Dream Palette (キズカナ)
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出会いは突然に

 

 

 

 

 

 夢ってなんだろう

 

 

 

 

 

 最近俺の中でこの言葉が浮かぶ。

 

 

 学校の先生は『早めに自分の将来の夢を見つけてそれに向けて頑張るように』っていうけどその夢がなかなか見つからない。

 

 世の中は『好きなこと=将来の夢』って考える人が多いけど正直それが正しいのかもわからないしそれで成功するかどうかと言われると話も別になってくる。

 かといって安全な橋を選んで確実に失敗しない方向を選ぶという手もあるがそれが自分の好きじゃないことだとして仕事にすると長続きするかといわれたらはっきりと肯定出来ないだろう。

 

 

 

 こんなことをいっておいてなんだけど俺にも一応夢はあった。

 

 

 

 

 

 でもその夢はとても現実的ではなくもう過去のものとなった。

 

 

 

 

 故にその夢は幻となったようなものだった。

 

 

 

 

 

 ─────────────────────

 

 

 

 

 

 

「まりなさん、夢って何なんですかね?」

「えっ? 何? 突然どうしたの?」

 

 

 唐突に疑問を投げ掛けられた女性『月島まりな』は困惑する。そりゃ突然謎の質問をされたら誰だってそうなるだろう。

 

 

「いや、今日も先生に『早いとこ夢見つけとかないと将来への計画がたてられなくなるぞ』って言われまして」

「なるほど。そういうことか」

「そんで色々考えた訳ですけどやっぱり『これだ!』って夢が無いんですよね。どれも現実的に難しそうだし」

「うーん……。でもさ、そういう難しいこと抜きにして考えてみたらいいんじゃないかな?」

「ところでまりなさんってなんか夢とかあったりしたんですか?」

「そうだな……。あったのはあったけど……色々とね?」

「はあ……」

「まあ……思うように行かなくてそのままってところかな?」

「えっと……なんか……すみませんでした」

「いやいや、もう終わったことだし気にしなくてもいいよ。だから頭あげて!」

 

 目の前で深々と頭を下げる青年はそう言われると元に戻ったが自分の発言により嫌なことを思い出させたのではないかと罪悪感を抱いていた。

 

「でも夢ってそうそう叶うものじゃないかも知れないけどさ、それを追いかけてみるのに無駄なことは無いんじゃないかな?」

「そんなものなんですかね……」

「それよりそろそろ上がりの時間じゃないの?」

 

 まりなが時計を指差し、それを見ると時刻は既に6時をまわっていた。「あ」と思い出したかのように青年は更衣室に戻り服を着替えて荷物を纏めて帰り支度を済ませると「お疲れ様です」と頭を下げて帰って行った。

 

 

「…………夢、か……」

 

 

 

 

 ──────────────────────

 

 

 

 

 

 

「ふぃー……。なんか異様に疲れたな……」

 

 

 先ほどまでバイト先の『CiRCLE 』にいた青年はうっすらと暗くなった夜道を歩いていた。

 

「夢を追うことに無駄なことはない……か……」

 

 まりなさんから言われた言葉をそのまま呟いてどこか遠くを見つめていた。

 

 周りの人は多くが何かしらの目標を持って進んでいるだろう。だが俺はどうだ? ただなんとなく今を生きてなんとなく時間を過ごしている。

 果たしてこんなやつに夢など見つけることができるのだろうか。そんなことを考えていると何処からか妙な声が聞こえた。

 

「あの……私急いでるんですけど……」

「良いじゃねえか! ちょっと俺に付き合えよ! ん?」

 

 最悪だ。

 よりにもよってこんな現場に出くわしてしまうとは……。もしこの状況を見捨ててしまえば後々罪悪感にかられるだろう。かといって俺が出しゃばったところで勝てるとは言えないし、無闇に突っ込んで返り討ちにあったら元も子もない。

 

 

「どーするかな……」

 

 

 カラン……

 

「あ……」

 

 どうやってこの状況を乗りきるか考えていると足元にあったら空き缶に気がつかずそのまま蹴ってしまった。当然そこにいた二人にも完全に気づかれてしまいどちらにせよリスクが生じる事が確定してしまった。

 

「おいそこのガキ、なに見てんだ? ん?」

 

 うわぁ……。典型的なチンピラだよ。控えめに言ってめんどくさいタイプだこれ……。

 それよりも今はこの状況をどうするかだ。

 

 

 

 知り合いのふりをして彼女を連れて逃げる? 

 そもそもそれが成功するのは漫画や創作の世界だけだ。

 

 

 戦うか? 

 相手は図体のでかいチンピラ、対する俺は格闘技経験ゼロ。どっちが勝つかは目に見えてるだろう。

 

 

 

 いずれにしろ勝利の道筋が決まらないことにはどうにも出来ない。……悔しいけどこれは俗に言う『詰み』というものかもしれない。

 

 緊迫した空気の中、俺は女の子の方を見た。その子の顔は今にも押し潰されそうな思いをしているようだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『助けて』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そんな声が聞こえた気がした。別に彼女が言ってた訳ではないし俺がエスパーな訳でもない。でもなんとなくそんな気がしている。あくまで幻聴だろうけどもここで見捨てたら男が廃る、というものだろう。

 

「てめーみたいな価値のないガキに用はねえからどっか行ってろ。もしこの事誰かに言ったらぶち殺すぞ」

 

 あからさまにこっちを馬鹿にしたような言い振りだ。これは少々いらっときた。チンピラとは言えどこのまま馬鹿にされっぱなしで良いのか? 俺の中では否だ。

 

「あっそ。……でもさ、そういう人って実際人殺せない……というか典型的に度胸ないだけじゃないのかな?」

「なんだと?」

「だって今もそこの女の子相手に一方的に脅してるし。そもそもナンパも人が少ない所でしか出来ない人に俺のことをとやかく言われたく無いんだけど? やるなら堂々とやったら?」

「てめえもう一回言ってみろ!」

 

 よしよし、良い感じに挑発に乗ってくれた。こいつが脳みそすっからかんのアホで助かった。

 さて……そろそろ止めの言葉を叩き混むかな……。

 

「めんどくさいからまとめていうけどあんたみたいなのを人は意気地無しって言うんだよ」

「この糞ガキ……っ! 言わせておけば!」

 

 

 最後に敢えて逆鱗に触れる言葉をぶちこむことで怒りを失ったチンピラは俺に向かって突撃してきた。こうしたのは良いけどこいつには肉弾戦で勝てる見込みは無し……。後やることは……。

 

 

「野郎ぶっ殺してやる!」

「危なっ!」

 

 

 とりあえずチンピラの攻撃を上手いこと避けて反対側に回り込む。そのまま近くのごみ袋を2つほど投げつけてチンピラとの距離をとると女の子の近くに行った。

 

 

「とりあえず逃げて! というか逃げるよ! 走れる!?」

「えっ!? うんわかった!」

 

 

 少女の手を引き走る。後ろから追っ手が来るがこれは止まったら負けだ。そう思いながら走る。

 

 

 

 

 

 

 後少し……。後少し耐えることが出来れば……。

 

 

 

 

 

 

 

 俺たちが走って向かう場所……。

 そこは──

 

 

 

 

 

 

「お巡りさん助けてください!」

 

 

 

 

 交番だ。だって昔からよく言われてたじゃん? 何か困ったことがあったらお巡りさんに頼れって。

 

 肝心のお巡りさんは突然の来訪者に戸惑うも俺の話を聞き、追って来たチンピラの確保に出る。その間俺と少女は交番の中でやり過ごした。

 

 数分後、二人ほど応援を呼び男は無事確保された。話を聞く所あの人は前にも問題を起こし警察のお世話になったことがあるらしい。初犯では無いので前より重い処分になるだろう。

 

 何はともあれこれにて一件落着……ってところか。

 

「あ……あの!」

 

 帰ろうとしていると先ほどの少女に呼び止められた。

 

「助けてくれてありがとうございました!」

「いや、こちらこそ無理に走らせてごめん」

「えっ? 大丈夫ですよ! それより助けてくれたお礼がしたいんですけど……」

 

 来ちゃったよ。あんまりこういう展開やられてもな……という気はある。お礼って言われてもなんか逆に気を使わせそうだしな……。

 

「じゃあ……1つお願い聞いて貰ってもいいかな?」

「えっ? 大丈夫ですけど……」

「じゃあ……俺と友達になってくれないかな?」

「えっ?」

 

 少女はびっくりしたような表情だった。でも仕方ない。気を使わせずなおかつお互いウィンウィンの結末にするにはこれが最適だと思ったからだ。

 

「えっと……ダメだったかな?」

「いえ……それで良いんですか?」

「もちろん。君さえ良ければ」

 

 俺がそう言うと少女は頭を下げて「こちらこそよろしくお願いします!」と言った。

 

 

 

 これが夢を忘れた少年『佐倉イサム』とアイドルを夢見る少女『丸山彩』の出会いだった。

 

 

 

 

 

 




皆さんどうもこんにちは。初めましての方は初めまして。キズナカナタです。

ついに掛け持ち投稿に手を出しましたこの作者。

今回はしっかりしたストーリーものでやりたいなと思っておりますので長い目で見守ってくださると嬉しいです。


追伸
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まん丸お山に彩りを

 

「今日のバイトも疲れたな……」

 

 CiRCLE のバイトの帰り道にいつもの言葉を呟きながら夜道を歩く。そのままスマホを開き通知をいくつか確認した。そこには母から『今日遅くなるから焼きそば机に置いてある』と着信があった。

 

「……バニラシェイクでも飲みながら帰ろうかな」

 

 そのまま近くのファーストフード店に足を運ぶ。疲れた時はバニラシェイクを飲む。これから行くところのシェイクは程よい甘さで俺のお気に入りだ。疲労回復はこの手に限る。

 

 店内に入ると夜遅くにも関わらず意外と客がいた。俺は列の最後尾に並び順番を待つ。

 

「ありがとうございましたー! 次の方どうぞー!」

 

 思ったよりも早くに回ってきた。そのまま財布を準備してバニラシェイクを買って帰ろうと思っていたのだが……。

 

「あれ? キミは……」

「えっ?」

 

 レジにいた少女はまさかのあのときの女の子だった。名前は確か……『丸山彩』って言ったかな? 

 

「えっと……お久しぶりです?」

「うん! 久しぶりだね!」

 

 あれから1週間はたっているだろうか。あの後俺は彼女を見送り帰ったので連絡先等は交換してなくもう会うことは無いかも知れないと思っていたのだが……。

 

「あのときはごめんね? わざわざ見送りまでして貰って……」

「いや大丈夫だよ。あのままだと不安だったし」

「それにしてもまた会えて良かったよ~。まだお礼も出来てないし……」

「いや、お礼ならもうしてもらってるから大丈夫」

「うーん……。そうなのかな……」

 

 丸山さんは少々腑に落ちていない様子だった。

 

「えっと……それより注文してもいいかな?」

「あっ! すみませんでした!」

 

「じゃあバニラシェイク1つ」と注文をすませると会計を行い、丸山さんは奥でシェイクを用意する。本人の前でこんなことを考えるのもあれだが結構制服姿が似合っているな……と思う。

 

「お待たせしました! ご注文のバニラシェイクです!」

「ありがとうございます」

「あっ……あの……」

 

 

 

 

 ─────────────────────

 

 

 

 

 

 帰ろうとしたら丸山さんに呼び止められた。一体何事だ? と思ったら「私もうあがって良いって言われたから少し待ってて貰ってもいいかな?」と言われた。

 今更だけどあの時勢いで友達になったとはいえこんなに距離感って近いものなのかな? 

 

「遅くなってごめんね?」

 

 さっきまでのバイト服から普段着と思われる服に着替えて来た丸山さんにこれをかけられる。1つにくくっていた髪型もほどいていて変わった魅力が溢れて…………って俺は本人目の前に何を考えてるんだよ。

 

「イサムくん?」

「えっ……あ……はい?」

「どうしたの? 私の顔……何かついてる?」

「いや、あの……」

 

 どう言えば良いのかな……。いきなり「ごめん、つい可愛いなって思って」とか言ったら絶対引かれる。というかこの台詞が許されるのは漫画の世界の彫刻のようなイケメンだけだ。

 とりあえず無難に「少し考え事してた」とかでいいかな? 

 

「イサムくん大丈夫?」

「うん大丈夫。ちょっと考え事してたから(丸山さんが可愛くてつい)…………あ」

「え?」

 

 や ら か し た ! 

 いや、なんで本音と建前が逆に出てきちゃうの!? これアウトだわ。絶対気持ち悪いとか思われてる多分。そりゃ一回会ったくらいの男の人に「君可愛いね」とか言われたらさすがにアウトだよこれ……。

 

「ごめん! 今の忘れて……」

「えっ!? 気にしなくても大丈夫だよ!?」

「ホントなにやってんだろ俺……」

「私は気にしてないから大丈夫だよ? それに……」

 

 そのあと何かボソッと呟いていたみたいだけどうまく聞き取れなかった。でも丸山さんは変わらず「それじゃ行こう?」と笑顔で話しかけてくれた。……優しい人で良かったよ本当……。

 

 

 

 

 

 ────────────────────

 

 

 

 

 

「ところでイサムくんって学校どこに行ってるの?」

「俺は……風島高校なんだけど知ってるかな?」

「うん。この辺じゃ結構有名な学校だからね」

 

 そう、俺が通う高校は進学校でありながら部活にも力をいれる学校だ。上をみればまだ凄いところはいっぱいあるけどそれでもそこそこの知名度はある。

 

「私は花咲川に通ってるんだ」

「花咲川って確か女子高だよね?」

「うん」

 

 その会話が終わってからしばらく沈黙が続く。ここまで自分がコミュ障であることに悔やんだことはないだろう。友達もろくにいない上に女の子と話すなんてことは授業のグループワークくらいのものだったからね。

 

「あ……あのさ」

 

 静まりかえった空気を辛く感じたのか丸山さんが口を開いた。

 

「実は私……夢があるんだ」

 

『夢』

 彼女が発するその1文字にはどういう訳か大きなものを感じた。まるでそれに自分の全てをかけているかのような。

 

「夢?」

「うん。私、アイドル目指してるんだ」

 

 アイドルといったらテレビに出て歌ったり踊ったりしているようなイメージしかないけどとりあえず凄い人ってことはわかる。

 

「私はまだ研修生なんだけど……」

「研修生……ってアイドルのだよね?」

「うん。オーディションとか色々と出てるんだけど……私本番に弱いから何度も厳しい言葉貰ってばかりだけどね」

 

 ちょっとだけ曇ったような顔で語っている彼女を横に俺は何も言えなかった。しかしそれも束の間で「でもね」と彼女は続ける。

 

「私……諦めたくないんだ。どんなに辛くても諦めなかったら夢は叶うって信じてるから。それに……私と同じように頑張ってる人たちを応援してあげたい、そんなアイドルになりたいから」

 

 その時の目はとても輝いていた。そして……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その姿は夢を失った俺にとっては眩し過ぎた。

 

 

 

 

 

 ───────────────────

 

 

 

 あれからどれだけ会話をしただろうか。気がつかないうちに結構歩いた気がする。それだけ丸山さんとの会話が楽しかったということだろう。

 

「あ、私の家この辺なんだ」

「そうなんだ」

 

 もうそんなところまで来たのか……。といってももう通ることはないと思うから良いんだけど。

 

「そういえばまだイサムくんと連絡先交換してなかったよね?」

「確かに」

「じゃあとりあえずRINEだけでも交換しておこうよ。またお話したいし」

 

 彼女に言われるがままにスマホを取り出しRINEのアドレスを交換した。この「AYA」というのが彼女のアカウントだろう。とりあえず流れで友達に追加しておいた。

 

「丸山さん、ありがとね」

「あ、それとなんだけど……彩で良いよ?」

「え?」

「ほら、なんか……丸山さんって他人行儀みたいじゃないかな? 私たち友達なのに……」

 

 そんなものなのかな? でも呼んでいいっていうなら……。

 

「じゃあ……彩? で良いのかな?」

「……うん!」

 

 とびっきりの笑顔だ。100円なんかじゃ足りない。この笑顔、測定不能の可愛さだ。

 

「ありがとね。ここまで着いてきてくれて」

「いやいや、不安になるのも仕方ないとおもうよ?」

「じゃあ……また会おうね?」

「うん」

 

 そう言うと「またね!」と言いながら家の中に入って行った。それを見届けて来た道を戻る。

 

 

『私……諦めたくないんだ。どんなに辛くても諦めなかったら夢は叶うって信じてるから。それに……私と同じように頑張ってる人たちを応援してあげたい、そんなアイドルになりたいから』

 

 

 さっきの言葉が心の中で甦る。彼女は夢の為に頑張って今を生きている。それもアイドルという大きな夢の為に。一方の俺は何の目的もない、そして何の尖った物もない一般人。自分と彼女の違いなど一目瞭然だ。

 

 

「…………俺の夢……なんだったのかな」

 

 

 誰もいない夜の道の中に1人の言葉が小さく響いた。

 

 

 

 

 

 

 




いつもの如く需要があるのかわからないけどオリ主の設定置いときます。

佐倉イサム

学年
2年生

誕生日
9月10日

好きなもの
卵料理、バニラシェイク

嫌いなもの
匂いが強い食べ物

趣味
音楽鑑賞、入浴



以上です。


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佐倉イサムは考える

 

 あれから数日。俺の心は完全に上の空だった。

 

 

 理由は2つ。

 1つは丸山さん改め彩と完全に友達になったこと。RINE越しではあるがやり取りをするためにこのアプリを開く事が多くなった。RINEに友達登録してる人はいくらかいるものの基本的にグループワークで各自調べたことを纏める為に作られたグループトークに招待する為に交換しただけで個人的なやり取りは一切無かった。ゆえに連絡が来るのはあいつか公式アカウントからだけ。

 こんな人が突然女の子と連絡先交換してやり取りを初めてみろ。無い知恵振り絞ってどんな内容を返信しようか、この表現で大丈夫なのか等悩みまくることは目に見えてる。馬鹿な話だが内容を考えいるだけで2時間経過したこともある。しかも彩は積極的に他愛もないことで連絡をくれるので尚更返信に気を使ってしまう。

 

 〈こんな時間にごめんね? 今日またオーディション受けたんだけどやっぱり駄目だったみたい……。でも前より良い評価貰えたんだ! 〉

 

 こんな感じで日常のことに関してお互い話し合ってる。でもメールだと相手の表情がわからないから失礼の無い表現探しが必要になるというのが悩みどころだ。

 

 そして2つ目なんだけど……。

 

「結局……どうするのが正解なんだろ」

 

 あれから色々と考えたけどやっぱり俺が何をやりたいのかまだわかっていない。

 とりあえず小・中時代の卒業アルバム引っ張り出して何かヒントを見つけようと思ったけど書いてることは純粋過ぎて今の俺にはそうそう直視出来ないぐらいホワイトだった。今の俺はその夢を目指しても「現実的じゃない」って感じでそのまま終わってしまう。何度努力して挑んだとしても砕け散るという結末だった。

 

 

 いつからこんな屁理屈だらけの人間になったのだろうか。

 

 

 

「はあー……」

「何白けた面してんだよ」

 

 突然俺の前の席に座り話かけた男がいた。

 

 藤代アキラ

 俺の数少ない友達……というかまともに絡んでる人はアキラしかいないと思う。ぶっきらぼうだけど単純でとにかくまっすぐな性格だし結構情に厚い。俺と絡んでるのも入学時からの腐れ縁ってところだけど、それでも友達でいてくれている。

 

「ねえアキラ、1つ質問していい?」

「大体お前の悩みなんか検討つくが聞くだけ聞いといてやる」

「アキラって何かなりたい自分とかあったりするの?」

 

 俺の質問にアキラは「またか」とため息をつく。

 

「特に無いが」

「そっかー」

「とりあえず無理に見つけようとすると逆にめんどくさくなるからな」

「すみませんねめんどくさくて」

 

 相変わらず言い方に難はあるけどこれだから俺たちは成り立ってるようなものだ。

 

「そもそもなんでお前はそこまで焦るんだ」

「焦ってる……って言うか……」

「夢ってのは無理に見つけようとするものじゃないと思うが?」

 

 確かにそうだ。無理に見つけた夢なんてその場しのぎに過ぎないのかも知れない。でも……。

 

「とにかく、お前は1度その事から離れろ。いずれ自分を壊すことになるぞ」

「……そうだね。じゃあさ、もう1つ質問いい?」

「またか……。今度似たようなこと聞いても……」

「女の子とのRINEってどういったこと話せば良いのかな?」

「だからお前は…………ん?」

「え?」

 

 俺たちの間に暫しの沈黙が続く。

 若干衝撃を受けたアキラに俺は昨日までの出来事を簡単に説明した。

 

「なるほどな。でもそれをなんで俺に聞く?」

「だってアキラって女の子の幼なじみいたでしょ? だからそういうのに慣れてるかな? って」

「そういう事か……。というか別に普通で良いだろ」

「その普通がわからないんだよ」

 

 アキラは本日2度目のため息をつきながら「やっぱり

 お前めんどくさいな」と呟いた。それでもきっちり話を聞いてくれるアキラはやっぱりなんだかんだ言って優しいよねと思ったのだった。

 

 

 

 

 

 ────────────────────

 

 

 

 

 アキラとあの話をした3日後。

 土曜日でバイトのシフトも入って無いしやることも無いので久しぶりに銭湯に行ってひと風呂浴びて色々とさっぱりしてこようと思い財布とタオルを持ち家を出た。向かう先は行きつけの「旭湯」と呼ばれる銭湯。

 

「おや、イサムくんいらっしゃい」

「おばちゃん久しぶり。ちょっと風呂入りに来たよ」

「そうかい、ちょうど今いい感じに沸いてるからゆっくりして行くといいよ」

 

 

 

 

 おばちゃんの案内で風呂場に入った俺は体を洗い、かけ湯をして湯船に浸かる。やっぱり風呂はいい。今までごちゃごちゃ考えていたことを忘れることが出来るしなにより心が落ち着く。

 

「あ、そう言えば彩あれ以来何も音沙汰無いけどどうしたんだろ」

 

 心に余裕が出来たことによりふと思い出した。連絡先を交換してから頻繁に……というか1日に1回はRINEが来ていた彩から3日前から全然来なくなった。向こうも忙しいのかな? と思いあまり気にして無かったけど……。

 

「…………ってなんでこんな時まで彩のこと考えてんだろ」

 

 天井を見上げながらそう呟いた。

 なんせかたやアイドルになるかもしれない女の子、かたやなんの取り柄の無い一般人。本来交わることの無い2人がこうやって友達になれたことすら奇跡かもしれない。それにアイドルとなると男友達と一緒にいただけで恋愛報道とか言われることもあるため失礼な言い方だが中々面倒くさい世界だと思う。そのことを承知の上で付き合ってくれているのだと考えると彼女には感謝しかない。

 だがもし本当にアイドルになった場合彼女との関係はこのまま続くのだろうか? さっきも言ったけど芸能界というのは少しのスキャンダルが命取りになることがある。よって上からもなるべく外部との不用意な接触は控えるように言われるかもしれない。そうなった場合、彼女は俺の手の届かないところに行ってしまうのかも。それでも俺と彩は友達でいられるのだろうか。

 

「…………って考えすぎかな?」

 

 そう呟いた俺は両手で軽く頬を叩き再び無心に帰るのだった。

 

 

 

 

 

 ───────────────────

 

 

 

 

 

 

 1時間の間お風呂を楽しんだ後でコーヒー牛乳を飲み、銭湯を後にする。そのまま帰宅した俺はベッドで横になりスマホを開いた。しばらく確認してなかったからわからなかったが彩から着信が入っていた。

 

「えっ?」

 

 その着信に俺はなんとも言えない思いになった。

 

 この思いは喜びか。

 

 または彼女に対する祝福か。

 

 それともこれからの不安なのか。

 

 

「…………とりあえず一旦落ち着こうか俺」

 

 

 深呼吸をして再びスマホを見る。そこにはこう記されていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『イサムくん! 私アイドルデビューすることになったんだ!』

 

 何故だ。

 本当は嬉しいのに。彼女を祝福してあげたいのに。それなのに……。

 

「なんで俺素直に喜べ無いの……?」

 

 俺はこの時程自分が嫌いになったことは無かった。

 

 

 

 




申し訳ごさいません、初のサービスシーンがこのような野郎の物で(^U^)


新しくコメントをくださった水色(^ω^)さん、リュウティス王子さん、ありがとうございました。

コメントや高評価よろしくお願いします!



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これからも

 ここはCiRCLE。イサムはバイトの日は学校が終わるとすぐに来て働いている。

 

 だが今日のイサムは完全に上の空の状態だった。それは丸山彩からのメールの一件に関してなのか、それとも……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………………」

「おーい、イサムくーん? 生きてるー?」

「……あ、すみません。何でしたっけ?」

「いや、もうあがりの時間越えてるんだけど……」

 

 

 

 まりなに言われてイサムが時計を見ると針は既に7時を越えていた。

 

 

 

「ホントだ」

「どうしたの? 何か悩み事?」

「あー……まあ……」

「もし良ければ相談にのってあげようか?」

「…………実を言うとですね」

 

 

 

 

 

 

 

 ─────────────────

 

 

 

 

 

 

 

 

「ただいま……」

 

 

 

 誰もいない家に俺の声だけが響く。母はたまにこうやって夜遅くまで仕事して帰る時が月に2、3回ありたまたまある。それが今日だった。そして父は会社の都合で単身赴任でどこかにいるのだ。俺はそのまま自室に行き椅子に腰かけた。

 

 

 

「…………どーするかなこれ」

 

 

 

 スマホのRINEを見ながら呟く。

 

 会話の相手は彩だった。内容は話がしたいから今度一緒にお出かけしないかとのこと。

 

 最初は断ろうかとも考えたが、それはそれで失礼だろうと思ったのと特にやることもなかったので承諾することにした。だがこれにより色々と問題が発生する。

 

 俺は俗に言う『陰キャ』というのであり友達なんか彩を除けばアキラくらいのものだ。そんな人が突然女の子とお出かけとなってみろ。1人脳内会議が開催されるレベルでパニックになる。

 

 普段ファッション等はあまり考えない俺も今回ばかりは適当な服でいくのは失礼だろうと思い試行錯誤している。他にも金銭はいくら必要か、話の内容は考えておいた方がいいのか等あげ始めたらきりがない。

 

 それに加えて彩からのメールのことでどうにも色々と考えてしまう。……やっぱりこれからアイドルになる人と会うとなると色々と不味いのではないか。そしてこうして会えるのは今回が最後とか言われないだろうか……。これからの彩の心配をしているつもりなのだが落ち着いて見るとエゴイストな考えだと言われてもおかしくない。

 

 

 

 ホント何やってんだろ俺……。

 

 

 

「…………よーし落ち着こう。佐倉イサム落ち着こう、うん!」

 

 

 

 ひとまず深呼吸。そして牛乳を温めて飲む……

 

 

 

「いや、これは落ち着きすぎだ!」

 

 

 

 遂にはよくわからないことで1人ボケツッコミをし始める始末である。

 

 それにしてもどうするかな。さっきまりなさんに相談しても『そういう時は変に気取るよりもありのままでいいんじゃないかな?』と言われただけ。とりあえずお金と服はちゃんとしておこう。お金は……1万円ほど持っておけば足りるかな? 後は服なんだが……よく考えるとまともな服少ないよな俺。こうなったら当たり障りのないやつで……。

 

 

 

「…………慣れないことってするもんじゃないな」

 

 

 

 準備をするなかでそんなことをボソッと呟くのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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 待ち合わせ当日となり、相手より5分前に現地に到着しようと出発した。

 

 楽しみだったかは置いておいて昨晩は色々と考え過ぎて少々寝不足である。まあ陰キャだからしかたないね。

 

 

 

「……あれ?」

 

 

 

 待ち合わせ場所につくとそこには既に見たことがある桃色の髪の少女がいた。時計を見たが余裕を持って出たため待ち合わせまでまだ10分もあった。まさかと思い急いで彩の元に駆け寄った。

 

 

「ごめん。待たせたかな?」

「ううん大丈夫。私もちょっと前に来たくらいだし」

 

 

 まさかのどこにでもある待ち合わせのやり取りをやるはめに。そこ、『お前ら言うべき台詞逆だろ』とか言わない。俺も早めに来たんだから。

 

 

「それにしても来るの早いね。まだ10分前なのに……」

「あ……。うん、ちょっとね」

 

 

 まさかとは思うが彩も待たせないように早めに来ようと気を使ったのかな? 

 

 

「とりあえず移動しない?」

「そうだね」

 

 

 彼女の呼び掛けにより俺たちは移動を始めた。

 

 

 

「ところでどこか行くところがあるの?」

「うん。この辺りでケーキが美味しいカフェがあるから一緒にどうかなって思って」

 

 

 

 今日のプランもしっかり考えていた。本来男がやるべきなのだが面子が丸潰れである。

 

 まあ、過ぎてしまったものは変えられないので今後の反省点として記録しておこう。

 

 

 

 

 

 道中で他愛もない会話をしながら目的地のカフェに到着。そこは落ち着いた雰囲気でリラックスするにはうってつけといった場所だった。

 

 

 

「カフェラテとショートケーキお願いします」

「俺はアメリカンコーヒーとチーズケーキで」

 

 

 

 それぞれが品物を注文すると店員は奥に戻る。

 

 

 

「彩ってよくここに来るの?」

「よくって言うか……たまにかな?」

「なんかごめんね? 率先して貰っちゃって」

「そんなことないよ。私もイサムくんとお話したかったし」

「そっか。それでなんだけどさあのメールのことなんだけど……ここで話しても大丈夫かな?」

「うん、大丈夫だよ」

 

 

 

 笑顔で答える彩。そのままイサムは質問を続けた。

 

 

 

「彩、本当にアイドルデビューするんだ」

「そうなんだよ。事務所の意向で私を含めた五人でアイドルバンドを組むことになったんだ」

「……良かったね。夢、叶って」

「うん」

 

 

 

 一瞬彩の表情が曇ったような気がした。ずっと追い求めていた夢が叶ってアイドルになることが決まった。なのに何故嬉しいという言葉に裏があるように感じるのか。

 

 

 

「実はね……私、今回が駄目だったら諦めるつもりだったんだ」

「え?」

「でもこの話は3年間の研究生の中でやっと巡ってきた最初で最後のチャンスだから……なにがあってもやり遂げたいんだ」

 

 

 

 なんでだろうか。今日の彩の言葉には重みを感じる。芸能界のことをよく知らない俺がとやかく言えることでは無いのだろうけど……何か別の意図が裏にあるのかもしれない。確信はない、ただそんな気がしただけ。

 

 それでもアイドルになることは本当のことだ。だとしたら俺と彩は……。

 

 

 

「ねえ、彩」

「何?」

「俺たち……これからも友達でいられるよね……?」

 

 

 

 ふとそんなことを言ってしまった。彩もビックリしたような顔をしている。

 

 

 

「ごめん! 今の忘れて!」

「大丈夫だよ……」

「え?」

「私はイサムくんと友達でいるから……!」

 

 

 

 その言葉が発せられたことによりこんな重い雰囲気にしてしまった少しの後悔と彼女の言葉により少しだけだけど心が軽くなった思いが複雑に流れる。

 

 

 

 俺たちの間で沈黙が続いてるところに注文した品が来た。タイミングが良いのか悪いのか……。

 

 

 

「とりあえず食べよう?」

「そうだね」

 

 

 

 そうして俺はアメリカンコーヒーを飲む。うん、苦味が強いけど美味しい。

 

 一方の彩はスマホでケーキを撮っていた。最近よくいうSNS映えというものかな? 

 

 

 

「ねえねえイサムくん! これ見て! 凄く綺麗に撮れたんだ!」

「ホントだ。彩って写真撮るの上手いんだ」

「上手いのかはわからないけど……私自撮りの研究とかやってるからね。こういうのは綺麗にしておきたいんだ」

 

 

 

 そう言って彩はケーキを食べ始めた。そのときの彼女はさっきまでとは違い裏表のない満面の笑みだった。

 

 

 

「イサムくん! このケーキ美味しいよ!」

「そうなんだ」

「イサムくんも食べてみる?」

「え?」

 

 

 

「はいっ!」とケーキの乗ったフォークを俺に出してくる彼女に対して若干困惑する。これは意図的な行動なのか、それとも何も考えてないのか。でもこれはあからさまに勘違いをしてしまいそうなシチュエーションである。

 

 そんな中で俺は……。

 

 

 

「…………んっ」

 

 

 

 そのままケーキが俺の口の中にIN。

 

 とりあえず一言言えるのは……美味しい、そして甘い。このショートケーキがこの甘さなのか雰囲気により糖度が増したのかはわからないけど凄く甘い。そして彼女を見ると凄く満足そうな顔をしている。

 

「どうかな?」

「あっ……うん。おいしい……です」

 

 おかしいな? ここ暖房効いてたっけ? なんか凄く温いんだけど……。

 というか周りの目……。なんか笑われてるというか……生暖かい目で見られてる気がしてなんかこう……。

 

「イサムくん? 顔赤いけど大丈夫?」

「えっ? うん! 大丈夫大丈夫!」

 

 彩は身を乗り出して聞いてくる……って近い近い! 顔の距離が! 

 ヤバい。もうなんか勘違いしそうな事ばっかで……。というか彩って天然なの? 

 

「えいっ!」

 

 パシャっとシャッターがきられたような音がした。見ると彩はスマホのカメラを自撮りモードにしていて写真を撮っていた。その画面には彩と俺が写っていて……。

 

「え? ……えっ?」

 

 突然のことに脳の処理が追い付かない。

 

「あっ……。えっと……突然ごめん! せっかくだしイサムくんとの写真撮っておきたくて……」

 

 彩は俯きながら呟いていた。うん、なんか可愛い。怒ってないけどなんか許したくなっちゃう。

 

「俺なら大丈夫だよ?」

「……! ありがとうっ!」

 

 いや、本当可愛いすぎる。可愛過ぎて語彙力無くなってきたよ。この子は天使かな? いや、天使だったね。

 

「ふふっ。急に撮ったからイサムくん変な顔してるね」

「いやさっきのは不意討ち過ぎて顔なんか心配出来ないよ……」

 

 こんなやり取りをしながらそれぞれケーキを食べていた。この時間は俺にとってとても楽しい時間だった。願わくばこの時間が俺が望む限り続きますように……なんて考えたり。

 

 

 

 

 

 ─────────────────

 

 

 

 

 

「「ごちそうさまでした」」

 

 

 ケーキを食べ終わり、2人は会計に向かう。とりあえず俺は伝票を手にして財布を出し会計をする準備はしっかりと整えてきた。今日は彩にお膳立てして貰ってばかりだったからここは男として女の子に財布を出させる訳にはいかない。行くぞレジ従業員、お釣りの貯蔵は十分か? 

 

 

「合計○○○○円になります」

「じゃあこれで」

 

 流れるように3000円を取り出しお会計をすませようとした。

 

「あの、お会計って別々に出来ますか?」

 

 だがそれを良しとしないのか彩は自分の分を払おうとしていた。

 

「いいよ彩。ここは俺に払わせてよ」

「えっ? でも……」

「良いって。彩は今日の為に色々と考えてくれてたんだし俺にもお礼させてよ」

 

 そう言って彩を説得し会計は俺持ちになった。ただ会計の際のやり取りでレジの人まで生暖かい目で見てきたのが少し気になったけど……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして楽しい時はあっという間とはよく言ったものだ。その後も色々と歩いて回っていたら夕暮れとなりお別れの時間となった。

 相変わらず俺は彼女の家の付近まで送ってから帰宅コースになる。というのも彩からの要望だし最近は不審者も増えているので断る訳にはいかない。

 

「ありがと」

「え?」

 

 突然の言葉に俺は戸惑う。

 

「イサムくんと話してたら凄く楽になったから……」

「彩?」

 

 何か悩み事でもあったのかな? と思いながらも彼女の顔には満面の笑みが浮かんでいた。俺の思い込みならいいんだけど……。

 

「ねえ……もし勘違いなら悪いんだけどさ、何か悩み事とかあったりするの?」

「えっ? ……大丈夫だよ?」

「そっか。もし何かあったら俺で良かったら相談にのるよ?」

「うん。じゃあそのときは……お願いしようかな?」

 

 そういうと彼女は優しく微笑んだ。

 

「あのさ……イサムくん」

「何?」

「また……こんな感じで会ってくれるかな……?」

 

 夕焼けでよくわからないけど若干顔を赤くしながら問いかけてきた。

 

 そんなの……答えは1つしかないじゃないか。

 

「俺で良かったら喜んで」

 

 そう答えると凄く嬉しそうな顔をしてくれた。その時の笑顔だけでも俺は救われたような気分になった。

 

「ありがとう!」

 

 何気ないやり取りをしながら2つの影は前に進んでいく。

 

 今日、彩と出かけたこの時間で俺は彼女に救われたような気がしていた。

 

 

 

 

 

 




前回の流れで気づいた人もいるかと思いますがイサムくんは既に彩ちゃんに…。

失礼、ここから先の話はまた別の機会にしましょう。



そして新しくコメントをくださった水色( ^ω^ )さんありがとうございます。

評価の方も
☆9評価をくださった仮面ライダーウルム(ツイのルード)さん。
☆5評価をくださったぼるてるさん
ありがとうございます。

コメントや高評価じゃんじゃんお待ちしております!


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崩れゆく夢

『夢ってのは呪いと同じなんだよ。呪いを解くには夢を叶えなければ。でも、途中で挫折した人間は、ずっと呪われたままなんだよ』

私の好きな作品に出てくる言葉です。

さて、突然この言葉を出されてもなんのこっちゃと思う人もいるでしょう。ですがこの言葉は今回のお話だからこそ先に紹介しておきたかったのです。

その理由はこの物語を見てくださればわかる筈…。




 

「おはよう……」

 

 朝起きてリビングのソファーに座り込む。隣のテーブルでは母親が目玉焼きとベーコンを焼いたものをお皿に盛り付けていた。

 

「おはよう。寝癖すごいよ? というか顔洗ってきなさい」

「はいはい……」

 

 洗面所で顔を洗い、作ってくれたベーコンエッグとトーストにマーガリンを塗って食べる。ごく普通の朝食だけどこれが一番落ちつく。

 

「母さん、新聞は?」

「そこに無いの?」

「うん」

「じゃあソファーじゃない?」

 

 そう言われてソファーを見ると本当に新聞が置いてあった。…………と言っても見るのは天気予報のところくらいだけどと思いながら開いて記事をみた時、今までの眠気が一気に覚めた。

 

「何これ……」

 

 そこには信じられないことがかかれていた。

 新聞の1ページ、それには……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『パスパレ大失敗、口パクやアテフリがデビュー当日にバレる』と書かれていた。

 

「そんな……どうして」

 

 そう呟いた時、俺はあの時の彩の違和感を思い出した。夢が叶い晴れてアイドルになれる。なのにその笑顔や言葉にはどこか影が見えていた。これらの行動もこの事件を見たらすべて合点がいった。もちろんライブはあの出来事より後の話だ。

 これは俺の推測だけど彩たちはあらかじめ上からこうするように指示を受けていた。しかしそれは仮に成功したとしても彼女達にとって、彩にとっては多くの人たちに嘘をつくことになる。それはファンに対しての裏切り行為でもある。その事を悩んでいたんだとしたら……。

 

「彩……!」

 

 俺は真っ先に服を着替えて家を飛び出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ここまではわかるんだけど……」

 

 とりあえず彩に会うためにこれまでの記憶からこれまで彩と歩いて来た道を辿ってみたけど彩の家までは行って無かった為途中までしかわからない。

 

「そうだ。電話……」

 

 俺はスマホを取り出し彩と連絡をとろうとする。しかし……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………………」

 

 通話ボタンを押そうとしたが何故か押せなかった。

 

(あの時……俺がもっと彩の思いに気付いてあげていれば……)

 

 その理由は後悔と罪悪感、そして自分の不甲斐なさが原因だった。

 あの時会おうとしたのは密かに誰かに助けて欲しかったからではないのか。でも打ち明け無かったのは無闇に外部の人にそういった事情を話す事が出来なかったから。そんなことはわかってた。

 

 それでも……もっと俺がしっかりと彩に向き合っていたら……。

 

 あんなことで悩んだりしてなければ……! 

 

 俺よりも悩んでいた人が目の前にいたというのに! 

 

 今更悔やんでも後の祭りだ。だとしても悔やむ事しか出来なかった。

 

 

 

 自分の事ばかり抱え込んで彼女と向き合えなかった自分自身を。

 

 

 

 

 

 

 

 ──────────────────

 

 

 

 

 

 

「であるからして……これは……」

 

 イサムはその後もパスパレ、そして彩の事が頭から離れなかった。結局あの後も彩にも会えずそのままになってしまい心ここにあらずといった感じだった。

 

(彩……大丈夫なのかな……)

「佐倉。聞いてるのか佐倉」

「えっ? あっ……はい」

「そうか聞いてたのか。なら次の文を代わりに読んでみろ」

「えっ……。He say to be the king……」

「違うぞー。それは1個前の文だ。授業聞いてなかったな」

「すみません……」

「しっかりしろよ。ここテストに出るポイントだぞー」

 

 席に座り「はあ……」とため息をつくイサム。その光景を見たのはアキラ1人だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あーあ。ホント何やってんだろうね俺は」

 

 放課後になりイサムは人の来ない裏庭のベンチで横になる。スマホを取り出しRINEを見るが一向に動きは無し。イサムも『大丈夫?』と送ろうとしたのだがその時に限って指がそれ以上動かなくなる。今優しい言葉を送っても彼女の心が晴れるわけではない。それにもしかしたら逆にニュースのことを思い出させそうで送れなくなったのだ。

 

「………………」

 

 スマホを眺めながら教室で他の人たちがパスパレについて語っていたことを思い出す。

 

 

 

『パスパレって何がしたかったんだろうな』

『口パクバンドまでして売れたかったのかね?』

『まあ自業自得だな』

 

 このような感じで言いたい放題だ。しかし実際にそうだった為反論できない。だが、彼はもっと悔しくなるような言葉も聞いてしまった。

 

『丸山彩って何回も落ちまくってようやくデビューできたのがこれだってさ』

『まあその程度の実力ってお偉いさんにも思われてるんだろ』

『最悪捨て駒役にされてたんじゃね?』

『というかあの程度で本人もよく引き受けたよな~』

 

 黙れ、あんたらに彼女の何がわかる! 

 そう叫びたかった。でも出来なかった。今反論したところで1人の力ではどうにも出来ない。それにその事でイサムと彩がプライベートでも会っていた事が知られると別の意味で問題になる。もちろん彼女だけでは無い。他の4人に対しても好き勝手言われてばかりだった。彼はただその言葉に黙って耐えるしかなかった。

 

 

 

 

 俺はなんて無力なんだ……。イサムは心の中で何度目かわからない後悔をした。

 

 

 

 

 

 

「おい」

 

 額に冷たい感触が走る。顔をあげると彼の前にはアキラが缶ジュースを持って立っていた。

 

「アキラ?」

「人がいないからとはいえ堂々とベンチで寝るな」

「ごめん……」

 

 起き上がると隣にアキラが座り缶ジュースを1本突きつけた。

 

「え?」

「やるよ」

「……ありがとう」

 

 蓋を開け1口飲んだ。昼ご飯も食欲が沸かず抜いていた為朝ごはん以来何も口にしてなかったのでいっそう喉に染みた。

 

「あのニュースのこと気にしてるのか」

「……バレてた?」

「当たり前だ。今日のお前の行動はいつもに増して妙だったからな」

「そんなことは……無い気がするけど……」

「前向いて歩いてるのに電柱にぶつかったり教科書逆さにして授業受ける奴が大丈夫な訳あるか」

「うっ……」

 

 ぐうの音も出ないことを言われ何も言い返せずそのまま黙り混んだ。

 

「アキラはさ……どう思うの?」

「何がだ」

「いや、最近デビューしたアイドルバンドの……」

「パスパレか」

「うん」

 

 一瞬黙り混み少しの間沈黙が続いた。そしてアキラが語り始めた。

 

「どうにも言えないだろ。恐らくこの企画を持ちかけてそう動くように指示したのはスタッフとかだ」

「アキラもそう思うの?」

「だがあいつらも全く責任が無い訳ではない。現にその要求を最終的に受けてしまい今こうなってる」

「…………」

 

 イサムはアキラの厳しい意見に何も言い返せなかった。

 

「だがこの先どうなるかはあいつら自身にかかっている。これ以上の批判に怯えこのまま終わるか、それともこの状況と戦うか。それを決めるのはあいつら次第だ」

「アキラ……」

「お前が心配してるのは勝手だ。だがこれはあいつらの問題だ」

 

 黙り混むイサムに「だがな」と言葉を続けた。

 

「お前はあいつらがこんなところで終わるほど弱い奴らだと思っているのか?」

「えっ……?」

「もし覚悟が出来てない様なら最初から出てきて無い筈だからな。ここで逃げるようならあいつらはそこまでという訳だ」

 

 そう言い残すとアキラは空き缶をゴミ箱に捨ててどこかに行ってしまった。

 

「俺は……」

 

 

 

 

 

 

 

 ────────────────────

 

 

 

 

 

 

 あれから数分後。俺はファーストフード店に来ていた。特にこれと言って買い物をする予定はない。ここに来た目的は……。

 

「いないか……」

 

 彩を探しに来た。家族でもない女の子相手だし一歩間違えたら変態扱いになりかねない行動だがここは携帯越しで会話をするよりも直接的会って話をした方がいい。そう思ったから。

 

「どこにいるんだ……」

 

 一度思いきって電話をしてみたものの彩が出ることは無かった。でも気持ちはわかる。こんなときに呑気に電話をかけた俺も俺だから。

 

 

 

 それから30分は探しただろうか。しかし一向に見つかる気配はない。このまま会うことすら出来ないのか……。そう思い空を見上げていた。

 

 

 

「あれ……?」

 

 

 

 声が聞こえて振り向いた。そこには……。

 

 

 

 

「イサムくん……?」

 

 

 

 

 

 彩がいた……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「どうしたの? 突然……」

 

 俺たちは近くの公園に移動し話をすることにした。公園に到着した俺たちはベンチに座り暫くの間お互い黙り混んでいた。

 

「ごめん……」

 

 その沈黙を破ったのは俺だった。

 

「えっ……? なんでイサムくんが謝るの?」

「あの時、なんとなく感じてたんだ。彩は何か言いたくても言えない悩みがあるんじゃないのかって。でも俺は……」

「そんなことはないよ。何も言わなかったのは私の方だし……」

「俺がもっと頼りになる人だったら……君に辛い思いをさせなくても良かったんじゃないかって……」

 

 俺の言葉に彩は俯いて黙りこんだ。こう言ったもののよく考えたら一般人1人ごときが事情を知ったところでどうにかなる訳ではないと思った。そんなことはわかってる。わかってるのに……。

 

「あのね……今日、千聖ちゃんに言われたんだ」

 

 ゆっくりと彩が語り始めた。彼女の言う千聖と言う人物はパスパレのベースであり女優業もこなす人だ。俺も名前くらいは聞いたことがあった。

 

「努力が夢を叶えてくれる訳じゃないって……。

 今度もう一度ライブをすることが出来るようになったんだ。私はそれがあの一件からずっと努力をしてきた結果だと思ってた。でも……違ったのかな? 私の努力って……意味無かったのかな?」

 

 彼女の瞳から一粒の涙が溢れた。

 

「私、誰かに夢を与えてあげたい。勇気を分けてあげたい。そう思って今までアイドル目指して頑張ってきたの……。私は恥ずかしがり屋で……歌もダンスも上手くないからさ……。人一倍頑張ってきたつもりなんだけど……。それって本当に意味あったのかな……」

 

 今にも泣いてしまいそうな表情だった。

 なんとなくだけど……その思いは俺にもわかった。だって……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ちょっと前の俺を見てるみたいだったから……。

 

 

「彩、君はさ……今でもアイドルになりたいって言える?」

「……! もちろんだよ! でも……でも!」

「彩、つらいなら無理をしなくてもいいよ。でもさ、俺には彩がここで終わるとは思えない」

「……何で?」

「だってアイドルについて語ってる時の彩は凄く笑ってた。楽しそうだったし輝いてた。それにこうなっちゃったけど……彩も苦しかったんでしょ?」

「…………」

「本当にここで終わりにしたいなら無理は言わない。でも……本当にそれで良いの?」

「……良くないよ!」

 

 彩が声を荒くして反論した。そのまま俺も言葉を続けた。

 

「だったらもう一度だけでも目指してみようよ」

「でも……」

 

 俺の言葉を彩は涙を堪えながら聞いていた。こんなこと言っても未来が良くなるとは限らない。それでも俺はここで夢を諦めて後悔して欲しくなかった。

 

 

 ちっぽけな夢でも密かに抱いてた存在がいた。でも現実に負けてその人は夢を諦めた。空っぽになったつもりでもどこかで後悔していた。でももう戻れなかった。だから……彩にはそんな風にはなって欲しく無かった。

 

 

「俺は彩の笑顔に救われた気持ちになったことがあるんだ。だから、彩の思いも努力も無駄じゃない!」

 

 

 その一言によって彼女が堪えてた涙は次第と流れ始めた。

 

 

「うっ……!! うっ……!!」

「はい、これ使ってよ」

 

 涙を流す彼女にハンカチを渡す。そのまま涙を吹きながら泣き続ける彼女のそばにいる。俺に出来ることはそれだけだった。

 

「イサムくん……」

「何?」

「もう暫く……そばにいてくれないかな……?」

「わかった」

 

 そのまま俺に寄りかかり泣き続けた。自分の手を俺に重ねたまま。

 

 

 

 

 

 俺に出来ることは多分これしかない。それでも、彼女が前に進めるのならそれでいいと思ってる。夢が無い俺でも彼女を支える事が出来たなら。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 俺みたいになって欲しく無いから。

 

 

 

 

 




こんなシリアス展開にしといて言うのもなんだけどさっさとこいつらくっつけてイチャコラさせたい←

新しく感想をくださった水色( ^ω^ )さん、ありがとうございます!

そして
☆8評価をくださった桜紅月音さん、ありがとうございます!


コメントや高評価いつでもお待ちしてます!


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秘めた願い

 

 あれから暫くして彩は泣き止み、そのまま寝てしまった。と、いうのも泣き止んだなと思って暫くそのままにしていたら隣で規則正しい寝息をしていた。

 

 近くで見るととても可愛い寝顔だ。こんなものを見れる俺は相当運気が来てると思う。というかここ数年分の運気を使ってるんじゃ無いかと思うくらいだ。明日事故ったりしないよね?

 

 が、こんな呑気なことを語ってる場合では無かった。今は結構ヤバい状況になっている。というのも…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 彼女を起こすわけにもいかないし俺がこのまま彼女を送らなければならない。だが俺は彼女の家を知らない。

 

 

「マジやばくね?」

 

 

 こればかりはどうしようも無いので彩を起こそうと思ったのだが、彼女の寝顔を見ると起こしたら何かかわいそうな気もしてくる…。

 

 という訳で俺は地道に彼女の家を探すことにした。

 

 

 

 

 

 それから何分歩いただろうか。彩をおんぶして彼女と一緒に帰ってた道を辿りいつも別れるところまで来た。ここからが難関だ。彩の家は知らないからどれがそうなのかがわからない。

 

 

「………標札見ながら探すか…。」

 

 

 とりあえず『丸山』という標札がある家を探すことに。

 

 それから何分かたってようやくその標札を発見した。……だがここで俺は重大な問題点に気がついた。

 

「……どうやって説明する?」

 

 家の人からしたらいきなり自分の娘をおぶって男がやって来たなんて状態を前に冷静にはいられないだろう。最悪大黒柱でも呼ばれて土下座させられる未来も視野にいれておかなければならない。というか彩が俺のことを家で話してるとは限らないし…。

 

 

 どないしよ。

 

 

「………よし。」

 

 

 数分かかって俺が出した結論。それは…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「男は度胸!」

 

 そのままインターホンを押し誰かが出てくるのを待つ。…………とりあえず親父さんが出たら死を覚悟しなければならないかもしれないが。

 

「はーい!どなたですかー?」

 

 ………中学生位の女の子だ。え?この子ってもしかして彩の妹?まあ、髪の毛ピンクだし、彩に似てるのは似てるし…。

 

「おかーさーん!お姉ちゃんが男の人連れてきたー!」

「ちょ!?お嬢ちゃん!?」

 

 なんて言い方するんだこの子は!勘違いされる言い方はやめなさい!というか俺が彩を連れてきたんだけど!でもここは彩の家だからこの表現でもあってるのか?

 

ニホンゴムズカシイネ。

 

「えっ?彩に男の子…って…。」

 

 ほら、お母さん困惑してるじゃん!

 

「あの…彩のお友達ですか?」

「はい。佐倉イサムといいます。夜分にすみません。」

「イサム…ああ~もしかして…。」

 

 え?何?知ってるの?というか初対面だよね?

 

「とりあえずあがって。外寒いしお茶だすわよ?」

「え?」

「ほらほら!いいからあがってあがって!」

「じゃあ…お邪魔します。」

 

 何故かあっさり中に入れてくれた彩のお母さん。これ何かよろしくないことの前触れとかじゃないよね?後で後ろからズドンとやられないよね?

 

 とりあえず彩のお母さんの案内で彩の部屋に入り彩をベットの上に。そのまま俺は居間へと案内され「そこのソファーで待っててね。」と言われそのまま待つことに。

 

「お待たせ~。紅茶で良かったかしら?」

「わざわざすみません。」

「良いのよ。彩が彼氏連れてきたのなんて初めてだからね~。」

「いや彼氏じゃ無いです!?ただの友達ですからね!?」

「あら?そうなの?」

「そもそも僕なんかに彩さんは勿体ないですよ…。」

「そうかしら?」

「ところで…なんか僕のこと知ってるみたいでしたけど…彩さん家で何か言ってたりしたんですか?」

 

 俺がそう聞くと彩のお母さんは「そうそう。実はね…」と語り始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

数日前

 

 

「えっと…なんて送れば良いのかな…?」

 

 彩はスマホと向き合っていた。というのもグークルを開き幾つかの単語を入れながらこれからやろうとしてることに最も最適な方法を探していた。

 

「彩~お風呂沸いたわよ~。」

「は~い。」

 

 

(お風呂入ってる間に考えてみようかな?)

 

 

 彩はテーブルにスマホを置いたままお風呂場に向かった。

 

 その1分後、丸山母はソファーに座りゆったりしていたのだが彩のスマホから「ピロン」と音がなり着信が入り、たまたま近くにあった為画面が見えてしまったがそこには送り主の名前に「イサム君」と表記されていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ってところかしら?」

「なるほど。」

 

 そういうことだったのか。

 

「その後で彩に『イサム君って誰?』って聞いたらあの子ったら顔真っ赤にしてあたふたしてたからてっきり彼氏でも出来たのかと思っちゃった。」

 

 いやなにそれめっちゃ見たい。

 

「イサムくん。」

「はい?」

「彩と仲良くしてちょうだいね?」

 

 微笑みながら語りかけてきた……って怖っ!本人そういう気でしてないとは思うけどその微笑みが怖い!

 

「そ…それは勿論。」

「それにしてもあの子…大丈夫かしらね?」

「えっ?」

「ほら、今話題になっちゃってるでしょ?良い意味ではないけど。あれ以来ずっと暗い顔してたから心配で…。」

 

 彩のお母さんは紅茶を啜りながらそういった。

 

「あの子昔から無理ばっかりして、つらい時もとにかく一生懸命にやって体壊してるから…母親としてはどうしても気にしちゃうのよね。」

「そうですか…。」

「それに何かあったら結構重く考えて自分のこと責めちゃうタイプだから…。」

 

 彩のお母さんがそう思うのも無理はないと思う。あの時の涙でかなり思い詰めてるのが伺えた。決して弱さを見せないようにしようと頑張ってたかのように。

 

「僕にもわかりません…。多分…彼女はこの先も辛いことがあるだろうし、その度に自分を責めてしまうこともあるかもしれません。それでも彩には自分を信じて前に進んで欲しいんです。」

 

 気づかないうちに俺は語りはじめていた。こんな言葉を並べてもただの自己満足とかエゴイストとしか思われないだろう。

 だがそう思うのには理由があった。

 

「空っぽになったら…何も感じなくなっちゃうから。」

 

 彩には…そうなって欲しく無いから。

 

「イサムくん…。」

「…あっ。すみません!勝手に知ったかのような口を聞い「彩のことお願いね?」…はい?」 

 

 突然俺の手を握り彩のお母さんは言った。

 

「えっと…話が見えないんですが…。」

「今は見えなくて良いの!とにかく、よろしく頼んだわよ?色々と!」

「えっ?えっ?」

 

 ドユコト?

 

 この後俺は夕食を食べていかないかと誘われたものの時間はとっくに8時を越えていてこれ以上遅くなると親に心配をかけるからということで帰ることにした。まあ元々彩を送り届けたらミッション完了みたいなものだから良いと思うし。

 

「お邪魔しました。」

「またいつでも来ていいからね~。」

 

 こうして俺の丸山家訪問は幕を閉じた。

 

 

 

 

 

 

◆ ◆ ◆ ◆

 

 

 

 

 

 

「お母さーん、さっきのお兄ちゃんは~?」

「さっき帰ったわよ?」

 

 丸山妹が母親のもとに駆け寄る。

 

「ねーねー、お姉ちゃんの彼氏なのー?」

「ううん。お友達だって。」

 

 「今はね。」と付け足しながら説明する母だが、どうやら妹には意味が伝わってないようだった。

 

「それで~?いつから起きてたの彩?」

 

 丸山母が訪ねると壁の影から彩が来た。

 

「お母さん…いつから気付いてたの…?」

「あの子が話始めた時からね~。イサムくんは凄く必死だったから気付いてなかったみたいだけど?」

「うっ…。」

「…いいお友達を持ったわね。」

「…うん!」

「彩。イサムくんを大切にしてあげなさいよ?」

「えっ?」

「運命ってのは突然やって来るものだからね?それと…明日はお赤飯にする?」

 

 顔を真っ赤にしながら「お母さん!?」と言う彩を他所に丸山母は鼻歌を歌いながら晩ごはんの用意を始めた。

 

 どうやらこちらでも一波乱あったみたいだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 一方で…

 

「へっくしゅん!」

 

 イサムは軽い噂をされてると気づかずに「風邪引いたかな…?」と1人夜道を帰っていた。

 

 

 

 

 




先週のジオウの次回予告でバズーカクラスの衝撃を食らったキズカナです。ブレイド編ずっと待ってました!

新しくコメントをくださったミノさん、水色( ^ω^ )さん、ありがとうございます!

コメントや高評価くださると作者のモチベーションが大幅に増加しますので是非よろしくお願いします!

というか関係ない話に戻るけどはたらく細胞とか転スラとか色々と二期決定してこれからが楽しみな私です。

それとバンドリ二期が今週最終回ですがきっちりリアルタイムで見ますぜ!



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捨てた者と進む者

 

 あの日からまた数日がたった。

 世間は相変わらず忙しそうで皆学業や仕事に追われていた。

 

「・・・・・・・・」

 

 あの出来事から暫くが経ち、周りでパスパレについて話している人はほとんどいなくなった。それでも俺はなんとなく…なんとなくだけど考えてしまう。

 

「はあ…。」

 

 あれ以来RINE越しではあるが段々と彩とのやり取りも増えていた。だがあまりパスパレの話は控えるようにしている。というのも俺が勝手に気を使ってるつもりでそうしてるだけで彩から少しではあるがそういう話を聞くこともある。

 

 

 ザー…。

 

 

 外を見ると雨が降っていた。いつから降り始めたのかはわからない。だが一応折り畳み傘を持って来ていたので帰るときは困らないだろう。

 

「イサムくん、今日はもうやることも無いしあがってくれていいよ?」

「わかりました。」

 

 まりなさんにそう言われて帰り支度をする。

 

「雨…強いな…。」

 

 このときの俺は何も知らずに呑気にそう呟いていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

◆ ◆ ◆ ◆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 雨が降り注ぐ中、1人で歩きながら帰っていた。とても強い雨で近くの車の走行音もいつもに比べて小さく聞こえた。

 俺は雨というのはあまり好きではない。というのも色々と理由はあるがやっぱり色々と思い返してしまう。そしてその時に限ってまるでオレを嘲笑うかのように雨が降り注いだ。

 特にあの時は…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

2年前…

 

 半年前、学校である作文の提出があった。それは『将来の夢について』だった。俺は昔から音楽が好きだった。というのもきっかけが小さいころに親と喧嘩して家出をした際に偶然通りかかった駅前で弾き語りをやってたお兄さんの音楽に心を引かれた…というもの。他の人からしたら妙な理由なんだけど。その後ギターを親にねだったもののアンプやらケースやらを揃えると十数万はするものばかりだった為、「流石に小学生の買い物じゃないんじゃないか?」と親に断られたのも覚えている。代わりと言ってはなんだけど何か他のものを誕生日にプレゼントしてくれたのは覚えてるがそれが何かは思い出せない。それにギターはそのうちお金が貯まったら買おう思っていたほど熱中していた。

 話が逸れてしまったが当然夢…と言われるとどうしても悩んでしまうものだ。しかもタイミングがタイミングで中学卒業前という割りと考えて書かないといけないやつで。親に相談したら「イサムが好きなこと考えて書けばいいんじゃない?」と言われたので俺は『あのときのお兄さんのように音楽で誰かの心を動かせるような仕事につきたい』と書いた。

 だが問題はここからだ。その後、先生と生徒の二者面談があり、その時の先生から酷いダメ出しを食らった。

 

 

「何だこれは?舐めているのか?」

「こんなことで大人になってやっていけると思っているのか。」

「そもそも音楽の仕事についてお前はどれだけ知っている。何も知らないだろう。」

「もういいけどお前は早く現実的な夢を見るようにしろ。将来と理想は違うんだ。」

 

 

 今思い返すとこれが卒業前の中学生に言う台詞かよと思ってしまう。因みにこれは後から知ったことなんだけどその先生はどうやら極端なリアリストで裏ではあまりいい評判では無かったとのこと。

 それでも当時の俺は何も言い返せなかった。現に音楽についての仕事なんてミュージシャンやアイドルといった一部のことしか知らなかったし、そんな人前にたてるようなメンタルもない。それにギターだって買おうとしてお年玉を貯めていたが未だに雀の涙ほどしかなく到底買うことが出来なかった。

 それ以前にあの時に必死に考えた夢をボロカス言われて俺の心もボロボロになり次第と色褪せてしまった。

 

 それからだろう、俺が夢を捨てて次第と空っぽになってしまったのは。

 

 そしてその時も…強い雨が降り注いでいた。

 

 

 

 

 

 

 

 それから暫くして雨はやんだ。それでもまだ俺の中では降り続いてる、いや最初から完全に晴れたことは無かった。

 

「なんで今更こんなこと…。」

 

 夢を捨てたのはあの時の先生のせいでは無いことはわかってる。ただきっかけになっただけ。捨てたのは俺自身でそれ以上前に進む勇気が無かったから。それなのに…。

 

 まだ未練残ってるのかな…?

 

 空を見上げながらボケッと歩いてると誰かとぶつかった。

 

「あ、すみません…」

「いえ、こちらこそ…」

 

 俺がぶつかったのは…。

 

「イサムくん!?」

「彩?…と誰?」

 

 そこにはびしょ濡れの彩とパステルイエローの髪をした少女がいた。

 

「彩ちゃん、そちらの方は知り合い?」

「うん。イサムくんだよ!」

 

 「そう」と呟いて少女は俺のことを見た。その表情は笑顔だったが僅か一瞬、何か…背筋をなぞるような感覚に教われた気がした。

 

「彩ちゃんと同じメンバーの白鷺千聖です。」

「佐倉イサム…です。」

 

 丁寧にお辞儀をして挨拶する千聖さん。でも…この人さっきから目が笑って無かった。

 

「それにしても二人ともびしょ濡れだけど大丈夫?」

「うん、さっきまで駅前の劇場前でチケットの販売をしてたから…。」

「えっ…?」

 

 言葉を失った。

 あの雨のなかを?

 ずっと?

 

「二人だけで…?」

「ううん。雨が降る前は他の皆もいたんだけど…私だけ残ったんだ。それでその後千聖ちゃんが来てくれて。」

「そんな状態で…?」

「うん。私が無理言って残らせてもらっただけだから。」

「何も…酷いことは起きなかったの?大丈夫だったの?」

「大丈夫だよ。ただ…ちょっと売れが悪かった気もするけど…。」

 

 そう言いながら彩は笑っていた。

 

 それでも…なんとなくだけど無理してるようにも感じた。

 本当は苦しいはずなのに…どうして?

 

 

 どうして君はそこまでまっすぐでいられるの?

 

 

「無理してる…。」

「……!」

「彩…多分だけど大丈夫じゃないと思う。俺の思い込みだったら悪いんだけど…。」

「イサムくん…。」

「どうしてそこまで…。」

「それはこの子がこういう子だからよ。」

 

 そう答えたのは千聖さんだった。

 

「私もあなたと同じ思いだったわ。どうしてそこまでするのかわからなかった。だから私はここに来たの。それでわかったわ。彩ちゃんは愚直で不器用だけど自分にはこれしかないって自覚した上で夢に向かって進んでいる。そんな子なの。」

「・・・・・・・。」

「あなたに何があったのかはわからない。でも…それはあなたもわかってるんじゃないかしら?」

「・・・・・・・。」

「イサムくん。」

 

 彩は俺の目を見た。そして言葉を続けた。

 

「私も…本当は辛いって思ったことがあるよ。でも今日も踏みとどまれたのはイサムくんのお陰でもあるんだ。」

「え…?」

「イサムくんは前に私に救われた気がしたって言ってたよね?あの言葉…本当に嬉しかった。こんな私でもこうやって誰かを元気づけられるんだって。だから…私、今日また思ったんだ。私は…やっぱりアイドルになりたいって。私らしいアイドルに。」

「彩…。」

 

 俺が…?彩の背中を後押しした…?

 

「彩ちゃん、そろそろ戻りましょ?」

「うん…。イサムくん、それじゃ…」

「ちょっと待って。」

 

 彩を呼び止めた俺は彼女にカバンから出したタオルを渡した。

 

「よかったら使って。びしょ濡れのままだと風邪引いちゃうから。」

「え?」

「一応使って無いから汚くはないけど…。」

 

 彩はそのまま「ありがとう」と言ってタオルを受け取り、千聖さんと帰って行った。

 

 

『でも…それはあなたもわかってるんじゃないかしら?』

 

 

 わかってたよ。最初から。

 彼女は俺とは違うって。

 俺が勝手に自分を重ねて、勝手に心配してただけだって。

 でも彼女は途中で夢を捨てた俺とは違う。

 彼女はただ前を向いている。強い信念をもって。

 

 

 

 彼女は…俺とは違う。俺とは違って強い。

 

 

 

 

 だから…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 嫉妬してたのかも知れない。

 

 

 

 

 






新年号は「令和」でしたね。平成も終わりか…。わかってたけど実感ないな…。

それと今回、イサムが『ギターの代わりに何かを貰った』とありますがもし良かったら皆さんでそれが何か予想してみてください。ヒントは『特撮でたまに出てくる楽器』です。イサムの趣味を見直してみるのもありかも?

新しく評価とコメントをくださった水色( ^ω^ )さん。ありがとうございます!

高評価、コメント、絶賛お待ちしております!

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後悔はしたくないから


最初に言っておく。

今回、まりなさんについてほんのちょっといじりました。
後、人によっては要所要所で『これまりなさんっぽく無くね?』と思われるところがあるかもしれません。
ご理解とご了承のほどよろしくお願いいたします。




 

 

 あれからパスパレの評価は再び戻りつつあった。どうやら彩が雨の中でも挫けずにチケットを売り続けたことにより再び興味を持つ人が戻って来つつあるとのこと。

 

 

 そんな中で俺の中の時間は完全に止まっていた。

 

 

 その理由は完全に俺の中での話何だが、あの時彩が1人で雨の中でチケットを売っている映像がネットにあげられていた。その動画にはその努力を認めて再び応援しようとする人はいた。そして逆にそれを馬鹿にする人もいた。まあ人間というのは価値観の違う人ばかりだからこうなるのはやむを得ないかも知れないがその時の彩の姿を見ると夢の為にここまでしているのにどうしてそんな心ない言葉をかけられるのかと思ってしまう。

 そしてあの日以来その度にわからなくなる。

 

 

 どうして人は夢を持つのか。

 こんなに苦しい思いをして頑張っても報われない人は報われないし、それで叶わなかったらその過程すらも後悔してしまうかもしれない。

 

 

 そしてこの度に辛い思いをする。

 だったら…

 

 

 

 

 

 

 

 夢を持つ必要って何なんだ?

 

 

 

 

 

 

◆ ◆ ◆ ◆

 

 

 

 

 その後日、俺は休みの日に『CiRCLE』でバイトをしていたんだけど…。

 

 

「イサムくん、この書類なんだけど…。」

「はい?」

「判子…逆に押しちゃってるよ?」

「あ…。」

 

 

 今日は不調だったのかやたらとミスをした。

 

 

 

「イサムくん、お願いしてたコピーは?」

「あ!すみません!今すぐやります!」

 

 

 

 こういう些細なミスや…。

 

 

 

「あれ?これなんか合わないな…。」

「どうしたの?」

「いや、ここの入力がうまく合わなくて…。」

「えっと……ってイサムくん!これ2つずつ入力マスずれてるよ!?」

「しまった…。」

 

 

 

 普段やらないようなミスをしたり。

 

 

 

 

「じゃあ僕三番スタジオの掃除してきます。」

「うん。お願い。」

 

 

 こうして積極的に業務に励むのは良いものの…。

 

 

 

「まりなさん…助けてください…。」

「いや何があったの!?」

 

 

 

 濡れていた床で足を滑らせた上に絡まってたコードでこけて倒れてきた機材の下敷きになったり等の失態ばかりだった。

 

 

 

 

 

 

「はあ…。」

 

 一通りの処理が終わったことで俺はカウンターで当番をしていた。

 

「おーい。」

 

 声をかけられると同時に首筋に冷たいものを当てられて衝動的に後ろを振り向くとそこには缶コーヒーを持ったまりなさんがいた。

 

「はい、ちょっと休憩したら?」

「わざわざすみません。後ありがとうございます。」

 

 渡された缶コーヒーを受け取ってそのまま飲む。

 

「どうしたの?何か悩み事?」

「いや…悩みというか…。これはなんと言えばいいのか…。…まあ大丈夫です!」

「今日の一連の流れを見るととても大丈夫そうには見えないけどな~?」

「うっ…。」

 

 痛いところを疲れた俺は「実は…」とまたまりなさんに相談することにした。

 

 

 

 

「なるほど…。それで自分の気持ちがよくわからなくなってるってことか。」

「はい。今回のことは僕が勝手に思い込んで勝手に悩んでるだけってのはわかってるんですけど…。」

 

 俺の言葉にまりなさんは黙って耳を傾ける。

 

「本当…なんかこうしてると自分がみっともなく思えてきて…。そもそも彼女は前を向いて進み続けてるからこういう結果なのはわかってます。でも…なんか…こううまく言葉に表せない想いが混ざっちゃって。」

 

 俺は暗い顔をしながら話したと思う。この想いはどこから出てきてるのかはわからない。夢を掴んでいる彩に対する劣等感か、努力が実った彼女への嫉妬か。それとも他の何かなのかはわからない。でも…今はっきりと言えるのは…ただ未だに俺は逃げてるだけということ。辛い現実から、そしてそれを変えられない自分自身から。

 

 それに俺は彼女と同じ土俵に上がれてすらいなかったのだから。

 

「……なんとなくだけどわかるかもしれないな。」

 

 突然まりなさんが喋りだした。俺は驚いたが構わずに続けた。

 

「イサムくん、私前に『夢をそのままにした』って言ったよね?」

「確か…。」

 

 そう言えば前にまりなさんの夢を聞いたときだったかな?あの時は訳ありみたいだったからそれ以上聞いてなかったけど…。

 

「実はあれなんだけど…私は昔バンドやってたんだ。」

「バンドを…?」

「うん。それも結構本気でプロ目指してたんだ。だからいい演奏をしようと頑張った。ずっと思ってたんだ。良い演奏をしていればいつか誰かに見つけて貰える、プロになれるって。そのために頑張って色んなイベントに出たし路上ライブとかもやったことがあるんだ。」

 

 「でも…」と続けるまりなさんの表情は少しずつ悲しそうになっていった。

 

「結局、プロのスカウトが来るどころか次第と聴いてくれる人も減っていってね…。次第とバンドもバラバラになっちゃって…。そのまま私達は解散しちゃったんだ。」

「そんな…。」

「確かに辛かったよ。本気で頑張っていたのにどうしてなんだろうって。凄く悔しかった。」

 

 まりなさんの雰囲気から彼女にとってそれがどれだけ大きなものだったか…なんとなくわかった。夢を失うってことは大切なものを無くすのと同じだから。

 

「でもね…。」

 

 先程までの雰囲気から再びまりなさんは語る。

 

「今はなんとなくわかるんだ。どうしてこうなったのか。」

「え?」

「イサムくん、ここでライブやってる子には絶対的な共通点があるんだけどわかるかな?」

 

 突然投げかれられた質問に俺は言葉を詰まらせた。

 

「みんな楽しそうなんだ。笑ってて、本気で音楽を楽しんでる。私達に足りなかったのは多分この気持ちなんだと思う。だからさお客さんも楽しんでくれなかったし、誰にも見てもらえなかったんじゃないかなって。

 だから私はここでそんな子達を応援したい。本気で音楽をやってる子達を誰かに見つけてもらえるようにしてあげたいから。

 多分…これが今の私の夢なんだと思うな。」

 

 どこか遠くを見つめるようにそう言った。そのときのまりなさんの表情はどこか寂しそうではあるもののしっかりと前を向いていた。

 

「だからね。夢ってさ、叶わなかったらそこで終わりって訳じゃないと思うんだ。うまくは言えないけど…道はきっとどこかでどこかに繋がってる…って感じかな?」

「繋がってる…?」

「その先をまっすぐ進んでも途中で別の方向に向かっても…多分絶対的な正解なんてないんだよ。夢が叶う人もいればそうじゃない人もいる。でもその途中で夢に届かなかったりしても夢を追いかけたことに後悔はしたくない。だからみんな頑張ってその先に行くんだと思うな。そうすればいずればどんな未来だとしても自分の望む結果に繋がるんじゃないかな?」

 

 夢を追いかけたことに…。

 

「まりなさん。」

「ん?」

「まりなさんは…夢を求めたことに後悔はしてないんですか?」

 

 そう訪ねると「うーん…」と考える仕草をして語り始めた。

 

「それはまだ『ああしたら良かったのかな~』って思うことはあるけどさ。でも私はそのこと自体には後悔はないかな?それに…今の私には目標もあるからね?」

 

 そう言うと「さ!仕事仕事ー!」とだけ言って奥に入って行った。

 

 後悔だけはしたくない…か。

 

 

 

『私…諦めたくないんだ。どんなに辛くても諦めなかったら夢は叶うって信じてるから。それに…私と同じように頑張ってる人たちを応援してあげたい、そんなアイドルになりたいから。』

『イサムくんは前に私に救われた気がしたって言ってたよね?あの言葉…本当に嬉しかった。こんな私でもこうやって誰かを元気づけられるんだって。だから…私、今日また思ったんだ。私は…やっぱりアイドルになりたいって。私らしいアイドルに。』

 

 彩はどんなに辛くても諦めなかった。それは夢を叶えるため?それとも後悔したくなかったから?

 それでも彩は前に進んでいる。どれだけ辛くてもただ一生懸命に。

 

『私たちの歌を…聞いてください!』

 

 出回っていた動画の中に彩が雨のなかでもチケットを売り続ける姿があった。

 

 

『彩ちゃんは愚直で不器用だけど自分にはこれしかないって自覚した上で夢に向かって進んでいる。そんな子なの。』

 

 

 今なら千聖さんの言葉もわかる気がする。どうしてそこまで一生懸命になれるのか。どうして折れないのか。

 

 

 

 

 

 

 

とにかく真っ直ぐで。

とにかく一生懸命で。

どれだけ傷ついても前に進もうとする。

どんなに辛くてもそれを言い訳にしない。

 

 

それが…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『丸山彩』なんだって。

 

 

 

 

 





まりなさんがおやっさんポジションみたいになってますね~。

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聴いて欲しい



そろそろシリアス展開ぬけれるかな?


 

 

 

 

 私たちのライブまで後1週間になった。最近はパスパレメンバーの皆との仲も良くなってきたと思う。

 

「チサトさん!ハグハグ~!」

「ちょっとイヴちゃん…。」

 

 千聖ちゃんも皆と打ち解けてきて五人揃うことが楽しくなってきた。後はいっぱい練習して本番に備えるだけ!

 

 

 

 

 

なんだけど…

 

 

「…………どうしよう。」

 

 私にはまだライブまでにどうしてもやらなきゃいけない事があった。

 

 ライブのチケットをある人に渡さなきゃいけなかった。本当ならこういったことはやっちゃ駄目なんだけど私はどうしても見てもらいたい人がいた。多分その人がいなかったら途中で挫折してたかもしれない。だからどうしてもといって必死でスタッフの人に頭を下げて特別にチケットを貰った。

 

 

でも…。

 

 

(まだ既読ついてない…。)

 

 

 最後に会って以来、連絡は途絶えたままだった。

 こっちからメッセージを入れていたものの2週間前から音沙汰が無く運良く会うことも出来ない日々が続いていた。

 

「どーしたのー?」

「ひうっ!?」

 

 スマホを見ている私に日菜ちゃんがスマホを除き混むように話しかけてきた為、私は慌ててスマホをポケットにしまった。

 

「あははっ!さっきの彩ちゃんの反応面白かったよー。」

「日菜ちゃん!?」

 

 いつものように私をからかってくる。でもいやな気持ちにならない…というよりそれが日菜ちゃんだしちょっとしたコミュニケーションみたいでちょっと楽しくなってる自分もいた。

 

「またエゴサしてたの?」

「えっと…そうかな?」

「へ~。ところで聞きたいんだけどイサムくんって誰?」

「えっ?」

 

 日菜ちゃんの言葉に私は動揺してしまった。それよりなんで日菜ちゃんが…?

 

「えっと…何で?」

「さっきからずーっと彩ちゃんスマホ見てて私が後ろいても気づかなかったから覗いてみたらそれ見えちゃったから?」

「もしかして…見てた…?」

「うん、さっきからずっと。」

「うっ…。」

 

 まさか日菜ちゃんが見ていたなんて…。そう思っている横で日菜ちゃんは「彩ちゃーん?」と顔を覗きこんできた。

 

「ねえ日菜ちゃん、1つ聞いても良いかな?」

「何~?」

「例えばさ、会いたいんだけど避けられてる気がする人がいたとしたらさ、どうしたらいいと思うかな?」

 

 私がそう聞くと日菜ちゃんは首を傾げながら間髪入れずに答えた。

 

「会いに行けば良いんじゃない?」

「え?」

「だってさ、会いたいなら会えば良いじゃん。」

「でも…もしかしたら私、気に触るようなことしたかもしれないし…。」

「でもさ何かあったなら直接話してみたら良いと思うんだけどなー。それに自分の好きな人が離れていくのならこっちから行かないとるんってことにならないじゃん?」

「日菜ちゃん…。」

 

 日菜ちゃんの言葉を聞いてわたしは思った。

 イサムくんはあの時どうして悲しそうな顔をしていたのか、苦しそうな顔をしていたのかわからない。そんな顔をしたのは私があの時のことを話してからだ。本人に聞けば良い…って言うのは本人が嫌がるなら無理強いはしない方が良いかもしれない。でも…私はイサムくんとの関係をこのままにしたくない。私が前に進めたのはイサムくんが背中を押してくれたからでもある。

 それに私はイサムくんに…私達のライブを見て欲しい。

 

「わかったよ。日菜ちゃん、ありがとう。」

「うん。」

 

 日菜ちゃんは満面の笑みで私を見た。そして…

 

「後さ~そのイサムくんって彩ちゃんの恋人?」

「こっ…!?えっ?恋人!?」

「なんか前にその画面見てた時の彩ちゃんはるんって感じしてたし。」

「ち…違うよ~!!」

 

 そう言われて若干焦ってしまった私とさらにニヤニヤする日菜ちゃん。でもこの時の私の心の奥にある思いの正体が何なのかわかってなかった。

 

 

 

 

 

 

◆ ◆ ◆ ◆

 

 

 

 

 

 

 

 スマホを見るとネット記事の殆どにパスパレの情報が載っていた。と、いうのも今度パスパレは再びライブをやることが確定し、その為の日時や会場も決まったので事務所が詳細を発表したからだ。

 そう言う俺はライブに行く訳ではない。まずライブの為のチケットは買ってないし何より彼女と最後に会ってから全く連絡をとってない…というのも取る勇気がないだけの話なんだろう。何しろこっちから応援しておいて勝手に自分重ねて不安になっておかしなこと口走っただけの話だ。あからさまにおかしい奴である。

 

「どうしようか…。」

「どうした、お前帰らないのか?」

「あ、いや帰るよ。」

 

 アキラに言われて俺は教室を出た。そして靴箱を抜けると何やら校門の近くに3、4人の男子がたむろっていた。その真ん中にはピンクの髪の少女が…

 

 

 

 

 ん?ピンクの髪?

 

 

 

 

 

 もしかしたらと思って背伸びして見るとそこにいたのは…。

 

 

 

 

 

 

「えっと…ちょっと待って…。」

 

 

 俺の知り合い()がいた。

 

 

 

 

 

◆ ◆ ◆ ◆

 

 

 

 

 

 

「風島高校ってここだよね?」

 

 

 レッスンが終わってそのまま私は彼を探しに来た。もちろん彼の家の場所は知らないし彼と連絡もとれない。どうしたら会えるんだろうか…と考えた結果彼がいそうな場所は…彼の通う高校『風島高校』しか思い付かなかった。とりあえず携帯のマップ機能を使ってここまで来たけど…どうやって入ろうかな。多分この付近で待ってれば出てくるだろうししばらく待ってようと思って校門の近くにいた。

 

「あれ?君誰か待ってるの?」

 

 この学校の人と思われる男の子が声をかけてきたそれも2、3人のメンバーで。

 

「いえ、私は大丈夫なのでご心配無く…。」

 

 そう言えば大丈夫だと思って言ったんだけど…。

 

「もしかして彼氏待ちか?そいつの名前は?」

「それよりちょっと遊びに行かねえか?いい店知ってるぞ?」

「え!?いえ、私は…」

 

 どういう訳かこの人達は全然話を聞いてくれなかった。

 

「それにしてもこの人どっかで見たことあるな。」

「何だ?お前知り合いか?」

「いやそうじゃなくてどっかで…。」

 

 何かまずいことになってきちゃった?と思っていたら…。

 

「ちょっとごめん、通るよ。」

「あ…。」

 

 そこに1人の男の子が来た。その人物は私が探していた人(イサムくん)だった。

 

「何だ佐倉、お前もナンパか?止めとけ止めとけ。ナンパって言うのは僕みたいなイケメンじゃないと…」

「とりあえず走るよ。」

「えっ?えっ!?」

 

 イサムくんは私の手を引いて真っ先に学校の外に走り出した。

 

 

 後ろでさっきの人たちが何か騒いでいたけどイサムくんは走るのに精一杯で私はこの状況が…

 

 

 

 

 

 

 

 

最初に会ったときみたいでちょっとドキドキしてた。

 

 

 

 

 

◆ ◆ ◆ ◆

 

 

 

 

「イサム!お前俺に鞄だけ持たせて走るな!」

 

 さっきの連中から逃げるように走って行ったことによりなんとか危機を免れた。そして後から来たアキラには俺が「ちょっと持ってて」と鞄を渡したままだったので追いかけて来たらしい。

 

「ごめん…はぁ…はぁ…。」

「お前な…俺が追いかけなかったら明日どうやって教科書持ってくるつもりだ。」

「でもアキラなら追いかけてきてくれるかなと思って…。」

「それは計画的なものと考えていいんだな?」

 

 アキラは半睨みで問い詰める。あー…これどうしようか。

 

「まーまー。どうどうどう…」

「俺は馬か!」

「あの…。」

 

 こんなやり取りをしてる中で彩が口を開いた。

 

「あ、ごめん。」

「ううん。大丈夫だよ。仲良いんだね。」

「ただの腐れ縁だ。」

「安心して、アキラは見ての通りツンデレだから素直じゃないだけだし。」

「誰がツンデレだ!?」

「まあまあ、怒ってばかりだと血圧高くなるよ?」

「誰のせいだと思ってる!?」

「あのさ…イサムくん。少し良いかな?」

 

 彩がそう言い始めるとアキラは俺と彩を見てなにかを察したかのように俺の肩に手を置いてそのまま帰っていった。

 

「彩?」

「イサムくん…これ良かったら見にきて欲しいんだけど…。」

「えっ?」

 

 彩が渡してきた封筒を受け取り中を確認した。そこには…。

 

「ライブのチケット?」

「うん。イサムくんにはどうしてもきて欲しいから。」

「これを渡す為に学校まで?」

「うん。本当は2週間前にも連絡してたんだけど…。」

「え?連絡してたの?」

「え?来てないの?」

 

 両者の会話に食い違いが発生しとりあえず俺はメッセージアプリを開いてみる。すると確かに連絡は入っていたのだがどういうわけか通知が鳴っていなかった。

 

「えっ?これどうなってるの?」

「もしかして…イサムくん通知オフにしてたとか?」

 

 そう言われ設定のところを開くと彩の言う通り通知がオフになっていた。

 

「えっと…気づかなくてごめん…。」

「大丈夫だよ…?むしろ…なんか安心したかも…。」

「えっ?」

「だってこの間のこともあるし…もしかしたら私…何か怒らせるようなことしたのかなって思って…。」

「あ…」

 

 そういえばあの時勢いで変なこと言っちゃったんだった…。

 

「彩、その事はこっちこそごめん。前に夢を応援するようなこと言ったのに…。」

「ううん。あのさ…イサムくんあの時何かあったの?」

 

 彩はこちらを覗き混むように見てきた。

 

「……大したことじゃないよ。ただ…あんなこと言っておきながら心のどこかでは彩が羨ましかったのかな?」

「えっ?」

「実は俺さ、自分の夢わからなくなってるんだよ。自分が何をしたいのか。どうなりたいのか。昔はあったと思うんだけどそれも砕けちゃって途中で捨てちゃったから。だから夢を諦めないで前に進み続けてる彩に…嫉妬してたんだと思う。」

「・・・・・・・・」

「そんなこと言ってもおかしいよね。本気で努力してなかった癖に厳しい言葉を浴びせられて勝手に悪いようにしたのは俺なのに。俺は彩と違って誰かの心を動かせるような努力もしてないのにみっともないことばっか言って「そんなことないよ」…え?」

 

 俺の前に立つと彼女はまっすぐと俺の顔を見て話を続けた。

 

「私はイサムくんに勇気をもらった。それって心が動いたってことでしょ?だからイサムくんはおかしくなんかない。それに…イサムくんがあの時励ましてくれなかったら私は諦めてたかもしれない。だからイサムくんはみっともなくない!」

「彩?」

「それに夢が無いならさ…一緒に探さない?もしイサムくんが本当にやりたいことが見つかったらさ…私も応援するから。イサムくんみたいに。」

 

 彩…。

 

「それにこのライブ、イサムくんにはどうしてもきて欲しいの。君が支えてくれた私の最初のライブだから。」

「……うん。わかった。きっと見に行く。」

「ありがとうっ!」

 

 満面の笑みを向けてくる。また俺はこの子の笑顔に、この子の優しさに救われてしまった。

 手に渡された1枚のライブチケット。このチケットはきっと今後忘れる事が出来ないものとなるかもしれない。でも今はそれが何故か嬉しく感じた。

 やっぱり俺は…

 

 

 

「それじゃイサムくん!今日一緒に帰ろ!」

 

 

 

 君に会えて良かった。

 

 

 

 





次回『パスパレボリューションず』

投稿ペース空いちゃってすみません。新生活始まって学校も始まり勉強にゲームにと予定は多いのに時間が足りないものでして…。

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パスパレボリューションず

 

 

 遂にこの日が来た。布団から出てカーテンを開けると朝の日差しが部屋に入ってくる。現時刻は7時。8時までに出れば余裕で間に合うだろう。朝食のトーストを食べて服を着替えると俺は荷物を持ち靴を履いて玄関を開ける。

 

「行ってきます。」

 

向かう先は──

 

 

 

 

 

 

Pastel*palettesのライブ会場。

 

 

 

 

 

 

◆ ◆ ◆ ◆

 

 

 

 

「うわあ…凄い人。」

 

 特に事故に巻き込まれることもなく早めについたけど会場の前は既に入場者による長蛇の列が出来ていた。でもこれ以上増えるとなるとこの時間に来ておいて正解だろう。

 

「ふう…。」

 

 列の最後尾に並んで時間を待つ今は8時30分だから後30分すれば入場が始まる。とりあえずそれまで暇だから持ってきていたミュージックプレイヤーを起動して耳にイヤホンを差し音楽を聴きながら時間を待つ。

 

 ピロリン

 

 スマホから音が鳴る。誰からだろうかと思いながらスマホを見るとそこには『丸山彩』とあった。

 

『イサムくん、今日大丈夫かな?会場ついた?』

 

 意外と心配性だった彼女からのメッセージを見て思わずくすりと笑ってしまう。

 

『大丈夫だよ。ありがとう。』

『良かった~。今日は楽しんで行ってね!私も頑張るから!』

 

 こんなやり取りだけど凄く楽しい。今俺はどんな顔しているかはわからないけど思ってるよりもくしゃっとしてると思う。周りの人にこの事を言ったらどんな風に思われるだろう。

 そんなことを考えていた時誰かと背中がぶつかった。

 

「あ、すみません。」

「いやこっちこそ悪い…ん?」

「え?」

 

 俺がぶつかった人は眼鏡にマスクをつけていて帽子を被っていていかにも怪しい人物……ではあるがその声には聞き覚えがあったしこの人物には見覚えがある。

 

「もしかして…アキラ?」

 

 そう、多分この人は藤代アキラである。というか一瞬ビクッとしてたよね?見逃さなかったよ?

 

「…誰だ?俺はアキラじゃないぞ。」

「いやいや、バレバレだから。何で変装してるのかは知らないけどかえってわかるから。」

「いや俺はアキラじゃない…。………山田太郎だ。」

「いやなにそのいかにも成り行きで作りましたよって偽名。というかそのマスクと眼鏡外した方がいいよ?怪しいから。」

 

 そんなことを言い合っていると時間になり入場が始まったのでスタッフの指示に従い俺たちも入場することにした。

 

 

 因みに途中で人混みでわちゃわちゃしたせいで隣の人物の眼鏡と帽子がとれてアキラだということが確定しました。

 

 

 

 

 

 

◆ ◆ ◆ ◆

 

 

 

 

 

 

 

 入場者が会場に入り暫くがたった。

 

「ねえアキラ。」

「なんだ。」

「このライブ…成功するよね。」

「知らん。」

 

 そんな会話をしていると会社のブザーが鳴り、ライトが消え、周りの人たちは次第にざわつき始める。多分これはもうすぐ始まるというサインなんだろう。

 そしてステージにスポットライトが当たるとそこには五人の華やかな少女達が立っていた。

 

ボーカル 丸山彩

ギター 氷川日菜

ベース 白鷺千聖

ドラム 大和麻弥

キーボード 若宮イヴ

 

 この五人の登場に周囲わ歓声をあげ、それぞれが持つカラースティックが色とりどりに光る。

 

「皆さーん!こんにちは!私達…」

 

「「「「「Pastel*palettesです!」」」」」

 

「まずは一曲聴いてください。『しゅわりん☆どり~みん』。」

 

 彩の掛け声によりポップな音楽が会場中に広がる。前のように機械から発せられる音じゃない、本当の彼女達の音楽が。

 

「えっ?これ本当に演奏してんのか?」

「少し音が外れてるところがあったし間違いないよ。本当に演奏してる。」

「アイドルなのに演奏してんのか…。凄いな。」

 

 周りの人達も次第に彼女達の音に耳を傾け始めた。

 そしてステージを見ると彼女が必死で、それでも楽しそうに演奏していた。

 水色の子は慣れた手つきでギターをかき鳴らし、黄色の子…白鷺千聖は反対に慣れていないところはあるがそれでもしっかりと弾いている。緑色の子は自分のやるべきことを成し遂げながらも楽しそうにドラムを叩き、紫の少女は今までの努力は無駄にならないと言わんがばかりに自信を持ってキーボードを弾く。

 そしてピンク色の少女…彩は緊張しているのかどことなくぎこちないところはあるがそれでも自分が積み上げてきたものの為に、ここにいる大勢の観客の為に歌う。その姿はまるで、今この瞬間から空にはばたこうとする鳥のようだった。

 

「凄い…。」

 

 あまりの圧倒さにこんな言葉しか出なかった。

 

 そして最初の曲は終わり、会場は大盛り上がりだった。

 

「皆さん、改めましてPastel*palettesボーカルの彩でーす!今日は来てくれてありがとうーっ!最初に…皆さんに謝りたいことがあります。」

 

 そうして彼女達は前回のライブで当てフリの演奏をして多くのファンに嘘をついたことを謝罪した。そして観客の皆は俺が思っていたよりもおおらかなのか彼女達の謝罪を受け入れ今後も応援していくというメッセージやさっきの演奏に対する好評を述べていた。ステージの上の彼女達はその言葉を聞いて嬉しそうな表情を浮かべ彩に至っては既に泣きそうになっていた。

 

「これからも頑張ってー!でも音はずれてたよー!」

 

 ありゃ。誰だか知らないけどそこを突っ込んじゃったか。その声で観客席では笑いが起きて彩は「これでも練習したんですけど…」と苦笑いしていた。

 その後も白鷺千聖を始めとしてパスパレの世界がステージに溢れていた。ステージの上だけどどことなく自然体で…見てるこっちが微笑ましくなるような。そんな彼女が俺の…観客達の前にいた。

 

「それじゃあ、次ももちろん生演奏で皆さんにお聞かせしたいと思います。彩ちゃん、曲紹介よろしくね。」

「は、はいっ!それでは聞いてください───」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「『パスパレボリューションず☆』!」

 

 彩の掛け声と共に再び彼女達の音楽が始まる。

 ギター、ベース、ドラム、キーボード、そしてボーカル。バラバラな個性が1つとなって奏でる音が会場に広がる。

 

 

 願わくば────この時間が終わりませんように。

 

 

 

 

 

 そんな思いを抱き、俺はその輝きを目に焼き付けていた。

 

 

 





次回『俺は俺として』


今年のGWが10連休か~。まあ私はバイト三昧ですけどね。

新しくコメントをくださった、流星@睡眠不足さん、水色( ^ω^ )さん、ありがとうございます!

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俺は俺として


平成最後の投稿です!



 

 

「皆さん、本日は来てくださりありがとうございました!これからも私達、Pastel*palettesをよろしくお願いします!

それでは…」

 

「「「「「Pastel*palettesでした!」」」」」

 

 ライブが終わり、観客達はそれぞれ会場を後にしていた。俺とアキラもライブが終わると帰路についていた。

 

「ふう…。なんか疲れたなー。」

「だろうな。お前横で結構テンション上がってたしな。」

「え?そんなに上がってた?」

「ああ。」

 

 ヤバい、全然気がつかなかった。まあ、なんかあのステージ見てるとなんだか不思議と気持ちが軽くなったし……これも彼女達の成せる業ってとこかな?

 

「結構いい感じだったよね。あの5人。」

「まあ悪くは無いんじゃないか。」

「素直じゃないなー。『そうだな』って言えばいいのに。」

「あのな…。」

「後さ…、俺今まで夢って何だろうってずっと考えてた。」

 

 俺が話始めるとアキラは黙って話を聞いてくれた。

 

「結局さ、俺の夢がなんなのかまだ正確にはわからないし、それが出来たとしても追い続けることが正しいことなのかもわかってないんだ。

 でも、夢を追いかけるのって…なんか凄く熱くなる気がする。途中で残酷なこと言われたり理不尽なことが起きて嫌になるかもしれないけど。それでも本気でその夢を叶えたいって思うのが…叶えたい夢が好きならさ、きっとどれだけ苦しくても前に進めると思うんだ。」

 

 夢があったとしても皆その夢にたどり着ける訳ではない。叶えられることもあれば挫折する人だっている。『努力は必ず実る』と言うけれど現実はそんなに甘くない。どれだけ努力を続けたとしても元から高い才能を持つ人には及ばない何てことはよくあることだ。

 それでも馬鹿みたいに努力して、愚直に夢を追いかけて、どれだけ否定されても残酷な現実に押されても……彼女は諦めようとしなかった。

 それは彼女が本気で叶えたい夢だったから。誰かの光になる、そんな自分になりたかったから。

 そして………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 彼女は何よりもアイドルが好きだったから。

 

 

 

 それで気づいたんだ。

 俺に必要だったものは才能でも運でも称賛の声でもない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 それを本気で『好きだ』と思えることだって。

 

 

 

「だからさ、もう1回探してみようと思うんだ。俺が本気でやりたいこと、本当に好きなものを。」

 

 俺もそろそろ前に進まなきゃいけない。

 

 彼女に追いつく為に。そして俺自身の為に。

 

「ま、頑張れよ。」

「うん。」

 

 周りが暗くてよくわからなかったけどアキラも笑ってた気がした。

 

「そういえばさ…何でアキラはライブに来てたの?」

 

 さっきまでの話とは反れるがこれが結構謎だった。一応パスパレのことは俺が話をしていたから知ってるのはわかるけどアキラの口からその話が出ることはなかった。それにまずアキラはライブとかに行くような雰囲気は無かったと思うけど何より変装までしていたんだ。意外と隠れパスパレファンだったとかかな?

 

「・・・・・・・・」

「アキラ?」

「……なんだ。」

「もしかして…隠れパスパレファンだったとか?」

「そんなわけないだろ。」

「じゃあ何で来てたの?」

 

 俺が質問攻めしているとアキラはため息をついて軽く話始めた。

 

「…………あるやつからのツテでな。」

「あるやつ?」

「それについては触れるな。」

「じゃあ変装してたのは?」

「俺は絶対行かないと言ったからな。だが別の奴が行けとうるくてな、あそこまでいかないと言った以上見に行ったことがバレると後がめんどくさいからな。」

「喧嘩したけど娘の晴れ舞台は見に行きたいと思ってる素直になれないお父さんかな?」

「誰がだ!大体俺はな、どうしてもと言うから仕方なく…」

「相変わらずツンデレだよね~。」

「だから誰がツンデレだ!」

 

 こんなやり取りをしながら俺たちは帰っていた。

 アキラの言ってたあるやつってのは気になるけど……まあ、反応が面白いから良いかな?

 

 

 

 

◆ ◆ ◆ ◆

 

 

 

 

 

「ありがとうございましたー!」

 

 次の日、学校が終わり俺は『CiRCLE』でいつものようにバイトをしていた。

 さっきまで仲の良さそうな6人組の男女がスタジオを使っていて唯一の男子が次の予約をいれていた。スタジオを出る前に白髪の子に「やまぶきベーカリーよってこ~。」って乗っかられて「わかったから乗っかるのはやめろ」ってやり取りしていた。そして他の4人の女の子は苦笑いしながら彼らと帰っていった。なんかいいねああいうの。

 

「まりなさん、僕2番スタジオの掃除行ってきます。」

「うん。あ、それとその後頼みたいことがあるんだけど良いかな?」

「はい!僕が出来ることなら喜んで。」

「……なんかイサムくん、雰囲気変わったね。」

 

 まりなさんが俺のことを見ながらこう言った。その顔はどことなく成長した子どもを見る母親のような……ってこの例えはなんか変かな?

 

「そんなに変わりました?」

「うん。なんか…迷いを振り切ったみたいな感じだね。何か良いことでもあったの?」

「……まあ、ちょっとですかね?」

 

 俺がそう言うとまりなさんはわからないような顔をしていたけどしばらくして少しクスッとしていた。

 

「そっか。今のキミ、凄くいい顔してるよ?」

「そうですか?」

「うんうん。何があったかは知らないけど前より生き生きしてる。写真とってあげようか?」

「いやいいですよ。なんか恥ずかしいですし。」

「そっかー。残念。」

「というか普通に撮る気満々でしたね。スマホ持ってますし。」

「そんなことよりほら掃除行って行って!まだまだやらなきゃいけないことあるからね~。今日は上がり時間ギリギリまで忙しいよー!」

「わかりました!じゃあ行ってきます!」

 

 まりなさんと話た後、スタジオを掃除したり、まりなさんから渡された書類の整理や備品の点検などやるとこはたくさんあった。でもなんだか楽しかった。

 

「じゃあ今日はここまでにしようかな。そろそろ閉店時刻だし。」

「はい。」

 

 CiRCLEの戸締まりをして更衣室で制服に着替えているとスマホが鳴った。

 

『イサムくん、私これからバイト上がりなんだ。今日はお客さんたくさん来たから疲れたよ~。』

 

 彩からだ。実は昨日も家に帰ると連絡が来てたそのまま長いことやり取りをしていた。

 

『お疲れさま。俺もこれからバイト上がりなんだ。』

『奇遇だね!もしよかったら一緒に帰らない?話したいことあるんだ!』

『わかった。じゃあそっちまで行くから危なくないところで待ってて。』

 

 やり取りを終えると鞄に荷物を入れてCiRCLEを出る。そのまま1つの目的地に向かって歩き出した。

 

 

 

 

 そしてしばらく歩くと目的地にだとりついた。そしてそこにいた1人の少女は俺に気付くと明るい笑顔でこっちに駆け寄ってきた。

 

「イサムくん!」

「お待たせ。」

 

 満開の笑顔で「大丈夫だよ!」と返す彩。そのまま2人は歩き始めた。他愛もない話をしながら。

 

 2人でここから歩き始めるのはいつぶりだろうか。でもあの時と違うことが1つのある。彩は夢を叶え、俺は未来へと歩き始めた。些細なことかも知れないけど俺にとっては結構大きいものだったりする。この変化は彼女の存在がなければ訪れなかった。だから…

 

「彩。」

「どうしたの?」

「ありがとね。」

 

 この思いは…これからも絶対に忘れない。

 大切な…思い出だから。

 

「え?ありがとうって何?私何かした?」

「わからないか~。まあそれならそれで面白いから良いかな。」

「なにそれー!」

 

 暗い夜の道を歩いていると雨が降ってきた。確か天気予報では雨は明日だったはずだけど…。

 

「どうしよう…私傘持ってない…。」

「一応俺折り畳み式なら持ってるけど使う?」

「えっ?でもそれだとイサムくん濡れちゃうよ!?」

「いいよ。俺がそうしたいんだから。」

「……じゃあさ」

 

 彩は傘を受けとって開くと俺との距離を摘めてきた。

 

「こうすればお互い濡れないね。」

 

 相合い傘というものだろうか。ちょっと恥ずかしいけどなんだか不思議と悪い気はしなかった。

 

 前に言ったけど俺は雨が好きじゃない。濡れるし、もしスマホが水没したら使えなくなるし……何より嫌なことがあると決まって雨が降っていた。

 でも今は違う。1人で受けていた雨も隣に君がいるだけで心が軽くなる。だからきっと…いつかは雨が降ってもそんなことも忘れちゃえるようになるかもしれない。 

 それに…

 

 

 いつかは俺の中の雨もやむと思うから。

 

 

「あ、そう言えば日菜ちゃんが…」

「え?それ本気で?」

 

 

 街灯が照らす夜の雨が降る道に1つに纏まった2人の影が伸び、その白色の傘は夜道を彩っていた。

 

 

 

 

 

 





最終回っぽい雰囲気ですがまだ最終回ではありません。
とりあえず切りがいいのでここでワンクール終了という感じですね。平成最後の投稿ということで一旦この作品は幕引きになります。
もう一度言いますが最終回と言う訳ではなく『第1部・完』という形です。これからもこの作品は続きます。
次回からは成長したイサムと彩を始めとするそれを取り巻くメンバー達のこれからの物語になります。
これまで読んでくださった皆様、お気に入りや高評価、感想をくださった皆様に感謝しつつ、令和での活動も頑張っていきますので今後ともよろしくお願いします!

後、今回少しだけですがファンサービス入ってるの気付きましたか?私のもう1つの作品も読んでくれてる方ならわかるはずです。

◆ ◆ ◆ ◆

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探し物とメロディー

 

 これはとある日曜日のこと。

 

「始めるか。」

 

 目の前に広がるのは大量の敵。

 

 攻略方法は自らの努力のみ。

 

 彼はたった1人で立ち向かう。

 

 この戦いに…。

 

「行くよ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ヴオオオオン…。

 

 さて、俺は今部屋で1人掃除機をかけていた。えっ?さっきまでのバトル物が始まりそうな冒頭は何だったのか?そもそも敵ってなんなんだよって?そりゃ…敵はこの大量の物資だけど?あとこの下りに関しては俺もよく知らない。作者(キズカナ)に聞いて。

 

「あ~あ、この本凄く埃被ってるよ…。とりあえずこれ払わないことにはどうにも………ゲッホゲッホ!!

 

 埃を払ったら想像の倍は舞い上がりそれを吸ってしまった為思いっきり咳き込んでしまった。というか半年くらい掃除しなかったらこんなになるのか。これからはこまめに掃除しよ。

 

 それから30分ほど過ぎ部屋の整理も一区切りついたところでペットボトルのジュースを飲んでいた。

 とりあえずどうして突然部屋の掃除を始めたのか説明しておくと……まず俺は今まで夢という物がわからなかった。というのもあったのはあったんだけどその夢を完膚なきに否定されてからどうにも心に火がつかない状態が続いていたわけで。でもある時『丸山彩』という少女に出会った。彼女は俺と違い大きな夢を持っていた。それもアイドルになるという夢を。そんな彼女と接し、どれだけ辛くても夢を諦めようとしない姿を見て俺はもう一度夢を…自分が好きだと思えるものを探してみようと思った。

 という訳で心機一転という感じで部屋の掃除を始めてみました!(いやどういう感じ?)まあ何事も形からって言うしね。

 

「さて、このあとは…」

 

 椅子を回しながら考え事をしているとさっきの掃除で出てきた謎のクッキー缶が目に入った。

 

「そういやこれ何が入ってるんだろ?」

 

 缶を開けようとするが錆びているのかなかなか開かない。思いきって缶の底を叩いてみたがやはり開かない…。

 

「……これならどうだっ!」

 

 近くにあった粘土用延べ棒で横から叩いてみたところ蓋が外れ中からジャラジャラと物資が流れ出る。それは昔集めたビー玉だったりファーストフード店のおまけのおもちゃだったりするが…。

 

「あ~あ、せっかく綺麗にしたのに…」

 

 さっきのせいで流れ出た物が散らばり再び部屋が散らかってしまったのだ。仕方なくビー玉やおもちゃを拾い集めてる中であるものが目に入った。

 

「これって…。」

 

 手に取ったのは……ハーモニカだった。昔親に貰ってそのまま無くしていた物だ。

 

「こんなところにあったんだ…。」

 

 埃を払いそれをじっと見てみる。

 白いハーモニカには所々傷が入っていたが決して壊れているという訳ではない。試しに吹いていたけど音も割れてたりはしなかった為まだ使えるんだろう。

 ハーモニカを見ながらふと思い出した。俺は昔音楽が好きでギターを欲しがっていたことを。

 

「ギターか…。」

 

 いい機会だし買う買わないは別にしてとりあえず見に行ってみようと思い、さっき散らかったものを片付けて家を出た。

 

 

 

 

 

◆ ◆ ◆ ◆

 

 

 

 

「いらっしゃいませー!」

 

 江戸川楽器店に入った俺は早速ギター売り場に足を運ぶ。そこにはアコギからエレキまで多彩なギターが取り扱われていた。まるでギターのバーゲンセールだ。まあ楽器店だし当たり前か。

 

「値段は…………ゑ?」

 

 驚きの価格に思わず変な声が出た。たまたま手に取ったギターは単品で50000円、セット価格で70000円だった。まさかの初っぱなから予算倒れということになってしまった。まあ是非もないよネ。

 

「というかいっぱいあるけど…これ何が違うんだろ…?」

 

 音楽好きなだけで楽器に関する知識ゼロな為にいきなりこの有り様である。もう前途多難にもほどがあると言われても反論が出来ない。でもしょうがないじゃん、使ったことのある楽器なんてリコーダーか学芸会で役貰った小太鼓くらいだし。

 

「………どうしよっかな…おっと」

 

 と考え事をしていると誰かとぶつかった。

 

「すみません。」

「いえ、こちらこそ。」

 

 茶髪で眼鏡をかけた女の子とぶつかりお互いに謝罪してそのまま俺は場所を移動した。とりあえず財布の中にもギター買えるようなお金は無いからギターに関する本を見ていこうかなと思い本のコーナーに向かい、しばらく色々な本を閲覧していた。

 

「あの…すみません。」

 

 するとさっきぶつかった女の子が傍にきていた。

 

「えっと…どうしましたか?」

「いや、これを拾ったんですけどさっきぶつかったときに落とされたんじゃないかと思いまして…。」

 

 彼女が渡してきたのは白色のハーモニカ。うん、完全に俺のだ。

 

「ありがとう。助かったよ。」

「いえいえ、それより…何か探されているんですか?」

「うん。ギターが気になってるんだけどどれがいいのかいまいちわからなくて。」

「そうでしたか。もし良かったらジブンが教えましょうか?」

「いいの?」

「はい。ここで会ったのも何かの縁でしょうし。」

 

 そう言われて彼女のお世話になることになった。

 

 

 

 

 

 

 

◆ ◆ ◆ ◆

 

 

 

 

 

 

「それでですね。このギターなんですがまず音がですね…」

 

 眼鏡の子に色々と説明してもらってるけどやっぱり専門的なことはいまいちわからない。でもこの子の説明が丁寧だから大体のことは理解できた気がする。それにしてもこの子…どこかで見たような…。

 

「どうしました?」

「あ、いやごめん。ちょっと色々と考えちゃって…。」

「もしかしてまたジブン…走ってましたかね?」

「そんなことないよ。結構分かりやすいし。」

「そうですか。ジブン、機材のことになるとよく口走っちゃって…。悪い癖だとは思うんですがどうしてもって感じなんですよね。」

 

 少女はアハハ…と苦笑いしながら話した。

 

「そんなことないと思うよ?」

「…えっ?」

「だってさ、自分の好きなことに夢中になってそれを誰かに語れるってことはさ凄いことだと思う。それに君が色々教えてくれたおかげでギターの事なんて全くわからなかった俺も色々と知ることが出来たしさ。」

「そ…そうですか?」

「だからそれは悪いってことはないと思うよ?」

「あ…ありがとうございます!そう言ってくれるなんて…ジブン嬉しいです!」

 

 女の子は機材の話をしていた時と同じくらいの満開の笑顔を向けてきた。うん…彩といいこの子といいどうして俺が最近会話するようになった女の子はこうも可愛い笑顔を向けてくるのか。というかここまで来ると俺明日死ぬのかな?と思ってしまう。

 その後彼女から機材の話を聞いていると突然スマホが鳴った。俺はごめんと言ってその場から離れ電話に出た。

 

「もしもし?」

『イサム、今どこ?』

「ちょっと出掛けてるけど?」

『それならちょうど良かった。鶏肉買ってきてくれない?今日唐揚げにしようと思ったんだけどちょうど鶏肉きらしちゃって。』

「わかったよ…。それじゃ。」

 

 スマホを閉じて再びその子の元に戻った。

 

「ごめん、ちょっと用事ができたから帰らなきゃいけなくなったんだけど…。」

「いえいえ、元々ジブンが誘ったことですし気にしなくてもいいですよ。」

「それでなんだけどさ…また機会があったら楽器のことについて教えてくれないかな?まだわからないことがあるからさ。」

「もちろんです!ジブンで良ければ!」

 

 俺がそういうとその子はそうだ!とスマホを取り出した。

 

「せっかくですし○INEの交換しませんか?」

「うん、いいよ。」

 

 俺とその子はアカウントを互いに登録した。

 

「申し遅れましたがジブンは大和麻弥って言います!上から読んでも下から読んでも大和麻弥です!……なんちゃって…。」

「上から読んでも下から読んでも……ほんとだ。凄っ。」

 

 キツツキとかトマトとかその辺ならよく見かけたけどまさか人名でこんな奇跡があるとは思わなかった。

 

「俺は佐倉イサム。よろしく。」

 

 その後俺は彼女と別れて母親の頼み通り鶏肉を商店街の精肉店で買い、途中の公園で少し休憩していた。

 

「……お金、貯めないとな。」

 

 色々とギターを見たけど思ってたよりもギターって奥が深いんだなって再度確認した。でも麻弥さんのお陰で少しだけど色々とわかった気がする。

 今はまだまだ道のりは遠いけど近い未来できっとその願いを自分の手で叶えたい。こんなこと彩と出会う前までは考えたことなかったのにね。

 そんなことを考えながらポケットからハーモニカを取り出す。俺が今いる公園には周りには人がいなかった。

 

「また吹いてみようかな。」

 

 何年ぶりかわからないハーモニカ。正直上手いわけでは無いし、吹きかたもうろ覚えの状態だ。それでも少しだけ体が覚えていた。だから…ここで吹いてみよう、そう思いハーモニカを口にして奏でてみた。

 一人きりの公園にぎこちない音が流れる。誰かが聞いている訳でもない。ただ俺が吹きたかっただけの音が。

 昔駅前で弾き語りをしていたお兄さんも、今もやっている人たちもそんな気持ちなのかな?彼らはどんな想いで音楽を奏でているのだろうか。そんなことを考えながら俺は一人でハーモニカを吹いていた。

 

 

 

 

 

 

 

 近くで一人の少女がそのメロディーを聞いていたことも知らずに。

 

 

 

 





どうもキズカナです。しばらく投稿出来ずにすみませんでした。
はい、イサムくんが無くしたものはハーモニカでした!何でハーモニカかというと温泉好きで楽器と言えばハーモニカでしょということです!(特撮脳)
今回は麻耶ちゃんとイサムくんが遭遇した…という回ですね。楽器知識無知なイサムくんに色々教えてあげれるのはこの子くらいかな~と思い登場させました(作者も楽器知識ゼロです)。

因みにこの作品のヒロインは彩ちゃんです。もう一度言います、ヒロインは彩です(大事なことなので2回言いました)

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抱く想い

 

 

 

「これどうしよう…。」

 

 私の手元にあるのは2枚の映画のチケット。このチケットは元々妹が友達と見に行く予定だったんだけどどうやら緊急で相手の子に外せない用事が入ったらしく「お姉ちゃんがお友達と行ってきたら?」と言われて渡された。でも私には誘える人がいなくなった。というのも千聖ちゃんはお仕事で忙しいしイヴちゃんはモデルのお仕事が入ってるみたい。日菜ちゃんも麻弥ちゃんも予定があるみたいで…結局誰と行こうかと悩んでいた。

 

「うーん…後は…」

 

 私はスマホを開いて○INEを見る。

 

「イサムくんは…大丈夫かな…?」

 

 こうなったらイサムくんを誘うしかない。……とここまでいうと勘違いされやすいんだけどイサムくんとお出かけするのは凄く楽しいし私も誘いたい。ただ問題は…。

 

「よりによってこの映画……恋愛作品なんだよね…。」

 

 そう、チケットの映画は男女の恋を描いたラブストーリー。イサムくんを誘うのに戸惑ったのは男の子がこういったジャンルの映画が好きなのかわからないのともしそうじゃなかった場合申し訳ないと思ったから。

 

「とりあえず、聞くだけ聞いてみようかな?」

 

 私はそのままイサムくんに『恋愛ものの映画って興味あるかな?』と売って送信した。すると数分後に『問題ないよ』と帰ってきた。

 

『じゃあ今度の日曜日、一緒に映画観に行かない?妹から貰ったチケットがあるんだ。』

『わかった。』

 

 そこからは待ち合わせ時間等を確認して○INEを閉じた。

 

「……ってよく考えるとこれ、デートのお誘いみたいだよね。」

 

 しかも観る映画が恋愛モノ。ここまで来ると何も言わなくても意識してしまう。

 

「ううん!これはただの友達同士のお出かけ!何もやましいことはない!そう、純粋な友達としての…」

 

 必死で今までの考えを振り払って落ち着こうとする。数分後、なんとか整理のついた私はベッドに横たわり枕に顔をうずくめた。

 

「私…何でこんなに意識してるんだろ…。」

 

 イサムくんとこの間みたいにお出かけするだけ、それだけなのに考える度に胸がキュッとなって息苦しくなる。もちろんイサムくんと一緒にいられるのは久しぶりだし、会って色々とお話がしたい。だけどこの胸が苦しくなるような想いもある。

 この想いは一体なんなんだろうか…。

 

 

 

 

 

 

 

◆ ◆ ◆ ◆ 

 

 

 

 

 

 

 

「よし、今回は先にこれたかな?」

 

 一昨日の晩、バイトからあがってスマホを見るとなんと彩から○INEが来ていた。その内容は今度一緒に映画を観に行かないかというものだった。

 そして昨日の夜、俺は早速服の用意から金銭の準備までして万全の状態を整えた。そして寝坊しないように23時にはもう眠りにつくようにしていた。遅刻なんてしたら本末転倒だもんね。そのお陰で今日は朝から結構スッキリして余裕を持って家を出れたのだ。それに前回は女子を待たせるという男としてあるまじきことをさせてしまった為、今回はこっちが待つ勢いで30分前に集合場所についた。

 

「それにしてもこうして彩と出掛けるのって久しぶりだな~。」

 

 最後に一緒に出かけたのは…出会って間もない頃にカフェに誘われたところだった気がする。それ以降は…まあ色々と大変なことがあったし彩もアイドルの夢を叶えたことにより忙しくなったみたいだからそうそう時間が取れなかった。

 

「久しぶりで…凄く楽しみだな…。」

 

 やっぱりこうして会うこと自体難しくなっている中で彼女と一緒にいられる俺は結構恵まれているのかもしれない。

 ところでふと思ったけど彼女がアイドルデビューしてから始めて一緒に出かけることになったけどそこのところ大丈夫なんだろうか?最近だとアイドルが他の男友達と一緒にいたというだけで熱愛疑惑まで出てくるようになる。というか最近のマスコミは何でそんなにスクープに拘るんだろうね。別にアイドルが恋愛とかしててもいいじゃない人間なんだし。

 

「イサムくん!」

 

 考え事をしているとこちらに彩が走ってきた。

 

「もう来てたんだ。早いね。」

「いや、いつもより早く来ただけだから。」

 

 早いと言われたけど実際のところ彩が遅刻したとかではない。ただ俺が30分ほど前から来ていただけだし今も元々の待ち合わせ時間の20分前だ。

 

「ごめんね。服選んでたら少し出るのが遅くなっちゃって…。」

 

 そう言われて彩の服装を改めて見てみた。服装は白のリブニットに小さな花の柄が入ったリブニットスカート、そして薄手のコートと春らしいものだった。一言で言うととても似合っている。そして…

 

「うん、可愛い。」

「えっ!?かわ…!?」

 

 感想を言ったところ真っ赤になって慌てていた。そしてそのときの彩が不覚にも可愛いと思ってしまった。いや、可愛いのは当たり前か、彩なんだし(脳死)

 

「おーい、大丈夫~?」

「かっ…かわ…かわいい…って…」

 

 あ、ダメだこりゃ。なんか知らないけどショートしてるよ。

 

「彩~?聞こえてますか~?」

「えっ…あっ…イサムくん…?」

「大丈夫?」

「えっ…あ…多分大丈夫かな?」

 

 数分かけてなんとか彩を現実に連れ戻すことに成功した。

 

「とりあえず映画って何時から?」

「確か…10時30分上映だったと思うよ。」

「後40分か…。どうしようか。」

「じゃあショッピングモール見ていかない?私、気になってた服があるんだよ!」

「わかった。じゃあとりあえず行こっか。……あ、それとさ、変装とか大丈夫なの?」

「もちろん!抜かりはないよ…ほら!」

 

 そう言いながらサングラスと帽子を取り出しそれをつけて自信家に胸を張った。いや、なにこの子行動の1つ1つが凄く可愛いんだけど。

 

「これで私も芸能人っぽいかな?」

「あー…そうだね。」

 

 こんなやり取りをしながら俺たちはショッピングモールに向かった。

 

 

 

 

◆ ◆ ◆ ◆

 

 

 

 

 ショッピングモールの服屋にて

 

「ねえイサムくん、このワンピースとかどうかな?あ、でもこっちのブラウスもスカートとあわせたら可愛いかも…」

 

 彩は様々な服を見ながら色々とコーディネートを考えていた。隣にいる俺は女物の服なんかよくわからないからついていけないんだけど彩が楽しそうだしそれでいいかなって思ってる。

 

「イサムくんはこっちのワンピースとこのブラウスどっちがいいかな?」

 

 彩が出してきたのは薄い紫の生地に小さな花のプリントがされたワンピースと水色のブラウスだった。

 

「因みにブラウスだったらこっちのスカートと合わせたらどうかなって思ってるんだけど…。」

「そうだなあ…。」

 

 彼女の問いに考えること数分。そして出した答えは…。

 

「こっちのブラウスかな?」

「こっち?」

「うん。彩ってワンピースとか結構来てるイメージあるからさ。意外なところをついてみようかなと思って。」

「なるほど。」

「因みになんだけどさ、ショートパンツ(これ)の黒と組み合わせても良さそうだと思ったんだ。」

「そっか。じゃあちょっと試着してみるね!」

 

 そう言うと俺が選んだ服を持って試着室に入って行った。

 

「お客様、先のほど子は彼女さんですか?」

「いや、彼女って言うか…その……友達ですかね?」

「そうでごさいましたか。とても仲が良く見えてしまったのでつい。」

 

 「失礼しました。」と言ってその場を立ち去り仕事に戻った店員さんを横目に俺は考えてみた。俺と彩が恋人か…と。無論嫌な訳ではない。彩は優しいし俺にとって憧れの人だ。そんな人と恋人になれるなど願ったり叶ったりだ。しかし彼女はアイドル、俺は一般人。いわや叶うことも危うい恋なのだ。もしそれで彩の夢が崩れ去るようなことがあれば…。

 

「イサムくん、どうかな?」

 

 考えていたら彩が試着室から出てきた。先ほど選んだ服を見事に着こなしている。

 

「うん、凄く可愛いよ。それに色が少し違うからか新鮮だしね。」

「~~!そ…そうかな?」

 

 彼女はまた顔を赤くした。そして再び試着室に戻り服を着替えて戻ってきた。

 

「じゃあ私これ買ってくるよ!」

「いいの?俺ファッションとかよくわからないんだけど…。」

「うん。だってイサムくんが選んでくれた服だから…。

「え?」

「な…何でもないよ!それじゃ行ってくる!」

 

 そう言うと彼女は慣れた手つきで会計を済ませた。品物を詰めてもらった袋を抱えた彼女はまるで新しい宝物を手にしたかのように嬉しそうな顔をしていた。

 

 

 

 

 

 





おや?彩ちゃんの様子が…?
そして次回はデート?編後編です。お楽しみに!

新しく☆9評価をくださったCanopusさん、ありがとうございました!
そして新しくコメントをくださった桜弥さん、水色( ^ω^ )さん、ありがとうございました!

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ベストフレンドフォーエバー


ポケモン新作欲しい。そしてSwitch欲しい。

でもお金がない←悲しい現実




 

 あれからしばらくして映画の上映時間の10分前になり俺と彩は映画館に向かいジュースとポップコーンを購入して入場した。

 

「もうすぐだね。」

 

 隣の席で上映が今か今かと待ち望んでる彩に俺は1つの疑問を言った。因みにタイトルは『ドルヲタとアイドルの恋日記』らしい。何かと似たようなタイトルなのは気のせいだろう。

 

「そう言えば聞いてなかったんだけど今日観る映画ってどんな映画なの?」

「えっと…確か芸能人に恋した男の人が周りの声や身分の違いに押し潰されながらも恋を叶えよう!ってストーリーだった気がする…。」

(なんだろ…すっごく他人事に思えない。)

 

 そんなことを話していると上映のブザーが鳴り、スクリーンに映像が流れ始めた。俺たちはそのまま映画の世界に引き込まれて行った。

 

 

 

 

◆ ◆ ◆ ◆

 

 

 

 

「さっきの映画面白かったね!」

 

 映画が終わり俺達は今ショッピングモール内のファーストフード店に来ていた。そして2人で先程の映画の感想を言い合っていた。

 

「なんかあの映画リアル感をとことん求め続けていた感じが凄く面白かったよね。」

「うん!特に最後のアメリカに旅立つヒロインに今までの自分の思いを伝えてもう一度また会う約束をしあったシーンは感動したよ!」

「それに思いを伝える為にバスに乗ってるヒロインを主人公が自転車で追いかけてたところはびっくりしたよ。」

 

 映画の感想は次々と出てくる。恋愛映画を観たのはこれが初めてだったけどお世辞抜きで面白いと感じることが出来た。

 

「それにしても普通の人がアイドルと付き合うのって結構覚悟いるんだね。」

「うん、世間からの声も賛否両論が凄かったし…。」

 

 俺たちが最も気になったのはそこだった。アイドル相手に付き合うというところで世間から多くの批判の声や事務所からの反対といった問題も描写されていた。しかもそこが妙にリアルだという。

 

「…現実でもああなのかな…。」

 

 そうふと思う。仮にだ、仮に彩が付き合うことになったとしてそれがもしどこの誰かわからない一般人だとするとどう思う?俺の場合は素直に認めることが出来ないと思う。あの映画で反論していた人たちも同じ思いなのだろうか…。

 

「やっぱり芸能界ってめんどくさいな…。」

 

 小さな声でそう呟く。

 

「どうしたの?」

「いや、芸能界って色々大変なんだな~って。」

「そうなのかな…?」

 

 そう話ながらバニラシェイクを飲みポテトに手を伸ばした時、彩が口を開いた。

 

「ねえイサムくん…1つ聞いても良いかな?」

「どうしたの突然。」

「あのね…もし私が恋をしてたら…どう思うかな?」

 

 それを聞いた瞬間、俺は持っていたポテトを思わず手放してしまった。

 ゑ?この子今なんて言った?コイ?それって魚の鯉?それとも恋愛の恋?というかまさか…いや彩に限ってそんな…。

 

「イサムくん?」

コイ?コイって…え?というか相手って誰…

「イサムくん大丈夫?」

「え?あ、うん何でもない…」

「待って待って!ハンバーガー紙ごと食べちゃダメだから!」

 

 どうやらこの時俺はハンバーガーの包装紙をとらずに食べようとしていたらしい。

 数分後、何とか落ち着きを取り戻し話を続けた。

 

「えっと…彩は今誰かに恋してるってこと…?」

「いや、そういう訳じゃないんだけど…もしそうなった場合の話で…」

 

 なるほど、そういう事ね完全に理解した。ifの話だったわけか。良かった良かった。

 

「でもさ、彩の事務所って恋愛禁止とかあるの?」

「ううん、禁止では無いんだけど…。」

 

 あ、禁止じゃ無かったんだ。でもそれはそれで逆に怖いな。

 

「やっぱりアイドルが恋愛するのって…良くないのかな?」

 

 彼女は「やっぱり…」といった雰囲気になった。

 

「でもさ、本当に好きなら…アイドルでも恋してもいいんじゃ無いかなって俺は思う。」

「…そうかな?」

「だってさ、アイドルでもモデルでもさ結局はみんな人間な訳でしょ?だったら誰かを好きになるのは当たり前だと思うけどな。」

「…そうだね。ありがとう。イサムくんに聞いて貰うとなんかスッキリしちゃうね!」

 

 さっきまでと変わって明るい表情に戻った。やっぱり彩は笑顔が似合うな。と思いながらバニラシェイクを啜っていた。

 

「ねえイサムくん、私もバニラシェイク飲んでも良いかな?」

「え?良いけど…」

「本当!?ありがとう!」

 

 受け取ったバニラシェイクを飲み「甘くて美味しい!」と元気に語りかけてきた。……本当、花みたいな子だよね彩って。

 

 

 

 

 

 

 因みに後から気がついたんだけどこれ間接キスだということに心の中で悶絶していたのは別の話。

 

 

 

 

 

◆ ◆ ◆ ◆

 

 

 

 

 

 あれから俺たちは本屋や雑貨屋などを回り、今はゲームセンターに来ていた。

 

「って来たのは良いけど…何やるんだ?」

 

 こういう大きなデパートに来るとなんとなく足を運んでしまうゲームセンター。だが目的の商品が無いとただうろうろして帰るだけとなってしまうこともしばしば。

 ましてや今日はお出かけに来てるんだ。それも同性じゃなくて異性と。そんなお通夜みたいなイベントがあったら不味いだろう。……なんとかせねば。

 

「ねえイサムくん!私やっておきたいことがあったんだけど良いかな?」

 

 何か提案がある彼女の誘いに乗り、手を引かれながらついていくと…

 

「プリクラ?」

 

 辿り着いたのはプリント倶楽部ことプリクラまたの名をキラプリ。良く女の子同士やカップルが利用している派手な証明写真機だ。え?キラプリはそんな堅苦しい機械じゃない?いや、知ってるよ?ちょっとした例えだよ例え。

 

「うん!せっかく来たんだし一緒にどうかな~って。」

「俺キラプリとか全然わからないんだけど大丈夫?」

「大丈夫!私に任せて!」

 

 自信満々に言う彩を信じ俺たちは巨体のなかに入っていく。キラプリの中はとても明るくまさにパリピ?というような感じだった。ところでパリピってどういう意味なの?

 

「とりあえずまずは背景かな~?イサムくんはどんなのがいい?」

「どんなのって言っても……この青い空みたいなやつかな?」

「いいね!なんか景色の良いところで撮ってるみたい!」

 

 それからは基本的に彩が設定をしてくれて後はとるだけになった。

 

「じゃあ撮るよ!」

 

 彩が撮影のボタンを押し、後は普通に撮るだけ…だったのだが…

 

「あっ!」

「え?」

 

 戻って来るときに躓いたのかこっちに倒れ混むように来た為、何とか転けないように俺は反射的に彼女を支えた。

 

『ハイチーズ!』

 

 パシャり。

 その音と同時に画面に振り替えると既に撮影が終わっていた。

 

「えっと…これどうする?」

 

 画面を見ると先程の倒れ混む彩とそれを支える俺が写っていた。表情も音声が聞こえ振り向いた分100点には遠いだろう。だが幸いぶれてたりピンボケが無いのだが写真映りとしてはあまり良いものでは無いだろう。

 

「どっちも表情があれだねこれ…。これは撮り直した方が良いのかな?」

「…うん、これにしよう!」

「そうだね。これに…って、え?」

 

 彩の決断に思わず驚いてしまった。

 

「これで良いの?表情も微妙だし、ポーズとかも決まって無いし…。」

「でもなんとなくだけど…これはこれで良いと思うんだ。ダメかな?」

「まあ…彩が良いって言うなら。」

 

 俺がそう言うと「やった!」と言いながら彩はそのまま次の画面に進めた。次にやることは……落書き?

 

「これはね、撮った写真に自由にイラストや言葉を書いたりしてデコレーションしていくんだ!イサムくんも何か書いてみて!」

 

 彩に渡されたペンを持ち何を書こうか悩んでいた。俺は言うほど絵が得意な訳じゃないしどういったものを書けば良いのやら…。そう考えているとある1つの言葉が頭に思い浮かんだ。

 

「じゃあ…。」

 

 俺はペンを使ってある言葉を書く。それは…

 

「『Will be the BFF』?」

「うん。BFFは『Best Friend Forever』。これからも、彩とずっと友達でいれたらな…って…。」

 

 自分で言ってて少し恥ずかしいが今の俺の本当の気持ちだ。これから彩が本格的にアイドルになると俺と彩の関係がどうなるかはわからないし、きっと何かと違ってくるところも出てくるだろう。だけどこれからも一緒にいたい、そしてこの関係が続いて欲しい。その思いでこの言葉を書いた。

 

「よし!出来た!」

「早いね。どんなの書いたの……って!?」

 

 完成した画面には俺の頭には王冠ぽいものが、彩の方にはティアラぽいものがあって背景に小さなお花が描かれていた。まるで…

 

「おとぎ話の登場みたいだね…。」

「えへへ。ポーズ見てから『これだ!』って思っちゃったんだよね!」

「なるほど。」

 

 写真を取り直さなかったのはこの為か。流石女子、こういうのはお手の物だな。

 

いつか本当にこんな感じになれば…

「…?何か言った?」

「ううん!何でもない!それよりほら、これで良いかな?」

「大丈夫だと思うよ。」

「じゃあ決定するね!」

 

 決定ボタンを押してしばらくすると取り出し口から先程のプリが出てきた。それも2枚分。

 

「はいこれはイサムくんの!」

「ありがとう。」

 

 渡されたプリクラを改めて見るとやっぱり気恥ずかしい気分になる。なんせ彩と一緒にだから嬉しくもちょっと照れ臭い気分になるんだ。多分他の女の子じゃこんな…。

 

(……うん。これは多分…。)

 

 なんとなくだけど…わかった気がする。今俺が抱えているこの思いはなんなのか。きっと俺は彩のことを…。

 

「イサムくん、行こっ!まだまだ時間はあるんだしもっと楽しもうよ!」

 

 でも今は…このままでいよう。これからもベストフレンド(最高の友達)で在るために。

 

 

 

 





気がつけば高評価がたくさん増えていて評価バーが赤色になってました。皆さん本当にありがとうございます!

新しく☆10評価をくださったStargazerさん、
☆9評価をくださったルァさん、阿久津@谷口学園高校さん、めうさん、ありがとうございました!
そして新しくコメントをくださった桜弥さん、ありがとうございました!

高評価やコメントをくださると作者のモチベーションも上がりますので是非よろしくお願いします!

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知らないという罪が流した涙

サブタイトルが上手いこと思い付かない…。


 

 朝。

 それは誰もが活動を始める時。

 学校に行ったり、仕事に向かったりと忙しくなる時間帯だ。

 もちろん学生ということを考えれば

彼も例外ではない。制服に着替え、朝食を食べ学校に向かう。そして人が行き交う道を歩きながら考え事をしていた。そんなとき…。

 

「おらどけやあああああ!!」

 

 いつもはいないはずの自転車に乗った見るからにヤバそうなおっさんが現れた。しかもかなりのスピードで漕いでいた。

 

「誰かーー!そいつ捕まえて頂戴!」

 

 後ろから誰かが叫ぶ声も聞こえた。どうしようかと考えてるうちに自転車の距離は迫っていってた。

 すると突然『ぷすっ』と言った音と共に自転車の男がバランスを失い始めた。どうやら近くに落ちていたガラスの破片のせいでタイヤがパンクし、バランスを崩し始めたのだろう。つまりどうなるかと言うと…。 

 

「おいお前!そこをどけええええ!!」

「えっ?ちょちょちょ!?」

 

 自転車のコントロールが効かないまま男はイサムに突撃し、それを止めようとしたイサムは激突したさいに男の体重と共に自転車が倒れた為、そのまま二人は川原の方へと投げ出され転がり落ちて行った。

 

「痛ったたたた…。」

 

 転がったことにより服の至るところに雑草がついてしまった。

 

「あ~あ…せっかくアイロンかけたのに…。」

「坊や、大丈夫?」

「あ、ハイ。どうも…。」

 

 差し伸ばされた手を取るとそこには1人の男性がいた。

 

「いや~ありがとね~!あなたがあいつを止めてくれたお陰でアタシ、鞄取り戻せたわ~!」

「えっ?あっハイ…。ってまさかのひったくり!?」

「そうよ!イケてる顔して何てことしてくれるのかしら!信じらんないわ!」

 

 と、ここで自転車の男がひったくりであったことよりもどうしても気になることがあった。

 さっきから女口調で喋るこの人は男である。もう一度言おう、男である。

 

「(リアルでオネエって始めて見た…。)」

 

 正直イサムは今の状況よりもこの人物のキャラの濃さに戸惑っていた。

 

「アタシもなんとか取り返そうとして近くの空き缶とか投げてたんだけど人が多くなるとそうは行かないからね~。坊やが止めてくれて助かったわ~!」

「アッ、ハイ。」

「あ、挨拶が遅れたわね。アタシは…」

 

 と自己紹介をしようとしていた最中、ひったくりの男は彼らに背を向けて走り去っていこうとしていた。

 

「なんだよこいつら…。しかもおっさんの方、オカマかよ!気持ち悪っ!」

 

 という捨て台詞だけ残して。

 

「あーーーー!!ちょっと待ちなさいこの不届き者めぇぇぇ!!」

「うるせぇーー!! 待つかよクソジジイ!!」

「誰がジジイじゃゴラぁ!」

 

 そう言うその男性はイサムに「運が良ければどこかでお会いしましょ!」とだけ言ってひったくりの男を追いかけていった。

 

「・・・・キャラ濃。」

 

 それが彼がオネエの男性に抱いた第1印象だった。

 

 

 

 

 

  ◆ ◆ ◆ ◆

 

 

 

「と、いうことが朝っぱからありました。」

「どこから突っ込めと?」

 

 学校に来たイサムは今朝のことをアキラに話していた。その情報量の多さにアキラは少し頭を抱えていた。

 

「いや、リアルにオネエっていたんだね。初めて知ったよ。」

「というか結局そのひったくりどうしたんだよ。」

「知らない。」

 

 2人で何気ない会話をしていると1人の少女が彼らの机の近くによってきた。

 

「おお~。二人ともどないしたんや。」

「あ、来てたんだ。ミチル。」

 

 彼らの会話に混ざってきた少女、野方ミチル。

 

「いや~。こっちの教室久々やからな~。2人ともなかなか話せなくて飽き飽きしてたんや。」

「というかお前…鞄持ってきてるが忘れるなよ?お前の教室隣なんだから忘れても知らんぞ。」

「何ゆうてんねんアキラ。ウチそんなに忘れ物せえへんって。」

「この間ここに鞄起きっぱなしにして俺がお前の教室まで持っていったこともう忘れたのか。」

「え?そうやったか?」

「この鶏頭が。」

 

 アキラとミチルが会話しているのを横目で見ていたイサムを見ているとミチルは彼に話をふってきた。

 

「あ、そういやイサムに聞きたいんやけどこの間ショッピングモールのゲームセンターおらへんかったか?」

「いたけど…。何で?」

「いや~ということはあれは見間違いやあらへんかったか~。」

「あれ?」

「この間おったやろ?ピンク髪の女の子と一緒に。」

 

 その言葉を聞いた瞬間イサムは頭を抱えた。まさかミチルに見られていたとは…。

 

「いや~。まさかイサムにも春が来たとは思わへんかったわ~。」

「いや…。あれはその…。」

「それにその子とプリまで撮ってはるとはな~。」

「……俺にどうしろと?」

「今日放課後駅前のクレープ奢ってくれへんか?」

「わかった。」

 

 こうして、彼女は教室から出て自分の教室に戻っていった。

 

「おい…。」

「どうしたの?」

「あいつまた鞄忘れて行ったぞ。」

「……俺が届けてくるよ。」

「頼む。」

 

 こうして彼らはまた苦難を強いられるのだった…。

 

 

 

 

 

◆ ◆ ◆ ◆

 

 

 

 

 

 そして時は流れ放課後に。

 イサムは待ち合わせ場所の校門前に既に来ていた。そして後から彼女もやって来たのだ。

 

「待たせたな!」

「うん、待った。」

「ちょい!そこは『大丈夫!俺も今来たところ!』とか言うべきやろ!」

「いや、別に恋人でもないし良いかなって。」

「いやいやいや!そこ気にするべきとこやろ!その辺の気配り出来んと彼女のハート射止められへんで!」

「ちょっと!それは関係ないでしょ!?」

 

 そんなことをわちゃわちゃしていたが時間も時間で押していたのでとりあえず駅前に向かうことに。

 

 

 

 そして駅前。

 

「んで?どれにするの?」

「せやな…ウチはチョコバナナしようかな…。イサムはどうすんや?」

「うーん…。イチゴアイスにしようかな?」

「アンタのセンス…ホンマ女子力の塊やな。」

「そうなの?」

 

 そんな会話をしていると彼らの番になった。

 

「さて、注文するで!」

「すみませ~ん。イチゴアイス1つ。」

「あ、ちょっと先に言わんといてや!おっちゃん!チョコバナナお願い!」

 

 彼らが注文をするとクレープ屋のおじさんは慣れた手つきでクレープを作り、彼らに手渡した。もちろんイサム持ちでのお支払い。

 

「おお~美味そうやな!」

「アイスになのに意外と熱いんだねクレープって。」

「なんや?イサムってクレープ食べたこと無かったんか?」

「そうだね。こういうの始めてだから。」

「そうやったんか。まあそこにでも座って食べようや。」

 

 2人は近くの席に座り、クレープを黙々と食べ始めた。

 

「そう言えばなんだけど…ミチルって楽器引けたっけ?」

「うーん…ドラムとかやな。でも急にそんなことゆうてどないしたん?」

「いや、ちょっと昔の夢をもう1回見てみようかなって思ってさ。」

「そっか。」

 

 2人は少しの間沈黙していた。

 

「なんならアキラも混ぜてバンドやってみよっか。」

「バンド?」

「やるからにはとことんやる!決めたからにはまっしぐらや!」

「……本当ミチルって凄いよなあ。」

「まあその辺は追々アキラと相談するとして…イサム、クレープのアイス溶け始めとるで。」

「えっ?ウソでしょ!?」

 

 イサムはあわててクレープを食べた。それにより口の周りにはベタベタとアイスがついてしまった。

 

「あーもうなにしてんねん。ほら顔こっち向けて!」

 

 それを見かねたミチルはハンカチを取り出しイサムの顔を拭いた。

 

「それウチも食べてみてええか?」

「えっ?」

「なんならウチのもあげるけど?」

「いや、ちょっと待ってって!」

 

 彼らの幼なじみ同士の時間は次第に過ぎて行ったのだった…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 近くにいた1人の少女のことも知らずに。

 

 

 

 

 

◆ ◆ ◆ ◆

 

 

 

 

 

 この日、丸山彩はパスパレの練習が早めに終わり1人駅前を歩いていた。

 

「あっ…ここは確かパスパレのライブのチケットを売ったところ…。」

 

 駅前には劇場がありそこで彩はパスパレの活動に難があったとき必死でチケットの販売をしていた。

 

「あの時、がむしゃらに頑張って…それから千聖ちゃんが協力してくれたんだよね。」

 

 思い返すととても大変なものだった。だがそれも今となっては懐かしい。

 

「それにその後でイサムくんにあって…。」

 

 それから色々なことがあった。彼のお陰で再び前を向けるようになったものの、その本人はどこか辛そうだった。だから彩は彼の力になりたかった。彼を支えたかった。

 

 自分でも誰かを支えられる。そんな目指した自分の為に。そして…

 

「イサムくん…今どうしてるかな?」

 

 彼の為に。

 

「そうだ。久々に連絡してみよ!もしかしたらこの辺りにいたりして……?」

 

 そう言っていた矢先、彩はとあるものを目撃した。それは…

 

「イサムくんと…誰?」

 

 知らない女子と一緒にいるイサムの姿だった。

 それにその子とはとても距離が近いように感じた。例えるならそう…

 

 

 

 

 

 

 

 恋人のように。

 

「あーもうなにしてんねん!ほら顔こっち向けて!」

 

 そう言った少女は彼に近づきハンカチで口を拭いていた。仲の良い男子と女子ならそれくらい普通なのかはわからなかった。だが、彼らのその姿はまるで…

 

 

(恋人…みたい…。)

 

 

 そう。2人の距離感はまるでそのようだった。今まで自分があそこまで彼と距離を縮めたことがあっただろうか?いや、無かった。そう思った彼女は自然と駅前から離れ始めた。まるでその光景から逃げるかのように。

 

(なんでこんなに心が痛くなるの?なんでこんなにモヤモヤしてるの?なんで…なんで…)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(なんで…私泣いてるの?)

 

 彼女の元に吹く風が頬に流れる涙をそっと冷やしていた。

 

 

 

 




ふう…。とりあえずざっとこんなものかな?
ちょっと、ありがちな展開だな~とか思った人。お兄さん怒らないから正直に言いなさい。

新しく☆9評価をくださった邪竜さん、水色( ^ω^ )さん、ありがとうございます!
コメントの方も新たにくださった方、ありがとうございました!

良ければコメントや高評価をくださると執筆の励みになります!

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悩む少女


どもども、カナさんです!

まず一言…こっちの作品ほったらかしててすみませんでした!
本当すみません!あ、石投げないで!
というかすっかり忘れられてたと思ってたけど意外と覚えてくれてた人いて嬉しくなりました。
それでは前置きもここまでにして本編どうぞ。



 

 

 某日。とある芸能事務所の練習スタジオでは、丸山彩が所属しているPastel*Palettesの練習が行われていた。数日ぶりに全員の予定が一致し、5人揃っての大切な特訓日となっていた。

 のだが…

 

「しゅわ~しゅわ~氷のダイヤに揺れながらそっと~」

「ちょちょ、ちょっと!彩さんまた走ってますよ!」

 

 練習開始からこんなことが続いていた。最初のうちはちゃんと皆の音が合わさり、順調な滑り出しだったのだがどういう訳か曲が進むにつれて彩の歌が駆け足になってしまい、他の4人もそれにつられそうになって音がバラバラになっていた。

 

「彩さん、どうしたんですか?今日ちょっと変ですよ?」

「あたしもそう思うな~。いつもの彩ちゃんのドジっぷりは面白いんだけど今日のはるんって来ないんだよね~。」

 

 ドラムの麻弥やギターの日菜にこう言われて、まるで叱られた後の子犬のようにへこんでいた。

 

「アヤさん…もしかして何か悩み事でもあるんですか?」

「へっ?いや…悩み事なんてないけど…。」

 

 本人がそう言うものの、目が泳いでいたりどことなく無理をしているように見えた為、他のメンバーは普通でないことはすぐにわかった。

 

「とりあえず今日の練習は終わりにしましょう。これ以上やっても意味がないわ。」

「うっ…。」

 

 千聖の厳しい言葉に何も言えずにその場で更に彩は落ち込んでしまった。

 

「はあ…。」

 

 深くため息をつく中で彩はあの時のことを思い出していた。

 

(あの子…イサムくんと恋人同士なのかな…。)

 

 あの子とは以前イサムが駅前のクレープ屋さん前で一緒にいた女の子のことである。その時彩が見たのはまるで恋人同士のように距離が近く、それを見た時からその事を思い出す度に胸が痛むのだった。

 

(結局その後イサムくんと会うことも無かったし…それに…なんだろう、このモヤモヤ…。)

 

「彩ちゃん、ちょっといいかしら?」

 

 練習スタジオを出ようとした時、千聖が呼び止めた。

 

 

◆ ◆ ◆ ◆

 

 

 千聖の誘いで来たのはとあるカフェだった。外の椅子に腰かけた2人は注文した品が来ると会話を再開した。

 

「ち、千聖ちゃん…話って何?」

「単刀直入に聞くわ。彩ちゃんは彼のことをどう思ってるの?」

「えっ?」

 

 千聖の質問に彩は一瞬動揺してしまう。

 

「どう思ってるって…なんでそんなこと…?」

「見ればわかるわ。今のあなたは彼のことで悩んでいる。大方、彼と何かあってその事を抱えてるんでしょ?」

「千聖ちゃん…凄いね…。」

「当たり前よ。伊達に女優なんてやってないわ。」

 

 流石は若手女優と言ったところか彩の表情と雰囲気だけで彼女の全てを読み取っていた。

 

「それでどうなのかしら?」

「えっと…それが私にもよくわからないんだ…。」

「……そう。」

 

 「よくわからない」。その言葉に対して千聖は特に何も言わずに注文した紅茶を飲んでいた。

 

「何も言わないの…?」

「ええ。私にはそんな経験は無いけれどお芝居をしていれば大体理由はわかるわ。だから無闇に答えを出して良いものじゃないことくらい理解出来るのよ。」

「…………ねえ、千聖ちゃん。」

「何かしら?」

「やっぱりこの気持ちって…『そういうこと』なのかな?」

「・・・・・・・・・」

 

 彩の問いに対して千聖は黙りこむ。

 

「それは貴方が考えなきゃいけないことよ。」

「そう…なのかな?」

「それともう1つ…その気持ちは今の貴方には少し…いえ、かなり危険なものかもしれないわね。」

「えっ…?」

「いい?今の貴方はもう『ただの丸山彩』じゃないの。その事はわかるかしら?」

「ちょ…ちょっと待って!?意味がわからないよ!」

 

 千聖の言葉に思わず声を上げた。彩は突然言われたただ事ではないという言葉に理解が追いついていなかった。その様子を見た千聖は小さくため息をついた。

 

「彩ちゃん、その気持ちを持つことは絶対ダメとは言わないわ。それでも今の貴方の状況でその気持ちを持つと言うことは大きな責任がついてしまうの。」

「責任……?」

「そう。今の貴方はアイドル。今の世間からは『Pastel*Palettesの丸山彩』という印象の方が強いの。……ここまで言えばわかるかしら?」

 

 そう言われ、彩は千聖の言葉の意味に気づいた。自分がイサムに対して抱いてる気持ち、そして千聖の言葉の真相に。

 

(そうだったんだ…。これって『そういうこと』だったんだ…。)

 

 思う度に大きくなる彼の存在。ふとした時に脳裏に浮かぶ姿。そして、突然起きた気持ちのモヤモヤ。理解した瞬間にそれらの理由が判明した。

 

 

 

 

 

 

 丸山彩は…佐倉イサムに恋をしていたからだ。

 

 

 

 とはいってもいつ、どのタイミングで彼の事が気になり始めたのか、何故そこまで彼を思うようになったのかはわからない。なぜなら今までその気持ちのことを意識していなかったからだ。

 気がつけば彼の事が気になり、彼を思っていた。恋というものはそういったものではないだろうか。

 

(私は…イサムくんのことが…。)

 

 改めて確認すると彩はやはり恥ずかしくなっていた。無理もないだろう。今まで夢に向かって一途に頑張っていた為、恋といったものとは無縁だったのだ。急に慣れろと言われても無茶を言うなというものだ。

 

(でももしかしたらイサムくんはあの子と……そう思うとやっぱり…。)

「彩ちゃん?」

「ふぇ!?」

 

 考え事をしていた彩は突然千聖に呼ばれて拍子抜けな声を出してしまった。

 

「どうしたの?さっきから…。」

「ううん…千聖ちゃんに言われたことを考え直してて…。」

「そう…。それで彩ちゃんはどうしたいのかしら?」

「どうしたい…って言われても…。」

「アイドルとして生きていく為にはスキャンダルは死活問題よ。私達の事務所は恋愛禁止と断言されていないけれどマスコミはお構いなしにそういったものをネタにしようと狙っているわ。

 アイドルは夢を、憧れを与える存在。そんな人が誰かのものになると思うとファンの人がどう思うかわかるでしょう?」

 

 千聖の言葉を聞き、彩は再び暗い表情をした。

 彩は誰かに夢や憧れを与える…そんなアイドルになりたかった。彼女の尊敬するあゆみというアイドルのような存在に。そして彼女はその夢を歩み続けている。故にそれを捨てるという選択肢は取りたくない。だが、そうするとイサムとはどうなるのだろう?彼女にとってイサムは夢へ進む自分の背中を押してくれた大切な存在であり、今またその関係の上を行こうとしている存在でもある。

 夢か、恋か。

 彩にとってそれはどちらも捨てることが出来ない大切なもの。この選択は重すぎるものだった。

 

(私は…どうすればいいんだろう…。)

 

 その後、とても思い詰めていたのか千聖の話が耳に入らず、注文していたケーキも味を感じなくなっていた。

 

 

◆ ◆ ◆ ◆

 

 

 2日後、彩はレッスンが休みだった為、1人ショッピングモールを歩いていた。

 

(結局…あれから何も答えが出なかった…。

 せっかく掴んだアイドルの夢は諦めたくない。でもイサムくんと離れるのも嫌だ。

 私はどうしたら…。)

 

 考え事をしていて前を見て歩いていなかった為か、彼女は誰かとぶつかってしまった。

 

「いって~。どこ見て歩いてんだこのアマ。」

「あっ…ご…ごめんなさい…。」

「おいおい、服にソフトクリームついたじゃねえかよ。こりゃクリーニング代貰わねえとな~。」

「えっと…その…。」

「オラさっさと払えよ。それともこの服買い直してくれるか?5000円もしたんだぞ?」

「あっ…ごめんなさ…」

「それともなんだ?その体で払ってくれてもいいんだぞ?」

 

 威圧してくるガラの悪い高身長の男に対して彩はただ怯えることしか出来なかった。

 

「…すみません…それは…出来ません…」

「出来ない?お前ぶつかって来たくせによくそんなこと言えたな?あ?」

「でも…」

「最近のガキは教育が行き渡ってねえみたいだな!」

 

 壁に突き飛ばされた彩は背中を押さえながら恐怖に震えていた。目の前にいるガラの悪い男が今度は何をしてくるかわからない。

 

(イサムくん…イサムくんっ!)

 

 ここにいるはずもない人物の名前を心で叫ぶ。だが、イサムが今どこで何をしているかわからない。

 

「ダメ親の代わりに俺が教育しといてやるか…」

「そこまでにしときや。」

 

 男の魔の手が伸びそうだった時、知らない1人の少女がそこに現れた。

 

「あ?なんだこのガキ?」

「ガキって…お前の方がガキやろ、精神年齢的な意味で。」

「なんだとてめえ?」

「というか女の子に手を上げるって男としてどうなん?その辺わからんところ見ると再教育が必要なのお前の方とちゃうか?」

「てめえ偉そうに…何様のつもりだ!」

「ウチか?ただのしがない女子高生やけど?」

 

 関西弁で強気に喋る少女に対して男は痺れを切らしたのか…

 

「てめえにも再教育が必要みたいだなぁ!」

 

 殴りかかった。

 しかし…

 

「遅いわ!」

 

 男の腕を掴むとその勢いを利用して男を投げ飛ばした。

 

「痛え~。このガキ…舐めやがっ…」

 

 再び襲いかかろうとした男だが、目の前の光景に思わず声を止めてしまった。

 何故なら…

 

「さて…このままやるんならこれぶつけた後で警察呼ぶけどええか?」

 

 中に空き缶とかペットボトルとか入って重さが増していると思われる金属製のゴミ箱を華奢な女の子が余裕で持ち上げていたからだ。

 

「す…すみませんでしたぁぁぁぁぁぁ!!!!」

 

 目の前の光景に恐怖した男は一目散に逃げ出した。

 

「…あほくさ。」

 

 つまらないものを見たかのような声で呟くとゴミ箱を適当な場所に戻し、彩の元に近づいた。

 

「ごめんな~。ウチちょっと力強ーてな、気にしとるんやけど治らへんで…。大丈夫?」

「えっ…?うん…。」

「ん…あんたもしかして…。イサムと一瞬におった子か?」

「えっ…?イサムくんのこと知ってるんですか?」

「知っとるも何もしょっちゅう顔合わすわ。いや~まさかこんな形で会えるとは思わへんかったわ~。」

「そ…そうなんだ…。」

「それに多分やけどパスパレの子よな?」

「えっ!?知ってるんですか?」

「ホンマかいな!まさかとは思うてたけど同一人物か…。」

 

 彩の目の前で衝撃を受けている少女は驚いていたが、「そや!」と再び彩に向き直った。

 

「ウチの名前は野方ミチル。よろしくな!」

 

 こうして、丸山彩と野方ミチルは出会うのだった。

 

 

 

 

 





今回、イサムくんの出番はありません。因みに彩が襲われていた時、オリ主はバイト真っ最中です。主人公(物語的な意味で)仕事しろ。

そして今日から仮面ライダージオウの映画公開ですね。勿論見に行きますよ!オーマフォームとマッハの活躍が楽しみだ!

コメントや高評価くださるととても嬉しいです!

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当たって砕けろ

 

 

 彩が柄の悪い男に絡まれていたところをミチルが助けてから、2人はミチルの薦めでショッピングモール内のスムージー店に来ていた。

 

「ウチはキウイスムージーにしようかな…。彩はどうすんの?」

「えっ?じゃあ…イチゴのスムージーお願いします。」

 

 その後、ミチルの手引きで注文し、出来上がったスムージーを受け取った後に近くの椅子に腰をかけてスムージーを飲んでいた。

 

「すごく美味しい!甘いしとっても飲みやすい!」

「せやろ?ここのお店のスムージーは果物や野菜を新鮮な状態で使っとるからな!それにマスター厳選のやから栄養素も高いんや。美容にもいいらしいで。」

「そうなの!?」

「もち!」

 

 それからと言うもの2人は他愛もないガールズトークに花を咲かせていた。ミチルは元々気さくな性格であり、先程の出来事もあった為か彩とは早くから打ち解けることが出来ていた。

 

「それにしてもまさかあのイサムが彩と知り合いやなんて思いもせえへんかったな~。意外と世界って狭いんやな。」

 

 ミチルのその一言に彩はスムージーを飲んでいた手を止めた。

 

「そう言えば彩ってイサムといつ知りあったん?」

「えっ!?それは…少し前の話なんだけど私がちょっと怖いナンパの人に絡まれてるときそこにイサム君がいて私を助けてくれたんだ。」

「ふーん。あのイサムがなあ…。」

 

 ミチルは遠くを見つめながら何かを考えていた。

 

「ねえ、ミチルちゃん。1つ聞きたいことがあるんだけど…いいかな?」

「ん?何でもええで?」

「あのさ…ミチルちゃんとイサムくんってどういう関係なの?」

「どういう関係っての言うてもな…。ただの幼なじみで腐れ縁って感じでしかないけど…。」

「でもさ…この間…。」

 

 そう言いかけたが、それ以上言葉が出なかった。それを聞いてもし自分が思った通りの答えが帰ってきたら…もう立ち直れないかも知れない。そう思ってしまったのだ。

 それでも聞きたかった。その自分の勘違いに賭けたかった。でももしその通りなら…という葛藤が彩の中で暫く続いていた。

 

「彩?どうしたんや?」

「あのさ…この間……駅前のクレープ屋さんでイサムくんと一緒にいたよね?」

「そうやな。イサムにクレープ奢らせてその場で食べとったな。それがどないしたん?」

「……ミチルちゃんはさ……イサムのこと…好きなの?」

 

 勇気を振り絞って遂にその事を聞いた。その場で俯いていた彩には見えなかったが、ミチルはそれを聞いた瞬間、目をパチクリさせながら「はい?」と言ったような顔をしていた。

 

「あのさ彩…話が見えへんのやけど…。ウチ、そんな付き合っとるなんて一言も言うてへんで?」

「でも…あの時、イサムくんと何かしてたしそれに……顔近かったし…。」

 

 顔を赤くしながら彩は呟いた。それを聞いたミチルはポカーンとしていたが、少しして突然笑いだした。

 

「ミチルちゃん?」

「ハハハッ…。なんや…?」

「笑わないでよ!私真剣なんだよ!?」

「ああ…せやったな。ごめんごめん。」

 

 ミチルの行動に少し怒った彩に対して当の本人は笑っていたことを隠そうとせず、話の為に息を整えていた。

 

「ふう…。で、ウチとイサムが付きおうとるかどうかやったか?」

「うん…。」

「まあ…結論から言うと付きおうてないで?」

「えっ?」

 

 ミチルの回答に彩は鳩が豆鉄砲を食らったかのような顔をしていた。

 

「いや、ウチはイサムとは付きおうてないよ?」

「えっ?でもあの時…顔を近づけてたのって…」

「ああ!あれな!あれはイサムの頬っぺたにクレープのクリームがついてたからとってあげてたんや。」

「じゃ…じゃあ…飛びかかっていた光景って…。」

「それは『イサムのクレープ一口くれー!』って感じやな。」

 

 ミチルが言ったことを聞くと彩は顔を真っ赤にしていた。

 こういった勘違いから始まる恋愛物語はドラマなどで沢山見てきたがまさか自分がそれをやることになろうとは…。しかもドラマの撮影とかではなく……プライベートで。

 

「なんやそういう事か!どういうことが良うわかったわ!」

「うう…。穴があったら入りたい…。」

 

 彩は手で顔を隠しながらそう呟くいていた。

 

「でもそう思うって言うのはさ…もしかして彩ってイサムのこと好きなんか?」

 

 ミチルに聞かれて暫く黙っていたが…

 

「うん…イサムくんのこと…好きだよ。」

「ほお…。」

 

 彩の答えにそう呟いた。

 

「なるほどな~。つまりそういう事か~。」

「そういう事?」

「いや…まあ…そういう事はそういう事や!」

 

 何かをはぐらかすようにミチルは「そういう事」と言いきった。それに対して彩は「そういう事ってどういう事!?」とわからないままミチルに問い詰めたのだが、当の本人は自分のスムージーを啜っていた。

 

「でも彩も乙女やな~。イサムって変なやつやろ?」

「言われてみればそうかもしれないけど…。でもイサムくんは優しいし、面白いし……何より私が苦しい時、傍でずっと支えてくれた。それに…私もイサムくんを支えたいんだ。私の夢を応援してくれたように、私もイサムくんの夢が見つかったときそれを傍で応援してあげたいんだ。」

「…そか。イサムも幸せ者やな。」

 

 スムージーを飲んでいたいたミチルだが、ふと何かを思い出したかのようにそれを止めた。

 

「そう言えば彩って告白とかせえへんの?」

 

 突然の発言に彩は飲んでいたスムージーを吹き出してしまった。その姿はアイドルとは思えないような光景で、もし千聖がいればたちまちお説教タイムになっていただろう。それに2人の座っている場所が人気の少ないところなのが不幸中の幸いなのかそれを見ていたのはミチルだけだった。

 

「ケホッ…ケホッ…。こ…告白!?」

「せや!どうせ好きなら告白とかいずれするんやないの?」

「うん…。そうしたいけど…。」

 

 ふと千聖から言われたことを思い出した。

 

『アイドルとして生きていく為にはスキャンダルは死活問題よ。』

 

 確かに彩たちの所属事務所は恋愛禁止ではない。だが、そんなことはマスコミには関係ない。極端な話、都合のいい情報を面白いように書き上げればそれでいい…という人も少からずいるのではないのだろうか。

 もし、告白して付き合うことが出来たとしてもそれを記事にさせるとどうなるのか。

 そうなると悪のりするものが増え、いずれはイサム、そしてその周りの人たちにも迷惑がかかる。そんなことは避けたい。しかし、だからといって夢を諦めることはしたくなかった。

 二兎追うものは一兎も得ずという言葉があるが、そんな感じになるのかな…と彩は悩んでいた。

 

「もしかして…恋愛禁止令とかあるんか?」

「えっ…?そういうのじゃないけど……ほら、私ってアイドルでしょ?だからやっぱり禁止じゃなくてもそういうスキャンダルに成りかねないものは避けた方が良いのかな…って。」

「ふーん…。まあ、ウチはアイドル環境とかなんもわからんけど1つ言いたいこと言ってええか?」

「何…?」

「彩はさ、アイドル止めたくないし、イサムも諦めたくないんやろ?」

「…うん。」

「せやったら簡単やん。恋愛禁止令とかないなら正直になったらええやん。」

「………え?」

 

 ミチルの突然の発言に彩は目を丸くした。

 

「だから、あれや…その…『二兎追うものは二兎とも取れ』ってやつや。なんかで言うとったんやけど…なんやったかな?」

 

 その意見は彩にとって予想外の提案だった。

 

「でもそれだとイサムくんにも迷惑が…」

「かもしれへんな。そうなったら後は彩とイサムでどうにかするしかないかもしれん。それでもあたしは言いたいことがある。

 

 それは『人は迷惑をかけるもの。それをどう捉えるかは相手次第』ってことや。まあ…ぶっちゃけると当たって砕けろ!ってやつやな。」

「当たって砕けろ…?」

「まあ実際ウチは頭使うの苦手やからな。だから迷ったらとにかくやってみるようにしてるんや。これまでもこうやって何回もピンチを乗り越えてきた。だからきっと…彩にもできる筈や。」

 

 当たって砕けろ。

 とにかくやってみるがモットーのミチルらしい言葉だった。

 

「まあ…後はあんた次第や。でも、あたしはあんたら2人ならきっと大丈夫やと思うとるけどな。」

「…こんな私でも…出来るのかな?」

「出来る!……多分。」

「多分!?」

 

 余計な一言に彩は「多分ってどういう事!?」と不満の声を漏らす。

 

「でも、彩が本気でイサムのこと好きならどうにでもなると思うで?」

「ミチルちゃん…。」

 

 その言葉を聞いて彩の心は少し軽くなった。少しして、彩は決意を入れ直すかのように頬を両手で軽く叩いた。

 

「うん。ミチルちゃんのお陰でなんか気合い入った。ありがとう!」

 

 先程までとは違い、心からの笑顔になった彩はミチルに礼を言った。

 

「まあ…お礼ってわけやないけど…良かったら彩のスムージー1口飲んでみてもええか?」

「いいよ!」

 

 その後、2人はガールズトークに花を咲かせ、親睦を深めていたのだとか。

 





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田舎(佐倉家)に泊まろう!

前回投稿日→8月9日
今日→9月15日

1ヶ月以上間開けてすみませんでした( ノ;_ _)ノ

いや、いつ日完結に向けてとか色々とやってましたしリアルでも課題とかテストとかレポートとか転落事故とかあって大変だったんですよ…。本当にすみません許してください何でもしますから(何でもとは言ってない)



 

(うーん…久しぶりにイサムくんと会ってみたいけどどうやって誘おうかな…。)

 

 学校から帰ってきた彩は制服のまま1人悩んでいた。最近は忙しくて中々イサムと会うことが出来てないためどうにかして会いたいと思っていたのだが、どうにも誘える理由が無かった。ここ最近はメール越しのやり取りしか出来てないためいきなり彼を呼び出すのはどうなんだろう…と考えていた。

 

「彩~?お風呂沸いたわよ~?」

「うん!今行くよ!」

 

 母親に呼ばれて、お風呂に入りながら色々と思考を張り巡らせていたがやはりいい案は思い付かなかった。

 お風呂から上がっても彼女は上の空のままだったのだ。

 

「うーん…。」

「あ、彩。最近彼とはどうなの?」

「えっ?…彼?」

「ほら!あの…彩をおぶって来た子!あの子、彼氏じゃないの?」

「お母さん!?」

 

 母親の言葉に思わずソファーから立ち上がった彩は顔を赤くしながら声をあげた。

 

「あれ?何か違った?」

「まだそんなのじゃないよ!それにイサムくんはただのお友達で…」

「へー、今は(・・)お友達ね~。」

「……へっ?」

 

 己の失言により再び赤面になった彩は近くのソファーに倒れこみ、そこにあったクッションに顔を埋めていた。

 

「大丈夫よ~。私は大賛成だから!」

「・・・・・・・」

「なんかあの子になら彩を任せてもいい気がするのよね~。まさに類は友を呼ぶ…みたいな?」

「…お母さん?」

「とにかく!あなたが好きならとことんアタックしなさい!セール品と男は絶対逃がしちゃ駄目よ!」

「う…うん?」

「まあ……お父さんが聞いたら多分混乱するでしょうけどね…。」

「……たしかに。」

 

 うちのお父さんなら「彩に男!?アイドルなのに大丈夫か!?とにかくここに連れてきなさい!!その不埒者がどんなやつかこの目で確かめてやるわ!!」とか言いそうだよね…と考えながら二人は遠い目をしていた。

 

「それで?近況は?」

「えっと……実は最近忙しくて中々…ね?」

「そっか~。それで?会いにいかないの?」

「会いたいけど…中々いい誘い方が思いつか無くて…。」

「なるほどね…。」

 

 母親は数分間かんがえていて、彩はその時髪を乾かしていた。彼女が戻ってくる頃、丸山母は「そうだ!」と何か閃いていた。

 

「彩、彼と親睦を深めるいい方法があるわ!」

「えっ?」

「ちょっと耳かして。」

 

 彩の耳元で自身の秘策を教える丸山母。それを聞いた彩は顔を真っ赤にして…

 

「えええええええええええ!!!!?」

 

 かなりの大声で驚愕の声をあげた。

 

「ほら思い付いたら即行動!」

「えっ!?ちょっと待ってよ心の準備がぁぁぁぁぁ!!!!」

 

 

 ◆ ◆ ◆ ◆ ◆

 

 

 一方、イサムは鞄に教科書などを入れて明日の準備をしていた。

 

「ふう…。とりあえずこんなものでいいかな?」

 

 一通り鞄に必要な教科書を入れたことを確認したらイサムは洗面台へと移動し、歯磨きをしていた。

 

「あ、イサム。明日母さん出張で明後日の昼帰るから夜は冷蔵庫の中のもの好きに食べていいからね?」

「わかった~。」

 

 佐倉家では1、2ヶ月に1度こういったことがある。かといって特別何かやるというわけではないのだが夕食はイサムの気分次第で作ったりレンチンの物だったりと変わってくるのだ。

 

「とりあえず明日は…学校終わったらまた楽器店行ってみようかな…。」

 

 そう呟きながら歯を磨いたイサムは口に含んでいた歯みがき粉の泡を洗面台に吐き出した。そしてそのまま部屋に戻り机に置いてあったスマホを開いた。

 

「ん?彩から?」

 

 着信が入った欄を押すと彩との会話画面が開かれた。そこにはこれまで二人が行ってきた様々なやり取りが映し出された。

 

「えっと…何々………えっ?」

 

 新しい着信を見たイサムは驚愕した。なぜならそこに書かれていたのは…

 

 

 

 

 

 

『イサムくん、明日なんだけどもしお邪魔じゃなかったらイサムくんの家に行ってもいいかな?』

 

 

 

 

 

「えええええええええええ!!!!?」

 

「うるさい!夜中に騒ぐな!」

 

 そのまま彼はその夜寝れたとか寝れなかったとか寝れたとか寝れなかったとか寝れなかったとか。

 

 

 

 ◆ ◆ ◆ ◆ ◆

 

 

 

 次の日の放課後

 

 学校の授業が終わったイサムは約束の公園に行き、彩の到着を待っていた。

 

「はあ…はあ…はあ…。イサムくん…遅くなってごめん…。」

 

 そこに彩が息を切らしながら走って来た。

 

「いや全然大丈夫だよ?」

「うう…。よりによって今日緊急集会行わなくても…。」

「…大変だったんだね。」

 

 彩が落ち着くまで少し2人はベンチに座っていた。その間にイサムは近くの自動販売機でポケリスェットを買い、彩に渡した。「ありがとう」と言ってそれを受け取った彩はドリンクを半分ほど飲み干した。

 

「ふう…ごめんね、遅れた上に飲み物まで貰っちゃって…」

「いいよ。それで今日はどうして突然?」

「えっと…驚かないで聞いてくれる?」

 

 彩はそこに行き着くまでの経路を話した。それを聞いたイサムは「ええ…」と苦笑いした。

 

「彩のお母さんって……結構行動派なんだね…。」

「あはは…。」

「それで……ウチに来るってどういうことなの?」

「それなんだけどさ…落ち着いて聞いてくれる?」

 

 彩の言葉にイサムは首を傾げながらも続きを聞くことにした。

 

「実は……イサムくんの家に今日1日泊まっても…いいかな?」

「・・・・・・・・・・・・ゑ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ええええええええええええええええええ!!!!!?」

 

 その公園にイサムの渾身の衝撃が響いた。

 

 

 

 ◆ ◆ ◆ ◆ ◆

 

 

 

 場所は変わって現在はイサム宅前。

 

「ここが…イサムくんの家…。」

「うん。ごく普通の一軒家だけどね。」

「そっか…それと本当にごめんね?急に無茶言って…。」

「いいよいいよ。どうせ今日は母さんは仕事で帰って来れないし父さんは単身赴任でどっか行ってるしゆっくりしてよ。」

「……うん。」

「まあ立ち話もなんだし中入ろ?」

 

 そのまま家の鍵を開けて2人とも家の中に入る。

 

「えっと…とりあえず適当なところに座ってて?俺は着替えて来るからさ。」

 

 そのままイサムは2階の自室に戻り服を着替える。()を待たせないようにと適当な服を選び早めにリビングに戻っていった。

 リビングでは彩は落ち着かないのか部屋の中をキョロキョロしていた。

 

「彩?」

「ふぇ!?イ…イサムくん!?」

 

 声をかけると慌てたかのように高い声をあげて驚いていた。

 

「えっと…どうしたの?」

「えっ!?いや…何でもないよ!?」

「…そう?じゃあ…俺はご飯とかお風呂の準備とかするから彩はテレビでも見ててよ。もし退屈だったら言ってくれたらゲームとか出すしさ。」

 

 そう言ってキッチンに向かおうとするイサムだったが…

 

「ねえイサムくん、私も何か手伝えないかな?」

 

 ソファーから立ち上がりイサムの腕を掴んだ彩はそう言った。

 

「えっ?でも彩はお客さんだしこれなら俺1人でも出来るよ?」

「でも私、イサムくんに無理言ってばかりだから…もし手助けできることがあるなら何でもしたいの!」

 

「お願い!」と手を合わせながら頼み込む彩を見てイサムは「じゃあ…任せようかな?」と返すと彼女は目を輝かせながら笑っていた。

 その様子を見ていたイサムは「(子犬みたいで可愛いなぁ)」と心の中で思っていた。

 

「とりあえずお風呂は朝のうちに洗ってあるから…晩ご飯だけど……彩は何か好きなものとかある?」

「うーん…オムライスとかかな?」

「………よしっ。それなら良いものがあった。」

 

 すぐさま冷蔵庫を開けて上の方に置いていた箱を取り出した。

 

「これ…何?」

「卵だよ。この間買った結構いいやつなんだ。」

 

 箱の中の紙綿を避けるとそこには綺麗な赤卵があった。

 

「せっかくだしこれ使っちゃおうか。」

「えっ?いいの?」

「まあ使わないとそのうち腐るし鮮度のいいうちに食べちゃった方がいいんだよ。」

 

 そう言ったイサムは箱の中から3つほど卵を取り出し、ボウルに器用に割っていれた。

 

「じゃあ…彩はこれをかき混ぜて、砂糖と塩で軽く下味つけてくれる?その間にチキンライス作っとくから。」

「うん!任せて!」

 

 彩にボウルと菜箸を渡し、イサムはチキンライスづくりに移った。

 鳥のモモ肉を細かく切り、みじん切りの玉ねぎ、細かく切った人参とピーマンと一緒にケチャップで炒め、味が着いたところでご飯を入れ切るようにほぐし再びケチャップで味をつける。程よく混ざりパラパラになるとそれを別の皿に移した。

 

「彩、卵できた?」

「うん!」

 

 卵を受けとるとフライパンでかき混ぜながら半熟状にしていくのだが…これが中々テクがいるらしい。

 それを容易くこなすイサムを彩は隣でじっと見ていた。

 

「イサムくん…もしかして料理得意だったりする?」

「うーん…見よう見まねだけどね。簡単なものなら出来るだけで上手いって訳じゃないからな…。」

 

 そんな会話をしていると…

 

「あっ…」

 

 卵の形を整えていたところで事件は起きた。

 イサムがつくっていた卵をひっくり返したところ…

 

「ちょっと焦げた…。」

 

 火加減を間違えてしまったのだ。それゆえに半熟だった卵もすっかり固めになってしまった。

 

「彩、とりあえず…チキンライス乗せたお皿ちょうだい。」

「あ、うん。」

 

 その後、二つ目はなんとか無事完成してオムライスは出来上がったものの…。

 

「とりあえず失敗したのは俺が食べるからさ。彩は綺麗な方食べなよ。」

「えっ?でも私イサムくんにまかせっぱなしで全然手伝えなかったし私がこっち食べるよ。」

「いや俺が…」

「いや私が…」

 

 こんな感じで少しの時間、このやり取りが続いたらしい。

 因みに結果としてはイサムが全力の土下座を見せた為、彩が綺麗な方を食べたと言う。因みに土下座の理由は「客人に変なものを食べさせる訳にはいかないんですお願いします。」なんだとか。

 

 

 




うん、暫く書いてなかったせいか書くの下手くそになってるわ。
やっぱ間空けると色々ダメだなこりゃ…。

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一夜の2人

 

 

 私は今、イサムくんのお家のお風呂を借りてます。

 イサムくんが作ってくれたオムライスを食べた後、彼の厚意でそのままお風呂に入ることになりました。本当はお手伝いをしたかったのだけどイサムくんが「洗い物少ないからすぐに終わるし大丈夫!」と言ってその間お風呂に入ることを勧めたことにより今こうなってます。

 体を洗い、湯船に張られたお湯に身を沈める。すると、程よい温度のお湯が身を包んだ。

 

「ふう…。」

 

 湯船にもたれながら天井を眺めた。

 

「オムライス…美味しかったな。」

 

 そんなことを考えながらボソッと呟いた。

 もしだけど…もしいつか思いが実ることがあったらこんな日々が毎日続くのかな?そうだとしたら私、もっと頑張らないと…。

 

「明日帰ったらお母さんに料理教えて貰おうかな…。」

 

 何処かで「男の心を掴みたいなら先ずは胃袋から!」って言ってた気がする。今のままだとそのうち逆に掴まれそうで怖いな…。花嫁修業…という訳ではないけど少しは振り向いて貰えるような魅力を身に付けなきゃ。

 

「魅力…かあ…。」

 

 女の子の魅力って実際のところなんなんだろうね?やっぱり…胸の大きさとか…なのかな?そう思い自分の胸を触ってみる。大きくもなく、かといって小さくもないサイズだとは思うけど…やっぱりもうちょっとあった方が良いのかな~と思った。

 

「揉んだら大きくもなるって聞いたけど…」

 

 どこで得たのかわからない知識を思い出した。イサムくんの好みはわからないけれど…男の子は大きい方が好きということを聞いたような聞かなかったような…。「ちょっと試してみようかな?」と思い、胸に手を当てようとした時……

 

 ジリリリリリ!!!!

 

 上の部屋から大きな音が聞こえた。目覚まし時計か何かだろうか。そして間もなくバタバタと廊下を駆け足で進む音が聞こえ、目覚まし時計の音も止まった。

 

「…………うう…。」

 

 さっきの音のせいなのかお陰なのかわからないが私は冷静に戻った。一体私は人の家のお風呂場で何をしようとしてたんだろ…。その事から恥ずかしくなって少しの間お風呂から出られずにいた。

 

 

──────────────────────

 

 

「それで…これからどうしよっか…?」

 

 その後、イサムくんがお風呂から出て(彩は気づいてないが、女の子が浸かった後のお湯に浸かるというのは不味いのでは?と思いシャワーで済ませている)、これからどうしようか悩んでいた。

 

「うーん…ゲームは基本的に1人プレイのものばっかりだし…漫画や小説読むのもあれだしな…。………あっ。」

 

 何かを思い出したかのようにイサムくんはDVDが何枚か入ったケースを取り出した。

 

「何か見たいのある?まあ基本的に録画をダビングしたものばかりだけと…。」

 

 そう聞いてきて彼は何枚かDVDを取り出した。

 

「たくさんあるんだね。」

「まあ母さんの趣味が映画鑑賞だからね。」

 

 彼から受け取ったDVDを見ると、ディスクの白い部分に「スパ○○ーーマン」とか「ハ○ーポッ○ー」とか記入されていた。色々と探っていると1つのディスクのタイトルが目についた。

 

「『がっこうせいかつ』?」

「あー…それ確か母さんが見てたアニメ映画のやつで…内容はどんなのだったかな?」

「でもなんか楽しそうなタイトルの映画だよね!これにしよ!」

 

 私がそう言うとDVDをプレーヤーに入れて再生した。

 

「楽しみだね!」

「うん。」

 

 

─────────────

─────────

─────

───

 

 

 それから1時間30分程の時がたった。

 今の私たちは皆さんの想像だと「映画面白かったね~!」というのほほんとした雰囲気だと思うよね?

 

 でも今の状況は…

 

「「・・・・・・・・・・・・・」」

 

 2人揃って放心状態です。

 その理由を話すと……面白そうだなと思って見てた『がっこうせいかつ』というアニメ映画、あれは実は……かなり作り込まれたホラー作品でした。

 出だしの20分程は主人公の女の子とその友達が学校で楽しく暮らすアットホームな日常ストーリーと思っていたら30分過ぎくらいから一気に雰囲気が一転してホラー映画になった…。後でわかったことなんだけど、あの映画はポスターやOPで視聴者を油断させてからの真の内容というギャップ展開が受けたらしいけど……私たちからしたら凄く精神的体力が削られただけで心臓が持ちそうにありませんでした…。

 それなら途中で観るの止めたらいいじゃんって?そう思ったんだけどやっぱり続きが気になってついつい最後まで観ちゃったんだ…。でもラストは可愛がっていたけどウイルスに負けちゃった子犬を埋葬するシーンとか、学校から町を出て前向きに頑張っていこうとする主人公だちとか感動するシーンは色々とあったんだよ?

 

「えっと…どうする?何か気分軽くするものでも観る?」

「観たいけど…今何時くらい?」

 

 私が時計を確認すると既に時間は0時を越えていた。

 

「とりあえず……そろそろ寝る?」

「そ…そうだね…。」

 

 そう言って私たちは寝るための準備を始めたんだけど……ここでもまた問題は起きた。

 

「・・・来客用の布団がない…。」

 

 イサムくんが来客用の布団が入っている扉を開けると、中には何も入っていない状況だった。

 

「ねえ彩……今来客用の布団が無いからさ…今日は俺の部屋のベッドで寝てよ。」

「えっ!?じゃあイサムくんは…」

「俺はリビングのソファーで寝るよ。」

「それは駄目だよ!だったら私が…」

「いや、俺が…」

 

 と再びこんなやり取りが発生し、結局辿り着いた結果が…

 

「…何でこうなるの?」

「し…仕方ないじゃん…。こ、これしかもう無かったんだし…。」

 

 彼のベットで2人で寝るということです。今はお互い恥ずかしいからか少し離れて、互いに背を向けている。

 

「……と…とりあえず寝よっか。」

「そうだね!」

 

 イサムくんが電気を消し、部屋が真っ暗になる。唯一の明かりはカーテンの隙間から僅かに射す月明かりだけとなった。

 

「(うう…。勢いで言ったのはいいけど……やっぱりドキドキしちゃってる…。そうだ、素数を数えればなんとかなるって聞いたことがある!よし素数、素数……。)」

 

 と、私は必死に脳内で葛藤していた。

 それからどれだけ時間がたったのかわからないけれどなんとか落ち着くことが出来た。

 もうイサムくんは寝ちゃったかな…。と思いながら振り替えってみたけど、彼も向こうを向いているためよくわからなかった。もしかしてこのこと…怒ってるのかな…?

 

「(ーーー!あーもうやめやめ!もし怒ってたら明日謝ろう!うん!)」

 

 そう思い私も目を閉じて眠りに着こうとする。

 しかし…

 

「(………どうしよう…。さっき観た映画の内容を思い出しちゃって寝れない…。)」

 

 先程のホラー映画……暗く、静かになるほどその映像が脳裏に甦ってきた。

 

「(・・・・・・ちょっと怖いな…。)」

 

 そう思い私は寝返りをうち彼の方を見る。すると暗くて少し分かりにくかったけど…イサムくんと目があった。

 

「………イサムくん?起きてたの?」

「彩こそ…。」

「寝ようとするとさっきの映画思い出しちゃって…。」

「実は…俺も…。」

 

 どうやら彼も同じ理由だったみたい。

 

「ねえイサムくん、映画って言ったら…あの時のこと、覚えてる?」

「覚えてるよ。結構面白かったよね、あの映画。」

「うん。あの映画の最後のシーン、ちょっと泣きそうになっちゃって…。私もさ…あんな感じで…好きな人と結ばれればいいな~なんて思っちゃったよ。」

「彩なら大丈夫じゃないの?可愛いし、優しいし。」

「か…可愛っ!?可愛っ!?」

「あれ?照れてる?」

「もー!イジワルしないでよ!」

 

 私がそう言うとイサムくんは少し笑っていた。

 

「ごめんごめん。ちょっと面白くなって。」

「もー…イサムくんまで日菜ちゃんみたいなこと言う…。」

「そう言えばさ…パスパレの皆ってどんな人なの?あ、言えないのなら無理に言わなくていいんだけど…。」

「ううん、全然大丈夫だよ!まず日菜ちゃんはね…」

 

 こんな感じで私たちは暫く時間も忘れて他愛もない話をしていた。どれだけ話していたのかはわからないけど結構たくさんお話したと思う。それで……気付いた時には私もイサムくんも寝ちゃってた。幸いなことに明日は土曜日で学校も休みだし、私もレッスンは無かったから遅刻や寝坊の心配をしなくて良かったのは結構気分的にも楽だった。

 

 次の日の朝、2人で朝ごはんを食べていると少し早めに帰って来たイサムくんのお母さんが私を見て「イサム…あんたまさか遂に誘拐を…?」なんて言い出すものだから弁解に時間がかかっんだよね…。

 まあ、そのお陰(?)でイサムくんのお母さんと仲良くなって、色々とお話させて貰ったことはまた別のお話かな?

 

 

 





はい、今回ちょっとしたサービスシーン入りました。というか後ちょっとでR-18だったね!アブナイアブナイ!笑
そして今回、なけなしの石でガチャしたところ爆死しやがりました。…………丸山ァァァァァ!!!!!!

良ければコメントや評価よろしくお願いします!

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千聖からの試練


前回投稿
9月22日
今回
11月3日

今回開いた期間:約6週間(1ヶ月半)








グ イ ン パ ク ト←大バカ野郎

いやホントマジで毎回毎回1ヶ月以上開けてすみません。遅れた理由は前回と全く同じです。
そんでもってこれも書いては書き直しての繰り返しだったので…ホントサボってた訳じゃないんですよ?

それはともかくとりあえず本編にどうぞ↓




 

 午後の最後の授業終了のチャイムが鳴り響く。丸山彩は教科書を閉じると思いっきり背筋を伸ばし、一息ついていた。

 

「んん~、今日も疲れた~!」

 

 そのまま机に倒れかかるような体制になった彩はポケットからスマートフォンを取り出し、ある人物との会話画面を開いた。

 

「(イサムくんの方は授業終わったのかな…。)」

 

 そう思いながらこれまでの会話を遡った。いつも声をかけるのは彩からだが、イサムはそれに優しく返事をしてくれる。そしてついつい長々とやり取りをしてしまう…といったことばかりだったなあと思った彩は思わず画面を見ながらクスッと笑ってしまった。

 

「あら、早速エゴサしてるの?」

「ち…千聖ちゃん!?」

 

 千聖に声をかけられた彩は思わずスマホを閉じてしまった。

 

「……なんで隠すのかしら?」

「えっと…これにはその…海より深い空のような理由がありまして…」

「彩ちゃん…?」

「(うう…千聖ちゃんの雰囲気がいつもに増して怖いよぉ…。)」

 

 千聖の笑顔から放たれる謎のオーラに圧倒された彩はぎこちない笑みを溢しながら千聖から目をそらした。

 

「……もしかして…彼に関してかしら?」

「えっ?えっと…それは…」

「教えて。」

「…そ…そうだよ?」

 

 千聖の言葉により彩は全てを覚悟したかのように彼女の問いに返答した。

 

「…彩ちゃん、前にも言ったかもしれないけど私たちは…」

「わかってるよ…。それでも私は決めたんだ。

 私はもう何も諦めないって。だから…アイドルの道もイサムくんへのこの想いも諦めたくないんだ。」

「……本気なの?」

「うん。」

 

 自身の決意を語る彩を見て、千聖は何かを考えたいた。

 

「わかったわ。」

「えっ?」

「彩ちゃんがそこまで本気と言うことは十分理解したわ。」

「それじゃあ…「でも…」」

「もしそうなった場合のことも考えているのよね?」

「……うん。」

「そう…。」

 

 それだけ聞くと千聖は引き下がった。しかし、彼女は何かを決意したかのような表情をしていた。

 

「(……佐倉イサム…ね。)」

 

 

 ◆ ◆ ◆ ◆ ◆

 

 

 上記の出来事から2日後、風島高校で授業を終えたイサムは友人のアキラと共に帰路についていた。

 

「そーいえばさ、アキラって何か楽器できるの?」

「何でそんなことを聞く?」

「バンドやりたいなと思って。」

「は?」

 

 イサムの言葉に耳を疑ったアキラは「どういうことだ?」と言う感じでイサムを見るが、当の本人は敢えて目を逸らした。しかしだいたいのことは察したらしく深くため息をついた。

 

「まあ出来るのはあるが…お前楽器何かあるのか?」

「うーん…ハーモニカ位かな?」

「ハーモニカはバンドで使わないぞ。」

「わかってるよ…。……一応色んな楽器店見て回ってるし…」

「というかお前ギターとかわかるのか?」

「あ、そこに関しては大丈夫。楽器に詳しい友達に色々と教えて貰ってるから。」

 

 それを聞いたアキラは「ふーん」と対して興味無さそうな感じで返事をした。

 

「そういえばミチルは?」

「アイツなら今日締め切りの課題を忘れて居残りさせられてる。」

「……何してんの…。」

 

 2人は「まあミチルだしなぁ」とため息をつきながら歩き続けていた。

 

「佐倉イサムくんよね?」

 

 そんな中、イサムは突然謎の少女に声をかけられた。その少女は小柄な上、サングラスにベレー帽とまるで世を忍ぶモデルのような格好をしていた。

 

「えっと……誰ですか?」

「あら、忘れちゃったかしら?」

 

 そう言った少女はサングラスと帽子を取った。素顔となった少女の顔を見たイサムは驚いていた。

 

「白鷺…千聖…?」

「ちゃんと覚えてくれてたのね。」

 

 そう言うと千聖はイサムに対して柔らかい笑みを向ける。

 

「何でお前がここにいる。」

 

 その時、アキラが2人の間に割って入った。

 

「あら、久しぶりねアキラ。まさかこの子と一緒とは思わなかったわ。元気にしてたかしら?」

「そんなことはどうでもいい。」

「相変わらずトゲトゲしてるのね。」

 

 そんな会話をしている中でイサムは困惑していた。何しろ自分の友人と若手女優アイドルで有名な白鷺千聖が目の前で謎の会話を繰り広げてるのだから。

 

「ちょ…ちょっと待って?」

 

 今度はイサムが2人の間に割って入る。

 

「あのさ、2人って知り合いだったの?」

「……あの時言ってたあるやつってのがこいつだ。」

「あの時…?…………あ、もしかしてライブの時に「思い出したならいい。」えっ?」

 

 発言を遮られたイサムはその理由をよくわかって無かった。しかし…

 

「あら、結局来たのね。あの時のライブ。」

「・・・・・・・」

「あ、そう言えば…アキラ「おい。」え?」

 

 再びイサムの発言を遮るアキラであったが、千聖はクスクス笑いながら2人を見ていた。

 

「仲が良いのね。」

「そんなことより一体何の用だ。」

「そうね…ちょっと彼に用があってね。」

 

 そう言いながら千聖はイサムの方を見た。視線を向けられたイサムは「俺?」と思いながら首を傾げていた。

 

「ねえ…ちょっとお時間いいかしら?」

 

 千聖の言葉の意図。イサムにはそれがまだわからずにいた。

 

 

 ◆ ◆ ◆ ◆ ◆

 

 

 場所は変わって羽沢珈琲店。あの後千聖が「ここだと目立つし他の場所に移動しましょう。」と言った為、彼女の導きでここまで来たのだ。因みにその際に「アキラは着いてこないように」と釘を打ちながら。

 

「お冷やお持ちしました。」

「ありがとうつぐみちゃん。」

 

 この店の店員のつぐみが2人に水を出すと千聖は優しい笑みを浮かべた。

 

「それで千聖さん、そちらの方は…」

「そうね…私の友人のお友だち…かしら?」

「そ…そうですか…。」

 

 つぐみは千聖の言葉の意味がよくわからなかったが、何故かこれ以上聞くのはよくないと判断した為そのまま頷いていた。

 

「それとつぐみちゃん、ハーブティーをお願い出来るかしら?」

「は、はい!それで…ええと…」

「貴方はどうするの?」

「え?じゃあ…ブレンドコーヒーを1つ…。」

「畏まりました!しばらくお待ちください!」

 

 オーダーをとったつぐみは厨房に戻り、再び2人だけの状態となった。

 

「それで…俺に用っていうのは?」

「そうね…。単刀直入に聞かせてもらうわ。」

 

 飲んでいた水をテーブルに置き、一息ついたところで千聖はこう言った。

 

「彩ちゃんのことはどう思ってるのかしら?」

「友達…だけど?」

 

 千聖の問いにイサムは即答した。別に隠す必要もないし、はっきり言っても問題ないだろうと踏んだのだ。

 

「そう…友達、ね。」

 

 含んだような言い方をする千聖に対して首を傾げた。少しの間、千聖は眼を閉じて何か考えるような感じだったが…

 

「なら質問を変えるわ。貴方はどうして彩ちゃんに近づいているのかしら?」

「…え?」

 

 千聖から言われた質問。その意味がイサムには理解できなかった。

 

「どういうこと?」

「言葉のままの意味よ。彩ちゃんはアイドル、そして貴方はそのアイドルととても仲良くしてる。」

「それが何か問題なの?」

「そうね。問題があると言い切れる訳じゃないわ。現に芸能人でも一般人と仲がいい人も良くいるわ。でも貴方たちの場合は世間はただ仲の良いお友達で問屋が下ろしてくれる程甘くないの。私の言ってること、わかるかしら?」

 

 何となくではあるが千聖が言っていることが理解できた。そう、スキャンダル問題だ。例えこちらがただの友達と主張してもマスコミとしてはどうしても記事のネタ欲しさに本人たちの話を聞かない事があるのはよく耳にしていた。そしてそれを千聖が心配するのは当然だ。何しろ自分のチームのメンバーをそう言った問題に巻き込まないようにしたいと思うのは誰だって同じだろう。イサムはそう考えていた。

 

「そっか。千聖さんが言いたいこと、わかる気がするよ。」

 

 そう言いながらイサムは顔を上げる。

 

「でもさ、それでも俺は彩といたい。」

 

 そして、自身の心を打ち明けた。

 

「……それはどういうことかしら?」

「千聖さんが彩を心配する気持ちはわかるよ。でもさ、俺はこれからも彩と友達でいたい。そう思ってる。」

「それはどうしてかしら?彼女がアイドルだから?」

「そんなの関係ないよ。」

 

 鋭くそして真っ直ぐな声が千聖に届く。

 

「もし彩がアイドルじゃなかったとしても、俺は多分、彩に惹かれていた。だってドジだけど真っ直ぐで頑張り屋だから。きっと俺はそんな彩だから俺は希望を貰えたんだ。それに、彩と友達でいるのに理由なんていらないんじゃないかな?」

 

 イサムは一寸の迷いもなくその言葉を言い放った。普段ならこんな言葉は口にしないだろうが何故かここで伝えなきゃいけないと思ったのだろう。

 

「(…嘘をついてるようにも見えないわね。)」

 

 彼の言葉を聞きそう思った千聖はイサムをジッと見つめると1度眼を閉じ、再び開けた。

 

「貴方の思いはよくわかったわ。」

「…本当?」

「でも危険もあるわよ。そのことは…」

「大丈夫。しっかりわかってる。」

 

 その言葉を聞くと「そう。」と言ってその会話は終了した。そして千聖が何かを考えてるとつぐみが2人の注文の品を持ってきた。

 

「……信じてみるのもありかもしれないわね。」

「…何か言った?」

「いいえ、こっちの話よ。気にしないで。」

 

 そう言ってハーブティーを口にした。口の中で広がるカモミールの香りが彼女の心をゆっくりと和らげていた。

 

 

 ◆ ◆ ◆ ◆ ◆

 

 

 後日、Pastel*Palettesのスタジオに着いた千聖が扉を開けるとそこには鏡の前で何時ものように決めポーズの練習をしている彩の姿があった。

 

「彩ちゃん、今日も早いのね。」

「千聖ちゃん!」

 

 千聖の存在に気が付くと表情を変えて彼女の傍に駆け寄った。

 

「相変わらずポーズの練習してるのね?」

「うん!アイドルたるもの決めポーズは大事だからね。」

「その前に彩ちゃんはステージで焦って噛まないようにトーク力も上げなきゃね。」

「うっ、それを言われると…」

 

 痛いところを疲れてその場で「ううっ…」と呻く彼女を軽く笑いながら見ていた。

 

「それと彩ちゃん、あなた意外と面白い子を選んだわね。」

「え?」

「彼ならきっと…なんとかしてくれそうな気がするわ。」

「え?彼?……誰のこと?……もしかしてイサムくん?」

「さあ?どうかしら?」

「ちょっと待って?千聖ちゃん、イサムくんと会ったの?というか何を話したの?ねえ!?」

「さて、練習しなきゃね。」

「話を反らさないでよ!?ねえってば!」

 

 何が何だかわからない彩は千聖に色々と問い詰めるが、その真意を知ることは出来なかったという。

 

 




次は1ヶ月開けないようにしたいです。



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丸山彩生誕SP:2019

 

 ここは羽沢珈琲店。

 多くの人がここに足を運び、友人とお話したり、コーヒーやケーキ等を食しブレイクしたりしている。

 佐倉イサムは現在ここでとある人を待っている。

 

「いらっしゃいませー。」

 

 カランカラン…とドアが開く音が鳴り響き、イサムはその方向を見る。

 入店してきた人物はイサムが座っている席につくと、テーブルの向かいに座りかけていたサングラスを外した。

 

「久しぶりねイサムくん。」

 

 そこに現れたのは白鷺千聖だった。

 

「久しぶり。」

「ええ。それにしてもあなたから呼ぶなんて珍しいわね?」

 

 そう言われて「まあ…ちょっとね…」とイサムは目を泳がせた。

 

「彩ちゃんを誘わなくてもいいのかしら?」

「えっとー…その事については置いといて貰っていいかな?」

「最近ちょっと寂しがってたわよ? イサムくんと会えないって。」

 

 そう言われるとイサムは何処かバツが悪そうにしていたのだが、「それより…」と話を切り替えた。

 

「今日はちょっと千聖さんに用事があったんだよ。」

「あら?浮気かしら?」

「いや、まだ結婚すらしてないからね?」

 

 そうだったわね、と悪戯な笑みを浮かべながら千聖は呟く。

 

「それで、何の用なの?」

「あの…彩の誕生日なんだけどさ」

 

 そこから2人の密談は始まった。

 

「……彩の欲しい物って何か知らない?ほら、服とか小物とか…」

「成る程ね。それで私に聞きに来たと。」

「そうなんだよ。」

 

 千聖は何かを理解したかのように目を閉じた。

 明日はイサムの大切な存在といえる人物、丸山彩の誕生日なのだ。そして彼はその日に贈るプレゼントについて悩んでいた。

 

「色々と1人で考えてみたんだけどさ、やっぱり女の子の好みってわからないからさ…」

「彩ちゃんにさりげなく聞いてみたらいいんじゃないの?」

「いや、本人に中々聞けないでしょそんなこと。」

「それもそうね。」

 

 そう言いながらウェイトレスの少女に紅茶を注目した。

 

「因みになんだけどさ、千聖さんは何をプレゼントにしたの?」

「私たちは彩ちゃんに似合いそうな練習着にしたわ。」

「そうなんだ。」

 

 千聖の話を聞きながらもイサムは自分は何を送ろうかと考えていた。

 

「何がいいんだろ…。」

「逆に聞くけど彩ちゃんとはそういう話をしないの?」

「そー言えばしたこと無かったな…。」

「……よく今まで一緒にいれたわね。」

 

 千聖は呆れながらそう呟いた。

 

「……聞いておけば良かった…。」

「今から聞けば良いじゃない。」

「いや、このタイミングで聞いたら絶対バレるって。」

「…絶対に喜ぶプレゼントが1つあるわよ?」

「それは?」

 

 千聖の提案に食いつくようにイサムは反応を示した。

 

「貴方よ。」

「は?」

 

 しかし、帰ってきた答えはいまいち理解出来ないものだった。

 

「だから彩ちゃんに『プレゼントは俺だ』って言えば良いのよ。」

「……却下以外あり得ない。」

「そう?きっと喜んでくれるわよ?」

「というかなんつー爆弾発言してんのあんたは。」

 

 そう文句を言うイサムに対して千聖はため息をつく。

 

「じゃあ逆に聞くけどあなたが彩ちゃんに贈りたいものは何かしら?」

「え?」

「相手の欲しいものを考えるのは勿論大事だけどわからない場合は貴方が彩ちゃんに贈りたいものを選んであげるっていうのも1つの手よ?」

「そうなの?」

「ええ。特に彩ちゃんは純粋だから変なものじゃなければ喜んで貰えるはずよ。」

 

 そう言いながら千聖は注文した紅茶を飲み、時計を見ると荷物を纏め始めた。

 

「そろそろお仕事に向かわなきゃいけないから私は行くわね。

 

 …プレゼント、見つかるといいわね。」

 

 そう言い残して千聖は紅茶の代金を支払いお店を後にした。残されたイサムは暫くその事について考えた後にあるところに電話をしていた。

 

「もしもし?……うん、ちょっと今から大丈夫?」

 

 

 ◆ ◆ ◆ ◆ ◆

 

 

 12月27日。彩はパスパレのメンバーと共に誕生日パーティーをしていた。

 

「彩ちゃん、さっきからプレゼントばっかり見すぎじゃない?」

「だって…本当に嬉しくて」

「あはは!やっぱり泣いて喜んでるね!」

「本当に日菜さんが言った通りになってますね…。」

 

 パスパレメンバーからもらったプレゼントを大切に抱えながらパーティーを楽しむ彩だった。しかし、1つだけどうしても気になってることがあった。

 

「(そう言えばイサムくん…今どうしてるのかな…?)」

 

 昨夜、○INEでイサムから『明日の夕方空いてる?』とメッセージがあったのだが、彩はその時間は既にパスパレメンバーに呼ばれていた為、理由を言って『ごめんね?』と返信した。

 何の要件だったのかは教えて貰えなかった為にわからないが、なんだか何時もより寂しそうな雰囲気であったというのが画面越しに感じた気がした。

 

「アヤさん、どうかしましたか?」

「へ?」

 

 イヴに心配そうに見ていることに気付き彩は慌てて「大丈夫だよ?」と笑った。それを見ていた千聖は何かを考え、スマホで何処かに連絡をいれていた。そして連絡が終わると彩たちの傍に戻って行った。

 

「千聖ちゃん、どこ行ってたの?」

「ちょっと友達から連絡が来てね?ところでそろそろ時間も遅いし今日はもうお開きにしない?」

「えー?まだ出来ないのー?」

「でも確かにもう8時越えてますしね…。」

「ええ。私も明日は早いからそろそろ帰らないといけないのよ。」

「うーん…じゃあしょうがないねー。」

「ナゴリオシイですが…。」

 

 そうして各々は片付けをして、帰宅の準備を始めた。彩も制服に着替えて荷物を纏めていた時…

 

「彩ちゃん、ちょっといいかしら?」

 

 千聖に呼び止められた。

 

「千聖ちゃん?どうしたの?」

「イサムくんなんだけど今CiRCLEにいるみたいよ。」

「え?」

「気になってたんでしょ?顔に出てるわよ?」

 

 そう言われた彩は次第に顔が暑くなっていくのを感じていた。それを見た千聖は面白かったのか少し笑っていた。

 

「そ…そんなに出てるの?」

「ええ、今もね。」

「うう…。」

「ほら、早く行かないとそろそろ向こうも終わっちゃうわよ?」

「…うん!」

 

 そう言われ、彩は駆け足でスタジオを去っていった。

 

「さて、後はあなたの番よ。イサムくん。」

 

 

 ◆ ◆ ◆ ◆ ◆

 

 

「3番スタジオの掃除行ってきます。」

「うん!……それにしてもごめんね?突然入って貰っちゃって。」

「いえ、僕も予定なくなっちゃったので大丈夫ですよ?」

「……そう?」

 

 そう言いながら箒と塵取りを手に取りスタジオに向かおうとしていた。

 

「(プレゼントは…最悪郵便受けにいれようかな…。いや、やっぱり遅くなっても手渡しするべき?)」

 

 そんなことを考えているとお店の扉が開いた。

 

「あ、すみません。今日はもう閉店なんで…」

 

 そう言いかけた時、イサムは目を疑った。

 

「イサム…くん…」

「彩?なんでここに…」

「良かった…はぁ…はぁ…間に合った…」

 

 息を切らしながら喋る彩に「大丈夫?」とイサムは声をかけた。その光景を見ていたまりなはイサムを呼んだ。

 

「まりなさん?どうしたんですか?」

「今日はもう上がっていいよ。お客さんいるし。」

「え?でもまだ掃除残って「帰りなさい?」いやでも「帰らないとバイト代減らすよ?」……わかりました。」

 

 しぶしぶ承諾するとまりなは「それでよし!」と右手でサムズアップをした。言われるがままにバイトから上がったイサムは待っていた彩のところに向かい、CiRCLEを後にした。

 

「ところでどうしたの?というかよく俺がCiRCLEにいるってわかったね。」

「千聖ちゃんが教えてくれたんだ。」

「……そういうことか。」

 

 そう呟きながら自身の○INEの通話画面を見る。そこには千聖からの「今どこでなにをしてるのかしら?」という1文が映っていた。

 

「あのさ…イサムくん、あのメッセージのことなんだけどさ…」

 

 そう言われたイサムは「そうだった。」とあることを思いだし、鞄から1つの箱を取り出した。

 

「これなんだけど…」

「これって…」

「うん。

 

 ハッピーバースデー、彩。」

 

 彩は箱を受け取り、その瞳に涙を浮かべていた。

 

「私の誕生日…覚えてたんだ。」

「うん。麻耶さんから聞いたんだ。」

「えへへ…。なんか凄く嬉しいな…。

 …開けてもいいかな?」

 

 イサムが頷くと、箱の紐をほどき蓋を開けた。

 その中にはピンクと白のチェック柄のシュシュが入っていた。

 

「可愛い…。」

「ほ…ホントに?」

「うん!何処かのお店で買ったの?」

「いや、実はこれ……作ったんだよね。」

「え?」

 

 イサムの言葉に彩は驚いた。

 

「このシュシュ、イサムくんの手作りなの!?」

「うん。ミチルに相談に乗って貰ったら『せっかくだし、作ってみたらええんちゃうか?』って言われて教えて貰ったんだ。」

 

 それを聞いた彩はシュシュを大切そうに握ったまま…泣いていた。

 

「彩!?どうしたの!?」

「嬉しい…凄く嬉しい!最高のプレゼントだよ…!」

「ホントに?」

「うん!ありがとう!」

「…良かった。」

 

 そのまま2人は手を繋いで歩いて行った。その後、イサムが彩の家まで彼女を贈り、その際に彩の母親に「どうせなら泊まって行けばいいのに~」とからかわれたらしい。

 

 

 ◆ ◆ ◆ ◆ ◆

 

 

「ありがとうございました!」

 

 後日、彩はファーストフードショップにてアルバイトをしていた。何時ものようにピンクの髪をポニーテールにしていたのだがその髪には今まで無かったシュシュがつけられていた。

 

「彩ちゃん、そのシュシュ可愛いね。」

 

 隣のレジにいた花音にそう言われて、シュシュを左手で触ると恥ずかしそうに…それでいて嬉しそうにこう答えた。

 

「うん。私の…大切な宝物の1つなんだ。」

 

 




ハッピーバースデー彩ちゃん!

コメントや評価お願いします!くれるとやる気上がります!←ヨクバリス状態



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夢を探して


皆さん、前回投稿したのがいつか覚えてますか?

最新の物がモカ小説で元旦です。

そう、かれこれ2ヶ月たってます。





大変申し訳ありませんでした!







 

 

「…………じー。」

 

 江戸川楽器店のギター売り場で俺はギターの1つ1つとにらめっこしていた。とりあえず来てみたのはいいがやはりいまいちわからない。

 以前麻弥さんに教えてもらったことを参考にするなら、気に入ったモデルにするという手もあるが、やはり試奏してみて一番しっくり来たものがいいらしい。

 しかし、やっぱりいいものとなるとそれなりの値段がしてくるらしく質が良さそうなものは大体結構なお値段がする。

 

「これかなぁ…?」

 

 とりあえず予算を視野に入れながら気になったギターを手に取ってみる。

 

「あのー、すみません。ギターの試奏って出来ますか?」

「出来ますよー。やります?」

「お願いします。」

「了解!じゃあ試奏室にご案内しますね。」

 

 そして俺は持っていたギターを店員さんに渡し、試奏室に入っていった。試奏室では店員さんがギターを引くためのセッティングをしてくれて、準備が出来たところで俺に渡された。

 渡されたギターを手に取り、置いてあったピックを借りて一度ひいてみた。ジャーンという音が部屋に響き、ギターの弦の震える音が耳に残った。

 

「凄い…。」

 

 パスパレのライブやテレビで聞いていた音とは違う感じがした。

 

「どうですか?」

「なんか……凄かったです。」

 

 こんな感想しか思い付かなかった。変な言葉だけど本当にこんな感じ。

 ギターを持ってみて、いい感じに手にフィットするし、重すぎず軽すぎずという丁度良さだった。

 

「こちらの商品、今ならチューナーやルイスアンプ等のセットもつけてお安くなりますよ?」

「…いくらですか?」

「ギターもつけてセット価格で8万円。」

 

 そう言われ少し考えた。予算は6万円前後。しかし、セットで8万円ならそれぞれ単品で買うよりも安い。だけどこの値段はなぁ…。

 

「……学割ありますよ?」

「学割でいくらですか?」

「66000円」

「買います!」

 

 こうして俺は店員さんから色々と説明を受けて、購入に踏み込んだ。正直専門用語が多すぎてちょっと混乱しそうになった。こんなときに麻弥さんがいてくれたら…。

 とりあえず説明が終わり、代金の支払いを終えて荷物を受けとるとお店を後にした。

 

「……買っちゃった。」

 

 そう、買っちゃったのだ。多分人生で最も高い買い物をしたのではないだろうか。

 

「とりあえず帰るか。」

 

 荷物を持ち直して家に足を進めた。色々と買っちゃったからかちょっと重いが意外と不快な感じではない。

 

 これで俺も前に進めるだろうか。

 

 

   ◆ ◆ ◆ ◆ ◆

 

 

「アキラ、ギター教えて。」

「お前何の為に教訓本まで買ったんだ?」

 

 次の日、俺は学校でアキラに手を合わせて頼み込んでいた。

 

「いや、本読んだら大体わかるかと思ったんだけど意外と難しくて」

「なるほど。形から入るタイプのお前には荷が重かったということか……」

 

 ため息をつきながらそう言われた。ちょっと悔しいけどその通りだから言い返せない。

 

「でも何で俺なんだよ。」

「だってアキラ、ギターやってたじゃん。」

「ギターじゃない、ベースだ。」

「え?」

 

 と、再びため息混じりに訂正してきた。え?ベース?嘘でしょ?

 

「ベース…ベースって確か千聖さんが使ってたやつ?」

「そうだ。初心者はよく間違えるから行っておくがギターは弦が6本、ベースは4本だ。それにギターとベースじゃ出せる音が大きく違ってくる。」

「へえ~。」

 

 わかったようなわからないような…。とりあえず後で調べてみよ。

 

「と、いうわけで俺じゃあ無理だ。他を当たれ。」

「ええー……」

 

 そう突っ返されて俺は机に顔を伏せた。

 他を当たれって言われても俺には当てなんかない。なんせこの学校で友達なんて言える相手なんかアキラかミチル位しかいない。そんな俺に今から話したこともない人からギターを教えてもらえって言われてもなぁ…。

 

「ミチルがいたバンドメンバーとは面識無かったのか。」

「あるわけないでしょ……」

 

 と、言うのもミチルは中学時代は有志でバンドをやっていた。しかし、そのメンバーの1人が引っ越しと共に北海道の高校に行くということで有終の美を飾り、問題を起こすことなく解散した。アキラもその事を知っていて、俺も面識してあると思い込んでいたのだろう。

 

「初っぱなからオワリってそりゃないよ…。」

 

 と、そんなことしてると先生が入ってきて授業が始まった。俺はまたしてもギターについて色々と考えていた為にちょくちょく上の空になっていて先生に怒られた。

 

 

    ◆ ◆ ◆ ◆ ◆

 

 

「ありがとうございましたー。」

 

 その週の休日、俺は昼からCiRCLEのバイトに取り組んでいた。夏に入る前ということもあり、窓から差し込んでくる日差しがポカポカしてて思わず眠くなってしまう。

 

「こーら。」

 

 と、ウトウトし始めてるとまりなさんが丸めた雑誌で俺の頭をコツンと叩いた。

 

「あ、すみません。」

「眠いなら顔洗ってくる?」

「いえ大丈夫です!バッチリ覚めてます!」

「じゃあちょっと外の掃除お願いできる?」

「はい!」

 

 そして俺は外に出て箒と塵取りを持つと入り口付近に散らかっていた落ち葉や誇り等を掃きながら1ヶ所に集めていった。

 しかし数分立つとただ掃くのも怠くなったので鼻歌を歌い始めた。鼻歌って別に機嫌が言い訳じゃないけどちょっと気晴らしに歌っちゃうことってあるよね。

 

「ふんふふーんふんふふーんふふーふん~」

「ねえ、それってパスパレの曲でしょ?」

「ふぇぇぇ!!!?」

 

 急に後ろから話しかけられビックリした俺は思わず振り向いた。そこにはエメラルドブルーの髪のもみあげを三つ編みにした少女がいた。……それにしてもこの子、どこかで見たような…。

 

「おーい!聞こえてる~?」

「えっ?う、うん…。」

「それにしても君、パスパレのファンなの?」

「いや…、ファンっていうか…何て言うか…。」

「ふーん…。でもなんかるんっ♪って来たからいっか!」

「る、るん?」

 

 突然現れた謎の言葉『るんっ』。擬音的?というか文法的?に言ってるのなら『面白かった。』って意味なのかな?

 

「日菜ちゃん、ちょっと待ってよぉ~。」

 

 そう言いながら此方に走ってくる少女がいた。その少女はピンク色の髪の毛にサングラスをかけ……ピンク?

 

「あ…あれ?イサムくん?」

 

 少女の正体は彩だった。彼女は俺に気付くとつけていたサングラスを外した。その時の仕草がなんか有名人っぽいなと思ったのは口に出さないでおこう。

 

「へえ~。君が彩ちゃんの好k「日菜ちゃん!」ムグッ!?」

 

 日菜と呼ばれた少女が何かを言いかけたところで容赦なく彩は口を塞いだ。そのため、日菜…さん?は「むー!むー!」と何を言ってるかわからない状態になってしまった。

 その後、2人は少し離れたところで何かをコソコソ喋ってから再び此方に戻ってきた。

 

「えっと…何話してたの?」

「ううん、気にしなくて良いよ?」

「そ…そう?」

 

 と、ちょっとだけ圧をかけられてしまう。その時の彩の笑顔は可愛いながらにもちょっと怖かった。

 

「それよりイサムくん……掃除してるの?」

「うん、ここなんだよ。俺のバイト先。」

「そうなんだ~。」

 

 と、会話に花を咲かせていると近くにいた日菜さんが「ねえねえ!」と話しかけてきた。

 

「イサムくんは彩ちゃんとどんな関係なの?」

「えっ?ちょ、日菜ちゃん!?」

 

 唐突な質問に彩は焦っているように見えた。

 

「うーん…、大切な友達かな…?」

「………ふーん?」

「…何?」

「別に~?」

 

 その時の日菜さんは何かを言いたそうだけど、敢えて言わないようにしてる…そんな風に見えた。

 

「て言うか…君は?」

「あ、そう言えば自己紹介がまだだったね!あたしは氷川日菜!」

「氷川…?………あっ!もしかしてパスパレの!」

「やっと気づいた?」

 

 そうだ思い出した!この人、Pastel*Paletteの氷川日菜だ!

 

「それより君、パスパレのライブ来てた人だよね?」

「なんでそれを?」

「やっぱり!サイリウムとか持ってないのに凄く盛り上がってたからね~。凄くるんっ!て感じたんだよね~。」

 

 「そんなに?」と思いながらも思い当たる節があって言葉を飲んでしまった。それにしてもあれだけ多くの観客がいてよく俺を見つけられたなと思う。

 

「あ!日菜ちゃん、そろそろ行かなきゃお店閉まっちゃうよ!」

「ええ~。もうちょっとイサムくんとお話したかったのに~。」

 

 そう愚痴を溢しながら「しょうがないなぁ~」と言う感じに落ち着いていた。

 

「じゃあまた今度会えたら色々と聞かせてね~。」

「じゃあイサムくん、またね!」

 

 そう言って2人は立ち去ってしまった。

 俺がいたところは先程まで凄く騒がしかったせいか静かな、風の吹く音がはっきりと聞こえるレベルで静かに感じていた。

 

「なんか…嵐みたいな人だったな…。」

 

 俺が氷川日菜に抱いた第一印象はそんな感じだった。

 

 

 





コメントや高評価くれるとモチベ上がるし作者が喜ぶのでやってくれたら嬉しい。

最近色々とリアルが忙しいので更新速度が不安定ですが楽しみにしてくれる人がいたら嬉しいです。


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天才少女、襲来

 

 

 時刻は夜10時。俺は自室で白を貴重としたギターを持ち独自で鳴らしていた。しかし、初心者1人ではなかなか上手くいかず何度か鳴らした後に納得がいかないような表情をしたままベットで横になった。

 

「やっぱ1人じゃ無理あるかなぁ…。」

 

 天井を仰ぎながらそう呟いた。

 やはり才能云々の問題なのだろうか。いや、そもそも独学で弾けるレベルになろうとするのが間違ってるのか。それは俺にはいまいちわからない。調べた所によると「本気でギター上手くなりたいなら1日6時間は練習すべき!」って書いてたから単に練習量の問題なのか……。

 

「でも頼れる人はいないし…やっぱり独学でどうにかするしかないのかなぁ…。」

 

 そのまま目を閉じていると次第と眠気が襲ってきた。寝る前には歯磨きをしろとよく言われていて、いつもそれを欠かさずに行ってきたのだが今だけは少しだけ無視したくなったのでゆっくりと眠りにつこうと思っていた。

 

 

 その時のことだった。

 突然スマホが鳴り始めた。そのせいで眠気が冷めてしまい、俺はスマホの画面を見た。

 

『イサムくん、申し訳ないんだけど明日もバイト出てもらって良いかな?』

 

 まりなさんからだった。そしてこの文面を見た瞬間俺は思わず溜め息をついてしまった。……まあ特に予定も無いから良いんだけどさ。

 

『わかりました。何時から出れば良いですか?』

 

 この一言を送るとまりなさんから色々と送られてきた。これで俺は明日の10時からバイトに出ることが確定した。

 

「……寝よ。」

 

 気がつけば時計も11時30分を超えていて、今日は特にやることもないのでそのまま寝支度を終えてそのまま眠りに着いたのだった。

 

 

 

    ◆ ◆ ◆ ◆ ◆

 

 

 

 次の日、俺はCiRCLEのカウンターに立ち何時ものようにアルバイトに励んでいた。そして今日はバイトが終わったら部屋を借りて練習をしようと考えていたので荷物と一緒にギターも持ってきた。そのため、CiRCLEに入った時のまりなさんの驚く顔は凄く覚えている。

 

「すみませーん、4番スタジオの鍵を返却に来ました。」

 

 そこに茶髪のギャルっぽい女の子が来た。俺は鍵を受けとると、規定の場所に戻した。

 

「あ、それと次の予約いいですか?」

「はい。じゃあこちらの用事に希望する日と時間の記入をお願いします。」

 

 俺からペンと紙を受け取り、慣れた手つきで記入事項を書き終えていた。それを受け取り、その人の予約は完了した。

 

「ありがとうございましたー。」

 

 その後出てきた4人と合流した少女はCiRCLEを後にし、俺はそれを見送った。

 

「Roselia…ねぇ。」

 

 今最も期待されていると言っても過言ではないバンドらしい。歌姫と称される湊友希那を筆頭とした高い技術力を持つ実力派ガールズバンド。近いうちに何処かのコンテストに出場するらしい。

 

「それにしても湊かぁ…。あの人と同じ名字だけど……まさか、ね。」

 

 プラボードを番台に置き、一度思いっきり背筋を伸ばした。

 それからはお客さんも殆ど来ないので「平和だなぁ」と思いながら窓越しに外の景色を眺めていた。だが、暫くするとカランという音と共にお店の扉が開かれた。

 

「やっほー!イサムくんいるー?」

 

 その来客は想像外の人物だった。

 

「氷川…さん?どうしてここに?」

「あ、いたー!」

 

 来客…氷川日菜は俺を見つけるや否やカウンターに駆け寄ってきた。

 

「えっと…スタジオのご利用ですか?」

「違うよー。イサムくんとお話したいな~って思ったけどどこに行けばいるのかわかんないからここに来ちゃった!」

「いやまだバイト中…」

 

 とりあえず時計を見ると上がりの時間まで後15分を切ろうとしていた。しかし俺は目の前にいる氷川さんをどうしようかとしばらく悩んでいた。

 

「とりあえず…まだ俺仕事しなきゃいけないからまた今度で良いかな?」

「ええ~。……じゃあ後どれくらいかかるの?」

「えっと…後15分くらいかな…?」

「わかった!じゃあ待ってるね~。」

 

 と、そのままソファーの所に向かい、近くに立ててあった音楽雑誌を眺めていた。その姿を見て『凄く自由な人だよなぁ』と思ったのだった。

 

「あ、スタジオの掃除しなきゃ。」

 

 とりあえず今は仕事に集中しよう。氷川さんのことはその後だ。

 

 

 

    ◆ ◆ ◆ ◆ ◆

 

 

 

「お疲れさまでした~。」

「あ!終わった~?」

 

 バイトから上がるとそうそう氷川さんに絡まれた。

 

「で、話って何?彩のこと?」

「違うよ~。もしかして…イサムくんは彩ちゃんのこと聞きたいのかな~?」

別に違うよ。(うん、聞きたい。)

「本音出ちゃってるよ~?」

 

 しまった。俺としたことがつい……。

 

「あははっ!イサムくん、彩ちゃんのこと大好きだねー。」

「いや、そんなことは…ない…けど…」

「ふーん?でも今の反応、彩ちゃん並に面白かったよ?」

「それ褒めてるの?」

 

 ニヤニヤしながら語る氷川さんに対して俺は首を傾げながら聞いた。

 

「ところでイサムくんもギターやってるの?」

「そうだった。まりなさーん、空いてるスタジオ借りても良いですかー?」

 

 そうカウンター内に声を出して聞いたところ「いいよー。」と奥から返ってきた。

 

「じゃあ俺今から練習してくるよ。」

「ねえ、あたしも着いていってもいい?」

「え?別に良いけど…」

 

 そう言うと奥から出てきたまりなさんから鍵を受け取り、氷川さんと一緒に空いてる部屋に入り俺はギターを弾き始めた。

 ボーンと慣れない弦を弾く音が部屋に響く。そしてその度に俺は首を傾げた。一方、その近くにいた氷川さんは無表情でじーっとこちらを見つめていた。

 

「うーん…、なんかるんって来ないなぁ…」

 

 そう言われ思わずギターを弾くのを止めた。

 

「というかさ…氷川さんってどんな感じでいつも弾いてるの?」

「うーん、どんな風にって言われてもなぁ…。ギュイーンって感じかなぁ?」

 

 ギュイーンという新たな擬音が出てきてしまい思わず「聞く相手を間違ったかな?」と心の中で呟いた。

 

「はあ…、スタートラインから前途多難かぁ…。」

 

 ため息をつきながら俺はギターを置いて鞄の中からペットボトルに入ったお茶を取り出し、休憩に入った。

 そして、その後も何度か練習していたのだが一向に上達する気配は無かった。尚、氷川さんはその光景を見ながら何かを考えているように見えた。

 

 

 

◆ ◆ ◆ ◆ ◆

 

 

 

 終了時間を迎え、片付けをした後に俺たちはスタジオを後にする。外に出ると青い空に橙色がかかり始め1日の終わりが近づいているのを感じられた。

 

(うーん…。結局今日も何も掴めないまま終わっちゃったなぁ…。)

「ねえイサムくん。」

 

 考え事をしている俺の横を歩いていた氷川さんが俺に声をかけてきた。

 

「イサムくんはさ、なんでそんなにギターやろうと思うの?」

「え?」

「だってさ~。なんか凄く難しい顔してさ。別に出来ないのなら無理にやらなくてもいいんじゃないのかな~って思うんだけどさ~。」

 

 無理にやらなくてもいい。そう言われ、俺は少しだけ言葉を詰まらせた。

 確かに氷川さんの言葉は間違っているわけではない。いくらそれが好きなものであったとしてもそれが実を結ばなければ意味がない。

 これまでの俺だったら氷川さんを完全に肯定していただろう。才能が無く、1歩を踏み出す勇気も無い人はそうして生きていくしかないのだろうと思っていた。

 

 でも…

 

「それだと…笑われるだろうからなぁ」

「ん~?」

「いや、こっちの話。まあ…どんなことがあっても最後まで足掻いて夢を叶えようとする人がいるのに…こんなところで止まってるとなんか自分に負けた感じになっちゃうからさ。」

「ふーん…。」

 

 氷川さんは頷きながらおれのことをじーっと見ていた。そして、暫くお互い黙っていたのだが…

 

「やっぱり彩ちゃんのこと好きなんだね~。」

「いやだからそう言うことじゃないんだけど…」

「あははっ。やっぱりイサムも面白いね!」

 

 笑いながらその後も氷川さんは俺に色々と聞いてきた。その内容は俺のギターのこととか、彩のことだったけど…。

 

「ねえねえ!今度また遊びに行ってもいい?」

「いや、バイト先に来られるのはちょっと困るんだけどなぁ…。」

「うーん…。……あ!じゃあ連絡先交換しようよ!行きたくなったら言っておくからさ!」

「しょーが無いなあ…。」

 

 こうして、俺に新しい繋がりが増えてしまった。

 

 





コメントや評価くれると嬉しい。


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バンド活動、はじめました

 

 

「ここってこんな感じで弾いたらいいのかな?」

「うんうん!なんか今のシュピーン!って来たよ!」

「そうなの?」

 

 あれから俺は日菜に教えて貰いながらギターを日々練習していた。日菜の言う擬音は少しわからないことがあるけど感覚で考えるなら少しだけ理解出来るようになってきた。まあまだ俺と彼女の解釈の間でズレてるところはあるけどまあなんとかやれてる。言い忘れていたけど氷川さん呼びから日菜呼びになっているのは本人からの希望です。

 

「それにしても本当腕を上げたね~。こんな短期間でここまで出来るようになるなんてね~。」

「それはまあ…日菜のお陰かな?」

「うーん、そうなのかな?」

 

 本人は「そうかな?」という雰囲気であるがとりあえずはそこには触れないでおこう。

 

「そう言えばさ、イサムくんってバンド組むの?」

「うーん…一応宛はあるんだけどなぁ。」

「へえ~。」

 

 相変わらず何を考えてるかわからない目でこちらを見てくる。

 

「まあなんとかやれるだけやってみるよ。」

 

 いつかの自分を思い出した。その時は周りの目や評価ばかりに気を取られて前に踏み出せずにいた。でも、もう同じことで後悔はしたくない。だからやれることはとことんやろうと決めたんだ。

 そう決意を固めながらギターをケースにしまい、片付けを始めた。それを見ていた日菜も察したのか自分が座っていた椅子を元の場所に戻しだした。

 

 

◆◆◆◆

 

 

「という訳で…バンドやって頂けないでしょうか!?」

 

 次の日、放課後に学校の空き教室で俺はアキラとミチルに頼み込んだ。正直なところミチルはドラム経験者であり、アキラもベースをやったことがあるという。その中で俺は最近ギターをやり始めた初心者同然の存在。特にアキラは妥協を許さないような性格だから難しいかもしれないけど…

 

「……仕方ないな。」

「やっぱりかぁ……えっ?」

 

 思わず耳を疑った。

 というもののあのアキラがあっさりと受け入れてくれたのが衝撃的で仕方がなかった。

 

「なんだ。鳩が豆鉄砲くらったような反応して。」

「いや…アキラがすんなり承諾してくれるとは思わなかったから…。」

「どういう意味だ。」

 

 俺の失言に喰ってかかるアキラをミチルが宥めていた。まあ何はともあれなんとかなりそうで一安心といったところだろうか。

 

「それでパートはどうすんの?」

「うーん…俺がギターでミチルはドラムでしょ?」

「で、アキラって何か楽器やれたっけ?」

「ベースなら心得がある。」

「なるほど~。で、後はボーカルかぁ…。」

「あのさ…それなんだけど」

 

 ミチルの言葉に俺はそろーっと手をあげながら言葉を発した。

 

「ボーカル…俺がやっても良いかな?」

「え?ウチは全然ええけど…アキラはどうなん?」

「構わんぞ。俺は別にボーカルをやるつもりは無いからな。」

「よーしじゃあイサム、ボーカルは頼むわ。」

「うん。」

「とは言ってもギターとボーカル同時にやるとなるとかなり高度な技術が必要になるが大丈夫か?」

「それは……頑張ってなんとかします。」

 

 こうして、俺はギターボーカル、アキラがベース、ミチルがドラムという役割でバンドを結成した。

 

「で、バンド名どうすんの?」

「うーん…。そもそもバンド名ってどうやって決めるの?」

「それは……アキラ何か知らん?」

「残念だが俺も詳しくは知らないな。だがテーマがあれば良いとは聞いたことがあるが…」

「テーマかぁ…。」

 

 バンドのテーマ。そう聞いて俺たちは皆揃って思考を巡らせ始めた。この後思ったんだけど結成して数秒でテーマがうんぬんは無理があったと思う。

 

「とりあえずこの話を含めて練習するための場所をどうにかしないとな。」

「そうだね…。」

 

 俺たちが話し合っているとガラリと教室の扉が開き、見回り中と思われる先生が入ってきた。

 

「おいお前らこんなところで何してる。もう下校時刻過ぎてるぞ。」

「「えっ?」」

 

 時計を見ると時刻は既に6時を迎えようとしていた。外の景色もオレンジ色の空に覆われており、校門付近には下校し始めている生徒達も見られた。

 

「とりあえずこの話は明日にしよっか。」

「せやね。じゃあ明日あのパン屋の近くで集合しよっか。」

 

 そうしてその日は学校で解散することとなった。

 

 

 ◆ ◆ ◆ ◆

 

 

 その次日、俺たちは3人で練習をするために練習スタジオを探していた。

 しかし…この時点でかなり危機的状況に陥っていた。というのも…

 

「どこもかしこもガールズバンド限定なんですけど…」

「さながらガールズバンド時代の影響やな。今となっては有志バンドは8割がガールズバンドやしこうなるのも時代の流れってもんかなぁ…。」

 

 そう、最近のライブハウスは基本的にガールズバンドのガールズバンドによるガールズバンドの為の場所が多くなりこういった場所探しに難が生まれていた。

 

「そう言えばCiRCLEもアカンの?時々スタジオ使わせて貰ってるって言って無かった?」

「うーん…普段は人がいない時に借りてるからな…。それに多分出来ても練習だけだろうしね。」

「ほーん…。かと言ってもそんな1人の家に集まってやれるほどうちらの家大きく無いからな。」

「だよなぁ。」

「……ってアキラはさっきから何しとんの?」

 

 先ほどからアキラはスマホを弄っていて俺たちの会話に参加していなかった。しかも真剣な顔つきで。

 

「…見つけた。」

「見つけたって…何が?」

「この辺りで一件、ガールズバンド以外でも使えるライブハウスがある。」

「「マジか!?どこ!?」」

「駅から徒歩15分のところだ。」

「よし、じゃあ早速行こうや!」

「おい待て。まだアポとってすらないぞ。」

「………とりあえず行ってみて聞いてみればええんやない?」

「そんないい加減に…」

「まーまーまー。とりあえずミチルの言う通り行ってみて話聞いてみよ?」

 

 そして今いる場所から駅に移動して、そこから更にアキラのナビゲート通りに進むとポツンと建っていた緑の建物があった。

 

「ライブハウス…キングダム?」

 

 看板には俺が言った通り『KINGDOM』と大きく書かれていた。

 

「……どうする?」

「入ってみよっか。」

 

 そのまま俺たちは店の扉を開き入っていった。

 中は西部劇に出てくる酒場のような雰囲気であり、一瞬入るお店を間違えたのかと思いそれぞれで顔を見合わせた。

 

「あら?お客さんかしら?」

「はい。ここってライブハウスであってますか?」

「ええ……あら?あなたは…」

 

 奥から出てきた高身長の男性は俺を見ると言葉を止めた。

 

「あの時の坊やじゃない!あの時はありがとうねー。ほんっと助かったわ!」

「えっ…?あの時…?」

「あら?忘れちゃったの?ひったくりの不届き者を捕まえてくれたじゃない!」

「………あ。あの時のオネエの人!」

「そうよ~。あ、申し遅れたわ。ワタシはこのお店のマスターよ。以後、お見知りおきを。」

 

 まるでパズルのピースがはまったかのように記憶が甦った。以前突然自転車で突っ込んできた謎の男を止めたもののそのまま逃げられた時に遭遇したのだった。

 

「それでここはライブハウスであっているのか?」

「ええ。れっきとしたライブハウスよ?」

「にしては……なんか西部劇の酒場みたいな…」

「それはワタシの趣味よ。良いでしょう?」

「西部劇、お好きなんですか?」

「ええ、大好きよ。それはそうと…あなた達、バンドやってるのかしら?」

 

 そう言われて俺とミチルは当初の目的を思い出し、アキラはそんな俺たちを見てため息をついた。

 

「じゃあ受付しちゃいましょうか。バンド名教えてくださる?」

「バンド名…って言われても…まだ決まってないんですが…」

「あら、そうなの?」

「実は…昨日組んだばかりなんですよね。」

「へえ~。じゃあここにそれぞれの名前を書いてくれる?」

 

 言われた通りグループの隣のメンバー欄にそれぞれ名前を書き始め、その後使用する部屋に案内され、マスターの説明を受けた。

 

「それじゃ大体わかったかしら?ワタシは基本的にカウンターにいるから何かあったら呼んでちょうだい。」

 

 その一言を残し、マスターは部屋を出た。

 そうして俺たちは各自用意してきた楽器をチューニングして音の確認をした。ミチルのドラムは流石に持ち運び出来ない為、ライブハウスの物をレンタルしたのだがその機材が結構良いものだったらしく彼女は音を鳴らして興奮していた。

 

「よし、じゃあ先ずは……何しよっか。」

 

 ギターを構え気合い十分!という雰囲気を出したのだが流石は初心者という感じに何も考えてなかった。その為、アキラとミチルは思いっきりコケそうになった。

 

「ちょっと!なんも考えてなかったんかい!」

「えっと……ごめんなさい。」

「はあ…。」

「全くお前という奴は…。」

 

 頭を掻きながらアキラは俺たちに1枚の紙を渡した。そこには少しの楽譜のようなものが書かれていた。

 

「そんなことだろうと思ったから念のため用意しておいた。どうせ本格的な曲は出来ないんだろうし簡単な譜面を選んでおいた。慣れてない間はこれでやるぞ。」

「アキラ…すごっ。」

「なんや、めっちゃ用意ええやん!」

「逆にお前らの計画性が無さすぎるだけだ。」

 

 呆れながらそう言っていたがなんだかんだ言ってアキラも色々と考えてくれてるんだと思うと嬉しくなった。

 

 再び準備完了するとミチルの掛け声、そしてドラムの音で演奏が始まった。初心者の俺にもわかるほどに音はバラバラでお世辞にも上手いとは言えなかった。

 

 

 

 

 けれど俺は、この演奏が楽しいと思えた。

 

 

 

 

 

 

 そしてきっと………見つかる気がした。

 

 

 

 





コメントや評価くれるとかなり嬉しいです。

それとバンドリ3期、なんだかんだ言ってかなり楽しませてもらいました。ありがとうございました。
FILM LIVE第2段、ガルパピコ2期、そして劇場版と楽しみがてんこ盛りですがこれからも楽しませてもらおうと思います。




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実現ーリアライズー

 

 

「ありがとうございました!」

 

 丸山彩はいつものようにファーストフード店でアルバイトをしていた。今日はパスパレのレッスンも無く、朝からバイトをしていた。そしてつい先程昼時の最後のお客さんを捌き終えたところだ。

 

「彩ちゃん、そろそろ交代の時間だよ。」

「そっか。じゃあ花音ちゃん、後お願いしても良い?」

「うん。お疲れ様。」

「お疲れ様!」

 

 彩のバイトの上がりの時間と入れ違うかのように花音がレジに入り、彩はそのままロッカーに向かう。

 「今日も疲れたなー。」と言いながら自分のロッカーを開け、着替えを始める。そして帰宅の準備が完了すると鞄を持ち、そのまま家に向かおうとしていた。

 しかし…

 

「……あれ?」

 

 あるものが目に写り、思わずその足を止めた。そこの視線の先にいたのはギターケースを背負ってお店から出てきた1人の少年だった。

 それを見た彩は少し悪い笑みを浮かべながらゆっくりと背後に近づき…

 

「だーれだ「あぁぁー!」ふぇぇ!?」

 

 突然その人物が叫び出したことにより、彩はまるで花音のような驚き声を上げ思わず後ずさりしてしまった。

 

「名前…曲…どうしよう…。ギターの練習ばかりですっかり忘れてた…。」

 

 何やら深刻そうに頭を抱えながら何かを悩んでいた。一方、一瞬動揺した彩だったが流石にこのまま立ち去るのも悪いと思いその人物に声をかけることに。

 

「えっと…大丈夫?」

「…ん?…彩じゃん。どうしたの?」

「どうしたのはこっちの台詞だよ。話しかけようと思ったら突然大声あげるんだから私もびっくりしたよ…。」

「それは…ごめん。」

「それで何か悩みごと?」

「うん。今度ライブに出るのを誘われたんだけどさ…」

 

 イサムは少し遠くを見るように考え事の発端を語り始めた。しかし、少し昔のことを話してるように見えるがこれはつい最近起きたことである。

 

 

 ◎ ◎ ◎ ◎

 

 

 思い返すこと数日前。 3人がライブハウス『KINGDOM』でバンドの練習を初めてそろそろ3週間が経とうとしていた頃だった。

 

「じゃあ今度は明後日の5時30分からでお願いします。」

「あ、ちょっと待ってもらえるかしら?」

 

 いつものように次回の予約を済ませお店を後にしようと思った時、彼らはマスターに呼び止められた。

 

「なんですか?」

「ちょっとアナタ達の練習の音、盗み聞きさせて貰ったけど…あながち悪くないと思ったわ。」

「ホンマですか!?」

「それで提案なんだけど……アナタ達、ライブに出るつもりは無いかしら?」

「「「え?」」」

 

 と、唐突なお誘いに3人は驚いていた。何しろ1ヶ月練習してきて最初の頃に比べたらだいぶマシな方になったがそれでもまだ上手いとは言いきれないところだらけであった。

 

「良いんですか?俺たちまだ始めたてでそんなに技術も無いんですけど…」

「全然大丈夫よ。あなた達がやりたいって言うなら拒否をするつもりは無いわ。」

「……どうする?」

 

 マスターは全然気にしていないようなので3人はその場で少し話し合うことに。

 

「ウチは賛成!ライブとか楽しそうやしこんなチャンス滅多に来ん気がするからな!アキラはどうや!?」

「悪くないんじゃないか?良くも悪くも物は試しと言うからな。」

「じゃあ…3人とも異議なしってことか。よし。」

 

 満場一致で話し合いが終了し、彼らはマスターにその趣旨を伝えた。それを聞いたマスターは「オッケー♪」と言ってリストのような紙に彼らの名前を書こうとした。しかし…

 

「そういえばアナタ達のチーム名、まだ聞いてないのだけど…」

「チーム名?…あれ?」

「オヨ?」

「・・・・・」

 

 3人は顔を見合わせたが誰もそれを知るものはいなかった…。というか今まで音合わせやそれぞれのレベルアップに集中しすぎてそのことを全員揃って完全に忘れていた。

 

「えっと…やっぱり決めておいた方が良いんですか?」

「そうね〜。やっぱりライブ名はあった方が注目も強くなるしやるならつけておくべきだと思うわ。あ、それとセトリも考えた方が良いわね〜。」

「あの〜…ちなみになんですけどもライブっていつですか?」

「3週間後ね。」

「「うそーん…」」

 

 イサムとミチルは悲しみの声を出し、アキラはため息をつきながら頭を抱えていた。

 

「まあ…突然言い出したワタシにも問題はあるし何か疑問点があれば全面的にサポートするわ。セトリに関しては最大2曲だけど中には1曲で終わらせたいってチームもいるからその辺りは自由にしてくれて構わないわよ。」

 

 と、マスターは言ったものの当然のお誘いが朗報なのか悲報なのかよく分からない状態となり、彼らの心はとても複雑なものとなってしまった。その後、後日話し合うということで解散はしたもののイサムの頭の中はチーム名、そしてセトリを決めるということで頭がいっぱいになっていたのだった。

 

 

 ◎ ◎ ◎ ◎

 

 

「そんなことがあったんだ。」

「ねえどうすればいいの…?」

「私に聞かれてもなぁ…。」

 

 2人は場所を変え、今はある珈琲店に来ていた。イサムが机に伏せながら悩み続ける様を彩は苦笑いしながらも、イサムの為に自分なりに色々と考えていた。

 

「ところでさ、イサムくんたちは何か曲とか考えたりしてるの?」

「いや全く。」

「そ、そっかー。」

「それで色々と考えたんだけどやっぱりもうちょい時間が欲しいんだよね…」

「え?ライブはどうするの?」

「出るよ?」

「そうだよね…。」

 

 それを聞いた彩は何かを思い出したかのように「そうだ!」とイサムに何かを呼びかけた。

 

「ねえ、カバーとかならどうかな?」

「カバー……あ、その手があったか!」

「まあ…やるにしてもやっぱり練習は重ねにきゃだけど…最初の頃は自分たちの曲が出来るまでカバー楽曲でやってる人もいるみたいだよ。」

「そっか~。流石彩!」

 

 その言葉に彩は「そ…そうかな?」と照れているとイサムのスマホが鳴った。

 通知を確認したところ、送り主はアキラであり「これからKINGDOMに来れるか?」とあった。それに「すぐに向かう」と打って、イサムはスマホをしまった。

 

「ごめん。アキラから連絡来ちゃって…」

「ううん。これからなの?」

「うん。じゃあそろそろ行ってくるよ。」

「分かった。頑張ってね〜!」

 

 そのままイサムは荷物を持ち、会計を済ませると目的地へと走り出していった。

 

「彩さん、今の方はお友達ですか?」

「お友達…かぁ…。うん、まあそうかな?」

「それと…さっきの方、彩さんのお会計もして行っちゃったんですが…」

「……へ?」

 

 意図的なのか無意識なのか分からないイサムの行動に彩は少しの間、ポカーンとしていた。

 

 

 ◆ ◆ ◆ ◆

 

 

「それじゃあ今からチーム名とやる楽曲を決めていくぞ。」

 

 ホワイトボードに書き込みを入れたアキラがホワイトボードマーカーを持ちながらイサム、ミチルと共に会議的なものを始めていた。

 

「まずチーム名だ。これに関してだが何かテーマが必要になる。とりあえずこのバンドの全体的な目標はなんだ?」

「目標かぁ…。」

「ふーん…。考えたこと無かったなぁ。」

 

 バンドの目的、と言われて2人は思わず首を傾げた。

 

「というかイサム。まずお前はなんでバンドをやろうと思った。」

「そやな。確かにやりたいって1番に言い出したのはイサムやん。」

「あれ?でもミチルも言ってなかったっけ?」

「…?そんなこと言ったっけ?」

「えーと…どうだっけ?」

 

 いきなりこんなことになっている現状を見たアキラは思わず頭を抱えた。こんなことで本当に大丈夫なのかと思いながら。

 

「でも目的って程じゃないんだけど…夢かなぁ。」

「夢?」

「うん。やっぱり色々と要因はあるけど俺のやりたいこと、それで俺の夢を知りたいから。このバンドでそれが見つかればいいなって。

 それに…それを、形に出来そうかなって思って。」

 

 その言葉を聞いてアキラは何かヒントになるかもしれないと思い、それらを簡易的にホワイトボードに書き込んだ。そしてミチルも色々と考え込んでいた。

 

「じゃあ…それを叶えるってこと?」

「そーなる…のかな?」

「ちょい待ち。Go〇gleで…」

 

 ミチルはスマホを取り出し、あるページで調べ物を始めた。

 

「これはどんな?『Find the dream』。日本語で『夢を見つける』。」

「いや…流石に安直過ぎない?」

「じゃあ…『思いを形にする』を英訳して…『Shape your thoughts』は?」

「いや英語にすれば良いってもんなの?」

「いや、あながちそう言うものかもしれない。だが、安直じゃなく類義語も見るべきだ。」

 

 傍らで2人が言い合いをしている間にアキラは思考を働かせ、スマホで何かを調べていた。

 

「じゃあアキラはなんかええ案があるんか?」

「叶える。つまりそれを実現させるということだろ?」

「うん。」

「じゃあ納得の行くまで思いつく単語で調べて見るぞ。」

「実現する…か。それだとどうなるの?」

「『Make a dream come true』。または…『Realize dream』。」

「Realize…」

「それだけだと『実現する』という意味だ。」

「いや、でもなんか良い気がする。」

 

 アキラはそれを聞いて「いいのかそれで」と聞き返すがイサムは黙って首を縦に動かした。

 

「確かにこの一言でウチらの目標を表してると思うとなんかスッキリするな。それに…覚えやすいし。」

「そこなの?」

「まあシンプルな名前は知らない人でも覚えやすいしな。それを考えながら決める人もいるそうだ。」

 

 どうやら3人とも満場一致で納得した様子だった。

 

「よし。じゃあ俺たちは今から…」

 

 アキラからホワイトボードマーカーを貰い、イサムはホワイトボードに大きく『Realize』と書き記した。

 

「Realize!」

 

 実現。

 その言葉は今の彼らの目的を一言で表すのに充分なものであった。

 

「よし!じゃあチーム名決まったし練習やろっか!」

「おっしゃ!今日は何の曲するん?」

「馬鹿かお前ら。まだセトリ決めてないんだぞ。」

「「・・・・・あ。」」

 

 色々と成長したように見えていても、実際はまだまだ学びが足りないようだ。そうアキラは思いながら今日何度目かわからないため息をついた。

 

 

 




サブタイトルでネタバレしていくぅ!
分かった人はいたかな?

次回は遂に彼らの初舞台の予定なので是非次回も読んでいってくださいね〜!

コメントや評価くれると嬉しいです!


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その世界(ステージ)の向こうへ

 

 バンドの名前が決まり、その後山あり谷ありではあったが何とかセットリストも決めることが出来たRealizeの面々はほぼ毎日の感覚で練習に励んでいた。

 そして時は刻一刻と過ぎ、ライブまで残り2日になっていた。

 

「おっし!ざっとこんなもんやろ!」

「うん。みんなの音もちゃんと合うようになってきたしそれなりにはなってると思う。」

「まあ本当にそれなりだけどな。」

「あちゃ〜。それ言っちゃう?」

「現実から目を背けようとするな。」

 

 痛いところを付かれたイサムは苦笑いしながらも言い返せない現状に方を落とした。

 

「で、今日はもう1回音を合わせて終わりにするか。明日はリハーサルだしな。」

「そうだね。じゃあ少し休憩したらもう1回やろっか。」

 

 そして彼らは休憩に入ってミチルは椅子の背もたれに寄りかかりながら一息つき、アキラは楽譜などの再確認を行っていた。その中でイサムはギターの調整を行っていた。

 

「そう言えば今回ここのライブに出るのって全体的にどのくらいいるんだろ。」

「俺たち含めて7組いるらしい。」

「へえ〜。結構多いな〜。明日はその人達と会うことになるのかな?」

「そうだ。くれぐれも失礼のないようにしとけよ。」

「そうだね〜。」

「「特にミチルは。」」

「なんでや!?」

 

 納得がいかない!というように必死に抗議するのだが2人は「そりゃあ…ね。」と反応している為、よりミチルの不満は募るばかりであった。

 

「さて、そろそろ休憩は終わりだ。」

「よし!じゃあラスト1回気合い入れて行こっか!」

 

 それぞれが楽器を構え、最終チェックの演奏を行った。

 その結果はまずまずといったものだった。しかし、ここまで来れたことにイサムは嬉しく感じていた。

 自分にとって、このメンバーで奏でる音は大きな変化であると思ったからだ。そして、皆で決めたRealizeという名前。そのことは空白だった以前の自分には無かったこの思いは、まるで名前の無い人生に自分たち自身でその人生に名前をつけたような気分だった。大袈裟に聞こえるかもしれないが、イサムにとってはこのバンドで体験したことはそれほど大きなものとなっていなのだ。

 

「よし、これくらいでいいだろう。」

「ん〜!疲れた〜!」

 

 演奏を終えた彼らはそれぞれベースやドラムを片付け始めた。

 

「イサム〜?そろそろ片付けやるで〜?」

「あ、うん。ごめんごめん。」

 

 ミチルに声をかけられ、イサムも片付けを始めた。

 

「…ねえ、2人とも。

 

 明日、頑張ろうね!」

 

 その一言にアキラとミチルはどうしたよ突然といった感じでポカーンとしていたが、そんな2人をよそ目にイサムは片付けを進めたのだった。

 

 

 ◆ ◆ ◆ ◆

 

 

 リハーサルの日が過ぎ、遂にライブ当日となった。

 イサム達は他の出演者達に改めて挨拶をした後で楽屋にて直前準備に取り掛かっていた。

 

「いや〜。ライブ用の衣装無かったから借りられて良かったわ〜。」

 

 先程、マスターからライブ用のTシャツを借りたミチルはそれを着用し呟いていた。恥ずかしながら彼らはつい前日まで衣装のことを誰一人として考えていなかったのだ。こいつら流石にガバガバ過ぎにも程があると言うのは誰もが思うだろうがそこは多めに見て頂きたい。

 そこでマスターに相談したところ、そういう時のためにライブハウスでのTシャツをレンタル出来るということだった。初心者の人は良く衣装の用意に悩むらしいのでそういう時の為に沢山常備しているらしい。

 

「今回はこのTシャツやけど…次こそは…次こそは絶対衣装用意しとこうな!」

「だが無理に用意する必要も無いんじゃないか?そもそも次やるのかどうかすらわかってないし。」

「もー!なんでアキラはそんなに冷めとんの!せっかくやし特別な衣装着たいと思うやん!せやろ?」

「いや別に」

「あーもう調子狂うなー!!」

「ただいま〜。」

 

 アキラとミチルが言い合っている間にイサムは少し辺りを見に行っていた。

 

「おかえり。どやったの?」

「結構人いたね。マスターも忙しそうだったよ。」

「ガールズバンド時代と言われるが普通のバンドもそれなりに興味を持つ人がいるんだろうな。それにここのマスターは昔バンドで色んな国を転々としていたらしい。実力もかなりのもので、あの人のことを知ってここに足を運ぶ人もいるみたいだ。」

「えっ?あの人そんなに凄い人だったの?」

「まあ他のバンドの人から聞いた話だがな。」

「マジか〜。ただのオネエや無かったんか…。」

「あ、言い忘れてたけどミチルのお父さん来てたよ。」

「はぁー!?なんでお父ちゃんがこのこと知っとんの!?」

「さあ?…っていうかダメだったの?」

「いや…なんか…恥ずかしいやん…」

 

 頬を赤く染めながらそう呟く姿を見て、年の離れている妹を見ているような思いになった2人は思わず頭を撫でていた。その事に対してまたしてもミチルは「もー!」も不満を顕にしていた。

 

「みなさーん!マスターからお話があるので一旦集まってください!」

 

 スタッフの人に呼ばれて他のバンドの人たちと共にマスターの元に移動した。

 

 

 

 

「来たわね。」

 

 全員が集まったことを確認するとマスターは腕を組んで、ニヤッと笑った後にただ一言、こう言い放った。

 

「新参だの古参だのボーイズバンドだのガールズバンドだの余計な遠慮はいらないわ!全力で己を出し切りなさい!」

「はい!」

「もっと大きく!」

「はい!!!」

「良いわねその気合い!!嫌いじゃないわ!!!

 じゃあ全力でやって来なさい!!」

 

 そう言い残すとマスターは去っていった。

その後、各バンドの面々はそれぞれ楽器の準備やリラックスなどに集中し、イサム達もまた各々で本番に備えていた。

 

「アキラ、俺たちの順番は5番目だよね。」

「ああ。だからといって気を抜くなよ。」

「わかってるよ。」

「すみませーん!最初のグループとその次のグループの方々は準備よろしくお願いしまーす!」

 

 3人が話しているとスタッフの人から全体に連絡が入った。時間を見るともうすぐライブ開始の時間を迎えようとしていた。

 

「よーし、俺たちも頑張ろう!」

 

 イサムは改めて気合いを入れ直し自分のギターのチューニングを始めた。

 

 

 ◆ ◆ ◆ ◆

 

 

「ここかぁ…」

 

 彩はKINGDOMの入口付近にいた。その手には今日のライブチケットが握られていた。

 

「結構人多いなぁ…。」

「そうね。彩ちゃん、はぐれないようにね。」

「千聖ちゃん!私子どもじゃないんだよ!?」

 

 千聖からの扱いに不満の声を上げるが当の本人はお構い無しに先に進んて行った。彩もそれを追うようについていき、受付を済ませてから2人はライブ会場に向かった。

 

「あれ?彩ちゃんに千聖ちゃんじゃん。」

「日菜ちゃん!?どうしてここに!?」

「どうしてって…イサムくんがここでライブするって聞いたから見に来たんだよ。」

「えっ?日菜ちゃん…いつの間にイサムくんとそんなに仲良くなってたの?」

「んー?最初に会った時からだよー?」

 

 彩は「マジで?」とでも言いたそうにそう聞いたが日菜は何食わぬ顔で返答する。

 

「おや?彩さんに千聖さん!それに日菜さんまで!」

 

 3人が話をしていた場所に麻弥とイヴが現れた。

 

「こんな所で会うなんてキグウですね!」

「2人も来てたんだ〜。」

「ええ。ここのマスター、噂によると昔はかなり名を轟かせていたドラマーだったんですよ。時々ライブ前に盛り上げ役で叩いてるって聞いたので気になりまして。ですが1人で行くのも心許なかったので…」

「イケニエ役です!」

「イヴちゃん、それは生贄とは違うんじゃないかしら…?」

「なんだー。麻弥ちゃんもイサムくんのバンドが出るって聞いてたのかと思ったよ〜。」

「ええ!?そうだったんですか!?」

「あ、聞いてなかったんだ。」

「いやぁ…。ここ最近会うことが無かったので…。」

「あれ?ちょっと待って?麻弥ちゃんもイサムくんと知り合いなの?」

「はい。ギター選びなどで色々とお話しました。」

 

 それを聞いた彩は唖然としていた。何しろイサムは自分のグループのメンバーの内、5人中4人が知り合いだったのだから。

 

「もしかして…イヴちゃんもイサムくんと!?」

「いえ?ゾンジテません。」

「あ……うん。ソッカー。」

 

 彩はまたしても早とちりしてしまった。まあここまで奇跡に近い偶然のような出来事が重なるとそう思うのも仕方ないのだが…。

 

「皆さん、そのイサムという方はどのような方なんですか?私もゼヒお目にかかりたいです!」

「いや…それはその…」

「私だけ仲間外れはズルいです!」

 

 思わず彩は言葉を濁そうとしてしまった。彼女はその気持ちにあえて理由をつけて見ないふりをしていた。

 そんなことをしていたが、会場の照明が突然消えた。その場にいた人たちは少しの間ザワついていたが、ドラムの激しい音と共にステージに脚光が当たる。そこにはKINGDOMのマスターがいてドラムを叩いていたのだった。会場は彼の奏でる激しいドラムの音に圧倒されてるかのように皆釘付けになっていた。

 

「ようこそ皆様、KINGDOMへ。」

 

 ドラムロールが終わるとマスターはマイクを取り出し、話し始めた。

 

「多くは語らないわ。今のもただのOPのようなものだから深くは考えないで頂戴。

 これから始まるのはそれぞれのバンドが繰り広げる1つ1つの可能性。その可能性の王国を皆様には見届けて頂きたいの。

 さて、前座はこの位にして本番に行きましょう。

 今日は存分に楽しんでいって頂戴!」

 

 彼のスピーチに観客の熱は上昇していった。

 再びステージが暗転し、また明かりが灯された時には1組目のバンドが姿を現していた。

 

「元気ですかー!!」

 

 その一声で再び観客席は盛り上がっていった。その様子を見ていた彩たちは…

 

「凄い…。」

 

 その雰囲気に取り込まれていた。

 

「もしやあの人は…あの『辻斬りの蓮十郎』では!?」

「えっ?辻斬り…?」

「少し前にあるバンドチームに属されていた方で凄腕のドラマーさんです!そのドラム裁きはまるで辻斬りのような鋭さと言われ、そう呼ばれてるんです!」

「辻斬り…まるでブシのようですね!」

「あ、そろそろ始まるわよ。」

 

 マスターこと蓮十郎のドラム裁きに興奮を隠せない麻弥だったが、千聖の一言で5人はライブを見始めた。

 

(イサムくんも…ここに…)

 

 そう考えながらも彩は目の前で繰り広げられる数々のライブに魅入っていた。

 

 

 ◆ ◆ ◆ ◆

 

 

 刻一刻と時は過ぎ、既に4番目のバンドの番まで来ていた。そしてイサムたちもステージ裏でスタンバイしていた。

 

「もうすぐやなぁ…。アカン、ここに来て緊張強なってもうた。」

 

 緊張しているミチル、普段と変わらずぶっきらぼうなアキラ、そしてじっとギターを見つめているイサム。本番を直前に個々で反応は違っている。

 

「そや!円陣!円陣やろ!」

 

 ここでミチルがそう言った。

 

「円陣って…」

「気合い入れや!それに本番前はこうするもんやろ!?」

「別にそれがルールじゃないぞ。」

「気持ちの問題やねん!」

「………うん。やろっか!」

 

 ミチルの拳にイサムの拳が合わさる。そしてイサムが「アキラも」と促すと、アキラも立ち上がり3人の拳が1箇所に合わさった。

 

「で、何言うの?」

「え?『Realize、Go!』とかやないん?」

(またグダグダしてるな…。)

「よーし、じゃあミチルよろしく。」

「よっしゃ!Realize…」

「「「Go!」」」

 

 そして前任のバンドの演奏が終わり、舞台からそのメンバーが戻ってきた。

 

「お疲れ様です。」

「会場は良い感じに温めといたぜ。後は頼んだぞ?」

「「「はい!」」」

 

 そのグループのボーカルの男にそう言い残され、Realize(彼ら)はステージに立った。それぞれ機材をセットしカーテン裏のスタッフに合図を送ると、遂に3人にスポットライトが当てられた。

 

「はじめまして!Realizeです!

 

「えーっと…僕達は今回が初参加なんですけど…皆さん「皆盛り上がってますかー!!」ちょっと!?それ俺の台詞…」

「早いもん勝ち〜!」

 

 序盤から少し難ありかと思われたが何故か1部の観客には笑いが取れていた。

 

「俺たちはまだ結成していた間もないバンドですが今日の為に一生懸命練習してきました。その成果を今日ここで発揮出来ればと思っています。」

 

 そこにアキラのフォローが入り、再びイサムの番となった。

 

「それじゃ、いきなりですけどまずは1曲聞いてください。」

 

 こうしてイサムたちのステージが始まった。

まだ誰も知らない世界の向こうへ、夢を見つける未来への物語を開くように。

 

 

 

 




えー今回イサムたちはカバー曲を歌いましたが色々とアレなのでこの小説ではその曲名は入れませんでした。まあこの話の中にその曲のヒントは入れたので暇な人は考えて見てくださいね。

それにしてもライブの描写はマジでわからない…。今回、作者も手探り状態でやったのでもしかしたら変な所もあるかもしれませんがそこはご了承ください。

良ければ評価やコメントお願いします。

あー、こんな充実した高校生活送りたかった。(独り言)


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走り始めたばかりの君へ

 

 Realizeの初ライブが終わり、2日がたった。

彼らのライブは無事に幕を閉じ、KINGDOMのライブも全体的に成功したと言っても良い物となった。ただ初めてのライブである事もあり、MCは多少滑ることや他のバンドに比べてあまり盛り上がりが薄いと思う所もあったが、マスターからは「初めてなんてそんなもんよ! もし失敗だと思ってるんなら……人間は失敗と成功を繰り返して成長するものって事、しっかり覚えておきなさい!」と喝を入れられた。

 そして、当の本人(イサム)はそれ以降なんだかボケーッとしていた。

 

「おーい?生きてますか〜?これ何本ですか〜?」

「…………うん、脈はあるな。」

「いや2人ともなにしてるの?」

「「それはこっちのセリフだよ!!」」

 

 目の前で手を降ったり、脈を測り出したりしてる2人に対して素朴な疑問を抱くが逆にその2人からツッコミ返されてしまった。

 

「で?この間からやたらボケっとしてるけどどうしたんだ?」

「うーん…。ちょっと考え事をね。」

「えっ…?何何?悩み事?」

「いや、悩みではない。……あ、それより次教室移動だけど?行かなくてもいいの?」

「「だからお前(あんた)を呼んでたんだよ!!」」

 

 その時の2人の圧は思わず仰け反ってしまう程だったとか。

 

「てかなんでミチルはここにいるの? 隣のクラスじゃ……」

「……あ」

 

 

 ◆ ◆ ◆ ◆

 

 

 日は変わり、イサムはCiRCLEでアルバイトをしていた。

 

「新規イベント?」

 

 まりなの口から発された言葉をイサムがオウム返しで尋ねた。

 

「そう!今度ウチでやることになったんだ〜。」

「それで俺も手伝いに加わるってことですか?」

「そうそう!」

「わかりました。まず何をやったら良いんですか?」

 

 そう聞くとまりなは「そうだなぁ…。」と悩んだ後に1枚の紙を取り出し、イサムに渡した。

 

「イサムくんにはこのチケット分けをして貰おうかな?大人用と学生用の2種類があるからこれを分別して、どっちが何枚あるか記録して欲しいんだ。」

「わかりました。」

 

 彼に割り当てられたのは比較的楽な仕事だった。まりなから箱を受け取り、イサムは作業に取り掛かり始めた。

 

「にしてもまた急ですね。そもそもこれってなんのイベントなんですか?」

「そういえばイサムくんには説明してなかったね。実はこの間からオーナーと話し合って決めたんだけどこの間やったガールズバンドパーティーって覚えてるかな?」

「あれですか?」

 

 ガールズバンドパーティーとはこのCiRCLEがオープンして間もなく、イサムがアルバイトを始めてからも間もない時に開催されたイベントである。元々イサムはまりなが目をつけていたバンドにイベント出演の交渉を命じられるはずだったのだが、そこに現れたPoppin’Partyの面々がそれを手伝ってくれた為、予想よりも上手くことが運んだらしい。

 

「その時のステージを見て、『ライブやりたい!』って意見を沢山貰ってさ〜。せっかくだし今度ウチで新規イベントやってみないかって提案されたの。」

「へえ〜。でどんなことやるんですか?」

「今回は前回募集したバンドの他にも何組か募集して大きなライブにしようと思ってるんだ。」

「わー大変そー…。」

 

 これから起こるであろう出来事を予測したイサムは乾いた声でそう返した。

 

「それでなんだけど、イサムくんにはみんなへのアンケートをお願いしたいの。」

「あーはいはい……ん?今なんと?」

「君にはイベント出場者のみんなにアンケートをとって貰うよ。」

(大変そうな役割キターッ!)

 

 話を聞いてるだけでも大変そうなのにそれに加えてより負荷が大きそうな仕事を任されたイサムは喜んで良いのか分からなくなりそうになっていた。

 

「あ、それと当日はステージの照明や音の調整の係頼んでもいいかな?それとこれも…」

「モースキニシテクダサイ…」

 

 気が遠くなりそうな仕事量がふりかかりイサムは一瞬目の前が灰色になりかけた。

 

「こーんにちわー!」

「おっ!噂をすれば!ほら、イサムくんも来て来て!」

 

 いつものように上司に振り回されながらイサムはカウンターに向かった。

 

「いらっしゃーい!」

「まりなさん、イサムさん、こんにちわ〜!」

「いらっしゃいませ〜。」

「・・・・・・・・」

「……えっと…どうされました?」

 

 じっとこちらを見てくるたえに対して思わず声をかけた。

 

「Realizeの人ですか〜?」

「いやそんなy〇utuberの人ですかみたいな言い方しなくても…」

「おたえちゃん、Realizeって…何?」

「バンドの人だよ。この間、イサムさんをKINGDOMで見たんだ。」

「「「「「えっ!?」」」」」

 

 たえの言葉にその場にいたたえとイサム以外の人物が驚きの声を上げていた。

 

「イサムくんバンドやってたの?」

「すごーい!バンドマンなんですか!?」

「いや君たちもだよね!?」

「ほら、証拠写真がこちら。」

「しれっと見せるの止めて!?」

 

 今日も忙しくなりそうだなぁ……。心の中でそう思いつつも、頬を叩き今日も仕事に励むのだった。

 

「すげ…。いつからバンドやってたんですか?」

「スリーピースバンドなんですね。」

「ねーどうして私に教えてくれなかったのー?」

 

 それよりも先にこの場の収束が先か…。そうイサムは心の中で呟き直した。

 

 

 ◆ ◆ ◆ ◆

 

 

 時は過ぎ、イベント開催間近となった。

 この日は事前チェックとして1組1組が自分たちのバンドが最高のパフォーマンスが出来るように音響、照明、ステージの立ち位置等の最終確認を行っていた。

 

「Roseliaさん、ライトや音響の方は大丈夫ですか?」

「そうね。もう少しライトを抑えて貰えないかしら?」

「わかりました。」

 

 今回参加したいと言ってきたのは前回参加したPoppin’Party、Afterglow、Pastel✱Palettes、Roselia、ハロー、ハッピーワールドの5組に加えて、新たに3組のバンドが参加することになった。照明、音響はイサムがやることになりどのグループもパフォーマンスが違う為ライトの角度など1つ1つを頭に叩き込まなければならない。

 

「イサムくん、ちょっと休憩しよっか。」

「はい…。じゃあちょっと行ってきます…。」

 

 1度スタジオから出て近くのベンチに腰をかけた。これまでの疲れからか少しウトウトしてしまい思わず顔を思いっきり叩いた。

 

「イサムくん?大丈夫?」

「……うにゅ…ふぇ!?彩!?」

 

 半開きの目を開くとそこには自分を覗き込むように見ている彩がいた。

 

「これ飲む?」

 

 そう言いながら缶コーヒーを手渡された。それを受け取り1口飲むと少しだけ気持ちが落ち着いたように感じた。

 それを見た彩はそっと自分の隣に座った。

 

(なんか…変な感じだなぁ…)

 

 横目でイサムは彩を見た。こうして2人ので横並びになることは多々あったが、なんだかいつもと違うような気がした。というのもいつもはプライベートな丸山彩だったが今隣にいるのはアイドルの丸山彩だった。いつものふわふわな髪は2つに纏められており、服装もステージでよく見る衣装だった。

 普段は子犬のようなこの子がここまで華やかになるなんてなぁ…。と思っているとその視線に気づいたのか彩がこっちに視線を向けた。

 

「どうしたの?私に何かついてる?」

「いや、なんでもない…。」

 

 とりあえず持っていたコーヒーを思いっきり飲み干し、気持ちを落ち着けた。

 

「ねえ彩、1つ聞いていい?」

「何?」

「彩はさ、バンドやってて楽しい?」

「うん!大変だけど楽しいよ!」

「あのさ…今日見てて思ったんだけどさ…」

 

 一息着きながらイサムは話を続けた。

 

「ポピパもアフグロもパスパレも他のバンドの子たちも……みんなステージに上がってる時は楽しそうだった。なんか…ここにみんなの夢があるって感じだった。

 だからなんだか…ステージ見てるとさ、楽しくなったんだ。」

「そっか。」

 

 そんなイサムの言葉を彩は静かに聞いていた。

 

「それ…で…」

 

 そこでイサムの言葉は途絶えた。不思議に思った彩は隣を見るとイサムはその場で寝てしまっていた。

 

「イサムくん?」

 

 すぅすぅと寝息を立てて眠る彼を見た彩だったが、イサムがバランスを崩したのか彼の体が彩の方に倒れ込んできた。頭が彩の肩に乗っかるような体勢になり、一瞬動揺してしまうもののイサムの寝顔を見た彩は何も言わずにそのまま彼を見ながら微笑んでいた。

 

 

「次のリハまでまだ10分あるかぁ…。じゃあ時間が来たら起こしてあげるね。」

 

 彩にとってこの10分は長いようであっという間な時間だった。

 

 




久びさにイチャコラさせれたぜ。褒めてくれよな。←貪欲
やっぱり彩ちゃんを可愛く書くのは楽しいです。

コメントや評価が来ると泣いて喜ぶので良ければお願いします。



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始まりはいつも突然

 

 CiRCLEのイベント当日。

 イサムは参加しているバンドの照明や音響を大きくミスする事無くその仕事をやり遂げていた。

 

「Pastel*Palettesでしたー!」

 

 ちょうどパスパレのステージが終わり次のバンドの準備の時となった。この後にはハロハピ、Roseliaと後が控えているのでまだまだ気は抜けない状態だ。

 

『それではこれより5分の休憩を行います。観客の皆様は水分補給などを行い、体調を整えてください。』

 

 そうアナウンスをした後、イサムは再びマニュアルを確認した。

 

「イサムー!」

 

 そんな中、こちらに走って向かってくる少女がいた。

 

「えっと…弦巻…さん?」

「イサム!花音を見なかったかしら?」

 

 その少女…弦巻こころはイサムの元に来るや否や質問をしてきた。どうやら彼女のバンドメンバーである松原花音を探しているようだった。

 

「松原さん?見てないけど…」

「お手洗いに行ったきり戻ってこないからみんなで探しているの!」

「……手伝おうか?」

「ええ!助かるわ!」

 

 そうしてこころに協力することにしたイサムは先程まで飲んでいた水の入ったペットボトルをその場に置いて花音を探し始めた。

 

「松原さーん?」

 

 辺りを見回してみるがそれらしい人物はどこにもいなかった。「どこに行ったんだろうなぁ…」と考えながら歩き続けるが、近くの扉の先から物音が聞こえた。もしかしたらその部屋に花音がいるのでは無いのかと思い、イサムは軽くノックをし…

 

「失礼します。」

 

 と、扉を開けた。

 しかし、その選択は彼にとんでもない物をもたらしてしまった。

 

「・・・・・・」

「…………イ…イサムくん!?」

 

 そっとイサムは扉を閉め、Uターンをした。その時、イサムはただ「俺は何も見ていない」と呟きながら別の場所に行こうとしていたのだが…

 

「あら?どこに行くのかしら?」

 

 後ろからとんでもない魔のオーラを感じ思わずその足を止めた。

 

「ちょっとお時間良いかしら?」

「いや、その…僕には用事が…」

「良 い わ よ ね ?」

「アッハイ」

 

 そのまま彼は千聖によって連行されて行った。

 

 その後、彼の姿を見たものはいなかったという…

「いや死んで無いわ!」

 

 

 ◆ ◆ ◆ ◆

 

 

「それで?言い訳を聞こうかしら?」

 

 先程の部屋に連れ込まされるや否や正座させられてるイサムに対して、千聖(その原因)は満面の笑みでイサムに質問をしていた。そしてその後ろでは彩と麻弥が苦笑いしながら立っていた。

 

「いやあれは…」

「どういう事かしら?

 

 私たちの着替えを見てそのまま逃げようとするなんてねえ?」

 

 どうやら彼が見たものは彩、千聖、そして麻弥が着替えをしていた光景だった。パスパレがステージを終え、最後の全体でのステージの準備の為にアイドル衣装から今日のために作られたTシャツに着替えていたところを見てしまったのだ。

 

「それで?ど う な の か し ら ?」

「……事故です。」

 

 そのせいで今絶賛お叱り中なのだ。

 

「イサムくん…私は…大丈夫だから…本当の事を言って?」

「あれ?俺の味方ゼロ!?だから事故だし不可抗力だって!!」

 

 遂に彩にまで哀れみの目を向けられてしまう始末。もうこの時点でイサムは何を信じれば良いのか分からなくなり始めていた。

 

「まあまあ…イサムさんも反省してるみたいですし…今回は許してあげましょうよ。」

 

 そんな彼に唯一救いの手を差し伸べてくれたのは麻弥だった。その時、イサムには麻弥がいつもの何倍も輝いているように見えた。

 

「そ…そうだよ!イサムだって悪気があった訳じゃ無いと思うし…」

「うん、手のひらくるっくるだよね彩ちゃん?」

「そ…そんなこと…」

「……まあいいわ。今回だけは許してあげるわ。」

 

 その一言を聞いてイサムは安堵した。

 

「でも…次同じことしたら…わかるかしら?」

「……イゴキヲツケマス」

(千聖さんと付き合った人…絶対尻にひかれそうだよね…)

「あら何か?」

「イエ!ナニモ!」

 

 この日、イサムは千聖の恐ろしさを始めて経験したのだった。

 因みにこの後ちゃんと花音も見つけ、ステージに間に合ったのだとか。

 

 

 ◆ ◆ ◆ ◆

 

 

「今日は本当に!」

「「「「「ありがとうございました!!」」」」」

 

 全体のステージが終わり、今回の参加者全員での観客への挨拶も終わった。その後、お客さんが帰っていくのを見届けた後、俺を含めるスタッフは片付けを行っていた。

 

「イサムくん!今日はお疲れ様!」

「お疲れ…様ですっ…。」

 

 その場に来たまりなさんと俺は挨拶を交わした。その時の俺はかなり重量のあるダンボールを1人で持っていた為、会話も途切れ途切れになっていた。

 

「大丈夫?」

「大丈夫…です。もう少しです…から。」

「もー…キツイなら素直にそう言いなさい!」

 

 まりなさんは俺の持っていた荷物の反対側を持った。すると荷物の重みが一気に来たのかまりなさんも一瞬荷物を離しかけた。

 

「やっぱり無茶してたじゃん。」

「……すみません。」

 

 そのまま2人がかりで運び、目的の場所につくとその荷物を指定の場所に置いた。

 その後は機材のチェックやステージの清掃などを行い、後片付けは終了した。

 

「お疲れ様でした〜。」

 

 全てが終わり、スタッフさん達は解散となる。もちろん俺も普段の上がり時刻からはかなり遅くなってしまったがようやく帰宅することが出来る。

 

「眠…」

 

 ここ数日無理をしたせいか落ち着いた途端に一気に疲れが押し寄せてきた感じがした。

 今日1日を頑張った自分へのこ褒美としていつもの様にファーストフードショップでバニラシェイクを購入しようとし、入店した。

 

「いらっしゃいませー。」

 

 レジの方を見ると全く知らない女性がいた。

 

「(流石に今日はいないか…)」

 

 そう思い、レジでバニラシェイクを注文をしてそのままお店を出た。

 そう言えばと古い記憶を思い返してみる。

 最初に彼女と俺が交友を深めたのもここで会えたからだ。

 

「思えばあの時から…始まってたんだよなぁ。」

 

 彩にはたくさんのものを貰った。多分彩と出会って無かったら未だに夢が何なのかなんて答えが出せていなかった。

 きっと周りが先に進んでいく中で俺は何時までも動けずにその場で縮こまっていたのだろう。

 でも今の俺ならそれが何となくわかる気がする。悩み続けて、手探りで色々と試してみて、その答えを掴もうとしてきた。

 俺がやりたいことは何なのか。俺の夢は何なのか。

 

「(俺の夢は…)」

 

 そんなことを考えながら俺はバニラシェイクを飲みながら再び我が家へと歩き始めた。

 

 

 ◆ ◆ ◆ ◆

 

 

「この間のCiRCLEのライブ見た?」

「うん!すっごく楽しかった!」

「私も何か楽器始めてみようかな〜。」

 

 次の日、学校に行くとクラスの女子たちがCiRCLEのライブについて語り合っていた。話を聞く限りどうやら好評だったらしく、どのバンドが好きかとかあの曲が良かったとか話しているのを聞いているとイサムも自分の事のように嬉しくなった。

 

「どうした?随分と嬉しそうだな。」

「そうかな?」

 

 アキラに言われてイサムはいつもの様に返答した。

 

「ねえアキラ、誰かを応援するのって…悪くないね。」

「……何なんだ藪から棒に。」

「別に?」

 

 どう見ても何時もよりも機嫌がいいように見えるイサムを見て、アキラは少し変な物を見ているような気持ちになった。

 

「ねえ、今日もKINGDOM行くの?」

「そうだな。やれるか?」

「もちろん。ちょっとやりたいこともあるからね。」

「やりたいこと?……なんだそれ「イサム!アキラ!おるか!?」」

 

 突然教室の扉を勢いよく開けてミチルが2人のいる教室に入ってきた。

 

「煩いぞミチル。朝くらいもうちょっと静かにできないのか。」

「それどころやないねん!コレ見てやコレ!」

「えっ?なにこれ…。」

 

 3人はミチルが持ってきたチラシを見て驚愕していた。

 

 

 




ここからこの物語もクライマックスに向かいます。

イサムの夢とはなにか、そして彩とイサムは無事結ばれることが出来るのか。皆さん、クライマックスも是非お付き合いよろしくお願いします!

良ければコメントや評価もよろしくお願いします!


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武士道、恋道、私の道

 

 

 ある日の夜、丸山彩はスマホの画面をじっと見つめていた。

 

「・・・・・・・・」

 

 画面に映し出されたソレを見る度に胸が高鳴り、気持ちを抑えるだけでも手一杯になってしまう。

 しかし、それと同時に罪悪感にも駆られてしまう。本人の許可なく写し取ってしまったことを。いくら仲がいいからとはいっても限度があるんじゃないかと思いつつもその時の彼女は本能には逆らえなかった。

 それでもその写真をみると後悔という感情を別の感情が打ち消してしまっていた。

 

「はあ…」

 

 思わず溜息をこぼしてしまう。

 会いたい…。気がつけばその想いが胸の中にいっぱいになってしまった。

 

 

     ◆ ◆ ◆ ◆ ◆

 

 

「おつかれ〜。」

「お疲れ様です!」

 

 レッスンを終え、スタジオを出る日菜にイヴが笑顔でそう答えた。

 今日は千聖と麻弥が他の仕事のために途中でレッスンを抜け、残りの時間は彩、日菜、イヴの3人で音を合わせたり、それぞれで出来る練習を精一杯やっていた。

 そして時間は経ち、今日の練習は終了。彩は急ぎの用事があったらしく急いでスタジオを後にした。日菜も終わり次第その場を後にし、イヴは次の仕事の準備をしていた。

 

「あれ?これは…」

 

 イヴはテーブルの上に置かれた桃色のスマートフォンを見つけた。いつも練習の合間にエゴサーチをしていた為、これは彩のものだと見た瞬間に理解出来た。

 早く彩に届けないとと思いつつも、彼女はスマホをここに忘れているため連絡の付けようがない。それに今から追いかけて間に合うのか…。そう考えていた時、彼女のスマホに着信が入り、画面がついた。

 そして…イヴは見てしまった。

 

「……これは」

 

 その瞬間、部屋の扉が勢いよく開かれた。そして、そこには息を切らしながら膝に手をついていた彩がいた。

 

「あ…アヤさん!?何事ですか!?」

「イヴ……ちゃん…。」

「もしや…曲者!?」

「ち…違うよ!?と…とりあえずおいつ…いて…」

 

 イヴは彩を椅子に座らせ、水を渡す。それによって呼吸が次第と整った彩は一息をついて話を戻した。

 

「それでどうしたのですか?」

「うん…イヴちゃん…」

 

 

 

 

「私のスマホ見なかった?」

 

 イヴはポカーンとしていた。

 まあ、あれだけ何か大事でも起きたのかと言わんがばかりに戻ってきたのに要件が要件だったので仕方ないといえば仕方ない。

 しかし、エゴサーチ命の彩にとってはそれは死活問題とも言えることなのだ。

 

「それでしたらこちらに…」

「良かったぁ…。見つかって良かったぁ…。」

 

 まるで宝物を発掘したかのように喜ぶ彩を見てイヴも安心と嬉しさを同時に感じていた。

 

「ところでアヤさん、画面の方は?」

「………へ?」

「もしかして、アヤさんのコイビトというものですか?」

 

 そしてイヴの発した一言で彩は一瞬、石のように思考も動きも固まってしまった。

 

「すみません、スマホを取った時に通知が入って画面が着いてしまいつい…」

「え?ぜ…全然大丈夫だよ!」

「そうですか?」

「…う…うん。」

 

 一先ずスマホを返してもらったのだが、彩の顔は赤くなったままだった。

 

「アヤさん、大丈夫ですか?」

「へっ!?大丈夫だよ!!あ、じゃあ私先に帰るね?お疲れ様!」

「はい!お疲れ様です!」

 

 1度の呼吸もなくイヴにそう告げると彩は駆け足でスタジオから立ち去ってしまった。

 それを見ていたイヴは彩の行動に違和感を感じながら、もしかしたら自分が何かやってしまったのかと考え自分の先程までの行動を振り返っていた。

 

「もしかして…さっきの方と何か関係が…?」

 

 

   ◆ ◆ ◆ ◆ ◆

 

 

 その次の日、イヴはある人物の元に向かっていた。先日のことを色々と考えたのだが、やはり自分一人では解決出来ないと思い、第3者に助言を求めた方がいいと考えた。

 

「チサトさん!少しいいですか?」

「イヴちゃん?どうしたの?」

 

 突然現れるや否や千聖に声をかけた。チサトは少し戸惑いながらも真剣な表情のイヴを見てそのまま彼女を連れて別の場所へと向かった。

 

 2人が移動した先は中庭の自動販売機の前。2人はそれぞれ飲み物を買ってベンチに座り、本題に入った。

 

「それで…私に話って何かしら?」

「ハイ!アヤさんの事なんですが…」

「彩ちゃんがどうかしたの?」

 

 千聖に聞かれ、イヴは昨日のことを話した。それを聞いた千聖は「なるほどね」と言いつつも、慌てることは無かった。

 

「まあこれは本人がどう動くかってところかしらね。」

「……どういうことですか?」

「そうね…詳しいことは本人から聞いた方がいいと思うけど、…彩ちゃんは本当に女の子なのね。」

 

 ふわりと微笑みながらそう返されるもその言葉の意味はイヴにはまだ理解出来なかった。

 

「それは一体…」

「あれ?千聖ちゃんにイヴちゃん?」

「アヤさん!」

 

 噂をすればなんとやら。そこに話題の人物が現れた。

 

「こんな所でどうしたの?何かお話?」

「ええ。ちょうど彩ちゃんのことを話していたところよ。ね?」

 

 千聖はイヴにそう投げかけるが当の本人はその事でまだ整理が出来てない為か困惑気味だった。

 

「その…アヤさん!お伺いしたいことがあります!」

「えっ?どうしたの?突然畏まっちゃって…。」

「先日のことなんですが…私、何かアヤさんの気に触ることをしてしまいましたか?」

 

 それを聞かれた彩は目をパチクリし、返答に困っていた。その様子を見ていた千聖は溜息を着きながらも彩に一言告げた。

 

「彩ちゃん、大丈夫よ?だから素直になってみたら?」

 

 そう言われた彩は胸に当てていた手をギュッと握り、イヴに話をするのだった。

 

「イヴちゃん、あの画面見たんだよね?」

「はい。あの方は…」

「イヴちゃんはこの間行ったKINGDOMのライブに出てたRealizeってグループの人達を覚えてる?」

「はい。……そういえば…」

「うん。彼はそのグループのメンバーなんだ。それと多分イヴちゃんはあまり話をした事が無かったから分からないと思うけど、CiRCLEで音響とかしれくれたんだよ?」

「なるほど!その方だったんですね!それで、その方とはどういう関係なのですか?」

「それは………」

 

 イヴに質問を返されて口ごもってしまったが、勇気を振り絞り口を開いた。

 

「私の……片想い…かな?」

 

 それを聞いたイヴは若干驚いていた。

 

「片想い…ですか?」

「うん。」

「なるほど。そうだったのですね!」

 

 ようやく理解したイヴはスッキリしたかのように晴れやかな表情をしていた。

 

「ところでアヤさんはその方に告白するのですか?」

「えっ!?こ、告白!?」

 

 告白という単語を聞いて彩は思わず大きな声を出してしまった。

 これまで彼を想うことはあったが、告白ということは考えたことがなかった。

 

「(告白かぁ…。もし告白して上手くいったらやっぱりお付き合いして恋人らしいこと色々とするのかな…。でも私、アイドルだし…大丈夫なのかな?もしイサムくんに何かあったら…)」

 

 いざそうなるとどうすればいいのかわからず彩の頭の中はその事でいっぱいになっていた。

 

「迷っているのかしら?」

 

 そんな彩を見た千聖は見ていられなかったのか、2人の会話に口を挟んでいた。

 

「えっ?」

「まあ大方、イサムくんのことかしらね?」

「よ…よくわかったね…。」

「彩ちゃんは顔に出るからわかりやすいのよ。」

 

 そう言われて何も言い返せず、彩は口ごもってしまった。そんなことは気にせず千聖はペットボトルの蓋を閉めて話を続けた。

 

「確かに色々と大変なことはあるでしょうね。事務所からの恋愛NGはないとはいえど、私たちは普通の人のような恋愛は出来ないわ。

 でもあなたは諦めたくないんでしょ?」

「……うん。」

「そう。じゃあ答えは出たわね。後はあなた次第よ。」

 

 千聖はふわりと微笑むと、空になったペットボトルをゴミ箱に捨てそのまま立ち去って行った。

 

「そうですアヤさん!私には詳しいことはよく分かりませんがアヤさんが本気なら私は全力で応援します!」

「イヴちゃん……ありがとう!」

 

 千聖だけでなくイヴにも背中を押された彩は気持ちが前向きになり、気分も戻ってきたようだ。

 

「それでなのですが、良ければその方について色々とお話を聞かせてくださいませんか?」

「うん!まずイサムくんはね…」

 

 それから、2人の話は次の授業の予鈴がなるまで続いたという。

 そして彩は心の中で決意を決めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「私の新しい夢を叶えよう」と。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「へっくちっ!」

 

 余談ではあるがそんな中、少し離れた場所では1人の青年がくしゃみをしていたらしい。

 

 




今回サブタイ詐欺じゃないか少し不安です汗
クライマックス近いけどまだ後残り何話かはわかっておりません。
というか最近色々とあってマジで更新遅れて申し訳ない。決して他の小説サイトで投稿して燃え尽きて編集に疲れてゲームしてた訳では無いです

それでは次回もごゆるりとお待ちください。

良ければ評価やコメントよろしくお願いします(o_ _)o


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作曲は踊る、されど進まず

 後日、イサムはアキラ、ミチルの面々と以前千聖や彩と一緒に来た珈琲店で話し合いをしていた。

 

「それで……これどうするんだ?」

「そらやるしかないやろ!」

「うん! 俺もそう思う」

「決まりだな」

 

 アキラが持っていたチラシには「KINGDOM 夏の野外ライブ」と大きく書かれていた。

 

「しかし出るにしてもまた曲を選び直して練習することになるぞ。何度も同じ手は客に飽きられるからな」

「あ、その事なんだけどさ……ちょっと俺やりたいことがあるんだ」

「えっ? なにすんの?」

「オリジナル曲、作ってみたいんだ」

「は?」

 

 イサムの発言にアキラは「本気か?」と問いかけた。しかし、イサムは何も言わず首を縦に動かした。

 

「お前、曲を作るというのがどういう事なのかわかっているのか? それに誰か作詞作曲を出来るやつがいるのか?」

「それは……俺たちでやろうと思うんだけど……」

「お前……言うのは簡単だけどな……」

「まあええんちゃう? とりあえずやってみて無理ならいつものにプラン変更ってことにしたら」

 

 そう言われて溜息を着きながらもアキラは了承をした。そんな2人を見たイサムは「まるで夫婦みたいなやりとりだなぁ」と思っていた。

 

「で、何からすんの?」

「それは……これから調べる!」

「……要するに全くのノープランだったのか?」

「いや? これからやるって計画だけど?」

 

 イサムがそう言った瞬間、久しぶりにアキラとミチルの考えが重なった。そして同時に溜息をついた後……

 

「「お前なぁぁぁぁ!!!」」

「え!? え!? 何突然!?」

 

 人の少ないお店の中で彼らの怒りの声が響いた。不幸中の幸いかそのお店には彼ら以外にはいつも見かける5人組の少女達がいたくらいだった。そして言うまでもないが、3人は店員さんに「うるさい」とみっちり注意された。

 

 

 ◆ ◆ ◆ ◆ ◆

 

 

 それから数日後、イサムたちは場所をミチルの家にして再び集まり直した。

 ミチルの自宅は普通の家庭よりも比較的大きく、楽器を使用してもある程度なら迷惑にならないので音を確認したりするにはちょうどいいだろうと彼女が提案したのだ。

 

 そこで各自で作詞について調べ直した。

 そこで見つけたやり方は2つ。

 先にメロディをつくり、そのメロディにあった歌詞を考える方法と、逆に先に作詞をした上で後から作成したメロディに歌詞を当てはめる方法だ。

 これらの方法にはどちらにもメリットがあり、どちらにもデメリットがある。

 どちらが初心者に向いているかは正直なところわからないのだが、とりあえずある程度フレーズを考えて、それを纏めてからフレーズにあったコードを考えていくという作戦に出た。

 

 しかし、初心者には中々難しいもので途中まではいい感じだと思っていても次の過程が終わった後でそれを合わせてみると微妙な所もでてきた。そしてその度に推敲を重ねていった。

 

「とりあえず歌詞はどんなイメージにすんの?」

「それなんだけどちょっと考えてみたことがあるんだけど……とりあえずこれ見てくれない?」

 

 ミチルに聞かれてイサムはカバンから1枚の紙を取り出し、2人にそれを渡した。そこにはイサムが想像する曲のイメージが箇条書きに書き出されていた。

 

「……ええやん」

「俺も同意見だ」

 

 2人から称賛の返答を貰い、イサムは静かにガッツポーズを決めた。

 

「それじゃあ軽く計画を再確認するぞ。まず、ライブは8月の初め。練習に2週間は最低でも必要だからそれまでに曲を完成させる。もし出来なかったらこれまでのやり方でやる」

「じゃあこの曲を作れるのは後……10日くらいか……」

「そういう事だ。それに加えて練習もあるからな。かなりハードだぞ?」

「うん。わかった」

 

 イサムがそう静かに呟くとアキラとミチルも納得したように頷いた。

 

「よーし! そうと決まれば早速作業再開や! 歌詞はイサムが考えてアキラはイサムから渡されたコレ見ながら作曲続けてみて!」

「ミチルは何すんの?」

「ウチは衣装探したり作ったりしてみるわ。大したものは作れんかもしれんけどええ感じのをつくったるわ!」

 

 ミチルがそういった時、客間の扉がノックされる音が聞こえた。それを聞いて、ミチルが扉を開けるとミチルの父親がお盆にジュースやお菓子を乗せて持ってきた。

 

「はいはーい。頑張んのもええが、こまめに休憩は取りなさいよ〜。頭使うのなら甘いもんは必須やぞ〜」

「サンキュー父ちゃん! あ、パイ菓子あるやん!」

 

 ミチルの父からの差し入れが来たことで、万全となった状態の彼らは作業に没頭していた。

 勿論、その1日だけでは終わらず次の日、その次の日も学校の休み時間やKINGDOMなどで話し合いを重ねていた。三人よれば文殊の知恵という言葉があるように、それぞれが意見を交換し合う事で荒削りながらも少しずつ、それは形になっていったように見えた。

 

 

 

 

 

 そして、それから8日が経過した。

 夏の暑さはより強力になり、長時間外にいると本当に熱中症になってしまうのでは? と思うほどに気温が上昇し、その暑さは湿気も帯びていた。

 その日と次の日は土曜日と日曜日ということで昼からはKINGDOMで練習。そしてその夕方はミチルの家で再び曲作りを行っていたのだが……

 

「おーいアキラー。そっちの進捗どうだー?」

「全く進んでないが……」

 

 ここに来てまさかの難航状態。因みに今の時刻は既に6時を超え、もうすぐ7時を迎えようとしていた。

 先程この状況を見たミチルの父は2人に今日は泊まっていくことを提案した。色々と切羽詰まっていた2人はそのお誘いを遠慮なく受けるのだった。

 

「2人ともー。ご飯出来たからそろそろ……って生きとる?」

「生きれてば良いよね」

「右に同じく」

「よーし、作業中断してご飯食べなさい」

 

 ミチルに言われ、2人は作業を中断し夕食をご馳走になった。

 夕食を食べ終わり、風呂にも入ってサッパリとしたところで彼らは再び作業を開始した。しかし、中々作業が進まずに作ってはやり直して、作ってはやり直しての繰り返しだった。

 

 そんなこんなで気が付けは時刻は午後10時。2人の思考回路もショート寸前の所まで来ていた。

 

「失礼〜。元気して……ないかあ」

 

 そこにミチルが珈琲と夜食を持ってきた。2人は彼に声をかけられ少し休憩をする事に。

 

「作業の方はどんな感じや?」

「「進歩ダメです」」

「ワオ、息ぴったり」

 

 とりあえず休憩の為に2人は珈琲を受け取った。先程まで作業続きだったその体には程よく冷えた珈琲が体によく行き渡り、眠気を覚ますには十分だった。

 

「そういや今どんくらい進んどんの?」

「ある程度は固まったんだがな……。イントロがどうもバランスが悪くて……」

「こっちもフレーズがいまいち思いつかなくて……」

「そっかあ……」

「ていうかミチルの方はどうなの?」

「ウチの方はまあ大丈夫そうや。ある程度出来たら見せに来るわ」

 

 珈琲を飲みながら3人は団欒を続けた。

 しかし、楽しい時間はあっという間に過ぎていく。それぞれ珈琲を飲み終わり休憩時間は終了となった。そしてミチルは食器を片付け、自室で自分の作業を再開した。イサムとアキラもそれぞれ作曲作りに没頭した。

 

 

 ◆ ◆ ◆ ◆ ◆

 

 

 時刻は深夜3時を回った。

 2人は進んでるのか進んでないのかわからないがひたすら頭を抱え続けていた。そんな中……

 

「なぁイサ「あ──!!」なんだどうした!?」

「いや……その……」

「なんだよ……」

「明日のバイト……休むって連絡をまりなさんに入れるの忘れてた……」

「知るか!!!」

 

 イサムの叫び声にアキラは驚愕の声をあげたが実際は全く進歩が進んでないどころか脱線しまくって考えることのベクトルが違う方向に向かっているというのが現状だった。

 

「おいもう3時だぞ!? 本当に明日までに新曲出来るのか!? というか明日じゃなくて今日だなこりゃ」

「俺にもわかんない!! アキラの方は!?」

「俺も行き詰まった……。やっぱりイントロが上手くいかない……」

「ちょっと聴いてみていい?」

 

 そう言ってイサムはアキラからパソコンを借りてそこまでのメロディを聴いた。確かにテンポやリズムがとれてはいたがイントロが上手く纏まっていないというのがイサムの感想だ。

 

「なあ……なんかいい案無いか……?」

「うーん……」

 

 アキラに聞かれてイサムは少し考えた。そしてしばらく考えた後、1つの提案をした。

 

「ねえ、ちょっと俺のハーモニカの音とか使えないかな?」

「お前のハーモニカ? ……どんなやつだ?」

 

 アキラの質問に対してイサムは百聞は一見にしかずと言ったようにカバンの中からハーモニカを取り出し、自分の記憶にあるメロディを奏でた。ミチルの家はしっかりと防音対策をしているのだが、夜中なのでなるべく音を抑えた上でイサムはハーモニカを吹いた。

 

「こんな感じだけど……」

「イサム、もう1回頼む。それをアレンジすれば……」

 

 そう言われてイサムは再びハーモニカを奏でた。この音を聞いたアキラはまるで探していたパズルの最後のピースを見つけようとしてるかのように集中していた。

 果たして、彼らは期日までに曲を仕上げることができるのだろうか……。

 

 

 ◆ ◆ ◆ ◆ ◆

 

 

 イサム達が曲づくりに苦戦している数時間前、彩は色々と考え事をしていた。

 

「『私はあなたの事がずっと前から好きでした。付き合ってください』……ううん、『あなたの事を思うと胸が張り裂けそうです。私とお付き合いしてください』……ちょっと変かな?」

 

 彩は密かにイサムへの告白の練習をしていた。生まれて初めての告白、それを成功させたいという思いから場のどう言った雰囲気が良いのか、またどのような言葉を選ぶべきかなどを研究していた。

 

「はあ……いつ告白しよう……。イヴちゃんはこういうのは思い切りが大事だって言ってたんだけどな〜」

 

 1度考えるのを止めて机に倒れるように体を伏せていた。

 

「お姉ちゃん? いる〜?」

 

 そこに彩の妹がやってきた。彩はそれに気づくとすぐさま机の上に広げていたメモ用紙などを掻き集めて何とか隠した。

 

「……何してたの?」

「へ? ちょ……ちょーっと調べ物ーかな?」

「うん……さっきなにか隠して「それで? どうしたの?」ちょ……お姉ちゃん近いって……」

 

 妹に探られそうになり、彩は思わず前のめりに話を逸らそうとした。彩の圧に負けたのか彩の妹は一先ずそのことには突っ込まないようにした。

 

「お母さんがお姉ちゃんが好きそうだからこれ見せに行ってあげてって。はいコレ」

 

 彼女が手渡したのは1枚のビラだった。そしてそこには……

 

「夏の花火大会?」

「うん。お姉ちゃんこういうの好きでしょ?」

「…………あ」

 

 それを見て彩は何かを思いついた。

 

「これだ! これだよ!」

 

 突然の姉の声にびっくりした彩の妹は「どうしたの?」と彩に尋ねた。しかし、彩はまるで決意を固めたかのように真面目な表情をしていた。

 

「(この花火大会……これはきっとチャンスだ!)」

 

 この日が私の一世一代の勝負の日。心の中でそう呟きながら彩は再び覚悟を決めた。

 

「(絶対に……絶対に成功させてみせる! 私の思いをイサムくんに!)」

 

 

 




 えー、皆さんにお知らせです。
 このお話は…残り2、3話になります!というかマジで物語は佳境に入ってます。

 最後まで良ければ見届けてください。

 コメントや評価やコメントやコメントよろしくお願いします!



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夏の始まり

 

 

 皆さんは徹夜というものをしたことがあるだろうか?

 睡眠というのはとても大事なものである。現に徹夜をした次の日の授業はかなり眠くて、その睡魔に耐えられそうになくなり、休み時間にエナジードリンクを買いに行った人もいるくらいだ。

 しかし、どうしても徹夜をしないといけないこともある。例えば次の日の課題だったり、プレゼンの資料だったり……

 

 

 

 期限ギリギリの作曲だったり。

 

 

 

 

 

 

 

「起きとるか〜?」

 

 机に突っ伏してるアキラと椅子で伸びているイサムをつつきながらミチルは声をかけていた。机の上には洗っていない珈琲のカップや追加で買ってきたであろう缶コーヒーなどが散乱していた。それを見たミチルは仕方ないとは思いながらもよくここまで人の家で散らかせるなと思いながら溜息を着いていた。

 

「アキラ〜。生きとるか〜?」

「……ん。ミチルか?」

「まいどどーもミチルです。」

 

 ようやくアキラが目を覚ました。どうやらまだ寝ぼけているらしく、思考も定まっていないようだったので顔を洗うべく洗面台へと向かった。

 

「そんで次は……イサムかぁ…。」

 

 ミチルはイサムの方を見るが、まるで気絶するかのように伸びていてどうやって起こそうかと思考を巡らせていた。

 

「イサム〜?もう朝やで〜?」

「…………今度からキーボードいれようかなぁ…」

「……しゃーない。」

 

 そうしてミチルはどこから取り出したのかわからないがおたまとフライパンを取り出した。それで何をするのか…

 

 

 次の瞬間、ミチルは2つを思いっきり叩き合わせ大きな金属音を鳴らした。漫画などでよく見かける光景と思われがちだが、実際にやられるとかなり耳に響くし、早朝だと近所迷惑にもなりかねないのでこれをお家でやる人はくれぐれもボリュームの加減には注意しよう。あんまりうるさくすると家族からも怒られるぞ。

 

「……」

「あ、起きた。」

「………」

「5×5は?」

「午後の紅茶」

「よし大丈夫やな。」

 

 一体何が大丈夫なのかはよく分からないが、とりあえず話を進めよう。

 アキラが顔を洗い終え、朝食を済ませると3人は客間に集まった。

 

「とりあえずこれが俺たちが作った曲のデータだ。」

 

 ミチルはアキラからヘッドホンを受け取るとその曲を通しで聴いてみた。

 

「「・・・・・」」

「うん、ええと思うで。」

 

 ミチルからOKサインを貰い、テンションが上がったイサムはアキラとハイタッチをしようと手をあげるが、アキラはそれを見ておらず完全にスルーされてしまった。

 

「それでそっちは出来たのか?」

「こっちもとりあえずは大丈夫や。」

 

 ミチルの衣装デザインも完成し、今彼女の父の知り合いのお店に頼んで作成してもらっているらしい。後2週間もすれば完成するのだとか。

 

「で、今日はどうするの?」

「とりあえず今日は昼から音を合わせておく位はするか。俺も新曲のパートの確認もしなきゃならんからな。」

「そんじゃあ今日は一旦みんな家に帰るか。」

「ウチは元から家おるけどな。」

 

 支度を済ませ、イサムとアキラは1度帰宅。昼過ぎに再度KINGDOMで集合ということでその後の予定は決定したのだった。

 

「ふぁぁ…。眠っ。」

 

 ついつい大きな欠伸をしてしまう。何しろ昨日…いや、今日は朝まで夜通しで作業をしていて終わった瞬間にアキラ共々意識が飛んでしまったのだ。無理もないだろう。

 

「(とりあえずコンビニで何か買おう…)」

 

 時刻は既に9時を越えていた。目を擦りながら、近くのコンビニに入ると店員さんが「いらっしゃいませー」と明るい声で迎えてくれた。こんな朝早くから元気だなと思いつつもドリンク売り場でペットボトルのアイスコーヒーを手に取り、速やかにレジに向かった。

 

「お?イサムじゃん、朝早いね〜。」

 

 目の前のギャルみたいな店員に声をかけられた。対してイサムは「誰?」とでも言いたいような顔をした。

 

「えっ!?アタシのこと覚えてないの!?」

 

 そんなイサムの態度に店員は「信じられない!」と抗議するかのように声をあげたが、イサムはただ首を傾げていた。

 

「もー!リサだよ!今井リサ!CiRCLEでよく会うでしょ!?Roseliaの!!!」

「Roselia……あ。」

 

 そういえば過去に何度か会話を交わした記憶がある。普段は業務関係の会話しかしないし、基本的にそういった話や会議はまりなさんが担当してるからあまり関わりがなかった故だろう。

 

「……忘れてたよね。」

「……ごめんなさい…」

 

 ジト目で責め立てるリサにイサムは申し訳なさそうにしゅんとしていた。

 

「それはそうと目の下凄いクマだけど何かあったの?」

「ん?いや〜、ちょっと夜通しで作業してて。」

「へえ〜。何か大事なことでもあったの?」

「いや、そんなんじゃないけどさ。」

 

 あまり深くは語れないが故にイサムは話をはぐらかしていた。

 

「今井さんってここでバイトしてたんだ。」

「うん。モカもここでやってるよ〜。」

「・・・・・・」

「モカはAfterglowのギターの「あ、大丈夫です知ってます」……ホントに?」

 

 疑うような目でイサムを見るのだが、当の本人はしらばっくれていた。

 

「まあ良いけどさ…イサムはもうちょっと他の人にも興味持った方がいいんじゃない?そのうち痛い目にあうかもよ?」

「……善処します」

 

 そんな会話を進めているうちにリサは作業を終わらせて、ペットボトルにテープを貼っていた。

 

「とりあえず今度アタシが色々と教えてあげるよ〜。レジ袋どうしますか?」

「大丈夫です。」

 

 リサからペットボトルを受け取り、挨拶を交わした後にコンビニを後にしたイサムは1度コンビニ前で大きく背伸びをし、珈琲を空けて喉に流し込んだ。乾いた喉に程よく冷えた珈琲が応え、眠気もだいぶ軽減されたように感じた。

 

「さて、とりあえず家に帰ってギターのチューニングでも……」

 

 今度の予定を練っているとイサムのスマートフォンから着信音が鳴った。ポケットから取り出し、画面を確認した。

 

「彩から?」

 

 すぐに緑色のメッセージアプリを開き内容を確認した。

 

『久しぶり!最近元気?』

 

 在り来りな文章から始まるメッセージは普通と言ってしまえばそれまでかもしれないが、それはそれで彩らしいなぁと思いながらイサムは画面をスクロールし、続きを読んだ。

 

『それで突然なんだけどさ、イサムくんは今度の日曜日の夜って予定あるかな?

 

 

 もし予定が無かったら……これ一緒にいかない?』

 

 そのメッセージの下に映っていたのは隣町の花火大会のポスターだった。

 

「…………ゑ?」

 

 しばらく思考が停止したイサムは、我に返った途端変な声を出したという。

 

 

      ◆ ◆ ◆ ◆ ◆

 

 

 それから1週間が経った。

 7月後半にもなると多くの学校が終業式を終え、夏休みを迎えていた。もちろん、イサムの通う風島高校や彩が通う花咲川女子学園も例外ではない。

 2人は夏休みに入ってからも忙しい日々を送っており、バンドの活動や夏課題を終わらせたりなどとやるべき事は山積みなのだがそれぞれが協力者(主にアキラや千聖)がいたおかげか死に物狂いで予定をこなしていた。

 

 そして今は日曜日の夕方の6時。

 彩と約束していた祭りの日だ。生憎、彼はこういった日の為の浴衣を買っていなかったので普段の私服で来ていた。

 待ち合わせ場所に到着したイサムは近くの石に腰を掛け、彩が来るのを待っていた。

 

「イサムくんっ!」

 

 声のした方を向くと彼は思わず目を奪われた。

 それもそのはず、彩は髪を1つに纏めた上で自身のイメージカラーとも言えるピンクの浴衣に身を包み、イサムからしたら何時もとは違う彼女の魅力に惹かれてしまう程だったのだ。

 

「遅れてごめんね?浴衣だと思ったよりも歩きにくくて……」

「いや、全然大丈夫なんだけど…」

 

 そう言いつつもイサムは再度彩の姿を見直していた。

 ……やっぱり可愛い。

 心の中でそう思いながら見ていると彩はその事に気づいたのか顔を赤くしてしまった。

 

「ねえ……そんなに見られると…恥ずかしいんだけど…」

「あ、ごめんごめん。」

「と、とりあえず行こっ!せっかく来たんだし楽しまなきゃ!」

「それは良いんだけどさ…彩、変装は?」

 

 イサムが指摘したことにより彩はその足を止め、固まってしまった。その様子を見たイサムは「これ忘れていたパターンだな。」と瞬時に理解した。

 

「もーしょうが無いなぁ…。」

 

 とりあえず急場凌ぎではあるが、自分が被っていた帽子を彩に被せることにした。帽子を身につけた彩は「へっ?」と困惑していたが…

 

「後でなんかいい変装道具見つけて買ってくるから暫くはそれで我慢しててよ。無いよりはマシでしょ。」

「う…うん。」

 

 じゃあ行きますか。イサムは彩の方を向きながらそう言って先を促した。

 一方の彩は被ったイサムの帽子を大切そうに深く被り、そのまま彼の後を着いて行った。

 

 

 

 

 

 

 花火の時間まで…後80分。

 

 

 

 





次回予告
 花火大会に来たイサムと彩。
 彩は一世一代の覚悟を胸に抱き、その時を待つ。

 しかし、そんな彼女らに予想もしないハプニングが発生する。
 果たして彩の告白は成功するのだろうか。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

さて、残り何話になるのかこの小説。
しかし、間違いなくクライマックスは近づいている。
 Realize……実現を意味するこの言葉はイサムの願い、そして、イサムと彩が前に進む為に必要となる筈の言葉だと作者は考えています。

 それぞれの夢、理想、そして現実が交差する中でその未来はどうなるのでしょうか。

 と、なんかすごく盛り上がりそうなことを言ってみましたけどそろそろ遊びたくて限界が来てますので今回はこの辺で。←おいコラ


コメントや評価をしてくれると死ぬ程喜ぶと思いますので良ければよろしくお願いします。



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命儚き恋せよ少女

 

 

 人混みを掻き分け、2人はお祭りの会場を進んでいく。辺りは見渡す限り人でいっぱいだった。

 

「彩、大丈夫か?迷子になってないよね?」

「もう!私そんなに子供じゃないよ!」

 

 気晴らしにからかってみるイサムとそれにムッとする彩。彼らは何気ない会話をしているに過ぎないが、傍から見れば恋人同士のやり取りとも見られる…なんてことはイサムは思ってもいないだろう。

 

「それにしても都合よくあって良かったね、それ。」

「うん。でも本当に良いの?」

「何が?」

「だって…また貰ってばかりで…」

「良いって。俺の奢り。」

 

 今の彩はイサムが持っていた帽子ではなく、屋台で購入した麦わら帽子を被っている。その麦わら帽子にはピンクと白のリボンがあしらわれているものだった。

 

「じゃあ何か買いに行く?」

 

 イサムは彩に話しかけるのだが、一方で彩は歩きながらも周りをチラチラと見ていた。

 お祭りには色んな人がやって来る。例えば友達同士で来たり、家族で来たり、また1人で来るものもいたりする。しかしどういう訳なのかここには男女のペアで来る者が多く見られた。彼らは兄妹なのか、はたまた友達なのか。それとも……恋人同士なのか…。

 そう考えると彩は今の自分たちは周りからはどう見えているのだろうかと思った。

 

 もしかしたら私たちもカップルと見られてるのかもしれない──。

 

 そう思うと心臓の音が早くなっていくのを直に感じてしまう。何とか落ち着こうとしても自分ではコントロール出来ないくらいだ。

 

「彩?彩ー?」

「ふぇ!?」

 

 思わず自分の世界に入り込んでしまい変な声を上げる彩。そんな彼女を見てイサムは首を傾げる。

 

「ど…どうしたの?」

「いや、なんか食べたいものとかない?」

「え?…えっと…。イサムくんは!?」

「俺は…かき氷食べたいかな。」

「うん!じゃあかき氷食べよ!ほら、屋台も近くだし!」

 

 気持ちが先走ってしまった彩は無意識にイサムの手を引いてそそくさとかき氷屋に向かっていた。

 かき氷屋についても彩はイサムの手を握ったままであり、彼女の脳内では様々な感情がいききしていた。そのせいか何かを言いたそうに隣にいるイサムのことすら視野に入っていないそうだ。

 

「はーい、次のカップルのおふたりさま〜。」

「へ?」

「あれ?違います?もしかして兄妹の間違いでした?」

 

 店員に自分たちの手元を指さされ、彩はようやく我に返ったように手を離した。突然カップルと言われた衝撃や恥ずかしさからなのだろう。チラリとイサムを見たが、彼はあまり表情を変えず首を傾げていた。鈍感なのか、それとも私がそういった者として見られてないのか……どちらにしろそれは彩にとっては不服とショックの2つの思いを浮かばせることになった。

 その後、彩はイサムとかき氷を頼みその場から逃げ去るように立ち去った。今は開けた場所でベンチに座りながらかき氷を口の中に運んでいる。

 

「彩、そんなに勢いよく食べたら頭冷やすよ?」

 

 心配するイサムの声が聞こえていないのかシャクシャクと口の中にかき氷を放り込む。イチゴの甘さと氷の冷たさが口に広がるが今の彩はそんな事など考えてすらいなかった。

 色んな感情が自分の中で抑えきれそうに無いほど膨れ上がっていくのをどうにかしたい。そう思いながら無心にかき氷を食べていたのだが…

 

「ーーーー!!!」

 

 それは突然やって来た。

 頭が突然キーンと痛くなったのだ。今まで休みなく口に冷たいものを流し込んでいたのだから当然といえば当然である。

 

「ほら、言ったそばから…。ほら、こっち向いて。」

 

 溜息を着きながらもイサムは彩のおでこに自分のかき氷を当てた。イサムに身を任せるようにじっとしていると次第に頭の痛みは和らいでいった。

 

「……あれ?治った…?」

「何かの本で読んだんだけどこういう時は逆におでこに冷たいものを当てたら良いんだって。理由は知らないけどね。」

 

 彩のおでこからかき氷を離し、イサムもかき氷を口にする。

 

「(私…何やってんだろ…)」

 

 今日ばかりはしっかりしよう。とちらないようにしよう。そう決めていたのに実際は勝手にテンパってしまい、かっこ悪いところばかり出てしまう。そう考えると思わず溜息が出てしまった。

 

「彩、大丈夫?具合でも悪い?」

「大丈夫だよ!……なんかごめんね?色々と…」

「いや、俺は全然いいんだけどさ…。」

 

 そう言ってまたかき氷を食べて一息つくとイサムは言葉を続けた。

 

「そういえば彩、ありがと。」

「えっ?」

 

 突然イサムから感謝の言葉を言われて彩はキ ョトンとしてしまった。

 

「いや、今日この祭りに誘ってくれて。」

「ええっと…私こそ…ありがとう…。」

「長らく祭りなんか来なかったからさ。それに来たとしても多分1人だったし…彩がいてくれて良かったよ。」

 

 表情は反対側を向かれていて良くは見えなかったが、彩はその一言で何故か心が軽くなっていた。

 

 こんな私でも…イサムくんを楽しませてあげれてるのかな?もしそうなら…

 

 ……嬉しいな。

 

「イサムくん、良かったら私のも1口食べる?」

「え?」

「ほら!」

 

 彩はイサムの口にかき氷を入れた。

 

「……甘っ」

 

 美味しかった。しかし、それよりも甘かった。しかし、その甘さはどこか癖になりそうなものだったとイサムは感じた。

 

「それでさ、イサムくんのも1口貰っても良いかな?」

「全然いいよ?」

 

 それからは大したハプニングも無く2人は夏祭りを満喫した。色んな食べ物を食べたり、射的や輪投げなどのゲームもやった。

 これだけでもかなり思い出は出来たと思われた。しかし、彩の目的はまだ果たされていなかった。

 

「そういえば花火って後どれくらいで始まるの?」

「えーっと…後20分だね。」

 

 そう、彩にとっての最大のイベントはこの花火。そして、その時にイサムに告白することにあった。今日という日の為に告白の練習や花火が1番綺麗に見えるところなどのリサーチは済ませている。

 

 絶対に失敗はしない。そう心に強く誓った今日の彩はいつもとは一味違うらしい。まあ何が違うのかはわからないが。

 

「イサムくんっ!私花火がよく見える場所知ってるよ!」

「えっ?マジで?」

「うん!私についてきて!」

 

 彩に促されてイサムは彼女の後を追った。そしてたどり着いたのは少し離れた神社にだった。

 

「ここからよく見えるって聞いたんだ!結構穴場だから知ってる人は少ないみたい。」

「へえ〜。……でも大丈夫?変な人とか…」

「……大丈夫じゃないかな?」

 

 多少心配点は残るがとりあえず今はそこには目を向けないことにした。

 気がつけば花火が始まるまで残り15分を迎えていた。2人は今か今かと花火が上がる瞬間を心待ちにしており、同時に彩は心の中で気合いを入れ直していた。

 

「(もうすぐ……もうすぐだ。頑張れ丸山彩…。私なら…私なら出来る!)」

 

 何度も何度も自分にそう言い聞かせる。

 タイムリミットが刻々と近づく中、勝利のビジョンを胸についにその時を迎えようとしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 しかし…

 

「あれ?」

 

 ポツ…ポツ…と空から水滴が降ってきた。

 1滴、また1滴と溢れ、次第とその勢いと量は増していく。

 

「うそ…、雨…?」

 

 1分もすると本格的に雨は強くなり、ザーッと辺りをその景色で埋めつくした。2人は神社の屋根の下に移動した為、濡れることはなかった。しかし…

 

「凄い量だなぁ…。まるで土砂降りだ…。」

「そんな…」

 

 例えるならバケツをひっくり返したような雨だった。イサムが空を見つめる中、彩は今にも崩れそうな思いで張り詰めていた。

 それからしばらく待機をし、10分後には雨は止んだ。どうやら通り雨だったらしい。

 

「止んだ…。」

「イサムくん!会場もどろ!」

「えっ?どうしたの突然。」

「何か言ってるかもしれないし…もしかしたらまだっ…」

 

 彩はその場から走り出した。浴衣に下駄と走りにくい服装であったがなるべく転けないように細心の注意を払い会場へと急いだ。

 

「はあ…はあ…」

 

 会場に着いた頃には息も切れていた。

 早速彩は周りを見渡すが、屋台はどれもびしょびしょになっていて、中にはもう片付けを始めていたお店もあった。

 もしかして…と最悪の事態を想定した。いや、そんな訳ない。もしかしたらまだ花火だけは…そう最後の希望を強く心に言い聞かせた。

 

『会場の皆様にお知らせがあります。』

 

 スピーカーから聞こえてきた音声。それを聞いた瞬間、彼女に悪寒が走った。

 

『この度の花火大会ですが、先程の大雨の影響により花火が湿気てしまった為…』

 

 止めて!それ以上言わないで!

 思わず耳を塞いだ。しかし、スピーカーの音はそれすらも貫通して彼女の耳に現実を突きつけた。

 

『大変申し訳ありませんが、今回の花火大会は急遽中止致します。』

 

 

 

 どうして…

 

 

 どうして…

 

 

 どうして…こうなっちゃうの…?

 

 

 

 

 

 その瞬間、彩の心で何かが崩れ始めた…。

 

 

 

 





 多分今回もサブタイ詐欺してますね。だが私は謝らない。
 さて、残り数話程になったこの作品。
 続きも気になる人もいるでしょうが今回はこの辺りでお開きです。
 今回は次回予告は無いのかって?正直いい予告が思いつかなかったんだ。許してヒヤシンス。

 コメントや評価してくれると励みになるので是非よろしくお願いします!



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想いを繋ぐ、一筋の光

 

「彩…?」

 

 立ち竦む彩にイサムは声をかける。

 今の彩はまるで空っぽになったかのように宙を見ていた。その瞳にも影がかかり、落ち込んでいるのは一目瞭然だった。

 

「大丈夫?」

「うん。大丈夫。」

「・・・・・・・」

「花火は残念だったけど…仕方ないよね。あんな雨の後だし…仕方…ない…」

 

 まるで自分に現実を言い聞かせるように声を震わせていた。その目からも雫が溢れそうになるのを感じ、イサムから目を背け、乱暴に涙を拭く。最早浴衣が汚れるとかそんな事は考えすらしなかった。ただ、こんな顔をイサムに見せたくないという気持ちが強くなっていくだけだった。

 

「……帰ろっか。」

 

 とにかく今はもうここに居たくない。ここにいると虚しさばかりが募ってしまい、いずれ本当に動けなくなってしまいそうで怖かった。

 後ろからイサムが何か言っているのは感覚でわかったが、彩は聞こえないふりをしてその場から逃げるように立ち去っていった。

 

 

      ◆ ◆ ◆ ◆ ◆

 

 

 チカチカと点滅する街灯に照らされる夜道を2人は歩いていた。ここまで特に2人の間で会話は無く、沈んだ空気が続いていた。

 イサムは横目で彩の方を見るのだが、彩は俯いたまま何も話そうとしなかった。

 

 花火、そんなに楽しみだったのかな…

 

 そう思うと何とかしてあげたくなるが、生憎天候にはどうしようにも抗いようが無いし、花火が中止となってしまった以上どうしようもない。

 イサムは頭を抱えた。このままでは折角彩が誘ってくれたお祭りも後味が悪いものとなってしまう。そして何より、彩がこれ以上暗い表情をしているのを見ていられない。

 

「(これ、どーすりゃ良いんですかね…)」

 

 とりあえず手に持っていた袋を開け、何か気を紛らわせる物が無いか探ってみた。

 中身は射的や輪投げの景品で吹き戻しの笛、ミニカー、よくわからないオブジェ、ルービックキューブ……その他諸々。正直使えそうな物は無かった。

 次にどこかお店に入って気分転換をする方法も思いついた。しかし、現時刻はもうすぐ8時を迎えようとしていた。この時間になると閉店準備を始めるお店が殆どでろくに落ち着くことも出来ない。故に没となった。

 

「(これって…もしかしなくても詰み?)」

 

 打開策無しか…と思った時、イサムはある物を見つけた。正直これでどうにかなるのかはわからない。言うならば一か八かの賭けだ。しかし、このまま終わるよりかは…。そう思いイサムは行動を開始した。

 

「彩、ちょっと待っててくれる?すぐ終わるから。」

「え?」

 

 

      ◆ ◆ ◆ ◆ ◆

 

 

 用事を終わらせ、イサムは彩を連れて近くの公園に来ていた。

 

「えっとこの公園は……ヨシっと。」

 

 注意書きの看板を確認し、彩の手を引いて公園へと入っていった。

 

「イサムくん…どうしたの?」

「いや、ちょっとこれしようと思って。」

「それって…さっき買ったバケツ?」

 

 手元にあったバケツを1度置いて、袋の中から別の物を取り出した。

 

「正確にはこれかな?」

 

 イサムの手元にあったのは…

 

「花火セット?」

「うん。花火大会の代わりになるかは分からないけど…」

「え?」

「いや、さっきから彩暗い顔してるから…気晴らしくらいにはなるかなと思ったんだけど…もしかして迷惑だった?」

「ううん!……むしろ…ごめん…。」

 

 彩はイサムの優しさが嬉しく感じると共に自分の事ばかりを考えていた自分が不甲斐なく感じた。

 確かに彩は花火大会でイサムに思いを伝えようとしていた。そして、それは雨天で不発に終わってしまった。しかし、そればかりが脳内によぎりイサムに迷惑をかけていたのでは…と思うとイサムに対して申し訳なくなった。

 

「じゃあ今からやる?ちゃんと花火大丈夫の看板もあったし。」

 

 バケツに水を汲み、花火をビニール袋から取り出した。

 

「うんっ!」

 

 イサムから1本の花火を受け取り、2人だけの花火大会が始まった。

 

 

 それからはさっきまでとうって変わり、2人の間には暖かく明るい雰囲気が流れていた。

 基本的に線香花火ばかりやっていたのだが、彩はとても楽しそうだった。花火大会の大きな花火に比べれば見劣りしてしまうが、彩からすればこの花火はそれと同じ位か……いや、それ以上に魅入っていた。

 火を着けた先から赤や青、緑などの色の光が放出され、燃え尽きるとポトリと地面に落下してしまう。短く、迫力は劣るものの彩はその花火に夢中になった。

 1本、また1本と花火に火をつけては2人でその光景を楽しんだ。

 

 そして気がつけば線香花火は残り2本、つまり1人1本となり、この花火大会も終わりが近づいていた。

 

「これで最後なんだね。」

「いやぁ~。気がつけばこんなにやってたんだね〜。全然気が付かなかった。」

 

 イサムが見たバケツの中には使い終わって水の中に投入された十数本の花火があった。楽しい時間はあっという間というのはこういう事なんだろう。

 名残惜しそうに最後の花火に火を付け、その光景を2人で鑑賞する。

 花火を見ながら、彩はイサムの方に目を向けた。

 花火の光もあり、彼の顔が輝いて見えた。それはきっと花火の光だけじゃないのだろう。そう思うと更にイサムのことを意識してしまった。

 今日は嫌なこともあった。悲しいこともあった。申し訳ないと思うこともあった。しかし、イサムはそんな心を見透かしたかのように解決策を考えて、彼女に笑顔をもたらそうとした。

 

 相変わらず私は…イサムくんに助けられてばかりだなぁ。

 

 溜息をつきそうになるが、いつの間にかそれすら笑い話になってしまいそうになる。その原因はきっと…彼がいたからだろう。

 やっぱり…私は…

 

「……好きだよ…」

 

 小さな声でそう呟いた。多分彼には聞こえてないんだろうなぁ…。そう思っていた。

 

「俺も。」

 

 何故か彩の呟きにイサムが返答した。

 イサムの言葉に彩は硬直し、思考も停止してしまった。

 

「え…え…え?…え」

「花火。」

「……え?」

 

 思わず間抜けな声を出してしまった彩に対して「違うの?」とイサムが聞いてきた。

 

「違うよ!」

「あれ?花火好きじゃなかったの?」

「花火は好きだけど…」

「???」

 

 彩の言葉の意味がわからないイサムは首を傾げていた。そんな状態になり彩は…

 

「花火も好きだけど…私がもっと好きなのは…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……イサムくんだよ…。」

 

 そう言った途端、彩は全身が熱くなるのを感じた。正直、太陽の光よりもこの体温で熱中症になってしまうかもしれないというほど体温が高くなっているのを直に感じた。

 

「そっか。好きなのは俺の方か〜。」

 

 

 

 

 

 

 

 

「ゑ?」

 

 思わず気の抜けた声がイサムから発された。そして、そのタイミングで2人の線香花火は消えてしまった。

 

「えーっと…それはつまり告白ってこと?」

 

 イサムが確認をとると彩は俯いたまま首を縦に動かした。

 彩は穴があるのならこのまま埋まってしまいたいと思うほどに恥ずかしさが増していた。

 

「彩。」

 

 イサムに呼ばれてゆっくりと顔を上げた。

 すると、イサムがすっと手を伸ばして…

 

「よろしくお願いします。」

 

 ただ一言、そう言った。

 

「……え?それって…」

「…そういうことです。」

 

 イサムもほのかに顔を赤くしていた。

 それと同時に彩はイサムに飛びつくように抱きついた。

 

「……泣いてるの?」

「泣いて…無いよ…。嬉しいんだもん…!」

「嬉しいのに泣いてる声聞こえるけど?」

「嬉し泣きだよぉ…。」

「泣いてんじゃん。」

 

 1度イサムは彩を自分から離すと持っていたハンカチで彼女の涙を拭いた。

 

「良かった…良かったよぉ…。もし断られたら…」

「…断る訳無いでしょ。」

「…え?」

「だって…最初に希望を貰ったのは俺の方なんだし。なんなら俺の方が先に好きになってたと思うし。」

「で…でも、私の方がイサムくんのこと好きになってかもだし…」

「いや〜それはどうだろ?」

「私だってイサムくんのこと好きだったもん!」

 

 そんな言い合いをしていると次第と2人は笑顔になった。

 

「よーし!じゃあ記念にこれやっちゃうか!」

 

 イサムは隠し持っていた打ち上げ用の花火を取り出した。

 

「えーっと…ここ打ち上げ用使っても大丈夫なの?」

「知らないけど多分大丈夫でしょ。」

 

 ええ〜…と不安そうに声を零すもイサムは既に花火にチャッカマンで火をつけていた。

 少し離れて彩の側に戻ると、空に光が発射された。ちょっと高いところまで行くとパーンと光の花が広がった。

 

「……綺麗。」

「そうだね。それに……」

 

 イサムは彩の手を握り…

 

「月も……綺麗ですね。」

 

 空を見ながら、そう呟いた。

 

「ねえ…イサムくんって結構ロマンチスト?」

「え?告白ってこれ言うものじゃないの?」

「誰か他に言ってた人がいるの?」

「わかんない。」

 

 なにそれ、と彩が笑いながら言うとイサムもつられて笑っていた。

 

「ねえ、明日は晴れるよね。」

「うん。晴れるよ。」

 

 花火が散った空には月と星が広がっていた。それはまるで2人の心の雨上がりも現しているようだった。

 

 

 




やっとここまで来ました。長かったです。
ここまでお付き合いしてくださった皆様に感謝。

この小説も残り2話となりました。長いようで短いようで…。

というわけで残り少しですけど良ければ今後ともお付き合いください!

評価やコメントしてくれると励みになるので良ければよろしくお願いします!


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支え合い、助け合い、今がある

 某日、パスパレが所属する芸能事務所の練習室で丸山彩はスマホの画面を見ながら終始ご機嫌な状態だった。

 そこにいたパスパレのメンバー達はそんな彩の様子を見てまるで不思議なものを見ているかのような感じになっていた。

 

「ねー、最近の彩ちゃんなんか変じゃない?」

「ええ、ジブンもそう感じてました。」

「でも…凄く楽しそうですね。もしかしてエゴサーチでいい事でもあったんでしょうか?」

「でもエゴサーチで嬉しい情報を見たにしては偉く上機嫌ね…。」

 

 その様子を見ながら日菜たち4人は離れた場所で密かに話しているのだが、彩は気がついていないのかひたすらスマホを見ながら嬉しそうにしていた。

 

「……どうします?」

「じゃあちょっとあたし聞いてく「私が行くわ。」」

 

 日菜の肩に手を置き、千聖は彩の元へと向かった。

 

「彩ちゃん。」

「ふぇぇ!?」

「……そんなに驚くことなのかしら?」

 

 彩の傍に移動し話しかけただけなのだが、彩は千聖が思っていたよりも驚いていた為千聖は思わず苦笑いしていた。

 

「ご…ごめん…」

「それより随分と楽しそうね。何かいい事でもあったのかしら?」

 

 そう千聖が問いかけると思わず彩は目を逸らしてしまう。そんな彩を見て千聖は更に不信感を募らせてしまった。

 そんな気まずい雰囲気を打ち破ったのは彩が机に置いていたスマホだ。暗かった画面が突然ひかり、近くにいた千聖はその画面を見てしまった。

 

「……彩ちゃん。」

「……ど…どうしたの?」

「もしかしたら何か言わなきゃいけないことがあるんじゃないかしら?」

「……え、ええっと…」

「彩ちゃん?」

「…はい。」

 

 まるで猫に見込まれたネズミのように彩は小さくなってしまい、彩は全てを打ち明けた。主にイサムに告白し、恋人になったことだ。

 そしてどうやら彩は先程、イサムと〇INEでやり取りをしていたらしい。

 

「つまり、彩ちゃんはイサムくんと付き合うことになったのね?」

「……う、うん…。」

「で、どうして私たちに報告してくれなかったのかしら?」

「えっと……その……」

 

 口ごもっていると千聖は更に笑顔で彩を見つめた。そのせいか彩は更に身を小さくしてしまった。

 

「……浮かれすぎて忘れてたわね。」

「……ごめんなさい。」

 

 そんな彩を見ながら千聖はため息をついた。

 

「全く…」

「まあまあ…でも良かったですよ。彩さん、上手くいったみたいですね。」

「それにしても彩ちゃん、どんな告白したの?」

「え?えっと……線香花火しながら…かな?」

「線香花火ですか!フウリュウですね!」

 

 気がつけばパスパレの話題は彩の恋バナになっていた。しかも日菜とイヴは彩に質問攻めし、彩はそれに答える度に頬を赤く染めながらも幸せそうな笑みを浮かべていた。

 

「彩ちゃん、嬉しいのはわかるけど…」

「うん。わかってるよ。」

「……そうね。」

 

 千聖はそれ以上は何も聞かず、黄色のベースを持ち練習の体制に入った。彼女に続くようにほかの4人も自分の楽器を手に持ち、準備は整った。

 

「それじゃ彩ちゃん、早速よろしくね。」

「うん!」

「彩さんも気合い満々という事ですし、今日はMCの練習から始めましょうか。」

 

 麻弥の提案で彩は深く深呼吸をして、気持ちを落ち着けた。

 

「みなさーん!こんばんは!まん丸お山に彩りを!パステルぴゃれっと……あ」

 

 不意に彩は台詞を噛んでしまった。

 日菜たちは思わず笑ってしまい、彩は恥ずかしさで赤面していた。

 

「ううっ〜……今日は行けると思ったのに〜。」

「やっぱり彩ちゃんは彩ちゃんね。」

 

 千聖がそう言っていると日菜は何故かスマホを取り出し、彩にカメラを向けていた。

 

「よしっ!撮れた!」

「日菜ちゃん!?何で撮ってるの!?」

「せっかくだし愛しのイサムくんにも見せてあげようと思ってね。」

「それだけは止めて!!イサムくんだけには!!」

 

 必死で日菜からスマホを取ろうとするのだが日菜はひらりと身を交わしながらスマホを操作していた。

 

「あの日菜さんの身のこなし…まるでニンジャです!」

「彩ちゃんも必死ね…」

「あの〜……練習中なんですが…」

 

 彩と日菜のスマホ争奪戦は5分にも渡り、練習が始まる頃には彩はヘトヘトになっていたらしい。

 

 

      ◆ ◆ ◆ ◆ ◆

 

 

 一方その頃、イサムは久しぶりに旭湯に来ていた。

 Realizeの練習を終え、時間に余裕があったので1度家に帰り、風呂の支度を整えてここに来たのだとか。

 

「ふぅ…」

 

 湯船に浸りながらイサムはこれまでの出来事に思い耽ていた。

 

 

 彩と出会い、そこから全てが始まった。

 あの頃の彩はまだアイドルでもなんでもない、ごく普通の女の子だった。しかし、彼女は夢を叶え、そのあとも何度も挫折や苦悩を体験しながらも夢を追うことを諦めようとしなかった。

 そんな彼女の真っ直ぐな思いは、彼にも変化を与えた。

 

 俺も夢を追いかけたい。

 

 多分、彩との出会いが無ければ俺は今も何もせずに立ち止まっていたんだろうなぁ…。そう以前も思い耽たことを再び考えていた。

 

 そんな中、銭湯の扉が開いた。人がいない時間帯だと思っていたから少し不思議だったが、営業時間だからそれは普通のことだろうと思いあまり気にしてはいなかった。しかし、入ってきた人物の顔を見て少し驚いていた。

 

「……アキラ?」

「…なんだイサムか。」

 

 アキラは別になんとも思わなかったのかそのまま洗い場に向かい、身体を洗っていた。

 

「アキラがここに来るなんて珍しいじゃん。俺が誘っても全然来ないのに。」

「家のボイラーが壊れたからな。」

「ふーん。」

 

 それだけ言うと2人は暫く黙り込んでいた。数分後、洗い終えたアキラは湯船につかった。

 

「……銭湯と言うのも悪くないな。」

「なんか言い方が風呂嫌いなお父さんみたい。」

「そんな事よりミチルから聞いたぞ?丸山彩と付き合うんだってな。」

「……うん。」

「……特に何も言えんが…まあ上手くやれよ?」

「ありがと。」

 

 風呂の湯気でアキラの表情は少し見えないが、イサムにはアキラが少し笑っているようにも見えた。

 

「それよりお前、報連相はしっかりしろって前に俺言ったよな?」

「……ああ〜…あのおひたしにすると美味しい野菜だよね〜」

「おい。」

「ごめんなさい。」

 

 イサムが軽くふざけて流そうとするも、アキラの少しイラッとしたような声に即謝ってしまった。

 

「全く…お前のは普通の恋愛じゃないんだからそう言うのは事前に説明しておけっての。」

「もしかしてアキラ……心配してくれてた?」

 

 溜息混じりで話すアキラに対してイサムはふと抱いた疑問を聞いた。

 

「……いや…別に心配では無い。ただだな……チームの奴が面倒事を抱え込むと何かあった時、こっちにもだな……」

 

 いつにも増して歯切れの悪いアキラを見て、イサムは何かを察したかのように思わずうっすらと笑った。

 

「おい、何笑ってるんだ。」

「いや?アキラも以外と優しいところあるんだなって」

「……おい」

 

 恥ずかしさ故かアキラは少しだけ声を荒らげてしまう。しかし、イサムは「もしかして照れてる?」と逆に挑発した為、その後アキラからの説教というか照れ隠しのような話を小時間されたらしい。

 ちなみにそのせいでイサムは過去最高時間お風呂に浸かっていたんだとか。

 

 

      ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ 

 

 

 その日の夜、イサムは明日のライブに向けての準備をしていた。

 白いギターで何度も練習し、ようやくミスすること無く安定した音を出せるようになった。

 明日の朝は早く、8時には現地集合するとの事なので今日は早く寝なければと思いつつイサムは時計を見る。時刻は既に22時を迎えようとしていた。

 

 そんな時、イサムのスマホに1件の通知が来た。送り主の名前を見ると彼は思わず口元が緩んでしまった。

 

『イサムくん!明日のライブ見に行くからね!あ、パスパレの皆も行くって言ってたから全員で行くよ!』

 

 その一言でイサムは「マジか」と思いながらもどこか嬉しさが入ったような気持ちになった。

 明日はより気合い入れなきゃな…なんて考えていると今度は着信音が突然鳴り始めた。本当に唐突で驚いてはいたが、イサムはほくそ笑みながらスマホの画面を操作した。

 

「やっほ。」

『イサムくん、今大丈夫だったかな?

 やっぱり直接言いたくて電話しちゃったけど…』

「全然大丈夫。むしろこっちもかけようかなって思ってたくらいだし。」

『そっか。

 明日のライブってイサムくん達いつ出るんだっけ?』

「うーん……確か6番目くらいだったかな?」

 

 そうしてイサムたちは暫く2人だけの時間を楽しんでいた。

 ライブの話から、なんてことの無い日常話まで話すことは様々だ。

 あの花火の日以来お互い忙しくて会うことは少なかったのだが、こうして話しているだけでもなんだか暖かい気持ちになる事をイサムは心の中で感じていたのだった。

 

 




次回、最終回
『Dreaming~夢の途中~』

 さて、遂に次回最終回です。
 昨年の3月から描き始めてからようやくここまで来ました。ここまで色々ありましたが、助言をしてくれた人や感想や高評価をくださった読者の皆さんがいたおかげで悩みながらもやって来れたと思ってます。

 最終回の更新日は未定ですが作者のTwitterで小説の情報をお伝えするので気になる方は是非チェックしてください!https://twitter.com/kanatu_kizuna?s=09

 それでは今回は短いですがここまでです。
 また、次回お会いしましょう。

 よれけば高評価やコメントよろしくお願いします!




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Dreaming~ユメの途中~

 遂にKINGDOM主催の野外ライブが始まろうとしていた。

 今回、KINGDOMのマスターが何処から借りてきたのか分からないデカめのイベント用ステージをお店の前に広げていた。正直これだと本当に外でやる必要あるの?と感じで、イサムが直接聞いてみたのだが…

 

「わかってないわね〜。こういうのは雰囲気が大事なのよ。広いスペースで夏の日差しの下で思いっきり心をさらけ出す!

 これぞ青春……because、アオハル!!」

「いや、意味一緒…」

「こーまーけーえーこたあ……いいんだよ!!!」

 

 と、最後はキャラ崩壊しながら背中を叩かれた。ちなみにそのせいかイサムは背中からその時の痛みをジワジワと感じていた。そして、あのマスターはいったいどんなパワーをしてるのかと新しい疑問も抱いたのだった。

 

 そんなことはさておき、今は服を着替えて待機場所にでイサムたちは出番を待っている。

 他のバンドの人達も自分の出番に向けて気持ちを整えたり、機材の最終確認など自分たちが成すべきことをやっているようだ。

 

「にしてもマジで作ったとはね…」

 

 イサムは自分が着ている服を見ながらそう呟く。ミチルがデザインした衣装は無事ライブ前日にお店の方から届いたのだ。

 

 その衣装黒をベースにイサムは桃色のライン、アキラは赤のライン、そしてミチルは紫のラインが入っているものでデザインもそれぞれ微妙に違う。

 上着もイサムはパーカー、アキラはロングコート、ミチルは紫の薄手の羽織になっていて、男子陣がスボンであるところがショートパンツになっているなど、それぞれの個性というかその辺りもよく考えられて作っているのを感じた。

 

「こういう所は流石ミチルと言うべきか…」

「なーにボーッとしとんの?」

 

 突然後ろからドンッ!と叩かれたような感触かして、イサムは思わず前に倒れてしまいそうになった。

 

「ちょっと…叩く場所考えて…」

「え?なんかアカンかった?」

「いや、アカンも何も…さっきマスターの一撃で痛くなってるところに追撃入れないで…。ただでさえミチル…馬鹿力なんだから…」

「だーれーがー…馬鹿力や!」

 

 馬鹿力という言葉に反応したミチルに詰め寄られ、イサムは「どうどう…」と宥めるようにミチルから後ろずさりしていた。

 

「……お前ら、本番前に何やってんだ。」

 

 そんな光景を見ながら呆れたようにアキラも彼らの元にやってきた。

 

「おお〜!アキラもちゃんと着こなせとるやん!流石ウチ!」

「お前、そんな呑気にやってる場合か?最終確認とかやっておいた方がいいんじゃないのか?」

「それなら大丈夫や!もう既に済ませとるからな!」

 

 そんなミチルに「ホントかよ」と言いたげな目を向けていると外から少しザワザワとした声が聞こえてきた。

 気になったイサムはカーテン脇から覗くと既にステージ前にはお客さんがいて、正直緊張しそうな感じだったから見ない方が良かったかな…?と思うレベルでイサムは頭を抱え始めた。

 そんな時、イサムの携帯からバイブ音が鳴った。確認してみると、そこにはいつもの相手の名前が表記されていた。

 

『イサムくん!今日頑張ってね!

 私もパスパレのみんなと応援に行くから!』

 

 たった一言。しかし、その一言はイサムの心を軽くさせるのには充分だった。

 どうして好きな人からの応援はこんなにも心を晴れやかにしてくれるのだろうか。クスッと笑いながらイサムは画面を操作した。

 

「イサムー!そろそろ始まるからマスターが集まってだってさー!」

 

 ミチルに声を掛けられてイサムは集合場所へと向かった。

 

 

      ◆ ◆ ◆ ◆ ◆

 

 

 一方、ステージ前では既にお客さんが集まっている中でパスパレメンバーも現地に到着し開会を待っているところだった。

 

「いやぁ〜。それにしても千聖さん、わざわざありがとうございます。変装のコーティネートまでして貰っちゃって…」

「大丈夫よ。こういう人の集まる場所では変装は必須だもの。」

「人も忍び、世も忍ぶ……まるでニンジャですね!!」

「でも彩ちゃんの最初のコーティネートは忍ぶどころか目立ちにいってるからね〜。」

「酷いよ〜!私だってそれなりに頑張って考えたのにー!!」

 

 彩たちは今となっては世の中で輝くアイドルとして活躍してる為、そのままの姿で外を出歩くと騒ぎになってしまう可能性がある。故に変装をしてこのライブを見に来たのだが、集合した際に日菜と麻弥は変装をしてなく、彩は帰って目立ちそうな格好をしていたので急遽千聖は全員の服をお忍びコーデにコーティネートしたのだった。

 

「ねーねー今何時〜?」

「えっと…今は9時50分だから…開始まで後10分程ですね。」

「そろそろですね!団扇とサイリウムの準備はバッチリです!」

 

 自身満々にサイリウムを取り出すイヴに対して、千聖は「イヴちゃん落ち着いて?」と彼女の興奮を沈めていた。

 そんな中、彩のスマホから着信音が鳴った。

 

「(イサムくん…?)」

 

 彩がスマホを確認するとイサムからメッセージが届いていた。

 

『ありがとう。

 最後の曲では彩にも伝えたいことがあるんだ。

 だから最後まで観てて。』

 

 たった一言のメッセージに彩は首を傾げた。

 伝えたいこととは何なのか。そのことが気になって彩はステージの方へと目を向けた。

 

 

       ◆ ◆ ◆ ◆ ◆

 

 

「それでは、いよいよKINGDOM 夏の野外ステージ開幕よー!!皆楽しんで行って頂戴!!Fooooooo!!!!!」

 

 マスターの一声によって観客の熱はヒートアップした。

 そしてステージ脇から最初のチームがやって来た。

 

「よっしゃお前らぁぁぁ!!!!気合い入れてくぞぉぉぉぉ!!!!」

 

 その一声で再び客席からの盛り上がりの声がステージ裏にまで届いた。

 そんな中、イサムはギターを見ながら何かを考え直していた。

 

「どうした。緊張してるのか?」

「うん。……それもあるけど…自分がバンドやるなんて昔の俺だと考えもしなかったなって思ってて…。」

「……なるほど。追憶していた訳か。」

 

 納得したようにアキラは腕を組みながらイサムを見ていた。

 

「まあ、この選択をしたのはお前だ。

 お前がそう思えるのなら少しは成長出来た証なんじゃないのか?」

「そっか。」

 

 1度ギターを置いたイサムはアキラの方を向くと軽く咳き込み、アキラの目をじっと見た。

 

「……なんだ人の顔じっと見て。気持ち悪いな。」

「いや、ちょっと言いたいことあったんだけど……ミチルがいる時に一緒に言おっと。」

「……は?」

 

 そんな時、ミチルが「2人とも何しとんの〜?」とこちらへと歩いてきた。

 

「いや?ちょっと男と男の会話……をね?」

「気持ち悪い言い方すんな。」

「ふーん?まあええわ。あっちにお菓子とか用意されてるから食べに行こうで!」

「相変わらず食い意地張ってんね〜。」

 

 先導するミチルの後を追って彼らも控え室へと向かった。

 今日のライブ、絶対に成功させる。

 自分の為にも……。

 

 

 

 Realize(仲間)の為にも。

 

 

       ◆ ◆ ◆ ◆ ◆

 

 

 午前中のライブが終わり、遂にRealizeの出番がやって来た。

 

 お客さんの数は少しずつ増えていて中にはミチルの父やどこから情報を得たのかわからないがCiRCLEの先輩であるまりなの姿も見られた。

 

「うー……!何度やってもこの感覚慣れへんな…。」

「練習は何度もやってミスも最小限に抑えられたんだ。後は本番で出来ることをやればいい。」

「せやけどな〜。なんかこう…プレッシャーが桁違いなんや…。始まる前は100%の不安だったのが……舞台に上がると1000%になってまう感じが…」

 

 そんな感じで緊張を解すかのように話を続ける2人だったが、途中でイサムが異様に静かであることに気がついた。

 

「イサム、どしたん?生きとる?」

「うん、大丈夫。」

「お前、本番前にボケっとするなよ…。」

「ねえ…」

 

 そう呟いたイサムは1度顔を2人の方に向けた。

 

「今だからこそ、2人に言っておきたいことがあるんだ。」

「なによいきなり…」

「・・・・・・・・・・」

 

 いつにもまして真剣な表情のイサムに対してアキラとミチルは思わず息を飲んだ。

 

 イサムは1度目を閉じて時間を置き、再び目を開けて2人の方を見た。

 

 

 

 そして一言、こう言った。

 

 

 

「一緒にバンドやってくれて、ありがとう。」

 

 たった一言。しかしその一言はイサムにとって、そして3人にとっては大きな意味があった。

 イサムの思いつきで始めたこのバンド。ある意味自分の夢の為に2人を巻き込んだような形になったのだがそれでもここまで活動を共にしてくれた2人にどうしても伝えたかったのだ。

 

「…なんや今更改まって…」

「いや、なんか言っとかなきゃいけない気がして。」

「……お前、いつも言うこと唐突なんだよ。」

 

 2人は若干照れ隠しのようにそう言った。

 

「それじゃあRealize!準備できてるかしら!?」

 

 そんな時、マスターによって出番がすぐそこであることを改めて知らされた。

 イサムが無言で拳を突き出すと、それを察してアキラとミチルも同じように拳を突き出した。

 

「それじゃ……行くぞーー!!!」

 

 拳を合わせて3人は舞台へと上がっていった。

 

 

       ◆ ◆ ◆ ◆ ◆

 

 

 イサムくん達の最初の演奏が終わり、会場は相変わらず盛り上がりの続けていた。

 

「改めまして、Realizeです!まずは1曲、聞いて下さりありがとうございます!」

「いや~、ステージに上がっての演奏っていつもより緊張するからウチも音程ズレてないか不安になるわ…。」

「それなら多分大丈夫だと思うよ。いっつもズレてるから。」

「いやそんなに間違えてへんやろ!アキラどう思うよ!?」

「まあ否定は出来んな。」

「ちょい!?」

 

 独特の世界観が繰り広げられて、お客さんにも笑っている人がいた。

 

「それでは、次の曲です。

 次の曲は…僕たちで作った初めてのオリジナル曲です。」

 

 それを聞いたお客さんたちはザワついていた。イサムくんは目を閉じて1度呼吸を置くと再び目を見開いた。

 

「この曲は僕と関わってきた人たちや夢に向かって頑張ろうとする人たち、……そして、僕に夢を見ることをもう一度教えてくれた大切な人に贈る。そんな曲です。」

 

 そんな言葉の中で彼は私の方に視線を向けたような気がした。

 

「それでは、聴いてください。」

 

 彼が…Realizeが作り上げた曲。

 それは…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

   Dreaming~ユメの途中~

 

 

 

 

      ◆ ◆ ◆ ◆ ◆

 

 

 そこから彼らの、自分たちだけの音楽が始まった。

 静かなイントロから始まり、次第とその音色には熱を帯だしていた。

 

『「君の夢はなんですか?」 そう誰もが問いかけてくる

 そんなものはもう無くて ただその場で立ち竦んでいた

 

 でも本当は知りたくって もう一度夢見たくって

 ただ、何も無い宙を掴んでた』

 

 静かな声で歌い始めた。

 出だしの歌詞。これはイサムくんの中の夢と現実の葛藤を表しているのだろうか

 

『そんな時、一筋の(いろ)を見つけたんだ

 掴みたくて掴めないあの彩りを

 

 何度倒れても諦めない そんな光に僕は今

 背中…追いかけてた』

 

 ベースの低音が静かに響く中、イサムくんは歌い続けた。

 まるでサビに入る前のここからが本番というように想いを溜め込んでいるようにも思えるその雰囲気に私は釘付けになっていた。

 

『今、君が教えてくれたんだ

 夢を見ること その勇気を

 支えあって初めてわかったんだ

 不器用でもいいんだって

 

 予想不能の未来 でも不思議と怖くない

 その色彩(カラー)が見える限り

 それが僕の道しるべだから

 

 

 

 だから僕は今、ユメの途中』

 

 

 その歌を聴いて、私は思わず心の中でなにかが溢れてくるのを感じた。

 この曲に詰められたイサムくんの想いが直接伝わってきている気がした。

 

 イサムくんと出会って、アイドルになって、何度も挫折しそうになった時、イサムくんは私を支えてくれた。それはイサムくんにとっての私と同じものだったのかもしれない。

 それでも私はイサムくんがいたからここまでやってこれた。そう考えている。だからこそ、私もイサム君に何か恩返しをしたいと考えていた。

 でも…それはもう出来ていたのかな?

 

「……彩ちゃん?泣いているの?」

 

 千聖ちゃんに声を掛けられて私は自分の頬に手を当てた。

 すると気づかないうちに流れていた涙が伝わってきている事に気付く。

 

「…あれ?なんでだろ…」

 

 涙を拭おうとすると横からそっとハンカチを差し伸べられた。

 

「もう…アイドルがそんな乱暴に拭いちゃダメよ。」

「……千聖ちゃん。」

 

 胸の奥から抑えられない感情が湧き上がる。

 温かくて、嬉しくて、そしてイサムくんに今すぐ伝えたい感情が。

 

 涙を拭き取った私は、その想いを胸にステージの上のイサムくんにその瞳を向けた。

 

 

       ◆ ◆ ◆ ◆ ◆

 

 

「お疲れ様でした〜。」

 

 ライブが終わり、イサムたちはそれぞれ片付けとお疲れ様の意を込めた簡単な交流会を終え、3人はライブハウス前でマスターにお礼の挨拶をしていた。

 

「アナタたち、今日は本当にいいライブだったわよ。」

「こちらこそ、ライブを開催してくれてありがとうございました。」

「良いってことよ。良かったら今後もウチを使ってね!」

「マスター、おおきに!」

「色々とありがとうございました。」

「じゃあ、次のライブも期待してるわよ〜。

 

 次回も最っ高に!盛り上げちゃってね〜!!!」

 

 そのままマスターはお店の方へと戻って行き、彼らもまた帰路へと歩き始めた。

 

「いや〜。マスターのテンションマジでヤバいわ〜。ホンマどこにあんな体力残っとんの…」

「それだけ俺たちでは計り知れん経験を積んできたんだろ。」

「そだね…」

 

 そう言いかけた時、イサムはあるものを目にした。

 

「彩?」

 

 そこには今1番会いたかった人物がいた。

 アキラとミチルもイサムの視線の先に気がついた。すると2人はイサムの背中を軽る押した。

 

「行ってこい。」

「そーそー、ちゃんと言いたいこと言ってきな。」

 

 その一言だけ伝えると2人は先に帰路に着いた。

 

「イサムくん。ライブお疲れ様。」

「彩…。」

 

 歩み寄ってきた彩に手を握られる。

 温かくて柔らかい感触が伝わり、思わず照れてしまいそうになる。

 

「そう言えばパスパレのみんなは?」

「皆ならもう先に行ったよ。『彩ちゃんはイサムくんのところに行ってあげて』って言われちゃって…」

「あはは…。お互い勘のいい仲間を持っちゃったね…。」

 

 笑い合いながら2人も歩き始めた。

 しばらく歩いて2人は家の近くの道まで戻ってきた。

 そんな時、彩はイサムにひとつの疑問を問いかけた。

 

「そう言えばイサムくん、1つ聞いてもいいかな?」

「何?」

「結局、イサムくんの夢ってなんだったの?」

 

 そう聞かれてイサムは思わず考えてしまった。

 しかし、彼の中ではもう答えは出ていたのだ。

 

「うーん…実はまだ確定はしてないんだよね。」

「え?」

「でも、ひとつだけ夢っていうか…やりたいことは出来た。」

 

 そう言うとイサムは彩の顔を真っ直ぐに見た。

 

「彩の夢を支えること。」

「……え?」

「彩の夢を応援したいんだ。

 俺の夢はまだ分からないけど…だからこそ、誰かの夢を…いや、彩の夢を近くで支えたい。

 それでいつか俺も夢を見つける。

 それが今の……俺の夢かな?」

 

 少し照れ臭そうにイサムは語った。

 横目で彩を見るとまた涙を浮かべながら顔を赤くしていた。

 

「もう…、そんな泣くような事じゃ無いでしょ…」

 

 そう言いかけた時、イサムは自分の腕ががっしりと掴まれていることに気がついた。

 

「やっぱりイサムくんは…ズルいよ…。」

「彩…?」

「ねえ…イサムくんは…これからも私も一緒にいてくれる?

 私はアイドルだし、普通の恋愛は難しいかもだけど…。」

「……そんなの関係ないって。

 俺が好きなのは丸山彩っていう女の子なんだ。たとえアイドルじゃ無くても、歳をとっても、その気持ちは変わらないよ。」

「イサムくん…。ありがとっ…!」

 

 また泣きそうになる彩の涙をイサムはハンカチで丁寧に拭いた。

 そして目があった時、2人は思わず笑っていた。

 

「あのさ……明日家に誰もいないんだ。」

「そうなの?」

「うん。だからさ…明日、私の家でデートしない?」

「うん、いいよ。」

「………もう…イサムくんのバカ…」

「え?今なんて?」

「何でもないですぅ〜!」

 

 腕を抱いたままそっぽを向く彩に対して、俺なんか悪いことした?とイサムは焦っていた。原因について考えていると思わず彩と目があった。瞬間、じっと見つめあっていた2人だが、思わずいつものように気が付けば笑顔になっていたのだった。

 

 




 最後まで読んでくださり誠にありがとうございました。
 キズカナ、2作目の作品が1年半の時を経てようやく完結致しました。ある程度の反省的なことは前回の後書きで書いたので割愛させていただきますが、モカ小説以来の完結と言うことで嬉しいような少しだけ寂しいような気分です。

 さて、今後の予定ですが暫くは永らく更新を中断していた美咲ヒロイン小説「ツイン・フューチャー」を更新再開していきながら、バンドリ短編集も空き時間で書いていこうと思います。
 新作の方は美咲小説が完結し次第発表致しますので是非読んでください!

 最後になりますがこちらの小説は今回で最終回ですが後日、OVAにあたるお話を書きたいなと考えています!是非そちらもお楽しみに!

 それではキズカナでした!
 また別の作品でお会いしましょう!


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OVA編
白鷺千聖のご乱心


 

 

「何か言い分はあるかしら?」

「その前にこの状況についての説明を求めたいのですが?」

 

 皆さんどうもご機嫌麗しゅう。佐倉イサムです。

 現在久しぶりの休日早々に千聖さんに『今度の土曜日にCiRCLEに来なさい。』とメールを受け言葉通りに行ったところ、大女優の目の前で正座をさせられています。まさに『ご清聴しなさい、我が説教』ってところです。

 え?なんでこうなってるのかって?

 もちろん、理由は知らないけどね〜。

 

「………本当に気付いてないの?」

「………はい。」

 

 千聖さんはため息をつきながら俺をジト目で見てきた。

 

「彩ちゃんから聞いたわよ?」

「え?何を?」

「この間、彩ちゃんのお家に遊びに行ったそうね?」

「ああ〜。それね〜……」

「その事で私は貴方に言わなきゃいけないことがあるのよ。」

「え? だってただ遊びに行っただけですし、ちゃんとパパラッチには気をつけましたし、何なら俺も変装しましたし……何かダメだった?」

 

 俺の返答に再びため息をつく千聖さん。

 俺自身も思考をめぐらせて考えてみるものの、特に彩の逆鱗に触れることをした記憶はない。

 

「じゃあハッキリと言わせてもらうわね。」

 

 果たして千聖さんはなぜ俺に対して怒っていたのか。そして……彩は何が不満だったのか。

 

 

 

 千聖さんの口が開かれる時、その答えが明かされた。

 

 

 

 

 

 

「貴方、誰もいない彩ちゃんの家に1日いながら彩ちゃんに手を出さなかったそうね?」

「……は?」

 

 一瞬、俺の思考は固まった。というか千聖さんの言っていることが理解できなかった。

 というのも千聖さんが怒っている理由は「俺が彩に手を出さなかったこと」らしい。いや、ドユコト?

 

「手を出さなかったって……

 そんな暴力なんてする訳ないじゃないですか。」 

「なんでそっちの思考に回るのかしら?」

「え? それ以外に何かあります?」

 

 何気なく思ったことを口にすると、千聖さんは黙って溜息をついていた。

 

「はあ……。あなたって想像以上にヘタレなのね……。」

「え? これヘタレの内に入るの?」

 

 一体俺は何が悪かったのか……。思考を巡らせても全くわからない。

 

「イサムくん……あなた、本当に付き合っているの?」

「付き合ってますよ?」

「じゃあ、その日は彩ちゃんと何してたか教えて貰ってもいいかしら?」

「えーっと………とりあえず部屋に案内してもらってお茶して、お話したりゲームしたり……」

「………る」

「へ?」

「普通すぎるわ!!」

 

 その時、周りの空気がいっせいに震えた気がした。例えるなら……周囲に電気が走ったような……そんな感じだ。

 

「あなたね! 男の子と女の子が同じ部屋で半日もいたらたどり着く結論はわかってるんじゃないの!? 今どき貴方みたいな人の方が珍しいわよ!?」

「えーっと……何言ってるのか理解できないのですが……」

 

 そーっと手を挙げながらそう発言すると、千聖は少々頬を赤らめながらも、何かを決意したかのように口を開いた。

 

「…………でしょ」

「へ?」

「普通やりたくなるでしょ!![ピーーーッ!]とか[ピーーーーッ!]とか!!」

「はあ!?」

 

 等々に千聖さんがキャラ崩壊を始め、セリフには、よく動画であるようにピー音を入れなければ流せないような状況になっていた。これが映像ならばカラフルな画面に「しばらくお待ちください」と入れなければならないほどに酷い状況だ。

 

「ちょちょちょ!! 千聖さん!? なんか凄くキャラ崩壊してるけど!?」

「でも貴方は彩ちゃんを泣かせたじゃない? その落とし前はどうつけてくれるのかしら?」

 

 あーもうダメだこりゃ。

 

 そう確信した俺は、半分希望を失いながらも何とか千聖さんの怒りを沈めることに全集ty……否、集中する事にした。

 

 

    〇 〇 〇 〇 〇

 

 

「……ごめんなさい……。少しカッなってしまったわ……。」

「いえ……」

 

 何とか千聖さんを落ち着かせることに成功した俺は、胸を撫で下ろすながら椅子に腰を掛けた。

 

「ホント……一時はどうなるかと思ったよ……。」

「面目ないわ……。

 でも……彩ちゃんのあの表情を見ちゃうと……つい……。」

「え? ……ちょっと……一体彩なんて言ってたの……?」

 

 流石に気になりすぎた俺は千聖さんにその詳細を聞いてみた。

 一呼吸置いた千聖さんは、ゆっくりと口を開け、そのことについて語り始めた。

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 それは、ある日のこと。

 何気ない朝、千聖はいつも通りにスタジオに仕事に向かっていた。

 「おはようございます」とすれ違うスタッフ達と挨拶を交わしながら、いつまのレッスンスタジオに向かっていった。

 

「おはようございま………彩……ちゃん……?」

 

 レッスンスタジオには既に彩が着替えを済ませて、準備をして…………はなく、スタジオの片隅で体育館座りをして蹲っていた。

 

「あ……彩ちゃん……? どうしたの?」

「千聖ちゃん……」

 

 千聖に気がついた彩は、千聖を見るなり目をうるうるさせながら彼女の方に近づき、泣きつき始めた。

 

「うえええええ〜〜〜〜〜!!!千聖ちゃぁ〜〜〜〜ん!!!」

「ちょ……ちょっと彩ちゃん!?」

「私って……私って魅力無いのかな〜〜!?」

「え?ちょっとどうしたの?」

「やっぱり胸!? 胸がダメなの!? もっと大きくしないとダメなの!?」

「お、落ち着いて彩ちゃん!!」

 

 まるで赤ちゃんのように泣きじゃくる彩に戸惑いながらも、何とか彩を宥めることに成功した千聖は詳しい事情を彩から聞くことにした。

 

 そうしてわかったことは、彩はイサムを家に誘い、家族がいない間……夕暮れまでずっと彩の自宅で談笑したり、遊んだりしていた………。

 

 そして、問題はここからだ。

 

 日暮れになり、彩の「両親は仕事で、妹は友達の家に泊まることになってるから……」というお願いにより、イサムは彩の家に1晩泊まることに。

 

 そんな中で、彩は自分なりに頑張ってイサムに迫っていき、色々とアピール的なものをしていたらしい。………その目的がナニとは言わないが、そこは皆様の想像で補って頂きたい。

 

 

 しかし……イサムはそんな彩のアピールが全く靡いてないというか………気づいてなかったというか………。

 まあ簡単に言うと、イサムが彩のアピールの意味を理解できてなかったが故に、彩のアピールはほぼ無意味になった。

 

 その話を聞いた千聖は決意した。

 彩を……大切なメンバーを悲しませた、かの無知なイサムを懲らしめねばなるまいと……。

 

 思い立ったが吉日とはよく言ったもの。千聖は早速スマホを取り出し、イサムにメッセージを送ったのだった……。

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

「と、言うことなのよ。」

「いや、どういうことだってばよ。」

 

 千聖から話を聞いたイサムであったが、やはり半分理解し、半分理解してないといった状態だった。何かの歌詞でこんな言葉があるが「知らないという罪と知りすぎる罠」とはよく言ったものだ。本気でこの展開は前者そのものだ。

 

「つ・ま・り! 貴方はもうちょっと乙女心を理解すべきなのよ!」

「とは言いましても……」

「そもそも、なんでわざわざ一緒のベッドで寝るように誘ったのにそれより進展しないのよ!! 普通察するでしょ!!」

 

 俺らまだ高校生だし……と言葉を零すイサムを見て、千聖はまたため息をついた。

 

「彩ちゃんはなんだか苦労する相手を選んじゃったみたいね……」

「なんか言いました?」

「いいえ?」

 

 これ以上は何を言っても無駄かと思った千聖は、それ以上の言葉は何も言わなかった。

 

「……とりあえずさ……彩、大丈夫なの?」

「……大丈夫とは言い難いわ。だいぶ凹んでるみたいだから。………誰かのお陰様で。」

 

 若干嫌味にも聞こえる声量で千聖は呟いた。

 

「………どうしよ……。」

 

 とりあえず、何とか彩のご機嫌を取り戻したいイサムは必死で思考をフルスロットル状態にして考えるが、いい案は思いつかなかった。

 頭を抱えながら悩んでいる彼を見て、流石に言いすぎたかと思った千聖は、ある事をイサムに提案した。

 

「彩ちゃんが喜びそうな所にでも連れて行ってあげたら?」

「……彩が喜びそうなところ……?」

「そうね、話題のテーマパークとかどうかしら?」

「なるほど……。あ、でもそういうところって整理券とか取れるのかな……?」

 

 イサムが再び考え込んでいると、千聖は一通の封筒をイサムに差し出した。

 

「……これは?」

「とあるテーマパークの招待券よ。マネージャーから頂いたのだけど、2枚しか無かったからどうしようか悩んでたのよね。

 せっかくだし、彩ちゃんのご機嫌取りも兼ねて誘ってみたら? イサムくんと一緒だし、とても喜んでくれると思うわよ?」

「いいの!?」

「ま、ひとつ貸しね。」

 

 ありがとう!!と、封筒を受け取るイサムを見ながら、千聖はどこか嬉しそうな顔をしていた。

 

「じゃあ、そろそろ出ましょうか。そろそろスタジオの時間も来ることだし。」

「あれ? ちょっと待って?」

「あら?何かしら?」

「………もしかして、この説教の為だけにスタジオの部屋借りたの?」

 

 イサムの質問に対して千聖は涼しい顔をしたまま「そうよ?」と返答した。

 

 

 

 そして、イサムはこう思ったのだった。

 

 

 

 千聖(この人)、怒るとホント何するかわかんないわ……と。

 

 

 

 




あけましておめでとうございます!!

さて、新年一発目の作品として……かねてよりお伝えしていたドリパレのOVA編を始動させました!!いきなり千聖がキャラ崩壊してると言うね汗
因みに現実は冬なのに、この回の季節感はまだ夏です。本当はお正月編を書いてたんだけど途中から投げ出したことは内緒です。

まあ、それはさておき……今年はより良い作品をお届け出来るように頑張っていくので是非応援の程よろしくお願い致します(〃・д・) -д-))ペコリン

お正月ですし……良ければお年玉代わりにコメント高評価をお願いします。|ω•๑`)


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海といったらラブコメってよく言われますよね

「次は〜〇〇〜〇〇〜。お降りのお客様は乗り過ごしのないようにご注意ください」

 

 ガタンゴトン……と電車に揺らされながら俺は窓の外を眺めていた。最近は特にこういった公共交通機関を利用することが無かったので、車窓から見える景色が少々物珍しいものに感じられたのだろう。

 

「ていっ」

 

 その声が聞こえた途端、俺の膝に軽い衝撃が走った。目の前を見ると、そこには頬をぷっくりと膨らませて不機嫌ですと顔に書いてある彩がいた。

 

「……どしたの?」

「もう! なんでさっきから外ばっかり見てるの?」

「いや、なんか電車乗るのも久しぶりだな〜って思うとついつい……」

 

「まあわかるけど……」と煮え切らないような態度で彩は呟いていた。

 頬を膨らませたままの彩を見てると当然彩は立ち上がり、そのまま俺が座っている隣に座った。

 

「……あの?」

「………………」

 

 突然過ぎて、その行動の意味を彩に問いかけるが当の本人は俺の肩に頭を乗せたまま何も答えない。

 

「(…………って……このアングルから見ると彩ってホント美少女だな……。流石アイドル……。あ、写真撮りたい)」

 

 そんな感じでボケっと彼女の方を眺めていたが……

 

「(…………って、寝てる!? この流れで!?)」

 

 気がつけば彩はその体制のまま、その瞳を閉じて夢の世界に行っていた。

 やれやれ……と思いつつ、眠り姫の可愛らしい寝顔を眺めていると、俺もだんだん眠くなりそのまま彼女の後を追うように俺も眠りについた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「△△~。△△です。お降りのお客さまは扉から離れてお待ちください」

 

「「………………」」

 

 その十数分後、俺たちは駅のホームに立ち唖然としていた。というのも……

 

「「(やっちまったーーーー!!!)」」

 

 2人揃ってすっかり寝過ごしてしまい、3つ先の駅に辿り着いてしまったのだ。

 

 

 みんなも電車の乗り過ごしには気をつけるんだZE☆

 

 

______________________

 

 

 こうして何とか俺たちは目的地へと辿り着いた。

 

 今回の目的地は…………

 

 

 

「海だーーーー!!!」

 

 

 そう。海である。

 

 いや、元々は大人気な水のテーマパーク『トコナッツパーク』に行く予定だったんだけど、昨日トコナッツパークについて調べようとホームページを見たら…………

 

 

 

 

『トコナッツパークは機械の故障により、当面の間臨時休業致します。

 楽しみにしていた皆様には御迷惑をお掛けしますが、何卒ご理解をよろしくお願いします』

 

 

 この1文が残されていた。

 

 これに慌てた俺は彩に連絡。電話越しにも楽しみにしていた彩もこの事実を聞いてすごく落胆していた。

 

 その後、プランの変更を余儀なくされた俺たちはそこからどうするかを考え直した。まあ、そのタイミングが2日前だったのが不幸中の幸いってところか。

 

 そしてその次の日、千聖さんに相談した所……

 

『それならこの間トコナッツパークの取材に行った時に近くで海を見かけたの。そこに行ってみたら?』

 

 そう提案を受けた。そして調べた所、千聖さんの言ってた通り、近くに海があった。

 そうして俺たちはトコナッツパークをまたの機会に行くことにし、今回の行き先をその海へと変更した。

 

「イサムくん! 海だよ! 海!」

 

 隣にいる彩は海を指差しながらはしゃいでいた。トコナッツパーク休業の事を伝えた時のリアクションが嘘のようだ。

 

「にしても本当に穴場だったな……。人もあんまり居ないし」

 

 辺りを見渡しても人なんて所々にしかいなかった。まあ千聖さんからも『知る人ぞ知る穴場スポット』って言われたからなぁ。今回ばかりは彼女に感謝するしかない。

 

「よーし! 早速泳ぐぞぉ〜!」

 

 持ってきたビニールシートを敷いてそこに荷物を置くと、彩は早速背伸びをしていた。それ程までに今日を楽しみにしてたのだろう。

 

「とりあえず着替えて来たら? 少し先に着替える場所あるみたいだし」

 

 俺の目線の先には海の名物…………なのかは知らないけど海の家みたいな場所があった。恐らくだけどあそこが更衣室だろう。

 と言っていた矢先、彩は俺の背中をちょんちょんとつついてきた。

 

「実はね……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「もう下に着てるんだ♪」

 

 そっと耳元で彩はそう呟いた。

 

「うん」

「あ、もしかして信じてない? じゃあ……ほら」

 

 Tシャツの裾を捲るようにお腹を見せてきた。言葉通り、その下は彩の臍が見えた。

 

「って、そういうことしなくていいから!」

 

 若干頬を紅くしていた彩が色っぽかった為か、思わず見とれていたが咄嗟に目を逸らした。

 危ない、あと少し反応が遅れていたらどうなっていたことか……

 

「えー! 千聖ちゃんがこうしたら男の子なんてイチコロだって言ってたのにー!」

 

 おいあの女優一体何考えてんだ。純粋なこの子にそんな大人の階段登らせちゃいけません! 

 

「じゃあ脱いちゃお〜っと」

 

 そのまま彩は勢いよく自分の服を脱ぎ捨てた。

 服の下にはフリルの着いた白色を基調とし、胸の縁とパンツに小さなピンク色のフリル、そして中心には同色の小さなリボンがついたものになっていた。

 

「はいっ! どうかなイサムくん!」

 

 見せびらかすように胸を張りながら彩は聞いてきた。

 

「…………うん、可愛い……と、思う……」

「えへへ〜。そうかなそうかな?」

 

 その答えを聞くと仔犬のように嬉しそうにしていた。その光景に見とれていると彩も段々と恥ずかしくなったのか少しずつその頬が紅くなっていた。

 

「……ね……ねえ……、そんなに見られると……」

「あ……ごめん……。……ちょっと俺、着替えてくるよ」

「うん……」

 

 お互いなんだか気まずくなり、俺は更衣所に向かった。

 

「(…………ホント、可愛すぎるんだよなぁ……)」

 

 先程の光景が脳裏から離れず、俺は思わず心の中でそう呟いた。

 

 

______________________

 

 

 その後、俺も水着に着替え彩の元に戻ってきた。

 

「………………」

「…………どしたの」

 

 と、戻ってくるや否や今度は彩が俺の方をじっと見ていた。

 

「イサムくん…………意外と身体引き締まってるんだ……」

「ま……まあ……割とバイトで力仕事とか多いし、ライブでも肺活量とか必要だから俺なりに運動はしてるんだよ……」

 

 そんな感じでさっきとは逆の状況になった。なんかさっきの彩の気持ちが分かるような分からないような……

 

「……なんか……そんなに見られたら恥ずかしいんだけど……」

「あ、ごめん」

 

 そうして暫く見つめあっているとなんだか変な気持ちになり、2人ともクスッと笑いあっていた。

 

「なんか照れてるイサムくん、可愛いね」

「可愛いって……」

 

 なんだか照れくさい気分になっていたのだが、そんな中で俺はある事に気がついた。

 

「ねえ彩」

「どうしたの?」

「その麦わら帽子って……」

 

 そう、俺が気になったのは彩が持ってきたピンクと白のリボンがあしらわれた麦わら帽子だった。

 それは……

 

「うん。夏祭りの時、イサムくんがプレゼントしてくれた麦わら帽子だよ」

 

 予想通りだった。

 あの時、変装のつもりで彩に買った麦わら帽子を彼女は今も大切にしてくれていたのだ。

 

「せっかくの海だし、気に入っていたから持ってきちゃった」

「そっか。それは良かったよ」

 

 自分が大切な人にプレゼントした物を、ここまで大切にしてくれている。これ程嬉しいことがあるだろうか。

 

「今日の水着も麦わら帽子に合わせてみたんだ」

「あ、確かにイメージ似てる」

 

 そんな他愛もない話をしながら俺たちは海での2人の時間の始まりをゆっくりと楽しんでいた。

 

 

 

 今日はきっと、忘れられない思い出になるだろう。

 

 

 

 

「そうだ! イサムくん、背中に日焼け止め塗ってくれない?」

「あ、そう来ます?」

 

 

 




大変ご無沙汰しております。

こっちの作品忘れてたわけでは無いんですけど色々とやってたらね、個人的な事情もあるんですがこんなに間が開いちゃいましたよ。

もうどのキャプションでも謝罪しかしてませんが本当にお待たせしてしまい申し訳ない。

次はどのくらい開くのかは分かりませんが、ブラキオサウルスのように首を長くして待って頂けると幸いでございます。

それではまた次回や別の作品でお会いしましょう。


p.s.私も彩ちゃんと海でデートしたかったです


つったかたー↓
https://twitter.com/kizukana_est?s=09



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海辺の大騒動

 

 その後、彩の日焼け止め塗りを手伝って海水浴の準備は整った。

 

 子どものように砂浜を駆け回る彩の背中を見ながら、敷いたビニールシートに腰をかけていた。

 

「イサムくーん!」

 

 海辺からこちらを手招きする彩に誘われ、俺もその場から立ち上がり歩き始めた。

 分かりきっていたことだけど、いざ裸足で砂浜を歩いてみると少しだけ暑い。本当に太陽から放出される熱を吸収しているみたいだ。こんな状態でも元気に駆け回る彩は本当に子犬みいたいだなと何回目かは忘れたが改めて思った。特に今は髪型をポニーテールにしている為、はしゃぐ度に揺れるその髪も相まって余計にそう感じる。

 

「全く、彩は元気だなぁ」

「だって久しぶりの海だよ! 目一杯楽しまなくちゃ!」

「ま、それもそっか」

「じゃ、早速海入ろっ!」

 

 そのまま水辺に駆ける彼女の後を追い、そのまま俺も海に足をつける。

 水に足が触れた途端、冷たさが走った。永らく海で遊んでいなかったから感覚なんて忘れていた。

 

「えいっ!」

 

 余韻に浸っていたのも束の間、俺の顔を目掛けて水が降ってきた。突然の事だった故に、思わず口に海水が入ってしまう。

 

 塩っぱい。

 

 海水の塩分濃度は約3.5%だと聞いたことがあるが、こんなに濃いものだったかな?と思ってしまう。

 

「ほらほら! イサムくんも楽しもっ!」

「楽しもって……不意打ちは駄目でしょ!」

「じゃあもう1回いくよー!」

「いやちょ……ちょっと待って! まだ心の準備が……」

 

 完全に彩のペースに飲まれちゃってる気がするけどなんだか悪い気はしなかった。それどころか寧ろそこに心地良さを感じている自分がいるくらいだ。

 

「あーもう! やり過ぎだーっ!」

「きゃっ!」

 

 それまでのお返しと言わんばかりに此方からも水をかけ返した。すると彩も「やったなー!」とまたやり返す。そして暫くは互いに水をかけ合い海を楽しんでいた。それだけでどれくらいの時間を使っただろうか。時間を忘れる程に夢中になっていて、気がつけば俺は少し息が上がり始めていた。一方の彩はまだまだ元気といった様子だった。

 

「彩……全然息上がってないね……」

「まあ、パスパレのトレーニングは結構きついからね。努力の賜物かな?」

 

 これは俺ももっと体力をつけなきゃ行けないなぁ……。思わぬ所で改めて自分の劣ってる所もわかってしまった。喜ぶべきなのか凹むべきなのか……。

 その後、暫く俺たちは海での遊びを楽しんだ。水をかけ合うだけでなく、海の奥の方へ向かい泳いだり、砂浜で遊んだりと海ならではの遊びを楽しんだ。とりあえずひとつ言うならば彩が俺に砂をかけて埋めた時、調子に乗って砂を乗せまくるもんだから重くて仕方なかったってことかな。

 

 そうして気がつけば時刻はお昼を回っていた。

 

 とりあえず、近くにある海の家で食事をしようということで俺たちは今、海の家に来ている。

 

「おお〜、凄いメニュー……」

 

 看板に書かれているメニューには焼きそばにたこ焼き、カレーライスにフライドポテト、いか焼きにラーメン、かき氷と色とりどりのメニューが書かれていた。

 

「イサムくん、何食べる?」

「そうだなぁ……、やっぱりカレーかな?」

「じゃあ私は焼きそばにしようかな」

 

 そうして俺たちはご飯を注文し、席に着いた後食事を始めた。もちろん食事前の「いただきます」の掛け声も忘れはしなかった。

 

「ん〜! 海で食べるといつもより美味しく感じるね!」

「確かに」

 

 食べているカレーはよくお祭りで食べるカレーライスと似たような味なのだが、こういう特別な場所で食べると彩の言うとおり何時もより美味しく感じる。雰囲気の効果というのは予想以上に凄いものだと改めて体感した。

 

「ねえ、イサムくんのカレー1口貰っても良いかな?」

「いいよ」

 

 彩に言われ自分のカレーライスを彩の方へと渡したのだが、何やら彩は不満そうにしていた。

 

「彩? 食べないの?」

「……ねえ、食べさせて貰っても……いいかな?」

 

 少しだけ頬を赤らめながら彩はそう言った。

 

「彩……、君アイドルって自覚ある?」

「うう……。でもちゃんと帽子は被ってるし……」

「……はあ、しょうがないなぁ」

 

 彼女は玩具をおねだりする子供のような表情をしてきた。どうやら俺は彩にまだまだ甘いみたいだ。こんな頼まれ方をされては流石に嫌とは言えない。

 スプーンにカレーをひとすくい取り、彩の開いていた口の中に入れた。

 

「……うん、美味しいね!」

 

 さっきよりも顔を赤くしながら満面の笑みで感想を言ってくる。なんとなくだけどこそばゆい気分になりこっちも恥ずかしくなってきた。

 

「じゃあ私の分もイサムくんにあげるね!」

 

 と、やはり焼きそばと箸は彩が持ったままで言ってきた。これはアレですか。つまりはそういう事ですか。

 

「………ん」

 

 俺が口を開けるとそこに箸で掴んだ焼きそばを入れてきた。………ふと思ったんだけど箸であーんするのってかなり難しくない?

 

「………うん、焼きそばの味だ」

 

 焼きそば食べてるんだから当たり前だろと言われたらそこまでなのだが本当に思考が回りきらずにこんな感想になってしまった。いや、ちゃんと美味しかったよ? ただそれ以上にちょっとこそばゆい思いが再び沸き出て来たわけであって……。まあそんな俺の心の葛藤など知らない彩は今も尚凄い笑顔を見せてくるんだけど。

 

 その後、昼ごはんを食べ終えた俺たちは海の家を後にして再び海を満喫………と思ったのだが食後すぐに運動すると消化不良とかの問題があるため少しの間日陰で休むことに。

 

「うーん……風が気持ちいね〜」

「そだね〜」

 

 海や風の音が心地よく感じる程に俺たちはのんびり過ごしていた。食後と言うこともあり油断をすれば眠気が襲ってきそうだ。午後の授業の時もそうだが、お腹が満たされている状態での程よい日差しと言うのは何時でも眠気を誘ってくるのが辛いものだ。

 

「あ、やっぱり彩さんだ!」

 

 突然現れた第三者の声に驚きつつも目を向けるとそこには顔見知りの3人の少女がいた。

 

「みんなもここに遊びに来てたんだね!」

「はい! ここの海が穴場だけど景色がいいってリサさんが教えてくれたんです!」

「まあアタシもバイト先の店長から聞いた話なんだけどね。でもホントにいい感じの場所だったね〜 」

 

 気がつけば女子3人でガールズトークに花を咲かせていた。

 

「でも驚きました。イサムさんも来てたんですね」

 

 そんな中、俺に声をかけたのは羽沢さんだった。

 

「ま……まあね」

「それにしてもイサムさん、彩さんと仲良かったんですね」

 

 羽沢さんは意外でしたというような雰囲気でそう言った。確かにパスパレのメンバーは基本的に事務所のスタジオでバンド練習をやってるし、そうなると彼女たちの前で彩と遭遇する事は滅多に無かったので羽沢さんたちは俺たちの関係を知らなくてもおかしくは無い。

 

「なんて言うかな……仲良いって言うかなんて言うか……」

 

 彩の立場上、知り合いとはいえどこまで話して良いのかが難しいところだ。

 俺が言葉を詰まらせていると……

 

「ええっ!? 彩さんとイサムさんって付き合ってるんですか!?」

 

 上原さんの声が俺の耳にも響いた。まさかの彩が喋ってしまったらしい。

 

「イサムさん、彩さんとお付き合いしてるんですか?」

「うん、まあそういうこと」

 

 確認のように羽沢さんが聞いてきたので、俺はありのままの事実を話した。

 

「へえ〜、イサムも隅に置けないねぇ〜」

「あの今井さん? そんなニヤニヤしながら近寄るの止めてくれません?」

「もお〜! イサムさんもなんで教えてくれなかったんですか!?」

「いや……だってまあ聞かれなかったし」

 

 それからというもの、今井さんはイタズラをする子どもみたいな感じで声掛けて来るし、上原さんはグイグイ詰め寄ってくるしで大変なことに。しかも上原さんに至っては詰め寄ってるせいで身体の大きな2つの膨らみが身体に当たりそうになって結構理性的に不味いことに。

 

「それでイサムさんって彩さんとどんな出会いしたんですか?」

 

 慌てて後ろに下がり上手くそれを避けるものの、やはり上原さんは詰め寄って来る。そんな時チラッと彩の方に助けを求めるべく視線を送ったのどだが、当の本人は頬を膨らませて不機嫌そうにしていた。

 

「ひまりちゃん、ちょっと落ち着こ?」

 

 そんな中、羽沢さんが上原さんを止めてくれたお陰で最悪の自体は回避出来た。本当に彼女には感謝しかない。

 

「羽沢さん、ありがとう。助かったよ……」

「いえ、こちらこそひまりちゃんがすみません」

「あはは……」

 

 思わず2人で苦笑いを浮かべていた。羽沢さんも苦労する人なのかなぁ……とふと思ってしまった今日この頃である。

 

「おーい、イサム〜。つぐみといい雰囲気になってるところ悪いんだけどさ」

 

 こっち、と今井さんが声をかけてきた為、そちらに視線を向けた。

 するとどうだろうか。彩はついにそっぽを向き、つーんとしてしまっている。

 

「……彩? どうしたの?」

「………………」

「あーあ。イサムがつぐみとひまりといい感じになっちゃってるから〜」

「え? これ俺のせい?」

 

 彩の不機嫌がより強くなってしまったようだ。今井さんからは女たらしみたいに言われるし何なんだろうか。

 

「彩? ちょっと大丈夫?」

「…………カ」

「え?」

「……イサムくんのバカ。女たらし」

「だからなんでそうなるのさ……」

「だってつぐみちゃんと良い雰囲気になってたし、ひまりちゃんに近寄られた時もニヤけてたし……」

「いや、ニヤけては無いよね!?」

 

 再び俺が頭を抱えていたのだが、その時ある方法が閃いた。この誘いに彩が響いてくれるかは分からないが今はこの手にかけるしかない。

 

「彩……後でアイス食べる? 勿論俺の奢りで」

 

 こういうと彩が食いしん坊だとか思われそうだが……まあ実際のところこの間も深夜にアイスクリームを食べそうになったらしい。その時は千聖さんが勘づいて電話した事で彩は食べる事が出来なかったらしいけど。

 

「……うん」

 

 そして彩はこの誘いに頷いた。どうやら吉と出たようだ。そして少しだけ頬を赤らめながら俺の手を掴んで来た。そんな彩が可愛いな……と思った俺は思わず彼女の頭を撫でていた。

 

「あはは、2人とも仲直り出来たみたいで良かったよ〜」

「ですね〜、もうラブラブなのか見てるだけてわかりますよ」

「あの2人とも? しれっとスマホで写真撮ろうとするの止めてもらってもいい?」

「でもなんだかわかる気がしますね。彩さんがイサムさんを好きになった理由が。」

「あれ? もしかしてつぐみ……イサムに惚れた!?」

 

 今井さんがそう言うと「い……いえ、そういう訳では……」と必死に否定する羽沢さんにそれに食いつく上原さん、そして「イサムくんは渡さないから!」と遂には彩まで飛び込んで来た。

 

 

 賑やかなのは良いことだと思うけど、これはちょっと俺の精神的に追い詰められそうだから本当に程々にして欲しいものだと久しぶりに感じたのだった。

 

 




はい、皆様大変お待たせしました。
前回が8月の投稿で真夏でピッタリな話だったのに気がついたら現実ではもうツーシーズン変わりましたね。

一応次回はビーチ編最終話なのですが果たして2021年以内に投稿出来るのか……汗

良ければコメントや評価、よろしくお願いしますm(_ _)m

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@kizukana_est


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これからの未来を、君と築きたい

 

 

 その後、俺と彩は今井さんたちと別れ残りの時間も海を満喫した。この時点で時刻は既に3時を回っていた。

 ちなみに今はさっき約束した通り彩にアイスクリームを奢っていた。

 

「甘くて美味し〜い!」

 

 さっきまでの不機嫌は何処へやら……と言わんばかりに幸せそうにアイスを頬張る彼女を見つつ俺も自分のアイスを食べ進めていた。

 こんなに甘やかしていたら千聖さんに怒られるかもしれないけど今回ばかりは多目に見て貰おう。いや、この場に千聖さんはいないから言わなきゃバレないのでは?と思っていたら俺のカバンから「ピコン」という音が聞こえた。

 

『イサムくん、彩ちゃんとの海デートはどうかしら? 言い忘れていたけどあまり彩ちゃんのおねだりに負けて甘いものを与え過ぎちゃ駄目よ? そのうちライブ前の衣装合わせもあるからその辺り頭に入れててね』

 

 その画面にはこんな文章が綴られていた。いや、あの人はエスパー能力でもあるのだろうかと聞きたくなるほどタイムリーな話題に唖然としつつ今の現状に悪寒がし始めてきた。

 

「どうしたのイサムくん?」

 

 頬っぺにアイスをつけた彩が首を傾げながらこっちの表情を伺ってきた。

 

「いや、なんでもない。………あ、でも後でもうちょっと体動かそうな」

「うん! まだまだ時間はあるしせっかく来たんだから楽しまなくちゃね!」

 

 なんとか摂取カロリーと消費カロリーをプラスマイナスゼロにしなければと思い彩をそっちの気分へと持っていくことには成功……というかその辺は彩も最初から楽しむたつもりだったからそれを運動に繋げれば問題はなかったのかもしれない。

 

「ねえ、イサムくんのアイスひと口頂戴!」

 

 と、いつもの時間がやって来たようだ。

 アイスやらかき氷やら食べる時はそれぞれで好きなフレーバーを選ぶので同じ物を選ぶ時もあれば違うものを選ぶ時もある。今回は彩はストロベリー、俺はバニラを選んだ。こういう場合はよくお互いにひと口ずつ食べ比べをするという時が多い……というか基本的に彩が食べてみたいという思いからかそう提案する事が殆どなんだけど。

 

「はいはい、来ると思ってたよ」

 

 そう言って彩に俺のバニラアイスを向けた。そこからバニラアイスをひと口食べた彩は「美味し〜い」とわかりやすい反応をしていた。

 

「じゃあ私の分もどうぞ!」

 

 その後は俺の番になるというのかいつもの流れ。彩の持つストロベリーアイスをひと口食べると口の中に苺の酸味が効いた甘い風味が広がった。

 

「イサムくん、頬っぺにアイスついてるよ」

 

 そう言うと俺の頬に着いたアイスを指で拭い、彼女はそのままその指を舐めた。そんな仕草に思わず可愛いと思ってしまい照れそうになった。

 

「……い。……厶く〜ん?」

 

 少しだけボケっとしていると彩が俺の顔の前で手を振っていた。

 

「大丈夫? もしかして……疲れてる?」

「あ、いや大丈夫。ちょっと考え事してただけ」

「考え事?」

「あーえっと……彩って可愛いなぁって……」

「ふぇ!?」

 

 嘘を言っている訳では無いのだが、それっぽくを言ってみたところ彩は少しだけ頬を赤くしていた。

 

「もう……急に真顔でそんな事言わないでよ……。でも………ありがと」

 

 照れながらもお礼を言われてしまい、なんだかこちらもこそばゆい気持ちになった。どうにもお互い、こんな事を言われるのは不慣れみたいらしい。

 

「イサムくん! まだまだ時間はあるから目いっぱい楽しもっ!」

 

 アイスクリームを食べ終わり、再び彩に手を引かれて海へと向かう。

 残り数時間だが、ここは思う存分彩に付き合ってひと時の夏の思い出を作るとするか。

 

 

     ◆ ◆ ◆ ◆ ◆

 

 

 楽しい時間はあっという間と最初に言ったのは一体誰なんだろうか。

 海で遊んでいると気が付かないうちに時は経っていて、名残惜しいがそろそろ帰り支度をしなければという頃合になった。

 今はシャワーで海水や足に付着した砂を洗って着替え終わり、一足早く海の家の外れで彩を待っていた。男子と女子では服の着方や髪の手入れなども違うため時間がかかるのは仕方ない。

 

「お待たせ〜!」

 

 彩の着替えが完了し、忘れ物が無いことを確認した上で俺たちは海を後にした。彩はまだ名残惜しいのか歩いている時もチラチラと海の方を見ていた。

 

「あ……」

 

 気がつけば空は茜色に変わり始め、青かった海も夕日によって紅く染まっていた。

 

「綺麗……」

「ホントだ」

 

 少しだけ足を止めてその光景を目に焼き付けていた。

 本当に1日と言うのはあっという間だ。楽しい時間にもいつか終わりが来てしまう。始まりがあるから終わりもある。そんな事は理解しているつもりだけど、やはり楽しいものは終わって欲しくないという願いが心のどこかに生まれてしまうものだ。

 

「さて! 行きますか! そろそろ電車来ちゃうし」

「うん!」

 

 しんみりとした思いを振り払いそのまま海を背に駅へと向かった。

 その後は到着した電車に乗って自分たちが住む街へと電車に揺られながら進んだ。車窓から見える海を眺めると今日過ごしてきたひと時がふとした時に浮かび上がった。

 

「楽しかったね〜。来年もまた来たいなぁ」

「来る?」

「行く!」

「即答ですか」

「それに今度はトコナッツパークも!」

「確かにね」

 

 相変わらずこういう時は返事が早い。

 

「あ、そういえば今日色々と写真撮ったんだ〜。見る?」

「おお〜、見たい見たい」

 

 彩のスマホに今日の出来事の一コマが色々と残されていた。自分の水着の自撮りとか一緒に食べたアイスクリームとかいつの間に撮ったのかわからない俺の写真とか見れば見る程思い出が溢れていた。

 

「こうやってまた思い出、作りたいね」

「そーだね」

「ねえ、今度はどこに行く?」

「そうだな……、温泉とかどう? 近場でいい銭湯知ってるんだけどさ」

「イサムくん……お風呂好きなの?」

「うん。良く通ってる」

「へぇ……。なんか意外」

 

 彩にとっては意外だったらしい俺の趣味を語っていた時、俺のスマホから着信音が鳴った。

 

「今井さん……?」

「リサちゃん? いつの間にLI〇E交換してたの?」

「今日会った時」

 

 トーク画面を開くとそこには1つの短い文章が書かれていた。

 

『イサム〜、今日は色々とごめんね〜。お詫びに彩の可愛い写真あげるよ〜』

 

 その下に送られていたのは、彩が頬を膨らませている姿……恐らく俺が羽沢さんや上原さんと話していた時の彩が映されたものと自分の胸に手を当てて何かを思い悩む彩の写真があった。

 

「えっ!? リサちゃんこんなのいつの間に撮ってたの!?」

 

 動揺する彩を余所に俺は無言で全ての写真をフォルダに保存し今井さんには「恩に着ります」とお礼を言っておいた。

 

「ちょっと消して! イサムくん今すぐ消して!」

「ヤダ」

「もー! イサムくんとリサちゃんの意地悪ー!」

 

 さっきまでの俺の中のしんみりした雰囲気は何処へやら。気がつけばそんなものは忘れていつもの笑顔が戻っていた。

 

 楽しい時間にも終わりが来る。それでもまた楽しい時間を新しく作るという楽しみを噛み締めたそんなひと時だった。

 

 

 

 

 

 

 

 後日……

 

「彩ちゃん、凄く嬉しそうにしてたわよ」

「あ、そうですか」

 

 俺は千聖さんに呼ばれてその時の話を聞かれつつ最近の彩の様子を教えて貰っていた。何しろ最近の彩はいつもより気合いが入っている様でバンド練習にも身が入ってるらしい。ただ相変わらず肝心な所で噛んじゃう「丸山とちった」は健在な模様。

 

「よっぽど嬉しかったのね。私と話す時良く惚れ気話を聞かされるわ」

「へえ〜…………もしかして羨ましいの?」

「そう見えるのかしら?」

 

 千聖は笑みを浮かべながらそう語った。最後の笑みは何処と無く恐怖を感じるまであったけど。

 大丈夫ですよ千聖さん。きっと貴方にもそのうち運命の人が見つかりますよ。………まあ、何となくその人を尻に敷いてるんじゃと思わなくもないけど。

 

「何か今失礼な事を考えなかったかしら?」

「いえ何も」

「そう? ならいいのだけど」

 

 相変わらず怖い笑みを崩さずに話を続ける千聖さん。やっぱり女優って凄いわ。

 

「ところで1つ俺からも質問いい?」

「何かしら?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………なんでまた会話をするのがCiRCLEのスタジオ(ここ)なの?」

 

 ようやく永らくの疑問を口にした。そう、今俺たちがいるのはかつて千聖さんが暴走してその口から放送禁止用語を放ったスタジオである。

 

「そうそう、1つ貴方に聞きたいことがあったの」

 

 そうして、千聖さんが放った言葉とは……

 

 

 

 

 

 

 

「胸ってどうしたら大きくなるのかしら?」

「は?」

「彩ちゃんが最近そう聞いてくるのよ。何か心当たりあるかしら?」

 

 再び素敵な笑顔で問いただしてくる千聖さんに俺は命の危険を感じた。

 

「……いや、それ他の人に聞いた方が良いのでは?」

「他に聞ける人がいないから貴方に聞いてるのよ?」

「…………もしかして千聖さん自身も知りたいんじゃ「お説教が必要かしら?」……スミマセン」

 

 何となくこの部屋が選ばれた意味がわかった様な気がした。確かにこれはカフェとかで話題のアイドル兼女優が発言しちゃいけない奴ですね。

 

 何となくだけど白鷺千聖という1人の女の子の側面を見れたような気がした今日この頃でした。

 

「大体貴方は発言の半分は原石そのままぶつけるの自覚してるのかしら? それに彩ちゃんがそこまで考えているのだからちゃんと彩ちゃんのアピールに気づいてあげなさいよ? ほら前も言ったでしょ? 『ピーーーッ!』の合図「あの? 水や風の流れのレベルでしれっと暴走するの止めてください?! 貴方は彩の母親かなんかなの!?」」

 

 時々こうやって暴走するのはどうにかしていただきたいものではあるけれどね?

 

 

 




これにてOVA:海編完結でございます。
永らくのご精読ありがとうございました。

一応これで完結ではなくまだやらなきゃいけないストーリーあるので気が向いた時に更新していこうと思いますので気長にお待ちください。
この小説の第2章もそのうちやr…………おっと、少し先の未来の予定まで語りすぎてしまいました。

最後に千聖推しの皆さんホント千聖さんの扱いがこんなですみません。反省や後悔はしてませんけど。

最後に良ければ小説への評価、コメント、作者のTwitterの方もよろしくお願いします。
https://twitter.com/kizukana_est?t=NnQvXZ7tbKf4oYiJ7vIa5w&s=09




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新年、2人の手と手

 

 

 空気が乾燥し、皆がその身を震わせる冬の真っ只中。寒がりなひとにとっては家の外から出ることも億劫な季節とも言えよう。

 しかし、そんな冬の半ばにはイベントが盛り沢山であるのが現実。特に12月後半から1月の上旬は忙しい限りだ。なんせクリスマスという冬の特大イベントが終われば僅か1週間で大晦日、そしてお正月という次の特大イベントが控えている。最早余韻に浸っている大人は少ないのでは無かろうか。

 そんなこともあり、この季節は友達や家族、恋人とのお出掛けやお正月には初詣やお店の福袋を買いに行く為に外へ出掛けなきゃいけない理由は色々とある。

 そしてこの男、佐倉イサムもまた寒さに弱い人間であり、神社の鳥居の前で手袋をした手に息を吹きかけながら友達を待っていた。

 

「おーい! イサム〜!」

 

 そこへ待ち合わせをしていた人物、藤代アキラと先田ミチルがやってきた。

 

「やっと来た……」

「いや〜、すまんな。ちょっと着付けに手間取ってしもうて……」

「でもなんでアキラと一緒に来てたの?」

「ああ、こっち向かってたらたまたまアキラ見つけてな。せっかくやし一緒に来たんよ」

「へえ〜……」

「まあ新年とはいえ物騒な事もあるからな。可愛い乙女の為にアキラには一緒に行動してもろうたんや」

「可愛い乙女って………振袖の格好で走ってきた上に人の腰を傷めさせた奴の台詞か? お前どっちかと言うとメスマウンテンゴリラだろ……」

 

 皮肉気味にアキラが呟くとミチルは目の前で拳を鳴らしていた。それを見たアキラは思わず彼女から目を逸らしたのだった。

 

「それはそうとイサム。あんたは今日はウチらと一緒でええんか? 彩といっつも一緒だったのに……」

「あ〜……、それがね〜……今年はなんか正月の番組の収録があったらしくて、今日はその足でパスパレの皆と初詣に行くんだって」

 

 イサムがそう言うとミチルは成程と言った感じで納得していた。

 

「まあ最近はパスパレも話題になる事が多かったからな。あいつらの頑張りの結果だろう」

「そうだよね〜」

 

 アキラの言葉にイサムは納得しつつ返答した。空を見上げながら何かを考えていたイサムだが、頬を叩くと「行こっか!」と2人を促して先に進んだ。

 

 

    ◆ ◆ ◆ ◆ ◆

 

 

 一方、丸山彩は神社でパスパレの面々と初詣を終え、御社殿の外れで日菜たちと談笑をしていた。

 

「あははっ! 彩ちゃんってば新年早々とちっちゃってるね〜!」

「うう〜……」

「もう……日菜ちゃんもあんまり彩ちゃんをからかわないの」

 

 相変わらず日菜にからかわれて涙目になっている彩。そしてそんな日菜に注意を入れている千聖。麻弥とイヴはそんな3人を見て苦笑いをしていた。

 

「それじゃ御参りも済んだことだし皆さんで神社を見て回りましょうか」

「でしたらワタシ、甘酒を飲みたいです!」

「あたしポテト食べたい!」

「もう、皆はしゃぎ過ぎよ」

 

 日菜たちと盛り上がっている中、彩は携帯の画面をみた。そしてそこにイサムからL〇NEからメッセージが来ている事に気がついた。

 

『あけましておめでとう! 今年もよろしくね!』

 

 綴られていたのはシンプルな新年の挨拶。彩は直ぐに返信のメールを送った。

 

「(イサムくん、もう御参り終わったのかな)」

 

 ここには居ない彼に思いを馳せ、空を見た。去年は一緒に初詣に行って神社に並んだ屋台などを巡っていたのだが、昨年はパスパレのお仕事も忙しくなり、気がつけば正月まで中々会えない時期が続いた。嬉しい限りではあるのだが、心のどこかでイサムの事を思い出す事も多かった。寂しくないと言えば嘘になるし、度々会いに行きたいと思うこともあった。

 そんな中、彩に一通のメッセージが届いた。そこには『俺はアキラ達と御参り行くから大丈夫。彩はパスパレの皆との時間を大事にしなよ』と綴られていた。

 

「(そうだよね。今はパスパレの皆といるんだから皆との時間を楽しまなきゃ!)」

 

 よしっ!と気合いを入れ直して顔を上げた彩。そんな時……

 

「彩ちゃーん? スマホずーっと見て何してるの?」

 

 目の前に移動していた日菜に声をかけられて彩は驚いていた。

 

「大丈夫だよ! ちょっと連絡が来てたの気づかなくて……」

「もしかしてイサムくん?」

「へ……!? ち……違うよ?」

「え〜? でも彩ちゃん、なんか恋する女の子みたいな目してたよ?」

「え? 私、そんな目してた!?」

「ううん、してないよ?」

「え?」

「あ、やっぱりしてたかな〜?」

 

 悪戯っぽく笑う日菜に「からかわないでよ!」と彩は抗議していた。

 

「日菜ちゃん、そこまでにしてあげたら?」

「はーい」

 

 千聖の静止によって日菜は彩をからかうのを止めた。

 

「それにしてもホント彩ちゃんはイサムくんにゾッコンよね」

「ソウシソウアイって感じで微笑ましいです!」

「もおー! 千聖ちゃんとイヴちゃんまでー!」

 

 千聖とイヴの何気ない言葉にも彩にとっては恥ずかしいと言う感情を膨らませていた。

 

「でも確かにココ最近、忙しかったからですからね……。彩さんは特に頑張ってましたし……」

「うん、でもまたいつか会えるって信じてるから大丈夫だよ!」

 

 彩は満面の笑みを浮かべてそう言った。

 

「そういえばさ〜、さっきイサムくん見かけたよ〜?」

「えっ!? 本当に!?」

 

 日菜の言葉に彩が飛び付くように反応していた。

 

「あ、でも……」

「彩ちゃん、私はこれから行かなきゃいけない用事思い出したの」

「へ?」

 

 彩が迷っていると千聖は突然そう言い出した。

 

「ジブンも……です」

「ワタシももう少しお寺の方を見て回ります!」

「じゃああたしもおねーちゃんのところ行ってくるよ!」

「へ……? へ?」

「あら。じゃあ今日はもう解散にしようかしら」

 

 千聖に続くかのように麻弥、イヴ、日菜もそれぞれ自分の用事を思い出したと言い始め、そのまま解散する様に千聖が促した。そんな光景を目の当たりにしていた彩はひたすら困惑していた。

 

「……彩ちゃんも自分の用事、あるんじゃないの?」

「………うん!」

「ふふっ、じゃあまた今度ね」

 

 千聖がそう言うと4人はその場で自分たちが向かうべき場所に行った。

 彩はそんな4人に「ありがとう」と呟くと、スマホを取り出してある人にメッセージを送った。

 

 

    ◆ ◆ ◆ ◆ ◆

 

 

 彩は狛犬の近くに移動していた。そして辺りをみながらある人物を待っていた。

 

「彩!」

 

 声のする方を見るとそこには彼女が呼んだ人物……佐倉イサムがいた。

 

「イサムくん! 」

「久しぶり。それと……あけましておめでとう」

「うん、あけましておめでとう!」

 

 2人の間にはその後、暫しの沈黙が流れたがそんな中でイサムがそれを破った。

 

「それにしてもどうしたの? 今日はパスパレの皆と一緒にいたんじゃ……」

「それが……皆用事を思い出したみたいで……」

「え? 彩の方も?」

「え?」

「実はアキラとミチルもなんか用事思い出したって言っちゃって……」

「そ……そっか……」

 

 偶然が重なり2人は苦笑いをしていた。それと同時に「今度何か皆にお礼しないとなぁ」と思った。

 

「それにしても今日、振袖で来たんだね」

「うん、どう……かな?」

「似合ってるよ」

「ふふっ、ありがとっ!」

 

 久しぶりの彩の笑顔に見とれそうになったイサムだったが、何とか自分の心を取り乱さないようにしていた。

 

「初詣、終わらせたんだっけ?」

「うん」

「じゃあ……甘酒でも飲みに行く?」

「うん!」

 

 よしっ!と意気込むとイサムは彩の手を取り、屋台の方へと進んだ。

 

「……イサムくん」

「ん?」

「今年もよろしくね!」

「うん、こちらこそ」

 

 イサムと彩はそう言うとお互いの顔を見て笑いあった。

 元旦であってもとても寒く、油断をすれば身震いをしてしまう程だったが、2人の手にはそんな寒波すら感じなくなる程の温もりが互いを温めあっていた。

 

 




あけましておめでとうございます!
2022年もよろしくお願いします!


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錯綜Ⅰ︰心弾む放課後デート

 

 

「イサムくん! このクレープも美味しいよ〜! はい!」

「いや、ちょっと彩? 近い近い……」

 

 今俺は、彩と放課後デート的な事をやっている。というのも、突然呼び出され「久しぶりだし2人で放課後デートしよっ!」と提案された。まあ最近彩はアイドル活動略してアイ〇ツに精を出していたし、俺もKINGDOMでのライブに向けて頑張っていたから中々会えない日が続いていたのでいい機会かもしれない。

 

 それにしても……

 

「なんか距離近くない?」

「えへへ〜、最近会えなくて寂しかったからつい……」

「そっか……」

 

 なんか今日の彩は変な感じがするのは気のせいか……?

 

 

 とりあえず、なんでこうなってるのか……。

 それは……。

 

 

 

     ◆ ◆ ◆ ◆ ◆

 

 

 

 〇月□日、今日も快晴。なんて事ない普通の日。

 バンド練習は各々の予定が合わず個人練習という事に。とりあえず家に帰って、ギターのチューニングと譜面の確認でもしとこうかな……と思っていると突然、スマホがブルブルと震えた。どうやらマナーモードにしたつもりがバイブモードになっていたらしい。

 

「えっと……彩から?」

 

 その内容は「これから会えないかな? 放課後デートしよっ!」とのこと。

 彩とは最近会えない代わりにメッセージアプリでの通話やメールのみのやり取りになっていた。今日は特に個人的な用事も無いので了承の意を伝えるとすぐに待ち合わせ場所についての情報が来た。相変わらず返答が早い。

 

「さて、行きますか」

 

 スマホをポケットにしまうと鞄を担ぎ、教室を後にした。

 

 

 

 指定の場所は駅前の噴水付近だった。そこに行くと既に彩は待っており、俺に気がつくと駆け足で向かってきた。

 

「イサムく〜ん! 久しぶりっ!」

 

 と思ったらそのまま俺の腰に抱きついてきた。

 

「いやちょっと彩!? 待って待って!!」

 

 直ぐさま彩を引き離し、周りを確認した。幸いこの時間は人が多く無いのでさっきのは大丈夫だと信じたい。

 

「どうしたの?」

「どうしたのじゃないよ! 彩、自分がアイドルだって自覚ある!? もし問題になったらどうするの!?」

「え〜! 久しぶりに会えたんだしイサムくんの事肌で感じたいもん! それに、私たちの事務所は恋愛NGって訳じゃないし!」

「いやいやそういう問題じゃないでしょ! パパラッチなんかに掴まれるとある事無い事好き勝手に書かれるんだから!」

「は〜い」

 

 これに関しては千聖さんからも口酸っぱく成程言われている。恐らく彩の方にも忠告は行き届いてる筈だが……。

 

「兎に角、まずは何か変装グッズ買ってくよ」

 

 と、言うことで先ずは身近のファッションショップに行き、変装出来そうなものを探す。定番所と言えばサングラスや帽子だろう。しかし、サングラスは帰って目立つ可能性もあるからな……。

 

「ねぇねぇ、これ良くない?」

 

 彩が持ってきたのは……星型のサングラス。予想的中と言うべきか案の定と言うべきか……。

 

「うん、それパーティーグッズだから返って目立つよね?」

「え〜、面白いと思ったんだけどなぁ」

「とりあえずそれは返してこよっか」

 

 ちぇ〜と口をしぼめながら元にあった場所にサングラスを返却した。

 とりあえず目立たないように唾が大きめの黒い帽子を購入した。これで目元は隠れるだろうしなんとかなる筈。

 

「それで、今日はどこに行くつもり?」

 

 その後、何処へ行くか2人で話し合った所ショッピングモールに行くことになった。

 先ずは雑貨屋さんに向かい、店内のグッズを見て回った。

 

「イサムくん、これ面白くない?」

「……牛のぬいぐるみ? あ、でも可愛いかも」

 

 そのぬいぐるみは牛がくたっと寝そべっているもので、牛の瞳も気だるそうではあるがそれがまた愛嬌になっている。

 

「それもそうなんだけどさ〜。ほら、この牛さん乳ついてるよ!」

「あ、ホントだ」

「乳の着いた牛のぬいぐるみって珍しいよね〜! 私、なんかr………おっと」

 

 着眼点そこなんだ……と思いつつ、確かに面白いなと感じた。ただ、お値段が4000円と中々な物だったので今回は渋々その場をおさらばせざるを得無かったとさ。

 

 次に出向いたのはゲームセンター。正直人が多そうな場所は避けたかったのだが彩がどうしてもと聞かなかった為、俺から絶対に離れないという条件の元行動している。

 

「ほらほら!こっちだよー!」

 

 彩に誘われるがままに向かったのはキラプリ。そういえば前にも一緒に撮った事あったなぁ。

 中に入り、以前と同じように写真を撮っていく。前よりも写真写りは良くなってる気がするが詳しいことは分からない。

 

「そう言えば前にもこうやってキラプリ撮った事あったよね」

「え? うん、そうだね!」

 

 彩は「そんなこともあったね〜」と思い出したかのように画面を操作していく。相変わらずこういう盛り方というか写真の見せ方については手馴れているなぁ。

 

「よし、これでバッチリ! イサムくん、どうかな?」

「……え? うん、いいと思うよ」

 

 俺がそう言うと直ぐさま決定のボタンを押し筐体の外に出る。出てきた写真は……まあ女の子らしいと言うかなんというか。ただ盛り方を熟知しているか手に取ると改めて彩の完璧過ぎる技術に驚くばかりだ。

 

「あっ! このクレーンゲームの景品面白くない?」

 

 再び彩に手を引かれてクレーンゲームのコーナーへと足を運ぶ。やれやれ、今日の彩はなんだか1段と積極的だなぁ……と思わず笑みを零してしまいそうだ。

 

 

      ◆ ◆ ◆ ◆ ◆

 

 

「あっ! あのクレープ屋さん気になってたんだ〜。イサムくんっ! 食べていこうよ!」

「え? この間千聖さんからライブも近いし甘いものは無闇に与えるなって釘刺されたんじゃ無かったの?」

「大丈夫大丈夫! あ、日菜ちゃんにこの間教えて貰ったんだけど……クレープってゼロカロリーなんだよ?」

 

 わー、なんだろ。凄く嫌な予感しかしない。

 

「まず、クレープのフルーツってビタミンやミネラルも豊富だし実質野菜に近いから身体に良い。次にクレープの生地は薄く伸ばして焼くから熱と圧力によってカロリーは消滅するからゼロカロリーなんだ!」

「へえ〜、じゃあクリームは?」

「クリームは固める時に冷やすからその温度にカロリーは耐えられずに消滅するし、白いものは大体ゼロカロリーなんだよ!」

「要するにカロリーはウイルスみたいなものだと?」

「うん!」

「んな訳あるか!」

 

 流石に暴論が過ぎるぞと心でツッコミを入れる。どこぞのお笑い芸人さんじゃ無いんだから。

 

「まあ、ちゃんと運動するし大丈夫だよ〜」

「……はぁ、何か言われても知らないからね」

 

 そのまま溜息をつきながら彩の我儘に付き合う事に。クレープ屋のワゴンで俺はスフレココアクレープ、彩はいちごバナナクレープを注文してベンチに座って食べることに。

 

「う〜ん、ずっごい美味しい!」

「まあ、女の子がよく甘いものは正義なんて言ってるのがわかる気がする」

「イサムくんっ! そのマシュマロクレープもひと口ちょうだい!」

「えっ? まあ良いけど……」

 

 彩にクレープを差し出すとそのままかぶりついた。

 

「う〜ん! マシュマロがトロッとしてて美味しい〜!」

 

 声や表情から本当に美味しいのが伝わってくる。本当にこの子は素直と言うか純粋と言うか……。

 

「ほら、イサムくん! このクレープも美味しいよ〜」

「えっ……ちょ……彩、近い近い……」

 

 彩は顔を近づけてクレープを突き出してきた。この子、自分の顔がいい事自覚してやってる?……いや、それは無いか彩だし。

 言われるがままに彩のクレープもひと口頂くと口の中でクリームとバナナの甘みといちごの程よい酸味が口に広がった。

 

「あ、美味しい」

「でしょ〜? えっと……日菜ちゃん的に言うと『るんっ♪』って感じだね!」

「……だね〜。あ……彩、口にクリームついてるよ」

 

 そのまま彩の頬に着いたクリームを指で拭き取った。のはいいが、このクリームどうしようか……。

 

 うん、仕方ない。

 

 そのまま指に着いたクレームを舐め、その手はちゃんとハンカチで拭き取った。

 

「えっ……えっと……」

「えー……その……ご馳走様?」

 

 その言葉を思わず口にしてしまった事で俺は少しこっ恥ずかしくなる。しかし、頬を赤くして口をモゴモゴしていた。

 

も〜、そう言うのずるいよ〜

「ど……どうしたの?」

「へ? な、何でもないよ〜」

 

 それからクレープを食べた後はモールの庭園を散策して写真を撮ったり、色んなお店を周ったりと楽しい時間を過ごした。

 今日の彩は久しぶりに会ったからか何時もよりテンションが高く、何時もより我儘な気がしたがそれはそれでありかもしれない。

 

 そして気がつけば時間は5時30分を過ぎ、店内のBGMも少し変わり始めた。

 やれやれ、遊んでる時間があっという間に過ぎてしまうこの現象はどうにかならないものだろうか。

 

「ん〜! 遊んだ遊んだ〜!」

 

 背筋を伸ばすように両手を高く上げる彩の姿を見ながら俺は彼女の顔を見た。

 

「イサムくんっ! 今日はありがとうねっ!」

「いやいや久しぶりだしね〜」

「うんっ! またいっぱい楽しい事したいね〜!」

 

 さて、彩も満足してくれたみたいだしこれまでの穴埋めという訳では無いが彼女を笑顔に出来て良かった。その姿を見れて俺も役得ってもんだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 と、言いたい所だけど。まだそう結論づける訳にも行かない。

 

 やっぱり本人の口から直接確かめる以外にこの違和感の正体(・・・・・・・・)を突き止める方法は無いだろう。

 

「ねぇ、彩」

「ん〜? どうしたの〜?」

 

 俺は軽い足取りで前を進む彩を呼び止め、1つの質問をした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「君は、本当に彩なの?」

 

 

 

 




前回投稿日→2022年1月1日
今日→2023年3月10日

久しぶりだなぁ! 元気してたかぁ!?

はい、という訳で474日ぶりの投稿となりまぁす。きずかなです。
久しぶりの今回、ほのぼのの甘々恋愛小説家だと思った?
残念!実は色々と謎を作って見ました!
さて、イサムくんと一緒にデートしていた彩ですが……皆さん、何か感じたことはありますか?まあ、多分分かりにくいんじゃないかな〜とは思いますけど……。逆にわかったらまじで凄いです。
果たしてイサムの言葉の真意は何なのか、是非とも予想しつつ次回まで首を長くしてお待ちください。

次回は早めに更新するよ〜。
多分。


私の承認欲求モンスターを笑顔にすると思って良ければコメント、高評価、Twitterなどよろしくお願いいたします!
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次回もお楽しみに!


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錯綜Ⅱ︰謎解きはトラブルの後で


ご無沙汰してます(4ヶ月ぶり)

ようやく種明かしです。




 

 

「君は誰なんだ?」

 

 突如としてイサムは彩にその言葉を発した。

 

「何言ってるのイサムくん。私は私だよ〜。まん丸お山に彩りを! Pastel Palettesのふわふわピンク担当! 丸山彩でーす♪」

 

 それに対して彩は「イエイ!」という自前効果音と共に持ち前の決め台詞とポージングを披露した。

 しかし、そんな様子を見てもイサムは変わらなかった。

 

「も〜、イサムくんってば変な事言うよね。私はどこからどう見ても丸山彩だよ?」

「でもさ、なんか……違うんだよね」

「む〜……。何が違うの……?」

 

 煮え切らないイサムの反応に、彩は不満を露わにする。

 

「何点かあるんだけど、まずさ……いつもと見てるところが違ったんたんだよね。例えば牛のぬいぐるみの時……どういう理由て興味を持ったの?」

「え? あの牛さん面白かったじゃん! ほら乳ついてたし」

「はいそこ」

 

 彩の発言にイサムが指摘した。

 

「彩の基準で言うと多分そういう所には最初に目を付けないと思うんだよね。それよりもまず『可愛い』とかそう言うのを見ると思う」

 

 イサムの判断ポイントとして最初に上げたのは『彩が何かを見た時に「面白い」を優先する可能性は低い』という事。そもそも彩は「可愛い」や「映え」等に重きを置くことが多い。

 

「それは流石に偏見過ぎない? 私だって面白いもの好きなんだけどな〜?」

「じゃあ2つ目の推測。キラプリの時、俺が前に2人で撮ったって言った時……なんか覚えてなさげだったよね? あれはどういうこと?」

「も〜、そんなこと? 私だって人間なんだしちょっと記憶が抜けることあるでしょ?」

「う〜ん、彩がそういう事忘れるとは思えないんだけどな〜。それに……最後に盛る時、結構早めに完成させていたけど……」

「よくキラプリに行ってるから手慣れてるんだよ」

 

 彩はそう返答するが、イサムは合点が行かないと言わんばかりに彼女を見た。

 

「彩はいつも『あーがいいかこーがいいか』って時間ギリギリまで悩んでるから、あっさりと決めたのは今回が初めてなんだよね」

「……ねえ、流石に疑い過ぎじゃない? 幾らイサムくんでも私、怒るよ?」

 

 その推測に彩は遂に苛立ちのような雰囲気を出していた。

 しかし、イサムは変わらずに彩を真っ直ぐに見つめていた。

 

「まあ、他にも確認したい事はあるけど……とりあえず彩は俺と会った時、万が一の為に合言葉を決めてるんだよなぁ〜。君が彩なら覚えてるよね?」

「も……勿論だよ!」

「じゃあ行くよ? 『まん丸お山に』?」

「『彩りを』でしょ?」

「ぶっぶー。正解はまん丸お山に輝きをでした」

「え〜!? そんなの引っ掛け問題じゃん!」

「あ、それと……実は合言葉を決めてるのも嘘だよ?」

「……え?」

「さっきから振り回されてばっかりだね。因みにさっきの嘘もまた嘘だって言ったら……どっちを信じる?」

 

 イサムのハッタリに振り回されて彩は冷や汗を流していた。一方、イサムは決定打を得たように「してやったり」という表情をしていた。

 

「はあ〜、流石イサムくん。彩ちゃんの事になると敵わないなぁ〜」

 

 その時、遂に彩の姿をした人物は深く息をつき「あ〜あ」と遠くを見ていた。

 

「それで? 君は誰なの……って言いたいところだけど、何となく検討はつくんだよね」

「へえ〜、あたしが誰かもう見破ってるんだ?」

「見破ったって言うよりあくまで推測だけどな。……日菜でしょ? 君」

 

 そう言うと彩……改め日菜はニヤッと笑いながらイサムの方を向いた。

 

「へえ〜。そこまでバレてたなんてね〜。

 でもなんであたしだって思ったのかな?」

「仮に変装だとしたら1番背丈が近いのは日菜だし、何よりここまで雰囲気近づけられるとしたら日菜か千聖さんくらいだからね。麻弥さんとイヴちゃんは純粋だからウソとかつけなさそうだし」

「ふーん。それはあたしと千聖ちゃんがよく嘘をついてるって言いたいのかな〜」

「演技の賜物とでも捉えといてよ。

 ただ、1つまだ分からないことがあるんだよね」

 

 若干不服そうに日菜は言い放つがイサムはそれを適当にあしらった。しかし、イサムにはまだ解けていない謎があった。それは……

 

「今の日菜は彩のコスプレしてる訳じゃなよね。ウィッグを付けてる訳じゃなさそうだし」

「うん。正真正銘、丸山彩だよ〜」

「一体それどんなトリック使ってんの?」

 

 何を聞いてものらりくらりと受け流す日菜に訝しむイサム。そんな中、イサムのスマホにある人物から着信が入った。

 

 

 その相手は麻弥だった。

 

「はいもしもし」

『イサムくん、単当直入に要件を言うわ。

 

 そこに日菜ちゃ……コホン、彩ちゃんはいるかしら?』

「……えっと、麻弥さん? なんで千聖さんみたいな喋り方してんの?」

『それより先に私の質問に答えて頂戴』

「その強引な進め方……、なんか千聖さんっぽいね。日菜はここにいるよ。見た目は彩だけど」

『そう……分かっているなら話は早いわ。はあ……とりあえず暫く日菜ちゃんとそこで待っててくれるかしら?』

「良いけど一体何がどうなって『プッ』あ、切った」

 

 イサムが質問する前に麻弥?は電話を切った。そんな様子に「なんか訳ありみたいだけどなんでいっつも肝心な事説明してくれないのかなあの人は」と不満を零していた。

 

 

 

 

 

 

 

「イサえもーーん!! 助けてーーー!!」

「誰が青色の耳なし猫型ロボットじゃ」

 

 その後、2人の元にパスパレの残りの面々が現れたと思ったらイヴは泣きながらイサムへと抱きついた。

 

「ようやく……見つけたわよ、日菜ちゃん」

「探すのも一苦労ですよ……」

「千里の道も一歩からとは言いますが……流石に疲れました……」

 

 上から麻弥、日菜、千聖……なのだが、どこか様子がおかしい。

 麻弥は千聖のように振舞っているし、日菜も麻弥のような仕草がみられ、千聖はなんだか「ブシドー!」って感じになってる。

 そしてイヴは……

 

「でもちゃんと私じゃ無いって見抜いててくれて良かったよぉぉ!! もし気づかれてなかったらわたし自信無くしちゃいそうで……」

「あははっ! 彩ちゃん、本物じゃないって気づいて貰えて泣いてるよ〜!」

「元はと言えば日菜ちゃんが勝手に飛び出すから!」

 

 イヴはやけにイサムに抱きつくし、そんな様子を彩(日菜)は面白そうに笑っている。

 

「ん? 今イヴちゃんのこと、彩って言った?」

 

 さっきから感じていた違和感。そして各々の名前と見た目が一致しない事。それらを踏まえてイサムは「もしや」という表情を浮かべた。

 

「ええ、私たちは……」

 

 

 

 

 

 

 

 

入れ替わってるのよ(・・・・・・・・・)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あーなるほどそーゆーことね完全に理解した」

「その言い方は分かってない人の言い方よ」

 

 麻弥(???)によるカミングアウトにイサムの思考は数秒間停止。そのコンマ数秒間、彼の頭の中には広大な銀河が展開されていた。

 

「とりあえず事の経緯の説明お願いしてもいい? ……えっと……麻弥さん?」

「私は千聖よ」

「ジブンはこっちです」

「ややこしいな……」

 

 麻弥に説明を求めるとそれは千聖で、一方で日菜が麻弥だと主張する。

 イサムの思考が混乱する最中、麻弥(千聖)はこれまでの経緯について触れた。

 

 

 

 

 

 

 

 数時間前(時を戻そう)

 

 Pastel*Palettesが所属するアイドル事務所の一室、今日もまた彩たちがレッスンに励んでいた。

 

「それじゃあ今日はちょっと早いけどここまでにしましょうか」

 

 麻弥の一声によって、他の4人は頷きスタジオの片付けや清掃へと取り掛かり始めた。

 

「(思ったより早く終われたし今日はイサムくんに連絡してみようかな〜。最近レッスンやお仕事増えて会えることが少なくなってたし、デートとか出来たら嬉しいな〜)」

 

 そんな中、彩の頭の中はイサムのことでいっぱいになっていた。

 どちらも学業がある上に、彩はアイドルのレッスンや芸能の仕事もあり、イサムもまたバンドの練習がありどちらも中々会えずにいたのだから無理もないだろう。

 

「あ〜やちゃん!」

 

 そんな彩に後ろから飛びつく少女が1人、氷川日菜だ。

 

「これからイサムくんと会うの?」

「ひ、日菜ちゃん!? べっ、別にそういう事じゃ……」

「え〜? す〜っごく楽しそうな顔してたのに〜」

 

 何時ものように彩から面白そうな気配を感じたのか日菜はそう言った。

 

「それにしても彩ちゃんってイサムくん関わると凄く面白くなるよね〜」

「え? 私そんなにわかりやすい……?」

「うん!」

 

 日菜の言葉に彩は「嘘でしょ!?」とばかりに壁紙で自分の表情を見ていた。そんな中、日菜は何か考え事ていた。

 

「もう、2人ともおしゃべりばかりしてないで早く片付けをして頂戴」

 

 千聖から注意を受けて、2人はスタジオの清掃を再開した。

 日菜と彩はそれぞれモップを持ち、千聖達が集まっている所へ向かっていた。

 

 スタジオの掃除が終わり、5人は着替えて帰宅しようとしていた。

 途中、トイレに行っていた他の4人から遅れて合流。全員揃ったところでスタジオを後にしようと足を進めていた。

 

 その時だった。

 

「あっ……」

 

 彩が階段から足を踏み外し、その勢いで前方に倒れ込む。

 後方にいた千聖が彩を掴み引き留めようとするが倒れ込む勢いに負けてしまい、そのまま前方にいた日菜、麻弥、イヴを巻き込み5人は勢い良く階段から転げ落ちてしまった。

 

「い……いたた……」

「み、皆さん大丈夫ですか……?」

「うう……、みんなごめんね?」

「彩ちゃん……もっと気をつけて歩きなさい? そのうち怪我するわよ?」

「でも千聖ちゃんも……ん?」

 

 そんな中、各々は違和感を感じた。

 自分の口から発される自分じゃない聞き覚えのある声。髪の長さや胸部の感覚などの異質感。

 

 そして何より……

 

 

 自分が目の前にいるという状況。

 

「え? え? え!?」

「ジ……ジブンがもう1人!?」

「な……なんだか胸元が重いような……」

 

 突然の状況に困惑する5人。自分の体を触ったり、目の前にいる自分自身を見つめたりなど反応はそれぞれだった。

 

「ねえねえ! あたしって今誰なの?」

「え? ジ……ジブンは麻弥です!」

「へえ〜」

「も……もしかして私の体にいるのって……」

「あたしだよ!」

「彩ちゃん! 今は騒いでる時じゃ……」

「千聖ちゃん、私はこっちだよ!」

「え? イヴちゃん……?」

「ワタシはこっちです!」

 

 どうやら現在、

 

 彩→イヴ

 日菜→彩

 千聖→麻弥

 麻弥→日菜

 イヴ→千聖

 

 というように、精神が入れ替わっているようだった。

 勿論、5人は信じられないと思ったが現にその現象が起きている以上信じるしかないのもまた事実。

 

「つまりあたし彩ちゃんになれたんだ! おもしろーい!」

「彩ちゃん、何度も言うけどはしゃいでる場合じゃ無いのよ」

「だから私はこっちだよ!」

 

 そんな現状に麻弥(千聖)は「やりにくいわね……」と零し頭を抱えた。

 

「と、とにかく! 今は元に戻る方法を探しましょう!」

「そうだね!」

「恐らく……階段から転げ落ちて頭か何処かを強く打ったのが原因かしら?」

「でしたら……やはりもう一度同じようにするのがテキセツでしょうか?」

「どうでしょう……。確実に戻れる保証はありませんが……」

「そうね。下手に同じことをしても怪我をして終わりよ」

「じゃ……じゃあどうすれば……

 ……ってあれ? 私……えっと、日菜ちゃん?」

 

 そんな中、イヴ(彩)は自分の体……もとい彩(日菜)がいなくなっているのに気がついた。

 

「皆! 日菜ちゃんがいない!」

「「「ええ!?」」」

「不味いわね……。日菜ちゃんはこの状況を楽しんでいるから何かしてしまう前に見つけないと」

「さ、探さないと! 私のあらぬ噂が!!」

「とりあえず二手に別れましょう! 私と麻弥ちゃんは商店街側、彩ちゃんとイヴちゃんは学校側に行って!」

「うん!」「分かりました!」

 

 突然の出来事に驚愕する一同。

 しかし、こうなったら探すしかないと行動を開始したのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……というのが全てよ」

「嘘だろ?」

「なら試してみる? そこにいるイヴちゃんは彩ちゃんだけど……」

「いや、信じるけどさ……」

 

 先程からイサムの腰にしがみついてるイヴ……もとい彩。流石のイサムもイヴが親しい相手とはいえ、男性にこんなことをするとは思えない事や先程の彩……もとい日菜の様子から信じるしか無かった。

 

 

「それでみんなは日菜を追ってきた……と」

「連絡しようにも……皆違うスマホでしたし……ジブンのスマホを千聖さんが持っていてくれて助かりました……」

 

 偶然、麻弥(千聖)と日菜(麻弥)で行動していた為、千聖が麻弥のスマホを使ってイサムに連絡を取れた。

 そのおかげもあり、こうして無事に合流出来たとの事。

 

「まあ、お疲れ様です。…………それで」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「皆、これからどうするの?」

「「「「「え?」」」」」

「いや、入れ替わったままで生活できるの?」

 

 イサムの一言で……パスパレの5人は忘れていた重要事項を思い出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そう、これからどうするか。

 

 どうやって元に戻るか……。

 

 

 

 

 





「「待ちなさーい!」」
きずかな(あの作者)、前編から4ヶ月も感覚空いたと言うのに後編の内容が長くなったからって文章をふたつに区切って残りを次回に回すつもりよ!」
「そんなの許さないわ!」



というわけでこのまま行くと9000字超えるので中編となりました。
今回の謎解き(?)はいかがでしたでしょうか? 彩の判断基準とかは完全に私の考察と独断と偏見です、ハイ。
この展開予測出来た人は是非名乗り出てください笑

それでは次回、後編でお会いしましょう。
今度こそ、今度こそ早めに投稿致しますので是非高評価、コメントなどよろしくお願いします。


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錯綜F︰嵐の行く末


報告
今回のストーリーの繋がってる話をわかりやすいように関連ストーリーのサブタイトルを変更しました


 

 前回のあらすじ

 「君の○は。」

 以上。

 

「イサムさん、それ……あらすじになってないんじゃ……」

「いや、でもこれ詳しく説明してたら日が暮れるって。とりあえず詳しく知りたい方は前回のストーリーを閲覧してください」

「しれっと宣伝挟みましたね……」

「そんなことより本編に戻らないと……」

「ああ……」

 

 イサムと日菜(麻弥)の視線の先では、イヴ(彩)が彩(日菜)にすごい顔で迫っており、麻弥(千聖)は溜息をつき、千聖(イヴ)はオロオロしていた。

 

「日菜ちゃん! イサムくんに何したの!? 変なことしてないよね!?」

「も〜。心配しなくてもちゃんと彩ちゃんとイサムくんがいつもしてそうな事をしただけだよ〜?」

「いつもしてそうなことって何!? ま……まさかキスとかしたんじゃ……」

「あ、やっとけば良かったかな〜?」

「ダメ! 幾ら私の体でもそれは絶対許さないから!!」

「とりあえず2人とも、一旦そこまでにして……熱っ!」

 

 イヴ(彩)と彩(日菜)は口論を始めており、イサムでは割り込めないようになっていた。しかも、両者の視線の間に手を突っ込もうものなら火傷仕掛ける始末である。

 

「と、とにかく! 今は何とかして元に戻る方法を探しましょう!」

 

 一旦は日菜(麻弥)が仕切り直してくれた事で何とかその場は落ち着いた。

 

「それにしてもどうすんの? これ」

「やっぱり……もう一度同じことを……」

「彩ちゃん、それは危険が高いわ」

 

 各々が考えを言い合っている中、またしても彩(日菜)だけは黙りを決めていた。

 

「うーん、こういうのって意外なことがきっかけになったりするんじゃない?」

「それはどんな事ですか!?」

 

 そんな彩(日菜)の言葉に千聖(イヴ)が問いかけた。

 

「例えば……」

 

 

 

 

 

 

 

 

「白雪姫みたいに誰かのキスとか?」

 

 ニヤリと笑いながら彩(日菜)が口にしたのは爆弾を投下するような言葉だった。

 ……主にイヴ(彩)に。

 そして瞬時にイサムは確信した。

 

 あ、これ明らかにからかったら面白そうって思ってるわ……と。

 

「日菜ちゃん……今はふざけてる場合じゃ……」

「そ、そうだよ! それにそんなことぜったい許さないって言ったよね!?」

「あたしは至って真面目だよー?」

 

 彩(日菜)はそう言うが、明らかに悪巧みをする様な表情でありそれを察したイサムは密かに背を向けて歩き出していた。

 

「と、言うわけでイサムくん! 試しにあたし達でやってみようか!」

 

 イサムは「やっぱりそう来たか……」とため息を着く。

 

「大丈夫大丈夫! あたしは今彩ちゃんの身体な訳だし!」

「ぜっんぜん大丈夫じゃなーい!」

 

 イサムへと迫ろうとする彩(日菜)、そしてそんな彩(日菜)を全力で止めようとするイヴ(彩)。

 

「(……この展開で1番俺が取るべき行動は……

 

 ま、決まってるよねぇ……)」

 

 イサムはこの時、何かを決した。

 

 そして……

 

 

 

 

 

 

 

 全力で走り出した。

 

「あ、イサムくんが逃げた!」

「日菜ちゃん! 今回ばかりはほんとにダメーッ!」

 

 イサムを追いかけて走り出す彩(日菜)、そんな彼女を追いかけるイヴ(彩)。そして、千聖たち3人も後を追った。

 

 それから彼らは人通りを越え、歩道橋の元へと到達しようとしていた。

 

「まてーーー!!」

「あれ? 彩の身体なのにやけに速くない!?」

 

 今の日菜は彩の身体のはずなのだが、やけに足が速い。このままでは追いつかれてしまう。

 

 そんな時……

 

「待ってーー!」

 

 後方からものすごいスピードで追いかけてきたのはイヴ(彩)だった。

 イヴの身体能力故かその精神力故か、こちらも物凄いスピードで差を縮めてきた。

 

 自体は混戦を極め、最早徒競走のような状態になっていた。

 歩道橋を上り距離を取ろうとするも、彩(日菜)との距離が縮まらない。

 

「て、なんで日菜はそこまでこだわるのこれに!」

「だって面白そうだもん!」

「それだけ!?」

「うん!」

「それはそれでどんな思考してんだアンタ!?」

 

 そろそろ底をつきそうな体力で階段を駆け上がる。

 彩(日菜)もまたイサムを追いかけていた。そして彼女の体力はまだまだ余裕そうだ。

 

 これは……さすがにヤバいかも。

 

 イサムがそう覚悟を決めた時……

 

「つ、捕まえたっ!」

 

 そう声を上げたのは……彩(日菜)を追っていたイヴ(彩)。彼女は既に彩(日菜)の後ろに回り込んでおり、その腕を掴んでいた。しかし、その表情は悪魔か、ゾンビか……今をときめくアイドルがしていいものでは無かった。

 そして、そんなイヴ(彩)のは既に息を切らしており、足はフラついていた。

 

 

 さて、そうなるとこの後どうなるか……皆さんはお分かりだろうか……。

 

 

「あっ……」

 

 イヴ(彩)は盛大に体制を崩し、後方に倒れ込んだ。彼女に腕を掴まれていた彩(日菜)もまた、引き込まれるように体制を崩し……

 

「「きゃああああああああああああああ!!!!!!」」

 

 そのまま2人は階段から転げ落ちた。

 

「や……やっと追いついたわ……」

「あ……あの〜」

「マヤさん?」

「彩さんたち……なんかこっちに落ちてきてませんか……?」

「……へ?」

 

 千聖たちが驚くのも束の間、転げ落ちてきた2人に巻き込まれ……そのまま衝突。

 それを上から見ていたイサムは「凄い漫画みたいな展開だな〜」と唖然していたが、とりあえず彼女たちの様子を見に行く。

 

「みんな〜、大丈夫?」

 

 

 

 

「いたたた……」

「皆さん、お怪我は無いですか?!」

「な……何とか平気です……」

「あたしも大丈夫!」

「もう彩ちゃんに日菜ちゃん! ……ってあれ?」

 

 上から喋ったのは彩、イヴ、麻弥、日菜、千聖の順。

 それぞれ喋り方も雰囲気もこれまでのように一致していた……。

 

 つまり……

 

 

 

 

 

「「「「「も、戻ったぁぁぁぁぁ!!」」」」」

 

 どうやら先程の衝撃によって元の肉体に精神が戻ったようだ。

 それぞれが自分の身体の感触に安堵を感じ、互いに喜びを分かちあっていた。

 

「えーっと……これで一安心なのかな?」

「やったよイサムくぅぅぅぅん!!!」

「あ、これ間違いなく彩だ」

 

 状況を理解しようとするイサムに感極まった彩が抱きついた。

 

「戻っちゃったか〜。あたし的にはちょっと残念かな〜」

 

 そんな中、嬉しい半面先程までの状況を楽しんでいた日菜が言葉を零した。

 

「日〜菜〜ちゃ〜ん〜!!」

 

 そんな日菜に今回ばかりは我慢の限界だったのか彩は鬼のような形相で迫っていた。

 しかし、そんな状況ですら「彩ちゃんの顔おもしろーい」と流してしまう辺り流石日菜とでも言うべきか……。

 

「まーでも今日は楽しかったよ、イサムくん!」

「こっちとしてはちょっとアレだったけどね」

「ふーん。じゃあまた面白そうなことあったら遊びに行くね!」

 

「じゃあお姉ちゃんがおうちで待ってるからあたし帰るね〜」と日菜は早足で帰って行った。後方からの千聖の静止にも気付かずに。

 

「全く……日菜ちゃんったら……」

「まあ……すっかり日も暮れちゃいましたしジブン達も帰りましょうか」

「そうですね!」

 

 そうして、イサム達はその場で解散。

 彩に関してはイサムから離れようとせず「家まで送っていく」と言うことで話が着いた。その際に、他の3人も送って行くべきかという事を提案したが、千聖達は「どうぞお気になさらずに」と返すばかりだったとか。

 

 

    〇 〇 〇 〇 〇

 

 

「にしてもなんだったんだろうね今日」

 

 彩と共に歩きながらイサムは呟いた。

 一方の彩は腕からは離れてくれたものの、ずっと手を握ったままだった。

 

「……ねえ、イサムくん」

「ん?」

「日菜ちゃんに……何もされなかった?」

「え? いやただ遊んだだけだけど」

「……何したの?」

「えーっと……ゲーセン行ったり、ウインドウショッピングしたり……とか?」

「ふーん」

 

 イサムがそう言うと彩の手を握る力が強くなる。

 

「ねえ……」

「ん?」

「今度のお休みの日、予定空けといてね」

「え?」

「日菜ちゃんにした事、私にもしてもらうから」

 

 頬を膨らませながらそう呟く彩に、イサムは「別に大したことしてないんだけど」と困惑。

 それでも尚、納得のしない彩は更に強い力でイサムの手を握った。

 

「あー、わかったわかった。とりあえず今度の日曜にショッピングモールね!」

「うん!」

 

 諾すると彩は途端に上機嫌になりイサムは「相変わらずわかりやすいなぁ……」と心の中で静かに呟いた。

 

 

 

   〇 〇 〇 〇 〇

 

 

 

 その夜、氷川家では……

 

「〜〜〜♪」

 

 日菜はアイスキャンデーを食べながら、上機嫌でソファーに座っていた。

 

「あら、今日は随分とご機嫌なのね」

 

 そんな日菜の様子を見て紗夜は言った。

 

「うん! すっごくるんっ♪ってする事があったからね!」

「まさかとは思うけど……パスパレの皆さんに迷惑かけて無いわよね?」

 

 日菜の様子を見て、紗夜の頭にはひとつの不安がよぎった。経験上、こういう時の日菜はいつもよからぬ事を考えている。もし、丸山さんや白鷺さん達に迷惑をかけてるようなら明日謝りに行かなければ……と覚悟を決めてしまう程には……。

 

「うーん……彩ちゃん達も面白いけど……それと同じくらいるんっ♪ってしてるんだよね〜」

 

 アイスキャンデーの棒を口から出しながら日菜はそう呟いた。

 紗夜にはその言葉の真意は分からなかったが……まあ、嫌な予感がしたようなしてないような……らしい。

 

「(彩ちゃんの身体で生活出来たのは面白かったけど、イサムくんも彩ちゃんが関わるとすっごくるんってするな〜。今度もうちょっとせめてみよっかな♪)」

 

 紗夜曰く、その日の日菜は凄く小悪魔みたいな感じをしてたが……なんだかいつもと違うようにも見えた……とさ。

 

 

 

    〇 〇 〇 〇 〇

 

 

 

 その後日。

 

「ほら〜、もっとしっかり走って〜」

「はぁ……はぁ……なんで私が……」

 

 彩はあの日以降、2キロ太っていたらしい。

 理由は単純明白。日菜が彩の身体にいた時に気に入ったスイーツを殆ど食べていたからだ。しかし、あの日あれだけ走ってまだ2キロ残っていたとなるとどれだけ食べていたのやら……。

 と、言うわけで今2人揃ってランニング中である。

 

「ほら、ちゃんと体重戻さないと千聖さんが悪魔モードフェーズIIIになっちゃうよ〜」

「そんなスタンプで契約しそうな悪魔嫌だよ! というかこればかりは私悪くないよね!? 明らかに悪いのは日菜ちゃんだよね!?」

「一応俺からも弁解したよ? そしたら……」

 

 

 

 

『そう。じゃあ日菜ちゃんにもオシオキしないとダメね。

 それと……イサムくんにもちゃんと責任は取って貰うわよ? しっかり彩ちゃんを減量するように監視して頂戴。甘やかしちゃだめよ?

 え? 『俺とばっちりじゃん』ですって? つべこべ言わずにやりなさい』

 

 

 

 

「って圧力かけられてさ

 生物に例えるとカマキリだなありゃ

 

 イサムは軽く愚痴を零すと再び彩をやる気づけた。

 

「も〜、そろそろ休憩……」

「ほら、ゴールまで後ちょっとだから頑張ろ?」

「……じゃあ何か飲み物頂戴」

「じゃあ……はい」

 

 イサムは肩にかけていた水筒のコップに謎の液体を注ぎ彩に渡した。彩はその液体をすぐさま飲み……

 

「うっ……、ちょっと苦い……。なにこれ……」

「え? 身体にいい野菜ぶち込んでミキサーで混ぜた100パーセントオーガニックのジュース。一応レモン入れたから飲みやすい筈だけど」

「甘み……全然ないよ……」

「……トマト入れるべきだったかな」

 

 せっかくの飲み物もこの有様であり、彩はいじけ始めた。

 

「彩〜、今度のお休み一緒にショッピング行く?」

「……行く」

「よし、じゃあ頑張ろう」

 

 こうして何とか彩のモチベーションを保ちつつ、この後目標体重まで減量することに成功した……とさ。

 





はい、長らく続いたパスパレ入れ替わり編も今回でおしまいです。
きずかな先生の来世にご期待ください。


ちなみにこの小説のヒロインは彩です。誰がなんと言おうと彩なんです。



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夢迷喪談(ゆめものがたり)『My Go!!!!!参戦記念作品』

 

 ライブハウス「RiNG」。

 ライブハウスと言うには割かしデカく、建物内にはカフェスペースまである。

 今日はRiNGにMy Go!!!!!というガールズバンドが練習に来ていた。

 

「………遅い」

 

 ドラム……椎名立希は腕を組みながら苛立ちを露わにしていた。

 

「りっきー、そんなにイラついてても仕方なくない?」

「は? 別にイラついてないけど?」

「うわー、今日は一段と怖。ともりんどうする?」

「た……立希ちゃん、落ち着いて……」

「ごめん、ちょっとイライラしすぎてた」

「うっわ、わっかりやすく態度変えた」

「何? 文句あんの?」

 

 そんな立希に睨まれながらも臆さないギター……千早愛音と2人の様子をオロオロしながら見ているボーカル……高松燈。そしてそんな脇でベースの長崎そよは静かにアールグレイの紅茶を飲んでいた。

 

「はあ……、私も何か頼も〜。あ、すみませーん! この抹茶シナモンラテくださーい!」

「かしこまりました」

 

 カウンターで当番をしていたのは……佐倉イサム。普段はライブハウス「CiRCLE」でスタッフをしているのだが、現在はこちらに派遣されている。

 

「それにしても……最近メニュー増えたよね。

 アップルパイとか……チョコレートルネードパンケーキとか……。吉備団子もある。しかも『時価』だって……

 あ、この大豆粉のホロクッキーなんてそよりん好きそう。頼んであげよっか?」

「いらない」

 

 興味本位で発された愛音の言葉はあっさりと切り捨てられてしまった。

 

「お待たせしました。抹茶シナモンラテです」

「ありがとうございまーす。あっ、吉備団子ってありますか?」

「あるよ」

「じゃあそれお願いします!」

「……違うの頼んでるじゃない」

「いや〜、気になっちゃって……」

「この後練習なの、わかってんの?」

「はいはい、その為の栄養補給ですよ〜。ともりんは? なにか頼む?」

「あ、えと……金平糖……」

「えーと、金平糖……金平糖……メニューにないけど……」

「あるよ」

「あるんだ……」

 

 注文を取り終えたイサムは。奥へと入っていった。

 

「……未だに既読もつかない。野良猫の奴、どこで道草食ってるわけ?」

 

 先程から立希がイラついている理由……それはこのバンドのもう1人のギター……要楽奈が来ないこと。

 新曲の音合わせもあり『今日だけは絶対に来い』と予め釘を刺していたのだが……案の定これだと言わんばかりの結果に。

 

 そして吉備団子と金平糖が届いてから数分後、遂にその時は訪れた。

 

「来た」

「野良猫! お前一体何処で何やって……」

 

 楽奈の声を聞くとすぐさま不満をぶつけようとした立希。しかし、その声は徐々に小さくなった。

 何故なら

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 肝心の楽奈はでっぷりと肥えていたからだ。

 これには流石の立希も開いた口が塞がらない状態である。

 

「ライブやろ」

「いやいやいやいや! それどころじゃ無いだろ! お前それどうした!?」

「それ?」

「それはそれだ!」

「どれ?」

「だからこれだ!」

「あれ?」

「違うそれだ!」

「あーもう! こそあど言葉だけで会話しないで!!」

 

 遂に立希も思考が回らなくなったのかまともな会話すら繰り広げられず、見かねた愛音が止めに入った。

 

「で、楽奈ちゃん何があったの? この間見た時そんなに太ってなかったよね?」

「まっちゃ」

「え?」

「まっちゃお腹いっぱい食べた」

 

 ここまでは埒が明かないので、とりあえず愛音たちは楽奈の話を聞くことに……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 数日前(時を戻そう)

 

「抹茶食べたい」

「仕方ないねぇ……」

 

 祖母に抹茶をねだる楽奈。

 この世のおじいちゃんおばあちゃんは孫に弱いとはよく言ったものだ。ただ一言言うと直ぐに楽奈にプレゼントしていた。

 

 数分後

 

「食べきったかい?」

「まだ」

「仕方ないねぇ……」

 

 そして数行前に戻る。

 これが何度か繰り返された。

 

 

 

 

 

 

 

 

 以上

 

 

 

「うわ〜、身も蓋もない……」

「いや、お前ホント何なの? 自分の体重管理も出来ないわけ?」

「この世の抹茶は美味すぎる」

「話逸らさないでくれる?」

「あー、ほらほら落ち着いてりっきー。はいどーどーどー」

「人を馬扱いしないで欲しいんだけど」

 

 回想を聞いて尚ご立腹な立希。仲裁に入った愛音にすら噛みつきかける勢いである。

 

「でもどうするの? 楽奈ちゃんがこんなんじゃ衣装も入らないしライブ出来ないんじゃない?」

 

 そんな中、そよは冷静に現状を口にする。

 見た目がどうこうもあるが、ライブに出るには皆事前に作成した衣装に身を包むわけであり今の状態の楽奈ではそれに腕すら通らないという事だ。

 まあ、その他にも問題は山のようにあるのだがここでは割愛させて頂こう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あるよ」

 

 そんな重い空気を破ったのは……注文の品を持ってきた佐倉イサムだった。

 

「え?」

「短期ダイエットの方法、あるよ」

 

 その言葉に一同は目を張った。

 

「そ……それってなんですか!?」

 

 そして真っ先に立希はイサムに質問を続けた。

 

「とにかく摂取カロリーを抑えて消費カロリーを増やす。でも、単純に食べる量を減らせば良いってものでも無い。低糖質高タンパクなものを多く摂る必要がある。代表的な物で言えば鶏のささみや大豆がそれだね。それによく炭水化物も食べない方が良いって言われるけど筋肉をつけるためならある程度は食べた方が良いとも言われて「あの……もーちょっと分かりやすくして貰っても良いですか?」

 

 突如始まったイサムの解説。長くなると踏んだ愛音は話を止めて纏めるように要求した。

 

「要するに『糖質減らせ。タンパク質食べろ。運動しろ』って事だね」

「うわー、簡潔にすると身も蓋もない……」

「ま、それが出来たら誰も苦労しないんだけどね」

「……イサムさん、ダイエットしてるんですか?」

「ああ、俺の………、友人がね」

 

 愛音の問いにイサムは答えたが、謎の間に彼女は首を傾げていた。

 

「で、野良猫どうにか出来ないんですか?」

「とりあえず……その抹茶食べるのを止めさせようか」

「……ってそれ私の抹茶シナモンラテ!!」

 

 少し目を離した隙に楽奈は愛音が注文していた抹茶シナモンラテを飲み干していた。流石の野良猫っぷりである。

 

「……これじゃ1ヶ月かかっても無理そうね」

 

 そんな情景を見てそよは静かにため息をついた。

 

「よし野良猫、今日から毎朝ランニングだ」

「ヤダ。運動疲れる」

「拒否権は無いんだけど? 誰の為だと思ってんの?」

 

 一方で立希は楽奈を外に連れ出そうとするが、当の本人はてこでも動かないと言わんばかりの踏ん張りを見せていた。

 

「あ、あのちゃん……どうしよう……」

「いや私に言われても……。というか私たちだけじゃ楽奈ちゃんに運動させるの無理があるんじゃ……」

 

「優秀な助っ人がいれば良いんだけど……」と愛音が零した時、またしても口開いたのは

 

「いるよ」

 

 佐倉イサム(この男)だった。

 

「え?」

「俺の知り合いにこの手のプロがいる」

「まじですか?」

「……その人と連絡とれませんか?」

「どうだろうね。向こうも色々あるからなぁ……。一応話をつけてはみるよ」

 

 立希の要望により、イサムは謎の人物への連絡を試みた。

 果たして、上手くいくのだろうか……。

 

 

 

 

 

 2日後

 

「えっと……ここに集合で良いんだよね?」

 

 燈たちMy Go!!!!!のメンバーはRiNGに集まっていた。前日、イサムから「アポが取れた」と報告を受けその人物を呼び出す為にここに集まって欲しいと言われていたのだ。

 

「この手のプロって言ってたけど……どんな人なんだろ……」

「ていうか……立希ちゃんと肝心の楽奈ちゃんがまだ来てないんだけどどういう事?」

「りっきーなら『力ずくでも野良猫連れてくる』ってどっか行ったよ?」

 

「全く……」とそよが溜息を零していると立希が楽奈を担ぎながら現れた。噂をすれば何とやらだ。

 

「りっきーお疲れ様〜」

「……よく楽奈ちゃん担げたわね。重くないの?」

「そんな事今どうでもいいから。佐倉さんまだ来てないの?」

「いるよ」

 

 その声に振り向くと、一体どこから現れたのか既にイサムが立っていた。

 

「さて、これで全員揃った訳だが」

「佐倉さん、本当に信じても良いんですよね?」

「それに関しては問題ない。知る人ぞ知るプロだからね。彼ももうすぐ到着するみたいだし」

 

 そんな話をしていると、RiNGの扉が開いた。

 

「来たね。じゃあ早速だけど紹介するよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「今話題の筋トレ系Y〇u Tu〇erのマキシマム牧羽さんだ」

「「いや誰!?!?」」

 

 そこに現れたのは何故かお面を被り、白のタンクトップに黒の短パンで現れた身長190cmはある筋肉質の大男だった。そしてそんな彼を見るや立希とそよは声を大にして驚いていた。

 

「ドーモ、マキシマム牧羽デス」

「なんでカタコト……?」

「……ていうか、この人誰なんですか?」

「え? りっきー知らないの? 今テレビでも度々取り上げられる程人気になってるマキシマム牧羽さんだよ!」

「いやだから誰だよ!?」

「私も詳しくは知らないんだけど、クラスの子が『ダイエットから筋トレまで幅広くの体づくりを取り上げてる筋肉系動画配信者』って言ってた」

「いや知らないんだけど」

「それとなんかボディビルの大きな大会で3冠取ったって噂」

「だから知らないんだけど?!」

 

 愛音の解説が入る度に立希の声は大きくなっていった。

 

「ていうか噂で聞いただけなんですけどこの人って結構な有名人ですよね!? イサムさんなんで知り合いなんですか!?」

「……昔色々あってね」

「佐倉さん、たしかまだ未成年ですよね……?」

 

 イサムの人脈に愛音とそよは疑念を抱き始めたが当の本人は何を聞かれてものらりくらりとした状態である。

 

「それじゃあ牧羽さん、後はよろしくお願いします」

「マーカセナサーイ」

 

 牧羽に後を託すとイサムはそのまま仕事に帰っていった。

 

「サテ、問題ノ楽奈チャンはドノ子カナ?」

 

 牧羽がMy Go!!!!!メンバーに尋ねるが、楽奈がいない。しかし、直ぐさま立希が引っ張ることで物陰に隠れていた楽奈がズルズルと引きずり出された。

 

「コイツです」

「りっきー、はくじょうもの 」

 

 遂に首根っこを掴まれて牧羽へと受け渡された。

 

「サテ……、ジャア早速始メチャオウカネ……」

 

 お面で素顔が見えない相手。

 しかも自分よりも遥かに図体が大きく、その圧だけで楽奈は感じ取った。

 

 

 

 

 

 

 

 

『逃げられない』と

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「トコロデ君タチはドウスルノ? 一緒二トレーニングヤル?」

「「いえ! 大丈夫です!」」

「アラソウ? まあ、ヤリタクナッタラ何時デモ言イ二来テネ」

 

 そう言うと牧羽は楽奈を連れて何処かに行ってしまった……。

 

「……楽奈ちゃん、大丈夫かな……?」

「……知らない」

 

 その様子を愛音たちはただ傍観するしか無かったという。

 

 

 

 

〇 〇 〇 〇 〇

 

 

 

 

 2週間後

 

 何時ものようにRiNGに集まったMy Go!!!!!のメンバー。

 そこには抹茶パフェを頬張る楽奈の姿もあった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 あったのだが……

 

「ね……。ねえ、楽奈ちゃん……元に戻ってる……よね……?」

「うん……」

 

 楽奈はこの2週間で普段の姿へと戻っていた。

 ダイエット成功を素直に喜ぶべきなのだろうがこんなにも早く結果は出るものなのだろうか……と一同は困惑していたのだ。

 

「だからってまた抹茶パフェ食べてたらリバウンドするんじゃないの?」

「大丈夫。プロテインたっぷりで糖質大幅カットして貰った」

 

 カウンターを見るとイサムは静かに本を読んでいた。愛音とそよは「まあ……間違いなくこの人がやったよなぁ」と視線を向けていたが当の本人はお構い無しだった。

 

「それにしても……なんか楽奈ちゃんお肌のツヤ良くなってない?」

 

 楽奈の肌が綺麗になった事に気がついた愛音。聞かれた楽奈は首を傾げていたが、愛音はその事に興味津々になっていた。

 

 

 

 

 

 それから数日……

 

「愛音ちゃんは?」

「野良猫の肌ツヤが良くなった理由が牧羽って人のトレーニングなんじゃないかって一緒に行った」

 

 

 

 

 

 

 それからさらに数日……

 

「……燈ちゃんは?」

「筋トレしたらもっといい歌が歌えるかもって愛音たちの方に行った……」

 

 

 

 

 

 

 

 それからさらに数日……

 

「……遂に立希ちゃんも……。さしずめ燈ちゃんが心配で着いて行ったってところか……。

 どうなっても知らないわよ……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして、ライブ当日になった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「……遅い」

 

 そよは1人控え室でメンバーの到着を待っていた。

 衣装にも着替え、楽器のチューニングも終わった。しかし、燈たちが来ないことに苛立っていた。

 

 

 全く……一体どこで何をしているのだか。今度会ったら盛大に文句を言ってやらないと。

 

 

 そんな事を考えていると、控え室の扉が開いた。

 

「ちょっと! 今まで何やってた……の……」

 

 そして、そよは言葉を失っていた。

 

 

 理由は明白。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ようやく来た燈たちはムキムキで筋肉質になり、身体は全体的に1回り大きくなっていたからだ。

 

 

 

 

 

 

「ライブ……やろう!」

「やろうじゃ無いでしょ!? え?! 何それ!? 何があったの!?」

「いや〜、牧羽さんのトレーニングって凄いね〜! 短期間でここまで成長するなんて。お陰でお肌スベスベだよ」

「いやお肌より気にするべき所あるでしょ!! 愛音ちゃんはそれで良いの!?」

「ライブやろ」

「楽奈ちゃんは黙ってて!! 立希ちゃん! 目を覚まして!!」

「ハア……ハア……燈の筋肉……凄い……」

「うわぁ、変態だ」

 

 あまりの変わりようにそよはドン引きしていた。今の彼女たちに相応しい言葉があるとしたらまさに「筋肉モリモリマッチョマンの変態」が適切だろうか……。

 

「(いや……これは流石に不味いんじゃ)」

「おーいMy Go!!!!!のみんな〜」

 

 そんな中、スタッフの1人である山吹沙綾が入ってきた。そよは「あ、終わった……」と絶望に満ちた表情を浮かべた。

 

 しかし……

 

「もうすぐライブだからスタンバイよろしくね〜」

 

 沙綾はそう言うと帰っていった。

 しかも、これまでと何も変わらない様子で……。

 

「(え?)」

「行こ」

「よーし! 今日も最高のライブにしちゃうぞ〜!」

「燈、大丈夫?」

「うん……! 大丈夫……!」

 

 何故か何時もよりやる気に満ちているメンバー達はそのままステージへと向かっていった。

 

「え? ちょ……みんな待って! それ大丈夫なの!? ねえ!!」

 

 

 

 

 

 そして、ライブ本番。

 

 それぞれが配置につき、楽器のチューニングや最終確認を終わらせて始まるのを待つ。

 

「(いや……勢いで来ちゃったけどこれ絶対ダメでしょ! お客さん皆ドン引きするに決まってるって! というかなんで皆普段の以上着れるのよ!? そもそもなんか楽器まで大きくなってる気がするし! 何!? 超常現象!? ていくかなんで立希ちゃんはドラムスティックじゃなくてギターとベースを両手に持ってるの!? まさかそれでドラム叩く訳じゃないよね!?)」

 

 暗闇の中、そよの不安は更に加速する。

 

 しかし、時間というのは無情にも過ぎていく。

 

 ライトがつき、My Go!!!!!の現状が顕になってしまった。

 

「(あっ……終わった……)」

 

 そよはバンドの終焉、いや死すら覚悟した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「すげぇえええ!!!」

「え?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「凄い筋肉だぁぁぁぁ!!」

「愛音ちゃんの筋肉サイコー!」

「燈ちゃんのも控えめで可愛いぃぃ!!」

「肩にちっちゃい戦車乗せてんのかい!」

「腹筋6LDK!」

「三角筋がチョモランマ!」

「ハムストリングがダイナマイト!」

「キレてるよー!」

「ちくわ大明神」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 突然湧き上がった歓声にそよは唖然とした。

 

 そしてこう思った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 あれ? おかしいのって私の方だっけ?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「それじゃあ1曲目行きます……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

筋肉詩(マッチョソング)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして突然始まる自分の知らない曲。しかし、他のメンバーは「前からありましたけど何か?」という感じで演奏を始める。致し方なく自分もベースから音を奏でるが、何故この曲を自分が弾けるのかすら分からない。

 

 ただ、この訳の分からない状況に関して考える事は無意味だという事だけは理解したのだった。

 

 

 

 普通とか当たり前って……なんだろう。

 

 

 

 この言葉を最後にそよは考える事を止めた。

 

 

 

 

〇 〇 〇 〇 〇

 

 

 

 

「ねえ! 大成功じゃない!? 大成功でしょ!?」

「うるっさい! 大っ成功だよ!」

「言い方だけじゃん!」

 

 ライブが終わり、舞台袖で成功の余韻に浸っていた。

 ところでこのシーンどっかで見たなと思ったそこの貴方。君のような勘のいいガキは嫌いだよ

 

 

 そしてそよは思考がこんがらがっているのか、凄い顔をしていた。

 聞いた事ない歌は出てくるわ、立希はあのままギターとベースでドラム叩いてたわ、観客もノリが迷子になってるわ、最早このバンドの方向性が1番迷子になってるわ………もう文面だけでも頭が破裂しそうな勢いである。

 

 

 

 

 そして……遂に

 

 

「なんでよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なんで筋トレやったの!?」

 

 そよの怒りが爆発した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はっ!!」

「うわっ! ビックリした!」

「……あ、あれ?」

 

 そよが勢いよく目を覚ますと、そこはRiNGだった。

 

「そ……そよりん大丈夫? なんか魘されてたけど……」

「あ……愛音ちゃん? もしかして私寝てた……?」

「長崎さんは1番最初に来てたからね。待ってる間に寝ちゃったんだろうね」

 

 イサムはアールグレイの紅茶をそよに提供するとそのままカウンターへと戻って行った。

 

「そよちゃん……大丈夫……?」

「え……ええ」

「全く……体調管理くらいしっかりして欲しいんだけど」

 

 3者3様の言葉が行き交う中、そよはある事が気がかりだった。

 

「ね……ねえ、楽奈ちゃんは?」

「そうだ! 野良猫の奴、一体どこで道草食ってるんだよ……」

 

 夢の諸悪の根源……にも近い存在を探した。

 まさかとは思うが……夢のようにでっぷりとしていたら悪夢が現実になる。

 彼女はそれを危惧した。

 

「ライブ、やろ」

 

 そして、遂にその人が現れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 が、当の本人は至って普通だった。

 

「野良猫! お前何処で何してたんだよ!」

「?」

 

 そして繰り広げられる何時の会話に思わず胸を撫で下ろした。

 

「ね……ねえ楽奈ちゃん、1つ聞くけど抹茶を食べ過ぎたりして無いよね?」

「……? してない」

「……その割には既に食べてるんだけど」

 

 楽奈は現在、抹茶のスティックお菓子の様なものを齧っていた。その為、そよの不安は留まることを知らない。

 

「あれ? 楽奈ちゃん、その抹茶バーってもしかして……今話題のすっごく美味しいやつ?」

「うん」

 

 

 

 

 

 

 

 

「なんかプロテインバーって書いてた」

 

 その言葉にそよは目を見開いた。

 

「あ、それ知ってる! 確か……マキシマム牧羽って人が監修しててタンパク質豊富な上に糖質も大幅カット、でも味はすっごく美味しいやつだよね!」

 

 マキシマム牧羽……その名前で更にそよは頭を抱えた。

 

「その人……すごい人なの……?」

「うん! ダイエットや筋トレだけじゃなくて美容についてや発声についても詳しいんだよ! ともりんも見てみたら?」

「う、うん!」

「あのさ! もう練習始まるんだけど! さっさと準備……」

 

 立希が愛音たちに物申そうとした時、そよは勢いよく立ち上がった。そして、その光景に4人は振り向いた。

 

「ねえ……皆……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「い い 加 減 に し て く れ な い か な ?」

 

 突如としてそよの怒りが爆発。

 その身体は何故か1回り大きくなり、ムキムキの筋肉質の肉体へと変貌した。

 

 

 しかも何故か虹色に輝くゲーミング仕様で。

 

 

 誰もが言葉を失うこの現象。

 ただこの様子を……そよの心を一言で代弁すると

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ぶちまけちゃおうか迷星(まよいぼし)に。

 

 

 こういう事だろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

「成程〜。確かにこの身体漲るね〜。

 今ならベース二刀流も出来そうだよ」

 

 顔はとてもいい笑顔なのだが……ムキムキでゲーミングな状態で言われると恐怖しかない。

 

 

 

 

 そして4人はある結論へ至った。

 

 

 

 

「逃げるぞ」

 

 立希の号令と共に燈たちはRiNGからダッシュで逃走した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いやいやいや! あれ何!? そよりんに何があったの!?」

「そんなの私が知るわけ無いでしょ! とにかく今は走るしか無い!」

「ていうか楽奈ちゃんどっか行ったんだけど!?」

「アイツは多分大丈夫だ! どっかで生きてる!」

 

 燈、愛音、立希はただひたすらにRiNGの方角とは真反対に走っていた。

 

「皆〜どこ行くのかな〜?」

 

 しかし、暴走したそよがそれを見逃す訳もない。その強靭な肉体で追いかけてきたのだ。

 

「ちょっとなんかすごい勢いで追いかけてきてない!?」

「馬鹿! 後ろを向くな!」

「……それにしてもこの情景どっかで見たような……

 あ!」

「こんな時に何!?」

「あれじゃない! 動画サイトでよく見るヤツ! ほら、Afterglowさんもカバーしてた楽曲で有名な!」

「それ止まらないヤツじゃ無くて反省を促すヤツだよ!」

「……って、りっきー大変!」

「くだらない事だったらお前囮に使うけど何!?」

「ともりんがそろそろ体力切れしそう!」

「それを先に言え!! ……はっ! とにかくあそこのトンネルに逃げるよ!」

 

 燈をおんぶして走る愛音。それを見た立希は慌てつつも冷静に現状を分析。トンネルの暗がりに紛れてやり過ごす計画に出た。

 

 

 それからトンネルに入った3人は息を潜めてそよをやり過ごそうとしていた。

 トンネルに入って暫く走った後、燈を休憩させようと立希は振り向いた。

 

「ここまで来れば……。燈、大丈……ぶ……」

 

 しかし、振り向くと燈も愛音もいなかった。

 

「……え? 燈……? 燈! 何処にいるの!? 愛音も! いるなら何か言え!」

 

 立希は必死になって2人の名前を呼んだ。

 普段はムカつく愛音の発言ですら、こんなに欲したのは初めてだった。

 

 そして、遂にはポーン、ポーン、ポーンと奇妙な音まで聞こえてきた。

 まるで誰かがボールを弾ませてるような音。今の立希にとってはとても恐怖を駆り立てる音。

 

 ウヒャヒャヒャヒャヒャ!!!!!

 

 奇妙な笑い声と共に何かが背中を通った様な気がした。しかし、振り向いてとんでもない化け物がいるのでは……と思うと体が竦んだ。

 

 それから1分が経過。呼吸を整えた立希が振り向くとそこには……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「立希ちゃん、みーつけた」

 

 そよがいた。

 

「そ……そよ……」

「も〜、どうして皆逃げるのかな〜?」

「何……? さっきのボールの音もお前が?」

「ボール? ……あ〜、さっき変なワンちゃんが通ったね。その子が遊んでたんじゃ無いかな?」

「燈と愛音……どうした?」

「あの2人ね……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「捕まえちゃった☆」

 

 その言葉に立希の背筋に悪寒が走った。

 

「い、今何処にいるの!?」

「そんなに心配しなくても大丈夫。ちゃんと生きてるよ。ただ……

 ちゃんとお仕置しなきゃだけどね?」

「……っ! ふざけないで!」

「ふざけてないよ〜。これ以上勝手なことされても困るし〜。それに心配しなくても……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「立希ちゃんも直ぐに同じところに連れて行ってあげるから……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そよの手が徐々に立希へと伸びていく。

 そして、立希は……自分が助からないと悟り目を閉じた……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「っき………りっきー……」

「ハッ!!」

 

 立希が目を覚ますと、そこはRiNGだった。

 

「どうしたのりっきー!? 凄く魘されてたけど……」

「……苦し……そうだった……」

 

 寝てたのか……今のは夢……?

 立希は思わず頭を振った。随分と怖い夢を見ていたようだ。

 

「ごめん燈。心配かけた」

「ちょっと〜私を蔑ろにしてませんか〜?」

 

 愛音は不満を露わにしていたが立希は何時ものように軽くあしらった。

 

「昨日作曲に時間かけすぎて寝不足だったのかな……? ……そう言えばそよは?」

「あ〜、そよりんなら楽奈ちゃん探しに行ったけど……」

「そ……」

 

 こうして再び彼女たちの迷子な日々は続いていく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 しかし、この光景はもしかしたら誰かが見てる夢かもしれないし、現実かもしれない。

 

 

 この光景が現実か、それとも夢か。

 

 どちらを信じるかはあなた次第。

 

 

 

 

 

 

 

 





キャラ紹介

佐倉イサム
この作品の主人公……だった。
My Go!!!!!のメンバーが利用するライブハウス『RiNG』のスタッフ。Dream Paletteの主人公に酷似してるが違うキャラ。My Go!!!!!をサポートする。

……という感じだが、同一人物です。多分、きっと、めいびー。順当に行けばこのタイミングで大学生か専門学生かになってる……筈(キャラ固まってないとか言わないで)。
が、若干キャラ変わってたり凄い人と知り合いだったり……ホントお前何があった。
1つ言えるのは丸山彩との熱い交際は密かに続けている。これだけは確実に言える。

高松燈
My Go!!!!!の主人公。小動物。可愛い。ペットとして飼いたい。
なんで100連以上したのに星5出てくれんかったん?←推しに嫌われた男の末路

千早愛音
押しの強い陽キャ。ネーミングセンスが斜め上過ぎて立希とそよをしょっちゅうピキらせる。ANON TOKYOは怒られてもしゃーない。ただ本人鋼メンタルだから何とかなってる。
多分次の被害者はこの子。

要楽奈
自由すぎる野良猫。まさかのやりきったかいおばあさんのお孫さんだった。
というかよく考えると春日陰に関しては滅茶苦茶戦犯。
登場から間も無いのに伝説残しすぎてお前がおもしれー女の子だよ。

椎名立希
燈のALS〇K。燈に近づく奴絶対〇すマン。
正直、この子の方がMy Go!!!!!のママなんじゃと思ったり思わなかったり。
今回、ギターとベースでドラムを叩くシーンを作っていたがよく考えるとよく分からない光景。彼女がゲーミング状態になれば完璧だったが尺の都合でカットされた。???「アタシモギタートベースカッチャオッカナー」

長崎そよ
My Go!!!!!のママだと思ったらMy Go!!!!!やべーやつだった。
今作に関してはほぼ被害者。遂に精神まで崩壊した。
立希がなるはずだったゲーミング枠は彼女にやってもらいました。虹色に光りながら笑顔で追いかけてくるそよさんはさしずめ「止まらないそよさん」
可哀想なそよさん。でもこうして立派に作品は完成しました。
結論「そうか、寂しかったのか」

マキシマム牧羽
今をときめくお面系筋肉動画配信者。年収1億あるかどうかは不明だが相当稼いでることは確か。何故かイサムと仲が良い。ハッキリ言うがダリナンダアンタイッタイ。
まあ、気が向けばまた出てくるかも。

山吹沙綾
既存メンバーからの唯一の登場。皆のお姉ちゃん。
甘やかして欲しいキャラNo.1。



以上です。
最後に一言

『My Go!!!!!、ガルパ参戦おめでとう!』(今更)


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それでは次回も掴め、最高のガッチャ!




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