けものフレンズ2の、にじそーさくだよ! (狩る雄)
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第1話 目覚めろ

あたしは忘れない。

あんたの声、温もり、笑顔……その優しくて純粋な心

 

どれほどの時が経っても……

あんたが全てを忘れてしまっても……

あたしは決して忘れない

 

本当に、ありがとう

 

いつかまた、きっとあたしたちは出会えるから……

 

今は、

 

 

°

°

°

°

 

 

 

知らない天井だ。

それどころか、瓦礫の上に眠っていた。

 

軽く背伸びし、頭をガシガシとかく。

 

こういうときは自身の置かれた状況を確認するに限る。自分の身体をさすって怪我はないことは確かめられたし、特に不快感もない。また、ここは人工的な建造物であることは間違いない。つまり人がいる。窓と壁の穴から日光が差し込んでいることで昼、気温は高くて空気は乾燥していて、もしかしたら日本ではないかもしれない。

 

「いや、日本ってなんだ?」

 

そう呟いた。

まるで記憶にノイズがかかったような感じだ。エピソード記憶が特に欠落していて、知識はいくつかあるもののサブカルネタばかり浮かんでくる。残念ながら戦闘技能に関するものはないので、レベル1村人からスタートである。

 

 

アイテムを確保するため、薄暗い部屋を捜索することにしよう。瓦礫を軽くどかしてみる。

 

使いこまれたスケッチブックと筆記用具の入った肩掛けバッグ、そしてバールを手に入れた。

 

ふっ、勝ったな。

 

 

「ステータスオープン!」

 

………まあ、今は安全確保だ。そもそも普通に呼吸できる世界でよかったし、ゾンビの呻き声も聞こえないし、銃器の音もしないし、たぶん放射線汚染もないし。意外と平和な世界が広がっているかもしれない。

 

 

意気揚々とドアノブに手をかけた。

ただし中腰でいつでも閉められるように。

 

 

「なんだよ……」

 

ホッとした。

広大な平野には、人間も魔物も、そして動物すらいない。行き先も決めず、前に歩き続ける。

 

 

穏やか、という言葉が一番合うだろうか。澄んだ水が流れる小川、遠くに見える山々、鳥の声さえ聞こえない静かな森、どれだけ耳を澄ませても風の音しか聞こえない。

 

 

森に入っても静かすぎる。ここには偶然人がいないのか、もしくは……そこまで考えて、首を振る。

 

 

ガサっという草が動く音がして、振り向く。

 

「見慣れない顔ね。」

 

「うひゃあ、で、でたぁー!?」

 

「きゃっ……もう、ビックリさせないでくれる?」

 

薄桃色を基調とした可愛い服を着ていて、ミニスカートとニーハイソックスに挟まれた肌色領域がグッとくる。首元の少し大きめのリボンも彼女の可愛さを引き立てる。凝視している俺を覗き込んでくる水色の瞳は澄んでいるし、耳の房毛がイイ感じで、まるで本物のような獣耳が真っ直ぐ伸びている。

 

 

「コスプレか?」

 

「こすぷれ? あんた、何言ってんの?」

 

「ファッションといいますか、おしゃれといいますか。」

 

「さっきから訳の分からないことを……って、今はそんな場合じゃないか。あんた、さっさとこの森から出た方がいいわよ。」

 

「……後ろのペットは、お知り合い?」

 

指で彼女の後ろを指して、近づいてくる存在を伝える。

彼女は首を傾げたままこちらを向いているので、ペットではないようだ。

 

「一つ目の化け物ぉ!?」

 

美少女の手を咄嗟に取って、逃走する

むっ、この手のひらの柔らかさは癖になる。むにむに。

 

 

「あんた、グズグズしてたら食べられちゃうわよ!」

 

ドキドキする間もなく、彼女の走る速さによって、逆に引っ張られるようになった。

 

 

「初戦は、スライムかもこもこだろ!」

 

「セルリアンよ! もしかしてあんた生まれたばかりなの!?……って!?」

 

「ぐへっ」

 

急に彼女が止まったことで、足をもつれさせて無様にこけた。

 

見上げれば、俺の身長の3倍ほどはある大きさの化け物が2体だ。そのまだら模様のような表面は波打っていてキモいし、カメラを怪人化すればこんな感じだろうか。助けてぷぃきゅあ。

 

 

 

 

バッグから半分ほど飛び出しているバールを持とうとするが、震えている手では上手く掴めない。腰を抜かして立ち上がることすらできず、彼女の足手纏いにすらなっている状況で、俺は歯嚙みするしかない。

 

 

決して、目を閉じることだけはしない。

 

 

「だいじょうぶ」

 

隣にいる彼女の声が聴こえたとき、虹色の粒子を発散してセルリアンが弾けた。たぶんその大きな耳で駆けつけてきた知り合いの存在に気づいていたのだろう。

 

 

「おまたせー!」

 

元気よく挨拶をするのは、新たな美少女だ。

薄黄色の、彼女と似たようなコスプレをしている。

 

「サーバル、いくわよ!」

「うん!」

 

軽快な足取りで駆ける美少女戦士2人は、残りのセルリアンを翻弄する。2人とも圧倒的な跳躍力を見せているのだ。

 

 

一体どんな必殺技で倒すのかと思っていたら、光り輝く爪である。まるでソードスキルのように思えて、獣の爪を模した指で、セルリアンの背後から突き立てるという獣爪拳だ。

 

 

「やったね!」

 

満面の笑顔な美少女と、ホッとしている美少女の、ハイタッチは絵になる。

 

「もう遅いわよ。」

 

「えへへ、ごめんねー」

 

「来てくれてありがとうね。」

 

「うんうん!」

 

「それにしても最近のセルリアンって、へしがないから、なかなか骨が折れるわね。」

 

「だよねー。ところでー?」

 

2人は、なんとか立ち上がった俺の方を向いてくる。

 

「森で見つけたのよ。あんた、何のフレンズ?」

 

自己紹介をカッコよく決めようとしたら、先に発言された。

 

「フレンズ?」

 

「……ヒトだよね?」

 

「まあ、人だな。うん。」

 

寂しげに告げられたので、曖昧な答え方になった。

 

 

「そっか! なんかそんな気がしたんだ!」

 

「へー、本当に尻尾とか無いのね。珍しいわ。」

 

美少女にじっくり見つめられるのだから、目を逸らしてしまう。

 

 

「昨日のあれで生まれたのかなー?」

 

「そうかもね。ところであんた、それはなに?」

 

「ショルダーバッグ。それか肩掛けカバンだな。」

 

「かばん...?」

 

こういう物は珍しいのだろうか。

文明崩壊してそうであるが、美少女戦士が2人もいるからもう何も怖くない。

 

「俺の名前はつ……イッキでいい。」

 

「イッキね、よろしく。あたしはカラカル。」

 

「わたしはサーバル! よろしく、イッキ!」

 

「よろしく、カラカル、サーバル。」

 

まるで動物の名前だな。

 

 

「あのさ、ここはどこ?」

 

「ここはジャパリパークだよ!」

 

両手を広げて元気ハツラツで教えてもらったが、聞き覚えはない。一応これも聞いておくか。

 

「ヒトって、他にもいるのか?」

 

「サーバルは、一緒に旅してたのよね。」

 

「うん……でも、うまく思い出せないんだよね。」

 

いつも元気いっぱいのサーバルが時折り寂しげな表情を見せるのだ、訳ありなのだろう。

 

「じゃあ、もう少し遠くへヒトを探しに行ってみる?」

 

「そうだね、さばんなちほー以外も探してみようか! ね!イッキも一緒に行こ!」

 

「お、おお、それはありがたい。」

 

「あんた、もう少しシャキッとしなさいよ。」

 

「はい……。」

 

「で、どうやって探せばいいのかしら。」

 

「さばんなちほーにはいないと思うよ。」

 

「あんた、フレンズのみんなに聞き回っていたものね。」

 

「闇雲に探すのもな。だが家を探せばいい。」

 

「いえ?」

 

「ヒトの住み処のことだ。それは建物であることが多い。」

 

「その、たてものって?」

 

「木や石で組み立てる、巣だな。雨風をしのぐための場所。」

 

「へぇー。鳥のフレンズみたいだね!」

 

「なんだかよく分からない大きなもの、それを探せばいいのかしらね。」

 

彼女たちからすれば、不思議な物になるのだろう。俺から人間からすれば、オーパーツだの歴史的建造物に相当する。

 

「まあ、そんな感じだ。」

 

「手がかりが増えたわね。」

 

「よーし! じゃあ、レッツゴー!」

 

 

 

こうして、俺たちの旅は始まった。

未知の世界への旅立ちは不安でいっぱいだけど、

「ねぇねぇ!」

 

「……なんでしょう?」

 

「わたしの得意なことは狩りごっご! イッキは何が得意なの?」

 

モンスターハンターのことなのか、リアル狩りのことなのか。先ほどの戦闘もその狩りごっこの賜物なのだろうか。

 

「……なんだろう。食べること?寝ること?」

 

「あんた……」

「ナマケモノのフレンズみたいだね!」

 

「いや、まだセルリアンとは戦えないなって思って。」

 

「別にいいわよ、ちゃんと逃げてくれたら。」

 

「そうそう!フレンズによって得意なことは違うから!ヒトのフレンズって、いろんなこと知ってるんだよね!」

 

「お、おう、そうだな。」

 

2人の優しさが傷ついた心に染みる。

がんばろ……

 

 

 

具体的に言えば、このバールを上手く使いこなして、

「ねぇねぇ! バッグには何が入っているの?」

 

「食べ物はないぞ。」

 

「それだったらー、あそこ! 寄っていかない?」

 

前方にある移動販売車を指差して、真っ先にサーバルが勢いよく走っていった。

 

 

「……いつものことよ。」

 

好奇心旺盛なサーバルに対して、カラカルはもう慣れているのだろう。呆れた仕草をしつつも、なんだかんだ放っておけないと思っている、そんな優しいフレンズだ。

 

 

「カラカルさん!」

 

「久しぶりね、ロバ。」

 

「はい! この間助けてもらったお礼ですので、カラカルさんもいくつかどうぞ。」

 

 

灰色の女子学生服を着ていて、たぶんロバの耳のあるフレンズが売り子をしている。そろそろわかってきたが、この世界の人間は基本的には獣人なのだろう。ヒトの耳を持つことはなく、まっすぐ伸びたケモミミである。決してコスプレなどではなかった。

 

 

「ジャパリまんに、ジャパリパン、ジャパリチップスにー、ジャパリソーダ。」

 

いくつも抱えて、俺やカラカルへ見せてくる。

 

「ね! どれがいい?」

 

「あたしはジャパリパン貰うわよ。」

 

「とりあえず、ソーダとパンを。」

 

このソーダ、温いな。

パンはコンビニを思い出す食感と味で、少し苦みがあるのは何かしらのビタミン剤でも混ぜたようだ。

 

 

「これ、入れておいて!」

 

「ちょっ!」

 

いくつものジャパリまんをバッグに詰め込んでくる。

 

 

 

「どこかに行かれるんですか?」

 

「ちょっとヒトを他のちほーまで探しにね。」

 

「長い旅になりそうですね。」

 

「まあね。たぶん、そうなるのよね。」

 

 

 

確かに食料は旅に必要だけれど、決してこのバッグは四次元ポケットではない。

 

「これはなに?」

 

「スケッチブックな。」

 

パラパラ開いてみても、どこかの風景画だ。

 

「うーん、わかんないや!」

 

「まあ、俺が描いたんじゃないしな。」

 

ジャパリまんでいっぱいのバッグに、入れておく。

 

 

「ありがとう。しばらく会えないわね。」

 

「ええ。お気をつけて。」

 

「じゃあね、ロバ!」

 

2人の会話も終わったようで、再び果てなく続く道を歩いていく。

 

 

 

風化した人工物を見て寂寥感が湧き出てくるが、元気ハツラツなサーバルや何かと気にかけてくれるカラカルのおかげで、前を向けている。

 

 

 

 

「つか…れた……」

 

広大な自然を嘗めていた。

 

雲一つない青空ということもあって、どんどん体力を削られたのだ。サーバルやカラカルも、肩で息をしていてつらそうだ。

 

「ちょっと休んでいこっか!」

 

「そ、そうね。あそこまでがんばりましょう。」

 

サーバルは気にしていないことを教えてくれるし、カラカルもちゃんと心配してくれる。日陰となっているところまで行って、人工の建物の壁に寄りかかって座る。喉を潤すものがソーダしかないので、水の大切さを思い知らされた。

 

カラカルたちに至っては、地面に寝そべっている。

 

 

「ところで、こういうのがたてもの?」

 

「そう。たぶん、ヒトの住みかではないけど。」

 

「なるほどね。」

 

「ね!入ってみようよ!」

 

今はもう動かない改札を抜けて階段を上がれば、車両が1台だけある。サバンナを横断するモノレールの駅といったところか。もしこれに乗ることができたなら、下の風景を見ながら遠くまで行くことができる。

 

「ボス……?」

 

「誰が?」

 

『扉閉まりまーす、ご注意ください』

 

「なんだ、このマスコットキャラ。」

 

「ボスね。」

 

海賊の格好をした小型のハロっぽいのが運転手らしい。

海賊とモノレールでベストマッチ!でしょうかね。

 

 

『発車しまーす』

 

「おっ、動いたな。」

 

「しゃ、しゃべった...」

 

「え?」

 

お互いに顔を見合わせる。

 

 

「すっごーい!飛んでるみたーい!」

 

うきうきしているサーバルへ、視線を俺たちは向ける。

 

 

「とにかく、これでヒトが見つかるかもね。」

 

「そうだな。」

 

 

「わーいわーい!」

 

「もう、落ちるわよ。」

 

「だいじょーぶだいじょーぶ!」

 

まずは、サーバルが窓から身を乗り出すのをやめさせるか。

 

 

 

夕日が、俺たちを照らしていた。

 

 

「サバンナから出ることは初めてだけど、なんだかワクワクするわね。」

 

「旅って、楽しかったことは覚えてるよ!」

 

「そうか。そのヒトと一緒に旅をしたんだな。」

 

「うん、そうみたい!」

 

こうして、俺たちの旅は始まった。

 

未知の世界への旅立ちは不安でいっぱいだけど、ワクワクもしている。サーバルは友達を探しに、俺はヒトを探しに、カラカルはサバンナ以外の世界を見るために。

 

 

「じゃあ、一眠りするか。」

 

「えー、今から夜じゃんか!」

 

「ヒトのフレンズって、夜行性じゃないのね。」

 

カラカルも昼のサーバル並みにテンションが上がっている。これって昼夜逆転生活しなければならないかもな。

 

 

手持ち無沙汰なおかげで、車内の壁で爪砥ぎをするフレンズたちに呆然とした。



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第2話 通りすがりの

評価や感想をくれると、投稿が優先されます。ていうか、同時並行で執筆を進めるのは気分屋なフレンズだから。


下の風景は竹藪が目立ってきた。

車両はここで各駅停車のようで、一度ここに止まった。

 

「うっ…うーん、止まったの?」

 

「ああ、おはよう。」

 

時刻はたぶん9時を過ぎている。

 

あくまで腹時計だとか勘だとかで、太陽の位置から時刻を推測することなどできない。こういうときスマートフォンがあればなと思う。異世界転生ものなら、基本的にくれるだろうに。ていうか、他の『転生特典』の方が欲しい。赤龍帝の籠手じゃなくて黒い龍脈とか、サポートによさげだよな。

 

まあ、所詮はないものねだりだ。

それに俺には、このバールがある。

 

「うみゃあ~」

 

「サーバルも起きなさい。」

 

「え? 着いたの?」

 

「そうみたいよ。」

 

「そっか。冒険だね!」

 

この夜行性の2人、朝まではしゃいでいそうだ。

昼休みは長そうだな。

 

 

一度車両から降りて、駅から出る。

未知の世界にカラカルもキョロキョロしている。

 

「ね! なにこの木!?」

 

朝から元気ハツラツなサーバルが見たことのないものに興味を示す。

 

「竹だな。木ではない。」

 

「そうなんだー!」

 

サーバルが面白がって揺さぶれば、ガサガサと音を立てている。

その音でさらに喜ぶ。

 

「よく知ってるわね。」

 

カラカルも、片手で握れるほどのサイズを揺らしてみている。

 

「ヒトのフレンズだからな。」

 

純粋に褒められると、むず痒い。

 

 

「ね! もっと奥に行ってみよ!」

 

はやる気持ちを抑えられず、竹藪の道の果てを指差している。

ていうか、ぴょんぴょん走っていった。

 

「はいよ。」

 

「あんたたち、目的を忘れてない?」

 

「そうだな。建物を探すことと、水場を探さないとな。」

 

「結構考えているのね。」

 

「まあな。でも、旅って楽しむものだし、サーバルのはしゃぎ具合も間違ってはいない。」

 

「それもそうだけどね。」

 

「ね! あなた、なんのフレンズ? この小さいのは尻尾なの!?」

 

白と黒を基調としたセーラー服を着ている。

丸い耳と尻尾を持つフレンズが、平たい岩の上で横になっていた。

 

 

「パンダのフレンズか?」

 

「ねぇねぇ、寝てるだけなの? お腹痛かったりしない?」

 

「だ~れ~?」

 

「あっ、ごめんね。起こしちゃったみたいだね。」

 

「いいよ~、わたしはジャイアントパンダ~」

 

のんびりとした話し方で、そういう性格が滲み出ている。

 

「わたしはサーバルだよ!」

 

「あたしはカラカルよ。」

 

「俺の名はイッキ。通りすがりの冒険者だ。」

 

「そうなんだ~」

 

イケボを華麗にスルーされた。

 

 

気を取り直して。

 

「質問なんだが。この辺りに、珍しい場所だとか、ヒトが作った物とか、ないか?」

 

「う~ん、あるよ~」

 

「ほんと!?」

 

「どこにあるの?」

 

「えっとねー、ここをまっすぐいって~」

 

「うんうん!」

 

「大きな岩を、右に曲がって~」

 

「うんうん!」

 

「えっと~~……スヤ~」

 

「あんたね……」

 

「眠るのが得意なフレンズなんだね!」

 

しかし肝心の情報が途切れたとはいえ、あることは確かめられた。

 

 

「あー!ジャイアントパンダちゃん、またこんなところで寝ちゃってるんだ。」

 

黒を基調とした服、髪や尻尾は茶色の美少女だ。

全体的に少し細い体つきをしている。

 

「あんた、だれ?」

 

「レッサーパンダって言います。」

 

「はじめまして。俺の名はイッキ。とおりすが」

「わたしはサーバル!」

 

「カラカルよ。よろしくね。」

 

「はい、よろしくお願いします。」

 

「あなたもパンダのフレンズなんだね!」

 

「ええ。ジャイアントパンダちゃんと比べて、地味、ですよね……」

 

「えー、そうかな?」

 

「わたし、ジャイアントパンダちゃんみたいに、魅力、ないですよね……」

 

「だいじょーぶ、フレンズによって得意なことは違うから!」

 

「でも、お役に立てるかどうか……」

 

まあ、そういう悩みは俺にもわかる。

戦える勇気も力もまだまだなくて、いまだに『転生特典』を求めてしまう。

 

「じゃあ、質問なんだが。珍しい場所だとか、ヒトが作った物とか、見たことないか?」

 

「ヒト、ですか?」

 

「ジャイアントパンダちゃんが知ってるって言ってたんだ!」

 

「あっ、でもでも、珍しいものなら知っています!」

 

「どこにあるかわかる?」

 

「わかりました! 案内しますね!」

 

「やったーっ!」

 

「助かるわ。」

 

竹藪の道を歩いていくけれど、そういう場所は見当たらない。

ていうか、レッサーパンダ本人がキョロキョロしている。

 

少しずつ霧が立ち込めてきていて、明らかに山登りをしている。

 

「すっごーい! たかーい!」

 

「いい眺めね。」

 

遠くの風景を一望できる。

モノレールの先も見えていて、まだまだ先は長そうだ。

 

老朽化で欠落していないかどうか、実は心配だった。

 

「あの、その……ごめんなさい!」

 

「どうかした?」

 

「実は、わからないんです……」

 

「まあ、薄々感じていたわ。」

 

「でも、レッサーパンダちゃんのおかげで、ここに来れたよ!」

 

「そ、そうなんですね。」

 

「俺としても、いろいろ知ることができた。」

 

「そうらしいわよ、よかったじゃない。」

 

カラカルやサーバルもあまり気にしていないらしい。

まあ、まだまだ続く旅なのだ。

 

「うえええーん、役に立てたんだ~~」

 

「あーもう、泣かないの。」

 

「ね! 一度休憩しようよ!」

 

「水場とか知らないか?」

 

「ぐすっ、それならわかります! こっちです!」

 

さっきよりもうきうきと案内してくれる。

 

 

 

 

このマーキングは……、フレンズの習性なのだろう。

ともかくレッサーパンダのおかげで川までたどりつけたし、流れもちゃんと穏やかだ。

 

「ここが、オススメなんですよ!」

 

小魚や虫は、いないんだな。

 

「ありがとう。喉がからからだったのよ。」

 

「冷たくておいしいね!」

 

標高が高いこともあって水が澄んでいる。

腹は壊さないだろう。

 

俺も手で掬って飲めば、ひんやりとしていて美味い。

 

 

「イッキ!はやくはやくー」

 

「はいよ。」

 

バッグから、ジャパリまんを手渡していく。

もちろん、レッサーパンダにもだ。

 

「えっ、いいんですか?」

 

「もちろん!」

 

「まだまだあるわよ。」

 

「ほらな。」

 

バッグの中にある大量のジャパリまんを見せる。

 

「持ち運びしているなんて。イッキさんって、すごいんですね!」

 

「ヒトのフレンズの、知恵だな。」

 

すでに中身のないジャパリソーダの容器に、川の水を汲む。

 

「なにしてるの?」

 

「旅には、水が必須だろ。いつでも飲めるしな。」

 

「……あんた、天才?」

 

カラカルですら、水場は探して飲むものらしい。

 

だがサーバルは川に口をつけてゴクゴク飲んでいるし、水場はその都度探す必要がある。この量では圧倒的に足りないだろう。

 

「きっもちーい!」

 

フレンズたちが、汗や汚れを流すために飛び込み始めた。

 

しかも衣服を着たままである。つまり、すけ……

そもそも、服を脱ぐという習慣がないのだろう。

 

「あんたも来なさいよー!」

 

「ぜひとも!!」

 

あくまで、水浴びしただけだ。

 

 

 

夜行性たちのために休憩も挟んだ後、一度ジャイアントパンダのところへ帰ることにした。

 

 

「ここって なになに!」

 

公園の遊具、その部品が散らばっている広場を偶然にも見つけた。

 

「ヒトの作った物の、残骸だな。」

 

「ジャイアントパンダが言っていたのは、これのことかしらね。」

 

 

「あ~いた~」

 

「あっ、ジャイアントパンダちゃん!」

 

「ここなんだ~、教えようと思ったとこ~」

 

「そっか!」

 

「ヒトのフレンズはいなさそうね。」

 

「まあな。」

 

この広場には、生活している感じはない。

ヒトのフレンズだったら、道具を集める習性があるはずだ。

 

現に、なにか使えそうな物がないか俺が探している。

 

 

「なんかくるよ!」

 

「セルリアンね!」

 

一早く、サーバルやカラカルが大きな耳で危機を察知した。

昨日会った個体より小さいが、数が多いし宙を浮いている。

 

 

俺たちではなく、壊れた遊具を襲ってきたように見えた。

しかしその攻撃対象は、俺たちに向いた。

 

まるで、極上の餌を見つけたような。

 

 

「いくよー!」

 

「あんたたち、動かないでね!」

 

腰を沈めて、駆けていく。

自慢の爪で切り裂いていけば、次々と消滅していく。

 

「わ、私も!」

 

ブランコの成れの果てに軽々と登って、勢いをつけて爪で引っ掻く。

 

「きゃっ」

 

しかし倒せたのは1匹。

地上に降りたレッサーパンダを数匹のセルリアンが襲おうとする。

 

「わたしのトモダチに、なんてことするの!!」

 

ジャイアントパンダが、力強い拳で、消滅させていく。

その威力は、明らかにオーバーキルである。

 

「一緒に、やるよ~!」

 

「うん!」

 

背中を守り合う2人を見て、俺もバールを引き抜く。

 

「おりゃあ!」

 

他のフレンズと比べれば、非力で拙い振り下ろしだ。

それでも、1匹は消滅させることができた。

 

「イッキ、やればできるじゃない!」

 

「やったね!」

 

「サンキュ」

 

各自20匹は討伐しただろうに。

まあ、自分の力でちゃんと一歩は進めた。

 

「疲れたから~、寝るね~」

 

「ジャイアントパンダちゃんったら!」

 

「そうそう~、いつもこんな私に構ってくれて~ありがとうね~」

 

「ううん、大切なトモダチだから。」

 

「そっか~、こちらこそ、これからもよろしくね~」

 

「はい、よろしくお願いします!」

 

今回出会えたフレンズたちは、さらに仲が深まったようだ。

俺たちもほっこりとした気持ちになる。

 

 

「じゃあ、あたしたちは行くわね。」

 

「旅をしているんでしたね。」

 

「そう! ヒトを探しているんだ!」

 

「そういえば、ヒトを探しているというフレンズさんに、会ったことがあります。」

 

「それはヒトじゃないのか?」

 

「いいえ。えっとー、ヒトではなかったですね!」

 

「忘れてるんじゃないの……」

 

「てへっ!」

 

こういう生き生きしている姿が、レッサーパンダは輝いている。

 

 

「じゃあ、またな。」

 

「はい! いつかまたここに来てくださいね!」

 

「ジャイアントパンダにもよろしく言っておいて。」

 

「まったねー!」

 

 

 

夕暮れの中、またモノレールに乗り込んだ。

海賊コスプレラッキービーストが運転してくれる。

 

「あー、楽しかったー!」

 

「次は、どんなところに行くのかしらね。」

 

カラカルもまた、うきうきしている。

 

「な、なによ?」

 

「旅って、いいだろ。」

 

「イッキがいるからかしらね。」

 

「な、なんでだ?」

 

「いろいろ知ってるからよ。」

 

「ま、任せな!」

 

そう褒められると、頬が熱い。

 

「ね! なにかおもしろい話をしてよ!」

 

「じゃあ、竹に関する話とかどうだ。竹取物語っていうんだが。」

 

「聞かせて?」

 

今夜は、寝かせてくれなさそうだ。

 



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第3話 弱かったり、運が悪かったり、何も知らないとしても

赤土が目立ってきた。

広大な平野が広がっていて、木々はあまり多くはない。

 

違うとするなら、あまり水源や草原がないことだろう。

 

「なんだかここって、サバンナちほーに似てない?」

 

「たしかにそうね。」

 

またもや電車は駅に止まる。

 

「どうするの?」

 

「まあ、ヒトのことを知っているフレンズもいるかもだしな。」

 

「だね!」

 

車両から降りて、駅から出る。

サーバルやカラカルの目でも、建物は見つからないらしい。

 

とりあえずの目的はフレンズ探しと、水の確保だ。

 

「たーんけん、たーんけん!」

 

「ねぇ、あれってなんなの?」

 

カラカルが穴の多く空いた、そびえ立つ岩を指差す。

 

「アリの巣だな。……なあ、虫のフレンズっているのか?」

 

「さあ、見たことはないわ。」

 

「あと、鳥のフレンズって、虫を食べるのか?」

 

「いいやー。ジャパリまんの方がおいしいって、言ってたよ!」

 

「そ、そうか。」

 

美少女が虫をモグモグしている光景は見たくはなかったので良かった。

 

 

「おっ、誰かいるよー!」

 

俺たちに気づいた美少女が、ポニーテールを揺らして近づいてくる。

 

「サーバルさん!カラカルさん!」

 

「アードウルフ!」

 

「まさか会えるなんて!」

 

白黒模様のシャツは2人似ているが、スカートではなく黒のホットパンツ姿だ。ホットパンツとニーハイソックスに挟まれた肌色領域がグッとくる。リボンではなく、小さめのネクタイが似合っている。

 

「あの、こちらは?」

 

「イッキ、ヒトのフレンズだよ!」

 

「どうも。」

 

「会えたんですね!」

 

「探しているヒトとはちがったけどね。」

 

「一緒に旅しているんだ!」

 

「そうなんですね。あの、はじめまして。わ、私、アードウルフです……」

 

ヒトに、トラウマでもあるのだろうか。

何もないのに、俺が怖いとかないよね……?

 

「ちょっと人見知りとか、しちゃいますけど……、で、でも、いざという時は、頑張りますから……」

 

「なるほど。よろしくな、アードウルフ。」

 

「は、はい!」

 

「ところで、ここまで何をしに来たの?」

 

「私、住むところを探しているんです。」

 

「思い出せないんだっけ、前にいいと思った場所。」

 

サーバルと同じような事情を抱えているのだろうか。

 

「そうなんですよね。でも、もっといい場所を見つけてみせます!」

 

「おお! やる気満々だね!」

 

 

「お待たせしましたー!」

 

「……そうやって、飛ぶのか。」

 

頭から白黒の斑模様の羽が生えていてそれを羽ばたかせて飛んできた。髪は黄色、白いブレザーで、眼鏡をかけている。ミニスカとハイソックスの間の肌色領域もグッとくる。

 

「あなたが?」

 

「はい、私がアリツカゲラ。巣を作るのが得意なフレンズです。あなたのご要望に合わせて、内装をいじったりして最高のお住まいを提供しますよ。お気軽にご相談下さいね!」

 

「あ、あの、よろしく、お願いします。」

 

「はい!……って、サーバルさんじゃないですか!」

 

「知り合いか?」

 

「さあー?」

 

「宿泊施設『ロッジアリツカ』にいらっしゃったじゃないですか!」

 

「うーんうーん」

 

「ところで、かばんさんは?」

 

「かばん……かばん!」

 

「なにか思い出したの!?」

 

「わかんないや! でも、かばんちゃんって呼んでいた気がする。」

 

「なにかあったのでしょうか?」

 

「まあ、そのかばんって、ヒトのフレンズを探しているのよ。」

 

「そ、そうなんですね。見つかると、いいですね。」

 

「あの……」

 

「そうそう! アードウルフさんにぴったりの巣を見つけてあげますよ! ではみなさん出発しますよ!」

 

「おーーっ!」

「お、おー」

 

アリツカゲラの先導のもと、歩いていく。

平野から、まずは森の中に入っていった。

 

「どういう巣がいいか、ご要望はありますか?」

 

「ほかの方が昔使っていた場所をお借りしたい思っています。あと、外敵から身を守れると言いますか。」

 

「セキュリティも気になるということですね! そんなアードウルフさんにちょうどいい巣があちらです!」

 

指差した方向を見ても、それらしいものはない。

 

「もしかして、あのぶらさがっているものかしら?」

 

「まてまて、あれってウツボカズラ……」

 

「その通りです。近くにはスズメバチの巣もあるので、外敵も近寄ってきませんよ!」

 

「まてまてまてーい! あれは寝袋じゃないんだからな。ていうか、ハチは俺たちには危険すぎる。」

 

「ちょっと、狭いかなー。」

 

「そうなんですか? では、次に行ってみましょう!」

 

 

次に向かった先は、川の近くだ。

休憩として、水を飲ませてもらった。

 

どんどん上流に向かっていくのだから、不安しかない。

 

 

 

「どうですかー!!この滝!!」

 

「いや、すごいんだけど!!」

 

「耳がいたいー!!」

 

滝を目の前とした窪みは、滑ってしまいそうで危険すぎる。

その上、カラカルたちにとっては、この音がキツそうだ。

 

「じゃあ、次行ってみましょーう!!」

 

大きな声で叫ばなければ、話が成立しない。

 

 

 

 

 

「雨か。」

 

「わわっ、どうしよー!」

 

「次の場所で雨宿りしましょうか。」

 

急な天候の変化、雷雨から逃げるように洞窟に逃げ込む。

 

「ここ、私的にはオススメしないんですけどね。」

 

「あら、お客さん?」

 

「あっ、まだお住まいでしたか?」

 

「ええ。でもここ、広いから。」

 

洞窟の奥の暗闇からやってきた影は、気づけばアードウルフの目の前にいた。

 

「あ、あの。」

 

「ふふっ、かわいい。」

 

髪型はボブカットで、コウモリの羽は背中にある。

濃い紫色のセーラー服とマント、足はタイツで隠されている。

 

「私、ナミチスイコウモリ。あなたたちは?」

 

細い指を唇に押し当てる仕草が、あざとい。それある!

 

「わたしはサーバル!」

 

「カラカルよ。」

 

「イッキだ。」

 

「あの、アードウルフと言います。」

 

「覚えたわよ。」

 

俺たちのことは眼中にないらしい。

 

 

「ね! 雨が止むまで狩りごっこしない?」

 

「でも、ここは狭いわよ?」

 

夜が近づいてきていて、カラカルのテンションも上がってきている。

 

「まずは腹ごしらえしないか?」

 

「それもそうね。」

 

ジャパリまんを、フレンズの全員に手渡していく。

バッグから出てきたことで、称賛の声が上がった。

 

ていうか、コウモリのフレンズさんもジャパリまんが好物らしい。

 

「かばんさんも、こんな風にロッジで雨宿りしていってくれましたね。」

 

「ねぇねぇ! かばんちゃんってどんなフレンズだったの!」

 

「そうですねぇ。イッキさんに似ているでしょうか。」

 

「それ、ヒトのフレンズだからじゃない?」

 

「ええ。親しみやすいところが似ていますね。頼りになるかどうかわからないところとかも。」

 

「それ、褒めてるのか……?」

 

「はい。かばんさんも旅をしていて、いろんなフレンズを結びつけてくれました。」

 

「へえ!へえ!」

 

「まあ、かばんさんたちが海から旅に出てから、会ってはいませんが。」

 

旅をすべき範囲が広まってしまったな。

 

「うみって、なに?」

 

「大きな池みたいなものだ。それもカラカルが想像できないくらい広い。」

 

「そうなのね。」

 

「あっ、でもジャングルちほうに住んでいるとも聞いたことがあります。」

 

「おおっ!」

 

「いいことを聞けたな。」

 

「雨、上がったみたい!」

 

天候が変わりやすいのだろう。

さっきの雷雨は、夕立に過ぎなかったらしい。

 

2人だけのお話をしているアードウルフやナミチスイコウモリは、たぶんさっきの洞窟に同棲をするだろう。アリツカゲラが会話に混ざっていった。

 

一度、俺たちは外に出る。

街灯などはなく、満天の星空が広がっている。

 

「月、綺麗だな。」

 

「そうね。今まで、当たり前だと思っていたけど、ね……」

 

「ね! あそこ、光ってない?」

 

「行ってみましょう!」

 

テンションの高いサーバルたちには追いつけそうにもない。

ていうか、暗すぎて2人の姿は見えなくなった。

 

 

まあ、あの光っているところに向かえばいいだろう。

 

「ヒト!やっと見つけた!」

 

「大人しく我々に着いてきてください。」

 

茂みから2人のフレンズが登場した。

セーターを着たブレザー姿で、探偵のように見える。

 

「まさか、逃げようとしてます?」

 

美少女が迫ってきたのだから、距離を取ろうとしただけだ。

 

「詳しいことは後で話すから、付いてきて!」

 

「どういうことかまず説明を」

 

言葉を続けることはできず、まぶしさから顔を腕で覆い隠す。

人工的な光なんて、久しぶりだ。

 

「まさかセルリアン!?」

 

「センちゃん、まずいよ……」

 

1つ目のセルリアンで、長い筒には脚が生えていて4足歩行。たぶんモチーフは懐中電灯だ。俺たちの姿は照らされていて、ゆっくりと突撃の姿勢を見せている。その大きさからして、俺たちはいとも簡単に押しつぶされるだろう。

 

 

「逃げるぞ!……なにをしているんだぁー!?」

 

2人とも、身体を丸めて伏せている。

アルマジロのようなフレンズ習性なのかもしれないが、美少女がやってもただの止まった餌だ。

 

「ちくしょ!」

 

小柄な2人の両腕を掴んで引っ張り上げ、走る。

ジグザグに動く俺たちを追うように、光が向けられる。

 

真っ直ぐ走っていたら、危なかった。

 

「ありがとう、ございます……」

 

「でも、追いつかれるー!」

 

もちろん追いかけてきた。

サーバルやカラカルが来てくれれば最高なのだが、逆方向に走ってしまっている。

 

「小屋に隠れるぞ!」

 

コンクリートでできた小屋に入って、扉を閉める。

 

息を整えながら、窓から外の様子を伺う。

セルリアンは俺たちを探すように、あちこちの暗闇を照らしていた。

 

 

「あの、どうして……?」

 

見捨てることもできたよな。

この2人よりは、速く走ることもできるだろう。

 

「咄嗟だったから、自分でもわからん。……大事なこと、ここで学んでいるからじゃないか。」

 

「そ、そうですか。」

 

現状は変わることはない。

ここで籠城するにしても、いつ諦めてくれるかもわからない。

 

「さて、なにかないか……ヴェ!?」

 

浮遊感の後に、後頭部に衝撃が走る。

 

カランと、

鉄パイプの音がして、そのまま気を失った

 

 

 



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第4話 夢ってのはな





最後に見たのは、満天の星空だったはずだ。

 

見上げてごらん、青空だ。

檻の中で、ドナドナされているのだよ。

 

 

周囲を見渡しても、カラカルやサーバルどころか、フレンズがいない。

 

 

「よしっ」

 

持ち物を没収していないことを後悔するがいい。

2人とも、木でできた荷台でこの檻を重そうに運んでいる。

 

バッグから、バールを引き抜く。

そもそも、バールとは単なる打撃武器にあらず。独特のフォルムから繰り出される『てこの原理』こそが、人類が生み出した科学の産物なのだ。バールのようなものではなく、正真正銘のバールだからこそ、可能とする奥義なのだ。

 

「おりゃあ!」

 

「「わぁーー!?」」

 

檻を無理やり開けようとしたので、荷台のバランスが崩れた。

 

「ヴェアアアアーー!?」

 

結果的に、荷台は横転して俺にもダメージが入る。

 

 

 

「「「いたた……」」」

 

ともかく、檻は破壊された。

 

「ま、待て、話せばわかる。離せばわかるから!」

 

今から逃げる方法を画策する。

あらかじめ考えて動けばよかった。

 

 

「絶対に逃げてしまうでしょうね……」

 

「えー、そうなの?」

 

「なぜバレたし。」

 

コミュニケーション力が足りなかった。

時間稼ぎにもならない。

 

「ふむ。ヒトのフレンズ、侮れませんね。」

 

「これ、もう直せないよね?」

 

「偶然見つけたものですし、いいのでは。」

 

「いいんだな……」

 

まあ、人工物はフレンズにとってはガラクタなのだろう。その利用方法もあまりわかっていなくて、檻の閉め方も雑だった。

 

偶然見つけて、運びやすいから俺を放り込んだだけなのだろう。

 

 

「君を持ち上げて、運ぶの無理なんだよねー」

 

「そこまで太ってないし!」

 

「重いのは、確かですよ。」

 

力持ちのフレンズではないらしい。

 

 

「ていうか、なんで拉致したの。」

 

「らち?」

 

「あー、ここまで、どうして連れてきたのでしょうか。」

 

「依頼主が会いたがっているからですよ。」

 

「ようやく、ヒトのフレンズを見つけたからね!」

 

そんなに希少なのかよ。

サーバルの知り合いを探すことは苦労しそうだ。

 

 

「じゃあ、会いに行くか。」

 

「え? いいの?」

 

「まあ、埒が明かないみたいだしな。案内してくれ。」

 

筆記用具は、まだあるしな。

武器としてはバールもあるし。

 

「わっかりましたー!」

 

「こちらです。」

 

意気揚々と歩いていく2人の後ろを、歩いていく。

時折りこちらを向くのだから、油断ならない。

 

「あー、そういえばごめんね。」

 

「どうした?」

 

「ここまで、無理やり連れてきちゃったみたいだし。」

 

「ヒトのフレンズをようやく見つけて、つい熱くなってしまいました。昨夜の恩を、仇で返すことになってしまったようです。」

 

2人は探偵気質なのだろう。

頼まれたことを達成しようとするフレンズだ。

 

「いいよ。2人とも連れていくことに必死だったらしいし、フレンズには得意不得意あるんだし。」

 

「そう言ってもらえるとは…」

 

「それに、あの場に留まるのもマズかった。」

 

「ええ、朝になったらいなくなっていたとはいえ、用心に越したことはありませんから。」

 

「サンキュ」

 

「ねぇ、センちゃん! ヒトって、優しいフレンズなんだね!」

 

「個人差はあるけどな。」

 

「そうなんだー。あっ、あれって依頼主さんじゃ?」

 

「そうですね。ふむ。匂いに、気づいたのでしょうか。」

 

 

こちらに近づいてくるフレンズがいる。

急に飛びついてきて、食べられる気配はない。

 

「あなた、ヒトですね?」

 

水色と橙色の瞳、全体に灰色っぽい。

首輪にも思えるアクセサリーが特徴的だ。

 

「まあ、ヒトだな。」

 

さて、どうくる?

 

 

「私は、イエイヌです!」

 

「ぐほっ」

 

勢いよく抱きつかれる。

 

「会いたかったー!」

 

「ギブギブギブ!」

 

尻尾が、ブンブン振られている。

 

 

「依頼は完了ですか?」

 

「はい、ありがとうございました。これはお礼です。」

 

「わーい、ジャパリスティックだ!!」

 

「イエイヌ、また何かあれば呼んでねー!。もちろんヒトのフレンズさんも!」

 

「お詫びに、あなたはサービスでお請けしますよ。」

 

「おう、またな。」

 

「ではー!」

「では。」

 

2人とも、遠くへ去っていく。

なかなか酷い目にあったけど、ちゃんと和解できてよかった。サーバル風に言えば、フレンズになれてよかったということだ。

 

 

「ていうか、どうしてヒトを探していた?」

 

「まずはこっちです!」

 

「急ぐな急ぐな」

 

俺の手を引っぱって、道を走っていく。

こういう感じの飼い主、前世で見たことあるな。

 

河川敷、だっけか。

 

 

「着きました!」

 

その声で意識がここに戻ってくる。

寂れた家がいくつか建っていたが、人の声どころか、他のフレンズの声もない。

 

 

「ここには昔何人もヒトがいたんです。よく私も遊んでいました。」

 

「……へぇー」

 

1つの家の扉を開ける。

ピンクの内装で、目ぼしい小物はほとんどない。

 

「でも、みんないなくなってしまって。……でも、でもいつか……。」

 

「今もここに住んでるのか?」

 

「はい、お留守番しているんです。」

 

鍵閉めるのかよ。

たぶん人間の行動を見ていたのだろう。

 

ヒトの生活をよく学んでいる。

 

「ふむ。何もないか。」

 

タンスを開けても、中身はない。

全国の勇者が舌打ちしそうである。

 

「あの!」

 

「なんだ?」

 

「な、なにか言ってください。」

 

「な、なにを?」

 

「私にあれをやれとか、これをやれとか!」

 

「な、なんでもか!?」

 

「なんでも! 遠慮なく!」

 

頬を赤くした美少女が顔を近づけてくる。

ゴクリと、息を飲んで……

 

 

首を振る。

そもそも猫派だったわ、俺。

 

でも、犬もなかなか良いのでは‥‥

 

「おすわり。」

「はい!」

 

「お手。」

「はい!」

 

頬を赤くして、涙を流して喜んでいる。

美少女にやらせてるのだから、犯罪行為だな。

 

でも、やめられない。

 

「次はあれを!」

 

「フリスビーか。」

 

「ふりすびーって、言うんですね!」

 

 

「外、行くか。」

 

「はい!」

 

建物に囲まれた広場だ。

ここなら、ケガもしないだろう。

 

「いくぞー」

 

「わー!」

 

 

フリスビーは空を舞い、それを追いかけていく。

口に咥えて、帰ってくる。

 

 

ヤバい、俺捕まる。

おねだりに流されて、またやってしまう。

 

 

ちょっとだけ! あと1回だけだから!

 

 

 

「やーっと、見つけたー!」

 

その声で中断した。

サーバルとカラカルがこちらへ向かってきている。

 

「……何者です?」

 

「友達だ。」

 

「ともだち、って?」

 

飼い主としか、深く関わってこなかったのだろうか。

 

「あー、家族みたいなものだ。一緒に旅をしているフレンズだ。」

 

「……そうなんですね。旅、ですか。」

 

 

「はい!これ!」

 

「サンキュ」

 

ジャパリまんは、すでに食べられたか。

サーバルから手渡された色鉛筆を、筒に戻す。

 

「イエイヌ。この2人は、サーバルと、カラカルだ。」

 

「はじめまして。」

 

礼儀正しく、イエイヌが頭を下げる。

 

「うん!よろしくね!」

 

対して、サーバルはいつもの元気ハツラツである。

 

 

「なんだか仲が良いわね。」

 

カラカルがむすっとしている。

 

「まあ、いろいろあってな。」

 

「勝手にいなくなって、そして遊んでたっていうの?」

 

「えーと、いろいろ、重なってしまったというか。」

 

「はっきりしなさいよ!」

 

「俺のせいじゃ……いや、心配かけたな。」

 

「……無事で、よかったわ。」

 

俺たちは、こういうフレンズだから。

時には喧嘩もするし、ギクシャクしてしまう。

 

 

でも、ちゃんと仲直りする。

 

 

「すみませんでした。私が、ここに来させるようにしたので。」

 

寂しそうな表情で、イエイヌがそう告げる。

 

「……ねぇ、イッキはこれからどうするの?」

「みんな!」

 

サーバルが、腰を低くして戦闘態勢に入った。

続いて、イエイヌやカラカルも同じ方向を見る。

 

 

そのけものの声に、俺も遅れて気づく。

 

 

「少々、厄介なやつが来ましたね。」

 

「知っているのか?」

 

「ビースト、そう呼んでいました。」

 

「来るわよ!」

 

現れたのは、トラだ。

腕についた鎖が、特徴的だった。

 

目は輝いていて黒い瘴気を纏っている。

途方もない怒りを感じた。

 

「後ろにいてください! ここは私が!」

 

そう告げて、イエイヌが取っ組み合う。

しかしトラに対して、勝つことはままならない。

 

 

サーバルやカラカルも、有効打がない。

セルリアンとは違って、姿はフレンズなのだ。

 

「もう!どうしたらいいのかしら!?」

 

殺すことを、避ける。

 

「絶対に、守りますから!」

 

何か、俺にできることはないかと必死に探す。

動きを止めるにしても馬鹿力だ。

 

檻、いやそれはダメだ。

入ってみて、その苦しみは思い知った。

 

 

「……ふぅ」

 

一度後ろに引いてきたサーバルが、深呼吸する。

そして、再びビーストと対峙する。

 

 

サーバルもビーストも、同じように目が輝いていた。

 

 

 

睨み合う。

2人の威圧感に、震えが止まらない。

 

 

踵を返した。

森の中へ、ビーストが去っていく。

 

「逃げたの……?」

 

「はぁはぁ」

 

「サーバル、大丈夫か?」

 

「うん、なんともないよ!」

 

「……そうか。」

 

 

「あんたも大丈夫?」

 

カラカルの手を取って、イエイヌが立ちあがる。

 

「ありがとう、ございます。……あの、私は、役に立てましたか?」

 

「ああ、ばっちりだ。」

 

ていうか、俺が足手纏いだったし。

 

「あたしたちだけじゃ、危なかったわ。」

 

「そうですか、よかったぁ……私、戻りますね。」

 

「あんた……」

 

「ヒトに会えて嬉しかった。あなたの居場所は、あのおうちではないのですね。」

 

「まあな。イエイヌはどうするんだ?」

 

「私はお留守番を続けます。それが使命ですから。」

 

「ちょっと、あんた!」

 

「最後に! 最後に、言ってもらえませんか、『おうちにおかえり』って。」

 

 

泣きそうになりながら、告げることではないだろう。

一度、大きく息を吸って両手を突き上げる。

 

 

 

 

「うるせェ!!いこうーー!!」

 

 

 

「……え?」

 

 

 

シャキっとしろってカラカルもいつも言ってくれるし。

 

 

「探しに行くんだよ、ヒトを。」

 

「わたしたちも探しているんだ!」

 

「み、みなさん……」

 

「もちろん、あたしも付き合うわよ。」

 

今度は、イエイヌはちゃんと泣いていた。

その背中をさすってあげる。

 

 

「で、でも……お留守番」

 

「書き置きするか。」

 

「かきおき?」

 

「言葉を残していくことだ。あー、そう、ヒトがやるマーキングだ!」

 

「な、なるほど……」

 

「あんた、何言ってんの……?」

 

イヌのマーキング方法とは違わい!!

 

 

「文字って言ってもわからないしな……。ヒトの特有の、会話?」

 

「なんだかすごそう!」

 

「ふっふーん、ヒトのフレンズの力を見直したか。」

 

「すごいけど、あんまり調子乗らないの。」

 

「へい。」

 

「ふふっ、じゃあ、お願いしますね。」

 

イエイヌの言う通りにメッセージを残せば、こっちから探しに行ける。

 

 

「ていうか、ずいぶんとモノレールから離れちゃったな。」

 

「ここまでの道は、覚えているわよ。」

 

「さすがカラカルだな。」

 

「ほ、褒めても何も出ないんだからね!」

 

あら、顔を逸らされた。

夕日に照らされた顔を見て、俺も顔を逸らす。

 

 

 

 

こうして旅に新たなメンバーがくわ

「ねぇねぇ! イエイヌって、なにが得意なフレンズなの!?」

 

「そうですねぇ、ヒトと心を通わせることでしょうかね。」

 

「いいないいなー!」

 

「カラカルさんも得意みたいですね。まあ、私ほどじゃありませんけどね。」

 

「な、何を言ってるのかしら!? い、イッキが単純なだけじゃない?」

 

「そうかも!」

 

「ひでぇ……、まあ他のヒトに会ったら、わかるんじゃないか。」

 

「ふふっ、そうですね。よしっ、探しますよー!」

 

「おーーっ!」

 

夕日に向かって、みんなで歩いていく。

 

まだまだセルリアンとビーストと戦う力も勇気もない。それでも、こうして1人のフレンズを救えたのだ。ヒトは1人では無力だけれど、助けてくれるフレンズがいるから、少しでも俺も力になりたいと思う。

 

 

「ところで、イエイヌって夜行性なのか?」

 

「いえ、今の時間帯が一番」

 

「一緒に、苦労しよう。」

 

「はい?」

 

 

 

「ね! 狩りごっこしない!」

 

「しょうがないわねー。この前のリベンジ、やってやるわ!」

 

「負けないんだから!」

 

 

 

「……なるほど。」

 

カラカルまでテンション上がるのだから、サーバルを止めるフレンズがいない。

 



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第5話 『友情』は

丁寧口調なイエイヌたちが、元気ハツラツ3人に隠れてしまう。

サーバル3人分だからね


モノレールの車窓から見えたのは青い海だ。

興奮を隠せない3人が駅から砂浜へ飛び出していった。

 

「これ、ほんとに全部水!?」

 

「なにこれなにこれ!!」

 

「なんだか、臭いが」

 

嗅覚の優れたイエイヌにとっては少し潮の香りがキツいらしい。

 

「つめたーい!」

 

「水浴びはするなよー」

 

「わかってるわかってるー!」

 

「イエイヌもきなさーい!」

 

「はい!」

 

俺の隣にいたイエイヌも2人と合流する。

 

浅いところで、足をつけてパシャパシャと遊んでいる。

眼福眼福、もしこれで水着だったら最高だった。

 

「ねえー! この水、なんか変なんだけどー!」

 

カラカルの声が聞こえて、ビクっとした。

 

「飲んでも美味しくないぞー!」

 

「ほんとですねー!」

 

「あははー、なんか変な味―!」

 

 

さて、周囲を確認しても、他のフレンズの姿はない。

そもそも、魚のフレンズはいるのだろうか。

 

「おっ、あれは建物か。」

 

「なにかあったの?」

 

「た、建物を見つけてな。」

 

いつの間にかカラカルが近くに来ていて、動揺した。

 

シャツが透け

「ねぇねぇ! あそこにフレンズがいるよ!」

 

「行ってみましょうか。」

 

「お、おう。そうだな。」

 

 

海上レストランだろうか。

荒廃しているとはいえ、かつて観光地だった面影はある。

 

「いきますよー!」

 

「よいしょー!」

 

水色のセーラー服美少女と、パーカーを羽織った眼鏡美人が遊んでいる。特徴的な尾ひれが尻尾のように生えていて、たぶんイルカやアシカのフレンズだろう。アシカのフレンズが投げたボールは宙を舞って、それを追いかけるように見事なジャンプをして、唇で触れる。

 

つまり、キスだ。

ボールそこ代われ。

 

「あー! サーバルちゃんだー!」

 

「え、えー?」

 

サーバルの両手を取って、イルカのフレンズがぶんぶんと振る。

 

「ぼくね、アシカちゃんと遊んでいたの! いつもは海なんだけどね!」

 

「ドルカさん、お知り合いでしょうか?」

 

「うん! サーバルちゃん!最近お友だちになったアシカちゃんだよ!」

 

「はじめまして。あなたたちは?」

 

「あたしはカラカルよ。」

 

「イエイヌです。」

 

「はじめましてっ! ぼく、バンドウイルカのー、ドルカ!」

 

「そして俺はイッキ。とおりす」

「キミたちって何のフレンズ!?どこからきたの!?」

 

「えっ、え~」

 

今度はイエイヌの両手を取って、ぶんぶんと振る。

 

「海ははじめて?泳げる? ぼくね、泳ぐのすっごく得意なんだよ!」

 

「し、質問多いわね……」

 

「だな……」

 

好奇心旺盛で、サーバルに通ずるものがある。

 

 

「あれー? かばんちゃんは?」

 

「私たちは今、その方やヒトのフレンズを探しているんです。」

 

「そうなんだ! でも、ぼくたちもあれから会ってないなー」

 

どうやら、かばんという人の所在は知らないらしい。

サーバルは口を開いたまま、海の向こうを見つめている。

 

 

「ね! 久しぶりに会ったからさ、ぼくたちと一緒に遊ぼうよ!」

 

「うん! 前に会った時はバタバタしちゃったからね!」

 

「サーバル、あんた……」

 

「思い出したんだ。まだ、ちょっとだけだけどね。」

 

「良かったじゃない。」

 

「えへへー」

 

「ボール投げてさー、ぴょーんってやるの、やろうよ!」

 

「ですが、ボールは1つしかありませんよ。」

 

眼鏡くいっが、アシカに似合っている。

 

 

「なら、バレーボールはどうだ?」

 

「「「ばれー、ボール?」」」

「「なにそれなにそれ!!」」

 

興奮を抑えきれないフレンズ2人をまずは落ち着かせ、ルールを簡単に説明していく。砂浜に線を引きながら、3人1組でやるだとか、タッチ3回までだとか、ボールを相手コートに入れるだとか、自慢の爪を使わないようにしてくれだとか。

 

競技ではないので、細かいルールは割愛する。

 

「ドルカ、アシカさん、それにサーバルでどうだ?」

 

「うん!」

「負けないよー!」

「わかりました。」

 

さて、身体能力的には劣るヒトのフレンズだが、この身体に染みついたスポーツの技術を見せてやろう。

 

「あたしたちの力、見せつけてやるわよ!」

「はい、私もがんばりますね!」

 

どちらのチームも気合いは充分。

 

「じゃあ、ゲームスタート!」

 

まずは見本として、俺のサーブを相手コートにふんわりと入れる。

 

「こうするんですね!」

 

「わわっ!?」

 

アシカがおでこでレシーブ、続けてサーバルが飛びつこうとしたが慣れない砂浜で自慢のジャンプは繰り出せない。

 

「ぼくに まかせて!」

 

サッカープレイヤーもびっくりの、ドルカのヘディングである。

 

「いってぇー!?」

 

足腰をちゃんとバネにしてレシーブをしたが、その衝撃をもろに受ける。

 

「カラカルさん!」

 

「任せなさい!」

 

コートの外に出そうなボールに飛び込むように追いついたイエイヌによるパスを、カラカルがパンチで相手コートへ打ちこむ。

 

「よっと!」

「いっくよー!」

 

早くも砂浜に適応したサーバルがボールを拳で打ち上げ、続いてドルカがジャンプして蹴りこみ、砂浜にボールが勢いよく埋まる。

 

「「いえーい!」」

「やりますね!」

 

人知れず、俺は冷や汗を流していた。

 

「次は負けませんからねー!」

「そうね!」

 

気づくのが遅かった。

俺は、超次元バレーボールに巻き込まれた一般人なのだ。

 

 

 

****

 

太陽が輝いている。

カラカルやイエイヌが視界に入った。

 

「大丈夫?」

 

「……そう見えるか?」

 

「お水をどうぞ。」

 

「サンキュ」

 

川を見つけて、汲んできてくれたらしい。

上体を起こして、一気飲みする。

 

 

「イッキー!たのしかったよ!これなら、みんなで遊べるよ!」

 

「1つのボールで多くのフレンズとも遊べますからね。」

 

「それはなにより。」

 

「お礼に、海の上に連れてってあげるよ!!」

 

「こちらです。」

 

重い身体を起こして、2人に付いていく。

 

 

 

案内された先には、クジラを模した人工的な船。

エンジンはすでに壊れているだろう。

 

「乗って乗って!」

 

「私たちが泳いで運んであげます。」

 

海に潜り、クジラのヒレの部分をそれぞれ押していく。

 

「すっごーい! やっぱり泳ぐの得意だね―!」

 

「でしょでしょー!」

 

「これ、なんか苦手……」

 

カラカルの耳がシュンとしていて、いつもよりしおらしい。

 

「そうですね、不安になります……」

 

相対的に動く海面を見つめてしまっていて、陸ではないことを実感しているからだろう。

 

 

「そうだ! ちょっと待ってて、何人かお友だちを呼んでくるから!」

 

「わかったー!」

 

「2人とも、本当にいつも元気溌溂ですね。」

 

サーバルが俺たちを元気よく引っ張っていく存在だ。

アシカさんにとっては、それはドルカなのだろう。

 

 

「と、止まった?」

 

「風が気持ちいいですねー。」

 

「そうね。止まってたらいい感じだわ。」

 

波の音と、風の音しか聞こえない。

さっきとは違って、久しぶりの静寂を楽しむ。

 

サーバルの視線の先には、空を飛んでいく白い鳥のフレンズが2人いた。

 

 

海から飛び出したり潜ったりを繰り返しながら、3人のイルカのフレンズがやってくる。

 

「おっまたせー!」

 

さながらイルカショーのように、ドルカが船に着地する。

桃色と青色のセーラー服美少女が続いてくる。

 

「サーバルさんではないですか!」

 

「ほんとだー!」

 

「久しぶりだね、2人とも!」

 

置いてきぼりな俺たちの方を向く。

 

「申し訳遅れました。私はシナウスイロイルカの、ナルカです。」

 

「マルカちゃんの名前はー、マルカだよ!」

 

「あたしはカラカルよ。」

 

「イエイヌです。」

 

「俺はイッキ。通りすがりの冒険者だ。」

 

「あははは、またおともだちができたよー!」

 

「一緒に遊んだんだー!」

 

「いいないいなー!」

 

「ばれーぼーるっていう遊び、イッキに教えてもらえたんだー!」

 

「なにそれーおもしろそーう! マルカちゃんもやってみたーい!」

 

「すっごーい、おもしろかったよー!」

 

ドルカとナルカのテンションに、サーバルまで加わる。

さっきまでの静寂が嘘のようだ。

 

まあ、こういう騒がしいのが、フレンズらしい。

 

 

「ふふっ。あなたを見ていると、かばんさんを思い出します。」

 

「ヒトのフレンズ、だからか?」

 

「そうかもしれませんが、親しみやすいことは確かです。」

 

なんて優しいフレンズなのだ。

生足をチラチラ見ている俺と、親しくしてくれるなんて。

 

「マルカちゃん!」

「セルリアンが近づいています!」

 

「うそ、海にもいるの!?」

 

海にいるセルリアンなんて、サーバルたちでは戦うことはできない。

 

 

「ドルカちゃん!マルカちゃん!」

 

「うんっ!」

「お友だちを助けるよっ!」

 

「私も、ご協力しますよ。」

 

4人で船を押してくれれば、凄まじいスピードで陸に向かっていく。

 

「はやいはやーい!」

 

背後を見ても、セルリアンの姿は見えない。かなり遠くに、虹色に輝いている場所があるが、それこそがセルリアンが生まれる兆候なのかもしれない。

 

ともかく、俺たちは海の上では足手纏いだ。

 

「あわわわわわ」

 

「なんかきもち……」

 

「耐えるんだ!」

 

断続的な声を出していたり、口を押さえたり、2人とも明らかにヤバい顔をしている。

 

 

 

「とうちゃーく!」

 

船のあった場所まで無事に戻ってこれた。

 

「ありがとう、みんな!」

 

「サンキュ」

 

「どういたしましてー!」

 

「お友だちだからねっ!」

 

「海の底の山が噴火したのでしょうかね……」

 

「海底火山が近くにあるのか。」

 

「ええ。その山のおかげでフレンズになったんですよ、私たち。」

 

フレンズやセルリアンは、火山と関係しているのだろう。

 

「セルリアンはどうするんだ?」

 

「シャチさんたちが退治してくれるでしょう。」

 

「私たちは、セルリアンのことを一早く伝えることしかできませんから。」

 

エコーロケーションを得意とするイルカのフレンズが、伝達役を担ってるらしい。

 

 

「では、私たちは失礼します。」

 

「ばれーぼーる、今度やるからねっ!」

 

「かばん、見つかるといいねー!」

 

「また会いましょう! 皆さんもお気をつけて!」

 

振り返りながら、4人が海を泳いでいく。

 

「うん! 今度は、かばんちゃんと一緒に来るからねー!」

 

「またなー!」

 

「バイバーイ!」

 

手を振りながら、大声でしばしの別れを告げる。

 

 

さて、船酔いで苦しんでいる2人を介抱するか。

筋肉痛の身体に鞭打って、カラカルを背負った。

 



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第6話 ここからは

モノレールでの旅は続いている。

 

かばんさんがジャングル地方に住んでいるかもしれないと、先日アリツカゲラさんが言っていたものの、まだまだ道のりは遠い。そもそもジャングル地方はサバンナ地方の近くであって、俺たちはモノレールで反対方向に行ってしまったことに気づいた。

 

水の確保のために、池や湖が多い場所で一度降りた。

 

「きれいですねー」

 

「そうだな。」

 

「ここ、みずべちほーだよ!」

 

「来たことあるの?」

 

「たぶんー!」

 

ぴょんぴょんと飛び跳ねながら、サーバルが遠くに見える建物へ向かっていく。

 

「いつも通りね……」

 

「かばんさんのことは、いいのでしょうか……?」

 

「まあ、サーバルが何か思い出せるかもしれないしな。それに、ヒトのフレンズが見つかるかも、だろ?」

 

「はい!」

 

旅の目的として、サーバルが失った記憶を取り戻すことが増えた。もちろん旅を楽しむことや、ヒトのフレンズを探すことも忘れてはいない。

 

 

サーバルの向かった方向に歩いていく。

 

 

「サーバル。木に登って、どうかしたのー?」

 

「よっと……、なんとなくね!」

 

軽々と降りてきた。

 

サーバルって高いところが好きらしいから、木の上から建物の様子を見ていたのだろう。ほんの少し廃れているけれど、この建物は明らかにライブステージだ。ライトや音源装置は配線もきちんと繋がれているし、太陽電池もによる太陽光発電も可能としていそうだ。

 

「ここって、どんな建物なのでしょう?」

 

「ヒトのフレンズがいるかもしれない。」

 

「ほんと!?」

 

「ああ。ヒトが作った物で溢れている。」

 

 

「サーバルさん……? サーバルさんじゃないですか!」

 

「うーん、うーん」

 

眼鏡が似合っているネコ科のフレンズが近づいてきた。

サーバルやカラカルのような服ではなく、イルカのフレンズが着るような水色と白色のセーラー服だ。頭にはPの文字が3つ輝く水兵帽を被っていて、もはやコスプレのように見える。

 

「あっ、そうだった……」

 

表情が曇り、サーバルの両手をゆっくりと離す。

 

 

「あんた、サーバルと会ったことあるの?」

 

「ご、ごめんね?」

 

「いえ、お気になさらず。」

 

「あたしはカラカルで、こっちがイエイヌとイッキよ。」

 

「私はサーバル!」

 

「では、改めまして。私はマーゲイ。……なんと!PPPの専属マネージャーをやらせてもらっています!!……うへへ」

 

すっごーい強調してきた。

しかし、PPPなるものを俺は知らない。

 

 

「サーバルさん、まさかPPPのこともお忘れに!?」

 

「う、うん。」

 

あのサーバルが、テンションで押されている。

 

「ほ、他の皆さんは?」

 

 

お互いに顔を見合わせ、首を傾げ合う。

 

「ごめん。知らない。」

 

「そ、そんなぁ……私の力が至らないばかりに……」

 

「あんた、だいじょうぶ?」

 

「あの、教えていただければ、」

 

「ではお教えしましょう!!」

 

落ち込んでしまったフレンズを慰めさめようとしたら、顔を勢いよく上げた。

 

「「「あ、はい」」」

 

Penguins Performance Project、その頭文字を取ってPPP。このジャパリパークで活動する、ペンギンのフレンズの皆さんで構成される、5人組アイドルユニット!それこそがPPPです!

 

すっごーい早口である。

アイドルが何かを、カラカルたちは知らない。

 

そしてそして!PPPのメンバーをご紹介し………はっ!この香りは!みなさん!!」

 

涎を垂らしながら駆けて行ったマーゲイを追いかける。

マネージャー自身が一番のファンであるらしい。

 

 

「相変わらずね……って、サーバルじゃない!?」

 

「ほんとだ~」

 

「久しぶりだぜ!」

 

サーバルは、ペンギンのフレンズたちに囲まれる。

レオタードやパーカーを着ていて、それぞれ個性溢れる可愛さがグッとくる。

 

「ご、ごめんね。」

 

「やはり、覚えていないそうです……」

 

「なるほど。」

 

「聞いていた通りですね。」

 

「あの……どういうことでしょうか?」

 

PPPのメンバーが各自顔を見合わせて、意を決したようだ。

 

「サーバルは、あるセルリアンに食べられてしまったらしいの。」

 

「えー、そうなのー!」

 

「あんたのことでしょうが……」

 

どこまでもサーバルらしい。

PPPのメンバーやマーゲイも微笑んでいる。

 

 

「そういえば、食べられたらどうなるんだ?」

 

「やる気なくなったり~、意識失っちゃったり~、おなかへったり~」

 

「ほかには記憶喪失だぜ。」

 

「博士たちが言うには、『輝き』を奪うそうです。」

 

断片的な情報から考えてみる。

 

何かを襲う理由はその『輝き』を求めているからなのだろう。フレンズだけでなく、先日は遊具を襲っていたことから人工物も持っていそうだ。撃退される危険性のあるフレンズよりも、安全に『輝き』を得ることができることに、本能的に気づいたのかもしれない。

 

そして、その姿をコピーしている。

遊具を襲ってきた小さな個体が次第に強力な個体となって、カメラや懐中電灯を模したのだろう。

 

 

「記憶を取り戻す方法はないのかしら?」

 

「そこまでは……」

 

「博士やかばんさんなら、知っているかもしれませんが……」

 

「ジャパリまん食べながら~ライブ見たら思い出せるかもよ~」

 

「ナイスアイディアです!」

 

「なになに! ライブってどんなことするの!」

 

「歌って踊るんだ。」

 

「次の、ライブは……」

 

「そうなんだよなぁ……」

 

「ね~、おなかすいたよね~」

 

メンバーの顔が暗くなっていく。

1人はマイペースに空腹アピールである。

 

 

「何かあったのか?」

 

「ええ。次のライブでは、新曲を披露しようってことになったんだけどね。」

 

「その、なんだ……」

 

「ちょっと、自信が持てなくて……」

 

「サーバルさんたちにも、見てもらいましょうか?」

 

「そうですね。では、こちらへ。」

 

 

案内された先は、大きな鏡のある楽屋だ。

なかなか本格的な練習を行っているらしい。

 

各自、準備運動をしている。

 

 

「マーゲイ、よろしくね。」

 

「はい!」

 

「「「「「『アラウンドラウンド』」」」」」

 

音楽が鳴り響く。

リズムに乗った5人の息の合ったダンスが披露される。

 

 

「へぇー、やるじゃない!」

 

「これがライブなんですねー」

 

 

歌も申し分なく上手だ。

カラカルやイエイヌも、歌やダンスに感動している。

 

 

 

「ストーップ!」

 

その声で、音楽が止まる。

 

「あれあれー?どうかしたの?」

 

「ど、どう思った?」

 

「いや、すごかったわよ?」

 

「そうですよね。」

 

「ああ。歌も動きも、かなり安定している。だがしかし!」

 

「もしかして、イッキさん。」

 

マーゲイには、俺がアイドル好きであることを気づかれたようだ。そして俺が言いたいことも第一にわかってくれるだろう。

 

 

「俺はさっきの曲しか知らない。だがあえて言おう、やっぱりPPPはすごいと言われる!」

 

「そうなんです! だから熱狂的ファンとしてはもっと革新的なことをしてほしいといいますか。」

 

「なるほどね。」

 

「何かが足りないと思っていたのだが、そういうことか。」

 

さっきの完成度から、何度もライブをしてきたのだろう。サーバルと会った時にはすでにデビューしていたようだし。

 

 

「それって どういうこと~」

 

「ジャパリまんに飽きるということだ。」

 

「そっ そんな~」

 

そんな絶望した顔を、マイペースキャラに見せられるとは思わなかった。

 

「まあ、物の例えだ。」

 

「ど、どうすればいいのかしら。」

 

「個性、だな。」

 

「個性……、個性ですよ!」

 

「アイドルはそれぞれの個性を持ってこそなんだ!マーゲイ!」

 

「イッキさん!わかってますね!」

 

なんかイッキのテンション高くない?

そうですねー、いつもよりずっと生き生きとしているというか。

 

「ソロで歌ったことは、あるか?」

 

「いえ、一度も……」

 

「だけど、みんなで揃ってPPPだろ。」

 

「そうですね、わたしだけじゃ……」

 

「それは、緊張するな。」

 

「でも~ ジャパリまん飽きるなんてやだ~」

 

あまり反応は良くはない。

決断は、みんなのリーダーに委ねられた。

 

「やるわ!」

 

「「「「え?」」」」

 

「みんなの良さを、私はもっと引き出したい。もっと魅せたい。だから、やってみましょう!」

 

そう、言いきった。

 

「がんばりますね!」

 

「プリンセスが、そう言うのならな。」

 

「よっしゃ、ロックに決めるぜ!」

 

「ふぁんふぁろ~」

 

そのジャパリまんは、いつ咥えたのだろう。

 

ともかく、それぞれの持ち味を一度確認し直せば、PPP全員での歌にも良い影響があるはずだ。悪影響を及ぼすかもしれないが、息の合ったダンスのできるPPPの絆があれば大丈夫だろう。

 

 

 

「イッキさんも、ぜひ手伝ってくれませんか!」

 

「ああ! 俺の培ってきた知識を伝えてやろう。」

 

アイドル好きとしての友情がここに芽生えた。

マーゲイのPPPへの愛には、まだまだ敵わないがな。

 

 

 

「でも、ヒトのフレンズのことはどうするのかしら?」

 

確かに、数日はここに滞在することになるだろう。

サーバルに視線を向ける。

 

「いいよいいよ! かばんちゃんみたいに、フレンズの力になりたいから! それに、なにか思い出せるかもしれないも!」

 

「まあ、それならいいわよ。」

 

「もしかしたら、ライブにヒトのフレンズさんも来てくれるかもしれません。もちろん、PPPの皆さんのお力になれるのですから、私も構いませんよ。」

 

「よしっ、決まったな。じゃあ、基本的に1人ずつ付くか。」

 

5曲も作る必要があるからだ。

俺やマーゲイがフォローに回ればいいだろう。

 

「えっと、それってつまり?」

 

「もしかして……」

 

「カラカルも、イエイヌも、手伝うんだよ。」

 

「「えっ、えー!!」」

 

 

「楽曲はあるか?」

 

時間もないし、音源を作る技術もない。

 

「ええ。このライブステージに残されているわ。」

 

「オッケー」

 

ダンスよりは、歌メインになるだろう。

歌詞をPPPのメンバーたちらしく作り変えればいい。

 

 

「それじゃあ、みんなで、がんばろーっ!」

 

「「「「「おーーっ!」」」」」

「お~」

 

 

「ほ、ほんとうにやるの?」

 

「私が力になれるでしょうか……」

 

適材適所だ。

 

 

 

 

 

 

 

****

 

喧騒は大きくなっている。

ここまで多くのフレンズを、一度に見たのは初めてだ。

 

「うぅ、なんだかあたしまで緊張してきたわ。」

 

「すっごーい数のフレンズが集まっているね!」

 

「鳥のフレンズに至っては飛んでいるしな。」

 

「でも、ヒトのフレンズさんは見当たらないみたいですね。」

 

「だから、俺の出番だよな。」

 

「はい、よろしくお願いします!」

 

 

「じゃあ、行ってくる。」

 

「がんばってくださいね!」

「がんばりなさいよ!」

「がんばってねー!」

 

激励を背中に受ければ、膝の震えは止まった。

 

 

水色のパーカーを腕捲りする。

橙色の羽がついた、古ぼけた白のキャップを被り直す。

 

 

これだけのフレンズの前に、また立つことになるとは。

 

 

「「おっまたせしましたー!」」

 

「ライブの進行役を務めます、マーゲイです! 本日はー、」

「俺、参上!」

「なんとヒトのフレンズが来てくれました!」

 

 

さて、反応は上々。

顔を見合わせて、かばんさん以外のヒトのフレンズがいることに驚いてくれている。ヒトを探しているヒトが、逆に来てくれるかもしれない。ヒトのフレンズの存在をその目で焼きつけてくれる。

 

 

まあ、今はライブを満喫しよう。

 

「最初の曲は、みんなお待ちかねの新曲だ!」

「『1曲目、行くわよ!』」

 

マーゲイの得意な声真似で告げた瞬間、PPPが登場する。

 

「「「「「『アラウンドラウンド!!』」」」」」

 

 

 

 

まさにオープニングに相応しい曲だ。

マーゲイ曰く、ソロ楽曲を作ってからさらに良くなったらしい。

 

「「「きゃーーー」」」「「「ペぱーぷー!!」」」

 

 

「PPPはこの方がいないと始まりません!」

「次の曲は、プリンセスのソロ楽曲だ!」

 

会場に、衝撃が走る。

プリンセスだけがライブ会場の中央へ歩いていく。

 

「聴いてください、『夢みるプリンセス』」

 

 

流れ始めた音楽は、いつもと違う曲調。

綺麗な歌声で、観客はそのリズムに乗せられる。

 

 

 

「『やっぱり私がいないとね』そんな勝ち気で努力家なプリンセスさん。まさに私のお姫様……にゃはー!」「鼻血拭けし!」

 

メンバーはすれ違いざまにタッチして、中央を入れ替わる。その合間を、俺たちで繋ぐのだ。

 

 

 

「『Rockin’ Hoppin’ Jumpin’』!ロックにいくぜー!」

 

「もっと、上を目指していこう。『200キロの旅』」

 

「『Hello!アイドル』!一生懸命がんばります!」

 

「『やくそくのうた』うたうよ~」

 

イワビー、コウテイ、ジェーン、フルルが続いていく。

サーバルが参戦することでさらに明るく激しくなったロック、俺がイロハを伝えることでさらにあざとくなったアイドルソング、カラカルの旅の経験を取り入れることでさらにメッセージ性が増したJ-POP、イエイヌがマイペースさをフォローすることでさらに奥ゆかしくなったバラード。

 

 

 

『ドレミファロンド』、懐かしいな。

 

 

 

「ラストを飾るのは、この曲!」

「『ようこそジャパリパークへ』!」

 

「さあ、フレンズみんなで、歌うわよー!」

 

歓声が上がる。

会場のテンションは最高潮だ。

 

 

「うへへ……これです、これがいいんですよ……」

 

マーゲイに至っては、涎を垂らしながら喜んでいる。

 

 

「ほら、いっくよー!」

「ちょっとーっ!」

「う、うたえませんよ~」

 

サーバルが2人とも引っ張って連れてきてくれた。

その笑顔で、なにかしら思い出したことはわかる。

 

 

 

音楽が流れ始めれば、全員がリズムに乗り始めた。

 

 

「なんだろう、この曲知ってる……?」

「そうですね。なんだか懐かしいような……」

 

 

 

「せーの!」

「「「「「「Welcome to ようこそジャパリパーク♪」」」」」」

 

 

 







後書き。(長文)




この小説や原作2期が嫌いな人がいるとしても、少しでも読んだ方がけものフレンズ自体を好きなままでいてくれたら嬉しい。なんて上から目線なことは言いません。

どこか否定的な見方ばかりになってきた自分自身がけものフレンズ自体を好きなままでいたかった。結局は自己満足ですね。

だから今日も、けものフレンズを見ながら筆を執る。1期リスペクトで2期を再構成。カラカルとイエイヌが生き生きとさせやすいのは2期のおかげなのは確か。

最後まで読んでくれるなんてやさしーフレンズだね!


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第7話 この雨だって

地図によると、砂漠地方の隣に目的地であるジャングル地方があるらしい。ここは島なのだが様々な気候帯が地域ごとがあって、それぞれの地方名がどの気候帯かを表している。

 

砂漠地方を一気に抜けるためには準備が必要なのだ。太陽で熱される車両なんて乗りたくはないし、夕方から朝にかけて移動することが最善だろう。つまり、寒さを凌げる物と水の確保が今回の目的である。

 

 

「ぼうけん!ぼうけーん!」

 

サーバルたちは今日も新たな地方で楽しそうである。

おしくらまんじゅう、でもいいか……うへへ

 

「イッキ、もう少し速く歩けないの?」

 

「わ、悪い。考えごとをしていた。」

 

地図に大きく描かれている湖畔を目指して、俺たちは歩いている。

 

「どんなこと、考えていたんですか?」

 

純粋で優しい眼差しがまぶしい。

 

「いや、砂漠で寒さをどうしようかなって。」

 

「さばくちほーって寒いのかしら?」

 

「暑くて寒い。」

 

「どういうことなのでしょう?」

 

「日陰がほとんどないから昼は暑いのだけれど……、そうだなぁ、夜は冷えるのが早い。」

 

厳密には、温かい空気が上空へ逃げていってしまうことを防ぐものが少ない。

 

「なるほどね。」

「なるほどーぉ!」

 

ヒトは寒さにも暑さにも弱い。イエイヌも砂漠の暑さ寒さは堪えるだろう。夜行性なカラカルやサーバルも、直射日光や昼の暑さはあまり得意ではないだろう。

 

慣れない気候で活動するには、それ相応の装備が必要だ。

そう、学んだ。

 

―――学んだ?

 

「なにかくるよ!」

 

「なにこのスピード!」

 

「ビースト、でしょうか……?」

 

 

大きな耳でサーバルやカラカルが察知し、次にイエイヌもそちらを向いて、そして俺がようやく反応できる。もし俺だけだったのなら、気づくこともなく狩られているだろう。

 

 

「ヴェ!?」

両腕を掴まれて、俺は投げ飛ばされた。

たぶんみんな軽やかに退避していることだろう。

 

 

「て、敵か……?」

 

「たぶん、ちがうみたいよ。」

 

カラカルがそう告げて、俺は安堵の息をついた。

 

「サンキュ」

 

手を握り返して立ち上がる。

 

 

「あら、ごめんなさい。」

 

服装はサーバルによく似たシャツとミニスカートだ。

しなやかな美脚がグッとくる。

 

 

「ちょっと! 危なかったんだけど?」

 

「あなた。誰、ですか?」

 

カラカルやイエイヌが、ムッとしている。

軽々と避けたよね、2人とも。

 

「私? チーターよ。お姉様の次に、地上最速なの。」

 

長い髪をふぁさっとする仕草は、様になっている。

 

 

「そうそう、悪かったわね。驚かせたみたいで。」

 

「いや、気にしてない。危険察知のいい練習になったし。」

 

「そう?」

 

セルリアンやビーストじゃなかったのだから、問題ない。

カラカルやイエイヌの、そのやれやれ顔はなんなのだろう。

 

 

「すっごーい、速かったね!」

 

「あ、ありがとう……」

 

チーターってば、純粋に褒められると弱いタイプだ。

背後を見て、彼女は溜息をついた。

 

「ああもう、追いつかれちゃったじゃない。」

 

「待たせたな!」

 

自分自身の角を模した槍を片手に、走ってきた。

槍に結ばれた青いリボンが風にたなびいている。

 

「待ってないわよ!?」

 

白シャツとジャージは、陸上選手を思わせる。

なんともバランスよく筋肉の付いた足だ。

 

 

「プロングホーンさま~」

 

「おお、いい走りだな!」

 

もう1人、走ってきた。

 

「はぁはぁ……」

 

半袖シャツとスパッツ、鳥のフレンズなのに走る方が得意そうだ。

 

「む? キミたちは、チーターの走り仲間かな?」

 

「初対面よ。」

 

「そうか。プロングホーンのプホンだよ。この娘はグレーターロードランナーだ。」

 

「プロングホーン様の舎弟をやらせてもらってる。ロードランナーでいい。」

 

「私はサーバル!」

「カラカルよ。」

「イエイヌです。」

 

「ヒトの、イッキだ。」

 

「キミたちも、走るのが好きなフレンズか!?」

 

思ってたのと違う反応をされた。

 

「まあ、人並み。フレンズ並みには。」

 

「そうかそうか! チーターと一緒に『ホーンチェイサー』に入らないか?」

「なんでもう決まってるのよ!?」

 

「お前らっ、プロングホーン様直々のスカウトなんだぞ!」

「どういう意味!?」

 

「ごめん、角ないから。」

「そこ気にするの!?」

 

「細かいことは気にするな!」

 

「なんだかたのしいフレンズだね!」

 

 

「もうっ、あんたたちねーー!!」

 

チーターの大声が、平原に響き渡った。

ツッコミ役はもう限界らしい。

 

 

「こほん。……それで?」

 

あっ、なかったことにする気だ。

 

「うむ。一緒に走ろう。」

 

「まあ、待ちなさいよ。」

 

「そうですね。どうして、チーターさんを無理にでも?」

 

カラカルやイエイヌが割って入る。

 

「そうだな。共に地上最速を目指すフレンズを探したいんだ。」

 

「あの、あたしじゃ、ダメなんですか……?」

 

「いや、慕ってくれるロードランナーには感謝している。でも、この、ぽっかりと空いたような、そんな……」

 

「プロングホーン様……」

 

表情が曇る。

サーバルと似た事情なのだろうか。

 

「……いいわよ。でも1度だけだからね!」

 

「いいのか? 長距離走なんだぞ。」

 

「さ、先に言っておくけど。地上最速流には反するから……、万が一負けても仕方がないんだからね。」

 

「そうか。ありがとう。」

 

「か、かんちが」

「ねぇねぇ! わたしたちも走ろうよ!」

 

「へっ、だが、お前らが追いつけるわけねぇだろぅ?」

 

「だいじょうぶ! 狩りごっこで鍛えてるから!」

 

確かに、狩りごっこも走るからな。

 

「どうする……?」

「どうしますか……?」

 

俺に判断を任せるのか。

 

「じゃあ、あの湖畔まででどうだ。俺たちはあそこを目指しているんだ。」

 

「なら、共に走ろうぞ!」

「まっけないぞーー!」

「地上最速の力見せてあげる!」

 

スタートダッシュでサーバルたちが飛び出した。一番速いのはやはりチーターだが、どこまで体力が続くかだろう。ていうか、サーバルが互角の勝負をみせるのは狩りごっこの恩恵なのだろうか。

 

鞄の紐を短くし、靴紐を結ぶ。

 

「待ってください~、プロングホーンさま~!」

 

「私たちも行きましょう。」

 

「イッキ、無理はしないで来なさいね。」

 

「おう。」

 

俺たちも走り始める。

 

やはり最高速度は、ヒトのフレンズはずっと劣る。

サーバルたちの姿なんて、もはや見えない。

 

 

顔の汗を、パーカーの袖で拭く。

 

 

渓谷に入れば、イエイヌやロードランナーの姿が見えた。

 

「はぁ、はぁ、はぁ……」

 

「なっ、追いついてきたのか!?」

 

さすがに追い越すのはマズかったかもしれない。

もし限界を超えて倒れでもしたら困る。

 

あまり長距離を走るフレンズではないのだから。

 

 

「イッキも、速い、のね……」

 

「まあな……」

 

カラカルに並んでも、リズムのいい走りを続ける。

 

前にいたチーターの姿が見えなくなった。

下に落ちていったともいえる。

 

「あたしの、勝ちね!」

 

カラカルが湖に飛びこんだ。

 

この真下は、ほどよい深さなのだろう。

すでにサーバルたちが水浴びをしている。

 

「やっと……だぜぇぃ……」

 

「はぁ…はぁ……」

 

イエイヌたちがクールダウンしながらやってくる。

 

「おう、お疲れ。」

 

「お前ら、や、やるじゃねぇか。」

 

走ると気持ちいいのは、確かだな。

 

 

湖畔へ斜面をざざざーっと降りる。

ロードランナーは、ふわふわと飛んで降りた。

 

 

勝敗も気にせずに、美少女たちが水浴びしている。

 

「どうか…しました……か?」

 

「建物を見てくる。ここで休んでいてくれ。」

 

「そうさせてもらいます。」

 

 

高床式の、プレハブ倉庫だ。

錆びれている階段をおそるおそる登る。

 

扉を、ゆっくり開けた。

 

 

部屋の中央に歩き

「ア゛ア゛ア゛ア゛!?」

「ヴェアアアアーー!?」

 

「な、なんだお前!?」

 

「お、おちつけ、俺はセルリアンじゃない!?」

 

「見たらわかる……。ヒト…なのか。しかし、かばんがいるだろうに。」

 

ブツブツと何かを言っている。

フード付きパーカーワンピースで、首元にはピンク色のリボンを巻いている。

 

一体何のフレンズだろうか。

 

『セルリアンよ!!』

 

その声で部屋から飛び出す。

飛び出す時、咄嗟に黒い筒を背負った。

 

「でけぇ……」

 

今まで見てきたセルリアンよりはるかに大きい。

4足歩行で黒く淀んでいるその姿は、何かを模したとは思えない。

 

「こいつ、どうすれば!」

 

「かたすぎるよー!」

 

サーバルやカラカルが自慢の爪で足を攻撃しているが、あまり効果はないようだ。

 

 

 

「へしを探せ!」

 

いつのまにか隣にいたフードのフレンズが、そう叫ぶ。

 

「ロードランナー!」

 

「はい、プロングホーン様!」

 

ふわりと浮かび上がり、そのへしを探す。

 

「背中です!」

 

背中と言っても、4足歩行のセルリアンだ。

周りに木もないし、サーバルのジャンプ力でも届かないだろう。

 

 

「引きつけるから。あんた、なんとかできない!?」

 

「でも、あたし、あんまり飛びながらだと……」

 

 

「あのタイプなら、水が効くはずだ!」

 

「イエイヌ!」

 

「はい!」

 

パーカーのフレンズから受け取ったバケツを投げ渡す。

セルリアンの動きはそこまで速くはない。

 

イエイヌが湖で汲んだ水をセルリアンの足にかければ、その部分が石のように固まる。

 

「うみゃあ!」

「ここなら!」

 

その部分になら効果があることがわかったサーバルたちが、攻撃を集中する。

 

 

 

「ちっ……」

引き金を引いたが、弾は出ない。

老朽化しているのだろう。

 

 

「お前、使い方がわかるのか!?」

 

「なんとなくだけどな!」

 

俺は階段を駆け上がる。

 

暴れながら、横転したトラックに向かっている。たぶん、その『輝き』を求めているのだろう。この巨大なセルリアンがそれをコピーしたとなると、そう簡単には止めることはできない。

 

 

 

紫色の水晶、へしが見えた。

セルリアンを止めようと、フレンズが必死になっている。

 

 

 

身体が熱くなり、力が溢れてくる。

 

「ヒトの力、みせてやる」

 

引き金を、この手で引く。

轟音とともに俺に反動がきた。

 

 

 

 

 

 

°

°

°

°

 

 

「なんとか持ち堪えるんだ!」

 

黒い粒子が空から降っている。

まるで、雨のようだ。

 

「まつんだ、君たち!?」

 

セルリアンたちに彼女たちは勇猛果敢に立ち向かっていく。

先導しているのはサーバルに似ている。

 

 

「はやく倒れろ!」

 

彼女たちに当たらないように、援護することしかできない。

 

 

「ちくしょう!」

 

膝をついた少女のもとへ、俺は駆けた。

 

 

 

「にげて! にげてよ!」

 

「大丈夫!」

 

フレンズには笑顔でいてほしいから

 

 

 



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第8話 人の心にはいつも

ジャパリパークは気候帯によって、いくつかのエリアに分けることができる。ここは海に囲まれた島であって、各フレンズは適した環境下で縄張りを持って生活している。サバンナ、竹林、海、水辺、平原、そういったエリアにおいて、元となった動物の習性を受け継いだフレンズは確かに今も生きていた。

 

フレンズたちは、サンドスターによって生まれたと説明された。

―――誰にだ?

 

「ねぇ」

 

火口から、虹色のサンドスターが空へ登るように固まっている。ここからも見えるのだが、島の中心には大きな火山がある。フレンズたちやセルリアンが火山に大きく関係しているとしても、あの火山からはセルリアンが生まれているとは思えない。

 

―――火口から、黒い雨を放出していたはずだ

 

「ねぇってば!」

 

その声で、はっと我に返る。

カラカルだけではなく、サーバルやイエイヌも心配そうだ。

 

「悪い……」

 

「また、考えごと?」

 

「まあ、な。」

 

「あんまり根を詰めないでよね。……また倒れても、こっちが困るんだから。」

 

どこか見覚えのある黒いセルリアンを討伐できたという事実は覚えている。気を失っていたらしいし、具体的な手段も覚えていない。

 

肩掛け鞄からはみ出している、武器に一度手を添えた。

 

 

「そうそう。もうすぐかばんちゃんに会えるんだから、いろいろ思い出せるとおもうよ!」

 

先導しているサーバルが、振り向いて笑顔で言う。

 

「ふふっ、わくわくしていますね。」

 

「かばんちゃんなら、なんとかしてくれるかなーってね!」

 

「一体、どんなすごいフレンズなのよ……」

 

完全に記憶を取り戻していないのに、かばんさんを信頼しているのだから、よほど大切なフレンズなのだろう。

 

「たんけん! たーんけん!」

 

かつて作られただろう道があるとはいえ、草や蔦が伸び放題だ。足元に気を配りながら、また茂みから襲ってくるかもしれないセルリアンを警戒しつつ、目的地もわからず歩いていく。

 

「うぅ。独特な臭いですね。」

 

「ここに棲んでいるフレンズって、こういうの慣れてるのかしらね。」

 

時には優れた嗅覚で苦労することになるらしい。

サーバルやカラカルも、湿気による汗が鬱陶しそうだ。

 

 

「にしても、建物がないわねー」

 

「ここ、また川ですね。」

 

「またかー?」

 

「はし! あっちにあるよ!」

 

いくつもある川には橋が架けられている。ここジャングルエリアの植物を用いた手作り感溢れる橋だ。フレンズたちによって作られたのは確かだろうけど、ヒトのフレンズの協力がある可能性は高い。

 

時には、隙間を跨ぎながら橋を渡る。

 

 

「おぉー!」

 

「ようやく、いましたね。」

 

しかも、4名のフレンズ。

ライダースーツの美人さんと半袖ジャージの眼鏡っ娘、ネコ科美少女たちだ。

 

「お姉ちゃんが一番綺麗なんよ!」

 

「いいえ、イリエワニさんです!」

 

「自分で言うんとはちがって、なんか照れるなぁ……」

 

「ははっ、嬉しいじゃないか。」

 

 

なるほど。

引き締まっていて抜群のスタイルだ。

 

なんだその巨大なおっ

「イッテ!? なんでや!」

 

「あれ、なんでだろ……?」

 

引っ掻きではなく、肘打ちがクリティカルヒットした。

カラカルはその技をいつ身につけたのだろう。

 

 

「あんたら、だれや?」

 

「ねぇねぇ! かばんちゃんのこと知らない!」

 

「お、おちつかんかい。」

 

俺たちに気づいたフレンズに、サーバルが突撃していった。

 

「あんた、もしかしてあのサーバルじゃない?」

 

「そうみたいですね。」

 

「サーバルさんのこと、知っているんですか?」

 

「有名だよ。なにせ、さばんなちほーのトラブルメーカー。」

 

「えー、なんでー!?」

 

サバンナエリアとジャングルエリアは隣接しているから、有名人の噂は届いているのだろう。

 

「まあ、否定はできないわね……。」

 

「そういうあんたは、サーバルの保護者だね。」

 

「どんな広まり方よ!?」

 

カラカルの名そのものは、広まっていないらしい。

 

「ははっ、からかって悪かったね。」

 

「でも、その噂は本当ですよ。」

 

的を得ているのは確かだ。

 

 

「フレンズさんたち、うちらとよく似てるね。お姉ちゃん。」

 

黒のツインテールのネコ科フレンズが、黄土色のセミロングのネコ科フレンズの背中に隠れながら言う。

 

「そうだね。わたしはサーバル!」

 

「あたしはカラカルよ。」

 

「ヒョウや。そんでこっちが双子の妹の」

「うちはクロヒョウ。」

「合わせてよろしゅう。」

 

快活な姉と内気な妹だが、姉妹仲はかなり良いようだ。

 

 

「イリエワニよ。」

 

「メガネカイマンです。」

 

メガネくいっ、が様になっている。

 

 

「イエイヌ、です。」

 

「イッキ、ヒトのフレンズだ。」

 

「「「「ヒト!?」」」」

 

驚愕しつつ、後退された。

そして、腰を引いて警戒態勢に入っている。

 

 

「ちょっと待ちなさいよ!」

 

「ヒトの中でも、優しいヒトなんですよ!」

 

「そうそう! ぜんぜんこわくないよ!」

 

カラカルたちの擁護に涙が出そうだ。

 

 

「ほんとかいな?」

 

「隠しているんやろか?」

 

「でも、確かに強そうには見えないね。」

 

「親分に聞いてみましょうか。」

 

ワニと比べて勝てるヒトは、そう多くはいないだろう。

そのワニよりも強いフレンズとは一体。

 

 

「誰か、来ます。」

 

一早くイエイヌや、ネコ科フレンズが気づく。

何かを叩いて、ポンポンと鳴らす音が聞こえてきた。

 

 

「「「「ゴリラの親分!」」」」

 

ニット帽と白のタンクトップのフレンズだ。

ゴリラのフレンズなのだから、かなりヒトに似ている。

 

ていうか、さっきのはドラミングだったのか。

 

 

「お前ら、なにかあったのか?」

 

「親分。こいつって、あのヒトなんか?」

 

「……なに?」

 

目を細めて、こちらを見てくる。

 

「た、食べちゃだめだからね!」

 

「イッキさん、下がって。」

 

彼女たちより前に出ようとした俺は止められた。

手は震えていて、瞳は揺れていて。

 

 

「ヒトのフレンズよ、ついてこい。」

 

「……ああ。」

 

「あ、あたしたちもいい!?」

 

「ふむ。お前らならいいだろう。」

 

やり取りを離れて見ているヒョウたちをその場に置いて、ゴリラに付いていく。

 

 

 

 

「ふぅ……」

 

どすっと、縄張りの台座に座った。

 

「フレンズたちよ。……あいつらは、来ていないか?」

 

「え? 来てないわよ。」

 

自慢の耳や鼻なら、確信が持てる。

 

「あぁー、よかったぁ……」

 

だらけた。

葉っぱを敷いているとはいえ自動販売機だよな、その台座。

 

「ずいぶんと、その……」

 

「今のあんた、威厳ないわね。」

 

「そうなんだよ。あー、腹がいてぇ。」

 

「ええ! だいじょうぶなの!」

 

「ああ、いいよいいよ。あたし、胃が弱いから……」

 

ストレスによる可能性が高い。

 

「悩み事でもあるのか?」

 

「聞いてくれるんだな、やさしいなぁ。」

 

「でしょでしょ!」

 

そう言われてサーバルたちが嬉しそうだし、なんだかむず痒い。

 

 

「あいつらの喧嘩に喝を入れて、それから親分って慕ってくれるようになったんだ。でも、あたしってそういうの苦手でさぁ……」

 

「彼女たちの期待を裏切りたくないと?」

 

「そういうこと。」

 

そして彼女たちの中では、ヒトのフレンズがゴリラ並みの力を持っていることになっているらしい。

 

「あんた、ヒトのフレンズなんだね。」

 

「もしかして、ほかに知っているの!?」

 

「ああ、知っているとも。とても優しいフレンズだよ。すぐに解決できないことを謝ってくれて、何度も悩みを聞いてもらっている。」

 

「そうなんだ……」

 

サーバルが息を吞む。

しかし口を開くことはなく、カラカルと同時に後ろを向いた。

 

「ねぇ、もしかしてクロヒョウの悲鳴!?」

 

「う、うん! そうだと思う!」

 

「なに!?」

 

「こちらです!」

 

全員、急いで走っていく。

匂いを必死に嗅ぎ分けているイエイヌが案内してくれた。

 

 

 

「みんな、無事かぁ!!」

 

「親分、来てくれたんや。」

 

クロヒョウを庇いつつ、ヒョウたちはビーストと対峙している。

 

「あいつ! もしかして、追ってきたの!?」

 

そう簡単に砂漠を抜けられるとは思えないし、俺たちと違って島を時計回りしてやって来たのだろう。

 

 

「このフレンズ、様子がおかしいですね。」

 

確かに、前に会った時よりあまり覇気がないように感じられる。

よく見ると、虹色の粒子が身体から出ている。

 

 

「あいつ、もしかしてサンドスターが……」

 

「親分、どうする?」

 

彼女たちからすれば、勝手に縄張りに侵入して危険因子だ。

イリエワニはすでに戦闘態勢に入っている。

 

 

「あぁ、どうしよぉ……」

 

「「「「え……」」」」

 

「いや、だってフレンズじゃないか。争うことなく仲良くできたら、一番かなぁって。」

 

自信なさげに、そう告げる。

 

 

「親分……」

 

「いいやん!」

 

「優しいんだね。」

 

「……ねぇ、なんとかできない?」

 

ヒトのフレンズの俺に判断を任せてくれた。

フレンズはみんな想いを託してくれた。

 

 

「危険です!」

 

「任せろ。」

 

イエイヌの心配してくれる気持ちも嬉しい。

 

 

 

「大丈夫。」

 

「ほんと?」

 

大丈夫だ。

なぜなら戦うことはしないから。

 

 

鞄から取り出すものは、武器じゃない。

 

「ジャパリまん、どうだ?」

 

片膝をつき、片手で差し出す。

両手を地面につけた彼女は目を見開く。

 

 

「腹、減ってるだろ。」

 

そう告げれば、口に咥えて去っていった。

 

 

緊張が解けて、フレンズ全員が安堵の息をつく。

 

 

 

 

2枚の羽根飾りがついた古ぼけた帽子を被っていて、少し小さめのカバンを背負っている。

 

「無茶なことをするね。でも、いいことをしたと ぼくは思うよ。」

 

 

 

その声の主にサーバルは駆けていく。

 

 

 

「食べないでね サーバルちゃん」

「食べないよぉ かばんちゃぁん」

 

「サーバルちゃん…って、呼んでくれ…たね」

「約束...だからね」

(1番大好きな、ぼくのフレンド)

 

 

 

 

 

『ボクもいるヨ』

 



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第9話 想い、そして運命

ゴリラたちはもっとお互いのことをよく知ろうと決めたようだ。元の動物としての種族は別々であって決して仲間となることはなかっただろう。サンドスターによってフレンズとなった彼女たちは『知る』という欲求を得ているのかもしれない。

 

 

彼女たちに別れを告げ、かばんさんが運転するバスに乗り込んだ。サーバルが探していたというヒトのフレンズには聞きたいことがたくさんある。数年間はジャパリパークで暮らしてきたのだし、島のことを一番知っている人物かもしれない。

 

「バスだー!」

 

「数年ぶりだよね。」

 

バスの内装に頬ずりしているサーバルへ、前を向いたまま告げる。

 

 

「この乗り物、だいじょうぶなの?」

 

あまり舗装されていない道ということもあるけれど、それでも振動や雑音はかなり大きい。モノレールの車両も古びてはいたけれど、このバスはただの老朽化だけではないように思える。

 

「騙し騙しなのは確かかな。」

 

「ねぇねぇ、かばんちゃん! どこに向かっているの?」

 

「今住んでいるところだよ。見えてきた!」

 

『開けるよ』

 

腕時計型のラッキービーストがそう告げれば、門が自動で開いていく。

 

「おおーっ!」

 

「なにあれ!?」

 

「……間に合わなくないか?」

 

「だね…。」

 

『止まるよ』

 

ガクンと、各自バスの内装に頭をぶつけた。

覚悟していたものとは異なる衝撃だ。

 

「いったーい……」

 

「ボスぅ、言うの遅いよぉ」

 

『ゴゴメンあわわわわ』

 

さらに急発進。

2度目の衝撃をもろに受けた。

 

「ちょっと~」

 

「あはは……ラッキーさんも舞い上がっているみたいだね。」

 

『……』

 

図星らしい。

サーバルとラッキービーストも、久しぶりの再会なのだ。

 

 

「それで、ここが?」

 

「うん、ぼくのおうち。」

 

明らかに人工的な建物であって、研究施設のようにも見える。古ぼけた様子はなく、壁の塗装も剥がれ落ちてはいない。敷地内には見覚えのある野菜の畑があって、倉庫がいくつかある。

 

 

イエイヌはクンクンと臭いを嗅いでいたが、直にやめた。

 

「イエイヌ、行くぞ。」

 

「あっ、はい……」

 

 

かばんさんが中に案内してくれる。

建物の中も白を基調としていて近未来的なデザインだ。

 

 

テーブルを挟んでソファに座った。

サーバルやカラカルは、フカフカ~って喜んでいる。

 

 

 

「博士さん、助手さん。」

 

白色と茶色、それぞれを基調とする鳥のフレンズが部屋に入ってきた。

 

「初対面のフレンズもいるのですね。アフリカオオコノハズクの、博士です。」

 

「どうも。助手の、ワシミミズクです。」

 

「あたしはカラカルよ。」

 

「イエイヌ、です。」

 

「イッキだ。」

 

顎に手を当てて、俺を見つめてくる。

たしか、あのパーカーのフレンズも不思議そうにしていたな。

 

 

「ふむ……。それでサーバル、少しはかしこくなりましたか?」

 

「うん! えっとねー、ばれーぼーる、できるようになったもん!」

 

「ダメですね、相変わらずなのです。」

「相変わらず、ですね。」

 

「なんでぇー!?」

 

このやり取りが、お互いに懐かしそうだ。

再び、扉が開く音がした。

 

 

「我々は騒がしいのは苦手と言ったはず……おや。」

 

「せ、セルリアン!?」

 

お盆を運んできた青いセルリアン2匹とともに、青を基調としたフクロウのフレンズが部屋に入ってくる。セルリアンたちは襲ってくる気配はないし、某RPGのスライムのようにマスコットキャラクターっぽい。

 

イエイヌやカラカルは、警戒したままだ。

 

「まあ、お茶でも飲んで落ち着くのです。」

 

「あんたが言うの!?………あっ、美味しいわ。」

 

「あのヒトたちも、お茶を飲んで落ち着いていました……」

 

紅茶にあまり詳しくはないが、美味しいということは俺にもわかる。

 

 

「……あなたは?」

 

「イッキだ。」

 

「……そうですか。私のことは、セルミミズクとでも、セミとでも呼ぶのです。」

 

「それで、なんでセルリアンがここに……?」

 

セルリアンたちも、お茶菓子を美味しそうに食べ……吸収している。

 

「美味しい物を食べてこその人生なのです。」

「なのです。」

「なのです。」

 

「どういう理屈だ……」

 

まるで意味が分からんぞ!?

 

 

「ふわぁ。なんだか、お腹いっぱいで眠くなってちゃった~」

 

「あたしも、なんだかね。」

 

おやつの時間の後に、お昼寝。

カフェインを飲んでも寝れるんだな、夜行性組。

 

 

「我々も一休みするのです。」

「休息は大事なのです、我々はかしこいので。」

「省エネも、『保存』なのですよ。」

 

博士たちが、バタバタとソファに顔をうずめていく。

 

 

 

「おやすみ~」

「もぉー、サーバルってば~……」

 

サーバルやカラカルも、互いに寄りかかるように眠る。

 

 

 

「サーバルちゃんと、仲が良いんだね。」

 

「トラブルメーカーの保護者、らしいですよ。」

 

「あ、あの……。」

 

「なにかな?」

 

「ほ、ほかに、ヒトのフレンズを知りませんか?」

 

「……ぼくは、会ったことないよ。」

 

「そう、ですか……。」

 

「うん。たぶん、ジャパリパークにはもうヒトはいない。……ぼくも、厳密にはヒトのフレンズだからね。」

 

「……なら、ジャパリパークの外には?」

 

「わからない、としか言えない。」

 

「どういう、ことですか?」

 

「合わない環境は、フレンズの寿命を縮める。あの火山がもたらすサンドスターがない場所では、生きられない可能性が高い。………ぼくたちフレンズも、そしてセルリアンも。あまり遠くには、ね。」

 

窓から見える巨大な虹色の結晶を、俺たちは見る。

 

「……少し、風に当たってきます。」

 

 

 

ヒト、いや人に会える確率は限りなく低いことを知らされたのだ。ここまで旅をしてきた目的も、あのおうちを守り続けてきた使命も、イエイヌはもう一度人に会うことを目指していたからだ。

 

 

俺たちも、ソファから立ち上がる。

 

「ぼくたちも、場所を変えていいかな?」

 

「いいですよ。」

 

部屋の明かりを消して、スヤスヤ眠るカラカルたちを寝かせておく。

 

 

リビングと呼べる場所を一度出て、別棟までやってきた。

この研究室には多くの本や資料、倉庫には機械部品が集められているようだ。

 

 

「いろいろ調べているんですね。」

 

「まだまだ分からないことが多いんだけどね。」

 

ジャパリパークの地図上に×印で記されているのは、たぶん黒セルリアンが出現した場所だ。セルリウムやサンドスターと、火山が大きく関係しているのならば、もっと山頂寄りに分布してもいい気がする。

 

 

「数年前にね、ぼくたちはフィルターを張り直したんだ。」

 

「フィルター?」

 

「噴火口から出るセルリウムをサンドスターに変換する力があってね。四神のフレンズのおかげらしいんだけど。」

 

「俺たちは先日、黒いセルリアンと戦闘……、戦いました。」

 

「た、倒せたの?」

 

「へしがあったので、なんとか。」

 

「そうか。まだ『コピー』するまでには至っていなかったんだね。」

 

こういう会話をしていると、かばんさんの姿が誰かと重なる気がしてきた。

 

 

「たぶん、噴火口以外からセルリウムが漏れ出しているんだ。」

 

かばんさんが地図の、2つの範囲をなぞりながら示す。

高山地帯と、海底火山、か。

 

イルカのフレンズたちが生まれたと言っていた海底火山から、セルリアンも生まれているのだろう。

 

 

「水に弱いセルリアンが、固まりきる前に『コピー』しているんですかね。海の底に沈んでいる物とかを使って。」

 

「海の底に、沈んでいる……?」

 

陸に上がったセルリアンが、さらに重ねて『コピー』している可能性もある。

 

 

 

「現状、漏れ出すセルリウムを止める方法はない、か。」

 

かばんさんは、小さく頷いた。

 

 

「……ついてきて。」

 

なぜか、倉庫にはピカピカの丸い物が多い気がした。

 

 

倉庫に停めてあるジャパリバスを、工具を使って修理を始める。ラッキービーストが指示し、そこを適切に直していくだけでいい。もちろん、俺もかばんさんと同じように道具を器用に使いこなしていく。

 

ある時は、別の乗り物の部品と取り換える。

 

「これ、もう他の乗り物に替えてもいいくらいでは……」

 

あちこちガタがきているので、そう呟いてしまった。

 

「このバスがいいんだよ、ぼくたちはね。」

 

「ああ、すみません。」

 

「ううん、気にしないで。」

 

「もしかして、セルリアンに?」

 

「うん。このバスを、『コピー』したセルリアンがいたんだ。」

 

「これだけ大きいセルリアンだと、苦労しそうですね。」

 

 

首を振る。

それだけじゃないと。

 

 

「たぶんなんだけどね。人の思いが籠められている物ほど、つよい『輝き』を持っているんだと思うんだ。このバスの『輝き』を得たセルリアンはとても強くて、その時にサーバルちゃんが………」

 

「それは……」

 

作業をしていて汚れた手のひらを、俺は見つめた。

 

 

仮説が正しければ、人間は引き金になりうるのだ。

 

 

「ぼくのせいなのかなってね。迷惑なのかなって。」

 

『かばん、そんなことないよ』

 

「ラッキーさんも、博士たちも、慰めてくれるんだけどね。」

 

 

俺たちと関わることで、大切な友達を危険な目に遭わせることになる。

 

 

 

「サーバルちゃんと、また会えたとしても…って思っちゃったんだ」

 

なんて、寂しい笑顔なのだろう。

 



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第10話 それが強さに

黙々と作業を続けている。

 

夕日が差しこんできたし2時間以上は機械いじりをしているだろう。かばんさんが住んでいる場所は塀に囲まれていて、『コピー』セルリアンが入ってくることはない。ここなら安全な暮らしができる。

 

「はぁ」

 

でも、ここに留まらせてほしい、留まってほしいという提案をすることはない。カラカルやサーバルにとって適した環境は、サバンナ地方であるのだ。住んでいる世界が違うという言葉がまさにあてはまる。

 

 

彼女たちのことを考えるのなら、旅はまちがっていた。

 

 

「かばん、いる~?」

 

「うん! 倉庫だよー!」

 

「おおっ、いたいた!」

 

かばんさんが大きな声で所在を知らせると、鳥のフレンズたちがやってくる。灰色を基調としたブレザー制服を着たフレンズと、赤を基調としたバスガイド服を着たフレンズだ。

 

「博士たちぐっすり寝ててねー。……ほえ? だれ?」

 

「彼はイッキ。ヒトのフレンズだよ。」

 

「おお~」

 

「お仲間を見つけることができたのですね!」

 

なんだかもの寂しげなフレンズだが、声は明るい。

しかし、成り行きで出会っただけであって、そこまで自分の事のように喜ばれると、なんだかむず痒い。カラカルたちもいたことだし、俺個人としてはヒトのフレンズを探すことにあまり躍起になっていたわけではないのだろう。

 

「ど、どうも。」

 

「申し遅れました。私はリョコウバトです。」

 

「私はカワラバトだよ~。」

 

「今回はどこまで行ったの?」

 

「えっとねー、うみだっけ。」

 

「うみの近くにある、ジャパリホテルまで行ってきたんですよ。」

 

「そうそう。一緒に、つあーしてきたんだ。」

 

「さすがだね。かなり遠いと思うんだけど。」

 

『渡り鳥であるリョコウバトはもちろんだけど、カワラバトも伝書鳩としての役目を担うことはあるからね。体力があるんだよ。』

 

「えっへん。」

 

ラッキービーストの解説で、とりあえず褒められたことはわかった鳥のフレンズたちは嬉しそうだ。

 

「でも、セルリアンが現れたよね。なんていうか、生まれたてぽかったよ。」

 

「そうですね、シャチさんたちが倒してくれたようですが。」

 

「海底火山は、ジャパリホテル近くなのか……。」

 

 

ドタドタという足音。

 

 

ラベンダーっぽい色を基調とした服を着たフレンズが駆け込んできて、それを桃色を基調とした服を着たフレンズが冷静に追いかけてくる。

 

 

「かばんさ~ん! パークの危機なのだ~!」

 

「『流しの芸人』……?」

 

「なんだかバカにされている気分なのだ!?」

 

「なんだか聞き覚えがあるね~、アライさん。」

 

「ご、ごめんな? 急に思い浮かんだだけなんだ。」

 

「ま、まあ? アライさんはてん」

「何があったの~?」

「言わせてもらえないのだ!?」

 

マイペースなカワラバトに言葉は遮られた。

 

「こうざんのこと、そろそろどうにかしないとって言いにきたんだよ。」

 

「そう!ぱー」

「パークの危機、なんですよ。」

 

「久しぶりだね!」

 

探偵コンビがやってきて、言葉を遮る。

落ち込んでしまったフレンズは慰められているし、今はパークの危機のことを気にしよう。

 

「こうざん、そしてうみの件。あまり猶予はないでしょう。」

 

「なにか解決策はわかったのかな、博士たち?」

 

「……それが、まだなんだ。」

 

「そうですか。あなたが噂の助手なんですね。」

 

「あはは……。研究仲間ではあるんだけどね。」

 

「かばんさんは、とにかくすごいのだ!」

 

「そうだよねぇ、アライさん。」

 

 

 

またもやドタドタと誰かが走ってくる。

凄まじいスピードで、その影は勢いよく飛びつく。

 

 

 

「た、たべ」

「かばんちゃーん、ここにいたんだーっ!」

 

「サーバル!?」

「ほんとだねぇ。」

 

「あっ、久しぶりだね。アライグマ、フェネック。」

 

「おおーっ! サーバルもいれば、これでむてきのふじんなのだ!」

 

「え? なにかあったのー?」

 

「セルリウムが、各地から漏れ出しているのですよ。」

 

「ほんとっ!?……う、うーん……どうすればいいかな?」

 

 

その言葉に、

その視線に、

かばんさんは一度目を閉じて微笑んだ。

 

どうやら、『答え』を見つけたらしい。

 

 

「フィルターを貼り直そう。」

 

「それって、あの石のことだよね?」

 

「そうだ! あのおたからを移動させるのだ!」

 

「そういうことになるね。」

 

「おおっ、褒められてよかったねぇ。」

 

「えっへん。」

 

かばんさんたちがかつて貼り直したというフィルターは火山の噴火口から出るセルリウムをサンドスターに変えるものだ。その噴火口以外からセルリウムが放出していることが現状。

 

 

「どういうこと?」

 

「4つの石板からフィルターはできている。だから、石板の場所を各方角に移動させるんだ。」

 

「なるほど。」

 

 

どこまで有効かはわからないけれど、少しでも範囲を広げることでセルリウムの放出量を減らすことができるはずだ。

 

「方角のことなら、カワラバトさんにお任せですね。」

 

「うん。やっぱり平和が一番だからね、手伝うよ。」

 

 

 

さて、俺にできることを考えたのなら。

「……カワラバト、ジャパリホテルはどっちだ?」

 

「あっち。」

 

 

指差した方向に意識を強くする。

方向音痴ではないフレンズだからな、俺は。

 

 

「かばんさん。海底火山の方は俺が見てきます。だから、フィルターのことはお願いします。」

 

「うん。気をつけてね。」

 

「はい!」

 

 

 

かばんさんたちが火山に向かおうと準備する中、俺はさっきまで修理していたバイクを倉庫から出す。フィルターを貼り直すことはかばんさんたちに任せておけばなんとかなるはずだ。

 

 

 

 

 

海底火山の様子を見にいったとしても……、いや黒セルリアンと戦闘になったとしても足手纏いにしかならないかもしれない。でも、何もしないで、目の前で傷ついていくフレンズはもう見たくないから。

 

 

 

 

「行くんでしょ?」

 

「カラカル、イエイヌ……、かばんさんたちの方を手伝いに行ってほしい。」

 

たぶん、そっちの方が何倍も安全だ。

 

「はぁ……、どういうことよ。」

 

「あー、話せば長くなるんだが……」

 

「移動しながら教えなさい。」

 

「そうか……。そういうやつだったよな。」

 

「そうよ。旅に出たことも、セルリアンと戦うことも、あたしが決めたの。」

 

成り行きとはいえ、本来旅をする種ではないのだ。リョコウバトとカワラバトにどんな過去があるかは分からないけれど、その絆はちゃんと伝わった。

 

サーバルも、カラカルも、楽しいことを気の向くまましているだけなんだ。旅の楽しみを知ることができたフレンズなのだから、止めることはできない。

 

 

「私もできることを、……いえ、やりたいことをやります。たぶん彼女も助けを求めていますから。………ビースト、いえアムールトラさんの臭いはちゃんと覚えています!」

 

「ああ、お互いにがんばろう。」

 

「はい!」

 

ジャパリパークの一員なんだ、みんな。

イエイヌの中でまだ人のことは決着はついていないだろう。同じように孤独を味わっていて助けを求めるフレンズと会って、答えを見つけにいくのだ。

 

 

森の中へ、走っていった。

 

 

「あたしたちを守ろうとするあんたは、あたしが守ってあげるわよ。」

 

「どっかで聞いたセリフだな。」

 

自然と、俺の腰に腕が回された。

 

 

「カッコいいでしょ?」

 

ずっと憧れてきたんだ。

ヒーローってやつに。

 

 

 

もうすぐ夜だけれど、

旅のおかげで夜行性になりそうなくらいだから、

 

大丈夫だろう。

 



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第11話 あったかい

サバンナ地方を南へ、バイクで駆け抜けていく。

真っ暗な道を、ライトと月が照らしている。

 

背後には火山があってどんどん遠ざかっていた。振り向くことはないけれど、この曇り空が状況を表しているように思えた。今もかばんさんたちはジャパリバスで火山に向かっていることだろう。

 

「そろそろ!」

「ああ!」

 

大きな声で言葉を交わす。

 

 

光源のほとんどないジャパリパークにおいて、暗闇の世界を照らしているのがジャパリホテルなのだろう。目測で8階くらいのホテルだが半壊していて、突っ込むようにして完全に固まっている塊は、黒セルリアンの成れの果てに見える。

 

 

「しかし静かだな。」

 

海底火山が活発化していると言われているのに、海の波はやけに穏やかだ。薄暗い周囲を見渡しても辺りにセルリアンの姿はないし、カラカルを見ても首を振った。さすが夜行性。

 

「誰か、こっちに来ているわ。」

 

「そうみたいだな。」

 

灰色のセーターを着ていて、カラカルたちより横に広く大きな耳が目立つ。しかし、ゆったりとした服に隠された大きな「ヴェアッ」……また肘打ちか。ジト目がつらいし、眠気覚まし的にも気を引き締めるにはいい喝だった。

 

「また変なこと考えてるんじゃない?」

 

「夜遅くによく来てくれたの。どうかしたの?」

 

「気にしないで。あんたは?」

 

「私はオオミミギツネなのね。一応、このジャパリホテルの主なの。」

 

「あたしはカラカル、こっちはイッキよ。」

 

「よろしくなの。あなたたちも旅をするフレンズなのね。休憩していくといいの。」

 

「ちょ、ちょっとー」

 

嬉しそうに俺たちの背後に回って、背中を押してくる。

 

「いいのいいの、キタキツネたちのところみたいに、体が浸かれるくらいのお湯で水浴びできるのね。」

 

「いや、それよりもなんだけど。」

「あの黒い塊は最近できたのか?」

 

温泉のことをもっと詳しく聞きたい気持ちを抑える。

 

「元からあったものなの。どうかしたの?」

 

「いや、それならいいんだ。最近、へしのないセルリアンを見ていないか?」

 

「見たの。知らないフレンズが倒してくれたけどね、なんだか苦しそうだったの。」

 

「それってあの娘じゃない?」

 

「ああ。たぶん、ビーストだろう。」

 

ジャングル地方に来る前にこの辺りを通ったのだろう。なんていうか、彼女は本能的に何かを探しているようにも思える。そしてセルリアンを狩る時だけは、意志が見えるような気がするのだ。

 

 

「ちょっとあんた!」

「あの子たちが危ないのね!」

 

 

一早く、カラカルたちはフレンズの悲鳴を聞き取った。オオミミギツネが勢いよく駆けて行く。それを追いかけるカラカルにも追いつけそうにないが、俺もできる限りのスピードでホテルに向かう。

 

 

「た、たすけてくださ~い!」

 

外側に若干はねている黒のロングヘアーで、ハイビスカスの花を模した髪飾りが目立つ鳥のフレンズがこちらへ走ってくる。頭部にある翼はロードランナーよりも小さくて、飛ぶのは得意ではないのだろう。

 

「な、なんくるないさ~」

 

目をキュッとして小さな翼を羽ばたかせ木に登る。そんな彼女を追いかけてきているのは、サーバルやカラカルを模したような1つ目黒セルリアンだが、大きさは小さくてその原型を留めようと必死にも見える。

 

バッグから引き抜いたバールでその身体を叩いただけで、パッカーン、である。しかし、その数は多いし、視界も悪い。たぶんフレンズ自体を模したのではなくて、ぬいぐるみを模したのだろう。

 

 

「こっちこっち~ですよ~」

 

 

大きな声で、セルリアンたちの攻撃目標を攪乱させてくれる。木の上にいるフレンズを狙って群がっているのだから、1体1体確実に背中から不意打ちしていけばいい。彼女を追いかけてきた10体ほどのセルリアンをパッカーンした。

 

 

「た、たすかったですよ~」

 

「こっちこそ。俺だけじゃヤバかった。」

 

「そ、そうだ。ハブちゃんたちがまだホテルに~!」

 

「急ごう。」

 

 

セルリアンの発生源があるかもしれないので気を引き締める。屋内に入ると、灯りがついていた。長い廊下は古ぼけた布が敷かれていて、いくつもの個室が存在している。かつて多くの人間がここに泊まっていたことを考えると、ジャパリパークは観光地だった可能性が高い。

 

つまり、『輝き』で溢れている。

 

恐らくホールに、カラカルたちの姿だけが見えた。

どうやら、黒セルリアンはいないらしい。

 

「無事、か……」

 

「ぁん…やめなさいよぉ……」

 

平原地方で会ったフレンズとは、別の蛇のフレンズだ。カラカルのふさふさな桃色の尻尾を、迷彩柄のパーカーのフレンズがハムハムしている。痛がる様子はなく、歯を突き立てていないのだろう。

 

「なに、やってるんだ……?」

 

「イッキ、無事だったのね。ぅみゃぁ…」

 

「ハブちゃん、もう勘弁してあげるのね。」

 

解放されたカラカルが倒せそうになるのを俺は支える。彼女の頬は紅く染まっていて、呼吸が早まっている。そして、さっきまでハムハムされた尻尾は時折りぴょこぴょこと動いている。

 

「なにはともあれ、助かったのね。ありがとうなのね。」

 

器用によじ登られて、大きな耳のハムハムをされながらそう告げる。

 

「どういたしまして……」

 

 

周囲を見渡して、目に入ったのはお土産屋だ。

デフォルメされたフレンズたちの人形がある。

 

……かつて、人間とフレンズは交流していたのだろう。だがしかし、人間のことを知るフレンズはそう多くはない。イエイヌはヒトを求めていたが、人間と会った頃の記憶はほとんど摩耗しているらしいし。

 

フレンズは生まれ変わっている、のだろうか。

何度か脳裏に浮かぶ光景、それは俺も例に漏れない理由のかもしれない。

 

 

「アカミミガメちゃん、もう大丈夫だよ~」

 

「は、はいぃ~」

 

立派な甲冑を着ているが、あまり戦うことが好きではなさそうなフレンズだ。

 

「紹介するのね。ハブさん、ヤンバルクイナさん、アカミミガメさんなのね。」

 

「はじみてぃや~さい」

 

「なんていうか、おもしろいメンバーだな。」

 

「ここが気に入って、この子たちも住み着いているのね。」

 

「私はお湯が気に入ったんですよ~」

 

「お外は苦手ですし……お、屋上の日向ぼっこが私は好きなので。」

 

「俺は、ここに来るいろんなフレンズをハムハムするためだ。」

 

「あ、あんたね~」

 

「ははっ、ごめんって。」

 

「……それで、今日は泊まらせてもらうか?」

 

「そうね。外も暗いし、あたしも疲れたわ。」

 

 

かばんさんの話を聞き、セルリアン騒ぎについて知らされ、そして慣れないバイクでの長距離移動に、黒セルリアンとの戦闘だ、カラカルもかなり体力を削られたのだろう。ホテルの入り口にあるシャッターを閉めておけば、黒セルリアンはわざわざ入ってこないだろう。

 

 

「助けてくれたお礼に、一番いい部屋を案内するのね。」

 

「あ、疲れたならお湯に浸かるといいですよ~?」

 

「ふ、不思議と、元気になれるんですよ!」

 

「へぇ~、よさそうね。行きましょう。」

 

案内された先には、『男』と『女』の文字が書かれたありふれた暖簾だ。女湯の方がずいぶん大きく作られているようで、『フレンズはこちら』・『男子禁制』という文字が書かれているのだが、ほとんどのフレンズは字を読めないだろう。

 

「そうそう。ふくを脱ぐといいぜ。」

 

「ギンキツネたちが言っていた、すごい発見なのね!」

 

「ふくって?」

 

「これなのね。」

 

首を傾げたカラカルの服を軽くつまんで指し示す。

 

「えっ、これって取れるの!?」

 

「取ると、つるつるして気持ちいいのね。」

 

「ずいぶんと身体が軽くなりますよー」

 

亀のフレンズが、甲羅を模した甲冑を脱いでいいのか。

俺はそれぞれの暖簾を指差して、指示を出す。

 

「じゃあ、俺はこっち、みんなはそっちな。」

 

「広い方がいいのに、どういうことです~?」

 

「イッキだけって、さびしいじゃない?」

 

たまぁーにフレンズをそういう目で見る時はあるが、一線を越えるつもりはない。ていうか、彼女たちに恥じらいというものが存在しない。

 

「……こっちはヒトのフレンズ、専用なんだ。」

 

「それは知らなかったのね。」

 

「なんだか煮えきらないんだけど。まあ、また後でね。」

 

なんとか、なったか。

 

 

 

 

****

 

たぶん久しぶりの、温泉を満喫した。

 

「あー……」

 

部屋のベッドへ、ドサッと寝転ぶ。

ジャパリパークで目が覚めてからずっとドタバタとした毎日で、こうして静かな場所で1人きりになるのは珍しい。少しずつ空は明るくなってきていて、そろそろ日の出が始まる時間だろう。

 

青い海の向こうには別の島が見えた。

もしかしたらそこに人間がいるのでは、と。

 

航海している船の姿はないし、一度も飛行機雲を見たことはない。

もしかしたらもう他の人間はいないのでは、と。

 

「なんだかなぁ」

 

俺の答えは、まだ見つからない。

過去を振り返ることも、前に進むこともしないまま。

 

 

「まーた、考え事?」

 

「……なんで同じ部屋…同じ場所なんだ。」

 

「なんでって、今まで近くで眠ってたじゃない?」

 

「それはまあ。野宿とは違って、仮のおうちみたいなもので……まあいいや。」

 

いつも、こっちが動揺させられてばかりなのだ。

 

部屋にあったタオルで、ベッドに腰掛けたカラカルの濡れた髪を拭き始める。全く手入れされていないのに、綺麗な髪をしているのはフレンズだからなのだろう。水浴びする度に自然乾燥させるのだから、いつも気になっていた。

 

「くすぐったいわね。」

 

「気持ちいいだろう。」

 

「それはまあ、そうだけども……ふみゃあ~」

 

手櫛だけで形の整う、さらりとした髪だ。

 

 

「……ね、ねぇ。最近、身体の調子が変なの。」

 

「それは、どういう風に?」

 

俯いて、

申し訳なさそうに告げるのだから、自然と真剣になる。

 

「お腹じゃなくて、胸がね。いっぱい動いた後ってドクドクってするじゃない。それ、今もそうなの。」

 

「お、おう……?」

 

 

「一応サーバルに聞いたんだけど。あたしが、ちゃんと食べてないから、しっかり寝てないから、かしら。お湯に浸かったからかしら。………こんなこと聞いちゃってごめんなさい。イッキもいろいろ悩んでいるじゃない?」

 

 

その答えを、伝えていいのだろうか。

かばんさんと違って、俺は覚悟できていない。

 

 

「それは、」

『パークの非常事態につき、お客様はお外に出ないでください。』

 

警報と館内放送、そして窓を塞ぐシャッターが次々と降りていく。

 

「な、なんなの!?」

 

『館内は安全です。繰り返します、館内は安全です。』

 

どうやら、寝かせてくれないそうだ。

 



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第12話 だいじょうぶ

島の中心の山の向こうから、朝陽が輝く。

対して海は荒れていて、不穏な空気を醸し出している。

 

 

かつて西棟があった場所には巨大な黒セルリアンに押しつぶされた形跡がある。つまりこのホテルの中にいれば安全というわけにもいかないだろうが、意図的には襲ってこないだろう。

 

 

ザバーン!

大きな音とともに、海中から巨大な物が姿を見せた。

 

 

「ちょっと、大きすぎじゃない!?」

 

船、それも客船だ。

すでにコピーを行って黒色から、水色へと変化している。

 

一つ目どころではなく、確認できただけで4つ目。

複数体が合体しているということだろう。

 

「イッキさん!カラカルさん!」

 

ナルカ、そしてマルカやドルカが海から顔を覗かせた。

 

「あんたたち、無事でよかったわ!」

 

「うん。ぼくたちはだいじょーぶだよ!」

 

「イッカクちゃんたちががんばってるし!お母さんもいるからね!」

 

「ですが、あのセルリアンだけは……」

 

彼女たちは索敵として、船のセルリアンを追いかけてきたのだろう。砂浜に上がってきたと同時に、4本の足を生やしてどこかへ歩いていく。

 

「こっちは、俺たちがなんとかする。海のことは、頼んだ……」

 

「わかりました。お気をつけて……」

 

マルカやドルカは元気よく返事してくれたが、ナルカは浮かない顔のままだった。そもそも海底火山による、セルリアンの発生なんてどうやって止めればいいかわからない。治まるまで待つしかなくて、自然災害に俺たちは抗うことはできないのだ。

 

 

だから、今は船セルリアンをどうにかしないと。

朝陽の方向であって、島の中心に向かっているだろう。

 

 

「ねぇ、あっちって。さばんなちほー、よね……」

 

「そうだな。だが俺たちだけじゃ……」

 

懸念するべきだった。

 

「っ! 先走るな!」

 

カラカルにとっては生まれ育った故郷で、友達もたくさんいるはずなのだ。カラカルのことをよく知っている気になっていたけれど、彼女の好きなことを聞いたことはない。俺はフレンズたちのことを深く知ろうとはしなかった。

 

今まで見てきた中で、一番速く走っていく。

バイクでなければ、追いつけないだろう。

 

「ど、どうしたのね?」

 

「セルリアンを倒しに行く。」

 

「な、なにかできること、ないでしょうか。」

 

彼女たちは何が得意か知らない。

飛べるとか、遠くの音が聞こえるとか、硬さとか。

 

戦えるかどうかで言えば、得意ではない…と思う。

 

「……避難してくれ。」

 

それだけ告げて、バイクを発進させた。

森の中へ入り、かつて道だったと思う場所を通っていく。

 

 

見覚えがあるって、カラカルと出会った場所。

はじまりであって、無力感を味わった場所。

 

 

「カラカル!」

 

ロバと、たぶんシマウマだ。

彼女たちを庇うように船セルリアンと対峙している。

 

「だいじょうぶ」

だから『逃げて』

 

 

そんな目で、そう告げたのか。

かつての俺は。

 

 

「やああー!」

 

勢いよく跳んで、彼女の自慢の爪を突き立てて。

 

「そんな……」

 

包みこまれるように、―――

 

 

 

****

 

 

 

 

 

動物に戻ったり、記憶を失ったりすると聞いた。

そして最悪の場合、消滅。

 

 

バールを引き抜いて、走り出した。

間に合え、それだけが頭の中を埋め尽くす。

 

 

「あなた、ヒトのフレンズね?」

 

ライダース―ツを着た女性が、立ち塞がる。

 

「……あんたは?」

 

「質問を質問で返さないでほしいわね。私はカバよ。」

 

「そこをどけ。」

 

「あなただけで、勝てるならね。」

 

確かに、このまま戦っても無駄だろう。

『武器』がこの手になければ、俺は無力なのだ。

 

「もっと、周りを見なさい。あなたは独り?」

 

ロバとシマウマ、そしてカバ。

周りには頼れるフレンズがちゃんといる。

 

「なんでも自分だけでやろうとしないで。本当に辛い時は、誰かを頼ったっていいのよ?」

 

その言葉にハッとする。

たぶん、ずっと自立することばかり考えてきたんだろうな。

 

かばんさんには、まだまだ勝てそうにない。

 

「よしっ」

 

知ること、それが俺の好きなことだ。

ここジャパリパークで生まれて、彼らは教えてくれた。

 

腕捲りをして、古ぼけた帽子を被り直す。

 

「協力してほしい。」

 

「ええ。手伝ってさしあげますわよ。パークの危機、いえ、あなたの大切なフレンズのために。」

 

「サンキュ。」

 

「わ、私たちにもできることがあれば!」

 

「ああ。何が得意だ?」

 

ロバとシマウマのことについて詳しく知らないのなら、本人から聞けばいい。

 

 

「はい! 私は体力が自慢です!」

 

「隠れることと、走ることですよ。あと、ロバちゃんや私って目や耳がいいんです。」

 

「私は、セルリアンに負けないほどのパワーを持っていますのよ。」

 

「ありがとう。」

 

進行方向より、戦闘場所はサバンナになる。

低木がまばらで、草原が広がっている。

 

セルリアンの弱点であるへしは見当たらないし、巨大な敵への攻撃手段も限られてくる。

 

「あれだ。あの人工物にぶつけさせて、身動きを止める。」

 

俺が目覚めた場所。

思い浮かべるのは、ジャパリホテルで固まった黒セルリアン。

 

「岩に、埋もれさせるということですわね。」

 

「カバと俺で、あのセルリアンを誘導。そして、身動きの止まったやつに、一斉攻撃を加える。」

 

「ですが、私たちだけでは」

 

「ああ、だから。シマウマ、ロバ。誰かを呼んできてほしい。」

 

「わかりました!」

「ハンターの方が、近くにいるといいんですけどね。」

 

彼女たちは別々の方向へ、勢いよく走っていった。

彼女たちなら、サバンナ地方を駆けまわることができる。

 

「よろしく。」

 

どれだけ多くのフレンズを集められるかにかかっている。

 

 

 

カバは俺の後ろに乗り込んだので、バイクを発進させる。

 

 

 

 

****

 

黒セルリアンはいまだに山の向こうの、朝陽を目指している。

 

「野生解放」

 

身体が熱くなり、頭が一気に冴えてくる。

『道具』を使う、それが人のフレンズである俺のスキルだ。

 

 

ハンドルを握る力が強まり、スピードアップ。

セルリアンより、前に躍り出た。

 

 

「ずいぶんと無茶をしますわね。」

 

そうカバが告げるように、空腹感と疲労感が俺を襲う。

 

「あと少し」

 

しかし追いかけてくるセルリアンを誘導するには、持続させるしかない。

 

わざと、スピードを落とした。

影が俺たちを包み込んだ、そのタイミング。

 

「今よ!」

 

見覚えのある建物の前で、急に方向転換。

飛びこんできた巨体は、壁を破壊して崩れた瓦礫に埋もれた。

 

 

「これで……」

 

「あなたの想い、伝わったようですわね。」

 

 

プロングホーンは突き上げるように、彼女に似たフレンズがジャンプして振り下ろすように、槍を振るう。

 

「私たちが一番乗りみたいだな。」

「そうみたいね。」

 

「さすがです! プロングホーン様!スプリングボック様!」

 

爪による一閃。

しかし、チーターと、彼女に似たフレンズが汗水を垂らしている。

 

「体力で負けたことはもう言い訳にしない。もっと速くなって勝てばいいのよ!」

「ええ。もっと速くなりましょう。」

 

 

彼女たちの攻撃でもセルリアンを倒すことには至っていない。

しかしロバやシマウマは、『大丈夫です』と告げた。

 

 

「朝だから眠いだの、おなかすいただの、と。」

「後で、かばんとイッキのりょうりを食べれるのですよ。」

「美味しいりょうりのために、我々も力を貸してあげますよ。」

 

 

『トモダチを助けに来たよ』、そう聞こえた。

 

「サーバル! みんな!」

 

「親友を助けにきたよ!」

 

山に向かっていたはずのかばんさんたちに加えて、パンダたち、ゴリラたち、PPP、それにオオミミギツネたちも来てくれた。そして青セルリアンたちまでもが協力してくれるようだ。

 

「困難は群れで分け合え、ですわよ。」

 

みんなが得意なことを合わせて、カラカルのために。

 

 

「イッキ。君の想いはきっと届くよ。」

『がんばってね』

 

かばんさんとラッキーさんが応援してくれる。

 

 

勇気が溢れてくる。

俺は、また踏み出すことができた。

 

彼ら彼女らの、そして彼女の手を借りることはない。

 

「俺はもう、大丈夫。」

 

いつも手を引いてくれた彼女とは、まだまだ一緒にいたいから。

 

 

虹に、手を伸ばした。

 

 

 



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