早坂愛の奇妙な恋愛 (qqw)
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早坂愛の奇妙な恋愛1

秀知院学園ッ!

 

日本中、そして世界のリーダーの卵が集まるこの学校は当然、その校風も気品と規律にあふれ、どこぞの世紀末な学校と天と地ほどの差がある。

 

だが、この学校にも不良はいるッ!

 

名家に産まれようとも十代は十代。程度の差こそあれ、みなそれなりに反抗期を迎えているものなのである。

 

とある女子生徒が奮闘しているのにも関わらず、学校をさぼったり、校内で堂々とゲームをしたり、死にたくなったからと委員会の仕事を早退したりする者も、少なからずいるのだ。

 

その中でもとりわけ異彩を放つ不良が一人いた。

 

空条承太郎ッ!

 

二メートル近くある身長に彫りの深い険しい顔。

 

世界的なジャズミュージシャンを父親に、不動産王ジョセフ・ジョースターの娘を母親に持つ彼は、そんな輝かしい出自を踏みにじるかのように数々の問題を起こしてきた。秀知院学園始まって以来の大問題児と呼ばれていた。

 

承太郎「…やれやれだぜ」

 

ミコ「空条先輩いい加減にしてください!」

 

承太郎「…フン」

 

ミコ「中庭に寝っ転がってラジカセでCD流してジャンプ読むとか一体ここは何十年前ですか! 校則にも違反してますし、こんなの風紀委員として、生徒会として見過ごせません!」

 

ミコ「他の生徒も真似しますから今すぐやめてください!」

 

承太郎「……」

 

ミコ「無視ですか!」

 

ミコ「もう! このラジカセも止めますよ!」

 

ミコ「……」

 

ミコ(…止め方がわからない)

 

承太郎「…おい女」

 

ミコ「女じゃありません伊井野ミコです」

 

承太郎「このジャンプのこのページを読んでみろ」ジャンプサシダシ

 

ミコ「はぁ? なんですか急に」メヲオトシ

 

承太郎「……」ドギャーン!!

 

ミコ「…? なんですか? 別に特に面白くもないページですけど」ミアゲ

 

 承太郎の姿が忽然と消えていた。

 

ミコ「また消えた!」

 

ミコ「もうなんなのよ!」

 

――――――――

 

廊下

 

承太郎「やれやれ…。DIOを倒して元の日常に戻ってみれば、スタンドを使う機会なんて面倒くさい女を撒く時くらいしかねぇぜ」スタスタ

 

女子1「あ、見てっ。空条くんよ」ヒソッ

 

女子2「わっ本当だ…。こわぁ…」ヒソッ

 

女子1「えーでもわたしは空条くんみたいな人タイプかもー」ヒソッ

 

2-A教室

 

承太郎「……」ガラッ

 

かぐや「おっと」ポスッ

 

かぐや「あら、ぶつかってしまってごめんなさい」

 

承太郎「いや、いい」

 

かぐや「……」

 

承太郎「…おい四宮。そこに立ったままじゃあ教室に入れねーぜ。退きな」

 

かぐや「……」ニコッ

 

かぐや「ところで空条くん。あなた、三か月くらい休んでいたけど、なにかあったんですか? 病気? よかったら教えてくれないかしら」

 

承太郎「…おめーには関係のねぇ話だ」

 

かぐや「あらそう。それじゃあ勉強はどう? ついていけてますか?」

 

承太郎「…四宮、あんまり俺に関わるもんじゃあないぜ」

 

かぐや「わたしはあなたのために聞いているんですよ?」

 

承太郎「……」ドドドドドドドドドド

 

かぐや「……」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

 

生徒1「え、なにあの空気…」ヒソッ

 

生徒2「かぐや様と空条くんのオーラがめっちゃ怖いんだけど」ヒソッ

 

生徒3「え、喧嘩?」ヒソッ

 

生徒4「流石の空条も女子相手に喧嘩はしないだろ…多分」ヒソッ

 

承太郎「……」ドドドドドドドドドド

 

かぐや「……」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

 

早坂「はれぇ? 空条くんどしたしぃ~?」

 

承太郎「…早坂」

 

早坂「てかさ~、いまうちらマジ面白いソシャゲやってんだけどぉ、空条くんもこっちでやろ~」グイッ

 

承太郎「興味がないぜ」

 

早坂「見てるだけでいいからさぁ、いーじゃーん」グイグイ

 

承太郎「……」スゥー

 

承太郎「やかましいっ! いい加減うっおとしいぞアマッ!」

 

 シーン…。と場が急速に静まり返る。

 

早坂「……」キョトン

 

早坂「あはは! うっおとしいってなんだしぃ! いいからほらほら~」グイッ

 

承太郎「チッ…。やれやれだぜ」ヒッパラレ

 

かぐや「……」

 

――――――――

 

放課後 生徒会室

 

ミコ「もーーーう!」バンバン!

 

石上「なんだ、牛か?」

 

ミコ「あ゛?」ギロッ

 

石上「すいませんでした」

 

千花「ミコちゃんどうしたの? 今日は一段と荒れてるね~。コーヒーどうぞ」

 

ミコ「あ、ありがとうございます。……どうしたもなにもありませんよ。あの空条先輩のことです!」

 

千花「あー…」

 

ミコ「制服は改造するし学校に関係ないもの持ってくるしやりたい放題じゃないですか! 許せません!」

 

ミコ「まあ勉強できる分石上よりかはマシですけど!」

 

石上「……」ガーン

 

 石上、流れ弾的に傷つけられる!

 

かぐや「確かに、彼の素行には問題がありますね」

 

石上「あいつの事ならB組でも伝わってますよ。授業には必ず出席するクセに、半端ないDQNだとか」

 

かぐや「どきゅん…ってなんですか?」

 

石上「先輩は知らなくてもいい言葉ですよ」

 

かぐや「むぅ…」

 

ミコ「ほんと、なんで退学にならないのか不思議です」ムスー

 

ミコ「会長! ここは生徒会自らの手であの男を更生させるべきです!」

 

 伊井野ミコにはある打算があった!

 

ミコ(現生徒会があの超問題児を更生させれば同級生たちもわたしのことを見直すはず。そうすれば空条先輩を正し、来年の生徒会長選挙を有利に運ぶ功績にもできる。……わたしって天才では!?)

 

ミコ「……ムフー」ニマニマ

 

石上(なんか一人でにやついてる…こわ)

 

白銀「確かに…、空条の素行は目に余る…。このままでは周辺地域からの学園全体の評価に関わってくる。そうすると、公約にした文化祭の2日開催にも関わってくるかもしれないな…」

 

四宮「……」

 

四宮「…会長、こんな言葉があります。『味方は近くに置け、敵はもっと近くに置け』と。いっそ彼を生徒会に引き入れてみるのはいかがでしょう?」

 

石上「!?」

 

千花「えっ!?」

 

ミコ「四宮先輩…それは…」

 

四宮「……フフッ」

 

吊り橋効果ッ!

 

二人の男女が同じ危機に直面した時、その二人は恋に落ちやすいという話がある。

 

空条『……』ゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

 

四宮『か、会長…』ビクビク

 

白銀『大丈夫だ四宮。俺がついてる』キリッ

 

四宮(ふふっこれだわ)

 

四宮かぐやは空条承太郎という危険な存在を利用し、自分に対する白銀の想いを引き出そうとしていたのだ。

 

四宮(さあその首を縦に振るのです会長。そうすればあなたはわたしへの想いを伝えやすくなるのですから)

 

白銀「……」

 

白銀(なんだ…なにを考えている四宮…。お前がただ生徒会の仕事として空条を更生させようとは思っていないんだろう? 考えている…)

 

白銀は不敵に笑うかぐやの真意を探っていた。

 

白銀(空条承太郎…。不良…。身長2メートル弱。イケメン。ゴリマッチョ…)

 

白銀(……)

 

白銀(……ハッ!もしかして!)

 

そして白銀はある結論に辿り着いた。

 

白銀(四宮は一向に告白してこない俺に愛想を尽かして空条に心が移ってしまったのでは!?)

 

筋肉は力の象徴。

 

筋肉という本能的な魅力にかぐやも虜にされてしまったのでは?

 

白銀「筋肉…筋肉こそ力…。筋肉イズジャスティス…」ブツブツ

 

千花「…長。会長…?」

 

白銀「…ハッ! すまない、少し考え事をしていた」

 

かぐや「それで、どうしますか? 最終的に彼をスカウトする権限があるのは会長です」

 

かぐや(ふふっ。とはいえ、生徒の更生という大義名分がある以上、会長は賛成するしか無いはず。さあ、早くうなずくのです)

 

白銀「そ…そうだな。みんはどう思う?」

 

ここで白銀、助け舟を出した!

 

空条承太郎は他を寄せ付けない威圧感のある一匹狼系の不良。彼に苦手意識を持つ人間は数多く、この生徒会も例外では無いはず。その人の意見を尊重する形を取れば、自然にかぐやと承太郎を引き離せると踏んだのだ。

 

千花「わたしは良いと思います! 彼のことを知るにはそれが最善だと思いますし、生徒会の仲間が増えるのは良い事ですから〜」

 

白銀(ふんっ! お前の答えなど既に予想がついていたよ。お前は頭ぱっぱらぱーだからな)

 

白銀「伊井野はどう思う?」

 

伊井野「……正直、神聖な生徒会室にあんなのを上げるのは気が引けます。でも、彼を更生させるには必要な犠牲でしょう」

 

伊井野「それに、空条先輩はこの学園の不良達にとって一種のカリスマ的存在、古い言葉で言うと番長のような存在です。彼を引き入れれば、彼個人だけではなく、学園全体の不良達を制御できる可能性もあります」

 

白銀(ぐ……っ! 伊井野も賛成とは…。まあ、伊井野は真面目だからな、そういう答えも想定内だ…)

 

白銀(本命はお前だ!)

 

白銀(石上!)

 

白銀「い…石上はどうだ? 反対だよな…?)

 

石上「えっ…? あー…」

 

困惑する石上。彼は白銀の期待から逃れるようにして目を泳がせた。

 

石上「ひっ!」

 

かぐや「…フフッ」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

 

彼は見た。四宮かぐやの背後にいる金剛力士像のようなビジョンを。

 

石上「お…俺も賛成です…」

 

白銀「」

 

白銀(石上ィイイイイッ!!)

 

白銀は頭の中で頭を抱えた。

 

かぐや「あら、全会一致のようですね。さあ会長、いかがなさいますか?」

 

白銀「ち…ちょっと待ってくれ。一旦持ち帰って考えさせてくれ」

 

白銀に出来るのは、もはや時間稼ぎだけだった。

 

ーーーーーーーー

 

その晩。四宮邸

 

かぐや「ーーーてなことが今日あってね」

 

早坂「ほー。生徒会長というのも大変ですねぇ…」

 

かぐや「ところで今日は感謝するわ。空条くんと険悪になった時、助けてくれたでしょう?」

 

早坂「いえ、あの程度、どうということはないですよ」

 

早坂「しかし、かぐや様も気をつけてくださいよ。あの手合いは女性だろうと構わずボコボコにしてきたりしますから」

 

かぐや「そうね…以後気をつけるわ…。ーーところで、早坂はああいう人、どう思う?」

 

早坂「わたしは…」

 

早坂「ーー嫌いですよ。ああいう、周りの事を気にしない人は」

 

ーーーーーーーーーー

 

 



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早坂愛の奇妙な恋愛2

その晩、空条邸

 

トゥルルルルル…ピッ

 

ジョセフ『スピードワゴン財団の調査によると、第二次世界大戦のころ、ワシが柱の男たちとの戦いを繰り広げた数年後、占領下のフランスから日本にとある石が持ち込まれたとの記録が見つかった』

 

承太郎「とある石だと?」

 

ジョセフ『アメリカとの戦争のために持ち込まれたそれは、宇宙から飛来してきた隕石の一部であった』

 

ジョセフ『そして、その石に近づくものはその多くが苦しんだ末に怪死し、ごく一部の選ばれた者にしか触れることが出来なかったという』

 

ジョセフ『結局、その石が戦争に使われることは無かったが、当時の日本の研究によると、怪死した者たちは苦しんでいる間、お互いの背後を指さして「亡霊じゃ」と訴えていたという』

 

承太郎「亡霊…か」

 

ジョセフ『そうじゃッ! それこそがまさにスタンドッ! 怪死した人々は、ちょうどホリィと同じようにスタンドに蝕まれ、死んだのじゃ』

 

ジョセフ『そして、スピードワゴン財団の調査によると、まだその「スタンドの石」は日本にあるッ! そして、さらに調査を進めると、戦後、アメリカの接収から逃れる為に……、承太郎、お前の通っている学園のどこかに隠されたという事がわかった』

 

承太郎「……」

 

ジョセフ『花京院は死んだ。アブドゥルもイギーも死んだ。そしてポルナレフは故郷のフランスで別の活動に乗り出しておるし、ワシもアメリカでやらねばならない事がある。……承太郎、今回はお前一人でそのスタンドの石を見つけ、回収するのじゃ』

 

ジョセフ『いいな?』ピッ

 

承太郎「……」

 

ーーーーーーーーー

 

翌日、放課後、廊下

 

キーンコーンカーンコーン

 

承太郎「…やれやれだぜ」

 

承太郎(やっと普通に授業を受けられると思ったらこれだぜ…。ともかく、ジジイの言っている『スタンドの石』とやらに関する情報を集めるとするか)

 

承太郎(この学院は古い。資料室でも漁れば何かしらの情報が見つかりそうだが…)スタスタ

 

かぐや「空条くん、少し待ってもらえますか」タッタッ

 

承太郎「……また俺に用があるってのか?」

 

かぐや「ええ、生徒会副会長としてあなたにお話が」

 

かぐや「詳しい話は後ほどしますから、わたしと一緒に生徒会室に来てくれませんか?」

 

承太郎「…なに?」

 

かぐや「そんなに警戒しないでくださいな。あなたにとっても悪い話ではありませんよ」

 

かぐや「きっとね」ニコリ

 

ーーーーーーーーーーー

 

生徒会室

 

石上(空気が…)

 

千花(お…重い…)

 

承太郎「それで、なんの用だ?」ゴゴゴゴゴゴゴゴ

 

白銀「あ、ああ…」

 

白銀(こぇえええ……)

 

白銀(近くでこの威圧感を受けると実際の身長以上に大きく見えるな…)

 

かぐや「詳しい話はすべて会長が話してくれますよ。…ね、会長?」ニコッ

 

白銀「あ、ああ…」

 

白銀(怖い…けど、もしここで怖気づいたら…)

 

ホワンホワンホワン

 

かぐや「あら会長、空条くんの威圧感が大きいからって、子犬のようにビビってしまっているんですか?」

 

かぐや「わたし、会長はもっと堂々としてて、どんな相手にも立ち向かえる男性だと思ってましたのに…」

 

かぐや「……お情けないこと」ペッ

 

ホワンホワンホワン

 

白銀(それだけは駄目だ!)

 

白銀(ここでビビったら男が廃る。気合入れろ、俺)グッ

 

ミコ「会長、貧乏ゆすりみっともないです」

承太郎「話をしないなら帰らせてもらうぜ。こっちもヒマじゃないんでな」

白銀「い…いや待ってくれ」

白銀「空条…、お前、生徒会に興味はないか?」

承太郎「…なんだと?」ギロッ

白銀(だからこえーよその目! 人の一人や二人殺してきたのかよ!)

白銀「お…俺は、生徒会長としてお前を生徒会にスカウトしたい」

承太郎「……」

白銀「もちろん、拒否権はある。無理にとは言わないが…」

白銀(頼む! 断ってくれ!)

承太郎「生徒会だと? 悪いが興味がな…」

白銀(やった!)

承太郎「……いや、そうだな、引き受けよう」

白銀「」

かぐや「そうですか、よかった。あなたは確か海洋学に興味があるとか、生徒会にいたという実績はきっとその足掛かりになるでしょうね」

かぐや(もし断ればそれを餌にしようと思ってたけど、杞憂だったようね)

かぐや(……こんな性格の悪い手を使わなくて)

かぐや「本当に良かった。嬉しいです」クスッ

白銀(し…四宮…。そんなに空条が生徒会に入るのが嬉しいのか…)ズーン

承太郎(生徒会になんぞ興味はねぇが…。この学園には生徒の中では生徒会だけが入れる場所がいくつかある。こいつはむしろ、僥倖だったか)

承太郎(まあ、この話が無くとも勝手に動いていたがな)

ミコ「それじゃあ、決まりですね空条先輩」

ミコ「その学ラン脱いでください」

承太郎「……」ギロッ

石上「伊井野、生徒会室はホテルじゃないぞ」

ミコ「そういう意味じゃない!」

ミコ「生徒会に入ったということは、生徒の模範となる生活をしなきゃいけないということ。手始めにその改造学ランを脱いでここにある新品の学ランを着てください」

石上「そんなもんどこで…」

承太郎「イヤだね。生徒会に入るとは言ったが、風紀委員の指図を受けるつもりはねぇ」

ミコ「…むぐぐ」

承太郎「……」

 

ミコ「……」

千花(…うーんこの空気、昔のかぐや様と会長を思い出すなぁ…)

千花「……」ウーン

千花「はっ!」ピコーン!

千花「それでは、ゲームで決めましょう。ゲームの内容は空条くんが決めるとして、空条くんが勝てば服についてはひとまず何も言いません。その代わり、会長が勝てば即座に服装を改める。それでどうですか?」

白銀「なんで俺!?」

千花「生徒会長ですから」

千花「空条くんもそれでいいですか?」

 

承太郎「…良いだろう。だが、第三者の公正な審判を用意しな」

千花「公正な審判ですか…」ウーン

千花「…あ!」ピコーン!

 

――――――――

早坂「えーっとぉ、それじゃあ、空条くん対会長の表面張力ゲームをはじめまーっす!」

承太郎「ルールは単純だ。紅茶を並々と張ったカップの中にコインを自分の好きな枚数だけ交互に入れていき、表面張力が耐えきれずに紅茶を零した方の負け」

承太郎「これだけだ」

白銀「なんだ、簡単だな」

白銀(ふっ…バカめ。表面張力が不確定な要素だとでも思ってるのか? この学園一位の頭脳を持ってすれば、グラスの大きさとコインの体積から、コインを何枚入れれば紅茶が溢れるかを割り出すことなど容易い!)

白銀は、承太郎に勝てそうな要素を見つけると手のひらを返したように強気になっていたッ!

白銀「先攻後攻はどうする?」

承太郎「ゲームの内容を決めたのは俺だ。先攻はそっちに譲ろう」

白銀(この勝負、勝ったッ!)

白銀「空条、俺にも生徒会長としての立場がある。悪いがこのゲーム、本気で行かせてもらう」

承太郎「……」

承太郎「…グッド。元より俺もそのつもりだぜ」ドギュンッ!

早坂「……?」

白銀(なんだ? 空条の周りの空気に妙な気配が混じったような…)

早坂「えっとぉ、それではまずは会長からっ。コインを入れてください!」

白銀(まあいい。計算通りにやるだけだ)

白銀「俺はまず、三枚入れよう」チャラ

千花「一気に三枚!」

白銀「静かにしてくれ藤原書記。振動で水面に波が立つ」シィー

 体がテーブルに触れないように気をつけながら、重ねた三枚のコインをカップの水面につける白銀。

白銀(俺の計算では溢れずにはいるのはせいぜい4、5枚程度。保険のために三枚だけにしておくが、初手で一気に追い詰める!)

 ソォー……チャリン

早坂「セーフ!」

 

白銀「……」フッ

 

白銀(どうだ四宮! 俺に惚れ直しただろう!)チラッ

 

かぐや「……」ケイタイポチポチ

 

白銀(ってあれ興味なし!?)

 

かぐや(空条くんを引き入れた後はもう割りとなんでもいいんですよね…)

 

早坂(会長、哀れだなぁ…)

早坂「続いて空条くん、何枚入れますか!?」

 

承太郎「……」

 

承太郎「俺も三枚入れよう」

 

白銀「……」ポーカーフェイス

 

白銀(フハハハハハハハ馬鹿め! ムキになって張り合っているのか? そんなに入れたら確実に溢れるぞ)

 

承太郎「……」ドッドッドッドッドッド

 

白銀「……」ニヤッ

 

 ソォー……、チャリン!

 

白銀「なに!?」

 

白銀「まさか、溢れないだと!?」

 

承太郎「……」

 

白銀「俺の計算では余裕であふれているはず…、早坂は何も見ていないのか?」

 

早坂「……」ジィー

 

承太郎「……」

 

早坂「うん、なにかイカサマをしている様子はなかったよ」

 

承太郎「……」ジィ…

 

承太郎「さあ、次はテメェの番だぜ白銀。早くコインを入れな」

 

承太郎「それとも、あと一枚でも入れたら溢れちまうって悟っちまったかな?」

 

白銀「……」タラー

 

白銀(空条承太郎…。見た目以上に侮れない奴だ)

 

白銀(こいつは何か俺でもわからない、とてつもない『何か』を持っている。そんな気がする…)

白銀(だが俺も、このまま負けるわけにはいかないんだ!)

 

早坂「そっれじゃー続いて会長! コインを入れてぇ!」

 

白銀「やれやれ…もう入れられるのは一枚だけかな」

 

白銀、ここで決死の一計を案じる。

 

白銀(空条から見てコインの死角になるようにして小さなティッシュの欠片を持ち、それを水面につけて紅茶を吸い取らせる! もちろん、早坂からも見えないようにして。これで一枚弱分くらいは稼げるはずだ…)

 

白銀(後は自分の運に任せるっ!)

 

白銀「……」ドドドド

 

承太郎「……」

 

早坂「……」

 

 ……チャポン

 

白銀「…は、入ったっ! 勝った!」

 

白銀は思わずガッツポーズをした。

 

 しかしっ!

 

承太郎「手段を選ばないというテメェの覚悟には敬意を表しよう」

 

承太郎「…だが悪いな。俺もこのファッションにはこだわりがあるんだ」バァーーンッ!

 

 っ! ……チャポン

 

白銀「そ…そんな…」

 

歓喜から一転、絶望的な顔になる白銀。

 

承太郎の入れた一枚のコインは、紅茶を一滴もこぼしていない。

 

白銀「…俺の負けだ」ガクッ

 

 白銀は、敗北を確信した。

 

白銀(空条は絶対に何かイカサマをしている。だが、その正体を見抜けなければそれを指摘することはできない…)

 

白銀「完敗だよ」

 

―――――――――

 

ミコ「これでは本末転倒じゃないですか! 会長のおたんこなす!」

白銀「す…すまん」

かぐや「まあまあ伊井野さん。会長も頑張ったんですから」

 

かぐや「それに、『服装を正さない』という約束に期限はありません。また明日からにでもゆっくり彼を更生させていけばいいのです」ボソッ

ミコ「はっ! 確かに」

白銀「ともあれ、生徒会へようこそ、空条。俺たちはお前を歓迎するよ」

 

白銀「空条には風紀管理部部長として、風紀委員でもある伊井野と一緒に生徒たちの風紀の取り締まりをしてほしい」

 

承太郎「…良いだろう。このファッションを変えるつもりはないがな」

 

白銀「伊井野も会計監査と兼任になってしまうが、それでもいいか?」

 

ミコ「はい、もともと風紀委員と掛け持ちでしたし、仕事内容にはそこまで変化はありませんから」

 

白銀「良かった。…だが今日はもう遅い。軽く空条の歓迎会をして、今日の生徒会の活動は終わりにしよう」

 

かぐや「それでは、もう一度紅茶を淹れますね」

 

ミコ「あ、手伝います!」

 

白銀(よし! 風紀管理部は学園中を走り回る役職。これで四宮と空条を遠ざけれるだろう)

 

千花「せっかくだから早坂さんもお茶していってください!」

 

早坂「まじ~?」

 

早坂「あ~でもごめーん。わたしこれからバイトあるんだぁ」

 

千花「そうですか~…それじゃあ残念です」

 

早坂「まじごめんねぇ。じゃ、急ぐから、まったね~!」ガチャタッタッタッタ

 

承太郎「……」

 

―――――――――――

 

その晩 四宮邸

 

かぐや「今日はわたしとあなたのことが会長にばれるんじゃないかと少しひやひやしたわ」

 

早坂「…対象Fには困ったものです」

 

かぐや「あなたも、適当な理由をつけて断ればよかったでしょう」

 

早坂「…申し訳ございません」

 

かぐや「……まあ、いいわ。ところで、今日のゲーム、空条くんは何をしたのかしら」

 

かぐや「あれだけの枚数のコインを入れたらどう考えても零れていたはず…。審判をしていた早坂の目から見ても、本当になにもわからなかったの?」

 

早坂「……」

 

早坂「…はい。彼に怪しい動きは何もありませんでした」

 

かぐや「…そう」

 

かぐや「ふあ…。そろそろ寝るわ。おやすみ、早坂」

 

早坂「はい、おやすみなさいませ、かぐやさ…っ」フラッ

 

 その時、がくんと膝を折って体勢を崩す早坂。頭に手を当てる彼女の姿に、かぐやは即座にベッドから飛び出して彼女の元に駆け寄った。

 

かぐや「ちょっとっ。大丈夫…?」

 

早坂「…は、はい。すみません、すこし立ち眩みが…」

 

かぐや「…明日、学校休む…?」

 

早坂「…いえ、大丈夫です。この程度…大したことではありません」

 

かぐや「早坂…」

 

早坂「失礼いたしました。それではかぐや様、おやすみなさいませ」

 

かぐや「早坂。……本当に、無理はしないで」

 

 部屋を出ていこうとする早坂の背中に、かぐやはそう呼びかけた。

 

早坂「…はい」バタンッ

 

早坂(頭が痛い…。寒気もする…。でも仕事は休めない…。休んだらきっと…わたしは嫌われてしまう)

 

早坂(視界も少しかすむな…。…そうか、きっと体調が悪いせいなんだ)

 

早坂(今日の表面張力ゲームの時、空条くんの体の後ろに、妙な人影のようなものが見えた気がしたのは)

 

早坂(だからあれはきっと…。わたしの見間違い)

 



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早坂愛の奇妙な恋愛3

翌日、秀知院学園

 

不良1「なあ俺たちこれから合コンあるからさぁ」

 

不良2「今日の掃除当番代わってくれよぉ」

 

男子生徒「え…いや、でも…」

 

不良1「いいだろ? 俺たち友達だもんな」

 

不良2「今度お前も合コンに誘ってやるからさ」

 

男子生徒「…そう言っていままで誘ってくれたことなんて…」

 

不良1「あ゛?」

 

ピーッ!

 

ミコ「こら! そこのヤンキー二人! 自分達の役割はちゃんと果たしなさい!」

 

不良1「あ? …ちっ」

 

不良2「誰かと思ったら万年落選の清き一票ちゃんじゃあないの。今日も元気に選挙活動かな?」

 

ミコ「見てわからない? 今日は取り締まりの日です。さあ、余計な話はいいから早く自分たちの掃除場所に戻りなさい」

 

不良1「えぇ~めんどくさいってのよォ~」

 

不良2「大体さぁ、俺たちって上流階級の人間じゃん? それなのになんで掃除なんて使用人の仕事しなくちゃなんないわけ? そんなのよォ、そこの混院にでもやれせればいいじゃん?」

 

ミコ「…はっ」

 

 伊井野は鼻で笑った。

 

ミコ「上流階級? 立派なのはあなたの親や先祖だけでしょう? あなたたちはその親先祖の築き上げてきたものを蹴散らしていることになんで気が付かないんですか?」

 

不良1「あ?」

 

不良2「おいテメェ、ふざけたこといってんじゃあないぜ」

 

 不良たちが伊井野に詰め寄る。伊井野は体の温度が下がるのを感じた。

 

承太郎「待ちな」

 

 だが、不良たちの前に大きな男が立ちふさがった。

 

不良1「げっ…お前は…」

 

不良2「空条…」

 

承太郎「………」ゴゴゴゴゴゴゴ

 

不良1「なんでテメェがその女と一緒にいるんだよ!」

 

承太郎「成り行きだが、俺も昨日から生徒会に入ることになったんでな」

 

不良1「な…っ」

 

不良2「なにィ~~~~~~??」

 

承太郎「わかったらとっとと失せなッ! 目障りだぜ!」

 

不良1、2「ひ、ひょえ~~~~~」

 

 踵を返して一目散に遁走する不良たち。

 

ミコ「ちゃんと掃除場所に行きなさいよー!」

 

不良1、2「はい~~~~!!!!」

 

承太郎「やれやれ…」ゴソッ

 

承太郎(…おっと、コイツの前でタバコを吸うのは流石にやめておくか…。ばれたら面倒くさいことになりそうだ)

 

大仏「空条先輩…。本当に生徒会に入ったんですね…」

 

承太郎「まあな」

 

ミコ「やったっ! いつもなら反抗されて終わりだったのに、空条先輩がいればわたしの注意も聞いてくれるわ!」

 

ミコ「ふふふ…駆逐してやるわ…。違反生徒を…一人残らず」フフフフフフフフ

 

大仏(ミコちゃんはそれでいいの…?)

 

承太郎「おい伊井野。あんまり連中を逆上させるようなことは言うもんじゃあないぜ」

 

ミコ「…なぜですか? わたしは正しいことを言っているだけですけど」

 

承太郎「忠告しておく、力のない正義に意味なんて無い、とは言わねぇ。だが、力のない正義は自分を危険に晒すだけだぜ」

 

ミコ「……、ご忠告どうも。でもわたしは、わたしの母親が紛争地域でワクチンを配っているように、自分の身の安全を守るために正義を捻じ曲げるような悪人にはなりたくありませんから」

 

承太郎「………」

 

大仏「…ミコちゃん」

 

ミコ「さあ、次に行きましょう。違反生徒はまだまだいるんですから」ザッザッ

 

――――――――

 

中庭

 

ミコ「これでブラックリスト入りしている生徒の見回りは大体終わったかしら」

 

大仏「やっとあと一人だね」

 

ミコ「でもいつもよりもかなり早く終わったわ」

 

ミコ「これは紛れもなく…空条先輩がいるおかげね…」

 

承太郎「………」

 

ミコ「さあ、最後の一人はどこにいるのかしら」キョロキョロ

 

早坂「……」スタスタ

 

ミコ「あ、いた! 今日も禁止のネイルにスカートまで短くして…」タッ

 

大仏「まってミコちゃん」

 

ミコ「なに?」

 

大仏「普通に取り締まろうとしてもいつもみたいにごまかされるだけだよ、ここは作戦を練らないと」

 

ミコ「作戦…? でもどうやって…」

 

承太郎「オイ、早坂を捕まえればいいのか?」

 

ミコ「はい。でも早坂さん、逃げ足が速くて、いつも捕まえようとしてもうまくいかないんです」

 

承太郎「……」

 

承太郎「そこで待ってな」

 

大仏「空条先輩、早坂さんを捕まえられるんですか?」

 

承太郎「さあな…。だが、自信はある」

 

承太郎(俺が今いるここから廊下を歩いている早坂のところまで走って5秒ってところか…)

 

承太郎(スタープラチナ・ザ・ワールドッ!)バァーンッ!!

 

 シィーーーン…。

 

 タッタッタッタ、ガシッ!

 

承太郎「…そして時は動き出す」カチッカチッ

 

早坂「!?」

 

早坂「空条くん!? なんで…? 警戒はしていたはずなのに…」

 

承太郎「悪いな早坂。お前も知っての通り、俺は昨日から生徒会役員になったんだ。伊井野曰く、その恰好は校則違反らしい」

 

早坂「……」

 

ミコ「空条先輩!」タッタッタッタ

 

ミコ「先輩すごいです! やっぱり先輩ってとっても足が速いんですね!」キラキラ

 

大仏「いやミコちゃん…。今のはどう考えても足が速いなんて次元じゃ…」

 

ミコ「ふっふっふ…早坂先輩…。昨日は審判の役目があったから何も言いませんでしたけど、今日は別。やっとその校則違反を正すことができますねぇ…、へっへっへ」ジリジリ

 

早坂「え…えーっと…」タラッ…

 

早坂「空条くん! マジ離してってば〜」

 

承太郎「………」

 

早坂「無視すんなしぃ〜!」バタバタ

 

ーーーーーーーーー

 

ミコ「空条先輩、ありがとうございました。それではわたしと大仏は一度風紀委員の方に顔を出すので、先輩は先に生徒会室の方にお戻りください」ペコッ

 

承太郎「ああ、わかった」

 

早坂「はあ…エライ目にあったし…」

 

ミコ「…早坂先輩。わたしは校則を守った今の姿のほうが可愛らしいと思います。特に、早坂先輩はその方が『らしさ』がある」

 

早坂「……ふんっ」プイッ

 

ミコ「……」シュン

 

ミコ(こう言えば自分から校則を守ってくれると思ったんだけどな…。柔軟になるってどういうことなんだろ…)

 

ミコ「…それでは空条先輩、また」クルッスタスタ

 

承太郎「ああ」

 

早坂「む〜…」

 

承太郎「お前も災難だったな、早坂」

 

早坂「9割くらい空条くんのせいだし」

 

早坂「はぁ…もういいや。それじゃあわたしも帰るから、空条くんもばいばい」

 

承太郎「……」

 

承太郎「いや、待て早坂。俺はお前にまだ用がある」

 

早坂「…?」

 

承太郎「場所を変えよう」

 

―――――――――――

 

校外 喫茶店

 

早坂「あたしに話なんてちょーめずらしぃ~じゃん。ってか、あたしこれからバイトあるから手短にしてよね~」

 

承太郎「…話の前に…、早坂、その演技臭い態度をやめてもらおうか」

 

早坂「……」

 

早坂「…は? なんのことだしぃ?」

 

承太郎「俺のスタープラチナは非常に精密な視力を持っている。昨日からお前の挙動を観察していたが、お前の仕草にはいくつかの違和感があった。…常人にはとても見つけられないレベルの細かさだがな」

 

早坂「すたーぷらちな…? 何言ってんのかまじ意味わかんないんだけど」

 

承太郎「…良いだろう」ドギャァァァン!!

 

スタープラチナ「……」ゴゴゴゴ

 

承太郎「見えるだろう? これが俺のスタンド。スタープラチナだ」

 

承太郎「お前は昨日のゲームの時も、スタープラチナがカップの中の紅茶を減らしているのを見ていたな」

 

承太郎「早坂…。お前はスタンド使いなんだろう?」

 

早坂「……」

 

早坂「……どうやら、あなたは何か知っているようですね。この幻覚について」

 

承太郎「それがお前の本当の性格…、というわけでもなさそうか。だが、そのほうがさっきまでよりも『らしい』」

 

承太郎「お前がいま、俺の背後に見ているこの人型の幻覚は、『スタンド』。いくつかの条件によって覚醒し、それぞれなんらかの超能力を持つ、人のエネルギーのビジョンだ。そしてお前の背後にも見えるぞ。不完全な形だが、仮面をつけた女のスタンドが」

 

早坂「これは、わたしがいま抱えている体調不良と関係あるのですか?」

 

承太郎「ある。スタンドは心の穏やかな人間に宿ると、逆に本体を蝕む毒になりうるからだ」

 

早坂「…このスタンドとやらを取り除く方法は?」ハァハァ

 

承太郎「おそらく、スタンドが発現した原因を倒せば解決するだろう…。早坂、いつからスタンドが見えるようになった?」

 

早坂「…昨日…生徒会室に行った辺りでしょうか…」ハァハァ

 

承太郎「オイ、大丈夫か? 顔色が悪いぜ、症状が酷くなっているようだ」

 

早坂「いえ、大丈夫です…。それより、そろそろ帰ります、バイトがあるので。続きは…明日にでも」ガタッ

 

承太郎「待ちな。フラフラじゃあねーか。今日は休んだほうがいい」

 

早坂「…そんなわけにはいきません」

 

承太郎「不思議だな。金に困っているというわけでも無いんだろう? そんなに働くのが好きなのか?」

 

早坂「…なんだっていいでしょう。ともかく、わたしはもう行きますか…っ」フラッ

 

早坂「……」バタッ

 

承太郎「オイッ!」ガタッ

 

早坂「………」ハァハァ

 

承太郎(…意識を失っている)

 

承太郎「そんな状態でバイト先に行ったって、迷惑になるだけだぜ」

 

承太郎「…やれやれ」ダキカカエ

 

早坂「……ぅ」

 

掠れた視界で早坂は承太郎を見上げた。

 

早坂(…お嬢様抱っこなんてされたの…初めてだな…)

 

承太郎に抱えられる感覚は、早坂の辛い身体を少しだけ楽にした。

 

ーーーーーーーー

 

空条邸

 

ホリィ「承太郎!? その女の子は…?」

 

承太郎「学校の友人だ。客間を使うぞ」スタスタ

 

ホリィ「………」

 

ホリィ(まあ! まあまあまあ! 承太郎が女の子を連れて帰ってくるなんて! パパにも報告しなくっちゃ!)ニマニマ

 

客間

 

スタープラチナを使って布団を敷き、そこに早坂を寝かせる承太郎。

 

早坂「………」ハァハァ

 

承太郎「………」

 

承太郎(早いとこ『スタンドの石』を見つけねえと、被害が拡大し続ける)

 

承太郎(早坂の話を聞くに、『スタンドの石』は生徒会室のどこかにあるということか…。だとしたら、なぜ他の生徒会役員にスタンドが発現しない…?)

 

その時、早坂のカバンからスマホの着信音が鳴り響いた。

 

承太郎「………」

 

女子のカバンを開け、勝手に電話に出る事に一度躊躇ったが、非常時だとして承太郎はスマホの通話ボタンを押した。

 

承太郎「もしもし」

 

電話の女『……あなたは?』

 

承太郎「俺は空条。早坂のクラスメイトだ。お前は早坂のバイト先の人間か?』

 

電話の女『…はい、その通りです。それで、どうして空条さんが早坂の電話に?』

 

承太郎「緊急事態でな、早坂が体調不良で倒れた。そばにいた俺が対処しているというわけだ。悪いが、早坂は今日のバイトを休む他ない」

 

電話の女『……』

 

電話の女『…そうですか。それならば仕方ありません。こちらは問題ないので、早坂を充分に休ませて上げてください』

 

承太郎「わかった。…話のわかる奴で助かる」

 

電話の女『いいえこちらこそ。なんでしたら、早坂が元気になった後でも、二人でデートにでも連れて行って上げてください』

 

承太郎「フン…。馬鹿なことを言うんじゃあないぜ」

 

電話の女『いえいえ。…真面目な話、早坂にはいつも助かっています。彼女にはとても多くの時間をわたしに使ってくれている」

 

電話の女『早坂はそれでもいいと口では言っていますが、内心はきっと泣いているんです。あの子は本当はとても繊細で、寂しがり屋な子ですから』

 

電話の女『ですからどうか。ほんの少しだけでもいいですから、あの子に普通の女子高生らしい時間を与えてあげてください。お願いします』

 

承太郎「……」

 

電話の女『…彼女を雇って、彼女の青春を食いつぶしている人間がどの口で言うんだ、という話ですけどね』

 

承太郎「…ああ、わかった」

 

電話の女『それでは』

 

そこで電話が切れた。

 

承太郎「……」

 

承太郎(いまの電話の声…)

 

承太郎(いや、それよりもまずは早坂を救う事が先か)

 

早坂「……ぅ」

 

早坂「……ここは…?」

 

承太郎「起きたか、早坂」

 

承太郎「ここは俺の家だ。お前が喫茶店で倒れたから、俺が運んできた」

 

早坂「……本当なら引っ叩いてるところですが…。そんな体力もありませんね…」

 

早坂「…きっとあの人達は、こんな姿のわたしを見て…呆れ…そして怒るのでしょうね…」

 

承太郎「…お前の雇い主は、お前のことを心配していたぞ」

 

早坂「…あの子のことではありませんよ」

 

早坂「……」

 

早坂「誰だって…自分を偽らなければ誰かに愛されることはない」

 

早坂「人は皆…親にも友人にも、自分の弱さを知られたくなくて、それを隠しているのです」

 

承太郎「だからお前は、学校でも常に演技をし続けて来たってのか?」

 

早坂「大切な人ほど…失いたくない人にほど自分の弱さは知られたくありませんから…。あなただってそうでしょう? いつもクールで厳ついキャラを作っていて、その内側には幼い弱さを持っているはずです」

 

承太郎「さあ、どうかな。だが、俺のかけがえの無い仲間達は、俺がどんな姿を見せようとも距離を置いたりはしなかった」

 

早坂「……」

 

承太郎「俺はお前の本当の姿がどんなものであっても、態度を変えたりはしない」

 

早坂「………」

 

承太郎「もう寝ておけ。そして、俺が帰ったら俺の一発芸を見せてやろう」

 

早坂「…一発芸?」

 

承太郎「俺は火をつけたタバコ五本を口の中に入れながらコーラを飲むことができる」

 

ーーーーーーーー

 

空条邸 正門

 

承太郎「………」スタスタ

 

承太郎「…心配なら、上がって見舞いに行ってやれ」

 

かぐや「…それは出来ません。わたしがあの子の元に行ったら、あの子はまた、わたしのメイドという仮面を被らなくてはならなくなりますから」

 

承太郎「…そうか」

 

かぐや「…早坂の容態はどうですか?」

 

承太郎「はっきり言って、悪化している。ここが病院だったら、面会謝絶と言われていただろう」

 

かぐや「…やはり、『スタンドの石』の影響ですか」

 

承太郎「!? 四宮、お前、スタンドを知っているのか」

 

かぐや「詳しいことはよく知りませんが、かの石をフランスから日本に持って来た時、四宮家も一枚噛んでいたという記述を、家の歴史書で読んだことがあります」

 

かぐや「そしてその石は長く忘れ去られていたのですが、数ヶ月前、どこからか現れた、両腕とも右腕の老婆が学園全体に何らかの処置を施して、その中のどこかにある『スタンドの石』の効果を抑えていたとか」

 

承太郎「何らかの処置…?」

 

かぐや「あまり、非科学的な事は言いたくありませんが、『封印』と表現するのが適切だと思います」

 

承太郎「その両腕とも右腕の老婆の名はエンヤ婆という。おそらく、奴が死んだ時にその封印も解けたのだろう。そのせいで、このタイミングで早坂にスタンドが発現した」

 

かぐや「早坂の体調は治るのですか?」

 

承太郎「『スタンドの石』を見つけ出し、破壊すれば回復するはずだ。だから俺は今からもう一度学園へ向かう」

 

かぐや「わたしも同行します」

 

承太郎「やめておけ、危険だぜ」

 

かぐや「『スタンドの石』の件には四宮家にも責任の一端があるんです。行かせてください」

 

かぐや「それに、早坂はわたしの大切な人ですから、彼女が弱った時にこそ助けなくては」

 

かぐや「『スタンドの石』に関して、わたしは四宮家が持ち得るすべての情報を覚えています。この知識はきっと、あなたの役に立つでしょう」

 

承太郎「……いいだろう。だが、戦闘になったら後ろに下がってるんたぞ。お前自身がスタンド使いでないのならなおさらだ」

 

かぐや「はい、わかっていますよ」

 

かぐや「…わたしは少し、あなたが羨ましいです」

 

かぐや「あなたは誰にも靡かない、自分の中に強い信念があって、辛いことを我慢するのではなく、それに立ち向かう強さがある」

 

かぐや「きっと早坂の支えになれる人はあなたのような、黄金の精神を持った人なのでしょう」

 

かぐや「空条くん。あなたと早坂はまだただのクラスメイトという関係でしかないけど、わたしはあなた達の距離が縮まることを望んでいます」

 

かぐや「そうなればきっと、あの子は救われる」

 

承太郎「………」

 

承太郎「……やれやれだぜ」グッ

 



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早坂愛の奇妙な恋愛4

夜 秀知院学園 裏庭

 

かぐや「塀を乗り越えて夜の学校に忍び込むなんて、生まれて初めてです」

 

かぐや(少し楽しいと思うのは、不謹慎ですね)

 

承太郎「生徒会室に向かうぞ」

 

承太郎「早坂は生徒会室に入ってから体調が悪くなったと言っていた。『スタンドの石』があるとしたらそこだ」

 

かぐや「…いつも使っている生徒会室にそんなものが…」

 

承太郎「ここから生徒会室に向かうには…校舎の中を突っ切るのが速いか」カツカツ

 

かぐや(…夜の校舎って怖いのね…もしこの状況で一緒にいるのが会長だったら…)

 

かぐや(……)

 

かぐや「…ふへへ」スタスタ

 

承太郎(こいつ…なにかくだらねーことを考えているな)カツカツ

 

カツカツ スタスタ

カツカツ スタスタ

カツカツ カツーンカツーン

 

承太郎「ッ!? 止まれ四宮!」

 

かぐや「っ!」

 

承太郎「…スタンドだ」

 

仮面のスタンド「……」ドドドド

 

承太郎「…こいつは」

 

承太郎(仮面をつけた、騎士のような恰好をした女型のスタンド…。間違い、早坂のスタンドだ)

 

かぐや「目の前にスタンドがいるのですね…。わたしには見えませんが」

 

承太郎「スタンドはスタンド使いにしか見えない。後ろに下がってな」

 

承太郎「スタープラチナッ!」グォンッ!

 

承太郎(…早坂は今俺の家で眠っているはず。遠隔操作型のスタンドか)

 

承太郎(だが、なぜ早坂のスタンドが立ちふさがっている…?)

 

仮面のスタンド「っ!」

 

承太郎(右手の剣を構えた! 来るッ!)

 

スタープラチナ「オラァッ!!」ドゴォッ!

 

承太郎「ボディに入ったっ!」

 

仮面のスタンド「Ggggg…!!」ブジュゥアアアアアァ…

 

承太郎「……消えた」

 

かぐや「…倒したのですか?」

 

承太郎「……」

 

承太郎(おかしい…あまりにも手ごたえがなさすぎる)

 

かぐや「倒したのなら、先に進みましょうか」スタスタ

 

かぐや(スタンド同士の戦い…。スタンド使いでない人が見たら滑稽以外の何物でもないけど…そのことは黙っておきましょうか)

 

承太郎「……」

 

承太郎「四宮は白銀の事が好きなのか?」

 

かぐや「ふぇっ? な、ななななななにを吸にそんな素っ頓狂なことを!」

 

承太郎「いまさら隠す必要もねーだろ。バレバレだぜ」

 

かぐや(そ、そんなまさか…。私の隠蔽は完璧のハズ…。もし会長本人も感づいていたとしたら…今までの私って…)

 

かぐや「で…でも意外ですね、まさかあなたから恋バナが振られてくるなんて」

 

かぐや「いつも女の子を寄せ付けない態度をしてるからそういったことに興味がないのかと」

 

承太郎「俺のなんだと思っていやがる。俺は女が周りでやかましくなるのが嫌いなだけだぜ。仲間内とそんな話をしたりもする」

 

かぐや「まあ嬉しい。わたしのことを仲間と思ってくれていたなんて」

 

かぐや「ところで、騒がしい女の子が苦手なら、それこそ早坂はあなたと相性がいいですよ。あの子、学校ではあんなですけど、その本性は正反対ですから」

 

承太郎「…またその話か…。四宮はそんなに俺と早坂を付き合わせたいってのか?」

 

かぐや「ええ、まあ」ニコッ

 

かぐや(というか、会長の話をすると顔が赤くなるからやめてほしい…)

 

承太郎「…フン」スタスタ

 

承太郎「……」シュボスパー

 

かぐや「た……っ! ……未成年の喫煙は重罪ですよ…」

 

承太郎「不良のレッテルを貼られている男に自分の侍女を預けるか?」

 

かぐや「……」

 

かぐや「他人が貼り付けたレッテルなんて、その人の本質をなにも捉えていない、くだらないものですよ」

 

かぐや「わたしが懇意にしているある後輩も、物事の内面を見ようともしない浅はかな人たちによって不当なレッテルを貼られ、大切な青春を奪われました」

 

かぐや「わたしは愚かな人々とは違います。不良と呼ばれているあなたの内面を見て、早坂を託すに値する人物だと思いました。それだけです」

 

かぐや「あなたは――」

 

承太郎「四宮っ!」グイッ

 

かぐや「ひゃっ!」

 

スタープラチナ「オラァッ!!」ガキィイン!!

 

仮面のスタンド「Gggggggg…」

 

承太郎(これは早坂のスタンド…っ! さっき倒したはずッ! だがさっきのスタンドとは仮面の形が違うな)

 

承太郎「遠隔操作に加えて群衆型でもあるのか」

 

仮面のスタンド「ッ!!」ブンッ!

 

承太郎「!? 速いッ!!」

 

スタープラチナ「!!」グォンッ!

 

承太郎「野郎…っ! さっきよりも数段パワーアップしてやがる…っ!」

 

承太郎(この剣のスピード…、明らかにシルバーチャリオッツに匹敵しているッ!!)

 

仮面のスタンド「Gggggッ!」ヒュンッヒュンッ

 

承太郎(近づけさせないつもりか。こいつ…スタープラチナの射程圏を理解している…?)

 

承太郎「だが…」

 

承太郎「スターフィンガーッ!!」ズォォッ!!

 

仮面のスタンド「Ggッ!!」ボゴォッ!!

 

仮面のスタンド「Gggggggg!!!!」ブジュアァアア!!

 

承太郎「スピードは確かにシルバーチャリオッツに匹敵しているが、剣筋は足元にも及ばねーぜ」

 

かぐや「…もしかして、また早坂のスタンドが…?」

 

承太郎「ああ、どうやら遠隔操作型で、群衆型でもあるらしい。結構厄介な奴だぜ」

 

かぐや「そうですか…。あらゆる顔を持つ、あの子らしいスタンドですね」

 

かぐや「きっと、まだ立ちふさがってくるでしょうね、あの子のスタンドは」

 

かぐや「…でも、どうしてあの子のスタンドがわたし達と対峙するのか、それがわかりません」

 

承太郎「遠隔操作型は特定の法則によって自動的に活動することが多い。おそらくはそれだろう」

 

承太郎「…あまり時間をかけたくない。先を急ぐぞ」

 

かぐや「はい」

 

――――――――――

 

生徒会室前 

 

かぐや「…いつも使っている生徒会室の建物も、深夜に来るとうすら寒いものを感じますね…」

 

かぐや「禍々しい吸血鬼の住む館のよう」

 

承太郎「………」

 

承太郎「行くぞ」

 

スタスタスタ

 

生徒会室までの廊下

 

かぐや「この生徒会室の建物もかなり歴史があって、生徒会室の中には戦争のために作られ、その後学生運動の拠点になった設備もあるんです」

 

承太郎「その設備の中に『スタンドの石』があるかもしれない、ということか」

 

かぐや「ですが、その設備の場所は把握してます。あの扉の向こうに行けば、きっとこの問題は解決できるでしょう」

 

承太郎「ああ、だが、そうすんなりとはいかないらしい」

 

仮面のスタンド「Ggggg」ゴゴゴゴゴゴゴ

 

スタープラチナ「……」ドドドドド

 

承太郎「四宮、後ろに下がってな。今までよりも遠くへ、少なくとも十歩は下がるんだ」

 

承太郎(明らかに今までとまとっている気迫が違う)

 

 ゾゾゾゾゾゾゾゾ

 

承太郎(!? 扉から人影がすり抜けて出てきている…スタンドか?)

 

???「…フフフ」

 

承太郎「誰だ」

 

???「そのスタンドを本当に倒してしまっていいのか? ジョースターの血統よ」

 

承太郎「二度訊かせるんじゃあないぜ。俺は誰だと聞いている」

 

承太郎(こいつ、ジョースター家の事を知っている…?)

 

石のスタンド「俺は『石のスタンド』それ以外に名前はない。つまり、俺はスタンドの石に宿るスタンド、ということだ」

 

承太郎「昔、ジジイに聞かされた柱の男達のような恰好をしやがって…、変態ってやつか?」

 

石のスタンド「究極の美とは、着飾る必要がないのだよ」

 

石のスタンド「それで、お前は今までのようにこの仮面のスタンドを自分のスタンドで打ち倒すつもりか? 俺はオススメしないがな」

 

承太郎「なんだと…?」

 

石のスタンド「今まで相手してきたのはどちらも言わば本体の分身ッ! あるいは変わり身ッ! スタンドの強さは精神の強さと言うならば、その強さなどたかが知れているッ!」

 

石のスタンド「だがッ! 今目の前にいるのはこのスタンドの本体の本性ッ! その強さは今までの比較にならず、そして与えられたダメージは本体にフィードバックするッ!」

 

石のスタンド「…そう、私がこのスタンドをそう設定したのだ」

 

承太郎「…そういうことか」

 

承太郎「『スタンドの石』は周囲の者にスタンド能力を与えると言われていたが、正確には少し違う。ただの隕石に宿ったスタンドの能力が、人間にスタンド能力を与える能力だということか」

 

石のスタンド「その通りッ! そして人間に与えたスタンドは私の支配下に置くことができる! つまり、私にとってスタンド能力を与えられた人間は、スタンドを動かすための養分にすぎないのだッ!」

 

承太郎「………」

 

かぐや(わたしにはスタンドが見えないし、スタンドが何を言ったのかわからない。でも、これだけはわかる。何者かがとても許し難いことを言ったこと、そして、空条くんがかつてないほど怒っていること)

 

承太郎「てめーは吐き気の催す『邪悪』だ」

 

承太郎「テメーの! テメーだけの都合で他者を利用し! 踏みにじりッ! そいつの心や時間を奪うッ!」

 

かぐや「………」

 

承太郎「テメーがやったのはそれだ! あぁんッ!? テメーは俺が許せねぇ事をしたッ!」

 

承太郎「だから、俺がテメーを裁く」

 

石のスタンド「フン! デカイ口をたたきおって。それならまずは、この仮面のスタンドをどうにかしてから、生徒会室の扉の向こうに来るんだな」

 

ゾゾゾゾゾゾゾゾ

 

仮面のスタンド「Ggggg!」ジャキ

 

剣を構えた仮面のスタンドが突撃してきた。

 

承太郎「スタープラチナ・ザ・ワールドッ!」

 

 時が止まった世界の中で、スタープラチナは仮面のスタンドの剣持つ右手を掴んだ。

 

 そして、時は動き出す。

 

仮面のスタンド「ッ!! Ggg…」グググ

 

承太郎(本体にダメージが入るなら攻撃はできねぇ…。だが、このパワーは…っ!)

 

 仮面のスタンドの筋力は明らかに向上していた。あのスタープラチナが押されるほどに。

 

仮面のスタンド「ッ!!」

 

仮面のスタンドは身を翻し、スタープラチナのボディに重たい蹴りを喰らわした。

 

承太郎「ぐっ……!!」

 

承太郎は脇腹に重たい痛みを喰らい、廊下の壁まで突き飛ばされる。

 

かぐや「空条くんっ……!」

 

ポルターガイストのように吹っ飛んだ承太郎にかぐやは駆け寄ろうとする。

 

承太郎「近づくんじゃあねぇ! 四宮ッ! お前には見えてねーだろうが、敵スタンドはすぐ近くにいるんだぜ」

 

かぐや「っ!」

 

かぐやは硬直したように足を止めた。目に見えない外敵がいるという現状は、かぐやの精神を過剰にひりつかせ、彼女の頬に冷や汗を流した。

 

だが…っ!

 

かぐや(わたしはここまで、何も出来ていない…。確かにわたしはスタンド使いではないし、殴り合いの喧嘩だって生まれてこのかた一度もしたことが無い)

 

かぐや(でもわたしは…。空条くんに着いてここに来る覚悟をしたのよっ!)

 

かぐや(いつもわたしに寄り添ってくれる、大切なあの子のために…ッ!)

 

承太郎「四宮…。やっぱりここはお前のいるべき場所じゃあないぜ。あとは俺がやっておくから、このまま家に帰るんだ」

 

かぐや「……いいえ、それは出来ないわ」

 

かぐや「だって、わたしは早坂の主人だもの。ここで引き下がるわけにはいかないわ」

 

承太郎「そんなことを言っている場合じゃあ…ッ!」

 

かぐや「それに、今ここにいるのは早坂のスタンドなんでしょう?」

 

かぐや「だったら、勝機はあります」

 

かぐやは、承太郎が突き飛ばされた場所から仮面のスタンドの場所を予測して、その正面に立った。

 

かぐや「スタンドとはつまり精神の強さの具現化! そうであるならば、早坂の精神の強さの源は…ッ!!」

 

かぐや「わたし自身ッ!」

 

承太郎「待てっ! 今の早坂のスタンドは別のスタンドに操られているんだぜッ!」

 

かぐや「………」

 

かぐやは承太郎の言葉を意に返さず、早坂のスタンドに手を伸ばし…その甲冑に触れた。

 

仮面のスタンド「k…g…y…」

 

かぐや「スタンドはスタンドでしか触れることが出来ない…、でも、スタンドが意思を持って何かに触れる事は出来る」

 

かぐや「わたしがこうしてあなたに触れる事が出来るということは、あなたはわたしを受け入れてくれているということでしょう?」

 

目に見えないその身体を撫でて、その小さな肩を通り、そのスタンドの仮面に指をかけた。

 

かぐや「例え誰かに支配されていても、あなたはその仮面を決して外さずに、わたしの事を支え、護ってくれる」

 

かぐや「いつもありがとう早坂。でももうその仮面を外して、休んでいいのよ」

 

かぐやはスタンドの仮面を外して、その身体を抱きしめた。

 

早坂のスタンド「………」

 

かぐやは騎士の腕から剣が落ちる音を聞いた気がした。

 

承太郎「……」

 

承太郎(やれやれ…。あのスタンドパワー…、そしてこちらから攻撃できないという制約…。あのままやりあってたら、流石にこっちもただじゃあ済まなかったかもしれん。四宮がいて良かった、と言ったところか)

 

かぐや「空条くん、ここは私にまかせて、あなたは先へ」

 

承太郎「ああ、そうさせてもらおう」

 

承太郎は立ち上がり、服の埃を払って、かぐやと早坂のスタンドの横を抜けて生徒会室の戸を開けた。

 

ーーーーーーーーー

 

生徒会室

 

カツ…カツ…カツ…

 

承太郎「………」

 

承太郎(見渡してみても石のスタンドもスタンドの石も見当たらねぇ…。やはり戦時中につくられたという隠し部屋か何かに隠されているというわけか)

 

承太郎(だが手当たり次第に破壊する事も出来ん…。破壊した物を直すスタンドでもあればいいんだがな…)

 

承太郎「スタープラチナ」

 

承太郎はスタープラチナに自分の背中を預けつつ、壁やカーペットの下を調べ、それらしきものを探していった。

 

承太郎「生徒会が日常的に使ってる食器や家具も、どれも価値のあるブランド品ばかりだ…あまり手荒には扱いたくないものだな…」

 

応接机、執務机、天井まで、調べて、最後に資料棚を残すのみとなった。

 

承太郎(あとはこの棚だけ…だが、スタープラチナの目で見てもこの棚にはおかしい所はない…)

 

承太郎(いや…)

 

承太郎(スタープラチナが何かを見つけたな。この資料棚からではない。この資料棚の後ろから僅かな塵が風にのって流れている)

 

承太郎は棚を横にずらし、その奥に石造りの登り階段があるのを見つけた。

 

承太郎「こいつが四宮の言っていた、戦争のために作られ学生運動の拠点になったという場所か。この登り階段におどろおどろしさ…。DIOの館を思い出すぜ」

 

承太郎はその冷たい階段の一段目に足を掛けた。

 

カツ…カツ…カツ…

 

承太郎(この階段…屋根裏部屋まで繋がっているのか)

 

 承太郎は屋根裏部屋にたどり着いた。

 

 そして、その部屋の中央に鎮座している仰々しい装飾の大きな木箱を見つけ、その前に立ちはだかる一体のスタンドに目を向けた。

 

石のスタンド「仮面のスタンドを傷つけず、俺の支配から解放したか…。フフフ、やるではないか、流石はジョースターの血統ということか?」

 

承太郎「なにを勘違いしてるのか知らねーが、俺は何もやっちゃいないぜ。あいつを解放したのは四宮だ」

 

承太郎(あいつの後ろにある木箱…、おそらくあの中に『スタンドの石』が入っているのか)

 

石のスタンド「四宮…。ああ、俺がこの国に来た時にそんな名前を少し聞いた気がするなァ…まあ、もはやどうでもいいことだが」

 

承太郎「ああ、その通りだぜ、なぜならお前は今ここで、俺に倒されるんだからな」

 

石のスタンド「…フン」

 

 ドドドドドドドドドド

 ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

 

承太郎「……」

 

石のスタンド「……」

 

承太郎「…スタープラチナッ!」ドギューンッ!!

 

スタープラチナ「オラァッ!!」

 

 スタープラチナの重たい拳が石のスタンドの顔面を狙う。

 

石のスタンド「……」

 

 だが、石のスタンドはちょいと頭を後ろに引いただけ、その全く効率的で無駄のない動作だけでスタープラチナの拳をかわした。

 

石のスタンド「俺はスタンドを支配するスタンド。故に、俺はあらゆるスタンドの知識が頭に入っているし、初めて見るスタンドでも一目見ればその性能、能力を瞬時に判断することができる」

 

石のスタンド「ジョースターの血統…、いや承太郎よ。貴様のスタンド、スタープラチナの射程距離はせいぜい2、3メートルといったところか。そしてその能力は……時を五秒間だけ止める…、そうだな?」

 

承太郎「……」

 

石のスタンド「…フン。無言は肯定と受け取るぞ」

 

承太郎(野郎…。思っていたより厄介な相手だぜ…、まさかこっちの手の内が全部知られちまっているとは…)

 

 あらゆる戦いにおいて、情報は弾丸よりも重要である。承太郎はかつてのDIOとの戦いの中で、自分の時を止められる時間が一瞬だけだと知られた時の焦燥感を、今思い出した。

 

承太郎(だがそれでも、勝機はあるッ!)

 

承太郎「スタープラチナ・ザ・ワールドッ!!」

 

 時が止まった。

 

 すべての物質は動きを止め、思考を止め、魂の揺らめきすら止める。凍結した世界の中で動けるのは、『入門』を許された者だけ。

 

承太郎(五秒間だ…。2、3回呼吸をしただけで終わるこの時間のうちにカタをつける)

 

スタープラチナ「オラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラァッ!!」

 

 スタープラチナのオラオラのラッシュが石のスタンドのボディに炸裂した。時が止まったままの石のスタンドは吹っ飛ばず、ダメージだけが蓄積される。

 

承太郎「ラッシュをきっかり五秒ッ! そして、時は動き出すッ!」

 

 石のスタンドのボディにラッシュの衝撃が一万分の一秒の狂いもなく全く同時に炸裂した。

 

石のスタンド「…『バック・チャット』」

 

 だがその瞬間、エレキギターを激しく弾き散らしたかのような莫大な轟音が響き渡った。そして、その音の波の向こうには、オラオラのラッシュを食らったはずの石のスタンドが何事もなかったかのように澄まして立っていた。

 

承太郎「!? スタープラチナのオラオラのラッシュをまともに食らって無傷だと…?」

 

石のスタンド「不思議か? そうだよなァーー。今まで連れ立ってきたボストンテリアが突然喋りだすくらい不思議に思うよなァーー」

 

石のスタンド「フフ…いい機会だから教えてやろう。俺はスタンドを支配することができる。……そして、それを完了するには時間がかかるが、俺は完全に支配しきったスタンドの能力を扱うことができるのだァ!」

 

承太郎「なにィ…?」

 

石のスタンド「そして今使ったスタンドの名は『バック・チャット』。俺はこいつを貴様が時を止める直前に発動した。その能力は…、食らった攻撃のエネルギーを一つにまとめて跳ね返すことだァー!」

 

 その声と同時に巨大な拳の形をしたエネルギーの塊がスタープラチナに襲い掛かった。

 

承太郎(これは…ヤバいッ!)

 

 咄嗟にガードしたスタープラチナのクロスした腕に巨大な拳が炸裂する。

 

承太郎「ぐっ…」

 

 自分のスタンドと同等のパワーを食らい、承太郎は血を吐き、壁まで吹っ飛ばされて激突した。

 

石のスタンド「今まで俺が手中に収めてきたスタンド能力を披露する機会などなかなか無い。せっかくだ、……立て続けに行こうか」

 

石のスタンド「『セブン・シーズ・オブ・ライ』ッ!!」

 

 青い色をした七頭の竜が承太郎を喰らおうとする。スタープラチナはそれを拳で叩きのめしたが、脇腹を噛みつかれた。

 

石のスタンド「『ストーン・コールド・クレイジー』」

 

 エメラルド・スプラッシュを彷彿とさせる無数の氷の塊の攻撃が炸裂し、承太郎の骨をいくつか砕いた。

 

石のスタンド「『ハンマー・トゥ・フォール』ッ!」

 

 動きを止められた承太郎の頭上から、石のスタンドが振り上げた巨大なハンマが振り下ろされた。

 

 轟音とともに壁や床が破壊され、土煙が舞った。

 

石のスタンド「…死んだか」

 

 石のスタンドがそう確信した声を漏らした。……だが、土煙が晴れた後のそこには、承太郎の死体は転がっていなかった。

 

石のスタンド「消えたッ!?」

 

承太郎「…後ろだぜ、盗人野郎」

 

 咄嗟に振り替える石のスタンドの顔面にスタープラチナの重たい一発がめり込んでいた。

 

 ドグゥンッ!!

 

石のスタンド「ゴアッ!!」

 

 顔面のパーツをいくつか破損させて床に転がる石のスタンド。

 

承太郎「やれやれ…。まるで一度に何人ものスタンド使いと戦ってるみてーだぜ…」

 

 承太郎は石のスタンドから目をそらして足元の木箱に目を落とした。

 

承太郎「こういう厄介なスタンドとのバトルに勝利するには一つの定石がある。……それは、本体を攻撃することだ」

 

スタープラチナ「オラァッ!!」

 

 スタープラチナの蹴りが木箱を踏みつぶそうとする。

 

石のスタンド「馬鹿めっ! スタンドを熟知したこの俺が本体という弱点に対する対策を取っていないとでも思っているのかァッ!」

 

 スタープラチナの蹴りを受け止めるスタンドがあった。それはスライムのような物質で、受けた衝撃に合わせて自身を凝固させるスタンド。そいつはスタープラチナの脚に絡めついて、酸のような液体を分泌した。

 

承太郎「ぐ、うぅぅ…ッ!!」

 

 焼けるような痛みを脚に感じる承太郎。

 

石のスタンド「このままお前の体を焼き尽くし、お前のスタンドを支配してやるッ! DIOのザ・ワールドを倒したという、無敵のスタープラチナをッ!」

 

石のスタンド「そしてそれを皮切りにこの世全てのスタンドを支配し、奪い、利用し、俺はすべての人間の精神を支配する存在になるのだッ!!」

 

石のスタンド「貴様を倒せば後はもう取るに足らない家畜にすぎない。だから今ここで死ねッ! 承太郎ッ!」

 

承太郎「…野郎ッ!!」

 

石のスタンド自身の拳が承太郎に向かう。そして、その前に立ちはだかるスタープラチナ。その青い拳が猛烈な速度で振りかぶり、石のスタンドの拳とかち合った。

 

承太郎「テメェ…人の精神を、心を何だと思ってやがるッ」

 

石のスタンド「フン、何とも思ってはいないさ。例えば目の前に、実の父親によって行動や思考のすべてを制限され、氷のような顔の向こうで泣いている少女がいたとしても、俺はなんとも思わない」

 

石のスタンド「なぜならッ! 俺は支配する側だからだ! 人を使い、人から奪い、人を愛さぬ。支配者として君臨する存在だからだッ! だから他人の感情になど、何も興味はない」

 

拳をかち合わせたまま、石のスタンドは奪い取ったスタンド能力を発動させた。無数の剣が石のスタンドの周りに現れ、それらすべてがスタープラチナに襲いかかった。

 

承太郎「スタープラチナ・ザ・ワールドッ!」

 

時が止まった世界で、投げナイフのように空中で静止している剣をオラオラのラッシュで弾き飛ばした。

 

そして時は動き出す。

 

時の動き出した世界で、石のスタンドは不敵に笑っていた。

 

石のスタンド「かかったな、バカめッ!」

 

弾き飛ばしたはずの剣は、自動的に空中で翻り、全てスタープラチナの身体に突き刺さった。

 

承太郎「…ぐ…ぅッ!!」

 

石のスタンド「その無数の剣のスタンド能力は自動追尾性能を持っているのだ」

 

血塗れで片膝を付く承太郎。見上げる視界で石のスタンドが高笑いをしている。

 

石のスタンド「フハハハハッ!! 終わりだ、承太郎」

 

石のスタンドは脚を持ち上げ、承太郎の頭を踏みつけた。

 

石のスタンド「…俺がすべての上に立つ、支配者になるのだ」

 

承太郎「………」

 

承太郎「………」

 

承太郎「……フフ」

 

石のスタンド「……?」

 

承太郎「フフフ」

 

石のスタンド「なにを笑っている…? 頭がおかしくなったのか?」

 

承太郎「頭がおかいしのはテメーの方だぜ」

 

石のスタンド「なん…だと…? どういう意味だっ!」ゴゴゴゴゴゴゴ

 

承太郎「なぜならテメェは…」ドドドドドド

 

承太郎「自分が支配者であると勘違いしている、石ころのようにちっぽけな存在だからだッ!!」

 

石のスタンド「なん…ッ!」

 

ザシュッ!

 

石のスタンドの背後から一閃。一振りの剣が深く深く、石のスタンドの身体を袈裟斬りにした。

 

石のスタンド「ぐぁ…ッ! こ…これはッ! この剣はッ!!」

 

早坂のスタンド「………」

 

かぐや「………」

 

承太郎は、石のスタンド越しにかぐやと早坂のスタンドが立っているのを見ていた。

 

血が吹き出すのもそのままに立ち上がり、床に伏す石のスタンドを見下ろす。

 

承太郎「テメェは人への関心が無さ過ぎた。関心が無いから人のスタンドが、精神が、心がどれほど強いものなのかを知らなかった」

 

承太郎「だからこうして、支配していたと思っていた存在に足元を掬われるんだぜ」

 

石のスタンド「き…貴様ッ…!!」

 

承太郎「人の心は、完全に支配することなんて出来ないんだぜ」

 

かぐや「………」

 

スタープラチナ「オラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラァッ!!」

 

石のスタンド「グァアアアァッ!!!」ドシュゥーッ!!

 

ついに石のスタンドはオラオラのラッシュをまともに喰らい、力尽き、煙となって消えた。

 

承太郎「……勝った…か」

 

承太郎「…ぐっ…」

 

安堵した承太郎は糸が切れたように再び片膝を付く。

 

かぐや「空条くん!」タタタッ

 

承太郎「俺のことはいい。それよりも、その木箱を開けて、中を検めてくれ」

 

かぐや「は、はい」

 

かぐやは支持を受けて木箱を拾い上げ、それを開けようとした。だが、その木箱は六面すべて釘で打ち付けられている。

 

かぐや「これ、開けられるところありませんよ」

 

早坂のスタンド「………」

 

そこに早坂のスタンドが近づいてきて、かぐやの膝の上から木箱を拾い上げると、得物の剣で木箱の一面を切り落とした。

 

かぐや「ありがとう、早坂」

 

承太郎「四宮…、スタンドが見えるのか?」

 

かぐや「いいえ、でも、スタンドが早坂の精神なら、わたしの周りのどこにいそうかなら、だいたい分かりますから」

 

かぐやは木箱から転がり落ちた、ソフトボールくらいの大きさの隕石を拾った。

 

それは少しの間、薄ぼんやりと輝いていたが、やがて力を失ったように輝かなくなった。

 

承太郎「そいつが今回の目的である、『スタンドの石』らしい」

 

かぐや「それでは…これで全部終わったんですね」

 

承太郎「ああ…、そして石のスタンドを倒したから、そいつによって呼び起こされた早坂のスタンドも、もうじき消えるだろう」

 

かぐや「……」

 

かぐや「…そう、ですよね」

 

承太郎「……」

かぐや「…不思議ですね。顔も見たことない、どんな姿をしているかもわからない相手なのに、親友との永遠の別れのように感じます」

 

かぐやはすっくと立ち上がり、仮面をつけていない早坂のスタンドの前に立った。

 

かぐや「今回の戦い、危険な目にも遭ったけど、わたしは着いてきて良かったと思います。だって、あなたに会えたから」

 

かぐや「あなたという、わたしの大切な人の心の底の片鱗を知れて、わたしは心から…安心できたから」

 

かぐや「だから…ありがとう。出来ることなら、あなたの姿を、わたしも見たかった」

 

早坂のスタンド「………」スゥウウウ…

 

早坂のスタンドが煙となって消えた。

 

かぐや「……消えてしまいましたか」

 

承太郎「…ああ」

 

かぐや「帰りましょう空条くん。早坂のいるところへ」

 

ーーーーーーーーー

 

空条邸

 

早坂「んっ…うーん…」パチッ

 

かぐや「早坂っ」

 

承太郎「起きたか」

 

早坂「空条くんと…かぐやさ…まっ!」

 

かぐや「早坂っ!」ギュー

 

早坂「かぐや様…急に抱きつかないでください…。く、苦しい…っ」

 

承太郎「早坂、身体のだるさはもう無いか? 熱や頭痛はどうだ?」

 

早坂「は…はい、おかげさまで。かぐや様のせいで息苦しいこと以外は大丈夫です」

 

かぐや「はやさかぁ…」

 

早坂「ほらかぐや様、そろそろ離してください。だんだんアホ化してきてますよ」グイー

 

かぐや「うぅ…」

 

承太郎「敵はもう倒したが、もう少し横になっていたほうがいい」

 

早坂「はい…」

 

早坂「………」

 

早坂「変な夢を見ていました」

 

承太郎「……」

 

かぐや「……」

 

早坂「わたしは首輪をつけられて、たった一人で暗いところにいました。そんなわたしに、頭の中で誰かが頻りに命令するのです」

 

早坂「わたしはその命令に従うのは嫌だったけれど、首輪をつけられているから、反抗できないのです。だから仕方がないと言い聞かせて、仮面をつけて、我慢していました」

 

かぐや「………」

 

早坂「そんなわたしの前に、空条くんが立ちはだかってくれました。そして、かぐや様が助けてくれたのです。その瞬間、冷たかったその夢は暖かい夢に変わりました」

 

早坂「この夢はきっと、夢ではないのでしょうね」

 

かぐや「……」

 

承太郎「四宮。お前はさっき、『自分に早坂は救えない』と言ったな」

 

承太郎「だかそれは間違いじゃあねえか。お前は確かに、早坂を救ったぞ」

 

かぐや「………」

 

早坂「それはあなたもですよ、空条くん」

 

早坂「あなたがいなければ、わたしはこうして起きてはいなかった。あなたがいなければ、わたしは病の正体もわからずに死んでいたことでしょう」

 

早坂「ですから、かぐや様も、空条くんも、わたしの命の恩人です」

 

早坂「二人とも、感謝しています」

 

かぐや「………」

 

承太郎「………」

 

かぐや「……ちょっと待って早坂」

 

早坂「えっ?」

 

かぐやは再び早坂に抱きついてその耳元にささやく。

 

かぐや「なに感謝だけで終わらせようとしているの? こんな強くて見た目も悪くない男子があなたの為に戦って助け出してくれたのよ? いまこそアタックする時でしょう」

 

早坂「え…いや、なにを言ってるんですかかぐや様」

 

かぐや「あなた以前言ってたじゃない、自分も男友達が欲しい、普通の恋がしたいって。今目の前にあるそのチャンスを捨てるつもり?」

 

早坂「な…なんかいつもと立場が逆転してるような…」

 

かぐや「それとも、空条くんはタイプじゃないとか?」

 

早坂「え…いえ、体の大きな人は割りと…」

 

かぐや「じゃあ顔は?」

 

早坂「彫りの深い人って……」

 

早坂は初めて承太郎を異性として意識した。その瞬間、ドキッと胸が高鳴って、承太郎に助けられたこと、承太郎の家にいることを思い出し、顔が熱くなるのを感じた。

 

かぐや「ではわたしは適当に席を外しますから、あとは若いお二人でごゆっくり」

 

早坂「同い年じゃないですか…」

 

かぐや「空条くん。わたし少し飲み物と軽食でも買ってきます。空条くんは早坂のことを見ていてください」

 

承太郎「わかった」

 

ガラガラ

 

早坂(…二人だけになってしまった…)

 

承太郎「本当にもう身体は大丈夫か? 早坂」

 

早坂「あ、はい…もう」

 

承太郎「そうか…。よかった」フッ

 

早坂「あ…っ」

 

承太郎「どうした?」

 

早坂「空条くんが笑ってるところ、初めて見たと思います」

 

早坂「あまり笑ってる印象がないから」

 

承太郎「そうか。だが俺も、自分で言うもんじゃあないが、結構笑うんだぜ。相撲を見てる時とか、仲間と馬鹿やってる時とかな」

 

早坂「………」

 

早坂「それは…、わたしの事を仲間と、心を開ける友達と認めているということですか?」

 

承太郎「…まあな」

 

早坂(そっか…)

 

早坂(わたしも、この人になら仮面を外してみようかな)

 

早坂(そして、もう少しだけこの人のことを知られたら…)

 

早坂「空条くん。…空条くんは、自分の気を許せる相手に使われていた呼び方とかってありますか? なにか、あだ名とか」

 

承太郎「………」

 

承太郎「そうだな、今ではもっぱら名前で呼ばれる事が多いが、少し前は別のあだ名で呼ばれていた事もある」

 

承太郎「俺は結構、そのあだ名が気に入ってるんだ」

 

承太郎「『ジョジョ』ってな」

 

早坂「ジョジョ…」

 

早坂「そうですか…ではわたしも、これからあなたの事をそう呼びましょう」

 

承太郎「…好きにしな」

 

早坂「はい。もう全部、わたしの好きにします。『まずは』友達としてよろしく、ジョジョ」

 

ーーーーーーーーー

 

四宮邸 夜

 

かぐや「なんだ、二人っきりのチャンスだったのに押し倒して既成事実を作らなかったのね」

 

早坂「…冗談言わないでください」

 

かぐや「冗談? わたしは本気でアドバイスしてるのに」

 

早坂「もしかして、いつもの仕返しですか?」

 

かぐや「でも実際、結構気になってるんでしょ? 早坂の好きな男性のタイプって、俳優で言うと誰だっけ?」

 

早坂「…クリント・イーストウッドですけど」

 

かぐや「ほら! 空条くんなんてまさに和製クリント・イーストウッドじゃない」

早坂「でもっ! ジョジョはそんなんじゃ…」

 

かぐや「ジョジョ?」

 

早坂「…はっ!」

 

かぐや「……」ニヤニヤ

 

かぐや「へぇ〜。もうそんなあだ名で呼ぶような仲になったのね」

 

早坂「もうっ。からかわないで下さい!」

 

かぐや「いいじゃない。わたしは応援してるわよ、あなたのその、始まったばかりの恋」

 

早坂「〜〜〜もうっ!」

 

早坂「こうなったらもう、かぐや様よりも先に彼氏作って、見せびらかしてやりますから!」

 

 

 



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