【本編完結】原作に関わりたくない系オリ主(笑) IN ダンまち (朧月夜)
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本編 光の戦士(笑) オラリオに立つ

更新は書き溜めが尽きるまで。
基本原作沿いメインでは無く、ネタが思いついたら書くスタイル。
あと下品な地の文があるからごめんなさいね。


「ほ、ほら、ライト君? そろそろダンジョンに行った方がいいんじゃないかな? その、そろそろお金もないしさ?」

「………………」

 

 女の言葉に男はじろりと顔だけを向けた。

 何とも非常に不満気だ。

 

 ここはヘスティアファミリアのホームという名の廃墟である。

 元は教会だったが、上物はもう使い物にならず、地下の部屋のいくつかが無事。

 そこで彼女らは細々と生きている。

 

 ここオラリオは冒険者の街。

 つまり一攫千金を狙う猛者の群れがひしめいている欲望の街。

 で、彼女らはその底辺に蠢いているザコだった。

 

 現在は半地下にある部屋の中でリビングとして使われている比較的マシな部屋では、主神であるヘスティアが、ソファーに大股を拡げて座る青年を必死に説得しようとしていた。

 小柄ながらメリハリのありすぎるボディ。

 そして清楚な白を基調としながらも、太腿や胸の谷間を強調したあざといドレス。

 

 それをさりげなーくアピールしながら、ヘスティアはライトと呼んだ青年ににじり寄っている。

 その姿は完全に新人キャバ嬢が必死に固定客を獲得する為に、一見の客に同伴をねだる様に似ていた。

 しかし男の反応は冷え切っていた。

 やらせてくれないキャバ嬢など用は無いとばかりに。

 

「ええ……面倒臭いなぁ。オレもバイトで稼ぐからさ、ダンジョンとか危険なのやめようぜ」

 

 ライトはチラっとヘスティアの谷間を一瞥するも、直ぐに煩悩を払うかの如く首を振り、まただんまりを決め込んだ。

 どうやら完全に拒否という訳でもないらしい。

 

「も、もーーーっ! キミは強いだろーーーー! どうしてグータラするのさ!」

 

 もう怒ったぞ! プンプン! 的なあざとい感じで怒りを表す主神。

 ライトの胸に縋りつき、ぽこぽこと叩きながらも、チラッと上目遣いで顔色を窺う所は流石である。

 ただしライトの怠惰をなじるその発言は、彼女にとって酷いブーメランだった。

 

 時間を少し遡ろう。

 ヘスティアはこの迷宮都市オラリオに降臨した神様の中では相当に新参だ。

 実際このファミリアが結成されたのは2週間ほど前だ。

 

 と言うのもこの街は、天界で退屈した神々がこぞって降臨し、ファミリアなる眷属を集めたサークルを作っている。

 大いなる力を有する神々だが、地上では権能を封じるという縛りを持って活動している。

 それがルールなのだ。

 

 その代わりに神の血で眷属にした己の子には恩恵という人外パワーが現れる。

 それを持って冒険者はしのぎを削っているのだ。

 その様はシマ争いをするヤクザの如し。

 

 さてそんなオラリオの神様事情がある中で、ヘスティアは何をしていたか。

 それは彼女の天界からの神友であるヘファイストスの所に転がり込んでいた。

 ヘファイストスのファミリアは、ダンジョンアタックをほとんどせず、鍛冶により産みだす作品で名を知られている。

 そこは火と鍛冶の神の面目躍如か。

 

 地上にやってきたヘスティアは、生来の呑気な性格からか地上の現実を甘く見ていた。

 ────いや、舐めきっていた完全に。

 

 どうにかなるだろう……そう、明日から本気出すと息巻くニートと同じ理論である。

 明日やろうはバカヤロウである。

 それは神とて地上で生きるなら同じなのだ。

 

 ────ファミリア結成? ボクには楽勝っすよ(笑)

 

 そんなノリでいたヘスティアだったが、現実は甘くない。

 ヘファイストスファミリアのホームに居候しながら眷属集めに奔走……はそんなにしていない。

 何となくメシを食いながら、ダラダラと居着いていただけだ。

 

 その様子を例えるなら、ニートが漸く重い腰をあげて母親から小遣いをせびり、ハロワ通いすると言いながらパチンコ屋に通う姿に似ていた。

 実際にヘスティアはヘファイストスに借金をこさえた。

 とんでもない額の。

 

 これには流石に仏のヘファイストスもキレた。

 もう出ていけ。お前の面倒は見切れん!

 そんな感じで追い出された。

 

 それでもヘファイストスは最後の慈悲の心とばかりに、自分が管理している土地の中から、廃墟だが辛うじて住める元教会を斡旋したのだ。

 ヘスティアは思った。

 ネチネチと嫌味を言われるくらいなら、ここに住める分マシだなと。

 まあホームさえあるならどうにかなるだろうとほくそ笑む。

 控えめに言ってクズである。

 

 ただし眷属もいない為に収入が無い。

 結局それもヘファイストスに泣きつき頼んだ。

 彼女のコネからじゃが丸くんの屋台のバイトを斡旋して貰ったのだ。

 それでどうにか日々の食事にはありつけた。

 

 給料は安いが、余ったじゃが丸が貰える。

 ならええやん。最高やで。

 そう思ったヘスティアは一体なんの為に地上に降りたのか、コレガワカラナイ。

 

 しかし流石にそこはゼウスの姉か。

 幸運にも眷属を一人ゲットできた。

 それがライトだ。

 

 では続いてライトの事を少し語ろう。

 彼はいわゆる転生者である。

 とは言え昨今流行の社蓄でもニートでも無い。

 中の人の年齢はおっさんだが。

 

 彼は独身だったが、善良な人間であり、友人も多かった。

 平凡で退屈な男だったが、それなりに幸せな人生だったろう。

 詳しい事は割愛するが、地球を管轄とする神々の戯れで、ベタなテンプレ転生の様な流れで、ランダムに選ばれた犠牲者が彼だ。

 

 神々の娯楽の為に意味も無く殺され、チートを与えて別の世界に送り込まれたのだ。

 しかもそのチートが酷い。

 彼の趣味は色々あったが、大昔のゲーム、つまりレトロゲーを掘り返してやるというのがある。

 その時の彼は休日で、前の日の夜からFF3をやっていた。

 もちろんリメイクではなくFC版である。

 

 その神は面倒臭いからと、そのゲームのジョブをランダムで1つ。

 死んだ時点で持っているアイテムを全部と言う能力で与えた。

 幸い選ばれたのは最強職とも言える忍者だったのが救いだろうか。

 

 彼はクリア後も延々とレベリングをするタイプのやり込みプレイヤーだ。

 アイテムも豊富にあったし、アイテム増殖バグを利用して手裏剣もしこたま持っていた。

 なのでそう言う意味では物騒なオラリオで戦力的なアドバンテージを持った点はまあいいだろう。

 

 だがしかし真っ赤な忍者装束で人通りの多い中央広場にいきなり落とされたのは酷い。

 どう見てもリアルニンジャスレイヤーにしか見えないが、あまりの不気味さに誰も話しかけてこない。

 居た堪れなくなった彼は、アイエエエエエエ……とメンポの下で呻きながらどこかに走り去ったのだ。

 

 そんな彼が辿り着いたのは西地区北端のメインストリートだ。

 どうみてもスラムっぽい場所で、廃墟の教会を見つけて逃げ込んだのだ。

 ここなら暫くいても大丈夫そうだ、そう考えて。

 

 そこにいた。

 ツインテールのあざとい神様が。

 キミは誰だい? 急に話しかけられたライトは、アイエエエエ……とHRSつまりヘスティア・リアリティ・ショックを起こして倒れた。

 あまりに目まぐるしい状況の流れに彼の精神は限界に来ていた様だ。

 

 ────しかし目が覚めると、彼の背中に謎の文字が刻まれていた!!!。

 

 ヘスティアの論法はこうだ。

 迷える子羊が目の前にいる。

 話しかけたが疲れからか彼は意識を失った。

 これは処女神として救うしかない!

 ならば眷属にしてあげようじゃないか。

 

 結論、ヘスティアはクズ、はっきりわかんだね。

 

 目を覚ましたライトに、彼女は説明した。

 ファミリアとかオラリオとかの事情を。

 因みにライトの名前は、光の戦士から取った。

 彼を殺した向こうの神が、彼のパーソナルな情報を消していたのだ。

 自分は確かに日本人のサラリーマンめいたオッサンだったという記憶は残っているというのに。

 

 故に名前が分からない。困った、じゃあFFと言えば光の戦士だな。

 なるほど、ならば光……光、うんライトでいいか。

 そう言う流れである。

 

 因みに彼の元の姿はリセットされており、銀髪で白い肌の青年になっている。

 向こうの神はその辺も面倒臭かったので、適当にルーネスの見た目にしたそうな。

 しかしライトの中の人はリメイク版を知らないのでルーネスの名前が思いつかなかったのである。

 

 仕方ないね。オッサンだもの。

 

 こうして紆余曲折を経たが、一応ヘスティアファミリアは出来たのだ。

 ところがだ、話を聞いているうちにライトが嫌な事を思いついた。

 というのも彼はここがFFなんか関係ない世界だとすぐに気が付いたからだ。

 

 神様? ファミリア?

 …………ダンまちじゃん!

 しかも目の前の神様がヘスティア?

 ベル君どこだよ! そう思った。

 

 彼は結構原作小説が好きだった。

 むしろ書籍化前のWEB版からのファンだった。

 掃き溜めみたいな量産型異世界チート小説だらけの中で、きちんと主人公の挫折と成長を描いた珍しい作品だと彼は思った。

 

 ハーレム云々はあまり好きじゃないが、ベルとヘスティアの関係性に不覚にも泣いてしまった事は山ほどある。

 そう、彼はベルとヘスティアのカップリングこそ至高と考えるタイプの男なのだ。

 

 そこでライトは恐る恐る聞いてみた。

 時系列が分からないと状況が判断できないと。

 怪物祭っていつ頃です?

 え? 来週くらいじゃないかな?

 駄目じゃん……ベル君いないんだが……。

 彼は絶望に暮れた。

 

 序盤の山場と言うか、ベル君の最初の大きな試練だ。

 このシーンは泣ける。

 弱いくせに頑張っちゃうベル君と、それを心から信頼する神様。

 

 でもこの時期にベル君がいない。

 この事実は大きい。

 つまり自分は、もしかするとベル君ポジにいるのでは?

 しかも冗談みたいな理由でここにやってきた忍者が? いやニンジャが。

 

 これはひどい。

 それならモブ冒険者で、何かこういい感じのファミリアに自分で所属させてくれよ(絶望)

 

 彼は思う。

 今後ヘスティアとどういう関係性になったであれ、何かこういい感じの距離感になったとしたら、ネトラレみたいで嫌だと。

 とまあ……こういう事情があり、冒頭の様にダンジョンアタックを拒否していたのだ。

 

 実は彼、何度もダンジョンには行っている。

 せっかく転生したんだし腐ってても仕方がないと、どの程度戦えるか試したのだ。

 それに好きなラノベの世界であるし、ニンジャであっても戦えるなら自分も体験してみたい、そう思うのは当然の帰結なのだろう。

 結果、初日に12階層までスイスイと進み、あまり見かけないレアモンスターであるインファント・ドラゴンに出くわし、あっさりと殺して帰ってきている。

 

 あまつさえ帰り道に5階層ではぐれミノタウロスに遭遇し、スリケン一発で撃破している。

 FF3において忍者は最強。それは古事記にも記されている。

 それもFC版ならオニオン装備などの一部の装備品以外は全部装備出来てしまうというチート野郎だ。

 その上、コマンドアビリティの【なげる】で使える手裏剣のダメージがエグい。

 故にどれほどダンジョンのモンスターが強かろうと、くらやみのくも以下なら余裕と言うことだ。

 

 そんな彼が恩恵と共に発現したスキルは【クリスタルの加護】である。

 その内容は、光の戦士は次元の壁を越える。

 

 ────その偉業はいつまでも色褪せる事はない。

 

 そんな説明書きがあったが、要はくらやみのくもを倒せるようなステータスをそのまま継承しますよって意味らしい。

 因みにレベル表記は文字化けしていた。

 そりゃそうだ。FFのカンストレベルなのだから。

 それを見たヘスティアは神の集会は暫く出ないぞと青い顔をしていた。

 

 なので彼が問題なく戦える事は実証済みなのだ。

 彼は最初、ダンジョンに潜っては魔石をガンガン拾って生活費を確保した。

 だがミノタウロスを余裕で撃破したシーンをロキファミリアのくっ殺系剣士に見られていた。

 それを彼女から聞いた小人の団長の親指がキュンキュンうずいた。

 

 そうなると当然、強さに対してはガチ勢のあの娘は興味を示す。

 どうしてそんなに強いの等と言葉足らずの質問を連呼。

 こいつはヤベーとばかりにライトは迷わず【とんずら】を使い逃げた。

 

 あそこに関わるとロクな事は起こらないだろうことは確定的に明らか。

 まして自分はベル君じゃあないのだ。

 因みにジョブは忍者固定なのに、今まで覚えたアビリティは使える様だ。

 良かったねライト。

 

 つまりNTR感云々もあり、ダンジョンにいると主要キャラと顔を合せそうだから嫌だという理由でライトはダンジョンに通うのを嫌がったのだ。

 しかしヘスティア、眷属が働かないと金がヤバい。

 これではファミリアを作った意味が無いじゃないか。

 ましてライトは強そうだ。なら稼いでほしいなー、そう思うのだ。

 

 ここにきてあざとさの権化であるヘスティア、最終手段にでた。

 具体的にはライトの横にするすると移動すると、女の女である象徴の向かい合う山脈で彼の腕を挟み込む様に抱きつくと、少し潤んだ瞳でライトを見上げたのだ。

 普段がグータラな彼女でも、ガワは最高級である。

 そんなヘスティアの本気にライトは思わずごくりと喉を鳴らす。

 

「ラ、ライト君? も、もし今週頑張ってくれたら、週末にボクのその、おっぱい揉んでもいいよ?」

「やりましょうっ!!!」

 

 凄まじいレスポンスでライトは答えた。

 その早さはツ〇ッターでフォロワーの無茶ぶりを数時間で叶えろと部下に命じる鬼畜大手携帯キャリアの経営者の様だ。

 

 とにかく解決したようで何よりです。

 それにしてもNTRは嫌だとは何だったのか。

 とにかくこうして、異聞ダンまちは始まるのであった。

 

 

 




ベル「(ギャグ時空には参加したく)ないです」


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ありふれた消耗品アイテムでも、オラリオではチートレベル

本日2話の投稿。
本日はこれで終わりです。



 

 

(仕方ねえ……稼ぐか。ベル君現れるまではしゃあないわな)

 

 結局ライトは主神のお願いを聞く事にした。

 実際お金が無ければひもじい異世界生活になる。

 それはライト自身も嫌だった。

 

 そんな訳で朝からダンジョンに出かける為に外に出たものの、バベルには入らず、中央広場で座りながら塔を見上げていた。

 どうやら面倒だから帰ろうか、でも財布の中が……等と葛藤をしていたらしい。

 

 結局のところ彼が悩んでいるのはひとえに原作知識のせいだ。

 原作を知るからこそ、ファンとしてはベル君の偉業を近くで見てみたい。

 けど現実はどうか。

 ベル君のベの字も見かけない。

 

 それどころか厄介事を避けようにも、向こうからやってきた。

 なにせ彼は気絶している間にヘスティアに恩恵を刻まれたのだから。

 

 ────まあそれはいい。今さらどうしようもねえ。

 

 ライトはとりあえず割り切る事にした。

 当面はヘスティアに飯を食わせつつ、もしベル君が登場したら、ミアハ神かヘルメス神のとこに改宗しよう。

 そうすれば関係は保ちつつもベルのハーレムを邪魔せずに済むだろうと。

 

 ────オレ、ナァーザもアスフィも好きだしな。

 

 と、そう言う事らしい。

 しかし彼の苦難は続く。

 前の時とは違い、正式にヘスティアファミリアの一員としてダンジョンアタックをするならば、きちんとギルドに登録しなければ色々と問題がある。

 そう思って受付に来た訳だが、担当アドバイザーがまさかのエイナである。

 

 全力で向こうからすり寄って来やがる……そう歯噛みをしたところで如何ともしがたい。

 ライトは悟りを開いた修行僧の様なアルカイックスマイルを浮かべ、新人研修的なのを耐えきった。

 

 ────優良ドライバーの30分講習でも辛いのに。

 

 そんな事を考えつつ。

 とは言えエイナの鉄板ネタである”冒険者は冒険をしては云々”を生で聞けて少し嬉しかったようだ。

 実は彼女、前々からライトに目を付けていたらしい。

 

 というのもライトが勝手にダンジョンに潜っていた時の事は、例のアイズに目撃されていた。

 彼女はレベル5の実力者だ。

 そんなアイズの目をもってしても、ニンジャであるライトのスリケンは圧倒的だった。

 

 その事を当然彼女は団長に話したし、無名だがそんな実力者がいるのなら、彼自身の野望もあり興味は沸く。

 結果彼はギルドの担当者に聞いたのだ。

 ライトの特徴を事細かに伝え、出来ればコンタクトを取りたいと。

 

 しかし当然そんな冒険者などいない。

 当たり前だ。登録していないモグリなのだから。

 エイナは自分の仕事に誇りを持って臨むタイプの人間だ。ハーフエルフだけど。

 

 では彼女達アドバイザーはどういうふうに上から評価されるのだろう。

 その基準とは、ズバリ担当している冒険者の死亡率である。

 抱えている冒険者がぼろぼろ死んだらそりゃ、ね。

 

 エイナはそう言う成績的な意味合いでは無く、ただ冒険者たちが無事に帰って来てほしいと願っている。

 故に原作では頼りない(そう見える)ベルにあれだけ親身になったのだろう。

 決してイケメンのショタが好き等と言う性癖の為ではないのだ。

 

 そんな風に仕事を神聖視している彼女からすると、その強いとしてもルールを守らない赤いヤツは許せんッ! そう思うのは当然である。

 そんな矢先に件の赤いヤツがのこのことやってきた。

 

 見た目こそ胡散臭いが、そのメンポの下からは”へへへ……”などヘラヘラしているのが伝わる。

 故に講習に入る前に、小1時間ほどライトは説教を喰らったのである。

 なるほど、原作のあの感じは素なんだ等と感心しながら。

 

 ただし眼鏡が似あう委員長タイプのエイナに烈火の如く怒られ、それを神妙に聞いているスレイする方のニンジャっぽい大男という構図は非常にシュールであった。

 

 さて、そうこうしている間にも時間は過ぎ、結局昼ごろになってしまった。

 ダンジョンに入る許可は貰ったが、まずは腹を満たしてからでいいか、と彼はギルドを出て中央広場に戻った。

 何やら辻売りのパンなんかをモグモグしながら芝生に座っている。

 この男、意外と異世界生活を楽しんでいる様だ。

 

 そんな時に冒険者風の集団が通りかかった。

 どうやら今日は結構稼げたらしく、自然と話す言葉も大きめになっていたのでライトにも聞こえた。

 すると彼らの一人が、19~24階層あたりに出没するレアモンスターのヴィーヴルと言うのがドロップするアイテムがヤバいと叫んでいるではないか。

 

 何がヤバいかと言えば、鱗や爪が落ちてもひと財産になり、さらに涙でも手に入れた日には億万長者レベルで儲かるという。

 しかしヴィーヴルは上半身が女性で下半身が蛇と言う、神話のゴルゴンめいたヤベーやつなのだ。

 故に彼らは、自分らでは無理だけど、そんなレアを拾ってみてーなー! と冗談っぽく話していただけである。

 

 しかしライト、それを真に受けた。

 ヴィーヴルのいる場所、そしてドロップが美味い、その都合のいい部分だけを。

 ならばそれをゲットすれば、こつこつダンジョンに潜る必要は無いのでは?

 そう考えたのである。

 親も親なら子も子である。

 互いにブーメランを投げ合う仲の良い親子と言えるだろう。

 

 それに────とライトは考えた。

 ダンまち云々、原作ヒロイン云々、この際そこはどうでもいい。

 大切なのはこのオラリオ、大歓楽街もあるしカジノもある。

 ならばダンジョンでレアを当て、それを資金にカジノで大儲け、そして歓楽街で豪遊!

 このフローチャートが一瞬で出来上がった。

 

 それを世間では捕らぬ狸の皮算用と言うのだ。

 そうして彼がメンポの下でニヤリと悪辣に嗤ったその時であった。

 

「あのー冒険者様? サポーターはいりませんか?」

「…………ファッ!?」

 

 あまりの驚愕にライトからきたない悲鳴が漏れた。

 

(アイエエエ!? リリルカ!? リリルカナンデ!?)

 

 それじゃあいっちょ乗り込みますか……と思ったところで目の前には見覚えのあるチビがいた。

 というかベルのヒロインその2ことリリルカ・アーデじゃねえか。

 そう慌てようが、ニンジャのメンポのお蔭で平静を装えたライトである。

 

 

 違うだろ。ちーがーうだーろっ! お前はベルのとこいけよー。

 いい加減原作キャラからの接触に疲れてきたライトは心の中でそう罵るも、現実は非常である。

 

「えっと、如何です? リリは結構力持ちなので、装備や道具を山ほど持たせて頂いてもまだドロップを集める余裕がありますよ?」

 

 ────いや知ってるから。縁の下のなんとかってスキルでしょ(真顔)

 

 そう思いつつ、ライト。

 今回は流石に回避しようと決めた。

 ここで流されたらズルズルと行く。

 けれどフレイヤ様には魅了されてもいいかも……。

 そう強く決意し、彼は言った。

 

「せ、拙者はソロ専門なんでな(震え声)」

「ソロなら尚更ですよっ! ドロップアイテム倍増ですよっ!」

「アッソウ……」

 

 抵抗虚しくさらにグイグイ来るリリルカであった。

 ちきしょうめ、こいつ絶対引かない気だなッ。

 ライトは恨めしく思った。しかし彼は何故一人称を拙者にしたのだろうか。

 

 原作におけるリリルカ・アーデは結構悲惨な生い立ちだ。

 両親が所属していたソーマ・ファミリアで、主神が造る神酒に魅了された両親はダンジョンで死に、その流れでソーマの眷属になるが、団員たちには苛められ金を巻き上げられる始末。

 結果、彼女の中で冒険者イコール糞という認識になる。

 なので金を稼いで今の状況から出来れば抜け出したい等と考える、結構重たいガールである。

 

 ライトはリリルカが引かないとして、次善策に移行した。

 とりあえず連れていく事にはする。

 実際彼女のサポーターとしての能力は高い。

 それは原作にも記されている。

 

 彼女が悲惨な目に遭うのは、偏にスキルは有用でも戦闘には向かないためだ。

 なら連れていって適当に魔石をパクらせれば満足するだろう。

 ライトはそう考えたのだ。

 

 実際彼女が冒険者にすり寄るのは、復讐心と金になるカモであるからだ。

 だがライトにはアイテムボックスめいた持ち物がある。

 どういう理屈かは知らないが、一杯持てるのだ。

 なら高そうなのは自分で持ち、微妙なのをリリルカに任せればパクられても大丈夫、そう言う事だ。

 

 そもそもライトの戦闘スタイルは、数あるレア装備……は使わずに、コマンドアビリティの【なげる】オンリーだ。

 山ほど増やした(ゲームの中で)手裏剣を投げる。相手は死ぬ。そう言うスタイルだ。

 故にリリルカが狙う高額で売れそうな装備なんか持っていない。

 正確には保有しているが装備はしていないのだ。

 実際彼はマサムネなども持っているし。 

 

「あ、うん、じゃ来てもいいよ」

「やったぁ! それでは冒険者様? リリはリリルカ・アーデと言います。冒険者様は何というんですか?」

 

 諦めてそう返事をしたライトに満面の笑みで喜ぶリリルカ。

 その無邪気な様子にライトもほっこりである。

 ならばとライトは立ち上がり、

 

「ドーモ、リリルカ・アーデ=サン。ライト・ニンジャですっ」

「ふぇっ!? あ、えっと、どーも?」

 

 オジギをした。

 人間関係においてアイサツは実際大事。

 それは古事記にも記されている。

 ライトの中の人はニュービーではあるがヘッズである。

 

「と、とりあえずライト様ですねっじゃあいきましょう!」

(こいつ、スルーしやがった)

 

 そんな訳で漸くダンジョンに向かう事になったライトである。

 因みにギルドを通りサポーターを連れていくとエイナに言ったところ、彼を笑顔で送り出してくれた。

 なるほど、そう言う恩恵もあったか、そう思うライト。

 

「よしリリルカ、役目は終わった! もう帰っていいぞ」

「何を言ってるんですかライト様。冗談はその姿だけにしてくださいっ」

 

 なお、リリルカは原作同様毒舌の持ち主なのである。

 

 ☆

 

 

 ところ変わってダンジョン内部。

 意気揚々と突入したライトの即席パーティであるが、何故かリリルカが叫んでいた。

 

「ラ、ライト様ッ! 貴方は頭がおかしいんですかッ!」

 

 リリルカめっちゃキレてて草等とほくそ笑むライト。

 

「いやここまで苦労しなかっただろう? ええやん。ガッポガッポやん。お前は金好きやん」

「そういうことじゃなくてああもうっ! こ、怖いんですけどッ!!」

 

 状況を説明しよう。

 バベルの地下にあるダンジョンは、地面に開いた大穴である。

 上層と呼ばれる階層はそれほど強いモンスターも出現せず、駆け出し冒険者の力試しエリアだ。

 

 だがライトは小銭が欲しい訳じゃない。

 楽に儲けたいのだ。

 つまり上層に用はない。

 

 そこでライトはリリルカのリュックを奪い自分で背負うと、小柄なリリルカを小脇に抱えた。

 彼はニンジャとしての身体能力をいかんなく発揮し、凄まじい勢いで走り出した。

 その間モンスターが立ち塞がるも一切無視で。

 と言ってもモンスターもライトについていけないので怪物進呈によるMPKなどは発生しない。

 

 リリルカと言えば尋常じゃない速度に一瞬で気を失った。

 それ程の速度だ。

 あまりの速さに彼の足が踏み込む様子は見えず、十傑衆もかくやというレベルだ。

 

 その後目的地である24階層に辿り着くと、そこにあった岩にリリルカを縛った。

 そして彼女のリュックからとある物を取り出した。

 それは特殊な匂いを発し、モンスターを集める効果がある。

 

 勘の良い読者はもうお気づきだろう。

 原作におけるリリルカがベル君を裏切るシーンのアレだ。

 それを気絶するリリルカの頭の上に置いたのである。

 

 結果はこうだ。

 凄まじい勢いでホブゴブリンが集まってきた。

 ホブゴブリンと侮るなかれ。

 

 ハック&スラッシュ系の洋ゲーなら序盤に経験値を稼げる雑魚だが、ここでは違う。

 その身体はゴツく、2メートル以上もあるのだ。

 こんなものが集団で囲んでくるなど恐怖しかない。

  

 ライトはリリルカを餌にモンスターを集め、離れた場所からスリケンを投じて作業の様にスレイしていくのみだ。

 完全なる効率厨の姿がここにあった。

 

 とは言えギャーだのモーだの叫ぶモンスターの騒がしさに、リリルカは目を覚ました。

 視界に飛び込んできたのは、小さな小人族をおいしく頂こうと殺到する巨人の群れ。

 ……リリはほぼイキかけましたよ。とは彼女の後日談だ。

 

 それに気づくもライトは「リリルカ涙目すぎワロタ」等と血も涙もない発言。

 あまりの恐怖に絶叫するリリルカは何も間違っていない。

 

 だがライトとしては苛めている意識など無い。

 なにせスリケンの前にモンスターなど等しく雑魚である。

 故に一投で確殺できるのが分かっているからこその効率プレイである。

 もちろんリリルカには知った事ではないが。

 

 ライトの目的であるヴィーヴルはレアモンスターである。

 なので早々お目にかかる事はないのだ通常は。

 アンツィオ高校の生徒の様にノリと勢いと下種な目論見でここにやってきた彼であるが、いないならいないなりに稼ぐかと、ワラワラ歩いていたホブゴブリンに標的を変えた。

 

 それでも匂いはいつまでも続かない訳で、やがてモンスターの群れはいなくなった。

 漸くこの地獄は去ったかと安堵の溜息を漏らすリリルカ。

 

「ううっ、もう帰りたいです……ライト様帰りましょうよ~」

「ええ……来たばっかやん」

「だってぇ……もう結構な額になりますからぁ~ってヒャアっ!? ちょっとやめてくださいよ! くすぐったいですって! セクハラはやめ……えっ?」

 

 一難去ってまた一難か。勿論それはリリルカにとってだが。

 見れば岩の陰からにょろりと蛇の尻尾、それもぶっといのが出てきた。

 ヴィーブルである。ざっくりと9メートル近くはありそうな程の巨体だ。

 その尻尾が興味深そうにリリルカを撫でていた。

 

「ちょ、えっ、ちょっ!? これリリ死にますってイタタタタタっ!」

 

 そして尻尾はあっという間にリリルカに巻きつくと、そのまま締め上げたのである。

 まるでコントみたいなリリルカのリアクションがツボに入ったライトだったが、目的のモンスターが自分からやってきたのだ。この機会を逃してはたまらんと颯爽と躍り出て、

 

「イヤーーッ!」

「ア、アバーーッ!」

 

 首がポーンと飛んでいった。

 スリケンでワンパンである。

 白目を剥いているリリルカを放置し、ライトは疾風迅雷の速さでリリルカのリュックから空のポーション瓶を取り出すと、ヴィーヴルの首に駆け寄り────。

 

「ヴィーヴルの涙、獲ったどーーーーーーーーーーっ!!!」

 

 会心のガッツポーズをしたのであった。

 そして燃え尽きるヴィーヴルの死体。

 なんとそこには鱗も爪も転がっているではないか!

 

 ライト、まさかのレアドロップのコンプリートである。

 そして彼はもうダンジョンには用はないとばかりに帰り支度を始めた。

 

 巨大なリュックにリリルカを放り込んで背負う。

 そして自分の持ち物から青くて気持ち悪いアイテムを取り出すと空に放った。

 

「ラッコのあたまをポーイ!」

 

 その瞬間、ライト達は泡のように消え、ダンジョンの前に立っていた。

 そうこれはダンジョン探索のお伴、ラッコの頭である。

 効果はもちろんドラクエで言うとリレミトだ。

 このアイテム自体、神々の間で物議を醸しだす恐れがあるがバレなきゃ無いのと同じである。

 

 ラッコと言ってもガチのラッコのでは無い。

 あくまでもそれっぽいキノコである。

 

 こうしてライトの本格的なダンジョンアタックは無事に終わったのである。

 そしてこのアイテムがこの後、とある場所で悲劇を巻き起こすのだが、それはまた別の機会に。




ベル「爺ちゃんの墓守、そんな生き方もあるよね」
村人「は、早くオラリオに行った方がいいんじゃ(震え声)」


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酒は呑んでも飲まれるな

本日最後の投稿です。
最初にある程度雰囲気がつかめる程度の話数を出したかったというのと、書き溜めが10万字ほどあり、変なとこで切って推敲しながら投稿している関係で、3話でキリが良かったという事情がありました。なにとぞご理解下さい。


 夜の闇に包まれたオラリオ西地区。

 そこにある冒険者たちがよく利用する酒場、豊穣の女主人は賑わっていた。

 それはロキ・ファミリアが遠征成功の打ち上げを行っていたからだ。

 

 主神であるロキは可愛い子供たちが無事に帰ってきてご満悦だ。

 その楽しい気分からか、しきりにお気に入りの剣姫にちょっかいをかけ拒否されるという行動を延々とループしている。

 その姿は新人歓迎会で可愛い女社員に「仕事とは~」等と誰も求めていない蘊蓄を垂れ流すサラリーマン上司めいている。

 

 その反対側の席では狼人のベートがチラチラと剣姫の様子を窺い、フィンとガレスはボソボソと何やら会話をしている。

 互いに新人の頃は犬猿の仲だったが、古参になった今では軋轢も無い様だ。

 

 ここではよく見かける光景である。

 それ以外にも客で埋まっている。

 そんな中を泳ぐ様に可愛らしい従業員が酒を料理を運んでいた。

 

 その時だった。

 バーン! と入り口のドアが開いたのは。

 これには酔いを楽しむ客達も反射的に入り口を見てしまった。

 

「FOOOOOOOOOOOOOOOOOO↑↑↑」

「よっ! ライト様っ! 素敵ですっ! 大冒険者様っ! カッコイイヤッター!」

「ライト君、ボクは信じてたよっ! 君は今、最高に輝いている! カッコイイヤッター!」

 

 入ってきたのは赤装束の大男だ。

 大声で奇声を発しながら、ズンズンと大股歩きで店に入ってきた。

 おそらくその表情は愉悦に染まっている。

 メンポで見えないけれど。

 

 そんな彼の脇に控える小人族の少女が合いの手を飛ばし、黒髪ツインテールに巨乳で白いボディコンワンピースと言うあざとい神様が男の腕を抱え込む様に抱きつき、その胸にスリスリしている。

 その顔には満面の笑みが浮かんでいるも、如何せん瞳がヴァリスマークだった。

 

 構図としてはその店のNO1とNO2のキャバ嬢と同伴出勤するオッサンである。

 そんな異形の集団の襲来に、そこにいた客はシーンとなった。

 控えめに言ってドン引きである。

 天下御免の女傑と呼ばれているここの主人、ミアですら思わずごくりと唾を呑みこんだ程だ。

 

「そこな女将ッ……!」

 

 赤装束のニンジャことライトは、尊大さが天元突破した様な姿勢でミアに向かってそう言い放った。

 カウンターの向こうにいるミアに向かって指をさしているが、見下し過ぎて逆に見上げてしまっている。

 

「な、なんだい」

「この金でたらふく飲んで食わせてくれ! なあに釣りは要らない。なんだと、それでも余る? ならここにいる全員の会計、オレが受け持った!!! お前ら、呑めっ騒げっ!!」

 

 ライトがどこからともなく取り出した布袋は緩やかな放物線を描いて放られ、そしてズシンッ!! とやたらと重量感のある音と共に、ミアがいるカウンターの上に着地した。

 

「「「「う、うおおおおおおおおおおおっ! 赤い人ありがとー!」」」」

「なるほど、いいよ。金持ちは大歓迎さ。んじゃあ覚悟してなっ!」

 

 場は一瞬で沸騰した。

 もちろんいい意味だ。

 酒場の客って言うのは現金な物で、よそ者だろうが豪儀なお大尽は大歓迎なのである。

 店も金払いの良い客は大歓迎。

 どこの世界でもタダ酒ほど美味い物は無い、そう言う事である。

 

 赤い人ことライトは、空いた席に辿り着くまでにいた従業員たちにチップを握らせていく。

 この瞬間、ライトはこの店にとって最高の客であると認識されたのである。

 その証拠に一瞬で満面の笑みを浮かべたアーニャ店員が、あざとい神様と反対側の腕に絡みついた。

 

 これはサービスでは無い。マーキングだ。

 この素敵な客は自分のものにゃ! そう言う事である。

 出遅れた女従業員たちはグヌヌと悔しがっている。

 若干一名、呆れたように溜息をつくリオン店員だったが、きちんとチップはせしめている。

 

 席についたライトはおもむろにメンポを外し、その両サイドにはヘスティアとリリルカが着席。

 

 それと共にミアから指示されたこの店最高級の酒を店員が持ってきた。

 メンポの下はルーネス風のイケメンな訳だが、今は成金感が凄い。

 感? いや、成金そのものである。

 そしてジョッキを持つと、ヘスティアとリリルカもグラスを掲げた。

 見れば他の客もサービスされたジョッキを持っている。

 

「それでは皆の衆、この良き日を祝し、乾杯!!」

「「「「「乾杯!!!!」」」」」

 

 そして一斉にジョッキが合された。

 宴の始まりである。

 

 さてなぜこんな事になっているかと言えば、ダンジョンから戻ったライトはエイナの所に向かい、これを売りたいんだが? とドヤ顔をした。

 エイナはひっくり返る程に驚いた。

 初日に24階層まで行った事への説教も忘れて。

 

 なにせヴィーヴルのレアドロップだ。

 ライトは知らなかったが、そもそもヴィーヴル自体が希少過ぎるレアモンスターだ。

 故に行ったから出会える訳じゃない。

 

 さらには基本は落ちてもせいぜい爪や鱗程度だ。

 それでも高額では売れるが、それ以上に貴重な涙、これを彼はゲットしている。

 そこでエイナは震え声で言った。

 鱗や爪は買い取れるが、涙はやべえ。好事家がいくらでも金をだすレベルでやべえと騒ぎ、その興奮になんだなんだと集まってきたギルド関係者たちの助言により、オークションに出す事になった。

 

 とは言えオークションとは落札されて初めて値段が確定する。

 だが涙は確実に売れるだろう。ギルドはそう判断した。

 そこで過去に落札された涙の最低価格、その20%に相当する現金を仮払いとしてライトに支払うと決まった。

 そこに鱗と爪の売却額も合わさる。それがライトが手に入れたあぶく銭の詳細であった。

 

 売れてもいないのに現金を渡す事はリスクが高いと普通は考えられる。

 だが気の大きくなっているライトは、ギルドには手数料として15%渡すと宣言。

 それを聞いたギルドの偉い人や、上から聞こえてくるウラノ……天の声さんは大歓喜である。

 エイナ職員もウラノ……天の声さんに「この冒険者を見事管理した」と一時ボーナスが貰える事になりご満悦だ。眼鏡の輝きがいつもより2割増しである。

 

 だがその時リリルカに電流走る────!

 

 これはもしかして千載一遇のチャンスでは?

 このビッグウェーブに乗らなければいけないのでは?

 

 これまでオラリオの暗黒面をどうにか乗り切ってきた猛者であるリリルカ、すかさず行動に出た。

 彼女は盛り上がるギルドメンバーを尻目にライトを部屋の隅に引っ張っていく。

 そして首を傾げるライトをしゃがませると、その腕を抱きしめ、そして上目遣いで甘えた。

 

 実はこのリリルカ・アーデ。

 パルゥムとかいうチョコのソースがコーティングされている至高のアイスみたいな名前の種族である。

 なので種族特性で成人でも小さい。

 

 因みに小人と言えば例の有名な指輪にまつわる物語で、あの指輪を火山に捨てに行く種族を容易に想像できるが、あれはトールでキンな人の創作ワードなので著作権がある為に使えないのだ。

 

 さてそんな小さなリリルカだが、実はかなりグラマラスなスタイルをしている。

 特にそのバストは豊満である。

 彼女は普段、場末にも程がある宿に下宿をしているが、暗黒面を生き抜いて来た知識からか、女としての身嗜みは人一倍気を使っている。

 

 故にライトは怯んだ。

 なんだこの良い匂いは!? そして柔らかい。

 やめろ原作キャラめっ! オ、オレを落そうとしているな!?

 オレは原作キャラになど負けないっ! 

 そして放たれた彼女のセリフ、

 

 リリィ……ファミリアやめたいな~? やめるお金出してくれたらぁ……ライト様になんでもしちゃうのにな~?(チラッチラッ

 

 ええんやで^^

 

 ライトの返事は早かった。

 即落ち2コマどころか若干食い気味である。

 そして彼はギルドから大量のヴァリスをせしめると、その足でリリルカが所属するソーマファミリアに向かい、団長とソーマの頬を文字通り札束で叩いて辞めさせた。

 

 オラッ! 退団するにはナンボや! 1千万か? 2千万か?

 ほなこいつは貰ろてくでぇ~?

 まいど。

 

 その清々しい程のお大尽っぷりは密かな伝説として後世にも伝わったという。

 ついでにヘファイストスにも主神のこさえた借金を返し、ボロ教会に帰還したライトは、涎をたらして寝ていたヘスティアを叩き起こしてリリルカを眷属にさせると、祝賀会をするとここへやってきたのである。

 

 要は思わぬ大金、それも億万長者レベルを手にしたライトは調子に乗った。

 その姿はまるで、何となく買った3連単の万馬券を的中させたオッサンが、キャバクラで金をばらまき、更にはソープを2軒はしごする様に似ている。

 

 完璧なサクセスストーリーである。

 が、しかしライトは忘れてしまったのだろうか。

 ベル君ハーレムのうち、主要な二人の心を既にガッチリと掴んでしまった事を。

 

 さらにはそこにロキファミリアの面々がいる。

 ましてやヘスティアを連れてきた事でロキがアップを始めている。

 いいのか。それでいいのかライト。

 ウチら冒険者やぞ。

 

 その後はタダ酒をかっ食らう客達で盛り上がる店のなか、案の定「このドチビが偉そうに!」「なんだと! この絶壁が!」みたいな見苦しいマウントの取り合いを神たちが繰り広げ、その横でライトの強さの事を思い出したアイズが彼に突貫したのである。

 

 とは言え、思わぬ収入で気が大きくなっている癖に、如何せん酒が弱いライトは既にヘベレケ。

 しかも泣き上戸で、アイズを横に座らせると、お前はその露出の多い服はやめろ。横乳ほぼ見えとるやないかと泣きながら説教。

 実際彼女の戦闘服は身を守る気があるのかと小一時間ほど問い詰めたいスタイルだ。

 

 そこに密かに狙っていたアイズに迫られているライトにイラっとしたベートがやってきたが、ライトの意見を聞くと大きくうなずき、一緒になってアイズに絡んでいた。

 横で戦う身にもなれ、つい見ちゃうだろバカと。

 

 しかしそこにガチレズエルフが待ったをかけた。

 ちょっと待ってほしい。

 アイズの横乳は神が与えた宝であると。

 ロキもそれを肯定し、むしろ横乳見える系の服は自分が買い与えているなどと暴露。

 

 混乱を極める豊穣の女主人だったが、謎の説教を受けてオロオロしたアイズが酒を呑んでしまい、酒乱を発揮した結果店は爆発した。

 なお修理代はライトが払った模様。

 

 そう、今日もオラリオは平和なのであった。

 

 めでたしめでたし。

 

 

─────────────────────────────────────────

 

 (これまでのあらすじ)フレイヤ・ファミリアの手練れ、オッタル。草木も眠るウシミツアワー。荘厳なるバベル・スゴイタカイタワーの最上階で彼はフレイヤに命じられた。「あの子が欲しいの」神様の命令は絶対である。そんな狂信者めいた思考の下、オッタルは動きだした。

 

 見事なアンブッシュと言えよう。夜の闇に包まれたオラリオの南東地区、ここは眠らない街だ。行き交うオイラン達に男たちの欲望が溢れる。そこを歩いていたライト・ニンジャを静かに付け狙い、暗がりの路地に差し掛かった所でオッタルは躍り出たのだ。

 

「……オヌシにはこれから少し付き合って貰おう、イヤー!」なんとオッタルはアイサツもなしに恐ろしき大剣を振りきった!サツバツ!「なんたるシツレイ! オヌシはアイサツもなしに襲うか!」抗議めいたライト・ニンジャだったが、アイサツ前のアンブッシュは実際一度なら認められる。

 

 だがライト・ニンジャはオッタルが放つ斬撃をスウェーバックで躱しながら4連発のスリケンを放つ!ゴウランガ!そして仕切り直しとばかりに彼は見事なオジギを見せる「ドーモ、オッタル=サン。ライト・ニンジャです」「ドーモ、ライト・ニンジャ=サン。オッタルです」見事なアイサツが交わされた後、イクサは勢いを増した。「イヤー!」「イヤー!」「イヤー!」「イヤー!」「イヤー!」「イヤー!」どちらも一歩も引かない!タツジン!

 

「俺は神にオヌシを連れて来いと命じられた。だが俺はオヌシが憎い。あの神に気に入られるなど許されぬ!だから死ぬべし。ライト・ニンジャ殺すべし!イヤー!」「なんたる狂人のセリフか。ならばせめて苦しまずに殺してやろう。オッタル=サン、ハイクを詠むがいい。カイシャクしてやる!」

 

 勢いの増したフラッシュめいた交錯に闇が切り裂かれる。「イヤー!」「イヤー!」「イヤー!」「イヤー!」だがオッタルのスタミナが落ちてきた。明らかにスシが切れている。それを見逃す程ライト・ニンジャは甘くなかった。「イヤー!」「イヤー!」「イヤー!」「イヤー!」「グワ、アバーー! サヨナラ!」憐れオッタルの大剣は爆発四散。不壊のバフもライト・ニンジャの前では無意味であった。

 

─────────────────────────────────────────

 

 おまけ。ある日のライトのモノローグ。

 

 なんでオッタルが来たし。

 ベル君のとこいけや。

 

 いやギルドからこの前オークションに出したレアアイテムが売れたから取りにきてーって言うんで行ったんだ。

 持ち物にいくらでも入るからそこにヴァリスの山をザバーっと入れた。

 最初に手付けで貰った額の数倍以上。なんだよこの金貨の山は。

 エロ本の裏にある胡散臭いパワーストーンの広告かよ。

 庶民エイナが白目剥いてて草。

 

 んでまあ儲けたから、折角だし?

 豊穣の女主人にでもよって、持ち帰りで豪華なメシでも買って帰るかと思ったんだ。

 リリルカも結局うちに居着いたしさぁ。

 事あるごとに可愛さアッピルして金をせびろうとしてくるけど可愛いからね仕方ないね。

 

 と言っても一応神様もいるし?

 メシ食わさないとね。

 だからうちのホームと同じ西地区にある豊穣の女主人に向かった筈が……あれ~? おっかしいなぁ?

 気が付いたら南東区画にいたわ。

 

 しゃあねえな、そしたら歓楽街に寄るしかないよな。

 いや~たまたま目の前にあるし仕方ない仕方ない。

 本当は帰りたいけどまあ行くか。

 ヒュリテ姉妹の貧乳の方みたいなアマゾネスおらんかな。

 褐色の貧乳とか最高やで。

 

 とか考えながらデヘヘとこれからのピンクな展開を想像しつつ大通りで笑ってたら、褐色のガチムチに引きずられて墓地まで連れてこられた。

 どういうことなの……。

 しかもだよ、今日はオフだからニンジャスタイルじゃないからね。

 一般人だよ一般人。

 

「えーっと? 最近冒険者になったばっかのニュービー相手に何してんのお前」

 

 つい真顔で言っちゃったよ。

 

「お前は相当の実力者の筈だ。その力、試させて貰うぞ」

「ちょ、問答無用かよ。…………ってイヤーッ!!」

「あ、アバーッ!?」

「あっ……反射的にやっちまった。その、なんか、ごめん」

「………………」

 

 いきなり大剣抜いて突っ込んできたからビビってスリケン投げちゃったよ。

 そしたらオッタル、咄嗟に剣でガードしたんだけど、真ん中からボキって折れたわ。

 あれ、こいつの剣てデュランダルとかついてんじゃねえのかよ。

 

「あの、因みにそれナンボしたの?」

「………………〇〇〇ヴァリスだ」

「ファッ!?」

 

 素直に答えるのな。

 ってか若干しょぼんとしてるし。

 なんかすまん……。

 でも今のオレ、結構金持ちだけど、襲われたのに払う気にはならん。 

 

「お、お前がいきなり襲ってきたからだからっ! お、オレは悪くないっ! 【とんずら】 あーばーよー! お前の主神ビーッチ!」

 

 オレは逃げた。

 そのための【とんずら】

 剣を見ながら真顔で立ち尽くすオッタルは追っかけてこなかった。

 

 でも一応、頭に来たから捨て台詞残してきたぜ。

 ははっざまぁないぜ!(カミーユ並感)

 

 ……あれだな、素直に帰ってればよかったな。

 とりあえずミア母さんとこ行くか……。

 うん、それがいい。

 

 最近調子に乗っていた事を少し反省するオレであった。

 

 




ベル「いやー村の人が勧めるし、だったら行ってみるかな? ハーレムとか、きょ、興味あるし」
ベル「あーもうすぐオラリアだけど夜になっちゃったしこの街で一泊しようかな。メレン? へー港町で魚が有名なんだー楽しみだな」
ニョルズ「そこな少年、魚はいいぞ」

翌日、元気な姿で漁船に乗る白髪の少年が目撃されたという。


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世は常にインガオホー

第一章「農民脅迫!英雄ベル・クラネルの逆襲」

メレンでの漁業を終えて迷宮都市オラリオへ向かう未来の英雄ベル・クラネル。しかし旅の疲れからか、不幸にも黒塗りのリヤカーに追突してしまう。祖父の名誉をかばいすべての責任を負ったベル・クラネルに対し、リヤカーの主、農業系ファミリア主神デメテルに言い渡された示談の条件とは………。


「リリルカ君、昼間っから呑む酒って素晴らしいとは思わないかね」

「ライト様、見てください。冒険者がバベルに向かっていきますよ。憐れですねぇ」

「それな。底辺労働者の世知辛い事よ」

「ライト様? リリ達の事を世間では何というんでしたっけ?」

「勝ち組と言うのだよっ!」

「「くふーーーー♪」」

 

 豊穣の女主人に客はライトとリリルカしかいない。

 当たり前だ。現在の時刻は昼過ぎ。

 冒険者じゃなくとも労働に勤しんでいる時間帯だ。

 

 二人の両脇にはシル店員とアーニャ店員が陣取り彼らに酌をし、ツマミを口に運んでいる。

 完全にキャバクラである。しかもシルとアーニャの顔面偏差値の高さを考えれば六本木あたりの高級店もかくやと言うレベルだ。

 だがリュー店員を筆頭としたその他の人間は、彼らを汚物を見る様な目で見ていた。

 

 なにせ表通りを行き交う人々を眺めながら酒を呑み、聞くに堪えない会話を繰り返しては悦に入るという、控えめに言っても人間のクズの様なマネをしているのだから。

 当の本人達は満面のゲス笑いである。

 

 チートはあれど所詮根は庶民。だが大金をせしめたライト。

 そしてその金で忌々しい身分をスッキリできたリリルカ。

 完全に金で身持ちを崩すダメ人間のテンプレートである。

 あれ以降、彼らはダンジョンに行く事も無く、日々遊び歩いていた。

 

 しかし不思議な物で、世の中ツいている時はとことんツいている物だ。

 二人は昨日、連れ立ってカジノに行き、カードで大勝ちしている。

 またもやライトの持ち物には大量のヴァリスが増えた。

 これで彼らは完全に味を占めた。

 

 ────やべえリリルカ、オレたち天下取ったわ……

 ────リリは怖いです。自分の強運がっ……!

 

 思い上がりも甚だしいのだが、こればかりは仕方がない。

 因みに彼らの主神は、ライトから貰ったお小遣いで買い物三昧だ。

 そして神友であるミアハの所に行き、意味も無くポーションを買ってはマウントを取っている。

 そろそろお前らしっぺ返しを喰らうがいい。

 

 リリルカはまだ同情できる。

 なにせロクな人生を送っていないのだから。

 だからこそ、この位のはっちゃけっぷりは許されてしかるべきだ。

 しかしライトの場合はそうじゃない。

 いまの彼の頭の中は「異世界チョロイwwwww」である。

 

 しかしここはただの酒場では無い。

 そう、豊穣の女主人である。

 店主であるミアは、恰幅のいいオバハンと見せかけて実はレベル6の元冒険者である。

 さらには先日にライトに絡んだオッタルが台頭する前のフレイヤファミリアの団長である。

 そう、彼が去り際にビッチと言い放った女神の事だ。

 つまり、

 

「いつまでも下品な呑み方してるんじゃないよっ! 目障りだ、出ていきなっ!」

 

 ライトたちのケツを蹴り上げ追い出したのである。

 残念でも無いし当然である。

 こればっかりはライトも分が悪い。

 当たり前だ。ここはヘスティアのホームと同じ地区にあるのだ。

 冒険者でこの店を出禁にでもなれば、その噂はその日のうちに知れ渡る。

 

 結局二人は小声で悪態をつきながら帰って行ったのである。

 そして彼らが先ほど悪態をついて悦に入っていた見知らぬ人らがいまの彼らを見たらきっとこう言うだろう。

 

「おまいう」と。

 

 

 ☆

 

 

「くそう……赤い髪の奴にはロクな奴がいないな」

 

 ライトは昼下がりの大通りをブチブチ文句を言いながら歩いていた。

 赤い髪で胸の薄い方には風評被害も甚だしいが。

 というのも先日、鍛冶神ヘファイストスがホームに襲来し、ヘスティアを筆頭にファミリアの面々に説教をしたからだ。

 曰く、大金を得ても素行が悪ければ悪目立ちをするでしょと。

 

 全く持ってド正論である。

 ぐうの音も出る訳も無い。

 ましてヘスティアは経済的に安定したなら、眷属を増やす努力をするべきでしょう?

 そう畳みかけられると、あざとく頬を膨らませながら言い訳を繰り返し、結果正座をさせられていた。

 

 結果、ヘスティアファミリアに下されたヘファイストスの裁定は────。

 

 ①廃墟の買い取り。自分たちの名義にして、あとはきちんと維持をしなさい。人生舐めてるといつだって没落の恐れがある。だから責任を持ちなさい。

 

 ②ヘスティア・リリルカの両名はとある揚げたイモの屋台でバイトをしなさい。給料の高い安いではない。人と接してお金を稼ぐ事の大切さを学びなさい。

 

 ③ライトは1か月の賭け事、色町の出入りを禁止。賭け事と一攫千金以外のレア狙いでは無く、自分の才覚で金策をする事。だって貴方は団長なのだから。

 

 どれもこれもド正論過ぎて今更感が凄いが、ヘスティアファミリアの最近の状況を考えれば、ここで手を打たないといけないという危機感がヘファイストスにはあったのだろう。

 

 とは言えヘスティアもリリルカも根は素直で優しい(震え声)だから心配はないだろうが、この男、ライトは違った。

 なぜ自分がいつの間にか団長になっているのか、コレガワカラナイ。

 

 現状、確かに金はある。

 商売をするというのなら、初期投資には困らないだろう。

 だがしかし、ライトの中の人の前世はただのサラリーマンである。

 しかも上昇志向の欠片もなく、定時に帰り給料さえ貰えれば満足と言う底辺の。

 

 彼が勤務していた企業は一応大手だが、彼がそこを目指した理由は、残業代や手当がきちんと出て休みも多そうという不純な理由である。

 

 故に本気を出せばおそらく瞬間的には優秀なのだろうが、如何せん何かを産みだすというクリエイティブさは欠片も持っていない。

 起業? やだよ怖い。こんな感じで。

 

 ただヘファイストスに課せられた試練も実は理に適っている。

 ダンジョンに行かないのなら、それに変わるファミリアの方向性を決めねば未来はないのだから。

 それこそヘファイストスファミリアは鍛冶と信頼された自社ブランドと言うオンリーワンだし、ミアハファミリアは落ちぶれているにしてもポーションと言う強みがある。デメテルファミリアの麦の館に至っては、この広大なオラリオの台所をモロに支えている。

 

 そう、ざっと見ても別にファミリア=ダンジョンという訳でも無いし、むしろダンジョン系以外の方が稼いでるまである。(なおミアハは除く)

 そんな訳でオラリオの街をブラブラしつつ、いかにもビジネスチャンスを探す体を装っていた訳だが────。

 

「なあお姉さん、このポーションおかしくない? 値段の割に効果が微妙なんだけど?」

「あ、いえ、そんな事はありませんよ? お客様の怪我が恐らく深かった……そう言う事ではないでしょうか?」

「確かに……あのクソウサギ共に囲まれ……うーん」

「ならば今度はこちらをどうです? 値段は張りますが……命あってこそですよっ?」

「ハイポーションかぁ……うん、じゃ3本程買うわ。これは大丈夫だよね?」

「ミアハ印のハイポーションですからご安心を!」

 

 そんなライトの耳に騒がしい声が聞こえてきた。

 何となく足をとめて耳を傾けてみると、何やらもめているらしい。

 そこは青の薬舗、ミアハファミリアが経営する道具屋である。

 

 見れば冒険者風の男性が、カウンターにいる店員に詰め寄っている様だ。

 さもありなん。

 ポーションは低級の物でもそこそこの値段がする。

 

 ダンジョンでは油断をすると簡単に死ねる関係で、この手のアイテムは基本的に高値に設定されている事も実際多い。

 しかし現実として命あっての物種であるし、冒険者たちは必要経費であるとある程度は割り切っている。

 だがそこにいる冒険者のクレームの様子を見ると、何となく頭に引っかかりを覚えたライトであった。

 

「なあそこの冒険者さん」

「ん? なんだアンタは。ってすげえ赤いな」

「そこは気にするな。で、何かもめてたみたいだがどうしたんだ? ほら、そこのカフェで奢ってやるから話を聞かせてくれないか?」

「うーん、気になるって奴なのかな?……しょうがないにゃあ。いいよ」

 

 そして冒険者は色々囀ってくれた。

 曰く、ディアンケヒトの所は愛想が悪いから、気まぐれにミアハのポーションを使ってみた。

 曰く、今まで使っていたポーションの感覚で現地で使ってみると、思いのほか回復せずに危なかった。

 なので文句を言いに来たという事らしい。

 

 冒険者はライトの奢りでたらふく飯を食うと、機嫌よく帰って行った。

 一人でテラスでコーヒーを啜るライト。

 ニンジャスタイルで足を組み、コーヒーカップを傾ける姿は非常にシュールだ。

 行き交う人が二度見している。

 そんなライトは、

 

「これはビジネスチャンスだろう!」

 

 勢いよく立ち上がると、凄い勢いで通りに向かって走り出した。

 よく見るとテーブルの上には支払い代金に加え、少し多めの心付けを置いておくあたり、中々彼も粋である。

 

 ところ変わって青の薬舗。

 客足の少ない夕方前。

 犬人族のナァーザは、内心の動揺を隠す事に必死になっていた。

 ああ、ミアハ様、早く帰って来てくださいなどと祈りながら。

 なぜなら、

 

「いやさ、別にオレはいいんだ。商売にも色々あるしね? けどさポーションは駄目だと思うんだ。命にかかわる。それは笑えない。そう思わないかい?」

「いや、そんな事はないですけど……うちのは別に変な物を売っている訳ではないですし……」

「ほう?! なるほどなるほど。では今からオレは客になろう。ほらそこのポーションを売ってくれ」

「えっ、あ、はい。じゃあこれ」

「うん、ありがとう。結構いい値段だね。うん。じゃここにオレが持っているポーションがあります。このポーションと今購入したここのポーション。さあ効果にどれくらい差があるか試してみようか?」

「なっ!?」

 

 完全に悪人ムーブのそれである。

 バリっとしたスーツに身を包んだビジネスマン風の大男が、ネチネチとナァーザに絡んでいた。

 しかしポーションには金を出すし、それ以外の道具も物色するなど、客としての最低条件をクリアしている為、ナァーザも無下には出来ない。

 何ともいやらしい相手である。

 

 勘のいい読者はもうお気づきだろう。

 このビジネスマンはライトである。

 野良の冒険者から情報を仕入れた彼は、オラリオの北区画にある高級なテーラーに向かうと、吊るしのフォーマルウェアを購入して着替えた。

 もちろん鞄や靴なども高級感あふれる革製である。

 

 そして青の薬舗へやってくると、お宅にも利益のある商談があると話を持ち掛けた。

 と言っても見ての通りナァーザには後ろ暗い所があった。

 そこをライトはちくちくと責める。

 まあ例え話ですが、もし大切なポーションがまがい物だったりしたら、薬師ってどうなるんですかね? ギルドの人とかに聞けばわかるかな? 

 どんどん青くなるナァーザ。青の薬舗だけに(激うまギャグ)

 

 実はナァーザ、ポーション自体はきちんとした物だが、絶妙な割合で希釈している。

 つまり2本の分量で3本になる様に瓶詰しているのだ。

 軽傷ならそう大差はないが、重症だと治癒の時間に明らかな差が出る。

 

 だがしかし咄嗟にポーションを使うシーンとは、概ねピンチであり、そんな時にいちいちポーションの効果の差異など気にしていられない。

 その心理を絶妙についたトリックである。

 

 これは果たして違法なのか?

 オハギの様な禁止薬物が混じっている訳でも無い。

 だが同価格帯に対しての効果は明らかに劣る。

 つまり利益を多く取っているのだ!

 

 しかしナァーザには背に腹を代えられぬ事情があった。

 それはかつては中堅ファミリアだったここが現在の落ちぶれっぷりを見せる原因となった事件に関係する。

 詳細は省くが、パーティーは決壊し、ナァーザは瀕死の重傷。

 PTSDを抱える程の惨劇により、ミアハファミリアは壊滅の危機に瀕した。

 

 ナァーザは片腕がもげたが命は拾った。

 そんな彼女の為にミアハは多額の借金をして、アガートラムと言うオーダーメイドの義手を与えたのだ。

 その借金が現在の青の薬舗の状況の原因である。

 

 ミアハは借金を抱えていてもファミリアを解散させてもいいとすら考えていた。

 大切な子供たちに重荷を背負わせるのは心苦しいと思うからだ。

 しかしナァーザは主神への敬愛、ホームへの愛着から、どうにか借金を返すから解散はしないと頑張っているのだ。

 

 何とも涙ぐましい話である。

 その結果、すこーーしばかりナァーザは守銭奴的なムーブをしてしまう。

 とは言えそれには同情も出来るのだ。

 なにせ必死で借金を減らそうとポーションを作ろうとも、主神が頻繁にお人よしを炸裂させ、利益以上に赤字が増えていくのだから。

 

 その姿はまるで、百姓がひーこら種をまく後ろから、カラスがついばむ様に似ている。

 アワレ。

 

 女としても主神を憎からず想っているナァーザの心境は複雑である。

 優しさの権化とも言えるイケメンミアハ。

 彼のファンも実は少なくない。

 さらにはラノベ主人公ばりの朴念仁でもある。

 そんな恋しい相手に悪態はつけど、嫌いになれないという何とも憎い相手である。

 

 さてそんな彼女を精神的に追い詰めながら商談を持ちかけるライト。

 そう、彼には原作知識がある。

 故にミアハファミリアの過去の事情など知った上でここにいる。

 その上であの冒険者とのやりとりで、劣化ポーションを売っているっぽいという確信を得た事で動いたのだ。

 

 だから返事に困り黙り込んだ憐れな犬人に、ライトはこう持ち掛けた。

 上質なポーション、ハイポーション、そしてエリクサーをオレが持ち込む。

 これをせいぜい売ってくれ給え。

 なあに値段はそのままでいい。ただミアハのラベルを張るだけさ。

 効果は自分で確かめるといい。恐らく君が作る物よりも効果は凄い筈だ。

 

 ざわ……

      ざわ……

 

 そうだな、売り上げの3割を進呈しよう。

 わかるだろう? 君たちは原価の無いポーションをいくらでもうれる。

 なら自分で作ったポーションをどれだけミアハがばらまこうが、オレが渡すポーションを売っている限り利益は出続けるのだ。

 

     ざわ……

 

 ざわ……

 

 どうだい? オレの手を取るかな?

 君は綺麗なのに疲れすぎている。

 オレの薬を売ってお金にも余裕が出来れば、少しは着飾る事もできるだろう。

 そしたらきっと、君の愛しい神様も見てくれる筈さ。

 

           ざわ……

  ざわ……

 

「ナァーザさん、具体的な勝算の彼方にある……現実だ……! 勝つべくして勝つ…!」

 

 そしてナァーザはライトの手を取った。

 まるで悪魔に魅入られたかのように。

 

 ミアハ・ファミリアの快進撃が今始まるっ……!

 

 種明かしをすれば単純である。

 出来れば仕事をしたくないライトが考えたのは、膨大に持っているポーション類だった。

 FF3にはアイテム増殖バグという物がある。

 

 例えば99個あるポーションを先頭に持った状態で、その下に増やしたいアイテムを置く。

 そして戦闘で敵から100個目のポーションがおたからとして手に入った瞬間、何故か下に置いたアイテムが増えるのだ。

 

 ライトの中の人は、ゲームはロマンよりもやり込みと効率と思うタイプのゲーマーであり、チートコードでの改変以外であれば普通に利用する。

 さて例の地球の神様は言った。

 死ぬ直前までもっていたアイテムもそのまま使えると。

 

 そう、つまりはライトの持ち物には増やした消耗品が大量に保存されている。

 さて思い出して貰いたい。

 先ほどライトはナァーザから1本のポーションを購入した事を。

 彼女からそれを渡された瞬間、ライトは密かにほくそ笑んだ。

 

 何と彼は持ち物の最初に99個ポーションを持っていた。

 そしてその下にはエリクサー。

 ……増えていた。中身は別でもポーションなら同じと判断されたらしい。

 ここでライトは確信。これはいけるで、と。

 この確信をもってライトの目論見は成功の芽を見た。

 

 やる事は単純だ。

 増やしたポーション系をナァーザに売らせる。

 いくらでも増やせるのだ。売れた分だけ補充すればいい。

 ただ彼が持ち込んだ物だけはきっちりとナァーザに管理させ、ミアハには配らせない。

 そうする事で彼女は大幅に借金を返せるだろう。

 

 これはナァーザとミアハファミリアに旨みがあり、ここのコンサルタントをしているという体でライトはヘファイストスの追及を躱せる。ついでに金も入る。

 いっそ利益は折半でもいいとすら彼は思っているが、あまりに商売ッ気が無いと逆に疑われるので3割とした。

 これぞまさにウインウインの関係よなとライトとナァーザはゲス笑いをしながらガッチリと握手を交わしたのである。

 

 こうして人助け(ライト主観)とヘファイストスの課題をクリアしたライトは、スキップをしながらホームへと帰るのであった。

 

 だがライトは重要な事をひとつ忘れていた。

 それは……神に嘘は通じないという事を。

 これが後に大事へと発展するのであるが、この時のライトは、一か月後に解禁される遊郭遊びの事で頭がいっぱいだったのである。

 

 

 

 




デメテル「とりあえず貴方、背中を見せるのよ。あくしなさい」
ベル「見せるだけで刻まないんですよね……?」
デメテル「ええ、考えとくわ(刻まないとは言ってない)だからあくしなさいよ」

ベル「(お爺ちゃん・・・オラリオは怖い街です・・・)」
ゼ〇ス「なんじゃベル。ハーレムが中々できない?ベルそれは今すぐ欲するからだよ。逆に考えるんだデメテル神によるおねショタでもいいさって、そう考えるんだ」

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割と真面目なあとがき

作者の想定以上に好評で恐怖で震えています。
評価ゲージ赤いとか精神がクソザコナメクジな作者には心臓に悪い

冗談はさておき、こんなに喜んでもらえた様なので、前倒しして1話を投下します。

次回更新は恐らく日曜。(推敲追い付かないのと連休は今日で終わりなので)

最後に誤字修正送ってくれている方々、本当に感謝しています。
クリック一つで修正できる機能なんてあるんですね……。
今後ともお付き合いいただけたら幸いです。


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インガオホー プレイバックpart2

ベル「あーもうホントにオラリアは怖いなぁ。すっかり農作業で疲れちゃったよ」
ザニス「これは坊ちゃん、疲れはいけねえ。そんな時はホレ、この栄養剤を飲んでスッキリしなよ。あー気にすんな気にすんな。出会った記念に奢ってやるから」
ベル「えー? いいんですか。じゃ遠慮なく。……んくんくっ……うわぁおいしいなぁコレ」
ザニス「(計画通り)」


 レアドロップ売却分の金貨と、無尽蔵にあるポーション類を捌いた事で更に儲けたライトは、ヘスティア・ファミリアのホームの改築に手を出した。

 これはヘファイストスから正式に土地ごと購入した事がそのきっかけとなった。

 

 ────まあ子供として親孝行は当然って言う感じですかね。

 

 オラリオのミニコミ誌の記者の取材に対しライトはキメ顔でそう答えた。

 これによりライト・ニンジャの名声はさらに広がった。

 

 とは言え貧乏ファミリアのサクセスストーリーという美談だけでは無い。

 いい加減ファミリアに眷属を増やそうぜと考えた彼らのマーケティング戦略である。

 

 そもそもミニコミ誌、或いはフリーペーパーと言う物は無料で配られるのが定番だ。

 ならば経費を掛けて冊子を作る彼ら編集部はボランティア精神に溢れているか?

 そんな訳などない。

 

 あの手の冊子に載っているクーポンの類いの企業は、それ相応の広告費を払っているのだ。

 例えば小さな枠に三か月間記載すると〇〇十万の様に。

 もちろんこれもライトが編集部に結構なヴァリスを握らせている。

 

『来たれ若人! 集え未来の為に! ヘスティア・ファミリアは貴方のご応募をお待ちしています! 特に英雄願望をお持ちの貴方! ここには貴方の輝かしい未来が待っている! まずはお話から。 応募担当:ヘスティア・ファミリア団長ライト』

 

 ライト・ニンジャの2万字インタビューの各ページの余白には、昭和の自衛隊の募集広告を彷彿とさせるファミリアの募集が自己主張をしていた。

 

 因みに生まれ変ったヘスティアのホームは、地上3階建ての見事な大聖堂風に整えられ、何故か屋上には名古屋城を彷彿とさせる立派な金のシャチホコが鎮座しており、オラリアの西地区の密かなランドマークと化していた。

 

 これはライトの故郷を懐かしむ望郷の念から作られたのだが、毎朝ライトとリリルカは屋上に登り、恍惚とした表情でこれを磨いているという。

 

 そんな生まれ変ったホームの巨大なリビングでは、ライトが腕組みをしながら目を閉じていた。

 

「ライト様、何を難しい顔をしているんですか?」

「メンポしてるのによく分かったな」

 

 丁度バイトに出かけるのに降りてきたリリルカがそう尋ねると、メンポを外して天を仰いだ。 

 

「実はいくつか商売を思いついたんだが、正直人手が足りない」

「あー……まあそうですね。ヘスティア様以外はリリとライト様しかいませんもんね」

「不思議だよな~結構目立ってるのに入団したいって奴こねーもん」

「不思議ですよね~」

 

 意外とウマの合う二人は揃って首を傾げた。

 そんな二人をよそに、実はこのファミリア、あちこちから警戒されている。

 まず団長は常に真っ赤な服で顔を隠した変人であること。

 次にその団長に付き従う小人は、見た目こそ可愛いが弱者に容赦をしない腹グロだ。

 そんな風評が流れているのだ。

 

 原因はカジノである。

 あそこは貧乏人は来れない。

 冒険者でも出入りできるのは、確かな後ろ盾のある者に限られる。

 

 そしてライト&リリが大儲けをしたのは、そんなカジノのVIPエリアだった。

 VIPエリアは別にやんごとなき人のみが入れる場所と言うだけじゃあない。

 賭け金の最低額が頭がおかしいレベルなのだ。

 

 なぜそんなフロアにポっと出の成金であるライト達が入れたか。

 それは偏にヘファイストスの関係者だと匂わせたからだ。

 ファミリアのメンバーとは言っていない。

 ”懇意にしています””よく顔をあわせます”そんなどうとでも取れるワードで相手が勝手に納得しただけである。

 

 そしてまんまと入り込めた二人だが、そこで意味の分からないビギナーズラックを連発したのがリリである。

 小柄で可愛らしく、どこか庇護欲をそそる物腰で油断させ、暗黒面を生き抜いた肝力で鬼の様なブラフをかましてレイズとコールを誘い、相手を恐怖のどん底に突き落とした。

 

 ────ごめんなさい。リリィ……初心者だからよく分からなくて~。ごめんなさいっ♡

 

 とんだ小悪魔である。

 ちなみにライトはと言うと、メンポの奥に光る野獣の様な眼光が醸す言い知れぬ雰囲気で相手を委縮させ勝ちまくっていた。

 結局ディーラーが数人代わり続けても二人は勝ち続けたのである。

 

 そんな武勇伝を築いた訳だが、良い事ばかりじゃない。

 噂好きのVIPの奥方衆が、方々でこの二人の事を話しまくった。

 彼女らにとっては娯楽であっても、噂は間に入る人が増える程に尾ひれがついていく。

 結果、ヘスティアファミリアのド外道団長に腹黒幹部と知れ渡ったのだ。

 

 そうして酷いマッチポンプとも言える広告戦略は、数百万ヴァリスを投じたというのに、あざといヘスティアを生で見たいだけという冷やかしの面接以外に反響は無かったのである。

 これぞインガオホー。自業自得の極みであった。

 

 そんな訳で一向にメンバーが増えない。

 実は例のキャッチコピーをよく見れば解るが、ライトの焦りも見え隠れしている。

 こう見えてこの男、かなりの小心者である。

 

 気が付けばヘスティアの眷属になり、リリルカを何となく救った。

 それは素直に嬉しいと今は感じている。

 何故なら、見た目だけで言えばこの二人、かなりレベルが高いのだから。

 ダンまちにおける可愛い系ヒロインのツートップとも言える。

 

 とは言えライト、実は彼女らにあんなことやこんな事、あまつさえそんな事をする気配も見せない。

 一つ屋根の下に美少女がいる。

 まして彼女らは自分に恩義すら感じている。

 なのに普段の行動はゲスい癖に、女にはからっきしになる。

 何故か。それはヘタレだからだ。

 

 ────やっぱり僕は王道を征く。ハーレムですかね。

 

 そんな風に斜に構えてみても、中の人はただの日本人男性である。

 二次元のハーレムを見てニヤニヤ出来ても、自分でしようとまでは思わない。

 何故か。女の怖さを知っているからだ。

 

 中途半端に女にのめり込み、高額なプレゼントを数々送った挙句に女がフェードアウト。

 彼の女性遍歴の中でそんな事はいくらでもあった。

 いつしか彼はガチの彼女なんかいらない。

 キャバクラとおっパブが至高と言い切るヘタレにクラスチェンジしたのである。

 金の続く間はチヤホヤしてくれるからね、仕方ないね。

 

 故に、純粋なオラリオのヒロイン達の真っ直ぐな好意の視線など怖くて仕方がないのだ。

 なんなのこいつら。パーソナルスペースめっちゃ狭くない? 密かにそう思う事もある。

 いやちょっと待って。純粋?

 カットカットカット。

 訂正。純粋(笑)なヒロイン達の好意的な態度にしり込みするのであった。

 

 故に例の広告である。

 そろそろベル君にも登場してもらいたいし、純粋にファミリアの眷属も増えて欲しい。

 ヘスティア、リリ、ライト、この逆ドリカムみたいな構図はそろそろやめたい、それが本音である。

 ベル君はさておき、複数の人間が出入りするホームになれば、必然と交友関係の密度は薄くなる。

 そうなれば、ヘスティアやリリルカから寄せられる気持ちの真意も伝わるだろうと。

 

 結局まともな志望者はおらず、計画倒れに終わったのであるが。

 この男、中の人は結構いい年の癖に、ここに来ていらんことを考え出した。

 それは”オラリオ生活も結構経つし、そろそろガチのヒロインの一人くらい欲しい”である。

 

 彼はある時ふとそう感じたのである。

 その時はそう、洗濯当番で全員の汚れ物を洗っていた。

 当然そこには神様とリリの下着も混じっている。

 

 教会の裏にある井戸でごしごしとそれらを洗いながら「あれ? もしかしてオレって男って思われてなくね?」と思ったのである。

 考えてみればヘスティアもリリルカも風呂上がりにパンツ1枚で彼の前を通り過ぎていく。

 しかし彼も「おーい湯冷めして風邪ひくぞ~さっさと服着ろ~」「分かってますよーだっ」みたいな感じでスルーしている。

 

 完全に一家の父親ポジションである。

 そう、彼自身も美少女二人と同居しながら、世間的にはラッキースケベと呼ばれるシーンに数々遭遇しながらも、それを特に意識せずに受け入れてしまっているのだ。

 その事に気が付いたライトはがく然としたのである。

 

 考えてみれば彼はこの街で結構遊んでいる。

 しかしその相手は夜のお姉さまばかりである。

 なにせ金だけはあるのだ。

 繁華街に行けばそりゃあモテるに決まっている。

 

 だがそれ以外はどうか。

 何やらヌルいポジションに収まっているではないかっ!

 これでは薔薇色の異世界生活と言えるのだろうか? いや、言えない。

 そこでライトは一念発起とばかりに、ファミリア外にも目を向ける事を決意。

 

 因みにさっきまで新しい商売が云々。

 人が足りない云々の会話は場繋ぎに彼が適当に発しただけである。

 特に意味はない。

 ポーションが売れているだけで充分なのだ。

 

 さてそんな時だった。

 ホームのドアが開けられたのは。

 

「ノックしてもしもーし。すまんが邪魔するでぇ~」

 

 嵐の予感がする────!

 

 

 ☆

 

 

「あっ! ライト、あっちも行ってみよ? なんかいい匂いがする~」

「そーですね」

「むっ、ライト様、あっちの屋台のが美味しそうですよ?」

「そーですね」

「あれ? 髪切った?」

「そーですね」

 

 ライト・ニンジャことライトは、2重の意味で辛かった。

 まず一つ。褐色貧乳美少女と、ロリ巨乳に挟まれてリアルハーレムムーブを決めている事。

 そして怪物祭に二人に拉致られデートをしているが、当然の如くシルバーバックも変な草も出てこない事だ。

 

 後者はベル君が次元の狭間を彷徨っている現状、例の素敵で綺麗なお姉さま女神が動いていない。

 それでもライトはぐぬぬ……と悔しがっていた。

 次の機会ってなると来年じゃんと。

 それはそうだ。年イチのイベントなんだし。

 

 では本題。

 なぜハーレムムーブなのか、である。

 

 時間を少し遡ろう。

 ある日ロキ・ファミリアのロキがヘスティアホームに突撃してきた。

 と言っても含みのあるトリックスタームーブでは無く、何故か胃を押さえながら。

 

 その時ホームにはライトとリリしかいなかった。

 ヘスティアは先にバイトに出かけており、おっつけリリもそこに合流という流れであったし。

 なのでまた後日にでもお越しくださいなと言ったが、帰ってくるまで待たせて貰うわ! とロキは居座った。

 

 しょうがねぇな~とばかりにライトはロキを接待した。

 実はこの男、こういう部分では有能である。

 金を稼ぐには太鼓を持ってナンボよ、そう言う割り切りが出来る社会人なのだ。

 

 酒好きのロキに軽めのワインを出し、チーズなんかをつまみにだし、そしてロキの話に相槌を打つ。

 まあ出てきた言葉はオッサンレベルのセクハラ自慢話8割愚痴2割とクソみたいな話だったにせよ。

 これでロキはライトへの印象を上昇させた。

 

 そこにヘスティアが帰ってきて、また例のマウントの取り合いを経た後、ガチのトーンで神同士の相談になる。

 どうもアイズがライトを所望して煩いのだという。

 強さガチ勢のアイズは、謎の力で強いライトを間近で見たいと考えているらしい。

 実際ギルドにはレベル1で申告しているし、それを疑ったギルド上層部に対し、ライトは堂々と背中の神聖文字を御開帳してこれを証明している。

 

 つまりレベルに囚われない強さこそ、頭打ちを感じているアイズには垂涎モノと言う訳だ。

 だがロキはこう見えて常識人な所がある。

 というか眷属愛が強すぎて、変な所で足を掬われない様にルールはきちんと順守するという責任感を持っているのだ。

 

 そこに目に入れても痛くない程に可愛いアイズにおねだりされた。

 ライトと戦ってみたい。ライトとダンジョンに潜ってみたい。

 ダメ……? 

 

 何だこの可愛い生き物は。

 小首をかしげてダメ? だと。

 口に出さないならいい……でも、口に出しちまったら戦争だろうがっ……!

 鼻血を噴出させて身悶えたロキだが、かと言ってトップファミリアのエースであるアイズが弱小ファミリアに対して関わっていくという構図は色々とマズいのだ。

 

 個人ならいい。

 だがファミリアとなれば下種の勘繰りをしてくる輩はいくらでもいる。

 それにロキファミリアには敵も多い。

 故にロキが慎重に動く事は当然だろう。

 

 けれどもアイズのおねだりは結構な頻度で来るので、色々大変だ。

 そう言う感じで相談に来たロキである。

 懐も温かく、後顧の憂いも一切ない最近のヘスティアは、当初と違い神様ムーブを取り戻している。

 故にバブあじの籠った慈愛の表情でロキの相談に乗ったのだ。

 

 とは言え、神様ムーブは出来ても腹芸が出来る頭脳は無いので、結局腕組みしながらツインテールをあざとく上下するだけだったが。

 そこでライトが言ったのだ。

 

 メンツとかもあるなら、別にオレがサポーターとして参加しますでいいんじゃないの?

 

 ロキはポンと手を打った。

 パリイ! みたいな電球も出た。

 アンタがそうしてくれるなら嬉しいわーと、そうなった。

 

 ヘスティアが若干不機嫌になったが、ライトはまあ待てと押さえ、ロキを部屋の隅に連れていった。

 

 ライト「………………とか出来る?」

 ロキ「マジか。かなんなー。あーでもそうやね…………これならどや?」

 ライト「そう来ますか。じゃいっそ…………とか?」

 ロキ「…………ま、ええやろ」

 ロキ&ライト「「ユウジョウ!」」

 

 そうして話は纏まった。

 おいてけぼりのヘスティアとリリがポカンとしていたが、どっちも損は無いゴール地点が定められたらしい。

 

 そして数日後、未踏階層へのアタックを目的としているロキ・ファミリアの遠征だが、今回は戦術の習熟とバックアップメンバーとの連携向上を目的とし、50階層で帰還するというスケジュールで遠征が開始された。

 そこにライト・ニンジャがリリのリュックを借りて参戦した形である。

 

 ライトにはいくらでも物を持てる謎の持ち物スペースがあるが、なんかこう虚空から物を取り出す姿は実際キモイとリリに言われ、リュックを背負ってきたのだ。

 そして遠征は順調に進み、50階層に達した所で謎のモンスターが突撃してきた。

 

 予想外の出来事に遠征の隊列は分断。

 戦力が分散し、いきなりピンチとなったのだ。

 しかし強さガチ勢のアイズが吶喊。

 必死で隊を落ち着かせようと動いていたフィンが天を仰いだ。

 

 フィン「あ~もう滅茶苦茶だよ」

 ダンジョン「もう勝負ついてるから」

 

 そんな感じで。

 べートとかが必死でアイズのフォローに回るも、後衛陣の足並みがそろわず、そこに別のモンスターにバックアタックされ魔法の詠唱が何度も中断。

 あまつさえ混乱した若手メンバーが闇雲に振るったメイスがリヴェリアの後頭部を直撃。

 結果、魔法のエースであるリヴェリアはア【見せられないよ☆】ヘ顔で気絶。

 

 これはもう全滅もありうる、そんな状況だった。

 が、どうにか鬼の様な一喝で全体を落ち着かせたフィンの号令で、隊は後方に引いた。

 その辺はさすがトップファミリアの貫禄であろうか。

 

 だが吶喊したアイズ、それに付き合うベート。

 そして激しい戦いでバーサク化したアマゾネス姉妹が前線に取り残された形になっているではないか。

 これはマズいとフィンはガレスと二人で救出に行こうとした。

 

 ────まあ待ちな。ここはオレに任せろ。

 

 それはそれは勇ましく、ライトが登場した。

 ふう……などと物憂げに溜息をつき、巨大過ぎるリュックを降ろした。

 そしてライトは赤い閃光となり、膠着する前線に突っ込んだ。

 

 「イヤーッ!」「イヤーッ!」「イヤーッ!」「イヤーッ!」

 

 まあ、いつものスリケンの連射である。

 当然相手は死ぬ。

 それでも以前までの敵とは違い、今回のは結構ガチ目にヤバいモンスターだ。

 流石に一投確殺は出来ず、数発投じて殺すという感じだったが。

 

 ただ身のこなしは流石だった。

 息をする暇も与えられずに触手や溶解液が飛び交う。

 そこをニンジャムーブで躱し、合間にスリケンを飛ばす。

 

 KABOOOOOOOM!!!

 

 そんなアメコミ調の効果音がしそうだ。

 

「ちょ、いやあああああああああッ!!!」

 

 そんな時だった。

 突っ込みすぎたティオナが孤立していたのは。

 ライトは懐をまさぐる。

 !?

 これまで数々のスリケンを投げてきたが、増やすのを忘れていた事に気付く。

 

 そう、慌てても遅い。スリケンの残り残数はまさかの1だ。

 これはライト・ニンジャ=サンのケジメ案件では? 作者は訝しんだ。

 だがしかし、このままではティオナの危険が危ない!

 

 そこでライトはとうとう解禁した。

 大地を踏みしめ手を上に翳す。

 緊迫した場面だというのに、フィン達の目にはまるで時間がスローモーションのように見えた。

 

 フィンは確かに見た。

 何も無い空中から深淵の底の様に黒く輝く異形の剣が降りてくるのを。

 ────くっ、これが本物の勇者だというのか……?

 圧倒的な気配に歯噛みをする。

 

 盛り上がっている団長さんには申し訳ないが、単純に持ち物からマサムネを取り出しただけなのであるが。

 ライトは思ったのだ。

 もしかして今のオレ、カッコよくね?

 手裏剣無くなったけどさ、後で増やせばいいからヘーキヘーキ。

 じゃ取りあえずマサムネで。そんな軽い感じだった。

 

 というか彼が密かに憧れていた英雄王。

 宝物庫から乖離剣を抜くときのあの感じヤバくね?

 なのでちょっとマネしてみましたという所か。

 

 そして満足したライトはティオナが囲まれる場所に吶喊し、一刀にて証を示すとばかりにザバーっとモンスターを処理。

 

 ────だがそのときふしぎなことがおこった。

 

 モンスターが断末魔の悲鳴をあげる中、最後の力を振り絞って溶解液をティオナに向かって飛ばした。

 これには残心したままのライトも完全には反応出来ない。

 だがティオナの姿はどうか。

 すべすべの褐色肌、綺麗な縦長のおへそ、幼さの残る愛らしい顔。

 こんなの傷つけたらあかんやろ。

 

 ライトは咄嗟にティオナを突き飛ばし、液体を顔で受けた。

 ジュウとメンポが溶ける!

 ここで思い出して貰いたい。

 このライトという男。

 普段のゲスっぷりで気付かないが、実はルーネス風のイケメンである。

 

 ティオナの目にはライトがこう映った。

 圧倒的な強さを持ちながら、それでも自分を身を挺して庇ってくれた。

 え、何? この感覚……ライトのあんなに綺麗な顔が溶解液でやけどを……もうバカなんだからっこんなあたしを庇って……トゥンク

 

 アマゾネスとは、強い男の種を欲するという。

 結果、ティオナのティオナがティオナった。

 

 さらに勘違いは加速する。

 見ればライトは地面に蹲っている。

 

 ……ああっ! ライトのダメージがっ! どうしよう。でもなんか、嬉しいなっ

 

 違うそうじゃない。

 ライトは見つけたのだ。

 何かって? 魔石をだ。

 

 ────うほっ、何この魔石凄いでっかいんですけど! いいよね? 貰っちゃっていいよね?

 

 フィン達に背中を見せながらこっそりと魔石を懐に入れた。

 そしてエリクサーを取り出しぐびり。

 まずい~もう一杯っ。

 これでヤケドも消えたのである。

 

 そんな事を経て、地上に戻った一行である。

 本題のアイズはライトのガチな感じを間近で見られたので満足したらしい。

 因みにロキとライトの間で交された報酬代わりの見返りだが、医療系の大手ファミリアであるディアンケヒトファミリアの紹介である。

 ロキファミリアはディアンケヒトファミリアと契約し、遠征の際のポーション等を購入している。

 

 そう、ライトは思ったのである。

 ミアハのところでは確かに売れている。

 だが待て、これじゃあ不公平だよなぁ?

 だったら公平にディアンケヒトの所にも売るべき、そうすべき(ゲス顔)

 欲をかいたのである。

 これが後にあんなことやこんな事に発展するが、それはまた別の機会に……。

 

 そうして地上に戻ったのだが、その翌日からティオナがケーキを焼いたと言ってヘスティアのホームにやってきた。

 ライト食べてっていうので食べた。

 不味くもないが美味くもなかった。

 どうやら初めて作ったという。

 

 その翌日は朝にライトが自室で目覚めると、何故か横にティオナが一緒に寝ていた。

 慌てて自分の様子を見る。

 見慣れた赤装束……うん、何もしてないな。

 

 こうしてアマゾネスの深情けを開眼させてしまったライトは、ティオナに懐きまくられ、ロキがキレた。

 とは言え本人は聞きやしない。

 結局もうどうにでもなれと匙を投げたロキ。

 

 そんな事があり、怪物祭に一緒に行こうと引きずられ街に出たライトなのである。

 ただそれを許すリリルカでは無い。

 この金づ……いや恩人はリリの物。

 ぽっと出の痴女になんか渡してなるものか。

 

 そう、暗黒面から引きずり出してくれたライトという男に、リリルカは執着している。

 実はその素養はあったのだ。

 彼女がどん底で欲したのは、自分を必要としてくれる誰かである。

 両親も酒に迷わされ死亡。ファミリアに自分の気持ちを吐露出来る仲間はいない。

 延々と終わりの無い孤独を生きたリリルカ、そこで培われた執着心は舐めてはいけない類いの物なのだ。

 

 故に”リリもついていきます^^”と満面の笑みでティオナと反対側のライトの腕に飛びついたが、それを後ろから最初は微笑ましく眺めていた我らがヘスティアマッマ、急な吐き気に思わずエズいた。

 危うくゲロインの不名誉を戴冠するところだった。

 ヘスティアには見えた。嘘を見抜く神の目で。

 リリルカの発する、ドロリとした黒い何かを……。

 

 そんな訳でライト君。

 念願のヒロインが出来たよ。

 めでたしめでたし。

 

 




ベル「オラリアに来て大変な事ばっかりだったけど、こんな気持ちになるなんて初めてだ! 身体が軽い、もう何も怖くないっ!」
ザニス「あー……坊ちゃん、こちら会計なんだがねえ」
ベル「なになに……ファッ!? 高っ、えっ、さっき奢ってくれるって……」
ザニス「一杯目はな(ゲス顔)」
ベル「ひ、ひぃっ……だ、誰か助けてッ」
ザニス「へっ、誰も助けになんか来ねえさ。あきらめな」

???「そこまでだっ」
ザニス「誰だッ」
???「フッ、神酒に身も心も溶け、余の顔を忘れた様だな?」カーン
ザニス「余だァ? なーに言ってやがる……ってハアッ!? あ、貴方はソーマ様ッ! ええい、ここに神様がいる訳ねえ。お前ら、神様の名を騙る不届き者だァ。出合え!切り捨てィ!」
ソーマ「未だそちの目は曇っているか。ならばかかってくるが良いッ」




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頑張りさえすれば出来る子って言われる奴は大概出来ない

ベル「神様、僕はここにいてもいいのでしょうか……漁業でもだめ、農業でも、それにあんな酒にやられて……」
???「ベル、お前はもう誰のもんでもねえってことだ。恩を売る気もねえし、どこへ行くなり好きにしな。けどよ、残るってんなら俺が守る。でっけぇ花火打ち上げようぜ?」
ベル「か、神様っ! 僕、イツカ神の眷属になりますっ」



「やばっ、リリ見てみろ。この金貨の山をよ」

「ああ……ダメですライト様……リリ、この中で泳いでみたいですっ」

「それええやん。あとでバスタブに入れて泳いでみようぜ」

「はいっ!」

「はいじゃないよリリ君。それにライト君も! 金貨の中で泳ぐって下品すぎないかなっ!?」

 

 新生ヘスティア・ホームの地下にある幹部専用の小部屋では、机の上にずっしりと積み上がる金貨のエベレストを前に酷い会話が交わされていた。

 一人諫めている風な発言の神様ですら、金色の岩肌に頬ずりをしている。

 

 これはライトが方々で展開しているポーションビジネスの売り上げだ。

 元々はミアハファミリアの弱みに付け込んで始めた物だが、ロキファミリアとのコネが出来てから商圏は一気に拡大。

 時折ポーションやエリクサーを補充に行くだけで、後は座っていれば勝手に金がやってくるスタイルとなった。

 

 最早数えるのも面倒くさい、そんな勢いだ。

 とは言えこうしてライトがわざわざ金をかき集めて神様たちに見せたのは、何も金色を前に悦に入りたいという訳ではない。

 そもそも屋上にある巨大なシャチホコが金無垢であるし。

 それを毎日磨いているのはライトとリリだ。なのでその手の欲求は満たされている。

 

 なら何故か。

 それはこれだけの金があるという現実を認識させる為である。

 普段は金にきたない外道ムーブがデフォルトのライトだが、これでも現代日本と言う、斜陽であっても経済大国で生きていた人間だ。

 その感覚で言えば、確かに稼いだとしても、一か所に大量の貨幣がとどまっているのは良くないと思っている。

 

 要はオラリオに流通しているヴァリス金貨をせき止めてしまえば、その分いくらかは割を食う人間もいるという事だ。

 金は流通して初めて意味がある。

 現在ヘスティアファミリアにある金貨だけならそこまで影響は正直無いだろう。

 だがライトとすれば、金は使ってこそ意味があると信じている。

 

「それでライト様はこれをどうされるつもりなんです?」

 

 ライトはふむ、と頷くと、金貨を掴んだ。

 

「そうだなぁ。うちに人手がいない以上、こっちがメインで動くのは無理だろう? なら最初から他人に任せてしまえば良い」

「ラ、ライト君?! またアコギな事をしようと言うんじゃ……!?」

「ちがうわい! というかまたって言わないで欲しいんだが……。まあいい。要は金になりそうなアイデアはいくつかある。なら、実行できそうな人間が余っている、そんなファミリアに投資をして上前をハネればいい。この金貨は序盤の資金に使うって事だぁ」

「「ほへー……」」

 

 ドヤ顔で言い切るライトだったが、いかんせん神と小人には通じなかった様だ。

 まあそれも仕方ない事かとライトは説明を諦めた。

 そして彼はザックザックとかなりの量の金貨を持ち物に収めると、トレードマークとも言えるニンジャスーツを脱ぎ去り、いつぞやのフォーマルウェアに着替えた。

 

「あのライト様? どこかに行くんですか? リリも行きますよ?」

「んにゃ。とりあえずはオレ一人で行くよ。多分暫く帰らないから、オレが戻るまでは神様の事頼むなリリ!」

「ちょ、ライト君? ボクたちは放置かい?! 置いてかないでくれよ~!」

「ヘスティア様、ああなってはライト様に話は通じません。なのでどこかで豪遊でもしましょう!」

「そ、そうだねっ。その位してもバチは当たらないよねっ! もう~ライト君のバカー!」

「ライト様のバカー!」

 

 そんな風に、事は動きだしたのである。

 

 

 ☆

 

 

(……ライト様、あれから2週間も経つのに帰ってきませんね。リリ達の事、嫌いになっちゃったのでしょうか……)

 

 リリルカは夕暮れのオラリオを一人歩いていた。

 それはライトが手を拡げたポーションビジネスの集金があるからだ。

 色々とまわり、後はミアハファミリアの店で終了だ。

 

 彼女の現在の立場は、ヘスティアファミリアの副団長である。

 そして商業系ファミリアという顔を持つ今、彼女はライトの秘書役とも言えるだろう。

 既にヘファイストスからの試練はクリアしたと認定され、じゃが丸くんの屋台はお役御免だ。

 ただし主神は除く。

 

 しかし団長であるライトが不在だ。

 その事がリリルカの心に影を落としていた。

 最初は何だろうこの変な人は、そう思っていた。

 けれどいつしか、無意識に視線の中に収める様になっていた。

 

 なんでこの人はリリを助けてくれたのでしょうか……?

 

 ずっとそう思っていた。

 それ程にリリルカは、ヒトの汚い部分を見過ぎてしまった。

 誰かに期待をする、けれど期待した結果になった事は一度も無かった。

 

 君は可愛いね。

 

 容姿を褒めた人もいた。

 褒められて嬉しくない者はそういない。

 けれどリリルカは学んでしまった。

 口に出したセリフの後には、声になっていない続きがあるのだと。

 

 小人族は存在自体が蔑みの対象となる事が多い。

 特にこの冒険者の街では。

 一般的な職業で生計を立てている者も多くいる。

 けれど冒険者と言う人外の存在は、力によるヒエラルキーを街の者にも強いている。

 必然、非力な種族は差別的に扱われる事も多くなるのだ。

 

 彼女はソーマ・ファミリアに所属する両親の間に生まれた。

 両親は神酒に狂い、その購入資金欲しさに己の力量に見合わない冒険をして無様に死んだ。

 両親の死を無様と吐き捨てるのは、彼女の境遇をなじる矛先である両親がいないからだ。

 せめて寝たきりでもいい、いてくれさえすれば、文句を言ったり……泣いたりできるのに。

 

 その後、彼女は生きる為にソーマの眷属となった。

 しかしスキルがいくつか発現したがおよそ戦闘に役に立つ物は無かった。

 どうにか一人でも生きてやる。

 両親の様に死んでたまるか。

 その想いから冒険者として生きる決意をしたが、結局自分には何も無い事だけが分かってしまった。

 

 結局リリルカはサポーターという道を選んだ。

 選ばざるを得ないというだけだが。

 最初はファミリアのメンバーのサポートをするが、稼ぎの殆どは彼らが取り、自分への分け前は皆無に等しい。

 

 ソーマファミリアの冒険者にとって、サポーターとはポーションと同様の便利な道具と一緒なのだろう。

 戦闘に役立つ訳も無く、ただやる事は解体とドロップ拾い。

 確かにダンジョンでの効率は良くなるが、逆に言えばいなければ駄目と言う訳でも無い。

 所詮はその程度なのだ。

 

 故に役立たずのチビに何故大金を渡す必要があるのか?

 彼らの論法はそこである。

 単純に、小人族への差別意識。

 そして己も神酒に憑りつかれているから産まれる焦燥感、そのストレスの捌け口としての相手が彼女。

 

 そこで絶望したリリルカはホームを出て、フリーのサポーターとなる。

 野良の冒険者に交渉し、稼ぎを得る。

 下宿先もソーマファミリアから距離を置き、移動もフードを被り、スキルで姿かたちを変化させ、とにかく見つかるまいと努力をした。

 

 それでも見つかれば捕まり、暴行され金を巻き上げられる。

 ダンジョンに出入りする以上、完全に距離を置くのは無理なのだ。

 彼女が深層に潜れるならいい。

 だが実際は行けてもせいぜい中層である以上、行くエリアが被るのだ。

 

 そうしてどうにか生きながらえるが、何故生きているのかが分からなくなった。

 稼いでも巻き上げられ、宿で寝てもいつもビクビクと周囲に神経をとがらせる。

 気の休まる時間なんかいくらも無い。

 何が楽しくて生きているのか迷うのみだ。

 

 ダンジョンを出て清算し、場末の貸金庫に金を隠す。

 小銭を手に屋台で食事をし、日の沈む空を眺めて芝生に座る。

 見れば子供を連れた家族がリリルカの目の前を通り過ぎる。

 今日は何を食べようか。君は今日何をしていたんだ?

 幸せな家族のカタチだ。

 

 ふとリリルカは口の中の違和感に気がつく。

 吐き出してみれば奥歯だった。

 無意識に噛みしめ折れてしまったらしい。

 唇を拭えば血で汚れている。

 

 憎い。幸せな奴がとにかく憎い。

 彼女の頭の中にあるのはその想いだけだ。

 幸い、これまで身体を売らずに済んだのは、いくらでも物を持てるスキルのお蔭だ。

 だからなんだって言うのだ。

 

 いっそ男に身を委ね、金でも巻き上げれば胸も空くだろうか。

 ふと見れば、いかにも駆け出しという体の大男がいる。

 ぼーっと空を見上げて座っていた。

 

「あのー冒険者様? サポーターはいりませんか?」

 

 そう声をかけた。

 見慣れぬ赤い装束に、男が立てばリリルカがかなり見上げないと顔が見えないだろう。

 なのに男はそんなリリルカの言葉にしどろもどろになった。

 

 彼女は久しぶりに楽しいと感じた。

 そんな大きななりをして、リリに驚くなんて。

 

 ────馬鹿みたい。そうだ、こいつに抱かれて根こそぎ金を奪ってやろう。どうせこいつも下種な冒険者なんだから。

 

 けれど、ここで彼女の人生は大きく転換した。

 男はとにかく常識外れだった。

 セオリーである上層での様子見などせず、面倒だとリリルカを小脇に抱えて一気に中層まで走る。

 

 吐きそうな位に揺れ、死ぬほど怖かった。

 でも序の口だった。

 気が付けば彼女はモンスターのエサにされていた。

 多分死んだかもしれない、そう思った。

 

 実際彼女は蛇のバケモノに殺されかけた。

 けれど不思議と大丈夫だと思えた。

 男の強さがという意味じゃない。

 だが男は笑っていた。

 

 リリルカの顔が面白いと笑い、死にかけているのに何だよその動きはとさらに笑う。

 けれど男は常に彼女に見える位置にいて、稼いだら何を食おうか? お前は美味い店知っている? と能天気に言い放つ。

 何とも緊張感の欠片も無い。

 

 そして男は目的のレアを手にし、巨万の富をせしめたのだ。

 リリルカは呆気にとられた。

 ホブゴブリンの大きな魔石をいくつか隠した。

 そんな事がどうでもよくなるくらい、男はリリルカの手を取り、踊る様に叫んだ。

 やったぜ、これで金持ちだー!

 

 リリルカは久しぶりに大声で笑った。

 楽しくて、楽しくて。

 涙が全然とまらなくなった。

 男は笑い過ぎだとふて腐れた。

 存外器は小さいらしい。

 だから余計に笑えた。

 

 男は結局、リリルカを自由にした。

 あれだけ怖かったファミリアに行き、話の通じない団長を蹴り飛ばし、話しかけても一向にこちらを向かない彼女の主神が造った酒瓶を蹴り割った。

 彼女は思った。この人、もしかして頭のネジが飛んでいるのかと。

 

 そして、結局お前らは金が欲しいんだろう?

 ならいくらだとソーマが怒り狂う目の前に金貨の山を出してみせた。

 こいつが欲しいんだけどやめさせてくれよ。

 そう言い放ちながら。

 

 ソーマは言った。

 この者は誰だ、と。

 リリルカは乾いた笑いが出た。

 眷属とも認識されていないのに、自分は苦しみ続けている。

 この男なら、泣いて頼めばこの神を縊り殺してくれないだろうか?

 

 男は嗤うと、ならやめても問題ないだろうと結局は押し通した。

 お前は余計な口を挟むなとリリルカの手を握りながら。

 虚無と怒りの波が行き交う度に、潰れんばかりに握り返したというのに。

 男はただ手を握っていた。

 

 そして変な男、ライトに連れられ、彼女はホームを得た。

 汚いけどさー好きなとこで寝ろよなー

 ライト君、それは失礼すぎないかいっ!?

 

 そしてリリルカはまた笑った。

 この能天気でお人好しな男と、お人よしだがただただ優しい神様に囲まれて。

 

 自分は確かに救われたのだろう。

 けれど、と────ある時リリルカはライトに聞いてみた。

 どうしてリリを助けたのですか?

 貴方にとってそれは意味があるのですか?

 

 ライトはしばらくの間、口をむぐむぐとキナ臭い顔をし、そして言った。

 そんな難しい事オレに聞くなよと。

 困ったような、そんな表情で。

  

 リリは気まぐれで救われたんですか!

 そう怒って見せると、ライトはごめんごめんと苦笑いしながら、あ、そうだミア母さんのとこ行こうぜ! と話を露骨に逸らした。

 

 ────本当にダメで、見栄っ張りで、カッコつけで……本当に格好いい人だ。

 

 リリルカ・アーデは、確かに救われたらしい。

 彼の為になら、何を捧げてもいいとすら思える程に。

 

 リリルカは夕暮れの街を歩く。

 もうすぐミアハの店が見えてきた。

 

(どうせ、面白い事でも見つけて他の事を忘れてしまったんでしょうねっ! 本当に仕方のない人ですねライト様は。だから、リリがお傍にいないとダメなんです。リリも……)

 

 

 ☆

 

 

「あらいらっしゃいリリ。売り上げは纏めてある」

「こんばんはナァーザさん。はぁいつもながら凄い量ですね」

「まあ売れ筋だからね、今は。何だか複雑だけど薬師としては」

 

 リリルカが青の薬舗に入ると、薬師であり売り子であるナァーザが物憂げな表情でカウンターに頬杖をついていた。

 彼女はごそごそとカウンターの中から金袋を取り出すとリリルカに手渡す。

 

「しかしいつにもまして暗いですねえ? そう言えばミアハ様はいませんね」

「……………………」

 

 露骨にナァーザの顔が曇る。

 リリルカは思わず何かまずい事を言ったかと慌てた。

 

「ど、どうしたのです?」

「…………の」

「えっ? なんですって?」

「帰ってこないの! 一週間も!!!」

「ヒャア!?」

 

 普段のナァーザからは想像できない程の大音量が飛んで来た。

 微妙な雰囲気を取り繕うようにリリルカが事情を聞くと、一週間前にライトがやってきてミアハを連れだしたという。

 その際、一気に借金が減るなどと持ち掛けたという。

 その後一切の音沙汰が無いというではないか。

 

「あ、貴方のとこの団長のせいよっ!」

「ぐぎぎ……絞まってます絞まってますぅ!? アガートラムが痛い痛いっ!」

「あっ、ごめんなさい……」

「情緒不安定すぎますねぇ……リリも人の事は言えないけれど……」

「あ、そうね、貴方も同じだものね」

「ええ……一体どこにいったんでしょうね……」

 

 二人の溜息が重なった。

 その時青の薬舗の中にいた冷やかしの客が出ていくところだった。

 割りと派手な服装の女冒険者で、確かイシュタルファミリアの戦闘娼婦だったはずとナァーザは小声で言う。

 そんな二人の会話が彼女たちに聞こえた。

 

『ねぇ今日も行く? 行っちゃう?』

『そりゃ行くっしょ。最近その為に稼いでるまであるわ』

『だよねー? で、で? 今日はライ様? それともミア様?』

『どっちも超イケてるんだけどさー競争率ヤバくね?』

『それもステイタスってか?』

『ウケルー早くいこっ』

 

 そんな事が聞こえた。

 

「リリ、何か嫌な予感がします……」

「奇遇ね、私もそう思う」

「追いましょうっ!」

「待って、直ぐに店を閉めるから。見失わないように先行してちょうだい」

「はいっ!」

 

 

 ☆

 

 

 その店は繁盛していた。

 場所はオラリオの東地区の外れ。

 

 かつては辛気臭い雰囲気の漂うとあるファミリアのホームであった。

 そこはただ『酒蔵』と呼ばれた、ソーマ・ファミリアの本拠地である。

 

 しかし今は外観は全て最先端の建築様式が取り入れられた近代的な物だ。

 建物の前面は全て色とりどりの灯りを放つマジックアイテムが照らしており、暗闇の中に浮かび上がる幻想的な光景を演出している。

 

 正面の入り口の左右には赤々と篝火が燃え、そこを出入りする美しい女性達の群れが見えた。

 ドアの上には看板があり、こう記されている。

 

 ────ソーマ's シャングリラ

 

 ドアの隙間からは旅の楽団が奏でるオリエンタルなBGMが漏れる。

 そこが丁度見える茂みの中に犬人と小人の少女が潜んでいた。

 

「い、行きますか……」

「行くしかないでしょ……」

 

 そうリリルカとナァーザである。

 先行したリリルカにナァーザが合流した頃には既に日は落ちている。

 

 リリルカは若干苦悶の表情ながらも立ち上がった。

 さもありなん。彼女にとってこの場所はトラウマしかないのだから。

 よく見ればリリルカの手が小刻みに震えている。

 彼女の生い立ちを知っているナァーザは、大きく息をつくとリリルカの手を取り、そして一気にドアを開けた。

 

「ご指名ありがとうございますっ↑ ラ・イですっ Foo↑↑」

「あら、このわたしを待たせるなんて悪い子ね」

「ごめんね? けど貴女も悪いのさ。こんなにオレを魅了してやまない美貌の女神様だからね。心の準備が必要だったのさ」

「ふふっ、嘘ばっかり。魅了なんて効いていないくせに」

 

 リリルカとナァーザの前に凄まじい光景が飛び込んできた。

 中は所狭しと高級な革製ソファーによるボックス席があり、そこを泳ぐ様に派手な服装のイケメン男子達が見える。

 

 席には着飾った女たちがおり、イケメン男子は背筋が蕩けそうな甘いセリフで接待をしている。

 女たちの目はまるでハートでも浮いているかのようだ。

 頬を紅に染めて男達にしなだれかかり、男たちの手ずから酒を飲んでいる。

 

 さらにはそのフロアから数段上にある、やたらと高級感のあるボックス席には、人外の美しさを持つ女神が鎮座し、その横にはリリルカにとって非常に見覚えのある男が座っていた。

 

 透き通る様な銀髪をポニーテールに纏め、片方の耳には黄金のイヤリング。

 派手なアニマル柄のジャケットに、蛇革の革靴。

 そう、ヘスティアファミリアが団長、ライトである。

 

 リリルカの顎が地面まで落ちた。

 だが悲劇はまだ続く。

 

「ふっ、待たせてしまったかな? レディ」

「まあ! 貴方に接待されるなんて困ってしまうわね?」

「どうせ刹那の逢引だ。気にする事は無いだろう? 君の可愛い子供たちには嫉妬されるだろうが」

「ふふっ、まあいいわ。ではライト、いやライだったわね? いつものお願いするわね」

 

 ミアハだった。

 ダークスーツに身を包み、真っ赤なシャツは胸元が大胆に開かれている。

 彼は女神ことフレイヤの横に座ると、静かにワインを注ぎ、ニヒルに笑った。

 そしてライトがフレイヤに何事か頼まれると、彼はおもむろに立ち上がり、そして綺麗なバリトンで叫んだ。

 

「美の極致、愛の象徴フレイヤ様より~神酒オーダー入りましたァ!」

 

 その瞬間、フロアの男子達が一斉に立ち上がる。

 そしてライことライトの掛け声にいちいち合いの手を飛ばす。

 女たちも盛り上がり、ここにオラリオ初の神酒コールが完成したのである。

 

 さて種明かしをしよう。

 姿をくらましたライトだが、金の投資先として選んだのがまさかのソーマファミリアである。

 あそこは主神が造る酒に人生を狂わせた屑の巣窟だが、そこに付け入る隙があるとライトは考えた。

 

 整理をしよう。

 ソーマが下界で唯一興味を持つのは、神酒と言う最高の酒を造る事のみだ。

 逆に言えばそれ以外のどんな事柄も無価値。

 

 しかし神酒の材料は物凄くコストがかかる。

 単純に言えば金がかかる。

 そこでソーマは眷属を増やし、彼らに金を集めさせた。

 と言ってもただそれだけじゃ誰も動かない。

 

 だから失敗作を彼らに呑ませた。

 失敗作と言ってもそれはあくまで完成品の神酒を基準に言えば、でしかない。

 つまり人間が口にするには劇薬レベルで美味なのだ。

 

 結果、その酒に魅了された彼らはロボットの様に金を集める。

 だがソーマにとってその後は知った事では無い。

 材料が買える財力が確保出来ればファミリアには一切干渉しない。

 それが団長を筆頭とした幹部の横暴に拍車をかけたのだ。

 

 ならば、そのねじれを解決すればいいじゃん。

 ライトはそう考える。

 つまりソーマに潤沢な資金が恒久的に供給される事。

 そして団員は狂わない程度に神酒を飲める事。

 これが両立できるなら、別に悪事に手を染める必要ねーじゃん。

 ならマンパワー使い放題やん。

 そう言う事である。

 

 そこでライトはソーマファミリアに吶喊した。

 またあのヤベー奴がやってきたと団員は震えたが、それを無視してライトは薬草畑にいたソーマを引きずってきた。あまつさえ失敗品の神酒の瓶も勝手に持ち出し。

 

 戦々恐々とする一同を見渡したライトは、街で買い集めてきた物を机に広げる。

 大手の商家で見つけた世界各地のリキュール。

 それを使って失敗神酒のカクテルを作りだしたのだ。

 

 様々なカクテルを試す中、神酒の濃度は10%程度に抑え、いくつかの完成品を並べる。

 それを全員に試飲させた。

 無表情だったソーマが最初に表情を変えた。

 初めて飲む味だが、確かに美味かった。

 様々な酒をブレンドをする事で鮮烈なアタックがある事に驚いた。

 

 実はライトの中のおっさん。

 こう見えて入社から5年ほどは先輩社員にくっついて接待三昧だった。

 対企業営業において、酒は取引を円滑にするツールだ。

 そうなれば安い居酒屋なんかは使えない。

 高級ホテルのラウンジや会員制のバーなどが使われる。

 

 そう言う場所はあまり人に聞かれたくない会話をするにも適しているが、何より高級な酒が呑める。

 高い酒は高いなりの理由があり、それに纏わる歴史がある。

 たかがカクテル一つでも、それが生まれるエピソードが美しかったりするのだ。

 

 接待の相手がその蘊蓄を気持ちよく披露する事もあるし、接待が膠着した時に、会話のブリッジとしてライト側が披露する事もある。

 そう言う引き出しを増やすために、彼はプライベートで色々な場所で呑んだ。

 その経験を生かしたという訳だ。

 

 結局のところ、中毒症状を引き起こさない程度に薄めれば、当然原液より薄い分値段も安く飲める。

 ならばソーマファミリア自体で酒を提供する店をやり、ファミリア全体で金を稼げばいい。

 そうすればソーマの懐も潤うし、団員も酒に狂わずに生きられる。

 薄めた神酒は、店の運営に貢献した団員に、ソーマが褒美として下賜すればいいだろう。

 

 これにソーマは乗った。

 団員も賛同した。

 ライトはコンサル料として売り上げの10%で手を打った。

 これでウインウインである。

 

 だがそれでも、オラリオには酒を提供する人気店は色々ある。

 イシュタルファミリアが運営する繁華街などは、別に娼館だけじゃない。

 単純に酒を飲めるだけの店もある。

 それに豊穣の女主人の様な店もあるのだ。

 なのでただバーを経営しても上手く行く訳が無い。

 ましてここのホームのある場所は商業エリアからは遠い。

 

 そこでライトが提案したのは、ハイソな女性のみをターゲットとする店。

 つまりホストクラブである。

 ライトは直ぐに動き、街の工務店に大枚はたいて突貫工事をさせ、現代日本でライトが行ったことがある、六本木の超高級キャバクラの外装および内装を再現させた。

 中にいれる家具類も全部最高級品だ。

 

 そしてテーラーを呼んで団員たちの黒服やホスト用のスーツの採寸をし、これも大枚はたいて最速で作らせた。

 ファミリアの中でもビジュアル的に使えそうなやつをホストとし、残りを厨房や黒服へと割り振った。

 そして三日程の研修を経て店はオープン。

 

 ライトは出勤前の夜の女が集まる店に出向き、彼女たちと何となく会話しながら、話の中でさりげなくこの店の事を言うというステマを敢行し、若い娘の集まるカフェなどでも同じような事を繰り返した。

 極めつけはソーマに重い腰を上げてもらい、客寄せパンダにフレイヤを呼ばせた。

 ここが正念場やぞ、土下座してでも連れて来い。こう脅して。

 

 そうしてオープンしたソーマズシャングリラは一気に人気店へと躍り出たのだ。

 まあそれで貴方が神か! だの、アンタは俺達のボスだ! などと祭り上げられライトは調子に乗った。

 褒められるって、なんて気持ちがいいんだ……。

 完全に有頂天である。

 

 結果、自分もフロアに立ち、接待をした。

 更に人気が出て行列が出来た。

 ヤバイ、流石に人が足りねえ。

 あ、そう言えば貧乏だけど超イケメンいたやん。

 おーいミアハ様、こっちこいよ。いいから来いって。金ガッポガッポでナァーザに楽させられるぞ。

 仕方ないな、いいだろう。

 気が付けば源氏名であるライとミアが人気のツートップになっていた。

 こんな感じで今に至る。

 

「ミアハ様、帰りますよ」

「いやナァーザ、その……なんだ」

「帰りますよ、いいですね?」

「アッハイ」

 

 無表情に青筋を浮かべたナァーザが、ミアハの襟首を掴むと引きずって帰っていった。

 全く、ミアハのやつ尻に敷かれてやがる。

 ハハハと笑ったライトであるが────

 

「ライト様」

「おうリリ、どした。すげえだろ? コレ」

「はいそうですね。では帰りますよ」

「え、いやまだ営業時間がだな」

「帰るって言ってるんですが? 聞こえませんでした?」

「帰ります、はい」

 

 後にライトは語る。

 生まれてきてからこれほどに恐怖を感じた事は無かったと。

 おいちょっとまてよアーデ、そんな風に声をかけた元団員仲間その1には、

 

「あ゛?」

 

 ひと睨みで黙らせたという。

 そしてホームに強制送還されたライトであるが、リリルカに説教をされるかと思ったが、ただじっと見つめられながら、ポロポロと泣かれ、流石に反省したという。

 

 そして翌朝────ホームにやってきたティオナに無言の腹パンを数発受けて1週間寝込んだという。

 

「もうホストなんてこりごりだー!」

 

 目覚めたライトがそう叫んだとか叫ばなかったとか。

 

 

 




ベル「なんか静かですね。街の中に冒険者もいないしダンジョンとはえらい違いだ。」
イツカ神「ああ。連中はとっくにホームに帰ってんのかもな」
ベル「まっそんなのもう関係ないですけどね!」
イツカ神「上機嫌だな」
ベル「そりゃそうですよ! 団員は僕しかいないですけど、今日レベル2になったんですから!」
イツカ神「ああ(そうだ。俺たちが今まで積み上げてきたもんは全部無駄じゃなかった。これからも俺たちが立ち止まらないかぎり道は続く)」

キキーーーーーーーッ!!(馬車君迫真のドリフト)
唐突に現れた黒い冒険者が魔法を連射!
咄嗟にベルを庇うイツカ神

ベル「神様!?何やってんだよ神様ァ!」
イツカ神「グッ、うああああああッ!!!」ダーンダーン
冒険者「死~~ん」
イツカ神「はぁはぁ……なんだよ、結構当たんじゃねぇか……」
ベル「神様っ、ああっ、ああ……」

なんやかやあって
イツカ神「俺は止まんねぇからよ、ベルが止まんねぇかぎり、その先に俺はいるぞ!だからよ、止まるんじゃねぇぞ…………」キボウノハナー
ベル「神様ああああぁ!!!」

冒険者ベル・クラネル
元イツカ・ファミリア所属(主神は天界に強制送還)
レベル2
【鉄華魂】(フリージア)
・決して散らない鉄の華 その精神は次元をも越える
・早熟する
・止まらねえかぎり道は続く
・前髪の一部が伸びやすい

こうしてベルの恩恵は凍結した。
だが彼の旅はまだ続く。
何故なら色褪せる事の無い強い想いが魂に刻まれたからだ。
ベルの道は平坦では無く、恐らく茨の道だ。
しかし彼は絶対に足を止めない。
それが、イツカ神の背中から学んだ、英雄の心だからだ……。


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サプライズパーティのサプライズ!って掛け声はダサい

フレイヤ「とうとうあの子を手に入れたわ。純白の魂にいくつもの濁りが見える。けれどそれは脈々と鼓動をし、さらに輝きを与えている様ね。オッタル、後は任せたわよ」
オッタル「………………」スッ



「リリ、油跳ねるから気を付けろよ?」

「へへっ、じゃあ危なくない様に持ち上げてくれてもいいんですよ?」

「ったくしゃあねえなあホレ」

「わーいっ」

 

 唐突なイチャイチャから開始する今日のヘスティアファミリアである。

 ライトとリリルカは大きめのアイランドキッチンに生まれ変ったホームの厨房で、仲良く並んで料理に勤しんでいるのだ。

 

 ライトは何やら大鍋でスープを煮ており、その横の竃ではリリルカが何やら揚げ物に挑戦している。

 とは言え小人族であるリリルカは少しばかり高さが足りておらず、ライトに甘えては抱きかかえられて鍋の中を突いていた。

 

「ぐぬっ……ぐぬぬぬっ……」

 

 そんな二人の後ろでは、我らが主神ヘスティアが唇をかみしめながら眺めている。

 なんだよこいつら、主神をほったらかしでキャッキャウフフしやがって……

 おそらくそんな心境なのだろう。

 よく見ればツインテールがバッフバフと上下している。

 

 事の起こりは今朝の事だ。

 例のソーマファミリアの一件で最近は大人しくしているライトと、最近は時折ハイライトの薄い瞳で「らいとさま、逃しません……」とどこかの絶対嘘許さないガールの様にライトの後ろをついて歩くリリルカがリビングでのんびりとココアを飲んでいた。

 そこに二階から降りてきたヘスティアはバン! とテーブルを叩くと言ったのだ。

 

「ファミリア会議をするよっ!」

 

 ライトとリリルカは顔を見合わせるとまたココアを飲む作業に戻った。

 

「は、話を聞けー! 最近のボクは影が薄いっ! そう思わないかいっ!?」

 

 この神様は何をいきなり自虐かましているのか、ライトはヤレヤレと首を振った。

 それが余計に彼女の逆鱗に触れたらしい。

 

「今日の昼、やるの! ファミリア会議をや・る・の・っ!!」

 

 結局そうなった。

 訝しんだリリルカが理由を聞けば、どうも最近自分の扱いがぞんざいな気がする。

 何かこうとても寂しいから構ってほしい。

 

 ヘスティア「あの、すみません、お願いが」

 ライト「なにかな」

 ヘスティア「ボクを構って貰っていいでしょうか?」

 ライト「構う?」

 ヘスティア「はい」

 ライト「あー……判った、そういうことか……」

 ヘスティア「いいでしょうか?」

 ライト「うーん……ボッチ、ってやつなのかな?」

 ヘスティア「うん……」

 ライト「しょうがないにゃあ……いいよ」

 

 掻い摘んで言うとこういう事だという。

 とは言え、冷静に考えてみるとこのファミリア、割と頻繁に一緒にいる事が多い。

 そもそもの人数が少ないし、そうなると自然と食事などは一緒にという流れなのだ。

 なのでライトからしても、何を今さらと思わなくも無いが、本人がそう言うのだしまあいいか、と言う事になった。

 

 ライトが一応、会議の議題は何かと聞けば、途端にしどろもどろになる所を見ると、とりあえず集まりたいだけと言う事が判明。

 なので慈愛の籠った優しい視線でライトは宣言をした。

 せっかくなので後回しになっていたファミリア結成のお祝いも兼ねて食事会にしようと。

 その瞬間、ヘスティアの表情がパアァァァ……と明るくなったのを見て、まあこれも悪くないと思うライトであった。

 

「じゃあ神様、買い物行ってくるね」

「神様いってきまーすっ」

「……………………」

 

 ホームを出て大きな買い物かごを持ち、のんびり歩くライトとリリ。

 そして商店街へと向かう。

 そこは裏通りの両サイドに天幕が並んだ市だ。

 地球風に言えば、パリでよく見かけるマルシェと言った感じか。

 

「おっ、ニンジャじゃねえか。今日も忍んでねえな! しっかし可愛い彼女と連れ立ってお買い物ってか? く~っ憎たらしいねぇ。ならほら、今日は鶏肉のいい所が入ってるぜ?」

「えー? そんな風に見えます~? 見えちゃいます~? ライト様、どうします?」

「あー唐揚げとかいいかもな。おっちゃん適当に包んで」

「毎度! 流石ニンジャ気前がいい! ほーら少しおまけしといたぜ?」

「……………………」

 

 ライトが通ればあっちこっちと声がかかり、その度におまけを貰う。

 結局商店街を抜けた頃には買い物かごはパンパンになっており、元々買うつもりだった以上の量になっていた。

 

 何故ライトがこれほど認知されているのかと言えば、普段彼は金の匂いを嗅ぎながら街をうろうろしているのだが、その途中で困っている人を見ると何となく手伝うのだ。

 例えば棚卸しをしている商店があれば、背が高いのを利用し、高い所の物を降ろしてやったり、年寄りがオロオロしていれば、世間話をしながら目的地まで案内をしてやったり。

 

 このライトという男、基本的には金にきたない小物であるが、割と社交性が高い。

 というよりも、地球から見ればここは異世界だ。

 今でこそそれなりに知り合いも増えたが、当初はヘスティア以外に濃い知り合いがいない。

 遠い親戚もいなければ、友人はおろか会社の同僚程度の付き合いがあった者もいない。

 オラリオの街並みは美しいとは思っていても、そこになんの想い出も無いのだ。

 

 ライトはそう言う孤独さから、人並みにはホームシックになっていた。

 そんな時に地元の人間と会話をするというのが存外楽しく、それを何となく繰り返しているうちに、こうして顔を見れば話しかけてくる人間が増えた。

 

「よっし買う物は買ったけどまだ時間も早いし、少しカフェで一服していくか」

「ほんとですかっ! 行きます行きます!」

「……………………」

 

 そしてライトは馴染のカフェのテラス席に座り、ニコニコしているリリルカと他愛も無い話をしながら、最近手に入れた葉巻をぷかりと燻らせた。

 

「えへへ、ライト様? なんかこれって、その、デートみたいですね?」

「んー? ああ、デートでいいだろ別に」

「ううっ……さらっと返さないでくださいよぉ……」

「フハハ、お子様め!」

「もーー! ライト様なんか知らないっ!」

「じゃあケーキはいらないのか?」

「うーっ! うーっ!」

「……………………あ、店員さん濃いエスプレッソをボクに下さい」

 

 そしてのんびりとした時間を過ごした二人は歩きだし、今度はアクセサリー等を売っている職人街に向かう。

 ライトは一軒の店にリリルカの手を引いて入った。

 

「お、ニンジャじゃねえか。冷やかしかい?」

「何言ってんだ。あれと、そうだな、こいつになんかブローチでも見繕ってやってくれ。こいつはフードをよく使うからな。留めるのにいい感じの奴を頼む」

「ふぇ? リリの、ですか?」

「ああ、お前もたまにゃあ着飾れよ。せっかく可愛い顔してんだし」

「も、もうっ! そ、そう言う恥ずかしいセリフは駄目ですっ!」

「お前ら見せつけんじゃねえよ。んじゃ嬢ちゃん、こっちきな。嵌める石を選んでくれ」

「は、はいっ」

「……………………」

 

 そしてなんやかやあって、二人は昼頃にホームへと戻ったのである。

 買ってきた荷物をアイランドキッチンの作業台に載せ、ほっと一息。

 

「デートじゃないかっ! た・だ・の・っ! デーーーートじゃないかっ!!」

 

 そしてヘスティア神の渾身のツッコミが炸裂した。

 二人を指さしながら、ダンダンッと地団太を踏みつつ。

 

「だいたいだね、ボクが後ろにいたんだからさぁ! ツッコもうよ! そ・こ・は・っ! ツッコもうよっ!!」

「……いやだって、面白かったし。なあ、リリ」

「ええ、神様。商店街の皆さんもほっこりしていましたよ?」

「くぅ~~~~~~っ!!! もう知らないんだからっ! ふんっ!!」

 

 ヘスティアの怒りが有頂天である。

 

 そして時間が勿体ないと料理を始めたライト。

 買ってきた鶏肉を一口大に切り分け、ボールにいれると酒やスパイス、調味料を入れて混ぜ混ぜ。

 

「リリ、しばらく馴染ませたら衣をつけて揚げてくれ」

「はいっ」

 

 そして手早く魚介類を下ごしらえし、その合間にトマトベースのスープストックを準備。

 どうやらブイヤベースを作るようだ。

 

「……えへんえへん。ぼ、ボクも手伝ってもいいんだよ?」

 

 まだそこにいたらしい。

 怒って帰ったんじゃ無い様だ。

 

「神様のその服に跳ねたら大変なので休んでいてくれよ」

「あ、うん、そうだね、ありがとう」

「よし、リリ。そろそろ揚げてもいいかも」

「わかりましたっ」

「じゃなくてっ! ボクも手伝ってもいいんだよ!?」

「あー……じゃあ神様にしか出来ない事をお願いするわ」

 

 ツインテールが嬉し気に揺れる。

 犬かな?

 

「そ、そうだよ。そう言うのでいいんだよ。で、どうすればいいの?」

「釜の温度を少し高くして」

「えっ」

「高 く し て」

「アッハイ えーい」

「ありがと神様」

「うん、うん…………あれ? ボクは火打石かな?」

 

 作業は続く。粛々と。

 白身のいい魚があったので内臓とウロコを処理したライトは下味をつけた魚を天板に載せて、卵白で固めた塩でドームを作りオーブンにいれた。

 あとは暫く蒸し焼きにすれば白身魚の塩釜焼きが出来るだろう。

 

 そうして結局は3時間ほど経ち、料理は完成した。

 次々とリビングのテーブルに色とりどりの料理が並ぶ。

 およそ3人では食べきれない程の。

 そして、

 

「さあ神様、グラスを持って」

「う、うん……」

「ふふっ、ヘスティア様、はやくはやく」

 

 マジックアイテムの灯りは落とされ、キャンドルの淡い光でリビングは照らされている。

 3人の影がゆらゆらと、まるで幻灯機のようだ。

 そしてリリルカと頷き合ったライトが立ち上がる。

 

「あーでは僭越ながら、ヘスティアファミリア団長のオレが乾杯の音頭を取ろう。今日まで色々な事があった。オレに巻き込まれて迷惑もかけたろうが、こうして曲がりなりにもホームを整え、これからは上昇していける準備が整った。個人的ながら、経緯は多少アレだったとしても行く宛てのないオレを拾ってくれた神様には感謝しかない。リリも同じだと思う。だから、貴方にはいつまでも笑って俺達を見守っていて欲しい」

「ら、ライトくぅん……」

「ははっ、少し湿っぽくなっちまったな。んじゃ改めて、オレ達の最高の神様と、ファミリアの繁栄を祈り……乾杯っ!」

「「乾~杯!」」

 

 こうして、当初のファミリア会議とは趣旨は違うが、ファミリアの結束を強める食事会は始まったのである。

 

「いやー嬉しいなあ~ボクは感激したよぉ。君たちみたいな家族を得られて、最高だなぁ」

「神様…………」

「何をしょんぼりしているんだい? リリルカ君。君はもうライト君とボクの家族なんだよ。君の過去の事は知っているさ。でもね、ボクらは未来に向かって歩いているんだぜ? だったら昔なんか関係ないよ。ライト君だってそうだぜ?」

「なんだなんだご機嫌だなあ。分かったから恥ずかしい事言うんじゃないよ」

「へへっ、見なよリリルカ君。ライト君が照れてら」

 

 和やかな宴は続く。

 3人とも酔いも気持ちよく回り、気だるげに会話を楽しむ。

 ライトの料理も好評だったようで、ヘスティアもリリルカも夢中で食べた。

 それを微笑まし気に眺めるライト。

 だが、そんな時だった。

 

「そう言えばライト君、リリルカ君に、その、綺麗な、あ、アクセサリーをプレゼントしていたね」

 

 目を伏せながらヘスティアはそう言った。

 

「はい、綺麗な赤い石のブローチですっ」

「そっかーいいなぁ……なんか羨ましいや」

 

 頬杖をつきながらグラスを揺らし、酔いで気だるげな目。

 ────神様なのに何を言ってるんだろう。

 そんな風に苦笑いをしながら。

 

 神様だから、彼らを見守るのが仕事なのに。

 だけど二人の姿を見ていると、いつも羨ましく思っていた。

 駄目なのになー。

 子供たちと神様は、同じ時間を生きられないから。

 そんな事思っちゃダメなのになぁ。

 

「ははっ」

「ふふふっ」

 

 そんなヘスティアを見ながら、ライトとリリルカは顔を見合わせ笑った。

 

「な、なんだよぅ。意地悪しないでくれよ~」

「だってなあ?」

「はい、リリ達の神様は可愛いですっ」

「なんだいなんだいっ子供扱いしないでおくれよ!」

「あー……神様よ。これやるよ」

「へっ?」

 

 ライトがすっと懐から出したのは、綺麗に包装された小箱だった。

 青いリボンのかかった化粧箱。

 

 ヘスティアはニコニコと自分を見ている子供たちと小箱の間に視線を動かし、そして開いた。

 

「……これは」

「なんつーか、ペンダントトップをハート型に加工したんだ。ピンクダイヤをカットしてな。神様、アンタはその謎のヒモをいつもつけてるだろ? その胸のところがいつも落ち着かないからこれを付ければいいアクセントになるかなーってな」

「ううっ、ライトくぅん……で、でもいつ買ったんだい? あの店じゃリリルカ君のしか頼んでなかったじゃないか……」

「そらお前、オーダーしたのは随分前だもの。リリと一緒に色々デザインをどうすっかとか話し合ってだなあ。丁度完成したって連絡があったから、丁度いいし今日の食事会を口実にしたんだよ」

「ええ、結構悩みましたよねー。結局ライト様がこれもダメ、あれは派手すぎるとか大騒ぎでしたから」

「うるへー! そう言うのはいいんだよ!」

 

 そしてヘスティアの涙腺が決壊した。

 ライトとリリルカを一緒に抱きしめ、鼻水をたらしながら二人に頬ずりをしたのだ。

 そして、

 

「ら、ライト君? えっと、その、君にこれをつけて欲しいな?」

 

 ヘスティアが照れを隠す様にライトの前に立った。

 

「ああ、いいよ。それ貸してくれ」

「うんっ!」

「えっと、留め金をこうして、ちげえ、小さいから外しづらいなこれ……」

 

 むにゅん、むにゅんむにゅん♡

 

「あ、やべ。手が滑って神様のおっぱいをこれでもかと鷲掴みしちまった」

「だ、台無しだよーっ!」

「いいな~リリも揉みます~!」

「な、なんでだよ~!」

 

 こうしてヘスティアファミリアの輝かしい門出は確かに始まったのである。

 眷属二人に延々と乳を揉みしだかれながら……。

 

 

────────────────────────────────

 

おまけ その頃のロキファミリア

 

「おっしゃー! ほなやるで。ええかママ、うちが見事的に当てられたら、一晩アンタはうちと添い寝してもらうで!?」

「ふぅ、いいだろう。あの的に当てられたならな?」

「そんなん楽勝や! 天界にいた時は4番ピッチャーロキが定番やからな。今流行りの二刀流やで? こんなん目ェつぶっててもできるわ」

「ほう? 言ったな?」

「言ったがどうした! ほなラウル、ちゃっちゃと投げて来いやー!」

「了解ッス! 行きますよ~」

 

 さて、ロキファミリアの練兵場では主神であるロキが木製のバットを手に仁王立ちしていた。

 事の起こりは昨晩の夕食時にさかのぼる。

 

 酒好きで酒乱の気があるロキ。

 さらには気に入った相手なら性別なんか関係なく絡む。

 その様はさながらセクハラ親父のそれである。

 主神という立場を考えれば、そこにパワハラも加わる。

 併せ一本でアウトである。

 

 その毒牙はファミリアが大きくなるにつれ、日に日に拡大していく。

 大っぴらではないものの、いくつもの苦情が副団長であるリヴェリアの元に寄せられたのだ。

 特に剣姫アイズはその被害が大きい。

 

 そこでリヴェリアは一考をし策を練った。

 なあロキよ、我々と勝負をし、勝つ事が出来たら、好きな相手とお酌または添い寝をするっていうのはどうだ?

 逆に勝てなければ我慢をする。

 これならどっちにもフェアだろう? と持ちかけたのである。

 

 よっしゃ! これでアイズたんのすべすべ肌はウチのもんや!

 

 そう吠えたロキであるが、じゃ何で勝負するという話になった。

 実はロキファミリアではまだ規模が小さい頃にロキが提唱した遊びが浸透していた。

 

 ────やきう

 

 そう言う名前らしい。

 9人ずつに分かれ、バットとボールを使い点を取り合うという競技だ。

 その起源は神代まで遡り、当時は王を決める儀式として知られていた神聖な競技らしい。

 

 だが実際にリヴェリア達がやってみると、思っていたよりも面白かった。

 それ以上に身体の色々な場所を使う為、遠征前に身体の調子を整えるには最適だったのだ。

 ただ18人も直ぐには集まらないので、変則的なルールであるトライアングルベースと言う特殊ルールをロキファミリアでは採用していた。

 

 勝負の方法に選ばれたのは、リヴェリア達眷属側が守備、ロキが攻めとして、練兵場の端の壁に設置した的にロキが打ったボールを当てる事が出来たなら勝ちと言う物だ。

 そして10球で判定をする。

 

 中々難しいそうであるが、ロキは本当にやきうが上手い。

 故にこれを受け入れた。

 

 そしてピッチャーに選ばれたのがラウルである。

 ヒューマンながらこれでもレベル4だ。

 ファミリア内では自分の事を実力不足であると内罰的な判断をしており、現在は遠征時のサポーターなどを担当している。

 だがやきうの場合はそうじゃない。彼は中々にいい肩を持っている。

 

 ロキは不敵な笑みを浮かべながらバッターボックスに入る。

 ブンブンとスイングをすると、なるほど、自分で言う通り、中々やりそうである。

 実際ロキは天界では名の売れた選手で、スイッチヒッターとしても有名だ。

 と言ってもメインは右打席ではあるが。

 

「ほなやろか~。こいや!」

「行くッス。うりゃぁ!」

 

 ブンッ

 

 ラウルのインコースをえぐる速球をロキは見事にミートした。

 そしてボールは綺麗なラインドライブで一直線に的へと向かう。

 息を飲む眷属さんチーム。

 

「あっかーん。ちょっとばかし差し込んでもうたわ」

 

 残念そうに嘆息するロキだが、ボールは的のすぐ横にめり込んでいた。

 眷属さんチーム、ロキのエグい打球に全員青い顔である。

 ニヤリと笑うロキ。

 

「ああ、すまんロキよ。少し作戦タイムを取っていいだろうか?」

「別にええよ? ナンボでもしてくれて構わんわ。どうせウチが勝つんやし。イッヒッヒ」

 

 眷属さんチーム、円陣を組みゴソゴソと相談を始めた。

 やがて、

 

「へっ? なんでアイズたん? どないしてん?」

 

 円陣から一人、アイズが歩いて来たではないか。

 そしてじっとロキを見て、

 

「おいロキ。左で打てや」

「ちょ、アイズたん何言うてんの? ウチはそんな言葉づかい許さんで」

「左で打てや」

 

 シーンと静まり返るグラン……練兵場。

 息の詰まる様な重苦しい雰囲気。

 

「上等やっ! やってやるわっ……っていやアカンアカン、これは勝負や。アイズたんには悪いが、普通にやらせてもらうで? 大丈夫、うちは冷静や。頭は冷静……よっしゃいくで。ラウル、来いや!」

 

 だがその時、アイズの形の良い眉毛が片方だけ上がった。

 

「ロキ、左で打てよ」

「なんやのホンマ。アイズたん堪忍してーな。そんな可愛い顔して2回目の挑発とかホンマ。これは勝負なんや、絶対に勝たなあかんねん」

「………………」

 

「やってやるわああああぁぁぁっ! アイズたんにまで舐められてたまるかいなっ! こいやラウルっ!!」

 

 そしてこの日以降、ロキのセクハラ被害は大幅に減ったという────。

 

 

 




オッタル「ベルよ、お前には俺と戦ってもらうぞ」
ベル「勘弁してくださいよ眷属になって早々だってのに。僕はダンジョンに行くので忙しい。冗談はそのキュートな耳だけにしてくれないかな?」
オッタル「……貴様」
ベル「腹を立てるとなにをするんだ? うさぎとワルツでも踊るのか」ハマキスパー

全く何が起こるかわかんないぜぇ~
ファミリア探してバベルに飛び込んでみれば、これがなんと可愛い子ちゃん
ついてる~って喜んだら、付録がいたよ、オッタルってゴッツいガチムチさ
こいつが何故か俺に戦え戦えとしつこいんだ
で、もち断ったさ
そしたら奴のアジト、ダンジョン中層の隠し部屋に連れ込まれた
ここで死ぬまで戦うんだと
どうしたらいいのこういうの?
次回、『猛者オッタル』でまた会おう


ヒント:ベル(CV野沢那智)


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ライト・ニンジャ=サン 新規事業に手を出す

オラリオでの過酷な日々。
魂から欲した英雄への道のりはそれほどに厳しい。

────それはあまりに無謀で、愚かだった。

それでも変わらずに研鑽を重ねたベルは、遠き未来においてひとつの結実を見た。
あの男が背中で語った問い、辿り着くべきその場所へ、恐らくベルは至ったのだ。

ベル「答えは得た、大丈夫だよお爺ちゃん。僕もこれから頑張って行くから」





「で、これとかどうなんだろう? 見てくれよ」

「まーた貴方は面倒事を持ち込んで……いいわ、見せなさい」

 

 ライトは久しぶりにヘファイストス・ファミリアの主神、ヘファイストスに会いにバベルへと来ていた。

 バベルの中は地下はもちろんダンジョンの入り口である大穴があるが、上はギルドやヘファイストス傘下の店舗、更に上層は神々の利用スペースと、ただの塔という訳ではない。

 

 ライトは別件でギルドのエイナに会いに来ており、その会話のなかでヘファイストスが上にいると聞き、これはラッキーとそのまま向かったのだ。

 ヘファイストスの前にライトが現れると、露骨に顔を顰めたが、それは普段の素行から考えれば仕方のない事だろう。

 

 というのもヘスティアのホームの地主は元々は彼女であるし、神友であるヘスティアがオラリオで独り立ちできるまでの間、彼女はかなり胃を痛めたのだから。

 その原因は主に目の前のこのヒューマンであるのだが。

 

 そんなライトは彼女の心労をよそに、次々とテーブルに武器を並べていく。

 もちろんこれらは彼が”増やした”武器であった。

 基本的にFF3の装備類はジョブの縛りがある。

 ライトの忍者にしても、殆どの装備が利用できるが、一部使えない物も存在している。

 

 なのでライトは金儲けの手段として消耗品のみとしていたが、最近の彼はホームに引きこもっている事も多い為、料理に勤しむ事も多い。

 そうなるとカルガモの親子の様についてくるリリルカや、最近料理に目覚めたと言うティオナなども一緒にやりたがる。

 ライトは自分が使うための包丁しかなかったので、じゃー使えるか分からんが出してみるか~と増やした短剣を包丁代わりに彼女たちに渡した。

 

 それはオリハルコンという名のオリハルコンで出来ているナイフだ。

 こやつは名前の通り、劣化にも強い硬さを持つが、付加効果でHP吸収が付いている。

 なのでモンスターを攻撃すると割合回復するという、オラリオならばかなりエグいナイフだ。

 

 二人ともライトから貰ったとはしゃぎながら包丁として使ってみたが、切れ味が良すぎてティオナがまな板ごと割るという結果となり、料理にはNGという事になったが。

 その時ライトはティオナに「おお、同族を割ってしまったなァ」等とデリカシーの欠片も無いギャグをかまして無言の腹パンを受けたのは余談である。

 

 結局料理には使えなかったが、シーフと忍者しか装備できないオリハルコンを、オラリオ住人の彼女たちが問題なく使えた事で、もしかするとここの連中にはジョブ縛りは関係ないのかもしれないと分かったのである。

 因みに料理にはNGだったが、ライトがくれたという理由で、彼女たちは返却を拒否し、それぞれ嬉しそうにしまい込んだという。

 

 さてそうなるとだ。

 新たなメシの種が出来たじゃあないかとライトはほくそ笑んだ。

 何故ならポーションビジネスの売り上げが頭打ちになり、とある理由で市場に放出する量も抑えたからだ。

 

 本日エイナの所に来たのもそれが理由だ。

 要はライト産のポーションのせいで割を食う薬師がいる様で、そちら側からギルドにクレームというか、陳情があったらしい。

 ミアハやディアンケヒトという、ポーションの小売りをしている組織はそれほど問題は起きていない。

 

 それはファミリア単位の大口取引等もあるため、一時的に大量のポーションが必要になる事もあるからだ。

 だが問題は、細々と生産している個人レベルの薬師であった。

 彼らは個人で素材を集めてポーションを作り、それを大手に買い取って貰う事で稼いでいる。

 けれどもどんな無茶なオーダーでも直ぐに対応できるライトのポーションと言う存在は、小口の取引は必要無いという流れに傾けた。

 

 なので魔石やヴァリスという通貨すら管理しているギルドが間に入り、ライトに交渉をしてきた。

 結果、商売自体禁止になると色々アレだという理由で、ライトは納入先の規模に合わせた売却上限を月単位で設ける事にした。

 それでも相当な金額であるし、小口の薬師も職を失わないで済む。

 妥協点としてはどちら側にも納得できると言ったところか。

 

 ライトの悪辣な所は、そう言った個人の薬師たちに情報交換と称し、ライトの財布で定期的に宴会を催すところだ。

 その場で高い酒を飲ませ、愚痴なんかを聞き、オレはお前らの事をちゃ~んと考えているんやでというポーズを見せるのだ。

 個人的には色々アレだが、心情的にこの人は味方……? みたいな錯覚を起こす為、それほど強くギルドに訴え出たりはしていないのだろう。

 

 それはそれとして、だ。

 減った利益は他で出さねばと考えたライトが、次なる飯の種として武器に手を付けてみたという訳だ。

 これも自分で店舗を構えたりすれば、当然武器ブランドとしても名高いヘファイストスファミリア、或いはゴブニュと言った老舗とも利益の対立を起こす。

 

 故に、だ。

 ヘファイストスの店においてもらえばいいじゃない^^

 そう考えた訳だ。

 投資・企業コンサルタントという胡散臭いにも程がある名刺を持つライト。

 完全に行動が寄生虫のソレである。

 

「貴方ね、鍛冶屋に喧嘩を売りに来たのかしら? こんな物ホイホイ出されたら、見習いたちがやる気を無くすわ……」

「え、そんなに?」

「当たり前じゃないっ! 特にそうね、コレとコレは大人の事情で絶対にウチでは売らないし、他で売ろうとしたら全力で阻止するわ……」

 

 ヘファイストスがキャラ崩壊させながら指を刺したのは、ルーンの杖とエクスカリバーである。

 どっちも見栄えがいいからと言う理由でライトが出した。

 エクスカリバーは素の攻撃力が160もある立派な剣だが、密かに力のステータスに補正がかかる効果がある。

 ルーンの杖に至ってはブリザガが使える様になる。

 

 ダメが出された理由は、エクスカリバーがそもそもなんの金属を加工しているか、神であるヘファイストスでも分らなかった事。

 そしてルーンの杖は当然、エルフを敵に回す様な効果があるからだ。

 

 ただヘファイストスは散々怒鳴った後、目を逸らしながら小声で「……け、研究用に私が買うわ」と言い、かなりの大枚をはたいて購入した。

 やっぱ好きなんですね~と煽ったライトは拳骨を落とされた。

 どうしてこの男は一言多いのだろうか。

 

 結局この商談は、ナイフに属するいくつかの武器を定期的にヘファイストスが購入する事になった。

 オリハルコンとマインゴーシュだ。

 マインゴーシュは中級くらいまでの冒険者のサブウェポンとしての需要が見込めるという理由で。

 そしてオリハルコンは打ち直して別の武器を作る為の素材としてだ。

 オリハルコン自体、ここにも存在はしているが、希少性は当然高い。

 故にインゴット扱いでヘファイストスは買うと言う。

 

 そうして商談は纏まり、二人は顔を見合わせてゲヘヘ……とゲス笑いを交した。

 そんな時だった。

 

「神様、ちょっといいか。って客がいたか」

「あら、別にいいわよ。今終わったから」

「そうか、ちょっとこの武器を見て欲しくてな。悪いなお客人、ちょっと邪魔するぜ。って……アンタかよ」

 

 入ってきたのは勝ち気な顔をした赤毛のヒューマンだ。

 ヴェルフ・クロッゾ。ヘファイストス・ファミリアに所属するレベル2の冒険者兼鍛冶師である。

 ライトはヘファイストスに入れて貰った茶を飲みながら、どうぞどうぞと場所を開けた。

 

 ライトは以前、ヴェルフと顔を合わせた事がある。

 と言ってもソーマ・ファミリアの店を開店する時に、ホストが足りずに街に出てスカウトをしていた際に、たまたま通りかかったヴェルフに声をかけたと言うきっかけだが。

 俺は鍛冶で生きてんだ、すまねえなと爽やかに断られた後に、あ、あいつがヴェルフかとライトは気が付いた。

 

(……うーん。原作のキャラだってのは覚えてる。ベルのパーティだったというのも。だがっ……!)

 

 だがじゃないが。

 ソファーに座り何となく神と子の微笑ましい交流を眺めていたライトだが、ふとヴェルフの横顔を見て感ずるものがあった。

 それは、

 

(やっぱうん、こっちの生活が楽しすぎて、肝心の原作の細かい内容忘れちまったゾ)

 

 それである。

 例えば暗記出来る程に読みこんだ本ならばそんな事は無いだろう。

 ただ仕事に埋没する忙しない社会人だったらどうだろうか?

 そう、少ない休みで気に入ったラノベを読んだ所で、その後時間が開けば当然うろ覚えレベルになるに決まっているのだ。

 

(よっしゃ……気にしない事にしようっ)

 

 ライトは考えるのをやめた。

 いくら身体が十代レベルまで若返ろうと、オツムは残念な物である。

 ただ────と、ライトは整理する。

 

 ヴェルフは魔剣を打つ鍛冶師だか貴族だかの末裔で、現役で魔剣が打てる珍獣。

 故にゲスが寄ってきて色々面倒臭い事になってたはず。

 でもたしか、ダンまち基準の魔剣って基本は消耗品寄りのアイテムだったはず。

 んで、ヴェルフはその中でもスゲーのを現地で完成させて云々……。

 ああ、もう無理。

 

 整理した所でその程度だった。

 これじゃあ特に意味はない。

 そう諦めたライトだが、

 

「あら、結構いいじゃない。後はそうね、近道としてはレベルをあげる事かしら。まあ貴方自身もそれは理解しているようだけど?」

「いや、まあ、そうだな。早く強くなって、神様、アンタにすげえ武器をみ、見せてやるよ」

 

(あっ、ふーん(察し) そうだ、そんな感じのアレがあったな。これは……面白いな)

 

 そしてライトは密かにほくそ笑んだ。

 新たなる飯の種、いや、この場合はいい娯楽が思いついたのだ。

 

「んじゃヘファイストス様よ、また来月持ってくるから、今回の代金は後でリリに取りに来させるから準備しといてくれ」

「あ、ごめんなさいね。受付に話を通しておくわ。リリルカさんにもそう伝えておいて」

 

 そしてライトはそそくさと店を出ていった。

 ニヤニヤと笑いながら。

 

 

 

 ☆

 

 

 

「あいや待たれいっ!」

「ファッ!?」

 

 神との用事を終えたヴェルフがバベルを出た瞬間、いきなり大声で制止された。

 見ればさっきまで同じ部屋にいた、赤い人ことライトであった。

 いつもの様に赤いニンジャスーツにメンポ。

 そんなライトが”そこまでよっ!”という感じのポーズで立っていた。

 

「な、なんだよ驚かせるなって。一体どうしたんだ? 何か俺に用か?」

「お前、この後時間あるか?」

「まあ特に用事は無いが……」

「だったらちょっと付き合え。飯いこう飯」

「別にいいけどよ、あんまり持ち合わせはねえぞ?」

「このライト、貧乏人に財布を出させる狭い器量ではないのだ!」

 

 大概シツレイな話だが、結局ヴェルフはライトについていった。

 それ程どころか一瞥程度の関係だが、ライトの武勇伝は街に知れ渡っている。

 故に面白そうだ、と思ったのだ。

 

 実際料理屋へ向かう道すがら、ヴェルフの方から話しかけてみると存外面白い奴だと分かった。

 ところどころ意味の分からない固有名詞を連発されると困ってしまうにしても。

 そして着いたのが冒険者の間では定番の”豊穣の女主人”である。

 

「お前、酒はいけるクチか?」

「まあな。そんなに量は行けないが」

「んじゃ適当でいいな。おーいシル店員、オレとこいつにいつもの酒を。後は予算がこの位でお任せで頼むぜ」

「はーいっ! ねえねえライトさん、お酌はいるっ?」

「お前はあざと可愛いけど今日は遠慮してくれ。男同士(意味深)の集いだからな」

「むーっ、でも後で絶対呼んでね?」

「はいはい」

 

 店の奥の角にある席。

 そこがライトのいつも座る場所だった。

 ひそひそ話をしやすいし、店内を見渡せるから都合がいい。

 お前はゴルゴ13か。

 

「随分慣れてんだな?」

「ああ、まあうちのホームからすぐだしな、ここ。場末の居酒屋で悪いが、酒も飯も美味い」

『誰の店が場末だっ! 叩きだすよっ!』

「おいヴェルフ、失礼な事言うんじゃないよ」

「言ってねえよっ!」

「まあいい。まずは乾杯だ」

 

 ライトがここに来た時の定番とも言える、店に悪態をつきミアに突っ込まれる儀式をこなし、彼はグラスを掲げた。

 つられてヴェルフも掲げ、そして首を傾げる。

 

「で? 何に乾杯だ? 男二人が顔を突き合わせて出会いに乾杯ってこたぁねえだろう?」

「そうだな、恋に乾杯ってどうだ?」

「はぁ?」

「まあいい、オレに任せろ。恋に乾杯っ!」

「こ、恋に、か、乾杯……恥ずかしいわ」

「ら、ライトさん、もしかしてその恋とはシルとの……?」

「お前は仕事しろ」

「はーい……」

 

 そんな茶番をポカンと眺めつつ、ヴェルフはグラスを傾けた。

 一瞬目を丸くする。存外美味かったようだ。

 

「まあ恋バナをしに来たのはあってるんだ」

「なんで俺となんだよ」

「おまぁ…………あの神様のこと好きだろ」

「ブハッ!?」

「きたねえな。まあ落ち着け。さっきのやり取りを横から見てて思ったんだな。ハハーン、この野郎、ヘファイトスの事好きだなってね。このメルヘン野郎が。装備にふざけた名前つけやがって」

「ね、ネーミングは関係ねえだろうが……」

 

 結構気にしていたらしい。

 ヴェルフは噴き出した酒を拭いながら誤魔化す様に目を逸らした。

 そしてどうにか落ち着くと、ライトを睨む。

 

「ま、まあその、なんだ、俺があの人を、す、好きだとして……」

「ピュアかよ」

「うるせえ! だとしてそれがお前に何の関係があるんだよ」

「ねえよ。でも面白そうだろうが。人の恋路を横で見ながらニヤニヤするのは愉しいだろうがッ!」

「とんだクソ外道じゃねえか!」

 

 ニヤニヤしつつライトはヴェルフにまあ待てと話を切ると、

 

「オレに任せろ。こう見えてオレは恋多き男なのだ。完璧なアドバイスと、神と人間という溝多き間を埋める方策を指南してやる」

「お、おう、マジか……」

 

 立ち上がりビシィッ! とヴェルフを指さすライト。

 思わずごくりと息を飲んだヴェルフだったが、その勢いに負け、ライトに洗いざらいヘファイストスへの想いを吐きだすと、気持ちよく帰っていった。

 

「ヒック……んじゃ師匠、マジで頼んますっ!」

「おうおう、オレに任せておけぃ! んじゃ気をつけて帰れよ。明日にでもうちのホームまでこい。作戦会議だ」

「あざーっす。俺ァやってやりますよぉ……待ってろ神様、へへっ、へへへっ……」

 

 そうしてヴェルフは千鳥足で帰っていった。

 その後ろ姿をうむうむと頷きながらライトは決意する。

 その恋、成就させてみせようじゃないか、と。

 

 ライトの次なる飯の種アイデア。

 それは冒険者たちのカップリングを行う飲み屋の経営である。

 ソーマファミリアのホストクラブ成功を経て、第二のスマッシュヒットを狙うやり手コンサルタントことライト・ニンジャここにありである。

 

 しかし天の声としては勿論この後に”だがこの事がやがてあんな悲劇を産みだすとは云々”と付け加えざるを得ない事をここに記す。

 

 

 

 

 

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 優しい世界のおまけ枠

 

 

 ところ変わらず日時だけが違う豊穣の女主人。

 店内の片隅では、とある神と子がくつろいでいた。

 

 ヘルメスファミリアの主神ヘルメスと、ファミリアの団長のアスフィ・アンドロメダである。

 中堅どころのファミリアだが、仕事の関係で主神がオラリオにあまり居着かない為、たまに戻ってくると眷属孝行がてら、こうして食事に来る。

 

 特に最近のヘルメスは多忙を極めていた。

 とある懇意にしている相手から受けた依頼が滞っているからだ。

 勘の良い読者ならもうお気づきだろうが、ベル・クラネルの監視や試練を与える云々の事である。

 

 ある時まではベルの姿を追えたのだが、とあるファミリアの眷属となり、そこでファミリア同士の抗争に巻き込まれた後、ベルは行方をくらましている。

 死んではいないのはわかるが、何せ行先の痕跡を掴ませないのだ。

 こればっかりはヘルメスをもってしても中々に苦労している。

 

「…………はぁ、中々ままならない物だね」

「それは貴方の普段の行いの結果かと」

「辛辣だねえ相変わらず。それよりも、ククッ、聞いてくれよ」

「どうされました?」

「いやね、天界で大流行の競技があるって言っただろう? クククっ」

「ええ、確か、やきう?」

「そうそう、そのやきうなんだけど、最近シーズンが終わってさ、天界のチャンピオンを決める決定戦を俺の贔屓のチームが優勝したんだ。ちなハムだけど」

「(ちなハム?)はぁ、それが気持ちの悪い含み笑いを零してしまう程に嬉しかったと?」

「やめて。ナチュラルに俺の心をエグってこないでくれるかい? まあ聞いてくれ」

 

 嬉しそうにヘルメスが語ったのは、7戦で4勝した方が優勝と言う決定戦で、彼が贔屓にしている天界ハムパンターズが最終戦までもつれたが、久しぶりに天界一の栄冠を勝ち取ったという話だ。

 相手のチームも相当に善戦し、その結果の勝利の為、ヘルメスもご満悦だ。

 

 しかし急に含み笑いを漏らしたのは、先日の神会で久しぶりに会った神友の一人が、天ハムと同じリーグに属するロッチオーランズのファンで、ハムの優勝に喜ぶヘルメスに「お前はいいよなぁハム強いし。うちはいつ優勝すんだよ……」とボヤいた。

 確かにここ最近のロッチは微妙だった。

 一気に楽し気な雰囲気が霧散する。

 

 それを嫌ったのか、一人の神が彼を元気付ける様に「天界歴2005年の優勝があったやろ!」と震えた声で言った。

 それが呼び水となって爆笑の渦に包まれたのだ。

 その年の決定戦はロッチの4戦ストレート勝ちの完璧な優勝だった。

 しかし笑いに包まれたのはそのスコアである。

 

 第1戦 ロッチ 10 ー 1 番神

 第2戦 ロッチ 10 ー 0 番神

 第3戦 番神  1  ー 10 ロッチ

 第4戦 番神  2  - 3 ロッチ

 

 相手の番神トラザンスは、完封負けを含むとんでもないスコアで負けた。

 その合計点は33-4である。

 最早やきうのスコアとは思えない大差だ。

 

「それでその場は大爆笑さ。いやーあれはヤバかった」

「へぇ、その大差、えっと33-4でしたっけ」

「そうだよアスフィ、33-4さ」

「33-4、なるほど33-4。不思議ですね、何度も言いたくなります」

「そうだろ? 何かこう笑いを誘うのさ。33-4あそれ33-4!」

 

 ガタッ

 瞬間、ヘルメスたちの後方の席から激しい音がっ。

 見れば唇を噛みしめワナワナと震えるロキであった。

 

「なんでやっ! 番神関係ないやろっ! ええ加減にせんかい! 事あるごとにトラの事ネタにしおってからに……おのれヘルメス、ブチ殺すっ」

 

 怒り心頭のロキがブチ切れてヘルメスに殴りかかった。

 慌てたフィンとリヴェリアがロキを羽交い絞めにしてどうにか最悪の事態は免れた。

 その後、さらにブチ切れたミア母さんが両者を外に叩きだし、以降1か月間、ロキファミリアとヘルメスファミリアは出禁となり、ハウスルールとして豊穣の女主人の店内では番神ネタはご法度となったのである。

 

アスフィ「(33-4 33-4 ふふっ……)」

 

 一部気に入った者もいたとかいないとか。

 

 

 




ベル「ああ。時間を稼ぐのはいいが────別に、アレを倒してしまっても構わないんでしょう?」
遠坂「────ええ、遠慮はいらないわ。がつんと痛い目にあわせてやって、ヒーロー」
ベル「そうか。ならば、期待に応えるとしますかっ」

当然無理でした。


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それでは恒例の、ライトさーんチェック!

例えば超高層ビルの屋上から、大型トレーラーを落としたならどんな音がするだろうか?
それがいま、周囲の人間が聞いた音の規模だ。
そしてそれはおよそ人間が出せる物ではなかった。

────勿論それは、図らずもこの光景を目撃した有象無象の人間の主観に過ぎない。

夜の新宿の街は不夜城と称される様に、いつまで経っても明るい。
老若男女の隔てなく、欲望が渦巻く場所だ。

最初に異変に気が付いたのは、新歓コンパの二次会へ向かう学生の集団だった。
彼らのうちの一人が突如足を止めた。
そして何故か身体がガタガタと瘧のように震える。
それは周囲のいた学生たちにもこの不思議な反応が伝播した。

彼の視線の中に見えたのは、二つの空間の歪みだった。

このテクノロジーの飽和した時代に、オカルトは過去の遺物か人々の娯楽でしかない。
現実にオカルトが介在できる余地はとうに消え失せた。
だが彼は、そうとしか表現出来なかった。

勇次郎「ほぉ……これはこれは、思いがけず歩いてみるもんだな」
ベル「こっちはそんな気は無いんですがね……良い夜です、このまま大人しく……は返してくれないんでしょうねぇ……」
勇次郎「…………邪ッッッ!!」
ベル「ファイヤァ……ボルトォッッッ!!」

黒と白が激突した。


「ではっ! ここからの時間はフリーーーーータイムッ!! 紳士淑女の皆さん、しばしご歓談をっ!」

 

 妙にテカテカしたジャケットに、どこで売ってるのか逆に知りたくなる程にデカい蝶ネクタイをしたライトが、ひな壇の上でそう叫ぶと、左右に分かれた男女が思い思いのテーブルに散っていく。

 

 ライトは早速淑女に突撃していく男性陣を微笑まし気に眺めると、少し離れた場所にある本部席に戻ってきた。

 

「いや~ライト君、大盛況じゃないかっ! 見なよヘファイストスのあの顔をさ。あんな乙女な彼女の顔なんか見た事無いよ」

 

 本部席には山盛りの料理と勝負する残念な美少女がいた。

 というかヘスティアだった。

 

 なにせこのイベントの協賛には豊穣の女主人の名前がある。

 厨房ではミアを筆頭に、大量の料理が生産されているのだ。

 ゆえにここで提供されている料理は素晴らしく美味い。

 

 この会場は実はバベルの上層階にある。

 つまり神々の領域である。

 だが今回の催しにテンションをあげた神々が、特例として許可を出したのだ。

 

 ここは相当に広い大広間であり、神々が会議をしたりする際に利用される部屋のうちの一つだ。

 勿論さすがに神会が行われるフロアよりも下にはなるが。

 それでもこの盛り上がりを見れば、いかに神々が今回のイベントを楽しみにしているかが容易に知れるという物。

 

 さてこのイベントであるが、ファミリアの主神に恋する男性冒険者、その逆も然りだが、要は神様に恋しちゃった系男子にきっかけを与えるという物である。

 そのタイトルは────ジャーニン竃団(かまどだん)────である。

 

 ジャーニンことニンジャ、いやライト・ニンジャが主催した。

 実はライト・ニンジャは神々に注目されている。

 と言ってもアイズの様な冒険者としてという意味では無い。

 単純に「コイツ何するんだろスゲー面白そうなんですけどー」的なノリである。

 

 そもそも神々の殆どは退屈を持て余している。

 故に神聖なはずの神会では、レベルアップした子供たちに二つ名をつける際に悪ふざけ全振りに傾くのだ。

 それで泣きを見ている子供も実際大勢いる。

 

 それを先に察知し、勇者と言う二つ名をゴリおしたロキファミリア団長は流石だろう。

 もし彼がそれをしなければ、腹グロショタ等と呼ばれていたかもしれないのだ。

 

 つまり神々は退屈しのぎに地上に降りた癖に、まだ退屈だとのたまうのだ。

 故にライトが巻き起こす騒動の類いは彼らの刺激になるという。

 ソーマファミリアの一件などはまさにそれだ。

 

 ────ほう、荒れそうな流れを斜め上の方策で回避するか……

 

 と、ほくそ笑みながら眺めているダンディ系神様なんか1%くらいで。

 ほとんどは、

 

 ────ウケル。あいつ頭おかしいwwwww

 

 くらいのノリで腹を抱えて笑っていたという。

 それ以前に、傲慢不遜にも神であるソーマのケツを蹴り上げ、店の客寄せパンダにする為に、フレイヤを呼ばせた一連の流れは伝説扱いである。

 

「頼むフレイヤ、一時間ほどでいいから、えっ、面倒臭い? なんでそんな事に私が行かなきゃ? う、煩いッ! 私の命と尊厳がかかってんだっ! 来てくれりゃいいだろうがっ! は? 失礼だと? てめえオッタル今神と神の話中だ、すっこんでろ。うるせえ! 酒狂いで悪かったなこの垂れ乳がっ! お前魅了なかったらただのBB……すまん取り乱した。あーもうわかりましたっ! 何でもするんで来てくれませんかねえ!?」

 

 鬼気迫るソーマの見事なキャラ崩壊っぷりにフレイヤが折れたのだ。

 そうさせたライトの評判はグングン上がった。

 

 ────何あの男鬼畜過ぎワロタwwwwwwwww

 ────汚いな、流石忍者きたない

 

 等の称賛の嵐である。

 要は神々はあいつが何かすると必ず面白い物が見れそうと考えたのだ。

 そんなライトがヘスティアを介してギルド上層部、つまりウラノスや神々に今回のイベント企画を持ち込んだ結果、翌日には許可が下り、かなりの大掛かりな準備も協力的であった。

 

 さて会場を見てみよう。

 ただ無駄に広いだけの広間はいくつかのブロックに分けられている。

 中央の一番広い区画は、ギリシアの神殿を彷彿とさせる様式の豪華なパーティ会場。

 壁を挟んで右側は特別に設えられた巨大厨房。

 左側は関係者席というか神々が飲み食いしながら会場の様子を眺める為の第二パーティ会場か。

 そして会場の一番奥の裏側にはライト達ヘスティアファミリアがいる主催者本部席である。

 因みに本部にはギルドからの関係者としてエイナ職員がいる。

 

 神々のこの催しに対する本気度が分るのが、リアルタイム映像とその映像を記録するマジックアイテム及び、一部の神々の権能を解放している所だ。

 神々が歓談する第二会場には、大型モニターの様な水鏡が空中に浮いており、会場の様子を余すことなく映し出している。

 勿論これは本部席にもだ。

 

 そして現在、10対10の男女に分かれての攻防戦が行われている。

 その模様は全てモニターに映っているが、後ほどこれらが編集されて神々に配られるため、ライト達主催者は、特別なマイクを通して解説などを行うように神々より命令されていた。

 

『さあそれではフリータイムの様子を窺っていきましょうかリリルカさん』

『はいです。まず注目すべきは当然、大手ファミリア主神であるヘファイストス様とその眷属であるヴェルフ様でしょうね。見てくださいよあの神様。普段は男装の様な姿なのに、今はAラインの見事なドレスで着飾っています。その上あの胸元、バッカー開いてます。完全に狙っています。そうですヴェルフさんをッ。あれは完全にメスの顔です。リリには分かります』

【なにあの小人、辛辣すぎひん?】

【いや逆にアリ、だな。是非我が眷属に改宗して、日々罵ってほしい物だ……】

『外野はさておき、あそこだけ別世界になってますね。他の男子が近寄れません。おーっとここでヴェルフ、鍛冶についての思いを語りだした! 熱い熱い自分語りは大概ウザがられますが、見てくださいヘファイストス様の頬を。真っ赤です。これはもう告白タイムは必要ないのでは? どうですかヘスティア様、ご友神としては?』

『うん、うん……このトマトベースのパスタは凄いね。シンプルな野菜なのに鮮烈。そしてひき肉の旨みが更に味に深みを与えている。流石はミア母さん。一品ごとの単価の高さは、なるほど、この味を支えるコスト故って事だね。うん、ボクは満足したぜライト君。次は肉料理を所望するよ』

【ロリ巨乳のやつ話聞いてねえじゃんwww】

【自由か! お前の食レポとかどうでもいいしwwww】

【ドヤ顔なんだけど口の周り真っ赤で草ww】

【お前草に草生やすなし】

 

 完全に盛り上がっている。

 というか神々のコメントが非常にウザいが、これは平常運転である。

 

 さてライトが主催するこの宴だが、実はヘファイストスとヴェルフ以外の参加者は、企画の趣旨をいまいちよく分かっていないサクラである。

 神々の興味もあの堅物ヘファイストスの恋路を出歯亀したいが為である。

 

 と言ってもただの人数合わせな訳でも無い。

 一応サクラの参加者には気に入った相手がいれば好きに動いていいとされている。

 ただ告白タイムの並び順はヘファイストスが最後になる様に決められているだけだ。

 クライマックス、そこをドラマティックに演出し、もしOKならば、袖に準備されている楽団が奏でる音楽に合わせて神々がエンダーーーー! と乱入する手はずになっているのだ。

 流石ライト、考えることが鬼畜である。

 

 ついでにこれを雛形として今後行われるカマド団イベントは、必ずヘスティアファミリアが一枚噛み、その都度利益を貰うという裏約束をライトと神々は交している。

 つまり初回のコレはただのエサに過ぎず、今後定期的に行われるであろう恒常イベントが本命なのだ。

 

 ────いやー他人の金で興行できて金も貰えるとか最高ですわぁ

 

 とはライトの談である。

 さてサクラも含めた会場は盛り上がっている。

 男は精一杯のカッコよさをアピールし、女性陣は普段のキャラは一時封印、精一杯の女を見せる。

 そしてここで、

 

「はーい注目っ! ここでとうとう告白ターーイムッ! はいはい、全員ステージの上で整列をお願いします。右が女性陣で左が男性陣。そこで男性陣に質問だっお前ら最高のアピーーールは出来たのかぁ!?」

「「「お、おーーー……」」」

「はいでは女子の皆さ~ん、お目当ての殿方は見つかりましたか~?」

「「「…………///」」」

「こっれっは、期待できそうですね、リリルカさん」

「ですね! ではライト様? 早速」

「はい、では行きましょう! じゃトップバッターはなになに……えっとソーマファミリアのカヌゥ君だっ! 自己アピールはキュートな耳だそうで、よく恥ずかしげも無く書けたなオイ……ではどうぞ!」

「あ、あの、最初から決めてましたっ、アルテミス様、結婚してくださいっ!」

「ちょっと待ったーーー!」×8人

 

 一斉に男性陣が青髪の少女、女神アルテミスの元に殺到。

 すぐ契りたガール事アルテミスはあざといまでの狼狽えっぷりである!

 ライトは「というかカヌゥよ、どうしてイケると思ったのか」と小一時間ほど問い詰めたい衝動に駆られた。

 そして結果は────

 

「ごめんなさいっ、私は年下で英雄願望のある少年が好みなのだっ」

 

 最悪である。

 なぜここに来たし。

 一同の声にならない感想がシンクロする。

 おいヘスティア、お前の神友だろ、どうにかしろ。

 神々はそう思った。

 

 しかし雰囲気が微妙な感じになった。

 何故ならアルテミスの後に8人のサクラ女性がいるのだ。

 勿論本命であるヘファイストスは抜いてであるが。

 いくら日当を貰ったサクラの女神たちとは言え、何かこう女神の存在意義が否定された気分である。

 

「あー……、では気を取り直して。赤髪純情ボーイことヴェルフ君、さあどうぞ!!」

 

 瞬間会場のライトが落ちて暗くなり、ヴェルフとヘファイストスがピンスポットで浮かび上がった。

 完全に贔屓丸出しの特別な演出である。

 そしてライトがバチコーン☆と袖にウインクを飛ばすと、やたらとムーディなBGMが流れた。

 因みにこれはライトがホイッ〇ニーヒューストンの例の曲を限りなーーーくそれっぽくアレンジしなおしたパチモンである。

 何というか中国製のパチモン臭がするが、オラリオの住人には新鮮な曲としか聞こえないのがミソである。

 

「あ、えっと、神様……俺を……魔剣で狂っちまったこんな俺を拾ってくれて感謝してるぜ……」

「ああ、うん、そうね。あ、当たり前よっ、救いを求めている子供を放っておけるなんて出来ないから……その」

【あまーーーーーいっ!】

【まだはえーよwwww】

 

 伏し目がちな主神の前に立ち、声は震えているが、真っ直ぐな視線のヴェルフ。

 ごくりと彼女の喉が鳴り、普段の様子は鳴りを潜めている。

 

「俺は鍛冶師としてはまだ二流以下なのは分かっている。越えなきゃいけない壁は当然目の前にいるアンタだ。けど、それ以上に俺ァ……その、アンタと一緒にいたいんだっ! 寿命とかさ、色々障害があるのは理解しているよ……けど、俺が生きている間、アンタの横にいさせて欲しいっ!!!」

 

 ライトがカメラマンに指示し、二人をパンさせる。

 第二会場はいまや興奮のるつぼである。

 

 真っ直ぐに気持ちを吐きだしたヴェルフが一歩、彼女に歩み寄る。

 だがヘファイストスはすっと視線を逸らせると、一歩下がった。

 彼女の目が悲し気に揺れる。

 

「ヴェルフの気持ちは嬉しいわ。神である前に私も女よ……けど、貴方も知っているでしょう? この眼帯の意味を」

 

 呟くような彼女のセリフ。

 一瞬その目に憎悪と諦めが浮かぶ。

 

 観覧している神々も気まずそうに目を逸らす。

 というのもヘファイストスの目は別に怪我を負っている訳でも失明している訳でも無い。

 ただ醜いのだ。

 

 彼女のその醜さを、過去に周囲が嫌悪した。

 神々とはその強大な権能をもつ人外の存在だからこそ神なのだ。

 この世の全ての理から外れた彼らは、逆に言えばルールに縛られないアンタッチャブルな存在なのである。

 

 つまり悪意なく傍若無人な事をやってのける。

 例えばヘファイストスの目が醜ければ、そのままストレートに醜いから見せるなと言ってしまう程。

 この目は神々だけではなく、眷属すら恐怖させた事もある。

 故に彼女は眼帯をする様になったのだ。

 

 余談ではあるが、神話の中の彼女のモデル、ヘーパイストス。

 彼は恐らく、オリュンポスの神々の中でもかなり悲惨な部類だろう。

 色々な説があるが、有名なのは産まれた段階で足に酷い奇形があり、母親であるヘラに嫌悪され捨てられ、海に捨てられた。

 

 その時は海の女神に拾われ事無きを得たが、その後アルケイデスの試練の最中にいらんことをしたヘラがゼウスの怒りに触れ、それを健気に庇った彼は天界から地上に投げ落とされている。

 その結果奇形の足は完全にダメになったとも言われている。

 そしてアフロディーテと結婚すれば浮気され、とにかくロクな神生じゃあない。

 

 だが、ヴェルフは前に出た。

 顔を背ける主神の肩を掴み、抱き寄せた。

 呆気にとられる彼女は思わずヴェルフの顔を見上げた。

 

「関係ねえ」

「えっ?」

「関係ねえって言ってんだっ!」

「あっ!?」

 

 その場にいた者は一部を除いて絶句した。

 何故ならヴェルフがヘファイストスの眼帯を取ったからだ。

 確かに彼女の目は醜かった。

 

 人の顔の構造は、必ず左右非対称になっている。

 ぱっと見た限りは同じように見えても、実は差があるのだ。

 とは言え脳が補正を掛けて視界の中を判断する関係上、普通はあまり気にならない。

 

 だが彼女の目は明らかに大きさが違い、瞳の色も淀んだ様な何とも言えない色合い。

 理由は分からずも、生理的な部分で受け入れがたいという概念的な醜さと言えるだろう。

 だが、慌てて身じろぎするヘファイストスを強引に抱きしめたヴェルフは吠えた。

 

「だから関係ねえんだって言ってるだろ? 醜い? 知らねえよ! こんな眼帯が付いててもそうじゃ無くても、アンタはアンタだ! 俺が惚れたのはアンタという存在そのものだ。だから関係ねえ。アンタは俺といたいって少しでも思ってくれてるのか? 俺はさっきからそう言ってる。なら、後はアンタの気持ちだけなんだっ!!」

「ヴェルフ、貴方…………もう、馬鹿なんだからっ。私はこう見えて嫉妬深いの。覚悟なさい?」

 

 その後の事は詳しく語るまい。

 ただ掻い摘んで言うのなら、ある一部を除いて感動の渦に包まれた会場。

 身を潜めていた神々も飛び出して来ては、次々とヘファイストスを祝福した。

 

 その後、この催しは「求愛の宴」と言う名前で定期的に行われたという。

 そうして色々ありつつも、このイベントは一応の成功として終了したのである。

 

 

 ☆

 

 

 某教会風の建物の地下にある一室。

 ランプ一つだけ灯されたそこには、怪しい大男と小柄な女がぼそぼそと会話をしている。

 

「…………やりましたねライト様」

「ああ、これぞ濡れ手に粟ってやつよな……笑いが止まらん」

「クヒッ……これは凄いです……何百万ヴァリスあるんでしょうか? でもこれからまだ増えますよね」

「ガッポガッポやな。たまりませんなぁ……」

「お金はいいですね、心が洗われるようです……」

 

 控えめに言って酷い会話である。

 怪しいというか、ヘスティアファミリアの団長および副団長である。

 最近はライトも開き直ってリリルカとの恋人ムーブを楽しんでいるが、如何せんこいつらの性根は腐っている。

 

 実際いまもゲス笑いをしながら更に増えたヴァリス金貨の山を撫でている。

 そう、例のヘファイストスとヴェルフの恋物語。

 あれを全て文字に起こしたライトは、庶民向けの廉価本として大々的に売り出したのだ。

 タイトルは「火の神と火の男」である。

 

 出てくる固有名詞はボカしてある物の、ヘファイストスファミリアの事だと誰の目にも明らかだ。

 娯楽に飢えている庶民には、こういった恋話は格好の獲物であろう。

 ましてその片割れが神だというのなら尚更。

 

 ライトは例のミニコミ誌の編集部を間に挟み流通させた。

 結果は御覧の通り、売れに売れた。

 しかも更に増刷の希望も殺到している。

 あまつさえ新作はまだかとの声も多い。

 

「いやー笑いが止まらん! どうするリリ? 今日はティオナも呼んでぱーーーっと騒ぐか? いっそ店を貸し切るか!」

「むう痴女を呼ぶのは業腹ですが、いいですね! 高級な肉いきましょうよ肉!」

「……それはさぞ楽しいでしょうねえ?」

「当たり前やん! 金もガッポガッポやぞ!」

「なるほどな、師匠。その結果俺達は街中で噂をされているんだが?」

「なーに言ってんだよリリ……リリじゃねえな。え? 止まらなそうなその声は────

 

 ライトとリリルカが恐る恐る振り返ると、そこには青筋を浮かべたヘファイストスとヴェルフが仁王立ちしていた。

 

「おー、おおっ……これはこれは幸せなお二人さんじゃあないですか! いやーオレも骨を折った甲斐があったってもんさ、なあリリよ!」

「はわっはわわわわ……」

「ライト、ちょーーっと話を聞かせて貰いましょうか。貴方の主神も交えて」

「師匠、これは流石に庇えねえよ……まあアンタにゃ恩を感じているからこれ以上は言わねえ。だがまあ、お説教は覚悟するんだな……」

 

 ヴェルフは今や大人の余裕に溢れていた。

 慈愛の目でライトの肩を叩いた。

 盛大に目を泳がせるライト。

 リリを見れば白目を剥いて意味不明な事を呟いている。

 

 瞬間、ライトがリリを小脇に抱えてドアの向こうに飛び出した!

 かくなる上は逃亡である。控えめに言ってアホである。

 だが彼に微笑む神は今はいない。

 

「ライト君、話を聞いたよ? いくらボクでもちょーっと怒ってるんだぜ?」

 

 地上に向かう階段の先には、満面の笑みで待ち構えているヘスティアの姿。

 

 その後ライトとリリルカは神様二人による24時間説教を喰らい、ヒット作の「火の神と火の男」増刷は中止となった。

 燃え尽きたライトに下った裁定は、1か月間の謹慎である。

 当然リリルカも。

 

 因みにライトは、写本業者に既にオーダーを出していたため、本の増刷分の費用がそのまま、キャンセル料として支払いになった。

 そして初版の売れ行きに気が大きくなり、最初の5倍の量をオーダーしたため、キャンセル料は儲けた額では当然収まらず、大赤字となったのである。

 

「もう商売なんてこりごりだ~~~…………」

 

 流石に今回の事は懲りたライトであった。

 ちなみにリリルカと通い妻化しているティオナは喜んでいた。

 なにせライトがホームに一か月も居着いたのだから。

 

 

 

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 ~きょうのかみさま~

 

 

 

 今朝のかみさまはオラリオの最北端にある黄昏の館に住んでいるロキちゃんです。

 ロキちゃんは少しやんちゃなかみさま。

 家族のみんなはいつも困り顔。

 

 おやおや、ロキちゃんが目を覚ましたようです。

 

「あ゛あ゛~……アカン、完全に二日酔いや……オエッ、あ、無理、出る」

 

 青い顔をしたロキちゃんは一目散にトイレに走っていきました。

 元気ですね。

 

「オブォ……オロロロロロ……もう堪忍してぇ、酒は呑まんからぁ……助けてえ~な神様~ってウチが神やった……オロロロロ…………」

 

 でもそんなロキちゃんがみんな大好きなのです。

 

 次回は西地区の竃の家からお送りします。

 

 

 

 

 




新宿の雑居ビルに勤務する警備員 山田隆一(25)

ん~あの日の事ですか?
ま、いいですけど休憩時間が短いので食事をしながらで失礼します。

範馬勇次郎の規格外さはこの前の親子喧嘩で誰もが知る事ですが、正直ひとりの男としして……まあ憧れますよね(笑)

ああ、そっちじゃないか。

あのベルクラネルでしょ。
テレビで有名になりましたからね。異世界から来たって。

確かに僕は近くで見ていた。
丁度見回りの時間でしたからね。
まるでダンプカーが正面衝突したみたいな音でね。
誰でも気が付くでしょあんなの(笑)

え、ベルが凄かったって?

いやー……記者さんは分かってない。
ベルクラネルって青年は、なんて言うのかな? 英雄って言うんですかね?
あの細身の身体なのに、拳が、炎が、とにかく目が釘付けになるんですよ。

何というか、神話の英雄ってただただカッコいいでしょう?
彼はきっと本の中から出てきたんじゃないかなあ。
それくらいの魅力があるんです。

範馬勇次郎は男が無条件に憧れる雄々しさ。
でもね、ベルクラネルは誰もが憧れる希望、そんな気がするなあ……。

ああすみません。そろそろ時間なのでこれで勘弁してください。


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ダンジョンでデモンストレーションをするのは間違っているのだろうか

インテグラ「ウォルター、奴ら私の部下を喰っていた……絶対に許せない。この館から生きて帰すな」
ウォルター「かしこまりましたお嬢様。ですがここはベル、貴方に行って貰いましょう。できますね? ヒーローを目指しているのなら」
ベル「……………………」コクリ


「突然だが諸君、私の話を聞いて欲しい」

 

 抑えめのバリトンでライトは口火を切る。

 すると向かい側に座るヘスティアは心底不安そうな顔、通称SF顔でライト見た。

 

「だ、大丈夫かいライト君? あれほど拾い喰いしちゃあダメって言っただろう?」

「ライト様が私とか言ってます……びょ、病気ですかね!? ライト様、正気に戻ってください。あ、リリの胸揉みますか?」

「んむ、是非揉ませて貰おう」

 

 キリっとした顔のライトの手が素早く伸びる。

 

「んっ、んんんんぅ……ちょ、ちょっとどうしてボクの胸を揉むんだい!? リリルカ君のを揉みなよ!」

「それは後でたっぷり揉むからいいのだ。それより神様が私の事をどう思っているかよーーく分ったからな、これはその意趣返し。やられた事は……倍返しだッッ!!」

「ちょ、駄目だよぉ、そこはホント駄目なんだってばぁ!?」

「チッ、この神様、メスの顔してやがるです……」

「リリルカ君、顔が怖い怖いっ!」

 

 相も変わらずグダグダであるがヘスティアファミリアの面々が一堂に会していた。

 というかいつもと変わらぬ朝食を皆で囲んだ後、話があるからとライトが皆を呼び止めただけだが。

 

 ライトはまだ外も明るい朝だというのに、どこかの人類ポカン計画を任されている司令官の様なポーズで語り始めた。

 と言っても直ぐにグダり、憤慨したライトが主神の乳を揉むといういつものテンプレとなったのであるが。

 

「まあいい、話の腰を折るんじゃあない! つまり団長として声を大にして言いたいのだッ! 何故っ、団員が、増えないのかとっ!」

「いやまあ、そりゃあね……? 団長であるライト君の悪名がね?」

 

 やれやれ、何を分り切った事をとばかりに笑いながらヘスティアがリリルカを見れば、彼女は目を逸らしていた。

 危機管理能力の高さ、これがリリルカアーデの真骨頂である。

 

「まあっ! そう言う側面も無きにしも在らずだが、一番はヘスティア神の知名度、恐らくそれが低いッ!」

「うわ、うるさっ!?」

 

 ライト、ここに来てヘスティアの発言を、大声を持って上書きし、無かった事にする作戦である。

 

「そこでオレは考えた」

「あ、私はもうやめたんだね」

「乳揉もうか?」

「ごめんなさい。ボクが間違っていたよ……」

「まったく、これだからロリ巨乳は……まあいい、つまりはこの状況を打開する策を練ったのだ!」

 

 ババーン! と効果音でもしそうな勢いで、ライトは立ち上がるとそう叫んだ。

 そしてまた座る。

 

「まあぶっちゃけるとだ、金は正直売るほどある。そっちの方面での実績は実際高い。そうだろう?」

「まあそうですね。未だにライト様にテコ入れしてほしいという依頼が多いですし。今にも潰れそうな店とか」

「そうだ。なのでオレというか、商業系ファミリアであるという部分はある程度の認知はされているんだ。だのに何故来ないか、結局コレって冒険者はやっぱ冒険したいんやなって」

「あー……そういう。確かにそうかもしれないねえ」

 

 ライトが言うのはシンプルだ。

 冒険者ってのは分かりやすい強さを信仰しているのだと。

 故にオッタルが畏怖されているのはそういう事なのだろう。

 或いはフィンなどが顕著か。非力な筈の小人族がオラリオ最大派閥の団長なのだから。

 

 逆に商業ならば、どこかでモンスターと対峙するという前提が無ければ、そもそもファミリアに所属する必要も無い訳だ。

 そんなライトの意見になるほどと頷くヘスティアとリリルカ。

 

「で、原因がそれだとして、ライト君はどうしようって言うんだい?」

「そうですね、そこをクリアするとなると、もしかして……」

「うむ、いち早く察知したリリ隊員には5点をあげよう。ぽんこつ神はー2点」

「ええーーっ!!!」

「やったーっ!!」

 

 そのポイントが何になるのかは誰も知らない。

 

「まあつまりだ、満を持してダンジョンに潜るのだッ! そして人目が多い所で階層主とやらをボッコボコにする。結果、キャーライトさんステキー! 抱いてー!! とまあこうなる」

「なんだいそれは! 煩悩だらけじゃないか!」

「そうですよライト様! リリという者がいながら……」

 

 そこでライト、渾身のドヤ顔をしながら、チッチッチッと指を振る。

 いちいち腹が立つリアクションである。

 

「リリルカくーん、焦っちゃあダメだ。知る人にはスゴイハヤイ赤い人との異名を持つオレが万が一苦戦する事などあり得ない。そうなりゃ当然注目されるだろうし、女冒険者からは熱視線が来るだろうよ。そこを責める訳にはいかんわな。だって将来有望な相手を掴めば安泰なのだから。だがっ! ビシーっとオレは言い切るね。オレには既に心に決めたステディがいるのサ……ってね!」

「やだ、超カッコいいですライト様ァ……」

 

 キメ顔でそう言ったライトに目を輝かせたリリルカが縋る。

 ただ冷静に考えると、複数の異性とねんごろになっている時点で腐れ外道なのだが。

 その辺は英雄色を好むで流しておかないと、ベル君の立つ瀬がないだろう。

 

「あのさぁ……この茶番はいつまで続くんだい!?」

「まあ待て。横道にそれるのはもはや、ヘスティアファミリアの伝統だと言える。つまり神様がぽんこつなのが悪い」

「ええ……酷い責任転嫁だぁ……」

「それはそれとして」

「切り替えもはやーい!」

「とにかく目立つモンスターを狩る事で必然的に名声はあがる。と言ってもオレはリリやティオナとグータラしている日常は手放したくないっ! 故にまずはメンバーを増やし、中層くらいまでは安全にいける程度には訓練をする。その後! オレとリリは商業系担当、そして新人の中で有望な奴をダンジョン系担当とするのだ。結果、どっちにしても名声は保てる。まあ時折出張ってオレがヤベー奴を倒せばいいだろう」

「うう……何かこう言ってる事は凄い納得できるんだけどね。何故か釈然としないよ。ってあうあうあうあう────」

「失礼な事を言うのはこの乳かっ! こいつめ! こいつめ! 柔らかすぎっ!」

「や、やめろォ!?」

 

 こうしてライトによる見世物的ダンジョンアタックを行う事が決定したのである。

 

 ☆

 

「いや駄目ですっ」

「ほーらほらほら、可愛い顔なのにツンツンしなーい」

「馬鹿にしてるのですかっライト氏」

「いやーだってダンジョン入るだけじゃん」

「ならもっとそれらしい格好をしてくださいよ。ピクニックですかっ」

「それを言われるとアレなんだけど、これには深い深~~い訳があるんですわ」

 

 久しぶりにギルドにやってきたライトとリリルカ。

 どうやら今日、茶番、いや見世物アタックをするようだ。

 

 驚く事にライト、いつものニンジャスーツ姿では無い。

 銀髪イケメンを晒している。

 普通なら踏み台転生者的な容姿なのだが、ここオラリオでは原色の髪色など普通にいるので問題無い。

 

 ライトとしては素顔を晒して大活躍をすれば、キャーカッコイイ! と評判が集まると思っている。

 故に身軽な姿で来たという訳だ。

 だがそれがエイナの逆鱗に触れた。

 なるほど、ジーンズに白いカッターシャツ、実用性の無いお洒落系ブーツでは正気を疑われても仕方がない。

 

 しかもリリルカを膝の上に乗せながら、さながら仲睦まじい親子ムーブをしている。

 乗ってる方も満更でも無いが、それでいいのかリリルカアーデ。

 エイナがキレたのは、そのリリルカの「ライト様、今日はリリが腕によりを掛けてサンドイッチを作りました! 後で食べましょーね!」のセリフがきっかけである。

 故にピクニックかと突っ込まれたのだ。全くその通りである。

 

 ライトとしては鎧をつけてもつけなくてもそう変わりはないので、なら高速移動をしやすい軽装の方がラクと言うだけだ。

 けれどエイナの、いやオラリオの常識からすると、基本的には相手の攻撃を受けきれる防御力は無いと厳しいというのが常識なのだ。

 前衛が受けて、アタッカーが殲滅、つまりはMMORPG的なパーティプレイが前提である。

 

 ライトの意見はあくまでも自身の力を前提とした、廃人のソロプレイである。

 そしてここまでのライト、たしかにレアモンスターをヤったりはしているが、名声を得る程の活躍をあまりしていない。

 ティオナに懐かれたきっかけとなったあのロキファミリアの遠征、あれは50階層以降の難敵を単騎で翻弄している時点で恐ろしい事なのだが、ロキファミリアとしてはパーティーが決壊したなど汚点になる事を喧伝する訳も無い。

 結果、あの事はギルドもきちんと把握していない。

 故にライトが大丈夫と言ったところでエイナに理解は出来ないのだ。

 

 今回のライトは、他人に見せる為にダンジョンに向かう。

 なのでターゲットはウダイオスを考えている。

 人目に付きやすい18階層で黒いゴライアスと戦えれば早いのだが、如何せんアレは原作におけるイレギュラーなので期待出来ない。

 あれはダンジョンの中で神様が存在をアッピルした結果でしかないのだ。

 

 原作にはあそこにヘスティアもヘルメスもおり、物語の流れでああなった。

 なら次点としてウダイオスである。

 ウダイオスは見た目のインパクトも抜群である。

 それに37階層というのがライト的には良い。

 

 何故ならその辺を通れる連中はニュービーではあり得ないし、かと言ってロキファミリア程トップでもない。

 頭打ちになった連中が上を目指すのに狩場にしている可能性が高いエリアと言える。

 

 ウダイオスは大型で、スパルトイを取り巻きに呼ぶ。

 本体はほとんど動けないし、攻撃範囲も狭いが、スパルトイはレベル4相当のモンスターだ。

 つまりソロで倒せる相手ではない普通は。

 

 アイズがそれをやってのけてはいるが、決して楽勝と言う訳でも無い。

 原作における描写はあくまでもフィクションであり、ここは現実なのだ。

 故に描写されない部分では、アイズとて苦労はするのである。

 単純に彼女の場合は、スキル自体が汎用性の高い物だというのもあるだろうか。

 

 ライトは系統としてはアイズと似た様な物だ。

 戦闘スタイルがというより、自己完結型と言うか、連携でミックスアップするタイプでは無い。

 なのでエイナとライトの意見は噛みあわないという訳である。

 

「時にエイナよ」

「……なんですか」

「ジュージュー苑の焼肉を知っているかね?」

「あ、知ってます知ってますっ! 同僚と行こうとしたんですけど、全然予約が取れなくて……

 

 ────解説しよう。ジュージュー苑とは、1か月程前から突如オラリオ北区画にオープンした、高級なレストランである。

 丁度バベルから北に向かうメインストリートを20分程歩いた先にある。

 そこでは古今東西の最高級の肉を集め、これまでオラリオには無かった、専用の隙間の開いた鉄板の上で、食べやすくカットされた肉を焼いて食べるのだ。

 加えて、ジュージューのたれなるソースに付けるとそれはそれは極上の味わいだと言う。

 当然客単価もかなり高く、中堅冒険者でも躊躇する価格帯だ。

 しかしそれも含めて、オラリオのVIPがこぞって通う人気店である!

 

 エイナの反応を見てライトがニヤリと笑ったっ。

 攻め時はいまだ、そう言う凄味を感じる。

 

「……エイナよ。実はあの店、このオレが噛んでると言ったらどう思うかね?」

「えっ!?」

「フフーン! ではリリルカ君、この頑固なハーフエルフ君に説明をしてやってくれっ」

 

 ライトのセリフにリリルカは立ち上がると(と言っても膝の上だが)、どこからか眼鏡を取りだし装着した。

 知的に見える感じの奴である。

 どうやらライトの秘書モードのつもりである。

 何故かそこはかとなくドヤ顔をしている。

 

「はいです。エイナさん、あの店のオーナーは以前、西地区で料理店を営んでいたんですが、親族が抱えた借金の保証人にされており、店が取り上げられました。そして彼はライト様に相談し、富裕層をターゲットとした新感覚の肉料理の店、つまり焼肉ジュージュー苑をオープンしたのですっ! ライト様の優れた頭脳から繰り出されるアイデアの数々っ! 今ではオラリオいちの高級肉店として地位を確立しましたっ! つまり! ライト様はあの店の仕掛け人として、それなりの影響力をお持ちなのですっ!」

「なん……ですって……」

 

 驚愕のエイナ!

 リリルカは説明に満足したのか、眼鏡をしまうとそそくさと娘モードに戻った。

 

「つまりだなァ~エイナ職員。貴様がイエスと言うのなら、このライト、貴様に優待券を進呈する用意があるのだよ!」

 

 何故か子安っぽい感じでビシっと決めるライト。

 ごくりと唾を飲みこむエイナ。

 じっと目を閉じ何かに耐える様な苦悶の表情。

 

 天使エイナ「そうよ、エイナ。あなたは誇り高きギルド職員でしょうに。彼らの無謀を水際でせきとめ、生存率をあげるのが貴方の仕事でしょ! だからきっぱりと撥ねつけるのよっ! 誘惑に負けたらだめっ」

 

 エイナ「そうね、そうしましょう。ここはキッパリと────」

 

 悪魔エイナ「まあ待ちなさいエイナ。考えてもみて。ライト氏はこう言ったのよ? そう優待券、と。つまりっ! 予約だけにとどまらず、無料で、無料でっ! あの最高のお肉が食べられる。この意味、聡明なあなたならわかるわね? それに今月のお給料はどれくらい残ってる? 貴方、ソーマ’s シャングリラに何回通ったと思っているの」

 

 エイナ「ダメよ、ダメダメ、誘惑に負けたらっ。そうよね、天使のわた────」

 

 天使エイナ「たしかに、そうなると話は別よね。優待券、つまり客単価が最低でも7千から1万5千ヴァリスと言われている店で無料で食べられる……? 正しさを求める天使としては悪魔の意見に賛成である。いいことエイナ、ライト氏は非公式意見ながら、あのロキファミリアが一目置く存在よ? つまり……」

 

 天使&悪魔「「イエスと言っても何も問題はない。な に も 問 題 は な い 」」

 

 エイナ「何も……問題はない……何も問題はない……何も……」

 

 ここでライト、キリっとした顔で答えを促した。

 

「ではエイナ職員、許可を貰えるね……?」

 

 エイナは陥落した。

 

 

 

 ☆ 

 

 

「いいかリリ、オレがウダイオスを倒した時、そうだな魔石をパキーンと割ったタイミングでこいつを2つ3つ空中に放るんだ」

「了解ですっ。でもこれ、危なくないんですか?」

「いやどえらい危険だぞ。巻き込まれたら可愛いリリなら即死レベルで」

「ちょ、こ、怖いんですけどっ」

「でもな、何故か使った人は大丈夫なんだよなぁ」

「…………ほ、ほんとですか?」

「いやマジで。オレもやってみたもん。ここ来た最初の頃とか」

「ほへー、なら大丈夫そうですね!」

 

 ライトとリリは作戦の最終確認を行っていた。

 37階層に潜り込んだ彼らは、物陰でしばらくサンドイッチを食べつつ様子を窺っていた。

 別にピクニックでは無い。

 

 単純にウダイオスが現れるのを待っていた。

 暫くするとウダイオスが現れたのだが、まだ誰もギャラリーがいない。

 なのでライト達は息を潜めながら誰かが来るのを待っていたのだ。

 

(あ、ライト様、結構な団体様が来ましたよ)

(ほんとだ。木とかで良く見えないが、20人くらいいるか? これはチャンスだ)

(ええ、慎重そうに索敵をしてるようですが、皆さんがこっちを見ていますね)

(よし、リリ。オレは行く。オレの雄姿を見ててくれ!)

(ええ! では倒した後はお任せくださいっ!)

(おうよ!)

 

 巨大なウダイオスは鈍重であまり動けない。

 だが範囲は狭いが強烈な攻撃手段がある事と、取り巻きとして無数のスパルトイを召喚するので危険だ。

 そのスパルトイもただの骨じゃあない。

 ギルドではレベル4相当の強敵として認知されている。

 それがワラワラと沸くのだから恐ろしいのだ。

 だが背後に視線を感じながら、ライトは大胆不敵にもウダイオスの前にでた。

 

「やぁやぁ我こそはあの偉大な竃の女神”ヘスティア様”が率いる世界一素晴らしいファミリアに所属している美しい冒険家ライトッ!!! ウダイオス、お前がいると危険が危ないっ!!! だから…………オレが倒すッ」

 

 完全にジョジョ立ち、それもワムウっぽい感じのままライトは口上を叫び、そしてチラッっと視線を背後に向ける。

 

(感じる、感じるぞ……凄い見てる……フフフッ完璧だ)

 

『GUAAAAAAAAAAA』

 

 スパルトイが無数に現れた。

 そして見た目よりもずっと早く動き、ライトを取り囲んだっ!

 スパルトイは一斉にライトに殺意をぶつけるのである。

 

「ハッ! 笑わせるなよ! お前らの様なザコ、これで十分だ。来いっトンファー!!」

『~~~~っ!?』

 

 ライトが叫びながら持ち物からトンファーを取りだした。

 背後からは息を飲む気配がする。

 そして華麗にクルクルとトンファーを躍らせると、

 

「ホッ!」

『ギャー』

 

 鋭い蹴りでスパルトイは爆散。

 

「ハッ!」

『マー』

 

 きりもみ回転しながらのチョップ!

 

「これで終わりだっ!!」

「ゲーッ!」

 

 トンファーを空中に投げ捨て、最後の一匹を残像が残る速さでスープレックスで沈めた。

 ライトがネックスプリングで華麗に立ち上がると、彼の両手にスタッっとトンファーが握られる。

 この間わずか30秒程である。

 

 そしてビシーっとウダイオスを指さすと、ライトはニヤリと笑った。

 

「どうしたどうしたウスノロが。怖くて声もでねえかぁ? なら貴様はこれで終わりだ。せめて一瞬で殺してやろう……」

 

 そしてライトはトンファーをしまうと、虹色に輝く鈍器を取りだした。

 その名は全ての棒である。

 棒とあなどるなかれ。これは攻撃力こそ大したことは無いが、75%の確率で徐々に石化するというバッドステータスを与える恐ろしい武器なのだ。

 それに加え、火・氷・雷・風・地・聖という闇以外の属性が付与されている。

 つまり、全てとはそう言う意味である。

 ここに25%の確率で石化を進行させるゴーレムの杖を同時に装備するのがゲームでのセオリーだが、ライトは敢えて見栄えを重視し、全ての棒だけを選択する。

 

 物陰の方では息を飲む気配がする。

 それ程にライトのロッド捌きは見事だった。

 くるくると回転させながら、無駄に演武の様な動きをしている。

 動けないとしても待ってくれているウダイオスさんには涙を禁じ得ない。

 そして、

 

「やーーーーーーっ!!」

 

 上空に華麗に飛び上がったライトが、脳天唐竹割りの要領でロッドを一閃。

 ドンッというおよそ人間が出してはいけない類いの轟音がした。

 そしてライトは、

 

「~~~~~~~~~~~~ッ!?」

 

 声にならない声をあげながら地面を転がっていた。

 あっさり石化が決まった結果、硬い物を金属の棒で叩いた事になる。

 つまり手がしびれて動けなくなった。

 何をやってんだライトォ! とヴェルフがいたら怒鳴ったかもしれない。

 

「やーーーーーーーーっ!!」

『GYAAAAAAAAAAAAAAA…………』

 

 そしてむくりと起き上がったライトは、恥ずかしさに赤面しながら何事も無かったかのように、パンチで石化したウダイオスを倒した。

 すかさずライト、飛び上がるとムーンサルトばりの回転をしながら泡のように消えていくウダイオスを背に着地。

 さらにリリルカが潜む茂みに向かってバチコーン☆と渾身のウインク。

 

「(や、や~~~~~!!)」

 

 リリルカは両手に抱えるアイテム、その名も【チョコボの怒り】を放ると、

 

 ヒュ~~~~………………階層が揺れたッ!!

 解説しよう。チョコボの怒りとは、敵に投げつけるだけでフレアの魔法が炸裂するという便利アイテムであるッ!

 

 そしてライトの背後が真っ赤に爆発した。

 そう、特撮ヒーロー御用達の、敵を倒して爆発演出である。

 彼は渾身のドヤ顔。腕組みして仁王立ち。

 完璧に決まったのである。

 

(アカン……耳が聞こえん。まいったな、フレアは規模デカすぎたか……)

 

 至近距離で耳をやられていたっ!

 だが、森の中から駆け寄ってくる人影多数。

 

(そうだ。いいよっこいよっ。早くこっちにきてオレを讃えるのだッ!!)

 

 ライトはこの後に来るだろう称賛の嵐に胸を躍らせている。

 そうだ、この為に面倒な仕掛けをしたんだ。

 わざわざ魔石ごと破壊して。

 だが、

 

「わーーーっライトすっごーい!」

 

 やってきたのは見慣れたロキファミリアの面々だった。

 最初に飛んできたのは語彙力の低下したティオナだ。

 ライトに飛びついて頬ずりしている。

 

 そしてわらわらと囲まれるライト。

 チッ、やるじゃねーかテメーとベートに褒められハイライトが消える。

 リヴェリアなど、今度は本格的に遠征に混じらないかと勧誘してきた。

 そして、

 

「いやぁウダイオスが見えたから他のファミリアを上層に避難させたけど、ライト、君がいたなら問題なかったようだね」

 

 ロキファミリア団長、フィン・ディムナだ。

 小さいくせにいい感じに斜めに立ち、カッコよい角度でライトに微笑む。

 その横でティオネの目がハートマークになった。

 

 どうやらロキファミリアは例の未踏破階層へのチャレンジ中だったらしい。

 しかし他の中小ファミリアの人間も見かけたので、気をきかせて誘導したという。

 その、よかれと思ってやった結果、ライトの敵となったのだ。

 ワナワナと震えるライト。

 なるほど、お前のせいでギャラリーがいないのか、そうかそうか。

 ライトの唇から血が滲み、キッと睨む!

 

「おまえーっ! ロキファミリアがなーっ! ギャラリーをなーっ! ゆるさーん!!!」

 

 そして盛大に涙を流すとリリルカを小脇に抱えて走りさった。

 ぽかんとする一同。

 

「えっと……僕が何か悪い事でもしたのかな……?」

 

 フィンの言葉に応える者はおらず、ただシンクロしつつ首を傾げた。

 結局、遠征の最中に思いがけずライトに会えてご機嫌なティオナの「ライトっていつも変だし気にしなくていいんじゃない?」の一言で解散となった。

 

 そして盛大にくたびれ儲けのゼニ失いを地で行ったライトは、ふて腐れて数日引きこもったという。

 とは言え、その後何事も無かったかのように、「ヘスティアファミリアは少数精鋭の商業系ファミリアだ、いいね?」と開き直り、それまで以上に商売に打ち込んだという。

 

 ついでにダンジョンには二度と行かない宣言をして。

 

 

 




ヘルシング機関の兵士達をゴミの様に貪り食ったヤン。
暗がりの廊下が月明りに照らされるたびに、ドス黒い血溜まりを映し出す。
人間の身体がパーツ以下の肉塊となり散乱する光景に彼は心底満足した。

あれだけ騒がしかった廊下が静寂に包まれている。
屍人達もまた呻く事無く立ち尽くしている。

ヤン「あァ……?」

ヤンの耳にこつん、こつんと足音が届いた。

ベル「ああ、ここにいたか」

彼の目に映ったのは白。
この終末とも言える凄惨な光景に似あわない白だった。

一閃

何かがきらりと横切った。
次の瞬間、廊下を埋め尽くしていた筈の屍人が細切れになった。

ヤン「なっ、なんだオマエ」
ベル「……んっ。何でしたっけ? あ、そうだ。小便は済ませたか? 神様にお祈りは? 部屋の隅でガタガタ震えて命乞いする心の準備はオーケー? 合ってますか? 先ほど貴方が言ったセリフです。あと何でしたっけ? そうそう、自殺する時間はございません。だって貴方は僕が殺すのですから」

そしてベルは構えた。
師であるウォルター・C・ドルネーズにより与えられた彼の専用武器、特別な鋼にランチェスター大聖堂の銀十字錫を溶かした物でコーティングされた”対化物(フリークス)用短剣”を。


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原作に関わりたくない系オリ主、まさかの覚醒? 序

何も無い草原。茂みの中に突如虹色の光が立ち昇った。
その横にある木の上では、何かがぴくりと動いた。

ベル「…………僕はいったいどうしちゃったんだろう。それにここはどこかな? 見たことも無い平原だな。えっ、何!? 怖いっ逃げよう!」ガサガサ

すると木の上から何かが飛び降りて来た。

ベル「えっなに?! うわああああっ……」
???「うひひひひ!あははー!あーはー! 狩りごっこだねー? 負けないんだからー!」オッカケオッカケ
ベル「うわーー! うわーーー! どこだよここー!」




「お~……ええやん」

 

 往来の人間を眺めながら、ぼーっとしているライト。

 その姿は完全に隠居後の爺さんである。

 

 最近何かと周囲が騒がしかったライトは、主神であるヘスティアや、何かと世話を焼いてくるヘファイストスから「暫くのんびりした方が良い」と言われ、休暇を取っていた。

 もちろんこれは相当にオブラートに包まれた言い方に過ぎない。

 本音を意訳するならば、”お前はやりすぎた。少し謹慎してろ”と言ったところだろうか。

 特にヘファイストスは、ライトから送られてくる山の様なオリハルコンを見つめ、鍛冶師としての探究心よりも胃痛の方が勝るのだ。

 

 そんなライトは神様たちの心労などどこ吹く風よとばかりに、散歩がてらカジノに行ったり、大人の遊園地こと歓楽街に足を伸ばしては、適当に金を落として帰ってくるという、道楽めいた生活を送っていた。

 今はもう夕日も沈み、夜のとばりに包まれたオラリオだが、通りの両側にある遊郭の張り見世にならぶ娘達を眺めながら辻売りの立て茶をのんでいる。

 

 遊郭とはつまり娼婦を買うある種の風俗だが、娼館とは違い、雰囲気をも楽しむという雅な側面もある。

 当然遊女もまた、床での手管だけではなく、教養を持ち合わせている者も多い。

 

 とは言ってもライトは別に女を買いに来た訳じゃない。

 家に帰ってもやる事がないので退屈なだけなのだ。

 というのもリリルカはミアハファミリアのナァーザとオラリオの外に出かけているのだ。

 ついでに言うとティオナもまた、ロキファミリアの遠征でダンジョンの中だ。

 

 リリルカ達は港町メレンに2泊3日ほど宿泊する。これには両ファミリアの主神と、その神友のファミリアも参加しているので、結構な人数である。

 故に宿の上層階はヘスティア様ご一行で貸し切り状態だ。

 

 リリルカとナァーザは、例のソーマファミリアでの一件から親密になり、最近では親友とも呼べる間柄だ。

 それを見ていたライトが、オレも休めと言われたし、お前もナァーザと遊びに行けば? ついでに神様も知り合いの神を集めて観光旅行を主催しなよと勧めたのだ。

 ミアハとナァーザは直ぐに乗った。なにせミアハファミリアも最近では借金が落ち着き、全額返済とはいかぬが、生活を圧迫するほどでも無くなったのだから。

 

 因みに遠慮がちなヘスティアにライトはこう言い含めている。

 「現実、うちには金があるんだ。それは周囲も知っている。なら金のあるやつは使わないと。じゃなけりゃケチ臭い守銭奴としか思われない。だから金は使え。ただばら撒くな。施すな。有効に使うならどれだけ使っても構わない。それはきちんと信用という財産となって後に幸福をもたらしてくれるのだ」――と。

 

 けだし至言だとは思うが、自分の事を棚に上げ過ぎでは? ヘスティアは訝しんだ。

 けれどそれを言うとお小遣いが少なくなっておっぱいを揉まれる為、彼女は口をつぐんだ。

 最近のヘスティアの神様ムーブは凄いのだ。

 気絶したライトを勝手に神の血で眷属にした過去は無かった、いいね?

 そんな訳でライトは少なくない小遣いをリリルカに渡し、美味いもんでも喰って来いと言ったのだ。

 

 行先はメレンのニョルズ・ファミリアが出す宿だ。

 これも実はライトがかかわったコンサルタント業の結果なのだが、この世界における漁協の様な集団がニョルズファミリアである。

 そして彼らが毎日水揚げする魚は、市場を介してオラリオに供給されている。

 

 そこでライトは彼らに「その日獲れた魚を食べられる宿があれば、女性客が集まる名所になるんでは?」とプレゼンしたのだ。

 宿は柔らかい雰囲気のお洒落な感じにまとめ、部屋の内装や寝具も同じコンセプトにし、館内の有料サービスとして美容マッサージなんかも出来たりする。

 で、食事が美肌と脂肪のつかないヘルシーかつ満足できる魚介系料理が楽しめると。

 

 要はじゃ〇んとかに乗っている、季節ごとの企画もの。

 OL同士で旅行に行こう的なアレである。

 ライトが考えたのは、オラリオという都市の特異性である。

 つまり冒険者と言う特殊な人種の事だ。

 

 神の恩恵を受ける事は、ジェンダーの壁を曖昧にするのだ。

 つまり性別によるデメリットを無視できる。

 簡単に言えば、小柄な小人族であるリリルカが、スキルによりとんでもない質量の荷物を持つ事が出来たり、或いは細身の女性であるアイズが第一級冒険者として君臨している事。

 そう、強さは性別や体格に依存せず、ステイタスに依存するのだ。

 

 結果、金をわんさか持っている女性が多い。

 これを見逃す手はないとライトは考えたのだ。

 冒険者はある種、個人事業主とも言える。

 地球の職業で例えるなら、プロゴルファーだ。

 

 プロゴルファーは大会に登録する費用も、移動や宿泊にかかる経費も、キャディーとの契約も、とにかく全て自分で賄っている。

 そこにスポンサーなどのパトロンの要素はあるにしても、基本的には全て自腹だ。

 

 冒険者もそれと同じで、装備や消耗品は全部自前だ。

 ゲームとは違い、装備品は摩耗劣化し、メンテナンスも必要。

 なので女性冒険者は女としての自覚をあまり持つ余裕が無い場合も多い。

 ただ金はある。普通の女性よりは。

 ならそれを取り込めよ、と言うのがライトの目論みだ。

 

 ニョルズは男神だが、決断力のある気持ちの良い男だ。

 ライトのプレゼンに対し豪快に笑うと、お前に任せる。

 せいぜいニョルズの魚を皆に知らしめてくれとライトに丸投げしたのだ。

 

 そして彼はソーマファミリアの時と同様に、ニョルズファミリアの団員の奥さま連中を抱き込み、女性層をターゲットとした”船宿 海神”のオープンにこぎつけた。

 結果、ただの港街だったメレンに新しい観光スポットが産まれた。

 

 海神は宿泊だけではなく、客が希望すれば船での遊覧も可能だ。

 ニョルズが持つ漁船の中で大型な物が遊んでいたので、ライトがそれを改造したのだ。

 なので宿泊以外の価値も産まれた訳だ。

 

 そうなると周囲の者もこれに便乗し、若い女性が求めるだろうサービスを開始。

 これはライトがメレンの自治体に働きかけた結果なのだが、魚を取引するだけの市場では無く、観光客に金を落とさせる目的の観光市場の開設だ。

 新鮮な魚介類を安くはないが高くも無い額で売り、ついで試食なんかもさせる。

 美肌効果に抜群! コラーゲンが云々とか言いながら。

 簡単に言えば函館や石巻、金沢なんかをイメージしたものだ。

 

 それに遠くから来た客でも心配ない。

 観光市場の中に作られた炭焼きコーナーがある。

 そこは天幕の下にはいくつもテーブルがあり、10ヴァリスで燃えている炭を入れて貰える。

 それで市場で買ってきた魚介類を自分で焼いて食べることが出来るのだ。

 

 結果、メレンは今、中々に熱い観光スポットとなったのである。

 因みにライトは、この功績を讃えられ、ニョルズ直々に巨大なマグロを一本贈られたのであった。

 ついでに言えば、これでメレンの役場のお偉いさんと懇意になったライトは、次なる手としてメレンに温泉を掘れと言ってある。

 

 曰く、温泉に浸からせ、美味い飯を食わせとけば観光客はガンガン金を落とすから(笑)

 メレンの上層部は本気である。

 特にギルドの支部。本気である。

 

「…………ん?」

 

 そんな訳でロンリーナイトを過ごしていたライトであるが、ふと張り見世のひとつが気になった。

 高そうな着物を着たキツネ耳の遊女がいる。

 

 単純に美しいのだが、その美しさに気後れするのか、いつまで経っても客が付かない。

 それに本人もぼーっと虚空を見上げており上の空だ。

 他の遊女はギラギラと通りかかる殿方に必死に声をかけているのに。

 

(ん~……なんか原作のキャラにいなかったっけ?)

 

 いますよライトさん。

 

(まいっか。思い出せねェ……でもあの耳……行くかっ)

 

 行くのか。リリルカ達がいないからと遊女を買うのか。

 買ったのである。

 このライト、一切悪びれる事無く突進し、キツネを買った。

 

 ────おうこの娘、一晩買うでぇ~ナンボや!

 

 いちいち下品である。

 ただライトの中で成金キャラムーブは結構楽しいらしい。

 

 

 ★

 

 

「わっちは主さんのことがいっち好きでありんす」

「ああ^~いいっすねえ^~」

 

 座敷に上がったライトだったが、キツネ耳こと狐人のサンジョウノ春姫に膝枕をさせ、彼が知る胡散臭い廓ことばを春姫に言わせては悦に入っていた。

 とは言えやらされている春姫も実に楽しそうである。

 

 というのも春姫、遊女の癖に客をとっていないしまさかの生娘である。

 要は美しすぎる姿で張り見世に立つ事で集客を狙っているのだ。

 まあ他にもいくつかの大人の事情があっての事だが、そんなものライトの知った事ではない。

 

 なので最初はひと悶着あったのだ。

 春姫を過保護に見守る世話係のアマゾネス・アイシャが噛みついて来たが、別におぼこでも構わねえから一晩話相手になってくれやとライトは言い、ならいいかと許可をしたのだ。

 アマゾネスの情の深さと直情さは色んな意味で理解しているライトは別に気分を害した風でも無い。

 

 そして部屋で二人きりになったライトと春姫だが、まごまごしている彼女など気にせず、アイシャにずしりとした金袋を渡すと、酒と食い物をじゃんじゃん持ってこいと言い放つ。

 あまりの金額に目を白黒させたアイシャだったが、釣りはチップでいいぞと言われ猛ダッシュで出ていった。

 ライトとしては春姫の周囲にも金を撒く事で鬱陶しい声を黙らせたかったのだ。

 

 店の事情などそもそもライトにはどうでもいい。

 張り見世に出てる以上、春姫は商品なのだ。

 嫌なら引っ込めておけばいい。

 ただそれだけだ。

 

 と言っても無体なマネをする訳でも無い。

 卓を埋め尽くす贅沢な料理や酒を春姫にあーんさせて貰い、ライトもまた真っ赤な顔で硬直する春姫にお返しをする。

 いい感じに酔ってきた所で、ライトは春姫と向かい合って”金比羅船々”を唄いながらゲームを始める。

 ヴァリス金貨を1枚つかって唄に合わせて取り合う遊びだが、負けたらしっぺをされるという小さな罰ゲームを交えつつ。

 

 この意外な客に春姫は愉しくなってきた。

 こういう座敷だと、男たちは遊女に何故堕ちたのか等と事情を聞きたがる者が多い。

 特に遊び慣れていない男に多いのだが、見た目の可愛さもあり小さな独占欲が生まれ、相手がそうなった事情に怒りを覚えるのだ。

 

 しかしそれは所謂”余計なお世話”という物であり、ただの野暮である。

 そもそも事情があるのは当然なのだ。

 遊女とは明け透けに言えばその店に軟禁されているのと同義。

 女衒に売られた際の金額がそのまま彼女達の借金である。

 それを売り上げから返せば自由になれる……訳はない。

 売られた女そのものを所有する権利を店は買ったのだから。

 なので抜ける方法はひとつしかない。当然それは身請けである。

 

 しかしライトは一切春姫の事を聞きはせず、ただただ阿呆に興じて遊ぶのみ。

 実はこの男、相当に遊び慣れている。

 以前のエピソードで彼が酒に造詣が深いと言ったが、その延長戦上で、料亭や芸妓をあげての茶屋遊びなんてものも嗜んでいたからだ。

 実際それを接待で求める相手も多かったという事情もあり。

 

 現代でも舞妓や芸妓は座敷と言う小さな世界のエンターテイナーだと言える。

 読み物などで描かれる花魁、或いは太夫、例えば勝山や高尾などが有名だろうか。

 そう言った花魁の系譜である芸妓等は、ただ器量が良いだけではなれない。

 男たちの心の機敏に鋭く、空気が読める。そういったスキルが人一倍必要なのだ。

 もちろん殿方を楽しませる芸のスキルはあって当然だが。

 

 その世界を知らない者には古臭い文化としか映らないかもしれないが、そこで遊ぶという事はつまり、客側にもその世界に歩み寄る姿勢が求められるのである。

 そのある種の煩わしさを”粋である”として楽しめる者たちの特殊な世界とも言えるだろう。

 その中で女を張るという強さを、ライトは単純に尊敬しているのだ。

 

 もちろんここは遊郭風の娼館でしかない。

 故にその思想などあるかも分からない。

 ライトにとってここは異世界のオラリオであり、ここにかつての日本の様な長い歴史の中で培われた花街の文化などあるとは思ってもいない。

 ただ、この春姫という女の周囲からの浮き方に、何とも言えない儚さを感じた。

 それゆえに半ば強引に彼女の時間を買ったのである。

 

「ライト様は色々博識なのですね、あっ! ありんすねっ」

「ははっ、無理に話さんでもいいぞ。博識ってより、男は好きなのさ。女って生き物が」

「キャッ! 悪戯は駄目なのです、あっ、おいたは……やめなんし?」

「そうそう、やめなんしやめなんし」

「キャッ!? もう駄目でありんす!」

「春姫が可愛いから悪いんだ」

 

 なんだこれ。

 アイシャは部屋の隅で口からダバーっと酒を戻していた。

 おかしいな、この酒は辛口の筈じゃないのか? どうしてこんなに砂糖を大量にブチ込んだ様に甘いんだッ!

 喰い切れないしお前も喰えと入室を許されたアイシャ。

 しめしめ、小腹も空いていたし春姫を監視できると入っては見た物の、目に飛び込んだ光景がコレである。

 

 ライトを膝枕した春姫。

 何が楽しいのかしきりにライトの頭を撫でている。

 見ればピコピコと嬉し気に耳が動いているではないか。

 

 ライトと言えば気だるげに煙管を咥えながらぷかりと煙を吐いている。

 そして聞き慣れない言葉を春姫に教え、彼女もたどたどしくも楽しそうにそれを話しては笑う。

 あまつさえ時折ライトの手が伸びて春姫の尻を撫でるも、やられた春姫は怒るでもなく、仕方のない人ねとばかりに眉尻をさげながら、ぽかぽかとライトの胸を叩くのみ。

 完全に馴染みきった遊女とその間夫(遊女の気に入った客)の仲睦まじい様子だった。

 アイシャは無性にイライラした。

 

 そしてライトは夜明けまでそこにいて、帰っていった。

 またくるよ、と春姫に告げて。

 その時ふと、ライトが春姫に聞いた。

 外の世界が恋しいと感じる事はあるのかい? と。

 春姫は答えた。そんな資格は自分には無いのだと。

 ライトはそうか、と言った。

 

 ライトは翌日も来た。

 そして夜明けまでそこにいて、帰っていった。

 またね、と春姫に告げて。

 

 そしてその翌日、ライトは来なかった。

 春姫は少し寂しいと感じた。

 

 そしてその翌日、ライトは来なかった。

 春姫はとても寂しいと感じた。

 

 翌日も、その翌日も────

 アイシャはそんな春姫に、どう声をかけていいか分からなかった。

 そしてあの男がまた来たらぶん殴ってやろうと決意をしたのである。




ベル「よしまいたかな……? この茂みなら……」シゲミコワイデショウ?
???「そっこだー!」ピョーン
ベル「ううっ……はぁはぁ……」ノシカカラレー
???「はぁはぁ……はぁはぁ……」ヤジュウノガンコウ

ベルは思った。お爺ちゃん、もしかしてコレがモテ期なの?と。
だがそれ以上に……食べられる(物理)

ベル「た、食べないで~!」
???「たべないよー!?」

ちなみになんやかやあって彼女の名前はサーバルと判明。
見事なすしざんまいポーズで名乗ってくれたのだ。
さらになんやかやあって、ベルの帰り道を探すために図書館を目指す事になった二人である。

ちなみにベルがサーバルからつけられた名前は前髪である。
あなたは前髪の長いフレンズなんだね!だそうだ。


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原作に関わりたくない系オリ主、まさかの覚醒? 破の1

本日2度目の投稿。
これで今週の投稿は終わり! 次回は火曜日か水曜日。




「今日も行くんですか? ライト様」

「ああ、その予定ではいる。お前も来るだろう?」

「もちろんですっ! ライト様のいる所リリありですから!」

「お前のその三下ムーブはなんなんだ」

「むっ、違いますよっ! 娼婦にライト様を取られたくないという健気な乙女?」

「草」

 

 いつもの騒がしいヘスティアファミリアの朝。

 朝食も終った彼らは今日の予定をわいわいと話している。

 と言ってもヘスティアは降臨して以降、初めての旅行の名残りに薄ら笑いを浮かべてボーっとしているが。

 

 ライトが今日も行くと言っている場所は歓楽街だ。

 と言っても春姫と出会った場所とは別の店だ。

 というよりも、あそこにある娼館を毎日順番に遊びに行っている。

 

 そこに当然待ったをかけるのはリリルカとヘスティアだ。

 リリルカはもちろん、一応は恋人っぽい関係であるのに、その男が娼婦を買いに行くなんて穏やかでいられないだろう。

 ヘスティアは可愛い(笑) 眷属が女を買うなどもっての外だ。

 風流を理解できないロリ巨乳め! とライトに言われ、なにおー! とキレる神(笑)。

 

 ただライトは別に女を買いにいくつもりでは無い。

 なので抵抗なくリリルカ同伴で遊びに行く。

 結果リリルカは嫉妬の気持ちは無くなった。

 

 何故ならライトは娼館に行くと、客の人気があるなしに関係なく、その店の古参娼婦を呼ぶのだ。

 そして世間話をしながら、イシュタルファミリア傘下である歓楽街の噂話や昔話の類いを面白おかしそうに聞いていく。

 ライトは行為もせずにただ酒を振舞いながら話を聞くだけだが、娼婦も多めのチップを貰えると喜んで囀ったものだ。

 

 リリルカも娼婦たちが話すエピソードの数々に、驚きながらも楽しんでいる。

 因みに帰り道でリリルカがライトに向かって「リリは偏見を持っていたかもしれませんね。話してみれば彼女達は誰よりも人間臭いのですねぇ……」と遠い目をして言った。

 恐らく自分の過去を重ね合わせ、一歩間違えばあそこにいたのは自分だと思ったのだろう。

 

 つまりライトは歓楽街の情報収集を行っていたのである。

 その必要があり、だが他人には任せられない。

 故に遊びを装って自分の足で情報を稼いでいる。

 ライトは「ふふっ刑事は現場100回ですわ」とドヤ顔をしたが、残念ながらお前は刑事ではない。

 

 さて何故ライトがこんな事をしているのか。

 それはいくつかの事柄が重なった結果だ。

 積極的活動は自粛中のライトだが、それでも日々のオラリオ散策はしていたのだ。

 犬も歩けば棒に当たる。ライトが歩けば厄介事を拾いこむ、である。

 

 では時間を少しばかり戻す事にしよう。

 その日ライトはソーマの店に晩酌に出かけた。

 あそこは彼の手でホストクラブとしての地位を確立したが、その後ソーマにとある相談をされた。

 それは整った容姿の団員はホストとしてフロアに出られるが、そうじゃない団員も多い。

 しかしその手の団員は概ね古参が多い為、仕事とは割り切ってはいても、感情の部分で若い団員への見えない嫉妬が雰囲気を悪くしている、それをどうにか出来ないか? という内容だ。

 

 あれ以降、団員にも目を向ける様になったソーマに感心しつつも、ライトはアドバイス程度ならと相談に乗った。

 実際これは起こりうる問題だったと言えるとライトは考えたからだ。

 何というか同性の嫉妬が一番怖いのだ。

 女性同士、男性同士だと遠慮が無く陰湿になるからだ。

 それに同性である以上、アイデンティティーの問題でもある訳で、余計に感情に走りやすいのだ。

 

 例えば同じクラスの女子がいつもチヤホヤモテモテ。

 陰キャの自分から見れば直視できない程に眩しく見える。

 なんでいっつもあいつの周囲には人が集まるのか! からの~嫉妬。

 でもあいつは可愛いしなぁ、当たり前か。怒りから一転苦笑いへ移行。

 

 例えば同じクラスでいつもつるんでいる男友達はいつもチヤホヤモテモテ。

 陰キャの自分から見れば直視できない程に眩しく見える。

 なんでいっつもあいつの周囲には人が集まるのか! からの~嫉妬。

 同性だとここに”同じ男なのにこいつには勝てないのかクソが”という嫉妬が加わる。

 でもあいつはカッコいいしなぁ、当たり前か……いや自分だってそう変わらんだろふざけんな。怒りからの怒り、暴走モード突入です。

 

 まあ性別が違うだけでこれほどに違うのだ。

 なのでアフターサービスとして彼がソーマに言ったのは、ホスト目的じゃないが、金はある層をターゲットとした高級バーを横に出せという事だ。

 要は出している酒のラインナップはそのまま流用できるのだ。なら単純に最高の雰囲気の中で高級な酒を嗜める空間を提供し、そこに見てくれの良し悪しに関係なく、最高のサービスを提供できるバーテンダーとして働かせれば解決するだろうと。

 結果それは上手くいった。ファミリアも円満である。

 

 その新しく出来た方のバーにライトは飲みに行ったのだ。

 因みに彼はせっかく店に口を出すのだしと、この店にマジックアイテムで湿度を管理できる道具を置かせ、そこで客から預かった葉巻を熟成させるサービスもやらせている。

 要はシガーバーの側面も持たせた。

 恩着せがましくやらせたが、結局は自分が好きだからである。

 

 そしてマティーニっぽい神酒カクテルを飲みながら葉巻のフレーバーを楽しんでいた時、横にいつかの大男が座っていた。

 フレイヤファミリアの眷属、オッタルだった。

 別に彼に特別な意図はない。周囲に人がいる事を好まない彼が、静かに酒が飲めると言うこの店を贔屓にした結果の偶然である。

 ちなみに彼が愛する主神はとなりのシャングリラにいる。

 

 オッタルはかつて主神の命を受けてライトを襲撃した事がある。

 その際に自慢の剣を折られた訳だが、それに思う所はある物の、フレイヤの「あの子は好きにさせておけばいいのよ。だってその方が面白い出来事を起こすのだから」と言われ現在は介入をしていない。

 剣の修復費用は必要経費と認められ、フレイヤが出してくれた。やったねオッタル。

 

(なんかすげえこっち見てるわ……このNTR大好き猛者め)

 

 これはライトの心の声であるが、酷い言い草である。

 何故カウンター席はいくつもあいているのに隣に座るんだこいつはと悪態を続けつつ。

 

 とは言えライトからすれば原作での彼ってのはフレイヤを愛しながらも、ベルに欲情するフレイヤに献身的に付き合っている。

 その際にロキファミリアともカチあっており、表面上オッタルには何の得も無い行動でも、彼は黙々とそれをこなしている。

 フレイヤは男神にもモテモテであり、その姿もオッタルは何度も見た。

 これでも好きってんだからNTR趣味の特殊な変態やないか! とライトの中の人は思っていた。

 大概シツレイな話である。

 

「…………この店はどう思う?」

 

 変な空気に耐え切れなくなったライト、まさかの差しさわりの無い会話で探りを入れたッ!

 

「…………いい雰囲気だ」

「…………そうか」

「「………………」」

 

(三点リーダ多すぎィ!!)

 

 心の中で渾身のツッコミを入れるライト。

 なんだこいつ。

 オレに何を求めているんだ!?

 ラ イ ト は こ ん ら ん し て い る !!

 

「ライト、お前はイシュタルファミリアを知っているか?」

「あっ、うん、あれだろ? 歓楽街の元締めで、頭おかしい神様がいるって噂の」

 

 突如普通に話しかけられ、更に混乱を深めるライト。

 というか名前普通に呼ぶんだネ とか的外れな事を考えている。

 とは言えライトはビジネスマンである。直ぐに立て直し、知っている範囲で答えた。

 

「まあそうだな。そして今、うちに色々と喧嘩を売りに来ている」

「ほー……まあフレイヤファミリアは元々ミア母さんがいたファミリアだ。だが今はお前が団長で最強なんだろうし、別に問題なさそうだけどな。ああでも相手が相手だ、面倒臭そうだな」

「ああ、その通りだ」

 

 イメージに反して饒舌なオッタルに目を丸くするも、ライトは面白くなってきたとスイッチを入れた。

 ライトが言う面倒臭そうというのは、単純にファミリアの相性の問題だ。

 フレイヤファミリアは武闘派の集まりだ。

 団員のいずれも本性を表に出さない曲者だらけで、だが中途半端に手を伸ばせば確実に殺される、そんな危うさを醸す集団────と言うのがライトのイメージだ。

 

 逆にイシュタルファミリアは、女の怖さそのものと言えるだろうか。

 ねっとりとした粘着質というか、遅効性の毒と言うべきか。

 単純に見える相手を殺したところでいくらでも沸いてくる怖さがある。

 戦闘に特化したアマゾネスの娼婦もいれば景色に溶け込む普通の女もいる。

 オッタル達は戦闘には勝てたとしても絡め手はどうにもならないだろう。

 そもそも相手が真正面からぶつかるというのが前提では無いのだから尚更。

 

 例えばそのぶつかり合いが正規の手段を取った戦争遊戯ならばいい。

 これはあくまでもゲームだ。その最中に死亡者が出たとしても。

 なにせ事前に互いの主神同士が納得の上で行われているのだから。

 故に勝敗が付いた後は、取り決め通りの条件が確実に履行される。

 

 けれどもこれがただの抗争だった場合は話が変わる。

 ギルドも介していないのだから当然ではあるが、この場合、敗北条件は主神の天界への強制送還も含んだファミリアの壊滅に及ぶのだ。

 これは団員たちの恩恵が失われるという事でもある。

 そしてオッタルの場合、自分の恩恵云々では無く、フレイヤを失う事が一番の問題なのだろうが。

 

「それをオレに話した理由はなんだ?」

「別に、ただうちがそう言う状況にあるって話だ。だがこれは保険だ。お前の事は見て来た。戦える能力がある癖にダンジョンに興味はなく、頭でオラリオを引っ掻き回す自由人。そんなお前の長所でもあり短所は、情に弱い事だ。関わった相手を放っては置けない。そうだろう?」

 

 オッタルは薄く笑うとライトを見た。

 

「嫌だねえ、まったく。例え結果的にそうだったとしてもだ。それをはいそうですと認めるのは格好悪いだろうが。アホタレ」

「ふっ、その結果的にを求めている。俺はあのお方の剣で盾だ。この身が例え朽ち果てようと、あのお方が無事ならばそれでいい。だが俺の身は一つだ。万が一があっては困る。だから聞かせた。俺はこれからあそことぶつかるのだと」

「お熱いこって。そんなにいい女なのか? フレイヤって」

「俺の……全てだ」

「ふうん」

 

 その後特に会話も無く、暫く飲んだ後にオッタルは帰っていった。

 ライトはそう言えば原作でもそんな話があったかと思いだしつつある。

 とは言えなぞっただけの記憶なら何の役にも立たないと考えを頭の片隅に追いやったが。

 ただ、ライト個人として、オッタルに奇妙な共感を覚え始めていた。

 

 それが一つのきっかけ。

 そして次がまた別の日の出来事だ。

 通りを歩いていたライトがタケミカヅチファミリアの主神、タケミカヅチとばったり出くわした。

 

「お前がライトか?」

 

 彼はそう話しかけて来た。

 そもそもヘスティアとタケミカヅチは仲がいいのだ。

 ここにミアハも加えると、なるほど貧乏神三銃士と言う所か。

 とは言えこのオラリアでは、既にヘスティアは借金地獄から抜け、ミアハは持ち直しているが。

 故に神同士の話題の中にライトが出ていたのだろう。

 

「ああ、そうだけど貴方は?」

 

 そんな流れでライトはタケミカヅチとしりあった。

 若干青い顔をした彼は、藁にも縋る様な勢いでライトに時間が欲しいと相談を持ち掛けた。

 その日は特に予定も無かったライトは、ジュージュー苑に彼を連れていき、密談のしやすい個室に入った。

 ここのオーナーはライトに恩義を感じており、少々の我儘なら聞いてくれる。

 

 ────神様の相談だってんだ。人に聞かれない方がいいだろ。

 

 その位の気遣いは出来るライトである。

 で、本題……に入りたかったが、好きなもの喰っていいぞと言うライトの言葉に怒涛の勢いで高級焼肉を貪り食ったタケミカヅチ。

 なのですぐに本題には入れず、小一時間焼き肉を突いていた。

 それでもデリケートなタン塩の焼き具合を世話し、完璧な状態でタケミカヅチに渡すなど、無意味なサービス精神を発揮したライトである。そう彼は鍋奉行系の男なのだ。

 

 散々食った後、恥ずかしそうにタケミカヅチは笑った。

 久しぶりにこんな美味い物を食ったと。

 彼のファミリア、ガチで金が無いのである。

 ただライトは割とこの神様が好きだった。

 

 何というか日本の神道における神であるし、天照大神を筆頭とした日本神話の神々は人種的に粗末に扱いたくないと無意識に思ったらしい。

 

 さて本題であるが、端的に言えば金の無心であった。

 というのも彼の眷属たちがダンジョンに遠征に行った際、抱えきれなくなる程に集まったモンスターを、他のファミリアのパーティに擦り付けてしまったという。

 

 幸い擦り付けた相手に重傷者や死亡者は出なかった。

 さもありなん。相手は相当な実力者なのだから。

 そう、ロキファミリアである。

 一番借りを作ってはいけない相手である。

 

 結果、愚直なタケミカヅチは団長であるカシマ桜花を筆頭とした当事者たちを連れ、黄昏の館まで詫びを入れにいった。

 彼は雷や剣を司る戦神であり、武人の気質を持っている。

 それ故の真正面からの突撃であるが、それではロキの思うつぼであった。

 

 散々嫌味を言われ、煽られる。

 そうなると主神を貶められたと激情するカシマ。

 謝罪をし誠意を見せるべきシーンで逆切れである。

 こうなるともうロキ劇場の開幕である。

 

 結果、期限を切られた上での賠償金の支払いが示談の条件となった。

 そしてもし、約定が守られなければ、大変心苦しいが、そちらさんの眷属を何人かもらおか?

 そうなったのだ。

 こうなると彼の眷属たちは怒り狂い、言わなくても良い事まで喚き散らしてしまった。

 それで終了である。

 

 これは別にロキの底意地が悪いからと言う訳でも無い。

 腹黒い所はあれど、ああ見えてロキとは眷属を人一倍大切にする過保護な神だ。

 それに有力ファミリアとしての面子もある。

 

 カシマ達が起こした出来事は、メンバーが怪我で動けなくなり、その結果やむを得ず逃げたという流れだ。

 その事に理解は出来る。命あっての物種であるし。

 だがそれは他人には関係ない話なのだ。

 

 そもそもこの話はギルドにも行っている。

 そしてギルドの見解としては、あまり大事にならない事が望ましく、出来れば当事者の神同士での調停を望む。

 だが非は明らかにタケミカヅチファミリアにあり、その理由としてはイレギュラーを考慮していない事、つまり彼らが自分たちの戦力を過大評価した結果の必然である、という物だ。

 ゲーム的に言えば、適正レベルを超えた狩場でパーティーが決壊しただけという所か。

 

 故に心情は理解できても、同情は一切出来ない状況であると言える。

 その為ロキの余計な怒りを買ったのだ。

 煽られようが馬鹿にされようが、黙って頭を下げていたなら彼女も譲歩しただろう。

 そもそも天下のロキファミリアが、弱小ファミリアにムキになったというだけでもマイナスしかないのだ。

 

 実際その時擦り付けられたのは、ガレスが率いるロキファミリアの若手への教導パーティであった。

 なのでガレス一人でもどうにでもなったのだ。

 彼からすれば蚊にでも刺された程度の出来事でしかない。

 事実この話が出た際にロキに事情を求められたガレスは「ああ、そんな事もあったか」とあまりピンと来ていなかったのだ。

 

 ただし礼を欠いたなら話は変わる。

 結果がこれである。

 ロキからすれば可愛い眷属にモンスターをなすり、その上で開き直る等、盗人猛々しいという所か。

 

 そして約定の日は残り1か月。

 普段は金の無いファミリアの助けになればとバイト戦士でもあるタケミカヅチ。

 そんな彼にもう金を集める宛てなど思いつかなかった。

 

 眷属たちも怪我人を抜いたメンバーで毎日ダンジョンに潜り、上層のみで必死に魔石を集めている。

 それとて大した足しにもならないだろう。

 つまり詰んでいるのだ。

 そうなると可愛い眷属が取られてしまう。

 事情が事情とは言え、心情的には納得は出来ない。

 

 そんな折にたまたま出くわしたのがライトだ。

 この男は方々で金を集めるのが得意と噂されている。

 それに縋りたくなったのだ。

 

 食後にタケミカヅチの事情を聞いたライト。

 結果、手を貸す事に抵抗はなかった。

 というのもタケミカヅチは金を得るにはどうすればいいか知恵を貸してほしいと頭を下げた。

 金を貸してほしいでは無く、やり方を教えてくれたなら、命をかけてでもやるという気概を見せたのだ。

 これでライトは好感を持った。

 

 ライト的に他人に金を貸すのは投資ならばいくらでも出す。

 だが個人的な理由での借金は絶対に貸さない。

 これは彼の中のルールだ。

 何故か、絶対に返ってこないからだ。

 

 切羽詰まってする借金は現状を維持するだけで、その状態を改善する事はない。

 故に今はそれで持ち直しても、いずれ同じ状態になるのは必然なのだ。

 その金を貸すと言う事は、ただ金をくれてやった方がまだマシである。

 だが個人的な借金で首が回らない相手と言うのは、概ねその事情に同情が出来ない事も多い。

 つまりくれてやる理由も無いのだ。だったらドブに捨てた方がまだマシだ。

 

 タケミカヅチはライトに言った。

 やってみてダメかもしれないが、それでも手があるのならギリギリまでやりたいのだと。

 ────やだこの神様カッコいい……変な髪型だけど。

 そんな風に彼の男気に惚れたライトである。

 

 そんな彼にライトはいくつか手はあると言った。

 彼の愚直な性格だからこそ出来る事業のアイデアもいくつか浮かぶのだ。

 このオラリオと言う貧富の差が激しく、かと言って国家の法と言うレベルでの強いルールが無い土壌なればなおさらに。

 その言葉に目を輝かせるタケミカヅチだが、ライトは焦るなと待ったをかけた。

 

 金になるアイデアはあっても、時間がかかるのだ。

 サービスと酒を提供するソーマの店の様に、直ぐに利益が出る商売では無い。

 なのでそれなりに根回しや準備が必要になり、当然初期投資もある程度はいる。

 

 だがライトは肩を下げるタケミカヅチに、対案としてこう言った。

 

「必要な金はオレが立て替えてやる。あくまでも立て替えるだけだぞ? 後ほど商売の方で死ぬほど働いて返してもらう。で、いまオレはちょっとばかり手足が足りない。だからお前の眷属をしばらくの間、オレに貸せ。金は明日には用意しておく。なので明日、眷属を連れて竃の家に来い」

 

 一瞬眉を顰めるタケミカヅチ。

 それはそうだ。

 ロキに渡すのを阻止できるかわりに、ライトの手先となって悪事に手を染められては困るのだから。

 お前がオレをどう見てるかよーーく分ったわと青筋を浮かべたライトだが、ええい面倒臭いとばかりに眷属をどう使うかある程度だけ話し、それで漸く納得をしたタケミカヅチは、どうかよろしく頼むとライトの手を握ったのである。

 

 ────へへっ、オレに任せておけばガッポガッポ稼がしてやらぁ!

 

 そうやっておどけて見せるライトの目はどこか遠くを見ていた。

 その姿を見て、タケミカヅチは安心して眷属を彼に任せられると安堵した。

 なにせ神の目とは、人の嘘を見抜くのだから。

 

 そんなライトの脳裏に、あの儚げな少女の姿があった。




当然話は続きます。
タイトルの最後に急がついてたらこのエピソードが終わる合図です。
ベル君劇場も急まで待ってネ

本当は全部の推敲終わってから投稿しようと思ったけど、我慢できずに半分だけ投稿しました。

けもフレ2……もう許さねえからなぁ?


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原作に関わりたくない系オリ主、まさかの覚醒? 破の2

とりあえず春姫編書き終わりましたので投稿します。
小分けにしたので少々時間を置きながら急まで投稿となります。


「あ~……チミ達は主神に売られぇ~このオレのぉ~下僕となったァ~」

「ライト君、どうして初手から煽りにいくのかな!?」

 

 元廃墟、現ヘスティアファミリアホーム、その名も”竃の館”にはタケミカヅチの眷属たちが集まっていた。

 ライトが約束を守り、ロキへの賠償金を立て替えたので、その対価として彼らはここにいる。

 

 とは言えスーツに赤いメンポ姿で現れたライトは、タケミカヅチに金を渡すと邪魔だからとっととロキに払って来いと追い出し、直ぐに眷属たちを正座させた。

 その上でのこのセリフである。

 

「ま、偉大なる女神様は少し黙ってて。ん゛ん゛っ、では改め。んじゃ団長のチミ、えーカシマ君」

「なんだ」

「今回の問題点はどこにあったのだろう? 答えて?」

「それはっ、やむを得ずパス・パレードをした事だ。それでもあの時の判断────

「はい、ダメー」

「グッ……」

 

 正座に不満気なカシマの脳天にどこから取りだしたのか、トンファーで頭をひっぱたかれるカシマ。

 

「はい次。ヤマト、答えて」

「いや、あのっ、ロキ様がタケミカ――ぐあっ!?」

「はい、ダメー」

 

 トンファー(ry

 

「お前らさ、荷物纏めて故郷に帰れよ。ダンジョンにあんまり潜らないオレでもこの位わかるぜ? つか主神が可哀想だわ。あのな、ヒタチってのが怪我をして動けなくなって云々は理解できるよ。そら大変だったんでしょ。けどね、擦った相手がロキのところだったから大事になってないの。これが零細ファミリアの駆け出し相手だったらどうなの? 死んでてもおかしくないよね? それに対しての危機感がお前らには無いの。結果、ゼニ金の問題で済んでるの。ロキがそれで収めてくれてんだよ? それに対して主神が愚弄されたから怒鳴り返した? なんのためにお前らの主神がロキに土下座まがいな事してんだよ。全部お前らを守るためだろうが。それをお前らの感情だけで全部ブチ壊したんだぜ? だから危機感ねえなって呆れてんの」

 

 シーン……である。

 ぐう正論過ぎて何も言えない状態である。

 

 ライトはここへやってきたカシマ達を見て、あ、こいつらダメだと即行見切りをつけた。

 タケミカヅチに連れられてやってきた彼らだが、明らかに何故自分たちがライトの手足にならないといけないのか、それを納得していない態度だったのだ。

 

 それでも最低限やる事やってくれたなら別にいいやと最初は考えていた。

 それに転生オリ主のSEKKYOはあまり褒められたもんじゃねえしなんて考えつつ。

 だが、金儲けと金を手にして笑顔になる人々の顔が大好きなビジネスメン・ライト・ニンジャとしてはこれは許されなかった。

 

 彼は日本のビジネスメンである。

 つまり、お客様は神様ですの信奉者である。

 たしかに仕事絡みで外資系企業との営業などを行うと、とにかく自分利益が第一で、契約を結べば後はドライなのは理解している。

 ここもある種の外国と考えれば、自己主張全一な風潮もあるのかもしれない。

 だがっ、自分が関わるビジネスにおいては、基本売る方も買う方も笑顔でいて欲しいとライトは考えている。

 

 そこでこいつらである。

 お前らは不良学生か。怒られて不貞腐れるガキか。

 いまファミリア離散のピンチやぞ。

 その危機感が無い彼らの態度が一番ライトには不満だったのだ。

 

 ジュージュー苑でタケミカヅチと色々話したライトだったが、彼の話のほとんどが眷属の自慢だった。

 そも神々は己の眷属を心から愛する。

 けれどタケミカヅチは襤褸は着てても心は錦ではないが、誇り高い武人の無骨な愛情表現や、たどたどしくも垣間見える子らへの愛情に、ライトは非常に共感したのだ。

 何故か? 自分の主神がそうだからだ。

 

 今回の件は自分たちの命を救うために他人を殺す選択を彼らがしたと言う事。

 故にもっと重く受け止めなければならない。

 本人達は重く受け止めているつもりなのだろうが、ライトから見れば謝罪をするのも全て自分たちの罪悪感の為にとしか見えない。

 そんなものロキに煽られて逆ギレしている時点で明白なのだ。

 

「あのさ、謝罪ってのは誠意なんだよ。自己満足じゃないの。自分がやらかした事への罪悪感? んなもん相手には関係ねーんだよ。謝罪ってのはね、迷惑を被った相手のやりきれない気持ちに対して慮るって事なんだわ。相手は怒ってんの。これで死んでたらもう帰ってこないの。そう言う類いの事柄に謝罪してもね、普通感情は言葉だけじゃ収まる訳ないの。収まらないけど誠意を見せる為には自分の都合は押し殺すモンなの。ロキの性格が悪いとか関係ねえんだよ。けどお前ら、ロキと話したことあるか? 酒を一緒に呑んだ事は? ねえだろ。んじゃお前らのロキへのイメージなんて他人さまの噂レベルで作った固定観念だよね? で、カシマ君よ。主神が作ったチャンスをブチ壊した気分はどうだ? お前らの誇り(笑)とどっちが尊いと思う?」

「うっ……俺はなんてことを……」

「タケミカヅチ様ぁ…………」

 

 床に五体投地で号泣する二人を見て、うむうむと頷くライト。

 その横顔を眺めていたヘスティアは嫌な予感を覚えた。

 

 ────あっ(察し)

 

 そしてカシマとヤマトを優しく起き上がらせると、ライトはこう言った。

 

「なら、愛するタケミカヅチ様を救ってやらねえとなあ?」

「おうっ!」

「はいっ!」

 

 改心した二人の目は輝いている!

 

「なら、その為には?」

「「何でもしますっ!!」」

「ん? いまなんでもするって言ったよね?」

「「はいっ!」」

「いい~返事だ。なら(馬車馬の様に)働いてもらうよ? まずは、ほれ、出せ」

「へっ? 何を、ですか?」

 

 ライトの言葉を理解できず首を傾げるヤマト。

 

「だからお前ら、武器防具、その他道具類全部そこの倉庫に入れろ。丸腰になれ。そしてあそこの部屋にチミ達の着替えを用意してるから、着替えろ、いいね?」

「「アッハイ」」

 

 いつの間にかニンジャスーツになっていたライトの不気味な眼光、つまりニンジャソウルの宿った瞳にNRSを発症した二人は反射的に肯定していた。

 逆らってはいけない、そんなアトモスフィアを感じたらしい。

 そして、

 

「あーライト殿、この姿は何だろうか?」

「んっ、顔はいいから似あうじゃないの。お前は今夜から毎日、歓楽街で遊んでもらう。なので周囲から浮く着流し風なお前らの服は没収したの。それはアレだな、商家の金持ち若旦那風だな。せいぜい下品に遊んでくれ」

「歓楽街で遊ぶ?」

「そうだよ。金はオレが出すから、指示した店で女を買え。んで、■■■■■■の連中を一人でも見かけたら、直ぐに店の小者なんかにチップを握らせてここに繋ぎをつけろ。それがお前の仕事」

「お、女を買う……」

「純情か! ただ一緒に呑んだフリしているだけでもいい。とにかく女好きの若旦那が入り浸ってる体であればなんでもいい。ただ毎日別の店にしてくれ。いいな?」

「あ、ああ……」

 

 着替えが終わったカシマ。

 その姿は高級な服に着られているという感じだ。

 成金の若旦那、つまり金に物を言わせてあれこれ買い漁るが、中身がそれに追いついていないというイメージである。

 地球で言うなら全身をグッチで決めたニーチャンがホストにしか見えないという感じか?

 そして、

 

「あ、あのぉ……こ、これは本気なのでしょうか……?」

「声震え過ぎだろ。それであってる」

 

 産まれたての小鹿の様にプルプルしながら黒髪ポニーテールが出て来た。

 さもありなん。彼女の今の姿は派手な蝶の模様が染めてある黒い着物風の衣装。

 それも胸元がガッバーと開いている下品な色気の感じる物だ。

 お姉さん、いくら? って思わず聞いてしまいそうな。

 

「いくらなんでも大胆すぎませんか……?」

「それでもまだ春姫よかマシなんだよなぁ……あいつ乳半分見えてたもの。あれで純情とか頭おかしいだろ……ああ、お前らにゃ関係ねえ。あーヤマトよ、お前さんはとある娼館に娼婦として潜入してもらう。別に客を取れとは言わん。ただちっと訳アリの娼婦の護衛をしてくれ。ナイフくらいは渡すから、何かあった際は身を挺してそいつを護れ。というか、■■■■■■してくれてもいい。いやむしろそうしろ。いいな?」

「はい、一応は理解しましたが、ライト殿、いま春姫っていいました?」

「言ったゾ」

「あの、その、春姫ってあの春姫でしょうか……?」

「いや、あの春姫とか知らんけど、知り合いなの? サンジョウノ春姫って名前だが」

「「ファッ!?」」

 

 その後彼らに詰め寄られたライトだったが、トンファーの一撃で鎮圧。

 どうやら同じ故郷で顔見知りらしい。

 その結果、彼らはやる気を出したのである。

 とは言え、知り合いムーブで仕事をおろそかにしたら”殺すから”と真顔で言われ、彼らは心を入れ替え晴れやかな顔でホームから飛び出して行ったのである。

 

 ふう、漸く動けるな、そう思いながらライトはソファーに身を投げ出した。

 

 ────やる事多すぎなんだよなぁ……あのクソ猪め……

 

 内心でそう悪態をつく。

 そんな時、ふと頭の上が暖かく感じた。

 

「ライト君、キミは偉いね。いっつも誰かの為に頑張ってる。ボクはそんなキミが誇らしいよ」

「あんたの子供だからねオレは」

「おっ、今日は軽口で流さないんだね?」

「そんな余裕ないっす」

「ふふっ、ライト君も可愛げがある時もあるんだねっ! でも、疲れたらボクを頼るんだよ? キミは何でも一人でやってしまおうとするからね。だからこんなボクにも出来る事があるなら、何でも言ってくれいいんだぜ?」

「ほう、なるほど、じゃあ乳を揉ませろォ!!!」

「やめ、ヤメロォ!! ちょ、そこは、やめろォ!」

 

 イイハナシカナー? からのいつもの流れである。

 ヘスティアを羽交い絞めにして揉みしだくライト。

 

 しかしお気づきだろうか?

 いつもなら乱入してくるあの娘がいない事を。

 そう、副団長リリルカ・アーデは既に動いているッ!

 そして金が絡んだ後ろ暗い系のヤマでは、彼女より頼りになる者はいないのだ!

 

   

 

 ★

 

 その男がライトに接触してきたのはある日の夜の事だった。

 いつもの様にソーマの店で晩酌をしていたライトの横にテンガロンハットを被った小柄な男が座っていた。

 その男はどんな場所にも荷を届けるビジネスをやっており、ライトのビジネスにも協力できるかもしれないと言った。

 

「ザニス」

「どうされましたライト殿」

「この客がどうも深酒し過ぎた様だ。奥の部屋借りてもいいかい?」

「ええ、では鍵を開けておきましょう」

 

 すっかりとバーテンが板についたソーマファミリア団長のザニス。

 ライトの言葉に阿吽の呼吸でバックヤードに続くカーテンを開く。

 ソーマファミリアの団員にとってライトとは特別な友人である。

 故に彼の言葉を疑う事は無い。

 

 そんなライトはテンガロンハットを軽々と担ぐとカーテンの奥に消えた。

 

「起きろ」

 

 そんな声が聞こえ、テンガロンハットことヘルメスは目を覚ました。

 実際はゴーレムの杖を装備したライトに脇腹を突かれて石化のバッドステータスを喰らっただけだが。

 そして金の針で回復させられたという流れだ。

 

「こ、ここは────」

「アンタ神様だろ」

「おっと、物騒だねえ? そうさ神だよ。ヘルメスと言うんだ、よろしくねライト君」

「ここはソーマの店の地下にある。神なら知ってるだろ? オラリオの地下には広大な下水があるのを。そこのドアの先はくっせえ下水に続いている」

 

 ヘルメスは昼行燈を装った神であり、人の虚をつく事を得意としている。

 だが今回は相手が悪かった。

 何故なら軽口が一切通じないのだ。

 ヘルメスの言葉に一切耳を貸さず、むしろ心を覗いてくる様にじっと見ている。

 

「そ、それがどうかしたのかな?」

「別に。ただ酔った神がトイレと間違って下水に降り、たまたま足を滑らせて落ちたなら、誰も気付かないだろうなァと思っただけさ」

 

 そしてライトは息を飲むヘルメスを尻目に、どこからか妖精の爪を取りだして装備をした。

 

「因みにそれ、なんだい?」

「ああ、これ? これは妖精の爪って言ってな、これで攻撃をすると割と高い確率で相手が混乱する。まあ、酷い酩酊状態に似てるかな?」

 

 ヘルメスは息を飲んだ。

 こいつは本気だ、と。

 

「気分悪いんだよね正直。どこぞの猪野郎は好き勝手な事を言いやがる。可愛い耳をした娼婦に出会えば胸糞の悪い話が聞こえてくる。その上オレの故郷の神様がピンチと来た。ムカつく事にだ、平穏に金儲けをしていたいだけのオレに、原作からすり寄って来やがる。今回の件も結局は全部繋がってるんだわ。そこにヘルメス、アンタがシャシャって来た。外でも無いヘルメスがだ。こう見えてオレ、昔は読書家だったんだ。活字中毒って言うのかな? ジャンルは問わず何でも読んだ。純文学、哲学書、当然官能小説もな。因みに人妻の不倫モノが大好物だ。で、中には神話もあってなァ。ヘルメス神はゼウスの伝令で、巨人も殺した凄い神だが、こういうエピソードもあった。産まれて直ぐにアポロンの牛を盗んで、その後口先だけで有耶無耶にした挙句、結局はアポロンから杖までせしめた。それで商売の神って呼ばれたんだっけ? お前はどうか知らないが、オレが動きだしたタイミングで接触してきたんだ、言葉通りに話を受け取る訳にはいかないな」

「あは、アハハハハハッ! 君は凄いね! ちゃらんぽらんに見えて抜け目がなっ────」

「誰が喋っていいって言った?」

 

 ライトはヘルメスの顔面に前蹴りをいれる。

 レベルが文字化けしている程のステイタスで、身体能力が人間並の神に攻撃。

 結果はゴロゴロと床を転がり、壁にぶつかると口から血を吐き咳込む事になる。

 余りの痛みとまさか人間が神を攻撃すまいと言う常識に裏切られたショックに、ヘルメスはライトのセリフに感じた違和感を頭の隅に追いやってしまう。

 

「よ、容赦が、ないね……本気かい?」

「邪魔するならな。いよいよとなれば家族を担いでこの街からとんずらすればいい話だしな。別にオラリオに拘る理由は無い」

「ああ、そうきたかぁ……」

 

 苦悶の表情と呆れが混じった表情のヘルメス。

 そんな彼にライトは無表情のままエリクサーを振りかける。

 たちどころに痛みは引き、傷は消える。

 

「治してくれたのかい? どういう意味だろうか?」

「別に。話をするのに邪魔くさいからな。でも分るだろう? これはエリクサー。死んでなきゃ大概どうにかなるチートアイテムだ。そしてオレはこれを山ほど持っている。ならまたいらない事を囀ったら半殺しにして、その都度回復すればいい。さて神々の精神は、何回まで耐えられる?」

 

 ニヤリと笑うライトに思わず後ずさりをするヘルメス。

 もっとも、そこには壁があり、それ以上下がる事は出来なかったが。

 

「ま、いいや。なんで急に関わってきた? ゼウスが関わっているのか? 答えは10秒以内に。腹芸を弄した気配がしたらさっき以上の苦痛を与える。10・9・8……」

「その通りだっ! 俺達は英雄を求めている。いずれ訪れる危機、その為に英雄が。ゼウスが元々考えていた英雄の候補が使えなくなった。故に次点。それが君って訳だ。雇い主は君にもっと派手に踊ってほしいと考えていたが、残念な事に君はいつも炎が燃え上がる前に鎮火させてしまう。だから俺が君を派手に動かそうとやってきたって訳だ」

「ふうん……まあそうか。そうなんだろうな。そこにはそこはかとない責任を感じ無くも無いが、悪いが協力する気も無い。英雄? ガキに頼る神様とか笑えるな。お前のとこの神の末席にヘラクレスがいるだろうが。その逸話を考えれば、神々が造った英雄なんてものにロクな奴はいねえのはアンタらが一番知ってるんじゃないのか?」

「まっ、そうだね。ただ俺は中間管理職で使い走りなんだ。拒否権なんかある訳ないだろう?」

「そりゃそうだろうな。それはオレに関係ねえけど。とは言えだ、種が割れた以上、アンタには落とし前をつけてもらうぞ?」

「……お手柔らかに頼むよ?」

 

 その後いくつかライトとヘルメスの間で話し合いが交わされた。

 まず落とし前としては、今回の件でライトが動く際に、諜報に該当する部分をヘルメスが担当しろと言うのが一点。それとヘルメスの逸話にある空飛ぶサンダル、それを寄越せというのが二点目。

 こちらは問題無くクリアされた。

 

 もっともサンダルに関しては彼のファミリアの団長であるアスフィ・アンドロメダに後ほどボコられると青い顔をしていたが。

 因みにこのアイテムを欲しがったのは、ライトが原作アニメで見たシーンを思い出し、オレも欲しいと個人的な欲求から求めた。

 ちなみに神秘のスキルを持つアスフィが作るアイテムは軒並み高価である。

 それをロハで寄越せと宣うライト、流石きたない忍者であった。

 

 だがこのライトはビジネスメンとしての矜持は忘れていない。

 つまり奪うだけでは駄目だと言う事だ。

 なので英雄云々はクッソどうでもいいが、もしオラリオヤバイ案件が将来的にやってきたなら、その際は手を貸すと約束したのである。

 ただしその時は矢面に立たせる誰かを前面にアピールしてだけどねと念を押したうえで。

 

 何故そこに拘るか。

 それはよくある能力隠し系転生者ムーブではない。

 単純に目立った所で商売になんの得にもならない、むしろ弊害しかないと考えただけだ。

 そう、彼は上場しない系経営者思想なのだ。

 

 彼が尊敬している経営者、或いは創業者は林檎のジョ〇ズでも窓のビルゲ〇ツでもない。

 ましてや日本の松下〇之助なんかでもなく、世界的廉価家具メーカーIK〇Aの創業者、スウェーデン人のイン〇ヴァル・カン〇ラードであるッ!

 

 こうして話が纏まった結果、ヘルメスは無事帰宅出来たのである。

 だが帰宅し、事の顛末を団長に話した結果、絶対零度の蔑みの目で見られた挙句、サンダルの件では案の定ネチネチと長い長い小言で責められたのである。

 

「もう暗躍なんてこりごりだーーー!」

 

 そう叫んだとか叫ばなかったとか。

 それは彼の名誉のためにぼかしておこう。

 それと共に、暗躍系神々の間でライトの悪名が刻まれた。

 主に”こいつに冗談は通じないからいつものノリでいくとヤベー”的なニュアンスで。

 

 その副次効果か、実はこの頃ライトに接触を考えていたいくつかの闇派閥が手を引いたという。

 そして、

 

「ほら、可愛い副団長君。君の愛しい団長様が欲した情報だよ。せいぜい上手く使ってくれ」

「その不快な軽口は止めてくれませんかね? 口を縫い合わせますよ。では有り難く頂戴しますねヘルメス様。くふっ……ああ、楽しくなってきました」

「そうかい、なら良かった。んじゃ俺はこの辺で(この主従やべー)」

 

 とある日の夕暮れ時、オラリオ南の城壁の上で、そんな会話があったとか。

 

 

 



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原作に関わりたくない系オリ主、まさかの覚醒? 急の1

本日投稿2本目
もう一本ありますのでご注意を


「よォ、久しぶりだなァ春姫! これおみやゲエッ!?」

「ライト様!!!」

 

 ライトが随分と間を開けてやってきた遊郭で、馴染の春姫を揚げた。

 しかし彼が座敷に入った途端、そこに三つ指をついて待っていた春姫が、クラウチングスタートから最高のダッシュを決めた短距離ランナーの様に飛び出し、ライトの横隔膜を45度の角度からエグったのだ。

 ハグと言う名の人間砲弾である。

 

 その結果彼の手にあったスシが空を飛び、それはイシュタル・ファミリア傘下のヤクザ・オフィスに飛び込んだ。

 その結果ヤクザ・オフィスは爆発した。

 

 ────ザッケンナコラー!

 ────スッゾオラー!

 ────ナマッコラー!

 ────ヤメロー! シニタクナーイ! シニタクナーイ!

 

 

 春姫の目付け役であるアイシャは思う。

 あのライトって言ったっけ? 真っ赤で風変りな男サ。

 ただね噂だけは知っていた。

 春姫の奴がご執心なんだ、裏でも取ろうってのは当然だろう?

 

 いつも寂しそうに遠くを眺めてるあの子を一瞬でも笑わせた。

 なのに全然来やしない。

 頭に来るのも当然だろ?

 

 聞けばロキの所の連中が一目置いているとか、どこかの最強と一緒に飲んでたとか。

 そんな話が聞こえてくる奴がまともな訳が無い。

 まあ最近のオラリオで目立つ話があったら、その裏には必ずこいつの名前があるんだヨ。

 知ってるかい? ソーマファミリアってド腐れ連中。

 いまじゃいい意味で話題のファミリアだ。

 

 そんな奴が春姫を目にかけた。

 あたしにそんな資格はないのは分かってるよ。

 どうやったって、あたしは主神を裏切れない。

 けどね、だからこそ、密かに思うのは許してくれよ。

 あいつが、春姫を連れだしてくれるってサ……。

 

 それ程に春姫の落ち込み様は酷かった。

 

 ”こんぴらふねふね おいてにほかけてしゅらしゅしゅしゅ”

 

 毎晩夜空を見上げてライトに教わった唄を口ずさんでいる春姫の姿を見て、春姫が逃げない為の監視役であるアイシャなのに、すっかりとこの世間知らずな娘に情を移していた。

 故にもしまたライトが来たならぶん殴ってやると決意した。

 だが今のライトの姿を見て、ま、まあいいか(震え声) と思った様だ。

 

 と、っそんな茶番はさておき、久しぶりに春姫を買ったライトは、スシ────は無くなったので、結局前と同じくアイシャに金を渡し適当に料理を準備させた。

 

「はいライト様、あーーーんっ!」

「あーーーーーーーーーーーーーーーんっ!」

 

 ライトにより護衛としてつけられたヤマト・命。

 彼女は思った。

 ここまで本気で馬鹿になれる男がいたとは、と。

 因みに彼女はライトと目が合うと「ちゃ~んと仕事をしてるか?」と睨まれた。

 おっといけない、それなりに楽しい遊郭暮らしだと気を抜いていたヤマトは気合いを入れなおす。

 

 しかしだ、それはそれとして、だらしなく眦を下げながら春姫にあーんをされているライト。

 羞恥心を全て投げ捨てたライトの姿にヤマトは戦慄した。

 

「元気だったか?」

「はい、でも寂しかったです、……ありんす」

「廓ことば、覚えてたか。でも無理にしなくてもいいだぜ?」

「無理じゃないですっあっ、えっと、主さんはいけずでありんすっありんすっ!」

 

 食事も一通り終わり、膳も下げられた頃。

 窓から見える歓楽街の夜景を眺めながらライトはいつかの様に春姫の膝を枕に寝ていた。

 だが彼の言葉に春姫の瞳にこんもりと涙が盛り上がり、そしてツーっと落ちた。

 ぽかぽかと叩かれながらも、ライトは彼女の好きにさせた。

 

 春姫にとってライトとは、突然現れた未知のヒーローだった。

 特別何かをした訳じゃない。

 逆に特別な事を何もせず、ただ心から笑いたくなるような時間をくれた。

 

 暗鬱で、終わりが見えている。

 そんな自分に、ちょっとした光を見せてくれた。

 箱入り娘として育ち、許されぬ粗相をしたと勘当され、結果ここに売られてきた。

 

 イシュタルの眷属となり、恩恵を発現した春姫は、ウチデノコヅチと言う反則的な能力を扱う事が出来る。

 これは自分以外の他者の位階を一段階引き上げるという物だ。

 ステイタスが冒険者のヒエラルキーに関わるのは、当然レベルが1違うだけで大人と子供以上の力量差になるからだ。

 つまり春姫の持つ能力は、冒険者として色々な前提を無に帰す物なのだ。

 

 実際これを利用してイシュタルは敵対していた女神を天界へ強制送還に追い込んでいる。

 春姫のスキルによるレベルアップで、ギルドに登録している内容とずれを与え、レベル詐称の濡れ衣を着せたからだ。

 

 イシュタルが男も取らせる事も無く、春姫を飼い殺しにしている理由は、偏にそのスキル故である。

 故に春姫は決して身請けを許されないし、神に奉仕をさせられる為だけに存在している。

 それもあって春姫は、そのことも自分の罪であると重く受け止めている。

 

 とは言え春姫は純粋培養な箱入り娘だが、だからと言って馬鹿ではない。

 この遊郭に閉じ込められた後、考える時間だけはあった。

 自分をなじる父親が、果たして自分を愛してくれた瞬間はあっただろうか?

 考えてはみても何一つ思いつかなかった。

 既に期待する事を諦めている春姫は、その考えに至った事を悲しいとは思ったが、色々と腑に落ちたという思いの方が大きかった。

 

 ────なるほど、そんな風に割り切れる自分は大概薄情な女なのかもしれない。

 

 そう思ったところで、苦笑いしか出なかった。

 なんと自分は道化だったのだろう。

 父親の仮面に気付けば、当然あの理不尽な出来事も腑に落ちる。

 神に供える神饌を自分は食べた覚えが無い。

 それなりに信心深かった春姫は、いまになって漸く、あの不自然さに気が付いた。

 

 ────なんて馬鹿な女なのだろう。

 

 そう自嘲したが、それで諦めがついた。

 もういい。流れるだけ流れてみよう。

 その先に何があるかは知らないけれど。

 そう思った。

 

 ライトがその決意の矢先に現れた。

 春姫の鬱な気持ちを一切無視し、彼は呑めや唄えと笑った。

 変な言葉を言えと強要し、言えば可愛い奴めと頭を撫でまわす。

 

 そして散々楽しんだ挙句、膝枕をしながら眠った。

 彼は一切彼女に何かを欲しない。

 正しく遊女として彼女に接し、遊び方を教えてくれただけだ。

 

 ────お前はぽんこつそうだが、器量だけはいいんだから笑え。お前の気持ちは知らねえが、お前の笑顔でオレの気分が良くなるんだ。

 

 ふと目を開けたライトがそんな事を言った。憎たらしい言葉だ。

 自分が笑えるだろうか? 希望なんて何一つないのに。

 でもこの男は自分の笑顔が好きと言った。

 膝の上に乗る彼の頭の温もりがとても熱く感じる。

  

 春姫は考える。

 このぽかぽかとした気持ちはなんだろうか、と。

 もしかして、父親の温もりと言うのはこれの事なのでは。

 その正体は結局分らなかったが、春姫はこの男にまた会いたいと思ったのだ。

 

「そういやお前、御伽噺とか好きなんだろ?」

 

 ふとライトがそんな事を言った。

 泣き顔を見られたくなくて顔を隠していた春姫の目が丸くなる。

 

「ぐすっ、はい……」

「んじゃひとつ、語ってやろうか」

「はい、お願いしますっ!」

「ははっ、今泣いたカラスがもう笑った」

「むう……いけず、いけずいけずっ」

 

 アイシャは無性に壁を殴りたい衝動に駆られたが、アマゾネスの鉄の意思で何とか我慢した。

 ヤマト命は無性に壁を殴りたい衝動に駆られたが、強い武人の心で抑え込み、その結果明鏡止水の境地に至った。

 

「ある所に囚われの身になったお姫様がいた。わる~い伯爵のお嫁さんにさせられるんだ。それをとある泥棒が────」

 

 ライトが語ったのは、中の人が大好きだったルパン三世の名作だ。

 ニヒルに笑いながらも、命を張ってお姫様を救い、心を盗んだままどこかに消えた大泥棒。

 日本では老若男女だいたいが一度は見たことがあるお話。

 

 それを聞いていた春姫は、まるで子供の様に一喜一憂し、次は、次はと催促をした。

 そして、やがて。

 楽しい時間には必ず終わりが来る。

 

 明け方、ライトがそろそろ帰ると腰を上げた。

 今日の春姫は珍しく我儘を言った。

 帰らないでと。

 

 そんな彼女の頭をぽんぽんと撫でたライトは、腰に縋りつく春姫を立たせ、もう少し待ってろと言うと出ていった。

 その背中に向かって春姫は叫んだ。

 

 ────私は願ってもいいのか、と。

 

 ライトは一瞬立ち止まると、

 

「天下の大泥棒、ルパ~ン三世の信奉者、このラ~イトに任せとけぇ~」

 

 そうおどけて返事を返した。

 その声色は、結構似ていただろうと後にライトは自慢げに春姫に話したという。

 ちなみにライトのルパン像は山田〇雄派である。

 

 

 ★

 

 

 

 つまるところ、イシュタルがフレイヤに喧嘩を売った理由は、単純に言えば女の嫉妬それに尽きる。

 単純な女神の格と言う意味で考えるなら、イシュタルの方が歴史も古く、多くの権能を持つ事を考えれば、後発である北欧神話の女神であるフレイヤよりも上と考える事も出来るだろう。

 

 ただ逆に、人々の中での認知度と言う意味ではフレイヤの方が圧倒的に上である。

 何故なら古代メソポタミアの神話など、その手の研究でもしていなければ普通は知らないからだ。

 

 紀元前3000年まで遡るイシュタルの逸話は、この地域では最大の信仰を集めたという意味で考えればネームバリューもあるだろう。

 ただそれが現在まで続くかと言えばそうではないというだけの話だ。

 

 そもそもシュメールが描かれたのはギルガメッシュ叙事詩や、バビロニア創世神話のエヌマ・エリシュなどがある。

 これは存在する最古の叙事詩であり、その後ギリシャ神話を筆頭とした後発の神話に出てくる神々のモデルにもされている。

 

 けれども古い=認知度が高いという訳でもないのが曲者なのだ。

 つまりオラリオにおけるイシュタルが抱く嫉妬と言うのは、単純に男達に持て囃されるフレイヤが憎いという物だけではなく、おそらくはオラリオ内で形成される力関係において、自分よりも幼い神に自分が敵わないという現実を受け入れられない怒りがあるのだろう。

 

 それが嫉妬の炎と言う形でトリガーとなった。

 そしてイシュタルは動いた。

 配下の戦闘娼婦や高レベルの眷属……では無く、謀略と言う意味で。

 

 具体的にはフレイヤファミリアに関わる、冒険者以外の者に不利益が被る様に配下の者を動かした。

 フレイヤに傅く男神のファミリア等も含めて。

 イシュタルは力押しだけの女神では無い。

 むしろ愛と美、そして戦・豊穣・金星・王権など多くの神性を持つ女神だ。

 つまりフレイヤが持つ性質を全て彼女が持ち合わせている。

 

 故に謀略を持ってフレイヤを追い込む事にした。

 直接春姫を使わなかったのは、単純に中途半端に露呈すると力同士のぶつかり合いに発展し、その場合は眷属の質で分が悪いからだ。

 だからこそ本体ではなくその周囲を貶めた。

 

 直ぐに結果は出ない。

 しかしたがいに狡猾だからこそ意図には気付く。

 少なくともフレイヤは気付いた。

 そこからは根競べである。

 実際これは既に開戦された戦争だった。

 直接的な戦闘が行われていないというだけで。

 

 イシュタルが動いた結果、フレイヤの元には数々の苦情・苦言が集まる。

 フレイヤに近いというだけで嫌がらせに遭っているのだ。

 特に眷属が物を売ろうとすると安く買い取られた。

 ポーションと言った消耗品が今までの様に手に入らなくなったとか。

 ヘファイストスやゴブニュの武器をまだ買えないランクのファミリアでは、頼りにしていた零細の鍛冶屋が取引を断ってきたなど。

 

 イシュタルが狡猾なのは、これらの件に必ずフレイヤのせいでこうなっているという内容を密かに盛り込ませる所だ。

 故に切羽詰まった連中は、真偽等関係なくフレイヤを責めた。

 とは言えフレイヤはだったら関わらなくて結構とばっさり切り捨てたのだが。

 

 最終的にイシュタルが願うのはフレイヤの強制送還である。

 ならばどうするか。

 とにかく煽りに煽り続けて向こうに手を出させる事だ。

 強い者には責任が付き纏う。

 故に最強と名高いオッタルなどが傍若無人な態度を他人に見せる事は出来ない。

 

 畏怖が恐怖に変わった時、ギルドは最強と言えど、秩序を守るために動くだろう。

 恩恵による強さは絶対じゃあない。

 背中に刻まれた紋様を取り上げられた途端、積み重ねたステイタスは無に帰るのだ。

 だからこそ、フレイヤファミリアが武闘派の集まりと言う特性を逆に利用するのである。

 

 果たしてそれは実る所まで来ていた。

 確実に、イシュタルが放った毒はフレイヤを追いつめていた。

 その証拠に、フレイヤからイシュタルへ会談を申し込んできたのだ。

 それもイシュタルの本拠地である女主の神娼殿へ自らが来ると譲歩を見せながら。

 

 だがイシュタルは理解している。

 この女はもう限界に来ていると。

 器の大きさから有象無象の批判など毛ほども苦にはしないだろう。

 だが女神としての矜持から、フレイヤは自分を断罪したがっている。

 そう見抜いている。

 

 実際それはおおよそ正解だった。

 故にオッタルを筆頭とした第一級冒険者が丸腰で護衛として同行するという。

 第一級に得物の有無など関係ないだろう。

 それほどに暴力的なステイタスの恩恵があるのだから。

 つまり話に乗じてフレイヤは自分を殺しにかかると思っている。

 それでもイシュタルは護衛? いいだろう。常識の範囲で連れて来いと言い切った。

 

 そしてその時を迎えた。

 

 イシュタルは豪奢な神殿には大胆にも戦闘に特化した眷属は配置しなかった。

 唯一春姫と彼女を引率するアイシャがイシュタルの後方に控えるのみ。

 イシュタル本人は不敵な笑みを湛えたまま、玉座に静かに座する。

 

 そこに清楚なドレス姿のフレイヤがやってきた。

 その両脇にはダークエルフのヘグニとヘディンが立ち、後方には団長であるオッタルとアレンが油断なく控える。

 

「お待たせしたわね、イシュタル」

「ようこそ我が神殿へ。いつもの余裕はあまり無いみたいだが?」

「そうね、そうかもしれない。貴方の矮小さは知っていたけれど、ここまで品が無いとは思ってもみなかったわ」

「はっ、そこまで褒められると照れるではないか。本来、愛とは心行くまで獣の様にまぐわい、頭の中まで溶け合う程に味わい尽くす物よ。お前みたいに外面を取り繕い、魅了を抑えられずに男の心を狂わせる様な下品なマネはできないな。そんな物で得た愛などただの呪いではないか? のうオッタルよ」

 

 薄ら笑うイシュタルの目が舐める様にオッタルを見た。

 愚直な猪人の目が怒りに歪む。

 それを眺めイシュタルは心底楽しそうに莞爾と笑う。

 

「いい加減にしてくれないかしら? 茶番はもう結構。決着は今夜つけましょう。貴方も覚悟しているのでしょう?」

「覚悟、ねえ。一体それは何についてのだ? 話し合いがしたいというから招待はしたのだ。だから礼儀に則ってもてなしてやろうと待っていたのだ。ほれ見てみろ。宴の準備もしておったのだぞ?」

 

 真顔で言うフレイヤをせせら笑いながらイシュタルは隣室を顎でしゃくった。

 そこにはなるほど、彼女が言うように豪華な宴の準備が成されている。

 

 そこでふと、フレイヤは彼女の周囲を改めて見た。

 広間には無数の女たちがいる。

 中には裸体をさらし女同士で絡みあい、淫靡な香りをまき散らしている者さえいた。

 だが、戦える者はほぼ皆無。

 イシュタルの背後にいるアマゾネスくらいな物だ。

 それとてフレイヤの護衛の誰と戦っても瞬きをする間に屠れる程度。

 嫌な予感がした。

 

「失礼しますイシュタル様」

 

 するとそんな声が広間に響く。

 どうやらイシュタル配下の者のようだ。

 とは言え事務的な業務に携わる雰囲気を持った厚着の女だが。

 それを見てイシュタルが嗤った。

 

「おお、今は大事な客人が来ている所だがどうした、急ぎの用件か?」

「はい、実はギルドの方がやって来まして、重要なお話があるとか……」

「おお、おおっ! ギルドの用事と言えば無下には出来ないな、ここにお通ししてくれ」

「畏まりました」

 

 カツーン、カツーン……。

 

 静まり返った広間に足音が妙に響く。

 誰かがごくりと息を飲んだ。




短くてスマナイ……スマナイ……


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原作に関わりたくない系オリ主、まさかの覚醒? 急の終

なんやかやあってかばんちゃんも合流したサーバルとベル。
ベルは帰り道を。かばんは自分がどんな存在かを。
それを見つけるために図書館へ向かったが、やがてそれはえいゆーとは何か、そして自分は何が出来るのか? そんなそんざいいぎを探す旅へと変化したのだ。

さらになんやかやあって

かばんちゃん、サーバルを助ける為に巨大なセルリアンにダイブ!
  
 突  然  の  死(死んでない)
 
それに対して

サーバル「かばんちゃんを返してよー!!」
ベル「かばんを……返せッ!!!」

だが彼らはあまりに無力だった。
しかし…………


 足音が近づいて来た。

 フレイヤは苦虫をかみつぶした様な表情。

 対してイシュタルは勝ち誇った様な表情。

 互いに対照的であった。

 

 ここに来てフレイヤは悟った。

 今の構図は外からどう見えるのか、と。

 宴の準備をして迎え入れたイシュタル。

 翻って自分はどうか。連れて来た眷属は全て第一級冒険者のみ。

 宵闇の中に潜ませたそれ以外の眷属はいるが、少なくとも現在神殿の中にはレベル6以上を護衛として配している。

 

 逆にイシュタルはどうか。

 団長のフリュネ以下、主だった実力者の姿はない。

 唯一アイシャの姿はあるが、ただそれだけだ。

 そこでギルドの存在はこの状況をどう見るか。

 

 現実の状況など関係ない。

 フレイヤの周囲に魅了でイエスマン化した男神もいない。

 これは神会で票を集める為の場では無い。

 ならば単純に、夜更けに他ファミリアに宴会に参加するとやってきて、その上で主神を亡き者にしようとしている……そんな構図に見えないだろうか?

 今はそうじゃないにしても、狡猾なイシュタルがこれからギルドの職員に何かを語ったなら?

 恥も外聞も無く、フレイヤに襲われたと訴えたなら?

 

 つまりはそう言う事である。

 満面の笑みを浮かべたイシュタルを睨みつけながら、フレイヤはどう動くのが最適かを考え始めた。

 そして、

 

「あ゛~……お忙しい所申し訳ないが、ワシはオラリオのニシで金貸しをやっとるライトっちゅうもんですわぁ。イシュタル言う相手に用があるんだが、どの方でっしゃろか?」

 

 そこにいた全員の目が点になった。

 特にフレイヤの顔は永久保存版と言える程に。

 

 足音の主はギルド職員では無く、全身真っ白のスーツに黒いピンストライプの派手なシャツ、そしてヘビ革の靴と言ういかにもそっち系のファッションで纏め、髪はテカテカのポマードで固めたオールバックのライトであった。

 どこで手に入れたのか黒いサングラスをして、口はヘの字に曲がっている。

 

 その横にはすっごい小さいが、真っ赤なパンツスーツ姿のリリルカアーデが、同じようにサングラスをして控えている。

 どこかいい女風な態度でツーンとしている。

 

「イシュタルは妾だが……お前は何しに来た?」

「いやぁギルドのエイナっちゅう女と話しましてな? ワシもここに用事がありますさかい、せやったら、内容も大した事なさそや言うし、ワシが代わりに行きますわ言いましてん」

 

 未だ状況を理解している者は誰もいなかった。

 オッタルだけが凄いライトを見ている。

 何してんのお前的な感じで。

 

「ほんでぇ本題なんですがねえ、そこにいる春姫っちゅー女、是非ワシに譲ってもらいたいんですわ」

「何を言っているか理解しているのか若造」

「へえ、解ってまさぁ。だからぁ穏便に済む間に、渡せ言うとりますんやぁ」

 

 下手に出ている風に見えるが、実際は慇懃無礼もいい所。

 歓楽街の女王を相手に睨みつけ、あまつさえライトは煽る様にヘラヘラ笑いながらそう言った。

 

「要はですな、アンタらが小細工した案件はとっくに露見しとるんですわぁ。こう見えてワシは中々に人脈が広うおましてな。中には何といったか、そう、ヘルメスっちゅうのがおりましたなあ。殺生石言う珍しいアイテムをワシに見せてくれましてん。このヘルメス言う神はちょいちょい悪さをする言うんで、ちょいと絞めてやりましたら、そのアイテムを貰いましてな。ついでに色々囀ってくれましたわ。そのアイテムの使い道とかそう言うん諸々をな」

 

 ライト劇場が開幕していた。

 誰一人動かない。

 チャッと外したサングラスの下は鋭い眼光。

 大柄な体格と相まって妙な威圧感があった。

 

「そもそもの話なんやけどな。同じような時期からワシが金を貸してる相手が次々焦げ付きましたんや。特に細々とやっている道具屋や鍛冶屋、そんな場所で。それまではきっちり返済をしてくれた生真面目な連中や。そこにヘルメスっちゅー神の話から調べてみれば、アンタの差し金らしい言う事がわかりましたんや」

 

 これは実際、ほとんどは本当の話だった。

 別にライトは金融屋をしていた訳では無く、投資基金を立ち上げていた。

 それはかなり前に話は遡るが、ライトが集めた金額は結構な規模になっていた。

 それをヘスティアファミリアで消費出来るレベルでは無いし、かと言ってマンパワーの足りない自分たちで商売を立ち上げる訳にもいかない。

 

 そこである程度の纏まった金額を運用する法人だけを立ち上げた。

 その業務内容は”廃業する冒険者が商売で独立する際に投資をする”という物だ。

 発想としてはベンチャー企業へと投資である。

 

 冒険者とはレベルの如何に関わらず、何かしらの恩恵を持っている。

 それを生かして商売をするのなら、一般人よりもアドバンテージになる。

 それはある種の担保であるし、恩恵が生きているという事はどこかの神の眷属であるという証である。

 それこそが何よりの担保だろう。

 

 冒険者としての自分を諦めようと、商売で心機一転踏み出す。

 その心意気を後押ししようというのがライトの考えだ。

 彼らは必死だ。もし主神の評判に泥を塗る様なマネをすれば破門されるやもしれない。

 そうなれば破滅だ。故に必死にやる。

 

 そうして始まったライトの投資事業は少しずつ結果を見せていく。

 この活動にはギルドも好感を持ち、ギルドとして見どころのある廃業冒険者をライトに斡旋する様になった。

 これらが実れば、将来的に冒険者たちの引退後もカバーできるのだから。

 ライトもギルド側に投資した情報の詳細を開示している。

 恩恵持ちが一般社会で恩恵依存の犯罪を行わない為の抑止力として、ギルドにも把握させた方が得だと考えての事だ。

 

 この投資はライトに対し自分の事業計画を申告し、いくつかの審査の結果に上限額が決められ、それで初めて投資金が渡される。

 これに返済義務はない。ただし5年間、詳細な帳簿をライトに報告する義務がある。

 そして5年後、利益が出ていれば事前に取り決めてある率でライトに支払う。

 もしそれに見合う結果が出てなくても、将来の展望が予想出来たなら、改めて審査の後、投資が増額されるという物だ。

 

 だが、その中の何人かが姿を消した。

 オラリオそのものから。

 投資金については返済義務はないとは言え、姿を消した当人はギルド的にも将来性はあると言われた者達なのが不審である。

 特に個人で鍛冶屋を始めた青年などは、ライト個人でヘファイストスに顔つなぎもしてやったほどだ。

 真面目にやっている限り喰いっぱぐれは無いだろうと言う状況なのだ。

 

 なのでライトは自分で動く事にした。

 他の仕事で色々やりすぎた結果、時間が空いたという事情もあったが。

 というより単純に金を持ち逃げされたならそれはそれでいい。

 その相手に才能が無かった事と、それを見抜けなかった自分の間抜けさと言う意味で諦めもつく。

 だがこのケースはそうじゃない。主神に挨拶も無く姿を消しているのだから。

 

 そうして色々と情報が集まってきた。

 オッタルからの話でイシュタルファミリアの話を微かに思い出した。

 そこにヘルメスとの邂逅を経て、完全に思い出した。

 ベルがいない事の影響か、本来の流れとは別の方向に流れた事には焦りを覚えたが。

 

 そしてこれはヘルメスとイシュタルの抗争の影響だと確信したライトだ。

 当然自分の足で歓楽街に通い、春姫の存在がさらに確信を深める。

 活字の中の春姫は、実際に触れてみるとただの世間知らずのガキだった。

 既に散々悪事の片棒担がされているが。

 

 原作を思い出した所でヘルメスから殺生石を巻き上げ、これ以上の介入をしたなら容赦しないと釘を刺し、ついでに面白そうなサンダルを奪い、さらにはライトが手の回らない場所への情報収集に動いて貰った。

 俺に旨みがないじゃないかとボヤくヘルメスにライトは「死ななきゃ安いって言葉は実に的を射ていると思わないか?」と言われ黙ったという。

 この男、実に悪役ムーブが似あう。

 

 これらの事で着地地点が見えたライトの動きは早かった。

 早々にギルドに根回しをしたのだ。

 おうエイナ、この後ヒマか?

 え、ライト氏……私何か悪い事しましたか(震え声)

 ジュージュー苑で吐くほどおごったるわ。

 いきます♡

 エイナは即落ちした。

 

 そして最高級の焼肉に終始アヘ顔のエイナに爆弾が落とされる。

 おう、エイナ。お前散々食ったよな?

 ギルドの一番偉い奴を連れて来いよ。え? 無理? 

 ほほう、この伝票いる?

 うむ、うむ。実に協力的で嬉しいなァ。

 悪魔かこの男。

 

 そして自宅に帰って一家団欒中のロイマンが招集され、イシュタルファミリアの一連の流れを証拠付きで聞かされた後、この一連の抗争はギルドで公の問題にせず、ライトに調停役を任せる許可を約束させたのである。

 ギルドとしても引退冒険者たちの安否も気になる所だ。

 最終的にギルドがケツを持つにしても、結果的にライトが穏便に済ませるならばギルドとしても上々であるのは間違いないのだ。

 問題はイニシアチブがヘスティアファミリアという零細である事くらいか。

 その上でライトはこの日を迎えたのである。

 

「つまりだ、おどれらのやった事はギルドも既にお見通しっちゅーこっちゃ。せやから、ワシの一存でアンタらはこのまま現状維持、それで収めたる言うてんのや。そしてフレイヤはん」

「…………何かしら」

「このワシが恩に着るっちゅーことで、ここは一つ、矛を収めてくれんやろか? アンタも吐いたツバ飲めん言うのはようわかります。せやけどここは、女神様の懐の深さ、このライトに見せてくれませんやろか?」

 

 腰を落として頭を下げ、それでも目だけはフレイヤを睨むライト。

 二人の視線が交錯し、どれくらいの時間が経過しただろう。

 無表情のフレイヤがふっと微笑んだ。

 

「帰りましょうオッタル。せっかくの宴だったけれど、興が削がれたわ」

 

 こくりと頷くオッタルの肩を撫でると、フレイヤは踵を返した。

 そして去り際、ライトの耳元で何事か囁くと、そのまま眷属と共に彼女は消えた。

 とは言え、企みを一方的に潰されたイシュタルの腸は煮えくり返っていた。

 それを物語る様にライトに殺気がこもった視線を飛ばしている。

 だがライトは場違いなまでの微笑みを見せる。

 

「ワシは……ってもうこのキャラいいか疲れた。フレイヤも帰ったし。あのさ、オレね、歓楽街が大好きなんだよ」

「はっ?」

 

 ライトの急激なキャラ崩壊に唖然とするイシュタル。

 あまりのギャップにそれまでの怒りを忘れポカンとしている。

 

「歓楽街ってのはさ、絶対になきゃいけない必要悪なんだわ。誰もが毎日楽しく生きてる訳じゃねえ。それに、仕事にありつけねえ女たちの居場所でもある。オレはさ、そんな雑多な歓楽街で、知らねえ奴と何となく盛り上がって話をしたり、飛び込みで買った女が思いのほか上手くて驚いたり……リリ蹴るんじゃあない。まあ、つまりだ、アンタの作ったこの歓楽街は、ただのセックスサービスの場所じゃあねえんだ。それをだ、たかがアンタの嫉妬程度で失くしてどうすんだよ。アンタが知恵を絞って色々やったつもりだろうが、あいつらは最悪、ゴリ押しで全部有耶無耶に出来るんだぜ? 舐め過ぎだよアンタ」

「……それは」

「だいたいさ、あの女がどんだけモテるか知らんけど、あいつが女王でございとどれだけ目立とうが、オレは悪いがアンタの方を尊敬するね。オレは今日乗り込むまでの間、アンタの傘下の店のほぼ全てに顔を出した。ババアに片足突っ込んだ古参の娼婦が言ってたぜ? イシュタル様にゃ足を向けて寝れないってさ。アンタは歓楽街に訪れる男どもの心を救い、アンタが囲っている女たちの人生を救ってんだ。それがどれだけ尊いか、オレは理解できる。だからさ、こんな下らん事で消えるなんて勘弁してほしいぜ」

 

 静まり返る広間。

 そこに娼婦たちのすすり泣きの声が混じる。

 女を張り続ける彼女達は客達から様々な人生模様を聞くのだ。

 それを何度羨ましいと思ったか。

 けれどもこうして、自分たちを理解してくれる男の声を聞けば、少しは報われたという物か。

 

「…………それで、お前はこやつが欲しいというか」

「ああ。くれよ」

 

 じっとライトを睨むイシュタル。

 微笑みを絶やす事無くそれを見返すライト。

 周囲の女たちはこの成り行きを呼吸も忘れて見守っている。

 そんなイシュタルの横で、春姫が震えた。

 

「ライト様……」

「惚れたか?」

「何言ってんだ。見てくれは女女してるが中身はまだガキじゃねーか」

「ライト様?」

「呵々、呵々、お前はよきおのこだな。いいだろう。こやつをくれてやろう」

 

 イシュタルが笑った。

 そこに憎しみの混じる嫌な気配はない。

 なるほど、いいじゃないか。

 自分の歓楽街をこれほどに愛してくれる男がいる。

 ならそれでいいじゃないかと。

 

 そうして、一先ずこの騒動はある種の収束を見た。

 イシュタルはフレイヤに対し、言質を取らせる表現では無かったが、ギルドを介して謝罪をし、フレイヤも謝罪を受け取った。

 ギルドもこの対応にメンツを保った。

 

 そして────

 

「お前は今日からウチの子な。ライト団長って呼ぶがいい」

 

 会心のドヤ顔のライトである。

 それを見ていたリリルカが無性にイラつき、スネを蹴り上げた。

 

「あの、春姫は本当に外にでてもいいのでしょうか……?」

「オレが今度イシュタルの晩酌に付き合うという条件の元、お前はオレの物になったんだ。これは元主神の決定だ。ギルドも知っている。だから遠慮する必要はねえ」

「そうですよ春姫さん。この人は言いだしたら聞きやしないんです。リリもそれで苦労してますから」

「ひっでえなあオイ」

「だったらもっとリリを可愛がってくださいねっ!」

「草」

「何ですかそれ。意味はよく分かりませんが嘲笑が含まれている事はリリにも分かるんですからね!」

「草草の草」

 

 そうして昼間の様に明るい歓楽街の大通りで、ライトとリリルカの追いかけっこが始まった。

 それをポカンと眺めながら、その内春姫は声をあげて笑っていた。

 おかしすぎて、涙が止まらない程に。

 

 

 ★

 

 

「そっかぁ……頑張ったね、ライトくん」

「まあね。また一人家族が増えちまったけどよろしく頼むわ」

「いいさ。春姫くんもいい子だしボクは嬉しいよ」

「そう言ってくれると疲れた甲斐もあるってな。んじゃ乾杯、神様」

「乾杯、ライトくん」

 

 ライトは今日もソーマの店で晩酌をしていた。

 横には珍しくヘスティアだけがいる。

 神様、たまにゃオレとデートしようぜとライトが連れだしたのだ。

 

 もっとも、出がけにひと悶着は当然あったが。

 置いてけぼりにされるリリルカがついていくと騒ぎ、ヘスティアの一員となった後も子供扱いされる事に頬を膨らます春姫に纏わりつかれて。

 ライトは最終的に「これは団長命令であるっ!」と押し切ったが。

 

「悪いけどさ、フレイヤとロキのとこに顔を出してやってほしいんだ。結果としちゃ綺麗に終わったけどさ、二人には色々我慢して貰ったからなあ」

「うっ、苦手な相手だけど、可愛い子供に頼まれたら断れないさ。いいよ、次の神会が近いから、その時にでも話すさ」

「すまんね」

「その代わり、今夜はボクが満足するまで付き合う事、いいねっ!」

「仰せのままに」

「えーなにそれ」

「ん? オッタルのマネ」

 

 そうして二人は笑った。

 明け方まで飲んで、へべれけになったヘスティアを背負ってホームに帰る。

 ふとライトは背中の重さを感じながら、足を止め空を見上げる。

 

「さって明日から何すっかねえ……」

 

 明けの明星を眺めながら、そう呟くライトの横顔には、充足感の籠った笑みがあったのである。

 




博士「さあ、とっとと野生開放するのです」
助手「我々の群れとしての強さを見せるのです」

ピッポー ポッピポー♪

上様「成敗ッ!」
旦那「セルリアンか……豚の様な悲鳴をあげろッ!!」
海賊「遅れちまったなベル。道が混んでてね」
神様「このままじゃ……こんな所じゃ終われねえ。だろ?ベル」

憐れセルリアンは爆発四散。
じゃぱりパークに平和は訪れ、かばんは海に向かいベルは安堵し、確かに見えた辿り着くべき場所へと向かったのである。


 ────────────────────

これで一応春姫編は終わりとしますが、後日エピローグ的な話を投下します。
話中で回収していない桜花と命の話や単純な後日談、そして春姫に寄せた話等がこれに含まれます。
そっちはまあ、水か木か? その辺までお待ちくださいまし


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原作に関わりたくない系オリ主、まさかの覚醒? えぴろおぐ

「うん、それでそれで」
「そうですね、沢山の人と出会いました」
「うんうん」
「それに沢山の人の死を見ました」
「……うん」
「……沢山の人を殺しました」
「そっか、それでキミは何か見えたのかい? キミが目指した英雄とは何か、とか」
「……多分、いまも分かってません」
「うん」
「でも、それが正解かなんて僕にはわからないけれど……でも」
「うんっ」
「生きている限り、正しいと信じる物があるなら、進み続ければいいんだっ! その想いだけが今も僕の胸の中にあるんです」
「うんっ!」




「ご、ごめんよエイナ君」

「ごめんなさいエイナさん……」

「もうしわけありませんエイナ様……」

 

 ギルドの一室に呼ばれたヘスティアファミリアの面々。

 主神とリリルカ、そして新メンバーの春姫は殊勝な顔でエイナ職員に謝罪をしていた。

 その前でエイナ職員は腕組みをし、端正な顔のコメカミあたりに盛大な青筋を浮かべて立っている。

 

「で、団長であるライト氏はどう思ってるんです?」

 

 エイナ職員はキッ! と部屋の隅を睨む。

 そこにはいつものニンジャスーツ姿のライトがいた。

 

 するとライトは華麗に空中に飛び上がると、グルンと前宙をし、エイナの前に着地した。

 そして目で申し訳なさを表す。

 若干潤み、だが忙しなく泳ぐ、そんな風に。

 縋る様な様子が痛々しい。

 

 そしてそこから一気に5歩下がると共に、ニンジャパンツの膝上15センチの所をつまみ、股関節のやや下まで引き上げた。

 すかさずライトは右ひざから地面につけ、左もすぐにおいかける。

 そのまま手は自然と地面につくが、彼の両手は綺麗なハの字になっている。

 この間ライトは、常にエイナ職員の目を見ている。

 

 そこから一気に頭を床上1センチの所まで下げるっ!

 気が付くと何故かメンポは無くなっており、彼の綺麗な銀髪は乱れている。

 何とも必死さが伝わるようだ。

 

 これが土下座である。

 古き良き日本の伝統。

 相手に対し最大級の誠意が込められた最高の謝罪である。

 背中のぴしっとしたラインは、和の心、つまり凛とした様子を表してる。

 エイナ職員はその姿に思わず息を飲んだ。

 

「エイナ職員、本当に申し訳ない」

「ら、ライト氏、そこまでしなくてもっ、頭をあげてくださいっ」

「………………」

「こ、困りますッ! 頭をあげてくださーい」

「………………」

「ほんと、困るんです。ほら、立って下さい、気持ちはわかりましたからっ」

 

 そうしてエイナ職員はライトの肩に手を触れ、立ち上がる様に促した。

 ライトはそんなエイナを涙を浮かべた目で見あげながら、とても申し訳なさそうに立ち上がる。

 ギルドの固い床での土下座のせいか、足がプルプル震えてもいた。

 

「ま、まあ、今回の件で首謀者であるライト氏も反省しているようですから、これで不問としますっ。ですが、これからは気を付けてください、いいですね!?」

「はい…………」

「ではこれで……」

 

 そう言ってエイナ職員は部屋を出ていこうとする。

 まだ頭を下げながら申し訳ない顔をしているライト。

 

「………………」

 

 エイナは何度か振り返るが、ライトの申し訳ない顔を見て苦笑い。

 そして彼女が部屋を出た。

 

「カ~~~~~~~~~~~ペッ!!」

 

 ライトが憎々し気に唾を吐き捨てたのである。

 

「「「えっ!?」」」

 

 そして唖然とするヘスティア以下二人に向かって清々しいまでのドヤ顔を見せた。

 

「見たか? これがDOGEZAだ。あの堅物のエイナでもあっさり許しただろう? 今回はちょーっとはしゃぎ過ぎたけど、別にそこまで悪い事した気がしねえ。つまり、こういう不本意だが社会的に謝罪を求められた時にするオレの国での伝統的な作法がこれなのだっ! いいか? きちんと唾を吐く所までが土下座だからな? これにはかなりの鍛錬がいる。お前らも精進するんだな」

 

 そう言ってライトは足早に部屋を出ていった。

 

「流石はライト様です……あれが伝統……春姫の国にも通ずる物がありましたッ」

「いやいや、いやいやいや、春姫君、騙されてるよ! あれただの逆切れだからね!?」

「そうですよ。ちょろすぎませんかね春姫さんは……」

 

 結局メンバーが増えようと、いつものヘスティアファミリアであった。

 因みに何故エイナに呼び出され長い説教をされたか。

 

 それは春姫が新メンバーとして竃の館にやってきた。

 その日はミアのところからこれでもかと豪華な料理を取り寄せ、盛大な歓迎会が行われた。

 

 全員が酔いで正体不明になり、ライトが勢いのまま腹に変な顔を書いて踊り始め、宴は最大級の盛り上がりを見せた。

 その時ふと、ライトは思い出した。 

 

 ────そう言えば昼間、ヘルメスの野郎からサンダル貰ったんだ。

 

 そう、ヘルメスがライトへの落とし前の証として寄越した空飛ぶサンダルである。

 これは魔力を通す事で自由に空が飛べるという素敵アイテムだ。

 

 そしてライトは早速飛んでみた。

 凄まじいスリルと爽快感。

 屋上から奇声をあげて空に飛び出したライトは、グルングルンと宙返りを繰り返し、そしてまた屋上に着地。

 

 それを見たヘスティア達が自分も飛びたい! と大騒ぎ。

 なら来い! とライトは順番に抱き上げながら空中遊泳を始めた。

 それは結局数時間にも及び、その間空には半裸のニンジャと半裸の娘達が「FOO↑」だの「ヒャッハーーー!」だのと叫びながら飛んでいたのである。

 

 当然静まり返った深夜にこのばか騒ぎだ。

 近隣住人からの苦情がギルドに寄せられた。

 結果、ヘスティアファミリアがギルドから呼び出しを喰らったのである。

 

 まったく、残念でも無いし当然の結果である。

 とは言えライトは一切悪びれる事も無く、今度はどこで飛ぼうかなんて考えていた。

 あまつさえ、ヘルメスからあと5足程奪えば、空飛ぶサンダルのアクティビティでガッポガッポ稼げるとほくそ笑む。

 

 全然懲りないライトにヘスティアは、「この前のカッコいいライト君はどこに行ったんだい!?」と涙目になったものだが、リリルカが深いため息と共に、慈愛の表情でヘスティアの肩を叩いたのである。

 

 ────諦めてください^^

 

 そう、このファミリアで一番精神年齢が高いのは、リリルカ・アーデその人なのかもしれない。

 

 

 ★

 

「ふぁ……おはようございます……」

「おはよう! 春姫君! ほらこっちだよこっち」

「はぁい…………」

 

 歓楽街での騒動から10日程経ったある日、ヘスティアファミリアの一員として溶け込みつつある春姫だったが、如何せん遊郭での生活習慣のせいか、朝が弱かった。

 ライトの「もう着付けの面倒な和服はええやろ」の一言で、赤を基調としたガーリーな服を身に着ける様になった彼女だが、如何せん自慢のブロンドからアホ毛が何本も飛び出ている。

 ヘスティアに手招きされ、大きなダイニングテーブルに座ると、渡されたパンを咥えたまま、春姫は座った姿勢のまま二度寝に移行しそうになっている。

 

「ハル、しゃきっとしろ。今日はオレについてくるんだろうが?」

「!!! はいっ!」

「やりゃ出来るじゃねえかポンコツ狐」

「むう……」

 

 羊皮紙に目を落したままコーヒーを啜るライトに窘められ、春姫の狐耳がへにょりと垂れる。

 

「まあまあライト様、その内なれますよって」

「まあ、ええけど」

「うー……ライト様がなんか怖いですよ?」

「あー、この人が仕事モードの時は大概こうなんです。ま、朝は我慢してやって下さいな。お昼頃になればいつものライト様に戻りますよっ」

「はい……」

 

 そんな眷属たちの様子を眺めながら、ヘスティアは嬉しそうにくすくすと笑った。

 ライトは派手な活動こそしていないが、現在のヘスティアファミリアとして動いている事業はいくつもある。

 それ故、ライトはそちらに手いっぱいなのだ。

 こうしてファミリアが一堂に会する朝食の時間も、一分が惜しいとばかりに書類を見ている。

 

 ライト本人は”なんで異世界に来てまでリーマンやってんだオレ”と密かにボヤくも、善意で何かをしてもはいそれで終わりとはならない。

 手を出したなら責任は持たねばならない。

 

 立場的には明らかに経営者なのだが、実務を賄える人材がリリルカしかいない以上、経営者兼従業員にならざるを得ない。

 つまるところこれが、彼が常々ボヤくマンパワー不足であった。

 投資事業に踏み出した切っ掛けも結局はコレだ。

 溜まる一方の金貨をどう足掻いても回せない。

 

 貧乏ファミリアから見れば贅沢な悩みだろうが、現実ここで金の流れを止めているのも事実。

 結果立ち上げた事業だが、これがとにかく反響がでかい。

 ライト的にはそろそろギルドに丸投げしたい所だ。

 

 オラリオにおける借金とは、現代の金融業の様なシステムは無い為、いいところ個人間融資レベルだ。

 後はパトロンの様な流れもあるかもしれない。

 なので当然利率などの規制も無い訳で、貸し手側が圧倒的に立場が強い。

 とは言えダンジョン産の魔石を一手に管理しているギルドがその業務を行うのがいいのだろうが、ギルドだってそこまで人材を割く余裕も無いのだ。

 

 そんな時にライトの法人は成長の見込みさえあれば商売の初期費用と運用コストを投資と言う形で得られる。

 そりゃ皆飛びつくに決まっている。

 

 ライトは思う。

 圧倒的な信用を持つヴァリス金貨があるんだから、最後までやれよギルド。

 出来んだろもっとガチな銀行業をよお! と。

 

「んじゃいくかハル」

「はいっ! えっと、私はどうすればいいですか?」

「んー特にねえけど。この鞄を持つか」

「はいっ!」

 

 良い時間になったとライトは出かける事にした。

 赤いタイトなワンピース姿の春姫がその後を追う。

  

 それを見ながらリリルカは思わず笑ってしまった。

 春姫の様子が、狐と言うより飼い主に懐く子犬に見えたからだ。

 

「んじゃそろそろリリも出ますかね」

「いってらっしゃいリリルカ君」

「ヘスティア様はもうでますか?」

「ボクはもう少し後かな? 屋台のメンテナンスがあるみたいでさ、午後からしか出せないんだ」

「わかりました! では洗い物はリリが後でやりますので、水に浸けといてください!」

「わかったよ~」

 

 そうしてリリルカもスーツ姿で飛び出して行く。

 現在のリリルカは主にポーションと武器販売の集金と、注文を受ける仕事をライトから任されている。

 本人も満更じゃなく、今では自分の裁量で在庫の管理をし、クライアントとの交渉も行っている様で、やる気に充ちている。

 今までの彼女の生い立ちを考えれば、どんなきつい仕事も幸せに思うらしい。

 そんなブラック社員まっしぐらなリリルカであった。

 

 さてのんびりと通りを歩くライトと春姫。

 今日のライトはビジネスモードなので、ニンジャではなく黒いスーツ姿だ。

 

 春姫は驚いた。

 何故ならライトが歩いていくと、見知らぬ大人たちが次々と声をかけるからだ。

 何かの商売をやっているおじさん。

 大剣を背負った大きな冒険者。

 

 ライトも声を掛けられる度に足を止め、酷く柔和な笑顔で応対する。

 そして手を振って別れてもまたすぐ誰かが声をかける。

 

 ライトは見知らぬ大人との話の最中でも春姫を呼び、「こんどうちの家族になった春姫だ。よかったら顔を覚えてやってくれ」と紹介する。

 その度に春姫は耳をピョコン! と立たせながら緊張した面持ちで自己紹介をした。

 

「んふふー」

「どうした? なんか嬉しい事でもあったか?」

「はい! 外の世界はなんでも珍しいです! それに知り合いが増えるのは嬉しいです!」

「そっか、良かったな」

「はいっ!」

 

 ライトに頭を撫でられ、満面の笑みの春姫。

 彼女はライトの後ろを跳ねるようについていく。

 

 ────ああ楽しいです。世界はこんなに綺麗なのですね。

 

 そんな風に感じながら。

 ライトの鞄を両手で抱いて。

 

 さてここで、ライトの頭の中を少しだけ覗いてみよう。

 

(クックックッ……ハルの奴は見た目も良いから人のウケがいい。いまは世間知らずだが、仕事を叩きこんでやれば……ふふふっオレが楽隠居出来るぜ……我慢だ、もう少しの我慢だっ……!)

 

 やれやれである。

 この男、中途半端に格好つけるくせに、基本はグータラしたいダメ人間なのである。

 啖呵を切って格好つけた挙句の人助け→FOO↑~気持ちいい~→ああ、仕事だりーのサイクルである。

 これが今までのライトの行動の記録だ。

 

「え、ここは……?」

 

 ライトが目的地についたのは昼には少し早い頃か。

 門の前で立ち止まったライトに春姫は戸惑った。

 

 なにせそこはつい先日まで春姫がいた場所だ。

 そう、歓楽街である。

 

 とは言え春姫にネガティブな感情は無い。

 ライトが春姫を引き抜く際、彼はイシュタルに対し後の遺恨が残らないように仁義を通している。

 故に引き抜きとは言え円満な物だった。

 

 勿論対価としたサシの酒宴があっての事だが。

 これはお互いの身辺が落ち着いたころに履行される事になっており、ライトは干からびなければいいなぁ……と遠い目をしていたものだ。

 リリルカなどはぐぬぬ……と歯噛みしていたが、事情が事情だ、流石に諦めた。

 

 さもありなん。

 イシュタルは美の女神だ。

 フレイヤもそうだが、性質が全然違うのだ。

 イシュタルの時代に男女の営みは、何というか奔放だったのだ。

 セックスに対しての価値観が現代とは違う。

 

 故にイシュタルがライトを酒の席に呼ぶという事はそう言う意味なのだろう。

 オレはっ女神なんかにっ負けたりしないっ!! と彼は言うがさてどうだろうか。

 

 それはさておき、ライトは首を傾げる春姫の手を引きながら、遊郭のある通りを抜け、イシュタルの神殿にほど近い建物に入った。

 そこにいたのは、

 

「やあライト来たね。悪いね、足を運ばせちまって」

「いいさ、気軽に外に出られる立場でも無いだろうし」

「アイシャさんっ!」

「ははっ、春姫、随分と見違えたじゃあないか」

「はいっ!」

「んじゃアイシャ、オレはちっと資料を確認すっから、ハルとお喋りがてらメシでも行って来いや」

「ありがとよ、春姫、行こう」

「はい、えっとライト様?」

「いいから行って来い。オレも結構時間かかるんだ。小遣いは渡してあるだろう? 帰りにオレが摘まめる物を買って来てくりゃいいさ。ま、旧交を温めて来いってこった」

 

 アイシャであった。

 春姫のお目付け役であり、彼女からすれば唯一頼れた姉代わりと言う所か。

 ライトは嬉しそうに語り合う二人をしっしと追い出し、春姫に持たせていた鞄を引っ繰り返した。 

 

 中から出てきたのは、イシュタルファミリアに所属はしているが、恩恵を刻まれていない女たちが作った借金の借用書に当たる物だ。

 さて、ライトはあの時、ギルドの後ろ盾を得る事で争いに介入した。

 

 その協力を引きだせたのは、ライトが個人で動いて集めたイシュタルファミリアの不正の証拠だ。

 或いは法に触れるかギリギリのグレーゾーンで動いた結果等も含めて。

 その数は相当の量だ。これには普段の気の抜けたライト像しか知らないエイナも認識を改めた程のち密さだった。

 

 これを持ってイシュタルに矛を収めさせるのがライトの目論見だった。

 フレイヤに関しては実はそれほど心配していない。

 というのも構図的にはフレイヤ側が不利だとライトは見ており、その上で彼が間に入って取りなす事で彼女のメンツが保たれたなら、フレイヤには充分利になるのだ。

 最悪オッタルを煽って有耶無耶にしてもいいし。あの男はフレイヤの為なら泥を被れる男だ、そう言う風にライトは評価している。

 

 だがこれで上手くいかなかった場合の事もライトは保険を掛けていた。

 どう足掻いても衝突は避けられない、そうなった場合の為、いまライトが机に広げている証文が生きる。

 これらはイシュタルファミリアの恩恵なしな女たちの借金の証拠だが、この債権をライトは事前に買い占めている。

 額面の80%と言う価格で債権者から買い取ったのだ。

 

 これをカタに、大量の娼婦を手に収め、イシュタルが引かないなら直ぐに娼婦たちを歓楽街から引き上げる。

 実はその根回しも済んでいた。

 

 ────これがお前らの母親を止める唯一の手段だ、だから心情的には辛いだろうが協力して欲しい。

 

 これをする為にライトは毎晩の娼館通いをしていたという訳だ。

 最悪原作の様な結果になろうと、後はガワだけ用意してやれば歓楽街は復活出来る。

 そこまでの保険をかけての、あの日のライトの行動なのだ。

 

 とは言え思ったよりも最良な形での決着となった今、この債権はもういらない。

 そこでライトはイシュタルに提案し、まずはイシュタルファミリアに債権を買い取って貰った。

 それと共に娼婦たちの借金は、今後ファミリア内でやりくりできる方法を提示。

 その内訳をファミリアで把握できるようにしたという訳だ。

 

 いまライトがいる建物は、元々は娼館だったのだが、今は使われていない。

 2階建ての石造りの物でなんの飾り気も無い物だ。

 ただここはイシュタルが歓楽街を作った時の最初の店だったという。

 なので未だ壊されず残っていた。

 

 これを娼婦達の相談所として今後は利用する。

 その所長としてアイシャが着任したのだ。

 彼女は今後、娼婦たちの抱える心配事などの相談にのり、出来るだけそれを解決する事で歓楽街の女たちのメンタルのケアを担当する。

 借金問題もこれに含まれ、常駐はしない物の、ライトはこの相談役という立場だ。

 

 ライトが今日来たのは、春姫をアイシャに会わせてやる事もそうだが、債権の引き渡しと、アイシャの業務の中で想定される問題に対してのFAQを纏めたマニュアルを渡すためだ。

 ただ時間がかかっているのは、債権の中で優先的に対応する物の仕分けが必要だからだ。

 そうして机が置かれただけの伽藍洞なオフィスの中、ライトは黙々と仕訳けを続けたのである。

 

「…………つかもう夕方なんですけど。オレのランチはいつくるんだオイ」

 

 女が集まるとお喋りが長くなるのは、オラリオでも一緒らしい。

 結局アイシャ達が戻ってきたのは、すっかりと暗くなった頃である。

 とは言え、嬉しそうな春姫の姿を見ると、結局は許してしまうライトであった。

 

 

 ★

 

 

「はぁ……うめえ……染みるわぁ……」

「はふぅ……おいしいれすぅ……」

 

 結局ライトの作業は夜までかかった。

 まあアイシャが戻ってくるのが遅かったというのもあるが。

 なのでホームで夕食を摂るのを諦めたライトは、春姫がいた遊郭の座敷を借りて一杯やっていたのである。

 

 春姫も客として来るとは思ってもいなかった様で、最初は挙動不審だったが、ここの娼婦たちは快く春姫を迎い入れ、良かったねと心から歓迎してくれたのだ。

 そんなお姐さん達に春姫も感激し、感極まった春姫が号泣するというアクシデントはあった物の、今は漸く落ち着き、運ばれてきた酒を飲んで頬を染めていた。

 

「ライト殿、おまたせいたしました」

 

 そんな声と共に襖が開く。

 入ってきたのはすっかりと遊女姿が板についたヤマト・命である。

 赤と黒の染め物をした着物が妙に似あっている。

 彼女の長い黒髪は、今は頭の上に結ってあり、朱塗りの簪で留めてある。

 

「おーすっかり板についちゃって」

「ええ、始めは春姫殿の護衛と言う事で潜入したつもりでしたが、存外ここの空気はあった様で。流石に客を取りはしませんが、配膳や給仕として雇ってもらっております。春姫殿も壮健な様で良かった」

「はい、命さん。おやすみの日は一緒にどこかにいきましょうねっ」

「ええっ、楽しみにしておりますっ」

 

 そうしてヤマトは楚々とした身のこなしで出ていった。

 その後ろ姿を見て、随分と様になってるなと感心するライトであった。

 

 実はあの日の翌日、ライトはもう仕事は終わったぞとヤマトを呼んで少なくない給金を渡し、解散を命じた。

 一応ロキに払う賠償金を立て替えたライトだが、彼らにさせるつもりだったビジネスの根回しに時間がかかる為、暫く借金は気にするなと言い含めてある。

 

 だがヤマトはそのままこの遊郭にアルバイトを決め込んだ。

 それはパスパレードの際のごたごたで、自身の装備がかなり破損したからだ。

 その修理費をダンジョンに潜らずに稼ぐなら、ここは最適だったのである。

 

 彼女は客を取らないのだが、スタイルは良いし、オリエンタルな雰囲気のする美人である。

 なので寝なくてもいいから酌をして話に付き合ってほしいという客も実際多く、こう見えて馴染の客が結構出来たというのだ。

 当然チップも期待でき、ヤマトはここを気に入ったという流れだ。

 

 問題はカシマである。

 あの男は木乃伊取りが木乃伊になるを地で行ったのだ。

 彼にライトが与えた役割は連絡員である。

 

 遊郭の客として遊びながら、事前にライトが集めたフレイヤファミリアの眷属たちの特徴を伝え、歓楽街で見かけたなら直ぐに連絡を寄越せ、そう言う仕事である。

 それはまあ、遂行できたからこそあの日のライトの突入に繋がる訳だが、お役御免となった後も、彼は遊郭通いを繰り返し、傷の癒えたヒタチにグーで鉄拳制裁をされたらしい。

 

 それはそれとして、実は彼らの主神タケミカヅチもこの歓楽街でバイトをしている。

 遊郭の裏方と言うのは存外男手が必要な仕事も実際多い。

 

 彼らは忘八(ぼうはち)と呼ばれ、その意味は仁・義・礼・智・忠・信・孝・悌の八つを忘れた人非人という意味だ。

 本来は遊郭を経営する者を指し、彼らは羽振りがよくとも、社会的な地位の低さも相まって蔑みを込めて忘八の名で呼ばれたのだ。

 とは言えそれは形骸化し、遊郭の裏方となって働く男達全般を忘八者と呼んだのだ。

 

 タケミカヅチはこの手の裏方として手伝い、その武人然とした毅然さを持って、ちょいとばかり粗相をする客から遊女を守るボディーガード的な立場にいる。

 が、アマゾネスも多くいるここではモテにモテ、それを見ていたヤマトが常に不機嫌という有様だ。

 元々ヤマトは主神にただならぬ想いを抱いていたが、彼女が報われるのはいつになるだろうか?

 それもまあ、神様にもわかるめえってとこだろう。

 

「ハル、どうだい? しがらみのない今、こうして歓楽街の夜景を見下ろした気分は」

「はい、とても綺麗です……」

「だろ? お前には牢獄でしか無かったここは、違った場所から見ればこんなにも生き生きとした街に見える。オレは、この街が大好きなのさ」

「…………はいっ」

「なあハル、こっちきて枕になってくれ。少し疲れた」

 

 いつかの日の様に春姫はその膝にライトを乗せた。

 そして彼の頭を撫でる。

 さらりとした髪がほつれ、ライトの顔が擽ったそうに歪む。

 もう春姫は孤独じゃない。

 

 そして春姫はその日、ずっとそうして窓の外を眺めていたのである。

 

 

 




幾十年、幾百年、幾千年……ベルは歩き続けた。
歩いて歩いて、時には倒れ込み。
それでもまた立ち上がり彼は進んだ。

様々な人がいた。
怨嗟、怒り、悲しみ、全てのマイナスな感情をまるで血を吐く様に叫ぶ人。
戦乱に巻き込まれ理不尽に死ぬ人。
だがベルはその果てに一つの希望を見た。
屍の積み上がったその先に。

それは光だ。全てを照らすまばゆい太陽の光。
ただそれが欲しくて、人は歩みを止めないのだと気付いた。
だから死して尚、人は営みを止めない。

ベルは答えを得た。
進み続ける自分の道が、ただ只管に求めるその道程が。
やがて誰かがそれを英雄と評するのかもしれない。
けれど自分はただ前を向いて歩き続けるのみ。

────なんだ。今までと一緒じゃないか

ベルは笑った。声をあげて。
それは賛歌だ。
己は英雄なんかじゃない。
ただ一人の人間なのだ。
だからこそ歓びの声をあげるのだ。

人間賛歌こそ最も尊い。
ならこの声は?
僕の産声だ。
ありがとう。
ありがとうみんな。
貴方たちのおかげで僕は答えを得た。

光だ。目が眩むほどの光だ!
だから僕は進もう!

  ◇ ◆ ◆ ◇

どこかの街。
石と木組の暖かい景観。

そこには小さな屋台があって、長い黒髪を2つに束ねた少女が売り子をしていた。
子供がそれを買い、ばいばいおねーちゃんと手を振り走っていく。
それを微笑みながら見送った少女は、ふとそちらを見た。

「ねえそこのキミっ! ボクのファミリアにならないか!」
「……………………」
「なんてね。…………随分と待たせてくれちゃって。でも、おかえり、ベル君」
「…………ただいまっ、神様っ」
「ははっ、子供みたいに泣いちゃって。キミは沢山の旅をしてきたんだろう?」
「はいっ、はいっ……」
「でもそうだね、うん。もうボクを一人にしないでくれよ? こう見えてボクは結構寂しがりやなんだぜ?」
「僕を、僕を神様のファミリアにしてくださいっ、もう一度」

こうしてベルの旅は終わった。
いや、彼はこれからも歩き続けるのだろう。
一度は歩んだ英雄の道。
それでも救えない命があった事を納得できなかったベル。

失意の英雄を彼の祖父は暖かく見守り、そして魂の頸木を切り離すという試練を与えた。
その呪いにも似た時間の牢獄の果てに、答えを得たベルは帰ってきたのだ。

これからの彼はもう迷う事は無いだろう。
何故なら、帰るべき場所は自分の隣に在るのだと気が付いたのだから。

冒険者ベル・クラネル

レベル1

力 I0
耐久 I0
器用 I0
敏捷 I0
魔力 I0

【スキル】

・鉄華魂(フリージア)
鉄の意思を持って歩き続ける心。
その想いが続く限り、決して心が折れる事はない
副次効果 バッドステータス無効

・神愛一途(Εστία)
試練により摩耗仕切ったベルの魂の一番底にあったのは、ただ一つ、無償の愛を己に与える神の笑顔だった。
Εστίαと共にある限り、いくらでも強くなれる。
副次効果 早熟する 


────────────────

ベル君劇場完結

ネタばらしをすれば、オリ主が現れた事で歴史が分岐した。
ベルがいる歴史と、ベルがいない歴史。
ベルは原作の通りに歴史を歩んだが、将来原作が完結しただろうさらに未来。
ベルには絶対に許容できない出来事があった。
それは愛する主神の喪失である。

英雄と呼ばれ無意識に増長していたかもしれない。
そうでなければ守れたかもしれない。
慟哭するベルにゼウスは己の権能のいくつかを放棄する事を対価に、ベルとヘスティアを最初に出会ったあの街角まで時間を戻す奇跡を起こす。
これは自分のある種の駒として試練を与え続けた己の傲慢に対しての贖罪でもあり、孫への愛情でもあった。

ただしそれは、無限とも思える無数の並行世界を彷徨い、その果てに己の中の答えが見つけられたと確信できたなら、その場所に戻る事が出来るという、相当にリスクの高いモノでした。
故にもしベルがどこかで諦めた時は、ベルもヘスティアも魂ごと消滅していたかもしれない。

そしてベルとヘスティアはあの場所でもう一度再会を果たしました、という妄想であります。
ちなみに本編でゼウスがヘルメスを動かしているのは、ベルがいない事で英雄の代わりとしてオリ主をターゲットにしたから。まあゼウスは自分でベルを飛ばしたので当然理解した上で。なのでヘルメスにはベルの事を教えていない。

最後に、オリ主に原作ヒロインと仲良くさせた上で、私にはここにベルを絡ませていい感じにする力量はございません。
なので最初の段階からベルは本編に出さない前提でベル君劇場を書いていたって感じです。
だってリリがライト様♡とかやってる姿をベルに見せたくない物。
アイズとヘスティア、リューとか色々いるかもだけど、それはそれとして、私がなんか嫌だった。

ま、そんな感じでお粗末様でした。


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勝つ秘訣、それは期待を裏切る事である

くっそどうでもいい日常話会


 ライトは息を飲んでいた。

 ごくり、そんな音が聞こえそうな程に。

 

「や、やーーーーーーっ!」

 

 そしてタスキを掛けて気合いを入れた春姫の手が一閃ッ!!!

 が駄目っ…………!!

 憐れ円盤状のそれは爆発四散。

 食材は無駄になったのである。

 

 一瞬で辺りはアビ・インフェルノ・ジゴクと化した。

 ショッギョムッジョ。

 

「ああ…………」

「駄目でしたぁ…………」

「ええい、もう一回だ。やれるな、ハル」

「はい教官っ。私はドジでノロマな狐ですが、やって見せますっ」

「よし、最初からだ。リリ、腹の隙間はどうだ?」

「も、もう……無理です……というか振動で出そうですぅ……」

「ティオナはどうだ? 最強のアマゾネスのお前ならっ!!」

「む、無理だよー……アマゾネスそんな便利じゃない……」

「くっ……ならば2周目だっ! オレが行くっ」

「はわわ……」

 

 はわわじゃないが。可愛ければ何でも許されると思うなよ。

 一同の気持ちが一つになる。

 

 さていつもの様にグダグダなヘスティアファミリアだが、一同はホーム裏手の庭にいた。

 因みにここにロキファミリア所属のティオナもいる。

 今朝方ライトが目覚めると、いつの間にかベッドに潜り込んでいた。

 ここではもう半ばチャメシインシデントであるゆえ、誰も特に気にしていない。

 

 ────ふわぁ……おっはよぉ……ご飯まだー?

 

 図々しくもこんな事を宣うアマゾネスを咎める物はここにはいない。

 というか諦めた。

 言って聞くならまだいうさとはライトの言。

 忍びこんだ所でネチョい行為をする訳でも無いのだ。

 このアマゾネス、ライトすきー等と公言するも発情期にならなければ大人しいのだ。

 発情期でなければ……。

 

 話を戻そう。

 庭で行われているのは新型の屋台での実験だ。

 屋台はヘスティアのアルバイト先であるじゃが丸くんのオーナーにライトがジュージュー苑をおごり、制作した工房を聞きだし、そこに注文したものだ。

 

 中は分厚い鉄板が鎮座する鉄板焼きスタイル。

 そしてのれんには”へすてぃあ名物おこのみやき”の文字。

 何故かタコの絵がある。

 そう、日本のお祭りでは定番のお好み焼きの屋台である。

 

 その中でコテを振るっているのが新メンバーである春姫だ。

 何故かメイド服姿だが。

 ただし、いま彼女が引っ繰り返したお好みは、投げっぱなしジャーマンを喰らったかのように飛び散っている。

 ちなみにこうなった回数は21回目である。

 

 そして金がある癖に無駄な浪費は絶対許さないマンであるライトの”お残しは許しません”宣言により、無残な姿になったお好み焼きは居合わせた面々の腹に収まっている。

 とは言えそれも限界だ。

 お好み焼きとは中々にパンチの効いたボリュームがあり、一枚でも充分ダメージがあるのだ。

 それを21枚である。皆の胃は限界だ。

 

 ふと横を見れば、いつもヘソ出しスタイルがデフォルトのティオナが芝生の上に寝ており、その腹は妊婦の様にパンパンだ。

 さらにその横にいるリリルカは、ラフなチュニックを着ていたが、女の尊厳を投げ捨て、首元までたくし上げており、ティオナと同じレベルの腹を晒している。

 ただ虚無の目で空中を見つめている異様さで、それを咎める者はいない。

 

「グフェ……味はうめえんだ味は……ゴフォッ……あ、無理トイレいく……」

 

 デデーン♪ ライト~アウト~

 

 とは言えケツバットをされる事も無く、トイレで解脱の境地に辿り着くのみ。

 だが誰もそれを揶揄する者はいない。

 次は我が身なのだ。

 

「では行きますっ…………むむむむっ」

 

 春姫、22枚目の挑戦スタート。

 細かく刻まれたキャベツと各種具材、山芋入りのもったりとしたタネをボウルの中で念入りに混ぜ混ぜし、たっぷりと空気を含ませたところで熱々の鉄板にドバー!

 そして片面が焼ける。つまりコテの出番だ!

 

(お願いします。今度こそ、今度こそ成功を)

(無理、次は絶対無理。というか起きただけで出そう。ハルちゃん頑張れ、超頑張って)

 

 不敵に笑う春姫、どうやら極意に通じたか!?

 それを見守る乙女たちの祈りが重なる。

 結果の如何によっては乙女から”映す価値なし”に降格する。

 頼む、ぽんこつ狐、頼む……リリルカとティオナが食い入るように見つめたその瞬間っ!

 

「やーーーーーっ! あっ、駄目でしたぁ……」

「「ああああああああああああっ……」」

 

 神などいない。

 いてもあまり役に立たないっ!

 結果は22枚目の残骸が出来上がったのである。

 しかもテヘペロって感じで可愛く片目をつぶる春姫である。

 これには普段は温厚なリリルカも殺意が沸いた。

 

 ────この新参のあざと狐め……

 

 思わず暗黒面に落ちかかったリリルカは悪くない。

 そもそも何故こんな事になったか。

 それは春姫にライトのビジネスを覚えるセンスが無かったからだ。

 基本のんびりとした春姫は、ビジネスの最前線で求められる高度の柔軟性を維持して臨機応変に立ちまわる事が出来ないのだ!

 

 ライトは頑張った。

 覚えてくれればオレが楽になるんだと必死に。

 でも駄目であった。この娘、ヘスティアと同系統のポンコツさを感じる……。

 ライトは早々に見切った。

 この諦める判断も優れたビジネスメンが求められる資質であろう。

 タイムイズマネー、そう言う事だ。

 

 そうなると春姫の存在意義が無くなるではないか。

 これには本人もショボンとして涙目の上目遣いでライトを見た。

 ライトは悶絶した。

 

 これが原作の様にベルのパーティメンバーとしてダンジョンに行くならいいのだ。

 なにせ春姫は、レベルアップさせるウチデノコヅチの他に、増えた尻尾の数だけ魔法を連続使用できるスキルがある。

 この尻尾はハンドガンの弾倉にある弾の様に、装填されている限り発射できるというイメージが近い。

 つまり魔法系の冒険者としてヤベー奴なのである。

 

 だがしかし、このヘスティアファミリアは今更ダンジョンなど行かない。

 一応アタッカー&前衛としてライト、遊撃としてリリルカという編成でやれなくはない。

 リリルカは純粋なアタッカーにはなれないが、例の重い物を持てるスキルを活かしてライトがトールハンマー辺りを渡せばいいのだから。

 

 しかしだ。身体を張って深層まで潜ったとしよう。

 苦労してデカい魔石やドロップ品を拾ったとしよう。

 その換金額など、ライトとリリルカが抱える現在の商売における数日の利益以下だ。

 ならダンジョンに行く意味が無い。

 

 なので春姫の役割となれば売り子とかそう言うビジュアルが役立つポジションだろうとライトは考えた。

 じゃ何故お好み焼きかである。

 これはライトのホームシックが関係する。

 

 ホームシックとは何か。

 それは自分が住んでいる場所とは別の場所に行った際、不意に襲ってくる得も言えない悲しみの感情だ。

 小学生の子供などが夏休みに田舎の祖父の家に一人で泊まりに行き、夜に泣いちゃうアレである。

 

 しかしライトの場合は異世界に急きょやってきたという事情がある。

 ライトとしてこの地に生を受けたならまだ違っただろう。

 けれども彼の場合、ある時から急にここに移動した様な物だ。

 体こそ若返っている物の、精神は32歳くらいのオッサンなのだから。

 

 オラリオは彼にとって異世界である。

 と言う事は彼に関わる人、土地、記憶、リンクする物が何一つないのだ。

 ミアの店の食事は美味いが、和食は無い。

 タケミカヅチの眷属たちに彼らの国の料理を食べさせてもらった事もあるが、それっぽいがライトからすれば似て非なる物だった。

 

 これらがライトをじわじわと苦しめている。

 今は漸く、家族と言える者も増え、仕事を含めた彼の立ち位置は確立できている。

 それでもどこか拭えないお客様感はあるのだ。

 他人の家に泊まって完璧な熟睡が出来るだろうか?

 ライトが馬車馬の様に働くのは、そう言ういらんことを考える何も無い時間を嫌ったからというのもあるのだ。

 

 そこでライトは考えた。

 無いなら作るべ。

 シンプルなたった一つの答えである。

 そうなるとライトの動きは早い。

 

 翌日ヘスティアを伴って向かったのはデメテルファミリアのホーム「麦の館」である。

 デメテルファミリアはオラリオの台所を支える農業系ファミリアだ。

 広大な農地を持ち、そのシェアは恐ろしい程だ。

 主神であるデメテルとヘスティアは友好的な関係であり、ライトは主神を通して顔つなぎをしたのだ。

 その際には「ひとつよしなに……」とハイポーションの詰め合わせを渡すという周到さである。

 

 農作業では怪我も多いでしょう? 善意の人全開で。

 まあその後、気に入ったならミアハかディアンケヒトの所で手にはいりますぜ^^

 等と宣伝は怠らない。商売人は逞しいのである。

 

 ライトはデメテルと相談し、何が出来て何が出来ないのかを整理する。

 そも和食とは何か。

 定義は難しいが、シンプルに言うなら、旅館の和朝食に並ぶラインナップが無難な所か。

 味噌汁、白飯、香の物、納豆や焼鮭……そんな所か。

 

 すると味噌、醤油、出汁、これらが根幹にある事が解る。

 これらを基本に味付けしたなら、大概は和食感はあるだろう。

 しかしだ。

 素人が味噌や醤油は作れない。

 

 発酵食品はそんな甘い物じゃないのだ。

 WIKIで見た程度で出来る筈も無い。

 ましてライトの中の人はそんな都合の良いWIKIなど見る訳も無い。

 詰みである。

 

 ならば次善策だ。

 現代日本におけるという広義的な意味ではどうか。

 そう考えるとB級グルメと呼ばれるメニューはある意味で和食ではないか。

 

 ラーメン、餃子、チャーハン、ナポリタン。

 これらは皆、全部海外から伝わったメニューを、日本人が好む形に姿を変えた物だ。

 特にラーメンなどは海外からは日本食と認識されている。

 

 さらにはお好み焼き、焼きそば、タコヤキ。

 この辺も大豆系調味料が無くともいけるB級グルメだ。

 そうやって熟慮した結果、ライトが決めたメニューがお好み焼きである。

 

 さてお好み焼きとは何か。

 ベースは小麦粉だ。これは簡単に手に入る。

 出汁は魚粉で賄える。魚粉はニョルズに頼めばいい。

 イカやエビなんかも同じだ。

 

 山芋もライトが特徴を伝えると似た様な物もあるというし、当然の様にニンニクやショウガに該当する物も存在した。

 一番大事なキャベツなどは当たり前に売られている。

 なるほど、出来るじゃないかと言う結論に至ったライトである。

 つまり消去法の結果、残ったのがお好み焼きなのだ。

 

 次点で焼きそばも候補に挙がったが、麺の部分で断念。

 パスタはあれど、中華麺に相当する物が無いのだ。

 かと言って製麺を生業としている職人になんと注文していいかもわからないというのが決定的である。

 

 さてそうなると一番のキモはソースとマヨネーズだろう。

 マヨネーズは材料こそシンプルだが、工程が手動でやると厳しい。

 家庭で食べる分には出来なくも無いが、商売となると難しい。

 最終的にライトは、ソースのみでまずはやってみると決めた。

 

 そこでライトはデメテルに協力を要請。

 頼んだのはウスターソースである。

 ウスターソースはお好みソースやとんかつソースと比べると辛目であり、粘性もほとんどない。

 だがその万能さ、或いは汎用性は素晴らしい調味料だ。

 かつそのベースは野菜と香辛料であり、デメテルならば自分の得意な領域だろう。

 

 ライトは完成形の特徴を伝え、デメテルに丸投げした。

 その代わり完成した場合は、名称を”デメテルソース”とし、彼女たちに権利は与えるとした。

 対価としてライトは、ヘスティアファミリアが購入する場合、価格は原価でとの契約である。

 はたしてウスターソースは1週間ほどで完成した。

 

 その試食会でライトは野菜のフライを色々揚げ、串揚げの様にして食べさせると、デメテルがキャラ崩壊して狂喜した。

 

 ────これはっ売れるわっ!!

 

 まあ売れた。

 飲食店はもとより、冒険者にも。

 小瓶に入れて売る事で、味気ないダンジョン飯でもデメテルソースで美味しくなるのだ。

 そりゃあ売れるさ。

 そんな訳で準備は整った。

 

 そしてホームに戻ったライトは、お好み焼きを焼いて皆に振舞った。

 そこでキャラ崩壊を起こしたのが春姫である。

 

 ────これはっ、春姫はこの料理に出会う為に生まれたのですっ

 

 そう言って力強く拳を握ると叫んだものだ。

 お前の人生やっすいの~とライトは思ったが黙っていた。

 何故なら大人だからだ。

 リリルカは草生やし過ぎである。

 

 長くなったがこれをきっかけに、春姫は自分でこの屋台を営業し、人々にお好み焼きの素晴らしさを啓蒙するのだと決意したのである。

 言うなれば、春姫お好み焼き激熱メソッドである。

 どれだけステマしようが1ヴァリスでも売れなさそうだ。

 

 ライトはまあ自分で道を決めたのだと後押しした結果がこの屋台である。

 だがしかし、箱入りドーターである春姫は、壊滅的に不器用であった。

 これがメシマズ女なら目も当てられないが、幸い不器用さのみである。

 

 売り物となれば求められるのは商品に見合った価格で、飲食物なら満足感を得られる事。

 そしていつ購入しても同じ味である事。

 この2点は絶対条件だ。

 

 ま、この価格でいいんじゃね? というベタ過ぎる適正価格では駄目だ。

 んっ、ちょっち高いかな? けど金出してでも食べたいんじゃ^~、この位が理想だ。

 同じ味が云々に関しては、買うたびに味が違う様な不安定な物を誰が買うというのか。

 プロであるイコール安定した味、これは鉄則である。

 なのでまずは実験だ、と味見要員として今日はヒマだったリリルカと、丁度居合わせたティオナを招集したのである。

 

 因みに主神は未だ辞めずに続けているじゃが丸の屋台でいない。

 この危機回避能力にはライトも舌を巻いた。

 くそがっ、逃げやがって……理不尽過ぎである。

 

 結局この日は夕暮れまでお好み焼き実験が行われた。

 そして春姫は五日程かけてどうにか売り物になるクオリティまでは辿り着いた。

 だがしかし、ホームでのお好み焼きは金輪際禁止メニューとなったのである。

 

 不満そうに頬を膨らます春姫だが、ライトをして二度と喰いたくないと言わしめた。

 満腹ではどんな高級料理も不味く感じるとは良く言ったものである。

 付け加えるなら、アマゾネスの優れた嗅覚からか、ティオナはしばらくの間、竃の館には近寄らなかったという。

 

 

 ★

 

 

 ヘスティアはいつになく緊張していた。

 それもそのはず、今日はバベルの30階にある広間で恒例の神会(デナトゥス)が行われようとしているからだ。

 

 いつもの様に神々のしょうもない茶飲み話とレベルアップした子らの二つ名を悪ふざけとしか思えないネーミングを擦り付けるクソみたいなノリだけならまだいい。

 だが歓楽街の一件で眷属筆頭であるライトが動いた関係で、ロキとフレイヤに感謝を伝えるというミッションがあるのだ。

 

 いつもロクな事しかしないライトが珍しく純粋な人助けのために無茶をした。

 その事は心底嬉しいし、主神として誇らしくもある。

 ただそれはそれとして、生理的にあの二人は苦手なのだ。

 

 ヘスティアは煽り耐性が低い。

 そして腹芸をする知恵が無い。

 そう、どっちの神も鬼門なのだ。

 これがゲームなら、彼女たちは処女神特攻を持っているとしか思えない構図なのだ。

 分りやすく言えば特攻の乗る相手に宝具凸した弓ギルにWマーリンで英雄作成を乗せたエヌマ・エリシュと言えばわかるだろうか? その位に刺さる。

 

 しかし恐る恐る会場に来てみればどうか。

 ロキの姿は見える。

 いつもの様に天界の人気競技であるやきうの話で盛り上がっている。

 だがフレイヤの姿は見えない。

 大概は男神を侍らせては女王様ムーブを周囲に見せつけているというのに。

 

「やあミアハ、元気かい?」

「おおヘスティア。君のところの団長のおかげですこぶる元気だ」

「ははっ、それなら良かった。ねえ、それよりフレイヤは見たかい?」

「いやあの女神がいれば目立つが、今日は見てないな」

「ふーん……ま、次の機会でいいか」

 

 ミアハの姿を見つけたヘスティアは横の席に座った。

 それほど仲の良い神が多い訳でもない彼女は、大概はミアハかデメテルと隣り合わせる事が多い。

 しかし彼も今日は見ていないようだ。

 だがヘスティアが今日はロキだけにしとくかと思った時の事だった。

 

 ~~~っ!!♪ ~~~~っ!!♪

 

 会場に凄まじい音量で聞き慣れない音楽が流れた。

 反射的に神々はそっちを見た。

 しかしヘスティアは見なきゃよかったと後悔する。

 それどころか凄まじい勢いで胃液が逆流してきた。

 

「ど~も~ピッカリネットリですっ。よろしくお願いします~」

 

 部屋の奥から黒いスーツ姿のライトが現れ、にこやかにそう言った。

 そしてその後ろからゆっくりと白いドレス姿のフレイヤが現れ、

 

「えー今日もライト&フレイヤで頑張って────

「皆さま、夢でお会いした以来ですわねっ」ドヤァ

「そりゃ皆さまだいぶ冷や汗をおかきになったかと思いますがね」

「────ヘッ」キメガオ

 

(な、なななっ、何やってるんだいライト君!? 何故キミがフレイヤと!? というかフレイヤ、なんでドレスの上からピンク色のベストを着ているの!?)

 

「今日もね、この人と楽しく、漫才をしていければと思います」

「おとめ座かっ」

「いえ、さそり座ですけどね」

「へっ」

「実は私、地下の部屋に寝ているんですけどね、流石に辛気臭いなって思いまして、明るい部屋に移動しようか迷ってるんですよ」

「あらぁそれは早く移動した方がいいわぁ。健康によくないもの」

「……なんでスクワットしてるんですかね。ゼスチャーの意味が分からないですけども」

「あ~↑ あ~↓ あ~↑」

「なんで急に発声練習をしましたか。美の女神だからとかですか? それはさておき、部屋と言えば今日いらっしゃってる神々の皆さまは、そりゃあ素敵な豪邸に住んでるんでしょうねえ~?」

「馬小屋以下よっ!」

「失礼すぎるだろっ。謝んなさいよ。神だから傲慢ですとか許されないから」

「ごめんなさ~い♡」テヘペロ

「軽い。軽すぎて逆に煽りみたいになってるから。それ普段の貴女だから。まあでもフレイヤ様が珍しくごめんなさいしているんだから皆さま、許してあげ下さいねっ」

「ただアポロンだけはどうでもいいわっ主に顔がムカつくしナルシストなのがキモい」

「やめなさいって。別に間違ってはいないけども」

「うい」

「まあ地下の部屋ってね、窓がないもんだからとにかく暗いんですよね」

「貴方のホームの匂いも臭そうよね。乳臭いっていうのかしら? 主神が処女神だけに」

「うちの主神をディスるんじゃないよ。そして上手い事言ったつもりかっ」

 

 こうして突如始まったライトとフレイヤによる謎の漫才により、退屈な神会は普段の三割増しで盛り上がったそうである。

 ライトが色々ネタを仕込んだ様だが、フレイヤのアドリブで大喧嘩からのキスのネタが炸裂し、一同大爆笑だったものの、キレたヘスティアが乱入しあわやキャットファイト寸前。

 

 これは不味いと機転を利かせたライトが、じゃあ私がこの責任を取って謝罪します! いえ私がするわっ! いやボクがするよっ! どうぞどうぞと鉄板ネタが決まり、和やかな雰囲気で神会は終了したのである。

 

 因みにこれは神々に好評で、影の薄いウラノスが強く提案し、毎年年末に各ファミリアの有志を集めて漫才のオラリオいちを決める大会、神ー1グランプリが行われる事になったのは余談である。

 

 さて、フレイヤのご乱心は一体なんなのか。

 それは例の一件まで遡る。

 

 あの日フレイヤはメンツを重視してライトの口車に乗る形で矛を引いた。

 その後ギルドを介してイシュタルより謝罪が届き手打ちとなった。

 イシュタルは約定通り嫌がらせの手を引き、それ以降一切かかわってこない。

 だが問題は、落ちてしまったフレイヤの評判である。

 

 本人は真顔で”去る者に興味はないわ”と切って捨てた。

 けれど割と影響は大きかったようで、本人も実は結構気にしていた。

 

 しかしフレイヤはイシュタルの神殿からの去り際、ライトにこう耳打ちしている。

 

 ────今回は貴方に乗ってあげる。でもこれは貸しよ? いずれ取り立てるから覚悟なさいな。

 

 完璧な女神様ムーブでそう言った。

 その貸しを早速回収したのだ。

 ライト、私の評判をどうにかしなさい、と。

 

 ライトは悩んだ。

 そりゃそうだ。ビジネスならどうにかするが、評判って。

 広告業に馴染は無いし、イベントプランナーの経験も無い。

 どうすんだコレ……と。

 

 追い込まれたライトはだんだん腹が立ってきた。

 そもそも貸しって何だよ。

 むしろお前が自滅しそうだったじゃないか! と。

 

 構図的には正しい。

 だが神とはメンツを重んじる。

 故に丸め込まれたライトが悪いのだ。

 とは言え天下のフレイヤファミリアを敵に回す訳にもいかぬ。

 今のオレには家族が増えたんだと決意したライトが捻りだした答えは……

 

 

 

 

 

  

 

 もうどうにでもな~れ

 

   *゜゜・*+。

   |   ゜*。

  。∩∧∧  *

  + (・ω・`) *+゜

  *。ヽ  つ*゜*

  ゛・+。*・゜⊃ +゜

   ☆ ∪  。*゜

   ゛・+。*・゜

 

 

 

 

 ヤケクソになったライトは、これが人間界における対人関係での最大の特効薬、そう”オワライ”であると言い放ち、オッタルがキャラ崩壊しながら女神よもう止めてくださいと縋りつくレベルで漫才の稽古をした。

 

 しかしフレイヤ、存外この漫才が気にいり、気が付けば毎晩ライトを呼びつけ稽古に励んだ。

 こう別人になったようで気持ちが良かったそうな。

 コンビ名のピッカリネットリは安直過ぎるが、ピッカリがライトでネットリがフレイヤである。

 ライト命名だが、あんた粘着質だしネットリでええやろと大概シツレイである。

 

 これでフレイヤはかつての人気を取りもどし、貸し借りなしとしてヘスティアに感謝を述べさせる必要も無くなったのである。

 

 因みに満面の笑みでホームに帰ってきたライトに、ヘスティアは真顔で”二度とやるな”とマジ切れしたとかしないとか。

 それは彼女の名誉のために語らずにおこうと思う。

 




ライトに関わるとギャグ要員にされる。これ豆な

蒼き鋼のアルペジオにおける従順タカオと同じ様な物です。


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男気ってやつですかね

前回はおふざけだったので、今回は真面目な回です。
あの騒動の中でライトがタケミカヅチに提案した商売とは?


「タケミカヅチはん。今日はワシがぎょーさんアンタに貸してるゼニの取り立てにきましたんやぁ。覚悟してもらいまっせ」

 

 ニシの鬼こと金貸しのライト、再登場である。

 今日は真っ赤なスーツに浮世絵のプリントされたネクタイだ。

 対して彼の横ですまし顔の有能秘書的な雰囲気を醸すのは目の覚めるような青いスーツのリリルカだ。

 

 彼らはアルバイトに向かう準備をしていたタケミカヅチの長屋にいきなり乗り込んできた。

 おう、邪魔するで~とばかりに土足で。

 ただ布で靴底をきっちりと綺麗にしてからな辺り、割と芸が細かい。

 

「ら、ライトか。驚かせるな。借金は必ず返す。それはこのタケミカヅチの心にかけてだ」

「ご高説は結構ですわ。ワシが欲しいのは確かな担保。しかしタケミカヅチはん、残念ながら今のアンタにはそれがおまへんのや。悪いが、これから一緒に来て貰うで。ほな、失礼しまっさ」

 

 毅然として立ち向かう勇ましい武神であるが、ライトはばっさりと斬って捨てた。

 そしてリリルカがパチンと指をならすと、

 

「お、お前は猛者ッ!!?」

「……………………」

 

 黒スーツにサングラスの大男が入ってくると、タケミカヅチを米俵でも担ぐ様に持ち上げた。

 どうみてもオッタルである。頭の上にあるキュートな耳がそれを物語っていた。

 

「アンタに逃げられても困りますさかい、懇意にしてもろてる風麗夜一家(フレイヤいっか)の姐さんにご協力してもらいましたんや」

「ぬ、ぬわーーーーっ!?」

 

 そうしてタケミカヅチは拉致されたのである。

 因みに彼の眷属たちであるが、ヤマト命は歓楽街でのバイト中でここにはいない。因みに彼女は最近はダンジョンに行かなくてもいいのではと迷っている。

 カシマ桜花はやめられない娼館通いを続け、密かに彼を想っていた幼馴染でもあるヒタチ千草が覚醒、不潔よとキレた挙句勢いで告白、その流れで押し切って恋人関係になると、今では完全に尻に敷いている。今日はその関係でデートに出かけていた。

 つまり主神を助けるメンバーはいないのだ。

 

 そんな憐れなタケミカヅチが連れてこられたのは、西地区の竃の館のさらに奥、丁度外壁がある区画である。

 この地区はそもそも、低所得者が多く住むエリアであり、廃墟も実は多い。

 

「なんだこの場所は……」

 

 思わず彼がそう零した視線の先には、多くの職人が元々あった大きな建物を解体してる工事現場だった。

 土地だけで見れば相当に広い。

 朽ち果てた上物も、おそらく竃の館の倍ほどある。

 

「ここをアンタ達のホームにしてもらう」

「なに……?」

「まあいきなり言われてもピンと来ないだろうけどさ。要はアンタにやってもらう商売の為の拠点がここになる」

 

 仕事は終わったとオッタルは帰っていき、呆然と立ち尽くすタケミカヅチ。

 その横でライトは唐突にそんな事を言った。

 拉致までの流れで満足したのか偽関西人キャラはやめたらしい。

 

「うむ、驚いたがそう言う事か。お前の借りには感謝している。ならば何でもやろうではないか」

「ま、最初からそんな気張る必要はないけどな。悪いがこの商売は今日明日で利益はでない。むしろ序盤は資金の持ち出しが大変な事になるだろう。ただそれだけの意義のある事業だと思うし、そのトップに立つにはアンタの性根がピッタリなんだ」

「お前は一体何をやらせたいんだ」

「うーん、名付けるならオラリオ学園だな」

「……学園?」

「まあつまりだな────

 

 ライトが考えていた商売、それはかなり複合的だ。

 基本となるのは寄宿舎を複数持つ全寮制の教育機関であるという事。

 ただその生徒となるのはオラリオのストリートチルドレンである。

 要は孤児院なのだ。

 

 その思想としては清廉である物の、何故これが商売として成立するのか。

 まずスタートの段階で多額にかかる費用であるが、これはオラリオ自治政府とギルドが折半している。

 今見えている敷地には校舎、寮、練兵場が作られる予定であるが、これらの費用がそれにあたる。

 つまり公益法人の顔を持っている。

 

 ならばギルド等が投資するメリットがあるのか。

 これがあるのである。

 まず自治体には単純に、治安がよくなる。

 生きるために必死な者には道理が通じない。

 だからこそ必死なのだ。

 

 そして現在のオラリオには、犯罪者を更生させるシステム的なサイクルは存在しない。

 勿論罰する為のルールはあるが、あくまでもそれは酷く原始的な物だ。

 現代日本は世界的に見ても治安は相当に良いが、警察機関、司法機関、そして厚生機関、それらが一定のサイクルを構成する事でこれが実現出来ている。

 けれどもそれは多額の予算を投じる経済的余裕がある前提が無ければ難しい。

 実際経済が不安定な国ほど治安が荒れているのだから。

 

 次にギルドだ。

 これは孤児院が一定の成功を見た先の話になるが、ライトが目指しているゴール地点として、冒険者の基礎教育を施す事にある。

 要は死亡率の高い冒険者であるが、仕事にありつけない者には一番手っ取り早い職でもある。

 だからこそ潜在的な才能が無くても冒険者になるケースも多く、必然的にそう言う弱者から死ぬのだ。

 

 オラリオの経済基盤がダンジョン産の魔石に在る以上、冒険者に依存した社会が形成されるのは必然。

 だからこそギルドは死亡率を重視している。

 効率の問題でもあるし、ギルドへの風評の問題でもある。

 そこをこの学園が担うのだ。

 

 基礎訓練を行う事で恩恵を受ける前に地力の向上と、ダンジョンでの立ち回りについての知識を学ぶ。

 これはギルドだけのメリットには留まらない。

 生徒達を各ファミリアが眷属にする事も出来るのだ。

 むしろそれを推奨している。

 

 学園で生活をする事で、その者の人間性などは学園が把握できる。

 つまり神々が眷属にする際にこれほど確実な身元証明は無いだろう。

 後は資質を見て神々がそれぞれ交渉をすればいい。

 

 要は孤児の保護、教育、将来の就職先への斡旋をこの学園で自己完結できる総合教育機関と言う訳だ。

 タケミカヅチを頭に据える理由はただ一つ。

 彼の性格が誰に対してもフェアである事。

 武神の気質により、武道を通じて上下関係を教育する事に適している事。

 実際彼は権能の全てを封じている存在であるのに、技のみでレベル3の冒険者と渡り合える実力を持っている。

 

 これは大事な事だ。

 現代ならば教育の過程での暴力は禁忌とされるが、オラリオでこれは当てはまらない。

 子供の識字率は低く、まともな情操教育を受けず、義務教育も無い。

 そんな無知のまま、生存本能に従って、秩序を無視した生活を続けている相手に道理は通らない。

 まずは社会という集団で生きる為の最低限のルールを植え付けねばどうにもならない所からのスタートなのだ。

 

 そこでタケミカヅチによる武道を通した心身の鍛錬を基礎とし、そこから礼儀等を覚えさせる訳だ。

 つまりは降臨している神々を見渡してみても、適任者と言えば消去法的にも彼しか存在しないとも言えるだろう。

 

 既にライトはタケミカヅチを待たせている間に、自治体やギルドとの交渉を終えており、積極的なバックアップ体制を約束させている。

 勿論それだけではなく、協賛を約束してくれた各ファミリアからの人材を含めた協力体制も既に動きだしているのだ。

 

 具体的には日々の食事についてはデメテルが担当する。

 とは言っても直接的な寄付は最低限であり、大部分は生徒達が鍛錬の一環として、デメテルが持つ農地を使って自給自足に取り組むのだ。

 同じようにニョルズファミリアも同様の協力を約束してくれている。

 

 ダンジョン教育については、ロキやフレイヤと言った大手を筆頭としたダンジョン系ファミリアが協賛を約束。

 講師として現役の冒険者を迎え入れる。

 勿論常駐では無く、長期的な時間割の中で、本業に差し支えないスケジューリングを行った上である。

 

 ライトが言う利益とは、民間企業における利潤の追求と言う意味合いではない。

 この事業が一定の成功を見せた時、オラリオの住人や上層部はこの事業におけるポジティブな効果を真の意味で認識するだろう。

 つまりここで育成された人材が社会貢献を行う事、それがこの法人の利益である。

 

 各ファミリアは次世代の眷属を安定して手に入れられ、それはファミリアの繁栄の一端を担う。

 街は浄化され、住人は驚くだろう。

 そしてこれがモデルケースとなり、同じような教育機関が拡がっていく。

 そうする事で近未来のオラリアは今とは比べ物にならない程に素晴らしいものになる筈だ。

 

 それに期待される結果は冒険者方面だけじゃあない。

 タケミカヅチファミリアの今後の方向性とも言えるが、孤児の中ではそのままタケミカヅチの眷属を望む者も出るだろう。

 そう言ったファミリア・メンバーは、多彩な教育を受けた事で一般職にも期待できる。

 そうなると歓楽街で娼婦以外の仕事や、ギルドの下働き、カジノのホテルや厨房、人手が足りてない所はいくらでもある。

 そう言う所に人材を派遣する事業にも期待できるだろう。

 

 結局のところ、一番の宝は人そのものである。

 故に完成した学園では、種族等も関係なく集められる。

 なにせ冒険者以外の仕事では、戦闘ではハンデになる種族特性が武器になる事もあるのだから。

 

 例えば小人族。

 その身の小ささで、狭い所でも入っていける。

 ならば工事関係での活躍も期待できるだろう。

 肉体労働系なら獣人の身体能力が。

 要は適材適所を効率よく出来るなら、無駄な種族などいる訳が無い。

 

 熱っぽく将来の展望を語るライトをタケミカヅチは食い入る様に見た。

 この不思議なヒューマンの頭の中には、どれほどの考えが詰まっているのかと。

 神々は嘘は見抜くが、心が読める訳ではない。 

 故にタケミカヅチは神でありながら、この男を畏怖する。

 

「…………すごいな」

 

 一通り話を聞いたタケミカヅチはぽつりとそう呟き、そしてぶるりと身体を震わせる。

 想定外の大事業に単純に驚いた。

 自分に出来るのだろうか? その責任の重さに慄き。

 だが凄まじい遣り甲斐に武者震いを覚えたのだ。

 

 これは社会の闇に挑む戦いでもある。

 それを理解した彼は、武神としての血が騒いだ。

 普段は柔和な人柄のタケミカヅチではあるが、その本質は猛々しいのだ。

 

「そうだよ。凄いんだ。オレは絶対にやりたくないし、頼まれてもやらない。アンタだから出来るとオレは信じている。どうだい? アンタ、オレの口車に乗ってこの手を握るかい?」

 

 挑発的な笑みを浮かべたライトが手を差し出す。

 

「私を舐めるんじゃあない若造」

 

 タケミカヅチは獰猛な笑みと共にその手を握り返したのである。

 

 オラリオに来た神々の中では新参の部類である彼は、極東の神と言う事もあり、神々の間でも軽く見られている。

 だが、このオラリオ学園の初代校長として尽力した結果、そう遠くない未来、彼の名はオラリオ最大の名士として人々の記憶に焼き付くだろう。

 そして彼に拾われ教育された孤児たちは心からの感謝と愛を彼に捧げ、各方面で彼らは活躍する。

 

 その最初の種を植えた一人の男の名は永遠と知られる事は無かった。

 ただオラリオ学園のエンブレムは、東方の国のマイナーな武器、手裏剣をイメージした十字型である。

 だが奇妙な事に、主神を筆頭としたタケミカヅチファミリアの中で、手裏剣を使う者は1人もいない。

 

 ある時学園長へのインタビューの際に彼は何故このデザインにしたのか? という記者の質問に対し、彼は酷く遠い目をしながら、されど口元には微笑みを湛えてこう言った。

 

 

 ────私にとってあれは、強さの象徴なんだよ。

 

 そう言うと彼は、貝のように口を閉ざしたのである。

 

 

 ★

  

 

「ねえねえライトく~ん。ここってボクのホームだよね?」

「…………あったりまえだろ」

「つまりボクがここでは一番偉いんだよね?」

「…………あったりまえだろ」

「じゃあ、この状況を、説明して、も・ら・え・る・か・な?」

「神様よ、いくらオレでもウメボシは痛いんだが……」

「説 明 し て」

 

 無駄に広い竃の館のリビング。

 ライトが私財をはたいて購入した巨大な応接スペースは、20人ほどが同時に座っても余裕がある。

 そのど真ん中に大股を開いて座っているライトの上にヘスティアが跨りキレていた。

 

 これは入っていないだけで対面座位と言える状況なのだが、ヘスティアの白魚のような両手は今、ライトのコメカミに当てられ、渾身の力を籠めてグリグリとねじ込まれている。

 やられているライトと言えば苦悶の表情を隠しきれない。

 いくらステイタスに裏打ちされた強靭な肉体を持つライトでも、ウメボシは痛いらしい。

 

 さてこの騒動のきっかけは、ヘスティアがバイトから帰った頃にさかのぼる。

 ほんの10分前の話だ。

 

 最近は持ち回りで夕食を作るのが定番化しており、彼女が帰宅すると大概はほかほかの夕食が待っている。

 彼女はオラリオに来た頃はヘファイストスの所でニートをしていたり、ロクな生活を送っていなかったが、今は家族に囲まれ大変幸せな毎日を送っている。

 だから毎日のバイトも楽しく働いているし、こうして帰宅する時には自然とスキップしてしまう程だ。

 

 だが帰って来てみればどうか。

 ライトが座る位置の反対側、つまり下座の位置にフレイヤが優雅に座っており、その周囲にはオッタルを筆頭に第一級冒険者が勢ぞろいしている。

 その全てがイケメンであり、あれ? ここってソーマの店かな? とヘスティアは錯覚を起こした。

 

 あまつさえごくごく自然に「あらヘスティアお帰りなさい。今日もせせこましく労働をしていたのね。ご苦労様」と煽った。

 瞬間、ヘスティアのツインテールはあまりの怒りにねじ曲がった。

 その姿はまるで昇天ペガサスMIX盛りの様だぁ……。

 

 だがしかし、最近は器のデカい神様ムーブを得意とする彼女は気合いで怒りを押し込め、ツカツカと歩を進めると、一気にトップスピードに達し、そこからとても美しいロンダートからの後方伸身2回宙返り1回捻りを決め、そしてライトの膝の上に着地したのである。

 後は冒頭のやり取りに繋がるという訳だ。

 

「い、いやぁ……だってよ。急にあいつらやってきてさ。まあ追い返すのもアレだし? 茶でも出すだろ? そしたら帰らねーんだもの。俺は悪くねえ」

 

 用などはじめから無かった。暇だから来ただけである。

 決して高層階から下界を見下ろして、孤高ムーブをしているフレイヤだが、最近は「もしかして私、誰にも相手にされてないんじゃ!?」とか密かに思いだしたりなんてしていない。いいね?

 

「ふうん……ねえライト君、最近何かにつけてフレイヤと絡んでいないかい?」

「ひょ、ひょんにゃことふぁねぇひょ」

 

 物凄い頬をツネり上げられている。

 ライト、超涙目である。

 

「まったく! ボクはフレイヤが苦手って知ってるだルルォ!? 」

「ほ、ほら、オレは団長としてどんな来客にもきちんと対応をだな。それにあいつらが飲んでいる紅茶はリリがノリノリで淹れたんだぜ。なあリリ?」

 

リリ「( ˘ω˘ )スヤア」

 

 ライトの隣にいたリリルカは穏やかな寝顔を披露していた。

 若干薄目が開いているが。

 

「おまっ、さっきまで起きてただろッ。てめえ寝たふりすんなや!」

「ラ イ ト 君」

「や、待て。リリがダメなら……おいハル、ハルー!」

 

 返事が無い。

 

「ああ、あの狐の子なら、なんでも客への最大級のおもてなし料理があるってどこかに行ったわ? ふふっ、可愛らしい子」

「マジかよフレイヤ。オイオイオイ、お前ら死んだわ。つか隙あらばお好み焼こうとするのやめーや」

「ラ イ ト 君」

 

 春姫を探しに行く体で逃げようとするライトの顔を両手で挟んで強引に元に戻すヘスティア。

 

「いって! 首がグネった。マジでいててて……悪い神様、ちょっちオレ、ミアハのとこ行ってくるわ」

「ラ イ ト 君」

「わかったよ。わかりましたっ! オレが悪うございましたッ!」

「もうライト君。ボクの事ほったらかしにしたら寂しいって言っただろ……」

 

 しょぼんとした表情のヘスティア。

 どうやら他の神と仲がいいライトに嫉妬していたらしい。

 

「あら、素敵な主従愛ねヘスティア。羨ましいわ。ライトも昨日は私とあんなに激しく盛り上がったというのに。ねえオッタル」

「はい、正直俺も嫉妬してしまう程でした」

 

\ ドッ / 爆笑に包まれるフレイヤの眷属たち。

 

 なぜかヘスティアの真横にいるフレイヤ。

 オッタルも一緒に。

 そしてぎらりと光るヘスティアの眼光。

 

「…………ライト君?」

 

 ぐったりしたライトは流石に限界だと立ち上がると喚いた。

 その際、やさーしくヘスティアを横に降ろす所はジェントルメンである。

 

「なんでそう言う言い方するんですかねー?! 昨日は確かにフレイヤの所に行ったけど、ネタの練習だかんね! 勘弁してくんねーかなっ!? うちの主神が激おこなんですけど?! だいたいオッタルてめーもノリノリで交じってたろうがっ! 『オリュンポスかっ!』のツッコミが気にいってたじゃねーかっ!」

「ふふっ、それじゃそろそろ帰るわ?」

「さらばだライト。鍛錬を怠るな」

 

 一体何をしに来たのか。

 フレイヤファミリアは晴れやかな顔で帰っていった。

 しーん……と沈黙に包まれる竃の館。

 ソファーに崩れ落ちるライト。

 そんな彼に折り重なるように倒れ込むヘスティア。

 

「あー……なんか、うん。ごめん神様。オレ、あいつらとの付き合い考えるわ」

「…………そうだね。まさか彼女がこんなにはっちゃけるなんて思わなかったよ……」

「……でも明日も来そうじゃね?」

「…………ボクもそんな気がする」

「神様」

「なんだい」

「おっぱい揉んでいい?」

「いいよ」

「いいんだ」

「うん」

 

 心身共に疲れたライトは、ちょんと力なくヘスティアの胸を突いてその日は寝た。

 そして暫くの間はお笑いの事は封印し、真面目に仕事に取り組んだという。

 

 なお、大皿に山盛りになって運ばれてきたお好み焼きは、スタッフが責任を持って食べました。

 




クオリティが下がる一方ですが、同時に書き進めているとある新ヒロインの方がまたもやシリアスな長編になりそうなアトモスフィア。
なので書き貯め期間中は、この手の駄文をだらだら垂れ流します。スマンノ。


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ボーイミーツガール、なにそれおいしいの?

今回はハーレムについて真剣に考えてみるというテーマの真面目回です。
前半はおふざけなので許して下さい。
後半は愛についてきちんと考えています。


 ◇◆ライト、謎の剣を手に入れるの巻◆◇

 

「…………うーーん。くっそ綺麗なんだが雰囲気がヤバそうな気もする」

 

 竃の館ではライトが一人、リビングに座っている。

 ただ何故か首を傾げながら、目の前のテーブルにある物をじっと眺めていた。

 

 そこにあるのは刀身だけの日本刀。おそらく太刀だ。

 長さは1メートルは無いだろう、80センチ前後か。

 細身だが反りが高く、踏ん張りが強い。美しい刀だ。

 雑に油紙に包まれていなければ。

 

 これはライトが先ほど、オラリオ外から来た人当たりの良さそうな狐人(ルナール)の行商人から買い上げた物だ。

 日課の金儲けの匂いを探した散歩の際、キャラバンが広場で市を開いていた。

 その中にいた狐人が気になって店を覗いた結果である。

 春姫が狐人だが、この種族はあまり多くいないと聞いていたので興味を惹かれたのだ。

 

 その子供にも見える商人が、これは遺跡から発掘されたが何故か誰も買ってくれないと嘆いていた。

 なので何となく、ライトが買ったのである。

 因みに価格は1万ヴァリスだ。

 これに関してはライトも狐人も武具の価値に詳しくないので、初めははした金で良いと狐人は言ったのだが、ならせめてこれくらいでと握らせた。

 

 そうして持ち帰った物の、どう扱えばいいか悩んでしまったのだ。

 ライトの中の人は生粋の日本人であるが、だからと言って日本刀に詳しいかと言えばそうではない。

 ましてや扱い方も知らない。

 

 一応ライトが保有する装備の中に日本刀や忍者刀はある。

 マサムネは実際に使用もした事があるし。

 けれどそれはあくまでもステイタスに裏打ちされた人外めいた膂力で振うだけで、彼が剣術を用いての事では無い。

 

 だが目の前にあるこの日本刀は、同じように扱っていい物では無い気がするのだ。

 それ故のライトの反応である。

 

「……うーん。ボヤいてても仕方ねえ。餅は餅屋ってか? プロに聞くか」

 

 結局ライトは思考を放棄し、その道のプロであるヘファイストスに相談をする事にした。

 そして実際に行ってみたのだが────

 

「…………これは素晴らしいわ。鋼を何千と折り返し鍛えた逸品というのは理解できる。けれどそれ以上にこれは、ある種の神造品に匹敵する気配を持つ。これを鍛えた鍛冶師は、おそらく”至った”のでしょう。これは単純な技術だけでは出来ない仕事よ。いい物見せて貰ったわ……じゃあね」

 

 恍惚とした表情で愛でた後、ふらふらと帰ろうとすらした。

 因みに彼女に声をかける前、ヴェルフを見かけたライトが彼に見せると「無理。今の俺じゃ触れるのも烏滸がましいわ」と言われた。

 だが、

 

「あっ、おい待てい(江戸っ子) 何帰ろうとしてんだよ」

 

 そのまま余韻に浸ったまま帰ろうとするヘファイストスを捕まえ、せめてこの可哀想な状態じゃなく、刀装をした状態にしたいのだと相談したら、雑に椿・コルブランドに言えと言われ、このいい気分を邪魔するんじゃあないと逆ギレされたライトである。

 

「ふむ、鍛冶師である手前にはもうすべき仕事は無いが、そうだな、この素晴らしき作品を見せて貰った礼に、手前が付き合いのある職人に依頼をしてやろう。拵えに希望はあるか?」

 

 と、割と好意的に話は進んだが、悲しい事に当人に知識は皆無なので、職人におまかせで頼むわ、と寿司屋の様なノリでライトはオーダーした。

 そして十日ほど後、

 

「…………これはやべえ。こんな物使えねえぞ怖れおおすぎてだな」

 

 やはりホームで独り、ライトは唸っていた。

 白木の箱に入った状態で届けられたのが今朝の事。

 ヘスティアはバイトに行き、リリルカはポーションビジネス。

 そして春姫は最近漸くまともなお好みを焼けるようになったので屋台を出している。

 故に独りな訳だが、この状態すらどこか作為的な物を感じ、ライトはキナ臭い顔をしている。

 

 さて目の前の刀だが、彼が購入した時とは別物になっていた。

 流石はレベル5の鍛冶師が抱える職人の仕事だと思わず目を瞠る。

 

 漆黒の漆が吸い込まれる様な錯覚を起こしそうな美麗な太刀。

 金の蒔絵や金物で装飾された、所謂飾太刀拵(かざりたちこしらえ)という実戦よりは儀礼用として貴人などが佩く際の様式だ。

 

 それを食い入る様に眺めていたライトは、ごくりと唾を飲みこむと、恐る恐る手に取った。

 

「うわぁ……すげえ……」

 

 スラリと鞘から抜いてみると、キインと刀身が振動した。

 おそらくそれは錯覚だろうが、ライトにはまるでこの刀が生きている様な気がしたのだ。

 それ程に圧倒的な雰囲気がある。

 かと言って人斬りの妖刀めいた邪悪な気配では無い。

 

「えっと、とりあえずアレをやってみっか……」

 

 そう言ってライトは太刀と一緒に届けられたお手入れセットから打粉をとりだすと、ぽんぽんと刀身を優しくはたいた。

 

「おお……ついに憧れの日本刀ぽんぽんをしてしまったぞ!」

 

 テンションが上がるライト。

 そう、日本刀はロマンであろう。

 ならば日本人の男子に生まれたなら、このポンポンはやってみたいと思うのは当然だろう。

 

 とは言え、本来日本刀の手入れは、目釘を外して鞘から抜いて油を塗ったり等もやる必要があるので、ライトがやってるのはただのいいとこ取りでしかない。

 けどやりたいんだものとはライトの言。

 

「はっはっはっ、よきかなよきかな。久しく手入れなどされていなかったからな。新しい主人は好ましい男らしいな」

「ナズェミデルンディス!?」

 

 知らない男がそこにいた。

 あまりの驚きに、ライトの滑舌は崩壊した。

 

 全くの気配も無いままに彼はライトの横に泰然と座っていた。

 柔和な笑みを浮かべて。

 青みがかったさらりとした黒髪。

 女性にも思える色白の細面。

 そして欠けた月をモチーフにした平安貴族を思わせる豪奢な装束。

 

「なぜ見てるも何も、主が俺に触れているではないか。ふむ、これもスキンシップと言う奴か? はっはっはっ! いいぞいいぞ、もっと触れて良し!」

 

 戦慄したライトは混乱の極みにあった。

 おもわずまたもやポンポンをしてしまった。

 すると余計に喜ばれた。

 なんだこれは!?

 

「え、もしかしてこの剣がアンタ?」

「んむ。そうだ。では俺の名は三日月宗近。まあ、天下五剣の一つにして、一番美しいともいうな。十一世紀の末に生まれた。ようするにまぁ、じじいさ。ははは」

 

 はははじゃないが。

 え、マジで?

 そう慌てるライトに、宗近と名乗る青年は手入れの方法を手ずからライトに教え、その後何事も無かったかのように「このそふぁというのはいい物だな」と寝てしまった。

 

 ライトには一応この三日月宗近の名前は記憶にあった。

 たしか東京の博物館で、日本刀の展覧が行われた際に見たのだ。

 天下五剣って相当ヤベーやつなのである。

 作られたのは平安時代だが、歴史の中で有名なのは秀吉の正室が持っており、その後天下が徳川に移ると、そのまま徳川将軍家の所蔵となったという。

 

 え、もしかしてコレ、ヤバいんじゃないのとライトは慌てた。

 だってこれ国宝に指定されてんじゃんと。

 そうして熟慮を重ねた結果、ライトが下した判断とは────

 

「知らなかった事にしよう。本人はじじいだって言ってんだ。じじいでいいだろコレ」

 

 その後三日月宗近の名は呼ばれる事は無かった。

 ヘスティア以下ファミリアのメンバーも、この柔和なおじいちゃんを気に入り、大層懐いたという。

 

 ただライトはそうでもなかった。

 なにせこのおじいちゃん。

 一人で風呂に入れない。

 朝起きるとボサボサの髪でうろうろしている。

 仕方ないので髪を梳いてやり、よく分からない飾りをつけてやる。

 

 その果てに彼が思ったのは「ガチのジジイじゃねえか!」であった。

 ただの介護じゃないかコレと。

 実際、彼がオラリオに慣れた頃、夜な夜なおじいちゃんは姿を消し、慌ててライトが探しに出ると、ミアの店にいたり、広場をうろうろしていたりと中々にワイルドだ。

 もちろんライトの「ただの徘徊じゃねえか!」のツッコミが冴え渡った。

 

 結局のところ、彼が何故現れたかと言えば、ライトが正しい姿に戻したからだ。

 とある世界で彼らは刀剣男士という存在で認知され、彼らは審神者(さにわ)という主人に従えられると、歴史を揺るがす時間犯罪者を討伐すべく、時間を遡行して戦うという。

 審神者は強い心で物に宿る魂を励起させるという。

 

 おそらくライトの熱きニンジャソウルに反応してしまったのだろう。

 それにしてもこんな異世界くんだりまで流れてきてしまうおじいちゃん。

 その存在すらも徘徊してしまったという所か。

 

 さてその後おじいちゃんがどうなったかであるが、基本的には刀の中にいる様だ。

 というかライトが泣いて頼んでそうしてもらった。

 何故なら刀剣男士は主人に懐く。つまり連れ歩くと嬉しそうにスキンシップをしてくる。

 結果、オラリオの街を歩く女性の皆さんからひそひそと腐臭のする噂話が流れて来た。

 これはいかんとライトは意地でも剣の中にいてくれと土下座をしたのだ。

 何というか用事があってギルドに赴いた際、あのエイナが意味ありげな表情をしてきたのが決定打となった様だ。

 

 ただまあ、美味しそうな食事があったりすると出てくる。

 それくらいは許した。

 だってお好み焼きは特に気に入ったらしく、春姫が歓喜したからだ。

 ただ悲しいかなこのおじいちゃんは食が細く、三口で満腹になるのであった。

 結果、処理するスタッフは以前のままである。

 

 

 

 ◇◆ライト、恋人ムーブについて考えるの巻◆◇

 

 

「ライト様、ちゃんと恋人としてリリをもっと構ってください」

 

 ライトはリリルカにそう言われた。

 今朝がたの事だ。

 目が覚めると抱き枕のようにしていたリリルカに気付き、何となく彼女のウェーブのかかった髪を撫でていると、くすぐったさに彼女も目覚めた。

 

 そしてむくりと二人は起き上がり、ウォークインクローゼットに向かい、互いに今日の服を選ぶともそもそと着替えた。

 その後厨房に向かうとまだ起きてこないヘスティアや春姫のために朝食を作る。

 

 因みにライトとリリルカは割と頻繁に一緒に寝ている。

 ティオナが来ていればここに加わる。

 最近だと春姫が皆さまだけずるいと交じってくる。

 

 完全にハーレム糞野郎である。それは間違いない。

 だがしかし、最初の頃とは違って、最近は特に男女の営み的なアレは無い。

 なにせ大概はライトがベッドに潜り込み、そこに誰かしらがやってきてベッドに潜り込むと彼に抱きつき、互いの温もりを感じ……その結果、速攻スヤァ……となるのだ。

 完全にパパと娘である。

 

 そして起きれば前述の様な行動で日常に戻る。

 そこでリリルカは気が付いたのだ。

 もしかしてこれ、倦怠期を迎えた熟年夫婦レベルの落ち着き様なのでは!? と。

 

 こう見えてリリルカ、割と乙女プラグインがインストールされている。

 なにせ語るのも憚られる暗黒期を経て今の幸せがあるのだ。

 そこに引き上げてくれたライトに恩を感じるとともに、それは次第に好意へと変化。

 その後さらに彼女に仕事と言う役割を与え、自分の存在意義を確立させたライトへの依存度は加速した。

 

 ならば、通りを歩く恋人たちの様なムーブがあっても良いのでは? リリルカは訝しんだ。

 あの褐色痴女やあざと狐はまあいい。

 自分が惚れたニンジャは、何せ規格外な男だ。

 器がでかく、だが次の瞬間何をしでかすか分からない危うさがある。

 ただ彼が起こす騒動の1つ1つは、たかが人間が戯れにやってのけるレベルで収まっていない。

 言わば願わずとも結果的に英雄の様な人間とも言える。

 

 そうなればリリルカ一人でこの色んな意味で評価が難しい男を支え切れないだろう。

 数々の修羅場を潜ったリリルカはリスクヘッジも上手いのだ。

 独占出来ないのは寂しくもあるが、かと言って放置すれば面白い事を見つけ、数年帰ってこないなんて事もありそうな気がするのだ。

 ならば数人の女で重しになればいいだろう、そう言う黒い打算もある。

 

 だからと言って、本質である乙女な部分は求めるのだ。

 普通の恋人的なアレを。

 そこで思い切って冒頭のセリフを本人に叩きつけたのである。

 

「なるほど、そう言われてみればズルズルとそんな関係になった気がするな……」

 

 そう言って彼は考え込んだ。

 因みにリリルカが男女の関係になったのは、夜な夜なベッドに潜り込んで、なし崩しに事に及んだからだ。

 リリを捨てないで下さい。安心できる証を下さいと涙ながらに情に訴え、自分を助けたなら責任は持つべき等と、理詰めで逃げ道を塞いだ結果である。

 

 因みにティオナは同じように忍び込み、ライトが違和感に気が付き目を覚ますと、ほぼ終盤だった。

 アマゾネス恐るべしである。

 ただ彼女の場合は発情期にならないと大人しいのであるが。

 

 そこでふとライトは考えてみた。

 もしかしてオレ、食われてばっかじゃないのか、と。

 ライトは別に彼女達が嫌いではない。

 むしろ女性としては相当にレベルが高いのは確かだ。

 それに日頃の関係性もあり、好ましく想ってはいる。

 

 だからと言ってろくでもない女性遍歴で多くを占めているライトの中の人の恋愛経験から言えば、オラリオで家庭を持って云々……とも今は考えられない。

 それに単純だが何もかもが新鮮に感じる異世界のオラリオ、そこでの生活が楽しいのだ。

 結果、守りの姿勢とも言える結婚云々はまだ現実的では無い。

 

 とは言えそれなりにまともに生きて来た成人男子であるライトであるからして、行為を行えばその結果子供が出来る事もあるだろうとは思っている。

 それはそれでいいとも思っているし。

 

 実際彼は日本でも同じように思っていた。

 結婚なんかしたくはないけど、出来たらすればいいんだと。

 責任をとると言うよりは、好きで抱いたんだから、相手が不安になっても困るしな、という思想で。

 

 なのでこの世界でも同じように思っている。

 それに日本に居た時よりも遥かに稼いでいる今、経済的な面でネガティブな要素は無いのだし。

 それにライトに子供が出来れば、おそらくヘスティアは喜ぶだろうと思っている。

 故に抱いた女の全員に子供が出来ればそれはそれでよし、というのがライトの考えである。

 

 倫理観が云々、確かにそう言うのもあるだろうが、周囲の人間からすれば、ライトの人柄や普段の素行を見ると、むしろ「あいつは如何しようもねえなあ」と呆れ混じりに笑われて流されるだけだろう。

 

 このライトの謎めいたおおらかさは、過去の彼を見れば割と納得できる。

 日本での勤め人時代。

 本人は周りに対してオレはグータラしていたいんだと公言する駄目社員を気取っていたが、大手企業でそれが許される訳も無い。

 

 何というか彼はそのふわりとした性格により、他者に嫌われ辛いという雰囲気を持っている。

 その事もあり、彼は社内の権力闘争とは離れた場所にいたのだが、それを咎められなかったのだ。

 おそらくその理由は人懐こい所にある。

 

 彼はたまたまエレベーターで乗り合わせた取締役に「おお、〇〇君、最近は活躍している様だねえ。どうだい? 今度銀座に面白い店があるんだ」と誘われた。

 ライトの中の人は飄々としながら派閥争いに加わらない曖昧な態度の男だが、こと仕事だけは有能だった。 

 修羅場の現場でも、切羽詰まった状態で彼に泣きつくと大概どうにかなる、そう言うユーティリティーな類いの有能さだ。

 そんな評判をその取締役は知っており、あわよくば自分の陣営に引き込めたら、そう言う色気で発した社交辞令である。

 

 これが一般的な社員なら「是非、その機会があればよろしくお願いします!」と嫌味にならない様に気を使いながら社交辞令を返す。

 

 だが彼は違う。社交辞令を真に受け、いつ行きますか? と満面の笑みで答える。

 まさかの返しにあわあわと慌てる取締役が予定日を言うと、きちんと当日に彼はやってきて、その店で心底楽しそうに酒を飲む。

 思惑を外された取締役だが、その姿に毒気を抜かれた。

 

 また別のお偉いさんが、「うちの家内は料理が得意でね。一度食べに来なさい」と言えば、やはり自宅にやってきて、心底美味そうに食べるのだ。

 奥様は大喜び。誘ったお偉いさんも苦笑いしつつ、結局は受け入れてしまう。

 

 一事が万事彼はその調子で、いつしかこいつは放置しておくのが一番おもしろいと、密かにマスコット扱いである。

 実際これはこの現代社会において稀有な才能だと思うが、本人は悪意の欠片も無く、おごってくれるから行く。面白そうだから行く。だって誘われているしと太平楽な様子なのが憎たらしい。

 

 だからこその彼の女性遍歴なのかもしれない。

 恋は熱く燃え上がる物……では無く、一緒に楽しい時間を共有し、そんな恋人の顔を眺めてると幸せな気分になる……という肉食なのか草食なのか判断がつけられないのが彼であり、根底にあるのは楽しい事が大好きという単純な物なのだ。

 故に情熱を求める相手には捨てられるか、利用される事になる。

 

 そんなライトであるから、結局リリルカに対して捻りだした答えは「明日一日、オレもお前も恋人だと認識して行動してみよう。いいな?」そう言う事になった。

 

 

 ────そして翌日。

 

 

 ヘスティアは今日はバイトも無く休みだった。

 ────どうしようかな? 一日のんびりとするのもいいかな?

 そんな事を考えつつ、朝食のパンを齧っていると、奇妙な光景が目に入った。

 

「……デメテルソースを取ってくれないか? ハニー」

「わかりましたライトさ、いや、えっとダーリン」

「!?」

 

 ヘスティアはとんでもない物を見た。

 ライトの横にリリルカがいる。

 これはいつもの事であり、特に珍しくも無い。

 

 だが今日は配置こそ一緒だが、距離が凄く近い。

 というか身体がくっついている。

 いやまあライト君だしそう言う事もあるか。

 おっぱい好きだしね、と一度は納得した。

 

 しかしだ。

 まさかのダーリン&ハニーである。

 今時こんな恥ずかしい呼び方をする恋人なんかいる訳も無い。

 たまにはライト君と普通の恋人みたいなデートとかできないかな? とか考えなくも無いヘスティアだが、それでもダーリン&ハニー呼びだけは勘弁である。

 

「ほーらハニー。ほっぺにソース、ついてるぞ♡」

「もーやだー! ダーリンに取ってほしいな?」

「しょうがないにゃあ、いいよ」

「キャッ♡」

「!!?」

 

 ウッソだろおい。正気かお前ら。

 ヘスティアは思わず出そうになった言葉を飲み込んだ。

 呼び名が恥ずかしいと胸やけを覚えた所にまさかのほっぺについたソースをペロリである。

 やばい、同じ空間にいるのが激しく辛い。

 

 ならば少々あざといがお好み焼き以外では割と常識人の新人、春姫に助けを求め……ようと思ったが、あの狐は”ヘスティア様、お好み焼きの新たな魅力を発見しました! それがミニサイズのお好み、言わば朝お好み焼き、そう! 通勤の皆さまに食べやすいサイズなのです! 略して朝ヤッキです!”と、とうとう気が触れたかと言う領域に達し、夜明けと共に出かけていったのだ。

  

 ええい、こんなキチガイめいた桃色空間になどいられるか! ボクは脱出させてもらう!

 心の中でそう叫んだヘスティアは、爽やかな朝だというのに酷い疲労感を感じながらリビングに逃げたのだ。

 

「…………んっ。ああ、寝ちゃったか」

 

 リビングではソファに寝ころんでいたヘスティアが寝オチしたが、空腹で目が覚めた。

 寝ぼけ眼で周囲を見ると、向こう側にライトとリリルカが見えた。

 まったく、朝のアレはなんだったんだ……そう思いつつ、彼らの会話を耳にする。

 

「ダーリン。これっ、ナァーザさんに教えて貰った店で買った枕なんです。お、お昼寝に丁度いいでしょ?」

「ふぅん? 表と裏で赤と青と色違いなんだな。でもま、ありがとなハニー」

(なるほど、呼び名は相変わらずだけどプレゼントとは見ててなんだか和むなー)

 

 薄目を開けて見てみれば、リリルカが可愛いく包装された袋から、すこし大きな枕を取りだしライトに渡した。

 なるほど、身長が大きいライトに合わせたらあの大きさって事か。

 そんな風に眺めていたヘスティアだったが────

 

「だ、ダーリン? さ、早速使ってみては、ど、どうですか?」

「お、おおう。せ、せっかくハニーがくれたんだし? つ、つ、使うのもあ、アリだな!」

 

 何故か二人ともそわそわとしながら明後日の方向を向いている。

 隣に座っているというのにだ。

 見れば両者ともに目が凄い速さで泳いですらいる。

 だのに何故か頬を赤く染めながら。

 そして、ライトは枕に頭を載せた────

 

(んっ? んんっ…………ちょっと待って。落ち着くんだボク。え、ちょ、あれを本気で使うカップル初めてみたよ……うわぁ……)

 

 寝たふりからどうにか自然に起きようと悩んでいたヘスティアだったが、枕の正体を理解し、結局はそのまま本気で寝る事にした。

 何故ならその枕にデカデカと書かれていた文字────【YES】が見えたからだ。

 

 そう、ヘスティアは知っていた。

 かつて神代の頃、夫であるゼウスの浮気に心を痛めていた妻のヘラ。

 なにせ彼の浮気はハーレム云々なんて可愛い物じゃない。

 気に入った相手が血縁者だろうが地上の人間だろうが関係ないのだ。

 

 そしてその娘が他人の物でも関係ない。

 ヤるためなら動物に化けても犯す。

 それが神代のゼウスである。

 

 それに頭を悩ませたヘラは、信頼する魔女に依頼し、アーティファクト級の効果があるマジックアイテムを作らせた。

 その名前が……【YES/NOマクラ】である。

 ヘラはこれをゼウスの好きそうな娘に下賜した。

 これはNOの方に頭を乗せて眠れば魔法的効果により、ゼウスが近寄れなくなるのだ。

 

 それはいつしか形骸化し、その後古代人達は夫婦の営みをする際の密かな合図としてこれを使ったとされるが、あまりにバレバレ過ぎて結局は廃れたという逸話がある。

 まさかそれが巡り巡って自分の可愛い子が利用するとは……。

 

 やっぱりゼウスってクソだわ。

 

 ヘスティアはそう思ったのである。

 因みにこの恥ずかしい恋人ムーブは、当人たちも辛かったようで、翌日から熟年夫婦ムーブに戻ったという。

 

 




前半は個人的な趣味で出してしまって申し訳ない。沙耶の唄を作った会社が出したブラゲーだってのにつられてだらだらやってます。
多分もう出さないのでご安心を。



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劇場版だと思ったらただの総集編でしたはギルティ

読者「か、書き貯めをするって言ったじゃないか! どうして投稿など」
作者「残念だったな、トリックだよ」


◇◆劇場版原作に関わりたくない系オリ主(笑) IN ダンまち◆◇

 

「この槍を引き抜ける英雄はいるかぁ~!!」

「ここにいるぞー!」

「(^p^)ソコニヤツガミエル」

「(^p^)ワー」

「(^p^)モウコレイジョウココヲオサエラレナイ」

「(^q^)バンザーイ!」

「(^p^)アナタハオリオンワタシノキボウ」

「(^p^)アンチンサマ…モウノガシマセン…」

「(^q^)バンザーイ!」

 

 ある日の午後。

 広場では祭りかと思えるほどの喧騒が。

 その横を通りかかったライトとリリルカだったが、

 

「あれ、なんですかねえ」

「ヘルメスがマーリン気取りとか草。どうせロクな事じゃないし帰ろうぜ」

「あっ! だったら最近出来たカフェに行きませんか? ナァーザさんが絶賛してましたよ」

「お、いいね。一服したいし行くべ行くベ」

 

 なお、英雄候補が集まらず、ペルセウス(笑)ことアンドロメダ女史が泣きながらアンタなんとかを倒したそうです。

 

 劇場版原作に関わりたくない系オリ主(笑) IN ダンまち

 

 ~ F i n ~

 

 

 

 ◇◆デメテルの野望◆◇

 

「デメテル、キミがここに来るなんて珍しいね。どうしたんだい?」

「御機嫌ようヘスティア。えっと……貴方の所の団長はいるかしら?」

「ライト君かい? 何だか一日かけて彼の故郷の料理を作るとか言って厨房に籠っているよ」

「お邪魔するわねっ!」

「え、ちょ、デメテル!?」

 

 ライトが提唱した”人間は週に2日休んでこそ幸せになれる説”を取り入れているヘスティアファミリアは、今日と明日が休日だった。

 朝食を終えたヘスティア一味だったが、件の料理を作るとかでライトがリリルカと春姫を厨房に引きずり込んだ。

 

 なので暇になったヘスティアはリビングでぼんやりしつつ「ヘファイストスのとこでも行こうかな?」なんて考えていると、ドアをノックする音が。

 やれやれと彼女がドアを開ければそこにいたのは麦の館の主人、デメテルであった。

 天界の時から何かと仲がいい二人だが、伴も連れずにやってきた神友に驚いていると、ライトが厨房にいると聞くやいないや、凄い勢いで突進していった。

 

「デメテルってあんなにアグレッシブだったっけ……」

 

 ポツリと零すヘスティアだったが、まあいいかとソファで昼寝を決め込んだのである。

 

 さて、ところ変わって竃の館の厨房では、ライトを筆頭としたメンバーが集っている。

 リリルカと春姫は何故かメイド服で、ライトに至ってはシェフ姿である。

 そう、ライトは何事も形から入るタイプなのだ。

 

「それでライト様、今日は何を作るんですか?」

「とても気になりますっ。ライト様はお好み焼きと言う素晴らしき料理を作ってくれたお方……次はどんな料理なのでしょう……」

「んー、つってもただのカレーなんだけどな。あとハル、顔がそこはかとなくエロい。お好み焼きに欲情する女とか地雷臭しかしないぞ」

「ち、違いますっ! 私はそんなふしだらな事はっ」

「リリ知ってます。このエロ狐は、この前の洗濯当番の時にライト様のパ────」

「わー! わー! 何でもないですっ!」

「草。まあいい。カレーとはオレの国での国民食でな。庶民の料理だが、こだわればいくらだって豪華にも出来る。そんな高度の柔軟性を維持した素敵な料理であるっ!!!!」

「「ほへー」」

 

 そう、カレーである。

 日本人ならば時折、妙にカレーが食べたくなる時がある。

 ライトはこんな異世界くんだりまで来てしまったが、お好み焼きが再現できたなら、カレーなら余裕だろう、そう考えた。

 もしこれが成功したならば、カレーの店を誰かにやらせる。

 そうすればいつでもカレーが食べられる! そう言う目論見であった。

 

「さて、カレーだが、こいつは簡単に言うとスパイスを食べる料理だ」

 

 リリルカ達が首を傾げる。

 ピンと来ない様だ。

 

「ほら、デメテルソースを舐めると後味がピリッとするだろ?」

「はい、鼻に抜けるといい匂いもします」

「だからお好み焼きも美味しくなりますっ!」

「お好み焼き厨は座ってろ」

「ポッチャマ……(小声)」

「まあいい。そのピリってやつが香辛料、まあスパイスだな。つまりカレーとは、無数にある香辛料をいい感じにブレンドして、料理にした物の事なのだ」

「「ほへ~」」

 

 まあピンと来ないらしい。

 ライトはやれやれと首を振りつつ準備にかかる。

 

 キッチンの作業台にズンズンと並べたのは、ライトがこの前用事がありディアンケヒトファミリアに行った際に購入してきたポーション制作セット・初級である。

 まあ、ただの巨大な乳鉢であるが。

 

 さらにライトは持ち物に入れてあった各種スパイスを取り出す。

 かなりの種類があるが、どれも大きな瓶に入っており、結構な量だ。

 これは例のおじいちゃんこと三日月宗近を買った時の市で、外国の商人がおり、彼が売っていたスパイスを買い占めんばかりの勢いでライトが買ったの物だ。

 そう、全てはこのスパイスを見た事が始まりだったのである。

 

「んじゃ早速始めっか」

「リリ達はどうすればいいですか?」

「うーん。スパイスの配合はオレがやるからそうだな、別に用意した鳥の骨があるから、リリと春姫はそれを煮込んでスープを取ってくれ。香味野菜と一緒にな。注意点は一度沸騰させたら、後はコポコポと表面が泡立つ程度まで火力を下げてじっくりと煮込む事」

「「はーい!」」

「ライト、私は?」

「デメテル様は小麦をねってナンの生地をって……ナズェイルンディスカ!?」

「新しい料理が産まれようとしている……そこに私がいるのは当然よねッ」

 

 デメテルがいた。憎たらしい程のドヤ顔である。

 彼女によるとデメテルソースが軌道にのったが、次なる一手が欲しいとやってきたという。

 

 因みに彼女、ゼウスの姉である。

 そう言う意味ではヘスティアとの関係が深いのも頷ける。

 彼女は整った容姿にたおやかな胸を持つ、美しい女神だ。

 それに豊穣と穀物の神である彼女であるが、原典では悲惨である。

 

 ゼウスに無理やり迫られ孕まされた結果、後にゼウスの兄弟であるハーデスの妃になるペルセポネが産まれ、さらにゼウスのもう一人の兄弟であるポセイドンにも同じような目に遭わされた結果、女神一人とまさかの馬を”産ま”されている(激うまギャグ)

 さらに最愛の恋人は嫉妬したゼウスが稲妻を落とした。意味が分からない。

 しかしゼウスの兄弟の鬼畜っぷりには苦笑いを禁じ得ない。

 

「まあいい。とりあえず作るから」

 

 神々とまともに付き合うと面倒臭い────ライトはフレイヤで学んだのだ。

 そして何事も無かったかのように大きなボウルにスパイスを放り込んでいく。

 コリアンダー、クミン、そして辛みを足すためにカイエンペッパー。

 配合は黄金配合と呼ばれる定番の組み合わせ。

 

 それらを乳鉢でゴリゴリとすり潰していく。

 それと共に立ち昇る何とも言えない香り。

 鍋でスープのベースを煮込んでいる二人も気になるようで、しきりにこちらを見ている。

 特に嗅覚がヒューマンよりも鋭い狐人である春姫はかなりヤバい顔をしている。

 

 ────あの顔はフレーメン反応ッ!!

 ────知っているのかライト?

 ────ああ。フレーメン反応とは主に猫の様な動物が、フェロモンの様な匂いを認識した際に起こる現象で、口を半開きにして目はよく分からない場所をじっと見つめるという、いわばクソ間抜けな表情の事だ。

 

 そう、春姫は今、女の子がお外でやっちゃいけない表情をしている。

 恐るべしカレー。恐るべし狐人女子。

 

 それはそれとして、ライトはカレーベースのスパイスの配合を終えると、香りが飛ばない様に密閉瓶に移し、今度は仕上げの為のガラムマサラを調合していく。

 これにはクミン、コリアンダー、カルダモン、ナツメグ、シナモン、ブラックペッパーなどをいれる。

 配合はそこそこで違うが、役割としてはカレーの香り付けがメインになる。

 

「なるほど、見た目以上に複雑な芳醇さがあるわねッ」

 

 椅子に腰かけながらゴリゴリとスパイスを潰していくライトの肩にデメテルが顎を載せて覗き込んだ。

 そうなると必然的に、

 

「思いっきり胸が当たってるんだが?」

「当ててるのよ? 貴方は無類のおっぱい好きだとリサーチ済みよっ! ならばこの私のおっぱいは好物の筈っ! こう見えてオイルによる手入れは完璧なの。ふふっ、つまりライトは私の神っぱいにメロメロ! さあ、キリキリとデメテルブランドの次なる料理を完成させるのよっ!」

「もうやだ。オレの周りにロクな神様いねえ……」

「ふふふ、†外道乱舞†のライト、破れたりって所ね!」

 

 ライトはポカンとした。

 聞き捨てならないワードが聞こえたからだ。

 残念な女神はこの際どうでもいい。

 当ててるのよネタを何故知っているかもこの際置いておく。

 だが、

 

「なあデメテル様よ。外道のナントカってなんだね」

「え? †外道乱舞†、貴方の二つ名よ?」

「んっ? オレはレベルアップしてないんだが?」

「ええっ、この前の神会で決まったわよ? これだけ騒動を起こしているんだもの、例外枠として満場一致で決まったわ? 因みに一番ノリノリだったのはウラノスとフレイヤね」

「あー……因みにだが、うちの神様は?」

「あーうん……いたわね」

 

 ヘスティア、ライトによる折檻が決定した瞬間である。

 なお、この日の深夜にそれは決行された。

 彼女が寝静まった後、部屋に忍び込んだライトニンジャが彼女を簀巻きにし、アヘ顔で気絶するまで擽り続けたという。インガオホー。

 因みにその際のヘスティアは”素直に言ったら結局こうなると思っていた”と反省の色を感じない供述をしている。

 

 さて横道にそれつつも手は止めないライトは粛々と作業を進めていく。

 スパイス調合を終えたライトは無数にある竃の一つでフライパンを熱して油を引くと、すりおろしたニンニクとショウガを炒めて香りを立たせ、青とうがらしを刻んだ物や湯剥きしたトマトを角切りにしたものを投入し、スパイスのベースを入れるとグツグツと煮立たせながら水分を飛ばしていく。

 仕上げにヨーグルトや塩で味を調え、ガラムマサラを加えると漸くカレーベースが完成した。

 

 目をキラキラさせ指を伸ばしてくるデメテルをぐいーっと押しやりながら、今度はナンの生地を練っていく。

 粉にパン屋で分けて貰った酵母と油を入れて練り練り。

 卵に水、砂糖と塩、牛乳。さらにはヨーグルトを足して練り練り。

 それを丸めてボウルにいれると布をかぶせて常温発酵。

 

 それで暫く放置しながら、スープベースも安定期に入ったので、二人とヘスティアも呼んで厨房でお茶会と洒落こんだ。

 せっかくカレーを作っているからな、と牛乳の原液に茶葉を入れて煮込み、香り付けにシナモンを入れた物にたっぷりと砂糖を入れたチャイ風のミルクティーを楽しむ。

 なお、デメテルがいじけたので仲間にいれてやるライトであった。

 そして、

 

「さあ仕上げだ。神様、胃の空き具合は十分か?」

「もうペコペコだよライト君……昼寝してたら凄い良い匂いがするからランチは食べずにいたんだよ!」

「グーッド。リリもデメテル様も同じだな。…………春姫は通常運行と」

「くぅ~ん……」

「最低限狐のアイデンティティーは守ってくれ。では仕上げに移る。目をかっぽじって見てるんだなァ!」

 

 竃の一つに火をいれ、その横にあるタンドールにも火をいれる。

 タンドールは街の職人にワンオフでオーダーした素焼きの筒だ。

 そしてヘスティアは竃の神。再現は余裕でしたとはライトの言。

 

 火口で熱した鍋にスープベースをいれ、カレーベースを足して伸ばしていく。

 そうすると赤茶けた何とも言えない色合いのスープが出来上がる。

 そこに各種野菜を素揚げした物を深い皿に入れ、煮立つ鍋にはスープベースを煮込んだ際に一緒に煮ておいた骨付きの鳥もも肉を加える。

 

 同時に4、500度まで熱したタンドールの内側に、丸く小分けにしたナン生地を張り付けていく。

 ナンは2分もせずに焼き上がり、大皿にポイポイとのせられた。

 そして全員分のカレーが完成した所で、リリルカ達がダイニングに運んでいく。

 

「さて、全員座ったな。これがオレの故郷では割とポピュラーだったスープカレーだ。スプーンで掬ってそのまま飲んでも良いし、ナンをちぎって浸して喰っても良い。作法なんか気にするな。好きなように食え。では良し!」

「「「「いただきます」」」」

「うまぁい! これは凄いよライト君!」

「おいひぃですぅ。辛くって、でも嫌じゃないです。リリ、これ好きです!」

「ああ^~カレー美味いんじゃぁ^~」

「うおォン!! 私はまるで神様エトナ火山よぉ~」

 

 若干二名の反応がおかしいが、どうやら好評であった。

 それを満足げに眺めるライトの柔和な笑みは、まるでクッキングパパである。

 

 そして案の定キャラ崩壊したのは春姫とデメテル。

 これよ、私が求めていたのはコレっ! と口から変な光線を吐きながら熱弁。

 結果、カレーの店をデメテル直営で出す事が即決された。

 

 この日のライトがやった配合は羊皮紙にレシピ化され、後はデメテルとファミリア達と研究をして色々なパターンを試すという。

 近い将来、デメテル壱番屋の名でオラリオに旋風を巻き起こすだろう。

 そしてオラリオにおけるファストフードの始祖として、デメテルファミリアの名声は高まったという。

 

 そして……春姫はカレーに憑りつかれた。

 東にあるというカレーの聖地を巡礼するのだと危険な事を言いだしたのだ。

 ライトが悪乗りして、”カレーの神様のガンダーラがおわす魅惑の国インディア。そこには世界中のカレー信者が集まり、神にカレーを捧げる儀式をするという……”と適当な事を言った結果である。

 

 その後、カレー道をまずは極めると決意した春姫は、デメテルファミリアに出向と言う形でスパイス調合の研究を行うようになった。

 因みにお好み焼きの屋台であるが、ライトの勧めで”はるひめのおこのみやき”の名でフランチャイズ展開を行い、のれんにあざとくデフォルメされた春姫が描かれ、じゃが丸くんに匹敵する人気を博したという。

 

 店員は可愛い感じの女性のみで、制服はひらひらのメイド服。

 完全にイメージプレイを行うお店かな? という路線で大人気である。

 そして彼女達が焼くお好み焼きは、春姫が焼くよりも綺麗なまんまるだったという。

 

 

 ◇◆ライト、主神の疲れを癒す◆◇

 

 

「うーん……」

「どうした神様」

「いやぁ、どうも最近疲れが抜けなくてさ」

 

 ベッドに入った物の喉の渇きを感じたライトがリビングに来ると、ヘスティアが浮かない顔で座っていた。

 いつもはもっと早い時間に寝る彼女なのに。

 

 不審に思ったライトが理由を尋ねると、彼女は首をトントン叩きながら疲れていると言った。

 

「うーん、神様、後は寝るだけだよな?」

「そうだけど、全然寝付けないんだよ……」

「分かった。丁度デメテルのとこに頼んでいた奴が届いたから、使ってみるか……。んじゃ神様、ダルい所悪いが、沐浴してきてくれ。あがったら寝間着は着ないでタオルを巻いたまま部屋に行っててくれよ。オレはその間に準備をするから」

「ん? 何をするんだい?」

「あーちょっとしたマッサージだな」

「へえっ! そんな事も出来るんだ!?」

「まぁな、昔よく通ってたから覚えてんだ」

「分かった。本当に辛いからお願いするね?」

 

 そうしてヘスティアは腰を叩きながら風呂場へと向かった。

 ヘスティアはああ見えて真面目だ。

 ぽんこつではあっても、じゃが丸の屋台では愛想がいい彼女の接客は密かな人気なのである。

 ただ人々の期待には全力で応える彼女の気質から、知らず知らずのうちに疲れを溜めていた様だ。

 

 風呂場に消えたヘスティアを見送ったライトは自室に戻ると、藤で編まれたバスケットにいくつかのガラス瓶を詰める。

 それと共に大量のタオルやお茶の準備をしてヘスティアの部屋に向かった。

 

「え、えっと、とても恥ずかしいけど、大丈夫かな?」

「もちろんでございますお客様。これは美容も兼ねたマッサージ。私はいない物と思って、とにかくリラックスしてください」

「ら、ライト君がそう言うなら、うん、任せるよ」

 

 そこには湯上りで火照ったヘスティアの見事な肢体が披露されていた。

 彼女はベッドにうつぶせに寝ており、巻かれたタオルが解かれる。

 必然、女性の美の極みとも言えるメリハリのあるボディラインは露わになる。

 適度に肉付きの良い彼女の身体は、どんな男も魅了してやまないだろう。

 

 そこに何故かマスクをしてスラックスタイプの白い施術着姿のライトが立っている。

 そして彼はおもむろにヘスティアの背中に持ってきた瓶に入っていた液体をたっぷりと垂らした。

 

「ひうっ!?」

「冷たいですか? 直ぐに暖かく感じるのでご安心を」

「う、うん……」

 

 これはデメテルに次なる金儲けの一つとしてオーダーした、様々な植物から抽出した精油(エッセンシャルオイル)、それをマッサージ用に調合した特別製である。

 ライトはそれを薄く延ばす様に掌で優しく揉みこんでいく。

 

「うっ、ふーっ……うわぁライト君の手、きもちいぃねぇ……」

「身体の力は抜いてくださいね。今は身体に溜まった無駄な老廃物を逃がすために、散らす様に揉みこんでいきます」

「んうっ、ふわぁ……なんだかとっても暖かいやぁ……」

 

 ライトの掌の根元の部分をヘスティアの背骨に当て、左右に押し上げるようにすると、円を描いて下に。

 それを下から上、上から下へとゆっくりと往復させる。

 そして、

 

「あんっ、ちょライト君そこはボクのおしり……」

「マッサージですから」

「あ、うん、そうだよね」

 

 臀部も余すことなく揉んでいく。

 この臀部というのは中々侮れないのだ。

 骨盤から股関節の周囲には様々な神経が密集している。

 しかし肉付きの良い臀部の肉はそれを重厚に覆っている。

 故に中々刺激し辛いのだ。

 

「少し痛いですが、我慢してくださいね」

「う、うん、お手柔らかに頼むよ? あと、その、ボクの見えちゃってないよね?」

「マッサージですから」

「う、うん、ごめん。ボクが悪かったよ……ってうっ、痛っ」

 

 ライトの手が臀部側面から大腿骨に沿いつつめり込んでいく。

 それを骨盤方向に向かって押し上げる。

 苦悶の表情のヘスティアだが、痛かろうとも嫌悪感は感じず、むしろ心地の良い痛さに感じた。

 ライト、野獣の眼光。

 

 その後、太腿の裏、膝関節の裏の筋、ふくらはぎの特に疲れが溜まりやすいヒラメ筋、そして足裏や指先、最後は肩や首へのマッサージをたっぷり時間をかけて行った。

 先ほどまでとは違う心地の良い倦怠感に、ヘスティアの表情も緩む。

 そして、

 

「では続きまして、前側の施術に入ります。仰向けになってください」

「えっ、それじゃ全部見えちゃうよっ!?」

「マッサージですから。仰向けになってください」

「う、うん、ライト君なら間違いないよね……は、恥ずかしいけどボク頑張るよ……」

 

 ヘスティアは仰向けになった。

 必然、魅惑的な乙女の山脈や、美貌のニュムペーが集う渓谷が露わになる。

 だがマッサージ師(ライト)は無表情である。

 それに安心したヘスティアは目を閉じた。

 

「あっ、そこは、おっぱ……」

「マッサージですから」

 

「ひぅっ、ら、りゃいとくん、そこはボクの……」

「マッサージですから」

 

 こうして数時間にも及ぶ、健全なマッサージの結果、ヘスティアの疲れは癒されたのである。

 そして、時折ヘスティアがライトにこそこそと耳打ちをする姿をリリルカや春姫が目撃し、首をひねる事となった。

 

「マッサージですから」

 

 

 




長編の進捗が1万字くらいでとん挫。
煮詰まった結果、しょうもない日常話に逃避。
かなしいなぁ……



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魔都にニンジャのスリケンを 序1

3/24(日)1本目 夜にもう一話投下予定


「ライト、貴方はどうしてそんなに強いの? 私はもっと高みに行かなければならない。だから教えて欲しい」

 

 剣姫アイズ・ヴァレンシュタインの実直だが危うい視線を受けたライトは、しばらく沈黙する。

 この場所はロキ・ファミリアの本拠地である黄昏の館の裏庭。

 つまり周囲にはアイズ以外の団員たちも見守っていた。

 

 剣姫は地面に座り込んでおり、それをライトが見下ろしている。

 アイズが全力で挑むも、彼にその全てをいなされ、最後は急所に当身を入れられた結果がこれである。

 しばらく呆然としたアイズが唇を噛み、その後捻りだした言葉が冒頭のセリフである。

 

 アイズは力の信奉者であるが、現在の己の力量には正しい自負はある。

 だがライトと対峙した瞬間、その自負が揺らいだ。

 いつもの赤い服で泰然と立つライト。

 身体に力みはほぼない。覇気も感じず、ただ佇む、そうとしか見えない。

 

 だが風の疾さで斬ろうが突こうが、彼はほぼ最初の立ち位置から動く事無く躱す。

 ふわりと両手を拡げて、まるで親が赤子を抱くかのように気が付けばアイズは懐に入られた。

 あり得ない、そう思う。だが現実自分の領域に入り込まれた。

 つまりこれが実戦だったなら、アイズはその回数だけ殺されたと言う事になる。

 その事実に気が付いた時、彼女の背中には冷たい汗が流れた。

 ここはダンジョンでは無いのに、明確な死の匂いを感じたのだ。

 

 あろうことかアイズは風(エアリアル)を使った。

 そして渾身の刺突を駆使した瞬間、彼女は腹部に強烈な痛みを感じ、次の瞬間には地面をバウンドした挙句倒れ込んだ。

 これが立ち合いの全てである。

 因みにアイズはフィンやガレスに自分の様子を聞いたが、フィンは呆れながら一言”君が放った一撃の勢いを全て乗せたカウンターの体当たりだよ”と言った。

 

 そのフィン自身も平静を装っているが、内心では戦慄している。

 僕にアレが出来るだろうか? そう自問したが、出来ると言い切れなかったのだ。

 フィンの得物は槍ではあるが、彼の強さ自体はそのオールマイティさにある。

 あらゆる武器、体術、そして魔法系スキルを高い次元で駆使できる。

 

 それ故の強さが彼がここの団長を張れる理由だろう。

 どんなイレギュラーが起こるか分からないダンジョン。

 そこで冷静な判断、指示を瞬間的に求められる彼は、戦い方を固定すると判断が遅れると考えている。

 故に器用貧乏になろうが、万能さを重視した結果が現在のスタイルの原型だ。

 

 ロキファミリアの人間にとってライトという男は得体の知れない油断ならぬ男、という評価である。

 戦闘能力はおそらく、この場にいる誰よりも強いだろう。

 なにせあの猛者が一目置いているのだから。

 風に聞こえた話では、希少金属を鍛えて作られた彼の大剣を一撃でへし折ったというエピソードもあるらしい。

 

 かと言って彼はそれを誇示するでもなく、ダンジョンにすら興味を示さない。

 多分にやり手な経営者、そう言うイメージが強い。

 そもそもあのギルドが個人の冒険者と大きなパイプを持っている時点で異常なのだ。

 

 ならばなんなのか、それが誰もピンと来ないというのが彼らの概ね共通する感想だ。

 ただ敵に回すのは良くない、これも共通している。

 

 しかしこの中で一番真実に近いだろう分析をしているのがやはり団長のフィンだった。

 彼は僕らと視点が違う────酒宴の席でリヴェリアとの何気ない会話の中で、ふとライトの話題が出た際に彼が零したセリフだ。

 それに対しリヴェリアはどういう意味かと返したが、確たる根拠も無いからと言葉を濁した。

 では、どういう事なのか。それは、単純に力についての思想だ。

 

 そもそもライトが強いのは長年の研鑽の果てに手にした技術では無い。

 退屈凌ぎに神々の遊戯に巻き込まれ、意味も無く殺された挙句、こちらの世界に放りだされた。

 その際に押し付けられた力が彼の強さの根源である。

 

 殺される直前にやっていたRPG。

 その中で手に入れたジョブやスキルを与えられ、育成していたままのステータスを反映された。

 充分に恐ろしい力だ。

 だがライトはこっちに来てもそれを積極的に使おうとはしない。

 金儲けのきっかけとして使った事はあるが、それは主に道具などでだ。

 

 戦闘面で使ったのは数える程でしか無い。

 何故かと言えば単純にムカつくからだ。

 よく考えればライトの中の人は前世において自分の人生をそれなりに楽しんでいた。

 不満はあるが、それは彼以外の人間も同じだろう。

 だからと言って人生から逃げ出したいと思う程は絶望もしていない。

 

 だが結果は異世界にいるのだ。

 それも自分が読んだ事のある本の世界に。

 彼はその本が好きだった。

 仕事で疲れて荒みがちな心をわくわくさせてくれた。

 

 そこに強い力を持たされて放りだされた所で、何をどうしろと言うのか。

 好きな本の世界だからこそ、異物である自分が活躍して誰が得するのか。

 ライトは物事には必ず原因、理由、様々な過程を経てなんらかの結果に繋がると知っている。

 そこに関わった人間は様々な葛藤や怒り、悲しみを抱きながら、それでも前に進んだからこそ一定の成果を得られる。

 

 それを一足飛びでどうにかできてしまう力に価値などあるのか。

 自分はあくまでも突然現れたイレギュラーでしかないのに。

 ここの人間達が重ねたいくつもの研鑽は尊い。

 それを冒涜する様で気分が悪いのだ。 

 けれど実際は積極的じゃないにしても関わってしまった。

 

 何故か。それは単純に言うなら情だ。

 少しでもかかわって、本では数十行の描写で書かれていた登場人物は、生身の存在で感情も体温もある事を理解してしまった。

 そうなると傍観者でいる事は出来ない。

 当たり前だ。良心と罪悪感の狭間で葛藤が起きるからだ。

 

 そう言った事情もあり、ライトは力をあまり使いたがらない。

 だが必要となれば使う。

 要は彼にとっての力とは、物凄い威力の銃みたいな物だ。

 

 撃てば相手は死ぬ。威力が凄い。

 でも道具なのだ。必要な時があれば躊躇なく撃つ。

 だから普段は内ポケットに入れておくだけで良い。

 別に他人に見せる必要も無い。だって所詮道具なのだから。

 

 つまりライトは飄々としている訳ではない。

 ただ達観しているのだ。

 冒険が目的じゃない以上、過ぎたる力は身を滅ぼす。

 良くも悪くもライトの意識は一般的な人間の価値観と然して変わらないのである。

 

 対して冒険者はどうか。

 恩恵で現れるステイタスやスキル。

 それはある種、個人を特定できる個性でもあり、それを含めて人生の一部となる。

 故にそれを他人に侮られば激昂もする。

 

 つまりフィンが感じている違和感、或いは視点が違うというのは正解なのだ。

 ライトは力そのものに何の価値も覚えていない。

 道具は所詮道具であり、何かをする為の手段なのだ。

 要は価値観そのものが違うのだから、その部分では絶対に両者は折り合えない。

 

「あー……強くねえ。んなもん知るかよ。お前はこの前レベル6になったんだろう? なら充分じゃねェか」

 

 場面は現在に戻る。

 睨む様に見上げるアイズに向かって、酷く面倒臭そうに頭をガシガシと掻いた後、ライトはぞんざいにそう答えた。

 アイズは一瞬目をつぶり、そして更に瞳に危険な色を灯すと、彼に向かって叫ぼうとしたが、ライトは手を軽くあげて遮ぎった。

 

「そもそもだ、お前の質問の意図が分らねえ。単純な強さってんなら、フィンやそこのベートだってアホほど強いだろうに。ま、レベル6は第一級って言うんだから、あの猪野郎程では無いにしてもバケモンだわな。それで不満って言うお前は一体何と戦ってんだよ。正直に言おうか。オレはロキに借りがあるから大人しくここに来て、ロキの可愛いお前さんと立ち合った。貸し借りは大事だからな。だからそうだな、結果を言おう。強いんじゃね? 速いし貫通力のあるお前の攻撃は凄いよ。でもオッタルには絶対に勝てない。特に命のやり取りをしたら絶対にお前は殺される。逆に、フィンやベートは勝てないまでも死なないで済むだろうな」

 

 絶句するアイズ。

 逆に納得した様に頷くフィン。意外な評価に驚くベート。

 息を飲むその他ライトが名前も知らない団員達。

 固まったように動かないアイズに向かって、背を向けたライトは、

 

「とりあえずこいつは宿題だ。お前は殺されフィン達が命を拾えるその理由とは! また立ち会ってほしいなら、まずはこの問いに答えよってね。お子ちゃまアイズたんだからヒントをやるなら、戦いはその技術以外の部分が大事よって感じか? まあわかったら、ロキを通して連絡をくれ。直接来ても相手はしねーぞ。なにせオレは金儲けに忙しいからな。ではチャオ~」

 

 そうおどけてライトは出ていった。

 リヴェリアは立ち尽くすアイズを気使うも、結局彼女は日が暮れるまでそこに立ち尽くしていた。

 瞳に危険な色はもうない。

 ただ空虚であった。

 

 

 ☆

 

「ライト、すまんかったな今日は」

「根性ババ色な神様筆頭と言われるロキ様がすっなお~だな」

「茶化すなや! 正直ウチがなんぼ言っても聞かんのよ。ウチもやっぱ感情があるから強う言えんとこもあるしな」

「ま、アレはなあ。事情はアンタから聞いてたけど重症だな。冗談じゃなく死ぬぞ。……周りが」

「…………はっきり言うなや。せやけど、まあ、そうやなぁ」

 

 深夜の豊穣の女主人。

 ロキとライトはサシで呑んでいた。

 一応ライトの隣には強引についてきたヘスティアがいるが、悲しいかな酔いつぶれている。

 

 今日の礼にとロキが奢るからとここに誘ったのだ。

 と言っても愚痴を吐きたい気分だったというのが本音かもしれないが。

 神が人間に本音を話すと言うのは本来あり得ない話だが、これまでの事でロキはライトに一目を置いていた。

 

 というのもロキはライトのステイタスの意味を知っている数少ない神の一人である。

 主神のヘスティア、ギルドのウラノス、そしてフレイヤがこの事を知っている。

 何故かと言えば、ギルドに登録する際にレベル表記を誤魔化す為に開示したからだ。

 

 異世界云々は話してはいない。

 それはヘスティアだけが知っている。

 彼の文字化けは、要は99と本来表記されるべきものなのだ。

 それをヘスティアが神の血で上書きする事で強引に1にしている。

 

 最初はウラノスにヘスティアが話を通した。

 意図しないシーンで露呈するなら、最初から話した方がマシだろ……そうライトに言われて。

 本人からすれば別に疚しい事をしている訳でも無いのだ。

 

 自分の持ち合わせている力が、ここのシステムというか規格とずれているからこそ文字化けをしているのだろう。

 そんなもの何故って聞かれても、現実そうなんだからとしか言えないのだ。

 これは不正でもなんでもなく、ただの結果だ。

 

 ただしこれが周囲に広まると、ここの規格が前提の冒険者たちに変な影響が出るかもしれない。

 だからこそこっちは仕方なく言ったんだが? 

 という論調でヘスティアに言わせた。

 こっちが芋引く意味が無い。ゴリ押せと。

 

 ギルドが、いやウラノスが下した裁定は、混乱は好ましくない為、欺瞞を継続。

 つまりお咎めなしとなった。

 その代わり、ステイタスに変化があればその都度情報をギルドに提供する事、というおまけつきだ。

 

 ただ物言いがついた。

 それがロキやフレイヤだ。

 駆け出しの新人とは思えない動きをライトがしているのを団員が見た。

 どういうことか。

 ファミリア間の力関係は、現在の状態で均衡を保っている。

 そこにその均衡を崩しかねないイレギュラーは認められない。

 そう考えるのは当然だろう。

 

 これに対してもライトは、酷く面倒臭そうにギルドに言った。

 オレの扱いはあんたらに丸投げしたんだ。

 だから好きにしろ。鬱陶しいなら見せちまえ。

 これで開示された。

 

 ロキは直接ライトと会い話をした。

 神は子の嘘を見ぬく。

 そしてロキはトリックスターと呼ばれる程の老獪さを持つ神だ。

 原典では様々な神相手に立ちまわり破滅させるほどの悪神なのだ。

 故に色々な角度から言質を引き出そうとするも、終始一貫したライトの態度に毒気を抜かれた。

 

 ライトにはおよそ野心という物が無い。

 この野心とは、冒険者としてのという意味だ。

 もしその手の野心を持つならば、いずれロキファミリアとぶつかるのは必然。

 結局のところ、ロキが気になるのはその点のみだ。

 

 だが彼の興味の所在は、あくまでも異世界であるここを十全に愉しむ、それのみだ。

 ならばロキとすれば、彼を敵に回さず、自分の子に利となる様に彼を利用できればそれでいいと言う結論に至った。

 ライトのステイタスについての欺瞞も、ロキが後押しした事で通りやすくなった。

 つまりある種の恩をライトに売ったとも言える。

 

 ロキが狡猾なのは、この点を恩に着せない所である。

 おそらくライトも理解した上での飄々とした態度であると見定めているからこそだが、だからこそあからさまに立ちまわるより、カードを切るべきタイミングの時に使う方が良いと言うのがロキの判断だ。

 フレイヤについてはとにかく外に本音を見せない事にかけては上手い為、ロキに同調したという態度を最後まで貫いている。

 元々物言いをつけたのはフレイヤの方が先なのだが、最終的にはロキが主導であるという風に持っていったのは流石としか言えないだろう。

 

 さてロキがライトを招集する際の貸しであるが、それは当然、タケミカヅチの一件だ。

 賠償金で済ませたロキに対し、彼はそれ以上の事をしないでやってくれと彼女に頼んだ。

 その事はライトの善意ではあるが、本来彼が口を挟める立場にはないのだ。

 ファミリア同士、神同士のやり取りなのだから。

 その横紙を破っての口出しを、ロキは貸しと言う形で許した。

 

 この場合はあからさまにライトに恩を着せた。

 それは経済界では名をあげているライトにマウントが取れる神と言うイメージを外に見せる事で、弱小ファミリアから金を巻き上げたという風評を有耶無耶に出来るからだ。

 ロキに正当性もあるが、ロキファミリアの様な大手はいつだって悪印象を持たれやすい。

 そう言う判断である。

 

 ただライトは個人的にはロキが気にいっている。

 ロキとしてもそうだ。

 個人的には好ましい相手、つまりウマが合うのだ。

 彼らの共通点は清濁併せ呑む事を良しとする柔軟さだ。

 勿論ロキは大手の主神としてのメンツは重んじる。

 ただ物事の判断基準は割と柔軟である。

 

 個人的を強調したのは、互いに利害が相反すればその限りでは無い点だ。

 特にライトは、ヘスティアをどれだけディスろうが気にはしない。

 だが傷つけた場合は一切の躊躇なく、例え相手が神だろうが容赦はしないだろう。

 

 ロキがライトに一目置く理由は、この前のイシュタルとフレイヤの抗争に関わる一部始終を把握した事で更に強くなったと言える。

 具体的には躊躇なくヘルメスを暴行した点だ。

 それはたまたまヘルメスだっただけで、状況がロキでも同じ目に遭うだろう。

 

 その危うさを知った事で彼との距離感をきちんと管理するべきと彼女は改めて確認したのだ。

 ライトの怖さは本人の実力もさることながら、その合理的な手腕だろう。

 対ファミリアなら、余計な戦闘をせず、最短距離で本丸、つまり主神を殺しにくる。

 その後どういう目に遭おうが、確実に殺すべき場所を確実に殺す。

 そのトリガーが彼の横で寝顔を晒すぽんこつ神だと思うと、ロキは溜息が出た。

 

「しっかし、アンタの愛娘じゃなきゃオレは関わりたくない部類のガキだな」

「ん? どういうこっちゃ」

「オレさ、素直な奴は好きだけど、考えもせずに回答を求めてくる奴って嫌いなんだよね。甘えんなって思う訳よ。でもまぁ、アイズはまだガキだもんなぁ。大人がそれ言っちゃダメか」

「せやで? アンタもはよ子供持ちーな。そしたらウチの気持ちがもーっと理解できるで?」

「そう言う顔をしているアンタを見ると、なるほど神ってすげえなとは思うわ」

 

 笑いながらロキがグラスを傾ける。

 酔いに身を任せ気だるげに。

 

 既に店はクローズしている。

 ミアが気を利かせてロキらの好きにさせているだけだ。

 なので店内には後片付けをする店員たちの姿がまばらにあるだけ。

 

 ライトが葉巻に火をつけながら、そろそろ帰るかねと思った時の事だ。

 

「……あんな、ライト。この先ウチらに何があるかは分らん。けどもし……いや、うん、まあホント、根拠はないんやけどな? なんかこう悪い予感がすんねん。だからな、こんな事たのむ義理はないのかもやねんけど、うちの子に何かあったらちょっとでええ。気回してくれへんやろか?」

 

 ロキがそんな事を言ったのは。

 ライトは深く煙を吸い込むと吐きだした。溜息の様に。

 そして頭をガシガシと掻くと、

 

「ほんとニシの人間って厚かましいわ。でもま、見るくらいはしとくよ……って、はぁ……」

 

 ロキは酔いつぶれていた。

 ほんと神様って好き勝手しすぎだよなと悪態をつく。

 

「リュー店員」

「はい、いかがされました、ライトさん」

「チップをやるから黄昏の館に人を寄越せと繋ぎをつけてくれる?」

「送っていってあげないのですか?」

「やだよ。あそこの連中嫉妬深いもん」

「ふふっ、ロキファミリア相手に子供扱いとは相変わらずで」

「当たり前だろ? オレ達守銭奴ヘスティア一家だぜ?」

「では行ってきますね」

「ありがと。オレはもう帰るけど、チップはシル……は駄目だ。ミア母さんに預けとく」

「えーー! 酷いですライトさん!」

「お前だと落としそうだからな」

 

 だが結局はガレスを伴ったリヴェリアが迎えに来るまでライトはそこにいて、そしてヘスティアを背負うと帰っていった。

 ロキの言葉が妙に頭に残るなとボヤきつつ。

 

 

 

 




そらたまにはマジめにもやるさ


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魔都にニンジャのスリケンを 序2

今週はこれで終わりじゃよ。
ここまで導入みたいなもんどえす


「え、普通に嫌だけど」

「いえ、強制任務ですから」

「マジで」

「マジです」

 

 日々仕事に勤しむ異世界リーマンことライト。

 とは言え彼はヘスティア一家の団長であり、社会的には責任のある立場であると認識されている。

 そんな彼は久しぶりにギルドに来ていた。

 ホームに手紙が届き、いついつ何時に出頭しろ的な事が書いてあったからだ。

 

 そして来てみればエイナによる強制任務発動の話である。

 ライトは寝耳に水とばかりにぽかんとするも、依頼内容を見て嫌になった。

 ダンジョンに潜ってヴィーヴルのレアアイテムを取って来いという内容だからだ。

 ギルドの上層部で何とかという王国との戦争を避けるための交渉材料、それに必要だとかなんとか。

 

 ならロキとかフレイヤのところみたいな大手に頼めよとライトは抵抗したが無駄だった。

 どっちも戦争になった際の予備役的なポジになってるから無理と言う理由だ。

 なるほど、一理ある。ライトはぐぬぬと唇を噛んだ。

 

 大手は人数も多いし平均的な戦闘能力も高い。

 それに大人数で深層を遠征出来ると言う事は、参謀役の能力も高いと言う証だ。

 つまり戦時には必要な能力という事になる。

 

 翻ってヘスティアファミリアはどうか。

 たしかにライトの能力は高い。

 ギルドも第一級冒険者と同格として認知している。

 一応ヘスティアファミリアの担当とも言えるエイナは不満そうだったが、トップダウンでライトの扱いに気をつけろと言われれば彼女にそれ以上言える事も無い。

 

 だがライトの他の団員は二人で、それも非戦闘員である。

 つまりライトが個人で動く分にはいいが、ファミリア全体で言えば零細も良いとこなのだ。

 けれども彼は一度、ヴィーヴルの討伐及びレアドロップの確保を成功させている。

 単純に実績があるのだ。

 

「けどよ、ウチの等級なんて底辺だろ? 目立った活動してないし。なら強制任務とか発生しないんじゃね?」

 

 ライトの言葉は正解だ。

 強制任務遠征とは、基本的にはギルドが定めるファミリアの等級がD以上、それも探索系に課せられるミッションである。

 故にそれを嫌ってレベルの偽証などもよくある話だ。

 なのでライトとしては功績も挙げないファミリア、しかも活動は金儲けばっかり。

 なら強制云々は適応外だと思うのは当然だろう。

 

「確かに等級D以上の探索系に発生する仕組みですが、ライト氏、あなたのファミリアの毎月の徴税額がおいくらか理解していますか?」

「いや知らんけどきっちり払ってるだろ?」

「ええ、それはもう。何せヘスティアファミリアの等級はAですから。格付けだけなら既に大手ですよ貴方たち」

「Aねえ。なるほど、なら高いのも頷ける……って、A?!」

「Aです。収支報告を確認すると、貴方の所、ぶっちぎりですよ? 稼ぐ以上に貯めこんでるでしょ。そんなファミリアを底辺に置いておくほどギルドは甘くないんですよライト氏」

「あー……なんかそんな書類見た気がするわ……」

 

 がっくりとうな垂れるライト。

 記憶の断片を辿ると、確かにギルドのエンブレム入りの豪華な封蝋がされた書類に記憶がある。

 それで一足飛びに等級Aになり、ヘスティアが目を白黒させていたのだ。

 

「ま、等級はいいけどオレ達探索系じゃないけど、そこは?」

「ファミリアは、ですね。ただ貴方という規格外な存在は、そう言うカテゴリーに縛られないとギルドは判断しています。ああ、そう。ウラノス様の言葉をそのまま伝えますね。”ライト、わかるな?”これで通じますでしょうか?」

「あーはいはい。承りましたよっと。喜んでー! とはいかんけどな」

「それは良かったです。報酬はドロップ品の評価額の5%ですが、ウラノス様より何か希望があるか聞く様に言われいますが如何なさいます?」

 

 要はライトの欺瞞を黙認している借りを返せとウラノスは言っている。

 そうなるとライトは強く出れない。

 既にファミリアを中心とした生活基盤が出来上がっているし、家族である連中も無下には出来ない。

 結局ライトは請け負った。

 だが理不尽だと思うのはまた別の話だ。

 だから、

 

「んじゃウラノスに言っといて。成功報酬はエイナ職員を一晩オレの好きにさせる事。じゃないと請け負わない。ファミリアガーとか脅すならオラリオから出ていってもいいんだがね? こっちは」

 

 悪どい笑みと共にエイナを睨みつけた。

 勿論本気ではない。

 ライトにとって堅物系女子は守備範囲外である。

 ただイラっと来たので意趣返しのつもりだった。

 だがエイナはライトが狙った反応の斜め上を行った。

 

「えっ、ちょ、それは、もしかしてライト氏からあんなことやこんなことをされ、あまつさえそんな事まで要求されながら”エイナよ、口では抵抗してもこっちは素直な様だな、うえっへっへ……”なんてされちゃうんですね……」

「ちょっと何言ってるか分からないです。正直ドン引きですわぁ……これだから婚期を逃したエルフは……その妄想力ゥですかね、気持ち悪いです。あっ(察し) それで大人の男なんて駄目よ! これからは穢れを知らない美少年の時代ね! とショタに走るのか。怖いな~とずまりすとこ」

「な、ななな何を言ってるんですかっ! ショタとか好きじゃないですっ!」

「まずショタって言葉は一般人には通じないんだよなぁ……お前さ、エイナさ、ソーマんとこで指名する相手、ユニセックス系小人族だルルォ!? こっちはあそことツーカーなんだよ!」

「あわわわわ……」

 

 そうしてライトは久しぶりにダンジョンに潜る事になったのである。

 因みにこの日は、暴走するエイナにドン引きし、そっとドアを閉じて静かに逃げ帰ったライトである。

 ついでに、この手の冗談をこいつに言うのはやめようと決意しながら。

 

 

 ☆

 

 

「リリ、弁当はー?」

「バッチリです! 今日はライト様が大好きな唐揚げをたっぷりいれましたよー!」

「いい子や……よしナデナデしてやろう」

「えへへ……」

「はい次、春姫の準備はどうだー?」

「はい、えっとルーンの杖に夢の竪琴、完璧ですっ!」

「ベネ。ハルもナデナデだー」

「キャー!」

「んじゃ行くぞ!」

「「おー!」」

「き、気をつけていくんだよ!? ほんとに。なんか既にゆるふわな雰囲気だけれども!」

「でぇじょうぶだ。オラに任せとけって」

「不安だぁ~……」

 

 行楽日和の青天の朝、竃の館では出発前のチェックを行う団員がいた。

 それを見送るヘスティアはおろおろしている。

 

 実はこれ、ダンジョンへの遠征前である。

 だがその雰囲気は完全に観光気分にしか見えない。

 そう、例の強制任務遠征の決行日が今日なのだ。

 

 ただライトはこう見えて過保護な男である。

 故に手持ちのアイテムから廃装備を彼女たちに装備させていた。

 防具はリリルカが【しろのローブ】、春姫が【くろのローブ】

 どちらも魔導士系装備で、見た目以上に物理・魔法防御力が高い。

 違いはしろが精神に補正がかかり、くろが知性に補正がかかる点か。

 

 腕は二人ともに【げんじのこて】があり、これは毒や石化を防ぐ。

 頭には可愛らしい【リボン】がある。

 ただその愛らしい見た目とは裏腹に、これは属性ダメージを半減し、カエルと小人以外のバッドステータスを無効にする。

 この世界にカエルや小人の状態異常が存在しない為、実質起こりうるバッドステータスの全てをこれでシャットアウト出来る。

 

 そしてリリルカはスキルを活かして【トールハンマー】を持ち、春姫は非力だが魔法に素質があると言う事で、【ルーンの杖】と【夢の竪琴】を持っている。

 【トールハンマー】はそのまま鈍器として使っても優秀だが、ノーリスクでサンダラを使える。

 【ルーンの杖】はブリザガが使え、【夢の竪琴】をかきならせば敵は睡眠状態に。

 実質ダンジョンルーキーに等しい二人に持たせるにしても、かなりの過保護っぷりだ。

 

 ヴィーヴルが目的ではあるが、現地は中層でありそこそこ敵も強い。

 さらに階層主に出会う可能性もある。

 なのでライトは、せっかく潜るんだし、ついでにお前らのレベリングもするかって流れになった。

 MMO等の廃人プレイヤーが、ギルメンの養殖レベリングをするのと完全に一致している。 

 

 あまつさえライトは、リリルカのリュックの中に、大量の魔法スクロール系アイテムに大量のエリクサーを入れている。

 その中にはデスの魔法を発動する物も含まれており、過剰な戦力とも言えるだろう。

 とは言え、探索メインでは無いファミリアなので、行ける機会を効率的に活かそうというだけだ。

 

 そうしてバベルに向かった一向。

 エイナにも一応これから行くからと許可を貰い、地下へと向かう。

 その際にすれ違った冒険者たちはひそひそと噂をする。

 

 ────死ねやハーレム野郎

 ────合法ロリに狐耳とか万死に値する

 ────通報しますた

 ────あれが†外道乱舞†……名前に負けない外道っぷりよ

 

「なんかすげえ注目されてるな。参っちゃうね人気者ってサ」

「流石ですライト様っ! 略してさすらい!」

「おーサムライみたいでかっこええやん……」

「いや違いますから、10割罵倒でしたからっ!」

 

 その後大穴に飛び込んだ一行だったが、運が悪い事に17階層で階層主ゴライアスに遭遇。

 リリルカは青ざめたが、ライトはポムっと手を打つと、良い笑顔で笑った。

 

「お前ら、殺れ」

 

 クイッっと首を掻き切るゼスチャーと共に。

 

「ふえぇ……あ、あれは無理ですライト様っ、すごくおっきいですよ?!」

「ライト様、殺す気ですか!」

 

 慌てる春姫だが、リリルカはさらに怯える。

 勘の良い読者ならピンと来ただろうが、リリルカがまだコソ泥時代、彼女はライトの洗礼を受けているのだ。

 因みにこの時の行動が偉業扱いされたのか、ソーマからヘスティアに改宗した際に、彼女のレベルは2になっていた。

 その後、彼女に与えられた二つ名は【腹黒少女】(ブラック・アイドル)であった。不憫すぎる。

 故に彼女はレベルアップに喜ぶよりもむしろ、不名誉な二つ名が拡散しない様に小物ムーブを続けているのだ。

 

 だが真の男女平等を提唱するライトにそれは通用しなかった。

 特に冒険者ともなれば、恩恵により性別間の差は小さい。

 故にライトは心を鬼にして彼女達に言った。

 

「無理というのはね、嘘吐きの言葉なんだよ。途中で止めてしまうから無理になる」

「で、でも死んじゃったら元も子もないんじゃ……」

「だまらっしゃい! 鼻血を出そうがブッ倒れようが、とにかく全力でやるんだ。そうすれば無理と言う言葉が嘘になるっ。さあ行け、お前たちなら出来る出来るっ! 諦めんなよっ!」

 

 二人は泣きながら吶喊した。

 立体機動装置も無いのに頑張った。

 リリルカが目を血走らせてゴライアスの足の小指にトールハンマーを叩きつけ、もんどりうったゴライアスが倒れた所に春姫のブリザガが股間に炸裂。

 

 すかさず春姫は夢の竪琴をかきならした。

 これは失敗したら死ぬ。

 春姫は生まれて初めて死の恐怖、本当の意味での世界を知った。

 自分はなんて安全な場所にいたのか……。

 

 ────鬼! 悪魔! ライト!

 

 二人の心はシンクロした。

 春姫の竪琴プレイは激しさを増す!

 ポロロンでは無い! 

 高速のダウンピッキングで弦をかき鳴らすスラッシュメタルのギタリストの様だ!

 結果、憐れゴライアスは深い深い睡眠を喰らい、乙女二人による執拗なタコ殴りで昇天した。

 見ていたライトのタマがヒュンってなった!

 

 こうしてレベル1と2、かつほぼルーキーの少女二人による偉業は成された。

 肩で息をしながら健闘を讃え合う二人に満面の笑みでサムズアップするライト。

 こうしてヘスティアファミリアの歴史がまた1ページ────なんて事はなく、二人の無言の腹パンで崩れ落ちたライトである。

 そう、彼女たちは惚れた男ならなんでも許す系女子ではないのだ!

 

 そして彼らは18階層。

 通称『迷宮の楽園』(アンダーリゾート)、一応安全階層とされる地点になる。

 広大な自然に天井ではクリスタルが太陽の様に地上を照らす。

 中央には一際大きな水晶の塊が鎮座している。

 

 ここは森林と巨大な湿地があり、西側にある湖の島ではリヴィラという街すらある。

 地下空間にこんなものがある時点でおかしな話なのだが、だからこそダンジョンなのだろう。

 リヴィラは冒険者の冒険者による街であり、中層や深層への大規模遠征の時には第一キャンプという扱いになるだろうか。

 

 故にここで売られる商品も、宿泊費や食事代も高額だ。

 本来の相場とはあまりにかけ離れた。

 だが場所が場所だけに仕方ないだろう。

 例えるなら映画館の缶ジュースの価格や、スキー場などのカレーの値段が2千円するのと同じ事である。

 

 さてライト一行だが、ヴィーヴルと遭遇出来るポイントである19~24層に向かう前にキャンプをする事にした。

 ゴライアスに二人を嗾けて怒られたのでご機嫌取りをと思ったらしい。

 リリルカのリュックには遠征用の天幕なんかも入れてあるし、実はライトの”持ち物”の中にも生鮮食品が色々詰まっている。

 

 ならボッタたくりな街で休むより、キャンプしてBBQしようぜ! というのがライトの計画である。

 これにはリリルカと春姫もテンションが上がった。

 完全にこいつら、バカンスを楽しんでいるだけである。

 それにライトがうっすらと思い出した原作知識の結果、リヴィラにいるヤクザみたいな連中と関わりたくないとの判断だ。

 

 そしてあまり人が来なさそうな湖の湖畔にやってきたライト達。

 彼らは素早く大きな天幕を張ると、満面の笑みで服を投げ捨てた。

 そして産まれたままの姿で「ヒャッハー!」等と奇声をあげながら勢いよく湖に飛び込んだ。

 当然水着なんて便利な物はそもそもないのだ。

 だがしかし、

 

「うほっ、冷てえええええええっ」

「はぁはぅあっ…………」

「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛……」

 

 完全にバカである。顔面崩壊させて叫んだ。

 準備体操も無しに飛び込んだ結果、全員唇を青くしたまま身体を抱いて震えている。  

 構図的にはヌーディストビーチで戯れる男女の筈が色気の欠片も無い。

 そう、ダンジョン内の湖は水温が低いのである。

 それでも貴重な水源であるから、冒険者たちが水浴びに利用するのだ。

 

「ライト様暖かいです……」

「リリもリリもっ!」

「おまっ、いきなり抱きつくなって、うおっ、足攣ってる、いてててて……」

 

 結果、間近にいたライトに二人とも抱きついた。

 そら人肌は暖かいに決まっている。

 だがあまりの寒さで二人は見事なお山でライトの腕を挟むようにし、足は完全になんとかホールドの様に絡みついている。とにかく晒している肌の面積を、ライトの肌に当てねば死ぬって勢いだ。

 その結果、不幸にもライトの足が攣り、激痛に顔を顰めながら、阿修羅の様な形相で二人を抱えたまま湖畔に飛び出した。

 

「…………死ぬかと思ったぜ」

 

 結局水泳は禁止になり、彼らは焚火を燃して暖を取った。

 素肌にそれぞれローブを纏って。それ高級装備なんだぜと呆れるライトだが、自分はニンジャである。

 

 そして人心地が付いた一同は”携帯竃ヘスティアちゃん”を取りだし、BBQへと突入したのである。

 因みに”携帯竃ヘスティアちゃん”は、ぶっちゃけると地球ではあまり珍しくもないアイテムだ。

 夏場の行楽シーズンではホームセンターに山と積まれている七輪である。少しサイズは大きいが。

 これはライトが「もしかして売れないかしら?」と試作したが、結構重いのでまずは自分で使ってみようと持ち込んだのだ。

 

「この炭焼きって最高ですね。香ばしい匂いがたまりませんよ」

「せやろ」

「リリルカさん、それだけじゃないですよ。このタレが凄いんですっ。甘辛くて、でも病みつきになりますっ」

「せやろ。それデメテルんとこが開発した”デメテルのたれ”だ。こうして野外での料理に最適だし、実はどんな料理にも大概合うぞ」

 

 皆が食べているのはジュージュー苑のメニューと同じ、一口サイズにカットされたお肉である。

 こいつら誰も野菜を食べようとはしない。肉オンリーである。

 まさに肉食系女子。

 どれだけライトが普段イキろうと、最終的に尻に敷かれているのだ。

 

 しかし最近のデメテル。本当に商魂逞し過ぎる。

 このデメテルのたれのラベルには、満面の笑みの彼女の姿がある。

 まるですし〇んまいの社長なみに全面に出ていくスタイルだ。

 

「ふわぁ……気持ちがいいですねぇ」

「凄いなマジで。あんなに光ってたクリスタルが消えたぞ。ダンジョンなんでもありだな」

「ライト様くすぐったいですぅ……」

「お前が乗っかってくるから悪い。尻尾くらい触らせなあ!」

「キャー! 耳も駄目なんです破廉恥ですっ!」

「良いではないか良いではないか!」

 

 散々飲んで食べた一行は、湖畔にシートを敷いて川の字になって寝ていた。

 クリスタルの天井が色褪せていく幻想的な景色を特等席で見ようという趣向らしい。

 と言っても仰向けに眠るライトに春姫は抱きつく様に乗っているが。

 彼女は尻尾があるので仰向けがあまり得意ではないのだ。

 

 そんな春姫の尻尾や耳をモフるライト。

 身をよじる春姫だが嫌がっている風でも無い。

 そんな戯れに嫉妬したリリルカがシンダー・エラで犬人に化けると、ほら触れと猛烈アピール。

 

「むっ、エロ狐ばっかりずるいですっ! ライト様、リリの耳、空いてますよ?」

「ようしならモフってやろう。おりゃおりゃ」

「キャー! ライト様のエッチ!」

 

 何というマッチポンプな誘い受けなのか。茶番にも程がある。

 さて地上で彼らの身を案ずるヘスティアはこの光景を見てどう思うのだろう。

 恐らく地団太を踏んでキミたちばかりズルイと憤慨するだろう。

 だがしかし、ダンジョンで神威を発動させて余計なイベントを起こす愚など勘弁と彼は絶対にダンジョンへは入れる気は無いのだ。

 

 因みに彼の過保護っぷりは凄まじい。

 なにせ自分たちがいない間、ヘスティアに何かあっては困ると、ナァーザにかなりの小遣いを握らせ、竃の館にミアハとナァーザが寝泊まりしているのだから。

 ミアハは金銭のやり取りがあった事は知らない。

 全てはナァーザの懐の中である。

 

「静かだなあ……たまにはこんな日もいいかもな」

「ええ、来てよかったです。でもゴライアスはもう勘弁してくださいね……」

 

 ライトがすっかり暗くなった天井を見上げて呟いた。

 そんな彼に横にいたリリルカは頬を膨らませて脇腹を突く。

 春姫は今日がよっぽど楽しかったのか、疲れて寝てしまったので既に天幕の中だ。

 

「ま、ヤバかったら助けるつもりではいたけどな。でもオレは信じていたよ。それに、オレのおまけみたいに見られるの、気にしてたろ?」

「うーズルい言い方です。……でも知ってたんですか?」

「ま、オレにも多少はお前の気持ちが分るからな。それにお前はただ男にぶら下がって満足するタマじゃないだろ。今まで必死に生き足掻いて来たんだ。そのプライドは尊敬している」

 

 リリルカは少し肩を震わせると、表情を隠す様にライトの胸に顔を埋めた。

 

「愛してますライト様。ずっとお傍にいさせてください……」

 

 そう呟いたリリルカを顔を上げさせたライトは、涙顔の彼女の唇に自分のを重ねる。

 

「嫌がったって離さねえよ」

「ふふっ、でも神様も春姫さんも、それにティオナさんもみんな好きな癖に」

「オレは情に弱いからな。クズって言われても全員幸せにしたいんだ」

「憎たらしい人です。ふふっ、でもリリが一番になるからいーんです!」

「やっぱりお前は逞しいわ。だから好きなんだよ」

「やっと言葉で聞けました……」

「恥ずかしいんだよマジで。ここまで長~い葛藤があったんだっての。オレの中の人的にこれは倫理的にアリなのか否かとかだな……」

「何も言わないで下さい。リリは幸せなのですから。それより────」

 

 そして二人の影が一つになった。

 静かで、暖かい、そんな恋人たちのひととき。

 だがそれは、彼らの日常に好ましくない変化が訪れる前触れでしか無かったのである。

 

 

 




春姫「それでじゃあ愛するヘスティアファミリアの家族の皆さん行きますよ!」
観客『ウオオオオオオオオオオオオオオッ!!!』
春姫「貴方たちならわかりますね。あの3つの言葉で始めます。そう、SEEKッANDッ────」
観客『DESTROOOOOOOOOOOOOYッ!!!』
春姫「ALRIGHT」デスボ

お好み焼きラーを経て、カレーラーを経て、メタラーに至った春姫


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魔都にニンジャのスリケンを 破1

のんびり進行でおなしゃす


「リリが受けますので春姫さんは魔法で牽制をっ!」

 

 そう叫んだリリルカが小柄な体躯を生かして突進し、ホブゴブリンの腹部にトールハンマーをフルスイングする。

 するとさしものホブゴブリンが怯んだ。

 分厚い皮に覆われた肌が波打ち、苦悶の悲鳴をあげる。

 

「了解ですっ! ええい、ブリザガッ!」

 

 既に春姫は準備を終えていた。

 彼女の腰からは発光する半透明の尾が3尾。

 つまり3発のブリザガをチャージ済みなのだ。

 そしてワンフレーズの詠唱とも言えない号令により、氷の濁流が唸りをあげてそこに集まっているホブゴブリン達を全て巻き込んだ。

 見れば下半身が凍っている。

 

「くうっ、危なかったです。フレンドリーファイヤが一番怖いってどういうことですか……でも、これで終わりです。うりゃー!」

 

 リリルカはホブゴブリンの身体を三角跳びの様に駆け上がり、既に上空にいた。

 眼下には春姫が展開した氷河が見える。

 彼女は身体を捻じる様に動かしてトールハンマーを構え、そして重さで落下する力を利用したまま、氷河に向かって一撃。

 それと共に「サンダラ」が解放され、結果氷を伝った雷がホブゴブリンを一網打尽した。

 

「やりましたっ! 春姫さんもタイミングが完璧でしたねっ!」

「えへへ、結構気持ちよかったですっ!」

 

 乙女二人が満面の笑みでハイタッチ。

 そしてそのまま魔石やドロップ品の回収に走る。

 そんな二人を微笑ましく見守るのは我らが汚い忍者ことライトである。

 

 18階層で一夜を明かした一行は、キャンプを撤収すると中央部へと向かい、19階層へと進んだ。

 ここから大樹の迷宮と呼ばれ、毒等の状態異常を与えてくる難所と言われている。

 ただライトは彼女たちに【リボン】を与えており、その辺は完封できる。

 

 だがバグベアーやマンモス・フールと言った大型モンスターは、体格的に不利であるからして、中々にてこずった。

 というのも昨日のゴライアスに続き、基本的にライトは見に徹していたからだ。

 出来れば二人をレベルアップとまではいかなくとも、ステイタスの大幅な上昇をさせたい。

 それ故の判断である。

 

 ステイタスの伸びは、本人の資質もあるが、前提としてそれに見合った行動を取らねば伸びない。

 つまり魔法系の後衛が、延々と魔法を撃っていても魔力などは伸びても耐久や敏捷は伸びないのだ。

 基礎アビリティ、或いは発展アビリティはそれにちなんだ行動をして伸ばし、レベルアップする際も、限界まで研鑽してからの方が強い。

 

 アビリティの数値はレベルアップでリセットされるが、それはあくまでもレベルごとに表記されているからでしかなく、実際は前のレベルで積み重なったアビリティの値は存在し、そこに上乗せされているという表現が一番近いだろう。

 

 ただ資質の問題とはつまり、上限値があるという意味である。

 なので序盤の伸びはよくとも、いずれそれはゆっくりとなり、上限を迎えた数値はそこで止まる。

 故に1から2に上がっただけでも凄いのだ。

 レベル1のまま数年経っても変わらない者もいるのだ。

 

 レベルアップ自体はアビリティの等級がひとつでもDになれば出来る。

 ただ上記の意味で考えれば、リセットした段階で、まだ伸びる余地のあった部分が切り捨てられる事を思えば、かなりデリケートな判断が必要だろう。

 

 ただライトとしては常に皆と居れる保証はない為、せめて自衛が出来る程度の基礎能力を彼女たちに与えたいのだ。

 リリルカも前衛のみにならず、春姫も後衛だけの固定砲台にならず、二人で考え色々な立ち回りをする。

 そうなれば伸び辛い数値も多少はマシだろうとライトは思ったのだ。

 その結果、少々スパルタにならざるを得ず、そこは心苦しく────なんて事はなく、彼は嬉々として彼女達を追いこんでいた。とんだクソ外道である。

 別にテルモピュライで大軍と戦う訳でもないというのに。

 

 ただリリルカも春姫も割とノリノリである。

 春姫は単純に外の世界をあまり知らなかった事で、どんな事も新鮮に思えるのだ。

 リリルカの場合は、ソーマファミリア時代、自分は役立たずだと繰り返し刷り込まれ、結果冒険者を憎んできたが、ライトが別の方向性を与えた事で、戦える様になった。

 よって彼女は今、歓喜の渦に包まれている。

 

 憎むと言う事は、嫉妬をしているのと同義だ。

 本当に興味が無いなら無関心でいられるのだから。

 つまり自分が出来ないふがいなさがそこにある訳で、そのハードルを越えられた今、彼女は漸く過去の呪縛から解き放たれた。

 なのでいま彼女が思うのは、ライトの武器があってこそではあるが、冒険者リリルカアーデとしてどこまでやれるのか? その事である。

 

 面白いのは彼女には参謀役としての素質があるという事だ。

 それもまた彼女の生い立ちに関わる事だろうが、要は自分の身の安全を確保する為に、狡猾な相手の中で立ちまわる術を素早く判断し、それを実行する事で彼女は自分を守ってきた。

 これをダンジョンに置き換えるなら、自分らの生命の確保と、敵の殲滅を同時にやるという事であり、今までは出来なかった敵から身を守るための手段に、攻撃を加えるというオプションが取れる事で、要はフィンの様な役割が彼女に出来ると言う事だ。

 

 ライトはそんな二人を見てて思う。

 これあれだな……リリに任せてオレが言う通り動いた方が効率よくね? と。

 団長の威厳ガーとか彼にはどうでもいいのだ正直。

 極論、楽しければ満足なのがライトである。

 

「しっかし出てこねえなあ……ヴィーヴルよ」

 

 ライトがぼやきつつ肉を焼いている。

 携帯用ヘスティアちゃんはとても便利なのだ。

 と言ってもサボりつつも視線は戦闘を繰り返すリリルカ達に向いている。

 

 彼女らが戦っているのは食糧庫にほど近い広場だ。

 このエリアはまるで巨大な樹木の中の様な景色が続くが、退避用の柱がある位置をリリルカが選んだ。

 食糧庫に群がるモンスターを確認し、ライトが別に渡した【与一の弓】と【与一の矢】で背後に撃ちこみ、数匹ずつ釣りだして安全に倒しているのだ。

 

 ヴィーヴルが現れる、または手に負えない程のモンスターが沸いた時、ライトが加勢に入る手はずになっている。

 ライトとリリルカの昨日の逢瀬以降、リリルカは強い意思を持って力をつける事を選んだ。

 互いの胸の内を明かした事で楽になったのだろう。

 

 リリルカは春姫が起きてくると同じように自分の事情と今の心持ちを話し、ライトの為でもあるが、自分の為に強くなりたいので協力してほしいと告白する。

 それを聞いていた春姫もまた、己の流され続けて来た人生を思えば、貴方が羨ましいと告白し、自分も自分の意思で強くなりたい。だから協力します。でも貴方には負けませんと宣言し、二人でギラギラした笑みを浮かべながらギウウウウウウウっと凄い音がしそうなシェイクハンドをしていた。

 ついでにライトの胃がギウウウウウウウウってなった。

 これによりリリ&ハルのペアが産まれたのだ!

 

「まあ、それもまたよしってか。おっ、そろそろタンがいい感じだな。うほっ、キンッキンに冷えたビール欲しいなあ……ってなんだお前」

「………………」

 

 ライトが美味そうに肉汁豊富なタンをパクリとやったその時、彼の視界に変な物が映った。

 白っぽい髪に白い肌。目は黄色というか金色。額に角の様な物がある。

 それがライトの横にいたのだ。

 

「なに? 腹減ってんの?」

「………………うン」

「お前、ボロッボロやんけ。痛くないの?」

「………………痛イ」

「あ、そう。って全裸やん。うーん、取りあえずメシの前にこれ飲んどけ」

「…………ナに?」

「飲めばわかるから飲め」

「………………ウん」

 

 ライトからするとDVを受けた幼女にしか見えなかった。

 なので持ち物からエリクサーを取り出すと飲ませた。

 初めはきょとんとしていたが、幼女は結局は飲んだ。

 

「…………痛クなイ」

「ええやん。んじゃメシ食うか。箸はつかえんか……んじゃこっちこい」

「………………」

「ええから、痛い事しないからこっちこい」

「…………うン」

 

 事案発生である。

 全裸の幼女を近寄らせると予備の白のローブを着せ、ライトはあぐらをかいた自分の膝の上に幼女を座らせる。

 ローブのみ、つまりぱんつはいてない幼女をだ。

 

「ほら、あーん」

「あーン……オイしイ」

「せやろ? いい肉だからな。ほら好きなだけ喰え」

「……食ベル」

 

 こうして謎の幼女の餌付けが開始された。

 ライトが焼いて口元に持っていくとパクリと食べる。

 基本は無表情なのだが、肉を食べると少しだけ笑う。

 いつしかライトの中に言い知れぬ気持ちが沸いて来た。

 

「…………はぁ。いやーヴィーヴルが出るとは思いませんでしたよ! ま、どうにか倒しましたけどね!」

「ですね。ただ素晴らしい連携だったと思います。それよりお腹がすきました」

「リリもペコペコです。ライト様、涙と爪がとれました……よ?」

「ライト様?」

 

 ひと段落したのかリリルカ達が戻ってきた。

 それもヴィーヴルを仕留めたという。

 そう誇らしげに語りながらやってきた二人の目に飛び込んできたのはまさかの光景だった。

 

「お、やったやん。ならもう帰ってもいいな。なーシロ!」

「…………うン」

「帰ったら一緒にお風呂はいろな? シロの身体くちゃいくちゃいだからな」

「……痛クなイ?」

「バカヤロウ、オレが可愛いシロに痛い事するかよ! ってリリ達も帰って来たか。聞いてくれお前ら、今日からオレ、この子のパパになるからっ!」

 

 無表情の白い幼女を抱き上げ、プラーンプラーンと前に掲げながら満面の笑みでライトはそう言った。

 

「「えええええええええええええええええええええええええッ!!!?」」

 

 二人の絶叫が24階層に響いたのである。

 

 

 ☆

 

 

「ライト君、元の場所にかえしてくるんだよっ!」

「えー……可哀想やん」

「ライト様、でもその子、多分ヴィーヴルですよ」

「何だか可哀想ですね……」

 

 無事レアアイテムをゲットしたヘスティア一家だが、ホームに帰ってきたライト達をニコニコと出迎えたヘスティアが急にキレだした。

 それはライトが肩車をしている幼女の存在のせいだ。

 

「神様よー、それでいいのか! こいつはモンスターかもだけど幼女だぞ?」

「むむむっ、でもみんな怖がると思うよ?」

「まあそれはそうだな」

 

 とは言え言葉程深刻そうな風でも無いライト。

 リリルカ達は困ったような顔をしているが。

 

 実はライトが安直にシロと飼い犬の様な名前を与えた幼女だが、24階層の帰り道にライト達が歩いているのを見て、「…………モっとハやくするヨ」と言い、ヴィーヴルに変身したのだ。

 ライトは「おー凄いやん。ほな背中乗るわ」と普通に受け入れていたが、これにはリリルカが慌てた。

 これ見られたらヤバいやつですって的な。

 

 そっかーと一応は納得したライトはシロに向かって「人に見られたらめっちゃヤバいから、お前幼女のままでいろ。できるか?」と言い放った。

 するとシロは「ラいト……ごハンクれルいいヒト」と言う事を聞いた。

 結果、肩車をして帰ってきたのだ。

 

「神様よ」

 

 そしてライトはズイっとヘスティアに詰め寄る。

 ライトのメンポの中の目が光る。

 

「な、なんだいっ、ぼ、ボクはファミリアの主神として屈しないぞ!」

「これからシロがセーフって事を証明してやる」

「出来るのかい!」

「ああ」

 

 ライトはニヤリと不敵な笑みを浮かべた。

 そして部屋着であるメイド服に着替えた春姫をズビシッ! と指をさして叫ぶ!

 

「ハル、オレにお前の素敵なおしりを見せてくれっ!!」

「「「えっ」」」

 

 唖然とする一同。

 その反応は正しい。

 まだ昼間である。なのに尻を見せろとは正気とは思えない。

 だが、

 

「…………ハル」

「あっ、ライト様……ち、近いですけど……は、破廉恥ではないでしょうか……はわぁ」

 

 ライト、まさかの壁ドンである。

 因みにここはホームで一番広いだろう場所、リビングである。

 日本風に言うならおよそ30畳ほどになるだろうか?

 中央にある巨大な応接セットがあろうが、それでも充分に広い。

 

 ライトは皆に向かってちょっと待てと言い、春姫の手を引くと壁際までのそのそと歩き、よいしょと春姫を壁に触れさせると、ちょいちょいとヘスティア達を手招きした。

 皆が集まった所で改めて壁ドンである。

 酷い茶番だ。

 

「可愛い可愛い春姫よ」

「はわぁ……」

「ちょっとライト様ッ!」

「可愛い春姫および可愛いリリルカ、閑話休題、春姫よ、オレは今、お前の尻が見たいんだ、いいな?」

「わ、わかりましたっ。は、恥ずかしいけど頑張りますっ」

((えっ、それでいいの?!))

 

 更に茶番を挟みつつ春姫は堕ちた。

 顔を真っ赤に染め、耳をピーンとさせつつ、彼女は後ろを向くと、チラチラとライトを見ながら、ゆっくりと下着をおろし、そしてギューっと目を瞑ったまま、メイド服のスカートをたくし上げた。

 

「おらお前ら見ろ、何が見える!!」

「いや、綺麗なおしりだけど……」

 

 ヘスティアまさかのマジレスである。

 

「カーッ! これだからチミはポンコツ神って言われるんだよ……」

「な、なにをー!!」

 

 やれやれだぜとライトはアメリカ人みたいなゼスチャーで溜息をつく。

 ハットオフって感じの身振りがイラっとする。

 

「違う。ぜーんぜん違う。たしかにハルの尻は綺麗だ。ほらこことか!」

「ひゃんっ!?」

「え、ライト様、何故撫でたんです?!」

「まあ、ノリだ。いやそうじゃなくて、ここを見ろぉ!! ココッ!」

 

 ココッ! マダガスカルッ!! とでも言いそうな勢いでライトはとある一点を指さした。

 

「尻尾ですか?」

「正解だリリ。ポンコツ神と違って目の付け所がリリだな」

「えへへ……」

 

 改めて整理して見てみよう。

 春姫が目を瞑り、壁に片手をつき、もう片方の手でスカートを自ら捲り上げている。

 ふんだんにレースがあしらわれたピンク色の下着は膝で止まっており、つまり尻尾も尻も丸出し。

 当の本人は恥辱に頬を染めながらプルプル震えている。

 

「ボクがポンコツかどうかはさておき、だからどういう事なんだい?」

「はぁ……まだ分らぬかこのたわけめ。ここにこんな見事な尻尾はえとるやんけ」

「んんっ? まあそうだけどさ。だからなんだい?」

「いや、なんつーか。オレからすればこのシロと春姫、あとはロキんとこのベートとかの区別つかねーんだが」

「「「はぁ!?」」」

 

 ライトがあんまりな暴言を吐いた。

 さしもの春姫も若干怒りをにじませる。

 

「まー落ち着け。オレって言う人間、ヒューマンだっけ? から見りゃハルみたいに尻尾や耳が生えてるだけで普通とは違うって思える訳。で、もしだぞ? ハルみたいなのじゃ無くて、耳生やした奴が問答無用で襲ってきたらどうする? 普通は怖いし躊躇なくやり返すだろう? いやー逆に獣人から見りゃヒューマンもエルフも別の生き物やんけ。さらに言えば神様なんつーのも普通に闊歩してるんだ。んじゃ聞くが、言葉も何とか話せて、オレの言う事を聞く、ヴィーヴルらしい幼女が明らかに友好的な場合、オレはどんな風に振舞うのが正解なんだろうな?」

 

 この時のライトは真顔だった。

 むしろ心底不思議そうな、略してSF顔で皆を見ている。

 

「さらに言うとさ、こんだけ深いダンジョンに、アホみたいな種類のモンスターがいてだ。幼女化するヒトモドキのモンスターって他にいない訳? このシロだけが特別なのか?」

「……今までそう言った話は聞いた事が無いですね。あくまでリリの知っている範囲では」

「そっか。神様は新参神だし、その辺の事情は疎いだろうし、ハルはまあもっと知らんよな。するってーとリリの意見を参考にすればシロは異常な訳だ。でもだぞ? こいつ一人しかいないって方がおかしくね? そんな生命の奇跡みたいな瞬間が都合よくオレらが見かける? そっちのがありえんだろ。あ、ハルはもうパンツ履いていいぞ。ありがとな? 綺麗だったぜおしり」

「うううっ……」

 

 ただライトの意見は皆を無言にさせた。

 それぞれ考え込んでいる様だ。

 

 ライトの考えは別に突飛でも無い。

 ここが自分の読んだ事のある小説に準拠した世界だとは知っている。

 けどライトはもうその事をあまり重要視していない。というか出来ない。

 いくら前に読んだ事があるとして、そこまで正確に覚えていられるはずもないのだ。

 時系列を把握し、この時こんな事が起こる。なら原因はここだからこう立ちまわる。

 そんな事が出来るなら楽だろう。

 

 だが実際はどうか。

 ライトからすればここはただの異世界だ。

 そう思うようになったのは、ここで生活する住人となったからだ。

 例の神様に押し付けられた能力は確かにアドバンテージだろう。

 だからと言って日々戦いに明け暮れる必要はないし、時間の殆どは地球と変わらない日常があるのだ。

 

 生活をするには金が要る。

 どうせなら多い方が色々できて嬉しい。

 だから稼ぐ。そこまではいい。

 だが物語として描写をするにたえない行動。

 例えば睡眠。顔を洗い歯を磨き、身支度をし、仕事をする。

 仕事中には様々な相手と会話もする。

 

 仕事が終わり家族と飯を食い、晩酌をする。

 その時の会話は盛り上がったり、淡々としていたり。

 そしてまたベッドに入り眠る。

 また次の朝がやってくる。

 

 一年のうち、ほとんどがこれに該当する。

 これは地球でもオラリオでも変わらない。

 確かに非日常な出来事はおき、それらは印象深いだろう。

 けれど割合とすればほんの5%にも満たない時間でしかない。

 

 となれば日々の当たり前の生活に意識は埋没していく。

 それが住人になるという事だ。

 だからこそ原作云々なんてものは、実際起きてみて初めて”あ、アレか”と気付く程度だ。

 ましてこのシロの事が原作に関わっているなどつゆほど思ってもいないライトだ。

 

 そんな意識で改めてオラリオを考えてみる。

 獣人、ドワーフ、エルフ。それに神様。

 ライトにとっての地球での常識は、肌の色が違っても結局は人間だった。

 ならここで出会ったヒト以外の種族たち。

 ここではそれが当然だとしても、獣人と友好的なモンスターの違いは何かは理解できないのだ。

 

 シロはヴィーヴルだ。

 ライトが倒した事もあり、リリルカ達も倒した。

 だがシロを殺そうとは思わない。

 何故なら友好的だからだ。

 

 ライトは理解している。

 おそらくこれはオラリオの秩序から反しているのだろう。

 けれど自身が納得できないなら、殺せる気はしない。

 シロに角が生えている。

 春姫には尻尾と耳が生えている。

 じゃどこに差があるのか。

 それが分らない。

 

「悪いけどオレ、こいつの事を返す気も殺す気もねーぞ。ミッションの報告と提出があるから明日ギルドに行くが、この事をそのまま叩きつけるつもりだ」

「それでキミが思う結果にならなかったら?」

「……そうなってみないと何とも言えないが、オレ個人としては、このオラリオという集団に失望するだけだ」

 

 そう言ってライトはシロを連れて地下の自室に戻った。

 後に残ったのは何とも言えない苦味だけである。

 ヘスティアもリリルカも、何かを考えるように黙り込み、静かにソファーに背中を預けた。

 

 一人立ち尽くす春姫。

 希少だと言われる狐人。

 故に自分は父親に売られた。

 だからこそ春姫の中でライトの言葉が妙に気になった。

 

「そう言えば……」

「どうしたんだい春姫君」

「いえ、あの、獣人である事を確かめるなら、別に耳でも良かったんじゃ」

「「………………」」

 

 後に残ったのは何とも言えない苦(ry




・春姫にインタビュー


ライト「緊張してる?」
春姫「は、はいっ……えっと、この部屋綺麗ですね」
ライト「せっかくの撮影だからね。キミ可愛いし奮発したよ」
春姫「えーwww ホントかなぁwww」
ライト「えっと何歳?」
春姫「16歳です」
ライト「うっそだーwww すげえ大人っぽいじゃん。スタイルもいいし」
春姫「ホントですよーwww スタイルとか良くないですってっ!」
ライト「いやいやいやwww オレもう結構アレな感じだし。それでスタイル良くないとかありえないから」
春姫「ほ、ホントかなーwwお兄さんイケメンだし誰にでも言ってそう」
ライト「そんな事無いよ。あ、そろそろ違う絵が欲しいし、ベッドで続きしよっか?」
春姫「えー、ベッドでー? どうしよっかな……」
ライト「あらー? 小悪魔発動しちゃってるんだけど」
みたいな


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魔都にニンジャのスリケンを 破2

色々仕込みの会なので話はそれほど動いていない


「…………シーッだぞシロ」

「うン」

 

 草木も眠るウシミツアワー。

 静寂に包まれる竃の館に赤きニンジャの影があった。

 いやライトである。

 

 いつものニンジャスーツにメンポ。

 だがホームであるのに周囲を気にしている。

 そんな彼の肩にはドラ娘シロがおり、目をキラキラさせてライトの頭にしがみ付いていた。

 

 シロはライトに拾われてそれほど経っていないが、すっかり懐いている。

 ご飯をくれるし、温かいお風呂で綺麗にしてくれた。

 さらに生まれ落ちてそれほど経っていない時に優しくされた事で、彼に対し親の様な感情を抱いている。

 インプリンティング────そう、刷り込み効果である。

 

 ドラ娘であるシロの本質はモンスターであるが、それがどういう訳か高い知性を持ってしまった。

 ただ普通の獣人とは違い、その行動規範は本能よりの物になる。

 さて自然界における野生動物の事を思い出して貰いたい。

 

 過酷な環境で生きる野生動物の生きる目的は何か。

 それは次世代に子孫を残すという事に尽きる。

 感情の有無は関係無い。無意識にそう言う行動をとる。

 だからこそ本能なのだ。

 

 だが彼らは子を持ってもほとんど死ぬ。

 主に産まれてすぐの時代に。

 抵抗力が低くて死ぬ。

 親がエサを集めきれずに死ぬ。或いは親が死んだことで餓死する。

 複数産まれた子らの中のヒエラルキーにより、数を減らす為に巣から蹴り落とされて死ぬ。

 強い個体が育つ事で育児放棄をされて死ぬ。

 外敵のエサになり死ぬ。

 

 ざっと挙げるだけでもこれだけの死因がある。

 他にも無数にあるだろう。

 故に彼らは産まれて直ぐに環境に適応しようと早熟する。

 短期間での学習能力が高いのだ。

 その中に刷り込み効果がある訳だ。

 そうする事で数%でも生存確率をあげるために。

 

 シロがそれに該当するかは分からないが、少なくともライトと言う強そうな個体にしがみ付く事を彼女は選んだのだ。

 そうしてシロを担いだままライトは抜き足差し足忍び足でリビングを横切り、見事表通りに出ることが成功したのである。

 流石ニンジャである。

 

「ウヒヒヒヒ、ちょろいもんだぜ。なあシロよ!」

「…………だゼ!」

 

 そうして彼らは闇夜に紛れて景色の中に消えていった。

 竃の館よりさらに西に向かって。

 妖しく光るバベルを背に。

 

 

 ☆

 

 

「ふわぁ……寝坊しちまった……」

「おはようライト君っ! 今日はボクが朝食を作ったんだぜ! 感謝してくれよなっ!」

 

 ライトが寝ぼけ眼で頭をボリボリ掻きながらリビングに昇ってくると、ライトをチラチラと見ながらヘスティアが空元気ですという雰囲気でやってきた。

 

「おー悪いな神様。っておまぁ……これ料理ちゃいますやん。じゃが丸くんと焼いたパンですやん……ほんま女子力低いなァ」

「なにお!? これはうちでも結構高い値段で出している小豆クリーム味だぞっ!」

「愛知県民かな?」

 

 ふとダイニングで既に食事中のリリルカと春姫を見る。

 

「ライト様? 好き嫌いはいけませんよ……」

「春姫もそう思います」

「お前らさ、思いっきりクリームと小豆を避けてるだろ。それただのじゃが丸くんプレーン味だろ。おい目を逸らすな! こっちを見ろ! オレの皿に載せるんじゃァない!」

 

 そうして和やかな朝食は始まった。

 しきりに小豆クリーム味のプレゼンをする恥知らずな神の声をBGMに。

 あの剣姫も買いに来るんだぜ! とドヤ顔だが、ライトに”味覚がおかしいだけだろ”とばっさり斬られ、”あ、なるほどね”と逆に納得するヘスティア。弱すぎる。

 

「そう言えばライト様、あのシロちゃんはどうしたんです? いないみたいですけど」

 

 その時リリルカが皆が聞きたくても聞けなかったセリフをブッ込んだ。

 この女、吹っ切れた事で強くなっている!

 パンをもぐもぐしながら無言のライトに一同の緊張感は高まる。

 

「ん? ああ、シロなら旅に出たぞ。なんだっけ、オれよリツよイやツにアイにイく! とか言ってたぞ」

「なんですかそれ。あの子の一人称が俺とかありえないですから。で、ホントの所は?」

「お前ほんまグイグイ来るのな。それでこそオレの愛した女だな」

「~~~っ!! いや、いやいや、リリは騙されませんよ、でも、えへへ……」

「弱すぎィ!」

「まあ旅に出たのは冗談だが、とりあえずは近場に置くのはやめた。ギルドに相談するのはやめないぞ? 今日早速行ってくる。ただまあ昨日の神様やリリの反応を見て、連れ歩くとロクな事にならんのは理解した。だからまあ、ベストではないがベターな落としどころが確定するまでは隠す事にした」

「あー、ライト様らしいですね」

 

 苦笑いをするリリルカ。

 

「メシ時にこんな話したかねえけど、神様的にはどう思っているんだ? 一晩経って落ち着いただろ」

 

 そうしてヘスティアに水を向けると、意外と落ち着いた顔で彼女は言う。

 

「それなんだけどさ、ボクにとって何が大切なのかって考えたんだ。正直に言うとモンスターを街に連れ込む事は良い事とは思えないんだ。シロ君が言葉を話すとしてもね。感情ではなくて、今のオラリオだと不幸な結末しか思い浮かべられないから。でもね、ボクはキミたちの主神で、何よりキミたちが大好きなんだ。だからボクはライト君を信じるよ。キミが何をするにしても、きっと悪い結果にはならないと思うから。うん、だからさ、ライト君の好きにやりなよ。キミはヘスティア・ファミリアの団長なんだから」

「「「………………」」」

 

 母性爆発!

 そんなバブあじ溢れるヘスティアの言葉に一同は沈黙する。

 だが、

 

「ん? いまボク結構いい事言ったよ? なんなのその胡乱気な顔は?」

「だってなぁ……」

「はい、ねえ春姫さん」

「はぁ~ヘスティア様が神様っぽい事言ってます。凄いですッ!」

((濁したのにハッキリ言った!))

「ぐぬぬ……キミ達がボクをどう思ってるかハッキリわかったね! つーん!」

 

 結果いつものグダグダになるヘスティア一家であった。

 その後ライトがヘスティアに壁ドンし、”神よそなたは美しい”と、どこの蝦夷の末裔よとばかりのキメ顔で言って有耶無耶にした。

 昨日の春姫への壁ドンを見てちょっとしてほしかったらしい。

 

 ついでにリリも! リリも! とねだったリリルカに仕方ねえなとやってみたライト。

 だが如何せん身長が185もあるライトと、110しかないリリルカだ。

 強面のニンジャが幼女を苛めてる様にしか見えないので、なんか微妙な感じになったのである。

 

 そして彼らは日常に戻った。

 シロの件はライトに一任する事になった。

 ただし何か変化があれば必ずヘスティア以下団員と情報共有するという条件で。

 リリルカはポーションビジネスと方々での御用聞きに出かけ、春姫は麦の館でスパイスの研究に。

 

 つまりはいつも通り、という所である。

 

 

 ☆

 

 

「冒険者がここに来るのは貴様が最初だろうな」

 

 荘厳な雰囲気の地下施設。

 ダンジョンの入り口とは別の区画で、ギルドの奥にある階段から下った先にここはある。

 その石室の中心で、ライトと老人が対峙していた。

 

「へえ、それは光栄なんでしょうな。オレもこのオラリオに来て、初めて神様らしい神様に出会った」

「ほう?」

 

 ライトの言葉にローブの中の老人は興味深そうに眉を上げた。

 

「前にも誰かに言ったが、オレは元々読書家でな。何かの戯れに神話なんかも読んだものさ。ギリシア神話。その和訳、まあオレの国の言葉に訳されたやつをな。それによるとウラノスって神様は、ギリシア神話では全ての神々の大元って言うかさ、宇宙全てを支配した原初の天空神だとさ。なのでネームバリューはゼウスだが、神様としてはトップなんだろう。まあその宇宙がどこを指すのかは知らんけど。なんでオレからすれば、変な言葉を話す糸目の女とか、あざといツインテールの巨乳ロリとかが神様って言われるより、アンタの方がよっぽど神様らしく見えるってこと」

 

 その言葉にウラノスは心底おかしそうに笑った。

 久しぶりに声を出して笑ったと言いながら。

 

「ま、例のミッションはエイナに提出した通り終った。と言ってもオレじゃなく、他の団員が倒したんだけどな。それはそれとして、オレがここにいるのは、報酬代わりに希望があるかって奴をアンタとの面会をと希望したからだ」

「ああ、だから許可をした。私も貴様に興味があったからな」

「そうかい。もしかして色々見てた?」

「然り」

 

 ふうん、とライトは納得した様に頷くと、大胆にも葉巻を咥えた。

 ウラノスは咎めない。

 

「なら早くていいわ。オレが保護したシロだが、あれはモンスターなんだろう? だとしても情が湧いちまった。ギルドのお偉いさんとして、これにどういう見解を示すか聞きたい」

 

 ウラノスは目を閉じると何事か考え込んだ。

 カチリと音が鳴り、ライトの葉巻に火が点く。

 煙は静かに天井に向かって行った。

 

「ギルドとしては容認できん。オラリオの秩序を乱す訳にはいかないからな。それは理解できるだろう?」

「まあね。無駄な混乱はオレも嫌だな。商売に支障をきたす」

「くっくっくっ……人の平和がとは言わぬか」

「どこの世界でも平和だった試しなんか無いだろうよ。オレが好きな作品で、一人の英雄がこう言っていた。恒久的な平和なんて歴史上無かったってな。その代わり、何十年かの平和な時代はあったとさ。結局それって戦争があるかないかだけでしかないだろ? だがオラリオはダンジョンだ外敵だといつも騒がしい。壁で囲った箱庭に、冒険者を閉じ込めてさ。なら平和をお題目にする奴の言葉は信用できんね。現実が見えていない」

「ほう? それが異なる世界の住人の価値観か」

 

 ライトの言葉にウラノスの表情が緩む。

 続けろと無言で促しながら。

 

「全部お見通しですなぁ……まあ無駄な説明が必要無いのはいいことだ。まあ、オレが求めているのは、秩序と言うより、バランスが保たれる事だな。秩序と似ているが一緒じゃない。要は今続いている日常が今後も続く事。その中では貧困に苦しむ奴も喰いっぱぐれる者もいるだろうよ。うちのリリルカみたいなのとかな? でもしゃあないわな。可哀想だとは思うけれど。全員が全員、幸せにはなれねえ」

 

 そこで一呼吸置くように頭を掻くライト。

 溜息をひとつ。

 

「けれど、そこにシロを加える事は出来ると思うんだよな。普通の連中から見ればモンスターと紙一重で怖いかもだけどよ。けどオラリオの中にもいるだろう? 人の姿をしたモンスター以下のゴミみたいな奴は。オレからすりゃ、害があるって部分だけで見ればどっちも一緒だよ。クズも、モンスターも。魔石を落として金になる分モンスターの方がマシかもしれんけど」

 

 それだけ話すとライトは座りこんだ。

 頭を掻きながら。

 何をガラにもない事で熱くなってんだと自嘲した様だ。

 そんなライトの青臭さにウラノスは眩しそうに見た。

 だが直ぐに表情を改めると、ライトに言った。

 

「あれらは異端者(ゼノス)と呼んでいる。知性のあるモンスターの事だ。つまり貴様が保護した娘もその一人と言う事だ。お前が睨んだ通り、その娘以外にも存在している────

 

 ウラノスは見ためとは裏腹に饒舌に語った。

 ダンジョンの成り立ち。

 モンスターがどこから来て、どこへ向かい、その後どうなるのか。

 その口調は推察の様で、断定的でもあった。

 

 異端者をどう扱うべきか、ウラノスは決めかねている。

 だが現実、知性を持った彼らには正しく自我がある。

 だがまずはダイダロス通りにあるとある場所に向かえとウラノスは言った。

 その上でこの事をどうするか決めろという。

 そして最後に、

 

「ギルドの裁定を伝える。貴様に二か月間の猶予を与える。その間に貴様の裁量で収めてみせろ。だが、二か月目に進展が無ければロキファミリア、およびフレイヤファミリに強制任務を発し、オラリオの浄化作戦を行う。その際にヘスティアファミリアが異端者保護の関与が認められれば、当然主神が査問の対象となる。以上だ」

 

 そう言うとウラノスはこれ以上話す事は無いとばかりに沈黙した。

 ライトも踵を返し、地上への階段に向かう。

 だが曲がり角で足を止めたライトが振り返らずに言う。 

 

「アンタも大変だね。好きなように振舞えないとかさ。やーい社蓄の鑑~」

 

 返答はシンプルだった。

 結構な勢いで飛んで来たヴァリス金貨がライトの後頭部をヒットしたのである。

 

(結構気にしてるんだな。草生えるわ)

 

 オラリオ最古参の神相手でもマイペースなライトであった。

 

 

 ☆

 

 

「だからさー言ってやったんだよ。ここは臭いぞーってね」

「あははっ、たしかにアレは臭いですもんね~。ほらライトさん、もっと飲んで飲んで」

「でひゃひゃひゃ……シル店員、おめー何を企んでやがるっ、はっ!? オレ襲われちゃう?!」

「襲いますよぉ~ガオー! って」

 

 豊穣の女主人ではライトが飲んだくれていた。

 ホームにも帰らず。

 いつもの奥のテーブルで、シルに酌をさせながら。

 その姿は家に居場所のない亭主が場末のスナックのホステス相手にクダをまいているのに似ている。

 

「ライトさん、どうしたんですか? 貴方はそんな飲み方をする人じゃないでしょう?」

 

 客もまばらになった頃、手の空いたリュー店員がやってきて、ライトに水を飲ませながらそう言った。

 

「オレぁねえ、ただ可愛いなぁ思って、良かれと思って連れて来たんですよブフッフンハアァア!! 人がねェ獣人がねェウワッハッハーーン!! シロも一緒に笑ってらるならオンナジヤ、オンナジヤ思っでえ! ウーハッフッハーン!!」

 

 まるでどこかの汚職議員の様に凄い泣き上戸を炸裂させ始めたライトにリュー店員は苦笑い。

 言ってる事が支離滅裂過ぎる。

 どうやらウラノスに啖呵を切った物の、いいアイデアが浮かばずに酒に逃げたらしい。

 だがその時、女神が降臨した。

 

「大丈夫ですよぉ~シルがいますからねぇ~?」

 

 まさかのシル店員、神々しいまでのバブあじを発動させ、ライトの頭を撫で始めた。

 顔を上げるライト。涙で濡れる目でうるうるとシルを見た。

 

(まるで子犬……何? この気持ち……)

 

「よーしよーし、ライトはいい子だよね。いつも頑張ってるもんね?」

「……ママ?」

「はいママでちゅよ~ほら、ママの所においで?」

「ママっ……ママァ!!」

「キャッ、ほらママのおひざでネンネしましょうね?」

「ママ…………」

(え、なにこれ怖い)

 

 リュー店員は戦慄した。突如始まった謎の茶番に。

 一瞬で幼児退行した巨大なニンジャ。

 うわごとの様にママと言いながら、小柄なシルの膝に頭を載せている。

 まるで地獄絵図だ。

 

 だがそれよりも恐ろしいのはシルの手腕だった。

 かつて所属していたファミリアが壊滅し、その仇である闇派閥を皆殺しにした過去を持つリュー・リオン。

 復讐を終えても後に残ったのは虚無だった。

 

 当然だ。腹いせになっても、死んだ人間は二度と戻らないのだ。

 結果、行き倒れた彼女を救ったのはシルだった。

 生きる目的を失った彼女に、生きる意味を与えた。

 故に、リュー・リオンにとってシル・フローヴァという女性は、ただの親友と言うよりも、女神の様な存在なのかもしれない。

 

 だがそんな彼女が今、一瞬で大の男を子供にしているではないか!

 たしかに彼女は女神だが、これは流石に無いだろうとリューは戦慄する。

 

「ママ……おっぱい……」

「オッパイでちゅか~? じゃあ、ママ好きって言ったらいいよ?」

「ママちゅき♡」

「ライトはいい子でちゅね~じゃあ、ご褒美のおっぱいをあげりゅ」

「キャキャキャ」

 

 鼻息荒く、目を血走らせたシルがシャツを降ろそうとしたその瞬間、リューを筆頭にアーニャ、クロエ、ルノアが一斉に取り押さえ事無きを得た。

 因みにまばらに残っていた男性客は全員鼻を押さえて前かがみだったという。

 

 そしてその後、

 

「悪いな送って貰っちゃって」

「いいんですよ。ミア母さんにも怒られちゃったし!」

 

 夜道を並んで歩くライトとシルの姿であった。

 あのおぞましい時間がまるで無かったかのように爽やかな感じで歩いている。

 とは言えシルは、もういい時間の為、酔っぱらいを送りがてらアンタも帰んなとミアに言われたのだ。

 

「ねえライトさん? 何をそんなに悩んでいるんです?」

「んー……そうだなぁ。お前に言ってもしゃあないけど、変なガキを拾ったんだよ」

「子供、ですか?」

「うん。ただなんつーか、色々事情があってだな、大っぴらに出来ないんだ。けどよ、生まれたばっかのガキにそんな事情なんぞ理解できねーだろ?」

「そう、ですね」

 

 コツコツと二人の足音だけが路地に響く。

 ライトはシルの歩幅に合わせてのんびり歩きながら空を眺めている。

 

「それは孤児って事ですか?」

「んー孤児は孤児なんだけど……もっとややこしい事情も絡んでてな」

「じゃ諦めるんですか?」

「馬鹿やろうお前、オレはやるぞお前。いや、まあ、あのガキを見捨てる事はしねえ。それは決定事項なんだ。けどよ」

「けど?」

「ゴリ押しでどうにかするのは違うって思うんだ」

「はぁ……」

「なんつーか、オレらが笑う為に誰かが泣いたら、それは違うだろ?」

 

 そう言ってライトは笑った。

 それをポカンとした顔で見上げるシル。

 そして急に笑い始めた。

 

「あははっ、あははははっ! やっぱり面白いですねライトさんは」

「面白い? どこがさ」

「だってソーマファミリアの時とか、歓楽街の時とか、みんなびっくりしましたからね。オラリオの情報誌でいつも一面に載ってるんですよ? 街の人はライトさんが次は何をするんだろってみんな楽しみにしてるんです。だから、弱気になっているのを見て心配してたんですが、そんな心配はいらなそうですねっ」

「おまえ、結構まともな事話せるんだな」

「うー失礼ですっ! こう見えてシルはライトさんのファンなんですよっ!」

「ははっ、オレのファンかよ。んじゃ、ファンの期待にゃ応えなきゃな」

「ええっ! また貴方の突拍子もない何かを見せてください」

 

 そうしてライトは気合いを入れなおす様に自分の頬を叩いた。

 方向性はまだ見えないが、多分オレなら出来る。

 そんな根拠のない自信が沸々と沸いて来た。

 だがそれこそがオラリオに来て以降のライトの在り方である。

 そんなライトの背中をシルはじっと見つめていた。

 

 (……その輝く魂のままに)

 

 尚、午前様でホームに帰ったライトだが、ヘスティア以下メンバー全員に説教をされたのは余談である。

 なぜそうなったかと言えば、シルが帰り際に「ライト様、今度はちゃんとおっぱい飲ませてあげますね♡」と意味深な台詞を残して走り去ったからである。

 

 甚だ自業自得である。

 

 

 




春姫「朝か……今日は週末だからもう少し寝ようかな」
謎の鳥「ホーホホ ホホー ホーホホ ホホー」


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魔都にニンジャのスリケンを 急1

 

 ライトは独白する。

 

 自分は迷っていた、と。

 理由は倫理観と言う酷く曖昧なものを、改めて冷静に考えた時、己の中に確たる答えが無い事にがく然としたからだ。

 

 シロ達、つまりウラノスが言う異端者ゼノス。

 その在り方になんの根拠も無いのが問題なのだ。

 

 例えばマーベルユニバースにおけるホモ・スペリオール、人間の染色体の23番目にX遺伝子やX因子を持つ人間がいる。

 彼らは突然変異を起こし超常的な能力を持つミュータント、或いはX-MENと呼ばれる存在になる。

 

 とは言えヒーローだけに限らずヴィランも中にはいる訳で。

 そうなると人間を味方をするヒーローと人間を憎み敵対行動をとるヴィランの対決構図ができる。

 だが人間の中の多くは、ミュータントを社会の一部として見る事が出来ない。

 つまりミュータント自体を疎外する。

 例えヒーロー側のミュータントの普段の素行がよく、人間社会の法に従って行動する理性的な集団であったとしてもだ。

 

 問題の根源は文字通りの意味での異端を受け入れられない意識。

 或いは急激な価値観の変化に対応できないという事に尽きる。

 これは何もわかりやすい見た目云々の話ではない。

 

 例えば地球の中世から近世の間では、大規模な宗教弾圧。民族弾圧があった。

 その時代は宗教と政治が密接にかかわっており、現代の様な三権分立は実現自体難しい。

 となれば為政者や権力者が民衆をコントロールする手段のひとつとして宗教があった。

 故に各宗教における聖典や聖書は、時代と共に書き換えられている。

 何故かと言えば信仰心が強い民衆には、教義がそのまま法になるからだ。

 

 そんな時代には、教義に反する物が異端として処断される。

 個人だけではなく、国全体が異端認定されれば、然したる理由が無くとも、戦争の口実にもなる。

 それは略奪行為すら肯定され、やられた方にとってはただの野盗の類いであっても、関係ない。

 要は正義の在り方すら、酷く曖昧な根拠によって決定されていたのだ。

 

 ライトがオラリオにおけるゼノスの扱いで一番迷いを感じたのは、この街を運営しているのは正確な意味での為政者ではない事だ。

 ここは地域最大の都市であり、壁に囲まれた箱庭だ。

 人口も多く、対ダンジョンの切り札でもある冒険者の街。

 経済はダンジョン産の魔石の流通が基盤にあり、それゆえにギルドが殆どの利権を牛耳っている。

 

 ただラキア王国という、その名の通り君主制を敷いた国も存在している。

 そう言った国は王権こそが重視され、その上で国家運営がされている。

 故にワンマンであっても、意思決定に根拠はある。

 

 それと比べても、オラリオの曖昧さが目立つ。

 ライトがこれまで関わった中で判断するなら、都市国家の中に都市国家がいくつも存在すると言った所か。

 つまりギルドが大枠で、各ファミリアがそれぞれ自治権のある集団。

 

 なぜそう思うかと言えば、主神のさじ加減一つで抗争がおき、神が死ねばその恩恵を受けていた者達の力は消える。

 それが例えばロキやフレイヤという、眷属達に影響力の高い者を揃えているファミリアだったなら、オラリオ内の秩序は一気に崩壊するだろう。

 

 ライトが関わった歓楽街の件もそうだ。

 あれがあのままフレイヤファミリアが暴れていたらどうなっただろうか。

 おそらくあの区画が更地になり、消える。

 

 そしてこの消えるという言葉の意味は大きい。

 歓楽街で客が一晩で落すヴァリスの量がいかほどか。

 おそらくカジノに次いで恐ろしい金額が動いているだろう。

 これがイシュタルという主神が強制送還された結果に起こる影響だ。

 

 これだけの流通が一夜にして消える。

 正気の沙汰では無い。

 故にライトは迷うのだ。

 このオラリオの秩序と言うのは、曖昧過ぎて危ういと。

 

 ライトが考えたのは近世でも普通にあった魔女裁判の事だ。

 例えば有名な所ではアメリカの東海岸の片田舎、セイラム。

 閉鎖空間に原理的なプロテスタント。

 アメリカと言う秩序よりも、村単位の秩序が優先される。

 そんな土壌でたかが未成年の娘の支離滅裂な証言が10人以上の処刑者を出した。

 

 娘は交霊術に参加し、以降奇行が目立った。

 医師はそれを悪魔憑きと診断した事で事は動いた。

 恐怖と疑心暗鬼は伝播し、結果行われた公平性の欠片も無い裁判で無実の人間が大量に死刑になったのだ。

 これは結局のところ、明確な悪魔の憑依という根拠は一切無く、集団パニックが暴走した結果に過ぎない。

 つまり普遍的な基準の無い秩序は、時としてこういう悲劇を産む。

 現代の成熟した法の網があるからこそ、それが明確な基準、物差しになり悲劇は限りなく抑えられる。

 ライトはこれに似た危うさをオラリオの秩序に感じているのだ。

 

 自分が抱えたゼノスの娘。

 ひょんな事から情が湧き、だが現在のオラリオではその受け皿が無い。

 なら今までの様に自分が何かを動かし、その受け皿を作れるのか?

 アイデアはある。だが最初だけ良くてもダメなのだ。

 異端を受け入れさせるには、それの根拠となる明確な理由がいる。

 それが自分に出来るのだろうか? それがライトを悩ませる事柄の全てだ。

 

 だが、ライトはここに来て初心に返る事にした。

 それは主に、ヘスティアからの自分を最後まで信じるという言葉と、彼が関わった者達の期待によってだ。

 自分には居場所がある。そう思うと、気付いたのだ。

 

 ────まあ、やってトチったら、そんとき考えりゃいいや。

 

 そんな風に。

 気持ちがリセットされた事でライトにスイッチが入った。

 

 ────オレの強みはなんだ。

 

 自問する。

 

 ────そうだ、商社で経験を積んだだろう。

 

 それがライトのバックボーンだ。

 ならば、

 

 ────マーケティングの基本に戻ろう。

 

 そう決めた。

 ここは感情や人々の理性に問いかけても無駄だ。

 イデオロギー、思想、ナショナリズム。

 そんな流動的な根拠で動いた時勢が長続きした例があったか?

 無い。

 

 活動家や扇動者が起こした旋風の結果おこるのは流行、ブーム。

 そしてブームは一過性でしかない。

 では世の中で一番強いのは何だ。

 個人の利益だ。

 

 人が動くのは、そこに少しでも自分の利益があるからだ。

 古代ローマの風刺的な詩人ユウェナリスが残した言葉に「パンとサーカス」と言う物がある。

 これは愚民政策を風刺した意味だが、民衆にパンつまり日々の食事と、サーカスつまり娯楽を与えておけば国政にあまり目を向けなくなるという意味だ。

 

 だが逆に言えばだ。

 大局的な政治云々よりも、人々は目先の事を重んじているという意味でもある。

 つまり今日明日の糧を確保する為に必死なのだ。

 極論、民衆が求めるのは安定であり、ならば政治のトップがどんな顔をしてようが、安定が確保されるならそれが名君なのだ。

 

 さてマーケティングの話に戻そう。

 かつてライトが携わっていたのは、海外からワインを輸入する仕事だ。

 世界にワインの産地は多くある。

 だが歴史深いワインには、例えば有名なボルドーの中にも無数の格付けがある。

 

 何故かと言えば同じ品種のブドウであっても、畑の土、斜面の角度、日当りの量、全てが畑単位で違い、その差が大きく味に影響するからだ。

 故に明確な格付けを行い、そこから弾かれたワイナリーも多くある。

 

 だが、恒常的に飲む目的なら、無名であっても美味い。

 それにそこがボルドー地区であれば、もうボルドーワインなのだ。

 こういう無名のワイナリーを畑単位で契約して輸入し、ボトリング、ラベルを国内でやれば、コンビニと提携した安価なワインとして売れるし、それでいて味も高水準、こういう事ができる。

 

 例えそのワイナリー後に格付けが上がったとしても、既に契約をしていれば、結果青田買いをした様な物で、今度はその格付けにちなんだ価格で売れる。

 結果損はない。

 

 この場合のマーケティングの基礎としては、前提として客に何かを提供してお金を貰うという事だ。

 そこに金を出してまで手に入れたいという価値を持たせ、自分だけが購入できるという満足感を与え、それらが定期的に購入するという需要がある事が主なポイントだろう。

 

 それらを広告宣伝、その分野の権威者への告知、諸々の認知を行っていく。

 勿論それは商品にたしかな信頼性があっての事だ。

 

 オラリオにおけるゼノスはどうすればいいのか。

 ライトの調べた事によれば、いや正確に言えばウラノスからの紹介で出会ったフェルズと言う魔術師との対話の結果がその主な情報源だが。

 まあそのゼノスはダンジョンの中で産まれ、とある階層で隠れ住んでいると言う事。

 

 産まれるきっかけはシロと同様で突然ぽとりと出てくる。

 ただ彼らはモンスターに襲われるため、ほとんどが死ぬらしい。

 だからシロがライトと出会った時に青あざだらけだったのはそう言う事だ。

 

 余談ではあるが、東地区にあるフェルズの隠れ家で話しこんだライトだが、顔を見せないとか恥知らずのメイガスでしょう? とローブをめくるという暴挙に出て、その結果出てきたのはただのガイコツ。

 小便をちびるくらいに驚いたライトが、思わず「あ、アインズ様ァ」と叫んだのは仕方がない。

 まあ彼は800年もの時を生きている不死者であり、その事で全身から肉が削げ落ちこの姿になった。

 故に背中が無いのでステイタスの更新も出来ないので、レベル4のままだという。

 

 ライトがぼそっと”骨に刻んだらいかんのか?”と言った事で微妙な空気になったが、シロを保護したライトに彼は友好的だった。

 さて話を戻そう。

 

 フェルズによると、ウラノスはゼノスを擁護している立場だという。

 フェルズ自身もウラノスが動けない分、実務を担当する立場だそうだ。

 ウラノスがゼノスを保護する名分として、ダンジョン内での未知の部分を探索させたり、ダンジョン内の異常を報告させたりと役割を持たせている。

 その事で何かのきっかけで表ざたになったしても、あくまでもダンジョン内であるなら、ウラノスとしても開き直れるのだ。

 

 ざっくりと言えば、おめーらの出来ない事をこいつらにやらせてんのや。

 それに文句言うなら、おめーらが命張って見てこいや。

 まだマッピングされてない場所の探索やぞ?

 せやから金もそんな出されへんし。

 それでもやるんかお前ら、オオン?!

 

 ま、こういう感じで。

 だが、ウラノスがライトに期限を切った理由が問題なのだ。

 実はゼノス、地上にちょいちょい出てくる。

 本人達が望んだ理由ではないにしても。

 そうなると秘密裏に処理する必要があり、もしゼノスが結果的に暴走したとする。

 その場合はウラノスの思いは別として、秩序を守るために機密保持がしやすい大手ファミリアを討伐に向かわせる事になる。

 大手とはロキとフレイヤファミリアの事であり、つまり彼らも異端者の存在は認知しているという事。

 

 そして二か月の期間の意味は、とあるファミリアによる異端者狩りにより、異端者の暴走が懸念されている事。

 そのファミリアは表ざたにならない様に、ある程度期間を空けて事に当たる事。

 ウラノスは二か月後に大規模な動きがあると見ており、そのタイミングで地上の異端者の処理を名目に、そのファミリアにロキ達をぶつけ、一網打尽にする心算でいると。

 

 ここに来てライトは、解決までの糸口を見た。

 フェルズには神秘というスキルがあり、それを含めた協力体制を築けたことで一気にブレイクスルーをしたとも言える。

 ならば、まず手をつけなければいけない事は決まった。

 

 そしてライトのメンポの奥がどろりと光った。

 

 

 ☆

 

 

 

 えっほ、えっほ、そんな掛け声と共に地下道を往くヘスティアファミリア。

 

「ライト様ぁ……臭いですぅ……」

「わ、私、倒れそうです……」

「この軟弱者ッ!!!!」

「ライトっち、なんで俺が叩かれたの!?」

「いや、そこはノリで」

 

 先頭からライト、リリルカ、春姫、トカゲのおっさんである。

 そうトカゲのおっさんだ。

 いや本人は若い感じのキャラだが、如何せんリザードマンである。

 故にトカゲのおっさんなのだ。

 

 フェルズとの関係を構築したライトは、早速シロを彼らの隠れ家に連れていった。

 それまでは建設中のNEWタケミカヅチファミリアホーム、オラリオ学園予定地、その地下室に居た。

 種明かしをすれば単純で、竃の館のライトの部屋がある地下エリア。

 実はそのさらに下に向かう階段があり、そこはオラリオの地下に走る巨大な下水に繋がっている。

 

 そしてオラリオ学園は同じ地区であり、既に基礎工事と一階部分は完成しているが、元々廃墟だったここにも、同じように地下下水への階段があった。

 結果、んじゃ寝るわ~おやすみ~と部屋に消えたライトは、そのまま地下道を抜けてシロを住まわせていたオラリオ学園の地下室で、朝方までキャッキャウフフと親子のスキンシップをしていたのである。

 

 なら最初から地下からそこに行けばいいのでは? と言う話だが、可愛い娘をうんこの流れる地下道なんか歩かせられるか! いい加減にしろ! という事らしい。

 

 それで異端者の隠れ家に行ったライトは、ここのまとめ役であるトカゲのおっさんことリドと語りあかした。

 それによると出来れば人間と自分たちが友好的になれたらいいな、という想いだ。

 そこでライトはそこにいた異端者を全員集め、オレに従ってくれるなら、少しずつ地上と関わる事が出来るように出来ると一席ぶった。

 だがそれには互いの歩み寄りは必須であり、少数派に過ぎないお前らは、最初は謂れのない中傷を受けるだろうし、一方的に我慢をする事も多い。

 しかしお前らはキレて殴りかかる事も一切出来ない。

 でも我慢の結果、いずれは必ずお前らは市民権を得る。

 

 長い長い話し合いの結果、彼らはライトに従う事を決めた。

 そうなればもう、面倒な事は何もないとばかりにライトは目いっぱい楽しんだ。

 特に異端者では古参の木竜のグリューに飛び乗り「オレはドラゴンライダーだ!」とはしゃいだ。

 イラっとしたグリューに尻尾でペシッと落とされていたが。

 シロも最初は戸惑ってはいたものの、直ぐに馴染んで嬉しそうにしていた。

 

 とは言えライトが帰ろうとすると、腰にしがみ付いて涙目で「……イかないデ」と言ったとたん、オレはここに住む! と座り込んでリドが慌てた。

 さて地上に戻る際にライトは、大量の石化武器と金の針を置いてきた。

 過保護全開だ。お前ら、シロに危害を加える奴らがもし来たら、この杖と棒でタコ殴りにしろ。

 別に倒さなくても集団で囲んで棒で叩けば勝手に石化するから、と。

 金の針はフレンドリーファイヤ用の保険である。

 因みにゴーレムの杖と全ての棒は全員セットで行き渡っている。

 

 そして現在、ライトがファミリアの仲間に協力を依頼し下水を行く理由は、

 

「おっ、そこの角を右だ」

「よしリリルカ、GO」

「了解です。えいっ!」

 

 竃の館から地下下水を経て、ダンジョンへの抜け道、フェルズの隠れ家へのルート、それをペンキでマーキングしているのだ。

 有事の際の移動や、異端者を運ぶ際などの為の備え。

 後は汽水湖側へ抜けるルートを確保し、最悪の場合、都市外への脱出ルートの把握でもある。

 

「いやしかしこうしてリドさんと話してみると、ライト様が言っていた意味がわかりますねぇ……」

 

 ふとリリルカがしみじみと呟く。

 

「はい、私もあの時は少し嫌な気分になりましたけど、今は理解しています……」

 

 それに春姫も同調した。

 

「ま、いきなりは無理だろうし、お前らの反応の方が普通だろうよ。ただまあ、オレの身の上はこの前話しただろう? なんでオレは人間しか知らねえんだ。だからああいう感想になる」

「異なる世界でしたっけ、全然想像もつかないです……」

「そらそうだ。見たことも無いのに言葉だけでイメージなんか出来ないだろうな。まあでも、価値観はやっぱ違い過ぎるんだ」

 

 ライトは協力を要請する際に、自分の事を全て彼女達に告白した。

 そもそもライトは楽観主義的な所があり、過去にあまり頓着しない。

 何故なら嘆いた所で現状が変わる訳じゃないからだ。

 

 故に面倒事を嫌って言わなかっただけで、それ以外に話さない理由はない。

 自分を慕ってくれるリリルカや春姫、そして信頼を預けてくれるヘスティア。

 ならゲロッちまった方が楽だ。

 その方が話しが通りやすいし、とライトは考えた。

 

 結果、結束は深まったように見える。

 そうなると動きは早かった。

 そうしてトカゲのおっさんを伴ったヘスティアファミリア、広大な地下下水道に、独自のルートの確保を終えたのである。

 

 

 ☆

 

 

「…………ア、アッ」

 

 その光景は異様であった。

 目を血走らせた男達が、下半身が蜘蛛の様な少女を囲み、下卑た視線を走らせる。

 

 その舐める様な粘着質な視線に少女は絶望に包まれる。

 既に何らかの薬のせいか身体は弛緩し、少女はもそりもそりと地面を芋虫の様に這うばかり。

 それすらも男たちの加虐心を煽るだけであった。

 

 噎せ返る様な性臭を漂わせ、男たちはいよいよ動き出す。

 少女の鎧を剥ぎ取ると、そこから現れたのは豊満な肉体。

 そして男たちは少女に殺到した────

 

「ったく、撮影している身にもなれっての。なんでこんな世界に来てホモビの撮影しなきゃいかんのだ」

 

 その前に呑気な男の声がした。

 反射的に振り返る男達。

 

 おかしい。ここはイケロスファミリアの息がかかったセーフハウスの筈だ。

 荒事に躊躇をしない冒険者達がいるというのに。

 

「ああ……あの連中か? へへっ、死んでなきゃあいいなァ?」

 

 男たちは声をあげる事も出来なかった。

 声の主は細身だが大柄な男だ。

 赤い不思議な服を着ているが、見えてる全てが黒い何かで上書きされている。

 その正体を知る男たちは黙るしか無かった。

 

 顔を隠している布の下で、恐らく男は嗤っている。

 手に持つ謎の光を発するマジックアイテムは気になるが、それ以上に気になるのは男の全身を覆うどす黒い返り血だ。

 男たちが何故それを瞬時に理解できたか。

 それは自分たちが異端者と呼ばれる存在をいたぶり尽して来たからだ。

 拘束し、暴行し、犯し、最後は殺す。

 それが彼らの性癖であり、行為の際の流血はスパイスだ。

 

 だが目の前の男のそれは、既に時間が経って黒く変色している。

 つまり返り血を受けてから相当時間が経過している事になる。

 あいつはレベル5だぞ、そう思うも、目の前に男がいる以上、つまりはそう言う事なのだろう。

 そして男たちの意識はそこで消えた。

 

「んじゃお嬢ちゃん。みんなの所に帰ろうかー」

 

 ────その夜、オラリオ東部のダイダロス通りにある古い建物が炎上爆発した。そして翌日、イケロスファミリアの主神が、団員同士の内乱に巻き込まれ強制送還され、団長のディックス・ペルディクス以下構成員は同士討ちにより死亡とギルドより発表されたという。

 

 それと共に、いくつかの貴族家から内部リークによる不正や人身売買の証拠が次々と現れ、結果没落の憂き目を見たという。

 それを情報誌で見たオラリオの住人達は、少しばかり盛り上がり、だが数日後には話題にも上らなくなったという。

 

 

 ☆

 

 

「しっかしすげえ建物だなぁ……」

「お待ちしておりましたライト殿。主神がお待ちです」

「あんがと。これつまらない物だけど皆で食べて」

「ありがとうございます。ではこちらへ」

 

 豪奢な建物。豪奢と言っていいのだろうか……。

 白い壁に囲まれたオラリオ南西地区のランドマークとも言える建物。

 タージマハルを彷彿とさせる様式だが、ドームのかわりに主神の巨大像がある。

 ライトは入り口を潜る際に一瞬顔を顰めた。

 

 ────これ、チンコの中に入ってるみたいやん……

 

 そしてライトは団長のシャクティの先導で、レッドカーペットの敷かれた豪華な廊下を抜けた先にある巨大な部屋に辿り着く。

 

「ライト様、話は通っておりますので、後はおひとりでお進みください」

「あいよ。んじゃノックしてもしもーし!」

 

 意気揚々とドアを開けた先で待っていたのは────

 

「俺がガネーシャだっ!!!!」

 

 KABOOOOOOM!!!!!

 ライトは疾風の速さでガネーシャの仮面を奪う。

 

「お、俺はガネーシャか……?」

 

 KABOOOOOOM!!!!!

 ライトは疾風の速さでガネーシャの仮面を戻す。

 

「俺が、俺がガネーシャだっ!!!!!」

 

 KABOOOOOOM!!!!!

 ライトは疾風の速さでガネーシャの仮面を奪(ry

 

「やめんか阿呆がっ!!!!」

 

 凄い怒られた。だがどうやらノリはいいらしい。

 そんなガネーシャにライトは笑った。

 

「ガネーシャ様よ、あんたのとこ結構財政やばいらしいね。一気に稼げるアイデアがあるんだが、少しばかり話を聞いちゃくれんだろうか?」

 

 こうしてライト、最後の仕込みが始まったのである。

 いきなりアポイントを取りに来た不思議な若者の勢いを見て、名乗りが小さかったかな? と謎の反省を始めたガネーシャと共に。

 

 




春姫「今デメテル様のカレー店でご飯食べてるんですけど、仮面を被ったインド人っぽい神様が入ってきて店内に緊張が走ってます」


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魔都にニンジャのスリケンを 急~The show must go on~

「それでは淑女の皆さん、このわたくしめがエスコートして差し上げましょう」

 

 タキシード姿のライトは、竃の館の前に停められた馬車の前で気取ったおじぎをする。

 

「ふふっ、それじゃあお願いするよ、ライト君」

「ああ。竃で燃える炎の様なそのドレス、ぴったりだ。これならプレゼントした甲斐があるってもんだ」

「ひゃーなんだか照れちゃうよ」

 

 いつもの白いドレスとは全く印象の違う、情熱的な赤いドレス姿のヘスティアははにかんだ。

 普段のツインテールと違い、髪は右側でサイドアップにされ、色々な花が飾られている。

 そして差し出した手をライトに引かれ、彼女は馬車のシートに座った。

 

「ライト様、リリのドレスは如何です?」

「最高に似あっているよ。本当のリリが見れた気がする。さ、手を」

「もうっ、嬉しいです……」

 

 そして続いたのはリリルカ。ライトの言葉に頬を染めて目を伏せる。

 彼女は目の覚める様なブルーのドレスで、波打つようなシルクがAラインに広がっている。

 されど胸元が強調されており、清楚さと大人の雰囲気が同居している。

 

「んー、普段のぽんこつと違って、ハルのドレスは別人の様に美しいな」

「うー……褒められてるのに複雑です」

「ま、綺麗って事さ」

「えへへ……」

 

 最後が春姫だ。

 白のドレスは大胆にボディラインを強調した造りで、彼女のメリハリのあるスタイルにマッチしている。

 胸元で目立つ深紅の薔薇をイメージしたコサージュがより彼女の美しさを際立たせている。

 

 こうしてファミリアの女性陣が無事に乗車した所でライトも乗る。

 そして彼が合図すると、馬車は静かに発車したのである。

 

 この馬車は今日の為にライトが用意した二頭引きのキャリッジだ。

 キャリッジとは、人を運ぶための馬車の事をさすが、この場合は主に貴人が乗る上流階級の為の特別な装飾をされた物を言う。

 英国の女王陛下が民衆の前に姿を現す際に見られる、オープントップの豪華な馬車がキャリッジである。

 ライトはそれに倣って職人に依頼し、紋章をつける所は着脱式とし、今日の場合は竃に炎と言うヘスティアファミリアのエンブレムが付いている。

 因みに御者や乗馬従者はカジノがお抱えの業者に依頼している。

 

 さて彼らを乗せた馬車はのんびりとオラリオの街を行く。

 時折それを見かけた人々が足を止め、最高にドレスアップされた淑女を見て溜息を漏らした。

 

「うう……なんだか恥ずかしいよライト君」

「そう? 身内の贔屓目を差っ引いても君ら全員むちゃくちゃ綺麗だからね。自覚してないみたいだが、こうやって飾ればあんな反応にもなるさ。トーゼントーゼン」

「何だかライト様、今日は随分とご機嫌ですね?」

「そらそうだろ。こんだけの綺麗所に囲まれてるんだし。ここでまごまごしたら男を張る資格なんかないぜ」

「ふわぁ……あの時のライト様みたいでカッコいいです……」

「ハルのオレへの印象の遍歴が確認できたな。後できっちりと話をする必要があるようだ」

 

 そんな風に他愛もない話が続き、それと共に車窓は移り変わる。

 通りを抜けた後はバベルの横を通り、そのまま東へ。

 そして馬車が停まったのは、アンフィテアトルム、円形闘技場の敷地であった。

 ここは怪物祭り(モンスターフィリア)などが行われる場所としても有名だ。

 

 だが今は、その横にある広場が以前とは別の景色になっている。

 まずは結構な高さのある木の壁がかなりの敷地を囲んでいる。

 その正面の位置に大きな門がある。

 

 ヘスティアを先頭としてライトは中へと導き、門を抜けた先には大きなドーム状の天幕があった。

 ダンジョンの遠征などで使われる天幕とは規模が違い、かなり大きい筈の竃の館よりも大きい様に見える。

 ライトは驚きの表情で見上げる彼女らを促し、天幕の裏手にある関係者用の入り口から中へと進んだ。

 

 

 

 ◇◆◆◇

 

 

「ガネーシャ様、ご苦労さん。どうだい? 首尾の方は」

「おおライト、来てくれたか!。ヘスティアもよく来てくれた。ライト、お前さんの書いた絵図通りには行きそうだぞ。連中もやる気を出している。後は俺達に任せておけッ!」

「ああ、アンタに任せた時から何も心配してないよオレは」

 

 裏手は多くの人でごった返していた。

 その中心にいたのは、この天幕の責任者となったガネーシャ神その人だ。

 いつもの姿とは違い、燕尾服の様なグリーンのジャケットに白いスリムパンツ、そして黒い乗馬ブーツ。手には白黒の市松模様のシルクハットがある。

 

「やあガネーシャ、今日は招待をありがとうっ! それにしても凄い格好だね?」

「ああっ! このガネーシャの新たな一面を皆に見せられるだろう。ヘスティアよ、よーく見ておけよ? 今日、オラリアの歴史が変わるぞ」

「ふふっ、楽しみにしているよ」

 

 そうして一行はライトの先導で階段を登り、三階席にあたる場所にある、他の席とは比べ物にならない程に豪華な区画にやってきた。

 そこは五人ずつが並んで座れるシートが三列並ぶ升席の様になっており、シートの一つ一つが、それこそオーダーメイドの特別なソファーの様に座り心地が良い。

 さもありなん。ここは眼下に見えるステージが一番良く見える場所に設置されたVIPエリアなのだから。

  

 見れば向こう側にフレイヤ以下彼女のファミリアが勢ぞろいしているし、ヘスティア達を挟んだ反対側にはロキファミリアが揃っている。

 他にはロイマンを筆頭としたギルドの人間もいれば────というよりも、オラリオにホームを構えているファミリアの殆どがそこにいた。

 

 さて改めてこの施設を見てみよう。

 まず目立つのは中央に鎮座する大きな円形のステージだ。

 黄色と白の中間色の落ち着いた色合いで光沢がある。

 そこを囲む様に一階席、二階席、そしてVIPエリアである三階席が配置されている。

 

 だが外観以上に中は広い。

 というのもここは、地面を掘ってステージを設置し、その上に天幕を張っているのだ。

 故に外からは二階建て程度の高さにしか見えないが、実際はこれだけの空間を確保出来ている。

 天幕の内側を見ると、金属と太い丸太の支柱がいくつも組み合わさっており、見た目以上の強度があるのを感じられる。

 そう、つまりここは何らかのショーを行う場所なのだ。

 

 見ればどこの階層も席は満員に埋まっており、ショーの開始を今か今かと待っている。

 ステージの両脇には楽団がおり、今はオリエンタルな曲を奏で、観客たちを退屈させていない。

 客層はきちんと分けられており、一番ステージに近い一階席はオラリオの一般的な住人達で占められている。

 二階席の半分も同様だが、残り半分はその身なりを見れば、三階席には入れずとも富裕層であるのは間違いないだろう。

 

 この観客たちはガネーシャファミリアの名前で無償で招待されている。

 名目としてはこの劇場のこけら落とし公演である事。

 毎年行う怪物祭りとは違った趣旨で、新たなガネーシャファミリアの柱となる事業の初回である事。

 そう言う理由で招待状が贈られた。

 一階層の民衆に限っては、随分前から情報誌を通じた告知を行い、希望者を募り、ガネーシャファミリアが厳正な抽選を行った結果、当選した幸運の持ち主たちだ。

 

 この劇場は満員で2千人程入る。

 そして下の階層程観客席が多い。

 つまり今日の招待客の多くは冒険者でも無い一般的な住人なのだ。

 

「ラーイト! 何だか今日はとってもカッコいいねっ!」

「おっと、相変らずだなティオナ。っとお前のドレス姿も珍しいな。似あっているぜ?」

「へへへっ、頑張ってみたよ!」

「「むう……」」

 

 既に席についているライトの膝の上に、ティオナが飛び乗ってきた。

 いつものアマゾネススタイルと違い、ピンク色のドレスだ。

 幼さを強調しているが、それが彼女にはピッタリに見える。

 だがそこにロキとフレイヤもやってきた。 

 

「おうドチビ……って今日は無粋なマネはやめとこか。なあライト、うちの可愛い子供に手ぇ出してるようやし、うちにはよう改宗せえへん? その方がスッキリや」

「いきなり引き抜きするなー! 相変わらずだなキミは!」

「へっ、こんな派手な事仕掛ける大物、お前んとこには勿体ないわ! 宝の持ち腐れ言う奴やで」

「あーらロキ。駄目よ。この子は私の方が先に目をつけたんだもの。ね? ライト。あ、御機嫌ようヘスティア。いつもの子供っぽい姿じゃないから気付かなかったわ?」

「出たなフレイヤ! ライト君はボクのモノだぞ! 絶対に渡さないんだからね!」

 

 と、気が付けばいつもの三柱が牽制を始める。

 ロキに関しては割と本気で勧誘していたが。

 ダンジョン探索の大手である彼女達は、力量がある癖にダンジョンに潜らないライトを勿体ないと考えている様だ。

 

 そこに横やりを入れつつ、余裕の笑顔で両者を煽るフレイヤは実に楽しそうだ。

 その話題の中心であるライトは、

 

「なんか連中煩いし向こう行こうぜ。おう、オッタル久しぶり。こっちこいよソーマのとこのバーテンがドリンクサービスやってんだ」

「久しいなライト。相変わらず騒がしい事だな、お前の周囲は」

「ただ退屈しねえだろ? まあこいよ」

 

 ティオナを器用に横抱きにしながらリリルカ達を引き連れ奥に向かった。

 ついでにフレイヤの後ろに控えていたオッタルを誘いつつ。

 

「ようザニス、淑女の皆さんに軽めのカクテルを。オレとオッタルにはソーマスペシャルを頼む」

「かしこまりましたライト様」

 

 バーカウンターが設えられた区画には、ソーマの店を取り仕切っているザニスがいた。

 他にも新人だろう若手が、VIP達の酒を準備している。

 そう、ここはVIP席の客専用のバースペースであり、本来ならばかなり高額な入場料に含まれる付加サービスである。

 酒の品ぞろいは本家のソーマの店と遜色のないラインナップ。

 当然、酒の肴や軽食なんかも一緒だ。

 

「……ライト」

 

 酒で喉を湿らせながら談笑していたライトに誰かが声をかけた。

 

「おうアイズ。久しぶりだな。しかし凄いドレスだな。そのままウェディングベルでも鳴らしそうな勢いだぜ」

 

 アイズだった。ベートやリヴェリア、レフィーヤと言った面々も見える。

 一同は礼装を纏っているが、アイズだけは趣が違い、頭の上には銀色の小さなティアラがあり、ドレスはレースやシースルーを多用したウェディングドレスに近く清楚で華やかだ。

 他のファミリアの冒険者たちの目を釘付けにしているのも当然だろうか。

 まるで妖精、そんな雰囲気だ。

 

「似あう?」

「似あってる似あってる」

「良かった。ロキに着せられた」

「ま、そうだろうな」

 

 多分みなそう思っている。

 

「それで、あれから結構経つが、宿題の答えは出たか?」

「ううん、まだよく分からない。私は……強くなきゃいけない。それは今もそう思っている。でも、ライトが言いたかったのは、えっと、誰かを頼れってこと?」

「おー、いいじゃない。結構いい方向に来てるぜ?」

「……ほんと?」

 

 ライトに額を小突かれぽかんとするアイズ。

 そんなライトはグラスを傾けているオッタルに声をかけた。

 

「なあオッタル。お前さ、フレイヤがピンチ! だが守る為には自分が死ぬかも! ってシーンになったらどうする?」

「………………」

 

 ライトの質問に少し沈黙し、オッタルは答えた。

 

「フレイヤ様を守るのは当然だ。その結果死のうが別に構わない。…………だが、俺は最後まで生き足掻く。何故なら、俺の手であの方を守り続けたいからだ」

「だそうだ。アイズ。このイケメン猪はこう見えて一途なんだ。愛の為に最強であり続ける戦士! ってな。こいつの強さは守りたい物があるからこその強さだ。お前だって同じだろう? お前は1人じゃねえ。それを今後も自分で知れば、おのずとお前の中に譲れない物が増えていくだろう。なら嫌でも強くなるさ。後はお前の仲間が教えてくれるだろうよ」

「…………うん。もっと皆と話してみる。でも、ライトとまた戦いたい」

「脳筋ガールが。オッタル、こいつと戦ってやれよ……っていねえし」

 

 ライトがオッタルを認めているのは、その心根にある芯だ。

 そもそもライト自体、分りやすい強さに価値を見出してはいない。

 強さはあくまでも自分の大事な者を守る為の手段だ。

 

 その視点から見れば、オッタルも共通している。

 彼はフレイヤの命令を何でも肯定するが、だからと言って傀儡では無い。

 そこにあるのはフレイヤへの純粋な愛だ。

 だがフレイヤには敵も多い。

 だから強くある必要がある。

 

 逆にあの時対峙したアイズの強さはライトには軽く見えた。

 故に冷めた目で見ていた。

 ロキから聞いた事情も、幼少時に眷属となってからの経緯も知った。

 かつてアイズは人形姫と呼ばれていたという。

 意味は人間味が無い無機質さが、周囲に気味悪く見えたからだ。

 

 強迫観念の様に強さを求め、それ以外には感情を見せずに無頓着。

 それは抜き身の鋭利な刃物の様な印象を周りに与えるのだ。

 現在は幾分マシになったとは言え、その姿勢は相変わらず危うさを孕んでいる。

 

 結局のところ、本人にその意識はなくとも、家族である団員達の好意も全て、彼女にとっては強くなるための手段の一部としか見ていない様にライトには見えた。

 とは言え先ごろレベル6に昇格したアイズは、随分と印象が変わった。

 それは苦難を乗り越えた結果の事だろう。

 その中でどうやら、彼女はライトの宿題の意味に気が付きつつあるらしい。

 

 とは言え、ライトは思うのは単純だ。

 ステイタスに裏打ちされた強さ。

 それは確かに強いのだろう。

 数値化されたそれは、他人との差を明確に表す基準でもあるからだ。

 

 だが結局は、追い込まれた時に発揮する強さは、その数値に現れない部分だとライトは思う。

 肉体を精神が凌駕した瞬間、人は思いがけない境地に辿り着く事は往々にしてあるのだ。

 その多くは、大事な物を壊されたくない一心で発揮される。

 つまりいい意味で柵が増える事が大切なのだ。

 ライトはヘスティア達とのふれあいで、孤独な自分の居場所を見つけた。

 だからこそ、それを脅かす者がいるなら、いくらだって強くも冷酷にもなれる。

 

 しかし以前までのアイズは、無垢に強さのみを追い過ぎた。

 いわば数値のみを高める事しか見えていなかったのだ。

 とは言えライトはあまり心配はしていない。

 なにせアイズはまだ子供なのだ。

 子供は未熟だが、いくらだって成長出来る。

 そして今後、大事な者への執着の果てに、彼女は強くなれるのだろう。

 

「ライト様、見てください。凄い光景ですよ」

 

 いつの間にか横にいたリリルカがしみじみとそう言った。

 言葉の意味が理解できないと首を傾げるライトに、彼女はある場所を指を指した。

 

「これがライト様が色々やったから産まれた光景なんでしょうね。当然リリもですが」

 

 彼女の小さな指の先には、オッタルにしつこく話しかけるアイズがいる。

 まるで子猫にじゃれ付かれている様な顔をしているが、邪険にする風でもない。

 ただ困った顔で聞いている猛者が見える。

 

 その横ではリヴェリアと談笑するヘグニとヘディンが見え、その向こうではガリバー兄弟と意見を交すフィンが見える。

 そこに共通するのは険悪さの欠片も無い事だ。

 因みにベートはチラチラとアイズを見ながら影の様に彼女の後ろにいる。

 リリルカは、ライトが引っ掻き回した結果がコレだという。

 

「ま、連中もいい大人なんだし、いつもギスギスしててもしょうがねえだろ。人生はこんなにも楽しいんだ。それを味わうことをしないなんて、勿体ないだろ?」

「ええ、リリも今がとても楽しいですっ!」

「そっか」

「はいっ!」

 

 そして館内に開始を知らせるブザーと、席につく事を促す放送が流れる。

 ショーが始まる。

 

 

 

 ◇◆◆◇

 

 流れていたBGMが止まり、照明が一斉に落ちた。

 だが一人の男をピンスポットが照らす。

 

『ようこそ最高のショーへ! 俺がガネーシャだっ!!!』

 

 熱狂する観客。

 その歓声を受け、暫くガネーシャは笑顔で手を振り返す。

 

『君たちは俺の主催する怪物祭りを知っているだろう? だが、今日は少しばかり趣が違う。そう、最高のショーだ。これからの時間、君たちは異次元へと飛ぶ。未だ見たことが無い素晴らしきエンターテインメント、その世界へ。俺はこの劇場の支配人。君たちを夢の世界へと導こう。それではショーの始まりだッ!!!』

 

 ガネーシャが気取ったゼスチャーで大げさにおじぎをした瞬間、彼が立っていた場所に火柱が上がり、凄まじい爆発音と共に消えた。

 観客からは悲鳴が、だが次の瞬間そこには大柄なミノタウロスがいた。

 恐怖に息を飲む観客。だが直ぐに安堵した。

 何故なら、彼は服を着ていたからだ。

 

 つるつるとした素材の白い服に、可愛らしい黄色の鳥の絵が染めてある。

 彼はきょろきょろと観客を眺めていたが、気が付くと彼の前に大玉が転がってきた。

 丁度彼の胸程もある大玉だ。

 

 すると滑稽な調子の音楽が流れてくる。

 一体何をするのだろうと固唾を飲んで見守っている観客だったが、直ぐにあちこちで笑いが漏れた。

 何とあの恐ろしい筈のミノタウロスが大玉に乗り始めたのだ。

 しかし巨体を揺らして玉の上に立とうとするが、すぐにつるんと滑って背中から落ちる。

 彼は頭を掻きながら、だが諦めずにまた玉に乗る。

 その姿が滑稽で、思わず笑ってしまうのだ。

 だが、

 

「が、がんばれー! うしさんがんばれー!」

 

 どこからか子供の声がした。

 するとそれは伝播し、あちこちからミノタウロスに声援が飛んだ。

 それを聞いたミノタウロスは咆哮すると、観客たちに向かって任せろ! とばかりに胸を叩いて見せた。

 そして数度の挑戦の後、ミノタウロスは見事玉乗りに成功した。

 最後は円形のステージの外周を器用に回り、彼は盛大な声援を背に幕の向こうに消えた。

 

 鳴りやまない拍手。だが直ぐに次の演目が始まった。

 BGMのテンポはミディアムスローに変化する。

 ステージにはスモークが焚かれ、照明は薄い青色。

 そんな幻想的な霧の中心に美しいセイレーンがいた。

 

 両手は見事な羽。それをカーテンの様に拡げ、セイレーンは静かに歌い始めた。

 それは言語では無く、人々の心を直接揺らす旋律の様だった。

 観客たちは一瞬で魅了され、静かに聞き入った。

 

 初めて聞くセイレーンの歌は、胸を締め付ける様な遣る瀬無さを感じさせる。

 それは強く請う願いの歌だった。

 自分はここにいる。

 特別な物は何もいらない。

 ただ愛して欲しいのだ。

 

 気が付けば観客は知らず知らず泣いていた。

 嫌な涙では無い。

 ただ感動したのだ。

 

 その後、演目は続いた。

 ガーゴイルが空中を飛び回り剣舞を披露し、凄まじい速さで走り回るアルミラージの角に見事輪投げを成功させるアラクネの少女。

 巨大な水槽の中でマーメイドが曲に合わせて踊り、最後は竜の少女がいくつもの楽器の演奏を披露した

 

 そしてガネーシャが登場し、カーテンコールを迎えた。

 観客たちはそれにスタンディングオベーションで応える。

 そしてやり終えて肩で息をしている演者たちに、いつまでも拍手をしたのである。

 その後、観客たちに手を振り返した演者たちが袖に消え、ガネーシャだけが残った。

 

『俺がこの最高のショーの支配人、ガネーシャだっ!!! 君たちの反応を見れば、どうやら満足してくれただろうと思う。だが怪物祭りを見たことがある者は気付いたんじゃないか? 彼らは、そう彼らはテイムされたモンスターじゃない!!!』

 

 突然始まったガネーシャの演説。

 その冒頭の言葉はあまりに衝撃的だった。

 先ほどとは別の意味で息を飲む観客たち。

 だが何故かガネーシャから目を離せないでいる。

 

『俺は彼らを【良き隣人(ネイバー)】と呼ぶことにした。彼らはモンスターの一種だが、ダンジョンから弾かれた異端者でもある。故に生まれ落ちても生き残る者はほとんどいない。だが彼らには我々と同じく理知がある。そう、いま君たちが見て興奮した様に、努力の果てに技術を勝ち取る知性があるっ!!』

 

 騒めく観客を見まわし、それが次第に落ち着くと、ガネーシャは続けた。

 

『俺は彼らに同情はしない。だが彼らの芸に惚れた。だから今後、俺は彼らを俺の責任の元に保護し、これからもこの最高のショーを続けていこうと思う。上で見ている冒険者の諸君! 君たちにこのガネーシャが頭を下げよう。どうか、彼らの同胞を見かけたなら俺に知らせてほしい。そして俺が責任を持って彼らを導こう。諸君ッ! 君たちは非常に幸運だ。何故なら彼らの最初の公演を見ることが出来たのだから。彼らは今後も芸を研鑽し続けるだろう。つまり、今後の公演では、彼らの成長を君たちは見ることが出来る。今日は本当に感謝する。ではこれにてショーは終了だ。次の機会にまた逢おう!』

 

 そして楽団が終了を知らせる演奏を始め、館内アナウンスが帰りの際の注意点等を案内する。

 だが、観客たちは中々席を立たず、惜しみない拍手を続けた。

 とにかくそうして、ショーは終わった。

 

 意外にも観客たちの拒否反応は少なかった。

 それだけでも充分価値はあったのだろう。

 少なくとも、彼らは満足感を胸に帰宅したのだ。

 

 ◇◆◆◇

 

 

 メインの照明が落ち、劇場の職員となったガネーシャファミリアの団員達が客席の清掃を始める。

 ステージでは異端者達がショーの演目の反省をしているのが見える。

 だがVIPエリアではまだ結構な人数が残っていた。

 

 今回のショーを見た観客たちよりもむしろ、神々を筆頭としたオラリオの強者達の方が衝撃が大きかったのだ。

 それゆえに、見終わった途端に彼らは深い溜息をついた。

 

「ライト、そろそろ種明かしをしてくれないかしら? 皆も聞きたがっている様だわ?」

 

 客がはけた後、駆け上がってきたシロを膝の上であやしていたライトに、フレイヤがそう言った。

 

「ま、みんな気になってる様なんでネタバレをするが、まあ割と単純なんだぜ?」

 

 そうしてライトは語り出す。

 異端者を現状で受け入れる土壌はオラリオにはない事。

 だが現実として彼らは存在しており、いずれは何らかの形で表沙汰になるだろう事。

 

 しかし彼らには自我と言う個性があり、個体差はあれど修正はいくらでも可能な知性はある。

 故に自分は彼らを道理のみで排斥する気は起きない。

 なので限定的な居場所を与える。

 それがこの劇場だ。

 

 広範囲で囲った壁は、そのままオラリオを小さくした様なものだ。

 彼らは当面、この中で生き、ショーを続け認知度を上げていく。

 今は良き隣人であればいい。

 その内、人々の意識に変化が訪れた時、改めて次の段階に移行すればいいのだ。

 

 見世物でいい。だが彼らはそこに遣り甲斐を見つけた。

 ならただ展示されるだけの奇妙な生き物では無い。

 自分の意思で芸を磨き、まずは優れた芸能集団となる。

 彼らが持つモンスターとしての異能は、決して人の身じゃ辿り着けない事も実現できる。

 それはオンリーワンの才能なのだ。

 

「でも、それだけじゃないのでしょう? ライト、貴方は悪辣ね」

「フレイヤ様にゃお見通しってか? うちの女神様はどうさ?」

「ふえっ!? わ、わかるさっ! だってボクはライト君の神様なんだから」

「などと供述するぽんこつは置いといてだ。まあ悪辣なのは当然だ。狙ってやったんだから」

 

 ライトはニヤリと底意地の悪そうな笑みと共に話を続けた。

 今日の客層を見れば理解しやすいだろうと。

 何せ客の殆どがただのオラリオの住人だ。

 彼らは恩恵も無く、普通に生きる民衆だ。

 

 そんな彼らに異端者、今はネイバーとなった彼らは、迷宮からも人間社会からも弾かれた可哀想な存在なのだと認識させた。

 脚本自体もそう言う風に誘導している。

 そしてそれをガネーシャに言わせたことで、そこに信ぴょう性を持たせた。

 

 ガネーシャはおそらく、オラリオの民衆から一番信頼されている神だ。

 ギルドからの信頼も篤く、治安維持にも協力的。

 そして何より、人々が求める娯楽を提供してくれる神様だ。

 そんなガネーシャがいつになく真剣に頭を下げたのだ。

 そして責任を持つ、とも。

 

 これがロキやフレイヤが言っても信じる者は多くないだろう。

 それくらいにガネーシャとは、民衆に認知された神だと言う事。

 

 そんな彼が責任を持つ彼らは、可哀想で健気な存在と彼らの目には映っただろう。

 結果、民衆の心理は、彼らの味方のつもりになる。

 そしてこれからもショーを重ねていけばその認識はさらに深まるだろう。

 

 さて、モンスターの脅威を最前線で狩る冒険者たち。

 だが彼らは街で粗暴なマネもする怖い存在だ。

 もし彼らが社会的弱者で、かつ自分たちに娯楽を与えてくれる存在となったネイバー達を傷つけたならどう思うだろうか?

 恐らく世論は圧倒的にネイバーによるだろう。

 

 つまりライトは、予め各ファミリア達にくさびを打った。

 お前らがいらん暴走をした瞬間、オラリオの民はお前らの敵に回るぞ、と。

 だから民衆の隣人となった彼らを、お前らも守るんやで?

 迷宮で見かけても、意味も無く殺せば、そしてそれが明るみになれば、わかるな?

 ライトはそう言ってるのだ。

 

 ファミリア同士ならいくらでも殺し尽くすまでやればいい。

 けどお前ら、民衆相手にそれができるの? 

 ライトはそこを突いたのだ。

 

 彼らの存在意義を芸事に特化させ、その分野で居場所を与える。

 それと同時に、今まで秩序の方向性が神々寄りだったオラリオを、今日以降、少しずつ民衆による監視が機能する方向にシフトさせた。

 冒険者がその恩恵を背景に我を通せば、オラリオのマジョリティである一般的な住人から弾かれる。

 そのモデルケースを作ると言う事を今回のゴールに据えて動いたのだ。

 

「ほんまエグいやっちゃな、アンタ」

「ふふっ、だから面白いのよね、この子は」

「当ったり前だろ! ボクの可愛い子供なんだぜ?」

 

 そんな神々の称賛を受けたライトは。

 

「ま、それで稼げるんだからボロいもんだぜ」

 

 今まで一番いい笑顔で笑ったのである。

 

 

 

 ◇◆◆◇

 

 

 月明りに照らされる深夜のオラリオの街並みをヘスティアファミリアの面々が歩く。

 あの後ガネーシャが合流し、一同はショーの成功を祝う乾杯を行った。

 そして酔いで火照った身体を冷まそうぜとヘスティアが歩いて帰ろうと言いだしたのだ。

 

 女性陣はハイヒールを脱ぎ、はだしで歩く。

 今日あった事を楽し気に話しながら。

 

「ねえねえライト君、今回の事でどれくらい儲けたんだい?」

「ん? ゼロだけど」

「「「えええええええっ!?」」」

「お前らがオレをどう思ってるか、改めて理解したわ。まあいい。今回の事はなんだろ? いわばオレはここにいるぞー! って宣言みたいなもんだと思ってんだ」

 

 葉巻に火を点けながらライトは言う。

 

「どういう事だい?」

「んー……オレってさ、人間ではあるけれど、中身はシロ達と一緒なんだよな結局」

 

 ライトの境遇は皆がもう知っている。

 こことは違う異世界からやってきたと。

 彼の中では、シロと出会った事で余計にそれを認識した。

 どこにも帰る場所の無い、酷く不安定な存在であると。

 そのシンパシーが彼らに強い情を覚えるきっかけだったのだろう。

 

「多分オレはどこかでお客様気分だった。他人の家で熟睡できない様に、いつも神経が尖っていた気がする。だから必死に働く事でそれを考えない様にしてきたのかもな。でもま、神様やリリ、ハル、ティオナと大切な人が増えて、オレは帰る場所を見つけた。だからさ、最後にでっかくオレの足跡をつけたかったんだな。ここはオレの生きる場所だーってね。だからガネーシャから金はとってない。その代わり、シロ達の完璧な保護の約束と、うちのファミリアの専用シートの権利を貰っておーわり!」

 

 そうしてライトは高らかに笑った。

 何かを吹っ切った様な心からの笑いだ。

 それを見ていたヘスティアは無性に切なくなり、ライトを抱きしめた。

 

「ねえライト君。ボクは君を愛しているよ。だから、ずっとそばにいてよね」

 

 リリルカも春姫も、嫉妬の気持ちは浮かばなかった。

 静かに抱きしめあう二人の姿が、何かとても尊い様に見えたからだ。

 そしてライトは、

 

「ありがとう神様」

 

 一言、そう呟き、そして思いっきりヘスティアのヘスティアを揉みしだいたのである。

 

「だ、台無しだよーーーっ!!!」

 

 そんなヘスティアの悲鳴が夜のオラリオに響いたとさ。

 

 

 おしまい




ひとまずこれで完結!

後はぼちぼちギャグな短編を投稿していくスタイルに変わります。

細かい経緯や理由は活動報告にて


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後日談・サイドストーリー 仕事も私生活も極意は明鏡止水

後日談的なアトモスフィア

注意
お前らの嫁があんな目にあうかもしれません




 ◇◆このライト、神相手でも容赦せんッ◆◇

 

「ナムナムナムナムナムナム…………(意訳)」

 

 今日もウラノスはオラリオの平和を守る為に祈祷していた。

 これをやらないとダンジョンさんが本気を出すのだ。

 なのでバベルが出来て以降、彼はこうして祈っている。

 

「ナムナムナムナムナームナムナムナム……ッ!!!(意訳)」

 

 どうやら祈りも佳境に入っている様だ。

 ポクポクとリズムを刻む木魚にも力が入る。

 そう、つまり彼はオラリオいちの社蓄である。

 これを誰かがやらねばオラリオがヤバい。

 その使命感が彼をここまで突き動かしている。

 なのだが、

 

「おいオッサン」

「ナムナムナムナム……ファッ!? あ~もう滅茶苦茶だよ。やり直しだ……」

 

 いきなりニンジャが入ってきた。

 本来ここはギルド職員ですら入室出来ない地上の神域だ。

 だが一度ここに足を踏み入れているライトには関係ない。

 タイムイズマネー。時間は限られている。

 

「んなもん後にしろよ」

「……ぐぬぬ。で、何しに来た」

「おう金と魔石山ほどくれよ」

「は?」

「だから金と魔石だよ。金は立て替えてもいいけど10日で1割な。魔石はこのくらいの大きさの奴を100個は欲しい」

 

 恥知らずなニンジャは、サッカーボールくらいの丸を指で描いた。

 しかも10日で1割の部分は若干小声だ!

 しかしこのクラスの魔石ともなれば、それこそロキやフレイヤファミリアほどの実力者の集団が遠征しないと難しい。

 

「何に使うんだ?」

 

 震え声で聞いたウラノスは間違っていない。

 それを聞いたライトはニヤァ……と笑った。

 ギリシア神話最古の神が一歩後ずさる。

 

「フェルズに作らせる各種マジックアイテムの動力にすんだよ。異端者の保護の妙案を出せってアンタが言ったんだ。ケツ持てや」

「ぐっ……だがその数を直ぐに用意は出来ぬ」

「なら強制遠征やらせろよロキとかに」

「いきなりそれは……」

「やれよ。権力っていつ使うの? 今でしょっ!」

 

 そんな感じでゴリ押したライト。

 結局ウラノスが折れた。

 そして数日後────

 

「骨のオッサン、どんな感じだ?」

「ライトか、さっきギルドから魔石が届いた。後はそれをハメたら完成だ。まあ数が数だ、三日三晩はかかるだろうな。私はまた睡眠が出来ないのだろう……ま、骨だから寝ないのだが?」

「………………」

「………………」

「いや、骨ジョークわかりづれえし! いまドヤ顔してるだろ? 骨だからわかんねーけど」

「「HAHAHAHAHA!!!」」

 

 このコンビ、意外と相性がいいらしい。

 アメリカ人みたいにピシバシグッグとハンドサインを交しながら爆笑している。

 そして満足したのか、彼らはマジックアイテムの調整に戻る。

 

 フェルズの地下工房は中々広いのだが、今は所狭しと様々な道具類が散らばっていた。

 骨とライトは慣れた様子で床に座り、骨が未完成の道具をひとつ手に取った。

 棒の先に丸い玉が付いているシンプルな見た目の。

 

「で、これはどういう道具なのだ?」

「ああソレか。それはアレだ。倦怠期を迎えた夫婦とかの夜のお伴かな」

「ほう、この振動をするってだけでいいのか?」

「ああ。ただ強中弱って感じで、強弱をつけられる方が良い」

「なるほど、それは魔石の伝導率を少し弄るか……」

 

 どうやら方向性が決まったらしい。

 次に骨は筒状の何かを手に取る。

 

「次はこれだな。中々調整が厄介だったな。粘液を循環、温度調整、そしてうねりを加えた螺旋運動。おもったよりコストがかさむぞ?」

「そこはまあ、そうだな。でも考えてもみろ。ダンジョンに男女のパーティーで行くだろ? で、その中の誰かがカップルだったらどうする?」

「なるほど、ギスギスするだろうな」

「そこでコレだ。調整はまだいるだろうが、概ね例の穴と同質の感触を得られる。つまり?」

「理解した。これは間違いなく売れる。色は紅白とのオーダーだが、こだわりが?」

「んーそこは様式美だな」

「わかった」

 

 どうやらこれも了解が出たらしい。

 次に骨は小型の桃色の玉と、手のひらサイズで握りやすそうな何かを手に取る。

 

「最後はこれだな。これは最初の奴と似ているが、流石にこのサイズは苦労したぞ」

「だろうな。これは若い二人が刺激を求める際の需要が見込めるな」

「具体的には?」

「そうなだ、ちょっと動力を通してみろ」

ビイイイイイイイイイイイイイイィィィィン……

「な?」

「なるほど、で、これはどういうふうに使うのだ?」

「ま、それは若い二人が考えればいいのだろが、一般的にはこの遠隔操作を活かしてだな、男の方が遠くから様子を窺いつつスイッチオン。さて人込みの中で女の方はどうなる?」

「流石はライトだな……恐ろしい男よ。まるで悪魔的な閃き、そう言う事なのだろうな……」

「ああ、ヌルっと来るぜ……」

 

 どうやらこれも合格らしい。

 こうしてアイデアがライト、製作が骨と言う体制で人知れずマジックアイテムが無数に作られた。

 

 人々を多く感動させ、神々のド肝を抜いたガネーシャ劇場。

 その演目をドラマティックに彩った舞台効果は、こうして二人の真剣なディスカッションで産まれたのだ。

 

 因みに劇場で使用されなかったいくつかの試作品は、ライトが懇意にしている大店を介して発売され、何故か大っぴらに宣伝はされなかったというのに、大ヒットを飛ばし、ライトと骨の懐を大いに潤したという。

 

 

 

 ◇◆うしくーん! がんばえー!◆◇

 

 

「………………」

「…………うーん」

「どうしタ? ライトっち」

「いやリドよ、このアステリオスくんだけどさ」

「うん」

「ミノタウロスだよね?」

「そうだよ。最近仲間になった」

「…………そうか。でも、うーん」

 

 ライトはシロを筆頭とした劇場で演目を披露する異端者たちの指導に手を貸していた。

 彼の役どころとしては、アイデアを出して方向性を決めるプロデューサーと言った所か。

 ショー全体の演出や脚本などはガネーシャと彼の眷属が担当はしているが。

 

 で、だいたいの演者の演目は決まり、それぞれにあった指導をガネーシャの眷属に引き継ぐ。

 ただ辛い所もある。それは例えばシロの様にいかにも可愛らしい幼女が色々な楽器に挑戦するという演目であれば、本来なら楽器のプロを呼んで指導させるのが正しいのだろうが、如何せん現状では異端者の情報は機密でありそれも出来ない。

 故にガネーシャファミリア内でどうにかするしかない。

 

 そして最後まで演目が決まらなかったのがライトの目の前で所在なげに座っているミノタウロスのアステリオスなのだ。

 なぜ難航しているかと言えば、それはどうも普通のミノタウロスじゃないからだ。

 

 ライトが知るダンまちのミノタウロスは、言うなれば筋骨隆々の人型に牛の顔が載っているという感じだ。

 特にベルと因縁を持ち、その後何度も関わるミノタウロスは、いま目の前のと同様にアステリオスと言うネームドになる。

 ただ色が若干黒っぽくなったりと普通のとは差別化がされているが。

 

 だがライトの前の彼は違う。

 大きさこそ同じ感じだが、まあ2m50cmはありそうな巨体。

 しかしぶっちゃけると人だ。浅黒い肌の筋骨隆々な人。

 赤い腰ミノに傍らには巨大なハルバートっぽい武器が2本。

 どうやら2刀流らしい。

 

 髪は白くモッフモフ。

 目は子供の様にまんまるで、無垢な表情。

 で、牛をイメージさせる仮面がある。

 

(これ牛じゃねえ。牛風の人や……)

 

 ライトは困惑する。

 そもそもだ、ダンまちのミノタウロスがネームド化するのは、ベルが戦った事で発生した縁の様な物だ。

 現状ベルはいない。

 だからネームド牛はいる訳がないのだ。

 

 例外というか、普通のミノタウロスが異端者として産まれた……そう言う事もあるかもしれない。

 だが目の前の彼はどうみてもミノタウロスの名残りも無いのだ。

 そして何より、

 

「アンタ、誰?」

「私、綺麗でしょう? 可愛いでしょ? ええ、ええ、知ってるわ!」

「……会話が成立しねえ」

 

 なんか変なのが肩に乗っている。

 リリルカくらい小さい、だが妖艶な姿の少女が。

 ひらひらした白いドレスに、足首まで届きそうな紫色の髪はツインテール。

 綺麗だが幼さも感じさせる。

 

「あなた、そうそこの赤いの。あなたがマスターなんでしょう? ならさっさとまともな部屋に案内なさいな。それよりステンノはいないのかしら? それに、メドゥーサも」

「駄目だ意味が分からん。なあアステリオスよ」

「おれに、はなしかけるな」

「あかん」

「ふふっ、嫌われたみたいね、マスター。仕方ないから教えてあげる。私はエウリュアレ。ええそう「女神さま」よ。短い一生だろうけど、せいいっぱい楽しませて頂戴ね?」

「あかん……」

 

 まるで会話が成立していない。

 頭を抱えるライト。

 この男、意外にアドリブが効かない。

 

 その後どうにか打開策をと苦心したライトが、肩に乗ってるクッソ偉そうな自称女神とコミュニケーションを試み、結果、女神に食事や酒(神酒)を献上した所、アステリオスくんが「えうりゅあれがやれっていうならやる」と前向きな返答を引き出し、どうにかショーには間に合った。

 

 胃の痛いライトであったが、ふしぎな事にショーの後、アステリオスとオプションの幼女は消え、普通のミノタウロスに戻ったという。

 

 

 

 ◇◆ライト、ロキに拉致られ黄昏の館へ~貴重な戦闘シーンを添えて◆◇

 

 

「死ねやあああっ!!!」

「はい、大振り過ぎ。はい駄目、チーン」

「ふぐぅ~~~~ッ!?」

 

 ベートのハイキックが側頭部を襲う。

 ヒットすれば無事には済まないだろう。

 だがライトはギリギリまで引きつけるとヘッドスリップでしゃがむように躱すと、ガラ空きのベートの股間に渾身のデコピンを叩きこんだ。

 ベートはこの如何ともしがたい激痛に白目を剥くと、股間を押さえながら前のめりに倒れる。

 

「ほら、ほらほらほら。何見てんの。背後からでも襲い掛からねェと」

「グッ、舐めるな小僧ッ!!」

 

 上からガレスが落ちて来た。

 彼の身の丈程もある大斧による脳天唐竹割。

 こんなもの喰らえば常人なら左右に身体が泣き別れになるだろう。

 が、

 

「激流を制するは静水……ハアアアアッ!!!」

 

 ライトは涼しい顔で斧の側面に掌を当てると、そのまま勢いを利用して逸らせる。

 

「ぐうっ……」

 

 意図しない急激なベクトルの変化にガレスはたたらを踏んだ。

 それでも身体を完全に泳がせない所は流石である。

 だがしかし、

 

「こことここを掴んで、こうっ!!!」

「ぐああああああああああッ!?」

 

 ライトが隙だらけのガレスの髭を数か所掴んで思いっきり下に引っ張った。

 ブチィっと音がして、憐れガレスは涙目で転げまわる。

 だがここで満を持して真打が登場。

 黄昏の館の屋上で息を顰め、反撃の機会を虎視眈々と狙っていたアイズが飛び出した。

 

「リル・ラファーガッ!!!!!」

 

 出たっ! アイズの必殺技!

 全身に風を纏い、その推進力で必殺の突きをする彼女の奥義!

 別に技名を言わなくても威力が変わらないのにロキに騙され叫んじゃうとの逸話がある。

 まるで閃光の様にライトの喉元へ一直線。

 この娘、殺意が充分である。だがッ 

 

「回し受けっ……からのぉ……ヤー!」

「……くっ、これはっ!?」

「ふははは、見ろアイズ。貴様の伸びきった腕はオレの肩と顎でクラッチしている。もう動けまい。さらにオレの足でお前の利き足を踏んでいる。これでもうお前は脱出も不可能。そしてっ! オレの両手はお前の胸を掴んでいる。クールな顔して結構でかいんだなコノヤロウ。許さん、オレは許さんぞ。組み手で奥義を使うとかひきょうすぐるでしょう?」

 

 酷い絵面である。

 アイズを動けなくしたままライトがアイズのけっこう豊満なそれをガッチリと掴んでいる。

 周囲で見守るロキファミリアメンバーたちがゴクリと息を飲んだ。

 むくりと起き上がったベートも真剣な顔で見ている。

 

 瞬間、ライトの手が、ふに、ふにふにと動いたっ!

 

「んっ……て、手を離してっ……」

「んっん~? 聞こえんなァ~?」

 

 頬を染めながらもどうにか逃げようと足掻くアイズ。

 だがライト、無慈悲ッ……!

 子供と断じた相手に渾身のセクハラである。

 

 戦国時代の名将、直江山城守兼続という男が「獅子 欺かざる力」と言葉を残している。

 これは獅子と言う自然界の強者でも、兎を狩る時には全力を出すという意味だ。

 つまり一分の油断もしないと言う事でもあり、手を抜く事は相手に礼を欠く事でもあるという二つの意味を持つ。

 故にライトもアイズというお子様でも手を抜かないのだ!

 そして、

 

「オレのこの手が光って唸るゥ!  おっぱいを揉めと輝き叫ぶゥ! 必殺! シャァァァイニングゥゥゥ……フィンガァァァー↑↑」

「~~~~~ッ!!!」

 

 最低である。

 ライトは口上と共に残像が残る速度で両手をわきわきと動かした。

 アイズ、苦悶の表情。

 いや、描写をしてはいけない感じの表情。

 アイズの口元からは涎すら見えるっ!

 

 だがこれはお仕置きである。

 初見殺しを仕掛けた恥知らずな女ナイトへの。

 故に快感を与えて油断をさせた所で、

 

「ヒーーーーーーーーーートォ、エンドォ!」

「キャアアアアアアアアッ!?」

 

 ライトは鷲掴みしていた手を一瞬外すと、両方のお山の先端を指でつまみ、思いっきりグニュっとやった。

 アイズは産まれて初めて本当の死を感じた。それほどの激痛だ。

 彼女が感じた痛みは先ほどのベート数倍。

 剣姫が胸を押さえてゴロゴロ転がっている。

 そしてライトは背中を向けてドヤった。

 周囲のギャラリーたちには、ライトの背に”天”という文字が見えたとか。

 

 さて、なぜこんな事になっているかだが。

 それはライトのせいで遠征に行かされた事がロキにバレたからだ。

 

 例の最高のショーの興奮冷めやらぬ数日後、竃の館にロキが怒鳴り込んできた。

 

「ライトこらワレェ! お前のせいで遠征いかされたやろがいワレェ! アイズたんとの時間を減らしおってからにワレェ! ええ加減にせえやワレェ! タココラワレェ!」

 

 と、意識高い系アメリカ人が会話の端々に”you know”を混ぜてくるが如くワレェワレェ言いながら。(※実際は会話のブリッジやアクセントなので意識高くなくても使います。ただしYou know whatは多用すると感じが悪いからキヲツケテネ)

 

 主にロキの私怨のみだが、聞けばウラノスがライトに祈祷を邪魔された腹いせに、ロキに遠征をオーダーする際に”ライトに脅されて仕方なかったんや……許してクレメンス……”と歪曲して伝えたらしい。

 

 結果、事情をしればしゃあないけど、腹が収まらんからとライトがまたロキファミリアの戦闘訓練の非常勤講師にさせられたのである。

 

 そして本日、それが履行された訳だが、実はヘスティア達はメレンに旅行に行くつもりだった。

 ここ最近色々あったからと、打ち上げに家族旅行というノリで。

 なので既にニョルズが運営する宿、海神に予約が入れてあった。

 だがロキファミリアは遠征が控えていたため、この日以外に時間がない。

 故にライトが拉致られた。

 

 勿論旅行は後ろにずらした訳だが、旅行当日は誰もがわくわくする気分だ。

 それが一転、したくも無い戦闘指導とかライトが滅入るのも無理はない。

 そう、これはただの八つ当たりである。

 アイズからすればとばっちりだが、彼女には事故にでも遭ったと諦めて欲しい。

 そして訓練の後、いつもの様に豊穣の女主人で打ち上げの飲み会で〆となったのだが、

 

「ライトてめェ…………実際どうだったんだ」

「そ、そうですライトさんっ、あんな不埒なマネをしたんですからねっ! うらy、許せません! なので詳細を希望しますッ!」

 

 ライトはツンデレとガチレズに捕まっていた。

 つまりベートとレフィーヤである。

 彼ら三人はライトのいつもの席で顔を寄せるように密談している。

 控えめにいって怪しい。

 

「カーッ! ヘタレ過ぎねえかお前ら。そらおっぱいは誰のだって最高だ。例えそれがロキのちっぱいだって思わず感じて赤面すれば可愛いだろうがっ! お前らもアイズが好きなら行けよ!」

 

 嘆かわしいとばかりに吐き捨てるライト。

 乳を揉むのに嘆かわしいも何もないのだが。

 気まずそうに顔を逸らす二人。

 

「「出来れば苦労はしねえよ……(しませんわ……」」

 

 若干本音が漏れているが。

 ライトはやれやれと首を振ると二人に言った。

 

「いいかベート、お前はいつも相棒の様にダンジョンに潜ってるだろ? それを利用しろや。いいか? 深層ではアイズとて吹っ飛ばされる事もあるだろう? ならお前のポジショニングはアイズの真後ろにすぐ移動できる位置を心掛けろ。危ない! このままじゃアイズが壁に激突する! そこでお前は颯爽と壁とアイズの間に入り込む。いいか? 大事なのは抱きとめるじゃねえ、壁に挟まれる様に助けるだ」

「そこにどんな違いがあるってんだ?」

「馬鹿やろうッ! お前が身を挺してクッションになる。ベート、ありがとう……アイズはそう思う。だから朦朧とした顔で、結果的に! アイズを抱きしめる形になって、その過程で少々アイズのアイズをむにゅっとやってもバレねえ! だが、抱き留めて助けた場合、露骨過ぎてバレやすいんだ!」

「~~~~~ッ!!!!」

 

 目をカッ! と開いてベートは納得した。

 次にライトはレフィーヤの肩を抱いて耳にひそひそと伝授する。

 

「いいかガチレズ。お前はもう露骨に性癖を出した瞬間詰みだ。それはわかるな? 同性愛は理解されづらい。だが、同性だからこそ出来ることがある! お前さ、レフィーヤさ、アイズと服を買いに行った事あるか?」

「あ、ありますっ! で、でもあのアマゾネス姉妹達がその、えっちな服ばかり勧めるのでその……」

「ああいい、皆まで言うな。だが買い物に誘える関係ならいいんだ。なら隙を見て二人で買い物に行き、アイズを着せ替え人形にするんだ。その際に”アイズさん、ここは襟をもう少し立てて”等と言いながらファッションチェック風に身体を触れば自然だ。さらに! アイズに試着させたえっちな服をお前が後でこっそり買えば……後はもうわかるな? アイズの匂いのする服が手に入る。そのえっちな服をお前が着て、夜な夜な励めばいい」

「~~~~ッ!!!!!」

 

 それがあったかと手をポンと叩くレフィーヤ。

 おいお前、好きでも無い男に肩を抱かれているぞ。

 ついでにさりげなく自慢の耳をニギニギされているぞ。

 いいのか、それでいいのか潔癖エルフ。

 

 これ以降、ベートとレフィーヤはライトの事を心の師匠として密かに崇めたという。

 

 尚、全てはシルに聞かれており、この日店が終わった後、ライトはどこかに連れていかれたという。

 インガオホー。




本当に申し訳ない。お前らのアイズたんを汚してしまった。だが待ってほしい。アイズはああ見えて結構でかい。それに彼女の服はえっちだ。ならばライトは平等の精神でセクハラをしてしまっても仕方がない。そうは思わないだろうか?


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地味な眼鏡っ子が素顔になると可愛い的なアトモスフィア

微エロ入るので苦手な人は回避推奨


誰か感想でロキがデレると云々とか書いたでしょ。
全部そいつが悪い。私は悪くない。


 ◇◆悪神ロキ被害者の会。トリックスターに正義の鉄槌を◆◇

 

「ま、また他のファミリアがうちに集まってるよ……しかもロキのとこの……」

 

 ヘスティアが朝起きてくると、リビングにはあの忌々しいロキファミリアの幹部たちがいた。

 しかも綺麗どころが集まり、ライトを囲んでいる。

 結構な頻度でやってくるフレイヤファミリアも中々にアレだが、ヘスティアはあの胡散臭い女神とまともに舌戦しても胃がもたれると学習し、スルースキルを覚えた。

 が、また増えるとか聞いていない。勘弁してよと天を仰ぐ。

 

「あ、神様。今回は気にしなくてもいいと思いますよ?」

「おやリリルカ君おはよう。つまりどういうことだい?」

「ま、聞いてれば分かりますよ。むしろ面白いですっ」

「へ、へえ……リリルカ君、その笑顔はや、止めた方がいいかなぁ……?」

 

 物陰から眺めていたらしいリリルカがダイニングテーブルの下から現れヘスティアを諭す。

 しかしゲス笑いにドン引きするヘスティアであった。

 

「だからライトにも力を貸してほしいのだ。正直女性陣は辟易している。だがロキは我々にとっては母親も同然。なので無下にするのも心が痛む」

「……ロキは好きだけどステイタス更新のたびに変な所を触られるのは嫌」

「うんうん、あたしはライトだけにしか触られたくないもん」

「同じく。団長以外に触れさせるなんて虫唾が走るわ」

「わ、私はアイズさんのなら触っ、いえロキはけしからん、それ一番言われてますからっ!」

 

 おいガチレズは座ってろ。

 百合はホモ、はっきりわかんだね。

 

 それはそれとして、ロキファミリアの華とも言えるリヴェリアを筆頭にアイズ、ティオネ、ティオナ、レフィーヤが真剣な顔でライトに相談している。

 そもそも彼が何故この件で頼られているかと言えば、偏に神をも恐れぬ傍若無人なキャラと認識されているからだ。

 

 ライトの狡猾な所は、ただ神をぞんざいに扱うだけではなく、きちんと方々の神の信頼を勝ち取る行動もしている所だ。

 故にロキやフレイヤと言った割と悪名の方が多い女神を少々弄った所で”あの神ならしゃあねえわ。自業自得、インガオホーよな”と周囲も納得するのである。

 

 実際イシュタル相手などは扱いが違うのだ。

 あの騒動の後からライトは、ちょくちょくイシュタルと情報交換がてら飲んでいる。

 一応あの件に関しては、元々彼女がフレイヤに嫉妬し、仕掛けた構図だが、それでも吐いたツバを無理やり飲ませた様な結果に収まっている。

 

 ただ諫めたのが同じ神では無く、ただの人間と言う事であれば話は違う。

 メンツの問題があるのだ。

 故にあの件の真実については緘口令が敷かれており、ライトも2柱とギルドに対して口を開かない旨の誓約書を提出している。

 これはライト側から提案した事で、小さな憂いを残さない為の配慮だ。

 

 とは言えきちんと筋を通す姿勢にイシュタルも軟化し、ライトに目をかける様になった。

 そう言う流れから時間があればサシで呑む様な関係になっていた。

 しかしイシュタルは奔放で淫蕩な神だが、ライトとは歓楽街を見下ろしながら雰囲気を楽しむのみにとどまり、大人ないい関係と言えるだろう。

 これには彼女の配下たちも目を瞠る程だ。

 

 そしてイシュタルは神会などでその事を自慢気に話す物だから、自然と彼は他の神からも知らないうちに一目置かれる結果となり、それらを差し引きすると、悪評よりもそっちが上回るという事なのだ。

 何とも憎たらしい男である。

 

「うーん……まあ無理じゃね? あの神の性癖っつーかさ。言ってしまえばオッサンじゃんロキって。具体的な行為を迫るでもなく、ただ乳揉んだりするだけだろう? そんなの言って聞くならとっくに反省してるだろ」

 

 皆なるほどと押し黙る。凄い説得力だからだ。

 当たり前だ。偉そうに言っているこの男もまた、行為未満のセクハラをこよなく愛する腐れ外道なのだから。

 おい、お前ら騙されてるぞ。ヘスティアは訝しんだ。

 

「だがなライト、最近はかなりエスカレートしているのだ。それに種族の思想もあってか、どうしてもこの件では我慢ならぬのだ、先日など────

 

 

 

────────────────────────────

 CASE.1 リヴェリア・リヨス・アールヴの場合

 

「ふう、今日も中々ハードだったな。明日は若手の指導もあるしそろそろ寝るか……」

 

 深夜、リヴェリアは自室でそう呟いた。

 だが言葉の内容とは裏腹に、その顔は満足気である。

 それは若手が最近やる気を見せ、着実に力をつけているからだ。

 

 神々にも劣らない美貌を持つと言われる、ハイエルフの王族であるリヴェリアは、世界中を旅がしたいという目的で故郷を出た。

 それを叶える為の手段として、彼女は冒険者になったのだが、その夢を諦めた訳ではない。

 故に後継者としてレフィーヤに目をかけており、いずれは自分の地位に彼女を据え、また旅に出ようと考えている。

 

 ただ気質はやはり王族であり、責任感は誰よりも強い。

 だからこそ目的はあれど、副団長として団員達には強くなってほしいと誰よりも願っている。

 強くなるというのは、逆に言うと死に辛いという意味だ。

 ダンジョンは一つの油断で簡単に命を落とす。

 

 なので彼らを鍛えるのは、ロキファミリアとしての成長と言うよりも、彼らに死んでほしくないと言う想いの方が強いのかもしれない。

 それが口で言わずとも周囲に伝わっているからか、彼女はロキファミリアのお母さんと思われている。

 そんなリヴェリアが寝間着に着替えてベッドに入り、灯りを消した……。

 

「むっ、だ、誰だっ……」

「ひひっ、うちや。リヴェリアママに添い寝してほしい思て来たんや」

「なっ!? ロキ、いつの間に!? ええい自分の部屋に戻れっ」

「ああ^~ママの肌すべすべで気持ちいいんじゃ^~」

「やめろぉ!? 肌着の中に顔を突っ込むなっ!!!」

「暴れんなや、暴れんなや……ええやん、一緒に寝るだけやん……」

「ちょ、そこを舐めるんじゃあないっ……はぅっ……」

「いひひひ、ええ声で鳴くやんママ」

「ママ言うなっ……ひぅっ」

 

────────────────────────────

 

「こ れ は ひ ど い」

 

 一同絶句である。

 乳を揉むだけなんてレベルでは無かった。

 入ってないだけで実質入ってるやん。

 後ろで潜んでいるヘスティアとリリルカが草を生やしまくっている。

 因みに春姫はカレーの探究にデメテルの所だ。

 

 一同が溜息をつく中、そう言えばとティオネも参戦してきた。

 

「リヴェリアも結構苦労してるのね、でも私なんか────

 

 

────────────────────────────

 

 CASE.2 ティオネ・ヒリュテの場合

 

「ふー今日も疲れたな~後でライトの所に行こうかな~! んじゃティオネ、先に上がってるね」

「ええ、私はもう少しここにいるわ」

 

 黄昏の館のシャワールーム。

 ティオナが先に出ていくと、そこにはティオネ一人のみ。

 既に他の女性団員達は引き上げている。

 

「はぁ……それにしても団長は全然振り向いてくれないわね……」

 

 熱いシャワーを浴びながら彼女はそうボヤいた。

 強い男の子種を無意識に欲するアマゾネスだが誰でもいいという訳ではない。

 惚れたら一途となり、他が目に入らなくなる。

 ヒュリテ姉妹も同様で、それぞれ愛しい男がいる訳だが、如何せん彼女の場合は旗色が良くない。

 

 どれだけフィンに惚れようが、向こうは飄々としてそんな雰囲気には一向にならない。

 妹のティオナが、あんな子供っぽいのにしっかりと相手を射止めている事を考えると、彼女はどうも焦りを覚えてしまうのだ。

 

「んっ……ここだって、結構自慢なのになぁ……」

 

 何となく豊満な胸を持ちあげてみる。

 ティオナと違って彼女は抜群にスタイルが良い。

 褐色の肌に整った顔。細いウエストに健康的なヒップ。

 グラマーな美人と言う感じだろうか?

 

 冒険者たちの間での人気はアイズが圧倒的だ。

 美しく強い。凛とした雰囲気。だがそれは主に格好良い女性像というイメージだ。

 しかし逆にティオネは男性が求めるセックスアピールを高い次元で持つ女性と言うイメージで、実は密かな人気を誇っている。

 

 ただフィンにはフィンの目的があり、中々色恋に意識を向けないのだ。

 とは言えティオネは、そんなフィンだからこそ愛しているのであり、結果ジレンマに苦しむ。

 

「むう、団長ならここを好きにしてもいいのに────」

「せやなぁ……こんなん弄らずにおれんわ。ああ^~ティオネのお山に登りたいんじゃ^~」

「ちょロキ!? どこから現れたのっ!? って止めなさいっさ、触るなぁ~」

 

 どこからかロキが現れ、石鹸でぬるぬるの手でティオネを鷲掴みである。

 もがくティオネだが、本気で暴れたらロキがヤバい。

 それだけに抵抗もあまりできず、ロキの指が食い込んでいく……そしていつしか────

 

────────────────────────────

 

「と て も え ろ い」

 

 一同絶句である。

 レフィーヤがここは今後の為に、その後どうなったかを詳しく話すべきと主張したがスルーされた。

 ただここまで酷いとは思わず、ライトも思わず顔を顰めた。

 そのせいか、膝の上にいるティオナの尻をつい撫でてしまったのも仕方ないだろう。

 

 重苦しい雰囲気に包まれるリビング。

 だがそんな中、アイズが名乗りを挙げる。

 

「ライト、聞いて。私も困っている────

 

 

────────────────────────────

 

 CASE.3 アイズ・ヴァレンシュタインの場合

 

「ロキ、更新をお願い」

「おっ、アイズたん。今回も頑張ったんやな。ええよ、ほな脱いでベッドに横になり」

「……うん」

 

 夜、ロキの部屋を訪れたアイズは、いつもの様にステイタスの更新を頼む。

 そんな彼女を母親の様な慈愛の目でロキは受け入れた。

 目に入れても痛くない、そんな風にロキはアイズを可愛がっている。

 

 アイズがロキの眷属になったのは7歳ころの事だ。

 姿を消した両親。

 いくつも事情があり、彼女は強くなりたいと願った。

 それはある種の強迫観念とも言えるレベルで、結果無茶をして8歳でレベル2に昇格している。

 

 普通の人間の子供ならとっくに死んでいただろう。

 要は努力でどうにかなる話じゃないのだ。

 それに関してはアイズ自身の資質や流れる血の恩恵だろう。

 とは言え、才能があれど凶悪なモンスターと対峙して尻込みしない7歳児などいる訳がない。

 だからこその強迫観念なのだろう。

 

「ほな更新するで。楽にしとき」

「わかった」

 

 部屋着を脱ぎ去り上半身を露わにしたアイズがベッドにうつぶせになり、その上にロキが跨った。

 これは特別な事では無く、神の血を持って背中に神聖文字を刻むのだ。

 

「うーん……ま、この前レベル6になったばかりやし、それほどアビリティの数値も変わっとらんな。ま、書きだすさかいじっくり見とき」

「うん、ありがとロキ。じゃあ降りて」

「いや待ちいなアイズたん。む、これはなんや。ちょっと読まれへんわぁ……ちゃーんと確認するしもうちょい待ってな?」

「……うん」

 

 アイズの背中でごそごそ音がする。

 彼女は不審に思ったが、大事な自分のステイタスの事だ。

 とりあえずは静観する事にした。

 だが、

 

「ああ^~アイズたんの背中めっちゃ気持ちええんじゃ^~」

「なっ、ロキ?! どうして覆いかぶさってきたの?!」

「堪忍やアイズたん。もう我慢でけへんかったんや……アイズたんも悪いんやで。こんな綺麗な背中とかありえんわ。あかんあかん……」

 

 あかんのはお前の所業であろう。

 あろうことかロキは自分も上半身を露わにし、直にアイズに抱きついてる。

 控えめに言って変態そのものだ。

 

「目覚めよっ」

 

 ただし真面目なアイズに冗談は通じなかった模様。

 

 

────────────────────────────

 

「こ れ は ギ ル テ ィ」

 

 一同のセリフがユニゾンした。

 さらに重苦しい雰囲気が周囲を包む。

 これはセクハラレベルでは収まらないのでは? 一同は訝しんだ。

 なぜなら神と言う権力をかさに来たパワーハラスメントでもあるからだ。

 

 ────こんな事、許せないだろッ!!!

 

 義憤に駆られたライトは、怒りのあまり膝の上のティオナの胸を揉んだ。

 

 こうしてロキセクハラ被害者の会は終了した。

 因みにあたしもー! と名乗りを挙げたティオナは、いまいち意味が分かってなかったのか、この前ライトとデートをしたんだと謎の惚気を披露し、何故か対抗心を燃やしたレフィーヤが、アイズとの混浴の際にいかにアイズの身体が美しいのかと自分の見解を披露したが、今回のケースには当てはまらないと判断される。

 その際レフィーヤはアイズに”暫く近づかないで”と真顔で言われ、ギャグマンガみたいな描写で泣いていた。

 そして、

 

「分かった。これは流石に別ファミリアだからとか言っている場合じゃない。なあ神様よ、ここはオレが出張ってもいいだろう?」

 

 ライトが頼もしく拳を握り、ヘスティアも強くうなずいた。

 

「うん、ライト君、これはきちんと叱らないといけないよ。だから君に任せたッ!!」

 

 こうしてライトによるロキ改心作戦が始まったのである。

 

 

 

 ◇◆えくすきゅーしょん~死刑執行~◆◇

 

 

 夜の帳が落ちたオラリオ。

 バベルが放つ妖しい光と、歓楽街から漏れる光線が街並みを照らしている。

 

 既に通りを歩く者は少ない。

 だが、そんな人の気配のない夜の街を歩く男女がいた。

 

「ほ、ほんまにええんか? あの店、結構な値段するって話しやろ?」

「気にしなくてもいいよ。僕が貰ったところで意味がないからね。だってあそこは淑女が集まる店だよ? なら日頃の感謝の意味を込めてロキに権利を譲るって訳さ」

「フィン~アンタ、ほんまええ子やわぁ……ほな、子の好意を無下にしてもあれやし、せいぜい楽しませて貰うわ。いっひっひ」

「ああ、そうすると良い。ロキの好みは事前に話してあるからね。後は店に任せればいいさ」

「なんや恥ずかしいわぁ……」

 

 ロキとフィンである。

 主神をエスコートする小さな騎士と言う感じか。

 ロキは普段のカジュアルな装いとは違い、今日は赤いドレスを着ている。

 何故かと言えば、あのVIP級の淑女しか入れないと言われている話題の店”ソーマ’sシャングリラ”の特別招待券があるからだ。

 

 経緯は今朝の事だった。

 ロキの部屋にやってきたフィンは、次回の遠征の計画について細々とした相談をしたのだが、ふと今夜なにか用事があるかと聞いて来た。

 彼女には特に用はなかった。

 前回の遠征もかなり前の事であるし、ステイタスの更新の順番待ちもいない。

 するとフィンが言ったのだ。

 

 ────実は次回の遠征用の消耗品の発注をした際に、一定の金額に達した事でその店のオーナーから、ソーマの店の招待券を貰ったんだ。

 それによると、どれだけ神酒を飲んでも無料で、人気の高いホストを貸し切っても無料だって言うんだ。

 せっかくだしロキ、行ってみたらどうだい?

 一応うちの女性陣にも聞いては見たが、皆が口をそろえてロキに恩返し代わりに行ってほしいって言うんだよ。

 

 ロキは感激した。涙を流さんばかりに。

 これは二つの意味でだ。

 眷属たちの健気さと、神酒飲み放題と言う事柄で。

 そうしてロキは店についた。

 

「お待ちしておりましたロキ様。本日はフィン様より最高のサービスをと言いつかっております。ではさっそくこちらへ。フロアのVIPエリアでは無く、最高の客の為の個室タイプなVIPルームをご用意してございます」

 

 かなりレベルの高い容姿のダークエルフの黒服がロキに綺麗なおじぎをした。

 一瞬でふわぁ~と舞い上がるロキ。

 初めて味わうホストクラブの雰囲気に思わず上気した。

 見ればフロアでは淑女たちが恋人たちの睦みあいめいたサービスを受けているのが見える。

 

 ────マジかぁ……こんなイケメンにあんな事されるんか? ヤバいやん。うち、お風呂入ったよな? 汗臭くないやろうか?!

 

 完全に舞い上がっている。

 別にここは男娼を買う店では無い。

 そして黒服にエスコートされたロキがやってきたのは、なるほど女神を迎えるにふさわしい豪華な内装の一室であった。

 

 黒服はゴージャスな金色のソファーの上座にロキを座らせると、飲み物や肴が出そろうまで横につき、無言の間でロキを退屈させないようにお喋りを続けた。

 その間彼は、嫌味にならない程度に軽くロキの膝に手を置いており、彼女はまるで心臓が爆発するのでは? という程に緊張をした。

 そこにノックの音がする。

 

「お待たせしてしまって済まないな。こんな綺麗な女性を退屈させた私を許してほしい。横に座っても?」

「あ、ああ、ええよ……」

「ありがとうレディ。私の名前はプラッド・ブット。プラットと呼んでくれ。今日の私の最初で最後の恋人、貴女の名前を聞かせてくれるだろうか?」

「え、えっと、そのな、えっと、ロキ言います。えっと最後の恋人って何?」

「ありがとうロキ。ああ、それはね、今夜は君が帰るまで私はどこにもいかないからね。それに、君との逢瀬が終わった後で、他にどんな女性だろうと私の心は冷えていくだけだ。だから今日、君の時間を全て僕が独占するよ」

「~~~~~っ!!」

「ははっ、赤くなって可愛いな。まずは乾杯をしよう。今日と言う奇跡が起きた事を祝おう」

「うううっ~~っ!! なんや恥ずかしいわぁ……」

 

 いつの間にか黒服はいなくなっており、真っ白なスーツの男が入ってきた。

 ノータイのシャツの胸元は大胆に開かれており、その中に見える筋肉質の胸板が見える。

 プラッドと名乗ったホストは、清潔そうに短くカットした金色の髪で、その整った顔は野性味がある。

 いかにも男の色気と言う雰囲気が全身から出ている。

 

 プラットはごく自然にロキの横に滑り込むと、彼女の手を握り、自己紹介を始めた。

 だが薄く微笑みながら、至近距離で常にロキを見ている。

 普通であれば馴れ馴れしいわ! と拒絶しそうな物だが、慣れない雰囲気と、控えめに言ってもカッコいいだろうプラットが見つめる視線の魔力にぼーっとなってしまった。

 

 ────まるで生娘みたいになってもうた。なんやプラッド。憎たらしいわぁ……

 

 その後プラットは事あるごとにロキを口説いた。

 褒めるという風では無く、文字通り口説いている。

 とは言えそれは下心が見える品の無い物ではなく、とにかくロキのいい部分を褒め、そんな貴女に出会えた自分は幸せなのだと笑う。

 

 気が付けば二人の距離は近くなり、いつもは口数の多いロキが、プラッドの肩に体重を預けながら、静かに指を絡ませていた。

 

「……なあプラッド。うち、今日、帰りたないわ」

「それはいけないな。こんな素敵な女性がそんな事を言ったら、私は君を返したくなくなるじゃないか」

「ええよ、それでも。今日であったばっかりなのに、なんやもう、切ないねん……」

「ふふっ、私も一緒さ。ほらロキ、聞いてごらん?」

「なっ!?」

 

 伏し目がちに呟くロキを抱き寄せるプラッド。

 目を白黒されるロキだが、露出している彼の胸板に頬が当たった瞬間、頭がスパークする。

 

 ────あかん。うち安い女ちゃうのに……あかんて、プラッドめっちゃええ匂いするわ……

 

「ええんよ。プラッド、うちを攫ってや?」

 

 そしてロキは涙目でプラッドを見上げながら降伏した。

 その瞬間の事だ、

 

「「「「「ドッキリ大成功!!!!」」」」」

 

 リヴェリアを筆頭としたロキファミリア女性陣が入ってきたのは。

 ご丁寧に「大成功!」と書かれたプラカードすら持っている。

 因みに持っているのはアイズだ。よく分かってない顔で。

 

「んじゃタネ明かしだよ! えーい!」

 

 そして手に何かの箱を持ったティオナがプラッドに向けてボタンを押す。

 すると何という事でしょう!

 さっきまでオー〇ャンズ11とかに出ていそうな風貌だった彼が、今はライト・ニンジャではありませんか!

 勿論これは骨ことフェルズ製作のマジックアイテムで、フェイスチェンジの効果がある。

 

「…………………」

 

 だが無言のまま、じーっとライトを見つけ続けるロキ。

 首を傾げる一同。

 

「な、なあロキよ。これはちょっとした悪戯なんだが。普段の素行に対してのちょっとした意趣返しというか……だからもう離れてもいいんだぞ? それどころか怒ってもいいんだぞ?」

 

 恐る恐るそう告げるリヴェリア。

 が、

 

「ライト、あんた、こうしてみると結構ええ男なんやな……騙されたんわ理解したけど、けど、けどな? このまま騙し続けてくれてもええんよ?」

 

 そう言ってロキは目にハートマークを浮かべたまま、ライトに戻っているライトに抱きついた。

 

「「「は~~~~~~~~っ!?」」」

 

 騒然とする室内。

 

「お、おいロキ。冗談は糸目だけにしような?」

 

 慌てるライトだが、

 

「それでもええ言うてくれたやん? うちもな、いっつもセクハラばっかしとったけど、こうして女として愛される喜びっちゅーんかな? 結構憧れててん……せやしライト、逃がさへんよ♡」

「ちょ、おまっ、ちょっ!?」

「だ、駄目だよロキっ! ライトから離れてー!」

 

 ロキはそのままヒシっとライトの腕に身を絡ませたのである。

 あまつさえ控えめな高尾山を押し付けてすらいる。

 

 実はロキ、あまりの緊張でガバガバと神酒を飲んでいた。

 読者の皆様は覚えているだろうか?

 本気を出した神酒はヤバいという事を。

 

 現在のソーマの店では神相手でも希釈して出すルールになっているが、VIPルームと言う事で、ホストが割ってサービスをする様になっている。

 なのでここには原酒があったのだ。

 いつの間にかロキはそれを手酌で呑んでおり、現在に至る。

 

 つまり神酒でやられた頭で延々とライトに口説かれていたのである。

 引きはがしにかかったティオナにキレたロキは、最終的には暴走し、その場で全裸になるとライトにとびかかった。

 

 慌てたライトが反射的にロキの首に手刀をして気絶させ大事には至らなかったが、協議の結果、今日の事はなかった事にしようと言う結論になったのである。

 

 以降、この痴態については緘口令が敷かれ、皆は口を閉ざした。

 それとロキが吐露した切ない思いを聞いてしまった気まずさか、これ以降、女性陣はロキのセクハラに少しだけ寛容になったのである。

 

 それと、

 

「おうライト! 元気やったか? まーたアイズたんが我儘言うてな? ちょっと来てくれへんやろか?」

「お、おう、いいぞ。それよりもロキ、風邪とか引いてないか? 最近寒いし気を付けろよな」

「なんやアンタ、何か変やで? ほら、ノリ悪いて!」

 

 ライトは暫く罪悪感を感じ、ロキに優しくしたという。

 

 

 

 




別の話書いてたのに、これは1時間で書けた。
あれ、もしかして私ってロキ好きなのかしら(錯乱)


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