駄文短編集 (完全怠惰宣言)
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黒子のバスケ~ORIGINS・ZERO~

黒子主人公最強系ドリームチーム無双がかきたかったんです


帝光中学校バスケットボール部、部員数は100を超え 全中3連覇を誇る超強豪校。

その輝かしい歴史の中でも特に「最強」と呼ばれ、10年に1人の天才が5人同時にいた世代は「キセキの世代」と呼ばれている。

しかし、世間には認知されていない”2つ”の噂があった。

 

誰も知らない、試合記録も無い、にもかかわらず、天才5人が一目置いていた選手、「幻の6人目(シックスマン)」と呼ばれる存在がいた。

 

”彼ら”の才能にいち早く気づき、”彼ら”の才能を引き出した誰しもが憧れを抱いた最良の選手「始まりの0人目(オリジン・ゼロ)」と呼ばれる存在がいたことを。

 

 

 

桃井 さつき。

帝光バスケ部元マネージャーで、「キセキの世代」の同期。

容姿端麗でFカップの巨乳(いまだ成長中)の持ち主、人懐っこく明るい性格故に異性同性問わず友達も多い。

帝光入学時からバスケ部マネージャーを務め、参謀役としてキセキの世代の躍進に一役買っていた。

一方で帝光の理念には染まっておらず、”バスケとは楽しみ、楽しむモノ”という考え方である。

情報収集、そしてそこから各選手の特性を見極める能力に長け、相手選手の成長傾向までも分析し対抗策を練るため、相手の策を事前に封殺してしまう。

そんな、スポーツという分野においてどこからも喉から手か出る程に求められている彼女は現在学生であれば皆が悩む岐路に立たされていた。

 

「・・・・高校、どうしよう」

 

彼女のマネージメント能力の高さを見込みスポーツ推薦枠を削ってまで彼女を欲する高校が毎日の如く帝光中学校に訪れていた。

事実、彼女の能力は一定水準に達している選手を多く有していれば間違いなく全国へと行ける選手へと成長させられることはもちろん、試合運びを有利に進めることすら可能であったからである。

夏休みが明けてから、様々な高校が彼女の説得に学校に来ているが彼女の心に響くことはなかった。

 

「(全中からこっちどうしてもスポーツが楽しく感じられないのよね)」

 

彼女は全中優勝以降なぜかスポーツ全般を楽しく感じられなくなっていたのである。

それ以前に3年生となってからもしかしたらそうであったかもしれない。

勝利を義務付けられていた当時は考えていなかったが、バスケから離れて以降ずっと悩んでいたのである。

チームとして体を成していなかったにもかかわらず優勝してしまったあの時、彼女の中に残っていた何かが音を立てて切れたようであった。

それ以来、「帝光バスケ部」に係る全てから逃げていた彼女の重いため息が今日も廊下に響いた。

 

 

後に彼女はこう語っている。

いつも通り聞き流すはずだったその場所で”あの人”に再会できたからこそ、あの決断をすることができたと。

 

 

 

【あ、オレ今日は勧誘行けないからさ代わりに行ってきてよ】

 

【あぁ、ふざけんな。”あそこ”は手前が担当のはずだろうが】

 

【そうなんだけどさ、オレが行くと怪しまれるからさ。悪いけど行ってきてよ】

 

【・・・はぁ、仕方がない】

 

【ありがとう、それじゃ【日よってんじゃねえよ、一緒に行くぞ】イ~ヤ~だ~】

 

 

 

数時間前の会話を思い出しながら不機嫌そうに舌打ちしている見るからにガラの悪い少年は、待ち人が来るまで隣の相棒のオドオドした姿を思い出してまたイライラのゲージを貯めていた。

 

「つうか、お前何にビクビクしてんだよ」

 

そういうと着ているパーカーのフードを目深に被っていた相棒は体を一瞬だけビクつかせると恐る恐るフードの下から顔をのぞかせる。

 

「・・・・・コウハイコワイ・・・・・」

 

そうまるで片言のように喋ると再びフードで顔を隠そうとしていた。

 

「ふっざけんな、ちゃんと喋れ、顔を隠すな、オドオドするな、不審者かお前は」

 

「でもさ”マコちゃん”、あいつらマジでヤバイんだって。具体的に言うと髪の色が日本人離れした奴らがヤバイんだって」

 

進路指導室内では二人の少年が騒いでいた。

その声は外には漏れていなかったが、進路指導の教員は眉を顰めて咳払いをすることで二人に注意を促す。

しかし、教員としてもこうして”卒業生”が訪れてくれるのはうれしい限りであった。

彼が昔を懐かしんでいるとドアをノックする音が聞こえてきた。

 

「3年の桃井です、入ります」

 

「あぁ、桃井さん待っていたよ、入りたまえ」

 

 

進路指導に教員の声を合図に彼らが待っていた少女が入ってきた。

 

「3年の桃井です、本日はお忙しいところご足労いただきありがとうございました」

 

そう断りを入れて今日の相手に目を向けた彼女の先には予想だにしなかった存在が座っていた。

 

「初めまして、だな。東洪(とうこう)大学付属湘南高校男子バスケ部主将”花宮(はなみや) (まこと)”だ。こっちの馬鹿は知っているだろう」

 

まず挨拶をしたのは彼女も知っていた存在。

「キセキの世代」のあまりに突出した才能の前にかすんでしまった「無冠の五将(むかんのごしょう)」と呼ばれていた悲劇の天才の一人だった。

彼を知る者からは「バスケットにもっとも不誠実な男」と、彼を”よく”知る者からは「バスケットにもっとも裏切られてきた男」と評価される不遇の天才。

悪童(あくどう)」の異名を持つPG「花宮 真」が太々しく座っていた。

そして、そんな彼に親指で指さされた隣の人物は意を決したかのようにフードを取った。

 

「よぅ、久しぶり。あんま元気そうじゃねえな」

 

その笑顔を見たとき、彼女の頭にはかつての光景が思い出されていた。

 

 

【いいか。お前は”セイジ”とは違うけど”いい目”を持っている】

 

【”いい目”、ですか?】

 

【そう、だから自信もってガンガン意見だしていけ】

 

【????、えっと、頑張ります?】

 

【よぅし。あとさ、”笑え”。女の子がそんなしみったれた顔してんじゃないよ】

 

 

あの日、相談した時のいたずらっ子のような笑顔が。

 

 

【泣くなよ、お前のせいじゃないから】

 

【でも、先輩のオーバーワークに気づけてたのに監督に言えませんでした】

 

【オレが黙らせたんだからオレのせいだしょ、だからもう泣き止めよな】

 

 

あの日、自分のせいで故障させ、選手リストから外されたにも関わらず困り顔で笑いながら頭を撫でてくれた温もりが。

 

 

【先輩どうしよう、このままみんなが楽しくないバスケをつづけていくことになっちゃったら・・・・・】

 

【一人で抱え込むなよ、オレも何か考えるから】

 

 

全中前、キセキの皆がバラバラになっていくのを止められずに泣きながら相談した時に抱きしめてくれた暖かさが思い出されていった。

 

 

「つき・・・・しろ・・・先輩?」

 

「あ、何、寝ボケ?どうしたよ”さつき”」

 

そこには、会いたくて会いたくて、でも会わせる顔がないと思い悩んでいた存在が、あの時の同じ困った笑みを浮かべて座っていたのだった。

 

 

 

「改めまして、東洪大学付属湘南高校男子バスケ部副将”月白(つきしろ) 空梧(くうご)”です、今回は貴重なお時間をいただき、また学生の自分たちに大人と同じ舞台で交渉させていただける機会をいただき誠にありがとうございます」

 

会わなくなってから丸一年たった月白先輩は相変わらずの女顔で、それを気にしているにもかかわらず肩を超える長さまで綺麗に伸ばされた黒髪に目が行ってしまう。それでいてスポーツ選手とは思えない細身の体が余計に性別詐称に拍車をかけていた。

 

「それと、今更ですが呼び捨ては何かとまずいので”桃井さん”と呼ばせてもらうけど、遅くなりましたが全中三連覇おめでとう」

 

そういって先輩が見せてくれた笑顔は相変わらず暖かな人に安心感を与えるような笑顔だった。

 

「早速ですが、本題に入らせてもらおうか。桃井さつき、推薦もやれないし新設校だから設備だけは新しい僅か3人しかいないうちの部にお前の力をくれ」

 

月白先輩の久しぶりの癒しオーラに充てられていて忘れかけていたけど、隣に座っているあからさまに態度が悪い花宮さんの言葉で現状に戻されてしまった。

 

「花宮君、先ほども私から言わせてもらった通りだがもう一度言わせてもらおう。この申し出を受けるメリットが彼女には一切ない。それは解っている上でその発言でいいんだね」

 

そう隣の進路指導の先生が威嚇するような目つきで花宮さんを睨みつける。

 

「そうっすね、今言ったことはオレらの正直な現状ですし、下手したら3年間を棒に振るようなもんでしょうけど彼女の能力(ちから)を誰よりも把握し、彼女に与えられる最高の環境を整えられるのはうちの学校以外ありえないって考えてますけど」

 

以降、花宮さんが押していく形で進む会話は先生に申し訳ないけど花宮さんが押しているようにしか見なかった。

正直、先輩に会えてうれしかったけど、先生の言う通り私へのメリットが無さすぎるこの交渉に早々に見切りをつけて断ろうと思った。

 

「申し訳ありませんが今回は「桃井さん、今バスケは“楽しい”ですか?」

 

断りを入れようとしたその時、月白先輩が今一番聞かれたくない質問を投げかけてきた。

そのせいで言葉が詰まってしまった。そしてその言葉を切欠に私の中に押し留めていた黒いモヤモヤした感情が流れ出してきた。

 

「オレが帝光を転校して、リハビリもしながらだけど皆の試合は見に行っていた。その中で最後のあの大会は見ていて正直反吐が出そうなくらいだった」

 

「”個人技を優先させた”ように見せていたけど”あいつら”だったからこそチームとしての体面を保てていたけど正直あれはいったい何だったんだ」

 

「真田のおっさんはコーチとしては一流だったけど、あの人とチームを潰したと学校は考えてないっしょ」

 

月白先輩の言葉が目を背けていた現実を突きつけていく。

私はいつからかマネージャーとして一番大切な裏方としてチームを纏める仕事を放棄していたと言われているようで涙が出てきた。

 

「だからさ、”さつき”は”キセキの世代”っていう括りが嫌いになったんだろ」

 

そう言って私を真剣に見つめる先輩の瞳を見たとき、私は何も言えなくなってしまった。

それから数分間、誰も一言もしゃべらないまま時間だけが過ぎていく中で突然先輩が話し始めた。

 

「今後の展望ですが、既に目ぼしい新人は既に確保しました。”白金監督”と”真田コーチ”もうちの学校への移籍が決まりました」

 

「・・・・・・えっ?」

 

「桃井さんをうちが欲している理由は、先ほど彼女が来る前にお話しした通りです。彼女のマネージメント能力があればシステム化された部活動なんぞ敵ではありません」

 

「そして、今話をしている中でもう一つ彼女を欲する理由が出来ました」

 

そう言って真剣な眼差しで私を見てくる月白先輩から目を離せなくなり、次の言葉で私の人生は決められてしまった。

 

「桃井さん、”うち”ならお前が嫌いな”キセキの世代”を潰せる」

 

そう言って今日一番の笑顔を魅せてくれる月白先輩の顔から目が離せなくなっていくのを自覚した。

 

「”さつき”、楽しいバスケ一緒にしよう」

 

 

四月、真新しい制服に袖を通して私は新たな場所で生活を始めていた。

 

「まってたよ、”さつき”」

「お世話になります、”シロ先輩”」

 

桃井さつき、私の戦いが幕を開けた。

 

 



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境界線上のホライゾン ―道化師は喜劇を舞う―

初回限定新規アニメーションを見て滾ってしまった結果の産物です。
色々と申し開きの仕様もありません。
筆不精なので、続きの予定が立ちません。
それでも良いから見てやんよという心の広い方はどうぞ。


第 劇 境界線上の対立者たち

 

 

 

副題「世界を巻き込んだ盛大にはた迷惑な親子喧嘩開始」

 

 

 

王の隣にはいつも道化師がいた。

 

道化師は自分の王と女王の生きるこの世界を喜劇として演じ切ることを誓っていた。

 

切欠はもうとうの昔に忘れていた。

 

王と女王の隣に立つことを許された道化師はふと背後を振り返る。

 

 

 

そこには

 

 

 

弁舌により政という戦場で戦ってきた色々と足りていない元男装政治家がいた。

 

 

 

軍師として戦場を駆け巡り手柄を上げ続けた厨二眼鏡オタクがいた

 

 

 

商人として金と会談により常に戦い続けた金に汚い腐れ守銭奴商人がいた。

 

 

 

そんな商人を支え続け常に笑顔を絶やさなかった金と旦那に狂った女がいた。

 

 

 

役職に相応しい一騎当千の身心育ちがいい天然系我侭うっかり脳筋娘がいた。

 

 

 

礼儀正しく真面目な努力家でありながら最近武蔵に染まってきた武人がいた。

 

 

 

巨大な両腕義腕に高い戦闘能力を有するどこか抜けた旦那LOVEの奥方がいた。

 

 

 

自身の技術を惜しみなく披露しながらも嫉妬と怨念に塗れた犬臭い忍がいた。

 

 

 

そんな旦那に嫁いだ純粋無垢だが天然で、無自覚に火種をばらまく聖女がいた。

 

 

 

豪毅かつマイペースで、悪びれない異端審問官の姉好き航空系半竜がいた。

 

 

 

そんな半竜と添い遂げるために出奔してきた武勇に優れた姉系ヒロインがいた。

 

 

 

黒魔術を行使する朗らかな笑顔が似合う陽気なクッション六枚翼の墜天がいた。

 

 

 

白魔術を巧みに操る奇腐人作家である濡れやすい黒髪黒翼の匪堕天がいた。

 

 

 

種族特性を生かし成長し戦場を共にした胸部装甲が不憫な銀狼の騎士がいた。

 

 

 

武神の肩に立っている機関部で働く右腕義腕のクールな姉御肌の少女がいた。

 

 

 

無垢な命を愛でる生命礼賛、否、幼い子供をこよなく愛すロリコンがいた(死ね)。

 

 

 

色の濃い肌に頭にターバンを巻いている存在感梅組最強の少年がいた。

 

 

 

人当たりがよく精神面で頼りになる全裸マッスルのインキュバスがいた。

 

 

 

漢らしい性格の子供から慕われる耐久値皆無のスライムがいた。

 

 

 

上半身裸でバケツヘルムを被った意外と豊かな表現をする大柄な少年?がいた。

 

 

 

口数少なく無愛想な職人気質だったがキャラ崩壊してしまった現在、よく笑い無駄に爽やかになった少年がいた。

 

 

 

真面目で明るいが見た目が幼く、背も低いが胸も薄い色々と貧しい従士がいた。

 

 

 

権限の奉還と能力の封印を行い還俗した色々天然な車椅子を押した少女がいた。

 

 

 

車椅子に乗り「???」を抱かかえる歯に衣を着せぬ物言いをする心優しい少女がいた

 

 

 

盲目でありながら誰よりも優しく、誰よりも仲間を信じる前髪教の女神がいた。

 

 

 

涙を流しながらも帰る場所を守り続けてくれた欲望駄々洩れの巨乳の巫女がいた。

 

 

 

咲き誇り皆を鼓舞し続けてきた淫乱かつ我が道ノンストップの天鈿女命がいた。

 

 

 

種族も性別も縁を結んだ時間すらバラバラだが何においても頼りになる仲間が自分たちの後ろにはいつもいてくれた。

 

そして、道化師は改めて横を向く。

 

 

 

そこには、昔と違い自動人形の身体を得た初恋の義妹が無表情決めてお茶を飲んでいた。

 

そこには、馬鹿でお気楽で無能扱いされているが実際はどうか不明な親友がいた(全裸で)。

 

 

 

「ん、おぉぉぉい、どしたよ親友」

 

 

 

感慨深そうにため息をついてしまった道化師に全裸の王が声をかける。

 

 

 

「あー、いやな世界の命運をかけて戦う場であることはわかっているんだがな。

 

 なんつうか、こうさ「世界の行く末を決めるための壮大な親子喧嘩に巻き込まれる皆様が哀れですね義兄様」言うなよホライゾン」

 

 

 

道化師の言葉を横からバッサリと女王が斬り付けて持って行ってしまった。

 

 

 

「まぁ、そうだな、しかもこの親子喧嘩の原因の9割がオレ等だぜ親友。

 

 割合分配するとお前が6割だけどな」

 

「言うなトーリ、考えないようにしてるんだから」

 

「ですが、あちらの“要求”も考えるとこちら側の“皆様”の“殺る気”が良い具合で上昇しておりますので、えぇ可愛い姪甥義妹共々好かれているようでホライゾン的には鼻が高いです。決して、決して後数年は義兄様の膝枕を独占したいなどと考えておりませんので気楽に観戦させていただきますが」

 

「ホラ~イ~ゾ~ン、よければこのオレの膝枕が空いて「全裸の方はご遠慮します」チキショー、親友悔しいから後で「いいから真面目に宣誓しろ馬鹿」義兄妹揃ってオレのセリフに被せるなよ」

 

 

 

なんとも締まらないが、いつも通りの空気に周囲からも笑い声が漏れている。

 

それでも、これがオレ達で、ココがオレのいる場所なんだと思い知らされる。

 

 

 

「ほんじゃま、さぁてさて、世界賭けた親子喧嘩になってきた部分もあるけど取り合えずリ・ベ・ン・ジ、リベンジ!!いつも通り挑戦者で行こうぜ“オレ達”」

 

「”初心忘るるにべからず”、でござるなトーリ殿、勝って夫婦円満家内安全幸せ家族計画でござるよ」

 

「ま、一回負けてしまっていますから、例えここで完敗させられても“要求”を呑むだけですので、気が楽ですね。リラックスリラックス」

 

「ダメですよホライゾン、絶対勝ちますよ、今回は絶対に何があってもどんな手を使ってでも何をやらかそうとも勝ちますよ絶対に」

 

「んふ、まぁ善いわ、愚弟・おバカ後ろでこの賢き姉「賢姉」が応援してあげているんだからサブくないように頑張るのよ。おバカは私を抱きしめて暖房替わりでもよくってよ」

 

「とは申しましても、現在外気温はマイナス70℃前後と判断できます、お姉ちゃんとしてはあまり無茶をしてほしくないと考えております―――以上」

 

「「「「「「「「―――以上」」」」」」」」

 

「なるほど、マイナスだけに「正純、頼む、黙れ」なんだよマサムラ私も少しは緊張を解そうとしてだな」

 

「何、正純今何言おうとしての戦闘前に凍死させる気なのアァン」

 

「ガッちゃんドウドウ落ち着こうよ、そろそろ装備の準備しようよ。あの子たちに思い知らせたいし」

 

「ですわね、それにあちら側もそろそろ我慢の限界のようですしね」

 

「ほんじゃま、親友よ最後にビシッと決めてくれい」

 

「ホントにお前らは・・・・・・・・。良いか最低でも全員生存、最高で全てを丸く治める、いつも通りで難しいけどよろしく頼む」

 

 

 

これはありえたかもしれない歴史の歩み。

 

 

 

「大罪術式」

 

 

 

道化師という役割を得た存在が王や仲間と共に最善を目指す物語。

 

 

 

「神演ノ鬼札クラウンクラウン、発動」

 

 

 

夢現ゆめうつつの境界で描かれる大衆演劇。

 

 

 

「さぁ、世界を賭けた盛大な親子喧嘩、始めようか」

 

 

 

お気に召すなら足を止め彼らの舞台をどうかご観覧していっていただきたい。



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東方の姫君は男の娘

書きたい人がいたら書いてくださいシリーズ第一弾。複数連載できる人の頭の構造が知りたいです。


その日、マグルの少女は運命の出逢いをした。

慣れない旅で思いの外疲弊していた彼女は、一番近くにあったコンパートメントの扉を開けた。

中には既に誰かが居るようで、彼女からしたら逆光で見辛かった。

光が弱まりその姿が露になった。

其処は今まで彼女がであったことの無い存在がいた。

カラスのような艶やかで絹を思わせるような黒髪。

白磁器のような芸術性を思わせるアジア人特有の黄色を帯びた肌。

うっすらと見える唇は薄紅色で図鑑で見た“サクラ”の花弁のよう。

外の景色を憂鬱そうに眺める様は絵画のようであった。

 

「・・・あぁ、気付かなくてゴメンね。何か用事かな?」

 

窓に写る自分の姿に気が付いたのか、アジア人特有の妖しい色香を放つ存在からは以外に思えたが、そのハスキーボイスは不思議と彼女の脳に溶け込んでいった。

 

「あ、あの他のコンパートメントが空いていなくて、もし良かったらご一緒させていただいても宜しいでしょうか?」

 

普段の彼女からは想像できない、慌てた様子だった。

そんな彼女を微笑ましそうに先客は見ていた。

 

「えぇ、貴女が不快でなければ是非一緒に座りましょう」

 

そう言うと、自分が座る対面の席を手で案内してくれる。

 

「ありがとう御座います、私“ハーマイオニー・グレンジャー”と言います」

 

何に緊張しているか解らないが、少女“ハーマイオニー・グレンジャー”は慌てて自己紹介をした。

 

「これはご丁寧に、僕は“ユウリ・クオンジ”。日本からの留学生です」

 

そう自己紹介をしてくれた目の前の存在にハーマイオニーは心を奪われていくのを自覚した。

 

 

「それじゃ、ユウは3年生なのね。あとリョクチャって以外と美味しいのね」

 

自己紹介を終え、互いの当たり障り無い話に移った際に年齢の話になった。

ハーマイオニーは背格好が似たユウリを同い年だと思っていた。

しかし、ハーマイオニーの知る11歳の男子特有の煩さがなく、物静かでそれでいて話していて楽しいユウリを気に入っていた。

また、短時間で互いを「ユウ」、「ハミィ」と呼び会うまでに仲良くなっていた。

今はユウリが鞄から取り出した日本茶セットと「キ○トカ○ト」や「○の里」等のお菓子で旅を楽しんでいた。

 

「そうだよ、お茶に関しては煎れ方の問題だね。西洋圏の尚且つ北欧を起源とする魔法界の実地研修で留学してきたんだ」

 

ハーマイオニーにとってユウリの話はとても面白く、特に現代魔法界の実情の話ではアジア、アラブ圏の魔法界は現代を学び、使える技術は非魔法使いが造り出したものでも活用していくようにしているらしい。

 

「ハミィなら解ると思うけどフクロウで手紙のやり取りするよりも携帯電話で連絡した方が早くない?」

 

そう言うとポケットから携帯電話を取り出して鞄に入れる。

つい最近まで普通の現代っ子だったハーマイオニーからすると当たり前過ぎて考えもつかなかった。

 

「そうね、便利なものは何であれ取り入れていけば良いのに」

「言い方が悪いだろけど、こっちの魔法使いたちは良くも悪くも“プライド”は人一倍高いからね」

 

ユウリはそう言うと可笑しそうに然りとて苦笑ともとれる笑みを浮かべた。

 

「「あぁ~、“姫”ここにいたんだ」」

 

そんな空間に突如として現れた異物。

赤毛の双子が異口同音でユウリを指さしていた。

 

「やぁ、“ウィズリーズ”。前にも言ったけど列車ではお静かに、ね」

 

そう言うと人足指を唇に当て「シー」のポーズをするユウリはどこかいたずらっ子のような印象を見せた。

ハーマイオニーにとってユウリはまるでお近づきの印にもらった万華鏡のような存在に映っていた。

同級生と思わしき少年たちと話をするユウリにどこか疎外感を感じ始めていたハーマイオニー。

そんな時だった。

 

「フレディ、ジョン。こちらはハーマイオニー・グレンジャー女史、新入生だけど当時の君たちも裸足で逃げ出すほど勤勉で良い子だよ」

 

ユウリはそう言うと隣に座っていたハーマイオニーを紹介してしまった。

 

「ハミィ、この二人はフレッド・ウィーズリーとジョージ・ウィーズリー。寮は違うけど僕に良くしてくれる悪友だよ」

「「よろしくね~」」

 

異口同音でタイミングを合わせたかのように挨拶をしてくる上級生二人。

 

「ちなみに見比べてカッコいいのがフレディで、見比べて理知的なのがジョンだよ」

「「酷いな~”姫”は」」

 

そんな様子にたまらず吹き出してしまったハーマイオニーだったが、3人の上級生は温かく見守ってくれた。

ホグワーツが近づき、制服に着替えることになった。ハーマイオニーとユウリが一緒に着替えることになったが、ユウリは用事があると消えてしまい戻ってきたときには既に着替え終えていた。

ローブをすっぽりとかぶり制服姿が見えないことに残念がるハーマイオニーだったが、ユウリに頭を撫でられ制服姿を褒められる様子は誰が見てもご満悦であった。

 

「あ、あのぉ、ここに僕の”トレバー”は来ませんでしたか」

 

全員が着替え終え、ユウリのお土産に舌鼓を打っていた時だった。

見慣れない少年がコンパートメントの扉を叩いたのは。

 

「まずは名乗りなさい、常識であるのと同時に最も敵を作りにくいやり方だよ少年。君が新入生なら特にだ」

 

 

ユウリに諭された少年は顔を赤らめると下をうつ向いてしまった。

ユウリ以外の三人はその理由に思い至ったのか、気の毒そうに少年を見ている。

 

「ぼ、僕はネビル・ロングボトムです。ペットのヒキガエルのトレバーが逃げ出しちゃって探しているんです」




もし、本当に書いてやってもいいよって人がいたら私まで連絡をお願いします。


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ヒロアカ系オルフェノク増ジロちゃんといちゃつきたいだけー①

“聖灰事件”

かつて、“個性”が“異能”と呼ばれていた時代から存在する未解決事件であった。

それは、ある日突然のことだった。

警察が“異能”を使い自身の欲望を満たす犯罪者をとある袋小路に追い詰めた時だった。

追い詰められた犯人は、自身の異能を使用し警察を牽制していた。

そんな中、犯人は突如異能を使うのを止め空を見上げた次の瞬間、犯人は突如“蒼白い焔”に包まれ灰となってしまった。

後には犯人が着ていた衣服だけが残されていた。

この事件を皮切りに、“異能”を使用し悪事を働く者が“蒼白い焔”に焼かれ灰となる事件が続発した。

一時期は「愚かな人類に神が下す罰」という考えから過激な“異能排除主義”を掲げた「灰神教」なる宗教が持て囃されたが、その教祖が演説中に突如苦しみながら灰化したことで、「“異能”による無差別テロ」という見解がなされ、警察の賢明な捜査も虚しくある日突然この現象はピタリと止んだのだった。

それから、数十年の年月が立ち、人の記憶からも忘れられかけた時のことだった。

 

青年が一人、ビルの屋上で月を眺めていた。

月明かりに照らされるその姿はスポットライトを浴びる舞台役者のようであった。

 

『♪~♪~、♪~♪~、♪~♪~』

 

青年の傍らに置かれていたスマートフォンが鳴ったのは月が雲に隠れたのとほぼ同時だった。

電話に出て一言二言話した青年はスマートフォンを着ているワイシャツの胸ポケットにいれると深く深呼吸した。

徐々に雲が晴れ、再び月が顔を出した時、青年のいた場所には全身が灰色に染まり、隼を想わせる外見の異形が立っていた。

その異形が左手を振るうと身の丈もある大弓が姿を表した。

そのまま、右手で矢を番える動作を起こすと光の矢が現れた。

そして、その矢を躊躇することなくビルの奥に出来た暗闇へと放ったのだった。

異形はそのまま、何事もなかったかのようにその背に翼が現れると夜空へと飛び立っていくのだった。

 

-矢が放たれる数分前―

 

ビルの暗がり、そこには複数の男女が瀕死の状態で大量の血溜まり中にいた。

 

「は、我を虚仮にする記事を書こうとするからだ」

 

その男女を見下すように、見ているのは現代において最も人気の高い職業、“個性”を善き事のために使うヒーローと呼ばれる存在であった。彼等は“個性”を悪き事に使う存在“(ヴィラン)”と戦い、人々を守の安全を守る存在であった。

しかし、この男は自分の人気のために罪もない一般人をヴィランに仕立て上げ、無抵抗な者達を次々に意識不明の重体にすることで発言をさせないようにしたり、ヴィランもどきと結託して災害を起こし敢えて被害が出た瞬間に現れ活躍するといったことを行ってきた。

そんな男なのだから、自身に繋がる証拠は残さずにきたはずだが、とある事件で捕まったチンピラが現在、血溜まりにいる彼等の出版社に情報を流したことで、今迄やってきたことが露呈しかけたのだった。

そのため、口封じに彼等を痛め付けたのだった。

 

「さて、此処までやれば当分意識は戻るまい。このUSBは壊させてもらうよ」

 

そう言うと男は自分の悪事が記録されたUSBメモリを空中に投げる。

次の瞬間、男は何かに貫かれる感覚を覚えた。

目線を下げると、自分と記者たちの間に光の矢が突き刺さり、数秒と経たずに消えていったのであった。

しかし、異変はそれだけではなかった。

男は自分の胸を押さえていた左手を徐に眺めるとその左腕が突如として“蒼白い焔”を上げて燃え始めたのだった。

焔は瞬く間に男を包み込むと、後には男の着ていたヒーローコスチュームとそこに付着する“灰”だけが取り残されていた。

 

数日後

 

〈ピーーンポーーン〉

 

独り暮らしには贅沢な3LDKのマンションに響くチャイムの音。

この家の主人たる青年は未だベッドの上で布団の中、夢の中にいた。

 

〈ピーーーンポーーーン〉

 

先程よりも長めに押されたチャイムにより意識が覚醒しかけたが、再び目を瞑ると布団の中に逃げ込んだ。

 

〈ピーーーンポーーーン、ピーーーンポーーーン〉

 

二回鳴らされたチャイムも意に介さず布団にくるまるとスヤスヤと寝息をたて始めたのだった。

一向に家主が現れないことに業を煮やしたドアの前にいる少女は顔に怒りの色を現すと手に持った鍵で乱暴にドアを開ける。

靴を脱ぎ捨てると勝手知ったる他人の家と言わんばかりに、家主の部屋に真っ直ぐ突き進んでいった。

 

「い・い・か・げ・んに」

 

その勢いのまま開けっぱなしにされていた寝室のドアから綺麗に飛び上がると

 

「起きろ!!」

 

その勢いのまま家主の眠るベッドに飛び込んだ。

だが、少女もまた甘かった。

勢いの乗った跳躍の力をそのまま、少女を捕まえると家主の青年は少女を自分の寝ていたベッドに受け流す。

そして、イイ笑顔を浮かべると覆い被さるように彼女と視線を合わせるのだった。

青年の部下である表裏ともに真面目な青年がこの光景を目撃したらまず間違いなくとてつもない良い笑顔で通報するだろう。

家主の青年は既に目覚めている頭を悟らせないように、起こしに来た少女の首もとに顔を埋める。

そして、その綺麗な首筋に唇を落とすのであった。

 

数分後、妙に色気を放つ少女と妙にスッキリした青年がリビングのソファーで寛いでいた。

 

「今日は日曜日だよ。もう少し寝かせてくれても良かったんじゃないの“響香”ちゃん」

 

自分の煎れた日本茶を片手に起こしに来た少女「耳郎響香」に声をかける家主。

 

「日曜だから、一緒に居たかったの」

 

そんな家主の太股の間に体を小さくさせながら、家主の煎れてくれた甘めのカフェモカをチビチビと飲みながら、家主に体を預ける響香。

父の仕事の関係で知り合ったこの青年と響香の付き合いは響香の両親の応援もあって順調に進んでいた。

二人の関係を知る青年の仕事仲間には

 

「“まだ”、一線“は”越えてないから大丈夫」

 

と言っているそうだが誰にも信じられていない。

日曜日ということもあり、朝から情報番組が一週間のニュースを二人で眺めている。

響香にとって、青年と過ごすこの何気ない時間が大好きであった。

 

「あ」

 

そんな時、画面に今週の重大ニュースが映し出されていた。

 

『さて、数十年振りに「聖灰事件」が起きたわけですが、皆さんはどうお考えでしょうか』

 

MCのお笑い芸人がコメンテーターに話を振る姿が映し出される。

二人は無言でその光景を見ていた。

 

「響香ちゃんもヒーロー科に入っちゃった訳だけど、こういう事件を捜査するようなヒーローになるのかな」

 

壊れ物を扱うように腕の中に響香を包み込む青年。

その青年の行為に、身を任せながらカフェモカを溢さないようにカップをテーブルに置く響香。

そして、空いた手を青年の腕に絡める。

 

「ウチはまだ、どういうヒーローになりたいか解らないけど、ウチは羽流人さんが自慢できるヒーローになりたい」

 

蕩けた顔を青年「隼月(はやつき)羽流人(はると)」に向ける響香。

羽流人はそんな響香を愛おしそうに抱きしめるのだった。

 

羽流人と響香が互いを堪能した(くどいが本当に一線は越えていない)日曜日が終わり月曜日となった。

羽流人は自分の店で仕事の準備をしていた。

そんな時、店のドアが開いたのを報せるベルが鳴り響いた。

 

「まだ準備中ですよ」

 

顔も上げずに来訪者に告げる羽流人。

 

「そう言わないでくれ、久しぶりに君の煎れた茶が飲みたくて来たのだから」

 

羽流人が顔を上げると、そこには3人の人物が立っていた。

 

同時刻ー警視庁ー

 

「「聖灰事件」、未解決のこの事件が再び動き出すとは」

 

そこには、骸骨のように痩せこけた男性と、熊のようなネズミのような摩訶不思議な生物とともにとある一室にいた。

 

「我々としても頭が痛いことだ。今回のターゲットが悪徳プロヒーローだったこともあってか世間からのバッシングが止まないのだよ」

 

対面に座るヒーロー協会役員の男性、その隣に座る公安部に籍を置く女性は机に置かれた各メディアの資料に目を向ける。

そこには、今回の事件の被害者であったヒーローの悪事とそれに荷担し隠蔽をしてきた協会関係者と警察関係者への止めどないバッシングが書かれていた。

 

「それで、態々僕らを呼んだのは、何か収穫があったからじゃないのかい」

 

熊のようなネズミのような存在、“根津”は持参した紅茶を飲むと対面の二人に情報を出すよう促した。

 

「事件の前後、近隣の監視カメラと重症だった記者の隠しカメラに映った映像を調べた結果、狙撃位置が解りました」

 

そう言うと机に一枚の写真が置かれた。

 

「この写真はとあるビルの屋上に設置された監視カメラが捉えた映像を切り取ったモノだ。“こいつ”が意図的にしろ偶然にしろその姿を捉えられたのは前進と考えたい」

 

同時刻

カウンター席に座る3人の人物。

 

「朝っぱらから有名人3人がこんなとこにいても良いんですか」

 

羽流人は自身の前に座り各々注文した飲み物を楽しむ3人に目を向けた。

 

「花形さん」

 

世界シェア上位。

電子機器メーカー「スマート・ブレイン」社長。

 

「はっはは、会社は有能な部下たちに任せたあるから大丈夫だよ」

 

花形(はながた)流星(ながれ)

 

「ベッキーさん」

 

ヒーローのみならず世間一般でも知られる開発機関。

“個性”サポートアイテム研究開発機構「BoarD」主任。

 

「私も皆が優秀ですから息抜きデ~ス」

 

ベッキー・シールド。

 

「本郷さん」

 

今世紀最良と言われる警察官。

警察庁刑事企画課“個性”犯罪情報分析室室長。

 

「なに、老兵の私がいなくとも今回の件では上手く回せているさ」

 

本郷(ほんごう) (たける)

 

世界的にも有名人な3人が雰囲気は良さげな小綺麗な喫茶店に顔を出すのは偶然といえばそれ迄であった。

しかし、その店の店主と親しげに話しているとなると、そこに別の何かが生じてくる。

 

「先週の件、あちら側に情報を与えて良かったのですか?」

 

本日休業の看板が出された店内。

その中の棚を手順よく弄るとその奥に地下に通じる階段が現れた。

階段を降りている最中、似非訛りを無くし饒舌に話すベッキーは最前列を歩く羽流人に声をかけた。

 

「もともと、その予定だったですし、本郷さんが精査してくれた情報ですから、僕が露見することはないでしょう」

「件のヒーローについては前々から我々がマークしていたが、彼の社会貢献度から表沙汰に出来なくてね」

「それに、この世は“個性”社会だ。我々の存在に結びつけれるとはとても思えないしね」

 

暗がりの中進む4人。

すると、目の前にカメラが備わった扉が姿を表した。

そして、4人に変化が起きた。

4人の瞳が灰色に染まると顔に異形の姿が重なって映し出された。

その後、4人の姿は異形へと変わっていった。

 

同時刻ー警視庁内ー

 

机の上に置かれた写真、そこには一体の異形が写っていた。

 

「“異形型”の個性持ちですか?」

 

骸骨のように痩せこけた男性が写真に写る灰色の異形を見た感想を述べる。

 

「“オールマイト”、我々もそのように判断しました。しかし、だとすると一つ問題がある」

 

公安部の女性警官がパソコンを操作すると、壁にプロジェクターで何らかのリストのようなモノが映し出された。

 

「既に“個性”届けが出されている全員を調べたが、該当する“個性”は居なかった」

「ということは」

「我々が感知出来ない、届け出が出されていない者。あるいは嘘の届け出を出した者が犯人であると思われる」

 

その内容を聴きながら根津は一人かつて自分が囚われていた実験施設で見た一体の異形を思い出していた。

 

「もしかしたら」

 

根津のその声は部屋に静かに響いた。

 

「もしかしたら、僕は彼の正体を知っているかもしれないのさ」

 

 

カメラの起動音と共にマシンボイスが鳴り響いた。

 

『“ゴートオルフェノク”様、認証イタシマシタ』

 

流星の立っていた場所には左右の側頭部に立派な巻き角を持つ山羊の特徴を持った異形が。

 

『“ラフレシアオルフェノク”様、認証イタシマシタ』

 

ベッキーの立っていた場所には花のようなドレスを身に纏う女性のような異形が。

 

『“ホッパーオルフェノク”様、認証イタシマシタ』

 

尊の立っていた場所には首に巻かれたマフラーのようなモノがひときは目を引くバッタの特徴を持った異形が。

 

 

「僕がまだあの忌々しい研究所に囚われていた時、灰色の異形に変身できる人間が一緒にいたのさ」

 

なにかに怯えるようにガタガタと震えながら話を進める根津の姿は普段の自身に満ちた根津からはかけ離れていた。

 

「研究が進むにつれ、その人間には“個性因子”が存在していないことが解ったのさ」

 

根津のその言葉に思わず立ち上がってしまう3人。

 

「僕が研究所から脱出して、かつての仲間たちと研究所の場所にいった時には、研究所は廃墟となっていたのさ」

「せ、先生」

 

思わず恩師の肩に触れ、安心させようとするオールマイトだっが、根津の震えは止むことはなかった。

 

「僕は直感的に、この惨劇を引き起こした犯人がその人間だと確信したのさ」

「そして、廃墟の中に残された数少ないレポートの切れ端から、研究所でその人間がどう呼ばれていたか知ったのさ」

「その人間につけられた検体名は“オルフェノク”」

「僕らと違う“進化”を遂げた新人類だと書かれていたのさ」

 

 

『“ファルコンオルフェノク”様、認証イタシマシタ』

 

羽流人が立っていた場所には、警視庁でオールマイト達が見ている写真に写っている隼を思わせる弓兵のような、狩人のような印象を与える異形が立っていた。

 

『オカエリナサイマセ、星ノ子供タチ』

 

4体の異形は扉が開くとそのまま中へと進んでいった。

そこはまるで楽園のような幾億もの花が咲き、和な光に照らされた場所だった。先に進むと其処には空中に浮かぶハンモックチェアがあった。

花吹雪がおこり、周囲の景色が包まれた後には人の姿に戻った4人が立っていた。

 

「さて、今後のことを話し合おうか」

 

花形の言葉を合図に4人は思い思いの椅子に座る。

この話しは、とある少年が最高のヒーローになるまでの物語ではない。

ある世界に存在した異形達の物語である。



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ヒロアカ系オルフェノク増ジロちゃんといちゃつきたいだけー②

耳郎響香は“ヒーロー”に憧れた。

それは、偶然であった。

しかし、彼女はその出会いは必然であったと信じている。

切欠は彼女がまだ小学生の頃だった。

その日、大好きな父がコンサートから帰ってくると知っていた彼女は普段は通らない工事現場を近道として走っていた。

秋も深まり、風が肌を刺すように冷たく感じるその日、それは起きてしまった。

鉄骨が剥き出しの作業現場では半グレ集団が互いの縄張り争いで“個性”を使用した喧嘩をしていた。

その中で手から熔岩を噴き出す“個性”の少年と触れたモノを錆び付かせる“個性”の少年が一進一退の喧嘩を繰り広げていた。

そんな二人の“個性”であれば鉄骨等簡単に壊してしまう。

そして、そんな時にこそ事故は起きてしまうのだ。

響香が知らず知らずのウチに通り過ぎようとした真上。

丁度その時、二人の個性が歪なバランスを保っていた鉄骨に当たり数本の鉄骨が落ちていった。

そして、何かが落ちてくる音に気づき響香が見上げた時、そこには響香を押し潰そうと意思を持ったように鉄骨が落ちてくる景色が広がっていた。

目をつむり、頭を抱えるようにしゃがみこんだ響香は幼いながら自分が死ぬことを理解していた。

目をつむり続ける彼女を突然秋風の冷たさが頬に当たる感覚で薄く目を開いた。

驚いたことに響香は空を飛んでいた。

そして、誰かに抱えられている感覚を覚えた響香はうっすらと目を開ける。

そこには灰色の鳥のような顔をした“ヒーロー”がいてくれた。

あまりのことに頭が追い付いていない響香を気絶していると判断したその灰色のヒーローは人気の無い神社に降り立つと響香を優しく寝かせ、数歩離れ辺りを見回す。

頭が追い付いてきた響香は両親の教えを守りお礼を言おうと頭を起こした。

すると、目の前のヒーローは姿を変え一人の青年となっていた。

互いに目があってしまい青年は気まずそうに視線をずらそうとしていた。

だからだろうか、響香は気が付いたら声になっていた。

 

「たすてくれて、ありがとう」

 

その言葉に呆気にとられた青年は、少ししたら笑顔になった。

響香は初めて異性が笑う姿を綺麗と感じた瞬間であり、“ヒーロー”に憧れた瞬間であり、羽流人に一目惚れした瞬間であった。

そんな出会いから数年、両親が“彼ら”の“支援者”であり、羽流人の後見人を務めていたこともあり二人の関係は着実に進んでいった。

その証に響香の赤らんだ首筋に見える鎖に通された指輪は、羽流人が高校入学祝にプレゼントしてくれたモノであり、周りからも婚約指輪扱いされた。

ヒーロースーツに身を包んだ時、アクセントのように胸元で輝く指輪。

それは、響香にとって常に羽流人が傍に居てくれるような安心感を与えてくれた。

 

「耳郎ちゃんはどういうタイプが好きなの?」

 

クラスにも馴染んだある日、女子だけで昼食を取っていると何故か恋愛の話しになっていた。

既に婚約者(羽流人)が居る響香は同年代の恋愛観を聴きながら、羽流人が作ってくれたお弁当を食べていた。

そんな中、クラスでもムードメーカーで「見ての通り、見えない透明人間」がフレーズに成りつつある「葉隠 透」に話をフラれてしまった。

無自覚に惚気たい願望が強い響香は待ってましたとばかりに外には漏らさないように、鞄に入れておいた音楽雑誌を取り出し、とある特集ページを見せ、堂々と指差したのだった。

 

「ウチは“この人”かな、弦楽器奏者の“隼月羽流人”」

「うゎー、イケメンやー」

「男性の方ですわよね、とてもお綺麗ですわ」

「ケロ、この人見たことあるわ」

「あ、あたし知ってる✕✕駅の近くにある喫茶店のオーナーさんだ」

「葉隠も知ってるんだ、あそこのケーキ美味しいよね」

 

自分の旦那(予定)が褒められている姿は誇らしくあり、それと同時に響香には変な優越感が生まれた。

 

<どうだ、ウチの羽流人は格好いいだろう>

<優しいけどちゃんと叱ってくれるし>

<ご飯も美味しいし>

<ウチをちゃんと女の子扱いしてくれるし>

<でも、絶対に渡さないからな>

 

お昼をしっかり胃に納めながら、乙女達の会話は午後のヒーロー学に移っていった。

 

隼月羽流人は奏者であるが、実業家でもある。

かなりの金額を貯蓄する彼は趣味で始めた喫茶店経営が軌道に乗ってしまい、仕方なく店を部下に任せて自分は名ばかりオーナーとなっていた。

そんなある日、花形の使いとして一人の男性が現れた。

 

「雄英襲撃、派手なこと考えるね」

「私としては、どうでも良いことです。しかし、狙われているのが耳郎さんの娘さんならあなたに報告しておいた方が面倒になら無いと社長からも言われましてね」

「それで、態々来てくださったんですか村上さん」

 

村上(むらかみ)梗司(きょうじ)

スマートブレインにおいて30代で専務職を任される男であり、花形の命令系統においてNo.2の位置にいるオルフェノクでもある。

 

「オレに釘を刺しに気たわけじゃなさそうですね」

「寧ろ、一緒に行っていただきたいのですがね。今回は此方の四葉に出向いていただく程ではありませんが」

「戦力が欲しい、と言うことですか」

「というより、その場からの離脱力ですかね。私としては空を飛べるあなたは勿論、彼らにも来ていただけると助かるのですが」

「つまり、オレは公衆の面前で響香をお姫様だっこして、見えないようにキス跡残して、照れてる響香を存分に堪能すれば良いんですね」

「あなた、人の話し聴いてました?」

「・・・・、冗談ですよ」

 

梗司にとって羽流人の派閥、特に羽流人本人は理解しかねる存在だった。

穏健派が多い上位オルフェノクの中において、羽流人の派閥は特に融和的な思考を持つ者達が占め、梗司が言うところの「上の上」に位置するオルフェノクが多く籍を置く派閥であった。

一方で力に溺れ、その力を我欲を満たすために使う“異能者”やオルフェノクを躊躇すること無く殺すその姿は各派閥から恐れられていた。

「温和でありながら冷酷」、そんな羽流人達を梗司は心のどこかで恐れている。

 

「で、いつ行くんですか“先輩”」

 

それでも無下にしないのは、この人懐っこい後輩を自分が気に入ってしまっているからだろうと無理矢理結論付ける。

一拍置くために出された紅茶を飲み干すと時計を確認し梗司は口を開いた。

 

「今すぐ、です」

 

数秒後、慌てて店を出る4人の男性の姿が目撃されるのだった。

 

 

“嘘の災害や事故ルーム(通称:USJ)”本来であれば、今ここではヒーローの卵達が災害救助の基礎を学んでいる筈だった。

しかし、今ここは戦場のような殺意に満たされていた。

突如現れた“ヴィラン()”と呼ばれる存在達による強襲を受けた。

その上、空間移動系の“個性”持ちにより生徒は散り散りに飛ばされ中央広場ではプロヒーロー2名が重症を負って動けずにいた。

散り散りに成ったヒーローの卵達は各々が最適の判断で行動し、彼等にはひどい怪我を負った者は居なかった。

更に、“敵連合”を名乗る集団が奥の手に出してきた巨体の怪人も遅れながら馳せ参じたオールマイト(No.1ヒーロー)により撃退され、このまま引き下がるであろう空気が流れたそんな時だった。

 

「くそ、このままじゃ終われないんだよ」

 

敵の首領と思われる全身に手をつけた“死柄木(しがらき)(とむら)”と呼ばれている人物が大声で叫びながら憎しみが籠った目でオールマイトを見つめる。

 

「あと一歩でアイツを殺せるんだ」

「死柄木弔、此処は退くべきです。退いて体制を整えるべきです」

 

全身が靄で覆われた“黒霧(くろぎり)”と呼ばれていた参謀格の存在の言葉に耳を向けようのせず、手を伸ばそうとする弔。

 

「だったら、ボーナスステージといこうじゃないか」

 

全身を恐怖が襲う。

その声が聞こえただけでヒーローの卵達は心が折れた。

その声はとても純粋にとても強烈に黒く悪意に染まっていた。

突如として目の前に2体先ほどの怪人と同じような姿をした怪人が現れた。

しかし、大きな違いがあった。

片方は先程の怪人に比べ細身であった。

しかし、右腕は蟹のような形状をしており、その巨大なハサミは注視しなくとも鋭さを認識できた。

一方で左腕は人のての形状をしているが、明らかに甲殻類の殻のようなものに覆われており、その巨大さは先程の怪人の3倍は有りそうであった。

もう片方は先程の怪人と同程度の大きさであった。

しかし、右腕は巨大な突撃槍のような形状をしており、左腕には円形盾のようなモノがついていた。

さらに、背中から生えている二本の腕はガトリングガンのような形状をしていた。 

 

「さぁ、僕に君の絶望を魅せてくれオールマイト」

 

その邪悪を煮詰めたような声が響くと2体の怪人は動けない生徒と重症を負ったイレイザーヘッドへと恐ろしい勢いで突進していった。

活動限界にきてしまいまともに動けないオールマイトは手を伸ばすことすら出来ず、絶望の最後を見届ける筈だった。

 

一方、山岳エリアと出入り口にもオールマイトが吹き飛ばしたのと同型の怪人が現れていた。

出入り口に現れた怪人は姿形こそ同じだが全身から雷を放出しながら徐々に生徒達に近づいていった。

重症の13号が自身を盾にして生徒を守る姿を嘲笑うかのような笑みを浮かべながら。

そして、山岳エリアでは

 

「ケケケケケ、女、女ダ。ガキ臭イケド久方ブリノ女ダ」

 

ついさっきまで、ショートしていた上鳴電気を羽交い締めにして勝ち誇っていたヴィランの頭を握り潰し、八百万百と響香を凝視すると狂ったように笑いだし、自分の欲望の捌け口を見つけたような情欲にまみれた目で百と響香を見つめた。

 

「アァ、簡単ニ壊レルナヨ、徹底的ニ楽シンデヤルカラナ」

 

ショートした電気を興味なさげに崖近くまで放り投げ手から出したトリモチのようなもので固定すると、涎を滴しながら、獲物と定めた少女二人の身体を舐め回すように見つめてきた。

思わず二人の身体に悪寒が走る。

そして、それは一瞬の隙になってしまった。

怪人は両手から電気に放ったトリモチのような何かを二人に向けて放ち動きを封鎖するとその背中からエ○ゲーでお馴染みの触手を無数に生やし恐怖を煽るようにゆっくりと生け贄(少女)へと歩み始めた。

 

4体の怪人が突如何かを警戒するように止まったのと、大きな破砕音で土煙が舞ったのは偶然にも同じ時だった。

オールマイトがその眼に写したのは生徒の前に盾のように立ち塞がる全身に鋭利なナイフを思い起こさせる突起を持った狼の要素を持った灰色の異形とイレイザーヘッドの前に立つ頑強な全身鎧に身を包んだ西洋騎士を思わせる馬の要素を持った灰色の異形だった。

そして、13号の前には白みがかった体躯、頭部の透けた場所から見えるバラの花束を思わせる器官を持つ異形。

そして、百と響香の前には弓兵を思わせる背中に2対の翼を持った隼を思わせる灰色の異形が腕を組んで涎を垂らす異形に殺気を放っていた。

 

中央広場で甲殻類の殻を鎧のように纏った怪人と相対している灰色の異形は徐に半身に構えその場でステップを踏み始めた。

それは、"個性"が現れる前、立ち技最強とうたわれたキックボクシングのような構えであった。

そして、灰色の異形が開いてた両手を思い切り握りしめると、その両腕に変化が現れた。

"ジャマダハル"を思わせる武器が現れ、先ほどに比べより攻撃的な印象を与えていた。

イレイザーヘッドの前に立ちふさがった西洋騎士のような異形も気が付くと両手剣と円形盾を持って眼前の怪人を見据えていた。

そして、勝負は一瞬だった。

殻に覆われた怪人と突撃鎗の手を持つ怪人が人知を超えた速度で突進してきた。

誰しもが一瞬、目をつぶってしまった次には灰色の二体の異形が互いの獲物を振りぬいた姿で立っていた。

そして、突進してきた怪人は突如青白い炎に包まれ燃え尽きた。

 

13号とその場に残った生徒達は自分達の目の前で起きている光景に目を疑っていた。

身体から雷を放出し続ける怪人の前に突如現れた白い異形、その白い異形が腕を振る度に薔薇の花弁が舞い、今となっては雷を放出し続ける怪人の姿は花弁で見えず、花弁の吹雪の中で吼える声しか確認できなかった。

突然、白い異形は腕を振るのを止め花弁の吹雪に手を向けるとその手を力一杯握り締めた。

すると、花弁は消え去り大地に青い薔薇の花が一輪突き刺さっている姿しかなかった。

雷を放出し続ける怪人は姿を消していた。

白い異形が青い薔薇を持ち上げると薔薇は青白い炎を上げ燃え上がり瞬く間に灰になったのだった。

 

山岳エリアでは静かに事が始まっていた。

灰色の異形が地上に降り立つと背中の翼は消え、鳥の脚を思わせた脚部はブーツのような形状に変わっていた。

そして、異形が“右手”に弓を顕現させる。

その弓を真横に振り切ると、弓が姿を変えた。

最上部に取り付けられた鳥の装飾が跳ね上がり、翼を広げる。

すると、その翼はみるみる大きくなり、巨大な鎌のような形状に姿を変えたのだ。

 

[安心しろ]

 

突如、その場で意識があった全員に“声”が響いた。

耳で拾った音でもなく、テレパシーのような頭に直接届けられた感覚とも違う、その声は直接“魂”に届けられたかのように、染み込んでいった。

その声が響くと灰色の異形は鎌を怪人へと向けた。

 

[あのケダモノを、君たちに近付けはしない]

 

そう宣言すると一歩、また一歩と緩やかに間合いを詰める灰色の異形。

 

[一つ、お前は意味もなく“命”を奪った]

 

回りを見渡せば幾人もの敵が頭を握り潰された姿で転がされていた。

 

[一つ、自分のためだけにその“異能(個性)”を行使し恐怖を垂れ流した]

 

灰色の異形の言葉に気を良くしたのか、怪人は顔に喜色を浮かべる。

 

[一つ、未来ある者を淀んだ欲望で汚そうとした]

 

間合いの一歩手前。

再び、左半身が前になるように身体を傾ける異形、そのまま左手を目線まで上げると、怪人を指差した。

 

[さあ、お前の罪を数えろ]

 

静かな、しかし確固たる怒りが籠ったその一言が合図となった。

 

両手からトリモチを発射、同時に先を尖らせた触手による波状攻撃。

怪人のとった手段は一般的には恐らく正解だったであろう。

 

[ちゃっちいな]

 

灰色の異形が鎌を振った、ただそれだけの筈だった。

その結果、怪人は上下に両断されそのまま青白い炎を上げ燃え上がった。

それだけではなかった、山岳エリア鎌の振るわれた軌道上に存在した数多の物が、まるでケーキを切るかのようになんの抵抗もなく切り裂かれたのだった。

 

クラス長の飯田天哉がプロヒーローである教員を連れてきた時には全てが終わった後だった。

敵連合を名乗る二人は消え、広場には生徒とオールマイトが座り込みイレイザーヘッド、13号が安静を保つように寝かされていた。

その上空には根津とオールマイトが写真で確認した異形が悠然と飛んでいた。

 

[危機管理がなっていないな]

 

その声に思わず身構えるヒーロー達。

 

「君の、君たち“オルフェノク”の目的はいったいなんなのさ」

 

気丈にも根津は眼前の異形へと語りかける。

それは、この場の長としての義務感か、はたまた“個性”に刺激された知的好奇心からか本人も解らなかった。

 

[はっ、よく知ってたな。いや、貴方なら知っていて当然か]

[我々の目的か。“人類抹殺”と言えば君らには都合がいいかな]

 

“人類抹殺”という言葉が出た瞬間、その場には言い知れないプレッシャーで覆われた。

 

[冗談だ、“今は”]

 

そういうと、灰色の異形、ファルコンオルフェノクは空へと飛び立っていった。



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海賊物語~だが男だ!!~

死蔵予定供養①


女ヶ島(にょうがしま)

九蛇海賊団の本拠地である“男子”禁制国家アマゾン・リリーがある事で有名。

そんなアマゾン・リリーだが、“偉大なる航路(グランドライン)”前半部の“凪の帯(カームベルト)”内に存在する国家であり、島の殆どがジャングルとなっており、中央部の高い壁の中に清朝時代の中国を彷彿とさせる町並みが広がる。

アマゾン・リリーの君主は皇帝と呼ばれ、九蛇海賊団船長と兼任する形式をなしている。

国民は「九蛇」と呼ばれる女系戦闘部族のみであり、みな生まれながら戦士として育てられ、逞しく豪快でありながらどこか気品も漂わせている。

本来ならば偉大なる航路などで活躍する猛者達のみしか体得出来ない覇気を、島の守備を行う戦士全員が会得しているという驚異的な戦闘能力の高さを誇っており、九蛇海賊団のメンバーはこの戦士達の中から選抜されてる。

海賊国家で世界政府非加盟国だが、“凪の帯”が外敵から護ってくれているため外界からの侵略行為による被害はあまりない。

九蛇の海賊船は獰猛な毒海蛇「遊蛇」が船を引いているので海王類に襲われることがなく、彼女らは島への出入りが自由となっている。

そんな彼女たちだが、外海へ出た者が時折体に子を宿して帰ってくるが不思議な事に生まれて来る子はみな女である。

そう、みな“女”なのである。

長々と説明したが何が言いたいかというと。

 

「おん、おぎゃぁぁぁぁぁ(オレ、“男”なんだけどぉぉぉぉぉぉぉぉ)」

「あらあら、どちたのお腹空いたの?」

 

ある日、バイクで走って走っていたオレは車道にばらまかれていた砂にタイヤを取られ盛大に転倒。

身体中が削れる感覚に襲われるとその後、何かにぶつかり意識を途絶えた。

恐らく、この時死んだのだろうと思われる。

そして現在、自分は未だかつて見たことのない美女の胸に必死に吸い付いていた。

そして、マイマザーを観察していたわかったことがある。

まず、オレの生活圏内に“男”が1人もいないことである。

これは、まあそう言う集落なんだな程度にしか考えていなかった。

次にマイマザーと常に一緒にいる謎の蛇。

現代日本では見ることのないコミカルな顔立ちをしているが、マイマザーの弓になったりオレの揺り籠の綱になったりと肉体強度が半端ない。

そして、オレのそういった生活は何故か家の中で完結していた。

この時期の赤ん坊は外に一緒に連れ出すモノだろうと思っていたのだが、未だかつて一度もマイマザーと外に出たことがない。

そして、常々マイマザーが口走る“立派な戦士”と言うワード。

最後に、こういう言い方は気にいらないが見たことある画風。

結論、ここってONE PIECEの女ヶ島じゃねえの?

だったらなんでオレ男なの?

そんなオレの苦悩は。

 

「よく飲むんだよ、そして立派な戦士になりな」

「あぶぅ(まいいか)」

 

マイマザーの母性の塊によって悉く討ち滅ぼされていった。

この時、もう少し考えを巡らせたらと思う反面、赤子に何も出来ないと言う諦めが時折頭をよぎるのだが。

更に数ヵ月後、何故かオレはグルグルの産着に包まれ籠、というか明らかに海に流す意図がある小舟に乗せられようとしていた。

 

「すまないアサガオ、だが我々から生まれた男児はそれ即ちこの女ヶ島に厄災をもたらす忌子。忌子は海神に委ねることが決まりなのだ」

 

マイマザーの後、マイマザーに矢を向ける集団の中でも一際小柄な老婆がマイマザーに語りかけている。

 

「解っております。むしろ、1年もこの子と共に過ごさせていただき感謝しております」

 

マイマザーはそう言うとオレを小舟に乗せた。

 

「アセビ、私の愛しい子。逆らえない母を許さなくて構わない。此島を滅ぼしても構わない。でも」

 

そう言うとマイマザーの瞳から大粒の涙がこぼれだす。

 

「母は、母だけはあなたの無事を祈っています」

 

そう言うとマイマザーはオレを乗せた小舟を海へと押し出した。

少しして産着の間から見えたのは自らの首を刀で切り裂くマイマザーの姿とそれを抱き止め急いで治療出来る者を呼ぶ小柄な老婆の姿だった。

 

「あぶぅ(あぁ、オレ死ぬのか)」

 

皮肉にも日の暖かさに微睡み赤子のオレは意識を失った。

 

「お頭、赤ん坊が流されてやしたぜ」

「キシシシシ、この大海賊時代にゃ別に珍しいことじゃねえだろう。てか、お前らどうせ拾ったんだろ、まだ生きてるのか?」

「呑気に眠りこけてやすぜ」

 

凪の帯を何故か抜けてしまったオレはその後の運命を決める男と出会うことになる。

 

「キシシシシ、こりゃ大物になるぜ」

 

呑気に笑う男、ゲッコー・モリアと出会ったのだった。

 

「アセビ、今日の朝飯はなんだ?」

「今日はチョウザメのソテーと釜焼きナン、スープはチョウザメの骨からとった出汁をきかせたスープ。それとカシラにはキャビアのマリネだよ」

「おぉ、朝から豪勢だな」

 

ゲッコー海賊団に拾われてから7年の月日が経った。

気が付くと海賊見習いとしてこき使われつつ、マトモな料理が出来る(ようになってしまった)のが自分しかいなかったことが関係してかコックの真似事をさせられている。

 

「皆が昨日、冷蔵庫のお肉食い尽くさなきゃ今朝はベーコンも出せたのに」

「なんだよアセビ、気にすることねぇぞ」

「そうそう、俺達に食われるような鍵かけたオメェが悪い訳じゃねえからよ」

「「ぎゃはははははははははははははははは」」

 

ゲッコー海賊団に拾われて海賊見習いになってアセビは海賊として順調に成長していた。

 

「キシシシシシシシ、今日の飯炊きはアセビか当たり日だな」

「「お頭!!」」

 

周囲に自身の陰から生み出したコウモリを従え、船長であるモリアが姿を現した。

 

「それじゃ、アセビ。いつものやれ」

「はいよ、船長!!」

 

そして、気が付くと放たれているナイフ。

部屋に掛かっていた的に当たったナイフ、そして的には何やら文字が書かれていた。

 

「キシシシシシシ、アセビもナイフの使い方が上手くなったな。お前ら今日は全員で船の掃除だ」

「マジかよ」

「アセビ頼むから島で遊ばせてくれ」

 

7年間モリア直々に鍛えられたアセビはどこでも買える既製品の投げナイフと2本のバタフライナイフを武器にしていた。

バタフライナイフに関しては頭身は業物の小太刀であるがそれを扱えるということで船員達からも戦力に数えられていた。

もっとも、未だに見習い扱いのためか船員やモリアから許されているのは投げナイフによる援護のみであったが。

そして、アセビを拾ったことでモリアにも恩恵はあった。

 

「キシシシシシ、しかし便利だな“覇気”はよ」

 

忌子であっても九蛇の血を引くアセビは物心つく頃には自然と覇気を纏えていた。

モリアは存在こそ知っていたが覇気を使いこなせておらず、どうするべきかと悩んでいた際に、さらりと自然に纏って海王類を撲殺しているアセビを見た。

そして、アセビは才能のある者に覇気の纏い方を教えモリアはアセビに戦闘方法を教えていた。

そんなゲッコー海賊団での生活はアセビにとっては楽しいことばかりであった。

その日、運命の岐路に立つまでは。

 

「・・・・・船長、死ぬのか」

 

アセビの目の前には瀕死のモリアが椅子に腰掛け愉快そうに笑いながら酒を飲んでいた。

ゲッコー海賊団は先程カイドウ率いる“百獣海賊団”と全面戦争を行い、モリアとアセビを除く全員が戦死した。

そして、モリアも自身の命が残り少ないことを予見したように眠っていたベッドから起き上がると船長室に拵えた豪華な椅子に腰掛けバーボンを瓶から直に飲んでいた。

 

「キシシシシシ、ゲホ。どうやらオレはココまでのようだ」

 

後方支援として覇気を纏った投げナイフしか行っていなかった為、ほぼ無傷のアセビに対してモリアは愉快そうに笑いながら頭を撫でていた。

 

「アセビ、デッカくなったな。お前を拾ってからこの7年間、退屈することなかったぜ」

「まるで遺言だな、どうせオレも直ぐに死ぬだろうけど」

「キシシシシシ、そう悲観することはねぇぞ」

 

そう言うとモリアは冷蔵庫からメロンを一玉取り出し皿にのせた。

 

「最後の晩餐っすか?」

「キシシシシ、まあ聞け。アセビ、オレはもう直ぐ死ぬ」

「この傷だ、テメエのことはテメエが1番解るってもんだ。そうしたら、このメロンが姿を変えるだろう」

「そしたら、姿が変わったメロンを思い切って食いやがれ」

 

頭に置かれていたモリアの手から徐々に力が抜けていくことをアセビは感じ取っていた。

 

「アセビ、最後の船長命令だ。自由に生きやがれ」

「・・・・はい、船長」

 

気が付くとアセビの目から涙が流れていた。

それに気が付くとモリアは笑いながらアセビの頭を再び撫で回した。

 

「お前と会って過ごした7年間、悪くなかったぜ馬鹿息子」

 

その言葉を最後に、モリアの全身から力が抜けていった。

そして、2人の間に置かれていたメロンが姿を変えて黒い不可思議な果実になった。

 

「はぁ、原作と違うじゃん。まぁ、死にたくないから食べるし」

 

アセビは悲しさを押し殺し、目の前の黒い不可思議な果実“カゲカゲの実”を食べた。

 

「(バクッ!!)うぇ、クッッッッッソ不味い」

 

そして、自らの影を確認した。

影はアセビの意志に従い姿を自在に変えた。

そして、影は盛り上がるとアセビの周囲を回り込み姿を変えた。

それは恰も黒蛇のようであった。

 

「ふう、それじゃ生き汚く生き抜きますか」

 

直後、百獣海賊団構成員100名が塵となって消えた。

それも、幹部といっても差し支えない強者がカイドウとキングの目の前で日の光を浴びて塵となったのだった。

そして、更に異変が起きた。

対峙していたゲッコー海賊団の船が突如勢いよく燃え始めたのであった。

 

「降参でーす、降参」

 

そこから現れたのは白旗を振りながら歩いてくるゲッコー海賊団の海賊見習いの少年。

しかし、先程とは何かが違うとカイドウの本能が告げていた。

その異変を感じ取ったのはカイドウだけではなかった。

キングもまた、その異変もとい少年の変異に気が付いていた。

その変異が何か最初に気が付きそして最初に犠牲になったのはキングよりは数段弱いが実力は確かな構成員だった。

 

「(ん、オレの影なんか長くね?)」

 

自身の影が異様に伸びて少年へと続いているのを見た数秒後。

ギラリと影が目を見開きまるで蛇が獲物を丸呑みするように自身の影を取り込んでしまった。

 

「こ、小僧何しやがった」

 

そう言って天幕から勢いよく出てしまった構成員。

 

「ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 

日の光に照らされた彼は瞬く間に塵となり消え去った。

 

「キシ、ごちそうさま」

 



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海賊物語~まだ子供だ!!~

死蔵予定供養②


アセビ!!アセビはどこだ!!

 

今日も鬼ヶ島にカイドウの怒声が響く。

あの後、アセビは百獣海賊団に厄介になっている。

カイドウから入団するように言われたアセビだったが、彼は笑いながら断った。

 

「カイドウさん、“おもちゃ”は多い方が退屈しないっすよ」

 

それが何を意味するか、瞬時に理解したカイドウは上機嫌に酒を飲みながらアセビを食客扱いで百獣海賊団においている。

そんなアセビはカイドウから2つ仕事を頼まれていた。

 

「いった?アセビ」

「キシシシシ、今度は何やらかしたんすか“お嬢”?」

 

アセビの使用している客室、そこに運び込まれたベッドに重ねられた布団。

その布団は現在、丸く盛り上がって明らかに誰かがいることは明白であった。

 

「ボクはただ、お父さんに海に出たいっていただけだ」

 

布団からひょこりと顔を出したのはカイドウと同じく角を持ち綺麗な白髪をした幼女。

 

「キシシシシ、まだ早いですよ“ヤマト”お嬢」

 

カイドウの実娘、ヤマトであった。

アセビの仕事、その1つがヤマトの教育係であった。

 

「キシシシシ、大きなたん瘤拵えちゃって。ほら、手当てしてあげますから此方に出てきなさいな」

 

おかしそうに笑うアセビを怨めしそうに見ながら布団から芋虫のように這い出てきたヤマト。

アセビの対面に座ると大きなたん瘤ができた頭をアセビに向ける。

 

「キシシシシ、まぁカイドウさんの心配も仕方がないでしょう。お嬢はまだまだ、見習いレベル。この百獣の戦闘員名のる奴にゃ早々に負けることはないでしょうけど、オレみたいな例外がありますから」

「でも、僕も海に出たい!!歳の近いアセビは食客扱いで時々海に出てるのに」

「流石のカイドウさんも娘は可愛いんでしょう。はい、手当て終わりです。オレはカイドウさんとキングさんに書類出しに行ってきますからお嬢は良い子で此処にいてください」

 

そう言うと机に置かれた筆入れに入っていたペロペロキャンディーをヤマトの口に突っ込むアセビ。

 

「むぅぅぅぅぅぅ、ふぁふぇびぃ」

「良い子にしてたら後で食堂に行って鮭おにぎりを一緒に作りましょう」

「!?、約束だよアセビ!!」

 

口に突っ込まれたペロペロキャンディーをとりだし、アセビの発言を約束に切り替えるヤマト。

明言こそしないが、後ろ手を振るうことで返事をするアセビだった。

 

「カイドウさん、キングさん、クィーンさん。、遅くなりましたぁ」

 

アセビはその後、書類を持ってカイドウの部屋に来ていた。

 

「おう!!遅かったじゃねぇか、アセビ」

「カイドウさんをお待たせするなといつも言ってるだろ!!」

「おいおい、食客暗躍させてる根暗野郎がなんか言ってるが、気にすることはねぇぞアセビ」

 

カイドウの部屋の襖を開き挨拶をしたアセビの横を物凄いスピードでアセビよりも大きな瓢箪が通り過ぎていく。

その後で肉がなにかに押し潰される音が聴こえたがアセビは聞かなかったことにした。

 

「申し訳ありません、お嬢のことで少々時間をとりました」

「それで、オレ達を呼びつけるってことは次の計画に移行する準備が整ったと言うことなんだな」

 

クィーンの言葉が部屋に響くとカイドウ・キング・クィーン・アセビの顔に影が落ち、目がギラリと光った。

その姿は誰が見ても悪巧みしている悪の組織(間違っていない)だった。

 

「えぇ、オロチの馬鹿が考えなしに色々やらかしてくれたおかげで“撒いた種”は全部芽を出してほとんどは花になりました」

「ウォロロロロロロロロロロ、しかしお前の計画通りならオレは“一度”我慢しなきゃならん状況になるわけだがどうにかならんのか」

「無理ですね、あの婆を殺す大義名分を得るためにはどうしても必要な事です。それに計画通りにいかなくてもその時は赤鞘の奴らが片付けてくれるでしょうし」

「しかし、まどろっこしいなぁ。オレの疫災弾で全員片付けてカイドウさんがこの国を統べれば問題ないだろうに」

「馬鹿かクィーン、アセビが言ってただろう。兵器工場に採掘場で出ちまう汚染物質を垂流しにした際の被害と被害額、それにともなう人心離れ」

「それに合法的にサムライ達を戦力として取り込むためには必要な手順なんすよ、だから確実におでんの我慢がキレるまでもう少し様子を見ましょう」

 

数分後、襖が開かれアセビが出てきた。

 

「それじゃ、“針”の準備をお願いいたします。オレは午後からオロチの所に顔出してくるんで」

 

襖を閉じ気配も遠のくアセビ。

 

「ウォロロロロロロロロロロロロ、おもしれえ餓鬼に育ったじゃねえか」

 

機嫌良く瓢箪の中身を飲み干し、新たな酒瓢箪の栓を開けるカイドウ。

 

「ウチは頭の出来が良い奴がほとんどいないですから、アイツのあの性格と暗躍・調略もこなす抜け目なさは正直に言って残って欲しいモノですよ」

「だがよ、キング。アセビはまだまだカイドウさんの“玩具”程度なんだろ」

「ウォロロロロロロロ、だがアイツの話を聞いて良かったと思っている。いずれアイツもオレの“遊び相手”になってくれるそう感じるぜ」

 

そんな会話がなされてると知らずにアセビはヤマトと巨大な鮭握りを作っていた。

午後になり、アセビはとある畳敷きの間に正座して座っていた。

すると、廊下をドスドスと踏みならす音が聞こえてきた。

 

「おぉぉぉぉぉ、アセビ殿。息災かな」

 

現れたのは、チョンマゲ頭に王冠を被った、大きな顔と2本の出っ歯が特徴の二頭身の大男。

 

「これはこれはオロチ様、本日もお日柄良くご機嫌そうでなによりでございます」

 

男、オロチが上座に座るとアセビも人好きする笑みを顔に浮かべ深々と正座を崩さずに綺麗にお辞儀をする。

 

「うむ、そなたはカイドウと違い分相応というモノを弁えておるからな」

「なにをおっしゃいますか。たかが一介の海賊とこの国の王殿様、比べることも烏滸がましいではないですか」

 

アセビの言葉にオロチは益々機嫌を良くしていく。

 

「そうかそうか、アセビ殿は歳の割にと思っておったが大人顔負けの聡明さよの」

「いたみいります、それで本日はどのような御用向きでしょうか」

 

アセビが今回の登城理由を伺うとオロチは更に厭らしくその顔を笑顔にする。

 

「なに、おでんの裸踊りにも飽きてきたからの。そろそろ“ワシ”の民で遊ぼうと思うての。カイドウにはしばし静観してもらおうと思っての」

「そうでしたか、しかし“聡明”なオロチ様のこと既に準備を終えられているのでは」

 

オロチにとってアセビは気の利いた言葉を並べる子供でしかなかった。

初めて会って以来、カイドウの小間使いとして登城し、自身のご機嫌取りしかしてこない子供にいつしかオロチは全く危機感を覚えなくなっていた。

 

「そうさの、まずは目障りなヒョウ五郎をどうにかするかの」

「なんと大胆な、そんなことをすればヤクザ者たちが黙っていないでしょう」

「そこからが、本筋よ」

 

自慢げに自身の計画を話すオロチ。

時は瞬く間に過ぎ、日が傾いてきた。

 

「おや、もうこのような時間か。最近はババアもジジイも煩わしくてたまらんの」

 

その言葉をアセビはまっていた。

 

「オロチ様、かの二人はオロチ様を守る盾にございますれば。それ以上を与えられますとオロチ様の事をどのように扱うかアセビは心配でなりません」

「うん?どういうことじゃ」

 

僅かな心の隙、あまりに順当に国盗り計画が進んでしまったが為に生まれたオロチの僅かな油断。

それを待ち望んでいたアセビは語る。

 

「オロチ様の国盗りの1番の功労者でありましょうが、お二人は権力にとりつかれた愚物。オロチ様のように権力を使う才を持たぬ者が権力を得たらする事とは」

「まさか、このワシをワノ国の王殿であるワシを傀儡とするか」

 

生来の狡猾で警戒心自尊心の強さが本来であれば思考にブレーキをかけるはずであった。

しかし、今のオロチには僅かな慢心があった。

そして、自身の目の前にいるのはまだまだ幼い10歳にも満たない子供。しかも、ただの荒くれ者である海賊と言う卑しい立場に身を置く存在。

それがオロチの慢心を加速させる。

 

「キング様はそう考えておられます」

 

自分たちの内部のことをペラペラ喋る小僧に完全にオロチは危機感を消失していた。

城門を通り過ぎるアセビ。

アセビに付き添ったサムライは松明の明かりに照らし出されたその影は酷く薄く見えた。

思わず目をこすり再びアセビの影を見ると自分と同じく何も変わらない影がそこにあった。

 

「なにか?」

 

サムライが意識を向けると此方を心配そうに眺めてくるアセビの姿かあった。

そんなアセビを覆い尽くす影が現れる。

 

「おや、キング様?」

「あまりに遅いから迎えに来てやったぞ」

 

アセビを迎えに来たと言う先ほどまで“ぷてらのどん”なるものに変異していた妖術使いの男“キング”がサムライを一瞥する。

 

「世話をかけた、コイツは連れて帰る」

「それでは失礼いたします」

 

キングはアセビを上空に放り投げると姿を変異させ大空へと飛び上がり上空に放り投げられたアセビを背中で受け止めると百獣海賊団の縄張りにしている島へと飛び去っていった。

 

「それで、例の捜し物は見つけたのか」

「はい、移されることがなければすぐに確保できます」

 

キングは自身の背に乗るアセビがどのような顔をしているか、簡単に想像かついた。

 

「キシシシシ、愚かな裸の王様。オレ達の掌でコロコロ回せる程度の器でいてくれてありがとう」

 

まだまだ子供、無邪気に笑うその顔には。

 

「愚物でいてくれて本当にありがとう」

 

子供と言う仮面では隠しきれない邪悪さが現れていた。

 

「ふん、早く帰らねばお嬢とカイドウさんがまた五月蝿くなるな」

「おっと、それは大変だ速く戻りましょう」

 

オロチと組んだことで百獣海賊団は戦力の拡張に成功した。

しかし、アセビは兵器工場から毒を垂れ流すことを許さなかった。

カイドウにはうまい酒のために必要なこと、と説明しているがこれは全てあることの布石である。

 

「キシシシシ、オロチ。残り僅かな天下人としての栄華、存分に楽しめ」

 

アセビが主導した謀略、オロチは自身の計略が既に乗っ取られ、跡形もないことをまだ知らない。

小さな掌に収まる器は、今日も簡単にコロコロと回されている。



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海賊物語~だが生きている!!~

死蔵予定供養③


原典の歴史通り、自身の恩人の妻を忙殺された光月おでんとその部下である9人のサムライは憎き敵、黒炭オロチを討たんと討ち入りを決行。

しかし、結果は無惨にも敗北と言う形で幕を閉じた。

 

「ふん、釜茹でか」

「あぁ、しかしただの釜茹でじゃねぇ。たっぷりの油で光月の人間には地獄を見てもらうぞ」

 

カイドウとオロチが城にて宴会を行っているその時、アセビはとある牢の前にいた。

 

「キシシシシ、不様ですね」

「・・・・、童。何しに来た」

 

そこには血だらけで壁に背をつけそれでも前を見つめる光月おでんの姿があった。

 

「一族郎党、本気になって探しだし根絶やしにしていればあんな化物が産まれなかったのに」

「それは、黒炭の残党のことか」

 

おでんの言葉に無言で首を横に振るうアセビ。

 

「オロチのことです」

 

おでんは自身を真っ直ぐ見据え、まるで熱を帯びていない瞳で見つめるアセビに、自身の子とそう変わらぬ年齢の子供の発する何かに冷や汗が流れていることに気が付かないでいた。

 

「“あれ”はこの国が産んだ憎みの化物です。“黒炭”と言うだけで迫害され殺され罪人とされ、そう言った怨み辛みが黒く濁った怨念が形となった存在、それこそが“黒炭オロチ”です」

 

アセビの語る言葉におでんは顔を背けることしか出来なかった。

 

「奴は“光月家”が憎いのではありません。光月が頂点に有ることを良しとし、光月の名に媚びへつらうこの国が、“ワノ国”そのものが憎いのです」

 

おでんは解っていた。

黒炭が受けてきた迫害、その悲惨さ凄惨さ。

それらを理解したつもりでいた。

 

「奴は躊躇しない、迷わない、目もくれない。奴にとってこの国への復讐は正当なものでその為なら、自分以外の存在がどうなろうと構わないのだから」

 

アセビから発せられる言葉におでんは口を閉じることしか出来なかった。

実際、アセビの言う通りであったのだから。

 

「あれは“ワノ国”が造り出し、あんたが自分勝手に外海で遊んでたせいで完成した概念と復讐の化物だ」

 

そう言い切るとアセビは踵を返して牢から遠ざかっていく。

ただ1枚の紙を牢に残して。

 

「乗ってくると思うか?」

 

カイドウの元へと歩くアセビ、そんなアセビを待っていたのかキングが柱に寄りかかっていた。

 

「乗りますよ、おでんは甘い男だから。家族を盾にされたら必ず乗ってきます」

「ふん、既にババアとジジイは対処済みだ」

「ふふふ、さようならオロチ」

 

それから、アセビは処刑当日までヤマトとずっと一緒にいた。

百獣海賊団の団員たちと一緒に船を出して船の上で生活して、ヤマトも楽しそうにしていた。

そして処刑当日、ヤマトは朝からぐっすりと眠っていた。

 

「流石に、あれだけ遊べば子供のヤマトなら体力尽きて今日は寝てるだろう」

「お嬢の方が片付いたら行くぞ。そろそろ時間だ」

 

クィーンに連れられ、おでんと赤鞘の処刑場が見える屋敷に移動するアセビ。

アセビは百獣海賊団にて毎日、キングやカイドウに遊ばれたことで能力者として既にモリアを超えた状態にあった。

おでんが油で満たされた鍋に飛び込み、赤鞘たちを乗せた板を支え、オロチが指定した刻限となった。

しかし、確実に光月家を滅ぼしたいオロチは銃殺に切り替えた。

おでんは赤鞘を乗せた板を放り投げ、赤鞘を逃がした。

おでんの見栄を聞き届け、カイドウが発砲する。

おでんの上には自身が放り投げた板が迫り影を作り出し、そして意識を失ったおでんは鍋の中に消えていった。

筈であった。

おでんに板の影がかかりどこからも見えなくなったとキングから合図があった。

そして、アセビは自身の能力を発動し、アセビの影が部屋いっぱいに広がる。

 

渡影門(トカゲート)

 

影に手を突っ込むアセビ、何かを探すように影を弄る。

すると苦痛に顔をゆがめ捜し物を見つけたアセビは影から何かを引っ張り出そうとしていた。

 

「クィーンさん助けて、こいつ重い」

「ムハハハハハ、お前からしたら大男だもんな」

 

そう言うとクィーンはアセビに近づき、アセビを引っ張り上げる。

クィーンの力が加わったことで影からアセビの手が引き抜かれる。

アセビの手には先程、油に消えたはずのおでんが握られていた。

 

時は進み、炎に包まれる城にて役目は終えたと言う顔をして自身の最期を待つおでんの妻トキ。

 

「いやぁ、よかったよかった間に合ったようで」

 

聞いたことのない子供の声に意識がさかれたその時、身体を拘束され布を口許に覆われてしまい、徐々に意識を失っていくトキ。

 

「クィーンさん、流石に人妻はダメですよ」

「はぁ!?べ、べつにぃ、タイプの美人だなぁ。とか世間的には未亡人なんだからぁ。とか考えてねぇからな!!」

「欲望だだ漏れでウケる」

 

数年後、鬼ヶ島領内。

アセビは自身に宛がわれた研究室を目指して歩いていた。

 

「お、アセビの旦那お疲れ様です!!」

「「「「お疲れ様です!!」」」」

「うぃす、ちゃっす、ちーす。お疲れさん」

 

能力を使用しなくても一般の戦闘員程度なら余裕で快勝出来るようになったアセビは百獣海賊団の中で確固たる地位を築いていた。

基本的に戦闘面しか役に立たない者が多い中、内政に携われるというだけで百獣海賊団にとって無くてはならない存在になってしまうのだが。

 

「今日も大荷物っすね、研究は順調ッスか?」

「まぁ、順調かな?コレが終わればカイドウさんも少しは楽しくなるかもだしな」

 

アセビの言葉に盛大にハテナマークを浮かべる戦闘員たちをよそにアセビはスタスタと歩いて行った。

研究室の扉の前に立つとアセビは能力を発動させる。

 

「渡影門」

 

扉といっても実際は開きもしない壁のような物でアセビの能力が無いと中には入れない様にしてあるのだが。

能力を発動し、部屋の中に入る。

そこは研究室と全く違う療養室の様な有様となっていた。

 

「よっと、ほら足りない物とか色々持ってきましたよ“トキ”さん」

 

そこには白衣を着て様々な計器を悉に観察しているトキがいた。

 

「有り難うございますアセビ殿、ほらあなたもお礼を言ってください」

 

トキに言葉をかけられ暗がりの中から現れた男にアセビは笑みを深める。

 

「どうです、クィーンさんの自慢の機械鎧(オートメイル)は」

「うむ、まるで自分の脚の様な感覚だ。素晴らしい技術だな」

「起きてから半年も満たない期間で以前以上の動きを手に入れられるあんたがスゴいんですよ“おでん”殿」

 

暗がりから現れた大男。

火傷で使い物にならなくなった脚は、クィーンが造り上げた機械の脚となっておりそれを十全に使いこなし以前よりも激しく動けるようになっていた。

 

「おう、童!!おでんはないのか。オレはおでんが食いたいぞ」

「今日は頼まれた材料持ってきましたか勝手に作ってください。後でカイドウさん来ますからそれに併せてくれると有り難いですが」

 



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