聴いて驚け!強竜者と歌姫のブレイブシンフォニー (マガガマオウ)
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蘇る伝説~強竜者集う~

今はまだ光灯らぬステージセットに組みつけられた照明は、今より始まる歌い手達を称える時を今か今かと待ち望み、観客を迎え入れる為に並べられた客席は誰も居ないにも関わらず一足早くその喧騒を浮かべている様だった。

そして、そんな浮かれた空気が漂う会場の裏側では物々しい雰囲気を醸し出し厳めしい面持ちの一人の少女がそこには居た。

その表情は緊張で強張りこれからステージの上で歌声で多くの人を魅了する一対の翼の片翼を担う風鳴翼その人とは思えぬ程であった。

「間が持たないって言うか、何て言うかさ。」

そんな翼に砕けた調子で語り掛ける人影が一つ、年のころは翼より少し上だろうか溌溂な雰囲気を纏った少女である。

「開演するまでのこの時間が苦手なんだよね。」

そう語った少女、天羽奏はじれったそうにしながら小さく縮こませている翼の前に腰掛けた。

翼はその様子を伺いながら、奏の一人語りのような問い掛けに無言で頷き返す。

 

「こちとら、さっさと大暴れしたいのにそいつもままならねぇ!」

 

「そうだね……。」

 

奏が頭を軽く掻きながら気難しい顔でそう言うのを、翼は短く固定した。

 

「もしかして翼?緊張とかしちゃったり?」

 

何とも気の抜けた声が気になり奏は顔を翼に向けるて、少し意地悪そうな顔で尋ねた。

 

「当たり前でしょ!櫻井女史も今日は大事だって……いっ!」

 

揶揄われた思ったのかムッとした様な声音で返すも、次第に声が窄んでいく。

そんな彼女の皺の寄った眉間に奏は少し強めのデコピンをした。

いきなりの事で反応が遅れ呆気に取られる翼を余所に、彼女の難儀な部分を茶化した。

 

「奏、翼ここに居たのか。」

 

何ともちぐはぐでそれでも和気藹々とした会話をしていた二人の下に、壮年の威厳に満ちそれでも快活な男性が歩み寄る。

 

「司令……!」

 

「こりゃまた、弦十郎の旦那!」

 

翼は驚きながらも嬉しそうに、奏はわざとらしく大仰に彼を出迎えた。

風鳴弦十郎、翼の叔父であり二人の所属する秘密機関特異災害対策起動部二課の司令官であり彼女達ツヴァイウィングの直接の上司である。

 

「分かっていると思うが、今日は……。」

 

「大事だって言いたいんだろ?分かってるから、大丈夫だって!」

 

意味深げに語る弦十郎の言葉を遮り、奏は飽く迄明るい調子で返す。

その答えに満足したのか彼は口元を僅かに緩めた。

 

「分かっているなら、それでいい。」

 

言葉短めに返して、さらに続ける。

 

「今日のライブの結果に人類の未来を係てるってことにな……。」

 

彼の話す内容はたかがアイドルのライブイベントにしては豪く物々しい気がしなくもないが、それも仕方いのかもしれない。

彼女達、ツヴァイウィングは世間一般が呼ぶ普通のアイドルとは全く違うのだから。

弦十郎は、携帯を取り出し何処かに連絡を入れた。

場所は会場の地下、そこには白衣を着た複数人の研究者らしき人影が確認できた、その中の一人でひと際異彩を放つ女性が着信を告げる携帯を耳に当てた。

 

「毎度!櫻井了子です!こちらの準備は完了よ!」

 

彼女こそ特異二課の研究チームの要である櫻井了子である筈なのだが、態度と口調がそれを感じさせてくれなかった。

 

「分かった!すぐに向かおう。」

 

そんな了子の人相に慣れているのか、特に気にした風もなく爽やかに切り返す。

 

「ステージの上は、任せてくれ!」

 

話が終わったのを見計らい奏がスッと立ち上がり腰に手を当てサムズアップをしながら啖呵を切った。

 

「うん!」

 

彼女の意気込みを感じ取った弦十郎は、短くだが力強く相槌を打つ。

その頃、バックステージの外では一人の少女がコンサートホールの入場口から見た景色にある種の感動を感じていた、それはこれから始まるライブの前哨戦の様な心持ちであった。

そして、ツヴァイウィングの二人がステージの上で主役になる時間が近づいた。

 

「さて!難しいことは、旦那や了子さんに任せてさ。あたしらはパーッと!ん?」

 

やる気十分な奏とは裏腹に、翼はやはり一抹の不安を払拭できずにいた。

長い沈黙が流れて、奏は無言のまま翼の背後から優しく抱きしめる。

 

「んぁ?」

 

いきなりの行動に、一瞬戸惑う翼に奏は優しく語り掛けた。

 

「真面目が過ぎるぞ!翼、あんまりガチガチだとそのうちポッキリいっちゃいそう

だ。」

 

「!……奏。」

 

奏の、自分を心配してくれているとわかる言葉に表情が少しほぐれてきた翼は視線だけ後ろにいる奏の方へ向けた。

 

「私の相棒は翼なんだから、翼がそんな顔してると私まで楽しめない。」

 

まるで神に祈るように握られていた両手の上から、奏が自身の重ねる。

 

「うん。」

 

奏の優しさに満ちた言の葉に翼は頬を緩め笑みを見せる。

 

「私たちが楽しんでないと、ライブに来てくれたみんなも楽しめないよね。」

 

「分かってんじゃねぇか。」

 

穏やかで暖かな時間、二人の間にある確かな絆を感じるささやかでとても大切な時間、それは今もそしてライブの中でも同じだった。

だからこそ、より多くの人とそれを分かち合い共感したい心地よいこのこの感覚を。

 

「奏と一緒なら何とかなりそうな気がする!」

 

「うん……!」

 

翼にとってそれを共に表現できるのはやはり、奏しかいなかった。

 

「行こう!奏!」

 

もうその目に迷いはなかった、強く澄んだ透明な意思がその口から発せられる言の葉にもよく表れていた。

そんな翼の様子を見て、奏は立ち上がる。

 

「あぁ!あたしとあんた、両翼揃ったツヴァイウィングはどこまでも遠くへ飛んでいける!」

 

「どんなものでも、超えてみせる!」

 

二人の視線は、もう目の前の自分たちが輝かせるためステージしか見えていなかった。

暗転したアリーナに光が灯る、煌びやかなステージライトに誘われて客席にも観客一人一人のライトが波を描くように一斉に光り輝く、さまざま色の光が灯る中舞い散る羽根が今日の主役の到来を告げた。

天井から舞い降りように下りてくる二人に会場は釘付けになる。

今この場は、日常と切り離された誰しもが笑い喜び熱狂する異世界へ作り変えられた、そしてその中心で歌声で魅せているのはツヴァイウィングだけである。

そして最早この会場だけでは狭すぎると言うかの如く、天井が開き幻想的な茜空を晒して異世界は現実世界と融合した。

地上が盛り上がる時、ステージの地下では地上とうって変わって静かで緊迫した空気が満ちていた。

 

「フォニックゲイン、想定内の伸び率を示しています。」

 

そう告げる、職員の言葉がこのライブには別の思惑がある事を語っていた。

 

「成功!みたいね、お疲れ様!」

 

「やった!」

 

「成功だわ!」

 

そう職員たちに労いの言葉を送る了子の隣で、弦十郎は安堵の意気を漏らす。

彼らの、思惑がどういった目的の下に行われているか詳細は分からないが人類のためであること、そしてその目的は達せられたということは彼らの反応を見ても明らかである。

しかし、地上の盛り上がりがピークを迎えた頃、地下でも異変が起きた。

けたたましくアラームが鳴り響き、計器が異常を示す警告音を忙しなく起て出した。

 

「どうした!」

 

弦十郎の緊迫した声が誰ともなく質問を投げかけた。

 

「上昇するエネルギー内圧にセーフティーが持ちこたえられません!」

 

計測していた職員が、焦ったように答える。

 

「このままでは聖遺物が起動……いえ!暴走します!」

 

続けて別の職員が、謎のワードを出した。

聖遺物、キリスト教に於けるキリストに縁の有る物又は信仰心の強い信仰者の遺体や人骨、遺品やを指す言葉であるが、同時に人類の持つ科学力では解析できない技術で作られたオーパーツを指す言葉でもある。

しかし、彼らはキリスト教徒ではない、厳密には居るかもしれないがそれで彼の行動と宗教とは結び付きがない。

ではやはり、オーパーツの方だろうか?

そして、地下での異変は地上にも現れた。

会場の一角が突然爆発し噴煙が立ち上る、その異変をステージの上で見ていた翼と何かを感じ取った奏。

 

「ノイズが来る!」

 

張り詰めた様に視線を鋭くした奏がそう呟いた。

その言葉の後、爆発元から存在が酷くあやふやな怪物たちが這い出てきた。

それを見た観客たちが恐怖に顔を引きつらせ、固まったように動きを止めた。

 

「ノイズだぁ!」

 

誰が叫んだか、その叫びが呼び水となり阿鼻叫喚の濁流となって人々を飲み込んだ。

そんな人々の恐怖に反応した様に、這い出てきた怪物は辺りに何かを吐き出し、その吐き出された中から人と同じサイズの化物が生み出されて人々に滲みよる。

 

「助けてくれ!」

 

誰かが化物に取り付かれたらしい、しかしその声に聞いてくれる者はいなかった。

やがて取り付かれた人は化物と共に灰となり、かき消されてしてしまう。

 

「死にたくない!死にたくない!イヤー!」

 

また別の誰かが捕まり共に灰となり、消えていく。

逃げ惑う人々に成す術など無かった捕まれば即座に死を意味し、更に姿も残らず消えていく無の抽象化したものこれがノイズである。

更に、空を舞い錐揉みしながら突き刺さると言ったタイプまでいる。

また一人また一人と捕まり消されていく惨状を、奏で黙っては見てはいられなかった。

 

「飛ぶぞ翼!この場に槍と剣を携えているは、私たちだけだ!」

 

「でも、司令からはなにも!……奏!」

 

相棒に向けて強く言う奏の焦燥した表情に気圧され腰が引ける翼、その姿に焦れたのかステージの上から駆け降りる。

そして、宙に浮いた奏はそれまでとは違う、例えるなら聖歌の様な歌声の歌を口ずさんだ、その時である奏の体のを光が取り囲んだのは。

それは一瞬の出来事であった、奏の姿がステージ衣装から戦装束へ変わっていた。

更に腕に装着されたガントレットを腕を合わせるように繫ぐとガントレットが外れ大型の槍の様な形状に変形した。

力強く地を蹴り、手にした槍でノイズを斬りながら彼女の口は何処から流れる音楽に合わせて歌声を紡ぐ。

彼女の纏う鎧は、シンフォギアこの世界で人類が手にした反抗の切り札、今の所唯一の対ノイズ兵器である。

そして、翼もその鎧を纏い戦場を駆け始める、一人でも多くこの会場の人間を助けるために。

 

「了子……君!了子君!無事か⁉」

 

その頃、聖遺物の暴走による爆発で崩壊した地下の施設の中で弦十郎が近くにいた了子の安否を確かめようと一人声を出していた。

 

「⁉ネフィリム……鎧⁉」

 

施設内は殆どが損壊し、崩落を始めていたが彼はその事を気にする事は無かった、何故なら視線の先にある聖遺物は煌々と輝き姿を変えていったのだから。

崩れかけたステージ、人々が我先に逃げ出し混雑する入場口、混迷を極めるそんな中で

も気丈にそして美しく歌い戦う二人の歌姫が居た。

 

「あれは……え?」

 

その光景を、茫然と見ていた少女は目の前の非現実的光景を思考が追い付かないのか逃げることも忘れ立ちつく尽くしていた。

猛然と戦いノイズを迎え撃つ二人ではあったが、奏のシンフォギアに異変が起きる、輝きを放っていた槍が光を失った。

 

「時限式はここまでかよ!っあ!ウーアッ!」

 

動きが止まったその一瞬を、ノイズは見逃さなず突っ込んでくる。

どうにか槍で守り、持ち堪えるが彼女の荒い息を吐く姿は疲労している事を示していた。

 

「キャア!」

 

その時、客席の一部が崩れた音が聞こえ少女の悲鳴が聞こえた。

崩れた客席の残骸の傍には、足を痛めた少女が居た。

それを感じたのかノイズたちは、動けない少女に迫る。

 

「この!」

 

恐怖のあまり目を瞑る少女は、短い声が聞こえ目を開き自分に背を見せノイズたちと対峙する奏の姿を見た。

 

「駆け出せ!」

 

自分に向けられた言葉に我に返り、痛めた足を引き摺りながら出口に向かおうとする。

奏も少女の避難の時間を稼ごうと、体に鞭を打ち抵抗を続けるが鎧は彼女の思いとは裏腹に小さな亀裂が幾つも奔る。

 

「奏!」

 

翼は、そんな奏を見て思わず大声で名を叫ぶ。

 

「奏ぇ!」

 

「うぉぉぉ!」

 

それでも抗い続ける奏に、ノイズたちは更なる猛攻を食え続け遂には槍が砕け散った。

破片は四方八方に四散し、その一つが逃げる少女の胸に突き刺さる。

大きく後方へ吹き飛ばされ大きな瓦礫に叩き付けられる少女の下に奏は焦った様子の駆け寄った。

 

「おい!死ぬな!生きるのを諦めるな!」

 

少女の体からは大量の血液が流れ出し意識は朦朧としていたようだが、それで目を開けた事に奏は安堵の表情を見せる。

だが状況は楽観してはいられない、奏は最後の歌を歌う決意を固た時目の前の少女が何かを呟いた。

 

「音?……違う歌だ……諦めるな……希望はまだある……。」

 

「歌?何を言って……!」

 

自分はまだ何も歌ってない、しかし彼女には歌が聞こえている。

それに訝しみ奏も耳を澄ませた時、彼女にもその歌は聞こえた。

初めて聞くはずなのに、とても懐かしい感覚のその歌は目の前で死にけている少女にもこれから命を擲とうとした自分にも語り掛けてくような優しさがあった。

 

「か…!かな…!奏!しっかりして!」

 

「翼?……っは!」

 

暫くの間、不思議な歌に引き込まれていた奏の耳に翼の叫ぶ声が届いた。

どれ程、呆然としていたのか気づけば大量のノイズに取り囲まれすぐ近くにまで接近されていた。

 

「やばいな……これは。」

 

歌を聞き一度は命を捨てる事を思いとどまった奏だが、流石にこの状況では今一度最後の切り札を切るしかないと思わせた。

 

【キャオォォォォォン!】

 

その時、夜が迫り黄昏の気配が濃くなった空に何かの獣の様な鳴き声が木霊した。

 

「何だ⁉何が起きたんだ⁉」

 

声のした方に顔を向けようとしたとき、眼前に居たノイズの群れの突然大きな雷光が降り注いだ。

 

「あれは……翼竜?」

 

その様子を少し離れたところで見ていた翼が、雷光を降らせた発生源を見て呟いた。

そうそれは正に、人が誕生するより遥か大昔を生きた空の支配者翼竜の姿をした巨大な竜だった。

その体は、雷を纏ったかのように黄金に輝き雄々しき翼を広げ高速で空を飛んでいた。

 

【キャオォォォォン!】

 

もう一度、雄たけびを上げると口から激しい放電を放ち空を飛ぶノイズたちを打ち落としていく。

 

「こっちに……来る!」

 

竜の進行方向は、アリーナに向けて真っ直ぐ飛んでいる、それを感じ取ると翼は剣を強く握り直した。

 

「あれは……一体……。」

 

「大丈夫……敵じゃない……歌がそう言ってる。」

 

「へ⁉……そっか、じゃあ安心だな。」

 

またもそう呟く少女の声に、驚く奏はやがて思い直したようにそう返す。

そうしている間も、竜がスピードを落とさずアリーナの上を通過したその時竜の背から降りる六つの影が見えた。

その影が、二人とノイズの間に降り立ち、六人の男女がそこに立っていた。

 

「送ってくれて、ありがとな!プテラゴードン!」

 

「感謝でござる。」

 

「あぁ、だが大分遅れちまったらしい。」

 

「うん……もう犠牲者が大勢出てるみたいだ……。」

 

「……だったら、遅れた分まで暴れればいい!」

 

六人組は、沈痛な面持ちで辺りを見回すと、一人が暗い気持ちを振り切るように大声で呼びかけた。

 

「あの?あんた達は?」

 

奏は、突如として現れた六人組に声をかける。

 

「あれ?ツヴァイウィングの天羽奏さん!姪がファンなんだ後でサインくれるかな?」

 

「へ?はぁ……。」

 

「のっさん、それ位で彼女も戸惑ってる。」

 

「oh!久しぶりに集まったのに、前とそんなに変わらないわねのっさん。」

 

「え?そうかな~最近は、理香ちゃんも白髪が増えたって言われ出したんだけど。」

 

「いや、のっさんは元々老け顔だからなそんなに印象変わってないぞ。」

 

「えぇ~!イアン、それフォローになってないよ~。」

 

「ははは!相変わらず面白い仲間たちだぜ!」

 

「キング~!笑ってないで何か言ってよ~!」

 

「あの……各々方、彼女が置いてきぼりを喰らっているでござるよ。」

 

「あぁ!そうだった!」

 

この凄惨な状況にも関わらず、彼らは再開を喜び合う同級生の様な雰囲気で会話をしていた。

その様子を、ただ唖然と達観していた奏に視線が集まる。

 

「奏!大丈夫!」

 

その時、少し離れた所から奏を心配して駆け寄ってくる翼の姿が見えて現実に戻された。

 

「あっ……目の前の光景が衝撃的過ぎて翼の事一瞬忘れた…………コホン、翼!あたしは、大丈夫だ!」

 

「………今の間は何?奏?」

 

「いや、何にもないよ。ホント……」

 

奏の傍まで来ていた翼がジト目で湊を見る、その視線を目を泳がせて躱すのであった。

 

「まぁ、無事ならいいけど。それであなた達は誰ですか?」

 

「俺達か?俺達は……。」

 

年の割に腕白そうな風格を見せる男が、五人と視線を合わせて背後を見る。

そこには、また湧き出て来たようにノイズの大群が出現していた。

それを確認した六人は、ポケットから電池に似たアイテム獣電池を取り出した。

 

「「「「「「キョウリュウジャーだ(でござる)!ブレイブイン!」」」」」」

 

勢いよく振り返り、手にした獣電池のスイッチを押して、五人が竜の頭を模した拳銃ガブリボルバーを、一人が腕に巻かれたプテラノドンの頭型のガントレットガブリチェンジャーを掲げた。

 

『ガブリッチョ!』

『ガブティィィラ!』

『パラァァサガン!』

『ステゴッチ!』

『ザクトォォォル!』

『ドリケェェェラ!』

『プテラゴゥードン!』

 

上顎を開き持っていた獣電池を装填すると、ガブリボルバーとガブリチェンジャーからかなり巻き舌気味な音声が飛び出した。

 

「「「「「「キョウリュウチェンジ!」」」」」」

 

声を揃え変身セリフを叫ぶと、どこからサンバホイッスルと三味線の音が聞こえ、サンバのリズムと和テイストな音楽が同時に流れ出した。

 

「「「「「「ファイヤ!」」」」」」

 

そのリズムに乗って、軽やかなステップを踏み踊りだした六人は歌のピークを迎えた頃揃ってターンして引き金を引いた。

銃口から竜の頭部が飛び出して六人に噛み付くと六人は色彩豊かな姿へと変化した。

 

「聞いて驚け!ハッ!」

 

赤いスーツを纏った一人が大声で宣言すると、六人が一斉にノイズの群れに向けて走り出した。ノイズたちもそれに応じるように侵攻を開始した。

先頭集団と接触して戦いが始まった。

赤い戦士がノイズの一体に拳を突き出した、そうするとノイズは拳を受けた個所から脆く崩れだす。

「牙の勇者!キョウリュウレッド!はぁ!」

 

黒い戦士は、変身にも使用したガブリボルバーをノイズに向けて狙い定め撃ちだした、ガブリボルバーからは閃光が放たれノイズを穿った。

光弾を撃たれたノイズは、一瞬にして消えてなくなった。

「弾丸の勇者!キョウリュウブラック!」

 

青い戦士は、進行方向に立っていたノイズを抱き着くととそのまま締め上げた、力が加わった部分から灰になり霧散する。

「鎧の勇者!キョウリュウブルー!」

 

緑の戦士は、足早に走り抜けすれ違いざまに逆手で持った剣ガブリカリバーを振るう、切られたノイズは一泊置いてから切り刻まれた個所から二つに分かれ地面に崩れ落ちた。

「斬撃の勇者!キョウリュウグリーン!」

 

桃色の戦士は、その場で跳躍しノイズの頭頂部を踏みつけ着地するとそのまま片足を大きく上げて回し蹴りを喰らわせた。

「角の勇者!キョウリュウピンク!」

 

金色の戦士は、空中を滑空し手に付けたガブリチェンジャーのレバーを引いて光弾を撃ちだし着地地点のノイズを蹴散らすと手にした幅広の太刀を振るい電撃を放ちながら切り込んでいく。

「雷鳴の勇者!キョウリュウゴールド!」

 

先頭集団が全滅すると、後方に控えていたノイズを見据えた。

 

「史上最強のブレイブ!獣電戦隊!キョウリュウジャー!」

 

名乗りを終えポーズを取ると、なぜか背後で爆発が起きる。

 

「久びさに、あぁばぁれぇるぅぜぇ~止めてみな!」

 

腕を突き出し高らかに宣言して、また敵の大群に突貫する。

その戦いぶりは、普段ノイズを相手してきた二人から見ても鮮やかだった。

明らかに戦慣れした六人の姿は、怪物との渡り合い方を熟知した洗練された動きであった。

やがて小物が一掃され、大型だけを残すのみたなったノイズを見遣る。

 

「粗方片付いたか?残りは、あのデカ物三体だけだな……。」

 

ブラックが大型ノイズを見据えて、全員に問いかける。

 

「あぁ、一体はケントロスパイカーで倒す。残り二体は、ウッチー!ソウジ!頼めるか⁉」

 

「心得たでござる!キング殿、任せて下され!」

 

「僕も、問題ないよ。それより、早くした方がいいかもね。」

 

また少しずつではあるが、小型ノイズが出現し始めた光景を見つめて言う。

 

「よぉし!じゃあ、早速!アームドオン!」

 

レッドが拳銃のシリンダーを右腕に当てて右手首まで押し付けて下げる、そうするとシ

リンダーに触れていた部分から銀の装甲が現れ手首より後には恐竜の頭の様なファングナックルが装備されていた。

 

「「「「アームドオン!」」」」

 

残りの四人も、同様の方法でそれぞれの武器を発現させる。

 

「じゃあ、後は頼んだよイアン。」

 

「あぁ、任せとけ。そっちも、しっかりなソウジ。」

 

グリーンが自身のクローをブラックに預け、少し四人から距離を取る。

 

「ブレイブイン!」

 

レッドが新たな獣電池を手にして高らかに叫びスイッチを入れると、それぞれの武器と獣電池が宙を舞い合体して剣のような形状なる。

 

『ケントロスパイカー!』

「獣電ブレイブフィニーーーーッシュ!」

『スパパーン!』

 

音声が流れると、三人が腕車を組みその上にレッドが飛び乗って跳躍すると宙に浮いたままのケントロスパイカーを掴んで大型ノイズに向けて投げ飛ばした。

ノイズを刺し貫いたケントロスパイカーは、そのままレッドの手元に戻りノイズが居た場所は爆発した。

 

「獣電池三本装填。」

『ザンダー!サンダー!ザンダーァサンダー!』

 

ゴールドが太刀を開きソケットに獣電池を三本嵌めると、太刀から声が響き電撃を刀身が放電した。

 

「ブレイブフィニッシュ雷電残光!」

『ザンダーァサンダーァ!』

 

上段に構えて振り下ろした斬撃が、英字の羅列の様なオーラに変わり大型ノイズを切り裂いた。

 

「来い!フェザーエッジ!」

 

グリーンが天に手を掲げそう叫ぶと、羽根の衣装が施された剣が飛んできてグリーンの手に収まる。

 

「トリニティストレイザー!」

 

剣閃が光の三角形を描き、翼のオーラが背に現れると三角の斬撃と共に大型ノイズに向けて飛び出し放った斬撃ともに断ち切った。

 

「美しい……なんてきれいな剣なの……。」

 

その剣技を見ていた翼はその美しさに心を奪われた、剣を使う者ゆえの感想であった。

 

「凄まじいな……あんな人たちが居たのかよ……!」

 

奏は、彼らの強さに脱帽していた。

 

「うむ!実にブレイブな戦いぶりだ!」

 

そして、謎の鳥と人を掛け合わせたような人物が彼らを見てそう呟いのであった。

 

恐竜+人間、億千年の時を超え今最強のブレイブチームが蘇った。

聞いて驚け!

 



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時は流れて~その後の守人~

ツヴァイウィングのライブから2年の月日が流れた、事件直後は連日のように大きく報道された事件は悲惨な事故とされ、観客の半数が犠牲となった。

それと同時に、ツヴァイウィングの一人天羽奏の無期限の活動停止は当時も大きな話題を呼び、今なお彼女の復帰を望む声が途絶える事は無い。

そして、ただ一人歌い手として残った翼は立風館にて竹刀を振るっていた。

その隣で、斬撃の勇者こと立風館ソウジが佇みその様子を見守っている。

この2年の間、彼の剣技に触発され教えを乞おうとした翼は、自分よりも父に習えとこの場所に入門させたのである。

以来スケジュールの合間合間で時間を作り、こうして甲斐甲斐しく通い詰めているのである。

彼女の熱意は、凄まじく遂にはソウジの父源流をも説き伏せソウジに稽古をつけてやれと説得したほどである。

さしものソウジも、父の申し出は断り切れずただ唯一の弟子として翼に剣を教える事となった、最も彼の剣は戦いの中で磨かれた技、おいそれと教えて身に付くものでもないのだが。

 

「ふっ!ふっ!ふっ!」

 

「そんな振りでは隙が大きすぎるよ、もっと体の動きを小さく。」

 

「はい!」

 

それでも一度覚えた憧れの火は、ちょっとやそっとの鍛錬では消えず寧ろ過酷であればあるほど翼の情熱を燃え上がらせた。

この2年の間は、多忙の中でも日々の鍛錬を惜しむ事は無く目標と定めたあの技を身に付けるべく己の精進に勤しんでいる。

最早誰が何と言おうと、この時間だけは譲る気は無いのだろう一心不乱に竹刀を振るう、そんな崇高な時間でもアレはお構いなし出現するのではあるが。

己と剣が一体となる感覚を楽しんでいた翼の携帯に二課からの連絡を告げる着信音が響く。

 

「むっ!先生失礼します。」

 

鍛錬を打ち切り、五月蠅くなり続ける携帯の元まで行くと手に取った。

 

「翼か?ノイズが現れた、直ぐに向かってくれ。」

 

「了解、出現場所は何処ですか?」

 

「迎えをよこした、移動しながらでいいから現地の様子を把握しておいてくれ。それと、近くに、ソウジが居るなら……。」

 

「分かってるよ弦十郎さん、僕も同行しよう。」

 

「居たのか、助かる。」

 

迎えに来た車に乗り込み輸送機が泊まってる空港まで移動する、翼とソウジの二人は現地の様子をライブカメラからの映像で確認した。

 

「押されてるな、僕らが到着するまで持ってくるといいけど。」

 

「?周辺住民の避難は完了していますし、現場に居るのは一課の隊員ですから問題はないと思いますが?」

 

深刻そうな表情で戦闘の様子を画面越しに見ていたソウジの呟きに、翼は何の気なく答えを返す。

 

「僕が言いたいのは、そう言う意味じゃないんだけどね。」

 

その返答に困った顔をして、再び画面に注視すると何も言わなくなった。

元来彼は、余り喋る人間ではないおまけに思ったことを直ぐに口にしてしまう困った悪癖があり、それが元々少なかった口数をさらに減らしていた。

そのまま、会話がないまま輸送機の元に到着すると無言のまま乗り込み現地に向かった。

現地では、一課の隊員が決死の想いでノイズたちと相対していたが、彼らの使う武装ではノイズに有効打を与える事が出来ない為にじりじりと後退を余儀なくされていた。

 

「まもなく、目的地上空です。」

 

「了解。」

 

「ブレイブイン。」

『ガブリッチョ!ザクトォォォル!』

 

パイロットの呼び掛けで降下口まで移動した二人は其々の持つ力を解放した。

翼がシンフォギアを発動するための歌声を紡ぐ横で、ソウジはサンバミュージックに合わせてステップを踏む、やがてピックが来るとターンをして引き金を引く。

 

「キョウリュウチェンジ!」

 

夜空に木霊して、サンバと少女の歌声がちぐはぐなリズムを刻む中鎧を纏った戦姫と竜に選ばれた勇者の一人が降り立った。

 

「いざ……!」

 

「参る!」

 

地を蹴り勢いをつけて逆立ちし脚に付いた刃で回し切ると、次いで跳び上がり空中に無数の刃を作り出し打ち貫く、更に手にした長物の剣を刃幅が広くなる様に変化させ跳び上がり斬撃を飛ばす。

二年の間、近くで剣を振るいその技を見てきたからだろうか、翼の剣はソウジの得手である斬撃剣の要素が多く汲み取れる。

一方のソウジの技は、父の剣である無双剣と己の斬撃剣を融合させた斬撃無双剣であり荒々しさと華麗さが合わさった見惚れるほど見事な剣閃であった。

逆手に持ったガブリカリバーが揺れ閃き一拍遅れて崩れ落ちる、相手に斬られた認識させない程に繊細で優美な太刀筋、翼の様な派手さはなくとも見る者を引き込み魅了する。

そんな二人に掛かれば、ものの数分で片が付いた。

 

「先程ので最後ですかね?」

 

「うん、増殖させるタイプも居ないし多分もう大丈夫だと思うよ。」

 

静かに佇む二人の後方で、一部始終を見ていた一課の隊員たちを余所に状況を確認する。

 

「それじゃあ、後は彼らに任せて帰ろうか。」

 

「はい。」

 

辺りを見回し、敵影が居ない事を確かめるとグリーンは獣電池取り出しスイッチを押しそのまま、ガブリボルバーに装填した。

 

『ガブリッチョ!ディノチェイサー!』

『『ギャァァァオ!』』

 

音声が読み上げられ、二体の小型獣電竜が姿を見せた。

グリーンはガブリボルバーから獣電池を抜き取り、二体に投げると一体が逆さに成り一本の獣電池に左右から噛み付いてバイクに変形した。

 

「さっ、行こうか。」

 

「はい。」

 

馴れた様に、グリーンの運転するディノチェイサーの後部に乗るとその場を離れた。

数時間の間、道なりに進み翼の住まいの近くまで付くとそこで翼を降ろし、ソウジは立風館へと帰って行った。

ソウジの背を見送り自室に戻ろうとする翼の携帯に、とある人物からの着信を告げるメロディーが流れた。

 

「奏?こんな時間に、なんだろう?……へ⁉」

 

訝しみながら送られてきたメールに目を通し暫く経つと素っ頓狂な声が漏れだした。

無理もない、メールに添付されていた白熊の頭に腕を回し晴れやかな笑顔をカメラに向ける奏が写っていたのだから、しかも一緒に写っている白熊は野生の個体で元気そうである。

 

「奏……貴女、一体なにを目指してるの……?」

 

そもそも何故、奏が北極圏に居るかと言えば二年前に遡る……。

そうあれは、壊滅的な被害から如何にか立て直した数日後の二課の元にキョウリュウレッドこと桐生ダイゴが訪問した時だった。弦十郎からすれば思わぬ大英雄の来訪である。

 

「はじめまして、私は翼と奏の上司の風鳴弦十郎と申します。」

 

だからだろうか、いつになく畏まった態度でダイゴに接していた。

 

「おいおい、そんなに畏まらないでくれよ。歳だってそんなに変わらないだろ?」

 

しかし、ダイゴからすれば過ぎた歓迎であり、もう少し砕けた対応が望ましいようだった。

 

「むぅ……そうか、俺もやはりこちらの方が接しやすい。」

 

「ははは、俺もそっちの方が話がし易いぜ!」

 

弦十郎とダイゴの初対面は、友好的な雰囲気から始まった。

最初は、ライブでの助太刀を改めて感謝した弦十郎と何でもない事のように返し言葉だけ受け取ったダイゴ、二人は互いに意気投合したようで話は弾んでいた。

そして、奏が二課を離れ世界を回る様になった要因になった会話に差し掛かるのである。

 

「ダイゴ、折り入って頼みたいことがある。」

 

「ん?なんだ、改まって?」

 

急に真剣な態度で話し出した弦十郎に、特に気にした様子も見せずに続きを促した。

 

「君達キョウリュウジャーに二課に入ってほしい。この前の事件で俺達は戦力不足だった。正直、君たちが来てくれなかったら被害は半分では終わらなかった。」

 

弦十郎は自分たちの力不足を思い知らされたのか、沈痛な面持ちでダイゴに頭を下げる。

 

「その事か……悪い弦十郎、その誘いには乗れない。俺以外の仲間にも都合ってものがある、俺の一存では決められない。」

「そうか……無理を言って済まなかった。」

 

しかし、ダイゴからは色よい返事はもらえなかった。

 

「……だがまぁ、空いている時でよければ声を掛けてくれ。いつでもは無理だが、余裕があれば力は貸せるって仲間たちもそう言っていたぞ、まぁそれでも良ければだが。」

 

「本当か!それは心強い、是非ともお願いしたい。」

 

こうして二課とキョウリュウジャーの協力関係が結ばれたのである。

 

「あぁ、それと俺からも提案があるんだ。」

 

「提案?」

 

ダイゴからの提案とはと、弦十郎は思案を巡らせる。

 

「お前の所から、キョウリュウジャーになれる素養を持った奴いるってある人が言ってたんだ。」

 

「何?それは、本当かダイゴ。それ一体誰なんだ?」

 

その一言に、身を乗り出しその人物の名を聞こうとする。

 

「天羽奏って言うらしいんだが……。」

 

「あっあたし?」

 

キョウリュウジャーになれる可能性がある人間、それは奇しくも二人のシンフォギア奏者の内の一人である奏だったのだ。

 

「……話は、分かった。しかし、十大獣電竜はもう既にパートナーを決めているんじゃないのか?確か、後継者を決めればその人物も変身できるらしいが、誰かの後継者を奏にするのか?」

 

弾んだ話題の中で、十大獣電竜と自分たちの関係それから現状についても幾らか話していたダイゴ、弦十郎はその事で質問をする。

 

「いや、十大獣電竜以外にも一体だけ獣電竜はいるぜ。ただそいつは、気難しい奴で中々パートナーが決まらないんだ。」

 

「成程、奏やってみないか?俺としては、このままガングニールで戦い続けるより君の負担が無い分良い提案だと思うんだが。」

 

「あたしは……。」

 

「勿論だが強制はしない、シンフォギアに未練があるならこのまま奏者でいることも認めよう。」

 

「俺も、提案はしたが無理強いするつもりはないぜ。ただ受けるって言うなら、あいつに勝てるように鍛えてやるつもりではいるし、仲間たちも協力はするって話していたぞ。」

 

「……時間をくれ。いきなりだから、どうしていいか……。」

 

はきはきとした人柄の奏にしては珍しく、答えを遅らせた。

そして、静かに翼の方を見ると何かを案じている様子を見せた。

 

「分かった、ゆっくり考えてくれ。」

 

弦十郎は、その視線を鑑みて短く返しその後はダイゴも何も言わないまま別れ挨拶だけ言って帰っていた。

その日は、珍しく奏から翼の傍に寄り添っていた、普段は翼から近づく事が多いだけに彼女は大仰に驚いていた。

 

「なんだよ、私から近寄るのは可笑しいか?」

 

「そ、そんな事ないけど……。」

 

「……………翼。」

 

いつもの二人であれば他愛ない事でも談笑するのに今日に限っては殆ど会話がない、暫くの沈黙が続いたが徐に奏から口を開いた。

 

「……何?」

 

「あたしはさ、あの日あの場所で死んでたかもしれないんだ……今思えば、随分自分勝手な判断だって分かってるよ、でもあの時はそれしかないって本当に思ってた。」

 

「奏……。」

 

「この世界に、相方が自分一人残して逝く事がどれだけ辛いか考えてる余地はなかった。だから、もう一人にしないって決めたんだ。」

 

それは、贖罪であり懺悔だった。残された者の事を考えない身勝手な己へ禊であった。

 

「でもこのままリンカーを使い続けていたら結局翼を一人にしちまうんじゃないかってさ、ずっと考えて今でも震えが止まらないんだ。」

 

リンカー、それは一般人でも素養さえあれば即席の奏者になれる制御薬、しかし使用者への反動が大きく命を削る劇薬……。

奏は、そんな劇薬に頼り己の体を力の代償として戦い続けていた。

 

「正直に白状すると、ダイゴさんの提案に乗っかりたいって思ったんだ。こんなあたしでも、何の気負いもなく翼の傍に居れるならって……。」

 

ダイゴからの勧めは、将来に不安があった奏からすれば正に天からの救いだっただろう、しかし彼女は二の足を踏んだ何故なら。

 

「でも、その為には今翼の傍から離れないといけない……また翼を一人ぼっちにしないといけない。」

 

相方を、対翼の片割れを置いて行かなければならない事に苦悩したのである。

 

「……奏、前に私に真面目が過ぎるって言ったよね。」

 

「ん?確かに、言ったけど……。」

 

「なら、今は私が奏にその言葉を言う番だね……。」

 

「はぁ⁉」

 

唐突に過去の自分の発言を混ぜ返され、困惑気味に声を出す。

 

「奏はダイゴさんに付いて行ったら、帰ってこないつもり?」

 

「そんな訳ないだろ!必ず帰ってくるよ!」

 

「なら良いじゃない、帰ってきてくれるなら……生きていてくれるなら、私は一時的な別れは仕方ないって思う。」

 

「翼……。」

 

「私は大丈夫!キョウリュウジャーの人達も協力してくれるし、何より目標が出来たから。」

 

「うん。」

 

「だから行ってきて、奏のやりたい事をやってきて。」

 

「ありがとう翼、必ず戻ってくる約束だ!」

 

そして、次の日にはダイゴと共に二課を離れ修行の旅へと出たのである。

それからは、時々メールが送られてきて添付されている画像に度肝を抜かれてきた。

最近は、慣れつつあるがそれでも猛獣と戯れている画像には心配してしまうのは仕方ない事だった。

 

「全く……ん?」

 

なのでいつもの様に、一緒に綴られてるメッセージを読んでメールを閉じようとして下にスライドさせていると、いつもの内容とは違う事に気が付く。

 

「翼へ

近々翼が先輩になるかもしれません。

新人には優しくしろよ!」

 

記された内容を把握するのに少し時間を要した、後輩が出来るとは一体?

 

「司令からは、そんな話されてないけど……。」

 

急に決まった事なのかもしれないと思い、明日にでも確認しようと決めて自室に戻ることにした。

そして、後日例の奏からメールの件を聞こうと指令室を訪れようとしたとき、いつもより慌ただしい室内の様子に何事かと思い入室した翼は奏のメールの真意を知る事になる。

 



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あの日の少女は~暖かな出会い~

一人の少女が居た……。

名は立花響、二年前のツヴァイウィングのコンサートの事故を生き残った生存者の一人である。

彼女にとってこの二年の歳月は、多くの困難と出会いの連続であった……。

その中でも印象に強く残った年の離れた二人の男女との出会いは、彼女の今の形作るのに大きな影響を与えた。

時は二年前に遡る……。

 

二年前事件直後より少し後~

当時の響の周りには暗雲が立ち込めていた、いや正確には響たち生存者がである。

人気アイドルのライブ中に起きたノイズの襲撃を奇跡的に生き残った半数の観客は、被害者遺族の収まりきらない感情の捌け口になり、さらにそれに便乗した意味の無い悪意に晒され一部の生存者に至っては精神を病み一般的な社会生活が困難になるほど疲弊していた。

無論、響にもそう言った悪意を浴びせる心無い人々が手が迫ったのは言うまでもない。

彼女の自宅には連日の如く報道陣が詰めかけ、ある筈もない責任を押し付けそれが過ぎれば今度は騒ぎに便乗しただけの一般人が石を投げ無意味な罵詈雑言を書き殴った張り紙を玄関や壁に貼り付ける言葉汚く罵るなど、これ幸いにと一人のそれも事件で大怪我を負い生死の境を彷徨った少女に対して余りの仕打ちであった。

だからこそ、その日も家のインターホンが鳴った時は、響は恐怖で怯え肩を震わせたのである。

そんな彼女の様子を見ていた母親は、唇を噛みながら訪ねてきた人物をドアモニター越しに確認した。

 

「どちら様ですか?」

 

報道陣ならば追い払えばいい、一般人なら警察に連絡するだけだと思い母親は玄関の前に立つ人物の人相を確認した。

 

「あっ!えぇっと、私は天羽奏って言います。立花響さんのお宅で宜しいでしょうか?」

 

そこに立っていたのは、響が傷を負い塞ぎ込む原因ともなったライブを開催したアイドルグループの一人だった奏であった。

 

「何か御用ですか?」

 

最初は驚いた何故ここに人気アイドルの奏が居るのかと、しかし疑問はある可能性に帰結しそれが真実だろうと思い込んだ。

 

「えぇ、実は今回のライブでの事件で生存なさった方の自宅を回ってまして、その~……。」

『矢張りだ、恐らくは彼女のほかに他にもテレビの関係者も同行している筈よ!』

「帰ってください!私達からはあなた達に響に合わせる謂れはありません!」

 

奏も芸能人である、今苦しんでる響を無理やり引っ張り出しその場は立ち直らせたように見せて世間の注目を得ようとしているのだろうと、思い至った母親はきつい口調で奏に言い募った。

 

「……分かりました、今日は帰ります。」

 

奏は意外の程あっさりと、引き下がる様子を見て諦めたのだろと安堵してその日も心無い誹謗中傷の嵐をやり過ごした。

次の日も奏は訪ねてきた、しかし今度も母親は毅然とした態度で追い返す。

そんなやり取りが、連日のように続き遂に母親が折れ奏を家に招き入れたのは最初に奏が訪れてから二週間が過ぎた時だった。

いざ招き入れてみると、入ってきたのは奏一人だけで後のカメラマンやディレクターと言ったそれらしい人間は居らず、奏自身もカメラを隠している様子はない。

 

「あのそれでご用件は……。」

「……さてと、じゃあ始めますか!」

 

質問しようとした母親の言葉を遮り、奏は大きなに声でそう言うと慣れた様子で割れた窓ガラスを内側からダンボールで補強して外の張り紙を剥がし、荒れた室内を片付けたりして家の外と中を片付けていく。

 

「あっあの!やめてください!お客様にこんな事してもらう訳には!」

 

暫く奏の突然の行動に呆気に取られていた母親が、慌てた様子で静止に係る。

 

「え?あぁ、すいません……翼の部屋と同じ位散らかってたから思わずいつものノリで片づけちゃったよ。」

「はぁ……え!あの、翼ってもしかして……。」

「お母さん、どうしたのお客さん?……へ⁉天羽奏さん⁉ツヴァイウィングの⁉」

 

奏が、事も無げに呟いた一言を聞き流そうとしたが気になるキーワードが飛び出し思わず聞き返そうとした時、居間の騒がしさが気になったのか様子を見に来た響がやってきた。

 

「ん?あっ!君は!」

「え?あの、何処かで会いましたっけ?」

 

響の姿を見た奏は、初対面ではない反応を見せその様子を少し緊張しながら不思議そうに返した。

その後は騒がしさを気にして様子を見に来た響の祖母の呼び掛けでいったん落ち着き、三人で話し合う事になった。

 

「それで、今日は一体どういったご用件で?」

「お母さん!」

 

最初の行動で多少の毒気は抜かれたとはいえ、母親はまだ警戒を解かないで奏に尋ねる。

その様子を横で見ていた響が、思わず窘めようとする。

 

「はい……自分勝手とは理解しているんですけど、私達のライブを見に来て被害にあった人たちの元に尋ねて、謝って回ってるんです。今回、立花さんのお宅にお邪魔したのもその用で……今回の事件は私達、ツヴァイウィングの責任です。折角ライブを見に来てくれたのに辛い思いさせ不快な境遇にしてすいませんでした。」

「……ふぅ、そんなにかしこま畏まらないでください。理由は分かりましたから。」

「奏さん……。」

 

さっきまでの快活な表情から一転、真剣な顔で二人の前で頭を下げる奏からは本当に強い謝罪の念が感じられた、だからこそ響も母親も奏を責める気は起きなかった。

 

「顔をあげて下さい。確かに、あの日のライブで私は怖い思いをしました……でも、ライブに行けた事は後悔してません。あの時のあの場所でのドキドキは、楽しい時間でした思い出だしたら何度でも興奮できるぐらい衝撃的でした……あの思い出があるから、私は今も生きていける。寧ろ、そんな素敵な体験をさせてくれてありがとうございます奏さん!」

 

その目には一部の後悔も絶望も無かった、確かに昨日まで他者から悪意には参っていた、だが響の心には何故だかそれすらも受け入れようとする余裕があった。

 

「立花さん……。」

「私からも、言う事はありませんよ。元より被害にあった本人がこう言ってるんですから、当事者でもない私がどうのこうの言えるものでもないでしょ。」

 

若干呆れ交じりのでも暖かな優しさを含んだ声で、母親も響に同意した。

 

「立花さん、それにお母さんもありがとう……私の私たちの歌を聞いてくれて、その歌で勇気を与えらたって言ってくれて……すっごく嬉しい。」

「響でいいですよ奏さん……こちらこそです。それより、どうして奏さんがここに?お仕事は良いんですか?」

 

奏の謝罪で忘れていた疑問を思い出し、響が尋ねる。

 

「あれ?知らないのか、私は今は芸能活動は無期限で活動停止してるんだけど……。」

「「え?えぇ⁉」」

 

生存者の迫害が始まってから外部からの情報を断っていた響たち親子にとって奏の発言は寝耳に水だった。

その後、奏の進退についてあれやこれや質問していたら外はすっかり暗くなっていた。

 

「奏さん、その今晩泊っていきませんか?」

「え?」

 

そろそろお暇しようかと席を立つ奏を、響が呼び止める。

 

「いえ、その私はまだ奏さんとまだお話がしたいなって……ダメですかね?」

「ダメではないけど、家に人に迷惑じゃないかな。」

 

少し茶目っ気を出して奏に問いかける響を見て、戸惑いながらも満更じゃない態度で母親を見る。

 

「そんなことないですよ、寧ろ響がここまで積極的になってくれてるんですから大歓迎ですよ。ただしあまり夜遅くまで起きてない事いいですね。」

「やった!お母さんありがと!ねぇ、奏さんお母さんからの許しも得られましたしどうですか?」

「じゃあ、お言葉に甘えようかねぇ。」

 

その日は響にとって忘れられない一日となった、いやもっと言えば翌朝にも人生に大きな影響を与える人物と出会えるのだが。

その出会いは、早朝に布団を出て何処かへ向かっていく奏の後ろを追いかけた時だった。

奏は動きやすい格好で並木道を颯爽と走り抜け、小さめ公園に入ってく。

響は少しばかり息を切らしながらも、如何にかついていくと公園の中心に奏ともう一人母親と同じ位の年齢であろう男性が向き合っていた。

誰だろうかと思いながらも、ここまで奏を追いかけてきた疲れが思考の邪魔をした。

 

「遅かったな!こっちの準備は出来てるぞ!」

「ははは、ごめんごめん。響に気付かれずに出てくるのが難しくって。」

「?響って言うのは、そこでへたってる子か?」

「え?って、響⁉何でここに?」

 

奏本人としては気付かれずにここまで来たつもりだったので、響がここに居る事にとても驚いたようだ。

しかし響は、息を整えるで精一杯でまだ応対できそうにない。

奏が肩を貸して公園の中のベンチに座らせると、男性が奏に声を掛けた。

 

「まだまだ詰めが甘いな奏。」

「ちぇ、相棒と会えるのはまだまだ先かぁ~。」

 

中々調子の戻らない響を余所に、二人だけで何やら和気藹々と話している、会話の内容はよくわからないが二人の間で通じる話題なのだろう。

そこから漸く息を整えた響は、改めて奏と一緒に居た男性と向き合った。

 

「もう大丈夫そうだな。」

「おかげさまで、所で貴方は?」

「俺か?俺は桐生ダイゴ、奏の師匠をしてる。」

「師匠?」

「あぁ、奏を一人前の勇者にするためのな!」

「???」

 

いきなり理解できないこと言うこのダイゴと名乗った男と奏は、本当に師弟の関係あるらしく暫く呆然と二人の稽古(?)を眺めていた。

しかし、そうやって眺め続けるのも飽きてきた響は、さっきダイゴが言った勇者と言うキーワードについって考え始める。

勇者と聞いて最初に思い浮かぶのは矢張りファンタジーの世界の主人公だろうか、魔物が闊歩する世界で魔王と称される悪の親玉と戦うヒーローでもここは現代で場所は日本、確かにノイズと言ういつどこに現れるか分からないモンスターが日々の暮らしの迫ってはいるが日常は至って平和である。

さてそんな平和な世の中で、凡そファンタジーやRPGの中でしか聞かないような勇者と言う単語が出てくる意味とは?

あのダイゴがただの異常者なのかと言えば、どうもそういう風には見えないだが、そうでなければあの言動の説明が付かない。

 

「ははは……うん、まぁそう言う反応になるよね……響この後時間ある?」

 

色々と思案しては悶々として一人で百面相していると、その様子を見た奏が声を掛けた。

そこからはダイゴと奏に連れられてある場所に向かった、そこには地面に何かのレリーフが彫られ所があり二人がその上に乗ると響を手招きして呼び寄せった。

 

「あの……奏さん、ここは一体……?」

「まぁ、ここに立って。」

「みんな揃ったな、じゃあ行くぞ!」

 

恐る恐る近づいて奏たちの近くまで行くと、奏は響の手を取りレリーフの元に立たせたのをダイゴが確認していつの間にか手にしていた不思議な形の拳銃の引き金をレリーフに向かって引いた。

突端に響の周りの景色がまるっと変わる、そこは中世の遺跡の中の様な意匠がそこかしこにあしらわれた不思議な空間だった。

 

「いきなり別の場所に……テレポーテーション?」

「厳密には違うんだけど、説明が面倒だからそれでいいや。」

 

急に変わった周りの景色に戸惑いながら、それでも響の中の好奇心が勝り興味津々と言った表情で辺りを観察する。

 

「あら、お客さんかしら?ようこそ、スピリットベースへ!」

「えへへ、最近はいつものメンバー以外の人も来てくれて賑やかですねキャンデリラ様!」

「ほえ⁉」

 

不思議空間の観察に集中していると、何やら楽し気な声が二つ聞こえてきて驚き変な声が出る。

慌てて振り向くとシルエットこそ人型だが、姿形が明らかに人ではない二人組がこちらを見ていた。

 

「あぁ、びっくりさせちゃった?おいらはラキューロ、これあげるから許してくれる?」

「あ、ありがとう?」

 

二人組の一方で背の低い方、ラッキューロが棒キャンディーを腰のカバンから出して渡してくれた。

見た目はコミカルで何処かのテーマパークでマスコットをやっていても疑わない自信がると、心の中で思ってしまう。

 

「ごめんなさいね、私達こんな見た目だから普通の人と接する機会が無くて。」

「い、いえ気にしない下さい。」

 

そして、ラッキューロにキャンデリラと呼ばれた女性(?)が続いて謝ってきた、こっちの見た目もテーマパークのショーに居れば疑わずにキャラクターなのだと認識できるだろう。

 

「初見だとやっぱりそういう反応になるよな……私も初対面の時は思わず身構えたし、でも付き合ってみたら案外気のいい奴らではあるから、仲良くしてやってくれよ。」

「ちょっとちょっと!案外ってのは無しじゃないっすか!これでも、壁を作られないように気を使ってるんすから!」

「そうよ!私達は人々に笑顔でいて欲しいだけなのよ!」

 

呆然としている響に、奏は心情を察したのか同意していると、キャンデリラ達が不貞腐れた様に言い募った。

 

「ごめんごめんこの通り。ほらこの間欲しいって言ってた《らぶdeぼーるタッチダウン!》の限定特装版あげるからさ?」

「え⁉まっ全く奏さんは、物で釣ろう何って……でも、どうしてもって言うのなら許してあげなくもないっすよ?」

 

しかし、そこまで大事ではないのか奏は軽く謝ると、ラッキューロも気にした様子も見せずに許そうとしていた。

 

「《らぶdeぼーるタッチダウン!》!あの!奏さんも、あの漫画読んでたんですか?」

「え?じゃあ響も?」

「はい!同じクラスの子とよく話してますっ!………前までは、ですけど。」

「………そっか。」

 

一瞬だけ明るい表所になったが、直ぐに浮かない暗い顔になった響を見て全てを察した、本人がいくら気にしないと国では言っていても、やはりクラスメートとは事件を切っ掛けに疎遠となってしまっていた。

 

「ど、どうしたんすか⁉そんな暗い顔して⁉」

「私達、何か気に触るしちゃったかしら⁉」

 

しかし、事情を知らないキャンデリラ達は響の表情の変化に戸惑い慌てふため始めた。

 

「いえ……二人が原因じゃないんです、ただ……。」

「……何があったか、話してくれないかしら?話を聞いても、何が出来るって訳じゃないけど、でも話してみるだけでも楽になるかもしれないわ。」

「そうっすよ!ここには、おいら達以外いないっす。何を話しても、聞き咎める人なんていないっすよ。」

 

沈痛な面持ちの頭を上げ、無理に口角を上げて苦笑して見せる様子を見ていた二人が、響の隣に座りそう囁いてくれた。

 

「二人とも……聞いてくれますか?」

「えぇ、勿論!」

「ちゃんと、聞いてるっすよ!」

 

二人の優しさに触れ、決心したのか二人を交互に見て切り出した。

この数か月の間に起きた出来事、仲の良かったクラスの子に無視されそこまで関わりの無かった人からは謂れのない言葉を吐きかけられて、辛かったこと悲しかったこと寂しかったこと一度口に出すと堰を切った様に溢れ出し止められなかった、響自身も気づかぬ内に溜まっていた鬱憤を出会って一時間も経ってないような人たちにさらけ出せたのは二人の人柄がそうさせたのかもしれない。

 

「……響ちゃん、よく我慢したわね。」

「え?」

 

話を聞き終え、場がどんよりと重くなっていたが不意にキャンデリラが囁くと抑えていた涙が溢れ出した。

 

「うぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

 

気付けば獣の雄叫びの様な叫びが木霊して、幼子が泣き叫ぶが如く泣き出した。

一体どれだけ泣いただろう、抑えつけていた感情が声にならない嗚咽となって外側に溢れ出し当て処のない激情と合わさっていたと思う、そんな目も当てられない姿を三人は静かに温かく見守ってくれた。

 

「お見苦しい所をお見せしました……。」

 

溜まっていた不満や不安を曝け出せてスッキリしたのか、赤面しながら三人に頭を下げた。

 

「いえいえ、気にしないで。それよりも、もう言いたい事は無い?」

「はい……もう大丈夫です。寧ろ、何だか体が軽くなった感じがします。」

「心の中で蓄積していたものが外に出たからだろうな。」

 

一緒にここに来たはずなのに、今まで何処かに行って姿が見えなかった人の声がいきなり明後日の方向から聞こえてきた。

 

「ダイゴさん!今まで何処に行ってたんですか⁉」

「あぁ、ちょっとある人に呼ばれてな。」

「ある人?それは誰ですか?」

「まぁ、それは……響、その人からこれをお前に渡せって言われてる。」

 

ダイゴは、何かをはぐらかす様に響の手を取って無地の電池に似た何かを渡してきた。

 

「あの、これは?」

「お守りだ。」

「お守り?」

「おう!勇気の出るお守りだ!」

 

そんな事があってから、数日後に奏は別の生存者の元へ向かい響たちへの迫害は続いたある日、響の元にまたも見知らぬ人たちが訪ねてきた。

 

「……初めまして。」

「初めまして……。」

 

しかし、奏の時と違い重苦しい空気が場に流れていた。

 

「あの……。」

「済まなかった……いきなり大事な娘を失い、自分が判らなくなっていた……。」

 

それもそうだろう、響が向き合っている相手はあの事件の被害者の遺族なのだから。

 

「そんな!そんな事は……!」

「いや……私自身、大人気ないと思ってはいても止められなかった。君たちを恨むことでしか弱い自分を保つことが出来なかった……謝って済む話じゃないのは重々承知している、これは私のエゴで自己満足だと言う事も理解している!だがそれでも謝らせてくれこの通りだ。」

 

遂には椅子から降りて床に手を付き、頭を地に付けて謝罪してくる。

この人の娘は響と同年代だった、だからこそやるせない思いが生き残った響に向いた、それからは世論の流れが彼の心をより攻撃的にさせた。

 

「ツヴァイウィングの翼さんに諭されて漸く気付けたんだ!私が間違っていた、君がどれだけ苦労していたかも知らずに、ただ一方的に自分が楽になりたいがために君をさらに傷つけた!……本当に、本当に済まなかった!」

 

その言葉の後、彼から声を押し殺しても聞こえてくる泣き声が漏れ出した、この人も普段は誠実で優しい人なのだろう、でもそんな人でも大事な存在を失えば暴走してしまうのだ。

 

「顔を上げてください……。」

「立花さん……。」

「確かに、事故の後は辛い事ばかりでした……でも、その事で誰かを恨んだりはしてません。だって!辛いのはみんな同じだから、私は運よく助かりました。だけど助からなかった人もいて、その人にも大切に思ってくれている人がいて、その大切に思っていた人を失えばきっと冷静で何て居られなかった筈で……だから、当然の事なんです!その人が大切だったから、生き残って幸せになっているかもしれないと考えて許せなくなるのは普通の事なんです!だから、謝らないでください……そんなことされたら、私は誰かを恨んでないといけないじゃないですか。」

「立花さん……ありがとう……。」

 

その後も他の被害者の遺族は響の元を訪れ続けた、してその度に響は自分の想いを告げ続けた。

やがて、生存者の迫害の実態を知り始めた被害者の遺族たちは、彼らに対して償いの意味も込めて庇い始めた、そうすると誰の怒りの代弁なのか分からなくった迫害は自然と消滅ていった。

 

そして、月日は流れ二年後のある日の夕暮れ……。

響は、あの日あの時の自分を腕の中の少女と重ねた、自分が如何にかしなければなかば無意識に覚えのない歌を紡いだ。

そして、眩い光の中で覚醒した……己が意思を歌に換え、己の力して戦う戦姫へと……。

彼女に起きた変化とそれ至るまでの道程は、この日の朝に遡る……。

 



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戦姫の目覚め~胸の内に響く歌~

逝く人も残る人そして亡くし残された人にも、全て等しく不幸の連鎖へ追いやったあの事故から二年の歳月が流れた。

あの事故の笧から抜け出した当事者とその関係者たちは、その心の負った傷を庇いながら互いに支え合い逆境を乗り切った。

そして、奏の来訪があったあの日から後ろを向く事を止めた響は今……。

 

「立花さん!」

 

彼女の通い始める私立リディアン音楽院の教室で教諭からの説教を受けていた、その腕の中に猫を抱えて。

 

「あの~この子が木に登って降りられなくなって……。」

「それで?」

 

どうにも授業の修業時間に遅れた弁明にしては弱い言い訳に、向かい合う教諭も呆れながら続きを促す。

 

「……きっとお腹を空かせてるんじゃないかとぉ……。」

「立花さん!」

 

捉える人が人なら一見ふざけてるとしか思えない受け答えに、教諭はまた声を張り上げた。

 

「たぁ~疲れた~、入学初日からクライマックスが百連発気分だよ~私呪われてる~。」

 

その後も続いた教諭からの説教に疲労の色を浮かべる響は、自分と幼馴染であり親友の小日向未来に割り当てられた寮の部屋の床に仰向けに寝そべって弱音を溢す。

 

「半分は響のドジだけど、残りは何時ものお節介でしょ。」

「人助けと言ってよ、人助けは私の趣味なんだから~。」

 

そんな彼女に辛辣だが愛嬌も含まれた突っ込みを返す未来に響は、体を反転させて四つん這いで起き上がりむくれた声音で反論した。

 

「響の場合度が過ぎてる、同じクラスの子に自分の教科書貸さないでしょ普通。」

 

親切心は別段問題ではない寧ろ褒めらるべきことだが、響の場合はそれが些かおおらか過ぎた。それを案じる未来だからこそ心配で小言を口にする。

 

「私は未来から見せて貰うからいいんだよ~ふふ。」

「……バカ。」

 

所が当の本人である響は無用の心配だと聞いていないのか、親友の未来を信頼しているのか楽天的な返答をする。未来は信頼してくれてる事が嬉しいのとそれでも心配でならない感情が入り交じり難しい顔で小さく悪態をついた。

 

「おぉ!CD発売はもう明日だっけ⁉あっはぁ~やっぱカッコいいな~翼さんはぁ~。」

 

風鳴翼の写真集を掲げて子供のように燥ぐ響。その様子を未来は温かく優しい視線で見つめる。

 

「翼さんに憧れてリディアンに進学したんだもんね大したものだわ。」

「だけど……影すらお目に掛かれなかった。そりゃトップアーティストだし簡単には会えるとは思って無かったけどさ。」

 

憧れの人に会える可能性を信じリディアン音楽院への入学を決め、その念願叶い無事ここへ入試試験に合格したが、まだ本懐を達しない響は頬杖を突いて思案顔を覗かせるが、彼女は自分の胸元を覗き込むとあの日ダイゴに渡されたお守りと胸に刻まれた音楽記号のフォルテにも見える傷跡が有り、傷痕の方を注視する。

 

『あの日私を助けてくれたのはツヴァイウィングの二人……そして他に6人。誰かは分からないけど確かにそこに居て私達事故で生き残った全員を助けてくれた。だけど退院してから聞いたニュースは多く人々が世界災厄のノイズの犠牲になった事だけ……戦っているツヴァイウィングと色彩豊かな戦士たち、あれは幻?私が翼さんに会いたいのはあの日何が起きたか分かるような気がするから。』

 

朧げな記憶の中で人々を守る為その力を振るうツヴァイウィングと謎の六人組の戦士。あの日薄れゆく意識の中で目に焼き付けた情景が瀕死の淵で見た己の幻想なのかゆるぎない真実なのか、彼女はただその答えを求めながら未来と向かい合うように眠りの床についた。

その夜、噂の翼はキョウリュウジャーの一人のソウジと共にノイズの討伐に駆り出されたのだが、そんな事は知る由もない響達の安眠の夜は明けていった。

 

「自衛隊特異災害対策起動部による避難誘導が完了しており被害は最小限に抑えられた。」

 

リディアンのカフェテラスで昼食をとってる最中、ネットニュースで昨日の事故の記事を読み上げる未来。

 

「ここから、そう離れていないね。」

「うん……。」

 

記事に載ってる事故の現場の位置はリディアン音楽院から近くにあった、その事を未来が話すと食事中の手を止め響が同調する。

 

「風鳴翼よ!」

「芸能人オーラでまくりね、近寄りがたくない?」

「孤高の歌姫と言ったところね。」

 

昼食時で賑わいを見せるカフェテラスの中に、それまでとは別種の騒がしい言葉が囁かれ出した。

 

「はっ!」

 

その声を聞いていた響は居ても立ってもいられず、茶碗を持ったまま椅子を引いて立ち上がった。

 

「はぁ……!」

 

そして振り替えた時、自分の真後ろを追い求めた憧れの人である翼が通り過ぎようとしていた。

 

「あっあの……。」

 

突然の立ち上がった響に一瞬足を止めた翼、目の前に会いたかった人が居ると言う状況は響が思っていた以上に緊張するもので、ガチガチに固まって話し掛けようとする口を強張らせた。

 

「へ?」

 

そんな様子の響を見据え翼は無言で自分の頬を指で示した、その仕草を真似て自分の頬に指を据えるとご飯粒に触れる感触が伝わった。

 

「あ~ぁもう駄目だ~翼さんに完璧可笑しな子って思われた。」

 

夕暮れに蔭る教室の中、昼食時の翼との初対面での失敗に項垂れる響。

 

「間違ってないからいいんじゃない?」

 

そんな響に淡々と突っ込みを入れる未来、やはり彼女は響に対しては対応がややドライな気がする。

 

「それ、もう少しかかりそう?」

 

それでも響に気にしている様子がないのは、彼女達に確かな信頼関係が築かれてるからなのだろう。

自分の隣でノートを纏める未来に、顔を向けそう尋ねる響。

 

「うん……ん?あっそか、今日は翼さんのCD発売だったね。」

 

何気なく答えるが妙に急かす響の態度に、少し考えその理由に行きつき聞き返す。

 

「でも、今どきCD?」

 

ダウンロードが主流となった昨今においてCDの方を望む響に、未来は不思議に続けた。

 

「うるさいな~初回特典の充実度が違うんだよ~CDは~。」

 

望みの物を手の出来た時の事を考え、早くも幸福感で声のトーンを上げる響。

 

「……だとしたら、売り切れちゃうんじゃない?」

「んひぃ⁉」

 

だが未来は冷静に思った事を口に出すと、その事は頭から抜けていたのか響は顔を上げて焦りだす。

急ぎ学園を出て電車に乗り町へ到着すると、彼女は急ぎ足でCDショップに向かう。

 

「CD!はぁはぁ特典!はぁはぁCD!はぁはぁ特典!」

 

息を切らせながら興奮の色を表情に表し、暮れなずむ街を一思いに駆け抜ける響はマラソンの掛け声の様に繰り返すのだった。

 

「あっあぁ!ふぅ……。」

 

そして、CDショップのある角を曲がり一息ついた時、風が吹き何か埃の様な物を巻き上げた。

 

「え……?」

 

一瞬違和感を感じ近くのコンビニの店内を覗き込んだ時、人の姿がない事に気が付いた。

コンビニの店内だけではない見渡す風景の中に人は居らず、その代わり人一人分の黒い灰の様な物が至る所に散乱していた。

 

「ノイズ!」

 

響にはその光景には見覚えがある。二年前自分が当事者となったあの事故の最中、逃げる人々に取り付き命を奪った異形の影ノイズの仕業だと。

 

「いやー!」

 

呆然と立ち尽くす響の耳に誰か幼い少女の叫びが聞こえた時、己の身の安全など忘れ助けを呼ぶ声の元へ走り出した。

その時、特殊二課の作戦司令部も慌ただしく動いていた。

 

「状況を教えてください!」

「現在、反応を絞り込み位置の特定を最優先としています。」

 

指令室に入ってきた翼が開口一番に状況の説明を求める。職員たちも急ピッチで索敵をしているが未だ特定はできていなかった。

そして少女を助け出す事に成功した響は、少女の手を引き細い路地を走っていた。

 

『ここはダメだ!すぐに引き返せ!』

 

その時、響の胸の中で誰かの声が聞こえた、聞き覚えは無いが若くだが威厳を感じる声は今響たちが居る場所は危険だと警告していた。

 

「っ!何、急に⁉」

 

その声が聞こえて一瞬驚くがそれ所では無い状況に、逃げる足は止めないで路地を通り抜ける。

 

「うそ!」

 

路地を抜けた先は細い川があり両サイドには、ノイズが犇めき合い通路を塞いでいた。

 

「お姉ちゃん!」

 

何処にも逃げ場が無い閉所で追い詰められ、少女は響のスカートを強く握る。

 

「大丈夫お姉ちゃんが一緒に居るから。」

「うん……。」

 

不安に揺れる少女を安心させるため強気の言葉で励ますと、少し落ち着いた様子で消え入りそうな返答が返ってくる。

 

『川に飛び込め、暫くは撒けるはずだ。』

「また⁉いや、今はそれしかないよね……。」

 

響の胸に響く謎の声が状況を切り開くための助言すると、少女を腕の中に抱え目の前の川に飛び込んで対岸に移る。

 

「はぁはぁはぁ……シェルターから、離れちゃった……!」

 

息も絶え絶えで少女を背負いながら逃げ続ける響達の現在地は、ノイズから逃走する中で避難シェルターから遠のいてた。

ここまで逃げていた響の体力は限界へと近づいていて、足をもたつかせて転び背負った少女ごと倒れる。後ろを見るとノイズの群れがゆっくりと追い迫って来る。

 

[生きるのを諦めるな!]

 

あの日あの時あの場所で死にかけ、自分に懸けられた奏の言葉が脳裏に甦った時、まるでその言葉に力が有るかのように響はもう一度立ち上がる。そしてもう一度少女の手を握り生き残るために走り出した。

逃げて……逃げて……逃げ続け、漸く一息付けられる場所まで移動すると響達は、体を大の字に広げ息を整える。

 

「死んじゃうの……⁉」

 

ここまで一緒に逃げていた少女がふと弱音を溢す。それを聞いた響は起き上がり優しく微笑むと静かに顔を横に振った。だが顔を後ろ向けた時……背後には大量のノイズが迫っていた。

少女は一瞬で跳ね起き響に駆け寄った。だが幼い彼女でも理解できる絶望的な状況に嗚咽が漏れだした。

そんな状況の中、響はその目を見開き迫りくるノイズを睨み付け生き足掻こうと思考する。

 

『生き残りたいか?』

「えっ?」

 

そんな時、またあの声が囁きかける……。

 

『生き残りたいならば歌え、その胸に宿る聖遺物を起こす歌を!』

「なにを……っ!」

 

謎の声が言ってる言葉の意味を理解できない響は、声ではなく歌でその意味を知った。聞いた事は無いだが知っている。何故だか懐かしい気力が湧きたつ感覚……。

 

「生きるのを諦めないで!」

 

寄り添う少女に力強くそう言うと、響は紡いだ胸に流れるその歌を……そして、逆境を跳ね除ける戦姫に……変わる!

 

「反応絞り込めました!位置特定!」

「ノイズとは異なる高出力エネルギーを検知!」

「波形を照合、急いで!」

 

その時を同じくして、ノイズの正確な出現場所を探り当てた特殊二課の面々は同時に発生した響のモノと思われる反応も探知していた。

 

「まさかこれって、アウフヴァッヘン波形⁉」

 

照合した波形のタイプを一目見た時、了子女史が戦慄の表情を見せた。

 

「ガングニールだと⁉」

 

そして、示されたエネルギーの波形の固有コード名に驚愕した弦十郎が声を荒げる中、翼だけが落ち着きを取り戻していた。

 

「……後輩って、こう言う事なの奏?」

 

その表情は旧友の悪戯に呆れたようだったが、どこか懐かしさを感じてるとも言える声色で呟いた。

 

「ぐぅあぁぁぁぁ!」

『くっ!何と言う力の波長だ、私が抑えなければ彼女が飲み込まれてしまう!』

 

自身の変化に伴う痛みに苦しみ藻掻きながら外装を纏っていく響。その胸に首飾りとしてぶら下るあの日の電池の様なお守りが光を発していた。

 

「……目覚めたか響。やっぱり奏を親父に預けて日本に戻ってきてよかったぜ。」

 

その様子を少し離れた所から見ていたダイゴが、一人そう囁いた。

 



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芽生えた希望~受け継がれた歌~

「がぁぁぁぁ!」

 

現れては引き引いては現れを繰り返す、己が体を貫き現れる謎の突起物の齎す痛みに苦悶の雄叫びが周囲に響き、少しずつその身体を戦う者へと変化させ苦悶の声も小さくなっていく。

 

「あれ?私……何これ?」

「お姉ちゃんカッコいい!」

 

さっきまで自分の身を苛んだ痛みは何処かへ消え、代わりに自身を包み纏う装甲を訝しみつつ観察していると、さっきまで悲壮感など何処へ行ったのか少女が羨望の視線を響に向けていた。

 

「……っ!」

 

突然の変化からそれ程間を置かず自身の身に何が起きたかも分からず仕舞いだが、それでも今ここで何を成さねば成らぬかは理解できる、今はこの歌と共に戦おう自分に憧れの視線を送るこの少女を生かすために。

 

『そうだった、何が起きているかは今は問題じゃないんだ。私が一番やらなきゃいけないのはこの子を助ける事!』

 

胸の内から溢れる音に身を任せるままに歌を口遊み、少女を抱きかかえて彼方へ跳び上がる。

 

「うわ⁉わっ!何?」

 

しかし、その一蹴りは響の想定を超え大きく二つの体を宙に打ち上げ、その高さと距離に自身で起こした事だと一瞬理解が追い付かず困惑し、それが反応に現れ空中で減速して地面に着地する。

なおも口から紡がれる歌を奏でつつさっき自分たちが落ちてきた上空を見れば、ノイズたちもまた響たちを追い落下しており、それを睨み付けながらノイズが落下する直前で横を飛んで躱し体を地面に跳ねさせ衝撃を殺して再び立ち上がる。

 

「うぁぁぁぁぁ!」

 

そこへ更に追い駆けて来るノイズたちを躱しもう一度大きく跳んで今度は建物に激突してケーブルの様な物に掴まり、建物の影から現れた大型ノイズを注意深く見つめ大型ノイズが腕を振り上げると跳び引いき着地した所を小型ノイズが飛び掛かるその瞬間、響は覚悟を決めて拳を握りしめてノイズに向けて突き出した。

 

『え?私が倒したの?』

 

突き出された拳がノイズを捉えた時、灰塵となったのが己ではなくノイズだった事の驚いた響は僅かな間呆然と立ち尽くす。

そんな響の後方から轟いたのはエンジン音、誰かが一直線に進路上のノイズを跳ね除け突き進んでくる、そして姿が見えた時響はその人物に呆気の取られる。

 

「え?」

 

バイクに跨り通り過ぎた特徴的な青い髪が風に舞い大型ノイズの直前で飛び上がると、バイクだけが大型ノイズの脚に当たり炎上して翼だけが降り立つ。

 

「呆けない、死ぬわよ……よく頑張ったわね。後は任せてその子を守ってなさい。」

「ふえ⁉」

 

振り返らずに響に柔らかく一括すると、最後に彼女に労いの声を掛けてノイズの大群へ駆け出し歌を紡ぎ、戦装束を纏い手にした刃を広げ横に一閃、全方に犇めくノイズを忽ち切り伏せて大きく跳躍、今度は無数の剣の雨を降らせ刺し穿つ。そして残るノイズたちもたちどころに切り伏せていく。

 

「すごい、やっぱり翼さんは……。」

「あっ!」

 

その活躍を目にして響が圧巻の想いを吐露していた時、後ろを見た少女が慄き表情を引き攣らせ響も其方を見て同じ表情になる。

 

「うぇ!」

 

自分達を見下げる大型ノイズが体を屈め直ぐ後ろに居たのだ、さっきまで緩んだ空気が一瞬で引き攣り緊張を張らむ。

 

「ガァオオォォォ!」

 

蛇に睨まれた蛙の様に動けない響達に今まさに大型ノイズが圧し掛かろうと言う時、その雄叫びが張り詰めた空気を揺らし、その直後巨大な影が響達の前に躍り出てノイズに当たり吹き飛ばす。

 

「何⁉……あれは、恐竜!」

 

現れた物の正体ティラノサウルスを思わせる真っ赤な体の巨大生物が響達を庇うようにノイズと相対する。その時遠く離れた彼方から獣電池が飛来しティラノサウルスの口に差し込まれた。

 

「ガァオオォォォォ!」

『ガブリッチョ!アッローメラス!』

 

獣電池を飲み込んだティラノサウルスからそんなセリフが溢れ、ティラノサウルスが高温の火を噴いて大型ノイズを焼き払う。

 

「終わった……の?」

「だから、呆けない!まだ、確実に安全だって分かった訳じゃないんだから。」

 

此処までに至る一連の出来事が一応は終結して呆然とした面持ちになる響に、翼が駆け寄り気を抜かない様に注意を呼びかけ応援の到着を待つ。

 

「あの翼さん、ありがとうございました恐竜さんも。」

「ん?……気にしないで良いわ、これから先輩後輩の関係になるんだし後輩を助けるのは先輩の役割よ。」

「ガァオオォォォォ。」

 

周囲を見張る翼と恐竜に響が助けられた事に礼を述べると、翼は少し表情を和らげ当然の事のように返し、恐竜も鳴き声で応じる当たり会話は成立しているようだが、言葉が通じないからその内容は一方通行だ。

 

「ガブティラも気にするなって言ってるぜ。」

「えっ?ダイゴさん⁉」

 

そこに大分前に一度だけ聞いた懐かしい声が聞こえて、皆がそちらを向くとダイゴが溌溂な笑顔で腕を組んで佇んでいて、唐突なダイゴの登場にこれまでとは違う反応が其々から返る。

 

「ハハハ、思ったより元気そうで安心したぜ響!」

「帰っていたんですねダイゴさん、奏はどうしてます?」

 

久しぶりに再会した響の壮健な様子に満足そうに頷くダイゴ、そこに翼が見知った顔で近くによると奏に現状を質問する。

 

「おう!翼か。奏なら今は親父のところで最後の追い込みを掛けてるところだ。」

「えぇ⁉知り合いだったんですか⁉」

 

ダイゴも大分親し気なので二人は知り合いなのだろう。まぁ、奏に指南役をやっていた時点で何かしらの接点はあったと思うが。

 

「えぇ⁉翼さんとダイゴさんって知り合いだったんですか⁉」

「はぁ、少し落ち着きなさい騒がしいわよ。」

「ははは、まぁ良いじゃねぇか!何も言わずに静かにしてるより、表情に出してくれた方が分かりやすいぜ。」

 

そうとは知らない響が何度目かの驚きの声を上げ、困った様に窘める翼をダイゴが諫め高らかに笑う。

そうして、時間が過ぎ特異一課の処理班が到着すると、翼は同時に到着した二課の職員に駆け寄り響は一人呆然と佇む、今日起きた出来事が現実であると頭で理解し精神が理解を拒むそんな心情であったが助け出した少女の様子は気になるのか静かに見守っている。

 

「あの、暖かい物どうぞ。」

「あぁ、暖かい物どうも。」

 

そこへスーツ姿の女性おそらく現場で働く組織の職員と思われる人から、湯気の上る紙コップを差し出されお礼を言って受け取る。

 

「ふぅーふぅー……なはぁー。」

 

紙コップから伝わる熱を感じつつ息を吹きかけて少し冷まし口に含んで人心地、ずっと続いた緊張状態が解かれ体の力が抜けたと同時に彼女の体を覆う装甲が輝き消失し、元の制服姿に戻る。

 

「うえっ⁉はっ!うわ!うぅわ、わっわわわ!」

 

その突然の変化に驚き持っていた紙コップを落とし体勢を崩して、仰向けに倒れ懸かる所を誰かに支えられる。

 

「あぁ!ありがとうございます!……はっ!ありがとうございます‼」

「どういたしまして、お礼は一度でいいわよ?」

 

支えてくれた誰かしにお礼を言おうと振り向くと表情を少し崩した翼が居て、それに気が付いた響は感極まった様子で二度続けて礼をし、翼は響からの礼を受け取ると眉根を下げた笑みを浮かべて返した。

 

「は、はい!あの、翼さんに助けられたのはこれで二回目ですね。」

「二回目?」

 

向き合った翼に自身が知っている限りで二度助けられた事を告げる満面の笑みの響に、彼女は響の発言の内容に疑問符を浮かべて困惑する。

 

「ママ!」

「無事だったのね。」

 

翼が響の発言の意味を理解しようと思案している時、あの少女の感極まる声が聞こえ親子が再会できた事を場面を見つめる響。

 

「それでは同意書に目を通した後、サインをして頂けますでしょうか?」

 

そんな感動の場面でも事務的な態度を崩さず、互いに無事を喜び合う親子の前にタブレットを出す女性職員。

 

「本件は国家特別機密事項に該当する為、情報漏洩の防止の観点から貴女の言動及び言論の発信には今後一部の制限が加えられることになります。特に外国政府への通謀が確認されたら、政治犯として起訴され場合によっては……。」

 

恐らく当事者である少女に向けての説明であろうが当の本人は、意味が分からないのか呆然とし母親も唖然としている。

 

「あはは……それじゃあ私もそろそろ。」

「ごめんなさいね、貴方をこのまま返してあげられそうにないの。」

 

そんな様子を眺めていた響も早々に退散した方が吉と考えたのか、この場を離れようとして翼に声を掛けるといつの間にか現れた黒服の男性たちの中心で苦笑を浮かべた翼が申し訳なさそうに告げる。

 

「何でですか?」

「理由は後で話すから今は、特異災害対策二課まで付いてきて貰えるかしらし?」

 

今日一日ずっと様々な事柄に巻き込まれ或いは首を突っ込んできた響でも、これまでとは別種の急展開にしどろもどろな様子で翼に尋ねるが、本人からは要領を得ない返答が返って焦りが加速した。

 

「はい?あの、それ答えになってない……!」

「はっは!落ち着け響、今から行く場所は俺も知ってるし怪しい所でもないぜ。」

 

不透明な状況で焦燥は強く困惑が濃くなる響に、ダイゴが緊張を解き解す様に陽気にだけど落ち着いた態度で話しかける。

 

「何より、嘗ては奏が居た場所だしな。奏自身が響自身やその周辺の人の為に行って欲しいって言ってたぜ。」

「奏さんが!……分かりました、何処へ向かえばいいんですか?」

 

ダイゴが奏の名を出すと、響は姿勢を軟化させ指示に応じる。

 

「おっしゃ来い!ディノチェイサー!」

『ガブリッチョ!ディノッチェイサー!』

 

響の返答を聞いたダイゴは相槌を打つと、ガブリボルバーを取り出しディノチェイサーを呼び出す。

 

「乗れ響!先に行ってるぜ翼!」

「はい!よろしくお願いいたしますダイゴさん!」

「え?あっ、ちょっと!……一応、追い駆けましょう。」

 

そのまま響を後部に乗せて走り出した二人の姿を見送る事しか出来なかった翼。その場に残された黒服たちと共に呆然としていたが直ぐに建ち直しその後を車で追い駆け、目的地へと向かったのだった。

こうして一応の初戦を終えた響は、突如再会したダイゴと共に向かう。

いざ行かん!目的の場所は、特異災害対策二課の本拠地なり!

 



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