殺人者:裁定、復讐 (イミフな黒兎)
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殺人者:裁定、復讐

――被害者は五名、恐怖は伝染し精神は穢される――

――全ての民に救われる術を、全ての者は救いの刃を手に――

 

 

 

 

「それで、今回はどうすれば良いの?」

 

 

 人の気配がまばらな部屋。カルデアの唯一のマスターである藤丸立香は、サポート役に徹しているサーヴァントのレオナルドに呼ばれていた。理由は一つ、新たな英霊を召喚するためである。

 此度赴いた特異点は3つ。どれも多くの英霊と協力し、特異点修復に成功してきた。残る特異点は4つとなった今、現状のサーヴァントだけでは戦力が追いつかなくなり、急遽追加で新たなる英霊を召喚する必要が出てきたのだ。

 

 

「そうだね、前回は天草四郎、その前はジャンヌ・ダルクだったし、きっと次もルーラーが出てくるんじゃないかな?」

 

「ええ……うちまだルーラー以外のクラスの人居ないのに……どうしてうちにはエクストラクラスしか来ないんだろうね……」

 

「大丈夫です先輩!私が付いてます!」

 

「マシュ……でも君もシールダー、所謂エクストラクラスじゃないか」

 

「でも……」

 

 

 反論をひねり出そうとしたマシュ。だが、返しを思い付かなかったらしく、唸った末、しょぼくれていた。

 

 

「まあまあマシュ。気を取り直して。次の特異点はロンドンだから、出来ればロンドンに関わりのある英霊が来てくれるとありがたいのだけれど、そ~いうわけにもいかないよね」

 

「それもそうですね……よし、始めましょう!」

 

 

 深呼吸を一つ、念入りに深めにとる。僅かに手の震えが収まった気がした。ダヴィンチちゃんから呼符を”二枚”受け取り、さあ召喚をするぞと意気込み――

 

 

「あれ、ダヴィンチちゃん、一枚多くない?そんなに召喚して大丈夫?」

 

「気にしないでくれていいとも。何やら次の特異点、何やらきな臭そうでね……ロマニとも相談して、今回は二人召喚することにしたんだ。少し念入りに力を入れて進めて欲しい。その為には呼符の一枚や二枚、惜しくないさ。ましてや戦力は有って困ることはないからね」

 

「あー……分かりました」

 

 

 再び深呼吸をする。さっきもしたからか、効果が薄い気がするが、問題無いだろう。マシュに盾を召喚陣の位置に置いてもらい、召喚の言葉を口にする。

 

 

「素に銀と鉄。礎に石と契約の大公。

 降り立つ風には壁を、四方の門は閉じ、王冠より出て、王国に至る三叉路は循環せよ。

 閉じよ(みたせ)。閉じよ(みたせ)。閉じよ(みたせ)。閉じよ(みたせ)。閉じよ(みたせ)。

 繰り返すつどに五度。ただ、満たされる刻を破却する。

 ――――告げる。汝の身は我が下に、我が命運は汝の剣に。

 聖杯の寄るべに従い、この意、この理に従うならば応えよ。

 誓いを此処に。我は常世全ての善と成る者、我は常世全ての悪を敷く者。

 汝三大の言霊を纏う七天、抑止の輪より来たれ、天秤の守り手よ――――」

 

 

 中央の召喚陣に置かれた二枚の呼符が消滅する。それと同時に中央から光が漏れ、光輪が一瞬のうちに広がる。そして光が部屋を包んだ時――二人の男女が召喚陣の中から姿を現した。

 

 

「サーヴァント、ルーラー、ジャック・ザ・リッパーです。どうぞ宜しくお願いします……え?」

 

「サーヴァント、アヴェンジャー、ジャック・ザ・リッパーだ。手間取らせることはさせないでくれよ……は?」

 

 

 光の中から現れた二人の男女が互いを見合い、口を開けたまま固まった。自身をルーラーと名乗った彼女は、一見看護師のような格好をしており、長いポニーテールを二股に分け、前に垂らした茶髪をしていて、自身をアヴェンジャーと名乗った彼は、病的なまでに白い肌と、ダークブラウンと言っても差し支えない髪。こちらは不揃いな格好をしていて、白い医師の白衣を纏いつつも、腰回りにはカフェエプロンと拳銃の入ったホルスターに理容用の道具、胸元の白衣のポケットには大量の画材、そして手には鋏を持っていた。

 

 

「ええ……と、……ダヴィンチちゃん、どうする?」

 

「これはこれは、良かったね立香くん、やっとルーラー以外のサーヴァントが召喚されたじゃないか!」

 

「あ!話逸らしてない!?マシュは……」

 

「ルーラーにアヴェンジャー……まさか先輩はエクストラに……?これは私のアイデンティティが揺らいで……」

 

「ダメだ!自分の世界に入り込んでる!」

 

 

 予想外の展開に慌てる三人。まさかの召喚した二人の真名被り。二人とも同一人物では無さそうで、如何にも厄介事を引き起こしていそう。その上、あの倫敦を恐怖の渦に巻き込んだかの有名な殺人鬼、ジャック・ザ・リッパーと来たものだ。

 

 

「兎に角、お二方!取り敢えずこちらに来て、話を……」

 

「……まさか、あなたはあの時の……!そういうことですか。それにこの場所……色々と酷い状況のようですね……」

 

「……嗚呼、そーいうこった。面倒事に巻き込まれたみたいだなぁ……この格好からして、厄介な案件臭がプンプンするなぁ……」

 

 

 突然二人とも動き出したと思いきや、どちらもそっぽを向いて遠い目をしている。

 

 

「いや、二人とも、ちょっと話を聞いてくれるか?」

 

「ん……?あ、マスターか。悪い悪い。少し許容範囲外な事が起きてな。主に横に立ってるソイツ何だが」

 

「ソイツとは酷い呼び方ですね。一応あなたの為に色々と手助けをしたというのに……おっと、マスター。この方は気にしないでください。ジャック・ザ・リッパーは私一人で十分ですので」

 

「おいおい、そういうお前もジャック・ザ・リッパーじゃないだろうが!実際俺はジャック・ザ・リッパーの犯行の一部としてジャック・ザ・リッパーと扱われてはいたが」

 

「そういう話じゃないですよ。あなたがいても大した戦力にならないじゃないですか。実際当時の犯行はとても稚拙な物でしたし」

 

「何だと!?アレはアイツとは違うと……」

 

「ハイハーイ、ちょっと話している所悪いけど、一先ずはマスターの話を聞いてくれるかい?彼、君たちの会話に入れなくてとても居心地の悪い表情してるから」

 

 

 もはや預けられた子犬状態である。

 

 

「それもそうだな。……よし、お前はルーラーだから、ルラジャック。俺はアヴェンジャーだから、アヴェジャック。尤も本名を明かせれば楽なんだが……」

 

「無理ですね。私もあなたも本人の側面ですし。今回はジャックとして召喚されてますしね。渋々ですがその通称で呼び合いましょう」

 

「えっと、良いかい?二人は召喚に応じて来てくれた……のでいいんだよね?」

 

 

 二人の独特な雰囲気に飲まれぬよう気を取り直し、立香は二人に問いかける。

 

 

「まあ、そうだな。個人的にはあまり来たくなかったが……」

 

「私は喜んで協力しますよ!世界の危機なんですよね?ルーラーとして、最大の協力は厭いません」

 

「それは良かった!俺は藤丸立香。君達は……ジャック・ザ・リッパーでいいんだよな?」

 

「ああ、その認識で構わないぞ。尤も当人とは言い難いが――当時の倫敦を恐怖に巻き込んだのは、俺とコイツだ」

 

「む、私はそんなつもりは無かったのですがね。元々は彼女たちの救済の為にですね「そこら辺はマスターが混乱するから後にしとけよ」……むー……」

 

 

 発言途中で遮られたからか、頬を膨らまして拗ねるルーラーのジャック――ルラジャック。その様子を見て、藤丸立香は一つの疑問を口にした。

 

 

「二人は同一人物じゃないのか?」

 

「俺は……言ってみれば模倣犯。こっちの拗ねてる方は教唆と宣教者ってとこだな。俺もコイツの口車に乗せられたもんだ」

 

「私は彼女達の事を思って行動しただけですよ。兎に角、彼と私は正体不明の殺人鬼であるジャック・ザ・リッパーの側面です。彼もジャック・ザ・リッパーであり、私もジャック・ザ・リッパーである。そこは間違えないように」

 

 

 アヴェジャックの言葉から付随させてルラジャックが補足してくる。

 

 

「二人はどうやって戦うんだ?」

 

「俺は肉切り包丁にパレットナイフ、鋏やメス等を使うな」

 

「私は武器と言える物は持ち合わせてはいませんが、今回の召喚で当時宣教していたのが関係したのか声を使って戦えるようです」

 

「声……って?」

 

「何だか原理は分かっていませんが、声で衝撃波とかが撃てるとか」

 

「へ、へえ……」

 

 

 イマイチ把握しきれない攻撃方法に戸惑う藤丸。そういえばステンノの攻撃とかも独特だったし、まあいいか、と自分を納得させる。

 

 

「そ、それじゃあ二人の宝具は?」

 

「……すみませんが、宝具については後ほど。此処には人が多くいます。宝具というのは切り札のようなものですから、マスターと二人きりの時に教えますよ」

 

「それは同感だ。コイツに言うのは気が引ける」

 

「なんですって!?」

 

 

 アヴェジャックの言葉からまたしても口喧嘩が始まってしまった。売り言葉に買い言葉とはよく言うもので、途切れることのない攻防が舌戦にて繰り広げられる。

 

「……大体その格好と、その口調もだ。お前そもそも男だろ。生前から思ってたが……なんでそんな格好してんだ」

 

「これは皆さんの救いを求める声が自然と女性に近づいたからです!私自身の趣味も若干程入ってはいますが……それを言うならあなたの格好もです!あなた確か職業k「まあまあ、落ち着いて。」……むう、分かりました。ここはマスターに免じて収まるとしましょう」

 

 立香の言葉を受けてか、ルラジャックが食い下がる。その様子を見たアヴェジャックも一歩下がった。

 

 

「二人共、召喚に応じてくれたのは嬉しい。だけど、二人にお願いがあるんだ。」

 

「なんです?」

 

 

 立香が口にすると、ルラジャックは顔を近づけてくる。その様子を見て、アヴェジャックも顔を立香に向ける。

 

 

「これはもう召喚されている二人にもお願いしてるんだけど……二人共、俺に気を使わないでほしい。マスターだから、とかサーヴァントだから、とかやっぱりそういう関係よりも――俺は友達みたいな関係でいたい。だから――そんな俺でも契約してくれますか?」

 

 

 立香の言葉を聞いて、二人はぽかんとした顔でお互いの顔を見合わせる。

 暫くすると顔を伏せ、震え始めた。どうかしたのか、と立香が声をかけようとすると、同時に顔を上げて大声で笑い始めた。

 

 

「ハッハッハ!まさかこんなマスターとはなぁ……お前の最初やろうとしたことも出来そうにないだろ?」

 

「アッハッハッハ……そうですね。叶いそうにないですが……面白いマスターに会えましたから、よいかと!あとルラジャックですよ!自分で言ったの忘れましたか!」

 

「ハハ、すまんすまん忘れてた」

 

 

 笑いながら二人で会話し続ける。またもや蚊帳の外と化してしまったようだ。

 

 

「そ、それで返事は……?」

 

「いや、わるいわるい、まさか友達宣言をしてくるとは思わなくてな」

 

「私達反英霊にカテゴリしますからね。そんな危ないものを友達とは思いませんから」

 

 

 二人で息を合わせて、一言で言い切る。

 

 

「「勿論!」」

 

 




アヴェジャック
・実行者。
・復讐に走った名も無き殺人者。混沌・悪
・それのみでは復讐者としてのクラスには弱いので、「冤罪を負ってしまった被疑者たち」の幻霊を纏っている、
・……といった所だが、実際は本人はただの被害者であり、当時のロンドンの市民達のジャック・ザ・リッパーに対する恐怖を押し付けられた者。
・具体的には当時ジャック・ザ・リッパーの事件の捜査をしていた警官の1人。
・あまりにも多くの人が訴える中、ルラジャックに唆され、最終的に本当のジャック・ザ・リッパーに敵意を抱くようになり、ジャック・ザ・リッパーにそぐわない殺人を犯した者。
・ジャック・ザ・リッパーに対して関係の無い殺人を加え、彼の考えを壊して復讐を結果的に行った人物。
・具体的には(使わないけど)”ホワイトホール・ミステリー”と”ピンチン通りの殺人”が近いか。その為、史実的にはジャック・ザ・リッパーに上書きされたトルソ・キラーやトルソ・マーダーの存在である。
・ジャック・ザ・リッパーとして此度顕界しているのは、両者の存在が混合して伝えられてしまっているため。

ルラジャック
・殺人教唆者。混沌・善
・売春婦に対して救いを与えようと、上司の医師等、街中の市民、一部の警官にその実態を偽り、街中を混乱に陥らせた者。
・ジャック・ザ・リッパーとは違い殺人は犯していないが「ジャック・ザ・リッパー」を作り出し、その実態を知らしめ、全世界に轟かせたキッカケとなったため、ジャック・ザ・リッパーとして此度顕界する事となった。
・ルーラーとして必要な「特定の勢力に属さない」「現世に望みがない」「聖人」に当てはまる。
・聖人としての素質は、「全ての者に救いの手を」を唯一の願いとしているため。その願いのために、当時高価だったアルコール類の酒より安いジンを作り、当時のロンドン市内にジン中毒を救いと考え広めていった。
・因みに男。女装している理由としてはアーサー・コナン・ドイルが正体について「女装した男性」であるという仮説を採用した。
・当時の2件のゴールドストン通りで発見された白いチョークで書かれた文書は彼が善意で書いたもの。ロンドン中で注目を集める場所でなら考えを発信できると考え、反主義等の考えは一切考えずにただ可哀想といった考えのみで行った。


作者の妄想が入った駄文。最後は自分でも納得いってない


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