からないところがあって……」
「……どれだ?ちょっと見せて見ろ」
「あ、はい。これですね」
ふむ……これぐらいなら俺にでも分かる。今日ほどしっかりと自習してて良かったと思った日はない。ありがとうおかん!
とりあえず覚えてしまいさえすれば良い場所なので理解するよりこういう場所は語呂合わせなり物事を丸ごと暗記して覚えてしまった方が楽だったりする。
興味が沸けば理解する為に読み返したりすれば理解は深まるだろうがそうでなければ苦痛なだけである。俺に中野さんがそれに興味を持てるようにするだけの教える能力があればいいのだが生憎と誰かにモノを教えるのは得意でない。
俺にはこれが精一杯だ。
「……まぁそんな感じだ。また時間がある時に歴史の内容に詳しい人に経緯とか聞いてみるのもいいかもな。案外こういう歴史の背景って面白いエピソードがあったりするからな」
「ほぇ〜、そうなんですねっ!何となくですけど私にも理解する事が出来ました。ありがとうございます、拓人くんっ!」
「まぁ……良かったよ」
「はいっ!」
!?!?!!!???
あのっ、手を掴まれてっ……はぇっ!?
「っ!?いつまで、てぇ握ってんだっ!?」
「はい?おわぁっと!?えへへ、すみません……つい」
うん、可愛いから許す。
じゃねぇよ。危うく窒息死する所だったぜ……
くぅ、絶対コイツ俺にアピールして来てんだろ。じゃなきゃこんなにボディタッチ多い訳がない。ボディタッチが多い女子はその男を狙っていると昔何処かで聞いた事がある。
いや……早まるのは良くない。昔を思い出すんだ。あの若かれし頃の苦い思い出を。俺はもう同じ過ちは繰り返さない。
だからお願いだ。
「拓人くん?なんで笑ってるんですか?」
「あ、いや……見んじゃねぇよ!」
「ふふっ、おかしな拓人くんですね」
あ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ッ!!
ニヤけてるの見られた死にたい、いや死のう。
「おいそこ、なにイチャついてやがる」
「いちゃ!?」
それから俺はずっと机に突っ伏したまま脳を動かすのをやめた。
如月 拓人
本作の主人公。物静かで無気力だが脳内は煩い。主に隣の席の人のせい。最近友達が語っていたギャップ萌えの素晴らしさを身に染みて思い知った、その友達とは親友になったらしい。なお顔の表情は死んでおり表情の表現は乏しい、しかし何故か隣の席の人は分かるらしい。最近家で自習をする時間が増えたそうな。
中野 四葉
本作のヒロイン。嬉しくなると抱き着いたり手とか触っちゃうフレンズ。なお無自覚の模様。隣の席の男の子と仲良くなれてご満悦、あれから良く隣の席の人に分からない所を聞くようになった。付き合ってんの?と噂され自分の家庭教師とは違う意味でも隣の彼を……おや?四葉の様子が。
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目と目が合うよ中野さん
プロット通りに進めても良いんですけどやっぱりアンケート使ってみたいじゃん?使ってみたくなぁい?
チラッ
「「っ!?」」
可笑しい。いや可笑しくはないのか?
何だか最近中野さんの様子が可笑しい。相変わらず俺が横をチラ見すると高確率で目線が合うのだがその様子が可笑しいのだ。
いつも目線が合うだけで微笑んできたり小さく手を振ってくれたり。思春期の男子高校生をキュン死させるには十分な威力の爆弾を放ってくるのだが最近中野さんがそれをしなくなった。
どう可笑しいかと言うと具体的には目が合うと直ぐに目線を逸らされるのだ。え、俺の事嫌いになったん?
そうだとしたらそうだな……いっその事転校してしまおうかなぁ。こんな善意100%しかない女の子から嫌われるとかもう生きてけない。
しかしそれだけではない。あの中野さんがよそよそしいのだ。あの他人のパーソナルスペースに問答無用で突撃してくるあの中野さんがだ。俺と目線が合わなければ普通にいつも通りの太陽サンサン明るい中野さんなのだが目が合うと急にしおらしくなる。
なんなん?ギャップ萌えで攻め殺す作戦ですか?もうめっちゃ効いてるからやめてください死んでしまいます。
しかしだ。やはりこうしてモジモジと何かを恥ずかしがっているように見える中野さんは実に年相応の可愛い女の子に見える。別に普段の中野さんが可愛いくないとかそう言う意味ではない。世間一般的に女の子と言えば今の中野さんのような反応が男的にはグッとくるわけで。
何が言いたいかと言うとやべぇ、なんかすげぇ守ってあげたい。
今もチラチラと中野さんの視線を感じる。おい、ちょっと俯き加減で見上げるように視線向けるのやめて貰っていいですか?その角度はやべぇです。もっとやれ。
しかしずっとこんなんでは日常生活すらままならない。いつも気に掛けて貰っている俺としては中野さんに悩みがあるのなら是非とも力になってあげたい。よし、男は度胸だ。
「……どうかしたのか?」
「っ??あ、いえ……なんでもないんです」
いや何でもある反応だろそれ。
というか何でそんな申し訳なさそうな顔してるん?俺が悪い事したみたいじゃん。
しかしここで引いてしまったらダメだ。それは馬鹿な俺でも分かる。
「俺で良ければ話、聞くぞ?」
「大丈夫ですっ!なんの問題もありませんっ!」
違う。そうじゃねぇ、お前の笑顔はそんなぎこちない笑顔じゃねぇだろ。1番近くでずっとお前を見てきたんだから嫌でも分かるんだ。この脳裏にこびり付いて離れねぇ馬鹿みたいに眩しい笑顔が。
「まぁその、なんだ」
「はい?」
「いつも中野には世話になってるし、何よりお前がそんな調子だとこっちの調子も狂うんだよ。中野はいつもみたいに馬鹿みたいな笑顔浮かべてリボンをぴょこぴょこさせてりゃ良いんだよ」
きょとんとした顔をすら中野さん。
あ、やべぇ。これ俺自爆したくね?あらやだ死にたい。
「ぷっ、ははははっ!」
すると突如として笑い声を上げる中野さん。もうやめて!死体蹴りよくない。確かにちょっとクサイ事言ったなって自覚あるよ?けど紛れもない本心っつうか……って馬鹿それが思春期の童貞かっていうんだよ。もうやだ何も考えたくない。
「もぅ、そんなむくれないでくださいよ」
「うせぇ。お前なんて次の小テストで赤点取っちまえばいいんだ」
「えぇ!?それはダメです、拓人くんがいないと私駄目なんです!」
え。それって告白ですか?
勘違いしてしまいますやめてください。
「……そこまで言うならちゃんと教えてやるから」
「えへへ、ありがとうございます。でも……やっぱり拓人くんって優しいですね」
そこチョロいとか言わないの。
うん、やっぱり勘違いじゃねぇんじゃないかって思うんだ。こんなんわんちゃんあるんじゃね?って思っちゃうじゃん。思春期の男子高校生舐めんな。
「べ、別にこんなん普通だし」
「ふふっ。そうですねっ、ありがとうございます」
あ、いつもの笑顔に戻った。いやしかしいつもより何となく柔らかくなったような……気の所為か?
ぐぬぬ。何だか手玉に取られてる感がいがめないがいつも通りな感じに戻ってくれたし良しとするか。
でなんでそんなにニコニコしてこっち見てんですかねぇ。さ、流石にずっとそんなにまじまじと見られると照れるっつうか……
「……なんだよ」
「いえ。分かってしまえば簡単な事だったんだなって思いまして」
「?」
きっと今の俺は間抜けな顔をしているに違いない。
あれか?何か難しい問題がやっと解けたのか?分かるぞ、俺の場合あれなんだっけなぁと後ちょっとでそれを思い出せそうなのに思い出せないもどかしさで唸っている時にそれを無事に思い出した時ってすげぇ達成感あるよな。分かる分かる。
※コイツ馬鹿です
「ねぇねぇ2人っていつも仲良いよね。やっぱり付き合ってるの?」
「はぁぁぁ!?」
し、しまった。余りに突然で童貞のような反応をしてしまった。
※合ってます童貞です
くそっ。このままでは中野さんに「コイツ童貞かよぉwww」と笑われてしまう。
「えへへ」
え。なんでそんな恥ずかしそうに笑ってるん?
さては貴様、この俺を童貞だと思って試しているな?そんな思惑には乗らんぞ俺は。くっ、けど無駄にそんな風に恥ずかしがっている中野さんが可愛い。
※何故そこでそういう風に勘違いするのか
「そこで否定しないって……キャーー!?」
うっせぇわ。てめぇら黙れや(困惑)
ていうか中野さんも何か言ってくれ。俺のコミュ力じゃこのコミュ力の塊達を抑えられない。
フル無視を決め込んでいると予鈴がなってコミュ力塊の女子達は席に帰っていく。危なかったぜ、あと少し遅かったら死んでいた。
なんというかこういう甘ったるい雰囲気というものは慣れない。きっと童貞特攻があるに違いない。
「拓人くん」
「……なんだ?」
やめろ。今はお前の顔を直視出来そうにない。ていうか良くあの後に話し掛けて来れるな。やはり女の子っていうのはよく分からない。
「これからも宜しくお願いしますねっ!」
「?あぁ……宜しく」
「はいっ!」
そっぽを向いていたので中野さんがどんな顔をしていたのか分からないが別に見なくてもどんな顔しているかこの時ばかりは想像がついた。
たくっ……どうせ無駄に眩しい笑顔なんだろうな。勘違いするだろ、ほんとやめてくれ。
俺はこれから起こるであろう面倒事の予感に軽く憂鬱になり机に突っ伏す。
けどまぁ、こんな毎回も悪くねぇかもな。
如月 拓人
本作の主人公。もう最近は目と目が合うと目線を逸らさずにはいられない、しかしチラ見もやめられない。思春期のせいにして自分を正当化しチラ見を続けている模範的童貞。何でもかんでも悩んでいる人の力になろうとする隣の人を見てられず先回りして問題を片付ける事がしばしば。そんな光景をクラスメイト達は温かい目で見守っている事を彼は知らない。
中野 四葉
本作のヒロイン。付き合ってんのかと聞かれて流石にちょっと意識し始めた。年相応に恥ずかしがる事が隣の席の男の子のハートにクリーンヒットしている事を彼女は知らない。不器用ながらも優しい隣の人とはこれからも仲良くしていきたい様子。最近何だか困ってる人が減ってきたなーと思っており必然的に隣の人との接触が多くなる。やったね!隣の人、イチャイチャ出来るよ!
クラスメイト達(男)
授業中でも構わずイチャコラする2人に血の涙を毎日流している。しかし基本的に良い奴である主人公に協力的でさっさとくっ付け爆発しろと思ってる。
クラスメイト達(女)
イチャイチャする2人を眺めてキャーキャー言ってる。煩いし隙を見せると群がって来る。そして2人は絶対両思いだと信じて疑わない。というか確信してる。
体育館競技女子部員(女)
基本腐ってる。けどどっちでもいけるハイブリッド。お気に入りは後輩×拓人
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初めての共同作業だよ中野さん
アニメは作画崩壊やらなんやら言われてるけど原作は普通に可愛いし何より8話。
これはもういかんで。思春期の男の子にやったらあきまへんで。
あれから何日か経って中野さんの雰囲気が少し変わった。依然として目が合うのは変わらないが中野さんは恥ずかしそうにしながらも優しく微笑んでくるようになった。いつもの明るくてみんなを照らす太陽のような笑顔ではなく包み込むような包容力がある優しい笑み。
はっきり言ってキュン死しにそう。
馬鹿なの?童貞からかって楽しい?ねぇ、俺が何か悪いことしたのなら謝るからさ。だから勘違いするじゃないか勘弁して下さいもっとやれ。
ふぅ……
俺は反省を活かしチラ見の回数を減らした。いやだってチラ見したら馬鹿みたいな確率で目が合うもん。あれだわ。俺の事絶対好きだわ中野さん。いやだってこんなに目が合うなんて普通だったらありえないしだってありえないしありえないし(困惑)
くそっこれでは俺が中野さんを意識しているようではないか。
「拓人くん?」
「あぶっ!?」
「どうかした?」
「いや……なんでもない」
いきなり喋りかけてくるなよびっくりするジャマイカ(童貞)
「いえ、ぼーっとしてたので何か悩み事でもあるのかと」
「大丈夫問題ない。それより早く終わらせよう」
「そうですね!でもありがとうございます、手伝って貰っちゃって」
「まぁ……隣の席のよしみでな」
俺達は今、日直の仕事を行っている。本当は俺が日直ではなかったのだがこれにはとても、琵琶湖よりふかーい理由がある。まぁ琵琶湖の深さなんて分からんが。
そう……それは朝の出来事だ。
「じゃあモブG……って休みなのか。おい誰か、あいつの代わりに日直やってくれる奴はいないか?」
日直が休みか。日直が休みの場合は先生が主導となって主に名指しで決められる。
なんて面倒な、こりゃ誰も選ばれなかったら適当に選ばれる事になっちまう。早々に気配を薄くして出来るだけ指名されないようにするしかない。いつも出来るだけ目立たないようにしてきた俺には造作ないことだ。
フフフ、完璧だな。
「せんせー、代わりは如月くんがいいと思いまーす」
なん……だと!?
クラスメイト突然の裏切りに俺氏驚愕。
「うんうん!私もそうおもいまーす!」
「てか如月しかいねぇだろ」
「そうだよねー」
え、なんなの?これ新手のいじめなの?
なんで無駄に君たち意見合ってるの?
「と言ってるが如月、頼めるか?」
「嫌です」
条件反射で即答してしまった。いやだってこの流れで日直やるの絶対おかしい。せめてじゃんけんとか多数決とか納得いく形にして貰わないと俺としても納得がいかない。
「うーん。そうかぁ、最近何かと動いてくれてる如月ならと俺も思ったんだが」
「……気のせいですよ」
べ、別に誰かがやらなきゃくそ馬鹿お節介リボンがやるからとかそんな理由じゃないからねっ!
こほん。まぁなんだ俺も好きでボランティアに勤しんでいるわけではない。やらなくて済むのであればそれに越したことはない。てかめちゃ推奨する。
「は?」(威圧)
「お前がやらんで誰がやる」(キレ)
「拒否権はない」(キリッ)
「ほんとこいつもう死ねばいいのに」(諦め)
え。ほんとにいじめですか?俺の人権無視ですか?てか最後のやつそれもう悪口だからね。
「よし!じゃあ如月で決定で」
いや何も決定してないから。クラスの総意であっても俺が認めないから。
これは何があっても日直は回避せねばならない。こんな形で押し切られてしまったら今後もこうやって面倒事を押し付けられかねない。俺はあくまで平和な学校生活を送りたいだけ、面倒事は勘弁だ。
「いや俺は……」
「拓人くん、ありがとうございますっ!頑張りましょうね!」
すげぇ良い笑顔の中野さんに手をギュッと握られる。
…………
「……しゃあねぇな」
仕方がない。いやぁ、本当に仕方がないな。まぁクラスの総意だし?ひじょーーーーに面倒臭いことこの上ないが求められているならやってやらんでもないというか?
「落ちたな」
「見事な手のひら返し」
「おい聞こえてるぞ」
なんて事があったとかなかったとか。まぁそんな訳で今2人で放課後の教室で2人きり。……なんか響きがエロいな。
緊張してるかって?ば、ばっか言うんじゃねぇし。別に中野さん可愛いとかいい匂いするとかそんなん思ってないしぃ?まじそうやって勘違いするのやめて欲しいんですけどですけどぉ。
ここは無心で仕事に勤しむべきだ。何か考えるだけ坩堝にはまる、であれば何も考えないでひたすら無心で仕事をする。
フフフ、完璧だな。
「何だか2人きりって変な感じがしますね」
どんがらがっしゃん。
「だ、大丈夫ですかっ!?」
「……大丈夫だ、問題ない」
ふっ、少し躓いてしまったようだ。
いやいやいやいや。俺が気にしないように無心になろうとしてる所に爆弾投下するのほんとやめてもらっていいですか?狙ってるんですか?わざとですか?
「ふふっ」
「……なんだよ」
「いえ。拓人くんって意外とおっちょこちょいなんですね」
「む」
そいつは心外だ。
ていうか。
「俺的にはお前の方がおっちょこちょいだと思うが」
「むぅ、そんな事ないですよ」
「なわけあるわ。この前鞄に教科書1冊も入れてなかったのは?居眠りしてて椅子から転げ落ちたのは?」
「あぅ……それは言っちゃダメですよぉ〜」
「まだあるぞ。昼飯の時間違えて箸を逆に使ってたりとか、この前女バスのユニホーム反対に着てたりとかな」
「も、もうっ!やめてくださいよ……ってなんでそんな事まで知ってるんですか?」
「あ」
や、やらかしたぁぁぁぁぁぁぁ!?
くそっ!やられた!これは元から仕組まれた罠だったんだ。普段から俺を見ていたのは俺が中野さんを見ていた事を怪訝に思っていた事の裏返し。そして今さっきの誘導尋問で普段から中野さんをしっかりと見ていないと分からない事を喋らされてしまった。
なんということだ。これじゃまるで俺が毎日毎日ちょっと気になった女子をチラチラとチラ見してしまう童貞のようではないか!
※まさにそれです合ってます流石童貞
「もしかして拓人くん……」
「あ、いや……ちがっ」
くそっ、舌が回らない。ていうかもう明らかに詰みだ。俺は明日から童貞というレッテルを貼られて学校生活を送っていくんだ。
さらば、俺の平穏な学校生活よ。
「私の事いつも気に掛けて下さってるんですねっ!ありがとうございますっ!」
「はえっ?」
「ふふふっ、頑張っちゃいますよー!」
なんか知らんが助かった。
無駄にテンションが高くなった中野さんがてきぱきと仕事を終わらせていく。いや、俺いらんくね?
如月 拓人
本作の主人公。やはり隣の人をチラ見するのを辞められない、そして目が合ってドキッとして目を逸らす。そしてクラスメイト(男)が舌打ちをするまでが1つの流れ。最近何故か先生に慈善活動を強いられる事が多くなった、主に隣のヤツのせい。日直を代わった次の日めっちゃ質問攻めにあった。そして何故か女子達がキャーキャー言ってどっかいったので女の子ってほんと意味わからんと心底謎に思っている。
中野 四葉
本作のヒロイン。無自覚に隣の人を追い込んでいく童貞の天敵。隣の人は良く自分のことを見てくれてるんだなぁってほくほくしてる。何だかその事が無性に嬉しくもあり恥ずかしくて無理矢理テンションを上げていた。
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隣の席の拓人くん
私の彼への最初の第1印象は何処か冷めた人だな、という在り来りなものだった。
実際彼の目は凄い垂れ目でクラスメイトの皆も先生も最初は少し彼が下を向いているのを見ると寝ているんじゃないかと思っていたらしい。
らしい、というのは既にその誤解は解けていているからだ。
眠そうで何処か気だるそうにしている彼だけど実は成績はトップクラス。突然当てられてもしっかりと答えられるし話し掛けると相変わらず気だるそうではあるがしっかりと受け答えをする。
え?何故そんなにも隣の席の彼に付いて知っているのかって?それはクラスメイトの皆さん全員に聞き込みをしたからですっ!
実際私が転校をしてきて話し掛けてもぶっきらぼうで目は殆ど合わせてくれなかったし常に気だるそうにしていた。
きらわれてるのかなぁと思っていたけどクラスメイトの皆が言うには彼奴はそういう奴だ、けど実は良い奴だから悪く思わないでやってくれと。
それは直ぐに分かることになった。
「拓人っ、ここどうやって解くんだ?」
「あぁ、ここはな……」
「拓人お前弁当可愛いな」
「うっせーわ。タコさんウィンナー美味しいだろ」
「拓人くん……この女子の制服着てみない?」
「着るわけねぇだろ!?おい、馬鹿やめろ……やめろぉぉぉぉ!」
最初は全然気が付かなかったけど
彼の周りは不思議といつも人が集まる。彼はクラスの人気者。小テスト前は彼に出てきそうな場所を聞こうと皆が集まってくるし、お昼休みになるとお弁当を持った友達が相変わらず気だるそうにしている彼を引っ張って食堂に連れてったり、部活動でもエースとして後輩にも慕われているし先輩にも信頼されている。
そんな隣の席の彼だけど常に私に大して壁のようなものを感じるし何処か冷めた雰囲気をしていて。それが勘違いと分かるのは少し先の話。彼は表情があまり変わらない、だから今でもクラスの皆さんは彼の表情でどう思っているのか読み取る事が滅多に出来ないらしい。それも勘違いさせている1つの要因だと思う。
けど以前最初から彼の表情の変化が大体分かっていたって話したらクラスの皆さんに驚かれたっけ。
なんでだろう、ちゃんと表情は変わっているのに。
やっぱりそうやって壁を作ったりするのは勿体ないと何処か使命感のようなものを感じたのを覚えている。だってせっかく同じクラスの隣の席になったのに仲良くしないだなんてありえないですよ!
楽しくないのと楽しくやるのとじゃ絶対に楽しくやる方が良いに決まっているし何か困った事や悩み事があるのならそれをどうにかしてあげたい。一目見ただけでそこまで思うのは些か失礼だと今更思う。それはゴメンなさい。
先生に席を指定されてそこに座った私が最初にしたのはその隣の席の人に挨拶をする事だ。
「宜しくお願いしますねっ!如月……えっと」
先生は如月と言っていた。けど彼の下の名前が分からず言い淀んでいると眠たそうに垂れた目で心底面倒くさそうに私を見上げながら彼は口を開いた。
「拓人」
「拓人くんっ!」
面倒くさそうでも彼が教えてくれた事が嬉しくて思わず笑顔になる。よしっ、これが仲良くなる為の第1歩だ、心の中でガッツポーズをした。「……ん」と短く返事をくれていたのもあるが彼はめんどくさがり屋で本当は普通に良い人なのかも知れない。
その後先生が今日1日がんばろー、と教室を出ていった所で隣の席から溜め息が聞こえてきた。
む、早速これは私の出番ですか!
「どうかしたんですか?何か悩み事でしょうか?」
こう見えて私は沢山の人達の悩み事を前の学校でも聞いてきたのだ。ここで私がサクッと問題を解決すればきっとすぐに彼とも仲良くなれる筈。我ながら天才かもしれないです。
内心そんな風にドヤ顔をキメつつさぁ早くと彼が喋ってくれるのを待つ。
のっそりと机に這いつくばるように私を見上げる彼は何処か面倒くさそうだ。
気にするな、ってそんなの気にするに決まってますよ!
だから私は食い下がって聞いてみたが彼は更に面倒くさそうな顔をする。むむむ、ちょっとそれは心外です。こう見えて私は数多の悩み事(※厄介事)を解決してきたプロなんですよっ!そうやって私は内心そうやって言いたいのを我慢して更に食い下がろうとした時だった。
彼が気にしないでくれ、と柔らかく笑ったのだ。
瞬間私はドキッとした。きっとその時私はマヌケな顔をしていたと思う。
恋をしたとかそういう意味ではない。ある意味気だるげで眠そうな彼が急に柔らかく笑ったからギャップがあったのは否定は出来ないけどそうじゃない。
私が悩み事を聞いてあげた友達がありがとうと一緒に向けてくれる感謝の笑顔とも違う。
純粋に相手を思っての優しさに溢れた笑顔。余りにも先程との彼とは不釣り合いな笑顔だなと思ったのは失礼だけどいきなりそんな笑顔を向けてくるのはちょっと反則だと思うんです。
動揺しまくる内心を抑え、私は笑顔を作る。いや多分抑えきれていない。この嬉しい気持ちはどうしても抑えきれない。
キモイ、とか思われてないだろうか。チラッと彼を見ると既に彼は私を見ていなくて最初に会った時と同じように気だるげに窓の外を見ていた。
何だか見られなくて良かったな、という気持ちと釈然としないモヤモヤと何かが胸の奥に引っかかっているのを感じた。
やはりというか彼は物凄く優しい。
何気ない気配り、良く周りを見ているんだなって思う。クラスで人気者なのも頷ける。
例えば休み時間私のところに集まってくるクラスメイトに質問攻めにあって混乱している時に「うっせぇな、ちった相手の事も考えろよ」と静かに注意してくれたり
授業中何も言っていないのに、初の授業で資料も教科書もない私に見えるようにプリントや教科書をさりげなく置いてくれり
もちろん前の学校とやってる内容も違うのでさっぱり理解出来ていない私に分かるように先生が言っているところをペン先を当てて順に示してくれたり
それだけではない。
特に私の心に響いて染みていったのはもっと違う優しさだった。
私はバカで先生の言っていることが上手く理解出来ず小難しい公式や数字を見ていると眠たくなってきて寝そうになっていた時だ。
ガン、と少し控えめに私の机が揺れてビクッと先程眠気に揺れ動いていた私の身体がピンっと姿勢正しく背筋が伸びる。チラッと横を見ると何処か呆れた様子で此方を見ている隣の席の彼。
転校初日に居眠りだなんてそれは呆れられるに決まってますよねー、と私は苦笑いをする。けど先生の話を聞く度に私は眠気に襲われその都度机が揺れて起こされる。そんな私がプリントの問題を解ける訳がなく結果は散々なことに。
赤いペンでピンっと間違いを示すマークだらけのプリントを眺めて項垂れる私を彼は横から点数を覗いて、ふっと鼻で笑ったのだ。
流石にそれにはムッとなった私は彼の赤マルだらけの満点なプリントを見て更に凹んだ。私だって分かっている、こんな風だからダメなんだ。私は姉妹にあんなにも迷惑を掛けたのに何一つ変わっていない。
そんな風に自己嫌悪している時だった。
「バカだな、さっきから寝てるからだろ。転校初日ぐらいちゃんと受けとけ、最初のイメージだけで内申点は割と変わるから」
そうやって彼は私を叱ってくれてアドバイスもくれた。それが本当に私にとって心に染みた言葉だ。
そんなさり気ない優しさがとても心に染みた。いつもお節介や悩み事を聞く側にいる私だけどこうやって姉妹以外の誰かの純粋な優しさに触れるのは何時ぶりだろうか。
その優しさが本当に心に染みる。
ここに来る前実は少し良くない事があった。私がバカなせいで姉妹には物凄く迷惑を掛けたのに何も言わず怒りもしない。けどその姉妹の優しさが私は辛かった。だって誰も悪くなくて私だけがバカだったのが悪いのに誰も私を攻めないんだ。
それが嬉しくもあってとても辛かった。同じ5つ子なのにどうして私はこんなにもおバカなのか。きゅっ、と胸が締め付けられて苦しくなる。
いつも隣にいてどんな事も5人で分かちあってきたのに初めて4人が遠くに見えて夜は肩を抱いてベッドの中で震えていた。
4人が遠くにいるのが悲しい、自分だけが取り残されているのが悔しい、迷惑を掛けているのに誰も責めてこないから私は私を許せない。
いつも5人で見ていた世界が、いつも背中が見えていた世界が急に一人ぼっちになったようで。
けど隣の席の彼は私を叱ってくれた。私の事情なんか勿論知ってる訳ないだろうしただのお節介というかそんな感じで言った言葉だと思うけど私にとってその言葉は何よりも響いてきた。
まだ自分を許せそうにはないけどそれでも少し楽になったように気がする。
だからもっと仲良くなったらいつかちゃんとありがとうって言いたいな。
「拓人くんっ、ありがとうっ!」
「……はっ?」
「なんでもないよーっ!」
隣の席の拓人くん
本作の主人公。顔の表情が仕事しないのでクラスメイトですら彼の表情を読み取る事は困難。しかし隣の席の四女は初見で看破、クラスメイトの女子は歓喜し男子はハンカチを噛み締めこれは運命だと噂した。ちなみに質問攻めにあってたときに言ったのは「うっせぇな、ちった相手(俺寝てるんだけど)の事も考えろよ」という意味。
ちなみに授業中の彼らのやり取りに気を取られすぎてこのクラスの平均点は軒並み下がったらしい。
中野さんちの四女
本作のヒロイン。多分主人公より主人公してる。こっちもこっちで勝手に勘違いしている模様。転校初日の次の日隣の席の彼に関してクラスメイト全員にに聞いて回った。女子は黄色い奇声を上げ男子は男泣きした。相変わらず授業中眠たくなるが彼が教えてくれるのでそれを楽しみにしている、次はバスケを教えて貰えないかなーと放課後デート(本人に自覚無し)を計画中。
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「すき」だってよ中野さん
学校において皆の心休まる場所とはどこだろう?
間違いなく教室だなんて答える奴はいないだろうがやはり様々な人がいる。自分の所属している部室がいつも触れている練習器具やユニホームがあって何となく落ち着くって言う人もいるし、図書室や中庭といった人が比較的少なく静かな場所や風や自然を感じれる場所が単純に落ち着く人だっている。
食堂だって中庭だって、あるいはトイレだって落ち着くって言う人がいるかも知れない。
因みに俺はと言うとだな。
「あぁ……詰まった空気が入れ替わっていく」
雲一つない澄み渡った青い空。肌に感じる風にひんやりとした床。ここは人っ子1人いない屋上。俺にとって学校で心休まる場所はここだ。
喧騒に包まれた教室はやはり俺にとって息苦しく決してクラスメイトが嫌いってわけじゃないが椅子に座って何時間も授業を受けた後更にクラスメイトがウザ絡みをしてくる。
悪い奴らではない、こんな俺なんかに喋り掛けてくれていつも俺の周りを騒がしくしていって、そんな空気も悪くないって思っている自分がいる。
だがやっぱりそれでも1人落ち着いて何も考えないでぼーっとする時間が俺には欲しい。
好きな音楽を聴いてリフレッシュする人がいるように俺のリフレッシュ方法は今みたいに静かな場所で寝転がってぼーっとして寝たりと様々だがこの場所は間違いなく学校の中で最も俺が落ち着ける場所だろう。
俺みたいな半端者は集団生活をするだけで精神を浪費する、求めているのはただ何も移り変わりない平和な毎日だっていうのに俺の日常はいつも騒がしい。
一体どうしてこうなってしまったのか。
はぁ。にしてもここは落ち着くな。
いっつも騒がしい男共や俺の心を掻き乱す中野さんもいないし。今日だって夢と現実をさ迷うようにゆさゆさと首を……けしからんおっぱい揺らしやがって。一瞬で目を引き付けられて凝視してしまったが直ぐに我に返った俺は椅子を蹴って中野さんを叩き起した。
そうやって精神を揺さぶろうだなんてそうはいかないぜ(さっきまでめっちゃ揺れ動いてた)
べ、別に他の男共に見せられないから起こしたとかそういう訳じゃないんだからな!
くっ。ここに本人がいないのにここまで揺さぶりを掛けてくるだなんて中野さんなんて侮れない相手なんだ。
よし。取り敢えず時間いっぱい寝よう。今日は天気もいいしたまには良いもんだ。
目を閉じて全身に床のひんやりとした何処か心地よい冷たさを感じながら訪れる眠気に身を任せて……
意識が落ちかけた時突然影が差した。あれ、さっきまで雲一つなかったのに。
おかしいと思った俺は目を開けた。
「あ、起きました」
起きました、じゃねぇよ。気持ちよさそうに寝てましたねーってそうだよ。お前が来る前まで気持ちよさそうにしてたんだよ。そのピコーんって擬音語付きそうな感じになんかピンって伸びてるリボン引っこ抜くぞ。
目を開けるとそこにいたのは何が面白いのか笑って俺を見下ろしている中野さん。
いやなんでいんの?てか
「あ、なんで顔を背けるんですか!」
「…………いやお前、スカート……」
「へ?」
俺が身体ごと顔を背けた理由を察したのかぺたん、と女の子座りをしてスカートを抑える中野さん。うわぁ、顔真っ赤だ。ちょっと可愛い。
うるうると目を滲ませてちょっと上目遣い気味に睨めつけないでください。キュンってしちゃいます。ちょっとじゃなくてめちゃ可愛いです。
そんな目で見詰められるとゾクゾク……じゃなくてちゃんと顔を逸らして自己申告した俺を褒めて欲しい。
「で、拓人くんはどうしてここに?」
あ。コイツ露骨に話逸らしやがったな。
ここで話を掘り返すのは簡単だが俺は紳士だからな。そんな自分から地雷を踏みに行くような事はしない。
「……特に理由は。ただここが好きなだけだ」
別にちゃんとした理由は言わなくてもいいだろう。それに言ったことも嘘ではなくて事実だ。実際俺はこの場所を気に入っているし何も無い休日であれば1日ここでぼーっとしているのも苦ではないと俺は思っている。
そうなんですね、とそれだけ言って俺の真横に寝転がる中野さん。
っていやいやいやいや。何やってんの?なんでここに寝転がるん?嫌がらせかな?
「……いや帰れよ」
「なんでですか?」
帰って欲しいからです(真顔)
「いいから帰れよ」
「むぅ。私がここにいたら何か都合が悪い事があるんですか?」
めっちゃあるよ(キレ)
女子は煩いし男子にはいつか後ろから刺されそうだから。何より俺が落ち着けないから。
「……勝手にしろ」
「はいっ!ありがとうございます!」
そう言っていつもの100%スマイルを浮かべる中野さんを直視出来ず顔を逸らす。だから嫌だったんだ。そもそもこんな可愛い女の子が俺に笑顔向けてる時点で詐欺か何かか疑うのが普通だから。けど中野さん、バカだからこれガチなんだろうなぁ。
っといかんいかん。こんな事で一々真に受けるからいつも心を乱されるんだ。
2人で寝転がりぼーっと空を見詰める。雲一つない空しか見えないがさっき見た中野さんの笑顔も雲一つなくてどうしても脳裏に中野さんがチラつく。
やはり女の子が横にいて何も考えないとか無理だわ。そんなん思春期の男の子には無理ゲーだから。俺の事好きなの?とか思っちゃうから。
「……あのさ。なんで中野さんはここに来たんだ?」
「知りたいですか?」
え。何なんその切り返し。
ちょっぴりドキッとしたわ。小悪魔チックにいつもと違う笑顔を浮かべる中野さんを思い浮かべて内心焦る。いや実際にみた訳じゃないけど絶対そんな顔してるわ。
「……まぁそれなりに」
「んー。じゃあですね……私の事、名前で呼んでくれたら教えてあげますよ」
名前。名前ね。
………………。いやいやいやいやいやいやいやいや。無理だわそれ。ばっかじゃねぇの!ばっかじゃねぇの!そんなん出来るわけないじゃんばーか!ばーか!
と内心バカを連打していると中野さんは続けて。
「私だけ名前呼びってのも可笑しいですし。何より5つ子なので中野さんって言われ慣れてなくて」
「……お前最初から俺の事名前呼びだったろ」
「そうでしたっけ?」
そうでしたよ。なんの躊躇いもなく名前呼びだったよ。
「あー、そうでした!無視されるかなぁって思ってたけどちゃんも名前を教えてくれたのが嬉しくてつい呼んじゃって」
えへへー。じゃねぇよ。
可愛いじゃねぇか許す。
「……えっと、だな」
「わくわく」
くっそ。言えば良いんだろ!言えば!
「……四葉」
「はいっ!」
………………。
なんで首傾げてこっち見よん?
「……いや名前呼べって言ったから」
「あっ、そうでしたね」
あーもー!そういう所だからな!そういう所が俺達思春期男子の心を揺さぶりまくるんだぞ。
チラッと横を見る。本当に分かってなかったようで当の本人は頭を掻きながら笑っていてそんな姿を見ていると何だか憎めないなって思う。いつも笑顔な彼女にはこうやって自分らしく常にいて欲しいから。
「で、なんでここに来たんだ?」
「そうですねー」
そうやって一旦言葉を区切った中野さんは身軽な動きで立ち上がり数歩離れる。俺はそんな中野さんから目が話せず寝転がっていた俺も立ち上がりはしないが上体を起こして中野さんを見失わないようにしっかりと見詰めて。
心地よい風が俺と中野さんの間を駆け抜けていく。風に靡く髪を抑えながら振り返り
「私、気が付いたらここにいました。理由はちょっと分からないです」
けど、と中野さんは続ける。
「拓人くんがここが好きだって聞いてから私もここが好きになれたらなって思って。傍にいたら私もここが好きになれる、そう思って」
ちょっぴり赤くなった顔をしながら中野さんは言う。
「そして好きになっちゃいました」
今までで1番強い風が吹く。
色々考えていた事なんかも全部何もかも吹き飛ばしていって。
ただそれを言った時の中野さんの顔が脳裏から離れなくて。逃げるように早足でかけていった中野さんの背中を見詰めて。
「……好きって…………紛らわしいんだよ」
俺の顔は中野さん、四葉さんより多分赤かったんじゃないかなって思う。
如月 拓人
本作の主人公。なのだが最近もっぱらヒロインのよう。
心を落ち着かせる場所で佇む俺カッコイイと思ってる。最近隣の席の人によって心を掻き乱されまくっているので落ち着く為に割と頻繁に屋上を利用していた。何だか最近は隣の席の人とワンセットとして見られる事が多く表面上嫌ってるように見せてるが内心満更でもない。
中野 四葉
本作のヒロイン。主人公を見付けると頭に着けた特徴的なリボンがピンって伸びる。そして近くにいるとピコピコ動く。最近隣の席の人が良くどっかに行ってるので気になって後をつけた。相手の好きなものを自分も好きになれたらなって思ってる。
最近なんだか誰かさんを目で勝手に追っていて嬉しそうに後ろをつけて行くのを頻繁に目撃されている。
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幸せですってよ中野さん
休日、そして放課後。
それは我々学生の唯一無二の憩いの時である。
部活?外出?
バカめ!休日や放課後は家で堕落した生活を送るに決まっているだろう。まぁずっとベッドから出ない、と言いたい所だがそんなことをしていたらウチのおかんの逆鱗に触れるので自習はそこそこにしなくてはならないし何より普段放課後は部活動もある。
だが今日は珍しく部活はない!かつてないスピードで帰宅してきたぜ。
自習も既にあらかた終わらせてある。故にもう今日は何もしなくていい。俺大勝利。
さて、何をしようか。
久しぶりに夜通しゲームに没頭するのも悪くないし本当に何もしないで気分をリフレッシュするのもいい。
これから送るであろう堕落した徹夜の過ごし方に柄にもなく少し胸踊らせているとベッドの上に放置していた俺のスマホが震えだした。
しかもこれは○ースベーダーの着信音……という事はおかんからか。不味い、すげぇ嫌な予感がする。
これから自らに降り掛かるであろう厄介事の気配に先程までの胸踊る気分から一気に地底の底まで紐なしバンジージャンプ。一気にどん底まで気分が下がる。
ため息を1つ吐きながらぶつくさと文句を垂れながらスマホのロックを解除。げ、リンス切れたから買ってこいだって。因みに家の近くに薬局なんてないから少し時間が掛かるがデパートに行かなくてはならない。死んでも御免こうむる内容だが俺に拒否権なんてないのは分かっている。ならば仕方がない、さっさと行って出来るだけ自由な時間を確保しよう。
気持ちと連動してベッドから全然動きたがらない身体に鞭打ってクローゼットを開け適当に服を引っ張り出し身支度を整える。ここで部屋着で外に出ないのはおかんに怒れるから、じゃなければスウェットのまま外に出ていただろう。
さらば、俺の愛しのベッド。ベッドに暫し別れを告げて必ず直ぐに帰ってくると1人悲しく誓い、無駄に死亡フラグを建てて家を出る。
学校よりも遠くない距離を歩いてデパートへと足を踏みいれる。もう夜遅いというのに人が多い、流石はデパート。
買う物は決まっているのでさくっと行こう。リンスを買ってそう言えば林間学校に持っていく分のシャンプー等は足りているだろうか、と思い立った俺は次いでに外泊用の物も購入。
ふむ、偶にはおかんの言う事も聞いてみるもんだ。意外な所でミスを回収しほんの少し報われた気持ちになる。
しかしゲームセンターやCDショップ等の何かと誘惑が多いデパート、また何かが視界に入ったりして物欲が沸く前に帰ろうとした時に見覚えがありまくる動くリボンが視界に入った。ドキッと心臓が跳ねる。咄嗟の事で歩いていた通路から外れて思わず柱で身を隠してしまう。何をやっているんだ俺は。本当にいつも隣の席のあの子はいつもいつも俺の心を掻き乱していく。別に何もやましい事なんてある筈がないのに何故俺はこんな事をしているんだ、普通に会っても軽く挨拶を交わすぐらいなんて事ないじゃないか。朝俺より遅くやってくる彼女にいつもそうやっているだろう。
いつも通り、自然にやればいいだけだ。何も難しくないし可笑しくもない。そう思っている筈なのに自分の身体は意思とは反して動いてくれない。
こ、恋する乙女じゃあるまいし何やってんだか。別に迂回して通れば見つかる事なんてないのだがそれはそれで何か勿体ない気がする。女々しい俺は取り敢えず顔だけ柱から出して向こうの様子を伺った。
見えるのは姉妹だろうか、そっくりな顔をした3人の女の子に隣の彼女。そして男が1人。仲が良いのかいつもの笑顔を振りまきながら男の服を選んでいる。
ズキッ
あれ、何だろう。物凄く胸が痛い。何処か見えている光景が信じられなくて瞬きを繰り返すけれど2人は消えてはくれない。いつもは心が暖かくなる彼女の笑顔も今日はばかりは見れば見るほど心臓が、胸が軋む。
どういう関係なんだろう。
いや、考えるまでもない。放課後にこんな所で仲慎ましく買い物だなんてデート以外に何かあるのだろうか、あるのなら是非教えて欲しい。頭が正確に今起こっている事を理解しているのとはうらはらに何処かまだこれは夢なんだと何かに縋る女々しい自分がいる。
見てられなくて柱の後ろに隠れてしまう。本当に何をやっているんだ、彼女が何をしていようが誰と一緒にいようが俺には関係の無い話ではないか。中野さんは人気がある、彼氏がいたってなんら不思議ではない。
さっさとここから帰ってしまおう。そう、それがいい。こんな事忘れてしまって堕落した生活を送るんだ。
そう自分に言い聞かせて重い身体を引き摺り歩き出す。忘れろ、忘れるんだ。そうだこれから何をするか考えよう。気分を入れ替えて新しいゲームを買って帰るのも良いかもしれない。あぁ、そう言えばいつもやっているシリーズの続編が出てたんだ。それを買って帰ろう。
どうやって進めようか、何からやろうか。それを考えるだけでも楽しい。楽しい筈なのに。
「なんでいっつも頭ん中にお前がいんだよっ、くそったれ!」
周りにいた人がビクッとなって注目している事なんて些細な事で、どうしても声に出さずにはいられなかった。遠巻きに何かを言われている、いつもはこうして目立つ事を最も嫌っている筈なのに今はそんなことはどうだって良かった。気が付けば俺は走り出していた。自分でも訳が分からない、何故俺はこんな所で全力疾走をしているのか。もう何もかも訳が分からない、けど。
「…………」
「へっ?拓人くん?」
無我夢中で彼女の手を取った。絶対に離しはしないという意思を込めてギュッと力強く握る。あんなにバスケが上手いのに握り締めた手はしっかりと女の子の手で肌白く、そして柔らかい。
驚いてるよな?意味が分からないよな?
いっつもそうだ。俺がこんな意味分からない行動をするのはいつもお前のせいだ。俺は何事もない日常が欲しいだけなのにそれをいつもいつもお前が掻き乱して。けどそれを悪くないって思っている自分がいるのも事実で。
「……コイツ貰っていきますから」
「お、おう。どうぞ?」
「ちょ、ちょっと待ってくだ……ひゃっ!?」
よし。了承は得た。
勢いよく走り出す。後ろから何か言われているが耳に入ってこない。ただ早く彼処から離れたくて、けどしっかりと手は握って離さない。
人混みを掻き分けてひたすら走る。走って走って走って。俺は一体何をしているのだろうか。ただ自分の中の持て余した感情や気持ちが抑えられなくなって、気が付けば俺は走り出していた。
こんな気持ち俺は知らない、だからどうすればいいのか分からなくてこんなことになってしまった。
デパートから抜け出してやってきたのは人気のない公園。流石に走りっぱなしだったからかお互いに息が切れていて肩で息をしながら呼吸を整える。
その間もしっかりと彼女を視界に捉えてどこかに行ってしまわないか不安になる自分。息を荒くして顔を赤くし乱れた髪の毛を整える彼女はいつもの活発で天真爛漫なイメージとは違って何処か色気があり違う意味で心臓が跳ねた。たまらず直視出来なくなってそっぽを向いてしまう。
けどさっきみたいに苦しいものじゃなくていつも感じているもので何だかどっと疲れが出てきた。最近こうして自分の感情がよく分からなくなる事がある、この持て余した感情への向き合い方が分からない俺はいつもいつも彼女に振り回される。だから俺がこうして彼女を振り回すのは許されるはずだ、多分。
「えっと……拓人くん。いきなりどうしたんですか?」
息を整え終えた四葉さんはびっくりしましたよー、と笑いながらそう聞いてきた。呑気なものだ、こっちの心は散々掻き乱されているというのに。けど憎めないのは彼女の人なり故だろう。
「…………」
「拓人くん?」
不思議そうにそう聞いてくる。
いきなりどうしたか、ねぇ。
「……分かんねぇよ」
「えっ?」
「だから分かんねぇんだよ、分かる奴がいるのなら教えて欲しいぐらいだ」
俺だって分からない。何故こんな所に連れ出してしまったのか、どうして彼処にいる彼女を見ていると胸が締め付けられたのか。もう色々とキャパオーバーな俺には何一つ分からない。
それを聞いて四葉さんはただ困ったように笑っていて、次第に何が可笑しいのか腹を抱えて笑いだした。
「……おい」
「ふふふっ、ごめんなさい。何だか可笑しくって」
「……悪かったな可笑しくて」
「もうっ、拗ねないで下さいよー」
ふん、今更ご機嫌取ろうたって遅いんだよ。不貞腐れるようにそっぽを向く俺。ちょんちょん、と服のはしを引かれるのを感じなんだかそれいいなって思ってしまう。何だかこれじゃどっちが悪者か分からないじゃないか。
「けどそうですね、何だか私も嬉しかったです」
「えっ?今なんて」
「にししっ、2度目はないですよっー!」
そう言って笑いながら逃げる彼女を追い掛ける俺。何だかそんな無駄な事でも今はとても楽しくて。やっと追い付いて彼女の肩を捕らえた、そこでお互いに向かい合い何やってんだろって笑い合う。
不思議と胸のつっかえのようなものは取れていた。
「えいっ」
「……っておい」
ベンチに座っていると不意に俺の懐に入り込んでタックルしてきた物体を受け止める。だけど当の本人は俺の胸の辺りで嬉しそうにしていてそれを咎める気にはなれなくて代わりに1つ溜め息を付いた。それを許しを得たと捉えたのか俺の上に座りこれまた嬉しそうに微笑む彼女にこれも悪くないかと俺は腕を回す。
暫くお互いにボーッとしていたが不意に四葉の方から話し掛けてきた。
「何だか暖かいですね」
「まぁそりゃここまでくっ付いてるからな」
「いえ、そうじゃなくてこう……ぽかぽかしませんか?」
「……あぁ、めっちゃぽかぽかするわ」
「ですよねですよねっ!」
ふと思った。
こういうのが
「こういうのが幸せっていうんでしょうね」
「…………あぁそうだな」
心臓が跳ねた。
まさか同じ事を思っていたなんて。ただこの時間がとても幸せでずっと続けばいいのに。俺はそう思った。
「四葉……」
「っ!?はいっ」
「幸せだな」
「そうですね!」
それから俺達は時間が許すかぎりゆっくりとお互いに身を預けながら空でも眺めていた。
如月 拓人
本作の主人公。自分の気持ちには疎いモンスター童貞。いっちょ前に嫉妬して隣の席の気になる子を拉致に成功、やったね!イチャラブ出来たよ!後にやったことを省みて1人悶絶した。
中野 四葉
本作のヒロイン。なんか拉致されてラブラブした。後に姉妹にどこいってたんだと聞かれてやっと、やってた事を省みて必死に誤魔化した。尚2人はまだ恋人ではなく友達の模様。
上杉 風太郎
原作の主人公。ちょっぴりセリフがあった。初の四葉以外の原作出演おめでとう。
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