fgo/cosmos in the lostbelt 黙示録の銀星 (虚無の魔術師)
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設定

今回の話は設定です。そしてまたアンケートをしますが、ストーリーに関わる重要なものです。どうか皆様に答えていただきたい限りです。


シュヴァリオン・エレーゼ・クローリア

 

 

魔術回路・質 EX 、魔術回路・量 A +

 

 

元素:【無】【全】

 

起源:【複合】【接続】【??】

 

本作の主人公。彼の出生と魔術を恐れた魔術師たちに処刑されかけたが、彼の才能を見抜いた『宝石翁』キシュア・ゼルレッチ・シュバインオーグに拾われ、彼の孫となる。

 

後に時計塔では『魔神』と言われる程の技量を持つが、自身を『魔術使い』と称している為、卒業できずにいる。(他の世界線では別の理由があるのだが)

 

 

ロストベルトの世界線では、時計塔に来ていたオルガマリー・アニムスフィア前所長により、Aチームの一人となる。

 

クリプターになった後、その中でも一番に性格が変貌する。前と違い冷酷非情になり、大量殺戮も厭わない『魔術師』と切り替わった。

 

 

Aチームの全員とは話をすることが多く、特にオフェリアとペペロンチーノとは、友達と言われるほど仲が良い。

 

 

 

性格は、好き嫌いが無いような人物でどんな変人だろうと普通に接することがある。常識人でもあるが、一応魔術師なのでやはり問題を起こしたりもする。

ダーニックに教わったこともあるのか、観察眼が鋭く、大抵の人間を前にして、心理を読むことが上手い。

 

 

 

 

 

起源:【複合】

 

多くの魔術師が使う魔術を見たシュヴァリオンはそれらを研究し、交じらせることにより新たな魔術を作り出していった。それを続けた結果、このような起源にたどり着いたのかもしれない。

 

術式と他の術式を合わせることができるだけではなく、何度も重ねていき、強力なものへと変化させられる。

 

相手の行使した魔術を複合させ打ち消したり、絶大な効果を発揮させることも難しくない。

 

 

起源:【??】

 

不明。

 

 

魔術:物質粒子操作(マテリアル・ムーブ)

 

粒子に干渉し、それを自由自在に動かすことができる。変化、退化、融合、分離、再生、複写、結合などの効果を発揮することができ、粒子で出来ている物なら全てを思い通りに使える。

 

 

 

光粒子=白剣(ライトソル・クロー)

 

接続(リロード)”という単語をトリガーとして発動する戦闘型の魔術。

 

特別な手袋型の礼装を装着し、指先から青白いプラズマのブレードを発生させる。正確な構造は粒子と粒子との間に高密度のプラズマを出現させ、それを一時的に実体を持った刃として顕現させるもの。

 

 

『複合魔術=兵器礼装』

 

 

シュヴァリオンの最も使用する魔術。礼装を造る際に組み込む魔術であり、本来は合うはずのない効果を重ねることができるだけではなく、これを使用すれば礼装の性能を大幅に引き出すことが可能。

 

 

多くの兵器を礼装へと変えられ、範囲はナイフから衛星まで、もしくは全ての兵器。

 

 

 

 

 

 

 

クリプターとしての目的

 

不明。だが、彼は『槍』と呼ばれるものを造ろうといる。その為に大量殺戮を決行したり、多くのサーヴァントを召喚したりしている。

 

 

 

 

 

今はこれだけですが、話が進む度に書かれる事が増えていきます。間違えてると思った所は、どうかご指摘お願いします。




アンケート

ロストベルトのストーリーですが、このままだと何ヵ月かは、かかるのではと思ってしまったので、どうすればいいか皆様から意見を頂戴したいのです。


スキップするとありますが、その時だけです。日が空いた時には完成させて投稿します。


どうしても書きたいところがあるという我が儘なのですが、どうか聞き入れてほしいです。


それでは、皆様この小説をよろしくお願いします!


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Lostbelt No.2.5 悪逆神理世界 バイブル
プロローグ


マジかよ、思い付いたから書いてんのかよ。





やべぇーよな、失踪するだろ。


2017年12月31日カルデア審査会が来たその日、

 

 

 

「そういえば、Aチームの八人について話してなかったね」

 

 

魔神王ゲーティアによる人理焼却を止めた人類最後のマスターであった藤丸立香はカルデアの所長代理であるレオナルド・ダヴィンチの話を真剣に聞いていた。

 

 

『ランサー』のマスター、キリシュタリア・ウォーダイム

 

 

『セイバー』のマスター、オフェリア・ファムルソローネ

 

 

『キャスター』のマスター、カドック・ゼムルプス

 

 

『アーチャー』のマスター、スカンジナビア・ペペロンチーノ

 

 

『ライダー』のマスター、芥ヒナコ

 

 

『アサシン』のマスター、ベリル・ガット

 

 

『バーサーカー』のマスター、デイビッド・ゼム・ヴォイド

 

 

 

「………後は最後の一人だね」

 

 

 

フーッと深呼吸をすると、ダヴィンチは最後の一人の説明を始めた。

 

 

 

 

「シュヴァリオン・エレーゼ・クローリア。時計塔でも『魔神』と称された天才、『宝石翁』キシュア・ゼルレッチ・シュバインオーグの孫である魔術師の青年」

 

 

 

 

 

 

 

「彼の実力を気に入ったオルガマリー前所長にスカウトされて、Aチームに入ったのさ」

 

 

 

 

「彼女の見込んだ通り、彼の実力は凄まじかった。Aチームの中でも最強と謳われている」

 

 

 

「割と他の人とも良く話すし、Aチームの中では常識人と呼ばれてる。カルデア職員で彼のことを知らない者はいないだろう」

 

 

 

 

「私もよく話すことがありました。オフェリアさんもペペロンチーノさんとも友達だったみたいですし、皆さんもシュヴァリオンという名前から、シュンと呼んでました」

 

 

 

 

「彼の予定していたサーヴァントは複数ある。

 

 

 

 

 

 

 

『ルーラー』『アヴェンジャー』『アルターエゴ』。三体のサーヴァントを喚ぶつもりだったそうだ」

 

 

 

 

 

その数時間後、彼はカルデアは襲撃を受ける。

 

 

 

『異星の神』に従うAチームもとい、クリプターによる。

 

 

 

 

 

 

 

 

その後、カルデアは旧人類最後の砦として、『ロシア』、『北欧』の異聞帯(ロストベルト)を終わらせた。

 

 

 

次の異聞帯に向かおうと虚数空間を彷徨っていたシャドウ・ボーダーを、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

文字通り、不透明な刃が打ち込まれた。

 

 

 

「何だっ!?外部からの攻撃か!?」

 

 

突如、シャドウ・ボーダーを襲う揺れに現所長であるゴルドルフ・ムジークが焦りを見せる。

 

 

「先程の一撃が引っ掛かっている…………いや、故意的に引き寄せているのか。

 

 

 

 

 

ッ!?何だ、このパラメーターは!!」

 

 

機器が提示した事実に名探偵シャーロック・ホームズは戦慄した。そして、その事実を告げようとした直後、

 

 

 

 

 

 

 

彼等の意識は一瞬で喪失した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その世界は異常だった。

 

 

巨大な障壁により世界は二つへと分けられていた。

 

 

半分が輝かしい光で照らされ、半分が漆黒の闇に染まっていた。

 

 

その二つの障壁の間にある空に浮かぶ巨大な神殿。

 

 

 

 

 

その神殿の最奥に、彼はいた。

 

 

銀色と白色の混じった長髪を揺らし、彼、シュヴァリオンもとい、シュンは大地を見下ろしていた。

 

 

 

「どいつもこいつも、くだらない」

 

 

 

彼は足元にあるガラス、その下にあるものに目を向ける。

 

 

そこにあるのは、巨大な機械のようなもの。

 

 

複数のワイヤーに吊るされた人型の機械が何十、何百、何千もあった。

 

 

 

「人理、空想、生存競争、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その程度のこと(・・・・・・・)で喚いてる時点で貴様らは負けてるんだよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Lostbelt No.2.5 悪逆神理世界 バイブル

 

 

 

A.D.10000 異聞深度:EX

 

 

 

『───の槍』




ここに出てくるサーヴァント、一体でも当てる人いたら驚きすぎて腰抜かすわ。


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第一節 黒き世界


少しずつ投稿していくので、気長に、読んでくれると嬉しいです!


 

 

「───────先輩!」

 

 

その声と共に藤丸立香の意識は覚醒した。目の前には見知った盾の少女が不安そうな顔から嬉しそうな顔をする。

 

 

「…………マシュ」

 

 

少女の名前を呟き、ズキンと痛む背中を擦りながら、起き上がる。その痛みを感じていた時に、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

何があったかを思い出した。

 

 

 

「マシュ、皆は!?」

 

 

掴みかかる勢いで問いかけるが、マシュは何も答えずにいた。不安に駆られる立香に彼女は意を決して事実を告げた。

 

 

 

 

「私たちはシャドウボーダーと離れてしまいました。通信も繋がりませんでした」

 

 

 

頭の中が真っ白になりかける。だが、マシュに心配させる訳にはいかないと感じた。彼女も不安なんだ、そう理解するとゆっくりと地面に腰を掛ける。

 

 

 

 

「で、アンタらはどうすんのさ?」

 

 

「そうだよなぁ、どうする─────」

 

 

様子を伺うような声に立香はうーん、と頭を捻る。だが、すぐに違和感を感じた。

 

 

 

あれ?何かおかしいと頷いていた立香はそう思った。人数を確認してみよう、自分とマシュ、そしてもう一人で三人…………………

 

 

 

 

 

 

「なんかいるぅ!?」

 

 

「おいコラ!助けた恩人に対してそんな事言うのかよ!?」

 

 

いつの間にかもう一人は憤慨しながら、立香の襟首を掴み上げる。ぐぇ、と呻きジタバタと暴れるが、怒っているせいで放そうとしない。

 

 

慌てたマシュの説得により、出はパッと放され立香は尻餅をついた。

 

 

 

「すまん、ちょっと血が上った」

 

 

咳き込みながら見上げてみると、その人物の姿を確認できた。

 

 

 

少し長い黒髪に白いメッシュの入った髪型のマフラーを着た青年。

 

 

そして、立香はマシュから詳しい話を聞いた。

 

 

シャドウボーダーから放り出された自分達はそのまま意識を失っていたことを。

 

 

そして、倒れていた自分達を目の前の青年が助けてくれたこと。

 

 

「さっきはごめん。後、助けてくれてありがとう」

 

 

「礼をする必要は無いぜ。赤の他人とはいえ、見捨てるなんて真似は出来ないからな」

 

 

立香の謝罪と礼に青年は気にするな、と笑いかける。

 

 

 

 

「取り敢えず、ここから移動しよう。俺の住んでる場所があるからな」

 

 

二人にそう言うと、青年は歩き出した。だが、ピタリと歩みを止めると、頭を掻きながら振り返る。

 

 

 

「そう言えば、名前まだだったよな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

俺はリント。よろしくな!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

互いに自己紹介を済ませて歩き出してから、どれくらいの時間が経っただろうか。

 

 

 

 

立香は自分達の先を歩くリントに問いかけた。

 

 

「なぁ、リント。何でこんなに空は黒いんだ?」

 

 

 

空を見上げてみると、綺麗な青白い色ではなく比喩抜きの真っ黒だった。夜空にしては光が一つもない、あるのは周りを照らす薄暗い黒色の太陽だった。

 

 

「………?なに言ってんだ。この世界はいつもこんな色だぞ?」

 

 

 

マシュと立香は互いに顔を見合ったが、すぐに納得した。今までもこういう状況だったのなら、これが普通と思うのも当然だろう。そう思っていた立香は足を止めた。

 

 

 

 

 

「………………世界?」

 

 

まるで他にも世界があるのを知ってるような言い方だったのだ。その呟きにマシュもハッと目を見開く。

 

 

 

「当然だろ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

昔の大戦で世界は二つに分けられたんだからな」

 

 

「………………は?」

 

 

立香とマシュは完全に言葉を詰まらせた。世界が分けられた、その言葉のスケールが今までとは比にならなかったからだ。

 

 

だが、目の前の青年は続けた。忌々しそうに顔を歪め静かに怒りを露にしながら。

 

 

 

 

 

「俺達の今いるこの世界は、『黒の世界』。神々とぶつかり合った闇の勢力である『悪魔』『堕天使』『吸血鬼』『魔獣』が支配する世界さ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

今、立香達がいる場所から遠く離れた山奥に巨大な城が建っていた。

 

 

その城の内部にて、一つの部屋の真ん中に机が置かれていた。

 

 

 

 

 

人が使うには大きすぎる机を囲むように五人が座っている。

 

 

「今日、お前たちを呼んだのには理由がある」

 

 

その内の一人であるクリプターの青年、シュヴァリオンもといシュンは他の四人へと告げる。

 

 

 

 

 

 

 

「魔術師よ、我も暇ではない。早急に済ませよ」

 

 

十の黒い翼を持つ黒髪の男が高慢な態度を見せる。

 

 

 

「余の統括地区には変化は無い、順調であるぞ」

 

 

片手に持つ槍を地面に突き、白髪と白髭が特徴的な男性は機嫌が良さそうに頬杖をつく。

 

 

「私の所もOKよ?お姉さんも頑張ったからね☆」

 

 

豊満な裸体を見せつけるように隠すところが少ない露出の凄い金髪の女性はシュンにウィンクを飛ばす。(それに対してシュンは叩き落とすように手を払ったが)

 

 

 

「君には感謝しなくちゃね、お陰で母さんも落ち着いていられるからさ」

 

 

女性にも男性にも見える容姿をした緑色の人物はニコルと笑みを見せる。

 

 

 

「順調のようで何より、期待していて良かった。

 

 

 

 

 

 

堕天王ルシファー、ドラキュラ公爵、魔王代理リリス、魔獣の女神の使いキングゥ」

 

 

 

シュンの言葉に四人は満足そうに頷いてみせる。シュンはその様子を見ると、自身の雰囲気を変えた。

 

 

 

 

「さて本題だが、カルデアの奴らがこの異聞帯の何処かにいる」

 

 

 

その言葉に四人は様々な反応をする。一人はふんっと鼻をならし、一人は頬杖をかきながら考え込み、一人はへぇと興味津々な様子になり、一人はキッと目つきを鋭くする。

 

 

 

「情報によると戦えるサーヴァントは二人のみ、マスターも一人だけだ。だが、侮るなよ。

 

 

 

 

奴らは一度世界を救っているだけではない、他二つの異聞帯(ロストベルト)も終わらせている」

 

 

 

彼の言葉に四人は更に警戒を強める。その内の一人はカルデアへの警戒が人一倍強かった。

 

 

 

「自らの統括地区を警戒しろ。俺もすぐさま座標を特定する。その間に発見したら傷一つ付けずに捕まえろ。

 

 

 

 

 

 

いいか、傷一つもだぞ?」

 

 

 

ゾクリと四人を萎縮させるほどの威圧感を放ち、シュンは立ち上がりそのまま城の奥へと歩いていった。

 

 





はーい、新しいサーヴァント?が二人出ました!(敵側ですが)


Class アヴェンジャー 真名 ルシファー

宝具『不明』

Class キャスター 真名 リリス

宝具『不明』




次回もよろしくお願いします!


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第二節 世界の情勢



見てくれると嬉しーなー、感想や評価くれると嬉しーなー。




もしかしたら、モチベーションにもなるかもしれない………はずです。


 

 

 

「………世界のことについて説明が欲しい?」

 

 

はぁ?と不思議そうに眉をしかめるリントに立香とマシュは同時に首を縦に振った。

 

 

「いやー、よく分からないからさ」

 

 

「…………駄目でしょうか?」

 

 

頭を下げて頼み込む二人にリントは困ったように戸惑っていたが、分かったよと呟いた。

 

 

 

 

 

 

「歩きながら説明するぞ?…………今からおよそ2000年前、四つの種族が集まった闇の勢力と古きから存在する神々とその配下達が世界の覇権を求めて何百年も戦争をしていた」

 

 

「お互いが疲労して限界を迎えていた。その時、現れたんだ」

 

 

「…………何が」

 

 

「魔術師さ」

 

 

マシュの言葉を遮りながらも、ハッキリと告げた。魔術師という言葉にマシュと立香はすぐに分かった。

 

 

 

自分達の敵であるクリプターの仕業だと。

 

 

 

「その魔術師はさ、不思議な力を使ってたらしくて………二つの勢力に介入した魔術師はこう言ったのさ。

 

 

 

 

 

 

 

 

『なら、世界を二つに分けよう』とな」

 

 

 

リントはそう言うと別の方へと向き直った。彼の視線の先を見ると、

 

 

 

 

 

不透明な紫色の空を分断する壁があった。よく見てみると莫大な量の術式で構成され、今でもなお魔力が流れている。

 

 

 

「あれが数先年もの間、世界を分断し続けて、黒の世界と白の世界へと変えたのさ」

 

 

 

「壊そうとは、しなかったんですか?」

 

 

マシュが絞り出すように問いかけるが、彼は首を横に振った。

 

 

 

「多くの人が壊そうと奮闘したさ。まぁ、ヒビの一つも出来なかったけどな」

 

 

 

 

「………まぁ、この世界は四つへと分けられて『四魔王』によって統括されてんだよな」

 

 

 

「…………『四魔王』?」

 

 

聞き慣れない単語に更に二人は困惑した。その様子を理解したリントはうーんと呻くと考え込んだ。

 

 

 

 

「…………………」

 

 

深く考え込んで。

 

 

「………………ッ!!」

 

 

近くにいるその存在にすぐさま気付いた。目を開きながら絶句し、

 

 

「リント?」

 

 

不安を抱いた立香が声をかけ、マシュが心配そうな表情を浮かべていた。そして、二人は彼の目線の先を見ようとして、

 

 

 

 

 

 

 

 

「ッ、伏せろ!」

 

 

リントによって地面に押し倒された。別にそういう風な雰囲気の押し倒すではない、二人の背中を押したという意味だ。

 

 

何を、と抗議しようとする二人にリントは自身の見ていた方向を指差した。

 

 

 

 

 

 

 

 

何かがいた。

 

 

濃い紫色の鎧を身に纏った存在が。鎧を纏っただけなのに、本物の肉体のように筋肉質だった。更に鎧の隙間からは薄い瘴気が漏れだしている。

 

そして、頭部の方にはキザギザの口が開いたような兜があった。口の中の暗闇から二人の丸い光が蠢いていた。

 

 

 

カシャリッと音を立てながら、鎧は周りを見渡すと、後ろを向いて去っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「もういった、か」

 

 

フーッと深呼吸をするリントにマシュは静かに目を向ける。立香もマシュも同じことを言おうとするが、テレパシーでもあるのだろうか、彼は答え始めた。

 

 

「驚いたか?

 

 

 

 

 

 

 

あれがこの地区を支配する種族、『悪魔』だ」

 

 

立香はあれが?と目を疑った。かつて自分達が特異点であった悪魔とは違い、まだ優しそうに見えていた。

 

 

だが、戦い慣れているマシュには分かっていた。あの『悪魔』の恐ろしさが。僅かに盾を持つ腕が震えていたのを立香は目に入った。

 

 

 

「街の外であいつら『悪魔』に見つかるとただじゃすまない。優しくても、なぶり殺しは確定だな」

 

 

 

「奴らならまだしも、『大悪魔』に出会ったら………いや、止めとこう」

 

 

恐怖に怯えるようにリントの体は震えていた。その後すぐに、リントは自身の顔を叩くと腰を低くして屈んだ。

 

 

 

「………奴らに見つからないように慎重に動け、あと少しだから」

 

 

二人に聞こえる声で囁き、音を立てないようにヒッソリと移動を始めるリントに二人は素直に従った。

 

 

 

 

 

 

 

それから数十分も隠れながら移動していると、リントはようやく足を止めた。

 

 

 

 

 

 

「二人とも、着いたぞ」

 

 

目の前にあったのは大きさ何十メートルもの大きさの壁だった。奥に続いてるように見えなくもない。

 

 

 

リントはその壁に近づき、色と材質の違う所を何回も叩く。コンッコンッコンッと静かな音が周りに響き渡る。

 

 

 

 

ギィィィッ

 

 

その所がゆっくりと上へと動きだし、大きな通る道ができる。材質の違った壁は少しの間に入る場所へと変わった。

 

 

スッと歩き出す青年の後をついていくと、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「オーイ!皆さん、取れ立ての野菜が大サービスだよ!」

 

 

 

「さぁ、この綺麗な家具。お買い求めは今だけだよ!」

 

 

 

「やーい、悔しかったらかかってこいよー!」

 

 

 

目を奪われるような光景だった。老若男女が元気そうに笑っている、マシュは嬉しそうに感じた。

 

 

 

スッとリントが二人の腕を掴み、正面とは違う別の道を指す。チラリと正面の人々へと目を向けた。

 

 

 

 

「…………こっちだ」

 

 

僅かだったが、立香は彼の眼に計り知れない怒りを感じた。すぐさま消えた彼の感情に疑問を抱く。

 

 

進む度に騒がしかった喧騒の声が小さくなる。一通りもなくなり、誰にも会うことがなくなった。

 

 

 

一つの家がポツンと建っていた。普通と比べると少し大きいくらいの家が。

 

 

 

 

 

リントは懐から取り出した鉄の鍵を使い、家の扉を解錠した。そして、扉を盛大に開けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「ただいま、帰っ───」

 

 

「お兄様ーーーーーーーー!!」

 

 

扉を開けたその瞬間、小さな人影がリントの腹部へと猛突進した。グヘェ!?とリントの体がくの字に折れ曲がり、吹っ飛ばされた。

 

 

 

 

 

 

「「………………………え?」」

 

偶然、マシュと立香の呆けた声が重なった。二人とも何が起こったか、理解ができていなかったのだ。

 

 

一人の少女がいた。

 

 

抜け落ちた白色のロングヘアーの小さな少女だった。

 

 

少女はスタスタと駆けると、倒れた青年の体にダイブした。

 

 

「ゴフォ!?」

 

 

「お兄様、お兄様!聞いてください!そふぃーはちゃんと家事をますたーしました!ぱーふぇくとです!」

 

 

「…………分かった、分かったから。取り敢えず降りて、今お客さんがいるからさ!」

 

 

リントを吹き飛ばした原因の少女は目をキラキラと輝かせながら彼の体に股がった。リントはすぐさま興奮しきった少女を落ち着かせようと二人ことを紹介する。

 

 

 

少女は二人に目を向けると、すぐさまピンッとつま先立ちをする。そして、深く頭を下げた。

 

 

 

 

 

 

「失礼しました、お兄様のお客様。申し訳ありません…………です」

 

 

悲しそうにペコリと頭を下げて少女に二人は罪悪感すら抱いてしまう。いつの間にか起き上がったリントは、少女の頭を小突いた。

 

 

 

そして、少女の頭を優しくて撫でる。恍惚とした表情で顔を赤らめる少女に苦笑いを浮かべながら、口を開いた。

 

 

「紹介しよう、俺の妹ソフィー。俺よりも家事も得意で優秀な子だ」

 

 

なのです、と元に戻ったキチンとした少女 ソフィーは二人に向かってピシッと敬礼を向けた。

 



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第三節 悪魔襲来

めっちゃ遅れました、待ってくれていた皆様、申し訳ありませんでした!

カグラの小説に夢中でこの小説に手がついてませんでした。


………三ヶ月以上、投稿してませんでしたが、これからもちゃんと投稿していくんでよろしくお願いします。


「───つまり、君たちはこの世界の支配者たちと戦うつもりなのか」

 

 

立夏たちの目的───クリプターのシュンを倒し、空想樹を切除することをリントへと説明した。それを聞いたリントは少し悩み、重い口を開いた。

 

 

「ハッキリ言うと……………無謀だね。相手は普通じゃない、四魔王の奴等も、伝説の魔術師も。みすみす死にに行くもんだぞ?」

 

 

彼の話を立夏とマシュは黙って聞いていた。彼は二人が嫌いだからそんなことを言っている訳ではない、心配なんだろう。会ったばかりの人がこれからどんな苦難に合うのかと。

 

 

それでも諦めるわけにはいかない、そんな目を見せる二人にリントは、はぁーっと息を吐くと、ボサボサと髪を掻いた。

 

 

「……この世界では解放軍が存在している。そこには悪魔や堕天使を簡単に倒す人がいると噂されてるんだ」

 

 

強力と言われる悪魔などを倒せる存在、彼らの知る中で一つだった。サーヴァントだ、間違いない。

 

光明を得た。そのように喜ぶ二人に「待って」とリントが声を張る。その顔はいつになく真剣で強い感情が籠っていた。

 

 

「奴等が、四魔王がそれらを見逃すのは何でだと思う?………あいつらは百年に一回、解放軍を作らせて特別な日に大虐殺するのさ、解放軍は壊滅させずに構成員の多くをね」

 

 

「………どうして、そんなことを」

 

 

「圧倒的な力を見たら、人間は最早抗おうとはしなくなる、支配体制を受け入れるんだ。それに四魔王に与する奴等はどんなことも許されてる………正に一石二鳥なんだよ」

 

 

リントは不愉快そうに吐き捨てる。彼もこの世界の体制に不満を抱いてるのだろう、と立夏は考える。

 

 

「もし協力者が必要なら、解放軍に会えばいい。俺も手伝うよ、少し前に勧誘されたからね」

 

 

「え、でも……………ソフィーさんは」

 

 

「あいつも連れてく。俺の最後の家族だから、こんな所にも置いていけない」

 

 

当たり前だ、と鼻を慣らすリント。彼にとっての最後の家族、その二人をいずれこの世界ごと消すことになると考えると、胸が締め付けられる。

 

だが、気になった立夏がリントに声をかけた。

 

 

「…………リント、あの」

 

 

「何だ?まだ聞きたいことでもあるのかよ」

 

 

「さっきから部屋の中に『蝿』がいるんだけど……虫除けとかなかったりする?」

 

 

立夏はそう言って周囲を見た。何処から入ったのか、一匹の小さな『蝿』が宙を飛んでいた。

 

 

 

「………………『蝿』、だって?」

 

 

だが、それを聞いたリントだけは反応が違った。声を震えさせ、オウム返しのように聞いてくる。その反応は遠くでこちらに近づく肉食獣を見てしまったようなものだった。

 

 

立夏が答える前に『蝿』がリントの前を過る。直後、彼はなりふり構わず、壁に掛けてある散弾銃を掴み、乱射し始めた。

 

 

何を、と立夏とマシュが叫ぶ直前にリントは銃を撃つのを止める。『蝿』はもういない、銃弾に当たったのか、逃げたのか、誰にも分からないがそれらを無視してリントは動いた。

 

 

「───立夏、マシュ。ソフィーを呼んでくれ、今すぐここから抜け出す!」

 

 

「な、………待てよ、リント。一体何が……」

 

 

「悪魔だよ!四勢力の一つ、あいつらにバレてたんだ!…………不味いぞ、早く逃げないと!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

森の中を四人が走っている。その四人の正体は立夏とマシュ、そしてバックを背負い、散弾銃を握るリントと立夏に背負われたソフィーだった。

 

 

 

「……ここから少し走れば、巨大な滝が道を塞いでる。その崖の近くにあるのは、解放軍の拠点に通じる道………前に勧誘を受けて良かった!」

 

 

安堵するリントだが、現状は変わらない。

気配は感じられないが、逃げなければならない。すぐでも追っ手が来るかもしれないから。

 

 

「先輩、ここは別れましょう。リントさんとソフィーさんまで巻き込む訳には──」

 

 

「ふざけんな、今更別れたって意味ないさ!奴等にとっちゃ俺たちは奴隷だよ、何をされるかなんて考えるまでも───」

 

 

「そうかな、私は彼らの中では理性的だと自覚しているのだが」

 

 

焦るリントの怒鳴り声を遮った冷静な声に動きが止まった。ブブブブブと羽音が重なり、彼らの鼓膜を叩いた。

 

 

虫が、蝿が集まり、動き始めた。まるで意思を持ったかのように集合した蝿の群れから人影が歩き出してきた。

 

 

灰色のオールバックに、大人しそうな眼鏡、黒いタキシードを着た男性。男性は此方を見ると紳士的と捉えられる礼をする。「はじめまして、カルデアの魔術師。そして『何ものでもない少女』よ」と丁寧に告げ、その男は立夏たちの前に立つ。

 

 

そして胸元にそっと手を添えて、自らの名前を名乗った。

 

 

「私は大悪魔、公爵ベルゼブブ。貴方たちを無傷で連れてこい、と言われててね………………大人しく来てくれるかな?」

 

 

蝿の王である悪魔と同じ名の男性は笑みを浮かべ、会釈した。やはり紳士的、此方を敬うような態度に呆気を取られたが、

 

 

 

「────情けは期待するなよ」

 

 

呆然とする立夏の肩が硬い何かで軽く殴られる。振り向くと隣にはリントがいた。先程肩を小突いたのは彼が持つ散弾銃だろう。

 

 

「奴は悪魔勢力の首領、悪魔王サタンの右腕だ。そして、解放軍虐殺の主導者の一人…………今まで沢山の人々を皆殺しにしてきた最悪の野郎だ!」

 

 

解放軍虐殺、それを平然と行った存在の一人を前に立夏とマシュが強く警戒する。何より、リントの言葉を理解し、強い怒りを感じていたのだ。

 

 

 

 

「むぅ、抵抗する気かな。…………それに解放軍と言ったか。確かに、解放軍の者らに接触されるのも困る。しかし、『あの方』は傷を付けるなと言ってしなぁ」

 

 

どうするかと悩んでいるが、注意を怠ってはいけない。あの男は虐殺をした事に対して反応するどころか、顔色すら変えなかった。

 

 

───大量殺戮に抵抗を感じることも、そもそも殺すことに躊躇はないから。

 

 

だからこそ、ベルゼブブと名乗った悪魔は平然と次の言葉を口にできたのだろう。

 

 

 

「よし、痛めつけるとしよう。腕と脚の骨を粉々にすれば動けなくなる、後で治せば『あの方』も文句は言わないだろう………傷もなく生きているのだからね」

 

 

悪魔、そう称されても可笑しくない………悪魔そのものである男性は薄く笑った。その笑みが不気味で全員が戦慄する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

天空の神殿。

 

 

クリプター シュヴァリオン、シュンは自身の城の中の玉座に君臨し、手元の盤面を見下ろしていた。

 

 

「……予定通り、盤上が進むものだな」

 

 

チェスのような盤に一つの駒を置く。只し、その盤上は一人でゲームをするには些か広すぎる。数十個の駒へと視線を向け、シュンは溜め息を吐くと、

 

 

「エイワス」

 

 

『はい、何でしょうか。マスター』

 

 

呼び掛けに凛とした女性の声が答えた。直後、彼の目の前にホログラムの画面が展開させる。

 

一応説明しておくが、それは科学の物でもあり、魔術のものでもある。

 

 

「確か、吸血鬼の王と魔獣の女神とその使いは、カルデアと接触していたよな?」

 

 

『検索中………………解答。はい、その通りです。吸血鬼の王はカルデアのサーヴァントとして、魔獣の女神とその使いは特異点にて敵として接触しています』

 

 

そうか、と話を聞き、深く考え込んだ。彼はスッと宙に手を掲げ、沢山の白い画面を移動させる。

 

 

「………カルデアのマスター、藤丸立夏の強み。それは人、サーヴァントとの信頼だ。かつていた魔神王もそれを前に人理焼却は失敗した。

 

 

 

 

そして、カドックとオフェリアも、その問題を無視した。だからこそ敗北したと言っても過言ではない、か」

 

 

僅かな可能性。それこそが最も恐れるべきものだと理解している。例え、どんなに完璧な作戦や強者でも、その可能性に打ち負けることが少なくないのだから。

 

 

──だから、シュンは考慮した。吸血鬼の王と魔獣の女神との出会いで、新たなサーヴァントが召喚され、彼らに力を貸すことを。

 

 

「………………………やっぱり消しとくか」

 

 

今後の夕食を決めるかのような気分でそう告げる。カルデアを追い込んでいく為に、彼は自身に従う勢力の半分、吸血鬼と魔獣を削ることにした。




悪魔勢力のベルゼブブさんのご登場。意外と常識人かと思えば、まさかのマジもんの悪魔です。


追加ですが、彼のクラスはバーサーカーでございます。


そして、シュンの今後やることですが…………皆様の想像通りです。あの人仮にも魔術師ですから、邪魔になるなら容赦なく切り捨てます。


さて、今後の予定をアンケートに出させてもらいます。それでは!



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第四節 救援

前回のアンケートの結果、

んなことより続き出せよオラ、が多数でマジかと思いながら、作りました。


タイトルでどうなるかは察しが付いてしまうこの不思議さ………………何でやろ?(すっとぼけ)


ベルゼブブ。

 

蝿の王と呼ばれ、新約聖書でも登場する有名な悪魔の一体。

 

だが、その悪魔にはもう一つの───本来の一面があった。

 

 

 

 

 

 

「では、羽目を外して頑張るとしよう」

 

 

タキシードを整え、首を回すベルゼブブ。彼は即座に次の行動をとった。目に捉えられない速度で跳躍したベルゼブブは脚を上げ、そのまま地面に降り下ろす。

 

 

 

 

 

直後、脚が地面に大きな亀裂を入れ、粉々に粉砕する。あまりにも衝撃的な出来事にリントとソフィーはおろか、立夏とマシュも絶句していた。

 

 

「………駄目だ、大幅に調整ミスりましたね。コレ」

 

 

グチャグチャ、ミンチ肉となった脚を持ち上げ、顔色すら変えないベルゼブブが気軽げに舌打ちをする。

立夏たちが絶句する中、ベルゼブブの脚に何処から現れたのか沢山の蝿が集まっていく。

 

 

数秒も経たずに、彼の脚が振り上げる前に戻っていた。それを理解したのか、何度も脚を振るい、フンッと満足げに鼻を鳴らし─────立夏たちを見た。

 

 

「オーケー、オーケー、オーケー…………大体ですが、力加減は分かりましたよ。コレぐらいがいいですよね」

 

 

綺麗に戻った脚を見せつけて、自慢気な顔………俗に言うどや顔を浮かべるベルゼブブ。驚く彼らを見て、笑いながら服の埃を払い、一瞬で近づいた。

 

 

 

 

「……私は悪魔です、この程度で終わると思うのですかな?」

 

 

クツクツと嗤うベルゼブブが盾に蹴りを叩き込む。ミシっ!とマシュの腕から骨が軋むような音がする。苦痛に顔を歪めるマシュ。ベルゼブブは微笑みながら更に蹴りを入れようとして、

 

 

 

 

ベルゼブブの目の前で爆発が起こった。いや、正確に言うと顔に弾丸が炸裂した。

 

 

受け身を取ることも出来ずに、顔を吹き飛ばされたベルゼブブはそのまま地面に転がった。

 

 

「大丈夫か!?」

 

 

ガシャッ! と散弾銃に弾を詰め込んだリントが声をかける。本来は一般人である彼にも戦わせる訳にはいかないが、協力してくれるのならありがたい。

 

ずれた骨に痛みを感じながら、マシュは盾を構える。

 

 

「平気……です。それよりも、ベルゼブブさんは」

 

 

「………………ふ、は」

 

 

ピタリと硬直してしまう。それほどまでに恐ろしいと感じてしまうほど、無邪気な笑いだったから。

 

 

何より、顔を吹き飛ばした筈なのに、何故笑えるのだ? という疑問が出た瞬間、起き上がったベルゼブブは哄笑を上げる。

 

 

「ふははは、ふっははははははははは!!」

 

 

間違いなく顔に直撃しただろ、そんなリントの言葉が出ることがなかった。そう、確かに顔には当たった。その事実は正しい。間違ってなどいない。

 

 

だが、効いたかどうかと言われると現状を見れば、答える必要はなかった。

 

 

散弾をもろに受けたベルゼブブは笑いながら無傷な顔を向けた。

 

 

「へぇ、中々の連携ですねぇ。ですが、しかし!

 

 

 

 

 

貴方たちだけでは、私は殺せませんよ?」

 

 

ボゴ、ボゴボゴボゴ!!とベルゼブブが上げた片腕が気持ち悪いくらいに膨れ上がる。だが、それも一瞬のこと。

 

 

膨らんだ腕はすぐさま縮むと砲弾のような勢い放たれ、でマシュとリント────────二人の間を通り過ぎた。

 

 

「「な!?」」

 

 

何を、と驚愕した二人はすぐにベルゼブブの意図に気付く。前に出ていた二人、その後ろにいた立夏と彼が庇っていたソフィーへと腕が迫る。

 

 

間に合わない、走り出した二人はすぐに音を耳にした。

 

 

 

 

 

 

 

ザンッ!! という音を。

 

 

何が起こったか、現実的に受け止めるのは難しいが、口頭で説明するのは簡単だろう。

 

 

立夏の前に現れたのは、両目を閉じた一人の男。

 

 

立夏とソフィーの前に出たその男は身の丈以上の槍を振るい、その槍の矛先がベルゼブブの腕から先を切ったのだ。

 

 

そして、今に至る。断面から血の飛沫を上げ、手が男の足元に………ボトリと落ちた。

 

 

呆然とその出来事を目の前にしたベルゼブブはポカンとした顔で切られた腕を見る。

 

 

「あ?…………ぎ、ぎぃぃいあぁぁぁぁああああああああァァァ!!?」

 

 

先程までの余裕そうな態度は完全に消えた、切断された腕の断面を片手で押さえ、苦痛に耐えきれないと言わんばかりの絶叫を響かせた。

 

 

 

男は溜め息を吐くと、足元に落ちたベルゼブブの手を槍で刺した。貫かれた手はシューッと煙を上げ、完全に消失する。

 

 

「隙をつくる、着いてこれるか?」

 

 

「あ、あぁ」

 

 

槍使いの男は立夏たちに向かってそう言うと、ゆっくりと前に歩き出した。血の付いた槍を軽々と払い、悪魔ベルゼブブへと近付いていく。

 

 

 

「ッ!悪魔ども、何をしている!?ソイツを殺せ!!」

 

 

後方に後退りしたベルゼブブがそう怒鳴った。訝しむ立夏だったが、何も反応がなかった木々から僅かな音が聞こえた。隙間から見えた悪魔が戸惑った視線を向けてるのを見ずに、ベルゼブブは更に叫ぶ。

 

 

 

「ソイツは解放軍、サーヴァントだ!命令を解除、次の命令を下す!解放軍のサーヴァントを───」

 

 

殺せ、と叫ぶ声は続かない。木々に隠れていた鎧のような悪魔たちが動き出すと同時に、空から飛来した無数の矢に撃ち抜かれたから。

 

 

すぐさま異変に感づき、上空を見るベルゼブブ。しかし、早く気付いた所で手遅れである。

 

 

「────ハァッ!」

 

 

崖から駆け降りる馬に跨がった少女。明らかに只者ではない少女は弓から複数の矢を何発も放つ。それらは的確に悪魔たちへと当たり、その命を奪っていく。

 

 

「悪魔たちよ!あの弓兵は捨て置いて、あの槍使いと人間を…………………なに?」

 

 

命令を下そうとした手を止める。悪魔たちの抗議の視線が集まるが、ベルゼブブはただ静かに直立していた。

 

 

その矢の一部が手負いのベルゼブブに迫る。だが、彼の対処は速かった。怪我をしてない方の片手で近くの悪魔を掴み、盾のように扱い飛来した矢を防いだ。

 

 

 

───彼等が体制を立て直した時には、藤丸立夏と解放軍のサーヴァントは既に消えていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「あの槍使い……………噂で聞いていましたが、まさかここで会うとは」

 

 

切断された腕を撫で、落ち着きを取り戻したベルゼブブは周囲を見渡す。配置していた悪魔は二十、生き残った数は五、六体のみ。

 

 

 

 

「それにしても、何のつもりなんですか。魔術師殿」

 

 

ベルゼブブは先程頭の中に響いた声──クリプター シュヴァリオンによる念話に動きを止めた。それを聞いたからこそ、彼は追撃の手を止めたのだ。

 

だが、納得できない。そんな顔でベルゼブブはその念話の内容を思い出す。

 

 

 

『今は解放軍に手を出すな。お前には他の仕事がある』

 

 

 

「…………あの槍使いが健在なら、好きで手は出しません。私では勝てませんよ、『本来の私』なら確実に無理ですから」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ここまで来れば……………追ってきてないようだ」

 

 

槍を肩に担いだ男はやはり目を開けずにそう確認する。弓を持った少女も馬から降りて男の言葉に頷いた。

 

 

 

「あの、貴方たちは」

 

 

「あぁ、挨拶が遅れたが、私は解放軍所属のライダーだ。真名は「おっとそれは後にしよう、ライダー」………そうだな」

 

 

自己紹介をしようとする少女、ライダーを槍を持った男が制止する。立夏は彼が真名を教えるのを止めたことに気付く。

それを知ってか知らずか、男は此方に向き直ると深く頭を下げた。

 

 

「私は解放軍所属のランサー。真名は訳あって言えないが、そこは許してほしい」

 

 

カツン、と槍で地面を叩くランサー。彼はそう言うと、スッと身体を別の方に向けた。

 

散弾銃を手にするリント、そしてキョロキョロと周りを見渡すソフィー。伏せられた両目はその二人を見ているようだった。それに気付いたように、マシュは彼に頼み込んだ。

 

 

「…………あの、私たちは大丈夫ですが、リントさんとソフィーさんを」

 

 

「安心してほしい、彼らは保護するつもりだ。だが、それは君たちも同じだよ、カルデアの藤丸立夏にマシュ・キリエライト」

 

 

今度こそ、立夏とマシュは驚愕する。ランサーの口から出てきた言葉─────彼らのフルネームなどではない。『カルデア』、確かにそう言ったのだ。

 

 

「すまないが、着いてきてはくれないか。ここで話すのも吝かだ。それに、君たちに会いたがってある方々がいるからね」




ベルゼブブさんの拍子抜けだなぁ、と思った人怒らないから出てきなさい。(自分もですが)


解放軍のサーヴァントについてですが、ライダーさんはとあるfateの作品に出てきてるので皆さんも知ってる人はいると思います。


ランサーは…………真名も宝具も別の意味で有名な人ですね。ネタバレにもなるので、ここからは控えさせてもらいます。



ついでですが、感想と評価もお願いします。


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第五節 解放軍 前編

何とか話を書くことが出来ました。無理矢理感や可笑しい所があっても優しく指摘してください。


心が硝子以下の耐久価なので………(←弱い)


ベルゼブブから逃げたカルデアはそれを助長してくれた解放軍のサーヴァント、ランサーとライダーに言われ、彼らの拠点に向かっていた。

 

そして、リントの話に聞いた大きな滝へと辿り着いた。

 

 

「さて………………ようこそ、我ら解放軍の本拠地へ」

 

 

大きな滝の裏にある巨大な穴を通ったランサーがそう言って先を見るように促す。互いを見合うが、それでも状況が変わる訳もないので、奥へと進んだ。

 

 

 

目の前にあったのは、巨大な要塞だった。

周囲に四つの塔がそびえ立ち、その塔の横に巨大な壁が展開された、中世の城のように思えてくるほどの凄みがあった。

 

 

「…………あっ、ランサー様にライダー様!お帰りなさいませ!」

 

 

「今回の仕事は終わりだ、門を開けてくれ。あと客人を連れてきたと総長に伝えてほしい」

 

 

ハッ!と男が敬礼した数秒後、地鳴りのような轟音が響き渡る。壁に何かが流れると同時に、上下に開いて大きな扉へと変化した。

 

 

「これは、魔術?」

 

 

「そうですね…………ですが、これは錬金「さぁ、ボサッとせずに入ってくれ。君たちに会いたがっている方々がいると言っただろう」は、はい!」

 

 

壁に起こった変化について話し合っていた二人の背中をランサーが押す。軽めに頭を下げてすぐさま要塞の中に入っていく。

 

 

 

そこは活気が溢れていた。

整備された広場で沢山の人々が武器を持ち、訓練をしている。他にも銃や盾などの武器が作られ、軍事的な印象があった。

 

 

しかし、生活している人々の顔は暗いものではなかった。それどころか明るい、立夏たちも何度か見てきた───共に戦ってきた者たちと同じような希望を持った顔だったのだ。

 

 

その途中だった。立夏とマシュはその人物を見て声が出なかった。

その人物は人混みに紛れながらも、此方に気付き近付いてくる。

 

そして、その人物は何も話せずにいる二人に声をかけた。

 

「先程連絡を聞いてまさかと思ったが………………やはり無事だったようだ。実に安心したさ」

 

 

「「ホームズ(ホームズさん)!!?」」

 

 

彼らの反応に微笑んでみせたのはサーヴァント、シャーロック・ホームズ。カルデアでも随一の頭脳(追加でもう一人いるが)を持っている名探偵。

その彼が解放軍の本拠地にいることに驚いていた立夏は一瞬安堵した。そして直後に気付く。

 

ホームズがここにいるということは、シャドウ・ボーダー、カルデアの皆もここにいるということになる。だが、この広い基地の中でも見知った顔は見えなかった。瞬時に不安になる立夏に、「安心したまえ」とホームズが言う。

 

 

「ダ・ヴィンチは解放軍のキャスター殿と共に破壊されたシャドウ・ボーダーの修復に取りかかっているよ。職員たちも無事さ、解放軍の総長が話が分かる人だったこともあるが……………」

 

 

 

そう話していた最中、後ろから何者かがホームズに声をかけた。西洋の鎧を着込んだ騎士、そう言える人物は何事かをホームズに話しかけ、それに応じたホームズも立夏とマシュに目配りをして数歩下がった。

 

 

 

 

一人の男性が立っていた。

老人のように色の抜けた白髪を下げ、全体的にくたびれた印象の男性。赤い十字が浮き出たローブをまとい、ゆっくりと立夏たちに歩み寄った。

 

 

 

「始めましてだな、汎人類史最後のマスターと英霊を身に宿していた少女よ。カルデアの者たちからは君たちの事はよく聞いていた」

 

 

その男性の言葉に立夏とマシュはホームズを見た。その二つの視線に困った顔を浮かべるホームズから、多くの事を説明したのだろうと推測できる。

 

 

その二人の様子を知ってか知らずか男性は二人に両手を差し出した。まるで握手を求めるかように、男性は薄く笑みを浮かべ言葉を紡いだ。

 

 

「私はセイバー、真名はジャック・ド・モレー。今は人々の為に解放軍のリーダーとして活動している者だ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

シュヴァリオン、シュンは光の画面を見て息を吐いた。こめかみに指を置き、画面の中に映る光景を睨む。

 

 

カルデアのマスター、藤丸立夏たちと解放軍のサーヴァントたちとの合流。

 

 

やはり自分の思い通りにいかない事に冷静に納得したシュンは隣にいる人物の声を耳にした。

 

 

「貴様の危惧していたカルデアが解放軍と接触したのか。運命とは上手くいかないものだろう、マスターよ」

 

 

ルシファー。

四魔王の一人である堕天使の王。極めて傲慢な彼はフッと鼻で笑い、シュンの様子を伺っている。

 

 

「無駄な事を話したな…………………本題だ、何の用があって我を呼び出した?つまらんことならただでは」

 

 

「魔獣勢力及び吸血鬼勢力の排除。それをルシファー、お前にやってほしい」

 

 

ルシファーの問いかけを遮り、宣言するように、シュンは言い切った。かつての協力者たちを皆殺しにしろと。それに対してルシファーは顔を歪める。

 

 

「……………少し早いな、お前の言う『槍』の為か?」

 

 

只し、嫌そうな顔ではなく、僅かに興味のある顔だったのだが。

 

 

「あぁ、カルデアの奴等も来たからこそ、『槍』の準備を急がせなければならない。その為に、カルデアに縁のある『魔獣』と『吸血鬼』は排除しておくべきだしな」

 

「ならば、さっさと済ませておくか」

 

 

それだけ言うとルシファーは外へと踵を返そうとする。「まぁ、待て」とシュンが呼び掛け、ルシファーの脚を止めた。

 

 

「吸血鬼はいいが、魔獣の女神はどうするつもりだ?奴はカルデアが修復した特異点では『人類悪』と化した事があるんだぞ」

 

「恐れるに足らん。神ならばと思ったが、人類を愛した獣風情に『我が本質』は越えられんだろう。

 

 

 

 

 

ついでだが、地上の人間どもはどうする?我が宝具でまとめて灰燼に変えるのも楽だと思うが……………」

 

 

「残してくれ。半分を『槍』に、他は今まで通りに使うさ」

 

「了解」

 

 

それだけ言うとルシファーの身体が光の粒子に飲まれた。転移した、そう確認したシュンは「エイワス」と声を発する。この神殿に確かにいる存在、『エイワス』が答える前に、彼は更に続けた。

 

 

 

「『神機兵』を動かす。調整はどれくらいかかる?」

 

『─────結論、今のところ起動できるのは四体、全部十五分で調整完了です』

 

「そうか、ならば十分で仕上げろ。俺は試作品を出す」

 

 

分かりました、と女性の声が答える。再び、開いている画面へと目を向ける。

 

 

写ったのはカルデアの二人、一人は一般人でありながら、多くの人やサーヴァントとの協力により世界を救った青年。

一人は見知った人物、人形のように感情が無かった少女。だが、今は違う。守るべき誰かの為に脆い肉体を行使している。

 

 

「……………………………さて」

 

 

深く溜め込むような息を吐いて、シュンは玉座から動いた。ゆっくりと立ち上がり、首の骨を鳴らす。

 

 

「行くとするか」




シュンさんが吸血鬼と魔獣を切り捨てる理由についてですが、接触されると危険だからです。

吸血鬼のサーヴァントはカルデアも何度か知り合っていますし、魔獣の方々もバビロニアで知り合ってますし、


縁により他のサーヴァントを召喚されたくないというシュンさんの考え方です。



そして、シュンさんの計画『槍』についてですが、これは彼の望みに近づくための手段です。このストーリーの鍵になるものなんですよね。

ついでに、プロローグの異聞帯の■を消しときました。


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第六節 解放軍 後編

感想と評価ください、お願いします。何でもしますから!





何でもするとは、言ってな(撲殺の刑及び銃殺の刑)


──自分は■■■■■■・■■■■■の子供だった。いや、その事実が正しいのかも分からなかった。

 

しかしそれだけで多くの魔術師や大人が畏怖と軽蔑の目を向けた。

 

 

幼い自分はそれに気づいていた。だからこそ、受け入れた。罵声を浴びせられても、なにも言わずに耐えた。

 

 

仕方ないじゃないか、そう生まれてきたのだから。顔も容姿も、声も知らない親の為にそれらを受け入れるのは、仕方ないじゃないか。

 

 

でも、少しだけ思うところがあった。ほんの一つの疑問だった。だが、それだけが何よりの疑問でもあるのだ。彼は魔術師たちにその疑問を投げ掛けた。

 

 

 

 

何故、世界はこんなにも歪に作られているのですか?

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

 

「――い。先輩……先輩!」

 

 

その声に立夏は目を覚ました。

少しずつ意識が覚醒する中、記憶が戻っていく。この異聞帯で住人のリントとソフィーと共に悪魔ベルゼブブの追っ手から逃げ、助けられた解放軍に着いていき、本拠地に着いたところまで思い出した。

 

 

(あれ?………………何の夢を見てたんだ?)

 

 

不思議な感じだった。前も何度かそういう事があった気がする。だが、あの夢だけは他のとは違った。内容を思い出そうにも、そこだけがポッカリと空洞になっている。

 

 

「夢見はどうだったのか?立夏くん」

 

 

そう言ったのは両目を伏せた男。ランサーと言われた男性は自身の武器である槍を消し、紅茶の入ったカップを立夏の前に差し出した。

 

 

目が見えない筈なのに、どうやってお茶を入れて渡したのか。心底疑問に思うが、それは咳払いによって遮られた。

 

 

咳払いをしたのはセイバー。解放軍のリーダーで、真名はジャック・ド・モレーと名乗っていた老けた雰囲気の男が立夏を見ていた。もういいかな、と意味を含んだ視線に素直に頷く。

 

 

周りを見ると机を前に座っている者が複数人いた。

 

 

一人はカルデアの名探偵ことホームズ。

 

 

一人はライダーと名乗っていた少しばかり褐色の少女。

 

 

そして、立夏のすぐ隣にマシュが、全員に紅茶を出したランサーが座ると少しの沈黙の果てにセイバーが動いた。

 

 

「────さて、人数不足もあるのだが、緊急会議といこうかな。皆の衆」

 

 

木製の巨大な机にある複数の資料をセイバーが提示する。その資料を目にした立夏に「カルデアのマスター」とセイバーが声をかける。

 

 

「我ら解放軍にいるサーヴァントは私とランサーとライダー、会議にはいないがキャスター、アサシンもいる。だが、それでも四勢力には勝てない」

 

 

「……………何が、言いたいんですか」

 

 

「君たちによる協力を求めたい、カルデア」

 

 

ハッキリと、そう告げたセイバー。彼から感じられたものに気圧されそうになった立夏は目を反らずにセイバーの様子を伺った。

 

 

「この世界は歪んでいる。一年で人類の半数は死に絶え、その事実を受け入れた残りの人類も悪辣な支配を許容してしまっている。

 

 

許せるものではないのだ、その体制が一万年続いた世界だからこそ」

 

 

そう言ったセイバーが苦々しい顔をする。そして腰掛けた椅子から立ち上がると、立夏の前に歩み寄り、深く頭を下げた。

 

 

「─────頼む、藤丸立夏。私たちと協力して、この世界の悪性を正して欲しい。そこで生きる人々にもう一つの未来を見せて欲しい」

 

 

そうだった。こんなことを許せないと憤る者たちもいたのだ。そう思うと立夏は再び覚悟を決めた。

 

隣にいるマシュとホームズに目を向け、セイバーに向き直った。

 

 

「………………はい、是非ともお願いします!

 

 

 

 

 

あと、頭を下げないでください」

 

 

セイバーの懇願に応えた立夏はそう追加するのには色々と理由があった。

 

自分よりも偉い英霊に頭を下げていてほしくないのもある。あるのだが、何より、

 

 

 

小さい、とても小さい範囲だが頭部の頂点が荒野のようになっているのを見ていられないのもある。(つまり言うと、このセイバーは頭のてっぺんが禿げ【規制】)

 

 

 

ありがとう、そしてすまないとセイバーが感謝と謝罪の意を丁寧な礼に見せた。そして、ゆっくり席に座り、コホンと咳き込んだ。

 

 

 

「本題といこう。四勢力に味方する魔術師、君たち曰くクリプターとやらはサーヴァントを召喚している。それも多くのだ」

 

「………なるほど、敵の事をよく知っていると思うのだが」

 

「そう聞くと思っていた。何故だと思う?」

 

「それはこの解放軍にいるサーヴァント全てが奴に召喚されたのかもしれないからだ」

 

 

セイバーの言葉に立夏とマシュは息を飲んだ。彼らは元々、シュヴァリオンのサーヴァントたちだったという事なのかと考えるが、セイバーの言い方に少し違和感を抱く。

 

 

「かもって…………自分でも分からないんですか?」

 

 

「あぁ、気づいた時にはこの世界にいた。何故呼ばれたのかも分かっていなかった………………彼、ランサーは違うが」

 

 

「…………どうやら、私を召喚した魔術師は私とのパスを一時期繋いだままにしていたらしい。稀に彼らの情報が入り込んでくる。その中で私は二つのことを聞いた。

 

 

 

 

 

カルデアをここに誘い込む、という話と『槍』という単語だった」

 

 

会議室にざわめきが走った。立夏も息を飲んで前に起こった出来事を思い出す。

虚数空間の中で自分たちがいたシャドウボーダーが何者かの攻撃により撃ち落とされ、この異聞帯に訪れた。

もしかしなくても、自分たちを攻撃したのはこの異聞帯を担当するクリプターだろう。

 

 

だが、次のことが分からなかった。『槍』と言われるそれが何を示しているのか。

 

 

 

「ともかく、現状の問題は堕天使勢力とクリプターだ。悪魔ならまだ対処はいける。だが、堕天使の王は我々だけでは勝てない」

 

「ほう?これだけの戦力があるというのに断言するとは、堕天使の王……いや、ルシファーかな?彼はそこまでの強さなのかい」

 

 

すぐ隣でライダーが「あの男、堕天使の王ってだけでルシファーって分かったのか?」と素直に驚いていたが、それがホームズの得意分野なので当然だろうなぁと納得してしまう。

 

 

それに答えたのはセイバーではなく、ランサー。

 

 

「奴はクリプターがこの世界で最も信頼を置いている………異聞帯の王と呼ばれる者だろう」

 

 

異聞帯の王。

立夏たちの脳裏に思い出させるのは、今までに戦った王たち。寒さが支配したロシアに君臨していたヤガたちの皇帝、イヴァン雷帝。そして、巨人と戦乙女の存在する北欧の女王、スカサハ=スカディ。

 

 

多分、堕天使の王ルシファーは彼らに並ぶ……いや、彼らを越える実力者だろう。そう考えてしまう。

 

そんな立夏の様子を知っていてか、「故に」とセイバーは吐き捨てる。資料を握り締めた拳を強く机に叩きつけ、更に自分たちの作戦を唱えた。

 

 

「我々は奇襲を仕掛ける。奴等が殲滅戦を開始する前に、動き出すクリプターと異聞帯の王を叩く。短期決戦だ」

 

 

『短期決戦?』

 

 

そんな声が立夏の耳に入った。突然だったので気のせいかと思ったが違った。部屋の中にいた全員が周りを見渡し、戸惑いを見せる。

 

 

その中で、マシュだけが立ち上がろうとせずに呆然としていたのに、全員が気づいてはいなかった。

 

 

『それならもう少し早くするべきだったんじゃないか?もう既に俺たちは動いているんだからな』

 

 

「シュン……………さん?」

 

 

震えた声を出すマシュを全員が見張った。シュン、確かその名前はある人物の愛称だったはず、と思った直後にようやく理解した。

 

 

マシュの呟きは、声に対してではない。ならそれは、一体何に向けたものなのか。

 

 

 

マシュの視線の先を見ると、誰かがいた。この部屋にいる者は立夏も確認した。だが、その人物だけは確認してない。

 

白と銀の混じる長髪をたなびかせた青年を、立夏は見た。

 

 

「これは、挨拶だ」

 

 

青年がそう告げる。一瞬の出来事だった。腕から伸ばされた手へと魔力が流れ、指先に留まる。そして魔力を散らすように指を鳴らす。

 

 

その動作を見逃す訳もなく、一般人以上のスピードでサーヴァントたちが動いた。

 

 

だが、その青年を倒す為にではない。周囲にいた人々を守る為だった。目の前の青年に対して、五感が警報を鳴らすのを知っての行動。

 

 

いち早く立夏とマシュを連れてホームズとランサーは窓へと走る。そして勢いよく窓から飛び出てすぐ、

 

 

ズッッッッドォォォォッッッ!!!と衝撃が彼らを叩いた。会議を行っていた部屋は空から降り注いだ熱線、それにより引き起こされた大爆発により消し飛んだ。

 

 

体勢を戻したランサーが空中にいた立夏とマシュを担ぐと地面へと移動して地面に下ろす。周囲を見れば何事かと戸惑った住人たちが立夏たちを見ていた。

 

 

だが、二人を助けたランサーはそんな人々の視線を無視して、槍を手に取った。その槍を鋭く構え、矛先を向けた。マシュも矛先を向けられた方を見て、顔色を失う。

 

 

「言っただろう、挨拶だと。そうムキになるなよ」

 

 

気さくな態度で周囲を睥睨している青年がそう声をかける。改めてよく見える容姿に立夏は記憶の中でとある人物に照らし合わせた。

 

 

シュヴァリオン・エレーゼ・クローリア。ロンドンの時計塔で最高峰と呼ばれた魔術師であるクリプターが、立夏たちと対面した。




ようやく、シュヴァリオンさんと原作主人公の対面。シュンさんはカルデアこと、原作主人公を警戒しているんで自分から攻撃しに来ました。



襲撃を仕掛けたシュヴァリオンさんはサーヴァント一体も連れてません。サーヴァントは、ね。


まあ、そんなことで次回もよろしくお願いします!


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第七節 シュヴァリオン襲来 前編

注意、あまりにもオリ主がハイスペックすぎるということが分かる話です。


魔術師はそんなんじゃない!!と思う方はブラウザバックを推奨します。


それでもいい、という方はどうぞ先をお読みください。







後、感想もくださ(殴)


「言っただろう、挨拶だと。そうムキになるなよ」

 

 

解放軍の本拠地を攻撃した下手人でありクリプターの一人、シュヴァリオン・エレーゼ・クローリア。蒼と黒、白の配色のコートを羽織い、ズボンのポケットに手を突っ込んだ状態でいた。

 

 

 

ニヤニヤと微笑んだまま、二つの瞳が立夏に向けられていた。どうするのか分からないと思っていたが、ふとその視線が立夏を守るように前に立ったマシュに向いた。

 

 

「久しぶりだな、マシュ。俺たちがいない間、随分と変わったみたいだが」

 

 

「…………そう、ですか?」

 

 

「あぁ、始めて会った時は全然感情を出そうとしなかった。ペペとオフェリアと一緒に元気出させてやろうと何度か遊んだことあった、覚えてるか?」

 

 

嬉しそうに話しかけてくるシュン。まるで敵であるかなど、忘れてしまいそうな優しさ。

 

これが、シュヴァリオン。

自分たちの敵である人なのか、何とか和解できるんじゃないのか?と立夏は思ってしまった。

 

 

「そう言うシュンさんは変わってなさそうですね。前と同じ」

 

「いや、俺は変わったさ───自分でも分かるくらいに」

 

しかし、それがただの幻想だったと理解する。

先ほどとはうって代わり、ゾッとするほど低い声がシュヴァリオンから発せられた。

 

立夏はよくは知らないが、魔術師とはこういうものだ。一般的な顔と魔術師としての側面を持って生きている、ならばシュヴァリオンは今、魔術師としての側面だということだ。

 

 

「さてと、藤丸立夏。ロシアと北欧の異聞帯、カドックとオフェリアはどうだった?手強かっただろう、苦戦しただろう。

 

 

 

 

だが、それはサーヴァントや異聞帯の者たちが相手だったからだろう?」

 

 

確かに、シュヴァリオンの言う通りだった。彼らが相手をしてきたのはクリプターのサーヴァント、異聞帯の王という格上の存在、そんな彼らは同じ人間と戦ったことはなかった。

 

 

「…………話を区切るようで済まないが、少しよろしいかな?」

 

そう言って立夏とマシュの前に入ったのは、名探偵ホームズ。彼は平然とした様子でシュヴァリオンに声をかけた。

 

 

「初めまして、ミスター・シュヴァリオン。私は世界最高の私立探偵シャーロック・ホームズ。いくつか質問をしていいかな?」

 

 

「答えられる範囲までなら構わないぞ、相応の代償は必要だが」

 

 

ホームズの問い掛けにシュヴァリオンは応じた。辺りを見渡してみると、セイバーたちが解放軍の兵たちを集めている最中だった。もうすぐでほぼ全員が集まるだろう。

 

それなのに、シュヴァリオンは顔色を変えずに立っていた。それほどの自信と余裕があるのか、と思う。

 

 

「君はこの異聞帯のクリプター、伝説とやらに記されていた神々と四勢力に干渉した魔術師で間違いないかな?」

 

 

「………伝説、あぁ、そうだった。言い忘れてたよ」

 

 

「この異聞帯を二つの世界へと分断したのも、四勢力に人間を奴隷のように支配させていたのも、定期的に解放軍の奴らを殲滅するようにしたのも、

 

 

 

全て俺だが、それが何か?」

 

 

ゾッ!と周囲から殺意が放たれた。

殺意を放ったのは武器を構える解放軍、そしてランサーとライダー、セイバーというサーヴァントたちだった。

 

この世界をこんな風に作った人物、それが目の前にいること。彼らにとっては奇跡とも言えるだろう。

 

 

「ふむ、なるほど。では、もう一つだけ聞かせて貰おう。君の計画している物、『槍』について詳しく聞かせてもらっても?」

 

 

「………………………………………………へぇ、聞くんだ。ソレ」

 

 

初めて、シュヴァリオンの笑みが変化した。

無邪気な笑み、だが悪意というものが多く含まれたもの。

この場の全員が気を引き閉めた、その直後。

 

 

ズ、ドォォォォンッ!!! と轟音が遠くから響く。後ろに振り返った立夏はそれが激しい戦闘によるモノだと思っていた。

 

「何が、起きているんだ!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

彼ら、カルデアは知らない。

いずれは知るかもしれないが、それは少し先のこと。

魔獣勢力の女神ティアマトが眠る神殿が崩壊し、そこで半数以上の魔獣が殺害されていた。

 

 

「つまらん、つまらんよ」

 

そう吐き捨てるのは堕天使の王ルシファー。アヴェンジャーのクラスを誇る復讐者。十二の羽は何処にもなく、フード付きのパーカーを着た服装でとある存在を踏んでいた。

 

 

「仮にも神だろう、神々を生み出した女神であろう。もう少し楽しめないのか?ん?」

 

 

「…………あ、ぁ」

 

 

ルシファーに踏まれているのは、女神ティアマト。魔獣勢力の頂点たるモノ、メソポタミア神話における創世の神は一人の堕天使によって倒れ伏していた。

 

 

「ふん、やはり棄てられた神。本体は大したことはないか、期待外れも良いところだ」

 

 

「その足を、どけろォォォォォォォォ!!」

 

 

多くの鎖がルシファーへと迫る。ティアマトの息子であるキングゥは吼えると同時にルシファーを殴り飛ばそうと近づく。

他にもティアマトに生み出された魔獣たちも一斉に飛びかかる。

 

 

「邪魔だ、傀儡どもめ」

 

 

嘆息したルシファーは空いていた片手を払う。それだけで、魔獣たちとキングゥの鎖は粒子となって消失した。

 

 

「これは………………固有結界か!?」

 

「半分正解だ、人形。我の宝具、『光をもたらす者(ルシフェル)』。我が天使であった時の権能、ヤハウェ(父上)が我に与えた神の力だ」

 

血の如く深紅に染まった空間がキングゥの目に入る。これがルシファー、堕天使の王。異聞帯の王。

 

恐らくルシファーは本気を出していない、まだ宝具を複数所持ているだろう。

 

 

「さあ、死ぬがいい。神に造られた兵器。反逆の遺志を知らず、ただ創造主に従うだけの駒」

 

遥かな高みからキングゥを見下ろし、堕天使の王は指差した。その指先がキングゥから上空へと移動する。

 

 

そして、夜空に星が光った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あそこは、確か魔獣勢力の領土の方………」

 

 

ランサーがポツリと呟く。

何がどうなったかは分からない、だが一つだけは言える。

 

 

間違いなく、あのクリプターが関係していることだ。そう認識し、前にたっていた魔術師を睨もうとした立夏は、再び振り返り──────絶句した。

 

 

「さて、代償についてだが………………、

 

 

 

 

 

 

 

解放軍の壊滅、所属してる人間どもの皆殺しってとこだ」

 

 

いつの間にか、シュヴァリオンのすぐ横にそれが沈黙していた。機械で出来た装甲、胸部から露出した球体状のコア、白いコーティングのされた無機質な顔の仮面。片腕が鋭利な爪で、もう片方の腕は巨大な砲筒のようになっていた。

 

シュンの何倍もの大きさの機械は仮面の口からシューッと煙を吐いた。それだけの動作でブチブチと筋肉のような導線が軋む。

 

 

「『神機兵』、やれ」

 

 

パチンと指が鳴らされる。

それだけ、たったそれだけの動作で、『神機兵』は動く。

 

仮面の口が開き、そこから光が放たれる。

しかし、それは立夏たちに向けられたものではなかった。

その光は彼らの上を通り過ぎ、周囲にいた住民たちのいる所に直撃して爆発した。

 

 

「ヒ、ヒィィィィ!?腕が、俺の腕がぁぁぁぁァァァァァァ!!?」

 

「お母さん、お母さん!どこ?どこにいったの!?」

 

「………………あれ?皆、一体どうしたんだよ?」

 

被害は甚大、多くの住民たちが激しく混乱する。高温の熱により、周囲にあったものは全て蒸発してしまった。

 

それを目にした者たちの中で、最初に行動したのはセイバーだった。

 

 

「ッ!全戦闘員、命令だ!住民の避難を優先しろ!」

 

「「「「了解です、総長!!」」」」

 

「ランサーとライダーは私と来い!あの機械を止めるぞ!」

 

「あぁ、分かった!」

 

「………………了解」

 

暫しシュヴァリオンを睨んでいたランサーだが、渋々と頷き、『神機兵』へと向かっていった。

 

あの機械は彼らが相手をしてくれている。心配しなくてもいいだろう。自分たちはあの魔術師、シュヴァリオンの相手を─────、

 

 

「先輩!!」

 

咄嗟にマシュが前に飛び出した。何を、と立夏が叫ぶ前に、マシュの盾に何かが激突した。

 

ソレは剣だった。

白銀の剣。どんな種類かはよく分からない。長剣、短剣、大剣、細剣、曲剣、双剣、魔剣、聖剣、神剣。様々な剣に見えるソレを見て、何故か違和感があった。

 

今まで出会ったサーヴァントたちが所持していた武器と、同じように見えてしまっていたから。

 

 

「そんなに気になるか?この剣が」

 

剣が勢いよくシュヴァリオンの近くに移動する。その剣の側面を指で撫でながら、シュヴァリオンは口にしていた。

 

 

「俺の計画の副産物だ。名称は、『複合された神話の剣(エンシェイント・トリガー・ウェポン)』。これは複数の伝説に存在する剣を特殊な術式で結合、及び具現化させることができる。

 

 

 

こんな風に、な」

 

 

シュヴァリオンが手を振るうと同時に白銀の剣が動いた。光速の移動を始め、剣先がマシュの盾を何度も斬りつける。そして、彼女の頬を掠めてところで停止する。

 

そして何らかの機能によるものか、シュヴァリオンの元へと戻っていった。

 

 

「今使用したのは、『フラガラッハ』『勝利の剣』この二つの剣だ。自動戦闘に特化して、お前たちを追い詰めていくものだが、まだ改良が必要だな」

 

 

「改良って………こんなに強いのに?」

 

 

「まだ剣の能力しか使用できてない、宝具の真髄を引き出せるようにしなければ意味がない………………おいおい、何を驚く。お前らの相手はクリプターだぞ?人類を裏切り、白紙化地球を支配する八人の内の一人だ。まさかこの程度が限界と思っていたのか?」

 

 

規格外すぎる。

そう思うしかなかった、この青年はどこまで先を見ているのだろうか。

 

 

「もしそうだと思うのなら」

 

 

シュヴァリオンの腕の魔術回路に魔力が流れる。微量の魔力、鍵を掛けるぐらいの事しか出来ないような少ない魔力だ。

 

「─────接続(リロード)

 

しかしその魔力が手へと辿り着いた直後、膨大な量へと上昇する。そして、指先から青白い閃光が伸びた。

閃光が地面に接触し、ジジジと焼いていく。

 

 

「我々を嘗めるなよ、汎人類史最後のマスター」

 

 

五本の閃光、爪のようになったそれは立夏とマシュに振り下ろされた。

 

逃れることは、出来ない。




ご愛読ありがとうございます!

シュヴァリオンの武器について一部紹介させていただきます。

複合された神話の剣(エンシェイント・トリガー・ウェポン)

シュヴァリオンが開発した魔術礼装。多くの伝説の剣の欠片を埋め込んでおり、術式により剣の能力を発動することができる。未だに宝具は使用できないが、いずれは可能になる。



えぇ…………ハイスペックすぎるぅ。


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第八節 シュヴァリオン襲来 後編

番外編とか書いてもいいすか?(話を聞くつもりはない様子)


「我々を嘗めるなよ、汎人類史最後のマスター」

 

解放軍の本拠地を襲撃した八人のクリプターの一人、シュヴァリオン。彼は『神機兵』と『剣』を使い、解放軍を翻弄していた。

 

 

そして、五本の閃光が爪のように振るわれた。マシュと立夏、二人の命を刈り取ろうと。

 

 

『ヘイ!そうはいかないぜ?シュンくん』

 

 

見知った声が、二人の鼓膜を叩く。声を掛けられたシュヴァリオンもすぐに訝しむ。

 

 

直後、シュヴァリオンの真横から巨大な黒い塊が突撃してきた。

突然の事に対応できずに、シュヴァリオンはその黒い塊に吹き飛ばされる。

目の前に現れた巨大な物体、それを知っていた二人はその名前を声にあげた。

 

 

「シャドウ・ボーダー!?」

 

『無事か!?立夏、マシュ!』

 

 

ざわめくような声が二人の安否を確認してきた。何故、と思っていた二人はハッと気づく。

そういえば、ホームズも言っていたではないか。

 

──壊れたシャドウ・ボーダーを修復している、と。

 

そう、修復し終えたカルデアの職員たちは襲撃を確認し、ゴルドルフ新所長とダ・ヴィンチの迅速な行動により、先程のように二人を助け出せたという訳だった。

 

 

『速く立夏を連れて………………え』

 

騒ぎ立ててた声が一気に静まった。

その様子に戸惑う立夏は不意に後ろを見た。シュヴァリオンの吹き飛ばされた場所、大量の砂煙が舞ってよく見えなかった。

 

 

その煙の中で、立っている人影があったのだ。

 

『…………む、無傷?』

 

『そ、そんな馬鹿な!?明らかに轢いたのだぞ!怪我しているのなら納得できるが、無傷など!!』

 

「おいおい」

 

 

コートについた埃を払った魔術師は狼狽えるカルデアの面々がいるシャドウ・ボーダーに向けて目を向ける。

 

 

「俺は魔術師だぞ?相手の予想など軽く越えねば、クリプターなどと名乗らんさ。…………知ってるか?キリシュタリアは神霊との決闘で勝った」

 

「それが……………何だって言うんですか」

 

「ようは、だ」

 

 

両手を広げた魔術師がただならぬ威圧感と膨大な量の魔力を放っていた。

普通の一般人ならこれに当てられただけで気を失うだろう。立夏たちが耐えきったのは、これ以上に恐ろしい者たちに出会ってきたからだ。

 

 

「アイツに出来る事なら俺も出来る。俺の魔術の才能は英霊ですら越えていると自負しているのだから「耳を貸すな。相手を焦らせ、平常心を崩す。そうやって他人の隙を作らせる、それが魔術師のやり方だ」…………あぁ?」

 

直後、振動が走った。

シュヴァリオンの後ろに巨大な黒い塊が落下してきていた。立夏はその機械の正体が、シュヴァリオンの言っていた『神機兵』だとすぐに察した。

 

 

突然のことに驚き、その正体を確認しようとしたシュヴァリオンはピタリと動きを止める。

 

 

「やはり私を喚んだ事は失敗だったな、別世界の魔術師」

 

首先に槍の先が向けられていた。

その槍を振るったのはシュヴァリオンの後ろに移動していたランサーだった。

立夏たちと接していたような優しさは鳴りを潜め、静かな殺気が放たれている。

 

それなのに、顔色を変えなかった魔術師は口先を引き裂く。ニヤリと笑みを見せてランサーを見た。

 

「いや、お前を喚んだのは間違ってはいないさ、ランサー。

 

 

 

 

 

それよりいいのか?止めを差さなくても」

 

 

余裕そうな発言に何?と訝しむランサー。その後方で変化は起きていた。

 

ギギギギ!!と駆動音を響かせて、『神機兵』が起き上がる。先程まであった傷が消失し、無機質な瞳に光が籠っていた。

 

 

「馬鹿な!?何故まだ動ける!?」

 

「当たり前だ。こいつのモチーフになったのは太古の『神造兵器』ウルクの泥人形らをモチーフにし、それを改良したものだ。たかが二流サーヴァントが集まったところで簡単に破壊できる代物じゃあない!」

 

力強く豪語したシュヴァリオンはコートを払い、高速を越えるスピードで飛んできた物を見上げる。

 

シュヴァリオンの礼装である剣、伝説上の剣の効果を発動する剣が小刻みに震えている。剣自体を包む光も薄くなっていく。

 

チッ!と舌打ちを吐き捨て、シュヴァリオンは顔をしかめた。

 

「やはり礼装としてはいいが、宝具としてはまだ不完全だ。『神機兵』と共に調節が必要だな」

 

 

ここだけの話だが、シュヴァリオンの『礼装』は完全ではない。むしろ、まだその効力を発揮しきれていない。その状態で激しく行使したので、持たなくなってきているのだろう。

 

そして、溜め息と共に決断をした。

 

「今は退くとするさ、カルデア。お互い準備不足だったみたいだしな」

 

 

撤退をしようとするシュヴァリオンに、解放軍のサーヴァントたちが動こうとする。

だが、彼の前に歩み出した『神機兵』が武装を展開し、動けずにいた。

 

 

チラリと何処かを見たシュヴァリオンが口先を歪め、ニヤリと笑いながら、口を開いた。

 

「俺を倒せ。そして奪えよ、この世界を、そこに生きる人々の命、未来、希望を。今まで、そうしてきたように!」

 

周りにも聞こえるような声で告げると、シュヴァリオンは懐から取り出した球体を放り投げる。

 

 

─────閃光弾。

 

一般市民が使うこともある小型爆弾の一つ。しかし、魔術的に改良されたそれは普通の閃光弾よりも効果を発揮していた。

 

 

視界を眩しい光で遮られ、辺りが見えなくなっていた立夏たちの視力が戻った時には、シュヴァリオンは『神機兵』と『剣』と共に姿を消した。

 

 

深呼吸をしたマシュは、その場に立ち尽くしていた立夏の肩を叩く。

 

「……………大丈夫ですか、先輩」

 

「…………………」

 

彼は、不可思議に思っていた。

シュヴァリオンが先程言っていた言葉、あれは自分に向けられていた訳ではなかったのだ。一瞬だけ、彼が目を反らしたのを見た、間違いなかった。

 

何の意図があってのことか、それだけが分からなかった。

 

「藤丸、立夏」

 

 

後ろから声をかけられ、立夏はハッと振り返った。そこに立っていたのはこの世界の住人である青年 リント。彼は銃を引き摺りながら、静かに俯いている。

 

声をかけようと近寄った立夏はすぐに足を止めた。

 

 

「どういう、ことだよ。さっきの話」

 

 

持ち上げられた銃が、立夏の顔に向けられていたからだ。彼の行動に戸惑うマシュと解放軍の面々を無視してリントは此方を見る。

 

その目にあったのは疑いと否定、そして憎悪。

全身が血塗れになったリントは激情を押し殺し、鋭い眼光を向けていた。

ここでようやく、立夏は疑問に思った。

 

 

見たところ、リントに大きな傷はない。小さい傷もあるが、それは全身が血で濡れるようなものではない。

 

つまり、その血はリントのものではなかった、では誰のだ?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『お帰りなさい、マスター』

 

天空の神殿に帰還したシュヴァリオンは自分に語りかけてくる存在の声を耳にしていた。そして、冷静な態度で命令を下す。

 

「エイワス、三騎士を呼べ。カルデアと解放軍を迎撃する」

 

『いえ、その必要は──────ありません』

 

 

コツン、コツンと足音がした。

方向は後ろから。

振り返ったシュヴァリオンの目に、神殿の入り口から歩いてくる二つの人影を見た。

 

 

「ハハッ!殲滅か、殲滅戦か!そう言うのは好きだぜ?我輩の得意分野だからな、ガハハ!!」

 

ボサボサとした金髪を伸ばした大きなマントを羽織った男。乱暴な口ぶりだが、ただならぬ覇気とカリスマを持っているように思える。

 

 

「────煩い、『雷光』。主君(マスター)の前だぞ」

 

 

横に並ぶ(あお)の甲冑騎士が『雷光』と言われる男の態度を咎める。

 

 

当然ながら、この二人は異聞帯に生きる者ではない。彼らはシュヴァリオンのサーヴァント。

彼が召喚した沢山のサーヴァントから選抜された強力な英霊たちだった。

 

 

「よく集まった、悪の三騎士────────と言いたいが、『氷結』と『雷光』だけか………『烈火』はどうした?」

 

 

「それが………………突然姿を消していまして」

 

「まぁーた、どっかの地域を焼き払ってんじゃねーの?アイツ理性とかほぼねーからなぁ、マスター殿?」

 

 

姿も見えない『烈火』という存在の事を言う三人。物騒な事を言いながら、楽しそうに『雷光』は笑みを浮かべ、自らのマスターに声を掛ける。

 

 

「理性を失くした方が扱いやすい、そう考えての事だ。それに、何も文句は言ってないだろ?」

 

「そりゃあ!狂戦士だからぁ、当然だろ!」

 

 

ガハハハ!と高笑いする『雷光』を無視して、シュヴァリオンは神殿の奥へと歩みを始めた。そして、立ち尽くす二人に振り返らずに告げる。

 

 

「明日に備えろ、戦力を分散してカルデアと解放軍(獲物)を狩り立てる」

 

了解、と重なった言葉が帰ってくるのはすぐのことだった。

 

 

 

 

 

 

 

この世界に沢山ある集落の内の一つ、そこでは多くの人が住んでいた。そう、住んでいた。

 

 

「──────殺す」

 

今、この集落の住人は全て死体と化している。様々な殺され方をした死体の群れの中で、『彼女』は狂っていた。

 

 

「殺す、焼く、殺す、斬る、殺す、刺す、殺す、殺す、殺す、殺す、殺す、殺す、殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す」

 

 

狂気的な発言を繰り返しながら、全身鎧のサーヴァントは辺りを炎で焼き払う。

大槍を振るい建造物を破壊しながら、『彼女』は動く。

 

 

「殺す殺す殺す─────ええ、マスター。御命令通り、敵を殺します」

 

 

全ては、愛する■■■■を()す為。今日も彼女は憎悪と狂気の炎で周りを焼き尽くす。灰すらも、希望も残さず、消えることのない炎を再度放った。




今回、登場したサーヴァントをまとめます。


・『烈火』のランサー

・『氷結』のセイバー

・『雷光』のライダー

これくらいですね。後何話かで出るかもしれないので、その時にはよく分かるようになります。



さて、番外編についてですが………やっぱりアンケートです。そこんところは皆様の興味のあるものでお願いします。疑問に思う人の為にも解説させていただきます。


一つ目ですが、fgoのストーリー通りです。主人公の藤丸立夏と共に生存し、人理修復するというものです。


二つ目ですが、シュヴァリオンが自分が契約したサーヴァントたちと接し合う日常編です。彼が契約しているサーヴァントは大抵がエクストラクラスです。


ついでですが、もし書けるならメルトリリスとパッションリップとBBたちの話は確定で書く予定です。

好きだからです。(キッパリ)


三つ目ですが、アポクリファ時空の話。シュヴァリオンが聖杯大戦に参加する話です。赤のアーチャーのマスターとして。


四つ目ですが、もし書くことがあればその時に説明します。←説明する気のないバカ


五つ目ですが、察しの通りです。



まあ、面白ければ評価を、良ければ感想をお願いします!


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第九節 亀裂

アンチ・ヘイトつけてるけど内容大丈夫かな、これ………


解放軍の兵士や住民が騒ぎ立てている。沢山の人間が死んだ。家族が奪われ、重症を負いながらも必死に逃げている惨状、まさに地獄だった。

 

 

「……………………そ、ふぃあ」

 

瓦礫から起き上がった青年が体を起こす。全身が血で濡れている。彼のものではない、魔術師が連れてきた機械により殺戮の場にいたからだ。

 

 

「………………………………………………あ」

 

 

肘から先が消失した細い腕。自分の近くにいた少女の手がボトリと地面に落ちる。立夏たちに着いてきた青年 リントは、目の前で家族を失った。彼は、心の中でそう理解する。

 

 

────あぁ、また失ってしまった。

 

何もできなかった自分を嘲笑する。あるのは後悔、悔しさに悲しみ。

 

 

そして、それらを塗り潰すくらいに増幅した憎悪。ユラリと立ち上がる。

 

 

立夏たちに教えるべきだ、そう思った。少しだけだが、彼らと共に行動していた。この事を知れば、彼らはソフィーのことを思ってくれるだろう。

 

 

『俺を倒せ。そして奪えよ、この世界を、そこに生きる人々の命、未来、希望を。今まで、そうしてきたように!』

 

───クリプターと名乗った魔術師の捨て台詞ともとれる、その発言を聞かなければ

 

 

 

 

 

 

「───おかしいと思ってたんだよ、最初から」

 

相手に向けた銃を片手に、リントは立夏を見据えていた。いつでも引き金を引けるように掛けられた指は震えている。様々な感情が交差しているのだろうが、関係ないと言わんばかりに考えを振り払った。

 

 

そして、重い口を開く。

 

「異聞帯?汎人類史?クリプター?あぁ、よく分からなかったけど、少し理解できた。あの魔術師がこの世界を作って、そしてお前たちはこの世界を消す気なんだろ?俺たちごと」

 

「それは………!」

 

「そうだろ?あいつと同じことをする気だったんだろ、リツカ。いや藤丸立夏」

 

言葉を交わしていくだけで負の感情が増幅していく。そして、そのまま悪意に飲まれながら告げる。

 

 

「ソフィーは死んだよ、あの魔術師が連れてきた化け物にやられた」

 

「…………え?」

 

何を言われたのか分からないと立夏は言葉を失う。受け入れたくなかった筈の事をあっさりと認めた自分に反吐が出ると思いながら、「それだけじゃない」と言う。

 

 

「父さんと母さん、ここにいた人たち、この世界で生きてた人たち、全員が!

 

 

何で皆が死ななきゃいけなかったんだ?何で俺たちだけが、こんな目に合わなきゃいけなかったんだよ!!?」

 

 

悪魔たち四勢力に虐げられ、笑うことできず、ただひたすら怯えることしかできない世界。

 

 

これが世界の、神々の理なのか?逃れられない運命というものなのか?

 

 

「認めない、認めないぞ。そんなの…………認められる訳が、ないだろォ!!」

 

 

大声を張り上げ、立夏を睨む。咆哮と共に引き金に掛けた指を───

 

 

直後、ショットガンが暴発した。

 

いや、違う。

銃弾が放たれる直前に、銃そのものが真っ二つに切断されたのだ。

 

炸裂した銃弾は中で暴れ狂い、周囲に破片を散らせる。そして、飛び散った破片の一つが、勢いよくリントの左目に食い込んだ。

 

ザクッ! と

 

 

「アガッ!?グゴアアアアアアアアァァァァァぁぁぁぁぁぁああああああッッッ!!!」

 

片目を押さえながら地面に踞ったリントは絶叫する。ショットガンを持っていた手はボロボロになり、目を押さえていたもう片方の手からボタボタと鮮血が零れていた。

 

何がどうなっているのか戸惑っている立夏の前に人が入ってきた。先程の攻撃の下手人でもある人物が。

 

「ランサーさん!?何を………!」

 

「下がるんだ、立夏」

 

盲目のランサーは片手で立夏を制止し、長い槍を構えていた。その槍は踞っているリントに向けれている。

 

何故!?と困惑する立夏とマシュだが、それは仕方がない。

この異聞帯で共に戦うことになる彼らを無闇に殺させる訳にはいかない、それがランサーたちの考えだった。

 

 

 

「そういうことか……………テメェらもグルかよ。サーヴァントどもが」

 

音も立てずに起き上がったリントが血走った目を周りに向ける。それを目にした者たちがいつの間にか、気圧されていた。

 

 

格上であるはずのサーヴァントですら。

 

「そりゃそうだよな。自分たちの方が大事なんだよな、当然だよ。それに、俺も納得してたんだ。何せお前たちの世界は、

 

 

 

 

この世界よりも平和で幸せな世界、なんだろうからな」

 

 

話に聞いた時から、憧れていた。羨ましかった。

 

きっと彼ら、カルデアが生きた世界はこんな世界よりも素晴らしかったろう。

 

もし、もしもだが。その世界で自分たちが生きれていたら、とても幸せだったかもしれない。

 

ソフィーも父さんも母さんも、町の皆も、そしてこの世界で生きていた全ての人たちも、怯えることもなく生きてただろう。

 

自由に怒ったり、泣いたり、悲しんだり、喜んだり────笑ったりして、世界を謳歌することができただろう。

 

「だが、今はそんな幻想は抱かない。ここは俺の、俺たちの世界だ!どんな理由だろうと俺は妥協しない!する訳がないんだ!」

 

 

 

 

 

「…………俺は守るぞ。ちっぽけだろうが、何だろうが、俺たちが生きたこの世界を!」

 

そう宣言したリントは踵を返した。この場から、立ち去ろうと歩みを進めている。

 

そんな彼を止めることは、誰にも出来なかった。

 

 

 

 

 

 

リントがいなくなってから、すぐにランサーが謝罪をしてきた。立夏を守るためとはいえ、リントを傷つけてしまった事に償いをしたいと思っているらしい。

 

 

「………立夏くん。君たちに伝えたいことがある」

 

気分が沈んだ様子の彼らに、総長ジャックが声をかけてきた。

 

「実を言うが、先程ここから何十キロもある集落で悪魔の襲撃があったのだが────────通りすがりの剣士が悪魔たちを撃退したらしい」

 

「それって…………!」

 

「あぁ、サーヴァントに間違いはないだろう。その剣士はすぐに何処かへと向かったらしいが、そこの住人に自らの名を名乗っていた」

 

新たに仲間になってくれるかもしれないサーヴァントにカルデアの面々は活気がついていく中、ジャックは顔色を変えずその名を口にした。

 

 

「“シグルド”とな」

 

 

 

 

 

 

 

ニヤニヤと、笑う。

 

光る画面と卓上を見下ろし頬杖をつきながら、シュヴァリオンは静かに笑っていた。

 

 

『質問ですが、マスター。一体何をなされたんですか?』

 

 

「─────準備だ、カルデアを追い詰める為の」

 

コン、と。盤上の駒を的確に動かしていく。

 

 

「無駄に自分から追い詰める必要はない。俺は駒を動かし、瀕死の奴等に止めを差せばいい」

 

 

「その為の布石は用意した。後は()がどう動くかだ」

 

彼の目線の先にあるのは普通の駒。沢山あるものと変わらないもの。だが、シュヴァリオンにとっては違う。この駒が、()こそが戦局を変えることが出来る存在、まさしくジョーカーと言えるもの。

 

その駒の前に、杯を模様した駒が鎮座していた。

 

 

 

 

 

 

 

ボタボタと鮮血が手から零れる。てんてんと、赤の斑点を作っているが、彼、リントは止まらなかった。

 

 

「俺は、奴等を許さない…………必ず止めてやる!!」

 

 

片目と右腕を苛む激痛と心の奥深くから込み上げてくる負の感情に身をよじらせる。

 

「でも…………俺には力がない。四勢力を、サーヴァントを倒すことのできる力が」

 

 

決定的な事実に歯噛みするしかない。

リントは何度も目にしている、最悪な存在である大悪魔 ベルゼブブを退けたサーヴァントの力を。恐らくあれは本気であっても、全力ではない。

 

そんな奴等が何体もいる以上、自分一人で戦ったとしても戦力の差は激しいもの。

 

 

「……………………………………?」

 

ふと、何かを感じた。

横を見ると、遺跡のようなものが佇んでいた。だが、そんなに大きくない、一人だけ住めるような大きさだったのだが、不思議と彼はそちらに足を進めている。

 

入口を潜り抜け、奥へと歩いていく。

 

 

歩いて、

 

 

歩いて、

 

 

歩いて、

 

 

 

 

 

 

 

ようやく、『それ』を目にした。

 

 

「これは……………………杯?」

 

彼は知らない、黄金に光る『それ』を。だが、直感があった。抉れた目を押さえていた手を下ろし、ゆっくりと動かす。

 

浴びた血と自らの血で汚れているが、その手の甲にはナニかが浮かんでいた。赤色、血よりも濃い赤。痛みという激しい熱を帯びていたからこそ気づかなかったが、それはこの世界で二人の人間が所有している物だった。

 

 

一人は藤丸立夏

 

一人はシュヴァリオン

 

 

だが、そんな事を彼は知らない。知るつもりはない。重要なのは、目の前にある『それ』が自分に力を貸してくれる─────奇跡だと。

 

ニヒィッ と見る者が不気味に思うような凶笑と共にリントは地面を血で汚しながら、更に手を伸ばす。

 

 

───『それ』がどんな願いも叶えられる願望器、『聖杯』と呼ばれるものだと知らず、血で濡れた手で触れた。




アンケートの結果、普通にちゃんと進めていきます。皆様アンケートありがとうございます、結果通りにいくようにしていきますのでよろしくお願いします!





ついでなのですが、オマケです。CMみたいにやらせてもらいます。


……予定通り、盤上(計画)が進むものだな

それは闇に支配された魔性の世界。
希望も祈りも存在しない、邪悪なる者たちの楽園。

だが、無意味ではない。願いと奇跡は一つとなり、神たる明星を堕とす


Fate/Grand Other -Cosmos in the Lostbelt -

『悪逆神理世界 バイブル』


という風です。

感想と評価よろしくお願いします!


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第十節 計画

タイトルを変更させて貰いました。詳しくは目次を見てもらえると助かります。


異聞帯の場所はヨーロッパ、詳しく言うとフランスです。


「──────なるほど、君たちの異聞帯(ロストベルト)は安定しているか。それを聞けて安心したよ」

 

何時もの報告をする七人のクリプターたち。かつては八人だったが、一人はいない。理由は伝えるまでもなかった。

 

 

『今、カルデアを追い込んでる途中だ。しつこく逃げてるだろうが、いずれ捕まえられる。安心せずにいかせてもらう』

 

シュヴァリオンの報告に他の全員が様々な反応を見せる。カドックは俯き、ベリルとペペロンチーノは興味深そうに笑みを浮かべ(一人は怪しいと思うものだが)、ヒナコはどうでも良さそうに本に目を向け、デイビッドは相変わらず平然としており、リーダーのキリシュタリアは感慨深そうにしていた。

 

 

「因みに君の異聞帯(ロストベルト)に使者を送ろうと思うが、構わないだろうか?」

 

『同じ仲間のよしみで本気の忠告だ。────止めといた方がいい。その使者って神霊カイニスだろ。王様とバッタリ遭遇して消しちゃった、とかあったらお前に詫びが出来ない』

 

 

シュヴァリオンはそう言うが言外に告げているのだ、自分の異聞帯の王は負けないと。

 

その発言に嬉しそうに微笑むキリシュタリアにベリルがおちょくるように北欧で死んだオフェリアの話を吹っ掛けてきた。

 

「そうだな。多少失望してるよ。彼女の能力を過大評価してしまった』

 

『ッ!』

 

「北欧は争いのない異聞帯だった。それを治めらなかったとは………」

 

『もういい、止めろ!!』

 

気付いた時、シュヴァリオンはそう怒鳴った。ホログラムの腕が机に叩きつけられ、ダンッッ!!と音が通信越しに響く。映像越しにシュヴァリオンがこの場の全員を睨みつける。

 

 

『──死んだ奴の事を何時までも言ってどうする。俺たちには俺たちのやることがあるはずだ、違うか?』

 

「………確かにその通りだ。すまない」

 

スッと目を伏せたキリシュタリアの謝罪を受け、激情に駆られていたシュヴァリオンが落ち着き始める。自身のした事を理解し、彼は静かに席に着いた。

 

 

『確かに俺も少し荒れてた。だが、オフェリアは死に、北欧は敗れた、それが事実だ。過去の事象に文句をつける程、お前らには時間と余裕はないだろ』

 

『ハハッ!お優しいことだねぇ、友情ってやつか?可愛らしいもんだ!』

 

『よし決めた。異聞帯同士殺しあっていいなら、まずテメェから潰す。総戦力でやるつもりだから覚悟しとけ』

 

煽るベリルにシュヴァリオンはさらっとそう吐き捨てる。無表情を張り付けた顔には微かに怒りが漏れ出していた。

 

一触即発の状況にキリシュタリアが声を掛けようとしたと同時に『とりあえず』とシュヴァリオンは重ねる。

 

 

『カルデアに関しては俺が片付けておく。キリシュタリア、お前は自分の事に集中しとけ。まあ、もし俺が負けたらその時は頼むぜ』

 

そう言い、シュヴァリオンは通信を切る。彼に続くように芥 ヒナコも通信を閉じ、数分後に報告会は終了を迎えた。

 

 

 

はぁ、と頭を掻きむしり、シュヴァリオンは通信用の机と椅子から離れた。

 

 

「お話終わりました?随分ご機嫌ななめのようですけど」

 

息をつく間もなく、スタスタと入ってきた女性がそうシュヴァリオンに声を掛けた。その人物に目を向けたシュヴァリオンは顔を歪め、強く奥歯を噛んだ。

 

 

「…………テメェか、コヤンスカヤ。自由に動いていいって言ったよな、俺は」

 

「ええ、その通りですシュヴァリオン様。だからこそ、私は自由に動かせてもらっていますので、お構い無く~♪」

 

 

露骨な不快感を隠そうとせず、シュヴァリオンは舌打ちを吐き捨てる。その様子を見たコヤンスカヤは普通にしていた。

 

彼はコヤンスカヤが嫌いだった。その傍迷惑さとその性格故に。心底嫌だったが、この異聞帯(ロストベルト)に入れたくないと思うくらいに。

 

 

あぁ、そういえば と陰険な笑みと共にコヤンスカヤは彼の心を抉るような発言をした。

 

「貴方オフェリアさんの友達でしたっけ?だからクリプターの皆さんに彼女の事を話されて苛立ったんでしょう?顔色も変えずに淡々としてたことに」

 

「…………………」ビキッ

 

 

「ベリルさんも言ってましたが、本当に優しいですよねぇ。あの変人のお子───」

 

煽るようなコヤンスカヤの言葉を遮るように、ダァンッ! と銃声が響く。無表情に徹したシュヴァリオンが懐から引き抜いた拳銃を撃った音だった。「そうだ」と撃鉄を倒し、リボルバーを回転させる。

 

煙を吹く銃口を向け、立て続けに言葉を紡いだ。

 

「お前を『槍』の素体にしてやろうか。その方がこれ以上無駄に効率をあげる必要もないし、何より俺の心も痛まない。素晴らしい案だな」

 

「……………その『槍』って何です?この異聞帯(ロストベルト)で何かよく分からないことをしてるのは知ってますが」

 

「『聖書神生』」

 

 

 

 

「ルシファーが俺と契約した理由、キリシュタリアにすら隠してる、この異聞帯(ロストベルト)で起こす大規模な計画だ」

 

「────なるほど、そうですか。では貴方が最近人間たちを集めているのも、それが理由ですか?」

 

「………最近、か」

 

その話を聞いたコヤンスカヤは大したことないと思いながらも、質問した。

 

そんな彼女にシュヴァリオンは顔を見ようとせずに口を開く。

 

「一億五千七百五万千二百六」

 

「……………?それは、どういう」

 

 

「今までその計画の為に注ぎ込まれた人間の数だ」

 

あまりの数と事実に残虐非道と言われるコヤンスカヤですら、言葉を失う。そして、ジト目でシュヴァリオンを見やり、ボソッと呟く。

 

「………私は人間とか嫌いですけど、流石にそれはどうかと思います」

 

「安心しろ、畜生のクソヤロウだという自覚はある。そうまでして俺とルシファーにはやらなきゃならないことがある。

 

 

 

話をすれば、どうやら終わったみたいだな」

 

 

何処か遠くの方角に顔を向けたシュヴァリオンは察したように呟くと、コヤンスカヤに適当に言葉をかける。

 

 

「早くバレないように帰っとけ。アイツがすぐに帰ってきたら、問答無用で消し飛ばされかねないから」

 

「えぇ………そこまでやります?………いや、やりますね。あの王様私が見てきた中でもダントツの神嫌いですから、私とか同じ空間にいるだけで不愉快とか言われて殺されかねませんし」

 

 

それでは失礼。そう言い、そそくさと何処かへと向かっていくコヤンスカヤを見送り、溜まりに溜まったストレス故にかため息と共に椅子に座り込む。

 

 

そして、

 

 

「何をしてる?出てくるなら来いよ」

 

誰もいなくなった空間に呼び掛けた。無論、返事が返ってくる筈がない。

 

代わりに、物音を立てずに『彼女』は現れた。

 

 

 

異星の巫女と言われていた謎の存在。『異星の神』に従う者。キリシュタリアを含むクリプターの全員が彼女の正体を知らない生命体。

 

否、たった一人を除けば。

 

「─────」

 

「………そんなこと、俺に聞くなよ」

 

聞こえない筈の巫女の声に呆れたように答える。誰にも、異星の神の使者であるコヤンスカヤたちにも理解できないその声を、シュヴァリオンは確かに聞いていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

天使。

 

それは神の道具である御使い。神を信仰する人々を魔法とも魔術とも言えない力、奇跡を使う感情のない存在。本質的には北欧のワルキューレと似ている、最も同じように設計されているのかよく分からないのだが。

 

その中に、一人の天使がいた。

彼は天使たちの長であった、誰よりも父である神に従い、誰よりも天使たちに憧れられ、誰よりも誇り高く、誰よりも正義に徹し────誰よりも人を愛していた。

 

かつては、自分たちのような力を持たず数十年で死ぬような短命な生き物という合理的な判断があったのだが、それは変わっていった。

 

だが、その在り方を見た彼は人を心から愛するようになっていった。

 

 

 

 

 

 

 

「…………………大したことないのだな、女神も」

 

巨大な大穴となった女神ティアマトの拠点を見下ろし、堕天使の王は深い息を吐いた。

 

 

ルシファーの放った破壊の一撃を受け、女神ティアマトの霊基は消失した。近くにいた木偶人形は生き延びたかもしれないが、興味の無いことだと断じたルシファーは後ろを向き、高速の勢いで移動する。

 

そして、『それら』が目に見える所まで近づくとピタリと動きを止め、辺りを確認した。

 

そして、邪悪そうに微笑む。

 

「フム、あとはこれだけだな」

 

バサッ!と、ルシファーの背中の翼が大きく広げられる。天輪のような円を中心に広がる黒い翼、先の部分が別れ解離していく。育っていく樹の枝のように、細かく。

 

「─────さぁ、始めるとしよう」

 

 

何百にも分裂した闇の刃は折れ曲がりながら、地上に殺到する。正確には、何も知らずに一時期の平和を謳歌している人々の集落に。

 

 

 

 

 

 

 

 

立夏とマシュが目的の集落に着いた時、そこはもう手遅れだった。

 

「………全滅です、生存者は誰一人もいません」

 

静かにシャドウ・ボーダーへの報告を済ませたマシュはその集落に目を向ける。

 

住人と思われる人々が逃げるような姿勢のまま氷漬けにされ、武装している人は体を何かで斬られたような傷をつけた状態で凍っていた。

 

 

「酷い…………子供や老人、赤ん坊まで」

 

凄惨とは言えない地獄に立夏は戦慄する。今まで多くの惨劇を見てきた彼だが、何時見ても慣れるわけがなかった。

 

 

『二人の報告と映像を確認した結果、少しだけ分かったことがある』

 

 

『全員が同じ状態で死んでいる。それだけではなく、激しい戦闘の跡は少しもない。何より、武器を持っている者がいる以上、それくらいは出来る時間があった。つまり、相手はたった一人。だが、これほどの事を出来る存在は──やはりサーヴァントだろう』

 

 

 

 

『えぇい、決まっている!英雄シグルドと我々が出会わないように、口封じをしたのだ!それ以外、このような真似をする理由はないだろう!?』

 

『確かにそう考えるのは妥当だろう。だが、おかしいと思わないかな?』

 

的を射たと思うゴルドルフ新所長の発言に、ホームズは肯定しながらも疑問を示した。

 

『対面して分かったが、シュヴァリオンは魔術師として冷酷に行動している。それなら調べに来た我々を住人ごと殲滅すれば効率がいい。なのに、何故そうしなかった?』

 

その意見を聞き、立夏は深く考え始めた。

 

………つまり、自分たちの排除だけが目的ではない………他に別の事項がある。この異聞帯(ロストベルト)を終わらせようとする自分たち、カルデアをも軽視するほどの目的が────

 

 

『あーっ、取り込み中だと思うけど失礼。割と緊急事態だ!』

 

そんな考えを遮るかのような叫びが通信に響いてくる。シャドウ・ボーダーを操縦するダ・ヴィンチのものだった。そんな彼女は衝撃的な事実を言葉にした。

 

 

『サーヴァントの反応………いや違う。膨大な魔力反応!?とてつもないくらいに大きい、聖杯並みだ!三つくらいは確認できる!その二つが同じ場所にいる─────不味い!彼らが、解放軍が何者かに襲撃を受けてる!』

 

 

 

 

 

 

 

 

炎に呑み込まれた拠点を横目に、ジャック総長は敵の前に立っていた。剣の束を強く握り、相対する人物を睨む。

 

 

穏やかな微笑みを浮かべる女性。だが、彼女こそがこの地獄を作り出した者だった。

 

 

──あれは格上の存在だ、自分のような英霊では勝てない。

 

冷静に指摘する心に従うように体が震えている。上位の存在への恐怖。人間なら押し潰されかねないモノ。

 

それを理解しながら、自らを叱咤するように彼は吼えた。

 

「総員!!住人の避難を最優先!だが精鋭たちは残り、私に続け────奴を止める!!」

 

 

「「「「「ハッ!!」」」」」

 

 

多くの兵士たちが避難の援助に迎い、その場に残った五人がセイバーに従い、『烈火』のランサーを囲むように並ぶ。

 

 

「宝具発動!『立ち上がれ、聖騎士たち(アルカナス・テンプル・ナイツ)』」

 

そう叫んだセイバーが長剣を空に向けて掲げる。同じように五人が剣を構える。

 

直後彼らが光に包まれ、その姿を変化させた。バケツのような冑、赤色の十字が記された盾と長剣、軽めの鎧を着込んだ中世騎士に。

 

 

「…………勇敢ですね、なんて愛おしいのでしょう」

 

物静かに、女性は感心したようにそう呟いた。大槍を握る手に力を入れ、誰に向けるものか分からない声量で更に続ける。

 

「でも燃やしてしまいます。それがマスターから与えられた、第三の騎士の使命ですから」

 

片目から、蒼の炎が吹き出る。彼女が今まで放ち、今この世界を燃やし続ける深紅の炎とは真逆の炎が。

 

全てを灰燼と化す煉獄を前に、騎士団長は聖騎士たちを連れ─────疾駆した。

 

 

 

 

 

「…………」

 

ライダーは弓を構え、目の前の敵を睨んでいた。

 

 

相対するのは、圧倒的な軍団。

 

複数の装備を身に纏い、横に並ぶ巨大な戦象たち。その中で、一際大きい象の上に男は立っていた。

 

両腕を組み彼女を見下ろすその姿は傲岸不遜と言えるような態度を見せている。

 

 

「ハ、ハハハハハッ!多勢に無勢とはこの事だ!だが、貴様は違うな女戦士よ!」

 

ライダーは油断をせずに、男の話を聞いていた。少しでも隙があれば何時でも狙えるように。

 

だが、相手である敵のライダーは腕を組み此方を見下ろすだけ。あまりにも隙がありすぎるその姿にライダーは警戒を消しきることはなかった。

 

相手も同じ、なのだから。

 

「我輩も貴様のような強き戦士と出会うことは奇跡の賜物だ。どうだ?我輩と共に、忌々しい大国に一泡吹かせてみたくはないか?」

 

 

その発言は、些細なものだった。敵にとっては純粋に仲間につけたいと思っただけなのかもしれない。納得できるものだ、彼女のいた時代も似たようなものだから。

 

だが、それは彼女にとって嘗められていると思うには充分だった。

 

「我が名はヒッポリュテ!戦神アレスとアルテミスの巫女たるオトレーレの間に生まれし子。誇り高きアマゾネスの戦士長、貴様のような者に従うつもりはない!!」

 

その場の勢いで、自らの真名を明かしたライダー、ヒッポリュテに敵のライダーは固まっていた。やってしまったと後悔するヒッポリュテだったが、

 

 

「──ガハハハッ!偉大なる神々の時代を生きた戦士、その長、つまり先輩か!ならば先程の発言は全て謝罪しよう!そして、我輩も名乗らねば恥であるな!?あるだろう!!」

 

男は戦象の頭に脚を掛け、高笑いに続く勢いで捲し立てる。相手の返事も聞こうとしない様子で男は大声で自分の真名を名乗った。

 

 

 

「我輩はハンニバル、ハンニバル・バルカ!第二の騎士、『雷光』の名を与えられた者!大国ローマを打ち倒す大将軍であるッ!!」

 

 

ハンニバル・バルカ。カルタゴの将軍であり、最強とされていたローマ帝国を圧倒し、破滅の一歩まで追い込んだカルタゴの司令官。歴代の中でもローマ史上最強の敵。

 

 

 

 

 

「それで、もう一つの反応は何処ですか!?」

 

『君たちのいる集落からだ!その集落を襲ったサーヴァントはまだ移動してない、待ってたんだ!立夏くんたちがそこに来るのを───』

 

「その通り、貴様らを待っていた」

 

声が重なった途端、ブツッ!!と通信が切れる。気付いた時、周りは銀氷に包まれていた。つんざくような風が雪と氷を連れ、その場を変化させていく。

 

 

絶対零度を越える世界に、一人の騎士が立っていた。

 

 

藍色の長剣を右手に、同じく藍色の盾を左手に所持し、彼は静かに歩みを進める。その身から発される、ただならぬ冷気と重い覇気を肌に感じ、立夏とマシュは後ずさった。

 

 

思い出したのだ、かつてカルデアを氷漬けにした皇女の冷気を。だが、今受けた冷気は彼女のとは別格。その場にいる植物が朽ち果て、近くに住み着いていた生き物たちが動く間もなく生き絶える。全ての生命を死滅させ、空気すらも凍えさせる死の冷気。

 

 

 

ふと、騎士の鎧の隙間に光が籠る。直後、駆動音と共に兜が二つに割れ、鎧の中へと仕舞い込まれる。

 

見覚えのある金髪を揺らし、二人を前にした騎士は翡翠色の眼を開き、堂々と自らの正体を口にした。

 

 

「我が名はアーサー・ペンドラゴン。『氷結』と『勝利』を冠する者。そして、貴様らカルデアを殲滅する為に派遣された第一の騎士だ」




三騎士


『烈火』のランサー 真名 不明

権能:『灼熱業火』

効果、自身を含む範囲内に魔術の加護を無効化する炎を発生させる。その他の効果はまだ未判明。


『雷光』のライダー 真名 ハンニバル・バルカ

権能:『極雷神光』

効果、不明。


『氷結』のセイバー 真名 アーサー・ペンドラゴン

権能:『絶対凍結』

効果、零度から絶対零度までの冷気を操ることが出来る。


ゲームでは、1ターンずつ発動。自身に防御&通常ダウン付与の通常攻撃付与、相手にBuster、Arts、Quickをダウン。


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第十一節 三騎士

何ヵ月か投稿が遅れました!本当にごめんなさい!


ギル祭とか進めてて遅れました、高難易度が難しすぎてマジで苦痛やった……。


───FGOのデータ?…………アイツは良いやつだったよ。まさか引き継ぎしてなかった一昨日、間違えて消してしまったなんて………


彼、解放軍のランサーは走っていた。

 

解放軍拠点の襲撃、自分が他の支部への連絡に出向いていた時に起こった事件。

 

今もなお、続いていると思われる交戦の様子は遠くからでも分かる。

 

 

「クリプター……!」

 

 

首謀者とされる魔術師の姿が脳裏に浮かぶ。あの青年が何を企んでいるかは不明だが、きっとロクでもないことだろう。

 

 

そうなる前に、何としても止めなければならない。まずは解放軍を襲ってると思われる奴等を────、

 

 

 

「───串刺しだね、分かるとも」

 

 

「ッ!?」

 

 

気が付いた時には、上から、横から、地面から、沢山の鎖が迫ってきていた。瞬時に反応したランサーの体が勢いよく動く。避けられるもの避け、致命傷になりかねない一撃は優先で防いでいく。

 

 

全ての攻撃が止んだと確認したランサーは森の一部を睨み付けるとそのまま槍を突き出す。次々と木を吹き飛ばしていく矛先がピタリと止められた。

 

 

止めたのは、男性にも見え女性にも見える中性的な人物。淡い緑色の長髪に白い布を身に纏っただけという簡素な容姿をしている人物は辟易としたようにランサーを見る。

 

そして、突然口を開いた。だが、出てきたのはランサーに向けられた言葉ではなかった。

 

 

「僕の仕事はこれで終わりだ、後は自分でやるんだろう?『マスター(・・・)』」

 

「────あぁ、充分。リツカたちじゃなくて少し不満だけど、解放軍のサーヴァントだし当たりだね」

 

 

ユラリと木陰からもう一人が出てくる。フードを被りながら歩いてくる者。ボロボロのフードを深く着た人物が発した先程の声、ランサーは覚えていた。

 

 

「……君は───いや違う、誰だ貴様は」

 

 

しかし、言葉と共に否定した。普通なら分からないかもしれないが、サーヴァントであった彼は違ったのだ。その人物から、有り得ないくらいの濃い魔力が放出されていた。

 

彼の反応を知ってての事か、その人物はフードの下からニヤニヤと笑みを浮かべる。そして、自らを名乗りあげた。

 

 

オレたち(・・・・)の名はゴエティア。人類を守る為の郡生個体、不完全な悪魔だ」

 

 

フードをあげた人物の顔には、ランサーも見覚えがある青年のものだった。しかし、それは半分だけだった。

 

 

もう半分にあるのは、ボロボロに壊れたように見える黒い深淵。その闇の中からあるものが此方を睥睨していた。

 

 

 

──三つの、赤黒い眼球。

 

 

 

 

 

 

 

 

シャドウ・ボーダー内では局員たちは激しく慌てていた。

 

 

解放軍の支部の一つに調査に向かっていた立夏とマシュがシュヴァリオンのサーヴァント 通称『三騎士』のセイバーと遭遇した。

 

それと同時に、解放軍拠点に二体のサーヴァントが攻め込んできた。数が多い解放軍が劣勢らしく、セイバー ジャック総長とライダー ヒッポリュテが止めているのだが、時間の問題と言えた。

 

 

「このグラフ…………間違いない、やはり同じだ」

 

 

ボソリと呟かれた声に、喧騒が止む。局員たちの目は、声の主であるホームズに向けられていた。

 

名探偵は機械に映るグラフから背を向け、彼らに持論を告げた。

 

 

「先程、彼の霊基に妙な違和感があって調べてみた。そしたら、カルデアに登録されたサーヴァントの中で彼の霊基と99.9%の比率で一致しているものがあった」

 

 

「…………それは、誰のかね?」

 

 

「アーサー王、真名をアルトリア・ペンドラゴン。彼女と一緒であるということは、彼はアーサー王である事には間違いない……………筈だが、少しおかしい」

 

 

それだけ言ったホームズの顔が困ったものへと変わった。

 

少しの沈黙の後に、彼はこう述べていた。

 

 

「サーヴァントは例え同じ存在だったとしても、少しの誤差は出る筈だ。それが僅か1%もない、これは明らかに異常だろう」

 

 

知る人もいるかもしれないが、聖女ジャンヌ・ダルクの話をしよう。

 

彼女は、かつての特異点で彼女を敬愛する男の持つ聖杯の力から生まれたもう一つの側面 オルタナティブ、通称 オルタとなった自分と出会った。

 

その二人は、確かに同じ存在。だが、霊基は明らかに違う。どんなサーヴァントだろうと、完全に一致することなどある訳がないのだ。

 

 

 

「では、『彼女(アルトリア)』と同じ霊基の『彼の騎士(アーサー)』は一体何者なんだ?」

 

 

名探偵の疑問の声が、シャドウ・ボーダーの中で木霊した。答えられる者など、いる訳がない。

 

 

 

 

 

 

 

 

烈火のランサー、その強さは凄まじいものだった。セイバー ジャック総長と彼の宝具で聖騎士となった五人を相手にしても、ランサーの方が有利だった。

 

 

 

「ッ!おおォォォォォォォォッ!!」

 

 

灼熱の地獄に突っ込んでいくジャック総長。全身は迫り来る炎に焼かれ、軽めの鎧も熱で溶け始めている。

 

 

それでもなお、彼は炎の奥へと歩み出す。中にいる、地獄の元凶────『烈火』のランサーに。

 

 

「─────────■■■■、」

 

 

彼女は何かを囁くと大槍の持ち手を変え、セイバーを貫こうとする。セイバーも長剣を使い、槍をいなしていく。防ごうとしない、格上のサーヴァントである彼女に押し負ける可能性が高いからだ。

 

 

そう、だからこそだった。相手が自分と同じくらいなら、どうにか出来ただろう。これは、格上のサーヴァントだったからこその、在り来たりな結果。

 

 

「────総長ッ!」

 

 

ズザンッッ!!!

 

轟音と共に、炎を帯びた大槍がジャックの身体を突き刺す。心臓のある場所を穿った槍から更なる炎が放出し、背中へ大きな穴を作っていく。

 

 

小刻みに震えた手から、長剣が地面に落ちた。

 

 

 

 

 

 

 

 

ズンッ!! と水色に輝く斬撃が飛来する。しかしそれは、ただの衝撃波などではない。

 

 

「………氷!剣の表面を凍らせて、飛ばしてるんですか!」

 

「早々に気付くか。これくらいの小細工、察せられないならサーヴァントとしての格が知れるがな」

 

 

フンと鼻を鳴らすアーサーと名乗る騎士。ギャンッ!バゴンッ!と続く剣戟がマシュの盾を叩いていく。動きに合わせたマシュが防いでいるのではなく、騎士が狙っての攻撃なのだが。

 

 

何度かの攻撃をしてからセイバーは眉をひそめ、攻撃の手を止める。

 

 

「…………円卓の騎士(ギャラハッド)の残滓………そうか、貴様か」

 

 

 

 

 

「話には聞いていたが、お前の盾は魔神王の光帯すらをも防ぎきったという。我がマスターが手を下さなければ、計画の障害になっていたのも貴様の眼つきで分かるな」

 

 

「手を、下す………?」

 

 

おかしな言い方、不思議な言い回しに立夏が疑問を抱いた。我がマスターが、あの騎士はそう言った。

 

 

「まさか……ッ!マシュから英霊ギャラハッドがいなくなったのって………」

 

「全ては我がマスターの力。他人のサーヴァントを強制的に座に退去させ、そしてその繋がり(ライン)を封印する……という魔術だったらしいが」

 

 

 

 

 

「………さて、何故このような事を話したか分かるか?」

 

「ッ!先輩!後ろに───」

 

「知ったところで、戦局は変わらないからだ」

 

 

あっさりと吐き捨てた『氷結』のセイバーは藍色の剣をマシュに向ける。

 

 

 

「──『氷華纏いし勝利の剣(エクスカリバー・アルマス)』」

 

 

言葉と共に放たれるのは、蒼い極光。

脳裏に浮かぶのは、味方として背中を預けてくれた騎士王(アルトリア・ペンドラゴン)、かつて敵として戦った黒い騎士王(アルトリア・オルタ)

 

 

その二人が脳裏にちらつく、しかし相手はそんな事など配慮してくれはしない。

 

此方へと伸びる極光にマシュは盾を背中に立夏を抱えあげ、何とか回避する。吹き飛んだ地面が凍るのを見た立夏はその瞬間、遅れてマシュもそれを目にした。

 

 

目の前迫る、もう一本の極光を。

 

 

「マスターからは宝具の連発は許可されている。俺程の魔力を補充出来る強力な炉があるみたいだから──な」

 

 

青白い燐光を散らしながら、セイバーは聖剣を振るう。宝具の連発、並大抵のマスターでは不可能なことをやってのける剣士、これがシュヴァリオンのサーヴァント。

 

 

格上の相手に戦慄していた立夏を庇うように、マシュが盾で極光を防ぐ。ズドガァッ!!! とただの光とは思えないような轟音と衝撃がマシュの身体へと響いていく。

 

 

「耐えるのは構わないが………その少女は、後何発耐えきれる?」

 

彼女の纏う『霊基外骨格《オルタナテウス》』からミシミシと聞こえてくる。その音が、『オルタナテウス』からなのか、マシュの体からなのか、分からない。

 

 

 

「二発三発四発、五発以上か?…………もしくは、あと一発で終わるかもしれないな」

 

 

長剣の束を指に絡め、クルクルと回転させた騎士は静かに眼を伏せる。スーッと呼吸に続き、ヒュッ!と刃が風を切る音が響く。

 

 

二人が声をあげる暇もなく、向けられた剣先から蒼い光が灯っていく。立ち上がることが出来ないマシュに寄り添う立夏、その二人を睥睨した騎士は短く嘆息する。

 

 

そして、回避不可能の極光が放たれた。

 

 

 

 

 

 

 

 

天空の神殿にて、一人の青年が顔を歪めていた。超然とした余裕、全てが思い通りにいっている歓喜─────ではなく、失敗を見つけてしまった苛立たしそうなものに。

 

 

「くそ」

 

 

銀色の髪をかきあげ、シュヴァリオンは悪態を吐き捨てる。だんだんと落ち着いてきたのか、深く息を吸う。当たり前の動作なのだが、今のシュヴァリオンにとっては心が静まってくるものだった。

 

 

「………………くそが」

 

 

彼の口から似た言葉が出る。そして、玉座の上で映像に映る二つの画面(・・・・・)を確認した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

何時までも来ない衝撃に立夏はゆっくりと目を開く。目の前に立つマシュも困惑したように立夏を見るが、彼はある光景を見た。

 

 

即死級の宝具を放った筈のセイバー、又の名をアーサー。

 

 

そして、もう一人。

 

 

そのセイバーの宝具を横からの攻撃で反らしたフードを軽く被った黒衣の青年。

 

忌々しそうに顔をしたセイバーは、妨害してきた青年を睨む。対して、その人物は剣をクルクルと回しながら、セイバー、そして立夏とマシュを見比べていた。

 

 

「貴様、はぐれか」

 

 

「そー、それ。マスターがいなくて困っててさぁ。だからさ、そこの彼に一応聞こうと思うんだけど、

 

 

 

 

 

───問おう、貴公は困難を乗り越える者か?」

 

 

その問い掛けは、どんな意味があったのだろうか。立夏には分からなかった。膝をついていたマシュの前に、彼は有無を言わさないように強く頷く。

 

 

「OK!ならそこの騎士が俺の相手だな!」

 

 

「───どけ、俺の標的はそこの二人だ。邪魔するなら貴様も刈り取るぞ」

 

 

「いやー、だって女の子が戦ってるでしょ?それなのに見て見ぬふりとか出来ないさ!そんな真似したらもう騎士失格、いや男として駄目だからね!」

 

 

黒衣の青年の言葉にアーサーは長剣をダラリと下げる。しかし、それは気を抜いてるのではない、何時でも殺せるように自然な構えをとっていたのだ。

 

 

「では俺の相手を貴様が?はぐれごときのサーヴァントが、か?」

 

「ふっ!マスターがいるかいないかの差だろ?普通の聖杯戦争ならともかく、今のオレは簡単じゃいかない」

 

 

突如起こった烈風に黒衣が翻される。顔に掛かったフードが後ろへといき、白気のある黒髪の青年がその顔を露にした。

 

そして、彼は名乗りあげようとした。

 

 

「我が名はロジぇぶぁっ!!」

 

 

しかし、噛んだ。こんな時に、彼は舌を噛んでしまったのだ。激痛に苛まれている青年は、膝をついてこう述べた。

 

 

「………………待って、舌噛んだ。マジで痛い」

 

「……………………………………………」

 

プルプルと震えながら答えるロジェロに立夏たちはともかく、アーサーですら残念そうなものを見るような目をしていた。

 

かっこがつかない、この青年は何処か抜けてるところがあると立夏は初対面の人物にそう感じてしまっていた。

 

口元を拭う青年が恥ずかしそうに頬を掻き、勢いよく広げた両手を開く。その掌に、剣と盾、二つの武装が収まった。

 

 

薄い紫の瘴気を纏う剣、翡翠に輝く光の盾、その二つを手に、黒衣の青年は名乗りあげた。

 

 

「………我が名はロジェロ!大英雄ヘクトールの子孫にして、元イスラム連合の騎士であり、!彼等を斬るのなら、このオレを倒してからにするがいい!」

 

 

「──────覚える必要もない、ここで死ぬ者の名など」

 

 

それだけの言葉の応酬が終わる間もなく、二人の騎士は疾駆した。自身の所持する武器を容赦なく、敵に振るおうとする。

 

 

目の前の相手を倒す(殺す)、ただそれだけの為に。

 




今回は前よりも短い、けどもっと長くしたら投稿が更に遅くなるから許してほしいです。


新しく出てきたゴエティア、予想できる人はいるかもしれない。だって、原作にも出て(これ以上は言えぬ)



ロジェロ出したって良いじゃないすか。キャラオリジナルだけど良いじゃないすか。


公式的にブラダマンテとロジェロが会えなさそうだから!実装され無さそうだから!希望ぐらい!作っても良いじゃないすかッ!!!(知るか)


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第十二節 騎士と騎士

まずは皆様に謝罪をさせていただきます。


前回からの投稿期間が数ヶ月も空いてしまい、申し訳ありませんでした!!

これからは少しずつでも投稿していくので、どうかよろしくお願いします!!



後評価や感想を送ってくれると嬉し(調子乗るな)


辺りを、炎が焼き尽くす。赤い炎が全てを破壊して。煉獄というべき世界の中央で二つの影があった。

 

一つはこの地獄を生み出した『烈火』のランサー。

 

 

そして一つは、彼女により胴体を貫かれたセイバーのサーヴァント、ジャック・ド・モレー。

 

 

 

「総長ォォォォォーーーーーーッ!!!」

 

宝具により生み出された聖騎士、彼の下で戦っていた解放軍の戦士たちが絶叫した。

 

怒りが思考の中で激しく炸裂する。限界だ、今この場の全員で飛び掛かりそうになる。が、誰もしなかった。

 

ある事に、意識が向いたのだ。

 

 

「────あぁ、困ります」

 

彼女の手にする槍が抜けなかった。自身の力を少し込めても、槍はびくともしない。

 

それは、大槍と彼女の手首を掴む手があったからだ。

 

 

「…………霊核を破壊された?霊基を砕かれた?普通のサーヴァントなら消滅する、だと?」

 

震える声が聞こえた。声は槍で貫いた男のものだった。血を吐きながら、ジャック総長は口を開く。

 

「だから、どうした」

 

「………」

 

「そんなもの、言い訳にしかならない。私の知る英雄たちは!そんな道理で朽ちるほど凡庸ではないのだ!!」

 

瀕死でありながら、ジャック総長はまだ折れてない。

 

ランサーは無言で力強く槍を引っ張る。胸元から槍が抜け、大量の血が噴き出す。

 

 

彼女は追撃をしない。そのまま跳躍し、ジャック総長なから距離を取ったのだ。それを視認した総長はニヤリと笑い、ランサーを睨み付けた。

 

「貴殿の真名も理解したぞ───戦乙女(ブリュンヒルデ)

 

「…………」

 

『烈火』のランサーは首を向けた。だが、ギチギチと首だけを動かすという不気味な動作をする姿に恐怖すら覚える。

 

否定をしない、沈黙を貫いていた。

 

その沈黙こそが、肯定を示していた。胸に開けられた穴を気にせず、立ち上がったジャック総長は強く奥歯を噛み締める。

 

言いたい事は、まだあったのだ。

 

「だが、理解できないところがある。その炎だ!」

 

「────」

 

「人の身、いやサーヴァントであろうと殺せる力を持つ炎。それが貴殿のものだとは思えない…………その身に宿す炎は何のものだ!!?」

 

彼女は、それにも答えない。ピッ! と矛先の血を払いながら、ジャック総長と相対する。

 

気のせいか、辺りを焼き尽くす炎が形を変える。その形を、聖騎士たちは──────いや誰よりも、ジャック総長は見たことがあった。

 

自らが信じてきた宗教に記されてた高位の存在と、その炎に覆われたランサーが重なったように見えた。

 

 

 

 

 

かつてギリシャいた当時、名高い大英雄によって殺されたアマゾネスの戦士長 ヒッポリュテ。

 

彼女は圧倒的な戦力差を前に、拳を握り締める。

 

 

敵はサーヴァント、今まで多くの人々を苦しめてきた元凶に従う者。

 

 

 

「クハハ!!休みはこれで終わりだ────やれ」

 

 

三十もの象から複数の砲撃が放たれる。激しい弾幕を避けながら、ヒッポリュテは弓に三本の矢をつがえ、砲弾をぶち抜く。

 

致命傷となる砲撃だけを迎撃し、他全ての弾幕はその身で受けることにした。

 

「ハッ!勘の鋭いな、これならどうだ?」

 

指を鳴らす音と同時に戦象たちの一部がヒッポリュテの視界から消える。消滅させた、と思った途端彼女の目の前に巨大な砲弾が炸裂する。

 

 

「我輩の宝具、『轟け、雷光の装甲象(サーティーズ・ロッカー)』を貴様に突破できるか?いや、不可能だがな!!」

 

爆発の煙から飛び出したヒッポリュテはすぐさま矢をハンニバルに向けて放った。しかし、ハンニバルは笑いながらそれを雷を纏った拳で掴み、握り潰した。

 

 

戦象の数が減ったと同時に砲撃の威力と速度が上がった。ヒッポリュテは戦いの中で推測する。

 

更にまた砲撃が響く。ヒッポリュテは先程と同じようにならないように回避する。

 

「………?」

 

そこで違和感に気付く。威力と速度が、さっきの砲撃よりも弱まってる事に。普通なら気付くことが出来ないが、ヒッポリュテは目にした。

 

 

 

全方位から放たれた砲弾の数々を。そこで、自らの失点を理解する。回避した直後、それなのに沢山の砲弾を避けきることなど不可能だ。

 

そこで彼女は振り上げた拳を自身の体に叩きつけた。ドバンッ!!と大砲のような勢いで彼女は地面に激突する。

 

激痛に顔を歪めながら、彼女は周りを見渡す。そこでようやく、無数の弾幕の理由を読めた。

 

 

 

彼女を中点として、戦象たちは円を描いていたのだ。僅かな距離を置いて、ヒッポリュテを囲むように。消滅していた筈の戦象たちもいた。

 

「包囲殲滅戦、我輩の得意とする戦術さ!最も、敵は貴様一人だけだがな!!」

 

…………そういうことか。

憶測だが、ヒッポリュテは何が起きたのかを考える。最初、数体の戦象たちを消したのは他の戦象たちのスペックを高める為だと思っていた。

 

 

間違いではない、一つを除けば。

消したのは彼女を仕留める為ではあるが、戦象たちを強くするだけではない。

 

ヒッポリュテを戦象たちに囲ませて、集中放火をしようとしていたのだ。

 

 

「こんなものでは、我が第2の宝具の使用は出来んな!だが我輩は信じてるさ!お前という英雄は、我輩に挑むべき資格の持つ英雄だと!!」

 

ハンニバルは笑い、脚をズドン! と叩きつける。象たちの咆哮が木霊し、激しい不協和音を轟かせる。

 

ヒッポリュテが動き出す直後、無数の砲撃が炸裂した。

 

 

 

 

 

『氷結』の騎士 アーサーと外套の騎士 ロジェロがぶつかり合う。剣戟と共に、身を貫くような冷気と翡翠の粒子が辺りに散る。

 

 

「フン」

 

距離を置いたアーサーの剣から蒼い光が輝く。宝具発動の予兆、膨大な魔力を収束している証拠。

 

 

「『防御破りの光魔剣《ベルサリダ》』!!」

 

しかし、ロジェロは翡翠色に煌めく魔剣を振るう。一瞬にして放たれる極光を切り裂き、その奥のアーサーの鎧を光の斬撃が掠る。

 

直後、淡い光が散ると同時に傷の場所の鎧が消失した。

 

「…………なるほど、流石はセイバーを名乗るだけはある。見事、と素直に称賛しよう」

 

冷静な言葉とは裏腹に顔を歪ませ、アーサーは氷の剣を突き立てようと向ける。マントをアーサーに投げ飛ばし、反撃に移ろうとするロジェロ。

 

「が、残念だな。狙いが読めてる」

 

結局、『氷結』のセイバー アーサーの方が上手(うわて)と言えた。

 

藍色の大盾を横に構え、先端をロジェロの顔面に叩き込む。勢いよく顔を殴られたロジェロの体は宙に舞い、吹き飛ばされた。

 

 

「流石は最優のクラスを授かるだけではある。宝具を使用すらしてないのに、私を追い詰めるとは」

 

アーサーはそう呟き、彼が名乗ったロジェロという名を思い出す。記憶上に一致する名前があったのだ。

 

 

確か、凡人類史にてあった歴史、フランス地にいた王に支えた騎士たち、名をシュルルマーニュ十二勇士。

 

 

彼等の敵として現れ、とある女騎士と恋仲に落ち、その後亡くなったという不運の騎士。

 

 

何と言う偶然だ、とアーサーは思う。(マスター)がいれば、心から面白がっただろう。

 

しかし、あの十二勇士と渡り合った騎士だ。パスも無しに自分と渡り合うその実力は見逃せない。

 

 

「だからこそ、危険と判断した。芽は排除しておくに足ると、マスターから言われているからな」

 

今までと同じような動作をする。長剣から膨大な青が魔力となって収束する。

 

今度は避けることさせない、一撃で終わらせる。

 

 

「───『氷華纏いし──」

 

「それで連続何発かな?」

 

魔力の奔流が放たれそうな直前、顔を上げたロジェロはあっさりとそう言った。まるでダメージなど無かった、というように。

 

 

「────ッ!?」

 

予測できなかった事に戸惑いを見せ、詠唱が止まる。しかし、アーサーはすぐさま魔力を込める。至近距離からの一撃、避けられる筈がないし即死は免れない。

 

そう思い勝ち誇った矢先、

 

 

 

ガクンッ!と藍色の剣から光が消失した。

 

 

「───な、にっ!?」

 

驚愕の声をあげるアーサーにも変化が生じる。目に見えて膝をついたのだ。氷で出来たと思われる半透明な鎧が少しずつ分解されていく。

 

「馬鹿なッ!?魔力はまだ充分にある筈………それなのに、何が……………ッ!」

 

「俺は騎士道を誇ってるんでね、分かりやすくタネを教えようか」

 

クルクルと光の剣を回しながら、ロジェロは前髪を弄る。嘗められたと思えそうな態度にアーサーは歯噛みするしかない。

 

 

自分がミスを犯した事を悟ったから、ロジェロの口から語れる言葉に反論することが出来なかった。

 

「オーバーヒート、それがアンタの気にかけてなかった失態だ」

 

オーバーヒート、その単語に立夏とマシュはすぐに気付いた。

 

「あまりにも熱すぎることを言うらしいけど、サーヴァントだってそれくらいなるんじゃないか?普通の魔術師なら即死くらいの魔力をポンポン連続で撃てばさぁ………、

 

 

 

容量(霊基)がどうなるかな?」

 

それが、アーサーに起きた異変の正体だった。あまりにも大量の魔力を消費した。それ自体は問題ではない。だが、連続で消費したことにより霊基にダメージが入ったのだ。

 

 

「どれだけ強力なサーヴァントでも、そんなのに耐えきれないよな?」

 

「き、貴様ァ…………!」

 

地面に剣を突き刺し此方を睨む騎士が、殺意の声を吐く。必死に立ち上がろうとするが、身体の限界が近いのか、上手く動けない。

 

 

 

ピシッ!

 

顔を覆った騎士の頬からそんな音と共に純白の破片が零れ落ちる。

 

色白い肌の奥に────もう一つの肌が見えた。

 

「───え?」

 

「肌が………」

 

その事にマシュと立夏は驚き、目を見開く。ロジェロはそれを見るや否や、顔をしかめる。

 

悠然としていた青年騎士が見せるにしてはあまりにも、怒りを含んだ色があったのだ。

 

「………なるほど、そうことか」

 

剣をついたアーサーが起き上がる。いや、最早アーサーではないのかもしれない。しかし、それを確かめる方法はない。

 

騎士の姿を操っていた謎の存在。彼は大量の魔力を放出しながら、藍色の聖剣を向けた。

 

 

「貴様ごときに話すのならここで朽ちるのを選ぶ。勿論、貴様らもろともだ」

 

冷気に似た魔力をその身から溢れさせる『氷結』の騎士。しかし、それでは崩壊が促進されるだけだった。そして、崩壊が頬全を包み込み、新たな肌を露出させていく。

 

 

 

 

『────三騎士に告ぐ』

 

その途中で、この場にいた三騎士が反応した。

 

 

 

 

「─────マスター?」

 

 

『烈火』のランサーが上空を見上げる。体を覆う炎と妄執の熱から解放された彼女は槍をも下ろす。

 

直後、カチリと。

 

無機質な、感情を表さない瞳に切り替わる。それを見た聖騎士たちはゾッとした。その姿が、まるで人形のように見えたから。

 

そして、彼女の姿が消え去る。青い粒子のように分解されて。

 

 

 

 

「───チッ、潮時か。もう少し楽しめたのにな」

 

 

『雷光』のライダー、ハンニバルが舌打ちをする。戦象たちを後ろへと下げ、不満そうに空を見上げた。

 

しかし、目を反らし視線をヒッポリュテに向ける。彼女に指を差し、興奮しきった様子で告げる。

 

「戦士長!貴様の実力は興味がある!死ぬなよ!?我輩の配下として誘いたいからな!!」

 

それだけ言うとハンニバルは背を向ける。それらの発言が、捨て台詞のようになっているが、彼は気にしないだろう。

 

その体が粒子へと分解され、巨大な象たちと共に姿を消した。

 

 

「……………クッ」

 

悔しそうに歯噛みし、ヒッポリュテは地面を殴り付ける。ビシビシッと大きな亀裂が出来るが、ヒッポリュテは何も言わない。何も言うことが、出来なかった。

 

 

 

 

 

「マスター?……………了解」

 

 

『氷結』のセイバー、アーサーはそれだけ言って、動きを止めた。ただならぬ魔力の放出を停止させ、あらぬ声に耳を傾けていたのだ。

 

隙を付くことなど出来ない、もし動けばだらんと下げられた剣を使って襲い掛かってくるだろう。

 

警戒している三人を他所にアーサーは溜め息を漏らす。クルリと後ろを向け、歩みを進めた。

 

誰が見ても、撤退するとしか思えない行動だった。

 

それを見咎めたかのようにロジェロは呆れたように嘯く。

 

「撤退するのか?さっきまで偉そうに気取ってたのに」

 

「抜かせ、三流サーヴァント。主の命令を優先するが私の役目だ。

 

 

 

それに、この外装(・・・・)も棄てなければならないようだしな」

 

 

ボロボロと崩れる顔に意識を向けたアーサーは盾を地面に起き、下げたフェイスマスクで隠した。崩壊が、目元までいくかという程だった。

 

 

刹那、アーサーの姿は跡形もなく消え去った。この場に激しい静寂が数秒間続いた。

 

 

 

 

 

 

『劣火』のランサーが姿を消すと同時に、ジャック総長はそのまま地面に倒れ込んだ。気力が尽きた、とそれだけ聞いていたら他の人間は思うだろう。しかしそれよりもタチが悪い。

 

何故なら、胴体を貫いた炎の槍により心臓を含む肉が抉られたから。サーヴァントにとっても重要な霊基も、それによって破壊されていたのだ。

 

 

「───総長!起きてください総長!」

 

駆け寄ってきた五人が必死に呼び掛ける。ジャック総長の宝具により、それぞれの聖騎士としての姿をした男女。彼が選抜した解放軍のエリートたち。

 

ジャック総長は弱りきった声音で、彼等に聞いた。

 

「………敵は、どうした?」

 

「撤退しました!貴方のお陰です、総長!早く此方へ、一刻も早く避難を。そして休んでください!」

 

「それは………無理だな」

 

部下たちの手を払い、ジャック総長は上半身だけを上げる。大きく空いた胸の穴から血が出る事はない、既に傷口を焼き払われたから。

 

 

「私は………ここで、死ぬ。それは、覆らない」

 

「何を言うのですか総長!」

 

「貴方は我々解放軍の指導者です!貴方には迷える人々を救済するという使命があるのではないのですか!?」

 

女性の声、渋い男の声がジャックの鼓膜を叩く。もう何も見えない、視界がぼやけていたのだ。

 

彼等の言葉に、総長は困ったように笑う。敗者は倒れるのが運命、出来ることは限られてる。

 

私はそれをするだけだ、と総長は己の決意を固める。

 

 

「──私の宝具、その姿は………私が消えても、受け継がれる。…………最後のマスター、藤丸立夏への助力してくれ」

 

 

 

 

「さらばだ、運命に抗う人間たちよ」

 

震える手で、十字を示す。目を開ききった聖騎士たちに向けて、死に体の総長は最後の言葉を遺した。

 

 

「天上で………同胞たちと共に、見守っているぞ」

 

 

 

ジャック・ド・モレー、この解放軍を指揮したセイバーのサーヴァント。

 

消えぬ炎にその身を焼かれながら、彼の聖騎士は願っていた。叶わぬ願いだとしても、必死に祈っていた。

 

 

────父よ、どうか彼等に奇跡が在らんことを。

 

この世界の救済の為に。悲劇で苦しむ人々の為に。そして不条理な運命に抗ってきた、これらかも抗う事だろうカルデアとそのマスターたちに。

 

皮肉にも、彼の死に様は────伝承とそっくりだった。火刑に処された生前の最後と。違うことがあるとすれば一つ。

 

 

彼の願いが、自分達を陥れた者たちへの憎悪の呪いではなく、今もなお戦おうとする者たちへの祝福の祈りだったのだから。

 

 

 

 

 

 

 

空高く浮かぶ居城、その最新部。

 

 

工房と思わしき部屋の中でシュヴァリオンは道具の一つを手に取っていた。机に置かれた特別な材質で出来たと思われる剣。それを前に空いた片腕で近くの棒を動かす。

 

真上にあった機械の一部、噴射口から放たれた炎が剣を熱し始める。青色という凄まじい高温のそれは剣の色を煌々とした赤へと変えていく。

 

手を離して火を止め、熱を帯びた剣を空気で冷やす。

 

 

「────『氷結』又の名を勝利の騎士、『雷光』又の名を戦争の騎士、『烈火』又の名を天秤、飢餓の騎士」

 

 

アーサー、ハンニバル、ブリュンヒルデ。彼が従えるサーヴァントたちの別の呼称。しかし、彼からすればそれ自体鼻で笑う案件だろう。それだけの英霊だからという理由で、三騎士と名乗らせた訳ではないのだから

 

 

もう一つのレバーを動かし、機械が白い煙を吐いて、剣を凍えさせた。鉄のハンマーを手で回しながら、シュヴァリオンは呆れたように呟いた。

 

 

「聖書に記された神の騎士、後一人足りないのが困った話だ。…………まぁ、補充すればいいことか」

 

自身の口からの言葉についつい笑ってしまう。サーヴァントの召喚は色々と魔力を使うので遠慮はしたいと思っている。当たりが出るかも分からない、ガチャみたいなものだ、触媒も無しに強力なサーヴァントを呼べるとは思えない。

 

 

「カルデアも利用は出来るが、シャーロック・ホームズがいるのは厄介だ。俺の『計画』に気付く可能性がある、早めに消しておくべきか?」

 

冷気が収まり、完全に冷えた剣の窪みに宝玉を設置する。その宝玉に向かってハンマーを叩きつける。カァン!と音がなり、宝玉が更に嵌め込まれたと同時に剣に閃光のラインが走る。

 

そんな彼の独り言と思わしき言葉に答える声が、一つあった。

 

 

 

『自己演算────完了、サーヴァント 《シャーロック・ホームズ》が「プラン」に気付く可能性は、95.4%───確率は高いです。気付かれる事を想定した「プラン」に移りますか?』

 

「お前に任せる。もしホームズが気付いた場合、『プラン』を別に乗り換えられるか?」

 

『最低でも、これからのルートの一部は妨害不可領域です。ここで処理をすれば、深刻な損害(バグ)が発生する可能性が』

 

声の主は、エイワス。

機械的な女性の声音がスラスラと難しい言葉を口にしていく。シュヴァリオンはそれを聞き流すのではなく、内容だけを読み取った。

 

ハンマーから手を離し、真上の機械を操り複数のアームを動かす。自動的に進められている作業を確認し、そのまま工房の部屋から立ち去った。

 

 

無機質に作られた廊下を歩きながら、彼は『エイワス』に質問する。

 

「今から各プランの確認に移る………空想樹は?」

 

『今の所、最高度の隠蔽、適度のエネルギーが供給されてます。覚醒までの養分も保存中』

 

「霊脈と他のサーヴァント」

 

『全て三騎士とルシファー様、リリス様を筆頭に排除しました。逃したサーヴァントの数名がカルデアと接触を図ろうと────』

 

「残念だが、もう図ったみたいだな………『神機兵』」

 

原点系統(プロトシリーズ)の調整・改良を施した事により、強化されたシリーズ、新世代型も装甲は完成しました。後はシステムを組み換えれば実戦に投入できます』

 

「そうか、最後は主要プラン『聖書神生』」

 

『本プランに必要なエネルギーは基本的に順調。後必要なものは、神との同調と思われます。………実行しますか?』

 

いや、まだ待てと口にするとそれ以上は声が響かなくなった。自らの仕事に取り組み始めたのだが、理解したと同時にシュヴァリオンは特別な部屋に入り、足を止める。

 

 

「─────後少しだな」

 

言葉と共に、懐のコートからあるものを取り出す。鎖の先についた、赤、青、白、黒、そして金という五つ色をした鍵の付いたペンダント。

 

 

「力をくれ、お前ら」

 

ギュッと五つの鍵を握ると、自然と力が湧いてくる。これがあったからこそ、シュヴァリオンはここまでやってこれた。

 

そして、これからも進み続ける。

 

 

視線の先には、巨大な球体があった。太い金具で空中に固定され、長いホースのようなものが複数も嵌め込まれている。

 

 

ドクン…………ドクン…………と心臓のように胎動する球体。中に、胎児が眠っているかのように振動する。

 

 

………中にいるのは、赤ん坊などと比べられないな、とシュヴァリオンは困ったように笑う。そのまま視線を横へと向ける。

 

様々な装置の横に、プレートが貼られている。記されてあるのは、単語だった。

 

この部屋の名前ではない、ではあの球体の呼称か………その中にいる存在の名かもしれない。

 

そこには、こうあった。

 

 

 

 

 

──────Yahweh、“ヤハウェ”と。




この小説を評価してくださった、バリトンむふぁささま、疾風の雪さま、マグロォさま、rareさま、むらさき君さま、黒川エレンさま、MinorNoviceさま、ぼるてるさま、ポチ&タマさま、栗鼠科さま、ハーフシャフトさま。

そしてお気に入りしていただいてる、

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この小説をここまでの方が愛読してくれるという事実に、感謝と喜びしかありません。


これからもこの小説は努力して進めていくので、是非ともよろしくお願いします。


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第十三節 次の一手 ★

ある日の話。


ディオスクロイ(兄)『ディオスクロイ、現界した───』

私「え?兄貴の方、死ぬほど声が低いやんwww」

マイフレンド(ライダーじゃないリアルの)「いや、お前の方が声低いよ。FGOのどのキャラよりも」

私「え?嘘?」


────マジらしいです。


────誰も彼も信用できない。

 

 

14歳の頃から、全てを敵と定めていた。大勢の者から向けられる嫉妬と敵意、それらを身に味わい続けてきたのだ。

 

 

魔術師としての才能を妬いたのか、父親が『あの魔術師』だという噂に嫌悪してるのか、別にどちらでもいい。

 

 

 

───どちらでも、良かった。何の感傷も無かったのだ、怒りも悲しみも。

 

 

 

しかし転機はあった。

カルデアに勧誘されたのだ、してきのはオルガマリー・アニムスフィア。上から目線だったがまぁ魔術師なんて大抵そんなものなので気にしてはいない。

 

彼女が語るに、カルデアは人類の中でも最も偉大なことを成そうとしているらしい。

 

 

『グランドオーダー』、それを果たすのがカルデアの目的。本来では有り得ない過去の事象、特異点なるものを破壊し、人類の未来を守る。

 

聞いていて愉快に思えたので聞いてみた。それをして俺にメリットはあるのか?と。

 

 

『その偉業を果たせば、貴方だって認められるわ。■■■■■■・■■■■■の悪名も、それで取り消されると思うのだけど…………どうかしら?』

 

彼女の言い分には、納得するものがあった。きっと同じ立場にいる人物だからなのだと察せることが出来た。

 

 

────誰からも認められず、誰からも受け入れられなかった。それで言えば、自分は酷く納得している。

 

 

カルデアに入ったのも、人類を救いたいと思ったわけでも、彼女の為というわけでも…………いや、少しはそうかもしれない。けど、何で入ったのかよく思い出せない。

 

 

自分の実力から、Aチームに所属することになった。結果的には二番目という順位だが、悪くない感じだ。

 

『グランドオーダー』の直前、Aチームの皆と触れ合いも覚えてる。忘れることなど出来るわけがない。

 

 

 

───カドック・ゼムルプス

 

やさぐれたような魔術師。自分を平凡だと思ってるらしく、挨拶をした当初は俺の事が苦手だと面を向かって言われた。けど、今はだいぶ落ち着いたと思う。軽口は言い合えるぐらいには。

 

 

───オフェリア・ファルムソローネ

 

数少ない『友達』の一人。同じ時計塔の出身という点もあり一番最初に仲良くなれた。魔眼の効果が凄いので似たような魔術兵器を作りたいと話したら、苦笑いされた。

 

 

 

───芥 ヒナコ

 

無口というか基本的に無愛想な子だったかもしれない。何というか───『人間じゃない』のは分かっていたが、黙っていた。隠すのには理由があるだろうし、何より俺も同じだったからというのが理由だ。

 

 

 

───スカンジナビア・ペペロンチーノ

 

オフェリアと同じ、数少ない『友達』。コミュニケーション力が凄く、普通に俺に接してくれた。友達だと言ったら嬉しそうだった。レイシフトの後でマシュやオフェリアともお茶会をしたのも良い思い出だ。

 

 

───キリシュタリア・ヴォーダイム

 

我等がAチームのリーダー、そう評するに相応しい人だ。才能で言えば互角くらいだが、普通に勝負して負けた。次は君も勝てるだろう、と言われたからには勝つしかない。今度こそ勝って見せるぞキリシュタリア。

 

 

 

───ベリル・ガット

 

飄々としてるというか、全般的に気の良い人物だ。

 

だが、彼は普通ではない。怪しいというか何か裏があると思う。仲間を疑いたくはないが、もしもの為に警戒を怠らないようにする。

 

 

───デイビッド・ゼム・ヴォイド

 

 

無口、あまり他人と触れ合うことがない。

感覚の鋭さから、俺の正体に気づいてたらしい。黙っていて欲しいとお願いしたら、普通に受け入れてくれた。ミーティングの際に、神話について話を聞こうと思う。

 

 

 

そして────マシュ・キリエライト

 

感情が乏しい娘だった。少し会っただけで、余命が二年だというのを気づけた。それでも何とか人生を謳歌しようとしてる彼女を助けたいと思った。

 

 

 

 

 

この全員でグランドオーダーを達成しよう、そう誓い合った。そしてこの戦いが終わったら食事会をしようとも提案した。契約したサーヴァントたちと一緒に、皆で。

 

 

 

しかしそれは叶わなかった。あの日、当日に俺たちは爆破によって死にかけた。コフィンの中で凍結されていたが、死ぬのは時間の問題。

 

しかしそんな所で、『奇跡』が起こった。

 

 

 

『選ばし君たちに君たちに提案し、捨てられた君たちに提示する』

 

異星の神、クリプターを生き返らせた存在。そして人類史を白紙化させ、自分達に異聞帯を与えたモノ。

 

 

 

『栄光を望むならば、蘇生を選べ─────怠惰を望むのならば、永久の眠りを選べ』

 

何が目的か、何をしたいのかも分からない。だが、俺たちを利用する気なのは分かった。運が良いと喜ぶべきだろう。

 

 

 

『神は───どちらでもいい』

 

 

本来、起きる筈のない『奇跡』が自分達を救ったのだ。そう思うと様々な感情が沸き上がる。その内の一つが、彼の心に深く浸透した。

 

 

 

 

───なんだ、それ

 

自然と笑みが零れる。諦めに近いモノに駆られた失笑。超次元的な存在の慈悲に喜ぶどころか、どす黒いナニかが支配し始めていた。

 

 

 

─────その『奇跡』で、『あいつら』を救ってくれなかったんだな

 

 

 

激しい失意と絶望が心を支配する。それと同時に何かが壊れる音がした。

 

 

 

今まで耐えきり、不安定な心中を支えてきた重要な柱が。粉々に砕けるような。

 

 

 

 

 

 

『三騎士』の襲撃から少し経った頃。

藤丸立夏とマシュたちは簡易拠点で解放軍と休んでいた。シャドウ・ボーダーは解放軍の本拠地で待機している。故に通信での会議を開くことになった。

 

 

「────現状から言おう、我らが『解放軍』の損害。兵士及び民間人の死者は五千人、負傷者は一万六千。そして総長が倒れてしまった」

 

「………ジャックさんが、倒れたんですか?」

 

盲目のランサーの語る話に、マシュは唖然としていた。自分達の知らぬ場所での死、それは重く来るものだった。

 

 

『倒されてしまった者の話は後にするべきだ!我々にはそれよりも優先する事があるだろう!?』

『………ミスター・ゴルドルフの言う通り。我々カルデアは強敵、シュヴァリオンの打倒を考えなければならないと思う』

「因みに聞かせて貰うが…………カルデアの策士には策があるか?奴等を突破できる事が可能か?」

 

平静にしているホームズの声に、騎兵クラスのサーヴァント、ヒッポリュテが問いかける。

 

 

今まで多くの難所を突破する名探偵は息を漏らす。深く重苦しいものだった。

 

 

『…………こういう事を言うのは名探偵として相応しくないが────────不可能に近い。白旗を上げる準備をした方が遥かに良いと思うがね』

 

全員が言葉を失う。今までの彼を見てきた立夏とマシュたち、カルデアの面々だからこそ、衝撃は他の者たちよりも大きい。

 

 

 

『まず、我々の戦力が足りない。味方するサーヴァントたちは確かに強い。アマゾネスの女王であるミス・ヒッポリュテにランサー、そして彼の有名な騎士 ミスター・ロジェロ。

 

 

 

 

それでも足りない、我々の敵はシュヴァリオンだけではなく異聞帯の王がいる以上、後三人は必要だ』

 

シュヴァリオンの従える異常な強さを持つ『三騎士』、それと『異聞帯の王』、現在人々を押さえている悪魔勢力もいずれは敵に回る。

 

 

『そしてもう一つ、彼等の動きが読めない。何時どの時に行動するのか分からない以上、下手に動けば包囲されるかもしれない。かと言って、何もしないのは推奨しないが』

 

「─────いや、手はある」

 

声を上げたのは一人、ランサーだった。ホームズの話を遮る発言に全ての視線が向く。

 

盲目のランサーは懐から小さな端末のような物体を取り出す。微量の魔力が流れてる事から、立夏からでも礼装だというのは分かる。

 

ランサーはそれを片手で弄くると、片耳に押し当てた。

 

 

「こちらランサー。キャスター、聞こえるか」

 

『────えぇ、聞こえてるわ。』

 

聞き覚えのある声が伝わってくる。この異聞帯ではなく少し前、カルデアにいた時。

 

かつて共に人理修復をしたのだから忘れない、いや忘れる訳がない。

 

「………メディア、さん?」

「なら、解放軍のキャスターって……!」

『マスターとマシュ、久しぶりね。えぇ、私で合ってるわ。今は別行動をしてるから会えないけど』

 

かつて、『運命の日』の前日に退去した英霊の一人。昔からカルデアにいたキャスター、メディアの声が響いてきていた。

 

 

「キャスター、話をしたいのは分かるが報告を優先してくれ。現状、急ぐべきだからな」

『報告はするつもりよ。けれど、お堅い総長さまは何処かしら?』

「───総長は倒れた。三騎士の一人と交戦し、撤退に追い込んだが」

『……………そう、彼ですら負けたのね』

 

自分たちのリーダーの訃報に、メディアの声は重かった。何も手助けすら出来なかった事が心底歯痒いらしく、術式からの音声が歪みかけている。

 

 

「あの方の為にも、我々は勝利しなければならない。キャスター、報告を頼む」

 

えぇ、分かったわとメディアはそれに従う。音声越しではあるが、彼女は冷静に現状を説明し始めた。

 

 

『この世界の霊脈から大量の魔力が吸い上げられてる。「あの神殿」へと供給されてるから、あそこで何か大規模な計画を起こすのは間違いないわ』

 

 

「……………神殿?」

「空高くに浮かんでるあの建物、ですね。あれは不思議に思ってましたが」

『あれこそがシュヴァリオンの本拠地。もうあれは要塞というべきね』

 

 

そういえば、と思う。

この異聞帯で浮遊する巨大な城のようなものが見えていたが、あれは何なのだろうと。マシュも同じくそう考えていたのか、不思議そうに首を捻っていた。

 

 

「あの神殿、バリアのようなもので覆われている。補助として地上にある基地の魔力を使っているらしいが、厄介なのはそこじゃない」

 

『「無限修復」、術式を再生させる魔術。神殿のバリアを保護してる魔術の一つ。それともう一つ、こっちの方がとんでもないのよ』

 

 

話の最中、ランサーとヒッポリュテの二人が苦い顔をした。不愉快というか、激しい怒りを堪えるようなものにも似ている。

 

 

 

『「死を刻め・その魂に(エクセリア)」。それがあの結界を恐ろしくした魔術………と言うよりは呪詛に近いかしらね』

 

ザワッ、と立香の全身に冷たい感覚が走った。魔術に関してはある程度教えて貰ってはいたが、そんなものがあるとは知らなかった。

 

通信越しに語られた効果は、直感通り恐ろしいものであった。

 

『効果を受けたものを絶対に殺す。どんな防壁を張ろうと、サーヴァントでも例外なく。代わりに結界に組み込まれた術式の一つを破壊するらしいけど、修復されるから意味がないに等しいわ』

「そ、そんな魔術が………存在するんですか……?」

『似たようなものならあるわね。これとは違うと思うけど。

 

 

 

現に何人もバリア破りに失敗して消えていったわ。結論を言うと、「無限修復」と「エクセリア」がある限り、私たちは勝てない』

 

明らかな宣告。絶句するカルデアの面々に解放軍のメンバーはすらすらと事実を述べる。

 

───かつて仲間だったバーサーカーもバリアを破りを実行した。その結果、消滅したと。

 

───その他の野良英霊も手を尽くしたが、『三騎士』により一掃されてしまった。生き残っているのは、ロジェロという騎士ぐらいだろう。

 

しかし、とランサーが付け足す。その一言だけで雰囲気が少しだけ切り替わった。

 

「シュヴァリオンの前線基地、配下である『烈火の騎士』がそこに常時配置されてる。奴にとって重要なのは間違いはない」

 

「奴はどうやってかは分からないが、吸い上げた魔力を神殿へと供給している。結界の維持に必要な魔力も分けられている」

 

あ、とマシュと立夏が声を漏らした。

彼等の意図を理解できたのだ、自分達が今するべき行動を。

 

 

「つまり、魔力を配給している装置を破壊することが出来れば………」

「『無限修復』と『エクセリア』の効果は薄くなる。あの忌々しいバリアを突破できる。しかしそう上手くはいかない」

 

三騎士の一人、『烈火の騎士』が在中する場所。つまり『騎士』との戦いは避けられない。

 

勿論、自らの弱点を簡単に晒すことなど普通は有り得ない。厳重な警備などで護っているのだろう。

 

危険などと、安易な言葉では語れない。この場の誰かが死ぬ可能性なんて十分ありうるのだ。

 

 

「基地はシュヴァリオンの支配する場所の一つ。未知の領域と言っても過言ではない。それでもか?」

 

サーヴァントは問うた、マスターの覚悟を。

 

 

 

 

答えは単純、強い覚悟を宿した瞳で頷いたのだ。それを受けた時点で、その場の全員の次の行動が決まる。

 

────修羅の道へと進み、必ず勝利を掴み取ると。

 

 

 

 

 

 

前線基地に行くメンバーは選抜された。

 

立夏、マシュ、ランサー、ロジェロ、この四人だけ。シャドウ・ボーダーと解放軍、ヒッポリュテたちは拠点で待機をすることとなったのだ。

 

 

解放軍の拠点から少し離れた場所。複数の集落の跡地を通っていった所で、女性が待っていた。

 

 

「───来たわね、待ってたわ」

 

キャスター、真名 メディア。解放軍のメンバーの一人で、今までにシュヴァリオンを倒すために独自に調査を行っていた魔術師の中でも上位の人物。

 

 

「………メディアさんも解放軍のサーヴァントだったんですね」

「そうね、『三騎士』から追われてたところを総長さまに助けられたのが理由かしら?」

 

 

 

「───キャスター、魔術的な罠は?」

「全く無いわ。かえって不気味ね、まるで私たちの狙いが読めてるみたい」

 

魔術師としてのメディアは冷静にそう話し、横に目を向けた。釣られるように見てみれば────、

 

 

 

 

「ここが前線基地──────『テレマ法院』よ」

 

 

大規模な建築物。窓や扉などが全く存在しない不可思議な偉容を保っている『それ』が、目の前にそびえ立っていた。こんな近くにあったのに存在すら分からなかった、幻術で隠されてたのかもしれない。

 

 

呆然とするしかない彼等の前で、静かに四角形の穴が開く。入ってくることを望んでるかのように、暗闇から空気を吸い込んでいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

────炎が、燃える。

 

 

 

 

あぁ、(ちち)よ。私たちを作り出した唯一なる(ちち)よ。

 

 

何故、私は憎まなければならないのですか?愛するべき人を、罪を犯した者だとしても。

 

 

 

どれだけの人を焼けば、どれだけの裁きを下せば、この身は『貴方』の元に行けるのですか?

 

 

 

 

 

 

『無事か、ランサー』

「…………はい、何とか」

 

 

『烈火の騎士』 ブリュンヒルデは大広間の中心に膝をついて休んでいた。

 

先の戦いで、炎を出しすぎた。戦闘ではない以上、狂化も解除されている。この施設は魔力を使いすぎたブリュンヒルデの調子を整えられる設備もある。

 

 

彼女の本来の役目はこの施設の守護することであり、

 

『存分に休め────と言いたいが、悲報を伝えよう。カルデアがそこに向かっている。目的は間違いなく、魔力収束システム「テレマ」の破壊だ』

「────」

 

地脈からの魔力を神殿へ供給する装置『テレマ』を守ること。その障害を葬ることも彼女の役目なのだ。それを実行するのに多くの犠牲を許容している。

 

 

だが、例外もある。

 

『まぁ待て。行く必要はない、お前は「この部屋」を守ればいい。下手に動けば隙を与える、どうせ奴等の方から来るからな』

 

「分かりました、マスター」

 

マスターの命令こそが絶対、それが『彼女』の在り方であった。例えどんな事情があろうと、マスターの指示にだけは従う。

 

言外にそう示した『烈火の騎士』は『テレマ法院』の奥深くで鎮座する。マスターの護るべき、魔力装置を破壊しようとする敵を排除するために。

 

 

 

 

 

 

 

「これからだ。これからが重要になる」

 

杖を片手に魔術師は謳った。今起きてる事を理解し、思い通りに動く現実を目にし。

 

杖の上部にはダイヤルが嵌め込まれていた。3桁しかないもの、0~6の数字しかないそれは一体何の使い道があるかは分からない。

 

それは魔術師─────シュヴァリオンにしか分からない。

 

 

媒体(神の炎)舞台装置(テレマ法院)は整った。後は実験体(カルデア)だ。面白く、とてつもなく愉快な展開になるぞ」

 

楽しみだ、とシュヴァリオンは玉座の上で笑う。先を見通すかのように、いずれ起こる未来を楽しむように。




もうこれ、シュヴァリオンの正体に近づいてきたんじゃないかなって思いますね。


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番外編総集
アポクリファ編 その1


突然ですが、この小説が日間ランキングで18位になっていました。


評価をつけてくださった皆様、お気に入りをしてくださった皆様、本当にありがとうございます!


ここまで多くの人に読んでもらえるとは思わず、嬉しい限りです。


アンケートは好きなので何でもいいよ、が多かったので自分が好きなものを投稿していきます。

最初はアポクリファに決めました。この後も、他の話を書くつもりなのでよろしくお願いします。


タイトル思いつかなったから、こうします。なんか浮かんできたら変更しますんで。


ビー!ビー!ビー!

 

無造作に置かれたスマートフォンが振動する。その部屋はお世辞にも綺麗とは言えない程の物だった。沢山の武器や礼装が壁や棚に揃えてあり、巨大な机の上には分解されたと思われる銃や機械のパーツが散らばっていた。

 

あーっ、ちょっと待ってて、と焦った声があがる。その部屋の主と思われる青年は慌てたように筆ペンを放り投げ、ペン立てに入れる。

 

そして、スマートフォンの画面をタップすると耳に当てて机の上を片付ける。

 

 

「もしもし、シュヴァリオンですけど……………どちら様ですか」

 

『私だ、久しいな』

 

端末のスピーカーから声が響く。その声を聞いたシュヴァリオンは深く息を吐いて、近くの椅子にドカッと座る。

 

 

「今『聖杯大戦』で忙しい筈だけど、俺に連絡してきたのはそのことかな?ダーニックさん」

 

 

電話の向こうにいる人物 ダーニックに語りかける。

 

 

ダーニック・プレストーン・ユグドミレニア。

時計塔にいた頃は、最高位とされた冠位(グランド)になったユグドミレニアの魔術師。講師としての才能はなかったと彼も記憶しているが、政治関連では凄まじい程の腕を持っているのも良く覚えている。

 

 

しかし、ダーニックとその一族は魔術協会から独立した筈だった。冬木とかいう地から『聖杯戦争の要』を奪い取り、協会に宣戦布告をしたという話も聞いた。

 

 

そんなダーニックが何故自分に連絡してきたのかを、シュヴァリオンはなんとなくだが察していた。

 

 

『単刀直入に言おう、私は君を『セイバー』のマスターにしようと思っている』

 

 

勧誘、協会から自分を引き抜こうとしているダーニックにシュヴァリオンは驚愕と呆れの感情を抱きながら、肩を竦める。

 

 

「『セイバー』………最優のマスターを俺なんかにするつもりなのか、やっぱおかしいだろ」

 

『いや、お前だからだよ。私はお前の実力を見込んでいるつもりだ。時計塔の中でも異端とされる魔術師の実力を』

 

時計塔にいた頃、一時期教えしていたダーニックだからこそ、シュヴァリオンの才能を見抜けたのだろう。

 

 

 

この話、シュヴァリオンにとって悪いものではなかったかもしれない。

 

協会は彼を卒業させようとせず、ずっとこの時計塔に縛っている。少なからず興味を抱いてた聖杯戦争に参加もできる。

 

それに、彼の知り合いである一族もユグドミレニアとなっている。

 

 

 

「悪いけど遠慮するよ。俺は聖杯にも根源にも興味なんてないし、何よりアンタが信用できないからね」

 

だが、彼は断った。その理由は二つ。

 

彼は他の魔術師たちとは違い、命を懸けるほどの願望を持ち合わせていない。もし聖杯が目の前にあったとしても、シュヴァリオンはそれを手放すだろう。

 

もう一つ、それはダーニックという男を信用できないからだ。この男は一流の詐欺師と称されるほどの腕をもつ、味方を切り捨てることも厭わないような事もするだろう、とシュヴァリオンは考えていた。

 

 

『───チャンスを失った事を、後悔するなよ』

 

「アンタこそ、吠え面かかされないように注意しとけよ。そう言って負けたr『ブツッ!』……………………」

 

 

嫌味を言おうとしたら電話が切られたのに気付き、切りやがったな、あの千枚舌!とがむしゃらに罵倒するシュヴァリオン。

 

 

その後すぐに扉をノックする音が聞こえてくる。シュヴァリオンは荒げていた息を整えると、「開いてますよ」と声をかける。

 

 

扉を開けて入ってきたのは、長髪の男性。赤いコートの上に黄色い肩帯を垂らし、不機嫌といった表情を浮かべていた。

 

机を片付けて、もう一つの椅子に座った男性の顔を見て、シュヴァリオンは顔をひきつらせた。

 

 

「会議は、どうだったんですか…………って、やっぱり良くなかったみたいですね」

 

「あぁ、理解しているのならそうしてくれたまえ。その方が助かる」

 

男性の名は『ロード・エルメロイ二世』、本名は別のものみたいだが、講師や生徒たちの多くがそう呼んでいる。

 

………他にも変な呼び名があるのだが、ここでは伏せておくとしよう。

 

彼、シュヴァリオンもエルメロイ教室の生徒の一人。エルメロイ二世からは常識人故に頼られることも多い。

 

 

「───会議の結果、君を『聖杯大戦』のマスターにする事が決定した」

 

やはり不満そうなエルメロイの言葉にギコギコと椅子を動かす。このような反応をしているが、シュヴァリオンも驚いてはいる。

 

「お偉いさん方が了承するとは、やっぱりダーニックのおっさんの事すか。俺を外に出したがらなかった癖に今さらかよ」

 

ハッ!と鼻を鳴らし、悪態をつく。都合が良すぎると怒りを露にするが、徐々にそれは沈静化していく。

 

だが、と付け足すエルメロイ。振り向いたシュヴァリオンに彼は自身の心情を口にした。

 

 

「本当に感謝する。君がいなければ今頃私の胃に穴が空いてた所だった」

 

「そのせいで俺、最古参とか言われてんだけど!」

 

 

エルメロイ二世の心からの感謝に対して、シュヴァリオンはどうとも言えない様子で高まった感情を吐露する。

 

時計塔で天才と称された彼が卒業出来ないのには一つの理由があった。

 

現在時計塔にいる問題児たち(遠坂のうっかりとエーデルフェルトの現当主、そして全ての原因であるフラットとか言う阿呆とその他諸々)の抑止力(ストッパー)となってしまっていた。卒業したいと文句を言うが、講師陣から泣きつかれてしまい、何年も過ぎたのである。

 

 

──昔の嫌な思い出が脳裏に浮かんだシュヴァリオンは頭を抱えていたが、視界に入ったそれに興味が湧いた。

 

 

「それはそうと……………………それは?」

 

 

タッシュケース、その中に入っている物。まるで何かの破片のような物体に、シュヴァリオンは首を傾げていた。

 

彼の様子を確認することなく、エルメロイは煙草に火をつけ吸う。そしてスラスラとその正体を口にした。

 

 

「君の召喚に使う触媒、アルゴー船の残骸だ」

 

 

「ッ!…………へぇ、それりゃあ良い代物だよ、文句無しの」

 

触媒となる『それ』を眺め、シュヴァリオンは心から感嘆していた。

 

 

アルゴー船。

 

ギリシャ神話にて登場した巨大な船。数々の英雄たちがそれに乗っていたとされる、あのギリシャの中でも有名な大英雄も。

 

船長であるイアソンを含めても、それ以外の面々はサーヴァントとしては悪くない、それどころか大当たりとも言えるだろう。何せ神話を生きた英雄達の集まりなのだから。

 

 

「そして、これが聖杯大戦の資料。あと聖杯大戦の地、ルーマニアへのパスポートだ」

 

「用意が早いなぁ………………今から?」

 

「今からだ」

 

即答され、うへぇと顔をしかめるシュヴァリオン。彼は机に置かれた聖遺物をタッシュケースに納め、片手に持つ。

 

「………俺がいない間、あのアホどもをよろしく」

 

「よろしくされたくないが、仕方ないだろうな」

 

軽口を叩き合い、部屋から出ていったエルメロイ二世をシュヴァリオンは見送り、急いで準備を始めた。

 

廊下を歩きながら、煙草を吸うエルメロイ。彼は煙を吐き、ゆっくりと脚を止めた。

 

「………ったく、私の教え子が『聖杯大戦』に行くことになるとは、笑えん話だ。………あの馬鹿者が行かなくて安堵するがな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ルーマニアの町外れ。

 

 

「フィーンド先生、ペンテルの双子のおっさんにジーンさん………おーおー、これが俺の味方側か。個性的な人たちばっかだな」

 

総合的な感想を呟き、アジトとして使っている廃屋の中でシュヴァリオンは資料を読んでいた。

 

 

「そして、獅子劫さんか。まさかあの人も参加するとは、この人なら信頼できるし良いんだが…………」

 

 

溜め息を吐きながら、最後の一人を確認する。資料の一枚に付属してる写真にある男の姿を目にし、その名前を噛むように口にした。

 

 

「…………シロウ・コトミネ、ねぇ」

 

魔術協会とは違う、聖堂教会から派遣された監督官兼マスター。言峰と書いてコトミネらしいが、何かきな臭い。

 

警戒しておくか、と心の隅に留めて置くことにして、彼は手の甲に浮かんだ『それ』を見た。

 

 

令呪。

 

サーヴァントに対する三つの絶対命令権限。サーヴァントの暴走や反逆を止める為の物であるのは一般的だが、信頼し合う者はサーヴァントへのサポートにも使うとされている。彼が調べたことのある聖杯戦争でもそれは使用されていた。

 

 

だが、彼はその令呪をこっそりと何画かもらっていた。流石に多すぎかな、と思いながらも彼は床に描いた召喚陣の前に立つ。

 

 

───さて、始めるか。

 

決意すると、令呪の浮き出た片腕を召喚陣に向けた。教えられてた通りの詠唱を口ずさむ。

 

 

「素に銀と鉄、礎に石と契約の大公───手向ける色は『赤』」

 

 

静かに詠唱を口にしていく。それ続いて、召喚陣から黄金の光が放ち出す。

 

招かれようとしているのだ、人知を越えた英霊、サーヴァントが。

 

その事実に自然と笑みが漏れる。面白い、これが聖杯大戦か、と思考していた彼は重圧を押し退けるかのように力強く最後の一節を叫んでいた。

 

 

「───抑止の輪より来たれ、天秤の守り手よ!」

 

 

眩しい光が炸裂し、凄まじい風が吹き荒れた。飛ばされぬように地で踏ん張り、暴風が止むのを待った。

 

そして、彼は見た。

 

光が薄れていく召喚陣の中で、翠緑の衣装を身に纏った少女が静かに佇んでいるのを。

 

 

「サーヴァント アーチャー、召喚の招きに従い参上した」

 

 

眼差しは獣のように鋭く、髪は無造作に伸ばされ、貴人の如き滑らかさは欠片も無い。

 

だが、その身に纏う気迫はシュヴァリオンにも分かるくらいに鋭く大きいものだった。

 

 

「問おう、汝が私のマスターか?」

 

 

これから、戦いを共にする相棒(サーヴァント)。彼女の問いかけに、シュヴァリオンはゴクリと息を飲んだ。




シュヴァリオンは本編とは違い、落ち着いてるので少し違うと思います。

この世界ではシュヴァリオンはエルメロイ教室の生徒です。

さて、今回は本編で出てきた何これ?みたいなのを説明してきます。


千枚舌

シュヴァリオンのダーニックへの呼び名。ユグドミレニア《千界樹》と、ダーニックの詐欺師としての呼び名をかけた言葉。たまにこういう風に呼ぶことがある。


時計塔の問題児たち


シュヴァリオンが卒業出来ない原因。大抵が同じエルメロイ教室の生徒なのだが、彼が最も困っているのは、遠坂の赤い悪魔とエーデルフェルトのゴリラ(彼いわく)そして、アホの子です。




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