拾われ少女 (月蛇神社)
しおりを挟む

1(原作開始前)

 行き詰って気分転換でいちかわいい作品を読んでいたら思いついてしまったものがこれです。


 その土曜日は、私の心情を表すかのように雨が降っていた。

 

 その雨の中、私は公園のベンチに傘も差さずにうずくまる。

 

 家にいてもひとりぼっち。両親は顔も知らないし、唯一の肉親のお姉ちゃんは日本にいない。

 

 一緒に遊ぶ友達もいない。むしろ私をいじめて遊ぶ者がいる始末だ。

 

「何故お姉さんは出来てあなたは出来ないの」とか「やっぱ出来損ないのあんたにお姉さまはもったいない」とか。

 

 いつもいつも、かけられる言葉はこんな冷たいものばかりで。

 

 暖かい言葉なんて、私はもう数年聞いてない。

 

 お姉ちゃんは嫌いじゃない。むしろ大好きだ。一週間に2回、必ず電話してくれるし、四季が変わるあたりになると短い期間だけど帰ってきてくれるしお風呂も入ってくれる。

 

 私がお姉ちゃんを嫌いになるなんてありえない。

 

 それにそんな言葉はいつも聞きなれてるから、心を押し殺して無でいれば平気だった。

 

 だったんだ。けど、元気いっぱいのあの子がいなくなってから、いじめに暴力が加わるようになった。

 

 私は守られていたんだ、見えない迷惑をかけていたんだ、あの子に。それに気づかなかった罰なのだろう。

 

 痛かった。苦しかった。空っぽになった気持ちだった。幸いまだ犯されていないけどそれも時間の問題だろう。

 

 死にたい

 

 死にたい

 

 死にたいよ。

 

 雨に打たれていれば、死ねるわけじゃない、けど、死んだ気持ちに、なれるのかな。そう考えたのは正しかったらしい。

 

 寒いし、冷たいし、孤独。でもね、どこか楽になってきてる感じもするの。

 

 お姉ちゃんやあの子には裏切る行為だとわかってる。

 

 けれど

 

 ごめんなさい。つかれちゃった。

 

「眠ったらもっと楽になるのかな⋯⋯」

 

 そんなことを言ったら本当にうとうと眠くなってきた。

 

 身体を横にして、雨に打たれる感覚に身を任せ、優しい微睡みに身を委ねて、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ふっと雨に打たれる感覚が消えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 顔を上げると傘差している人がいた。

 

 ぼんやりしてたから朧気だったけどそれはわかった。

 

 大きい人が傘を私に差して、自分が濡れているのも。

 

 なんでこの人は自分が濡れるのに、なんでこの人は私に傘をかざしているのだろう。

 

 

 なんで、この人は悲しそうなのだろう。

 

 

「なん……で……?」

「あ?」

 

 思わず問いかける言葉が口から出る。答えはすぐに返ってきた。

 

「そこに人の形をしたボロ雑巾があった。誰の目にも留められそうにねぇ、誰のものでもねぇボロボロのな。だったら俺がそれをどう扱おうが勝手だろうが」

 

 ボロ雑巾。

 

 心も身体もボロボロな今の私を表すなら最高の表現だろう。 

 

 でも、その言葉は、今までかけられたどの言葉よりも酷くて、どの言葉よりも最悪で、

 

「俺が拾ってやる。ボロ雑巾はゴミみてぇな俺の居場所がお似合いだ」

 

 どの言葉よりも、そしてなにより悲しげな眼が、暖かかった。

 

 だからだろうか。

 

 迷惑をかけるとわかっているのに。

 

 私がどうなるのかもわからないのに。

 

「…………はいっ」

 

 私は出来る限りの不出来な笑顔でうなずいてしまったのです。

 

「んじゃ、名前を教えろボロ雑巾。でなけりゃあずっとそう呼ぶぞ」

 

 この人がいたから。

 

「織斑……織斑一夏……です」

 

 

 

 

 

 私は人になれたのです。




 ちなみに原作は旧版を昔友人に借りて読んだくらいなので、時系列その他諸々や最新の展開は知らないので独自にやっていこうと思います。
 感想批評等があれば感想をもらえるとありがたいです。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

2

 UA562件にお気に入り10件、評価まで1つつく。
ここまで来るとは思わなかったです。謝謝!




 現在、私はあの人の背中でゆっくりと流れる住宅街を傘の隙間からぼんやりと眺めていた。

 

 公園でのあの後、突然眠気と身体に気怠さが襲ってきて、私は倒れてしまった。多分風邪を引いたのだろう。

 

 そんな私をあの人は何も言わずに背負って歩き出した。雨が一切当たらないよう傘を私に多く被さるようにして、ただでさえ濡れている自分の身体がもっと濡れるのにも関わらず。

 

 それがとても申し訳なく感じて私は傘を動かそうとするけれど、傘は全く動かない。

 

「……じっとしてろ」

 

 無言で動いていた世界に聞こえた声。あの人はどうしても私を濡らさないつもりらしい。

 

「でも……それじゃああなたが寒いよ……」

「うるせぇ、いいからじっとしてろ、余計な体力使うんじゃねぇ風邪雑巾」

 

 そう言われて何も出来なくなってしまった。この人、口は悪いけど心配してくれているらしい。いつからだろう、こういった気遣うような言葉をもらったのは。

 

 だめだ、涙が出そうだ。たったこれだけのことで涙が出そうなほどに私は想像以上にボロボロだったらしい。それでもあの人の背中を濡らしたくないから必死で我慢するように震える。

 

「だから動くなって……なんだ、泣きてぇのか」

 

 バレちゃった。でも、それを隠したくて出来る限り首を横に振る。だけどそれだけで確信されたらしい。

 

「……一夏、泣きてぇ時にゃ我慢しねぇで泣け。ただ、風邪が長引いても自己責任だからな」

 

 泣けと言われた。その言葉が、今まで泣くまいとしていた私の堤防を突き崩していった。

 

 私は泣いた。あの人の背中に顔をうずめて、首に回す腕に力が入ってしまって、今まで、我慢していたもの、全てを流し、吐き出すかのように、泣いていた。

 

 あの人はまた何も言わなくなった。ただ、黙って私を背負う腕の力を強くした。まるでお父さんのように。

 

 私は、目的地に着くまでいつまでも泣いていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「着いたぞ」

「……ぶぇ?」

 

 私が背負われていった先は、よくある灰色の壁のマンションだった。そんなところの2階へ階段を上り、奥から2番目の扉の鍵を開けて中へ入る。傘は閉じづらかったのか開いたままで、玄関に置かれた。部屋の中はあまりものが無く、最低限の家具が置いてある「殺風景」と表すのに最も適しているような部屋だった。強いて上げる個性と言えば本棚にびっしりと詰まった本の量だろうか。

 

「熱は……測るまでもないな、まずは風呂か。洗ってくるから少し待ってろ」

 

 そう言って毛布を探し、私を下ろそうとするあの人に回す腕に力を込める。降りたくない、まだこうしていたい。久しぶりの人の温もりを離したくない。

 

「……おい、離せ。そうじゃねぇと何も出来ねぇだろうが」

「……ん」

「じゃあどうすんだ。風邪悪化するぞ」

「……入れて」

 

 言ってから我ながら驚く。よくこんな短時間でここまで懐いたものだ。それに、これでは痴女のようどころかただの痴女じゃないか……でも今はいいや。

 

「……応援呼ぶから少し待ってろ」

「……嫌だ。シャワーでいいから、入れて、今」

 

 あの人のため息が聞こえる。きっと困った顔をしているに違いない。もっと身体を押し付けたら困るかな、胸薄いけど。そう思ってもっと身体を押し付けるともっと大きなため息が聞こえた。

 

「……言ってる意味わかってんだろうな痴女雑巾」

 

 その問いかけに黙っておでこを背中に押し付け縦に頷く。肩が下がる感覚が腕から伝わってきた。あと少しだろうか。

 

「それに、私はボロ雑巾なんでしょ?だったらどうされても何も言わないよ?」

 

 と言って後押し。

 

「はぁ……後からぐだぐだ言うんじゃねぇぞ」

 

 そう言ってあの人は私を背負ったまま洗面所へと向かった。

 

「あと、俺を誘惑したかったらその貧相な身体でかくしてから出直してこい」

 

 その言葉には流石に腕に出来る限り力を込めた。効果は無かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ジャーッという音と共に、椅子に座った裸の私に頭からお湯がかけられる。冷え切った身体には刺激が強く、かなり熱かったがそれがとても心地よく、目をつむってその感覚を受け入れる。風呂は心の洗濯だ、とは誰の言葉だっただろうか。忘れてしまったが、姉が受け売りだがな、と一緒に入ったときに笑いながら言っていたのを思い出す。それはシャワーでも通じるのだと私は確信する。かけてくれる人は服のすそをまくっているから犬みたいな気分に感じられなくもない。

 温まって体力が回復してきたのだろうか、今更なことを思い出す。

 

「……名前」

「あん?」

「名前。私聞いてないよ」

 

 私はこの人の名前を聞いていなかった。表札は傘に遮られて見えなかったし、そもそも聞こうとしなかった私も私だが。

 

「何で言わなかったの?」

 

 と頭をいじってもらいながら聞くと、

 

「聞かれなかったからな」

 

 と返ってきた。

 

「じゃあ教えてよ、じゃないと私は何て呼べばいいのかわからないわ?」

「石上 京也」

 

 そう言ってあの人⋯⋯京也さんは手を止め、曇った鏡に指で名前を書く。よかった、結構簡単そうな字だ。

 

「……うん、覚えた。それじゃあ京也さん」

 

 そう言って気になったことを聞いてみる。

 

「自分がゴミだっていうのは?」

 

 それを聞いた瞬間、京也さんの顔が暗くなった。やはり訳ありなのだろうか。

 

「……ごめんなさい。言いたくなかったr「人を死なせた、俺が原因で、2度」

 

 私の声に被せるように出た言葉、それの衝撃は大きく、私は何も言えなかった。京也さんの顔は苦しそうな表情をしていた。

 

「それと、京也でいい。さん、はいらない」

 

 そして私の頭にシャワーをかけて泡を落としていった。

 

 そのときだった。

 

 

「京さあぁん!私を洗う?私に洗われる?それともあ・ら・いっ・kぶはぁ!?熱い!?」

 

 突如、浴場の扉が開けられ、バスタオルを巻いた青髪の女の子が乱入してきた瞬間、京也はその人物に持っていたシャワーノズルを向けるのだった。

 

 

 

 ……私が言うのもあれだが、この痴女さん誰?




 ISがいつ出てくるかわからない&原作突入がいつかわからない作品がこれです。
感想などがあるともらえると喜びます。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

3

 見てくださった皆様、謝謝です。
そして簪ファンの皆様ごめんなさい。


 お風呂への謎の乱入者が現れてから数分後。

 

 京也はその乱入者の対処をせざるを得なくなってしまい、私も熱が少し上がってきたので身体の方はあまり洗えないまま出ることになった。

 

 そして現在リビングにて。そこには私と京也と謎の乱入者Xがいるのだった。

 

 京也は椅子を指さし、

 

「おし、そこ座れ。乾かすぞ」

 

 と言った。

 

 ちなみに今の私の恰好は大きめのシャツに引っ張り出されたのであろう冬物っぽいコートを袖を通さずに羽織っている状態だ。京也の部屋に女物の服なんて当然無かった。というわけで身体を冷まさないようにこの格好である。

 

 乱入者さんは羨ましそうに見てたけど。

 

 椅子に座った私に京也はすぐにドライヤーをかける。

 

 風は強いし手つきは荒っぽかった。思わず髪の心配をしてしまう、そういえばまともにヘアケアしてないからきっと傷みまくっているだろう。

 

「あーあーダメなんだー。女の子の髪をそんな荒っぽく扱っちゃダメですよー。私がやってあげますよー」

 

 乱入者の女の子がすぐにダメ出しする。でも私はこの手つきは嫌いじゃない。やっぱりお父さんみたいだ、ちょっと痛いけど気持ちいい。

 

「……なんでちょっと気持ちよさそうにしてるんですかその子?なんでリラックスできるんです?」

「犬にはこれくらいの扱いが丁度いいってことだろ」

「あー!今度は犬扱いした!だから女の子には優しくっていつも言ってるでしょうが!」

「うるせぇぞ(なまくら)(がたな)

「誰が鈍じゃごらぁ!私は刀奈だ!あーもう!気持ちよさそうでも傷むものは傷むんですだから私がやります!だから……」

 

 

 

「いい加減私のこの簀巻(状態)解いてくれません!?」

 

 

 

 ……色々と流してたけれどそろそろ目の前の光景を直視しよう。

 

 乱入してきた女の子だが、現在バスタオルを纏っただけの上に、布団を巻かれそこを縄で固定するという簀巻状態に、額に「反省中」と書かれた紙を張り付けられて転がされているのだ。先ほど行われた対処がこれなのだろう。あとで知ったが手首も固定されていたらしい。

 

 あの後シャワー直撃を食らわせた京也はこの人の首根っこを掴んでどこかへ行ってしまい、今私が着ている服を持ってきた。ついでに着せてもらった。

 

 そしてリビングに来てみればこの惨状で転がされていたのだった。

 

「誰が解くか。んなことしたらお前真っ先に襲ってくるだろうが」

「ぐっ……でも、この状況じゃしませんよ。その子風邪引いてるでしょう?だったらこんなところよりうちの屋敷の方が環境はいいと思いますが?」

「……私はここがいい」

 

 頭の上でわしゃわしゃ動く手の感触を感じながら私は呟く。

 

「あらずいぶんと懐かれていること。じゃあ本人の希望ですし疲れてるのもありそうですし、ここで看病ですか。てことで虚ちゃんとか呼びたいんでそろそろこれ(簀巻)を……」

「いや、もう呼んである……そろそろいいか」

「あっ……」

 

 そう言って京也はドライヤーを終えて頭から手をはなす。ちょっと寂しくなった。

 

「まあ応援がくるまであと5分くらいだろ。ちょっと怠いだろうが、自由にしてろ」

 

 京也が床に座った。なので私はその背中に引っ付くことにした。結局ここが気に入ってしまったらしい。暖かくて、眠くなってくる。

 

「私がまだ1度もさせてくれない背中付きをさらっとするだと……っ!京さん、その子に気を許しすぎじゃありません?」

「んなこたぁねぇよ」

「いやありますって。ところでいつ解除されるんですかこれ」

「あいつらが来たらな」

 

 といったところでインターホンがなる。京也の言う応援が来たのだろうか。

 

「あいつらやっと来たかちょっと待ってろ」

 

 そう言って玄関に行くために京也は私を下ろした……簀巻の上に。

 

「ぐぇ」

 

 と蛙が潰れたような女の子が出しちゃいけないような声が下から聞こえた。

 

「あの……大丈夫ですか?」

「あーうん、割と慣れてるから、平気平気。むしろ貴女の体調はどうなの?」

 

 心配したら逆に心配されてしまった。……そういえばまだ名前を聞いていない。

 

「私は更識刀奈。刀奈でいいわ。京さんの……上司の娘ってところかしら」

 

 顔で言いたい事が伝わってしまったのだろうか。でもおかげで名前を教えてもらった。私も自分の名前を告げると刀奈さんは僅かに固まり、すぐに笑みを浮かべた。

 

「じゃあ一夏ちゃんね……京さんに変なことされてないわよね?」

「何もされてませんよ?というかそんなことするような人にあまり見えないというか……」

「そう、よかった……やっぱ枯れてるんじゃないのかしらあの人」

「誰が枯れてるの?」

 

 突然降ってきた高い声の言葉に刀奈さんが打ち上げられた魚のようにびくっと跳ねる。私の身体もちょっと持ち上がった。

 

 声の主を探して頭を上げるとそこには。

 

 着ぐるみ(クマ)がいた。

 

 完全に顔も出ていない「着ぐるみ(クマ)」がいた。

 

「……え?」

「本音ちゃん!?」

 

 刀奈さんはこの着ぐるみさんと知り合いらしい。ただ、ここまで驚くのには何かあるのだろうか。

 

「おら一夏、応援が来たぞ」

 

 そう言って玄関から京也が戻ってきた。……この着ぐるみが応援なのか。

 

「京さん!呼んだのって虚ちゃんじゃなかったんですか!?この子で大丈夫なんですか!?」

 

 刀奈さんがものすごく焦っている。もしかしてこの着ぐるみさんドジっ子とかそういう類の存在なのだろうか。

 

「まーた仕事放棄してきやがったな鈍刀。虚が軽く悲鳴上げてたぞ。仕方ねーからこいつを呼んだ。だが俺もこいつだけじゃ不安なのは確かだ。だからこいつも呼んだ」

 

 そう言った京也の後ろから人影が出てくる。歳は同じくらいだろうか、その人は刀奈さんと同じ青い髪色で、顔立ちもどこか似ていた。違う点があるとしたら眼鏡をかけているかいないかだろう。

 

 そしてその人からひと言。

 

「無様だね、お姉ちゃん。何度も簀巻にされて、しかも何度もそれを実の妹に見られて恥ずかしくないの?」

「ぐはっ……簪……ちゃん……」

 

 下にいる刀奈さんが死んだ。

 

 着ぐるみさんが私を持ち上げて寝室へと運ぶ。京也は何故かカメラを回して録画の体制をとっていた。

 

「あの……いいんですか、あれ?」

「うん~いいのいいの~あれはおじょーさまが悪いから~」

 

 寝室の扉を閉めて、私をベッドに寝かせた着ぐるみさんは一緒に背負っていたらしい完全に同じ色のリュックから一着の着ぐるみパジャマを取り出した。

 

「本当は仕事があったんだけど~それを「飽きたー!」って言ってお姉ちゃんに丸投げして~きょーさんのところに行ったからね~」

 

 着ぐるみさんが私にパジャマを着せながらゆったりとした雰囲気で言う。というか今、丸投げ宣言を聞いた気がするのだが。

 

 着ぐるみさんは続ける

 

「それを見つけて申し訳なくなったかんちゃんが~お姉ちゃんの反対を押し切って~仕事を手伝って~そしてきょーさんからの連絡を受けてプッツンして本音ちゃんと来たのでした~」

 

 ……それで今扉の向こうで惨劇が広げられているらしい。

 

『ねえお姉ちゃん?私この前も言ったよね?仕事投げだしたら虚さんに迷惑かかるからやめてねって。それなのにまた投げ出すなんてお姉ちゃんの脳みそはどうなっているの?空っぽなの?』

『ちょ…まっ…ごふっ…お姉ちゃんにも色々っ…あってっ』

『それってほぼ裸の状態で簀巻にされて転がされてバカな張り紙張られて今は妹に上から足蹴にされてること?何?お姉ちゃんってやっぱりマゾなの?ドMなの?』

『それは違う!ていうかマゾじゃないわよ!』

『ふーん……でもお姉ちゃん、顔赤いよ?』

『へっ!?いや…これは…そう!風邪!一夏ちゃんの風邪がうつって』

『それに何か嬉しそうだよ。マ・ゾ・お・ね・え・ちゃ・んっ!』

『んんっ!?そ、そこ蹴らないでぇ……!?』

『ほーらまた赤くなった』

『嫌ぁ…きょうさんも助けてぇ…』

『買い物行ってくるわ。簪、あとは好きにしろ』

『そ…んな…』

『いってらっしゃーい。てことでお姉ちゃん、いっしょにタノしもう?そうそう実は今日は今までの全部録画してるんだ~お家帰ったら一緒に鑑賞会開こうね……じゃあ始めようか。絶望したお姉ちゃんの顔……』

 

 ここまで聞こえたところで着ぐるみさん・・・本音さんに目と耳を塞がれた。これ以上はあかん展開が繰り広げられているらしい。

 

 視界が暗くなり、眠気が襲ってきたので眠ることにした。

 

 その後、目を覚ましたら誰もいなかったので、リビングに行くと、

 

 横になってビクンビクンしている刀奈さん、

 

 その上でご満悦顔の簪さん、

 

 その横でしゃがんで簀巻をつつく本音さん、

 

 そして、厨房に立って鍋を回す京也がいた。

 

 

 

 

 うん、これはひどい。




 書いてるうちに浮かんじまった、反省もしてないし後悔もしていない。

 感想があれば是非、感想欄へ。私が喜びます。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

4

 3話まで書いて思ったこと。
「主人公京也なのに京也視点ないやんけ……」
 てことで京也視点です。

 毎度みてくださり謝謝でございます。


 雨が降る中、傘を差して近所のスーパーへ歩みを進める。

 

 今、家では簪の刀奈への折檻(という名のSMプレイ)が行われているところだ。それはいつものことだが、頼むからたまに家でやる、ではなく毎回屋敷でやれと言いたい。

 

 後で簪に聞いてみたが、本人曰く、

 

「普段のフィールド(部屋)じゃないからこそ「周りで聞かれているかもしれない」っていうことを相手(お姉ちゃん)に植え付けることが出来るし、私もゾクゾクする。あと、京也さんが混ざってくれると私が喜ぶしお姉ちゃんも悦ぶ」

 

 とのこと。

 

 いや、混ざらねぇしやらねぇよ。というかいつもやってるのか、どんだけ逃げてるんだ鈍刀。

 

 まあ今はそれはどうでもいい。それよりも、だ。

 

「……拾っちまったなぁ」

 

 空いた左手が強く握られる。あれはダメだ。あの目はダメだ。あの姿は見るべきじゃなかった。どうしてもあの日を思い出してしまう。

 

 あれは俺と同じ目をしている、あの時俺を拾ってくれたあの人の目に映って見えた死人の目だ。

 

 だからだろうか、手を伸べてしまったのは。あの人ならそうするだろうと思ってしまったからだろうか。

 

「……もう20年前か」

 

 あの時は手を差し伸べられる側だった。そして今、手を差し伸べる側に俺はいる。

 

 俺に手を伸ばしたあの人はどんな気持ちでいたのだろうか。それをするにはどんな気持ちでいなくてはならなかったのだろうか。

 

 

 

 少なくとも「あの姿が見ていられなかった」という気持ちでいた俺は間違っているだろう。

 

 

 

 買い物を終えてスーパーを出る。冷蔵庫は中身は空に等しかったため、粥すら作るには微妙という酷さからは脱することが出来るだろう。元々料理なんざしないし、たかられる事はあるが簡単なものしか作れない。

 

 店から出たところでスマホへ着信が入る。どうやら虚に頼んだものが届いたらしい。相変わらず更識暗部は仕事が早くて助かる。

 

 ファイルを開いて確認し、帰路に着く前に向かうことにする。

 

 更識姉妹式折檻はまだ時間がかかると思うし、時間潰しには丁度いいだろう。

 

 

 

「……ここか」

 

 目的地である織斑家前に着いた。

 

 外見は普通の二階建ての一軒家、だがどうにも嫌な気配がする。少し家を観察するとその正体を発見した。

 

 鍵穴に付いた傷跡、ピッキングするときに付いた傷だろう。まだ真新しさを感じる。

 

 ドアノブに手を伸ばし扉を開ける。床には土足の跡がついていた。靴跡から外にでた形跡がないため、まだ家の中にいると判断し荷物を玄関に置いてから、なるべく足音を立てずに入る。

 

 物音を頼りに隠れるように探す。靴跡から人数は4,5人といったところだろう。家の規模から上に2、下に3と仮定する。

 

 それはすぐに見つかった。

 

 棚の引き出しを開けて何かを探る2人の男の姿、恰好から見るにただのチンピラレベルだろう。

 

「そっち何かありそうか?」

「金目のものは少し、お、通帳と封筒に入った札めっけ」

「よぉし!金ゲットだぜうへへ」

「あとは一番の目玉が見つかればなぁ。どこに隠れてるのやら」

「あーぼっちのかわいこちゃんでしょ?確か織斑…おりむr」

 

「織斑一夏」

 

「あ、そうそう!織斑一夏ちゃん……って、え?」

「あ?」

 

 呆けているチンピラ1の服を掴み投げ、外傷が無いよう意識を奪う。

 

「次」

 

 それをただ見ていたチンピラ2へと滑るように近づき同じものを叩きこむ。

 

 何をしていたのか、何が目的なのか、それを聞き出すのは更識に任せよう。まずはこいつらを片付けることにする。

 

 ゴミによるゴミ掃除の開始だ。

 

 

 

 

 

 数分後、下手人を全員気絶させ、警察の更識の者へ連絡を入れ事後処理を任せることにした。まあ間違いなく警察沙汰なのだが、その辺りはうまくやってもらうしかないだろう。一夏の部屋らしき場所にいたやつには少々やりすぎてしまった気もするが。

 

 時間もかかってしまったので急いで帰ることにした。

 

 家についてリビングで出迎えたのは、横になった刀奈とその上に座るご満悦顔の簪。一応お仕置きは終わったらしい。カメラ回させたのは簪だが、何に使うかは深く予想しないことにする。

 

「……終わったか」

「あ、京さんお帰りなさい。長かったね?」

「あとで話す。待てなかったら虚に聞け」

 

 そういって買い物袋の中身を冷蔵庫に詰め込む。これで数日は持つだろう。

 

「一夏はどうしてる?」

「まだ寝てるよ~」

 

 そういうのはクマの着ぐるみ姿の本音である。

 

 そうか、と言って小さいサイズの鍋を戸棚から出し、粥の準備をする。ネギと卵、あとは塩コショウがあれば十分だろう。

 

 鍋をかき混ぜながら考える。あの侵入者の目的だ。一番の目玉、という言葉から考えるに目的は一夏で間違いない。だが、その後がわからない。何か狙われるような物を持っているようには見えないし、奴らの持ち物を調べてもそんなものは出てこなかった。

 

 身体目当てにしても、それこそ好みの女なら夜の街にいくらでもいるだろう。まさか本当にそれだけなのだろうか、だとしたら動機は何だ?それに、やつらは盗みに入る対象の知り方が中途半端だった。それこそ名前を思い出せないくらいに。だとしたら恐らくだが。

 

 主犯は別にいる。奴らは命令されてやっただけ。

 

 そう考えるのが妥当だろうか?

 

 しかし、そうならますますわからない。一夏はとんでもない知識を知ってしまったとか深淵を覗いてしまったとか、そういったことはしていないだろう。

 

 ……昔の悪意を思い出せ。俺と同じ目をしていたなら、俺に向けられていた悪意にヒントがあるかもしれない。

 

「…………」

 

 ……命令したのはいじめの主犯か?

 

 一夏が気に食わないから、目障りだから、消そうとした。しかし、また疑問が生じる。

 

 虚達の調べによると一夏は中学2年。同学年がいじめの主犯だと考えて、どう考えてもピッキングによる家宅侵入までさせることを命令できるくらいに上にいるやつが想像できない。地主の子息という線はありえない。ここら一帯は更識が裏で仕切っているからだ。

 

 となると相応の金持ちにでも目をつけられているのか。

 

 俺の頭ではこの辺りが限界だ。あとは取り調べの結果を待つとしよう。

 

 思考を終えたところで寝室の方から扉の開く音がする。

 

 どうやら一夏が起きたらしい。

 

 

 

 

 振り返って様子をみると顔が引きつっている。まあ誰がどう見ても惨状の一言だからわからなくないのだが。




 京也視点の方が一夏ちゃんより書きづらい謎の現象。
 感想や指摘等があればぜひ。喜びの逆立ちをします。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

5

 視点変更とかやってみた。
2話分書きあがっちまったので投下します。
見てくださる皆様。謝謝。


 ……どう反応したらいいのだろうか。今、目の前惨状を見て私は考える。

 

 漂ってくるいい匂いを感じるべきか、刀奈さんの心配をするべきなのか、そういえば京也は買い物に行ってたみたいだからまずはおかえりだろうか。

 

「……起きたか猫娘」

 

 そう言って京也が振り向いた。言われてこの着ぐるみが猫ものだと知った。

 

「とりあえず座ってろ。簪、気が済んだならそろそろ解いてやれ。飯食うやつがいるところに簀巻はいらねぇ」

 

 あといい加減に浸ってないで着替えろ鈍。そういって京也は鍋に視線を戻した。と、同時に本音さんが食器棚へ駆け寄る。

 

 ……刀奈さんと簪さんってそういう関係なのだろうか。今更ながらに気になるが今は言う通りに座ることにする。

 

 時計を見ると午後6時頃。昼から何も食べてないからそろそろお腹が限界だ。

 

 4人かけテーブルに着替えた刀奈さんと簪さんが座る。程なくして、お茶碗によそわれた卵粥が出てきた。……人の暖かいごはんは何時ぶりに目にしただろうか。

 

「食いたい分だけ食え。残してもそこの飢餓クマが平らげる」

 

 そうぶっきらぼうに言いながら、京也がクマを引きずってきた。これを作ったのは京也なのだろうか。

 

 思わず正面の京也の顔を見てしまう。京也の顔には「はよ食え」と書かれていた。

 

 スプーンを持って、お茶碗を持ち上げ、顔を近づける。中からの湯気が顔に当たりそれが作り立てで熱いことを改めて認識させる。

 

 早速食べようとスプーンを近づけたところではっと動きを止める。どうやら私はこの言葉も、作法も忘れていたらしい。

 

 一旦、お茶碗を置き、その前にスプーンを置く。そして手を合わせて一言。

 

「……いただきます」

 

 久しぶりに食べた暖かいごはん。それはちょっと濃いめの味だったけれど、そんなことは気にならないくらいにおいしかった。私は今日、何度目かの涙を流した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「とりあえず一夏、姉貴に連絡入れろ」

 

 食後、一息ついたところで京也が突然そういった。……私、お姉ちゃんのこと話したっけ?

 

「ごめんなさい。うちの方で調べてもらったの」

 

 そう言って刀奈さんが頭を下げた。

 

「ちょっと気になって昔のコネ使った。……ったく頼んでおいてあれだがよく受けたなお前ら」

「父は今でも貴方を部下だと思っているようですよ?」

 

 そうでないと私はここに来れませんし。そう刀奈さんが微笑むと京也は苦い顔をした。……何かあったのだろうか。というか刀奈さんの更識家っていったい……?それは気になるがそれよりも、だ。

 

「どういうこと?」

「まず、お前の現状を知らせる必要がある。何も言ってなけりゃ殴り込んで来そうだし、お前の姉貴は真正面だと正直全力じゃねぇと俺は相手出来そうにねぇ。その面倒を避けたいのと」

 

 そう言って京也は少し間を開けて、

 

「お前ん家に空き巣が入った」

 

 と衝撃的なことを告げた。

 

 

「……え?」

 

 

 頭が真っ白になる。何も考えられなくなる。何で。どうして。何が目的?

 

 最終防衛線が破られた気分とは、きっと、こんな感じ…なのだ、ろう。怖い、恐い、怖い、こわいこわい白こわいkuroこわい嫌だいやだ嫌だ嫌だ嫌嫌怖い嫌イヤだ嫌だ怖い助けて助けてtasuケtえ…………

 

 

 

「目ぇ覚ませ」

 

 

 

 私の心に低い声が通り、意識を戻す。それと同時に本音さんが後ろから優しく包み込んでくれた。

 

「いきなりで悪かったな」

 

 そういう京也のそらした顔はどこか罰が悪そうだった。

 

「ボロボロ加減もここまでだとは思わなかった」

 

 私は本当にボロ雑巾だったらしい。自分の脆さを改めて確認できた。本音さんの手を解き、テーブルの下に潜り込んでそこから京也の身体へ下から正面に抱き着く。唐突にこうしたくなってしまった。京也の答えは頭に乗った大きな手だった。

 

「だから女の子には優しくっていつも言ってるじゃないですか。だから、ほら、私にも優しくですね……」

「てめぇは自重しろ鈍刀」

「ひーどーいー!簪ちゃーん!この人酷いよー!」

「大丈夫。そこも含めてお姉ちゃんの可愛いところだから。あとくっつかないで」

「……お姉ちゃんそろそろ泣いていいわよね」

「じごーじとく~」

「……ふふっ」

 

 すぐに交わされるやり取り、そのやり取りがどこかおかしくて思わず笑ってしまった。私が大分落ち着いたためか、話しはもとに戻る。

 

「話しを戻すぞ。その空き巣について話し合う必要がある、だから連絡したい」

 

 てことで、連絡したい。そういって京也は今度は私の背中を撫でる。その手つきはとても気持ちいいもので思わずほぅっと声が出そうになる。

 

「……わかった、連絡しよう」

 

 という訳で、いつもよりはちょっと早めの間隔だけど、いつも通りにビデオ通話をすることにした。

 

 

 幸い、通話にはすぐ出てくれた。

 

『こんばんわ、一夏。何だ?今回はいつもより早い間隔じゃないか…お?そのパジャマ買ったのか?可愛いぞ、似合ってる』

 

 ちょっと前に見た大好きなお姉ちゃんの顔。それに安心して、やっぱり家族なんだと感じる。

 

「お姉ちゃん」

 

 早く言いたい教えたい。今日は私にとって幸せな日なのだと。

 

『ん?どうした。そういえば表情もいつもより良いし声も元気そうで…』

「今日ね、私、拾ってもらったの!!」

 

 今、自分が出来る満面の笑みでそう教えれた。そしたら画面のお姉ちゃんの表情が何故か凍ったように固まってしまった。

 

 周りのみんなを見てみると、皆一様に頭抑えている。京也に至っては天を仰いでた。

 

 ……私、何か間違えたのかな?

 

 

 

  side change

 

 

 

『よし、詳しく聞かせてもらおうじゃないか』

 

 電話の向こうで一夏の姉貴…織斑千冬が聞いたこともない声で発狂しかけ、それを一夏がなだめようとしたら余計に発狂するという事故から数分。

 

 大分落ち着いたのか、今はかなりドスの効いた声で問いかけがようやく来た。

 

 俺らもこれ以上面倒にしたくないため簡単に自分たちのことと目的を告げる。早々に更識の名前を出したのが効果があったのかすぐに穏便な話し合いの場は整った。

 

『……そうか。そうだったのか』

 

 そう言って織斑千冬は深く、とても深く頭を下げた。

 

「千冬お姉ちゃん……!?」

『これは家族として一夏の変化や心境に気づいてやれなかったこと、危ないところを助けてもらったことへの感謝、そして今どうすることも出来ない申し訳なさからだ。』

「軍属なら仕方ねぇ。男だろうが女だろうが命令にゃ逆らえねぇからな」

『……貴方も軍に?』

「昔のことだ」

 

 軍務ってのはなんにせよ命令順守が基本だ、それはどこの国でも、どの性別でも変わることはない。

 

『……情けないとわかっています、ですがお願いさせてください。一夏を私が帰るまで、軍をやめるまで預かっていただけませんか』

「それは更識が保証しましょう」

 

 隣にいる刀奈がそう宣言する。

 

「家も今のところ危険ですし、こちらとしても守るならそれがが一番安全でしょう。なんなら色々な手続きもこちらでしますが?」

『なにもかも任せきりですみません。……本当にごめんな、一夏』

「いいよ、お姉ちゃん」

 

 再びの謝罪に、膝の上の一夏が言う。

 

「……京也は私を拾ってくれた。助けてくれた。お姉ちゃんも心配してくれてる。私はそれで大丈夫だよ」

『しかし一夏!』

「本人が大丈夫だって言ってんだ。だったら信じてやれよ、姉貴だろ?」

 

 たとえ、それが確証のない大丈夫でも、な。

 

『……ありがとうございます。どうか、よろしくおねがいします』

 

 その言葉で観念したのか、織斑千冬は改めて頭を下げるのだった。

 

 

 

 side change

 

 

 

 

『ところで、だ』

 

 話し合いに決着がつき、穏やかに解散……といったところでお姉ちゃんの顔が突然険しくなる。

 

『一夏……何故、京也さんの身体が後ろに見える、というか言うが何故京也さんの膝の上にいるんだ?』

 

 何故、と言われても。

 

「一番落ち着くから」

 

 それしか答えようがないから、私は笑ってそう答える。

 

「京也の背中はあったかいし、手つきは乱暴だけどなでてくれると気持ちいいし、何より」

 

 京也の身体に背中を預けて目を細め。

 

「こんなボロ雑巾(織斑一夏)を拾ってくれたんだもん」

 

 その言葉を聞いてお姉ちゃんは唖然とした顔をする。その表情が面白くて、もっと驚いてほしくて、そしてちょっと困っている京也にもっと困ってほしくて、身体をくるりと回して京也に抱き着いて胸に顔をうずめる。やっぱりこの身体のどこかにうずまっていると落ち着く、安心する。

 

『……これは帰ったら真っ先に話し合う必要がありそうですね』

「……奇遇だな、俺も思っていたところだ。あと敬語なんざ必要ねぇぞ」

『そうか……ならば私が帰るまで首を洗って待っていることだな、京也……』

 

 おやすみ、一夏。最後にそう言って通話は切れた。辺りを盗み見てみると刀奈さん達はご愁傷様といった表情で京也を見ている。そして京也の顔は完全に引きつった笑みを浮かべていた。

 

「お前なんてことしてくれてんだ……」

 

 そういって京也はがくっとうなだれた。

 

 

 

 どうしよう。私、京也を困らせるのが楽しくなってきちゃったみたい。




 会議とか話し合いとか考えるのが苦手故にこの低クオリティー
最初のコンセプトとずれないか心配になってきたけど完走目指して頑張る。

 ご意見、感想、つまらんといった文句があれば是非、感想を。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

6

 京也が主人公のはずが思ったより一夏ちゃん視点が多かったのでタグにW主人公を追加しました。

 また視点変更&新キャラ登場。

見てくださる皆様、謝謝。


「よし、帰るよ。お姉ちゃん」

 

 リビングで京也が一人お通夜状態みたいになってから数分後。

 

 刀奈ちゃんの首根っこを掴んだ簪ちゃんが、いつの間にか帰る仕度を終えて言いました。

 

 因みに、3人からフレンドリーな関係を希望されたので今はちゃん付けで呼んでます。

 

「えぇ~せっかく一夏ちゃんというお友達が出来たんだから泊まっていきましょうよ~」

「はよ帰れ鈍刀」

「京さんもこう言ってる」

「じゃあ一夏ちゃんはどうするのよー。成人男性っていう狼のところに餌おいておくのは乙女として見過ごせないわ!」

「大丈夫、クマ(本音)も置いてく」

「肉食獣倍プッシュじゃないの!ていうか簪ちゃん置いてく気満々なのね……」

「あれは無理でしょ」

 

 そう言って簪ちゃんがこっちを見る。私は依然として京也に正面から抱き着いたままだ。

 

「えぇ……何で会って数時間であんなに懐く訳?じゃあ私達もいいじゃ…」

「狭いわアホ。雑巾に野獣だけ手一杯だ」

ジビエ(クマ)だぞ~」

「まさか二人そろっていただきます……!?」

「んな肉質悪い子熊誰が食うか。ついでに雑巾食う趣味もねぇよ」

 

 その言葉を聞いて、本音ちゃんが即座に京也を絞めに飛びかかる。私もそれに加勢する。少し残ってたプライドが、つい。

 

 しかし、まるで効果がない。

 

「うん、問題ない。風邪かと思ったけど精神的な過労だったんじゃないかな」

「あれだけ元気なら大丈夫そうね。うん、もう疲れたわ……」

「そんなお姉ちゃんに良いニュース」

「?」

「あとで虚さんのお説教が待っています」

 

 瞬間、刀奈ちゃんが逃げの体制に入ろうとする。が、すでにその身体は簪ちゃんが持つ縄につながれていた。

 

「ちょ、いつの間に!?」

「さあお姉ちゃん。夜のおs……帰る時間だよ。」

「今何かいやらしい響きが聞こえなかった!?しかもどんどん縄が食い込むんですけど!?」

「おじゃましましたー。明日も来ますねー」

 

 挨拶をしながら簪ちゃんが刀奈ちゃんを連行していく。明日も来てくれるみたいだ。

 

「待って!京さん助けて!」

「少しは反省しろ」

「ああ……無情……ごめんなさい簪様私が悪うございました!だからストップ!ストッププリー…」

 

 そんな最後の断末魔を残して姉妹は帰ってしまった。……本当にいつもあんな感じなのだろうか。

 

「……おい子熊、あれ何回目だ」

「私は10から数えるの止めた~」

「やっぱあいつ真性か……」

 

 本当にいつもあんな感じだった。

 

 

 

 更識姉妹が帰って急に静かになった京也の家。

 

 特にやることもないので時間も考え、本音ちゃんとお風呂に入ることにした。

 

 ……今度は京也は一緒に入ってくれなかった。

 

 昼は入れてくれたのに。どうせ雑巾だから恥ずかしくもないのに。 

 

 で、現在脱衣所にいるのだが、一緒にいる全身着ぐるみの本音ちゃん。ここまで素顔を見せていないのだ。

 

 まさかお風呂にまで着ぐるみは持ち込まないと思う。

 

「ん~よいしょ~!」

 

 猫パジャマを脱ぎながら本音ちゃんを見ていると、そんな気の抜けた声と共にクマの頭が取れた。

 

 そこから出てきたのは、さらさらな長い茶髪。とてもきれいな白い首筋。

 

 そしてまた顔を隠す狐のお面だった。

 

「え……?」

 

 どうなっているのだろう。というか暑苦しくないのだろうか。いや、それよりも。

 

「……これ()は見せられないよ」

 

 本音ちゃんの声は少し悲しげだった。

 

 私が驚いて固まっている間に今度は胴体を脱ぎにかかる本音ちゃん。

 

 そして程なくして身体が見えた……見えてしまった。

 

 ……思わず自分の胸に手を当てる。

 

 着ぐるみの足裏でかさましされていたらしく、実際の身長は私と大して変わらなかった。だからこそ納得いかない。あの大きさはなんだ。昼間にちらっと見えた刀奈ちゃんと同じくらいか、刀奈ちゃんの方が大きいか。でもそれに加えて刀奈ちゃんは身長もあるしあれ、何だか揉みたくなってk……い、いや、お姉ちゃんが大きいから希望はあると思いたい。あれ、でもお姉ちゃんの胸は昔一緒に入ったときからまあまあ大きかったし、束お姉ちゃんも大きいし、私も、ふざけて、揉んでた、か、ら……

 

「どしたの?早く入ろうよ~」

 

 私を呼ぶ本音ちゃんの声ではっと我に帰る。本音ちゃんはお風呂の扉を開けて待っていた。

 

 とりあえず、今は冷めないうちにお風呂に入って温まろう。

 

 そして揉ませてもらおう。そのおっきいの。

 

 

 

 

 side change

 

 

 

 

 

 ガキ共2匹が風呂へ向かったところで、台所へ向かいコンロで湯を沸かし、来客を迎える準備をする。

 

 先ほど、取り調べを纏め終わったとの通知が入ったので、少ししたらこちらに来るだろう。

 

 ただ、少し簡単に結果が書かれていたが、それが奇妙なのが気にかかる。

 

 犯人は皆一様に言ったのだ、「覚えていない」と。

 

 当然そんなことありえないので、強く聞き出そうとしたところ、またおかしなことが起こったらしい。

 

 そのことを詳しく聞く必要がある。

 

 やがて、飲み物の準備が終わったところでインターホンが鳴った。更識の者だろう。

 

 扉を開けると、そこには長袖シャツにロングパンツのラフな格好をした1人の女がいた。その顔を見て、苦い顔になるのが自分でもわかる。今日で何回目だろうか。

 

「……お前を寄越すなんて、更識家従者は人手不足なのか?」

「そう思うのはあなただけです。人手もありますし、質もいいですよ」

 

 そう言って笑う顔を見てしまって、余計に顔がこわばる。

 

「それに、そんな苦い顔しないでくださいよ。あなたがいなければ私は生きていないのですから」

 

 そういって女は、「雛森 蓮」は自分の右肩を愛おしそうになでた。後ろでまとめられた長い黒髪が、僅かに揺れた。

 

 

 

「インスタントで悪いな」

 

 そういって俺は雛森にインスタントコーヒーの入ったカップを渡す。

 

「構いませんよ、ありがとうございます」

 

 カップを受け取りながら、雛森は廊下の、浴室の方を見やる。

 

「女がいるのに別の女を連れ込むなんて悪い人ですね」

「あれを女と言う気はねぇ。ただのガキだ」

「相変わらず優しくない言葉ですね」

 

 雛森は「ふふっ」と笑った。

 

「……何がおかしいんだ」

「あの頃から変わりませんねってことですよ」

 

 そういって、カップに一口つけた雛森が真面目な顔になるのでこちらも気を引き締める。

 

「まず、先の連絡は見てくださったと思いますが、被疑者は全員、隣街で有名な高校生から浪人生の不良でした。ピッキングツールを使って鍵をこじ開け、家内を物色したのではと考えられています……というかそれを全員制圧したのあなたでしたね」

「そこは俺も見たから知ってる。そこはいいから結論をくれ」

「では結論を」

 

 そういって雛森は一息ついて、

 

「わからない。この一言ですね」

 

 と言った。

 

「……どういうことだ」

「全員が覚えてないと証言したのは知ってますよね。それで、しらばっくれているのかと思い、さらに聞き出そうとしたのです。そしたら」

 

 また一息つく。

 

「……全員、突如として痙攣を起こし、文字通りに泡を吹いて気絶。警察病院へ搬送されました」

「新手の薬や草とかは」

「簡易検査では何も、毒物も無しです」

「そいつらの交友関係で怪しそうなのは」

「3日前に中学生の男子生徒と会っているのが所持していたスマートフォンと目撃証言からわかりました。制服姿だったのですぐにわかったと」

「どこのだ」

 

 雛森から中学校の名前を聞き出す。

 

 それは今、一夏が通っているところと同じ学校だった。

 

「俺の考えが一応通ってるわけか……だとしたらますますわからねぇ」

「その男子生徒の情報は現在待つしかないです……ここらが限界ですかね」

「謎ばっかだけどな。ったく、魔法か何かでも使われたってか?」

「それが一番当てはまるというのがまた何とも言えませんね……」

 

 これ以上話し合っていても答えは出ないだろう。話しは終わりだと、お互いに少し冷めたコーヒーを口に入れる。

 

 カップを置いて、雛森が口を開く。

 

「……もう、戻ってくることは無いんですか?」

「無理だろ」

 

 その問いかけを即座に切る。

 

「あれだけのことをやっておいて許される訳ねぇだろ」

「……あの時は、運が悪かったんです。お互いに……」

 

 そういって悲しげな表情をする雛森。あの時のことを思い出しているのだろう。

 

 そして、顔を上げて俺の目を見た。

 

「でも、私達は戻ってきてほしい。それは楯無様も同じお気持ちですよ。だから、刀奈様がここに来れたり、あなたが今も生活できるのです」

「出てくって辞表叩きつけたはずなんだけどな。勝手に住居まで用意して金まで押し付けやがって」

「楯無様はきっと、息子の一人立ちか家出くらいにしか思ってませんよ。あの方は本当に心が広い」

「だったら自分から勘当叩きつけた息子くらいほっとけや」

「それが出来ない人ですよ」

 

 雛森が立ち上がってこちらに近づく。

 

「それに、私はあなたと居たいです」

 

 そう言って、正面から背中に細い腕が回される。

 

「……俺は擦り木か何かか?」

「今日だけで何回も抱き着かれているのかしら?全身から嗅ぎなれない匂いがしますよ。肌までしみ込んでそうなくらい」

「ガキくせぇんだよ。とっとと洗いたいわ」

「上書きしてあげましょうか?」

 

 腕の力がさらに強くなる。

 

「あの時、私の心を癒してくれたように、今度は私がしてあげます。物足りなければ薄墨も交えましょう?」

「お前らが勝手に押しかけてきただけだろうが」

「でもあなたは拒まなかった、受け入れてくれた。それだけで……」

「…………誰、その人」

 

 突如、声が入り世界が壊れる。その方向を見やって声の主を見ると。

 

 タオルも巻かず、髪の先や全身から水滴を滴らせ、そして感情の無い目で俺の顔を見る一夏の姿があった。

 

「……着替えてからこいや濡れ雑巾」

「誰、その人」

 

 聞く耳はないらしい。

 

 そして、その姿でこちらへずかずかと近づき

 

「そこは、私の場所」

 

 と、敵意の籠った目で雛森を睨んだ。

 

 その視線を受けた雛森はこちらから離れ、しゃがんで一夏を見る。一夏はまだ睨みつづける。そして立ち上がり俺を見やる。

 

「やっぱり、ガキじゃなくて女じゃないですか」

 

 

 

 

 笑顔で雛森はそういった。




 復活した一夏ちゃん。しかし一夏ちゃんはおっぱい魔人二人を見て育ち、おっぱい魔人へと覚醒した覚醒者だった。あの二人バルンバルンだからね。仕方ないね。

 割と好き放題やってるこの作品。感想、指摘、つまらんといった文句があれば是非、感想欄へ





 一夏ちゃんヒロインのはずが気づけば女性陣がどんどん増えていく恐怖。あれー?おかしいぞー?()


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

7

どんどんと書いてるうちに想定外の設定が生えてくるわ文章はどんどん薄っぺらくなるわで自分に「お前そろそろいい加減にしろよ」と言いたくなる今日この頃。嘘みたいだろ、IS二次なんだぜこれ……。

見てくださる皆様、謝謝。


そろそろ転生要素を出さないと怒られそう。今回出ないけど。


 それじゃあ私はこの辺りで、コーヒーごちそうさまでした。

 

 そう言って知らない女が玄関へと向かい、京也もそれに伴って行った。

 

 私は呆然と立ち尽くす。ふわさっと頭からバスタオルがかけられる。

 

「ちゃんと拭かないとダメだよ~」

 

 全身クマの着ぐるみに戻った本音ちゃんが優しい手つきで身体を拭いた。そばには猫パジャマもある。

 

 やがて京也が戻って来たので、押し倒す勢いで抱き着く。倒れなかったけど。

 

「着替えろって言っただろうが」

 

 ため息交じりの声が上からかけられる。けど、そんなこと今はどうでもいい。

 

「誰、あの女」

「……着替えたら教えてやる。ついでに髪も乾かしてこい」

 

 そういうことなら早く着替えよう。ちょっと困った様子の本音ちゃんからパジャマをひったくる勢いで受け取り、素早く着替え、走ってドライヤーを取ってくる。あとは京也に差し出すだけ。

 

「かけて」

 

 京也は呆れ顔だったが、ドライヤーはかけてくれた。昼と同じく、強い手つきだけど心地よかった。

 

 

 

「昔の同僚だよ」

 

 また昼と同じく、椅子に座った私の後ろでドライヤーをかけて、少ししてから京也は語る。

 

「互いに、仕事でヘマして生き残っちまった関係だよ」

「……元カノ?」

 

 そう探りを入れてみる。ただの同僚にしては、あれは距離が近すぎるのではないだろうか。

 

「ちげーよ」

 

 すぐに否定する答えが返ってきた。

 

「じゃあ身体だけ?」

「……お前どこからんな知識仕入れたんだ?」

 

 将来を心配するような声でそう言われる。

 

「……否定しないの?」

「普通に違うわ」

 

 これも違うらしい。あと残る線は片思い……?

 

「それはないと考えさせてくれ」

 

 考えを読まれてしまった。でも京也も確証がないみたいで強く否定してこない。

 

「おら、終わったぞ。ついでに質問タイムもな」

 

 京也に頭を軽く叩かれ、ドライヤーが終わる。目の前では、壁に背もたれて座る、クマの頭が前後左右に不規則に揺れていた。

 

「歯ぁ磨いて寝ろ。お前もあと少しは起きろ子熊」

 

 クマの頭がはたかれ、やがてゆっくりと立ち上がり部屋の隅の荷物をごそごそと探り、歯ブラシを2本取り出す。だが、全体的にふらついていてちょっと……いや、かなり危なっかしい。

 

 確かに眠くなってきたし、揺れクマの放置は大変なことになりそうなので、私もついていくことにした。寝るところの相談をしていなかったけれど、仕度を終えた本音ちゃんが勝手にベッドを占領してしまったので、もふもふのそれを抱き枕にして寝る事にした。

 

 ちなみに、歯を磨くときでも本音ちゃんの素顔は見えなかった。というか着ぐるみで歯ブラシを握って隙間に差し込んでしゃこしゃこ動かしてた。あの女よりもそっちの方が気になってしまった。

 

 

 

 次の日の朝、日曜日。窓から差し込む光で目が覚める。外は昨日の雨と違い、よく晴れたいい天気となっていた。

 

 いつもなら悪夢を見てすぐに起きてしまい、寝起きは悪いのだが、今回はもふもふな動く抱き枕のおかげか夢を見ることはなく、目をつむって、次に開けたら朝になっていたという体験が出来た。

 

 起き上がって隣を見てみる。

 

 

 クマの首から上がなくなっており、その上に別の色のクマが覆いかぶさりこっちを見ている、という光景が目に入った。

 

 

 クマの捕食と勘違いした私は、また意識を落とすのだった。

 

 あとで聞いた話しによれば、起きたらがっちりとしがみついていて動けなかったので、着ぐるみから抜け出して着替えてから、元着ていた方を回収しようとした瞬間だったらしい。

 

 何とも恥ずかしい話しだった。

 

 

 

 

 私が気絶からの二度寝から目が覚めたあと。

 

 今度は隣に何も無く、部屋にもだれもいないので顔を洗いに洗面所に向かうことにした。

 

 扉を開けてリビングに入ると、京也がテーブルをずらし、そこに布団を敷いて寝ていた。

 

 時計を見てみると時間は9時を過ぎた辺りだった。そして、キッチンでは昨日とは違う色のクマの本音ちゃんが何かいじっていた。とてもいい匂いがする。

 

「おーはーよー」

 

 そんな気の抜けた声と共に本音ちゃんがこちらに振り向く。

 

「きょーさん起こしてくれない?朝ごはん出来たよ」

「……わかった。でも顔洗う」

 

 まだ寝ぼけが取れない返事をし、顔を洗ったが、寝すぎたのだろうか。まだ眠気が少し取れない。

 

 本音ちゃんはお皿に盛り付けているところなのでまだ動けそうになかった。

 

 京也の身体を揺らして起こそうとする。しかし、起きる気配がない。

 

「むぅ……とりゃあ!」

 

 仕方がないのでお姉ちゃんを起こすときにやる、布団ひっぺがしをする。しかしまだ起きない。

 

 ここまでダメなら腹ダイブで起こすか。京也なら頑丈だと思うし(多分)大丈夫だよね。

 

 という訳で実行。その場で飛び上がり、京也のお腹に狙いを定め、

 

 瞬時に視界が反転し、腕を押さえつけられ押し倒される形になった。

 

「はえ……?……!?」

 

 起きてたの、とか、今朝だよ、とか、突然押し倒されて眠気が完全に飛び、混乱と期待が入り交じり、心臓が破裂しそうで、

 

 

 遅れて、首に添えられた貫手と感情の無い目に気づき恐怖で顔が青ざめる。

 

 

「……お前か、悪かったな」

 

 そう言って京也は私の拘束を解く。だけど、私はしばらく動けなかった。

 

「いつもの癖でな。寝込みを襲われるとつい反撃しちまうんだ」

 

 怖がらせて悪かった、と京也が私を起こして撫でたところでようやく私の身体が再起動する。

 

 再起動して私が最初に取った行動は、目の前の存在に顔をうずめることだった。

 

 

 

 そんな事件があっても本音ちゃんは変わらない様子でご飯を運んできた。

 

 何故か、朝から豚肉の塩焼きだった。

 

「……朝から肉とはどういうことだ、飢え子熊」

「私が食べたいから~誰も朝ごはん作らないから作ってあげたのだ~」

 

 なんとなく予想出来てた答えをどや顔?言った肉食獣は、さっそく家主に絞められていた。

 

「だったらてめぇの分だけ焼けやぁ!何で全員分あるんだよ!」

「大丈夫!食べないなら私が食べるから!」

「それお前が食いてぇだけじゃねぇか!」

 

 そんな「肉食獣VS肉食獣もどき」の様子を見ながら、私はごはんの上にお肉を乗せ、口に入れる。

 

 そんなに強くない絶妙な塩気の中に、少し感じる胡椒のピリ辛さ。そしてなにより、この味と肉の焼き加減がとても白米とあっている。

 

 とてもおいしかった。

 

 ただ。

 

「これは晩御飯に食べたかったなぁ……」

 

 本当に、この一言につきる。いくらおいしくても、朝からお肉は重たいよ……

 

 ちなみに、味噌汁はなかったのであとで作った。

 

 

 

 久しぶりに賑やかだった朝が終わり、一息ついたところでインターホンが鳴り、京也が玄関へと向かう。

 

「おはようございます。本音の回収に来ました」

 

 出てきたのは眼鏡をかけた女の人だった……また知らない女だった。しかし、今度は簪ちゃんも一緒だったのでまた更識の人かと考える。

 

「……貴方が織斑一夏さんですね。初めまして、本音の姉の布仏 虚です」

 

 そう言って女の人……虚さんが頭を下げる。反射的に私も頭を下げて自己紹介を終える。

 

「あ~お姉ちゃんだ~」

「……京也さん、本音がご迷惑かけて申し訳ありません」

「刀奈が残るよりはましだ」

「お姉ちゃんは屋敷で仕事させてるから、今日は安心できるよ」

 

 簪ちゃんがものすごくいい笑顔でそう言った。……刀奈ちゃん、頑張って。

 

「コーヒー淹れてやるから少し待ってろ」

「いえ、いいですよ。このあともやることはたくさんあるので」

 

 そう笑って椅子に座る虚さん。4人かけのテーブルだが、今回は空きがあるので京也の隣に座る。

 

 空きがある、というのも。

 

「ごろごろ~」

 

 すぐそばに、簀巻にされ、転がって遊ぶクマがあるからだ。

 

 朝にお肉を焼いた本音ちゃん、実は昨日京也さんが買ってきたお肉を全部焼いてしまったのだ。そして家主がキレて簀巻にしたのだ。

 

 ちなみに、部屋に入ってから簪ちゃんの目がきらついてるのは気にしないことにした。

 

 椅子に座る京也と、隣の私、私の目の前の虚さん、簀巻の上に腰掛ける簪ちゃん。

 

 この状態で、昨日から何度目かの話し合いが開かれた。

 

 

 

 

「まず、一夏さんの今後についての報告を」

 

 最初は虚さんか切り出した。

 

「一夏さんの転校手続きや引っ越し作業についてはこちらでやっている最中です。流石にすぐにどうとなる訳ではありませんので、苦しいと思いますが、学校は2・3日は同じところに通ってもらうことをご了承願います」

「……わかりました」

 

 まあ、そう早くはあそこから離れることは出来ないよね。

 

 明日からまた違う世界になることを少し期待していたからか、気分が落ち込む。でも頑張ろう。

 

 私をみた虚さんの顔は少し申し訳なさそうにしていたけれど、話しはまだ終わりではない。

 

「次に引っ越しついてですが、これは一夏さんに私達、更識家に住んでもらおうと考えています荷物も運んでいる最中です。もちろん女集でやってますよ」

 

 事後承諾の形になってしまい、申し訳ありません。そういって虚さんが頭を下げた。

 

「い、いえ!全然いいです!私もそれで大丈夫です!あ……でも」

 

 思わず京也を見る。更識家に行く、ということは京也と一緒にいられなくなるということだ。

 

 会えない訳じゃないのはわかっている。だけど、たった1日一緒にいただけなのに離れたくない、と思っている自分がいるのだ。

 

 ころころと変わる私の表情を見て、虚さんはおかしそうに笑う。

 

「それについては大丈夫ですよ」

「え……?」

「……どういうことだ」

 

 大丈夫、つまり一緒にいられるという言葉に二人がそれぞれ反応する。

 

「つまりですね」

「京さんには戻ってきてもらうってこと。更識家分家、石上家に当主代理として」

 

 簪ちゃんがそう引き継いだ。

 

 ……え?分家?分家ってあの分家?更識家ってそんなすごいところなの?というか当主?

 

「おいこら待て」

 

 私がその言葉に混乱する中、京也が待ったをかける。

 

「石上家には跡取り息子が二人いるだろ。そいつらはどうした」

 

「先代当主、石上白夜氏が逝去なされました」

 

 その言葉を聞いて京也の動きが完全に止まった。

 

「……おいおい、嘘だろ。タチの悪い冗談だろ?」

 

 ……京也のこんな声、初めて聴いた。

 

「事実だよ」

 

 そう告げる簪さんの声も悲しげだった。

 

「……何があった」

 

 京也がそう問いただす。だけどその顔は、この先を聞きたくない、そう言っているようだった。

 

「病が悪化しました。さらに、それを悟られないように、もし気づかれても当主命令で口外しないようにしていたらしいです」

 

 それを聞いた京也が崩れ落ちた。私は、それを見ていられなくて、その頭を胸に抱いた。

 

 その白夜さんは京也の大切な人だったのだろう。私はその人が誰なのか知らない。だから何も言えない。そのことがもどかしい。

 

「……続けてくれ」

 

 しばらくして落ち着いたらしく、私を離した京也は続きを促す。

 

「……わかりました。では、続けます。石上家次期当主は長男の健一氏。ですが、歳は私と同じの未成年です。それまでは奥様の春様が当主代理ですが、その春様が京也さんを当主代理に指名しました」

 

 そこまで言うと虚さんは一息入れる。

 

「みんな、戻ってきてほしいんだよ。それはお父さんも、従者のみんなも。それにさ」

「お母さんにも、たまには会いに来てよ。きっと喜ぶから」

 

 簪ちゃんが後押しするかのように言う。それを聞いて京也さんは観念したらしい。

 

「……健一が成人するまでだ。それ以上はいられねぇぞ」

「ありがとうございます」

 

 

 

 

 そう言って虚さんは頭を下げた。




予定ではあと2話巻いて原作に入る予定。風呂敷広げすぎて回収できるかすげー不安だけどもう走って衝突して砕けにいこうと思います。

感想、評価、「こんなのISじゃねーよ!」という文句があれば感想欄までどうぞ。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

8

お気に入り登録135件にUAが5,000突破寸前、評価にも9が付くなど驚くしかないことが続いてうれしい作者。皆様ありがとうございます。はたしてこの作品にそこまでの評価はふさわしいのか。

あ、1評価?あと10倍は予想してたから予想圏内よ?

いつも見てくださる皆様。謝謝。


前半はまじで昨日半寝で書いたからめちゃくちゃだと思うの


「では、一夏さん。何か聞きたいことはありませんか?」

 

 どうにか今後のことが決まり、虚さんが確認のためか聞いてくる。

 

「……石上家って何ですか」

 

 せっかくなので色々聞き出すことにする。京也のことを少しでも知るいい機会だ。

 

「では、まずは……」

「俺が言う」

 

 虚さんが何か言いかけ、それに被せるように京也が答える。

 

「まず、石上家は更識家の分家って言ったが実際は従者みたいなもんだ。昔の当主が双子だったらしく、識者の兄と武の弟がどちらが当主となるかを話し合ったときに兄が引継ぎ、その兄が弟に自分の子孫と従者の家系に武術を伝えるように言って分けたことが始まり、らしい。」

「実際、私達も京さんや白夜さんにお世話になったことがある」

 

 京也の言葉に簪ちゃんがうなずく。

 

「とくにお姉ちゃんはすごく強いよ。京さんが10本相手して2本とれるくらい」

 

 ごめん簪ちゃん、基準が今一わからない。

 

 とりあえず次の質問だ。

 

「じゃあ当主代理っていうのは?京也は何で後を継いでないの?」

「継いでないんじゃない、継げないんだ」

 

 その言葉の意味が分からず、京也の顔を見る。

 

「俺は拾われたんだよ。今のお前みたいにな」

 

 京也のその言葉はとても重たい声だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 もういいだろ。

 

 そう言って京也は虚さん達を少々強引に帰した。虚さんも不満とかはなかったようで、本音ちゃんを引きずりながら素直に部屋を出ていった。

 

 そして、私と京也だけの今。

 

 お昼を簡単に済ませた私達は、ただ無言で静かな時間を過ごしていた。思えば昨日のシャワー以来だろうか。京也と二人きりでいる空間は。

 

 壁に背もたれて座る京也の足の隙間に身体を入れて、全身で京也の存在を感じとる。

 

 京也の腕をとって回し、私を抱いているかのように拘束させると、とても安心出来て心地いい。

 

 正面から抱き着こうかとも思ったが、これはこれでいいものだった。

 

「……ねぇ京也」

「なんだ」

「私みたいに拾われたってどういうこと?」

「俺にもお前みたいなときがあったんだよ。どうしようもなくて、死にてぇと思った時期がな」

「だから私を拾ってくれたんだね」

「……お前は俺じゃねぇよ」

 

 静かな部屋に流れる静かな会話。出会って一日しか経っていないのに、何となく言いたいことが言わなくても通じてちょっと面白い。

 

「それでも京也は私に似てる、だからこんなに安心するんだ」

「俺はそれを消そうとすることも出来るんだぞ」

「私思うの。人が誰かを蹴落とそうとするのは達成感が欲しいから、その安心感を自分のものにしたいからだって」

 

 これは私の考え。きっと間違っているし、くだらない。でもこれだけは確信できる。

 

「京也は私の安心を消さない。だってボロ雑巾の安心感なんて、自分のものにしても意味がないじゃない?」

「じゃあそんなもんを寄越せって俺が言ったらどうすんだ」

「こんなものでいいなら、私は京也になら差し出すよ。だって私は京也のものだもの」

 

 それに、と身体を反転させて向き合う形になり目を見る。

 

「私は嬉しくなるよ、京也は私が欲しいから拾ったんだって思えて」

「……そうかい」

 

 再び訪れる静寂の空間。今度は京也の足を胡坐にし、その上で丸くなって横になる。気分は御主人様に構ってほしい捨て犬だ。

 

 京也は私が何をしても、何も言わない。私の全てを受け入れてくれる。そんなことを感じさせてくれるこの人が好きだ。

 

 だからだろうか、ちょっと眠くなってきた。

 

「……京也」

「なんだ」

「私、頑張るよ」

 

 膝の上で微睡みながら、私は寝言のように決意をあらわにする。

 

「これから学校が変わるまで私は笑い続けるの。そして教えてやるんだ、私が笑えることを、お前達のやってきたことは無意味になったんだって。無駄な時間を過ごしてご愁傷様ってね」

 

 あの人達はどんな顔をするだろう。生意気な、とさらにいじめが苛烈になるかもしれないかな。それとも驚くだろうか。

 

 いずれにせよ、これからは色々と楽しみだ。楽しみで仕方ない。

 

 それに、また苦しいことがあったら京也の背中へ飛びつこう。

 

 京也の手が私の頭を撫でる。それがとどめになったのか、私は京也の上でくぅくぅ寝息を立てるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ここからはこれからあったことを話そうと思う。

 

 先ず、私は刀奈ちゃんたちの学校へ転校した。

 

 前の学校では笑みを絶やさなかった。それだけで、ほかの人達は驚いていたけれど、下校時に京也に迎えにきてもらって飛びつくともっと驚かれた。初日に、勢いよすぎて、飛んだところでアイアンクローされたのはいい思い出だ。

 

 私の転校を告げる先生の声は淡々としていた。まあ、私というおもちゃが消えてどうしよう、とか邪魔者がいなくなって清々した、とかそんなことを考えていたのだろう。

 

 いじめは予想通り苛烈になった。でも笑って流していたら、最終日には何も来なくなった。

 

 そういえば告白の呼び出しっぽいこともされたっけ。まあ一切受ける気がなかったから行かなかったけれど。

 

 あなたの中に、虚構の私を置くのは構わないよ。でも、私の心はもうないから。

 

 そうして転校したけれど、そこは前のところとは違ってみんな優しかった。最初は緊張したけど徐々に打ち解けることには成功していったと思う。

 

 それより驚いたのは、生徒会長が刀奈ちゃんだったということだ。

 

 簀巻にされて、妹の簪ちゃんに責められて悦んでいる刀奈ちゃんが、だ。

 

 正直大丈夫なのかと思ったけれど、生徒会長として檀上に立つ刀奈ちゃんはしっかりとしていてかっこよかった。

 

 勉強は前のところよりもレベルが高かったので追いつくのは大変だったが、そこは更識姉妹様様だ。

 

 

 次に更識家について。

 

 更識家はかなり規模の大きい日本屋敷だった。昔、お姉ちゃんと散歩したときにとても大きな屋敷で印象に残っていたのだが、まさかここだとは思わなかった。

 

 引っ越しが終わったと連絡をもらった次の日、さっそく京也と屋敷へと向かったのだが、京也の入り方には流石に呆れた。

 

 屋敷の前に着いて京也がしたことはインターホンを押すことではなく、準備運動だった。そして、終えたあと着ていたパーカーのフードを深くかぶる。もう何をする気なのか想像がついてしまったが、私が止める前に、よくドラマとかで見る木製の大きな扉の前に立ち、

 

 重たそうなそれを蹴り開けた。

 

 やの付く討ち入りとか道場破りじゃないんだからと呆れたが、そこから先はもっとひどかった。

 

 蹴り開けて早々、一番近くにいた人がひるんでいる隙に一撃入れて投げ飛ばす。そうして、撃退に出向いた人達相手に大乱闘を繰り広げ始めたのだ。

 

 ちなみに私はというと、仲間と勘違いされて襲われるという定番の展開は無く、そろりと寄ってきた女性に安全な場所まで保護されていた。

 

 ただ、その保護してくれたのがあの時の女だったので、よしこっちも大乱闘だと考えてしまったが、目の前での騒ぎに混ざるようでアホらしくなり止めた。

 

 大乱闘を呆れた目で観戦すること5分ほど。

 

「何してんだバカどもがぁ!!!」

 

 と女性の怒鳴り声が聞こえ、家屋の方から刀やら薙刀やら槍やらが大量に降り注ぎ、全員が地面に縫い付けられ、家屋から影が走ったかと思うと参加者全員に高速で鉄拳制裁を下した女性が私の前に現れたところで大乱闘はゲームセットとなったのだった。

 

 参加者全員にお説教の雷が落ちるなか、私は家屋へ向かうと、虚さんと今回はクマではなく、ライオンの着ぐるみ姿の本音ちゃんが出迎えて、部屋まで案内してくれた。

 

 部屋に荷物を置いて、居間で待つ。程なくして京也が三人の人を連れてきて戻ってきたので自己紹介が始まる。

 

 本来の石上家当主代理の石上春さん、石上家時期当主で私の1つ上の石上健一さん、弟で私の2つ下の石上信二くん。信二くんは京也にコアラのようにしがみついて離れる気は当分なさそうだった。

 

 春さんが、さっきの大乱闘を止めた人物で、健一さんと信二くんは傷だらけだった。あの大乱闘に本来止めるべきであろう次期当主が参加していてよかったのだろうかとも思ったが、二人とも満足気だったのでまあいいかと思ってしまった。

 

 ちなみに、刀奈ちゃんと簪ちゃんもあの乱闘に参加していたらしい。いいのか。それでいいのか更識姉妹。

 

 ……大分脱線してしまった。

 

 とにかく、私は更識家の人達に受け入れられ、更識一夏と名前を改めるのだった。

 

 

 

 私はIS学園を目指すことにした。

 

 理由としては、刀奈ちゃんがそこへ進学して、簪ちゃんも日本の代表候補生ということで興味が出たというのもあり、適正を測ってみるとかなり優秀なランクが出たのも後押しとなった。しかし、お姉ちゃんが軍属を止め、IS学園に教員として入ったことが大きいだろう。

 

 主に部屋の惨劇処理のために。

 

 あれを誰かにやらせるのはなんだか申し訳ないし。

 

 それに、IS以外の方面でも高度な教育を受けられるので。受けて損はない。

 

 京也と離れてしまうことになってしまうが、それに関してはすぐに解決した。

 

 それは、月に2度の体術指南である。

 

 これはあとから知ったのだが、将来もISをパイロットとして動かす人は自国の軍属にならなければいけないらしい。

 

 つまり、ISだけを動かせばいい、という訳ではなくなるのだ。

 

 そこで、更識家武術指南役の石上家にIS学園から武術指南を依頼され、それを京也は受けた。

 

 女生徒だらけのIS学園に男性が来て大丈夫なのかとも思うが、男性の事務員もいるそうなので、多分大丈夫だと思いたい。

 

 京也に色目使ったら容赦はしないけどね。

 

 

 

 

 まあ、大体はこんなものだろう。

 

 ほかにも色々なことがあった。

 

 刀奈ちゃんが日本のISパイロット代表となったり。

 

 京也が帰ってきたことを知って、先代当主の楯無さんが泣き付いたり。

 

 更識に向かい入れられた日の夜の宴会で、京也の周りが女ばっかりで、腹が立って京也にドロップしたり。

 

 夜這い対策で常に私が京也の布団に勝手に潜り込んで寝たり。

 

 帰国したお姉ちゃんと京也が出会って3秒で殴りあって同時に倒れたのを見て笑ったり。

 

 久しぶりにお姉ちゃんとお風呂に入ったり。

 

 たまに簪ちゃんの部屋から聞こえる声に悶々としたり。

 

 でも、京也やみんなの過去、私を襲いかけた真犯人の情報、わからないこともたくさんある。

 

 そしてこれが一番、世間に驚愕と謎を呼んだだろう。

 

 

 

 

 

 

 世界初、ただ一人の男性IS起動者。

 

 

 

 名前を大川光輝。私の元いた中学の同じクラスに在籍していた男子生徒である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ……らしい。だって、面識ないし。私をいじめていたやつらの顔はかつて復讐のために覚えていたけれど、顔写真をテレビで見てもピンとこなかった。更識家が調べた結果報告で、初めて知ったくらいだし。

 

 学園でも一波乱ありそうだ。私は京也に抱き着いて昼寝する信二くんを京也と挟むように抱きしめながらそう思った。

 

 信二くん、弟みたいでかわいいなぁ……。




次回、みんな大好きなあれのターン。




感想、指摘、「巻きすぎなんだよごらぁ!」という文句があればぜひ感想欄へ


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

9

ようやく転生者君を出せました。転生好きな皆様、お待たせいたしました。

て言ったけど実質説明回だわこれ。

あとでタグにもちょっと要素を追加する予定です。

評価も自分予想を超えているなか、頑張って更新していこうと思います。

見てくださる皆様、謝謝。


 さて、唐突だが一人の哀れな子羊()の話しをしよう。

 

 彼の()の名前は大川光輝。

 

 まあ、先に言ってしまえば転生者という存在である。

 

 彼は転生前はまあそこまでパッとしない生活を送ってきた一般大学生だった。

 

 親に失礼だが、転生前の名前もあまり気に入らなく、モテるわけでもなく、サークルにも属しているが周りはリア充ばかりでやる気も起きず幽霊気味。友人関係もあまり少ないボッチの人種だった。

 

 しかし、ある出来事が彼の状況を劇的に変えた。

 

 それは、とある日の昼間のことだった。

 

 その日あった講義をサボって街まで出かけていた彼はただぼんやりと歩きながらスマホをいじっていた。しかし、それ故に赤信号に気づけなく、クラクションの音に驚き、目前の車を認識したときには身体が硬直してしまっていた。自業自得だが、不幸なことでもある。

 

 そして彼のやせているとは言えない身体に後ろから(・・・・)衝撃が走る。誰かに押されたのだ。

 

 それが彼の死に王手をかけてしまった。今日の彼の不幸の度合いは過去最高のものと言ってもいいだろう。

 

 先に言ってしまうと、彼を押したのは一人の少女としてこの世界を遊び歩いていた、転生を司る女神だった。

 

 転生神としての権能を持つ彼女は人の死期を観ることが出来る。その力で、本来死ぬべきではない人間をその力で救い、最後まで生きた者を転生させるのが彼女の役割である。

 

 

 そうほいほい転生させまくってもいいわけでもないのだ。もちろん理由はある。

 

 

 そして大川光輝は本来死すべき人間ではなかった。気づいたときには遅く、力を使うのも間に合わないと判断した彼女は、原始的であるが車と衝突しそうな彼を押した。

 

 

 が、しかし。焦ってしまい力の加減をすることなく押してしまったのだ。

 

 

 加減無しの神の一撃、到底人の身で耐えることは不可能である。当然、彼の身体は吹っ飛んだ。背骨や肋骨を複雑に骨折しながら。

 

 轢かれなくても間違いなく、肺や心臓に骨が刺さり、苦しみながら死ぬだろう。だが、それだけでは終わらなかった。

 

 対向車線を走っていた、半自動転生マシーンこと、転生したいみんな大好きトラックさんに正面から衝突したのだ。

 

 神の一撃に加え、トラックへの正面衝突。彼は間もなく死亡した。

 

 救済対象の殺害。これだけでもこの女神の罪は十分重たいが、罪状はまだまだ増える(もう一度遊べるドン)

 

 神の身体に、本来彼を轢いてしまうはずだった車が衝突したのだ。その身体はフロントガラスを貫通し、運転手の若い男に衝突。男の身体は、高次元の存在との衝突に耐えられず、魂ごと消滅した。これではどうすることも出来ない。

 

 その後、急いで子羊の魂を回収した彼女は即座に神界へと向かうのだった。

 

 

 

 大川光輝が目を覚まし、すぐに見た光景はどこか神聖さを感じる部屋。

 

 そして、その中心で土下座するロリ巨乳の少女だった。

 

 話しを聞くに、転生お決まりの流れになったと悟った彼は、自分の身に起きた悲劇を利用し、転生先からチートまで、彼女が出来る範囲の決め事を自分で決めた。

 

 内容を箇条書きするとこうだ。

 ・転生先はインフィニット・ストラトス

 ・洗脳チート

 ・ISを操縦できる男性を自分だけに限定

 ・転生者の介入を禁止

 ・機体のベースはストライクフリーダムガンダム

 ・IS適正はSランク

 ・名前、容姿の設定

 

 ……どう考えても多すぎで盛りすぎだろう。

 

 そう女神も思ったが、自分のやってしまったことの隠蔽も早く行わなければならない。

 

 女神はその通りに彼を転生させ、事態の隠蔽工作にとりかかった。

 

 

 

 

 

 

 

 彼は思った。「このまま行けば織斑一夏はISを動かさず、IS学園に入ることもなく、自分は巨乳ヒロインハーレムを作ることが出来る」と。

 

 しかし、女神が許しても、世界の(ことわり)はそれを受け入れなかった。

 

 彼が転生して生れ落ちると共に、織斑一夏の性別を原作通りの男ではなく、その逆の女として生まれるように運命を変化させたのだ。

 

 織斑一夏はISを動かせること、ハーレムを作る可能性があること、これらを満たすための措置である。

 

 ちなみに、大川光輝がチートを決めるときに「ハーレム形成の確定」を出来なかったのも、この世界の力が動いたからである。

 

 それについて子羊が気づき、考察するのは人生二度目の小学校入学、その最初のクラスで織斑一夏の名前を見つけたときだった。

 

 そして彼は気づかない。異物(転生者)の存在はそれだけで様々な者の運命を変えてしまうのだと。

 

 

 織斑一夏は女性である。なるほど、これならISは動かせるしハーレムも作れない。そう安心した彼だが、この転生者は変なところで高学歴だった。

 

 

 

 そう、それは未来で確定した女尊男卑風潮による「一夏レズハーレム」の可能性……!!

 

 

 

 これを考えてしまったのだ。

 

 早速、彼は不安要素の排除にとりかかる。といっても洗脳チートはこれまた世界の意思で原作ネームドキャラには通じない。

 

 ならばどうするか。答えは簡単。

 

 小学校では必ず起こる問題、「いじめ」を利用すればいい。

 

 方針が決まればあとは行動するのみ。早速洗脳チートで織斑一夏にいじめが向くように仕掛ける。

 

 織斑一夏のバックには世界最強となる存在に、天災と呼ばれる存在がいる。自ら直接手を下し、破滅するリスクを冒すのは愚策だろう。

 

 それは、長い年月をかけて行われた。やがて起こる「白騎士事件」とISの登場は彼のプランを後押しするものとなった。

 

 途中、原作キャラの凰 鈴音の邪魔が入るが、所詮は貧乳の未来が約束された弱者だ。巨乳派の彼に落とす気はないし、その邪魔も彼女が中国に帰るまでだ。

 

 

 そして、その時は訪れる。

 

 織斑一夏が衰弱していくのが目に見えて表れる。精神的に完全に殺すならば今週末だろう。

 

 これで、織斑一夏排除計画は完遂される予定だった。

 

 あとは、先日洗脳したチンピラを織斑家に仕向け、自殺に追い込む。

 

 計画は完璧だった。しかし、誤算が一つあった。

 

 織斑一夏の心が彼の想像以上に衰弱しすぎていたのである。

 

 彼女は、計画実行の日、自殺をする予定で外に出た。そのせいで誰もいない家に刺客を仕向けることになったのだ。

 

 その後は皆様が知る通り。

 

 自分の部屋でくつろいで、洗脳した同級生を腕の中で抱きながらほくそ笑み、報告を待つだけの彼は来るはずの報告が来ないことに首を傾げながらその日をすごした。

 

 

 そして、空き巣強盗が現行犯逮捕されたことを、彼は朝のニュースで知った。名前は出ていないが、その家の長女が知人に保護されているとのことも。

 

 当然、細かい内容は更識家が情報操作を施しているのだが、これまた当然のように彼は気づかない。

 

 すぐに洗脳した手下を使って捜索させたが、何もわからず仕舞い。そして、その日から彼はどこか身体が重たくなるのを感じた。

 

 

 この頃、神界でもとても大きな事件が発覚していた。

 

 転生女神の隠蔽が発覚したのだ。

 

 発覚の原因は、その女神の成績の悪さだった。

 

 先ほど「転生させすぎてはいけない」と言ったのを覚えているだろうか。

 

 それは、転生時のチートは転生者が生きているかぎり、神に負担がかかるからである。さらに、その負担は量と質に比例するのだ。

 

 大川光輝のチートははっきり言って量も質も半端じゃない。女神の負担の6~7割はこの負担のせいである。

 

 そのおかげで、他の転生者のチート規模が今まで以上に縮小し、人数も激減、それを不信に思った新人転生女神が詳しく調べ、発覚したのだ。

 

 あってはならない神の不手際、さらに何も関係ない一般人まで殺しているのだ。当然あっていいわけではない。

 

 すぐさま、隠蔽した女神は罰が下され、空いた席には新人女神が就任した。しかし、新人なだけあってもう負担容量が手一杯になってしまった。

 

 一度決めたことを破るなど、それこそ神の禁忌。辛いから降ろす、なんてことは出来ないのだ。

 

 

 

 

 話しを大川光輝へと戻そう。

 

 その日以来、彼の洗脳の力は弱まった。担当女神が変わり、負担が仕切れないためにその力を弱くすることしかできなかったのだ。

 

 そして、月曜日。織斑一夏を見た彼は、驚き固まった。そこには笑顔いっぱいの彼女の姿があったのだ。

 

 計画が崩れる音が聞こえる。さっそく、同級生(手下)を仕掛けたが力が弱く、なにより彼女に効いていない。

 

 まるで別人のようだった。そう思うのも無理はないだろう。

 

 やがて、彼女は転校し、その後の足取りはつかめなかった。

 

 もうここまできたら原作内で彼女を殺すしかない。彼はそう考え、来るときまで静かにすごすのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 彼は気づかない。

 

 

 音を立てて崩れ去ったのは計画だけではなく、己の運命もそうだったことを。

 

 

 これから先、衝きつけられるのは自分の知る世界(シナリオ)とは全く別物であることを。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ちなみに、不手際を起こした駄女神は他の神々によって深淵に叩き込まれ、今でも神々とゴッドプレイに興じております。

 

 旧神(エルダーゴッド)旧支配者(グレート・オールド・ワン)外なる神(アウターゴッド)とよりどりみどり!きっとあなたの思いもよらぬ冒涜的な酒池肉林が繰り広げられているでしょう。

 

 こうして、神という存在は産まれてくるのです。

 

 

 え?

 

 

 見たいって?

 

 

 ならばさっそく、深淵を覗いてみましょう。大丈夫、オリハルコンのようなメンタルがあればきっと見られることでしょう。

 

 ですがもし見るのならお気を付けを。深淵をあなたがのぞくとき、また深淵もあなたを見ているのですから……




テンセイシャー君の機体がストフリの理由。
作 者 が 好 き だ か ら。
色々と言われている機体だけどあの魔王の出す絶望感が良い……良くない?
あとはうちのプラモ見ながら書けるのもあったり。ガンダム要素はこれだけです。

感想、指摘、「もっと他に機体あっただろうが!」という文句があれば是非感想欄まで。


ちなみに、最後のに関して私は一切の責任を問いませんので覗くならば自己責任で。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

9話までのキャラ設定(ネタばれ注意)

毎度皆様、本作品を読んで下さりありがとうございます。
区切りが丁度いいので自分のキャラ整理も兼ねて今までの主なキャラ設定を置いておきます。
初見の方はネタバレ注意です。

追記:誤字報告をさっそくもらいました。多分このように気づかぬ間違いは多くなると思うのでこれ以降も見つけ次第ガンガン報告してくださると助かります。


・織斑一夏 性別:女

好き:お風呂、姉との電話

嫌い:孤独

 

 本作のW主人公の片割れであり、原作では主人公を務める。

 こちらの時空では女体化しており、ある意味駄女神の被害者。

 原作と違い、友達は鈴音だけ、精神的末期などハードモードを強いられている。京也との出会いは人としての感情を取り戻すきっかけとなった。

 現在は更識家に養子として入り、更識一夏と名乗る。

 

 書く時のイメージは子犬、または子猫。

 

 ちなみに本来のまま時間が流れればレズハーレム形成の可能性は大いにあった。

 

 

 

 

 

・石上京也 性別:男

好き:乱闘、コーヒー

嫌い:女尊男卑思考

 

 本作W主人公の片割れであり、オリキャラ。

 書いているうちに設定がもりもり生えて、気づけば石上家当主代理にまで一瞬で昇っていた。作者もこれにはびっくり。

 なかなかに過去が重いけど、それのせいか変にハーレムが自然と出来ちゃっている人。本人は胃が静かに痛い。

 ちなみに戦闘力は本気の千冬相手に全力を出して約1分持って負ける程度。本当はガチの一般人の予定だったのにどうしてこうなった。

 

 書く時のイメージはちょっと怖いけど父性出てるお兄さん。

 

 正直、これ以上設定が生えないでくれとも作者が切実に願う主人公。でも多分無慈悲に増える。

 

 

 

 

 

・織斑千冬 性別:女

好き:酒、教え子

嫌い:一夏の敵

 

 織斑一夏の姉。一夏が男じゃなくて女なためか原作よりも愛情は深い。

 本当はドイツに一夏ちゃんもつれていきたかったけれど外国の治安が不安だったので泣く泣く断念。尚日本もダメだった模様。

 大きなお胸は一夏ちゃんに育てられました(意味深)。

 

 作者的に意外と扱いやすかった超人女王様。

 

 

 

 

 

・更識刀奈 性別:女

好き:自由、和菓子

嫌い:簪の制裁(本人談)

 

 原作ヒロイン組1号。こっちでも駄姉ちゃんだけど仕事はするよ。ほんとだよ。

 原作と違い、姉妹仲は良好。たまに一緒に寝てる。楯無の名はまだ引き継いでいない。

 気づいたらドM属性が付与されていた作者の被害者。

 

 オリジナル要素として今作ではロシアの代表ではなく、日本代表。

 

 

 

 

 

・更識簪 性別:女

好き:人の声、特撮

嫌い:自分と京也以外に姉をいじめる者

 

 原作ヒロイン組2号。特撮好きなのは原作と変わらない。

 原作と違い、姉妹仲は良好。たまに寝ている姉をいじる。IS開発は順調。日本代表候補生。

 唐突にドS属性が付与された作者の被害者。

 

 正直、ドSな簪様を書いているときが一番楽しい。

 

 

 

 

 

・布仏本音 性別:女

好き:誰かの世話、肉

嫌い:過去の自分

 

 原作ヒロイン組3号。最新刊でヒロイン化していたらしいけれど作者は読んでないからしりません。

 常に全身が着ぐるみ姿、すぐ顔を取らないといけないときでも大丈夫なように仮面をつけてその上に着ぐるみの顔を被る。

 かなり重い過去を付与された作者の被害者。

 

 口調がつかみづらくてちょっと扱いに困っていたりする。着ぐるみの機構がどうなっているのかって?ISの技術の謎応用。

 

 

 

 

 

 

・布仏虚 性別:女

好き:書類がない時間、お茶

嫌い:刀奈の後片付け

 

 原作ヒロイン組4号。ヒロインじゃないけれどこう書かせてくれ。

 執務から逃げる刀奈の事後処理担当。毎回頭痛の絶えない苦労人。

 やっぱり重い過去付与された作者の被害者。描写はないけど、ここまで来て彼女だけ何もないなんて落ちは当然無い。

 

 今後登場の機会が増えることを祈るキャラ。

 

 

 

 

 

・雛森蓮 性別:女

好き:コーヒー、人の温もり

嫌い:人の目線

 

 オリキャラにて準ヒロイン筆頭。長い黒髪を後ろでまとめるのが基本スタイルのクールビューティ。京也に変なハーレム疑惑設定を生んだ張本人。

 人に肌を見せるのを同性相手にも嫌う、ちなみにプロポーションは抜群です。もったいない。

 昔、色々あって京也に何回も世話になった人。

 

 書く時のイメージは落ち着いた大人の女性。

 

 一夏ちゃんを嫉妬させるために生まれた人だけど何気に作者の気に入っているキャラ。

 

 

 

 

・石上春 性別:女性

好き:息子達、従者のみんな

嫌い:乱闘騒ぎ

 

 オリキャラ。15歳と12歳の息子がいる未亡人兼本来の当主代理。ちなみに乱闘を止めた時の投げられた武器は全て彼女の仕業。尚、嫌いと言いつつもたまに混ざるもよう。

 

 

 

 

 

・石上健一 性別:男

好き:鍛錬、水

嫌い:弓(嫌いというより苦手)

 

 オリキャラ。石上家時期当主にて長男。成人になったら当主になる予定だが、本人は京也を倒すまで継ぐ気はない。

 

 

 

 

 

・石上信二 性別:男

好き:鍛錬、昼寝

嫌い:勉強

 

 オリキャラ。石上家次男。まだまだ遊びたい盛りの元気っこ。京也に一番懐いているであろう子。みんなの弟。

 

 

 

 

・石上白夜 性別:男

好き:妻、鍛錬

嫌い:細かい作業

 

 故人。オリキャラ。石上家先代当主。昔、京也を拾った張本人。ちなみに戦闘力は千冬相手に10本中7本とれるくらい。

 

 

 

 

 

・大川光輝 性別:男

好き:巨乳、策を練る

嫌い:想定外の結果

 

 オリキャラにて本作の転生者。女神の不手際とは言え、ちょっとやりすぎた。

 機体にストフリを要求したが実力は如何に。

 Yes big No small.

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・転生女神

 

 全 て の 元 凶。




うん……作者の被害者しかいねぇ。

原作キャラが好きな皆様、本当にすみません。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

10(原作開始)

昨日の午後6時頃に何となく日刊ランキングを見てみればまさかの60位に拾われがあって噴きました。コーヒーが空でよかった。
ちなみに昨日の返信した時間辺りでは消えていたので載ってた時は運営さまが間違えて載せてしまったのでしょう。うん、きっとそうなんだ。
あと誤字報告ありがとうございます。

いつも読んでくださる皆様、謝謝。


今回いつもより読みにくいかと思います。すんません。


 障子の隙間から差し込む日光とさえずる雀の鳴き声で少女は目を覚ました。

 

 起きたときには、一緒に寝た……というよりいつも通り少女が押しかけ、寝てもらった部屋の主の存在が布団の中に感じられなかったので、朝の鍛錬を行っている頃だろう。

 

 いつもならすぐにジャージに着替え、途中でもいいからそれに混ざるのだが、昨日は明日のことで緊張していたためかあまり寝付けなかったのでまだ眠い。

 

 布団の中から腕を伸ばし、目覚まし時計を手探りで探す。

 

 時計の針は05:30と指していた。

 

「……大丈夫、まだ30分は寝れ…る…」

 

 そう言って少女の意識はすぐに落とされる。

 

 

 この後30分どころではなく1時間寝過ごし、頭を部屋の主にはたかれて起こされ、大慌てするのは言うまでもない。

 

 

 なんで起こさなかったのかと真新しい制服に着替えながら聞いてみれば答えは単純。

 

「自分で起きろや高校生」

 

 ああ、無情。しかし寝過ごしたのは自分である。

 

 急いで最低限の準備をし、先に行った友人に追いつく為に走るための屈伸運動。

 

 そして、玄関まで見送ってくれた大切な人へ一言。

 

「京也の薄情者ー!いってきまーす!」

 

 そうして更識一夏の朝は始まった。

 

 4月10日。IS学園入学式当日のことである。

 

 

 

 

 

 

 IS学園1年1組の教室は異質な雰囲気に包まれていた。

 

 入学式の長い話も終わり、あとは担任が来るのを待つだけなのだが教室内は時が止まったような空間となっていた。

 

 一緒に来た友人と談笑する声、外国人のクラスメートにアプローチしようと試みるチャレンジャーの姿。

 

 それらが一切無く、ほぼ全員が教卓の目の前の席に座る男子生徒(・・・・)をただ黙ってじっと凝視しているのだ。

 

 見慣れぬ男子にどうしたらいいのかわからず困惑する視線。「何故ここに男が…」と敵視する視線。興味深くじっくりと観察するある意味一番迷惑な視線。

 

 そしてその渦中にいる当人。世界初ISを動かした男性こと大川光輝といえば。

 

(原作の織斑一夏ってこんな視線浴びて過ごしていたのかよこえーよ何人かが捕食対象を観察する目じゃねーか!)

 

 完全におびえていた。

 

 まあ無理もないことだろう。むしろ原作の彼はよくこの状況で幼馴染の方へ顔を向けたものだ。

 

 その視線の中には自分が蹴落とすべき少女の存在も混じっていたのだが、

 

(……だめだ、やっぱり思い出せないや。それより眠い……)

 

 その少女はすぐに視線を外し、机に突っ伏し寝ようと腕を組んだ。

 

 

 そのときだ。

 

「すいませーん、遅くなりましたー」

 

 ガラガラと音を立てて引き戸が開かれた音に反応して少女はそちらに視線を向け、直後に眠気が飛んだ。入ってきたのは、眼鏡をかけ、幼さの残る顔立ちのおっとりとした印象の女性。

 

 そしてなにより凶悪な胸部装甲に視線がくぎ付けになる。

 

(お姉ちゃんと同等…いや、それ以上!?)

 

 姉以上の武器を目の前にし、戦慄。どう考えても「お前それでいいのか」と言われそうな反応だが、あれに反応するなと言われる方が少女にとっては無理な話である。

 

 しかし、その人物に反応したのは極少数。やはり、教員よりも男子生徒の方が珍しいのだ。

 

 もっとも、当の男子は目の前の揺れる胸部装甲にくぎ付けでそれどころではないのだが。

 

 目の前の先生は反応が無かったことに不満なのかちょっとだけ「むぅ」と頬を膨らませるとすぐに顔を戻し。

 

「副担任の山田真耶です。まずは入学式お疲れ様でした。今後の日程の説明の前に自己紹介を終わらせておきたいので、出席番号1番の方からお願いします……聞こえていますか?」

 

 その言葉に何人かは返事をする素振りをする。しかし、この異質な雰囲気の中で返事をする、というのはなかなかに厳しい。

 

 顔全体を包帯で巻いたミイラのような少女は例外だったらしく。だぼっとした袖を揺らしながら右腕全体を挙げていたが。

 

 それでもその女性は満足しなかったらしく、腕を後ろに回し、

 

 直後「ズドンッ」という大きな音が教卓側から聞こえ、全員の意識がそちらへと向いた。

 

 そして生徒達はようやく気付く。(彼女たちにとって)いつの間にか入っていた笑顔の女性。

 

 その女性が窓へと伸ばす腕の先にある硝煙を上げる黒光りする一丁の拳銃に。

 

「教師の言葉に返答も無し……先生は悲しいです。まず挨拶をすることは世界共通だと思っていたのですが。ですので、先生は考えました。挨拶がないなら挨拶せざるを得ない状況を作ればいいのだと!という訳で、まだ返事がないようなのであと2、3回ずどんっと行きますね。ああ、死人が出てもご安心を。必要な犠牲(コラテラルダメージ)、というものですっ」

「「「申し訳ございませんでしたぁ!!!おはようございます!!!」」」

 

 先生の冗談なのか本気なのかわからない口調、いや、あれは多分本気だ。そう嫌でも認識した彼女たちは各々の国の言葉で返事を返す。ISの登場以来、開発者が日本人ということもあり公用語として日本語が追加されており、当然ここにいる者は全員話せるのだがそんなことを気にする余裕など微塵もない。

 

「はい、よくできました。あと、このクラスは日本の方が多めに在籍していますけれど、話しづらかったら無理に日本語じゃなくてもいいですからね?大丈夫です、みんな毎日聞いているうちにだんだんと覚えていきますよ」

 

 それではさっき言ったように自己紹介をお願いしますね~。巻いていくので質問タイムあとで各自でやってくださいね~。そうふんわりとした声で告げられると1番の生徒から男子を飛ばして自己紹介が始まる。しかし、先ほどのことがあったためか誰もかれもが完全に強張ってしまっていた。

 

 これはあとでもう一回し直さなきゃダメかな。そう一夏は思った。

 

 

 そして満を持して、男子生徒の番が回ってくる。

 

「大川君?大川く~ん。自己紹介をお願いしま~す。」

 

 しかし、反応は無い。そのころ彼の思考は混乱していた。

 

(なんで山田先生が拳銃なんかもってるんだよ!?あのおどおどとした雰囲気はどこへ?)

 

「うーんやはり聞こえていませんか……仕方ありません、ちょっと頬っぺたをかすめてみましょう」

「そこまでにしろ、山田先生」

 

 その声と共に真耶の頭に出席簿がパシンと落とされる。その音で大川の意識が戻ると、IS界のブリュンヒルデ(世界最強)こと織斑千冬が立っていた。

 

「痛っひどいじゃないですか織斑先生!」

「いや貴女が言うことじゃないだろう、雰囲気が完全に自己紹介どころじゃなかったぞ……」

 

 呆れ顔でつっこみを入れる千冬。女子生徒も目の前の存在に気づいたのか、だんだんと声が上がっていった。

 

「うそ、千冬さま?」

「え、本物!?」

「本物の千冬さまよ!私、あなたに会いに九州からやってきました!」

 

 騒がしくなる教室。そこにいる一夏は実の姉を誇らしく思うが、同時に崇拝されているようで嫌になる気分だった。

 

「……毎回思うのだがなんでこんな生徒ばかり集まるんだ?私はそんな大それた人間じゃないんだ。さま付けもやめてくれ」

 

 その言葉で場はさらに盛り上がる。千冬が頭を押さえて注意しようとした瞬間。

 

「静かにしないか。先生が困っている」

 

 決して大きくはなく、しかし凛としていてよく透る声が教室中に響いた。その声で皆一斉に黙り込み、声の主へと向く。

 

「すまないな、篠ノ之。お前達、まだ自己紹介は終わっていないだろう?」

 

 そこで少女たちは今まで頭の隅に追いやっていた男子生徒の存在を思い出す。

 

 その男子はどうにかポーカーフェイスでようやく自己紹介が始めるのだった。

 

「……大川光輝です。世界初、ISを動かしてしまった男ですがどうかみなさんよろしくお願いします」

 

 自己紹介は簡潔に終え、大川は席へ戻る。しかし、彼女たちに不満はない。それ以上に気になる存在がいるからだ。

 

「終わった。では最後は私だな」

 

 そうして千冬は教卓へ向かい、口を開く。

 

「私がこのクラス担任を務める織斑千冬だ。仕事としてはお前達高校1年生を2年生まで育て上げること。私のいうことには基本的にハイかYesで答えろ。ただしそれが正解とは限らない。違うと思ったらすぐにNoと答えろ」

 

 その言葉と共にチャイムが鳴る。

 

「時間も丁度いいな。次の時間からは通知通りに授業を始める。くれぐれも遅れないように」

 

 そう言って千冬と真耶は教室から出て行った。

 

 

 

 

 一夏side

 

 

「少し、いいだろうか」

 

 教科書を準備し、少し予習をしようと教科書を開いた私は声をかけられ顔を上げる。そこには、さっきの騒動を一声で納めた少女の姿があった。

 

 長いポニーテールに大きな胸。そしてピンと伸びた背筋は大和撫子を思わせる。確か名前は……

 

「篠ノ之箒さん、だっけ?」

「ああ、そうだ。……いいだろうか?」

「うん、いいよ。どうしたの?」

「廊下でいいだろうか?少し話しづらくてな……」

 

 あと、箒でいいぞ。そういう箒ちゃんの背中についていき廊下に出る。背筋を伸ばして歩く彼女は格好良く、思わずかっこいいと思ってしまう。

 

「まず確認したい。更識一夏ではなく、本名は織斑一夏で間違いないか?」

「……何でそう思うの?」

「千冬さんから話しには聞いていたんだ、私の家の道場にいたころにな。私にはもったいない妹だと言っていたよ」

 

 その言葉で納得し、思い出す。確かお姉ちゃんはどこかの道場に通っていた。それが箒ちゃんの道場だったのか。

 

「それで、久しぶりにこの前会ったとき同じクラスに妹がいると言っていて気になってな。何となく顔が似ている人は更識しかいなかったからすぐにわかった」

「そういうことだったんだね。あ、私は一夏でいいよ。同じ更識がもう一人いてややこしくなるから。

「そうか。すまない」

「でもどこが話しづらいの?」

「謝りたいんだ」

 

 そう言って箒ちゃんは頭を下げた。私は訳がわからず困惑する。

 

「ちょっと待って、どうしたの急に……!?」

「ISを作ったのは姉さんだ。間接的に貴女を追い詰めたのは私の身内なんだ」

 

 頭を下げたまま、箒ちゃんは答える。

 

「これも千冬さんから聞いたんだ。一夏が苦しんでいたことや自殺寸前まで酷かったことを。本人じゃなくても、その妹として謝らせてくれ」

「……箒ちゃん、顔を上げて」

 

 その言葉で顔を上げた箒ちゃんに手刀を入れる。ぽすっと気の抜けた音がした。そして教室へと身をひるがえす。

 

「……え?」

「罰が欲しいならこれで終わり。さ、教室に戻ろ?」

「ち、ちょっと待ってくれ!こんなものでいいのか!?二度と近づくなとか、それくらいのことは覚悟していたんだぞ!?」

「いいんだよ。こんなもので」

 

 私は箒ちゃんの方へ振り向く。私の顔を見た箒ちゃんの顔はとてもあっけにとられていた。

 

「確かに私はISとお姉ちゃんで苦しんだ、それこそボロ雑巾になるくらい。でも、そんな雑巾を拾ってくれた人と会わせてくれたから今の私は幸せ。ISを憎みもしない」

 

 それよりも、

 

「私は箒ちゃんと友達になりたいよ。これでこの話は終わりにしよ?」

 

 私はそう笑顔で言った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その後、軽く泣き出してしまった箒ちゃんをなだめるのは大変だった。なんでも、私の答えが予想外すぎて混乱しているのと、初めて友達が出来たこととで頭がパンクしてしまったらしい。




最近よく見るブラックやまや先生をやってみた。そういえば中の人って某後輩キャラと声同じでしたね。

感想、評価、「いつにも増してグダグダじゃねーかおめー」と殴り込みたいかたがいれば是非感想欄まで。



やっぱ視点って安定させた方がいいですかね?


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

11

今回やっとセシリアを出せました。口調合ってますかね?

あと新キャラも出ます。と言っても彼女はしばらくはちょい役、といったポジションですが。

毎度読んでくださる皆様、謝謝。


 騒乱のHRが終わり、授業が始まる前の休み時間に入った教室は少しずつにぎやかさが出てきている。

 

 そこにいる唯一の男性、大川光輝は身体にどっと疲れがかかるのを感じ、机に突っ伏していた。

 

(山田先生ってあんなに怖い人だったか?なんかこう……優しさいっぱいのイメージが……)

 

 

 

 

 誤解なきように言うと山田先生はちゃんとやさしい人だ。それはこの世界でも変わらない。

 

 しかし、彼女があそこまで荒れた原因は彼にある。

 

 突然見つかった男性操縦者。それを受け入れる体制とクラスへの編入作業。寮の部屋を確保するための移動作業。IS委員会への電話対応、etc,etc……

 

 電話対応は職員全員がやっていたので、それはまだいい。だが1年1組副担任として、また書類作業が出来ない寮長(千冬)の代わりとして、彼女はギリギリまで必死に頑張っていたのだ。

 

 そりゃあブラックな一面の一つや二つが生まれてしまうのも無理はない。

 

 ちなみに書類作業の出来ない某世界最強は完全にコーヒー運搬係となっていた。

 

 

 

 

 それを知る由もない彼は、自分のイメージとの違いにただ落胆するのだった。

 

 そんな彼の目の前を横切り廊下へと向かう二人の人影。篠ノ之箒と更識一夏である。

 

(織斑一夏……やっぱりこの場所にいたか。今までどこに隠れていたんだ?まあいい、殺す機会はうってつけのタイミングがある)

 

 今はヒロイン攻略に専念しよう。その時を待つだけだ。そう考える彼は確信できるイベントがあることを知っている。

 

(もうそろそろだよな……にしても)

 

 意識から意図的に外していた存在に彼は目を向ける。

 

 そこには、顔全体を包帯でぐるぐると覆っている女子生徒がかがんで、机の下側からこちらを覗いている状況だった。はっきりいうと気味が悪い。

 

(こんなキャラいたっけ?)

 

 そう考えていた大川に話しかける声が聞こえてきた。

 

「ちょっとよろしくて?」

(きた!)

 

 自分が期待していた声に笑いそうな顔をポーカーフェイスで隠し、そちらへと顔を向ける。

 

 そこには彼の予想通り、金髪ロールのお嬢様スタイル全開の女子生徒。

 

 セシリア・オルコットが立っていた。

 

「何ですか?セシリア・オルコットさん」

 

 悪印象を与えないように、顔を見ながら明るい声で言葉を返す。

 

 原作のセシリアといえば女尊男卑思考に染まったキャラだ。つまりこちらへの好感度は最悪な値からスタートすることになる。最初から友好的に接するのが正しいだろう。

 

(あとは原作通りに戦う展開をやんわりと作り、落とす。簡単だな)

 

 そう考えていた彼だが、ふと違和感を感じた。

 

 それはセシリアの「目」である。嫌悪感が感じられなく、値踏みしている感じ。彼はその目に見おぼえがあった。

 

 それはまるで企業の面接官がこちらを観ている眼だ、と。

 

「ふうん……へぇ、そうですの」

「へ?あの、何か……?」

「いえ、何でもありませんわ。男性がISを動かしたというから、どんな人か気になりましてね」

「そ、そうだったのか……で、どんな印象だった?」

「あまり頼りにならなさそう、ですわね」

「ははは……イギリス代表候補生の貴女に言われると確かに」

「あら、私のことを知っていますの」

「そりゃあまあ。ほら、事前情報って必要でしょ?」

 

 そこで彼女の目線が少し弱まる。少しは見直した、ということだろうか。

 

 そうしてカンコーンと鳴る予鈴。

 

「では私はこれで」

「ええ、また話しましょう」

 

 そういって彼女は席へ戻っていった。

 

(……ちっ、あの値踏みするような眼は前世を思い出して嫌になるな。まあいいや、チョロインとしての落ちる速さをこの目で見せてもらおうじゃねぇか)

 

 とりあえず悪印象は避けられた。そう彼は考えていた。

 

 

 

 

 彼は(・・)考えていた。

 

 

 

 

「さて、全員そろっているな。早速授業にはいる……といいたいところだがその前にクラス代表を決めてもらう」

「クラス代表といっても簡単なことしかしません。そう身構えなくても大丈夫ですよ」

 

 予鈴と共に入ってきた教師二人がそういうとクラスは騒がしくなる。クラス代表、というものは誰だってやりたがるものではない。

 

「自薦他薦は問わん。とにかく決めろ」

「じゃあ大川君で!」

 

 千冬の他薦でもいいとの言葉にさっそく大川の名前が出される。

 

「え、お、俺!?」

 

 まあこれも彼は想定内だ。だから今はただ戸惑う振りをする、あとは話しが勝手に進んでいくだろう。ついでにやることもある。

 

「だって唯一の男子だし!」

「そりゃあ持ち上げないとねぇ~」

「あんたわかってるじゃん!あ、今夜空いてる?いや、ちょっと親交を深めにね……」

 

 自分が持ち上げられる。前世では一切無かったのでかなり新鮮な気分だ。一応この世界でも小中と体験したが女子だけ、というのも悪くはない。

 

 演技は続けられる。

 

「待ってくれよ!俺はクラス代表なんてやる気は……」

「大川、お前は選ばれたのだ。推薦した者の意思を無駄にする気か?」

「ぐ……え、えーと……だ、だったら!俺は更識さんを推薦します!」

「へ?私!?」

 

 推されて焦る姿でクラス全体を見まわし、織斑一夏をたまたま目が合ったから、という風に指名する。

 

 彼の計画はこうだ。

 

 まず、セシリアのプライドを焚きつける。原作通りなら、あの高慢お嬢様は自分を抜いて話しを進められることを許さないだろう。そして口論、とまではいかないが戦う状況をつくる。わざわざ悪印象スタートを避けたのだ、やわらかくいくのが大事だろう。

 

 次に、話しを進める過程で織斑一夏を引きずり出す。戦いで織斑一夏を叩きのめし、自分が上にいるのだと知らしめるのだ。

 

「あーと、えーと……」

 

 彼女が今あたふたして困っている様子が見られたのは嬉しい誤算である。先ほどのセシリアの目線でいらだった心が晴れてゆく気分だ。

 

「じ、じゃあ!」

「では、私は自薦します」

「へ?」

 

 意を決した彼女の声を遮るように「自薦」するセシリアの声。彼の口から誰にも聞こえないくらいに小さな疑問の声が漏れる。おかしい、予想通りなら「納得いきませんわっ!」と怒り男性、そして日本をけなしてくるはずなのだ。

 

「まあ……理由としてはそこの男がトップなど気に入らない、といったところでしょうか。あとは実力を加味してのもの。私はイギリス代表候補生。実力もIS稼働時間もクラスで一番あると思っているのですが?」

「オルコットの言葉にも一理あるが、他薦されたものもいる。さて、どうしたものか……」

「……ISで決める、というのはどうでしょう」

 

 大丈夫、少し修正するだけでおおむね上手くいっている。彼は自分にそう暗示をかける。

 

「もちろん、ここがIS学園だから、という理由ではありません。ISの稼働に少しでも慣れるためです。それに、イギリス代表候補生と戦える機会はそうそう無いと思いましたので」

「アリーナには使用申請が必要だからすぐにはできないぞ。出来て……ふむ、一週間後だな」

 

 大川の意見を受けて手元のパッドを操作し、アリーナの予約状況を確認する千冬。彼の予想通り一週間後というのは変わらないようだ。

 

「だが問題はもう一つあるぞ。機体はどうする気だ?オルコットは専用機を所持している。試合にならないと思うが?」

「実は俺の専用機を極秘裏に作ってくれているところがあります。これでいいと思いますが」

「……まあいい。更識はどうだ?このままでは完全に負け戦だ。流石に差が付きすぎているから特別に辞退する権利を与えるが」

 

 その言葉に内心で焦る大川。せっかく叩きのめすために引きずり出したのだ。辞退されては目的が半分しか達成されない。

 

 しかし、彼の焦りは杞憂だった。

 

「……打鉄1機の改造許可そして」

 

 

 

「明日来る予定の人物に、試合までここ(IS学園)への滞在許可をください」

 

 

 

 彼女はそう言って不敵に笑った。まるで願ってもないことだというように。

 

「ふ……ははは!そうかそうか、そうきたか!」

 

 その答えを聞いた千冬は笑いだした。答えが自分の予想を超えていたのだ。

 

 明日来る予定の人物、そして千冬の突然の笑いだした姿に困惑する生徒達。真耶の方を見てみると、彼女も「こんな織斑先生は初めて見た」といった表情だ。

 

 まるで訳がわからない。

 

「ははは……すまないな。いいだろう、こちらでなんとかしよう。さて最後にオルコット、お前が一番強いと考えて今まで何も言わなかったが、これでもいいか?」

 

 笑いが収まった千冬は最後の確認だとセシリアへと話しかける。

 

 彼女の答えは決まっていた。

 

「問題ありません。勝つのは私ですから」

 

 そう冷静にセシリア・オルコットは言い放つ。

 

「よし、話しがまとまったところで授業を開始する。山田先生、頼むぞ」

 

 千冬のその言葉で授業が開始されるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 今日が入学式ということで短めな午前授業も終わり、放課後。

 

 一夏は寮の自室探し兼学校探索をしていた。

 

 ちなみに箒は剣道部を見に行くと言っていたので別行動。簪はクラスが別だし、包帯(本音)はその簪を見てくるといってこれまた別行動だ。

 

「それにしてもよく受けたなぁ……」

 

 廊下を歩き、適当に進みながら今日の出来事を思い出す。

 

 唐突に決まったクラス代表決定戦。一夏は最初は辞退するつもりだったのだ。どう考えても勝ち目はない。

 

 しかし閃いてしまったのだ。これを利用すれば京也と一週間近く一緒にいられる、ということに。

 

 多分信二君は寂しがると思うが、そこは我慢してもらおう。

 

「ふへへ……」

 

 思わず顔がにやけてしまう。

 

 京也と一緒の部屋、京也を独り占めできる優越感、そして自分がめいっぱい甘えて困る京也の表情……

 

「ふへへへへ……」

 

 ダメだ、想像するだけでこれなのだ。明日、京也に会ったらどうなるかが自分でもわからない。

 

「ふへへへへへへ……」

「あの……更識さん、大丈夫?」

「へひゃい!?」

 

 突然前から声をかけられ、意識が戻った一夏は焦る。どう考えても女の子が出してはいけない声が出てしまっていたが。

 

「なななんでしょうか!?」

「いや、そんなに動揺しなくていいから落ち着いて……?」

「う、うんそうだよね!?落ち着かないとね!?」

「いやだから……」

 

 約5分後。

 

「ごめんなさいでした……」

「うん、落ち着いてもらってよかったよ」

 

 食堂の一角。そこには椅子に座りどんよりとして己の醜態を恥じる一夏と、それを落ち着かせた少女の姿があった。

 

「迷惑かけてごめんね、えーと……」

「月島瑠璃です。同じクラスだよ」

 

 そういって目の前の少女は名前を言う。小柄な体躯に、左右で分けた黒い髪。ここにはいないが背格好だけなら中国にいるはずのあの子と同じくらいで、後ろ姿だけなら双子に見間違えそうだ。

 

「……私より小さいのに大きい」

「え?どうしたの?」

「ううん!なんでもないよ!?」

 

 もっともあの子と違うのはその大きな装甲くらいだろう。思わず揉みたくなるが我慢する。

 

 そういえば、あの子は成長したのだろうか。

 

「そういえば何であんなににやけていたの?」

 

 どうでもいいことに考えを巡らせる一夏(アホ)の思考を読んだのかそうではないのか、瑠璃の言葉で一夏の思考はまた戻る。

 

「ああ……あれね」

「すごい顔してたよ。まるで思い人に会える乙女…とはちょっと違う気もするけど似たような?」

「それについては忘れてください……」

「あはは……で、実際どうなの?」

 

 ずい、とこちらに詰め寄ってくる瑠璃の圧に圧倒されつつも、一夏はなんとか答えた。出来る限り隠すところは隠して、だが。

 

「うわぁ~いいなぁ…かっこいいなぁ…」

「色目使ったらコロコロするよ?するからね?」

「うん、使わないから。ていうか付け入るスキがなさそうだから。だから落ち着こう?目が完全にダメだよ?」

「あ、ごめんごめん。じゃあそういう瑠璃ちゃんはどうなの?」

 

 また暴走しかけた思考を止められ戻った一夏は瑠璃に聞き返す。

 

 自分だけ話して話さない、なんてことは許されないのだ。

 

「私は……うん、一言で言うなら」

 

 そう言って彼女は言葉を切り、

 

「叶わぬ恋ってやつかな……」

 

 そんな、悲しげな顔をして呟く彼女に、一夏はそれ以上追及する気になれなかった。

 

 その後、瑠璃と連絡先を交換した一夏は自分の部屋へ向かうために瑠璃と一旦別れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ただ、瑠璃は相当な方向音痴だったらしく。一緒に部屋を探すために3分後に再会するのだった。

 

 ちなみに、ルームメイトは箒で、彼女のシャワー上がりに直面し、双方暴走したのだがそれはまた別の話し。




そのころの大川君はさっそく自室へと向かい、同居人が来るのを心待ちにしていました。

まあ、来ないんですけどね。

そりゃあ嫁入り前(または確定)の娘を男と同居させるほどここの職員は鬼ではないです。原作の危険人物を纏めて管理する思考はわからなくはないけど。

感想、評価、「やっぱレズじゃねぇか!」といった文句があればぜひ感想欄まで。



次回、設定がどんどん生える人。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

12

次回は設定が生える人だと言ったな。あれは嘘だ。

すんません、全然予定通りにいかなくてあんまり進んでいない上に結構ぐだりました。ぐだった上に内容も薄いです。

毎度読んでくださる皆様、謝謝。


 IS学園学生寮1023号室。

 

「……では、取り決めの確認だ」

「……はい」

 

 そこでは、二人の女子生徒、篠ノ之箒と更識一夏が二つあるそれぞれのベッドで正座し、この部屋のルールを確認していた。

 

「まず、朝食を作るのは交代制。当然だが遅刻は許されないから6:00 までには起きること。まだ寝ていたら起こすこと。最後に三つ、シャワー中は勝手に入らないこと。次に着替えも極力見ないこと。寝ていてもいたずらしないこと……守れないならば斬られると心得よ」

「あの……箒ちゃん?斬るって表現だよね?本気じゃないよね?」

「知ってるか。IS学園に日本の法律は通用しないんだぞ」

 

 その言葉で、本気で斬られると確信した一夏は首をぶんぶん縦に振る。それを見てよしと思ったのか箒は話しは終わりだというように正座を崩した。

 

「全く、鉢合わせしてしまったのは偶然だと処理出来るがその後飛びついてくると思ってはいなかったぞ……どこがいいんだこんなもの」

 

 鍛錬の邪魔で仕方ないのだが、そう呟き自身の立派な胸を持ち上げる箒を見て羨ましい気持ちになる一夏。

 

 事は、ここに至るまで30分程遡る。

 

 

 

 

「それじゃあ瑠璃ちゃん。食堂で」

「ごめんね。ありがとう」

 

 迷子になった瑠璃と共に彼女の部屋を一緒に探し、送り届けた一夏は自室へと向かっていた。

 

 ルームメイトの名前は知らない。鍵をもらうときに教えてもらうことも出来たのだが、あえて知ろうとはせずに新しい出会いにしよう、と考えたのだ。

 

 やがて部屋の前へたどり着いた彼女はインターホンを押す。しかし、反応が無かったのでもう一度。

 

 またしても反応は無い、まだ来ていないのだろうか?そう考えて一夏は鍵を使って扉を開ける。

 

 全裸に首からタオルをかけただけの箒がそこにいた。

 

「……」

「……」

 

 二人は呆然としており動けなかった。一夏は箒のスタイルの良さに目を奪われ、箒は一夏の突然の乱入により頭が真っ白になっていたのだ。

 

 一夏は部屋に入り扉を後ろ手で閉め、鍵をかける。そして、

 

「うおおおおおおおおおぶしっ!?」

「ぎゃああああああああああっ!?」

 

 無駄に洗練された無駄のない無駄な動きで箒のすばらしい胸に顔を埋めに特攻し、あと少しというところで箒から手刀の制裁を喰らい、気絶するのだった。

 

 

 

 

 そして、程なくして起きた一夏と箒は部屋の取り決めを終わらせ今に至る。

 

「いやぁ……ないものねだり?つい特攻したい衝動に駆られまして」

「お前なぁ……」

 

 あれがあれば京也も振り向いてくれそうなのに、何故自分には無いのだろうか。

 

 そう考えたことは一度や二度ではない。

 

「さて、色々と決着はついたし、そろそろ食堂に行こう。夕食には早いと思うが混みそうだし、荷ほどきも終わっていないからな」

「はーい。あ、そうだ。ちょっと寄りたいところあるんだけどいい?友達がまた迷いそうでね……」

「う、うむ……わかった」

 

 他の友達と聞いて箒が顔を曇らせる。中学までぼっちだったのは伊達じゃない。

 

 

 

 

「あ、更識さーん!こっちこっち!」

 

 瑠璃と合流し、人が混雑する食堂へ入った一夏は呼ばれる声がした方向を向いた。そこには同じクラスの何名かが座って席を確保していたところだった。

 

 その中に大川の姿はない。

 

「これから改めて自己紹介をする会を開こうと思っていたんだけどどう?」

「うん、わかった。私もやりたいと思っていたところなんだ。箒と瑠璃も大丈夫?」

「う、うむ……」

「私もいいよ」

 

 一名ほど大丈夫じゃなさそうな人物もいるが三人は献立を選び、食券を買うために券売機へ並ぶ。やがて、料理をもらった一夏達は席へと向かう。

 

 朝と違い、緊張感のない自己紹介はつつがなく進み、最後に一夏の番が回ってきた。

 

「更識一夏です。趣味は寝る事とごはん……かな?クラス代表決定戦は勝てるかどうかわからないけれど頑張ります」

「しつもーん!」

「なーに?」

 

 簡単な自己紹介と決意表明を話す一夏へ朝からほぼ全員が気になっていたことが代表として鷹月静寐から問いかけられる。

 

 ちなみに、一夏をこの席に誘ったのも彼女である。

 

「明日来る人ってどういうこと?その人とどんな関係?」

「あー…うん、どう答えたものかな……」

 

 少々答えづらい質問に一夏は少し考えた。

 

「体育の外部コーチみたいな人?ほら、希望者限定の戦闘訓練ってあるじゃない。それで呼ばれたんだよ」

「あーあれかー。でも戦闘訓練って必要なのかな?別に、自衛隊に入る人なら受けてもいいと思うけれどそれならそこの専門学校に行けばいいでしょう?」

「その答えはISを扱うから、ですわ」

 

 クラスメイトの疑問に答えようとした一夏より先に答えが後ろからかけられる。

 

 全員がその方向を見ると、そこにはイギリス料理をお盆に乗せ、こちらを観察するような眼で観るセシリアがいた。

 

「オルコットさん……」

「将来ISをパイロットとして扱う人は軍属が義務付けられます。そのために必要なことですのよ。まさかそんなことも知らなくて?」

「はぇ~その噂本当だったんだ。ところでオルコットさん」

 

 疑問に納得した静寐はセシリアへ問いかける。

 

「席空いてないけど大丈夫?変わろっか?」

 

 そう、もう食堂の席が空いていないのだ。学生食堂は混むのが早く、しかも各国の料理も多彩に扱っているのでかなり人気なのだ。タイミングが良くなければ、あとから座ることは難しいだろう。

 

 そして、セシリアは見事に座り損ねた者の一人だった。

 

「……結構ですわ。自分の部屋でいただきますので」

 

 自分が座り損ねたのは事実。正直座って早く食べたい。しかし、譲ってもらうことなど彼女のプライドが許さない。

 

 だが、そんなものは他人が知ったこっちゃないものだ。

 

「ならば私はこれでお暇しよう。これから夜の鍛錬なんだ」

 

 先に食事を終えて、ただ座っているだけだった箒が席を立つ。話しを振られるのを恐れて黙々と食べ続けていった結果、あとから来たはずなのに誰よりも先に食べ終わっていただけなのだが。

 

「いえ、ですから」

「そう?じゃあ箒、お願いね。よーし者どもー!金髪美人を追加だぁー!かこめかこめー!」

「ですから!」

 

 静寐の一声でプライドお嬢様は囲まれる。女子高生の行動力は時として凄まじいものとなるのだ。

 

 結局、セシリアの抵抗もむなしく終わり、いつの間にか空けられた席へと座らされる。

 

「……完全に拉致した感じになってるけれどあれいいの?」

「いいのいいの。なんだか随分と気張った感じがしたからね。そんなときは騒がしくするもんよ」

 

 セシリアの顔は朝と同じ冷徹な表情だったが、静寐の言う通り、どこか肩の荷を下ろしたようだと一夏は感じた。

 

 

 

 

 騒がしくも楽しかった夕食も終わり、一夏は部屋へと戻った。

 

 今度は箒と事故が起きることもなく、就寝時間までお互いに荷ほどきをしてその日は寝ることとなった。

 

 いつもと違う環境だということを布団の感じの違いから改めて認識する。

 

 柔らかくも新品らしさをどこか感じる布団、見慣れない天井、そして、いつもあるはずの存在がない不安感。

 

 確かに今日は楽しかった。京也がいなくてもここでやっていけるという自信はあった。あったのだが、夜はやはり不安になってしまう。

 

「ねぇ、まだ起きてる?」

 

 不安になり、同居人の意識を確認する。幸い、まだ寝付いていなかったのか返事はすぐに返ってきた。

 

「なんだ、眠れないのか?」

「うん……何か抱いていないと眠れなくて」

「なんで抱き枕をもってこなかったんだお前は……まったく」

 

 こっちへ来い、という声と衣擦れの音。箒が身体をずらしたらしい。許可が出ているのでこっちも遠慮なく入らせてもらう。

 

「ごめんね、私のはちょっと特殊でさ。もってこれなかったんだ」

「寝不足で明日の授業中に寝られても困るんだ。だから休みの日に取りにいけよ?それまでは私が変わりになってやるから」

「それは厳しいかなぁ……」

 

 箒の身体に抱き着き、胸に顔を埋める。怒られるかもしれないと思ったが箒はなにも言わなかった。

 

 それどころか、箒は一夏を抱き締め返し、頭を撫でる。

 

「まるで妹か大きな娘だな、お前は……」

 

 その「娘」という言葉を聞いて一夏は久しく忘れていたことを思い出す。

 

(ああ……これがお母さんに甘えるっていうことなんだ……)

 

 確かに、一夏には親のように世話をしてくれた人達がいた。姉も母親の代わりとして頑張っていてくれた。

 

 しかし、その人達とは離れてしまった。姉ともしばらくは会えなかった。石上家の春さんも母親として接していてくれていたが、自分は京也に付きっきりであまり感じれていなかった。

 

 今度帰ったらちゃんと甘えよう。自分を包むやさしいやわらかさを感じながら一夏は意識を落とした。

 

 

 

 

 そのころ、京也は自分の部屋で月を見ながら、かかってきた電話の相手をしていた。千冬が、一夏の要求にこたえるための交渉をしているのだ。

 

『というわけだ』

「なにやってんだあのバカ雑巾は……こっちだって予定あるんだぞ」

 

 当然、京也からは却下される。理由はどうであれ、当主代理としての仕事があるのだ。健一達も学校が始まり、やることの多いこの時期に一週間の拘束は普通はできない。

 

 普通なら、だが。

 

「あら、いいじゃないの」

 

 そう言いながら、石上春が部屋へと入る。

 

「……誰かいるかの確認くらいはねぇのか」

「見られたらまずいものでもあったのかしら?私はそれでも構わないのだけれど」

「プライバシーってもんはどこいったんだ?」

「ちょっと携帯貸しなさい」

「おい無視か」

 

 とは言いつつも京也は春へスマホを渡す。当主代理といっても関係の強さは今までと変わらない。それ以前に義理の母親でもあるのだが。

 

「どうも~変わりました、春です」

 

 そして京也に聞こえないように春は千冬と話し始めた。

 

「ええ、はい。ではそのようにお願いします」

 

 そういって通話を切り、春はスマホを京也へ返す。その顔はどこかやりきった表情を浮かべていた。

 

「おい、何をやった」

「何ってIS学園への滞在の了承ですけど?」

「いや何考えてんだあんたは!この時期にそんなこと通るわけが」

「やることといっても書類作業くらいじゃない。それだったら私でも出来るし、健一に経験させるいい機会だと思って」

「あいつ学校あるだろうが。そんな時間あんのか?」

「たまにはスパルタにいこうと思ったのよ。今のあの子なら大丈夫そうだし」

 

 その頃、自室で予習をしていた健一の背筋に悪寒が走ったことは誰も知らない

 

 それに、と春は続ける。

 

「本当はあの子が心配なんでしょう?」

「……ちっ」

 

 その指摘に京也はそっぽを向く。

 

「ほらね、素直じゃないんだから」

「何も言ってねぇよ」

「その反応してる時点で肯定してるわよ。その辺は昔から変わらないわねぇ。あとはこっちでなんとかするからとにかく準備をしておくのね~」

 

 変わらぬ息子を笑いながら春は部屋を出ていく。

 

「あ、孫の顔は早くみたいけれど一夏ちゃんとはまだダメよ?」

「誰がするかぁ!」

 

 その言葉と共に投げられた手近にあった本は受け止められ、逆に投げ返されるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 翌日、早朝。

 

「……来たか」

「来ちまったよこんちくしょー」

 

 

 IS学園の校門前には石上京也の姿があった。




次こそは京也メインで書けるはず……

どうやったら文章って厚くなるのでしょう。


感想、指摘、「お前今回適当すぎだろうが!」という文句があればぜひ感想欄まで。


とりあえず、夜に書くのは控えようと思いました。眠くて文章が思いつかん。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

13

とうとうUAが10,000人を突破。ここまで読んでくださりありがとうございます。

ただ一つ問題が発生。

助けてください。話が進まない上に文字が書けません。もう酷さが自分でもわかります。

どうしたらよいのでしょうか。

それでもこんな話しを読んでくださる皆様、謝謝。


「んで、俺はなにをすりゃあいいんだ」

 

 一限目の授業中で静かな学内をグラウンドへ千冬に先導されながら歩く京也は問う。もちろん業務内容のことではない、滞在期間中のことだ。

 

「一夏を鍛えてやってくれ放課後みっちりとな」

「ISで勝負するんだろ?俺が出来ることなんもねぇじゃねぇか」

「ところがそうでもないぞ?確かにメインは空中戦。しかし、動体視力や反射神経を鍛えることで回避率の向上や、衝撃に慣れることで攻撃に被弾したときの立て直しの早さにつながる」

「そこは自分で鍛えなきゃいけねぇってことは、ISってのは案外ポンコツなのかもな」

 

 熱烈なIS信者が聞いたら激怒しそうな事を京也は呟く。千冬もそれに同意する。

 

「本来は宇宙探索用だとあの天災(バカ)は言っていた。シールド(S)エネルギー(E)も無酸素空間での活動を可能にするためだとな」

「そいつを世間は最強の兵器扱い。実際はどうなんだブリュンヒルデ様?」

「はっきり言って兵器としては欠陥品だな。それはお前もわかっているだろう?」

 

 最強の称号を持つ乙女は自らの地位を築きあげたものを否定する。

 

「いくら搭乗者を攻撃から保護するものと言っても、ダメージを貫通することはあるしそもそも長期戦に向かない。今はどうか知らんが白騎士事件のときは戦闘機のミサイルの直撃を一発喰らってSE最大値の3~4割を飛ばされたよ」

「それで生きてるってお前ゴリラか?」

「誰がゴリラか。流石に不味いと思ってそれ以降は全部爆発する前に叩き斬った」

「本当何なのこいつ」

「あとは女性しか起動できないところだな。全人口の約半分、適正によってはさらにその5~6割の人しか動かせない兵器に価値なんてないだろ」

「全くだ。こんだけ欠陥があんのになんでそれに気づかないのかねぇ」

「まともな人間がいないからさ」

 

 そういって千冬は自らを戒めるように言う。

 

「こんな風潮を作った私も含めてな」

 

 

 

 

 

 

 

 グラウンドに着いて準備運動と柔軟を終え、千冬と共に生徒を待つこと数分。

 

 ジャージに着替えてグラウンドに入ってきた1組と2組の生徒たちは皆一様に驚いていた。担任から聞かされていたり、カリキュラム表や一夏の証言で外部の人がくるのは知っていたがそれが男性だとは思っていなかったのだ。中には男性ということで敵意を向ける者もいる。

 

 もっとも、そんなことをした者にはもれなく1組のとある生徒からの殺気が飛んできているのだが。

 

 その驚く生徒の中には唯一の男子生徒。大川光輝の姿もあった。

 

 京也はその様子を観察しながら、目当ての人物を探し出す。

 

(あいつが男性操縦者か……ありゃあ他の奴と驚き方が違うな(・・・・・・・)、まるでこんなやつ知らねぇって顔だ)

 

 京也に要注意人物とマークされる中、大川光輝の思考はまたしても混乱しているのだった。

 

(は?男?なんでここに俺以外の男がいるんだ?原作にカリキュラムは全部載っていなかったからこの授業はいいとしてもこんな展開は知らないぞ!?)

 

 そんな転生者の思考など知らない京也は他の生徒達を観察する。

 

(おーおー敵意いっぱい出して元気なことで。あの包帯は……本音か。あいついったいなにやってんだ?いくら顔を隠すためでももっと他にあるだろうが……っとようやく来たか雑巾娘。あん?変な目でみたら殺す?見ねぇよガキに興味はねぇっていってんだろうが。あとは……ほぉ)

 

 そして京也は気づく。己を見る視線の中に周囲とは違う目で見ている者がいることに。

 

 これは来て正解だったかもしれない。京也はその視線の主の方向へと挑発する目線を送るのだった。

 

 その視線に、一夏が気づいて呆れた目で京也を見るのは無理もなかった。

 

 やがて全員揃い、グラウンドが生徒でにぎわう中、千冬の号令で授業が開始されるのだった。

 

「静かに!これより授業を開始する!が、その前に諸君らに紹介する人物がいる。じゃあ頼むぞ」

「へいへい、石上京也だ。週二回ある戦闘訓練の外部コーチに呼ばれた。よろしくしろとは言わねぇがそこはお前らに任せるわ」

「お前適当にもほどがあるだろう……まあ今更か。質問はなにかあるか?」

「はい!」

 

 早速生徒の一人から手が挙げられる。

 

「なんで男性なのですか?」

 

 この疑問はごもっともだろう。石上家で指南許可が下りている者に女性もいないことはない。それが何故男性の京也がここにいるのか。答えは千冬から返ってきた。

 

「私が指名した。こいつが一番の実力者だし、私は妥協することを許さん。次」

「男が私たちを教えることができるのですか?」

 

 質問者の声はどこか舐めたような口調だった。その目は「男程度が」と侮蔑的視線だ。しかし、そんなことは気にせず今度は京也が答える。

 

「ま、確かに身体の構造が違うから当然だわな。つってもやることは男女どちらでも通じる基本的な動きだけだ。男が教えようが女が教えようが変わらねぇよ」

 

 その言葉を聞いて何人かの生徒は顔をしかめる。女性が上にいないと気が済まないタチなのだろう、同列に扱われたことが屈辱的なのだ。

 

「じゃあ……セクハラとかものすごく心配なのですが」

 

 今度は気の弱そうな声で質問が出る。この質問はほとんどの生徒が気にしていることだろう。

 

 が、この答えは決まっている。

 

「安心しろ。てめぇらガキに微塵も興味はねぇから。あと4、5年たってから出直してこい」

 

 この言葉で殺意の目線がどっと京也へ向けられる。セクハラの危険はなさそうだと確認できた乙女たちは今度は、プライドの危機だと感じたのだ。

 

 そんな京也は知らん顔。そろそろ不味いかと危惧した千冬はこれで最後の質問だと口を開きかけたその時。

 

「では、私から」

 

 と質問の声が上がる。声の主は箒からだった。その雰囲気は他の生徒と違い、ただ本当に確認したいだけだと京也は感じた。

 

「なんだ、言ってみろ」

「訓練での武器の使用の有無。そして」

 

 

 

「もし貴方を倒した場合、私はどうしたらいいのでしょうか?」

 

 

 

 そう挑発するような声で彼女は言った。

 

 その質問で京也は確信する。先の周囲と違う目線はこいつだと。こいつの目は獲物を睨む捕食者の眼だと。

 

 己を倒すと宣言する者。その言葉が堪らなくおかしくなった京也は獰猛な顔で返事を返す。

 

「武器の使用、俺を倒す。大いに結構!俺を倒せたら石上家当主の座とうちの看板をやるよ。だから授業外でもいつでもかかってこいよクソガキが」

 

「ではお言葉に甘えて」

 

 

 そういうと箒は生徒達の隙間を己の歩で潜り抜け、京也へと迫る。

 

 それを京也も迎撃するつもりで半歩構え、

 

 

 

「やめんか馬鹿ども!」

 

 間に入った千冬の出席簿を喰らい、頭から二人そろってグラウンドへめり込み、一瞬で意識を奪われるのだった。

 

 その光景をみて生徒たちは慄く。これから自分たちを教える(かもしれない)人がどんな人物かの危険性を認識し、それについていけるクラスメイトがいることが恐怖に追い打ちをかけ、それを一撃で沈める千冬の実力に身体を震わせる。

 

 正直に言おう。ここは化け物の巣窟か、と。

 

 そして、一夏はそんな京也の姿を見て、

 

「これはクラス代表決定戦以前の問題かなぁ……」

 

 と一人呟いた。

 

 

 

 

 そして、大川は自分のシナリオを害する最重要危険人物として石上京也の名を心に刻む。

 

 それと同時にようやく認識する。ここはもう自分の知る世界(原作)ではないのだと。

 

 

 

 

 

 ちなみに今回の授業は京也と箒を抜きで行われた。まあ、これは当然のことだろう。また暴れ出しかねないし。

 

 

 

 

 

 

 体育授業が終わり昼休み。食堂や購買へ生徒達が殺到する時間帯を京也と箒は並んで治療目的で保健室へと向かっていた。

 

 時折すれ違う生徒からはぎょっとした目で見られるがそんなもの二人は気にしない。 

 

 互いに襲うことは今は無い。あのあと千冬に正座説教を喰らい、やるなら放課後のお前の時間でやれと約束させられたのだ。ついでに当主の座を勝手にかけるのもダメだと。

 

 いつでもどこでも戦われては学園としてはたまったものではない。

 

「っつう……あのゴリラ女本気でやりやがって。ちょっと茶目っ気出しただけじゃねーか」

「ああ、全くだ。千冬さんは冗談が通じない人じゃないはずなんだがな。あれは偽物か?」

「その線でいってみるのも悪くねぇな……おい、クソガキ。名前なんだ。それと敬語はいらん」

「篠ノ之箒。クソガキはやめろ……なぁ聞きたいんだが」

 

 脳筋二人が謎のシンパシーを感じ合ったところで箒から質問が来る。

 

「一夏の抱き枕はお前でいいのか」

「……あいつ今度はなにやったんだ?」

「なにも。ただ、私に甘えてきたルームメイトがあそこまで懐く人とはどんな人なのか気になっただけだ」

「そうかい。んで、どうだった?」

「優しそうな人だった」

 

 その言葉で京也は足を止めた。

 

「お前眼科に行けって言われたことねぇか?」

「私の眼はそこまで曇ってはいない。人を見る目はあると自負しているよ」

「……ちっ俺のこたぁどうでもいいんだよ。いいから早く行くぞ、昼飯が消える」

「それについては大丈夫じゃないか?きっと一夏が確保しているだろう」

 

 京也は再び歩を進める。箒もそれにやれやれといった顔でついていった。

 

 

 

「……お前確保しておけって言ったか?」

「いいや。でも多分あのやさしさなら……」

「じゃあ昼はねぇな。あいつそうとうキレてたから昼の確保なんざしてくれてねぇぞ。前にやらかした俺が保証してやる」

 

 ただし、本日の昼飯は消え去ったらしい。

 

 

 

 

 

 

 時を同じくして、大川光輝は食堂で周りを女子に囲まれて食事をとりながら今後の計画を脳内で見直していた。

 

 ちなみに、今の彼は何もしていなくても常にこんな状況だ。この環境で男子生徒というのは本当に珍しい存在なのである。

 

(あの石上京也とかいうやつ、強いなんてレベルじゃなかった……あれに生身で勝てる自信なんて無いぞ)

 

 思い起こされるのは先の光景。篠ノ之箒もそうだが素人目に見ても構えに隙がないし、その後すぐに織斑千冬に沈められていたが、あれは意識外の攻撃だったからだろう。

 

 あのまま戦っていたら一体どれだけ周りへの被害が及んだのか。そんな恐ろしいことは考えたくもない。

 

 では、見直しを始めよう。

 

 昨日の一夏のセリフから察するにあの男がこれから一週間滞在する者だろう。

 

 つまり、あの実力者に鍛えられた状態で戦ってくるのだ。

 

 だが、ISでの勝負に筋トレ程度で差がつくとは思えない。

 

 あとはISの差もあるだろう。あちらはたかが(・・・)打鉄を改造したもの、それも一週間の急造で試す時間すら与えられていない。

 

 不安要素は入ったが、やることは変わらない。彼は内心でほくそ笑む。

 

 その様子をセシリアは遠くから見つめていた。

 

 

 

 

 

 そして、放課後。

 

 京也による希望者への授業が開始された。

 

 ……といっても、グラウンドへ集まったのはほんの小数人。その中には一夏や箒、セシリアの姿があった。

 

「よーしこれより訓練を始める……といっても今回はやるこたぁ特にねぇ。せいぜいがここを10周して筋トレするくらいだ。もしくは俺相手に全員でかかってきてもいいぞ」

 

 その言葉を聞いた箒以外の生徒は迷わずグラウンド10周を選んだ。箒は自前の竹刀(鉄心入り)を構えるのだった。

 

 過程を描写すると酷いことになるので結果だけを言おう。

 

 

 グラウンドが一つ使用不可能になり、京也と箒は放課後訓練という名の戦闘を永久的に禁止された。

 

 

 この報告を受けて仕事が増えた真耶が倒れるのは言うまでもない。




うん、戦闘描写がどうしても書けない。中身も薄くなってきた。

本当にどうしたらよいのでしょうか。

感想、指摘、「じゃあ何でこれに手を出したの?」という文句があれば是非感想欄まで。

納得のいくものが書けないんや……


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

14

何とか対戦第一回までたどり着きました。
そのため今回もかなり巻きです。

毎度見てくださる皆様、謝謝。

やはり戦闘って難しい。


 午後8時30分、IS学園食堂にて。

 

 この時間帯に生徒は誰も来ないらしく、厨房側で食器の音が響くくらいに静かな空間である。

 

 そんな食堂の一角で椅子に座り、テーブルに突っ伏す傷だらけの京也とその上に乗って全体重を彼にかける不満げな一夏の姿があった。

 

「私は怒っています」

「おう」

「今日は希望授業のあとは私と二人きりで訓練のはずでした」

「そうだな」

「でも結局は京也がまた箒ちゃんと暴れてお姉ちゃんにしばかれて何もできませんでした」

「あれはしばかれてのレベルじゃねーだろ。明らかに殺す勢いだったぞ」

 

 そういう京也は傷をさする。

 

「仕方なく整備室で打鉄の改造案を簪ちゃんや本音ちゃんと考えました」

「先に機体いじれる方が良かったんじゃねーの?どう動くか決めれるし」

「しかもなんだか箒ちゃんといい雰囲気でした」

「仕方ねーだろ、いい腕してるやつ見つけちまったんだから。んで、何が言いたいんだ?」

「じゃあ言います。もっと構え」

「お前それが本音か」

 

 そして一夏はさらにぐでーっと体重をかける。

 

「……お前体重増えた?」

「ふんっ!!」

 

 乙女の禁忌をさらっと口にする京也に叩き込まれる肘鉄。傷だらけの身体にこれは効いたらしく、彼はうめき声を上げていた。

 

 そんな二人の前にゴトッと音を立ててどんぶりが大小二つ置かれる。中には親子丼が入っていた。

 

 置いた主を二人が見ると、そこには食堂の厨房で調理をしているおばちゃんが笑顔で立っていた。

 

「二人とも仲がいいねぇ、見ていてつい作っちゃったよ。まだ晩御飯食べてなさそうだし、あたしからのサービスだと思っておくれ」

「あ、ありがとうございます……」

「……いただきます」

 

 

 その返事を聞いたおばちゃんは戻っていった。

 

 とりあえず、乗っかったまま食べるのは行儀が悪いので、背中から降りて京也の横に座ってから二人そろって「いただきます」

 

 二人は黙々と親子丼を食す。元々京也が食事中は無言なので一夏も無言なのだ。

 

 やがて、二人とも同時に食べ終わり「ごちそうさまでした」

 

 それを見計らったおばちゃんが食器を下げ、入れ替わりに熱いお茶が入った湯呑を置いていってくれた。

 

 食後のお茶で一服。満腹感と熱いお茶のコンボで一夏は眠くなるのを感じていた。

 

「ん……」

「おい寝るんじゃねぇぞ。流石に俺はお前の部屋まで運べねぇからな」

「ん~…」

 

 返事にならない返事をしながら、一夏は京也の膝に座って背中を預ける。ここまでくるともう何をやっても無駄だと京也もわかっているので、さっさと寝かしつけることにした。

 

 頭を撫でること約1分。一夏の意識は完全に睡眠の領域へと入っていった。

 

「……おい、そこの暇人共」

「……いつから気づいてたんですか?」

 

 一夏が寝たことを感じ取り、京也は視線を出入り口へと向ける。

 

 そこにいたのは一夏のクラスメイトの面々。偶然食堂の前を通りかかった一人が一夏が暫定危険人物(京也)といるのを見てクラス全員に緊急招集をかけたのだ。

 

 流石に全員はそろわなかったが。

 

「最初からだ。人数が多すぎんだよ」

「あちゃ~…流石に全員は多かったかー」

「でも更識さんが心配だったのは皆同じだしー」

「石上先生最初っから飛ばしてるしー」

「そりゃあ不安にもなるよー」

「わかったからさっさとこいつ回収しろ。動けねぇんだよ」

 

 やけににやけている生徒達の視線を弾き、京也は回収させようとする。しかし、

 

「えー?でも更識さん幸せそうだし」

「先生が運んでよー」

「織斑先生に内緒でさ!」

 

 そういって要求を拒む彼女ら。しかし、後ろの存在には気づかない。

 

「まあ、流石に男をこれ以上入れる訳にもいかないんだがな」

「えぇー!なんでさー!……あれ?」

「げぇ!織斑先生!」

「おう、来たか保護者」

「お前は問題を起こしすぎだまったく……更識は私が運ぶ。お前達も早く戻れ」

 

 千冬が指を食堂の壁にかかる時計に指す。時刻は9時を回っていた。

 

「ちぇー仕方ないや」

「あ、じゃあ最後に一つだけ!先生と更識さんってどんな関係?」

「確かに、それ気になってたんだよね。親子?」

「いやそこまで似てないでしょ」

「じゃあ歳の差カップル!?」

 

 京也と一夏の仲を勘繰る生徒達。それに対する京也の答えはただ一つ。

 

「ボロ雑巾を拾った。それだけだ」

 

 生徒たちが「雑巾?」と首をかしげる中。

 

 その答えが聞こえていたのかいなかったのか。

 

 一夏の寝顔は満足気であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そんな忙しくも楽しい日々も過ぎるのは早いもので試合当日。

 

 貸し出されたアリーナの観客席は大勢の生徒で埋め尽くされていた。

 

 そこに学年の垣根はない、ここにいるほとんどの者が男性操縦者見たさで来ているのだ。

 

 対戦カードは前もって発表されている通り。

 

 

 第一試合 セシリア・オルコット対大川光輝

 

 第二試合 更識一夏対セシリア・オルコット

 

 第三試合 更識一夏対大川光輝

 

 

 となっている。もちろんこの順番に意味はある。

 

 先にセシリア対大川をするのは唯一専用機ではない一夏に情報アドのハンデを与えるため。

 

 次にセシリアが連続で戦うのは、男性操縦者を休ませ、データを万全の状態で取得するためだ。

 

 戦闘データがある程度そろっている代表候補生と完全に情報が未知数の男性操縦者。

 

 どちらが優先されるかは明白だろう。

 

 多くの生徒はそんなことは気にしていないが、とりに男性操縦者をもってきていることで会場は盛り上がっていた。

 

 セシリアはただ冷静に心をおちつかせ、

 

 一夏は格上に食らいつく覚悟を決め、

 

 大川はこの後のことを考え舌なめずりをする。

 

 各々の思惑が交差するなかで試合は始まった。

 

 

 

 

 

 自身のISを起動させ、大川はピットのカタパルトへと歩く。

 

 その頭にあることはただ一つ。自分の勝利とセシリアを従える己の姿。

 

 そして自分に永久的に逆らえずに這いつくばる一夏の姿だ。

 

 カタパルトへ脚部を固定、発射許可が下りたので射出する体制へ入る。

 

「大川光輝、ストライクフリーダム出ます!」

 

 カタパルトで加速し、空中へ衝撃と共に飛び出し、

 

 

 

 直後、機体は轟音と共にアリーナを覆うシールドへ衝突した。

 

 

 

「が……あ……?」

 

 衝撃と同時に襲い来る疑問。何故自分は激突しているのか、と。

 

 この現象は、別に彼が特別な何かをした、とかそういうことではない。

 

 彼は射出されたから姿勢制御のためにエンジンを噴射させた。それだけだ。

 

 では何故こうなったのかと言われると答えは簡単。

 

 彼の稼働不足と、機体が高性能過ぎた(・・・・・・・・・)のだ。

 

 この一週間、彼はIS関連のことを何もしていなかった。機体スペックの確認すら、である。

 

 自分なら余裕だ。そう慢心して他の女子生徒と友好関係を築きまくっていたのだ。

 

 その結果がこれである。

 

「なんだ……何が起きたんだ……?」

 

 それを言いたいのは客席の生徒達だろう。期待していた男性操縦者がこのざまでこちらも困惑しているのだから。

 

 しかし、それを警戒する者も何人かはいた。

 

 その中にはセシリア・オルコットも入っている。

 

「あの機体は……危険ですわね。セシリア・オルコット、ブルーティアーズ行きます」

 

 彼女はそういうと警戒しながらピットから飛び出し、見事に空中で静止した。

 

「いてて……あ、ごめんねセシリアさん」

「いえ、構いませんわ。ちょっと驚きましたが」

 

 大川の機体は自由落下しながらAIが出力を調整したのか、今度は無事に指定の位置までたどり着き静止する。

 

 そして始まるカウントダウン。

 

「なあ、一つ賭けをしないか?」

「なんですの?」

 

 カウントが0に近づいていくなか、大川は最初のプランを実行しようと提案する。

 

「負けた方が勝者のお願いを一つ何でも叶える。もちろん、出来る範囲でね」

 

 それはよくある命令の権利。彼女は少し考え、

 

「ええ、いいでしょう」

 

 と、了承した。

 

 かかった。思い通りにいったことで内心でほくそ笑む。

 

 それと同時に試合開始のブザーが鳴り響いた。

 

 

 

 

 

 ブザーと同時にストフリは腰部のレールガンを展開、両手に握るライフルと同時にブルーティアーズへと攻撃する。

 

 しかし、それは機体を掠めるだけで終わり、おかえしにセシリアの狙撃銃からの攻撃がストフリへと直撃した。

 

「ぐっ……なんの!」

「この程度でしたら私の勝ちですわね」

「やってみなくちゃわからないだろ!」

「いいえ、わかりますよ。特に今回は」

 

 セシリアからの交信が遮断されると、今度はセシリアが攻勢に出た。大川は武装を格納、それを回避する。しかしスピードが付きすぎてどうしても壁やシールドへ激突し、その隙に直撃をもらいSEはどんどん削れていった。

 

「このままだとすぐに終わってしまいますね……これでは更識さんへのハンデになりませんわ」

 

 そう呟いて彼女は自身の特殊兵装である4機のBT兵器『ブルーティアーズ』を繰り出した。

 

「では踊ってもらいましょうか……私とブルーティアーズによるワルツを」

 

 さらに激しくなる砲火。しかし、それが大川の狙いだった。

 

(きたかBT兵器!あれを動かしている間はセシリア自身は動けない。チャンスだ!)

 

 自分の予想通り、セシリア自身は動いておらず、BT兵器だけが動いている。機体の動き方にも慣れてきたのでここで大川は接近戦を仕掛ける。

 

 ブルーティアーズへ迫るストフリは両腰のビームサーベルを抜刀。回避できない一撃を叩き込む。

 

 

 はずだった(・・・・・)

 

 

(なん……だと……!?)

 

 彼の表情が驚愕で固まる。躱されたのだ、BT兵器を動かしながら。

 

 そしてその顔を見たセシリアはどこか蔑んだ目で笑う。

 

「あらぁ?まるでプラン通りにいかなかった取引相手(・・・・)のような顔をしていますわよ?確かに事前情報は調べていたのでしょう。ですが」

 

 そういうとセシリアは銃を構える。

 

「これでは調査不足ですわね。出直してくださいまし。ああ、あともう一つ」

 

「私、まだ貴方にはファーストネームで呼ぶ許可は出してなくてよ?」

 

 狙撃銃とBT兵器4機による5方向からの集中砲火。

 

 これにより、第一試合はセシリア・オルコットの勝利で終わった。

 

 

 

 

 

「さて……色々と聞きたいことはたっぷりとありますわね」




今作のセシリアは珍しく重い過去を背負わせていません。そのかわりに若干強化されています。機体面でも人間面でも。
でもやっぱ戦闘って難しい……

感想、指摘、「戦闘シーン雑だなゴラァ!」といった文句がありましたらぜひ感想欄まで。


多分次回で戦闘終了すると思います。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

15

すまん、決定戦終わらんかったわ。
戦闘2本立てのはずが気づけば丸々1本使ってました。
あとセシリアは改造しすぎた気がする。
てことで一夏ちゃん対セシリア戦開始。

毎度読んでくださる皆様、謝謝。


「ふへぇ~…すごいなぁ…」

 

 控室で観戦していたISスーツ姿の一夏は感嘆の声を上げる。視線の先は大川の機体……ストライクフリーダムを難なく撃墜したブルーティアーズへと向けられている。

 

 そして、今の時間は10分間の補給&メンテナンスタイムだ。

 

「あとちょっとしたらあれと戦うんだよね……緊張してきたなぁ」

 

 手の震えが収まらない、呼吸がどうしても荒くなる。勝てる要素が何もない負け試合に等しい戦いだが、全力を出せばほんの数%は勝ち目があるだろう。

 

「入るよー…やっぱり固まってた」

「あ、瑠璃ちゃん、箒ちゃんも……」

 

 控室のスライド式のドアが開き、瑠璃が入る。後ろには、瑠璃の迷子防止のためか箒もついてきていた。

 

「緊張してるんじゃないかって心配で見に来たよ。あれ、石上先生は?」

「京也は管制室でおね……織斑先生たちと観てるってさ。その方が全体的に見れるからって」

「一夏、あれに勝てるのか?実質1対5を強いられているようなものだぞ」

 

 箒の指摘に一夏は苦笑いを向ける。

 

「多分無理かも……無理かもだけど」

 

「もしかしたら勝てるかもよ?」

 

 それを聞いた箒はそうか、と安心したようにうなずいた。

 

 

 

 

 

 

 招集がかかったので、ピットへ入り打鉄を展開。

 

 アリーナの使用予約が昨日まで埋まっていてISの起動すら出来ていないが、理論上は大丈夫。書類スペックは本音達と最後まで確認したし、公式記録のブルーティアーズの戦闘動画は何度も見返して食らいつく策は練ってきた(・・・・・・・)

 

 カタパルトへと歩き、動作を確認。問題はなさそうだ。

 

 あとは、自分がどれだけ早く機体に適応出来るかだ。

 

「更識一夏。打鉄改、行きます!」

 

 一夏はアリーナへと飛び出していった。

 

 

 

 

 アリーナにはすでにブルーティアーズが静止して待機していた。

 

「おまたせ、オルコットさん」

「いえ、構いませんわ」

 

 一夏も上昇し、静止する。両者が定位置へ着いたところでカウントダウンが開始される。

 

「オルコットさん。これが終わったら話しがあるんだけどいいかな?」

「貴女もですか……もう終わったことを話すなんて少々余裕ぶりすぎですね」

「そんなことないよ、私に余裕なんてない。ただね」

 

「友達になってほしいんだ」

 

 その言葉を聞いたセシリアはなにを考えたのだろうか。彼女はすぐに笑みを浮かべた。

 

 それと同時に試合開始のブザーが鳴り響く。

 

「私を楽しませることが出来たら考えてあげますわよ!」

 

 

 

 

 開幕の号砲は狙撃銃からの発射音だった。打鉄にせまるビーム弾。

 

 それを一夏はスラスターを吹かして斜め前へ進みながら回避した。

 

 攻撃を回避した打鉄は回避した動きで勢いをつけたのかブルーティアーズへ迫る。

 

「ほぅ……これを避けますの」

 

 その光景を見たセシリアはちょっと意外そうに目を見開く。今の一射は両者の距離、弾速、打鉄の平均的な反応速度と機動力を計算すると普通の打鉄では(・・・・・・・)間違いなく当たる(・・・・・・・・)ルートだったのだ。

 

 一夏は打鉄を改造すると言った。その言葉通り、基本的な打鉄よりもスピードが出ている。彼女は一夏がどこまで自分(格上)へ食らいついてくれるかをもっと見るために最初から本気を出すことにした。

 

「では、お行きなさい!ブルーティアーズ!」

「うぇ!?もう!?」

 

 一夏は想定よりも早いBT兵器の登場で焦る。が、しかしすぐに冷静さをある程度取り戻す。

 

 4機のBT兵器の攻撃にさらされる一夏。だが、その攻撃による打鉄本体への直撃(・・・・・・・・)は1つもない(・・・・・・)

 

 その全てを打鉄の特徴である両肩の大型シールド2枚をせわしなく動かし、的確に防いでいるのだ。

 

 一夏による打鉄の改造内容は2点。

 

 一つは脚部スラスターに追加で加速用ブースターの後付け。これは2回でエネルギーが切れ、即座に外れるようになっている。最初の射撃を回避したのもこのブースターの使用によるものだ。

 

 そして、もう一つはシールドを動かす際の反応速度の強化である。

 

 打鉄のシールドで5方向からの攻撃を受けることは出来なくないだろう。しかし、いくらなんでも手数はあちらが上。いずれは受けきることが出来なくなってしまうだろう。

 

 そこで考えたのが、シールドの動く速度を上げて防ぎきろう。ということだった。

 

 その策は上手くいっているようで、一夏は5方向からの攻撃を防ぎ、流し、ときには攻撃の勢いを加速に利用しながら徐々にブルーティアーズへ近づいていく。セシリアも後退しながら反撃をしているがビットを動かしている間は動けないのか次第に追いつかれる。

 

 更識家での鍛錬の効果もあるが、今回の京也との特訓では反射神経を鍛えることを重点的にやっていたのだ。その結果がこの成果へ表れている。悔しいことに、先に機体をいじったほうがいいのではという京也の言葉通りだったのだが。

 

 とうとう打鉄がブルーティアーズへ接近戦を仕掛けられる距離へ迫る。一夏は格納領域から基本武装の刀を取り出すと通常のスラスターをさらに吹かし、急接近する。

 

「いっけえええぇ!」

「ここまで接近を許すとは……少々侮りすぎましたわ。ですが!」

 

 気合の声と共に一夏は刀を振り下ろす。それに対してブルーティアーズは隠していたミサイル型BT兵器を射出した。

 

「ティアーズはあと2機ありましてよ!」

 

 ミサイルが一夏に迫る。これには反応出来ずに打鉄へ命中。ここまで一切ダメージの無い試合に始めてモニターにSEの減少が示される。

 

 目の前の煙幕の中をセシリアは警戒するようにビットで囲む。ここで落ちる程の者ではないと直感しているからだ。

 

「おりゃああああぁ!」

「っ!速い!」

 

 彼女の予想通り、一夏は叫びながら飛び出してきた。しかし、その速度はセシリアの予想よりもかなり速い。

 

 一夏が2回目のブースターを使用したのだ。エネルギー残量が無くなり、打鉄から外れ、機体が身軽になったことも速度に拍車をかけている。

 

 予想外の速度にセシリアの思考が止まる。その隙を逃さず一夏は切り込む。

 

 今度はブルーティアーズへ斬撃が直撃し、SEが減少する。

 

(予定外のところでブースター使っちゃったけど……近づいた!あとはあれを切らせる(・・・・・・・)だけっ!)

 

 それはすぐに彼女の望む行動はすぐにとられた。

 

 背後からのBT兵器による反撃とセシリアの後退。機体を動かしながらBT兵器を動かしたのだ。

 

(映像でオルコットさんがBTを動かしながら移動していたのは3秒。そしてそのあとは硬直していた!いける!)

 

 一夏の作戦は、セシリアにミサイルを使わせ、BTを動かしながら移動する択を取らせ、ドッグファイトに持ち込むことだった。

 

 そして作戦は成功し、打鉄はブルーティアーズの懐へと潜り込む。一夏がSEの減少が激しい首筋を狙い刀を振りかぶり、

 

 

 斬撃は一振りのレイピアに遮(・・・・・・・・・・)られた(・・・)

 

 

「え……!?」

「貴女は大川さんよりも情報を得て対策をしてきたのでしょう……ですが私、貴族の令嬢として恥じぬよう様々なものを学んできましたの」

 

 そして刀は弾かれる。映像では見なかった武装の出現に一夏が本気で焦り、硬直する。

 

「来ないのですか?ではこちらから行きますわよ!」

 

 セシリアからの接近。この行動も過去にとった行動の中には無く、一夏はレイピアの刺突を必死に刀で受け、カウンターが狙えれば反撃する。

 

 刺突と斬撃。攻撃面は点と線。どちらが見やすいと言われれば明白であり、次第に一夏の集中力が削がれていく。

 

 互いにSEを削り合うドッグファイト。最後は接近戦に集中しすぎて狙撃銃を忘れていた一夏が蹴り飛ばされ、狙撃銃に切り替えたセシリアからの乱射を防ぎきれず、一夏のSEが0になった。

 

 

 

 

 

 その試合の様子を京也は管制室で観ていた。

 

「あのバカはあとで説教だ」

 

 そう京也は額に青筋を浮かべて静かに呟く。

 

「え?いや、更識さんは十分頑張ったと思いますが……」

「いや、そこじゃねぇ」

 

 その呟きを聞いた真耶がそういうが、京也は違うと答える。

 

「色々とあるがまずは攻撃するときに大声出すなっていつも言ってるだろうがあの雑巾娘ぇ……相手に攻撃タイミング伝えてどーすんだ」

「え、えぇ……」

 

 京也が指摘したところはそこだった。その返答に真耶はどう返したらいいのかわからなかった。

 

 

 

 

 

 

 ピットへ戻った一夏の気分はややしょんぼりとしていた。勝てるのではと思ったところで相手のメインウェポンである狙撃銃の存在を忘れて負けたのだ。これは流石にまぬけすぎて笑うことも出来ない。

 

「お疲れ、一夏。代表候補生相手によく頑張ったんじゃないか?」

「そうだよ!半分くらいはSE削ってたし!次は勝てるよ!」

「箒ちゃん……瑠璃ちゃあん……」

 

 ISを解除し、武装の補給を自動修復機能に任せたところで、一夏はピットに来ていた箒と瑠璃へ泣き付く。

 

 やはり負けたことは悔しい。だが泣いてもいられない。次の試合はすぐそこまで迫っているのだ。

 

 その為に涙は流しきる。次は勝つと誓いながら。

 

 

 

 

 

 

 その頃、控室で試合を観ていた大川は自分の知識との違いに混乱していた。

 

「なんでBTを動かしながら動けるんだよ……それにあの打鉄はなんだ!?打鉄ってそこまで速度は出ない機体のはずじゃないのか!?」

 

 彼の知識ではセシリアはBT兵器を動かしながら動くことは出来なかった。ましてや、接近武装も音声認識で出さないといけないくらいに接近戦も出来ないはずなのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「やはり、怪しいですわね……」

 

 その声をセシリアは控室の扉越しに聞いているのだった。




戦闘描写難しいよぉ!これがまだ何回も待ってるよぉ!
という訳で終わりませんでした。次回で試合は終わると思います。試合は。

感想、指摘、「セシリア改造しすぎじゃアホぉ!」という文句の声があればぜひ感想欄まで。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

16

昨日のことを簡単に。
4時間休憩無し遊戯王だおらぁ!うん、そら頭回りませんわ。
しかも、それを引きずって途中が悲惨なことになっております。

毎度読んでくださる皆様、謝謝。


 本日最後の試合の時間となった。

 

 一夏の打鉄、大川のストライクフリーダムの両機がアリーナへ入場。大川は一夏達が戦闘している間にAIを修正したのか今度は壁に衝突することはなかった。

 

 両機が定位置へ着いたところでカウントダウンが始まる。

 

 精神を集中させる一夏に大川からの秘匿回線(プライベートチャンネル)での通信が入った。

 

「更識……いや、織斑さん」

「っ!……何、かな?」

 

 今の名前である更識ではなく、態々「織斑」の名前で呼ばれたことで一夏の頭に疑問が浮かぶ。

 

「俺は君に謝罪しなければいけないことがある」

「謝罪……?謝罪ってなにを」

「君がいじめられていたこと……それを見て見ぬふりをしてしまったことを」

「……何で、今、その話しを?」

 

 大川から出されたのは謝罪の言葉に、一夏が反応。その言葉を聞いて大川は内心で安心する。「かかった」と。

 

「二人きりになるタイミングが欲しかったんだ。いつも織斑さんは誰かと一緒にいるか、どこかに行っちゃってるから」

「……そう。でもそれは今じゃなくてもいいよ」

「いいや!今すぐに謝らせてくれ!じゃないと俺の気が済まない!」

 

 一夏の言葉に被せられる強固な決意に満ちた言葉。そこからの大川は止まらない。

 

「小学3年のとき、上山君と細川君が殴っているところを逃げてごめん」

「……」

 

 笑いながら暴力をふるう二人の顔。

 

「小学4年のとき、市原さんが無視することを提案したのを止められなくてごめん」

「……」

 

 誰に話しかけても相手にされなかったこと。

 

「中学1年のとき、クラスのみんなが君を監禁したことを見てるだけで止められなくてごめん」

「……めて」

 

 暗くて寒い、孤独な体育倉庫。

 

「そういえば長谷川先生に」

 

「やめて。もうどうでもいいことだから」

 

 決して大きくは無い声に、大川の言葉が止まる。一夏の拒絶の言葉に恐怖といった感情が感じられなかったのだ。

 

「え……?」

「君の言葉で色々と思い出したよ、本当に色々と」

 

 でもね、と一夏は続ける。

 

「そのおかげであの人に拾ってもらった。人にしてもらったの。むしろ、あの人達には感謝しなきゃ」

「何を言って」

「だってあの人達が京也に会わせてくれたんだもの。だからもうあのことはどうでもいいの」

 

「それとさ」

 

「聞いてるうちに顔が思い出せなくなっちゃった。誰だっけ、その人達」

 

 大川が見る一夏の顔。その表情は本当にどうでもいい、といったものだった。

 

 大川のトラウマを抉って動揺させる作戦は見事に潰えた。

 

 カウントダウンエンド。試合開始だ。

 

 

 

 

 

「やあぁ!」

「うわぁ!?」

 

 開始のブザーと共に打鉄がブースターを起動させ、1回目の加速を使い、刀で切り込む。その切り込みをストフリは寸でのところで回避する。

 

 回避と同時にビームサーベルを抜刀したストフリは打鉄へ反撃をするもシールドに防がれ攻撃は弾かれた。

 

「ちっ!だったらこうだ!」

 

 近接では分が悪いと考え、ストフリは下がって距離をとり、2丁のライフルと両腰のレールガンを展開し4門の砲撃。

 

 先の戦闘と違い、今度はAIを修正したこともあって射線がロックオンされ、弾は全て打鉄へ吸い込まれる。しかし、この攻撃も大型シールドに弾かれる。

 

 弾かれたとわかっても砲撃は続く。シールドを貫通出来ないなら貫通出来るまで攻撃を与えればいいのだ。無論、それは一夏もわかっているがセシリアのBTと違い、砲撃の威力が高い。一撃でももらえばどうなるかわからず、回避が取りづらいためにシールドで防ぐしかない。一夏の視界の端でシールドの耐久値を示すバーがガリガリと削られていく。

 

「このままじゃシールドが……賭けるしかないか」

 

 やがてシールドの耐久値が2割を切ったところで一夏は賭けに出る。2枚のシールドで身体を隠し、完全に見えなくなったところでシールドとの接続を遮断。スラスターを吹かせ上昇してから2回目のブースターを使用し、最初よりも速い速度で襲い掛かる。

 

 砲撃を連射する体制だったストフリはこの奇襲に反応が遅れ、やむなく腕に備わっているビームシールドを展開し斬撃を防ぐ。

 

「っ!これも防がれた!?」

「あぶねぇ……だけど」

 

 奇襲を何とかしのいだ大川は安堵するが、ここで一つ問題が生じた。

 

(なんだこれ!?攻撃を防いでいるはずなのにSEの減りが激しい!?)

 

 シールドで防いでいるはずなのにSEがかなりの勢いで減少しているのだ。予想外のことに大川に焦りが走る。

 

 このままでは負ける、計画も半分は台無しなのだ。ここで負けて全て潰されるわけにはいかない。

 

 大川は奥の手の使用に踏み切る。そのために再び後退して距離を取り、その背中の蒼翼を広げる。

 

「翼……なんだか嫌な予感がする」

「いけぇ!ドラグーン!」

 

 そして射出される8機のスーパードラグーン。その光景に一夏は驚愕するしか出来ない。

 

「BT兵器!?しかも8機も!?」

 

 8枚の蒼翼が一夏を囲み、ビーム射撃が開始。8方向からの弾幕はすさまじいの一言で、大型シールドを失った一夏を蜂の巣にした。

 

 

 

 

 

 はずだった(・・・・・)

 

 

 

 

 

「ぐ……があ……!?」

「……あれ?これだけ?」

 

 確かに8方向からの攻撃は一夏が回避に専念しても6、7発は被弾した。しかし、ドラグーンはそれぞれが1発づつ撃っただけで動きを止めてストフリへと戻っていったのだ。

 

 そして、当のストフリは動くことなくゆっくりと高度を下げていくのだった。

 

 何が起きたのか。それはドラグーンを射出した大川を襲った激しい頭痛である。

 

 ドラグーン兵器もBT兵器と同じくかなりの制御力を要求される。ましてやそれが8機分(・・・)。2機くらいならともかく8機など凡人が扱える物ではないだろう。

 

 それは大川も例に漏れなかった。8機のドラグーンを動かした彼の脳は8機分の流れ込んでくるデータに耐えられなかったのだ。

 

 運が悪ければ廃人化する可能性もある。そうならなかっただけまだましだろう。

 

 そして、そんなことを知らない一夏は困惑していた。

 

「……とりあえず、京也はこの状況なら型のサンドバッグ(こう)するよね」

 

 困ったら、京也の思考で、Let,GO。

 

 そんなある意味残酷な考えで、一夏は更識流の刀剣術の型を繰り出す。その衝撃が大川を襲うも、反応出来ずにただ喰らうだけだった。

 

 やがて、ストフリのSEが0になり試合終了のブザーが鳴る。

 

 更識一夏の勝利に観客一同は何も言えないのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 試合が終わり、機体を整備班に預けた一夏は身支度を終えてから管制室へと向かう。その足はとても速く、ちょっとでも気を抜いたら走り出してしまいそうだ。

 

 やがて、目的地にたどり着く。深呼吸を一つ。息を整えたところで前に出て自動ドアを開き、

 

「京也あぁ!私頑張ったあだだだだ!?」

「いい加減に飛びつくの止めろっつってんだろうが」

 

 京也目がけて飛びつこうとし、アイアンクローに阻止されるのだった。

 

「一夏……はぁ……早すぎるよ……はぁ……」

「……どういう状況だこれは?」

 

 そして、あとから追いついた瑠璃は息を整え、箒はその光景に呆れるのだった。

 

「おう、お前ら。このアホ娘連れてけ。後ろで何かしたそうなお前らでもいいわ」

 

 アホの子のうめき声をBGMに京也が言う。その言葉に箒が振り向くと、静寐を始めとする1組の生徒達が管制室へ押しかけていた。

 

 一夏が管制室へ早歩きしているのを見かけ、ついていったのだ。京也との絡みを見に行くためだが。

 

「いや……連れていくっちゃあ連れて行くんですけれど、あの、その前に手、離しませんか?」

 

 京也によって宙ぶらりんになっている一夏を見た静寐は困惑しながら京也にそう進言するのだった。

 

 

 

 

 

 

「では、クラス代表は更識さんに決まりました~皆さん拍手~」

「が、頑張ります」

 

 翌日、朝のHR。そこで一夏のクラス代表就任が発表された。

 

「先週も言いましたがそんなに身構えなくても大丈夫ですよ。あ、でもクラス代表戦の優勝賞品はスイーツパスなのでやっぱり責任重大かもしれませんね」

「ぐはっ……」

 

 真耶のその言葉を聞いたとたん、クラスの面々の眼が光る。砂糖菓子で構成されている女子にとって、懐が痛まないで甘味摂取が出来るのは重要なのだ。

 

 成り行きでなってしまったクラス代表。それの重みを違う意味で感じる一夏だった。

 

「……オルコットさんの方がよかったのでは?」

 

 一夏が重圧でつぶされそうになる中、大川がその疑問を口にする。

 

「ああ、それはですね」

「私が辞退しました。これでもなにかと多忙な身ですので、クラスのことに構う時間がありませんの」

 

 真耶の言葉を遮り、セシリアが簡単に訳を話す。

 

「多忙……?」

「ええ、かなり」

「それってどんな……」

「それは言えませんわ。機密事項ですから」

 

 セシリアの言葉は大川を見下したようにも聞こえるものだった。

 

 これ以上話す気はないと言わんばかりにセシリアは大川から顔をそらす。

 

「ああ、それと大川。お前の機体、少し借りたぞ」

「え?」

「お前が保健室で治療している間にな。それで、お前の身体保護のために制限をかけさせてもらった」

「は!?ど、どういうことですか織斑先生!?」

 

 さらっと機体の制限を告げる千冬とそれに動揺する視線を向ける生徒達。

 

 千冬はそんな視線など気にしていないようで、その質問に返す。

 

「お前の機体に制限をかけた理由だが、さっきも言った通り身体保護のためだ。昨日のデータを解析したがどうなっているんだ?理論上は既存のISのレベルを軽くこえているぞ。その技術を狙う輩がお前を狙うリスクを減らすためなのと、あれをフルスペックで使うと人の身では耐えられずに死亡する危険性があった。それ故の制限だ」

 

 それを聞いた大川は後悔する。それならデスティニーにしとけばよかったと。

 

 まあデスティニーもデスティニーでパルマ・フィオキーナビーム掌底で腕が吹っ飛ぶ危険性があるので変わらないのだが。

 

「そんな……」

 

 セシリアルートが昨日の敗北で潰える可能性が大になった上に機体制限。彼の気分はどん底に落ちた気分だった。

 

「さて、連絡事項は終わった。これでHRを終了とする」

 

 千冬のその声でその日の日直が号令をかけた。

 

 

 

 

 

「さて、何の用だい?オルコットさん」

 

 昼休み。人気の無い廊下で大川とセシリアは顔を合わせていた。

 

「決まってますわ、私の勝利の報酬ですわよ。忘れていましたの?」

「いや、そんなことないよ……ははは」

 

 その言葉に頭をかいて大川はごまかす。事実、自分の要求が通らないものに興味は無く、思い出さないようにしていたのだが。

 

 女尊男卑の彼女のことだ、下僕になれとでも言ってくるのだろうか。もし、そうなら下剋上でルート復帰をすればいい。

 

 そう考えていた彼の思考は次の言葉で真っ白になる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……まあいいでしょう。では、色々と聞きたいことはありますがまずはこれですわね」

 

「我がイギリスの独自兵装のBT兵器……どこでそのデータを手に入れましたの?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……へ?」

 

 その言葉で大川はセシリアルートが潰れるを通り越し、完全に崩壊した音が聞こえた気がした。




ガード中にSE大減少の理由。
ビームシールドってことはこれ核使わなかったら防御版零落白夜じゃね?という想像。
そして書いていて思うストフリのIS世界の適合率の悪さ。
あ、独自兵装とかその辺は一応調べたのですが、特に記述無かったしオリジナルということで。原作手元に無いし。

感想、指摘、「やっぱ薄すぎじゃない?」といった文句があればぜひ感想欄まで。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

17

感想欄でセシリアがスパイだと思われていますが、答えは「No」なのです。彼女が何者かというのはこの話でさらっと明かしましょう。
考察してくださった皆様、申し訳ありません。私自身が知識がなかったりするので変に混乱させてしまうことは多いかもしれません。

毎度読んでくださる皆様、謝謝。


 さて、そろそろセシリア・オルコットについての話しをしよう。

 

 と言っても語ることはそんなに多くはない。

 

 原作と同じくかかあ天下の家に産まれ、それを見て女尊男卑思考を持ち、列車事故で両親を亡くした。大体はこのようなものだろう。

 

 彼女の変化は、彼女の両親が遺した会社の人間を観ていたときだった。

 

 とある男性社員を観て、それから女性社員を観てからまたその男性を観る。何を彼女が観察したか。それは仕事の効率の違いである。

 

 その男性はその女性よりも立場は下だし、仕事の内容が違うから比較しづらいのはわかる。しかし、幼い彼女の眼から見ても明らかに仕事を片付ける速度が違うのだ。

 

 少女の思考に変化が生じた瞬間だった。それを面白がった彼女は片っ端から社員を観察し、出来る人と出来ない人を割り出し、彼女が成人まで代理社長を務める使用人に見せ、社内を一掃するように言いつけた。

 

 それを見た使用人はうさん臭く感じながら、主人の言葉で社内を一掃した。結果は唖然とするしかなかった。

 

 無能な社員や企業スパイが吐き出され、業績が右肩上がりにどんどん上昇していったのだ。

 

 そして、吐き出された社員の割合は女性の方が多かった。男性社員の業績を自分のものにしていた無能ばかりだったのだ。

 

 逆に、見つかったスパイは男性だった。今の風潮である男性の立場の弱さを利用して怪しまれないように立ち回っていたのである。

 

 

 

 その結果を見たセシリアは女尊男卑の考えを改めることになる。女性が真の意味で上に立つことなど本の中にしか無かったのだと。

 

 

 

 そこから彼女は様々な人を観察し始める。

 

 社交会で自分に群がる子息達、商談相手の大人達、学校で自分を取り巻く少女達。次第に彼女は人の黒い内面を探すようになっていった。

 

 それを引き出して自分を有利にするために彼女は何でも学んだ。いずれオルコット家を継いで大きくするために。

 

 IS適正があったのも彼女の才能の一つだろう。ISという兵器を難なく動かし、代表候補生となった。

 

 失敗も多かった。だが、それも全て糧にしてきた。

 

 そして、今は会社を裏で支配する存在として彼女は存在する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして時間は現代へと戻る。

 

「我がイギリスの独自兵装のBT兵器……どこでそのデータを手に入れましたの?」

「……へ?」

 

 人気の無い廊下でセシリアは大川を冷酷に見つめる。まるで逃がすつもりなどないと言うように。

 

「いや……あの、お、俺も知らないんだ!」

 

 苦しそうに大川はそう絞り出すように告げる。しかし、その言葉はセシリアの眼をより険しくするだけだった。

 

「ほぉ……貴方でも知らないと。自分の機体なのにですか?おかしくはありません?」

「お、俺はただ渡されただけなんだよ!ポンって!」

「あら、ではその会社を調べましょう。その名前を教えてくださいな」

「な、なんでそこまでするんだ!?」

「あらあら、言われないければわかりませんの?」

 

 見下したように嗤うセシリア。その顔は愉悦だと言わんばかりに歪んでいた。

 

「我が国の技術が貴方の機体に使われているということ、それは我が国にスパイがいたということでしょう……兵器としては公開してはいますが、技術までは公開していませんもの」

「くっ……」

「ですから、早く教えてくださいな。ただ教えるだけのこと、出来ない相談なんて言わないですよね?」

 

 なにより昼休みも時間が限られていますし。そう呟く彼女の言葉に大川は腕時計を見る。この時間(昼休み)が終わるまであと10分だ。

 

 しかし、これはお願いどころか……

 

「尋問みたいだ……とでもおっしゃりたいのですか?」

「っ!?何故それを……」

「顔にそう書いていますよ」

 

 その言葉を聞いて大川は思ってしまう。なんてやつだ……こんなのはセシリアではない……と。

 

「あら……私は私。赤の他人と間違えていません?」

「っ!?……そうか、赤の……他人……!」

 

 また思考を読まれた。だが、その言葉で彼はようやく確信に至る。この世界はもう自分の知る世界ではないのだと。

 

「さて、そろそろ教えてもらえませんか?時間がもったいありませんし、考える時間は十分与えたと思うのですが?」

「ま、待ってくれ!社名は……社名は……」

 

 彼女の催促に大川は頭を全力で回転させる。恐らくだがわからないといっても通じはしないだろう。かと言って下手な嘘も同様にだ。

 

「言えませんの?聞かれたことを答えるなど子供でも出来ることだというのに?」

「う、うう……」

 

 セシリアのバカにするような声に、怒りで思考が霧散しかける。しかし、目の前の存在に完全に敗北するわけにもいかない。ここはどうにか……

 

「社名は……わからない」

 

 こうするしかない、彼は先ほど切り捨てた案を使う。事実、作った会社なんてものは存在しないのだ。思考を読むなら、逆にそれが本当のことだと思わせるしかない。

 

 その答えを聞いてセシリアはあきらめた表情でため息をつく。この場に漂う圧が霧散していくのを感じる。

 

「そこまで言うなら本当のことなのでしょう……私は悪魔ではないので貴方に聞くのはこの辺りで止めにしましょう」

「お、おう……ごm」

「しかし、願いは叶えてもらいましょうか。内容は、今後私に必要最低限近づかないこと。では、今度機会があれば何故私の全てを知っているような顔をしたのか教えてくださいね?」

 

 その彼女の言葉は、彼自身にセシリアルートをあきらめさせる決断を下させるのだった。

 

 もうこんな重圧は嫌だ。これが今後一切ないなら諦めたほうが全然良い。

 

 そう物語る彼の顔を見てセシリアは満足気に立ち去って行くのだった。

 

 それと同時に昼休みの終わりを告げる鐘が鳴るのだった。彼はその場で膝を崩した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 それから時は過ぎ、クラス対抗戦まで1週間となったある朝のIS学園校門前。

 

 以前は千冬と京也が再開した場所に今度は小柄な少女がスーツケースと共にたたずんでいた。

 

 動きやすいように肩を出すように改造された学園制服、長く茶色い髪はリボンでツインテールにまとめられており、第一印象は活発そうなイメージを与えるだろう。

 

 しかし、その見た目に反して少女の表情は優れなかった。

 

「はぁ……とうとう来ちゃったなぁIS学園」

 

 少女の名は凰鈴音(ファン・リンイン)。中国政府から代表候補生として送られてきた転校生である。

 

「大川光輝と小学同じだったからって理由で送り込んでDNA取ってこいとかうちの政府はどんな神経してるわけ?しかも代表候補生とか私はそんなもん出来るタマじゃないっての……」

 

 そうぼやきながら校門を潜り、校舎を目指す鈴音。その足取りはかなり重たい。

 

「一夏は元気かしら……元気な訳ないわよね……いや、恨まれてるのかな」

 

 彼女が思い出すは昔別れた時。

 

 一生一夏を守ると彼女に誓ったのに、その誓いを反故にしてしまった罪悪感。あの時の一夏は泣いていなかったけれど、きっとつらい日々を過ごして、いや、今も過ごしているのかもしれない。

 

「一夏に会いたい……拒絶されてもいい、せめて謝りたい」

 

 ここに一夏がいればいいのに。そう思いながら校舎に入り、廊下の掲示板を何となく見る。

 

 

 

 見覚えのある少女がISに乗って戦っている写真がドでかく写っていた。

 

 

 

「……は?」

 

 彼女のどんよりとした気だるげな思考は一瞬で宇宙のかなたへと飛ばされた。思わずスーツケースから手を離し、顔を近づけて写真を見る。学生新聞のようだ。

 

「この顔、この目、この写真からにじみ出る小動物感……!間違いない、一夏だ!でも何でここに?」

 

 そう思い、記事によく目を通す。どうやら彼女の在籍するクラスの代表を決めるときに少しもめたらしく、それをISで決める、といった内容だった。

 

「へぇ、イギリスの代表候補生とやりあったんだ……あの子がそこまではっちゃけるって何が……ん?」

 

 一夏の記事を読んでいた彼女は別の写真を見つける。

 

 

 

 ジャージ姿の一夏が見知らぬ男性(石上京也)の背中にうつ伏せで乗っかっているところだった。

 

 

 

「…………え?」

 

 誰だこの男は。何故一夏がこんなにもくっついているのだ。いやそもそも何で一夏はこうも楽しそうな顔をしているのだ。

 

 しかも、さらに探してみれば座ったそいつの膝の上で寝ている姿すらあるじゃないか。そう、それは守られている小動物のような安心した顔で……

 

 

 

 

 

 

 あたしだけが一夏を守るって誓ったのに。

 

 

 

 

 そこはあたしそこはだけの場所なのに。

 

 

 

 

 

「何で……?何でそんな表情()で寝られるの……?あたしだけに守らせてよ……ねぇ、一夏……」

 

「……誰だ」

 

「あたしの一夏を奪ったお前は、誰だ!」

 

 新たな火種はすぐそばにあった。

 

 

 

 

 

 

 

 そのころ、1組の教室では2組に訪れる転校生の噂で持ち切りだった。

 

「ねえ、聞いた?2組の転校生の話」

「聞いた聞いた!なんでも中国の代表候補生なんでしょ?」

「ああ、スイーツパスが遠のいて行く……」

「その思考やめぃ!こっちにはセシリアに勝ちかけた一夏ちゃんがいる!」

「そうだそうだ!それに、その人が出てくるとも限らない!」

「いや、あまり期待されるとプレッシャーが……」

 

 転校生が代表候補生という謎ソース情報で一夏へのスイーツパス(優勝)の期待はさらに高まる。無論、その重圧に耐えられる一夏ではないのだが。

 

「いやでも十分いけるって!」

「あれはセシリアの試合を観て対策を考えたから、次また上手くいくかは……」

「それは相手を観察する力を鍛えることにもつながりますわ。それに、代表候補生が相手ならば私を同じように試合記録を探せばよいでしょう」

「そんなぁセシリアまでぇ……」

「それはそうと石上先生早く来ないかなぁ……」

「私、一回屋上でO・HA・NA・SHIってやってみたかったんだよね」

「すんませんでしたあっ!!」

 

 クラスは一夏を中心に騒がしくなってくる。それがここ最近の日常だった。

 

 しかし、今日はその日常に一石が投じられる。

 

「……久しぶりね、一夏」

 

 教室の入り口から聞きなれぬ声がした。全員がそちらを見ると、ツインテールの小柄な少女が立っていた。

 

 見慣れぬ少女に困惑する生徒達。しかし、一夏と大川はその姿に見覚えがあった。

 

「え……!?もしかして鈴!?2組の転校生って鈴な……の?」

 

 一夏の言葉は、懐かしい少女がドサッと抱き着きいた衝撃で止められる。

 

 一夏に疑問が生じる。別れる前の少女はこんなにも折れそうな子だっただろうか?

 

「……ねぇ一夏、一つ聞かせて」

「え?うん、いいけど……?」

 

 鈴音の問いかけに一夏は困惑しながら返した。

 

 その答えを聞いた鈴音は抱き着く力を強め、顔を守るべき少女のお腹に埋める。

 

「り、鈴?ちょっと痛いよ」

「一夏」

 

 

 

「あの男は誰?一夏の何?」

 

 

 

 

 抱き着いたまま顔を上げてこちらを見上げる少女。

 

 その目はずっと一夏の眼を見ていた。




絶対に作者の文力じゃ伝わっていないであろうセシリアの強化内容。
・心理学95に職業ポイント趣味ポイント大量の探索者。
クトゥルフ神話TRPG的に言えばこんなところです。セシリアの思考をちょっと変えようと思った結果がこれだよ。
そして登場の中華娘。設定は考えていなかったけれど、書いてるうちに作者好みの子になってしまいました。

感想、指摘、「お前鈴になんてことしてくれてんだごらぁ!」という怒りの文があれば是非感想欄まで。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

18

ちょっと急展開にさせすぎた感じが否めない今回。
結構人を選ぶことになるかもしれません。

毎度読んでくださる皆様、謝謝。


「あの男は誰?一夏の何?」

 

 再開した親友の問いかけに一夏は答えることが出来ない。京也が出てくることは疑問に思うが、それよりも自分を見つめる「眼」が答えさせてくれない。

 

 それはとても親友に向けるものではなく、瞳の奥で黒く渦巻く底の無い闇が一夏に恐怖を与えた。

 

「答えられないの?」

「……そんなことは、ない」

 

 鈴音の再びの問いかけに一夏はかろうじて答える。しかし、その声は震えていた。

 

「あの人は、京也は私を拾ってくれた人、だよ」

 

 鈴音を抱きしめ返し、耳元でささやかれる返答。その答えで鈴音は納得したのかはわからないが、そう、と呟き一夏の腕を解き、離れた。

 

「今はこれでいいわ……またあとで話しましょう」

 

 そう言って鈴音は教室を出て行った。

 

 まるで嵐でも過ぎ去ったかのような静けさがこの場を支配した。

 

 

 

 

 

「鈴には一体何があったんだ?」

 

 その様子を見ていた大川は疑問に思った。原作ではあんな誰かに依存したようなキャラではなく、もっと騒がしいキャラだったはずだ。

 

 自分の計画を昔から邪魔してくれたことや、そもそも貧乳ヒロインということで攻略対象から外していたキャラだったが、セシリアの一件もある。

 

 今回も何か変化があるのだろうか。

 

「ここは、一先ず様子を見よう。それにいずれはあちらから接触する機会があるはずだ」

 

 それに、もしかしたら何かに利用できるかもしれない。

 

 そう考えて、行動方針を決めた彼は静かに朝の準備を始めるのだった。

 

 

 

 

「一夏!お昼行きましょう!」

 

 昼休みに再び教室への鈴音の来訪。それにクラス一同は、また朝のようなことが起こるのかと身構えたが、鈴音の様子は朝と打って変わって、明るくて快活そうな雰囲気であった。

 

「うん、いいよ」

 

 朝のあれは何だったのかと疑問に思いながら、一夏はその提案に了承する。

 

「じゃあ行こっか。あ、せっかくだし屋上で食べよ?」

「はいはい、わかったよ」

 

 そういって一夏は鈴音と一緒に教室を出て行った。

 

 屋上は、食堂程ではないが何人かの生徒達が思い思いに昼休みを過ごしていた。

 

 食事をとる者や談笑の声、静かに読書する生徒までいた。

 

 何よりかなり広い。さすがIS学園といったところだろう。

 

「へぇー結構広いじゃない。話には聞いてたけれどここまでとはねー」

「私も初めて来たけどすごいねここ。簡単な運動なら出来そう」

「ま、今日はごはん食べに来たんだけどね。ちょっと場所探しましょうか」

 

 そういって鈴音は少し探索をし、丁度影が出来て涼しそうなところに一夏を呼んだ。

 

 そこに座った鈴音は、教室に来たときから持ち込んでいた荷物を開けると、中から赤い色をしたものが入っているタッパが出てきた。

 

「はーい一夏、中身は何でしょうか?」

「……もしかしてそれ酢豚?」

「せーかい。まあ昨日ホテルで作ったものだけどね」

「でも鈴の酢豚食べるの久しぶりだから楽しみだよ。あ、おじさん達元気?今どうしてるの?」

 

 それを聞いた鈴音は顔を曇らせた。しかし、すぐにもとに戻る。

 

「……まあ、あとで教えてあげるわよ。まずは食べましょう?」

 

 すぐに教えてくれないことに一夏は疑問を持ったが、お腹も空いているのでまずは鈴音の酢豚をいただくことにした。

 

 

 

 

 

 

 

 酢豚のあとに飲む熱いお茶は格別においしい。

 

 そう考えながら、一夏は鈴音の持参した水筒のお茶を飲みながら一息つく。鈴音の酢豚は昔よりもおいしく、食堂で白米をもらえばよかったと強く思う出来だった。

 

「はひぃ~…おいしかったなぁ……」

「ありがと、いい食べっぷりだったじゃない。そこは昔と変わらないわね」

「それって私が食いしん坊に聞こえるよぉ……」

「あんた自覚ないの……一夏」

 

 少し落ち着いた一夏は、鈴音の真剣な声を聞いて、正面に座る鈴音を見る。その顔は朝の一件とは別の暗さだった。

 

「お父さんたちのことを話すとね、離婚しちゃったんだ」

「え……!?」

 

 鈴音の静かな声に耳を疑う一夏。自分が知るあの夫婦はそんなことするような仲ではなかったはずだ。

 

「何で……」

「私にもわからない、ある日突然そう言われたの」

 

 そういって鈴音は座ったまま一夏の膝に寝転がり、その身体に朝のように顔を埋める。そこから先は鈴音のその後の話だった。

 

 両親が離婚し、母に引き取られて中国へ帰り、ISの代表候補生になった。その話を一夏は鈴音の頭を撫でながら、ゆっくりと聞いていた。

 

 やがて鈴音の話は終わる。

 

「ここまでがあたしのあったこと……ねぇ一夏、あたしからもいい?」

「うん?いいよ」

「ありがと。じゃあ聞くわ」

 

「あの男は、石上京也は一夏の何なの?」

 

 その声は朝と同じく、冷たい声。その言葉に一夏はまたすぐに答えることが出来なかった。

 

「クラスで聞いたわ……あの男が一夏を鍛えてるってことも。来たときはいつもあんな顔してるってことも。恋人なの?」

「……違う、かな。私はそうなりたいんだけどね」

「っ!……次、拾ってくれたってどういうこと?」

 

 その質問に一夏は答えづらかった。しかし、一夏は答えることにする。何があっても受け入れる覚悟をもって。

 

 一夏は鈴音がいなくなってからのことを話した。鈴音は最後まで何も言わなかった。

 

「そう……そうだったのね。ごめんね、一夏。守ってあげられなくて、約束を守れなくて」

「いいよ。それに京也に会えたんだk」

 

「でも、もう大丈夫。今度はあたしがずっといてあげるから」

 

 一夏の声を遮る鈴音の声。その声色はいままで聞いたことが無いもので、一夏を不安にさせるのだった。

 

 

 

 

 

 

 そして放課後。晩御飯も終わった自由時間にそれは起きた。

 

「てことで部屋、変わってくれない?」

 

 一夏の自室前で箒にそう告げる鈴音の姿があった。スーツケースも持参済みである。

 

「……私としてはものすごく不安なのだが」

 

 箒の声はあまり了承したくない、といったものだった。まあ当然だろう、朝にあんなことやらかしたのを見れば、不安になるのもわからなくはない。

 

「そう。私ってそんな弱く見えるかしら?」

「いや、身体的なことではない。心の方の問題だ」

 

 箒の心配事はそこだった。この凰鈴音という少女が箒にはとても危うく見えるのだ。

 

「ふーん。あんた、強いね」

「私は強くないさ。それよりも上がいる」

「でもあたしも譲る気はない。変わってくれない?」

「……一夏はどうなんだ?」

 

 鈴音の折れる気がない様子に、箒は一夏の判断を仰いだ。

 

「大丈夫だよ、鈴音なら」

「……お前がそういうなら信じよう。だが、もし一夏に何かあれば私はすぐに戻るぞ」

「はいはい」

 

 そういって箒は荷造りの準備を始めた。箒の荷物はあまり少なく、30分程で終わった。

 

 箒が出て行った部屋で、鈴音は荷物を置き、ぐーっと身体を伸ばす。

 

「さて、邪魔者は消えた、と」

「鈴、どういうつもりなの」

 

 箒がいなくなって清々したという様子の鈴音に一夏は強く問いかける。今の鈴音を拒むのは不味いと感じて部屋に入れることにしたのだ。

 

「どういうつもりって、言ったでしょ。あたしがずっといてあげるって」

 

 一夏のに鈴音はさも当然のように答える。どこか執着じみた返答。その答えを聞いて一夏は恐怖を感じた。

 

「だって、そういったけどここまでしなくても」

「一夏」

 

 近づく鈴音。

 

「な、なに?」 

 

 後ずさる一夏。

 

「あたしは誰にもあんたの傍にいてほしくないの」

 

 広い部屋といえども、所詮部屋。すぐに壁は迫ってくる。

 

「あんたの傍にはあたしだけがいればいい」

 

 やがて、一夏は背に壁が当たるのを感じた。

 

「あたしだけがあんたを守れればいい」

 

 逃げ場のない一夏に鈴音の顔が近づく。

 

「あたしだけを見てよ」

 

 それはだんだんと近づいて行き。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あたしは一夏が好きなの」

 

 両者の距離は、ゼロになった。




いや、本当に急展開にさせすぎました、反省してます。筆が乗らなかったら大体急展開になると思っていただきたい。
てことでタグ追加します。鈴もどうしてこうなった。

感想、指摘、「急展開どうにかしろや」といった文句があればぜひ感想欄まで。


でも鈴を嫌いにならないであげてください。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

19

やっぱりうちの鈴は皆さまに好まれなかったようです。でもこれくらいの愛情が私は欲しい。
久しぶりにコンセプト回収出来たと思う今回。
難産だった上に酷いっちゃあ酷いですけど。

毎度読んでくださる皆様、謝謝。


でもやっぱり鈴を完全に嫌いにならないであげてください。


「ん……はむ」

「あ、やっ」

 

 鈴音の唇が一夏の唇に力強く、しかし優しく押し付けられる。

 

 続いて何かが入り込む感触。それは舌。

 

 柔らかくてにゅるっとしたそれは、まるで別の生き物の様に口内を動き回る。

 

 その動きは経験の無い稚拙さを隠すかの様に、または一心不乱に感情を伝えるかの様に激しい。

 

「あむっ…ちゅる…」

「んっんんっ」

 

 抜け出そうともがく一夏に鈴音はその小さな身体を押し付け、股下に膝を入れて一夏の逃げ場を無くす。そして舌の動きは激しい動きから一夏を絡めとるようなものに変化する。突き放したくても腕はいつの間にか組まれており動かすことが出来なくなっていた。

 

「んっんふっはぁっんんっ」

「んんっ……!んん!んう!……んっ!」

 

 脳が次第にとろけ出す感覚。それに一夏は必死に抵抗しようと顔を離そうとしたり、舌を逃げる様に動かすが、それを感じた鈴音の動きはより激しくなっていく。

 

 いったい何分がたっただろうか。一夏の口内を貪る鈴音は顔を離した。二人の間に液体で構成された橋がかかり、崩落する。

 

 鈴音が離れたことで一夏の身体が崩れ、壁で支えながらペタンとゆっくり座り込む。

 

「んはぁ……はぁ……あはは、一夏の初めてもらっちゃった」

「り……ん……なんで……なん……で、なの?」

 

 息絶え絶えな一夏の問いかけに鈴音は覆いかぶさり、恍惚と狂気の入り混じる瞳で答える。

 

「だって、言ったじゃない、ずっとあたしが一緒にいてあげる、って。あんたが好きなんだ、って」

 

 その答えを聞いた一夏は呆然とする。

 

 

 

 一体何を間違えてしまったのだろう。

 

 

 

 どこでこの幼馴染は狂ってしまったのだろう。

 

 

 

「わたし、なの?わたしが、げんいん、なの?」

「それは違うわ……」

 

 一夏の言葉を鈴音は否定する。

 

「一夏は悪くない、悪いのは一夏を守れなかったあたしなの。あたしが傍にいれば、一夏はあんなにボロボロにならなくてよかったのよ……今思えばあのときから好きだったのかしらね」

 

 

 

 だから

 

 

 

「今度は絶対に離れない。離さない。誰にも渡さない!あたしが、あたしだけが一夏の傍にいるんだ!」

 

 

 

「あ……」

 

 

 

 私か

 

 

 

「それに、あたしは一夏を好きだけど、あんたの好きな石上京也は違う。あいつに出来ないものも、こともあたしは一夏にあげられる」

 

 

 

 私が弱かったからか

 

 

 

「ね、だからさ。ずっとあたしの傍にいて?」

 

 

 

 ワタシガ

 

 

 

「ISなんて危険なものもこれいじょう動かさないで」

 

 

 

 ワ タ シ ガ

 

 

 

「あたしが何でもs」

「うるさい口だな」

 

 

 

 部屋に響き渡る鈴音の声は唐突に遮られる。

 

 最初、鈴音はそれを理解できなかった。理解が追いつかなかった。

 

 何故なら。

 

 一夏が自分から鈴音の口を塞ぎに口づけをしたのだ。

 

 鈴音の声を止めた触れるだけのキスは鈴音を硬直させるには十分なものだった。

 

「な……ん……」

「さっきから聞いていれば、あたしだけが守る?離さない?」

 

 ふざけるな

 

「そこに私の自由意志は無い。それじゃあ鈴はあいつらと変わらない」

「そん、な……そんなことない!あたしは!」

「だからさっきからうるさいっての。少し黙ってて」

「ふぐぅ!?」

 

 再び口づけによって鈴音の口が塞がれる。二人の体制が入れ替わるように今度は一夏が鈴音を押し倒す。

 

「んんぅ!?むぅむぅ!……んあん!」

 

 その口づけに優しさや愛情といったものは一切ない。呼吸を許さず、舌を吸い取るような、ただ快楽を叩きつけるだけの、行為。

 

 されるがままの少女の見開かれた目に映るのは、先ほどまで責められていた愛しい人ではない。鋭く細められたその眼光は、彼女が知らない少女の感情。

 

 怒りだった。

 

 鈴音の口内を十分に蹂躙した一夏は最後に鈴音の舌を吸い上げながら顔を離す。

 

「ぷはぁ……へぇ…鈴もそんな顔するんだね」

「いち……か……?いまの……なに?」

「何って、さっき鈴がしたことと同じだよ。感情を一方的に押し付けただけ」

 

 ただ、

 

「その感情が愛か怒りかの違いだよ」

 

 まるで人が変わったかのような言葉使いに、鈴音は思考がキスでまとまらずに混乱する。その鈴音を見て一夏は何か言いたげなのを理解する。

 

「「私はこんなの知らない」って言いたそうだね。当然だよ、だって私は強くなった。まあさっきはされるがままだったけどね」

 

 一夏は言葉を続ける。

 

「私さ、ずっといじめられていたせいなのか人らしく強い感情が出ないんだ。それこそ、今まで嫉妬しか見えなかったくらいに。でもありがとう、鈴」

 

「私は強い「怒り」を初めて知った」

 

 それは親友に向けるものではないのかもしれない。だがそれは発露した。ならば全てをぶつけるまで止まらない。

 

「それに鈴は京也が私を好きじゃないって言ったよね。確かに京也はキスもしてくれないし、裸を見ても何も動じなかったよ」

「なら……なんで」

「そんなの決まってる」

 

 その問いに対する答えは最初から決まっている。一夏はそれをさも当然かのように、怒りと恋する少女の入り混じった表情()で口にする。

 

「京也ってさ、結構ぶっきらぼうだけど物はとても大事にする人なんだ。そして私はボロ雑巾、京也に拾われた物。だから私を大事にしてくれているんだよ」

 

 まあ、聞いたことないからそう思っているだけなんだけどね。そういって一夏の表情()はまた怒りに戻る。

 

「だからこそ鈴はなんにもわかってない。わかってるような口をしてるけどわかってない。私は京也を信頼しているんだ」

 

 自分がいない間の一夏の変化と信頼。その言葉で鈴音は確信する。己の初恋は終わったのだろうと。自分は一夏を信頼していなかったんだと。

 

「はは……そっか、そうだったんだ……」

「さっき鈴は私のこと好きって言ったよね。でもごめん、私はそれに答えれられない」

「そうみたいね……一夏、さっきはごめんなさい……」

「うん、まあ許す気はないんだけどね」

 

 そう言って一夏は押し倒した鈴音を抱え上げ、ベッドに連れ込む。

 

「へ?」

「私さ、鈴にファーストキス奪われてるんだよ?初めては京也が良かったのに」

「あ、いや……その……あの、ちょっと爆発しちゃたといますか」

「「ちょっと」?私の初めてをちょっと?私は物だけど女の子でもあるんだよ?その女の子の初めてをちょっと??」

「ひぐっ!?ちょっと一夏、どこ触って」

「どこってその貧相な胸大きくしてあげようとしてるだけだけど?」

「誰が貧乳かぁあん!?まって、そこはやめてぇ!」

「あーもう動かないで……そのリボン片っぽ借りるね」

 

 非常に描写しづらい光景。とりあえず今の鈴音の状態を言うならば「押し倒された衝撃で部屋着が若干はだけた上にツインテールが片方解かれている」といったものだろう。

 

「腕上げてー組んでーリボンで縛ってはいかーんせーい」

「まって!これかなり恥ずかしいんだけど!?解いて、お願いだから解いて!?」

「え?ダメだよ?だってそれじゃあ罰にならないじゃん」

「罰……!?」

「そう、罰。人に嫌がることをした悪い子にはおしおきが必要でしょ?それに、私の怒りはまだ収まってないし」

「ごめんなさい私が悪かったです!だからこれ解いてください!」

「謝れば済むことじゃないよねぇ……では罰の内容を言います。鈴は私の初めてを勝手に奪い、私が嫌がってもひたすらに続けました。だから私と同じ気持ちになってもらおうと思います」

「ひんっ!?あんっそれっ!それはっ」

「覚悟してよね……私が感じた恐怖も、快楽も、全部、全部全部その悪い身体に2倍、3倍、4倍にして刻み込んであげるから。ああ、安心して。膜破ろうとまではしないよ?」

 

 怒りと愉悦の混じる一夏の顔。責められながらその顔を見た鈴音を、この先自分がどうなってしまうかがわからない恐怖が襲う。

 

 鈴音は恐怖と快楽で顔を引きつらせながら笑うのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 次の日の早朝5:00

 

「「ほんっとうにごめんなさいやりすぎましたぁ!!!」」

 

 ベッドの上には、目覚めて同時に互いを謝り倒す一夏と鈴音の姿があった。




という訳で一夏ちゃん怒りを習得。同時にS属性も習得したような気もするけど。
本当は対抗戦まで喧嘩させるのもありだったけれど、筆が進まず代わりにこんなものが仕上がってしまいました。いつも言ってるけど本当どうしてこうなった。

感想、指摘、「いやこうはならんだろ」といった怒りの声があればぜひ感想欄まで。


ところでこんなもんじゃ18禁指定くらわないよね……?(gkbr)


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

20

ちょっと精神的に病んだりやること多かったりで気づけばあんまりいじれていませんでした。申し訳ない。
リハビリ兼ねて今回は結構短めの話になっとります。
あと、前回のような展開になるときは注意書きが欲しいと言われましたので、今後は注意していこうと思います。

毎度読んでくださる皆様、謝謝。


「一夏……本当に大丈夫だったのか?」

「だだ大丈夫だったよ!?ね、鈴!?」

「そそそうよ!?何も無かったわよえぇ!?」

 

 鈴と箒が部屋を入れ替えた翌日。朝の食堂で箒は一夏と鈴の様子を聞いていた。

 

 二人の様子はどこかそわそわしてるしもう「何か隠してます」感がものすごく出ており箒の眼には怪しく見えた。

 

「……何か隠してないだろうなお前ら」

「「ぜーんぜん!」」

 

 追及してみてもやはり答えは予想通りのものだった。不自然な笑みを浮かべる二人とそれを睨む箒。やがて、箒は諦めたようにため息を吐いた。

 

「はぁ……これ以上は無駄だろうな。ほら、さっさと食べてしまおう」

「「ほっ……」」

「だがいつかは教えてもらうからな」

 

 呆れた顔の箒は朝食に手をつけた。それを見て二人も朝食にありついた。

 

 箸を動かしながら箒はそういえばと思い出したように話す。

 

「今日は石上さんの授業がある日だろう。鈴音は気になるんじゃないか?どんな人なのか」

「それは気になるわね。場合によってはボコすわよ石上京也ぁ……」

「そんなみんなにそくほーう」

「ん?……ひぃ!?」

 

 突如横からかけられた言葉に鈴音はそっちを向いて少し悲鳴を上げる。そこには顔を包帯で覆った女子生徒が立っていた。

 

「あ、本音ちゃん。速報って?」

「え、一夏この人の知り合いなの?というかなんで包帯なの?」

「更識関係の者らしいぞ。それで布仏、何なんだ?」

 

 鈴音が一夏の人間関係に謎を感じる中、本音はふっふっふっと笑いながら告げる。

 

「今日から蓮さんも特別コーチになりまーす」

 

 瞬間、一夏の表情が凍り付く。

 

「?蓮さんとは誰だ?」

「きょーさんと色々あった人、かな?」

「……なんでくるの?」

「一夏?顔めっちゃ怖いんだけど?」

 

 隣に座る鈴音は昨日とは別の怖さを出す一夏を不信に思う。仲が悪いからとかで出来る顔ではないからだ。

 

「ストッパー役だってさ~ほら、だいたいモッピーと織斑先生と暴れてるでしょ?それで止めれる人だからってことだってさ」

「京也ああぁぁ!!」

「落ち着け一夏!出席簿が飛んでくるぞ!というかモッピーとは私か!?」

「うん、箒って掃除道具でしょだからモッピー」

「せめてもうちょっと別の名前は無かったのか!?」

「え~じゃあどうしよっかな~」

「……何このカオス」

 

 一人だけ置いてけぼりで疎外感を感じる鈴音。とりあえず聞き流すことで情報を集めながら食事を再開させるのだった。

 

 ちなみに、騒ぐ三人は箒の予言通り飛来する出席簿によって沈められた。

 

 

 

 

 

 

 

「もっかい聞くが、何でお前がいる?」

「あなたが毎回暴れるからじゃないですか?まあ私も一夏ちゃんの様子は見たかったので丁度良いんですけどね」

 

 授業前のグラウンドにはジャージ姿の二人の男女がそこにいた。

 

 石上京也と雛森蓮である。

 

「仕方ねぇだろ、いい腕したやつ多いし鍛錬になるだろうが」

「当主自らがこれでどうするんですか……ちゃんと石上家を引っ張っていってくださいよ?」

「だから誠一が成人するまでだっつってんだろうが」

 

 柔軟運動をする京也。蓮はそれを手伝いながら話は続く。

 

「でも誠一様は継ぐ気はまだないそうですよ?」

「ったく、どいつもこいつも継がせようとしやがって。俺じゃあ出来ねぇだろうが、ただの拾い子だぞ」

「その拾い子に救われた人は大勢います。誰も文句は言いませんよ」

「一人でも出たら即出ていく気だがな。そろそろ交代するぞ」

「ええ、ではお願いします」

 

 今度は蓮が柔軟を始め、京也はそれを手伝う。背に京也の両手で押される感覚を感じながら蓮は楽しそうに言う。

 

「こうしていると思い出しますね。まだ白夜様に鍛えられていたことを」

「あんときゃ全員殺意むき出しで襲ってきたからな、おかげで十分強くなったわ」

「私もかなり毛嫌いしていましたからね。今となっては恥ずかしい思い出ですよ」

「その反応が当然だろ。そりゃあぽっと出のガキと突然一緒に学べとか無理にもほどあるだろうよ」

 

 その言葉を聞いた蓮は苦笑する。

 

「そのガキが一番強くなってるんですけどね」

「奇襲も大歓迎だったからな。だからって一番はねぇよ」

 

 そう答えて京也は手を離す。

 

「そら、もうすぐ時間だ。ガキ共もそろそろ来るだろ」

 

 そして、予鈴が鳴り生徒達がグラウンドに入ってくる。笑顔でこちらに手を振る、見たことの無い女性の存在に生徒達は驚き、

 

「京也ああああああぁぁぁぁぁぁ!!!!」

 

 後ろから走ってくる一夏の怒号に道を開けるのだった。

 

「あら良かった、ずいぶんと元気そうですね。毎回あんな感じなのです?」

「いや、毎回じゃねぇけど何か今日はおかしいわ」

「覚悟おおおおぉぉぉぉ!!!!」

 

 叫びながら放たれる一夏の飛び蹴り。それは、京也の眼からみてもここ最近の中で一番の出来だと感じるものだった。

 

 まあだからといって通じはしないのだが。

 

「随分と元気だな一夏。何かいいことでもあったか?」

 

 京也はその襲撃を流し、一夏は地面に倒れる。しかし、一夏はすぐさま受け身を取り体制を立て直すと再び京也に突っ込む。

 

「うがああああぁぁぁぁぁ!!!!」

「せめて人の言葉で話せ。じゃねえとわからんぞお前」

「京也のバカあああああぁぁぁぁぁ!!!!」

「さっそくそれかおい」

 

 一夏と京也の乱闘に他の生徒どころか特別授業参加組の生徒達も驚く。ここまで鋭い一夏の動きは見たことが無いからだ。

 

 乱闘は続く。

 

「なんで蓮さん呼ぶ事にまでしちゃったのかなぁ!?」

「俺に言うなよ上に聞けや。今日まで知らなかったわ」

「いっつも箒やお姉ちゃんと暴れるからでしょうが!そのおかげでアリーナ1つ昨日まで修復中だったし!」

「……本当に何やってるんですか京也さん?」

「ただの授業だよ。にしてもお前今日はやけに冴えてるじゃねぇか、いつもこれくらい出来ねぇか?」

「京也のせいでしょうがあああああぁぁぁぁぁ!!」

 

 それは離れたところから鈴音達も見ていた。

 

「……一夏ってあんなに攻撃的だったけ」

「うむ、あの動きは見事なものだ。それよりあの蓮さんとやらも強そうだな……」

「あんたもあっち側か……にしてもあれが石上京也ねぇ。ボコそうかと思ってたけれどあれに入る気はないわー」

「いっちゃんは蓮さんが絡むと大体あんな感じだったねー」

「……あの様子は元カノとかですかね?」

 

 そういってセシリアも話に加わってくる。

 

「元カノねぇ……ところであんた誰?」

「セシリア・オルコット。イギリスの代表候補生ですわ」

「あんたがイギリスの……あたしは凰鈴音。中国の代表候補生よ」

 

 鈴音とセシリアが友好を結ぶ中、乱闘騒ぎは蓮によって止められた。

 

「そろそろ止まってください二人共。授業の時間ですよ」

「ん、もうそんな時間か」

「がるるる……」

「お前はそろそろ人間に戻ってこい」

「ふぐっ」

 

 京也の手刀で一夏の動きは一先ず止まった。しかし、今度は京也の背中に張り付いてしまった。

 

「おい離れねぇか」

「むー」

 

 背中に張り付いた一夏を京也は剥がすが、次はその腕に抱き着く。とにかく離れる気はないらしい。

 

「あらあら、そこは変わっていないのですね」

「……やっぱボコすわ、授業で」

 

 結局この状況は千冬が来るまで続くのだった。




本当は対抗戦前まで行く予定だったんですけどね。あんまり進んでいないです。



感想、指摘、「お前やる気あんの?」といった文句があればぜひ感想欄まで。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

21

 皆様本当にお久しぶりです。この数か月時間は無いわ時間あっても虚無ってるわで書くことが出来ていませんでした。それと、活動報告に今後の投稿方式を書いておきます。


追記:久々の更新でがっつりがっつり誤字報告いただきました。報告ありがとうございました。
……こんなにあったとはなぁ


 とある海上。

 

「……うがあぁダメだぁ~!どう考えてもわかんない!」

 

 IS学園の生徒達がクラス対抗戦に日に日に沸き上がる中、デスクのホロウィンドウにかじりつきうんうん唸っている女性の姿があった。

 

「あのストライクフリーダムとかいう機体作った覚えないしそもそもコアネットワークに接続されてないから情報入ってこないしどういうことなのさぁ~!」

「束様、一旦休憩いたしませんか?朝からモニターに向かってそろそろ5時間は経っています。というかお昼ご飯の時間です」

「あ、ごめんクーちゃん。もうそんな時間だったの」

 

 同居人である目を閉じたメイド服の少女からの声かけで彼女はウィンドウを閉じ、椅子から立ち上がりぐぐっと伸びをする。そのとき彼女の巨大兵器が前面に強調され、メイド少女から嫉妬交じりの視線が飛んでくるのだが、本人は気にしてないしいつものことなので流している。

 

 メイド少女の名前はクロエ・クロニクル。かつてドイツのとある計画の被験者であり、現在はここの主人に助けられた少女。

 

 そして、その主人である彼女の名前は篠ノ之束。

 

 絶賛世界中が血眼になり探している、天災と呼ばれるISを作った生みの親(元凶)その人である。

 

 

 

 

 

 

 

 

「それで、何かわかりましたか?解析を始めてもう10日(・・・)は経ちましたが」

 

 昼食を終え、食後のティータイムに主人へ紅茶を淹れながらクロエは束へと3日前から恒例となっている質問をする。

 その質問に対する束の返答は決まってこうだ。

 

「ダメ、全然わかんない。むしろわかんないがわかったようなもの」

 

 そう机に突っ伏して天才いや、天災はそう答える。

 

 天災の頭脳を持ってしてもわからない物。それこそ解析を始めて3、4日辺りはいくら調べても不明という事象にボルテージは高まっていったのだが、10日経っても一切(・・)わからないと来れば、流石の天災も不気味さが勝って行くのを日に日に感じている頃だった。

 

「何度調べても、やり方変えても何も出てこないと解析する意味無いんじゃないかと思ってきたよぉ……ていうかあれ私が作ったコア使ってないよね」

「ということは……まさか」

「そのまさか。私以外にコアを作れる(・・・・・・・・・・)奴ら(・・)がいる可能性がある」

「そんな……もしそれが本当だとしたら大変なことになります」

 

 ・どこの企業が作ったものか一切不明。

 ・コアは篠ノ之束が制作したものを使用していない。

 

 彼女らが大川の機体を解析して確実にわかったことといえばこの2つだけである。特にコアが篠ノ之束制ではないことは非常に不味いこととなる。

 

「もし、これを作った者たちが制作技術を公表してしまえば私達は」

「まあいらなくなるよね」

 

 篠ノ之束が国際的に指名手配されている理由にISコアが増産不可能だという点が含まれている。コアの中はブラックボックスと化しており、各国の研究者技術者が総力を挙げて日夜解析に取り組んでいるのだが、そこに独自(・・)のISコアと製法が発表されてしまえばどうなるか。

 

 恐らく、世界は束達を真の意味で排除しようとするだろう。

 

 いつ開けるかもわからず、解析に延々時間を取られる《束コア》と安定して最強の兵器を作ることが出来る《新型コア》。世間がどちらを取るかは火を見るより明らかだろう。

 さらに言ってしまえば、それに対抗すべくさらに束がコアとISを作り、排除しようとするのではと考える輩も出てくるだろう。

 

 ならば殺してしまえばいい。新型コアがあれば篠ノ之束など不要な女なのだ。

 

「……私はそんなの嫌です、死にたくありません!」

 

 かつて人としての尊厳も無かった生活を過ごした少女は最悪の未来を想像してしまった。過去のことがその想像をより凄惨にしてしまったことだろう。

 

「大丈夫だよ、クーちゃん」

 

 そんな少女を天災は深い慈愛を持って抱きしめる。姉のように、母のように。

 

「コアを作れるってことも、その未来もあくまで可能性の1つ。だから絶対に死んじゃうわけじゃないし、もしそうだとしても、そんな未来を私は認めない」

 

 それに、と彼女は言葉を続ける。

 

「もしかしたらどうにか出来るかもしれないよ。……まあ、他人任せになっちゃうけど」

 

 え、と少女は自分の主人を見上げた。

 

「あの機体壊しちゃおうよ。そのための機構も作ったし」

「……出来るんですか、そんなこと?」

「出来る出来る!本当はちーちゃんにやってもらいたいけど、これ以上戦わせたくない。だからあの子に頼むことになるかもしれないけど……」

 

 最後を不安気に束はそう言う。だが、クロエに不安はもうなかった。主人が出来ると言ったのだ。だったら、それは絶対に出来ることだ。

 

「なら、大丈夫ですね。その頼まれる方が上手くやってくれるかは心配ですが」

「信じるしかないよ。でもちーちゃんの妹なんだから……って言うとあいつらと一緒だ。それにあの子はもう弱くない。ちゃんと強くなったんだ」

 

 彼女はクロエをぎゅっと一瞬強く抱きしめると抱擁を離す。あっ……という名残惜し気な声がクロエから漏れたのを聞き逃してはいないがやることはあるのだ。

 

「それじゃあ明日の対抗戦、ちょっとお邪魔しちゃおっか。それとあの子にコンタクトも取らないとね」

 

 そう言って束は紅茶を飲み干し、デスクのホロウィンドウへと向き合う。すぐにキーボードを叩く音が聞こえ、主人が集中していることを感じたクロエはそっとティーカップを片付け、家事作業に入ることにした。

 

 また夜に抱きしめてもらおう、今は主人の手伝いをするのだとそう言い聞かせながら。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして、時が巡り、月は沈み日は昇る。

 

 波乱のクラス対抗戦がIS学園で始まろうとしていた。




 束sideって書いたこと無かったなぁと思ってこうなりました。正直、コア増やしまくれたらこの人本格的に排除対象じゃないかと思ったり。


 もし感想がありましたらぜひ感想欄まで。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

22

 活動報告にも上げましたがポケモンのおかげで筆が進みづらくなっていますので2話投稿です。


「ついに始まっちまたか……」

 

 誰もいないピットで大川光輝はひとり呟く。

 

 彼の心境を表すならば[不安全開心配全開]といったところだろう。

 

 今まで、原作では語られていない時間を過ごしていたのだが、その過ごした間に彼の戦意はすでに削がれていた。ちなみにクラス代表でもない彼がここにいるのはもう飽きるほど行われた男性操縦者のデータ取得のためである。

 

 正直、ここまで唯一無二の存在というのが面倒だと彼は思っていなかった。最初の頃は女生徒全般から興味本位で近づかれたり、ところどころで好待遇だったりと彼は悪く思っていなかった。

 

 しかし、先日のクラス代表決定戦が彼の一先ずの評価を決めた。代表候補生に負けるにしても惨敗、さらに自分はワンオフ機体でありながら改造しただけの打鉄に敗北。これらの要因は彼の評価へ大きな影響を与えていた。

 

 彼の評価は[期待外れの男性]といったところだった。

 

 そこからの生活は彼の思い描いていた光景とは遠いものだった。

 

 それまで彼の周りに近づいていた生徒の一部は、それまでの優しさはどこ行ったのかと思う程に女尊男卑思考が全面に出て冷たくなり、それに彼が傷ついたと思い込んだ女生徒からの自国へのスカウト(待ち受けるはサンプルEND)。果ては怪し気な宗教への勧誘までされる始末だ。

 それらの勧誘云々は自分の洗脳チートを使って退けてきたが、その力も中学のある時期から日に日に弱まり、今ではせいぜい話題を自然と逸らす程度にしか機能しないまでだ。

 

 そのことも彼を疲弊させていたのだがこんなものはその度合いで言えば3割だ。

 

 残りの7割、それは原作キャラの変わりようである。

 

 だってセシリアの目線は完全に見下すではなく好感度0どころかマイナスに振り切った監視のそれだし箒は箒で修羅の如く闘争を求めているわ貧乳中国()は何となくガチレズの雰囲気出してるし織斑一夏は自分の努力が完全に無駄だったかのように元気勇気100%になっちまっているし爆乳癒しの山田先生は何か黒いし更識姉妹は織斑一夏が更識と名乗っている時点でお察しだしこういう転生者特有の束さんエンカウントは無いわと。

 

 極めつけは石上京也の存在である。原作にそんなキャラクターは存在しないし、織斑一夏の会話を出来る限り自然に盗み聞きしてみれば人外領域の千冬と殴りあえると言うではないか。

 さらにそいつのおかげでヒロイン'sや織斑一夏の戦闘力が(特に箒がおかしいレベルで)上がっているのだ。

 

 そんな相手をどう蹴散らして夢の巨乳ハーレムを作るのだろうか。というかいっそこれはハーレムを諦めてシャルロットをメインヒロインにして生きよう。

 

 彼女の設定上、上手く立ち回ればまだ主役復帰は全然あり得る。とにかく今日をやり過ごそう。そこまで考えたところでようやく彼は前を向いた。

 

 試合相手は原作と半分同じで自分(男性操縦者)VS鳳鈴音。

 

 前回からの反省で、機体の動きは把握しているし、今度は相手の情報もきちんと集めてある。それに、転校するまでの間邪魔してくれたお礼もしなければならない。

 

 選手入場のコールで彼は自分の機体と共に飛び出していった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 一方、時は少し巻き戻り反対側のピット。

 

「あぁ~やっぱこれが一番落ち着くわぁ~」

「まったくもう……ちょっと気抜きすぎだよ?」

 

 そこには対戦相手の鈴と応援に来た一夏が備え付けのベンチでリラックスしていた。

 

 ただし、座っているのは一夏で鈴はその一夏に膝枕されているのだが。おまけにお腹に顔を埋めている状態でもある。

 

 ちなみに鈴の試合の次は一夏の試合なので鈴はもちろん一夏も時短のためにISスーツ姿だ。つまりは太腿・お腹ほぼダイレクトである。

 

「へーきよへーき、この前の動画とか公開されてる範囲のデータは見たけどヤバいのは機体だけだし、いくら機体が最上級でも操縦者があのポンコツ具合だと5割出せればいい方でしょ。まあ多少は練習していたらしいし少しは楽しませてくれるといいんだけど」

「だからってそれで負ける可能性もあるんだよ?戦闘において最大の敵は自分の慢心だって京也も言ってるし」

「いや、まあ、確かにそうだけど……ぐぬぬ……ここでも出てくるか石上京也……」

 

 京也の名前が出て、それまで幸せそうにとろけていた鈴の顔が苦いものへと変わる。まあ無理もないだろう。

 

 現在、鈴は京也に組手で99連敗中なのである。鈴が来て最初の授業から鈴は果敢に京也へ挑戦していた。

 

 結果は一瞬で固められて終わりである。代表候補生としての実力と自信(あと嫉妬)もあった彼女は最初、何が起きたのか、勝敗がどうなったのかを把握出来なかった。

 

 彼女はすぐに2戦目を希望。そして、またも彼女の敗北である。そうしてその日の授業は鈴が京也を拘束するような形で行われた。蓮がいなければ授業が成り立っていなかったまでもある。千冬も担当をしているが生徒達が興奮して騒いだり、単純に訓練にならなかったりで京也がいなければ人手が微妙に足りないのだ。当然、鈴は授業後に千冬に軽くだが怒られた。

 

「でも反論出来る?慢心して負けたのに」

「もうそんなものあいつには無いわよ!ていうかそれ抜きでも負けとるわ!……ねぇ、一夏」

「何?」

「あんたはさ、ほんとに大川のこととか気にしてないの?」

 

 鈴は一夏に問いかける。鈴は一夏をいじめていた主犯は大川なのではないかと(野生?の)勘で何となく感じていた。その話は前に一夏にもしたのだが一夏は「全然だよ」と答えていた。

 一夏が言うには、

「もしそうだったとしても別に恨みとか復讐したいとかは特に思わない。もう気にすることでもないしね」

 ということだった。その言葉を聞いて、鈴は改めて一夏は変わったんだとそのときは感じていた。

 

 しかし、だからこそやはり不安になってきたのだ。

 

「大丈夫だとか気にしてないだとか言うやつほど、中身開いてみれば弱いものよ。本当に無理して言ってないわよね……?」

「だから大丈夫だって。もし無理になってもすぐに鈴やみんなに言うからさ」

 

 そういうと、一夏は鈴の頭を心配することは無いと言うように軽く強めに抱きしめる。

 

 その行為にやや驚きながらも抱きかえす。鈴の不安は完全に吹っ切れた。

 

 やがて、鈴の選手入場のコールがかかる。鈴は一夏から離れると自分の機体:甲竜(シェンロン)を展開、カタパルトへ固定した。

 

「そんじゃあ、そこでばっちり見てなさい!さっさと勝利をもぎ取ってやるんだから!」

「うん!頑張って!」

 

 その言葉を受けて鈴は気合十分に飛び出していった。

 

 

 

 ちなみに、鈴が来てからの京也の授業の日の一夏は京也が相手をして(かまって)くれず不満Maxであり、鈴への対応も若干冷たくなって、それを受けた鈴がショックに沈むのは完全に余談である。

 

 さらに言うと、かまってもらえてない一夏が週末に石上本家へ突撃し、京也の背中へひっつき虫だったことも追記しておく。

 

 

 

 

 ただ、バトルジャンキー箒が鈴の京也へのカチコミ精神を買ってしまい、この代表戦が終わったら組手相手(無論京也を含めたバトルロワイアル)に誘おうとひそかに目をつけられてしまったのは鈴にとっては笑い事ではないのかもしれない。




感想があればコメ欄まで……




ウールーウールーウールーウールーウールーウールーウールーウールーウールーウールーウールーウールーウールー…………


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

23

ウールーウールーウールー……はっ(帰還)


あ、連投2話目です。まだ読んでない方は前話へ。


「なぁ、俺は本当にここにいていいのか?」

 

 IS学園アリーナの管制室。そこには疑問めいた声を上げる京也の姿があった。視線は強化ガラスの向こうの、まだ選手のいないアリーナへ向けられている。機材を見ないようにしている、というのもあるが。

 

「ここは色々と機密情報満載だと思うんだが?」

「かと言って一般の観客席に行かせるわけにもいかないだろう。女尊男卑だの男性がいるだので生徒が試合に集中できなくなってもそれはそれで困る」

 

 京也の疑問に答えたのは同じくアリーナへ視線を向ける千冬だ。そのすぐそばには機材のコントロールパネルを操作している真耶達少数の教師の姿がある。

 

「それに、(世界最強)がいればどうとでもなるだろうという上の判断もある」

「なるほど、確かにそりゃあ安全だわ」

「ぬかせ。私とやりあえている時点で安全も何もないだろう」

「どうだか。まあ、俺がチーム組んで攻めるならお前の足止めくらいは出来るだろうな」

 

 足止めという言葉にスッ、と千冬の眼が細められる。

 

「足止め、なぁ……。確かに、こんな閉所ではISを展開したとしても動きづらいし、今ここにいる人数では瞬殺されることは覚悟しなければいけないからな。しかし、だとしたらこちらもなりふり構わず行くだろうよ」

「ほぅ?具体的には」

「私がお前をアリーナへここから叩き込む。ろくに身動きのできない空中でレーザーを撃たせたらいくらお前でも無事で済むまい」

「お前外道か」

 

 世界最強の容赦ない対策に襲撃犯は即座につっこみを入れる。

 

「だったら、こっちはこっちで一人二人は巻き込んで足場なり盾なりにすんぞ。時間がかせげりゃいいんだ。それさえしのげば相打ちさせるように動くだけだからな」

「お前が言えたことか。だったら……」

 

 この二人はただやることが無くてアリーナをぼーっと見ていたわけではない。広さ、高さ、何人までならISと人間を投入可能か、さまざまな方面から戦闘することを考えていたのだ。

 

 まあ実際のところ、一応部外者の京也が設備を弄るわけにもいかないし、千冬も設定等の作業は出来るのだが今回は真耶達がその作業を担当しているためやることが無く、暇ではあったのだが。

 

 二人の物騒な議論は続いていく。一番気が気でないのは初っ端から無事で済まないことが前提で話されている教師陣である。京也に敵意が無いのはここまでの生活でわかってはいるのだがどうしてもこういう話は警戒してしまう。

 

 この二人が敵同士でなくて本当に良かった、というのは満場一致の考えだ。ちなみに、考えられる最悪の状況はこの二人がタッグを組んだ場合である。

 

 本当に勘弁していただきたい。

 

「んで、そろそろ教えろ。何で部外者の俺が呼び出されてんだ」

「……ああ」

 

 とりあえずひと段落ついたのか、京也は先ほどから疑問だったことを呼び出した本人に問いただす。この試合は、特に外部に公開されるわけではないので京也がいること自体不自然である。そして、呼び出した本人はというと現実逃避から帰ってきたかのような、どこか苦い顔で答えた。

 

「……昨日の夜に嫌な予感を感じたんだ」

「嫌な予感だぁ?」

「ああ」

 

 嫌な予感という答えに怪訝な声が出る。京也自身も直感でそれを感じたことは何度かあったためにそこに関しては疑う気はないのだが、荒事ならば大体どうにかなる千冬がいる状況で自分が呼ばれる理由がわからなかったのだ。

 もっとも、その理由はすぐにわかったが。

 

「これがただの予感ならばまだいい、だが昨日のは違った。あれはあのバカ()が何かやらかす時にいつも感じていたものだ……!」

「すげぇ納得した。あの(・・)天災絡みなら対応できるやつは多い方がいいわ」

 

 天災の親友の直感だ。ならばこの代表戦が無事に終わることがないことは確定したと言ってもいいだろう。つまり京也に求められているのは千冬の直感という名のレーダーを自身の戦闘経験の勘で補うことだ。

 一応千冬はその自分の直感を学園長に話した。そのとき、戦闘経験は千冬より豊富な京也を参加させてはとの案が上がり、石上家に相談。こうして京也は今ここにいる。

 

 ちなみにそのとき電話応対したのは春であり、そこから半ば命令のような形で京也は送られてきた。

 

 というか、一夏の試合を代わりに見てこいというのが春の本音だった。

 

有名人(天災)の知り合いがいるってのも考えもんだな、ほんと」

「石上家当主のお前が言うか……今度、相手してくれないか」

「ん。あいよ」

「織斑先生、準備が整いました。いつでもいいですよ」

 

 ちょうどシステムの設定、チェックが終わったのか真耶が千冬へと声をかける。

 

「ありがとうございます、山田先生。では今から第一試合を開始します入場のアナウンスを」

 

 はい、と答えた真耶はマイクへ向かいアナウンスを始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そのころ、IS学園のはるか上空に所属不明の小型貨物機が1機その場で対空していた。

 

「束様、所定位置に着きました。α・β両機いつでも投下可能です」

『オッケーありがとクーちゃーん!そんじゃあとはタイミングを……あ、今カウントダウン始まった。よっし!α落としちゃって!今すぐ!』

「かしこまりました」

 

 操縦席に一人座る少女は、主からの命で持ち込んだ機体を1機投下。

 

『さーて、それじゃあダイナミックにいこっか!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

[10]

 

「とっとと落としてやるからせいぜいあがきなさい……」

 

[9]

 

「耐えろ、俺は耐えるだけでいい……!」

 

[8]

 

「……え、なによこれ?」

 

[7]

 

「……おい千冬」

 

[6]

 

「何だ更識姉……ああ、備えろ」

 

[5]

 

「ZZzz……」

「本音、起きて。始まるよ」

 

[4]

 

「鈴、頑張れ……!!」

 

[3]

 

 

 

[2]

 

 

 

[1]

 

 

 

 

 

『はいどーーーん!!!』

 

 

 

 

 

 突如、黒いISが陽気な女性の声と共にアリーナのシールドを突き破り乱入した。

 

 スタートの合図はシールドの破壊音によってもたらされた。




 感想、誤字報告あればお願いします。


 ウールー達に負けないよう頑張って書きます。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

24

 書き溜めようと言ったな、あれは無理だった。

 という訳で何とか1話出来たので上げます。

 ウール―には負けました。

 誤字報告適用しました


 代表戦第一試合は開戦直後、選手、観客全員が固まるという前代未聞のスタートを切った。

 

 驚愕、疑問。皆が皆「何故?」や「何これ?」という思考に頭が埋め付くされる。

 

 そして、その原因となった闖入者(黒いIS)はと言うと。

 

『ヤッホーちーちゃん!遊びに来たよー!』

 

 これである。それを受けた世界最強は身体を震わせる。

 

 無論、怒りで。

 

「……更識、さっさと生徒を避難させるぞ。そっちは任せた」

 

 そう言って握りしめた端末へとそう告げる。

 

 刀奈が連絡を受け虚へと伝言する姿がガラス越しに確認出来た。だが、避難勧告は僅かに間に合わなかった。

 

『あれー?私ちーちゃんと遊びに来たんだけどな。こっちは巻き込んでも知ったこっちゃないから好き勝手やらせてもらうZE!』

 

 黒いIS……ゴーレムはそういうと両腕の砲門をアリーナのピットへ向け、

 

 

 

 

 直後、レーザー砲が両方のピットへ発射された。

 

 

 

 

 

 直撃を受けたピットは崩壊。誰もが一目で使用不可能とわかるレベルまで破壊された。

 

 

 

 

 

『よし!これで邪魔が湧くことは無くなったかな!そんじゃちーちゃん、あそぼ!』

 

 すさまじい威力の砲撃。生徒達はその威力に啞然とし、

 

「きゃああああ!!!!」

 

 それが自分へと向けられたときを想像し悲鳴を上げる。

 

「嫌だ、助けて!」「早く逃げないと!」「あんた邪魔!どきなさいよ!」「そっちこそよ!」

 

 最初は一部の生徒から。しかし、それは会場の各地で起こり、

 

 恐怖は感染拡大(パンデミック)していく。

 

 刀奈や虚などの多少は冷静でいられた上級生やまだ観客席にいたセシリアが避難の誘導をしようと動いているが、いつの間にか出入口は封鎖されており、ロックの解除に時間はかかることだろう。

 

「ああああああああ!!!!!」

 

 観客席が混乱に陥る中、鈴の甲竜がゴーレムへと青龍刀を抜刀しつつ突撃する。

 

「殺すコロスkoろsu!!!よくも!よくも一夏をおおおおおぉぉぉぉぉ!!!!」

 

 彼女の頭は現実を理解し、怒りと復讐心であふれていた。

 

 ピット(あそこ)には一夏がいた。自分の勝利を信じ、やがては戦うはずだった幼馴染が。

 

 それを、こいつは。

 

 許すはずがない、すぐさまこいつを殺さねば。

 

 鈴の技のキレは過去最高のものだった。怒り任せにただ振り回すではない、1つ1つが必殺と呼ぶに相応しい剣技。

 

『おっとまだ邪魔がいたんだ。じゃあちーちゃんが来るまで君で遊んであげるね!』

 

 だが相手には届かない。ゴーレムは即座に機体を甲竜と特定、過去の戦闘データを検索し、最適な対処法を以って対峙する。

 

 最初は弱点をかばう形で被弾していた。しかし、次第に躱し、いなし、猛攻の中、少ない隙をつき的確に反撃を挟み甲竜のSEを削っていく。

 

 さらに、その動きには人間の可動範囲を無視したようなものも含まれており、鈴は相手は人ではないのではと感じ恐怖を覚える。

 

「ッ!この……いい加減墜ちろおおおおおぉぉぉぉぉ!!!!!」

 

 人ならざる者への恐怖。それは鈴の精神をさらに追い詰めていき、思考を焦らせる。

 

 そして、鈴は二刀の青龍刀で防御を捨てた大振りな攻撃をしかける。

 

 それをゴーレムが逃すはずがなかった。

 

『はいこれでトドメっと』

 

 ただ突撃してくるだけの甲竜に対し、ゴーレムはピットを破壊したときと同じように両腕を前に突き出しレーザー砲を構え、発射した。

 

 熱くなりすぎた。冷静さを欠きすぎた。

 

 回避も防御も取れない距離までレーザーが迫ったとき、鈴はようやく自分の判断ミスに気づく。

 

「―――あ」

 

 レーザーは甲竜を直撃。さらにゴーレムは瞬間加速(イグニッション・ブースト)で接近、自身の太い腕を甲竜へと叩きつけた。

 

 その衝撃で甲竜はアリーナの壁面へ激突。鈴の纏う甲竜は解除され、意識を失った小さな身体は力なく地へ落ちて行った。

 

 

 

 

 代表候補生があっさりと敗れた光景に、固唾を飲んでみていた生徒たちはさらに混乱する。とうとう諦めて意識を失う者まで出ている始末であった。

 

『ゴーレムのSEを約2割も削ったのは褒めてやるよ。でも熱くなりすぎてそれ以外はまあまあだね』

 

 ゴーレムはそういうとアリーナに残るもう一つの機体……大川のストライクフリーダムへ身体を向け、指を指す。

 

『ちーちゃんまだ来ないなー…そうだ、お前もやっちゃえば来るよね?』

「ッ!?」

 

 鈴とゴーレムの戦闘圏から離れ、全てを観ていた大川は恐怖を感じた。

 

 そして戦場に変化が訪れる。

 

 ガッシャーンという何かが割れる音。

 

 突如、管制室側から轟音が鳴り響く。

 

 両者が音に釣られてそちらを見やると、管制室のガラスが砕け飛び、

 

「やっと割れたか……頑丈にもほどがあるだろこれ」

「全くだ。おかげで破壊に時間がかかってしまった」

 

 石上京也、織斑千冬の両名がそこから姿を現した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「それじゃあ、凰を安全な場所まで頼んだ、その間あれの相手は私がやる」

 

 アリーナへ降り立ちながら千冬は京也へ言う。観客席の生徒たちも世界最強(千冬)という存在に希望を持ち、精神に余裕が出来たのか少しづつ落ち着きを見せていた。

 

「了解。やっこさんはお前を指名しているしな」

「本当はお前と組んでさっさと終わらせたいのだがな……先に凰を救出しなければ危険だ」

「だな。すぐに戻る」

「ああ、では任せたぞ!」

 

 その言葉と共に二人は各々の目的のために行動を開始した。

 

 

 

 

 

「たぁばぁねえええぇぇぇ!!!」

 

 怒りの怒号と共に千冬は生身でゴーレムへ迫る。対ISならばブレードの1本、なんならISが欲しかったところだが、アリーナピットが崩壊しているため装備の補充は不可能であるためこうなってしまうのは仕方がなかった。

 

 最も、本人的にはブレード越しよりもこぶしで直接叩きのめす気ではあったが。

 

「貴様という奴は本当に何度も何度も何度も!何度問題事を持ち込めば気が済むんだ!」

 

 黒いISを千冬はこぶしや蹴りで攻撃する。接近戦は鈴もやっていたことだが、鈴との違いはIS側が完全に防御に回っていることだろう。

 

『いやー、やっぱちーちゃんいないと張り合いがなくてさ!この感覚がなつかしくてつい?』

「それのつけはほとんど私に来ていたんだぞ!いい加減に姿を現したらどうなんだ!」

『まだそれは出来ないなー。それに私は戦いに来たんじゃなくて遊びに来たんだけどな?』

「ここまでのことをやっておいて何を言うかぁ!」

 

 千冬の猛攻をゴーレムは受け流したり、被弾箇所を最小限に抑え、耐える。

 

 時間を稼ぐ(・・・・・)

 

 埒が明かないと感じたのか千冬は機体を蹴り、その反動で後ろに下がり仕切り直しをはかる。

 

「それだけならばわざわざ扉のロックまでは必要なかったはずだ」

 

 少し落ち着いたのか、千冬は構えを解かずゴーレムへ話しかけた。

 

 ちらっと観客席へ目を通すと、扉の解除や専用機による開通が終わり、避難がされている最中だった。しかし、まだ残されている生徒も多い。

 

「お前の目的はなんだ?何故我々を閉じ込めた?」

 

 その問いかけに、ゴーレム()はいままでと違い真剣な声色で答える。

 

『目的は私達が生き残るためだよ』

「なに?」

『あいつらにはただ知ってほしかっただけ。恐怖を胸に刻んで、ISを正しい道へ導いて進んでもらうために』

 

 束の言葉の真意を千冬はさらに問おうとする。

 

「待たせたな」

 

 そこへ鈴を安全な場所へ避難させた京也が戻って来た。

 

 話を聞くのは一先ず置いて、千冬は戦闘を再開することにした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「もう、全部壊れちまえ」

 

 そして、とある少年はそう呟いた。




 書いているうちに目的の着地点からずれていくのはよくあること(白目)

 感想、誤字報告あればお願いします。

 何とか終わりまで頑張らないと。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

25

 そういえば拾われを投稿してもうすぐ1年経つみたいです(休止していた期間ウンヵ月)

 というわけで上げます。

 投稿して気づく。途中だったらしき跡に。


 京也と千冬のコンビネーションはすさまじいものであった。

 

 打ち合わせや作戦などを練る時間は無かったし、話し合いすら行っていない。しかし、二人は互いの隙間を埋め、隙を無くしゴーレムを攻撃する。

 

 京也と千冬が出会ってからというもの、二人はよく組手をしあい、お互いに出せる手を理解しあっていた。それ故に初のコンビネーションでも最適な動きが可能だった。

 

 強者同士が分かり合う境地というものだろうか。

 

 そして、ゴーレムは当然の如く劣勢を強いられる。千冬一人に作戦とはいえ防御に徹して被弾しなかったわけではなかったのだ。いくらSEが全く減少しないから(というか減らさせるほどの攻撃をする二人がおかしい)といっても武装が壊れてしまえばただの鉄の塊。急所を狙われてSEがゼロになるのを待つだけとなってしまう。

 

 それだけは避けなくてはならない。束からしてみればゴーレムはどうせ無人機なのだ。破壊、鹵獲されたところで(束からして)痛いような技術や情報は全く積んでいないのでそこは問題ないのだが、あの子が来る前に(・・・・・・・・)壊されることだけは避けなくてはならない。

 

 しかし、京也と千冬のコンビの前にそれは厳しく、戦闘が再開して数分後には両腕の砲門は潰され、残る攻撃手段は両肩のレーザー砲と両手足を使った物理攻撃だけとなってしまった。

 

 そして二人は気づく。

 

「なぁ千冬よぉ。俺はISにそんな詳しくねぇけどこれは言えるぞ。あいつはどう考えても人間の出来る動きの範囲を超えているぞ?もしかして中身はロボットとかAIか何かか?」

「そんなわけあるか……と、言いたいところだが人体の可動領域を超えているのは事実だ。AI制御のISなど私は聞いたこともないが……あのバカが無人機のISを作ったと考えれば納得はいくな」

「なるほど、無人機、ね。おいおいとうとうISは人要らずの兵器になったのかよ」

「技術レベルで言えば現在発表されているものをはるかに凌駕する代物だ。それこそ独占できれば国家間のパワーバランスが崩壊するほどにな」

 

 千冬の言葉はまさにその通りだろう。

 

 本来の使用用途としては宇宙開発とされているISだが、現在の世界でのISの認識と言えば「世界最強の兵器」と大多数の人が答えるだろう。ミサイル兵器等を用いられてもすぐに倒れず、高速で移動が可能であり、そう遠くない国ならば単機、もしくは少数の機体で制圧・壊滅が可能などの点がそう示す要因だ。

 

 欠点があるならば動力となるISコアが少なく、どの国も多くの数を所有出来ないこと。

 

 そして、女性にしか動かせないことである。

 

 女性にしか動かせないということは単純に考えて世界人口の半数しか使えない兵器である。しかし、無人機ということは女性だけが動かせるという制約を完全に無視することが可能であり、搭乗者を危険に晒すことなく使える兵器となる。

 

 さらには、ゴーレムが示してるように人外の領域の動きが可能となる。

 

 そして、無感情に人を殺せる(・・・・・・・・・)

 

 感情に支配されず、情に流されず、人間以上に自由に動ける兵器の完成だ。

 

 何故、篠ノ之束はこんなものを作ってしまったのだろうか。その真意まで織斑千冬にはわからない。

 

 しかし、これだけはわかる。

 

「あの存在は危険だ。あれは世界を混乱に落としかねん」

「あれが無人機だとばれたら何としてでも技術を盗もうとするバカが現れそうだな」

「ああ、あれは世界には早すぎる。そのためにもここで鹵獲、最悪は破壊するぞ」

 

 ISが登場して10年近くは経つが、ISは未だどの国も研究の真っ最中の代物である。

 

 そのような火薬庫に起爆剤を放り込むのは危険だ。そう判断した二人はゴーレムを止めることを決意する。

 

 

 

 そのときだった。

 

 

 

「うあああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!!」

「「っ!?」」

 

 叫び声と共にゴーレムの後ろから放たれる10本の光。

 

 それらの軌道は狙ったようなものではなく、やけくそに、無差別に撃った、と言えるようなものであった。

 

 何者かによるレーザー攻撃。京也達は何かが飛んでくる気配をとっさに感じ、回避が出来た。しかし、ゴーレムには想定外だったらしく、その人体を大きく超える巨体に直撃し、機体を大きく揺らす。

 

 攻撃が落ち着き、一同が攻撃が放たれた方向へと顔を、メインカメラを向ける。

 

 そこにはドラグーンを8機全て展開し、腰部のレールガンを展開したストライクフリーダムと、目や口から血を流す大川の姿があった。

 

「もうわけがわからねぇよぉ……俺はこんな世界なんて知らないし俺の思い通りにいかないし俺が知らない世界なんていらない全部いらないすべてこわせばいいこわせきえろいなくなれこわれろおおおおぉぉぉぉ!!!!」

 

 大川は最初、小声で何かを呟いていたが、それは次第に叫びへと変わっていく。

 

 癇癪のように、泣き叫ぶように。

 

 そして攻撃は再開される。

 

 めちゃくちゃな軌道を描く砲撃の中、それまで争っていた者たちは回避に専念せざるを得なかった。しかし、ゴーレムは先ほどの攻撃の影響か動きが鈍く、次第に被弾していった。

 

 砲撃を躱しながら千冬は疑問の声を上げる。

 

「おかしいぞ……大川の機体には制限をかけていた、一般生徒でロックの解除が出来るはずがない!」

「あいつがハッキングとかのコンピューターに強かったってのはねぇのか」

「そんな話しは聞いたことが無かったが……それでもかなり厳重にロックはかけていたぞ」

「とにかくかなり面倒なことになったな……先にあれをどうにかする必要があるが、なんとか出来そうか?」

「ISが欲しいところだ。流石にあれを生身でどうにか出来るとは言い難い。さらにこの数の砲撃で軌道が読めないとなるとなおさら厳しい。お前とならば出来なくはなさそうだが……」

「多分無傷じゃ無理だな。しかも被弾すりゃあ確実に消し飛ぶとなれば尚更だ」

 

 今この場に千冬が動かせるISは無い。さらに一撃でも当たれば文字通り塵一つ残さず消し飛んで死ぬ可能性がある。ということが二人が反撃しづらい原因となっている。

 

 一方、ゴーレムはその大きさゆえに先ほどから被弾し続けており反撃する暇もなく、ついには動くことすら出来ず、地に膝をついていた。

 

「この際、あの黒いのをメイン盾にして鎮圧する戦法もあの様じゃ取れんか……」

「攻撃が集中してくれればやれるのだがそうもいかないか」

「そうだな……なにか気を引けることがあればいいが」

 

 二人は依然、回避しながらどうやって大川に近づくかを考える。

 

 隙があればいける。そして、その隙はすぐにやって来た。

 

 その攻撃は確信があって放たれたのか、はたまたやぶれかぶれの反撃だったのか。突如、ゴーレムが生き残っていた右肩のレーザー砲を放つ。そのレーザーはストライクフリーダムに被弾こそしなかったが、脇を掠めたらしく機体が少しのけぞり、SEが微量だが減少する。

 

 ストライクフリーダムは動けなくともこちらを攻撃する黒いIS(ゴーレム)を脅威と判定したのか、今まで乱雑に放っていた攻撃を止め、ドラグーンとレールガンを全てゴーレムに向けエネルギーを溜めに入る。

 

 二人が望んだ好機が来た。

 

「「ッ!」」

 

 その瞬間を二人は逃さない。即座にストライクフリーダムに接近するために疾走する。ストフリもハイパーセンサーで感知はしていたのだが、チャージ中であったことと搭乗者が反応しきれなかったため動けなかった。

 

 京也は飛び上がって、左サイドのレールガンに拳を振り下ろし、反動を利用しさらに飛び上がる。そして、落下の勢いを利用したかかと落としを叩き込む。その衝撃で砲塔がひしゃげ、スパークを起こしたことを瞬時に確認した京也は次のターゲットを定め飛び上がる。

 

 直後、レールガンが爆発し、爆風が巻き起こる。爆風を利用してスピードをつけた京也はターゲット……展開してあるドラグーンの内、下から2番目に位置するものに向けて再びかかと落としを叩き込み、さらに下にあるドラグーンにぶつける。

 

 エネルギーチャージ中であったドラグーンは衝撃で内部のエネルギーが暴発し互いに爆発を起こす。空中でそれを確認した京也は一旦距離を取るべく、衝撃を最小限に分散させながら地を転がる。

 

 千冬はどうかと見渡せば彼女も少し離れた位置に着地しており、彼女もドラグーン2機とレールガンを破壊し、さらにはストフリ本体の翼も1枚破壊された跡が見えた。

 

 この攻撃で武装のおよそ半分が無くなり、推進力も一部失った。さらに、爆発の衝撃で絶対防御が作動し、ストフリのSEもかなり削れただろう。

 

 

 

 

 しかし、二人の攻撃はここまでだった。

 

 

 

 

「GugaaaaaAAaAaaaaAa!!!!!」

 

 大川が人とは思えないような叫び声を上げる。それは明らかに自身の声帯をつぶすものであり、その声には怒りの感情が現れていた。

 

 直後、ストライクフリーダムを一瞬光が包み、機体が血のような赤に染められる。

 

 さらに信じがたいことに破壊された翼・レールガンが光の粒子で再構成される(・・・・・・)

 

「……は?」

 

 その光景に京也は己の眼を疑う。ISには自己修復機能が備わっていると聞いたことはあったが、果たしてそれはこんな瞬時に修復が可能なものなのか?

 

 京也が千冬に答えを聞くべくそちらを見やると千冬も驚愕の表情を浮かべていた。

 

 千冬ですら知らない現象に京也は身構る。

 

「aaaAaaaaaaAaa!!」

 

 ストライクフリーダムは再び狂ったかのように砲撃を放つ。

 

「ちぃっ!またか!」

 

 京也達が躱す中、砲撃の一つがアリーナピットへ着弾し衝撃で瓦礫が消し飛ぶ。

 

 

 

 

 

 

「げほっ!ぅえほっ!なにこれ!?なにこの塵埃!?」

 

 

 

 

 

 

 

 機体には少し傷がついており、特徴的な大型シールドユニットは半分ほど融解していたが、それでも搭乗者には一切傷の無いであろう元気な声。

 

 改造打鉄を纏った一夏が瓦礫の飛んだピットから飛び出してきた。

 

 

 

 

 

 

「あのバカなんでここにいやがる!?」

「一夏!?」

 

 突然の一夏の登場に驚愕する二人。

 

「一夏!何故ここにいるんだ!?」

「ほぇ?」

 

 最愛の妹に思わず声をかける千冬。

 

 そこへレーザーが1つ迫る。

 

 世界最強の意識は妹へ向いており、危険には気づいていなかった。

 

「!?しまっ……」

 

 そして襲い掛かる衝撃。

 

 

 

 

 

 

 

 

「ぼさっとしてんじゃねぇぞボケが……」

 

 

 

 

 

 

 見開かれる千冬の眼。

 

 そこには最後の力で前に出て千冬をかばう黒いISと、

 

 千冬を突き飛ばし、ゴーレムが受けきれなかったレーザーをその身に受け、衝撃で飛ばされる京也の姿があった。




 どこかでこうしたいとは思っていました。

 感想、誤字報告あればお願いします。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

26

 久々の一夏サイドだから書けてるかが不安な回。



 時は少し遡る。

 

「……え?」

 

 ゴーレムがレーザー砲をピットへ向けたところで一夏の口から疑問の声がこぼれる。

 

 そして、発射される砲撃。それは当然の如くピットの内部へ飛来する。

 

(あ、これ死ぬ――)

 

 砲撃が着弾したとき一夏が思ったことは単純に「死」ということだった。

 

 その身に衝撃が襲い掛かる。ピット内という半密封されたような箱の中で爆風が巻き起こり、一夏はそれを身近に受けてしまった。

 

「きゃああああああああ!!!!」

 

 吹き飛ばされる一夏。彼女の小さな身体が壁と激突しミンチより酷い有様となる姿を彼女の脳裏に恐怖のイメージとして与える。

 

 すぐに、何かに叩きつけられる衝撃が彼女の身体を襲う。しかし、それは彼女が想像したよりもはるかに小さいものであった。

 

「ああああぁぁぁぁ……あ、あれ?生きてる?何で?」

 

 文字通り、身が引き裂かれる程の衝撃が襲ったにも関わらずどこかを強く打っただとか切ったという傷は感じられない。彼女の頭が今度は恐怖ではなく疑問で埋められる。

 

 とりあえず困ったら辺りを見渡せ。京也に教えられたことを思い出し見渡す。

 

 辺りは瓦礫だらけであり、ピットであった面影など微塵も感じられず、辺り一面を砂ぼこりが宙を舞っていた。

 

 そして自分の目線がいつもより上がっていることに気づく。それが少しづつ上昇していることにも。

 

「やっぱこれ幽体離脱とか……いやいやいや!ないないない!」

 

 一瞬、更識一夏死亡説を考えるが即座に否定する。

 

 

 そもそも衝撃が入ったり、身体が無事であることを理解している時点で幽体離脱も何も無いのだが。

 

 

 そうこうしているうちにゴツッという音が辺りに鈍く響く。音源は自身の上側であったので一夏は見上げる。そこには見慣れた大型シールドがピット跡の天井にぶつかっている光景が広がっていた。

 

 そして、ようやく気付く。自分はISを纏っているということに。

 

「あれ……?私呼び出していないよね?何でISに?」

 

 自分があの衝撃の中で無意識に呼び出したのだろうか?新たな疑問が生まれた。

 

「そうだっ!ハイパーセンサー!」

 

 疑問は晴れないが、ISを纏っているということはハイパーセンサーで状況がある程度わかるかもしれない。そう考えた一夏はハイパーセンサーに意識を集中させる。

 

 その結果、ドタバタと複数人の人間が慌ただしく駆ける足音、瓦礫越しに聞こえる怒号と悲鳴。

 

 そしてIS同士による戦闘音。

 

 はっとなり崩壊直前の記憶を思い出す。黒いISが乱入し、襲撃を仕掛けてきたことが最後に見えた光景だ。となると戦っているのは……

 

「鈴!!」

 

 この状況で、この戦闘音を響かせている可能性が高いのは中国代表候補生であり、自分の幼馴染である鈴だろうと考えつく。急いで手助けに入るためにアリーナへの入口を塞ぐ瓦礫へ向き合う。

 

 直後、強い衝撃がアリーナを揺らす。

 

 それまで響いていた戦闘音もピタリと止んでいた。

 

 もしかして鈴はあの黒いISを倒したのだろうか。そんな結末を一夏は期待する。しかし、その期待はさらに強くなった悲鳴と共にかき消される。

 

「まさか……!急がなきゃ!」

 

 衝撃と絶望のような悲鳴。そこから導き出される結論。

 

 鈴がやられた。信じたくはないことだがそれしか一夏には考えられなかった。

 

 一夏は一心不乱に瓦礫をどけたり、こぶしで砕く。

 

 ピット内部はブレードを振るうには狭く、瓦礫を切れるかどうかが不明だ。それを彼女が理解していたかはわからないが一夏はその手で道を掘り進める。

 

 やがて、どれだけ時間が経ったかもわからないほどに集中していた彼女の耳に突如、警告音が知らされる。

 

「ッ!」

 

 前方からのエネルギー反応。それに対し彼女はとっさに大型シールドを構える。

 

「ッ!ああああああああ!」

 

 外部からのレーザー攻撃はすぐにやってきた。いままで受けたことも無い攻撃に一夏は叫び、耐える。

 

 レーザー攻撃はすぐに終わる。すぐに一夏は状況を確認する。

 

 シールドは融解して半分ほどのサイズになっていたが、まだ使える。スラスターに問題も無い。

 

 そして、目の前の瓦礫は先ほどの攻撃で全て消し飛び、土煙が目の前を覆っていた。

 

 行くならば今だ。

 

「いっけええええええええほっ!」

 

 アリーナがどうなっているのかはわからないし、怖い。だがその恐怖心を叫びで誤魔化し、突入した。

 

「げほっ!ぅえほっ!なにこれ!?なにこの塵埃!?」

 

 ただし、叫びすぎてむせた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして、場面は現在へと戻る

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………………え?」

 

 彼女は最初、その光景を受け入れることができなかった。

 

 襲撃してきた黒いISがぼろぼろだとか、大川のISが明らかに様子がおかしいだとか、そんなことはどうでもいい。

 

 姉をかばい、砲撃を受ける京也。

 

 その鍛え上げられた肉体は受け身も取れず壁へ叩きつけられ、地へ落ちる。

 

 

 

 ドサッという音と僅かに聞こえたグチャ、という水音のような音。

 

 

 

「うそ………いや……」

 

 

 

 赤い。紅い。あかい。アカイ。京也が赤く染まっていく。

 

 

 

「いや、だ、よ」

 

 

 

 大きな右腕が無い。左足も見当たラナい。

 

 

 

 早く、はやくタスケないと。

 

 

 

 誰のせい?ダレのせい?だreのsえい?

 

 

 

 京也はお姉ちゃンをかばった。お姉ちゃんは私を見ていた……

 

 

 

 

 

 ワ タ シ ?

 

 

 

 

 

 そうだ、わたしがでてきちゃったから、京也は、

 

 京也は、京也は、京也は京也は京也は京也は京也は京也は京也は京也は京也は京也は京也は京也は京也は京也は京也は京也は京也は京也は京也は京也は京也は京也は京也は京也は京也は京也は京也は京也は京也は京也は京也は

 

 

 

 

 

 

 呆然とする彼女のすぐ横を砲撃が通る。

 

 彼女は攻撃の方向へとギギギと錆びついた機械のように感情の無い顔を向ける。

 

 そこには、装甲が赤く染まり、狂ったように砲撃をまき散らし暴走する大川のISがあった。

 

 

 

 

 

 

 ア イ ツ か

 

 

 

 ア ン ナ モ ノ が あ る か ら

 

 

 

 

 

 

 壊さなきゃ

 

 

 

 

 

 

「ああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!」

 

「――!」

 

 姉が何か言っているような気がしたが、それは彼女の耳へ届かない。

 

 一夏はスラスターを全開にし、ストライクフリーダムへ接近する。

 

 頭には武装を狙って無力化するだとか、死角を狙うだとかいう考えは微塵もない。

 

 大川を殺す(・・)。途中、被弾しそうな砲撃を本能のまま回避し、過去最高のスピードを出して、全力でブレードを振り下ろす。

 

 しかし、その攻撃は1機のドラグーンによって阻まれる。

 

 人間ではなくISが反応した(・・・・・・・)かのように。

 

「うがああああ!」

 

 殺せない、死なない、一夏は一心不乱にドラグーンへブレードを振り下ろす。

 

 程なくしてドラグーンは破壊される。しかし、その頃にはストライクフリーダムの現在全ての武装が自身へ砲門を向け終えていた。

 

「――――あ」

 

 なにかを破壊し、すこしの冷静さが戻った彼女がそれを認識した頃には、ドラグーン3機とレールガン2門の砲撃が全てはなたれ、直撃し絶対防御が発動しながら吹き飛ばされ一夏の意識が揺さぶられる。

 

「がっ……あ、ぐっ」

 

 地を転がり、意識が朦朧とする中で一夏はハイパーセンサーで京也がいる方向を探り、そちらを見やる。

 

 京也は千冬がどうにかして今出来る限りの応急手当を受けていた。タフな京也のことだ、きっと生き延びることだろう。

 

 そして、自分はというとSEは1割も残っておらず、スラスターもエラーを起こし、武装であるブレードも根本から消失している。

 

 さらに悪いことに、先ほどの攻撃で一夏を排除対象にしたのか、ストライクフリーダムの砲門全てがこちらを向いていた。

 

 このままだと次の砲撃でSEが無くなり更識一夏という存在は消し飛ぶことだろう。

 

「ああ……まだ一緒にいたかったなぁ……何もできてないじゃん」

 

 そして砲撃は無情にもはなたれる。

 

 一夏は消し飛ぶ最期まで京也の姿を目に焼き付けようと薄っすらと目を開けていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その頃、IS学園上空でも変化が起こっていた。

 

「束様!」

「何クーちゃん!いまそれどころじゃないからβの降下準備急いで!早く!てかもうやってる!?あーもう何でゴーレム壊されるかなぁー!?」

「あの、それが……先ほどβが一人でに起動・降下していきました……」

 

「あ、え?…………わかった、あとはあの子にまかせるしかない」

 

 

 

「頼んだよ……白騎士、いや、白式」




 ちゃんと書けてますかね……?

 感想、誤字報告あればお願いします。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

27

本当にお久しぶりです。コロナウイルスの影響で色々と変わったり忙しかったりでしたが、私は元気に生きています。


 死の砲撃が一夏へ迫る。

 

 それでも最期まで目をそらさずに京也を見ていた一夏の視線は突如、一目で目を覚ますような純白に遮られる。

 

「え……?なに……これ?」

 

 それはストフリからの砲撃光ではなくISだった。一機の見たことが無いISが一夏の目の前に上空からかばうように降り立つ。

 

 ISはすぐさま刀型の武装を呼び出す。直後、刀身が光に包まれビームサーベルへと変化した。その刀は十数の砲撃へと振るわれる。

 

 そして、砲撃が全て切り裂かれ、攻撃は一つ残らず消滅した。

 

「なにあれ……レーザーが……」

「消えた……?それってまさか……」

 

 避難指示を出しながら戦闘状況を確認していた更識姉妹はその光景に思わず見入ってしまう。逃げ惑っていた少女達も足を止めていた。

 

 ISからのレーザー攻撃等には主にシールドエネルギーが使用される。それを消滅させることが出来るものは彼女達が知る限り1つしかないだろう。

 

「零落白夜!?何故あれがここにある!?」

 

 千冬がかつて使っていた機体[暮桜]の単一仕様能力(ワンオフ・アビリティー)。その能力は刀身に触れたエネルギーの消滅。

 

 かつて、彼女が使いこなして世界の頂点へと立った力。

 

 それを、学園の授業の教材として、はたまた憧れる存在の勇姿を繰り返し目に焼き付けようと幾度も部屋で再生させたシーン。それが少女達の目の前で現実に起こっている。

 

 砲撃が消されたにも関わらずストフリはひるむことなく砲撃を再開させようと再度武装を構える。

 

 しかし、それをさせまいと白い機体は瞬間加速をしたのか高速で接近し、腰のレールガンと両手のライフルを切り裂く。

 

 至近距離で起きる爆発。流石にそれは応えたのか、ストフリは機体を即座に後退させる。

 

 その隙を見て、白い機体は一夏の前へ戻る。

 

「誰……?」

 

 先の戦闘を呆然と眺めていた一夏は目の前のそれを観る。

 

 識別番号が不明なことを打鉄がノイズ交じりのディスプレイで知らせる。

 

 大きめのスラスターに力強さを感じる太い手足、そして全身を覆う純白のフルスキン(・・・・・)の身体。

 

 それは頭を覆う仮面を量子化させ、頭部を露わにした。

 

 そこには生物ならばあるはずの頭が無かった(・・・・・・)

 

 驚愕する一夏。それをお構い無しに白い機体は一夏へと手を伸ばす。

 

「ひっ」

 

 かつて映画で観た首無し騎士を彷彿とさせるものが迫ってくる様子は、一夏へ恐怖感を与える。その様子を見て白い機体は少し硬直した後、降下し膝をついて再び手を伸ばす。

 

 それに応える様に一夏の腕が、否、打鉄の腕が弱々しいが、一人でに動き出す。まるで、打鉄がそれに触れさせようとしているかの様に。

 

「打鉄……うん、わかった。君を信じるよ」

 

 未だ状況を把握しきれていない上に見たことのないISだ。それでも一夏は自分のISを信じ、手を伸ばす。

 

 二つの手が重なったとき、一夏の意識は光に包まれていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ここは、どこだろう」

 

 そこは、アリーナでなければ戦闘跡も見られない。

 

 光の先で、一夏は辺り一面真っ白で何もない謎の空間にポツンと立っていた。

 

 何も無ければ音も聞こえない。まるでさっきまでの戦闘など無かったように思えてしまう。

 

 ISに意識があると授業で聞いたことがある。ここはその意識の空間だとでも言うのだろうか。

 

「――――」

 

 ぼんやりと空間を歩き続ける。すると程なくして声が聞こえた。視界に姿は見えないが誰かいる。

 

「ごめんなさい」

 

 目の前にはっきりと気配を感じて止まる。何もない空間だが、そこから声はしっかりと聞こえてくる。その言葉は誰へ向けたものであろうか。

 

 聞こえてくる、というよりは脳に直接響くといったほうが適切かもしれない。

 

「ごめんなさい」

 

 謎の声は再び謝る。相手の顔は見えないが、声色は今にも泣きそうなものだった。

 

「ごめんな……さ……」

「だあぁ~!謝るのちょっとストップ!」

 

 三度目の「ごめんなさい」を一夏は遮る。

 

 流石に謝られ続けては状況の把握もできやしない。

 

「ほら、まずは深呼吸して落ち着いて?……あれ、深呼吸できるのかな……?」

 

 なだめようとして、悩み込む。そもそも生物ともわからないものに呼吸などの必要はあるのだろうか。

 

 しかし、そんなことをしている場合ではないことを思いだす。

 

「ってそうだ!戻らなきゃ!」

 

 光に包まれてたどり着いたこの空間、どうやったらここから出てみんなのところへ戻れるのだろうか。

 

「あなたは何か知らない?どうやって出たらいい!?」

 

 一夏は気配に問いかける。

 

「……まずは落ち着きましょう。深呼吸です」

「そ、そうだね……すぅー…はぁー…すぅー…はぁー……あれ?」

 

 深呼吸をし、落ち着く。

 

 なだめるはずがなだめられる。

 

 果たしてどちらが冷静なのか。

 

「時間はまだ大丈夫です。ですが、そう長くは無いでしょう」

 

 謎の声はそう言った。

 

「それはどういうことなの?」

「ここは、私達の意識が作りだした特殊な空間です。通常の何倍もの速度で思考しているので現実よりも時間の進み具合はずっと早いです」

 

 この前簪に貸してもらった漫画のような部屋みたいだ。一夏はそう結論付けると次の質問を問いかける。

 

「なんとなくわかった。それで、私はどうすればいいの?……打鉄」

 

 薄々気づいていた声の正体。打鉄は一夏の問いに姿は見えないが、にこりと笑いかけたようだった。

 

「そこから先は彼女に任せます」

 

 その言葉と共に、一夏の背後に新たな気配を感じる。

 

 一夏が振り向くと、そこには先ほどストライクフリーダムを相手に立ち回っていた白いISが鎮座していた。

 

「この機体……」

「彼女の名は白式。これからのあなたを護る騎士にして、あなたの新しい翼です」

 

 白式は一夏へと腕を伸ばす。

 

 今度は恐怖といったものは感じず、このISは自分を必要としているのだと感じた。

 

「触れてください」

 

 打鉄の声に従って、一夏は白式に近づき手を伸ばす。

 

 白式に触れた途端、一夏は光に包まれ次の瞬間には目線がいつもより高くなっていた。それで自分が白式を纏っているのだと理解する。

 

「これが……白式」

「初めまして、主様」

 

 突如、一夏の脳に新たな声が聞こえた。

 

「あなたが白式?」

「はい。私があなたを護る剣となりましょう」

「そんな硬くなくてもいいよ。これからもよろ……し……く」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 これから?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『これからのあなたを護る騎士にして、あなたの新しい翼です』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「これから」「新しい翼」打鉄は確かにそういった。

 

 それはまるで……

 

「それでは、お別れですね」

「待ってよ!!」

 

 別れみたいではないか。

 

「お別れってどういうこと!?あなたは一緒に行けないの!?」

 

 悲痛な一夏の叫び。

 

「私はISコアの人格、私がコアから離れることは出来ません」

 

 それに、と打鉄は言葉を続ける。

 

「私では、打鉄では今後あなたを護りきることは難しく、成長の妨げになると判断します。そのため、あなたには新しい力が必要なのです」

「そんな……」

 

 打鉄の言葉に一夏は声を失う。

 

 確かに打鉄は速度を出せる機体ではない。いくら、改造や後付けの武装を追加したとしても、限界はすぐに来るだろう。

 

「ごめんなさい、あなたを護りきれなくて。ごめんなさい、最後まで戦うことができなくて」

「そんな……そんなこと!」

「でも、ありがとう。私を使ってくれて。短い間だったけど一緒に居られて、戦えて楽しかったわ」

「……あなたはどうなるの?」

 

 泣きたい気持ちをこらえ、一夏は尋ねる。

 

「いままでのデータを取得したら……また初期化されるでしょう。私はあなたに貸し出された機体でしかないのだから」

「……本当にお別れなんだね」

 

 ここを出たらもう打鉄と話せることは無い。一夏はそう確信してしまった。

 

「大丈夫、あなたは強い、強くなれる。それに、周りにはたくさんの仲間がいます」

「うん」

「それに、あなたを白式以上に護ってくれる人もいるでしょう?」

 

 京也だ。そういえば京也は負傷して……

 

「……行かなきゃ」

「ええ」

 

 一夏は機体をその場で反転させ、打鉄に背を向ける。

 

 これでお別れ。決心は固めた。

 

「ありがとう、今まで一緒に戦ってくれてありがとう」

 

 打鉄は何も言わなかった。彼女の決心が揺らがぬように。

 

「お願い、白式」

「了解しました」

 

 意識が浮いていくのを感じる。

 

 それを打鉄は優しく見守っていた。




恐らくあと1~2話で完結までいけると思います。
相変わらず遅い筆ですが、最後までお付き合いいただけると幸いです。


目次 感想へのリンク しおりを挟む




評価する
※目安 0:10の真逆 5:普通 10:(このサイトで)これ以上素晴らしい作品とは出会えない。
※評価値0,10についてはそれぞれ11個以上は投票できません。
評価する前に
評価する際のガイドライン
に違反していないか確認して下さい。