僕のヒーローアカデミア~Eの暗号~ Phase2 (エターナルドーパント)
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第1話・Iの記者会見/衝撃の遭遇

『よっしゃ!やっていくぜ、Phase2!!』
「よーし!頑張れクソ作者!」
『ではどうぞ!』


(出久サイド)

 

「記者会見?」

「あぁ、そうだ」

オールマイトの呼び出しに応じて、夏休みの昼間っから学校の校長室に来たらコレかよ・・・

「いや~、君が誘拐された件についてマスコミが煩くてさ!」

「それで、本人である俺に答えさせようと・・・で、オールマイトは丁度今引退会見か」

「そう言う事だ。時間稼ぎも兼ねてな」

「済まないと思っているけど、君が行使出来る拒否権は無いのさ!」

オイ校長、アンタ微塵も悪いと思ってないだろ絶対。

「済まんな緑谷。俺達もやれる事はやったんだが、アイツ等全く聞く耳持たねぇ・・・ったく、これだからマスゴミは・・・お前の口から色々言ってくれると助かる」

相澤先生、苦労してるな・・・

「今日は暇だったんでもう良いですけど、次からはなるべく相談、最低でも連絡はして下さい。あと相澤先生、コレどうぞ。永琳印の胃薬です」

「・・・ありがとよ、緑谷」

やっぱり胃痛持ちだったか・・・えーりんの薬はよく効くぞ。

「さてと、オールマイトの引退会見が終わったのさ!急いでほしいのさ!」

「へいへい、行ってきますよ」

ハァ~、面倒臭くなりそうだ・・・

 

─────

────

───

──

 

─緑谷出久さんのメンタルケアは!?─

 

─万全を期した筈なのに、何故敵の侵入を許したんですか!?─

 

─どう責任を取るおつもりで!?─

 

「・・・案の定、鬱陶しい事この上無いな」

俺は会見会場のステージ横に待機しながら呟く。

引退会見が終わってまた事件の事を引っ張り出してきたな、あのマスゴミ共・・・胃痛頭痛で相澤先生と交代してくれたブラドキングに、マスゴミ共は容赦無く質問を浴びせる。ブラドキングの顔にも青筋が浮かんでいて、流石にそろそろメンタル面が限界らしい。と言うかよく耐えたよ。

「さて、行くか」

俺はステージに出て、ブラドキングに歩み寄った。

「・・・来てくれたか、緑谷君」

「まぁね。お疲れさんです、ブラドキング先生。さ、選手交代(タッチ)だ」

「済まないな」

「ケーキ1切れみたいなもんさ。気にしないでくれ」

俺の言葉を聞き、ブラドキング俺とは交代してステージ裏に消える。それを見送り、俺はマスゴミ共に目を向けた。

「どうも、今回誘拐されていた緑谷出久だ。こっからの質問は、俺が出来る限り答えよう」

ざわめき出すマスゴミ共。しかしそれも15を数える頃には収まり、記者共はすぐに獲物を狩るジャッカルみたいな顔に早変わり。もうやだコイツ等・・・

「では、今回の林間合宿について。万全を期して尚(ヴィラン)に侵入されてしまいましたが、緑谷さんから見て問題はありませんでしたか?」

「少なくとも俺が見た限り無かった。と言うか空間転移系能力を持ってる(ヴィラン)に対しちゃ侵入の対策なんてしようも無い」

実際、USJにも入って来たからな。

「では、林間合宿先の情報漏洩については?内通者などの噂も流れておりますが・・・」

「それこそ俺達を疑心暗鬼にしようとする敵の思惑の内でしょうよ。これだって、相手を追跡する個性でもあれば簡単に割り出せる。このご時世に、場所の秘密など在って無いようなものですよ。特に人目に付く事の多いヒーローなら、尚更ね」

こう言っとかないと、内通者うんぬんかんぬんで後が面倒になるからな。実際、内通者も怪しい線ではあるし・・・

「では今回、誘拐を許してしまった雄英教師の怠慢に対する責任は?」

「そんなものあるか」

「・・・何と?」

戦場を知らぬ傍観者はコレだから困るねェ・・・

「今回乗り込んできたのはチンピラ共とは訳が違う。死刑囚含む少数精鋭だぞ?それ相手に戦って、怠けられる訳無いだろ。まぁアンタ達がそいつ等を前に怠けられるなら別だがな?十中八九、グロテスクな肉片に生まれ変わっちまうだろうが」

口元をひきつらせる記者。生意気な口調が気に障ったか?まぁコレを改めてはやらんがね。

「流石に教師も責任を取らされるだろうが、そもそも自分を殺しに来る奴等と戦う訓練をする施設に通ってるんだ。当然、こうなる事も覚悟の内さ」

まぁ峰田の奴がそうか否かは知らんがな。

「では、今回の黒幕を()()()()()()()()件についてはどうご説明を」

「・・・は?」

何言ってんだコイツ?

「今回の事件でベストジーニストに重傷を負わせた黒幕・・・あの(ヴィラン)をあなたが倒し、死亡させたという目撃情報があります。また証拠映像も入手出来ておりますが・・・」

・・・あ~、消滅したオール・フォー・ワンか。

「あぁ、あの身の丈に合わない力を振るおうとして文字通り身を滅ぼしたヴァカですか」

「なッ!?」

全く、勘違いも甚だしいな・・・と言っても、アイツは最期に敗れることを望んだのかも知れないが・・・まぁ、ガイアメモリの危険性に関する広告塔として、精々利用させて貰おうか。

「か、彼も同じ人間なのですよ!?何故そんな」

「人の人生が急降下するような情報を流して、そうやって作った金で飯食ってるマスゴミ(アンタら)には言われたくないねぇ。それに勘違いしているようだが、あれは単なるガイアメモリの副作用だ。毒性の強いガイアメモリを、無理に幾つも同時使用したツケさ。言わば、アイツの消滅は単なる自業自得・・・アイツの重ねてきた業を思えば、因果応報とも言えるかな」

ガイアメモリを使ったらあんな事になる、というイメージを流して貰おう。そうすればダブル先輩の世界みたいに、バカな子供がガイアメモリに手を出す事も防げるかも知れない。

「しかし、緑谷さんもガイアメモリを使用していますよね?」

「俺の場合、ドライバーを使って毒素を濾過しているから問題は無い。そもそも、俺はガイアメモリの毒素は効かないしな」

全く、ハイドープってのは便利なもんだな。まるで超進化人類(エヴォリュダー)だ・・・いや、在る意味まんまエヴォリュダーなのかも知れんな。

「何故、その毒素が効かないのですか?」

「そういう特殊体質、としか言いようが無いな。他にも、特定のガイアメモリの特殊能力が全く効かないという体質もある」

アクセル先輩とか、な。

「・・・では、次です。そのガイアメモリと同じ物を、敵連合の死柄木が使ったと言う情報があります。しかしながら、それを使っていたのは今まであなただけです」

「・・・何が言いたいのか、要約が欲しいな?」

「では単刀直入に聞きます。敵連合にガイアメモリを渡したのは緑谷出久(あなた)では無いのか、という噂が流れているのですよ」

あぁ、成る程。

「それは無い。何せ、俺の能力の大元だってガイアメモリだからな」

「?・・・それは当然でしょう?ガイアメモリを使って戦っているんですから」

「いや、そう言うのとは違う。もっと根本的な事だ」

もう言っちゃって良いだろ。

 

「俺は元々、()()()だった」

 

『ッッッ!?』

ワォ、全員目が真ん丸だ。

「俺の力は、俺の身体と融合しているメモリーメモリの力だ。奴らに協力している組織が、適合者を探す為に放ったメモリーメモリ。それが、俺と融合している。つまり俺は、この状態でも歴としたドーパント(怪人)って訳だ」

「・・・・・・し、質問に答えて下さい!」

ポカーンとしてた記者が漸く頭を働かせたな。

「つまり、俺がわざわざ渡す必要が無いって事だよ。つい最近まで協力関係だったし、何より今頃生産ラインも安定してるだろうしな」

ま、俺が創るT2メモリは奴さん等が創るドーパントメモリよりもかなり地のスペックが高いんだが・・・黙っといた方が賢明だな。

「し、証拠は!?証拠はあるんですか!?」

 

「根も葉も無い噂話を出汁に粗探しして来たテメェが、一丁前に証拠要求してんじゃねぇよ」

 

「っ!」

コイツ必死過ぎだろ・・・普通記者って、こんなバカな事言うとは思えねぇんだがなぁ・・・まぁいいか。

「確かに、俺の潔白を証明出来る証拠は無い。だが同時に、アンタが言い出した()()にも証拠は無いんだ。そこら辺しっかり覚えとかないと痛い目見るぞ。今みたいにな・・・さて、他に何か質問は?」

「幾つか」

そう言って手を上げたのは、俺がよく知る人物・・・文やんだった。そりゃ来るよね、こんなスクープあったら。

「どうぞ。カラス天狗のルポライターさん」

「ありがとうございます。では、ドーパントに対する注意点などがあればお願いします」

お、流石は文やん。良い質問だね。

「警察にはもう情報を渡したので、ちょっと端折り気味で行きますよ。

 

1,ドーパントから受けた傷は医学的治療が全く効かないので、本人の自己再生能力を信じるしかない。

 

2,ドーパントメモリには薬物のような依存性があり、やめられなくなる。

 

3,使うメモリとの相性によって、毒素が強まるだけだったり規格外の出力があったり、ドーパント体から戻れなくなる事もある。

 

4,仮面ライダー以外の攻撃でドーパントを倒せば、メモリ使用者は良くて重度の後遺症を抱え、運が悪ければ死亡する。

 

5,使用者からの心理的要因により、ドーパントの能力が変質する事がある。

 

こんな所ですね。あ、そうだそうだ、これも言っとかないと」

俺が思い出したのは、血狂いマスキュラーが変身したバイオレンスドーパント。

「使用者の願望とメモリの能力が合致すると、ドーパント体での出力が上がります。そして何より厄介なのが・・・使用者がドーパント体の能力と類似した個性を持っていた場合、その個性を最大限に増幅する事が出来ると言う点です。テロなんかで使われてる、ブーストドラッグみたいにね。しかも、ドーパントとしての体質も大幅に向上。生半可なヒーローが倒そうとしても、逆に死体(ヒト)の山が出来ます」

「成る程・・・恐ろしいですね」

「何より恐ろしいのは、コレがバラ撒かれる可能性が高いって事です。闇バイヤーが売り捌いたりして」

もしかしたら、既に出回ってるかもな。

「麗日さんと爆豪さんが使うベルトは、あなたが作ったものですか?」

と、別の記者だね。

「いや、違う。俺が作れるのは、データ等を武装に転換するエネルギー系ライダーシステムと、肉体を一時的に鎧に変質させて纏う肉体変質系ライダーシステムだ。それに対し、彼等のスクラッシュシステムは特定の物質を変化させてアーマーとして装着する・・・言わばマテリアル系ライダーシステム。俺の専門外だね。因みに、製作者の事に関してはノーコメントだ。絶対(ヴィラン)に襲われるからな」

まぁ実際は世界所か宇宙そのものを敵に回しても余裕で勝てるだろうし、物理的にほぼ遭遇不可能なんだが・・・流石に異世界の産物って言う訳にも行かないからな。

「他には・・・無さそうですね。ではこれにて」

 

フゥ~・・・慣れない事すると、肩が凝るな。

 

─────

────

───

──

(NOサイド)

 

─からんころん♪─

 

小洒落た喫茶店のドアベルが鳴り、来客を知らせる。言わずもがな出久だ。記者会見の疲れを癒そうと、コーヒーを飲みに来たのである。

「チャオ~♪」

「あ、出久さん!いらっしゃいませ、こんにちは!」

「お、椛さん。今日もメイド服似合ってるねぇ」

店内に入った出久に、メイド服を着た白狼天狗の犬走椛が挨拶をする。

そして店を見回すがマスターの姿が見当たらず、出久は首を傾げた。

「なぁ椛さん、マスターは?」

「あぁハイ、マスターさんは休憩室に・・・」

「あ、出久!丁度良い所に!」

噂をすれば何とやら、厨房横のドアから惣一がひょっこりと顔を出した。

「よぉマスター。どったの?」

「あ~、取り敢えず来てくれ。あ、椛ちゃんは仕事お願いね!」

「ハ~イ」

(む、カフェ仕事大好きなマスタークが仕事ほっぽり出す程重要な事なのか)

何だか良く分からない基準ながら、大事の予感を察知する出久。故に、黙ってドアを開けてすぐの階段を下りる。この店、実は地下が在るのだ。惣一の居住スペース兼、休憩用のバックヤードでもある。

「で、何があったんだ?」

「あ~、それがな。今朝店を開けたらさぁ・・・」

一旦そこで区切り、休憩室のドアノブを捻る惣一。次の瞬間、出久が見たのは・・・

「・・・うぇ?」

 

髪にそれぞれ赤、青、黄、緑のメッシュが入り目元に同じ色のアイメイクを施した美女・美少女計4人が、ベッドに横たわっている光景だった。

 

「この子達が倒れてたんだよね。様子がおかしいから取り敢えず寝かせたんだけど・・・出久?」

惣一の声も届かぬ様子で呆然とする出久。何故なら彼女等は────

 

「何で、ここに来るかなァ───

 

───自動人形(オートスコアラー)・・・」

 

────平行世界、シンフォギア世界の産物だからだ。




「初っ端から良くやるよ」
『だって、中々にキャラ濃くて面白い面子だったんだもん。それに出久と相性も良いし』
「相性?・・・あぁね。成る程ね」
『あ、そう言えばデップー』
「ん、どした?」
『俺またミラクル起こった』
「おう、言って見ろよ」
『あぁ。かっちゃんの使うグリスの強化形態って、グリスブリザードじゃん?』
「あぁ、そうだな」
『氷じゃん?』
「ブリザードだからなぁ当たり前だよなぁ」
『でジョジョの奇妙な冒険の第5部に、ホワイトアルバムっていう氷のスタンドが出て来るんだけど・・・その使い手のギアッチョの声、かっちゃんと同じ岡本信彦さんだったのよね』
「・・・お前中の人ネタの神様にでも好かれてんじゃねぇの?」
『ありがとう!中の人ネタの神様!

所でアクシア、2つ質問がある。

1つ、戦姫絶唱エボリューション!で、キャロルのオートスコアラー達はどうなったっけ?

2つ、ハーメルンにはもうアカウント作らねぇのか?

こんだけ』
「それでは、ありがとうございました!」
『Phase2も宜しくね!』


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第2話・目覚めるA/出久の交渉

『祝!アクシア(弟子のロギア)復活!』
「お前アクシア君に世話んなったからな」
『おう。エヴォリューションの世界行かなきゃ、Phase1後半成り立たなかったからな』
「では、どうぞ!」


(出久サイド)

 

「何で、ここに来るかなァ───

 

 

 

───自動人形(オートスコアラー)・・・」

 

自動人形(オートスコアラー)・・・それは、シンフォギア世界の錬金術師によって造られたアンドロイド。

その中でも今目の前で寝ているレイア・ダラーヒム、ファラ・スユーフ、ガリィ・トゥーマーン、ミカ・ジャウカーンの4体は、ダウルダブラのファウストローブの持ち主であるキャロル・マールス・ディーンハイムによって造られたモデル達だった筈だ。確か、《想い出》を焼却してエネルギーに転換する機構が組み込まれているんだったか・・・

「お、出久はやっぱり知ってるか?」

「まぁな。前にマスターにやった、トランスチームガンとコブラロストボトル・・・あれを貰った世界にいた存在さ。ちょっち失礼・・・」

レイアの掛け布団を捲ってその腕を見れば、肘・手首・肩が思った通りフィギュアのような球体関節(ボールジョイント)になっていた。

「うん、間違い無いな。俺の知ってる自動人形(オートスコアラー)達だ。と言うか、結構汚れてるな」

「その、オートスコアラー?は、脈が無いのが正常なのか?」

あ、やっぱり脈とったのね。

「あぁ。エネルギーケーブルみたいなのはあるだろうが、それが脈動する事はない」

「あ~良かった。最初脈無かったから死体かと思ってヒヤヒヤしたんだよ~・・・まぁ、死体にしちゃあおかしな所もあったんだよな。その関節と言い、全く屍臭がしない事と言い・・・だから取り敢えず、スチームワープで一遍にここに運んだ訳よ」

まぁ、コイツ等は風化こそすれ腐りはしないだろうからな。

「ナイス判断。さてと、内部に異常は・・・」

俺はデンデンセンサーで自動人形(オートスコアラー)をスキャンしてみる。見た所、内部中枢にも損傷は無いみたいだ。

「うん、故障も無し。となると、恐らく単なる想い出切れ(ガス欠)だな」

想い出、つまりメモリエネルギーを供給してやれば動く筈・・・俺と相性抜群だな。

「取り敢えず、コイツ等は俺が預かるよ。目覚めさせれば色々便利そうだし。あ、ウィンナーコーヒー1杯お願いね」

【ボーダー!マキシマムドライブ!】

ボーダーでスキマを開き、中に自動人形(オートスコアラー)達を放り込む。コレなら幾らでも運べるからな。

「おう、毎度あり~♪」

そう言ってマスターは階段を登って行き、続いて俺も一階に登る。そして俺はカウンター席に座り、改めてグルッと店内を見回した。

今の時刻は一時半。昼食には遅く、客は俺しか居なかった。さっきまでいた客も帰ってしまったらしい。まぁ、見ず知らずの奴が大勢居る環境は落ち着かねぇから有り難いが。

「出久さん、どうぞ」

何とも無しに目を泳がせていると、椛さんが蒸しタオルを持ってきてくれた。

「お、どうも~♪」

俺はそれを受け取って広げ、背凭れに凭れ掛かって顔に被せる。すると蒸しタオルの蒸気が顔面を包み、表情筋を解してくれた。

「フゥ~、あぁったけぇ~・・・あ、そうだ。椛さん、ちょっと時間良いかい?」

「えぇ、良いですよ。丁度お客さんが居ない時間帯ですし」

椛さんは俺の隣の席に座り、銀盆をカウンターに置いた。話に乗ってくれるので、俺も顔からタオルを剥がす。

「で、最近どうだい?」

「う~ん、やっぱり暇ですね~。ま、ヒーロー(私達)が暇なのは良いことかも知れませんが」

「あ、そっちじゃなくてね」

ぐわっと身体を起こし、ベキベキッと腰を捻った。

「男とか出来たかい?って話」

「え?」

・・・ふむ。表情・視線・筋肉の緊張、全て異常無しか。こりゃ脈ある男は居ないな。

「・・・ハァ、出久さんもそれ言うんですかぁ?」

「と言うと、やっぱり文やんに言われるのかい?」

「やっぱり分かりますよね。ハァ~・・・文さん、常々そう言ってからかってくるんです。でも偶に、本当に幸せそうな・・・何というか、母親?みたいな、すっごく穏やかな優しい顔になるんですよ」

「そりゃそうだろうな~」

愛の幸せを知った顔だな、それは。

「・・・そう言えば、文さんの恋人って会ったこと無いな。優しい人って言ってたけど・・・」

「デッドプール」

「・・・へ?」

「本名、ウェイド・ウィルソン。職業は傭兵上がりの臨床実験体(モルモット)。個性は回復因子(ヒーリングファクター)だ」

「ちょ、ちょっと!」

ん、どうかしたかな。

「え、お知り合いですか?」

「それどころか親友。アイツが居候してる所も仲良いから、偶に遊びに行くんだ」

「確かに、あの時いたな~。一目じゃ分かんなかったけど。はいお待ち遠さん」

そう言ってコーヒーを出してくれるマスター・・・って!

「おい!誰が文字通りの腸詰め入り珈琲(ウィンナーコーヒー)出せっつったよ!」

コーヒーカップにそそり立つウィンナー・・・何?この、何コレ?

「おう、それな。シャ↗ウ↓エッ↗◯ン!」

「お前なぁ・・・」

「ハハハ、裏メニュー裏メニュー!どうだ、ユーモラスだろ?」

「いやどっちかっつーとギャグそのものだよ・・・ハァ~ったく、おいマスター!フォーク!」

「あ、律儀に食べるんですね」

「はいよ~フォーク」

「絶対カフェのマスターの掛け声じゃねぇだろそれ。居酒屋じゃねぇか」

ブツクサ言いつつも、この雰囲気こそがここの醍醐味なんだよな~と感じている俺が居る。ホント、こうやってバカやってる時ゃ楽しいねぇ・・・

「・・・うん、普通だ。特別旨いわけでもないが、かと言って不味いわけでもない。何でだ?ウィンナー1本入ってんのに」

「え、不味くないの?」

「作った本人が一番しちゃいけない質問だろうがよ、それ・・・」

 

─ぱりっ─

 

「わおジューシー」

「流石はシャウ◯ッセン」

こっちも不味くない。何故だ、何故なんだ・・・

「・・・まぁ、悪くはなかった。俺以外にゃ出すなよ」

ウィンナーコーヒーを完食?して席を立つ。

「えいえい、毎度あり!470円ね!」

「ビミョーな値段だな・・・あ、それと椛さん」

「え?あ、はい」

俺は椛さんに歩み寄り、耳の横に顔を寄せて囁く。

 

「もしかしたら、出会いって案外近くにあるかもよ?」

 

「え?」

「はいコーヒー代。チャオ~♪」

 

─からんころん~♪─

 

椛さんにそれだけ伝え、俺はnascitaを後にした。

 

─────

────

───

──

 

「ただいま~」

「お帰り、出久。大変だったんじゃない?」

家に帰ると、母さんがリビングから玄関に出て来た。大変だった、ってのは多分記者会見の事だな。テレビカメラ来てたし。

「大丈夫さ。知ってるって事は、テレビで見たんだろ?記者が思ったよりアホで助かったよ」

ハハハ、とおどけて笑ってみせる。大丈夫。あの程度、大丈夫さ。

「出久・・・無理しないで?」

「・・・ん?何が?」

無理・・・したつもりは無いんだが・・・?

「出久、正しい事して責められるのって、やっぱりおかしいよ。もしまたそういう事があったらさ・・・相談くらいには、乗れるからね?」

「・・・あぁ、そういう」

心配してくれてたのか。有り難い限りだな。

「ありがとよ母さん。でも大丈夫!もう慣れてるし!この程度、平気へっちゃらさ!」

そう言ってサムズアップし、ニカッと笑って見せた。心配はいらないさ。

「あ~それと、ちょっとばっかし片付けたい用事があるからさ。悪いけど、部屋に入って来ないでくれるかな?」

「・・・うん、わかった!頑張ってね!」

「ありがとう!」

さて、自動人形(オートスコアラー)の修理修理♪

 

(引子サイド)

 

「出久・・・」

出久は、本当に何とも無さそうに見えた。今し方見せてくれた笑顔も、感情を押し殺しているような笑顔じゃ無かった。でも・・・

 

─もう()()()()し!─

 

()()()()・・・そう、出久は言った。それってつまり、今まで何度も何度もあんな風に責められてきたって事・・・多分、私を気遣って隠してたんだ。そして私は、追い詰められてる出久に全く気付かないで・・・

「出久・・・お母さん、出来る限り支えて上げるからね・・・」

 

(出久サイド)

 

 

「さーてと、じゃあやるか。ぃよしッ!」

俺は部屋に入り、気合いを込める。ワクワクするねぇ!

【ボーダー!マキシマムドライブ!】

ボーダーでスキマを開き、中に入る。結構明るいんだよな~スキマスペースの中。まぁそこら中に目があって不気味だけど。

まぁいい。早速、作業に取りかかるとするか!

「・・・あ~、損傷が無いのは内部中枢だけだな。細かく見りゃ、そこら中ボロボロだ。ミカなんか指が欠損してるし・・・創るほかあるまいな!」

幸い、ヴィジランテ時代に金属なんかは集めてたからな。役立つ時が来た。

「ふむ、成る程・・・マグネシウムとアルミニウムが3対6、そして残り1割がタングステンの特殊合金で構成されているな。そして、かなり重いタングステンが均等に混ざってる・・・コレも錬金術の成せる業か・・・取り敢えず、アルミニウムとタングステンは大丈夫だな。だがマグネシウムは・・・

よし、海に行くか!」

 

───

──

 

「いや~採れた採れた。たっぷり採れた」

海にツァンダーメモリを装填したメタルシャフトブッ刺したら思いの外上手く行ったぜ。さてとお次は製錬だな!

「超合金NEWZαの要領で行くか」

【グラビテーション!マキシマムドライブ!】

【ヒート!マキシマムドライブ!】

重力を操作して無重力空間を作り、その内部に金属を集めてヒートで溶かす。

「よし、後はコレを整形して・・・完了!」

中々の出来だな。幸い、ミカ以外は手首がほぼ無傷だ。取り替える必要はないだろう。

「え~っと・・・コレ無理に外したら壊れるな。メモリ使お」

【キー!マキシマムドライブ!】

 

─ガッチャン─

 

「お~すんなり外れた」

メンテの時はキーで解体してたんだな・・・と、ついでにキーメモリで細工しとこう。

「・・・よっし、ボディの修理は完了っと。後は起動だが・・・新しいメモリ創るか」

俺は意識を集中させ、地球の本棚に接続。無限の白い空間に本棚が並ぶ。

「出久、どうかしたか?」

「あ、兄さん。まぁね。ちょっと面白いもの貰ってさ。それの起動キーになるメモリを創るんだ」

兄さんもきっと興味を持ってくれる筈だ。

「じゃあやるか。キーワードは、『タロット』」

 

─シュヴァヴァヴァヴァヴァヴァン─

 

「『小アルカナ』」

 

─シュヴァヴァヴァヴァヴァヴァン─

 

キーワード入力によって、凄いスピードで本が絞られていく。やはりこの光景は、見ていて飽きないな。

 

─シュヴァヴァヴァヴァヴァン─

 

「よし、『(ワンド)』、『(ソード)』、『貨幣(コイン)』『聖杯(カップ)』の本に絞られたな。後は、これをそれぞれメモリに封入するだけだ」

にしても、こんな手芸感覚でガイアメモリ創れる俺って改めてマジヤベーイな。

「ほう、タロットのスートか」

「うん。平行世界から流れ着いたモノを起動する動力源に組み込もうと思ってさ」

話してる内に出来上がったな。

「兄さんも見に来るかい?」

「そうさせて貰おう。色々と面白そうだ」

やっぱり興味あるんだね。

「・・・ふぅ」

「っと・・・出久、何だここは?」

あ、兄さんには言ってなかったっけ。

「ここはボーダーメモリで作り出した虚数空間(ウラセカイ)、通称『スキマスペース』だよ。一応、地球と同じだけの広さが在るはず」

「・・・今のお前には、俺でも勝てないな」

「あ~・・・否定したいけど出来ないな~・・・」

ま、良いか。それよりも今は、自動人形(オートスコアラー)達が先だ。

「じゃあ、やりますか」

俺は4本のメモリを構え、スタートアップスイッチを押す。

 

火の杖(フレイム・ロッド)!】

 

水の聖杯(ウォーター・カップ)

 

風の剣(ハリケーン・ソード)!】

 

地の貨幣(ランド・コイン)!】

 

そしてそれぞれ対応する属性の自動人形(オートスコアラー)に向かって投げた。メモリは意志を持つように宙を舞い、オートスコアラー達の胸に侵入していく。その瞬間彼女等の身体がビクッと跳ね、体表にエネルギーラインのような模様が浮かんだ。俺達が変身する時の涙ラインに似てるな。

 

「・・・ここは?」

 

「確か私達は・・・奴に派手にやられて、地味に封印されたはず・・・」

 

「ん~?何か、チフォージュ・シャトーより変なとこだゾ~?」

 

「まぁさか、地獄とかじゃ無いでしょうねェ?ガリィちゃん納得出来ないんですけどぉ~?」

 

ファラ以外は目覚めて早々口数多いな。

「地獄、か。言い得て妙だな」

「そうだね。差し詰め、地獄への入り口って所かな?」

「「「「ッ!」」」」

「今更気付いたのか?人形も寝呆けたりするんだな」

俺達の声に反応し、四者四様の顔でこちらを振り返った自動人形(オートスコアラー)達。

レイアとファラは警戒と観察、ミカは『何か分からんけど取り敢えず』みたいな顔、そしてガリィは目を吊り上げて牙を剥き出す不機嫌面・・・皆それぞれ個性的だな。

「あらあら、どちら様かしら?・・・ソードブレイカーは在りませんわね」

「地味に、理解不能・・・」

「お前らだれだゾ?」

「此処がどこなのか、説明はしてくれるんでしょうねェ?と言うかしろ」

おぉ、ガリィは怖い怖い。

「ここは、お前らがいた所とは違う世界。平行世界って所だな。そしてこの空間は、俺が作った特殊空間だ」

俺が答えると、全員が立ち上がって戦闘態勢をとる。

「あっそ。じゃあとっととこの気味悪い空間から出して下さいな」

「あぁ、あくまで自分達が優勢だと思ってるんだねガリィは」

口調事態は丁寧っぽいが、どことなく上から目線だ。

「早く出さないと痛い目見る事になるよ、ガキ」

「喧嘩売る相手間違えると叩き潰されるぞ?ガリィ・トゥーマーン」

「あ゛?」

コイツのこの喧嘩腰はデフォルトなのか?

「待ちなさいガリィちゃん。力量の分からない相手に飛びかかるのは得策ではありませんわ」

「・・・チッ」

どうやら、ファラは話が通じそうだ。と言うか、お母さんとかお姉さんポジだな絶対。

「仲介感謝する、ファラ・スユーフ」

「いえいえ。()()()()()()()()()()以上、こちらが不利なのは確定ですわ」

「「ッ!?」」

「ん~?」

真っ先に気付いたって事は・・・成る程な。

「ハッ、食えねぇなァ。真っ先に攻撃を仕掛けようとしたんじゃねぇか」

「いえいえ、万が一必要になった時用の()()()ですわ。フフフ」

つまり戦いバッチコイだった訳じゃねぇかよ。危ない危ない、キーメモリで能力にロック掛けて正解だった。

「・・・まぁいいか。取り敢えず自己紹介からだ。

俺は緑谷出久。仮面ライダーエターナルという戦士をやっている」

「仮面ライダー・・・地味に因縁」

ん?今のレイアの言葉がかなり引っかかるぞ?

「因縁ってどういう事だ?」

「私達はエボルという仮面ライダーに戦いの途中で派手にやられ、エネルギーを奪われて地味に封印されたんだ」

うん、もう誰の事か分かったわ。

「石動仁だろ、そのエボル」

「「「「ッッ!!」」」」

やっぱりな。と言う事は、コイツ等がここに来たのも仁が関係してるって訳か。

「知っていたのか。地味に驚愕」

「それどころか友達だよ」

「訂正、派手に驚愕」

レイアは何か話しやすいな。

「あの剣ちゃんとの勝負、良いところで打ち切られてしまったんですのよ」

「私も、交代だなどと言われて一方的に叩き潰された。地味に屈辱・・・」

「アタシもだゾ!あのジャリンコ共と楽しく戦ってたのに、途中で勝手に終わらされたんだゾ~!」

あ~仁の野郎め力ずくにも程があるだろうがよ・・・ん?ガリィは何かブツブツ言って・・・

 

「ハズレ装者なんて言ってゴメンナサイゴメンナサイいやだいやだ止めて壊さないで痛いのはいやだ止めて助けてブツブツブツブツブツブツブツブツ」

 

涙目でうずくまって、この場に居もしない仁に向かって有らん限りの慈悲請いをしていた・・・

「あ・・・うん、完っ璧にトラウマになってるな」

「まぁ、あの化け物に叩き潰されたのなら致し方ないだろう。寧ろ、身体が残っただけ儲けものだ」

「言うねぇ兄さん。まぁその通りだけどさ」

大方、装者の誰かをバカにでもしたんだろ。アイツは響達をバカにする奴は許さない質だし。

「あ~、それとだ。こっちが俺の師匠の大道克己」

「よろしくな」

・・・何なんだろう、兄さんから溢れ出るこのカリスマは・・・

「では、私達も。私はファラ・スユーフ。風を司るソードスートの自動人形(オートスコアラー)ですわ」

「アタシはミカ・ジャウカーン!火を司るロッドスートの自動人形(オートスコアラー)だゾ!」

「ワタシはレイア・ダラーヒム。地味が似合わない、地を司るコインスートの自動人形(オートスコアラー)だ。そして・・・あそこでトラウマ想起を起こしているのが、ガリィ・トゥーマーン。水を司るカップスートの自動人形(オートスコアラー)で、我々の中で地味に一番性根が腐ってる奴だ」

・・・ガリィはちょっとほっとこう。

「自己紹介どうも。さて、お前たちは今、俺の保護下に在る訳だ。キャロル・マールス・ディーンハイムも、仁に倒されたしな。で、だ・・・俺を手伝ってくれないか?」

「・・・何を手伝うんですの?」

「あぁ、話は聞いてくれるんだな。じゃあ、取り敢えずそっちに情報渡すから」

【パペティアー!マキシマムドライブ!】

もはや情報共有のお供と化したパペティアーメモリ。ホントに有能マジ有能。

「ん・・・成る程ね」

「・・・成る程。手伝えば、派手に動けるか」

「強そうな奴がいっぱいだゾ~!」

結構肯定的っぽいね。

「で、手伝ってくれるか?」

「お受けしますわ♪」

「派手に手伝おう。ワタシに地味は似合わない・・・」

「楽しく戦えそうだから手伝うゾ~!」

「Good!ありがとよ!あ、そうだ。お前達の動力源にはガイアメモリってのを組み込んだんだが、それは地球から記憶・・・想い出を汲み上げる機構でな。実質永久機関になってるぞ」

「あ、そう言えばお腹減らないゾ!」

「あら、そんな便利なものが在るんですの?」

「地味に革命的」

嬉しい事言ってくれるね。まぁ、メダルシステムみたいに欲望という尽きることが無い脳内信号をエネルギーに転換すれば同じ事が出来るんだがな。

想い出も欲望も、ジャンルが違うだけで根本は同じ脳内信号だ。しかも消えてしまう想い出と違い、欲望は薄まる事はあれど完全に消える事は無い。死んでしまえば別だが・・・あれ?もしかしてキャロルが早い段階でオーズと会ってたら救済ルートだったんじゃ?

「あぁそれと、俺はギャラルホルンのメモリも保有してるからな。こっちが色々落ち着いたら、お預けになってた決着を付けさせられるぜ」

「誠心誠意頑張りますわ!待っててね剣ちゃん♥」

「頑張るゾ!」

「派手な貢献、期待して欲しい」

ワオ、意気込みが凄い・・・所でファラ?何で恍惚のヤンデレポーズ・・・あ(察し)。

「地味に話を聞いてなかったガリィへの説明は任せろ。私達がしておく」

「ありがとよレイアさん」

「呼び捨てで構わない。さん付けは地味に他人行儀」

チョロかった頃の俺なら惚れてたかも・・・

「じゃ、偶に娯楽物とか持ってくるから・・・済まないけど、ここで過ごしてくれる?」

「えぇ、分かりましたわ」

「う~ん、ゲーム欲しいゾ!」

「派手なアクションバトル漫画を所望する」

「かしこまりっと」

こうして俺は、自動人形(オートスコアラー)達と良好な関係を築く事に成功したのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「あれ?私今、何してた?」

 

 

 

 

to be continued.......




「お母さん、そんな気にせんでもええで。出久ホンマにハッピーハッピーやから」
『まぁ、出久のお母さんは気に病みがちと言うか、そういうイメージあるからね。さて、オートスコアラー達は如何でしたでしょうか!個人的にはガリィちゃんの口調が全く掴めなかった・・・ポイントとかあったら教えて下さい!何でもはしませんけど!』
「ん?今何でも『(言って)無いです』オォン喰い気味」
『もう良いだろ。では、ありがとうございました!』
「次回もゆっくりしていってね!」






・ギャラルホルンメモリ
完全聖遺物ギャラルホルンの力を封入したメモリ。made in 仁。
本来ならばシンフォギア装者しか使えないが、ここではライダーシステム及びメモリシステム保有者なら使えるというシステムに改造されている。因みに行った事のある異世界か、根本世界(原作)を共有する平行世界にしか行く事が出来ない。


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第3話・学生寮!?/光と闇のS

『ようやっとここまで来たわ。それと地味に気になるのが、今現時点の《エボリューション!》の世界の状態・・・』
「まぁ、アクシア君の世界線は話によく絡んでくるしな」


(出久サイド)

 

「で、何だ用って」

「ありがとよ、来てくれて。取り敢えずハイこれ」

開口一番に結論を求めて来たかっちゃんに、用意しておいたサイダーを薦める。

俺の部屋には今、雄英ライダー適合者全員が集まっていた。かっちゃん以外は俺が回収に出向き来て貰っている。因みに麗日、三奈、フランは俺が引っ張り出してきた座布団に座っており、勿論かっちゃんの分もある。

「どっこいせっ、と・・・」

大げさに呟きながら、座布団に腰を下ろすかっちゃん。

「さて、急で悪いんだが・・・まぁまた平行世界関連な訳だよ」

「え?《また》って?」

「平行世界って、仁君達の所?」

三奈、気にするな。フラン、その通りだ。

「あぁ。昨日nascitaで、思わぬ拾い物をしてな」

「nascitaだぁ?何でそんなとこに」

「俺が知りたい」

尤もな疑問だ。ホントに何でnascitaだったんだか・・・あ、双方の世界に共通する建造物って事かな?

「さてと、紹介と行くかな」

 

───

──

 

「成る程、自動人形(オートスコアラー)ねぇ・・・で、コイツ等がお前のサポートするってか?」

「そう言う事」

スキマスペースにて説明を終え、かっちゃんの質問に頷き返す。

「まぁ俺がちっとばかし動力源を弄ったからな。メモリガジェットみたいなもんだ」

ふむ、我ながら上手いこと言ったな。差し詰め記憶人形(メモリスコアラー)って所か?いや、根本は変わってないんだ。自動人形(オートスコアラー)のままでいこう。

「あぁ、この人はお腹が空いて動けない私達の身体をむりやり弄んで・・・」

「誤解しか招かない言い方は良くないわよ~ガリィちゃん?」

「お前が地味に弄びと称した修理・改良(行動)のお陰で、今私達は活動できている。地味に忘れるな」

「恩を仇で返すのは良くないゾ?」

姉妹達から集中砲火を受けるガリィ。どうやら他の皆は常識的なようだ。

「うっせェんだよ一々ィ!大体何でコイツなんかの為に───

「仮にも女の子を永久凍結とか気が引けるんだけどナ~(棒)」

───ガリィちゃんにお任せで~っす☆」

「・・・おい出久、コイツ等マジで信用出来るんか?掌見事にクルックルしとるぞ。裏切りとか・・・」

「それはありませんわ。私達を再起動してくださった恩があります故。この下水を煮詰めて濃縮したような心をもつガリィちゃんは、私達がキッチリと手綱を握りましょう」

「オイ!」

「腐りきって地味に汚染物質並になった性根を持つのは、地味にガリィだけだ。ワタシは派手に、恩を返す」

「ガリィ水を司ってるのに心はまるでガンジス川だゾ」

「よくガンジス川知ってたなぁミカ。メッチャびっくりした」

「・・・うぇ~んまぁすた~!皆がガリィを苛めるんですぅ~!」

「虚偽無効って自動人形(オートスコアラー)にも有効なんだな。良いこと知った」

「チックソが!」

「お前さぁ、せめてもうちょい包み隠せよ」

あ~ぁあ、大分賑やかになっちゃってまぁ。

「・・・その青色、一番クソだった時の俺よりヒデェ」

「いや、ドッコイドッコイだったぜ?」

「何・・・だとッ!?」

あ、かっちゃんが冷やし土下座カマした。どんだけ嫌なんだよ、ガリィと同率なのが・・・

「・・・三奈ちゃん。何かスッゴいカオスだね、ここ」

「アハハ、奇遇だねフランちゃん。あたしもそう思ってたとこ」

「あ~2人もか~!良かった~私だけやなくて!」

あ、女子がこっちを切り離しちまった。どうしよう・・・

「あそうだ!レイアさん達の特技って何?」

「ワタシか?」

お、いい感じにコミュニケーションを謀ってくれてるな。関係良好っと。

「さっきから聞いてんのかテメェ!」

「あぁごめんガリィ、聞いてなかった。え~っと何だっけ、味覚が欲しいって話だっけ。大丈夫、ちゃんと搭載してあげるから」

「テメェいい加減ブッ殺すぞ!!」

「殺すって宣言する奴に限って殺せないんだよな」

「あ゛あ゛あ゛あ゛もうッ!!」

ガリィ弄るの楽しいな。ドS心が擽られると言うか・・・何か、生まれて初めて憎悪以外の感情で人を泣かしたいって思ったよ。

「つーか今、俺のこと《ご主人様(マスター)》って呼んだよな。認めてくれたって事で良いのか?」

 

「ハッつい何時もの癖がッ!FUCKッ!!」

 

何処で覚えたんだよそんな言葉。

「まぁ、私達は別にあなたがマスターでも問題在りませんわよ?」

「むしろ、仮面ライダーなら地味について行きたいくらいだ」

「強い奴といっぱい戦いたいゾ~マスター!」

「嬉しい事言ってくれるじゃねぇの」

 

─ぎゅっ─

 

「ん?三奈、フラン・・・どうした?」

2人が俺の両手を掴み、抱き締めてきた。

「「私達も、忘れないでね?」」

「忘れられる訳無いだろ。俺を救ってくれた恋人を」

「え~?ますたぁ~まさかの二股ですか~?」

「いや、三奈公認だ」

「成る程、正妻公認か。地味に問題無いな」

唯一の問題は、結婚する時の国籍だよな~。日本は一夫一妻制だし、一夫多妻の国で結婚しないと・・・ん?そこから日本に引っ越したらどうなるんだ?誰か教えてくれ。

 

「よし!じゃあ、今日は交流会だ!お互いに質問しあってくれ!」

 

─────

────

───

──

 

何やかんやで、保須の悪夢から1週間。

母さんに自動人形(オートスコアラー)達を新しいサポートロボとして紹介したら、案外すんなりと受け入れられて驚いたな。因みに味覚機能を与えた所、ファラは醤油煎餅、レイアは芋けんぴ、ミカはスルメ、ガリィはカルパスが好みと言う事が判明した。皆渋い好みだなぁ。酒好きそう。

さて、ワン・フォー・オールの力加減を練習していたかったが、そう言ってもいられない。何故なら・・・

「ねぇ出久!こんな感じで大丈夫!?オールマイト来るんだよ!?」

そう、家庭訪問だ。何でも、雄英が全寮制になるから親に入居許可を取りに来るんだとか。

で、母さんが無駄に緊張してる。俺は普段からオールマイトと気軽に話してるけど、よくよく考えりゃ世界的アイドルがウチに来るようなもんだからな。

「いや、大丈夫だから。こう、滅多に来ない叔父さんが遊びに来る、ぐらいの感覚で良いからあの人は」

ハァ、トップヒーローって大変なんだな~。勝手に崇拝されちゃうんだから。

 

─ピンポ~ン♪─

 

来たね。

「ハ~イ!母さん、俺が出るわ」

俺は母さんをテーブルに着かせ、玄関に向かう。ガチャッとドアを開ければ、見慣れた痩せ顔が見えた。

「あ、緑谷少年。どうも」

「いらっしゃいオールマイト。何もない家だけど、どうぞ」

「お邪魔します」(この子に限って、何も無い筈無いんだよな・・・)

 

(とか、考えてんだろうな)

まぁ否定もしないけどさ。と言う間にリビングに着き、俺は母さんの隣に座る。オールマイトはテーブルを挟んで反対に座った。

「え~事前にお話行ってるとは思いますが、雄英の全寮制について・・・」

「はい、存じております。その事なんですが・・・

 

私、嫌です」

 

・・・ま、そう思うわな・・・

「この前の記者会見、テレビで見ました・・・何も悪くない人を、決め付けだけで寄ってたかって責めて・・・出久は正しい事をして戦ってるのに・・・それに、火吹さんまで・・・」

・・・聞いてみれば、火吹は昔は純粋に優しい人だったそうだ。となると、あの歪みは後天性か・・・何がどうしてあれになったのかは分からんが、優しい火吹しか知らない母さんからしたらショックだろうな。

(ヴィラン)に襲撃されて、生徒が負傷。挙げ句改造手術まで・・・そんな今の雄英高校に子供を預けられる程、私の肝は据わってません」

・・・ふむ、ならばどうなるのかな・・・もし雄英を辞めて別のヒーロー科高校に行けば、それこそ敵共の恰好の餌食だ。俺は別に問題無いが、問題はその高校が受ける被害・・・国家レベルの予算を持つ雄英なら即時修復が可能だが、他だとそうも行かないと思うぞ?それに・・・

「なぁ母さん。俺が居なくなったら、ライダー適合者達はどうなるんだ?」

「っ!」

「あいつ等のシステムを修理・改良出来るのは、俺以外居ないだろう。そして何より、三奈とフラン・・・俺の真骨頂は、2人とのコンビネーション。他の奴じゃ、代用出来る筈がない。まぁ他にも色々言いたい事があるが・・・取り敢えず、済まなかった」

「・・・え?出久、どういう事?」

「認識の違いを指摘しなかった事、と言えば良いか。俺は雄英に入る時点で、自分がある程度苦痛や危険に出会う覚悟はしていた。だが母さんは戦いを知らぬ身故、その覚悟が出来なかったんだろ?だからあの時、俺が危険に晒される可能性を最初から話しておくべきだったんだ・・・ごめん」

忘れていたが、戦を経験した者としない者では常識感覚が全く異なる。俺は雄英に入る時、戦になるのは当たり前という感覚だった。だが母さんは、ヒーローになった結果行き着く未来・・・凶悪な敵との殺し合いに、目が行かなかったんだ。

「でも、俺は雄英を辞める気は無い。あそこは色んな所と繋がりがあるからな。メモリの情報も入ってくるだろう。

それにな、母さん。クラスメイトの奴らは、皆良い奴なんだ。あいつ等だからこそ、俺達は共に磨き合い、高め合える・・・

だから頼む、母さん。俺を、雄英に通わせてくれ」

「私からも、頼みます!」

 

─ボゥンッ─

 

そう言ってオールマイトはマッスルフォームになり、母さんに土下座した。

「出久少年は、多くの人々を救ってきました!私は彼が、私に変わる希望だと・・・笑顔を守護する戦士、《仮面ライダー》の象徴になるべき人間だと思っています!」

あ、今のは少しグッときた。

「彼がこれ以上血深泥の中にのめり込まないよう、隣を共に歩んでいこうと思っております!

出久少年に、私の総てを注がせては頂けませんでしょうかッ!

 

この命に換えてもッ!守り育て、磨きますッ!!」

 

・・・ったくオールマイト、あんたって人は。

 

「・・・換えないで」

 

やっぱり母さんも、考える事は同じか。

「命に換える、とか、言わないで・・・しっかり生きて、守り育てて下さい」

「っ!」

一本取られたな、オールマイト。それに・・・

「なぁオールマイト、俺も言ったろ?あんたが笑いながら、老衰で死ねる世界を目指すってよ。俺が救う《笑顔》には、あんたの分も含まれてるんだ・・・文々。新聞の初取材でも言ったが、もっと自分を大事にしな。

ありがとう、母さん。許してくれて」

「・・・まぁ、出久が一般市民じゃ手に負えない所まで行っちゃってるのは、認めるしかないしね・・・でも忘れないで。ここが、出久の帰る場所だから」

嬉しいね。ホントに闇墜ちしないで良かった。ここあったけぇもん。

「では、責任もって出久少年を預からせていただきます!」

「はい、宜しくお願いします!」

 

 

(NOサイド)

 

 

暗い廃ビルの中、3つの影が動いている。1つは、身体中に手首をくっつけた男・・・死柄木弔。もう一つは、黒いモヤ状の黒霧。そして最後・・・キッチリとしたスーツに身を包んだ、ジュラルミンケースを持つ()()()()()()

「此方が、契約の品で御座います」

「・・・確かに」

セールスマンがジュラルミンケースを開いて見せ、死柄木が頷く。ケースの中身は、多種多様なガイアメモリだ。

「悪いな、こんなに貰っちまってよ」

閉じられたケースをセールスマンから受け取り、口を開く死柄木。その目は鈍くも妖しく輝き、口角は吊り上がっている。

「いえいえ。あなた方に手配して頂いた()の働き分ですよ。では、そう言う事で」

「あぁ、今後とも贔屓に頼むぜ」

「勿論ですとも、死柄木弔様」

そう言い、セールスマンは影の中に溶け込むように消えていった。黒霧の個性では無く、それ以外の要因によって・・・

「あぁ、楽しみだなァ黒霧ィ・・・」

そう言って死柄木はスマホを取り出し、テレビ視聴アプリを起動する。

 

──尚、これらの行方不明者は、年齢・性別・職業等に共通点は見られないとの事で・・・──

 

次の世代にシフトするのは、英雄(ヒーロー)だけでは無い

 

 

闇もまた、変化する

 

 

 

 

 

to be continued.......




「ねぇ、最後めっちゃ不穏じゃない?」
『ヒーロー物は不穏無しじゃ成り立たんじゃろ。
さて、最後のシーンに全部もってかれた人も多いと思いますが、オートスコアラー達の方に関する感想も書いてやって下さい』
「狂喜乱舞します、主が」
『らんぶはしません。喜びます。ではまた次回!』
「チャオ~♪」


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第4話・入寮するS/過去の英雄達

「おい作者ぁ。お前最近、頻度落ちてるだろ」
『なにその喋り方』
「某MUR」
『良し分かった、だぁっとけ』
「オォン・・・」


(出久サイド)

家庭訪問から幾らかたつ。夏休みも折り返しになってきた所だが、今俺達は雄英の敷地内にいた。寮が完成したと連絡があったからだ。

で、その寮・・・《ハイツアライアンス》の前に立ってるんだが・・・

「「デケェ・・・」」

「予算はどこから・・・」

「アハハ、流石は雄英。やる事が違うね~・・・」

「豪邸やないかぃ・・・」

ライダーズ、全員呆れ果てている。と言うか麗日に至っては目眩起こしてるな。

何せデカい。物凄くデカい。もうちょっとした要塞と言える規模なんだもん。しかもこの規模が全クラス分在るとか言ってるんだ。ハッハッハ、もう訳わかんねぇ・・・

と言う間に相澤先生が来た事で、ザワザワしてた皆がシ~ンと静まり返る。

「取り敢えず1年A組、また無事に全員集まれて何よりだ」

「良かったですねぇ相澤先生、上がクビとか言わなくて」

何でも、俺が浚われてる間に記者会見があったらしい。その会見では、生徒を護れなかったとかなり非難されたそうだ。

「ホントに良かったよ。お前らは目ぇ離すと何しでかすか分からんからな・・・オイお前に言ってんだぞ緑谷」

「名指しかい!」

ひっでぇな~・・・あ、でもどうしよう。否定できる材料が無いわ・・・

「まぁ良い。取り敢えずこの寮の事を色々と説明するが、その前に1つ・・・当面は、合宿で取る予定だった“仮免”の取得に向けて動いていく予定だ」

「おぉ、そういやあったな!そんな話!」

「あぁ。正直色々と起き過ぎて頭から抜けてた・・・」

確かに、俺も意識から抜けちまってたな・・・

「それと、大事な話だ

相澤先生の声が1トーン低くなり、ピリピリとした威圧感が放たれる。コレは、大事な釘刺しの時の威圧感だな。

「轟、切島、爆豪、麗日、飯田、八百万、芦戸、スカーレット・・・この8名は、あの晩神野(あの場所)に・・・緑谷救出に赴いた」

その言葉に、ほぼ全員が苦い顔をして俯いた。

「成る程。その様子じゃ、行く素振りは皆把握していた訳だ・・・色々棚上げした上で言わせてもらうよ。今回の件、オールマイトの引退とライダーシステム適合者達の活躍、敵のガイアメモリの使用・・・そして永琳先生含む上位ヒーロー達の庇護がなきゃ、浚われてた緑谷、そして動けなかった葉隠・耳郎以外の全員を除籍処分にしている」

相澤先生の目が一層鋭く細められ、皆を射抜く。重い空気が立ち込め、心が息苦しい。やっぱり、俺の為に動いてくれたのに皆が怒られるってのはキツいな。

「ハァ~・・・彼の引退後、かなり混乱が続くだろうからな。そんな時期に雄英から生徒を放り出す訳にはいかん。

理由はどうであれ、行った8名は勿論、止めなかった11名も俺等の信頼を裏切ったんだ。ご丁寧に個性まで使いやがって・・・その件は、お陰で他のヒーロー達が助かったと必死に庇った故に目を瞑るとするが・・・正規の手続きを踏んで、正規の活躍で信頼を取り戻して頂きたい限りだ・・・

 

よし、以上!じゃあ中に入るぞ!ホラホラ楽しく行こう!」

「流石は合理主義。切り替えが極端に早ぇ」

「らしいっちゃらしいけどな」

俺の反応にかっちゃんがうんざり気味で返す。見れば皆結構肩の力が抜けたみたいだ。

「あ、そうだかっちゃん、麗日の後ろに付いててやんな。外観だけで目眩起こしてたから、この分だと内装見たらぶっ倒れるだろ」

「了解。ありがとよ」

そう言って麗ら日の2歩分程後ろに付き添うかっちゃん・・・去年とは完全に別人だな。

そして一歩足を踏み入れてみれば、中もやはりと言うべきか凄く豪華。ソファも中庭もある・・・あれ?ここ学生寮だよね?

「1棟1クラス、右が女子棟で左が男子棟だ。ただし一階は共同スペース。風呂、洗濯、食堂はこの階だ」

 

「豪邸やないかいッ!」

 

─ぽすっ─

 

「気ぃしっかり持てや」

「う、うん。ありがと」

「ナイスキャッチ」

後ろに付かせて正解だったわ。

「聞き間違いかなぁ?風呂・洗濯が、共同スペースゥ!?夢かッ!」

「男女別だ」

 

「万が一女子にちょっかい出そうもんなら、その股座にぶら下がってるモン引き千切って男として殺してやるからな?あとかっちゃんも黙ってないぞ」

 

「はい・・・」

全くコイツは一々釘刺さにゃいかんのかねぇ。

「部屋は二階から、1フロアに男女各4部屋の五階建て。一人一部屋、エアコン・トイレ・冷蔵庫にクローゼット付きの贅沢空間だ。それと、悪いがスカーレットと芦戸は相部屋になった。済まんな」

「豪邸やないかいッ!」

「よっと」

麗日耐性無いな。

「じゃ、各自それぞれが決まった部屋に入って内装作れ。事前に届けられた荷物も置いてある。その後の事は明日話すからな。ハイ終わり!解散!」

何か今日、先生軽いな~・・・

 

─────

────

─夜─

──

 

「フィ~終わった~・・・」

共同スペースのソファで身体を思いっ切り弛緩させる。股関節や仙骨、背骨がベキベキッと音を立てた。

「いや~経緯はあれだけど、共同生活ってワクワクすんな!」

「共同生活・・・これもまた、協調性や規律を育む為の訓練!」

「飯田~、もうちょい肩の力抜いたらどうだ?」

肩凝りそうだよあの真面目さ。

「男子~部屋出来た~?」

「お~三奈~、出来たぞ~。いやはや、結構手間取った」

流石にあの数は堪えたぜ・・・

「じゃあじゃあ~♪今話し合っててさ~!提案なんだけど・・・」

「ん、何だい?」

「お部屋披露大会、しませんか~♪」

「良いぞ~ソレ。ただ俺の部屋は最後な。色々と凄いから。ビックリするぞ~」

じゃあまずは・・・

「フン、下らん・・・」

あ、常闇の奴目が合った瞬間扉にもたれ掛かって押さえやがった。彼処からだな。

「行け!ライダーガールズ!」

「「イエッサー!」」

フランと三奈が扉から常闇を引っ剥がし、堂々突入。しかし・・・

「黒っ!」

「コワッ!」

うん・・・何というか・・・暗いし、尚且つ水晶玉とか十字架ネックレスとかそういう中二チックな物が所狭しと・・・ん!

(ツルギ)か・・・悪くな─チャキッ─・・・何だ、模造刀か」

「出て行けェーッ!!」

おっと、追い出されちまった。

「次行ってみよー!」

「イッテイーヨ!」

 

と言う事でまず青山の部屋だが・・・

「眩しい!」

「目がイテェ」

そっこら中がギンギラギン。ミラーボールとかあるし・・・気分悪くなってきた・・・

「眩しい、じゃなくて、ま・ば・ゆ「次行くぞ。目に悪い」「部屋はシャンデリアじゃねぇんだよギラギラ野郎」・・・」

何か結構な形相で睨まれたけど無視だ無視。この部屋2つの意味で痛すぎる。

「思った通りだ~」

「予測の範疇を出ない!」

「う~、目がチカチカする~」

やっぱりヴァンパイアにはキツいよな、あの部屋は。

 

で、お次は・・・

「へへ・・・来いよォ・・・スッゲェもん見せてやるよォ・・・」

「よ~し三階行くぞ」「賛成だ」

「オイィ~・・・」

あれは無視だ。無視に限る。

「あんなのの部屋に入るくらいなら3日断食した虎の檻に飛び込む」

「フランなら勝てるだろうよ」「お茶子も勝てるかもな」

 

さてさてお次は尾白の部屋・・・

「普通だ!」

「普通だね!」

「普通ってこういう事を言うんだね!」

「・・・特徴無いなら、無理しなくていいんだよ?」

うん、ザ・普通って感じの部屋だね。

「部屋は個性ねぇんだな」

「いや、逆に考えるんだ。この癖もキャラも灰汁も強いクラスの中で、逆に普通なのは希少価値じゃないか、と」

「・・・うん、ありがとう緑谷。取り敢えず黙ってて」

あれ?慰めたのに更に凹んじまったぞ・・・ま、良いか。俺は痛くないし。

 

さて、お次は飯田だな。

「別におかしな物はないぞ!」

「参考書と眼鏡だらけの部屋はある意味可笑しいんじゃないか?」

「ブフォw眼鏡クソあるww」

「何を言う!激しい訓練での破損を想定してだな!」

結局、麗日は1つ眼鏡貰った。で、かっちゃんも1つ貰った。様になるな。何か、インテリヤクザっぽいと言うか・・・吊り目イケメンには眼鏡が似合う。

 

で、次が上鳴・・・

「「・・・チャラっ」」

「手当たり次第って感じだな~」

チャラいとしか言いようがないわ。

「え~?良くね?」

「次行くぞ」

あ、かっちゃんこの部屋には全く興味無いのね。

 

続きましては甲田の部屋。

「ウサギいるー!」

「可愛い~♥」

「・・・」「・・・」(←彼女がデレデレしてるウサギにちょっと嫉妬)

次行こう。

「お部屋披露大会っつったよな~?」

ん、峰田が何か言ってる。

「だったらよォ?当然?女子の部屋も見せてくれるんだろぉな~?誰がクラス一のインテリアセンスの持ち主か、全員で決めるべきじゃねぇのか~?」

「しゃべり方がウザいよ変態グレープジュース」

峰田にフランの毒舌がブッ刺さった。流石は吸血鬼、目が鋭いね。だが・・・

「まぁ、峰田の言い分も珍しく間違っちゃいない。女子の部屋も見て良いよな?峰田は俺が手綱握っとくからよ」

「うん、じゃあ宜しくね!」

「任せたよ緑谷」

「おうよ響香、任された」

 

さ、気を取り直して次だ次。

「次俺の部屋か」

「おぉ、かっちゃんか、楽しみだ。ではではオープンセサミ」

遠慮なく扉を開けて入りますよっと。

「お、結構普通なんだな」

カーテン、机、ベッドなどの至ってシンプルな内装。だが・・・

「あ、あのモッズコートは!」

「あぁ、あん時のやつ」

俺が注目したのは、ベッド横にハンガーで掛けられているカーキ色のモッズコートだ。あれはシンフォギアワールドに行った時、王様ゲームでデップーが石動惣司(エボルト)に命令して創らせたコスプレ衣装だ。カズミンが着てたやつまんまの、完成度最高のモッズコート。

「しかもよく見れば、裏地と背中にグリスのライダーズクレストが刻印してあるじゃないか。流石は惣司、細かい」

「俺の宝モンだよ」

「私もあの時の衣装とってあるよ~!」

「あたし達も!」

三奈のライダー少女クウガとフランのライダー少女キバはヤバかった(語彙喪失)。

 

次、切島。

「別に良いけどよ~、女子には分かんないと思うぜ?・・・

 

この男らしさは!!」

 

「うん・・・」

壁に『必勝!』やら『大漁!』やら、そしてサンドバッグにダブルバイセプス壁掛け時計・・・うん、暑苦しいな。

「あちぃね!アツクルシイ!」

「だよな~・・・」

「なぁ・・・必勝ってのは分かる。スゲェ良く分かる。ヒーローってのは、勝たなきゃあいけねぇからな・・・」

そう言ってかっちゃんは部屋に踏み入り・・・

 

─ドゴッ!─

 

サンドバッグを思いっ切り殴りつけた・・・え?

 

「だぁがァ!!『大漁』ってどぉいう事だァ!?(ヴィラン)が大漁ですってかァ!?何がめでてェってんだよッ!!クソがァァ!!」

 

何かかっちゃんが錯乱し始めたんだが!?と言うかサンドバッグが洒落にならん音出してるぞオイ!!

「・・・すまねぇ。何かやらなきゃいけねぇ気がした」

「・・・確かに、大漁は訳わからんよな。ワリィ爆豪」

「いや、マジで気にしないでくれ」

・・・これ、もしかして第4の壁の向こう側からの影響だったりする?

 

さて、障子だな。

「別に面白いものなど無いぞ」

そう言って障子が扉を開けるが・・・

「なっ!?面白いモノ所か・・・!」

布団!机!座布団!それだけ!

「ミニマリストだったんだね」

「まぁ幼い頃から物欲があまりなかったからな」

轟の言葉に頷く障子。ホントに必要最低限だよこの部屋・・・

「こういうのに限ってドスケベなんdドッパァンッ!!ヒギャァアアアアッ!!!?」

「お前と一緒くたにすな」

峰田の背中を鞭打でシバく。そしてその足を持ち引き摺って次の部屋へ。

 

「次は5階!瀬呂の部屋ね!」

「フッフッフ~ン♪」

何か得意げだな、瀬呂。さて中身は・・・

「ホォ!」

「エイジア~ン!」

「ステキー!」

「ギャップの男、瀬呂君だよ~?」

アジアンテイストの内装。良いセンスだな・・・でもやっぱ、こういうの見てると映司先輩の服思い出すわ。あの人のもアジアンテイストの民族衣装風だったから。

 

さぁ、男子最後。砂籐だ。

「おや、結構普通・・・じゃないね。この匂いは・・・砂籐、そろそろ良い焼き加減なんじゃないか?」

「あ、いっけね!」

オーブンに駆け寄って中身を取り出す砂籐。中から出て来たのは、香ばしい匂いを放つシフォンケーキだった。

「結構早く上がったから、シフォンケーキ焼いてたんだよ。ホイップクリームあるともっと美味いんだけど・・・食う?」

「「「食う~!」」」

 

うん、シフォンケーキ美味しかったです。

「nascitaに持って行ってみ」

「おぉ、イケるか!?」

「イケるイケる!」

 

「じゃ、お次は女子部屋だね!」

「三奈、先導ヨロシク!」

「任された~!」

さて、最初は轟・・・ファッ!?

「和室ゥ!?」

「あ、ありのまま今起こった事を話すぜ!俺達は寮の部屋を見て回っていたと思ったが、気が付いたら和室を眺めていたッ!!何言ってるか分からねぇと思うが・・・うん、瀬呂とは比べ物にならん」

「もうちょい頑張れなかったかな!」

許せフラン、疲れたんだ・・・

「実家、日本家屋だからさ。フローリングが落ち着かなくて」

「入居して即日リフォームかよ・・・」

「・・・頑張った」

予想の斜め上所じゃねぇ・・・

 

「次はウチか・・・よし!」

意を決して扉を開く響香。

「わっ!思ったよりガッキガッキしてんな!」

「これ全部弾けるの~!?」

「ま、一通りね!」

ドラム、ベース、ギター、そしてCDなど。ロックな内装だねぇ。

「ま、俺等が歌った時に楽器担当してくれた事もあったしな。YouTubeで見れるぞ」

「マジか!後で見とくわ!」

好評だねェ。

 

「次は私!どーだ!」

「お~!」

次の部屋は葉隠だ。中は至って普通の女子っぽい部屋。縫いぐるみとかあって可愛らしい内装だな。

「プルス・・・ウルトラ・・・」

「お前が越えようとしてんのは壁じゃなくて『一線』だろうが!」

 

─ドッパァンッ!─

 

「イギャイィィィ!?」

「正面突破かよ!峰田君!」

ダメだコイツ。早く、何とかしないと・・・

 

「じゃあ次は!」

「私達!」

フランと三奈の部屋だな。正直ちょっとドキドキする・・・

「どーでしょうか!」

う~ん!ピンクと紫の斑模様だねェ!そしてライダー少女クウガ&キバの衣装もしっかり飾ってあるわ。でも気になるのが・・・

「ベッド1つを2人で使うのか?」

「「そーだよ?」」

そこそこデカいサイズの深紅のベッドが1つ。血の色みたいで俺は好きだな、このベッド。

 

「味気ない部屋で御座います・・・」

次が麗日の部屋・・・何というか・・・

「尻尾と同じような部屋だな」

だが、その中で異彩を放つのがローグカラーのライダースーツ。しっかりハンガーに掛けてあるわ。

「お茶子チャン!バイク乗るの!?」

「いやぁ~、あれは知り合いと王様ゲームした時に作ってもらったコスプレ衣装で・・・」

「王様ゲームッッッ!!」

「やるとしたらお前は省くからな」

反応すると思ったよ峰田。

 

「そう言や梅雨ちゃんいねぇな」

「体調不良だってさ」

「そっか、じゃあその次だな。八百万だ」

だが、このお嬢様はポンコツ気味だからな。どうなることやら・・・

「それが・・・わたくし、少々見当違いをしておりまして・・・少々手狭になってしまいましたの」

扉を開けて目に飛び込んだのは、部屋の半分以上を埋める天蓋付きの巨大ベッド・・・ナンダコレ・・・

「その、わたくしが元々使っていた家具なのですが、まさか部屋のサイズがこれだけとは思わず・・・」

「お前一回民泊とか体験した方がいいわ絶対」

このトチ狂った感覚じゃ社会ですれ違いが起こるぞ・・・

 

───投票───

 

「と言う事で!暫定1位は~・・・砂籐!!」

「俺ェ!?」

女子全員シフォンケーキに釣られたな?俺は瀬呂のセンス好きだったんだけど・・・

「よし!今日はコレにてお開きだな!」

俺が手を叩くと、それぞれが解散・・・あ、そうだ!

「ゴメン皆!まだ俺の部屋紹介してなかったわ!」

『言われてみれば!』

「ごめんごめん、すぐ・・・いや、ちょっと待ってくれ。用事が出来た。済んだらメッセージ送る・・・で、どうした?梅雨ちゃん」

俺が話を切ったのは、梅雨ちゃんが何か言いたげな視線を送ってきたからだ。

「・・・ちょっと、救出に出向いた皆を集めて貰えるかしら・・・」

「・・・あいよ」

 

─────

────

───

──

 

メンバーが中庭に集まり、梅雨ちゃんが語ったこと・・・それは、皆に言ったらしい『ルールを破れば(ヴィラン)と同じ』という言葉と、それだけで止めた気になっていたという不甲斐無さというものだった。

涙をこぼしながら、嫌な気持ちの整理が付かなくて楽しく振る舞えなかったと語る梅雨ちゃん。余程辛かったのだろう。

「・・・ワリィ、蛙水。お前の忠告、聞いてやれなくてよ」

意外にも、真っ先に謝ったのはかっちゃんだった。そして雪崩れ込むように、皆も梅雨ちゃんに謝って励ます。そして最後に、俺は口を開いた。

「梅雨ちゃん、そんなに重く考えることはない・・・無責任な言い方になっちまうけど、梅雨ちゃんはあんな時にでも正しい判断と忠告が出来たんだ。かっちゃん達に、危険な目にあって欲しくないと思ってそう言ったんだろ?だったら、そんな自分を責める事は無いと思う・・・ほら、笑ってくれ!そんでまた、皆で一所懸命に頑張れば良いさ!」

そう言いきり、サムズアップをしてみせる。多分、雄介先輩ならこういうのかな。

 

「大丈夫!」

 

そう言って、笑顔を見せた。心なしか、空気が柔らかくなった気がする。

「よし!梅雨ちゃん、出久の部屋見に行こ!多分面白いよ!」

「・・・そうね!」

・・・何とか、何時も通りかな?

 

───

──

 

「さて、お待たせしました!俺の部屋の紹介だ!」

皆がかなり期待する中、俺は扉を開く。

「・・・スッゲェ・・・」

中にあったのは、かなりの横幅の棚・・・そしてその中には、あるものが飾られていた。

「なぁ緑谷、このフィギュアって何?」

そう、仮面ライダー達のフィギュアだ。因みに全部俺が作った。

「コレは、歴代のレジェンドライダー達・・・ま、俺の先輩や後輩、って所かな?その、最終決戦の1コマを再現したものさ」

そう、ライダーだけでは無い。強敵との戦いの1シーンを再現しているのだ。

 

───白き絶望の闇(ン・ダグバ・ゼバ)と泣きながら殴り合う、黒き希望の光(アルティメット・クウガ)

 

───闇の力にシャイニングライダーキックを叩き込む無限進化のAGITΩ(シャイニング・アギト)

 

───鏡像の黒龍騎士(仮面ライダーリュウガ)終戦を望む紅い龍騎士(仮面ライダー龍騎)のドラゴンライダーキック対決

 

───馬の灰人(ホースオルフェノク)に羽交い締めにされた灰人の王(アークオルフェノク)に、超強化紅蓮撃(クレムゾンスマッシュ)を叩き込む命を削り夢を守った戦士(ブラスター・555)

 

───嘗ての友(ジョーカーアンデッド)と対峙する、黄金の剣(キング・ブレイド)

 

───百足と鮫が合わさった怪物(魔化魍ロクロクビ)に対して装甲音撃剣(アームドセイバー)を構える紅蓮の鬼(装甲響鬼)

 

───宇宙よりの飛来者(ネイティヴ)を抑える悲しき偽者(ダークカブト)と、その最期を見届ける時空を越える者(ハイパーカブト)

 

───死神を象る異形(デスイマジン)俺の必殺技(エクストリームスラッシュ)を叩き込む桃を模した仮面戦士(仮面ライダー電王)

 

───蝙蝠を模す吸命鬼の王(バット・ファンガイア)にライダーキックを叩き込む黄金の吸命鬼王(エンペラーキバ)暗黒の吸命鬼王(ダークキバ)

 

───影の月(シャドームーン)にディメンションキックを打ち込む世界の破壊者(仮面ライダーディケイド)

 

───鳥の王(アンク)と共に、虚無に還す者(恐竜グリード)に火炎弾を放つ不死鳥の如き欲望の王(タジャドルOOO)

 

───射手座の怪人(ホロスコープス・サジタリウス)に卒業キックを授与する宇宙と地球を繋ぐ者(仮面ライダーフォーゼ)

 

───賢者の石を取り込んだ悪魔(グレムリン進化態)にストライクウィザードを叩き込む赤き指輪の魔法使い(仮面ライダーウィザード)

 

───強者であろうとした誇り高き戦士(ロードバロン)にグロンバリャムの刃を突き立てる、白銀の武将(極・鎧武)

 

───友達想いの優しい王(ハート・ロイミュード)と共に機械仕掛けの神(シグマサーキュラー)へと一撃を放つ人民を護る戦士(トライドロン・ドライブ)

 

───人を消去する全知全能(グレートアイザー)にオメガドライブを叩き込む、魂を受け継ぐ無限の戦士(仮面ライダーゴースト・オレ魂)

 

───世界の秩序を目指す者(仮面ライダークロノス)とライダーキック対決をする究極の救済の名を冠する戦士(仮面ライダーエグゼイド・レベル2)

 

───自らの生きる道を諦めず抗う生きる事を赦されない少年(仮面ライダーアマゾンネオ)、そしてその命を刈り取らんとする少年の父親(仮面ライダーアマゾンα)人を愛したバケモノ(アマゾンニューオメガ)

 

───星を喰らう破滅の蛇(エボルト・究極態)にライダーキックを放つ、愛と平和を創造する戦士(ビルド・ラビットドラゴン)

 

そして───

 

「あれ?コレって、仮面ライダーエターナル?」

 

───地獄を創らんとした白き死神(仮面ライダーエターナル)に死を与える一撃を見舞う、街を護った黄金の仮面ライダー(仮面ライダーダブル・CJGX)

 

「そう、切島の言う通りだ。それは、先代の仮面ライダーエターナルが・・・兄さんが、宿敵に倒される瞬間・・・街を恐怖に叩き落とした悪魔に、引導が渡された瞬間さ」

「悪魔!?」

ライダー以外の全員が驚く。まぁそうだわな。俺のイメージとは少し違うだろうから。

「俺が使うのは悪魔の力だが、だからこそ俺は自分の正義を貫く。人を泣かせたこの力(エターナル)だけど、今度はそれで人の笑顔を護る・・・それが、俺の抱き続けている夢だ」

兄さんから力と共に受け継いだ夢。

「ッくぅ~ッ!男らしいぜ!緑谷!」

「ありがとよ。その内、他の仮面ライダーの事も教えるから」

 

こうして、お部屋披露大会はお開きとなった。かなり楽しかったなぁ。今度はサブライダー達のも造ってみるか・・・

 

to be continued・・・




「お部屋披露大会長かったッスねぇ」
『はぁ~疲れた。デップーあとはたのんだ』
「えぇ?(困惑)・・・次回もよろしく!あと感想くだちい!」


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第5話・必須のD/特・訓・開・始

「さぁて、来た来た必殺技!・・・ん?出久は存在そのものが必殺技説微レ存・・・」
『強ち間違っちゃいないな。ではどうぞ!』


(出久サイド)

 

「昨日の、3つの出来事!

1つ!ハイツアライアンスに入寮!

2つ!第1回・お部屋披露大会が開催!

そして3つ!・・・3つ目無かったわ」

「いやいや、もうちょい頑張ろうよ」

俺が昨日の出来事を振り返りが詰まり、すかさず三奈が突っ込む。仕方無いだろ?無かったんだから。

「つか何だよその前回の粗筋みたいなの」

「観測世界から見たオーズ先輩の番組の前回の粗筋」

聞いてくるかっちゃんに対してそう答えた。

「つまりデッドプールみたいな事言ってたって事か?」

「ん、そう言う事。アイツも観測世界に干渉できるからな・・・先生来たわ」

「ッ!!」

うん、全員席に着いたね。

 

─ガラッ─

 

「おはよう・・・うし、全員居るな。夏休みだからサボる奴がいないか心配だったが、皆真面目で先生嬉しいよ」

「相澤先生相手にサボれる程雄英を嫌ってる奴ぁこのクラスにゃいませんよ」

1サボりが除籍処分に直結するだろうからな、この人の場合。

「良く分かってて何よりだ緑谷」

ほらな。

「さて、昨日も言った通りだが・・・まずは、仮免の取得が当面の目標になってくる」

「はいっ!」

うん、元気がよろしいね。

「ヒーロー免許ってのは、人命にダイレクトに関わってくる責任重大にして重要な資格だ。当然、取得のための試験は非常に厳しい。仮免といえど、その取得率は例年5割を切る」

まぁ、当然だよな・・・

「そこで今日から、君ら1人最低2つ・・・」

 

─ガラッ─

 

()()()を作ってもらう!!」

 

相澤先生の合図で、ミッドナイト、セメントス、エクトプラズムが入室した。

「必殺技ッ!!」

「学校っぽくてそれでいて!ヒーローっぽいのキタァァァァッ!!」

必殺技か・・・俺、必殺技の見本市だな。

「必殺!コレ即チ、必勝ノ型・技ノ事ナリ!」

「その身に染み付いた技や型は、他の追随を許さない。戦闘とは即ち、いかに自分の得意を押し付けるか!」

「技は己を象徴する!今日日必殺技を持たぬプロヒーローなど絶滅危惧種よ!!」

「ま、詳しい説明は実演を交えて合理的に行いたい。全員コスチュームに着替えて、体育館γに集合だ」

今回、俺は教える側かな。

 

───

──

 

「ここが体育館γ。通称、トレーニングの台所ランド、略してTDL!!!」

あれかな、雄英は過去のテーマパークにケンカ売りたいんかな?

「ここは俺が考案した施設だ。地面がコンクリートだから、それぞれに合った地形を創れる。台所ってのはそういう事さ」

成る程、セメントスが居るのはそういう事か。

「多少不利な地形でも逆転出来るような必殺技作れば、活動が安定するって感じで仮免取得でポイントになるかもな。

飯田のレシプロとかみたいな」

「あれで良いのか!?」

あれ?気付いてなかったのか?

「あぁ、多分な。飯田のレシプロは、ゼロからマックススピードまでの加速がかなり短い。相手からしたらかなり厄介だろ?別に攻撃技じゃ無くたって、そっから強力な別の技に派生したり自分に有利な状況を作れれば、そりゃあ充分必殺技だと思うぜ。要するに、『コレが決まれば有利・勝てる』って方を作ろうって話だ」

「緑谷、説明ご苦労」

「飯田が質問しそうな事を先取りして答えただけですよ。時間の無駄は避けたいでしょう?」

コイツの事だから絶対『仮免取得における必殺技の必要性とは?』的な質問するだろうと思ったから、先取りしてみた。

「中断されてしまった合宿での個性延ばしは、この必殺技に繋げるためのプロセスだった」

 

─ズオォォォォォォォオッ─

─ボァッ ボァッ ボァッ ボァッ─

 

セメントスが地形を変え始め、エクトプラズムが分身を多数作り出す。

「つまり、これから始業式まで・・・残り10日余りの夏休みは、個性を伸ばしつつ必殺技を編み出す・・・

 

圧縮訓練となる!」

 

圧縮訓練か。これまた大変そうだな・・・ま、その方が燃えるが。

「尚、個性の伸びや技の性質に合わせてコスチューム改良も並行して行っていくこと。大分キツいが、プルスウルトラの精神で乗り越えろ。

準備は良いか?」

「「出来てるよ!」」

かっちゃんも結構ノリノリだ。さてと、面白くなりそうだな。

「あ、緑谷には他の生徒のアドバイスも頼みたいんだが」

「了解」

やっぱりね。

 

(NOサイド)

 

─ドゴッ─

 

「ぐあっ!?」

エターナルに蹴飛ばされてうずくまる尾白。そしてゆっくりと距離を詰め、エターナルは腕を組んだ。

「尻尾を鈍器として意識しすぎだな。横打、縦打、袈裟打ち・・・そんなもんだ。すぐ読める。もっとこう、尻尾のある動物の動きを取り入れたらどうだ?例えばカンガルーみたいに、尻尾をバネにして敵を蹴りつけたりとか」

「な、成る程」

様々なタイプと殺し合って来た経験が活かされる。確かにこの訓練の場合、出久は教える側に向いているだろう。

因みにルナメモリで分身し、その上NEVERのメンバーも総出動している。

 

 

 

「ゥオラァ!!」

 

─BOOM!ガキンッ─

 

「成る程、悪くない動きだ」

グリス・ライトの爆破で加速した回し蹴りを受け止め、仮面ライダーサイクロン・・・克己はそう評価する。しかし、まだまだ余裕そうだ。

「もう少し腰の捻りを加えてみろ。威力が上がる筈だ。後は、離脱時に強力な爆破で敵を怯ませたりな」

「ウッス!」

どうやら相性が良いようだ。

 

 

 

「アシッドスラッシュ!!」

 

─ジュワッ─

 

「へぇ、良い技じゃないか」

振り下ろした手刀から酸液を飛ばし、斬り跡を作る三奈。それを見て、指導を任されたレイカは感嘆の声をあげる。

「ありがとうございます、(アネ)さん!」

「そう呼ばれるのも嫌いじゃない。じゃ、今度は戦闘時にスムーズに使えるようにしていこうか!溶解度弱めれば、組み手で使えるからね!」

「はいっ!」

浜辺の特訓で出久に戦闘基礎も叩き込まれたため、かなり順調だ。

 

 

 

「ハッ!」

「ぬぉ!?」

無重力浮遊からの挟み蹴り、更に捻り落としのコンボを決めるローグ・ライト。対して相手の剛三は少しよろめきながらも踏ん張って堪える。

「あれぇ~?結構力込めたんやけどな~?」

「ハハハハッ!!流石に嬢ちゃんの体重程度じゃあコケはしねぇぜ!それに、メモリのお陰で体が鉄みたいになってるしな!」

そう。実はNEVERはハイドープのようになっているのだ。因みにそれぞれの体質は、剛三は身体の金属化。レイカは身体発熱・発火であり、京水は柔軟化だ。賢は動体視力と脚力の向上で、克己は身体能力向上。それぞれのメモリとバトルスタイルに合った体質になっている。

「嬢ちゃんは防御特化らしいからな!ドンドン行くぜェ!」

「よっしゃ!」

 

 

 

─BANG!BANG!─

 

「アデデデッ!」

賢は構えた銃でひたすら切島に銃弾を撃ち込む。切島も痛いと言ってはいるものの、皹が入りこそすれ割れてはいない。

これは切島がリクエストした特訓内容だ。ひたすらに攻撃を受け続け、どんな攻撃でも倒れない究極の鉄壁になる。それこそが、切島が思い描く自分のベストな必殺技である。

─バキンッ!─

「ぐあっ!?」

しかし、流石にまだ未完成。銃撃を受けた腕が割れ、硬化が解除されてしまった。

「・・・GAME OVER?」

「ッ!コ、コンティニューだ!」

「OK」

幾拍かの後、再び切島が硬化を発動。耐久訓練が再開された。

 

 

 

「ほっ!ほっ!それクネクネ~♪」

「何で当たらないかなァ!」

弾幕をヌルヌルと避けまくる京水と、それに対して声を上げるフラン。

「あらあら、こんな子にはウチのイズクちゃんはあげられないわね!出直してきなさいッ!」

「(ピキッ)・・・あっそ。だったらこんなのはどうかな!」

その物言いに少々カチンと来たフランは、再び多数の弾幕をバラまく。先程よりも密度が上がっており、流石の京水も避けられないだろう。

「避けられなければ、潰しちゃえばいいのよ!」

すると京水は腰のホルダーから鞭を引き出し、あろう事か弾幕を切り潰し始めた。

「掛かった!」

「えッ!ちょっ!?何コレ!?」

何時の間にか現れた大量の弾幕。しかも左右からも迫ってくる。横からの弾幕の発生源は、フランが空中に投影した魔法陣だった。

「禁忌!クランベリートラップ!」

「甘いわッ!!」

─ズババババババババンッ!─

「・・・うそぉん」

何と京水は独楽のように回転して弾幕を一掃してしまった。

このオカマ、マジで何者やねん・・・

「で?これで終わりかしら」

「ッ!ま、まだまだぁ!」

 

 

 

「さぁてと、こっちもこっちで──【ガングニールβ!】──やってみますか!」

仮面ライダーエターナルの本体は、周りから少し距離を置いてガングニールβシンフォニックメモリを構える。

「詠装!」

そしてそのメモリを胸に突き立てた。そのままメモリは心臓の近くに挿入され、エターナルの脳裏に詩が浮かぶ。それはエターナルの口を突き、肉声となって響いた。

 

我、その笑顔を守る者なり(I'm that Smile Guardian GUNGNIR tron)~♪─

 

──閃光──

 

眩い光が放たれ、エターナルを包む。そしてその光の中で、エターナルは鎧を纏っていった。

 

─ブルーフレアが刻まれたパンチングガントレット─

 

─肩甲骨辺りに着いたバーニアスラスター─

 

─ヘッドギアから後ろに伸びた2本の角─

 

─エターナルローブは燃えて焼け消え・・・─

 

─踵にもキック増強用のジェットブースターが装着─

 

その姿の名は────

 

「仮面ライダーエターナル!シンフォニックスタイル!【ゲキトツ・ガングニール】!!」

 

それは、必中の神槍(ガングニール)とはかけ離れた手を取り合う拳(ガングニール)

「んっと・・・よしッ!」

 

─ガキンッ!─

 

その両手を具合を確かめるように握ったり開いたりを繰り返し、感覚を掴んでその双拳を打ち付けた。

「ふむ、出力が低いな・・・まぁ、この拳は響の性格・・・和解欲に溢れた精神が作り上げたアームドギアだからな。敵対即殲滅の俺に合わないのも当然か。だがそのお陰で、わざわざ手加減しなくても攻撃出来そうだ」

実際、試験で使ったシンフォニックアーマーで掛かっていた負担の半分は手加減する為の集中だった。だがこの拳なら、対人戦に丁度良い(ハンデ)になるだろう。

「じゃ、コッチも使いますかね!」

エターナルは腕を回してエターナルエッジを出現させ、マキシマムスロットに新たなメモリを装填する。

【ソロモン】

擬似メモリ特有の音声と共にメモリが起動し、エターナルエッジが極彩色のオーラを纏った。

「取り敢えず、サンドバッグとして50体ぐらいにしとくかな。出て来い、ノイズ!」

エターナルがエッジを振り下ろすと、そのオーラが光弾となって拡散。着弾地点に空間の歪みが発生し、その中から異形の敵が現れる。

 

カエル型(クロール)ノイズ×20

鳥型(フライト)ノイズ×10

タコ型(ミリアタボ)ノイズ×20

 

「おうおう一面極彩色だな。さて、攻撃対象は俺のみに設定して・・・目標タイムは4分15秒!スタート!」

─~♪タ・ト・バ!タトバ!~♪タ・ト・バ!タトバ!~♪─

宣言と共にノイズの群れは一斉にエターナルをロックオン。進撃を開始する。同時に、エターナルの武装からは音楽が流れ始めた。

「行くぜェ!」

 

─あの時ぁ~あ、し~てなけれ~ば~♪ア~レを~やれ~てたら~♪─

 

そのメロディーに合わせて歌い、ノイズの濁流に突っ込むエターナル。

突進するクロールを拳と回し蹴りで迎撃し、フライトのジャベリンタックルをジャンプで回避。

その滞空を狙うミリアタボの触手は足のジェットブースターとパワージャッキによるインパクトハイクで体勢を変えて回避し、そこから距離を一気に詰めてその液晶のようなパネルパーツを拳で貫く。

 

─~~~~~~ッ!─

 

すると、ノイズ達はエターナルの四方八方から同時攻撃を仕掛けた。しかし、普通の装者なら焦る所だが・・・

「(囲んで来たか。だが・・・2、4、6、8匹!)逃げられる~場~所は~無~い~ん~だッ!」

 

─ドボボゴッ!!─

 

この規格外(バケモノ)は何とその場で飛び上がり、両手両足を横凪ぎに振るって全て迎撃して見せた。

「(さてと、やってみますかね!)」

そして瞬時にインパクトハイクで低地に移動し、全身に張り巡る力の水道管を開くイメージを起こす。すると、エターナルの身体から緑と青の入り混じった放電が発生した。

「(ワン・フォー・オール、アーマード!)」

そのエネルギーを、脚、腰、右肩、右肘、右手首と順番に流し込む。

 

─ギュイィィィギリギリギリギリギギリリギギギリギリ!!─

 

その右腕に備え付けられたアームドギアであるパンチングガントレットのタービンは激しく回転して赤熱化し、肘に付けられた衝破撃鉄(スマッシュハンマー)が引き伸ばされて展開、コッキングされた。そしてその拳を・・・

 

「Regret nothi~ng!」

 

前方のノイズ達に向けて一気に撃ち放つ。

 

──GUNGNIR CRITICAL SMASH!!──

 

─ドガッドゴォォォォォンッッ!!─

 

拳が振り抜かれた瞬間に引き伸ばされていた衝破撃鉄(スマッシュハンマー)が勢い良くガントレット本体に激突し、二重の衝撃波を撃ち放った。

その爆熱を伴った衝撃波は瞬く間にノイズを打ち払い、ついでに後ろのコンクリートの壁にも大穴を開ける。

「何だ今のッ!?」

「また緑谷か!?」

 

─バシューッ─

 

全員がざわめく中、エターナルは完全に硬直した。そのガントレットからは冷却ガスが噴射され、内部温度が下がっていく。

そして次の瞬間、エターナルがよろめいた。何とか踏ん張って転倒は避けたが、そのまましゃがみ込んでしまう。

「・・・いってぇ」

腕をさすりながらボソッと呟くエターナル。シンフォニックアーマーと変身を解除し、ぐりぐりと肩を回した。やはり肘や肩から鈍痛が伝わるようだ。

「う゛~・・・感覚的には、許容可能な15~20%程度だったつもりだが・・・ガングニールで増幅しちまったか・・・コス改良するかな。サポーターとか付けて・・・イッテテ~・・・」

そしてもう一つ、出久は教訓を得た。それは・・・

「ガングニールのパンチに、ワン・フォー・オール乗せちゃダメだな」

手加減が完全に無くなってしまった結果を見て、そう呟くのだった。

 

(出久サイド)

 

「ここか、開発工房」

コス改良として腕や脚腰のサポーターを搭載して貰おうと、俺は開発工房を訪れた。中からは溶接音や研磨音、コンプレッサーの駆動音等が聞こえてくる。

「あ!出久君もコス改良~?」

麗日が話しかけて来た。見れば、かっちゃんと飯田も居るな。

「おう。腕や足腰にサポーターをな。そう言う皆は?」

「私はブーツをもうちょいスマートにして貰って、あとお腹にローグみたいな防御膜でも入れて貰おうかなと」

「リキッドアーマーだな」

実際、ダイラタント防弾チョッキとか研究されてたしな。

「俺は脚部のラジエーターの改良だ」

「耐衝撃性とかな」

ステインの時、確か衝撃で壊れてたよな。

「俺は脛に合金仕込みてぇな。軽くて丈夫なヤツ。それと、肘に噴射口付けて姿勢制御とかパンチの増強」

「成る程。なら、使う合金はタングステンとマグネシウムとアルミニウムを混ぜたやつがオススメだ。あれは軽いし、硬さも申し分ない」

自動人形(オートスコアラー)の表面パーツも幾らかそれで造ったしな。

「さて、頼もォ~」

 

─ガラッ─

─ビリビリッ!─

 

「いッ!?かっちゃん危n─ドゴォォォンッ!!─あ~ぁあ・・・」

俺は気流感知で危険を避けることが出来たが、かっちゃんは回避出来ず戸派手に爆発に巻き込まれた。まぁかっちゃんだから大丈夫だろうが・・・

「フフフいててて・・・」

「ゲェッホゲホッ・・・お前なァア!思い付いたもの何でもかんでも組むんじゃないよ!一回で良いから話聞きなさい発目!」

工房から咽せながらパワーローダーが現れ、発目に怒鳴る。まぁアイツ自己中だしな。で、当の発目は・・・

「イッテェなクソ発明女ァ!あと退けや!重いんだよ!」

あらまかっちゃんの腹の上。

「あら!アナタは・・・誰でしたっけ?」

「ざっけんな!まず退けェ!!」

「カツキ君から離れてくれる?」

あ、麗日が浮かせて退かした。

「おや!一位さんも居るじゃありませんか!」

「緑谷出久な?あとお前、もう少し肌隠せ。心に決めた相手が居る奴にとっちゃ目と心に毒でしかない」

「いや、暑いんで」

「だったら小型クーラーとかファンでも作って服ん中に仕込んどけば良いじゃねぇか」

「成る程!そんな発想が!あ、突然の爆発失礼しました!!久し振りですねぇ!え~っと・・・緑谷さん以外、名前忘れました!」

本ッ当に要らんとこ正直だなコイツは。

「この人格で造るモンは良い出来だから質悪いわ」

「あ、知ってたんだ」

「騎馬戦でお前とお茶子が着けてたジェットパックとブーツがそうだろ?」

「良く見ていらっしゃる・・・さて、コスチュームの改良について───」

 

「コスチューム改良ッ!?興味あります!!」

「近い近い・・・」

コイツ人との距離感をまず覚えるべきだな。今だってコイツの胸が胸板に当たりそうになった。もし三奈やフランに見られたら怖い怖い・・・

「ったく、全寮制になって入り浸るのは良いが、これ以上荒らしたらマジで出禁だからな?くけけ・・・さて、イレイザーから話は聞いてる。入りな。必殺技に伴ったコス変だろ?説明書見してみ」

ふ~ん、スゲェな。色んなパーツやツールがあ所狭しと・・・発目がいるだろうと思って自動人形(オートスコアラー)達は皆の特訓を手伝わせてるが、今度連れて来てみるかな。

「で、オーダーは?」

「俺は腕や足腰の靱帯に掛かる負担を軽減するサポーターみたいなのが何してるのかな発目?」

「触ってます」

いや触ってますじゃねぇんだよ!彼女持ちの男の身体をまさぐるな!訴えられるぞマジで!

「凄まじくガッチリしてますねぇ。それなら・・・」

「オイ麗日、かっちゃんも触られるだろうからガードしとけ」

「ん、わかった」

と、発目が何かと俺の体に装着し始めた。恐ろしい程の手際で完成されたそれは・・・

「このベイビー!パワードスーツ!」

・・・うん、何か仮面ライダーG3っぽいな。ヘルメット付ければカッコいいかも。

「筋肉の収縮を感知してサポートしてくれますよ!」

「成る程。コレを一から作ったのか?良いセンスだ。

ん?なぁ発目、何か腰が勝手に回り始め待って待って人間の腰は80度以上は曲がらなイタタタタタヴゥンッ!!

 

─バキンッ─

 

胴捻切られる寸前で強引に腰を捻って戻し、何とか腰骨は守った。

「あっぶな・・・」

「おやおや。どうやら関節の可動域のプログラミングをミスっちゃったみたいです!ゴメンナサイ!」

「反省してないだろ・・・ん?オイ待て。つまりお前は、最初の人体実験に他人である俺を使ったって事か?」

「そうです!」

「実験台にはまず自分を使え。そのせいで自分が怪我しても自己責任で済むが、他人が怪我したら大変な事になるからな」

「分かりました!」

どうだか・・・

「ま、オーダーは受け取ったぜ。3日で終わる」

「ありがとう、パワーローダー先生」

さてと、3日後が楽しみだな。

 

──to be continued・・・




『中途半端に終わっちゃった』
「ま、しゃあねぇさ。次早く出しゃ良いんだよ」
『頑張るよ』


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第6話・3日間のF/唱・撃・兵・装

『原作では書かれて無かった、コスチュームが届くまでの3日間だね』
「コスチューム無くても変身して戦える、仮面ライダーだからこその描写だよな」
『あとごめんアクシア、やっぱ詠唱は英語にするわ。
ではどうぞ!』


(出久サイド)

 

「という事で、今日から俺が専属の特訓教官をする事になった・・・」

「照井竜路。28歳。超常犯罪対策・対応課課長。階級は警視だ」

体育館γにて、腕組みしながら自己紹介をする竜兄さん。

何故こうなったかというと、前々から約束していた仮面ライダーアクセルの力に関する指導は何時するのか、という電話が昨日の夜来た。急遽校長に電話で相談した所『勿論良いのさ!』とまぁあっさりOKが貰えたので連絡したら、仕事をパパッと片付けて今日来ちゃったという訳だ。何でも、19歳で働き始めてから9年間、溜め込みに溜め込んでた有給を今使っているらしい。(ヴィラン)の確保数がトップレベルの為、今年に入って最年少で警視になったんだとか。まぁ竜兄さんに追い掛けられりゃ逃げられんわな、絶対に。

「個性はエンジンの出力を上げる【エンジンブースト】だ。趣味はツーリングとバイクの整備及び耐久改造。恋人はいない。出久は逮捕状が出た中で唯一俺が捕らえられなかった化け物だ。勿論、逮捕令はとっくに解除されているがな」

緑谷(出久)なら納得だ~』

「満場一致かよ」

まぁ化け物ってのは否定しないけどさ・・・

「まぁ良い。竜兄さんはグラウンドに出て特訓する。ここじゃスペースが足りないから。アクセルドライバーは持ってきたよな?」

「俺に質問するな」

そう言ってすちゃっと懐からアクセルドライバーを取り出す竜兄さん。ジャケットを大きくして、背中にポケットをつけたらしい。

「good!じゃあ、こっちにも戦闘要員を置いていきますか」

【ボーダー!マキシマムドライブ!】

かちゃっとエターナルエッジを召喚し、スキマを開いて自動人形(オートスコアラー)達を呼び出した。全員決めポーズで待機状態・・・よく見りゃ全員ジョジョ立ちだったわ。ファラは右腕を腰に回して左手を右頬に添えるカーズポーズ、レイアは胸元を掴んだジョルノポーズ、ガリィは左手で右肩を抱き右腕を左下に伸ばすディオ様ポーズ、ミカはWREEEEE!!ポーズだ。特にミカは手が厳ついから似合う似合う。

「あら皆様、ご機嫌よう」

「地味に出番か」

「あ~ぁあ、かったりぃったらありゃしない」

「ガリィ、サボったらお仕置きされるゾ」

「ガリィにお任せで~す☆」

やっぱりガリィは自分に正直だ。

「つーか化け物ご主人!とっとと命令して下さいなァ!」

昨日はこのご主人呼びで峰田が面倒臭かったな。けしからんだの何だのと・・・

「ファラとミカは八百万の体裁き指導及び戦闘指導、レイアは切島の耐久訓練、ガリィは青山の射出時間増加訓練だ」

「え~?アイツですかぁ?」

ガリィが不満げに呟いた。

「何か文句でも?」

「いやいや、ガリィの相手にしちゃ弱すぎるってんですよ。ヘソからレーザー?1秒しか撃てない?挙げ句撃ちすぎりゃ下痢ピー?雑魚もいい所じゃないですか」

「だからこそだ。弱い奴程ほったらかさず、磨いてやらなきゃいけないんだよ。それとも、命令(コマンド)使わなきゃいけないのか?」

「チッ・・・あーあー分かりましたよ!オラ行くぞシャンデリア野郎」

「キミ口悪いよね」

「アンタはスカした態度が気持ち悪いわ」

突っかかる青山に毒舌で切り返すガリィ。態度についてはお前が言うな。

「ガリィちゃんは、態度についてとやかく言っちゃダメよねぇ」

「派手なブーメランが地味に刺さったぞ」

「ガリィ、鏡見たこと無いのかゾ?」

見事に集中砲火だ。

「うっさいわねアンタらァ!!」

「ガリィが一番煩いゾ」

正論でねじ伏せられたな。こういう正論返しではミカが強いよな。

「よし、行こうか竜兄さん」

「分かった」

 

───

──

 

「やはり広いな。流石は雄英だ」

「持ってる金が、国家予算級だからな」

ギッギッと伸脚しながら、竜兄さんの呟きに答える。さてと・・・

「じゃ、早速変身してみようか。はい、アクセルメモリ」

身体を解し終わって、竜兄さんにアクセルメモリを投げ渡した。

「分かった」

 

─ガシャッ─

 

竜兄さんはメモリをキャッチし、アクセルドライバーを装着。右手にメモリを持って構える。

【アクセルッ!】

 

「変・・・身ッ!」

 

─ガシャッギュオォォンッ!ヴオォォォンッ!!─

 

そしてスタートアップスイッチを押してメモリを機動し、ドライバーのスロットに装填。右側のグリップを勢い良く捻った。

 

【アクセルッ!】

 

その瞬間、空間に熱を伴う波紋が広がる。紅いピストンパーツが竜兄さんの身体を取り囲み、真っ赤なガイアアーマーが装着された。

高熱の蒸気によりその姿が半ばホワイトアウトする中、青い複眼が強く輝く。

「祝え!ありとあらゆる困難を振り切り、悪を焼き尽くす加速の戦士。その名は仮面ライダーアクセル!その力が継承され、新たなる同士が誕生した瞬間である!」

「誰に言っているんだ?」

「いや、何となく」

言ってみたかったんだよコレ。

「よし、問題無いな。じゃあ、武器の展開をしてみようか」

「展開?どうするんだ?」

あ、やっぱ分かんないよな。

「えっと、視界の端っこに大剣のアイコンがあるんじゃない?そのアイコンは格納中の武器をデフォルメしたものが、名前付きで表示されるんだ」

「・・・あぁ、これか」

こっちからはどれか分からんけど、まぁ1つしか無いからそれだろう。

「まぁそれは展開自体には関係無いんだけどね。俺らの使うメモリシステムには、専用武器を精製するメモリがあるんだ。普段その武器はデータ化されて、メモリ内の格納容領(バススロット)に格納されてる。出したい武器をイメージすれば出て来るようになってるんだ。まずは武器名を口に出して、反射的且つ強制的に連想する事で出現させるやり方から練習だな」

質問されたら意思に関係無く答えを考えてしまうという反射的心理を応用している。

「成る程、イメージか・・・来い!エンジンブレード!」

 

─ガチャッ─

 

竜兄さんが呼ぶと、その手にエンジンブレードが出現した。

「あぁそれと、メモリのスタートアップスイッチを押せば生身でも武器召喚出来るけどエンジンブレードはやめといた方が良い」

「何故だ?」

「それ45キロあるから。アスファルトにめり込むよ、ドゴンと。今平然としてられるのは、単にアクセルのガイアアーマーと肉体変質でパワーが上がってるから」

「ッ!?・・・恐ろしいな」

まぁともあれ、問題は見受けられないな。

「あ~竜兄さん。俺も特訓したいし、こっからは半ば自主練みたくなっちゃうけど良いかな?」

「構わん」

「よし、じゃあこれから出て来る敵をひたすら倒して」

【ソロモン】

俺はソロモン擬似メモリをエターナルエッジに装填し、地面に突き立てる。すると空間が揺らぎ、ワラワラとノイズが現れる。

「30分毎に10分のインターバル挟むから」

「うむ分かった・・・さぁ、振り切るぜッ!!」

早速ノイズを切り刻み始める竜兄さん。初めてにしては太刀筋もブレず、背後にもしっかりと対応している。初めてでコレなら、とんだダイヤの原石だ。*1

あ、もしかして警棒術の応用かな?*2エンジンブレードは重量で叩き斬ってるようなもんだし。

「さてと・・・この分だと、明日にはバイクモードも使いこなせそうだな」

 

───

──

 

「サテ、今日ハドウスルノダ?」

「取り敢えず、シンフォニックスタイルを試す。ゲキトツとドラゴナイトとタドルとバンバンはもう知ってるから飛ばそう」

「心得タ」

さて、最初はどうするか・・・そうだな~・・・

「イガリマで行くか。俺の通り名*3にもピッタリだ」

軽く決めて、俺はイガリマシンフォニックメモリとエターナルメモリを取り出す。

【エターナル!】

そしてロストドライバーを装着し、スロットにメモリを装填。

次に両足を肩幅に開き、両手を左わき腹に寄せて素早く前に伸ばす。そのまま反時計回りに腕を大きく回し、両手をドライバーに添えて・・・

 

「変身!」

 

【エターナル!】

両手を腰横に引くように戻してスロットを展開。白いガイアアーマーが金と蒼の波紋と舞い、エターナルに変身した。

「何ダ?今ノ ポーズ ハ」

「仮面ライダーゲイツ・・・後輩のヤツを真似してみただけです。じゃぁ早速!」

 

【イガリマ!】

 

「詠装ッ!」

 

死神の鎌は、魂を狩り穫る(The Death hunts IGALIMA the soul tron)~♪─

 

溢れ出したるは緑の閃光。その光に包まれ、俺の身体に新たな装甲が装着されていく。

 

──死神の鎌(デスサイズ)を彷彿とさせる、鋭利なショルダーアーマー──

 

──死神のローブのようなフードのついたエターナルローブ──

 

──踵についたギルスヒールクロウのような鋭い蹴爪──

 

──手首のエターナルブレスは鋭く尖り、アームファングのような鎌状に──

 

──何処からとも無く現れたバトンのようなグリップを掴めば、その両端が伸びて死神の鎌(デスサイズ)となる──

 

その大鎌を地面に突き立て、ポールダンスのように周りを蹴りつけた。これで・・・

 

「仮面ライダーエターナル!シンフォニックスタイル!【ギリギリ・イガリマ】ッ!!」

 

その姿は、正しく死神。掴んだ鎌には大きなメインエッジの反対にも小ぶりなサブエッジが付いており、見方によっては三日月にも見えなくは無かった。

「ホウ、ソレガ」

「じゃ、とりえず15体お願いしますよ、エクトプラズム」

「分カッタ」

 

─ヴォアンッ─

 

エクトプラズムが霊分体を吐き出して分身する。

「さて、行くか!」

 

─お前は誰だッ!!オォレ~のナ~カの~オレ~♪─

 

適合ソングはArmour Zoneだな。鎌を使ってたし、何よりアマゾンオメガのイメージがピッタリだ。

俺は歌いながら駆け出し、先頭のエクトプラズムに対して横凪ぎにアームドギアを振るう。エクトプラズムは跳んで回避。だが・・・

 

─ガシャッ!─

 

振り抜いた瞬間にアームドギアの刃が分裂し、更に身体を捻って一回転。アームドギアを先端が円軌道を描くように振り回した。すると分裂して増えた刃が外れ、鋭刃の群れがショルダーファングの如くエクトプラズムに襲い掛かる。

 

──斬・J狙ン=bォ雨皮ぃzゥ!!──

 

「カ~ゼ~を~斬れェ~!声を~枯~ら~してェ~♪」

その一瞬で5体の分身が消滅。飛び交う刃も砕け散った。だがエクトプラズム達は消滅した分身を目眩ましに俺を取り囲む。その一見不利な状況の中、俺は次の技のイメージを固めた。

肩アーマーからもう1本の鎌を引き抜いてスラスターを吹かし、独楽の如く回転してアームドギアを振り回す技───

 

「喰~うか~♪喰ゥわ~れる~かァの~サァダ~メ~♪Oh yeah!!」

 

──車獄・怖Rぇ出y=狂うGぁ!!──

 

その二つの刃は瞬く間にエクトプラズムを斬り刻み、残りは3体だ。

「何トイウ凶悪ナ刃!」

そりゃそうだ。防具による物理的防御が不可能な魂伐斬撃だからな。

さぁ次だ。二振りのアームドギアを中央で連結し、巨大な鋏に変えてエクトプラズムに跳び掛かった。1体には避けられてしまったが、2体は鋏の中にいる。十分だ。そのまま鋏を一気に、無慈悲に閉じる。

 

「爪立~て~なァがら~消えるna~sty♪」

 

──対断・墓bぃ=堕N=罵Rォ疼!!──

 

その刃はエクトプラズムの胴体を瞬時に分断。上半身と下半身は泣き別れになり、そのまま消滅した。あと1体!次の技だ。

「マサカ、ココマデトハ・・・」

(エクトプラズム、心折れ掛けてね?まぁ良い。ならば完全にへし折ってやるだけだ*4)

俺はショルダーから鎖を射出し、エクトプラズムを拘束。そのままアームドギアのサブエッジで脇腹を切り裂き、グリップエンドを地面に突き立てる。そしてそのままポールダンスのように身体を素早く持ち上げ、エクトプラズムに踵落としを叩き込んだ。

 

「HOW DO WE SURVIVEッ!?」

 

──割頭・責Nぉ妄fゥ!!──

 

踵の蹴爪がエクトプラズムの頭を真っ二つにかち割り、最後の分身体が消滅。ふむ、まだまだ余裕だな。

「・・・」

「ん?どうしました?」

エクトプラズムが固まってる。何かあったか?

「イヤ・・・ナマジ自分ト全ク同ジ姿ダカラナ・・・本体(自分)ガ技ノ餌食ニナル様ヲ想像シテシマッタ・・・怖ロシイ・・・」

「あ、そうですか。じゃあ次15体お願いします」

「話ヲ聞イテイタカ?」

「えぇ。それがどうしました?元々アナタのここでの仕事は、技の実験台の供給とアドバイスでしょう?お願いしますよ」

「・・・スマン。少々、ガタ ガ キテシマッタ」

「そうですか。なら無理はしないで下さい。体を壊してはお笑い種です」

俺の言葉に頷き、エクトプラズムは降りて行った。俺もイガリマシンフォニックメモリを引き抜き、シンフォニックアーマーを解除する。

「さて、ボーダーっと」

俺はボーダーメモリを手元に召喚し、右腰のマキシマムスロットに装填してボタンを叩く。

【ボーダー!マキシマムドライブ!】

そしてスキマゲートを開き、グラウンドに繋げる。覗いてみれば、竜兄さんはまだまだ余裕そうだ。

「ちょいと返して貰って、と」

俺は目の前のエターナルエッジを引き抜き、こちらに引き出してからその刃を振るう。すると瞬く間に空間が揺らぎ、ダチョウ型ヒューマノイドノイズが9体、普通のヒューマノイドノイズが6体現れた。ちゃちゃっと元あった所にエターナルエッジを突き立てて、スキマゲートを閉じる。

「さてと。イガリマをやったからには、こっちもやらないとね」

 

【シュルシャガナ!】

 

「詠装ッ!」

 

その回る鋸刃は、神の刃なり(The saw turns SHUL SHAGANA tron)

 

そしてまた、俺は光に包まれる。今度はピンク色の光だ。

その光の中、再びシンフォニックアーマーが装着されていく。

 

──腕に着けられた、四角柱状のアーマー──

 

──肩甲骨の上に装着された、着脱式の丸鋸──

 

──両肩にマウントされた、無数の鋸刃を格納するコンテナ──

 

──踵には蹴爪のようなチェーンブレードが装着され・・・──

 

──エターナルローブは解けて腰に装着し、前開きのスカートマントに──

 

このギアの名は・・・

 

「仮面ライダーエターナル!シンフォニックスタイル!シャカリキ・シュルシャガナッ!!」

 

シャカリキ・・・成る程、スポーツアクションゲーマーのトリックフライホイールと丸鋸が似ているからか。

「じゃ、行くかッ!」

 

─ガシャン─

 

俺が軽くジャンプすると踵に付いたチェーンブレードが変形して足裏にくっ付き、スケートシューズのようになった。見てみれば、チェーンがホイールに変わっている。ローラーブレードだな。

そして、胸の中のメモリからリズムが伝わってくる。前奏の無い奴だな。お、歌詞も来た!

 

─DEEP INSIDE!ダ~レの~タ~メ~?DEEP INSIDE!な~んの~タ~メ?チ~カ~ラァも~と~めぇて~♪さま~よォ~ゥオ~♪─

 

やっぱりゲンムのWish in the Darkか。よし、ちゃちゃっと性能テストを終わらせよう!

 

─ゴボッ─

 

俺を拘束しようと粘着液を吐き出してくるノイズ。だがその粘着液を横に体を傾けて躱し、その重心移動を利用して駆け出した。そして背中にマウントされた丸鋸を外し、ノイズ共に投げつける。

 

「響く鼓~動~ENDLESS!ENDLESS!」

 

──α式・策略車輪刃(トリックフライエッジ)!!──

 

その2つの丸鋸は複雑な軌道を描き、ノイズを6体切り刻んで戻ってきた。かなり高性能だな。

 

─バヂュッ─

 

と、今度は広範囲に吹き出してきたな。機動力を殺ぐ気か、だが、対策は出来る。俺は素早く鋸刃を取り外し、手に持って巨大化させながら前方に向けた。

(ドリーム・ベガスっと・・・ん?何か異音が・・・)

 

─バキンッ─

 

(ッ!?マジかよ割れやがった!この粘着液、ギアを浸食するのか・・・ヤベッ!)

 

一気に集中する粘着液を辛うじて避けながらコンテナを開く。そして中に格納されている小さい鋸を大量に放った。

 

「マ~ボロシィの夢は覚ァめない~ナイ~トメェア~♪」

 

──α式・群蝗災刃(グンコウサイジン)!!──

 

放たれた鋸の群れは更に分裂し、ノイズ共にダメージを与える。俺が走りながら指揮をするように指を振るえばその通りに動くため、ダチョウ型の頭部を破壊させた。これで粘着液は来ないだろう。しかし分裂した分強度が下がっていたのか、鋸の方も砕けて壊れる。まぁ良いか。

と、奴らやっぱり囲みやがったな。こうすれば基本有利ってのは否定せんが・・・ザババの双刃には悪手以外の何物でもない。

俺はその場で勢い良く時計回りに回転し、左手でスカートマント・・・SHUL・ソゥフラッターを掴んで振り回す。

 

「カ~ナ~しィ~み以~外~♪何も無~いとし~ても~♪」

 

──Δ式・痛斬ジャイロ!!──

 

するとSHUL・ソゥフラッターの縁が鋭い鋸刃となり、周りのノイズを切り裂いた。

その勢いでノイズの群れから抜け出し、腕を前に伸ばす。そしてコンテナを展開し、残り少ないノイズをその2本のアームで閉じ込めた。

 

─ギィィィィィィィィイ!─

 

無論、その内側は無数の丸鋸で覆われている。しかも三段構造になって並んでおり、外側は先端に、真ん中は根元にむかって回転しているのだ。つまり、鋸刃に触れればその場に挟まれ巻き込まれて逃げられない構造なのである。相手からしたらホラーでしか無いだろう。

 

「DEEP INSIDE!そォのヒ~トォミ~♪DEEP INNER!そォのコォコ~ロ~♪ダ~レ~も知~ら~ないィ~♪真~実ゥが~あ~る♪」

 

そのアームを、ジリジリと少しずつ閉じていく。鋸刃は少しずつノイズに触れ、その身を削り始めた。ガリガリと。ゴリゴリと。ゆっくり、じっくり、いたぶるように・・・

 

「ヒィ~カ~ァリ~ヒ~トォつも~♪見~え~なァい~♪ヤ~ミ~ィが~ヒ~ロ~がァる~♪」

 

そして最後に・・・

 

「PA~NOh~RA~MA~ッ!!」

 

──γ式・拷獄(ゴウゴク)(バサミ)──

 

─バツンッ─

 

一気に閉じる。ノイズは胸の高さで上下に両断され、炭素の塵と消えた。

「ふぅ・・・こんなもんか。やっぱ、シンフォニックアーマーはかなり高性能だな」

俺は肩を回し、シンフォニックスタイルを解除。同時に変身も解除する。

「え、えげつない・・・」

「出久を敵に回したら・・・考えたくもねェ・・・」

ん、麗日とかっちゃんが何か言ってる・・・まぁ良いか。

「さて、後はメモリ技の融合もしてみるかな」

 

───

──

 

その後、ヒートとオーシャンで水蒸気爆発を起こす清き激情(クリア・パッション)と、それをクイーンバリアで一点集中して穿孔力を格段に引き上げたヤドリギの神涜槍(プロフィニースピア-オブ-ミストルティン)を開発した所でストップが掛かった。強すぎたかな。

*1
中・高は剣術にハマっていた

*2
それもある

*3
蒼炎の死神

*4
敵には容赦しない鬼畜悪魔




『漸く出せたよシンフォニックスタイル』
「まぁ、使う機会無いもんな」
『それと、イガリマの技名はある()()()()で縛ってあります。読めた方は、それぞれの読みと共通するジャンルを感想で当ててみて下さいね♪それと、技名のセンスについても一言お願いします』
「所で作者」
『何だ?』
「俺ちゃんの出番は?」
『次回もお楽しみに!』
「テメェ◯◯◯◯(ピーーー)すぞって何だこの規制(ピー)音は!?」


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第7話・戦士のS/新たな同士

「さてと、俺ちゃんの出番は?」
『(今回も出)無いです』
「(無理矢理にでも)で、出ますよ」
『無いです』
「出っ」
『無いです』
「出っ出ますよ」
『無いです』
「・・・」
『汚い前書き失礼しました。ではどうぞ』
「えぇい乗り込んでやらぁ!!」
『あっおいちょまっ』


(出久サイド)

 

イガリマとシュルシャガナを使った日の夕暮れ時。

A組のハイツアライアンスの共同スペースに、A組B組の担任含む全員、そして心繰が集められていた。全員、先生に集めさせたのだ。無論俺がである。あ、心繰だけは直接声掛けたけど。

「ねぇ、何で僕達はここに集められたのかな~?先生に言われて来たけど、何で集合が憎きA組の寮なんだろうねぇ?」

「何でお前はそんなにA組を目の敵にしてるんだよ・・・」

やっぱ物間は俺らの事嫌いか。何を恨んでるんだ何を・・・まぁ良い。さぁ行くか。

「皆。まずは、集まってくれた事を感謝する」

俺が前に出て口を開くと、全員が俺に視線を向けた。

「今日集まって貰ったのは他でもない、俺の先輩や後輩に当たる戦士達・・・仮面ライダーについて知って貰いたいと思ったからだ」

その言葉に、俺の部屋を見た事のあるA組は顔に期待を浮かべ、逆にB組は首を傾げる。

「何故皆だけを集めたか。それは、考えたくないが・・・近い将来、仮面ライダーの世界の敵と戦う事になるかもしれないからだ」

「何?」

俺の言葉に、眉を潜める相澤先生。

「もしそうなった時に、そいつを知っているか否かは文字通りの死活問題となる。なので、これから皆には・・・」

 

─パキッ─

 

俺がフィンガースナップで合図すると電灯が消えた。カーテンが閉まっているため、かなり暗くなる。

そして俺は呼び寄せたガリィに水の縦幕を作らせ、PCに繋いだプロジェクターでスライドを投影した。

 

「俺が作ったCGアニメ、《仮面ライダーシリーズ》を鑑賞して貰おうと思う!」

 

『何か面白そうなのキター!!』

ふむ、皆結構ノリノリだな。結構なこと。

「何時の間に作ってたんだよお前・・・」

「入寮する前日の夜から。ミカ以外の自動人形(オートスコアラー)にも手伝わせた」

「「流石は出久だ~」」

かっちゃんの問いに答えると、呆れ気味に三奈とフランが呟く。

「ったぁく、こちとらしたくもないボランティアさせられてウンザリだっての・・・」

ぶつくさボヤく割には、働き出すと率先して好成績を上げてくれるガリィ。ツンデレ属性だろうか・・・いや、根は真面目だけど

「さて、じゃあ始めようか」

 

──クウガ──

 

『だから見てて下さい!俺の・・・変身ッ!!』

 

「何て・・・何って漢らしい人だッ!」

「全くだぜ!」

テツテツと切島が号泣してる。まぁ、雄介先輩はかなり強かったからな、心が。

 

「うおぉぉ!紫のクウガ!どんな攻撃にも怯まず退かない!俺の理想のヒーロー像だ!」

確かに、お前のスタイルそのものだよな。紫の不屈ってのは。

 

「うわ、クソだわこのヤマアラシ野郎」

うん、グロンギの中でも飛び抜けてヤバい殺し方したからね、ジャラジは。

 

「炎・・・」

轟はダグバの超自然発火(パイロキネシス)に反応した。複雑な思いだろうな。

 

『先生はね、4号なんていなくていい世の中が…一番いいと思うんだ』

 

「・・・確かに・・・」

「ヒーローが必要って事は、誰かが常に泣かされてるって事だもんな・・・」

うむ、分かってもらえて嬉しい。

 

──アギト──

 

『ケーキを景気(けーき)よく作りましょう!』

 

「面白い御方ですわね、津上さんは」

 

─ベキンッ─

『あ゛っ!』

 

「いや不器用すぎんだろ氷川」

かっちゃん、あの人はもう不器用とかそんな次元じゃない。どうやったら新品の鋸を折れるんだよ・・・

 

──龍騎──

 

『城戸真司がバカだと思う人、手ぇ上げ』

 

「ブッハハハハwwあのwあの浅倉にまでw手ぇ上げられてやんのww」

「か、上鳴・・・笑っちゃダメだって・・・クククッ」

響香さんも笑ってんじゃん。と言うか上鳴、お前は城戸先輩の事笑えないからな?

 

──555──

 

『夢ってのは呪いと同じなんだよ。呪いを解くには夢を叶えなければ。でも、途中で挫折した人間は、ずっと呪われたままなんだよ』

 

「確かにそうだ・・・夢は周りから嗤われたり、途中で挫折すれば・・・人生その物がねじ曲がっちまう・・・」

心繰は、やっぱり反応するよな。

 

『俺には夢が無い。でもな・・・夢を護る事は出来るッ!』

 

「不器用なんやねぇ、たっくん・・・カツキ君に似てるような・・・」

麗日、分かるぞそれ。

 

──剣──

 

『オンドュリルラギッタンディスカー(OwO)!?』

 

「え?今何てった?障子、聞き取れたか?」

「スマン、俺にもサッパリだ」

「ホントに裏切ったんですか、じゃない?」

尾白、よく聞き取れたな。

 

『オデノカダダハボドボドダァ(OMO)!!』

『ヴゾダドンダゴドーッ(OwO)!!』

 

「出久が偶に言ってた冷やし土下座ってコレか」

「その通り」

 

(ここから字幕ON)

 

『ニゴリーエースハオレノモノダァ!パンツハワタサンッ(OMO)!』

 

「いやカテゴリー濁すなやダディ。というか何で『ソイツ』が『パンツ』になるんだよ」

「そんなにパンツ欲しかったのかよ橘さんw」

峰田、お前にこの空耳を笑う資格はない。

 

【バーニングディバイd『ザヨゴォォォォォッ(OMO)!!』

 

「すっごい叫び・・・」

「それだけ、好きだったんでしょうね・・・」

そうだろうな。それぐらい心の中じゃデカいもんなんだ、愛する人ってのは・・・

 

──響鬼──

 

『鍛えてますから。シュッ!』

 

「おぉ、ナイスミドル!」

「頼り甲斐があるってカンジだね!」

三奈やフランから見ても、響鬼さんは頼りになる雰囲気らしい。

 

─ガッシャーン!─

『あぁ!も~響鬼さん!』

『いやゴメン、ゴメンって』

─デデドン─

 

「・・・まさか、そんな訳ねぇよな?響鬼のオッサンも、氷川と同じ不器用じゃねぇよなァ!?」

「大丈夫だかっちゃん。響鬼さんは機械音痴なんだよ」

 

「師が弟子を育て、戦士の力を継がせるか・・・今のこの世にも似たものがあるな」

相澤先生の言う通りだな。プロヒーローがヒーロー候補を育てると言うのは共通している。

 

─カブト─

 

『おばあちゃんが言っていた・・・俺が望みさえすれば、運命は絶えず俺に味方する』

 

「キャー!カッコイー!」

「オレ様系か~」

葉隠はお気に召したようだな。

 

『人は人を愛すると弱くなる…けど、恥ずかしがる事は無い。それは本当の弱さじゃないから。弱さを知ってる人間だけが、本当に強くなれるんだ』

 

「っくぅ~!漢だぜ!天道さんッ!」

切島が好きそうなセリフだね。

 

『病は飯から。食べると言う字は、人が良くなると書く』

 

─バッ(砂籐に視線が集中)─

「き、気をつけます・・・」

 

『本当の名店は・・・看板さえ出していない』

「あ、思い出した。前に緑谷、これ言ってたね。射命丸さんと蕎麦食べに行った時」

「覚えててくれて嬉しいぜ、轟」

 

『悪魔の囁きは・・・時として天使の声に聞こえる』

 

「俺は一度、悪魔の声に屈してしまったッ・・・」

ステインの時だな、飯田。

 

『子供は宝物。この世で最も罪深いのは、その宝物を傷つける者だ』

 

「出久、この言葉好きでしょ」

「まぁな」

本当に、子供を傷付けたり、見捨てる奴は許せないモノさ。

「何よりの宝は、罪無き無垢な命・・・このお方は、それを分かっていらっしゃるのですね」

B組の塩崎がかなり感動してる。そうだよな。天道先輩の良い所は、ちゃんと内容を理解して受け売りしてる所だ。

 

『男はクールであるべき。沸騰したお湯は蒸発するだけだ』

 

「だってさ、カツキ君」

「いや最近はそんなキレてねぇだろぉが!」

「ほら」

 

『まずい飯屋と悪の栄えた試しは無い』

 

「ヒーローだ・・・」

 

『子供の願い事は未来の現実。それを夢と笑う大人は、もはや人間ではない』

 

「ッ!!」ズキュ~ン!

あ、心繰のハートにブッ刺さった。

 

──電王──

 

「いや、不幸にも程があるだろ」

「自転車漕いでてどうやって木の上に乗っかるんだよ・・・」

まぁ、特異点だしな・・・

 

『俺の必殺技・・・パート2!』

 

「いやセンス!」

このド直球なネーミングも、モモタロスの魅力なんだけどな。

 

『お前、僕に釣られてみる?』

 

「コイツにはお茶子会わせたくねぇ・・・」

「それは同感」

 

『俺の強さに、お前が泣いた!』

 

「漢気だぜ・・・」

 

『オマエ、倒すけどいいよね!答えは聞いてないっ!』

 

「なら聞くなよ」

そういうのは言わないお約束だぜ、かっちゃん。

 

『電車斬り~ッ!!』

 

「「いや、ダサすぎる」」

「4タロスは良かったのにな~・・・」

せめて英語のライナースラッシュならまだ格好良さがあったんだがな。

 

──キバ──

 

「過剰反応しすぎだろ・・・」

「へこみ方面倒くさっ」

許してやってくれ。

 

「戦いの時はアクロバティックなんだな・・・」

かっちゃんの戦法と似てるかもな。

 

「うわ、夜になった!」

地獄の門(ヘルズゲート)を縛る縛鎖(カテナ)を解放する、か・・・」ウズウズ

常闇はやっぱキバに惹かれるよな。

 

───

──

 

「はい!ここまで!」

キバの序盤で打ち切り、電気を点けた。

「え~?良いとこだったのに・・・」

「今回のは宣伝みたいなもんだからね。それに今見てもらったやつは、いろんな所端折ってるし。完全版のDVDが図書室に入る事になったから、各自見ておいてくれ」

全員が『おぉ~』と喜んでくれる。嬉しいね。

「にしても、流石はコネの多い緑谷だよな~」

「ん?瀬呂、どう言うことだ?」

コネと何の関係が?

「いやだって、こんな短期間で声優さんにも協力してもらったんだろ?いや~、まさか声優にも息が掛かってたとは」

あぁ、そういう事か。

「アニメのキャラクターの声、あれ全部俺だぞ?」

『・・・は?』

全員、目を丸くしてポカーンとしてる。面白いw

「ダミーで喉をちっと弄って、声を変えてな。女の人の声も全部やったぜ。まぁ、俺以外が当ててるやつも3作だけあるけど・・・」

・・・うん、皆固まっちゃったな。

「ハイスペック過ぎんよ・・・」

「才能マン超えて最早よくわかんねぇ」

・・・まぁ、そう言われるのも仕方無い・・・ッ!!

 

─ギヂヂヂヂッギヂヂッ ヴォアァァァァン!─

 

ワームホール!?またか!またなのか!?

「よー出久~!元気してる~?」

 

「何友達の家に上がり込むが如くお手軽さで世界の壁を超えてやがんだ仁ッ!!」

 

出て来たのは、理不尽と絶望の化身たる石動仁。一応テストの時に顔を合わせた事のあるA組メンバーは驚きで済んでいるが、他は放心しちまってる。

「あ、ぁあ・・・ウワァァァァァァァァァァ!!」

「ガリィちゃん!」

おっとしまった、ガリィのトラウマなんだった。ガリィがダディになっちゃう。

「え?自動人形(オートスコアラー)?」

「マスター!ガリィの精神状態、地味に危険です!地味に撤退許可を求めます!」

「許可する!」

【ボーダー!マキシマムドライブ!】

すぐさまスキマゲートを開き、中に自動人形(オートスコアラー)達を避難させた。

「・・・え、っと・・・誰?」

あ、拳藤が真っ先に正気に戻った。流石は姉貴分。

「あ~コイツは・・・」

「おいおい、自己紹介ぐらい自分でさせてくれよ~」

「・・・ハイハイ」

何するつもりなのやら・・・

 

【エボルドライバー!】

 

「ん?」

嫌な予感しかしない。

【コブラ!ライダーシステム!エボリューションッ!】

「おい待て、待て!待て待て待てッ!!」

【ARE YOU READY?】

 

「ダメですッ!」

 

「変身ッ!」

「ちょっ」

 

─ギィィンガチィンッ!─

 

【コブラァ!コブラァ!エェボル・コブラァ~ッ!!】

 

【ハッハッハッハッハッハッハッハハハハハハハ!!】

 

─ガラガラガラガラッガチンッ!─

 

やっちゃったよコイツ・・・

 

『俺の名はエボルト!またの名を仮面ライダーエボル!あらゆる惑星を吸収して自らのエネルギーに変える、地球外生命体だッ!』

 

『ハァァァァァァァ!?』

 

「・・・最ッ悪だ」

何もこんな堂々とカミングアウトせんでもよぉ・・・因みに、シンフォギア世界に行ったメンバーは呆れている。当然だな。

「つ、つまり・・・宇宙人って事かよッ!?有り得んのかそんな事!?」

『あ~、峰田だっけな。オマエ等にゃ言われたくないねェ。オマエ等だって、一昔前なら俺と同じくバケモノ扱いされる筈だった存在だろ?それに、そもそも超能力が実在するんだ。宇宙人がいてもおかしくねぇさ。それとも何か?超能力が良くて、宇宙人がダメだとでも?』

「仁、止めてやれ。峰田がビビってるじゃねぇか・・・それと皆、気をつけろよ。コイツ俺が逆立ちしようが何しようが勝負になるかすら怪しいバケモノだからな」

『え゛っ?』

まぁ、そうなるわな。

「その気持ち、良く分かる。俺だって、自分が如何に規格外なのかは理解してるつもりだ。だがコイツは文字通り次元が違う。例えるなら、俺が国家規模の敵を殲滅出来る規模のチートだとしたら、コイツは世界そのものを敵に回しても楽に勝てるような・・・言うなれば、惑星規模のチートだ。そもそも星を喰らうブラッド族に対して地球の記憶が効かないのは当然だけどな」

うん、ほぼ全員顎が外れんばかりの見事なポカン顔。

「・・・なぁ、星を喰らうってどう言うことだ?」

「文字通りだ。惑星を、まるでパズルを崩すように破壊しながら吸収し、最後は全部呑み込んじまう。と言うか、エボルトはブラックホールを操って呑み込む」

「・・・」

あら、相澤先生が燃え尽きた。

『ま、これでも新世界創造にエネルギーを九割九分もっていかれちまったんだがね。そのお陰でかなり弱体化した。ギフトの力も、司ってた遺伝子が消失しちまったからもう使えねぇ。今だって、フェーズ2に変身すんのさえキツいんだ』

「創ったのか新世界・・・ん?じゃあ何でここに来れたんだ?確か時空移動はフェーズ4以降でしか出来ないんじゃ・・・」

『あぁ、そりゃカンタン。お前に渡したギャラルホルンメモリ、それを同位体空間マーカーとして活用したのさ。そのメモリは元々、俺の世界のギャラルホルンから創ったメモリだからな。唯一、こっちのギャラルホルンと全く同じ存在周波数を持ってるんだよ』

成る程、ギャラルホルンメモリをねぇ・・・

「何かケータイみたいだな。同じ機能を持つものの中から、特定のものを見つけて繋げられるとは」

『言い得て妙だな』

さて、ちょっと遅くなっちまったが・・・

「で?何の用だ?」

『・・・フッ。やっぱ、お見通しだよな』

「お前は結構気紛れで動くけど、今回はそんな感じじゃ無かったからな」

『情報ソースは?』

「俺の勘」

『おっそろしいねw』

そう言って肩をすくめてみせる仁。

『ちっとばかし、爆豪と麗日に用があったんだよ』

「2人に?」

『あぁ。なんでちょっと他の奴らにゃわりぃが、ここで解散して貰う』

少々の威圧感と共に言葉を放つ仁。言外に『拒否権などあると思うなよ?』と伝えているのが良く分かった。

『あぁ、あと切島。お前にもちょっと用があるから来い』

「え?俺ッスか?」

あぁ、ひきつってんな~顔。

「あ~、俺の部屋来るか」

『そうだな。じゃあ移動しよう』

ゾロゾロと俺の後を付いて来る4人。そして全員が俺の部屋に入ると、俺は部屋の鍵を閉めた。仁も流石に疲れたのか、エボルを解除して人間態に戻る。

「えっと・・・取り敢えず、何なんすか?2人はともかく、俺はどういう関係が?」

「それを言うにはまず、爆豪達との関係を教えとかなきゃいけないな」

どっこらせっと俺のベッドに座り込む仁。良いベッド?そりゃどうも。

「簡単に言うと、俺は2人が使うスクラシュドライバーの製作者だ」

「マジすか!?」

「まぁそこは今はどうでも良い。爆豪、麗日、これ持っとけ」

そう言って仁が2人に渡したのは、2枚のドッグタグが付いたチェーンネックレス。双方に黒縁のドッグタグが付いており、もう片方は水色縁と金色縁だ。その色合いで、俺はそれが何なのかが分かった。

「おい、そりゃまさか・・・」

「あぁ、グリスとローグの強化形態・・・激凍心火(グリスブリザード)大義晩成(プライムローグ)に変身する為のアイテムを封入してある」

「「ッ!」」

やっぱり・・・

「となると、黒縁はビルドドライバーだな?」

「正解!そしてもう一つ・・・切島、お前のだ」

仁はそう言い、切島にもドッグタグネックレスを投げ渡す。

「おっと・・・俺にも?」

そのドッグタグは、黒縁と青縁と赤縁の3枚・・・成る程ね。

「お前のハザードレベルは、3,4。かなり高い水準だ。青い方・・・仮面ライダークローズになら、すぐにでも変身出来る。だが、流石にクローズマグマはまだだがな。これからは、ライダーも多い方がいいだろ?」

「ちょ、ちょっと待って下さい!何で俺なんすか!?」

・・・納得行かない、と言うよりは、自分が相応しいと思えないって感じだな。

「・・・まず一つは、クラスのメンバーの中で、お前が最もドラゴンボトルとの親和性が高かった事。

第二に、お前と爆豪(グリス)の人格的な相性が良かった事。

そして何よりも・・・お前が、あまり四の五の考えずに突っ走るタイプだったからだ」

「・・・は?」

「ぷっ」

言いたい事が分かった・・・確かに、切島は万丈に似てるわ。

「このクローズってライダーは、純粋な火力特化でな。頭で考えてから理屈で行動するヤツより、衝動的に行動するヤツの方が使いこなせるんだよ」

「確かに・・・お前はウジウジ考えずに、取り敢えず突っ走るもんな」

かっちゃんも納得したらしい。

「・・・褒められてる気がしねぇんだけど」

「そりゃそうだ。遠回しに『バカだ』って言ってるようなもんだからな」

「・・・否定出来ないのが悲しいなぁ・・・」

そう落ち込むな切島。今度は仮面ライダー・エピソードオブビルド見せてやるから。

「ま、頑張りな」

そう言ってポンッと切島の肩を叩く仁。だが、俺は見逃さなかった。肩に手を当てる瞬間・・・

 

─キィィ・・・─

 

仁の目が、紅く光った事を・・・

 

to be continued・・・




「結局出れなかった・・・」
『ゴメン・・・お前も出せるように頑張るからさ』
「・・・Fuck!」
『どうどう・・・あ、そうだ。ロギア~、新世界創った設定で出しちまったけど、なんか問題あったら言ってくれ』

アニメ《仮面ライダー》シリーズ
エピソードクウガ~エピソードビルドまであり、劇場版も作っている。
因みに出久が言った『出久以外が声を当てている作品』は『仮面ライダーW FortuneAtoZ 運命のガイアメモリ』と『仮面ライダーエターナル』と『仮面ライダー4号』で、NEVER全員がアフターレコーディングを担当している。


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第8話・Dの覚醒/「ねぇ俺ちゃんまだ?」

『貴ッ様遂にタイトルにまで』
「オメェが出さないのがいけないんでしょうよ!俺ちゃん悪くないも~ん!」
『・・・アヤヤン』ボソッ
「大変!申し訳ございませんでしたッ!」
『謝罪も早いなお前は・・・』


(出久サイド)

 

あの後仁が帰って、何やかんやで4日目。

漸くコスチュームが帰ってきたぜ。袖を通してみれば、袖の先から指貫グローブが出てた。グローブはサポーターに繋がってるらしい。まぁ元々の外見はそのままだな。ゴテゴテしない方が、俺としては助かる。

「ふぅ~・・・さて、今日も1日頑張るぞい!」

竜兄さんはそこそこの歳なのにスポンジの如く吸収が良く、既にバイクモードを戦闘に織り交ぜるスタイルもほぼ完璧だ。まぁやる事は変わらず自習だが・・・因みに、竜兄さんに渡したのは俺が手作業で造ったT1メモリだ。どうもT2は、同じメモリを2本以上は創れないらしい。まぁ壊れたら補充出来るようだが・・・

「切島」

「お、おう」

「今日は、俺がお前に付く。()()としてな」

「う、ウッス!」

「固いぞ切島。固くなんのは身体だけにしとけ。戦場では、冷静さと柔軟な思考が生死を分ける。さぁ来い。かっちゃんと麗日もだ」

「おう」

「は~い!」

今回は、俺達の特設リンクを創って貰った。まぁこの人数だからな。100×200m四方の体育館の内、30×30を貸して貰ってる。

「さて、仁は『念じれば出て来る』っつってたな。取り敢えず出て来いって念じてみろ」

「投げ遣りやね・・・」

「コレばっかりはどうしようも無い」

苦笑いする麗日にそう返す。そして5つ数える間に、全員のドッグタグが淡く光り出した。その光からバックルが出現し、それぞれの手に収まる。

「コレ・・・ベルトか?」

「そうみたいやね、この感じは」

「おぉ~」

それぞれの手にビルドドライバーが握られ、全員がそれをまじまじと見つめた。

「じゃあ、まずは切島から行ってみようか」

「俺!?・・・よし!」

覚悟を決めて、切島は腰にビルドドライバーを押し当てる。

 

─ガシャッ─

 

すると瞬く間に黄色い帯が伸び、ベルトとして装着された。見れば、かっちゃん達も装着したようだ。

「・・・起動音は鳴るけど、名乗りはしないのか」

「肩透かしというか・・・」

「まぁスクラッシュを最初に経験すればな・・・じゃあ次だ。今度は青いドッグタグから出してみろ」

「おう!」

答えて念じる切島。すると3秒も経たず再び光が溢れ、切島の手にはドラゴンボトルが、その顔の横には青いドラゴン型のメカ・・・クローズドラゴンが現れた。

「うおっ!?ドラゴン・・・のロボット?」

「ソイツはクローズドラゴン。サポートメカだ。まずソイツをキャッチしろ」

「わかった。来い!クローズドラゴン!」

切島の呼び掛けに対して、あっさり首と尻尾を畳んでその手に収まるクローズドラゴン・・・感情のリンクが必要無いとは、仁の奴、何か弄ったな?まぁ良い。

「じゃ、次。ボトルを振って蓋を正面に合わせ、クローズドラゴンの背中に開いたスロットに装填だ」

「ん、こうか」

 

─カシャカシャカシャカシャッ パシュッ ガキョンッ─

 

「クローズドラゴン側面についたボタンを押し、アイドリングモードに移行」

「コレだな」

賺さずボタンを押し込む切島。

〈WAKE UP!〉

「後はクローズドラゴンをビルドドライバーに装填し、ハンドルを回すだけだ」

「よぉし!そりゃっ!」

 

─ガシャンッ─

 

【クローズドラゴン!】

認識音声と共に、リズミカルな明るい電子音声が流れ初めた。そして切島はハンドルを回し、拳を掌に打ち付けてファイティングポーズを取る。するとビルドドライバーから透明なパイプが前後に延びてスナップライドビルダーを形成し、パイプは青い液体で満たされて前後にハーフボディを形作った。

 

【ARE YOU READY!?】

 

「変身ッ!」

 

切島の言葉に答えるようにスナップライドビルダーが切島の体を挟み込む。

 

【WAKE UP BURNING!GET CROSS-Z DRAGON!YEAH!!】

 

ハーフボディが装着され、右足と左腕にはオレンジのバーンアップクレストが刻まれる。そして胸にはジャケットのような装甲、ドラゴライブレイザーが羽織るように装着され、頭部にフレイムエヴォリューガーが追加される事で、その戦士は完成した。

しかしその姿は原点の仮面ライダーとは異なり、ゴーグル型の複眼の下に切島の素顔が覗く形だ。腕も肘が露出しており、拳は指貫グローブになっている。何より、腹の部分が開いており腹筋が大きく露出していた。

 

「祝え!蒼き龍をその身に纏い、あらゆる敵を焼き尽くす劫火の戦士!その名は仮面ライダークローズ・ライト。今正に、新たなる同士が誕生した瞬間である!」

 

「誰に言ってんだ?」

竜兄さんにも聞かれたわ。

「ウオォォ!?スッゲェ!!」

「カッコイイよ!切島君!」

「確かに、暑苦しいキャラだから違和感ねぇわ」

「かっちゃんに同感だ」

ホント万丈に似てるよ、切島。

「か、カッコイイ!」

「オールマイト!?」

声の元を見てみれば、トゥルーフォームのオールマイトが感動していた。確かかっちゃん達の時もカッコイイって言ってたっけな。

「じゃあ次、かっちゃん。やり方は切島と同じだ」

「分かってる。任せろ」

そう言ってかっちゃんは水色のナックル(グリスブリザードナックル)蒼い角張ったボトル(ノースブリザードボトル)を召喚。ボトルを数回振って蓋を正面に合わせ、グリスブリザードナックルに装填する。

 

─ガシャンッ─

 

【ボトルッキィーンッ!!】

 

「うおっ、この声か・・・っし!」

多少驚きつつもグリップを畳み、叩き降ろすようにしてビルドドライバーにグリスブリザードナックルを装填。

 

【グリスブリザァァァドッ!!】

 

儚げな美しい待機音の中ハンドルを回し、左手で前を指差す。その背後には拳型の釜であるアイスライドビルダーが出現し、放たれる冷気によってかっちゃんの脚は氷で包まれた。

【ARE YOU READY!?】

 

「出来てるよッ・・・!」

 

ビルドドライバーの問いにかっちゃんが答えた、その瞬間。

アイスライドビルダーが傾き、液体窒素のような液体、ヴァリアブルアイスがかっちゃんに頭からぶっかけられた。そしてかっちゃんの身体が、大きな氷塊で覆われる。

そしてその氷塊をアイスライドビルダーが圧し砕き、その戦士は姿を現した。

 

(ゲェキ)(トウ)心火(シンカ)ァ・・・グリスッブリザァァァド!!

 

ガァキガキガキガキッ!ガッキィィィンッ!!】

 

その色は、まるで晴天の如き蒼。

クリアゴールドだったヘルメットはメタリックブルーに変わり、目の端が鋭く尖っている。

左腕はゴツいロボットアームが追加され、その身体からは絶えず白い霧が発生していた。

「ハァ~・・・心火を、燃やして・・・

 

ブッ潰すッ!!」

 

閉じていた目を静かに開き、クールに言い放つかっちゃん。

 

「祝え!秘めたる愛を拳に込め、絶対零度の焔となりて敵を砕く氷結の戦士!その名は仮面ライダーグリスブリザード!その力を受け継いだ瞬間である!!」

「お前それ毎回言うんか」

「うん」

ウォズの紹介文句、結構気に入ってるからね。

「で?身体はどうだ?」

「・・・スッゲェ軽い。今ならオールマイトにも負ける気がしねぇ」

「そのグリスブリザードへの変身によって、かっちゃんのハザードレベルは急激に上昇した。グリス・ライトのスペックも、かなりあがっている筈だ」

俺の言葉に、グリスブリザードは右手を握ったり開いたりして具合を確かめる。

「じゃあ、最後は私ね!」

そう言い、麗日は紫のドッグタグからアイテムを召喚した。フルフルボトルに酷似した、紫と金のボトルだ。

 

─バキッ ガチッガチンッ!─

 

【プライムロォーグッ!!】

 

真ん中で折り曲げ、2回噛み合わせる麗日。そのボトルは、ワニの横顔が彫り込まれていた。

そしてエレキギターのようなサウンドが鳴り響く中、ビルドドライバーに装填してハンドルを回す。

 

【グァブッ!グァブッ!グァブッ!グァブッ!グァブッ!】

 

【ARE YOU READY!?】

「変身ッ!」

麗日の言葉に答えるように紫のワニの顎が現れ、その身体を黄金の線が包んだ。

 

大義晩成(タイギバンセイ)ィ!プライムロォーォグッ!!

 

ドォリャドリャドリャドリャドリャッドォォリャアァァッ!!】

 

そしてその顎が黄金色の繭を噛み砕き、戦士の姿が現れる。

ヘルメットが無くなり、その頬と胸にはひび割れではなく黄金の唐草模様が入ったスーツ。

ショルダーと頭の顎パーツは一部が白く染まり、純白のマントがはためく。

「大義の為の・・・犠牲となれ・・・」

目を見開き、静かに呟くプライムローグ。その姿、さながら高潔な貴族の如し。

「祝え!高潔なる大義の為に、相対する正義を真っ向から噛み砕く戦士!その名は仮面ライダープライムローグ!今正に、再誕の瞬間である!!」

「お祝いありがとう」

そう言いながら方を回し、首を捻ってみるプライムローグ。その表情は、ローグ・ライトの時よりもかなり柔らかく見えた。

「・・・コレ仁の趣味だろうな」

プライムローグがグリスブリザードの方振り返った瞬間見えちまった・・・肩甲骨から背中中央にかけて大きくスリットが開いてやがる。あんにゃろう・・・

「ウッヒョーッ!あの背中!撫で回すしかない!」

「ダメに決まっとるわこの歴史的馬鹿モンが」

峰田に拳骨を落とし、そのまま投げ飛ばす。

「さて、全体的なスペックチェックと行こう!」

 

───

──

 

「ふむ、成る程」

スペックチェックが終わり、3人を集合させる。中々良いデータが取れた。

「切島は、露出している腹筋や腕を硬化で補える。指先も出てるから、殴打や貫手、鍵爪攻撃も可能だな」

「おう!それに硬化しなくてもアーマーがあるから、前より素早く立ち回れると思うぜ!慣れが必要だけど・・・ま、練習あるのみだ!」

 

─カァンッ!─

 

拳を打合せる切島。士気は上々っと。

「かっちゃんは、左手のロボットアームを収納出来るんだよな」

「あぁ、根元でヒンジになってて腕にくっ付く。これで爆破使って飛べるわ。左右非対称だからバランスに気ぃ使うけどな」

それでも飛べてたじゃねぇか。

「麗日は、握力などのスペックが上昇している。特に上がってたのは、両脚の咬合力だな」

「フツーの鋏み蹴りでコンクリ砕けたからね~」

俺でも無事では済まんだろうな。

「後、背中のスリットはマントでカバーしてるんだな」

「うん。このマント凄いよ、切島君が爪立てても全然破れなかったもん」

「まぁライダーの兵装だからな」

実際、原点ではスチームガンの銃撃すら防いでたし。

「よし、今日は此処まで!ライダー組は解散!」

「分かった~」

「あいよ」

「ふ~、ちょっと疲れてもうた~」

全員が変身を解除し、その場で座り込む。初変身で、少し疲れたようだ。今日はぐっすり眠れるだろう。

 

─────

────

───

──

 

「そーいやさ~、出久知ってる?」

「何をだ?」

「バラバラ殺人」

ハイツアライアンスでくつろいでいると、三奈が話題を振って来た。中々に物騒なネタでだが。

「あぁ、神野周辺で死んでるんだろ?竜兄さんから聞いたよ」

何でも、刃物で解体されたとは思えない死体が出てるんだとか。ひどい奴だと手首だけ、指だけとかもあったらしい。

「そうそう。怖いよね~。寄りによって、出久が連れてかれた所だし」

「確かに、(キナ)臭いな」

しかも、それら全部が最近行方不明になっていた者達だと言うからかなり怪しい。

「もしかしたら、また何か動いてんのかもな・・・」

 

─ピポパポパピッ─

 

俺はある所に電話を掛ける。

「何処にかけてるの?」

「ちょっと言えない所」

「あ・・・」

察しが良くて助かる。だが・・・

『お掛けになった電話番号は、現在使われておりません・・・』

「・・・忙しいのかねぇ」

「出なかった?」

「あぁ。もしかしたら、ガイアメモリの情報源になるかもと思ったんだがな」

スタッグフォンを閉じ、ポケットに仕舞う。さて、そろそろ・・・

「もうすぐ就寝時間だ!テレビを消したまえ!」

「あ~いあい、消しますよ委員長」

来ると思ったよ飯田。

「にしても、フランちゃん今日元気なかったね」

「あぁ。病気でもなきゃいいんだが・・・お休み、三奈」

「うん、お休み」

そう言って三奈は女子寮に上がって行った。

 

───

──

 

「とは言ったものの、今日はやけに目が冴えるな」

部屋に戻ったは良いが、一向に眠気が来ない。どうしたものか・・・

「そうだ。いっちょ、開けるかな」

【ボーダー!マキシマムドライブ!】

俺はスキマゲートを開き、中から1本のボトルと1袋のビスケットを取り出す。緑色のボトルの中には紅色の液体が入っており、眺めれば静かに波立つ。

「良い酒ってのは、飲んでこそだよな」

そう、昔テロ組織から貰って来た赤ワインだ。イギリスなんかじゃ、少し飲んだからな。因みにテロ組織は壊滅させた。

「さて、グラスも出したし・・・開けますか」

コレは指であけられるタイプなので、コルクを掴んで引っこ抜く。ポンッという小気味良い音と共に、コルクが抜けた。

そのままボトルを傾けて、中身をグラスに注ぐ。そして1杯入ったら、すぐにコルクを閉めた。

「さて、頂きましょう」

グラスを回せば、何とも言えない良い香りが舞う。葡萄の香りの中に、ほんのりとホワイトオークのバニラ香が薫った。

「葡萄も、樽も良いな。では・・・」

グラスを傾け、一口流し込んで口の中で転がし、風味を楽しむ。

「ハァ・・・あまり多く飲んだ事はないが、旨いな」

今度はビスケットを開け、1つ口に放り込む。

ザクザクした強い歯応え。バターと小麦の風味の中に、ちょっぴり強めの塩味がアクセントになって・・・ベストマッチだ。

もう1つビスケットを口に放り込んで、またワインを流し込む。最初の一杯はかなり楽しめた。偶には、こっそり飲むのも良いかもな。

「・・・今日は、良い夜だよな。木々は揺れ、月は満ちている。こんな夜に、どうかしたか?───

 

───フラン」

 

─バタンッ─

 

俺の言葉に反応するように、窓が開く。その外には、赤い目を爛々と怪しく輝かすフランがいた。

「いず・・・く・・・」

そう呟き、部屋に入ってくるフラン。耳を澄ませば、その荒い息遣いが聞こえてきた。

「ごめん、いずく・・・もう、がまんできない・・・」

苦しげな、しかしとろけた声でそう言ってくるフラン。俺は肩に手を回し、そっと抱き締める。

「・・・満月、か」

「・・・うん・・・牙が、疼いて・・・今までは、自分の血で・・・我慢、してたんだけど・・・」

どうやら、吸血鬼の本能は満月で活性化するらしい。その顎を指でくいっと掬ってみれば、牙が伸び、瞳孔も大きく開いていた。その潤んだ瞳は、何かを訴えかけるように物欲しげな視線を送ってくる。

「・・・もう、ダメ!出久がここにいて、出久に抱き締められて、出久の匂いを嗅いで・・・出久のが欲しくて吸いたくて、もうがまんできないっ」

そう言ってフランは、俺をベッドに押し倒した。流石は吸血鬼と言った所か、かなりの筋力だ。

「・・・良いぜ。吸えよ」

俺はシャツのボタンを2つ外し、首筋を見せる。それを見た瞬間フランは生唾を飲み、息は更に荒くなった。

「俺はお前の恋人・・・こういう事は、して当然さ。大丈夫」

「・・・じゃあ・・・」

フランは怖ず怖ずと俺の首筋に顔を寄せる。息が首や耳に掛かって、少しくすぐったい。

「・・・いただきます」

 

─プツッ─

 

「んっ・・・ハァ・・・」

フランの右犬歯が、俺の右首に刺さった。一瞬の痛みと、その直後の血を吸い出される感覚・・・不思議と、気持ちいい・・・

「ん・・・ちゅっ・・・ちゅっ・・・はぁ・・・んっ・・・ちゅっ・・・ちゅっ・・・」

フランは一生懸命に血を吸い出して飲み下してゆく。時々聞こえる息継ぎが艶めかしく、吸血が益々心地良く感じてきた。

「あぁ、おいひぃ・・・いずくのちぃ、おいひぃよぉ・・・」

「それは何より・・・フラン」

「何・・・んむ!?」

とろけた顔をするフランの後頭部に手を回し、その唇を奪った。フランも一瞬目を見開くが、間も無くされるがままになる。

その唇を舌でつつくと、ゆっくり口を開くフラン。その隙間に、俺は自らの舌を差し込んだ。

 

──ちゅっ、じゅるっ・・・ちゅるっ、ちゅっ・・・──

 

「ん・・・んん~!」

そして、フランの舌と絡め合わせる。頬は紅く染まり、その体温はかなり高い。

「・・・ぷはっ」

「はぁ、はぁ、はぁ・・・い、出久・・・今、血、飲んだばかりで、ニオイとか・・・///」

「甘いな、フランの唇は」

「ッッ!むぅ~・・・////」

むくれるフランも可愛らしいな。

「い、出久こそ、ワインの風味が・・・」

「あぁ、今飲んでたからな。どうだった?」

「お・・・おいし・・・かった・・・///」

「そっか」

・・・ん?フラン?

「すぅ~・・・ふぅ~・・・」

「・・・寝たか。しかも脚絡めて・・・俺も寝よ。グラスとボトルを片付けてっと・・・よし」

俺は2つをスキマの中に入れ、ゆっくりと意識を手放していった・・・

 

to be continued・・・




「おぉ、エロいエロい。満足じゃ」
『ちょっと不安だ・・・どうでした?』
「そして・・・誕生祝福!ウォズと化した出久!」
『お前シバくぞ!?』


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第9話・仮免試験1/乱戦のS

「漸くここまで来たかノロマ」
『ウッセェな。俺は何かと詰め込んで密度がスゲェ事になっちゃうの。だから話数が増えるんだよ。出したキャラは無碍には出来ないし』
「は~い!ここに無碍にされてる俺ちゃんがいまーす!」
『では本編どうぞ!』
「オイゴルァ!!」


(出久サイド)

 

「降りろ、到着だ。試験会場、国立多古場競技場」

訓練の日々は流れ、いよいよ仮免試験当日。俺達A組は、バスで試験会場に到着した。

「うへ~、緊張してきた~・・・」

「大丈夫さ、俺達ならよ」

げんなりする三奈の肩を少し揉み解して励ます。

「試験て何やんだろ・・・ハァ、仮免取れっかな・・・」

「峰田、取れるかじゃない。取って来い」

「おっ!もっモチロンだぜ!?」

峰田すらガッチガチだよ。どうなるかな・・・

「ここで合格し仮免許を取る事で、初めてお前らは志願者(タマゴ)からセミプロ(ヒヨッ子)に孵化出来る・・・頑張って来い」

「あいな」

あの目・・・俺達に期待してくれてるねぇ。だったら、裏切らないようにしないとな。

「よ~し!じゃあアレやろうぜ!」

切島が手を上げながら口を開く。

「せ~の、Plus(プルス)Ultra(ウルトラ)ァ!!」

「ウェイッ!?」

な、何だコイツ・・・急に混じって来やがった。制帽被ってて刈り上げで釣り目で・・・野球部にいそうな奴だな。

「勝手に余所様の円陣に加わるのは良くないよ、イナサ」

「あ、しまった!」

同じ制服の奴から窘められてる・・・

「どうも大変ッ!!失礼ッ!!致しましたァ!!」

 

─ドゴッ─

 

オイオイ、石畳に頭打ち付けやがった・・・てか地面に罅が入ってんじゃねぇか。どんな石頭だよコイツ・・・

「なんだこのテンションだけで乗り切る感じの人は!?」

「飯田と切島を足して、更に二乗したような・・・」

言えてるな。と言うか、何やら周りが騒ぎ出した。そういやコイツ等・・・

「東の雄英、西の士傑」

「士傑・・・雄英と並ぶ、超難関校だったな。興味は無いが、脅威ではあるか」

そもそも俺は、ブランドなんかに興味は無い。雄英にだって性犯罪者予備軍(変態グレープ)がいるからな。重要なのは、ブランドなんかじゃなく個々の性能だ。

 

「一度言ってみたかったッス!!プルスウルトラ!!自分ッ!!雄英高校大好きッス!!皆さんと競い合えるなんて、自分ホントに幸せで光栄の極みッス!!」

 

一々喧しいなコイツは。静かに喋れんのか?

「あ、緑谷さん!!自分ッ!!仮面ライダーの大ファンッス!!握手して下さいッ!!」

「物好きな奴もいたもんだ・・・ハイハイ、こんな血濡れの手で良ければどうぞ」

「ありがとうございますッ!!」

めんどくさ・・・そういや、エターナルのファンクラブもあるんだったな。俺がやってた事は人殺しなのに、全く物好きな連中だ。まぁ殺した事は微塵も後悔しちゃいないが。

「夜嵐イナサ・・・」

「あら、知ってますか?」

「あぁ、強いぞ。嫌なのと同じ会場になっちまったな・・・お前等と同じ時期に推薦入試でトップ成績だったにも関わらず、何故か入学を辞退した奴だ」

「ほぉ、火炎を封印してたとは言え、轟の上を行ったか」

 

─ピキッ─

 

俺の手を掴んでブンブンしてた夜嵐が、俺が行った轟の名に反応して凍ったように動きを止めた。顔は・・・あ~ぁあ、コイツも前の轟みたいな()()()()()()()してやがるよ。

「それじゃ、自分はこれで!!」

そう言って足早に立ち去ってゆく夜嵐。やっぱ、轟やエンデヴァーと何かあった口だな。

「出久、今の・・・」

「あぁ、多分な」

「またか・・・」

フランもあの眼の宿す感情に気付いたらしく、三奈は前の轟と同じような雰囲気を感じ取って呆れる。

「まぁ良い。俺達に害がなければ構わんだろう」

さて、馬鹿な気を起こさなきゃ良いが・・・

「イレイザー!?イレイザーじゃないか!!久し振りだな!」

「ゲッ・・・」

あ、相澤先生は今話し掛けてきた女性が苦手らしい。苦虫噛み潰した顔してる。

 

「結婚しようぜ」

「しない」

「ブハッwしないのかよwウケるw!」

 

「わぁ!」

「ほ~う?」

俺と三奈は同時に口角を釣り上げる。見合わせてみれば、お互いにイヤらしいニヤケ顔だ。

「隅に置けませんねぇ~相澤先生~?」

「応援しますよ~」

「お前等除籍にされたいのか?」

「茶化しただけでそりゃないでしょ」

全く、自由は良いけど職権乱用は良くないな。

「で、相手さんはMs.ジョークか。個性は、周囲の人間を強制的に笑わせる『爆笑』だったな。狂気に満ちたヒーロー活動で有名だ」

笑い過ぎってのはホントに辛いからな。呼吸は出来ないし腹筋は痛くなるし、下手すりゃ肋骨が折れちまう。

「私と結婚したら、笑顔の絶えない幸せな家庭が築けるんだぞ!」

「その家庭幸せじゃないだろ」

「ただの比較的平和な拷問だ」

「ブハッw君面白いな!」

そりゃどうも。

「ったくお前ん所もか」

「弄り甲斐があるんだよなイレイザーは。そうそう、おいで皆!雄英だよ!」

Ms.ジョークが呼ぶと、恐らく彼女の高校の生徒であろう者達が集まって来た。

「傑物学園高校2年2組!私の受け持ち、よろしくな!」

すると早速、一人の男子生徒が進み出て来る。そして俺の手を掴んだ。よく捕まれるな今日は・・・

「俺は真堂!今年の雄英はトラブル続きで大変だったね!それでも君達はヒーローを志し続けている!素晴らしいよ!不屈の心こそ、これからのヒーローに必要な素養だと思う!」

「気持ち悪い・・・」

「おっと失礼・・・でも、特に神野事件を中心で経験した緑谷君!君は特別強い心を持っている!今日は君達の胸を借りるつもりで・・・」

 

「気持ち悪いっつってんだろ?」

 

「ッ!?」

慌てて手を引っ込める真堂。その表情は、さっきまでとは違う・・・素直な表情だ。

「上辺だけ繕って猫被りやがって・・・悪いが俺は、お前みたく敵意を中途半端に隠して遠回しにネットリ伝えてくるタイプは好きじゃなくてね。今の表情、さっきまでよりもずっと素直で好印象だぜ?

まぁ敵なら叩き潰す。使えるモンは何でも使って、な?」

「おい!スイマセン無礼で・・・」

「い、いや、良いさ。心が強い証拠だ。何より、実戦において俺達の方が圧倒的に素人なのは間違い無いからね」

切島の謝罪に、冷や汗を拭いながら手を翳す真堂。

「おい、コスチュームに着替えてから説明会だぞ。時間を無駄にするな」

「だってさ。じゃあな」

さてと・・・どう潰し合うのかな?

 

───

──

 

さて、説明が終わった。しかし・・・まさか、説明会場が箱みたいに開くとはねぇ。どんだけ金使ってんだよ。これこそ無駄だろ。無駄に大掛かり過ぎるわ。まぁそれはさて置き。

 

【エターナル!】

 

「変身!」

 

【エターナル!~♪~♪】

 

俺は手早く変身し、両脇腹と鳩尾にターゲットを貼り付ける。

 

【ブルルルルァアッ!!】

 

【オォウラァッ!!】

 

【YEAH!!】

 

【タブー!~♪~!】

 

【ジョーカー!~♪!♪!♪!】

 

他の皆も変身したな。

「グリス!クローズ!ローグ!3人でチームアップして迎撃しろ!上鳴は3人に付いて行って、グリスと一緒に中距離攻撃でサポートだ!」

「応ッ!!」

「りょーかい!」

「私離れるね。大所帯だと思うように戦えないし」

「気を付けろよ!」

かっちゃん達と轟が離れ、俺達は固まって走る。

「さて皆、気を付けろよ。奴らは恐らく、俺らを真っ先に狙ってくる」

能力もスタイルも割れてれば、狙われるのは当然だ。

 

『スタート!!』

 

────瞬間、周りの雰囲気が変わる。誰も彼もがこちらを見据え、獲物を屠らんと牙を剥き出す獣のような雰囲気を纏った。

「メモリを入れ替えて対応する万能戦術。まぁ・・・杭が出てりゃ、そりゃ打つさ!!」

真堂の言葉と共に、夥しい数の弾丸(ボール)が飛んでくる。

だが・・・

(ワン・フォー・オール・アーマード!)

俺はワン・フォー・オールを全身に張り巡らせ、上半身を反らす。そして右足を引いて・・・

 

「ライダーシュートッ!!」

 

一気に前方へ振り抜いた。その瞬間、発生した衝撃波によって前のボールがほぼ全て消え失せる。しかし、右足に感じる若干の痺れ・・・これは、多用は出来ないか。

でもまぁ・・・

「項が粟立つ・・・久々に感じるスリルだ・・・」

早くも衝撃波から立ち直りまたボールを投げてくる奴もいる。この状況・・・あぁ、懐かしいな。血が滾ってきた。

【スカル!】

【ボム!】

召還した2丁のマグナムで、再び迎撃。

さぁて楽しくなってきた!

「狂火を燃やしてッ!ねじ伏せるッ!!」

宣言と共に拳を打ち合わせると蒼い火花が舞い踊り、複眼が黄金に輝く。そしてベキベキと首を捻り、エターナルエッジを構えた。

「全て弾き返すか」

「流石にこんなのじゃ、雄英の人はやれないな」

「でもまぁ、見えてきた」

そう言ってボールをこねくり回す傑物の男。すると、そのボールが多面体に変化した。さながら、DJサガラが変質させたオレンジのようだ。恐らく硬質化だろう。

そしてそのボールは左のロングヘアの男に渡され、その手から勢い良く放たれた。しかしボールは直進せず、コンクリートを貫いて地面に潜り込む。

弾道操作系(ルナトリガー)か。総員後退!響香!カマせ!!」

「合点承知ッ!!」

後ろに下がりながらの俺の指示に答え、響香はグローブの甲に付いたスピーカーにイヤホンジャックを刺した。そしてそのまま、手の甲を地面に当てて爆音を流し込む。

音響増幅(アンプリファー)ジャック!ハートビートファズ!」

 

─バキバキバキッ!ドッゴォォンッッ!!─

 

その振動波は地面を砕いて抉り、弾道はモロバレ。狙いは峰田だな。

「三奈!」

「粘度・腐食度最大!酸液幕(アシッドヴェール)!」

三奈は腕を振るって酸液の幕を展開。それに触れたボールは瞬時に溶けてしまった。そしてそれにより生じた隙を・・・

深淵闇駆(ブラックアンク)ッ!!」

常闇が掌にボールを付けた黒影(ダークシャドウ)で追い込む。しかし、相手側は下半身内に上半身をめり込ませる事で回避してしまった。どういう構造だよ・・・

『え~、現在どこもまだ膠着状態。通過者0名です』

まだ0か。そろそろ、解析から攻撃に切り替わってくるな。

「離れろ!彼ら防御は固そうだ!()()!!」

そう言って真堂は両手を地面に着いた。()()?警戒しよう。

「最大威力──

 

──震伝動地!!」

 

─バグンッ─

 

すると、此方の足元が大きく揺れて砕けた。地震か、なかなか厄介だな。

「まぁ、仁の攻撃と比べるとスマホのバイブ程度だが」

【サイクロン!マキシマムドライブ!】

「飛翔・『風影(ヴェルニー)』!」

サイクロンの竜巻で体を支え、体勢を整えて着地。

「成る程・・・劣化版ユートピアって所か。中々の破壊力だが、市街地じゃ使えないな」

しかし、メンバーと分断されちまったな・・・まぁ良い。久し振りに、一人で戦ってみるかな・・・ッ!!

「ッとォ!!」

「あ、避けられた」

危険を察知した俺が身を屈めるのと、ソイツが飛びかかるのはほぼ同時だった。全く気配も感じなかったな。気流感知(エア・ディテクション)が無ければ危なかった。

「ボンヤリしてるから、イケると思ったんだけどな~」

ズレた制帽を直し、楽しげに呟くその女。士傑高校だな。そう言やさっきもいたか。

「フン、随分と嘗められたもんだな。この程度で《蒼炎の死神》が落とせると思われているとは」

実際はかなり危なかったが、まぁ正直に言ってやる事もないだろう。

「こういう乱戦が予想される試験だと、情報の多い所を叩こうって考える人もいるらしいの。だから雄英が早めに脱落しちゃう可能性を考えて会いに来たんだ~♪せっかくの強豪校との交流チャンスだし、カッコいい仮面ライダー(アナタ達)の事も知りたくてね♪」

「そりゃどうも。だが今は敵同士だ」

【ルナ!マキシマムドライブ!】

ボールを持った両手をルナのマキシマムで伸ばし、鞭のように鋭く振るう。しかし、軽やかなバック転で避けられてしまった。反応速度も素晴らしいの一言に尽きるな。かっちゃんと同レベルなんじゃないか?

「・・・ん?・・・しまった」

消えた・・・正確には、自分の気配を周りに溶け込ませているのか。気配を絶つより難しく、それでいて厄介な技術だ・・・しかし、隠れているコイツの他にも半径60m以内には気配が無い。乱入の可能性は低いか。

 

─ビリッ!─

 

「ッ!」

背後からの気配を察知し、右足で後ろ蹴りを叩き込む。だが・・・

 

─ポンッ─

 

この女はそれをジャンプで躱し、右手に持っていたボールで俺の右脇腹のウィークポイントを殴った。ターゲットが光り、被弾を伝える。

そして、片足立ちという不安定な体制の俺にそのまま覆い被さり押し倒してきた。俺はうつ伏せに落とし込まれ、瞬時に右腕の関節までキメられてしまう。

「ほう、ベラベラと良く喋る割には中々やるじゃあないか。コレは、少し見くびり過ぎていたな。反省点だ」

「随分と余裕そうだね」

「焦っても良い事は無い。急がば回れってやつさ」

「ウフフ♥」

俺の答えを聞くと、この女は嬉しそうに笑って体を密着させてきた。三奈達には見られたくないな。

「にしてもアンタ、たしか士傑高校だったな」

「うん、そうだよ?」

 

─ピリッ─

 

・・・嘘か。何者だ?この女・・・

「・・・全く、誰に教わったのやら。此処まで完璧に気配を溶け込ませられる奴とは戦った事が無いな」

そういう奴は戦わせずに暗殺してたからな。戦うのはマジに初めてだ。

「コツは、訓練を訓練と思わない事だよ。何も考えずに、じっと息を殺して潜み紛れるの。この()()()()()()って所が難関♪」

「それをやってのけるか。いやはや末恐ろしい・・・だが・・・」

「?・・・い゛だッ!?」

 

「残念、俺には及ばない」

 

女は慌てて飛び退く。そしてその目に涙を浮かべ、飛び乗った瓦礫の山の上から此方を睨み付けた。

「ひっど~い、女の子の内股抓るなんて・・・」

「痛かっただろ?だからやったんだよ。俺は割と、勝つ為には手段を選ばないタイプだ。相手が男だろうが女だろうが、敵対するならば暴力を振るう事に躊躇いは無い」

俺がやった事は至極単純。背中で固定されていた手の指先がアイツの内股に当たったから、思いっきり抓っただけだ。字に起こすと軽く見えるが、その実この攻撃が与える苦痛は絶大。十中八九、相手は大なり小なり悲鳴を上げる。

「さて・・・茶番は終わりにしようか」

「っ!」

声のトーンを下げ、威圧するように言い放った。それを聞いて、女は反射的に身体を硬直させる。

「お前が使ったそれは、殺しに使う為の術だ。特に、暗殺向きのな。

そもそも、ヒーロー教育学校は暗殺スタイルによる待ち伏せ等教えはしない。何故なら、殺しを経験しなければ絶対に完成せず、中途半端な出来になってしまうからだ。そもそも、殺人経験のある奴が教師として採用されるとも思えんしな。

だがお前は、それを完全にモノにしている。ヒーロー科高校なんて甘ったるい環境では、絶対に習得する事など出来ない筈のその技術を・・・」

「・・・ふふっ♪知りたがりだね、君♥」

そう言って妖しく微笑む女。だが、その目は獲物を品定めする捕食者のそれに酷似したものだった。それも、本気で殺したくて堪らないという目・・・

「・・・でも、時間切れだね。バイバイ」

「っ!待てッ!」

瓦礫の後ろに飛び降りた女を追い掛けようとする。しかし、その前に俺のセンサーに大量の反応が引っ掛かっている事に気が付いた。

「クソッ、集まって来やがったか!」

・・・まぁ良い。鈍っちまった勘を取り戻す、良い訓練になるだろう。

 

(勝己サイド)

 

「オラァッ!」

 

─BOM!!─

 

目の前の奴が放ってくる肉片を爆破で弾き返し、その反作用で後ろに吹っ飛んで距離を取る。アレに触った他の奴が、肉団子みたいな塊にされちまったからな。触っちゃダメだ。俺と上鳴(アホ)は中距離攻撃がある分まだマシだが、それが無いお茶子と切島はかなりキツいだろう。

「ふむ、中々の反応速度だな」

さっきからあの糸目、やたら上から目線で評価しやがるな。好きになれねぇタイプだ。

「我々士傑生は、活動時には制帽の着用を義務付けられている。

何故か?それは我々の一挙手一投足が、士傑高校という伝統ある名を冠しているからだ。

 

これは示威である。就学時より責務と矜持を涵養する我々と、徒者のまま英雄(ヒーロー)を目指す君達の圧倒的な水準差」

あ~ぁあ、コレ自分の学校名(ブランド)にトコトンプライド持ってるタイプだわ。ウチとは正反対。

「なぁあの人何て言ってんだ?」

「狭すぎる視野から入ってくる俺らの行動が気に食わんとよ」

「私の目は見目好く長大であるッ!!」

「オイオイコンプレックスだったっぽいじゃんか!」

知るかよそんなもん。

「雄英高校・・・私は尊敬している。御高と伍する事に、誇りすら感じていたのだ。だが・・・私は爆豪、貴様が気に食わない」

「だろぉな。俺とアンタじゃ、性格が正反対だ」

 

「そこでは無い」

 

「あ?」

どういう事だ?

「確かに貴様の性格も嫌いだ。しかし何より・・・貴様が過去にして来た事、()()()()()が気に入らん、と言っているんだ!」

「「ハァッ!?」」

「「ッ!」」

コイツ、何で・・・

「何故、という顔をしているな。所詮、人の口に戸は立てられんのだ。噂程度だったのでリアクションを見る事にしたが、どうやら事実だったようだな」

・・・確かに、俺は結構派手にやらかしてたからな。どっから広がっても不思議じゃねぇか。

「中々の事をしていたそうだな、爆豪勝己。そしてそれを咎めぬ世間も気に入らん物の一つ。そしてお前よりも気に入らんのが・・・あの仮面ライダーエターナルとやらだ!」

「・・・あ?」

・・・何だと?

「免許も持たずに力を振るい、果てにはテロ組織とは言え500人は殺害した大量殺人犯だぞ?何故そのような奴が雄英に入る事が出来る?

イナサの奴は心酔しているが、奴は現実を見ていない。何故あの様な犯罪者を崇拝するのか・・・奴も、ヒーロー殺しと何ら変わりは無いのだ」

・・・俺の中で確実に何かが熱く煮え滾り、反対にどこが冷え切っていくのを感じる。

「ハッキリ言ってやろう。貴様等には、ヒーローになる資格など──「無いとは言わせへん!!」──・・・何だと?」

「・・・お茶子?」

振り向いてみれば、鋭い眼差しで糸目を睨み付けるお茶子の姿があった。

「確かにカツキ君も出久君も、取り返しの付かない事をしたかも知れへん・・・でも、出久君達のお陰で護られた笑顔もあるッ!!

そしてカツキ君は、過去を省みて変わってるッ!!間違い無くッ!!」

・・・そうだ・・・そうだったな・・・

「確かに、俺はとんでもねぇ事をしちまった。俺にヒーローになる資格が無いって言われても仕方ねぇ・・・だが!出久はどんな苦痛にも負けず、見ず知らずの誰かの為に戦って来た!!見返りも求めず、どれだけ非難されようとも諦めないで!

そして何より・・・こんな碌で無しな俺にも、やり直すチャンスをくれたんだ!その気持ちをなァ・・・裏切る訳にはいかねぇんだよッ!!」

「爆豪・・・アツいぜ!お前よォ!!」

そう言って拳を打ち合わせる切島。そしてお茶子も手首をスナップさせ、俺の横に並び立つ。

「それがどうした!貴様等が罪を犯した事に、変わりなど無いだろうがッ!」

「だったら!その(十字架)背負って戦ったらァ!!」

【ジュエル!】

【ディスチャージメモリィ!潰レッナ~イ!ディスチャージクルルァッシュ!!】

 

─BBOM!!─

 

俺は両手にダイヤモンドシールドを生成し、後ろに向けて爆破で吹っ飛ばした。ダイヤモンドシールドは砕け、その破片が背後から忍び寄っていた糸目野郎の肉片に命中して迎撃する。

「何ッ!?」

「読めてんだよォ!!おいアホ面ァ!!」

「名前で呼んでくれよ・・・」

俺の合図に、アホ面はワイヤーを飛ばして糸目野郎に巻き付けた。

「食らえ!炭素糸通電撃(アンペアカーボンファイバーズ)!!」

 

ビリリリリリッ!!

 

「がッッッ!?」

通電攻撃を諸に受け、糸目野郎はダウンした。それと共に、肉団子にされてた奴等も元に戻り始める。

「次からはもっと本質見るんだな、センパイ」

 

─ポンポンポンッ─

 

そう言い、俺は糸目野郎のターゲットを3つともボールで叩いた。

合格まで、後一人だ。

 

 

───to be continued




────オマケ・出フラ、吸血後の夜明け

─チュンチュン─

「・・・朝か。ちょっと寝過ぎたかな」
ワイン飲んだのが効いたか?取り敢えず、俺に抱き付いて寝ている我が吸血姫さまを起こすとするかな。
「おいフラン、起きろ」
「んぅ?いずくぅ?・・・ッ!?出久!?」
あらま、顔が真っ赤っか。
「え、と・・・ねぇ、出久・・・私達、その・・・シちゃった?」
「いや大丈夫。やった覚え無いし、何よりそういう臭いがしない」
覚醒早々に何て事を聞いてるんだろうかこの子は・・・
─がちゃっ─
「出久~、フランちゃん知らな~・・・ぁい?」
「「あ・・・」」
・・・三奈が来た。ヤベーイ。
「・・・・・・う・・・」プルプル
「み、三奈?」

「ウワァァァン!正妻なのに出久の初めて奪われたァァァァ!!」

「三奈!?待って!止まれェ!!」
泣きながら駆け出した三奈を慌てて追い掛ける。しかし・・・
「緑谷君ッ!!寮内で不純異性交遊とは何事かァ!!」
「緑谷ァァァァ!!くたばれリア充ガァァァァ!!」
「・・・早ぇな、出久」

・・・何が始まるんです?
A,大惨事大戦だ。

この後滅茶苦茶弁解した。

「い、出久は悪くないよ!元はといえば私が出久のが欲しいって言ったからで・・・」(←血)
「緑谷くたばれェェェ!!」
「フラン。悪いけどちょっと黙ってて?」

こんな事があったとさ。


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第10話・仮免試験2/襲撃のN

『さてと、今回久々に動かすぞ!』
「俺ちゃんは!?」
『もうちょっとだな』
「クッソォォォォォォ!!」
『さてさてどうなる第10話!』


(出久サイド)

 

「フッハッ!タァッ!」

四方八方から飛んでくるボールを、体術やエターナルローブで難無く回避。そしてバックステップで後退し、戦っていた瀬呂と背中合わせの形を作った。

「よぉ瀬呂、元気か?」

「んっ、まぁな!ただ、ちっとシンドいわ。もう年かな?」

「まだまだこれからだろ?」

ジョークによる精神的なガス抜きで、瀬呂の顔にも少しだけ生気が戻る。

「そっちこそ平気か?7割くらい相手してたし、ターゲットも1つ当たったろ?」

「人気者は辛いな。泣けるぜ。ま、この程度なら問題無いさ」

【ヒート!マキシマムドライブ!】

「バーニングナックルッ!」

冗談を叩きながらヒートメモリを腰のマキシマムスロットに叩き込み、爆熱が籠もった右腕を裏拳として横凪ぎに振るう。当然、ボールは熱によって融解した。

「ハハッ、こりゃ俺いる意味無くないか?」

「いや、良い作戦を思い付いた。目ぇ塞いどけ」

「え?」

どういう事?という顔をする瀬呂を余所に、俺はバットショットとルナメモリを取り出す。

【ルナ!マキシマムドライブ!】

そしてバットショットにルナを装填し、上に向けて放り投げた。

するとバットショットは空中でガシャガシャとライブモードに変形し素早く飛行する。そして・・・

 

─バシャッ!─

 

「ウギャァァ!?」

「目がァ!目がァァァァァ!?」

超光量のフラッシュを焚いた。その鋭い閃光は容赦無く他の受験生の網膜を焼き、視力を封じる。

「瀬呂!テープだ!」

「流石は緑谷、容赦ねぇ~・・・」

そう言いつつ、瀬呂はこちらにテープ飛ばしてきた。そのテープを地面に貼り付け、次のメモリをマキシマムスロットに叩き込む。

【アクセル!マキシマムドライブ!】

「さて、しっかりテープ出せよ」

「へ?」

その呆けた声も無視して、俺は瀬呂を担ぎ上げた。そして顔を青くする瀬呂を抱えたまま、フルスロットルの半分程度で駆け出す。

「ウワァァァァァァァァ!?」

「歯ぁ食いしばれ!舌噛むぞ!」

そして人垣の間を何とかすり抜け、呻いている奴等を次々と簀巻きにしていった。そして1分もせず、全員蓑虫に早変わりだ。

「フゥ・・・ありがとよ、瀬呂・・・瀬呂?」

「う゛っ・・・」

速度と揺れで酔ったのか、その場で崩れ落ちる瀬呂。顔は真っ青だ。

「あ~・・・済まんかった。ちょっとばかし振り回し過ぎちまったな」

そう言って手を差し伸べると瀬呂は何とか掴み、唸りながらも起き上がった。

「大丈夫・・・にしても、何でさっきの超スピードでクリアしなかったんだ?やろうと思えば出来たろ?」

何だ、そんな事。当たり前じゃないか。

「だって、俺だけ勝ち抜けたらお前確実に袋叩きだっただろ。流石に哀れだったから、お前を使って回避しただけだ」

 

─ポポポンッ─

 

答えながら、まず1人蹴落とす。残り一人で合格だ。

「あっそう・・・まぁ、ありがとよ」

 

─ポンッ、ポンッ、ポンッ─

 

瀬呂も1人攻略っと。残り一人・・・と、2つアウトの奴がいるな。丁度良い。

「な、なぁ・・・待ってくれよ・・・君ら、1年だろ?俺ら、今年仮免取らないとやばいんだよ・・・!」

「フン。寄って集って袋叩きにしようとし、返り討ちに遭った挙げ句命乞いか?無様なものだな。

 

2つ、良い事を教えてやろう。

 

1つ、仮免を取得しなければいけないのは、俺達も同じだ。同じ土俵の敵に、同情を求めるな。

 

そして2つ・・・俺は、獲物の命乞いなど聞かない主義だ」

 

─ポンッ─

 

敗者の命乞いに耳を貸さず、無慈悲にターゲットをボールで叩く。悪いが、止めを刺す事には特に躊躇いは無い。

「敵にゃ回したくねぇな、緑谷は」

 

─ポンポンポンッ─

 

そう言いつつ、瀬呂も2人目を仕留めた。すると俺達のターゲットが全て光る。

合格したな。

「じゃ、行こうぜ」

「・・・この皆さん方はどうする?」

「・・・」キュピンッ!

 

─バキッ─

 

「お!?た、ターゲットが爆ぜた!?」

「気をつけろ、電磁系の能力かも知れん!離れるぞ!」

「お、おう!邪魔になっちまうもんな・・・ん?何で俺達のは壊れなかったん・・・」

「お前は何も見なかった・・・良いな?」

「アッハイ」

放置しといたら死体漁り(スカベンジャー)が受かっちまうからな。それに、壊しちゃいけないなんて言われてないし。

 

(勝己サイド)

 

「かっちゃん!」

「あ?」

後ろから徒名を呼ばれ、俺は倒した奴らに向かう足を止める。振り返れば、何時の間にかエターナルが立っていた。

「緑谷!?無事だったか!」

「あぁ、何とかな・・・そっちも無事そうで何よりだ」

そう言って歩み寄ってくるエターナル・・・そして、その右手が俺の左肩に乗せられようとした瞬間───

 

─BOM!!─

 

「ぐあっ!?」

俺は()()()爆破を見舞った。三分の一程度だが、ソイツを吹っ飛ばすには十分だったらしい。

「ば、爆豪!?」

「お前何やってんだ!?」

切島とアホ面が怒鳴ってくるが・・・お茶子は少し違う。エターナルを凝視し、目を細めて観察していた。

「うぅ、いってて・・・ひっでぇなかっちゃん、俺が何かしたか?」

・・・やっぱり、間違い無ぇ。お茶子も確信したらしく、俺達は顔を見合わせ頷き合う。そして、同時にエターナルに言い放った。

「「テメェ、誰だ?(君、誰かな?)」」

「「え!?」」

やっぱ切島とアホ面は気付いてなかったか。

「出久は、俺らが変身してる時はライダー名で呼んでた」

「でも今、かっちゃんって呼んだよね。って事は・・・」

「あ、そっか!ニセモノだ!」

漸く理解出来たか。

「それに、俺は開いてる左手側を爆破した。出久ならすぐ反応してマントで防ぐし、ソレが出来なくても受け身取って即反撃して来るわ」

「フフ、ざ~んね~んバレちゃった~♪」

そんなおどけた声と共にエターナルのガワがドロドロに溶け・・・ッ!?

「何で裸なんだテメェはッ!?」

「じゃあね~♪」

俺のツッコミをスルーし、エターナルに化けてた女は逃げやがった。

「・・・まぁいい。今は合格が優先だ」

後で、情報交換だな。

 

(出久サイド)

 

「成る程、回避しながら攻撃か。京水姉さんに扱かれてたもんな、フラン」

合格した俺達は、大きな部屋に集められた。そこでフランと合流し、流れを聞いていたのだ。

「まぁね!京水姉さまにはお世話になったから・・・」

そう言って遠い目をするフラン。

まぁ当然っちゃ当然だな。だって特訓内容が、京水姉さん(ルナドーパント)の放つ光弾を避けながら弾幕を当てるってやつだったから・・・

「オイ、出久」

「お、来たかかっちゃん。皆も」

声の方を向けば、かっちゃん、麗日、切島、上鳴がこっちに歩いて来た。

「お前に・・・エターナルに化けた奴がいたぞ」

「・・・メモリとドライバーで変身、じゃなくてか?」

「あぁ、ガワがドロドロに溶けたからな。個性で見た目と声だけ似せてたんだろ・・・あ、アイツだ。士傑の金髪女」

・・・何だと?

「あの女・・・俺の所にも来たが、ソイツは本物じゃなかった」

「何?」

怪訝そうな顔をするかっちゃん。

「俺の『士傑生だよな』って質問に対する、『そうだよ』って答え・・・そこに、俺の虚偽無効が引っかかったんだ。そして俺の感覚的な話だが・・・その女、堅気じゃないぜ」

「・・・気ぃ付けるわ」

「賢明だ」

このご時世、何があるか分からんからな。

「きゃっ!」

「ん?」

背後からの声に振り返ると、件の金髪女が倒れた緑癖っ毛の女子の上にのし掛かっていた。

反射的に眼がつり上がり、ドライバーを装着してメモリを構える。

「あぁ、ごめんね?ちょっと足がもつれちゃって」

「い、いえいえ。大丈夫ですよ?」

だが、相手は大丈夫だったようだ。

「そう、ありがとう・・・あ、襟が崩れてる・・・ハイ、コレで大丈夫!」

そう言って緑癖っ毛の襟を直す金髪女。その動きは柔らかく、怪しい所も無かった。

「幽香!大丈夫!?」

「えぇ、大丈夫よメディ。行きましょ」

駆け付けた友人らしき金髪の少女と共にその場を後にする緑癖っ毛。別におかしな所も無さそうだ。

「オイ芦戸~!緑谷が他校の女を視姦してんぞ~!」

「い~ず~く?」

「転けてたから反射的に注目しただけだからな?あと峰田、お前シバく」

 

─キュキュキュキュンッ─

 

峰田をシバく直前、俺の身体からオーブが飛び出し、人型を取って着地した。無論兄さん達だ。

「あれ?兄さん達、どうしたの?」

「いや何、少し用事があってな」

「がんばってね、イズクちゃん!」

そう言って、NEVERの皆は部屋を出て行った。さて、嫌な予感しかしないな・・・

 

───

──

 

「さて、次は・・・救助訓練、ねぇ」

画面中継で説明が入った。設定は、爆破テロが発生した市街地での人命救助らしい。そしてまたもや部屋が展開し、俺達は変身して走り出す。

「そう言えば出久、結構こういう事やってたんだよね?」

「あぁ。と言うより、俺が戦場を練り歩いてた理由は半分ぐらい救命(ソレ)だったからな」

「ベテランだ~」

・・・だが、やはり頭にはあの子の笑顔が浮かんでくるな・・・あの子のような悲劇を出来る限り起こさないように、俺は人を救う・・・救わなきゃ、いけないんだ。

改めてそう確認し、左胸・・・内ポケットに入った御守りに手を当てた。

 

「う゛わ゛ぁぁぁぁぁ!!おじいちゃんがっ!ヒッヒッ!おじいちゃんが埋まっちゃったぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 

倒壊している一般家屋の前で泣いている子供。まずはそっちの確認だ。

「大丈夫か?頭部に裂傷、頭蓋骨・・・損傷無し。パニックにより過呼吸気味だな」

【スパイダー!マキシマムドライブ!】

パパッと簡単に分析し、スパイダーの蜘蛛糸で傷口を塞ぐ。

「よし、これで大丈夫だ。お爺さんは必ず助ける。まずは君を運ぶよ」

「う゛、う゛ん・・・」

「他に痛いとこ無いか?歩けないとか」

「大、丈夫・・・」

膝の擦りむきにも糸で蓋をし、ぐわっと抱え上げる。そしてゾーンを装填し、ボタンを叩いた。

【ゾーン!マキシマムドライブ!】

テレポートで救護者集合所に移動し、レスキュー隊員に預ける。

「頭部に軽度の裂傷あり。結構出血してますが受け答えはしっかりしてます。頼みますよ」

「あぁ、分かった」

よし、じゃあこっからだ!

【イガリマ!】

「詠装!」

 

The Death hunts IGALIMA the soul tron~♪ ─

 

俺はギリギリイガリマのシンフォニックアーマーを装着し、一気に走ってさっきの家屋に戻る。

「・・・やはりな」

倒壊した家屋を見れば、その中に人型の淡い光が一つ・・・中に取り残された人の魂だ。

イガリマは魂を刈る鎌。故に、攻撃対象である他者の魂を視認する事が出来る。ソレを応用して、見えない所にいる生命体を発見する事も出来るのだ。

そして要救助者を発見した俺は、即座に左目に手を翳す。

 

─キュピンッ!─

 

そして過剰適合進化者の義眼(アイズオブハイドープ)を発動して念力で次々と物を退かし、あっと言う間に要救助者を露出させた。

「あ、足が・・・折れてる・・・痛い・・・」

ふむ、柱に挟まれているのは太股。と言うことは、折れてるのは大腿骨だな。

「もう少しです。大丈夫、助けますから!」

【スパイダー!マキシマムドライブ!】

俺は足を挟んでいた柱を持ち上げて砕き、即座に折れた足を糸と近くに落ちてた板で固定した。

「よし」

【ゾーン!マキシマムドライブ!】

再びゾーンのマキシマムドライブを発動。先程と同じ場所にテレポートし、救護班に引き渡した。

「左大腿骨が圧迫骨折、骨盤に罅です!」

「分かったわ!」

よし、次だ・・・

 

BOOOOM!!!!

 

突如、試験会場の外枠が爆発した。

「・・・そうだった。確か設定は・・・爆破テロだったな」

爆心地を見れば、ギャングオルカとそのサイドキック達が佇んでいる。成る程、今回の(ヴィラン)役って訳か・・・ん?ちょっと待て。見覚えしかない影が5つあるぞ?

 

「さぁ行くぞ。ここを・・・地獄に変える!」

 

「・・・んなこったろうと思ったよ・・・兄さん達」

まぁ、ある意味適任っちゃ適任だな・・・

 

(NOサイド)

 

「フッ!ハッ!」

迫り来る受験生達を危なげ無く捌き、即座に反撃を叩き込む克己。

と言っても、無論手加減はしている。精々痛みで相手が悶絶する程度の最低限の力だ。普通に殴ろうものなら、当たった部分の骨が粉砕されるだろう。

 

「イテテテテテテ!?」

「はッ!」

「ゴベッ!?」

賢はサブマシンガンでゴム弾を連射しながら距離を詰め、その強烈な足技で蹴っ飛ばした。かなりぶっ飛んだが、尻を蹴った所が彼なりの優しさなのだろう。

 

「こんの!」

「かてぇ!?」

「効かねぇぜ!!」

剛三は肉体硬質化で攻撃を受け、そこにカウンターを打ち込んでいる。そのスタイルは、何処かプロレスラーの戦い方に見えなくも無い。

 

「フッ!タァッ!」

「アッチィ!?」

「ごべぁ!?」

レイカは、その鋭い突きや蹴りに組み付き技、更に発熱能力も乗せたインファイトで次々と受験生達を薙ぎ倒す。と言っても、インパクトの瞬間に50~60℃まで上げる程度なので火傷にはならない。やはり気を使っているのだろう。

 

「あら、カワイイ顔してるわね!嫌いじゃないわッ!ホ~ラ来なさ~い?ク~ネクネ~♪クネクネ~♪」

「「ウワァァァァァァァァ(OMO)!!!!」」

問題は京水(コイツ)だ。先程から好みの顔した受験生に対して文字通り手を伸ばし、その手でひっぱたくついでに相手の筋肉を楽しんでいる。それでいて攻撃はヌルヌル躱すから全く当たらないのだ。

これがゲームのボスならば、クソゲー認定待った無しである。

 

「何?あの地獄絵図・・・」

それを見て流石にドン引きするエターナル。しかしNEVERに対する時間稼ぎは今の所他の受験生による人垣で十分と判断し、ギャングオルカに視線を向ける。するとゴツいガントレットを着けたサイドキック達が一斉に走り出した。

「この数は面倒だな」

「だったら俺が行く!」

エターナルの呟きに答え、真堂が前に出る。

「そうか、なら俺は避難させよう」

「頼む!」

【ゾーン!】【エクストリーム!】

【【マキシマムドライブ!】】

そう言って真堂が地震で地面を割ると同時に、エターナルはツインマキシマムを実行。ゾーンの能力をエクストリームで引き上げ、周りにいる要救助者を全て感知。更にテレポートで、開けた場所に移動させた。

 

─ズキッ─

 

「クッ、連発は出来んな」

負荷から来る頭痛に仮面の下で顔を歪めるエターナル。

 

─キィィィンッ─

 

その時、ギャングオルカが超高周波を真堂に放った。その音波攻撃を諸に受け、真堂は倒れ込んで戦闘不能となる。

「嘗められたものだな・・・ッ!」

 

─バキバキバキバキッ─

 

横から迫る氷壁に瞬時に反応し、音波で砕くギャングオルカ。その間に氷を放った轟が合流し、ギャングオルカを見据えて構える。

「轟はっや!」

「三奈か。それに常闇と尾白」

遅れて三奈、常闇、尾白も駆け付けた。

「水辺の方にいたんだけどね。こっちに(ヴィラン)固まってるから応援に来た!水辺では梅雨ちゃんが救助続行中だよ!」

「有り難いな・・・ん?」

三奈が簡潔に説明し終わると同時に、エターナルは不自然な風を感じ取る。

 

「吹ぅぅぅきぃぃぃぃ飛べェェェェ!!!!」

 

その違和感の正体にエターナルが気付く前に、ソレはギャングオルカに向けて圧縮空気弾を放った。

(ヴィラン)乱入とか、中々熱い展開にしてくれるじゃないですか!」

「夜嵐か」

エターナルの呟きに振り向いたイナサだったが、そこで表情が固まる。轟と目が合ったのだ。

「アンタと同着か・・・」

目に見えて嫌そうな態度をとるイナサ。ソレを無視し、轟は冷静に分析して結論を出す。

「アンタ、救護所の避難手伝ったら?私と違って、個性もそっちに向いてるだろうし。こっちは私がやるよ」

「・・・」

その言葉に、イナサは納得行かない様子で風を集め始めた。ギャングオルカはその音でイナサの攻撃を察知し身構える。しかし・・・

 

─ヴオァァァァンッ!─

 

風を放つタイミングが轟の炎と被ったため、お互いが弾き合って大きく軌道が逸れてしまった。

「ちょ、何で炎だ!!熱で風が浮くんだよ!!」

「さっき氷結を防がれたから。そっちこそ、私に合わせてきたんじゃないの?こっちの炎風で飛ばされたよ」

「アンタが手柄を渡さないように合わせたんだ!」

「は?そんな餓鬼みたいな下らない事、誰がするのよ」

「いいやするね!だってアンタはあの───

 

───()()()()()()()()だ!!」

 

─ピキッ─

 

その一言で我慢に限界が来たのか、轟の目がつり上がる。

「アンタ・・・さっきから何なの?今アイツは関係な─ベチャッ─いっ!?」

苛立ちを露わにする轟に、ギャングオルカのサイドキックが放ったセメント弾が命中した。

「論外だな、喧嘩を始めるとは」

「仰る通りで(好くない予感がするな。準備しとこう)」

ギャングオルカの呆れた呟きに同意しつつメモリを取り出すエターナル。

「アンタら親子のヒーローだけは、どーにも認められねぇんスよォ!!以上!!」

(試験に集中しなきゃ・・・試験に───!!)

再び轟が炎を放つが、またもやイナサの風弾と被る。しかし今度は角度が悪く、何とその炎が行動不能の真堂に向かって飛んでしまった。

「しまっ────」

炎が真堂に届かんと迫る、その瞬間。

 

──Determination edge Amenohabakiri tron~♪──

 

澄んだ歌声が響き、蒼い閃光が走った。

その光が止むと、炎の進行方向には大きな盾とも壁ともとれるような何かが現れ、炎を受け止める。

「た、盾?」

「盾?違うな。コレは───

 

───(ツルギ)だッ!!」

 

轟の呟きに答えながら、その巨大な剣を格納して地面に降りるエターナル・タドルハバキリ。そして真堂を抱え、イナサと轟を準に睨んだ。

「お前ら・・・

 

さっきから何をやっているッ!特に夜嵐イナサッ!!」

 

放たれる殺気に、思わず身震いする轟とイナサ。

(ヴィラン)に背を向けて言い放ったエターナル。サイドキック達はその背中を狙ってセメントガンを構えるが・・・

 

─キキンッ!─

 

「ウワッ!?」

「げっ!?」

 

「俺の隙を突きたきゃ、50m以上離れた所から超音速弾で狙撃するんだな」

エターナルはその動きを敏感の察知し、振り向きもせず忍者刀を投げつけた。その忍者刀は空中で2本に分裂し、それぞれのセメントガンを貫く。

「フン・・・貴様は入試の時、轟を見たから入学を蹴ったんじゃないのか?復讐に取り憑かれていた轟を・・・その時の轟と今のお前、何の違いがある?」

 

(そっか、風・・・通りで引っかかったんだ。入試の時、私を追い抜いたアイツ・・・あんなにうるさかったのに・・・ホント、見てなかったんだ)

ここに来て、漸く轟はイナサの事を思い出した。

(忘れたままじゃ、いられないって事・・・)

「取り敢えず・・・邪魔な風だ」

ギャングオルカはイナサに額の脂肪体(メロン)を向ける。

「回避を─ベチャッ─!?しまっ!?」

 

─キンッ!─

 

「ごぁッ!」

イナサはそれを察知し回避を試みるが、意識外からサイドキック達が放ったセメント弾が命中。隙を晒してしまい、その音波攻撃を受ける事となった。

「そしてお前も、自業自得だ」

 

─キンッ!─

 

「う゛っ!?」

そして轟も至近距離で音波攻撃を喰らう。鋭い振動による過剰刺激のせいで全身の神経が麻痺を起こし、即座に行動不能まで落とし込まれてしまった。対してイナサは、距離があった為か効きが甘いようだ。

その隙にサイドキック達が救護所を落とそうと走り出す。しかし・・・

 

──奇跡~♪切り札~は~自分~だけ~♪──

 

そうは問屋が卸さないとばかりにエターナルが歌う。その歌声によりフォニックゲインが引き上げられ、エネルギーが物質として固定化し武器を創造する。

それにより精製された無数の剣を、サイドキック達に向けて落とした。

 

───夢幻ノ落涙───

 

剣の涙は瞬く間に降り注ぎ、サイドキック達を足止めする。その隙にエターナルはアメノハバキリメモリを抜き取り、次のメモリを構えた。

【ガングニールβ!】

 

──I'm that Smile Guardian GUNGNIR tron~♪──

 

「ウォラッ!」

「グベッ!?」

そしてオレンジの光と共に拳のガングニールを纏い、サイドキックを殴って気絶させる。

 

─ヴオォォォォォォァアン!!─

 

するとその時、ギャングオルカを中心とした炎の竜巻が発生した。轟の炎をイナサが巻き上げ、火炎牢獄を作ったのだ。

「成る程、少しは頭も冷えたようだな」

感心しながら敵を殴り倒すエターナル。ギャングオルカはその性質上、乾燥に弱い。それを良く知るサイドキック達は轟を拘束しようとセメント弾を放つが、右の氷結で止められた。

(練習不足から来る動きの鈍り・・・動けなきゃ、関係無い)

 

そこから、受験者達の猛攻が始まった。

尾白がガントレットを弾いて同士撃ちさせ、三奈が溶解液で破壊。保護色によって隠れていた蛙水が舌で脚払いを掛け、そこに他の受験者達も加わる。

しかし、快進撃も長くは続かない。

 

─ガキッ ドッ ゴッ─

 

「ハハハ・・・やっぱり来るか」

受験者3人を瞬時に昏倒させた相手・・・克己を見て、乾いた笑いを零すエターナル。

「面白そうだったんでな、コッチに来てみたんだ」

「違和感無いのが質悪い」

そう呟きつつエターナルが拳を構えた、その直後・・・

 

─ビーーー!─

 

『え~只今を持ちまして、配置されたHUCの救助が完了致しました』

 

「・・・試験、終了か」

その放送に胸を撫で下ろすエターナル。

 

─ドッゴァァァァァンッッ!!!!─

 

「何ッ!?」

しかし、不穏の種は残っていた。

 

───

──

 

「お、終わったのね・・・」

「ふ~・・・お疲れ様、幽香!」

都会ゾーンで要救助者を探していた緑癖っ毛のと金髪の少女2人・・・風見幽香とメディスン・メランコリーは、放送を聞いて肩の力を抜いた。

「受かってるかな、私・・・」

「大丈夫だよきっと!」

不安げな幽香を励ますメディスン。その背後に、1つの影が忍び寄る。

「お疲れ様~♪」

親しげに声を掛けながらその人影は・・・

 

【プラント!】

 

幽香の項の()()()()()()に、ガイアメモリを突き立てた。

「え・・・がッ!?」

「幽香!?アンタ!幽香に何を・・・ッ!?」

 

次の瞬間、メディスンの視界は闇に閉ざされる。

その刹那に見たモノ・・・それは───

 

 

 

───不気味に口角を釣り上げる()()()姿()だった・・・

 

 

───to be continued




『いや~長くなっちゃった』
「オイクソ作者!SYA KU YO KO SE !!」
『ゴメンゴメン・・・それとスイマセン、今回の後半、結構雑になっちゃいました』
「そんなことよりでばんがほしい」
『仕方無いだろ?流石にここにゃ出せねぇよ』
「そーかよ・・・早く俺ちゃん出せよ?今日俺ちゃんの映画観たんだろ?」
『2をな。まぁ早めに出せるように頑張るよ』
「頼む!文と絡ませてくれ!こちとらお前が出さないから寂しくてしょうがないんだよ!」
『それはゴメン・・・ではまた次回!』
「見に来てくれよ!」


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第11話・暴走するP/止まらぬ悪意

「前回好評だったな。俺ちゃん出なかったけど・・・俺ちゃん出なかったけどッ!」
『いや、だって・・・試験に出す訳にもいかんだろ?』
「・・・フンッ」
『あ、拗ねた・・・ん゛っんん・・・さてさてどうなる第11話!!』


(出久サイド)

 

「なッ、なんだぁ!?」

ビル群の中で起こった大規模な崩壊音に、クローズ・ライトが声を上げる。それはここにいる全員の声の代弁であり、かく言う俺も立ち上る粉塵の柱に目を奪われていた。

だがこういう不測の事態において、最もいけない事は《棒立ちになる事》だ。故に俺は行動を起こす。

「三奈!フラン!スタッグフォン見ろ!」

「「わかった!」」

【バット】

俺の指示に従って、2人はスタッグフォンを開いた。そして俺はバットショットを取り出して煙の方向に投げる。バットショットはすぐさまライブモードに変形し、メインカメラから俺達のスタッグフォンに映像を送信し始めた。

「コレはッ・・・!」

スタッグフォンに映し出されたのは────

 

GUGYAaaaaaaaaaaaaaッッッッッ!!

 

────ビルを突き破って枝や蔦を振り回す、モンスタープラントだった。

 

「何これ!?」

「木の、化け物?」

三奈が言う通り、木の化け物としか形容出来ないモノだ。蔦や枝の先端には鰐のような鋭い牙の並ぶ顎が備わっており、周りの物を手当たり次第に噛み砕いている。

「訓練、では無いか」

【ボーダー!マキシマムドライブ!】

「三奈!コイツに乗れ!」

【ヒート!ユニット・タービュラー!】

俺はエターナルボイルダーを取り出し、更にタービュラーユニットを換装した。

「グリスとローグはバードでクローズを連れて、フランは自分の翼で来い!NEVERの皆は兄さん以外は俺の中に!」

「もう立派な司令官(リーダー)だね、出久は」

「分かった」

「あいよぉ!」

「嫌いじゃないわ~ぁん!」

そう言いながら、皆はオーブとなって俺の中に入る。

「兄さんは、三奈を乗せてエターナルタービュラーを操縦して!」

「お安いご用だ」

兄さんは即座に答え、タービュラーに飛び乗ってエンジンを掛けた。タービュラーユニットのスクランブルカッターウィングが展開し、ファンの回転が生む揚力によって機体が浮き上がる。

流石は兄さんだ。1発で乗りこなしてるよ。

「ま、待てよ緑谷!まさか・・・あ、あれと戦うのか!?」

「あぁそうなるかも知れんな、9割程の確率だが」

「ほぼ確実じゃんッ!」

俺の答えに対し、ヒステリックに叫ぶ峰田。全く喧しい奴だ。

「何でそんな事するんだよぉ、大人に任せりゃ良いだろぉ!?」

・・・何言ってんだコイツ・・・

「お前、そんな事言うなら何で雄英に来る?ヒーローってのは、こういう時に動き出せる奴の事を言うんだよ。

最も、昨日まではそれで良かっただろうがな。だが今、俺達は仮免試験を終了したんだ。受かってようが落ちてようが、そんな他人任せな言動が許される立場な訳が無いだろ」

峰田は俺の言葉にハッとし、周りを見る。当然と言うべきか、全員が峰田に対して失望の視線を向けていた。

「で、でも!あんなのに勝てっこねぇって!」

「俺達が勝てなけりゃ人類全て勝てないだろうよ」

「我々も行こう」

ギャングオルカが立候補する。しかし・・・

「じゃあギャングオルカ、あんた飛べるのか?」

「ぬぅ・・・」

「だろ?もし危なくなれば、俺達は飛行して逃げられる」

生憎、こっちは行ける人数の限界だ。

「さて、行くぜお前ら!」

「「「応!」」」

「了解!」

「イエスダーリン!」

「了解」

【バード!マキシマムドライブ!】

皆の返事を聞きながらバードのマキシマムを発動し、エターナルローブを翼に変える。

「ライダーズ!レディ・・・ゴー!」

(行って来まァァァす!!)

京水姉さんウルサいよ・・・

 

───

──

 

「これはまた・・・」

俺達は異形の植物を目視出来る距離まで近付いたが・・・

「兵隊殖やしとる・・・」

「ハッ、女王蟻気取りかよ・・・」

そう、兵隊であろう二足歩行の小さな*1植物兵が群がっていたのだ。

「・・・あぁ、何か見た事あると思ったら・・・バイオのイビーにそっくりだな。気ぃつけろ、頭の花から溶解液飛ばすかも知れん」

「グリス連れて来たのは正解だったな」

知識的にも、相性的にも。

「取り敢えず、デンデンセンサーでスキャンしてみよう。中身が分かれば、ベストな戦い方が分かる。兄さん、ウィングに乗るぜ」

「おう」

俺はタービュラーユニットのウィングに着地し、デンデンセンサーを眼に翳す。デンデンセンサーの接眼レンズには、モンスタープラントのスキャン映像が映し出された。

「まずは、普通の植物組織を除外っと」

すると、木の内部に糸のような維管束が走っているのが映し出される。それは頂上*2にある天狗巣状の枝の塊で集まり、その集中点からエネルギーが供給されているようだ。そしてそのエネルギーは・・・

「ガイアエナジー・・・やはりと言うべきか」

ガイアエナジー・・・つまり、ガイアメモリのエネルギーによってあのモンスタープラントは暴れているのだ。

「ガイアメモリのエネルギーを確認した。これよりあのモンスタープラントを《プラントドーパント》と呼称する・・・ッ!?」

「ん?出久、どうかしたか?」

「・・・兄さん、拙いぞ・・・ドーパントの体内に、人が1人取り込まれちまってる!」

「何ッ!?」

「「え!?」」

「「ハァ!?」」

「嘘・・・」

まぁ、この反応は当然だな。

「ど、どういう事!?」

「あの頂上の天狗巣・・・あそこにドーパントの本体がいるらしい。そしてそのすぐ側にもう1人いるんだ。こっちはドーパントじゃない。恐らく巻き込まれたんだ」

フランの問いに答え、プラントドーパント・・・いや、プラント・ノヴァとでも呼ぼうか・・・そいつを再び見やる。相変わらず蔦の先からイビーを作り続けており、既に150体はいるだろうな。

 

「タブー・グリス・ローグは地上でイビーを殲滅しろ!グリスはブリザードの使用を許可する!タブーは終焉極大刃炎剣(レーヴァテイン)で、ローグはジェットの機雷艦載機で焼き潰せ!」

 

「おうよ!!」

「わかった!」

「任せといて!」

 

「クローズ・ライトは兄さんと一緒に地上で周囲を偵察!危険なら即座に撤退しろ!大丈夫ならグリス達と合流してイビーを狩れ!絶対に他の人間に近寄らせるな!」

 

「分かったぜ!」

「任された」

 

「そして三奈、今回はダブルで行く。半分力貸せ」

 

「分かってるって!」

全員に指示を飛ばし、俺はエターナルの変身を解除。ロストドライバーを取り外し、サイクロンと共に兄さんに渡す。そして三奈にはダブルドライバーを装着させた。すると俺の腰にもダブルドライバーが出現、装着される。

【エターナル!】

【ジョーカー!】

 

「「変身ッ!」」

 

俺は左手に持っていたエターナルメモリをドライバーの右スロットに装填した。するとそのメモリはデータ化して三奈のドライバーに転送され、現れたメモリを三奈が再び押し込む。そして、三奈自身のジョーカーメモリも左側に装填し、スロットを左右に展開した。

 

【エターナル!ジョーカー!~♪~♪! ~♪!♪!♪!】

 

白と黒の竜巻に抱かれ、俺の意識は三奈の右半身に憑依。そして白と黒の装甲を纏い、変身が完了する。同時に俺の身体がウィングから落っこちるが、それをエクストリームメモリがしっかり回収してくれた。

 

【サイクロン!】

 

「変、身ッ!」

 

【サイクロン!~♪~♪♪♪~!】

 

兄さんも仮面ライダーサイクロンに変身し、銀のマフラーをはためかす。

『じゃあ行くぜ!』

「うん!」

 

(ステージ・グリス)

 

「死ねェ!!」

 

─BBBOOM!!─

 

グリス・ライトは目の前に爆炎を振り撒き、イビーを5体一気に丸焦げにした。

「うわっ、ひっさびさに聞いたわ」

「ホントに殺さなきゃいけねぇ相手だからなァ!」

そう言いながら蒼いドッグタグを握り、グリスブリザードナックルとノースブリザードボトルを召喚。ボトルスロットにノースブリザードボトルを装填する。

【ボトルッキィーンッ!!】

そしてナックル正面のボタン・・・ロボティックイグナイターを掌で押し込み、エネルギーを溜めた。そして・・・

「心火を燃やしてぇ・・・

 

ブッ殺すッ!!」

 

【グルェイシャルナックルゥッ!!

 

カッチッカッチッカチカチッ!カチンッ!!】

 

グリスブリザードナックルを握り締めた右腕を、アッパーカットのように振り上げる。すると凍えるような冷気が一気に放たれ、正面にいたイビーは瞬く間に凍結した。

「やれェ!スカーレット!」

「分かってるッ!」

そしてその氷像となったイビーに、タブーが終焉極大刃炎剣(レーヴァテイン)を振り下ろす。その熱波により、物言わぬ氷像は瞬時に蒸発した。

【クラック・アップ・フィニッシュッ!!】

「意外と呆気ないね」

「いや、見ろ」

ハイキックでイビーの頭部を千切り飛ばしながら、拍子抜けたように呟くローグ・ライト。それに対してグリス・ライトは、プラント・ノヴァの蔦の先端に咲いた鉄砲百合のような花を指差した。

 

─パンッ!パパンッ!─

 

その花から何かが放たれ、地面に着弾。するとそこから、瞬く間にイビーが生えて来たではないか。

「大元叩かねぇと意味ないわ・・・ハァ~・・・」

「うへぇ萎える・・・」

グリス・ライトは面倒臭いと溜め息を吐き、ローグ・ライトは口元をひきつらせる。

「まぁ、仕方無いよ。グリス、時間作るからブリザードね!」

「頼む」

「任された!行くよローグ!」

「おうッ!」

時間稼ぎを請け負ったローグ・ライトとタブーが飛び出し、イビー相手に無双を再開。飛んでくる消化液も当然単調なので、避けるかガードベント(他のイビーで防ぐ)かで対処していた。

「じゃ、やっか」

グリス・ライトはスクラッシュドライバーからロボットゼリーを抜き取り、ドライバーも外す。そして黒のドッグタグを握ってビルドドライバーを召喚、即座に装着した。

「さて・・・行くぜッ!」

 

─ガシャンッ─

 

【グリスブリザァァァドッ!!】

 

そしてグリスブリザードナックルを勢い良く装填し、レバーを回す。背後に現れたアイスライドビルダーの冷気でその下半身は氷に包まれ、周りには白い霧が発生した。

【ARE YOU READY!?】

「変身ッ!」

 

激凍(ゲェキトウ)心火(シンカ)ァ・・・グリスッブリザァァァドッ!!

 

ガァキガキガキガキッ!ガッキィィィン!!】

 

頭からヴァリアブルアイスを被り氷塊に覆われ、更にそれをアイスライドビルダーが圧し砕く事で変身が完了する。

「うッシャァッ!こっからが俺達の祭りだァァァッ!!」

 

(ステージ・サイクロン)

 

「ふむ、弱いが・・・数が面倒だな。ハァッ!!」

「そうッスねッ!オラッ!」

サイクロンは旋風脚で、クローズ・ライトは引っ掻きでイビーを相手していた。しかし、イビーを生む花がすぐ側にあるせいで全く減らない。まぁ、出る尻から狩っているお陰で全体数は殖えていないのだが。

 

─パンッ!─

 

「何!?フンッ!」

その時、突如として花がサイクロンに照準を合わせて種子を撃ち込んできた。

「成る程、オランダフウロのように螺旋状の溝が入った種子を回転を加えながら射出する事で、高い穿孔力を得ている訳か」

サイクロンはそれを難なく掴み取り分析するが、攻撃パターンの変化に少々危機を感じる。

「コイツにも、学習能力が在るらしいな・・・ッ!」

 

─ドパァンッ!─

 

「フン、在り来たりな攻撃だな」

振るわれた蔓の鞭を難無く避けたが、その蔓が鮫の歯のような鋭い棘で覆われている事に気付いた。

「植物兵士に種子弾丸、茨の鞭と来れば、次は毒でも来るか?クローズ!焼き払え!」

「ウッス!オ~リャオリャオリャオリャ~ッ!!」

サイクロンの指示に従い、クローズ・ライトはビルドドライバーのハンドルを激しく回す。

【READY GO!!】

するとその背後に、蒼い炎でできた龍のエネルギー体・・・クローズドラゴン・ブレイズが現れ、その口から炎が覗いた。そしてクローズ・ライトは腰を落として構え、正面に向けて跳び上がる。

 

【DRAGONICK FINISH!!】

 

「オリャァァァァアッ!!」

 

その背中にクローズドラゴン・ブレイズの撃ち出した火炎を受け、花や茨、イビーの群れにボレーキックを叩き込んだ。その脚からは火炎が放たれ、怪植物を一気に焼き尽くす。

「よし、一旦引くぞ」

「ウッス!」

 

(出久サイド)

 

「『タァッ!!」』

俺達はエターナルタービュラーで飛び回りながら、ヒートとルナのツインマキシマムを乗せたメタルシャフトでプラント・ノヴァを攻撃している。しかし、中々本体への道が開かない。

『クッ、弾丸に鞭に毒針!』

「めんどくさいね!」

仕方無いが、ちっとばっかしゴリ押しで行くか!

『三奈!』

「分かった!」

俺はメタルシャフトを消してジョーカーサイドにエターナルエッジを渡し、開いた右手でジョーカーメモリを抜き取って腰のマキシマムスロットに叩き込んだ。

【ジョーカー!マキシマムドライブ!】

『もういっちょ!』

更に追加で、エターナルエッジのマキシマムスロットにヒートメモリを装填。それにより両腕が激しく燃え上がり、更にアドレナリンがドバドバ出ている為闘争本能が引き上げられる。

『行くぜェェェ!!』

「ウオォォォォッ!!」

俺達はエターナルタービュラーの上で立ち上がり、ジェットエンジンを一気に噴かて突撃。そしてプラント・ノヴァの10m手前でエターナルタービュラーは逆噴射で急停止した。当然慣性の法則により俺達は前に弾き出される。空中で俺達は左右に分割し、燃え上がる両拳でラッシュを叩き込んだ。

 

「『ジョーカーグレネードッ!!」』

 

その勢いと熱に乗せて蔦をブチ破り、本体を包む天狗巣に辿り着く事に成功。

【アクセル!マキシマムドライブ!】

瞬時に2本のメモリを戻し、入れ替わりにアクセルメモリをエッジのマキシマムスロットに装填する。

そしてそのエネルギーで加速させ、連続で枝を斬り捌いた。

 

「『ヴァア~ラララララララララァァァ!!」』

 

すると、枝の隙間に金色の髪や赤いスカートが見えてくる。もう少しだ!

 

─ギチィッ!─

 

「なっ!?」

『クッソォ!』

だが、背後から延びてきた蔦に止められてしまった。もう少しだったのに・・・

しかしその時、不思議な事が起こった。

 

─パキッ パキパキッ バキンッ!─

 

『何ッ!?』

何と、気絶していた金髪の少女が小枝を折りながら飛び出してきたのだ。

「お、っと!」

すかさずジョーカーサイドがキャッチしたが、次の瞬間蔦に引っ張られる。

『ッ!!』

その刹那、俺が見たモノは・・・

『メディ、を・・・たす・・・け・・・』

苦しみながらも彼女の背中を押し出したであろう、プラントドーパントの本体だった。

(そうか・・・そういう事かッ!!)

この瞬間、俺は全てを理解した。

 

───

──

 

(幽香サイド)

 

私は、独りだった。

風見幽香・・・それが、私の名前。

植物変異(プラントミューテーション)』・・・それが、私の個性。

植物を突然変異させられる個性。種を植えてから10秒で1m程にまで成長したり、本来有毒のはずの植物から毒が抜けたモノを作ったり・・・

でも、致命的な欠点がある。それは、変異させた植物が必ず・・・狂暴なモンスターになってしまうこと。ハエトリグサのような口があったり、蔦で周りの物を壊したり・・・

幸いにも生命力自体は落ちるらしいから、根元から斬ってしまえばすぐに死ぬ。だから、個性を使う時は刃物が欠かせない。コスチュームに付けた傘だって、刀を内蔵した仕込み傘。

そんな個性だからか、個性が発現して最初の内は皆から羨ましがられた。でも、保育園の頃。個性で大きな薔薇を咲かせた時・・・それをキレイと言って見ていたクラスメイトの腕に、その薔薇(バケモノ)は噛み付いた。

幸い命に別状は無く、回復系の個性を持つ子だった為に次の日には完治した。

でも、周りは許さなかった。

昨日まで遊んでいた子は、私が少しでも近付くと恐怖に顔を歪めて逃げ出すようになった。いや、違う。子供だけじゃない。大人も・・・親さえもが、私の一挙手一投足に怯えていた。

やがて無視はイジメへと変わり、それは小学校を卒業するまで続いた。

大人は、何もしてくれなかった。

 

中学なら、少しはマシになるだろう。そう思っていたが、そんな事は無かった・・・いや、それ以上だった。

下駄箱の扉には画鋲を貼り付けられ、上履きの中には剃刀の刃。机は《死ね!》《消えろ!》《バケモノ!》・・・挙げ句、《人殺し!》などの覚えのないモノまでが彫刻刀で彫り込まれていた。

その頃になると心は完全に冷めきり、機械的に毎日を過ごすだけだった。教室の左後ろの席でボロボロのノートにただただ板書し、あとは窓の外を眺めるだけ・・・その窓から見える風にそよぐ木々が、私の心を唯一慰めてくれる物だった。

それが大きく変わったのは、1年生の2学期。イギリスから転校生が来るという噂が流行っていた。しかも、私のクラスに・・・

 

──え~っと、席は風見の隣だ──

 

担任教師の声が聞こえたが、私は無視した。でも、ズタズタの机を見られるのは何となくイヤだったから、カバンを机の上に寝かせてその上に頭を伏せた。

 

──えっと・・・私、メディスン・メランコリー!よろしくね、カザミさん!──

 

無視した。どうせすぐ、他の奴らと同じになる・・・そう思っていた。

 

授業が始まるから机の横にカバンを戻すと、右から引きつった悲鳴が聞こえて来る。だがそんな事は気にせず、あっと言う間に午前の授業は終わった。

 

昼休み。私はお弁当など持っていないので、中庭を宛も無く歩いて暇を潰す。そんな時、彼女が・・・メディスンが、お弁当箱を抱えて私の袖を引っ張った。

 

──一緒に、食べよ?──

 

物好きな奴だと思いながらも、2人で中庭のベンチに腰掛ける。次の瞬間には、近くにいた奴らは全員消え失せていた。

メディスンは少し顰めっ面になりながら、そのお弁当箱を開く。ウィンナー、ブロッコリー、アスパラのベーコン巻き・・・普通のお弁当。

それを食べながら、メディスンは聞いてきた。虐められているのか、と。隠す理由も無いので、話す事にした。

 

すると、メディスンは自分のことも話してくれた。

個性は、『ポイズンマスター』。毒物を生成したり、体外の毒物を操ったりする事が出来るらしい。そしてメディスンも、虐められていたようだ。

しかし、メディスンは話の最後に自らの夢を聞かせてくれた。

 

──私はね、ヒーロー免許を持ったお医者さんになりたいんだ!私の個性なら麻酔だって作れちゃうし、ヒーロー免許があれば戦って人を助けられる!

だから、さ・・・応援して、くれるかな?──

 

その前向きさは、私の心を照らした。暗い闇が弾け、視界が広がったように感じた。だから私自身もヒーローになって、助け合っていきたいと・・・そう思った。

 

そんな私の太陽(メディスン)が今、私の枝に縛られている。

私のせいで・・・

 

誰でも良い・・・誰か・・・メディを、助けて・・・

 

─バキバキバキバキッ─

 

──ヴァラララララララララァァァ!!──

 

っ!光が・・・お願い!メディを助けてッ!!

 

(出久サイド)

 

「ドーパントがコイツを助けた、という事か」

「あぁ」

変身を解除した俺が状況を説明し、この少女・・・メディスン・メランコリーを見やる。周りには、俺が呼び寄せたライダーズ全員が集まっていた。

にしても、メディスン・メランコリーも確か東方projectのキャラだったな・・・となると、さっきの彼女は・・・

 

植物(プラント)〉        〈ユウカ〉

   〈メディスン・メランコリー〉     〈緑の髪〉

 

・・・風見幽香、だな。

「んぅ・・・ここは?」

と、どうやら目を覚ましたようだ。

「ぁ・・・ぁあ・・・お、お前、は・・・ッ!!」

「なっ!?」

俺を視認するなり、掌に毒液を溜めて跳び掛かって来た。その手をグローブで弾いて流し、バックステップで距離を取る。

「お前がッ!お前が幽香をあんなのにしたんだッ!!私は見た・・・お前が、幽香に何かしたんだ!幽香を戻してッ!!・・・戻してよぉ・・・」

・・・奴ら、質の悪い手ェ使いやがって!

「それは、俺に化けた(ヴィラン)・・・恐らく、渡我被身子(トガヒミコ)だと思う」

「あのイカレ女か・・・」

確か麗日は面識あったな・・・

「これで納得がいった。恐らく、士傑の金髪に化けて潜入していたんだろう。血液を経口摂取する事で、相手に変身する能力だったからな。そして血液性愛(ブラッドフィリア)持ちと来たもんだ」

恐らく、改造手術の時に血を採ってたんだろうな。

「俺らん所に来たのも、そのイカレ女か」

「多分な・・・さて、君の名前は?」

「・・・メディスン・メランコリー・・・」

やっぱりか。これはもう確定だな。

「じゃメディスン。その幽香って友達は、俺に化けた奴にこんな物を挿された筈なんだ。何処に挿されたか、見たか?」

そう言って俺はエターナルメモリを見せてみた。

「確か・・・首の後ろ、骨が出っ張ってる辺りだったと思う。それに、そんなツルンとした形じゃなかったし・・・」

「・・・ありがとう。良い情報だ」

ツルンとしてないって事は、普通のドーパントメモリだな。生体コネクターは、倒れ込んでたあの時に撃ち込んだんだろう。

「メディスン・・・彼女は優しいな」

「え?」

キョトンとするメディスンに目線を合わせ、俺は続ける。

「あそこまで暴走していれば、本来であれば自分を保てない・・・だが彼女は、苦しみの中で君をあの枝の中から押し出した。自分も助かりたい筈なのにな・・・なぁ皆。彼女は救われるべきだと・・・そう思わないか?」

俺が視線を向ければ、全員が頷いた。

「ならば、答えは一つ・・・俺達仮面ライダーが、幽香さんを救おう」

「それがヒーローだからね!」

「要は、本体引っ張り出しゃ良いんだろ?やってやんよ!」

「それが、この力を得た目的やもんね!」

「鳴るぜ腕がッ!」

士気は上々だ。

「だが悪い、今回はダブル(俺達)に任せてくれ。何せ変身者がデリケートなんだ」

そう言うと、他のメンバーは渋々と引き下がった。

「・・・ホントに、幽香を助けてくれるの?」

「あぁ。それが俺達の・・・使命みたいなもんだからな。と言うか、今の所ドーパントにされた人間を救えるのは俺達だけだから」

だから、絶対に救う。

「だから、待っててくれ。必ず彼女を救ってみせる」

「ッ!・・・お願い!待ってるから!」

「その欲望(のぞみ)、確かに効き届けた!「変身ッ!」」

【エターナル!ジョーカー!】

俺と三奈はダブルに変身し、エクストリームが俺の身体を回収した。

『三奈、今度は初っ端からエクストリームで行こう。攻略法が分かる』

「オッケー!」

【フォロロラン~♪】

俺達がドライバーのスロットを閉じると、エクストリーム自動的にドライバーに装填される。その両端を掴み、左右に開けば・・・

 

【【エクストリーム!~♪!~♪♪♪!~♪~♪~!!】】

 

俺達の頭脳は地球という無限の情報庫(アーカイヴ)に直結し、心と身体は1つに融合した。

身体の中央を走る、ブルーフレアを取り込んで水色になったクリスタルサーバーが強く輝く。その瞬間、プラント・ノヴァの情報を総て閲覧した。

『・・・成る程。大体解った。行くぞ三奈!』

「うん!」

その情報を作戦と共に共有し、プラント・ノヴァに向けて駆け出しながらクリスタルサーバーからダウルビッカーを召喚する。更に過剰適合進化者の義眼(アイズオブハイドープ)を起動し、メモリを3本取り出してビッカーヘキサシールドのマキシマムスロットに装填した。

 

【ダウルダヴラ!】

 

【シュルシャガナ!マキシマムドライブ!】

 

【イガリマ!マキシマムドライブ!】

 

そして切断に特化したシンフォニックメモリのマキシマムを発動し、そのエネルギーをダウルセイバーとヘキサシールドに籠める。

そのグリップを握ってを抜剣すれば、緑と青のエネルギーが刀身に、ピンクのエネルギーがシールドを覆った。

そのエネルギーはダウルセイバーとヘキサシールドを、それぞれ大鎌と丸鋸へと変える。

そのまま俺達は、シールドの鋸を回転させて襲い来る蔦を斬り払いながらプラント・ノヴァへと距離を詰めた。気がつけば、もう技の間合いだ。故に、俺達はその技を繰り出す。

まず、イガリマとの共振増幅によって巨大な丸鋸と化したヘキサシールドを勢い良く投げつけた。鋭い鋸刃は太い幹を瞬く間に切断、プラント・ノヴァを根元からスッパリと切り離す。

しかしまだ終わらない。今度はその切り口に向けて、両手で構えた大鎌を───

 

「『セイバー!ザババツインズ!」』

 

───フルスイングで振り抜いた。

すると、途端に土台が再生を止める。当然だ。本体からの命令を断ち切ったんだから。

このプラント・ノヴァは、普通に斬り裂いただけでは恐らく瞬時に再生してしまうだろう。それは何故か・・・単純明快。まだ()()()()()()からだ。

本体から斬り飛ばされても、エネルギーそのものはまだ何とか繋がっている状態だった。それを辿って再生する。

ならば、その(繋がり)を断ってしまえば良い。

本来ならば、そのエネルギーの周波数に干渉するエネルギーを当てなければならない。しかしイガリマは、そんな物を無視して繋がりを断てる。

そして帰って来たシールドをキャッチし、今度は 頭上に倒れてくるその幹を盾鋸の縁で斬り裂いた。

後はもう核となる本体だけだ。その本体であるプラントドーパントは、天狗巣の中から足を引きずって出て来る。

『・・・メディ・・・メディ・・・』

「もう大丈夫!あの子は助けたよ!」

『今度は君の番だ。必ず助けるからな!』

『ア・・・アリ・・・ガ・・・ト・・・』

何て強靭な心だ。ガイアメモリの毒素はまず精神に来る筈なのに・・・もしかして、俺みたく元々相性が良かったから毒素の効きが薄いのか?まぁ今はそんな事どうでも良い。

『行くぜ、三奈。合わせろよ?』

「勿論!」

俺はメモリを3本召喚しながら、再び過剰適合進化者の義眼(アイズオブハイドープ)を起動。その3本をコンバットベルトのマキシマムスロットに装填した。

これを使えば、最小限の力でメモリブレイクが出来る筈だ。

 

【バイオレンス!マキシマムドライブ!】

 

【クイーン!マキシマムドライブ!】

 

【ユニコーン!マキシマムドライブ!】

 

バイオレンスのエネルギーを右手に、クイーンは左手に・・・そしてユニコーンは、両手に均等に流し込む。

そしてドライバーのエクストリームメモリも一旦閉じ、再び左右に開いた。

 

【【エクストリーム!!マキシマムドライブ!!】】

 

それによりクリスタルサーバーが強く輝き、ガイアアーカイヴからのエネルギーを溜め込むタンクとしての機能を発揮し始める。

 

『「ヘルッ!!アンドォ・・・ヘヴンッ!!』」

 

両手を広げると、エクストリームのマキシマムによって増幅したエネルギーが両腕からオーバーフローを起こして強い輝きを放った。

 

『「ゲム・ギル・ガン・ゴー・グフォ・・・むんッ!!』」

 

その両手を組み合わせる事で反発しあうエネルギーを無理矢理融合させ、それによって発生する対消滅エネルギーをユニコーンのエネルギーに転換する。組み合わせた手から細長く鋭いドリル状のエフェクトが現れ、高速回転を始めた。

更にバックルのエクスタイフーンから竜巻状のエネルギーを飛ばしてプラントドーパントを固定し、標的を外さないよう狙いを定める。

そして、クリスタルサーバーに溜め込んでいたエネルギーを背中から一気に放出。プラントドーパントに向けて突貫した。

 

『「ウオォォォォォォォォオッッ!!

 

ウィィィィィタァァァァァァァァッッッ!!!!』」

 

─パキンッ─

 

そのドリルはプラントドーパントの首を・・・その中にあるドーパントメモリを正確に貫く。それと同時に、そこからユニコーンのエネルギーを流し込んだ。ユニコーンには強力な解毒能力がある。ソレを利用して、体内を洗浄したのだ。

『「ムゥンッ!ハァァアッ・・・デェリャァ!!』」

そして、ドリルエフェクトが霧散した腕を引っこ抜く。その手の中には、砕けたプラントメモリがあった。

「・・・ん・・・ぁ・・・ぁれ?わ、たし・・・」

すぐに目を覚ました幽香さん。良かった、上手く行ったらしい。

「大丈夫?」

「あ、あなた、は・・・」

そう聞かれれば、名乗らなきゃな。

『「(あたし)達は、仮面ライダー・・・仮面ライダーダブル!』」

「あの・・・仮面ライダー?」

『あぁ、その通りだ』

エクストリームを閉じてメモリを引き抜き、変身解除。分離した俺は腕を引っ張って幽香さんを抱き起こし、その肩を支える。

「私を、助けてくれたの・・・?」

「まぁな。それが俺達の生き甲斐だから」

「変わってるのね・・・ッ!!」

 

─ドンッ─

 

「なっ!?」

幽香さんは突然、俺を突き飛ばした。その瞬間・・・

 

─バキバキバキッ!─

 

地面を砕いて大量の蔦が現れ、幽香さんを縛り上げる。

「くっ、やっぱり・・・コイツ等、まだ生きてっ!」

「プラントとの相乗効果で生命力が強化されたか!変身ッ!」

【エターナル!~♪~♪!】

コレは拙い。俺はすぐさまロストドライバーを装着しエターナルに変身した。しかし、その頃にはもう幽香はモンスタープラントに閉じ込められてしまっている。

「かっちゃん!フラン!悪いが根元の方を頼む!」

「了解!」「わぁったよ!」

【タブー!】【ガァキガキガキガキガッキィィンッ!!】

タブーとグリスブリザードに根っこ側を頼んで、俺は考えを巡らせる。そして最適解をコンマ3秒で叩き出し、実行に移した。

【ガングニール!】

「詠装!!

 

I'm that Smile Guardian GUNGNIR tro~オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛ン゛ッ!!!!」

 

俺はガングニールを纏い、脚のパワージャッキで飛び上がって背中のバーニアスラスターを噴かす。そして両腕にエネルギーを溜め込み、強く歌いながら殴りつけた。

周りから蔦が襲いかかってくるが、ジュッという音と共に消え失せる。

「背中は任せたぞ!」

「任された!」

酸液で援護してくれる三奈に背中を預け、俺は歌を再開した。殴る毎に拳は加速し、蔦を千切り飛ばしていく。

そしてフックで蔦を大きく抉った時、幽香さんの手が蔦越しに見えた。そして・・・

 

─たす・・・けて・・・─

 

弱々しい声も聞こえてくる。

(助けるッ!絶対にッ!!)

俺は更にスパートを掛け、歌を強く響かせる。そして遂に蔦で出来た壁を、拳で貫いた。

「掴めッ!!」

その声に答えるように、俺の手が掴まれる。弱々しくも懸命に生きようとする意志が籠もった、強い手だった。

「ヌゥゥゥアァッ!!」

 

─ブチブチブチブチッ─

 

その手をしっかりと握り、一気に幽香を引っこ抜いた。そしてすぐさま背中のバーニアで退却。当然蔦は追ってくるが・・・

「させるかッ!!」

 

─バシャッ ブシュゥゥゥゥ─

 

すぐさま三奈が酸で溶かした。見てみれば、タブーとグリスブリザードのおかげで根っこも処理出来たようだ。

「ミッション、コンプリート」

俺はシンフォニックメモリを引き抜き、三奈と肩を並べる。そして復元されたエターナルローブで幽香を包み、横抱きにして抱え上げた。

「え、ちょっ!?///」

「悪いが、こっちの方が早い。バイクに乗せようにも、しがみ付けないだろ?それに、君のお友達が待ってる」

俺はそのまま足に力を込め、揺れは最小限にしてメディスンの元に駆け出すのだった。

 

(NOサイド)

 

「フ~ンフ~フフ~ン♪」

ご機嫌に鼻歌を歌いながら、士傑高校の現身(うつしみ)ケミィ・・・否、それに化けた何者かは路地裏に入る。

試験会場からは、得意の潜伏術と逃走術で難無く脱出していた。そしてその顔がドロドロと溶け始め、本来の顔・・・渡我被身子の顔が現れる。

「お疲れ様です、渡我被身子さん」

すると、その背後に黒いスーツを着た何者かが現れた。声に反応した渡我は其方を振り返り、見てくれだけは可愛らしい笑顔を浮かべる。

「あ、黒服さん!お迎えありがとうございま~す♪」

「では行きましょう」

黒服が壁に向けて銀色のカード・・・《ビゼル》を翳すと、空間が湾曲し真っ黒な穴が出来た。

「・・・新しい血の匂いがしますね~、またスカウトですか~?」

「えぇ。多いですからね最近は。低脳なチンピラや、不法入国をして来る輩が。大いに捗っていますよ、実験がね。

まぁ、今の所アスファルト行きです。全員が・・・まぁ、最低限貢献してくれていますよ。拠点の土台作りには」

そう言って肩を竦める黒服。

「私も早くメモリが欲しぃですね~♪」

「いつか、見繕ってあげましょう。アナタにピッタリなメモリを。今日の実験を手伝っていただいた・・・所謂、バイト代として」

「ホントですか!?楽しみです~♪」

軽やかにスキップしながら、渡我は穴に飛び込んだ。そして黒服もそれに続き、最後に穴が閉じる。

 

その月は、チンピラやゴロツキといった低級な(ヴィラン)の行方不明者が過去最高を記録していた。

 

to be continued・・・

*1
それでも2mはあるのだが

*2
地上10m程




「今回ちょっと長くね?」
『区切りの良い所が見つからなかったんだよ。わりぃな』
「ったく・・・本編で出られない分、こっちで喋らせて貰うぜ」
『どうぞご自由に』
「じゃあまず、プロヒーロー達は何で動かなかったの?」
『書けてなかったけど、ステージ・グリスとステージ・サイクロンの時に出久が「足手纏いになるから戦いには参加するな」って電話で指示した』
「ウッヘ、手厳しい」
『だって当然だろ?彼処にいたのは確か、オルカとイレイザーとギャグ・・・ごめん他にいたっけ?
少なくとも動けるんはこれぐらいだったと思う。でも相性最悪なんだよ。

オルカ:柔軟性のある植物組織は超音波では砕けない。

イレイザー:封じられるのは個性の()()()()()だけ。すでに変異を遂げて個性の影響下から外れたミュータントプラントには効果が無い。

ギャグ:植物は笑わないし、効果範囲は半径10mも無いのでノヴァの上にいる本体には届かない。

な?相性最悪だろ?』
「うっわ確かに・・・」
『更に言うと、真堂の地震でも根っこは竹みたいに地下茎になってるから地面を割る事も出来ないし、イナサの風でも直径5m以上ある木はへし折れないだろうからな』
「最悪やん」
『と言う事で、ライダー達だけで戦う事になりました。かっちゃん達が上手く食い止めたから、受験生達の方にも行かなかったしね。
では、閲覧ありがとうございました!』
「次回!俺ちゃんの出番に乞うご期待!」
『ゴメン、そこはノープランだわ』
「ウワァァァァァァァ!!!!(OMO)」


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第12話・救出C/仮免取得!

『ヨッシャ!』
「どうした糞作者」
『俺をオタクになるように洗のゲッフンゲフン英才教育を施してくれた師匠に褒められたぜ!!』
「あ、そう。じゃ、どうぞー」
『拗ねんなよお前よ・・・』


(出久サイド)

 

「幽香!」

「メディ・・・」

俺が抱える幽香さんが視界に入るやいなや、メディスンは猛スピードで駆け寄って来た。

「幽香、大丈夫だった?」

「えぇ、平気・・・ではないわね。凄く疲れてるわ・・・でも、大丈夫よ」

「良かったぁ~!」

そう言って幽香さんに抱き付くメディスン。余程心配だったんだろうな。

「緑谷さん・・・幽香を助けてくれて、ありがとう!それと、ごめんなさい。さっきは襲いかかっちゃって・・・」

そしてメディスンは此方に向き直り、ぺこりと頭を下げて謝罪してくれた。

「別に気にするな。友達の(カタキ)と同じ顔をした奴が居れば、ああなって当然だ。さぁさ、そろそろ合否発表だぜ?」

「出久~!速すぎるよ~!」

と、後ろから三奈達も追い付いてきたようだ。

「飛んでも振り切られるて・・・」

「エターナルのスペック高過ぎだろオイ」

「しかも、人1人抱えて尚且つ揺れを最低限に抑えながらでもあれだからね・・・」

「おーい!待ってくれ~!」

「ハァ、ハァ、はぁ~・・・あぁ~やっと落ち着いたぁ・・・」

ローグはバードのソレスタルウィングで、グリスブリザードはブリザードチェストアーマー背面のフローターユニットからの噴射によるジェット飛行で飛んで来た。フランも同じく飛行。

そして三奈とクローズは走って来たみたいだな・・・そういや、万丈もクローズチャージの時にヘリコプター使ったグリス達に一人だけおいてかれてたっけ。そんで徒歩で何とか合流するという・・・

「・・・あ、そうだ幽香さん。体内はユニコーンの浄化作用で毒素洗浄したけど、念の為精密検査受けてくれるか?俺の息の掛かった、腕の()()医者を紹介する・・・幽香さん?」

 

「えっちょっと待って今ナチュラルに名前呼びされた?私を怖がらずに?待って待ってそう言えばさっきまでお姫様だっこだったしえ?え?何?ヤバいハズカシいメッチャドキドキするブツブツブツブツブツブツブツ・・・」

 

・・・あ~ぁあ、顔は真っ赤で目がぐるぐる、そんでもって物凄い早口な独り言・・・コレはアレだ。経験不足から来るコミュニケーション時の脳内処理のオーバーフロー・・・所謂、緊張系コミュ障というやつだな。

「どうどう、落ち着いて・・・ダメだ聞こえてないや」

「あ~、スイマセン・・・幽香、初対面の人と話せなくて・・・」

「まぁ良いさ。あの物凄い早口な独り言は、頑張って今の状況を処理しようとしてるって事・・・つまり、俺とのコミュニケーションを拒絶してはいないって事だ。こんなに早く心開いてくれるって事は・・・どうやら、最低最悪から2番目な事はされなかったみたいだな」

「え?どういう事」

三奈が聞いてくる。まぁ、いじめを受けた経験無いだろうからな。

「一旦友好的な態度で近付いて、ターゲットが心を開いて懐いた瞬間に即蹴落とすっていうやつ。強い人間不信を生む効果がある、質の悪い精神攻撃さ」

「・・・ちなみに最悪なのは?」

「集団暴行からのレイプルート」

「確かに最悪だ」

顔をこれでもかとしかめながら、ライダーのメンバーは頷く。

『え~皆さん、此方にご注目下さい』

そんな事をしていると、ヒーロー協会の目良(めら)さんがマイク越しに声を上げた。

『え~トラブルがありましたが、其方は仮面ライダーの方々が迅速に対応して下さった事で無事収束致しました。ですので、これより合否発表を執り行いたいと思います』

ほう、漸くか・・・オーバーフローしていた幽香さんも顔を引き締め、目良さんの方向に向き直る。

『合格者の皆さんは、此方に名前が表示されます。各自で確認して下さい』

目良さんの後ろの液晶ディスプレイ合格者の名前が五十音順に並んだ。ま、み、み、み・・・よしあった、緑谷出久(俺の名前)

「受かったー!」

「私もー!」

「ハッ、当然だ」

「私も受かったー!」

「よっしゃー!」

お、仮面ライダーズは全員受かったっぽいな。そして・・・やっぱり、あった。“風見幽香”と、“メディスン・メランコリー”の名前。

「あ、あぁ・・・良かった・・・」

「やった!」

「おめでとう、幽香さんにメディスン」

感激する幽香さんの頭をポンポンと撫でる。

「っ!!ぇえ!?」

「あぁいや・・・態度的に、甘えられる相手がいなかったのかな~と思ってな・・・不快だったなら済まない」

「い、いえ!そ、そんな事は・・・あ、あぅ~・・・」

ふむ。慣れていないんだな。

「・・・出久」

 

──ぞわっ──

 

「・・・三奈、どうかしたか?」

「・・・女っ誑し」

「ぐうの音も出ん・・・ごめんな、最近ほったらかしちまって」

あ~ぁあ、最低だな俺は・・・

「・・・今日、疲れたからさ。今夜マッサージしてくれたら許す・・・2人っきりでね?」

俺の胸板に背を向けてポスっともたれ掛かり、頭をぐりぐりと擦り付けてくる三奈。甘えたがりモードだな。

「オーダー了解・・・」

そう言って、俺は三奈の頭をくしゃっと撫でる。すると、三奈はにんまりと笑みを浮かべた。機嫌が直ったようで何より・・・

しかし、轟の名前が無かったな。矢張り喧嘩したのは大きな減点らしい。

 

「轟ィ!ごめんッ!!!!」

 

あ、また夜嵐イナサが地面頭突きした・・・まぁ良いか。

『え~全員、ご確認頂けましたでしょうか?続きましてプリントをお配りいたします。採点基準が書かれているので、しっかりと目を通しておいて下さい』

回されて来たプリントを受け取り、すぐさま目を通す。気になる持ち点は・・・

「ワォ、まさかの96点か」

「凄すぎない!?」

俺の結果を聞き、フランが飛んで後ろから抱き着いて来た。そして俺の肩越しにその成績プリントを見る。

「ふむ、避難させる時にテレポートさせたが・・・どうやら転移先の見通しが甘かったらしい。4点はその辺だな。フランは?」

「私は87点。上から探してたんだけど、弾幕で瓦礫を壊して救出したのが荒っぽかったみたい・・・」

「あ~・・・アタシは78点。あんましキビキビ動けなかった所だって」

ともあれ、ライダーズは無事に仮免取得達成だ。

「これで、一段落だな!」

 

─────

────

───

──

 

「ふぅ~、終わったな~」

あの後、二次試験で落とされた奴にも救済措置はあると説明された。そして俺達は免許証(ライセンス)を手に入れ、晴れてセミプロだ。

それと、士傑の奴等にはあの金髪ロング──現身ケミィというらしい──が実はソイツに変身した(ヴィラン)だった事も報告した。士傑や警察で探すらしい。残念だが、そっちの協力は出来そうに無いな・・・

「じゃあ先生、俺は幽香さんを永遠亭に連れて行きます」

「おう、頼んだぞ」

【ボーダー!マキシマムドライブ!】

俺は相澤先生に断りを入れてスキマゲートを開き、幽香さんに向き直る。

「じゃあ幽香さん、ついて来て」

「・・・かで良い」

「ん?」

「幽香で、良い。さん付けは、何というか・・・他人行儀な感じがするから・・・それと、そっちも素の口調で大丈夫よ」

「・・・分かった。じゃあ俺は出久で良いぜ、幽香」

ふむ、気を許せると判断するとトコトン心を開くタイプかな?

そんな事を考えながら、幽香の手を引いてスキマゲートを潜った。すると、辺りに甘いような竹林特有の薫りが広がる。そして目の前には永遠亭の玄関があった。

「凄い・・・万能なんじゃないの?あなた・・・」

「・・・万能だな、ほぼ」

地球上の総てを力に出来るからな・・・何このチート。

それはさておき、俺は永遠亭のインターホンを鳴らす。すると中からパタパタという足音が聞こえ、勢い良く戸が開いた。

「は~いどちら様・・・出久さん!」

「おぉ、鈴仙(れいせん)か」

俺を出迎えたのは、紫の髪を膝裏辺りまで伸ばした女学生服姿の女・・・優曇華院(うどんげいん) 鈴仙(れいせん)だった。

「久し振りだな。どうだった?ドイツ陸軍での衛生兵生活は」

「楽しかったですよ!皆さんとっても面白くて尚且つ紳士的な人達でしたし、ご飯も美味しかったです!」

「そりゃ何より。幽香、紹介しよう。コイツは優曇華院鈴仙っつって、ここの主治医兼所長である八意永琳のサイドキックだ」

「そ、そうなの・・・」

ありゃ、やっぱり慣れない人は恐いかな?

「ゲリラの洗脳兵だったのをえーりんが拾い上げて叩き直したんだとさ。格闘術はかなりの物だ」

「ふふーん♪」

得意気に胸を張る鈴仙。だがまぁ・・・

「俺には勝てなかったけどな」

「う゛っ!?そ、それを言わないで下さいよ~!」

そう、前回手合わせした時は俺が勝ったのだ。まぁ相手が悪かっただけだが・・・

「まぁ良い。急患だよ。永琳出して」

「私をお探し?」

俺が名前を出した途端、塀の後ろから永琳が現れた。

「あぁ。この子なんだが、無理矢理ドーパントにされちまってな。メモリの毒素はユニコーンで浄化したが、念のためだ」

「ふむ、成る程。じゃ、取り敢えず診察してみましょうか。アナタ、名前は?」

「あ、えと・・・風見、幽香です」

「そう。じゃあ風見さん、どうぞ此方へ」

「あ、はい」

永琳に案内され、幽香は永遠亭に入って行く。さて、もう1つ用事済ませるかな。

「ゴギデップー!ギスンザソグ!」

「ゴセヂャン ゾ ゴガガギ?」

「わっ、ウェイドさん!?」

俺が呼び掛けると、縁側の方からにゅっとデップーが現れた。と言うか鈴仙は本名呼びなんだな。

「ドギグバ!ゴセヂャン ゼダン グ ババダダン ゼグベゾ!?ズェズェズヅヅ ビ バデデ ジャドドゼサセダ!」

「え?え?」

地団駄を踏んで怒り出すデップー。グロンギ語が解らない鈴仙はオロオロしている。

あぁ、うん・・・平行世界から注目されなかったのかな?つか相変わらずメタいな、出番って・・・待てよ、《フェーズ2になって》?一区切り付いてんのかよ・・・オール・フォー・ワンの時だな。それかワン・フォー・オール継承の時。

「ドボソゼ・・・ジョグゾグ パ ガスバ? ン ()()()()()()

「ガガ・・・ゾグロ ガギビン・ジュブゲズレギ ビ バス ヴィサン グ ゴゴギ サギギ。バンゼロ・ブソギ ググヅ ン ゴドボ ド ギショショビ グサソジ ゼ ビゲスンザドバ・・・ボセデデ ボンゴ ン ズブゲン ビ バシゴグ バ ビゴギ グ ムンムン グスジョベ」

「ゴラゲ グ ギグバサ ゴグバンザソグバ」

ったく、まぁたコイツはメタ発言を・・・

「ジド グ ビゲス バ・・・ゴゴバダ・ジベベンザギ ザソグバ。ガシバドグ。もう日本語で良いぞ」

「クソ作者!もっと俺ちゃん出せよ!散々待たせやがって腐れ根性のクソ野郎!!Goddamn!!Fuck!!」

「日本語の開口一番で壁の向こう側に向けて罵倒吐くの止めい」

全くもうコイツと来たら・・・

「デップー!玄関先で喚かないで!あら出久君、いらっしゃい」

「久し振りだなレックス」

レックスも出て来たよ。

 

「オギャー!」

 

・・・金魚草の植木鉢持って。

「お前も相変わらず金魚草か?」

「まぁね☆」

ウィンクすな。

「お、誰かと思えば親父か」

「あ、お父さん!」

ジンとハルカも・・・親父?お父さん?

「・・・あぁ、元々コマンダートルーパーだからか」

いやぁびっくりした・・・でも、何か複雑だな。童顔なハルカは兎も角、ギリギリ未成年に見えない事もないって感じの見た目したジンに親父って呼ばれるのは。

「ウィルはどうした?」

「ゲンムⅡ変身時のバックファイアを抑える為に、バグスターウィルスとの繋ぎになって親和性を上げるウィルスを投与して体内で培養中よ。最近ちょっと寂しいわ」

ぷくっとむくれるレックス。あぁどうしよう、三奈もこんな感じだったんだろうか・・・

「オ~イ糞作者~!また俺ちゃんを空気扱いする気か!!

ちょっとセリフ減ってんよ~?

良くないゾ~コレ。

頭に来ますよ!

ぬわ~ん無視やだもぉ~ん!ムシヤダ・・・

止めて欲しいですよ~、シカト~。

もう悲しすぎて涙がで、出ますよ?

あ~泣きそ」

「情緒不安定か」

淫夢語録を喚き散らすデップーに、流石の俺も引いた。と言うかレックスの目が養豚場の豚を見る目になってるんだけど・・・

「ったく・・・ん、終わったかな?」

ふと、永遠亭の中から此方に向かってくる2つの気配に気付く。

 

─ガラッ─

 

「お待たせ。問題は無かったわよ」

玄関から出て来てすぐに問題無い事を伝えてくる永琳。そしてその後ろから幽香も出て来た。

「よし、じゃあ帰ろう。ありがとな永琳」

「良いって事」

そう言って手を振る永琳。

「もう空も赤くなってきてるし。俺のエターナルボイルダーで送るから、道案内宜しく」

「え?えぇ、分かったわ」

【ボーダー!マキシマムドライブ!】

 

───

──

 

俺はスキマゲートを開き、先程の試験会場に戻った。そしてエターナルボイルダーを呼び出してイグニッションキーを回し、エンジンを掛けて跨がる。

「ほら、後ろに乗って・・・幽香?」

 

「え、待って?後ろに乗るって事はしがみつかなきゃ」

 

あぁ、バイクの相乗り初めてだったか・・・

「大丈夫だから。ほら乗りな?」

そう言ってヘルメットを渡す。フェイスガードが無い、ゴーグルとセットのやつだ。

「ぇ・・・い、いやでも!か、彼女さんがいるんじゃ・・・」

「バイク以外だとお姫様抱っこで跳ねていくしか無いんだよな~」

「失礼します」

おう、ストンと乗ったね。俺の腰もしっかりホールドしてるし。

「じゃ、出発!」

 

───

──

 

「ねぇ、出久さん。あなた確かテレポート出来るわよね」

喉が渇いたので近場だったnascitaでコーヒーを飲んでいると、唐突に幽香が質問してきた。

その手に持ったアイスミルクティーのグラスが揺れ、氷がカラッと音を立てる。

「あぁ、持ってるよ?ゾーンのテレポートと、さっき見せたスキマゲート」

「それで送れば早かったんじゃない?」

ごもっともな質問をされた。

「あ~、それなんだけどな・・・別に、大した理由じゃない」

一旦切って、コーヒーを流し込む。

「ただ、俺が久々にバイクに乗って風を浴びたかっただけさ。ごめんな、嘘ついて・・・」

幽香に目を向けせてみると、その顔は優しく微笑んでいた。

「別に良いわよ。私も初めてバイクに乗せて貰えたし、良い経験になったわ。それに・・・風を身に受けるのも、結構気持ち良かったし」

「そりゃ何よりだ」

残りのコーヒーをグイッと呷り、会計に向かう。バイトの時間外なので、今は椛さんは居ない。

「460円ね~」

「ほれ500円。釣りはとっといてくれ」

「オイオイ~、それは千円とか出していうセリフだろ~?この中途半端な額じゃ、カッコつかないぜ?」

「喧しいわ」

そんな愉快な遣り取りが有りつつ(こんな事言っといてちゃっかりとお釣りはレジに入れてやがるよ・・・)、俺達はnascitaを出た。エターナルボイルダーのエンジンを掛け、ヘルメットを被って跨がる。

「よし、準備は良いか?」

「何時でも!」

「よし!」

俺はスロットルを回し、幽香に聞いた脳内マップに従って走り出すのだった。

 

(NOサイド)

 

─ゴリッ ボリッ ぐちゅ くちゃ ごくっ─

 

闇の中で、何かを咀嚼し飲み下す音が響く。()()()()()()の上にはこれまた赤黒い血糊がこびり付き、肉片も転がっていた。その上にある、非常階段から零れ落ちてきたものだ。

しかしその肉片には、人間には無いような外骨格や長い舌、杭のような牙の並ぶ顎などがある。そしてその異形の肉片を貪るモノもまた、常人が見れば気絶してしまうであろうグロテスクな異形であった。

 

───鋭く尖った節足が生えた、赤黒い甲殻を纏う長い蛇のような下半身───

 

───リストブレイドのような節足が収納された、赤い腕───

 

───首元から生える、鋭い毒爪───

 

───真っ黒な単眼を三対持つ、触角の生えた頭───

 

そのバケモノは、自らの餓えを満たす為に自身が殺したその異形・・・『道の記憶』の怪人(ロードドーパント)の肉を一心不乱に口へと掻き込む。グッチャグッチャと粘着質な音を立ててソレを噛み砕き、胃袋へと飲み下した。

「ッ!」

そのバケモノは外敵の気配を感じ取り、非常階段の歪な柱にしがみついて同化する。薄暗い路地では、それだけで十分な擬態になっていた。

「全く、また食い荒らして汚しましたねぇ、

通り道を・・・」

呆れながら現れた黒服の男は、悪態を吐きながら壁にビゼルを翳す。すると、空間湾曲によって真っ黒なワームホールが現れた。そこは偶然にも、バケモノがしがみついている柱のすぐ右だった。

そしてバケモノは、御世辞にも人とは言えないまでに低下した知能で思い出す。その穴は、自分がこの場所に来た時に連れ込まれた穴だと。

「キィ・・・ッ!?」

自らをこんな場所に閉じ込めているその黒服に対し襲い掛かろうとするバケモノ。しかし、野生の本能が感じ取った。

 

《 コ イ ツ と や れ ば 、 こ ろ さ れ る ! 》

 

その本能の警笛に従い、バケモノは身を引っ込める。

「さて、今日も行きますかね。バカな実験台の収穫に」

そう言って黒服は穴の中に消えた。ソレをみたバケモノに、再び本能が囁く。《コレに入れば、外に出られるぞ》と・・・そして再びその囁きに従い、バケモノは素早く穴に飛び込んだ。

 

「ッ・・・ッ!!」

 

ふわっと舞う、湿度を含んだぬるい風。無風な空間に閉じ込められていたバケモノにとってソレは、自らが監獄から解放されたという証明だった。

「キチチチチチチッ」

バケモノはすぐさまそこを離れ、マンホールを見付けて開ける。下水道に繋がるソレからは凄まじい臭気が立ち上るが、バケモノにとってそれはどこか心地良いものだった。

一瞬の躊躇も無く、バケモノはマンホールの中に入る。

 

(あたか・・・じめ め、き ちい・・・お か、いっぱ・・・ねむい・・・ねよ)

 

雑菌だらけのぬめりに身を倒し、眠り始めるバケモノ。先程喰らったものを消化する為だ。

そして、そのバケモノのナニカに惹かれてか、下水道の住人が集まり始めた。

それはさながら、自分に甘える子供と眠る親のような・・・おぞましくも、美しい光景であった。

 

to be continued・・・




「やばくない?」
『まぁね。下手くそだけど・・・あとごめんな?出してやれなくてよ』
「・・・ふんっ。まぁ、今回だけは許してやるよ」
『誰得なんだよそのツンデレ』
「許して損した」
『では次回、お楽しみに!』


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第13話・闇内のS/敵の影

『前書きで語ることはあんまり無い』
「ではどうぞ」
『今回の序盤、かなり強引で下手くそな流れがあります。ご注意下さい』
「え、何ソレは」
『出久が一線越えた』
「ファッ!?どう言うことだもうちょいkwsk!!」
『ではどうぞ~♪』
「オイゴルァ!!」


(出久サイド)

 

──出久、待ってたよ。遅かったね──

 

──ん、フランちゃんの事?済し崩し的に参加することになっちゃった。ゴメンね?──

 

──・・・全く・・・ねぇ、ヘタレな出久。こういう言葉、知ってる?──

 

──据え膳喰わぬは男の恥・・・♥──

 

─────

────

───

──

 

「・・・んぁ」

朝だ・・・置き時計を見てみれば、午前5時半。日頃からの習慣とは凄いもので、昨日あんだけ盛ったのにしっかり目が覚めちまったよ。

そして俺が()()()()掛け布団を捲れば、両サイドにはピンクのネグリジェを着た三奈とフランが寝ていた。

何があったかというと・・・

「うん・・・やっぱり、夢じゃなかったか」

昨晩、2人とヤっちゃったのだ。

いやはや、三奈とフランの相部屋に来てくれってメールに従ったらネグリジェ姿の2人が待ち構えてたのには驚いたわ。しかも悶々としながらも何とかマッサージを終えて帰ろうとしたら、今度は2人掛かりでベッドに押し倒される始末。

結果、据え膳喰う筈が逆に喰われかけた。と言うかフランには吸血方面(別の意味)でも喰われた。まぁ、序盤でマウント捕ったけど・・・

しかも2人ともゴム持ってると言うね。何でも、職場体験の時にレックスから渡されたんだとか。何やってんだアイツは。セクハラ案件だぞ・・・

「・・・起きるかな」

夏休み明けてなくて良かった・・・等と思いながら、左首筋に出来たフランの吸血痕(キスマーク)をなぞる。

取り敢えず、シャワー浴びよ。

 

───

──

 

「ふ~、サッパリ」

30分程シャワーを浴びてサッパリした俺は、ワシャワシャと頭を拭きながら脱衣場を出る。そう言えば昨日ダミーの擬態を解いたから、全身の傷跡が丸見えだな。ちゃっちゃと掛け直しとこ。

「んぅ~?」

「いずくぅ~?」

あ、起きた。

「おはよう。三奈、フラン」

「ん~、おはよ・・・ふぁ~・・・」

「おはよ~」

三奈はまだ眠そうだな。まぁ仕方無いか。騒音対策としてスキマスペース内でヤったから、音を気にせずかなり激しく喰い合ったし。

「いずくぅ~♪♥」

ふにゃっとしか声で俺を呼び、手を広げる三奈。その仕草は、甘えたいというサインだ。

「ほら」

「ん~♥」

俺がぎゅっと抱き締めると、三奈は幸せそうに顔を綻ばせる。そして俺は、そのまま三奈の唇を奪った。

「っ!~♥」

三奈も驚いたようだが、すぐにキスを受け入れる。

 

─ちゅるっ くちゅっ じゅっ じゅぷっ─

 

「んむぅッ////!?」

その油断している唇に舌を滑り込ませ、三奈の口内を這いずらせた。

歯を撫で、歯茎をなぞり、舌を吸い出してしゃぶりつく。ポヤンとしていた三奈も、流石に顔を燃やし目を見開いた。

「んっ、んくっ・・・ぷぁ・・・はぁ、はぁ・・・むぅ~・・・!」

最後に唾液を流し込み口を離すと、その唾液が細く銀の糸を引く。その細い橋は間も無くプツンと途切れた。塞いでいた口を開放してやれば、三奈はむくれて顔を赤らめながら睨んでくる。だが、それも可愛らしい上目遣いにしか見えない。

「・・・出久の、えっち」

「でも、目は覚めたろ?」

「・・・うん」

「いずくぅ~、私にも頂戴?」

三奈の手を取ってベッドから引っ張り起こすと、今度はほんのりと頬を染めたフランが舌を出してキスを強請ってきた。

「はむっ」

「んっ♥」

 

─ちゅるっ ぢゅっ─

 

勿論俺はフランの唇に吸い付き、舌を吸い出して絡め合う。頬内を舐め、自らの唾液をフランの口内にも流し込んで口を離した。

「ぷはっ。ちゅるっ・・・ごちそうさま♥」

「お粗末様♪よいしょっと」

そしてフランの手を掴み、此方もベッドから引っ張り上げる。

「さて、俺は部屋に戻って着替えてくる。また後でな」

「うん!」

「後でね~♪」

【ボーダー!マキシマムドライブ!】

 

───

──

 

俺はエターナルエッジを召喚し、ボーダーでスキマゲートを開いて部屋に戻った。専用に造った台座型充電器(プラグ直挿しでも充電可)からスタッグフォンを外し、カパッと開いて残量を確認。

「よし、100%っと」

まぁ、満タンなら丸4日は保つ超容量バッテリーだから0%になった所見たこと無いけど・・・

「・・・ん?」

相澤先生からメールだ。

 

──────────────────

 

緑谷

今日、お前等仮面ライダーには自由時間が与えられる事になった。仮免試験で、風見の救出と被害の縮小が出来た報酬だとさ。

届けを出せば、午後5時までの外出も認める。

以上。

 

──────────────────

 

メールも必要最低限なんだな、相澤先生は・・・

「まぁ良い。思わぬ休暇が入ったんだ。久々に、保須にでも行ってみるかな?」

仮免はもう持ってるからな。パトロールも出来る。

「さて、飯にするか」

俺は朝食を作るため冷蔵庫を開け、その中を漁るのだった。

 

─────

────

───

──

09:00

 

「ほら、来い」

俺はスキマゲートを潜って路地裏に下り、フランと三奈を急かす。

「ホントに便利だよね~」

「一瞬だもんね」

この2人、俺が保須に行くと言ったら案の定付いて来た。まぁ、ついでにデート出来るから良いんだけどさ。

 

 

「ほぉ~、結構修復されてるもんだな」

「こういうの見ると、やっぱりヒーローだけじゃ世界は回らないって分かるよね!」

「良く分かっていらっしゃる」

三奈の言葉は、最近の人間が忘れかけている事だ。

「さて、取り敢えず・・・」

【ビートル】

【バット】

【フロッグ】

【デンデン】

「ついでにコイツも、ほいっと」

【ギャーオッ!】

俺はメモリガジェットとファングを起動し、ライブモードにして放った。

「ん、どうしたの?」

「いやなに、最近物騒だからな。アイツ等がゴタゴタを見つけ次第、俺達が向かうんだ」

と言うかここだけの話、デップーと付き合いそこそこ長いせいかメタ的なパターンが解ってきた気がする。それは・・・

 

普段と違う出来事には、厄介事がアンハッピーセットで付いて来る

 

という事。この法則で言えば、恐らく今回も何かしらに巻き込まれるのだろう。まぁ仕方無い事だ。仮面ライダーは、戦い続ける運命にあるからな。

「じゃ、聞き込み開始かな!行くぞ~!」

「「おぉ~!」」

 

―――――

――――

―――

――

 

15:00

 

「ハァ~、なかなか手掛かり見つかんないね」

「仕方無いさ」

「直接見た人が居ないからね・・・」

昼食も前に来た蕎麦屋で済ませて巡回中。休憩にと立ち寄った公園のベンチに座りながら三奈がボヤく。

よく考えりゃ、こんな真っ昼間に白昼堂々暴れるほど馬鹿とも思えんしな。

「ん、クレープ屋台トラック・・・食うか?」

「「食う~!」」

2人とも凄い食い付きだな。

「あ、そう言えば!ここのクレープ屋台って噂になってるよね!」

「噂?済まん、俺そう言うのには疎いんだ」

俺も、情報網を広げなくちゃな・・・

「あのね!ここの屋台のミックスベリークレープをカップルで食べると、恋愛が成就するんだって!」

「あー知ってる!でも必ず売り切れてるんだよね~・・・」

・・・ほう?中々興味深い噂だ、ゾクゾクするねぇ。

「じゃ、行ってみようか」

俺達はそのクレープを買う為、順番を待つ。どうやら結構繁盛しているらしく、そこそこ長い列が出来ていた。カップルが圧倒的に多いけど。

と、漸く俺達だな。

「いらっしゃいませ!お?こりゃ珍しいね。其方のお嬢さん方は、君のガールフレンドかな?」

「あぁ、まぁね」

「こりゃあ良い。仮面ライダー殿が二股とはね」

はは、このマスターさんはお喋り好きらしいな。お客をからかうとは・・・まぁ、こういうフランクなのも嫌いじゃない。

「オイオイ止してくれ。将来は一夫多妻が認められる国で籍入れるつもりさ。それに、正妻公認だし・・・さて、ミックスベリーはあるかい?」

「そこまで決めてあんのかい。そりゃ失礼した。あ~それと、済まないね。今日、ミックスベリーは終わっちゃったんだ」

「そっか~・・・」

「残念・・・」

・・・ふむ。成る程、そういう事か。

「じゃ、ラズベリー1つとストロベリー2つで」

「!・・・フフッ、畏まりましたっと」

やっぱり、コレで正解だったらしいな。

「お待ち遠様!ラズベリー1つとストロベリー2つ!」

「どうも」

俺がラズベリーを受け取り、三奈とフランはストロベリーだ。

そして、さっきのベンチに戻って食べ始めた。

「ん~、ラズベリーの酸味とほろ苦さの中に少し甘味があるこのソースが何とも・・・」

「ストロベリーは、ソースがちょっと酸っぱめだね。甘いクリームによく合ってるよ~」

「うんうん!」

喜んでクレープにかぶりつく2人。

「ったく、付いてるぞ?」

 

─プリッ ちゅっ─

 

2人の口元に付いたクリームの塊を指で取り、舌で舐めとって唇で吸い取った。うん、美味いな。

「・・・何か、さ。今の出久の仕草、すっごく・・・」

「エロかった、よね」

「褒め言葉として受け取っとこう。ほら、そっちのクリーム貰ったから、俺のも1口やるよ」

「「ありがとー!」」

俺がラズベリーのクレープを差し出すと、2人とも1口ずつ食べる。

「美味しい~♪」

「ちょっと苦いけど、コレもコレで・・・」

ラズベリーは2人にも好評だな。

「良かったな。食いたかったミックスベリーが食えて」

「「・・・あ!ストロベリーとラズベリー!」」

ふふ、中々洒落の利いた噂だったな。

「そういう事♪元々こういうおまじないだったのさ。ミックスベリーっぽい色のソースも無かったし」

「そっか、そういう・・・」

「ありがと!」

「良いって事♪」

さて、食い終わったらパトロール再開だな!

 

─────

────

───

──

 

「何も無かったね~」

「そうだね」

「平和で結構」

現在時刻、午後4時。色々とパトロールしてたけど、あったのはチンピラの小競り合い程度だった。ただの喧嘩だったから、手出しはせずに勝った方を暗殺スタイルでノックダウンして警察に突き出したがな。

「ふ~・・・ん?スン、スンスン・・・」

「どうしたの?」

・・・何か、面倒な事になったらしいな。

「屍臭だ」

「「ッ!!」」

俺は屍臭を辿り、2人が後ろに続く。そしてその臭いの発生源は、薄暗い路地裏だった。俺は地面に放置された()()を見て、顔をしかめる。

 

死体だ。

ただの死体じゃない。顔の皮膚は剥がされ、腕は肉が千切れて骨が露出。胴体は内臓がゴッソリ無くなっており、砕けた肋骨と飛び出した腸が散乱している。挙げ句に頭部には大穴が開いており、脳漿がとろけ出ている始末だ。おまけに、両手両足バラバラと来た。

 

「ヒッ・・・」

「ヴッ・・・」

三奈とフランは、思わず口を覆った。

「チッ、喰われてやがる・・・この辺は、上に屋根があってメモリガジェットから見えなかったか」

俺はスタッグフォンを開き、竜兄さんに電話を掛ける。

『カチッ どうした、出久』

「ドーパントの仕業と思わしき変死体を発見した!座標は今警察に送ってる!」

『ッ!!了解した! ブツッ』

よし、報告は済ませた。

「2人は下がっててくれ。俺は、死亡時刻を推定する」

「わ、わかった・・・」

俺は死体に近寄り、観察を開始する。

「腐臭が酷いな・・・この路地は室外機が多くて高温多湿、そこらで酔っ払いがゲロった吐瀉物もあるから雑菌も多い。そこから考えれば、この腐敗度合いから見て2~3時間って所か・・・うん。蛆の大きさから見ても、それぐらいだな」

大体分かった。取り敢えず、この周辺をバットショットで撮影しておこう。

・・・ん?

「コレは・・・」

見れば、マンホールの中に血痕が続いていた。この中に入っていったのか・・・マンホールの文字を読んだ所、どうやら下水道に繋がっているらしい。

【ピロピロピロピロッ!】

「ッ!もう一カ所だと!?」

ビートルフォンからスパイダーショックに座標が送られて来た。ここからそんなに離れてないな。

「三奈!フラン!もう一カ所見つけたらしい!俺はそこに行くから、ここを見張っといてくれ!」

「う、うん!」

「わかった!」

【スパイダー!】

俺は首筋にスパイダーメモリを挿し、ビルの上に飛び上がる。そしてパルクールをしながら進兄さんに座標添付のメールを打って送信した。

「と、ここだな!」

俺が飛び降りると、そこもまた路地裏だ。そしてやはり、ここにも死体・・・

「血が乾き切ってないって事は、まだ新しいな」

その死体も頭に穴があいており、脳が無くなっていた。腹もカッ捌かれ、内臓が飛び出しているし、四肢もバラバラだ。

「コレも撮っとかないとな。そして、ここにも下水道へのマンホールか」

しかも、また血痕がマンホールの中に続いていた。

「敵は、下水道に潜む怪物か」

しかも中々頭が回るのか、わざと大きな血痕を残す事で足跡を隠してやがる。

「出久!」

「来てくれたか、進兄さん!」

進兄さんが警官を複数人連れて到着した。

「ヴッ!?」

「オイオイ、吐くなら外でやってくれよ?現場を汚されちゃ適わん」

死体の臭気とスプラッターな光景に口元を押さえる警官。

「出久は平気なのか?」

「まぁ慣れちゃ居るな。少なくとも、こういう死体を見る機会が無さ過ぎる日本の警察官よりは」

さて、鑑定開始だ。

「死亡したのは、恐らく30分以内だろう。血が乾ききっていないし、腐敗も進んでいない。脳味噌の他、内臓も幾らか無くなってるな。血液や体組織の成分分析を頼む。手掛かりがあるはずだ。それと、犯人は下水道を根城にしてるらしい。向こうでもそうだったが、下水道と繋がったマンホールの中に血痕が続いている」

「分かった。分析と、被害者の近辺捜査は任せろ」

「頼んだぜ。俺は捜査に協力する。地球の本棚があれば、捜査の役に立つだろう」

「悪いな、学生に」

「気にしないでくれ。もう仮免許は持ってるからな、こういった活動が出来る。こっからは警察に任せるぜ」

俺はパルクールで壁を上り、警察署へと向かった。

 

─────

────

───

──

17:00

 

「さぁ、検索を開始しよう!」

警察署の会議室にて、俺は地球の本棚に潜る。

「竜兄さん、被害者に接点か共通点は?」

『20代の独身女性というだけだ。職業・住所・血液型・今日の予定、どれも全く接点が無かった』

「ありがとう。じゃあ、司法解剖の結果は?」

『そっちは俺が貰って来た』

答えたのは進兄さん。ペラペラと紙をめくる音が聞こえ、情報の提示が始まる。

『お前が最初に発見した遺体は、風祭今日子。死亡推定時刻は、今日の午後1時前後だそうだ。2人目は草刈恵。推定時刻、今日の3時から3時半。どちらからも、かなり強い動物性神経毒と蛋白質分解酵素が検出された』

「成る程。キーワード、《神経毒》、《蛋白質分解酵素》」

 

───神経毒(N e u r o t o x i n)───

───蛋白質分解酵素(P r o t e o l y t i c e n z y m e)───

 

本棚が高速で移動し、絞り込まれていく。しかし・・・

「まだ500以上あるな。次の情報」

『傷口からは、人間の唾液と同じ成分も検出された。DNAは変質していて調べられなかったみたいだが・・・』

『人間を、食べてたって事・・・?』

『怖い・・・』

「ふむ。キーワード、《肉食性》」

 

───肉食性(C a r n i v o r o u s)───

 

キーワードを入力してみる。しかし、本は殆ど減らなかった。

「ダメだ。蛋白質分解酵素を含む毒素を持つ動物は、ほぼほぼ肉食性だ。では追加で、《下水道》」

 

───下水道(S e w e r a g e)───

 

かなり減ったな。生息域を限定すれば、必然的に減るか。

『どちらの現場も、室外機のある高温多湿な路地裏だった。ジメジメしたところが好きなんじゃないか?』

 

───高温(h i g h t e m p e r a t u r e)───

───多湿(H i g h h u m i d i t y)───

 

結構ごっそりと減ったな。ふむ、この環境を好むのは・・・

「熱帯地域に多い節足動物系か」

『となると、中々に生命力の強い奴だな。下水道のような雑菌だらけの劣悪な環境にも適応するとは』

「それだな。キーワード、《生命力》、《適応能力》」

 

───生命力(V i t a l i t y)───

───適応能力(A d a p t a b i l i t y)───

 

───

──

 

「敵の能力が分かった」

俺は現実世界に戻り、ホワイトボードに敵の名を書く。

 

──Centipede──

 

「センチピード・・・つまり、ムカデの能力だ」

「うわ、確かにアイツ等何処にでもいるよね・・・」

三奈の言うとおり、ムカデの生息域はかなり広い。乾燥帯や、寒帯・亜寒帯を除く広範囲に分布しているのだ。

「取り敢えず、作戦を立てよう」

俺はホワイトボードに情報を書き込んでいく。

「まず敵の装甲だが、十中八九弾丸は通らない。ドーパントの体表は、哺乳類系でさえ弾丸を余裕で止める程に頑丈だ。節足動物系であるセンチピードには、全く効果が無いだろう。何より、下水道内はメタンなどの可燃性腐敗ガスが充満している。銃の発火から誘爆して大爆発を引き起こしてしまうから、そもそも銃器その物が使えない」

もし(ヴィラン)が下水道に逃げ込んだら、かっちゃんは手の出しようが無い訳だ。グリスブリザード以外は。

「つまり、警察の特殊部隊等も対応出来ない訳か」

「だから、俺達仮面ライダーが行くしか無い」

「・・・止むを得ないか」

俺達を巻き込みたくないのか、進兄さんと竜兄さんは苦虫を噛み潰したような顔をする。

「まぁ、今回は助っ人もいる。自動人形(オートスコアラー)達だ。このメンバーで包囲網を作り、一網打尽にする」

「ちょっと待って」

三奈が不安げに手を挙げた。

「どうした?」

「居場所の特定はどうするの?何処にいるか分からないんじゃ・・・」

あぁ、その事か。

「問題無いと思うぜ。ムカデってのは、あまり活発に動き回る生き物じゃない。大抵は捕食の為に少し動いて、後は住処でじっとしている。このドーパントも、恐らく活動範囲はそこまで広くないだろう。この2つの事件現場の間は約500m。この間に巣がある筈だ。食後だからじっとしているだろう。そこを囲むように追い込んでいけば良い。幸い、ここは会社だらけのコンクリートジャングル。民家は遠いから、取り敢えず地上に引きずり出せば俺達の方が有利だ」

「よし、その作戦で行こう。作戦開始は18:00だ。準備を開始しよう」

 

─────

────

───

──

 

竜兄さんの指示で作戦区域内は封鎖され、俺達は別々に下水道に入った。ライダーシステムには空気中の有害物質や細菌を濾過する機能が付いているので、俺達は異臭を気にせず行動出来る。

『ファラ・スユーフ、位置に着きましたわ』

『レイア・ダラーヒム、同じく位置に着いた。地味に問題無い』

『ミカも準備完了だゾ!』

『へ~いへい、ガリィもつきましたよ~っと』

『ジョーカー、位置に着いたよ!』

『スカーレットファング、問題無し!』

『此方アクセル。予定通りだ』

「よし!総員、作戦開始!ライダーズ!レディ・ゴー!!」

 

─────to be continued・・・




「初夜の翌日に早速ドーパントかい・・・つか、俺ちゃんも呼んで欲しかった!」
『確かにゾンビゲーマーなら下水道内での活動にもピッタリだったな。ゴメン、忘れてた・・・』
「一番傷付くんですけど!?」
『ではまた次回!お楽しみに!』
「尺寄越せぇぇぇえッ!!」


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第14話・Vの介入/接・敵・戦・闘

『今回ちょっとオリキャラ出すわ』
「止めとけ止めとけ、どうせ回収できないんだから」
『いいや限界だ!入れるねッ!!』
「そんなん出すぐらいなら俺ちゃん出せぇぇぇえッ!!」
『だが断る』
「何ィィィィ!?」


現在、保須市地下下水道にて、仮面ライダー達によるドーパント確保の為の包囲網が作られている。敵を確実に捕らえる為だ。

「此方エターナル。今の所異常は無い。皆はどうだ?」

『ジョーカー、問題無いよ』

『スカーレットファング、同じく』

『此方アクセル。変化無しだ』

『ファラ・スユーフ、敵影見受けられませんわ』

『レイア・ダラーヒム、地味に変わり無く進行中』

『マスタぁ~、退屈だゾ~』

『あ~ぁあ、何でガリィがこんな薄汚い所に来なきゃならないんですかね~ぇえ?』

2名を除き、メンバー達はエターナルの通信に真面目に答える。因みにガリィとミカの2体は開始してからずっとこの調子だ。

「ライダーの強化視覚を使えば、作業用電灯が点いた下水道なら明るく見えるだろう。物陰に注意して進め」

 

──了解!──

 

通信を切り、意識を周囲に戻すエターナル。気流感知による索敵も行っているのだが、下水道は意外にもガスの動きが多く、更にエクスビッカーに繋がれた時の後遺症として処理スペックが少し落ちている為、職場体験の時ほど正確な感知は出来ないのだ。*1

「・・・ん?」

そんな中で、エターナルは何かの気配を感じ取り瞬時に構えた。その視線は、下水の中に向けられている。

「何者だ」

エターナルの言葉に殺気が乗った。それは言外に、出て来なければ殺すという意識も含んでいる。

 

─ザパッ─

 

「あっちゃ~、バレちったか」

意外にも、気配の主はあっさり姿を現した。その男は下水から上がり、エターナルに向かい合う。

175cm前後で中肉中背。顔はそこそこ整っており、中世の旅人のような服装で頭にはターバンを巻いた男だ。特徴的なのは、エルフ耳とまでは行かずとも尖った耳と、縦に裂けたような瞳孔。

「やっぱオレ、隠密ヘタクソだな~♪」

「その割には楽しそうじゃねぇか」

エターナルの警戒は尚一層深まった。否、そもそも深まらない筈が無いのだ。

封鎖されているこの場所、しかも下水の中から現れた事と言い、雰囲気からダダ漏れる胡散臭さと言い・・・そして何より・・・

(コイツ、ヤバいタイプの奴だな)

男の笑顔の奥に潜む感情・・・品定めでもするような()()()()()に気付いたからだ。

エターナルは仲間に入電しようと通信機を起動する。

 

── ザーーーーーー ──

 

しかし、耳元に流れたのは砂嵐のようなノイズだけだった。

「チッ、ジャマーか。貴様、何が目的だ?」

「さぁて、何だろうねぇ?」

男はそう言い、飄々とした態度でフザケてみせる。

「まぁ取り敢えず────」

 

─ッドッッ!!─

 

()()かな~♪」

 

男は瞬時に上へと跳び、天井を足場としてエターナルの眼前に迫った。

(速ッ!?)

 

─ガッ─

 

「・・・へぇ~♪」

「・・・」

男が前に蹴り出した右足を、エターナルは左腕で受け止める。男はすぐさまバックステップで距離をとり、その顔にジョーカーマスクのような笑みを浮かべた。

「結構、楽しめそうだね~♪うんうん、噂通りだ~♪」

男が嬉しそうにはしゃぐ反面、出久はマスクの下で冷や汗を流す。

(何てキック力と瞬発力してやがる・・・不意打ちとは言え、俺の反応速度でギリギリだったぞ・・・)

呼吸を整えながら痺れを覚える左腕を装甲の上からさすり、油断無く腰を落として構えを直した。そしてこのままでは不利である事を悟り、メモリを取り出す。

【ガングニール!】

「詠装!」

 

───Destination time Gungnir zizzl~♪───

 

オレンジの光と共に追加装甲が装着され、エターナルは必中の槍の鎧を纏った。

「ヒュ~♪それが、シンフォニックアーマーってやつか。ちょっとは・・・

楽しめそうだッ!!」

男は再びエターナルに飛びかかる。そしてその爪を向け、エターナルの顔に迫った。

(思考加速!)

その瞬間、エターナルは自身の思考を加速させる。そして自分めがけて飛んでくる男をスウェーバックで回避した。

 

─ザリリッ─

 

「っと、やっぱ最初みたくは行かないか。だったら・・・コイツはどうだ!」

 

─ビュッ!─

 

男の口から飛び出した何かを、エターナルはアームドギアで受け流す。

「舌・・・(それも、骨が無い。カメレオンじゃなくてカエルだな。まぁどっちにしろ・・・)こっちが有利になった!」

その舌が男の口に戻るより早く、エターナルは2つ目のメモリを取り出して腰のマキシマムスロットに叩き込んだ。

【アイスエイジ!マキシマムドライブ!】

 

─運命の~GATE呼び掛けて~いる~♪─

 

そしてその冷気をアームドギアに流し込み、更に歌ってエネルギーを増幅させる。

「うっ寒っ!」

 

─走れLORD OF THE SPEED~♪─

 

初めのフレーズを歌い終え、エターナルはアームドギアを男に向けた。その刃が宿す絶対零度に、今度は男が冷や汗をかく。

 

「喰らえッ!!穹さえ穿ち凍てつかせよ(シエロ・ザム・カファ)ッッ!!!!

 

─バキバキバキバキッ!!─

 

その槍を地面に突き立て、閉じ込めていた冷気を一気に開放した。それは無数の氷の槍となって、男に襲い掛かる。

「ちょっ!?流石にコレはヤバいって!!」

後ろに飛び退き続ける男を氷が追い掛け、分厚い壁となった。

「・・・手応えは無しか」

アームドギアを引き抜き、構え直すエターナル。今し方撃ち放った技・・・凍漣の竜技(ヴェーダ)はしかし、あの中肉中背の男を貫いた感触が無かった。

 

──いや~、流石に強いねぇ!予想外だ!──

 

氷の向こうからだろうか。男の声が響く。その声色は実に楽しそうだった。

「・・・テメェ、何者だ!」

 

──ハハハッ、俺はただの快楽主義のカエルだよ~♪所で、そろそろ仲間の方に行かなきゃまずいんじゃな~い?──

 

「ッ!!」

 

──じゃ~ぁね~♪仮面ライダーエターナル~♪──

 

「・・・消えたか」

気配が消えた事を感じ、シンフォニックアーマーを解除するエターナル。

『マスター!此方レイア!派手に応答願います!』

男のジャマーが離れた事で、通信機が復活した。

「済まんレイア、ジャマー持ちの敵と交戦していた。状況は?」

『現在、センチピードと地味に交戦中!これから派手に引きずり出します!』

「地味とは思えんが了解した。そっちに向かう」

【アイスエイジ!マキシマムドライブ!】

「凍結・ホワイトアルバムッ!!」

再びアイスエイジのマキシマムを発動し、エターナルは足裏に生成した氷のブレードで凍結した下水道を滑走し始めた。

 

(出久サイド)

 

「フンッ!」

「オリャッ!!」

「タァッ!」

『KSHAAAaaaaaaaッ!!』

俺が合流すると、ライダー全員がセンチピードに攻撃を叩き込んでいた。

「死ねよこの害虫共!!」

「この数は、厄介ですわねぇ!」

「地味に面倒!」

「あーもうッ!キリがないゾ!」

一方自動人形(オートスコアラー)達は、センチピードに引き寄せられたのであろう大量のムカデを相手に奮闘していた。

ガリィは熱湯攻撃で、ファラは(俺が造り直した)剣殺し(ソードブレイカー)で、レイアは投げ銭で、ミカはカーボンロッドでそれぞれムカデを潰している。一番有効打になっているのはガリィの熱湯攻撃だ。

「遅くなった!」

「おっせぇんだよ役立たずマスター!とっととあの害虫引きずり出せ!」

ガリィが毒を吐いてくるが、今回ばかりは何も言えないな。

「遅れた分の働きはするさ!」

【ボーダー!マキシマムドライブ!】

 

「開門!スティッキィィィィフィンガァァァァズッ!!」

 

ボーダーメモリのエネルギーを両腕に集め、飛び上がって天井にパンチのラッシュを叩き込む。すると天井に境界線が引かれ、その境目が広がる形で大きな穴が開いた。

「ッシャ!引き上げるぜぇ!」

【レストレイント!マキシマムドライブ!】

そして俺は地上に上がり、レストレイントのマキシマムを起動。エターナルローブが繊維状にバラけ、センチピードに絡み付く。そのままその糸を掴み、力任せに引っ張った。

『ギチギチギチギチッ!』

節足をコンクリの壁に食い込ませて抵抗するセンチピード。だが・・・

「地味に無駄な抵抗は止めろ」

「大人しく出ろ!」

 

─ガガガガガンッ! ガキャキャキャキャッ─

 

『GYAAAAAA!?』

レイアとアクセルが投げ銭とエンジンブレードで節足を破壊した。

「(ワン・フォー・オール!アーマード!)どっせェェェいッッ!!」

それにより踏ん張りが利かなくなり、それに合わせて俺もワン・フォー・オールで身体能力を更に強化してセンチピードを引きずり出す。

『グギャッ!』

俺の力で地面に叩き付けられ、ビッタンビッタンとのたうち回るセンチピード。全く、気持ち悪い事この上無いドーパントだ。

「出久!作戦成功?」

「あぁ!こっからだ!」

『ウジュルウジャカカカカッ!!』

毒液と涎をぶちまけながらブチ切れるセンチピード。それと共に節足が再生し、ガチガチと地面を叩いた。

『ウジャジャジャジャジャッ!!』

 

─ボボボボッ!─

 

センチピードが口から毒々しい黄色のエネルギー弾を撃ち出してくる。あれは、防がない方が良さそうだな。

「フッ!ハッ!」

 

─ドババンッ!─

 

燃え上がらせたブルーフレアをエターナルエッジに纏わせ、鋭く振るって炎斬波を飛ばす事でエネルギー弾を迎撃した。

『グルルルルルッ!!』

更に苛立った様子でセンチピードは唸り、腕のリストブレイドのような節足を展開し突撃して来る。そう、腕装剣(リストブレイド)のような節足を。

「ファラ!」

「了解しましたわ!」

 

─ギィンッ!─

 

節足を剣殺し(ソードブレイカー)で受け止め、火花を散らして鍔迫り合いに持ち込むファラ。それに対して、センチピードはパワーで押し込もうと無理矢理体重を掛けてきた。此方の狙い通りに。

 

─ガシャッバグンッ ベキベキッ!!─

 

『グジャァァァァァァァッッッッ!?!?』

ファラの剣殺し(ソードブレイカー)に赤い幾何学模様が走り、鰐の顎のように開いてセンチピードの節足を噛み砕く。この能力こそがファラの振るう大剣を剣殺し(ソードブレイカー)たらしめる要素、対剣用概念兵装(アンチソード・コンセプトウェポン)だ。

「あら、やはり自らの刃を『剣』と認識していたようですわね。ならば・・・この剣殺し(ソードブレイカー)が陵辱しますわ!」

キリキリとファラの眼球が回転し、瞳が縮小して口角がつり上がった。何てひぐらし的な顔だ。今度からひぐらし顔と呼ぼう。

「ま~たファラが変顔してるゾ」

「派手にテンションが上がった時の、地味に困る癖だ」

「「うわぁ・・・」」

・・・まさか、人格元のキャロル・マールス・ディーンハイムにもこんな面があったのか?想像出来・・・ないな。ギリギリ無いわ。*2

つか三奈達が引いてるぞオイ。

「まぁいい。三奈!俺とアクセルが止める!その隙に決めろ!」

「オッケー!」

三奈に指示を飛ばし、アクセルとアイコンタクトをとった。アクセルは頷き、エンジンブレードを構える。

 

【ヴォンヴォォオンッ!!】

 

「ハァッ!!」

そしてエンジンを吹かして猛スピードで背後に回り、エンジンブレードをセンチピードの下半身に振り下ろした。

 

【エレクトリック!】

 

─バヂバリヂヂヂヂヂッ!!─

 

『GyAaaaaaaaaッッッッ!?』

高圧帯電するエンジンブレードで斬りつけられ、激しく感電するセンチピード。そしてそちらに意識が向いてる間に・・・

【ボーダー!マキシマムドライブ!】

「ウォラッ!」

俺は再びボーダーのマキシマムを発動し、センチピードを羽交い締めにして拘束する。更にガイアメモリから身体へのエネルギー回路に境界線を引いてエネルギーを遮断した。こうなれば、ドーパントにとっては心停止も同然。碌に動けなくなる。

「今だ!」

「はいよ!」

【ジョーカー!マキシマムドライブ!】

三奈が10m程離れた所でメモリをマキシマムスロットに装填し、マキシマムを発動した。左腕を引いて右腕を左上に伸ばす一号ポーズを取り、エネルギーを右足に集めて駆け出す。

そして───

 

ライダーキック!ハァッ!!」

 

─ドゴンッ!ギヂヂヂヂヂッヂヂッ!!─

 

助走をつけて高く跳躍し、紫のスパークが迸る右足をセンチピードの胸に叩き込んだ。その瞬間ジョーカーのエネルギーが流れ込み、センチピードの体内に残ったガイアエナジーを相殺する。だが、このままでは毒素のツケが一気に来て死んでしまうだろう。故に・・・

「仕上げだ!」

【ユニコーン!マキシマムドライブ!】

 

エターナルエッジにユニコーンメモリを装填し、それをコイツに突き立てるッ!

 

─キュゥン・・・パキンッ─

 

ユニコーンの浄化作用で溜まっていた毒素が分解され、メモリブレイクが完了した。センチピードの身体も、ドーパントから人間に戻る。

「・・・海外のチンピラか。最近密航なんかの不法入国が多いらしいからな、そこに目ぇ付けられたのか」

変身者の彫りの深い色白の顔と腕のタトゥーを見て、外国人のチンピラと判断。変身解除した竜兄さんが、その手首に手錠をかけた。

「作戦成功、だな。さぁて竜兄さん、取り敢えずソイツ、警察病院に搬送して」

「分かった。雄英ライダーズ、協力感謝する」

「それ俺等の事?まぁ受け取っとくよ。じゃ、俺等は帰る」

「あぁ、気を付けろよ」

竜兄さんはそのままパトカーにメモリ使用者を詰め込んで、ディアブロッサで走り去る。

「さて、と・・・じゃ、帰ろうぜ」

【ボーダー!マキシマムドライブ!】

俺はエターナルエッジにボーダーを装填し、空間を切り裂いてスキマゲートを開いた。

「疲れた~!」

「結構善戦だったよね!」

肩を回しながら、三奈達はスキマゲートに飛び込んだ。

「ふぅ・・・」

 

───ただの快楽主義のカエルだよ~♪───

 

「・・・報告した方が良さそうだな」

 

(NOサイド)

 

「~♪」

真っ黒なビルの中、その男は口笛を吹きながら足取り軽くご機嫌に歩く。エターナルとの喧嘩が、思った以上に楽しかったからだ。

「いや~楽しかった~♪」

やがて男は扉を開けて部屋に入り、入り口近くの棚に置いてあったポーチを掴んでその口のジッパーを開いた。中には、大量の()()()()()()()()()が詰め込まれている。

「~♪」

 

─ちゃりっ ピィ~ン─

 

そのメダルを取り出し、指で弾き打ち上げて大口を開けた。

「あ~ぁむっ、ゴクンッ」

そのままメダルは口の中に消え、飲み下される。

人間にはまず不可能な事だが、男はお構い無しに次々とメダルをさも美味そうに飲み込み続けた。

 

─ピィ~ン─

 

「あ~・・・」

 

─パシっ─

 

しかし、唐突に弾いたコインを掴む。そしてふてくされた顔を作りつつ、ドアの方を見やった。その先には、スーツの上にローブを着込んだ女がいる。

「ねぇちょっとヤガー!止めてよね、こういうイタズラ!」

そう言って男は、掴み取ったコインをパキッとへし折った。しかし、その断面は黒茶色だ。銀紙で包まれたコインチョコである。

「・・・貴様、何のつもりだ?」

ヤガーと呼ばれた女は、重苦しい声で男に問い詰めた。

「何のこと~?」

「とぼけるなッ!何故彼奴にちょっかいを出したのかと聞いているんだ、()()()()()()()ッ!」

ヤガーに怒鳴りつけられても、男・・・ヴォジャノーイは何処吹く風で飄々とした態度を崩さず、へし折ったコインチョコの銀紙を剥がして口に放り込んだ。

「落ち着きなってヤガー。あんま怒ると、小皺増えるよ?君の使うメモリみたいにさ!」

「ッ~!」

寧ろ煽る始末である。

「・・・貴様の喰らうセルメダルとて、無限に使って良い訳では無いのだぞ」

「それこそ別にいいじゃ~ん?タコ助クンのお陰で、まだまだいっぱいあるんだしぃ~。それに、悪いけどコレばっかりは俺のハイドープとしての体質だから仕方ないよ。

俺がこのまま全く使えなくなっても良いなら別だけどさ~」

「それは良い。トラブルメーカーが大人しくなって清々すると言うものだ」

「うへぇコワッ」

フザケ続けるヴォジャノーイに、ヤガーの青筋は更に増えていく。額に血管が浮き出るのも時間の問題だろう。

「おや?帰っていたのですか、ヴォジャノーイ」

ドアを開け、(ヴィラン)連合とコネクションを担当している黒服が帰ってきた。

「お~お帰り!どう?有望な子はいる?」

「えぇ。約束しましたよ、渡我被身子さんには。メモリをあげるとね」

「うひょ~太っ腹~♪」

黒服はデスクに入っているアタッシュケースを取り出し、蓋を開く。その中には、多種多様なT()2()()()()()()()が入っていた。

「ふむ・・・何が似合うでしょうかね、彼女には・・・

擬態(ミミック)

タコ(オクトパス)

赤眼黒犬(カペルスウェイト)?」

「マニアックなメモリばっかりだね。で?何か動きはあった?」

メモリを小振りなケースに移す黒服に、再びヴォジャノーイは問い掛ける。

「あぁはい。何でも、コンタクトをとるらしいですよ。死穢八斎會に」

死穢八斎會・・・その名を聞き、ヴォジャノーイは分かり易く顔をしかめた。

「オレ、あの連中キラ~イ」

「でしょうね。では、私はこれで」

そう言って、黒服は部屋を出て行く。

「にしても、今日はラッキーだったな~♪まさか仮面ライダーに会えるなんてサ!」

実は、エターナルと遭遇したのは全くの偶然だ。

偶々、ヴォジャノーイの気紛れな散歩ルートで捕獲作戦が始まっただけなのである。

「貴様、おかしな気は起こすなよ?」

「ダイジョブだって!オレも流石に死にたくはないしさ!」

そう言って拳でコンコンと叩くヴォジャノーイ。ヤガーは、それなら良いと目を瞑った。

「フゥ~・・・(でもな~・・・やっぱ、窮屈なんだよな~。ちょっとばっかし・・・)」

快楽主義のカエル(ヴォジャノーイ)は、この環境に満足はしない。

 

 

────to be continued・・・

*1
という作者の言い訳。お願い、納得して。

*2
作者は想像出来ちまった




「ちょっとどころかガッツリ出してんじゃねぇか」
『ゴメン、筆が思ったより乗った』
「ったく、此処まで来て未完とか許さねぇかんな?この小説、もうお前だけのモンじゃねぇんだぞ?」
『分かってる。弟子2人がコラボしてくれてるし、未完にはしないよ』
「だと良いんだけどな・・・じゃ、次回もお楽しみに!」
『チャオ~♪』


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第15話・街の情報/3人のB・I・G

「ノトーリアスかよ」
『ビッグってあったからね。しょうがないね』




(出久サイド)

 

18:00

 

「ふぃ~・・・」

センチピード捕獲作戦の翌日。無事に二学期が始まった。何事も無く授業が終わり、自動人形(オートスコアラー)達と戦闘訓練を済ませてシャワーを浴びた。自動人形(オートスコアラー)達は読書中だ。読んでるのはジョジョの奇妙な冒険。

「にしても、マスター強過ぎだゾ」

「正直化け物よね~、前のマスターと同等以上に」

寝転がっていたミカがボヤき、それにガリィが同意の声を上げた。

「まさか、私の投げ銭を地味に無被弾で全て切り落とすとは・・・」

「いや、思考加速無かったら危なかったぞ。冗談抜きで」

レイアの投げ銭は本当に強い。普通は避けられやしないだろう。

「・・・ピストルズのように派手に跳弾させてみようか」

「止めとけ、洒落にならんし危険すぎる。参考にするならメタリカぐらいにしとくんだ」

レイアはジョジョ読ませたせいか偶にぶっ飛んだ発想しやがる。

「それにしても不思議ですわ。何故マスターのエターナルエッジはソードブレイカーで壊せなかったのでしょうか・・・」

「俺がエターナルエッジを死神がふるう鎌(デスサイズ)と認識してるからか、永遠(エターナル)の変化を拒む性質か、或いはどっちもか」

「えぇ・・・(困惑)」

いや、困惑されてもねぇ・・・

 

─PPPP,PPPP・・・PPPP,PPPP─

 

お、進兄さんから電話だ。

 

「もしもし、出久だ」

『あぁ出久、センチピードのメモリ使用者が目を覚ました。悪いが、今からお前の嘘発見と翻訳能力借りて良いか?』

「お安いご用だ」

 

─ピポッ─

 

俺は電話を切り、エターナルエッジを構えてボーダーメモリを召還。流れるように装填し、ボタンを叩く。

【ボーダー!マキシマムドライブ!】

「レイア、ファラ、相澤先生には説明しといてくれ!」

「承知した」

「行ってらっしゃいませ」

2人に見送られ、俺はスキマゲートに飛び込んだ。

 

───

──

 

「いやー悪いな、こんな夜に」

「大丈夫だ。問題無い」

俺は警察署で進兄さんと合流し、パトカーの助手席に乗せてもらってる。目的地は保須警察病院。

「・・・」

あ、ヤバ・・・戦闘訓練の、疲れが・・・zzzzz

 

───

 

「オイ出久、着いたぞ」

「んあっ」

あ~やば、寝てたっぽい・・・

「くぁ~っ~・・・よし、覚めた。ゴメンな」

「大丈夫。じゃあ行こうか」

俺達はパトカーを下り病院に入る。エントランスでは竜兄さんが待っていてくれた。その後ろを付いて行き、目的の病室に辿り着く。

「666・・・縁起の悪い数字だねぇ」

若干不安を感じながら、俺は病室の扉を開けた。

 

─────

────

───

──

 

18:45

 

「意外と安定してて助かったぜ」

取り調べを終え、俺達は病室を出る。ユニコーンで浄化したお陰か、少しボヤケてはいたものの意外とハッキリと聞き出す事が出来た。少し酔っぱらってるような状態だったな。

「ふむ、かなりスムーズに進んだな」

「ありがとよ出久。一応仕事だから、礼金は出るぞ」

「そりゃどうも」

貰えるもんは貰っとこう。

さて、聞き出した情報だが・・・纏めると、

 

・黒スーツの男によって()()()()()に引きずり込まれ、そこで化け物(ドーパント)にされた(大体一週間前くらいらしい)。

・他の化け物(ドーパント)を不意打ちで狩り、喰って生きてきた。

・黒スーツがこっちに来るゲートを開いてたから、それに便乗して戻ってきた。

()()()は完全に無風で、昼も夜も無かった。

 

と、こんなもんか。()()()ってのが気になるし、下水道のカエル男も関係あるのか?もしかしてまた財団X?

「今日は助かった。これが特別手当だ」

竜兄さんが懐から茶封筒を出し、俺に渡す。中身を観てみると、一万円札が5枚・・・妥当なのかな?それともちょっと安い?

「確かに。じゃ、チャオ~♪」

まぁいい。帰ろう。

「おう!」

「気を付けろ」

俺はピラピラと手を振りながらエターナルボイルダーを呼び出し、ヘルメットを被ってイグニッションキーを捻るのだった。

 

─────

────

───

──

 

「ふぃ~、今日も終わったな~」

放課後。俺はハイツアライアンスの共有スペースでストレッチをしながら呟く。昨日は軽く三奈達と運動(夜)もしたし、今夜はぐっすり寝ようかな。

にしても、インターンか。相澤先生が言ってたが、中々良い体験が出来そうだな。問題は、俺を受け入れてくれる所があるかだが・・・まぁ、最低でも永遠亭(一つ)は当てがある。

「おい出久、ゴミ出し当番頼んだぞ」

「あ、忘れてた。ありがとよかっちゃん」

危ない危ない、すっぽかす所だった。

「ほら、纏めといたわ」

「あら優しい。悪いね、重ね重ねありがとう。今日はもう、彼女にサービスでもしてあげな」

「・・・言われんでもするわ、アホ・・・」

かっちゃんどんどん丸くなってきてるな。最早(同性)でさえ可愛らしさを見い出せるぐらいに。

「じゃあ行って来るわ」

「おう」

俺はゴミ袋を掴み、ハイツアライアンスを出る。右手で2つ左手で2つ、合計4つだ。俺の握力が無いとキツかっただろうな。本当に便利な体だと改めて思った。

「~♪」

気分が良いので、ご機嫌に歌いながらゴミ捨て場に向けて脚を進める。

 

─にゅっ─

 

「・・・」

「・・・」

・・・何か、壁から顔が生えてきた。何だろう、新手のからかいかな・・・

取り敢えず、やる事は一つ。俺はゴミ袋を下ろしてその顔に歩み寄り・・・

「やぁ!君は近付いてk」

 

─どすっ─

 

目に指を突き立ててみた。

「ふぁっ!?」

変な悲鳴を上げ、顔は壁の奥に引っ込んでいった。何だったんだイッタイ・・・

「・・・まぁいいか。雄英高校じゃ、変質者なんてよくいる生き物だ」

取り敢えず気にしない方向に決め、再びゴミ袋を持ち上げて歩き出す。

「いやーびっくr」

 

─グニッ─

 

「あ?・・・あっ・・・」

足裏に伝わってきたおかしな感触・・・その原因を視界に入れてみると、それはさっきの顔だった。余程踏んで欲しかったのか、ご丁寧に俺の足裏ピンポイントに顔を出してやがる。

「またアンタ・・・ハァ、もういいや。とっととゴミ捨てよ」

「むぎゅっ!?」

その顔を無慈悲に踏み越え、俺はゴミ捨てと言う任務を無事果たした。顔の正体?知るかンなモン。興味も無いわ。

 

─────

────

───

──

 

時は過ぎ去り、授業開始。相澤先生がインターンについて説明があるらしい。

「職場体験とどんな違いがあるか・・・直に経験した事のある人間から話して貰う。入っておいで」

相澤先生が呼び掛けると扉が開き、見覚えのある1人と無い2人が入って来た。

「雄英生の中でもトップに君臨する3年生3名・・・

 

通称、ビッグ3の皆だ」

 

見覚えがあるのは、中々にマッチョで某ミルク飴のパッケージみたいな顔をした男・・・昨日の変人である。

「あんたビッグ3だったのか」

「あ!君がミリオの顔踏んづけた出久君か!」

青い髪の女は知ってるのか・・・つか、この分だともう1人も知ってるっぽいな。

「踏んづけた!?」

「あぁ、急に足元に出て来てな?顔面をグニッと踏み越えちまった」

「人としてどうなんだね緑谷君ッ!!」

「いやそれは足元に出た、あ~・・・ミリオ?先輩が悪い」

「ヒラキナオリーww!」

「事実だろうがよ」

何か一々喧しい人だな。

「ビッグスリー・・・」

「すげぇ美人さんもいるし、そうは見えねー・・・な?」

「上鳴、お前は世間を知らな過ぎる」

文やんとかレミ姉さんとか、美人でも化け物並に強い人は多い。

「じゃあ手短に自己紹介を。天喰(あまじき)からで良いか?」

相澤先生に指名され、向かって右側の猫背の先輩が顔を上げた。

『ッ!?』

「・・・ん?」

何か皆、気圧されてる?何で?

「・・・ダメだミリオ・・・波動さん」

あ~ぁあ、めっちゃ緊張してるわ。口角が痙攣してるし。

「ジャガイモだと思って臨んでも首から下が人間で依然人間にしか見えない・・・頭真っ白だ、辛い・・・帰りたい」

あらま、こりゃ重傷だな。

「あ!ねぇねぇ天喰くん聞いて!そういうのって、蚤の心臓って言うんだって!ね!人間なのにね!不思議!」

わお、容赦無くブッ刺すな。

「彼は蚤の〈天喰(あまじき)(たまき)〉!そんで私が〈波動ねじれ〉!今回は校外活動(インターン)について説明しに来ました!」

これまたテンション高い人だな~。

「ねぇねぇ!三奈ちゃんの頭の角は折れても生えてくるの!?爆豪君は任意で爆破出来るの!?フランちゃんは吸血鬼だよね!?日光とかニンニクとか大丈夫なの!?知りたい事がいっぱいだー!」

おっと、この人は知りたがり系か。昔のフィリップ先輩みたいだな。

 

「轟ちゃんは何で顔に大きな火傷があるの!?」

 

「っ!それは・・・」

 

─キュピンッ ドゴンッ!─

 

「あぐっ!?」

波動先輩のその一言を聞いた瞬間、俺は過剰適合進化者の義眼(アイズオブハイドープ)を起動。念力で波動先輩を持ち上げ、黒板に押し付けた。

「「出久ッ!?」」

「良くないなァ・・・そういうのは・・・」

「い、痛い痛いっ・・・」

まぁ女を嬲る趣味も無いので、念力を切って解放した。丁度首を念力で掴んでいたからか、先輩は落っこちてゲホゲホと咳き込む。

「緑谷君ッ!?」

「委員長、ちょっと黙ってろ・・・なぁ先輩」

俺は席を立ち、腰を抜かしている先輩に向けて脚を進めた。先輩の目には、混乱と恐怖が涙と共に浮かんでいる。

「2つ、良い事を教えてやる。

1つ、大きな傷跡ってのは、大抵他人に話題として触れて欲しくないモノだ。不用意に触れると、人によってはトラウマを刺激されて暴れ出す。

1つ、ヒーローを目指すならば、顔面の傷跡なんて分かり易い心の地雷を踏み抜いちゃあいけない。

この2つを憶えておけば、きっと良いヒーローになれるはずだ。ヒーローは余計なお世話が仕事そのものだが、そのせいで人の心を傷付ければ本末転倒だ・・・分かったな?」

「は・・・はい・・・」

分かってくれたようで何より。

「緑谷、やり過ぎだ。だが波動、コイツが言った事も間違っちゃいないから気を付けろよ」

相澤先生の注意にコクコクと頷き、一歩後ろに下がった。

「やれやれ、どうなることやら」

 

───

──

 

戦闘に(こう)なるのかよ」

体育館γにて、俺達A組はミリオ先輩と戦う事になった。

「あの・・・マジすか先輩」

「マジだよね!」

・・・まぁいい。雄英トップクラスって言われるレベルの相手だ。俺を苦戦させるレベルと期待出来る。

「ミリオ、やめた方が良い・・・形式的に“こういう具合で有意義です”と伝えるだけで十分だ」

「いや遠過ぎだろ」

壁に寄りかかって此方を見ようとしない天喰先輩。そんなに苦手か・・・昔、何かあったタイプだな。

「全員が上昇志向に満ち満ちている訳じゃない・・・立ち直れなくなる子が出てはいけない」

中々言ってくれるねぇ。それ程までに強いのか、あの人は・・・ゾクゾクするねぇ。

「そんなに強いなら・・・良い経験になりそうだな。

オイ聞いたか皆!俺達ゃ雑魚だとさ!その雑魚に良い経験させてくれるんだ!先輩に感謝しねぇとなァ!負けてもそっから学ぶ気で行くぞォ!」

 

『応っ!』

 

うん、士気は上々だな。

【エターナル!】

俺はエターナルメモリをドライバーに装填してからバックルを装着し、右手を左上に伸ばす。

「変身ッ!!」

【エターナル!~♪~♪】

そして右手でスロットを展開。エターナルに変身した。

「お、出久は剣崎さんか!じゃあアタシは・・・」

【ジョーカー!】

三奈もメモリを装填してからドライバーを装着。そして左手を顔の前に翳し、右腕を腹の前に添える。

「変身っ!」

【ジョーカー!~♪!♪!♪!】

そして左手でスロットを左に弾いた。ライダーアーマーを纏い、コートをはためかせる。

「三奈ちゃんはムッキー・・・じゃ、コレだね!」

【タブー!】

「変身!」

フランもドライバーを装着し、右手の親指でスロットを弾いた。これはアレだ、オープンアップ3兄弟だ。

「俺らもだ」

「うん!」

「あいよ!」

【【スクルァァァッシュ・ドォライバァ~ッ!!】】

 

─ガシャッ─

 

かっちゃん達もドライバーを装着し、それぞれのアイテムを構える。

【ロボット・ゼァリー!】

 

─ピシッピシッピシッ─

【デンジャー・・・】

【クゥロコッダイルッ!】

「「変身ッ!!」」

 

【ロボット・イィン・グゥリッスゥ!!ブルルルルァアッ!!】

【クロコダイル・イン・ローグゥ・・・オォォウルァアアアッ!!】

 

「ッシ!」

「フシュゥ~・・・」

スクラッシュ2人は変身完了。肩を回し、身体を慣らす。

「来い!クローズドラゴン!」

【ギャーオ~♪】

 

─カシャカシャカシャッ カシュッ ガキョンッ─

 

切島はクローズドラゴンを掴み、ドラゴンボトルを振って装填。

【WAKE UP!】

アイドリングモードにしたクローズドラゴンを、そのままビルドドライバーに嵌め込んだ。

【クローズドラゴン!】

そしてボルテックレバーを回し、ドライバーがライドビルダーを伸ばして前後にハーフボディを精製する。

【ARE YOU READY!?】

「変身ッ!!」

【WAKE UP BURNING!GET CROSS-Z DRAGON!YEAH!!】

クローズ・ライトも変身完了だ。

「じゃ、誰から来る!?」

「俺だ」

ミリオ先輩の問いに即答し、グリス・ライトが前に出る。

「データは取ってやる。上手く繋げよ、ブレーン」

「頼んだ」

「任せろ・・・心火を燃やして、ブッ潰す!」

 

─するっ─

 

『ッ!?』

グリス・ライトが構えた瞬間、ミリオ先輩のジャージが()()()。物理抵抗が丸々無くなったようにすり抜けたのだ。

「あぁ失礼、調整が難しくてさ!」

先輩がズボンを掴んで引き上げた、その瞬間・・・

 

─BBOM!─

 

「ダァラッ!」

グリス・ライトが爆破で吹き飛んで頭狙いの飛び蹴りを仕掛ける。しかし先輩は避けようとしない。

やはりゴースト先輩みたいな物質透過能力か─ドゴンッ!─・・・え?

「ぶべらッ!?」

「避けるまでもねぇってかァ!?先輩ィ!!」

・・・普通に当たった。どういう事だ?ミリオ先輩も、表情からして想定外っぽい・・・

そうこうしてる内に、他のメンバーが一斉に攻撃を叩き込んだ。

・・・ヤバい、土煙で敵影が確認出来ない。

「やったか!?」

「飯田テメェ!」

それ言っちまったら・・・

「ッ!!い、いないぞ!?」

ほらな?

「取り敢えず!まずは遠距離持ちだよね!」

ッ!後ろに移動した!?取り敢えず観察!

【サイクロン!マキシマムドライブ!】

次の瞬間、中距離攻撃メンバー全員に5秒程度で腹パンが入った。そのほぼ全員が崩れ落ちる中、三奈とフランは何とか堪える。ライダーアーマーの恩恵だな。

「いい機会だからしっかり揉んで貰え。通形ミリオは俺の知る限り、最もNo.1に近い男だ」

 

「POWERRRRRRッ!!」

 

()()()()()()、な」

成る程・・・実に面白い。

 

────to be continued・・・




「中途半端だなぁオイ」
『しゃあないだろ、時間が無いんだから。あ、通形君の個性がグリス・ライトに通じなかった理由は、次回書きます。まぁ勘の良い人なら分かるでしょうけど』
「じゃ、次回も宜しく!」
『チャオ~♪』


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第16話・勝利の法則/出久C

『・・・』
「・・・」
『・・・久し振り』
「言い訳があるなら聞くだけ聞いてやろう」つデザートイーグル
『家の片付け監督不届きでタブレットのある親父の実家に出禁食らっました』
「そうか。なら書け」
『無慈悲・・・』
「何か言ったか?」ジャキッ
『ウェッマリモッ』


(出久サイド)

 

「本当に、興味深いな・・・」

上鳴や響香を筆頭とした中~遠距離攻撃能力を持つメンバーが、ものの5秒でほぼ全員ノックダウン。

脊髄にゾクゾクと刺激が走る。久々に、楽しめそうだ。

「い、一瞬で・・・?む、無敵じゃねぇかッ!?ワープするし攻撃すり抜けるし!勝てっこ無ぇよ!」

全く、峰田は何時もそうだ。何故、あの性格で除籍にされんのやら・・・あぁ、あれか。こんな盛りの付いた害獣は野放しにするより首輪着けといた方がマシだからか。

「峰田。無敵なんてのはあり得ない。恐らくあのワープは、すり抜けを応用してるんだろう。何より生身の人間だから、必ず限界はあるんだ。

それと・・・敵前でのパニックってのは、ヒーローが取り得る最悪手だぞ」

それに、さっき感じたあの()()()・・・成る程、相手の正体が見えてきたぜ。

「考え事は良いけどさ」

 

―ドゴゴゴンッ―

 

「ゴペッ」

「ゴハァッ!?」

「ウボァッ!?」

「油断大敵、だよね」

動きが止まった瞬間、飯田と峰田と障子が凶悪な腹パンの餌食になる。

【ディスチャージクルルァッシュッ!!】

「吹っ飛べェ!」

 

―BBBBBBOM!!―

 

「うおっ!?」

しかし、先輩が口を動かしている間にグリスの機雷艦載機が襲い掛かった。何とか回避はしたものの、幾らかはやはり()()()()()()

「チッ、イマイチだなァ。オイ出久!そっちどうだ!」

「仮説は立てられた!後は実証だ!ローグ!クローズ!攻撃しろ!」

「「イエッサ!」」

俺の指示に従い、2人は瞬時に駆け出した。俺の仮説が正しければ・・・

「オリャアァッ!」

「ッタァッ!!」

スローズがヤクザキックを、ローグがパンチをそれぞれ打ち出す。

 

─ピシピシッ─

 

「おわっと!?」

「・・・矢張りな」

俺の予想通り、2人の攻撃も()()()。よし、突破口が開いたぜ!

「先輩!」

「ん、何かな!?こっちは結構・・・厳しいんだよね!」

時々地中に潜りながら、それでも尚俺に返事をする先輩。成る程、先読みと捌きを得意とする戦法らしいな。

「アンタの攻略法は見つけた。ノーコンティニューでクリアしてやる。グリス、ローグ、クローズ。時間稼ぎを頼むぞ」

「時間は稼いだる!勝てや!」

「任されたよ!」

「うっしゃァ!滾ってきたァ!」

クローズの興奮に合わせ、身体中の装甲が激しく炎上を始めた。まさかブレイズアップモードを使えるとは・・・

「頼んだぜ!」

【サイクロン!マキシマムドライブ!】

風影(ヴェルニー)!」

俺はサイクロンのマキシマムを発動し、竜巻で身体を持ち上げる。

 

「喰らえッ!!」

【スクラップ・フィニッシュウッ!!】

 

【クラック・アップ・フィニッシュ!!】

「ハァッ!!」

 

そして先輩相手に必殺技をぶっ放す皆から目を外し、勝利の鍵となるメモリを取り出した。

 

【アガートラーム!】

 

「詠装ッ!!」

 

メモリを起動し、胸に突き立てる。すると、機動詠唱が脳内に流れ込んだ。

 

──我が魂、(B u r n i n g )銀腕と共に(m y s o u l )強く燃える(a i r g e t - l a m h t r o n)~♪──

 

その瞬間、銀の閃光が俺を包む。その光は俺の四肢、胴を通過し、アーマーが出現。次々と装着されていった。

そしてヘッドホンとカチューシャを足したようなヘッドギアが頭部に固定され、そこから後方に2対4枚のエッジが展開し武装が完成する。

 

「仮面ライダーエターナル・シンフォニックスタイル・・・

マイティ・アガートラームッ!!」

 

エターナルローブをはためかせて地面に降り立ち、具合を確かめるように拳を握った。大きく装甲を追加された左腕が、ガチッとメカメカしい音を立てる。

「よし・・・」

そして俺は右手で角をなぞって弾き・・・

 

「勝利の法則は、決まったッ!!」

 

強く、宣言した。

 

──~♪~♪♪~──

 

そして、鎧が奏でる旋律(メロディー)に合わせて歌を紡ぐ。

 

──眠るよォう~な~♪静寂の闇~で♪──

 

歌に合わせて足を運び、同時にエターナルエッジを左腕の装甲に差し込んだ。それを引き抜けば、刃渡り60cm強の刃・・・Eter-アガートセイバーが追加され、長剣となったエターナルセイバーが姿を現す。

その剣を×の字に振るうと、エネルギー斬撃波が発生。標的に目掛けて襲い掛かった。

 

──CRU†SADE(クルセイド)!──

 

「当たるかもなら、逃げるに限るよね!」

先輩は此方に駆け出しながら地面に潜行し、その上を斬撃波が通り過ぎる。あの角度・スピードなら・・・よし、読めた。

 

──手のひ~ら~ぁで~♪転がす~マ~ァリ~ィオネェット♪──

─バシャッ─

 

俺は左腕の装甲を開き、6機の短剣型ソードビットを射出。そしてヘッドギアから3機に向けて指示を飛ばし、変形コードをインストールする。ソードビットは受信と同時に変形を開始。刀身の面積が広がり、そこから更に鞘から抜剣するが如くスライドして展開。中心部に鏡のようなエネルギー発生機構が現れた。*1

そして背後を振り返り、頭上でソードビットを操りながら右手に握ったエターナルセイバーを振るう。先輩は予想通りのタイミングで浮上して来た。

(ッ!反応じゃない、予測だね・・・でも、そういう反応には慣れてるんだよねッ!)

(・・・と、考えているのは分かっている)

恐らく、カウンターで腹パンを狙っているのだろう。先輩の視線は既に軌道を見切ったエターナルセイバーを外れ、俺の腹にロックオンされている。

 

────だからこそ、それに乗ってやろうではないか。

 

俺は歌を途切れさせず、剣を振り抜く。先輩は予測通り、いとも簡単にその刃を紙一重で避けた。やはり予測からの出現狩りには慣れているらしい。

 

──そっと~眼を~閉じれェば~良い~♪──

 

そして先輩は、俺の顔に手を近付ける。目潰しだな。まぁ思考加速があるから意味ないけど・・・と言うかそもそも───

 

─ヴォンッ─

 

「うぇ!?」

───触らせないし。

俺は思いっ切り上体を反らし、DIO様のWRYYYYYY!ポーズを取る。当然先輩の目潰しは空振りだ。

俺は即座にソードビットを呼び戻し、3機を俺と先輩の隙間に三角形に挟み込む。そのソードビットはお互いをエネルギーラインで連結し、バリアを展開した。先輩も流石に対応出来ない。

「うおぉ!?」

そのバリアに触れた瞬間、先輩は上に吹っ飛ばされる。

 

──や~す~ぅらか~に~無に帰ろゥオ~♪──

──PROTECT†PROTECTOR(プロテクト・プロテクター)!──

 

このバリアはアガートラームの能力により、触れたものに掛かっている慣性ベクトルを操作する事が出来るのだ。それにより、重力から受け続けている落下ベクトルを逆転させた。

(さぁ、仕上げだ)

 

──鳴りひ~びィく~時ィ~の~カァンパ~ネラ~♪──

─キュピンッ─

 

すかさず過剰適合進化者の義眼(アイズオブハイドープ)の念力で、先輩をキャッチする。どうやら念力は重力と同じ現象としてカウントされるらしい。

「うわっちょ!?」

 

──絡み~付~く総てをJust Reset♪──

 

PROTECT†PROTECTORで使わなかった残りのソードビット3機に変形コードを送信。するとそれに応え、3機がガシャガシャと変形を始めた。

鍔はグリップ部分を籠手のように覆い、刀身は杭のような円柱状に。そして先端を先輩に向け、その杭を鋭く撃ち出す。

 

──リ・スタ~ァト♪──

──BROWKUN†BREAKER(ブロウクン・ブレイカー)!!──

 

その杭は、無慈悲に先輩の身体を喰い破───

 

─ガキィンッ─

 

───る事は無かった。

PROTECT†PROTECTORで受け止め、寸止めしたからだ。

俺は念力を解除し、先輩の目を覗き込んで問う。

「まだ、やるかい?」

「・・・降参だね」

賢明な判断だ。

俺はエターナルローブを脱ぎ、先輩の下半身に被せる。自分の彼女に俺以外の裸見せんのは、流石にちょっとな。

「ねぇねぇ!さっきの何!?何で歌ってたの!?何で君達ミリオに触れたの!?」

「歌で鎧のエネルギーを増幅するんだ。歌ってれば出力が落ちない。あと、何で触れたかは後程」

どうやら波動先輩は復活したらしい。

「フゥ~ム・・・うん、そうだ!」

何かピンと来たのか、ポンと手を打つ先輩。そしてジャージを回収し、一つ咳払いをする。

「まぁ、こんな具合にね!」

「何について()()()()()なんだよ」

この人、時々話の脈絡が跳ぶんだよな。

「今回は、出久君の未知の力にやられたけど・・・どう?俺の個性、強かった?」

先輩の問い掛けに対し、皆は口々に強過ぎる等の言葉を放った。例外はライダー適合者。

「轟みたいなハイブリッドですか?」

まぁ、三奈みたく思ってもしゃーないわな。

「私知ってるよ個性!言ってい?ねぇ言ってい?トーカ!」

矢張り透過か。

「波動さん、今はミリオの時間だ」

お、天喰先輩に止められてむくれてるな。子供っぽい・・・よく見たら童顔とも美人とも取れる顔して・・・

 

─ゾクッ─

 

ッッ!!・・・すいませんでした・・・

「いや1つ!『透過』なんだよね!君達がワープと呼ぶあの移動!あれも推察通り、コレの応用なんだよね!」

ヤハリソウイウコトカ( OMO)

「全身個性を発動させると、俺の身体は()()()()()()をすり抜ける!つまり地面もだね!!」

「どォりで自由落下みてぇな動きだった訳だ」

ま、かっちゃんなら気付くだろうな。

「その通り!!落下する!地中にね。そして落下中に個性を解除すると、不思議な事が起こるんだ」

平行世界から自分が大集合?・・・冗談だ。

「どうやら質量を持つ物質同士が重なり合う事は出来ないらしく・・・弾かれるんだよね。つまり、俺は瞬時に地上まで弾き出されてるのさ!コレがワープの原理。

身体の向き・ポーズ・助走なんかで角度とかを調整して、弾かれ先を狙う事が出来る!」

「・・・ゲームのバグみたい」

「イイエテミョーww!!」

「そりゃまた随分難儀な能力だな」

『え?』

・・・まぁ、気付かんわな。

「物理抵抗を総て無視しちまうなら、光も音も感じ取れない中でただただ自由落下するだけ・・・ゴースト先輩みたく浮遊能力があるなら良いが、ソレがないから壁一枚抜けるにも段階的な作業を意識してやらなきゃあいけない。そんな不便な能力を使いこなして、此処まで実力を付けたんだよ。ミリオ先輩は」

さっき感じた違和感・・・空気の乱れを感じ取れなかった事も、まぁ空気そのものが通り過ぎてんだから・・・と言うか、先輩の個性は正確には『透過』じゃないな。

「それだけじゃないよ。吸い込もうにも透過しちゃってるから、肺は酸素も取り込めない・・・案の定俺は遅れた!!ビリッケツまであっと言う間に落ちた!服も落ちた。

この個性で周りより先を行くには、遅れちゃ駄目だった!『予測』!他者よりも一層素早く、時に欺く!!何より『予測』が必要だった!

そして予測を可能にするのは経験!!経験則から予測を立てる!

出久君が俺に素早く対応出来たのも、他より経験豊富だったから!そして仲間に攻撃させてデータを録る!それによって生まれる予測が、俺の個性と予測を上回った!その結果が、彼の勝利なんだよね!」

厳密に言うなら、それプラス異常なまでの引き出しの多さだな。

「まぁそういう事!言葉より経験で伝えたかった!インターンに置いて、我々は()()ではなく同列(プロ)として扱われるんだよね!それはとても恐ろしいよ・・・時には人の死にも立ち会う・・・でも!それらの怖さ辛さ全てが、学校では得られない最高級の経験!

俺はその経験でトップを掴んだ!ので!怖くてもやるべきだと思うよ一年生ッ!!」

流石だな。幾らか死線を潜ったらしい。良い事言うねぇ。

「じゃあ次、出久君の番ね!何で君達に俺の個性が効かなかったのか、教えてくれる?」

「あ、ソレ俺も気になるわ」

「あたしも~!」

よし、じゃあ解説タイムと行くか。

「了解」

【アイスエイジ!マキシマムドライブ!】

変身を解除しながら、俺は皆の前に出る。そしてシンフォニックメモリを取り出し、アイスエイジで作った氷のテーブルに並べた。

「ご存知の通りだが、コレはシンフォニックメモリ。俺が、平行世界の友達から貰ったモンだ」

「確か、石動仁さん・・・でしたわね」

うん、覚えてくれていて何より。

「そう。そしてこのシンフォニックメモリなんだが・・・向こうの世界にある、《聖遺物の欠片から造られた兵装》の記憶が封入されているんだ。グングニル、天羽々斬、イチイヴァル、イガリマ、シュルシャガナ、アガートラーム、神獣鏡・・・常闇、お前なら知ってるんじゃないか?」

「あぁ・・・グングニルは北欧神話の主神オーディンが持つ、投げれば絶対に当たるという槍の形を取った因果律兵装。

天羽々斬は、ヤマタノオロチを断頭した素戔嗚尊の剣。

イチイヴァルは北欧神話の狩猟神が創ったとされる櫟の弓。

イガリマとシュルシャガナはメソポタミアの神ザババの二振りの刃。

アガートラームは、ケルトの神ヌァザの義手。

神獣鏡は、中国の破邪の鏡・・・だったか?」

「正解だ」

餅は餅屋と言うか、やはり中二病は神話に詳しいな。

「で、だ。前に言ったよな?その世界には、《人間のみを炭素に転換して殺す化け物》がいるって」

俺の言葉に、皆は『そう言えば・・・』と言う顔をする。

「それが、《ノイズ》。何処からでも現れる恐怖の象徴だ。

ここまでが前提知識。本題はこっからだぜ」

「ふむふむ」

ミリオ先輩も興味深げに聞いている。

「ノイズは、自分の存在そのものを別次元に移す事で物理攻撃を無効化する能力を持ってるんだ。コレを位相差障壁と言う」

「・・・へ?」

やっぱり上鳴は理解出来ないか。

「まぁ簡単に言うと・・・俺達が動いてるこの次元を平面としよう。俺達は、そこから浮き上がった立体的な動きは出来ない。だがノイズはこの平面から浮き上がって、攻撃や障害物を飛び越える事が出来るんだ」

「・・・ん~、何とな~く分かるような分からんような・・・」

「難しいな~・・・」

切島も、こういうのは苦手っぽいからな。さて、ここからだ。

「実は先輩の個性は、単なる《透過》では無くこの《位相差障壁》なんだよ」

全く、個性ってのはこんなものすら再現出来るってんだからスゴいもんだよな。

「根拠は2つ。1つ目は単純に、シンフォギアと同じく位相差障壁突破機能が搭載されているグリス・ローグ・クローズの攻撃が通じた事」

恐らく、元々誰かが対ノイズ用に装着する事を想定して創ったんだろうな、仁は。*2

「そして2つ目だが・・・単なる物質透過なら、先輩はとっくに死んでいるからだ」

『ッ!?』

お、皆良いリアクションしてくれるねぇ。コレだから話し賀意があるってモンだ。

「まず、さっき先輩は『肺が酸素を取り込まなくなる』と言ったが、そもそもそこからおかしいんだよ。何せ、人間は肺の中の酸素分率が6%以下になれば瞬時に気絶しちまうからな」

猛毒柳の理屈だ。

「それだけじゃない。空気が透過するなら、必然的に気圧も無くなっちまうハズだ。そして0気圧下では、液体は冷たいまま沸騰する。まぁ人体内なら血管なんかで圧が掛かってるから血液は沸騰こそしないだろうが、減圧による鼓膜破裂、血管内気泡、鬱血なんかは避けられない。ならば、何故そうならないか・・・」

「ッ!成る程!そこにさっきの位相差障壁の理論を当てはめれば!」

「八百万、正解だ」

八百万は飲み込みが早くて助かるねぇ。

「八百万の言う通り、先輩の個性が位相差障壁だと仮定すれば、全て筋が通る訳だ。

・この次元から浮上して物理抵抗を全て遮断。

・この次元と同じだけの圧力が掛かっている次元に、肺の中の空気ごと身体を移す。

これなら、先輩が無事な事にも納得出来る。ま、浮上っつってもこっちのイメージは息を止めて水中に潜っている感じだがな」

「成る程!確かに君の言う通りだよね!近い内に、個性届けを更新してくるよ!」

まぁ、最近は水圧に耐性のある個性を持つ奴ばかりが海の仕事するから、潜水病なんかがパッと出て来なくても仕方無いけどさ。

「さて、良い経験も出来た事だし戻るぞ」

 

相澤先生の指示に従い、俺達は教室へと足を向けるのだった。

 

(ヴォジャノーイサイド)

 

(ったく、何でオレまで当てられちゃうかなぁ・・・)

とある山中の廃工場の中で、オレは天井の柱に寝ころびながら大きくため息を吐く。

その原因は他でもない、目の前の光景だ。

方や敵連合のトップ・死柄木を筆頭とした、連合の精鋭チーム・・・片や黒い噂が絶えず、個人的に俺が()()()()()()死穢八斎會の若頭・オーバーホールとその側近数名。

そいつ等が互いに向かい合っており、空気もかなりギスギスしている。

そしてその間にいるのが、オレ達のリーダー・・・まだメモリもコードネームも教えられてない、あの黒服だ。

(ハァ・・・お散歩行きたい・・・)

そんな俺の囁かな願いも、今は叶いそうに無かった。

どうやら、お互いがお互いを自分の支配下に置きたいらしい。それで、どっちが上になるか・・・な~んて、オレからすれば心底どーでも良い事で揉めてる。

「ゴメンね極道クン。私達、誰かの下に付くために集まってるんじゃあないの!」

連合のマグネが個性を発動し、オーバーホールを引き寄せる。

 

でも、駄目だ。

 

殺人に対する認識が違い過ぎる。オーバーホールに正面から喧嘩を売るのは得策じゃあない。

故に──────

 

――ゲコココココココッ――

 

「─────投影(クムクム)

 

──────オレは、その攻撃を妨害した。

オレの側に霧が発生し、巨大なヒキガエルが現れた。その長い舌を伸ばし、瞬時にマグネを絡め捕って吊り上げる。

「え、ちょ!?ヴォジャノーイくん!?」

「止めときなよ。言っちゃ悪いけど・・・今止めなきゃ、君が死んでた」

オーバーホールの個性・・・手で触れたモノを分解し、その後で任意で再生・修復出来る能力。当然ながら、分解の段階で止めちまえば相手は死ぬ。どこぞの錬金術マンガにも出て来たような、正直言ってチートな能力だ。

「良い判断ですよ、ヴォジャノーイ」

パチパチと拍手しながら、リーダーがオレを見てニッコリと微笑む。気持ち悪い事この上ない。

「別に・・・マグネは一緒に話したりすると面白いから、助けただけ。つかそー思うんだったらさ、リーダーが先に止めてくれりゃーよかったじゃんよぉ」

「試したんですよ、君の判断力をね」

ケッ、やっぱウチのリーダーはこういう所が喰えない・・・

「では、私達ですね。次は・・・スポンサーにしていただけませんか?私達を。ある程度は出資しますし、幾らか融通出来ますよ?ガイアメモリを」

出たよ、営業スマイル貼っ付けたビジネストーク。

「・・・副作用は?」

「現在、負担を大きく軽減出来るようになっています。特殊コネクタ手術によって。

変わりに、頂きたいんですよ。貴方達のメモリを用いた戦闘データをね。それだけで満足ですよ、此方は」

要は、モルモットになって下さいって話だ。

「・・・確かに、ガイアメモリの力は魅力的だからな。前向きに検討しよう」

うわ、あいつ了承しやがったよ・・・

「では、これでお開きと致しましょうか、今日は。また後日という事にしましょう、具体的な決定は」

・・・一応、丸く収まったか。あ~ぁあ、やだやだ。

「ちょっとヴォジャノーイくん、いい加減下ろしてくれないかしら?」

「おっと、ワリィワリィ」

忘れてた。クムクム消してっと・・・

「じゃ、オレ達はコレで」

オレは天井近くの通気口から外に出る。そして脚に力を込め、一気に飛び上がった。

(子供切り刻んで実験するような奴とは、仲良くなれる訳無いよ・・・)

今日のお天気は、曇り後雨。

オレの心のお天気とおんなじだ。

 

─────────────────────────

────to be continued・・・

*1
尚、この化け物は全作業をソードビット射出から0,5秒で済ませている。

*2
実際、リメイク前の戦姫絶唱エボリューションッ!ではセレナがグリスに変身している。




「遅いっての」
『スマンスマン・・・新技出たし、取り敢えず解説しようぜ?』
「ふん、良いだろう・・・つか、早く俺ちゃん出せよ」
『仕方無いだろ、お前を出せるシーン少ないんだから』
「だったら書けばいいだろうッ!!」
『筋肉式論破ぇ・・・もう良いや。今回は、BROWKUN†BREAKER(ブロウクン・ブレイカー)PROTECT†PROTECTOR(プロテクト・プロテクター)についてだ』
CRU†SADE(クルセイド)忘れんな」
『あ、ゴメン・・・じゃあクルセイドから。ぶっちゃけコレは原点のSERE†NADEとそんな変わりないよ。×の字にエネルギー斬撃を飛ばす技。
プロテクト・プロテクターはシールドビット、ブロウクン・ブレイカーはパイルバンカービットだ。どっちも、覇界王の漫画に出て来るメカノイドの技だぜ』
「ブックオフで新品未開封の特装版が売ってたってアレか」
『正に奇跡』
「さて、東方の狩人さんがコラボ書いてくれてるな」
『そうだな。お前とあややんのイチャイチャもあるらしい』
「弟子に頼らず自分で書けよな?」
『・・・善処する』
「ホントかよ」
『ゴメンって・・・では、次回もお楽しみに!』
「狩人さん、頑張れよ!」


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第17話・出久の受難/緑眼のJ

「おせぇんだよ」
『ゴメンって』


(出久サイド)

 

ミリオ先輩に勝って、午後の授業も終わった。

さ~て、インターンは何処にしようか・・・グラントリノかな?前回は色々とバタバタしてたし。

 

───

──

 

「という事で電話してみました」

『誰だ君は!』

「グラントリノの所は駄目ですかね?」

『スルーたぁ大物になったじゃねぇか・・・生憎だが、別件で混んでてな。今はそんな余裕無い』

「あ、そうですか」

ふむ、残念だな。

『悪ィな小僧』

となると、えーりんの所になるか?

「じゃ、お時間頂きありがとうございました」

『おう、達者でな』

 

─ピッ─

 

ふむ、どうしたもんか・・・

「出久、悩んでんの?」

と、三奈が後ろから抱きついてきた。

「ま~ぁな。早いとこインターン先探さないと・・・」

 

─コ~ォタ~ァエ~ダァ~イ!セェ~ッツダァ~ン♪─

 

「ゴメン電話だ」

三奈に断り、着メロを流すスタッグフォンを開く。掛けてきたのは・・・勇義か。

「もしもし、どうした?」

『お、出久!今ちょっと時間良いか?』

「時間?」

今夜は予定も無いし、トレーニングもシャワーも終わったし・・・

「良いけど、どうかしたか?」

『いや~、最近物騒だろ?だから色々と、情報交換したくてね。出久以外にも、そう言うの詳しい奴がいたら連れて来てくれると助かるんだけど・・・』

「分かった。場所は?」

候河(こうがわ)駅の近くに出来たグリーンベレーって喫茶店』

米軍特殊部隊(グリーンベレー)か。このご時世によく似合う良い名前だ」

『だろ♪』

あ、多分コイツ俺が皮肉で似合ってるって言った事理解してねぇな。

『じゃ、後でな』

「あいよ」

 

─ピッ─

 

「出久、誰からだ?」

「あ、兄さん」

電話を切ったタイミングで、兄さん達が風呂から出てきた。ふむ、髪が濡れると色気が増すな。

「知り合いと、ちょっと情報交換に。と言う訳で、ちょっと行ってくるわ」

「成る程、行ってこい」

「行ってらっしゃ~い」

さて、相澤先生に外出届出して来よ。

 

───

──

 

「よっ、久し振りだな勇義」

俺はエターナルボイルダーのイグニッションキーを抜き、勇義に挨拶する。今日は黄色パーカーと紺のGパンだ。

「おう!って・・・ソレ誰?」

そう言って勇義が指差したのは、俺の後ろの筋肉ソコソコ・真っ赤マンの変態(デップー)だ。

「ドーモ、勇義=サン。デッドプール=デス。

最近出番が無い。今回も頑張って喋って文字数増や(存在感出)したいと思います」

「二重の意味でメタいな」

ったく、コイツは・・・と言うか、確かに最近コイツと会ってなかったな。

「で、そっちの付添いは聖か」

勇義の後ろには聖白蓮。こっちは黒いレディーススーツだな。

「お久しぶりです、緑谷さん」

「久し振り。干須の悪夢後の生存報告以来だな」

聖は、ヒーロー活動と並行して命蓮寺という寺の住職もやっている。ちなみにカウンセラー免許持ち。で、サイドキックは殆どがムショ帰りの元(ヴィラン)だ。日本の(ヴィラン)の性質上、圧倒的に異形系が多い。

雇っている理由は、社会復帰の手助けらしい。他にも、裏の噂等を仕入れたりするのに丁度良いんだとか。俺とデップーみたいな感じだな。

とまぁ振り返ってる内に席に案内された。お互いに向き合うように座り、俺は腕を組む。

「さて、じゃあ本題に入ろうか」

「ねぇ。この構図ってさ、どっからどう見ても合コンじゃね?」

「良くもまぁいけしゃあしゃあとそんな事が言えたもんだなァ俺が本題に入ろうかって言った直後によォ?」

「でもほら、364364(ミロヨミロヨ)。男と女が2人ずつ向かい合って座るって、コレもう完全に合コンだろ?」

「その男2人、両方恋人持ちだけどな」

「そうだった。チカレタ」

「こっちの台詞だ馬鹿野郎」

 

─スパンッ─

 

「い゛ったいッ!?」

ったく、本題に入る前の段階で脱線してどうする。

「ハハハッ!面白いコントだな!」

「コント・・・になっちまってたな。ど突き漫才に」

「ん?何言ってんだ勇義ちゃん。俺ちゃん等は顔合わせりゃ何時もこんなんだ」

「何時もこんなんで懲りないお前にドン引くんだけど」

「ハッハッハッハッハッww!」

楽しそうだなァ勇義。

「で、だ・・・デップー、何か情報は?」

「あぁ・・・」

途端にマスク越しでも分かるような、キリッと真面目な顔になったデップー。

「まず・・・まだ少ないが、裏でメモリっぽいもんが出回ってるらしい。それぞれが結構高ぇから、そうそう手ぇ出せねぇらしいがな」

「成る程・・・」

まだ細々と、って感じか。

「た~だなぁ~?どんなに潜っても、『何処でどんな野郎が作ってるのか』って情報は全く出てこねぇんだ・・・ま、最近俺ちゃんも日和(ひよ)ったからな。潜ったっつっても、例えるなら精々アナから前立腺にも当たらn」

「流れるように汚ェ下ネタをぶっ込むな」

・・・まぁ、一応情報は得られたな。

「では此方からも・・・」

次に聖が口を開く。

「サイドキックの子から仕入れた情報なのですが・・・最近、死穢八斎會(しえはっさいかい)が怪しい動きを始めたみたいです」

「ッ!?・・・死穢八斎會、だと?」

一体何が・・・

「ん?出久、知らなかったの?結構有名な噂なんだケド・・・で、そいつ等がどうかしたか?」

マジか・・・1年半程度もぬるま湯に浸かって、俺も日和っちまったて事かよ。クソ・・・

「あぁ・・・あそこは、日本で最初に俺にコンタクトを取って来た所だ。一応、関係も良好だったつもりをしてる」

(アン)と!?」

蟻?

「マジかよ・・・」

呆然とする勇義に頷く・・・問題は、こっからだな。

「で、その怪しい動きってのは?」

その問いに対し、視線を外して苦い顔をする聖・・・まさか・・・

「・・・個性強化薬(ブーストドラッグ)は、ご存知ですね?」

「ッッッ!!」

・・・最ッ悪だ!

「あぁ。地球の裏でも、テロリスト共に大人気だったからな・・・クソ、よりによって薬物密売(ヤクウリ)かよ・・・となると、ここから更に過激化する恐れがあるな・・・」

「どういう事ですか?」

腕を組む俺の顔を、聖が覗き込んでくる。多分、俺は今かなり暗い顔をしているな。

「あそこのカシラさんは、旧き良きヤクザをモットーにしててな。売春、薬物を固く禁じていたんだ。だからこそ、俺もあそこは仲良く出来ると思って連絡先を渡した」

「「「ファッ!?」」」

まぁ、やっぱり驚くよね。

「俺ちゃん聞いてない!俺ちゃんのいない所で伏線張ってた!?」

「五月蝿ぇ」

ったくメタい事ばかり言いやがってからに。

「それで、連絡はしたんですか?」

「あぁ、だが・・・ガイアメモリの情報を聞こうと電話を掛けた所、全く応答が無かった。今思えば、その時すぐに検索を掛けとくべきだったな。ハァ~・・・」

デカい溜息が零れる。俺も随分、甘くなっちまったもんだ。

「・・・過ぎた事は仕方無い。これから迅速に対応する他無いだろう。丁度、もうすぐインターンだ。八斎會をマークしてる強力なヒーローの所に行くとしよう」

帰ったら早速検索だな。今の内からキーワード考えとくか・・・

 

―カランコロン―

 

「・・・ん?」

今入ってきた奴・・・何かがヤバい!

「ッ!!」

俺が席を立ち構えた先に居たのは―――

 

「フゥーッ・・・フゥーッ・・・」

 

―――緑の眼を血走らせながら口角に泡を吹く、金髪の少女だった。

「っ!ぱ、パルスィ!?」

勇義が驚いて立ち上がり、その音に店内の視線が集まる。

パルスィ・・・仁から貰った情報にヒットした。東方Project、地底の橋姫・・・水橋パルスィか。

どうやら、勇義の顔馴染みらしいな。正直、とても正気には見えんが・・・

 

「ル・・・ルパ・・・パル・・・」

 

「何か見るからに普通じゃないな。怨みは五万と買ってきたが、その一つか?」

しかし、この子には接触した事は無いはずなんだが・・・

 

「勇ゥウウウ義ィィイイイィ・・・大好き、だったのにィィィ・・・貴女なら裏切らないって、信じてたのにィィィ・・・!嫉ましい嫉ましい嫉ましい嫉ましい嫉ましいパルパルパルパルパルパルッ!」

 

「ファッ?レズ同士の痴情の縺れかよ、たまげたなぁ」

「黙れデップー」

さて、勇義の顔色は・・・真っ青通り越して真っ白だな。

「ぱ、パルスィ!放ったらかしにしちまった事は悪かった!でも、アタシにも訳ってのが・・・」

いつも強気な勇義がしどろもどろになってやがる・・・

 

「もう良い・・・貴女も、私を棄てて行くと言うのなら・・・

貴女を、私だけのモノにするッ!!」

 

【カース!】

 

「ッ!ガイアメモリ!」

しかも銀色・・・シルバーメモリかよ!?クソッ、踏み込みが間に合わねェ!

「止めろッ!!」

俺の制止も空しく、彼女は自らの心臓にメモリを突き立ててしまった。

 

『ヴアァァァァァァァァアッッッッ!!!!』

 

「畜生、変身しちまったか・・・」

俺はドライバーを取り出しながら、パルスィ・・・呪いの怪人(カースドーパント)を観察する。

血塗れた死装束から伸びる手足は、自動人形(オートスコアラー)達のような球体関節。右手は下腕全体が大きな和蝋燭となっており、ソール11遊星主のピルナスを彷彿とさせる形をしていた。

その腕には藁人形が打ち付けられており、頭部からも大量の釘が不規則に生えている。

真っ黒な眼窩からは血涙が絶えず溢れており、緑に妖しく輝く左目が此方を睨んだ。

死装束の腰帯には大量の五寸釘が挟み込まれている。

そして足元は於保つかず、まるでゾンビゲーマーのようにフラフラと立っていた。

 

流石は呪い(カース)。丑の刻参りがモチーフになってるな。思わず項が粟立った。

「取り敢えず、メモリブレイクを優先・・・」

 

─カカカカッ─

 

「ぬぅっ!?」

「うわっ!?」

(アン)とッ!?」

「きゃっ!」

俺がメモリを構えた瞬間、カースドーパントは俺達に向けて素早く両腕を振るう。するとその袖から何かが飛び出し、床に突き刺さって硬質な音を立てた。

俺の身体はその瞬間、硬質ゴムか何かで挟まれたように動けなくなる。

「オ~イオイ勘弁してくれよ~、男にこんなエロ漫画御用達の能力使うか?普通。なぁ、そう思った・・・そう思わない?」

「首は動かせるのか」

デップーを無視して足元を見れば、やはり皆の足元には黒い物体・・・五寸釘が突き刺さっていた。それは床のタイルに映った俺達の影を貫いており、一目見ればコレが原因だと分かる。

「影縫い、か・・・」

翼もやっていたが、あっちはどちらかと言うと催眠術の類だった。対して此方は純粋な呪術だ。かなり厄介だな・・・

『・・・キヒッ、キヒヒヒヒッ♪』

ノイズが掛かったような笑い声を上げながら、カースドーパントは此方に歩み寄る。しかし、その視線は俺達を捉えていない。寧ろ完全に眼中に無いのだ。その代わりに凝視しているのは・・・勇義の顔。

動く首と目をありったけ捻って勇義の顔を覗けば、その表情にはかなり強い怯えが浮かんでいた。

「ぱ、パルスィ?何で、メモリなんて・・・」

()()、ですって?・・・悪いのは貴女じゃないッ!!』

「ヒッ!」

アイツ、ホントに勇義か?普段とは似ても似つかん。

『皆が腫れ物みたいに扱う私を、貴女だけは見てくれたッ!貴女がいれば暖かかったッ!約束もしてくれたわよね?私の事は、絶対に棄てないって・・・』

「・・・」

勇義はもはや、蛇に睨まれた蛙だった。

『でも貴女は、段々と不自然に距離を置くようになった。電話を掛けても、何時も繋がるのは留守電だけ・・・』

・・・何か、勇義にもデカイ非があるっぽいぞ?さっきから言ってる事、全部本当だ。勿論、彼女の妄想である可能性もあるが・・・もしこれが本当なら、解決が非常に難しくなってくる。人間関係は、言わば自爆機能が搭載された難解な知恵の輪だ。しくじれば、俺も彼女等も只では済まない。オマケに、メモリで感情が暴走してるっぽいし・・・

『・・・もう良いわ・・・来なさい、勇義』

カースは勇義の頬を撫でて肩を抱き、蝋燭状の右腕から黒い靄を放った。それは俺達の視界を塗り潰すも、10秒程度で霧散する。しかし、そこにカースドーパントの姿は無かった。また、勇義の姿も・・・

 

─パキンッ─

 

そしてカースドーパントが行方を眩ますと共に俺達の影を縫い付けていた五寸釘が砕け、俺達の身体に自由が戻る。どうやら、誘拐を優先した即席の呪縛だったらしい。身体を軽く揺すって四肢の調子を確かめてみるが、特に後遺症等も見られない。

「あぁらま・・・名実共に、グリーンアイドモンスターになっちゃったか・・・」

「拙いです!急いで捜さないと・・・」

デップーが悲しげな顔をする一方、目の前で友人が浚われてしまった事もあり、聖はかなり狼狽えているみたいだ。

「落ち着け。取り敢えず、今は情報が必要だ。焦っても何も好転はしない。急がば回れ、だ」

「・・・そう、ですね。すみません、緑谷さん。僧たる者、こういう時こそ冷静に他者を導かねばならないのに・・・」

「いや、ダチが浚われて冷静な奴は早々いねぇさ。だから比較的冷静だった俺が引っ張り戻しただけだ」

俺の言葉で、聖も幾分かは冷静さを取り戻せたようだ。

「取り敢えず・・・」

 

─ゥウ~ウゥ~・・・─

 

「警察行こうか。パトカー来たし」

 

─────

────

───

──

 

「またドーパントか」

「またドーパントだ」

「ハァ~・・・」

目元を押さえ、大きな溜息を吐く竜兄さん。まぁ、センチピード(昨日)カース(今日)だもんな・・・

「まぁ、仕方無い。俺達の情報網で、キーワードを調べれば良いんだな?」

「あぁ・・・」

俺は目を閉じ、地球の本棚に入った。本棚が無限に浮かぶ白い空間で、俺は目を開く。

「さぁ、検索を始めよう。知りたい項目は、勇義とカースドーパントの現在位置」

さぁて、まずは・・・

「聖、あの娘の名前は知ってるかな?」

『勇義さんがパルスィと呼んでいましたので、話の話題によく上がる、《水橋パルスィ》さんでしょう』

「ふむ(予想通り、だな)・・・キーワード、《水橋パルスィ》」

 

――水橋(Mizuhashi) パルスィ(P a r s e e)――

 

「やっぱり個人名はかなり減るな。だが、それでも全部読むには少々時間が足りない。次だな」

残り20冊弱だ。

「取り敢えず、個性だな」

 

――個性(NATURAL SUPER POWER)――

 

本が一冊に絞られた。タイトルは・・・

嫉妬(JEALOUSY)、か・・・ありとあらゆるモノに対し、嫉妬心を抱き続ける個性。成る程、さっき言ってた『腫れ物扱い』ってのはこれか」

確かに、健常者からすればウザいだろうな。

「・・・さて、キーワード《個性》を削除」

また本棚が戻り、検索を続行する。

『問題は、現在居る場所の情報が無い所だな』

「そこなんだよなぁ・・・ん」

パルスィ・・・彼女の言動は何処からどう見てもヤンデレのそれだ。

「俺達の排除より勇義の誘拐を誘拐した事から、彼女は隔離系のヤンデレだ。ガイアメモリの影響を受けても排除系にならなかったのは、かなりラッキーだな」

まぁ、ここからどう転ぶか分からん。急ぐ事には代わり無い・・・

「さて、ここで頼りになるのがデップーだ」

『俺ちゃんニッテンノー!?』

「お前以外にデッドプールなんてクッソ濃いキャラがここにいて堪るか」

『・・・で、何故デッドプールなんだ?』

竜兄さんの質問はご尤も。だが理由聞いたら呆れかえるぞ。

「デップー。隔離系ヤンデレエロゲーでは、ヤンデレヒロインは主人公を攫った後どうする?」

『・・・は?』

「仕方無いだろ、こういう知識はコイツが一番詳しいんだから」

俺だって、流石にヤンデレの行動パターン全部を予測出来る訳じゃない。それに昔のフィリップ先輩程では無いだろうが、俺は人の感情的な行動を予測するのが得意じゃない。

故に、日本文化大好きなコイツが持ってるデータを参考にするしか無いんだ。

『・・・ジャンルは?』

「恐らく・・・《隔離系》、《元苛められっ子》、《友達から依存対象へ》、《長期間の無接触》・・・こんな所か」

何時もと逆だな。

『・・・そういうタイプはまず、他者と繋がりたい、交わりたいと思っていたタイプが多い。ウ~ンいやらしい言い方になっちゃったな』

「良いから続けて。で、理由は?」

ったく、直ぐ脱線するんだから・・・

『彼女は何の理由も無く苛められてた訳じゃない。その個性を疎まれてって感じだな。だったら、数少ない自分を認めてくれた相手との《繋がり》に固執し、拘束するならそこにする筈だ。初めて接触した場所とかな。そこが密室なら尚更。例えば学園モノなら、《初めて主人公とジックリ話した体育倉庫》とか』

「ふむ、成る程・・・カースドーパントの能力と相性が良さそうだな」

呪術で結界を張れば、どんな所でも密室化出来る。コレは厄介か・・・

「取り敢えず、デップーが言った《学校》は勇義が入れない。除外しても良さそうだな」

しかし、矢張り決定打に欠ける・・・

「聖、密室じゃなくても何でも良い。勇義から、パルスィに関するキースポットの情報を聞いていないか?」

『・・・そう言えば・・・』

 

─────

────

───

──

 

「彼処だ。間違い無いぜ」

小さく呟き、デンデンセンサーから目を離す。その先にあったのは、何の変哲も無い公園だ。最も、人は一切居ないが。

「まさかビンゴだったとは、憑いてるな」

この公園、一見すれば人気が無いだけの公園。しかしデンデンセンサーでアナライズしてみれば、五角形の公園の境界に沿ってバリアのようなものが張ってあるのだ。

「なぁ出久。この結界、アンカータイプだよな」

「あぁ、多分な」

デップーの言ったアンカータイプとは、主に多角形の結界に使われる張り方だ。幾つかの呪具を周囲に打ち込み、呪具同士を結んだ線を結界にする。

「あれを壊せば・・・とは、行きそうに有りませんね」

聖の言う通り。呪具である五寸釘は見えているが、あれを壊せば術のバランスが崩壊するだろう。そのまま何事も無く霧散してくれれば良いが、最悪の場合エネルギーが弾けて周りに被害が出るかもしれない。それは駄目だ。

「だが、突破口はある」

俺はそう言い、あるメモリを取り出した。それは紫色のフレームに白いラインが入り、同じ色のラベルが貼られたメモリ・・・

神獣鏡(シェンショウジン)・・・」

最後のシンフォニックメモリだ。殺人的な威力と異能分解能力のせいで、今まで出番が無かったが・・・呪術障壁の突破には使える筈だ。

「俺が穴を開け、そこに2人で飛び込む。行くぞデップー!」

「おうよ!」

 

―キュピーンッ!―

 

【デンジャラスッゾンビィ!】

【ガッチョーン・・・】

 

―ガシャッ―

 

【エターナル!】

「「変身ッ!」」

 

【ガッシャットゥ!バ・グ・ル・アァップ!】

【エターナル!~♪~♪】

【デェーンジャ・デェーンジャ~!!ジェノサイッ!!デス・ザ・クライシス!デンジャラァスゾンビィ~!!Woooooooッ!!!】

 

俺とデップーはそれぞれ変身し、ライダーメットのバイザー越しに結界を見やる。どうやらバイザーで見ると、赤っぽく見えるらしい。まぁ、過剰適合進化者の義眼(アイズオブハイドープ)も日常モードにしてたしな。

「さて、やるか!」

 

【シェンショウジン!】

 

「詠装・・・」

 

愛は鏡に映り進化する(Love Shen syoujing EVOL zezzl)・・・♪―

 

メモリを胸に突き立て、聖唱を紡ぐ。すると体内から紫の光が溢れ出し、俺を包み込んだ。

光の中でエネルギークリスタルが飛び交い、それがアーマーとして変形・装着されていく。

脚にはスラスター、防具、メーザーブラスターを兼ねたアーマーが装着され、エターナルローブは紫がかった銀色に。

そして腰にも同様のローブマントが現れ、手には両刃の鉈にも似た武器が精製された。

最後に頭を挟み込むようにヘッドギアが装着され、顎のようなバイザーが噛み合わさるように閉じた。

「完成・・・仮面ライダーエターナル・シンフォニックスタイル・・・太陽ノ神獣鏡(シェンショウジン)

 

――BAD QUESTION♪・・・EVOLUTION♪――

 

ギアが奏でるメロディに乗せ、歌を口遊む。その歌声がギアのエネルギーとして供給され、内部共鳴を繰り返す事で加速度的にエネルギーが増幅。それを密閉し、一撃で結界に穴を穿つ作戦だ。

 

――カガミ越しの♪ラヴの文字が♪――

 

そして俺は、肩と腰のエターナルローブを掴んで強くはためかせた。するとローブは細かく砕けるように分解し、キラキラと光りながら空中を漂う。

「アラ綺麗」

デップーの言う通り、さながらダイヤモンドダストだ。この1つ1つがヘキサゴンプレート状の鏡面反射板で、メーザーを反射し方向を変える役割を持つ。

更に脚を揃え、膝のアーマーを展開。エネルギー収束プレートが円を描くように展開し、標的を穿たんと力を溜め込み始めた。

(さて、上手くいってくれよ!)

 

to be continue・・・「何この中途半端な終わり方・・・」




『済まん、ちょっと難産でな』
「なら次をとっとと書きやがれ」
『分かってるよ・・・すいません、テキトーな終わり方で』


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第18話・Pの愛情/魔女の介入

「ホラホラ!チンタラせずに書けェ!」
『強要は止めチクリィ』


「・・・ん」

 

─ジャラッ─

 

「ッ!」

勇義が目を覚ますと、彼女を縛る鎖が擦れて音が鳴る。その違和感に、勇義の意識は一気に覚醒した。

「ここはッ!?」

「あら、起きた?」

「ッ!!」

勇義が左に視線を向けると、そこにはパルスィが座っていた。よく見れば、勇義が縛られているのはパルスィが座っているベンチだ。

「勇義、憶えてるかしら。ここが何処か・・・」

「え?・・・!」

パルスィに言われ、周囲を見渡す勇義。目についたブランコ、ジャングルジム等の遊具に、勇義は大いに見覚えがあった。

「・・・パルスィと初めて会って、話した公園」

「ふふっ、せーぃかい♥」

満面の笑みを浮かべるパルスィの言葉は妙に色気があり、勇義は脳を鼓膜越しに擽られるような錯覚を覚える。

「憶えててくれて嬉しいわ、勇義♥」

「~っ///」

パルスィは勇義に摺り寄り、肩に手を掛けてじゃれつき始めた。その様は、正に"猫にマタタビ“状態である。

「ねぇ勇義。私はね?別に貴女を殺したい程独占欲が強い訳じゃないの。ただ、最近のよそよそしい態度に腹が立っただけ・・・さっきは気が立ってて、貴女を私だけのモノにする、って言っちゃったけど・・・よくよく考えればそれはムリね」

勇義を背面から抱き締めて肩に顎を乗せ、自嘲気味に呟くパルスィ。意外と理性的なその様子に、勇義はかなり驚いた。出久から聞いたメモリ中毒者の特徴に合致しないからだ。

「じゃあ、何で・・・」

「こんな事を、って?」

勇義はパルスィの目を覗き込む。その緑の瞳に宿る感情は、純粋な戸惑いだった。

「分からないの・・・」

「え・・・?」

勇義は、酷く困惑した。

勇義の個性は《鬼》。それも人が業や怨嗟を溜め込んで変異する後天性の鬼・・・所謂《悪鬼》ではなく、生まれながらの天然モノの鬼だ。この鬼は嘘を嫌い、その嫌うモノを感知する能力が備わっている。

故に、このパルスィの言葉が嘘ではないと分かった。

本当に、分からない。

自らの行いの理由が理解出来ていないパルスィに、勇義は困惑したのだ。

「それだけじゃない。このメモリも、何時何処で手に入れたか・・・今だって、何で勇義をこんなに縛ってるのか、あの結界を張り続けてるのか分からない。でも、そうせずには居られないの」

「・・・メモリは何回使った?」

「多分、さっきの1回だけ・・・」

「だったら、出久に頼めば後遺症とかも無く治して貰えるかもな!」

「・・・便利な奴ね。器用万能で嫉ましい」

「・・・フフッ」

「・・・何よ」

笑みを零す勇義に、パルスィはジト目を向ける。

「何というかさ、パルスィの口からやっと何時もの嫉み節が出たから。パルスィの嫉妬は、やっぱりしっくり来る」

「嫉んでばっかで悪かったわね」

「違う違う、そうじゃなくてな?」

勇義はベンチの背凭れに上体を預け、パルスィの肩に頭を着けた。

「前にも言ったけど、パルスィの嫉妬ってさ・・・裏を返せば、その人の良い所っつーか、長所な訳じゃん?つまり、パルスィはある意味褒め上手なんだよ。そのおかげで、アタシはこんな風になれたんだし」

「・・・そういう豪快な性格、嫉ましいわ」

「ハハッ、ありがとう♪」

誰もいない公園に、楽しげな笑い声が響く。気付けば、お互いの態度はかなり軟化していた。

「・・・ねぇ勇義、教えて?何で、あんなによそよそしかったの?」

「・・・実はアタシ────」

 

「甘ったるいな」

 

「「ッ!?」」

突如として聞こえて来た声に、2人は驚く。

声の主であるローブを着た女は、ジャングルジムの天辺に座っていた。

「全く・・・もっと狂暴に呪いをまき散らしてくれるかと思ったが、拍子抜けも良い所だ」

女はジャングルジムから飛び降り、ふわっと音も無く着地する。

「・・・そうか。元々嫉妬という呪いの感情と同居していたせいで、耐性がついているんだな。ハァ・・・我ながら、選んだ奴が悪かったか」

「・・・選んだ?」

女の物言いが引っ掛かり、勇義は目を鋭く細めて睨んだ。

「あぁ。その女の能力なら、ハイドープになれるかもしれないと思ったのだが・・・正直、ソイツはハズレだ。何の価値もない」

 

「・・・取り消せよッ!その言葉ァッ!!」

 

牙を剥き出し、目をこれでもかと見開いて吠える勇義。

「くっ、この鎖、外れない!私が作った筈なのに!」

「あぁ。私はちょっとばかし、暗示や催眠術も得意でね。それはお前の力では外れないし、あの結界も消せない。外からの救援は絶望的だな」

「そんな・・・」

パルスィの表情が曇り、目には涙が浮かぶ。

「・・・何だ?その目は」

しかし、勇義は違った。目には希望が宿っており、口角が上がってすらいる。

「・・・お前は、出久をナメ過ぎだよ」

「何だと?」

勇義の言葉に、女は眉を顰めた。

「どのような輩でも、あの呪いの壁を突破する事は出来ない。呪いの概念を凝縮して固形化したものだ。寧ろ、触れる事すらままなるまい」

「どぉかな、そりゃぁ・・・」

 

─バヂヂヂヂヂヂヂヂヂヂッ!!─

 

唐突に、結界から爆音が鳴り響く。音の元を見てみれば、何らかのエネルギーが結界にぶつけられていた。

「何だとッ!?」

「ほぉら来た」

女は驚き、勇義はニヤリと笑う。女の失敗は・・・

 

──極光!──

─バキンッ─

 

「よぉ勇義。助けに来たぜ」

出久に、常識の物差しを当て填めた事だ。

 

(出久サイド)

 

「よぉ勇義。助けに来たぜ」

神獣鏡を解除し、大きく首を回す。

「プギャー、飛行は速いよ飛行はぁ!!」

「煩い」

遅れて来たゲンムがボヤくが、んな事ぁどうでも良い。で、現状は・・・

 

・ベンチに縛られてる勇義

・勇義を縛る鎖に手を掛けてる水橋パルスィ

・黒いローブを纏った謎の女

 

・・・どういう状況だコレ。誘拐した張本人が何故か涙目だし・・・

「チッ、化け物め・・・ならば!」

 

─パキッ─

 

ローブの女がフィンガースナップした。何かの合図か?

「・・・」

【カース!】

「ぱ、パルスィ!?」

その瞬間、パルスィの顔から表情が抜け落ちた。そしてメモリを取り出し、カースドーパントに変身する。

「・・・成る程、大t」

「大体分かっちゃった」

「セリフを盗るな。そして常盤ソウゴみたいな言い回しするな」

まぁゲンムが言う通り、理解は出来た。

恐らく、洗脳や催眠の類だろうな。ならば、水橋パルスィは悪くない訳だ。

「行くぞ!」

「逝っちゃうぜ!」

「逝くな」

イントネーションが違う─スカンッ!─って危なッ!また五寸釘かよ・・・

「チッ、どうやらお約束は通じないらしい。ちゃっちゃとやるぞ」

【ガングニールβ!】

「詠装ッ!」

 

─I'm that Smile Guardian GUNGNIR tron~♪─

 

ガングニールを纏い、拳を握る。

『キィィエァアァァァァァアッ!!』

カースは死装束の中から大量に呪符を取り出し、握り締めてから投げつけて来た。

「ゲンムッ!止めろッ!」

「当たり前田のクラッカー!」

 

─ピュルルアァーンッ!ピュルルアァーンッ!─

 

【クゥリティカァル・デァッド!!】

ゲンムの分身で、呪符受け止める。しかし・・・

『ヴォアアァアァァァァ!』

「ッ!」

「あ~ぁあ、ホントに呪いって奴はエロ漫画御用達なんだから」

飛んで来た呪符は分身に張り付き、乗っ取られてしまった。

「チッ、殭屍(きょうし)化しちまったか。分身肉壁は悪手だったな」

しかもデップーは格闘術も得意だから、殭屍もそれを使えるだろう。本当に厄介だ。だから・・・

「ゲンム!一掃するから下がってろ!」

「合点承知の助!」

ゲンムを下がらせ、メモリを召喚。腰のマキシマムスロットに叩き込み、マキシマムドライブを発動する。

【ツァンダー!マキシマムドライブ!】

「ハァァァァァァァァァアッ!!」

 

─バヂヂッギジジジジジジッバヂヂヂッ!!─

 

頭上に生成した雷雲からの落雷を、突き上げた拳で受けてエネルギーをチャージ。そして雷を纏った右腕をジャマダハルのように変形させ、殭屍ゲンムの群れに向けて突き出した。

 

──我流!サンダーブレェク!!──

 

─ビッシャァァァァァァァンッッ!!!!─

 

突き出された拳は雷光の槍と化し、ゲンムの群れを貫く。その間も絶えず頭部の3本角で雷を受け続け、供給を止めない。結果、10秒程度でゲンムの群れは殲滅出来た。

殭屍が雷に弱いってのは、どうやら本当だったらしい。

「チッ、やはり化け物だな・・・殺されては堪らん」

女が金色のカードのような物を翳すと、空間に穴が開いた。黒霧のワープゲートにも似たそれに女が飛び込むと、穴はすぐに塞がってしまう。

「成る程、あぁやって入って来たのか。兎に角、今は水橋パルスィの救助が先だ!オラァッ!!」

現状の打開を優先し、カースドーパントをブン殴った。

「ヴッウッッ!?!?ゴヘァッ!?」

その瞬間、俺の腹に鈍痛が走る。

「ゴッフゲフッ・・・こ、れぁ・・・」

痛みが走った場所は、丁度俺の拳が当たった場所・・・まさか!?

「ぬぅ・・・外的刺激に含まれる敵対心・害意を呪詛として受け取り・・・呪詛返しとして、俺に撃ち返していやがるのかッ・・・!」

しかもこのダメージ、カースドーパントは防御力がかなり低いと見た。殴れば殴る程俺にダメージが入り、更にドーパントの素体にされている水橋パルスィにも負担がかかる。チッ、厄介なドーパントだぜ・・・

 

─ドックンッ─

 

「カッ!?」

「どうした出久!?」

な、何だ!?心臓がッ 焼け ように ついッ・・・!

 

───おにいさん・・・どうして?───

 

ッ!?き、君は!あの時の・・・

 

───熱かった・・・苦しかった・・・ねぇ・・・───

 

───Dぉうsて、たsけtぇくlぇなかttたnぉ?───

 

「うぁあ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ッッッ!?!?!?」

 

呪いが、溢れ出す・・・

 

──【Dainsleif!】──

 

(NOサイド)

 

「オイ出久!どうしたってんだよ!?」

エターナルに起こった異変に、ゲンムが叫ぶ。その視線の先にいるのは、禍々しい真っ黒な影だった。

 

血のように赤黒く染まった複眼。

 

コンバットベルトが消し飛び、闇色に染まった装甲。

 

刺々しくなった全身のアーマー。

 

胸部に開く4つの目。

 

そして、蒼く燃え上がる両手足。

 

誰がどう見ても、まともでないのは一目瞭然だった。

「呪いに触発されて鎧が呪いの装備になりましたとかクッソありがちなシナリオ!つかこの先そんなに考えてないだろ!いい加減にしろ!」

「ゴァアアアアアアアアアッッッ!!!!」

ゲンムに向けて、エターナルが吠える。そしてネコ科動物のように両手を着き、一気に飛びかかった。

「危なッ!?」

すんでの所で爪を躱すゲンム。しかしエターナルは地面に指を突き立ててブレーキを掛け、再びゲンムに襲い掛かる。

「ガァァァァアアアアアアアアッ!!!!」

「アベシッ!ソガシッ!ヤッダッバァーッ!?アァン!オォン!アァッハァッ!」

今度は拳のラッシュであり、数百の残像をも引くパンチの雨霰でゲンムは汚い悲鳴を上げながら吹っ飛ばされた。

「・・・もう許せるぞオイ!もう許さねぇからな!!(迫真)」

ここに来て、デップーがキレる。赤と青のオッドアイが鋭く光り、ドライバーのABボタンを乱暴に叩いた。

 

─ピュルルアァーンッ!ピュルルアァーンッ!ピュルルアァーンッ!ピュルルアァーンッ!─

 

アラート音が響き、ゲンムを黒紫の毒靄が包む。その中でゲンムはBボタンを押し込んだ。

【クゥリティカァル・デァッド!!】

すると再びゲンムの分身が、今度は2体現れる。

 

─ガキンッ ギャリッ バキンッ ガキンッ─

 

「ゴァアッ!?」

分身は素早く駆け回り、擦れ違い様にエターナルを引っ掻いた。そしてよろめいたエターナルの両腕を掴み、動けないよう拘束する。

「いい加減~ン・・・」

そこに、本体のゲンムが歩み寄って来た。その右手には、毒々しい黄色のノイズが走っている。

 

「目ェ覚ませェ!!」

 

──デンジャラス・クロウ!!──

 

ゲンムはその爪を、エターナルの胸に叩き込んだ。

「グアァアアアアアアアッ!?!?」

「悔い†改めて!!(完全勝利)」

爪から流れ込むウィルスプログラムによりガングニールβメモリの機能が停止し、シンフォニックスタイルが解除されてメモリも排出される。

「ッカハァ・・・ハァッ、ハァッ・・・た、助かったぜ、ゲンム」

 

─バヂッ─

 

「なっ!?」

礼を言うエターナルだったが、その瞬間エターナルメモリから放電が発生。ガイアアーマーが分解し、変身が解除されてしまった。

「くっ、シンフォニックだけバグらせたつもりだったが・・・」

「・・・いや、ありがとうゲンム。お陰で・・・勝利の法則が決まった!」

出久は重い腰を上げて立ち、エターナルメモリを仕舞った。

そして別のメモリを取り出し、スタートアップスイッチを押す。

【スカルッ!】

ガイアウィスパーがメモリの名を告げ、出久の髪に銀と黒紫のメッシュが入った。

そして出久はそのメモリをドライバーに装填し、スロットを倒す。

「変身」

【スカルッ!~♪~!】

出久の身体は黒と燻銀の装甲に包まれ、首元からは白いボロボロのマフラーが伸びた。

そして頭蓋骨を模した頭部に稲妻形のひび割れ模様が入り、黒い複眼に紫の波紋が広がる。

「あ、お揃い」

ゲンムの言う通り、骸骨をモチーフにした風貌。そのライダーの名は・・・

「仮面ライダー、スカル

自らを骸として戦う仮面ライダー。その戦士が今、この世界に現れた。

 

(出久サイド)

 

「今助けるぞ、Lady」

俺は中身の冷え切った額に左手を添え、カースドーパントに向けて駆け出す。

『キアァァァァアアアッ!!』

それに対し、カースは再び呪符と五寸釘を飛ばして来た。

「フンッ」

 

─ズキュキュキュキュンッ!ボボボボボボンッ!─

 

右手に召喚したゴツい拳銃(スカルマグナム)で迎撃する。すると呪符が爆発を起こした。どうやら爆炎を発生させる血呪・・・《爆符》だったらしい。

『キィィエァアァァァァァアッ!!』

ならばと、今度は藁人形まで飛ばして来た。勿論、呪符と五寸釘もだ。

だが、的が多いなら手数を増やせば良いだけの事。

「フッ!ハッ!」

左手にトリガーマグナムも召喚し、二丁拳銃で迎撃する。*1

 

─ズガガガガガガガガガガガガガガッ!!!!─

 

『キャアアアアァァァァァアッ!!』

堪忍袋の尾が切れたのか、カースが右腕から此方に向けて緑の火炎弾を放って来た。それをトリガーマグナムのエネルギー弾で撃ち抜き、カースの肩をスカルマグナムで狙撃して怯ませる。

『ギィッ!?』

「お前の呪詛返しは無駄だ。骸骨(スカル)は痛みを感じない。

・・・鳴海荘吉(おやっさん)曰わく、『変身する事は一時的に死ぬ事』、らしい。そして・・・君の死は、もう直ぐ終わる。ゲンム!」

「あいよぉ!」

『キィッ!?』

俺の指示に従い、ゲンムはカースを羽交い締めにした。腕が使えないせいで、カースもゲンムを攻撃出来ない。

「これで、終わりだ」

 

─ガシャッ─

 

俺はスカルマグナムにビートルフォンをセットし、マグナムを折り曲げてマキシマムスロットを展開。そこにドライバーから抜き取ったスカルメモリを装填し、マグナムを一直線形のマキシマムモードに戻した。

【スカルッ!マキシマムドライブ!】

更に・・・

【ユニコーン!マキシマムドライブ!】

ビートルフォンのメモリスロットにはユニコーンを装填。ツインマキシマムを発動し、そのエネルギーをビートルフォンのエネルギー収束装置で圧縮する。

「スカル・ビートルイレイザー・・・」

そしてカースの心臓に照準を合わせ、引き金を引き絞った。

 

─シュビッ!─

 

『カッ・・・』

一転収束されたエネルギーレーザーはカースの心臓・・・カースメモリを正確に撃ち抜き、変身を解除させた。それにより、勇義を縛っていた鎖も溶けるように消滅する。

「ぱ、パルスィ!」

「お~よしよし大丈夫大丈夫。出久の注射は一発でよくキクから」

【ガッシューン・・・(ガシャット)】

【ガッシューン・・・(ドライバー)】

「危ないクスリみたいな言い方するな。ただの治療だ」

俺は変身解除し、勇義が抱えている水橋パルスィを簡単に触診する。

呼吸・・・異常無し。脈拍・・・異常無し。うん、身体は大丈夫だな。

「見た所大丈夫だが、念の為だ。永遠亭に運ぼう」

【ゾーン!マキシマムドライブ!】

俺はエターナルエッジを取り出し、ゾーンメモリを装填した。

「俺ちゃんも連れてって~」

「コレ連れて行ける上限2人なんだわ。残念でした」

「ヴゾダドンダゴドォォォンッ!!」

 

─────

────

───

──

(NOサイド)

 

「・・・ん」

その金髪の少女の意識は、習慣付けられた覚醒リズムに則り浮上した。目は開けていないものの、身体を包む柔らかい感触は布団であろう事が何となく分かった。

「ここ、は・・・」

パルスィがゆっくり目を開けると、板張りの茶色い天井が目に入る。

「知らない、天井・・・」

口を突いて出たこの呟きの元ネタを、パルスィは知らない。

そしてその視界の端には、赤い三角形がユラユラと揺れていた。

「・・・勇、義」

言わずもがな、勇義の角だ。彼女が寝かされているベッドの横で、勇義は腕を組み船を漕いで眠っている。

「ん・・・パル、スィ?」

その勇義の目が、薄ボンヤリながら開かれた。

「勇義・・・」

「・・・ッ!パルスィ!起きたのかい!?」

自らの名を呼ぶパルスィの声に、勇義の意識は一拍置いて一気に覚醒する。

「ん、起きた・・・」

「ハァ、良かった~!」

「わぷっ!?」

勇義は目に涙を浮かべ、パルスィを抱き締めて頭をワシャワシャと撫でる。その豊満なバストに顔が包まれ、パルスィは堪らずタップした。

「あぁ、ゴメンよ?」

「ぷはっ!も~ぅ・・・このでっかいおっぱい、嫉ましいわね・・・」

憎たらしげな表情で勇義の胸をつつくパルスィ。だが、内心満更でも無さそうだ。

「・・・所で、ここは?」

「あ、そっか。説明しないとな!ここは永遠亭っつってな。出久の知り合いがやってる、訳有り専門の病院だよ」

まぁこれも聞いた話なんだが・・・と言いながら、勇義は角を引っ掻く。

照れたり困ったり、ハッキリ言えない事がある時の彼女の癖だ。

「凄い人脈。人望があるのね、妬ましい」

「アイツは、縁結びが上手いのさ!」

「あら、何て妬ましい奴なのかしら」

そう言いながらも、パルスィの口元は柔らかく微笑んでいた。

「・・・ねぇ、勇義。さっき、なのかしら。言い掛けてたのは・・・」

「っ!あ、あぁ・・・」

言い掛けていた事と言えば、勇義が何故よそよそしかったかについてである。

「・・・その、アタシにはちょっとした・・・秘密があってな。他の女とは、ちっと違って・・・」

「・・・別に、言いたくないなら・・・」

「いや、何というか・・・パルスィに隠し事してると、何となく水臭いと言うか・・・だから言い出せなくて、気まずかったから・・・」

赤くなった頬を掻き、視線を逸らす勇義。それを見たパルスィは、表情が暗くなってしまった。

「私、何かすごい勘違いしてたみたい・・・ハァ~もう・・・」

「あ~・・・で、良いか?」

「・・・うん」

落ち込み掛けたパルスィを持ち直させ、勇義は視線を少し泳がせながら鎖骨をなぞる。

「・・・今まで黙ってたけど・・・アタシ、実は・・・りょ・・・」

「・・・りょ?」

 

「両性具有、なんです・・・///」

 

「・・・え、あの両性具有?」

「うん・・・だから、ちょっと・・・その、それも、気まずくって・・・」

真っ赤になった顔を隠し、小さい声で告白する勇義。

「・・・それだけ?」

「・・・うぇ?」

キョトンとするパルスィに、勇義は思わず目を丸くする。

「このご時世、両性具有とか性転換とか、そんなの大して珍しく無いわよ。ったく、その見た目に反する可愛らしさ、嫉ましいわね」

嫉ましいとは言うものの、パルスィの顔には優しい微笑みが浮かんでいる。

「でも、一番嫉ましいのは・・・」

そして勇義の頬に手を添え、自分と目を合わせるパルスィ。

「気にしてるコンプレックスを私にさらけ出してくれた、その勇気よ♥」

 

─ちゅっ♥─

 

「っ////!?」

そのままキスして、勇義を抱き締めた。

「ぷはっ・・・ねぇ、勇義。お願いがあるの────

 

────私と、付き合って下さい!」

 

「ッ!!・・・はいッ!!」

パルスィの願いに、YESと答える勇義。

「フフッ、キマシタワ~♥」

「「ッ!?」」

突然聞こえて来た声に、2人の顔は一気に燃え上がった。

声の主は、扉を開けて入って来たアレクシア・・・レックスだった。

「でも、まだ水橋さんは中学三年生。せめて中学卒業までは、健全なお付き合いをね♪

呉々も、一線だけは超えないように」

「は、ハイッ!」

背筋を伸ばして返事をする勇義に、レックスはクスッと笑う。

「じゃ、応援してるからね!グッドラック!私はえーりん先生を呼んでくるから!」

祝福の言葉にサムズアップとウィンクを添え、レックスは部屋から出て行った。

「「・・・・・・」」

硬直した末にパルスィがとった行動は・・・

「・・・じゃあ、これから宜しくね!」

「お、おう!」

何も無かった事にし、流す事だった。

 

to be continued・・・

*1
マジンカイザーSKLのガン=カタを見てきて下さい。アレと同じ動きです。




「勇義、まさかのだよ」
『百合も両性具有も俺の性癖だよ』
「嫌いじゃないわ」
『ありがとよ・・・さて、今回漸く神獣鏡が出せました!』
「暴走としてイグナイトもな!」
『あと、スパロボネタも』
「サンダーブレイクだな。グレートマジンガーの技だったか」
『あぁ。グレートとは違って、ジャマダハルから撃ったがな』
「あと新技もね。スカル・ビートルイレイザーだっけ?」
『あぁ。ユニコーンフルボトルのベストマッチが消しゴムだったのと、技の効果から取った』
「さて、次回も早く書けよ?」
『頑張るわ。今回はご都合主義だらけでスイマセン!コメント頂けたらモチベーション上がります!』
「コメントくだちぃ」


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第19話・Pの試練/彼は受け入れられるのか

「サブタイネタ切れか」
『と言うよりコレにしっくり来るライダーネタが無かったんだ』
「あの人お前と相性悪そうだもんな」
『気の利いたジョークなんて言えないからね』


(出久サイド)

 

「ったぁく、最近はトラブルばっかりだな」

放課後。自室の机にベタッと頬を着け、溜め息を吐く。

一昨日はセンチピード、昨日はカース。この分だと、これからもドーパントは増えるだろうな。

「にしても、ゲンムのエラープログラムウィルス・・・予想以上だったな」

エターナルメモリを変身不可に追い込むとは・・・まぁ一晩たったら内部処理システムのお陰で直ってたけど。しかし、ドーパント相手には有効か。生体コネクタを探さなきゃいけないが。

「イグナイトモジュールの制御が今後の課題として・・・さぁてと・・・問題は、インターンなんだよな~・・・」

今朝相澤先生が言ってた、『インターンは事前経験のある事務所に限る』ってのがな・・・

 

「だがぱっと見、何処もイマイチで俺のスタイルに合わないな・・・仕方無い。コネ使おう」

オールマイトなら良い事務所知ってるかも。

 

───

──

 

『紹介?』

「そう。オールマイトなら何処か良い所を知ってるかもと。死穢八斎會をマークしている所が望ましいんだが・・・」

電話越しに『ウムム・・・』と唸る声が聞こえる。オールマイトと連絡先交換してて良かった。*1

『・・・私の元相棒(サイドキック)に、いるっちゃいるが・・・』

「・・・何か問題でも?」

『・・・』

・・・よっぽどだなオイ。

『まず1つ。相澤君から聞いたと思うが、現在は敵が活性化している。こんな危険な時期じゃなくても良いんじゃないか?』

「この時期だからこそだよ。この化け物の力、今使わずして何時使うというのだ。

それに、マイノリティながらガイアメモリが出回ってきてるって情報も入った。仮面ライダーとしては捨て置けない」

『あ・・・そうだね。うん』

ってオイ、そこまで考えて渋ってたんじゃないのかよ・・・

「・・・で、次は?」

『あぁ・・・2つ目は、君とは相性が悪そうだから』

「そりゃ俺の事気に入らんでしょ」

YouTubeでも、アンチコメしてる奴調べてみたらプロヒーローだったとか何十回じゃ利かないほどあったし。

『いや、彼はユーモアを大事にする人でね』

「俺、ジョークなら言えん事も無いぞ?」

主に黒いジョークだけど。

『・・・最後に、なんだが・・・』

・・・何だろう。オールマイトの事だから、何だか途轍もなくしょーもない理由な気がしてきた。

『・・・訳あって気まずい』

「んなこったろうと思った」

あ~ぁあ、やっぱりだよ。

「じゃあ、そこは無理なのか?」

『・・・いや!私が紹介する事は出来ないが・・・インターンで行った通形少年ならば!』

「・・・成る程」

通形先輩か・・・となると、恐らく予測タイプだな。

『近い内に通形少年にも頼んでみるよ』

「どうも」

『何の何の。じゃあね!』

「あぁ、また」

 

─ブツッ─

 

さて、楽しみだな・・・

 

─────

────

───

──

 

「ハァァァ・・・」

上裸の俺は京水姉さんの分身(T2マスカレイドドーパント)に囲まれ、肺の中から空気を全部吐き出す。

・・・日常用の感覚受容体が戦闘用に切り替わり、アッパードラッグをキメたかのように感覚が鋭敏化し始めた。

「フッ!」

 

─ゴシャッ ガコンッ グキッ─

 

掴み掛かって来たT2マスカレイドの股間に裏拳を叩き込み、下がった頭をアッパーで撃ち抜く。

 

─ドゴッ ベキッ─

 

そして膝を横から蹴り砕いてコメカミに膝を叩き込み、地面に倒して首を踏み折った。

だが、T2マスカレイドはまだまだいる。今度は正面から首を絞めてきた。

 

「ッシ!」

 

─ゴチュッ バキッ─

 

前蹴りで股間を潰し、左手で後頭部を、右手で額を掴む。そのまま勢い良く頭を回転させ、脊椎を首骨ごと破壊してダウンさせた。

さぁ、次は何が来る?

 

─ガチッ─

 

ほう、2人掛かりで抱き付きか。考えた方だが・・・まだまだだな。

 

─ゴチュッゴチュッ ゴキッ ガッガッガッガッガッガッ─

 

交互に膝蹴りで股間を潰し、右の奴はハイキックで首をへし折る。そしてもう片方は下がった頭を掴み、膝蹴りを6発叩き込んで顔面と肋骨を粉砕・陥没させた。

「って、次は真正面かよ」

正面から何の捻りも無く殴り掛かって来る間抜けなT2マスカレイドには・・・

 

─ジャクッ─

 

踏み込みから中指を突き出したカーヴィング・ナックルで喉笛を切り裂く。その顎を爪先で勢い良く蹴り上げると、首が千切れてフッ飛んで行った。

 

―ドッ!―

 

「くっ!?」

油断・・・背後から殴られ、俺はブッ飛ばされてしまう。しかし何とか受け身は取れた。

「やはり鈍ったか・・・」

殴り掛かってきたT2マスカレイドを合気道でいなして転ばし、頸椎を踏み砕く。これでラストだ。

「ひゅッ・・・」

「出久ちゃん、お疲れ様☆」

「ん、サンキュ」

京水姉さんが投げてくれたスポドリを飲み下し、ヴハッと息を吐いた。

「でも、急にどうしたの?突然、『分身を貸してくれ』なんて」

「あぁ、それね」

姉さんに渡されたタオルで滴る汗を拭い、その場に腰を下ろす。

「いやなに。最近、ちょっとばっかし日和って来ちゃったからさ。いざって時の為に、殺しの感覚も忘れないようにと思って」

伸脚しながら息を整え、京水姉さんにそう答えた。

「そう・・・」

京水姉さんは呟き、表情を曇らせる。

「ねぇ、出久ちゃん。何もこれ以上、闇に沈む事はないのよ?」

「・・・」

伸脚を止めて視線を上げれば、俺の目には京水姉さんの哀しげな、それでいて優しい顔が映った。

「殺しの(スベ)を教えたワタシ達が言えた事じゃないけど・・・出久ちゃんにはせめて、日の当たる道を歩いて欲しいの」

「・・・そっ、か・・・ありがとう、京水姉さん」

スクッと立ち上がってシャツに袖を通し、ベキッベキッと首を捻る。

「でも、違うんだ」

そして、俺は京水姉さんと真っ直ぐ目を合わせた。

「俺の強みは、躊躇の無い()()()の攻撃・・・それが錆び付いちまったら、どこで死んじまうか分からない」

肩を揺すって脱力し、腰をゴキゴキッと捩る。ベンチに座って凭れ掛かり、再び京水姉さんに視線を戻した。

「それにさ・・・これからどれだけ闇に堕ちようとも、俺はもう黒く染まりはしない」

「・・・大丈夫なの?」

「あぁ!」

強く答え、拳を握る。

「だって・・・どんな闇の中でも、俺には光が見えてるから」

脳裏に浮かぶ、三奈とフランの顔。次いで浮かぶ、心強い愉快な仲間達。

「だから今度は、俺が弱者を照らしたい・・・闇を抱いて、光になる!」

「ッ!」

息を呑む京水姉さん。

「・・・って、呪いの旋律に呑まれちまった俺が言うのもなんだがな。まずは、イグナイトの呪いを克服しなきゃ!」

「青臭くも逞しい!嫌いじゃないわァ~ン❤️」

「ありがと♪」

・・・京水姉さん、もしかしたらミッドナイトと仲良くなれるかもな。今の発言と言い、使う武器と言い・・・

「さて、気も引き締まったし・・・」

後は待つだけだ。

 

―――――

――――

―――

――

 

週末。俺はミリオ先輩と約束した通り、駅前で待ち合わせ中だ。

「やあ、緑谷君!」

「あぁ、ミリオ先輩」

そして、たった今合流した。

「じゃあ、付いてきてね!」

「りょーかい」

先輩の後を付いて行きながら、今回のインターン先のヒーローの情報を振り返ってみる。

 

コードネームはサー・ナイトアイ。

個性は《予知》。本棚で調べると・・・どうやら相手に接触しながら目を合わせる事で、一時間は相手の未来を三人称視点で見られるようだ。

但し、リキャストタイムは24時間。1日1回しか予知出来ないらしい。

しかしながら、個性を使わない戦闘でも先読み戦術が目立つ。相手の挙動を逸早く察知し、瞬時に出鼻を挫く。また、専用武器である超質量印鑑を投げ付けてくる為、腕力はパワースペックに関係する個性を持たないヒーローの中でもかなり強い方である。

「ねぇ、聞いてる?」

「ん、あぁすいません。今回、サー・ナイトアイについてソコソコ調べて来たんで。その情報を整理してました」

「そっか!まぁ何はともあれ、着いたよ!ここが、サーの事務所!」

お、もう着いてたのか。中々にデカいビルだな。

「良いかい?採用してもらいたければ、一回はサーを笑わせるんだ」

「そりゃまた随分難しい。ギャグは苦手だ」

「ハイこれ、合格祈願のお守り!安物だけどね!」

「ありがとう、貰っとく。だが神には滅多に祈らないんだ。どうせ叶えてくれないから。神様がいれば、争いの無い平和で退屈な世界になってたかもな」

「セミプロヒーローとしてその発言はどうなんだい?」

「敵を力で捩じ伏せるのがヒーローってもんだ。それに、戦争がなければここまで人間は発展しなかったと思うぞ」

進歩ってのは、欲と競争から始まるもんだ。

「・・・戦争についてどう思ってる?」

「知的生命の行き着く進化の突き当たりで起こらない筈の無い種全体による細胞自食(オートファジー)

「面白い意見だね」

そもそも、戦争を止めろって方が無理なんだよ。

生物は他種を敵と定めて競争する事で進化するが、本気で武装した人間の敵に成り得る生物は自然界には存在しない。銃や戦車、核爆弾だって使えるからな。人間に殺せない地球の原生生物は、いないと言って良いだろう。

ならば、口減らしも兼ねて同等の力を持つ同種と争って進化するしか無いって訳だ。

それに、子供なんかを巻き込むのは戴けないがな。

と言うか、子供がみーんな人を傷つけて金を得る仕事(ヒーロー免許取得者)になりたがってる時点でお察しだ。人間は結局、平和なんざ望んじゃいない。

「さぁて、オールマイトの元サイドキック。どんなヒーローなのやら・・・」

何時の間にか辿り着いていた、サー・ナイトアイの事務室。俺はその扉を開け・・・

 

「アヒャヒャヒャヒャヒャヒャッ!も、もう勘弁しィヒヒヒヒヒヒ!」

「何だ、案外元気な声が出せるじゃないか」

 

・・・顔から表情が抜け落ちた。だが仕方無い。擽りマシンに磔にされてゲラゲラ笑っている女と、リモコン持ってそれを見てる男だぜ?ドン引くのが当然だと思う。

「ミリオ先輩、事務室と拷問部屋を間違えるのはインターン経験者としてどうなんだ?」

「ここが事務室で間違いないよ。バブルガール、また元気が足りなかったのかな?」

「また?あの拷問を日常的にやってんのか。イイご趣味で」

ユーモアをモットーにするヒーローは、拷問してまで笑わせるか。皮肉なもんだな。

「サー、連れてきました!」

「あぁ、ミリオか。そこの彼が・・・」

「コードネーム、メモリアル・ヘル。緑谷出久です。宜しくお願いします」

少し頭を下げ、軽く自己紹介。と言うか、何か聞いたことあるぞこの声。ヒーローの番組は見ないから、声を聞いたのは初めてなのに・・・何処で聞いたんだっけ?

「サー・ナイトアイだ。宜しく」

そう言って差し出された手。その握手に応じ、俺は笑顔を見せる。目を閉じるのも忘れずに。

「・・・さて、インターン希望だったな。志望動機は?」

手を離し、再び目を合わせた。どうやら、結構警戒してくれてるみたいだな。

そして気付いた。イマジンのジークと同じ声だわ。面白い事もあるもんだ。未来を改編する怪人と同じ声のヒーローは、これもまた未来視の能力か。

「最近、死穢八斎會がおかしな動きをしていると情報が入りましてね・・・マークしている所をオールマイトに聞いた所、ここを薦められました。それに、最近はドーパントも出始めています。この辺はどうなのか、その確認と言うか視察と言うか、そんな事も兼ねて」

「ふむ・・・用紙を渡しなさい」

「はい、これです」

俺が用紙を渡すと、サーは印鑑を取り出し・・・

 

―カンッ―

 

テーブルを叩いた。

「・・・」

 

―カンッ カンッ カンッ―

 

一向に用紙の上に朱肉の赤色が付かない。

「成る程、押すつもりは無いと」

「当然だ」

かなり即答だな。

「君の目的は分かった。死穢八斎會も、最近不穏な雰囲気があるのも事実・・・だが、君が私に与えてくれるメリットはあるのか?」

「一騎討万の戦力、その場で傷を癒し戦闘を続行出来る持続力、捕獲した敵から情報を引き出す虚偽無効の尋問能力、その他」

ヒーロー活動に有用なスキルを適当に挙げてみる。加えて拷問も得意だ。

「成る程・・・では、テストしてみよう。今から2分以内に、私の手からこの印を奪ってみせろ。どんな手段でも、奪いさえすれば良い。自分の運命を左右する書類には、自分で判を押すんだ」

「流石は元オールマイトの相棒(サイドキック)、思い遣りがあるな」

ジョークでも飛ばしてみろと言われたらどうしようかと思った。正直、俺は即興でジョークを考えるのは苦手だ。こっちの方が、まだ可能性がある。

【シェンショウジン!】

そして、サーの能力から最適かと思われるシンフォニックメモリを召喚。スタートアップスイッチを押し、心臓に突き立てた。

「詠装」

 

―Love Shen syoujing EVOL zezzl・・・♪―

 

バイザー、レッグアーマー、スカートマントとショルダーマントが装着され、生身でのシンフォニックスタイルが完成する。そして二の腕から伸びる帯は、光の中で腕に巻き付けた。

林間学校以来だな、生身でギアを纏うのは。

 

―パキパキッ パキパキパキパキッ―

 

俺の命令が、ヘッドギアを介してマントに伝わる。その命令に従い、マントは銀色に変色して細かい粒子に分解し始めた。

「思ったより、使い易いな」

神獣鏡の力により、エターナルローブは微細な六角形反射鏡(ヘキサゴンミラープレート)に変質している。これにより、可視光線を含む電磁波を反射・屈折させる事が出来るのだ。欠点として、変化の拒絶による絶対防御永遠概念兵装(パーフェクトガード・エターナル)の性質が失くなってしまっているが・・・今回は問題無いだろう。

その鏡面板を操り、廊下や窓から入ってくる光を乱反射させて目眩ましに使う。神獣鏡はただ反射するだけでなく、何と電磁波を増幅する事も出来るらしい。部屋は閃光手榴弾でも爆発したような凶悪な光量の閃光で包まれ、サーは網膜が焼けないよう手で眼を守った。

さぁ、開戦だ。

 

―NOサイド―

 

「ぬぅ・・・」

余りの眩しさに、サー・ナイトアイは思わず唸った。

彼が掛けている眼鏡には、こういった視界潰しの閃光をある程度カットする機能が設けられている。ある程度と言っても、一般的な閃光手榴弾程度なら問題無く眼を開け続けられる程の性能だ。

しかし、この閃光はその限界光量を易々と突き抜けてきた。

(確かに、私に目潰しは有効だ・・・)

ナイトアイは冷静に予測を開始する。

(私が閃光を弱点とする事は、データを閲覧し放題な彼には当然知られていただろう。実際、さっきの握手はあからさまに私の予知の条件を潰していた。そして、こうやって逸速く防御する事も恐らく承知だ。ならば・・・)

思考を巡らせながら、まずターゲットになるであろう印鑑を持った左手を胸に寄せる。

その瞬間、左肩を風が撫でた。

(一直線で狙って来たか)

閃光が収まった事を確認しながら、ナイトアイは落胆する。余りにもオーソドックス過ぎる、と。だが・・・

「ッ!!」

眼を開け、左を見ようと右腕のガードを外した時・・・彼は、眼前に迫る紫の顎門(アギト)に眼を見開いた。

「フッ!」

右足軸回転と同時にスウェーバックし、胸元に迫る出久の手を回避する。

(確かに風圧を感じた筈・・・いや、今は敵前だ)

持ち前の判断力で敵前でのパニックを防ぎ、ナイトアイは出久を睨み付けた。

「おっと、どうしました?そんなに睨んで。気に入らない事でもありました?」

そう言って於ける出久を見据え、ナイトアイは油断無く構える。しかし、全く情報の無い状態では、ナイトアイはやはり不利だ。

(ふむ、かっちゃん並みに()()()()()()()反射神経か・・・やはり、一筋縄では行かないな)

一方で、出久もまた内心では冷や汗を流していた。今しがたのフェイント・・・腕の帯を振るった風圧偽装も、ギリギリながらほぼ完璧に躱されてしまったからだ。

「なら、ジョーカー切りますか」

出久がそう呟くと、無数の鏡面板が竜巻のように彼を覆う。

「また目眩ましか?」

呆れた口調で呟きながらも、ナイトアイは油断無く感覚を研ぎ澄ます。

 

―パキッ―

 

突如として響いたフィンガースナップ。それと共に鏡面板の竜巻は掻き消え、その中央がナイトアイの視界に収まった。

「ッ!?」

 

――幻惑――

 

そこに、出久の姿は無い。部屋中何処にも、あの少年の姿は無かった。

「何処に・・・ぐっ!?」

出久を探そうとナイトアイが周囲を見渡した時、その腕に違和感を覚える。

「な、何だ?」

その擽ったさやむず痒さにも似た違和感はどんどん大きくなり、10を数える間も無く痛みに変わった。

「何が起きて・・・」

 

―ジャクッ―

 

「ぐあぁぁぁぁッ!!?」

 

「サー!?」

その瞬間、その腕から銀の刃が出現し、皮を裂いて肉を貫く。余りの激痛にナイトアイは大きく叫ぶが、それでも印鑑を持つ指を開きはしなかった。

 

―パシッ―

 

しかし、それでも意識がそれた事には変わり無い。印鑑を見えないナニカが巻き取り、ナイトアイの手から奪う。

 

―カンッ―

 

「これで、俺の勝ちです」

そして何もないように見えていた空間が揺らいで出久が現れ、鏡面板が剥がれて可視化した帯から印鑑を回収、用紙に押した。

そして腕を振るい、刃として使った鏡面板を回収する。

「・・・してやられたな」

「全くだ。貴方らしくないな、手の内の知れない相手に何でもありを許すなんて。だからこうなる」

シンフォニックスタイルを解除し、出久はナイトアイに向き直った。

【ヒーリング!マキシマムドライブ!】

エターナルエッジで癒しの波動を飛ばし、ナイトアイのズタズタになった腕を治す。

「緑谷君、ちょっと、いやかーなーり、やり過ぎだよね」

ミリオはやり過ぎだと言い、出久の肩を掴んだ。しかし、振り向いた出久の眼を見て冷や汗を吹き出す。

「やり過ぎと言うならば、俺の容赦無さを知っていながらその《やり過ぎ》を封じる為の制約を付けなかったサー・ナイトアイの落ち度だ。どんな手段でも使って良いなら、俺はまず殺傷を選ぶ。実際選んだ」

その鋭い眼に、ミリオは寒気を覚えた。その眼差しは、敵の殺傷に何の躊躇も情けも無いモノ・・・凶悪な(ヴィラン)のソレと、ほぼ大差無いモノだった故に。

「今、先輩はこう感じただろう。《コイツはヒーローに向かない》、と」

「ッ!!」

事実だ。ミリオは出久の冷た過ぎる眼に、ヒーローとは対極の存在を当て填めたのだから。

「別に否定はしない。俺みたいな人格のヒーロー資格者は、少なくとも日本じゃ聞いた事が無いからな。だが・・・キレイゴトだけじゃ、救えないモノもあるんだよ」

興奮気味なのか、出久の過剰適合進化者の義眼(アイズオブハイドープ)が青い炎を灯す。

「何かを救うには、時にはそれ相応に手を汚す事だってしなきゃあいけない。それは分かるな?ここはお伽噺話の世界じゃない、ご都合主義が通じない現実(リアル)なんだから。

一般人が出来ない汚れ仕事を伴う救済・・・ソレを行うのが英雄(ヒーロー)だ。だから俺は手段を選ばない。救う為に、敵対する者を再起不能に陥るまで徹底的に叩き潰す。そうまでしても救う・・・と言うか、俺は救わずには居られない。

例え救いを求めまいと、俺には関係無い。勝手に、利己的に、俺は救う。最終的に心からの笑顔さえ見られれば、それで良い。救えない後悔より、救った後の怨みや面倒事の悩みの方が何倍も軽い」

出久の口から出る言葉に、その理性の裏に潜む狂気の断片が混じり始めた。

「・・・狂気的だな」

「平和の象徴、なんて人間が背負うべきじゃない二つ名を笑いながら背負ってたオールマイトも十分狂気に満ちてますよ」

「・・・何?」

オールマイトの名が出た途端、ナイトアイの眼の色が変わる。

「恐らく・・・元無個性(生まれの事情)か何かから、それしか自分には取り得が無い、なんて脅迫観念にでも取り憑かれてたんでしょうね」

(だから何もかも抱え込んで、結局代わりの居ない人間になっちまったんだ)

本来の世界線では出久自身もそうなっていた事を、デッドプール以外に知る者は居ない。

「・・・良いだろう。インターンの受け入れを認める」

「(いや、当然だろ。提示された条件を俺がクリアしたんだから)どうも有り難う御座います」

頭の中は失礼極まりないが、一応空気を読んだ出久。

「正直、君の事を嘗めていたよ」

「知ってますよ。()()()を無限に持つ俺に対して、《何でもあり》の勝負を持ち掛けた時点で。

にしても、オールマイトの大ファンなんですねぇ。この部屋、よく見れば何処もかしこもオールマイトグッズだらけだ。興味無いから詳しくは知りませんけど、大体が限定ものと見た。いやはや尊敬しますね」

これは本心である。出久は他者を害さないモノであれば、愛に対して敬意を表する事が信条なのだ。

「では、俺はこのプリントを提出してきます。有り難うございました」

そう言って頭を下げ、出久は部屋を出る。残されたのはナイトアイ、ミリオ、そして磔にされたまま完全に空気になっていたバブルガールだけだ。

「・・・どう思います?彼は」

「・・・正直、私とは気が合わないな」

ミリオの質問に、ナイトアイは簡潔な答えを返した。

「ですよねぇ・・・」

「だが、彼が強いのも事実だ。彼が自分で言ったが、切れる()()()が無限にある。更に、その中から戦況に応じて能力を組み換えられる判断力もあるだろう。今より未熟な体育祭ですらあれだ。更に、キーワードさえ見つかればどんな情報も閲覧出来ると言う・・・(オールマイトの腹の穴も、それで知ったのだろうな・・・)千変万化の強力なカードになるだろう」

記憶の地獄(メモリアル・ヘル)だけに、鬼札(ジョーカーカード)ってね!」

「・・・ふむ、言い得て妙だな」

「あれ?またスベっちゃった?」

 

 

 

「私、何時まで磔なんだろ・・・」

バブルガールのその呟きは、ナイトアイの耳に届いた。そして彼はポケットから、擽り拷問マシンのリモコンを取り出す。

「・・・黙ってりゃ良かったな」

虚ろなバブルガールの眼はただ、ボタンに力を掛けるナイトアイの親指を眺めるだけだった。

 

 

 

to be continued・・・

*1
Phase1第11話ラストに交換している




「遅いよ」
『ぐうの音も出ない』
「お前が書き始めたの、先週のジオウで克己ちゃんが出たからだよな?」
『あぁ、テンションが上がって』
「で、仕上がったのが今日と」
『すいません許してください』
「ん?今何でもするって言っt『無いです』オォン」
『ったく謝ってんのに』
「喧しい。
コホン・・・では、次回も宜しく!」
『お楽しみに!』


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第20話・Oとの遭遇/救済の決意

「なぁ作者、お前また遅れたな」
『あぁ、済まない』
「今回は、何で遅れた?」
『スランプだったんだ。それと、ヒロアカ読むのに使ってたジャンプのアプリが動画再生で閲覧出来なくなっててな』
「半分は仕方無いか。
だがTwitterで楽しそうにしてたのは何だったんだ?」
『遊んでた』
有罪(ギルティ)
『頑張って書くよ』
「何当たり前の事言ってんだ」


(出久サイド)

 

「さて、じゃあパトロール行きましょうか。先輩」

受け入れ翌日。俺はNEVERコスを身に纏い、ミリオ先輩(ルミリオン)と共に八斎會のテリトリーをパトロールする事になっている。因みに兄さん達は既に出動済みだ。

「メモリアルヘル、気合い入ってるよね!」

・・・やっぱ、コードネームも呼ばれ馴れてないからしっくり来ないな。その内慣れるか?

「えぇ、まぁ」

思い返せば、八斎會とはそこそこな関係だった。少なくとも、音信不通になっちまったおやっさんと連絡を取り合えた内は。

当時の八斎會は、麻薬や売春を赦さない誇り高き本物の任侠だった。俺にコンタクトを取る時も、おやっさんは側近を後ろに一人連れているだけだったな。人を見る目には自信がある、話し合いに乗ってくれたのに敵意見せてちゃ失礼だ、っつって。

「どうかしたの?」

「ん?あぁ。ちょいと物思いに」

いかんいかん、今は任務中だ・・・任務中、だってのに・・・

「ん?どうしたんだいメモリアルヘル、そんな熱い視線を何処に向けて・・・」

ちらりと目に映ったが最後、どうしても俺はソレから目が離せない。俺は誘蛾灯に吸い寄せられる蛾のように、ある店のショーウィンドウに歩み寄った。

「それは・・・ハットだよね?」

俺が釘付けになっていた物・・・それはルミリオンの言う通り、ファッションショップに置かれていた帽子だった。

 

―――

――

 

<アリガトウゴザイマシター

「・・・ハッ!?」

「お帰り。任務中にお買い物は感心しないけどね」

「あ、いやこれは、その・・・大変申し訳ない」

俺は呆れ微笑むルミリオンに頭を下げ、手に持った帽子を擦る。

「まぁ、こういう買い物はこれだと思った時にするものだから仕方無いけどね」

「かたじけない」

ルミリオンと共に再び歩き始めながら、俺は改めてその帽子を眺めた。

 

全体の白にうっすらとかかった、スプレー塗装とは全く別物の燻銀。

その根本を括るように縫い込まれた、艶消しダークブルーの革ライン。

余り主張はしないが、しっかりと存在感がある明るいグレーのツバ。

 

コイツを見た瞬間、俺は未知の感覚に襲われたのだ。

 

視界は明滅。脊髄には電流が走り脳内では何かがハジけ、心拍数呼吸共に跳ね上がり気が付いたら一括払いで購入して抱えていた。

 

「で、せっかく買ったんだからさ。それ被ってみたら?」

「あぁ、勿論。帽子は人の頭を納めてこそだ」

ニヤッと口角を上げながら、俺は右手に持った帽子を頭に被せる。少し頭に馴染まないが、時期に良くなるだろう。

「お、結構似合ってるよね!」

「そりゃどうも・・・ん?」

 

―ペタッ ペタッ ペタッ ペタッ―

 

「今度はどうしたんだい?メモリアルヘル」

路地裏から足音・・・裸足で、歩幅からすると身長は110も無い。体重も17kg未満。子供か?

 

―ボフッ―

 

「わぷっ!?」

その足音の主は、路地裏の薄闇から飛び出して俺にぶつかった。最も、俺が身構えて受け止めたからお互い倒れはしなかったが。

「え・・・あ・・・」

その幼女は、俺を見上げて固まってしまう。右の額に個性由来であろう小さな角が生えた特徴的な風貌で、アルビノのように白髪赤目。

その目や口はわなわなと震え・・・いや、よく見れば全員が震えていた。手から伝わる体温は、子供特有の高めな平熱。寒さから来る震えじゃないのは明らかだ。ならば、この震えは恐怖によるものだろう。

 

「助・・・けて」

 

・・・助けない理由を探す方が大変だな。

「どうしたんだい、お嬢ちゃん。大丈夫?お兄さんに話してみな?」

俺は優しく声を掛けながら頭を撫で、屈んでしっかりとその赤い目を覗き込んだ。

すると、その子の表情が変わる。これは・・・困惑、か?

 

―コツッ コツッ コツッ コツッ―

 

また、路地裏から足音。此方は落ち着いており、歩幅も広い。身長は・・・170台か?

 

「こらこらエリ、ダメじゃあないか。ヒーローに迷惑をかけちゃあ」

 

(・・・嘘だろマジか)

 

姿を表したのは、俺がよく見知った男だった。

白タイで締めた黒いシャツの上から黒ファー付きのコートを羽織り、手には白い手袋を着けている。

しかし何より目を引くのは、口と鼻を覆う鳥の嘴に似たペストマスクだ。

その男の名は、治崎 廻。又の名を分解修復(オーバーホール)

死穢八斎會の若頭である。

「いやぁうちの()がすいませんねぇヒーロー・・・ん?」

どうやら、血縁関係は無いらしい。そんでもって、奴さんも俺が誰だか認識出来たみたいだ。ここは自然に・・・

「よぉ、治崎じゃないか。久し振りだな」

「元気そうだな、死神」

お互いに敵意を表に出さず、面を合わせて笑い合う。

そして腰を上げると同時に、ルミリオンにハンドシグナルで黙っててくれと指示した。

「あと、その名前では呼ばないでくれ。色々あったもんでな。今は、オーバーホールで通してる」

「あいよ」

受け答えしつつジャケットを離さない幼女・・・エリちゃんの様子を伺えば、先程にも増して怯えている。しかもこの歳の子が声さえ上げずに泣くなんて、余程酷いことをされたのだろう。だったら・・・

「さてと。おやっさんは元気か?」

最も自然な話題から、情報収集を開始する。

「いや。少し()()()()な。今は、植物状態だ」

細かい能力は話してなくて良かった。無警戒で嘘を吐いてくれる。

しかし、病気は嘘だが植物状態ってのは本当か。キナ臭い。

「大丈夫なのか?」

「あぁ。だが、迂闊に運び出すことも出来なくてな」

ふむ、ここは嘘じゃないな。そこまで重症なのか、おやっさんは。

「にしても・・・エリちゃん、だったな。随分とお転婆らしい」

「あぁ。()()()()()()()()()()()()()、生傷が絶えないんだ」

・・・よくもまぁこんだけの嘘を息をするが如く吐けるもんだなぁオイ。

「さて、帰るぞエリ」

「っ!」

オーバーホールに着いて行きたくないのだろう。エリは目を逸らし、俺のジャケットにすがり付いていた。

「なぁオーバーホール。この怯え方は異常だぜ。

もっと言うと、この腕の傷もだ。転けた時に擦りむくのは掌、肘から手首にかけて。なのにこの子は肘も掌も綺麗なまま、何故か()()()()()怪我してる・・・

なぁ、オーバーホール・・・お前ら、この子に何をした?」

 

「・・・」

ケッ、黙りかよ。

「~ッ!~!!」

ルミリオンが後ろ手のハンドシグナルで、止めろ、詮索するなと指示してくる。大方、詮索すると警戒されるって所だろう。

時には冷たい判断も必要なのがヒーローだとするならば・・・

「虐待か?それともまさか拷問(ソッチ)の趣味をお持ちだったのかい?どっちにしろ、潔癖性のお前にゃ向かないだろうぜ。止めときな」

やっぱり、俺にゃヒーローは向いてない。届く手を伸ばさず後悔するなんて、一度でも経験すりゃそれで一生分だ。二度と御免だよ。

 

―トトッ トトッ トトッ トトッ―

 

ん・・・また足音。しかもご機嫌にスキップしてやがるな。何者だ?

 

「すんませーん遅れやし・・・た?」

 

「ッ!?て、テメェ・・・」

路地裏から現れたのは、何と前に下水道で遭遇した《快楽主義者の蛙》だった。

「あれれ?奇遇じゃん。また会えたねぇ♪」

「俺ァ、会いたくァ無かったよ」

無邪気な笑顔で言われた言葉に、俺は口角をひきつらせながら返す。この前の激しい攻撃とこの性格のギャップで酔いそうだ。

「えっと、お知り合いかな?」

「前に肥溜めみてぇな所で戦って、久々に冷や汗流した相手さ」

「嬉しいねぇ♪」

ククッと笑う蛙。敵ながら何処か憎めない奴だ。だが・・・コイツが関わってるなら、ますますキナ臭いな。

「ハァ・・・いやはや、ヒーローは人の機微に敏感だな。分かった。

(コイツ)と一緒に往来で話すと面倒だし恥ずかしい。こっちに来てくれ。ここに、人目を引かないヤツは居ない」

一理あるな。ジャケットにハットの男に、派手なコスの大男、ペストマスクの八斎會若頭に、民族衣装風の男、挙げ句にボロボロの幼女だ。確かに悪目立ちが過ぎる。

ルミリオンの顔を伺えば、彼もまた微かに頷いた。何かあれば対処する、って所だろう。

「最近、エリには困らされててな。何を言っても反抗ばかりだ」

肩を落として溜め息を吐く。

「反抗期かい?」

「あぁ。難解だよ、子供は。何せ―――――

 

――ゾァッ――

 

―――――自分が何者かになる・なれると、本気で思ってるからな」

 

「「「「ッ!!」」」」

オーバーホールが手袋に指を掛け、此方に目を合わせた。()()()()()を。

 

―バッ―

 

「くっ、エリちゃんッ!!」

その目に籠った殺意を感じとり、エリちゃんは俺のジャケットを離してオーバーホールの元に駆けて行ってしまった。そして裏道を曲がり、姿を消す。

「・・・糞が(FUCK)!!」

野郎、エリちゃんを殺意で釣り上げやがった!!しかもあの反応・・・かなりの頻度で殺人を見せてやがるなァ!!恐怖を植え付けて調教してやがるッ!!

『お前が我儘を言えば人が死ぬぞ』

という恐怖をッ!!

「チッ」

見れば、蛙も盛大に顔をしかめていた。

「これだからあの野郎は嫌いだッ!!」

「・・・君、治崎の仲間なんだよね?」

「オレをあんな気違いと一緒にすんなッ!!」

眼を見開き奥歯を軋ませ、拳を握り締める蛙。特に眼など、興奮して針状の瞳孔が円く開ききっていた。

嘘じゃない。心からの本気の嫌悪だ。

「・・・おい、仮面ライダー。俺は子供の笑顔が好きだ。あの子を少しでも暖めてやりたい、笑わせてやりたい!でも、出来ねぇんだよ・・・だからッ!!・・・救出は、任せたぞ」

「「ッ!?」」

コイツ・・・本気で言ってやがる。マジで心からあの子を思ってるんだ・・・

「・・・あぁ、任されたぜ」

「メモリアルッ!?」

「敵の敵は中立だ。勝利を掴むのは、中立にちょっかい出さずよりフレキシブルに動ける方。それに・・・この正直者はこの瞬間、俺からの《信用》を勝ち取ったッ!!」

「むぅ・・・」

未だ眉間のシワは深いものの、ルミリオンは一歩引いてくれた。

そうだ、ありがとう。それで良い。俺が信じるコイツを信じよう。

「・・・メモリアルヘル、緑谷出久」

「ヴォジャノーイだ」

洒落た名だな。

「無理の無い範囲でな、ヴォジャノーイ」

「あぁ」

俺と拳を打ち合わせ、ヴォジャノーイは黒いゲートを開いて消えた。パルスィの時に出てきたローブの女と同じやつだ。つまり、ヴォジャノーイは少なくとも何らかの組織に所属してるって事か。

「ルミリオン、サーに報告を。俺は兄さん達に」

「・・・ん、分かったよ」

しかし、情けない。届く手どころか、今度は掴んでいたのに・・・

しかし、過ぎた事は変えられん。ウジウジ悩むな。

クソッ、ヴィジランテ時代なら後先考えず八斎會に突貫も出来たが・・・昔程は身軽に動けないのが、ヒーロー免許持ちの辛い所だな。

 

(NOサイド)

 

―ジョキ ジョキ―

 

死穢八斎會の地下に設けられた手術室で、何かをハサミで切る音が響く。その音は、歯医者にあるような治療椅子に拘束されたエリの腕から鳴っていた。

その向かいに座った男が、エリの腕にメスを当てて四角に切り込みを入れる。そしてその端をピンセットで捲り、解剖バサミで切り取っていたのだ。

それが終われば、傍らで見ていたオーバーホールが傷を治す。敢えて、傷跡が残るように。

この作業が始まってから、既に30分が経過していた。勿論、エリは麻酔無しでその激痛に耐えている。

「よし、今日はもうこれで十分だ。部屋に連れていけ」

「へい」

その作業も、もう終わったらしい。治療椅子の拘束ベルトが外され、エリは側近に抱え上げられた。

「さて、完全な弾も完成した。極道が裏世界を支配する日も近い」

言葉を零すオーバーホールに、またエリは恐怖を抱く。

そしてエリの部屋に到着し、側近はそこでエリを下ろして扉を閉めた。

そこにはベッドと水道、僅かな灯りとテーブルしか無く、部屋と言うよりも監獄だ。

そしてテーブルの上には、リンゴが1つ。エリはそれを掴み、ベッドに座り込む。

(あの人の手・・・暖かかった・・・)

思い出されるのは、自分の頭を優しく撫でた出久の手の温もり。それまでエリが人に触れられた時、7割方が苦痛を伴い、残りも無感情で冷たい手だった。定期的に色々な男がオモチャを持ってあやそうと優しく接してきたが、それもただのご機嫌取りだという事は幼心に何と無く理解している。

そんなエリが心から優しく接して貰ったのは、物心付いてから出久が初めてだった。

「でも、だめ・・・」

 

――お前は呪われた子供だ――

 

幾度と無く繰り返されたオーバーホールの言葉が、鎖となってエリの心をきつく縛る。この閉鎖的な部屋も、そのネガティブな暗示を強めていた。

「ハァ・・・」

重く息を吐き、エリはベッドに寝転がる。好物であるリンゴも、何故か食べる気になれなかった。

 

「こんにちは♪」

 

「ッ!?」

突然聞こえた声に驚き、エリは飛び起きて周りを見渡す。しかし、その目には声の主は見えない。

「こっちだよ♪」

今度は何処から聞こえたかがハッキリと分かり、エリは上へと視線を動かす。

「ッ!!」

「へへっ、やっほ~♪」

その男・・・ヴォジャノーイは、エリの真上の天井に居た。掌と足裏を天井にくっ付け、スパイダーマンのように張り付いていたのだ。

「よっと」

ヴォジャノーイは身を翻し、エリの前に音も無くフワリと着地する。

「怖がらなくて良いよ~・・・つっても無理か。オレ、怪しさ満点だしな~?」

何時ものようにおどけた調子で、ヴォジャノーイは頭を掻いた。その人懐っこい笑みに、エリは困惑する。

「あ、リンゴか・・・貸して?切ってあげるから」

「あ・・・はい・・・」

エリがおずおずと差し出したリンゴを受け取ったヴォジャノーイは、民族衣装風の服から小振りなジャックナイフを取り出した。パチッと刃を出し、リンゴをシャリシャリと切っていく。

「エリちゃん」

リンゴを切りながら、不意にヴォジャノーイが話し掛けた。

「昼間に会った、あのお兄ちゃん。緑谷出久って名前でね」

「みどりや、いずく・・・」

出久の掌の心地好い熱を思い出し、エリは反芻するようにその名前を繰り返す。

「出久お兄ちゃんは、とっても強いヒーローなんだよ。仮面ライダー、エターナルって言うね」

「かめんライダー?」

エリは聞き覚えが無く、呟きながら首をかしげた。

「そう、仮面ライダー・・・泣いている人の涙を拭って、笑顔にしてあげるのが大好きな、優しいヒーローなんだ。そんでもって・・・はい!」

「あ・・・」

ヴォジャノーイがリンゴを差し出す。しかしそれは、エリが見た事もない物だった。

「へへ、まだヘタクソだけど・・・ほら、可愛いウサギさんだよ~♪」

それは、ウサギの形に切られたリンゴ。V字に切れ込みを入れた皮を耳に見立てた、ありふれた物。しかしよく見れば所々形が歪であり、馴れない作業だったのであろう事がエリにも分かる。

「オレもさ、君みたいな子の笑顔が好きなんだ。だからこれは、君が笑顔になる為のお手伝い♪」

初めて見るウサギリンゴに、エリは初めて年相応に目を輝かせた。

「オレは君をここから出す事は出来ない。でも・・・君の心を生かす事は出来る。だから―――――

 

 

―――――生きるのを、諦めないで」

 

 

快楽主義者の蛙の言葉は、これまでエリが聞いてきた言葉の中で、一番暖かいものだった。

 

―――――

――――

―――

――

 

「で、ソイツらは使えるのか?」

「えぇ。保証しますよ?性能は」

死穢八斎會の応接室にて、黒服とオーバーホールが話している。

黒服の脇には、2人の男が立っていた。どちらも黒い仮面を着けており、両手足からケーブルや金属パーツが覗いている。

「十分な働きをしますよ。貴方を満足させるに足る程のね。それに、まだまだ用意していますよ、数も」

 

『仮面、ライダァ・・・』

『・・・ブッ殺すッ‼️』

 

イレギュラーは、止まらない・・・

 

―――to be continued・・・




「ヴォジャノーイのキャラが掴めん」
『批判来るかもなぁ』
「出久もあっさり信用し過ぎだろ。不自然に見えたぞ」
『虚偽無効があるから信用したんだ』
「しかも進みおっそいし」
『お陰で修学旅行中に投稿する羽目になったよ』
「次もとっとと上げな。画面の前の皆、また待たせちまうかも知れねぇ。遅れてすいませんでした(先行入力)」
『次回もお楽しみに!感想下さい!』


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第21話・Dの欠片/呪怨と罪

「オラ書くんだよったくあくしろよ」
『ごめんなさいm(_ _)m』
「いいから指動かせやあァん?」
『仰せのままにBOSS』


―バヂヂヂヂヂッ!!―

 

「ぬあぁぁぁぁあッ!?」

インターン後の放課後。体育館γにて、出久は絶叫していた。エターナルに変身しているので、痛ましさが倍増だ。

「出久、無理しないで・・・」

「そうだよ。身体壊したら・・・」

三奈とフランが心配して声を掛けるが、エターナルは息を整えて立ち上がる。

「心配、無用・・・人外の化け物と成り果てたこの身ッ!これしきの苦痛で砕けはしないッ!!」

「いや限界だって確実に!」

「言葉遣いおかしくなってるもん!」

「まだだッ!詠装ッ!!」

【ガングニールβ!】

 

「I'm that Smile Guardian GUNGNIR tro~ォォォォン゛ッ!!」

 

恋人達の制止を振り切り、エターナルは再びガングニールを纏った。そしてすかさず胸を叩く。

 

―ヴォアン!―

 

「ぐぅッ!」

胸の中央からは赤黒いエネルギーが溢れ出し、ガングニールの鎧に蛇の如く絡み付いた。

 

「ヴォオ゛ァア゛アアアアアッ!!抜ッ剣ッ!!」

 

そのエネルギーは明確に蛇龍の形を取り、コンバットベルトを噛み千切ってエターナルの首筋、脇腹、太股に喰らい付いた。

牙によって付けられた鎧の傷からそのエネルギーが染み込み、白かったガイアアーマーは真っ黒なDAIN・カースアーマーに変質。複眼はファングジョーカーのように鋭く吊り上がり、鮮血のような紅蓮に染まった。そして呪いが起爆剤になったかの如く、両手脚の蒼炎が燃え上がる。

「ぐッ・・・がァッ!?」

 

―バヂヂヂヂヂッ!!―

 

しかし、10秒と持たずにオーバーフローが発生。胸からシンフォニックメモリが弾き出され、変身解除してしまった。

「かっ・・・ハッ・・・ハッ・・・う゛ッ!?」

「「出久ッ!?」」

出久は脂汗を垂らし、前のめりに倒れ込む。

自分を抱き起こして揺する恋人達をぼんやりと見ながら、出久の意識は暗転した。

 

(出久サイド)

 

(・・・また、ここか・・・)

暗く、暗く・・・より、暗い。水銀のように重く粘る闇の中を、俺は落ち続ける。

やがて、周りが紅く染まってきた。そろそろ、着く頃か・・・

 

『ヒーローなんだろッ!?何で助けに行かないんだよッ!!』

 

見えてきたのは、かつての俺(エターナル)を押さえ付ける2つのゴミ。エターナルはまだ燃えきらない赤い腕を必死に伸ばし、目の前の燃え盛る病院小屋に向かおうとした。

だが、俺はこの後をよく知っている。

 

――カチッ――

 

「・・・何?」

瞬間、総てが停止した。燃え盛る炎、ニヤつくゴミ共、手を伸ばすエターナル・・・何度見ても慣れる事が無かった悪夢の総てがモノクロになり、凍り付いたように止まっている。

「これは、一体・・・?」

 

『これが、お前のオリジンだ』

 

「ッ!?」

エコー掛かった冷たい声に思わず振り向くと、そこには俺に似たナニカが立っていた。

いや、似ていると言うよりも、ある意味俺と真逆と言うべきか。髪はオレンジ、肌は真っ黒。着ているジャケットは真っ白で、ズボンも同様。左目は黒い眼球にオレンジの光彩だが、右目は逆に白眼球黒光彩だ。

左右も色も反転した、俺のネガとも呼べる見た目のソイツ。こんな奴は、今まで見た事が無い。

「お前、何者だ?」

『・・・フフッ』

俺の質問に、何が可笑しいのか笑い出すネガ。

「おい、俺は可笑しな事を聞いちまったか?」

『フフフッ・・・いいや?至極当然の質問だ。そして、俺はそれに答えよう』

ソイツは気味悪く笑いながら口を開いた。

 

『俺は、お前が《呪い》と呼ぶ存在

 

或いは《力》

 

或いは《矛》

 

或いは《狂気》

 

或いは《闇》

 

そして《俺》は・・・』

 

―――――《お前》だ―――――

 

最後に俺を指差すネガ。

どうやら性格は俺に近いようだ。このタイミングで格好付けをブッ込んできやがった。

「ほぉ、随分と洒落た自己紹介じゃないか。

にしても、呪い、狂気か・・・成る程。俺の中にある狂気が、ダインスレイフの呪いで人格化したモノって感じか」

『ふははッ♪よく分かったね!』

やっぱり・・・だが、それにしてはかなりおちゃらけていると言うか・・・

『呪いって感じがしない、かい?』

「あぁ。全くそんな感じがしないな」

『当然だよ。お前の狂気は、ただの破壊衝動なんかじゃない。

敵に対する容赦の無さ、殺しへの躊躇の無さ、異常なまでの苦痛耐性、他者を救う為に見せる非情さ・・・こんな所かな』

「ふむ、成る程。確かに思い当たる事だらけだな」

道理で狂暴じゃ無い訳だ。

「しかし、イグナイトモジュールが毎回これを見せてくるのはキツいモノがあるな」

『仕方無いよ。本来、シンフォギアの暴走には強い怒りや憎悪が必要。それをダインスレイフの呪詛で代用してるから、狂暴な破壊衝動の呪詛が直接流れ込んでくる。そのせいで、使用者が過去に経験した憎悪を追体験してしまうんだよ』

「当然っちゃ当然の効果だが、嫌なもんだよな。自分の無力さを、無理矢理叩き付けられるんだから」

停止しているから落ち着いているものの、やはりこの悪夢には未だに精神を抉られる。

『でも、きっと大丈夫さ。お前は強いし、独りじゃ無いだろ?』

・・・確かに、昔ほど孤独じゃない。

『なら、大丈夫だろうさ。お前は自分を客観的に見られる方だ。きっと呪いを乗り越えられる』

・・・コイツ、本当に狂気の人格なのか?こんなに好評価を貰えるとは思わなかったが・・・

『それは・・・うん。お前の人格そのものに狂気が癒着しすぎて、その欠片から生まれたのが俺だからかな♪』

「・・・俺、よく自我を保ててるな」

『こればっかりは才能としか言えないね』

もしかして、元から発狂してたのか?・・・幼少期の経験上、十分有り得るな。

『さて、そろそろお目覚めだ。じゃあね』

「うぇっ?どういう――――」

 

―――――

――――

―――

――

 

「・・・こう言う事か」

目覚めると、俺はベッドに寝かされていた。この真っ白な天井とカーテンは、間違い無く保健室だ。お目覚めとは、現実世界での覚醒の事だったらしい。

「よ、っと・・・うげっ、もう真っ暗じゃねぇか」

靴を履いてベッドから下り窓の外を見やれば、完全に日が暮れて真っ暗になっている。

「リカ婆は・・・居ないか。取り敢えず、ハイツアライアンスに戻ろう。三奈やフランも心配してるだろうし」

俺は『有り難う御座いました』と机のメモ用紙に書き置きし、保健室を出た。窓から飛び降りて。

「よっと・・・うおっ、ちっと冷えるか。ま、もう秋だしな」

4m程の高さから発生した位置エネルギーを全身のバネで上手く逃がして立ち上がり、遅れて感じた寒さに思わず身震いする。ゾーンで帰ればすぐだが・・・折角だ。今回の件を整理しながら歩いて行こう。

 

まず、昨日俺が会ったエリちゃんとオーバーホール。

エリちゃんは恐らく、拷問等の苦痛と人死にへの恐怖による洗脳に縛られているだろう。と言う事はつまり、オーバーホールにとってはそれ程までに手放したくない存在だと言う事だ。それでいて、逃がさない為に最も合理的な方法である四肢欠損が無い・・・だが、両腕には傷跡を隠す包帯。オーバーホールなら傷跡も消せるが、敢えて残して楔にしてるって所か。

 

そしてヴォジャノーイ。あいつの口振りからすると、死穢八斎會と行動しているのは自分の意思ではない。彼処まで嫌悪感を抱く相手と行動せざるを得ないとなれば、答えは自ずと絞られる。恐らく、あいつが所属する組織の()から命令されたのだろう。

そしてヴォジャノーイが同じ移動手段を持っていた事から、その組織はパルスィにメモリを使わせたあの魔女も所属している筈だ。

あの魔女は、パルスィを実験台にしていた。つまり、作ったメモリのテストをしていたのだ。

メモリをテスト・・・何の為か等、火を見るより明らかだろう。

商品開発の実験だ。つまり、その組織とヴォジャノーイを通して繋がっている死穢八斎會には確実にドーパントがいる。

そして、メガネウラドーパントに変身した死柄木・・・恐らく、奴等にメモリを売ったのもヴォジャノーイの組織だ。今後は、敵連合のドーパント化も覚悟しておかなければいけない。実際、アームズドーパントのスピナーも敵連合に所属しているからな・・・

 

「・・・何だ。クールになりさえすれば、結構頭が回るじゃないか」

冷たい夜風に当たって焦りが抜けたからか、漸く何時もの思考回路が復活し始めた。エリちゃんを救えなかった事が、やはりかなりのストレスになっていたようだ。

「じゃ、お次は・・・オーバーホールの目的」

但し、これにはまだ判断材料が全く無い。恐らくエリちゃんの個性を利用するのだろうが・・・

「仕方無い。これは一旦保留だ」

分からないモノは幾ら考えようと分からん。フィリップ先輩流に言えば、《キーワードが足りない》。

「・・・ん」

と、そんな事を考えている内にハイツアライアンスが見えてきた。が・・・

「あ、兄さん・・・」

「・・・」

入り口前で、兄さんが柱に凭れながら腕を組んでいる。その眼は鋭く、直感的に怒っているんだと理解出来た。そして、その怒りの種も。

「・・・俺が今どう思っているか、分かるな?出久」

「あぁ、分かってる。兄さんの気持ちも、何をしなきゃいけないかも」

兄さんの問い掛けに答え、俺は一歩引いて頭を下げた。

「周りを頼らず、無茶をして・・・心配させて、ごめんなさい。殴られる覚悟は出来てる」

「・・・ハァ、そうか」

兄さんは溜め息を吐き、背中で柱をトンと弾いて俺に歩み寄る。

「ふんっ」

 

―どすっ―

 

「あいたっ」

予想に反して、振り下ろされたのはチョップだった。それも全く力が入っていない、腕の重量のみのチョップ。

「それが出来ているなら、早くお前の女達に殴られてこい」

「っ!・・・あぁ、分かった!」

「よし、それで良い!」

そう言って兄さんは、俺の背中をバシッと叩く。その勢いに乗り、俺は最も心配させた彼女達の部屋へと走り出し――――

 

「こら緑谷君ッ!廊下は走ってはいけないぞッ!!」

 

飯田ァ・・・頼むからさぁ、空気読んでくれよ・・・あ~ぁあ、締まらねぇなぁ・・・

 

(NOサイド)

 

「・・・うん、分かった。ありがとね・・・うん、じゃあね」

 

―ピッ―

 

三奈は通話を切り、スタッグフォンを畳む。言わずもがな、電話相手は克己だ。

「どうだって?三奈ちゃん」

「もうすぐ来るって」

フランの質問に、三奈はスタッグフォン上に放り投げながら答えた。さながらサイガである。

「・・・三奈ちゃん」

「うん、来たね」

身体に馴染むガイアメモリを使っているせいか、2人共に感覚が常人より鋭い。*1それ故、出久程では無いにしろ身体能力が強化されているのだ。その聴覚が、出久の足音を敏感に聞き取った。

 

―コンコンッ―

 

「入って」

律儀なノックに入室許可で答えると、彼女達の恋人が扉を押して入って来る。

「・・・ただいま」

「うん、お帰り」

極めて自然な挨拶だが、三奈とフランの表情は当然ながら芳しくない。それは、出久にとっても想定内だ。

「出久。アタシ達は今、怒ってるんだよね・・・何でか、分かる?」

「あぁ。俺が焦って無理して、心配させたから。それと・・・頼れる相手が沢山居るのに、自分だけで抱え込んだ事」

眼を鋭く尖らせる三奈とフランを見詰め、出久は自分の罪を数える。

「そう。それがアタシ達の怒りの種だよ」

「恋人なんだから、頼ってくれても良いのにさ」

2人の言葉にぐうの音も出ず、出久は気まずそうな顔をして視線を下ろした。

「だから・・・」

「ちょっくら・・・」

三奈とフランは出久に駆け寄り、三奈は右手に、フランは左手に腕を組む。

 

「「歯ァ食いしばれッ!!」」

 

「うぇっ―ガガンッ!―ヴォッ!?」

出久の両頬を、2人の鉄拳が慈悲も容赦も欠片無く打ち抜いた。前述の通り、2人の身体能力はメモリとの適合で高まっている。しかもそんな拳が左右からサンドイッチした為、衝撃は余す事無く出久の頬肉と頬骨に吸収された。

「い、痛い・・・」

結果は言わずもがな、激痛である。

「頼ってくれなかった時にアタシ達が感じた寂しさの方がよっぽど痛かったよッ!」

「・・・そうだよなぁ・・・ごめんよ、三奈、フラン」

視線を上げ、出久は2人に謝罪する。既に頬の打撲はドーパントの体質で再生しており、何時もと変わらぬ顔に戻っていた。

「分かったなら、良い。だからさ・・・」

出久の左頬を、今度は優しく撫でる三奈。フランも出久の右腕に抱き付き頬擦りする。

「寂しかった分、キスして・・・❤️」

そう言って、三奈は妖艶に微笑んだ。その誘い、出久が断るかと言えば・・・

「仰せのままに。愛しき君よ」

当然、否である。

「あむっ、ちゅっじゅるっ、ちゅぷっ・・・ぷあ・・・私も、忘れちゃやだよ?べぇ~ろ❤️」

フランは出久の首に手を回し、右の首筋に吸い付いた。そして唾液を擦り込むように啄み、最後に舌で舐め上げる。

「あぁ・・・さて、キスだけじゃ終わりそうにないな。長い夜になりそうだぜ」

言葉では呆れながらも、2人を抱えてベッドに向かう出久の足取りは、とても軽い物だった。

*1
最も、この世界では寧ろ()()の方がマイノリティなのだが




「何か、うん。色々ひどくね?」
『俺もそう思うよ。でも許してくれ』
「俺ちゃんを出せば許してやらん事も無い」
『そればっかりは分からん』
有罪(ギルティ)


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第22話・eと切島/無駄無駄の不死忍

「ようやく戻ったな。さぁ書けィ!」
『あいさ』



(出久サイド)

 

恋人2人に癒され、翌日。

今日はかっちゃん、麗日、梅雨ちゃん、切島、フラン、三奈がインターンで公欠だ。

梅雨ちゃんと麗日、かっちゃんと三奈とフランがそれぞれ同じ所で、切島は別の事務所らしい。

因みにかっちゃん達はえーりんの所なんだそうだ。

「そう言えば・・・」

放課後、授業終わりにふと思った。

「最近、えーりんの所に顔出せてないな」

B.O.Wアマゾンズやウィル達にも、思い返せば久しく会っていない。

とは言え、今はもちろんダメだろう。パトロール中、もしかしたら戦闘中かもしれないしな。

「それに・・・京水姉さん以外のNEVERの皆も、専用武器が無い」

京水姉さんには鞭があるしアニキはメタルドーパントになったらハンマーポールが出てくるけど、皆生身の時は武器が無い。いくら身体能力とハイドープ体質と体術が優れているとは言え、ドーパント相手じゃ戦い難いだろう。

「・・・図面、描くか」

これからの行動を定め、小さく呟く。

幸い、アイテム職人には頼りになる当てがあるのだ。

 

(切島サイド)

 

「追って来んといてぇなぁ!!」

「無理に決まってんだろッ!取り敢えず止まれェ!!」

姿勢を下げながら硬化した右手で地面を引っ掻き、路地に入り込んだひょろい男を追い掛ける。

 

俺はビッグ3の天喰先輩と共にインターン先のプロヒーロー・ファットガムに連れられて、日暮れの大阪をパトロールしてた。小競り合いが多いから武闘派は大歓迎、なんて話をしてたら、トラブル増加で助っ人に来ていた爆豪ン所とも鉢合わせ。

芦戸とフランちゃんがテンション上げて、それぞれ解散って流れだ。

問題はこっから。30分ぐらい経って、喧嘩騒ぎから逃げ出すチンピラ共が走って来たんだ。ソイツ等はファットと先輩が捕まえてくれたけど、離れてた仲間に先輩が撃たれた。

そっから俺が撃った奴を追い掛けて、今に至る。

路地の先は行き止まりだ。

「もう逃げらんねぇぞ!観念しろよテッポー野郎!」

「やっかましぃんじゃボケェ!!」

自棄っぱちを起こしたのか、追ってた男は振り向き様に腕を突き出して来た。腕から短いナイフのような刃が飛び出しているのが、仮面ライダーになってハザードレベルとして引き上げられた動体視力で判る。

反射的に硬化した顔面で刃を弾き、更に固めた拳でカウンターブローを叩き込んだ。

俺の必殺技の1つ、烈怒交吽咤(レッドカウンター)が見事に極り、男を壁に叩き付ける。

「ッと・・・おい、もう腹括れよ。逃げらんねぇぞ、絶対」

「う、うっさいわボケェ・・・」

うわ、何だコイツ。追い詰められたら途端にベソかき始めやがった。

「そら兄貴ら助けたいわアホンダラァ・・・でも、無理やん。自分強すぎやん、反則やん。こちとら《腕から刃渡り10センチ以下の刃が飛び出す》やぞ?勝てる訳無いやん。寧ろ撃った勇気誉めろや・・・」

「わりぃけどそれ、勇気でも何でも無いからな。まぁ、仲間助けたい気持ちは分かるけどよ」

「黙れやボケナスぅ・・・」

烈怒頼雄斗(レッドライオット)からファット。確保しました」

泣きベソかくコイツの腕を掴んで引き起こし、ヘッドギアの通信機でファットに連絡する。

「ヒーローなれる人間が、気安く分かるとか言わんといてや・・・強い人といれば強くなれる・・・兄貴らは力くれたんや・・・」

 

―カシュッ―

 

ッ!?コイツ、何か注射打ち・・・

 

「ア゙アァァァァァアアアァァァァァアッ!!!!」

 

―ギャギギギギギギギッ―

 

おぞましい叫びと同時に、男の全身から歪な、しかし鋭利な長い刃が飛び出す。

「ぐッ!?き、斬れたッ!?」

その刃を硬化で受け止めるが、その硬化越しにすら皮膚が斬れた。さっきまでとは、個性の出力が桁違いだ。

「聞いた事ある・・・個性、ブーストドラッグって奴かッ・・・!」

テロなんかでも有名な薬物だ。しかも固めた俺すら斬られる切れ味・・・こんなんを通りに出したら、惨劇の1つ2つじゃ絶対に済まねぇ!

「ハッハッハァ!嘗ァめよってこんクソガキャァ!兄貴らが言うとったわ!ヒーローの時代はもうすぐ終わって、その次は俺らみたいな日陰者の時代やってなァ!

あぁ何や気分ようなってきたわ!今なら兄貴ら助けられそうやァ!!」

ヤベェ!アイツ、クスリでテンションおかしくなってやがる!それに、店の中にもまだ人がいっぱいいる筈だ!だったらそっちに行かせちゃいけねェ!

「どーしたテッポー野郎ッ!俺はまだ倒れてねェぞッ!ここ通りたきゃ、俺と勝負だッ!」

その為にはまず挑発して、敵の意識を自分だけに集める!

「来い!クローズドラゴンッ!」

『ギュルルギャーオ♪』

俺はドッグタグからビルドドライバーを出して腰に巻き、ドラゴンボトルを振ってクローズドラゴンにセット。

〈WAKE UP!〉

【CROSS-Z DRAGON!】

そしてベルトに装填し、レバーをグルグル回してファイティングポーズをとる。

【ARE YOU READY!?】

「変身ッ!」

瞬間、俺の身体をプラモのランナーが挟み込んだ。鎧が俺の固めた身体を更に剛健に包み込む。

【WAKE UP BURNING!GET CROSS-Z DRAGON!YEAH!!】

同時に身体の中まで成分が染み込み、全身に力が漲るように熱が巡った。

「おぉ~?おまはんがウワサの仮面ライダーかいな!ほんなら・・・

()ねェ!」

 

【エッジ!】

「ッ!?が、ガイアメモリまで!?」

刃で切り刻まれた服を剥ぎ取り、アイツはガイアメモリを左腕に突き刺す。

その瞬間、その全身が銀色の日本刀のようなエフェクトで包まれた。そしてその中から、異形型個性のそれとは明らかに毛色の違う怪物が現れる。

右手の指は鎌やカッター刃のようになっており、左手はそれそのものが肉厚の大剣。

全身からは、生身の時の刃が更に枝分かれしてギチギチと伸びている。

胴体からは肋骨にも歪な牙にも見える刃が、向きも大きさもバラバラに生えてきた。共通なのは、どれも途轍もない切れ味だろうって事。

そして頭には、髪の毛がそのまま金属化したような刃がチェーンのように垂れ下がっている。

『ギャハハハハハッ!ちぃと怖ァて中々使えんかったけど、何やこれ!最ッ高の気分やがなぁ!

おらァ!』

「ッ!や、やべっ」

 

―ガギャギャギャギャギャガギャギャガキンッ!!―

 

「ぐぁっ!?」

アイツ、全身の刃を伸ばしてぶつけて来やがったッ!

この刃、今は俺だけに向いてるから良いけど・・・でも、ライダーの装甲でもギリギリだ!けど・・・

 

「倒れ、てッ!堪るッかァァァァァッ!」

 

俺の望むヒーロー象・・・護る人を背に、絶対に倒れず敵を受け止める壁の姿を頭に、心に、全身に映し込む。

そして脚を踏ん張り、腕を広げながら全身を限界まで硬化させた。

 

―バキィンッ!!―

 

『痛゙ッ!?』

圧縮訓練で到達した、現時点での最高硬度。ハザードレベルが上がっているお陰もあって、サブマシンガン程度なら無傷で受け止められるようになった!

 

―ギゴゴゴゴゴゴゴゴ・・・―

 

全身が文字通り軋んでイテェ。この硬度も、1分弱しかキープ出来ねぇ・・・けど、その間ッ!

 

「俺は絶対(ゼッテェ)ッ倒れねェッ!」

 

これが、俺の必殺技ッ!

 

安無嶺過武瑠(アンブレイカブル)弩螺紅(ドラグ)ッ!大威鍛(タイタン)ッ!!」

 

俺のヒーロー名は、憧れたヒーローをリスペクトさせてもらった!そしてこの技は、仮面ライダークウガの・・・五代さんの侠気の姿ッ!タイタンフォームから着想を獲た!

叫んだからには、もう悪ィ格好はしてやれねぇ!だがその覚悟のお陰でェ・・・!!

「今の俺はァ!負ける気がしねェッ!!」

『じゃかぁしい!一極集中で押し飛ばしたるわァ!』

奴は益々刃を俺にブチ込んできた。だが、俺は一歩たりとも後退はしない!爪先を地面に食い込ませ、逆に奴に近付く。

そうだ!もっと、もっとだ!もっと俺だけを見ろッ!

 

――ギュイィィィン――

 

そして、俺はベルトのレバーを回す。全身からオレンジと蒼の焔が吹き出し、刃を瞬時に赤熱化させた。

『アッツ!?』

【READY GO!!】

「俺の侠気ィ!!受ゥけてみろォッ!」

【DRAGONICK FINISH!!】

 

「ウォオリャァァァァァアッ!!!!」

 

焔が右の拳に集まり、龍の顔を形作る。紅く染まる視界にドーパントを見据え、その拳を一気に振り抜いた。

焔の龍は刃を一気に噛み砕き、ドーパントに突撃する。

『ゲアァァァァァアッ!?』

 

―KABOOM!!―

 

ドーパントはぶっ飛ばされ、壁に激突。龍の焔が爆発し、周りに土煙が舞った。

「俺は・・・躯炉得途(クローズ)頼雄斗(ライオット)だッ!」

強く名乗ったその瞬間、弩螺紅(ドラグ)大威鍛(タイタン)が解除される。

あぶねぇ、ギリギリだった・・・全身に切り傷があるが、一応平気だ。

「っと、早く確保・・・」

『ウリャァァァァ!!』

「なッ!?」

瞬間。俺のすぐ脇を、倒した筈のドーパントがカッ飛んで行った。

『逃げたる逃げたる逃げたるわァ!捕まって堪るかァ!』

やべぇ、このままじゃ逃げられる・・・!!

 

「イィヤァーッ!!」

 

『おげェッ!?』

奴が、何かに蹴落とされた。

蹴落とした何かは俺達に背を向けスタッと身軽に着地し、腕を組んで振り返る。

「ドーモ ハジメマシテ、ドーパント=サン。

ゾンビ=ゲーマー デス」

逆光の中、青と赤のオッドアイが怪しく輝く。

骨を象った不気味なアーマーに身を包んだそのゾンビは、何と敵に向かって両手を合わせ、お辞儀しながら挨拶しやがった。

『何すんねんコラァ!ふざけんなやァ!』

「あ、危ねぇ!」

そいつに向けてドーパントが刃を伸ばす。が・・・

 

「無駄ァ!」

 

―バキィンッ―

 

忍者みたいにしゃがみながら横凪ぎに振るわれたチョップで、その刃は全てへし折られてちまった。

『イテェ!?』

「フン。挨拶も返さぬは、スゴク=シツレイ。挨拶はされれば、必ず返すべし。古事記にもそう書いてある」

「いや、ねぇよ」

思わず突っ込んじまった。何だその古事記。

『ワケわからんこと抜かすなやボケェ!!』

「無ッ駄ァ!」

『ウガッ!?』

ドーパントが飛び掛かるが、グネンとした動きで躱すゾンビ。その瞬間一気に踏み込み、拳を叩き込んでいた。

「さぁ・・・見せ場の為の、犠牲となれ」

 

――ピュルルァーンッ!ピュルルァーンッ!――

 

ゾンビがベルトのバックルのボタンを押すと、けたたましいアラートが鳴り響く。

【クゥリティカァルッ・デァッドゥッ!】

その音声と共に、足元の闇から大量のゾンビの分身が現れた。

『あ、あ・・・アイエエエエエ!?ゾンビ!?ゾンビナンデ!?』

にじり寄ってくるゾンビの群れにドーパントは発狂。しかしそのままゾンビに纏わり付かれ、全身の刃をボキボキに折られちまった。

 

―ピュルルァーンッ!ピュルルァーンッ!―

 

「では、イッテキマス!」

「え?あ、うん」

これまた俺に挨拶するゾンビ。そして鳴り響くアラート。

「では皆さん!さぁ~ご一緒に!

 

無駄ァ!」

 

『オベッ!?』

ゾンビは殴った。何の躊躇いも無く一直線に最速で、ドーパントの顔面を。

そこから、地獄絵図が始まった。

 

「貧弱貧弱ゥ!無ゥ駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄ァ!

 

無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄ァ!

 

無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄ァ!

 

WRYyyyyyyyy(ウリィィィィィィィィ)ッ!」

 

それは、連打だった。連打に次ぐ連打だった。雨霰のように降り注ぐ拳を受け、ドーパントはもう可哀想なぐらいにボロッボロにされていた。

それでも、無駄無駄のラッシュは止まらない。

 

「無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄ァ!」

 

『ィヤ゙ッダッヴァア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙』

 

「無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄ァ!」

 

そして最後に、ゾンビは再びベルトのボタンを叩く。

【クゥリティカァルッ・エェンドッ!】

 

「無ゥ駄ァァァァァァッ!!!」

 

ドス黒いエネルギーを拳に溜め込み、止めの一発をブチ込んだ。

ドーパントは元のテッポー野郎に戻り、メモリが抜け落ちてパキンッと砕ける。

最後に分身の1体が、『燃えるゴミは月・水・金』と書いたプラカードをテッポー野郎の首に掛けた。

そして出た言葉は・・・

「・・・やり過ぎだろ」

これに尽きた。

 

―――――

――――

―――

――

 

「馬鹿たれこのデップー!」

「出番が欲しかったぁ!?やって良い事と悪い事があるでしょ!!いい加減にしろ!!」

その後。変身解除したゾンビは今、駆け付けた爆豪と芦戸にこっぴどくしかられていた。真っ赤なコスチュームを着て正座してるのは、正直すげぇシュールだ。

その間にフランちゃんから話を聞くと、あの人はデッドプールっつー傭兵。あの人も緑谷にライダーの力を貰ったそうだ。ライダーになったのは保須事件の時らしい。

そんで、敵は爆豪らんとこのヒーロー、えーりんさんが連れて行った。

何でもドクターヒーローらしく、ドーパントへの変身に使ったガイアメモリの副作用に対応しながら警察病院で事情聴取するって言ってた。あと何故か天喰先輩も。

「しっかし・・・今回ドジったなぁ・・・」

「まぁ、そうだろうな。必殺技決め損なったからな」

「うぐっ」

グリスに変身した爆豪がバッサリ容赦無く肯定してくる。

「けどよ・・・護れてんじゃねぇか、後ろの奴等」

「・・・あ」

通りを見てみれば、街の皆の笑顔があった。

それは正しく、俺が望んでた光景で・・・

「聞いたよ切島!ドーパント相手に一歩も引かなかったって!

格好いいよ!流石は仮面ライダー!」

芦戸がゴチッと俺の胸板を叩く。そして、街の皆からも称賛の声が上がった。

「お手柄やったな、烈怒頼雄斗(レッドライオット)!」

ファットもニコニコ笑いながら、俺の肩をバシッと叩いてくれる。

眼から、耳から、肌から感じる全て、腹の底まで染み込んできて、思わず胸と目頭が熱くなった。

「あ、アザッス!!」

頭を下げながら、涙を拭う。

仮面ライダー・・・力に責任が付きまとうけどよ。でも、それ含めても・・・この力、貰って良かったッ!!

 

「俺は、クローズ・・・仮面ライダー!躯炉得途(クローズ)頼雄斗(ライオット)だッ!」

 

 

to be continued・・・




「新年、あけおめことよろ」
『書き納め出来なかった。しかも今回短めだし』
「鈍間め」
『ぐうの音も出ない・・・』
「何より、俺ちゃんの出番がNINJAと無駄無駄だけって・・・台詞もほぼ無かったし」
『悪いな』
「俺ちゃんの活躍、書いてくれよォ!」
『影山かよ・・・』
「ともあれ、これでえーちゃんも立派な仮面ライダーだな!」
『鋭児郎でえーちゃんか』
「そうだよ(肯定)」
『まぁ、良いけどさ。
さて、気を取り直してっと。皆様、明けましておめでとうございます。拙い小説ですが、これからも何卒、宜しくお願いします』
「是非感想求む」
『あとルクシア、出久恋鬼待ってるからな』
「ではでは次回、サヨナラッ!」


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第23話・Nの兵器/怪・物・兵・装

「なぁなぁ作者、独眼竜が言ってたけどさぁ。俺ちゃんメイン回そろそろ書いてくんない?」
『難しいんだよ。描写もシチュエーションも』
「ケッ、糞が」
『止めろ馬鹿たれ』
「お前に言われたくない」
『お前よりゃマシだ』


(出久サイド)

 

「っつー事なんだよ。何か分かるか?緑谷」

「ふむ、成る程・・・」

インターン帰りの切島から、活動中にあった事を相談された。

何でも、変な弾丸を撃ち込まれた天喰先輩が個性使用不能に陥ったらしい。その効果がエターナルレクイエムと酷似していたから、俺に心当たりを聞いてきたとの事。

「確かに、よく似てるな。だが、詳細が何も解らないんじゃ判断のしようも無い」

切島の話だと、えーりんが先輩を一緒に連れて行ったらしい。だったら、近い内に報告が来るだろう。

「梅雨ちゃん麗日~、すごいよ~名前出てる~」

「切島くんも、ネットニュースで取り上げられてるね!」

三奈とフランの言う通り、麗日(ローグ)梅雨ちゃん(フロッピー)、そして切島(クローズ)とついでにデップー(ゲンム)の活躍が記事になっていた。つかデップー何やってんだ。ディオ様の無駄無駄ラッシュって・・・あ、もしかして第四の壁の向こうの世界を意識したのか?

とまぁ、それはさておき・・・

「かっちゃん、えーりんは何か言ってたか?」

「いや、何も。つか、永遠亭に戻ってすぐに先輩から採った血を分析してたからな。それに、切島が弾いた弾丸(タマ)の中身も・・・今頃、ウィル兄とレックス姉も総動員して調べてんだろ」

「成る程。なら、任せた方が良いな」

彼奴等なら、キッチリ解析してくれるだろう。

「仮免と言えど、街に出れば同じヒーロー。素晴らしい活躍だ。だが、学業こそ学生の本分!居眠りはダメだよ!」

「おうよ飯田!」

「俺も2、3徹程度なら平気だ」

ある程度睡眠深度を操作出来るから、小一時間も仮眠を取れば徹夜も苦にならん。

「あと出久。えーりんセンセが、放課後来てくれってよ。保須警察病院だ」

「ほう?保須警察病院か・・・なら、多分ドーパントになってた男に対する尋問かな」

俺も丁度、その男に聞きたい事があったんだ。

 

―――――

――――

―――

――

 

「よっ、お待たせ」

放課後。保須までボイルダーをカッ飛ばし、警察病院に到着した。ボルサリーノに手を添えて、受付窓口前で待っていたえーりんに軽く会釈する。

因みに鈴仙にウィルやレックス、アマゾンズのハルカとジンも一緒だ。

「久し振りね、出久君」

柔らかい微笑みで挨拶を返してくるえーりん。

「お久し振りです!」

ニパッと笑いながら、鈴仙は右手を振り上げる。今日は白いウサミミ形のサポートアイテムを着けており、服装と相まってかなりコスプレっぽい。

「あぁ。久し振りだな、因幡の狂いウサギ(フェリュクトゥ・イナバ・ハーゼ)

「ちょ、ちょっと!ドイツ軍のコードネームは止めて下さいよぅ!」

ウガーッと唸って見せる鈴仙。可愛らしいが、能力は中々えげつないんだよなぁ。

「で、お相手は何処だ?どうせ尋問だろ?」

「えぇ、貴方の得意分野。049番室よ、こっち」

「あいよ」

案内するえーりんに着いて行くと、すぐにその049号室に着いた。

 

―カラカラカラ・・・―

 

「邪魔するぜ」

「ひぃ!?」

病室の戸を開くや否や、拘束衣で縛られたヘタレそうな男がベッドの上から悲鳴で挨拶してくる。

「ひぎゃぁぁぁ!く、来るなッ来んなァ!来んといてぇやァァァ!」

「かなりの錯乱状態だなオイ。それにしても、ヒッデェ面してんなぁ。何があった?」

泣き散らしながら喚き倒す男の顔は、包帯でぐるぐる巻きにされていた。更に窪んだ目元に真っ黒な隈、包帯の上からでも判る程痩けた頬に土気色の顔色、おまけに腫れ上がった額の下に充血しきった真っ赤なギョロ眼と来たもんだ。

「それがねぇ。身体的には、極度の疲労と一部骨折で済んでるんだけど・・・何故か、極度の睡眠障害、不眠症に陥ってるのよ。昨日担ぎ込まれてから、彼は一睡もしてないわ」

「ほう?不眠症か・・・」

成る程。この充血した眼と錯乱状態は、睡眠不足から来るものか。

「誘眠剤の投与は?」

「効果無し」

「鈴仙の催眠波」

「掛かってたら起きてないわ」

「スタンガン」

「持ち込めないわよ」

「脱酸ガス吸入」

「待て親父殿。コイツが怪我人って事を忘れてねぇか?」

・・・そういやそうか。怪我人は簡単に死んじまうしな。ジンの言う通りだ。

「尽くせる手は尽くしましたが、どんな方法も受け付けませんでした。催眠も、より強い命令で掻き消されているような感じで・・・」

「しかも、CTスキャン等にも一切反応無し。()()()()()()()()()()()()()()症状よ・・・出久君、もしかしなくてもこれって・・・」

間違い無いな。

「十中八九、ガイアメモリの毒素の影響だ。ガイアメモリ直挿しは本来、脳内麻薬を大量分泌させるからな。その命令が、誤って脳に刻み込まれたんだろ」

ガイアメモリの影響は、ガイアメモリでしか打ち消せない。シンフォギア世界の仁なら分からんが・・・いや、力失ったっつってたな。

「もうイヤやぁ・・・」

「ん?」

コイツ、大人しくなったと思ったら急にベソかき始めたぞ。情緒不安定だなオイ。

「何がアカンねん・・・おれ、弱いのイヤやっただけやん・・・力欲しがって、当然やん・・・強ぉなりとうて、強い兄貴らに勇気出して着いていったんや・・・せやのに何でっ、何でえっ・・・!

おれはただ、強ぅなりたかった、だけやのに・・・何でこんな仕打ち、受けなならんのや・・・」

・・・甘ったれてるなぁ。あぁイライラする。

「そうやって泣いて同情してもらえるのは、自分の立場を理解しながら限界まで努力して、それでも尚駄目だった奴だけだ。

対して、お前はどうだ?弱いと自覚しながら、自分からは動けずに小判鮫みたく強者に貼り付いてお零れで粋がってただけだろうが。

甘ったれた事を言うんじゃない。弱者として同情してもらう権利を、お前は自分から投げ捨てたんだよ」

「うぅっ、ひぐっ・・・」

 

「聞いとんのかコラァ。あ゙ぁん?」

 

「ヒィッ!?」

グズるヘタレの顔をひっ掴み、無理矢理目線を合わせる。

滑稽な奴だ。強者になろうと思ったら、行き着いたのがこんな無様にベッドの上でベソをかき続ける結末。実に、実に滑稽だ。

「まぁ良い。こんな屑等、どうなろうが知ったこっちゃ無い。

オイ屑。これから2つだけ選択肢をやる。選べ。

1、二人っきりになれる場所で、俺に拷問さ(なぶら)れながらメモリの出所を喋る。

2、すぐにメモリの出所を喋り、安眠を手に入れる。

さぁ、どっちを選ぶ?」

「2番や!」

提示するや否や、ヘタレは藁にも縋ると言った顔で即答した。

 

―――――

――――

―――

――

 

「ありがとう、出久君」

「いやいや、此方こそ。興味深い情報が聞き出せたから、良かったよ」

時間にして、ほんの20分。

久々に拷問出来るかと思って少しばかり浮わついていたが、蓋を開けたらこれだ。アイツ、炙るまでも無くベラベラ喋りやがったよ。

そんで約束通り、一旦スキマスペースに入れてエターナルレクイエムで副作用を消した。個性ごと消えてるだろうが、まぁ命には変えられないだろう。お陰で俺も、何かを()()感覚を思い出せた。T2マスカレイドにも、正直最近飽き飽きだったんだ。

「拷問はまた今度ね」

「その今度が何時になるやら・・・にしても、《裏カジノ》か」

ヘタレから聞き出した情報、裏カジノ。

何でも、仮面を着けたセールスマンが客をスカウトするらしい。

行き方も一切合切謎で、気が付けばそこにいたとの事だ。

そこそこ広く、少なくとも2~30では利かない人数・・・それも、殆どがかなり良い身なりだったらしい・・・がギャンブルに興じていた、と。

「そのカジノで少しの間ゲームに興じていた所、突然セールスマンにメモリを売られた、だったわね」

「あぁ。しかも、個性と似通ってて使いやすそうなメモリをピンポイントでだ」

分かった事は2つ。

まず、奴等・・・便宜上《組織》と呼ぶか。組織は裏カジノを経営しており、恐らくそれを資金源にしている事。

そして・・・恐らくそこには、メモリの適合者を()()()()()()奴が居るだろうと言う事だ。

「しかしカジノの名前も知らないと来たもんだ。こりゃ只のモルモットだな」

まだまだ実験する気だよこりゃ・・・まぁ、この世界には個性なんてイレギュラーがあるからな。確かめたくなるのも当然か。

「取り敢えず、コイツは個性が消えた。ガイアメモリを使ったら、打ちのめされた挙げ句に最悪後遺症の治療の過程で個性まで消される・・・良い脅しになると思うぜ?超人を夢見て魔性の小箱に手を伸ばそうとする、バカな餓鬼共にはな」

「恐ろしい男ね。貴方は絶対敵に回したくないわ」

「有り難うドクター。それは最高の誉め言葉だ。仮面ライダーとしても、死神としても」

そう呟き、俺はニヤリと口角を引き上げる。

 

その翌朝、ガイアメモリの危険性は新聞の一面を飾った。麻薬のような依存性、個性の暴走、倫理観の消失。そして・・・後遺症による()()()()()、という文も交えて。

 

(NOサイド)

 

出久が情報を入手した2日後の放課後、沈み掛けの夕日すら殆ど入らない雄英高校サポート科の開発工房内。

ピンクのドレッドヘアー風の髪型の少女が、5つのアタッシュケースを作業台に並べていた。

彼女は発目明。サポート科に籍を置く、若干サイコパスの特徴が見られるブッ飛んだ若き発明狂いである。自分の発明品をベイビーと称し、それらを目立たせる為には他者を笑って嘘で欺き利用しまくる病的な自己中心主義者だ。

「やぁ、発目」

その工房の影に突如として亀裂が生まれ、中から帽子を被った出久が姿を現す。発目から連絡を受けて、文字通り飛んで来たのだ。

「おや、緑谷さん!お待たせしましたねぇ、ケース含めて、漸く出来上がって参りましたよ♪」

「相も変わらず、ブッ飛んだ作業ペースだな。流石は発明狂い。バケモノの武器はやはり、バケモノに造らせるに限る」

ニヤリと鋭く口角を上げながら、出久は左端のかなり長いアタッシュケースを手で撫でた。

「見せて貰っても?」

「どうぞご自由に」

発目には目もくれず、そのアタッシュケースを開く。

「・・・成る程」

中から出てきたのは、黒地にブルーフレアのペイントが施された鞘に収まる太刀。

鞘から抜き払って見れば、芯鉄には独特な斑模様。その艶消しが施された刀身には【You can't have peace(お前は安らぎを得られず)And you won't be saved forever(そして永遠に救われはしない)】という文章が白文字で彫り込まれている。

「硬質炭素繊維(カーボンファイバー)製非殺傷型殴撲刀(おうぼくとう)、《天之尾羽張(アメノオハバリ)》。ダマスカス鋼を芯鉄としており、全長110.85㎝、刀身80.55㎝。刀身の表面に特殊なニスを塗り込んであるため、鋭い刃物と打ち合っても傷付き難い逸品で御座います」

「成る程、やはりこの斑はダマスカスか。そして、名前は人の身を切り裂けぬ神殺しの刃・・・」

 

―ビンッ―

 

「悪く無い、寧ろ良い出来だな。さて、次だ」

カーボンエッジを軽く指で弾いて鞘に納め、次のケースを開く。中身は、足首が動かしやすい構造のミリタリーブーツだ。

「対暴徒制圧仕様、高圧電流コンバットスタンブーツ《トラロック》。電圧100万ヴォルト、電流5アンペア。市販の非殺傷スタンガンと比べて、かなり強力です。

キック攻撃と同時に爪先先端の端子から放電し、最大34㎜の衣服を貫通して感電させます。バッテリーは、腰のベルトに並列リチウムイオンバッテリーをマウントする構造です」

「アステカ神話の雷雨の神か。良いセンスだ」

そう言いながら、次の箱を開ける出久。

出てきたのは、先端がハンマー状になった棒術用の棒だった。

「伸縮可能鉄槌棍棒《金屋子(カナヤゴ)》。他の武器に比べ、一撃の威力と間合い(リーチ)の長さを重視しております。

また、槌の先端には鉄工用ポンチと同じ機構を搭載しており、硬質な敵の装甲を砕くのに最適です」

「ふむ、どれ・・・ほぅ。ちょっと重いが、まぁ俺達なら誤差の範疇だ。これの出来も中々だな」

クツクツと笑いながら、出久は上機嫌に次の箱を開けた。入っていたのは黒い鞭だ。

「対中距離攻撃用伸縮鞭《ナイアーラ》。素材に強靭な伸縮防刃ゴムを使用しており、着撃の際に先端に流れ込む事で威力が倍増する構造となっております」

「まさか、そこまで作り込んでくれるとは。期待通りの期待以上だ」

「技術者、冥利に尽きます」

実は此処までの武器の中で、金屋子のポンチとナイアーラの伸縮強鞭機能は発目が勝手に搭載したものである。

発目へのオーダーは、最低限NEVERメンバーの希望した図面通りの物を造る事。そして・・・出来る限り、《えげつなく》する事。

「そして、最後のベイビー。この中で、最高の自信作ですよ」

「それはそれは。楽しみだな、とても」

期待に胸を膨らませながらアタッシュケースを開いた出久。その口から先ず漏れたのは・・・

「ほぅ・・・これは・・・」

感嘆。そしてケースの中身である、マズルが並外れて長い二丁の拳銃を手に取った。

ズッシリと重いそれは、白と黒の1対。

白には黒文字で【I'll shoot my bullets(我が銃弾は撃ち抜く).All of the riffraff(有象無象のその総てを).】と、

黒には白文字で、【You have'nt chance to survive(貴様に生き残るチャンスは無い).Give your life to the Reaper(貴様のその命、死神に差し出せ).】

と、それぞれ彫り込まれている。

そして、それぞれ銃の全高の1.5倍以上の長さがある鈍色のロングマガジンがそれぞれ4本ずつ付属していた。

「対化物戦闘用12.8㎜大型特殊拳銃、黒骨(スルト)&白骸(ネクロ)。基本設計はデザートイーグルの物を使い、更に出来る限りの改造を施して耐久力及び攻撃力を上げています。

全長40㎝、重量8㎏、装弾数各24発。威力を追求し過ぎて、相当強力な異形型や増強系でもなければ、もはや人間には扱えない代物ですね。

実際私もパワードサポーター越しでさえ反動でブッ飛ばされて、手首の骨にヒビ入りました」

「撃ったのかよ」

「言い付けを守った結果です。リカバリーガールに治して貰いましたよ」

発目は、以前出久に言われた《人体実験はまず自分でしろ》と言う忠告を律儀に守っていた。言った本人の出久すら、「作業台に固定とか、他にも色々あっただろ」と呆れる。

「良いじゃないですか。

また、殺傷用のホローポイント弾以外にも様々な特殊弾頭を用意してあります」

もはやそれは学生が一個人で造れる範疇を大きく逸脱していた。しかし最も驚くべきは、出久がこのプランを校長に見せてOKで通った事である。

「通常戦闘用弾頭は?」

「タングステン合金製、ホローポイント弾。八百万さんにご協力頂きました」

「た、タングステン?これはまた・・・」

タングステンと言えば、この世で最も重く硬い金属である。一応レアメタルなので数は作れない・・・と言う事も無く、何と発目は八百万に創造させて制作費用をゴッソリ削る事に成功していた。

「どうやら、予想以上にえげつない物を作ってくれたらしい・・・ン゙ッン。で、捕獲用弾頭は?」

「5万ヴォルトXREP改造弾《ショッカー》。*1

他にも、筋弛緩剤注入弾頭《アンボイナ》や誘眠剤注入弾頭《ヤクシニー》等を設計中ですが・・・」

「ショッカーだけで良い。呉々も、薬物は使わない方向で」

「認識しました」

流石に薬物系の弾丸はヤバイと思ったのだろう。出久が掛けた待ったに、彼女はすんなり従った。

「さてと・・・非殺傷制圧用は?」

「耐熱ゴム弾」

「広域殲滅は出来るのか?」

「定義出来るかは判断しかねますが、マグネシウム小粒を詰め込んだドラゴンブレス弾があります。また、上部は穴抜きになっていて内部にはエンジンラジエーターから着想を得たカーボン空冷機構を内蔵していますので、連続使用にも幾らかは耐えられるかと」

聞けば聞く程、規格外の高性能。やはり人選は正解だったな。

「では改めて・・・対化物戦闘用と銘打つだけあって、これだけでは無いだろう。

対ドーパント専用弾は?」

「12,8㎜合金徹甲弾」

「弾薬は?」

「マーベルス科学薬筒MMA9」

「弾殻は?」

「真鍮製、フルメタル・ジャケット弾殻」

「弾頭は?質量式か?速度式か?」

「螺旋加工済み、質量式タングステン合金弾頭で」

 

―ガチッカチッ ジャカッ ガチンッ カンッ―

 

「パーフェクトだ発目」

「感謝の極み」

黒骨(スルト)を手に取り、空コッキングからストッパーを掛けてホールドアップ。マガジン装填後にホールドアップを解除し、トリガーを引いて空撃ち。

4秒程でこの工程を終わらせて称賛の言葉を投げ掛ける出久に、発目は恭しく一礼する。

「では、今後ともご贔屓に」

「あぁ、今回は有り難う発目。ご苦労だった」

【ボーダー!マキシマムドライブ!】

発目を労いながら、スキマスペースにアタッシュケースを全て収納した。そして帽子を軽く擦りながら、右手でサムズアップを作る。

「じゃあまたな。良い夜を、ブラックスミス」

【ゾーン!マキシマムドライブ!】

そんな格好付けたキザな挨拶を残し、出久は工房から姿を消した。

 

to be continued・・・

*1
弾頭の先端に端子針が複数付いた、電池内蔵の遠距離用の銃弾型スタンガン。ショットガン用の物の機構を発目が改造し拳銃弾サイズにした。




「遅過ぎィ!そんでもって進んで無さ過ぎィ!」
『すまん』
「あと、分かり易くHELLSINGに嵌まってんなお前。トリガーの二丁拳銃なんか、まんまジャッカルじゃねぇか。あと発目ちゃんとの掛け合いもだ。盾の勇者でも使ってたしよぉ」
『次は少佐の演説でもしてみたいな』
「収拾つけろよ?」
『分かってるって。
ではでは皆さん、閲覧有り難う御座いました!』
「次回も宜しく!何時になるか分からんけど」
『さいなら~』


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第24話・ヒーロー召集/Kの許可

『キャラクター紹介とかやった方が良いかな』
「好きにすりゃ良いんじゃねーの?処理が追い付くならな」
『分かったやってみよう』
「言わなきゃ良かったかも・・・」
『と言う事で、今回から試験的にキャラクター紹介を付けて行きたいと思います。需要あるか否かはコメントで』
「あ!お前、端ッからそれが目的だったな!?」


「こ、これは・・・!」

「あぁ、成る程・・・!」

永遠亭の研究室。チンピラの銃弾から取り出した成分の解析結果を見て、2人の男女が顔を顰める。

ウィリアム・バーキンと、アレクシア・アシュフォードだ。

「この形質・・・ヒーローにとって、いや・・・僕達にとっても、正に天敵だね」

「えぇ。でもそれ以上に・・・胸糞悪いわ。コレ作った奴、大概良い趣味してるわね」

2人はそのデータを使い、解説資料の作成作業に入るのだった。

 

―――――

――――

―――

――

 

数日後・・・朝。

 

「おはよー麗日、切島~、梅雨ちゃ~ん」

「お?皆今日インターンか、奇遇だな」

ハイツアライアンスから、三奈、フラン、麗日、切島、爆豪、蛙吹の6人が出発する。

「奇遇って言うか、このメンバーが同時に召集されて尚且つ・・・」

「出久が昨日から居ない。となれば・・・」

出久は昨晩、永遠亭から急行要請を受けたまま帰っていない。その事に出久の恋人2人は早くも大方察しが付いており、それを聞いてスクラッシュ組も半ば理解した。

切島と蛙吹は、未だ首を傾げている。

「十中八九、ドーパント絡みだろうなァ」

「リューキュウも言うとった、他事務所とのチームアップってやつかも知れんね。死穢八斎會対策の」

「あぁ~」

「確かに、言ってたわね」

2人も理解したようだ。

そして6人は同じ電車に乗り、指定された集合場所であるビルを目指すのだった。

 

(出久サイド)

 

「出久君、データ入った?」

「大丈夫だ、問題無い」

「フラグにならなきゃ良いけど・・・」

「弁えてらぁよ。そっちこそ、テンパってデータ消さないようにな」

「それなら平気さ、バックアップはとってある」

ウィルやレックスと共に資料を纏めながら、軽口を叩き合う。

現在会議室にて、バブルガール達が召集された地方ヒーローに八斎會の現状を説明中だ。そして俺達は、ドーパントについての説明をこれから行う。兄さん達にも、幾らか喋って貰う予定。

「では緑谷君、お願いします」

と、お呼ばれが掛かったな。じゃ、いっちょ行きますか。

 

―――

――

 

「解説役の緑谷出久だ。仮面ライダーエターナルの方が伝わるか?」

裏からPCを運び込み、全員の前に立つ。少しざわめきが起こるが、まぁ当然だわな。

「と、そんな事はどうでも良い。

先程話に上がった、人体組織封入弾頭・・・これよりバイオパーツウェポン、B.P.Wと呼称する」

人体組織封入弾頭・・・その中の組織を解析した結果、若いを通り越して幼いと言える年齢の女の子の物だと分かった。十中八九、エリちゃんの物だろう。昨晩から出来うる限り検索を走らせ、情報を探し回ったものだ。

「遺伝子工学専門の2人のお陰で、このB.P.Wの作用機序が判明した。

この弾頭に利用されている個性・・・それは、()()()()()()と形容出来る性質だ」

再び起こるざわめき。殆ど全員が、どういう事だと疑問を溢している。

「どういう事かと言うと・・・このB.P.Wは人体内の個性因子に作用し、個性が辿ってきた()()()()()()を逆行させる。つまり、無個性の旧人類に戻すんだ」

『ッ!』

全員の眼が一斉に見開かれ、呑み込んだ息が良く聞こえた。

「天喰先輩の場合は数日で治った事を考えると、恐らく中途半端な不完全品。だが・・・十中八九、お試し品として意図的に不完全な弾を流したんだろう。

調べた結果、意図的にグレードを落とした痕跡が見られた。試作品を更に複製したんだろうな。

そしてそれを聞き付けた敵は、ヒーロー相手に圧倒的優位に立てるこの弾丸がほしくて堪らなくなる」

「そこに本命・・・完成品の個性完全滅殺弾を流し、独占価格で売り捌いて裏社会を牛耳る・・・こんな所でしょうね。武器商人の典型的なパターンだわ」

俺の言葉を、永琳が引き継ぐ。彼女の目元口元は険しく顰められており、フゥゥ・・・と、重く息を吐き出した。

多くの人がする、心を鎮め苛立ちを抑える呼吸だ。

「そして・・・今の所、エリちゃんを何処かに輸送した様子は無かった。恐らく、研究施設をポンポン作れる程の財力が無かったんだろう。若しくは、我々が《彼女を移動させる前提で組む作戦》の裏をかくつもりなのか・・・しかし、引き続き監視は必要だろう」

「ちょっと待てよ」

と、声を上げたのは・・・浅黒い肌に錠前をや鍵穴を象った全身タイツタイプのコスチュームが特徴的なヒーロー、《ロックロック》だ。

「まず、その女の子の動向はどうやって調べた?ソイツを明かしてくれなきゃ、信用出来ねぇぜ」

「ロックロック。言いたい事は分かるけど、もう少し歯に衣着せた言い方があったんじゃない?」

「待て待て永琳。説明不足は俺の非だ」

かなりのストレスのせいか、ロックロックに食って掛かる永琳を宥める。貫徹をエナドリで誤魔化してるからな、どうも若干メンタルが不安定になってるみたいだ。

「エリちゃんの居場所だが・・・俺の能力で特定した」

「お前の個性か?」

「個性ではない。コイツだ」

俺はデスクの上に1本のメモリを置いた。

「ソイツは・・・?」

眼を薄め眉間に皺を寄せるロックロック。そのロックロックとその他ヒーローに見せながら、俺はスタートアップスイッチを押した。

【キー!】

「キー・・・鍵か?」

「その通り。キーは鍵の記憶を封入したメモリだ」

「それでどうやって特定したってんだ?」

その疑問はごもっとも。一見何の関係も無いように見えるからな。

「キーの能力は2つ。1つは、《ロック機構に分類されるありとあらゆる存在の施錠及び解錠》。これは当然だな。

そして、もう1つ。《捜し物の発見》だ」

うん、皆訳和からんって顔してるな。説明せねばなるまい。

「《捜し物》がこの場に無いと言う状況を、キーメモリは()()()()()()()()()と認識するんだ。そしてこの状況を解錠する為、捜している《鍵》を見付け出す。

当然ながら、捜す《鍵》の()()が無ければ絞り込めはしない。だが幸いな事に、切島が弾いてくれた弾丸の中身は個人特定情報としてはこの上無い唯一性を持つエリちゃんのDNAだ。

流れ先が不透明なチンピラルートにB.P.Wを流しちまったのが治崎の運の尽きよ。クックック・・・」

・・・っとイカンな、つい素が出ちまった。

「とまぁこんな具合に、俺はエリちゃんの居場所が分かる訳だ。

無論、弱点もある。眼が届く範囲外では、展開した地図上にて二次元的な座標で示される。だから直接建物を目視しなきゃ、いる場所の高さは分からない。そして、俺達が今いるこの次元から外れた空間・・・所謂、異空間に入り込まれたら追跡出来ない」

キーが働くのは、同じ次元の空間だけだ。俺のスキマスペースなんかまでは届かない。

「さて、もう1つ。

万が一作戦決行時にB.P.Wを受けてしまった場合を想定して、事前に採血をしておこうと思う。元のDNAさえあれば、ウィルが作ったTウィルスで個性を復活させる事が可能だ」

「・・・そうか、欠損した遺伝情報の修復か。確かアンブレラも、それを言い訳にウィルス開発してたしな」

流石はかっちゃん、バイオ既プレイ者は理解が早い。

「ウィルスだと?大丈夫なのかよ」

ロックロックの疑いも想定内。

「出て来いデップー」

 

―バカンッ ドゴッ―

 

「呼んだ?」

俺の呼び掛けに答え、通風口の蓋を蹴破ってデップーが現れた。しかも着地に失敗してるし。

「ン゙ッン゙。今型破りな登場をした傭兵、デッドプール。コイツはTウィルスの保有者だ。改良型で、身体に定着すれば心肺機能、筋力、瞬発力等を引き上げてくれる」

「デメリットは、定着するまでにあり得ん程エネルギーが必要で食っても食っても腹が減る所ぐらいだな。それも2~3時間で治まるし。

後は、飯の量が跳ね上がるぐらいか」

こうやって成功例を見せる事が、説明には大切だ。

「では次。これがかなり重要な議題だ」

俺は、声のトーンを低く落とす。幾らかのヒーローは、俺の雰囲気に当てられて冷や汗の滴が額を伝った。

 

「今回の戦い・・・参加する者は、()()()()()()を決めて貰う」

 

『なっ!?』

ほぼ全員が、俺の言葉に息を呑む。

「どういう事だと言われるだろうから、これも説明しよう。

敵組織、死穢八斎會のバックにある謎の組織・・・ソイツ等は俺と同じく、ガイアメモリを生産するプラントを所有している。中でも、ドーパントメモリを・・・

死穢八斎會は、資産的に余裕が無い。しかし、ドーパントメモリは値段もピンキリ。一番下の物ならば1桁万円、下手すれば4桁台の売値で販売される。貧乏な組織の財布にゃ優しいだろうな。銃や薬物よりよっぽど安上がりだ」

此処にいるヒーロー達も、雄英体育祭や保須の悪夢でガイアメモリのヤバさは知っているのだろう。俺の言った値段は、彼らの眼を見開かせるには十分過ぎる情報だった。

「そして、その最下級ドーパント・・・マスカレイドドーパントというのが此方だ。京水姉さん」

「かしこまり~」

俺の身体から京水姉さんのオーブが出現し、直接ルナドーパントとして顕現する。そして長い腕を振るい、T2マスカレイドドーパントを召喚した。

「これがマスカレイド。変身者の服をそのまま着ていて、顔は百足の意匠のマスクに変化する」

「低予算だからショーなんかでも重宝されるぜ。マスク作れば、安物のスーツに黒革手袋はフツーに買えるからな」

「あ~、デップーの言う事は無視して。この次元とは別の世界の事を言ってる」

確かに第四の壁の向こうのヒーローショーなら確実にコストカット要員だろうけど。

「話を戻そう。マスカレイドの性質は身体能力向上と、()()()()()()()()()。その匿名性が、メモリ内に自爆機能として搭載されている」

「自爆機能だと?」

眉を顰めるナイトアイ。日本のヒーローは殺しは御法度だからな。全く甘ったるいったらありゃしない。

「大抵のドーパントは、戦闘不能なダメージを負うと強制的にメモリが排出される。だがマスカレイドは、拘束等も含めた行動不能時に直接自爆機能が作動。変身者は細胞一辺残らず爆散するんだ。

早い話、強いドーパントの方が殺しちまう心配が少ない分ヒーローにも戦いやすいって訳だな。いやはや良い皮肉」

ま、その為に最近夜中駆け回ってるんだがな。

「これについて、警察庁上層部及びヒーロー協会上層部を相手に俺は交渉してきた。そして遂に・・・」

【ボーダー!マキシマムドライブ!】

俺はスキマスペースから2つの判が押された書類を取り出し、高く掲げる。

 

「対ドーパント戦闘時におき、ヒーロー側の()()()()を認めさせる事が出来た」

 

『ッッッ!?』

俺が掲げた書類には、以下の事柄が書かれていた。

 

《1、ガイアメモリを使用するドーパントと戦闘を行う場合、この戦闘の影響でガイアメモリ使用者が死亡した際のヒーロー側の処罰は無い物とする》

《2、自分の意思でドーパントに変身した場合、その時点で人間ではなく、作戦及び戦術級の()()と定義、破壊を許可する》

《3、この際、仮面ライダーシステムの保有者も対ドーパント用の殲滅兵器・防衛兵器と定義するものとする》

 

「え?・・・兵、器・・・?」

三奈が唖然とし、フランが眼を見開く。かっちゃんはワナワナと口角を震わせており、麗日はローグになってからの癖で表情が顔から抜け落ちていた。

「へ、兵器だとォ!?」

「あぁ。これが生き残る確率の最も高い案だと決まった。そうなればドーパント対仮面ライダーの戦いも、要は只の兵器同士の潰し合いだ。ナイフで銃をブッ壊すのと、然して何ら変わりは無い」

「ッ~!巫山戯ンじゃねェ!!」

かっちゃんは椅子から立ち上がると同時、強化された身体能力で飛び上がる。その跳躍は俺との間に横たわる3~4mの空間を瞬く間に飛び越え、眼と鼻の先に着地。

そして歯を剥き出しながら、久々にこれでもかと眼を吊り上げた。

「おいコラ出久テメェ!」

「・・・済まない。俺の都合でライダーにした手前、血で染まる事まで勝手に決めてしまって・・・」

かっちゃんの怒りはもっともだ。

「・・・かっちゃんが降りるなら、戦闘員は俺の分身で補充しよう。何も君まで、血で汚れる事は無い」

 

「違ェよッ!」

 

腹の底から吼えたかっちゃんの声は空気をビリビリと震わせ、俺の全身を強く叩く。

「テメェさっきの、仮面ライダーが兵器っつー内容を説明する時・・・一瞬、俺らを()()()()()()()だろうが!」

「ッ!?」

かっちゃんの言葉は、俺の身体を雷の如く貫いた。

憐れんだ・・・そうかも知れない。俺は、自分と同じ汚れ仕事を皆に押し付ける事・・・それを、憐れんだのかも知れない。

「それだけじゃねぇぞ!

テメェの都合でライダーにしただァ?それこそ巫山戯ンなッ!

ライダーになったのも、それに合わせて特訓してンのも!こちとら全部自分の選択じゃボケェ!

それを勝手に抱え込んで、勝手に憐れむんじゃねぇぞこの()()()()がァ!」

デク・・・久しく呼ばれなかった、この蔑称。だが、不思議と胸が温まるのは何故だろう。

「そうだよ出久」

三奈とフランも立ち上がり、その鋭い眼が俺を射抜いた。

「確かにアタシ達は、成り行きでライダーになった。でもね・・・アタシは、アタシ達は!出久を支える為に同じ力を使ってるんだ!」

「出久に独りで背負い込ませて、重圧を丸ごと預ける為じゃ無いッ!」

・・・いかんな。どうにも、単独戦が長過ぎた。要らない癖を着けちまってたらしい。

「なぁ緑谷。俺、頭そんな良くないけどよ。これから戦ったら、ドーパントを殺しちまうかもしれないって事は分かった・・・」

切島もドッグタグを握り締めて立ち上がる。

「けどよ。一応俺らは、戦う覚悟はしてるぜ。それにだ。俺らが戦わなかったら・・・緑谷に無茶させて、しかもドーパントの相手がおっつかなくなっちまって・・・戦えない民間人が襲われるかも知れねぇ。

俺は自分が汚れちまうのも怖いけどよ・・・護りたい人等護れねぇ方が、よっぽど怖ぇよ!

だから降りねぇ!女の子を切り刻んで売り捌くような奴等のせいで、泣く人がいちゃいけねぇ!」

・・・切島の胸に当てられた拳は、言葉に込められた決意の如く固まっていた。

「私も・・・最初に力を振るった時、凄く怖かった」

自らの手を見つめながら、麗日も口を開く。

「でも、それから分かったんよ。力に良いも悪いも無い。どう使うかが大事やって。

八斎會の奴等は、間違った使い方をしとるよね。ほんなら、私達が止めるのは当たり前やん」

握られた拳と無理矢理引き上げた口角はやはり、少しばかり震えていた。

「俺ちゃんだって、元々只の人斬り庖丁だ。出久と同じ戦場経験者の俺ちゃんにゃ、降りるなんて選択肢はねぇぜ」

デップー・・・格好良い事言ってるけど、屈むようなセクシーポーズのせいで台無しだからな。

「・・・で、人を殺したく無いヒーローはいるかい?今なら降りられるぞ」

俺の言葉に互いの顔を見合わせるものの、降りたいと明言する者は居なかった。

「・・・その大人のプライドを通したきゃ、絶対に死なない事だ。第一優先はエリちゃんの救出だが、死なない事も忘れずに。

そして、サー。俺達はドーパントの露払いとして斬り込むでしょう。全体を見渡す事に長けた貴方に、現場で指揮をお願いしたい」

「・・・良いだろう。お前の戦闘力と判断力は、最前線で発揮出来るものだ。

しかし・・・殺傷は最低限に。これは頭に入れておけ」

「死人の増減は相手次第でしょうが・・・忘れぬようにはしておきます」

芳しくない顔をしながらも、サーは俺から視線を外した。

「作戦決行までに殺し合いのプロを、少なくとも9人は此方で用意します。恐らく戦力は十分。皆さんは、出来るだけ周囲の被害に気を割いて下さい。

サーは引き続き、八斎會のメンバーの監視を。もしそれで、監禁部屋等への最短ルート等が見つかれば御の字です。

では、お願いします」

 

―――

――

 

「そんな事が・・・」

「あぁ・・・」

会議後。俺はロビーでテーブルに着きながら、前回のインターンでの出来事を皆に話していた。

俺は自販機の缶コーヒーを軽く呷って、フゥーっと息を吐く。

「笑えねぇよな。目の前の弱者に手を伸ばしたくて、化物になったってのによ・・・目の前所か、腕の中の女の子さえ救えなかった。

あの日と、たった1つっきゃ変わらねぇ・・・それは、《あの娘がまだ生きてる》って事だ。

だから、今度こそ・・・絶対に、救う」

「出久」

突然、背後から肩を叩かれた。それと同時に襟口から熱気が登って顔を叩き、上昇していた体温と脈拍を自覚する。

「兄さん・・・」

肩を叩いたのは、兄さんだった。

「救いたいのは痛い程良く分かる。が・・・呉々も、身を擂り潰す戦いはするなよ」

「・・・あぁ、分かってる。流石に前回のオーバーワークで懲りたよ」

三奈達にゃ、いらん心配を掛けちまったからな。

「さて、出久。この中で最も戦術がフレキシブルなのは、間違いなくお前だ。故に、今回の作戦・・・お前が、仮面ライダーの司令塔になれ」

「っ!」

兄さんの眼が鋭くなると同時に、他のNEVERのメンバーも出て来る。

「俺達もお前も、最早化物だ。同時に、俺達は傭兵。

その時が来れば、お前が命令(オーダー)を下せ」

「・・・あい分かった」

差し出された拳に同じく拳で応え、その手を開き見詰めた。

「出久、お前は人に頼れよ。じゃねぇと、俺らがライダーになった意味ねぇだろが」

「・・・そうだな。かっちゃんの言う通りだ。共に戦おうや、愛しき同志諸君」

かっちゃんが手を差し出し、俺はその手を掴む。

そして互いに拳を打ち合わせ、再び《友情の証》を交わすのだった。

 

to be continued・・・




~キャラクター紹介~

緑谷出久
ソロプレイ拗らせてるバケモノ系主人公。今回漸く自分が化物になっていると本格的に認めた。
好きな人間に対して無意識に過保護になる癖があり、《血で濡れるのは俺だけで十分だ》という原作とは別ベクトルの自己犠牲を行う。

芦戸三奈
この世界で最初に出久からガイアメモリを受け取った、化物の背中を支える正妻。
掲げる大義は出久と同じ救済だが、出久もその対象に含まれている。

フランドール・スカーレット
無邪気さで出久の心を癒す、第二夫人の吸血姫。
三奈同様成り行きでライダーになったが、出久のサポートが出来るように訓練中。
因みに唾液には酒や自白剤のような効果があり、月一の吸血時には出久のストレスを吐き出させる等、リフレッシュに一役買っている。

爆豪勝己
出久に根性を叩き直され、実は密かに出久に憧れている。
力を得た事で、無茶しそうになる出久を支えたいと思っている。デレデレかっちゃん。
うっすらだがライダーの影響はあり、《心火を燃やす》と言うフレーズを使うようになった。

麗日お茶子
この世界のライダー適合者の中では2番目にライダーの影響を受けており、驚くと表情が抜け落ちてしまうようになった。
その内多分ダサT愛用するようになる。
また、原作よりも関西弁を多用している。これは最初の戦闘訓練で、出久に方言を肯定されたから。

切島鋭児郎
3番目にライダーの影響を受けている。最近ほぼ万丈。
平成ライダーではクウガが好きで、技名もリスペクトしている。

ウェイド・ウィルソン
恐らく最もライダーの影響を受けている、我らがデップー。呼べば大体そこにいる。
グロンギ語話せるしテンション上がるとヴェハヴェハ笑う。

「おい、俺ちゃんの説明雑だぞ」


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第25話・突入するN/見敵必殺の死神

『さぁ、時は来た。待ちに待った、バトルの時だ』
「俺ちゃんも、漸く派手に暴れられるワケね」
『ではでは特とご覧あれ』
「悪魔?違うな。死神だ」


(出久サイド)

 

会議の3日後、07:00。俺達は再び、拠点のビルに召集された。

サーがメンバーの前に立ち、報告を始める。

「単刀直入に言いましょう。エリちゃんの居る部屋が分かりました」

周囲からおぉっ、と声が上がり、俺の口角も持ち上がる。

「どうやって突き止めた?」

「昨日、八斎會の構成員に接触。その際、そいつは女児向け玩具を購入して行きました」

ほう、女児向け玩具ねぇ・・・

「え、いや、そういう趣味の人も居るやろ」

「いいえ。趣味で買う人間なら、確実に言わない台詞を吐きました」

 

――あぁ思い出した、それだそれ――

――無いのかよ・・・じゃあ今のやつ何てンだ?――

――あーじゃあもうそれで良いわ――

 

「そりゃ言わねぇわな、絶対に」

子持ちでその作品に疎い父親なら有り得るが、確か八斎會で既婚者は現在おやっさんだけだった筈だから有り得ないと。

「そこで緑谷の言う通り、その構成員を予知で追って視ました」

「予知使うのかよ、もっと早く使えば良いだろ」

「私の予知は1時間で、インターバルは丸1日。勝利のダメ押しとして使い、情報を引き出すモノです。申し訳無いが、そうホイホイ使えるものじゃ無い。

話を戻します。その男は、寄り道せずに最短ルートでエリちゃんの部屋に行きました。道順も道中の仕掛けも見えましたし、その地下は届出が無いので、警察も令状を用意出来た・・・」

「張り込みにより、奴がいる家に居る時間帯はバッチリでございます」

さて、これでピースは揃った。此処からが、俺達の専門だ。

 

―――

――

 

「コイツは中々・・・」

『ったく、厄介だねェ・・・』

08:00。警視庁前にて、八斎會構成員の個性をリストアップしたプリントが配布される。

俺はそれを頭に叩き込み、そして後ろを振り返った。

俺人脈の戦闘要員・・・フラン、三奈、かっちゃん、麗日、切島、デップー、ウィル、ハルカ、ジン、ブラッドスターク、勇義、白蓮、レイア、ファラ、ミカ、ガリィ。

メディック・・・永琳、レックス、B.O.W。

B.O.Wは回避が出来ないから、外で護衛だ。そしてウィルも、出てくるであろうドーパント対策に上で待機。

【サイクロン!マキシマムドライブ!】

俺はエターナルエッジを取り出し、サイクロンのマキシマムを発動する。それにより、俺達を薄い風の防音ベールが包み込んだ。

 

「さてさてさぁて・・・警察特殊部隊(制圧確保のプロ)プロヒーロー(戦闘のプロ)、そしてNEVER(鏖殺のプロ)が、これより動く。自動人形(オートスコアラー)達も、既に最終調整が完了した。NEVERのメンバーは各々の武器を手に馴染ませつつあり、適合者達の成長も目覚ましいモノだ。

そして更に・・・それを率いるは、この俺!一騎討万の化物、仮面ライダーエターナル!」

 

士気を上げよう等と思わずとも、自然と口を突いて出る演説。

そのテンションに合わせ、俺は身振り手振りを交えて口角を吊り上げながら我が軍団を見渡した。

皆、引き締まった良い顔をしている。

 

「諸君!これから裏世界を牛耳ろうと意気込んでいる奴等に、特と見せてやろう。我々の恐怖を!我々の地獄をッ!!我々は満身の力を込め、今まさに振り下ろさんとする鉄拳だ!

諸君!君らは誇り高き八斎會を腐らせた、糞のような害虫との戦争を・・・譲れはしない己の信念を掛けた、戦争(Krieg)を望むかッ!?」

 

「クリィークッッッ!!!」

 

俺の問いに真っ先に声を張り上げたのは、怒りを表情に色濃く投影した永琳だった。治崎への怒りが煮詰めに煮詰まり、怒髪天を突く形相を作り上げている。

 

『クリィークッッッ!!!』

 

次にスタークが続き、ヴォイスチェンジャー越しにドスの効いた声を響かせた。

 

「「「「「「クリィークッッッ!!!」」」」」」

 

デップーと兄さん達NEVERも、大きく声を轟かす。

 

――クリィークッ!クリィークッ!クリィークッ!クリィークッ!クリィークッ!クリィークッ!――

 

その熱気は周囲に伝染し、瞬く間に鬨の声の暴風雨を作り出した。

 

「宜しい。ならば戦争(クリーク)だ」

 

手を高く掲げ、俺は静かに宣言する。この言葉で、全体から闘争本能がビリビリと漏れ出した。

 

「奴等に教えてやろう!我等の前で、か弱き弱者を泣かせればどうなるか!化物に対抗出来る、もう1つの化物の勢力ッ!蒼炎の死神と言う通り名の意味を、思い出させてやるッ!死神が率いる軍団ッ!その名は―――

―――SECOND・NEVER(セカンド・ネヴァー)ッ!」

 

――司令殿ッ!緑谷司令殿ッ!緑谷出久、総司令官殿ッ!――

 

我が軍の戦士達が一斉に吼え、士気が跳ね上がる。今やこの軍は、ニトロをブチ込んだモンスターエンジン!

牙を剥き出し真っ赤な闘志で魂を塗り上げたその姿は、正に化物(フリークス)ッ!最高の軍団だ!

 

「諸君、我々の任務は何だ!?絶滅だ!完膚無きまでの絶滅だッ!そして同時に救済だッ!その為我等は、地獄の赤黒業火や白銀吹雪となろうッ!」

 

―ガシィーッガチッ―

 

【エターナル!】

腰にロストドライバーを装着し、メモリを装填して黄金の波紋に包まれる。

蒼い火の粉がメモリから舞い上がり、両の腕と両の脚、そして虚ろの眼窩を埋める左の義眼に宿った。

 

「変身!」

 

【エターナル!】

 

スロットが独りでに倒れ、青と金の波が混じり合う。そのエネルギーは俺の身体を余さず覆い、白い死神衣装を形作った。

「諸君、我に続け」

 

【【スクルァァァッシュ・ドォライバァ~ッ!!】】

【【ガッチョーン・・・】】

適合者達は一斉にドライバーを身に着け、各々のキーアイテムを手に握る。

 

―ピシッピシッピシッ―

 

【デンジャー・・・】

【WAKE UP!】

【デンジャラス・ゾンビィ!】【デンジャラス・ゾンビィ!Ⅱ!】

【ジョーカー!】

【タブー!】

そしてそのアイテムを起動し、ドライバーに装填した。

【クルォコダイルッ!】

【CROSS-Z DRAGON!】

【ロボット・ゼァリー!】

【【ガッシャットゥ!】】

 

【ARE YOU READY!?】

 

「「「「「「「変身(出来てるよ/アマゾン)ッ!!」」」」」」」

 

【【バ・グ・ル・アァップ!デンジャラァスゾンビィ!(デンジャラァスゾンビィ!Ⅱ!)ウォォォォォォ!】】

【クロコダイル・イン・ローグ・・・オォォルァアアアッ!!】

【WAKE UP BURNING!GET CROSS-Z DRAGON!YEAH!!】

【ロボット・イィン・グゥリッスゥ!!ブルルルラァァァッ!!】

【ジョーカー!】

【タブー!】

【オ・メ・ガ!】

【ア・ル・ファ】

 

大量のエフェクトと音声が飛び交い、蒸気を含む熱風が駆け抜ける。そして大量の蒸気で白む視界の中から、幾多の眼光が鋭く灯った。

「出久、俺を忘れてくれるな」

背後から俺の肩を叩く、がっしりとした手。振り返ると、真っ赤なジャケットを着た竜兄さんがいた。

【アクセルッ!】

「変・・・身ッ!」

【アクセルッ!】

紅い衝撃波が舞い、仮面ライダーアクセルがライトを象った複眼に光を点す。

これにより、日本国内の全てのライダーシステム保有者が集結した。

「これで、カードは揃った。運命に混ぜられたカードが今、我が手と敵の手に配られた訳だ。

互いの賭け金(チップ)は己の命、加えて我等は幼気な少女の未来。

 

賭場は一度!勝負は一度きり!そして互いが鬼札(ジョーカー)を持つ状況ッ!だァがッ!勝つのは我々だ!打ち克ち討ちのめし最後に拳を太陽に掲げるのは、我々だッ!

 

これより、血深泥の戦いが始まる。諸君には、後ろ指差される業を背負わせてしまうかも知れない。その時は、俺も付き合おう。俺も諸君も、同じ戦士。一蓮托生と行こうじゃないか。

我々が為すべき事・・・手始めに―――――」

 

―――――地獄を創るぞ!

 

―――――

――――

―――

――

 

「えーでは、令状読み上げたらダーッ!と行くんで!速やかにお願いします」

八斎會家屋門前。警官の一人が振り向いて、再度確認する。

「けっ、何度も言いやがって。信用ねぇなぁ」

「ちょいちょいロック、その言い方無いやろ」

(・・・これは、どう言う事だ?)

苛立つロックロックと揉めるファットガムを余所に、俺は若干の混乱を覚えていた。

先程からキーメモリでエリちゃんの位置を割り出そうとしているのだが・・・エリちゃんと()()()()生体反応が、()()()()()()()()()()()()()()のだ。

(キーメモリのナビゲートは、生命活動を続行中の生体内にあるDNAにしか反応しない筈・・・)

しかもそれだけで無く、地下の空間全域がゾーンの空間スキャンを受け付けないのだ。まるでレントゲン写真に金属が映ったが如く、内容がほぼ完全なブラックボックス。その中から件の生体反応が若干出ている事だけは、キーで辛うじて感知出来たが・・・

「大体、今時のヤクザなんてコソコソ生きる日陰者だ。案外、ヒーローや警察見て縮こまってたりしてな」

 

――ビリッ――

 

「ッ!下がれェ!」

 

―ドゴォンッ!!―

 

「誰ですかぁ~?」

俺が声を飛ばした直後。門の扉が、前に居た数人の警官ごと吹き飛んだ。中から出て来たペストマスクの大男のパンチにより、ブッ飛ばされたのだ。

「朝から大人数でェ・・・」

 

―キュピンッ―

 

吹き飛ばされた警官を思考加速で全員捕捉し、アイズオブハイドープを起動。念力でキャッチし、速やかに地面に下ろす。

「わーびっくらポンッ!?何かジャガーノートっぽいの出て来たぞ!?」

「ウーゥン、ちょっぴり元気が入ったぞォ・・・もォー」

大男の右腕の筋肉がビキビキと隆起し、息を吐くと同時に左足を踏み出した。

「何の用ですかァ!?」

そのまま、上半身を捻って右手を全力で前に突き出す。余りの拳圧に、空気が圧縮されて風が吹き荒れた。が・・・

「取り敢えず、此処に人員割くのは違うでしょう。彼はリューキュウ事務所が引き受けますッ!」

プロヒーローの一人リューキュウが個性でドラゴンに変身し、その拳を受け止める。

「ローグ!フロッピー!リューキュウを援護しろ!

他のライダーズは俺に続けェ!」

リューキュウが相手を地面とキスさせている間に、俺達は屋敷に突入した。

「何じゃテメェら!勝手に上がり込んで来んじゃねェー!」

「警察だッ!違法薬物製造及び販売の容疑で捜索令状が出ているッ!」

威嚇して来る構成員に対し、警察は令状を読み上げる。

「知らんわッ!」

【マスカレイド!】

しかしそれを一蹴し、構成員達はマスカレイドドーパントに変身した。

「抹殺対象認識ッ!始末するッ!」

瞬時に踏み込み、全身のバネを捻って右ハイキックを頭に叩き込む。俺の爪先はマスカレイドの頬骨を抉り砕き、その頭部を一回転させて千切り飛ばした。

 

―BOM!―

 

頭部と泣き別れになった身体は爆発し、サッカーボールになった頭は煙を上げながらグズグズと融け落ちる。自爆するだけのエネルギーが無いまま自壊した結果だろう。

 

「ハッ!シレィッ!」

―グシャッ ヴジャッ―

 

「ふむ。日本刀ってのも悪くないな」

兄さんの天之尾羽張が、切れ味の無い筈のその刃で敵を一刀両断に斬り捨てた。人間離れした膂力と、ダマスカス鋼の重さ故の威力だろう。

 

「オゥラッ!オゥラァッ!」

―バキンッ ガゴンッ―

 

兄貴の金屋子は頭蓋骨を砕き、また肋を強かに打ち据えて殴り飛ばす。

 

「フッ!シッ!」

―ボゴッ バキャブヂッ―

 

賢兄さんは左横蹴りで胴体を陥没させ、止めにハイキックで頭を文字通り蹴り飛ばした。

 

「ハッ!ハァッ!」

―バタンッ!バタンッ!―

 

レイカ姉さんの跳び蹴りが首を捉え、更に電流のスパークが散る。蹴られたマスカレイドは大きく痙攣し、倒れて爆散した。

 

「く~ね~くね~♪くねくね~♪ヌ~ル~ヌル~♪ヌルヌル~♪」

―ドゴッ バキッ―

 

「効かないわよッ!」

京水姉さんは敵の攻撃を持ち前の柔軟性で受け流して誘導し、同士討ちをさせている。一対多ではかなり有用なスキルだ。

「グリス!ぶっ飛ばせ!」

「ッ!お、応よォ!!」

 

―BBOM!!―

 

グリスを殺戮の光景から無理矢理引っ張り上げ、屋敷の扉を爆破させる。そしてサーを先行させ、俺はトリガーマグナムを構えた。

「にしても、やけに一丸になってる気がする。まさか、情報が漏れてたんじゃ・・・」

「いや、それは無い。知っていれば、もっとスマートに対応した筈だ」

天喰先輩・・・サンイーターの不安げな呟きを、アクセルが否定する。

「こういうマフィアの類いは、こうやって突入された時のマニュアルを教え込んであるんだ。普段からこういう風にするって、意思を統一してるんだろうな」

俺が返すと同時、サーが壁に掛けてある掛軸の前にしゃがみ込んだ。

「ここの床板を特定の順番で押すt」

【バイオレンス!マキシマムドライブ!】

「ブロウクンマグナムッ!」

 

―ドゴンッ―

 

「この手に限る」

サーが鍵を開ける間も無く、俺はブロウクンマグナムで隠し扉をブチ抜く。

「なッ!?貴様、勝手な事をッ!」

「まどろっこしく謎解きに付き合ってやるより、こうして虚を突いてやる方が合理的だ」

サーに言い返しながら、意識を集中。すると、隠し扉の下の階段から何人かが上がって来るのが分かった。数は・・・5人か。

「なぁンじゃァテメェらァ!!」

「さっきからそれしか言えんのかこの大根共め」

 

―BANG!BANG!―

 

トリガーマグナムで1人目と2人目の太股を撃ち、そこから雪崩出て来る構成員を念力で壁に叩き付ける。

「あ、摩り下ろすなり煮るなりレパートリー多い大根に失礼か。

バブルガール、センチピーダー。拘束は頼みます。非殺モードで撃ったので、骨は折れてない筈。当分歩けないでしょうけど」

そして空いた通路を降り、地下一階に辿り着いた。が・・・

「うわっ、何やコレ!?」

「黒っ!」

ファットと切島が言う通り、壁や天井を含めた通路全体が真っ黒なのだ。いや、よく見れば、極めて濃い赤茶色だと分かる。

「黒い通路・・・出久、覚えているか?センチピードドーパントの男が言っていた事を」

「あぁ。風も昼夜も無い、真っ黒な街・・・もしそれが

これと同じようなものなら、確実に未知のドーパントがいるな」

何より、ここから先はブラックボックスだった場所だ。何があるか分からん。

「っと、行き止まり!?」

サーの道案内に従って進むと、壁で塞がれた袋小路に着いた。

「何や道間違いか!?」

「いや、違う」

ファットの叫びを否定し、俺は前に出る。

「この通路の構造上、此処に壁を配置するのは中途半端なスペースを生むだけ。治崎の個性で作り替えたって所でしょうよ。ミカ、ブッ壊せ」

「分かったゾ!」

ミカの顔がパッと明るくなり、ぴょんぴょんと前に躍り出て来た。

「いっくゾ~!」

両手にカーボンロッドを精製し、ギチギチと握ってエネルギーを込めるミカ。それに比例するがごとく、紅い結晶状のカーボンロッドが赤熱化を通り越して白熱化し始める。

「レイア~!頼んだゾ!」

「了解した。派手にやろう」

ミカが合図と共に、カーボンロッドを壁に打ち込んだ。そして間髪入れず、レイアがコインを錬成してロッドに撃ち込む。

 

―ボゴォンッ!!―

 

結晶が砕け、一気に放熱。その熱は硬質なコンクリートすら融かし、人が3人は容易く通れる孔を穿った。

「ハッハッハー!これぞ表面積増加による高速放熱を使った合体技、名付けて《カボーンロッド》だゾ!」

「ネーミングは、炭素(カーボン)とアメコミの爆発擬音(Kaboom)を掛けた地味な洒落だ」

「分かり易くて大変結構・・・さぁてと。此処は敵のホームグラウンド、不意打ちし放題だ。その可能性は、摘んでおくべきだな」

俺は前に踏み出し、シンフォニックメモリを構える。

【イガリマ!】

「詠装!」

 

――The Death hu~nts IGALI~MA~ the~soul tro~n・・・♪――

 

鋭いショルダーアーマーとフード状の布が追加され、手首のアンクレットが鎌のように延び尖り、踵に鋭い蹴爪が装着された。

ギリギリ・イガリマ。久々に使うな。

「おっ!緑のジャリん子のヤツだゾ!」

「お揃いですわね」

「そうだなファラ・・・っと!?」

 

――グニァ・・・――

 

突如、道の全てがグネグネと変形し始める。

「っとぉ!?」

「ンだコレ!?」

咄嗟に飛行に移ったフラン以外、全員が体制を崩した。

「ぬぅ・・・分解の工程が無いな。治崎じゃない。有り得るとすれば・・・ラビリンス等のドーパントか、本部長の入中だな」

確か入中は、物質の中に入って操る能力だ。

「馬鹿な!?奴が入れる大きさは、冷蔵庫程が精々の筈だ!」

「どうせドーピングか補助系ドーパントの助力だろうよ!」

ブーストかドラッグか、能力的にはエクストリームも可能だな。まぁそんな高ランクなドーパントがこんな所に出張って来るとは思えんが・・・

「道が変わるんじゃ、探しようが・・・」

「俺は行けますッ!」

言うや否や、ルミリオンが床をすり抜け落ちて行った。

「俺も行けるか」

【ボーダー!マキシマムドライブ!】

エターナルエッジにボーダーメモリを装填し、波打ち蠢く床をバックリと切り裂く。

 

―ギャリッ―

 

「ッ!?き、斬れないッ、だとッ!?」

しかし、黒い床はその刃を容易く弾いた。

おかしい。エターナルエッジの切れ味は、鋼鉄すら斬り裂く程だ。それが、コンクリートに弾かれただと?やはり、このドス黒い色はドーパントの―――

 

―ゴボォッ―

 

「ぬおッ!?」

その時、床が大きく開き、全員下に落とされる。物思いに耽り過ぎたか。

フランも反射的に俺達に着いて来てしまったようだ。

「クッ・・・おい、今のでヘバった奴はいるか?」

「大丈夫だ。落とされたのはフロア一階分。この高さなら、大事には至らん」

俺の確認に、イレイザーヘッドが応答する。周囲を見渡すが、幸い地面にケチャップぶちまけた奴は居ないらしい。

「オヤオヤ、上から国家権力が降ってきたぞ?」

「ッ!」

声に滲む、明確な敵意。それを感じ取り、俺はアームドギアのデスサイズを構え直す。

「変わった事もあるもんだなぁ?」

立っていたのは、やせ形のペストマスク男、坊主の布マスク大男、猫背のズタ袋マスク男の3人組だった。

「ヒュ~ッ・・・何から何まで、随分とまぁ熱烈な歓迎()()()()なこったな。3人組だけに」

皮肉っぽく口笛を軽く吹き、宴会とチームという2つのパーティを掛けたジョークを飛ばす。

こんなジョーク、前までは思い付かなかった筈だが・・・デップーに感謝かな?

 

to be continued・・・




《キャラクター紹介》

緑谷出久
某ナチ残党の少佐のような演説をやってのけたバケモノ主人公。
ハッキリと描写していないが、実は《自分の強い発言で集団心理を煽り操作する》と言う洗脳染みたハイドープ能力を新たに獲得した。
因みに厳密には人間ではないNEVERのメンバーと、次元から少し浮いた存在のデップーには効かない。

八意永琳
個人的な経緯で、八斎會から違法薬物売買を始めたオーバーホールにブチ切れている戦場女医。その経緯は後程。
また、元々ダークサイドに近い立ち位置なので殺人にも柔軟に対応出来る。

ブラッドスターク
ヒーロー協会の掃除屋。表沙汰にならないだけで、実はマスカレイドとかを買って喧嘩する馬鹿がいるっちゃいる。それを始末してたのがコイツ。
尚、マスカレイドの性質は最重要機密なので、出久が発表するまで知っているのはスタークだけだった。

ミカ・ジャウカーン
ゴリ押し特化の癖に、ミョーに理屈っぽい新技を編み出した自動人形。まぁ人格のベースはキャロルだからね。

ウェイド・ウィルソン
出久の洗脳には掛からなかったが、その場のノリでクリークコールをした奴。
登場させたは良いものの、作者の技量不足でほぼほぼ出番が無かった。その内作者はデザートイーグルで撃ち殺されるかもしれな・・・ん?誰だこんな時間n(文は途切れている)

大道克己
コンバットナイフから早くも日本刀に乗り換えつつあるNEVER初代リーダー。《速過ぎる打撃は斬撃になる》を地で往くスタイル。


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第26話・因縁のE/憎・悪・再・燃

『どうも。最近HELLSINGにハマってるエターナルドーパントです』
「俺ちゃんだ」
『注意事項。今回、出久の精神描写がかなりハチャメチャです。それでも良い人は』
「 ゆ っ く り し て い っ て ね 」


イガリマのデスサイズを構え、腰を落とすエターナル。

「よっと」

「うおッ!?」

ペストマスクの男・・・窃野が手を翳すと、エターナルの手からデスサイズが引き剥がされた。そしてそれは窃野の手に収まり、動きを止める。

「クッ、《窃盗》の窃野か。ライダー相手には相性が良いな畜生」

エターナルはエターナルローブで身体を覆い、更に伸ばして後ろのライダーズを隠した。

「ん~?おかしいな。そのマントは盗めないみたいだ。って、鎌も消えちまったし」

「当然さ。エターナルローブは俺の意思に従う。お前の引き付けより強く、俺の方に引き戻せば良いだけだ。

そのアームドギアも、適合者の俺が触れてエネルギーを増幅しなけりゃ自壊する」

(そして、欲しかったのはこの一瞬!)

 

―BANG!―

 

「ぐぁっ!!?」

鋭い銃声が響き、窃野が顔を押さえ踞る。

エターナルローブの隙間から、NEVERのスナイパーである賢が狙撃したのだ。最も、弾はゴム弾だったが。

「あぁックソォいてェ!本部長ォ!」

 

―グバッ―

 

「ぬおッ!?」

窃野がのた打ち回りながらも絞り出した声に呼応し、エターナルの足元に穴が開く。

ショルダーアーマーまでエターナルローブで隠していたエターナルはまたもや反応が間に合わず、穴に落ちてしまった。

「兄さん頼んだ!」

「・・・はぁ、オーダー」

エターナルに指揮権を委託され、呆れで息を吐く克己。

【アイズ!】

【ジュエル!】

【アノマロカリス!】

その直後に、3人はそれぞれドーパントに変身。

「ッ!・・・フッ、アイズか。懐かしいな」

口許を綻ばせながら言葉を紡ぎ出した克己の眼はしかし、強い憎悪で燃えていた。

「イレイザーヘッド。コイツらは俺と賢に任せて先に行け。京水、しっかり焼きを入れてやって来いよ」

「分かったわ」

克己に答え、賢以外が京水に続いて突き進んで行く。

「よっと!」

「ッ!」

それに眼もくれず、アイズは賢の2丁拳銃(スルト&ネクロ)を奪った。

「うおっ、おっも。さてと、動くなよ?自分の得物で、頭ブチ抜かれたくないだろ?」

「・・・フッ」

銃口を賢に向けるアイズ。それに対し、克己は鼻から吹き出すような嘲笑を返した。

「あ?何で笑えんだよ、この状況で何が可笑しいってんだ?」

苛立ちを曝け出すアイズ。ジュエルも警戒して腰を落とし、アノマロカリスも牙をガチガチと鳴らした。

「殺るぞ、賢」

「GAME START」

克己に短く返し、賢は上体を前に倒す。

「プロとアマチュアの差を、今味わわせてやる」

 

―パキッ―

 

克己のフィンガースナップと同時、賢は倒れ込む重力加速を利用して、縮地でアイズの懐に飛び込んだ。

 

(出久サイド)

 

―――時は少し戻り―――

 

「ぬぉっ!?」

長い真っ暗な滑り台を落とされ、急に開けた場所に放り出された。踵の蹴爪で地面を引っ掻き、ブレーキを掛けて膝立ちになる。

まだ良く見えないが、かなり広い部屋のようだ。

「クッソ、何処まで落とす気・・・ッ!」

薄闇の中、不自然な色の魂を見付けて即座にアームドギアを構えた。

俺の目の前には、2体の異形・・・ドーパントと、そして白い・・・()()()()()()5つ以上の魂があった。

「オぉ?来タカァ、仮面ライダー」

「待ッテタゼェ?」

異形の魂2体は、俺に向けて歩みを進める。俺も漸く蛍光灯の光に眼が慣れ・・・

 

「ッッッ!?!?」

 

そして、絶句した。

部屋の其処ら中に、幾人分ものバラバラ死体が転がっていたのだ。

それも唯の死体では無い。引き千切られ、焼き斬られ、捻り切られ、握り潰され、噛み砕かれ、そして貪り喰われた死体だ。

「ゲプッ・・・漸クダ・・・オマエヲ、殺セル時が来タ!」

異形の片割れの男が、嬉しそうに声を上げる。その身体は、動力パイプや機械が組み込まれたもの・・・所謂、改造人間だった。もう1人の方も、何ら変わらぬグロテスクな姿だ。

そして、どちらも黒い仮面で顔を隠している。

「ッたく、有名人ってのも辛いな。何処の誰とも判らねぇ奴から恨まれるんだからよ」

そう言いつつ、チラリと真っ白過ぎる魂の方を見やった。

「「「「「・・・」」」」」

「ッ!」

其処に居たのは、捕虜服に似た服を着た物言わぬ十代後半程度の少女達。アルビノなのか、肌も髪も真っ白な上に眼はルビーのような深紅だ。

しかしその顔に、俺は大いに見覚えがあった。

いや、顔もそうだが・・・最も見逃せぬのは、右額に生えた小振りな()()()()だ。

「エリ、ちゃん?」

そう。アルビノ染みたこの形質に、右額の角。

その姿は正に、エリちゃんの10年後と言った外見。そんな少女が、見渡した限り此処に5人だ。

「・・・そうか・・・そう言う事かッ・・・!」

俺は一瞬遅れ、完全に理解した。

 

クローン培養。

 

体細胞からDNAを採取し、そこから生殖細胞を作って量産しやがったんだ。

成る程、道理で同じDNA反応が・・・待て。どうして気付かなかった・・・あの死体達も、真っ白な肌と髪をしている・・・

 

「オォ?俺等ノ()()ガ、ドウカシタカァ?」

 

・・・つまり、コイツらは人を喰う特性を持ったドーパントで、このエリちゃんのクローン達はコイツらのエサとして此処に居る、って事か・・・

 

――ビキッ――

 

巫山戯るなッ!

 

「サァテト、ソンジャ・・・アン時ノ借リ、返サセテ貰ウカナァ?」

「あの時?」

「アァソウサ、忘レモシネェ。3()()()()()()()、アフガニスタンで俺達ノ出世ルートヲ潰シテクレタ事ヲナァ!!」

・・・ッ!!3()()()だと!?

 

―――ありがとう、おじさん!―――

 

「まさ、か・・・ッ!

貴ッ様等はァァァァァァァアッ!」

 

「漸ク思イ出シタカ!ソウダヨ、オ前ノ被害者、第一号サ!」

コイツ等はあの日の、病院小屋の奴等だ。

それが解った途端、俺は腹の中に鋳融かした鉄を流し込まれたような錯覚を覚えた。

両手足のブルーフレアが、俺の心象を投影するが如き勢いで激しく燃え上がる。その炎は俺の身体を覆い包んでもまだ足りず、遂には部屋の天井まで届く蒼い火柱となった。

怒りの炎に着いて来られなかったのか、シンフォニックスタイルが解除されてイガリマメモリも俺の中に消える。

しかし、今は思考からこの怒りを切り離すしか無い。怒り狂い我を忘れれば、それこそコイツ等の思う壷だ。

「クハハハ。死ネヨ、仮面ライダー」

「クタバレ」

【グスタフ!】

【ドーラ!】

それぞれのメモリを心臓に突き立て、奴等はドーパントに変身した。

グスタフドーパント&ドーラドーパント。

全身に大量の装甲を装着しており、腰には弾倉、脚には履帯(キャタピラ)。そして胸が肥大化し頭と同化しており、そこから正面に長い砲塔が伸びている。

グスタフ、ドーラ。どちらも、ドイツで開発された超弩級列車砲の名だ。列車砲だからキャタピラは付いてない筈だが・・・近代化改修って奴か?

まぁ良い。何にしろ、今度こそ殺せば済む話だ。

【アクセルッ!マキシマムドライブ!】

「でェヤッ!!」

 

―ガゴォンッ!!―

 

俺はアクセルのマキシマムを発動。瞬時にグスタフに肉薄し、加速を丸ごと乗せた跳び蹴りを叩き込んだ。

しかし・・・

「効カネェヨッ!」

「ごあッ!?」

全く歯が立たず、逆に殴り飛ばされてしまう。

クソ、何て堅さだよ。金属の柔軟性もあって、ジュエルより厄介だ。

 

―ガガガガガガガガガッ!―

 

「ぐあッガッ!?」

受け身を取って着地するより先に、俺の身体は激しい無数の衝撃に襲われた。

乱回転する視界を、加速した思考で読み解く。すると、両腕を此方に伸ばし下腕から煙を上げているドーラの姿があった。

「ゴハッ!」

床に叩き付けられながら、無駄に早い思考で敵の攻略法を探す。

 

バイオレンスでぶん殴る――あの堅さじゃ効くか怪しい。

アイスエイジで凍結――初歩的な攻撃なので対策されている可能性大。

ヒートで融解――出来ない事も無いだろうが、余熱でクローン達は確実に死ぬ。なるだけ殺したくは無い。

ファングで空間裂切――この密閉された地下空間ではどうなるか分からん。

メモリのコンボ―そもそもギリギリ1本使えるかどうかだから、装填時のタイムラグで袋叩きにされる。

 

八方塞がりじゃねぇかクソッタレ。

「クッソォ・・・機関砲搭載した超弩級列車砲だァ?近代化改修進み過ぎだろ」

「良イ~マシンガンダロ~!コリャ ドーパント ノ体質ジャネェ!俺達ノ腕、ソノママサ!」

・・・腕を改造して機関砲くっ着けるたァ、随分と熱心だな。

 

―ドワオッ―

 

「ごッ!?」

身体を吹き飛ばすインパクト。壁に叩き付けられるベクトル。埃を巻き上げる衝撃波。

そして、()()()轟く爆音。

息が全て吐き出され、横隔膜を筆頭に全身の筋肉や内臓が一斉に大パニックを起こした。

「ッ~!ッ~!?」

何だよ今のは!?音より先に衝撃が・・・ッ!アイツまさか、弾頭を超音速で飛ばせるってのか!?人間サイズで!?

「ガハハハハッ!良イ気味ダゼ!」

「オイ仮面ライダー、小便ハ済マセタカ?神様ニオ祈リハ?部屋ノ隅デガタガタ震エテ、命乞イヲスル心ノ準備ハOK?」

言うや否や、奴等はギャリギャリと履帯を回し始める。そして俺を掴んで部屋の真ん中に放り投げ、周囲をグルグルと廻りながら大量の弾丸を浴びせかけて来た。

「グゥゥ・・・!」

エターナルローブで何とか耐えながら踏ん張るが、それでも衝撃までは0には出来ない。

瞬く間に筋肉が悲鳴を上げ、骨が軋み始める。

どうすれば・・・どうすれば奴等を殺せる?考えろ、思考を止めるな。

 

ガングニール・閉鎖空間じゃ長物は不利か。予備動作もデカくて、この高起動な戦車型ドーパントに当たるか怪しい。

ガングニールβ・間合いが短過ぎるし、槍と同じく予備動作が大きい。

アメノハバキリ・エターナルローブを棄てた紙装甲だから手数で封殺される。

イチイバル・部屋を崩落させずあの装甲を貫くなんて器用な事が出来る程熟れてない。

イガリマ・単体では俺の魂の温度に着いて来られなかった。

シュルシャガナ・装甲が足りない。

アガートラーム・ソードビットまで弾き落とされる。

神獣鏡・脳内の反射角及び出力の演算処理が追い付かん。

 

クソッ、シンフォニックスタイルでさえも活路が見えねぇ!

「ソォラヨッ!」

「クタバレクソッタレ!」

 

―ドドワォッ―

 

「がッッ!!」

前後両方から超音速弾と衝撃波で挟まれ、俺は土煙幕の中で遂に膝を着いてしまった。

「オラオラオラオラァ!」

「正義ノ味方気取リモ終ワリダナァ!」

「がぁっ!!」

グスタフに胸板を蹴飛ばされ、ダメージの蓄積で変身が解除されてしまう。

俺の身体は壁に打ち付けられ、頭から帽子が外れて地面に落ちた。

クソ!何か、何か無いのか?奴等を倒す何か・・・

「ニシテモ、ブッ放ナスト腹減ルヨナァ」

「俺ラ、燃費ワリィモンナ。飯ニシヨウゼ」

そう言って目元をニチャリと歪めながら、グスタフとドーラはクローン達にガチャガチャと近付く。

奴等、俺に見せ付けるつもりか?あの哀れなクローン達が咀嚼され、腹に落ちるのを・・・それも、俺を捨て置いて?

「巫山・・・戯、るな・・・」

心拍数を無理矢理跳ね上げ、思考を加速。どんよりと遅くなった時の中で、俺は考えを巡らせた。

しかし、幾ら考えようとも解決策は浮かばない。何より、身体が言う事を聞いてくれないのだ。

全く、一貫性の欠片も無いな。同じく意思の無い脳無は躊躇無く殺した癖に、あの人形同然のクローン達は何故か無性に助けたい。

いや・・・彼女達は、まだ罪を犯してはいない。ただただ何も教えられなかっただけだ。

チンピラから化物に成り下がった脳無とは違う。

ならば、救済対象に入るんじゃ無いか・・・?

であれば・・・救わねばなるまい。

 

『頑張るなァ、俺』

 

(ッ!お前は・・・)

刹那。俺の視界はモノクロに染まり、目の前に左右と色が反転した俺・・・《ネガ》が現れる。

(忙しい。後にしろ)

『おいおい、そりゃあんまりだろ。折角アドバイスに来てやったのに』

アドバイスだと?

『俺が平行世界から貰ったメモリは、シンフォギアのヤツだけじゃねェだろ?1人ではまだ使った事ねぇヤツがある』

・・・ッ!そうか!あれならリスクはあるが、戦えるかも知れない!

『じゃ、精々頑張りな』

(あぁ!)

色彩が戻り、ネガが消える。俺は痛み苦しみを全て放り捨て、右腕を上げてトリガーマグナムを召喚。引き金を引いて光弾を連射し、頭や肩をバシバシと撃った。

「アァン?」

「ッタク、無駄ナ事ヲ」

俺の狙い通り、奴等は俺に向き直る。そして砲塔をギリギリと延ばし、此方に照準を合わせた。

「オ楽シミハ最後マデ取ットキタカッタガ、モウ良イカ」

「ダナ。殺ソウ」

安っぽい殺意を受けながら、俺は片頬を引き上げて立ち上がる。

そして、それを煽るように口を開いた。

「ほざけ、雑魚」

次の瞬間、2門の砲塔が火を吹いた。

 

(NOサイド)

 

―ドドワォッ―

 

超音速で撃ち出された弾丸が空気を切り裂き、衝撃波で塵が舞う。高温高圧で圧縮された空気がプラズマ化し、その熱膨張で再び衝撃波が広がった。

「ハッハッハッハァー!スカ~ット気分爽快ダゼェ!」

「良イ気味ダナ」

着弾を確信し、出久を嘲笑うグスタフとドーラ。そして自らの餌に向き直り、再び歩き出そうとする。

 

―――~♪~♪~♪~♪―――

 

「「ッ!?」」

しかし、突如響いたハープの音を聞き、驚きながらも振り返った。

 

「ふぅ、危ない危ない・・・クイーンバリアも、超弩級砲撃2発には流石に耐えられないか」

 

未だ舞う灰塵の中、抉れた黒い地面を踏み締めて歩く男が1人。

言うまでも無く、出久である。

身体中に傷があるものの、確りと両の脚で地面に立っていた。

そして・・・着目すべきは、その両手である。右腕は肘から先に、左手は手首から先に、それぞれグローブのようなガントレットを装着しているのだ。

右腕は暗い赤紫の布でぴっちりと包まれており、指先は黒く刺々しいアーマーで覆われている。左手のものは右腕に比べゴテゴテしたゴツい作りで、手の甲にはターコイズブルーに輝く菱形の水晶に似た結晶体が組み込まれていた。

出久はそのゴツい指で地面に落ちた帽子を拾い、自分の頭に乗せ直す。

「ナ、何デ死ンデネェンダ!?」

「教えてやるもんか」

ドーラに冷めた口調で返す出久の身体を、金色の魔方陣のような物が通り抜けた。それにより出久の傷は多少塞がり、表情も幾らか余裕を取り戻す。

「ほう・・・適合し切ってはいなくとも、この程度なら使えるか」

キリキリと指を動かし、具合を確かめる出久。そして今度は右手を顔に翳し、手首のスナップを効かせて投げキスのような仕草をした。

 

―ザクッ―

 

「グアッ!?」

次の瞬間、グスタフの右腕の機関銃が鋭い音と共に斬り落とされる。痛覚は無いものの、衝撃でグスタフは半歩程よろめいた。

「派手に外したな。やれやれ・・・やはり、馴れない得物は儘ならないものだ」

そう言いつつ、指をゴネゴネと動かす出久。良く眼を凝らせば、その指の間には微かに煌めく極細の糸が張られていた。

「ワイヤカッターカヨッ!!」

「死ニ損ナイガァッ!!」

出久の生存が気に食わず、ドーラとグスタフは機関銃を発砲。しかし、その弾丸も全て出久の手前で明後日の方向に弾かれてしまった。

「「ナッ!?」」

「ほう?素人でも、この程度は出来るのか」

出久のした事は極めてシンプル。糸を縦横に組み合わせて、即席の盾を造ったのだ。

「使用者の錬金術も記憶してる上に、この糸まで使える。いやはや、実に優秀だな・・・

この、()()()()()()は」

腕を振るって糸を舞わせ、出久はフッと息を吐く。

出久の右腕と左手を覆うグローブ・・・それは、ダウルダヴラのファウストローブを必要最低限のみ纏ったものだった。

出久のハイドープ能力の1つである適合体質でさえも、ダウルダヴラを完全に纏う事は適わない。何故なら、ダウルダヴラを扱うのであれば、それに合わせて肉体を完璧以上に完成された女性体へとチューニングしなければならないからだ。

故に出久は、辛うじて糸を扱えるだけのグローブを纏った。指先からは極細の鋭い糸が伸び、それ等は出久の意思に応じてくねり蠢く。

「クソガァッ!!」

「クタバレバ良カッタモノヲッ!!」

 

―ギジャリンッ―

 

「「グアッ!」」

怒り任せに主砲を撃とうと砲塔を延ばすグスタフとドーラだったが、その砲塔ですらワイヤに巻かれ一瞬で輪切りにされた。

「イ、イテェ!?」

「グゥゥゥ・・・!」

砲塔は機関銃とは違い、変形した身体の一部。故に、斬り落とされた激痛が容赦無くドーパントを襲う。

 

「さぁて、屑共。小便は済ませたか?カミサマにお祈りは?部屋の隅でガタガタ震えて、命乞いをする心の準備はOK?」

 

【挿絵表示】

 

 

先程グスタフに言われた台詞を、そっくりそのまま言い返した出久。その間にも指は忙しく動き、順調に獲物を絡めとる。

 

「まぁ、命乞いは聞かんがな。豚のような悲鳴をあげろ」

冷徹に、冷酷に言い放ち、出久は右手を強く握る。すると糸はギリギリと絞まり、グスタフとドーラを雁字搦めに拘束した。

「クッソォ!放セェ!」

「誰が放すか」

 

―トッ ブチブチッジャクッ―

 

出久が右手首を軽くチョップすると、その衝撃を糸が増幅。瞬く間にドーラを切り裂き捻り切った。

「ウ、ウワァァァァァッ!?止メロォ!!止メテクレェ!!嫌ダァァァァァ!!!」

「・・・」

哀れな異形を見つめる、冷たい眼差し。それはピクリとも変わらず、出久は無言で指を動かした。

 

―ギリギリギリギリギリッバキンッ―

 

「ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ッ!?」

糸が絞まり、グスタフの両の手足を捻る。金属装甲がけたたましい音を発ててねじ切られ、血が吹き出して壁に掛かった。

しかしそれでも尚、グスタフの死は遠い。

「改造人間のしぶとさが仇になったな」

出久が嘲笑と共に、右腕を大きく振るう。すると糸に引っ張られ、グスタフは部屋の壁に強く打ち付けられた。

「ウギャァァァァァァッ!?」

砕けた骨や装甲が筋肉を切り裂いて貫き、激痛に絶叫するグスタフ。それを無視し、出久は執拗なまでにグスタフを叩き付け続ける。

4~5度打ち据えられたグスタフは、最早死に体であった。

「ア・・・ア・・・」

「・・・もう十分だな。いや、少し遊び過ぎたか」

呟きながら、膝を抜いて座り込む出久。全身打撲状態で、無茶を続けた事が祟ったのだ。だが、糸に込める力は緩めない。

「今度は、見逃さない。生かしては帰さない。今度こそ、確実に・・・仕留める」

 

―ギリッ バキベキボキバキッ―

 

そして出久は拳を握り締め、グスタフの関節と言う関節をあらゆる方向に回転させ捻り砕いた。

「ターゲット、死亡(Die)

機械的に状況を確認して、出久は右腕に手を宛がう。

「ぐっ・・・」

一瞬の焼け付くような痛みと共に、下腕からダウルダヴラメモリが排出された。

「ぬぅ・・・やっぱり、肉体にもメモリにもチューニングが必要だな・・・」

ふとクローン達の方を見やれば、彼女等はただひたすらに出久を凝視している。見た事が無い人間に対して、本能的に興味が湧いたのだろうか。

「取り敢えず、回復を・・・」

【サイクロン!】

【ヒーリング!マキシマムドライブ!】

サイクロンを首筋に挿し、ヒーリングのマキシマムを発動。周囲の気圧を操作して風を産み出し、それを吸収して体力の回復を謀る。

「休憩が終わったら・・・早く、合流しないとな」

出久は未だ力の入らない身体に若干の焦りを覚えながらも、今は回復に努めようと壁に凭れ掛かるのだった。

 

(克己サイド)

 

「ぐ・・・あ・・・」

「ゔぅ・・・」

「む゙ぅぅう・・・」

俺達は3人組のドーパントを縛り上げ、排出されたメモリを回収する。

「拍子抜けだったな、克己」

「全くだ。期待外れだな」

事も無げにそう言った賢に同意の返事で返し、先程の戦闘を振り返った。

 

俺の合図で賢が間合いを詰め、アイズの腹にミドルキック。

そこに俺が天之尾羽張を鞘ごと投擲し、賢がそれをキャッチして鞘先を突き立てる事でアノマロカリスの口腔を破壊。

直後に俺が飛び込み、突き立てられた天之尾羽張を抜刀。ジュエルに対して、2連続の上段振り下ろし・・・ゲームで見た技である、《葦名一文字二連》を叩き込んだ。

そしてそれぞれが大きく怯んだ隙に、まずアイズの顔面・・・更に言うと眼窩のバイザーを、天之尾羽張で切り裂いて視界を封殺する。

そして賢のスルト&ネクロを取り戻し、アノマロカリスに葦名一文字二連を叩き込んで両腕を破壊。

賢がタングステン徹甲弾を装填し、それを複数撃ち込んでジュエルを沈めた。

 

「連携は良いメンバーだったのかも知れんが、ドーパントの体質が使いこなせていなかった。チンピラ等、所詮はこの程度だ」

ふと見やれば、3人組は無様な有り様だった。

アイズの奴は両目を切り裂かれ戦意喪失。

アノマロカリスは歯が全部砕けて意識朦朧。

ジュエルは身体中に銃創がある。

「行くぞ賢。京水達と急いで合流する」

「ラジャー」

俺が通路に走り出し、賢が後ろに続く。周囲の警戒を緩めずに、俺達は先を急ぐのだった。

 

to be continued・・・




キャラクター紹介

緑谷出久
我等が化物。今回は作者の発想でまさかのウォルター化を果たした。
ダウルダヴラのファウストローブは完璧以上に完成された女体でなければ使えない為、出久は完全装着出来なかった。しかし、それでも屑を始末するには十分だった模様。

大道克己
克己ちゃん。天之尾羽張を早くも使いこなしつつあるが、常にコンバットナイフも携帯している。
「使いなれた武器を危険地帯で肌身離さぬ事が、プロ最低条件だ」
最近フロム・ソフトウェアのダークソウルとか隻狼に嵌まっている模様。

芦原賢
何気に初めてマトモに会話する描写が出来た。
今まで会話パートが少なかったせいだ。だが私は謝らn・・・


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第27話・Nでピンチ/Fの覚醒

『さぁて。今回で多分、《組織》の正体を見抜く人が出てくるぞー』
「逆に気付いてねぇ人いんのか?」
『分からんよ。何せ26話にコメントが付かねぇんだもん』
「関係無くね?」
『感想が欲しいんだよ』
「誰も聞いちゃいねぇよンな事は」


「ッたくよォ!!一体全体何処から涌いて出てきやがるンですかッてんだよクソがァ!!」

 

―BBBOOM!!―

 

苛立たし気に喚きながら、ドーパントに爆炎をブッ放すグリス・ライト。敵を殺す事への忌避感は、既にアドレナリンの波により思考の彼方へ放り出していた。

出てくるのは主にマスカレイド、時々コックローチ等の《その他》という具合だ。

「ッ!カツキ君!」

 

―ギャリンッ! バキベキベキッ―

 

敵の数が漸く減り始めた頃。

グリスを狙って撃ち出された斬撃波を、ローグ・ライトが自身の装甲で受け止める。一気に白い罅割れが広がるが、これが本来の運用法なのでローグにダメージはほぼ無い。しかし衝撃は消しきれず、彼女の顔を僅かにだが顰めさせた。

「ッと、済まねェお茶子」

「何ちゃー無いよ!それより・・・」

グリスに短く返し、ローグは斬撃波の出所を睨む。

『グゲゲゲゲゲゲッ!』

其所には、今まで出て来なかった新種のドーパントが立っていた。暴走族が乗り回す改造バイクのマフラーにも似た両肩から白煙を噴き、鋭い杭状の牙が並ぶ口から涎の滴と長い舌を垂らしている。

「フンッ!・・・新手のドーパントか。頭が痛くなるな」

照井竜路・・・アクセルが雑魚を斬り捨て、新たな敵に向き直った。

「ッ!危ねェ!」

「ぐッ!?」

突如、グリスが何かに気付き、慌ててアクセルを突き飛ばす。

 

―ギャンッ―

 

その直後に、白熱化したリング状のエネルギーが2人の立っていた場所を抉った。

「なッ!?・・・済まないグリス、助かった」

驚くアクセルだったが、直ぐ様構えを正して再度ドーパントを捉える。

「アイツ、腕に何か集めるような感じがした」

「・・・成る程、腕の動きに注意だな」

【バイオレント・ストライク!】

「でぇいッ!!」

 

―ドゴンッ ピコッピコッ―

 

そんな中で、アマゾンオメガが跳躍。天井を更に足場にして、ドーパントの胸にライダーキックを叩き込んだ。バグスターウィルスの効果により、緑の衝撃波に似たエフェクトと《HIT!》の文字が発生する。

『ウギッ!?』

【アクセルッ!マキシマムドライブ!】

「ッたァァァァァァァァ!!」

ドーパントがよろめいた隙に、アクセルがマキシマムドライブを発動。赤熱化しながら一直線に飛び込み、赤いエネルギーを纏った後ろ回し蹴り・・・アクセルグランツァーを叩き込んだ。

『ウギャァァァァァァアッ!?』

やたらと獣染みた悲鳴を上げ、ドーパントは爆発。変身者が崩れ落ち、メモリが地面に転がった。

【ロード!】

 

―バキンッ―

 

最後に内包していた記憶を読み上げ、メモリも破裂するように砕ける。

「ロード・・・道か。あの熱攻撃は、恐らく内燃機関の放熱かタイヤと地面の摩擦を組み込んだ能力だろう」

「アンタのメモリに似てんな」

「そうだな・・・ん?コイツは・・・」

アクセルはロードドーパントの変身者の顔を覗き込み、仮面の下で眉を潜めた。

「行方不明になっていた、チンピラだな」

その人相は、最近まで頻発していたチンピラの失踪事件にて行方不明になっていた男だった。

「・・・やはり、失踪事件にも組織が関わっていたか」

センチピードドーパントの時に浮上していた可能性が、アクセル・・・照井の中で、確信に繋がる。

「皆。この先、出てくるのは死穢八斎會構成員だけでは無い。油断無く行くぞ」

『おうッ!』

アクセルの声に答え、全員が駆け出した。

「悪いな、待たせた。遅くなったか」

「あ、克己さん!」

その後方から、克己と賢が早くも合流する。

「相変わらず、出久は行方不明か。アイツに限ってくたばりはしないだろうが・・・俺達の位置が分からなければ、出久も戦い辛いだろう」

「流れ弾がこっちに当たるかもだしなぁ・・・そういやあいz・・・イレイザーヘッドは、この通路を操作してる奴の個性は消せないんスか?」

切島の問いに、イレイザーヘッドは苦虫を噛み潰したような顔を作りながら首を横に振った。

「残念だが、個性を使う本体の身体が視界に入らないと無理だ」

「けど、今はグネグネ動いてねぇ。って事はつまり、操れはしてもその操作物全体は把握出来ねぇって事だ。なら、俺等を確認しに来た時に潰しゃ良い」

現状を観察し、持ち前のキレで分析するグリス。しかし直後、予想外の事態が発生した。

 

―パキパキパキパキッ―

 

前方の床に黒い結晶状の何かがばら蒔かれ、魔法陣のようなモノが展開。そしてその中から、極彩色の侵略者・・・ノイズが現れたのだ。

「なッ!?コイツらって、確かノイズ!?」

驚愕に声を上げた切島を筆頭に、全員がその場で立ち止まる。

出現したのは、頭部の鶏冠と右手に生えたエッジが特徴の人形ノイズ・・・武士ノイズと呼ばれるモノだった。

「あ、あれは!?」

「アルカ・ノイズ!?」

「はぁ?めんどくせェな。何でこんなモンまであるんだよォ」

先頭に近かった。ファラとレイアが眼を見開き、ガリィはこれでもかと顔を顰めて愚痴を垂れ流す。

そして自動人形(オートスコアラー)達は瞬時に各々の武装もしくは能力を使い、アルカ・ノイズを攻撃した。

レイアは投げ銭、ファラは圧縮空気弾、ミカはカーボンロッド、ガリィは氷柱の射出。

自動人形(オートスコアラー)達から中遠距離攻撃の一斉掃射を受け、アルカ・ノイズの群れは瞬く間に赤い粉塵に分解されて崩れ去る。

「お気を付け下さい!これらはノイズの発展型、アルカ・ノイズですわ!位相差障壁を棄てた代わりに、シンフォギアすら解剖する分解能力を備えていますッ!

通常のノイズと違って物理攻撃が通用するので、なるべく遠距離で攻撃を!」

ファラが警告すると同時に、再び黒いクリスタルがばら蒔かれた。そして、アルカ・ノイズの第二ウェーブが襲来する。

「ゾンビ!あとタブー!前に出て俺と弾幕張るぞ!」

【ジェット!】

【ディスチャージ・メモリィ!潰レッナァ~イ!ディスチャージ・クルルァッシュ!】

グリスはジェットメモリを起動し、ドライバーのスロットに装填。レンチレバーを叩き下ろし、機雷艦載機をばら蒔いた。

「久々の台詞だってのに今回もチョイ役かよ!もうちょい気張れ作者ァ!」

「そんな事言ってる場合じゃないで、しょッ!」

ゲンムとタブーもそれに習い、ゲンムはバグヴァイザーの、タブーは己の魔力のエネルギー弾で弾幕を張る。

それらの光弾とヴァリアブルゼリーの艦載機の猛攻により、アルカ・ノイズは次々と赤い粉塵に分解されていった。

しかし召喚用のジェムは未だに底を突かないらしく、わらわらとお代わりがやって来る。

()だッ!徹底的に()で攻撃しろッ!人形も加われェ!!」

「分かりましたわ。行きましょう、レイアちゃん」

「承知した。派手に行こう」

ファラの圧縮空気弾が前線の4人の隙間を縫うように飛んで敵を吹き飛ばし、レイアの投げ銭は壁や床、天井で跳弾してノイズを上下左右から撃ち抜いた。

ノイズは次々と崩れ、未だ味方に死者は出ていない。グリス達の優勢は、誰の目から見ようと明らかだ。

(・・・妙だ)

しかし、グリスはこの状況に違和感を覚えた。

(何で敵は、こんな時間稼ぎをしてやがんだ?やり用は他にもあるだろ。

寧ろ、さっきみたく壁動かしゃ良い筈だ・・・)

【クラック・アップ・フィニッシュッ!】

「おッりゃあッ!」

思考を巡らすグリスの横を、紫の鰐がすり抜ける。その顎はアルカ・ノイズを噛み砕き、塵をまた一山積み上げた。

「どうしたん?カツキくん」

「いや、何でも・・・ッ!」

瞬間、グリスの脳に電撃が走る。

今の技を、そしてこの状況を見て、彼は思い出した。

雄英体育祭にて麗日が使った、そして期末テストに於いて自らも参加した、あの戦術を。

(まさか・・・このノイズ(モブ)共は、意識を集中させる為のデコイか?)

脈が早鐘を打つのを感じながら、グリスは思考を進める。

(だとすれば、今の所何ら問題無く対処出来てるノイズを出し続けてるのも筋が通る・・・何が狙いだ?敵は何がしたい・・・?考えろ・・・

モノから意識を逸らす時は、何かを隠す時と・・・ッ!)

彼の頭のなかで、パチッと何かが繋がった。

「イレイザーッ!警戒しろッ!」

グリスが叫びながら振り替えると同時に、イレイザーヘッドの左側の壁に孔が開く。そして右からは、壁が柱のように変形して彼に迫っていた。

「イレイザー!危ないッ!」

それを察知したファットガムが、イレイザーヘッドを突き飛ばす。それにより、イレイザーヘッドの代わりにファットガムが孔に突き込まれる。

「済まんファット!」

『気にすんな!』

壁越しの返事が響き、ファットガムは穴の中を転がり落ちていくのだった。

 

(出久サイド)

 

「フゥ・・・よし」

息を吐き出し、全身の筋肉に力を入れて具合を確かめる。どうやら、もう動くには問題無さそうだ。

「しかし・・・この子達はどうするかな」

横を見やれば、5人のクローン達は黙って座りながら俺を見ている。

この子達は、連れて行けば確実に俺の負担になるだろう。しかし、置いて行けばドーパントに喰い殺される。

オマケにゾーンやボーダーは使えない上、NEVERの皆も総動員してて呼び出せないと来た。

「仕方無いか・・・」

【スタッグ】【スパイダー】【バット】【ビートル】

俺はおもむろにメモリガジェット達を取り出し、疑似メモリを装填して起動。ライブモードに変形させ、クローン達の周りに放つ。

これなら、流れ弾程度は防いでくれる筈だ。

「さて・・・行くか」

【キー!マキシマムドライブ!】

クローン達が着いて来るのを確認し、俺はキーメモリのサーチを再開。今度は成長的な肉体年齢が幼いモノにマークを付けるように設定し直した。

すると、黒い壁に阻まれながらも何とか方向だけは発見。ギリギリどっちに動いてるかぐらいしか判らんが、無いより大分マシだ。

「さぁて、このまま恙無く進めれば良いが・・・」

 

――ビリッ――

 

「・・・そうは問屋が卸さない、か」

俺のエア・ディテクションが、敵の気配を感知する。

「ウギギギ!」

廊下の角から、バイクのマフラーのような排気管が付いた大男型のドーパントが現れた。

「ったく、勘弁しろよ・・・」

あぁ、ヤバイな。どうしても、さっきの屑共を思い出しちまう。イライラするなァ・・・

「行くぞ・・・()()()()

『ギャーオッ!』

ロストドライバーを装着し、ファングメモリを召喚。呼び出したファングが高く叫び、掌に飛び乗った

 

―ガシャッ ガシャンッ ギャーオッ!―

 

そして上から押し潰すように前屈の体制に折り曲げ、右手で尻尾のタクティカルホーンを跳ね上げる。

ホーンはその根本を軸に反転し、ラプトル型のボディに収まっていたメモリが露出した。

 

【ファングッ!】

 

「ヴォォォォォオッ!!変ッ身ッ!!」

 

【ファングッ!ギャァーウギュルルギャァァンッ!!】

 

ドライバーにメモリを差し込み、スロットを開く。同時にボディ部分もドライバーの上に乗せるように倒した。

すると俺の周囲を牙のようなブーメラン状の刃が飛び交い、それが俺の身体に突き刺さるように飛来してアーマーを形成する。

 

「ヴオ゙ォ゙ォ゙ォ゙ォ゙ォ゙ォ゙ォ゙ア゙ァ゙ァ゙ア゙ッ!!!!」

 

仮面ライダーファング、爆誕。

瞬間。闘争本能が爆発し、俺はドーパントに飛び掛かった。敵は何とか察知して身を躱したものの、ファングの鋭い爪が奴の胸板を切り裂く。

決して浅いと言えない傷によろめくドーパント。俺は爪先を地面に突き立てながら、ドライバーの上で肉食恐竜の横顔を形作っているファングメモリの鼻先に付いたタクティカルホーンを親指で弾いた。

 

―ガシャンッ ギャーオッ!―

 

【アームファングッ!!】

 

すると両腕のガイアアーマーにエネルギーが流れ込み、装甲が変形。腕の横面に弧を描く3()()()()()()()()6()()()鋭い刃が生えてくる。

「何ッ!?・・・いや、寧ろ都合が良いッ!!」

俺は手首、前腕、肘から延びるアームセイバーに意識を集中し、腕を弓のように引き絞り力を込める。それに答えるように、腕から延びる刃が極細振動を始めた。

 

「ハァァァァァァァァアッ!ヅェアリャァァァァァァァッ!!!!」

 

そして突き立てた爪先で一気に床を蹴り出し、右腕を突き出す。

アームセイバーは一切の慈悲の欠片も無くドーパントを捉え、ほぼ何の手応えも無く胴体を通過。そして一瞬遅れ、ドーパントは身体の上下を分割しながら倒れ込み爆散した。

「フシュゥゥゥゥ・・・」

興奮物質により体温が上がり、口元から溢れる吐息が真っ白な湯気になる。その口元に違和感を覚えて手で触れてみれば、鋭利な牙を備えた生物的なクラッシャーがあった。

「・・・」

【ウェザー!マキシマムドライブ!】

「ガブッ ゴクッ ゴクッ ゴクッ」

キーをウェザーと入れ替え、マキシマムを発動。頭上に雨雲を作り出し、口が開くのを良い事に落ちてくる雫の群を文字通り浴びながらガブガブと飲み下す。

「ふぅぅぅぅ・・・少しは、慣れたか」

水分補給と同時に頭を冷やし、肺の中身を一気に吐き出した。さっきの闘争本能も、どうやら慣れたらしい。寧ろ適度に興奮物質が出ていて、全てが鮮明に感じ取れる。

目標までの道程に隠れている、多数のドーパントの気配も。

「コイツは、一骨折れそうだ・・・と、そうだ」

俺は忘れかけていた足元の死体に歩みより、排出されたメモリを確認する。

砕けたメモリにプリントされていた文字は―――

 

―――ROAD・・・()()だった。

 

「ロード、ねぇ・・・この一件を早いとこ片付けて、そっちも検索するとしよう。さて・・・」

 

―ガシャガシャンッ ギャーオッ!―

 

【ショルダーファングッ!!】

 

タクティカルホーンを2回弾き、ショルダーアーマーにエネルギーをチャージ。ガイアアーマーが変形し、再び刃を形成した。しかもまた3対である。

「火力がスゲェ事になってるな・・・まぁ良い」

ショルダーセイバーを引き抜き、指と指の間に鉤爪状に挟んだ。この持ち方、意外としっくり来るな。仮面ライダーファングとしては、これが正しいのか?

「君達は、少し離れて着いて来るんだ」

言葉はしっかり判るらしく、コクンと頷くクローン。それを確認して、俺は敵が待ち伏せしている曲がり角に飛び込むのだった。

 

to be continued・・・




キャラクター紹介

ロードドーパント
敵組織の文字通り土台を支えているドーパント。最近まで頻発していたチンピラの行方不明者は、大体コイツになるかコイツに喰われるかだった。
しかし、最近は行方不明もほぼ無くなっているらしい。

緑谷出久
前回ズタボロにやられた分のダメージを、ものの10数分で回復したヤベーヤツ。最速で目標に到達する為、汎用性のエターナルではなくスピードと攻撃力に全振りした仮面ライダーファングに変身。

爆豪勝己
仮面ライダーグリス・ライト。ロードの炎熱リングからアクセルを庇うというファインプレーを見せた。
実は既にハイドープ能力に目覚めていたりする。

仮面ライダーファング
基本造形はエターナルに似ているが、ストッパーが無い分だけ凶悪なスペックになっている。
アームファングのイメージはガイバーⅢのハイバイブソードと真ゲッターロボの腕の刃。
ショルダーファングは言わずもがなウルヴァリン。

因みに前回の蹂躙シーンに、挿絵を着けました。見てね。


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第28話・切島のE/回生と覚醒

『さぁて、此処からが難関ですわ』
「永遠の死神も早くしろ」
『気が向いたらな』
「気紛れ過ぎる」
『そういうスタイルだから仕方無い』


―ガゴォォォンッ!!―

 

「ゴハァッ!?」

「く、クローズッ!」

敵である猛禽の嘴を付けたシャチにも見えるマスクを被った大男の拳を真っ向から受けた躯炉得途(クローズ)頼雄斗(ライオット)が殴り飛ばされ、けたたましい音を発てて壁に打ち付けられた。

大男がグリグリと肩を回し、フシュッと息を吐き出す。

「俺さ、思うんだよ。喧嘩に銃とか刃物使うのは不粋だってよ。持ったら誰でも勝てちまう。そんなの喧嘩じゃねぇ。

自分の身に宿す力のみを本気でぶつけ合う、そんな喧嘩が良いんだ」

己の理論、信念を話す大男。その言葉は、ファットガムとクローズ両方に掛けられたものだ。

「クローズッ!平気か!?」

「あぁ、問題ねぇ!反撃行くぜッ!」

衝撃を全身の装甲で受け止め、躯炉得途(クローズ)は反撃の姿勢を執った。

「オリャオリャオリャオリャオリャァァァァアッ!!」

【READY GO!!DRAGONICK FINISH!!】

ビルドドライバーのボルテックレバーを激しく回転。ドラゴンボトルから抽出してクローズドラゴン内部の特殊増幅で増幅した成分をドライバー内の転換炉でエネルギーに転換し、蒼いクローズドラゴン・ブレイズを左腕に纏って肘を引く。

そして骨盤を捻って腰を切り、その加速がフルに乗った拳を突き出した。

そのスピードに乗り、クローズドラゴン・ブレイズが敵に向かって突撃する。

 

―KABOOM!―

 

クローズドラゴン・ブレイズが爆ぜ、蒼や橙の炎が迸った。

「取った!」

「取ってへん!」

思わずガッツポーズをするクローズに、ファットガムが油断無く言い放つ。それと同時に土煙が晴れ、敵の姿が現れた。

拳の大男と、それを覆うドーム型のバリア。そして、そのバリアを張った使い手であろう口と鼻を覆うペストマスクを付け、黒い浴衣を着た男だ。

 

―ドドドドドドドドドドドドドッ!!!―

 

次の瞬間。浴衣の男がバリアを解除し、同時に大男がパンチの連打をファットガムに叩き込む。

「ぐおぉぉぉぉぉ!?」

馬鹿みたいに速く、冗談にもならない程重く、それでいてブローニングM2重機関銃さえも青筋を立てそうなまでに激しいその拳の雨霰は、ほんの2秒足らずで防御に秀でている筈のファットガムを仰け反らせ、後退らせた。

「ファットガムに、身体を硬化出来る少年か。どちらも防御に秀でた個性だな。残念だったな、乱波(らっぱ)よ」

「防御が得意?受けきれてねぇみたいだが・・・ま、ミンチにならなかっただけ良いか」

「我々は矛と盾。対して彼方は盾と盾だ」

「ン?待て、喧嘩にならねぇぞ?参ったな」

浴衣の男が分析し、拳の男・・・乱波がぼやく。どうやら彼は相当なバトルジャンキーのようだ。

「試してみるか?喧嘩にならねぇか・・・俺はまだ、砕けてねぇぞ!そんでもって、その喧嘩も俺らが勝つッ!」

それを聞き、クローズは全身を固めて挑発した。自分だけなら兎も角、このライダーの力すら眼中に入れない敵達に、意地とプライドを刺激されたからだ。

「ほう、我々に勝つ気でいるようだ。やったな乱波」

「何だって!?分かってくれたか!お前は良いガキだ!おい天蓋!バリア使うな外せ!端からこんなもん、俺にゃ要らねぇ!」

「私欲に溺れるな乱波。オーバーホール様の言い付けを忘れるんじゃあない。相性は良好、我々のコンビネーションで確実に始末するんだ」

 

―ゴガガガガガガガガガガガガッ!!―

 

一瞬の後、乱波が連打を味方である筈の浴衣の男・・・天蓋に繰り出す。しかし天蓋は自分の周りに2枚目バリアを張り、その拳を受け止めた。

「どういうつもりだ喧嘩狂い・・・」

「コンビ?ンなもんはオバホが勝手に決めたもんだ。俺は殺し合えればどうでも良い」

「はぁ・・・まぁ良い。その代わり、確実に処理するんだぞ」

「オォ!分かってくれたか!良い引きこもりだ!」

外側のバリアが消え、乱波は嬉々としてクローズに歩み寄る。

「来いやァ!」

「やっぱり良いガキだ!お前大好きだ!」

 

―ガガガガガガガガガガガガッ!!―

 

「うおぉぉぉぉぉぉッ!!」

再び拳打の雨霰を降らす乱波。クローズは腕を交差させ、限界まで固めて耐え忍ぶ。

「ハァ・・・」

拳打が止み、乱波は2歩退いて息を吐いた。

「なぁお前!クローズってンのか!?やっぱお前最高だ!」

「そうかよ・・・お褒めに預かり、光栄だね!」

精一杯気張って言い返して見せるが、クローズの腕には既に細かい皹が入り始めている。

「クローズ、無理すんなよ!」

「あぁ、ありがとうファット。でも、大丈夫だ!」

クローズが多少の無理を押してでもそう言うのは、人を護る為に動き出せなかった過去の自分の情けなさを払拭する為だった。

 

――――――――――

 

中学時代、放課後に如何にも危ない雰囲気をした大男に絡まれている同級生がいた。

ヒーローに憧れそれを志す少年だった彼・・・切島はしかし、その時全く動けなかった。恐怖で全身が硬直し、呼吸さえ忘れた程だ。

誰かヒーローに通報したかと周りを見ても、全員が野次馬心理で見ているだけ。そして、それは自分も同じだと分かった時は絶望さえ覚えた。

そんな中で、たった1人だけ動き出した少女がいた。

口から出任せを何とか搾り出し、尚且つ大声でその大男が行きたがっている場所の情報と偽った嘘八百を並べて見せたのだ。

その少女こそが、何を隠そう芦戸三奈。緑谷出久の正妻だ。

しかもその後、彼女は放課後決まって足早に何処か*1に行ってしまう。そのせいで謝ろうにもタイミングが無く、独り悶々と後悔を抱え込んでいた。

心が折れ掛け、志望していた雄英高校も諦めようとしていたある日。幼い頃に誕生日プレゼントとして貰った偉人ヒーロー本の付録に収録されていたヒーロー、紅頼雄斗(クリムゾンライオット)の言葉が、切島に決心を抱かせた。

今度は自分が護る。そしてそう決めたならば、漢気でそれを貫いて見せると。

 

――――――――――

 

故に今、目の前の敵に負ける訳にはいかない。まして仮面ライダーの力を得てまで負ける等言語道断。

そんな意地で身体を固め、乱波の前に佇む。

そんなクローズを見て、ファットガムは唇を噛み締めていた。クローズが何とか耐えていられるあの連打も、自分には受けきれない。その上、隙を突こうにも天蓋のバリアを突破出来そうにないからだ。

「漸く肩が温まってきたぜ!さぁ、こっからが本番だ!まだまだイケるよな!?なぁクローズ!」

「ッ!?こ、来いやァ!!」

今までの連打すらも本調子で無かった事を知り、一瞬青ざめるクローズ。しかしそれがどうしたと恐怖を振り払い、再び腕を構えた。

「ガキって言って悪かった!お前は最高の男だ!」

 

―バガガガガガガガガガガガガガガッ―

 

そして、再び連打が始まる。しかも乱波の言う通り、先程よりも数割パワーもスピードも増したパンチだ。

「ウオォォォォォォォォ!?」

「大丈夫かクローズ!?まだ大丈夫だよな!?」

「あ、当ッたり前・・・―がくんっ―くっ!?」

 

―ドゴッ―

 

「ごぇあッ!?」

一瞬で吹き飛び、再び壁に打ち付けられるクローズ。衝撃で変身は強制解除。肺が空気を吐き出し、視界が白く明滅した。

「な・・・何、が・・・ッ!?」

切島は腕を着き立ち上がろうとする。だが、身体は一向に持ち上がらない。

脚に力を込めて踏ん張ろうとしても、ガタガタと震えて堪えられないのだ。

「あ、脚が・・・」

拳打を受け止めていた腕は、ライダーの装甲のお陰でまだ余裕がある。しかし、逃げ場無い重圧をこれ程までにも受ける事を、その脚の筋肉は想定していなかったようだ。

アドレナリンで無理矢理固めてきたが、それにも限界が来た。今や切島の脚は痺れ、硬化に必要な力みすら出来ない状態にまで追い込まれてしまったのだ。

「クソッ、動け!動け!この脚ッ!」

拳で太股を叩くが、その衝撃すらぼんやりとしか感じられない。切島は目を見開き、絶望がその心を塗り潰す。

(ま、まだだ!まだやれる!まだやれるだろ!立て!立てェ!)

血が滲む程に唇を噛み締めるが、それでも脚は動かない。

「選手、交代や」

その時、切島の前に出たファットガムが口を開いた。

「乱波君、言うたな。俺も昔は、ゴリッゴリの武闘派やってん。どうや?ここはひとつ、俺と勝負してみぃひんか?」

「ッッッッッッ!!!」

その言葉で、乱波の視線が完全にファットガムへと移る。同時に切島は、己の意地すら貫けず護られる側に回ってしまったこの現状に強い無念を抱いた。

「あぁ、やっぱ良いデブだ!天蓋!バリアは!?」

「使わん」

「あぁマジかよ!良い人ばっかじゃねぇかッ!!」

乱波は嬉々としてファットガムに連打を叩き込む。

(クソッ、情けねぇッ・・・!)

悔しさで歯を食い縛る切島。

今し方の5つ数えるか否かの間で、鞠のようだったファットガムの身体は幾らか細く、楕円形になっていた。盾になる脂肪が、途轍もないスピードで燃焼しているのだ。

(足りねぇのか・・・俺じゃあ、無理だってのか・・・?)

悔しさに沈む切島の心。しかし彼は、未だ諦めない。必死に頭を回転させ、今尚どうにか戦う方法を探そうとしている。

『ほう?その諦めの悪さ、面白いねぇ』

「ッ!?」

何の前触れも無く、頭の中に響いた声。驚いて周囲を見渡すが、それらしい相手は居ない。

『探しても見つからねぇさ。ま、そんな事ァどうでも良い。

お前、まだ戦いたいか?』

「ッ!と、当然だ!」

『フッ、そうかよ。あぁ、そうだ。こんな逆境でこそ、諦めるという選択肢がまるで出ない。クックックッ・・・これだから人間は面白いんだ』

声はクツクツと笑う。さも面白そうに、楽しそうに、愉しそうに。

『だったら精々頑張りな。これに耐えられたらだがな?』

「え?何・・・うッ!?

 

――ドクンッ!――

 

ッッッッッッ!?ァがッ!?!?ア゙ッ!?」

次の瞬間、切島の全身をありとあらゆる激痛が駆け巡った。

焦がされる痛み、凍り付く痛み、殴られる痛み、貫かれる痛み、切り裂かれる痛み、痺れる痛み、潰される痛み、砕かれる痛み・・・それら総てに同時に襲われ、切島はまともに悲鳴を上げる事すら出来ずのたうち回る。

「く、クローズ!?どないした!?」

『ハッハッハッハッ!どうした?まさか、何の代償も無しに力を得られるとでも思ったかァ?』

「ぅア゙アァァァッ・・・ッッッ!!」

ファットガムの心配の声も激痛で掻き消される中、嘲るような謎の笑い声だけはハッキリと切島の意識に響く。

『どうした?戦いたいんじゃあ無かったのか?良くもまぁ言えたもんだ。そんなザマでヘバってるお前に、一体全体何が出来るってんだ?

おぉッと、悪い悪い。今は、立ち上がりたいんだったな。ほら、やってみろよ』

切島の身体は今、激痛による反射硬直で安無嶺過武瑠と同等の硬度で固まっていた。確かに先程と違い、立ち上がる事は不可能では無いだろう。

『どうした?この程度の痛みなんざ、大した事じゃねぇだろ。それとも何か?お前も所詮、ヒーローごっこがしたいだけのガキンチョだったって訳か?』

「ぐッ・・・!」

『ハァ~ァア・・・お前には、失望したよ。あぁ、残念だ。ちょいとでも期待しちまった、俺が大馬鹿だったぜ。

()()()()()()()()()()()()()()()()()

先程とは一転、氷のように冷たい侮蔑を含んだ声。しかしその言葉が、逆に切島の心を焚き付けた。

「違うッ!!」

 

―ギゴガギギッ バギゴンッッ!!―

 

『・・・ほう?』

「く、クローズ・・・?」

「おぉ?何だ何だ?」

「・・・」

切島は岩よりも固く硬化した腕を振り上げ、床に力一杯振り下ろす。その衝撃は轟音となり、部屋の空気を揺さぶった。

「もう、駆け出せねぇのは・・・嫌だッ・・・!」

そして全身を丸め、膝を着くように身体を支える。

〈WAKE UP!〉

【CROSS-Z DRAGON!ARE YOU READY!?】

「変ッ身ッ!!ウオォォォォォオッ!!」

【WAKE UP BURNING!GET CROSS-Z DRAGON!YEAH!!】

 

「ヴォアァァァァァァアアア゙ッ!!!!」

 

更に脚を地面に突き立てるように打ち付けて立ち上がり、再びクローズに変身。苦痛を無理矢理噛み殺し、絶叫して渇を入れた。

『おぉッ!この激情で、ハザードレベルが上がる!3.7、3.8、3.9、ハザードレベル4.0ォ!遂にッ覚醒したかァ!!』

ハザードレベルの上昇に伴い、クローズの全身から激痛が抜けて眩く輝く。

すると、ドライバーに収まっていたクローズドラゴンが勢い良く射出された。

「ッ・・・」

 

―ギュアァーッ!―

 

クローズドラゴンはキャッチしたクローズの手の中で、ブラッドレッドをメインカラーにした姿に変化する。

「ッ、これって・・・よしッ!」

〈覚醒ッ!!〉

【グレィトックロォーズドラゴンッ!ARE YOU READY!?】

ライムグリーンになったボタンを押し込み、ドライバーに再びセット。ボルテックレバーに手を掛け、力を込めて回した。

「ハァァァァ・・・ッ!

 

超 ッ 変 ッ 身 ッ !!」

 

クローズが叫ぶと同時に、硬化した腕や装甲に無数の亀裂が発生。内側から血潮色のゲルのような物質が滲み出し、全身を包み込む。

「おぉ!?何かスゲェ事になってんなァ!!こっからどうなるんだクローズ!?」

「乱波、何かまずいぞ!ソイツを始末しろ!」

乱波は先程から拳を止め、クローズを取り巻く変化を子供のように見詰めていた。

『オォイオイ。不粋な事ァ、するもんじゃねぇよ』

天蓋の言葉に、紅いゲルは禍々しいコブラの形をとって威嚇する。

『さぁ行くぞォ!It's Show Time!』

そう言い放ち、コブラは真っ赤な蛹と化したクローズの胸に沈んだ。

すると、それを合図に蛹が発光。紅い衝撃波が舞い、新たなる戦士が姿を現す。

 

【ウェイクッ!アップッ!クロォ゙ゥズッ!!ゲット!グルルェイトッドォラゴンッ!!

 

イ゙エェェェェイッ!!!!】

 

紅く染まり変質したクローズエヴォリューガー・・・グレートエヴォリューガー。

肩から胸に掛けてを覆う、金と赤の天球儀を思わせる幾何学模様が加わった追加装甲・・・GCZドラゴライブレイザー。

ドラゴンの顔とギアを象った金の紋章(クレスト)が追加され、さらに防御力が引き上げられた胸部装甲・・・GCZブレイズチェストアーマー。

 

「ハァァァァァ・・・」

その蒼い複眼型ゴーグルが一瞬紅く輝き、その戦士・・・仮面ライダー紅黎登(グレート)躯炉得途(クローズ)頼雄斗(ライオット)が眼を開いた。

同時に頭部のセンサーがファットガムをスキャンし、彼が何を狙っているかを切島に伝達する。

「ファット・・・行くぜ!」

「ッ!おう!」

グレートクローズはボルテックレバーを再び回し、エネルギーをチャージ。それを見てファットは溜め込んだ乱波の攻撃エネルギーを放つ構えを取り、天蓋は背筋に悪寒を感じてバリアを張った。

「そうだ、それで良い。全力で防御しろ」

【READY GO!!】

全身の装甲に炎が巡り、融解寸前まで発熱。そしてエネルギーを左腕に溜め、ファットガムと息を合わせて一気に打ち出す。

 

【グゥレートドラゴニックゥ!フィ゙ニ゙ィィィシュウッ!!!!】

 

ーーー

 

グレートドラゴニックフィニッシュ!

 

――バキィィィンッ!――

 

パンチを振り抜く瞬間、グレートクローズに刻まれたオレンジのファイアパターン、バーンアップクレストに内蔵された爆裂機能が作動。更なる衝撃波を持って、一足先にバリアを粉砕した。

「ずぉりゃぁぁぁぁ!!」

そして、ファットガムは体内に沈め溜めていた衝撃を撃ち放つ。

「ごふッ!?」「ガハッ!?」

天蓋と乱波は衝撃波に吹き飛ばされ、壁に蜘蛛の巣状の皹を入れた。

「ハハ・・・スゴいやん、クロー、ズ・・・」

「あっ、ファット!」

膝から崩れ落ちそうになるファットガムを、グレートクローズが手を添えて支える。身体の脂肪は全て使い切り、その下にあった筋肉が浮き出ていた。

「ハッ、ハハ・・・流石に、こないな無茶なダイエットしたんは久し振りやわ。堪えた堪えた」

「ダイエットっつか・・・整形レベル?面影全っ然無いっす」

 

―カラッ―

 

そんな他愛無い事を言い合っていると、正面から物音が聞こえてくる。見れば、乱波が膝を突いて立ち上がろうとしていた。

「ま、まだ動けるっちゅうんか!?」

驚愕と戦慄で顔を青くするファットガム。彼は衝撃を撃ち放つ時、それが2人に直撃しないようその間に放った。しかし、それを含めても大抵の人間は再起不能になる筈のエネルギーだった。そんなものを受けて尚、乱波は起き上がったのだ。

「アァ~・・・まだ俺は、死んでねぇ・・・けど、効いたぜ、スッゴく」

「そーかよ。だったらせめて、それに見合う時間だけもうちょいお寝んねしててくれねぇか?」

切島らしからぬジョークが飛び出す。それを聞き流し、乱波は奥にある扉を顎でしゃくった。

「あっち、奥の部屋・・・確か、薬とかが置いてあった。デブは、応急手当位は出来る」

「・・・は?」

バトルジャンキーの口から出るとは思えない言葉に、グレートクローズは思わず聞き返す。

「罠やん」

「罠張るタイプに見えるか?」

自虐的な、しかしそんな気は微塵も無いであろう返しに、ファットガムは唸ってしまう。

「乱波、勝手な事をするな!喧嘩狂いの貴様をコントロールするのが我の役割!貴様の役わr」

「ウルセェ」

 

―ドッ―

 

乱波は責めるような口調の天蓋の胸板を踏みつけ、意識を刈り取った。

「バリア張る余力もネーんだろ。じゃあ黙っとけ」

「よ、容赦ねぇ・・・」

流石のグレートクローズもこれにはドン引きである。

「最も、俺も骨がイッちまって腕が上がんねェ」

言葉通り、乱波の腕は全く力が入らずブラブラと肩から垂れ下がっている状態だった。

「何がしたいんや?」

「喧嘩さ、殺し合い。俺は地下格闘の出でよ。聞いた事ぐらいあンだろ?個性フル使用のファイトクラブ。親に押さえつけられて、その果てが喧嘩にのめり込んでそれさ。笑えるよな。

けど、俺と喧嘩した奴はすぐ死んじまった。辛うじて生きてようと、次の瞬間にゃみっともなく命乞いだ。地下に潜ってまでしても、俺はやりたい事が出来なかった!」

フンッと不機嫌そうに鼻を鳴らす乱波。

「命を賭す事でしか生まれない力!そのぶつかり合い!!だから良かった!お前らはとても良かった!特にクローズ!!俺はお前が気に入った!

再死合をしよう!傷が治ったら直ぐに!」

心から楽しげな乱波。だが、クローズの顔は明るくない。同然ではあるだろうが。

「なぁ、殺し合いってのはダメだけどよ・・・ホコタテ勝負なら、受けてやるぜ!」

「な、クローズ!?」

「3分だ。3分で硬化した俺を吹っ飛ばせたらお前の勝ち、耐えきれたら俺の勝ちだ!

一回で決着はいしゅーりょーじゃ、お前もつまんねぇだろ?

お前がそれ以外で暴れずに我慢出来るなら、こっちも頑張って掛け合ってやるから・・・どうだ?」

ファットガムに肩を貸しながら、クローズは代案を提示する。

「無茶なこと言うで・・・」

「・・・それもそうかも知れんなァ。一粒で二度美味しい、的なヤツか。

まぁ良い。ちっとばかし不満はあるが、喧嘩の相手してくれるならそれでも良いぜ。何も出来ないより億倍マシだ」

そう言って口角を吊り上げながら、乱波は奥の部屋に続くドアを蹴飛ばしたのだった。

 

tobecontinued・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

「あれ?開かねぇ」

「なぁ、それ引き戸ちゃうん?」

「あっ」

*1
砂浜で出久とオールマイトに指導を貰いながら特訓




キャラクター紹介

乱波
バトルジャンキー。でも通すとこは通してくれる。
裏設定として、実は出久と接触済み。エターナルが日本の裏組織の1つを潰す時に、乱波に喧嘩で勝てたら考えてやると面白半分で吹っ掛けられた茶番に付き合って体術のみでボコボコにした。
その後原作通りにオーバーホールに引き抜かれるが、強さのグレードはオーバーホールの方がエターナルより下であると判断。打倒オーバーホールを目刺し、八斎會に留まっている。
意外とお茶目キャラ。

天蓋
原作と何の変わりも無いキャラなので割愛。

切島鋭児郎/躯炉得途(クローズ)頼雄斗(ライオット)紅黎登(グレート)躯炉得途(クローズ)頼雄斗(ライオット)
原作と違い、三奈に謝る機会が無かったせいで結構悶々としていた。しかしそれを切り出す前に雄英で出久の方をメインに接触してしまった。
一応あの後でしっかり謝っていたと言う事にしておいて下さい。作者の実力と知識不足です。
ハザードレベルとライダーシステムのお陰で、原作程苦戦はしなかった。因みにここで進化させるのは彼をクローズにした時から決めてました。
そして紅いゲル・・・一体誰ルトなんだ。

紅いゲル
CV金尾哲夫の謎の存在。因みにこのあとコイツの不思議パワーでクローズのダメージはちょびっと回復した。

ファットガム
原作程痩せてはいないが、それでも劇的ビフォーアフターには変わり無い。
エネルギーを沈める程に体温が上昇すると言う設定。グレートクローズはそれを読み取った。


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第29話・連合見敵/最悪のO

「俺ちゃんの出番が日に日に少なくなってる気がするんだけど」
『悪いが、お前は空気をぶっ壊すぶんにはやり易いけど他が複雑なんだよ。それに結構大幅に改編してるから、ストーリーでもう手一杯だ』


「おいまた来たぞ!」

ロックロックの叫びが、薄暗い地下空間に木霊する。その空間は四方八方全てがグネグネと蠢いており、ヒーロー達を圧殺せんと迫っていた。

「ローグ!支えろ!」

「了解!」

【クラック・アップ・フィニッシュ!!】

グリスの背後にローグが回り込み、レンチレバーを叩き下ろしてクラックアップフィニッシュを発動。両手足から鰐の顎を象ったエネルギーが現れ、床や壁に喰らい着く。

「全員耳塞いどけェ!」

【スクラップ・フィニッシュウ!!】

「爆裂!GUR-IXPLOSION(グリィクスプロージョン)ッ!!」

マシンパックショルダーと腕の噴出孔を前に向け、連鎖爆発する特殊なヴァリアブルゼリーを高圧で噴射。向かってくる壁を穿ち、木っ端微塵に破壊した。

 

―ゾァァァァ―

 

「あ?何だ、急に開けたぞ?」

「ッ!危ない!」

蠢きうねっていた壁が、急激に引き下がる。それに疑問を覚え油断したグリスを、ローグが思い切り蹴り飛ばした。

直後にグリスが立っていた場所から壁が生え、それぞれを分断する。

「痛ってぇ・・・ッ!おちゃっローグ!無事か!?」

「平気!」

壁越しに響くグリスの声に、ローグが声を張り上げて答える。

「今更、分断?」

「何だ・・・何考えてやがる、クソヤクザ」

分断されながらも、ローグとグリスはお互いの声を聞き取っていた。つまり、壁も其処まで厚くないと言う事である。

「分断・・・空間が広がって、此方が動きやすくなってもうとるけど・・・」

「それを補って余りある何かがあると言う事だろう。来るぞ、次の一手が!」

ローグは一緒に分断されたイレイザーと、グリスは近くの警察やサーと背中合わせで周囲を警戒する。

「ヴィランれんッ、がッ!?」

すると、壁の向こうのロックロックが発した声をイレイザーとローグが聞き取った。

「ロックロック!?」

「イレイザー、下がっといてください!でぇやッ!!」

ローグが壁を殴り壊すと、2()()のロックロックの姿があった。片方は脇腹から出血しながら倒れており、もう片方はそのすぐ側にしゃがみこんでいる。

「ニセモノが急に襲い掛かってきやがった!気を付けろ、近くに仲間がいる筈だ!」

(・・・ニセモノ)

イレイザーとローグは、その言葉が引っ掛かる。倒れている方を見ると、出血元は脇腹の切り傷。しかも相当鋭利な刃物で斬られたものだ。

「麗日、そっちは大丈―――」

「でいッ!!」

「なっ!?」

台詞を半ばで刈り取りながらのローグの蹴りはしかし、ロックロックに紙一重でに躱される。

 

―ドパッ―

 

同時にイレイザーが能力を発動。ロックロックの姿が泥のように崩れ、ローグにとってはちょっとした因縁のある敵たる渡我被身子が姿を現した。

「おやぁ?何でわかっちゃったんですか~お茶子ちゃん?」

「本物のロックロックは刃物なんざ持ってへんし、味方に向かってガラス玉みたいな隙を伺う眼も向けへんッ!」

ローグの解答に口角を上げながら、渡我はナイフを振りかぶる。しかし、直後にイレイザーの捕縛武器で拘束された。

「渡我被身子、お前は此処で捕獲する!」

「ヤです」

イレイザーをギロリと睨み、引かれるままにジャンプする渡我。捕縛武器を後ろ手で掴んでバク宙しながら刺突を繰り出すが、同時に踏み込んでいたローグのガントレットに防がれ、ナイフの刃が折れる。

「あ~らら・・・じゃ、またねお茶子ちゃん。ばいばい」

「撤退ね!」

渡我がヒラヒラと手を振ると、壁が開いてマグネが出現した。即座に個性で磁力を付与し、手持ちの巨大棒磁石型専用武器で引き寄せる事で回収。即座に壁が閉じ、2組を分断する。

「クソ、まさか連合まで居るとはな」

「急ぎましょう、奴等が関わると録な事にならない」

「あぁ、寧ろ録でも無さに拍車が掛かるだろうからな」

 

―BBOOOM!!―

 

「ッ!今のはグリスの!」

「向こうにも何かあったか・・・いや。分断するなら、それぞれに相手を宛がうのも当然。急いで合流するぞ。ロックロックは警官に応急手当させる」

「はいッ!」

ローグは気合いを入れて答えながら壁を殴り壊し、敵連合のトゥワイスを迎撃したグリス達と合流するのだった。

 

(出久サイド)

 

「ムゥンッ!!」

わらわらと涌き出てくるロード共(有象無象)を斬り伏せながら、俺は着々と歩みを進める。クローン達は体力に乏しくあまり走れない為、必然的に俺のスピードも早歩き程度だ。

にも関わらず、エリちゃんの反応はさっきからほぼ移動していない。誰かが足止めしているんだろう。恐らく、先行したルミリオンが足留めしてくれているんだろう。

 

―ガオンッ―

 

「うおッ!?」

『ギギィィィィ・・・』

壁しか無かった筈の空間から突如として飛んで来たエネルギーリングを、何とかショルダーセイバーで切り裂き防ぐ。

その軌道を遡って見れば、壁からロードが生えてきているような異常な光景が目に飛び込んだ。

「何処から出て来やがった!?」

俺の疑問に答えるように、ロードは壁に向かって腕を振るう。すると其処から飛んだエネルギーによって空間が切り裂かれ、真っ黒な亀裂が出現。ロードは何の躊躇も無く、その亀裂に飛び込んだ。

(空間を切り開いた?中に飛び込んだって事は、それなりに活動可能な空間があるって事か?)

「・・・そうか。奴を構成するメモリは()だ。つまり、異次元空間を開拓して道を切り開く能力か!」

成る程、俺のボーダーにソックリだな。

さて、次は何処から来るか・・・

「ッ!後ろかッ!」

気流感知に引っ掛かった、ドーパントの気配。振り返ると、クローンの1人に今にもかぶりつかんとするロードの姿があった。

 

―ギャリンッ ガガンッ シュルルッ―

 

『ウギャッ!?』

しかし、そうは問屋が卸さない。スタッグフォンに眼を斬り付けられ、バットショットとビートルフォンが膝カックンを喰らわし、最後にスパイダーショックが拘束。

パーフェクトだガジェッツ。

 

―ガシャンッ ギャーオッ!―

 

【アームファングッ!】

アームセイバーを展開し、切れ味を調節。ロードの左肩から右胸にアームセイバーを引っ掛け、クローンの少女から引き剥がす。

「お前、今喰おうとしたな?この子を、この子達を」

スパイダーショックの糸を千切り、左腕を引っ張って捻り上げながら踏みつけ、俺は足元のケダモノに対し言葉を投げ掛けた。

「なぁ、一つ教えてくれよ。今お前は、()()()()()()()()()()()()()()()()()のか?それとも単純に、()()()()()()()()()()()か?」

『ギギァアッ!』

ロードは俺の質問お構い無しに自由な右腕で必死に地面を引っ掻き、クローン達に向かおうと藻掻く。

「オイオイ、無視なんてしてくれるなよ。悲しいじゃあないか」

なんて言ってみるが、この必死さを見るに・・・コイツ、多分あのクソ戦車共みたく人を喰わなきゃ身体を保てないタイプだな。

「まぁ良いか。()()()

首筋にアームセイバーを宛がい、力を込めて切れ味を増強。蒼白いエネルギーを纏う刃を、ロードの首に()()()と通した。

「そうあれかしと呟き斬れば、世界はスルリと片付き申す・・・なんてな」

数瞬遅れて、ロードの首がゴトリと落ちる。

「ふぅ・・・ん?」

不意に鼻を衝いた、ロードの血肉の臭い。しかし、おかしい。

何だこれ・・・真新しい刺激に対する反応(感じ方)じゃない。嗅覚疲労で慣れた所に、同質且つ濃縮された臭いをぶつけられたような・・・

「・・・まさか・・・」

俺は今し方出来た、ロードの血貯まりを覗き込む。その色は、赤黒いと言うよりも寧ろタールに赤銅を少々混ぜたような色になっていた。

()()()()()()()()()()()()()()

「・・・そうか、そう言う事か」

ロードは、切り開いた空間を自分の血液で固める能力を持っているんだ。この黒い廊下も、同じくロードの血で舗装されているんだろう。

空間そのものをガッチリ固定する舗装材なら、ボーダーで切り開けなかったりゾーンで見透せないのも納得だ。

「しかし、今はエリちゃんの所に行かねばな」

幸い、キーのマーカーによるとエリちゃんはまだ動いていない。他のドーパント共の気配も、進行方向には既にほぼ無くなっている。

【エターナル!】

「変身」

【エターナル!】

俺はファングをエターナルと入れ替え、馴染んだ生体鎧を纏った。

エリちゃんまで、残り70m。直線、壁一枚。

後方、敵の気配及び空間異常無し。

ならば・・・

 

―ッシィィィィィィィ―

 

「ワンフォーオール、アーマード・・・15%ッ!」

突貫するのみ。

 

―バガンッ ザリザリザリザリッ―

 

壁を突き破り、左膝と爪先、踵の三点で地面を削ってブレーキを掛ける。開けた空間には、エリちゃんと彼女を護るルミリオン、そしてそれと対峙する治崎の姿があった。

「ファング、三奈達を連れて来い。それと、スタッグフォンにクローン達を俺達の後ろへ誘導するよう伝達しろ」

『ギャーオッ!』

ガシャンガシャンと猛スピードで走って行くファング。俺は息を吐きながらゆっくりと立ち上がり、複眼越しに治崎を見据える。

「メモリアルヘル!」

「死神・・・!」

「よぉ治崎。久し振り・・・だよなぁ?」

ルミリオンの前まで移動し、仮面の下で口角を引き上げながら治崎に声を掛けた。

「その名で呼ぶなッ!」

「おぉっと悪い悪い。そういや、何か知らんが嫌だッつってたな。いやはや、記憶力には自信のある方だったが、もう歳かな?」

俺の下らないジョークに、治崎は青筋を立てる。

「クソ、何が俺を満足させる性能だ。殺せてないじゃないか」

「・・・あぁ~、何の事かと思えば、あのイイ趣味したクズ戦車共の事か。

倒せると思ったか?殺せると思ったか?俺を?この死神(オレ)を?あれっぽちの、お粗末な玩具で?

正気かお前。ん?あぁいや、育ての親に受けた恩を大仇で返す程度には正気だったな。いやはや失敬失敬」

「ッ~!」

おーおー、調子付きかけてた奴を煽るのは気分良いねぇ。結構ピンチだったのは黙っとく。

と、クローン達も来たな。メモリガジェット達が確り誘導してくれた。

「まぁそんな事ぁ置いといて、だ・・・オーバーホール。お前、一体何が目的だ?」

「決まっているッ!我等極道の復権と、哀れな貴様等()()()を治療してやる事だ!」

「病人?」

「あぁそうだ!個性なんてモノを持ったせいで、誰も彼もが心に疾患を抱えるんだッ!自分は何者かになれると思い込むッ!

あぁそうだ!今そこにいるルミリオンもだ!本当に滑稽な話だ!自分がヒーローになれると勘違いした結果、救おうとしたエリの能力で――――」

「無個性になった、か?」

チラリと振り向いてみれば、クローン達の前でエリちゃんが辛そうに歯を噛み締めていた。

そして左前方には、銃を持った構成員・・・成る程。エリちゃんを庇って、B.P.Wを受けたって所か。

「あぁ。残念だったなぁルミリオン?救おう救おうと出来もしない事をムキになってしたせいで、お前の積み上げてきた総てが無に帰したッ!!」

「・・・個性を消した?()()()()()?」

「何?」

 

―ドゴッ―

 

「ぐッ!?」

俺が左にステップを踏むと同時に、後ろにいたルミリオンが気絶していた構成員をオーバーホールに向けて蹴り飛ばした。

それを反射的にオーバーホールが防いだ隙に、ルミリオンは一気に踏み込みその腕を殴り付ける。

「そうだ!個性が消えたって、相手を良く見て予測!する事は何も変わらないし、今までだって微塵も無駄にはなっていないッ!」

「あぁそうさ!例え個性を消されようが、例え腕がもがれようが、コイツは死なない!()()()()()()()()()()()()()()()()()ッ!」

(ワンフォーオール、アーマード!)

Casull(カスール)SMASH(スマッシュ)ッ!!」

左中指と親指でデコピンの形を作り、15%の力を溜めて一気に解放。即席で作った圧縮空気弾を、オーバーホールの鳩尾にブッ放した。

「ごばァ!?」

諸に空気弾を喰らい、内臓がパニックを起こしているだろう。横隔膜が痙攣し、息もままならない筈だ。

 

―バゴンッ―

 

「出久、お待たせ!」

このタイミングで壁を殴り壊し、三奈とローグ、そしてイレイザーが合流した。

「よぉ三奈、パーティ会場にようこそ。席は人数分あるぞ」

合流してくれた三奈達に軽口を飛ばし、手招きする。

「さぁてと・・・無駄だと思うが一応言っとく。抵抗せず投降した方が身の為だぜ?」

「ッ~!巫山戯るなァッ!!」

ま、そうなるわな。

「あぁ、最悪だッ!貴様等のせいで、何もかも滅茶苦茶だ!」

「おぉ、そりゃ良かった。滅茶苦茶になってなきゃ俺等が困る」

「ッ~~ッ!」

あ、しまった。つい煽っちまった。まぁ良いか。

「ローグ。後で説明する。取り敢えずその子達を護ってくれ」

了解(ラジャー)

クローン達の側にローグが着いた。

「ミリオ、よく頑張ったッ!」

ナイトアイがルミリオンの胸板を叩き称賛する。

「クッ、個性が消されたかッ!!」

オーバーホールが地面をバシバシ叩いているが、錬成攻撃は起こらない。流石はイレイザー、仕事が早いな。

「イレイザー!畳み掛ける!」

「あぁ!」

「いい加減・・・起きろクロノォ!!」

「グッ!?」

オーバーホールの呼びに応じて、倒れていた側近から矢印状の針が延びる。俺は反射的に身を捻り躱したが、イレイザーは腕に掠ってしまったようだ。

すると、イレイザーの動きがゆっくりになる。あの矢印・・・確か、クロノだったか。厄介な・・・!不味い、イレイザーの封印が切れる!

 

「全て、無駄だァ!!」

 

【ディスチャージ・メモリィ!】

一瞬で地面が分解し、鋭い剣山に再構築。俺はエターナルエッジからブルーフレアを放つ事で何とか凌いだが、SECOND・NEVERはともかく他はかなり厳しそうだ。クソ、面倒な・・・

「こんなやつらに、これ以上計画を狂わされて堪るかッ!なぁ音本ォ!!」

叫びながら、転がっていた側近の頭を掴むオーバーホール。

次の瞬間、奴は側近と自分を分解し、同時に修復した。それも、融合させて・・・

口と一体化したペストマスク。肩甲骨辺りから生えた1対の真っ黒な副腕。そこかしこに走る、赤黒い血管のようなライン・・・

「チッ、形振り構わず化物になったか。堕ちたなオーバーホール」

環境が急変した。まずは周囲の観測から・・・

(エアディテクション!)

・・・把握完了。

ルミリオンとエリちゃんは、他のクローン達と一緒にローグや三奈が守ってくれたらしい。ジュエルシールドで刺を防いだんだな。

しかし、イレイザーとさっきの側近が消えた。何処かに移動したようだ。グリス達は元から此方には来ていない・・・イレイザーはそっちに任せるしかないか。

だが取り敢えず・・・

「ローグ!その子達全員連れ出せッ!」

了解(ラジャ)ッ!」

「いいや貴様もだメモリアル!」

ローグに指示を飛ばすが、同時にナイトアイが叫んだ。

「ピンキーと共にミリオを連れ出せ!最優先事項を果たすんだッ!!コイツの相手は私が受け持つ!」

「・・・オーダー。行くぞ三奈」

「・・・んっ」

【ルナ!マキシマムドライブ!】

ルナでマキシマムを発動し、分身を6体作る。しかしやはりダメージが溜まっているせいか、エターナルではなくT2マスカレイドになってしまった。だが、人手としては十分。

俺と三奈でルミリオンに肩を貸し、分身達にはエリちゃんとクローン達を任せる。

「行くぞルミリオン。さっきので塞がれてたが、俺が通って来た道だ。露払いは済んである筈だ」

ワンフォーオールで壁を蹴り砕くと、俺が使った通路が露になる。と同時に、青筋を立てたヴォジャノーイが顔を出した。

「オイオイ、いきなり壁が爆ぜるもんだからビックリしたよ」

「ヴォジャノーイ!」

「カエルさん!」

エリちゃんの表情が幾らか柔らかくなる。成る程、どうやら接触済みらしいな。

 

―ズドッ―

 

「っ!?」

背後から聞こえた不吉な音に振り返ってみると・・・ナイトアイの右腕が、刺によって千切り飛ばされていた。

しかしその右には、腹に刺を喰らったゲンムの姿がある。体勢から見て、ゲンムが突飛ばしナイトアイを刺から庇ったのだろう。

「何!?」

「グフッ・・・ヴァーッハハハァ!ゲファッ、グゥ・・・

読者の予想(死亡フラグ)裏切(へし折)った男ォ!デッドプールゥ!」

フェイスから血を撒き散らして笑い、オーバーホールに中指を立てて見せるゲンム。

「ッ~!小ッ癪なァァァッ!!」

【ウェザー!】

ゲンムを蹴り飛ばし、メモリを取り出すオーバーホール。しかもそれは・・・

「T2メモリ、だと!?」

俺が持つものと同じ、T2ウェザーメモリ。そのメモリを起動し、額に突き立てた。

「・・・ヴォジャノーイ、ルミリオンとエリちゃんを頼む」

「分かった」

ルミリオンを任せ、オーバーホールに向き直る。

赤い放電を起こす竜巻が晴れると、オーバーホールだったものが姿を見せた。

侍と雷神をモチーフとした基本造形は黒く染まり、口元はカラスのような嘴に。背中から生える異形の黒腕の手首には、U字磁石とスクリューがくっついていた。

「三奈、2人を」

「分かった!」

三奈が頷くと同時に駆け出し、延びてくる刺を震脚で砕く。根本を見れば、背中の腕が地面を撫でている。

どうやら、ドーパントになっても個性は健在らしいな。ついでに副腕からも出力可能か。文字通り手数が増えた訳だ。厄介なこったよ。

「さぁてと?ダンスパーティーのご開幕かな」

 

(NOサイド)

 

「・・・ハァッ!」

睨み合った状態から、エターナルはエターナルエッジを投擲。風の壁さえ切り裂くその刃はしかし、異形のウェザー・・・ウェザー・キメラの掌に発生した氷によって受け止められる。

「ほォ、流石はシルバークラスのメモリだな。お高かったろうに、良く買えるだけの小遣いがあったもんだ」

「親切なスポンサーから、安く譲って貰ったんだよ」

「スポンサーがいるのかよ。そいつァ羨ましい、なッ!」

エターナルは軽口を叩きながらサイドステップを踏み、両手の小指から人差し指までを全て使った20%のCasull(カスール)SMASH(スマッシュ)・・・HARKONNEN(ハルコンネン) (ツー)SMASH(スマッシュ)を放った。

「無駄だ」

 

―ギィィィィィィィンッ! バヒュッッ!!―

 

しかし、ウェザー・キメラの副腕に備え付けられたスクリューが猛回転し竜巻を作る事で、その圧縮空気弾を悉く打ち砕く。

「チッ、器用だなァお前」

「千変地獄と呼ばれたお前に言われると気分が良いなァ死神ィ?」

「そんな通り名あったっけか?」

真空と圧縮空気のミキサーとなっている竜巻を、エターナルは跳んで回避する。地面は船底状に抉れ、ロードの血をーで固めた壁でさえ表面にヒビが入った。

「ハァァァァァ!」

ウェザー・キメラは再び副腕を突き上げ、今度はU字磁石を高速回転させて、紅い雷を一直線に放つ。

HARKONNEN(ハルコンネン)SMASH(スマッシュ)ッ!」

エターナルは右に向けて単発の20%デコピン・・・HARKONNEN(ハルコンネン)SMASH(スマッシュ)を発射。反動で左にスッ飛び回避する。

「逃がさない!」

「何ッ!?」

しかし紅い稲妻はその後をピッタリと追尾し、エターナルへと正確無比に落雷した。

「ぐあァァァァァァアッ!?」

稲妻はエターナルの身体を通じ、再び無差別に放電。空中で姿勢を崩し、壁に激突する。

 

―シュゥゥゥゥ・・・―

 

「出久ッ!」

ナイトアイとゲンムを通路内に避難させたジョーカーは、大量の白煙を上げるエターナルに悲鳴じみた呼び声を掛ける。

それがいけなかった。

「あぁ、そうだ。お前もだッ!」

ジョーカーを睨み付け、掌を向けるウェザー。

「な、何を―――」

 

―ジュゥゥゥゥゥッ!!―

 

「―――ッッッッッ!?!?!?!?!?

あっ、あ・・・あ゙あああァァァァァァァァァァァッ!?!?」

次の瞬間、ジョーカーの右腕が灼熱に包まれた。一瞬遅れて、人体の許容限界を遥かに超えた膨大な熱痛信号がジョーカーの神経を通じ、脳を焦がす。

 

これは、融合した側近の個性・・・《真吐き》により引き出された、メモリの規定値以上のフィジカルブーストの結果である。

オーバーホールの()()()()()()()()()()()()()()能力が飛躍し、()()()()()()()()()()()()()()()()()能力・・・則ち、白き無垢な殺意の闇(ン・ダグバ・ゼバ)に迫るまでのモーフィングパワーへと昇華したのだ。

 

「うっ、あ、あ゙ぁああぁぁあっ・・・ッハ、ッハ、ッハ・・・!!」

汗と涙と涎を溢しながら、過呼吸を起こし踞るジョーカー。もはやその激痛は腕だけのモノでは無く、全身を内側から有刺鉄線で抉り回すように神経を焼き削る。

余りのダメージに、ドライバーとメモリの安全装置が作動。変身が解除されてしまった。

「良い具合に加減出来た・・・ギリギリ生きているなら、極上の餌になる」

ウェザー・キメラが黒い嘴をニヤリと歪め、掌を再構築し反響器官を備えた発声器を作る。

 

壊理(エリ)ィ!!またお前のせいで死ぬぞッ!それが望みかァ!!壊ェ理ィイッ!!」

 

―――

――

 

「クッ、エリちゃん!行ったらアカン!」

狙い済ましたように湧き出てくるロードを相手取りながら、ローグは必死に壊理を呼び止める。

クローン達はルミリオンと共に通路横に固まって座っており、彼女等を抱えていたT2マスカレイドも既にロードに殺られて消えた。

一方でヴォジャノーイも、大量のロードに足止めされている。最初こそ壁や天井を駆け抜けようとしたものの、壊理の身体が耐えられる程度の速度では狙い打ちされるであろう事は容易に想像出来た為、実行に移せなかったのだ。

「フシュゥゥゥゥッ・・・フシュゥゥゥゥッ・・・」

しかし、無策にロードを相手取ってはいない。この男には、秘策がある。

「カエルさん」

壊理に呼び掛けられ、視界の端に彼女を捉えるヴォジャノーイ。その眼に映る少女の瞳には、6割の恐怖、そして2割の勇気と決意が滲んでいた。

「・・・信じる、から・・・!」

「ッ!」

恐怖は未だ強い。しかし、彼女はハッキリと言い切り、もと来た道を弱々しくも駆け出した。

「ま、待って!」

何とか振り向こうとするローグだが、獣染みたロードの群れが許さない。

「ごめん、パープル色のライダー。ちょっと頼む」

「えっ、はぁ!?頼むってちょっ、えぇいもうッ!」

【クラック・アップ・フィニッシュッ!】

ロードをローグに丸投げし、ヴォジャノーイは壊理の背を追った。

 

―――

――

 

「望んで・・・ない」

自らの思い通りの回答を寄越す壊理に、ウェザー・キメラは口元を歪める。

「見てみろ壊理。お前を助けに来たヒーローとやらは、もうどう見ても薄汚いボロ雑巾同然だ。

このゴミ共たった2、3人で、どうにかなると思うか?」

「・・・思わない」

「なら、どうすべきか判るな?」

「・・・戻る」

俯き、唇を固く結びながら、壊理は答えた。

「その代わりに!・・・皆を、助けて・・元通りに、してあげて・・・」

「だ、ダメッ・・・エリ、ちゃんッ・・・」

必死に左手を伸ばす三奈。その声にピクリと反応するも、壊理はウェザー・キメラに・・・治崎に歩み寄る事を止めない。

「あぁ、あぁそうだよなぁ!自分のせいで誰かが傷付くより、自分が傷ついた方が楽だもんなぁ!」

融合とメモリの併用により、テンションがハイになっているウェザー・キメラ。

壊理はそんな化物の側に駆け寄り、黒い羽織の裾を掴む。

「お前達は、求められてな――――」

 

「うあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあッ!」

 

―ドクンッ―

 

ウェザー・キメラの台詞を切り落とすように、壊理が叫んだ。すると同時に額の茶色い角が延び、黄金色の光が溢れる。

「ぐッ、ぐあァァアッ!?ま、まさかッ!?」

その光を流し込まれるとウェザー・キメラは苦しみ悶え、メモリと側近が分離。元のオーバーホールに戻された。

「壊理ィ・・・お前ェッ!」

仰け反った反動で壊理に掌を振り下ろすオーバーホール。しかし掌が触れた瞬間、その姿は()()()()()()()()()()

「はァいハズレ、残念でした」

通路から聞こえる、小バカにしたようなおどけた声。其処には舌を長く伸ばしたヴォジャノーイと、三奈とゲンムに自らのエネルギーを流し込む壊理がいた。

投影(クムクム)・・・見せた事あるけど、意識が壊理ちゃんに向ききってたお陰かな?此処に煙が舞ってて良かったぜ」

「エリ、ちゃん・・・ッ!腕が、動く!?」

壊理がパッと手を離すと、三奈は眼を白黒させて手を動かす。痛み等欠片も無く、寧ろ疲れも全くない最高のコンディションになっていた。

「みんなだけじゃ、どうにもできない・・・でも、私が一緒に戦えばっ!」

「ッッッッッ!!!!貴様の入れ知恵かッ!ヴォジャノーイィイッ!」

忌々しげに叫ぶオーバーホールを横目に、壊理はエターナルへと駆け寄る。オーバーホールは地面を叩き刺を延ばすが・・・

「そうは問屋が卸しま千円!!」

「アシッドスラッシュッ!」

【クゥリティカァルッ・デァッドゥ!!】

ゲンムの肉壁と三奈の酸液で、悉く迎撃された。

「仮面ライダーさん!私、見てみたい!広い森とか、大きい川とか、カエルさんが言ってた、リンゴより美味しいものだって食べてみたい!だから・・・だから!

 

私を、助けて!」

 

―――ドックン―――

 

「ORDER、認識した。俺が君を、必ず救おう。仮面ライダーの名に懸けて。ありがとう、エリちゃん。助けを求めてくれて」

 

少女が初めて発した救いの願い。気高き死神は聞き届けんと目を覚まし、膝を着いて宣言した。

「そこは、()()、でしょ?」

「・・・あぁ、そうだな。そうだった」

三奈の手を取り、立ち上がるエターナル。

「赦さんッ!赦さんぞ死神ィ!!」

【ウェザー!】

再びウェザードーパントに変身するオーバーホール。個性の覚醒は巻き戻されたものの、メモリの進化は巻き戻ってはいない。

【ガングニール・β!】

「詠装―――」

 

―――I'm that Smile Guardian GUNGNIR tro~n・・・♪

 

歌を紡ぎ、拳を握る。すると、エターナルの纏うガングニールに変化が現れた。

バーニアスラスターの上から、焼け消えた筈のエターナルローブがマフラーとして出現。全体的に白が多かったアーマーもオレンジ色が入り、更にボディにも同色のライン模様が浮かび上がる。

これまでは、赦し繋ぐこの拳とは合わないと一線を引いてきたエターナル。しかし今、気付いたのだ。自分の理由を、ギアに理解させれば良いと。

故に、ギアは変化した。立花響の繋がる拳に対し、これは掴み離さぬ拳。眼前の弱者を救うと言う強い決意が、ガングニールに受け入れられた証だった。

「仮面ライダーエターナル、シンフォニックスタイル・・・ノックアウト・ガングニール・・・!」

複眼越しに義眼が蒼く光り、ガントレットから火花が散った。

「うぅ・・・」

「え、エリちゃん大丈夫!?」

突然、壊理が顔を顰めて踞る。見れば先程よりも角が延び、エネルギーも火に掛けられたヤカンの蒸気のように吹き出している。

「壊理は出力の調整が出来ない。俺に渡せ。止められるのは俺だけだ」

「そうかな」

勝機はあると嗤うウェザーだが、ヴォジャノーイは余裕たっぷりに言い返した。

そして壊理に歩み寄り、腰に下げた袋からセルメダルを数枚取り出して壊理に押し付ける。

「セルメダルだと!?どういう事だ、何故それが・・・」

「悪いけど、お答えできません」

セルメダルはパリパリと砕け、欲望のエネルギーが放出。そのエネルギーは壊理の光とぶつかり合い、互いに相殺、減衰する。

「・・・は?」

数秒後には光も収まり、壊理は気を失った。しかし、しっかりと止めることが出来たと言う事実が、ウェザーの精神を抉る。

 

―BBBBBBOM!!―

 

「お、キタキタ」

通路の奥から響く爆音。ヴォジャノーイはクスリと笑い、其方を見やる。

「よぉ、大将。遅れちまったが、他は全部片付けたぜ」

凍り付き霜が掛かったロードを放り投げ、グリスブリザードが不敵に笑いながら現れた。

「すまねぇ、遅くなった!」

拳をぶつけ合わせ、紅黎登躯炉得途・頼雄斗が続く。

「あの子等や先輩達は、警察の人等に任せてきた。心置き無く戦える!」

眼をカッと見開き、プライムローグが拳を握り締める。

「エクストラボスのお出ましかな。ま、このメンバーなら負けないけどッ♪」

自信たっぷりに呟き、タブーは手に魔力弾を作った。

「子供の勇気に救われた。報いて見せよう、必ずやッ!

熱き決意に燃える男ッ!デッドプールッ!!!!」

何時もの調子を貫きつつ、名乗りをあげるゲンム。

「何処にいるのも、本能任せの雑魚ばかり。所詮、堕ちたヤクザなどこの程度か」

凶暴な嘲笑を浮かべ、刀の血を払う克己。その後ろに続き、NEVERのメンバーも現れた。

「クソッ、バカなッ!こんな屑共に、病人風情にッ!俺の、この俺の計画がァァァァァァァァァァッ!!!!」

バイザー越しに血涙を流し、腕のアタッチメントをギチギチと痙攣させるウェザー。

「さてと、役者は揃ったな。さぁ、最終ラウンドの始まりだ」

 

to be continued・・・




~キャラクター紹介~

ロード・ドーパント
今作では超量産化されてしまったドーパント。出久のショートカット対策として、地下全体の壁面をロードの血肉で舗装してある。因みに当然、オバホには内緒。

緑谷出久
化物。これまでは響の狂気的なまでの平和主義からガングニールに適合しきれなかったが、今回でガングニールに宿る心象そのものを自分の物に書き換えて完全適合を果たす。
また、今回の件でかなりジョークが達者になった。
今回判明した通り名、千変地獄。

芦戸三奈
ライダーガールジョーカー。出久の嫁。手分けしてローグと一緒に構成員と戦っていた所、ファングに呼ばれてエターナルと合流。
ウェザー・キメラに腕を焼かれるも、壊理の個性により回復する。

ヴォジャノーイ
実質今回のMVP。割と頻繁に壊理に接触し外界の興味を煽ったりしていた為、壊理がかなり意欲的になった。
因みにリンゴの皮剥きがかなり上達している。
「はいハズレ」の時は、直前の呼吸描写の時から徐々に霧を撒いていた。この霧が投影(クムクム)の発動条件。
最初は壊理の個性のブレーキはガングニールの絶唱によるS2CAでガオガイガーのイレイザーヘッドのようにエネルギーを地球外へ吹き飛ばす予定だったが、それだとヴォジャノーイが余りにも無責任なので急遽セルメダルの欲望エネルギーによる相殺を採用した。
一応、自分の中のエネルギーを感じ取る訓練は行っていた模様。

壊理
原作と違い、ヴォジャノーイのお陰で精神的にかなり強くなった。ヴォジャノーイの事をカエルさんと呼び、かなり懐いている。
彼女にとっては第一のヒーローがヴォジャノーイ、第二のヒーローがルミリオン、同列でエターナルである。

敵連合
原作と違い別に仲間を殺された訳じゃないが、構成員が明らかに自分達を見下しているので結局裏切る。
出向組は渡我とトゥワイスとマグネ。

オーバーホール
スポンサーの派遣人員に裏切られるわ、本拠地を知らん間に自分の大嫌いなモノで舗装されるわ、壊理は言うこと聞かないわで踏んだり蹴ったりな敵のボス。
挙げ句に発現したモーフィングパワーさえ、壊理のせいで巻き戻された。
もっとひどい目に遭わせる予定。
因みに、人体実験繋がりでウェザーと適合。だが自分が実験台になっているという皮肉。
ドーパント態に付いているスクリューとマグネットのモチーフは、勇者王ガオガイガーFINALに登場したソール11遊星主の一柱、ペチュルオン。

サー・ナイトアイ
デップーの見せ場のせいで自分の死という運命(死亡フラグ)を見事にへし折られて大混乱。
結果、腕は吹っ飛んだが致命傷は避けられた。
しかし壊理は仮面ライダーを優先的に治したので、腕はそのまま。結構不憫だが、まぁ死ななかっただけマシ。

デッドプール
仮面ライダーゲンム。ナイトアイは一応原作通りに死ぬ予定だったが、作者を脅して強制突入。見せ場を無理矢理むしりとった。
作者のシナリオをガン無視して突っ込んでいった為、ナイトアイの予知にも映らなかった。


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第30話・黒きI/鉄・拳・粉・砕

「今回で一区切り、だな?」
『ったく、シナリオ無視して神風特攻仕掛けてくれやがって・・・はぁ、原作買わなきゃな。でもスラッシュライザーポチってるしなぁ』
「だったらバイトすれば良いだろう」
『コロナショック直撃中の高校3年生にそれ言う?』


(地上サイド)

 

「ハッハッハァ、クスリが切れた。触らせろカワイ子ちゃん」

「むぅ~ッ、嫌ッ!」

宙を舞う波動ねじれが、巨人と戦闘を繰り広げている。

この巨人、初っ端に門をぶち破って警官数人を殴り飛ばした大男である。他者に触れながら吸息する事で活力を吸い取り巨大化する能力だが、拘束された後に予め投与しておいたブーストドラッグが作用し、吸息するだけで多数の人間から活力を吸えるようになったのだ。最も、その効果は今し方切れた訳だが。

「退避、完了シタ!」

「ゴアァァァァァアッ!!」

ネメシスが触手を展開し、スーパータイラントが雄叫びを上げた。

この敵の能力下において例外的に振る舞えているのは、八意永琳率いる永遠亭組だけである。

永淋は体内で強壮薬を生成して対処したのだが、アレクシアやゲンムⅡ、その他のB.O.W達は、ウィルスやアマゾン細胞の強靭な生命力でゴリ押し突破したのだ。

そして、動けなくなった警官隊を運び避難させた。

「梅雨ちゃんッ!」

その時、地下にいる筈の麗日が道を走って来る。

「ケロッ、お茶子ちゃん!?」

「応援を呼びに来た!彼処の十字路の真下で、プロ達が足留めしてはる!至急加勢をッ!」

道の先の十字路を指差し、用件を伝える麗日。そしてそれを聞き取り、永淋とアレクシアは数秒沈黙。そして同時に眼を見開き、ソルジャーモードからコマンダーモードへとスイッチを切り替えた。

 

「リッカーとフロッピー!敵の眼を舌で攻撃!視界を塞ぎなさい!ハンターとスカルミリオーネはアームカッターでアキレス腱を切断ッ!」

「ネメシスはランチャーで打撃ッ!タイラントとツヴァイはドロップキック!目標地点まで敵を吹っ飛ばしてッ!」

 

「ケロォッ!」

「ハァァァァッ、シャーッ!!」

「カカカカッ!」

「ヴァオォウッ!!」

まず永淋の指示通り、4名による連続攻撃が叩き込まれる。

「ぐあッ!?い、痛ェッ!?」

「グオォォォウッ!!」

 

―ガゴォンッ―

 

「ゴアァァァッ!!」

「ぜぇりゃァァァァッ!!」

踏ん張りの効かない敵の腹部をネメシスが渾身の力で振るったロケラントンファーが打ち据え、そこに助走をつけた体重200㎏超の化物2体のドロップキックが追い討ちを掛ける。タイラントはアマゾン細胞で強化された瞬発力で、ゲンムⅡのキックにピッタリと追随。完璧なタイミングでヒットしたt単位の威力を持つダブルドロップキックは、敵の巨体を容易く吹き飛ばした。

「ねじれ!私ごとありったけぶちこみなさいッ!」

そして十字路直上、リューキュウは翼を盾にし、ねじれが放ったエネルギー波砲を受けて敵を叩き落とす。

「ドンピシャ!!」

すると道路が大きく砕け、地下空間へと落下。集合している先行隊を視認した。

「ッ!?りゅ、リューキュウ!?」

「え?お茶子ちゃん!?じゃあさっきのは・・・」

地下で眼を見開くプライムローグ。それを見て、フロッピーは上に視線を移す。

「にへへ、梅雨ちゃん達も来てたなんてねぇ。正に更に混沌(プルスケイオス)ってカンジですね♪」

ぶち抜かれた穴の縁で、麗日に化けていた渡我が変身を解いていた。隣にはトゥワイスとマグネ、そしてトゥワイスが複製したMr.コンプレスがいる。

(ヴィラン)連合・・・やっぱりいるよなぁ、あの録で無し共」

エターナルが心底面倒臭そうに呟く。するとその意思に応じてガングニールのガントレットが展開し、タービンが高速回転を始めた。

 

―――アイディアル~な♪英雄シミュレーショ~ン♪息切れ~なんて~縁の無い~世界~♪―――

 

(ワンフォーオール10%・ガングニールプラス!!)

そしてエターナルが歌い始めると、更に蒼と緑の放電現象が発生。タービン内に吸収され、回転機構を赤熱化させる。

「あ~、あれはヤバイです。逃げましょう」

渡我が撤退を進言すると同時に、エターナルが拳を連合出向組目掛けて突き出した。

 

―――独砲 Panzerfaust(パンツァーファウスト)・スマッシュ

 

展開していたガントレットが収縮し、銃のハンマーのように激突。そのインパクトをマニピュレーターグローブの機構が誘導し、指向性を持つ衝撃波として撃ち出す。

「うわわっ!?」

「危ない!」

「ウヒャア!」

「ぐべぱっ!?」

渡我は回避し、マグネとトゥワイスはギリギリ射線外。しかしコンプレスは逃げ遅れ諸に喰らってしまった。

「おじさんの扱い、酷すぎなじゃない?」

愚痴を零しながら崩壊するコンプレス。敵ながら不憫である。

「クソ・・・全て滅茶苦茶だ!もう良い!壊理などもうどうでも良いッ!!壊理のDNAはアイツ等に渡してある!ヴォジャノーイの裏切りも含めて、奴等に落とし前をつけさせてやるッ!!」

ウェザーはスクリューユニットで竜巻を起こして瓦礫を退かし、その下の一つに固まったままの地面を露出させる。そしてその地面を錬成し、柱のように盛り上げ始めた。

 

―――さぁ仕掛けろFight!感じるなFear!The strongest enemy was virus!真の勝~利を目指~せ~ば♪―――

 

しかしエターナルはそれを許さない。再びガントレットを赤熱化させ、今度は直接柱を殴り抜く。

 

―――独砲 KANONE18(カノゥナ・アハティン)・スマッシュ

 

―ガゴンッ!!―

 

「ぐあッ!?クッ、このォ!!」

砲弾が突き抜けたような大穴を開けられ、柱は崩壊。しかし、ウェザーは咄嗟に風を操作して両足に竜巻を生成する事で落下は免れた。

「ぬぅぅ・・・おいスポンサー!どうせ何処かで見てるんだろうッ!!出て来いッ!!」

ウェザーが叫ぶと、その背後の空間が湾曲。真っ黒なワームホールが出来上がり、黒服を着た男・・・ヴォジャノーイ達、()()のリーダーが現れた。彼は足元に金色に光る幾何学的な魔方陣を浮かべ、その上に立っている。

「呼びましたか?」

「ッ!貴様、どういう事だッ!?お前が優秀だと宛がったあの改造人間共は役に立たないし、ヴォジャノーイに至っては裏切って計画の核を奴等に受け渡しやがったッ!!」

目の前の真っ黒な烏天狗にどれだけ凄まれようが、男は微笑みを一切崩さない。

その態度が、ウェザーの神経を金ヤスリで逆撫でる。

「貴様聞いているのかッ!!この落とし前、どうつけてくれ―――」

 

「喧しい」

 

「ッ!?」

静かに放たれた言葉はしかし、途轍もない重圧をウェザーに与えるモノだった。否、ウェザーだけでなく、下にいたエターナル達さえも、ザワザワと項が粟立っている。

「平伏しなさい、這い蹲って」

「ッ!!」

怒りを感じるより先に、身体が勝手に言葉に従った事に酷く驚くウェザー。竜巻の操作も出来ず、男が立っている結界に無様に這い蹲る。

「彼に裏切られた?それは、足りなかっただけでしょう。貴方の技量が。それに、私も賛成ですよ?彼の行動にはね。

何せ、時代を育む宝物ですからね、子供は。巻き込むべきでは無いのですよ、我々大人の闘争には」

「アイツ、最低限弁えてるらしいな」

嘘でない事を見抜き、エターナルは少し感心する。

「しかして、興味はありました。貴方達の目指す道の先にもね。故に下したのです、苦渋の決断を・・・しかし蓋を開けてみれば、期待外れですよ、飛んだ」

男は溜め息を吐き、やれやれと首を振った。

「私はてっきり、進化圧でも掛けるのかと思っていました。個性因子に脅威を認識させて。そして頂点に返り咲くのだろうと期待したのですよ、構成員の進化を促す事で。

ですが、貴方がやろうとした事は・・・逆ですよね、まるっきり。

周囲を下げて、浮き彫りにしようとしただけだ。自分は今の高さにしがみついて。自分達が強くなろうとしているんじゃあない。その実、進もうとしていないのですよ、進んでいるつもりでも。

 

私はね?大好きなんですよ、人間が。

完璧さの欠片もなく、酷く不完全。しかしだからこそ、進化の権利を手にいれる者が現れる。踏破してね、不可能(諦め)を・・・その時こそ、その瞬間こそが、目映き輝きになのだよ!何にも勝る、至上の輝きにね!」

男は、自らの人間讃歌の哲学を熱く語る。エターナルにはそれが、自分に無いものに憧れ羨む憧憬の念が含まれているように聞こえた。

「故に、許しませんよ私は。自分の進化を諦め眼を逸らし、人間の進化を否定する者はね。

今までは、データ収集の為に態々泳がせていたんですが・・・もう済みましたからね、それも。もう一片も無くなったのですよ、貴方の価値は。

と言うかそもそも、自分をすごく棚上げしてますよね、貴方。何故使っているんですか?個性を。病気なんでしょう?貴方から見れば。ガキですか、貴方は」

心の底からの軽蔑を込めて、男はウェザーをネチネチと罵る。

「その挙げ句、汚いと断じた他人を自らと融合させましたねぇあろう事か。そしてものの見事に慢心し、手痛いしっぺ返しを喰らう始末ですよ、自らが搾取してきた少女から。

これって・・・無様、ですよねぇ?とっても」

依然動けぬウェザーに、まるでブレンがメディックにしたように煽る男。

「貴方は不要、処か有害ですね、人類にとって。任せましょうか化物退治は。仮面ライダーにね、専門家の」

そう言い放ち、男はウェザーを足場から蹴り落とした。

「クッソォォォォォォォォォオッ!!!!」

支配から解放されたウェザーは両腕を突き出し電磁竜巻を放つが、男はワームホールを潜って姿を消してしまう。落ちる先に待っているのは、怒り滾る死神達だった。

 

(出久サイド)

 

「三奈、やってやれ」

「合点!さっきのお返しだ、ッよ!!」

落ちてくるウェザーをしっかり視認し、ジョーカーは緩く固めた拳をストレートリードで叩き込む。右拳から左肩までの総ての関節を一直線にして、全体重を掛けて放つその拳は、衝撃の一切を逃がさずウェザーの頬を鋭く打ち抜いた。

「序でに、テメェに恩を仇で返された俺の大好きなおやっさん(どっかの誰かさん)の気持ち分だ。取っときなッ!」

 

―――独雷 HAFTHOHLLADUNG(ハフトゥラドゥング)・スマッシュ

 

―ガゴチョンッ!!―

 

俺は更に地面に落ちかけたウェザーを蹴り上げ、肩甲骨を前方に引き出すようにしてパンチを腹に放つ。零距離戦闘術(ゼロレンジコンバット)の技、ウェイヴパンチだ。

「ばハァッ!?」

嘴から血を噴き出し、殴り飛ばされるウェザー。ドーパント体であっても、内部に浸透するウェイヴによって意識外から内臓をズタズタにされる激痛には耐えられない。耐えられる筈が無い。

 

「どうした?黒いの。立てよ。たかが一発二発良いの喰らった所で、そんだけでハイお仕舞いって訳にはいかねぇんだよ小僧」

 

俺は血反吐を吐くウェザーに歩み寄り、拳を繰り返し握りながら睨み付ける。

 

「ヴアァァァァァアアアアアッッ!!!!」

 

ウェザーが抜き手を突き出した。しかし、容易くガントレットで叩き払いカウンターを決める。

 

―ビキビキッ―

 

「ぬぅ・・・」

だが、奴の分解能力でガントレットが傷付いてしまった。適合を果たしたシンフォニックスタイルでさえも、アイツは分解してしまうらしい。

だったら・・・

「出久・・・あれを、使うの?」

胸に向かい掛けた手を咄嗟に掴んだのは、後ろから飛んで来たタブー。チラリと脇を見れば、ジョーカーも心配そうな顔をしていた。

「あぁ、使う。あの呪いの力・・・イグナイトシステムを」

 

イグナイトシステム・・・原点のシンフォギアに搭載された、短期決戦用ブースターシステムであるイグナイトモジュールを、シンフォニックメモリに再現し落とし込んだもの。シンフォニックアーマーを意図的に激情化、暴走させ、その手綱を握る事で爆発的な戦闘力を生む機能だ。

 

俺は今まで、何度か起動実験を行って来た。しかし、結果は全敗。何とか起動は出来ても、直ぐに変身解除してしまっていた。

だが、過去に踏ん切りを付けられた今ならば・・・望みはある。

「大丈夫だ・・・今なら、使い熟せる。いや、熟して見せる。だから少しの間、時間を稼いでくれ」

「・・・分かった」

微笑みながら、ジョーカーは一歩下がる。タブーも同意し、腕を組んで引き下がった。

「やるからには、絶対勝って」

「あぁ、当然。負ける気なんざ、端から毛頭在りはしない」

ウェザーに向き直ると、自分の身体を分解し錬成し直している最中のようだ。なら、今しか無いな。

 

「イグナイトシステム始動。暴走防止リミッターを解除。目標、眼前敵ドーパント。疑似鏖殺の魔剣(ダーインスレイフ)・・・抜剣」

 

宣言と同時に、胸を叩く。するとメモリを挿し込んだ心臓から赤黒いエネルギーが放出され、コンバットベルトを破壊。そして複数の蛇龍の形をとり、俺の身体に噛み付いた。

 

――――ドックンッ――――

 

意識が黒に染まり、沈んでいく。降り立ったのは・・・言わずもがな、あの場所だ。

『ねぇ、おにいさん』

後ろからの、幼い声。振り向けば、やはりあの子がいた。

『どうして、たすけてくれなかったの?』

「・・・」

俺は黙って、彼女を見つめる。足元にいる過去の俺とあの屑戦車共は色を無くして止まり、炎だけが朱く紅く燃えていた。

『あつかった。くるしかったよ。ねぇ、おにいさん・・・どうして、たすけてくれなかったの?』

「それは・・・俺が、弱かったからだ」

重い口を開き、そう答える。少女は黙って、俺の次の言葉を待っているようだ。

「あの時・・・呆気に取られたりせず、本気で助けに行こうとしてたら・・・きっと、君達は助けられたんだと思う。本当に、済まなかった」

謝罪を紡ぎながら、頭を下げる。

「俺はあの日、君に手が届かなかった・・・でも、今は違うんだ。あの子を救うには、あと一歩。もう少しなんだ・・・」

拳を握ると、蒼い炎が灯る。同時に、足元からナニカが這い上がってくるのも感じた。

黒く暗い虚ろなナニカ。しかしそれは、あやふやな癖にハッキリとした目的意識を持って俺の中に侵蝕してくる。

総てを壊滅せんとする、ドス黒く血深泥な破壊衝動。足元から登ってくるそれを見れば、成る程、呪いの奔流が蛇の形をとった事も頷ける。

しかし、俺は負けない。負ける筈がない。この程度の必要悪、呑み込めずして何が戦士か。

「もう、届いた手は離さないから・・・だから、見ててくれ。俺の――――」

 

――――変身・・・

 

呪いの奔流が俺を包み込む刹那・・・あの子が、微笑んでくれた気がした。

『合格だね』

闇の中で、ネガが現れる。そいつはニッと怪しく笑い、その右目はオレンジに燃えていた。

「そうかい、なら良かった。狂気その物の擬人であるお前に言われたんなら、もう心配要らねぇな」

『うん・・・さぁ、存分に歌うが良い。呪詛にまみれた、滅びと希望の混沌歌を』

「あぁ。歌ってやるさ」

 

―――

――

 

(NOサイド)

 

「ウォアァァァァァァァァ!!!!」

分解修復の激痛から立ち直ったウェザーの鋭い抜き手が、黒に覆われたエターナルに迫る。

 

―BBBBANG!!―

 

「ぐぅッ・・・!!」

しかし、賢が12.8㎜タングステン合金徹甲弾を装填したスルトとネクロでその手を鋭く撃ち抜いた。

(対ドーパント弾の残弾数・・・左右合計、6発)

改造ロングマガジン2本に24発ずつ、合計48発あった対化物徹甲弾も、此処まででかなり消費していた。表情が薄めな賢の顔にも、流石に危機感が表れる。

「凍れやコラァ!!」

「黙れェ!!」

グリスブリザードが左腕のパワークローを展開し、冷却粒子を大量に噴き放った。しかしウェザーは、電磁竜巻内で高温のプラズマを発生させて無理矢理押し戻す。

「何処まで俺を怒らせる気だ病人共がァ!!」

下半身を竜巻で包み、浮上するウェザー。

「塵一つ残さず、消え失せろォ!!」

そして両腕のユニットを猛烈に回転させ、再び電磁竜巻を生成。更にそれを圧縮し、眼下のエターナル目掛けて解き放つ。

「これはちょっと、ヤバイかもッ!」

【タブー!マキシマムドライブ!】

タブーがマキシマムドライブを発動しレーヴァテインで受け止めようとするが、減衰する気配は無い。寧ろウェザーは更にエネルギーを送り込み、押し通す気でいる。

音本の個性で引き出されたウェザーの力。それはシルバークラスのメモリでありながら、格上たるゴールドクラスのタブーを真っ向から圧倒する程にまで出力が引き上げられていた。

「ヤベェッ!!」

グリスブリザードはすかさず前に飛び出し、両肩のアイスパックショルダーからヴァリアブルアイスを放出。強固な防壁を形成して地面に突き立て、防御の構えをとった。

「ジョーカー!私は大丈夫だから、早く下がってッ!」

「ッ~!・・・わかった!」

苦虫を噛み潰しながら、タブーに従うジョーカー。それを目尻に見やり、タブーは冷や汗を流しながらも精一杯の強がりで片頬を引き上げて見せる。

「いい加減に消えろッ!穢らわしい病人風情ガァァァァァッ!!!!」

ウェザーの眼が鈍く輝き、竜巻の内部で蒼いプラズマが鋭く光った。壊理の個性で巻き戻ったモーフィングパワーが、再び覚醒し始めているのだ。

 

「クッ・・・こぉんなくそォォォォォッ!!」

 

竜巻の重圧を受けながら、タブーは盾にしていたレーヴァテインの切っ先を真っ直ぐ突き出す。マキシマムドライブで白熱化したその刃はしかし、敵の威力に押され皹だらけだ。然れどタブーは、微塵も諦めない。

「消し飛べェェェェェェッ!!」

次の瞬間、圧縮された空気が全てプラズマ化し、閃光が周囲を呑み込んだ。

その光に網膜を焼かれながら、タブーは全力でレーヴァテインを突き出し続ける。後ろにいる、呪いと戦っているエターナルを護る為に。

(熱い・・・痛い・・・何も見えない・・・やだ・・・出、久・・・)

 

「ありがとうフラン。良くやった」

 

―――――

 

光、衝撃波、遅れて轟音が響き、周囲の細かい瓦礫を軒並み吹き飛ばす。

「クッ・・・フランちゃんッ!」

煙や粉塵が舞い、視界は通らない。グリスブリザードの氷城壁に守られたジョーカーは思わず飛び出すが・・・そこに、エターナルとタブーの姿は無かった。

「クッハハハハハハハハ!!あのいけ好かない死神も、病気持ちのクソアマと一緒に消し飛んだなッ!いい気味だァ!!」

「ッ!このッ・・・!」

「落ち着けよ」

歯を喰い縛りながら握った拳から特濃の酸液を分泌するジョーカーの肩を、ゲンムがポンと叩く。

「デップー・・・」

「おいオーバーホール!テメェは勘違いしてるぜェ!」

ゲンムはウェザーを指差し、声高に言い放った。

「まず一つ!テメェのプラズマ竜巻は確かに高出力だが!当たった地面を硝子化させる事すら出来ない貧弱な攻撃だ!その程度では、ライダーシステムで強化した人体は跡形も無く消し飛びはしないッ!

二つ!テメェは2人が消し飛ぶ瞬間を見た訳じゃあねェ!死んだ証拠は何処にもないッ!

そして三つッ!」

 

―バガンッ!バガンッ!―

 

「何ッ!?」

「《最終局面にて主人公が奥の手発動》ッ!《仲間による必死の時間稼ぎ》ッ!《護り役の諦めの踏破》ッ!《視界のホワイトアウト》ッ!

()()()だよなァ!!」

撃鉄を打つような音を響かせ、ウェザーの周囲を飛び回る黒い影。その正体を全員が確信する中、ゲンムは更に声を張り上げる。

 

「オーバーホールゥ!何故フランちゃんが、危険を厭わず抵抗を続けたのか!何故俺ちゃんが解説しているのか!何故皆に希望が戻ったのくァ!!

その答えは、ただ一ォつ・・・オゥバーホールゥ!!貴様が生み出したこの状況こそがァ!!仮面ライダーのォ―――――」

 

「ぜェりゃァァァァァァァァ!!!!」

 

「ゴェアッ!!?」

 

()()()()()だァかァらァだァァァァァッ!!ヴァーッハハハハハハハハハァ!!!!」

 

ゲンムの高笑いと共に、ウェザーが地面に叩き落とされる。その上には、タブーを・・・フランを横抱きに抱える、漆黒の戦士の姿があった。

 

(出久サイド)

 

【Forbidden Braid Unseal!BLACK-IGNITE!!ヤベーイッ!】

一瞬視界が紅く明滅し、その光が全身に行き渡る。つかこの音声・・・仁の奴、ハザードトリガーを流用したな?まぁ、奴の本領はビルドシステムだから出来るだろうが・・・

俺は蹴り落としたオーバーホールを一瞥し、地面に着地。更にジャンプし、ジョーカーの側まで移動する。

「出久・・・大丈夫、だよね?」

「あぁ」

フランをジョーカーに渡すと、全身の装甲から冷却ガスが噴出。更に細部がカシャカシャと動き、現在の状態に最適化した。

「出久・・・よかった」

「あぁ、お前が時間を稼いでくれたお陰だ。ありがとう」

タブーの頭を優しく撫でる。そしてグッと拳を握り具合を確かめると、視界の右上に何かが表示された。

「げっ、リミッター全解除しちまってるせいか残り時間短いな」

確か、3分で強制解除だったか。そのカウントダウンがもう100秒切りやがった。あと1分半とちょいしかない。

「ちゃっちゃとやるか。ダメならダメで、まだ策はあるしな・・・よしッ!」

 

――BURN IT UP!MAZINGER!――

 

―――終~焉~の審~判~は下さ~れた~♪暗~黒の軍団~が押し寄せる~♪―――

 

「その不愉快な歌を止めろォォォォォッ!!」

ウェザーが炎を巻き込んだ竜巻を放って来た。灼熱の砂塵を含んだそれは、恐らく瓦礫の散弾が洗濯機のことく掻き回されている状態だろう。

だが、それがどうした。

俺は脚のパワージャッキを地面に食い込ませ、右拳を握り込む。そしてタービンを回転させて更に大量の空気を取り込み、無理矢理圧縮して熱エネルギーを濃縮してラジエーター状に変形させたガントレットから放射。

そこからガントレット全面にスリット状の放出口を形成し、前方に撃ち出した。

 

―――覚醒人 シナプス弾撃

 

竜巻全体と同等量のエネルギーを持つまでに圧縮された大量の空気は、放出されると同時に一気に冷却。炎の熱量を相殺し、気流バランスを大きく乱して霧散させる。

「クソッ!なら此方だッ!」

再びスクリューを回すウェザー。そして今度は吹雪を発生させてぶつけて来た。

体表は白く凍結し、霜が装甲に付着する。

「凍えてしまえ死神ィ!!」

気分良さげに、ウェザーは冷気を吹き付けてくる。メモリのせいやらストレスのせいやら、大分思考回路が幼稚になっているらしい。

 

――今世界~は~♪闇~に~抱ぁ~か~れ~♪その力を~♪待~ち~続~け~る~♪――

 

ガントレットを展開し、タービンを接触状態で激しく回す。霜が降りる程に冷えきっていた機構はすぐに赤熱化し、その余熱で体表の氷は全て蒸発する。

お生憎様、痛くも痒くもねぇよ。

「クッ~!!なら、これはどうだァ!!」

今度はマグネットを回して紅雷を放ってきた。ガングニールなら・・・良いカモだ。

 

―BZZZZZZZZ!!―

 

その落雷を、拳を突き上げて受けてやる。

「な、何を・・・グッ!?」

 

―ギャリリリリリリリリリリリリリリリッ―

 

――お~ま~えとなら感じ~てKnight!お~ま~え~ならば出~来~るゥ~!Rock me~!!――

 

そしてまたガントレットを展開し、タービンを回転。歌も丁度サビだ。その分上昇したフォニックゲインを、ほぼほぼ回転動力にブチ込んでやる。

すると先程と同じく赤熱化。更に、そのエネルギーを突き上げている拳に集めて雷撃の通ったプラズマの道を押し返す。トールハンマーブレェカーの応用で、受けた電撃も織り混ぜて倍返しだ。お釣りはいらん。

「がッ!?!?ば、バカなッ!?」

エネルギーのオーバーフローで狼狽えるウェザーに向けて、俺は漆黒の拳を構える。それは見るまにゴツく変形し、一回り大きなマニピュレーターとガントレットを形作った。

そして肘からエネルギー噴射を開始し、哀れな化物へと照準を合わせる。

 

――お~ま~えだけが最強のKnight!お~ま~えならば出~来~る~!Rock me~!!――

 

――――鉄拳 ロケットパンチ

 

―SHUBANG!!―

 

――MAZINGER!!――

 

俺が放った鉄の拳はウェザーを撃ち抜き、確実に意識を刈り取った。

「俺達の、勝ちだ」

撃ち出されたロケットパンチは、指からの逆噴射で戻ってきて腕に収まる。

心臓からガングニールβメモリを引き抜き、シンフォニックスタイルを解除した。

「フシィィ・・・」

息を吐き出し、ウェザーメモリが排出されたオーバーホールを見やる。白眼を剥いてビクビクと痙攣するその様は、正直かなり気持ち悪い。

「出久、平気?」

「あぁ。思った程、負荷も強くなかった。と、T2ウェザーは回収しとかなきゃな」

息を整えてオーバーホールに近付こうとする。

 

―ボッッ―

 

「どぅわッ!?」

「出久!?」

しかし、直前で何かに突き飛ばされたが如く弾かれてしまった。

「いやはや。お見事でしたよ実に。言う他ありませんね、天晴れと」

現れたのは、さっきの人間讃歌野郎。

今更だが、顔はかなり整ったイケメン。太めのしっかりした眉に、細く少し吊り気味の目。髪は紺。外見年齢は20代後半って所か。

奴は空中浮遊し、拍手しながらゆっくりと降下して来る。あの動きと周囲の気流からして、風圧操作じゃないな。重力操作か、もしくは俺みたいな念力か?俺を突き飛ばしたのも、多分それだろう。さっき使ってた結界も含めると、随分多才らしい。

奴が手を翳すと、瓦礫の下からT2ウェザーメモリが浮かび上がった。そしてその手に吸い寄せられ、キャッチされる。

「随分成長したようですね、このメモリも」

手の中のメモリを見てご満悦そうに微笑む様は一見無用心そのもの。だが・・・

(コイツ・・・気配的に隙が一切無い。手の内が見えない以上、下手に飛び掛かるのはこの上無く危険か)

どうやら、意識は完全に此方をマークしているらしい。どんな隠し球があるか分からない内は、迂闊に動けそうに無いな。

「さて・・・仮面ライダーエターナル。先程言ってましたね、君は。『まだ策はある』、と・・・」

「一切記憶に御座いません」

・・・途轍もなく嫌な予感がする。

奴はニヤリと笑い、掌をオーバーホールに当てた。

「神経回路接続。個性強制発動」

「ッ!?まさか!」

 

―BANG!BANG!―

 

賢兄さんがスルト&ネクロで銃撃するが、弾丸は金色の六角形障壁(ヘキサゴンバリア)で防がれる。そしてオーバーホールは白眼を剥いたまま、落ちてきた大男と自分の顔に手を着けた。

その瞬間、双方の身体は分解され、再び1つに融合する。

「役立って貰いましょうか。ゴミはゴミなりに」

【ウェザー!】

更に奴はT1のウェザードーパントメモリを起動し、オーバーホールのキメラに投擲。生体コネクタを介さず無理矢理挿入され、再びドーパント態・・・ウェザーC(キメラ)G(ギガント)へと変身させた。

「や・・・やりやがった」

「あーもう作者のアドリブばっかりで桜が錯乱して寒気がランニング」

ゲンムがまた訳分からん事を言い出した。だがまぁ、気持ちは分かる。

「さぁ見せて下さい?策とやらを。あるのならね、そんなものが。

これは抑えておきますよ。準備が整うまではね。5分ですよ、猶予は」

そう言ってウェザーCGを結界で閉じ込めるスポンサー。生憎ここじゃ人が多過ぎてエターナルレクイエムも使えそうに無い。

だったら、やるっきゃ無さそうだ。

「あぁ~畜生。手の内を晒すのは好きじゃないんだがな。やるぜ、三奈」

「・・・はぁ、了解」

【エターナル!】【ジョーカー!】

俺と三奈は変身を解除し、ダブルドライバーを装着。お互いにメモリを起動し、構えを取る。

同時に、頭上にエクストリームを召喚。

「「変身ッ!」」

【エターナル!ジョーカー!】

意識が三奈の身体に移り、俺の身体はデータ分解されエクストリームが回収した。

そしてすかさずドライバーを閉じ、エクストリームを装填。

【エクストリーム!!】

スロットを再び展開し、エターナルジョーカーエクストリームに強化変身を遂げる。

『さて・・・行くぜ』

「うん!」

互いに心を調和させ、俺達は巨大な敵を見据えた。

 

to be continued・・・




~キャラクター紹介~

緑谷出久
過去にケジメをつけ、漸くイグナイトを克服。因みに今回はリミッターが軒並み外れてたせいであんな無茶苦茶な無敵ムーブが出来てただけで、普通はダメージ喰らう。
自分が振るう力は容易に人を殺せると言う暗示から、ノックアウトガングニールの技名は《独〇(兵器を分類する一文字)+ナチスドイツ製兵器名+スマッシュ》となっている。但しイグナイト時はスパロボネタ。
技名の元ネタは下記。
因みにどうやって竜巻を避けたかと言うと、覚醒してワンフォーオールで駆け出し、フランを抱えて跳んだだけ。後は手足の爪で壁に張り付き、絶対来るであろうデップーの反応を待っていた。

フランドール・スカーレット
出久の第二夫人。イグナイトに順応中のエターナルを守り抜いた、実質MVP。()()()()()()()貴重な人材としてスポンサーは気に入った。
プラズマの光で眼がやられた。まだショボショボしてる。

治崎廻
オーバーホール。スポンサーからは活動のほぼ全てを否定され、最早完全に敵のペースに飲み込まれている。終いにはゲンムのメタ解説で綺麗に踏み台にされた。
それだけでは飽き足らず、意識が無くなった後もスポンサーに好き勝手弄られて化物に逆戻り。もう何か哀れになってきた。

永遠亭組
活力を吸う大男(活瓶力也)を、原作の梅雨ちゃん・麗日に代わって地下にブチ込む活躍を見せた。
麗日が地下にいるからね、しょうがないね。
持ち前のタフさや薬物生成能力でゴリ押し活動続行。原作よりも周囲のグロッキーな人等が片付いている。
因みにネメシスのロケラン、今回はスティンガーも持ってきておらず、本当にただの鈍器。まぁ実際そういう技あるらしいしね。

デッドプール
メタ野郎。解説の時は皆さん頭の中でEXCITEが流れた事でしょう。
自分のメタ解説によって因果律に干渉し、オーバーホールが踏み台になる未来を確定させた。こう言う形の因果律干渉ってメタいキャラでなきゃ出来ないよね。
本人も派手に出番が出来てご満悦。

此処にいない突入隊の皆
制圧した構成員とか怪我人の運び出しをやってる。自動人形(オートスコアラー)も此方にいる。
因みに揺れで狼狽える他の警官達をガリィが怒濤のリーダーシップで統率したりしている。
「ビビッてんじゃねぇー!!お前らが気にした所で何も出来る訳ゃねーだろーが!!ビクついてる時間があるなら脚動かせ!」
ミ「あんなガリィ初めて見たゾ」
レ「派手な変貌だ」
フ「いざって時には、頼りになるのよねぇ」
ミ(それ、いざって時以外役に立たないって事カ?)
さ、流石はガリィコーチ(目逸らし)。

スポンサーのリーダー
黒服を着たイケメン。癖のある丁寧口調で喋り、進化を中心とした人間讃歌を掲げる。
尚、興奮すると若干口調が崩れかかる模様。
念動力、ヘキサゴンバリア、神経接続など、行使可能な能力は出久と同等もしくはそれ以上。オーバーホール所か出久まで威圧された為、彼よりも高位の戦力或いはハイドープなのだろう。
今回でキーワードはかなり出揃っている。恐らく正体に気付いた人もいるだろう。
オーバーホール平伏シーンのモチーフはかの有名な某頭無惨。

~技名の元ネタ~

・パンツァーファウスト
言わずと知れたドイツ産の携帯式対戦車擲弾発射器。
強烈な衝撃を打ち出すのが由来。

・カノゥナ・アハティン
口径150㎜のカノン砲。カノゥナはドイツ語のカノン。
パンチの衝撃で砲弾がブチ込まれたが如く対象を穿つ事に由来する。

・ハフトゥラドゥング
対戦車用円錐爆裂穿孔吸着地雷。敵戦車に磁力で張り付き、回避しようの無い無慈悲な爆裂をお見舞いして装甲をブチ抜く。
零距離で放たれ、敵の防御を貫通して内臓に致命的ダメージを与えるウェイヴパンチの性質が酷似している事に由来する。
今更だが作者は某現代忍者さんに絶賛ド嵌まり中である。

・シナプス弾撃
ベターマンに登場するメカノイド、覚醒人が使う技。音声コード《ブレイク・シンセサイズ》の認証で周囲の気体を吸入し、様々な物質を合成して放つ技。
吸入→圧縮→噴射というプロセスが被っていた事に由来。

・ロケットパンチ
言うまでもない。元祖スーパーロボット、マジンガーZの代名詞とも言える技。
鉄拳がとんでもないスピードで突貫していく。やろうと思えばジャマダハルを展開してアイアンカッターも可能。そうでなくとも大体の敵は出力次第では圧力のゴリ押しで粉砕貫通出来る、実は結構殺意高い技。

「急な路線変更いやぁキツイッス。ったくやりたいことつぎ込んで尺が足りねぇから持ち越しだとさ。
すまん読者の皆、次回を待っててくれ。
俺ちゃんはちょっとあの作者(アホ)ノしてくる」


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第31話・集結するG/浪漫炸裂

「テメェ、この急な路線変更は何だ?取り敢えず今からお前に色々な弾丸ブチ込んでやる・・・一応聞いとく。言い残す事はあるか?」
『あー命乞いがタップリ小一時間分ぐらいかな』
有罪(ギルティ)
『助けて』


【エクストリーム!!】

『さて・・・行くぜ』

「うん!」

エクストリームに変身したダブルは、あるメモリを取り出した。

『三奈。ちょいと賭けだが、乗ってくれるか?』

「・・・ん、分かった。乗るよ」

脳内で情報を共有し、これからする事を伝達。そして右手に持ったメモリのスタートアップスイッチを、強く押し込む。

【ダウルダヴラ!】

「ほう・・・」

そのガイアウィスパーに、スポンサーは少し眼を細める。

『でぇいッ!』

気合いを込めて、エターナルサイドがメモリをクリスタルサーバーに突き立てた。

バチバチと放電が起こると共に内部のデータが少しずつ解析され、出力用プログラムの形成が始まる。

「うぐっ!?うぁああッ!?」

『済まない三奈、耐えてくれッ・・・!』

「くっ・・・大ッ、丈夫ッ!」

「『ハァァァァァァァアッ!!」』

その痛みに耐え、遂に最適化が完了。クリスタルサーバーから七色に光る糸が何万本も飛び出し、空中で依り合わさる。

『ダウルダヴラの装着条件、()()()()()()()()()()()()・・・さっき使ってから、うっすら考えてたんだ。

その肉体って、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()、ってな!どうやらビンゴだ!』

「ッ!・・・素晴らしい・・・」

エターナルサイドの言葉に、スポンサーは口元を押さえて感激する。

その時、不思議な事が起こった。

 

―ヒュンッ―

 

『なッ!?これは・・・!』

「シンフォニックメモリ!?」

そう。シンフォニックメモリが全て出現し、ダブルの眼前でうっすらと光りながら静止したのだ。

「これって・・・」

『使えって事だろうな。はてさて、どうなるか!』

【ガングニール!】

【ガングニール・β!】

【アメノハバキリ!】

【イチイバル!】

【イガリマ!】

【シュルシャガナ!】

【アガートラーム!】

【シェンショウジン!】

ディケイドのケータッチのようにスタートアップスイッチを次々と押し、メモリを起動。するとメモリはそれぞれ光を強め、クリスタルサーバーに飛び込んでいく。

ダウルダヴラは出久の中からギアの特性を最大限活かせるであろうデータを抽出し、設計図を発案した。出久はそれを確認し、ダウルダヴラに補助をさせながらパーツを形成する。

ダウルダヴラの錬成陣が5つのアームドメカノイドを瞬時に組み上げ、ダブルの額にあるX-クォーツシグナルが強く輝いた。

 

黒と白で一対の鋭い槍型ショルダーアーマー、ガングニールR&L

緑のデスサイズを象ったイガリマスライサー

薄紅色のチェーンソーに酷似したシュルシャクリープ

そして、神殺しと銀腕のガントレット、その他様々なアタッチメントを内蔵した紫の怪鳥、ケイオスクランダー

 

『ィよっしゃァ!!行くぜ三奈ッ!!』

「合点承知ッ!」

『「フォニック・フュージョンッ!!』」

ダブルは手を胸の前でクロスし、更に左右に大きく開くモーションをとる。するとドライバーのエクスタイフーンが勢い良く猛回転し、緑に輝く液体・・・超圧縮されたエナジーリキッドが吹き出す。ダブルはその場で独楽のように回転し、エナジーリキッドで緑の竜巻を作り出した。

 

―ザボンッ!―

 

その竜巻を突き破って、アームドメカノイドが突入。合体の邪魔になるコンバットベルトをパージしながらそれぞれにダウルダヴラの糸が有線接続し、合体シークエンスに移行する。

 

イガリマスライサーとシュルシャクリープは、ダブルの下から脚に接近。物理法則を無視して変形し、イガリマスライサーはシューズ、シュルシャクリープは脛を覆うアーマーとして両足に固定。

 

ガングニールR&Lは柄の部分がパージし、ショルダーから延びるケーブルに引かれるままドッキング。更に細かく変形し、フィットするように密着した。

 

ケイオスクランダーは頭上から接近し、背中のクリスタルサーバーとダイレクトリンク。

更に首が尻尾として延び、ウィングにマウントされていた左右のガントレットを腕に装着する。そして人で言う鎖骨辺りにあった赤いプレートは、変形してダブルの腰にフロントスカートとして装着された。

 

最後に紫のクラッシャーフェイスマスクがダブルの口元を覆い、金色の角が追加される。

 

合体の全工程が完了し、竜巻が消失。各部から吸熱ジェルの蒸気を吹き出し、その戦士は現れた。

 

『「エターナルジョーカーエクストリーム・・・GGG(スリージー)スタイル!』」

 

 

【挿絵表示】

 

 

それは、悪魔のような顔をした戦士・・・正に魔神。

身体を覆うアーマーを形成しているアームドギアはそれぞれ別のコンセプトを持っていながら、それでいて目的は統一されている。それは・・・勝利。

「ブラボー・・・!おぉ、ブラァボー!!」

スポンサーは拍手し、勇者をなぞったその戦士を讃える。そしてパチッと指を鳴らし、ウェザーCGをバリアの檻から解き放った。

『GOAAAAAAAR!!』

自由となるや否や、ウェザーCGは雷をチャージ。直進する落雷として、ダブルに撃ち放つ。

『いけるな!』「うんッ!!」

それに対し、ダブルは左手を突き出した。

すると、左腕のアガートラームの手首から10枚の短剣型プレートが展開し、エネルギーを充填。白く発光し、特殊な湾曲空間を形成する。

「プロテクトシェードッ!!」

落雷はアガートラームから発生した力場、プロテクトシェードに命中。しかしエネルギーのベクトルを掌握され、湾曲空間内で反転し撃ち返されてしまった。

『GUEAaaaaaaaa!!?』

己の雷を諸に喰らい、悲鳴を上げるウェザーCG。堪らず風を操り、上へと逃げる。

「アイツ逃げる気だ。あのままじゃ上がヤバイよ、どうする?」

『俺に良いアイデアがある』

エターナルサイドが答えると同時に、クリスタルサーバーに細い光が次々と走り始めた。

(ウィング独立可動式飛行補助推進システム・・・構築。インストール完了)

 

――ガガガッガガガガ~!ガ~オガ~イガ~!――

 

『フォニックフェザー展開!歌うぞ!』

「OK!」

背中のケイオスクランダーから複数のプレートが展開し、悪魔の翼のように変形。そして展開したフォニックフェザーから推進エネルギーを放出し、ダブルはウェザーCG目掛けて飛び上がる。

 

―――叫べッ!炎のエヴォリュ~ゥダー♪

紅いッ!(ハート)(しろ)き~(パワー)~♪―――

 

―ガゴンッ―

『GGEAaaa!?』

歌によって推進エネルギーが増大し、一気にウェザーCGに肉薄。そのまま右拳を腹部に叩き込み、上空へと突き上げた。

 

――――――――――

 

「・・・出久が、どんどん良く分からねぇもんになっていくな」

「そーやねぇ」

「アイツが敵にならなくて良かったな、マジで」

グリスブリザード、プライムローグ、グレートクローズがそう呟いたのも、無理もない事である。

 

――――――――――

 

―――正義導~く~Gストーン♪悪の根~元~叩く為~♪今こ~そ~舞~い上~がれ~!―――

 

一方、ウェザーCGを上空に打ち上げたダブルは、歌を重ねて更にブーストを掛ける。

『フォニックツールッ!』

エターナルサイドの叫びに呼応し、ダブルの尻尾の先端から数えて第4節が分離。リングのように変形して右腕に装着され、更にガントレットから大きなマニピュレーターが展開し赤熱化した。

 

―――ガガガッ!ガガガッ!ガ~オガイガーッ!ガガガッ!ファイティング!ガオガイガーッ!―――

 

そして拳の赤熱化に呼応するように、装着されたリングも超高速で回転し始める。

 

―――剛~腕~爆~砕~♪―――

 

『ブロォウクンッ!ファンットォォォムッ!!』

 

―――光輪鉄拳・BROKEN PHANTOM

 

次の瞬間、ガングニールの拳は音速を越えるスピードで射出された。ウェザーCGは更に上空へと吹き飛ばされ、腹を撃ち抜かんとする鉄拳の弾丸に呻く。

 

―――元~気♪勝~利♪情~熱~♪ファ~イティ~ング!―――

 

しかし、そのダメージを一瞬でオーバーホールするウェザーCG。ダブルは戻ってきた拳を装着回収し、ガントレット内に格納した。

『此処なら、周囲の被害は関係無い。景気良くいこう』

 

―――ガッガッガッガ!ガ~オガ~イ~ガーッ!!―――

 

エターナルサイドの言葉に答えるように、ジョーカーサイドは延髄斬りを叩き込む。脛を形成するシュルシャクリープに搭載された無限軌道刃が回転し、ウェザーCGの装甲を削りながら蹴り飛ばした。

『GEAaaaaa!!!!sHInigAmIiiiiiii!!』

『おやおや、そんな無様な化物になっても俺の事は覚えてるのか』

滅茶苦茶な攻撃を飛ばしてくるウェザーCGに対し、ダブルは呆れながらトンボのような変態軌道で回避を続ける。複数の噴射孔付きプレートフェザーがそれぞれ独立して有機的に稼働するからこそ出来た芸当だ。

 

「クッ、俺らは見てるだけかよ・・・!」

そんな上空の攻防を見て、グレートクローズはもどかしそうに顔を顰める。

「良いんじゃないかな?行ってあげれば」

「・・・貴方、結局何がしたいの?」

優しく微笑み掛けるスポンサーに、訝しげな表情で問い掛けるタブー。

「あるのですか?そんな事を聞く暇が。無駄だと思いますがね、時間の」

「・・・チッ」

舌打ちするタブーだったが、吸血鬼という魔物系の個性柄、彼女は気配に敏感だった。スポンサーから敵意は感じないが、自分よりも遥かに強い事は分かる。

敵意も勝ち目も無い相手に飛び掛かるよりダブルに加勢する方が得策だと判断し、タブーは二対四本の翼を広げて飛び立った。

「俺らも行くか、ローグ」

「私は行くよ。でも・・・」

「爆豪と麗日は飛べる・・・けど、俺は・・・」

グリスブリザードは個性の爆破と背中の噴射機能で、プライムローグは生まれ持った個性で、上空に参戦出来る。しかし、グレートクローズは未だ飛行する手段を持たない。その事に、彼は言い様の無い悔しさを抱いていた。

『諦めるか?』

「ッ!」

突如、グレートクローズの脳内に低く渋い声が響く。その言葉は、グレートクローズの信念を刺激した。

「ンな訳ねェだろッ!」

「おい、どうしたクローズ」

「何かあった?」

グリスブリザードとプライムローグが心配そうに顔を覗き込むが、グレートクローズは気にせず頭の中の声に問い掛ける。

「そう聞くって事は、何かあるんだな!?」

『あぁあるとも。どうする?乗るか?』

「乗った!」

即答だった。そして歯を噛み締めながら、上空のウェザーCGを睨む。

『フッハッハッハッハ!やはり面白いな人間は!べらぼうに面白いな!

良いだろう!持ってけ!』

笑い声と共に紅いゲルが染み出し、グレートクローズの手にアイテムを渡した。

「なッ!?」

「これって、爆豪のと同じ・・・?」

それは、オレンジと黒と赤で彩られた鉄拳と真っ黒なボトル。グリスブリザードナックルと酷似していながら、異質の存在感を放つものだった。

『使い方は、ブリザードと同じだ。さぁ、カマしてやりな!』

「・・・よしッ!」

 

―シャカシャカシャカッ カシュッ ガァーンッ!!―

 

【ボトルバァーンッ!!】

【クロォ~ズマァグマッ!】

 

ボトルを振って弁を開き、ナックル上部のボトルスロットにセット。そしてナックル本体をビルドドライバーに装填すると、前面のドラグバーンナックラーが左右に展開しボトルが露出。内部の成分が特殊パルスで活性化され、紅く輝く。

そこからビルドドライバーのレバーを回すと、ドライバーが変身システムを起動。

背後に拳型の熔鉱炉(マグマライドビルダー)が形成され、中に波々と湛えられたヴァリアブルマグマが周囲を紅く照らした。

【ARE YOU READY!?】

 

―ガキンッ―

 

「超ッ変ッ身ッ!」

 

グレートクローズが拳を打ち合わせ叫ぶと、マグマライドビルダーが傾きヴァリアブルマグマを頭からぶっかける。

そのマグマの中から八岐大蛇のような8本の龍の首が延び、黒く冷え固まった。

それを背後からマグマライドビルダーが叩き割るように圧し砕き、その姿は露となる。

 

極熱筋肉(ゴォクネツキンニク)ゥ!!クローズッマァグマァ!!ア゙ァチャチャチャチャチャチャチャア゙ッチャァウッ!!】

 

頭、胸、両肩、両腕、そして両足に追加された、漆黒の龍の頭。

背中に備わった、マグマと岩石のような翼。

真紅に染まったバイザーが輝くと同時に火の粉を放ち、黒く固着したヴァリアブルマグマが脈打つように再び赤熱化した。

 

「心が叫ぶッ!魂が燃えるッ!俺のマグマがッ!迸るッッ!!もう誰にもッ!止められねぇッッ!!」

 

闘争本能が刺激され、テンションが跳ね上がるクローズマグマ。

「ウオォォォォォォッ!!」

そして背中のソレスタルパイロウィングを広げ、上空に飛び立つ。

「・・・この事件、因果律どうなってんの?」

「知るか。俺等も行くぞローグ」

「ん、分かった」

呆然とするゲンムを捨て置き、プライムローグは個性で自分とグリスブリザードを無重力化。そしてグリスブリザードが背中とショルダーの噴射を使って加速し、プライムローグがその脚に掴まって上空へと飛んでいった。

「ハー、ストーリー激化の気配がムンムンするねぇ」

 

(出久サイド)

 

「禁忌!クランベリートラップ!でやぁぁぁぁぁッ!」

加勢してくれたタブーが弾幕を張るが、それさえウェザーCGは吹雪による氷柱弾によって容易く相殺する。メモリのランクはゴールドメモリたるタブーが上ではあるものの、どうやら融合素材の活瓶が溜め込んでいた数十人分の生体エネルギーを使って同等以上のスペックを出しているようだ。

「ウオォォォォォォッ!!緑谷ァ!!加勢に来たぜェ!!」

厄介な相手に内心舌打ちしていると、下から叫び声が。

見てみると、クローズマグマに変身した切島が俺達のように翼を広げて飛んで来たではないか。

「ゼィリャァァァァ!!」

『GAaaaaa!?』

そしてそのままウェザーCGに突貫し、腹を拳で撃ち抜く。奴は諸に喰らい、直ぐ様ダメージを修復しようと身体を分解。再構築を始めた。

「隙が出来たなァ!」

【シングルアイスッ!】

「喰らっとけェ!!」

【READY GO!!グレェイシャルアタックゥ!バリバリバリバリィンッ!!】

そこに今度はグリスが強襲。修復時の隙を狙い、展開したロボットクローで殴り付ける。

『GGOAaaaaa!?』

再生したタイミングでまたダメージを喰らい、際限無く怒り狂うウェザーCG。

ローグも加わり、さっきよりもかなり余裕が出来た。

『済まない。30秒頼めるか?』

「それでこのクソ野郎を潰せンなら!5分でも10分でも稼ぎ殺したるわッ!」

『ありがとう』

グリスブリザードに短く感謝し、俺達は真っ逆さまに急降下を開始する。

『三奈!モードチェンジ行くぞ!』

「何か良く分からないけど、任せるよッ!」

『よしッ!()()()()()()()だッ!』

そして激しくキリモミ回転しながらフォニックフェザーを畳みつつ、地面へと更に加速。激突寸前で身体を翻し、轟音と共にスーパーヒーロー着地を決めた。

 

――ギィンッ!――

 

ルーティーンモーション完了!

『モードチェンジッ!カイザーSKLッ!!』

システムそのものが組変わるのを感じる。

俺はケイオスクランダーから尻尾を丸ごとパージし、同時にエターナルボイルダーを召喚。ヒートを装填し、タービュラーユニットを装着した。

『ウイングアウト!ローグに譲渡する!』

背中のダイレクトリンクを解除し、ウイングをパージ。一足先に上空へ戻らせる。

そして手に持った尻尾は中央から左右に分割し、グリップと刃が飛び出して大剣となった。

エターナルタービュラーに飛び乗りながら、三奈に手短に説明する。

『このSKLスタイルは完全リバーシブル式だ。三奈に大剣と肉弾戦のKAIDO(カイドー)モードを任せる。この武骨な大剣(ガザンブレイド)で叩き斬れ。

俺は銃撃のMAGAMI(マガミ)モード。俺がタイミングを見計らう。合図を出したら交代(スイッチ)だ』

「りょーかいッ!」

 

―――最強の魔神~よ戦~え~!今~!地獄の果てま~でッも~!美し~き闇の~中~♪戦場を照らせ!KA・I・SER~!!―――

 

歌うと同時にスロットルを前回に噴かし、戦線に復帰。

「ずおりゃぁぁぁあッ!!」

三奈は座席から思い切り飛び上がり、此方に向かってくる掌をガザンブレイドで叩き斬る。

『GAッ!?bAkaNa!?』

どうやら、触って分解出来ない事に驚いたようだ。

当然さ。此方の中枢は、分解に連なる《解剖》を記憶しているダウルダヴラだ。ある程度なら耐性はある。

「2人共!」

と、ウイングを装着したプライムローグが俺達の手を掴んでタービュラーの方へと投げ飛ばしてくれた。頭が上がらないな。

 

―――世界は炎~に包ま~れ~た~♪時代~は~何処へ向~か~う~♪―――

 

「でりゃぁッ!」

三奈がガザンブレイドを投擲。巨腕の一本を身体に縫い付け、更に殴り掛かる。

パンチ、チョップ、抜き手で敵の装甲を瞬く間に破壊し、更にガザンブレイドを抉り抜く事で多大なダメージを与えた。

(スイッチだ!)

「はいよ!」

再びタービュラーに飛び移り、ガザンブレイドを槍状に収納。背中に背負い、俺は両手でフロントスカートを形成している拳銃、《スカートリガー》を取り外した。

フロントサイト同士を引っ掻けて初弾を装填し、左を真っ直ぐ、右を頭の横で倒して構える。

 

―――選~ば~れし戦~士~の~♪狂気の~叫び声~が~♪―――

 

ダメージの再生を赦さないように、傷に向かう手を連続で撃ち抜いた。それを合図に、他の皆も猛攻撃を開始する。

知能が下がっているせいで、手で触れて分解修復する癖が抜けていない。あの巨体では隙だらけだ。

「ローグとグリスは上から!クローズは下から必殺技の挟み撃ちッ!」

「「「応ッ!!」」」

【シングルアイスッ!ツインアイスッ!】【ガブッ!ガブッ!ガブッ!】

【【【READY GO!!!】】】

【グレイシャルフィイ゙ニッシュ!!】【プライム・クラックアップフィニッシュ!!】

【ヴォルケニックフィニッシュウ!!】

 

上下からの挟み撃ちを喰らい、ウェザーCGは硬直。反射的に何とか身体を修復するが、もう遅い。

「ウイングクロスッ!」

【エクストリーム!マキシマムドライブ!】

俺はタービュラーから飛び降り、代わりにローグをタービュラーに乗せてウイングを装着。更にエクストリームのマキシマムを発動し、スカートリガーを胸部にマウントした。

 

―――最強~の魔神~よ(いざな)~え!ah~♪破滅~への奈~落~へ~!

己の~目指す道~が~♪血塗られていてもォォォォッ!!―――

 

フォニックゲインのエネルギーをエクストリームの効果で倍増させ、スカートリガーにフルチャージ。同時にスカートリガーが変形し、面積の広いプレートの形状となり白熱化する。

 

―――最強~の魔神~よ戦え!今~♪地獄~の~果てま~で~も~!美し~き闇の~中~♪戦場を照らせ!―――

 

そして両腕を前に広げる構えをとり、最大出力の攻撃を撃ち放った。

 

「『カ!イ!ザァァァァッッッ!!!!」』

 

―――煉獄・INFERNO BLASTER

 

胸の放熱板から放たれた超高熱光線はウェザーCGを呑み込み、余波も空へと消えた。幾ら複数人分のエネルギーで許容量を水増ししようが到底耐えきれる訳も無く、ウェザーはオーバーホールの融合体に戻る。

ウェザーのドーパントメモリも粉々に砕け散り、バラバラになって落ちていった。

 

―――

――

 

その後俺達は、家屋の上に落ちないよう融合体を誘導。途中でジェネシックモードに戻り、道路に空いた大穴の直ぐ側でプロテクトシェードを使って極力被害を出さないように地面に下ろした。

『ぐっ・・・』

「か、身体が・・・」

シンフォニックメモリをファウストローブで無理矢理統合した無茶が祟り、強い虚脱感に襲われる。

急いでGGGスタイルを解除し、エクストリームに戻った。

『三奈・・・かなりしんどいが、まだ仕事は残ってる・・・』

「・・・付き合うよ」

『助かる』

【イェスタディ!マキシマムドライブ!】

俺達は融合体に近付き、エターナルエッジを召喚。イェスタディメモリを装填し、マキシマムを発動する。

『もういっちょ・・・!』

【エクストリーム!マキシマムドライブ!】

そこにエクストリームを重ね掛けし、イェスタディを増強。融合体にエネルギーを当て、オーバーホールを昨日の状態に戻した。一日一度しか使えない奥の手だが、あの大男も分離。それぞれ確保となる。

「つ、疲れた・・・」

「もう動けないぃ・・・」

変身を解除するなり、俺達2人とも同時にへたり込んでしまった。もう正直意識を保つのも危うい状態だ。

「出久君!三奈ちゃん!大丈夫!?」

と、救急車の方からえーりんが駆け寄ってくる。

「えーりん、先生・・・」

「・・・大、丈夫だ。死ぬ程、疲れてるが、な・・・」

「・・・ありがとう。治崎を止めてくれて・・・」

ポロポロと涙を流しながら、えーりんは俺達を抱き締めた。

「気に、するな。八斎會の名に泥を塗ったから、叩き潰したまでさ」

「それに・・・悪者を倒すのが、ヒーローだからね」

にへへ、と笑う三奈。それにつられ、えーりんも微笑む。

「さて、少しばかり寝たいな。身体がガタガタだ。事情聴取のときゃ、カツカレー用意して貰おうかな?」

「アタシはオクラ納豆~」

幾らか達者になったジョークを飛ばすと、三奈も乗っかってくれた。さて、少しばかり眠るかね・・・

 

―パンッ―

 

乾いた銃声。狼狽える警官隊。

微睡みに落ちかけた意識を無理矢理銃声の元に向けてみれば。さっきの人間讃歌男が塀の上で銃を構えて立っていた。

「貴様、何を・・・」

「ん?何をって・・・手伝いですよ、君達の。

今、治崎に撃ち込んだのですよ、個性破壊弾頭を。面倒でしょう?暴れられても。

これは合わないんですがね、私の流儀には・・・しかし、変えられませんよ背に腹は。掃除する為にはね、そのゴミを」

治崎に対して辛辣な言葉を並べながら、奴は警官隊の包囲を躱して車の上に飛び乗る。

「貴様は・・・」

「これは・・・どういう事でしょうか」

「・・・マジかよ」

「ん~?」

何事かと駆け寄って来た自動人形(オートスコアラー)達が、ヤツを見て顔を曇らせた。

「おや、自動人形(オートスコアラー)達じゃないか、ディーンハイム君の」

「ッ!!」

人間讃歌男は、何とコイツらの前マスターの名前を言い当てやがった。まさかコイツ、シンフォギア世界の住人か?

「成る程、地味に納得だ。こんな一介の地味なヤクザに、アルカ・ノイズを派手に都合したのは、貴様らだったのだな」

ファラに手を借りて立ち上がり、レイアの情報から敵の警戒レベルを想定する。

アルカ・ノイズ・・・確か、兵器としての取り回しに重点を置いた改良型ノイズだったか。

それを作れるならば、かなり厄介な事は間違い無い。何より、この世界の限界の壁を俺みたいに容易く飛び越えてくる可能性がある。

「なぁ、名乗ってくれないか?何時までもスポンサーじゃ、呼び辛いだろ」

「おや、失礼しました。名乗っていませんでしたね、まだ」

警戒しつつ名乗りを要求すると、ヤツは丁寧に礼をしながら応じてくれる。

 

「私の名は――――――

 

 

 

 

アダム・ヴァイスハウプト、と言います」

 

その瞬間、俺の意識は暗転した。

 

to be continued・・・




~キャラクター紹介~

緑谷出久
主人公。ダウルダヴラをこじつけで完全起動して、尚且つ全シンフォニックメモリを同時稼働させるとか言うヤベーやつ。
因みにシンフォギア装者が同じ事をすると問答無用で絶唱顔になるだろう。
最近もう作者すらコイツが何なのか分からなくなってきた。最早理不尽と非常識の擬人化。
GGGスタイルのカイザーSKLモードでは真上枠。

芦戸三奈
出久の嫁。肉体派。
ジョーカーに適合した事もあり、フィジカルが中々強靭。
GGGスタイルのカイザーSKLモードでは海動枠。

八意永琳
えーりん先生。
裏設定だが、実は元々治崎と同じ立場、即ち八斎會の保護下にいた。
薬物を作れる個性ってどう考えてもヤベェ奴等に目を付けられるよねって話。しかも親も典型的なネグレクト系家庭だった感じ。それ故に自身を否定され嘲笑われる苦しみを知っているので、ウィリアムとアレクシアをサイドキック的な立場で保護している。
八斎會との共存を夢見てヒーローの道に転化。訳あり患者が多いのはこれが理由。
これにより、治崎からは裏切り者と認識されていた。
今回の件では節々に落ち着きを欠いたような仕草があったのも、優しくしてくれた八斎會を外道に堕とした治崎に腸が煮え繰り返っていた為。

切島鋭児郎
仮面ライダークローズ。
今回の件で出久と同等レベルでトントン拍子に進化して、炎の翼を手に入れた。
新形態の当て字は躯炉得徒(クローズ)真紅魔(マグマ)である。
原作よりも出力が低いが、そもそもパンチ力が素で尋常じゃないだろうからそんなに問題無さそう。寧ろ飛べるようになったから立ち回りが大変(作者的に)。
取り敢えず、文化祭までにはマグマ化させる予定だった。

治崎廻
オーバーホール。
最後の最後で見事に踏み台になり、ボッコボコに踏んづけられ、それでも尚許されず自分の作った個性破壊で個性を砕かれると言う哀れ過ぎる展開となった。まぁ罪悪感なんて欠片も無いけどね。
因みにこの後意識を取り戻すと、個性が消えた事に絶望し、更に自分も病人と蔑んだヒーローと同じく個性頼みで行動していた事をハッキリと認識してSANチェック大失敗。豚箱発狂エンドに落っこちる。

アダム・ヴァイスハウプト
戦姫絶唱シンフォギアAXZのラスボス。今作の彼は平行世界の別個体。
簡単に言うと、この世界の財団Xポジ。つーかこの世界より先に財団Xに接触しており、平行世界を見つける手引きをしたのがコイツ。緑谷火吹をマッドに洗脳したのもコイツ。もう大体コイツが悪い。
財団Xから吸収したメモリシステムとセルメダルを痛く気に入っており、これ等を中心に使う。
原作と顔、倒置法の喋り方は同じだが、丁寧語で話すし露出狂のナルシストでもなく、また厄介な事に自分が天才だと自覚して尚、精進の為に努力しているという、敵にするとこの上無くヤバいタイプ。
分かりやすく言うと・・・原作で起こる黄金錬成時の真っ裸化は、実は感覚だけで術をゴリ押していて自分への無害化を全くしていないせいである。しかも火属性しか使っていない。あれも多分単純にお気に入りなだけ。
これが努力した結果・・・自分への無害化も完全に済ませた上で、原作以上の練度の錬金術が火水風土の全属性で完璧に飛んでくる。
結論・・・地 球 壊 れ る 。

~用語紹介~

GGGスタイル
シンフォニックメモリのてんこ盛りフォーム。
両肩がガングニールの槍、悪人面のクラッシャーは神獣鏡のバイザー、右腕がガングニールβ、左腕がアガートラーム、フロントスカートがイチイバル、脛がシュルシャガナ、脹ら脛から足の先にかけてがイガリマ。
アメノハバキリは背中のケイオスクランダーのフェザープレートと、尻尾の先端の顔部分。原作のウィルナイフに相当する。
ガオガイガーをベースに、他のスーパーロボットのバトルスタイルも使える。
しかし、モードチェンジの際にはそれぞれ特殊なモーションを取る必要がある。
ジェネシックモードは、拳を打ち合わせて上に振りかぶり左右に振り下ろすというモーション。ガオガイガーのファイナルフュージョン完了時の動き。
カイザーSKLモードは、キリモミ回転しながら急降下して轟音と共に乱暴にスーパーヒーロー着地する。これはスカルパイルダーのパイルダーオン。

ガザンブレイド
ケイオスクランダーの尻尾がまるごと変形した大剣。アメノハバキリの要素。
カイザーSKLモード全般にてアンロックされるが、大体三奈が使う。
形としては、原作の牙斬刀が少し鱗っぽくなったような感じ。峰のスパイクが尖った節で代用されてる。
基本、斬ると言うより鈍器として圧断する感じ。一度凪ぎ払えばもう既に大惨事。
また、ウイングクロス状態ではイチイバルの超高出力フォニックリアクターと直結し、圧縮されたフォニックゲインを雷に転換して撃ち放つトールハンマーブレェカーが解禁される。

スカートリガー
【挿絵表示】

フロントスカートとしてGGGスタイルに装着される追加武装。イチイバルの要素。
カイザーSKLモードの更にMAGAMIモードにてアンロックされ、それ以外では使えない。
原作通りのファイアパワーに加えて、エネルギーを結晶化した弾丸を撃ち出すので使用者の喉が渇れない限り無限に撃てると言うアーカードの旦那もニッコリなコスモガンになっている。
原作のブレストリガーの唯一の僅かな隙が一瞬のリロードだったのに、それすら取っ払った敵さん涙目の変態ハンドガン。
尚、ウイングクロス状態では原作同様にパルスビームモードが解禁。並の硬質化個性や防御特化ドーパントさえ数発で一生再起不能にするようなメーザービームがグロック18も真っ青になるような連射速度、しかもほぼ無反動で雨霰のように正確無比に飛んでくる。絶望する暇すら無くミンチより酷い状態になるので、まぁある意味思い遣りがある武器と言えない事もないかも。
因みに二つを連結するとスナイパーライフルモードになる。何故かって?クリスちゃんがライフル鈍器やったからだよ。つまり使い方は大体お察し。ガザンブレイドと二刀流された日にはもう歩く剥き出し巨大ミキサーになるんじゃないか。


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第32話・骨休め/Pの謎

『今回、少し描写を前倒しして出久の覚醒を早めようと思います』
「活動報告も見てね」
『アイディア下さい。因みにPはファントムです』
「ではどうぞ」


(出久サイド)

 

あぁ、これは夢だ。

そう感じた。理屈で無く、なんと無くだが、妙な確信があった。

周囲がぼんやりとだが見えてきて、周囲が淡い火に照らされる夜の色だと分かる。

(何だ?こんな夢は初めてだ・・・)

正直、俺が見る夢は大体が明晰夢だ。だが今回は、今までの明晰夢とは違う。

動けないのだ。

身体を動かせない・・・否、身体がそもそも()()。感覚からして両の眼と耳、右手はあるが、それ以外は無いらしい。

視線は動かせるので周囲を見渡すと、複数の人影が見えた。

スーパーウーマン的なコスチュームを着た美女、黒革ジャンを着て無精髭を生やしたスキンヘッドの男。それに俺らと同年代かちょい上程度に見える若い黒短髪の男に、目元の涙ラインが特徴的な男。そして・・・他よりボヤけてるが、あの帯状になった2房の前髪。間違い無く、若い頃のオールマイトだろう。

他にも、黒くボヤけたシルエットが2つ。

(これは・・・夢、じゃない。鮮明な、人格?意思?ワンフォーオールの因子に、埋め込まれてるってのか?)

 

――ビキッ――

 

(いっ!?)

不意に、鋭い頭痛が襲う。夢の中だというのにお構い無しに降り掛かったそれは、しかし、ただの痛みでは終わらない。

記憶だ。痛みと同時に、膨大な風景や映像が脳内に流れ込んで来た。

(ぐッ・・・ぬぅぅッ・・・!)

意識にしか無い奥歯を噛み締め、激痛に耐える。幸いな事に、どうやら流れ込んでいるのは一人分らしい。ギリギリだが、処理は間に合っている。流石に内容までは覗けていないが・・・

(・・・っと、ここで一旦打ち止めか)

始まりが唐突ならば、終わりも唐突。激痛を伴う記憶のインストールは、何の前触れも無くピタリと止んだ。

『君が、9人目だね・・・』

(ッ!)

いきなり聞こえた声の方に振り返ると、闇の中から痩せ細った男が歩いて来る。

見るからに虚弱で、今にも死にそうに見える男だ。

『出来れば、もう少し見せてあげたかったんだが・・・まだ、20%なんだね。

気を付けて。()()()()()()()()()()()

でも、大丈夫――――』

差し出される右手。それに答え、俺も手を差し出す。そして俺はその手を・・・

『――――君は、独りじゃない』

掴んだ。

 

―――

――

 

―CRASH!!―

 

「ずおっ!?」

急な衝撃と轟音に、俺は変な声をあげながら飛び起きる。

見てみれば、俺が寝かされていたベッドと掛け布団がボロボロに千切れとんでしまっていた。

「うっわ・・・何がどうなって・・・?」

今まで、こんな事は無かった筈なんだが・・・

「出久君ッ目覚めたのッ!?」

ドタドタと足音を響かせ、ガラッパーンと見事に音を発てながら襖を開きえーりんが入って来る。

そうか。ここ永遠亭か。

「って、どうしたのこれ!?怪我は無い?大丈夫!?」

「あー、えーりん落ち着けって。

一応、俺は大丈夫。派手に()()()()()()()()()()()けど」

「・・・プッ、貴方って、駄洒落とか言うタイプだったのね」

「最近ちょっとジョークが達者になってきたんだよ」

さて、えーりんがちょっと笑ってくれた所で・・・どうしたもんかなぁ、コレ。

「ちょっとー、何の音よ~!」

「おぉ、わりぃな輝夜」

なんて考えてる間に、また部屋に新顔が入って来た。

蓬莱山(ほうらいさん)輝夜(かぐや)。此処で保護されている美少女。

濡れ羽色の黒髪を長く伸ばしており、顔も整っている。体型は三奈やフランと比べて慎ましやかだが、しっかり引き締まって健康的だ。

「って、出久君起きたの!?」

「あぁ、今し方な・・・っあ゙~、身体中がバッキバキだ」

凝り固まった身体を捻れば、全身の関節から折れてるんじゃないかって思うような音が鳴り響く。

「そりゃそうでしょ。3日寝てたのよ?」

「・・・え、3日?そんなに寝込んでたのか?俺・・・いぃてててっ、肩が回らん・・・」

寝たきりだったせいか、肩や腰、股関節がガチガチに固まってしまっている。

「えーりん、ちょい風呂場借りて良いか?」

「え?えぇ良いけど・・・あ、着替え預かってるの。置いときましょうか?」

「おぉ、頼むわ」

俺の頼みに頷き、バタバタと出て行くえーりん。一方俺は輝夜に案内してもらい、風呂場に向かった。

「よし。サンキューな、輝夜」

「別に良いわよ。お安いご用」

嬉しい事を言ってくれた輝夜と別れ、俺は脱衣所をスルーして風呂場に入る。

【オーシャン!】

そして着せられている病院着をはだけ、首元にオーシャンメモリを挿入した。

すると俺の身体は透き通り、青っぽい流動体になる。そして身体を波打たせながら、ストレッチ開始。

思った通り、この状態なら伸びる伸びる。

で、伸ばした状態で固体化する事で引き伸ばし完了っと。

「ガイアメモリの何が便利って、こう言う応用が幾らでも利く所だよな」

一通り身体を解したら、メモリを引き抜いて半ドーパント態を解除。そしてまた身体の具合をしっかり確認して、ふっと軽く息を吐いた。

(それにしても・・・あの記憶、少し読み解いて見るかな)

「出久君、服此処に置いとくわよ」

なんて思ってみた所、ある意味タイミングバッチリにえーりんが着替えを持って来てくれた。まぁ、仕方無いか。解析は後にしよう。

 

―――――

――――

―――

――

 

あの後、簡単な検査を受けて異常無しと診断されたのでそのままハイツアライアンスにボイルダーで帰って来た。もう暗くなっちまったけど・・・

因みにミリオ先輩は永遠亭でT-ウィルスを使った個性復元治療の最中だった。えーりん曰く、元からタフな人だったから2、3日で動けるようになるだろう、との事。

 

それはさておき。

 

「帰ってきたァ!!遂に奴が、帰ってきたァ!!」

「「出久ゥ~ッ!」」

えーりんには連絡は入れて貰ってるが、それでも皆大騒ぎだ。

取り敢えず、俺の胸に飛び込んで来るお姫様2人を抱き止める。

「悪ぃ、心配掛けたな」

「ホントだよッ!」

「私達は一晩寝ただけで平気だったのに・・・」

「逆に凄くね?それ」

あんだけ無茶してたった一晩か・・・GGGスタイルの負荷は、俺が全部背負い込んじまったって事か?

「にしても、ホントお前ら毎回スゴい事になって帰ってくるよな。こえぇぜ流石に」

「あぁ、うん。流石に今回は上鳴の言う通りだな。ぐうの音も出ん」

「いや今回()、だろがバカタレ」

そう言いながら、かっちゃんが俺の頭をベシッと叩く。

「あ痛ッ・・・確かに。振り返ってみりゃ、もう高校の時点で大冒険だよな。

USJが襲撃されるわ、職場体験でヒーロー殺しとカチ合うわ、挙げ句林間合宿中に誘拐されて人体改造だもんなぁ・・・

えっ?俺の運命、波乱万丈過ぎ?」

「なんてもんじゃないね」

「其処らの漫画の主人公よりカオスだよ」

漫画の主人公、ねぇ・・・

多分、と言うかほぼ間違い無く、デップーがちょいちょい干渉してる観測世界から見たこの世界の主人公は俺だよな。何せ、あらゆる因果が何もかも俺中心に回ってる。

いやはや全く、これからどうなるやら・・・

「あぁそうだ!ヒーロー殺しと言えば緑谷君!朗報がある!

遂に兄さんが、来月退院する事になったんだ!」

「おぉ、そう言えば順調に回復してるんだったな。そりゃ良かったなぁ飯田」

俺とした事が忘れかけてたが、飯田の兄のインゲニウムの脊髄損傷の回復を促したのも俺だ。多分奇跡扱いだろうがな。

「さて、今日はここまでにしよ!出久もピンピンしてるけど、一応しっかり慣らさなきゃだろうし!」

「うむ、芦戸君の言う通りだな!では全員、此処で解散だ!」

飯田の取り仕切りの元、ロビーでは一旦解散。俺達は各自の部屋に戻った。

現在、午後6時30分。取り敢えず、オールマイトに気掛りなあの夢の事を聞きたい。

【ゾーン!マキシマムドライブ!】

ので、教員室にテレポートして来た。

「すいませーん、オールマイト居ます?」

「あら、緑谷君。お帰りなさいね、無事で何よりよ。

オールマイト先生はお見舞いね、サー・ナイトアイの」

「あぁ、そうですか。情報ありがとうございます。失礼しました~」

ミッドナイトから情報は貰った。えーりんからサーの入院先は聞いてある。

【ゾーン!マキシマムドライブ!】

再びゾーンを使い、サーがいる病院の前にテレポート。受付で部屋をちゃちゃっと聞き出し、其方に向かった。

「此処か」

1階、508号室。名前の所に佐々木未来(サー・ナイトアイ)と書かれているので間違い無い。

 

「彼ならば・・・私が視た貴方の未来も、覆せるかも知れない」

 

サーの意味深な言葉が聞こえ、俺は扉をノックしかけていた右手を止めて気配を消す。

 

「あぁ、きっとひっくり返してくれるさ。それに、少しだけだけど最近はお酒も飲めるようになってきたんだ。君と緑谷少年を交えて盃を酌み交わすまでは、オチオチ死んでも居られんさ」

「ハハハ、それは良い。安い居酒屋で、ボンジリ串でも肴にしながら飲みましょう。約束ですよ?」

 

雰囲気的には微笑ましく感動的なシーンだが・・・気になったワードがある。

()()()()()()()()()』、そして・・・『()()()()()()()()()()()()()』。

あ~・・・つまり、あれか?サーはオールマイトの未来に、死のヴィジョンを視たって事か?

となると・・・あのオールマイトヲタクのサーが、サイドキックを止めた理由も想像がつく。恐らく、オールマイトの延命や活動休止を望んだサーを、彼自身が突っぱねたんだろう。あの人の事だ。どうせ『自分が戦わねば誰が戦う』的な事を言ったんだろうな。

あ~ぁあ、そら気まずいわな。自分を心配してくれた時は突っぱねておきながら、後継者が出来ればそれの育成に付き合わせる。端から見れば、滑稽な程に虫のいい話だ。

だがそれ以上に、少~し、いやか~な~り腹が立ってきた。

「じゃあ、うちで宅飲みなんてどうだい?ヴィンテージ物のワインとかもあるぜ?」

「「ッ!?」」

なのでスルリと扉を開け、片頬を吊り上げながら会話に加わる。

「緑谷・・・」

「緑谷少年ッ!何時からそこに!?」

「『彼ならば私の視た貴方の運命も~』、って所から。所でさぁ、()()?」

普段とは違う俺の呼び方に、オールマイトは怪訝そうな顔をする。そんなオールマイトに、俺は帽子をとって眼を合わせた。

「な、何だね緑谷少年、急に・・・」

「俺に何か、言うことがあるんじゃ無~い?」

「えっ・・・ッ!?」

俺の問いに一瞬呆け、次いで脂汗を滲ませ硬直するオールマイト。

当然だ。俺は今、怒っている。彼の目には、微笑む俺の背後に阿修羅か不動明王か閻魔大王でも浮かんでいるだろう。

「あ・・・あっ、あの、その・・・えっ・・・と・・・」

何か弁解でも立てようとしたらしいが、それもすぐに不可能と悟って押し黙る。全く、人外の域に飛び込んだ狂気の英雄様が今やこれだよ。

「さっき、サーは何て言ったっけ?私の視た貴方の運命、だっけかねぇ?で、あんたはこう答えた訳だ。『オチオチ死んでも居られんさ』、ってね。

あっれれぇ?そんな重要そうな話を聞いた記憶、俺には一切無いんだけどなぁ~ぁあ?俺の記憶違いか~な?」

「あ、あばばばば・・・・・」

オールマイトの顔がどんどん蒼白になっていってるのは、多分義眼の光に照らされているせいだけでは無いだろう。何せ白眼剥いて泡吹いてる。

「まぁ、話の流れからして大体想像はつくさ。サイドキック時代にオールマイトの死を予知しちまったサーが引退だか休止だかしろっつって、それをオールマイトが突っぱねたとか、どうせそんなとこだろ?」

椅子に座って縮こまっていたオールマイトが、今度は床に正座して更に縮こまる。何処まで縮むか見物だがそれはそれで、これもう図星だな。間違い無い。

「・・・あぁそうだ。概ね、貴様の言う通りだ緑谷」

「やっぱりな」

サーが呆れ顔で溜め息と共に肯定する。

「まさか、後継者に話していなかったとは・・・」

「ホントそう言うとこだぞアンタ」

「め、面目無い・・・」

反省の言葉と共に、一粒の涙すら溢すオールマイト。全く情けない限りだ。

「全く、貴方は何時もそうだ。何故そこまで自分を蔑ろにするんですか」

「アンタから印を奪った時言ったろ?無個性に生まれて化け物や兵器が背負うべき《平和の象徴》なんて称号を背負っちまったせいで、戦う事でしか己の存在価値を証明出来なくなったのさ。自分にはそれ以外無いってな」

「ぐっ・・・」

俺の指摘に、オールマイトは呻いた。否定出来ないんだろう。

「まぁ、このお説教の続きは今度に回すとして・・・今回ちとばかし、ワンフォーオールについて聞きたい事があってな」

そのワードに反応し、2人の顔が引き締まる。

「何か、あったのかい?」

「あぁ。心当たりを聞きたい」

そして俺は、寝ている間に見た夢・・・そして、流し込まれた記憶の事を話した。

超常黎明期の混沌、それを纏めたオールフォーワンのカリスマ、初代ワンフォーオール。そして、歴代継承者の姿も。

「そして何より・・・彼は明確な意思を持って、俺に語り掛けて来た。

『特異点は過ぎている』・・・個性の進化が極まった時、その暴走によって世界が滅ぶっつぅ終末論があるが・・・それの事なのかは分からん。

つか、ぶっちゃけワンフォーオール抜きにしても現時点で恐らくシンギュラリティに最も近いのは俺だろうな」

あらゆる事象、現象、伝承、概念を力として使える訳だし。

「うぅむ・・・私も歴代の面影を見た事はあった。曰く、私の先代、お師匠も見たらしい。

だが、それは所詮面影だ。意思や、ましてや自我などは、私が知る限り存在しない筈だ」

「フム・・・その面影ってのは、胎児が母の感情や感覚を感じ取り、生後もそれを覚えているって現象に近い感じがするな。

だが、意識や人格が受け継がれても何ら不思議では無いと俺は思う。ホラ、聞いた事ぐらいあるだろ?心臓移植による記憶や人格の複写・・・」

確か、心臓には脳と同質のニューロンがあるから、そこにあった記憶が現れるとか何とか。まぁ今でもハッキリと解明はされてないが。

「心臓でさえそれなんだ。なら、普段から意識そのものが深く絡む個性因子、個性神経に人格が宿っても、何ら可笑しくない」

「確かに、一理あるか・・・」

無事な左手を顎に当て、フムフムと考え込むサー。

だが、あいにく話はこれだけじゃない。

「それと、眼が覚めた時・・・一瞬だが、ワンフォーオールが暴走した」

「ッ!」

「何だと!?」

「安心してくれ、怪我は無い。寝てた布団はズタズタになったがな」

「そ、そうか。良かった・・・」

おや、オールマイトは気付かなかったか。

「・・・待て緑谷。貴様、今『布団()』と言ったな?布団だけがズタズタになったのか?」

流石はサー。気付いて欲しい事に気付いてくれる。

「あぁ、布団だけが、だ。たった数%で人を吹っ飛ばすワンフォーオールが暴走したにも関わらず、壁や窓は無傷だった」

「ど、どう言う事だ?」

オールマイトは理解が追い付かず眼を丸くしている。まぁ良い。解説しよう。

「ワンフォーオールの能力は、平たく言えば《身体能力の生物濃縮》。此処まではご存知の通りだが・・・個性だって、()()()()だよな?」

「ッッッ!!?」

今度は眼を点にしたか。漸く理解したらしい。

「つ、つまり、歴代継承者の個性さえも受け継いでいる、と言うことかね!?」

「まだ仮説段階だがな。しかし、可能性は高い」

椅子から立ち上がり、ポケットに手を突っ込む。そして帽子を被り、病室の扉に手を掛けた。

「あぁそうそう、オールマイト」

「なっ、何だね?緑谷少年」

「アンタのお師匠さん。えらく美人さんだな。何処と無く、俺の母さんに似てる」

「・・・フフッ、だろう?」

一瞬ポカンとし、しかしすぐにサムズアップするオールマイト。

彼等を残し、俺は病室を跡にするのだった。

 

to be continued・・・




~キャラクター紹介~

緑谷出久
今でも異常なまでに強いのに、更なる強化フラグが建った化物主人公。
原作では文化祭後だった強化フラグが、アダムのプレッシャーで引っ張って来られた。
一応、近い内にアダムに関しても情報を集める予定。

蓬莱山輝夜
Phase1の時から存在だけは出ていた、永遠亭の住人。中卒。
個性は《位相差空間》。世界の一部に、座標が対応した別次元の空間を作り出す能力。許可を得ている者、ないし物は普通に歩くだけで入り込めるが、されていないものは輝夜、または許可されたものに接続状態で招き入れられないと入れない。
ぶっちゃけマン・イン・ザ・ミラーの反転してないバージョン。因みに作れる空間は1つだけだが、解除しない限り消えない。スタンドで言うなら自動操縦型に近いものである。

サー・ナイトアイ
世界の因果律から外れているデップーのお陰で、右腕を失いながらも生還した男。
今回にてオールマイトと一応和解。しかしヒーロー活動は続けられるかは怪しいので、事務所は原作通りセンチピーダーに継がせてサポートに回る予定。

通形ミリオ
個性破壊弾を撃ち込まれたが、T-ウィルスのDNA修復能力で復活しようとしている。
このままT-ウィルスを保有し続けるか、ウィルス死滅剤デイライトを投与して普通の人間に戻るかは未定。
多分保有者になるかなぁ?

オールマイト
説明不足を後継者から説教されて縮こまった、無様な英雄。
ホントそう言うとこだぞ。


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第33話・目覚めるW/化生の異能

『どうも。ヒロアカのコミック23、24巻を買って、出久の扇動能力と丸かぶりの能力持ったキャラが出てきてビビったうp主です』
「ピンクの三奈ちゃんとピンクだったミーナさん然り、ギアッチョの声しかり、お前って時々こう言う天運は恵まれるよな」


(出久サイド)

 

「うぅ~ん・・・ダメだ。如何せん、キーワードが少な過ぎるな」

真っ白な地球(ほし)の本棚で、俺は溜め息混じりにボヤく。

永遠亭での個性事故を思い出し、まずワンフォーオールには筋力の生物濃縮だけでなく個性の保存と言う側面もあると言う仮説を立てた。問題は、キーワードが無さ過ぎて保存されているであろう個性の情報まで到達出来ない事だ。

と言っても、オールマイトの先代である志村菜奈は名前が絞れていたので個性は判明した。この情報のソースがオールフォーワンのオールマイトを跪かそうとした言葉だったのは、皮肉が利いてると言うか何と言うか・・・

で、判明した彼女の個性は《浮遊》。空中に浮き上がる個性だったらしい。

しかし、個性についてはそれだけだった。やはり、鍵が足りない。

「・・・ん?志村、()()?」

菜奈・・・ナナ・・・7?もしかして・・・

「オールマイトは、()木、俊典・・・そして俺が、緑谷、出()・・・7、8、9・・・丁度俺で、9代目・・・」

・・・何て事だ。俺達は、名前レベルで因果律に縛られているらしい。全く、創作物として観測・干渉されまくってる事を証明する材料はポンポン出て来やがるな・・・

「つーか、そもそも本名が既に個性を表してる人間ばかりだな。

《爆豪》勝己、轟《氷火》、《芦戸》三奈・・・《上鳴電気》なんかまんまだな。電気なんて名前付けねぇだろ普通・・・しかも、仁とかデップー曰く複雑に絡み合ったクロスオーバー時空らしいし・・・」

いかんいかん、ドツボに嵌まるわ・・・ん?クロスオーバー?

「クロスオーバー・・・接点・・・交わる・・・あっ」

・・・もしかしたら、俺の嫁達が俺みたいな化物になるかもしれない・・・

 

―――――

――――

―――

――

 

「ヒュゥゥゥゥ・・・シュゥゥゥゥゥゥ・・・・・」

昼の訓練。俺は上裸生身で高台に登り、深呼吸しながら腰を落とす。そして両手は腹の前でスイカを抱えるような形にし、同時にワンフォーオールを3%で全身に巡らせた。

「ヒュゥゥゥゥ・・・シィィィィィィィ・・・・・」

体勢をキープしたまま、ワンフォーオールの出力を僅かずつ上げていく。30秒で1%のペースだ。

「なぁフランちゃん、緑谷あれ何やってんだ?」

「中国の站樁功(たんとうこう)をアレンジした、制動的トレーニングだって。ちょっと能力の調子がおかしいからって、ああやって感覚を掴み直してるんだよ」

グレートクローズの疑問に、タブーが答えてくれる。

「そっか。じゃあ邪魔しちゃわりぃな」

「そうだね。暫くしたら、あたしも相棒として手伝うし」

頼もしい事を言ってくれるじゃあないか、三奈。

 

―――

――

 

「三奈、ドライバーを」

「ん、分かった」

三奈がダブルドライバーを装着し、俺の腰にもそれが現れた。俺達の意識はベルトを介して接続し、互いの感覚を共有する。

(ワンフォーオールのこの感覚、分かるな?)

(ん、何と無くね)

(なら大丈夫だ。俺の感覚を追ってくれ)

(分かった)

三奈に指示を出し、胸の前で腕をクロス。三奈からも同じようにクロスした感覚が送られてくると、ワンフォーオールの意識を持続から瞬間火力に切り替え、全身へと一気に行き渡らせる。

「ヘェアッ!」

此処では知る人は殆んどいない光の巨人のような掛け声と共に、ワンフォーオールを流し込んだ。

「5%・・・アーマードッ!」

まずは、普通の人間でも骨折はしない程度の5%で出力。そして三奈の方を見てみると・・・

「うわっ!?」

・・・予想通り、全身にワンフォーオールを纏っていた。

「こ、これって・・・」

「あぁ、俺の()()()()()だ」

(遺伝子を取り込ませる事で、次世代に託すワンフォーオール・・・だが俺達は、融合と分離を繰り返す中で、この力を共有しちまったらしい。

もっとも、それだけが原因とは限らんが・・・な)

(ま、マジか・・・)

(まぁ、幸い三奈はライダーシステムを俺と共有してる上、使ってるメモリも発動エフェクトや性質の似たジョーカーだからな。俺と同じハイドープに覚醒したと言っとけば、幾らでも誤魔化しは利くだろう。

それに俺と言う複数能力覚醒の前例がある分、後でホントに別のハイドープ能力に覚醒しても《そんなもんだろ》でゴリ押せるしな)

(あ、アハハ~、ラッキーっちゃラッキーだねぇ)

ワンフォーオールを納め、ドライバーを外させる。パッと見てみるが、恐らく身体は破壊されていないだろう。

ジョーカーに適合してるお陰で多少頑丈とは言え、ワンフォーオールは俺が補助輪してても危険っちゃ危険だからな。

「じゃあ、ジョーカーに変身して感覚を掴んでくれ。俺はフランも確認する」

「おっけ~♪変身!」

【ジョーカー!】

三奈がジョーカーに変身すると、紫の波紋に僅かだが赤の稲妻模様と緑の放電が混じる。どうやらジョーカーにも合っていたらしい。

「うっ・・・これ、ムッズイなぁ!」

「俺が耐えられるのは20%までだ。まずは落ち着いて、さっきと同じ5%で手綱を握れ」

「合ッ点ッ承ッ知ッ!テャアッ!」

気合いを込めて、ワンフォーオールを維持したままブレイクダンスを始める三奈。

流石だな。殆んど乱れてない。

「無理はするなよ。

オーイ、フラ~ン!」

「何~?」

俺の呼び掛けに、タブーに変身したフランがパタパタと飛んで来る。

「タブー、ちょっと試したい事がある。変身状態で、ちょっと吸血してみてくれ」

「えっ?良いけど・・・」

「あーあと、首筋に噛みついたまんま少しの間保持してくれ」

「ん、分かった」

そう言って俺は胡座をかき、太股をポンポンと叩いた。

タブーは遠慮無くそこに座り、俺の首筋に牙を突き立てる。

「ん゙っ・・・やはり、な」

前々から思っていたが、フランに吸血される時は普通に触れ合うよりも、もっと根本的な部分で接続しているような感覚がある。血を命の通貨として魂の遣り取りをする吸血鬼だからか・・・

(んふぅ・・・出久の血、美味しい・・・大好きぃ❤️)

そしてそれを裏付けるように、フランの思考が俺に逆流してくる。前まではこんな事は無かったが、最近気付いた事だ。

恐らく、吸血で取り込まれたワンフォーオールの因子や俺の魂の欠片が、リアルタイムで意識の遣り取りをしているんだろう。

(フラン、聞こえるか?)

「ッ!?」

俺が伝えるつもりで念じると、フランは驚いて口を離そうとした。すかさず頭に手を添え、押さえて落ち着かせる。

(落ち着け。取り敢えず聞こえてるな。実験を第2段階にシフトしよう)

俺が伝えると、フランも落ち着きを取り戻した。

それをしっかり確認して、俺は地球の本棚に入る。

「・・・よし」

真っ白な空間に、無量大数の本棚が浮かぶ何時もの光景。

そして何時もと違うのは、此処にフランがいる事だ。

「うぇっ?此処は?」

「地球の本棚だ。やっぱり引っ張り込めるみたいだな」

「そ、そっか、此処が・・・」

状況を何とか呑み込んだフランは、周囲をまじまじと見渡す。

にしても、地球の本棚に入れる人数がかなり増えたな。NEVERの皆で5人、俺を経由すれば、限定的にだが三奈とフランも入れるから3人、計8人か。

「でも何で?私、ダブルドライバーで繋がってないよ?」

「多分、他者の魂と接続し同化するっていう吸血鬼(ヴァンパイア)の本質からだろ。あと俺の個性も特殊だしな」

・・・そう言えば、フランにワンフォーオールの事を全く説明してなかったな。しまったしまった。

「あれ?出久って確か無個性じゃ・・・」

「神野事件の後、オールマイトから受け継いだ」

「・・・はぇん?」

おっと、フランが宇宙猫になった。ちっちゃと説明しよう。

「あー、今の所、雄英生じゃ三奈しか知らないんだがな。

個性の名はワンフォーオール。DNAを体内に取り込ませる事で次の世代に渡し、これを繰り返して身体能力を生物濃縮させていく個性だ」

「・・・わぉ」

あー、まぁ流石のフランでも、この情報量は混乱するわな。

「あ、ちょっと待って?DNAを取り込むって・・・私達、諸該当してない?」

「勘が良いな。その通りだ。

血液、唾液、その他諸々・・・まぁハッキリは言わんが、バリバリ摂取しまくってるな」

「あー、うん・・・」

若干気まずそうに頬を赤らめつつ、ふいっと目を逸らすフラン。まぁそうなんのも当然だな。

「あー、話を戻そう。今フランの中には、ワンフォーオールの因子がある筈だ。俺が《譲渡する》とハッキリ意識しなければ、継承はされないらしいがな。

ある程度感覚が共有している状態である今、俺から発破を掛けてその因子を覚醒させる。それを使えば、お前の焦りも解消されるだろう」

「ッ!」

ギクッと震えるフラン。

「・・・何時から気付いてたの?」

「カマ掛けてみて良かったよ」

「はぁ!?」

そう、ブラフだ。だが、自分をフランの立場に投影してみれば、そんなに難しい話じゃない。

自分は相手の第二夫人。しかも正妻はダブルとして相手を最も近くで支えている。更に最近はジョーカーとの適合率も上がってきているから、自分がいなくても同じなんじゃないか、と言う思考に悩まされている・・・と言った所か。

「まぁ、お前の焦りがどういうものかは理解してるつもりだ。俺が気にするなと声を掛ける程度じゃ無駄だと言う事もな。

だから、お前を新たに進化させる。そうすれば、アイデンティティも回復して精神的な余裕が出来るだろう」

「そんな事も出来るの!?」

「当たり前だ。俺を誰だと思ってる」

そう言って、俺はニッと片頬を上げて見せる。

「俺の(こん)の情報は、血液と言う(はく)を通してお前の体内にも宿っている。

そしてお前は吸血鬼(ヴァンパイア)、血液を通貨に他者の魂魄を取り込む事こそが本質である不死の君(ノスフェラトゥ)だ。取り込めるなら、共有だって出来る筈さ」

「・・・分かった!やってみる!」

フランのやる気は充分。さて、やってみるか。

「じゃあ、現実世界に戻ろう」

「うんっ!」

 

―――

――

 

「で、具体的にどうすれば良いの?」

俺の首筋の唾液を拭き取りながら、フランが聞いてくる。

「取り敢えず、実験的に俺がフランの血を吸ってみようと思う。ノスフェラトゥと対等なのは、そのノスフェラトゥに血を吸われ、またその血を吸った者だけだと言われているからな。

俺の場合、お前の中には俺がいるから、お前の気持ちが一方通行にボンヤリとだが伝わる。まずはその回線をキッチリと繋ごう。無理だったらそん時に考える」

「・・・ねぇ、それって出久が吸血鬼(ヴァンパイア)になるって事じゃないの?」

「・・・」

まぁ、確かに吸血鬼(ヴァンパイア)に吸われた人間も吸血鬼(ヴァンパイア)食屍鬼(グール)のなるとは言われてるがな・・・

「うーん、吸血姫(ドラキュリーナ)に血を吸われて吸血鬼(ヴァンパイア)に変貌するのは童貞だけらしいし、一線超えた後も普通に血を吸われて平気だったから大丈夫じゃねぇかな」

「あー、成る程・・・じゃあ、どうぞ?」

サイドテールを右手で後ろに退かし、左手で服の襟をクイッと引っ張るフラン(タブー)

「・・・有り難いけど、一応変身解除しようか。ガイアエナジーが混ざってるとどんな反応が起こるか分からん」

「あっ、そっか」

フランはドライバーを閉じ、メモリを引き抜いて変身を解除した。

そして改めて差し出された首筋を見てみるが・・・何だか、妙に唆るものがあると言うか・・・

「・・・取り敢えず、エターナルエッジで浅く傷付けるから。動くなよ?」

「うん・・・」

了解の意を示し、軽く眼を瞑るフラン。そのシミ1つ無い美しい首筋に刃を滑らせ、紅の一文字を作る。

「んっ・・・」

微かに呻くが、しかしフランは耐えた。俺は傷口にキスを落とすように口を当て、溢れてくる血液を吸い出し嚥下する。

 

―ドクンッ―

 

不意に、俺の心臓が強く脈動した。そこから何かが身体に染み渡るような感覚があり、体内を何かが走る・・・いや、変わっていくような気がする。

「・・・あれ?」

「ん?どうかしたか?」

フランが唐突に呆けた声を出し、俺は首筋から口を離した。

「何か、出久の気配が変わったような・・・」

「・・・確かに、俺も身体に違和感が・・・」

しかし、この違和感には覚えがある。これは・・・他者と自分が、共有される感覚。ダブルドライバーで三奈と接続した時に近いものだ。

フランと回路が繋がったからか、とも考えたが・・・それもあるものの、それ以上に別の何かを自分の中から感じる。

「・・・まさか、継承者達の魂か?・・・確かめてみるかな」

拳を握り、ワンフォーオールを発動。すると、明らかな感覚の違いが浮き彫りになった。

何と言うか、見よう見まねでやってた動作の正しいやり方が分かって、どの筋肉を意識すれば良いかを理解したような、そんな感覚。

「・・・よし、一晩馴染ませよう。正直、馴れない感覚に酔いそうだ・・・もし今夜部屋に突撃したらゴメンな?」

「あー・・・三奈ちゃんには私から言っとくよ」

「助かる・・・」

全く、ガイアメモリで身体が変異する時は何ともない癖になぁ。どうなってるんだ・・・

ん?何と無く歯茎がムズムズするような・・・まぁ、胸騒ぎはしないし、大丈夫か・・・?

 

to be continued・・・




~キャラクター紹介~

緑谷出久
新しい変なフラグが立った化物主人公。
ワンフォーオールの解析が原作よりかなり順調。しかもハイドープ能力があんだけあるから、後付けで新しい能力が発現しても軽く引かれるだけで済むと言う可笑しな状態になっている。

芦戸三奈
出久の嫁にして半身。
うん、まぁ、エクストリームで身体も融合してるし、その上あ~んな事やこ~んな事とかもうヤる事ヤッちゃってる訳で、そんなこんなでワンフォーオールを共有する事になった。
因みにジョーカーの適合体質で以前より身体が丈夫になっている為、一応10%までならほぼノーダメージで扱えるかなーと言う感じ。

フランドール・スカーレット
出久の第二夫人である吸血姫(ドラキュリーナ)
今回の一件で、かなり久々に強化フラグが立った。今までは未覚醒で、魔力は使えるけど吸血鬼っぽい事は殆んど出来なかったが・・・
因みに、吸血鬼の性質等はHELLSINGの設定を使っている。


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第34話・Fの計画/蠢く組織

「まーた派手に間が空いたな」
『わりぃわりぃ。補食少女の方が難産だったんだよ』
「どーにかならんのか」
『ならんならん。
あ、今回新キャラが出ます。
タイトルはFESTIVALのFね。ではどうぞ』


「っは~・・・結構、鈍っちゃったなぁ」

公園で運動後のストレッチをこなしながら、ガタイの良い青年・・・通形ミリオは、彼にしては珍しく表情を曇らせながら呟く。

Tウィルス投与による、破壊された個性因子の復元オペレーション。地獄のような高熱や痒み、空腹も等の昔に鳴りを潜めたが、それでも定着しきるまでに日にちが掛かった。そのせいで落ちた身体能力を取り戻す為、リハビリとして公園で身体を動かしているのだ。

「ふぅ~。さて、今日は此処まで・・・ん?」

汗を拭いながら公園から出たミリオの眼に、1人の女性が留まる。

色白で整った顔と、服と同じ深い青色の髪。そして∞マークを思わせる特徴的な髪型に、今時珍しい簪を刺していた事も理由になるだろう。だが一番は、彼女が手に持ったメモと周囲とを頻りに見比べている事だった。

「どうかしました?道に迷ったんですか?」

その挙動から道に迷っていると判断し、ミリオは彼女に声を掛ける。一方その女性は、困ったような、しかし何処か嬉しそうな笑みを浮かべ答えた。

「あ、ハイ・・・ちょっと知り合いに会いに来たんですけど、待ち合わせ場所が判らなくて・・・スマホも充電を忘れてて、ナビが使えないんですよぅ」

眉を八の字にし、少し大袈裟な身振り手振りをして見せる。妖艶な美しさを持つ身体でのボディランゲージは、見る者にあざとい印象を与えるものだ。

「ちょっと見せて・・・あ~、ここ知ってます。案内しますよ」

「まぁ!良いんですか?」

「ヒーローとしては、当然だよね!」

「あらぁ、かっこいいですわね♪」

「HAHAHA!何か照れちゃうな~!さ、お手をどうぞ?」

「では、お願いしますね?ヒーローさん♪」

差し出されたミリオの手を取り、彼女は引かれるままに着いて行く。細めた眼で握られている手を見つめ、口角を吊り上げながら。

 

―――――

――――

―――

――

(出久サイド)

 

「文化祭があります」

 

「ガッポォォォイッ!!」

 

事件終息から数週間経った。それぞれ個性や戦闘技術を磨き上げつつ、そう言えばそろそろ文化祭。皆こういうイベント大好きだから、テンションが跳ね上がっている。

だが俺は無駄に因果律の知識と理解があるせいで確実に何かトラブルが起こると確信し、若干顔を引き攣らせていた。

「でも、このタイミングでそんなイベント起こして大丈夫なのかしら?」

口許に指を当て、心配そうに呟く梅雨ちゃん。まぁ尤もな心配だな。

「その気持ちは分かるが、体育祭がヒーロー科主体だったのに対し、文化祭は他科がメインだからな。流石にこれを潰せば、そっちのフラストレーションが爆発しかねない」

「まぁ、ガス抜きは必要か」

確かに最近、結構他科からは冷たい視線を感じるなぁ。まぁどうでも良いけども。

「取り敢えず、特定の関係者以外は文化祭に来られない事になっている。そんでもって、主役じゃなくてもクラス毎に1つずつ出し物をする決まりでな。1時限目で案を出しあって、明日の朝までに決めるように。

因みに決まらなかった場合は公開座学だからな」

「こりゃ決めにゃな」

折角の祭りで公開座学とか誰得だよ。

なーんて思っている内に、クラス全員が我先にと手を上げるのだった。

 

―――――

――――

―――

――

(NOサイド)

 

「ほら、見えましたよ!」

通り掛かりで道案内をする事になったミリオが、前方の建物を指差す。その先にあるのは、大きなショッピングモールだ。

「本当にありがとうございます。お陰様で、とても助かりましたわぁ♪」

「それは良かった。それで、お知り合いの人は?」

「う~ん、と・・・あっ、居ました!キャルちゃ~ん!」

探し人を見つけ、彼女は声を上げながら大きく手を振った。相手はそれに気付き、不機嫌そうに近付いて来る。

長い金髪を首元に巻き付け、マスクを着けた紫パーカーの女性・・・否、少女だった。外見年齢は、ミリオと同じか少し下程度だ。

「黙れ、馴れ馴れしく呼ぶな。鬱陶しくて虫酸が走る」

「きゃっ、怖いですわぁキャルちゃん♪」

マスクに隠れていない眼は鋭く細められ、本気で嫌がっている事が一目瞭然。にも拘らず、ミリオの手を掴む彼女はそんな空気も何のそのでおどけて見せた。

「ハァ・・・お前が、コイツを案内してくれたんだったか。例を言うと同時に、心の底から同情する・・・」

頭痛がすると言いたげにこめかみを押さえる少女。どうやら苦労させられているらしい。

「気にしないで!ヒーローとして当然だからね!」

「・・・フン、あぁそうかい」

ヒーローという言葉に反応し、少女の機嫌は更に悪くなる。

「・・・どうか、したのかな?」

「別に?俺の唯一の家族を殺した奴等も、そうやって大衆正義を振り翳すお前らヒーローみたいなものだった事を思い出しただけだよ」

「ッ!?そ、それは・・・」

「おっと、下手な同情なんかしてくれるなよ?お前らの存在そのものが、既に俺の地雷を数百個踏み抜いてんだ。

精々、黙って消えるんだな」

「ちょっとキャルちゃん?流石に失礼じゃありません?」

「知るか。正義面して誰かを叩き潰してる現実を覆い隠す奴なぞ、皆平等に糞だ」

「・・・」

自分にはどうしようもない少女の憎悪に、ミリオは閉口するしか無かった。

「行くぞ。お前の我儘に付き合わされたせいで、研究を勧める筈だった時間が無駄になってしまった」

「んもぅ、もう少しゆったり生きた方が楽しいですわよ?」

少女はミリオにくっついていた女性を吹き剥がし、その場を立ち去ろうとする。

「あ、そう言えば名前・・・」

「あら、私とした事が・・・そうですわ!」

彼女は何かを思い付き、手で口許を隠しながらニッコリと微笑んだ。

「これも何かの(えにし)です。この緣にて、再び相見える事があれば・・・その時に、名乗り合いましょう?

では、ごきげんよう。素敵なヒーローさん♪」

そう言ってキスを投げ、彼女達は人垣の向こうへと消えた。

「つ、次会った時か・・・」

若干の苦笑いを浮かべながら、ミリオは永遠亭への帰路に就こうとする。

 

―グラリ―

 

「うおっ!?」

突如として視界が白み、地面が消えたような錯覚に襲われ膝を突いた。しかし、数秒も経つと何事もなかったかのように身体が力を取り戻す。

「貧血・・・?それとも、まだ身体にウィルスが馴染み切って無いのかな?」

首をかしげつつ、ミリオはその場を後にするのだった。

 

―――――

――――

―――

――

(出久サイド)

 

「よし、大体の構想は決まったな」

夜。ハイツアライアンスにて、俺は文化祭の演し物の作りについて考えていた。

内容はライヴパフォーマンス。前後半で別れ歌って踊って、後半はライダーシステムもジャンジャン使う盛大なヤツだ。兄さん達NEVERや自動人形達も総動員して、出来る限りの派手を尽くす。

因みにそう言った活動の経験者が俺、三奈、フラン、響香さんと4人も居た事もあり、かなりすんなりと事は運んだ。

「取り敢えず、1曲目と後半パートは任せて欲しいかな。文字通りエンジン温める曲があるし、後半には新たな戦士の系統として仮面ライダーを強く押し出したい」

「確か、パフォーマンスは大体2時間だよね。うん、其々1時間ずつ、入れ替わり立ち替わりでやっていこうか」

企画のリーダー的な立ち位置なのは俺。皆の個性や性格を考え、大まかな進行を組み上げる。

「えっと、前半のメインボーカルとベースはウチとして、ギターとドラムが欲しいな・・・」

「かっちゃんは結構前だけど音楽教室通ってたから、あの器用さならドラムも出来ると思う。それにあの性格だ、推薦されたら降りはしないだろうし。

良いよなかっちゃん」

「細けぇ所はボンヤリしてッから完璧は求めんなよ?」

「凄いな爆豪・・・」

「あ、私は習い事でピアノを嗜んでおりますわ!」

「じゃあキーボードお願い。クラブミュージックの要の1つだから、キッチリ教えたげるね」

歌や楽器の音楽参謀が響香さん。聞けば、父親がその道のプロだとの事。実力も過去に何度か共演した俺達が一番分かってるし、心強い事この上無い。

「何より重要なのは、動きのメリハリ!動く時はダイナミックに動いて、止まる時はガッチリロックね!」

「こう、こうか!」

「飯田ソレはロボットダンスだー。じゃあ飯田はもうソレ専一でやるか。うん、シュールさも使いこなせば良い味出るし」

ダンスを教える体術教官は、言わずもがな三奈だ。ダブルの回転を多用したバトルスタイル然りヘブンズトルネード然り、あの体捌きは天才的。尚且つ教えるのも上手かったからな。適任だ。

「取り敢えず、演出の派手さ的に青山君のレーザーと私の弾幕は外せないね。青山君は出久に放り投げて貰って、レーザーエフェクターにしようか」

「あとあれだね!麗日が轟と切島を浮かして、氷を削ってダイヤモンドダスト!」

「あ、衣装はガイアメモリ組がNEVERの隊服で、ビルド系の3人は原点の人達の服な。かっちゃんと麗日は仁がくれたのがあるし、切島のだけ作ろう」

「分かった。デザインは紙に描いといてね」

そして、エフェクトや衣装等を担当する芸術参謀はフラン。英国貴族出身の文字通り英才教育が、ここに来てとても役に立つ。

「にしても・・・楽しんでくれっかなぁ~、他科の生徒・・・」

上鳴が苦笑い気味に溢した呟きが、俺の耳に引っ掛かる。

「楽しんでくれるよきっと!」

「うむ!その為にも、我々が技を磨かないとな!」

「・・・なぁ、ちょっと良いか?」

盛り上がり始める皆に、俺は待ったを掛ける。見れば、かっちゃんの顔も芳しくない。やはり、解っているらしいな。

「なぁ、上鳴。今のそれは、どういう感情で言ったんだ?」

「え?いや、普通に・・・普段イライラさせちまってるっぽいし、その分楽しんで貰えたら良いなって・・・」

「ハァァァァ・・・やっぱりか」

この認識は、改めないと成功する事は無いな。

「勘違いしてるようだが・・・俺らのライブは、他科との馴れ合いの為にするんじゃねぇぞ」

『ッ!?』

ドスを効かせた俺の声に、ほぼほぼ皆の肩が跳ねる。

皆、悪意への認識が甘過ぎだ。まぁ、明確な憎悪を抱いた事が無い奴らだから仕方無いが。

「上鳴が言った事を俺らの立場に置き換えるとするなら・・・もし、いっつも俺らを目の敵にしてくるB組の物間が、高圧的且つ独善的に上から目線で俺達に施しを持ってきたら・・・どうだ?どんな気分になる?」

「あ~・・・成る程」

「それは・・・イラッとするな」

皆の頭の中には、物間がムカつく高笑いをしながら此方に手を差し伸べるというクッソムカつくイメージが広がっているだろう。

全く、喋れば弾幕、噤めば地雷。オマケに離れりゃ意識汚染と来たもんだ。この特殊兵器っぷりを少しは戦場で役立つ方面に向けて欲しいもんだな。粗を探り合う外交官とかには向いてそうだ。

「とまぁ、そんな具合にだ。奴さんらの為っつっちまえば、何をしようが所詮は只の挑発にしかならねぇ。やるのなら、俺達自身の為にやった方が良い」

「もっと言うと、向こうがどう思ってようと結局悪いのは喧嘩吹っ掛けてくる(ヴィラン)だけだしね。自分達が悪くも無い事に態々気を遣う必要は、欠片もありはしないよ。

要らない責任や義務感まで背負い込もうとするのは、日本人の悪い癖だね」

俺の発言に、フランも同調してくれた。

「あぁそうだ。俺達は悪くない。一片の非もありはしない。

悪くない俺達が、どうして口だけな批判ばかりする奴等のご機嫌をうかがって、ビクビクしなきゃいけないってんだ?

俺達が振り回してるんじゃあ無い。この学校に迷惑を掛けているのは、飽くまで(ヴィラン)共だ。俺達が原因で、トラブルが発生した事は一度もありはしない。違うか?」

よく思い返してみよう。

USJ・・・100%相手が悪い。

ヒーロー殺し・・・飯田の暴走があったが、俺達の非は5%未満だろう。

林間合宿・・・俺達に原因は無い。

保須の悪夢に至っては、逆に俺が一番の被害者だ。

「と、言う事でだ。最優先は飽くまで俺達が一体となる事。他科は、楽しむ気がある奴だけ楽しめば良い。そういう意識の方が、(しがらみ)なんかも気にならんだろう。精神的な負担が減る」

「・・・よし!この話はもうおしまい!折角の文化祭、目一杯楽しむ事を考えよーよ!」

「・・・そう、だな。俺等がしょげてても、どーにもなんねぇもんな!」

フランが声をあげ、空気を仕切り直してくれた。そしてチラリと此方を振り向き、然り気無くウィンクを飛ばしてくれる。

(ありがとな、フラン)

(良いって事♪)

魂の接続による精神通信―――ベターマンからとって、リミピッドチャンネルと呼んでいる―――でフランに礼を言うと、向こうから気さくな返事が帰って来た。

文化祭以外にも、このリミピッドチャンネルやワンフォーオールの事、問題課題は山積みだ。だが、取り敢えず今は、楽しむ事を第一に考えるとしよう。

「取り敢えず、ライヴはYouTubeで生放送したいんだが、反対って奴はいるか?」

「メディアに露出した時の練習と思えば、それも良いですわね!」

「うむ!何事も経験だ!」

「お姉様も見られるしね!」

・・・そうだ。これなら、アイツ等にも楽しんでもらえるな。

 

(NOサイド)

 

「ふんふふ~ん♪フフ~ン♪」

黒い街にある、組織の集会場になっているビル。その廊下を、ミリオに助けられた女は鼻唄を歌いながら上機嫌にスキップしていた。クルクルとバレリーナのような回転も加えながら、右掌に貼ってあった紙をペリペリと剥がす。

表面は掌に同化する肌色だが、裏から見ると血のような真っ赤に染まっていた。

「おい、耳障りで鬱陶しい。その鼻唄を止めろ」

「それは無理ですわ~キャルちゃん♪ごめんあそばせ~♪」

「チッ」

露骨に嫌な顔をする少女を捨て置き、彼女は集会室の扉を開く。

「只今戻りましたわ~♪」

「お~、お帰り」

殺風景な部屋にちょこんと置かれたソファの上に寝そべったヴォジャノーイが、2人の帰還を確認する。

「で?お目当てのモノは手に入ったの?()()

「はい!勿論ですわ!」

ヴォジャノーイの問いに、彼女―――霍青娥は、手に貼ってあった紙を見せる。

そしてすぐさま棚から大きな試験管を取り出し、その口の上で紙を破いた。すると、破れた断面から真っ赤な血が滴り落ちる。

「500mlも採れました♪これで手に入りましたわ、念願のTウィルスが♪B.O.Wの噂を聞いてから、欲しくて堪らなかったのですわ♪」

「あっそ、良かったね。ヤガーもお疲れ様」

「全くだ。無駄に心配はさせても俺を自分勝手に振り回さない分、お前の方が数倍マシと思うレベルだ」

ご機嫌絶不調な少女―――バーバ・ヤガーは溜め息を吐くが、その一言を聞き逃すヴォジャノーイでは無かった。

「あれ?オレの事、心配してくれてるの?普段は散々オレを鬱陶しがるのに」

「ッ!う、煩いッ!!忘れろッ!!今すぐ忘れろッ!!」

「いやぁ、意外と愛されてるなぁオレって♪」

「黙れッ!!貴様その口を今すぐ閉じろッ!さもなくばその記憶を焼却するぞッ!!」

「ハハハ。結構ですよ、仲が良さそうで」

「「ッ!」」

何の前触れも無く響いた声。発生源に眼をやると、何時の間にかリーダーであるアダム・ヴァイスハウプトが立っていた。

「あ~ビックリした!リーダー、脅かさないでよォ!」

「これに関してだけはヴォジャノーイと同意見だ、社長。頼むから止めてくれ、心臓に悪いんだよ」

「ハハハ。済みませんね、それは。善処しますよ、これからはね。

所で、青娥さん。芳香(よしか)は運び込みましたよ、貴女の部屋に」

「有り難うございますわ!これで、実験が出来ます!」

そう言って、青娥は足早に集会室を後にした。

「芳香・・・あの死骸傀儡(フレッシュゴーレム)か。自動人形(オートスコアラー)みたいなものらしいが・・・正直、良い趣味とは言えんな」

青娥が出て行った扉を見つめ、苦労人ヤガーは溜め息を吐くのだった。

 

to be continued・・・




~キャラクター紹介~

緑谷出久
何時もの化物主人公。
文化祭のプロジェクトリーダーで、更にメカニック担当も兼ねる。
原作かっちゃんに代わって、人間の憎悪について認識が甘かったクラスメイト達のスタイルを矯正した。
ライヴはYouTubeで生配信する予定。同時に、とある場所にも映像を中継する。

芦戸三奈
出久の正妻。
文化祭のダンスを教える体術教官。その体捌きは、ダブルに変身した際にも発揮されている。

フランドール・スカーレット
出久の第二夫人。
文化祭のエフェクトを纏める芸術参謀。また、ライヴではヴァイオリンも演奏する。
吸血し合った事で、出久とは魂が繋がっている。此処からお互いに能力が覚醒していく予定。

耳郎響香
文化祭の音楽参謀兼メインボーカル。原作と違い既に出久や三奈と共演しているので、自分の趣味に自信がある。

バーバ・ヤガー
まだ本名不明の少女。でも多分、読者の皆さんには正体完全にバレた。
パルスィをカースドーパントにした幹部。辛辣な口調とは裏腹に結構ツンデレで、実はヴォジャノーイのセルメダルをコインチョコに代えたりしたのは不器用ながらも自分の心配を意識して貰う為だったりする。

霍青娥
東方Projectのキャラクター。
神霊廟に籍を置く邪仙。トリックスター的なキャラクター。
今作ではアダムに勧誘された後にTウィルスの噂を聞き付け、また個性破壊弾頭の効果を打ち消す為にTウィルスを使うだろうと当たりをつけてミリオに接触した。
原作とは能力がかなり違う。頭はかなりキレる方で、作者が扱いきれるか心配なキャラでもある。


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第35話・サーの現状/Fの覚醒

『いやぁ、まさか娘々(にゃんにゃん)が出てくるとはなぁ』
「お前好きそうだよな、ああいうキャラ」
『あたぼうよ。だってあの見た目で更に人妻だぜ?いやぁ性癖』
「お前にゃ文やんがいるじゃろがい」
『仕方ねぇだろ!お前が書いてくれねぇんだから!』


(出久サイド)

 

「やぁ、エリちゃん。久し振りだね」

持って来たフルーツバスケットを机に置いて、ミリオ先輩がそう切り出す。

此処は、エリちゃんが入院している病院。面会に来たのは、俺と先輩と相澤先生、そして三奈とサーだ。

昨日の夜、えーりんから電話があった。曰く、エリちゃんが俺達の事を気にしている、と。

因みにクローン達は永遠亭で保護し、調薬の手伝いをさせているらしい。と言っても、漢方の材料を持って来させるぐらいらしいが。

「あっ・・・えっと、仮面ライダーさんと・・・」

「あぁ、そう言えば名乗ってなかったか。俺は緑谷出久。此方が芦戸三奈」

俺は被っていた帽子を取り、自分と三奈の名前を教えた。

「あの時はありがとね、エリちゃん♪」

そう言って三奈は、エリちゃんの頬を両手でムニムニと揉む。

三奈はあの戦いで治崎に腕を焼かれたが、エリちゃんの巻き戻し能力で治して貰ったからな。

「俺は通形ミリオ。ヒーロー名はルミリオンだね!

此方がサー・ナイトアイ。俺の師匠みたいな感じの人だね!」

「こんにちは、エリちゃん」

サーは短く挨拶し、中腰になって下からエリちゃんのコメカミ辺りを撫でた。

つかサーってあんな柔らかい笑顔出来たんだな。俺は見た事無かった。

「あ・・・ナイトさん、右手・・・私の、せいで・・・」

エリちゃんはサーの手袋をはめた右手を見て、申し訳無さそうに俯く。

サーは右腕を失ったが、永遠亭組が各種企業に急ピッチで作成を依頼した義手を装着しているのだ。

「・・・エリちゃん。確かに私は、この前の戦いで本物の腕を失った。でも今は・・・見てごらん」

サーは手袋を外し、グッと右袖を捲った。その下から現れたのは、黒い艶消しブラックに金色のラインが走るスマートでイカした義手だ。

その指をキリキリとスムーズに動かし、手首を360度回転させて見せる。

「エリちゃん、好きな果物は何かな?」

「えっと、リンゴ・・・」

「分かった。ミリオ、リンゴを」

「どうぞ」

先輩からリンゴを受け取ったサーは、そのリンゴでポンポンとジャグリングして見せた。動きは生身のそれに殆ど劣らず、とてもスムーズだ。

「更に、ほっ」

「わっ」

更に、わざと明後日の方向に投げたリンゴを、義手の伸縮機能で見事にキャッチする。スライド引き出しのように滑らかな動きで義手を元の形まで縮め、今度はフルーツナイフでリンゴをシャリシャリと剥き始めた。

「わぁ、カッコイイなぁその義手」

「ハハハ、そうだ。ピンキーの言う通り。

見ての通り、この義手のお陰で何も不自由はしていない。寧ろ、こんなカッコイイ義手を着ける機会を貰えた事に感謝してるぐらいだよ。ハハハ」

三奈のと共に優しく微笑みながら、ユーモアの効いた言葉を掛けるサー。

「あ・・・これって・・・」

その間にもフルーツナイフは精密に動き、リンゴを綺麗に切り分けた。しかも、少し手の凝ったキュートなウサギリンゴだ。

「君は自分のせいで、私達に迷惑を掛けてしまったと思っていたみたいだが・・・大丈夫。君を迷惑だと思っている人なんて、何処にもいない。安心してくれ。

私達は、君の笑顔が見たいんだ」

「・・・」

その瞬間、またエリちゃんの顔が暗くなった。そして口を開けたり、頬を横に引き伸ばしたりし、最後はまたその手を膝の上に置いて口を開く。

「ごめんなさい・・・笑顔って、どうすれば良いのか・・・分からなくて・・・」

「・・・そうか」

エリちゃんは、未だ笑顔を浮かべられない。まだ心を、治崎の呪縛に縛られているからだ。

まだ、救えてなんかいやしない。

「・・・そうだッ!」

担当医の話では、エリちゃんは角にエネルギーを溜め込んで放出するタイプらしい。そしてその角は今、ちょっとしたコブ程度にまで縮んでいる。つまり、エネルギーはほぼスッカラカンと言う事だ。これなら・・・暴走の危険は少ないだろう。その上、今年の文化祭は極少数の例外を除いて部外者禁制。乱入される可能性も少ない。

「相澤先生。エリちゃん、連れて行けませんか?文化祭」

「・・・不可能では無いな」

「それはナイスアイディアだね!」

「じゃあライヴ来てよ!アタシ達ライヴするんだー!」

「成る程。確かに、悪くはない。だが、初っ端から人で溢れる祭典に連れ出すのも負担が大きいだろう。事前に何度か雄英に連れて行き、慣らしておくべきだ」

「ですね」

「取り敢えず校長に掛け合ってみる」

「えっと・・・ぶんか、さい?」

此方だけでトントン拍子に話が進み、エリちゃんが困惑している。

「文化祭っていうのはね、俺達の学校で行うお祭りの事さ!学校中の人が、他の人に楽しんで貰えるよう、出し物をしたり食べ物を作ったり・・・あ、りんご飴!りんご飴も出るかも!」

「リンゴアメ?」

「甘くて美味しいリンゴを、あろう事か更に甘くしちゃったお菓子さ!」

「さらに・・・!」

成る程、りんご飴。祭りの定番だな。

「取り敢えず、来るなら俺等は歓迎だ。君が最高に楽しめるよう努めるよ」

「・・・私、考えてたの・・・」

少し俯き加減に、おずおずとエリちゃんが口を開く。

「助けてくれた時の、助けてくれた人の事・・・ルミリオンさんやカエルさんたちのこと、もっと知りたいなって考えてたの・・・!」

「あぁ!嫌って程教えてあげるよ!」

「・・・カエルさん、か・・・」

ヴォジャノーイ・・・恐らくこの子にとって、一番のヒーローはやはりアイツなんだろう。一応敵対組織の構成員だし、戦った俺としては色々複雑な気分だ。

「・・・さぁてと。先輩?エリちゃんのエスコート、しっかりしてやって下さいね」

「勿論だとも!まだ休学中だから、エリちゃんにつきっきりでデート出来るよね!」

そう言って、先輩はエリちゃんの頭をワシワシと撫でる。

デート、か・・・さて、此方もフランとデートと洒落込むとするかね・・・

 

―――――

――――

―――

――

 

「ほぅ・・・」

夜。空を冷たく照らす満月の下で、俺はグラスを呷る。

久々に封を切った酒は、イギリス産のジンだ。ライムの爽やかな香りと、微かな苦味が癖になる。度数はちと強めだが、問題は無い。俺が未成年である事以外は。

「出久・・・」

「来たか、フラン」

バルコニーの柵の向こうに、フランがふわりと現れた。

満月に当てられ、少々息が荒い。かく言う俺も、実は結構犬歯が疼いていたりする。

「ふぅ・・・始めようか、出久」

「あぁ、そうだな」

【バード!】

グラスに残ったジンを飲み下し、バードメモリで腕を翼に変化。そのままバルコニーから飛び立つ。

行き先は、仮想市街地のグラウンド。センサーに引っ掛からないよう注意して、俺達はビルの屋上に降り立った。

「よし。フラン、これからお前の能力、手綱を握るぞ」

「うん。でも、どうするの?」

「その為の酒だ」

「え?」

ポカンとするフランを他所に、俺は持って来たグラスにジンを注ぐ。

「酒は心身のタガを外し、魂魄の境を曖昧にする。身体に宿る魂を解放し、体外に魄として顕現させる吸血鬼の訓練には、もってこいだと思ってな」

実際、日本でも精神と肉体を近付ける必要がある神事やお祓いの際にもよく使われるしな。酒は。

「ほら、グイッと。あ、ジンは飲めるか?」

「あぁうん、平気だけど・・・じゃあ、頂きます」

 

―ごくっ―

 

「ぷはっ・・・ッ~!!」

フランはグラスを受け取り、勢い良く飲み下した。その途端、涙眼になり鼻を押さえて踞る。

「おっと、アルコールに鼻を焼かれたか。大丈夫か?フラン」

「んッ~・・・平気・・・胃が熱いけど・・・」

眼を潤ませながら、何とか持ち直すフラン。感覚がリンクしてるせいで、俺の鼻にも少しばかり幻痛が走る。

「よし。じゃあ次は、お互いに吸血してみようか」

「・・・それも、最近よく言う魂魄理論?」

「いや。これは酒で外れやすくなったタガを、吸血によって完全に外す為だ。さぁ、吸え」

俺は上着のジッパーを下ろし、首筋を曝け出した。それを見るや、フランの眼が熱っぽく蕩ける。しかし同時に、その瞳には餓えた捕食者特有のギラギラとした鈍い輝きも籠っていた。

「はァァァァ・・・」

 

―ブツッ―

 

「ッ・・・」

荒々しく息を吐き出しながら、フランは俺の首筋に食らい付く。普段の鎮痛唾液を使う余裕すら無い程に、相当渇いていたのだろう。皮膚を貫き肉を掻き分ける鋭い痛みを伴って、その犬歯が俺の首筋へと突き立てられた。

俺の血が脈拍と共に滲み溢れ、フランの口内に流れ込む。

「はぁ・・・❤️」

口に溢れ出した血液を嚥下し、うっとりしながら溜め息を吐いた。

「・・・ッ!?」

だが惚けたように虚空を見つめるその瞳はしかし、すぐに大きく見開かれる。

「あっ、あがぁ!?」

 

―メキッ メリメリッ―

 

身体から木が軋むような音を発しながら、すがるように俺に抱き着くフラン。それと共に、結晶が鈴生りにぶら下がった枝のようなその翼が目一杯まで開かれる。

「アァァァァァァァッッ!!!?」

そして7対の結晶の根元から、翼が裂け始めた。1対だった翼が、裂けた傷口から赤黒いエネルギーを噴き出しつつクリスタルと同じ7対まで分化。フランは仰け反るように俺から離れ、全身の筋肉を緊張させる。

更にそのクリスタルから同じく赤黒いエネルギーが指状に滲み出し、クリスタルを手の甲に埋め込まれた腕として各々が独立した。

最後に、翼の掌と元からあった手の甲に、裂けるように眼が出現。顔にあった左目は黒く染まり、瞳は俺と同じく蒼い光を放つ。

「フゥゥ・・・ハルルルルゥ・・・グッ、アァァァッ!?」

変化が止まるや否や、7対の翼腕が暴れるように俺に延びて来た。そして俺の肩や両手足を掴み、引きずり寄せる。

「ダメっ・・・出、久・・・逃げ、て・・・」

俺の身を案じてか、涙を溢しながら翼腕を掴むフラン。その優しさは嬉しいが、俺が此処にいる意味を忘れてもらっちゃ困るね。

「馬鹿言え。お前が覚醒時に多かれ少なかれ暴走するなんざ、とっくに予測済みなんだよ。良いから、俺に任せろ」

俺は翼腕に引かれるまま、フランの懐に飛び込む。そして左手で身体を抱きながら顔を右手で掴み、少し強引に右を向かせた。

「ハァッ!!」

 

―ブツッ―

 

「くっ・・・」

そのまま、今度は俺が犬歯を剥き出してフランの首筋に食らい付く。溢れ出す血は不思議な事に、儚い甘味を孕む香り高い極上の蜜のようにも、夜通し煮つめ続けた濃厚なスープのようにも感じた。兎に角、途轍もなく美味なのは間違い無い。

「ハァァァ・・・これが、吸血鬼の味覚か」

「ハァ・・・ハァ・・・」

暴走していたフランも、これで幾らか落ち着いたようだ。

何をしたかと言えば、フランが支配し切れなかった吸血鬼としての特質の手綱を、俺が吸血する事で強引に握ったのだ。

「そして、これが吸血鬼の見る夜空か」

ふと顔を上げると、周囲が随分と明るく見えた。一瞬、この儀式に夢中になり過ぎて夜が明けたのかと思ったが、空には依然月が佇んでいる。この人間としては異常なレベルの夜目が、俺が吸血鬼となった証拠なのだろう。

「はぁ・・・出久。もう、大丈夫・・・」

「そうか」

抱き締めていた左手を解き、一歩後ろに下がる。

「あ・・・出久、その牙・・・」

「ん?あぁ・・・確かに」

舌で犬歯を撫でてみると、先程よりも明らかに鋭く、長く伸びていた。

「これで俺も、華々しく吸血鬼デビューだな!」

「いや軽くない?」

「なったもんはもう戻らん。どうせなら楽しんだ方が得だ」

「・・・」

フランの表情に、決して小さくない不安が浮かぶ。魂からは、恐怖の感情が流れてきた。

「恐いか、自分の力が」

「・・・うん」

視線を落とし、自分の手を見つめるフラン。そこにあった眼は既に消え、いつの間にか翼も元に戻っていた。

「そうなると思って、お前へのプレゼントも用意してあるんだよ」

「え?プレ、ゼント・・・?」

俺はポケットからそのプレゼントを取り出し、フランの首に着けてやる。紅い逆さ十字をあしらったそれは、月光を反射し眩く煌めいた。

「これって、チョーカー?」

「あぁ、俺が作ったチョーカー・・・封印拘束制御チョーカー、《クロムウェルII》だ。それの左側に、3つスイッチがあるだろ?それを使って、能力を封印する。

それは任意で解除出来るから、手綱を握り切れれば、戦いで使えるだろ?」

俺の説明を聞いて、フランはチョーカーの横に付いたスライド式のスイッチに指で触れる。

「それがあれば、不用意に他人を傷付ける事は無い。これからゆっくり、慣れていこう」

「・・・ん、分かった!」

俺の眼を真っ直ぐ見つめ、フランは答えた。

まだ若干の不安はあるが、さっきよりも希望がある。これならば、新たな力を手懐ける時も、そう遠くないだろう。

 

to be continued・・・




~キャラクター紹介~

緑谷出久
我等が化物主人公。
今回で遂に吸血鬼となり、正真正銘の化物になった。着地点?そんなもの俺が知るか。

フランドール・スカーレット
出久の第二夫人。
吸血鬼として完全に覚醒。今までは飽くまで《吸血鬼の個性を持った人間》だったが、今回で正真正銘の吸血鬼となった。まぁご都合主義で歳はとるけど。
因みに、フランの覚醒態は対リップヴァーン戦時のクロムウェルを解除したアーカードがモデル。
覚醒態で現れる手の甲に付いた眼は、出久のワンフォーオール内にある9人分の魂。オールマイトの先代である志村菜奈までの魂が翼腕の眼に1対ずつ現れており、両手の眼がオールマイトの分。出久の魂は現在共有状態なので、顔の眼が出久と同じ状態へと変化する。
クロムウェルIIのギミックは、キルラキルの神衣純潔の人衣圧倒から。

サー・ナイトアイ
生き延びたオールマイトヲタク。前線からは離脱。
失くした右腕に代わり、えーりん達が急ピッチで手配した特殊な義手を装着している。イメージは、Marvel's Spider-Manのオクタビアス博士が作った神経インターフェイス接続の義手。可動域や動作性もそのまんま。
サー自身もこの義手を気に入っており、エリちゃんに言った通り、腕を失った事は全然気にしてない。
ザイアスペック的なヘッドデバイスを装着しており、運動神経の脳信号を直接拾っている。
因みに、現役復帰も不可能ではないとの事。


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第36話・少女の視察/Vの特性

「えぇ?出久ヴァンパイアになっちゃったのぉ?もー何処に着地するつもりなの?」
『知らんな。完全に行き当たりばったりで書いてるから。
所でさ、最近すごくジードとベリアルの小説が書きたいのよね』
「シールドもプレデリアンも、このシリーズも片付いてないのにか?」
『そこなんだよなぁ・・・でもさぁ、Zでグリーザ戦見てからさぁ・・・元々ウルトラマンはジード推しだしさぁ・・・』
「竜ちゃんも言うとる。片付くまでは止めとき」
『片付く気がしない・・・』


(出久サイド)

 

「フシュゥゥゥ・・・ぬぅんッ!!」

土曜日 08:30

雄英敷地内の林中。俺はランニング上がりのオールマイトに見守られながら、ワンフォーオール・アーマードを発動する。そして己の中にある他者の魂に意識を寄せながら、力を込めて右腕を付き出した。

「・・・やっぱり、ダメか」

しかし、期待していた能力は発動しない。

「ウムム・・・お師匠の浮遊も無理だったし、やはり難しいか・・・」

「うーん、漠然と形は見えてきてる筈なんだが・・・あれかな。激情で起爆してやらないといけないタイプかな」

唸るオールマイトに、一応俺の意見を示す。

何か、アレだ。漫画でもよくあるヤツだ。つか俺の場合、既にイグナイトシステムで経験済みなんだよな。

「若しくは、何らかの危機意識が必要なのかもしれないね」

「つまり正面衝突でピンチになれってか?ハードル高くね?俺を真っ向から追い詰められる奴なんざどれぐらいいるよ」

「それは私も思った」

現状、俺はピンチになる要素が加速度的に減っている。

例えば吸血鬼化して獲た強化感覚を攻撃するスタングレネードなんかも、もし喰らおうと気流感知である程度は処可能だ。強過ぎるってのも考えものだな。

「ま、今は取り敢えず保留とするか。別にまだ困ってる訳でもねぇし」

「・・・まぁ、他にどうしようも無いだろうからね」

「じゃ、ちょい休憩っとぉ」

実は、俺は5時から此処に来て訓練・・・にすらなってねぇな。何だこれ。まぁこのイメージトレーニング的な事と、他にも色々やっていた。

例えば、吸血鬼特有の霧化や変身能力、超身体能力具合等。だが結局、霧化と変身能力はどうやっても出来るヴィジョンすら浮かばなかった。恐らく、俺は吸血鬼としてのランクがそこまで高く無いんだろう。

逆に、筋力は有り得ない程に上がっていた。それこそ割り箸を指でへし折るような感覚で、腕より太い木の枝を軽くメキメキッと握り潰せる程度には。素がこれで更にワンフォーオールまで乗ったら、一体どうなるのだろうか・・・

あとは、手の指の靭帯と骨の強度もバカみたいに上がっていた。木の幹に抜手したらスルッと貫通しちまったよ。生半可な近接武器なら持ってない方が強いレベルになっちまった。

「っと、そろそろ練習だな。俺は戻る。オールマイトは?」

「私はもうちょい走るよ。最近は食事制限もほぼ無くなったせいか、ちょっと太っちゃったみたいでね、HAHAHA!」

「フハハハ、そりゃ良かった。せいぜいもっと肉付けな。じゃあな」

軽口を叩き合いながら、俺達はそれぞれその場を後にした。

 

―――

――

 

「ん?何だ、随分と賑やかだな」

ハイツアライアンスに戻ると、入り口周りで何やら人集りが出来ていた。まぁ集ってるのがクラスメイト達だから、問題とかじゃ無さそうだが。

「ィ゙エ゙ア゙ア゙!?」

「危ねっ」

「ア゙ア゙エ゙ィ゙!?」

突如として飛来する砲弾と化した峰田。俺はその軌道を瞬時に見極め、掌底で横に弾き飛ばす。

「おいおい、今のグレープ砲弾は何だ?」

「あ、すいません緑谷さん。そのエロブドウがセクハラしてきたモノですから、つい蹴っ飛ばしてしまいました」

すると、人垣の中から鈴仙が出て来た。後ろにはミリオ先輩とエリちゃんもいる。

「うん、状況は大体分かった。付き添いだな。朝の早くからお疲れさん」

「ハイ!あと、私の個性でエリちゃんの能力の制御も出来ますので!」

「あー、確かに波長操作なら応用利きそうだな。

にしても、流石はドイツ軍人。峰田を蹴っ飛ばすのに躊躇無いな」

「ハイハイ!ドイツの衛生兵長が、『無理矢理セクハラしてくるような奴はライオットシールドでド突け』って言ってましたから」

「そいつザイア信徒の騎士団長だったりするか?」

「ソード・ワールド物のラノベが好きな日本ヲタクですね」

「やっぱりか」

まぁ俺も駄女神ユリスシリーズしか読んだ事ねぇけど。

「そうだ!緑谷君も一緒に案内してくれるかな!」

「と言う事だ。悪ぃが、半日程暇貰うわ」

「それならあたし達も行きたいけど・・・」

「良いかな?」

と、フランと三奈も乗ってきた。当事者だしな。

「別に良いと思うよ。ダンスや楽器も爆豪がちょくちょく教えてくれてるお陰で、ちょっとは余裕あるし」

「フランちゃんのアイディアも、既に図面に起こしてあります。此方も問題ありませんわ!」

「おー、はよ行ってこい」

よし。響香さんと八百万、かっちゃんから承認は貰った。と言う事で、久し振りに休日を楽しむとするか。

 

―――

――

 

「いやぁ、賑やかだよね!」

「たまに聞こえてくるえげつない悲鳴が、これまた良い味出してるよな」

「流石は緑谷さん、着眼点が予想の斜め上に捻れ飛んでる」

「誉め過ぎだぜ」

「誉めてません」

鈴仙に引かれながら、俺達は文化祭準備をしている他クラスの活動を見て回る。いつも以上に活気に溢れ、そこかしこから色々な声が聞こえてくるのが楽しい。

「おっ、通形じゃん」

「えっ、子供!?」

と、3年の先輩方が此方に寄って来た。

因みにミリオ先輩は左手をエリちゃんと繋いでおり、更にエリちゃんの左手は鈴仙が握っている。完全に親子の絵面だ。

「えっ、休学ってもしかしてそういう・・・」

「そんな可愛い嫁さんも貰って・・・!?」

「・・・」

「「何か言えよマジっぽいなぁ!」」

悪巫山戯で黙ってニッコリと微笑むミリオ先輩に、すかさず先輩方が突っ込んだ。

「か、可愛い・・・にへへ、やですよぉそんな~♪」

「鈴仙、トリップすな」

一方鈴仙は、照れて頬を染めクネクネしている。まぁ、気安く可愛いとか言ってくる相手が居なかったんだろうな。軍ではCQC最強角の1人らしいし。

「ま、冗談はさておいてだ。今年の3年I組マジでスゲーから!絶対来いよな!はい、君らも!」

「おー、立派なチラシ」

「じゃあなー!」

先輩方は作業に戻って行った。俺は紫外線カット仕様の伊達眼鏡を着け、案内を再開する。

「にしても、まだ1ヶ月あるのにスゴい熱気だねぇ」

「逆だよ三奈ちゃん。1ヶ月しかないから、皆結構急ピッチで作業してるんだと思う」

フランの言う通り。雄英の生徒は、妥協を微塵も許さない。日々進化を校訓としている故に、去年よりもクオリティを上げようと必死で頑張っているのだ。

 

―ぐわっ―

 

「うおっとぉ?」

少し脇見をしていると、目の前に突然巨大なドラゴンの頭が現れた。反射的に構えてしまうが・・・ドラゴンそのものからは命の気配を感じない為、すぐに力を腕を下ろす。

「あーすンません・・・ってA組の緑谷じゃねーか!」

「おやおやおやァァ?油を売ってて良いのかなァ?余裕だねェェ!」

と、顔を出したのは鉄哲と物間。

あー、B組の出し物なのねコレ。面倒臭いのも居るけど無視だ無視。

「ごめんねエリちゃん、驚いちゃったかな?」

「あ、大丈夫・・・おちてきた人かと思った」

「落ちてきた?・・・あー、ドラゴンモードのリューキュウかな?」

「無視するとは偉くなったじゃないかァァァ!!」

コイツ喧しいなぁ。エリちゃんの精神衛生上、こう言うのは近付けない方が良いか。

「鈴仙、コイツ黙らせてくれ」

「分かりました」

 

―ピキィンッ―

 

「あひっ」

鈴仙の紅い眼光を浴び、物間はビクッと痙攣してそのまま棒立ちになった。

「作業に戻りなさい」

「ハイ、ワカリマシタ」

鈴仙の波長操作によって催眠状態となり、物間はロボット染みた棒読みで答えてドラゴンを担ぎ直す。

「にしても、拳藤居ないんだね。物間とセットってイメージあったけど」

「あー、アイツ今年のミスコンに出るからな」

ミスコン?成る程、そういうのもあるのか・・・

「ん~、出てみよっかな?」

と、フランが首を傾げながら考え込んだ。

「出るなら絶対見に行くわ」

「勿論。寧ろ出久に見て貰いたいから出ようかと思ったんだし」

「恐悦至極」

チラッと三奈の方を窺ってみると、あたしは良いよ~と苦笑いしながら手を払ってきた。残念だ。

「あ、そうだ。聞いたぜ?お前ら、ライヴとかやるらしいじゃんよ。

俺らん所はオリジナル演劇やるけどよ。お前らに負けねぇぐらい、良いもの作るかんな!」

「そいつぁ良い。お互いベストを尽くそうじゃないか。俺達も中々派手にやるからな、それに殺されない出来のを作ってくれよ?」

「あたぼうよ!じゃあな!」

そう言って鉄哲達はドラゴンを担ぎ、何処かへ運んで行ってしまった。

「あ、そうだ!ミスコンと言えば、彼女も出るんだよね!」

「彼女?と言うと・・・」

 

―――

――

 

「わぁ~!エリちゃんだー!ねぇねぇ、何で?何でエリちゃんがいるの?不思議~!」

連れて来られたのは、ミスコンの準備場。かなりヒラヒラしたセクシー且つ美しい衣装を着たねじれ先輩の姿に、俺は直ぐ様グラサンを掛ける。

心に決めた女がいる男にとって、こう言う衣装は少しばかり眼のやり場に困るんだよなぁ。

「先輩も出るんですね~」

「うん。でもスゴい子がいてね~、毎年勝てないの。サポート科の、絢爛崎美々美(けんらんざきびびみ)さんっていうんだけどね?」

これまたスゲェ名前だなぁオイ。美々美て。

「写真あるよ。ハイこれ」

「「「・・・ウッソだろ?」」」

俺も、三奈も、フランも、まず口を突いて出たのはその一言だった。

何だこのクソ長い睫毛は。掌より長いじゃないか。どういう固さしてりゃ此処まで反り返るんだよ。あと上瞼の筋力どうなってんだ?

そして何より、化粧がケバいわ。ケバ過ぎる。口紅は真っ赤でテカテカ、ファンデーションもモリモリ。ナチュラルメイクと言う言葉を知らんのか?この女は。

「因みに優勝した時の写真これね」

「「「ウッソだろ?」」」

またもや全く同じリアクションが寸分違わぬタイミングで飛び出す。

だが仕方無いだろう。だって自分の顔を模した装甲車の上に乗ってんだから。

「うわぁ~ハハハ~・・・どんだけナルシー拗らせてんだろこの人・・・」

「こんな事言いたか無いけど、この人の脳味噌の色見てみたいよ。多分お花畑通り越して斑猫みたいな極彩色だと思うけど」

「何だろうなぁ。特徴と言うかコンセプト自体はリボルギャリーとそう変わらない筈なのに、此方には嫌悪感しか湧かない」

「ボロックソに言ってるね」

先輩の言う通り、俺達はもうボロックソに言いまくっていた。つかこれでねじれ先輩が負けるか?何見て審査してんだ一体・・・

「うーん、何かしらパフォーマンスが必要だよね。仁君に貰ったキバのスーツ着て、ヴァイオリンでも弾こうかな」

「それが良い。黄金色の髪と血色の鎧を白銀の鎖が纏め上げ、2つの小さな緋色月が儚く、然れど妖しく輝く。奏でられるは、魂に触れる魔性の音色・・・あぁ、素晴らしいな」

「何か、やたらキザでポエムっぽいね。どうしたの?」

「偶にはこう言うのも悪く無いかと思ったが、お気に召さなかったかな?」

「そうは言ってないよ。寧ろ嫌いじゃない」

ズラしたサングラスの縁越しに見遣ってみれば、フランは肩を竦めてウィンクで応える。

「フランちゃんも出るんだ~!でもねでもね、絶対負けないよ!だって最後だもん!」

「望むところだよ、センパイ♪」

そう言い、2人はお互いに笑い合った。良いねぇこういうの。

「さて、次は何処に行くかなぁ・・・迷うよね!」

「じゃ、愉快な奴等の所にでも行くかな」

 

―――――

――――

―――

――

 

「ふぃ~、回った回った」

昼。サポート科や経営科なんかも見物し終え、俺達は食堂で昼飯を食っていた。

俺は何時もの激辛な外道麻婆。刺激物の塊なので、エリちゃんからはしっかり距離をとっている。

ミリオ先輩は醤油ラーメン。鈴仙は山かけうどんに温玉トッピング。エリちゃんは甘口のカレーライス。

フランは煮込みハンバーグ定食+納豆で、三奈は鯖味噌定食に此方も+納豆。フランは大の親日家なレミ姉さんの影響で、日本食が大好物なのだ。

因みに紅魔館には、レミ姉さんの好きが高じて納豆蔵や味噌蔵、醤油蔵があったりする。あと台所の隅に糠床も置いてあるんだとか。

「さーてと、どうだったかな?エリちゃん」

「・・・よく、分かんない」

「・・・まぁ、そんなもんだよな」

感情そのものに蓋をしていたんだ。すぐに感情の感じ方を言語化するなんざ、無理ってもんだよな。

「でも、でもね?」

「ん、どうした?」

「あのね、たくさんの人が頑張ってて・・・どんなふうに、なるのかなって・・・」

「ほう・・・!」

未来の可能性に興味を抱いたか。良い兆候だ。

「これ、何て言ったらいいのかな?」

「・・・楽しみとか、ワクワクするとか・・・あぁ、これが良いかな。

《心が踊る》って言うんだよ、そういうの」

「心が、踊る・・・!」

俺の言葉を反芻すると、エリちゃんはスッキリした表情になった。しっくり来たみたいだな。

「有意義だったようだねぇ」

「あ校長。ミッドナイトも」

声を掛けてきたのは、電動歯ブラシみたいな挙動でチーズを貪っている校長だった。隣にはミッドナイトもいる。

「文化祭、私もワクワクするのさ!多くの生徒が最高の催しになるよう励み、楽しみ、楽しませようとする!」

「警察とも色々ありましたもんねぇ」

「それでNEVERから警備員として京水姉さんのT2マスカレイドを50体導入するって条件で何とか押し通したもんなぁ」

「そんな事してたんだ」

「でないと自粛しろってよ。そんなの御免だろ?」

「違い無いね」

そう言って皮肉っぽく笑いながら肩を竦める三奈と視線を交わしながら、俺は外道麻婆を一気に飲み干した。

 

―――――

――――

―――

――

(NOサイド)

 

「よぉ、フラン。良い月だな」

「そうだね、出久」

夜10時。出久とフランは、バルコニーにて何度目かの密会をしていた。別段隠す理由がある訳ではないが、かと言ってクラスメイトに言おうものなら峰田が爆発しかねない。それ故に、現在2人以外にこれを知っているのは三奈と相澤だけである。

「それでさ、今日はどうするの?」

「あぁ。前回までで、吸血鬼としての素のスペックはそこそこコントロール出来るようになったろ?少なくとも、いきなり暴走とか、そういう事は無くなった。

だから今日は、お前の吸血鬼としての能力を伸ばそうと思う」

「フムフム・・・詳しくは現地でだね?」

「そういうこったな」

そう答えつつ、出久はバードメモリで翼を生やす。そしてその翼で風に乗り、何時ものグラウンドまで移動した。もはや慣れたものである。

「さぁてと、まずは吸血鬼伝承のお復習(さらい)からだ。

問題。吸血鬼が苦手とするモノと、その理由は?」

「えっと、嗅覚が鋭いからニンニク等の刺激臭が強いもの、あとは十字架や聖水みたいなホーリーシンボルの類いだけど・・・何でだろう?」

やはり、直接的な理由が分かり難いから知らないよな。

「実はなフラン。そういうホーリーシンボルが苦手な吸血鬼ってのは、生前キリスト教徒だった奴だけなんだ」

「え、そうなの?」

「神様に背いた後ろめたさから来るストレスが、身体にダイレクトに響いてるんだよ。吸血鬼は魂に依存する、ゴースト側に近い存在だからな」

「へぇ~・・・じゃあ、私達は平気だね。仏教徒(ブッディスト)だし」

「そうそう。そもそも神道と習合した日本仏教においては、()()()()()()()()()という概念が殆ど無いんだ。キリスト教との大きな違いだな。

全ては、当人の行いによる自業自得の積み重ねによる結果。つまり因果応報と諸行無常の世界だ。そもそも、日本の神はゴッドと言うよりスピリット寄りだからな。人に悪影響を与えるモノですら、神として崇め畏れる宗教観だ。

だから、人が人外の仮生になろうが、それそのものは悪でも何でもない。故に潜在的な後ろめたさが無いから、ホーリーシンボルへの耐性がある」

「成る程成る程。じゃあ、流水を越えられないっていうのは?」

「あー、それなんだがなぁ・・・」

ちょっと困ったように苦笑いをしながら、出久は頭を掻いた。

「実はその設定、どうにも根底が曖昧なんだよなぁ。もし日本の妖怪だったなら、手を流水で清める文化があるから御穢流(おけがれなが)しで通るんだが・・・西洋じゃ、初出の時代には監察医が死体を捌いた後に着替えも洗浄もせず赤ん坊を取り上げて、細菌感染で母子共に死んでも尚手荒いが普及しなかったらしいし・・・穢れが流水で浄められる、なんて発想が無かっただろうからなぁ。

多分、弱点を作りたいから盛り込まれた、根拠の無い設定だと思うぜ?」

「設定って・・・」

「仕方無いさ。吸血鬼って実は結構近代的な妖怪なんだから。

で、フランは流水が苦手だったりするのか?」

「ん~・・・言われてみれば、全然平気だね」

「フム・・・多分お前の個性は、周囲からの吸血鬼や自分に対するイメージをある程度体現する・・・言わば、ファラの剣殺しと同じ哲学兵装になっているのかもな。

今までフランは飽くまで()()()()()()()()()()()だったから、普通にシャワーや日光を浴びたりしてただろ?その性質のイメージが、周囲に刷り込まれたのかも知れない。

まぁ、まだ仮説でしか無いからガバガバ理論だが」

ピラピラと手を振りながら、出久は持論を展開する。

「と、論点がズレたな。要は、吸血鬼の在り方ってのは、自他の精神に強く影響されるって話だよ。

さて、次だ。今度は逆に、吸血鬼はどんな攻撃が得意だと思う?創作物とかから引っ張ってきても良いぜ?」

「えーっと、まず噛み付きからの吸血鬼はもはや代名詞でしょ~?それと殴る蹴るの肉弾戦とか、魔法攻撃に魅了催眠(チャーム)・・・あとは、血を操って武器にしたり?」

うーんと唸りながら、フランは複数の答えを挙げた。どれもゲームや漫画で良く使われる設定だ。

「そうだ。そしてその内、ステゴロと魔法はある程度使えるよな?なので、今回は血の操作―――操血能力を確かめる」

「おー」

パチパチと拍手するフラン。彼女自身、創作上の吸血鬼の十八番である操血能力には憧れがあった。

「と言っても、俺達は吸血鬼としてはまだまだヒヨッコも良いとこだ。だから、まずお前の能力を引き出す。そしてその感覚を、俺がリミピッドチャンネルで拾って再現する。

良いかフラン。何より大切なのは、出来るというイメージだ。吸血鬼はさっき言った通り、精神に強く引っ張られる。その性質を利用するんだ。まぁ、まずは準備だな。

さぁ、まずは血を吸え。叩き起こす」

「ん、分かった!」

フランは嬉しそうに眼を輝かせながら、何時ものように出久の首筋に牙を突き立てる。出久はもう慣れたもので、痛みに顔すら顰めない。

「はぁ・・・」

出久の血を嚥下し、うっとりと溜め息を吐く。緋色月のような瞳に妖しい光が宿り、瞳孔が猫目のように縦に尖った。

「よし、起きたな。じゃあ、ちょっと指を切るぞ。左右どっちが良い?」

「はい右手」

差し出されたフランの右手を握り、出久はその人差し指をエターナルエッジで浅く切る。傷口から瞬く間に血が滲み出し、指の上に紅い雫を作った。

「これから、お前に簡易的な暗示をする。座って眼を閉じ、リラックスして聞いてくれ」

「ん、分かった」

ペタンと座ったフランの右手をとり直し、出久は後ろからフランを抱え込むように座って耳元に顔を寄せる。

「さて、リラックス・・・は、もう済んでるな。じゃあ、イメージを固めよう。

お前にとって、血液を操るなんてお茶の子さいさいだ。簡単に出来る。息を吸って吐くように、耳で音を聞くように・・・細っこい鉛筆を、指で容易くへし折れるように・・・」

フランの心理に、暗示を優しく刷り込んで行く。フランの脳内からは雑念が消え、静かに澄み渡っていた。

「イメージしよう。血の流れに乗った魔力が、指先から滲み溢れるイメージ・・・それを、自由自在に動かすイメージ」

「魔力を、指から・・・」

 

―ブシュッ―

 

魔力が指に絡まるよう、深くイメージ。すると、傷口から新たな血液が勢い良く噴き出した。しかし、その飛沫は重力に逆らい手元に集まって蔦のように指に巻き付く。

「んっ!?」

「大丈夫、大丈夫。心配無い、しっかり出来てるさ。あぁ、本当に良く出来てる」

自分の血液が指に巻き付いた何とも言えない感触に、フランは一瞬身を強張らせた。その頭を出久が優しく撫で、宥めて落ち着かせる。

「じゃあ次、眼を開けて。しっかりと自分で目視するんだ」

「ん・・・わぁ~・・・」

出久に言われた通り眼を開け、自分の手に巻き付く血液をまじまじと見つめるフラン。そのまま意識を集中して、触手のようにウネウネと動かしてみる。

「何か、すごくしっくり来る。これが、吸血鬼としての本来の感覚?」

「しっくり来るならそうなんだろうな。どんな具合だ?」

「う~ん、と・・・」

 

―ブシュッ ギュルルッ ジャキッ―

 

微かに意思を集中し、血の触手をくねらすフラン。そしてそれを集めて固め、瞬く間に五指を覆う鋭利な鉤爪に変化させた。

 

―ギョルギョルッ ブシュゥッ ギチッ―

 

そしてすぐにそれを解除し、今度は胸から腰まで程の薄い中型盾を形成。更にその表面から無数の針を瞬時に生やす。

「結構融通利くみたい」

「初めてでそれか。いやはや素晴らしいな。もう補助輪暗示は必要無さそうだ。

さて、最後だ。俺がその感覚を、リミチャン越しに掴む。ちょい時間かかるかもだが、付き合ってくれよ?」

「お安いご用だよ♪」

 

―――――

――――

―――

――

 

翌日。出久とフランはライダー組以外のクラスメイトにものの見事にドン引きされた。

 

to be continued・・・




~キャラクター紹介~

緑谷出久
我らが化物主人公。
エリちゃんを案内しつつ、文化祭準備を見て回った。絢爛崎先輩は生理的に無理とのこと。
文化祭自粛しろと言う警察とかなり交渉した結果、T2マスカレイドを50体配置する事で開催権をもぎ取った。
その後、無事血液操作も会得・・・って何処が無事だよ。ダメじゃねぇかよ。
もう行き先が見えやしねぇよ。どうするこれ・・・

フランドール・スカーレット
出久の第二夫人。
雄英文化祭にて、ミスコンに出場する事が決定。
吸血鬼の能力を活かす為、日々精進中。クロムウェル解除も少しだけなら使えるようになってきた。
今回、吸血鬼の十八番である操血能力も会得。今後バンバン使っていく予定。


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第37話・約束のB/因果の気配

「お前どんだけ長引かせてんだよ」
『いや仕方無いだろ?必要なイベントが多過ぎるんだから』
「それをスマートに纏めるのがお前の仕事だろうがよ。
つか、前に言ってたジードとベリアルのは結局どうするつもりよ」
『取り敢えずまだ保留だな。ヒロアカ側が一段落着いたらだ。つーか、龍騎系のオリジナルライダーでも描きたいやつがあるし』
「そーいや風都探偵も読んだんだろ?どうだったよ」
『あれはもうね、全体的に最高としか言い用が無かった。運命のガイアメモリについても掘り下げられてたし、後書きのインタビューが松岡充さんだし。
あと一番驚いたのは、敵組織のリーダーである万灯雪侍がこの作品で同ポジションのアダムと同じような事を言った所だよ。
詳しくは買って読んでね!』
「これ読む頃には皆買ってるだろ」


「ウッシ、じゃあ行ってくるわ!」

「おう、行ってらっさい」

壊理来校の翌日、日曜日の朝。

切島は出久に見送られながら、ハイツアライアンスを出た。

腹には青いウェストポーチを着けており、ベルト部分の龍の顔と歯車が組合わさったフルメタル製のエンブレムが、朝日を受けてコバルトブルーに輝く。

『よぉ、随分とご機嫌じゃねぇか』

「うぉっと!?」

突然頭の中に響いた声に、切島の肩がビクッと跳ねた。

「い、いきなり話し掛けてくるなよ()()()()!」

『ったぁく、良い加減慣れろよ。ライダーシステム使う時以外は用無しなんて、流石の俺でも寂しいぜ?』

「はっ、心にも無い事よく言うぜ」

『カカカカッ、こりゃ手厳しいねェ』

言葉とは裏腹に、飄々とした態度でカラカラと笑う声・・・エボルト。

かつて自分に仮面ライダーの力を与えた異世界人である、石動仁。その男の置き土産とも言えるその声に対して切島は、彼にしては珍しく訝しげな態度をとる。

『オイオイ切島ァ・・・せめてもうちょいとだけでも、信用しちゃくれねぇかい?』

「何か、嫌だ。お前は信用し過ぎちゃいけない気がする。勘だけど・・・

それに、緑谷からも気を付けろって言われてるし」

『ッカ~、信用無いねぇ。

まぁ確かに?俺は、石動仁から分離した()()()()()()だ。だがなァ?俺にだって、響や未来達・・・地球人と過ごした、幸せな記憶ってやつがあるんだぜ?』

「・・・」

エボルトの声が相変わらず飄々と抗議してくるが、切島は尚も信用出来ないという顔をしていた。

出久には既に相談しているのだが、その際に石動仁とは関係無い、本来のエボルトの人物像(?)を聞いていたのだ。

曰く、飄々としたトリックスター的な性格で、先を見据えて行動し、自分が楽しむ為なら努力も痛みも厭わない事。星を滅ぼし喰らう種族だが、それは習性と言うよりも種族の掟のようなものらしい事。そして、裏で暗躍し敵味方を己のシナリオ通りに動かす典型的な黒幕タイプである事。

また喜怒哀楽の内、怒と哀の感情が欠除しているとも教えられた。

『なぁ~切島ァ、流石に無視は堪えるぜェ?』

「うるせぇ。1人でブツブツ言ってたらおかしいだろうが」

『電話掛けてるフリでもすりゃ良いんじゃねぇか?』

「・・・」

周囲の眼を気にして言い返す切島だったが、口先を回すのはエボルトの十八番。一瞬で丸め込まれてしまう。

『まぁ良い。あの乱波との約束も、お前のハザードレベル向上に役立ってるしな』

エボルトの言う通り、切島の現在のハザードレベルは4,3。順調に上昇している。

「・・・まぁ、喧嘩の後に傷を治してくれんのは感謝してるけどよ」

『カカカカッ、お前さん人を嫌いきれねぇ性格だなァ』

スマホを耳に当てつつ、眼を泳がせながら呟く切島。それに対し、エボルトはさも愉快そうに笑った。

 

―――

――

 

「よぉ乱波、久し振り」

「あぁ!待ってたぞクローズ!」

刑務所の面会室にて、切島は八斎會で逮捕された乱波と面会する。

あの事件以降、切島は週1回必ず刑務所に来ていた。

「どうッスか泊さん。コイツ、大人しくしてました?」

「あぁ。多少いざこざはあるが、相変わらず口喧嘩までで踏み留まってるな。聞き分けの良い奴だよ。

他にも、看守の荷物持ち手伝ってくれたりな。ただ、手先が不器用で、細かい警務作業が苦手っぽいのが困り所さ」

付き添いの進護の言う通り、乱波は刑務所内では殆ど問題行為はしていない。寧ろ小さいながら、他人に気遣いが出来るタイプだった。喧嘩好きではあるが、根は好青年なのだろう。

「お前と漢比べ出来なくなるのはイヤだからな!約束は破らねぇ!

さぁ早くやろうぜ!ウズウズしてるんだ!」

「わかったわかった。じゃ、行こうか。泊さん、先導頼んます」

「あぁ」

進護に連れられ、切島と乱波は面会室を出た。少々歩き、行き着いたのは頑丈な訓練場だ。

「じゃあ、早速おっ始めるか!」

「分かったってば」

〈覚醒ッ!!〉

【グレィトックロォーズドラゴンッ!ARE YOU READY!?】

「超変身ッ!」

【ウェイクッ!アップッ!クロォ゙ゥズッ!!ゲット!グルルェイトッドォラゴンッ!!

イ゙エェェェェイッ!!!!】

癖の強い音声と共に、グレートクローズに変身する切島。赤い光が染み渡るように全身を走り、バイザーが血のような紅に発光した。

「今回から5分に伸ばすぜ!思いッ切り来い、乱波ッ!!」

「あぁマジかよ!最高じゃねぇかッ!じゃあ早速、行くぜクローズゥ!!」

 

―――

――

 

―ガギギギギギギギギッ!!―

 

轟音。肌を痺れさせる程の、まるで合金で出来た頑強な盾をマシンガン5丁で撃ちまくっているかのような、轟音。

それは、残像が上半身を覆う程のスピードで繰り返される乱波の連打と、それを真正面から受けきるグレートクローズによって発せられていた。

 

―BANG!!―

 

「っと、もう終わりか」

「グッ・・・あぶ、ねぇ・・・」

進護の拳銃が発した甲高い銃声が、終了のゴング。こうでもしなければ拳撃の音に喰われてしまうのだ。勿論、ブッ放したのは空砲である。

そして5分間のノンストップマシンガンパンチを受けきったグレートクローズは息を粗げ、変身解除しながら膝を突く。

「お疲れさん」

「お前すげェなクローズ!最初は3分で倒れ込んでたのに、今じゃ全然平気じゃねぇか!5分も真正面から受けきってくれたのは、お前が初めてだ!」

「いや、乱波。全然平気って訳じゃ無いけど・・・」

「死んでなきゃ平気なんだよ!」

「極論過ぎる・・・」

『ま、実際生きてりゃ意外とどうにでもなるからな』

「ッ・・・」

いきなり話し掛けてくるエボルトに、切島は思わず肩が跳ねた。

 

「だから、急に話し掛けんなって・・・」

 

「ん、どうしたクローズ?トイレか?」

「あ、あぁいやっ何でもないっ!」

「そうか」

声に反応した乱波を誤魔化し、切島は訓練場を後にした。

 

『・・・ハザードレベルは、4,4か。戦兎達に比べりゃ驚異的な成長速度だが・・・()()を渡すのは、流石に当分先になるな』

 

―――――

――――

―――

――

 

「お風呂空いたよ~」

「はーい!」

夜。風呂上がりの三奈の声が、ハイツアライアンスに響く。

フランは一足先に風呂を済ませ、イメージトレーニングの一環としてスマホでYouTubeに配信されたHELLSINGを観ていた。

「んぉ?フランちゃんヘルシング観てるの?」

「うん!出久にオススメされてね~♪」

「確かに、最近のフランちゃんってアーカードの旦那に似てきてるからね」

「実際、フランは魂を喰らう典型的なドラキュリーナだからな。もう少し吸血して魂を喰えば、死の河も出来るかもしれんぞ?」

「「あ、出久」」

「オーイ、男風呂も空いたぞー」

と、同じタイミングで上がって来た出久が話に入る。因みに風呂の空きを知らせたのは爆豪だ。

「うわぁ・・・もし出来るとしたら、戦う事になる敵が今から可哀相・・・」

「と言うか、出久も吸血鬼だから出来るかもだよね。同じ真祖直眷属のセラスちゃんが出来てた訳だし」

「あー・・・俺が死の河使ったらそれこそ手がつけられねぇだろうなぁ。ま、少なくとも魂の支配能力的にはフランが上だから、フランが使えるようになったら俺も使えるようになるかもな。後天的に平等になりこそしたが、元々は俺が眷属って形で吸血鬼になったんだし。

今の俺は言うなれば、自分の首輪に繋がれた主従関係の紐を、先端を握ってるフランの首に引っ掛けて、形だけは平等になってるような感じだ。

飽くまで、支配力はフランの方が強い」

「まぁ、リアルに首輪着けてるのは私だけどね」

チョーカーのスイッチを撫でながら、フランが小さく笑った。

「ライダー組~、ヤオモモが紅茶淹れてくれるってさ~」

「お母様から仕送りで戴いた幻の紅茶、ゴールドティップスインペリアルですの!」

「おーサンキュー響香さん、八百万」

「インペリアル・・・皇帝への献上品レベルの紅茶かぁ。

ゴールデンティップスティー自体は何度か飲んだ事あるけど、流石にそのランクは初めてだな~」

イギリスのちょっとした貴族であるフランも、八百万が用意した物程の高級品は飲んだ事が無い。八百万の家は、マジに貴族に匹敵するレベルなのだ。

『諸君は何時、どんな紅茶を飲むかね?』

「あ、しまった自動再生・・・」

何時の間にかHELLSINGの最終回が終わり、暫し沈黙していたフランのスマホ。その画面には、自動再生によって選ばれた動画が流れ始めていた。

「ん、紅茶の動画か?」

出久が覗き込むと、画面に写っていたのは紅茶でビチャビチャになったティーカップ。一目見れば、素人が見様見真似で格好付けにプロみたく高い位置から注いだのだろうと分かる。

『私は必ず仕事の前後に、仕事の大きさによってブランドを選ぶ。そしてこのお茶は、高級紅茶ロイヤルフラッシュ。

どういう事か、お分かりかな?』

『違いの分かるジェントルかっこいいって事!?』

「今の甲高い声はカメラ担当か?」

「多分・・・」

喰い気味に被せてくるカメラ担当であろう女の声に、出久とフランは若干引く。声の揺動的に、過激派カルト集団のそれを連想したからだ。

『次に出す動画・・・諸君らだけでなく、社会全体に警鐘を鳴らす事になる。心して待って戴きたい!』

『キャーッ❤️』

「あ、終わった」

「短いな」

動画が終わり、再び自動再生が始まらないようにフランはキャンセルを選択した。

「・・・俺ってさ、ネットをそんな見ない方だからあんま分からんのだが・・・コイツ誰?」

「そこそこ前から、ネットに動画を上げて騒がせてる(ヴィラン)だよ。派手にやってる癖して尻尾は掴まれてないから、ふざけて見えるけど結構なキレモノっぽい」

出久の問いに、顔を顰めて答える三奈。噂程度は知っているが、どうにも義賊気取りな割に関係無い所にもかなり迷惑を掛けているらしいからだ。

「・・・あ、待てよ」

暫しの沈黙の後に、出久の口許が引き攣った。

「あ゙~・・・気付かなきゃ良かったと言うか、気付いて良かったと言うか・・・」

「え?どうしたの?」

「碌でも無い因果が紡がれた事を確信した。証拠は無いが・・・」

「・・・もしかして、デップーみたいな感じ?」

「そう。アイツのお陰で身に付いたメタ読み」

既に次元レベルの禁忌、第4の壁の向こう側を知っている出久は、深い溜め息を吐く。

「・・・文化祭当日、トラブルが発生する事がほぼ確定した。

それを承知の上で、絶対成功させるぞ」

「任せてよ!」

「中止になんて、絶対させない!」

「ッシ!」

3人は拳を打ち交わし、八百万の待つキッチンに向かった。

 


 

―ピピッ ピピッ―

 

「時間ですわね」

組織の拠点の一室。()()()手に握った筆で紙に象形文字のようなものを描き続けていた青娥は、24時間に設定していたスマホのアラームを解除する。

すると、青白かった青娥の肌は見る見る内に鮮やかな血色を取り戻し、四肢の先端まで熱が通った。

 

―ぼりっ ごりっ むちっ ぐちゅっ―

 

「芳香ちゃん、時間ですわよ。()()()()()()()

「んぐっ・・・わかったぞぉせぇが~」

青娥に呼ばれると、ナニカを貪っていた中国風の服を着た少女・・・芳香が、舌足らずな口調で答えて立ち上がる。肘や膝の動きが若干ぎこちなく、危なっかしい。

クルリと振り返った彼女の額には、黄色地に赤文字で《勅命―陏身保命―》と書かれた符が張り付いていた。

「あぐっ」

そして芳香は主人に命じられた通り、青娥の腕に噛み付く。すると青娥の肌は先程と同じように一瞬で青白くなり、瞳孔も開きっ放しになった。

「ふむ・・・殭屍化はした事がありましたが、やはりこれまでよりも力が入りやすいですわねぇ・・・さて、早速実験してみましょうか。

ロード、来なさい」

『ギィ・・・』

青娥が呼ぶと、扉からロードドーパントが入って来る。その額にも、芳香の物と酷似した制御符が張り付いていた。

符の文字は、《勅命―奉身従令―》。符の持ち主の傀儡となれ、と言う命令符である。

「そこに立ってて下さいねぇ~♪動いちゃダメですわよ~♪」

符を通じて送られる命令に従い、壁際で直立不動となるロード。青娥はその正面に立ち、脚を前後に開いて弓を引くように右手を構える。

そして小さく微笑んだ表情を崩さぬまま――――

 

―ズンッ―

 

――――己の手を、ロードの身体に突き入れた。

衝撃も手応えも無く、空気に拳を突くと変わらぬ手応え。しかしてその実、青娥の手は肘までロードの鳩尾から体内に入っている。

「――――――()()

 

―ブチミチミチッ―

 

『ギッ・・・』

青娥の呟きと同時に、腕を突き入れられた鳩尾から肉が裂けるような音と共にコールタールのような黒っぽい血が大量に溢れ出した。

「ウフフ、面白いですわぁ♪この新たな能力・・・実に予想外♪嬉しい誤算とはこの事ですわねぇ❤️」

舌舐りをしながらグチョグチョと腹の中をまさぐる青娥。

「そぉれ♪」

 

―ゴキッ ブチブチブチッ―

 

『ウギィ!?』

そして最後にナニカを掴み、思いっ切り腕を引っこ抜いた。

手に握られていたのは、握り拳を優に越える太さの剛健な背骨。身体を支える重要な柱を奪われたロードは、身体がジャックナイフの如く後ろに二つ折りになって絶命。

「芳香ちゃん、新しいご飯ですわよ~♪これ、食べて片付けといておきなさいねぇ~♪」

「わかったぞぉせぇが~」

先程と同じように了解し、芳香は動かなくなったロードの死骸の頭を鷲掴む。

そして口を大きく開き・・・

 

―ばりっ ゴリッ ゴキンッ―

 

豪快に、齧りついたのだった。

 

to be continued・・・




~キャラクター紹介~

切島鋭児郎
約束は守る男。エボルトと強制的にバディを組む羽目になっている。
仮面ライダーグレートクローズ。クローズドラゴンはエボルトの因子で完全にブラッド化しており、逆行は不可能。仮面ライダークローズはグレートクローズへの不可逆進化により、実質消滅した。
エボルトが体内に同居している事もあって、とんでもない程のハイペースでハザードレベルが上がっている。そのお陰で、グレートクローズに覚醒後はどんどん打たれ強くなり続けている模様。
ハザードレベルのお陰か、直勘が鋭くなっている。

エボルト
石動仁が切島に与えた置き土産。
仁から完全に分離している為、人格はほぼ原作のエボルトそのもの。
切島に対して取り入ろうとするものの冷たくあしらわれているが、それすら若干楽しんでいる模様。

緑谷出久
毎度お馴染み化物主人公。
ジェントル・クリミナルの動画を見た事で、デップーからの影響で理解した第4の壁の向こう側で画かれているシナリオを悟ってしまった哀れな奴。クトゥルフTRPGなら確実に1D10or1D100のSANチェック行ってるな。

芦戸三奈
出久の嫁。
ジェントルの事は少し聞いた事あるってぐらい。
原作でも義賊とか言いながら建設中のビルの鉄骨落っことしたり結構関係無い損害出してるので、多分それ以前もそういう碌でも無い被害出してんだろうなぁと。
多分被害総額は億に届くかどうかだと思う。

フランドール・スカーレット
出久の第二夫人。
順調に吸血鬼のポテンシャルを引き出しつつある。出久に進められてHELLSINGを見始めた。好きなキャラはアーカード。好きなカップリングはベルセラ(ベルナドット×セラス)。

霍青娥
ナチュラルサイコ邪仙。敵サイドの美女系ゲス担当キャラ。
何やらえげつない能力を会得した模様。これから何やらかすか、乞うご期待。
最近毎日、使役している殭屍(キョンシー)の芳香に自分を噛ませて疑似殭屍化を繰り返しているようだが、果たしてその目的とは・・・?

宮古芳香
青娥の使役する殭屍。額に張り付いた符で制御されており、それが無くなるとただただ食欲しか無い典型的なゾンビになる。
その身体には、青娥によって様々な改造が施されている。また、痛覚や疲労を感じない上に怪力と爪の猛毒という武器を持っている為、戦力としては優秀。
しかし反面頭は弱く、はっきり言ってバカとかアホの子と言うのが正しい。なので、逃げ切る事自体はそう難しくはない。
徹底的な防腐処置が施されており、身体が腐敗する事は無い。


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第38話・Fの戦い/祭・事・当・日 その1

「キリキリ書けオラ」
『お慈悲ちようだい』
「だが断る」
『ウワァァァァァァァ!?』


(出久サイド)

 

「ふぅ・・・変身ッ!」

【タブー!】

「ほう、これは・・・」

敬愛のキスに差し出すが如く前方に伸ばした右手で、ドライバーのスロットを押し倒すフラン。すると、今までとは違う無数の血の蝙蝠が飛ぶようなエフェクトに包まれ、新たなライダーガールが姿を現した。

身体にピッチリとフィットする黒いアンダースーツ。

鋭い爪を備えた赤いグローブと、同じく鮮血のように紅い胸当て。

銀と言うには少し渋く、鉄と言うには少し明るい、絶妙な色をした金属装甲。

そして、角のようにも見えるカチューシャと、黄金月が透き通ったような色合いのクリアバイザー。その下に走る、稲妻にも見える牙状に変化した涙ライン。

「タブー改め、ライダーガール・スカーレットキヴァ、と言った所か」

「うん!物体を自分の中に同化して収納する能力を使えるようになったから、応用してみたの!」

このスカーレットキヴァ、実は仁から貰ったコスプレ衣装を依代としてタブーで共振増幅したフランの魔力を固着させているものなのだ。

それによりこの衣装は本物の鎧となり、更にフランの魔力と完全に融合している。

「恐らく、俺のメモリ格納能力が吸血鬼の能力に取り込まれて昇華した能力だろうな。

実際、吸血鬼は幾つかの化身に姿を変える変身能力があるが、その際に帽子や剣、鎧なども同時に出現すると言う。本来の真祖に近付いている証だろう」

「図書館からキバのDVD漸く借りられてさ。キバの鎧格好いいなーって思って、試しにやってみたら出来たの!」

「スゲェな、流石は吸血鬼。自分の意思で拒絶しなければ、自分の中に異物を受け入れる事が出来る」

「ATフィールドを自由に操作出来る感じかな?」

「どっちかっつーと、自由に解除出来る、だろうな。

しかしそのスカーレットキヴァ、随分と馴染んでいるようだ。やっぱ好きなモノを纏えば、メンタルが力に直結する吸血鬼にとってかなりのブーストになるのか」

もうこれだけで軽く一個武装中隊は潰せるだろう。

「これなら明日・・・当日も、大丈夫そうだな」

「うん。吸血鬼の能力もどんどん使えるようになってきてるし、油断さえしなければ平気だよ」

そう、明日。遂に雄英文化祭当日である。俺が身に付けた・・・と言うか、並行世界の観測やら移動やらデップーの言動やらで嫌が応にも身に付いてしまった禁忌(メタ読み)で予測した、トラブらない筈が無いであろうイベントだ。

「しかも丁度狙い澄ましたかのように私の作業全般が片付きつつ、青山君のロープが切れ掛けると言うのがね。もうこれ完全にそういうシナリオだよ」

そう。パフォーマンスの一環で青山をロープで吊し上げるのだが、その練習で使ったロープがボロボロになってしまったのだ。気付いたのはついさっき。八百万も熟睡中。これは朝イチに買いに行けと言うシナリオの啓示だろう。丁度舞台仕込みの最終調整やら何やらで早朝から作業するから、俺が行く訳にも行かない。

どうせ異次元の奴ら、俺の思考読んでるか聞いてるんだろ?最初に言っとくが、朝イチに八百万に作って貰え、ってのは無しな?この因果は確実に、襲撃してくる敵を迎撃する為の物だ。反抗して八百万に作らせれば、下手すりゃ迎撃するチャンスが無くなるかも知れない。

悔しいが、此処はシナリオに流されるとしよう。

「仕方ねぇさ。俺達はどうも役者らしい。

だが考えても見ろ。《神とは、別次元の知性体に感情移入された存在である》・・・ダークソウルの裏設定らしいが、この法則なら俺達は既に神様だ。この程度、何とも無いさ。

それに、今までクラスメイト誰1人として欠けなかっただろ?察するに、シナリオライターはかなり甘いらしい。こんな所でメインキャスト退場なんてさせねぇだろうよ」

「うわぁ~えげつないメタ読み・・・まぁ、そう思っとくよ。気が楽だし」

そう言って苦笑いするフランに、俺もハハハと笑う。

出来る事はした。後は明日だ。

 

―ズキッ―

 

「っ・・・此方も、そろそろ潮時か」

一瞬疼き痛んだ左腕を擦り、俺はそう呟いた。

此方も、割と時間が無い。準備は早く進めないとな・・・

 

―――――

――――

―――

――

 

(フランサイド)

 

「あーもう!便利なお店(コンビニエンスストア)を名乗るぐらいならロープぐらい置いといてよ!」

出久に今朝方頼まれたものも入れたビニール袋を握り締めて、私は雄英までの道を走る。

全然使わないから、日本のコンビニは凄いって散々イギリスで話題になってたのを過信し過ぎた!結局最寄りのホームセンターで取り揃えたけど・・・

「あーもう遠いなぁ・・・っ!」

走りながら愚痴っていると、前方の曲がり角から人の気配。数は2、警戒開始。

「おぉっと」

「おわっ、すいません!」

 

―――道中で顔見知り以外の気配に確実に出くわすだろう。接近したら、まず人数を確認しろ。2人だった場合は警戒開始。敵である前提で、態と接触するんだ―――

 

出久が読んでいたシナリオに従い、態とぶつかり掛けて接触。相手を視界に入れる。

片方は、丈の長いトレンチコートにマスクとグラサンで完全に肌を隠した男。もう1人は、小さい背丈にグラサンで目元を隠し、つば広の帽子を被った女の子だ。

「気を付けたまえよ。ゴールドティップスインペリアルの余韻が、損なわれる所だったじゃァないか」

(ビンゴッ!)

 

―――あのジェントルと言う奴、紅茶に対してかなり拘りがあるらしい。もし紅茶の名前を出したら、確実に黒だ―――

 

「へぇ・・・朝からそんな高級紅茶なんて、気合いの入った()()()()()()ですね、おじ様?」

「ッ~!」

動画から拾ってきたキーワードで圧を掛けてみれば、面白いように肩が跳ねる。

此処からだ。

「動画、見たわ。今引き下がるなら、特別悪いようにはしないであげようかと思うのだけど・・・」

 

―――まずは説得、と言うか揺すりを入れろ。計画は分からないが、目的は分かり切ってる―――

 

「・・・ラブラバ。カメラを回せ」

「・・・仕方無い。じゃあ、プランBか」

因みにプランBのBってのは、《ボコボコにブッ叩く》のB。飽きるまでのBだ。

 

(NOサイド)

 

「リスナー!これより始まる怪傑浪漫!目眩(めくるめ)からず見届けよ!

私は救世(ぐぜ)たる紳士の義賊、ジェントル・クリミナルッ!!」

丈長のコートを勢い良く脱ぎ捨て、相方であるラブラバが持つカメラに挨拶をするジェントル・クリミナル。フランは右手の人差し指の爪で親指の腹を切って出血させ、小振りな刀剣を作り出して勝ち虫の構えを取った。

「予定がズレた!只今何時もの窮地にて手短に!今回はズバリ―――

 

―――《雄英!!入ってみた!!》」

 

「させるかッ!!」

フランはアスファルトが軋む程に強く蹴り出し、神速の打ち下ろし斬りを叩き込む。

 

―むにょん―

 

「ッ!!」

しかしその刀身は、志半ばで止められる。それを為したのは、柔らかな空気の膜壁だった。

「おや、私の動画のリスナーならご存知かと思ったが・・・外套脱衣のついでに()()()()貰った。

私の個性の、弾性(エラスティシティ)。触れたものに弾性を付与する。例えそれが空気だろうと!」

「新参者に、態々解説どうもッ!!」

ならばとフランはその空気膜の反発に逆らわず刀身を跳ね上げ、肩を軸に縦回転。バックステップで距離を取りながら霞の構え*1を取って、眼に魔力を集中する。

「(視えたッ!物質崩壊点(クランブルポイント)ッ!)でやぁァァッ!!」

上体の落下を前方への踏み出しに転換し、吸血鬼の脚力で更に加速。同時に蹴り脚を前方に伸ばしつつ重心低くスライディングしながら、吸血鬼の膂力と動体視力を以て支える亜音速の血刀で空気膜の物質崩壊点(破壊の眼)を正確に突き抜いた。

 

―――吸血鬼版 大忍び刺し―――

 

―ブツンッ―

 

「何ッ!?」

空気膜は難無く破れ、瞬時に霧散。その切っ先が鋭い牙を備えた顎門(アギト)と開き喰らい付かれる寸前、ジェントルは何とかバックステップで回避する。

その背筋には氷柱を背骨に突き込まれたような悪寒が走り、脳内は危険信号で埋め尽くされた。

「ジェントルッ!?」

「大事無いさラブラバ。しかし、我がジェントリーリバウンドを破られたのは初めてだよ。流石の私も、少々とは言えぬ程に肝が冷えた」

「克己兄さんに勧められて、隻狼やってて良かったよ」

使命に縛られた亡者と言う設定に興味を示し、ダークソウルからフロム・ソフトウェアのゲームプレイと考察鑑賞に嵌まっていた克己。その克己に良ければどうだと勧められ、フランも隻狼を一週プレイしていたのだ。因みに竜胤帰しルートである。

「鋭い技だねお嬢さん。だが生憎、私にはラブラバと言う心に誓った女性がいるのだ。幾ら剣先の冷たい唇だろうと、キスは受け取れないな。

許してくれたまえ」「キャー!私も大好きよジェントル!」

「ったく、調子狂うなぁ・・・でも、狩るッ!」

巫山戯ているのか真面目なのか分からないノリにウンザリするフラン。しかし瞬時にスイッチを切り替え、再び血刀で刺突を放った。

「悪いが、暴力的解決は好きじゃない」

 

―ブチッ むにぃぃ―

 

「なっうわぁぁぁ!?」

空気膜を1枚突き破った血刀はしかし、もう1枚の膜に再び阻まれる。そして人外の握力が災いし、跳ね返されたエネルギーを諸に受け止め後方に大きく吹き飛ばされてしまった。

「・・・エグいぐらい暴力的よ、ジェントル」

「あぁ、私も驚きと混乱の最中さラブラバ。それ程までに、彼方のパワー、スピード双方が強烈だったと言う事だ。

見かけに依らず恐ろしい!済まないお嬢さんッ!私は征くッ!!」

「ッ!謝るぐらいならッ、学校に手ェ出さないでよッ!!」

顔に青筋を立てながら、ジェントルとラブラバは全速力で逃走。フランは身体のバネで瞬時に飛び起き、血刀を腰に密着させ居合抜きの構えを取りながら地面を蹴り出す。

「それは出来ない相談だ!ジェントリートランポリンッ!!」

「どわっまたァ!?」

ジェントルは急ブレーキを掛けると同時に、地面に手を付き弾性を付与。巨大なトランポリンと化した地面を居合斬りの踏み込みで思い切り踏みつけてしまい、フランは再び跳ねあげられた。

「学生時分、私も行事に勤しんだものだ。君にも懸ける想いがあろう。だが、私のヒゲと魂には及びはしまい!

この案件は、伝説への第一歩ッ!邪魔はしないで頂きたいッ!

さらばだ!青春の煌きよッ!!」

別れ文句を並べながら、自身もトランポリンで離脱するジェントル。

「ジェントル思い出したわ!彼女、保須市の件でゴキブリを燃やして活躍した、吸血鬼の女の子よ!それに動画サイトでもチームで歌を歌って投稿してた!ジェントルの方が素敵なのに!」

「確か炎の剣、レーヴァテインだったか。恐ろしい限りだ」

 

「(マズイ、逃げられる!照準安定の通常魔力弾(ノーマルショット)じゃ遅いし、かといって高速魔力弾(ラピッドブレット)はばら撒き用だから狙いがブレる!どうすれば・・・ッ!そうだ、これなら!)服は破れるけど、仕方無いッ!」

打ち上げられたフランは、背中に収納していた翼を展開。空中で姿勢制御し、血刀を分解して右手に集め再構築した。

血は伸ばされた人差し指から手首まで絡み付き、更に前方に細長く筒状に伸びて固着。そのブラッドアタッチメントごと右手を左肘で挟み込むようにホールドし、立てた親指の爪越しに先端の照星(フロントサイト)を覗く。吸血鬼の遠方視力と動体視力を以てすれば、トランポリンの上を跳ねるように進むジェントルの背中など、まるで止まって見えた。

「よし。これなら、外れないッ!!」

 

―バヒュッ!―

 

そして鋭い風切り音と共に、スナイパーライフルのようなブラッドアタッチメント・・・ブラドトリガーから、スピード特化の針型魔力弾を放った。

 

―ズドンッ―

 

「グハァッ!?」

「らッシャァ!」

本来は速度を重視し、威力と安定性に欠ける故に数をばら蒔く筈の高速魔力弾(ラピッドブレット)。しかしそれを螺旋溝(ライフリング)が走る長いバレルに通して射出する事で、高い弾速と弾道の安定を両立する事に成功したのだ。

「名付けて、『禁断・魔弾の射手の約束(プロミスオブ・ダー・フラィシャッツ)』・・・」

段幕を背中に受けたジェントルは体勢を崩しこそしたものの、すぐに持ち直し逃走を再開。しかし、乗っていたスピードは完全に殺されてしまっていた。それがフランの狙いである。

直ぐ様側にあった電柱の上に着地し、吸血鬼の脚力で思い切り蹴り出す。

夜であれば自前の翼で蜻蛉も真っ青な高速変態飛行が出来るが、生憎と今は朝方。日光のせいで4割程スペックが落ちてしまった今は、翼で飛ぶよりも脚で跳ぶ方が遥かに速い。

「ゥリェェェェェイッ!!」

「ぬぅッ!?中々どうして、逞しいお嬢さんだッ!!」

「当然だッ!こちとら、魂のパートナーから任されてんだよッ!!アンタに気持ちで負ける道理が、一体全体何処にあるッ!!」

「そいつは失敬ッ!」

掴み掛かった勢いのまま互いに揉み合い、2人は建設中のビルに突っ込んだ。

「んにィ!」

ザリリッと靴底で足場を削りながら着地し、即座に体勢を立て直すフラン。舞った粉塵を翼を振るって吹き飛ばし、ジェントルを再び視界に納めた。

そう。鉄骨にコートが引っ掛かって、滑稽にも宙ぶらりんになっているジェントルを。

「これぞまさしく不測の事態!しかし私は動じない!ハハハハハ!」

「アンタ、脳味噌がマシュマロみたいって言われない?フワフワ軽くて甘ったるいよ」

その様子に呆れ返りながら、フランは血の触手でヒュンヒュンと風を切る。先端はナイフのように鋭く、そしてそれが肉眼では捉えられない程に速い。

「この案件、必ず成功させて見せる!その覚悟があるッ!!紳士は動じたりしないのさッ!!」

「覚悟、覚悟ねぇ・・・成る程、諦めるつもりは微塵も無い訳ね。

で?アンタの何処が紳士なのさ。雄英突っつく気なんでしょ?何するつもり?」

「フッ、何をするつもり、か・・・

いやなに、(ヴィラン)連合のような輩と一緒くたに考えないで頂きたい。別に拐いも刺しもしないさ。ただただ雄英に侵入する、それだけが我々の企画だ。

と言う事で見逃したまえ」

「こんなベラベラと命乞いが飛び出す辺り、マジでプライドかなぐり捨ててるね」

躊躇無く飛び出す命乞いの羅列にフランはまた呆れ、下で見ていた老人に撮影だと誤魔化して登って来たラブラバは絶句。

「でも御生憎様。アンタみたいなのが見つかった時点で、即座にブザーが鳴って緊急包囲。しかも問答無用で文化祭が中止されるの。

まぁ要するに・・・テメェみたいな碌でも無い奴逃がす訳ねぇだろうが寝惚けてんじゃねぇぞコラ」

元から吊り気味だった眼を更に鋭く吊り上げながら、ドスを効かせた声で威嚇するフラン。右手の血液は触手からカランビットにシックル、トマホークにデスサイズと忙しなく切り替わり続けており、しかもどれもこれもかなり殺意の高い武器ばかり。彼女がかなり苛立っているのは一目瞭然だ。

「ホホゥ、それならば心配ご無用!我が相棒がハッキングし、センサーを無力化する算段だ。

よって、警報は鳴らない!我々は企画成功、君らの文化祭も中止にならない!正にWin-Winの関係じゃないかな?」

「あーそれなら問題無いと言うとでも思ったかバカタレ!そっちの方が遥かに大問題なんだよ!コレクションで使わないって言って信管抜いてない本物の核弾頭を日本の都市部に持ち込むようなもんなんだよその理論は!!

後これ此方に何の(Win)も無い片利共生だからね?只の寄生虫だからね?」

「あー、確かに!」

見事な論破。ジェントルが挙げた穴だらけの理論を、更にフランの言葉が滅多刺しにする。

「・・・そう、それが私の企画。面倒な事になる前に、早く向かいたいのだが」

「まだ見逃して貰えると思ってるの?脳内お花畑も大概にしてよ」

「・・・平行線か、仕方無い。この手は、私の流儀的にも避けたかったのだが・・・」

「・・・ッ!まさかッ!?」

ジェントルは足元に空気膜を作り、跳ね上がって鉄骨に着地。そして懐をまさぐり、黒いソレを取り出した。

 

()()()()()!】

 

「嘘ッ!?依りにも依ってT2ジョーカー!?」

ジェントルはT2ジョーカーメモリを起動し、己の首筋に突き立てる。

顔は右半分が笑顔、左半分が泣き顔のピエロマスク。服装はそのままに紫のラインが入り、靴はジョーカーメモリのロゴと同じく尖ったピエロブーツと化した。

「全く、ホント出久の言う通りだ・・・」

【タブー!】

「変身ッ!」

【タブー!】

出久から念の為と渡されたロストドライバー・マイルドを装着し、フランはスカーレット・キヴァに変身する。

『紅茶の余韻が残る間に、眠って戴こう・・・仮面ライダー!』

ジョーカードーパントは鉄骨を踏み締め、個性で柔軟化。そして反動で弾け跳び、ピンボールゲームのように縦横無尽に跳ね回り始めた。

「ちぃ、昼間の動体視力じゃ捉え切れない・・・だったらッ!

禁忌・禁断の果実(フォービドゥンフルーツ)ッ!!」

キヴァは翼を広げて浮上し、両手に魔力球を生成。その2つを握り潰しながら叩き合わせ、全方位に弾幕としてバラ撒いた。

『ぬぅ、中々どうして厄介な・・・』

ジョーカーは紫電のようなエネルギーを纏った両手脚を振るい、迫り来る弾幕の津波を凌ぐ。

「ジェントル!そろそろ行かないとマズいんじゃないかしら!?」

『いいやラブラバ、今少しだ!』

宙返りやロンダートで弾幕を躱しながら、足元の鉄骨を止めているボルトを柔軟化しブルンと引っこ抜いていく。

そして右手で空気膜を作り、引き伸ばしてボーラのようにフランに投げ付けた。

「どわっ!?」

アクロバティックな動きに誤魔化された上に眼に廻す分の魔力まで弾幕に割いていた為、反応出来ず空気膜に絡め取られてしまう。

『やはりこのメモリ、私に馴染むようだ!以前はこのように、空気を投げ付けるなど出来なかったからね!』

「うわっ!?くっ、このォ!」

連続で投げ付けられるエアボーラが身体に絡まり、焦りを見せるキヴァ。それを余所に、ジョーカーは立っている鉄骨を柔軟化してバインバインと弾ませる。

『さて、突然だが私の個性について説明させていただこう。

私の個性は、自分の意思では解除出来ない。時間経過と共に、徐々に元の性質を取り戻していくのだ』

「・・・何の話を・・・?」

『尋常ではない弾みを残したまま、硬さを取り戻していく鉄骨。そして私はさっき、この鉄骨を止めているボルトを全て外した。おぉ、とても危険だな』

「ッ!!ま、まさかッ!?」

フランがチラリと下を見てみると、先程ラブラバが撮影だと誤魔化した老人がずっと見物していた。

『君は仮面ライダー。崩れる鉄骨を、無視出来ない』

「ッ!?ヤバいッ!!」

鉄骨が外れ落下を始めると同時、フランは動く。

身体に絡まっているエアボーラをワンフォーオールで振り払い、脚力と血の触手を使って出し得る速度の限りで鉄骨の真下まで移動。足腰から背筋、肩、そして腕までワンフォーオールを纏わせ、両腕で鉄骨を受け止めた。

「んぐっ・・・んぎぎぎぎぃ・・・」

『ほう、よもや受け止めるとは。てっきり下に行くかと思ったのだがね』

出血の触手も足して支えるフランに、感嘆の声を漏らすジョーカー。下の老人の方を何とかすると思っていたので、予想の斜め上を行ったキヴァに驚いたのだ。

「アンタッ・・・下に、落とそうとしたのッ!?」

『否、君を巻きたかっただけだよ。元より、下に落ちぬよう跳ね返すつもりだった。

心苦しいが、そこで耐え忍んでくれ。私の企画が終わる頃には、誰かが気付いてくれるだろう』

(・・・ダメだ!行かせちゃあ!)

 


 

「ちぃ、中々難しい」

呟きながら出久は体育館裏に立てたアンテナに繋いだパソコンのキーボードを叩いていた。その背後には、空間が捩れたような穴が空いている。

「生中継配信の準備は完了。バットショットも3機待機してるし、プロジェクション用のデンデンセンサー2機も所定の位置に付いてる。

後は、()()()と通信を繋ぐだけ・・・よし!」

出久がパソコンのエンターキーを叩くと、画面には通信中のリングマークが現れる。そして間も無く、そのディスプレイに男が浮かび上がった。

「ハロー、聞こえてるかい?」

『ん?誰かと思えば、出久君じゃないか。久し振りだな』

『わぁー!出久君久し振りー!』

その男・・・弦十郎はかなり驚いたのか、眼を丸くしていた。割り込んで来た響も元気そうだ。

「おう、久し振り。早速だが、こっちは今文化祭シーズンでな。俺達のステージパフォーマンスをそっちに中継しようと思うんだが、見るかい?」

『おー!見る見る!皆集めてくるね!』

「じゃあ頼む」

そう言って、響は画面から消えた。自動ドアが開閉した音が聞こえてから、出久は弦十郎に向き合った。

「あと、この文化祭が終わった後で、ちょっとそっちに行って良いか?ちょいとメディカルチェックをして貰いたくてな」

『あぁ、歓迎するぞ!』

「良かった。じゃあ、配信開始までのカウントダウン流しとくぜ」

『あぁ、楽しみにしておく』

「特に、ツヴァイウィングに宜しく。じゃあな」

気さくに挨拶を済ませ、カウントダウンを流す。これにて、機材の仕込みはほぼ完了だ。

「無理はするなよ、フラン・・・」

 


 

「行かせは、しないッ!!」

キヴァはクレーンを柔軟化してスリングショットのように飛んでいくジェントルを睨みながら、出血の触手を増やしワンフォーオールの出力を25%まで上げる。

そして左腕だけで鉄骨を無理矢理支え、右手に再びブラドトリガーを展開。今度は眼に魔力を流し、より確実に狙いを定めた。

「禁断ッ!魔弾の射手の約束(プロミスオブ・ダー・フラィシャッツ)ッ!!」

再び撃ち放たれた魔弾は、吸い込まれるようにジョーカーの背中に向かう。しかし今度は勘付かれ、着弾直前に躱されてしまった。

「くっ、あの子もジェントルと同じく、諦めるつもりは無いのね・・・」

『ラブラバ・・・』

「使いましょう、私の個性と・・・メモリを」

覚悟を決め、決意を固めるラブラバ。そしてキヴァは鉄骨を下ろし、2人に迫る。

 

「やはり、アイツらに渡したのは正解だったみたいだな」

そして、それを今し方までキヴァがいたビルの頂上から眺めるローブの女・・・バーバ・ヤガー。

「良いデータが録れそうだ。さぁ、貴様らの死力を示して見せろ」

ヤガーの眼は細められ、唇はうっすらと弧を描くのだった。

 

to be continued・・・

*1
顔の横に刀を寝かせて、刃が上を向くように両手で握る構え




~キャラクター紹介~

フランドール・スカーレット
出久の第二夫人。未熟な真祖。紅蓮に染まる不死の君。
自分の中に無生物を収納する能力を得た吸血姫。その応用で紅蓮のキヴァに変身する事となった。
ぶっちゃけ、キバとサガはスカーレット姉妹にこの上無く似合うと思う。
血液操作能力を応用し、自身の武器にするブラッドウェポンや補助具にするブラッドアタッチメントを習得。定義として、剣や爪など、それそのもので敵を殺傷するものがウェポン。ブラドトリガーのように、攻撃の補助具にするものがブラッドアタッチメント。なのでもしボウガンを作った場合、飛ばす矢が血か魔力かで定義が変わる。

ジェントル・クリミナル
今回のメイン敵。ジョーカーメモリとの高位適合者。
見た目と性格からしても、ジョーカーと相性良さそうと思ったのでジョーカードーパントに。
ドーパント態は、シルエットがほぼ変わらない。頭部がマスク状になるだけ。
高位適合によってブーストドラッグのように個性のグレードが引き上げられ、空気膜の形をある程度操作したり、掴んで投げ付けられるようになった。

ラブラバ
ジェントルのパートナー。
此処までは原作通りだが、彼女もメモリを所持している。
因みに次回、彼女はフランの逆鱗に触れてボロッカスにされる予定。作者が気に入らないからね、仕方無いね。

バーバ・ヤガー
組織の幹部。アダムの直属。
ジェントルとラブラバにメモリを宛がった人物であり、個性とメモリの化学反応に興味が尽きない模様。


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第39話・Fの憤怒/祭・事・当・日 その2

「ねぇ、何時になったら俺ちゃん出られるの?文も最近会えてないしさ」
『いや、それはマジでスマン。文化祭には出すから』
「言ったな?」
『その代わり前みたく無理矢理突入しないでくれよ?』
「おっけー牧場」


(フランサイド)

 

「ッチィ、避けられたッ!」

高速魔力弾の狙撃も、2度目ともなれば流石に通じないか。

「とっとと追わないとッ!」

鉄骨を抱えて、下の足場に着地。下にあった空気膜は、血刀でブツッと貫き霧散させる。そしてワンフォーオールを脚に溜め、足場の縁を蹴って大きく跳び出した。

それは放物線を描く跳躍と言うより、水平方向への落下と言った方が正しい。ビリビリと風を切り裂き、ジョーカーに迫る。

『ぬォッ!?何と言う速さッ!』

「吸血姫を嘗めるんじゃないよ!」

電柱を踏みつけてポイントジャンプ。出久が訓練で使っていたのを真似してみたけど、意外と簡単に出来た。

「ウッラァァァァァァ!!」

『クッ!』

付き出した抜き手は、ジョーカーの黒いマントを貫くだけだった。マントを使って身体のシルエットを誤魔化し、体幹を逸らしたんだろうね。

そして此処は、既に雄英の山に繁る林だ。チラリと周囲を見れば、木の陰から複数のT2マスカレイドが此方を窺っていた。

(30、いや20分で良い!私に任せて!)

手早く手話で要求を伝えると、マスカレイドは黙って頷き、走り去った。

これで、少なくとも京水姉さんには伝わった筈。ルナドーパントの能力で生み出した分身の状況は、ある程度分かるって言ってたし。

ジョーカーの方に向き直ってみれば、都合よくマントが目隠しになって見えなかったみたい。

『ぬぅ、君の個性は退却時まで取っておきたかったが、背に腹か』

何かゴチャゴチャ言ってるけど、何をさせる訳にもいかない。

眼に魔力を流し、魔眼を発動。正面に壁用、左上に着地用の空気膜。しっかりと場所を確認して、右前方に飛び込む。

ジョーカーは当然、私に向けて空気膜を張った。でも、狙い通り。

私は右手の血刀を分解し、鎖分銅に再構築。小振りな分銅部分を指に挟み、ワンフォーオールで発射する。狙いは、正面にあった壁用空気膜!

「うりェェッ!!」

『ゴハァッ!?』

分銅は膜の隙間を通って、壁にぶつかり反射。それを無理矢理鎖で引き戻せば、ジョーカーの右脇腹を狙い通りに分銅が打ち抜いた。

「捕縛ッ!」

『ぬぅッ・・・』

「きゃっ!?」

更に鎖を細かく糸状にバラし、ジョーカーを雁字搦めに捕縛。そして左手からも細い血鎖を出し、ラブラバを縛り付ける。

「チェックメイト、だよ・・・すぐ、警察に引き渡すから・・・もう、諦めて。メモリも、渡して」

説得しつつ、嫌な予感が頭から離れない。だって、呆気なさ過ぎるんだから。

ここで引き下がる訳が無い。そんな、嫌な確信があった。

「ジェントル――――

 

――――愛してるわ」

 

―ビキッ ビキバキッ―

 

「ぐっ!?」

ラブラバが愛を囁いた瞬間モヤが吹き出し、ジョーカーに纏わり付く。すると縛っていた鎖が軋み、悲鳴を上げ始めた。握っている手にも、凄まじいパワーが伝わる。

『あぁ、ありがとうラブラバ・・・私もだともッ!』

 

―バキィンッ―

 

「うがっ!?」

遂に、ジョーカーを縛っていた鎖が砕ける。そして刹那の後、地面に叩き倒されていた。

『済まない、お嬢さん。力ずくの解決は好みじゃないから―――

 

―――こういう所は何時も、カットしているんだ。

暫し、眠ってくれ給え』

「ごめんね、フランドールちゃん。最後に必ず――――」

 

―ガンッ―

 

「――――()()()()のよ」

 

・・・今、この女・・・何と言った?

『ッ!?この少女、腕で防いでッ!?』

今し方この女が発した言葉と、首を狙い打ち込まれた手刀を防いだ腕の痛みが、私の精神を焚き付ける。

「愛は、勝つ・・・だと?」

脳が、五臓が、六腑が、煮え滾り吹き零れる。

愛が勝つなら、何だ?要するに、()()()()()()()、とでも・・・ほざくつもりか、この女はッ!!

「巫山戯るな・・・ッ!!

 

巫山戯るなよッ!私だって、なぁ!!愛してる男から、託されてんだよォッ!!」

 

視界が紅く染まり、心臓が跳ね回る。そして私は右手の指を首に、首に着けたクロムウェルIIのスイッチに掛けた。

 

「拘束制御術式、3号、2号、1号、解放ッ!」

 

―カチッ カチッ カチッ―

 

1つずつ指でスイッチを弾き、封印を解除して行く。あの夜と同じように翼が裂け、闇色が噴き出した。

 

―バキンッ バキンッ―

 

そして翼が腕と変異し、肩に巻かれた魔封鎖(カテナ)を引き千切り砕く。

 

「ぶっつけ本番、危険も未確認!然れどやらねばやられるだけッ!だったら賭けてやろうじゃないッ!!」

 

封印から解放されたショルダーは、そのまま紅の翼となった。バキバキと広がり、身体を包んでしまえる程に巨大化する。

『どうやら、やるしかないらしい』

「そうね。でも大丈夫。私達なら、乗り越えられるわ」

ジョーカーの腕に抱かれながら、彼女はメモリを取り出した。

【エクストリーム!】

「ッ!依りに依って、それかッ!!」

首元にメモリを挿し、彼女は虹色の光を纏う。そして人の姿を保ったまま、背中に天使のような翼を生やしたドーパント態になった。

同時に、先程からジョーカーに纏わり付いていたモヤがキラキラと輝く虹色のエネルギーに変わる。

「・・・言わないよりゃ、マシか。

一応言っとくよ。今すぐメモリを棄てて。でないと、命の保証が出来なくなる。

笑い方を知らない子に、笑顔を教える為のパフォーマンスをするんだ。そんな日に、殺しなんてしたくない」

『何度でも言おう、お嬢さん。我々は、決して諦めない』

「はぁ・・・仕方無い、か」

もう、説得なんて考えない。全力で、潰しに行く。

 

―――禁忌・フォーオブアカインド―――

 

「「「「コンティニューはさせないよ」」」」

『元より一発勝負のつもりだ!』

3人の分身と共に、ジョーカーに飛び掛かる。その内1人は、バフを掛けているであろうアタッシュケースを抱えたエクストリームに突貫。

『ぬぅッ!ラブラバッ!』

やはり、ジョーカーはエクストリームを逃がすように投げ飛ばした。そして同時に、バック宙しながらムーンサルトで分身の顎を打ち抜き、一発で消滅させる。

「あーあ、一発KOか。本体より防御力は下がってるとは言っても、ガイアメモリで強化した吸血姫の身体なんだけどねぇ?」

『ジョーカーメモリは想いによって力を増す事はご存知だろう。だがそれがどうやら、自分のモノだけとは限らないようでね。このラバーモードによって流れ込むラブラバの愛もまた、ジョーカーの力を引き上げてくれるのだよ』

「良い事聞いたッ!」

 

―ゴウッ―

 

再び踏み込んでレーヴァテインで薙ぎ払ってみるが、バックジャンプで軽やかに避けられてしまった。

 

『Good Morning!!準備は此処まで、いよいよだッ!!』

 

「ッ!始まった!」

 

―ドゴンッ―

 

「あっ!」

『失敬、隙があったものだから、ついな』

プレゼントマイクのアナウンスに気を取られた隙に、また1人分身が消されてしまった。油断しちゃったな・・・

『更に、トウッ!』

「ぬわっ、またエアボーラかッ!」

またしても空気膜を投げ付けてくるジョーカー。しかも念入りに6個もだ。

「でも、これぐらいならすぐ―――」

『すぐ切れる、か?だがそれで十分だ』

 

―ガッ ドグッ―

 

「がッ~!?!?」

けしかけた最後の分身も手刀で肋骨を粉砕されて消滅。その勢いのまま、ジョーカーは私の腹に蹴りを叩き込んできた。

内臓全部が揺さぶられ、後ろに打ち飛ばされる。木に直撃して止まった時、肺も空気を無理矢理吐き出させられた。

「ごっはっ・・・ぐぁ・・・っ」

衝撃が脊髄から脳まで突き抜け、視界がチカチカと明滅する。それ程までに、ジョーカーの一撃は重く突き刺さった。

『行こう、ラブラバ』

『えぇ、ジェントル』

 

(NOサイド)

 

(お、追い掛け、なきゃ・・・ダメだ。お腹の中で、内出血を起こしてる・・・血が、抜け・・・!そうだ、()()!)

「う、ぐぅぅりゃぁ!!」

『『ッ!?』』

翼腕で木の枝を掴み、通常魔力弾を放ちながら身体を無理矢理中腰まで引き起こす。そして何とか魔眼を発動し、自分の身体を見下ろした。

(腹筋郡、背筋、及び腹斜筋から出血中・・・止血!溜まった出血は、速やかに血管内に再吸収!

骨格・・・極軽度の亀裂骨折、複数・・・血液を優先的に循環させて完治!

内臓・・・全体的に軽度のダメージ!出血に至る損傷無しッ!

横隔膜及び肋骨、筋膜痙攣発生中!血管ごと血液を操作して、無理矢理正常稼働再開ッ!!)

「まぁぁだぁぁぁッ!まだァァァァッ!!」

翼腕で木の幹を気付け代わりに握り潰し、それを力任せに投げ付ける。

スレスレで躱されたものの、明らかに2人は動揺していた。

『ば、バカな・・・ラバーモードによる本気の蹴りだぞ!?』

『そんな・・・あぁ、ごめんなさい、ごめんなさいジェントル!愛が足りなかった!』

『・・・否ッ!君の想いが足りなかったなどと、誰が証明出来ようッ!!』

何かアイツら盛り上がってるけど、早いとこ決めないと此方がヤバい。

「いい加減ッ!止まれよッ!!」

『止まらぬよッ!ジェントリーサンドイッチッ!!』

「うごっ!?」

鳩尾を狙った前蹴りを避けられ、更に上から大量の空気膜を叩き付けられてしまった。

『サンドイッチとは本来、薄ければ薄い程上品とされる食べ物。故に、幾重にも重ねるのは好みじゃない。

しかし、そうまでしても叶えたい。中年の淡い夢だ。

 

歴史に、後世に!名を残すッ!これより未来、()()()()()()!私の生き様に想いを馳せ、憧憬するッ!

この夢、もはや私1人のものではない!諦めろと言われ、おいそれと諦められる程、軽いものではないッ!!』

 

ジョーカーの熱弁に耳を傾けながら、キヴァは翼腕の手の甲の眼で空気膜の破壊の目、物質崩壊点を探す。

『君も雄英生なら、この夢に焦がれる想い、お分かり頂けよう』

「ウッラァ!!」

全力で凝視した事で見つけ出した全ての空気膜の物質崩壊点を翼腕で突き破り、拘束から脱出。ジョーカーに拳を振るった。

「其処まで分かって尚文化祭かッ!!夢の為なら、皆の努力と準備を、絆をッ!十把一絡げに踏み躙れるのかッ!!」

『それはもう、そういうもんだろうッ!!』

拳同士がぶつかり合い、お互いに吹っ飛ぶ。

「夢の為なら、笑い方も分からない哀れなGirlの笑顔もッ!魂を注ぎ込んだ祭りもッ!!踏み潰すのかッ!!」

『夢を叶えるとはそう言う事だッ!!』

右回し蹴り同士の衝突。何とか押し勝つ。魔封鎖に縛られた鎧がある分、キヴァに軍配が上がったようだ。

『勝って、ジェントルッ!』

『はぁァァァァッ!!』

「クッ!」

キヴァはジョーカーの拳を掴み、何とか受け止めた。しかし、感情の昂りとエクストリームのバフのせいで、出力で押し負けている。

更に左手も掴み合い、押し比べになってしまう。

『問おう!ヴァンパイアプリンセスッ!君は何の為に、ヒーローを志すッ!?』

何の為に?決まっている。あぁそうだ、決まりきっているとも。

 

「惚れた男の背中を支え、一緒に弱者を救う為だッ!!出久が何時か語り聞かせてくれた、真の英雄(仮面ライダー)達みたいにッ!!

そして、救われぬ者に、救われるべき者にッ!光の、笑顔の救いを与える為だッ!!」

 

キヴァは翼腕を地面に突き立て、ギリギリと押し返す。

感情で強くなるのは、ジョーカーだけの専売特許では無い。寧ろ、魂に力の根源を依存する吸血鬼こそ、精神的な強さがそのまま物理的な強さに変わるのだ。

(ジェントル、信じるわ!貴方が負ける筈が無いって!だから私も、出来る事をッ!!)

ジョーカーとキヴァの戦闘を尻目に、エクストリームは持っていたアタッシュケースを開いた。

中身は、この日の為に特別に組み上げたパソコンとハッキングソフト。特殊な電波通信により、雄英のセキュリティを麻痺させられる代物だ。

しかし、今の位置ではギリギリ圏外である。

(もっと、近付かないとッ!!)

エクストリームは、山を登り走り出した。己の役割を全うする為に。

だが・・・

 

―ギャオンッ―

 

『きゃっ!?』

それを赦さない者が、突如として風の刃を放った。

その鋭い圧縮空気の刃は、特製のパソコンごとエクストリームのエネルギーを削り取る。

『う、嘘ッ!?そんな、これじゃ・・・「悪いな、お嬢さん」ひっ!?』

茂みの奥から、翠の戦士が現れる。

「此処より先は、通行止めだ」

肩から延びる銀のマフラーを首に巻き付け、抜き放ち風を纏わせた刀を右手に握る仮面ライダー―――――サイクロン。

更にその後ろには、ヒートドーパント、メタルドーパント、ルナドーパント、そしてスルトとネクロを両手に握ったトリガードーパントまでもが続く。

(いや・・・いやッ!)

『逃げてジェントルッ!ヒーローがすぐ其処まで―――ッ~!?』

掛け戻ったエクストリームが見たもの。それは、銀の右足でジョーカーを下した、キヴァの姿だった。

 

(フランサイド)

 

「一番、戦いにくかったよ。ジョーカー・・・いや、ジェントル・クリミナル」

【タブー!マキシマムドライブ!】

『ぬアァァァァァァァッ!?』

マキシマムで右脚の魔封鎖を砕き、ヘルズゲートを解放。キバの紋章が浮かび上がった脚で、ジョーカーの背中を踏みつけた。

マキシマムのエネルギーがジョーカーの身体を駆け巡り、強制変身解除。辛うじてほんの少し残っていた虹色のエネルギーも霧散する。

『い、いや・・・放してッ!!ジェントルを放してよッ!!』

涙で顔をグシャグシャにしながら、ポコポコと殴ってくるエクストリーム。だが、味方へのバフだけが能力なのか、ライダーの鎧越しには全く通らない。

『ジェントルが心に決めた企画なのよッ!大好きなティーブレイクも忘れて準備してきたのッ!

放せッ!何が救いよッ!!私を救ってくれたのはジェントルだけよッ!!ジェントルだけが私の光よッ!!』

・・・何だ?この女・・・何を、言っているんだ?

少しずつ冷え治まってきていた筈の(ハラワタ)が、再び煮え立ち始める。この女の、余りの意地穢(いじきた)なさ・・・そして何より、身勝手さに。

『ジェントルが私の全てよッ!!ジェントルを奪わないでよッ!!』

「ッ!だま―――――」

 

「――――黙れェ!」

―ギャインッ―

 

『がっ!?』

私がこの女の首に爪を振るう寸前、克己兄さんが天之尾羽張で薙ぎ払った。そして首に押し付け、木に叩き付ける。

「・・・フラン。言ってやれ」

「・・・うん、ありがとう」

克己兄さんが私の代わりに激昂してくれたお陰で、逆に少し頭から血が抜けた。

あぁ、危ない。こんな下らない事で、危うくこの女を殺す所だった。下らない血で、笑顔を与える為のこの身体を穢す所だった。

「おい、聞け」

『がふっ!?』

克己兄さんが天之尾羽張を引くと同時に、私は再度封印を施された右足で再び木に縫い付ける。

「アンタ達は、私達の文化祭と言う希望を、潰そうとしたんでしょ?踏み躙ろうとしたんでしょ?

あぁ、そうなれば素敵だね。最悪さ。今までの準備も、計画も、団結も、練習も何もかも!ものの見事に、台無しさ・・・

動機がどうであれ、アンタ達はそれを為そうとした。希望を奪い、無残な残骸にしつくそうとしたんだ。

・・・聞いてるの?ねぇ?」

 

―ギリッ―

 

『うぐッ!?』

私の脚圧から逃げようとジタバタ抵抗するエクストリームに対し、逃がさないと言う意思表示を込めて強めに踵を捩り込む。

どんなに涙目になっても、どんなに泣き喚いても、哀れみなんてちっとも湧いてこない。寧ろ、もっと苦しめてやりたいくらいだよ。

「・・・それでさ。私がした事は只の自己防衛だし、その結果アンタ達に降り掛かる現実だって、アンタ達が私達にしようとした事と全く同じ。

アンタ達が私達を踏み躙ろうとしたから、私はそれを迎撃し蹂躙し返した。ただそれだけよ。何も変わらないわ。どんなに大事な計画だったとしても、希望を手折られて苦しくても、知ったこっちゃ無い。自業自得でしか無いんだもの。そうでしょう?

で?アンタはそれをエベレスト越えるような上空遥か彼方まで棚上げして・・・何て、言ったんだったっけ?」

牙を剥き出し、血走っているであろう眼をこれでもかと見開いて睨んだ。エクストリームの顔は、恐怖と苦痛と絶望に歪んで、グチャグチャになっている。

「あぁそうそう・・・()()()()()()()()()、だったよね・・・

 

嘗め腐るのも大概にしろよッ!!」

 

―ゴウッ メキメキャッ―

 

肩の翼が突風を生み、翼腕が木を数本握り潰す。

堪忍袋の緒は切れた。

「自分は!他人様(ひとさま)に迷惑を掛け倒した挙げ句!希望を侵そうとしておいてッ!いざ自分が奪われる側に立ったら?みっともなく命乞い!?

脳内お花畑処か、もう蜂蜜漬けのジャムじゃないッ!!虫酸が駆けずり回るぐらい、甘ったるいったらありゃしないのよッ!!

私は言ったよね?諦めろって、何度も何度もッ!でもアンタ達は、その警告を無視して汚い土足で踏み込んで来たでしょ!?

その時点で既に、アンタには希望を抱く資格も、夢に破れたと泣く権利も!ありゃしないのさッ!!」

『うるさいうるさいッ!ジェントルは受け入れてくれたのッ!!だから私の全てを捧げるって誓ったのッ!!』

何だ、何なんだ、この女は。懇切丁寧に説教してやったら、今度は癇癪?

もう、知らない。コイツがどうなろうが、知った事か。

「ああ、そう。じゃあもう良いわ。

その幼稚な頭に言っても聞かないなら、メモリを叩き出す序でに―――――魂に直接、教え込んであげる」

【タブー!マキシマムドライブ!】

 

―バギャンッ―

 

再び右脚の魔封鎖が砕け、ヘルズゲートが解放。其処から紅い霧状の魔力が噴き出し、エクストリームに突き刺さる。

『あ・・・っ~!?ギャァァァァァァァッ!?イヤッ!!イヤァァァッ!?』

そして私の怒りと憎悪と殺意のありったけを、魂魄を焼き焦がす苦痛として流し込んだ。

ビクビクと痙攣して白眼を剥き、エクストリームは力尽きる。首元から排出されたメモリが、コトリと地面に落ちた。

「さぁ―――――

 

―――――地獄を、楽しみなさい」

 

自然と、私は冷酷にサムズダウンしていた。

この女に心からの侮蔑を込めて、鋭く嘲嗤いながら。

「克己、これ」

「ッ!T2だと!?」

レイカ姉さんが拾い見せたジョーカーメモリとエクストリームメモリを見て、克己兄さんは驚く。

「これは・・・出処を聞き出す必要があるな」

 

「あぁ、精々頑張るがいいさ。どうせ無駄だがな」

 

「「「「「「ッッ!?」」」」」」

頭上から声。慌てて見上げるが、木の葉に遮られ何も見えない。

「返して貰ったぞ」

「何ッ!?」

今度は背後から声。振り向くと、フードを深く被ったローブの女が立っていた。左手に、今し方回収した筈のT2メモリを持って。

「何時の間にッ!」

「おいおい待て、私は争いに来た訳では無い。用は済んだ。お(いとま)させて頂くよ」

「逃がすかッ!」

克己兄さんが居合斬りを繰り出すが、切っ先が当たる寸前で、女は消えてしまった。

「クッ・・・逃がしたものは仕方無い。フラン、コイツらは俺達が照井に引き渡しておく。早く出久の所に行け。今、9時半だ。10時からだろ?」

「わ、分かった!ありがとね、克己兄さん!」

「気にするな」

変身を解除しクロムウェルIIを掛け直しながら、私は走り出す。

あぁ、喉が渇いた。帰ったら少し、出久から血を貰おう。

 

to be continued・・・




~キャラクター紹介~

フランドール・スカーレット
現状最強の吸血姫。出久の嫁にして主。
ラブラバが見事に地雷を踏み抜き、人生最高にブチギレた。大体ラブラバとは合わないタイプだろうし。
ラバーモードのジョーカー相手に何故真正面から勝てたかと言うと、実は籠っていた気持ちがフランのモノだけではなかったから。それらはボンヤリしていたが、その分単純に数があったのでエクストリームで更に強力になっていたラバーモードとも対等に戦えた。
タブーのマキシマムによって、ジョーカーとエクストリームを撃破。しかも相手の中に自分の感情から生まれた攻撃性の魂の欠片を無理矢理注入するというえげつない技を編み出しちまった。
やっちゃったぜ☆

大同克己
仮面ライダーサイクロンとして参上し、ラブラバのPCを一発でぶっ壊すというファインプレーを見せた。
希望の為に足掻く奴は大好きな彼だが、自分の事を棚上げする輩は例外だったみたい。
フランが暴走しないよう、わざとフランの目の前で激昂して見せた。

ジェントル・クリミナル
ジョーカーメモリの適合者。
素の身体能力に加え、夢に掛ける情熱で更に強いジョーカーになっている。
やろうと思えば、空気膜でHUNTER×HUNTERのヒソカのバンジーガムみたいな事も出来なくは無いが、そんな余裕が無かった。
気持ちの昂りで強くなるという性質と、相方の個性である愛情によるブーストの相性が良すぎてえげつない強さになっていたが、そもそもメンタルがフィジカルに直結するのは吸血鬼、それも真相であるフランも同じだったので互角の勝負をした。
決まり手はストンプキック。エネルギーを素早く流し込まれ、メモリが弾き出されると同時に意識を刈り取られた。

ラブラバ
エクストリームメモリの適合者。フランの地雷を踏み抜いた子。
単体では効果を発揮せず、他者と組み合わさる事でその力を何倍にも引き上げると言うまんまエクストリームメモリな能力をしていたので、安直ながらエクストリームに。
ドーパント態の特質でラバーモードのブーストが更に強力になるが、其方にリソースを全振りしたせいで身体能力は生身と変わらない。
実際ダブルのエクストリームの敵の閲覧能力もメモリじゃなくフィリップの地球の本棚を引き伸ばしたモノだし、実はそんな特別な能力は無さそうなので。まぁ専用武器の生成とかはあるけど。
フランの言う通り、あり得ない程脳内がお花畑。しかもプロレベルのストーキングスキル、ハッキングスキルを独学で習得すると言うとんでもない才能を持った天才タイプだから余計に質が悪い。忠告無視して制裁を受けたら今度は逆ギレとか庇いようが無い。
因みにフランの悪意を護りようが無い魂に打ち込まれたが、死んだり発狂したりはしない。ただ、眠りに就く度に今までの行いに対する非難や罵倒を浴びせ続けられると言う悪夢を見るようになるけど・・・まぁあんだけやらかしといて、命があるんだから安いもんだよね?


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第40話・Rの祭り/祭・事・当・日 その3

『待たせたなデップー、行ってこい』
「漸くかッ!!待ちに待ったぜデップー行きまーす!!」
『そして皆様お待たせしました!メリークリスマス!』


(出久サイド)

 

「出久!三奈ちゃん!」

「戻ったか、フラン!」

「お帰りフランちゃん!」

「ただいまぁ~!早速だけど血ぃ頂戴!」

ステージ裏。パフォーマンス衣装に着替え、最終チェックをしているタイミングで帰って来たフラン。その勢いのまま俺に抱きつき、首筋に犬歯を突き立て吸血を始めた。

「お疲れ様。お使いは出来たかな?お嬢様」

「うん!バッチリ買ってきた!」

フランは首筋から口を離し、腕の中からゾルッとレジ袋を取り出す。

「・・・よし、全部注文通りだ。ありがとうな」

「えへへ~♪」

照れて笑うフランを撫でながら、俺はマルチミネラルゼリーパックで鉄分を補給する。今朝も血をやったからな。流石に厳しい。因みに今日はこれで3本目だ。

「すまん、遅れたか?」

「いや、まだ大丈夫だ兄さん。お疲れ様」

そして、敵を捕縛し警察に受け渡した兄さんも戻って来た。

「しかし、やはりあの男と話すと、少し懐かしい気分になるな」

「あぁ、竜兄さんな。確かに、原点のアクセルにそっくりだしな」

そんな事を話しながら、兄さんは専用に調整したマイクを握る。観客席をチラリと覗いてみれば、見事に満席だ。しかも、デップーや鈴仙もいる。関係者として入場が許可されたんだろう。

「よし!それじゃあ行くかッ!」

『応ッ!』

士気は上々、気合いも充分。さてさて・・・

「抜いてやるかね、皆様の度肝!」

「呼んだ?」

「あ、すまん三奈。お前じゃない」

締まらねぇなぁ畜生・・・

 

(NOサイド)

 

消灯された体育館。観客席に座るミリオ達はワクワクと心踊らせ、壊理は少し不安なのかミリオにしがみついている。

「いやー楽しみだなぁ♪」

観客席の更に後ろの通路で、プレゼントマイクが相澤に呟いた。

「お前、とっとと持ち場に戻れ。パトロール中だろうが」

「良いじゃねぇの、ちょっとぐらいさぁ!」

プレゼントマイク、まさかの堂々職務放棄、つまりサボり中である。後々始末書を書くだけで済むのだろうか。

「他科の2年や3年の中には、雄英の現状への不平不満をA組に向けてる奴らもいる。端から楽しむ気なんざ更々無い奴らの目に、お遊戯同然に映らなきゃ良いが・・・」

相澤が一抹の不安を抱く中、ステージの幕が上がった。

生中継配信、開始。

 


 

『最初に言っとくぞ』

インカムマイク越しに、爆豪のドスを効かせた声が響く。

『俺らがやるライヴは、楽しむ気のねェ奴らの事なんざ考えねェ。こんなの突き詰めりゃ、只の自己満足なんだよ。テメェらがハシャごうがシラケようが、此方にゃ関係ねェ!

 

良いかッ!俺らにゃこれ以上、前フリなんざねェ!!最初から最後まで、徹底的にフルスロットルの全力疾走だッ!!楽しみてェ奴だけ、死ぬ気で着いて来いやァッ!!』

 

―BBBBBBOM!!―

 

爆豪が爆破で火柱を上げ、それを合図に常闇がエレキギターを掻き鳴らす。

継いで爆豪がドラムを打ち鳴らし、耳郎がマイクを握った。

 

「宜しくお願いしまァァァすッ!!」

 

―――――雨上がり Break Cloud 隙間から、青空が手招きしてる。All Right!そろそろ、行こうか!

 

腹から響く明るく力強いハスキーボイスで、耳郎はSURPRISE―DRIVEを歌う。

同時に、レイア筆頭のダンス隊が前に飛び出し踊り始めた。

戦闘訓練が下地となったキレのある動きは、練習により更に結束と切れ味を増している。

「Go!レーザーGo!」

「ウィ☆」

「うっりゃ!」

そしてフランとヒーローコスチュームを着た青山が中央にステップし、血の触手で青山を打ち上げた。青山は空中で身体を捻り、四方八方にレーザーを撒き散らす。

「おースゲェ!」

「人間花火かよ!」

この派手な演出に、観客席は大きく沸き上がった。落ちてきた青山はフランがキャッチし、再びダンスに加わる。

 

―――――Fire Up!Ignition!ヘヴィーなプレッシャーぶッ壊して、アクセル踏み込めッ!!

 

『『サプ~ラ~ィズ!!』』

 

瞬間、四方に舞うクラッカーの紙吹雪と、伸びる氷の道。

轟が瀬呂のテープをガイドとして作ったそれの上を、フランと麗日を乗せたエターナルボイルダーが駆ける。

「楽しみたい方ハイターッチ!」

更に麗日はサドルから飛び、フランが血の触手で引っ張る。

10人以上の生徒が手を上げ、麗日が次々とタッチ。個性で全員無重力化し、ファラが風圧操作で瀬呂が飛ばしたテープを使って氷の道に観客を固定する。

その間にボイルダーはステージに戻り、ギター係の上鳴とレイア、そしてミカを無重力化させた。

「我々に地味は似合わない!故に我らも派手にやる!」

「派手派手花火、ブッパだゾ!」

ミカは掌から白熱化したカーボンロッドを、レイアは音速に迫る投げ銭をそれぞれ放つ。炭素の結晶はレイアが放ったコインに砕かれ、瞬時に燃焼し花火となった。

その紅い花火の元、上鳴はギターを掻き鳴らす。

 

―――――All we need is 'DRIVE'!

 

「何時だってそうさ。目を伏せて、傍観者気取っていれば♪」

 

そして2番からは、赤メッシュの付け毛を前髪に着けた克己が加わる。

克己と耳郎のデュエットは、代わる代わる歌ったと思えば今度はハモり、かと思えば今度は片方が先行しもう片方が追い掛けるというトリッキーなもの。変則的な歌声の掛け合いはしかし、聴く者を魅了するには充分過ぎる程に美しい。

 

―――――SURPRISE!今、時代がDRIVE!

 

再びサビに入り、今度は克己がメインで歌う。

周囲の熱が伝播し、彼の肌にはうっすらと汗が光っていた。

その頃には観客のウォーミングアップも進み、最初は楽しむ気が無かった者もすっかり場の熱に呑まれている。

 

―――――トップギア回せ・・・ッ!All we need is 'DRIVE'!

 

「Ah~・・・瞬き、してたら・・・チャンスも、見失うッ!」

「タフなァ~運命でッもォォ!」

 

「「Baby kick on DR~IVEッ!」」

 

完璧に重なる声。打ち付け合う拳。ステージのボルテージは最高潮となり、観客席にいた壊理の顔が、遂に眩い笑みと染まった。

 

「「SURPRISE!世界中がDRIVE!」」

「Feeling high!目覚めるような~♪」

「始まる、運命には・・・バックギアは、無い・・・!」

「SURPRISE・DRIVE!」

「SURPRISE・DRIVE!」

「シグナル、変わる時―――――」

 

―――All we need is 'DRIVE'!―――

 

荒い息を吐きながら、歌いきった耳郎。一拍遅れて、体育館は拍手喝采に包まれる。

耳郎は一息吐き、一礼。するとライトが落とされ、ステージが暗転する。

「ど、どうしたのかな?」

「何だろうね?エリちゃん」

ザワつく観客席。しかし次の瞬間、その空気は切り裂かれた。

 

―――ボトルッキィーンッ!―――

―ガキッガキンッ―

―――ボトルバァーンッ!―――

 

―――グリスブリザァァドッ!―――

―――プライムロォォグッ!―――

―――クロォォズマァグマッ!―――

 

「「「変身ッ!」」」

 

―――激凍ゥ心火ァ!グリスッブリザァァドッ!

ガァキガキガキガキガッキィ~ン!!―――

 

―――大義晩成・・・プライムロォォグッ!

ドリャドリャドリャドリャドッリャァァァァ!!―――

 

―――極熱筋肉ゥ!クロォズマグマァッ!

ア゙ァチャチャチャチャチャチャチャアッチャァァァウッ!!―――

 

緋色の炎。水色の細雪。そして黄金色のパイプ。

それらが闇の中で弾け、八百万がキーボードでイントロを演奏し始める。

 

―――――大切な人達を・・・

―――――護りたい、それだけ・・・

―――――それだけで、戦える・・・

 

「「「負ける気が、しないよ、今・・・ッ!」」」

 

グリスブリザード、プライムローグ、クローズマグマと順にスポットライトが当たり、最後にグリスが掌を爆破。白く輝くダイヤモンドダストを撃ち放った。

 

―――――誰の為に生きる?誰の為のチカラ!

―――――誰の為に、戦う?

―――――この手で今を護り抜くよッ!

―――――壊れかけた街で、壊されない想い

―――――抱きしめるよ、願いを。心は誰も奪えない!

 

グリスは掌底とキックを、クローズはパンチを多用したバトルスタイルのようなダンスを躍り、ローグは祈るように歌う。

熱く激しく戦うグリスとクローズ。その真ん中で祈るローグは、異色でありながら不思議とベストマッチしており、場面が引き締まっている。

 

――――大切な人達を!

―――――護りたい!それだけ!

―――――それだけで、戦える・・・

 

「「「負ける気がッ!しないよッ!今ッ!」」」

 

そして、クローズはソレスタルパイロウィングで、グリスはヴァリアブルアイスの噴射で飛行を開始。迸る火の粉と細雪が舞い、眩い光が乱反射する。

「「燃え上がる、この想いの果てッ!見える!世界ッ!取り戻せッ!」」

「負けない情熱がッ!焔になる!願いと!」

クローズとローグのハーモニーの後に、熱いシャウト気味のグリスのソロ。

 

【シングルアイスッ!ツインアイスッ!】

 

クローズとグリスが、ビルドドライバーのボルテックスレバーを回す。ドライバーのリアクター内でボトルの成分とエネルギーが増幅され、全身から陽炎と霧として噴き出した。

 

「「BURNING MY SEOULッ!」」

 

【ボォルケニックッフィイ゙ニッシュゥッ!!】

【グレイシャルフィイ゙ニッシュゥッ!!】

 

エネルギーが最高潮に達し、マグマの龍と氷山の拳がぶつかり合う。対極の熱エネルギー同士の衝突により、周囲は蒸気で真っ白に染められた。

 

【プライム!クラックアップフィニッシュッ!】

 

「BURNING MY SEOULッ!」

 

そしてその白い霧を、黄金の鰐門(アギト)が切り裂く。その顎門は噛み締める同時に砕け散り、輝く塵となった。

再びライトが落ち、ステージが暗転する。輝く粒子は小さく砕け行き、観客席から喝采が起こった。

それは体育館に限らず、生放送を行っている各動画サイトでもコメントの嵐である。

 


 

「す、スゲェなぁ・・・」

シンフォギア世界。S.O.N.Gの司令室モニターにて、雄英1-Aのライヴを視聴していた。

まず感嘆の声を漏らしたのはクリス。他のシンフォギア装者や風鳴弦十郎、オペレーターやエルフナインも同様だ。

「言わば、仮面ライダーの力の完全平和利用と言った所か」

「と言うか、シレッと俺の自動人形も参加していたな。全く仁の奴め、何処に遣ったかと聞いてものらりくらりと躱していたのはそういう事か・・・」

新たなホムンクルスの躯体を得たキャロルが、憎らしげにボヤく。

神と勝負を着けた後、何も言わずに何処かへと消えた仁。今や何処にいるかは作者も知らない。

「それはそれとして、前に出久が言ってた事ってマジだったんだな。世界人口の8割が超能力者って・・・」

「確かに、これはヒーローって言うお仕事も必要だよね」

奏の呟きに、未来も出久から聞いた話に納得を示した。

『えー、諸君。俺が緑谷出久。このライヴのリーダーだ』

殆ど真っ暗な画面の中で、出久の声が響く。観客席は当然ざわつき、装者達も出久を探す。

『姿を隠して上から喋る無礼を許して欲しい。今からとある歌を歌わせて頂くのだが・・・何とその歌を最初に歌った偉大なアーティストと、テレビ電話が繋がっている』

「は?」

「え?」

「何?」

出久の言葉に、装者達は鳩が豆鉄砲を喰らったような顔をした。当然だろう、何も聞かされてないのだから。

 

―ピロロロロロ!ピロロロロロ!―

 

そして突如鳴り出すアラーム。通信待機中を示すそれは、本部のコンピューターから鳴っていた。

「ど、どうします指令!?」

「・・・許可する」

「良いんだ・・・」

「では、繋ぎますね・・・」

エルフナインが通信を開始し、映像内のステージのバックスクリーンに装者達が映る。

『よう。俺達のライヴ、楽しんでくれてるか?』

「あ、まぁ楽しんでるぜ?こんな予想外も含めてな」

返事をしたのは奏。流石に急過ぎて驚いたのか、少し皮肉っぽく返した。

『楽しんでくれてるなら結構。苦労してそっちに繋いだ甲斐があった』

出久に皮肉は効かなかったらしい。

「ほら翼も、此方来い」

「え?わ、私も?」

「こん中でアーティストっつったらあたしらしかいねぇじゃん」

そう言って、奏は翼を引っ張り寄せて中央に寄せる。

『えー、彼女達が言う通り、このやたら顔面偏差値が高い美少女集団の中にいる赤い人と青い人がアーティストだ。天羽奏と風鳴翼。2人揃ってツヴァイウィング。

まぁ知ってる人いないと思うけど』

「身も蓋も無い事言ってないで本題に入れー!」

『あぁすまん。単刀直入に言おう。

響が非日常に片足突っ込むとかすっ飛ばしてスキューバダイビングし始める切っ掛けになった、あの曲を歌わせて頂こうと思うのだが・・・良いかなー?』

「どんな語彙だよ」

そう言いつつ、奏にとってそんな曲は1つしか思い当たらない。それは翼も同じだったようで、奏に対して目配せしてきた。

「・・・答えは、決まってるよな?翼」

「えぇ、勿論」

2人同時に息を吸い込み、問いに答える。

 

「良かろうッ!」「良いともーッ!」

 

「・・・ぷっ」

「そこ合わねぇのかよ・・・っ」

相棒ながら、何とも息の合っていない答え。装者達だけでなく、ステージにも笑いが起こった。

『じゃあ、遠慮無く歌うぜ。所々アレンジしてるから、楽しんでくれよな。

それではお聞きください。ツヴァイウィングより―――――

 

―――――逆光のフリューゲル』

 

to be continued・・・




キャラクター紹介

フランドール・スカーレット
出久の第二夫人の吸血姫。
お使い帰りで早速ステージに上がり、原作で出久が担当した青山の打ち上げを行った。吸血姫のスタミナ故に為せる技。

緑谷出久
我らが化物主人公。
前半ではステージに全く上がらず、まさかのタイミングで異世界とテレビ通話開始。やる事がブッ飛んでる。
今回は殆ど書くこと無いので、次回をお楽しみに。

ビルド組
かっちゃんグリスを筆頭に、3人でBURNING MY SEOULを熱唱。ライダーシステムを飾りに全振りした結果、空飛び回るわドラゴン出てくるわ、最後のオオトリが鰐だわの混沌を極めたチームコーナーとなった。



ギリギリクリスマス。間に合わせようとした結果、めっちゃ引っ張る切り方になりました。
では、メリークリスマス。


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第41話・双翼のS/祭・事・当・日 その4

『さーて、お待たせしました!とうとうライヴのクライマックス!』
「おっせぇわ何してたんだよ!」
『SEKIRO書いてたんだよ!』
「お前メイン作品此方だろうが!あと俺ちゃん出せやッ!」
「今回は踊らせてやるから」
『言ったな?』


―――――神様も知らない···光で、歴史を、創ろう···

 

 

重なり合う2人の声を始動の合図とし、特徴的なイントロが流れ始める。満天の星から零れ落ちる流星群のように神秘的であり、しかし風を受け空に舞い上がるように躍動的。エレキギターのアレンジも効かせた、原点をリスペクトしつつもオリジナリティがあるもの。

それと同時に、レーザービームによるライトアップが始まる。体育館2階の両サイドに配備されていた京水のT2マスカレイド達も、波のようにペンライトを点灯。生きたイルミネーションと化した。

 

逆光のフリューゲル。それを歌う双翼は、ローブを纏って天井から飛び降りる。片割れの念力でゆるりと、落下しながら、ステージの左右に降り立った。そして身体を隠すローブを取り払い、ステージ中央に駆ける。

その口角は上がり、呼吸さえ重なっていた。

 

「『聞こえますか?』激情奏でる、ムジーク♪」

「天に~♪」

『ト・キ・ハ・ナ・テ!』

「『聞こえますか?』イノチ始まる、脈動♪」

「愛を~♪」

『突・き・上・げ・て!』

 

翼の意匠を含むコスチュームを纏い、出久は低く優しいハスキーボイスで奏のパートを、三奈は弾けるような元気な声で翼のパートを歌う。

2人の衣装は、自分の歌う側の衣装を元に、自分の色を入れたもの。奇しくも、奏パートの出久は青、翼パートの三奈はピンクと、原点とはお互いが逆転したカラーリングだ。

 

「遥か~♪」「彼方~♪」「星が~♪」

「「音楽~と~なった、彼の日~♪」」

「風が~♪」「髪を~♪」「さらう~♪」「瞬間♪」

「「キミとボクは、コドウを詩にした!」」

「そして!」

「夢は!」「開くよ!」

「「見たこと無い世界の先へ···!」」

 

【ゾーン!】【ボーダー!】

 

「「Yes···Just···Believe···!」」

 

【【マキシマムドライブ!】】

ゾーンとボーダーのツインマキシマム。出久はエターナルエッジと単体のマキシマムスロットを両手に握り、極彩色の刃を振るう。その刃から延びたエネルギーは天井に幾何学的なラインを引き、境界線を定めた。

そしてその境界線が大きく開き、陽光が射す。真昼の白い光では無く、紅い···夜明けの空の色だ。

ゾーンとボーダーのマキシマムで、今し方夜明けを迎えた場所の上空の景色を()()()()()のだ。

 

「「神様も~知らない~♪光で~歴史を~創ろう~♪」」

「逆光のシャワー♪」

「未来~照らす~♪」

「「一緒に、飛ばないか?」」

 

身体のバネを活かして、躍動的に跳び跳ねるようなダンスを魅せる三奈。対して、脚や肩のスイッチ、手先のスナップを効かせた、動きは抑え目でもキレが映えるダンスで輝く出久。

そして2人は声を重ね、肩を合わせて腕でWの字を作る。

その間に、演出隊も出動。八百万が羽を降らし、瀬呂はテープを射出。其処にフランが段幕を放ち、それをレイアが投げ銭で撃ち抜いて爆ぜさせる。

 

「「Just Feeling!涙で~濡~れた羽~♪重くて~羽~撃けない日~は~Wish!」」

「その、右手~に添え~よう~♪」

「ボクの力も~···♪」

「「2人で~なら~♪翼に~なれ~るSinging Heart~♪」」

 


 

「す、スゲェ···」

「大きな動きの芦戸と、鋭い動きの緑谷···お互いが、空いた空間をカバーし合っているな」

「三奈ちゃん可愛い!出久君もカッコイイ!」

一方、生中継中のS.O.N.G指令本部。

「す、スゴいのデス!あの出久って人、バッチバチのキレッキレなのデス!」

「相方の三奈さんも、すごい身体能力だね、切ちゃん」

「全ての挙動を、身体中で小分けにしてるわね。全身に一体感を出す、ダンサーのテクニックの応用だわ」

両者動きのコントラストは、2人1組で定評のある切歌と調の眼にも驚異的に写る。

「私達の歌が、次元の垣根を越えて歌われている···何とも感慨深いものね、奏」

「そうだな、翼。何処までも飛んで行けるとは思ってたが···まさか文字通り、世界まで飛び越えちまうとは···」

自分達の絆そのものと言える歌が、別の世界でも輝いている事に、翼は感動。一方奏は、嬉しくもありつつ若干むず痒そうにタハハと笑った。

 


 

「「Yes!Just Feeling!千年後~の今日も~♪生まれ変わ~って~歌いたい~♪」」

 

三奈の身体に、漲る力。蒼く輝く、出久の義眼。2人の魂が、心がシンクロし合い、2人の間に跨がって存在するワンフォーオールが共鳴して輝きはじめた。

 

「暖~かいよ~♪」

「この温もり~♪」

「「絶対!離さないッ!」」

「「Just feeling!運命~なんて無い~♪物語~は自~分~に~あ~る~Jump!」」

「逃~げ~出し~た~くな~ぁったら~♪」

宇宙(そら)を見上げよ~う···♪」

「「勇気こ~そが~!輝く~んだ~よSinging Star!」」

 

間奏に入る直前。朝の暖かい光が消え、今度は夜空が広がった。

瞬く星々を際立たせる為、T2マスカレイド隊はライトアップを全て落とす。

「行きますわよ、ガリィ」

「はぁいはい、ガリィにお任せでっす♪」

ファラとガリィが2階に登り、水を竜巻で飛ばして霧を散布した。そして、カカッというファラのステップ音を合図に、両サイドに居た轟とグリスブリザードが冷気を放出。空中の霧は瞬時に凍結し、星の光を乱反射して輝くダイヤモンドダストとなった。

【ルナ!マキシマムドライブ!】

「トリガーシャインフィールド!」

更に出久はトリガーマグナムを取り出し、ルナメモリを装填して発砲。金色の光弾は空中で砕け、光の粒子となって降り注ぐ。

それは、さながら流星群。

 

「遥か~♪」「彼方~♪」「星が♪」

「音楽~と~なった、彼の日~♪」

「多分~♪」「ボクは~♪」「キ~ミと~♪」「出~逢い~♪」

「「神話の~1つ~の~よ~うに~紡いだ~♪」」

 

共鳴するワンフォーオール。弾けるスパーク。魂魄の脈動が重なり合い、震え、更に膨らんで行く。

 

「何も!」「怖く!」「ないよ!」

「「見~た~こと~無~い世界の~果~てへ~···♪」」

 

【エターナル!】【ジョーカー!】

 

『···Yes···Just···Believe···!』

 

聞き慣れた2つのガイアウィスパー。その後A組全員の声が重なり、空気が張り詰める。緊張感と期待に、観客達は思わず生唾を飲んだ。

 

 

「「変身ッ!」」

【エターナル!】【ジョーカー!】

 

 

「「神様も~知らない~!光で~歴史を~創ろう~!」」

「逆光のシャワー!」「未来~照らす~!」

「「一緒に、飛ばないか?」」

 

緊張がピークに達した瞬間、紫の竜巻と黄金の波紋が生まれる。そしてそれを爆発させるように、変身した2人が歌を再開。その爆発力は観客の肌を打ち、心臓までビリビリと震わせる。

 

「「Just Feeling!涙で~濡~れた羽~♪重くて~羽~撃けない日~は~Wish!」」

「旋律~は溶け~合~って~♪」

「シ~ン~フォニ~へと~···♪」

 

エターナルの右腕と、ジョーカーの左腕が燃え上がる。蒼と紫の炎が溢れ出し、トリガーシャインフィールドの光の粒子を吹き飛ばした。

 

「「2人で~なら!翼に~なれ~るSinging Heart~···!!」」

 

―――――もっと高く!太陽よりも高く!!

 

曲の終極。エターナルは右腕を、ジョーカーは左腕を大きく外向きに振るう。

溜め込まれていたエネルギーが解き放たれ、放線状の美しい炎となった。それは正に、紫蒼(しそう)の双翼である。

 

炎の羽が散り、エターナルはゾーンとボーダーのマキシマムを解除した。ステージの上の夜空は消え、体育館内は完全に暗転する。

 

―Whooooooooooooooo!!!!―

 

観客席から、歓声の嵐が巻き起こった。ちょっとと言いつつ結局今までバッチリ観ていたブレゼントマイクも、テンションが跳ね上がっている。

そしてその歓声の中に、こう言ったイベントの醍醐味とも言えるコールが混じり始めた。

 

――アンコール!アンコール!アンコール!アンコール!――

 

期待の込められたアンコール。そしてそれを裏切る程、出久達も野暮では無かった。

 

―――PARTY(パーリィ)P,P,PARTY(パ・パ・パーリィ)PARTY(パーリィ)PARTY(パーリィ)!『P(ピー).A(エー).R(アル).T(ティ).Y(ワイ).』!―――

 

再びライトアップされるステージ。その上には、今まで演出班として駆り出されていた者も含む1-Aメンバーが全員集結していた。

「出番だぞ、デップー!」

「えっ、ここで!?」

メットオフし素顔を晒したエターナルの念力で、観客席から引っ張り上げられるデッドプール。流石に困惑しているようだ。

「踊れるだろ?お前なら」

「ちょ待てよ、導入雑すぎね?」

「仕方ねぇさ。変身して踊れ」

「えぇい、くそ作者め」

【バ・グ・ル・アップ!デンジャァラスゾンビィ!】

エターナルに促され、手早く変身するデッドプールことゲンム。これにて役者は揃った。ステージパフォーマンスは、いよいよ最終局面に突入する。

 

「キミはStar···目映く~Shine!」

――oh~oh oh~oh♪――

「自分じゃ~···気~付け~ない♪」

 

エターナルの歌い出しに、変身を済ませたキヴァが続く。金髪美少女吸血鬼というロマンの塊から発せられた歌声に、当然ながら会場の空気は瞬間湯沸かし器のように沸騰した。

 

―――――心リラッ~クスして明日をイメーィジ!行方自由自在~♪諦めかけちゃった夢にリベンジ!老若~男女~の~Pride···♪

 

「「Every body!シャッフルしよう世代!連鎖♪する♪Smile~♪

Let's PARTY!エンジョイしなきゃ、もったいない!だって、人生は~1回~!」」

 

此処で、A組女子に囲まれた峰田のソロブレイクダンスパートが入る。三奈が峰田のやる気を引っ張り出す為に組んだプログラムだ。

因みに峰田は満足したが、このライヴで初めてブーイングが起こった。

 

峰田の誰得パートはさっさと終わり、続いて自動人形達とNEVERのパート。エターナルと同じくメットオフした克己のサイクロンを中心に、ドーパントと自動人形がノリノリで踊る。

 

―――――レインボーは、空だけじゃ~ない♪胸にも架かるぜ~♪どんな~ミ~ラク~ルも起~き放題!Universe(ユニヴァース) Festival(フェスティヴァル)!!

 

―ガコンッ―

 

そんな時、突然音響と照明が落ちる。何事かとザワつく観客席だったが、それすらも出久の計算内だ。

 

―ピュルルァーンッピュルルァーンッ―

【クゥリティカァルッデァッド!】

 

「巡り×合い=ずっと続く世界♪偶然なんか、じゃ~な~い♪」

 

鋭いアラート音の直後。赤と青の不気味なオッドアイが、闇の中で5組光った。

照明が少しずつ明るさを取り戻して行き、白骨のような不気味なデザインをした5人のゲンムを照らし出す。

クリティカルデッドによる分身で頭数を増やしたゲンムは、これまたダンスに参加した。

 

「Let's PARTY!点が繋がり合い♪線に、なる♪一切~♪」

 

―――――Every body!シャッフルしよう世代!連鎖♪する♪Smile~♪

 

「「Let's PARTY!エンジョイしなきゃ、もったいない!だって、人生は~1回~!」」

―――――1回~♪

 

―――――レインボーは、空だ~けじゃ~ない♪胸にも架か~るぜ~♪

 

ラストの〆。エターナルはジョーカーと手を合わせ、ヘブンズトルネードを繰り出した。

最後の最後まで残しておいた、本当の取っておきだ。

 

―――――どんなミ~ラク~ルも起~き放題!

 

「「Universe Festival!!」」

 

曲の最終節に合わせ、ジョーカーは落下。それをエターナルが受け止め、即座に2人でポーズを決めた。

 


 

「は、ハハ、スッゲェ···コイツは、とんだお祭りだなぁ···」

画面越しに歓声を聴きながら、奏は感嘆の声を漏らす。

「私達の文化祭にも来てもらいたいね、未来!」

「そうだね響。デュエットとか、盛り上がるよきっと。調ちゃんと切歌ちゃんが披露してくれた時みたいに」

「デデッ!?あ、あの時の事はデスね~···」

「···仁さん、怖かった···」

未来に振られた話題に、ザババ組は顔を青くする。どうやら仁と何かあったらしい。

「にしても、学生クオリティのパフォーマンスじゃないわねコレ。スポンサーでもいるのかしら?」

「マリアさん。これ多分、全部出久君達だけで作ってると思いますよ?出久君なら、大抵の事はこなせるだろうし···」

「未来ちゃん言えてる···そーいやマリア、アイツらと模擬戦した時は居なかったもんなー」

「あぁ~、仁君の次に何でもありだったな~」

「いやいや、あれと比較出来るってどんだけよッ!?」

未来、奏、響の出久への評価に仰天するマリア。この中で割と常識人な為、常識外れな事は想像しにくいのだろう。それを言ってしまえば、シンフォギアの物理法則に喧嘩を売るような変形機構も十分トンデモだったりするのだが···

 


 

(出久サイド)

 

「いやー、大成功だったね!」

「違い無い。非の打ち所の無い働きだったぜ、皆!」

腕を振り上げはしゃぐ三奈に賛同し、俺も皆に称賛を送る。

「さて、氷なんかもとっとと片付けちまおうぜ」

「そうだね。午後からはフランちゃんのミスコンもあるし!」

タライに轟が作った氷を集め、轟やレイカ姉さん、G(グレート)クローズドラゴンの炎で炙ったメタルシャフトを持ったアニキ、フランのレーヴァテインなどで処理していく。因みに俺は念力と握力で握り潰している。

「それにしても、生放送もスゴい視聴者数だよ!外国から見てくれてる人も3割ぐらい居るし!」

「合計50000人以上···ちょっとスゴいねこれは。うわ、投げ銭額もスゴい事になってる···」

「投げ銭は全部学校の資金にでもぶちこんでやるか」

別に金にも困ってねぇしな。

「なぁ」

と、作業している背後から声をかけられる。振り返ってみると、顎とリーゼントがスゴい男子と、髪を二つ結びにした女子が居た。

「スゴかったよ、お前らのライヴ···スッゲェ楽しかった!」

「ごめん!正直、扱き下ろすつもりで見てた!でも楽しかった!」

それだけ言って、2人は去って行った。

「フッ、馬鹿正直な奴らだな」

「言えてるね。でもまぁ、嘘吐きよりは嫌いじゃない、でしょ?」

「あぁ、そうだな」

三奈の指摘肯定しながら、俺は氷の処理を続けるのだった。

(にしても···歌っている時の、ワンフォーオールの出力向上と共鳴反応···あれは一体···?)

 

to be continued···




~キャラクター紹介~

緑谷出久
我らが化物主人公。
最初から最後まで、観客を飽きさせないユニークな演出を行っていた。フリューゲルのボーカルは奏パート担当。
天井を空に繋げるのは、シンフォギア原作のツヴァイウィングのライヴがモチーフ。
ライヴのラストに平成をブチ込んだ。まぁお祭りにはこの上無くピッタリな曲だしね。

芦戸三奈
出久の嫁。
出久の無茶に平然と着いてきた嫁。フリューゲルのボーカルは翼パート担当。
P.A.R.T.Y.は皆で歌っていたが、出久と共に中心のリーダーボーカルを勤めた。


【挿絵表示】


フランドール・スカーレット
出久の第二夫人。
逆光のフリューゲルではバックダンスに徹し、P.A.R.T.Y.では序盤のボーカルを担当。
歌って踊りながら弾幕で演出もすると言うかなりのハードワークをこなし切ったスゴい子。
因みに峰田のハーレムパートには加わらなかった。

デッドプール
「ねぇちょっと?確かに踊れたよ?踊れたけどさ。台詞もほっとんど無いチョイ役だったじゃん!おい作者!正直俺ちゃんの事持て余してんだろ?おうコラ何とか言えやおいコラァ!」


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第42話・純化するV/祭・事・終・幕

「なぁ作者。前回、俺ちゃんに出番くれるっつったよな?」
『やったろ?』
「ふざっけんなッ!あれ只の飾り付け要員じゃねぇかッ!やっぱ俺ちゃんの事持て余してんだろッ!?」
『いやぁその通り。済まんな』
「死ね」
『悪いが死んではやれん。ヤーナムの輸血受けてから出直してきな』


(出久サイド)

 

「ふぅ、片付いたな」

「そ~だねぇ~···っとぉ」

漸く片付けが終わり、ゴキゴキと関節を鳴らす。三奈もグゥ~っと伸びをした。

「さぁてと。そんじゃ、拝みに行きますか!我らが吸血姫の晴れ舞台!」

フランは既に、ミスコン会場に準備しに行った。俺も何時も通りにジャケットを羽織ってハットを被り、三奈の手を引く。

「よぉ!お疲れ~!」

「出久さん!三奈さん!」

「お疲れ様でした~!」

「おー、先輩にエリちゃんに鈴仙」

と、その道中でエリちゃんと保護者組にバッタリ。

どうやら、さっきまで裏方の片付けをしていた俺達を待っていたらしい。

「楽しんで戴けたかな?お嬢様」

「うん!」

大きく頷くエリちゃんの顔には、輝かしい笑みが浮かんでいる。どうやら、治崎の呪縛は晴れたらしい。

「あのね!最初のドッカンはちょっと怖かったけど、その後の歌がものすごくて!ぎゅわーんってなって、キラキラ~ってして!

わーっ!って、言っちゃった」

子供の未熟な語彙を総動員して、感動を表現するエリちゃん。眼には希望が宿っており、精神は限り無くポジティブな方向に動き始めている。

「よし、そんじゃ気を取り直して!ミスコン会場にレッツゴー!」

「「おー!」」

三奈が声を上げて拳を振り上げ、ミリオ先輩と鈴仙もそれに乗っかる。

特に鈴仙はテンションがかなり高い。テロリストの洗脳兵からほぼ直ぐに服軍だったらしいから、地域の祭事への参加経験は多少あれど、こう言った学校のイベントの類いは新鮮なのだろう。

 

――ズキッ――

 

「ッ···」

···限度は、今日か明日一杯、って所か。

「ねぇ、出久···」

「ん?」

不意に、繋いでいた右腕の袖を三奈に引っ張られる。顔を向けると、俺の眼を心配そうに覗き込む三奈の顔があった。

「···何があったの?今···」

「···ハハハッ、敵わねぇな」

《大丈夫?》でも、《どうかしたの?》でも無く。

()()()()()···自分の思い違いじゃ無く、俺に異常がある事を確信しての、誤魔化しの効かない聞き方だ。しかし、表情には出していなかった筈だが···

「···何で分かった?」

「指、ちょっとピクッてなったから。それに、一瞬身体が強張ったし」

「わ、こりゃスゲェ」

流石は、俺と身も心も1つになっただけの事はある。洞察力がもはや狩人のそれだ。

「···命の危険は無いが、明後日までには···俺は弱体化する」

「細かい事は言えない?」

「いや、別に言っても良いんだが···」

「よう出久!」

「ほら来た」

狙い澄ましたようなタイミングで乱入するデップー。まぁ、こう言うシチュエーションならお約束な訳だ。

「いやゴメンて。出番捩じ込むなら此処しか無かったんだよ」

「あぁ分かっている。分かっているさデップー」

相変わらずのメタ発言である。だが、コイツも寂しかったんだろうな。だったら、ちっとは話に参加させてやろう。

「三奈。さっき言った通り、命の危険は無い。今日は楽しもうぜ」

「···じゃあ、約束してね。嘘は吐かないって」

「あぁ、勿論分かってるって。あ、でもサプライズでプレゼントを送る時とかは別な?」

「もぅ···」

ウィンクしながら、ハットを押さえておどけて見せる。三奈は眉を八の字にして呆れたが、それでも小さく笑ってくれた。

「あー良いなー!俺ちゃんも文やんとイチャイチャしたいなー!」

「あー···成る程。最近はシチュエーション的に文やんの方から俺達に接触出来ず、尚且つお前が割り込む隙も無かったからフラグが立たないと」

「分かってきてんじゃねぇか。啓蒙高くね?」

「啓蒙?まぁ少なくは無いだろうが···何の用語だっけ?」

「Bloodborne」

「あーアレ。今度実況動画か考察動画でも観てみよ」

「お、プレイしよって言わないのは懸命だな」

「···成る程、さては作者とやらブラボのプレイ経験が無いな?」

その通りで御座います(イグザクトリー)

やたらと丁寧なお辞儀が逆にムカつくなぁ。あと声が違うんじゃないか?

「ったぁく、出久!あんたの言う通り、今日は楽しんであげるから!ちゃっちゃとエスコートした!」

「っと、すまんすまん。さ、行こうか。お嬢様?」

「もう、キザになれって言った訳じゃ無いよ?」

しょうがないなと言う雰囲気を匂わせつつ、笑いながら腕を組んでくる三奈。少し腰を折って俺の二の腕に抱き付くと、その愛らしい笑顔は必然的に上目遣いになる訳で···

 

―カシャカシャッ―

 

「わっ!?」

唐突に響く電子シャッター音。そして三奈の驚いた顔。此処で俺は、漸く無意識にバットショットで撮影していた事に気付いた。

「ちょっ、何撮ってんのさ!」

「あ、すまん。可愛いなーと思ったら無意識に···」

「おぉ、出久もその境地に達したか。実は先日俺も、風呂上がりでバスローブ姿の文やんの激写に成功してな」

何か水を得た魚のようにイキイキし始めたデップー。

「え?最近はあんまり会えてないんじゃなかったっけ?」

「2人のイチャイチャでフラグが掘り起こされて、未確定だった過去を補完するイベントが生えた!」

「何じゃそりゃ」

今度は俺の口から呆れが溢れる。

「···まぁ良いか。さ、早く行かねぇと」

「そうだよ!さ、レッツゴーゴー!」

すっかり遅くなった歩みを再び早め、俺達は次の目的地に向かった。

 

―――

――

 

―ベキィッ!―

 

『決まりましたァーッ!煌びやかなドレスを裂いての演武ッ!

鋭い手刀での猛々しい板割りすら、美貌とキレによって華となる!素晴らしいパフォーマンスでした!』

 

俺達が着いた時、丁度B組の拳藤の演目が終わった。どうやら木の板を叩き割ったらしい。確かに彼女は、引き締まった肉体美とキレによる機能美が大きいからな。それを活かした、良いパフォーマンスだ。

 

『続いて、3年サポート科のミスコン女王!絢爛崎美々美!高い技術力で、顔面力をこれでもかとアピールしています!』

 

出た、顔面誇示欲全開女。今年もまた、自分の顔面を象ったトンデモ戦車に乗ってのご登場だ。

あの女、このミスコン会場を、新兵器のお披露目パレードだとでも思っているに違い無い。何せあの顔面だけでも、十分敵を威嚇出来るだろうからな。度肝を抜くと言う意味だけならば、既に100点満点である。

少なくとも、女性的な魅力だとか、機能美だとか言うならば、其処らに巣を張ってる女郎蜘蛛の方がまだ美人だろう。

兎に角、俺が感じた事は1つ···あの食品サンプルみてぇな凄まじい顔面を向けられたく無い。

「これは何をする出し物なの?」

「アッハハー。丁度今、それが分からなくなった所だよね」

「少なくとも、精神汚染テロの現場で無い事を願ってる」

「やっぱ飾らない文やんとかヴァネッサってスゲェんだな···」

ガシャガシャとヒト型に変形するトンデモ戦車を見ながら純粋に首を傾げるエリちゃんと、遠い目をする先輩。因みに三奈と鈴仙も、口元をひきつらせて硬直している。ミスコンであんなモノを見りゃそうもなるだろう。そしてデップー。文やんを比べるのは止めて差し上げろ。

とまぁ、かく言う俺も、あぁ言うのは好きの対極に位置する。なので、もうバットショットから転送した三奈の写真を貼り付けたスタッグフォンで眼を塞いでいる。あぁ可愛いな三奈。愛してるぜ三奈。

「あ、次はねじれ先輩だよ!」

「お、もうか」

気付けば、あのトンデモ戦車は片付けられていた。そしてステージの上には、薄いフリルがあしらわれた水色のドレスで身を飾ったねじれ先輩が立っている。

「ほう、風精(シルフ)を彷彿とさせるな」

「ねー。あの人マイペースだし、まさに風って感じ」

そんな事を三奈と呟き合う内に、ねじれ先輩は個性を使ってフワリと浮き上がった。

くるくると、ふわふわと。風と戯れ、空を漂うその姿は、まさに妖精。幼さが残る可愛らしい無邪気さが、その儚げな美しさに拍車を掛ける。

「あぁ···美しいな」

「嫉妬しちゃうなぁ~···」

「大丈夫。俺は三奈とフラン以外の女にも見惚れはするが、酔いはしないさ」

「···ま、見惚れるぐらいは許してやるか」

八の字眉の苦笑いを混ぜつつ、仕方無いなと呟く三奈。

あぁ、全く。1度でもこんな良い女に酔ってしまったが最後、そんじょ其処らの女になんて、酔いたくても酔える訳が無いのにな。

 

『幻想的な(そら)の舞い!引き込まれるように見惚れてしまいました!

さぁお次は、吸血鬼のお嬢様!フランドール・スカーレットさん!』

 

「おっ、来た!」

「フランちゃんだ!」

アナウンスと共に、ステージに登るフラン。真っ赤なジャケットの裾を揺らし、背中のジッパーを開いて翼を伸ばした。

【タブー!】

そして、懐からメモリとドライバーを取り出す。そのスロットにタブーメモリを装填し、自分の腰に装着した。

 

「―――――変身!」

【タブー!】

 

ゆっくりとスロットに指を掛け、たっぷりと間を取ってから展開。真っ赤な蝙蝠のエフェクトに包まれ、鏡面化した表面が砕けて弾け飛ぶ。

ライダーガール、スカーレットキヴァの登場だ。

「禁忌・『フォーオブアカインド』」

閉じていた眼を薄く開き、そう呟くキヴァ。すると、赤黒い幻影のようなものが身体から漏れ出し、3人の分身として固定化する。

終焉極大刃炎剣(レーヴァテイン)···ハァッ!!」

掌に真っ赤な魔力が収束し、一気に燃え上がってレーヴァテインを形成する。

それを大きく、炎を描くように振るい、猛々しくも凛とした剣舞を魅せてくれた。

「更に···こう言うのも、好きでしょ?」

キヴァの本体は剣舞を中断し、左手の人差し指を牙で噛む。滲み出した血は鋭く引き延ばされ、深紅の刀を形作った。

「フッ!ハァッ!」

レーヴァテインと血刀の双剣舞。左手に掴まれた血が空気を切り裂くと共に、刀身からは紅い霧が零れる。其処に右手が炎を振るうと、その血の霧は瞬時に引火し燃え上がるのだ。

その炎に照らされて、キヴァの頬は紅く、首筋の牙痕が艶かしく写し出される。

血が焼ける芳しい香りに、思わず牙が疼いた。

 

―コンッカカンッ―

 

妖しく美しい舞いのラストは、フラメンコのようなステップで締められた。レーヴァテインは握り潰され、輝く火の粉と散る。

「あぁ···匂い立つな···堪らぬ血で誘ってくれる···えずくじゃあないか」

「わっ、出久!眼が真っ赤だし顔がヤバイよ!」

三奈に揺さぶられて、漸く我に返る。気が付けば、口角はこれでもかと吊り上がり牙を剥き出していた。

自分の手で触れて分かるその形相は、手負いの獲物を前にした飢餓状態の肉食獣のそれのようで···

「あぁ···少し、離れよう。血に渇いてきた。目的の吸血姫様も、拝めた訳だしな」

深く息を吐き、俺はその場を後にする。

近い内に、輸血パックでも取り寄せるべきかも知れないな···

 

―――――

――――

―――

――

 

「いやー!楽しかったね!エリちゃん!鈴仙さんも、楽しめたようで何よりだね!」

夕方。俺達は文化祭を堪能し、エリちゃんの見送りに校門まで来ていた。

「ちょっと!射的で俺ちゃんがトップスコア叩き出したのカットされたんだけど。え?この後も出久の個人イベントあるから巻きで?くそったれめ」

またデップーがグチグチと文句を言っている。と言うか、俺がこの後する事はお見通しって訳だ。まぁ当然だな。

「でも、りんご飴、無かった···残念」

と、少し表情が沈むエリちゃん。今回の出し物では、りんご飴が出ていなかったのだ。

「と、そんなエリちゃんにプレゼントだ」

「え?」

俺が言うと、三奈が後ろ手に持っていた紙袋をエリちゃんに差し出す。

「出してみな」

「···!わぁ···」

三奈に促され、袋から取り出したそれは、真っ赤なりんご飴だった。

「材料は、朝イチでフランが買いに走ってくれた。そして俺からは、これだ」

【ボーダー!マキシマムドライブ!】

空間を切り裂き、スキマスペースに保管していた物を取り出す。

「あ、カエルさん!」

俺が渡したのは、カエルの顔をデフォルメした棒つきキャンディだ。ラップに包んだそれを、エリちゃんに渡す。

「これは、帰ってから食べな。まずは、りんご飴だ。今食べて、感想を聞かせてくれるかな?」

「うん!」

カリッと小気味良い音を立てて、りんご飴を齧るエリちゃん。どうやら、気に入って貰えたらしい。

「うふふ···さらに甘い」

「お気に召したようで何よりだ。手をベタベタにしないよう気を付けてな」

「良かったなエリちゃん。まぁ、また近い内に会える筈だ。そん時は、また作ってやってくれ」

「ヤー」

エリちゃんに手を振りながら、相澤先生の頼みを承諾する。

ま、その前にやらなきゃいけない事があるんだがな。

 


 

「ひゅぅ···よし」

夕焼けを背にしながら、右手にエターナルエッジを、左手にシンフォニックメモリを握る。今日の昼間までは、この世界と異世界を電波で繋いでいたメモリ。そのスタートアップスイッチを押し込んだ。

【ギャラルホルン!】

黄昏の始まりを告げる、角笛の名。そのメモリを、エターナルエッジのマキシマムスロットに装填する。

【ギャラルホルン!マキシマムドライブ!】

「三奈、フラン。変身しておけ」

「ん、分かった」

「りょーかい」

後ろの2人に指示しつつ、俺もドライバーを装着。それぞれのメモリを構え、何時ものように叫んだ。

【エターナル!】【ジョーカー!】【タブー!】

「「「変身!」」」

黄金色、紫、深紅のエフェクトが舞い、ガイアアーマーが身体を包む。

 

―――――見上げる星。それぞれの歴史が、輝いて···

 

そして、適合ソングであるJourney through the Decadeを口遊んだ。

すると、逢魔時の紫に染まった空が歪み、真っ黒な孔が開く。しかし、そのままではまだ不安定。故に、俺はまだ歌い続ける。

 

―――――オーロラ揺らめく、時空越えて···飛び込む。迷走する並行世界(parallel World)···

 

時空を越える窓が、完成に近付く。黒い孔の向こうに、微かな極彩色が混じり始めた。

歌もサビに入り、低く、訴えるように、詞を紡ぐ。

 

―――――新しい夜明けへと続く道に、変わるのだろう。

 

「目撃せよ―――Journey through the Decade···」

最後の詞を歌い上げたその時、次元の窓は遂に完成する。ウネウネと不定形に変形し続けていた孔の淵は、安定した真円となった。

「さぁ、行こう」

「ん」

「分かった」

直径150cm程の次元の窓に、俺達は飛び込む。黒い影をはためかせ、この世界から消えるのだ。

 


 

(NOサイド)

 

―ヴィーッ!ヴィーッ!―

 

「···来たか」

シンフォギアの世界、S.O.N.G.の本部。空間異常の反応を示すアラートが鳴り響く中、その組織の司令官···風鳴弦十郎は、然して驚く事も無く腕を組んでいた。

オペレーターの藤尭朔也、友里あおいもまた、何ら危機的意識は無い表情をしている。

 

―ヴォンッ―

 

そして、本部のオペレータールームの中央の空間に、次元の窓が開いた。その中から、3人の人影が出現する。

言わずもがな、エターナル、ジョーカー、キヴァである。

「よく来たな、3人とも」

「済まないねおやっさん。隠し事は無しにするって、約束したからさ。連れて来ちまった」

「構いやしないさ」

弦十郎とエターナルは気さくに挨拶を交わし、ガッシリと握手した。S.O.N.G.では、突然の来客は割と良くある事なのだ。

「皆さん、お久しぶりです!」

「お、エルフナインちゃん!」

其処へ、白衣を着た少女、エルフナインが到着する。

「よぉエルフナイン。ゆっくり寝てるか?」

「勿論です!さっきも4時間仮眠を取りました!体調はバッチリです!」

「あー···まぁ良いか。そんじゃ、メディカルルームに通してくれ」

何か言いたげだったが、それを呑み込むエターナル。そして変身を解除し、ハットを被り直した。

「で、結局さ。出久の用事って、一体何なの?」

「そうそう。向こうで話すとしか、言わないし」

出久に習って変身解除したフランと三奈が、歩き出す背中に追従しつつ訪ねる。出久は、この世界に来た理由を一切言っていなかったのだ。

「んー。ま、簡潔に言うとだな···俺はもうすぐ、()()()()()()()()()()()()()()

「「はぁ!?」」「そ、そうだったんですか!?」

何でも無い事のように、軽く言い放った出久。しかし、割と重要なカミングアウト。故に、三奈とフラン、そして先導しているエルフナインも、大きく声をあげた。

「ど、どういう事!?」

「それを今から説明するよ。治療台(ベッド)の上からな」

丁度メディカルルームに到着し、手術台のようなベッドの上に座る出久。そしてハットとジャケットを脱ぎ、左腕を見せた。

「こ、これはッ!」

「ひっ···!?」

「こ、これって···」

その腕に、3人は息を飲んだ。

左下腕に、どす黒く毒々しい生体コネクタが浮かんでいたのだ。

「ッ···大方、()()()使()()()()()を前提に造られたガイアメモリが、最近の俺の急激な体質変化に追い付かなくなって···拒絶反応を出し始めたんだろう」

ジリジリと痛む腕を擦り、説明する出久。その痛みは、段々と頻度と強さを増してきている。

「で、そろそろ潮時ってな訳だ。だから此処に来た。

俺達の世界は、ガイアメモリなんてオーバーテクノロジーの想定外な反応に、対処なんて出来やしない。そもそも俺らの世界じゃ、ガイアメモリシステム自体が他所から放り込まれたイレギュラーだ。だが、此処ならば···ライダーシステムの運用を行った此処ならば、そのノウハウ分だけ幾らかマシだ」

「···じゃあ、ドーパントじゃ無くなったら、どうなっちゃうの?」

「うーん···」

三奈の問いに、唸る出久。当然、誤魔化す気などさらさら無い。純粋に、どの程度の影響があるか分かりかねるのだ。

「···取り敢えず、地球の本棚へのアクセス権限は無くなるだろうな。後は、超適合体質、言語完全翻訳辺りも無くなるかも知れん。

あ、何よりメモリとドライバー、あと強化アイテムの類いが造れなくなるだろうな。これは確実だ。一応、前もって幾つかはブーストアイテムは造ってあるが···まぁ、生憎ロストドライバーやダブルドライバーじゃ使えない仕様だから、これは今は良いだろう」

出久は帽子を取り、思い付く限りを尽く答えた。これ以上は、出久自身にも分からない。

 

―ズキッ―

 

「ッ···思ったより早いな。早速、準備に取り掛かるとするか」

【ボーダー!マキシマムドライブ!】

ギャラルホルンのマーカーとして置いて来たエターナルエッジの代わりに、ドライバーのマキシマムスロットを外してボーダーメモリを装填。空間に穴を空け、スキマスペースを開く。

「何するの!?」

「創ってきたメモリの中で、特に有用なメモリを、俺の身体から切り離す!このままじゃ多分、全部消えちまうだろうからな!」

そう言いつつ、出久は掌から1本ずつT2メモリを取り出し始めた。それらは出久の手から溢れ、直接スキマスペースに落ちて行く。

「ぐぅッ···!」

1本メモリを排出する毎に、出久の表情はどんどん歪む。左腕の痛みは、最早焼けた火箸で肉を掻き回されているような激痛の域に達していた。

「AtoZ、ラストォ!」

原初のT2は、全て排出し終わった。しかし、まだ休んでは居られない。

「次ッ、シンフォニックッ、メモリ!」

痛む左腕に奥歯を噛み締めながら、今度はシンフォニックメモリを取り出し始める。

「ガング、ニール!アメノハッ、バキリッ!イッチイッ、バルッ!

βに、イガリマッ!シュルッ、シャガナ!アガートラームッ!神ッ獣ッ鏡ッ!

そんでもってェ、ソロモンの、杖にッ!ダウルッダヴラァ!!」

眼を真っ赤に充血させながら、出久はメモリを排出し続ける。仕舞いには、ポタポタと鼻血が垂れ始めた。痛みの大元たる左腕は、赤黒く変色し、熱を放っている。

「クッ、エルフナインッ!!」

「は、ハイッ!!」

「血液型は、何でも良い!輸血パックを、出せるだけ持って来い!ついでに氷嚢もだッ!!」

「ハイッ!ただいま!」

「フランちゃん、手伝ってあげて!出久は私が見てる!」

「分かった!行ってくる!」

フランはエルフナインと共にメディカルルームを飛び出し、物資保管庫へと向かった。

「ぐッ···まだ、だ···」

「出久···ッ」

三奈は治療台の側に跪き、マキシマムスロットを固く握り締める出久の左腕に触れた。

その腕は熱く、火傷するかしないか、そのギリギリの温度だ。

 

―――――誤魔化さないで。貴方に落ちる、冷たい雨を、嗅ぎ分けて···

 

自分に出来る事は何か無いかと思考を巡らせ、三奈は歌う事にした。自分の歌声が、愛しい男の苦痛を、少しでも慰められればと。

「う、うぅッ···はぁッ···はぁッ···」

そして、その想いが通じたのだろうか。出久の呼吸は幾らか整い、脂汗の勢いも少し落ち着いた。

 

―――――軽はずみなフリ。悪戯に、からかい遊んでいる貴方。私は手探りしながら、貴方を想う···

 

左手を出久の腕に重ねながら、右手を出久の頬に添える三奈。その手から緑のスパークが弾け、真っ赤なラインが浮かび上がった。

それに誘われるが如く、出久の身体にもワンフォーオールのスパークとラインが発生する。

 

―――――飛び立つ鳥のように、孤独と、孤高に揺れる、背中···私は此処で待つ只の···とまり樹でしかない!

 

「誤魔化さないでッ!貴方に落ちる、冷たい雨を!嗅ぎ、分けて!両手を空に、翳しているから···

貴方に咲く、菩提樹···」

2人の間に共有された、魂の凝集体であるワンフォーオール。その魂の共鳴により、出久の痛みが三奈にも伝播し始めた。

余りの痛みに、涙を浮かべる三奈。しかし、それは同時に、独りで背負っていた痛みを分割し、半分肩代わり出来ていると言う事。故に、出久の苦しみは確実に減っている。それが三奈には、何だか嬉しかった。

 

―――――凭れ掛かるたび、遠退いてく、冷める貴方の体温。私はどれ程の強さを、纏えば良い···?

 

「夢の先はもっと、過酷で···貴方の胸を、貫く。私は此処に居る。永く···貴方の傍らに!」

 

―――――もう迷わないで!貴方に刺さる、鋭い棘を、抜き取って···その傷口を、抱いていてあげる···貴方が、笑う日まで···

 

力の抜けた出久の左腕を胸元に抱き寄せ、己の痛む手を繋ぐ三奈。その手の甲に頬擦りしながら、出久の力となる為、歌う。

「三奈ちゃ···!!」

 

―――――どうか···貴方が、壊れてしまうのならば···どうか···この身体を、燃やして欲しい···

 

輸血を抱え戻って来たフランは、その光景に言葉を失った。

汗と血に濡れながらも、幾分か穏やかになった顔で治療台に寝そべる出久。そして、閉じた眼から涙を溢しながら、出久の手を抱き、身を捧げるように歌う三奈。

それはまるで、1枚の絵画のよう。美しく、儚く、然れど強い意思が宿ったその姿に、フランは思わず見惚れてしまった。

「···ッ!よし!私も、出来る事を!」

一瞬の後に我に返り、輸血パックに穴を空けるフラン。そして中身を口に含み、己の唇を出久のそれと重ねた。

「っ···」

少しずつ流し込まれる血を、嚥下する出久。1口飲み下す毎に、確実に肌の血色は良くなっていく。

「三奈さん!氷を!」

歌いながら頷き、エルフナインから保冷剤を受け取る三奈。それを出久の腕に当て、更に歌い続ける。

「うゥゥゥゥッ···ウォォォォォッ!!」

眼を見開き、叫んで渇を入れる出久。

三奈が痛みを和らげ、フランは血を飲ませた。それによって回復し、府抜けている場合では無いと己を鼓舞する。

「ッ!腕から、メモリが!」

エルフナインは、三奈に抱かれた出久の腕から、メモリが顔を出している事に気付いた。いよいよ、時間が無い。

「ヴァイ、ラス!ヒー、リング!」

立て続けに、2本メモリを排出。腕のメモリーメモリはますます反発し、半分程が抜け出ている。

 

「これでッ!ラストォォォォッッ!!!!」

 

最後の力を振り絞り、弾き出したメモリ。それは···(アシッド)。最初に三奈に渡したメモリだった。

それを最後に、出久の左腕からズルリとメモリーメモリが抜け、治療台に落ちる。

「ぐぅッッ!?!?」

「がぁッッ!?!?」

その瞬間、出久と三奈の身体を電流のような激痛が貫いた。

「ッッ···ハァ、ハッ、ハァ···ハァ···」

幸い、その痛みは一瞬で過ぎ去る。未だに荒い息を吐きながら、出久は三奈の手を握った。

「···三奈ぁ···ありがとなァ···」

「···どう、いたしまして」

 

―カシャンッ―

 

出久の手に握られていたマキシマムスロットが、指からスルリと落ちる。それを拾い上げたフランは、あれだけの苦痛の中でよく握り潰さなかったな、と思ってしまった。

「出久ッ···!」

「んむっ!」

出久と自分の唇を重ね、貪るようにキスをする三奈。初めは驚く出久だったが、すぐにそれを受け入れ、頬に添えられた手に自分の指を優しく絡める。

「は、はわわわっ!」

一方、こう言った事に耐性が薄いエルフナインは、顔を真っ赤にして両目を手で隠した。それでも気になるようで、指の隙間からチラチラと覗いている。

「アハハ、三奈ちゃんの正妻力には勝てないや」

そう呟いて、フランはホンのちょっぴり哀愁が籠った眼差しを向ける。出久が自分も愛してくれている事は言われるまでも無く分かっているが、それでも一番愛されたがってしまうのが女の性と言うものだ。

「んっ···ぷはぁ」

「んぷっ···ふぅ」

たっぷりと20秒以上、濃厚なキスを交わした2人。銀の糸を引いて離れる唇から、熱い吐息が漏れた。

「···血生臭い」

「ちょ、開口一番にそれ言うか?回復の為にも血は必要だったし、吸血鬼にゃ酷ってもんだぜ」

理不尽な事を言ってむくれる三奈。その頬に付いた自分の鼻血を拭いながら、出久は苦笑いを浮かべた。

そして、治療台の上に転がったメモリーメモリを手に取る。

 

―パキンッ―

 

浅黒く、随分と色褪せたそれは、出久に看取られ爆ぜ壊れた。メモリのエンブレム部分が割れ、火花の散る基盤が露になる。

「世話になったな···メモリーメモリ。今までご苦労さん」

「···あれ?」

メモリーメモリに優しく微笑む出久の顔に、三奈は違和感を覚える。それを確かめるべく、出久の前髪をかきあげた。

「ちょっ、何だよ三奈」

「色、変わってる···」

「は?色?」

「眼の色!」

「ん···ちょっと待て」

スタッグフォンを取り出し、カシャッと自撮りする出久。その写真を確認し、成る程と納得した。

「へぇ、こうなったか」

その写真に写る出久は―――――

 

―――――()()()()が、()()()に変色していた。

 

「ま、吸血鬼だしな。あり得る事だろ」

「大丈夫なのかな···」

心配そうな三奈の頭をポンポンと撫でつつ、出久は新しい輸血パックを手に取る。そして袋の端を牙で噛み千切り、中身を呷った。

「ふぅ。フランも、ありがとな。コレ取って来てくれたり、飲ませてくれたり」

「エヘヘ、どういたしまして♪」

「で、エルフナイン。このメモリーメモリ、此処で保管しといて貰えないか?」

「えっ?」

唐突に話を振られ、メモリを差し出されたエルフナイン。余りに唐突で、頭が付いてこない様子だ。

「何で、ボクに?」

「そいつは簡単。この世界の方が、俺の世界よりもオーパーツの類いの管理設備が整っているからだ。おやっさんにも、話は通しとく。破損してても、危険物には違い無いからな」

「ちょっとそれ傍若無人じゃない?」

「···まぁ、俺もそうは思う。でも仕方無いだろ?

向こうじゃ普通のT1ならまだしも、こんな規格外級のメモリなんて処分したら、どうなるか分かったもんじゃない」

「あー···分かりました。取り敢えず、ロビーに戻りましょう」

 

―――

――

 

「よし!ではこれは責任持って、我々が厳重に保管しよう!」

「ごめんなおやっさん。厄ネタになりかねないモノを押し付けちまって」

結果から言えば、話は驚く程スムーズに通った。それにより、メモリーメモリの残骸はこの世界で保管される事となる。

「なぁ~に、こう言う出所不明の物品を押し付けられるなんて、仁君で慣れているさ!」

「あっ···察した」

「いやー、並行世界からムジョルニアを持って帰って来た時はフリーズしちゃったなぁ~。アハハハ」

「ムジョルニア?マジかよ、北欧神話の雷鎚じゃねぇか」

どうやら仁が既にヤベーイ物を幾つも持ち帰って来ているらしい。傍迷惑にも程がある。

「深淵の竜宮を強化改修した深淵の遺跡(ルルイエ·オブ·アビス)の保管庫も、まだ十分空きがあるしな」

「何ちゅう名前を付けてんだよ」

「まぁそもそもが、《開けたら録でも無い事になるビックリ箱》って意味で呼ばれ始めた名前だからな~。深淵の竜宮」

「ヒッデェ経緯だなぁオイ···そう言えば、響達は?」

と此処で漸くシンフォギア装者がいない事に気付く出久。流石に遅過ぎである。

「え?時計見てみなさい。もう23時よ?」

「マジか!此方じゃまだ夕方5時ちょい前だったから気付かなかった」

「まぁ此処、そもそも潜水艦だしね」

「いやー、こんな時間に申し訳無い」

「別に平気よ。最近は平和で、基本的に暇だし」

「そうそう。君達が来る直前なんか、晩酌のツマミに何作るか、なんて話題だったし」

「アットホームな職場だな」

そう言って、笑い合う一同。何と平和な事だろうか。

「···じゃ、そろそろ帰るわ」

「あぁ。今度はゆっくり、お(もてな)ししよう」

「ソイツは楽しみ。なら、ワインの1本でも土産に持ってくるか」

「おっ!良いねぇ!」

「職務中は飲めないけどね」

あからさまに機嫌が良くなる朔也に、やれやれと言った様子のあおい。そんな和やかな雰囲気に、弦十郎も大きく笑った。

「そんじゃ、世話になった。チャオ♪」

「「さようなら!」」

別れの挨拶を投げ、出久達は次元の窓に消えて行くのだった。

 


 

「ん?この、反応は···―――――

 

―――――()()()()()()()()?」

 

to be continued···




~キャラクター紹介~

緑谷出久
お馴染みの化物主人公。
原作のりんご飴の代わりに、エリちゃんにケロちゃんキャンディをプレゼントした。
今回をもって、6年間連れ添った相棒であるメモリーメモリに別れを告げた。
これにより、出久の体質はヴァンパイアとして純化。過剰適合進化者の義眼も、瞳のデフォルトの色が白から赤に変わった。
シンフォギア世界にとんでもない厄ネタを押し付けて帰ったが、当の押し付けられた側は慣れっこだった。慣れって恐ろしい。

芦戸三奈
出久の正妻。まだ比較的人間。
今回は久々に出久とデート。だがしかしデップーもいた。
元々人の機微が目につくタイプだったが、自分の事(主に痛み)を余り語らないタイプである出久と付き合う内に、人間観察がメチャメチャ得意になっている。
出久の為に歌ったのは《菩提樹》と言う曲。最近YouTubeで聴いた時に「これ三奈だッッッ!!!!」と痺れたので、三奈に歌わせた。
キスの後、開口一番に文句を言ったのは、出久の体温や反応を感じて精神的に余裕が出来たから。

フランドール・スカーレット
出久の第二夫人。ミスコンに出た吸血姫。
金髪のアーマード美少女・炎の剣による剣舞・血の武器と言う男の子の欲張りセットにより、ミスコンでは2位になっていた。尺の都合でカットしたが。
後半では三奈の正妻力に見惚れつつ、出久に口移しで血を飲ませた。

デッドプール
またチョイ役しか出来なかった無責任野郎。
やっぱ戦闘回とかピリピリしたシリアスな空気じゃないと活かせないなこのキャラ。
また、出久と三奈のイチャイチャからフラグを掘り出すと言う隻狼じみた事をした。




『えー私、ついこの間、無事高校を卒業致しました!因みに精勤賞です!』
「マジかよ。学校が嫌だっつって教員振り切って家に帰ってたお前が?」
『小学校低学年の頃の話を掘り出すんじゃないよ』
「で?進路は?ニート?」
『いや、自衛隊だよ。陸自』
「ほざきやがれ、寝言は寝て言えよ」
『いやしっかり激励会も受けたわ』
「どんなカンニングしやがった」
『そんな器用なマネ出来ると思うか?』
「確かに···じゃあマジなのか?」
『納得の材料がコレって酷すぎる···取り敢えず、4月からは小説投稿頻度がかなり落ちると思われます。その報告です』
「うげ、マジかよオイ」
『こればっかりは仕方無いって。じゃ、締めるぞ!』
「久々だなこれ」
『「次回もお楽しみに!」』


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第43話・絶望へのD その1/囚われの吸血姫

『おらとっとと続き書けよ!早くやれ!早くやれ!』
「分かった分かったよ、ごめんよデップー」
「ったぁく半年も投稿無しとか恥ずかしくねぇのかよ」
『分かってるっての!あぁ悪かった!書くったらさ!まぁでも、今回は構図が風都探偵とほっとんど同じだが勘弁しろよ?』
「それは出来による」
『あぁハイハイ』


(出久サイド)

 

「・・・分かった。次が丁度5連休だから・・・あぁ、お互い気を付けよう。土産も持って行く・・・お楽しみに。じゃあな」

さっぱりと締め括って電話を切り、ハイツアライアンス中央ロビーのソファにドカッと座る。さーて、ちっと忙しくなるな・・・

「ん、出久?どうしたの?」

「誰からー?」

一息ついていると、フランと三奈がやって来た。丁度良い。

「フラン、三奈。イギリス行くぞ」

「「へ?」」

 

━━━━━

━━━━

━━━

━━

 

そんなこんなで飛行機の中。昔はゾーンで移動しても良かったが、今は立場と言うものがある。流石に密入国は拙い。まぁ、仮免許がパスポート代わりとして使えるから発行の手間がかからなくて有り難かったが。

「うーん、英語大丈夫かなぁ・・・自信無い・・・」

「大丈夫。ニュアンスと身振り手振りで意外と通じるよ」

「そもそも、スタッグフォンに音声翻訳アプリ入れてあるからな。心配ねぇよ」

「ホント高性能だよね、スタッグフォン」

まぁ、そりゃあな。地球に愛された奴が造ったんだからな。オーバースペックにもなるだろうよ。

「にしても、お姉様大丈夫かなぁ。こっちにもドーパントが出たって・・・」

そう。俺達が英国に赴く理由はそれだ。

レミ姉さんから、電話で連絡があった。何でも、遂に向こうでドーパントが出現したらしい。ヴァイオレンスだったとの事だ。

今回は幸いにもライダーシステム保有者のレミ姉さんがいたが・・・もう外国に流通が始まっているならば、早急に対策をせねばならない。しかし、ライダーシステムをどう増産したものか・・・エグゼイド系のライダーシステムなら、ウィル達が少しは造れるだろうが・・・あれは適合者でないとまともに扱えない代物だからな。

いっその事、雄英の地下にメモリプラントでも造るか?施設の構造なら頭に入ってるし、あの広大な敷地面積と変態的な技術力に、俺の技術的サポートが入るなら、或いは・・・

だがしかし、最大の問題は別にある。アダム・ヴァイスハウプトの事だ。

レイア達曰く、奴はシンフォギア世界の裏組織、パヴァリア明光結社のリーダーだったらしい。組織自体も碌でも無いもので、生体合成や人体実験、果ては人間から生命エネルギーを奪って利用する等々。言うなれば、ショッカーと財団Xが合体事故を起こして更にオカルト技術にまで手を出したような組織。

メモリ流通の大本になっているであろう、座標不明の裏賭博場(ブラックカジノ)。その運営も、恐らく奴らが行っている筈だ。

取り敢えず、増産可能なライダーシステムをピックアップしておくか。幸い、地球の本棚からは閉め出されなかったからな。何故か頭の中に新生ライダーの情報が流れ込んで来たが。

候補としてはダブル系を筆頭に、ゼロワン系やドライブ系は可能。それに単純なパワードスーツのG3系なら、発目の作品に少し手を加えればイケるな。後は・・・パヴァリアからセルメダルのテクノロジーを持ち出せたら、バースも手が届きそうだ。あ、マスタークのスチームブレードのデビルスチームを使えば、ビルド系もイケるか?幸い、スクラッシュドライバーもビルドドライバーもこの世界にあるし。

「出久、また考え込んでるね・・・」

「ん、あぁ済まん。此所んとこ、問題が山積みだからな」

正直、圧縮睡眠体質が消えなかったのはマジで助かってる。吸血鬼だから身体はタフだし、頭もスッキリするからな。

と言うか、意外な事にメモリ創造以外の能力は割と丸々残った。もしかしたら、ドーパントの体質の一部がワンフォーオールに取り込まれたのかも知れないな。

「ま、ウダウダ考えてもしゃーない。今回は目の前の事に集中だな」

英国のドーパント出現・・・割と冗談抜きに深刻だな。

だが、ライダーシステムのテクノロジーはそう容易く他国に渡して良いものじゃ無い。流出してテロに使われれば、モノに依っては単身で国と真っ向から互角以上に喧嘩出来るからだ。かく言う俺もそう。やろうと思えば列強国の1つや2つ、容易く滅ぼせる。

・・・やっぱメモリプラントは止めた方が良いかな。選んで造れた俺が異常なだけで、あれは本来ガチャみたいなもんだし。

「ま、プランは発目と要相談、って所だな」

 

「テメェら動くなァ!」

 

「・・・ハハハ、最っ高だね」

皮肉っぽく頬を吊り上げ、俺は不幸なハイジャッカー共を見据えて過剰適合進化者の義眼(アイズオブハイドープ)を起動した。

 

─────

────

───

──

 

(NOサイド)

 

「ったく、食わなきゃやってられっかってんだ・・・うん、ギットギト」

喫茶店の椅子にどかっと座り、油ギトギトのフィッシュアンドチップスをヴィネガーソースに浸して口に放り込む出久。酢で多少サッパリはすれども、それを油が軽く上回ってしまう辺りが、イギリス料理の当たり外れ激しいと言われる由縁である。

「アハハ、こんな荒れてる出久初めて見た・・・」

「まぁ、仕方無いよね。出久が手続き行ってる間に、私達すっごいナンパされてたし」

フラン言う通り、2人は出久が席を外した隙に、四方八方からナンパされまくっていたのだ。フランは兎も角、三奈の事は雄英体育祭で全国放映されていたと言うのに。勇気と無謀を履き違えたと言うやら、命知らずと言うやら。

「にしても、レミ姉さん遅いな。そんな遅刻するタイプじゃない筈だが・・・」

出久がスパイダーショックを確認すると、表示は15:28。待ち合わせは15分。既に13分の超過である。

「うーん、確かにおかしいね」

「お姉様は遅れる時は絶対一報入れるタイプなのに・・・」

「電話にも出ねぇ・・・胸騒ぎがする。紅魔館に急ぐぞ」

「そうだね」

「分かった」

席を立ち、手早く会計を済ませる出久。店を出るとエターナルエッジを取り出し、メモリを装填した。

【ボーダー!マキシマムドライブ!】

「俺達はタービュラーで行く。フランは着いて来てくれ」

【エターナル!】

「オッケー!」「了解!」

【ジョーカー!】

「「変身ッ!」」

【エターナル!ジョーカー!】

【ヒート!ユニット・タービュラー!】

ダブルに変身し、エターナルボイルダーのスロットにヒートを装填。タービュラーユニットに換装し、ウィングを展開して浮上する。

『スタッグフォン接続。オートナビゲーション開始。最大時速は800km。クイーンで風よけを作るから、フランは後ろに。パルスジェットの噴射には注意しろよ』

「イエッサ!」

【クイーン!マキシマムドライブ!】

エターナルタービュラーのマキシマムスロットで、クイーンのマキシマムドライブを発動。流線型のバリアを作り、アクセルを吹かして一気に加速した。

 

(レミリアサイド)

 

「う、ぅん・・・」

闇の中から意識が浮上し、薄暗い洞窟の天井が視界を埋める。

耳元で響く、パシャパシャと言う水音。どうやら、水に浸されているらしい。

「ここは・・・?」

水に浸かっていたのは、首から下全て。クラクラする頭を押さえて何とか立ち上がると、何故か私は全裸であった。

「うそ、私の服・・・!」

洞窟の出入り口辺りに置かれた、一対のビキニ。ご丁寧に、『全裸が嫌な場合はお使い下さい』と言う書き置きまである。

「・・・気持ち悪いわね」

しかし、流石に生まれたままの姿でほっつき歩くのは御免被る。吸血鬼の観察力で水着におかしな細工が無い事を確認して、渋々とそれを身に着けた。

落ち着いたブルーの色合いが綺麗で、センスが良いのが尚のこと腹が立つ。

「んっ・・・眩し・・・」

強い光に目が眩み、手で眼を覆う。吸血鬼である私に対して、この明暗差は厳しいものがある。

暫く眼を馴らすと、私を取り囲む光景を脳が認識した。

ビーチだ。白い砂浜に、青い海。太陽の輝く空には雲一つ無く、浜の奥には林に囲まれた小さな小屋があった。

「~♪」

そして、海の中に椅子を立て、キャンバスに絵を描く金髪の女。ご機嫌に鼻歌を歌いながら、白い布の上に筆を踊らせている。

「・・・起きたね・・・ふふっ♪」

カチャッと筆を置き、その女は此方を振り返った。

若干童顔で、少しロシア系も混ざっているような顔立ち。しかし身体はスラリとした美事なモデル体型であり、胸囲も標準以上のモノがある。

「・・・」

「くふふ、流石は英国トップ。落ち着いているねぇ。普通は此処らで、私が質問攻めに遭う所なんだけど・・・」

「・・・別に。質問が多過ぎて、絞れないだけよ。取り敢えず・・・貴女は、何者なのかしら?」

魔力を凝集し、グングニルを生成。目の前の女の首筋に当て、自分の脅威性を示す。

「ふふっ・・・私の名前は、リリス・ナクルァーヴィ。22歳の世捨て人、または芸術家(アーティスト)・・・でも貴女にとっては、()()()、かしらね?」

グングニルを突き付けて凄んで見せても、この女に怯えは全く無い。寧ろ、極めてリラックスした、花の水やりでもしているような雰囲気。気味が悪いわね。

「ふふ。私、女の子が好きなんだけどね?好きだなーって思った子には、すぐアプローチするの」

・・・思い出した。

コイツ、仕事終わりを待ち伏せていきなり薔薇の花束を差し出して来た女だ。以前からこういう事は偶にあるから、愛想笑いして受け取りはしたんだけど、その後もしつこく絡んで来て・・・鬱陶しくなったから、花束を突き返して帰ろうとして・・・

「それでも来て貰えなかったら、ここに招待するのよ。ちょっと強引だけどね?

あと、そんな事しても無駄よ?確かに私を殺す事は出来るけど・・・帰り方、分からないわよね?」

「・・・ちっ」

舌打ちしつつ、グングニルを握り潰す。

癪に障る事この上無いけど、確かにこの女の言う通り。ここが何処か分からない私には、この女を殺した後で無事生還出来る保証は無い。それに、コイツの個性も未知数・・・下手に動くのは、賢明じゃ無い、か・・・だけど。

「ふっ!」

「あら?」

翼を広げ、地面を蹴って飛び立つ。

魔力を通した羽が空気を捕まえ、一気に上昇。良かった。翼に細工はされてないみたいね。

「あらあら、レミィちゃんはもう少し賢いかと思ったんだけど・・・」

「お生憎様、賢い良い子ちゃんだけじゃ、ヒーローは務まらないの!」

リスクは付き物。それを冒してでも、まずは情報を得なきゃ・・・ッ!?

「な、何よこれ!?」

空中でホバリングし、()()()()()()()()()()()()()。この空、もしかして・・・絵?

「あらあら、もうバレちゃったわ。まぁ触れば分かると思うけど、ここは全方位を完全に囲まれてるの。私と()()()以外、このビーチへの出入りは不可能よ」

「くっ・・・」

あいつの勝ち誇ったような笑顔がむかつく。でも、吸血鬼の視力でも隙間等は見付からない。仕方無く、私は元の位置に舞い降りた。

「・・・私の持ち物は?」

「あー、バッグは小屋の机。服は隠しちゃったわ」

(・・・どう言うつもりかしら・・・)

視線をリリス・ナクルァーヴィに向けたまま、小屋の扉を開ける。机の上には、私が普段使いしているバッグが置いてあった。ご丁寧にスタッグフォンまでそのまま。

誘拐したっていうのに、何で電話を取り上げないのかしら・・・

「じゃ、私はご飯を調達して来るわ。だから、少しの間眠っててね♪」

 

─プスッ─

 

「いっ・・・!?」

首筋に小さな痛みが走り、次いで意識が遠ざかって行く。まさか、薬物・・・?

(ちく、しょう・・・)

小さく心の中で毒吐きながら、私の意識は暗転した。

 

(出久サイド)

 

「それは本当か、美鈴(メイリン)

「はい・・・」

レミリアの住居である真っ赤な館、紅魔館に着いた俺達は、門番であるチャイナ風の服を着た赤毛の美女、(ホン)美鈴(メイリン)に問う。

「そうか・・・レミ姉さんが、昨日から・・・」

「お嬢様は、今まで報せも無く一晩を明かした事は無かったのですが・・・咲夜さんは、商店街で聞き込み中です」

「俺達も合流する。連絡先を交換しとこう」

「分かりました」

美鈴に電話番号を渡し、俺は踵を返してボイルダーに跨がる。そして三奈を後ろに乗せ、アクセルを吹かした。

スピードを控え目に街へと走ると、見覚えのあるメイド服が眼に留まった。

「あ、咲夜ー!」

「い、妹様!それに出久君まで!」

「久しいな、咲夜」

青い眼をした銀髪のメイド少女、十六夜咲夜。俺と同い年でありながら、紅魔館のメイドを取り仕切る強者だ。

「レミ姉さんの件、美鈴に聞いた。この調査に協力する」

「ありがとう、出久君。頼もしいわ・・・うっ」

ふらりと倒れ掛かる咲夜。慌ててフランが血の糸で支え、此方に引き寄せる。

彼女の目元には隈が浮かび、手もかなり冷たい。多分、休み無く駆け回り続けたんだろう。主人想いは良い事だが、無理は禁物だ。

「フラン、咲夜を紅魔館に送ってくれ。俺達は一足先に情報を集める」

「分かった。後でね」

「す、済みません、妹様」

「良いの良いの。咲夜が倒れたら大変だから、今はゆっくり休んでね」

咲夜を抱えたフランが飛び立ち、その反対方向に俺達は進む。

兎にも角にも、まずはキーワードだ。

 

─────

────

───

──

 

「あー、畜生・・・手掛かりが無ェ・・・」

17時過ぎ。自販機で買ったコーヒーを呷りながら、公園のベンチで溜息を吐いた。俺達3人で手分けしているが、有益な情報が中々無い。

と言うのも、レミ姉さんが誘拐されたと思わしき時間帯は22時以降。素面の人通りは少なく、目撃情報が殆ど獲られなかったのだ。

取り敢えず、連絡は取り合おう。

「フラン、三奈。そっちはどうだ?」

『此方三奈。有力な手掛かりは無いね』

「やっぱりか・・・」

三奈の方も、俺と同じような状態らしい。

『此方フラン。ちょっと気になる情報があってさ』

お、フランは何か掴んだらしい。

「その情報は?」

『何でも最近、この辺で若い女の子が失踪する事件が増えてるんだって。それも、揃いも揃って綺麗な子ばっかり。

入院中とか、明らかに自分では動けないような子も消えちゃうから、誘拐の線で捜査してるみたい』

「そうか・・・有難う。良い情報だ。取り敢えずネットで調べて、更にキーワードを抽出する」

『オッケー』

通話を切り、早速イギリスの検索エンジンに掛ける。

キーワードは、《失踪》《頻発》《女性》の3つ。

・・・ふむ、成る程。確かにここら半径5キロ圏内で、レミ姉さん以外にも既に4人行方不明者が出ている。何れも10代後半から20代前半の極めて若い女性。現在、失踪届が出されて捜索されているようだ。

女を攫う奴に碌な奴がいた(ため)しが無い。そして、英国でのドーパントの存在が確認されたと言うこのタイミングで、俺が干渉出来る場所での連続失踪・・ならば、やはりこれもドーパントか・・・

病室からも消えたのならば、疑わしいのはゾーンやロード等の空間干渉系か?しかし、ゾーンが自在にテレポート出来るのは自分自身だけ。自分が触れているモノは兎も角として、離れた物体をテレポート・アポートするには、その物体の座標を目視等で捕捉する必要がある。ならば、少なくとも近くの監視カメラに映るか、若しくはそう言ったカメラが破壊される筈だ。

だが、監視カメラにも何も映っていない。異常も無いらしい。だとすると、千里眼系の個性と併用したか・・・?

「分からん・・・攫われた女性に、何か共通点は・・・無いな」

個性、身長、人種、眼や髪の色、血液型・・・これと言って拘りがあるようには思えない。そして、レミ姉さんが攫われたんだ。かなりの遣り手だと見て間違い無い。

最初の失踪は1ヶ月前・・・しかし仮にドーパントだとして、ここまで物証を残さないのならば、メモリを手に入れて直ぐに犯行に及んだとは考え難い。ガイアメモリ初心者にしては、明らかに理性的過ぎる・・・女性を誘拐するのは理性的かどうかはさて置くとして・・・

無闇矢鱈と能力を使って暴れていないなら、傾向的には搦め手に長けたソウルタイプのメモリである可能性が高い。

レミ姉さんとは吸血による魂魄交換もしていないから、リミピッドチャンネルも繫がらない。

「・・・そうだ、キーメモリ!」

灯台下暗し、そもそも俺には捜し物を見付けるメモリがあった。

【キー!マキシマムドライブ!】

エターナルエッジにキーを装填し、レミ姉さんの姿を思い浮かべる。これで反応が有るはず・・・

「・・・無い、だと?」

無い。この街一帯、全て覆い尽くすようにサーチを掛けているのに・・・

「俺の現状スペックの、限界まで広げて・・・クソ、何故見付からないッ!?」

メモリードーパントじゃ無くなった今、検索範囲は街2つ分が限界だ。しかし、それでも見付からない。

「検索情報、サガークとスタッグフォンを追加・・・これも駄目か・・・」

幾ら探せど、俺達の持つアイテム以外に引っ掛かるモノは無い。

頭を抱えて唸っていると、再び電話が鳴った。三奈だ。

「どうした」

『ドーパントが出たの!』

「分かった急行する」

【ゾーン!マキシマムドライブ!】

丁度捕捉していた、三奈のスタッグフォンの座標。直ぐ横にテレポートする。

「うわっ!びっくりした・・・」

驚く三奈に手を合わせて軽く謝り、敵方を見る。暴れているのは、肉食恐竜の頭に手足が生えた2頭身タイプのドーパント。

「Tレックス・・・いや、あの2本角はカルノタウルスか。まぁ良い。とっとと決めるぞ。時間が惜しい」

【エターナル!】

「オッケー!」

【ジョーカー!】

「「変身!」」

2人でスムーズに変身を済ませ、俺達はドーパントと対峙した。

 

to be continued・・・




~キャラクター紹介~

緑谷出久
我らが化物主人公。
遂に海外でドーパントが現れた為、対策の相談の為に英国に渡るが、その飛行機でまさかのハイジャックが発生。自分の主人公体質を呪う。
空港に着いた後も、異常聴取に付き合っている間に恋人がナンパされると言う事態に脳内のイライラが止まらない。
更に待ち合わせ場所にレミリアが来ず、初登場の紅魔館組と協同で探し回る事に。因みにメモリードーパントだった時は、一点物を探す場合、サーチ範囲は日本の半分ぐらいだった。

芦戸三奈
出久の正妻。
空港で人生初のナンパを体験し、満更でも無かった事は出久には言えない。
レミリアを探している最中にドーパントを発見。即刻鎮圧に掛かる。

フランドール・スカーレット
出久の第二夫人。
地元じゃそこそこ有名だったので、人伝の情報は基本フランから入って来る。

レミリア・スカーレット
誘拐され、裸にひん剝かれてた吸血姫お姉ちゃん。
今の彼女に出来るのは、出久達の助けを待つ事だけ・・・か?

十六夜咲夜
紅魔館の瀟洒なメイド長。16歳にして紅魔館を取り仕切っている。
主人愛が強く、四六時中探し回って過労で倒れた。個性はまたの機会に。

紅美鈴
紅魔館の門番。23歳。
この捜査には不参加。代わりに咲夜さんの介抱をしている。
中国拳法、鍼灸施術、薬膳料理と何でも御座れだったりする。そんな才能ウーマンなので、居眠りして咲夜さんに折檻される事なんて無い。無いったら無い。

リリス・ナクルァーヴィ
レミリアを攫った誘拐犯。
かなりの美女であり、謎のビーチを造った人物。

風都探偵要素がかなり強いですが、感想欄でのネタバレはご遠慮下さい。


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第44話・絶望へのD その2/一抹の希望

『血の岩回収序での漁村ランラン一発で形状変化(放射)強化スタマイ出た』
「しかもその後、メンシスランランでも刺突特化スタマイ出たんだっけか?」
『まぁ低ランクだがな』
「運良いなぁお前ホントに」
『あ、今回かなりレミィが酷い目に遭います。覚悟しといて下さい。あと短めです』


(出久サイド)

 

「ふぅ、片付いたな」

最初に暴れていたカルノタウルスと、更に加わって来たマグマを手早く始末し、俺は変身を解いた。三奈も変身を解除し、装甲服がパリパリと崩れる。

「こっちでも、結構ドーパントいるっぽいね」

「あぁ。都市部でこれなら、紛争地帯はもっと酷いかもな。逆に、兵器の宣伝としてこう言う都市部にばら撒いてるか・・・クソ・・・」

死の商人共は実験と同時にこう言うデモンストレーションも兼ねて、ゴロツキ共に派手なアクションを起こさせる。ガイアメモリなんて、テロリスト共にとっては垂涎モノの玩具だ。こう言ったコマーシャルを、奴等は絶対に見逃さない。

「うーん・・・また手分けしよ。固まってても良い事無いし」

「あぁ・・・済まんが、頼むわ」

「なぁに言ってんの?素直に頼りなさいって!」

「・・・有難う」

「まっかせなさーい!」

そう言って、三奈は街道を走って行った。カルノタウルスとマグマは急行して来た警察に任せ、フッと息を吐く。

「レミリア・・・」

その名を呟けば、溜息が零れると共に、奥歯がギチリと小さく悲鳴を上げた。

レミリアは恩人で、また、この世界で初めて、仮面ライダーエターナルと言う異質を受け容れてくれた人だ。そんな彼女が、敵に身柄を囚われている。あぁ、何と腹立たしい・・・

「絶対に、見付け出す。絶対に・・・」

改めて決意し、沈み掛けた意思を持ち直す。レミリアは、俺達が救おう。

 

(NOサイド)

 

「ん・・・んぅ・・・っ!!」

微睡みから目覚め、暫しの放心。しかしそこから完全に意識が覚醒し、レミリアはバシャッと水飛沫を立てながら起き上がる。

「此所って、最初の・・・」

レミリアの認識通り、其処は最初にレミリアが目を覚ました場所。今回も同じく、水に浸されていた。

「くっ・・・やっぱり、何か注入されたみたいね・・・」

首元を擦れば、僅かながら注射痕と小さな瘡蓋があるのが分かる。

「一体、何を・・・!」

例しに全身に力を入れてみると、翼の感覚がかなり鈍い事に気付く。それだけで無く、魔力を錬る事も出来なくなっていた。

「まさか、個性神経への麻酔・・・?でも、そんなの開発されたなんて、聞いた事も・・・これが、彼奴の個性なの?」

「フフフ、流石はスカーレット家の長。鋭いのね」

「ッ!」

背後からの声に、振り返りながら飛び退くレミリア。そこに居たのは、誘拐犯たるリリス・ナクルァーヴィである。

「リリス、ナクルァーヴィ・・・!」

「あら、驚いたわ。まだそんなに気力があるなんて・・・」

「は?何を・・・ぐっ!?」

眉を顰めた直後、膝から崩れ落ち掛けるレミリア。何とか片膝を突く程度で踏み留まるが、頭は薄ら霞掛かったようにぼやけ、力が上手く入らない。

「これって・・・」

「やっと効いたみたいね」

ニッコリと笑い、レミリアの顎を掬うリリス。その頬は妖しく上気し、眼には情慾が滲んでいた。

「あぁ、ダメ。我慢できないわ・・・まぁ、味見ぐらいは良いかしら❤」

「むぐっ!?」

言うや否や、リリスは強引にレミリアを抱き寄せ、その唇の奥まで自分の舌を捩じ込んだ。

無理矢理なディープキスに、レミリアの眼には涙が浮かぶ。

(うそ、嫌!こんな奴と、こんな・・・こんなぁ・・・❤)

最初こそ力の入らない身体でジタバタと抵抗したレミリアだったが、脊髄から脳髄に走る甘い痺れに囚われ、次第にその瞳は敵意では無く快楽に潤み始めた。

(え・・・こんなに、気持ちいいの・・・何で、私・・・わたしぃ・・・❤)

脳髄に土足で踏み込み、彼女の抵抗拒絶をものともせず掻き乱す、ゾクゾクとした快感。その甘美な電流に、薬で抵抗力を削がれたレミリアの意思は塗り潰される。

 

───レミ姉さん

 

「ッ!」

「んぐっ!?」

だが、心の全てが飲み込まれる寸前。その脳裏に、1人の男の声が木霊した。

それは小さな、しかし熱い激励に似て、レミリアの意識を叩き起こす。そして誘拐犯に好き勝手させている事の不快感を思い出させ、口の中を弄る異物に牙を立てさせた。

「ペッ!アンタなんかに、私のキスなんて上等すぎるわ!一昨日来なさい!」

口の中に流れ込んだ血を、一滴であろうと飲んでやるものかと吐き出す。岸壁に手を付いて震える身体を必死に支えながら、ギリギリと歯を食い縛りリリスを睨み付けた。

「・・・は?」

 

─バシッ─

 

その態度に、リリスの機嫌は急降下。気に入らないとばかりに目を据え、レミリアの頬に平手を見舞った。

「・・・ッ!?う、ぃぎっ・・・ぃいッ・・・!?」

数瞬遅れて、頬に滲む激痛に蹲り掛けるレミリア。

普段ならば耐えられる筈の、只の平手打ち。だが何故か、異常なまでに痛みが大きい。紅い瞳からはボロボロと涙が溢れ、呼吸すらも踏み躙られるように乱される。

それ程の痛みは、当然恐怖を焚き付ける。今やレミリアの身体は奥歯がガチガチと音を起てる程に震え上がり、無意識に洞穴の奥に逃げようとしていた。

「あのね、貴女は抵抗出来ないのよ。なのに調子付いちゃって、それでちょっと叩いたら・・・コレ?あらあら、英国トップランカーも堕ちたモノね」

「ぐっ・・・そ、それを言ったら、アンタなんてそれ以下よ!薬を盛って抵抗出来ない相手を痛め付けて!それで勝ち誇ったつもり!?みっともないったら無いわねッ!」

「ふぅん・・・ッ!」

「ひぃっ!?」

恐怖に耐えて意地で叫んだ罵倒。しかし、リリスが再度手を振り上げると、途端にその虚勢は瓦解する。

呼吸は引き攣り、歯の根も震え、止まり掛けていた涙は再び決壊。

早鐘を打つ心臓は冷静な思考を奪い、拍車の掛けられた恐怖の濁流に、レミリアのプライドと尊厳は容易く押し流された。

「なにも!」

 

─バシッ─

「いぎぃっ!?」

 

「出来ない!」

 

─バチッ─

「うがぁッ!?」

 

「癖にッ!!」

 

─スパンッ─

「うぐぅっ・・・う、うぅ・・・っ」

 

何度も地肌を襲う、焼け付くような痛み。逃げようが無い恐怖に、レミリアは頭を庇うように縮こまり、遂には泣き出してしまう。

「はぁ、はぁ、はぁ・・・ふんっ」

「・・・うぅ・・・ぐすっ・・・うぇぇ・・・」

苛立たしげに鼻を鳴らし、リリスは踵を返して去って行った。残されたレミリアは、自分の身体を抱き締め、嗚咽を溢す。

恐怖と痛みからの涙も勿論あるが、それよりも何よりも・・・情け無かった。

吸血鬼と言う、生まれながらの絶対的強者。傲り高ぶる事はしないよう戒めていたが、それでも己の強さには自信と、そして誇りがあった。

だが、今はリリスの一挙一動に怯え、何の抵抗も出来ず、赦されず、打ち据えられて、幼子のように泣く事しか出来ない。

何より、リリスが此方に興味を失い、振り上げた手を下ろして去って行った時・・・心の底から、安堵した。()()()()()()()()

身動ぎすら出来ず、唯々、ハリボテに胡座をかき傲った強者の慈悲を望むしか無い。そんな状況は、生まれながらの強者として生きてきた彼女にとっては当然初めての経験であった。

その衝撃は、彼女のプライドをズタズタに切り裂き、踏み躙って尚、余りあるものだった。

(・・・大丈夫。きっと、きっと出久が、助けに来てくれる・・・大丈夫。それまでの、それっぽっちの辛抱よ・・・)

「う・・・ぐっ・・・ふっ、ふぅ・・・ふぅぅ・・・」

歯を噛み締めて涙を拭い、呼吸を落ち着ける。レミリアが折れずに踏み止まれているのは、単に出久と言う規格外の強さを持つ希望が居たからだ。同時に、義理の姉として、女として、格好悪い姿を見せたくないと言う、最後に残った意地の欠片でもある。

(っ!そうだ、スタッグフォン!)

落ち着きを取り戻すと同時に、連絡手段が皆無と言う訳では無い事を思い出す。そして洞穴から抜け出して、小さな小屋に向かった。幸い、リリスの気配は無い。

「・・・よし!電波は弱いけど、入ってはいる!」

圏外で無いならば、まだ光は見える。周囲の写真を撮り、メールに添付して疑似メモリを装填した。

【スタッグ】

「1番電波が入る場所で、コレを送信して!」

【pipipipi♪】

承諾するように電子音を鳴らして、スタッグフォンは飛び立った。これにより、レミリアの心に一筋の希望が射す。

(これで良し・・・と言っても、流石に何か気晴らしが無いと心が保たないわ・・・何か・・・あ)

心を保つ気晴らしを思案するレミリアの脳に、アイディアが湧いた。それは隕石のように降って来て、レミリアの口を突いて溢れ出す。

 

─────極彩色、纏う・・・狂気の、幕開け。何所にも、逃がさない・・・無条件、牢獄・・・

 

彼女の口から紡がれたのは、歌だった。作詞作曲でアルバムも出している彼女にとって、心情を唄に紡ぐ事はこの上無い気晴らしであった。

 

(出久サイド)

 

「何か、何か無いのか・・・クソッ・・・」

ズキズキと痛む頭を押さえて、ベンチに腰掛け項垂れる。

何所を探そうと、何の手掛かりも見付からない。こんな事をしている間にも、レミリアは恐怖に曝されていると言うのに・・・

【pipipipi♪pipipipi♪】

「っと・・・メール?・・・これは!!」

メールの差出人は、レミリア。『誘拐された。ドーパントかも。地下?箱庭のビーチ』と言う箇条書きと共に、何枚かの写真が貼付されている。木造の小屋に、綺麗なビーチの写真だ。

「地下?そうか!俺のキーメモリの索敵はほぼ平面座標のみ、深い地下には届かない!道理で見付からなかった訳だ・・・発信座標・・・は、不明か。だが、かなりの手掛かりだ・・・」

「なぁ、アンタ」

「ん?」

しばしあたまを回していると、声を掛けられる。そこに居たのは、見知らぬ男だった。

「アンタ、もしかしてイズク・ミドリヤかい?」

「あ、あぁ、そうだが・・・」

「あぁやっぱり!」

質問に答えると、男は嬉しそうに笑った。

「俺、アンタのファンなんだ!仮面ライダーエターナル!息子の学校に敵が立て篭もった時、助けてくれたろ?」

「・・・あー、まぁ、そんな事もあったかもな。心当たりあり過ぎて断定しかねるが」

まぁ、やった事はあるしな。三奈と出逢った時みたいに。

「でさ、アンタが座り込んでブツブツ言ってたから、困ってるのかと思って。何か、助けになれることはあるかな」

「んーっと・・・最近、変な事は無いか?何でも良いんだが」

「変な事、かぁ・・・あ、俺地下鉄で働いてるんだけどさ。近頃電源設備だったり、運行だったりがちょくちょくおかしな動きをするんだよな。調べても原因が分からなくて」

「何!?その話、もっと詳しく頼む!手掛かりになるかも知れない!」

これは思わぬ収穫だ。見逃す手は無い。

「お、役に立つかも知れないか!丁度これから出勤なんだ。ウチのボスもアンタが好きなクチだから、協力してくれる筈だぜ!」

「感謝の極みだ!」

漸く見付かった手掛かり。絶対に、無駄にはしない!

 

to be continued・・・




~キャラクター紹介~

緑谷出久
我らが化物主人公。
形骸化仕掛けていたファンクラブ設定がここに来て生きた。
原作のダブルと違い、情報収集と絞り込みを同時にやっているので、ちょっと要領が悪い。
因みに、実はSNSでも出久が駆けずり回っている事は拡散されており、協力してくれた地下鉄駅員もそれで知ったクチである。

フラン&三奈
出久に進展ありと報告を受け、地下鉄で合流する。

レミリア・スカーレット
囚われのお姉ちゃん。
ちょっと(どころじゃない)可哀想な目に遭ってる。だがめげぬ。
こんなゲスなんかに負けな(それ以上はいけない)
歌ったのは、『滲色血界、月狂の獄』。このエピソードの心情にぴったりな曲。

リリス・ナクルァーヴィ
誘拐犯。屑。
レミリアが泣くまで引っ叩いたコイツと比べると、元ネタのあのジジイはほんのちょっぴりマシだったのかな、なんて訳の分からん思考に陥りそうになる。
早急にしばかれるべき存在。


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第45話・絶望へのD その3/奪還の牙

「遂にレミちゃん奪還パート!ホラホラこれが見たかったんだろ?」
『さぁて、かなりの仕様変更があるものの、ロマンの前では些細な事よ。これが俺の新形態だ!』
「厨二全開さぁ行くぜ!メリークリスマス!」


「・・・はぁ・・・」

重く溜息を吐く、水着姿のレミリア。背中や顔にミミズ腫れが出来た彼女は、海岸の岩に腰掛けて足を水に浸し、作り物の水平線の、その果てを唯々見つめている。しかし、貼り付けられた水平線の向こうに出久と言う希望を見ているにしては、その眼はかなり虚ろだった。

手に握られているのは、展開面が接着されて開かなくなったスタッグフォン。念の為と言って、使用不能にさせられている。

「くふふ・・・不機嫌なセイレーン、かしらね♪」

その様をまるで写真のように、精巧にキャンバスに描くリリス。傍に置かれた机の上には、焼けた鉄板に乗った大ぶりなサイコロステーキが鎮座している。リリスは左手のフォークをその一切れに突き立て、口に運んで頬張り、顔を綻ばせた。

「ん~っ♪ほらレミィちゃん、一緒に食べましょう?美味しいわよ~?」

「っ・・・」

肉を一切れ差し出されるが、レミリアは顔を背けて拒否する。

彼女が此所に拉致されてから、既に丸一日と半日が経過している。空腹に苛まれてはいたものの、正体不明の薬物を使われたと言う前例があり、リリスに差し出された物を信用していない。辛うじて、気密を保たれた缶ジュースやペットボトル飲料のみを口にし、何とか誤魔化しているのが現状である。

「ふぅん、強情ねぇ・・・あ、それとも・・・」

リリスはチャキッと鋭く手の指の爪を伸ばし、自分の首筋を浅く切る。ジワリと滲み出た血はゆっくりと流れ、彼女の鎖骨まで1本の赤い線を引いた。

「ッ!!ぐぅっ・・・!!」

「こっちの方が、欲しいのかしら?」

レミリアの息が荒くなり、紅い眼はこれでもかと見開かれる。餓えて渇き、生にしがみつこうとする欲を辛うじて抑える理性にとって、本能的に甘美と映るそれは正に劇毒だ。

「ほぉら、美味しそうじゃない?吸って良いわよ?」

「ぐ、うぅぅ・・・」

最早血涙が零れそうな程に眼は充血し、また口からは涎が垂れる。そしてその本能のまま、レミリアは口を大きく開き・・・

 

─ガブッ─

 

「ッ・・・!」

「あら」

自分の左腕に、噛み付いた。

鋭く伸びた牙が皮膚を突き破り、血液が口の中に溢れる。大して美味くも無い自分の血を嚥下し、レミリアは吸血衝動を無理矢理に捻じ伏せた。

「訳も分からない薬を打ってくるような奴の血なんて、飲む訳無いわ!」

「ふぅん?その強がり、何時まで保つかしら・・・まぁ良いわ」

激昂した昨日とは一変、余裕のある態度で軽く流すリリス。レミリアのそれが、昨日以上の虚勢だと気付いているからだろうか。

不敵な笑みを浮かべたまま、何処かへと去って行く。

(出久・・・)

拭いきれない恐怖の中、出久と言う存在だけが、ただレミリアの心を支えるよすがであった。

 

───

──

 

「ふぅ、ちょっと一息・・・」

午前9時。

一言呟きながら、ベンチに座って脚を擦る三奈。彼女の管轄は、誘拐被害者の周辺人脈への聞き込み。親族や友人からの情報収集だ。

『大変そうねぇ』

「ッッッ!!」

耳元に囁かれた、絶妙にくぐもった声。反射的に右脚を振り上げながら身体を捻り、背もたれを蹴り付けて距離を取る。同時に懐からダブルドライバーを取り出し、装着しながら声の方を睨み付けた。

『あら怖い。そんなに睨まないで頂戴?お姉さん泣いちゃいそうだわ』

庇うように自分を抱き締める、黒い異形・・・ドーパント。

ウェットスーツのような地味目な身体のシルエットは、かなり女性的な曲線を描いている。頭部はガスマスクのような形になっており、顔面を覆う黒いバイザーには細く白い、笑っているように歪んだ眼があった。

その口元からは細いチューブが左右に出ており、その先端は背中のボンベに繫がっている。

後頭部からは長い金髪が伸び、まるで水中にいるようにふわふわと重力を無視して浮いている。

「この感じ・・・ドーパントだね」

『あら、やっぱりすぐ分かるのね。彼氏がそうだからかしら?』

「ッ!・・・フゥゥゥ・・・」

込み上げる怒りを噛み締め、メモリを取り出す。だが、そのドーパントに踏み抜かれた地雷は大爆発を起こしており、眼は充血していた。

『まぁ待って。今日は取引をしに来たのよ』

「取引?」

『そう。貴女達、レミィちゃんと一緒に居たいんでしょう?だったら、私の仲間にならない?』

「・・・は?」

ドーパントからの誘いに、三奈は唖然とする。まるで理解出来ないと言う様子の三奈に、ドーパントは続けた。

『私だって、貴女達と戦うのは面倒臭いのよ。そっちだって、戦わないに越した事は無いでしょう?それに・・・』

 

─パンッ─

 

「うっ!?」

 

─ビシャッ─

 

「なっ!?」

猫騙しに怯んだ三奈の隙を突き、髪を変化させて撃ち出すドーパント。その髪はドライバーのソウルサイドスロットに命中し、粘着質に張り付いて硬質化する。

『はい、これでもうダブルにはなれない。唯一の懸念だった、ガイアメモリ封じの危険も無くなったわね』

「クッ、だったら!」

【ジョーカー!】

「変身ッ!」

手早くロストドライバーに付け替え、ジョーカーに変身。そして、先手必勝とばかりに鋭い右ストレートを放った。

『ふぅん、無駄な事がお好きなのね』

しかし、その拳はドーパントの身体を素通りするように突き抜けてしまう。液状化しているような手応えすら無く、唯々すり抜けたのだ。

「ッ!き、効かない!?」

『ハッ!』

「うぐぅっ!?」

そしてカウンターとして、ジョーカーの腹に掌底を叩き込んだ。大きく3歩分程押し飛ばされるジョーカーだったが、されどダメージは軽微。顔を顰めはしたものの、すぐに姿勢を立て直して構える。

其処から間髪入れずに前方へ跳躍し、ドーパントの頭部に右のボレーキックを繰り出した。

『もう、学習しないわね』

その蹴りも、矢張り頭部をすり抜ける。ドーパントは危機すら感じず、最早回避どころか身動ぎ1つすらしようとしない。

『ほら、貴女の攻撃は効かないわ。大人しく仲間になった方が身の為だし、レミィちゃんも喜ぶと思うわよ?』

「ッ!巫山戯るな!」

差し出された手を振り払い、体勢を整えるジョーカー。

『頑固ねぇ。何でそんなに嫌がるの?』

「簡単だよ。お父さんやお母さん、クラスの皆、何より・・・出久にフランちゃん、そしてレミリアさんに、恥ずかしくて顔向け出来ないから。

それに・・・アンタみたいな臆病者の仲間になんて、なりたくないからだ!」

『っ・・・臆病者?』

思ってもみなかったか気に障ったか、ピクリと反応するドーパント。対するジョーカーは、ズビッと指差して続けた。

「そうさ!

レミリアさんの妹であるフランちゃんに、この提案を持ち掛けなかったのも!

ライダーシステム全般の最終決定者の出久に、直接交渉しなかったのも!

全部、アンタにとってあの2人が、怖かったからだ!」

『ッ・・・ふん、リスクマネジメントがしっかり出来ている、と言って貰えるかしら?勇気と蛮勇は違う。あの化物共の土俵に立つなんて、5発入りロシアンルーレットよりも命懸けなのは明白。そんなの嫌なのよ』

笑うように下がっていた目尻が跳ね上がり、明らかに不愉快そうな顔をするドーパント。一時の苛立ちを抑えこそしたものの、言い返した声も震えていた。

「そんなもの、考えてやるもんか!」

吐き捨てるように言い放ち、再び拳を握り締めるジョーカー。緑と紫のスパークが弾け、心臓から肩へ、肘へ、手へ、指先へと伝導し、真っ赤なラインがぼんやりと輝く。

『はぁ、何度やっても無駄無d「うりゃぁッ!」グハァ!?』

どうせ効かないと高を括りきり、油断していたドーパントの顔面に、ジョーカーのパンチがクリーンヒット。受け身も取れず殴り倒される事となる。

「おや?無駄じゃ無かったみたいだね」

『ぐっ、ば、馬鹿な・・・有り得ない・・・ッ!』

「フンッ!」

動揺していたドーパントを、大型のコンバットナイフの肉厚な刀身が襲う。間一髪で身を躱したドーパントは、自分を急襲した新手を見て益々眼を吊り上げた。

一番遭いたく無かった存在・・・仮面ライダーエターナルだ。

「フン、有り得ないなんて有り得ないんだよ。事、ガイアメモリが関わる場合は特に、な!」

大きく左前方に踏み出すエターナル。しかし途中で大きく右へ飛び、フェイントを掛けてエターナルエッジで切り裂く。

だがしかし、その一閃さえも矢張りドーパントの身体をすり抜けてしまった。

『くっ、勉強になったわ。エターナル相手じゃ分が悪いし、お暇させて貰おうかしら!』

ドーパントは髪を振り回し、周囲を攻撃。土煙の煙幕を張り、即座に逃走した。

「あっクソ、逃げられた!」

「あの見た目に、あの能力・・・ダイヴって所か」

冷静に分析しつつ、エターナルは変身を解除する。それに習い、ジョーカーもスロットを閉じてメモリを引き抜いた。

「あと、ごめん。ドライバーが・・・」

「ん・・・あぁ、これは・・・いや、大丈夫だな。問題無い」

「え?」

深刻だと思っていた問題をそうでも無さげに流され、ポカンとする三奈。

「奴のアジトに侵入する方法を見付けた。ドライバーがその状態でも、問題無いヤツをな」

ニッと、笑った出久の眼は、ギラリと鋭く輝いていた。

 

───

──

 

『あぁ全く、イライラするわねェ!』

「ひっ!?」

ビーチに戻って早々、ドーパントは近くの木を蹴り付けてへし折る。肩で息をしながらメモリを引き抜き、リリス・ナクルァーヴィの姿に戻った。

「ハァ・・・仕方無いわね。本当はもう少しゆっくりと投薬する予定だったけど、もう良いわ」

「え?な、何を・・・い、いや!やめて!乱暴しないで!」

あって無いような抵抗も虚しく、レミリアはビーチチェアに座らせられる。そしてその上にリリスが跨がり、両手首を左手で掴んで拘束した。

「な、何するのよ・・・!」

「何って、投薬よ。もう少しゆっくり馴染ませる予定だったけど、そうも言ってられなくなったの。此所には来れないだろうけど、念には念を、ね」

爪を伸ばし、レミリアの首筋に刺すリリス。そして、インジェクター構造の指の中に溜めていた薬液をレミリアの体内に流し込んだ。

「あっ・・・あっ!?がぁっ!?」

途端にレミリアの全身を襲う、激しい痺れ。それは苦痛と言うよりも寧ろ甘露であり、身をよじって逃れようとするも叶わず、ただガタガタと五体を痙攣させる事しか出来ない。

「イヤ・・・いやぁ・・・あっ、はぁっ❤」

その眼には涙が浮かびつつもねっとりとした熱が宿り、背中は弓なりに反る。空気を求めて舌を突き出した口からは、色情を孕んだ吐息が溢れた。

「ふふ、こんなに乱れちゃって・・・その薬液、元は只の麻酔だったんだけどね?ドーパントになってからは、こんなに凄い物を創れるようになったのよ。

相手を洗脳したり、気持ちよくさせちゃったり・・・ね❤」

(そうか・・・あの気怠さは、それで・・・)

「たす、け・・・て・・・い、ず・・・く・・・」

白くぼやけ、スパークに塗り潰され掛けた思考の中で、辛うじてその事実を認識しながら、レミリアは意識を手放した。

 

─────

────

───

──

 

「~♪」

「・・・ぁ・・・」

どれ程経っただろうか。上機嫌なリリスの鼻歌で、レミリアは眼を覚ます。

と言っても、意識はぼんやりとしており、身体も鉛のように重い。

「あ、もう起きた。やっぱり吸血鬼ってタフね」

小振りなバッグを抱えて、リリスがレミリアに歩み寄る。そして、バッグの中からあるものを取り出した。

「ガイア・・・メモリ・・・」

それは、数本のドーパントメモリ。そして、銃のような形の機械・・・生体コネクタ手術銃。

「このメモリはねぇ、今まで此所に招待して来た子達のお下がりなのよねぇ♪」

「おさ・・・がり?・・・ま、まさか・・・!?」

じっくりとその言葉を咀嚼し、ぼやけていても優秀な頭脳が、ある可能性に行き着いた。

「元の、持ち主、は・・・」

「ん?あぁ、殺しちゃったわ

「ッ・・・!」

そして、その予想は的中してしまった。

ドーパントメモリの使用者が、自分からメモリを手放す事はまず無い。ましてや、メモリブレイクされていない状態ならば尚更だ。

ならば何故手放したのか・・・簡単な事だ。彼女達が手放す事になったのはメモリでは無く、己の命だったのだ。

「まぁ、厳密にはメモリの毒素で死んじゃったんだけど・・・私の薬液で体質をブーストしてたから、実質私が殺しちゃったみたいなモノね」

「ブースト・・・個性増強薬物(トリガー)・・・?」

「えぇ、そのガイアメモリバージョンをね。気付いてなかったみたいだけど、このビーチの水も、私が生成したドーパント用の体質強化液を少し希釈した物なのよ」

(じゃあ・・・私に、打ったのも・・・?)

「あ、さっきレミィちゃんに打ったのも、その薬液よ。尤も、原液所か10倍濃縮したヤツだけどね?」

サラリととんでもない事を言うリリス。そんな物を投与すれば、並の人間ならば間違い無く即死するだろう。

持って生まれた頑丈さに加え、幸か不幸か、ドライバー越しとは言え高次適合者としてメモリを使用し続け、肉体が人間よりも()()()()に近付いていたから耐えられたのだ。

「さぁて、どれにしようかしら・・・ヴァンパイアかバットがあれば良かったんだけど、生憎無いのよねぇ・・・

セイレーンに、スコーピオン、スキュラに、ラミア・・・あぁでも、やっぱりこれかしらね」

【サキュバス!】

「フフフ・・・このメモリは凄いわよ♪」

 

─カシャッ ガチャッ─

 

上機嫌に鼻歌を歌いながら、手術銃にメモリを装填するリリス。そしてだらりと弛緩したレミリアの肌に触れ、つつっと指を滑らせた。

「くっ・・・!」

「じゃあ、手術を済ませましょうか。何所にしようかしらねぇ・・・」

「んっ・・・ひゃうっ・・・」

厭らしい手つきで撫で回され、溢れそうになる嬌声を堪えようとするレミリア。しかしそれも叶わず、真面な抵抗すら出来ないまま、されるがままである。

「ウフフ、どうせなら、とびっきりセクシーな所に付けちゃいましょう❤」

そう言って手術銃を宛がったのは、下腹部。女性を女性たらしめる器官の、丁度真上だ。

「っ!」

「あら?」

しかし、引き金が引かれる前に、レミリアの手が手術銃を掴んだ。力と言える力が全く入っていないが、それでも抵抗の意思を示すには十分である。尤も、今のレミリアにとってはそれすら途轍もない重労働なのだが。

「いやよ・・・そんなの・・・出久に・・・見損なわれちゃう」

「ッ!」

 

─ガシャンッ─

 

「ぅあっ!?」

ビーチチェアを蹴り倒し、レミリアを蹴落とすリリス。そしてアイアンクローで頭を掴み上げ、ギロリと睨み付けた。

「うっ・・・あぁっ・・・!」

「まだそんなに元気があるなんて。ちょっと吸血鬼を嘗めてたわ。もう少し投薬して、さっさとお人形にしちゃいましょう」

ジャキッと爪を伸ばし、見せ付けるようにジリジリと首筋に近付ける。

最早抵抗出来ないレミリアは、涙が滲む眼をギュッと閉じた。

 

「全く、とんでもない奴だな」

 

「ッ!?」

突如響いた、男の声。リリスが振り向くと、ここに居る筈の無い、入って来られる筈の無い男・・・緑谷出久の姿があった。

 

(出久サイド)

 

「い、いず・・・く・・・」

「ごめん、レミリア。遅くなった」

「ば、馬鹿な!?どうして此所が!?」

困惑するリリス・ナクルァーヴィ。レミリアから手を離し、此方に向き直る。

「私みたいな能力が無いと、絶対に入れない筈・・・」

「善良なファンクラブ会員のお陰さ、リリス・ナクルァーヴィ」

あの後、俺は地下鉄で発生している電気系統の異常から、その中心点を絞り込んだ。そして、レミリアからのメール・・・密閉された地下空間ならば、電波は届かないだろう。だが、此所の設備はかなり電気を喰う。それを取り込む電線の僅かな隙間から、電波が漏れたのだ。

そしてその電源と言うのが、件の地下鉄の電気系統の異常。どうやら電源系に細工を仕込んで、電気を盗んでいたらしい。ご丁寧に複数箇所に分散接続して、少しずつ掠め取っていたようだ。

「お前が電気を盗んでいた地下鉄の従業員に、俺のファンがいてな。異常箇所が複数に分散していたが、逆に中心点を見付けやすかったよ。そして・・・ここに入れたのは、お前のお陰さ。ありがとよ、出入り口を残しといてくれて」

そう言って、俺はレミリアのスタッグフォンを取り出してみせる。まるで訳が分からないと言いたげなリリスを揺さ振る為に、丁寧に説明してやろう。

「お前は絶望を煽る演出として、敢えてスタッグフォンを破壊せず、使用不能程度に留めたんだろう?だが、それがお前の墓穴になった。

あれだけ大々的に発表したんだから、俺がどんな存在かは知っているだろう?」

「ッ!メモリー、ドーパント!」

「正解。ま、正確には元、メモリードーパントだがな」

そして、かなり重要な情報も引き出せた。

俺のドーパントメモリを知っているのは、三奈にフランにオールマイト、シンフォギア世界のS.O.N.G.・・・そして、財団Xとそれに連なる奴等だけだ。

ならばコイツは、恐らく財団Xと連んでいたであろう、パヴァリアの奴等のお得意様と言う訳だ。

「しかし、自分の身体をデータに分解する能力は依然健在だ。だからこのスタッグフォンに自分を送信し、ここで出力した」

(ホント、出久って凄いよね)

ドライバーを通じて、三奈の声が聞こえてくる。

今、三奈が居るのは紅魔館の図書館。そこでダウルビッカーにエクストリームメモリを直結し、アップグレードアダプターを装着したアクセルメモリのマキシマムで出力を底上げ。そしてダウルセイバーのマキシマムスロットにスタッグ疑似メモリを装填し、このレミリアのスタッグフォンに転送して来たのだ。

「ッ・・・けど、そのメモリじゃエクストリームにはなれないでしょ?それに、この上の街もエターナルレクイエムの範囲内。ダブルの単一敵に対するレクイエムも、相方が居なきゃ成立しない」

そう言って、俺のドライバーを指差すリリス。

確かに、今の俺はエクストリームも、レクイエムも使えない。更に情報量を減らす為、最低限のメモリ以外は持って来ていない。NEVERの皆とも分離して来た。

俺の手元にあるのは、ドライバーに刺さっているのも含めて2本だけだ。しかし・・・

「所が、あるんだなぁ。お前への一手が。行くぜ、三奈」

(オッケー!)

一言思念を飛ばすと、三奈の声と共にジョーカーメモリが転送されて来る。それをスロットに押し込み、バックルを展開した。

「『変身ッ!」』

 

ファング!ジョーカー!

 

「『ウオォォォォォッ!!!」』

雄叫びが響き、身体が生体装甲に包まれる。

牙と切り札の記憶が風を巻き上げ、鋭利なガイアアーマーが逆立った。

仮面ライダーダブル・ファングジョーカー。普段のダブルよりもより尖った攻撃的なそれは、原点とは違い、頭部のアンテナの両端がエターナルジョーカー同様、上に折れ上がっている。矢張り、俺の要素が強いらしい。

「新しいダブル!?チッ、面倒ね!」

【ダイヴ!】

悪態を吐きながら、ダイヴドーパントに変身するリリス。そして身体の全面がジッパーのようにガバリと開き、レミリアを取り込もうとする。

「させねぇよ!」

 

─ガシャッガシャッ ギャーオッ!─

 

【ショルダーファング!】

右肩に生成したショルダーセイバーを切り離し、レミリアを掴む腕目掛けて投擲する。ショルダーセイバーは意思を持ったように軌道を変え、その腕を切り裂かんと迫った。

『チィッ!邪魔ね!』

しかし、ショルダーセイバーはその腕を素通りして戻って来る。だが、既に俺達は掛け出しており、レミリアの手を掴んでいる。ショルダーセイバーは左手でキャッチだ。

「あ・・・出久・・・」

「お待たせ、レミリア・・・ごめんな。こんなになるまで、助けに来られなくて」

パールホワイトの右手で、赤く腫れたレミリアの頬を撫でる。その手に愛おしげに触れながら、レミリアは首を振った。

「ううん、大丈夫。絶対に来てくれるって、信じたから・・・平気よ」

「『ッ・・・」』

明らかな強がりだ。小さく震えているし、何より顔色も悪い。

しかしそれでも、俺達はレミリアの希望になれていたようだ。

『あぁもうむかつくわね!その手を離しなさい!』

『誘拐犯が言う事じゃ無いよ!』

「逆にお前の魔の手から、レミリアを救ってやる。動くなよ、レミリア」

「お願い・・・ね・・・」

緊張の糸が切れたのか、レミリアは気絶してしまった。彼女を地面に寝かせて、ショルダーセイバーを右手に持ち替える。そして唯一持って来たメモリを取り出した。

【アメノハバキリ!】

【アメノハバキリ!マキシマムドライブ!】

アメノハバキリのシンフォニックメモリをマキシマムスロットに叩き込み、ボタンを叩く。ショルダーセイバーは青いオーラを纏って直線的に伸び、その鋭さを一層増した。

「『ファング!ソゥザシャドウ!」』

そのショルダーセイバーを再び投擲。すると今度はセイバーから数本の小太刀が分身のように出現し、ダイヴドーパントの身体に突き刺さる。

『うがぁッ!?そ、そんなッ!?くっ、惜しいけど此所は撤退・・・ぐあァッ!?』

膝を着いて地面に潜ろうとするダイヴだったが、小太刀から発生したエネルギーによって能力を妨害される。どうやら、思った通りだったようだな。

『何で!?どうして潜れないの!?』

「シンフォニックメモリで無効化出来るって事は、矢張り位相操作による並列次元への潜航能力だったらしいな」

『通形先輩と同じ感じって事だね』

「あぁ。そしてシンフォギアはフォニックゲインによって位相差障壁を破壊し、対象をこの次元に調律する」

気掛かりなのは、三奈のワンフォーオールでも同じ事が出来た事だが・・・まぁ、後で考えるとしよう。

『くっ、抜けない・・・!』

『何にせよ、ヌルヌル逃げ回られはしなくなったって事だよね』

「あぁ。隠れんぼは俺達の勝ちだ」

『チッ・・・でも、貴方を殺せば済む話だわ!』

ダイヴは指の爪を伸ばし、鋭く踏み込んで斬り掛かって来る。だが、俺達の動体視力に掛かれば、そんな物は欠伸が出るような鈍さだ。

『ハッ!』

「チィアッ!」

左手のアンクレットで伸びてくるダイヴの手を弾き、そのまま上体を左に落として右脚でセパタクローキックを叩き込む。更に其処から体軸を捻り、右脚を奴の肩に乗せたまま左の踵落としを頭に振り下ろした。

『ウガッ!?』

『まだまだッ!』

「どんどん行くぜッ!」

その反動でバク転し、両手脚を地面に着けた状態から飛び掛かって右手の爪で斬り掛かる。

「ウラッ!シャァッ!シレェッ!!」

『あぐぁッ!?』

火花を散らした爪を振り下ろして地面に付き、流れるように左脚を振り上げて前転しながら足裏で蹴り付けた。

まだまだ止まらない。蹴りの勢いを損なわず右脚を振り下ろして前転し、再び右手の鉤爪を斬り付ける。更に右肘で追撃し、そのまま右腕を抱え込むように回転を加速して左脚でテコンドーのような飛び後ろ回し蹴りを見舞った。

『ぐぅぅぅ・・・』

『タフな奴だね!』

うんざりしたような声色の三奈。実際、次元潜航は負荷が強い。それに耐えられる、優秀な耐久力を持っているのだろう。現に、攻撃した手脚から伝わる感触は柔軟ながら非常に頑丈。

だが、逆に攻撃力に於いてはあまり突出した物は無さそうだ。

「チェイッ!」『ハァッ!』

「ウォラッ!」『でぇいッ!』

「ッショウッラァ!

ガアァァァァァァッ!!」

左右のコンビネーションでいっきに畳み掛け、猛る闘争本能に任せて咆哮を上げる。もう止まりはしないな!

「よし、此所から一気に─────

 

─バヂッ!バヂヂヂヂッヂヂヂヂッ!─

 

─────うがァァァァッ!?」

『うアァァァッ!?』

突如全身を貫いた激痛と、弾けるスパーク。

その源は、ソウルサイドスロットに装填しているファングメモリだった。出力が急激に跳ね上がり、オーバーロードを起こしている。

「な、何だッ!?ファングの出力が・・・!?」

『何だか分からないけど、チャンスね!でいッ!』

「『ぐあっ!?」』

動きの止まった隙を突かれ、さっきとは一転して蹴り飛ばされる。

何だ、このファングの以上な出力の上昇は・・・(ファング)

「ッ!そうか、過剰適合か・・・!」

今の俺は吸血鬼。牙はその代名詞であり、本質的に無くてはならない物。故に、適合率が跳ね上がったのか・・・

単体の仮面ライダーファングならばまだ良かったが、ダブルで適合率のバランスが崩れるのは拙い・・・三奈は過剰適合に至っていないし、ETER・アズールブレイズによるジョーカーサイドへのブーストも出来ない。

『ホラホラどうしたの?さっきまでの威勢は、どこへ行ったのかしらッ!』

『うぐっ・・・』「がはっ・・・」

殴られ蹴られ、防戦一方。俺の身体も大概タフだが、流石にこのままじゃ・・・

(出久ゥッ!)

「ッ!あ、アニキ!?」

これは、フランのリミピッドチャンネル!?中継してたのか!

(俺のメモリを使えッ!俺の根性で、お前らを支えてやるぜッ!)

「そ、そうか!それなら・・・三奈!もうちっと頑張れるか?」

『モチのロン!まだまだ平気だよ!』

「ヨシ!」

ファングメモリの外装を起こし、バックルを閉じる。そしてジョーカーメモリを引き抜くと、脳内に思念が飛んで来た。

(ヨッシャァ!行くぜェ!!)

同時に、ボディサイドのスロットにメタルが転送されて来る。それを押し込み、再びバックルを展開。闘士の記憶が身体を駆け巡り、全身に力が漲るのが分かった。

 

ファング!メタル!

 

「『『ハァァァァァァッッッ!!!』」』

 

金属質の鋭い牙のようなエフェクトが飛び交い、刃の嵐が俺達を包む。

左半身が鋼鉄のようなガイアアーマーに覆われ、背中に専用武器であるメタルシャフトが生成。指の先端が鋭く尖り、文字通りのアイアンクローになった。

仮面ライダーダブル・ファングメタル、爆誕。

メタルメモリの適合率をアニキがカバーし、俺のファングに追い付いた。

『次から次へと、鬱陶しいのよ!』

癇癪を起こしたダイヴは、髪の毛を逆立て針のように固め、弾丸のように射出してくる。しかし、この程度なら・・・

 

─カンッ キンッ バキンッ─

 

左手で2発、メタルシャフトで1発、余裕で払い落とせる。

『だったらッ!』

単発で駄目ならばと、今度はショットガンのように面で撃ってきた。だが、俺達に焦りは無い。

メタルシャフトのマウント用生体磁石コネクタを掌にくっ付け、高速回転させる事で難無く防いだ。

『バカね!それは撒き餌よ!』

奴の眼がニヤリと歪み、右手の指から針が射出される。その狙いの先には・・・未だに気絶して動けないレミリアが居た。

『ヤバい!』

「だったら!」

思考を加速して弾道を見極め、両端を伸ばしリーチを増したメタルシャフトで野球のように打つ。針は容易く砕け、シャフトの先端が中に詰まっていた薬液であろう液体で濡らされた。

『ギィィ・・・何で!何で思い通りに行かないのよッ!私はただ、今まで無駄にした時間の分まで、自由に生きたいだけなのに!』

『だから病院を抜け出して、自分も被害者に成り済ましたって訳?』

『そうよ!自分の個性で作った麻酔で、何とか明日の命を買うッ!そんな命懸けのその日暮らしは、もうウンザリなのよッ!!』

頭を掻き毟り、絶叫するように語るダイヴ。

そう、この女は、誘拐の2番目の被害者と扱われていたのだ。

生まれついての病弱体質に、両親の事故死。そして、畳み掛けるように牙を剝いた大病。延命治療に掛かる金は、病院に自分の生成した小量の劇薬を売り渡して稼ぐ。

こんな生活、捻じ曲がらぬ方が無理と言うモノだ。

そして地球の本棚で調べると、誘拐被害が発生する1ヶ月程前、急激に容態が回復していた。恐らくメモリを手に入れ、その副作用に依るモノだろう。

「だからメモリに溺れたか」

『フフ、違うわ!私はこのメモリで、新しく蘇ったのよッ!!

生殺与奪の悉くを他人に支配され、生きる事も出来ず唯々死んでないだけの日々強いられた、弱くてちっぽけな私はもう居ないのッ!私の好きに生きるのよ!』

「そうか・・・」

確かに、気持ちは分かる。

周りの人間が当たり前に出来る事が、自分には出来ない。夢を見る事さえ許されず、幼い希望すら摘み取られる。

その絶望と、そしてそれでも諦めきれぬ希望への熱狂的なまでの渇望は、幼少期の俺が抱えていた物と同じだ。

だが、しかし・・・

「だからと言って、他人の人生を奪って良い訳じゃあ無い!」

『よく言ったぜ出久!こんな奴、とっととやっつけちまえ!』

「あぁ!」

 

─ガシャガシャッ ギャーオッ!─

【ショルダーファング!】

 

アニキの叫びに応え、タクティカルホーンを2回弾く。ガイアウィスパーが響き、右肩からファングジョーカー時の3倍は大きなショルダーセイバーが生成された。

「更に、もういっちょ!」

 

─ガシャガシャッ ギャーオッ!─

【ショルダーファング!】

 

「『ハァァァァァァッッッ!!」』

再びタクティカルホーンを弾くと共に、気合いの雄叫びを上げる。するとどうだろう。何と左肩からも巨大なショルダーセイバーが出現したではないか。しかもメタルの性質を反映し、まるで日本刀のような鋭い金属質の光沢がある。

「『ウッラァ!」』

 

─バキィンッ─

 

両肩のセイバーを、勢い良く引っこ抜く。そして先端側を握って二刀流のように構え、姿勢を大きく落とした。

『あぁもうッ!何で好きにさせてくれないのよ!イライラが止まらないのよォォッ!!』

激昂して爪を展開し、飛び掛かって来るダイヴ。しかしそのガラ空きの胴を目掛けて、鋭くステップを踏んで前に出る。

「『ッシャラァッ!」』

 

─シャキンッ!─

 

『うがぁッ!?』

その勢いに乗って、両腕を挟むように振るい斬り付けた。そして直ぐさまバックステップし、同時にΧ字に切り払う。

『こんなモンじゃ無いぜ!』

 

─ヒョウッカチンッ ギャギリンッ─

 

今度はセイバーの根元側に持ち替え、生体磁石コネクタで2本のブレードを重ね合わせるように合体。其処から腕を大きく回し、遠心力を上乗せして肉厚の曲刀として横凪に振るった。

『ぐあぁぁぁ!?』

吹き飛ばされたダイヴは小屋に激突し、瓦礫と砂塵を舞い上げる。その奥には、フラつきながらもまだ立ち上がるダイヴの姿が見えた。

『いい加減に、決めようか!』

「あぁ、賛成だ!」

『ブチかませ出久ゥ!』

 

─ガシャンッガキンッ─

 

背中のメタルシャフトの先端に、ショルダーセイバーを装着。伸びたシャフトを左手で掴み、身体の前に持って来る。

それは、正しく死神の大鎌(デスサイズ)。それを左肩に担ぐように構え、タクティカルホーンに右手を伸ばした。

 

─ガシャガシャガシャッ ギャーオッ!─

【ファング!マキシマムドライブ!】

 

「『ハァッ!!」』

大鎌の刃に青いエネルギーを纏わせ、得物の間合いへと踏み込む。そして横一文字に振るう、必殺の一閃!

 

「『葬送!鋼牙大鎌斬(ファングデスサイザー)!!」』

 

『キャァァァァァァ!!!?』

断末魔の絶叫を上げて、ダイヴは爆散。炎が舞う。

『よっしゃ!やったな出久!』

『後は取り敢えず、レミリアさんを連れ出すだけだね!』

「・・・いや、待て!おかしいぞ!」

爆散したダイヴの方を振り返ると、其処には何も無かった。リリス・ナクルァーヴィも、砕けている筈のダイヴのドーパントメモリも。

「まさか・・・クソッ!逃げられたかッ!!」

『何だと!?』『嘘でしょ!?』

手応えはしっかりあった・・・アメノハバキリによるアンカーも健在だった・・・考えられるのとすれば、協力者か?

「・・・悔しいが、ウダウダ悩んでもどうにもならん。此所から脱出しよう。

三奈。変身を解除して、フランと一緒に迎えに来てくれ。フランなら、魂が繫がってるから場所は分かるだろう?」

(勿論!任せて!)

「メモリは好きに使って良いからな」

『了解。じゃあ後でね!』

「あぁ、待ってる」

バックルを閉じてメモリを引き抜き、変身解除。レミリアに歩み寄る。

「うぅ・・・あぁ・・・」

「・・・もう、大丈夫だ」

魘されるレミリアの頬を跪いて撫で、頭を支えながら抱き起こす。そしてその場に胡座をかき、椅子のように座らせて俺の胸に凭れさせる。すると、幾分か寝息が落ち着いてきた。

「・・・!」

右手にサワリとした感触。見れば、レミリアが俺の手を握っていた。

「冷たいな・・・」

冷えたその手をそっと握り返して、俺はフランの救出を待つ。若干疼く牙を自覚し、その衝動を堪えながら。

 

(NOサイド)

 

「只今戻りましたわ~♪」

「おー、お帰りー」

拠点に戻った青娥に、ヴォジャノーイが返す。相変わらずセルメダルを喰っており、ソファでグデリと寝そべって手をピラピラと振った。

「その女は何だ?」

「私の愛人ですわ」

腕を組んだバーバヤガーの質問に即答し、青娥は横抱きに抱えていたリリスを椅子に座らせる。

「この子、かなり有用な能力に目覚めていましたの。でも仮面ライダーに潰されそうになってて・・・可哀想だから掠め取ってやりましたわ♪」

「良い判断ですね、それは」

「「ッ!!」」

何処からとも無く、ヌルリと現れて会話に加わるアダム。ヤガーとヴォジャノーイはまだ慣れないらしく、ビクリと身体を震わせた。

「ボス、成果はどうですか?」

「えぇ。順調ですよ、とても。既に目処が立ちましたよ、量産のね」

「それは素敵ですわね!」

楽しげに笑う青娥だが、その笑顔には黒い影が宿っている。

「あぁ、実に楽しみですわ・・・♪」

 

to be continued・・・




~キャラクター紹介~

緑谷出久
元データ人間・現吸血鬼な化物主人公。
風都探偵と全く同じようにビーチに侵入し、レミリアを確保。
リリスの自由への渇望は理解したものの、それとこれとは別問題と切り離して容赦無く倒したが、犯人であるリリスには逃げられた。
吸血鬼化によってファングまでもが過剰適合状態になっており、現状ファングジョーカーでの運用はほぼ不可能なので派生形でカバーすると言う、原作仮面ライダーW及び風都探偵とは真逆のプロセスでファングメタルに至った。

芦戸三奈
出久の正妻。
ワンフォーオールの可能性を見せた。
気合いで出力が上がるジョーカーでも、流石にまだ過剰適合に追い付くレベルまでは行けていない。
ファングジョーカーでの荒々しくアグレッシブなバトルアクションは、ダンスで動体視力を鍛えていた三奈だからこそ着いて行けた。
戦闘が終わったら、フランと一緒に現場に急行する。

フランドール・スカーレット
出久の第二夫人。
出久の戦況をリアルタイムで把握し、更に剛三の声を出久に届けると言う活躍を果たしたので、地味に今回のMVPだったりする。
この後出久達を救出しに行く。

堂本剛三
今回のキーパーソン、鋼鉄のアニキ。
過剰適合者でありハイドープ、且つデータ人間となっている自信の特性を最大限に利用し、自分の精神ごとダブルドライバーでメタルメモリを転送。そのまま変身させる事により、自身の適合率をダブルのボディサイドに反映させる事でファングとのバランスを取った。

リリス・ナクルァーヴィ
ダイヴドーパント。自己中女。
幼少期の両親との死別と自身の病弱体質、そして不治の大病によって健常者を羨むようになり、その心の闇を青娥に見出された。同性愛と、描写しきれなかったが美女の絵を描いて小屋の中に蓄えると言う趣味も、心身ともに不自由無く生きられる健常者への渇望が表面化したものである。そんな普通になりたかった彼女のドーパントとしての能力が、他者とズレて干渉を拒む事とは、何とも皮肉なものである。
人格的には稚拙で未発達な所があるものの知能は高く、自身の能力をハッキリと確認しつつ隠れ家を用意してから誘拐を開始し、更に最も疑われ難いであろう2番目の被害者として雲隠れしていた。
尚、ガイアメモリの副作用で病気は完治している。

霍青娥
今回の黒幕。
歪んだ羨望、他者への憎悪・・・そう言ったドーパントメモリに適合しそうな感情が集まる病院と言う環境を物色していた所、リリスと出会う。彼女にドーパントメモリを渡し、ハイドープにまで育て上げた(半ば放任主義ではあるが)。
リリスが言っていた『彼女』とは青娥の事であり、唯一ビーチへのフリーアクセスが可能。

~フォーム&技紹介~

・ファングジョーカー
今回のチョイ役フォーム。
両手両足の肉弾戦に、アームセイバー、ショルダーセイバーを織り交ぜた荒々しくも豊富な戦術を展開する。
しかし、出久がファングに過剰適合していたせいでバランスが崩壊してしまった。

・ファングメタル
俊敏性と頑強性、そしてポールウェポンによるリーチを兼ね備えたファング系派生フォーム。
両肩のショルダーセイバーがかなり巨大化しており、モードを組み替えて複数の武器として振るう。両肩に装着した状態のサイズ感イメージは、オーズ・タマシーコンボ。武器のモーションはbloodborneの幾つかの武器。

・ファング・ソゥザシャドウ
意味は影縫い。アメノハバキリのエネルギーをセイバーに纏わせ、投擲する事で刃を分身。そのまま敵に突き刺す事で、位相差障壁の発生を阻害、封印する。

鋼牙大鎌斬(こうがだいれんざん)(ファングデスサイザー)
ファングメタルの必殺技。連結したショルダーセイバーをメタルシャフトに接続して、そのデスサイズの刃にマキシマムのエネルギーを纏わせ一閃し、対象を空間ごと両断する。


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第46話・Fの吸血姫/滲色血界

「出番の無さに泣く男!デッドプール!」
『次回辺り出してやる予定してるから』
「透明な二枚舌じゃねぇだろうな?もしそうならお前の見えてる舌を引っこ抜いてやる」
『分かってるよ・・・』


「レミリア・・・」

回収したサガークを撫でながら、出久は病室のベッドに寝ているレミリアを見詰める。

ダイヴを撃破した後、フラン達が救出してくれたのだが、それからレミリアの意識は戻っていない。

三奈とフランは、それぞれ警察と紅魔館に報告しに行っている。出久は自分が行くと言ったのだが、フランに止められた。

『Rぇ美lいaぁ~・・・』

「お前も心配か、サガーク」

キュルキュルとディスクを回転させ、暗いトーンの声を発するサガーク。このガジェットには、犬や猫程度の人工知能が搭載されている。簡単な喜怒哀楽はあるのだ。

「ん・・・」

「!」

小さく唸り、身動ぐレミリア。出久は思わず、ベッドの手摺を掴んだ。

「ぃ・・・いや・・・っ!」

「レミリア!」

「ぇ・・・いず、く・・・?」

悪夢でも見たのか、紅い眼を潤ませながら譫言のように呟くレミリア。夢か現か、未だ分かっていないようだ。

「起きたか。もう大丈夫だ。アイツは居ない」

「あ・・・あぁ・・・」

「おっと」

小さく安堵の溜息を漏らして、レミリアは出久に寄りかかり、抱き締める。

しかし、今尚その身体は小さく震えている。出久もまたその肩を抱いて、優しく頭を撫で始めた。

「うっ・・・くっ、うぅっ・・・」

「レミリア!?ナースコール・・・っ!」

苦しげに呻き出すレミリアに驚き、ナースコールを押そうとする。しかし、その手は他ならぬレミリアに止められた。

その頬は茹だったように紅く染まり、瞳には情慾にも似た火が燃えている。

「出久・・・咬んで・・・咬ん、でぇ・・・!」

「・・・はッ!?」

赤熱したレミリアからの予想外の要求に、さしもの出久も驚いた。

「な、何でそんな・・・」

「分かるのよッ!出久が、前と違うこと!」

「ッ!」

見開かれる出久の眼。その異能を司る左の瞳が、真紅の輝きを僅かに増す。

「お願い、出久・・・もう、おかしくなりそうなの・・・アイツの支配が、まだ、気持ち悪いのっ・・・!

だから、出久・・・貴方が、助けて・・・貴方で、染めて、塗り潰してっ!お願いだからっ・・・アイツを、私の中から・・・消し去って・・・!」

レミリアの心には、リリスに刻み込まれた呪縛が残っている。それは今尚彼女にリリスへの服従を囁き続け、その精神を磨り減らしていた。

「・・・仕方無いな。お叱りは、後で受けよう」

覚悟を決めてレミリアの肩を掴み、出久は大きく顎門を開く。その意思に呼応して、鋭く尖った犬歯がメリメリと伸びた。

「ハァ・・・ッ!」

「っ~!?❤」

細い首筋に突き立てられた牙は、注射器のようにレミリアから真っ赤な蜜を吸い上げる。口の中に溢れてくるそれを嚥下し、掴んでいたレミリアの肩を抱き締めた。

出久の腕に抱かれ、レミリアは脳髄を快感の雷に打たれる。快楽の電流は脊髄から末端までを駆け巡り、その指に出久のジャケットを掴ませた。

「あっ❤あ゛ぁ~っ!!❤」

だらしなく開け放たれた口から、安堵の混じった悦びが溢れる。この瞬間、レミリアの魂は、出久の枷に縛られた。

「ハァ・・・レミリア、俺の血を吸え。早く」

「あ、あぁ・・・」

吸血を終えた出久は自分の服をはだけ、首筋を差し出す。酩酊にも似た陶酔に浸るレミリアは、その誘惑を受け容れて牙を突き立てた。

「ぐっ・・・ぅああっ・・・!」

「んっ・・・ぅんっ、んくっ・・・!」

先程とは反対に、レミリアは出久の血を啜り、出久は甘い痺れを受ける。レミリアを縛っていた出久の魂は、同じ力でレミリアから縛られる事となる。

「あぁ・・・はぁッ!あぁっ!!」

「レミリア!?」

血を飲み下したレミリアの身体から、ビキビキと異音が発せられた。

その音源は首筋から頬まで上り、そこにはステンドグラスのような極彩色の刺々しい模様が浮かぶ。

「これは、ファンガイアの!・・・そうか!ずっとサガを使ってたから・・・と言う事は、これはハイドープとしての体質か?」

予想と考察を展開する出久を余所に、レミリアの変異は遂に眼にまで及ぶ。その両の瞳は朱と蒼に彩られ、瞳孔から放射状に花弁のような模様が広がった。

「レミリア・・・大丈夫か?」

「・・・えぇ、出久・・・寧ろ、とっても良い気分。貴方のお陰よ、有難う」

錯乱気味だった先程とはうって変わって、おっとりとした口調に微笑みを添えるレミリア。ステンドグラス模様はパリパリと軽い音を起てて消えてゆき、今までと変わらぬ姿に戻る。

しかし出久は、レミリアの何か決定的な部分が変化した事を気配で悟っていた。

「・・・元気になったなら何より。だが今夜は、病院で確り休め。

・・・良い酒、持って来たんだ。家で飲もう」

楽しみにしてろよ、と小さく笑う。そんな出久に、レミリアもクスクスと囀るように笑った。

「そうね。その時は、私の新しい歌を聴いて貰いましょう。貴方を想って、作った歌よ。レコードも更新しなきゃ・・・

それと・・・乙女の心身を、こんなに染め上げちゃったんだもの。私の事も、受け容れて頂戴ね?私、フランの為に、今までずっと我慢してたんだから」

「え・・・」

空気を読んで静かにしていたサガークを呼び寄せて撫でながら、表情だけの笑みを出久に向けるレミリア。しかしその虹色の瞳孔は爛々と妖しく輝いており、纏う空気は獲物を逃がすまいと締め上げるニシキヘビのそれである。

「好きよ、出久。多分、誰よりも昔から・・・」

「・・・分かった。応えよう」

「そう、嬉しいわ。重ね重ね有難う、旦那様?」

「あー・・・えっと、何時もの出久呼びで頼む・・・」

「じゃあ、私の事はレミィって呼んでね?」

完全にペースに飲まれ、タジタジになる出久。この男、自分を愛してくれる女にはかなり弱いようだ。

そんな彼の血が零れた唇に、レミリアはキスをした。

交わされた唇をすり抜けた舌は出久のそれと絡まり、お互いの匂い立つ血の残り香を混ぜ合わせる。

「あぁ・・・早く、こうすれば良かったわ・・・」

 

(出久サイド)

 

「えー、と言う事で・・・嫁さんが増えました」

「宜しくね?先輩方♪」

「・・・」

「あぁ~・・・」

翌日。昼前に退院したレミィを迎えに行き、其所から三奈とフランに正座で事情を説明した。

三奈は呆れを通り越して真顔になっており、フランは何処か納得したような表情。大方、レミィの感情には気付いていたと言う所だろうか。

「まぁ、数年恋情燻らせてた相手に監禁状態から救出されればこうなるよね」

「・・・今更、とやかく言う積もりは無いけどさぁ」

呆れて笑ってくれるフランはまだ良いが、氷のように冷たい眼をした三奈が怖い。いやまぁ俺が悪いんだけども・・・

「じゃあ問題は無いわね。これからはもう我慢は止めるから」

俺の頸元にスルリと手を回し、胸を頭に押し付けるように抱き締めてくるレミィ。

何だろうなぁ。恋情や愛情と同時に、捕食者が自分の仕留めた獲物に対して向けるようなタイプの執着が伝わってくる。

「ヴァンパイアは魂が重要だからね。愛も重くなりやすいらしいよ?」

「サガの寵愛は超(ヘヴィ)ってか」

「上手い事言っとる場合かい」

ハハハ、ギャグでも言っとらんと冷静になれんわ。

「出久君。お嬢様の事、お願いね。この人、妹様の手前遠慮して、その癖諦めきれずに夜な夜な貴方を想ってベッドの中で・・・」

「咲夜?幾ら貴女でも赦せる事と赦せない事があるわよ?」

何か咲夜が口止めされた。取り敢えず、この冷ややかな殺気の中で、あの涼しい顔を崩さずにいられるのは凄いと思う。

にしても、大分拗らせてたみたいだな。

「まぁ、戯れはこの辺りにしておきましょうか。新曲もある事だし」

雰囲気が一変、楽しげな声色でそう言い、レミィはカーテンを閉めていく。そしてキーボードとヴァイオリンを取り出し、弓を構えた。

「あれ、キーボードは?」

「心配ご無用よ」

 

─バキバキバキッ バリンッ─

 

アームカバーを外したレミリアの腕が、ステンドグラス模様に染まる。そして素早くスナップさせれば、その体組織が破片となって剥がれ堕ち、地面に積み上がった。

その破片は意思を持ったように浮き上がり、レミィそっくりのシルエットとなる。

「これって、ファンガイアの武器生成じゃん!」

「出来るようになったみたい。感覚で分かったわ」

自分のコスチュームに組み込む程キバを観ているフランは、当然に気が付いたようだ。

極彩色のシルエットはキーボードに就き、鍵盤の上に手を添えた。

「では、試演会と行きましょう。

 

《滲色血界、月狂の獄》」

 

───

──

 

その歌は、熱かった。

熱く、甘く、偏執的で、熱狂的だった。それは正しく、狂愛だった。

「「・・・」」

「・・・良い」

三奈とフランが何とも言えない表情で固まる中、俺は静かに拍手した。こう言う狂気的な愛がテーマの曲は、俺は好きだ。

何より、若干残っている理性と言うか感性と狂気の葛藤のような物もあり、正しく心の叫びと言う印象だ。今までメインとして来た原曲、亡き王女のためのセプテットを裏メロディに添えて、分身とのデュエット形式にしたのも斬新だった。

「即興でも、お気に召す出来だったみたいね。有難う」

「あぁ、流石はレミィだな」

レミィの演奏技術には、著しい向上が診られる。恐らく、ファンガイアの音楽センスだろう。

「でも、慣れない事をして疲れたわ。咲夜、夜まで寝るわね。

出久。お土産は、亥の刻にね」

「亥の刻、ね・・・了解。お休み」

「えぇ、お休みなさ・・・ふぁ~、ぁふ・・・」

小さく欠伸をしながら、レミィは去って行った。少し三半規管が不安定になっていたようだし、あの様子は本当に暫く起きなさそうだな。

「この際、出久も確り寝なよ」

「そーそ、結構気張りっぱなしだったんだしさ」

「・・・それもそうか。咲夜、客室使って良いかい?」

「35号室は準備してあるわ。もう3人で寝なさいな。その間にお風呂も沸かしといてあげるから」

「流石は紅魔館メイド長、有り難く使わせて貰おう」

「ありがとね、咲夜」

「お言葉に甘えまーす・・・」

「ジャケットは預かっておくわ」

「何から何までありがとな」

「何言ってるの。お嬢様を助けてくれた報酬としては、まだまだ足りなぐらいだわ。だから、遠慮無く頼って頂戴ね?仮面ライダー」

俺達のジャケットを受け取ると、咲夜は悪戯っぽくウィンクして部屋を出て行った。ハハハ、ズルいねぇ・・・

なら、お言葉に甘えさせて貰おうか。

「35号室はどっちだ?」

「あっちだよ、案内するね」

フランにリードを頼み、俺達も休む事にする。

フカフカのベッドで、かなり深く眠った。

 


 

(NOサイド)

 

「連れてきましたよ、青娥さん」

薄暗い実験室の扉を開き、開口一番に報告するアダム。青娥の唇は小さく弧を描き、クルリと振り返った。

「待っていましたわ、ボス。まぁ、こんなに沢山・・・」

アダムが連れてきたのは、十代半ば程度の少年少女。それも、チラリと見ただけで10人以上いる。

「こんなに居る者なのですわね。闇が深いですわ」

「仕方無い事ですよ、それも。お任せしますよ、施術は。

あぁそれと、翻訳機ですよ、そのチョーカーは。不自由しないと思いますよ、会話にはね」

「あら、何から何まで有難うございます・・・

さて、貴方達の望みは?」

『戦争を、殺しを、死を』

青娥の問いに、少年少女は一斉に異口同音を返す。そもそも、それ以外の選択肢を持ち合わせていないかのように。

「フフフ、では任せなさい。少し待てば、存分に殺したり殺されたり出来ますわ。

さ、そのベッドに横になって。施術を始めましょう♪」

 


 

(出久サイド)

 

「・・・来たわね」

「あぁ、ご要望通りに」

三日月が綺麗な亥の刻。俺はレミィの寝室を訪れた。淡い黄金色の月光を背に、紅い双眸は極彩色に染まる。

「今日の土産は、これだ」

【ボーダー!マキシマムドライブ!】

スキマを開き、土産物を取り出した。それは、少し大振りな徳利だ。

「徳利・・・お酒かしら」

「あぁ。ちっと良いとこの日本酒さ」

「あら、それは素敵ね。日本酒、大好きなのよ♪」

パッと明るく笑うレミィ。と言うか、そもそもレミィは日本の食べ物は節操無く好きなのだ。実際、紅魔館には納豆蔵や醤油蔵、味噌蔵が増設してある。

「だが、それだけじゃあ無い」

【オーシャン!マキシマムドライブ!】

追加でカセットコンロと鍋を取り出し、オーシャンで水を汲む。鍋を火に掛けて熱しながら、その中に徳利を沈めた。

「へぇ、熱燗ね。そう言えば、熱燗は飲んだ事無かったわ」

どうやら興味がおありらしい。これを選んで良かった。

「にしても、こんな事にガイアメモリを使っちゃうのね」

「まぁな。でも、原子力発電所だって、やってる事と言えば核爆弾でデカいヤカンを湧かしてるようなもんだろ?それと一緒さ。

技術の使い方ってのは、これぐらいが丁度良い」

「言えてるわね」

2人揃って、くしゃっと苦笑する。

「・・・ごめんな」

「あら、それは何の謝罪かしら?」

呟くように零れたそれに、レミィが問い掛けた。俺は、心の内に湧いた感情を吐露する。

「思えば、1番荒れていた時期に俺を受け容れてくれたのは、レミィだけだった。そんな大恩人の気持ちに、ずっと気付かないで・・・」

「止めて」

ぴしゃりと話を切られ、レミィの眼を見る。呆れたようなその眼は、子供に優しく説経をするようなそれだ。

「私は、フランの為にわざと隠してたの。それを気付けなかったと謝るのは、只の傲慢よ。何でも出来るなんて、思い上がらないの」

「・・・ハハハ、敵わねぇや」

「貴方がお門違いな事考えて、勝手に気負ってただけよ」

ふん、と溜息を吐くレミィ。しかし、その後直ぐに微笑んだ。

「でも、私の気持ちを受け止めてはくれるんでしょう?最初は恩返し感覚でも良いけど、そんなの抜きに・・・心から私を愛してくれると、嬉しいわ」

「其所は安心してくれ。どうも俺は、割と直ぐに女を好きになっちまうらしい。思い返せば、三奈に惚れた時も大概チョロかったな」

まぁ、そんだけ俺を真っ直ぐ見てくれる相手に餓えてたと言うか・・・その場で礼を言われる事に慣れてなかったんだろうなぁ。

「と、そろそろ良い具合だな」

鍋から熱くなった徳利を取り出し、猪口に注ぐ。湯気が舞うと共に、酒精の混じった甘い米の香りがふわりと踊った。

「まぁ、こんなに香りが立つモノなのね。それじゃあ・・・私の恋情の成就に」

「何より、レミィの種族としての進化に・・・」

「「乾杯」」

カチンと軽く猪口を打ち合わせ、クッと呷る。口に飛び込んで来たのは、熱と風味。アルコールに乗ったそれが鼻に抜け、ほろ苦さを孕んだ淡い甘味が追い掛ける。

「はぁ・・・美味い」

「えぇ、ホントにね。アルコールが適度に飛んで、ちょっとマイルドになってるし」

「それに、猪口だから少しずつ味わえる。熱燗の良い所だな」

そう言って、猪口に半分ほど残った熱燗を喉に流し込んだ。

「くっはぁ~っ・・・堪んねぇなァ」

「フフ、味が分かる程飲んでるのねぇ?」

「まぁな。ほぼほぼ酔う事も無かったが、気晴らしにはなったから・・・ちょくちょく、こっそりとな。

さて、このままでも充分美味い熱燗だが・・・まだまだお楽しみがある」

【ボーダー!マキシマムドライブ!】

スキマからタッパーを取り出して、テーブルに置く。

「開けてみろ」

「あら、何かしら?」

レミィがカパッと蓋を開くと、中身が露わになった。それは、掌サイズの黒っぽい焦げ茶色をしたチップス状の物体。乾燥剤と共に詰められた数枚のそれは、嗅いでみれば芳ばしい旨味の香りを放っている事が分かる。

そして、レミィはその正体に心当たりがあるようだった。

「これって、もしかして・・・河豚の鰭?」

「その通り。レミィにご馳走しようと、チョイと仕入れてな」

【ヒート!マキシマムドライブ!】

エターナルエッジを赤熱化させ、遠赤外線で鰭を炙る。熱伝導効率も少し操作してやれば、見る見る内に鰭は飴色に変色。透き通った鰭は益々薫り高く、溜息が出そうな程に脳を擽る。

「ほら、良い具合だ。猪口を」

「はい、お願い」

差し出されたレミィの猪口に鰭を落とし、熱燗のお替わりを上から注いだ。ジワリと黄金色の出汁が滲み出るのを見て、猪口蓋を被せる。

「これで少し待てば、エキスが出て風味が良くなる」

「とっても楽しみだわ」

ウキウキと文字通り眼を輝かすレミィを見ながら、俺も猪口の鰭に熱燗を浴びせるように注いだ。

「にしても・・・遂にこっちまで、ドーパントが進出して来たんだよなぁ」

「そうね。そもそも、その件で英国(こっち)に来たんだものね」

そう。今回の訪問はそもそも、レミィがドーパントと交戦したと言う報告を受けたからだ。

「明日の10時半から、こっちのヒーロー機関と会議の予定だよ」

「責任者だから?」

「あぁ。正直、ドーパントの鎮圧には普通のヒーローじゃ役に立たない。ま、こっちのヒーローは日本と違って、敵を鎮圧する過程で殺しちまっても酌量の余地ありってシステムだからな。理想史上主義な日本よりゃ楽かも」

疑似ライダーを1個中隊規模程度量産して、専門の部隊を編成出来れば最高なんだがなぁ・・・メモリでやるなら、候補はコックローチかトリロバイトかな?コックローチは連携戦術と相性が良いし、トリロバイトは外骨格が魅力的だ。あ、ワスプやアントも適性がありそうだ。

「取り敢えず、ロストドライバーや変身用メモリの量産と緊急自壊装置、個体識別GPSの搭載が目下の目標だな。配備もヒーローじゃなく、軍の特殊部隊を下地にした方が良い」

やっぱり、ガイアメモリプラントは必須だな。まず雄英の地下敷地を借りて、軍隊用のメモリのオリジナルを作成。それをベースに各国で量産専用の簡易プラントを建造する・・・遠いな、道程は。

「未来に想いを馳せるのは良いけど、そろそろ頃合いなんじゃない?」

「・・・あ、そうだったな」

レミィが指差したのは、それぞれの猪口。すっかり忘れてたが、確かに頃合いだ。

「よし、憂鬱になる話は此所で切って、美味い酒を楽しむとしよう」

「そうよ。何たって、今夜は回復祝いなんだから」

カハハと笑い、猪口蓋を開ける。途端に立ち上る、濃厚な出汁の香り。旨味の気配を濃密に感じ取り、唾液がジワリと滲み出す。

猪口蓋をひっくり返して、その上に鰭を取り出した。

「じゃあ、改めて・・・乾杯」

「乾杯」

再び猪口をカチンと打って、鼻腔を擽る芳ばしい香りを楽しみながら口を着ける。

先程と同様の米の甘味に、干され炙られて濃縮された全く別の旨味が加わる。しれはとても主張が強く、伴う風味も半端じゃあ無く強い。しかし不思議と味が喧嘩する事は無く、上手い具合に調和していた。

そもそも、日本酒自体の味が強いのだ。故に、こうやってバランスが取れているのだろう。

「くぅ~・・・美味い!」

「もう、言葉も出ないわねぇ・・・」

この酒の美味さに、2人してうっとりと息を溢す。喉をチリチリと僅かに焼く酒精が鼻に抜けるのを感じて、口角がスルリと引き上げられた。ふと向かいを見ると、クッと猪口を呷るレミィの姿が眼に入る。

酒が入って朱の差した熱い頬を、窓から差し込む冷たい月光が照らしていた。元から色白なレミィは一層朱がハッキリと映え、やはり熱の通った存在なのだと妙な感想が浮かぶ。

そして唇から猪口を離して、左手で頬杖を突き、その紅い眼をスッと流して月を見た。その様は一種幻想的で、妖艶な微笑みには、俺の眼を釘付けにする魔力があった。

取り敢えず、スタッグフォンで1枚撮影する。こんな良い絵は、撮らねば損だ。

「あら・・・まったくもう、仕方の無い人・・・♪」

そうは言うが、声色は弾んでいる。満更でも無さそうだな。

「良いのが撮れた。これがあれば、明日もミスせずに済みそうだ」

「あら、紅魔(スカーレットデビル)を御守りにするなんて物好きね?貴方ぐらいのモノよ?」

「ハハハ、まぁな。可愛らしい鬼瓦だ」

飲み終えた猪口を置き、身を乗り出してレミィの頬を撫でる。気持ちが良いのか、スリスリと頬を擦り付けてきた。

「・・・ねぇ、出久。今夜は、離れたくないわ」

「そうか。じゃあ、一緒に寝るとしよう」

猪口を逆さにして蓋に被せ、俺はレミィと席を立つ。そしてスルスルと手を引かれ、ベッドの上に倒れ込んだ。布団は手入れが行き届いており、柔らかく、微かにラベンダーの香りがする。

これは俺を待っていた、レミィの心情の香りだろうか。

 

to be continued・・・




~キャラクター紹介~

緑谷出久
嫁が増えた化物主人公。
レミリアと相互吸血を行い、彼女を覚醒させた。
自分を愛してくれる女性の対し、愛情を返すのがとんでもなく早い。他者を受け容れる、吸血鬼としての素質だろうか。
ガイアメモリプラント建造計画及び量産型ライダー計画を決心した。

レミリア・スカーレット
新たな出久の嫁。
最初に出久と会った時から、人知れず惹かれてはいた。だが、フランが出久に強く好意を抱いている事に気付き、持ち前のプライド相まってその気持ちに蓋をしてしまっていた。
リリス・ナクルァーヴィの呪縛を振り払う為に出久と相互吸血し、お互いの魂で染め合う事で覚醒。
フランが純粋なヴァンパイアとして覚醒したのに対し、レミリアはサガと言う明確な種族代表ライダーのメモリで変身していた為、ファンガイアとしての形質が発現。体細胞を剥がして武器にする能力と、それを操り分身を作る能力を得た。
音楽センスも格段に跳ね上がっており、新曲を作り続けるだろう。

芦戸三奈&フランドール・スカーレット
呆れ正妻&納得第2夫人。
まぁ、文句は無い。仲も良いし。

霍青娥
アダム陣営の腹黒邪仙。子供達を集めてまたなんか碌でも無い事してる。



ラベンダー
シソ科の芳香植物。ハーブや薬草としても利用され、その香りにはリラックス効果がある。
花言葉は、「あなたを待っています」「期待」「沈黙」「清潔」。


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