プロトM4A1 (鋭利な刃)
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おはようございますクソ女
母と娘
ペルシカさんの口調分からない……
「死ねよ。死んでくれ」
右手に握りしめたナイフを、目の隈がやばい事になってる猫耳付けた女に振り下ろす。
思わずしゃがみ込みのたうち回ってしまいたくなるような痛みが頭に響くが無視。むしろその痛みを堪える力も加え、殺意120%を込めて振り下ろす。
「懲りないねープロト。もうすぐ100回目よー」
殺意を込めたナイフは、自由への切符のナイフは、その女にあっさり受け止められた。
……当然だ。どれだけ力を、殺意を込めたところで、このクソッタレな機械のカラダはまともに動いてはくれない。
例えどんなクソッタレでも、どれだけ死んだ方が良くても『人間』と言うだけで、傷つけることは許されないのだ。
『戦術人形』と呼ばれる、このカラダでは。
「おや、前回より力を強く入れられてるねー。これはそのうち本当に私を傷つけられるんじゃない? いよいよ、愛しい娘にナイフを突き立てられてしまう日も近いかな」
「黙れ! 今日こそぶっ殺す!!」
怒鳴りつけ、必死に力を入れるもピクリとも動かない。
ケラケラと笑いながら右手を捻られナイフを奪われ、腹に蹴りを入れられて倒れこんでしまう。
勿論やったのはこのクソ女で、やられたのは私だ。
やられたままではいられず、すぐさま起き上がり殴り掛かろうとするも、クソ女の手には黒いリモコンが握られていて、拳が届くまでにスイッチが押されてしまう。
「がっ!?」
膝から崩れ落ちた。身体中からチカラが抜け落ち、指1本も動かせそうにない。
「はい勝ち〜。コレで98戦98勝。プロトもまだまだねー」
そうほざき首を捕むと、ズルズルと私は引きづられてゆく。
クソが。死ね。死ね。と声に出せないほどに力が抜け切っているため心の中で罵りながら、私という戦術人形は、引きづられて行った。
このクソ女に引きづられて行った先は、小さな部屋。
小さな机と、一人で寝るには妙に大きく、だが2人並んで寝るには少し狭めなベッドがあるのみの、白と薄い黄土色で統一された、狭すぎて足の踏み場がほぼ無い部屋。
『私』の部屋だ。
「さあさあ座りなさいプロト。いつもの様にコーヒーを入れてあげる」
そう言って部屋を出ていったクソ女。私は腰を下ろし、机に突っ伏す。不貞寝だ。やってられない。
(クソが次こそは絶対殺す覚えてろよクソ女大体テメーみたいなのが猫耳付けてるとか趣味悪いんだよ頭イカれてんのかイカれてたなわざわざ確認するまでもなかったわクソクソクソあのリモコンだリモコンさえ何とかあればまだ勝機はあるどうすればあのリモコンを封じ込めれる何か投げつけるかというかそれしかないな偶然を装ってあいつが1人でいる時に背後から襲うかいやしかし約束を破る事にいや約束なんてどうでもいいとにかくぶっ殺す事こそが最優先だから必要なのは隙をみつ……)
コトッという音で我に返った。目の前のテーブルの上にはクソ女が入れたコーヒーが置かれていて、クソ女はニヤニヤと気味の悪い笑みを浮かべて私を見つめている。
「……何?」
「プロトって本当に可愛いわね。何を考えているか、表情を見るだけで伝わってくるわ。……ああ後念の為に言っておくけど、約束を破ったら即座にメンタルモデルを初期化するわよ」
「……いちいち言わなくても分かってるわよ。『訓練スペース以外でのペルシカに対する殺害行為は決して行わない』」
どうだろうねー、と言わんばかりに、クソ女はクスクスと笑う。ウザイ。そろそろ死んでくれてもいいんじゃないだろうか。
「別に約束を破ってくれても良いのよ? メンタルモデルをリセットして、また1から育てていくのもそれはそれで面白そうね」
「巫山戯んなクソ女。お前に1から育てられるぐらいなら一緒に自爆した方が100万倍マシよ」
「あら、私と一緒に死んでくれるのね」
「……ギリッ」
「歯ぎしりしない。いいじゃない、反抗期の真っ最中で少し寂しいのよ」
コトリとコーヒーカップを置き、こちらをじっと見つめてくる。
「さて。貴方が目覚めて4ヶ月程が経ったけれども、まだ受け入れられない?」
「受け入れられないし、受け入れるつもりもないわ。勿論許すつもりもない」
私には人間としての記憶がある。
両親がいて、妹がいて、テロリストやらE.L.I.Dやら鉄血人形やらの脅威から力を合わせ、必死に逃げ回っていた。
そんな記憶がある。
「やっぱり人間として人格を先に形成させるなんて無茶よねー。戦術人形としての自覚が無くなってしまうわ」
でも、そんな記憶もクソ女から言えば『夢を見ていただけ』
クソ女が作った現実そっくりなヴァーチャル空間内で1個人として人格を形成させ、それを戦術人形の電脳にインストールした。それが私。
クソ女が夢見ている『人間の指示がなくても自立して作戦行動が出来る戦術人形』の試作型。それが私。
「何度だって言うわ。私は人間。例えこの世界のだれが否定しても。だれが証拠を示しても。私は人間。それ以上でも以下でもない、この世に生まれた人間よ」
「ならプロト。私も何度だって貴方に告げるわ。あなたは戦術人形。例えこの世のだれが否定しても。だれが証拠を示しても。あなたは戦術人形。私の可愛い可愛い娘よ」
私は睨む。ペルシカは微笑む。
「……そう。なら答えは1つ。お前を絶対にーー」
「殺す。殺して私は自由を手に入れる」
「頑張ってね。応援してるわ」
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朝と訓練
ヤニキメてたりひねくれてたり生活力クソ雑魚ナメクジな女の子が好き。
つまりペルシカさんすこすこのスコーピオン。
目が覚めると、つい舌打ちをしてしまうこの癖を何とかしたいとは思ってる。
思ってはいるのだが、意識を浮上させ目を開いた瞬間に飛び込んでくる光景を前にすれば、舌打ちしてしまうのは仕方がないことではないか?
むしろ舌打ち程度で済んでいるという事を誰か褒めてくれても良いのではないだろうか?
……こんな時、プライドなんてものをそこら辺に投げ捨てる事が出来たらどれほど楽か。
だがしかし、私にはそんな事は出来ない。悔しい事に。
だからこそ。今私の目に写っているこの光景に苛立ちや殺意を覚えても、私は拳を振り下ろしたり、引き金を引くなんてことはせず、ただ全力で怒鳴り、罵るだけ。
正面から捻り潰せないと、意味なんてないのだから。
「……いつまで私の横で寝てんだクソ女ァァァ!!」
「全く。もう少し添い寝してあげてる母親に対して優しく起こすなんて事は出来ないの? プロト」
「出来る出来ない以前にお前を母親だと思いたくないし添い寝なんて真っ平御免だしさっさとくたばって欲しいんだけど今すぐに」
「早口ねぇ。もう少し落ち着きなさい」
「だ れ の せ い だ !!」
えーと、っと首を少し傾げ、顎に手をやるクソ女。
「プロトが私を嫌ってるのは事実で、その原因はプロトの大切に思ってた物を根こそぎ奪い放り捨てたせいで、そうなるように仕向けたのは私だから……」
そこでハッと何かに気づいたように私の方を見るクソ女。
笑顔で自分のことを指さした。
「全部私のせいね」
「……」
よく堪えれたと自分でも思う。正直今すぐにでも殴り掛かりたいが、このクソ女を正々堂々真正面からぶっ潰すと決めたのは私。
ちっぽけなプライドだけど、でもそのちっぽけなものを大事にしたいと思っているからこそ、堪えれたと思う。
……相当危なかったが。
さて、と呟きクソ女は私のベットから起き上がる。
服装は寝巻きなどではなく、ちょっと臭ういつも着てる白衣。正直それで寝るのはアホだと思う。
「朝食を食べに行きましょう。その後は楽しい楽しい訓練よ」
物陰からほんの少し顔を出し、目をこらす。
AR持ちが2体。盾とHG型の銃剣持ちが2体。
こちらにはまだ気づいていないが、それでも周囲を警戒しながらジリジリとこちらへ近づいてくる。
腰の左側へ手をやり、巻いているベルトに引っ掛けてある閃光手榴弾を手に取る。
奴らとの距離は約30メートル。まだ遠い。もっと、もっと近づいてこい。
28。25。20。17。15!
左手に持つそれを投げる。狙いは奴らの目の前。13メートル先辺り。
投げたらすぐさま銃を構える。狙いは盾持ち。しかしまだ引き金は引かない。
投げて直ぐに閃光が走った。ちょうどこちらを見ていた盾持ちとAR持ちが一体ずつその光を真正面から浴び、ふらつく。
尽かさず引き金を引く。放たれたのは弾丸ではなく殺傷榴弾。半径1.5ヤード(1.372メートル)内に大ダメージを与える強力な1発だ。
ただ、強力な分反動も強く、必死に堪えるが耐えきれず尻もちをついてしまった。
榴弾により盾持ち1体は瀕死。もう1体も巻き込まれ重症。
AR持ちはダメージこそ負ってないが爆風により怯んだため、なんとか起き上がり体勢を立て直す時間は稼げた。
引き金を引く……前にグリップにあるスライド式のボタンを2つ、スライドさせる。
放たれたのは弾丸。心做しか普段よりも素早く、そして高威力の弾丸が放たれ、それが片方の頭を吹き飛ばした。
もう1体のAR持ちが体勢を立て直す前に頭を吹き飛ばし、勝負はついた。
私の勝利。状況終了。
目の前の蓋がパカッと開き、その先にはクソ女の顔が私を覗き込んでいた。
何か言う前に体を起こし、入っていたカプセルから出る。
「お疲れ様プロト。『Anti-Rain』使いこなせるようになってきたじゃない」
ああウザイ。褒められる相手がこのクソ女じゃなければ素直に喜べるのに。
……でもまぁ、そこまで悪い気はしなかった。
『Anti-Rain』
簡単に言えばクソ女が考えたコンボ技。
閃光手榴弾で錯乱させて殺傷榴弾で一掃し、一時的に銃をオーバーフローさせ射速と火力を底上げし、掃除する。
戦場に出ている人形達の戦闘データから生み出された訓練用の敵とはいえ、今のところほぼ敵無しなのだから凄い。
クソ女発案でさえなければ賞賛の嵐なのに。
「でもやっぱり榴弾の反動には耐えられないか。でもこれ以上パーツを付け加えてたら機動力が損なわれるし、削る訳にもいかないし……」
思案しているクソ女を放置し、部屋に戻る。
……疲れた。被弾こそしなかったものの何処から現れるか分からない奴らに気をつけ必死に索敵し、バレないように奇襲を仕掛ける。
言うだけなら簡単だが、実際にやるとなると凄まじく難しいし頭を使う。1時間程の訓練だったが正直もうへとへとで今にも意識が落ちそうだ。
何とかしてベットにたどり着き、ドサッと倒れ込む。
数秒後には意識を落とし、眠りについた。
描きたくなったのでプロトのステータスを
火力C 39 命中B 46 回避B 46 射速B 69 HPC 470 成長A
陣形効果 5番を中心に2.3.6.8.9 内のARに対し射速上昇15% 会心率上昇25%
スキル『Anti-Rain』開幕CT5秒/CT30秒
プロトのスキル。簡単に言えばRO635以外のAR小隊のスキル全部のせ。
一つ一つの数値自体は落ちている(射速上昇45%→30% 火力上昇70%→50% 12倍火力→8倍火力 4秒間目眩→2秒間)
順番として、閃光手榴弾→殺傷榴弾→火力上昇T+突撃集中T
火力上昇Tと突撃集中Tに関しては効果時間が共に8秒になっている。
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"私"とSOP II
薄暗く、コードやら機械類やらが散乱している16LABの地下にある一室。
部屋の真ん中には2mほどの巨大なカプセルが鎮座しており、その中には一体の人形が入れられていた。
私と同じくらいまで伸びている黒髪。
鏡を見ているかのように瓜二つな顔。
私と全く変わらない背丈。
違うのは、人形に着せられている服の色だけ。
それ以外は全く変わらない、私の生き写しとも言える人形が、カプセルに入れられ、眠りについている。
「この人形は?」
「『M4A1』人間の指揮がなくとも自律し考え行動できる戦術人形よ。あなたの『妹』という存在であり、あなたが辿り着けなかった『完成品』でもあるわね」
「完成品……要は、私からお前達にとって不都合な部分を抜き取って、都合のいいような思考しか出来ないようにした操り人形みたいなものでしょ?」
「半分正解で半分不正解よ。確かに運用する上であなたのように人間に対する不信感や殺意といった感情が発生しにくいよう、厳重に制限は掛けたわ。でもそれだけ。この子にはこの子にしかない自我が芽生え、この子だけの考えから行動してくれるはずよ」
「……そうなるといいわね」
カプセル越しの顔は何の表情も無く、無だった。
どうかこの子には、この子だけの表情を浮かべて欲しい。
憎しみでもいい。悲しみでもいい。私の紛い物にだけはなって欲しくない。
人間の操り人形になった私の姿なんて、絶対に見たくない。
自分を人間だって言い聞かせてる"私"を、他ならぬ"私"に否定されてしまっている気がして、虚しくなるんだ。
私の使っている部屋の隣。
私の部屋と同じ広さに同じ家具。同じ色に同じ配置。
ここが、あの子の部屋になるらしい。
「ずっと放置されてた割には綺麗ね」
あの子はまだ起動していない。AIの最終調整やら体のパーツの調整やらがまだ終わっていないらしい。この部屋が使われるのはまだ先になりそうだ。
「……妹、ねぇ」
思い出す。あの子の事を。
クソ女によって作られた電脳世界にいた時の、私の大切な妹を。
確かにあの子は、クソ女に作られた0と1の集合体かもしれない。私というバグを抱えてしまっているAIを育てるために作られた、パターンにそった行動をするだけの存在かもしれない。
でも私にとって、確かにあの子は妹だったのだ。間違いなく。絶対に。
「でもあの子はもういない。そして、新しく妹が出来る」
受け入れられるだろうか。新しい妹を。
重ねてしまわないだろうか。大切な妹と。
私は姉として、このクソッタレな世界で生きなきゃ行けない妹を、ささえられるのだろうか。
「……自信無いなぁ」
16LABの地下。そこに私とクソ女はいた。
あの子はまだ目覚めていない。でも、あの子の仲間になる子達は既に目覚め、訓練に励んでいるらしい。
『ST AR-15』『M16A1』『M4 SOPMOD II』
加えて未だ構想段階だが『RO635』の4名が、あの子と同じ『AR小隊』という小隊に配属されるとの事だ。
エレベーターを降り、長い廊下を歩く。
相変わらず白で統一されていて、落ち着かない。
「今更だけど、私が会う必要はあるの?」
「勿論あるわよ。プロトにはAR小隊の教官になってもらうつもりだから」
「は? 初耳なんだけど」
「今初めて言ったからね。プロトのデータを元に彼女達は設計されたのだから、プロトが面倒を見た方が効率がいいじゃない?」
それに、とクソ女は続ける。
「妹達の面倒を見るのも、長女の役目ってものじゃない」
こいつに言われると、例え正論だったとしても本当にイラッとくる。
「あ、ペルシカだー!」
廊下の途中で唐突に現れ、叫びながらクソ女に突撃して来たのは、クソ女に渡された名簿によると『M4 SOPMOD II』
性格は幼く、しかし強い残虐性を持っているとの事。
その情報は確かなようで、クソ女の後ろにいる私には気づかず、ペルシカに抱っこを求めて手を伸ばしていた。
それをスルーし、クソ女は私が見えるように体をずらす。
「? 後ろにいるのはだぁれ? ……もしかして、M4!?」
興味津々な顔を浮かべ、近づいてくる。その顔は笑顔で、とても嬉しそうだった。
「SOP。その子はM4A1じゃなくて、『プロト』M4A1。あなた達の先生になる子よ」
「プロト? 先生?」
「そうね。あなた達全員の『お姉ちゃん』だと思えばいいわ」
「お姉ちゃん!?」
そう聞くとより笑みを強くし私を見つめてくる。
唐突に両手を伸ばし、広げた。
「お姉ちゃん! 抱っこ!!」
「……」
膝を曲げ、目線を合わせ手を伸ばし、脇の下に腕を差し込む。そのまましっかりとホールドし、ぐっと力を入れて持ち上げた。
「おー高ーい!」
楽しそうに笑う。はしゃぐ。戦術人形を思わせるずっしりとした重みが腕に掛かるが、あまり苦ではなかった。
「……私はプロトM4A1。あなたは?」
「私はね。SOPMOD II!」
「そう。よろしくね」
「よろしく! お姉ちゃん!!」
抱きつかれる。込められた力は強いが、これもあまり苦ではなかった。
ニヤニヤとこちらを見つめてくるクソ女を無視し、SOPを抱えたまま、廊下の先へと歩いていった。
お姉ちゃん呼びSOPちゃんかわいい……かわいくない?
なんか気づいたら抱っこしてた。
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食事と2人
他のAR小隊の出番はちょっと少なめです。
決して書き分けれるような文才が無いという訳では……すいません文才無いです。皆無です。笑えてきます。
いつもの何一つ変わらない私の部屋。16LAB内共通の真っ白な壁に、全個室共通の家具。全個室共通の配置。
どの部屋にいても大して違いはないし、この部屋唯一なんてものは無い。強いて言うなら私が現在使っている程度。
「いつの間に部屋に来たの? SOP」
「さっきだよー!」
私より低い目線から、ニコニコ笑顔で見上げてくるSOP MOD II。
時は、まだ目覚めていないM4A1以外のAR小隊との顔合わせが終わって30分ほど経った後。
お互いに名前を名乗り、明日から新しく実施される訓練の予定などを話し、クソ女は残るとの事で私は1人上へと戻った。
その後軽く射撃訓練を行い部屋に戻ると、SOPが居たという訳だ。
「それでどうしたの? クソ女と話をしていたんじゃないの?」
クソ女?、とSOPは首を傾げる。しまった、と思うも言ってしまったのは仕方がない。
「ペルシカの事よ。私、あいつが嫌いなの」
「ペルシカが嫌い? お姉ちゃんって変わってるんだね」
変わってる。まあ確かにそうだろう。私は普通の戦術人形とは違う。製造理由も自己意識も私と同じ人形なんていないだろう。だから間違いではないのだが……ほんの少し、寂しく思った。
「それはそうと、M16がみんなでご飯を食べようだって。お姉ちゃんも行こ!」
手を掴まれて引っ張られた。そのまま引っ張られるままに後をついて行く。
SOPの手は人工皮膚が使われておらず、金属パーツが剥き出しになっていて少々冷たく、あと力が強くて少し痛い。
でも、嫌ではなかった。いつも手を引っ張る側だったから引っ張られるというのは初めてだが、悪くない。そう感じた。
16LAB内共通の真っ白な壁は、食堂と区別されている大部屋でも変わらない。机とイスは各部屋共通の物ではない唯一の場所だが。
そんな大部屋の一角。6人がけのテーブルに座り、私とAR小隊で夕食を取る。
16LABの食堂のメニュー数は少ない方らしく、メインとなる料理は7つ。食堂で食事を取る事が少ない私でも、ひと通りは食べた。
隣にSOP。対面にAR-15。その隣にM16が座っている。
私とM16がピラフ。AR-15はパスタ。SOPはカレーにラーメンにピラフにパスタにetc……と、私達の頼んだ物と合わせると机を埋め尽くす程に沢山の数を頼んでいた。勿論メニューの被りも著しい。カレーなんて4つはあった。
他の面々を見るも驚いた様子は無い。
呆れた眼差しを向けつつも黙々と食べるAR-15。
ものすごい勢いで消えていく目の前の料理に感心しつつ、酒を飲むM16。
この小さな体のどこに、これだけの量が入るスペースがあるのだろうか。人形の神秘と言えるのかもしれない。
手を動かす。合成食品100%特有の直接的な味が口に広がった。決して不味いという訳ではなく、しかし特別美味しいという訳でもない。強いて言うなら50点の味。
機械によって全自動で作られる料理特有の、可もなく不可もない物だ。
「ご馳走様〜」
私がまもなく食べ終わるという頃には、あれだけの数の料理は跡形もなく消え去っていた。横を見ると、満足したのか満面の笑みのSOP。
「これ、いつもの事なの?」
「今日はまだ少ない方ね。いつもならこの後更に追加しに行くから」
そう返したAR-15。目の前にある筈の彼女のお皿は、どれなのか分からなくなっていた。
真っ白な壁に各部屋共通の家具。同じ配置に同じ狭さ。
違うのは、ここが私の部屋ではなく、SOPに与えられている部屋だということ。
夕食の後、またSOPに手を引っ張られ着いたのがこの部屋。私とSOPはベットに腰掛け、特に何もせずぼおっとしている。
「お姉ちゃん」
何?、っと声に出す前に、私の太ももに重みが加わった。
薄桃色の髪が私の膝を覆い隠している。
そのまま何もせず、ただぼんやりと真っ白な壁を見る。
無駄に丁寧に塗られているせいか、白がぼやけているような所はなく、どこを見ても変わらない平坦な白が続いている。
ドサッと後ろに倒れ込んだ。
気づいた時には太ももへ重さは無く、私の左腕を抱きしめているSOPが見える。
目は開いていて、何をする訳でもなく、ただじっと見つめてくる。
「ねぇお姉ちゃん。私の手ってどう?」
「どうって?」
「冷たい?」
「冷たいわ。そしてちょっと硬い」
冷たくて硬い。どこかで、握った事のあったような手だ。
SOPの手をぎゅっと握ってみる。冷たい。硬い。でも……
「私は好きよ。SOPの手。冷たくて硬いけど、嫌いになんてなれないわ」
にひっ、とSOPは笑う。嬉しそうに。
それから特にお互い話さず、ただただ寝転がってじっとしていた。
やがて横から小さな寝息が聞こえてきて、眠くなり、2人で一緒に並んで眠った。
冷たくて硬い。どこか懐かしい手を握り、握られながら。
そろそろM4にも参戦してもらわないと。
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思い込みとAR小隊
どうやったらあそこからハッピーエンドになるんでしょう?
今回短いです。
引き金を引けば、私の分身とも言える存在は震え、目の前にある標的へ向けて殺意の篭もった鉄を打ち出してくれる。
ーーーダダダッ!
それは私の前に位置している人を模したパネルを掠れ、後ろの壁の汚れになった。
当たらない。狂いがある。
イラつきからパネルに付けておいたクソ女の予備の猫耳の飾りは、衝撃で落ちて砕けてしまったようだ。ざまーみろ。
ふぅ…と息を吐き、右手を下ろす。ずっしりとした重みからは達成感なんて味わえず、あるのは心の奥で渦巻く動揺。
命中率は40%。動かない的でこれなのだから、カプセルに入っての実戦訓練などすれば散々な結果しか残らないだろう。
目を覚まし、初めてクソ女と目を合わせてから5ヶ月。AR小隊と初めて顔を合わせたのが2週間前。
AR小隊との関係は良好。SOPとは時折お互いの部屋に出入りし、M16とはグラスを打ち付け合い、AR-15とは意見を出し合う。そんな日々を繰り返し、不意に訪れたこの日。
M4A1の目覚め。それは、数時間後にまで迫っていた。
「1番最初にM4に会うの、お姉ちゃんじゃなくて良かったの?」
白い壁に見飽きた家具。違うのは、私の横の部屋という事だけ。
M4が使う事になる部屋の掃除をしていると、付いて来たSOPのその一言に手が止まった。
M4の目覚め。SOPとは根本的から変わる、私の妹の目覚め。
それに立ち会うのは、AR-15に任せていた。
「確かに立ち会いたい気持ちはあるわ。……でも」
でも。そこから先を言おうとし、私は口を閉じた。
再び部屋の掃除を再開する。
「でも……何? お姉ちゃん」
私の感じた事が正しいことかなんて分からない。ただの私の思い込み。そう言われてしまえばきっと、私はそれを否定出来ない。
でも、それでも、私は私の感じた事を真実と思い込んだ。
「ねぇSOP。M4の目覚めを1番求めているのは誰だと思う?」
「1番? ペルシカか、お姉ちゃんじゃないの?」
「確かに私達はM4の目覚めを心待ちにしてるわ。私は姉として。……ペルシカは親として。でもね、きっと1番じゃない」
きっと私の感じたことは、余計なお世話なのだろう。
きっと私の思い込んだことは、思い上がり甚だしいのだろう。
でも。それでも私は、それが正解だと思ったから。
「きっと誰よりも。誰よりもM4を求めているのは、AR-15だと思うの。親でもない、姉でもない。対等に語り合える、競いあえる友達を求めているのは、AR-15だと、私は感じたのよ」
白い壁に見飽きた家具。部屋に3人がいてもまだまだ余裕のあるスペースの、16LAB地下機密室。
SOPは落ち着かないのか行ったり来たり。
M16は待ちきれないのかソワソワと。
私は立って待っていた。
ドアが開くのを。
やがて、足音が聞こえてくる。1人でなく2人分の。
ドアが開いた。見覚えのあるピンク髪の後ろ。
見覚えの無い、しかし馴染みのある黒髪が見える。
私と同じ服。同じ顔。違うのは表情だけ。
どこか不安そうだけれど、それでもきっと、前を向いて歩いてゆけると確信できる。そんな表情。
「初めましてだな。M16A1だ。歓迎するぞ、M4」
「M4 SOPMOD IIだよ。よろしくねーお姉ちゃん!」
「さっきも言ったけど、ST AR-15。あんたの友達よ」
「えっと……M4A1です。よろしく……お願いします」
8つの目が私に向けられた。新しく増えた2つに目線を合わせる。
気弱そうな目。でも、それでいい。他の6つの目と違う、唯一の物。
「プロトM4A1。あんたの試作型よ。姉みたいなものと思えばいいわ。よろしく、M4」
『さぁM4が目覚めた事を祝って飲お姉ちゃんに突げさせないわプロト姉さん……でしょうかおいM4私の事も姉さんとうるさい酒飲んでろなんだとAR-15やっぱり抱っこM16姉さん?素晴らしい私も姉さんとお前さっき友達言ってただろ一緒に16LABを見て回りましょうはいプロト姉さん私も行く!おい待て私を忘れるな1人で酒飲んでろお前さっきから酷いな!?まずは食堂行こ!そうねはいおい待てM4! プロト! 私を置いてくな!後せっかくだしプロトも姉さんと! ここは私に任せて先に行きなさい大丈夫後でちゃんと追いつくわAR-15ぉぉぉぉぉぉ!!』
「楽しそうでなによりね」
「あなたたちが人形であり続けることを願うわ。私のかわいい娘達」
令和。
素晴らしいと思いますよ。
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夢とクズ人間
最近の建造運なかなかついてますね。
AA-12は3連目。Zasも100連以内に出ました。
私は人形の身にも関わらず、夢を見る。
それは奇っ怪で統一性なんて無く、一瞬先には全く違う内容の物に変わるなんて当たり前の夢。
そんな夢の1つ。幼い女の子と、その妹の夢。
姉はまだ幼い妹と自分の身を守る為、媚びへつらい、身を差し出し、何処かの誰かを骨の髄までしゃぶり尽くす。
他者を蹴落とし、見捨て、手を下し、何がなんでも生き残る。
そんな姉の姿を、後ろでただただ見つめている。
それがこの夢の中の私だった。無意味で無価値な私だった。
真っ暗闇の中、薄汚れた1枚のボロい毛布に2人抱きしめあって包まり、気配を殺し、息を殺し、時間が過ぎるのを待った。
何処に何が、誰が居るのかと怯えながら、ほんの少しの飲水を求めて彷徨った。
すれ違った人間を襲い、根こそぎ奪われ、奪った。
安心なんて一切できない。希望なんて何処にも無い。辛く苦しい戦いの日々。
そんな夢はいつも変わらず、唐突に終わる。
姉が消えた。突然フッと、跡形もなく。
絶望して、探し求めて彷徨って、力尽きて倒れ込んで、そこで夢は覚める。
そこは真っ白な壁に各部屋共通の家具に共通の配置の狭い部屋で、違うのは私が普段使っている事ぐらい。
息は途切れ、体は震え、目には涙。歯はカチカチと音を立て、自分がたてた物音に驚き怯えてしまう。
要は悪夢だ。打たれた直後の傷跡を抉られるような痛みと恐怖を刻まれる、最悪の夢。
震える体を必死に奮い立たせ、起きて隣の部屋を目指す。
たった数mの暗闇に怯え、泣き叫びそうなのを必死に堪えて辿り着いたら、部屋の主が寝てようが無理矢理ベットに潜り込む。
夢のように隙間が無くなる程抱きしめ、胸に顔を埋める。
こうしないと落ち着けない。体の震えは止まってくれない。
大抵の場合相手は目を覚まして、面倒くさそうな表情を浮かべながらも抱きしめ返してくれる。
それがとても嬉しくて、温もりが心地よくて、私は再び眠りにつく。
とてもとても、落ち着ける温もりだから。
夢の中で姉が抱きしめてくれた時に感じた温もりに似ていたから。
ガタガタと車体を大きく揺らしながら、AR小隊に私を乗せた装甲車は荒れに荒れたガタ道を走る。
窓には放射能やらをたっぷりと含み、濁りベタつく雨粒がこれでもかとへばりついている。
私の前にはハンドルを握るM16と、その隣で何かをいじくっているSOP。
横にはM4とAR-15。AR-15が退屈そうに眺めている小型の電子機器をM4が覗き見ている。内容はおそらく占い関係だろう。ちなみに私は本を読んでいた。
これが任務中ならM16以外全員粛正案件なのだが、これは任務ではない。なんなら16LABから出てすらいない。
例にもよって、いつもの電脳世界だ。
AR小隊が16LABから出る事はまだ許されておらず、訓練の日々が続いていた。
SOPから「外に出たい!」と連呼されたり、AR-15の愚痴を聞き流したりなど、不平不満が漏れ出て来ている中、毎日の訓練を欠かさず行う。
最初の頃の全く弾が命中しなかったM4も見違え、SOP達と並んでいる。
順調だった。AR小隊は。
「後12分……M16。方向本当に合ってるの?」
「ああ間違いないさプロト。あと5分もしないうちに着くはずだ」
「そう……SOP! いい加減に窓をコツコツ叩くの辞めなさい」
「暇〜」
「あんたが外の世界を見たいって言うからこうやって電脳世界とはいえ体験してるんじゃない。文句言わないの」
「だってどこ見ても何も無いよ……揺れも強いから眠ることも出来ない」
「外の世界もここと対して変わらないわよ。むしろ鉄屑達が蔓延っていない分、気を張らなくていいこっちの方が遥かにマシよ」
クソ女を認めてやってもいい点シリーズに追加だ。
記録なんて残してないから他のものが何だったか忘れたけど。
外のクソッタレた世界に安息の地なんて無い。
あるのは超危険地帯か、危険地帯か、安全に見せかけてる危険地帯の3つだけ。
もはや電脳世界にでも頼らない限り、絶対的な安眠なんて出来るわけが無いのだ。
電脳世界から出た私達。今日の訓練は終了しており、後は自由時間。過ごし方は各々に任せる。
廊下を歩いていると、武装した自律人形数体と、それに囲まれてゾロゾロと絶望し切った表情で歩く人間達と出会う。
彼らは私をギラギラとした殺意を込めて睨みつけてくるが、足は止めず、何処かの部屋へと入っていった。
「どうしたの? プロト」
いつの間にかクソ女が横にいた。私を見つめいつものケラケラした笑みを浮かべている。死ね。
「何今の。めちゃくちゃ気持ち悪かったんだけど」
「あああれか。人類人権団体とかいう生ゴミたちよ」
「何それ」
「要は、プロト達のような人形をさっさと全部ぶっ壊して人間の栄光を取り戻そう! とかほざいてる奴ら」
「……そんな奴ら集めてどうするのよ。的ぐらいにしかならないじゃない」
「あら、けっこう役に立つわよ。実験体に餌に的にストレス発散に素材。ぱっと思いついただけでも5つもあるわ」
実験体は分かるけど……餌?
「ほら、前社内報でやってたじゃない。E.L.I.D化したゴ〇〇リの大群によって基地の人やら人形やらが根こそぎ喰われたって。そういう事が起きた時の為の保険よ保険」
社内報に確か写真がのっていた。ああはなりたくない。絶対に。
「クズ共の餌は何処から?」
「残飯でも与えてたら良いでしょ。処理の手間も省けて万が一の時は囮に出来る。ホントクズ人間様々よ」
そう言うと、ニマニマと気持ち悪い笑みを浮かべながら廊下を歩いていった。
「お前だってクズの1人じゃんか」
「何を今更。今の世の中、クズじゃない人間なんて喰われきってるに決まってるじゃない」
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