艦これ〜少年の物語〜(仮題) (レベル)
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第1話 秋里 零
朝日が照らす道を歩く一人の少年。少年の年齢は15歳くらい。金色と赤のオッドアイに薄い青色の髪をしている。少年はある建物の前まで来ると立ち止まる。
少年が立ち止まった建物の入り口には『筆記試験会場』と書かれた看板が立て掛けられている。
「おう、零」
立ち止まっている少年は背後から声を掛けられる。声を掛けたのは黒色の短髪に茶色い瞳の少年。声を掛けられた少年――零は心の中で溜め息を吐き、黒髪の少年の方を向く。
零「君も受けるんだ、直之」
少し怠そうに零は言う。黒髪の少年の名は芦山直之。零と同じ中学校に通っており、零に良く話し掛けてくる人物である。
直之「おう!其れを聞くって事は零もか! お互い頑張ろうぜ!」
満面の笑みで肩を叩く直之。零は心の中で溜め息を吐きながら2ヶ月と1週間前の事を思い出していた。
□■□■□■
――2ヶ月と1週間前。休日だった零は下宿していたアパートでスマホを側に置き、ベッドの上で横になっていた。
零(どうしようかな…)
深く溜め息を吐きながら寝返りをうつ。此の時零は教師や学校側から進路について色々言われていた。
教師や学校側から零に進路について聞くのは未だに零が受験先などについて言ってないためである。零の学力は上の方であり、運動神経もかなり高い。其のため其れなりに良い高校に行ける程である(ようするに教師が評価を高めたいためである)。
何処を受けようか悩む零のスマホに電話が掛かる。零は相手を確認し、スマホに出た。
零「何の用、父さん?」
眠そうに用件を訊ねる。電話の相手は秋里 剛毅。零の父親である。
剛毅『急に連絡して済まんな。実はお前の進路について話があってだな』
零「進路?」
剛毅『そうだ。何処を受験する予定だ?』
零「いや、未だ何処を受けようか悩んでいる段階だけど…」
剛毅『そうか』
零が未だ何処にも願書を出していない事を告げると剛毅は少し嬉しそうに呟いた。
零「父さん?」
剛毅『ああ、済まんな。で、零よ。唐突だが『深海棲艦』と『艦娘』に関しては知っているな』
剛毅に問われ、零は何を今更聞くんだろうと小首を傾げる。
□■□■□■
――今から数十年以上も昔に突如として謎の生命体が全世界の海に現れて人類から制海権を奪った。謎の生命体達は船舶を攻撃して人を襲って殺害し、陸上攻勢によって沿岸部の都市にも被害を出した。
各国は謎の生命体達を【深海棲艦】と呼称。世界中の国々による大規模な反攻作戦に打って出た。
しかし、結果は惨敗。此の作戦には日本も数万人規模が作戦に参加した(後方支援として)。だが、帰ってきたのは数百人程度だったと言われている。
各国が絶望に陥る中、深海棲艦の一団が突如現れた少女達によって撃破された。
彼女達は大戦時に活躍した艦艇の魂が受肉、具現化した存在だと話したと言われている。各国は彼女達を『艦娘』呼称した。
各国は、彼女達と共に反攻作戦を行う事を決定。日本でも法や軍を整備した(自衛隊を海上自衛隊を母体とした【海軍】と陸上自衛隊を母体とした【陸軍】に分けた。なお、航空自衛隊は陸軍と海軍に分かれて消滅した)。
そして、海軍は『鎮守府』を建て、内部や一般人等から艦娘を指揮する者――『提督』を任命し、着任させている。
□■□■□■
零「――って話でしょ?」
剛毅『そうだ』
零の返答に満足げに頷く剛毅。其れから剛毅は何度か深呼吸を繰り返すと話を続けた。
剛毅『では海軍高校についても知ってるな』
其の問いで零は剛毅が何故こんな質問をしているのかを察して内心で溜め息を吐く。
海軍高校とは軍の中でも海軍に進む者を育成している高校。卒業者の中には『提督』に成った者も多いという(大学もあり、高校時の試験及び成績がトップ10以内で大学へ進学する場合は入学試験が免除される)。
其の高校の入試は今から2ヶ月と1週間後。つまり剛毅の用件は――
零「…受けてみないか、って聞きたいの?」
剛毅『……そうだ。実は俺の親友が海軍の者でな。大将と中将に昇進したらしい。其れで祝おうと先日会ったんだが其の時に人手不足と嘆いていてな。其処でお前の話をしたんだが受けさせてはみないかと言われてな』
零はやれやれ、と頭を左右に振りながら考える。高校の試験は筆記、適性検査の2つで髪型、服装等は自由(此れは在日の人達を考慮したりしているためである)。
適性検査に関しては内容が秘匿されているので知りようがないが、筆記試験の内容は零にとって其処まで難しいものではないので自分は別に受けてみても良いとは思っている。
零「…母さんは知っているの?」
剛毅『知っている。母さんはお前の意思を尊重するそうだ』
零「そう。……受けてみても良いよ」
剛毅『良いのか?』
零「別に受けてみても良いよ。進路について悩んでたとこだし。ただ受験料とかに関しては任せても良いかな?」
剛毅『分かった。受験料は此方で何とかする。・・・またな』
零「ん。バイバイ」
そう言って零は通話を切る。零はスマホを置き、寝返りをうって天井を見る。
零「…さて、どうなるかな?」
そうポツリと呟き、零は目を閉じた。
□■□■□■
零「…はぁ」
直之「ん、どうした零?」
零「…何でもないよ」
零が頭を左右に振りながらそう呟き、スマホを見る。時間は8時00分。試験開始まであと1時間である。
直之「っと、もうそんな時間か。行こうぜ、零」
零「…分かってるよ」
再度満面の笑みを浮かべて先に行く直之。零はスマホを鞄に仕舞い、其の後を追うのだった。
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第2話 試験①
直之「お〜、結構多いな」
建物の中に入り、受付を終えた零と直之は男性に試験会場となる部屋に来ていた。室内には既に4、50人くらいの人が席に座って勉強したり、話し合ったりしている。因みに試験会場になる部屋は零達が居る場所の他に2つある。
零「・・・そうだね」
零は相槌を打ちながら受験票を見て自分の席を探す。そして窓際の席に自分の受験番号が書かれている席を見つけて座る。
直之「え〜と、俺は此所か」
直之も自分の受験票を見て、自分の番号の書かれている席に座る。直之の座った場所は零の1つ前の席である。
直之「確か筆記は国、数、英、理、社の5教科だったけ?」
零「そうだよ」
直之の言う通り筆記試験は古文+現代文+漢文の国語に英語、地歴公民の社会に加え、数学、物理+化学+生物+地学の理科の全部で5教科である。
直之の質問に答えて、零は鞄から参考書を取り出して開く。零の其の行動に直之は少し驚いていた。
零「・・・なに?」
直之「いや〜、零も参考書とか買って勉強するんだな、って思ってさ」
零「勉強くらいするでしょ」
直之「いや、俺の中だと零は勉強とか一切せずに受験するってイメージでさ」
直之の零に対するイメージに零は苦笑する。流石に勉強せずに受かるとは零自身も思ってはいないのである。
零「・・・直之は勉強しないの?」
直之「ん? ああ、俺は2日前からたっぷりやったから大丈夫だ!!」
零「・・・2日より前は?」
直之「してないぜ!!」
直之の自信満々な返答に零は溜め息を吐く。実際、直之も頭は良い方ではある。
しかし、一応は難関と呼ばれている高校への入試に2日間しか勉強せずに挑むのはどうなのかと言いたい気分である。
直之「其れに今からしてもあんまり結果は変わらんさ!!」
零「いや、でも少しは勉強を「はい、試験を始めますので全員、自分の受験番号が書かれている席に座って下さい。参考書も仕舞ってください」・・・」
零が忠告しようとしたのと同時に試験官が入ってきて着席を促す。零は再度溜め息を吐いて、参考書を仕舞う。
□■□■□■
試験官「え〜、では此れより筆記試験を始めますが、先ず最初に試験を始める前に試験の流れを説明させて頂きます。
試験は今日を含めて3日で終わります。筆記試験を1日目に行い、2日目に筆記試験合格者が分かります。合格者には適性検査の試験開始時間が書かれたメールが届きます。そして3日目に適性検査を受けてもらう流れと成ります」
試験官の説明を聞き、零は筆記試験と適性検査の合否が別れているんだな、と思う。
試験官「各試験科目は100点満点。合計点で500点満点に成ります。制限時間は各試験科目1時間。休憩は10分間。休憩後に次の科目の試験と成ります。昼休憩だけは13:00迄と成ります。ですので、午前中に国語、数学、英語の試験を行い、午後の13:00から理科、最後に社会の試験を行います。
先に言ってしまいますが筆記試験の合格点は500点満点中380点以上に成ります。また、1科目でも0点があれば不合格と成ります。
当たり前ですがカンニング行為等は0点と成り、途中退席の場合は其の時点で其の科目の試験は終了と成り、入室は休憩迄出来ませんので注意して下さい。説明は以上と成ります」
試験官は説明を終えると各受験者に問題用紙と解答用紙を配る。配り終えた試験官は再度前に戻り、右手を頭上にあげる。
試験官「では国語の試験――開始!!」
試験官の開始の合図で零は名前を書き、問題を解き始めた。
次回:『試験②』
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第3話 試験②
試験官「――其処まで。筆記用具を置いて解答用紙を裏返しにして下さい」
試験官の終了の合図で零は解答用紙を裏返しにして置く。全員が筆記用具を置き、解答用紙を裏返しにした事を確認し、試験官は問題用紙と解答用紙を集めていく。
試験官「其れでは此れで英語の試験を終わります。次は13:00より理科の試験と成りますので其れまでに必ず席についておいて下さい」
試験官はそう告げて部屋から出ていく。試験官が出て行ったあと受験生達は昼食の為に同じ学校の友達と出て行く。
直之「終わったな、零。昼食いに行こうぜ!!」
満面の笑みを浮かべて昼食を誘う直之に零は「ハイハイ」と返しつつ席から立ち上がった。
□■□■□■
直之「いや〜、其れにしても今回の筆記試験・・・0点採る奴は居ないんじゃね?」
零「確かにね」
試験会場と成っていた部屋とは別の部屋で零達は昼食を取りながら互いに試験の感想を話し合っており、直之の述べた感想に零も同意していた。実際、零自身解いてみて思った事は0点を採る奴は居ないだろうという事である。
国語の試験は古文と現代文、漢文に中学までで習う漢字全てである。漢字や文章の並べ替え、敬語関連、現代仮名遣いに直す、長文読解問題等が出されているが内容としては其処まで難しくはない。零から言わせてみれば漢字の問題はほぼサービス問題である。
次に受けた数学の筆記試験。此方も最初がサービス問題の様なもので、0点を採る受験生は居ないと言えるレベルである。最後の英語の試験の方も単語、長文読解、リスニング等の問題が出ているが苦手な人が居ても0点を採るレベルでは無いと言えた。
直之「なぁ、此の筆記試験は本当に人を落とす気有るのか?」
直之の質問に零は「一応合格点は高い方でしょ」と答える。確かに0点を採る人は居ないと言えるレベルだが500点満点中380点を採るというのはかなり難しい方である。
苦手な科目があった場合他の科目で挽回すれば良いのだが苦手な科目が2,3科目あった場合、合格はかなり難しく成ると言えた。
零(まぁ、でも父さんが友達から聞いた話で毎年適性検査で落ちる人が多いらしいけどね・・・。今年は適性検査を多くの受験生に受けてもらうために筆記試験はあまり難しくしてないらしいし・・・)
直之に答えながら心の中で父親が言っていた零は事を思い出す。今年の筆記試験はあまり人を落とさない様に作られている事、そして適性検査が多くの受験生を落としている事を。
直之「まぁ、そりゃそうか。取り敢えず午後の試験も頑張るか!!」
零「・・・そうだね。そろそろ時間だし戻ろうか」
席から立ち上がり零達は試験会場の部屋へと歩き出した。
――其の後、零達は筆記試験を終えた。そして筆記試験の翌日。零の元に筆記試験の合格通知と適性検査の試験会場の通知が送られてきたのだった(因みに直之にも送られてきた)。
□■□■□■
零達が昼食を取っているのと同時刻。試験会場の建物の会議室と書かれた部屋。薄暗い室内には2人の人物が机を挟んで対面に座っていた。1人は初老の男性、もう1人は30代くらいの女性である。
「・・・今回は筆記試験を簡単にしてみたがやはり前年の様に難しい方が良かったのではないか?」
ポツリと男性が呟く。
「けどねぇ。私達は人手不足だし何より提督としての適性を持つ人物は少ないからねぇ。少しでも提督としての適性を持つ人物を見付け出す為には仕方無いんじゃないかい? 最近は更にねぇ・・・」
男性の呟きに女性が溜め息混じりに返し、机に3枚の新聞を広げる。男性が新聞に目を通し溜め息を吐く。
新聞の写真には瓦礫の山と成った建物だったと思われる物が映っていた。
男性「第8基地、第11基地に第42基地が壊滅し基地に居た提督2人が死亡、1人行方不明、基地に居た艦娘の大半も轟沈とはな・・・」
女性「不祥事で逮捕される奴も居るのに最近深海悽艦の動きも活発に成ってる。今の提督の数は少ない。此処は筆記試験を簡単にしてでも直ぐにでも提督としての適性を持つ人物を探すべきよ」
女性の言葉に男性は溜め息を吐く。殉職者や不祥事で提督の数は少なくなる。ならば提督に任命すれば良いのだが残念ながら提督に成るには適性検査を受けて合格しなければならない。そして適性持ちの人物は中々見つからないのだ。
今回筆記試験の難易度を下げたのは適性を持つ人物を他人1人でも多く探すためである。
女性「其れに前は合格点を400点以上、内容も難しくし過ぎたせいで筆記試験合格者は212人中15人しか居なかったじゃない。
しかも適性検査であの子達が見えた人は6人も居たけど言葉が分かるのは2人で分からないのが4人。他の人は見えない、聞こえないで結局5回試験をやって最終的な合格者は12人だったし」
女性が頭を左右に振りながら溜め息混じりに答える。男性も同じ様に溜め息を吐きながら「それもそうじゃの」と答える。
男性「・・・今年は何人適性持ちが居るじゃろうな」
女性「出来れば最初から2桁くらい居て欲しいわねぇ」
まぁ、期待しましょうと女性は付け加えて椅子に深く座り直す。男性は頭を左右に振りながら受験生の履歴書を確認するのだった。
次回は適性検査です
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第4話 適性検査
――筆記試験から2日後。
零は適性検査会場と書かれた建物で零は入口で身分証明書と筆記試験の合格通知を見せて受付を終わらせたあとスーツを着た男性に待機室と書かれた部屋に案内され、自分の受験番号の書かれた椅子に座った。零が部屋を見渡すと部屋には既に100人以上の受験生が集まっていた。
直之「なぁなぁ零は何点だったんだ?」
零が部屋を見渡した直後、直之が筆記試験の点数を訊ねてくる。零は予想通りかと内心で呟き、溜め息を吐くと筆記試験の合格通知を直之に見せる。
直之「えーと、国語92点、数学90点、英語79点、理科88点、社会96点って事は500点満点中445点か~。凄いな零!!」
心の底から感心した様に直之は笑う。直之は零に通知を返すと自分の通知を零に見せる。零は見なくても別に良いと答えたが直之は俺だけ見せないのは不公平だからと言って零に渡す。渡された零はやれやれと首を軽く左右に振って直之の通知を見る。
零(国語72点、数学78点、英語68点、理科85点、社会79点の500点満点中382点。・・・2日間しか勉強してないのに合格出来る直之の方が本当は凄いんだけどなぁ)
もっと勉強していれば更に点数を採れたのに勿体無いと思いながら通知を直之に返す。暫く2人で話をしていると零を案内したスーツを着た男性が入ってきた。
男性「此れより適性検査の説明させて頂きます。内容は名前を呼ばれた受験生は荷物等を椅子の上に置いて部屋から出て右隣の部屋に行ってもらいます。
行ったあと扉をノックし、自分の名前を言います。すると中に入る様に指示が出されるので中に入って下さい。あとは中に居る試験官の質問に答えて下さい。適性検査の説明は以上です」
受験生達の前に立って開口一番に説明を始める男性。スーツを着た男性は説明を終えたあと直ぐに部屋から出て行き、代わりにスーツを着た女性が受験生を呼びに来た。
零の前に3人の受験生が名を呼ばれ部屋を出て行き、其の内2人が帰って来た。最後に呼ばれた受験生は未だ帰って来ていない。
暫くするとスーツを着てサングラスを掛けた男性が待機室に入ってきて帰って来ていない受験生の荷物を持って室内から出て行った。
直之(どうしたんだろうな?)
零(さぁ?)
直之(おいおい冷たいなぁ)
零(冷たいって言われても名前も知らない人だし)
直之(まぁ、それもそうか)
小声で話し合う2人。其の後、零の名前が呼ばれる。名前を呼ばれた零は指示された通りに待機室から出て右隣の部屋に向かう。
□■□■□■
零(此所か・・・)
検査室と書かれた部屋の扉の前で立ち止まり2、3回深呼吸を繰り返す。そして扉をノックし、自分の名前を告げる。
「どうぞ」
中から男性の声が返ってくる。零は失礼しますと告げて中に入る。部屋の中に入ると零は扉の方を向いて静かに閉めた。
部屋の中は長机が二個並べられ、そこにはスーツを着た20代の男性が座っていた。
零は面接のマナー通りに1礼し、置かれている椅子に向かう。椅子の左側に立ち中学名、氏名を伝えて一礼する。
男性に「どうぞ」と座るように促され、零は「失礼します」と言って席につく。
男性「では検査を始めますが其の前に再三の確認で悪いんですが君のお名前は? あぁ。名前だけで結構です」
零「秋里 零です」
男性「秋里 零君、と。じゃあ検査を始めるけど此の子が見えるかい? もし見えたら返事をしてあげてくれ」
そう告げて男性が机の下から何かを取り出した。
「コンニチハー」
男性が取り出したのは小さい人の形をした不思議な生物。女学生の様な服を着た女性の様な生物だった。
零「えっと・・・今日は?」
「ミエル? ミエテル?」
零「見えてるよ?」
不思議な生物の質問に答える零。すると不思議な生物は「ヤッター」と喜び、机の上でジャンプする。そして零の方に向いて笑顔で手を振る。零も同じ様に手を振った。
此の不思議な生物について聞こうと男性の方を見ると男性は愕然としていた。
男性「此れは驚いた。まさかこんなに直ぐに見えて話せる人が見付かるとは・・・」
そう呟き、男性は懐から携帯電話を取り出し、誰かと話をし始める。男性は何かを伝え終えると電話をきり、懐に仕舞った。
零「あ、あの?」
男性「ん? あ、あぁ。済まないな秋里 零君。検査は終わりだ。君は此の部屋から出て外に呼んである案内人に従って3階のA級合格者待機室に向かってくれ。荷物は後で待機室に届けるから」
零「は、はい」
零は返事をして一礼し、起立して椅子の横で再度一礼をする。そして扉まで向い、男性の方に向き直り、最後に「失礼します」と告げて一礼して部屋を後にした。
□■□■□■
A級合格者待機室と書かれた部屋で待つ事数分後。サングラスを掛けた男性から荷物を受け取り、更に其の数分後に直之が入ってきた。
そして直之と共に待つ事数時間後、部屋には零、直之を含めて10人の受験生が集まって自由に座っており、零達の前には先程適性検査で質問をしてきた男性が立っていた。
男性「えー。先ずは皆様試験お疲れ様でした。此所に居るA級合格者の皆様と此の部屋の直ぐ隣にあるB級合格者待機室に居るB級合格者の皆様は入学試験は合格と成ります」
受験生男子「す、済みません」
男性が合格を祝う中、受験生の1人が手を上げる。
男性「何でしょうか?」
受験生男子「あ、あのA級合格者とかB級合格者って何ですか?」
受験生の質問に男性が「済みません。説明を忘れていました」と謝る。
男性「いえ、本当に済みません。まさか1回目の試験からこんなに合格者が見付かるとは思ってなかったもので」
そう謝りながら説明を忘れていた理由を告げて男性は説明を始める。
男性「先ず、適性検査は艦娘を指揮する提督に成る資格を持つ人物を探す為のものです。
先程皆様が見た子は妖精と言います。提督と成るには先程見せた子が見えなければ成りません。
しかし見える人はとても少なく、会話ができる人は特に希少なんです。其処で見えて会話が出来る人をA級合格者、見える事が出来る人をB級合格者と分けているんです」
受験生女子「分けているって事はA級B級で何か違うんでしょうか?」
男性「A級合格者は提督としての適性が最も高く、特に期待されています。
違いとしては授業内容やA級合格者用の寮に入って貰う事、そしてB級合格者の方は2年時に駆逐艦の艦娘が配属されますが皆様は入寮日に駆逐艦の艦娘が配属されるという違いが有ります。
配属数は此所に居る皆様は入寮日に3人配属されます。また2年時に1人配属させ、3年時には駆逐艦の艦娘が計6人になるように配属されます。一方B級合格者は2年時に初めて艦娘が配属され、3年時には計4人になるように配属されるという違いが有りますね」
男性の台詞に受験生がざわつき始める。
男性「皆様お静かに!! 説明は未だ終わってません!!」
男性が柏手をうち、全員に静かにする様に指示を出す。騒いでいた受験生達は指示に従い全員黙り始める。
男性「――では説明を続けます」
そうして男性は入寮日の日時、A級合格者の受験生は入寮日に工廠と言う場所で駆逐艦の艦娘を3人建造すると説明した。
――其の後、説明が終わると男性は零達に待機する様に指示を出して部屋を出て行った。
待機する事2時間後、男性が戻ってきて零達に寮の地図と鍵、教科書代の用紙を渡された。其の後解散の指示が出され、零達は帰宅したのだった。
艦娘は多分次話に出る
(補足説明)
・筆記試験・・・学力面の調査。提示された点数を採れれば合格となる。合格点は年々下げている(零達の前は400点、その前は450点で合格。最初に行った筆記試験の合格点は490点)
・適性検査の合否判定及びA級B級判定・・・妖精が見えるか否か(見えれば合格)。また見えていた場合会話出来ればA級、出来なければB級
・A級B級の違い
(1)A級の方は提督としての適性が最も高く、戦力として特に期待されているためA級用の寮がある
(2)入寮日に艦娘が配属される。2年時には更に艦娘が配属され4人編成、3年時には6人編成となる(※)
(3)B級にも寮があり、艦娘は2年時に配属され、3年時に4人編成と成る
(4)寮は個室であり、A級の寮はB級の寮よりも広い。またB級よりも学費·寮費が少し安い。
・適性検査・・・提督と成れる人物を探す検査。零達には説明されていないが海軍本部(大本営)の研究者に成るためにも此の検査を受けなければ成らない(大本営の工廠や研究所にも妖精が居るため)
・妖精・・・だいたい一昔前の女学生や水兵の格好をした約二頭身ほどの少女。大きさは数cmから数十cmくらい
※作者は艦娘は人と数えていますので小説内では人でいきます。
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第5話 初艦娘
剛毅「・・・此れで全部か?」
零「うん。其れで全部」
剛毅の問に零は頷く。試験が終わったあと零は卒業式や入学の準備(入学手続きや入学料の納付、引っ越し準備等)をしていた。
そして4月4日の入寮日。零は剛毅の車に乗り、学校敷地内の駐車場に居た。
剛毅「・・・そうか。そう言えばお前は予定があると言っていたな。寮の事とかに関しては俺がやっておく。お前は予定通り工廠に行ってくると良い」
剛毅は「寮の鍵を受け取ってくる」と告げて車の鍵を閉めて学校の方に歩いていく。零は剛毅に後を頼んで地図を取り出し、工廠が有ると書かれた方向に歩き出した。
□■□■□■
零「済みません」
学校の地図を見ながら零は工廠と書かれた建物の中に入る。中には青色の作業服を着た妖精達が居り、零の方を向くと零の足元に集まり始める。
赤髪の妖精「ダレー?」
青髪の妖精「ケンガクシャ?」
金髪の妖精「シンニュウシャ?」
零「あ、いえ。今日入寮してきた秋里 零と言います」
金髪の妖精「アキサト レイ? ア,キタイノシンニュウセイノ1人デスネ!!」
緑髪の妖精「キタイノシンニュウセイダー」
妖精達がはしゃぎながら零の足元に集まり始める。零が責任者は誰かと訊ねようとすると奥から青色の作業服を着た男性が零の方に向かって歩いてきていた。見た目は50歳くらいで少し太っている。黒髪で眼鏡を掛けており、手にはハンマーを持っている。
「・・・お前が秋里 零か」
零「は、はい」
大地「・・・そうか。 ・・・・・・良く来たな!! 俺は此所の工廠の最高責任者で工廠長の萩原 大地だ!!妖精や生徒からは親分と呼ばれている!! 宜しくな秋里!!」
ガッハッハッと大笑いしながら零の背中を叩く大地。零が「い、痛い」と返すと大地は叩くのを止めて「スマンスマン」と謝る。
大地「A級合格者なんだろ? とっとと建造するとしよう!
おい!
青髪の妖精「シゴトデスカ! ガッテン オヤブン!」
赤髪の妖精「ヒサシブリノケンゾータイムノオジカンデス!!」
緑髪の妖精「ワレワレノギジュツノミセバデス!!」
金髪の妖精「イマコソワレワレノギジュツガミライヲキリヒラクトキ!!」
そう笑い合いながら妖精達と共に奥に向かって歩いていく。零は未だ痛む背中を擦りながら「苦手なタイプだ」と呟いて大地の後を追った。
□■□■□■
大地「じゃあ説明するぞ。建造は此の燃料、鋼材、弾薬、ボーキサイトを使う。此れ等資材をドックに入れて其所にあるボタンを押せば此の扉に赤い光の文字で建造中と時間が表示される。
此のドックは妖精特別製でな。駆逐艦の艦娘しか建造されない様になっとる」
歩く事数分後。零は建造ドックと書かれた場所の黒い扉の前で零は説明を聞いていた。零の前には建造に使う資材の名前が書かれたドラム缶が置かれている。
零「資材はどの位使えば良いんでしょうか」
大地「あ? あぁ、妖精に言や勝手に入れてくれるさ。まぁオール30って言ってみな」
大地の言われた通りに妖精にオール30と伝える。すると妖精達が集まり扉を開け、ドックと書かれた場所にドラム缶を数人で1つずつ持って運び込む。
そして数分後、運び終えたのか扉が閉まり、黄色の光で【建造可能】と表示される。
大地「では秋里。其処のボタンを押せ」
大地の指示に従いボタンを押す。するとドックと書かれた扉に赤い光に変わり、【建造中 第1ドック00:17:58 第2ドック00:17:59 第3ドック00:19:57】と表示された。
大地「此れで建造は終わりだ。お前の艦娘は約20分後に建造完了する。其れまで家族と話でもしてな」
大地の言葉に零は「分かりました」と告げて工廠を後にした。
□■□■□■
零「父さん」
剛毅「零か。終わったのか?」
零「あ、うん。終わったよ。また後で工廠に行くけど」
剛毅の問に答える。剛毅はそうか、と呟いた。
剛毅「荷物は全部出している。手続きも全て終わっている。教科書も部屋の本棚に並べておいた。・・・俺は明日は仕事があるので此れで帰る」
零「・・・分かった」
剛毅の言葉に零は頷く。
剛毅「・・・此所の学校はバイトは禁止だったな。故に毎月学費や寮費とは別に小遣いを銀行に入れておく。此れは今月分の小遣いだ」
そう言って零に十万円を渡す。零は御礼を告げて財布に仕舞った。
剛毅「困った事や嫌な事があったら言ってこい」
零「分かった」
剛毅「怪我や風邪、事故には気を付けろ」
零「うん」
剛毅「あと何時でも帰ってこい。連絡してくれていれば母さん――夕佳と共に御飯を作っておく」
零「夏休みとか長期休暇には帰るね」
剛毅「あと――」
零「大丈夫だよ父さん」
少し苦笑しながら零は剛毅を見る。零は剛毅の仕事を知らないがかなり多忙らしく自分の子供達と休日以外で関わる時間が少ない。其のためか剛毅は何処か心配性なのだ。
剛毅「そうか。・・・ではな。あと
そう言って停めていた車に乗り込みエンジンを掛け、剛毅は車を運転して帰っていった。零は父が最後に言った言葉が気になったがまぁ後で分かるかなと考え、工廠の方にまた歩き出した。
□■□■□■
零「済みません」
大地「うん?秋里か? 荷出しとかは終わったのか?」
零「あ、はい。父がやってくれたらしいので」
大地に告げると大地は「そうか」と頷いて扉を見る。扉の時間は【00:00:12】と成っていた。
大地「まぁ、そろそろ良い時間ではあったな。残り時間が0に成ったら中から艦娘が出てくるから挨拶でも考えときな」
そう言って零の左前に立つ。零は背を伸ばして終了を待つ。そして時間が【00:00:00】と成り、【建造中】の文字が【建造終了】へと変わる。文字が変わって数秒経つと扉が開き、中から3人の少女が出て来た。
最初に出て来た少女の容姿は少しタレ目気味な目尻に茶色の瞳。膝くらいまである長い茶髪をポニーテール状にまとめている。次に出て来た少女は金色の瞳に膝まである長く癖っぽい金髪を後ろで2つに纏めた少女。最後に出て来た少女は腰まである銀髪にブルーグレイの瞳をした少女である。
零「・・・此の娘達が」
大地「そう。お前さんの艦娘達だ」
零はコホンと軽く咳払いをして少し笑顔を浮かべる。少女達は何度か目を擦りながら歩き、零の前に立つ。
?「貴方が・・・
零「・・・そう、なるかな。俺は秋里 零。まぁ好きに呼んでくれて構わない。君達は?」
「あたし? あたし、文月っていうの。よろしくぅ~」
「ボク?ボクは皐月だよ。よろしくなっ!」
「私は響だよ。その活躍ぶりから不死鳥の通り名もあるよ」
そう言って笑顔で手を差し出してくる文月、皐月、響の3人。零は「宜しく」と告げて少女達の手を順番に握った。
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