マーレをペロロンしちゃお★ (もこもこ@)
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001 忠誠の義

「では皆、至高の御方に、忠誠の義を」

 

 

 

 

 

 困惑。それが正直な気持ちだ。

 

 DMMORPG『ユグドラシル』

 そのサービスの終わりを最後には一人で迎え、どうして仲間を引き止められなかったのかと悲しく思いながらも受け入れたところで、サービスが終わるのではなく新しい何かが始まっていた。

 

 表示されないコンソール。

 サービスではありえない感覚。

 解禁されたフレンドリーファイア。

 BANされない18禁行為――。

 

 そのどれもがありえないことで、故にモモンガは配下に異常の確認と、外の探索を命じたのだ。

 本来、拠点から出られないはずのNPCに向かって。

 ゲームが現実に変わっている。その現状を受け入れながら。

 

 そして、調査は終わり、ナザリック地下大墳墓を守護するメンバーを闘技場に集めた。

 アルベドやセバス、アウラやマーレの態度からNPCはギルメンを至高の御方々と呼び、慕っているようだ。

 

 己の信仰をするという、至高の御方への忠義を示す儀式を行うというのだ。

 

 自分は、ただの日々働き社会の歯車を回し続けていつか死ぬ、そんな凡百のサラリーマンだ。

 それだけに、多くの存在から跪かれるなど、想像の範疇外だ。

 勝手に冷や汗が流れる。いや、アンデッドなので心の中での話だが。

 

 ああ、なぜ自分なのだろう。

 もしくは、自分だけなのだろう。

 

 たっちさんがいれば、毅然と立つその姿に勇気をもらえただろう。ウルベルトさんがいれば、魔王らしさという点でロールへの指摘が入って悩んでいる暇もないに違いない。

 

 朱雀さんがいれば現状でたくさんの情報を教えてくれて――

 ペロロンチーノさんがいれば現状を前向きにはしゃいで、その様子に勝手に冷静になれただろうに。

 

 そう、ペロロンチーノさんだ。

 基本的には皆、やめることを宣言して、装備を自分に託してユグドラシルを去っていった。

 アインズ・ウール・ゴウンが社会人ギルドであったこともあり、一言もなしに勝手にやめるというような行いをするものはいなかった。

 

 ただ、彼だけは何も言わずにギルドを真っ先にやめたのだ。

 姉であるぶくぶく茶釜さんも、ペロロンチーノさんが来なくなった四日後くらいにギルドに現れて、やまいこさんやあんころもっちさんなどの数少ない女性ギルメンが引き止めるのも聞かずに引退を宣言したのだった。

 

(あれからか。少しづつギルメンのIN率が下がり始めたのは)

 

 もとより、1500人のプレイヤーからの侵攻をしのぎきったあたりで、ギルド内にはどこかエンディング感というか、やりきった満足感みたいなものがあって、その後どうするみたいな空気のまま、一月、二月と時間を重ねてしまったのもある。

 

 あのあと、大きな方針を切れなかった自分が悔しい。

 いずれ大型アップデートが来ればなんとかなるさ、そう考えていたのだ。

 その辺、前向きに、常に新しいことをやりたがる彼がいれば何かが違ったかもしれない。

 それだけに彼には特別な気持ちが少しあった。彼とはギルメンの中でもよく遊ぶ仲であっただけに一層。けれど、姉の茶釜さんも引退してしまい、メールも返ってこなかったため、自然とその気持には蓋がされていた。

 

(いや、何考えているんだ。いつまでも後ろ向きな考えじゃだめだ。これからのことを考えないと)

 

 なにせ、自分はアインズ・ウール・ゴウンを背負ったギルド長なのだ。

 

 そんな緊張の中、頭の奥にちりりとした電波のしびれのようなものを感じてから何者かからの声が聞こえてきた。

 

 

 

 

 

 

『モモンガさん、忠誠の儀って初耳なんですけど、何すればいいんですか?』

 

 

 

 ――は?

 





あらすじで積極的にネタバレしていくスタイル。


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002 どこのマーレさんですかぁ?

 

 

『モモンガさん、忠誠の儀って初耳なんですけど、何すればいいんですか?』

 

 ――は?

 

 モモンガはあたりを見回す。

 けれどいるのは跪いて顔を伏せた守護者たちだけだ。

 

 彼らからは神妙な態度が伝わってきており、先程聞こえたような軽々しい言葉は言いそうにない。

 透き通った鈴のような声なのに、働くのが嫌な若者感のある、ちょっとだるそうな感じが違和感だ。

 

 しかし、声の相手はこちらの返事がないのをきにせずに話しかけてくる。

 

『ていうか、実際、忠誠の儀って今までやったことないですよね。俺、初耳なんですけど。

 みんな知ってると思って行動するの良くない。

 でも、みんな知ってて当然っぽい……どうしよう?

 モモンガさんへの忠誠ってなに? どれ? あれか? パンドラの真似をすればいいのかな?』

 

 幻聴は危険なことを言い出した。待て。やめろ。それは俺に効く。

 このままでは、この声の主がパンドラの真似をしだすことになる。

 それは危険である。

 

『あの、あなたはだれですか?』

 

 どうやら伝言を使って伝えてきているようだが、すでにモモンガはギルメン、フレンド、運営に通じないのがわかっている。

 だから相手はそれ以外ということになる。

 まあ、状況的には相手は守護者であり――子供の声からしてマーレ、次点で大きく離れてアウラの訳だが。

 

 たっぷり五秒まつと返事が返ってくる。

 

『え? モモンガさん、もしかしていま俺に話しかけました?』

『そうです』

 

 そう、おかしいのは声から伝わってくるゆるーい態度もだが、呼び方もだ。

 モモンガさんとさん付けする守護者がいるなど今の所信じがたい感じである。

 マーレはどんな設定がされていただろうか。

 

 女性ギルメンはよくお茶を森でしていたが、モモンガは当然ソレに参加できる勇気はなかったので、あまり接点がない。

 知ってるのも、かわいいのに、女性服を着ているのに、スカートなのに男の娘ということぐらいだろうか。

 

『あちゃー。いつも無視されるからってつい……。

 あの。その、マーレです。死刑になったりしませんよね……?』

『はっ? いえ、別に死刑にしませんけど、え。マーレ? あの、マーレ?』

『はい、姉ちゃんに作られたオッドアイのダークエルフの男の娘のマーレです』

 

 やはり、マーレらしい。

 だが、ここでも大きな違和感が浮かんでくる。

 

 ……ずばり、姉ちゃん、だ。

 

 ぶくぶく茶釜さま……というべきではないだろうか。

 もしくは、彼らを生んだという意味で、お母さんか。

 姉というのが当てはまるのは彼の関係ではアウラだけである。

 

 茶釜さんを姉と言うのは……まるで――。

 

 いや、そうなのか?

 アウラとマーレは二人の仲良しの過去、素直に自分に甘えたりしていた頃のペロロンチーノさんを再現しているのだから――いや、だからといって姉は変か。ではアウラが茶釜さんならば……いや、マーレが変な理由と一致しない。そもそも、アウラに違和感はないのだ。

 

『……姉ちゃん?』

『いえ、ぶくぶく茶釜……さぁーまです』

 

 様が伸びてるじゃないか。

 守護者たちにさん付けを強要したらこうなりそう、という感じの伸び方だった。

 

 じっとマーレに視線を送ると、その場でそわそわ仕出したことから、確かにマーレであるらしい。

 似ているのに、本人らしくないその様子は、偽物のように感じられ、イラッとしてしまった。

 

『マーレが俺とか、姉ちゃんとか言うわけないじゃないですか。とっとと本音を言わないと全員で袋叩きにしますよ』

『え、そんなヒドイ……』

 

 脅しではないですよとアルベドに視線を向け、口を開こうとすると――。

 

『ま、待ってよ、モモンガさん! ごめんって!! 俺、俺だよ。ペロロンチーノだよ』

『――え?』

 

 ぎょっとしてしまい、瞬間精神の抑制が働き緑色に光っては消え、光っては消える。

 相当動揺してしまったらしい。

 

『ま、まじでペロロンチーノさんなんですか!?』

『まあ――多分?』

 

 はっきりとした言葉が返ってこなかったことに不安を覚える。

 警戒が頭に浮かび――あの気のいいバードマンとのたくさんの思い出を思い起こして――試すことにした。

 

『エロゲーイズ――』

『マイライフ!』

『イエスロリータ――』

『タッチミー!!』

 

 モモンガの脳は歓喜に、あるいは驚きで爆発した。――沈静化した。

 

『ちょっと、真面目にやってくれますか?』

 

 キッと睨みつけてそう言うと、不満そうな声が返ってくる。

 

『いや、それはモモンガさんに言いたいよ。なんだよその俺を確かめるための質問』

 

 確かに、怒るのも最もだ。

 

『んごほん。――うーん、これはペロロンチーノさんと認めないわけには行きませんね。ちなみに、茶釜さんが声優しているにもかかわらずプレーしきってしまった作品は?』

『お兄ちゃんを思うだけで妹はこんなになっちゃうのってゆー、ゲームでヒロインがお兄ちゃん思いでこれがまたかわいいんだよなー……声優、姉ちゃんだけど。プレーしたのバレてエロイの実演されたけど』

『え!? エロいやつですか!? た、爛れてる!』

『モモンガさん、ああいうの腕使ってちゅぷとか音出せるんだぜ。姉ちゃんが腕咥えてちゅぱちゅぱやるとこ見るとかソレなんて罰ゲーム……』

 

 オフ会であったことのある相手なので、ソレはソレでよいものなのでは? と思ってしまったが、弟としてはまた別らしい。

 

『ペロロンチーノさんだと認めます。――忠誠の義ですけど、まあ、姉を真似すればいいのでは?』

『あー、まあ、そうだよな。ありがと、モモンガさん』

 

 




皆さん早速ブックマーク、評価、誤字報告ありがとうございます!
週1~2話目指してがんばります。


パーティ:マーレ、コキュートス、シズ、ザリュースです。
ザリュースは全体攻撃を持っているので、結構優秀感。


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003 にがさんっ、お前だけは……!

 

 その後、マーレはアウラをちらっちら見ながら、

 

「第六階層守護者、アウラ・ベラ・フィオーラ。御身の前に」

「お、同じく、第六層守護者、マーレ・ベロ・フィオーレ。御身の前に」

 

 と、ややどもりながらも忠誠の儀をこなした。

 驚くほどに高い忠誠心に晒され、緊張を強いられ続けたモモンガの荒んだ心をは困惑しながら一生懸命こなす小さな子供の姿に癒やした。

 

 ――だが、男だ。

 

 というより、中身はエロゲー大好き成人男性だった。

 きぐるみマスコットの中の人を知ってしまった子供のように、癒やされた心はずたずたに引き裂かれた。

 おのれ、ペロロンチーノ。

 

 しかし……。

 様子を見るに、マーレがペロロンチーノであることに気づいているのはモモンガのみのようである。

 

 あれほどギルメンを至高の御方と崇める彼らが、体こそ守護者のものであっても、中身がペロロンチーノなのに普通にしていられるだろうか。

 いや、いられまい。

 

 気になるのは、マーレの『今までモモンガさんはメッセージを無視していた』と認識している点だ。

 

 当然、モモンガにはマーレから話しかけられた認識も無視した認識もない。

 そもそも、彼らはNPCだったのだから、できるのはプログラムされている行為のみ。

 自由に話しかけたりできるはずがない。

 

 だから、マーレにペロロンチーノが宿ったのはゲーム終了時、この異変が起こった瞬間というのが正確なところで、マーレの設定になにかそういった仕掛けがされていた、というのが一番可能性が高いだろう。

 

 自分がアルベドの設定をいじったように、マーレを誰かがいじったのだ。

 ペロロンチーノ本人だろうか? それならなにやってるのだと言いたいが。

 

 

「皆、お、面を上げよ」 

 

 モモンガの一言で一斉に頭が上がる。一糸乱れぬ素晴らしいシンクロだ。

 それが軍隊を前にした一般人のようにビクリと体を震わせる。

 

 マーレを見ると、こっそり口が曲がっていた。微笑んでいた。

 いやあ。モモンガさん頑張ってるなあとかぁるーい笑みを浮かべていた。

 その態度に青筋を立てる。

 

(ペロロンチーノォ! お前もこっちに来るんだよォ!)

 

 自分だけ愉快で気軽な守護者ライフを送るなど、許されない。

 ギルドアインズ・ウール・ゴウンは平等なギルドなのだ。

 平等にしなければいけない。ウム。完璧な理論である。

 

「よく集まってくれた。感謝しよう。さて、現在ナザリックは原因不明の事態に巻き込まれている。だが、一つ、皆に喜ばしい事実を伝えよう」

 

 ナザリックに異常事態が起こっている事自体は、急な各階層の調査に皆、薄々感づいていたようだが、喜ばしい事実にはみな心当たりが無いようだ。

 マーレ自身も不思議そうに首をかしげている。このっ。

 

「ペロロンチーノさんが帰還した」

 

 瞬間。

 時間が停止したように静まり、わっと喜びの声が上がる。

 

「ほ、ほんとうですか? モモンガ様!」

「そうだとも」

「ぺ、ペロロンチーノ様はどこ、どこに!? モモンガ様!」

 

 身を乗り出し、喜びに顔を緩め、頬を染めるシャルティア。

 その様子に、自分の判断に間違いはないと確認する。

 

「それでは、ペロロンチーノさん、皆に説明を。さあ、前に、――マーレ!」

 

 その言葉に守護者すべての目がマーレに向く。

 皆からの視線に、つうっと冷や汗を頬に浮かべれうろたえるマーレ。

 モモンガを上目遣いで見つめてくる。可愛いが、容赦はすまい。

 

『ほら、ペロロンチーノさん、前に出て自分の状況と、ペロロンチーノであることを宣言してくれればいいですから』

『うぐっ、モモンガさんみたいになるんですか? ヤダなあ』

『一人だけ楽な立場なんて駄目ですよ。さあ、腹をくくってください』

 

 そのメッセージにようやく覚悟が決まったのか、マーレはゆっくりとした歩みで前に進むとくるりと守護者たちに向かい合う。

 

「今まで内緒にしていてごめん。俺は、ペロロンチーノは、マーレに生まれ変わった。そう、俺はナザリックを去ったんじゃない。本当はみんなとずっと一緒にいたんだ」

 

 真偽を確かめるように、モモンガに視線を向ける守護者たちに、しっかりとうなずく。

 確信は持てずとも、それで信じることにしたらしい。

 

「リアルのことはみんなも少しは知っているだろう? そう、俺たちギルメンが帰っていた世界だ。そこでは、俺達は……そうだな、プレイヤーという名の人間種なんだ。俺も、モモンガさんも、ユグドラシルでは無敵の力があっても、リアルでは、剣で胸を貫かれれば死ぬような生き物だ。

 ――だから、ここに来れなくなるある日、テロリストの自爆テロで、俺は吹き飛ばされ、瓦礫に埋もれて……だくだく流れる血に体の熱が消えていって――俺は死んだ」

 

 周囲に苛立ちと憎しみの気配が満ちる。

 ぎりりと歯を鳴らず彼らに、ビビりそうになるモモンガだったが、ペロロンチーノさんの話は衝撃的だった。

 そして、全てに納得が行く気がした。

 

(彼は裏切っていなかった)

 

 ナザリックを去っていくものの中には、リアルの夢を追う者だったり、ヘロヘロさんのように、リアルに苦しんでしょうがなくだったり、理由は人それぞれではあったが、それでも、ひと声かけてから旅立っていったのだ。

 

 巣立っていったのだ。ユグドラシルしかないモモンガにはできないここを飛び立っていく彼らを、送り出してきたのだ。

 寂しいと思いながらも。

 

 だからこそ、仲が良かったのに自分にも、周りにも何も言わずに去った彼には胸の奥に棘が刺さっていた。

 

 だから、彼らと同じように、憤った。眼の前に犯人がいれば死が救いだと思うほどに痛めつけていただろう。

 

「――仕返ししたい気持ちはあるけれど、リアルに行けない以上何も出来はしない。でも、きっとたっちさんみたいな優秀な警察が犯人を捕まえてくれたと思う。そう思ってる」

 

 思えば、そのくらいから、じんわりとした絶望の這い寄るリアル世界で、安全に暮らすアーコロジーへの不満から、テロ行為が少しづつ活発化仕出していた。

 

 なにせ、モモンガはその日暮らしの下層民であり、リアルよりユグドラシルでの生活を現実に思っていた彼には関心が薄かったから。

 

(たっちさんは、だからINできなくなったのだろうか)

 

 家族を守るためにも、今以上に頑張らなくてはいけなくなったと告げる彼を思い出す。

 

「死んだと思った俺が目を開けると、目の前には姉ちゃんが……ぶくぶく茶釜さんがいた。『ゴメンね、もう来れない。幸せになってね』そう言って去る姉ちゃんがいて……声をかけることもできなかった。

 それから俺はペロロンチーノであるより前に、マーレだった。だから、許可なくギルメンに話しかけるなんてできなかったし、ギルメンの助けなく、自分がペロロンチーノだって証明することができなかった。そもそも、創造主がそうあれと言ったからペロロンチーノになったふりをしているんじゃないかとも思ったから」

 

 実際どうなんだろうか?

 モモンガから見て、彼はペロロンチーノそのものである。

 そもそも、リアルのことや、テロのことなど、マーレに知る由もない。彼はユグドラシルの存在なのだから。

 

『感覚的には自分の前世がペロロンチーノだって気づいた、みたいな感じですねー。やべー、エルフになってる―。いや、なってるというか、ずっとそうだったっけ。みたいな感じです』

 

 ふむ。

 実際にモモンガも、自分が人間だったということを思い出そうと思わなければあまり意識しない。

 もとからオーバーロードだったような気持ちになるのだから、きっとソレと近いのだろう。

 

「でも、モモンガさんが、あなたはペロロンチーノさんだと言ったから、本物なんだと思う。けど、同時にマーレでもあるんだ。きっと皆も、モモンガさんやギルメンに感じる至高の方々のオーラを俺には感じないと思う。だから、今まで一緒に接してきたことを不敬だったとか思わず、これからも仲良くしてほしい。以上だ」

 

 サラリと敬わなくていい立場に行こうとするマーレに強かさを感じつつ、あれを弟気質というのか、楽しいポジションにいつの間にか居る彼に懐かしさを感じたのだった。

 

 




黒幕は茶釜さんだったのだっ!


--追記--
誤字報告ありがとうございます。
ついスライムの印象に引っ張られてぷくぷくしちゃうのです。
すみません! 至高の御方!


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004 モモンガ様のいなくなった闘技場で

 やっほー、俺はオッドアイでキュートなダークエルフにして、美男の娘であるマーレであり、超かっこいいバードマンのペロロンチーノだ!

 

 ギルド長のモモンガさんについ、いつもの癖で独り言代わりにメッセージで話しかけたら、いつもと違ってしっかり返事をもらったばかりか、ペロロンチーノであることを認めてもらった。

 

 これはとても嬉しいことだ。

 

 テロの被害で死んでしまった俺は、いつの間にかユグドラシルのNPCに転生していた。

 憑依、のほうが正しいかもしれないが、自分としてはペロロンチーノは自分の前世だ。

 

 ねえちゃんであるぶくぶく茶釜は俺に改行で隠して、設定を刻み込んだ。

『ペロロンチーノの生まれ変わりであり、前世の記憶を持っている』

 そういう意味の設定だ。

 

 だからそう、俺はペロロンチーノでもあるが、マーレでもあるのだ。

 姉ちゃんのはずのぶくぶく茶釜……様には肉親へのものとは違った、崇拝に近い愛情と忠誠も感じる。マーレとしての意識を強く感じていると、モモンガさんをモモンガ様と呼びたくなるし、ひざまづきたくもなる。

 

 けど、本人曰くモモンガさんはふつーのサラリーマン。大量の人間に跪かれるのは辛いだろう。

 様扱いされるのも、友情を裏切られたように感じるのではないだろうか。

 いなくなったことに裏切られたように感じながらも、再会の喜びに見えないしっぽがぶんぶん振られているのを感じたくらいだから。

 

 モモンガさんに喜んでもらえることに喜びを感じながらも、今も平伏する守護者たちに焦りを感じた。

 

(気安い職場の同僚に実は社長の息子だとバレて距離を置かれているって感じかぁ?)

 

 それが悲しく感じるのは、守護者たちの前では自分はペロロンチーノではなくマーレであると思うからだ。

 

「あ、あのぅ、その、さっきも言いましたけど、騙すつもりはなくって……」

「あ、のさ、マーレ……」

「ま、マーレ! さっきの話は本当でありんすか!? ほんとーにペロロンチーノ様なんでありんすか!?」

 

 何かを言おうとしていたお姉ちゃんのアウラを押しのけ、ペロロンチーノの生み出したNPCであるシャルティア・ブラッドフォールンがものすごい勢いでよってくる。

 抱き合ってると言えなくもないくらいに近い。

 ちょっと首を動かせばキスができそうなくらいだ。

 

 さすが、自分の理想をこれでもかと詰め込んだだけあって、シャルティアは美しく、かわいらしい。

 それに、いい匂いがする。

 

「あ、ああ、そうだよ。お前のひとつひとつを愛を込めて作り上げた記憶がある。――でも、マーレで」

「ああ、至高の御方!」

 

 マーレでもある、と言おうとした瞬間に抱きしめられ、肺から息がぐっと吐き出される。

 力強い。さすが戦闘系のLV100である。

 

「ちょ、ちょっとあんた! マーレに抱きつくんじゃない! あんたは死体とかアンデットが好みでしょうーがっ!」

「自分を制作した至高の方は別腹でありんす! 久しぶりの逢瀬なんだから、放って置いてほしいでありんす」

「お、弟が毒牙にかかるところ見逃せるはずないでしょー!」

 

 ポカポカという感じの掴みかかった喧嘩が始まるけど、それが仲良し同士のものであることはよく知っているので放って置く。

 

「マーレ様。いえ、ペロロンチーノ様とお呼びしたほうが?」

「い、いえ、マーレと呼んでください。様も不要です」

 

 そのやりとりだけで、気持ちを察したのか、うなずく。

 

「ふうむ。マーレ、至高の方がお隠れになっていた事実には深い悲しみを覚えるが、新しい生を受けていたことは喜ばしいことだ。それで、君のようなことは他のものにも起こり得るだろうか?」

 

 そわそわとした様子のデミウルゴスさんが話しかけてくる。

 まあ、気持ちはわかる。

 至高の御方々に、それも自分の造物主に体を捧げられるなら本望だと彼らは思うだろう。

 それに、彼は自分をマーレとして扱ってくれるようだ。

 

「うーん、でもぉ、あくまでボクの事例はぶくぶく茶釜……様がボクの設定をそう書き換えたからなったんだと思うんです。

 も、モモンガ様は至高の御方々の設定をお願いされたからって本人に許可なく勝手に書き換えたりしないでしょうから、お願いするのも難しいかと……」

「なるほど。まあ、ウルベルト様はお隠れになってはいないようだから、それにもかかわらずこちらに呼びつけるような真似は不敬にあたるか。しかし、マーレ、君からはなぜ至高の御方々の雰囲気がしないんだい?」

 

 実際それは自分にも悩ましい点であったが、仮説は立てている。

 

「多分ですけど、ペロロンチーノがギルメンであり、マーレがギルメンではないせいかと」

「ううん? それはどういう意味だい?」

 

 ゲームの概念のない彼にはちょっと伝わりづらいかもしれない。

 ギルメンは、確かに皆LV100だが、強さにオーラを感じているわけではない。

 もしそうなら、他のプレイヤーにもなにか感じてしかるべきだが、時々現れる侵入者に感じるものはなかった。

 

「至高の御方々はアバター……分身をもって、ユグドラシルに降臨してました。けれど、別のアバターになった場合、ギルドの所属状況や強さは引き継がれず、一部のアイテムを共有するのみという状態だったんです。今のボクが、ぉ、おそらくそうなんだと思います」

 

 マーレとしての自分を意識すると、自信がなくなるというか、どこか気弱になる感じがする。

 マーレはペロロンチーノの別アカウント。

 そんなイメージが近いだろうか。

 中身はペロロンチーノで、体はマーレ。だからマーレの状態を引き継いでおり、ギルメンではない。

 だから、ペロロンチーノだが、皆にとっての至高の御方ではない、と思うのだ。

 

「なるほど。すると、モモンガ様にギルドに入れてもらえば元通りなのかな?」

 

 それは……それはどうだろう?

 至高の御方のオーラを纏いそうだ。

 

 しかし、アインズ・ウール・ゴウンは41人のギルドだ。

 この人数で、募集はやめようと皆で決めて、それ以降増やされることはなかった。

 皆がやめていっても、モモンガさんはメンバーの入れ替えをしなかった。

 

 ペロロンチーノをギルメンから外して、マーレを入れる。

 それを彼は行うだろうか。してくれというべきだろうか。

 ペロロンチーノの友情が、マーレの崇拝がそうしたいと思えなかった。

 

「わ、わからないですけど、それはモモンガ様がき、決めると思います……」

「そうだね。出すぎた真似をしたね。謝るよ」

「い、いえ……」

「さて、二人の相手は君にまかせて、私は働くとしよう。アルベド。命令をくれるかい?」

「ええ」

 

 じっとこちらを見つめるだけだったアルベドさんは、デミウルゴスさんの言葉にそれぞれに命令をだしてゆく。

 シャルティアも、自分の仕事が重要なのを理解しているのか、『またあとで』と耳元で囁いていなくなった。

 耳が甘い気がする。

 

 

 残ったのはお姉ちゃんだけ。

 何かを言おうとして、口がモゴモゴと動くが声にならない。

 姉ちゃんに嘘をついたり悪いことをしたときもそうなったよな。と懐かしくなる。

 

「マーレ、あんたはマーレなんだよね」

「う、うん。ペロロンチーノであっても、マーレのままだよ」

「なら、いいや。ちゃんと仕事、しなさいよ。ビビって飛び降りれずにモモンガ様を待たせるような真似、何度もしたらだめだからね」

 

 闘技場で飛び降りれずにもたもたしたときのことを言っているようだ。けど、翼があったときと違って、翼がないのに高いところから飛び降りるのはめちゃくちゃ怖いのだ。

 お姉ちゃんはわかっていない。そう思う。

 

 誰もいなくなった闘技場でため息をつく。

 モモンガさんのためにも、ペロロンチーノでいたい。お姉ちゃんのためにも、マーレでいたい。

 両方の気持ちがある。

 自分は誰なのだろうか。いつかちょうどいいところに収まるのだろうか。

 

 マーレはねえちゃんによって、幼く、可愛かった頃のペロロンチーノをイメージして生み出されたせいか、マーレでいても、ペロロンチーノでいても違和感はない。

 ペロロンチーノの自分になるときはどこか背伸びして話しているような気持ちになるので、主はマーレであるようだった。

 

 ――ならいいか。

 

 モモンガさんは大事な友人であるが、姉は大切な存在なのだ。

 

 

 




守護者たちはモモンガ様が言うので、マーレがペロロンチーノだと信じたが、
至高のオーラがないため、本人の希望どうり敬いつつも
自分たち以上至高の御方以下に置いている感じ。

なお、ギルメンになった瞬間、平伏しだす模様。


--追記--
不死者のOH!を購入したのですが、茶釜様を姉御呼びなんですよねー。
姉ちゃんのイメージやった……。
直すべきか悩ましい……。


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閑話001 込められた願い

感想欄で話すと書きたくなる感。
暗い話注意。


 いつ弟が弟になって、私が姉になったのか、明確なきっかけはない。

 それは差し出した指を握り返してくれたときかもしれないし、子供二人を育てるのが大変になったこの世の中で、弟がいることをみんなが羨ましがったことで、弟がいいものであると感じたときかもしれない。

 

 弟は可愛かった。

 

 いつだって目を輝かせて、私の後をついてきた。

 私のことが誰より大好きだって言って、私が分けたものは何でも喜んだ。

 あんまりにも可愛かったから、私の衣服できせかえを楽しんで、それがまあ、私の趣味の始まりだった。

 

 親がいない家の中で、私は弟の姉であり、母であり、父であり、友達でもあった。

 弟にとって、私はすべてだったと思う。私にとってもとても大きな存在だった。

 でも、少しづつ成長して、弟は私でできた部分を少しづつ入れ替えていって、でも、私は変わらないままで。

 

 

 憧れだった声優になって、親元を離れることになった。

 それがきっかけで、距離ができるのが嫌で、ゲームに誘った。

 それがユグドラシル。

 

 私は異形種のスライムを選択した。

 それは声優ということで、少なからず女性である面を生かして働いていた日常への反発でもあるし、弟が思春期に入ったときに異性である私と距離を取りたがったことも小さくないだろう。

 

 ゲームは面白かった。

 異形種ということで異形種狩りの被害にあうことも多かったが、逆にそれが助け合いの必要があって、硬い結束があった。

 ゲームの距離感で仲良い関係のままでいられるようになった。

 

 夢のために頑張れる日々。

 家族と楽しく遊べる日々。

 

 なんて満ち足りているんだ。

 そう思っていた。私は幸せだ。

 

 

 ――ああ、私は、幸せ、だった。

 

 

 **

 

 

 ……どうして、こうなったんだろう?

 

 

 ――弟が、テロに巻き込まれて死んだ。

 世界が、瓦礫のように崩れるのを感じた。

 

 葬式をして、整えられた死体を見て、それがあまりにもきれいにされていたものだから、人形にしか思えなかった。

 だから、見送っても、燃えた骨を埋めても、父が、母が泣き崩れても――私は納得がいかなかった。

 

 

 **

 

 ユグドラシルにログインする。

 今は誰にも会いたくなかったから、朝の5時にログインした。

 社会人であることが加入の条件であるアインズ・ウール・ゴウンは夜型の人間が多い。

 2時・3時だとまだ人がいる。

 でも、朝が近くなると流石にみんな眠りにつく。

 

 私は声優。いろんな役をやった。

 演じて、キャラになりきって、理解できないことを頑張って理解しながら演じた。

 私は幼いキャラを演じることが多いから、そういう役をやったことはなかったけれど、今なら理解できる。

 

 大切な人を失って、外道をもって生き返したいと願うものの気持ちを。

 

 彼らは理解しているのだ。

 死んだものは生き返らない。

 でも、納得していないのだ。

 大切なものがもう失われて戻らないなんて。

 

 だから、娘を失った父親が、娘に似たパーツを持つ女の子を襲って体を奪うのだ。

 失われたものをつなぎ合わせれば、またもとに戻るのではないかと思って。

 

 だから、私の行うことは、ふつうのコトなんだ。

 

 私の目の前には可愛らしいダークエルフの男の娘。

 プログラムされたどうりに創造主の訪れに微笑むかわいらしい子。

 その笑顔は、どこか幼かった弟のことを思い出す。

 

「ごめんね、ごめんね……」

 

 ああ、みんなと生み出したキャラを、弟と楽しく語り合って、生み出した子を。

 モモンガさんが、NPCはみんなで生み出した子供ですね、といった言葉を思い出す。

 

 でもね。

 でもね。耐えられないんだ。

 

『黙れ、弟』『馬鹿かお前は』

 

 そんな風に言ってたのに、そういう相手がいないという事実に。

 

 設定ウインドウを表示させる。編集を選択。

 今の設定の最後に、改行をいくつも重ねる。

 誰にもばれないように。

 こんなに辛いのだ。ギルメンにだって知ってほしくない。

 

 嘘。

 追求されたくないだけだ。

 なぜペロロンチーノは来ないのか? そう聞かれたくないだけだ。

 

『ペロロンチーノの生まれ変わりであり、前世の記憶を持っている』

 

 そう書き込んでから始める。

 弟の性格を、言葉を、記憶を刻んでゆく。

 正確に描けば弟が生き返るんじゃないかって、本当になるんじゃないかって、そう思いながら打っては消して、書き続ける。

 

 

 **

 

「ほ、ほんとに辞めちゃうんですか?」

「うん、ゴメン。最近大きな役を貰えそうで、仕事に専念しなきゃ駄目なんだ」

「そう、ですか。でも、脱退扱いにはしませんから、いつでも戻ってきてくださいね」

「うん。モモンガさんありがと。じゃあ、装備、預けてくね。――困ったら、売ってもいいから」

「売りませんよ。――絶対」

 

 マーレの設定を書き換えたその日の夜、モモンガさんにあって、ユグドラシルをやめると告げた。

 やまいこさんも餡ころもっちもちさんも私を引き止めたけど、私はやめた。

 

 弟はユグドラシルであの時までと同じく幸せに生きている。

 ――私がログインしないから会えないだけで。

 

 **

 

 仕事は楽しい。

 キャラを演じている間は、私ではなく、その子になる。

 胸の底に感じるジリジリと焦がしつづける苦しみとは無縁になる。

 

 最近、不快な話を耳にしてしまうことがある。

 ユグドラシルが終わるというニュースだ。

 

 見なかったことに、知らなかったことにする。

 ユグドラシルがなくなるということが何を意味するのか。

 それを、考えないことにする。

 

 なのに、なのに。

 

『せっかくユグドラシルの最終日なのだから最後は一緒にいませんか?』

 

 なんでそんなことを私に言うの?

 大切な仲間からのメッセージが私に突き立てられる。

 

 ぎりりと歯ぎしりする。

 ユグドラシルが終わる。

 その時、私の弟はもう一度死ぬのだ。

 その瞬間に立ち会う? 無理だ。

 それに、会えば聞かれる。ペロロンチーノさんは元気ですかって。

 私に答えろと言うの? モモンガさん。

 

「ぁあぁぁぁっ!」

 

 怒りに、部屋の中でカバンを振り回す。演じたキャラのフィギュアが、グラスが壊れる。

 関係ないと叩きつける。

 怒りで、感情をごまかして。

 

 弟はいない、弟はいない。

 外にはいない。だから、テロで死なない。

 ユグドラシルにはいない。だから、ユグドラシルが死んでも弟は死なない。

 じゃあ、弟はどこに?

 

 私は部屋に飾ってあった写真立てを抱きしめた。

 弟は、どこにいれば幸せになれたんだろう?

 

 

 **

 

 

「あ、そういえばモモンガさんアルベドの胸を揉んだってほんとですか?」

「……まあ、ほんの少し」

「めっちゃ揉まれたって言ってましたよ」

「………ほんのちょっと多めにもみました」

「わー、セクハラ上司ですね!」

「うわーーー! タブラさんごめんなさい!!」

 

 

 

 

 

 

 




この落差。

夜にも一話投稿します。


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005 カルネ村を助けるのはダレ?

本日2話投稿していますので、よろしくおねがいします。


「おはよう、モモンガさーん」

 

 ナザリックを丘を作って隠蔽したり、その合間にモモンガさんが来て一緒に星を見たり、リング・オブ・アインズ・ウール・ゴウンをもらったり、設定変えてアルベドの胸揉んじゃった報告とか、いろんなイベントのあった翌日。

 朝ごはんをお腹いっぱい食べてから、執務室に訪ねにやってきた。

 

 デミウルゴスからモモンガさんが世界征服を望んでると聞いたが、ウルベルトさんならともかく、モモンガさんが自分からいったところに違和感を覚えたのだ。

 個人的には『いいじゃんやろうぜ! さすがですぅ』と思っているが。

 

「おはようございます。ペロロンチーノさん」

 

 どっしりすわっているだけで、モモンガさんは様になる。さすがオーバーロード。死の支配者である。

 確かにこの様子なら世界征服をしてもおかしくない。むしろしないほうがおかしい。

 さすがは非公式魔王である。

 

(よし、俺もモモンガさんの願いをかなえるために頑張ろう)

 

 何かの作業に夢中になっているのか、大きな鏡の前で手を動かしている。

 ミラーオブりもー……なんだっただろうか。敵対ギルドの付近を探って、遠方から式神で爆撃したり、狙撃したりと嫌がらせをする際に時々使ったアイテムだ。

 

「どうしたんですか? それ?」

「いえ、セバスにナザリックの周辺は捜索させましたけど、遠方まで見回らせるのは怖いですからね」

「こわい……どういうことですか?」

 

 無敵のギルド、アインズ・ウール・ゴウンなのだ。

 我々に恐れるものなどあるだろうか。

 いまいち実感がわかない。

 

「いえ、ここがユグドラシルではない世界であることはわかっていますからね。LV100がウロウロしていたり、もしかしたらLV1000とかがいる世界かもしれません。そう思ったら簡単には偵察も出せませんよ」

 

 そうだった。ユグドラシルであれば沼地にあったナザリック地下大墳墓.

 けれど今はどこぞとしれない平地にあるのだった。

 

 確かにゲームが、というか、世界が違うのであれば、全く歯が立たない可能性がある。

 至高なるナザリックの一員である、という気持ちのせいか、自然と自分たち以外を過小評価していたことに気づいた。

 

「あ、街……人数的に村かな?」

「祭りか? 人が多く動き回っているが……」

「いえ、これは違います」

 

 鏡に写るのは鎧を着た兵士が村人を斬り殺す様。

 ペロロンチーノである頃なら青ざめ、嘔吐していたかもしれない出来事だが、マーレであるせいか、どこか他人事に感じる。

 別に人間だからというわけではない。ナザリックにも一人、人間であるオーレオールがいるが、彼女が害されようとしたら、必死になって守るだろう。

 だからなんというか、他人、というのが強いだろうか。

 

「どういたしますか?」

「見捨てる。助ける価値もないからな」

 

 そういったくせに、モモンガさんはボンヤリと、セバスの先を見つめている。

 壁しかないはずのそこに、誰かがいるように。

 

(たっちさんを思い出してるのかな?)

 

 ペロロンチーノはウルベルトさんと仲がよく、そのためウルベルトさんとよく喧嘩をしていたたっちさんとはちょっと距離があった。

 それでも、『幼女を助けようとして泣かれた場合はどうすればいいですかね?』などの質問にも苦笑しながら答えてくれた。

 そもそも泣かせないようにしましょうと、屈んで人形を片手にピコピコ手を動かしてレクチャーしてくれた。あれ、娘さんにもしてるんだろうなーとほっこりした。

 

 そして、モモンガさんにとっては自分を助けてくれた憧れの人である。

 セバスさんの創造主であるので、何かを思い出しているのだろう。

 

「だれかを助けるのは当たり前、か……」

 

 つぶやくようなそのセリフに、セバスから満足げな気持ちが伝わってくるが、俺は青ざめる。助けに行く気だとわかったからだ。

 

(危険かもしれないといったのはモモンガさんじゃないか)

 

 デミウルゴスさんだったらモモンガさんの身を案じて絶対行かせないと思うが、セバスさんはモモンガさんの意思を尊重するようだった。

 

「ねえ、モモンガさん。助けにいくらなら俺が行っていいですか?」

「え、なぜです? 私が行こうと思ったのですが」

「そのカッコでですか? 異形種で人間の村に入るとかなしですよ」

 

 異形種は強い半面たくさんの制限があり、人間の街への立入禁止もその一つだ。

 人間が異形種の村に入るのは割と簡単なので、不平等感が大きい。

 

「あ、そうですね……」

「その点俺はダークエルフ。人間種ですし」

「……うーん、わかりました。でも、危なかったらすぐ逃げてくださいね。助けに行けるよう変装してからアルベド連れて行きますから」

 

 ほっ。

 安堵の息を吐く。

 実際、鏡から見える兵士の動きから見て、レベルは低い。

 モモンガさんに傷を負わせることができるとは思えないが、よくゲームであるアンデッドを昇天させる『ターンアンデット』やどこか別の場所に飛ばしてしまう『転移』のような力があると危ない。

 

 そして自分は客観的にもかわいいダークエルフの女の子である。

 エルフといえば奴隷……とは限らないが、子供であることも合わせて、最悪、命は取られないですむかもしれない。

 

(とはいえ、足を引っ張るようなことをしてはいけない)

 

 気を引き締めると、モモンガさんの《グレーター・テレポーテーション/上位転移》に身をまかせた。

 

 

 

 




ペロロンチーノ、マーレに影響されて世界征服にノリノリ。


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006 村娘と闇妖精の出会い

「んにゃあああぁ!?」

 

 ゲートを潜るとそこはやらしい顔をしたおっさんの目の前だった。

 だから反射的に村を襲っている騎士たちに向かって身の丈ほどある大きな杖、シャドウ・オブ・ユグドラシルを振りかぶる。

 

 ズパンッ

 

 スイカ、いや、トマトにバッドをフルスイングするように騎士の頭は弾けて、辺り一帯に血が撒き散らされた。

 あたりに濃厚な血の匂いが撒き散らされる。

 

「は、はあ!? な、何だこいつは!? だ、ダークエルフだと!? まさかまだ森に住んでいたやつがいたの――」

「え、エイッ」

 

 もうひとり残っていた兵士も杖で叩く。

 今度は胴体にホームラン。ボールを打ったみたいに森の奥に飛んでいく。

 即死したと思われる。

 

「よわいな―。こいつら」

 

 正直、弱すぎて強さがよく測れない。

 LV……10以下な気がする。感覚的にはゴブリンよりは強いと思うが、大差はない。

 鎧を着たゴブリンというべきか。

 しかし、やっぱり人の死に感じるものが殆ど無い。

 虫を殺したような感覚だ。

 

「あ、あの、助けてくれてありがとうございます」

「大丈夫? 助けに来たよ」

 

 たっち・みー式、不審者回避術では、まず、即座に自分の立ち位置を示すことが大切だという。

 助けに来ました。

 この一言が言えるかどうかが不審者判断の鍵をにぎると言っていた。

 実際、小さな女の子を抱えた彼女も安堵に息を漏らしている。

 

「……怪我してる。直しちゃうか《ライト・ヒーリング/軽傷治癒》」

 

 マーレの職業のドルイドは植物操作や、回復が可能だ。

 10以下の村人の体力など、あふれるくらいだ。

 切りつけられた傷は、そんな事実は存在しなかったようにきれいに消えた。

 切れた服だけがその事実を残している。

 

「す、すごい……!」

「このくらいなんともないって」

 

 最低位の位階魔法で、この反応であることを考えると、やはり、このあたりのレベルは低そうだ。

 こんな村を襲う騎士だからかもしれないが、みんなよわいし、心配しすぎだったようだ。

 

「あ、あの、その、な、なんでもしますから、村を助けてください!」

「え、今何でもするって言ったよね」

 

 考え事をしていたマーレの脳は瞬間に返事を返していた。

 なにせ、彼は生粋のエロゲーマーだったから。

 

 じっと彼女の顔を見る。

 15、16くらいのヒロイン向きの年齢だ。日に焼けた金髪に、健康的に焼けた肌。

 農作業で鍛えられたのか、体もしっかりしており、胸も結構ある。

 飾り気はないが、シンプルな衣服ゆえ、柔らかそうな女性のラインが感じられる。

 

(す、すげー! めちゃくちゃ美人だ! 健康美人じゃん!)

 

 ところで、皆様は美人は時代や環境によって異なるということを知っているだろうか。

 胸の大きさやスレンダーさが良しとされる時代もあれば、子供がたくさん埋めるしっかりしたお尻と、ぽっちゃりとした体が良しとされたこともある。

 何を持って判断すればいいかといえば、上流階級を見ればわかりやすい。

 凄まじく大雑把に言えばその時代の彼らこそが美の象徴である。

 

 モモンガや、ペロロンチーノが生きていたリアルでは、人類の生存環境が限られ、防毒マスクをつけなければいけない環境にあった。

 外で元気に遊ぶ、という概念はなく、閉じられた室内こそが生きれる環境である。

 

 そんな中、アーコロジーには数は多くなくとも木々や花々などの環境が生かされており、限られた人間が、野菜や果物を育てて食べるという娯楽を行えた。

 

 健康的な環境で、しっかりした体を育て、光を浴びて肌を程々に焼く。

 それは恵まれた証拠である。

 彼女は、いうなれば上流階級であり、美しいお姫様のようなものだった。

 

 それがなんでもするというので、ペロロンチーノの心は一気にやる気になった。

 子供であるせいか、別にエロエロしてやろうとは思ってないけれど。

 

「じゃあ、まずはこいつらやっつけちゃうか」

 

 女の子にいいところを見せたい精神が働く。

 

「お、おねーちゃん、たすけてくれるの?」

「俺はマーレ・ベロ・フィオーレ。村を助けに来たダークエルフのドルイドだよ。見た目はこうだけど、おにいちゃんなんだ。すごい強い装備なんだよ。君は?」

「わたしはネム! おねーちゃんはエンリ、エンリ・エモットだよ!」

 

 さっきまでエンリの背中に隠れていた妹は、好奇心に誘われたのか、マーレに興味津々のようだった。

 犬のようにマーレの周りをぐるぐる回りながらぺたぺたと触ってくる。

 ロリからのタッチはご褒美です。

 マーレは微笑んだ。

 

「だ、駄目よ、ネムっ、マーレさんの邪魔しちゃ」

「あとでなら、触ってもいいから、離れてもらってもいい?」

 

 とはいえ、後で触ってもらってイエスロリータタッチミーする気で言ったわけではなかった。

 ペロロンチーノのときなら大歓喜していたと思うが、多少の嬉しさ程度で、興奮はしていなかった。

 

(俺も子供だからかなあ)

 

 思えばマーレはまだ76歳。

 ダークエルフ基準ではまだまだ子供なのである。

 

 




ペロロンチーノさん的にエンリはとても美少女な模様。
エンリかわいいよね。
オバマスでもそのうちユニット化しそう。

あと、シャルティア当たりました。はじめての女の子★5だ!


--感想で、ネムがお兄ちゃんって言い当てるの難しいのではと指摘があって、マジだわ!ってなったので、少し修正しました。


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閑話002 星に願いを

 

 モモンガは指に3つの流星を模したマークが浮かぶ指輪を嵌めた。

 指輪の名前はシューティングスター。

 

 超位魔法<星に願いをウィッシュ・アポン・ア・スター>を消費無しで3回発動できる課金アイテムで

 ある。消費した選択肢に合わせて表示される願いの中から一つ選んで実行される魔法だった。

 通常レベルを大量に消費するだけあり、恐ろしいほどの効果がある魔法であり、ボーナスを全ブッパしてようやく手に入れた思い出のアイテムだ。

 

 ユグドラシルからこの世界に渡り、設定の改変でマーレにペロロンチーノが宿ったことで、モモンガは一つの希望を得ていた。

 

 すなわち……

 

 コレ使えばギルメンをこの世界に呼べるのでは――?

 

 確かに、ギルメンはリアル事情やユグドラシルに飽きるなりして去っていった。

 けれど、この世界は美しい。

 汚染のない世界であり、未開の地である。

 彼らの探究心を沸かすだろう。幸福を感じてくれるだろう。

 

 ――また、同じように遊べるはずだ。

 

 叶うのではないか? その思いは指輪をはめて眺めているうちに、叶うはず、叶えようと変わってゆく。

 

「指輪よ! 俺は願う! 我が友たちをこの世界に呼んでくれ!」

 

 

 ――願いは、受け入れられた。

 

「セバス! セバス!! 皆を、皆を探してくれ! ギルメンが、皆が近くにいるはずだ!」

 

 大声を上げ、モモンガはセバスを呼ぶ。

 ああ、一分一秒も待てない。

 モモンガはドアを吹き飛ばすように開くと、部屋の外へと走る。

 

「どうしたんですか? モモンガさん」

「え? あ、ああ、セバス。その、ギルメンが――ん? 今なんて?」

「は? いや、セバス――だよな?」

「セバスですか? どこにいるんですか?」

 

 不思議そうにしたセバスは後ろを振り返ったり、左右を見回したりしている。

 いや、セバスはお前だから。

 そう突っ込みたい心を抑えた。

 

 ――こ、これは、いや、まさか。

 

「すみません! タッチさん、また後で!!」

「あ、はい……おかしいな。ひげが伸びまくってる……? 娘に怒られるぞ……」

 

 なんだかテンションの下がっているセバス……の中にいるたっち・みーさんを置いてかける。

 ちくしょーー! 俺は呼んだだけじゃん。

 守護者の中に入れなんて言ってないだろうがああぁ!

 

「おや、モモンガさん。どうしたんですか? そんなに急いで。いかなる時も優雅さを忘れてはいけない。魔王とはなにか。俺の教えを忘れちゃったんですか?」

「でみ――いや、ウルベルトさんですね!」

「? ええ、見ればわかるでしょ? 何を言っているんですか? しかし、いつの間に俺はログインしたんですかね? ユグドラシルを引退したような気がするんですが夢ですかね?」

「いえいえいえ! 夢じゃないですよ!」

「あ、モモンガさーん、なんか俺の体めっちゃ重いんですけど―」

「ん? コキュートス?」

「え? デミウルゴス?」

「いや、俺は武人建御雷だけど」

「は? ホントですか? 俺はウルベルト・アレイン・オードルですよ」

「え?」

「え?」

 

 クエッションマークが見えるような二人のやり取りをよそに、モモンガは走った。

 

「あの、モモンガさん、なんだかモモンガさんにときめくんですけど、コレもギャップ萌えって感じですかね?」

 

 とか言いながらすり寄ってくるアルベドから逃げるようにして走った。

 ごめんなさい、タブラさん。

 俺、男は駄目です――!

 

「――はっ、そういえば、ペロロンチーノさんどうなってんだ!」

 

 元々からしてマーレに入っていたペロロンチーノさんである。

 そう考えれば、唯一シャルティアだけ無事ということになるだろうか。

 

 シャルティアの部屋に向かう。

 外からでもわかる争う声が聞こえる。

 

「だ、大丈夫か、シャルティア!」

 

 そこにいたのは――

 

「うおおおおおお、シャルティアの胸を、胸を触るだけだからああぁ」

「や、やめろおおお、誰だか知らないがシャルティアを汚すんじゃねえええ」

「な、なに? なんなの? どっちが本物の愚弟なの?」

 

 自分の胸を揉もうとするシャルティアと、それを阻止しようとするマーレだった。

 自分の胸を揉もうとするペロロンチーノさんと、それを阻止しようとするペロロンチーノさんだった。

 

「ぺ……ペロロンチーノォオオオ!!!」

 

 人生最大と言える大声を出した。

 ――ああ、コレは俺の望む姿じゃない。

 

 夢であれば――。

 

 

 **

 

 

「ってほんとに夢かよ!!」

 

 カバリと起き上がる。

 疲れた、寝たいな、と言ったせいか、ペロロンチーノさんが持ち出したのは完全なる狂騒。

 アンデットの精神耐性能力を無効化し、精神系魔法を有効化する効果があり、その後にスリープをかけられたため、1時間ほど眠りに落ちてしまったようである。

 

「――夢なんて見るもんじゃないな」

 

 騒がしい彼らの姿。

 けれど皆が皆、ほんとの姿じゃなくて、なんだか言いようのない悲しさを感じた。

 

「――ペロロンチーノさんに会いに行くか」

 

 眠ってから気づいたが、今は4/1。エイプリルフールだ。

 ユグドラシルの中にいた彼の時間間隔は狂いまくっているはず。

 

「嘘のつき放題か」

 

 ――さて、なんと言って彼を騙そうか。

 モモンガは精神が高揚するのを感じた。

 

 

 




エイプリルフールネタをやってみたくてですね。
それに、今なら「ペロロンチーノォオオオ!!!」を最速で使えると思ったらですね!

まあ、23時なのでセーフですね!


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007 頭のおかしい鳥頭

 

 ペロロンチーノはかつて、ユグドラシルでは敵対者を畏怖させていたガチビルドプレイヤーの一人であり、爆撃の翼王やら、頭のおかしい鳥頭と呼ばれていた。

 

 弓に特化したキャラメイクをしており、神器級装備のゲイ=ボウを使うことで、最長二キロからの攻撃すら容易だった。

 認識外からの攻撃には不意打ちボーナスが乗り、2倍のダメージ。ヘッドショットを成功させれば3倍ダメージと合計6倍のダメージが打ち返せない距離から正確に撃たれるのである。

 

 長距離探知のシーフ職と、物理攻撃に強い盾職が合わせて防御に回れねば防げず、防御の態勢に入ればいつまでも近づけない。

 敵対者には恐ろしく厄介な相手であった。

 

 反面、薄暗く、直線距離の稼げないダンジョン内では一気に弱るのだが、それも仲間とフォローし合った。

 

 そんな彼の超長距離からのスナイプは、スキルの力ではなく、本人の能力である。そしてその力はマーレになった今も生きている。

 

「《エクステンドマジック/魔法持続時間延長化》」

 

 魔法の持続時間が延長され、長時間、効果を発生するようになった。

 

「《ライフエッセンス/生命探知》」

 

 どこに生命体がいるのかが探知される。

 LV差から、村人と騎士を判別できる。

 

「《マジック・アロー/魔法の矢》」

 

 延長化されたマジックアローは、その飛距離を大きく伸ばした。

 それこそ、森から村を直接狙えるくらいに。

 そして、LV100の力から放たれる魔法は木々を貫き、兜ごと撃ち抜くだろう。

 

 一度に8個現れる光の弓が森を勢いよく飛んでゆく。

 8個消えた生命反応。

 

 同じようにまた魔法の弓を撃ち……一分もかからず、村を襲った兵士は1人を除いて全滅した。

 

 

 **

 

 

「ふう、もう、村は大丈夫だぜ」

 

 キリッと告げたつもりだが、見た目は可愛らしい少女のものである。

 カッコはついていなかった。

 

「ありがとう!」

 

 感極まった、とばかりにエンリはギュッとマーレを抱きしめた。

 ふにゅんとする一部と、太陽の香りのする衣服、肌から香る甘い香りにクラリとした。

 

(この場合、エンリは年下なのだろうか、歳上なのだろうか)

 

 高校生になっているかなっていないかの彼女はエロゲーでは年下キャラである。

 しかし、今の自分は子供だ。となれば年上キャラ……といっても、74歳からすると年下キャラ……ロリなのだろうか?

 もしかして、自分ってショタジジイキャラ? エルフや吸血鬼をロリババア扱いすることってあるけど、いざ自分がなってみると『いや、本当に子供なんだけど』ってなるな。

 エンリはロリなのかロリではないのか。うーむ。

 

 マーレの頭は哲学の輪に囚われていた。

 優しく撫でられ、抱きしめられるのが心地よく、鼻が小さくハスハスと動いたまま。

 

 **

 

「おとうさん、おかあさん大丈夫かなぁ」

 

 ネムのその言葉にハッとなる二人。

 そういえば、今は村が襲われたばかりである。

 抱きしめられ、そっと頭を撫でられていたら時間を忘れていた。

 情報収集用に一人生かしていたのだし、そいつをなんとかしないと。

 

「あ、あの、村に来てもらえますか?」

「あぁ。一緒に行こう」

 

 その言葉にもう危険はないからと返して、先頭を歩く……のだが、いつの間にか、エンリと手をつないで歩いていた。

 右手をマーレが、左手をネムが握っている。

 

 いったい、いつの間にこうなってしまったのだろうか。

 しかし、差し出された手をいつの間にか握っていたのだから仕方がない。

 

 **

 

『ペロロンチーノさん、大丈夫ですか?』

 

 モモンガさんから伝言が入る。

 きっと鏡を見ながらそわそわし続けてたんだろうなーと思う。

 凄まじく心配そうで、微笑んでしまいそうだ。

 

『あ、はい。モモンガさん。めっちゃ雑魚でした。LV10くらいですかね? 弱すぎてよくわからないですけど』

『そうですか……ちょっと一安心ですね。安全そうなら私も行っていいですか? アルベドと一緒に行きますし』

 

(それってデート? モモンガさんやるなあ)

 

『見た目はどうすることにしたんです?』

 

 モモンガさんはちょくちょく課金していたし、何でも願いをかなえるシューティングスターももっていた。低レベルであることを考えると、幻影でも十分だ。

 今回の、村を救う的なことを考えると、たっち・みーさんよりの……全身鎧とかがありえそうだ。

 戦士になるパーフェクト・ウォリアーとか覚えてたはずだし。

 

『適当に仮面とガントレットでなんとかするつもりです。戦士もいいかなーと思ったんですけど、アルベドとかぶるしなーって』

 

 予想は外れてしまった。

 ゲームでは肌を隠す程度ではごまかせないが、リアルになったせいか、異形種かそうでないかは見た目と行動で判断されることになりそうだし、十分か。

 

 エルフもダークエルフも人間種だが、国や場所によっては人間の敵対種の可能性があるし、精霊系の異形種は祀られて異形種でも受け入れられているかもしれない。

 

(足がかりを得られたのは結果的には良かったかもなー)

 

『一旦、村に行くことになりましたので、そこで村長あたりと話して、それから来てもらっていいですか?』

『了解です。じゃあまたメッセージください』

 

 村にはいいイメージをもってもらえるようにしよう。

 胸の内でそう決心すると村に向かった。

 

 




戦闘シーンって難しいですね!(戦ってない)


オバマスの花見イベントは実にオバマスらしくていいイベントでしたね!
この調子で頼むぞ!


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008 お、おかねあげましゅゆううううう

 

「おおお、お金あげましゅううう! だからぁあああ!! たすけて! たすけてくだしゃあああああいいいいいい」

「うわあぁ……」

 

 両足を焼きちぎられた帝国兵の隊長らしき人物は、村の広間にたどり着くまでだいぶ時間が立ったというのに、大音量で命乞いをしていた。

 

 周囲には倒れ伏した騎士たちの姿。皆殺しにするためか、集められた村人たちは抱きしめ合ったり、縮こまったままだ。

 だが、彼らは村の外から歩いてくるエンリと、その手をつないでいるマーレに目を向ける。

 

「お、おお! エンリや、無事だったのか」

「は、はい、村長! マーレさんが、彼が助けてくれたんです。騎士を倒したのもマーレさんの魔法です」

 

 エンリの妹のネムより少し年が上に見えるくらいの子供だったが、その肌と耳から正体がわかったのだろう。

 喜びの声を上げる。

 

「おお! 伝説のダークエルフさまでは! 賢王が森を守り出すまでは彼らがこのあたりを守っていたと子供の頃にひい爺さんに聞いたことがあります!」

 

 安心のため、わざと声を大きくしているのだろう。

 村人たちはどこか安心したようで、体から力を抜いていく。

 

「えええ、エルフだな! 下等な種族! お、俺をたすけろおお! なんなら飼ってやるぅうう!! 可愛がってやるからおれをたすけろおおおぉ」

 

 そんな彼らの空気を引き裂いたのは生かされた隊長だった。

 マーレがやったことだとは全く知らずに、まさかの命令だ。

 溺れるものは藁をも掴むというが、本当に見境なしだ。

 

「うーん、生かすやつ間違えたかも……」

 

 正直、惨めに命乞いをする姿はみっともなく、聞いていて気分が悪くなる。

 ペロロンチーノは社会的には強者ではなかったが、悪のギルドの一員としての矜持はあった。

 たとえ命を脅かされようと、相手が美ロリであったらば口説きに走る気概があった。

 

 こいつは根性が足りないやつだ。うん。

 

 男だったら一矢報いようとするか、逃げることに全力をつくすか……したような、しないような。

 仕方がないにしても、これはないよなあと思った。

 

「あの、そいつうるさいんで、どこかにしまっておいてもらっていいですか? このあと来る仲間が口をわらすの得意なんで」

 

 小石を蹴るように隊長の腹を足で小突くとポーンと放物線を描いて空を舞う。

 ドスンと落ちるとともに、聞こえた「ぎゃふっ」という一言とともに声は聞こえなくなった。

 

「く、口ですか?」

「えーと、情報収集、必要ですよね? 俺、森のものなんですけど、見た感じ、ここ悪い村じゃなさそうだけど、騎士が大人数で狙うほど裕福な村ってわけじゃなさそうですし」

 

 伝説の剣でも封印されていれば話は別だが、特段そんな感じもなさそうだ。

 

「それは、そうですな……カルネ村のすぐにあるトブの森には賢王……強くて賢い魔物がおりますし、盗賊が隠れるところも無ければ奪うものもない村でしたから。かろうじて行商人の行き来と、エ・ランテルに住んでいたエモット家の伝で薬剤師とつながりがある程度の村ですから……」

 

 村の生き残った若い男たちが隊長を縄でぐるんぐるんに拘束すると、空き家へ連れて行くのを横目で見送る。

 

 **

 

 場所を村長の家に移してあれこれと聞いていくと、マーレはだんだんテンションが上っていくのを感じる。

 

「いやあ、異世界に転移。何でも無い村。謎の兵士の襲撃か。むふふっ」

「な、なにか?」

「いえ、なにも!」

 

 ペロロンチーノはエロゲーマーだが、エロゲーしかしないわけではない。全年齢ゲーにもそれなりには正通している。

 その経験がいっている。この展開はあれである。

 

 次のイベントがすぐ、もしくは翌日辺りには来るな、そう睨んだ。

 

 来るのはおそらく神官系美少女あたりだろう。

 ムチムチロングのくせにパツパツシスター服を着ているやばい系か、清楚な巫女系だろうか。

 謎めいた少女の可能性もあるか。

 

 いわゆる信託の勇者イベントが来るに違いない。

 すなわち敵国も信託を受けて荒らしに来たのだ。間違いない。

 マーレはそう確信していた。

 

 

 **

 

「私の名前はガゼフ。ガゼフ=ストロノーフ。王国戦士長だ」

 

 おっさんゴリラかよっ!

 どうやら序盤にしてはレベルが高いが後で再開するとあいつそこそこだったよな、な先輩キャラのお迎えだった。

 

 可愛いヒロイン候補のお顔見せイベントを期待していたのに、出てきたのはごつい戦士である。

 たくさんの戦士が馬に乗って現れたが、くっころ映えのしそうな女戦士もいない。

 マーレにとっては途端に彼らがゴブリンと、ゴブリンリーダーの群れに感じてきた。

 

「あ、あの、マーレです……。村が襲われてたので、た、たすけました!」

 

 面倒になって子供ぶって乗り切ることにした。

 生意気に見えがちな俺っ子よりは娘っ子のほうが真面目そうな戦士にはウケが良いだろうという判断である。

 難しいことも聞かれないだろうという悪知恵も働いている。

 

 そのぶりっ子に村長と心配してついてきたエンリは不思議そうに首をかしげたが、ガゼフは特にそれを不思議に思わなかったようだ。

 

「なんと! それは素晴らしいお行いだ。ぜひ王都に来られた際は歓迎しよう。それで、後ろの御仁は……?」

 

 後ろを振り返ると、そこにはしっとマスクをつけたマジックキャスターがいた。

 

「ぶふっ」

 

 マーレモードになっていたはずなのに、一瞬でペロロンチーノの意識になっていた。

 

 反則すぎるだろ。

 

 現れたモモンガはどこからどう見ても不審者な仮面をつけている。その名もしっとマスク。

 クリスマスの際に一定時間ログインを続けていると強制的にプレゼントされる捨てられない呪いのアイテムだ。

 地味に毎年デザインが違う運営のセンスを疑うアイテムである。

 

 マーレに会いに来るのは主に姉ちゃんと仲良かった女性陣だったため、モモンガさんが何年分持っていたかは知らないが、あのモモンガさんであるからして、毎年もらっていたんだろうなぁ……。

 

 いや、だとして、この場面でつけるチョイスかよ。

 

『ちょっと、笑わないでくれますか?』

『いや、笑わせないでくださいよ』

 

 襲われたばかりの村長と、助けられなかったたくさんの開拓村を見てきた戦士長をよそに、なんとも気軽な二人だった。

 

 




モモンガさんだからそんな感じしませんでしたが、
マーレで書いてみると実に異世界転移テンプなムーブ感ですね!

はたして、覇王エンリにはなれるのか。ただのおっさんゴリラ扱いされているガゼフはこの先生き残れるのか?


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009 村娘が村を出たら娘になってしまうので村を出ない。

山にいるから山賊。海に出るから海賊。
村にいるから村娘。旅に出たら旅娘……?


 

 わあ、モモンガさんつよーい。

 

 こちらでもユグドラシルと変わりなく強いモモンガさん。

 増援として、法国の六色聖典がカルネ村を襲ったが、ガゼフ・ストロノーフが襲われるのを見て戦力を確認。

 ガゼフが戦闘不能になったところでモモンガさんが入れ替わってけちょんけちょんにしてしまった。

 

 今回良かったのは、この世界の魔法が、ユグドラシルと同じ位階魔法だったことだ。

 武技というスキルに似た技こそ別にあるものの、ある程度同じルールでもって動いているこの世界。

 自分たちの基準である程度強さを把握できるのは助かる。

 

「強者で30前後って感じですか」

「ですね。でも、ドミニオンオーソリティーがこの世界での最高位天使だとしても、第七位階までは使える存在がいるって言うのは注意が必要ですね。俺らはともかく、プレアデスはなるべく戦闘は避けるように命令しないと」

「あー、そうですね。というか、プレアデスクラスだと30前後でもパーティー相手だときついでしょうし、強者と戦闘させられるのは守護者か傭兵くらいですね」

 

 とはいえ、タイマンなら英雄級でもプレアデスで相手ができるとわかったので、これなら念の為、隠れながらフォローのできるエイトエッジ・アサシンをセットに行動させれば外の活動に不安はなさそうだ。

 

「コレなら、いけそうですね」

「ですねー」

「リアル冒険者か……!」

 

 モモンガさんが村長に書いてもらった身元証明と推薦書を手に笑っている。

 そう、俺たちは冒険者になる予定なのである。

 身分証明、情報収集、地位づくり、金銭獲得と様々な利点がある。

 正直モモンガさんは息抜きの面が大きそうだ。

 

 どうやら、異世界生活に疲れを感じているらしい。

 そのへんは長年ユグドラシル生活でなれている俺との違いだろう。

 だから俺は別に冒険者にならなくてもいいといえばいいのだけど……

 

 異世界転移→襲われている村→村娘系ヒロインのピンチ→陰謀の法国→王国の戦士→戦士長からの冒険者のいざない[now!]という流れを考えるに冒険者にならずにはいられないというか、ここまでイベントの流れを組まれたらしょうがないよね―。この流れは俺も乗るしかないてなもんだ。

 

 パーティーはモモンガさん、俺、序盤ナビゲーター的なエンリとー、男女比的にプレアデスを一人だろうか? 村娘ヒロインとくればヒーラーポジだろうか。

 どこかでレベリングするべきか?

 30くらいならすぐだろうし。

 

「馬車も貸してくれることになったのはラッキーですね」

「ですね。まあ、色々あってお金が入り用になったからエ・ランテルに行きたいっていうのもあるみたいですけど」

 

 おかげで、ちょっと狭いがてくてく歩いていかなくていいのは助かる。

 ユグドラシルも広大ではあったが、さすがに現実の森や山ほどには広くない。

 

 それに、ユグドラシルなら森をさまよっても遺跡や洞窟が見つかったが、人もいないこのあたりをどうさまよったところで、財宝を発見することすらないだろう。

 森や山をさまよった挙げ句、モモンガさんと二人で日の出を見ながら、この光景こそが何よりもの財宝ですね、をやる気はまったくないのだ。

 

 

「ゴウン様。本当にありがとうございました」

「いえいえ。こうしていろいろ情報が得られて私としてもとても有益でしたとも」

「あの、マーレさん。村を救ってくれてありがとう」

「え、あ、うん?」

 

 眼の前には、荷の積まれた馬車を見送る村人たちと、村長。それにエンリとネムだ。

 あれ?

 まぶたをうるませながら、ありがとうとギュッと抱きしめてくれる彼女にドキッとしながらも、んん? と首をかしげる。

 

「どうしたんです? ペロロンチーノさん」

「え、あ、うん。アインズさん、エンリがついて来ないんですけど。コレって仲間になる展開じゃないですか?」

「……はあ?」

 

 不思議そうにこてりと首をかしげるモモンガさん。

 萌キャラっぽいですが、やるべきはあなたじゃないですよ!

 

「いや、普通ついてきません?」

「……うーん? 襲撃で家族なくして、妹と二人で生きていかねばいけない中、どこともしれない旅に妹置いてついていくわけないですよ。普通」

 

 ――そんな現実的なツッコミされても!!!

 

 ぬぐううう。

 確かにそうかもしれない。

 現実はエロゲーじゃないのかぁ! ないよなあ、そうだよねえ。

 

 ていうか、てことは、リアルファンタジーで保護者なしの姉妹とかやばいんじゃ?

 リアルでもそうだったが、まだ働いていない子供は保護者なしに生きていけない。

 

 村人たちのおもちゃ……はエロゲーに引っ張られすぎだとしても、お金持ってる相手と結婚の強要とか、爺の後妻とかにされてしまうかもしれない。

 村人も減ってるからちょうどいいとか言う理由で!

 

 許せん! 攻略するかはさておき、攻略する前に奪われるのは駄目だ。ユルセン。

 俺はタブラさんみたいなNTR(寝取られ)バットエンド派ではなく、NTR(寝取り)ハッピーエンド派なのである。

 一家と繋がりのあるらしいゲス薬師に媚薬責めされ、ネムの事はいいのかと脅されるエンリを想像して義憤に狩られる。

 

「エンリ! これ、あげる。姉妹だけで生活するのって大変だと思うから」

「これは……笛?」

「うん。ゴブリン将軍の角笛。何匹かゴブリンが呼ばれて命令を聞いてくれるから、これ使えば狩りでも農業でもなんでもやれるでしょ? 姉妹だけじゃ大変だろうしさ」

「いいの?」

「いいって。助けたのに、不幸になられちゃ名が廃るってな。あと、これ」

 

 部屋の収納棚に適当に突っ込んでおいた、低レベルマジックアイテムを押し付ける。正直ゴブリンファイターレベルでも今回の兵士相手なら十分できそうだし、こんなんで、バットエンドを回避できるなら安いものだ。

 

 ダメ押しの一発に、エンリの手をとると、左手の薬指に剛力の指輪(STRアップ中)をはめる。

 派手すぎないルビーがキラリと光る。

 村娘なら力仕事はいくらでもあるだろうという判断と、ゴブリンが敵対したとしても殴り倒せるようにだ。

 ついでに、知らない男に取られるのを防止するのにも役立つに違いない。

 

「あ、ありがとう。すごい、きれいね……」

「赤、エンリに似合うと思うよ。大切にしてね。外しちゃヤだよ」

「う、うん」

 

 うつむく彼女の表情は、頬を赤く染めていて、パーフェクトコミュニケーションのマークが浮かんでいた。ヤッタゼ!

 

「……手が早いですね。ペロロンチーノさん」

「ふっ。ハーレムルートを解禁するにはしっかりとしたフラグ立てが必要なんですよ。エロゲーが俺に教えてくれました」

「はあ。まあいいですけど、刺されて死んだりしないでくださいよ……」

「刺されても死ななさそうなのがファンタジーのいいところだと思います」

「じゃあ爆発してください」

 

 そんな会話を続けながらも、村人Aに引かれながら馬車はエ・ランテルへ向かってゆくのだった。

 

 

 

 




エンリは拠点育成系のヒロイン。
カルネ村を成長させていくとイベントが自動的に発生するため、そのまま攻略、
エンディングまで行くことが多く、二週目からは
あえてンフィーレアとイベントを進め、フラグを折っておっておかないと
他のヒロインの攻略に差し支えるため、NTR気分を味わうことになるとかならないとか。

嘘です\(^o^)/


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010 誘惑

 

 一日中走り続けられる人間がいるだろうか?

 夜の完全なる闇の中、しっかりと走ることができるだろうか。

 

 いや、できない。

 ――今のマーレならできる気がすごくするが、普通の人間は無理だ。では、馬はどうかというと、馬もできないらしい。

 

「それでは、朝またここに来ますので、良いでしょうか。なに、馬車とあなたは私が召喚したものが守っていますので」

「わかりました。それではまた朝に」

 

 エ・ランテルにつく前に野営することになったのだ。

 リアルではできないキャンプに正直心浮かれていたのだが、モモンガさんに「アルベドを戻さなきゃいけないし、一旦ナザリックに戻って朝ここに来ましょう」と言われてはそうするしかない。

 

 まあ、野宿よりナザリックのベッドのほうが寝心地は何倍もいいはずだし仕方がないか。

 なに、野宿は冒険者になればまたいつでもできるか。

 

 ――リアルキャンプとかちょっと憧れてたのにナ―。

 釣った魚を木の棒でさしてパチパチいう火を囲んで内緒話するとかいいよナー。

 

 そういうとこ、モモンガさんは真面目だなあと思った。

 

 

 **

 

 

 まあ楽しかったかーとモモンガさんと別れてスキップしながら第五回層に戻ると、冷水を浴びせられたように、一瞬にして浮かれた気分は消えた。

 領域にある住居に入ると、そこには表情を浮かべていない姉がいたからである。

 

「やべっ」

 

 これは、姉ちゃん――ぶくぶく茶釜の件を考えなくてもわかる。

 約束した門限を超えて友達と遊び呆け、夕食を友達の家庭で頂いてきて帰ってきたときの反応である。

 本当に生き物なのかと言いたくなるくらいに感情が消えたそれはそれは恐ろしい光景である。

 しかし、自分はペロロンチーノの経験を十全に活かすことができる。姉の扱いに関しては人生と同じ長さの経験があるのだ。

 どんとこいである。

 

「あああ、あの、お、お姉ちゃん……その、あの。べ、別にモモンガさんといっしょだったから、し、しんぱいはその、ないというか、なんというか、そのあの、えっとぉ……」

 

 子供の頃から全く進化がなかった。

 

「しんぱい、したよ」

「あ、あうん」

「いきなりいなくなってさ。おいたかったのに、セバスはだめだって言って教えてもくれないし」

 

 まあ、人間の村にコキュートスとかが現れたら混乱必須である。そして、ついてくるなと言わなければこの忠誠心の塊の守護者たちは全員で村に押し寄せただろう。

 うん、仕方がない。

 

「だ、だいじょうぶだよ。僕たち強いし!」

「――でも、他の御方みたいに、いなくなっちゃうかもしれないし」

「そ、それは。でも、」

「ペロロンチーノ様は死んじゃったわけだし」

「うぐう」

 

 確かに、実際わかってから見ると楽勝だったが、突入まではどの程度危険かもわからない場所だったのだ。

 なのに追いかけることを禁止されたのだ。心配も仕方がないかもしれない。

 

「ご、ごめんなさい……」

「マーレのくせに……」

 

 ギュッと抱きしめられる。

 エンリのそれと違って、柔らかさをあまり感じない抱擁。

 けれど切実さを感じる強い力に、痛いと言い出せず、添えるように抱きしめ返すのが精一杯だった。

 

「まあ、ペロロンチーノ様でもあるんだから、大丈夫か」

「う、うん」

「お腹空いたし、ご飯食べようよ」

 

 十分くらいそうしていると、ぱっと体を離される。

 そこにいたのはいつもと同じおねえちゃんの姿。

 そこも、どこか翌日しっかりといつもとおりの朝食を用意してくれた姉ちゃんに似ていた。

 

 肩を手で触ると、少し湿っている。

 心配かけさせちゃった。少しだけ申し訳ない気持ちになった。

 まあ、その気持がいつまでも続かず、何度となく「愚弟」と呼ばれ続けた自分ではあるのだけど。

 

 **

 

「ってなんであんたがいんのよ」

「いたら悪いでありんすかぁ?」

 

 部屋に戻ると、そこには同じ階層守護者である、シャルティアが待っていた。

 

「悪いに決まってるでしょーが。部屋に帰りなさいよ。たくさんのしもべが待ってるでしょうが」

「ヴァンパイアブライドたちでありんすね。妾は今日は帰りんせん」

「はー?」

「だって、愛しいお方、ペロロンチーノ様がいるんですもの。伽を務めるのも務めでありんす」

 

 伽……務め……実用系のエロゲー並みの展開の速さに、ベッドに寝転んでいたシャルティアに視線を向ける。

 ペロロンチーノは自動着せ替え機能もないのに、無駄に大量に衣装をプレゼントしていた。

 胸を持ち上げるような腕組みに、パットがない今、大きく隙間ができていたが、それでも、ペロロンチーノが全力を注いだだけあって、最高の美がそこにあった。

 幼さが残るその美貌とは裏腹に、ヴァンパイアの抱える退廃的な淫らさを微かに香らせていた。

 

「ちらっ」

 

 慌てて抑えられたアウラの指の間から覗いてやばいと思った。

 リアルシャルティアやばい。

 

「ふふーん、ペロロンチーノ様の目は正直でありんす」

「マーレだから! いいの!? こいつ、マーレなんだからね!」

 

 んー、と人差し指を顎に当てる動きはとてもあざとい。

 でも可愛い。さすがシャルティアである。

 

「もとより男性守護者の中では一番おいしそうであったし? ペロロンチーノ様でもあるなら、バッチコイでありんす」

「ぐぬ、ぐぬぬっ」

 

 けど、自分のNPCとするってなんというか、なんていうか。

 うーん。

 自作小説を読み返して興奮するようなというか。

 シャルティアは可愛い。世界一級にかわいい。

 最高の娘! ――うーん、娘か。娘なのかな。

 

 正直エロゲーでは娘も行けていたはずなのだが、これは姉が行けない理由と同じで、できてみると対象外になるという感じなのだろうか? 姉と違って完全に肉親ではないので、義理の娘という感じで――あ、そう思うと行けるような気も――

 

「あ、でも、ぼ、僕まだ精通してないから」

「え、そうなんでありんすか? うーん。できないなら仕方がないでありんすねぇ……」

「ほらほら、出ないならしょうがないでしょ! 諦めなさい」

「むう。精通したら必ず報告しておくんなんし」

 

 一番は私でありんすからねええと叫んで去っていくシャルティア。彼女が去ると同時に吐かれた姉のため息とともに、いつもの二人に戻っていた。

 

「さっ、もう寝ようか」

「え……あ、うん」

 

 いつもの二人に戻っていた(強調)

 

 




10話にしてようやくシャルティアが! 
しかし、次の見せ場は遠いのである……

そしてGW気分で土日過ぎてた!


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011 モモンガパパの憂鬱

QWで日付感覚がなくなってました! すみません、
(ゴロゴロ10連休してたらいつの間にか休日終わってたとか言えない……。)


 

 モモンガは執務室でもりもりと仕事をしていた。

 正直言えば自分にとって仕事とは、ユグドラシルの世界を楽しむための必要なコストというだけだった。

 給料でナノマシンを維持でき、ユグドラシルがプレイできる。

 ボーナスが入ればたくさん課金ができる。

 

 だから、一分一秒でも早く帰れるように仕事をスマートにこなしていた。必要最低限だったので評価は高くなかったが、それでもしっかりした仕事に評価は良かった。

 

 だが今は仕事が楽しい。

 

 カルネ村での情報で、現地のレベルを測ることができた。

 これにより、30~40レベルを基準に行動すれば問題ないとし、多くの斥候を放った。

 大量の情報がアルベドやデミウルゴスによって集約され、早々に王国と帝国、法国に評議会といった近隣諸国の表面的な情報を入手することができた。

 

 地形も計測され、それなりの精度の地図が用意された。

 道を切り開くこの瞬間が冒険の醍醐味というか、楽しい時期だなあ。

 

「冒険者に備えて仕事をこなしておかないと」

 

 ギルメンとはゲームでの付き合いはあったが、リアルでの付き合いは殆どなかった。

 オフ会を開いたことはあるが、それだって一日ずっと一緒に行動するわけではない。すぐに解散になり、またゲームで再会だ。

 

「いやあ、ペロロンチーノさんがいてくれてほんとーによかった」

 

 至高の御方扱いはモモンガの胃をギュッと締めたが、それも同じ立場の仲間がいると思えばなんてことはない。

 

 それに、段々と感じられてきたが、どうも、ギルメンが作ったNPCたちはその造物主の中身に似ており、彼らの子供のように思えてきた。

 ……パンドラズアクターをそう思うのは難しい感じがするが。

 

 誰も戻ってこない、ナザリックを維持し続ける。

 それは時折どうしようもない悲しみに襲われる日々だった。

 けれど、今は違う。

 

 大切な子どもたちと仲間とともにこれからは――

 

「もおぉもんがあああさあああああん!!!」

 

 仲間と――

 

「夢精しちゃいました! 精通来ちゃいましたよ、どうしよう!?」

 

 どうしようじゃないっすよ、ペロロンチーノさん。

 大切な仲間とともに、みたいな清々しい空気は霧散していた。

 

 **

 

「別に夢精くらいいいじゃないですか。男の子らしくて。俺も12歳くらいのときにやっちゃってびっくりしましたよ。おもらししちゃった!? って」

「あー。俺もそのくらいですかねー? エッチな夢見てラッキーと思って起きたら変な感じして。親と姉ちゃんにバレないよう1人で洗って、あのときは緊張したなあ」

「ペロロンチーノさんらしいですねぇ」

 

 あははと笑う。

 正直ギルメンの性事情は知らんでもいいことな気がするのだが、本人から話すなら聞くしかない。

 それに、猥談って楽しいしな。

 ペロロンチーノさんにはよくエロゲー談義に巻き込まれたものだ。

 しかしと首をかしげる。

 

 ペロロンチーノさんはナザリックの卑猥四天王だが、出会い頭に性に関することを投げつけてくる人ではなかった。

 ――いや? 姉が声優をしているキャラで抜いてしまったと泣いてナザリックに駆け込んできたことはあったか。

 ……うん、平常進行だな。

 

「そういえばどんなエッチな夢見たんですか?」

 

 ナザリックの女性陣はあれで結構しっかり着込んでるというか、肌率が低めだ。

 となれば相手はエンリだろうか。

 自分は黒髪長髪の学校の女教師だったなあなどと懐かしくなった。

 

「ああ、裸のお姉ちゃん相手にちゅっちゅされながら撫でられてバーストする夢でした」

 

 時が止まった。時間対策はしているのに。

 

「――ちゃ、茶釜さんですかー」

「いえ、アウラです」

「変態っ!」

 

 ロリで姉で男装女子なのに! 

 

「姉がいる家庭なら普通じゃないですか? ペロロンチーノのときは姉ちゃんでしたし。まあ、一緒に寝てるせいだとおもいますけど」

 

 一緒に寝てたの!? え、アウラと茶釜さん両方!? 

 睡眠に関心のないアンデットになったせいか、彼がどうしていたかなんて全く考えてもいなかったが一緒に寝ていたとは……。

 絵面で言えば可愛い姉妹だし、問題ないといえばそうだが、性の対象になるなんて。

 もしかして童貞の相手とかも姉で済ませてたりするんだろうか。闇を感じる――。

 

「まあ、それはいいんですよ。お姉ちゃんは非攻略キャラですし」

「あ、攻略しないんですね」

「姉ですからね。夢ならともかく、リアルじゃ立ちませんよ。はっはっは」

「それはよかったです。よかったです?」

 

 しかしだとすればどうしたというのだろうか。

 

「問題は精通したってバレたらシャルティアに襲われるってことですよ!」

「はあ。別にいいじゃないですか」

 

 ナザリックの者たちにとって至高の御方々はそれだけで特別だが、その中でも自分の造物主は更に特別である。

 シャルティアがペロロンチーノに特別な思いを抱くことに何ら不思議はないしあれほどギルメンに自慢して回っていたシャルティアなのだから好きにすればいいじゃないかと思う。

 性欲のない身で襲われると辛いが精通しているなら勝手にして爆発すればいいじゃないかと思うのだ。

 

「そりゃー、シャルティアは可愛いですよ。魅力的ですし、迫られたら負けそうです。でも、いわば娘で同僚なわけじゃないですか。家族となんてエロゲーではともかく、リアルだときついですし、職場恋愛とか気まずいですよ。モモンガさんだって、パンドラズアクターが女の子に変身してベッドに来たとしてもためらうじゃないですか!?」

 

 そりゃーためらうが、それはパンドラズアクターが男だからである。

 モモンガは可愛くても男の娘はNG派だった。

 あれも、未使用のままなくなってしまったし……。

 

「えー。面倒だなあ。上司の俺が許可しますよ。ナザリックは職場恋愛OKなホワイト組織です」

「うぇい! それに、やればできるやればできる! ですよ。異世界に来たばかりで子育てなんて安心してできません!」

 

 じゃあ、女の子にあれこれ声をかけるなよと思ったが言わないことにした。

 そもそも、シャルティアって子供産めるんだろうか。産めないよなあ。

 ならいいんじゃないかなあ。駄目だろうか。

 

「結局どうすればいいんですか?」

「ええ。パンツはお姉ちゃんが苦笑しながら洗ってくれましたが、朝からお風呂に入るところをシャルティアに目撃されまして。感づかれるとヤバイです。なのでとっとと冒険者を始めつつ、シャルティアにも任務をだしてほしいなあ、なんて」

 

 要するに早く冒険に行こうということか。

 話が長いですよ、ペロロンチーノさん。

 モモンガは山になった書類の中から2枚を引き出す。

 

 そこにはシャルティアの任務と俺とペロロンチーノさん、そして同行者としてナーベラル・ガンマをつれると記載されている。

 

「では、冒険に行きましょうか」

 

 しかし、育児か……。

 思ったより早く必要になるかもしれないな。

 わあいと子供のようにはしゃぐペロロンチーノさんを見て、必要ないと却下する気だった別の書類にサインをすることにした。

 

 





精通来てないとか言った次の話には来るとかまさかの読者も予想がつかなかったでしょうね!(絶対そのうち来るだろうな―とは思われてたと思うっすけど!!)

これで年の差バッドエンド回避ですねー。
(おや、シャルティアが別の依頼を……?)


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012 ギルドでの出会い

 

「うわあ、いかにもな町並みですね。冒険者っぽいのも歩いてますよ。人間ばっかりですね」

「衣服もカルネ村よりはバリエーションが広いですね。まあ、ユグドラシルには負けますが」

「あんなの現実で居たら痴女とかですよ」

 

 ナザリックの面々は比較的着込むことを良しとしており、よくあるビキニアーマーなんかは居ないが、イベントや課金で様々な格好をする者たちがおり、水着、サンタ、きぐるみなどそのバリエーションは多彩だった。

 

「見られてますね」

「至高の御方々であれば当然かと」

「全身鎧と美女と美少女ダークエルフですからね。誰でもコイツらなんだよって思うだろうなー」

 

 カルネ村はダークエルフを受け入れてくれていたが、ここではどうも珍しいものを見るような目を向けられている。もしかしたらダークエルフ以外にもエルフ自体珍しいのかもしれない。

 昔ダークエルフが居たと言われているトブの森には今はダークエルフが居ないらしい。

 エ・ランテル近郊で大きな森は他にないらしいからこの辺にはいないのだろう。

 

「お、ギルドはここですね。うわー、それっぽい」

「汚いところです」

「結構広いですね。人も多い」

 

 どうも、掲示板に依頼書が張り出される形式のようで、大きな掲示板にはたくさんの紙が張り出されているが、いたるところに空きスペースがある。

 もう多くの依頼が取られてしまっているのだろう。

 

「カッパーの依頼ってどこでしょうね。というか、モモンさん、字読めますか?」

「チーノさん。……やっぱり読めませんよね」

 

 街に来たばかりで実績のない俺たちは最低ランクのカッパーから始まることになった。

 ガゼフ・ストロノーフの名を使えばば最初からそれなりのランクでスタートできたかもしれない。

 けれど、モモンガさんはモモン、自分はチーノと名乗ることにした上に、彼の知らないナーベラル・ガンマがナーベとして参加するのだ。

 これでは推薦などされようがない。

 

「これは盲点でした。文字を覚える必要がありますね」

「ですねー。あ、年の近そうな子がいるので聞いてきますね」

「あ、ちょ……」

 

 なに、困ったら聞けばいいのである。

 幸い、言葉が通じるのはわかっている。

 俺はギルドに現れた茶髪のベリーショートの女の子に声を掛ける。

 

「こんにちはー。俺はチーノっていうんだ。冒険者になったばかり。街にも来たばかりでよかったら色々教えて欲しくて」

「こ、こんにちは。ダークエルフですか? 珍しい……」

 

 チラチラとニニャの視線が俺の全身を舐めるように見てくる。

 スカートだし女の子だと思われているだろうな―と思いながらニコリと微笑み返す。

 

「あ、僕はニニャです。漆黒の剣に所属している銀級冒険者です」

「わー、先輩なんだ。年も近そうなのにすごいね。時間ある? よかったら色々教えて欲しくて」

「え、年、近いんですか?」

「あ、エルフ基準でね。まだ74歳なんだ。成人前」

 

 あっはっはと笑うが、エルフジョークは受けなかったらしい。

 けれど、子供同士ということで話は弾んでゆく。

 本人的には男装しているつもりらしいが、ボクっ娘でかわいいし、早速ラッキーだな。

 男装ボクっ娘魔法少女かー……。実によろしい。

 

 **

 

「相変わらず馴染むのが早い……」

 

 ペロロンチーノさんは自分を見せることをためらわないと言うか、誰相手でもバカをやるので、色んな人とあっという間に入り込む。

 真面目な相手だとちょっと怯んでしまうようだが、それでも甘え上手の弟気質を生かしているのか、交流がアインズ・ウール・ゴウンメインな自分と違い、ユグドラシルでもエロゲ同窓会とか、エロモンスター探し隊だのなんだのを作ってたくさんの交流があった。

 

 今もあっという間に色々聞き出しているようだ。

 男相手でも仲良くなれるあたり素晴らしい技能である。

 いや、どちらかというと、赤裸々にエッチだった以前は男相手のほうが仲良かったか。

 まあ、そもそもユグドラシルでは女キャラの中身が女とは限らないですけどね! 

 

「あ、モモンさん」

「なんか増えてませんか?」

 

 さっきまでは一人だけと話していたのに、いつの間にか人数が増えている。

 チームのメンバーだろうか。

 和気あいあいとしており、まるで彼もまたメンバーの一人のようだった。

 それが少しだけ気に入らない。

 

 ペロロンチーノさんはすたたとどこか女の子っぽい走り方でこっちに走り寄ってくる。

 ……俺がアンデットになったように、彼もまた結構影響を受けてるんだろうか。

 受けててアレなのだろうか。ペロロンチーノさんらしさは対して変わっていない気がする。

 まあ、そもそもダークエルフだし、人間種だから自分よりは大したことないか? 

 

「彼らは漆黒の剣のメンバーで、一緒に依頼を受けようって話になったんですよ―」

 

 なるほど。選べないなら一緒に受ければいいということか。

 

「いいですね」

 




女装男子なので、男装女子をひと目で見破るペロロンチーノさん。


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013 ニニャとデート

「こっちの可愛い男の子がニニャ・ザ・スペルキャスター。魔法の取得スピードが普通の二倍になる魔法適正のタレントの持ち主。こっちがリーダーのペテル・モークさんが戦士でちょっとちゃらいルクルット・ボルブさんがレンジャー。ダイン・ウッドワンダーさんが俺と同じドルイドですね」

 

 冒険者として一人前といえるシルバーだけに、彼らは別のチームと協力し合うことにもなれているようで、気安い態度だった。

 

 モモンさんとナーベについて紹介をすると、興味深そうにしている。嫉妬の感情が見えないのはできた人たちだからか、それとも、自分のクラスとバッティングしそうにないからか。

 

「高価な全身鎧に大剣の戦士と、第三位階魔法を行使できる魔法使いに、ダークエルフののドルイドですか。こりゃ、すぐランクなんて上がりそうですね」

「将来有望なパーティってわけですかっ。お嬢さん、俺の名前はルクルットでっす! お付き合いしてください」

「ウジ虫が。お断りです」

「辛辣! でもその目が好きです!」

 

 さすがナンパ男。めげない。

 確かにナーベはとても美人だが、やはり同僚かつ弐式さんの顔が浮かんでくどく気にはあんまりなれないな。

 身内という感覚が強いからだろうか。

 

 とはいえ、至高の御方々に仕えることにのみ価値を見出しているナザリックのメンバーらしく、全く興味が無いようだ。

 

 いずれ、ナザリックの平均年齢は上がりに上がり、若者のいない組織になったりしないだろうか。

 休みもないしナザリックはブラックである。充実感だけは高いようだが。

 

「それで、モモンさん、ニニャと話したんですけど、仕事はやっぱりやって覚えるほうが早いってことで、彼らの仕事を手伝う形で始めようかと。手伝いでも実績を上げれば、ランクを上げられるらしいですし。依頼を数受けて信頼を積み上げるより、実績を出したほうがさっさと実力相当のランクに上がられるらしいですよ」

「なるほど。まあ、日雇い労働者みたいなことがしたいわけじゃないですしね」

「プラチナ以上で第三位階魔法を使えるレベルらしいですからね」

 

 実際のところ、モモンガさんと俺は超位階魔法が可能だし、ナーベも八位階まで可能だ。

 とはいえ、レベル30台でトップクラスのこの世界で無意味に力を見せる必要もないわけだが。

 

 

 **

 

「それじゃ、デート行こうか?」

「お、男同士だと、デートって言わないから……」

「でも、俺女の子に見えるから、他所から見たらデートだよ」

 

 中から見てもデートだけども。

 モモンさんやナーベは宿を押さえることにして、俺は街を回るついでに冒険者として必要な日用品を買い揃えることになった。

 年が近いんだし、とニニャと一緒に回ることになったのだ。

 

 お金あるんですか? とモモンガさんには心配されたが、そこはそれ。アイディアがある。

 自分たちのように拠点ごと転移してきたユグドラシルプレーヤーにさとられないようにするため。ユグドラシル金貨は使えない。

 だが、それなら消耗品を売ればいいのだ。

 

 例えばポーションや、アダマンタイト鉱石だ。

 いや、冒険者ランク最高がアダマンタイトであることを考えると、ミスリル鉱石あたりにランクを落としたほうがいいかな? 

 

 どちらにせよ、ダークエルフの里からの持ち出しだといえばすんなり通るだろう。

 

「それなら評判の薬品店があるんですよ。冒険者たちが手慰みで作った薬も品質が良ければかってくれるらしいですけど」

「そうなんだ。高く売れるといいけど」

 

 甘みより酸っぱさの強いベリーがのったクレープを一緒にぱくつきながら歩く。

 

「ダークエルフの作った薬なんていかにも高く売れそうですけどね」

「高く売れたらお礼するから期待しててね」

「ええ」

 

 にこっと笑うニニャは本当にごまかす気があるのかわからないほど可愛らしさを感じる。

 なんでも質の悪い領主に妾として姉を連れ去られた上に、飽きたらゴミのように捨てられたらしく、消息不明になっている姉を救うために力を求めているらしい。

 ここにウルベルトさんがいれば神妙な顔をしながら『力がほしいか。ならばくれてやる』と悪ムーブをしているだろう。

 きっと生きていると信じつつも、胸の奥をチリチリと怒りが焼いているようだ。

 けれど、こうして食べ歩きをするくらいには心の余裕があるらしい。

 まあ、焦っても貴族相手にできる力が手に入るわけでもないし……。

 俺なら力が貸せるけど。

 

 姉を助けたら好感度上がるだろうか? 

 ニニャによると王都にいる可能性が高いらしいので、セバスに探して見るようお願いしておくべきか。

 ニニャの姉なら美人だろうしなあ。

 

 姉妹両方とか萌えるヨネ! 

 

 

 

 




なお任せるとセバスに持ってかれる模様。

2019/05/28(火)追記
すみません、リアルが忙しいため、今週お休みさせてもらいます…。


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014 バレアレ店へ行こう

 

「ここですね」

「うっわ、すごい匂いがするなー」

 

 有能なメイドの力で、ナザリックは恐ろしく清潔に整えられていた。階層によって異なるが、マーレとしては森の香りはすれども、こういった薬品の匂いはあまり嗅ぐ機会ほとんどない。

 リアルとて、高度な医療技術のため、病院でも消毒のアルコールの香りはしても、薬品の香りなどまったくなかった。

 

(う~ん、くちゃい)

 

 まあ、ペロロンチーノ自体あまり裕福な層ではないから、病院などそもそも行く機会がなかったが。

 

「アレ、お客さん? 初めて見る顔だね」

 

 扉を開けて顔を出してきたのは、目を隠すほどの長さの金髪の青年だ。どこか内気な雰囲気を漂わせている。

 店員なのにいいのだろうか? と思うが、まあ、飲食店と違い、薬師はこの世界の技術力なら医者みたいなものであるから、技術があればなんとでもなるのだろう。

 

(しかし、エロゲの主人公みたいなやつだな)

 

 主に髪で顔を隠し、キャラが立たないようにしてプレイヤーが自分に重ねやすいようにしている感じが。

 

(薬屋とか、NTL系の主人公になれそうだ)

 

 自分とニニャを攻略するなら──仲の良さそうな少年少女、しかし、二人の性別は逆で……購入しに来た薬の内容から生理痛を抑えるものだと感づいた彼は秘密を黙っていることを引き換えに……って感じだろうか。

 

 うんうんとうなずくが、この人、精力がたりなさそうーと妄想をやめた。

 

「薬とか、素材を買い取ってほしいんだ。買い取りもしてるんでしょ?」

「あ、うん。買い取りもしているよ。初見のお客さんの場合は鑑定の魔法を使うから少し安めになっちゃうけど」

 

 まあ、色水をポーションと言われても困るしな。

 俺はトントンと持ち込んだポーションや、ミスリル鉱石、飛竜の牙などの低レベルの素材を机に乗せる。

 

 ガゼフ・ストロノーフを基準に、30以下の素材ならば問題ないだろうと、捨てるのすらめんどくさいとギルメンがゴミ箱代わりにおいていった素材を漁って持ち込んだのだ。

 

「こ、これは……ダークエルフの里から持ち込んだものかい?」

「うん。結構いい値段になるんじゃないかと思うんだけど、どう?」

「いや、すごいよ! これは! ばあちゃん!」

 

 髪の間から見える爛々と輝く瞳。ギュッと強く握られたその拳に、もう少し安いものにすればよかったかなと思ったもののもはや後の祭りである。

 

「こ、これでどうかな?」

 

 机に載せた量の半分くらいの金貨が載せられている。

 大量である。

 ニニャの『度肝を抜かれた』という顔からしても結構な大金に変わったようだ。

 

「じゃあ、これで売買成立でー」

 

 大量の金貨をしまっていく。

 NPCは装備以外にもアイテムを異空間に所持できるが、プレイヤーと比べれば少量だけで、厳選が必要になる。

 装備なんかをもたせてもかなりカスタマイズをしないと持ち替えまではしてくれないので、持っていれば勝手に使ってくれる回復アイテムを持たせることが多い。

 

 もちろんキャラ付けに香水をもたせたり、ラブレターをもたせたりと意味を付けたりするプレイヤーもいるが、持てる量は極小だ。

 マーレも、ハンカチやお裁縫グッズなどの小物しか持っていなかった。

 

 けど、ペロロンチーノでもあるせいか、マーレはプレイヤーであったときと変わらない量を持てるようである。

 自分の部屋や共有スペースから売れそうなものを持ってきたのだ。

 

「ね、ねえ、君たちは冒険者なんだよね?」

「そうです。漆黒の剣のニニャと──」

 

 ニニャがちらりとこちらを見る。

 そういえばチーム名は言っていなかった。

 

「漆黒のチーノでっす!」

 

 そう名乗って店を出る。

 そう、モモンガ、ナーベラルと三人のチーム名は漆黒になった。

 見た目が由来の単純なもので、最初に出会ったチームとかぶっている点が痛いがこういうのはわかりやすいほうが良いと思うのだ。

 

 チーム名を決めようというとモモンガさんは腕を組みながらデスデッドタイフーンとか、ダークブラックムーン……いや、とか言い出したので、黒の全身鎧、ダークエルフ、黒髪と黒の共通点から漆黒にしようと提案したのだ。

 

 なにせ、彼はギルド名を異業種動物園と提案したほどのネーミングセンスであるので……そして、ナーベはNOと言うはずがないので、自分が言わなければどうなってしまうかわかったものではないのだ。

 

「よーし、いっぱいお金が入ったし、デートを再開しよっか」

「だ、だからデートじゃ……」

 

 街を食べ歩きしながら周りながら、あれこれ必要なものを買っていく。最後に露天で、片方に魔力を込めると、もう片方がぼんやり光るというネックレスを見つけたので、プレゼントした。

 

「い、いいのに……」

「ネックレスなら隠れるし可愛いのしてても変じゃないよ」

「そりゃ、変じゃないけど……」

「あれだよ。うーん、友情の証みたいな? ニニャもチームで同じ剣持ってるんでしょ? だったら俺と同じのもっててもいいじゃない」

 

 ニニャの胸元で月の形の石が淡く青に光る。

 明かりを隠すように手でギュッと抑える。

 すると今度はマーレの胸が服越しに太陽を模した丸の石が淡くピンクに光る。

 

「きれいなもんだね」

「……そう、ですね」

 

 恥ずかしそうに目を伏せるニニャの手を取る。

 

「買い物も終わったし、戻ろうよ」

「──うん……」

 

 ぼうっと服越しの明かりに見入るニニャ。

 そんなニニャから高感度アップの音が聞こえた気がしたので、満足そうに歩き出した。

 




好感度はプレゼントで上げると思っているペロロンチーノさん。
同じもの上げても好感度上がるゲームとか見ると後で売ってるのかな?とか思うよね。
ブランドのバックか。

なお、ペロロンチーノさんはエモット家の知り合いの薬師をでっぷりしたエロそうな人と思っているので、ンフィーがそうだとは全く思いもしていません。
果たして彼は気づくのだろうか。


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015 ンフィーレアの過去

 

 僕の名前はンフィーレア・バレアレ。

 バレアレ薬品店を営んでいる、リイジー・バレアレの孫である。

 

 両親は研究家気質で店にこもりがちな祖母に代わって薬草を採ってくるために冒険者をしていたが、トブの森に採集に出かけたきり帰ってこなくなった。

 

 ばあちゃんの息子で僕の父は細かいことが不向きで、一箇所でじっとしていられない基質だったから冒険者になったが、僕はおばあちゃんの調薬によって様々に性質を変える薬たちに魅入られ、一生懸命勉強している。

 

 薬品店は、冒険者相手のポーションの販売もしているけれど、その本質は薬師であり、医師だ。

 怪我や病気の際に真っ先に訪れるのが薬品店だ。

 

 そして、大きな街であるエ・ランテルであっても。

 だからか、名士と言っていいほどにおばあちゃんは発言権がある。商店やギルド、領主の会議にも喚ばれる。

 

 だからか、僕は小さい頃から労働力として働かなければいけない子供と違い、好きに勉強をすることができた。

 けど、だからこそ、周りの子供と僕は全然違った。弱くてひょろっとして、真っ白い僕と違い、周りの子供は日に焼けて外で走り回ることを遊びにしていたから。

 貴族ぶりっ子、もやし。そんなふうに馬鹿にされ、一緒に遊んだことがなかった。

 

 どこか自信を持てなくて、つい誰かと話すときにどもってしまう。どもっちゃいけないと思うせいか余計に緊張して話せなくなってしまう。

 

 でも、そんな僕にも例外がいる。

 

 エンリ・エモット。

 

 エ・ランテルから多少距離のある開拓村のひとつ。トブの森野すぐ近くにある村。

 僕の両親と冒険者仲間だったこともあり、トブの森にだけある希少な薬品を取るためにカルネ村へ行くときには必ず会っていた。

 

 開拓村だけあり、人数はそんなに多くなく、開拓初期に生まれているエンリに近い年の子供が少ないことも会って、僕らは友だちになった。

 僕の話すことをなんでも楽しそうに聞いてくれる彼女のまえでは僕も緊張しなくて、何を話そう、あれを話そうと馬車でいろいろ考える時間が好きで、彼女とともにいる時間が何より大切で。

 太陽のように輝く僕の大好きな人。

 

 だから、いつか結婚するとしたらそれは彼女しかいないと思っていた。

 

 実際、彼女の両親もその気持で見守っていたのだろうか、それとももしかしたらおばあちゃんか両親が話しを通してくれていたのかもしれないが、エンリは年頃になっても結婚することはなかった。

 あとはタイミングだ。

 おばあちゃんから一人前と認められたら、その瞬間にこ、告白しよう……! そう思っていた。

 

 カルネ村は良い村だ。

 危ないはずのトブの森の近くにありながら、森の賢王に認められたことで、盗賊やモンスターとも無縁な牧歌的な村。柵すらないあの村の有り様はその村人たちの心の気質を表しているみたいで。

 都会よりゆっくりした時間が流れる場所。今日も明日も今と変わらず僕を待っててくれる。

 

 そんな風に──思っていたのに。

 

 

 **

 

「ンフィーや。そんなに慌てるんじゃないよ」

「だって、おばあちゃん。開拓村が襲われているって……」

 

 そう、村々が何者かに襲われ、焼き討ちにあったというのだ。無論、カルネ村以外は盗賊に襲われることも、魔物の襲撃を受けることもある。死者が出るどころか、村が潰れてしまうことも正直ある。

 騎士たちが口止めしているのか話がはっきりしないが、カルネ村への途中にある村のいくつかから逃げてきた村人が店に顔だして、そんな話をしていったのだ。

 

「けど……」

「カルネ村の人間は誰もきとらんじゃろ? 騎士に話を聞いたが、早馬でカルネ村へ向かった王国騎士が戻ってきた、戦士長のガゼフは無事だった、という話じゃから……」

「確かに帝国兵は無事にやっつけたって聞いたけど」

「じゃろう?」

「でも、エンリが無事かなんてわからないじゃないか……!」

 

 カルネ村前で被害が終わっていることを考えれば無事だと思うけど。心配だ。

 

「ふうむ。かと言ってそんな危ないところに行かせるわけにも……」

 

 話は平行線で、普段は僕に甘いおばあちゃんもこれには反対で、手紙を送り、返事が来るか、もしくはもっと状況がわかるまで待てと譲らなかった。

 

 けど、僕に転機がやってくる。

 

「薬とか、素材を買い取ってほしいんだ。買い取りもしてるんでしょ?」

「あ、うん。買い取りもしているよ。初見のお客さんの場合は鑑定の魔法を使うから少し安めになっちゃうけど」

 

 恐ろしく見た目の整った、可愛らしいダークエルフの少女だった。

 距離的な問題もあり、エルフは帝国では見かけても、王国では殆ど見ない。エルフの中でも数が少ないダークエルフなんて特にだ。

 

 それだけでも珍しいのに、彼女は何も持っていないように見えてたくさんの素材をテーブルに置いていくと、買い取りを頼んできたのだ。

 しかもその品がどれもすごい。一級品だ。特に、ポーションなど赤色をしていて、これはおばあちゃんの夢見ていた神の血と言われるものに違いなくて……。

 

 だから僕は、彼から秘密を知るためと言い訳を作って、彼らに依頼をすることにした。

 




カルネ村方面の村が襲われているので、ンフィーは心配中。
実際、騎士たちが村人保護してましたし、ンフィーにも情報行きそうなものですけど、
どうなんでしょうかね?
原作ではのんびり頭ゆだってましたけどー。

ダークエルフと謎のマジックキャスターということで、しっかりカルネ村については情報統制中みたいな現状。


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016 ニニャの気持ち

 

 初めて彼女──いや、彼を見たときに思ったのは、可愛らしい、でした。

 

 ダークエルフのチーノ。

 

 彼は、それこそ貴族だけがもつ高価なお人形のように美しく、僕にとっての理想の女の子に見える──少年だった。

 

 **

 

 徐々に実力をつけつつある、シルバーの冒険者、漆黒の剣に所属するつ、男のマジックキャスター、ニニャ・ザ・スペルキャスター。

 それが僕だ。

 

 

 ──嘘だ。

 

 僕は本当の性別をチームにも偽っている。

 冒険者はガラの悪い男が多いから性別を隠す人間はいないわけじゃない。何日も街から離れる冒険者という職業は、溜まりやすい男の性欲から体を要求されることが多々あり、それもあって隠すことが多い。でも、僕が性別を隠すのは別の理由だ。

 

 ニニャを名乗る前の僕はよくある村のよくある村人の一人だった。姉が一人の家庭で、農民の両親を手伝って生きる、普通の人間だった。

 優しく美しい姉は村でも人気者で、いずれ村長の息子の嫁になるだろうと言われていて、僕自身それがとても誇らしかった。

 

 けれど、姉は村に訪れた貴族に見初められて無理矢理に連れ去られてしまった。

 よくあること──そういえばそうなのだろう。

 けれど、権力を傘に、妻でもなんでもないただの愛妾として連れて行った。

 下卑ためをしていて、姉が嫌がる様にすら興奮していた。

 

 仕方がないよ。

 村人たちはそういった。

 同しようもないんだ

 兄になるはずの村長の息子はそういった。

 諦めてくれ。

 親であるはずの二人はそういった。

 

 ナゼ? 

 ナゼこんな理不尽を受け入れなくてはいけないの? 

 

 領主の悪癖はよくあることで、何度となく繰り返されていた話だった。メイドという名目で屋敷に連れて行かれ、好きにもてあそばれては奴隷として売り払われるそうだ。

 

 王都に商売に行った村人が、奴隷になっていた娘を見たと言っていた。だから、きっと姉も好き放題もてあそばれて捨てられるのだ。

 

 きっと、幸せになって、贅沢な暮らしをしているのだと、そう想像する余地すらないのだ。

 

 だから僕は髪の毛をむしるように切って、名前を捨てた。

 姉の……ツアレニーニャからニニャと名前を分けてもらって、村を出た。力が欲しかった。貴族から、悪から姉を取り返す力が欲しかった。

 

 けれど、村人が力を得る方法なんて、貴族に見込まれるか、冒険者になる以外にない。

 貴族にすがって姉を取り戻すなど吐き気がする。

 だから、僕には冒険者になった。

 

 男の冒険者になった。

 

 髪の毛を切り、女を捨てた。そうすれば貴族に見出されることもない。

 

 **

 

 結果を言えば、僕は恵まれていた。

 良い師匠に出会い、良い仲間と巡り合った。

 師匠は僕以上に小さく、仮面とローブを身にまとう変人の上、遊びで教えてやるとひどい相手であったが、魔法習得のタレントを持っていたこともあり、あっという間に冒険者として一人前の力を持てた。

 

『いつか私の領域までこい』

 

 そんな風にいう師匠に追いついた感は全然なかったが、このチームと一緒ならいずれ……アダマンタイト級にだってなれるはずだ。

 

 冒険を繰り返しながら、みんなで力を合わせて、乗り越えて、力をつけて、更に前に進もうと頑張る日々。

 

 カッパーだったのは今や昔。

 シルバーになったのはあっという間だった。

 漆黒の剣というみんなをまとめる共通の目標があって、みんな強くなりたいと思ってるからだろう。

 

 いつかきっとチカラをつけることができる。

 そしたら姉を迎えに行くことだってできる。

 そんな夢をいだきながら毎日を生きていて、彼に会ったのはそんなある日だった。

 

 可愛らしい、人だった。

 エルフというのはそもそもからして見目の整っている存在だというが、チーノはそんな領域になかった。

 

 絶世とか、神の作りたもうとか、美しい、素晴らしいをなんて表現すればいいかわからないけど、シミひとつない、赤ん坊以上に整った肌。左右の一変の狂いもない顔の作りと、神秘的な色の違う瞳。

 そのくせ、人懐っこい、けど、どこかいたずらっぽいその表情が近寄りがたさを打ち消していた。

 

 人は自分にはないものに惹かれると言うけれど──

 

 僕は自分の荒れた肌、何度も潰れて厚くなった手のひら、長くなるたびにむしるように切った髪の毛を思い出す。

 

 なのに彼は僕に近づいてきてニコッと笑ったんだ。

 天使──女神かな?? 

 

 会話の中で、彼が新米冒険者であること、自分は少年で、女のカッコをしているのはダークエルフの衣装であることを教えてくれた。

 

 驚くほどに気さくな態度に、僕はいつの間にか楽しくなった。

 彼ともっと一緒にいたいな、って思っていて、いつの間にかメンバーを紹介していた。

 

 だって、一緒に依頼を受ければもっとずっと一緒にいれるかもしれないから。

 

 

 




姉を連れて行った貴族への恨みを持ち村を旅立つ。
希少なタレントを元に、自分を鍛え、冒険者として鍛える。
一人前になれたところに訪れる美少女エルフ! しかも自分に興味をもって話しかけてきた上に
デートまで。

んン~~、ニニャがなろう系主人公の道を……!?
これはそのうち「可愛い女つれてんじゃねえかよお」と絡まれますね。


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017 モモンガさん謎フラグがひとつ立ちました

 

「そこで、漆黒の剣と漆黒の三人に指名依頼をしたいんです」

「我々に指名依頼ですか」

 

 それじゃあ、漆黒アンド漆黒の剣で共同クエストだ―と張り切ったところで、昨日のギャルゲ主人公が依頼をしたいと言ってきたのである。なるほど、俺に惚れちゃったかな? フラグ、立てに来ちゃったかな? だが男だ──! 

 

 どうやら、最近物騒だからと、いつもお願いしているブロンズの冒険者からシルバーに変えようと思っていたところ、お店に来てこれだと思ったらしい。

 調べてみるとすごそうなダークエルフのとフルプレートの戦士、第三位階まで行使できるマジックキャスターと異色のわりにカッパーでお安く一緒に雇える俺達に目をつけたのだとか。

 

 黒なのに異色とかコレイカに!? というのはおいておいて、渡りに船ではある。

 

 最初は依頼を受けない形でのフリーのモンスター狩りの予定だったけど、実はこれ、組んでるのがランク差がある場合、寄生の可能性を考慮して、上のランクの実績にはなっても、下のランクの実績にはあんまりならないらしい。

 お金は儲かるものの、ランクも上げたい俺達としてはそんなに美味しくないのだ。

 

 じゃあ依頼受けろって? ハッハッハ。カッパーはモンスター退治なんてほとんどなくて、薬草採取とか、ペット探しとか庭掃除とか雑用依頼ばっかですよ。

 モモンガさんにそんなことやらせたらデミウルゴスさん案件ですわ。コワイ! 

 

 逆に、指名依頼は大きな実績になるらしい。まあ、ギルドもランク上げて依頼料高くしないと儲けにならないもんね。

 

 

 そうして依頼を受けた我々であるが、大量に薬草を持ち帰る気らしく、馬車移動である。

 しかし、馬車連れて歩いてるとパーティー感あるよね。ない? 古い? いやあ、変わり者ばかりなアインズ・ウール・ゴウンにいると古いゲームを薦められる事もあったりしてさあ。

 ドラゴンほんとに探してる? なゲームとか、俺好きで──。

 

「しっかし、モモンさんはすごいですね」

「オーガもゴブリンもまっぷたつだもんなー。あ、ナーベちゃんもすげえ輝いてたよ!」

「黙れ、ゾウリムシ」

「チーノさんもすごかったですよ。マジックアローでどうしてあんなに正確な射撃ができるのか……」

「威力もニニャより強いもんな」

「さすがエルフの御仁である」

「これは抜かれるのはあっという間ですね」

 

 エ・ランテルを出て、野宿で今日の活躍についてみんなであれこれと話しているのだ。

 しかし、自然の中でキャンプとか、富裕層の趣味だよな。すごい。

 パチパチ音をたてる焚き火とそのしっかりとした暖かさと背中の温度の違いが特別な時間を感じさせて、表情を緩める。

 

「モモンさんはナーベさんとチーノさんでずっとチームを組んでたんですか?」

「あ、いえ──チーノさんといっしょでした……」

「二人だけですか?」

「いいえ、たくさんの──それこそ皆さんのように仲のいいメンバーと一緒でした」

「その方は──」

 

 遠くを見つめるようにじっと静かになるモモンガさん。皆のことを思い出しているみたいだ。

 そんなモモンガさんにフォローを入れるつもりで彼らのチーム名について質問すると、漆黒の剣について楽しそうに語る彼ら。

 まさしく仲良しチームな彼らに、モモンガさんはかつての自分たちを思い出してホクホクしているようだ。

 モモンガさんの気分がいいと俺も妙に嬉しくなるが、その空気がニニャの一言で消え去る。

 

「そんな日は来ませんよ」

 

 そう言うとモモンガさんは立ち上がると場所を変えてしまった。

 ナーベもついていく。

 

 モモンガさんについていく

 →モモンガさんについていかない

 

 頭の中にゲームでよくある選択肢が浮かぶが、俺はついていかなかった。

 

 マーレだったら何も迷わずついていっただろう。

 けど、仕方がなかったとはいえ、俺はおいて行ったペロロンチーノなのだ。そして、死んだからこそ、一緒にいる。

 

 もし生きていたとき──徐々に仲間がいなくなって、姉がゲームをやらなくなったとき、俺はユグドラシルを続けていただろうか。最終日まで一緒にいただろうか? 

 

 新しいゲームに移って、次のゲームに誘って、断られたらそれっきりだったのではないだろうか。他のみんなと同じように、最後までは──一緒にいなかったのではないだろうか。

 墓場に一人きりのアンデッドは何を思っていただろうか。

 

「あの、すみません、怒らせちゃって」

「いや、しょうがないよ。俺も、その時離れてて、戻ったらモモンガさんだけだったんだ」

「全滅、であるか。パーティーを失った方はあんな顔をする」

「似たようなものかな? みんな冒険をやめて別の未来を歩いたんだ」

 

 確かに、自分はテロで死んだ。

 みんなはおそらく死んではいないけれど、世界を去ったことは、あの世界で生きていたモモンガさんにとって死ぬのと何が違ったのだろうか。

 

「俺たちは最高の仲間で、周りが驚くようなこともたくさん成し遂げて──でも、みんないろんな道を歩き始めたんだ」

「そういうのあるよな。家継がなきゃいけないとか、結婚して商人になるとか。パーティー変わることって」

「俺もダークエルフの里に帰ってたから、一人にしちゃってて。これからは一緒だと思うけど」

 

 マーレとして生きていた自分は少しづつ減っていくギルメンと、それに合わせてだんだんと沈んでゆくモモンガさんのことをよく知っている。

 

 自分は──彼をちゃんと昔のモモンガさんらしく生きれるように支えられるだろうか。

 

 ──まあ、モモンガさんはあの癖の強いアインズ・ウール・ゴウンのギルマスだったのだ。大丈夫だろう。

 

 どこでも可愛がられる弟気質のペロロンチーノは軽く考え、漆黒の剣たちと会話を再開した。

 

 一人──ナーベと一緒にいても一人であるモモンガさんが、一人で何を考えているか知らずに。

 




 モモンガさんについていく
→モモンガさんについていかない

ああ、モモンガさんについていかなかったばっかりに……。
フラグが……!


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018 あれ、最初に名前よんでくれてな……いや、なんでもないよ! エンリ!

 

 ちょっとぶりに戻ったカルネ村は、ノーガード戦法からしっかりと転換したらしく、村の周りには木の柵ができており、近づくとゴブリンたちに囲まれていた。

 

「ご、ゴブリン!?」

「おおっと、旦那さんがた、申しわけないですが、ちっとおとなしくしてもらえますかねえ。特に後ろの御三方はやばいっていうのが肌に伝わって来やす」

 

 モモンガさんがちらりとこちらに視線を向けてくるので、頷く。

 これはゴブリンの笛の効果だろう。

 ゲームでは雑魚いゴブリン数体を召喚するだけのカスアイテムだが、護衛にはちょうどいいだろうと思ってあげたのだが、どうにも数が多いし、ゴブリンとしてもレベルが上っているようだ。ゴブリンファイターとか、アーチャーとか言ってもいいくらいである。

 野良のゴブリンとは比べ物にならない、戦士だ。

 

 ──まあ、殴ればひき肉になると思うが。

 

「ペロロンチーノさん! ……あ、ンフィーも!」

「あ、エンリのアネさん」

「エンリ!」

 

 馬車に乗っていて安全のためにと漆黒の剣に守られたンフィーレア馬車を降りて飛び出す。エンリがかけてくる。

 ん? いまなんて? 

 

「ペロロ──」

 

 急いで口をふさいだ。

 そうだ。チーノという偽名はカルネ村では通じないのだった。

 口を塞ぎ、他に聞こえないように耳元で伝える。

 

「冒険者としてはチーノって名前で登録しているから、チーノって呼んでほしい。村のみんなにも伝えてほしいんだけど──」

 

 コクリコクリと頷くエンリに手を離すとぱあっと明るくなる。

 

「無事冒険者になれたんですね、ぺ……チーノさん!」

「エンリもゴブリンたちに慕われているようでなにより」

「あはは……まさかこうなるなんておもわなかったけど、ゴブリンさんたちはみんな働き者で──」

 

 子犬のようにブンブンと振られているのを幻視する。

 またあえて嬉しいと隠すことなくさらされる好意に嬉しくなるが──

 

「エンリ! 無事で良かった」

「ンフィー。どうしたの? 薬草採取にはちょっと早い気がするけど」

「ええと、このあたりが危なかったって聞いて心配になって」

「ほんと? ありがとう! ンフィーってば優しいわね。村もいろいろ売りに出したいと思ってたところなのよ」

 

 ぺかーっと笑顔を浮かべるエンリと、頬を赤く染めるンフィーレア。そして、ペロロンチーノは彼が昨夜語っていた、カルネ村の想い人の話を思い浮かべる。

 

 なるほど、敵か。

 

 エンリとエンディングを迎えないとこの目隠し根暗系薬師がエンリを薬でデロンデロンにしてしまうのだろう。

 格の違いを見せてやるっ。

 

 と、幼馴染系主人公のはずのンフィーにとってはむしろ突然現れたイケメンチャラ男枠のペロロンチーノが勝手なことを考えながら決意した。

 

 

 **

 

「……なんであいつばっかり……」

 

 カルネ村の滞在する時間はいつだって至福のときだ。

 特に心配だったエンリが無事だったとわかったからには。

 両親のことは残念だったが、それこそ、自分たちの年齢を考えれば結婚するのも選択肢のひとつだと言いたかった。

 当然ネムだって一緒にひきとるつもりだ。

 

 なのに、エンリは嬉しそうに『ありがとう! でも大丈夫! チーノさんが助けてくれたから』って左手をぎゅっと右手で抑えて微笑んだのだ。

 

 気づいていたけど、気づかなかった、左手の薬指にキラリと輝くきれいな光に。

 

『え、エンリ、結婚したの!?』

 

 その年の天候や農作物の出来に影響を受けやすい農家で、不作が続くと身売りが多くなる。

 今王都では奴隷売買が禁じられているが、それでも娼館に釣れられていく娘は多いし、近隣の村に嫁という形で結納金と交換で差し出されることも多い。

 

 今まで自分以外の男の影はなかったのにいきなりなのだから疑うのも仕方がなかった。

 

『あはは。違うわよ、ンフィー。これはね、マジックアイテムなの。ゴブリンの笛と一緒にもらったのよ』

『そんな。簡単にもらえるようなものじゃないよ。代わりに何を差し出したの!?』

『特に何も求められてないけど……そうよね! もらうだけなんて虫のいい話だわ』

 

 そう決心するように頷いて、彼女は何かを決めてしまった。

 しまった。

 エンリは義理堅いのだ。

 それに、本人満更でもない用で、むしろ行き場のなかった感謝を相手に向けられることを喜んですらいるようだった。

 

 ──だから、僕はそんなエンリを見ていられなくて家を出た。

 

「あ、……」

 

 ドアの前には護衛をしてくれた冒険者の、ニニャさんがいた。

 どこかバツのわすそうな顔でこちらを見ている。

 

「どうしたんですか?」

「あ~、えっと、この家の子って」

「僕の幼馴染のエンリの家です」

「彼女って、その、もしかして……」

 

 そうだった。僕は彼らに大切な人がカルネ村にいると知っていたのだった。それに、態度を見ればわかってしまうのだろう。エンリ以外は。

 

「……そうですよ、僕の好きな人です」

 

 エンリ相手じゃなきゃこんなに簡単に言えてしまうのに。

 そうだ。アイツは僕がエンリを好きだって知ってたじゃないか。

 なのに、応援するどころか奪うような真似をするなんて。

 

 ぎりっ。

 

 強く歯を食いしばると、それに合わせて暗い気持ちが固まっていくようだった。

 

(エンリは騙されている)

 

 だって、おかしいじゃないか。平和でずっと何もなかった村が兵士に襲われるなんて。そんなときにちょうどよく助けが来て、それがいるはずのない凄腕のダークエルフだなんて。

 ありえない、ありえないことがあるなら理由があるはずだ。

 理由があるなら、あのダークエルフが悪いやつで、いいものになりすますためのタイミングをはかっていたのなら。

 

 アイツは悪いやつだ。だって、名前だって偽物だったんだから。

 

(エンリを取り戻してみせる)

 

 僕はそう誓った。

 

 




オーバーロード世界で実際にナザリックの脅威になれるのって
・ワールドアイテム
・番外席次
・白金の竜王

そしてンフィーですよね。ンフィーはギルド武器を使えるため乗っ取りができるのでは、という脅威なので、そもそもたどり着ける可能性がないですけど。
チャイナ服を着ればワンチャンある……なさそう。

そして敵視されたペロロンチーノさん。ペロロン❤ンフィ~のコンビは組めなさそうですね。残念。

リアルが忙しくて最近投稿ペースが隔週になってますががんばります!
よかったら応援してください。


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019 エロ(ゲ)シーン

 

「やめてほしいでござる! 某に乱暴する気でござるか!? エロドウジンみたいに! エロドウジンみたいに!」

 

 ぽかーんと口を開けて惚けるしかなかった。

 眼の前には無抵抗であるとお腹を見せながらもジタバタと手足を動かすかわいい──女の子がいたからだ。

 

 人間の大人がやれば無様なその様子も可愛らしくは見えた。

 うん。かわいいな。

 

 ──ハムスターってのは。

 

「これが森の賢王」

「賢いげっ歯類はリアルにはいないものっすよ。モモンさん」

「かわ──いいのか? ううむ。ギルメンが嬉しそうに飼っていたのは覚えてますが」

「ペットを飼えるなんて贅沢だとウルベルトさんは苛ついてましたねえ」

「まあ、羨ましくはありましたね。ペットロスで何日か仕事を休めるんですから。俺がそんなこと言ったら首ですよ」

「ああ、そうですねえ」

 

 のんきに話している俺達の様子に手足のバタつきをやめてちらりとこちらを見つめるハムスター。

 

「ところで殿と姫~、某役に立つでござるから、生かしてほしいでござるよー」

「まあ、別に殺さなきゃいけないわけじゃないんでいいですが」

「カルネ村のためにも活かしたほうがいいってあのギャルゲ主人公が言ってましたしね」

「それ、ンフィーですか?」

 

 俺たちは今、依頼人であるンフィーレア・バレアレの依頼でトブの森に探索に来ていた。

 あれが見つかった、これがほしいと子供のようにはしゃぐ彼には困りものだが。

 

 しかし、薬か。ユグドラシルにも回復役以外にもどこで使うのか全くわからない薬がたくさんあった。

 調合師が作ると更に大量になるため、リアルで薬剤師になれそうなくらいたくさん集めることができる。

 ゲームに何の要素もないジョークグッツの類だが、媚薬とかもあった。

 

 あるのかな? ──ほしくない? ほしくない? ほしいよね。

 

「と、ところでさ。媚薬とかってあるのかな」

「……ないわけじゃないよ。性に関係する薬は貴族に高く売れるからね。──誰に使うつもり?」

 

 媚薬を使う相手。

 そんなものは決まっている。

 

「女騎士かな。姫騎士だとなおよし」

 

 プライド高く、どんなことにも屈しない。

 そんな鋼の如き精神が、快楽という甘い罠に折れ曲がるシーンはとても興奮する。

 媚薬は気が強い相手に使うもの。

 間違いない。

 

 しかし、エロゲ主人公ことンフィーレアは派閥が違うようでこちらを睨む。

 

「君みたいな相手にはエンリを任せられない」

 

 ?? なぜエンリが出てくるのか。

 彼女は献身な村娘タイプのヒロインなので、俺みたいな正統派主人公が媚薬を使う相手ではないのだ。

 いや、つまりこう言いたいんだろう。

 エンリに媚薬を使うのは俺だ、と。

 

 幼馴染の前に現れたイケメンを前にしてはいけないと思いつつも媚薬に頼って好き放題しちゃいました系を考えているに違いない。

 なんて悪いやつなんだ。

 

 失望しました! 

 

「エンリはもう恋の病に落ちてるから媚薬なんて必要ないんだ……」

 

 ふっと言ってみるが、実際のところ、そこまでではないような気がしている。好意は持たれているのは間違いないと思うけど。

 

 ぎりりと歯を食いしばる音が聞こえる。

 

「それより、どうしましょうか」

 

 いきなり現れた森の賢王を二人だからと皆を逃さずに倒してしまったのだ。

 

「カルネ村のことを考えると殺すわけにはいかないですし、モモンさんのペットでいいんじゃないですか。ほら、げっ歯類仲間で」

「チーノさん……覚えておいてくださいね……」

 

 オーラを当てるだけで一発服従とか、これが二コポだろうか。

 モモンガさんの素晴らしい力に、漆黒の剣はもうメロメロである。

 俺たちは伝説を目にしたと言わんばかりに目を輝かせていた。

 

「あの……さ、チーノは騎士が大好きなの?」

「ううん? ニニャのほうが好きだよ」

 

 なにせ、女騎士にロリはほぼいないし。

 女騎士はきりりとした成熟な女性でなければなれない職業であるからして仕方がないが。

 男装女子のほうが得点は高い……! 

 

「も、もう! 何言ってるんですかっ! それにボクは男なのにっ!」

 

 ツンデレいただきましたーとホクホクしながら俺たちは初の任務をこなしたのだった。

 

 

 

 

 

 

 




八欲王とか六大神が広めたに違いない。

スルシャーナ「やめて!私に乱暴する気でしょう? エロ同人みたいに! エロ同人みたいに!」


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